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2025,04,23, Wednesday
(1)トランプ関税と日本の米について
![]() ![]() ![]() 2025.2.14日経新聞 2025.4.23沖縄タイムス 2025.4.15日本農業新聞 (図の説明:左図は、米国が訴える日本の貿易障壁だが、自動車や牛肉・食品添加物の安全基準についてはすべてが正しいわけではないため、安全を犠牲にすべきではない。しかし、国内の生産者を保護するための米や豚肉の関税については、日本の消費者が高い物を買わされているということであるため、国際競争力をつけて速やかに関税障壁をなくすようにして貰いたい。中央の図は、私も高すぎると思う米の関税障壁で、右図は、それに対する財務省の提言である) *1-1は、①米国は、「輸出を妨げている」と日本の米輸入制度を批判 ②財務省は国内需給の調整弁として輸入米のMA米のうち主食用を年間最大10万トン増やすべきと提言 ③MA米は1993年のガット・ウルグアイラウンド合意に基づいて導入され、日本は米国等から年間77万tを義務的に輸入して最大10万tを主食用にし、残りを(需給に影響を与えないため)飼料用・加工用等にしている ④政府は1993年閣議了解の農業施策基本方針で「売買同時契約(SBS)米を含むMA米で転作の強化は行わない」と定め、MA米が国産米の需給に影響を与えないよう運用してきた ⑤MA米の主食用米としての利用を増やせば、この閣議了解との整合性が問われる ⑥財務省は「飼料用米も一律に高単価で支援する必要があるとは言えない」「毎年度約2000億円もの巨額の財政負担が生じている」として支援方法を見直すよう迫った ⑦米の価格上昇や不足感を背景に輸入米に頼ることは、食料安全保障強化に逆行 ⑧米国は日本の輸入米制度を「非関税障壁」として批判してきた としている。 このうち①⑧については、上の左図と中央の図のとおり、日本はTPPに入っていない米国からの米の輸入に関し、③④のように、1993年のガット・ウルグアイラウンド合意に基づいて導入された無関税のミニマムアクセス米(以下、“MA米”)年間最大77万t(うち主食用10万t)を義務的に輸入し、残りは主食用米の価格を下げないために、1993年の閣議了解の農業施策基本方針で「売買同時契約(SBS)米を含むMA米で転作の強化は行わない」と定めて飼料用・加工用に回している。また、自由に輸入できる米には、341円/kg(約200%)の関税をかけて米作農家を保護してきたため、確かに複雑で高関税で輸入障壁の多い制度になっている。 これについて、⑤は「MA米の主食用米としての利用を増やせば1993年の閣議了解との整合性が問われる」とするが、1993年の閣議了解の源は私で経緯を知っているため記載すると、太平洋戦争中の食糧不足で1942年(昭和17年)に定められた食糧管理法(以下“食管法”)は、とっくに米不足が解消していた1993年(平成5年)まで50年間も漫然と続けられていたのである。 そのため、2年かかって食管法を廃止し食糧法を1995年(平成7年11月)から施行したのだが、計画流通制度とその関連制度は残されたため、米の流通自由化をより本格化させる目的で、2004年(平成16年)4月から改正食糧法が施行され、米価維持目的で1970年(昭和45年)から実施されてきた米の減反政策は2018年(平成30年)にやっと廃止された。しかし、この間に、日本の食料自給率や耕地面積は減少し続け、農業従事者は新規参入が少ないため高齢化したのである(https://smartagri-jp.com/agriculture/247 、https://www.maff.go.jp/j/seisan/keikaku/soukatu/s_sankou/pdf/s1.pd 参照)。 つまり、必要に迫られて作られた制度を、その必要が失せて時代に合わなくなっても何十年も続けることは、現状維持どころかマイナスにしかならないのだ。また、現在は、食糧法が施行されて30年経過しているが、最初から言っていたのに激変緩和のための仕組みを次第になくしていかず、農業は世界で勝てるようにならなかったのだが、それをやらなければならなかったのが(決して短くはない)この30年だったのだ。 そのため、世界と比較して値段の差ほど価値の差がない農産物は、あらゆる方法を使って改善し、何とか生産を維持しなければならないと思う。従って、⑥の財務省と同様、「水田があるから米を作りたいので、飼料用米にも高単価で支援すべき」というのはあまりに安易すぎ、生産年齢人口にあたる人に毎年数千億円もの巨額な補助金を支給し続ければ、本当に働けない子供の福祉や教育、高齢者への福祉ができなくなると、私も考えている。 そのため、②については、誰も合理的とは思っていないMA米のうち主食用を増やして、残りは飼料用・加工用に回すのではなく、産地・銘柄・価格を明確に表示して消費者に選ばせればよいだろう。私自身、カリフォルニア産・オーストラリア産・カナダ産のサガビヨリ・コシヒカリ・ユメピリカがあっても良いと思うし、値段との関係でそちらを選ぶ人も多いと思われる。そして、この時、⑦の「米の価格上昇や不足感を背景に輸入米に頼ることは、食料安全保障強化に逆行する」というのは、食料安全保障上、必要な農産物は米だけではない(これは常識)し、そのためにこそ、あらゆる方法で世界競争に勝てる農産物を生産しなければならないのだ。 また、*1-2は、⑨農水省は2月3~9日にスーパーで販売された米5kgの平均価格が前年同期と比べて89.7%高い3,829円だったと発表 ⑩1月下旬に政府が備蓄米放出の新方針を表明したが高騰は続いた ⑪農水省は値上がりを見込んだ一部業者や農家がコメを抱え込んでいると見ている としている。 このうち⑨については、2025年4月24日現在、アマゾンで見た米5kgの値段は、ななつぼし4,910円、あきたこまち6,090円、はえぬき5,800円、ブレンド米3,900円であり、ブレンドして銘柄不明になった米以外は、143~242%の値上がりである。これは、子供が多くて食べる分量の多い家庭ほど困ったことだろう。 なお、⑩⑪の「備蓄米放出表明後も高騰が続いた」「値上がりを見込んだ一部業者や農家がコメを抱え込んでいる」という点については、去年の米不足で困った実需者(食品会社や家庭)が少しづつ在庫を増やしているのであり、その理由は「価格を抑える気のない口先だけの備蓄米放出など当てにできない」と考えているからだ。 さらに、*1-3・*1-4は、⑫トランプ米政権の関税措置を巡る日米交渉で、米や検疫体制が農産品を巡る攻防の焦点になってきた ⑬米国は、米の市場開放やジャガイモなどの検疫の緩和を要求 ⑭石破茂首相は4月21日の参院予算委員会で、「自動車を守るために農業を犠牲にする考えは全く持っていない」と述べた ⑮米国は自動車や鉄鋼・アルミに25%の追加関税を賦課。それ以外の輸入品には一律10%追加し、国ごとの相互関税の上乗せ分は7月上旬まで停止中 ⑯米国の要求は、3月に公表した「外国貿易障壁報告書」に沿ったもの ⑰検疫体制ではジャガイモ・牛肉等について問題視 ⑱首相は4月20日のNHK番組で「食の安全を譲ることはない」と強調 ⑲第1次トランプ政権時の日米貿易協定で日本は牛肉等の関税をTPP並みに下げ、自動車の追加関税を回避 ⑳江藤農相は「調整弁は備蓄米を活用している」と述べ、輸入米拡大による需給調整に否定的 ㉑立民が生産コストを踏まえた農畜産物の価格形成に向けた法案について農水省から聞き取りをし、米はじめ農産物価格が上昇して家計を直撃する中で消費者の理解を得ながら価格形成を進めるハードルの高さを指摘する意見が相次いだ ㉒同法案は売り手と買い手に価格交渉に誠実に臨むよう努力義務を課し、対応が不適切な事業者に国が指導・勧告を行う ㉓米・野菜等を対象に価格交渉の材料になる「コスト指標」を作成する方針 としている。 このうち⑫の米の流通については、無関税のMA米を政府が購入して10万tしか主食に回さず、残りの67万tは主食用米の価格を下げないため飼料用・加工用に回すというもったいないことをしている。そして、民間輸入米には200%もの関税をかけ、ここには日本の消費者のための視点が全くない。そのため、米国に言われなくても米の関税率は一律に単純化して低くすべきであり、食料安全保障には米だけが必要なのではなく、日本の農業を強くすることが必要なのだ。 また、⑫⑰の検疫体制については、牛肉の例を挙げると、2001年に国内で1頭目のBSE感染牛が確認され、同年に肉骨粉の飼料利用完全禁止、解体される牛の全頭検査、特定部位(全月齢の頭部)・脊髄・扁桃及び回腸遠位部)の除去・焼却が義務づけられたが、米国からやかましく言われて、2005年に検査対象牛の月齢を21か月以上と緩和し、2013年には48か月超とさらに緩和したのである(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/bse/domesticmeasures.html 参照)。 そして、そのBSE検査の規制緩和は輸入牛だけではなく国産牛にまで適用したため、国産牛の安全性に関する付加価値も米国からの輸入牛並になったのだ。そのため、私は、牛肉は米国産でも日本産でもなく、原発を使わず農産品の安全性を追求しているオーストラリア産に決め、オーストラリア産がなかったら買わないことにしているのだが、オーストラリア産は脂肪が少なく蛋白質の部分が多いため、価格だけではなく栄養的にも良い。 さらに、⑬の米の市場開放やジャガイモの検疫緩和については、「遠い外国に輸出するものだから」と安全性を犠牲にするのでなければ良いが、害虫もつかないように遺伝子組み替えした大豆などは、仮に輸入したとしても消費者の区別に資するよう、販売時に明確に表示してもらいたい。そのため、⑭⑱の石破首相の「自動車を守るために、農業を犠牲にする考えはない」という発言も消費者の視点を欠いているし、「食の安全を譲ることはない」は、どう安全を護るのかについて具体性がないため、不安が残るわけである。 なお、⑮⑯は、米国人の視点ですることなので、日本人の視点で止めることは困難だが、⑲のように、第1次トランプ政権時の日米貿易協定で日本は牛肉等の関税はTPP並みに下げているそうだ。また、⑳の江藤農相の「調整弁は備蓄米を活用している」とについては、日本政府の視点は、消費者である国民を豊かにする大きな戦略がなく、その場限りのつじつま合わせが多すぎるため、調整を政府が行なうこと自体に無理があると思う。 また、㉑㉒の立民の「生産コストを踏まえた農畜産物の価格形成に向けた法案」については、さまざまな工夫をして生産コストを下げることもビジネスの重要な要素であるため、消費者が理解しないのではなく、そういうことを言う政治家自身がビジネスを理解しておらず、消費者の視点にも立っていないのだと思う。そのため、国が変な法律を作って事業者等に不適切な指導・勧告を行うと、日本の国際競争力はさらに下がり、経済成長も阻害されるのである。 さらに、輸入豚肉にも関税がかかっており、国内の養豚農家を保護するために、日本の消費者は海外よりも高い価格で豚肉を購入することになっている(=日本の消費者を貧しくしている)が、これも生産性の向上等で速やかに国際価格に追いつくようにすべきだ(https://www.maff.go.jp/j/chikusan/shokuniku/lin/l_buta_sagaku/index.html、https://www.maff.go.jp/j/kokusai/tpp/attach/pdf/index-2.pdf 参照)。 *1-5は、「牛乳の消費拡大が必要」として、㉔牛乳は差別化が難しく、食品全体の価格が上がる中、業界一体で対策に取り組む必要 ㉕2030年度の生乳生産数量目標は732万t、10年後は780万tを目指し、今後の需要拡大策が焦点 ㉖ホクレンは消費拡大に向けて台湾・香港等の輸出先での試飲や広告展開を進める ㉗牛乳は加工度が低く、差別化が難しい。利益も薄く積極的な販売拡大策が取りにくいのが課題 ㉘Jミルクは「物価高騰が牛乳消費に影響を与えている」「理解醸成だけで消費を維持するのは限界」と指摘 ㉙消費拡大に向けたイベントなどの開催時期やコンセプトを業界全体で行うことが必要と提案 ㉚自民党の簗委員長は「生産現場が安心して営農できる環境の基となるのが需要拡大」と強調 としている。 ここで問題なのは、㉙㉚のように、i)政治家に依頼すれば消費拡大できる ii)「牛乳の消費が拡大しないのは消費者の理解が乏しいからなので、イベントを行なえば消費が拡大する」 と思っていることである。何故なら、戦後に育った子どもは、給食により牛乳を飲むことには慣れており、牛乳の栄養価についても中学校で勉強するため、牛乳の消費が頭打ちになっているのは、理解が乏しいことが理由ではないからだ。 しかし、もし政治家に何かを頼みたいのであれば、子どものうちから牛乳に親しむよう無償で牛乳や乳製品を学校給食で提供して貰ったり、義務教育で(家庭科ではなく、生物学の1項目として)男女ともに栄養学を論理的に教えるようにして貰った方が良いと思う。 ㉔㉕については、確かに牛乳自体は差別化しにくいが、牛乳が中心のイチゴミルク・コーヒー牛乳・ヨーグルト等の飲料を作れば差別化は簡単である。しかし、差別化するには独自の工夫が必要であるため、「業界一体」というのは差別化には向かないだろう。 また、㉖㉗については、牛乳自体ではなく、チーズにして鉄・カルシウム・わさび・からしめんたい・ほたての燻製などを加えれば、日本独自のチーズができ、輸出しても人気が出そうだ。さらに、スキムミルクだけではなく、全粉乳にしたり、冷凍パイ生地・冷凍シュークリーム・アイスクリームなどに加工すれば、保存がきく上、多くの家にあるオーブン・電子レンジ・ホームベーカリー等の機器を使ってできたての味を楽しめる。私自身は、ホームベーカリーでパンを作ったり、モチを作ったりする時に、そこに全粉乳を加えてカルシウム等の補給をしている。 しかし、㉘のように、確かに物価高騰で牛乳の消費は控えざるを得なくなっているため、それを解決するには、販売単位を大きくして安くしたり(アメリカはガロン単位)、全粉乳やスキムミルクにして販売したりなど、節約志向の人でも購入しやすい売り方を工夫すべきだ。 (2)教育について 1)義務教育について ![]() ![]() ![]() 2020.6.4朝日新聞 2022.6.9AeroWorld 2012.6.12Synodos (図の説明:左図のように、フランスの義務教育は3~17歳の15年間である。また、中央の図のように、オーストラリアは5歳の1月から11年間、イギリスは5歳の9月から11年間の義務教育が行なわれるが、日本は6歳の4月から9年間、米国は6歳の9月から8年間と義務教育期間が短い。しかし、日本は3歳の4月から幼稚園に入れる人も多いため、右図のように、就学前教育の私的支出割合が高く、義務教育以前に既に親の経済力や地域格差による教育格差が生じている) ![]() ![]() ![]() 2025.5.4東京新聞 2019.4.9つながりAI 2024.6.25ID学園高校 (図の説明:左図のように、15歳未満の子の割合は、1950年は35.4%だが、2025年は11.1%まで減少している。また、中央の図のように、2017年の保育園と幼稚園の年齢別利用者数及び割合は、3歳児でも90%を超えている。さらに、右図のように、高校進学率も通信制まで入れると令和2年に98.8%となっており、殆どの人が高校に進学しているのである) 上の上段の左と中央の図のように、ヨーロッパにおけるイノベーションリーダー国の1つフランスの義務教育は3~17歳の15年間(https://suumo.jp/journal/2024/09/24/204965/ 参照)で、オーストラリア・イギリスは5~16歳の11年間だが、日本は6~16歳の9年間と義務教育の期間が短い。また、日本では子を3歳から保育園や幼稚園に入れる人も多く、上段の右図のように、就学前教育の私的支出割合が高くなって、義務教育の開始前に親の経済格差や地域差による教育格差が生じている。 このような中、*3-2は、①義務教育のカリキュラムを根本から考え直す時 ②教育基本法の義務教育の目的は「児童生徒各個人の有する能力を伸ばし、社会で自立的に生きる基礎を培う」「国家・社会の形成者として必要な基本的資質を養う」と規定 ③小学校6年と中学校3年の分断を解消して9年間を一貫し、質を保障する義務教育学校にヒント ④義務教育学校は学校教育法改正で2016年に新設された小中一貫校で、全体の9年間を4・3・2や5.4といった段階に設定 ⑤義務教育9年間で柔軟な指導計画を立案するのが目指すべき方向 ⑥例えば美術なら中学校の美術教員が一貫して指導した方がより質の高い学習成果が期待でき、小学校でも高学年では学習内容が高度なので教科担任制を5年生くらいから導入した方が質の高い教育ができる ⑦社会で自立的に生きる基礎的資質・能力を保障するには、出口の中3終了時点の姿を想定しての学びのキャリア設計が重要 ⑧英国は義務教育終了16歳で受ける科目毎全国統一試験(GCSE制度)で義務教育終了時の出口を管理 ⑨日本の全国学力テスト(中3の4月)は義務教育学習の確認としては活用できず、日本の卒業証書は何の公的証明にもならない ⑩義務教育の保障は子どもにとって資質・能力向上の義務と権利であり、国家・社会の形成者としての義務でもあり、生存権に関わる「学習権」の保障であって、国家・社会の責務である 等としている。 私は、①に賛成である。また、②の教育基本法の義務教育目的である「児童生徒各個人の能力を十分に伸ばして社会で自立的に生きる基礎を養うこと」にも賛成で、これができれば生産年齢人口になってから仕事をするのにいつまでも公的補助を必要としないですむ筈であり、さらに自ら考えてイノベーションを起こすための基礎も作れる筈である。さらに、「国家・社会の形成者として必要な基本的資質を養う」ことも必要不可欠で、政策内容も理解できずに選挙で投票しても、良い結果が出せる筈はないのである。 それでは、③④⑤のように、小学校6年と中学校3年を一貫して義務教育学校にすれば十分かと言うと、⑥のように、確かに分けたままよりは充実した教育ができるが、イギリスやフランスと異なり、⑦⑧⑨のように、日本の全国学力テスト(中3の4月)は学習修了の確認にはならず、飛び級や留年の制度もないため、平均より出来る子にとっては授業の進捗を待っている時間が多すぎ、平均より後れる子にとっては、未消化のまま義務教育が修了する。そのため、親は、私的に子に塾の費用を支払い、塾通いのケアまでしなければならなくなるわけである。 従って、⑩のように、国家・社会により、子どもに資質・能力向上の義務と権利、国家・社会の形成者としての義務、生存権に関わる学習権の保障がなされているとは、まだ言えない。 そこで、私は、上の下段の中央の図のように、2017年時点で「幼稚園・保育園・認定子ども園の年齢別利用者数及び割合」が3歳児でも90%を超えていることから、日本は義務教育を3~18歳の15年間とし、小学校を3~12歳の9年間、中等学校を12~18歳の6年間として、中等学校以上は希望と試験による選別を基本として試験に合格すればそこに行ける(飛び級も可能)ようにすれば良いと思う。 そうすれば、第26条2項を変えなくても3~18歳までの教育は無償となるが、上の下段の左図のように、15歳未満の子の割合は1950年には35.4%だったが、2025年には11.1%まで減少しているため、これは可能な筈である。さらに、語学や芸術のように、3歳から始めた方が効果的な科目もあるため、これらのカリキュラムに最も適した教師の配置をすれば良いだろう。 また、現在のように、中学と高校を分ける制度では、学ぶ科目は重複しているのに、それぞれの時間が短いため中途半端な学びで終わるという短所があるため、中高一貫にして出口から学習計画を立てるというのは、やはり重要なことである。 2)高校無償化について ![]() ![]() ![]() ![]() 2023.12.23日経新聞 2025.3.31UFJ銀行 2025.2.25読売新聞 (図の説明:1番左の図のように、2024年10月から高校生にも児童手当が支給され、所得制限も撤廃されて、第3子以降のみ手当が増額された。兄弟数の数え方は、左から2番目の図のとおりだ。また、大学進学への支援は、右から2番目の図のとおり、親の所得によって支援内容が変わり、親の所得が大きくなくても私的負担は大きい。高校無償化は、1番右の図のとおりだが、支援の趣旨から考えて学費の高い私立高校の授業料まで全額支援する必要はないと思われる) 上の下段の右図の通り、高校進学率は通信制まで入れると令和2年(2020年)に98.8%となり、殆どの人が高校に進学している。そのため、現在は経済的理由等で定時制や通信制を選択せざるを得ない人も、希望すれば全日制高校に通って勉強できるように、1)に記載したとおり、中学・高校を一貫教育として義務教育化すれば、国民の潜在的能力をさらに活かせると考える。 そのような中、*3-1-1・*3-1-2は、①高校無償化は公立は授業料相当、私立は一定額を支給して授業料負担を軽減する制度だが、授業料が全額支給されれば実質無償化になる ②高校のほか高専・専修学校高等課程・特別支援学校高等部等の高校相当学年も対象 ③2025年度は11万8,800円支給への所得制限が撤廃され、高校生全員が対象で追加財源約1,000億円 ④2026年度以降は私立高生向け上乗せも所得制限を撤廃し、私立高授業料の全国平均額最大45万7,000円を助成して追加財源約4,000億円 ⑤私立高向け支援拡充で、公立高離れの加速・私立高授業料便乗値上げの懸念 ⑥高所得世帯も支援対象とすることへの疑問 ⑦無償化により「教育の質は向上しない」が66% ⑧基礎年金支給額底上げのための厚生年金減額は、「反対」が52% ⑨高額療養費制度患者負担の上限額引き上げ見送りは、「妥当」が66% としている。 このうち①②は、子どもの数が減って公立でも定員に満たない高校が出ている中で、本来なら中高一貫の義務教育にしてカリキュラムの再編成をしたいのだが、それができるまで、公立高校の授業料無償化と私立高校生への公立高校授業料相当額支給は妥当だと思う。従って、⑦については、高校無償化の目的自体が「教育の質向上」ではないため、無償化したからといって教育の質が向上するわけでないのは当然だ。 しかし、現在の公立高校は私立高校ほど設備や補習が充実しておらず、親が私的に塾に通わせなければならないため、自ら選択して私立に通わせている生徒の親に対する③④の加算は、むしろ不公平だろう。なお、⑤は、公立高校には伝統ある志の高い学校も多いため、私立高向け支援の拡充が単純に公立高離れを促進するとは思わないが、伝統があっても現在の実績が振るわなければ淘汰されるのは世の常であり、淘汰されないためには教育の質向上が不可欠なのである。 なお、⑥のように、馬鹿の1つ覚えのように「高所得世帯への支援を除外」したがる人は多いが、高所得世帯だから子の教育に熱心とは限らず、東大女子卒業生の中には、親の反対を押し切って東大に入った人も少なからずいる。つまり、親より子の方が時代の先端を走っていることも多く、また、そうでなければ社会の発展はない。そのため、教育は、親への支援ではなく子への支援と割り切って、親の所得とは関係なくできるだけ子の方に現物給付すべきなのである。 ただし、後の項で詳しく書くように、⑧の基礎年金支給額底上げのための厚生年金減額は流用そのものであるため私も反対だし、⑨の高額療養費制度患者負担の上限額引き上げも、いざという時のために健康な時から保険料を納めているのだからもってのほかである。そして、こういうことを、人から言われなければわからならないような大人に育ててはならないのだ。 3)大学と研究機関について *3-3は、①急速な少子化で学生確保が難しい地方大学が岐路 ②政府は事態が深刻な大学には円滑な撤退・縮小を促しつつ、地域連携強化で必要な高等教育機関の確保もめざす ③1989年に北信越初の法学部を備えた4年制私大として開学した高岡法科大は、1999年度以降は入学定員を満たせず ④富山の大学進学者数は20年間で4%減って4%増えた全国平均と異なるが、文科省は全国でも2026年頃をピークに大学進学者が減少局面に入るとみる ⑤隣県の金沢市内の大学は文理融合型や情報系の学部新設 ⑥2024年度は国立富山大と富山県立大だけが入学定員をクリア、私立は定員の3~8割台 ⑦18歳人口は2024年に約106万人で1990年代前半より半減したが、大学進学率が約32%上がって大学入学者は過去最多 ⑧大学数は2024年に813校で1992年の約1.5倍 ⑨私大の約6割は定員割れで3大都市圏以外の入学定員充足率は平均92.4%、定員充足率が70%台の地域も ⑩大都市圏の私大に学生が集まり過ぎないよう、文科省は入学者数が定員を大幅超過した私大の私学助成を減らしたり、東京23区内の大学の収容定員を10年間原則据え置いたりしたが、地方大学の定員割れは更に進んだ ⑪中央教育審議会は地方大学には地域ニーズに合う人材輩出の役割を示して自治体や企業との連携強化の必要性を指摘 ⑫宮崎国際大は1994年開学・定員150人で授業を英語で行う国際教養学部は英語教員を教育学部は小学校・幼稚園の教員や保育士を毎年数十人送り出し、同じ敷地にある宮崎学園短期大学も60年間に1万人以上の保育士を輩出したが、定員割れが多い ⑬宮崎県保育連盟連合会は「2校が縮小・撤退すれば保育士を確保できず定員を減らす園が出る」と心配する ⑭宮崎県の総合計画は「県内大学等新卒者の県内就職割合引き上げ」のみで「保育士確保」はない ⑮国は地方大学と地元自治体の連携を強める考え ⑯高等教育機関は「高校生の進学先」だけではなく、知の拠点で、人を繋ぐ役割もあり、地域の成長や活性化の中心になり得る ⑰大学が撤退するとネットワークを失うことが地域にとって一番の損失 ⑱良質な教育を進め、地元が求める人材を育てて社会貢献する必要があるが、学生も教職員も少なく、学べる分野が限られる大学が多い 等としている。 このうち、⑦⑧のように、「18歳人口が2024年には1990年代前半より半減しても、大学進学率が上がって大学入学者が過去最多になった」「大学数は2024年に813校で1992年の約1.5倍」というのは、希望者が大学に入り易くなったという意味で国民にとっては幸福なことである。そのため、②のように、安易に撤退・縮小を促すのではなく、地域連携の強化で必要な高等教育機関の確保をめざすべきだ。 しかし、③の1989年に開学した高岡法科大が1999年度以降は入学定員を満たせなかったのは、①のような急速な少子化が原因ではなく、⑤⑥⑯のような情報系等の現在求められている学科がなく、総合大学ではないため、知の拠点としての役割も果たせていないからではないか? 一方、⑫⑬の宮崎国際大の場合は、1994年開学・定員150人で授業を国際教養学部は英語教員を、教育学部は小学校・幼稚園の教員・保育士を毎年数十人送り出し、同じ敷地内にある宮崎学園短期大学も60年間に1万人以上の保育士を輩出したが定員割れが多いそうだが、こちらは、⑪の地域のニーズに基づいた人材輩出をしてはいるが、教員や保育士等福祉関係者の労働条件が悪いため、その職業を目指す人が少ないのだと思われる。 従って、教員や保育士等の福祉系の場合は、仕事の評価となる給与や労働条件が改善されなければ、その職業を目指す人は徐々に減り、その結果、質も上がらないだろう。また、⑭⑮のように、宮崎県の「保育士確保目標」も重要だが、⑪に基づいて国も協力すべきで、必要な学科への進学にあたっては、自治医大のように卒業後に所定の勤務をすれば奨学金の返還を免除する等の制度が有効だ。そうすれば、親に経済力がなくても、開発途上国等の出身者であっても、また転職目的のリカレント教育であっても、大学への進学が容易になって希望者の母集団が増えるため質も上がると思う。 なお、④⑥⑨のように、「文科省は全国でも2026年頃をピークに大学進学者が減少局面に入る」としており、私大の約6割は定員割れで3大都市圏以外の入学定員充足率は平均92.4%で、定員充足率が70%台の地域もあって、この解決策として、⑩のように、大都市圏の私大に学生が集まり過ぎないよう、東京23区内の大学の収容定員を10年間原則据え置いたりした。 しかし、大学は単なる高校生の進学先ではなく、そこで学べる内容とそこでできる同窓生のネットワークが重要なのであるため、既に知が集積している大学に行った方が学生のニーズに合うのだ。そのため、東京23区内の大学の収容定員を据え置くよりも、地方大学の魅力を増すことが重要だったのである。 その魅力は、⑰⑱の知の拠点としてのネットワークや良質な教育だが、「学生も教職員も少ない」とされることについては、*3-4の外国人留学生・外国人労働者やその家族は学生の母集団になり得るし、教職員も、*3-5のように、トランプ米政権下で米国を離れようとする研究者等を念頭に、EUのように日本での研究を保証して移住を支援し、技術革新の好機にすれば良い。 例えば、富山県であれば、既に新幹線で東京から2時間半になっている上、昔から薬が有名なので、広い敷地を使ってバイオテクノロジーはじめ健康・医療分野の研究者を招ける研究所と大学を充実し、経営をサポートする学科も増設して、米国を離れる研究者や他国の優秀な研究者を招き、博士課程の学生やポスドクの研究に資金支援すれば、一挙に人材が集まって大学の魅力も増すだろう。 トランプ米政権の研究費削減は、優秀な研究者や教職員の招致をめざす地域にとっては好機となっており、気候変動・宇宙などが適する地域や大学もあると思われる。つまり、日本は、これまで頭脳流出専門だったが、これからは頭脳を求めて優秀な研究者を探すべきである。 (3)高齢者いじめ 1)“年金改革”について ![]() ![]() 2021.6.28NipponCom 2019.3.7ニッセイ基礎研究所 (図の説明:左図は、年齢階級別就業率の推移で、2020年には60~64歳の70%超、65~69歳の50%超、70~74歳の30%超が就業している。また、右図は、65歳時点の男女の平均余命と健康寿命の推移で、2016年時点では男性の健康寿命は79歳、女性の健康寿命は81歳であり、どれも延長傾向だ。さらに、人手不足でもあるため、いつまでも60~65歳定年制を固持する必要はない) *4-1は、①厚労省が厚生年金積立金を活用(正しくは流用)して、国民年金を底上げする案を年金制度改革法案から削除する方針を固めた ②年金制度改革法案にはパートらの厚生年金加入拡大に伴う企業の保険料負担増なども含む ③全ての国民が受け取る基礎年金の底上げは、給付水準を改善するために財政が堅調な厚生年金の積立金を活用する ④厚労省は、国民年金だけに加入する人や就職氷河期世代などが低年金に陥らないようにする対策の一環として改革の柱に位置付けてきた ⑤積立金の活用に伴い厚生年金の受給額が一時的に減るため、与野党から懸念や批判が出ている ⑥自民の一部で「厚生年金からの流用だ」との批判も強く、厚労省は理解を得られないと判断 ⑦底上げは今回の法案に規定しないものの将来の底上げ実施を念頭に積立金の活用に向けた措置を取る ⑧具体的には厚生年金の受給額の伸びを抑制する「マクロ経済スライド」の実施期間を当初の想定より2年延長する ⑨国民年金保険料の納付期間を現行の「60歳になるまで40年」から5年間延長することを検討する規定を法案に盛り込む としている。 わが国の公的年金制度は「2階建て」で、全員加入する基礎年金(1階部分)と、正規雇用の民間企業の従業員や公務員が加入する厚生年金(2階部分)から成っており、自営業者や非正規雇用者は厚生年金に加入していないため、厚生年金保険料を支払うことはない。そして、厚生年金積立金は、厚生年金加入者が支払った保険料を原資として積み立てているのである。 さらに、1985年に行なわれた年金制度の変更により、厚生年金に加入している会社員や公務員に扶養されている配偶者のうち年収130万円未満で20歳以上60歳未満の人は、3号被保険者として国民年金保険料も支払わずに、基礎年金を受け取ることができるようになった。 そのため、①③⑤⑥については、与野党から批判が出ているとおり、厚生年金保険料から積み立てられ、「ねんきん定期便」で確認をとっていた厚生年金積立金の一部を厚生年金保険料を支払わなかった国民年金加入者等の給付に充てるのは、厚生年金加入者が老後に備えて高い保険料を支払って積み立てていたものを、関係のない人への給付に流用するということであり、高い保険料を支払った人が払い損になるため、保険制度の信頼性がなくなるのである。 また、②の「年金制度改革法案にパートらの厚生年金加入拡大」を行なうのはまあ良いが、そのために企業の保険料負担増を補助したり、3号被保険者制度を未だに温存しようとしたりしていることは、同じ時代に差別を受けながら働き、1985年に男女雇用機会均等法を作り、1997年に努力義務規定から禁止規定にした女性から見れば、不公正・不公平そのものなのである。 従って、⑦⑧のように、底上げは今回の法案に規定しないが、将来の底上げを念頭に「マクロ経済スライド」の実施期間を当初の想定より2年延長して年金給付額を実質的に目減りさせ、積立金活用に向けた措置を取るというのは、国民にわからないうように密かに厚生年金受給者の年金を減額するということであり、もってのほかである。 そのため、*4-2-3は、「年金改革から逃げる政治は無責任」などと記載しているが、こうなることがわかりきっている制度を作り、年金保険料を集め、年金の支払いも行なってきた厚労省の責任こそが問われるべきであり、ここに国民の責任は全くないと言える。 そのような中、④及び*4-2-1・*4-2-2のように、「国民年金だけに加入する人や就職氷河期世代などが低年金に陥らないようにする対策の一環として厚生年金積立金流用を年金改革の柱に位置付けた」という姿勢こそが、これまで日本政府が国民に膨大な負担を強いながら、給付時に「足りない。足りない。財源は?」と言っている理由である。そのため、このようないい加減な運営を改めなければ、国民がいくら負担しても財源が足りない状態は変わらない。 なお、*4-2-4は、⑩政府は首相官邸で就職氷河期世代支援に向けた関係閣僚会議の初会合 ⑪首相は就労・処遇の改善、社会参加、高齢期への備えの3つを柱に、閣僚に支援策の拡充を指示 ⑫重点政策としてリスキリング(学び直し)支援、農業・建設業・物流業分野における就労拡大 ⑬公務員・教員の積極的採用も ⑭資産形成や住宅確保の強化にも言及 ⑮就職氷河期世代は一般的に1973~82年頃に生まれた世代で、就職時期に金融危機等の影響で企業の新卒採用が少なく、非正規雇用期間が長くなる傾向 と記載している。 「就職氷河期世代」とは、⑮のように、1973~82年頃に生まれた世代と言われるが、1970年代半ばから1985年までも、日本の求人倍率が 0.9倍から1倍、有効求人倍率は 0.6倍から0.7倍の間で推移した就職氷河期だった。さらに、この時代には男女雇用機会均等法もなかったため、有効求人倍率に女性が入っていたかどうかも疑わしく、私が大学を卒業した1977年はこの時期に入るが、日本企業は堂々と「男性のみ」と書いている募集が殆どだったのである。 そのため、⑩~⑭のように、農業・建設業・物流・福祉分野などにいくらでも働き口があり、リスキリングはじめさまざまな支援を受けられる近年の就職氷河期世代のために、ひどい女性差別の中で頑張って働いて多く積み立ててきたきた女性の厚生年金積立金を、低年金だからと国民年金加入者への給付に流用するなどというのは、甘ったれるのもいい加減にして欲しい。 結論として、⑨のように、定年は少なくとも75歳まで延長し、年金保険料納付期間は「65歳になるまで」にして、「年金+就労所得」で65歳以上の人の低年金の問題は解決すべきだ。 2)高齢者医療への健保からの拠出等について ![]() ![]() ![]() 2024.4.11メットライフ生命 国立癌研究センター 厚労省 、 (図の説明:左図は、心疾患の年齢階級別総患者数で、30~59歳では864千人だが、60歳以上では2,639千人と約3倍になる。中央の図は、年齢階級別の癌罹患者数で、60歳以上の罹患者数は面積の比較になるので、60歳未満の20倍以上である。さらに、糖尿病有病者も50歳以上で増え始め、60歳以上は60歳未満の1.4倍だが、健保連が保証するのは60~65歳までの人なのだ) ![]() ![]() ![]() 日本腎臓学会 2022.12.13時事Equity 2022.107NHK (図の説明:左図は、年齢階級別の慢性腎臓病《CKD》有病率で、59歳以下は8%未満、60~69歳は15%、70~79歳は30%前後、80歳以上は45%以上と増加するが、健保連が保証するのは60~65歳までの比較的健康な人で、その他の人は国保に入っているのである。また、中央の図のように、実質年金収入は下げながら、有病率の高い後期高齢者《75歳以上の人》の1人当たり医療保険料を上げ、その上、右図のように、65歳以上の1号被保険者からは、平均7万円/年以上の介護保険料を徴収し、40歳未満からは徴収していないという不公平さなのである《https://www.minnanokaigo.com/guide/care-insurance/fee/ 参照》) *4-3は、①健保連発表の2025年度予算早期集計で、大企業の従業員が入る健康保険組合の平均保険料率が過去最高 ②高齢者医療への拠出が膨らんだのが要因 ③給付と負担のバランスを見直さなければ、賃上げが進んでも現役世代の消費拡大はおぼつかない ④支出増の要因の1つは高齢者医療費への拠出で、75歳以上が全員入る後期高齢者医療制度は後期高齢者自身の保険料約1割、税金約5割、現役世代の支援金約4割 ⑤65~74歳の前期高齢者も勤め先を退職すれば国民健康保険に入ることが多いため、健保組合等が納付金を支出して国保を支える制度 ⑥2025年に団塊の世代全員が75歳以上になり、健保組合から後期高齢者医療制度への支援金が前年度より2.5%増 ⑦健保連の経常支出のうち加入者の医療費支払いに充てる保険給付費は5割で高齢者拠出金が4割 ⑧健保連佐野会長代理は「現役世代の負担が重く、高齢者への『仕送り』割合が高い傾向が続いている」と説明 ⑨経団連の十倉会長は「若い人が消費に向かわない。社会保険料は右肩上がりで増えており、世代による分断や格差を避けて公正・公平な社会保障にしないといけない」「税と社会保障の一体改革が必要」と語った ⑩現役世代の負担を抑えるには医療・介護の歳出改革が欠かせない ⑪財政制度等審議会分科会は「医療・介護給付費と雇用者報酬の伸びを同水準にする必要がある」と訴えた ⑫医療費増加要因のうち高齢化等の人口要因は半分程度で、他は新規医薬品保険適用・医師数・医療機関増加・診療報酬改定等の影響 ⑬保険料負担を抑えるには、これらの改革が急務 ⑭現役世代と同じ窓口負担3割となる後期高齢者の対象拡大、市販薬と効果やリスクが似る「OTC類似薬」の保険適用からの除外など ⑮日本医師会松本会長は「賃金上昇・物価高騰・医療技術革新への対応には十分な原資が必要」と述べ、診療報酬引き上げを要求 ⑯2025年春季労使交渉の賃上げ率は2年連続5%台の高水準になる見通しだが、社会保険料も上がれば効果は薄れる ⑰賃上げが消費拡大に結びつかなければ企業の設備投資意欲は高まらず、成長と分配の好循環は実現しない としている。 医療・介護保険制度は、病気に備えて健康な時から保険料を支払い、医療や介護が必要になった時には保険で補償される仕組みで、健康な人と慢性疾患を抱える人の割合は、上の図のように、定年前(60~65歳)と定年後で著しく異なる。つまり、定年後の人は、糖尿病1.4倍、心臓病3倍、癌20倍以上であり、腎臓病も年齢とともに等比級数的に増えるが、働いている健康な人から保険料を集めている健保連は、慢性疾患を患う定年後の人の補償をしないのである。 本当に公平・公正な保険制度というのは、定年前の健康に働いていた時代に入っていた保険が定年後の人も補償するものだが、現在は、⑤のように、65歳以上の高齢者は勤め先を退職すると同時に国民健康保険に入る。そのため、④⑦のように、健保が高齢者に支援金を約4割しか払っていないのは、むしろ大負けに負けている状態で、国保に税金を約5割も投入しなければならないのは、それが主な理由である。そして、高齢になればなるほど有病率が高くなるということは、厚労省はじめ政策立案する人なら誰でも知っておかなければならないことだ。 そのような中、⑧のように、健保連会長代理が「現役世代の負担が重く、高齢者への『仕送り』割合が高い傾向が続いている」などと説明しているが、『仕送り』したくなければ、定年後も健保連が補償するのが保険の理屈である。また、⑨のように、経団連会長が「若い人が消費に向かわない。世代間格差がある」などと言うのなら、介護制度のなかった時代に自ら家族を介護しなければならなかった世代の世代間格差はどう埋め合わせるのだろうか。さらに、年齢構成が変われば消費対象も変わるため、それも考慮できないようなら、日本のGDPは下がりこそすれ上がらない。 従って、⑥の「団塊の世代全員が75歳以上になり、健保組合から後期高齢者医療制度への支援金が前年度より2.5%増」というのは、無理やり抑えた結果、むしろ少なくなっていると言える。また、⑩のように、「現役世代の保険料負担を抑える」のが最も重要なのではなく、保険料を支払った人には補償することが最も重要なのである。 そのため、高齢化による有病率の変化も考慮せずに、⑪のように、「医療・介護給付費と雇用者報酬の伸びを同水準にする必要がある」などと訴えたり、⑬のように、「保険料負担を抑えるには、医療・介護の歳出改革が急務」として、⑭のように、「現役世代と同じ窓口負担3割となる後期高齢者の対象を拡大せよ」などと主張したりしているのは、それなら生活保護以下の所得で暮らしている高齢者の医療・介護費は無料にすべきであり、子どもや妊婦の医療費を0にする必要はなく、0というのはむしろ有害なのである。 さらに、⑫は、「医療費増加要因のうち高齢化等の人口要因は半分程度」「他は新規医薬品保険適用・医師数・医療機関増加・診療報酬改定等の影響」としているが、上の図のとおり、高齢化すれば高齢者人口の増加以上に医療費が増加するのが当然だ。また、世界に先駆けて高齢化した国は、世界に先駆けて高齢化に対応する予防や治療技術を開発し易く、それを汎用すれば新規医薬品の価格も下がるのだが、これも欧米がやることを真似することしかできないのだろうか。 なお、医師数・医療機関増加・診療報酬改定等の影響を問題視しているが、これについては、⑮の日本医師会会長の「賃金上昇・物価高騰・医療技術革新への対応には十分な原資が必要」というのが正しく、労働に応じた診療報酬でなければ必要な分野の医師の質と量も確保できない。 つまり、*4-3は、①②は「健保連の平均保険料率が過去最高で、原因は高齢者医療への拠出が膨らんだから」と述べ、⑯⑰で「2025年の賃上げ率は5%台だが、社会保険料も上がれば効果が薄れ、現役世代が消費拡大しなければ、企業の設備投資意欲は高まらず、成長と分配の好循環は実現しない」などと背景の理解もせずに、単に現在ある消費財の消費を促進しようとしているだけなのである。そのために、③のように「給付と負担のバランス」などと尤もらしい理屈をつけているが、実は、以前は介護も家族が担い、癌になれば助からず、リハビリという概念はなく、病気の早期発見もできなかったという事実を忘れた、お粗末な内容なのだ。 しかし、実際には、医療・介護はじめ、現在でも消費したくてもないサービスは多く、これを地道に改善していくことこそが、経済成長のKeyなのである。 (4)物価高騰による国民の貧困化について ![]() ![]() ![]() 2025.2.8西日本新聞 2023.10.20、2022.6.25日経新聞 (図の説明:食糧物価が高騰したため、左図と中央の図のように、エンゲル係数《家計消費支出にしめる食料費割合》が上がり、2024年の日本は、1981年と同水準の貧乏な国に後退した。また、右図のように、購入頻度の高い必需品ほど物価上昇したため、体感物価は統計より高い) ![]() ![]() ![]() NHK 2025.2.21西日本新聞 2024.11.17日経新聞 (図の説明:左図は、頻繁に購入する44品目と総合の物価指数《前年同月比の物価上昇率》で、前年同月と比較しただけでも総合で約3~5%、頻繁に購入する44品目は約6~9%物価上昇している。また、中央の図の主食とされる米は、2025年5月時点では前年の2倍程度になっており、食糧物価高騰の旗手になった。これらの結果、日本のエンゲル係数は、1981年以来の高水準・G7で首位《つまり日本国民はG7で最貧》になったが、これを「首位」と表現したり、コストプッシュ・インフレを「物価の伸び」と表現したりしているのが、全くおかしいのである) ![]() ![]() ![]() 2025.5.16読売新聞 2024.3.7President 2025.1.9第1生命基礎研究所 (図の説明:左図のように、実質GDPは、コロナ対応時の異常値を除いて0近傍で推移しているが、貨幣価値を下げることによって生産性向上を伴わずにインフレとそれ以下の賃上げを人為的に作っているだけであるため、当然である。中央の図が、実際の国民の豊かさを示す実質購買力平価《その貨幣で、どれだけのものが買えるかを示す》による1人あたりGDPの推移で、2000年頃に香港、2008年頃に台湾、2018年頃に韓国に抜かれている。右図の名目GDPも、2022年頃にイタリア・韓国以下になり、「“責任政党”が国民に責任を果たした」とはとても言えない) 1) 2025年1~3月期の国内総生産(GDP)と2024年度家計調査から *4-4-2は、①2025年1~3月期のGDPが1年ぶりにマイナス成長になった ②肝心の個人消費が冴えなかった ③その原因とされるのは、賃金上昇を上回る物価高の継続 ④消費者物価の総合指数は昨年末頃から伸びを高め、今年1~3月は3%前後で推移 ⑤キャベツなどの生鮮食品が値上がりし、コメが前年の倍近いという異例の高騰が続く ⑥内閣府が公表する消費者態度指数は昨年12月からじりじり低下 ⑦4月はトランプ関税の影響も加わってか、さらに大きく落ち込んだ ⑧日銀が出した「経済・物価情勢の展望」で、今年度の実質成長率見通しは、1月時点の1.1%から0.5%に下ぶれ ⑨第一生命経済研究所の新家氏は「もともと内需が弱いところに、関税引き上げの悪影響が顕在化し、景気の停滞感は一段と強まる。場合によっては景気後退局面入りの可能性」 ⑩SMBC日興証券の集計で東証株価指数(TOPIX)を構成する上場企業の2025年3月期決算は純利益総額が4年連続で過去最高に ⑪GDPの動きを中長期に見ると、「名目」と「実質」・「GDP全体」と「個人消費」の2つのギャップ ⑫2024年度の名目GDPは初めて600兆円超 ⑬1970~80年代は5年で約100兆円ペースで増えたが、1992年度に500兆円を超えた後、600兆円まで32年 ⑭このうち2022年度以降の伸びが50兆円近く ⑮実質GDPの伸びは限定的で、2024年度までで5兆円強の増加に留まる ⑯実質GDPの伸びを支える顔ぶれも様変わりし、2018年度と2024年度を比べるとGDPの5割強を占める個人消費は3兆円余りマイナス、住宅投資・設備投資を加えた民間需要全体もマイナスで、政府消費のみが11兆円増 ⑰政府消費には、医療・介護給付や公共サービス支出が含まれる ⑱内閣府幹部は「高齢化で、政府消費は伸びざるを得ず、より重要なのは国内の民間需要がしっかり伸びていくこと」と話す としている。 また、*4-4-3は、⑲物価高により個人消費が力強さに欠けた ⑳GDPの半分以上を占める個人消費はほぼ横ばいで、肉・魚等の食料品がマイナスでパックご飯もマイナス ㉑外食は天候に恵まれプラス ㉒モノの輸出は自動車が伸び、輸入は2.9%増と大きく増加してGDP成長率を下げた 等としている。 このうち、②⑲は、「物価高で個人消費が冴えなかった」とし、その原因を、③のように、「賃金上昇を上回る物価高」としているが、この分析は、*4-4-4のとおり、勤労者世帯のことしか考えておらず、人口の3割を占める65歳以上の高齢者などの無職者を無視しているため不十分だ。その上、新しいニーズに応えることを拒んで現状維持に汲々としつつ、金融緩和とロシア・ウクライナ侵略に端を発するコストプッシュ・インフレが国内の賃金上昇を上回ることがあるなどと考えるのがどうかしている。 また、④の「消費者物価の総合指数は昨年末頃から伸びを高めたが、今年1~3月は3%前後」と物価が上がることをあたかも良いことであるかのように書いているが、現在の物価上昇は、コストプッシュ・インフレでディマンド・プル・インフレではなく、国民を貧しくするだけの悪いインフレであるのに、まるで良いことであるかのように書いているのも変である。従って、①のように、「2025年1~3月期のGDPがマイナス成長になった」のは当然なのである。 なお、⑤⑥⑳のように、キャベツ等の生鮮食品が値上がりし、コメは前年の倍近くに高騰して、肉・魚・パックご飯等の食料品消費はマイナスになったが、値段が上がってもその分だけ消費が落ち込み、個人消費はほぼ横ばいになっているのである。実質年金が著しく下がり、実質賃金も下がっているのだから、消費者が節約志向になったのは当然のことで、唯一、㉑のように外食がプラスだったのは、海外の観光客が多かったことと、海外旅行に出る日本人が減って短期の国内旅行に切り替えたことが理由ではないのか? つまり、物価が上がるから生鮮食品を10~20年分も買っておくような人はおらず、将来、物価が上がるのなら、できるだけ節約して物価上昇に備えるのに、「物価が上がるという予想を人々がもてば、商品が売れて経済が改善される」などという馬鹿なことを誰が発想して、経済の専門家と称する多くの人が一斉に同じことを言ったのか? 的外しもいいところなのである。 日銀は、⑧⑨のように、「経済・物価情勢の展望」で今年度の実質成長率見通しを0.5%に下げたそうだが、経済政策の失敗を外国のせいにするのはいつも通りではあるものの、⑦のように、すべてトランプ関税のせいにするのは誤りだ。何故なら、敗戦後80年経っても米国頼みの加工貿易の発想から抜け出さず、㉒のように、時代遅れの自動車の輸出頼みで、化石燃料価格の上昇や円安による輸入増など、時代に合わない経済政策を維持したことに原因があるからである。 しかし、日銀の金融緩和による円安と物価上昇で得をした団体もあり、その1つは、借金が多いか、輸出割合の高い企業である。そのため、⑩のように、東証株価指数(TOPIX)を構成する上場企業の2025年3月期決算は純利益総額が4年連続で過去最高になったのだ。 もう1つは、政府で、⑫のように、名目GDPや名目賃金が増えれば、例えば消費税(消費者への最終売上の8%or10%)・法人税(純利益の原則23.2%)・所得税(所得の一定割合で累進課税)の徴収額が増える。しかし、日本政府の国債残高(借金)は簿価のまま変化しないため、実質価値が落ち、その分は密かに国債保有者や預金者に負担させているのだ。 国民には、⑫⑬⑭のように、名目GDP総額が600兆円であろうと500兆円であろうと関係なく、関係があるのは購買力平価に基づく1人あたりGDPだけである。しかし、⑮のように、購買力平価に近い実質GDPの伸びは限定的であるため、日本の購買力平価に基づく1人あたりGDPは高くなく、日銀が金融緩和して物価が上昇し始めてからは、むしろ下がったのである。 そのため、⑯のように、実質GDPの5割強を占める個人消費は3兆円余りのマイナス、住宅投資・設備投資を加えた民間需要全体もマイナスで、政府消費のみが11兆円増加したそうだ。もちろん、⑰の政府支出のうち、保険制度に基づく医療・介護給付は当然しなければならないが、政府支出のうち化石燃料への補助やその場限りのバラマキなど税金の無駄使いにあたる歳出は、将来性も理念もなく有害無益と言わざるを得ない。つまり、金融緩和して政府が無駄使いを増やした分だけ、⑪のように、GDPは「名目」と「実質」がかけ離れ、「GDP全体」と「個人消費」も大きなギャップが生じ、国民は貧しくなったのである。 このように、日本政府は、理念もなく環境にも将来の生産性向上にも資さないその場限りの無益なバラマキが多すぎるため、公会計制度の導入が必要不可欠であるし、⑱のように、将来性と効果をしっかり見据える民間需要が伸びることは重要なのである。 2)物価高騰の国民及び経済への影響 *4-4-1は、①総務省が発表した2024年度家計調査で、1世帯(2人以上)当たり月平均消費支出は30万4,178円で、物価変動の影響を除く実質で前年度比0.1%減少し、2年連続マイナス ②食品などを中心に長引く物価高で、消費者の節約志向が根強かった ③2024年度の家計消費支出に占める食費の割合を示す「エンゲル係数」は28.3%で、1981年度以来43りの高水準 ④所得の伸びが食品価格高騰に追い付かず、家計を圧迫する構図 ⑤消費支出のうち「食料」が1.0%減、野菜・肉類・乳製品等の幅広い分野で値上げが相次ぎ、支出を減らす動きが広がった ⑥同時に発表した3月の消費支出は33万9,232円で前年同月比2.1%増 ⑦寒さが厳しかった影響で電気代を含む「光熱・水道」が7.2%増 ⑧大学の授業料値上げ等の影響で「教育」も24.2%増と大きく伸びた ⑨食料への支出は0.7%減と6カ月連続減 としている。 このうち①②の2024年度家計調査で「物価変動(物価高騰)の影響を除いた実質消費支出が前年度比0.1%減少し、2年連続のマイナス」というのは、実質賃金・実質年金等の実質収入が減り、食品等の必需品を中心に物価高騰が続いて、この状態は今後も続くと見込まれる以上、消費者が必要なものでも買い控えて節約志向になったのは当然である。そのため、“責任政党”と言っている政党や政府は、誰に責任を果たしたつもりでいるのかを、あらためて問いたい。 また、③のように、2024年度の家計消費支出に占める食費の割合を示す「エンゲル係数(家計消費支出にしめる食料費割合)」は28.3%と1981年度以来43年ぶりの高水準(つまり、43年分貧乏に逆戻りしたということ)になったが、この物価高騰は生産性向上を伴わない賃上げや円安・いつまでも使って国富を流出し続けている化石燃料の高騰などによるコストプッシュ・インフレであるため、④のように、価格高騰に所得の伸びが追い付くわけはなく、単に家計を圧迫しているだけなのだ。 そのため、消費者は、⑤⑦⑨のように、生活必需品である食料品の購入数量をかなり控えても物価高騰の影響で1.0%減にしかならず、水光熱費は節約したにもかかわらず7.2%増え、⑧の大学授業料は無理してでも支払わざるを得ないため授業料値上げ等の影響で教育支出が24.2%増となったのである。それらの消費者行動を総合した結果、⑥のように、3月の全体消費支出は、前年同月比2.1%増となったのだ。 (5)消費税の位置付けと実際の使途 ![]() ![]() ![]() 2019.9.25毎日新聞 2025.4.26東京新聞 消費者経済総合研究所 (図の説明:左図のように、日本が消費税導入の見本と称したヨーロッパは、実は付加価値税であり、消費者ではなく生産者にかかるもので、税率も食料品・水・書籍等の必需品は0%に近い軽減税率だ。日本の消費税は、中央の図のように、1989年に3%の税率で導入され、2014年には8%、2019年には10%とうなぎ登りに引き上げられたが、食料品と定期購読の新聞のみには8%の軽減税率が適用されたため、新聞はこぞって消費税率引き上げに賛成の立場をとっている。一方、日本が見本と称しているヨーロッパは、食料品・水道水・書籍・雑誌等は0%に近い軽減税率である。消費税は逆進税であるため、累進課税の所得税の方が優れた課税方法なのだが、税制間のバランスなどとして日本は消費税の割合を増やし、必需品への軽減度も低くしているため、消費税の短所である逆進性が本家のヨーロッパより大きく出ている。そして、右図のように、税収に占める消費税の割合は増加の一途を辿っているのだ) ![]() ![]() ![]() ![]() 2023.12.23、2024.12.12、2025.4.26沖縄タイムス 2025.4.27佐賀新聞 (図の説明:1番左の図が2024年度の政府予算だが、歳入の31.2%が国債発行で賄われており、実質国債残高は物価上昇によって減り、その減った分は国民の実質預金残高が減ることによって賄われるため、国民は税・社会保険料以外に物価上昇による預金残高の目減りという膨大な負担も強いられている。左から2番目の図が税制改正の政府案だが、防衛費増加分をたばこ税で賄っているのは問題で、その理由は、1989年4月1日の消費税法施行に伴って奢侈品・嗜好品に課されていた物品税が廃止されたが、酒税・たばこ税・自動車税・ガソリン税は現在も残っているからだ。その消費税については、右から2番目の図のとおり、各党が議論しているが、少なくとも食料品等の必需品の税率は0に近い軽減税率にすべきである。1番右の図は、ガソリンの暫定税率を0にした場合の問題点だが、環境税として地方が独自に徴収すれば良いだろう) 1)消費税とは 消費税導入の目的は、i)税制間のバランス ii)個別間接税の問題点解決 iii)高齢化社会の財源確保とされ、「所得税中心の財源では所得税納税世代(20歳~64歳)に負担がかかり、高齢化で年金・福祉に関する財源が増加するから」と理由付けされている(https://airregi.jp/magazine/guide/1795/ 参照)。 しかし、iii)の「高齢化社会の福祉財源は、消費税でなければならない」などと言っている国は日本以外になく、この理由は消費税導入時の説明に使った便法にすぎない。 また、i)の「税制間のバランス」についても、法人税・所得税の方が所得に応じて課税されるため不景気の時には自動的に減税されるというビルトイン・スタビライザー効果があって優れているのだが、消費税は「安定財源」と言われるだけあって貧しい人や不景気の時ほど課税負担が重くなる逆進税なのである。そのため、米国と同じく法人税・所得税の捕そく率が高い日本で、消費税を導入して人為的に“バランス”をとる必要はなく、法人税・所得税の捕そく率をさらに高めて漏れをふさげばよかったのである。 さらに、ii)の個別間接税である物品税は間接消費税であり、日本では1940年(戦争中)に制定された物品税法によって宝石・毛皮・電化製品・乗用車・ゴルフクラブ等の奢侈品・嗜好品に課され、メーカー出荷時に課税されたのだが、「国民の生活水準が上がって贅沢品の線引きが曖昧になったため、一律の消費税導入でその問題を解決する」として、1989年4月1日の消費税法施行に伴って廃止されたものの、現在も、酒税・たばこ税・自動車税や*5-3のガソリン税等は残っているのだ。 このうち自動車やガソリンは1940年代と違って贅沢品どころか必需品になっているため、自動車税やガソリン税は、早々に廃止するのが筋であろう。そのかわり、現在では、化石燃料の使いすぎによる環境悪化が著しいため、化石燃料には地方が環境税を賦課すれば、自動車税やガソリン税の廃止による問題は解決する。 一方、酒税やたばこ税は、消費税の一部である上、酒やたばこを飲みすぎると癌のリスクが増して医療・介護費が増えるため、酒税・たばこ税は消費税の一種としてさらに税率を上げ、医療・介護費にまわすのが筋であり、防衛費の財源にするなどもってのほかである。 また、現在、電化製品や乗用車が必需品で奢侈品でないのは明らかだが、高価な宝石や高すぎる住宅・入場料などが奢侈品に入るのも明らかであるため、単価によって税率を変えつつ消費税をかければ、食料品の税率を0にしてもカバーできると思う。そして、このような複数税率に、正確かつ容易に対応できるのが、インボイス方式の長所なのである。 なお、日本がモデルにしたヨーロッパの付加価値税は、企業が付けた付加価値に対して課税されるものなので企業が負担する計算方法になっているが、それが日本に導入された時には最終消費者(=個人)に転嫁することとなり、最終消費者が負担する計算方法になった。そして、最終消費者が負担することになった理由は、消費税導入時に企業の反対が大きく、「消費者は女性であり、自分は生産者であって消費者でも生活者でもない」と考えている男性ばかりが意志決定権者だったからなのである。 2)消費税減税に関する現在の動向 *5-1は、①立民が江田氏を中心に食料品の軽減税率8%が適用される飲食料品の税率を0%に引き下げて年5兆円規模の減税を実現させる夏の参院選公約に向けた提言書をまとめた ②党税制調査会等の合同会議も開かれ、出席議員の多くが消費税減税を訴えた ③財政規律を重視する枝野幸男元代表が「減税ポピュリズム」と批判し、対立が先鋭化 ④提言書は、食料品の税率を当分の間、0%にすることで「物価高から国民生活を守る」と強調 ⑤中低所得者の消費税を実質的に還付する「給付付き税額控除」を導入するまでの時限的措置 ⑥減税は国内総生産(GDP)を0.39%押し上げると試算 ⑦財源には米国債の償還金活用を挙げた 等としている。 上に記載した理由から、私は、①②には賛成だが、④の「食料品の税率を当分の間、0%にする」では足りないと思うし、「物価高から国民生活を守る」だけでは理論的に弱すぎると思う。ましてや、③のように、「消費税減税はポピュリズム」と言うのは、選挙に都合の良い無駄なバラマキは堅持しつつ、税理論はさておき、とれるところからとる というスタンスであり、民主主義の理念も税理論も無視した政治であろう。 さらに、⑤の「中低所得者の消費税を実質的に還付する『給付付き税額控除』を導入する」については、人間のすることには、変な価値観による恣意性が入り、公正とは言えず、漏れも多く、遅すぎるため、消費税をとってから給付付き税額控除を導入するよりは、ヨーロッパのように、必需品には0%の軽減税率を適用する方が、国民生活を守るためによほど有用なのである。 なお、⑥の減税がGDPを0.39%押し上げるというのは、国民の可処分所得が増える分だけ正しいと思われるが、⑦の財源は、米国債の償還金のような一時的なものではなく、酒税やたばこ税の引き上げと奢侈品への15~20%税率で賄えば良いだろう。付加的ではあるが、1億円超などの高すぎる住宅に高税率をかけると、企業や住宅の地方移転を促すことにもなる。 また、*5-2は、自民の森山氏は、⑧「消費税を下げる議論だけが先行しては大変なことになる」 ⑨「社会保障に充てていく約束で消費税制が成り立っていることを忘れてはいけない」 ⑩「消費税を下げる分の財源をどこに求めるかの話があって初めて議論できる」 ⑪「2012年に旧民主党・自民党・公明党3党で交わした社会保障と税の一体改革に関する合意は、正しい選択・判断だった」 ⑫「日本は経済的にも大きな国で、日本の財政が信任を失ったら国際的に大変なことになるのを認識しておかなければいけない」 ⑬「消費税が地方交付税の財源にもなっており、消費税は色々なことに影響する税金であることを国民に理解してもらわないといけない」 と述べたとしている。 このうち⑧⑩⑫の財源については、選挙目的の無駄なバラマキや時代遅れの補助金の廃止による歳出組みかえこそが重要なのだが、これらには一切触れず、既得権益を守ろうとしたり、予算増ばかりを考えつつ、国民の負担増を強調している点が不誠実だ。 また、消費税導入時には、⑨のように「消費税は社会保障に充てる」というふれ込みだったが、実際には、⑬のように地方交付税の財源にしたり、消費税の一部であるたばこ税を防衛費の財源にしたり、同じく消費税の一部である酒税を福祉以外の財源にしたりなど、当初のふれ込みとは異なる流用が甚だしい。そのため、消費税の使い道を正確に分析する必要はあるが、国民は、財政全体の使い道を理解すればするほど、これではたまったものではないと思うのである。 なお、⑪の「社会保障と税の一体改革」の3党合意も、皆でガラガラポンしてわけがわからないようにし、どうやっても(当然)残る負担は国民に押しつける理不尽な手法であったため、私は、最初から反対で賛成したことは一度もなかったのである。 3)こういうメディアの論調はどこからくるのか? 多くのメディアは、*5-4のように、①自民・公明両党の幹事長が夏の参院選までに新たな経済対策を示すことで合意し事実上の選挙公約 ②政権を担う公明党や自民党参院にまで減税論が広がっているのは見過ごせない ③政策効果や財源の議論抜きに選挙目当てのバラマキに走るようでは「責任政党」と言えない ④公明党は食料品を中心とする物価高対策としての減税を訴え、つなぎとして現金給付も唱える ⑤自民党では、執行部は減税に慎重だが、参院議員の8割は消費税減税を希望 ⑥近く党税制調査会の勉強会を開き、税率を下げる場合の課題を整理 ⑦立憲民主党は野田代表が食料品の税率を1年間0にし、延長も1回できる方針に転じた ⑧日本維新の会、国民民主党も減税をめざしている ⑨食料全体でならしても7.4%上がっている ⑩食品に掛かる8%の軽減税率を0にすれば約5兆円の財源が必要なので、消費税を下げればいいというのは短絡的 ⑪石破首相が「高所得の方も含めて負担が軽減され、低所得の方が物価高で一番苦しんでいるのにどうか」と認める通り、再分配策としての効率も悪い ⑫消費税は医療・年金・介護・子育て支援等の社会保障や地方財源となる基幹税で、次の選挙のために次の世代にツケを回すのは無責任 等とする。 仮に、①のとおり、消費税減税の議論を選挙目当てだけに行なっているとすればあまりにも考えが浅すぎるが、④⑤⑥⑦⑧のように、選挙を機会として国民の意志で制度変更することはあるし、それが民主主義である。 もちろん、③のように、政策効果や財源の議論抜きに選挙目当てのバラマキに走るようでは責任ある政治家とは言えないが、②のように、「政権を担う与党にまで減税論が広がっているのは見過ごせない」などと言っているのは、消費税の本質も知らずに「消費税増税が正しく、減税は人気取りにすぎない」と考える傲慢そのものの態度である。 さらに、⑫は「消費税は医療・年金・介護・子育て支援等の社会保障や地方財源となる基幹税」とするが、子育て支援にはやりすぎも散見される上、社会保障や地方財源が消費税でなければならない理由はない。また、現在の貧困者のことも思いやれない人が、「次の世代に責任を持つ」などと言うのは、その場限りの便法にすぎず、おこがましすぎる。 また、生活必需品のうち食料は、⑨のように、全体でも7.4%上がっているそうなので、⑩のように、食料品の8%の軽減税率を0にすれば物価上昇前と同程度の価格になる。そして、食料品の軽減税率を0にするために約5兆円の財源が必要であれば、コストプッシュ・インフレによる食料品の物価上昇分約5兆円は国民が負担しているため、その財源は物価上昇によって儲かった団体から徴収するのが筋である。 これに対し、⑪のように、石破首相は「高所得の方も含めて負担が軽減され、低所得の方が物価高で一番苦しんでいるのにどうか」と言っておられるそうだが、「再分配策」としてなら消費税自体が低所得の人の方が税率の高い逆進税であるため、なおさら食品の税率を0にするか、消費税自体を廃止するかしか方法はないのである。 ・・参考資料・・ <米について> *1-1:https://www.agrinews.co.jp/news/index/300680 (日本農業新聞 2025年4月16日) [ニッポンの米]MA米の主食枠拡大を 国内需給の調整弁に 財務省提言 財務省は15日、輸入米であるミニマムアクセス(最低輸入機会=MA)米を巡り、主食用米として利用できる量を増やすべきだと提言した。米の不足感が強まる中、国内需給の調整弁になるとして、年間最大10万トンの主食向けの枠を増やすことなどを求めた。輸出を妨げていると、米国が日本の米の輸入制度を批判している最中であり、今後の日米協議に影響を及ぼす懸念もある。提言は同日、財政制度等審議会(財政審)の分科会で示した。財政審は国の財政運営の在り方について議論しており、5月にも建議(意見書)をまとめる。MA米は、1993年のガット・ウルグアイラウンド(多角的貿易交渉)合意に基づき導入され、日本は米国などから年間77万トンの米を義務的に輸入している。うち最大10万トンは売買同時契約(SBS)方式で輸入され、主食用に仕向けられる。残りは需給に影響を与えないよう、飼料用や加工用など非主食用に仕向けられる。提言では、SBS枠を増やすなど、必要に応じて主食用米として利用できる量を増やせば、MA米が「国内需給の調整弁」になると指摘した。国産米の不足時に活用することなどが念頭にあるとみられる。増田寛也分科会長代理(日本郵政社長)は分科会後に記者会見し、主食用の米の輸入枠拡大について「国内需給の調整弁として、いくつかの手法を持っておくのは有力だ」と話した。政府は1993年に閣議了解した農業施策の基本方針の中で、SBS米を含むMA米について「MA導入に伴う転作の強化は行わない」と定め、MA米が国産米の需給に影響を与えないよう運用することとしてきた。MA米の主食用米としての利用を増やせば、この閣議了解との整合性が問われる。提言では飼料用米について、「一律に高単価で支援する必要があるとは言えない」として、支援の在り方を見直すよう迫った。「毎年度約2000億円もの巨額の財政負担が生じている」と指摘。食料自給率の引き上げ効果は0・4%分にとどまるとした。米農家と畜産農家が直接取引しているのは全体の7%にとどまり、「配合飼料工場などで加工され、流通しているものが太宗」と問題視した。 [解説]食料安全保障に逆行 財務省が、MA米について、主食用米として利用できる量を増やし、国内の需給の「調整弁」に使うことを提言した。米の価格上昇や不足感を背景にしたものだが、安易に輸入米に委ねることは、食料安全保障強化に逆行しかねない。新たな食料・農業・農村基本計画では、米の安定供給へ、水田政策の見直しや総合的な備蓄の構築に向けて検討を進めることを掲げた。米輸出や不測時の対応も踏み込んだ方針を掲げ、国内生産での安定供給を目指す。財務省の提言は、この方向性に水を差すものだ。近年、主食用米の需給と価格を安定させる機能を担っていたのが飼料用米だが、同省は支援の削減を一貫して求めている。目先の需給と財政負担削減を優先していると判断せざるを得ない。日本政府はトランプ米政権の追加関税を巡り、米国との交渉に臨む。その米国は、日本の輸入米制度を「非関税障壁」として批判してきた。交渉を前に輸入米制度を巡る提言を出すことは、食料安保への姿勢が問われる。 *1-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1410997 (佐賀新聞 2025/2/18) 2月上旬のコメ価格、9割高騰、5キロ平均3829円、農水省 農林水産省は18日、2月3~9日にスーパーで販売されたコメ5キロ当たりの平均価格が、前年同期と比べ89・7%高い3829円だったと発表した。1月下旬には政府が備蓄米放出の新方針を表明していたものの、高騰が続いた。江藤拓農相は2月14日に最大21万トンを放出すると具体策を発表し、3月下旬にもスーパーなどに並ぶ見通しで、値下がりに転じるかどうかが注目される。金額にして1811円の値上がり。前週比でも141円高かった。全国約千店舗のスーパーの販売データに基づいて農水省がまとめた。販売数量は前年同期比9・4%減だった。江藤氏は18日午前の閣議後会見で、14日の放出発表後、コメの流通取引が活発になっているとの認識を示した。卸売業者から小売業者に対し、コメを売りたいという声が「かなりの数出てきている」という。農水省は17、18日、集荷業者を対象に備蓄米の説明会を開催し、入札手続きなどを説明した。江藤氏は、参加者が多く「非常に関心は高い」と評価した。農水省は値上がりを見込んだ一部業者や農家がコメを抱え込んでいるとみている。今後、備蓄米放出による値下がりが意識されて流通量が増えれば、放出前に価格が下がる可能性もある。 *1-3:https://www.agrinews.co.jp/news/index/301747 (日本農業新聞 2025年4月21日) 日米交渉で首相「農業犠牲にしない」 米や検疫、攻防の焦点に トランプ米政権の関税措置を巡る日米交渉で、米や検疫体制が農産品を巡る攻防の焦点になってきた。米国は、米の市場開放やジャガイモなどの検疫の緩和を要求。石破茂首相は21日の参院予算委員会で、「自動車を守るために農業を犠牲にする考えは全く持っていない」と述べた。米国は自動車や鉄鋼・アルミに25%の追加関税を賦課。それ以外の輸入品には一律10%追加し、国ごとの相互関税の上乗せ分は7月上旬まで停止中。日本政府は関税措置の撤廃を求め、17日に米国との初交渉に臨んだ。米国の要求は、3月に公表した「外国貿易障壁報告書」に沿ったものとみられる。検疫体制では、ジャガイモや牛肉などについて問題視している。首相は20日のNHK番組では「食の安全を譲ることはない」と強調した。交渉内容について、対米交渉を担う赤沢亮正経済再生担当相は21日の参院予算委員会で、「この場で申し上げることは差し控えたい」と述べるにとどめた。立憲民主党の徳永エリ氏への答弁。第1次トランプ政権時の日米貿易協定では、日本が牛肉などの関税を環太平洋連携協定(TPP)並みに下げ、自動車の追加関税を回避。米国向けの自動車・同部品の関税も撤廃に向けて交渉するとしていた。徳永氏はこれを踏まえ、今回の関税措置と同協定の整合性を問題視した。首相は「整合性はこれから先もきちんと指摘していく」と述べた。財務省は、毎年77万トンを輸入するミニマムアクセス(最低輸入機会=MA)米のうち、主食向けの量を増やし、「国内需給の調整弁」とすべきと提言した。江藤拓農相は「調整弁は備蓄米を活用している」と述べ、輸入米拡大による需給調整に否定的な考えを改めて示した。 *1-4:https://www.agrinews.co.jp/news/index/301755 (日本農業新聞 2025年4月21日) 消費者理解ハードル高い 価格形成法案で立民が議論 立憲民主党は21日、生産コストを踏まえた農畜産物の価格形成に向けた法案について、農水省から聞き取りをした。現在、米をはじめ農産物の価格が上昇し、家計を直撃する中、消費者の理解を得ながら価格形成を進めるハードルの高さを指摘する意見が相次いだ。同日、党農林水産部門(金子恵美部門長)の会合を開いた。同法案では、売り手と買い手に価格交渉に誠実に臨むよう努力義務を課し、対応が不適切な事業者には国が指導や勧告を行う。米や野菜などを対象に、価格交渉の材料になる「コスト指標」を作成する方針だ。階猛氏(衆・岩手)は、生産コストの価格転嫁が長らく進まず、厳しい経営環境にある生産現場を踏まえ、「農業者の立場に立てば(価格転嫁を)やるべきだ」と強調した。一方で、「消費者に(価格転嫁を)理解してくれと言っても理解してもらえるのだろうか」と危惧。消費者から理解を得るハードルの高さを指摘した。金子部門長も「消費者に丁寧に説明しなければ、ただ単に(農畜産物の)価格を上げるための法律と思われる」と危機感を示した。 *1-5:https://www.agrinews.co.jp/news/index/302257 (日本農業新聞 2025年4月23日) 牛乳消費拡大 業界結束が必要 自民畜酪委が団体聴取 自民党畜産・酪農対策委員会(簗和生委員長)は23日、新たな酪農・肉用牛生産近代化基本方針(酪肉近)を踏まえ、生乳の需要拡大に向けて議論した。ホクレンやJミルク、中央酪農会議が出席し、需要拡大に向けた取り組みや課題を説明。牛乳は差別化が難しいことや、食品全体の価格が上がる中、業界一体となって対策に取り組む必要性などを指摘した。11日に公表された酪肉近では、2030年度の生乳の生産数量目標を732万トンに設定した上で、おおむね10年後の「長期的な姿」として需要拡大を前提に780万トンを目指す。今後の需要拡大策が焦点になる。ホクレンは、消費拡大に向け、台湾や香港などの輸出先での試飲や広告展開を進めている。牛乳について「加工度が低く、差別化が難しい。利益も薄く積極的な販売拡大策が取りにくい」といった課題を挙げた。Jミルクは、物価高騰が牛乳の消費に影響を与えているとし、「理解醸成だけで消費を維持していくのは限界がある」と指摘。消費拡大に向けたイベントなどの開催時期やコンセプトを、業界全体でそろえて行うことが必要と提案した。簗委員長は「生産現場が安心して営農できる環境の基となるのが需要拡大だ」と強調。出席議員からは、インバウンド(訪日外国人)向けに乳製品を使った土産を販売していくことや、おなかに優しいとされる牛乳「A2ミルク」をアピールしていく必要性を指摘する意見が出た。 <経済対策⁇> *2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16197355.html (朝日新聞社説 2025年4月19日) 経済対策の迷走 必要性の見極め怠るな 物価高やトランプ関税への「経済対策」として、消費税やガソリン税、所得税などの大型減税を求める声が与野党に広がっている。与党は国民全員に現金を配る案を取り下げたが、参院選を夏に控えて負担減のアピール競争は収まりそうにない。しかし政治がまずなすべきは、日本経済と国民生活への影響を冷静に見極めることだ。高関税で誰にどんな痛手が及ぶのか。物価高が長引くなか、対策は適切か。浮足立つことなく、必要な手立てを考えることが欠かせない。トランプ関税では、自動車など輸出産業への打撃の緩和と、雇用面の安全網といった優先度の高い対策への準備を急ぐ局面と言える。米国の方針は二転三転し、日米交渉も始まったばかりで影響は見通しにくいが、企業の資金繰り支援をはじめ、機敏に対処するものを絞り込みたい。与野党とも、関税問題にかこつけて家計支援策に前のめりだ。関税と物価高の話をないまぜにすべきではない。物価高では所得税の減税や低所得者への給付、ガソリン補助など、多くの対策がとられている。電気・ガス代補助も再開の方向だ。それでも政界では減税論が強まる。さらに家計支援が必要と言うなら、理由と財源を明確に説明する責任がある。方策の妥当性や財政への影響を考えることを怠れば、的外れなものが入り込み、無駄遣いは膨らむ。なにより、本当に困っている人に絞った支援策を最優先するのが筋だろう。所得制限のない大型減税や現金給付は本来、深刻な大不況や危機時に検討する異例の手法だ。いま必要かを考えるうえでは、まずトランプ関税の影響で日本経済がどれほど悪化するのか、慎重に見定めることが不可欠なはずだ。ところが、与党の給付案はこうした検討を素通りした。各報道機関の世論調査でも反対が多く、「選挙対策のバラマキ」と批判されて短期間でしぼんだ。一律の減税論も、同じそしりは免れない。大がかりな減税に踏み出すならば、何らかの支出を大きく削るか、将来世代にツケが回る国債の増発に頼らざるをえなくなる。膨大に積み上がった借金の利払い費の増加、過度な金利上昇やインフレのリスクに目を配る必要性も高まっている。政治家たちは厳しい現実に目をつむり、国の財布は便利な「打ち出の小づち」だとばかりに、人気取りに走っていないか。中長期的な視点で持続的な国のかじ取りを考える重責を忘れてはならない。 *2-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250419&ng=DGKKZO88156400Z10C25A4MM8000 (日経新聞 2025.4.19) 政府・自民、ガソリン価格10円下げ 電気・ガス補助は7~9月 政府・自民党は物価高対策として、ガソリン価格を1リットルあたり10円値下げする方針だ。5月中に措置を始める。電気・ガス料金の補助は7月から再開し、夏の電気代がかさむ9月までの3カ月間、家計への負担を減らす。与党の幹部が来週、石破茂首相に物価高対策を申し入れる。国民一律の現金給付と消費税減税の即時実施は求めない。政府は月内をめどに物価高への対応策をとりまとめる。ガソリンの値下げ幅は公明党の意向を踏まえて最終判断する。ガソリン価格は現在、補助金を入れて185円程度に抑えている。この補助金は原油の国際価格の下落を受け2024年12月から段階的に縮小している。足元の原油安と円高進行を反映して17日にはゼロになった。新たな措置として、定額の値下げによる抑制策を導入する。ガソリンの市場価格が185円を下回っても補助が適用されるため、今の補助制度よりガソリン価格が下がる可能性が高い。原油相場が高騰すると消費者負担が増すこともある。財源は1兆円ほど残高がある既存の基金を活用する。ガソリン価格の負担軽減を巡っては自公両党と国民民主党が4日、定額で引き下げる方針で合意していた。国民民主は補助金ではなく、ガソリン税の旧暫定税率の廃止を求めている。電気・ガス料金の補助額は5月をめどに決める。24年8~9月は家庭向け電気料金を1キロワット時あたり4円補助した。電気・ガス価格の値下がりが見込まれているため、今年は4円より少ない額で調整する。財源に7000億円ほどある予備費から確保する。政府は今国会での25年度補正予算案の編成を見送る公算が大きい。いまある財源を使い、迅速に対応できるエネルギー関連の補助を打ち出す。トランプ米政権の関税措置の日本経済への影響も見極める。必要であれば追加の負担軽減策も検討する。 *2-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250423&ng=DGKKZO88226100T20C25A4EA1000 (日経新聞 2025.4.23) エネルギー補助を選挙目当てに使うな 夏の参院選に向けた露骨なバラマキと言われても仕方あるまい。政府・与党が物価高への対応だとしてガソリンや電気・ガス代への補助を再開する。月内にとりまとめる経済対策に盛り込む。エネルギー補助は価格が上がれば需要が減るという市場原理をゆがめ、脱炭素の取り組みに逆行する。しかもいまは原油安や円高で価格が下落基調にある。合理性を欠く政策を集票目当てに乱用すべきではない。ガソリン補助金は原油価格が急騰した2022年1月から支給している。当初は3カ月間の期間限定と位置づけていたのに、ずるずると延長を繰り返してきた。現在は全国平均のガソリン価格を1リットル185円程度に抑えるよう調整している。トランプ米政権の高関税政策による世界経済の減速懸念などから原油安・円高が進み、直近では補助金が初めてゼロになった。にもかかわらず、今後は価格の目安をなくし、新たに同10円の定額補助を導入する。補助の期限に関しては、ガソリンに上乗せされる旧暫定税率の廃止に向けた与野党協議を踏まえて判断するとみられる。電気・ガス代の補助はロシアのウクライナ侵略に伴う燃料高騰への対応策として23年1月に始め、24年5月でいったん打ち切った。ところが岸田文雄前政権が朝令暮改で復活させ、先月末に終了したばかりだ。夏場の冷房代がかさむ7~9月に改めて再開する。一連の支出はすでに計約12.5兆円に膨らんでいる。政府は23年に、脱炭素投資の呼び水とするため10年間で20兆円のグリーントランスフォーメーション(GX)経済移行債の発行を決めた。エネルギー補助はそれに迫る金額だ。エネルギー補助はあくまで燃料価格高騰の激変緩和措置だったはずで、長期化は本来の趣旨に反する。ウクライナ戦争で多くの国が補助を実施したが、先進国でいまも続けるのは日本くらいだ。脱炭素のアクセルとブレーキを同時に踏むような施策は、税金の浪費だけでなく、日本が温暖化対策に消極的だという誤ったメッセージを国内外に送りかねない。エネルギー補助が必要ならば、燃料費や夏の光熱費負担がとりわけ重い低所得世帯、零細企業に対象を絞るべきだ。貴重な財源を成長投資に振り向け、持続的な賃上げを後押しすることが、物価高対策の本筋である。 *2-2-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1451782 (佐賀新聞 2025/4/24) 「ガソリン・電気代補助」選挙目当てと言うほかない 石破茂首相は国民の苦しい生活実態ではなく、迫る参院選での票しか見ていないようだ。表明した物価高対策はタイミング、内容ともに的外れで、選挙目当てと言うほかない。首相率いる政府与党にこの国を任せていいのかどうか、有権者は来たる選挙で厳正な判断を下すべきだ。首相はガソリン価格の押し下げと電気・ガス代の補助を柱とする、新たな物価高対策を発表した。コメの値上がりに対処した政府備蓄米の追加放出などと合わせて、物価高への取り組み姿勢をアピールする狙いがある。柱の一つはガソリン価格の抑制策で、1リットル当たり10円値下げする仕組みを5月下旬から始める。これまでは設定した目標価格に抑えるよう補助を調整していたが、定額を下げるため現在より安くなる可能性がある。公共交通機関の充実した都市部と異なり、それ以外の地域では自動車に頼ることが多いため、ガソリンは安い方が好ましい事情は分かる。しかし足元では原油価格の値下がりと円高進行で、ガソリンの小売値は下落傾向にある。今月中旬には目標価格に収まったため、価格抑制の補助金支給がゼロになった。このような市場環境下では、ガソリン値下げの追加策に合理的な理由は見いだせない。原資には従来策の基金残高約1兆円を充てる。物価対策の目玉として2022年に始まったガソリン補助は、「出口」が見えないまま8兆円超の予算を投じてきた。補助策は恩恵が自動車の所有者に偏るだけでなく、かえってガソリン消費を促し、脱炭素社会に逆行する。むしろ、このような弊害のある政策に幕を下ろすタイミングは、価格が下がり始めた今しかなかろう。電気・ガス代の補助は7月から3カ月間実施する計画で、具体的な補助内容を今後詰める。冷房需要で電気代がかさむ時期に当たり、ガス料金と合わせたエネルギーコストの軽減を図る。暑さ対策にエアコンは不可欠であり、電気代支援はまだ理解できる。だが夏場は使用が減るガス代まで補助の対象にする必要があるのか。補助の財源を、25年度予算に盛り込まれた約7千億円の予備費から賄う点も問題だ。予備費は予期せぬ自然災害などに備えた資金であり、政府与党による「選挙対策費」のような使い方はふさわしくない。記録的なインフレが生活を襲って既に4年目。自民・公明の与党と政府が、その場しのぎで効果の乏しいばらまき政策を繰り返すのはなぜなのか。しかも足元は、低所得世帯への給付金など24年度補正予算や25年度予算に盛り込まれた経済政策が、動き出しているタイミングである。一つは、口先ばかりで国民の苦境に正面から向き合っていないからだ。でなければ今回のようなお粗末なコメ価格対策はなかったはずだ。もう一つは政府与党が「デフレ脱却」の看板を手放そうとせず、それを選挙向け財政出動の口実にしたいためだろう。日銀は金融緩和で足並みをそろえ、輸入コスト増になる円安を招いてきた。少子高齢化と人口減で内需に力強さの欠ける日本経済の基調と、過去のデフレは別のものだ。石破首相は時代遅れのその認識を改めない限り、国民の支持と共感は得難いと気づくべきだ。 *2-2-4:https://www.yomiuri.co.jp/national/20250420-OYT1T50048/ (読売新聞 2025/4/20) 戸田市議を公選法違反容疑で逮捕、運動員に現金渡したか…防犯カメラ映像などから浮上 1月26日投開票の埼玉県戸田市議選で運動員2人に報酬を渡したとして、県警は20日、同市議の渡辺塁容疑者(46)(戸田市新曽)を公職選挙法違反(買収)容疑で逮捕した。発表によると、渡辺容疑者は1月30日、ビラ配りなどの選挙運動を手伝った見返りとして、JR戸田駅前で、2人に現金計3万5000円を手渡した疑い。防犯カメラの映像や陣営の聞き取りなどから、容疑が浮上した。調べに対し、「弁護士と話をするまで、話せない」などと話している。渡辺容疑者は市議選に無所属で出馬し、初当選していた。県警は20日夕、戸田市役所内の渡辺容疑者の議員控室を捜索した。 *2-2-5:https://mainichi.jp/articles/20250419/ddm/008/020/085000c (毎日新聞 2025/4/19) トランプショック、LNG参画、交渉切り札 日本政府、アラスカ開発巡り トランプ米政権の関税措置を巡る日米協議は、4月末にも次回閣僚協議が開かれ本格化する。日本政府が有力なカードとみるのが、米側が投資と購入を迫る米国産液化天然ガス(LNG)だ。2月の日米首脳会談で石破茂首相が輸入拡大方針を表明し、米側の態度軟化を期待する。ただトランプ大統領がこだわる米アラスカ州での大規模LNG開発案件への参画を巡っては官民に慎重な見方も根強く、「ディール(取引)」が成立するかは見通せない。 ●実現性で慎重論も 「選択肢が広がる。すばらしいことだ」。電気事業連合会の林欣吾会長(中部電力社長)は18日の定例記者会見で、政府の輸入拡大方針をこう評価した。米国産LNG価格は「ヘンリーハブ」と呼ばれる米国内の天然ガス指標価格に連動して決まる。原油価格の影響を受けやすい中東産LNGなどと比べて価格は安定的で「うまく併用すれば価格ヘッジにも使える」(中国電力の中川賢剛社長)という利点もある。トランプ氏にとってLNGの輸出拡大は重要政策の一つだ。大統領就任直後、バイデン前政権が凍結していたLNG新規輸出許可を再開する大統領令に署名。化石燃料の増産でエネルギー価格を引き下げると強調し、各国と交渉している。日本にも恩恵はある。2024年貿易統計によると、日本のLNG輸入量は6589万トン。このうち10%を占める米国はオーストラリア、マレーシアに次ぐ3位の輸入相手だ。ロシアによるウクライナ侵攻後、エネルギー安全保障の観点から調達先の多様化が急がれるなか、米国産の輸入拡大は「日米双方にウィンウィン」(経済官庁幹部)。カタールなど第三国への転売を禁じる産出国もあるが、米国産にはこうした制限はなく、購入分を柔軟に取引できる。ただし、アラスカLNG開発に対しては、その実現性を巡って懐疑的な見方が絶えない。アラスカ北部のガス田から南岸のLNGプラント予定地まで長さ約1300キロのパイプラインが必要で、総事業費は440億ドル(約6・3兆円)に上るとされる。数十年前から構想はありながらも巨額のコストがネックとなり事業は進んでおらず、政府内にも「トランプ政権のうちに完成するのか」(外務省幹部)と冷ややかな見方がある。三菱商事の中西勝也社長は、アラスカLNG開発への参画の可否を以前から検討中だとしたうえで「10年以上かかる案件だと思う。本当にフィージブル(実現可能)なのか慎重に評価している」と話す。購入価格は高水準になると見込まれており、日本ガス協会の内田高史会長(東京ガス会長)は「通常のLNG開発コストは半分以下」だと断言する。住友商事グローバルリサーチの本間隆行チーフエコノミストは「コストがさらに高くなる可能性もあり、採算が合わない」との見方を示す。課題は山積しているが、トランプ氏は日米首脳会談後の会見で「日本が記録的な数字のLNGの輸入を始める」と歓迎してみせ、「パイプラインの建設についても話し合った」と言明した。石破氏は「LNG採掘が成功裏に進展することを期待する」と応じるだけだったが、4月7日の参院決算委員会では「アラスカのLNGをどう考えるべきか、パッケージとして示していかねばならない」などと含みを持たせた。米側は攻勢を強める。関税交渉を担うベッセント財務長官は8日、米メディアのインタビューで、日本などがアラスカLNG開発への資金を拠出すれば「米国の雇用を生み出すだけでなく貿易赤字の縮小にもつながる」としたうえで、関税引き上げの「代替案になるかもしれない」と揺さぶりをかける。関税を取引材料にLNG開発への参画を迫る米側の圧力を前に、ある経済産業省幹部は「民間に『コストの高いガスを買え』とは言えない……」と頭を抱えた。 *2-3:https://www.sponichi.co.jp/society/news/2025/04/17/kiji/20250417s00042000041000c.html?nid=20250417s00042000295000c&ref=yahoo (Yahoo 2025年4月17日) 現金一律給付見送りへ 経済対策、補正提出せず 政権、ばらまき批判考慮 野党「迷走、統治 石破政権は、新たな経済対策を念頭に置いた2025年度補正予算案の今国会提出を見送る方針を固めた。これに伴い、参院選前の国民一律の現金給付も行わない方向となった。与党幹部が16日明らかにした。世論のばらまき批判を考慮し、当面は25年度予算などに盛り込んだ物価高対策の効果を見極める。与党で検討中の夏場の電気・ガス代補助やガソリン価格引き下げは、予備費など既存財源を活用する方針だ。一方、野党は補正を巡る政権の迷走ぶりを「統治不全」だと非難した。政府高官は16日、報道各社の世論調査で評価の低かった現金給付案について「世論に響かない対策を打っても意味がない」と否定的な考えを示した。公明党の岡本三成政調会長は記者会見で、党内で賛否が割れているとして「必ず必要だと政府に強く求める段階ではない」と述べた。24年度補正予算には、住民税が課税されない低所得世帯に3万円の給付金を配る施策が既に盛り込まれている。政権内では、大型の経済対策を打つために補正予算を検討する動きがあった。自民党の森山裕幹事長は13日に「補正で対応しなければならない」と明言した。だが、米政権の関税措置の影響が見通せず、さらに少数与党のため、提出しても野党との調整に時間がかかることが見込まれた。夏の参院選を控え、6月22日までの会期を延長することが難しいとの事情もあり、補正を見送る要因となった。現金給付とは別に減税の可否については物価動向を注視した上で、年末の税制改正大綱の策定に向けて与党内で議論を続ける見通しだ。立憲民主党の重徳和彦政調会長は会見で「石破茂首相の統率力の問題に由来している。政権のガバナンス(組織統治)が機能不全を起こしている」と批判。日本維新の会の前原誠司共同代表も党会合で「政権の混迷ぶりが現れた」と断じた。 *2-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250505&ng=DGKKZO88477960V00C25A5MM8000 (日経新聞 2025.5.5) 曲がる太陽電池、大都市に数値目標 政府要請へ 都「55万世帯分」構想 経済産業省は薄くて曲がる新型のペロブスカイト太陽電池について、近く東京、大阪、愛知、福岡の4都府県に導入目標の策定を要請する。平野の少ない日本で従来型の太陽光パネルの設置場所は限られる。東京都は2040年までに年間電力消費量で55万世帯分の設置目標を表明する。50年までに温暖化ガスの排出を実質ゼロにする政府目標の実現に向けては、太陽光や風力といった再生可能エネルギーによる発電の導入拡大が求められる。太陽光では今後は都市部の高層ビルなど建造物への設置が有効だとみて、普及加速を後押しする。7日に開く経産省の官民協議会で大都市圏の東京、大阪など4都府県にギガワット級の導入目標の策定を要請する。具体策を盛り込んだロードマップの作成や設置補助金の創設といった取り組みも求める。高層ビルや大規模集客施設といった既存の建造物や、今後着工する施設への設置を促す。東京都は40年までに2ギガワット分の導入目標をまとめており、協議会で表明する。標準世帯で55万世帯分の年間電力消費量にあたる。公共施設に加え、商業ビルや空港、駅といった場所への導入をめざす。都で独自に補助金を設け、設置費用を支援する。日本発の技術であるペロブスカイトには薄くて曲げられるフィルムタイプや、ガラスに埋め込めるタイプといった複数の種類がある。建物の屋上や壁面、窓などに設置しやすく、広大な土地を確保しなくても大規模な導入を期待できる。実用化も日本勢がリードする。積水化学工業は25年度中に販売を始め、30年までに年100万キロワット級まで生産規模を拡大する。3100億円超のコストの半分を政府が補助する。パナソニックホールディングス(HD)は26年にも住宅建材と太陽電池を組み合わせた製品の試験販売を始める。経産省は40年までに国内で、標準家庭の550万世帯分の年間電力消費量にあたる20ギガワット(1ギガワット=100万キロワット)の設置を目標にかかげる。政府は2月に閣議決定した新たなエネルギー基本計画で、電源全体に占める太陽光の割合を足元の9.8%から、40年度に23~29%へ引き上げる方針を打ち出した。ペロブスカイトの導入目標策定は他の道府県への要請も検討する。普及が進めば、価格が低下し、個人による設置拡大にもつながるとみる。太陽光パネルは近年、適地が少なくなってきたことから設置が伸び悩んでいる。発電容量10キロワット以上のパネルの導入は茨城県や福島県、千葉県など広大な用地を確保しやすい自治体に集中する。24年9月時点で設置量が最も小さいのは東京都の15万キロワット分で、最大の茨城の407万キロワット分との差は大きい。 *2-5:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16207903.html (朝日新聞 2025年5月6日) (電ゲン論)原発新増設へ、利益生む仕組みを 九州電力社長・池辺和弘さん 政府は原子力発電を「最大限活用」するとし、これまでの方針を転換しました。大手電力は原発の必要性を主張する一方、新増設に向けた具体的な動きはみられません。九州電力の池辺和弘社長は、投資には原発をより収益が上がる事業にしなければならないと言います。その理由と具体策を聞きました。電力需要の増加が見込まれる半導体工場やデータセンター(DC)は、安定的な電力供給が必要で、脱炭素も求められます。安定供給という意味では、やはり原子力しかない。必要なのは、具体的に新増設をどう進めていくかという議論です。新増設を考えた時に、ファイナンス(資金調達)がつかないのが一番怖い。私たちの事業は、地域独占でも、総括原価方式でもなくなりました。銀行がお金を貸してくれない、株主・投資家が許してくれないとなれば、原発はつくれません。彼らは利益率が低ければ、ほかの投資先を探します。いかに原子力がプロフィタブル(利益を生む)かを示し、納得させないといけません。投資を回収するためには、建設費を電気料金に上乗せする英国の「RABモデル」でもいいですが、民間の力を活用する仕組みがいい。事故などで発電所の運転が止まるリスクは全て電力会社が負っていますが、リスクをシェアする仕組みがほしい。例えば、DCなどと20年間供給する契約を結び、リスクも半分みてもらう。その分、安い料金で提供でき、私たちも利益を上げられます。米国では、再生可能エネルギーと原子力は、CO2(二酸化炭素)を出さない「カーボンフリー電源」として、ひとくくりという感覚になってきています。GAFAなど米テック大手でも、DCに原発から電気の供給を受ける動きが出てきました。日本も変わってくると思います。太陽光も風力も入れられるだけ入れたいのですが、電気はためにくいのが最大の弱点です。福岡県の発電所に蓄電池を置きましたが、30万キロワット時で200億円。日本全体で1日に使う電気が30億キロワット時くらいで、その分の蓄電池を買うと200兆円ほどかかります。再エネで全ての電力需要をまかなうのは、非現実的です。電気がこないとなれば、DCなどは中国や韓国に移り、若い人たちの働く場所がなくなってしまう。原発の建設には約20年かかります。将来の需要を考えると、いまがギリギリのタイミング。政府には投資が可能な制度をつくってもらい、私たちも(新増設を)早く決断したいです。(聞き手・松本真弥) * いけべ・かずひろ 1981年、九州電力に入社。取締役常務執行役員などを経て、2018年6月から代表取締役社長執行役員。今年6月には会長に就く。20年3月~24年3月には東京、中部、関西の3電力会社以外で初めて電気事業連合会の会長を務めた。 <教育> *3-1-1:https://www.yomiuri.co.jp/politics/20250225-OYT1T50162/ (読売新聞 2025/2/25) 高校無償化とは?…公立は授業料相当額・私立は一定額を支給、新年度から所得制限撤廃 Q 高校無償化とは。 A 高校生のいる世帯に対し、公立の場合は授業料相当額、私立の場合は一定額を支給して授業料負担を軽減する制度で、授業料全額が支給でまかなえれば実質的に無償化となる。民主党政権だった2010年に就学支援金制度が創設され、高校のほか、高等専門学校(高専)の1~3年や職業能力育成のための専修学校高等課程、特別支援学校高等部など、高校相当の学校も対象となっている。現行法では、高校生のいる年収910万円未満の世帯に、公立私立問わず年11万8800円が助成され、私立に通う低所得世帯には支援金が上乗せされている。東京都や大阪府などでは、独自に支援金をさらに上乗せしている。 Q 自民、公明両党と日本維新の会の合意内容が実現すると、制度はどう変わるのか。 A 25年度は、11万8800円の支給に対する所得制限が撤廃され、326万人の高校生(23年度現在)全員が対象となる。26年度からは、私立高生向けの上乗せについても所得制限が撤廃され、私立高授業料の全国平均額にあたる最大45万7000円を助成することになる。上乗せ支給の対象者は、高校生全体の約4割となる約130万人に上る見通しだ。 Q 追加で必要となる財源は。 A 25年度は1000億円程度が必要で、政府・与党は基金など一時的な財源を活用する方針だ。26年度以降は年4000億円程度が必要となる。 Q 課題は。 A 私立高向けの支援が拡充されることで、公立高離れの加速や、私立高の授業料の便乗値上げを懸念する声がある。子育て世帯の負担軽減に効果がある一方、高所得世帯も支援対象とすることへの疑問や、どこまで教育の質の向上につながるかが不透明だといった指摘もある。 *3-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250324&ng=DGKKZO87537320T20C25A3PE8000 (日経新聞 2025.3.24) 高校無償化の効果疑問視 本社世論調査、「教育の質高まらず」66% 国会論戦「評価せず」6割 日本経済新聞社とテレビ東京は21~23日の世論調査で、自民党、公明党、日本維新の会が合意した所得制限なしで高校の授業料を無償化する方針に関してもたずねた。無償化により教育の質が「高まると思う」と答えた人が24%で「高まるとは思わない」が66%だった。衆院で少数与党の自公は維新が求める高校無償化などと引き換えに2025年度予算案への維新の賛成を取り付けた。「教育の質が高まると思う」の回答を支持政党別にみると、自民党支持層と維新支持層ともに3割弱、無党派層は2割だった。維新支持層も7割弱が「高まるとは思わない」と答えた。与野党の論戦をはじめとする国会活動への評価を聞いた。「評価しない」が62%となり「評価する」(29%)を上回った。「評価しない」は2月の前回調査から8ポイント上昇した。自民党支持層は「評価しない」が60%で「評価する」(35%)を上回った。立憲民主党の支持層は「評価する」が43%とやや比率が高くなった。政府・与党が今国会での提出を目指す基礎年金の支給額を底上げするため厚生年金を減額する内容を含む年金制度改革法案について聞いた。基礎年金底上げの方針に賛成が31%、反対が52%だった。世代別でみると60歳以上で反対が6割を超えた。18~39歳の反対は4割だった。年金法案を巡り、自民党内で夏の参院選を控え国会提出に慎重論が広がる。自民党支持層は賛成、反対とも4割で、反対が少し多かった。医療費の支払いを一定に抑える高額療養費制度を巡り、石破茂首相は患者負担の上限額の引き上げを見送った。見送りを「妥当」とした回答は66%で、「妥当ではない」は26%だった。すべての世代で6~7割前後が見送りを「妥当」と答えた。 *3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250324&ng=DGKKZO87533090T20C25A3CK8000 (日経新聞 2025.3.24) これからの義務教育 9年間の「出口」保障を、小松郁夫・関西国際大客員教授 学習指導要領の改訂論議が始まった。義務教育のカリキュラムを根本から考え直す時だ。小松郁夫・関西国際大客員教授(国立教育政策研究所名誉所員)は各地に広がる義務教育学校の学びにヒントがあると指摘する。まもなく新年度が始まり全国各地の小学校が新1年生を迎える。入学後の9年間で、どんな生活と義務教育の学びを体験するのだろうか。義務教育として行われる普通教育の目的は、教育基本法第5条で「各個人の児童生徒の有する能力を伸ばしつつ社会で自立的に生きる基礎」を培うことと「国家及び社会の形成者として必要な基本的な資質を養うこと」の2点にある旨が規定されている。最近の義務教育改革では小学校6年間と中学校3年間の分断を解消し、9年間を連携・一貫して質を保障する「義務教育学校」の創設が示唆に富んでいる。学校教育制度の多様化、弾力化を推進するため、学校教育法の改正により2016年に新設された制度で、初等教育と前期中等教育までの義務教育を一貫して行う。前期課程(小学校に相当)6年と後期課程(中学校に相当)3年からなる小中一貫校であり、全体の9年間を一体化して4・3・2や5.4といった教育課程上の新しい段階を設定するなど、特色ある教育活動を展開している。国語であれば9年間で体系的、発展的に育てたい資質・能力を柔軟に構想するのと、各学年の学習内容を細かく定め、学年別の配当漢字を示すといった配慮をするのとでは授業計画に違いが出てくる。児童生徒により適切に対応するには、義務教育の9年間で柔軟な指導計画を立案することが今後目指すべき方向性だと思う。算数と数学、図画工作と美術のように小学校と中学校で教科名が違うのも、今日では違和感がある。それぞれ後者に統一し、美術なら中学校の美術教員が一貫して計画し、指導する方がより質の高い学習成果が期待できる。小学校でも高学年に入ると学習内容が徐々に高度になる。担任ではなくその教科・科目を専門とする教員が教える教科担任制を5年生くらいから大胆に導入し、教科の特性に応じた指導に挑戦すべきだろう。たとえば、中学校レベルの設備のある専用の教室で、専科の教員が中学以降の学びを視野に入れながら小学校高学年の理科の実験指導をした方が学ぶ喜びを実感しやすく、さらなる学びへと発展するのではないか。より質の高い義務教育を保障するシステムの実現にもつながりうる。子どもによっては特別なニーズへの配慮も求められる。義務教育の9年間、丁寧で一貫した方針の下で子どもに関わることで、本人と保護者が安心できる学習環境を保障できる。かつて教育界では「七・五・三」と称し、すべての子どもに個別最適な学びが保障できず、義務教育9年を終了する時点で5割程度(小学校卒業時で7割、高校卒業時には3割)しか十分な学びを得ていないのではないか、という反省を語ることがあった。社会で自立的に生きるための基礎的な資質・能力を保障するには、出口の中3終了時点での姿を想定して各自の学びのキャリアを設計することが大切だ。私が学校改革にかかわってきた京都市左京区にある市立大原小中学校(通称・京都大原学院)は09年4月に小中一貫校になり、18年に義務教育学校として新しいスタートを切った。前期(小1~4)、中期(小5~中1)、後期(中2~3)という教育課程上のブロック(区分)を新たに設定。義務教育終了までに学ぶべきこと、身につけるべきこと、生き方などについて育てたい児童生徒像を保護者、地域住民と学校が一緒に考え、子どもに向き合いながら検討してきた。義務教育9年間の出口は地元の大原で活躍し、京都の輝かしい歴史と伝統、進取の精神を受け継ぎ日本をリードする若者の姿だ。「大人になる科」と呼ぶ探究的学習のまとめとして9年生(中3)が発表する「大原提言」は、義務教育の卒業論文のようなものである。生活と学びが密接に関連している義務教育では地域から・地域で・地域を「学ぶ」ことも重要だ。地域に開かれた教育課程を編成し、地域と共に学ぶ義務教育の創造が期待される。私は日英の比較教育研究をしてきて、英国(スコットランドを除く)のGCSE(中等教育修了一般資格)制度に興味を持った。義務教育終了の16歳で受ける科目ごとの全国統一試験である。この制度の長所は義務教育終了時での出口管理がしっかりしていることだ。日本にこうした制度はなく、全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)も中3の4月に実施される。これでは義務教育の学習に関する確認の評価としては活用できない。日本の卒業証書はなんの公的証明にもなっていない。義務教育学校の運営状況は都市部と児童生徒が減っている地域では様相が異なる。だが、9年後どのように成長しているかのゴールを意識し、小中学校の教員が協働して学校改革を熟議している点は共通する。未来の理想像から逆算して今やるべきことを考えるバックキャスティングの思考である。小中の教員が互いの学校文化や指導観の違いを見直し、義務教育はどうあるべきかを協働して考え、地域や保護者とも連携して各地域社会の良さや特色を次世代につなげていくことは、少子化などで悩む多くの地域に新たな希望をもたらすのではないか。「義務」の保障は子どもにとっての資質・能力向上の義務と権利であるとともに、国家・社会の形成者としての義務であるという二面性を持つ。さらにいえば生存権に関わる「学習権」の保障であり、国家・社会の責務である。義務教育は、その後に生きる学びのコンパス(羅針盤)にあたる。次の教育改革では子どもを主語とした新しい義務教育の学びと、それを保障する学校のあり方を再考しなくてはならない。 *3-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16199727.html?iref=pc_shimenDigest_sougou2_01 (朝日新聞 2025年4月23日) あえぐ地方大、探る活路 県唯一の法学部、単科大募集停止 急速な少子化で、特に学生確保が難しい地方大学が岐路に立っている。政府は、事態が深刻な大学には円滑な撤退・縮小を促しつつ、地域連携の強化で必要な高等教育機関の確保もめざす。地方大学の活路はどこに。 ■「県外に出る若者、増えるのでは」 「大学のない街にしたくはない」。「学ぶ機会をなくしてしまっていいのか」。昨年3月。高岡法科大(富山県高岡市)の運営法人の理事会は、3時間以上に及んだ。終盤、理事たちは理事長が提案した「2025年度以降の学生募集停止」に声をあげた。見守った根田正樹学長は、やりきれぬ思いとともに「いかんともしがたい」と感じていた。1989年に、北信越では初めて法学部を備えた4年制の私大として開学した。国公立を合わせても法学部は富山県内で唯一。法律知識を備えた「地域社会に貢献する人材の養成」を掲げた。初年度は定員200人に対し570人が入学。しかし99年度以降、入学定員を満たすことはなかった。なぜ定員割れから抜け出せなかったのか。富山県内の18歳人口は約8900人(24年)で、20年間で約25%減ったが、減少率は全国平均と大きく変わらなかった。一方、学校基本統計に基づく算出などで大学進学率をみると、富山は50・4%(24年度)。20年間で約11ポイント上がったが、約16ポイント上昇の全国平均ほど伸びなかった。その結果、大学進学者数は富山は20年間で4%減り、4%増えた全国平均とは違う傾向だった。国立教育政策研究所は、全国の数値は進学率が比較的高い大都市圏の影響が強く表れており、所得水準や大学数の地域差が背景にあるとする。ただ文部科学省は、全国でも26年ごろをピークに大学進学者が減少局面に入るとみる。中央教育審議会(文科相の諮問機関)の2月の答申では「中間的な規模の大学が1年間で90校程度、減少する規模」とされた。「大学がなくなったら県外に出てしまう若者が増えるのでは」。地元出身で同大に通う飯野圭吾さん(21)は話す。同大の約35年間の卒業生は4770人。6割が県内企業に就職か県内在住だ。根田学長は「地域の人材育成を担う大学として十分な役割を果たしてきた」と話す。18年の就任以降、学生募集のため、中学や高校で法律や選挙の出前講座をしたが効果は限られた。学部新設の構想も持ち上がったが、定員割れの中、身の丈に合わないと白紙に。対照的に、隣県の金沢市内の大学では文理融合型や「情報」系の学部新設が相次ぎ、コロナ禍の収束とともに県外進学も再び増えた。就職支援で県内大学と自治体・企業の連携組織はあったが、県の担当者は高岡法科大との関係について「私立大に行政がどう関わるのかは難しい」とも語った。県内に大学・短大は六つ。24年度は国立の富山大と富山県立大だけが入学定員をクリアし、私立の入学定員充足率は、高岡法科大が最低で37%だが、他も7~8割台だ。昨年4月に高岡法科大が募集停止を発表すると、県は昨夏、効果的な学生募集の方法などを検討する会議を県内大学と開催した。根田学長は「動き出すのが遅すぎた」と悔やむ。「地方大学は生活インフラを支えるもの。なくなることは、地方社会全体が機能しなくなり、いずれは崩壊することを意味するのではないか」 ■私大6割定員割れ、撤退支援も浮上 少子化が進む中、大学をめぐる状況や国の施策はどう変わったのか。18歳人口は約106万人(2024年)で、1990年代前半より半減した。ただ、この間、大学進学率は約32ポイント上がったため、大学入学者は近年、過去最多水準の63万人前後で推移している。一方で大学は、24年は813校で92年の約1・5倍。少子化が予測される中でも、政府は03年、従来の大学設置認可の抑制方針を撤廃した。ただ、私大の約6割は定員割れ。地方は特に厳しく、3大都市圏以外の入学定員充足率は平均92・4%にとどまり、70%台の地域もある。大都市圏の私大に学生が集まり過ぎないように、文科省は、入学者数が定員を大幅超過した私大への私学助成を減らしたり、東京23区内の大学(学部)の収容定員を10年間原則据え置きとしたりした。一時改善は見られたが、地方大学の定員割れは更に進んでいる。近く、大学入学者数は減少局面に入る。40年の見込みは約46万人。入学定員充足率は群馬や沖縄が80%超の一方、地方の一部は60%未満とも推計される。中央教育審議会は答申で、深刻な定員割れや経営悪化の大学が撤退・縮小しやすい支援を提言。地方大学には地域ニーズに合う人材輩出の役割を示し、自治体や企業との連携強化の必要性を指摘した。文科省は地方大学振興の部署を新設。地域人材育成の観点で、私学助成の配分方法見直しも進めている。 ■自治体は 県立高を付属校に/連携し経営者学校 地元の大学をどう位置づけ、連携するか。自治体によって対応は違う。宮崎国際大(宮崎市)は1994年開学で入学定員150人。授業を英語で行う国際教養学部は英語教員を、教育学部は小学校・幼稚園の教員や保育士を毎年数十人、送り出す。同じ敷地にある宮崎学園短期大学も60年間に1万人以上の保育士を輩出してきた。それでも定員割れとなるのは珍しくない。大学・短大の村上昇前学長=3月に退任=は「県外からの学生確保は難しい」と話した。一方、宮崎県保育連盟連合会によると、地域や施設によっては保育士が足りないという。もし今後、2校が縮小・撤退すれば「保育士を確保できず定員を減らす園が出る」と連合会担当者は影響を心配する。ただ、宮崎県の総合計画(23年)で大学関係の指標は「県内大学等新卒者の県内就職割合」の引き上げのみだ。保育士確保に向けた指標も見当たらない。県の産業政策担当者は「大学認可は国。県が大学経営に直接関わる取り組みは難しい」。一方、国は、地方大学と地元自治体の連携を強める考えだ。中教審は2月、高等教育振興を担当する部署の設置▽大学・産業界を交えた地域人材の育成に関する議論――などを自治体に求める答申を示した。自治体主導で大学振興を図る例はある。鉄鋼や化学などの工場が多い山口県には、三つの国立高専と工業系学科を持つ18の高校がある。「待遇の良い大企業の工場に就職できる。大学進学率がなかなか上がらない」と山口県立大(山口市)の田中マキ子学長。県の大学進学率は43%(24年)と全国で3番目に低く、県外への進学者も多い。県内の大学10校の学生は県内高校出身が29%。大卒者の県内就職率も27%にとどまる。県はまず、県立周防大島高校を26年度に県立大の付属高校にする。田中学長は「県東部からの進学者を増やし、地元のリーダーとなる人材を高大7年で育成したい」。また、県の総合戦略(24年)には若者の定着に向けた施策や目標が並ぶ。大学や企業が連携した課題解決型学習は「23~27年度に累計330件」が目標だ。就職先に考える契機に、との期待がある。大学などでのデータサイエンス教育の強化も盛り込んだ。担当者は「デジタル人材を育成してほしい」と望む。33万人の人口が60年に23万人に減ると推計される前橋市も悩みは若者の流出。18年時点で地元大学に進む市内の高校生は13%、地元大学に進んだ市内出身者でも市内に就職したのは36%だった。市は、若者の地元進学や定着を目指す組織を設立。大学や商工会議所と経営者を育てるビジネススクールを催し、各大学の授業紹介動画を市内の中学・高校に配信する。入学定員約300人の共愛学園前橋国際大の大森昭生学長は「個々の大学の努力だけでは学生を確保できなくなった」と連携強化が重要だと訴える。「地域に欠かせない人材を養成していると訴えつつ、地元課題の解決にも積極的に取り組む必要がある」 ■<考論>大学は知の拠点、地域活性化の中心 両角亜希子・東大大学院教授(高等教育論) 高等教育機関は「高校生の進学先」だけではない。知の拠点であり、様々な人をつなぐ役割もある。地域の成長や活性化の中心になりえる。大学が撤退すると、こうしたネットワークを失うことが地域にとって一番の損失になる。若者が消えれば活気がなくなり、労働力が減る。ただ、中教審の答申には、どんな地方大学も生き延びさせるべきだとは書いていない。良質な教育を進め、地元が求める人材を育てて社会貢献する必要がある。学生も教職員も少なく、学べる分野が限られる大学が多い。他の大学と単位互換や事務の共通化などで協力すべきだ。自治体との連携も重要だ。積極的に動かない自治体もある。大学から働きかけた方がよい。自治体や企業が連携相手として見極めやすい仕組みも要る。学生を成長させる教育をする大学かどうか。わかりやすい情報公開の仕組みを国が整えることが重要になる。 *3-4-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1450373 (佐賀新聞 2025/4/22) 日本人89万人減 外国人増は解決にならない 総務省が2024年10月1日時点の人口推計を公表した。日本人は前年同月比89万8千人減の1億2029万6千人で、過去最大の落ち込み幅だった。外国人を含む総人口は55万人減の1億2380万2千人。少子高齢化で進む日本人の人口減少を、外国人の増加で補う構図が鮮明になった。24年の日本人の出生数は、過去最少を更新して初めて70万人を割る可能性が高い。政府は「次元の異なる少子化対策」に取り組むが、効果が上がるまでには長期間を要する。事態は深刻の度を増し続けている。その中で、日本に3カ月を超えて滞在する外国人は過去最多の350万6千人で総人口の2・8%まで増えた。これが70年には10%に達すると国立社会保障・人口問題研究所は推計している。このままいけば、外国人は日本社会に欠かせない位置を占めるに違いない。是非論を超えて、建設的に共生の道を探っていくべきだろう。一方、人口減少の影響が一層深刻な地方では、地域経済、コミュニティーの維持に既に困難が生じている。とはいえ、このまま外国人の受け入れ拡大に安易に活路を見いだそうとしても、すぐには十分な解決に結びつかないだろう。 まず「良き隣人」として地域社会に溶け込めるかという問題がある。そして外国人労働者の増加が地域の賃金水準を抑制する懸念がある。それが原因となり、日本人の若者も比較的に高賃金の都市部へ流出するのを促してしまう可能性がある。外国人との共生推進は、東京一極集中を是正する「地方創生」、子どもを産み育てやすい環境を整える少子化対策という政府の二大政策と関連性が強く、一体的に進める必要があるだろう。今回の推計では、全都道府県で人口が増えたのは東京、埼玉のみ。東京は外国人流入も手伝って3年連続で増えている。首都圏4都県には総人口の約30%が集中する。これが少子化進行にも大きく影響している。23年の日本の合計特殊出生率は過去最低の1・20で、中でも東京は最も低い0・99だった。少子化の原因は一般的に、若者世代の価値観変化や雇用・所得の不安定化に起因する非婚化、晩婚化の傾向にあるとされる。加えて、東京では地方より住宅費や教育費が高いため子どもを持つのをためらうケースが多いという。どうすれば一極集中に歯止めがかかるのか。東京は、進学や就職を機に多くの若者世代が地方から集まることが転入超過の要因となっている。特に若い女性が去って戻らないことが、地方の少子化に響いている。「若者や女性に選ばれる地方」を実現するには、思い切った税制優遇などで有望企業の本社機能や主力工場を誘致するなど、安定した仕事と所得を地方にもたらす具体策が引き続き求められる。これは都市部と地方、正社員と非正規労働者、そして男女間の所得格差是正と同時に進めたい。石破政権は最低賃金の全国加重平均を20年代に1500円に引き上げる目標を掲げた。ならば、地方の中小企業の人件費負担を支援しつつ、現在の都道府県別の最低賃金を欧州主要国のように全国一律に移行することも検討すべきではないか。所得格差が解消できれば、若い日本人も外国人労働者も地方に定着しやすくなると期待できる。 *3-4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250511&ng=DGKKZO88584530Q5A510C2EA5000 (日経新聞 2025.5.11) 外国人材、地方で争奪戦 浜松市・インド大が覚書 製造業、国内回帰で 大都市圏に近い自治体が、IT(情報技術)系エンジニアなど高度外国人材の確保を急いでいる。浜松市はインド理系最高峰の大学と覚書を交わし、神奈川県や栃木県は地元企業と人材のマッチングに取り組む。国内では製造業回帰が進んでいる。各地域は高度人材の定着で競争力を高め、生産拠点の誘致も狙う。浜松市は2024年12月、インド理系で最高峰とされるインド工科大ハイデラバード校と高度外国人材の誘致に関する覚書を交わした。25年度からはインドとの交流を加速させる。浜松市職員をインドにあるスズキ子会社に派遣し、同国のスタートアップと浜松市内の企業の交流を図る。山梨県もインドに目を向け、北部ウッタルプラデシュ(UP)州との関係を深める。24年末に長崎幸太郎知事がヨギ・アディティヤナートUP州首相と会談し、県内製造業での実習機会の創出を提案した。人材受け入れや交流を進めるため、日本語学習や医療保険制度の環境を整備する。自治体が相次ぎ高度外国人材獲得に乗り出す背景には、為替や世界貿易の不安定化を受けた国内への製造業回帰がある。「24年版ものづくり白書」によると、直近1年で国内事業所を新増設した製造事業者は回答者の51%に上った。海外に生産拠点を持つ事業者の34%は国内の生産機能を拡大すると答えた。製造業では、特にデジタル化における担い手が足りていない。厚生労働省がまとめた報告書は、人手不足が経済成長の制約となって深刻な影響を与えることが懸念されていると指摘する。直接的な補強策として期待されるのが、外国人材の確保だ。出入国在留管理庁によると、23年末の高度人材の在留者数は2万3958人と前年末比3割増えた。地元企業と外国人材のマッチングに取り組む自治体も増えている。神奈川県は4月に「外国人材活用支援ステーション」を設け、採用コストを支援する補助金制度も新設した。栃木県も4月、「外国人材受入支援センター」を発足させた。千葉県は24年度から外国人材向けの職場見学会や採用セミナーを始めている。京都府、京都市、京都大学は優秀な外国人材を呼び込もうと協定を結び、留学生の住宅支援などを検討する。外国人材に詳しいKPMGジャパンの濱田正章マネジャーは「安定雇用や安定収入、社内教育など日本の企業の就業環境に魅力を感じる高度外国人材は多い」と話す。 *3-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250430&ng=DGKKZO88377700Q5A430C2EAF000 (日経新聞 2025.4.30) EU、米研究者の移住支援、トランプ政権下の「米国離れ」念頭 技術革新の好機に 欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は29日、トランプ米政権下で米国を離れようとする研究者を念頭に、欧州への移住を支援する政策を検討すると表明した。EU域内に呼び込み、技術革新の好機としたい考えを示した。EUの立法機関、欧州議会の最大政党である欧州人民党(EPP)の会合で演説した。「私たちの大学での議論は歓迎され、科学と研究の自由は尊重される。卓越性と技術革新が花開く土壌だからだ」と述べた。「Choose Europe(欧州を選んで)」と銘打ち、米国などの研究者がEU域内の大学や機関を選ぶよう新たな施策を欧州委員会が提案すると明かした。欧州メディアによると、博士課程の学生やポスドク(博士研究員)が欧州で研究するのをEU予算で資金支援する案がある。トランプ政権は多様性プログラムや反ユダヤ主義への対応を口実に、大学への介入姿勢を強める。研究機関では気候変動や宇宙、健康・医療分野などで予算の削減が進む。こうした環境に嫌気がさした研究者が海外に渡る事例が増え始めている。英科学誌ネイチャーは3月、米研究者1600人以上を対象に実施した調査で、トランプ政権を理由に「米国を離れることを検討している」と回答した割合が75%に上ったと発表した。若手の研究者に特に移動を検討する傾向があったという。カナダなどすでに在米の研究者を受け入れようと動く国が出てきた。優秀な研究者の招致をめざしてきた国や地域にとっては好機に映る。フォンデアライエン氏は演説で「欧州を再び技術革新の本拠地にする」と強調した。フランスも近く独自の施策を発表する予定だ。EUや加盟国による呼び込みが本格化すれば、米国からの頭脳流出に拍車がかかる可能性がある。 <高齢者いじめ> *4-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1447151 (佐賀新聞 2025/4/16) 厚労省、基礎年金底上げ見送りへ、自民反発で法案から削除の方針 厚生労働省は16日、今国会への提出を目指す年金制度改革法案から、基礎年金(国民年金)を底上げする案を削除する方針を固めた。会社員らが入る厚生年金の積立金活用が夏の参院選で争点化する可能性があり、自民党内の懸念や反発を踏まえて見送る。17日の自民会合で示す。法案にはパートらの厚生年金加入拡大に伴う企業の保険料負担増なども含む。底上げ案を削除しても、自民には法案提出自体の参院選後への先送り論が根強く、意見の集約につながるかどうかは見通せない。複数の関係者が明らかにした。全ての国民が受け取る基礎年金の底上げは、給付水準を改善するため、財政が堅調な厚生年金の積立金を活用。厚労省は国民年金だけに加入する人や、就職氷河期世代などが低年金に陥らないようにする対策の一環として改革の柱に位置付けてきた。だが積立金の活用に伴い厚生年金の受給額が一時的に減るため、与野党から懸念や批判が出ている。自民の一部で「厚生年金からの流用だ」との批判も強く、厚労省は理解を得られないと判断した。底上げは今回の法案に規定しないものの、将来の底上げ実施を念頭に、積立金の活用に向けた措置を取る。具体的には、厚生年金の受給額の伸びを抑制する「マクロ経済スライド」の実施期間を当初の想定より2年延長し、2030年度まで続ける。一方、国民年金保険料の納付期間を現行の「60歳になるまでの40年」から5年間延長することを検討する規定を法案に盛り込む方向だ。自民幹部は15日、法案提出の是非に関する3度目の協議をしたが結論は出ず、党厚労部会などで議論することを確認した。年金制度改革 将来の推計人口や雇用・経済動向を踏まえ、おおむね5年に1度実施される年金制度の見直し。厚生労働省が公的年金の長期的な給付水準を試算し、年金財政の健全性を点検する「財政検証」の結果を参考にする。2024年の検証結果を踏まえ、厚労省は(1)基礎年金底上げ(2)厚生年金への加入拡大(3)働く高齢者の厚生年金を減らす「在職老齢年金制度」見直し(4)高所得の会社員らが支払う厚生年金保険料の上限引き上げ―などの改革が必要としていた。 *4-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250418&ng=DGKKZO88123760X10C25A4EP0000 (日経新聞 2025.4.18) 低年金対策、相次ぎ後退、厚労省、基礎年金底上げを削除 自民内で法案提出に異論 厚生労働省は17日、今国会への提出を目指す年金制度改革法案から基礎年金(国民年金)の底上げ策を削除する方針を示した。低年金対策は相次いで断念・修正に追い込まれた。自民党には参院選への影響を懸念して法案提出を見送るべきだとの意見も目立ち、党執行部は意見集約を急ぐ。自民党が17日に開いた厚生労働部会などの合同会議に修正案を示した。基礎年金は財政が厳しく、将来の給付水準は3割目減りする。厚労省は厚生年金を減額して財源をつくり追加の国庫負担も投入して、将来の基礎年金を何もしない場合より3割底上げする改革を検討してきた。制度上、厚生年金の減額が先行するうえ、国庫負担の財源も探す必要がある。自民党内で反対論が拡大し削除に追い込まれた。今回の年金改革の柱だった低年金対策は後退が相次いでいる。厚労省は基礎年金保険料の納付期間を5年延ばすことを検討していた。年金額が年10万円増える一方で、保険料負担が計100万円増えることへの国民の反発が強く、2024年7月に早々に断念した。パート労働者の厚生年金への加入拡大も後退した。加入すると基礎年金に加えて厚生年金を受け取れる。基礎年金の財政も改善する。保険料を半分負担する事業主への配慮を求める声が自民党内で強く、拡大完了の時期を29年から35年まで先送りした。もともと基礎年金の受給額は25年度の満額で月6.9万円だ。これだけで老後を暮らすのは厳しい。今後水準が下がり続ければますます困窮する人が増え、生活保護を受け取る人が増えるリスクがある。低年金対策が遅れるほど状況は深刻になる。厚労省は年金改革の修正を重ねてきたものの、参院選を控えて今国会への法案提出に反対する声は消えない。自民党参院議員の佐藤正久幹事長代理は17日の会議後、法案提出について「国民とのキャッチボールをやって(参院選後の)臨時国会に出すというのもありだ」と記者団に述べた。別の参院議員は「この政治状況で提出するのは厳しい」と指摘した。年金改革を推進する厚労族の一人も「提出できないだろう」と語った。年金は自民党にとって鬼門のテーマだ。旧社会保険庁の年金記録問題は「消えた年金」と批判された。自民党は07年の参院選で大敗し09年の政権交代につながった。厚労省は高所得者の厚生年金保険料の引き上げなどは法案に残す方針だ。負担増につながる項目で法案から追加で削除を迫られる可能性がある。法案の反対派に配慮して内容が後退すれば、今度は年金改革の推進派が反発する公算が大きい。厚労省幹部は「年金改革はゼロサムゲームだ」と話す。恩恵を受ける人がいる一方で、必ず誰かの負担が増えたり給付が減ったりする。政府・与党が正面から改革の必要性を訴える姿勢を欠いた面は否めない。低年金対策が進まないなかでは、自力で備えを進めることも欠かせない。まずは長く働くことだ。給与収入を得られるのに加えて、69歳まで厚生年金保険料も納めれば月々の年金額も増やせる。次に年金の受け取り開始を遅らせる方法がある。1年遅くすると、月々の年金額は8.4%増える。給与や蓄えだけでしばらくしのげるなら「長生きリスク」への耐性は高まる。少額投資非課税制度(NISA)や個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)で手持ちの資産を増やすことも考えられる。 *4-2-2:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20250418&c=DM1&d=0&nbm=DGKKZO88123760X10C25A4EP0000&ng=DGKKZO88123800X10C25A4EP0000&ue=DEP0000 (日経新聞 2025.4.18) これでは高齢化に克てない 与党は将来の国民生活を守る政治の責任をどう考えているのか。目先の選挙対策を優先し、有権者が反発しそうな改革を遠ざけてしまう。こんな逃げの姿勢では、少子高齢化に克(か)つのは到底不可能だ。現状を放置すると、公的年金の1階部分である基礎年金の給付水準は最終的に3割も下がる。その影響を最も強く受けるのは就職氷河期世代だ。近年は人手不足で正社員が増えたが、年金の受取額は過去に納めた保険料の累積で決まる。事業主負担がある厚生年金が適用されず、低収入の非正規雇用に長く置かれた人は報酬比例の2階部分が薄くなり、基礎年金への依存度が高くなる。その基礎年金が3割も下がれば、生活保護との逆転が強まり、保護を申請する人が急増しかねない。政治はそれをよしとするのだろうか。基礎年金がこんな事態になった原因は、2004年改正で導入した世代間調整の失敗にある。足元の給付を抑えることで将来の年金水準を確保する予定だったが、デフレへの想定が甘く、足元の給付水準は逆に上昇した。厚生年金のモデル世帯(夫婦2人)でみると、給付水準(所得代替率)を04年の59.3%から23年までに50.2%へと下げるべきところ、実際は24年に61.2%まで上がった。このツケは将来世代に回り、とりわけ氷河期世代が年金生活に入る40年以降の基礎年金に影響が集中する。今の引退世代に年金を払いすぎていることが問題の根本原因なので、これを是正するのが対策の本筋だ。なのに与党議員にはこれを国民に訴える覚悟と自信がなく、夏の参院選を前に白旗を揚げてしまった。「年金を政争の具にするな」。国会で年金改正案が審議されるたびに政権が訴えてきた言葉だ。ところが少数与党の自民は政争の具になることを防ぎたいがために、改革そのものから逃げてしまった。こんなことでは年金の未来が心配だ。 *4-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250419&ng=DGKKZO88155790Z10C25A4EA1000 (日経新聞社説 2025.4.19) 年金改革から逃げる政治は無責任だ 夏の参院選を意識した自民党議員の反対によって、政府の年金制度改正案が大幅な骨抜きを余儀なくされている。政治がこんな逃げ腰では、日本はこの先の少子高齢化を乗り越えられない。少子高齢化が進む局面で年金の持続性を保つには、世代間で痛みを分かち合う給付調整が避けて通れない。複雑な制度の課題を国民に説明し、改革への協力を求めるのが国会議員の役割のはずだが、今の与野党議員はそれを放棄していると言わざるを得ない。全国民共通の1階部分である基礎年金が目減りする問題は年金制度が抱える最大の課題だ。財政悪化によって最終的な給付水準が今より3割も低下してしまう。だが石破茂政権が対策の本命と位置づけた厚生年金の積立金を活用する案に、自民党議員の一部は強く反対してきた。厚生年金の給付水準が一時的に低下するため、影響を受ける国民から反発を受けることを恐れたのだ。厚生労働省は自民側の指摘を踏まえた修正案を何度か示したが、反対論は収まらない。他の制度改正を進めるために基礎年金の改革を断念し、関連項目を削除した改正案を17日に示した。日経新聞社説 2025.4.19礎年金の財政が悪化したのは、2004年の改革で少子高齢化対策として導入した世代間調整の仕組みが機能しなかったためだ。当時の想定では足元の年金を19年間抑制することで、それ以降の年金を確保する計画だった。ところがデフレへの想定が甘く、この間の給付水準は逆に上昇した。厚生年金のモデル世帯(夫婦2人)でみると、給付水準(所得代替率)を04年の59.3%から23年までに50.2%へと下げるべきところ、実際には24年に61.2%まで上がってしまった。過剰給付のツケは将来世代に回り、とりわけ就職氷河期世代が年金生活に入る40年以降の基礎年金に影響が集中する。不安定な雇用が長く続いた氷河期世代は基礎年金への依存度が高く、このままだと生活保護を申請する人が相次ぐ懸念がある。政治がこの状況を放置するのはあまりに無責任だ。少数与党の国会では野党の責任も重大だが、立憲民主党などは政府に法案提出を迫るだけで、改革案に関する自公からの事前協議の呼びかけに応じていない。今が良ければいいという姿勢では年金は持続しない。国民生活を守る政治の責任を自覚すべきだ。 *4-2-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250426&ng=DGKKZO88313090V20C25A4EA3000 (日経新聞 2025.4.26) 氷河期世代支援 3本柱 就労・社会参加・高齢期の備え 6月メドにとりまとめ 政府は25日、首相官邸で就職氷河期世代の支援に向けた関係閣僚会議の初会合を開いた。石破茂首相は就労・処遇の改善、社会参加、高齢期への備えの3つを柱に据え、閣僚に支援策の拡充を指示した。6月をめどに対策をとりまとめ、経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に盛り込む。会議の議長は首相が務める。首相は重点政策としてリスキリング(学び直し)の支援や農業・建設業・物流業の分野における就労拡大を求めた。公務員や教員の積極的な採用も挙げた。資産形成や住宅確保の強化にも言及した。就職氷河期世代は一般的に1973~82年ごろに生まれた世代をさす。就職時期に金融危機などの影響で企業の新卒採用が少なかった。希望の職につけず非正規雇用の期間が長くなる傾向があった。首相は「今もなお様々な困難を抱えておられる方々が大勢いらっしゃる。ニーズに応じた適切かつ効果的な支援は待ったなしの課題だ」と述べた。 *4-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250424&ng=DGKKZO88251770U5A420C2EA2000 (日経新聞 2025.4.24) 賃金上昇、医療費に消える 大企業健保料率が最高の9.34%、消費拡大に向かわず 健康保険組合連合会(健保連)が23日に発表した2025年度予算の早期集計で、大企業の従業員らが入る健康保険組合の平均保険料率は過去最高になった。高齢者医療への拠出が膨らんだのが要因だ。給付と負担のバランスを見直さなければ、賃上げが進んでも現役世代の消費拡大はおぼつかない。およそ1400ある健保組合の平均保険料率は9.34%で、24年度予算比で0.03ポイント上昇する。赤字の健保組合は全体の76%にあたる1043組合にのぼる。支出増の要因の一つは高齢者の医療費への拠出だ。75歳以上が全員入る後期高齢者医療制度は、後期高齢者自身の保険料が約1割、税金が約5割、現役世代の支援金がおよそ4割を賄う。65~74歳の前期高齢者も、勤め先を退職して自営業者らが中心の国民健康保険(国保)に入る場合が多いことから、健保組合などが納付金を支出して国保を支える制度がある。25年に団塊の世代が全員75歳以上になり、健保組合から後期高齢者医療制度への支援金が前年度より2.5%増える。経常支出のうち加入者の医療費の支払いに充てる保険給付費は5割にとどまり、高齢者拠出金が4割を占める。健保連の佐野雅宏会長代理は23日の記者会見で「現役世代の負担が重く、高齢者への『仕送り』の割合が高い傾向がずっと続いている」と説明した。高齢者拠出金は25年度の3兆8933億円から27年度は4兆円に達する可能性がある。「若い人がなかなか消費に向かわない。社会保険料は右肩上がりで増えており、世代による分断や格差を避けて公正・公平な社会保障にしないといけない」。経団連の十倉雅和会長は24年12月にこう語り、税と社会保障の一体改革が必要だと訴えた。厚生年金の保険料率は17年9月に18.3%で固定した。現役世代の負担を抑えるには医療・介護の歳出改革が欠かせない。財務省によると、医療・介護の保険給付費は12~23年度に年2.9%のペースで伸びた。この間の雇用者報酬の伸びは年1.8%にとどまる。給付費の伸びに届かない部分は、保険料率の引き上げで穴埋めしてきた。財政制度等審議会(財務相の諮問機関)は23日に開いた分科会で「医療・介護給付費と雇用者報酬の伸びを同水準にする必要がある」と訴えた。医療費の増加要因のうち、高齢化などの人口要因は半分ほどに過ぎない。ほかは新規医薬品の保険適用や医師数・医療機関の増加、診療報酬改定などの影響という。保険料負担を抑えるには、これらの改革が急務となる。現役世代の負担抑制策はかねてから議論されてきた。現役世代と同じ窓口負担3割となる後期高齢者の対象拡大、市販薬と効果やリスクが似る「OTC類似薬」の保険適用からの除外などだ。一方で日本医師会の松本吉郎会長は23日の記者会見で「賃金上昇と物価高騰、医療の技術革新への対応には十分な原資が必要だ」と述べ、診療報酬の引き上げを要求した。25年の春季労使交渉の賃上げ率は2年連続で5%台の高水準になる見通しだが、同時に社会保険料も上がれば効果は薄れる。賃上げが消費拡大に結びつかなければ企業の設備投資意欲は高まらず、成長と分配の好循環は実現しない。26年度は診療報酬改定の年にあたる。年末にかけた予算編成プロセスの中で、どれだけ医療の効率化を進められるかが問われる。 *4-4-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1460565 (佐賀新聞 2025/5/9) 24年度消費支出0・1%減、物価高で節約志向根強く 総務省が9日発表した2024年度の家計調査によると、1世帯(2人以上)当たりの月平均消費支出は30万4178円となり、物価変動の影響を除く実質で前年度比0・1%の減少だった。マイナスは2年連続。食品などを中心に長引く物価高で、消費者の節約志向が根強かった。認証不正問題に伴う自動車大手の出荷停止も響いた。24年度の家計の消費支出に占める食費の割合を示す「エンゲル係数」は28・3%で、総務省によると1981年度以来、43年ぶりの高水準となった。所得の伸びが食品価格の高騰に追い付かず、家計を圧迫する構図となっている。消費支出を項目別にみると「食料」が1・0%減。野菜や肉類、乳製品など幅広い分野で値上げが相次ぎ、支出を減らす動きが広がった。「交通・通信」は2・6%減で、一時の出荷停止を受け自動車の購入が低調だった。一方で外食は4・0%増だった。同時に発表した3月の消費支出は33万9232円で、前年同月比2・1%増だった。プラスは2カ月ぶり。2月が全国的に寒さが厳しかった影響で、電気代を含む「光熱・水道」が7・2%増となった。大学の授業料値上げなどの影響で「教育」も24・2%増と大きく伸びた。ただ食料への支出は0・7%減と6カ月連続で減った。多分野で進む物価高騰を前に、消費者がめりはりを付けた慎重な購買活動を心がけていることがうかがえる。 *4-4-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16215205.html (朝日新聞 2025年5月17日) 物価高、さえぬ個人消費 GDP、1年ぶりマイナス成長 1~3月期の国内総生産(GDP)が1年ぶりにマイナス成長となった。4月以降、トランプ関税の影響が本格的に出てくる懸念もあるなかで、それを乗り越えられる基礎体力があるのか、心もとない状況だ。1~3月期のGDPでは、肝心の個人消費がさえなかった。その原因とされるのが、賃金上昇を上回る物価高の継続だ。消費者物価の総合指数は、昨年末ごろから伸びを高め、今年1~3月は3%前後で推移。キャベツなどの生鮮食品が値上がりし、コメが前年の倍近いという異例の高騰が続く。内閣府が公表している消費者態度指数は昨年12月からじりじりと低下。4月はトランプ関税の影響も加わってか、さらに大きく落ち込んだ。では、米国の関税措置の影響は、どのくらい及ぶのか。日本銀行が今月初めに出した「経済・物価情勢の展望」では、今年度の実質成長率見通しが、1月時点の1・1%から0・5%に下ぶれした。民間の見通しも同様の下方修正が相次ぐ。第一生命経済研究所の新家義貴氏は「もともと内需が弱いところに、関税引き上げの悪影響が顕在化することで、景気の停滞感は一段と強まる。場合によっては景気後退局面入りの可能性も否定できない」と話す。 ■最高益でも、関税の影響これから マイナス成長は一時的なものにとどまるのか。トランプ関税の影響が読み切れず、企業は先行きに不安を抱えている。SMBC日興証券の集計では、東証株価指数(TOPIX)を構成する上場企業の2025年3月期決算は、純利益の総額が4年連続で過去最高になりそうだ。ただ、1~3月期に限ると、円高の影響などで24年10~12月期より3割以上減った。1~3月期の決算が減収減益だった半導体大手ルネサスエレクトロニクスでは、自動車や産業機器向けの半導体市況の回復の遅れなどから、販売が伸びなかったという。トランプ関税の影響が本格化する今年度は、さらに不透明感が増す。ソニーグループは26年3月期の営業利益について、関税の影響を織り込むと、ゲームや半導体事業などの利益が1千億円下押しされると見込む。十時裕樹社長は5月14日の決算会見で「景況感はある程度、時間差で起きるので注視したい」と話す。明治ホールディングスの川村和夫社長は9日の会見で、「せっかく日本もデフレ脱却して新しい経済の成長路線に移りつつある。トランプ関税が悪影響を及ぼさないといいなと思う」と述べた。経済同友会の新浪剛史代表幹事(サントリーホールディングス会長)は16日の定例会見で、GDPのマイナス成長について「一喜一憂すべき状況ではない」としたうえで、「トランプ関税を始めとして、先行きが見通せない。消費マインドを冷やしているのは事実だと思う」と語った。 ■伸びを支えた政府消費 GDPの動きを中長期でみると、二つのギャップが目に付く。一つは「名目」と「実質」の差。もう一つはGDP全体と個人消費の動きの違いだ。24年度の名目GDPは、年度では初めて600兆円を超えた。1970~80年代は5年で約100兆円のペースで増えてきたが、92年度に500兆円を超えた後、次の大台まで32年かかった。このうち22年度以降の伸びが約50兆円近くある。一方、実質GDPの伸びは限定的だ。23年度にコロナ禍前のピークの18年度を上回った程度。24年度まででも5兆円強の増加にとどまる。実質GDPの伸びを支える顔ぶれも、かつてと様変わりしている。18年度と24年度を比べると、GDPの5割強を占める個人消費は3兆円余りマイナス。住宅投資や設備投資を加えた民間需要全体で見てもマイナスだ。全体のプラスとの差を埋めているのは政府消費で、11兆円増えた。政府消費には、人々の暮らしを支える医療・介護の給付や、様々な公共サービスのための支出が含まれる。民需がさえないなかで、そうした政府消費がGDPを底支えしている構図にみえる。内閣府幹部は「高齢化のなかで、政府消費は伸びていかざるをえない。ただ、より重要なのは国内の民間需要がしっかり伸びていくことだ」と話す。民間と公的部門がいかにバランスよく伸びていけるか。そんな課題も浮かび上がる。 *4-4-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250516&ng=DGKKZO88711090W5A510C2MM0000 (日経新聞 2025.5.16) GDP、1~3月0.7%減 4期ぶりマイナス、実質年率 個人消費伸びず 内閣府が16日発表した1~3月期の国内総生産(GDP)速報値は物価変動の影響を除いた実質の季節調整値が前期比0.2%減、年率換算で0.7%減だった。2024年1~3月期以来、4四半期ぶりのマイナス成長となった。物価高によって個人消費が力強さに欠けた。QUICKが事前にまとめた民間予測の中心値の年率0.2%減を下回った。GDPの半分以上を占める個人消費は1~3月期は前期比0.04%増でほぼ横ばいだった。肉や魚などの食料品がマイナスとなった。24年夏ごろに備蓄需要が高まり好調だったパックご飯もマイナスだった。外食は天候に恵まれたこともあり、プラスだった。輸出は0.6%減と4四半期ぶりにマイナスに転じた。知的財産権の使用料が減ったほか、24年10~12月期に大型の案件があった研究開発サービスの反動減があらわれた。モノの輸出の中では自動車が伸びた。米国の関税措置が発動される前の駆け込み需要が一定程度あったと考えられる。増えるとGDP成長率にはマイナス寄与となる輸入は2.9%増と大きく増加し、成長率を押し下げた。ウェブサービスの利用料といった広告宣伝料が増えたほか、航空機や半導体関連もプラスだった。前期比の成長率に対する寄与度をみると、内需がプラス0.7ポイント、外需がマイナス0.8ポイントだった。寄与度については内需のプラスは2四半期ぶり、外需のマイナスも2四半期ぶりだった。個人消費に次ぐ民需の柱である設備投資は前期比1.4%増だった。研究開発やソフトウエア向けの投資が目立った。デジタルトランスフォーメーション(DX)向けの投資などが含まれるとみられる。公共投資は同0.4%減、政府消費は0.0%減となった。1~3月期の収入の動きを示す実質の雇用者報酬は前年同期比1.0%増だった。24年10~12月期の3.2%増から縮小した。赤沢亮正経済財政・再生相は16日、日本経済の先行きについて「米国の通商政策による景気の下振れリスクに十分留意する必要がある」と指摘した。「物価上昇の継続が消費者マインドの下振れなどを通じて個人消費に及ぼす影響も我が国の景気を下押しするリスクとなっている」と言及した。 *4-4-4: https://diamond.jp/articles/-/357947?utm_source=wknd_dol&utm_medium=email&utm_campaign=20250126 (Diamond 2025.1.23) 物価高で押しつぶされる「無職世帯」、日銀金融緩和政策の“看過できないマイナス”(野口悠紀雄:一橋大学名誉教授) ●11月家計調査、無職世帯は、実収入も支出も前年から減少 ここ数年の物価上昇と賃上げは、国民生活にどのような影響を与えているだろうか?この影響は、世帯のタイプによって大きく違う。勤労者世帯は賃上げの影響を享受しているので生活が改善している面はあるだろう。だがそれに対して、高齢者などの無職世帯は、物価上昇の影響だけを受けて生活が困窮していると考えられる。このことは直近の家計調査でも確かめられる。1月10日に公表された11月分の家計調査報告(総務省)によると、11月の実収入は、勤労者世帯では対前年同月比が実質で0.7%の増になっているのに対して、無職世帯では5.5%の減少だ(注1、2)。消費支出も、勤労者世帯は同1.5%増に対して無職世帯は同2.4%減となっている。日本銀行は、将来、物価が上がるというインフレ期待(予想)が生まれれば、消費が増え経済も上向くということで、物価目標政策のもとに金融緩和策を続けてきた。そして高賃上げの波及を物価目標達成の重要なメルクマールとしてきた。今週23、24日に開かれる金融政策決定会合でも、今春闘でも高い賃上げが続くとの見通しから、利上げをすると市場ではいわれている。だが、家計調査が示しているのは日銀が想定しているのと全く逆の事実だ。 ●勤労者世帯の実収入は増えたが、3割強占める無職世帯は賃上げの恩恵なし 家計調査では、「2人以上の世帯」を主に、その収入や消費の動向をみているが、2人以上の世帯には、「勤労者世帯」と「無職世帯」がある。世帯人数で、前者が54.0%、後者が34.5%だ。この他に個人営業の世帯(11.5%)がある。世帯主の平均年齢は、勤労者世帯は50.8歳、無職世帯が75.3歳だ。後者は退職後の年金生活者が中心だ。1世帯当たりの世帯人員は、勤労者世帯で3.2人、無職世帯では2.3人となっている。だが 勤労者世帯と無職世帯では、収入の状況も支出の中身なども大きく違う。まず、収入の状況をみると、24年11月では、実収入は、勤労者世帯では51.4万円なのに対して、無職世帯では5.6万円でしかない。収入差が大きいのは11月が年金支払い月でないことによる。年金支払いがあった10月でも、実収入は勤労者世帯58.1万円に対して、無職世帯は47.5万円(このうち公的年金給付は2カ月分41.8万円)だ。11月は増加率でも大きな差がある。こうした差をもたらす最大の要因は、勤労世帯では世帯主の勤め先収入が49.5万円と大きく、かつ実質で1.3%増えているのに対して、無職世帯では定義によって世帯主の勤め先収入がゼロであることだ。無職世帯でも、世帯主以外の勤務先収入はあるが、額は少なく、伸び率がマイナスになっている。このように、勤労世帯と無職世帯では、賃金上昇の影響を享受しているか否かという大きな違いがある。賃金上昇がすべての世帯に同じように恩恵を与えているという錯覚に陥りがちだが、決してそうではないことに注意しなければならない。2人以上世帯のうちの3分の1強を占める無職世帯は、賃上げの恩恵に浴していないのだ。 (注1)「毎月勤労統計調査統計」では11月の実質賃金上昇率はマイナスだが、家計調査ではこのようにプラスになっている (注2)11月の無職世帯の実収入で公的年金は、11月が年金支払い月でないため448円でしかない。なお、2024年で国民年金は満額で月額6万8000円だ。賃金や物価の上昇分は翌年の年金給付にスライドされる建前だが、マクロ経済スライドによって、少子化(現役世代の減少率)や長寿化(平均余命の伸び率)分を差し引いて調整される。 ●無職世帯、緊急でないものは買い控え、食料品切り詰め、修繕や家事サービスは支出増 一方、支出額は、勤労者世帯では40.9万円なのに対して、無職世帯では27.4万円だ。世帯員1人当たりで見れば、勤労者世帯では12.7万円、無職世帯では11.7 万円で、あまり大きな差がない。ところが、物価高騰の影響はどちらのタイプの家計にも同じような影響を与える。だから、支出の伸び率や中身は二つのタイプの家計で大きく異なる。家計調査の11月のデータでは、実質消費支出の対前年同月比は、勤労者世帯が1.5%増なのに対して、無職世帯では2.1%の減となっている。また中身を見ると、食料の実質対前年同月比が、勤労者世帯では+1.8%となっている。それに対して無職世帯では-3.6%だ。米が-12.8%、生鮮肉が-12.1%などだ。項目の中には2桁の減少率になっているものがかなりある。生活をするためには誰もが食料品には一定の支出は必要なはずだが、無職世帯では食料品の価格高騰のために、実質支出を減らさざるをえない状況に追い詰められていることが分かる。一方で無職世帯では、食料品とは対照的に住居関係の実質支出は、前年同月比39.6%増という極めて高い増加率になっている。特に住宅や庭などの修繕や維持の「設備材料」は121.3%の上昇率だ。これはどうしても必要な支出だからだろう。ところが家具・家事用品は、どちらのタイプの世帯でも、実質の伸びがマイナスになっている。勤労者世帯では-14.4%、無職世帯では-6.5%だ。こうしたものは緊急に買う必要はないので、価格が高騰したために買い控えていると考えられる。とりわけ無職世帯の場合、家事用耐久財は-38.3%、一般家具は-30.1%、室内装備装飾品は-25.0%だ。なお、ホームヘルパーなどの家事サービスについては、勤労世帯が-23.2%なのに対して、無職世帯は10.3%増となっている。勤労者世帯では、家族メンバーが比較的若いために、家事サービスを頼む必要性はそれほど高くない。それに対して無職世帯の場合には高齢者なので、これがどうしても必要だという事情を反映しているのだろう。このように、全般的には、無職世帯では支出を切り詰める傾向が強いが、修繕費や家事サービスのようにどうしても必要なものに対しては、価格が高くても支出を増やさざるを得ない状況になっていることが分かる。 ●「物価が上がれば経済は改善」!? 誤った想定での金融緩和、家計調査データが裏付け こうした家計調査の結果は、日本銀行の大規模金融緩和政策の評価に関して、重要な意味を持つ。日銀は、大規模金融緩和を進めるにあたって、「ノルム」という概念を持ち出した。「人々が物価は上昇しないと考えれば、いつでも買えるので、商品が売れなくなる」という考えだ。この考えに従って、物価がいずれ上がるという予想を人々がもてば、商品が売れて経済が改善されるとした。 しかし、無職世帯で実際に起きているのは、これとは全く逆のことだ。物価が上がれば、当面、必要がないものは買い控える。だから、支出が減るのだ。それだけではない。食料品のように生きていくために必要なものでさえ、実質支出を切り詰める。物価が上がると支出が増えるものもあるが、それは修繕費や家事サービスのように、どうしても必要だから購入せざるをえないからだ。この場合には、前と同じサービスを得るための支出が増えるのだから、家計は貧しくなることになる。こうしたことが、少なくとも2人以上の世帯の3割強で起きているのだ。日銀の金融緩和政策は、誤った想定に基づいたものだったことを、家計調査のデータは雄弁に語っている。大規模緩和政策を導入したときには、物価が上昇しなかったので、物価が上昇すれば家計がどう反応するかが分からなかった。しかしここ数年間の物価上昇によって、日銀が想定したことは全くの誤りであると分かった。結局のところ日銀は、全く誤った想定に基づいて物価上昇という目標を追い求めたことになる。 <消費税:位置付けと使途の分析> *5-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1446361 (佐賀新聞 2025/4/15) 食品0%で年5兆円の消費減税を、立民・有志議員、参院選へ提言書 立憲民主党の有志議員でつくる「食料品の消費税ゼロ%を実現する会」(会長・江田憲司元代表代行)は15日、国会内で会合を開き、夏の参院選公約に向けた提言書をまとめた。軽減税率8%が適用される飲食料品の税率を0%に引き下げ、年5兆円規模の減税を実現させるのが柱。近く執行部に提出する。党税制調査会などの合同会議も開かれ、出席議員の多くが消費税減税を訴えた。党内では、別の勉強会も11日に消費税率5%への引き下げを盛り込んだ提言を策定するなど減税論が拡大。これに対し、財政規律を重視する枝野幸男元代表が「減税ポピュリズム」と批判し、対立が先鋭化している。江田氏は15日の会合で、枝野氏の発言に対し「言論の自由を封殺しようとするのは看過できない。大変遺憾だ」と反発。「どう喝や圧力に屈することなく、正々堂々と政策論議を深める」と述べた。提言書は、食料品の税率を当分の間、0%にすることで「物価高から国民生活を守る」と強調。実施期間は、中低所得者の消費税を実質的に還付する「給付付き税額控除」を導入するまでの時限的措置とした。減税により国内総生産(GDP)を0・39%押し上げると試算。財源には米国債の償還金活用を挙げた。合同会議では、食料品の消費税率引き下げを含む減税を訴える声が続出。将来的な給付付き税額控除の導入を目指す姿勢は変えるべきではないとの意見も出た。野田佳彦代表は記者団に、消費税を巡る議論について「活発な意見交換をして、一定の時期が来たら集約する」と説明。党内が二分している現状を踏まえ「いろいろな意見があっても、結論が出たら従うという政治文化をつくるのが私の役割だ」と語った。 *5-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/a67b8fe874373b83888502204e4a4777b88072bb (Yahoo 2025/4/13) 「消費税を下げる議論だけ先行は大変なことになる」自民・森山氏 財源論が必要と強調「正直に正しい政治を」 自民党の森山幹事長は13日、消費税について「下げるという議論だけが先行して、おかしなことになってしまっては、大変なことになる」と述べ、減税に慎重な姿勢を示した。鹿児島市での党の会合で森山氏は、「私は今、日本の政治の中で大変、気になることがある。それは税制の話だ」として、消費税の減税を求める意見に言及。森山氏は「消費税をゼロにするという政党も出てきた。消費税を5%に下げるという政党も出てきた。消費税が下がることは喜ばしいことかもしれない」とした上で、「社会保障にしっかり充てていくという約束をして消費税の税制が成り立っていることを忘れてはいけない」と強調した。そして、「消費税を下げる分の財源をどこに求めるかという話があって、初めて議論ができるのではないか」と財源論の必要性を指摘し、「消費税を下げるという議論だけが先行して、おかしなことになってしまっては、大変なことになる」と述べた。また、2012年に旧民主党と自民党、公明党の3党で交わした社会保障と税の一体改革に関する合意について、「谷垣総裁(当時)が、日本の財政の状況、今後の高齢化社会の到来を考え、(自民議員)一人一人を説得した」と振り返り、「我々は正しい選択、判断をしたのだと思う。この精神を忘れてはならない」と訴えた。さらに、「日本は経済的にも大きな国だ。国際的に日本の財政が信任を失ったら大変なことになるということを、しっかりと認識をして政治を進めていかなければいけない」として、「裏付けのない減税政策というのは、国際的な信任を失うと大変なことになる」と指摘。消費税が地方交付税の財源になっていることにも触れ、「消費税は色々なことに影響する税金であることを、国民に理解してもらわないといけない」と述べた。森山氏は、「正直に正しい政治をさせてもらいたい。自民党の幹事長として強く思う」と語った。 *5-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1453698 (佐賀新聞 2025/4/26) 自治体、最大300億円減収、ガソリン暫定税率廃止、政府試算 ガソリン税などに上乗せされる暫定税率が廃止された場合、地方自治体の税収の減少幅は最も多い愛知県で330億円となるなど、地方財政に広く影響が及ぶことが26日、政府の試算で分かった。北海道が318億円で続き、100億円を超える減収は全体の4割に当たる19都道府県に上る。合計では5千億円を超え、インフラ維持などに向け新たな財源を確保する必要性が浮き彫りとなった。ドライバーは減税の恩恵を受ける一方、自治体にとっては景気の動向に影響を受けにくい安定的な税収が減ることになる。都道府県によってばらつきがあるものの、減収幅は地方税収の数%に相当するケースが多い。地方部の方が負担割合は大きくなる傾向がある。2023年度の決算を分析した。国税であるガソリン税の地方に譲与する分や地方税の軽油引取税の暫定税率に相当する金額を機械的に算出した。ほかに減収幅が大きいのは、埼玉県が287億円、大阪府が263億円、神奈川県は222億円と続く。軽油引取税の比重が大きく、トラックなどに使われる軽油の販売が盛んな都道府県ほど上位に来る。物流拠点や保有台数の多さが影響する。政府、与党は暫定税率を廃止する方向で決まっているとしつつも、地方財政への影響の大きさなどを理由に実施には時間が必要との立場だ。補助金よりも暫定税率の廃止の方が値下げ効果が大きいとして、野党は早期実現を要求している。主張は平行線で、これまでに具体的な代替財源をどうするかについては議論は深まっていない。政府、与党は年末にかけての税制改正の議論の中で、恒久的な代替財源を検討する構えだ。それまでの間、5月22日からガソリン価格を1リットル当たり10円引き下げる補助制度を実施する。ガソリン税の暫定税率 ガソリン税は本来1リットル当たり28円70銭だが「当分の間」の措置として25円10銭が上乗せされている。1974年に道路整備の財源に充てるために始まり、その後も財政事情の厳しさなどを背景に維持されている。上乗せ分のうち80銭は地方に譲与される。軽油にも同様の地方税「軽油引取税」があり、暫定税率は17円10銭となっている。 *5-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250511&ng=DGKKZO88584130Q5A510C2EA1000 (日経新聞社説 2025.5.11) 参院選対策の消費減税公約は無責任だ 自民・公明両党の幹事長らが夏の参院選までに新たな経済対策を示すことで合意した。事実上の選挙公約となる公算が大きい。すでに主な野党が消費税の減税策を競うなか、見過ごせないのは政権を担う公明党や参院自民党にまで減税論が広がっていることだ。政策効果や財源の議論抜きに選挙目当てのバラマキに走るようでは「責任政党」とはいえない。公明党は食料品を中心とする物価高対策としての減税を訴える。減税実現までのつなぎ策として現金の給付も唱えている。自民党では党執行部こそ減税に慎重なものの、参院議員の8割が消費税減税を望んでいる。近く党税制調査会の勉強会を開き、税率を下げる場合の課題を整理する。野党第1党の立憲民主党では13年前に消費増税を主導した野田佳彦代表が食料品の税率を1年間ゼロにする方針に転じた。延長も1回できるという案だ。党内の減税派に押し切られ、政策の一貫性も損なった。日本維新の会、国民民主党も減税をめざしている。そもそも減税が必要な局面なのか。3月の全国消費者物価指数によると、確かにコメは1年前の2倍近くと高い。食料全体としてならしても7.4%上がっている。所得が低く、収入の多くを食費に回す人ほど消費税の負担が重く感じられる面はあろう。だからといって消費税を下げればいいというのは短絡的だ。食品に掛かる8%の軽減税率をゼロにすれば約5兆円の財源が必要になる。石破茂首相が「高所得の方も含めて負担が軽減される。低所得の方が物価高で一番苦しんでいるのにどうなのか」と認める通り、再分配策としての効率も悪い。備蓄米の出し方の改善や加工用米の転用など、コメ価格の抑制に打てる手ももっとあるはずだ。「トランプ関税」は物価高対策の口実にならない。需要が弱まるならば物価は下がる方向に働くからだ。日銀が1日に公表した展望リポートによると、生鮮食品を除く消費者物価指数の上昇率は2026年度が1.7%上昇で目標の2%を下回る。エネルギー価格の高騰も一服し、減税をしなくても物価は落ち着く兆しがある。消費税は医療・年金・介護・子育て支援など社会保障や地方の財源となる基幹税で、下げたら容易に戻せない。次の選挙のために次の世代にツケを回さないか。政治家も有権者も問われている。 <農業教育と就農> PS(2025年5月24日追加):*6-1-1は、①JA全中・JA全農・JA共済連・農林中金が「よりよい営農活動」の実践研究会を開いた ②人材育成の体系を構築してJA組織基盤・経営基盤の「中核機能」である営農指導事業を強化することを確認した ③「よりよい営農活動」とは農業生産工程管理の手法を取り入れ、生産者の経営基盤強化やリスク低減に繋げるもの としている。 私も、①③の農業生産工程管理の手法を取り入れ、生産者の経営基盤強化やリスク低減に繋げる「よりよい営農活動」は重要だと考える。そして、そのためには、②の人材育成がKeyであり、JAの営農指導事業も重要な役割を果たしてはいるが、より根本的には「生産コストを下げながら品質は上げる」という工業では当然やっていることをやってこなかったことが日本の農業が国際競争力が無く、衰退している原因であると考える。また、技術革新に重要な人材である大学の農学部・工学部出身者で農業に従事する人の割合が低いことも、農業技術や農業経営の革新を阻んでいるため、これを変えるには農業法人化・大規模化・脱世襲化が重要であろう。 そのような中、*6-1-2は、④石破首相は、コメ価格高騰で、価格下落を避けるために生産量を抑える事実上の「減反政策」の転換に意欲を示し、米価下落時には農家に所得補償を行って生産拡大させる考えを示した ⑤自民党農水族議員を中心に価格下落に繋がる増産に消極的な声は根強い ⑥首相は「全ての農家を対象にするのではなく、生産コストを下げる努力をしている農家の経営が行き詰まることがないよう補償すべき」と語った ⑦首相は昨年の自民総裁選でも米増産を念頭に輸出拡大を主張しており、今回の対応を機に自身がめざす農業政策を実現したい考え ⑧自民党の農水族議員や農水省は、コメ余りが価格下落を招かないよう生産を抑えることに主眼を置いてきた ⑨首相は米輸入拡大も選択肢の1つとしたが、森山氏が「足りないから輸入するという話にはならない」と打ち消した 等としている。 確かに、④のコメ価格高騰は米の価格が昨年の2倍以上にもなっているため、事実上の「減反政策」を転換する時期であるのは当然であり、米価下落時に農家に所得補償を行って生産拡大させるのもやむを得ない。そして、むしろ⑤⑧のように、米生産を抑えて価格を高止まりさせ続ければ、国民は「国内価格-国際価格」分の負担を強いられるため、所得補償を行った方が国民負担は少ないのである。しかし、麦・大豆等の自給率は米よりもずっと低いため、その栽培も疎かにすべきでないことは明らかだ。なお、1~2年以内に、価格と質の両面で日本産米の国際競争力を高めなければ、作りすぎて余っても米を輸出することはできない。そのため、⑥⑦のように、首相は「生産コストを下げる努力をしている農家に補償する農業政策を実現したい」そうだが、努力をしているか否かは、政府や農協が判断するより、単位数量あたりの補償額を品質(例えば、特Aなど)で分けてあらかじめ決めておいた方が、農家は努力のし甲斐があって質・量ともに伸びると思う。⑨のように、森山氏は「足りないから輸入するという話にはならない」と言っておられるが、現在のやり方ではこれまでも国際競争力はつかなかったし、これからもつかないことは間違いなく、弁解は無用である。 この時、重要になるのは、*6-2-1の農業高校や大学農学部の質である。農業高校の重要性は、農業を基幹産業とする地方と大阪府・東京都では異なるだろうが、農業を基幹産業とする地方でも学力の問題で農高を選ぶ生徒は多いため、高校授業料無償化や公立高校併願制によって希望する高校を選択できるようになるのは、生徒にとって良いことである。にもかかわらず、文科省は、*6-2-2のように、「農業の発展を支える重要な役割を担っている農高や専門高校の魅力を高める支援策を検討する」としているが、その支援内容は農高教員に「産業教育手当」を支給するということであるため、それよりは農業高校と農業専門学校を連結させて農業大学にし、教員の質も上げて、農業を専門的に学んだ学生に対して大学卒の資格を与えることが重要だと考える。何故なら、大学進学率が増加して看護師になりたい人が看護学校より大学の看護学部を選択するようになったのと同じく、農業を選択したくても農業技術を学べば大学卒の資格を得られないのであれば、農業の社会的地位は上がらず、仕事として農業を選択する生徒は自然に減少して、農業の国際競争力確保などできないからである。そして、それらの結果、選ばれなかった高校が消滅するのなら、それは学校として魅力を出せなかったのだから仕方のないことである。 *6-1-1:https://www.agrinews.co.jp/ja/index/307889 (日本農業新聞 2025年5月23日) 営農指導の質向上へ 人材育成を強化 全中など実践研究会 JA全中とJA全農、JA共済連、農林中央金庫の全国4連は22日、東京・大手町のJAビルで「よりよい営農活動」実践研究会を開いた。6県域が営農指導員の人材育成方針や取り組みを紹介。人材育成の体系を構築し、JA組織基盤、経営基盤の「中核(コア)機能」である営農指導事業を強化することを確認した。2024、25年度の「よりよい営農活動」モデル県域12道県の中央会や全農県本部などの役職員ら約50人がオンラインを含め参加した。JAグループ青森は、営農指導員の実務経験別の研修や認証試験を展開していることを紹介。JAグループ岡山は3年の営農指導員強化研修に取り組んでいると説明し、「営農指導員に武器を与えることが必要」と指摘した。「よりよい営農活動」は農業生産工程管理(GAP)の手法を取り入れ、生産者の経営基盤強化やリスク低減につなげるもの。全国4連で事業を展開し、27年度までに全JAでの取り組みを目指す。 *6-1-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16217366.html (朝日新聞 2025年5月20日) 農家へ補償、首相前向き 増産に意欲、農水族と対立 コメの高騰をめぐり、石破茂首相は19日、米価が下落した際に農家へ所得補償を行うことで、生産を拡大させることに前向きな考えを示した。価格下落を避けるために生産量を抑える事実上の「減反政策」の転換に意欲を示した形だが、自民党の農水族議員を中心に価格下落につながる増産には消極的な声が根強い。政府・与党内の意見の相違が色濃く表面化した。19日の参院予算委員会で、立憲民主党の打越さく良氏から生産を抑える政策をやめるよう求められたことに対し首相が答弁した。首相は、高騰の要因について「供給がギリギリになっている」ために価格の上下が顕著になったと仮説を説明。「じゃあ、いかにして生産を増やすかということ」と、コメの生産拡大が必要との認識を示した。その上で首相は「生産を増やすと、価格は下がる。その分をいかにして補填(ほてん)をしていくかという議論を進めなければならない」と述べ、所得補償の必要性に言及した。首相は、全ての農家を対象にすることには「本当にコメ作りを強くすることになるのか」と否定的な考えを示す一方、生産コストを下げる努力をしている農家などについて「経営が行き詰まることがないような補償を行うことは、認められるべきではないか」と語った。コメの生産拡大は、首相のかねての持論だ。2008年に麻生内閣で農林水産相に就任した後に減反廃止を打ち出したが、農水省や農水族議員の反対が強く実現はしなかった。首相は昨年9月の自民総裁選でもコメの増産を念頭に輸出拡大を主張。就任後も米価高騰について「コメが足りないから、こんな事態になる。生産調整の限界だ」と周囲に語っていた。今回の対応を機に、自身がめざす農業政策を実現したい考えだ。しかし、自民党の農水族議員や農水省は、コメ余りが価格下落を招かないよう生産を抑えることに主眼を置いてきた。長く自民党の支持基盤である農家や農協の収入に悪影響を及ぼさないためだ。今回の高騰に際しても「生産が足りないということはありえない」(森山裕幹事長)などと生産拡大には一貫して慎重姿勢を示し、流通段階の滞りの解消を訴えている。首相は11日には、コメの輸入拡大も選択肢の一つとの考えを示したが、森山氏は2日後に会見で「足りないから輸入するという話にはならない」と即座に打ち消した。物価高対策が政権の大きな政策課題になる中、首相がめざす農業改革を進める好機と言えそうだが、党内から反発は必至で実現のハードルは高い。 *6-2-1:https://www.agrinews.co.jp/news/index/306956 (日本農業新聞 2025年5月18日) 高校無償化、公立農高どうなる 志願者減少に危機感 高校授業料の無償化に伴い、公立が中心の農業系高校の志願者減少が懸念されている。先行して無償化した大阪府内の複数の農高は「影響が大きい」とする。農高の多くが、今後の存続に危機感を募らす。 ●施設充実の私立有利 自民・公明両党は私立高校への就学支援金について、2026年度から所得制限を撤廃し、支援額を上積みする方針だ。大阪府や東京都では先行して高校授業料を実質無償化。同府内の農高は近年、入学志願者減に歯止めがかからず、府立園芸高校(池田市)は「高校無償化の影響は大きい。食を学べる私立高校が増えている。施設のきれいな私立で学びたい生徒は多い」と話す。24年度から無償化した東京都。25年度入試で都立高校全体の倍率は過去最低水準に下がったものの、農高の倍率は23年度に比べ上がった。だが、都立農芸高校(杉並区)校長も務める全国農業高等学校長協会の吉野剛文会長は「農高の倍率は年によって変動が大きく単年度の数字では判断できない」と指摘。「全国的に私立の無償化は農高の存続に関わり、農業教育の衰退につながる恐れがあり、大変な危機感がある」と強調する。一般的に、スクールバスの配置や最新の施設所有などがしやすい私立高校。一方、公立農高は教員不足が深刻化し、施設の老朽化が著しい。吉野会長は「古い施設や農機具が非常に多い。魅力を高めることは簡単ではなく、人・物・金が足りない厳しい現実がある」と説明。国が農高向けの支援を講じても、都道府県や市町村負担がある場合は採択にハードルがあるという。 ●“地域密着”にも意義 懸念の声は各地から上がっている。広島県立西条農高(東広島市)は「充実した実習や実験などをアピールしているが、周辺には私立高校が非常に多い。無償化の影響は大きい」とみる。福岡県立八女農高(八女市)も「地域密着の独自教育を進めるが、私立に流れる懸念はある」とする。「農業を学びたい」と農高を志望する中学生は一定数いる。それでも「学力の問題で農高を選び、入学してから農業の大切さを知る生徒が多い」(関東の農業系高校)、「私立無償化の影響を受けない農高は一部有名校などに限られる」(北日本の農高)と指摘する声がある。文部科学省は今後、影響が懸念される農高をはじめとした専門高校の魅力を高める支援策を検討する方針だ。 *6-2-2:https://www.agrinews.co.jp/news/index/307359 (日本農業新聞 2025年5月20日) 文科相 農高への支援拡充検討 阿部俊子文部科学相は20日の閣議後会見で、農業高校への支援について「農業の発展を支える重要な役割を担っている。農業高校をはじめとする専門高校の教育の充実を進めていきたい」と強調した。私立高校の授業料無償化で、公立が中心の農業高校の入学者が減るとの懸念が高まっていることから、支援の拡充を検討する方針を示した。阿部文科相は、石破茂首相と共に議員連盟「農林水産高校を応援する会」の一員であることを紹介。「各都道府県の農業高校の先生方の声をしっかり聞きながら支援してきた」と述べた。その上で、2026年度から自民・公明・日本維新の会の3党合意で私立高校の授業料が実質無償化になることについて「農業高校をはじめとする専門高校の支援の拡充を含む教育の質確保も論点とされている」と強調。国会審議も踏まえつつ文科省として支援する意向を示した。農業高校の教員らに支給される「産業教育手当」が、本来の支給水準(給料の10%)に満たない都道府県が多い問題に対しては、自治体に「今後も適切な対応を呼びかけていきたい」と述べた。 <愚かな選択とその結果> PS(2025年5月26日追加):*7-1-1は、①日産自動車が横浜市の本社売却と「セール・アンド・リースバック」を検討 ②日産は経営再建に向けて世界7工場を削減方針 ③本社の資産価値は1000億円超で工場削減に伴う多額のリストラ費用に充てる ④2026年3月期に2万人のリストラ費用600億円を追加計上の可能性 ⑤エスピノーサ社長「リストラ費用は資産売却で賄う予定」 ⑥日産の2025年3月期最終損益は6,708億円の赤字で、経営再建に向け2026年度迄に2024年度比で固定費・変動費計5,000億円を削減 ⑦国内は主力の追浜工場と湘南工場削減を検討、海外はメキシコ2工場・南アフリカ・インド・アルゼンチン各1工場をやめる としている。 日産は、ゴーン社長の時に赤字体質から脱却して世界初のEV市場投入も果たしたのだが、日本国内でおかしな論調の逆風を受けて沈没した。そして、西川廣人社長の時に昔帰りし、今さらHVを充実させようなどと愚かな意思決定をして赤字体質になり、エスピノーサ社長に代わって、再度、上の①~⑦のリストラをしようとしているのだ。しかし、私は、日産は、長所であるEVに特化しつつ、ブルーオーシャンであるメキシコ・南アフリカ・インド・アルゼンチンの工場こそ大切に残すべきだと思う。何故なら、日産車の車体は、いかつくてスマートではなく、本当はこの15年でスマートさも磨くべきだったがそうしなかったため、道路が整っておらず、ガソリンスタンドが少なく、ガソリン車を製造している競争相手がいない、ドライバーが殆ど男性の男性優位社会である開発途上国向きだからだ。 また、*7-1-2は、⑧ホンダは米国でHVの現地生産を増やし、電池も2025年中に米国のトヨタ自動車電池工場からの調達に ⑨トランプ政権の関税と成長鈍化のEV投資に急ブレーキがかかり、収益源のHVが成長を左右 ⑩三部社長「中長期的に関税措置が長引く場合は米国内の生産能力をさらに増やす」 ⑪関税の影響回避のため、2025年9月から米国向け主力車「シビック」HVの生産を埼玉製作所完成車工場から移す ⑫中核部品も含めて現地生産し、関税コストを軽減 としている。 グローバル企業であれば、米国で販売する自動車は米国で開発・製造・販売するローカル性を持つグローカルであるのが原則であるため、いつまでも日本からの輸出にこだわる方が誤りで、⑧~⑫の方針はだいたい妥当だ。しかし、EVの方が環境に良い上、エネルギー代金も安上がりであるため、トランプ米大統領がいくら頑張っても、ガソリンを燃料とす自動車に後戻りすることはなく、新たにHVに投資するのは寄り道であって技術開発のための資本を分散することになる。また、⑦⑪のように、日産工場の削減対象となった神奈川県やホンダ工場の削減対象となった埼玉県は、自動車工場施設や部品メーカーも揃っているため、世界や日本で売れているEVメーカー(例:中国・ヨーロッパ・アメリカ)の自動車メーカーの工場を誘致したり、今後、自動運転となるトラクター・商用車等のEV化や生産に切り替えた方が発展的になるだろう。 なお、*7-2-1のように、日本から米国への輸出額は21兆6,483億円、米国からの輸入額は12兆6,434億円で、今のところ貿易収支は9兆48億円の黒字であり、トランプ米大統領が問題視して米国製自動車の販売台数が少ないことに不満を述べられたそうだが、テスラのEVは先進的でスマートであるため、日本の道路で運転し易く、購入し易い価格にすれば売れると思う。また、コメはじめ農産物も国民の安全を犠牲にしない限りは輸入しても良いと思うが、*7-2-2のように、トランプ米政権がNASAの予算削減に動き、米主導で日本等も参加する有人月面探査や火星探査を見直すのであれば、関係特許を一括して購入し、研究者も招いて、日本政府と日本の民間企業が中心となって月や火星の探査を追求すれば良いのではないだろうか?そうすれば、日本の輸入額は一時的に著しく増え、その後は技術進歩や産業の高付加価値化ができるからである。 *7-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC1909I0Z10C25A5000000/ (日経新聞 2025年5月23日) 日産、横浜本社の売却検討 7工場削減などリストラ費用に 日産自動車が横浜市にある本社の売却を検討していることが分かった。日産は経営再建に向けて国内を含む世界7工場を削減する方針。資産価値は1000億円超とみられ、工場削減に伴う多額の費用に充てる。売却先と賃貸契約を結んで施設を継続使用する「セール・アンド・リースバック」を利用する案が上がっている。2025年度中に売却する資産の候補に、横浜市の本社を入れている。日産は09年に「グローバル本社」を都内から横浜市に移転した。横浜駅などに近い好立地で、日産車を展示するギャラリーなども含まれる。神奈川県内の不動産関係者によると、本社の資産価値は1000億円超に上る。セール・アンド・リースバックはこれまで電通グループなども活用してきた。売却しても日産の社員は引き続き同じ本社で業務を続けることができる。日産は23日、アナリスト向け説明会の質疑応答を公開し、26年3月期にリストラ費用として600億円を追加で計上する可能性があると明らかにした。イバン・エスピノーサ社長が「リストラ費用は資産売却を通じて賄う予定だ」と言及した。日産の25年3月期の最終損益は6708億円の赤字(前の期は4266億円の黒字)と4期ぶりの赤字だった。赤字幅は過去3番目の大きさで、今期は米国の関税政策も経営の重荷となる。経営再建に向けて、26年度までに24年度比で固定費と変動費で計5000億円を削減する。人員削減規模は従来から1万人超を積み増し2万人にするほか、世界にある完成車工場を17カ所から10カ所まで減らすと明らかにしていた。国内では主力の追浜工場(神奈川県横須賀市)と日産車体の湘南工場(同県平塚市)の2工場の削減を検討している。海外ではメキシコで2工場を削減するほか、南アフリカとインド、アルゼンチンで各1工場をやめる。世界7工場の削減により、生産能力は100万台減の250万台になる。 *7-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250525&ng=DGKKZO88905400U5A520C2EA5000 (2025.5.25) ホンダ、米工場「HV頼み」 トヨタ電池調達で関税対策 ホンダが米国でハイブリッド車(HV)の現地生産を増やす。23日に公開した主力の米工場で生産車種を増やすほか、中国などから輸入するHV電池を2025年中に米国のトヨタ自動車の電池工場からの調達に段階的に切り替える。トランプ政権の関税影響に加え、成長が鈍化する電気自動車(EV)の投資に急ブレーキがかかる中、収益源のHVが成長を左右する。インディアナ州にある完成車工場を報道陣に公開した。トランプ政権が自動車や部品への25%の関税を発動して以降、日本の自動車メーカーが米国工場を公開するのは初めて。年間25万台を生産できる工場で組み立てられている完成車の大半は米国向けだ。主に多目的スポーツ車(SUV)「CR-V」などを1日1000台生産し、フル稼働が続く。ホンダの米国販売台数に占める輸入比率は約4割で、輸入が半分以上を占める競合他社より影響は小さいが、部品も含めれば関税の影響は大きい。三部敏宏社長は13日、「中長期的に関税措置が長引く場合は米国内の生産能力をさらに増やす」と話した。インディアナ工場では既にこの取り組みの一つが進む。9月から米国向け主力車「シビック」のHVの生産を埼玉製作所完成車工場(埼玉県寄居町)から移す。関税の影響を回避する狙いだ。今回の移管で米国向けシビックはほぼ全て米国生産になる。HVの生産比率も増やす。現在、インディアナ工場の生産台数に占めるHV比率は6割だが「将来的には増やすことを検討している」(ロクサナ・メッツ工場長)。ガソリン車からHVまで、異なる車種を1つのラインで生産できる強みを生かし、柔軟に車種の入れ替えを行うなどし、不確実性の高い政策に対応する。トランプ政権が発動した部品関税への対応も進む。現在、インディアナ工場の生産車に占める部品の現地調達率は8割だが、これにはメキシコやカナダ製部品が含まれる。関税を回避するため、長期的には米国での調達を増やす必要がある。その取り組みの一環として、中国や日本から輸入するHV電池を25年中にトヨタ自動車がノースカロライナ州で稼働中の電池工場からの調達に順次切り替える。中核部品を含めて現地生産し、関税によるコストを軽減する。 *7-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250520&ng=DGKKZO88780560Z10C25A5EA1000 (日経新聞 2025.5.20) 対米黒字9兆円、解消するには アメ車なら輸入72倍、コメだと生産8年分 トランプ氏要求、ハードル高く 日米両政府は関税交渉で3回目となる閣僚協議を週内にも開く。トランプ米大統領は年間9兆円もの日本の対米貿易黒字を問題視したとされる。日本は米国からの農産物の輸入拡大といった交渉カードを用意し、協議に臨む。仮に巨額の黒字を解消するとした場合、どうすればよいのか、日本経済にどんな影響があるのかを探った。財務省の2024年度の貿易統計によると、日本から米国への輸出額は21兆6483億円で、米国からの輸入額は12兆6434億円。輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は9兆48億円の黒字だった。日米関税交渉では、トランプ氏が日本で米国製自動車の販売台数が少ないことに不満を述べたとされる。閣僚からは米国産コメの輸出拡大に関心が寄せられた。日本は交渉カードとして米国産トウモロコシの輸入を増やす案を検討する。では車、コメ、トウモロコシの輸入拡大で対米貿易黒字を解消するにはどれだけの量が必要だろうか。貿易統計によると米国車、いわゆる「アメ車」の輸入価格は平均で1台933万円。9兆円分輸入すると、約96万5000台となる。24年度実績で約1万3000台(乗用車のみ、中古車含む)にとどまる米国車輸入を72倍に増やす計算だ。自動車の業界団体によると24年度の国内新車販売台数(乗用車のみ、軽自動車含む)は386万台。100万台近くの新車を輸入し日本車から置き換わると仮定すると、販売の4台に1台がアメ車になる。現状で日本での新車販売に占めるアメ車の割合は1%に満たない。米国車の輸入は無関税であるにもかかわらず売れていない。トランプ氏が「非関税障壁」と批判する車の安全基準を見直しても、米国車の輸入を72倍に増やすハードルは高そうだ。コメはどうだろうか。足元では34万トンを輸入しているが、貿易黒字分を輸入すると、現状の190倍近い6402万トンの米国産米が日本市場に供給される。農林水産省の食料需給表によると日本国内の23年度のコメ生産量は791万トン。食用や加工向けを合計した消費量は計820万トン強。国内で生産されたり消費されたりするコメ約8年分を輸入しなければ貿易黒字は解消できない。そもそも米国のコメ生産量は700万トン程度にとどまり、それだけの量を生産することは難しいとみられる。トウモロコシで黒字を打ち消すには、2億3000万トン弱を買うことになる。24年度は1280万トンを輸入したが、その18倍が必要になる。米国でのトウモロコシ生産量のうち6割、米国での消費量の7割分に相当する。日本の飼料用を含む消費量15年分にあたる。貿易黒字は輸出を減らしても解消できる。野村総合研究所は米政権がかける自動車や鉄鋼への追加関税が維持され、24%の相互関税が発動された場合、日本の対米輸出は4兆3000億円減り、貿易黒字は半分ほどに縮小すると推計する。日本の国内総生産(GDP)を0.7%押し下げると見積もる。 *7-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250520&ng=DGKKZO88779430Z10C25A5FFJ000 (日経新聞 2025.5.20) NASA予算24%減へ、トランプ政権、月探査見直し トランプ米政権が米航空宇宙局(NASA)の予算削減に動き出した。2日に公表した2026年予算案では前年比24%減とNASAとして最大の削減幅になる。米主導で日本なども参加する有人月面探査「アルテミス計画」向けに開発中のロケットなどを見直す。新たな予算案は前年比24%減の188億ドル(約2兆7000億円)とした。NASAの予算は年々増加傾向にあったが、16年予算の水準を下回る可能性がある。米惑星協会は「史上最大の単年度の削減だ」と指摘。「宇宙科学、探査、革新における米国のリーダーシップにとって歴史的な後退を意味する」と批判し撤回を求めた。アルテミス計画で開発が遅れている大型ロケット「SLS」や宇宙船「オリオン」などの打ち上げは27年を最後とする見込み。その後、費用対効果の高い民間サービスの活用を示唆した。月周回有人基地「ゲートウエー」も廃止となる。協力する同盟国にも波紋を広げかねない。日本はゲートウエーの開発などに関わってきた。文部科学省の担当者は「アルテミス計画を含む日米協力の重要性は共有している。米国内の議論を注視したい」と述べた。欧州宇宙機関(ESA)とNASAが進めてきた、火星で採取した砂や石を持ち帰る計画は、予算超過により中止の方針となった。ESAのジョセフ・アッシュバッハー長官は「加盟国と影響を評価する」と述べた。一方、米宇宙企業スペースXの創業者で政権に参加するイーロン・マスク氏が目指す火星探査には10億ドルの予算を充てた。火星探査でスペースXの商機が拡大している格好で、利益誘導との批判もある。政府効率化省(DOGE)を率いるマスク氏は火星移住を視野に火星探査に熱意を燃やしている。「火星に直行する。月は気晴らしだ」とマスク氏は1月にX(旧ツイッター)に投稿し、アルテミス計画を「非効率だ」と批判したこともあった。NASA次期長官には起業家ジャレッド・アイザックマン氏が内定している。同氏はマスク氏が率いるスペースXの宇宙船で宇宙飛行した間柄だ。スペースXは民間ロケットの打ち上げで高シェアを持つトップ企業になっており、新たな人脈も加わってNASAへの影響力はますます強まる。NASAは新たな予算組み替えで月探査の予算は70億ドル以上と強調し、前年比で月探査の予算を増減させたかどうかは明らかにしていない。NASAは「月と火星の有人宇宙探査を加速させるものだ」などとコメントしている。NASAの予算削減に伴う方針変更は、米主導のプロジェクトに参加する日本の宇宙政策にも影響を及ぼしそうだ。廃止が提案されたゲートウエーはアルテミス計画や将来の火星探査で宇宙飛行士の中継基地として使うことが想定されていた。24年には日米間の合意で、日本が月面探査車を開発する代わりに、日本人宇宙飛行士2人をゲートウエーを経由して月面に着陸させるなどとしていた。SLSとオリオンに搭乗すると考えられていたが、27年の打ち上げを最後に運用を終了する案を受けて計画の見直しを迫られる可能性がある。日米のほかロシアなどと国際協力で運用してきた国際宇宙ステーション(ISS)も米国の予算削減の対象となった。米国の方針次第では、日本人宇宙飛行士がISSに滞在し、科学実験などに携わる機会が限られる可能性がある。宇宙政策に詳しい東京大学公共政策大学院の鈴木一人教授は「米国の宇宙政策は政権によって変わることは珍しくない。リスクを覚悟の上で参加しなければならない」と指摘した。 <エネルギーに関する数十兆円の無駄使いと厚生年金積立金の流用> PS(2025年5月31日、6月1、5日追加):エネルギーに関しては、*8-1-1のように、5月22日から10円/Lの定額支援を行うそうだ。原油高・円安による価格高騰対策として2022年1月に始まったガソリン補助金は計約7兆円に上るが、この補助金は生産性向上に全く繋がらず、地球温暖化防止には逆行しているため、国民の血税を使った選挙目的のばら撒きとしか言えない。そして、これだけでも*8-3の「映像配信業者スタッフへの人件費支払い、又は、キャンセル料約100万円」の700万倍だが、前者は問題にされず、後者が公職選挙法違反と指摘されるのは、常識外れも甚だしいのである。 また、*8-1-2は、①フクイチの後始末は遅遅として進まず、損害賠償費・除染費・廃炉費等の事故処理費用は現在でも総額23兆円超で上ぶれを繰り返し、廃炉にどれだけの金と年月がかかるか不明 ②事故処理費用は国が立て替えるが、後で全国の利用者が支払う電気料金で回収 ③東電は柏崎刈羽原発の再稼働が見通せず、国が認定した再建計画年4,500億円の利益にはほど遠い ④1基動くと年1千億円の収支改善効果を見込むが、安全対策費に計1兆円超 ⑤テロ対策施設建設も4~5年遅れて期限に間に合わない ⑥政府急ごしらえの事故処理の枠組みも実現性・責任の曖昧さ等多くの問題をかかえて要点検 ⑦東電経営陣の社会的責任は重大で、業務効率化の徹底・成長分野の再エネ拡大・新たな収益源開拓・他社との事業再編等あらゆる努力が必要 ⑧その場しのぎを続ければ事故処理の基盤は揺らいで国民負担が膨らむ ⑨現実的な再建計画への見直しが避けられず、原発頼みには無理があるため、東電はいまの枠組みを検証して原発に頼らない持続的な道筋を示す必要 としている。 ①の「フクイチの損害賠償費・除染費・廃炉費等の事故処理費用は現在でも総額23兆円超で上ぶれを繰り返し、廃炉にどれだけの金と年月がかかるか不明」というのは、全くその通りである。また、③④についても、中越沖地震(2007年7月16日、新潟県中越沖を震源とするマグニチュード6.8、原発建設時の想定を超えた地震動)で、3号機タービン建屋外部の変圧器が火災を起こし、6号機では放射能を含んだ水が外部漏洩し、7号機でも主排気筒から放射性物質が検出され、説明文(https://www.shippai.org/fkd/cf/CZ0200804.html 参照)には1年間に自然界から受ける放射線量2.4ミリシーベルトの1千万分の1程度と書かれているが、一般人は自然放射線の限度が1mSv/年以下で、追加線量は0に超したことがないため、国や東電がどう合理化しようと新潟県民が原発再稼働に反対するのは無理もない。さらに、*8-1-3の原発建設時には“想定外”にした火山噴火リスクも考慮しなければならず、⑤のテロ対策施設建設は4~5年遅れて期限に間に合わず、原発への武力攻撃は未だ“想定外”であるため、原発近くに使用済核燃料を山ほど詰め込んだまま、原発を稼働させて安全保障や食料安全保障などと言うのは矛盾だらけなのである。さらに、事故リスクが0でないことは最初から明らかだったのに、②の「膨大な事故処理費用を一時的に国が立て替え、原発に賛成しなかった国民まで含む全国の電力利用者が支払う電気料金で後から回収する」というのは、原因を作った人のみに責任を負わせるのではない理不尽な話だ。つまり、⑥⑦⑧⑨のように、フクイチ事故時に政府がその場しのぎで急ごしらえした事故処理の枠組みは、責任の所在や実現性に多くの問題をかかえていることが明白であるため、無駄に何十兆円も国民負担を膨らませないよう、現実的な事故処理や東電再建計画の見直しが不可欠なのだ。そして、これらを議論すれば、自然と原発頼みには無理があり、再エネを拡大しなければならないという結果になるのである。 ![]() ![]() ![]() 2021.12.23日経新聞 2024.9.10東北放送 2025.2.13東北大学 (図の説明:左図は、フクイチ処理水の放出図で、フクイチは事故後も「崩壊熱」を出しており、これを冷却した際の熱が何処に放出されているかについては書かれたものがない。しかし、事故を起こしていない原発でも、タービンを回した蒸気は冷却水として取水した海水で冷やされて元の水に戻り、蒸気を冷やしたあとの海水は取水時より約7度程度上がって海に戻されるので、これを「温排水」と呼ぶ。そして、この温排水は海を暖めるため、電気事業者は温排水の拡散実態を調査して対策を講ずる必要がある。中央と右の図は、三陸沖の海水温が2023年6月までの2年間で6℃上昇し、これは世界最大水準の異変であることを示しているが、この異常現象は地球温暖化や黒潮の流れの変化よりもフクイチから放出される温排水の影響と考えるのが自然だ) *8-2-1は、⑩小泉農相が小売価格で5kg2,000円の米価では生産者は「やっていけない」との認識を表明 ⑪将来的には生産費の上昇も踏まえた適正水準を模索する考え ⑫石破首相は5キロ3,000円台の米価を掲げ、将来的には5キロ4,000円でも買える経済を目指すべきとした ⑬過度な米価下落への生産者の不安を訴える声が野党だけでなく与党からも ⑭米価下落時の対応は農家の収入減を穴埋めする収入保険の拡充を示唆し、新たな直接支払制度の提案には賛意は示さなかった 等としている。 農水省は「米の自給率は100%で食料自給率に占める割合も大きく、日本人にとって米は食料安全保障の要」としており、政治家は、⑩~⑭のように、こぞって「食料安全保障には生産費の上昇を踏まえた適正価格で生産者の持続可能性を維持しなければならず、その適正価格とは5キロ3,000~4,000円である」としている。しかし、「米の自給率がほぼ100%か?」については、*8-2-3のように、日本は重要な農業資材である肥料を100%輸入しているため、ロシアのウクライナ侵攻と円安による肥料価格高騰に喘いでおり、肥料を輸入できなければ米はじめ農産物の生産ができないため、見かけ上は日本で作っているように見える米も、戦争が起これば生産できず、実際には自給していると言える状況にない。そのため、食料安全保障のために生産費上昇を踏まえた適正価格で生産者の持続可能性を維持する理由は、今のところないのである(参考:https://cigs.canon/article/20250305_8672.html)。さらに、*8-2-2のように、日本のエネルギー自給率は12.6%どまりで、農業で使う電力始め化石燃料等のエネルギー価格も高騰したため、農業用水利施設の電気代や燃油費の2020~23年度平均価格との差額の7割を、政府が9月末まで交付するのだそうだ。しかし、これも、エネルギーの輸入が途絶えれば農作物もできないというお粗末な事態を改善するのではなく継続させるだけの膨大なバラマキにすぎない。本当は、農業地帯は風力発電・小水力発電の適地であるため、電力を再エネで賄うように補助して農業機械も電化しておけば、日本のエネルギー自給率は上がり、農家は売電収入を副産物にすることもできたのだ。 ![]() ![]() 2022.5.28クルーガー 2023.8.10日経新聞 (図の説明:左図のように、日本は肥料原料を100%輸入しており、2022.5.28時点で中国からの輸入が最も多い。また、右図のように、ロシアは世界最大の肥料輸出国である。なお、ロシアのウクライナ侵攻が始まったのは2022年2月24日で、西側先進国がロシアに対して制裁を行なったため、ロシアから日本への輸入も侵攻直後に途絶えて肥料価格が急上昇したが、その後、中国から迂回輸入が行なわれたためか次第に肥料価格は下がった。しかし、いずれにしても、肥料や飼料を輸入しながら生産する農産物は、食料自給率に入れるべきではないだろう) このような中、*8-4-1・*8-4-2は、⑮基礎年金の目減り防止目的として政府が国会提出した年金制度改革法案が衆院で可決・措置を発動するかは5年後に先送りした ⑯発動された場合、男性63歳・女性67歳が「損益分岐点」 ⑰男性は1963年度生まれ(現在62歳)、女性は1959年度生まれ(現在66歳)以降で受給総額プラス ⑱法案には、モデル世帯(夫婦2人)の年金を2で割り、実質0%成長が続き、かつパート主婦らの厚生年金の加入拡大を実施した場合の総額が減る世代への影響を緩和する措置も ⑲厚生年金の受給割合が少ない低年金の人ほど恩恵が大きく、月6万8000円の基礎年金のみ受け取る1960年度生まれ(現在65歳)の男性は受給総額37万円プラス ⑳6万3000円の基礎年金と5万円の厚生年金(報酬比例部分)を受け取るケースは18万円マイナス ㉑厚労省は2024年7月の財政検証で経済成長が実質0%の場合、モデル世帯は基礎年金の給付水準が30年後に約3割低下すると見通した ㉒基礎年金だけを受給する自営業者や就職難で厚生年金の加入期間が短い氷河期世代は給付水準低下の影響を大きく受ける ㉓このため厚労省は厚生年金の積立金を活用して基礎年金の底上げを図る案を提起 ㉔実施すれば基礎年金のマイナス幅は1割減に抑えられる ㉕煮えきらなかった自民党が基礎年金底上げ策の復活を受け入れ、将来的にほぼすべての受給者の年金水準が上がる ㉖その財源の議論は先送りされ、底上げ策を実施するかどうかは2029年まで不透明 ㉗基礎年金のみの人や厚生年金が少ない人には恩恵が大きいが、将来的に新たな国庫負担が見込まれ、財源の目途は立っていない ㉘自民・公明・立憲の3党が当初政府案を了承した ㉙「平均的収入で40年間働いた夫と専業主婦の妻」というモデル世帯の夫婦が受け取る年金額の半分を「1人分」とし、65歳時点の平均余命に基づいて男性は20年間、女性は24年間、年金を受給すると仮定 ㉚実質0成長と仮定すると、62歳以下の男性・66歳以下の女性は受給額が増え、38歳以下の男性は248万円・女性は298万円の増額 ㉛70歳までの試算しか示されていないが、70歳男性で23万円、女性で16万円減額 ㉜1階は基礎年金部分、2階は払った保険料に応じて支払われる厚生年金の所得比例部分で、積立金は2024年度末に約290兆円 ㉝厚労省の試算によると今後100年間で105兆円が1階に充てられる見通しだが、基礎年金の底上げ策でこの部分を約65兆円増やし、170兆円程度にしてマクロ経済スライドを早めに止める ㉞底上げ策のため厚生年金積立金から基礎年金に回す65兆円のうち、約10%が1号の人の基礎年金に充てられ1号の人の基礎年金も増える ㉟2020年時点で1号のうち働いている人は約39%、無職・自営業の人は約58% ㊱基礎年金の半分は国庫負担で、厚労省の試算では底上げ実施で70年度には2.6兆円が新たに必要 ㊲今回の年金関連法案はすべての国民の老後の安心に関わる大きな制度改正 としている。 このうち、⑮は、そもそも基礎年金の目減りは「物価スライド制」だった公的年金制度を、㉝の「マクロ経済スライド制(年金財政の均衡を保つことができない場合に目減りさせる仕組み)」に変更した上に、目減りを加速させるため物価を上昇させたことが原因であるため、元に戻せばすむことだ。また、現在、年金財政の均衡を保つことができなくなっているのは、㉜㉝㉞のように、多くの人が多額の年金保険料を支払って余裕のある年金積立金から勝手に他の年金に流用して年金積立金を減らし、年金支給時に必要となる金額(=要支給額)を積み立ててこなかったからにほかならない。 また、㉒㉓㉔㉟のように、基礎年金だけを受給する自営業者や就職難で厚生年金への加入期間が短い“就職氷河期世代”は給付水準低下の影響を大きく受けるが、自営業者は定年なく働き続けることを前提としていたので年金受給額が少ないのであり、これは、定年のあるサラリーマンが所得比例部分の年金保険料も支払って厚生年金に入っていたのとは条件が異なる。さらに、“就職氷河期世代”の低年金は、男女雇用機会均等法で雇用における男女平等が義務化された時に、非正規雇用という社会保険に入れない雇用形態を作って低年金者を生み出した厚労省・経産省とそれを大いに利用してきた企業に責任があるのであって、所得比例部分も含む高い年金保険料を支払ってきた厚生年金の被保険者に責任があるわけでは全くない。 にもかかわらず、⑯⑰㉚㉛及び下の右図のように、「世代間の不公平是正」などとして男性63歳・女性67歳を損益分岐点とし、それ以下の世代は受給総額がプラスになるが、それ以上の世代はマイナスになり、70歳以上についてはマイナスになる金額すら表示せず改悪に改悪を重ねており、「将来世代に責任を持つ」と正論を言いながら、実は現在の世代にすら責任を持たず、年金によって国民の老後に責任を持って安心を与える政府とはとても言えないのである。また、⑲⑳のように、厚生年金の受給割合が少ない低年金の人ほど恩恵が大きく、合計11万3000円(基礎年金6万3000円と厚生年金の報酬比例部分5万円)を受け取る人は、新人の初任給が30万円超の時代に高年金(!)としてマイナスになるのだそうで、この感性は戦後の日本を少なくともここまでにしてきた高齢者をないがしろにしている。さらに、⑱㉑㉙㉟のように、モデル世帯を未だに「サラリーマンの夫と専業主婦(“無職”)の夫婦2人」とし続けてパート主婦を3号被保険者にしたまま本質的な制度変更は行なわず、不公正を積み重ねているのは重大な問題である。そのため、㉕のように、自民党が“基礎年金底上げ策”を保留したことには賛成だったが、㉘のように、周囲の反対で流用復活を受け入れたのには反対だ。 なお、㉖㉗㊱のように、年金はじめ社会保障に関しては「財源がないから消費税を増税すべき」という主張が必ず出るが、「社会保障は消費税で賄わなければならず、消費税は全額消費者に転嫁すべき」などと決め、社会保障を消費税増税の人質にするような質の悪い主張がまかり通っている国は日本だけだ。また、国債残高がGDPと比較して著しく高いのも日本だけだが、これは上に書いたように、やりたい放題の無駄なバラマキや無駄使いをしているからで、㊲の「今回の年金関連法案は全ての国民の老後の安心に関わる大きな制度改正」どころか、筋の通らない主張をして負担増・給付減を繰り返してきた日本政府のやり方の弥縫策にすぎない。 ![]() ![]() ![]() 2024.10.18静岡新聞 2025.1.10JIMO 2025.5.27テレ朝 (図の説明:左図のように、日本の年金水準「所得代替率」は38.8%で、OECD平均61.4%の2/3しかない。さらに、中央の図のように、平均年金月額は、厚生年金1号でも男性16万3,875円に対し、女性は10万4,878円と男性の2/3である。そのような中、右図のように、年金保険料を基礎年金分しか支払っていなかったもしくは全く支払っていなかった人に対し、「高年金」だからと厚生年金積立金から流用して基礎年金の底上げをするという厚生年金減の毒饅頭を多くの政党が支持したことを決して忘れてはならない) ![]() ![]() ![]() 2025.5.28西日本新聞 2025.5.21東京新聞 2025.5.28日経新聞 (図の説明:左図のように、各政党がこぞって主張した年金積立金流用の理由は「就職氷河期世代の救済」だったが、就職氷河期世代はこれから働いても20年働けるのである。一方、すぐ上の段の左と中央の図のように、現在、年金給付を受けている世代は、今でも所得代替率がOECD平均61.4%の2/3しかなく、女性はさらにその2/3しかない上、物価水準に年金水準は全くついて行っていない。そのため、中央の図のように、基礎年金6.8万円+厚生年金13.2万円=20万円の高年金の人《これが高年金!?》は、世界水準ではもともと低い年金のさらなる削減にしかならない。なお、右図のように、今回の改悪で得をするのは、現在63歳以下の男性と67歳以下の女性とされているが、現役世代が自分たちに都合の良い政策のみを主張するのは、教育が悪かったのだと言わざるを得ない) *8-1-1:https://mainichi.jp/articles/20250521/k00/00m/020/308000c (毎日新聞 2025/5/22) ガソリン補助 総額7兆円も「値下げ実感なし」 制度は迷走の兆し 「小売価格に反映されているのか分からない」。物価高にあえぐ消費者から国のガソリン補助金の効果を疑問視する声が上がっている。政府は22日から、1リットル当たり最大10円の定額支援に切り替えるが、一部野党から見直しを求める声が浮上。7月の参院選でのアピール材料の一つとして政争の具になりつつあり、「出口」に向かうはずの補助制度が迷走し始めている。 ●「1万円で給油1、2回」 「7年前に仕事を始めた時は1万円で3回は給油できたが、今では1~2回。ガソリン代が手取りを圧迫している」。東京都大田区の都道から一歩入った住宅街。児童や生徒が遊ぶ小さな公園の脇に軽バンを止め、運転席で休憩中だった軽貨物ドライバーの男性(30)=川崎市=が不満をぶちまけた。軽貨物ドライバーは個人事業主が多く、男性もガソリン代を自ら負担している。配達など自動車、バイクがなければ務まらない仕事や、車での移動が中心の地方では、ガソリン価格の変動が生活を直撃する。公園近くで配達中だった同業の30代男性は「野菜もコメも高くなった。国に何とかしてほしいが、ガソリン補助金の効果を感じたことはあまりない」と突き放した。現在のガソリン補助金は1月から、レギュラーガソリンの価格が1リットル当たり185円程度になるように支給してきた。補助金の支給先は石油元売り会社。経済産業省が毎週公表する補助金の支給額を値引きして小売業者に卸す。石油元売りはその後、政府に申請することで値引き分の補助金を受け取ることができる仕組みだ。経産省によると、補助金事業に参加しているのは石油元売りと商社系を含む34企業・団体。ガソリンスタンドなどの小売業者や消費者に直接支給する方法を採らないのは、店舗や役所での事務作業が膨大になるためだという。ガソリンスタンドの数は1995年の約6万軒から約2万7000軒(2024年3月末)まで減少しているが、それでも元売り業者の数と比べて桁違いに多い。石油元売りには「補助金でもうけている」といった批判の声が届く。業界関係者は「補助金を受け取っても利益は増えない。その上、システム対応や手弁当で行っている煩雑な申請作業でマイナスなのに」と肩を落とす。 ●値下げに「時間差」 なぜガソリンの小売価格が下がった実感を持たれにくいのか。小売価格は一般的に、各小売業者が自由に決められる。補助金分を単純に値引きすれば小売価格も下がるはずだが、店舗には前に仕入れたガソリンの在庫があり、その時の仕入れ価格と採算が合わなくなる可能性があるため、価格をすぐに下げられない事情がある。このため、補助金分を小売業者が間接的に値引きするのは、安く仕入れたガソリンが店頭に出回る時まで遅れる。経産省によると、「大体2~3週間後」に価格に反映されるという。加えて、ガソリンはもともと、製油所からの輸送距離や競合相手の有無、立地、人件費などで価格に地域差がある。補助金も原油価格の下落に伴い補助を縮小してきたため、利用するタイミングや店舗によって、前回よりも高く感じることもある。経産省が毎週公表している補助金適用後の全国平均と乖離(かいり)が生じるのはそのためだ。一方で、小売業者をむやみに批判できない事情もある。帝国データバンクによると、24年のガソリンスタンドの倒産は22件、休廃業は162件で、新型コロナ禍前の水準に迫り、増えている。電気自動車の普及や若者の車離れなどを受けて景況感も悪化。セルフ式の給油所が増えるなど、経営の合理化が進んだとはいえ、人件費の高騰や物価高の影響もあり、厳しい経営を迫られている。 ●定額制「週2円ずつ下がるイメージ」 政府は22日から、ガソリンなどの燃料油補助金の仕組みを定額支援に切り替える。価格の急変動は駆け込み客の混雑や買い控えを引き起こしかねないため、最初の週(22~28日)は全国平均の小売価格が5円下がるように、石油元売りに補助金を支給する。最初の支給額は1リットル当たり7・4円に決まった。値下がりは段階的で小売価格がすぐに10円下がることはない。給油所にはこれまでの在庫があるためだ。資源エネルギー庁の担当者は「毎週2円程度のペースで価格が下がっていくイメージ」と説明する。変更前の制度には目標となる基準価格(1リットルあたり185円)があったが、定額支援では、補助上限の10円に達した後は、支給額は10円のまま変わらない。このため、原油価格が高騰すれば、全国平均の小売価格がこれまでの抑制目標だった185円を上回る可能性もある。反対に、原油安の局面ではこれまでの仕組みより価格が10円下がるメリットがある。ガソリン以外の油種は、軽油10円▽灯油・重油5円▽航空機燃料4円――が補助の上限となっている。最初の週である22~28日の支給額は、軽油はガソリンと同じ7・4円で、それ以外の燃料油は上限額での支給が決まった。今回の定額支援は、ガソリン税の上乗せ分である「暫定税率」(25・1円)の廃止が実現するまで継続される。廃止について自民、公明両党と協議中の野党・日本維新の会は「暫定税率」を廃止するのが筋だとしている。実現すれば、7月の参院選のアピール材料になるため、緊迫した協議が続いている。 ●これまでの補助金の総額は約7兆円 原油高や円安による価格高騰対策で22年1月に始まったガソリン補助金は、23年1月から補助額を段階的に縮小してきたが、価格の再上昇を受けるなどして延長を繰り返してきた。与党幹部は「バラマキではない」と主張するが、これまでに支給された補助金は約7兆円に上る。経産省内では「補助金はその場しのぎで、かつ化石燃料の利用を促している。安価な脱炭素燃料などを開発するための投資に切り替えるべきだ」との声が少なくない。補助水準は未定だが、7~9月には電気・ガス補助金の復活も決まっている。先の軽貨物ドライバーの男性(30)は、神奈川県が中小貨物運送事業者に支給している24年の「燃料高騰対応支援金」を受け取った。軽貨物の「黒ナンバー」車向け支給額は1台当たり8000円とすずめの涙程度だが「県は現金振り込みなので、ありがたい」と話す。各自治体は今年もこうした支援を継続している。石油の流通政策に詳しい桃山学院大学の小嶌正稔教授(石油産業史)は「石油元売りへの補助金継続は絶対にあり得ない。補助金により元売り各社の卸売価格の変動幅は同じ状態が続き、本来の競争が消えてしまった」と批判。「地域の状況に応じて、事業者や消費者に必要な対応ができる自治体ベースの支援を拡充すべきだ」と話している。 *8-1-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16221368.html (朝日新聞社説 2025年5月26日) 東電と原発事故 責任貫く道筋を示せ 原発事故を起こして国の管理下に置かれた東京電力の再建が、不透明さを増している。業績は目標に届かず、再建計画の見直しも遅れる。何十年も続く後始末の責任を、まっとうできるのか。政府と東電はいまの枠組みを検証し、原発に頼らない持続的な道筋を示す必要がある。14年前の福島第一原発事故で東電は経営危機に陥ったが、損害賠償や除染・廃炉に支障が出ないよう、政府が実質国有化して延命させた。事故処理費用の想定は総額23兆円あまり。賠償費を国が立て替え、後から全国の電気利用者が払う料金で実質的に回収する制度をつくるなど、異例の政策支援を続けてきた。国が認定した再建計画は年4500億円の利益を目標に掲げるが、近年の実績はほど遠い。設備投資の支出がかさみ、厳しい資金繰りが続く。事故処理や脱炭素、供給力強化に必要な資金を安定的に稼げるか、懸念は強まる。いまの計画は24年度内に改定する予定だったが、今年度にずれ込んだ。業績向上の柱と期待する柏崎刈羽原発をいつ再稼働できるか、見通せないためという。だが、原発頼みそのものに無理がある。1基が動くと年1千億円の収支改善効果を見込む一方、安全対策費は計1兆円を超え、重荷になっている。不祥事が相次いだ東電への地元の不信は根強く、再稼働に必要な新潟県知事の同意の手順ははっきりしない。テロ対策施設の建設も予定より4~5年遅れ、期限に間に合わない見通しだ。現実的な再建計画へ、見直しは避けられない。東電は原発事故の被害者への償いと福島復興の使命を成し遂げるため、存続を許された特殊な企業だ。経営陣の社会的責任は重大で、業務効率化の徹底はもちろん、成長分野である再生可能エネルギー拡大や新たな収益源の開拓、他社との事業再編など、あらゆる努力が求められる。事故処理の枠組み自体も点検が欠かせない。もともと政府が急ごしらえしたもので、実現性や責任のあいまいさなど、多くの問題を抱える。処理費用は上ぶれを繰り返してきた。特に廃炉は、どれほどのお金と年月がかかるか、誰にもわからないのが実情だ。東電の株価も低迷し、国有化から抜け出す展望は開けない。その場しのぎを続ければ、事故処理の基盤は揺らぎ、国民負担がいたずらに膨らみかねない。計画見直しは、めざす姿と必要な手立てを練り直す好機だ。政府と東電は、各自の役割と説明責任を果たさなければならない。 *8-1-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16217232.html (朝日新聞社説 2025年5月20日) 富士山噴火 火山灰への備えが急務 この半世紀、日本は多くの火山災害に見舞われてきたが、科学的には中、小規模の噴火だった。大規模な噴火はしばらくは経験していないものの、いずれは直面する。備えを急がなければならない。火山灰への対策として、内閣府は防災指針をまとめた。気象庁は火山灰警報を導入する方針を決めた。大規模噴火は富士山などで繰り返されてきた。火山から遠くても被害がある。1914年の桜島噴火では関東、東北にも火山灰が降った。1783年の浅間山噴火は関東平野でも大きな被害があった。複合災害の恐れもある。1707年の富士山噴火は南海トラフ地震の49日後だった。火山灰は、普通の灰とは違い、ガラスの破片のような砂で、吸い込んだり目に入ったりすれば健康にも影響する。自然には消えず、雨でも流れにくく、除去するのは難しい。水を含めば重くなり、道は滑りやすくなる。電力設備や電子機器にも影響し、停電、航空機や鉄道の運休、通信の障害、上下水道の被害などで社会、経済活動が深刻な打撃を受ける。噴火時の風向きで影響を受ける地域も大きく変わる。どれぐらい続くかの予測も難しい。内閣府の有識者検討会がまとめた指針は、富士山の大規模噴火に備え、危険度を4段階に分けた避難の必要性を示した。自宅で生活を続けることを基本としつつ、降灰が30センチ以上になれば原則避難を求める。全国の活火山への応用も想定している。気象庁は火山灰の警報や注意報の運用を数年後に始めることを目指す。火山灰の積もる深さが0・1ミリ以上3センチ未満で注意報、3センチ以上30センチ未満は警報。降雨時に木造住宅の倒壊の恐れがある30センチ以上は、「一段強い呼びかけ」を発表する。1707年の富士山と同程度の噴火が起きた場合、降灰は静岡~福島県まで11都県に及び、相模原市付近で30センチ以上、東京・新宿付近で3センチ以上と予測される。除去が必要な火山灰は東京ドーム400杯分、東日本大震災の廃棄物の約10倍で、除去する手段も廃棄方法も難題を抱える。物流への影響も深刻で、政府は1週間以上の備蓄を呼びかける。地震や風水害への備えに加えて、火山灰対策も必要だ。目の保護やマスクの準備、積もった火山灰の処理なども考えておく必要がある。日本の都市が高度に発展した後では未経験の災害だけに、防災対応の計画や準備を急ぐ必要がある。国から自治体に対しての情報提供や計画作りの支援も欠かせない。 *8-2-1:https://www.agrinews.co.jp/news/index/309164 (日本農業新聞 2025年5月29日) 野党トップの質疑に農相 米価抑制は当面の措置 衆院農水委、2000円では「やっていけない」 衆院農林水産委員会で28日、小泉進次郎農相の所信に対する質疑が始まった。小泉農相は、小売価格で5キロ2000円の米価では生産者は「やっていけない」との認識を表明。当面は政府が介入して価格抑制に動く一方、将来的には生産費の上昇も踏まえた適正水準を模索する考えを示した。米の増産と価格下落時の安全網にも言及した。この日、野党は立憲民主党の野田佳彦代表、日本維新の会の前原誠司共同代表、国民民主党の玉木雄一郎代表らが出席し、米政策を中心に小泉農相の考えをただした。同委員会に党のトップがそろうのは極めて異例。石破茂首相が5キロ3000円台の米価を掲げたことについて、小泉農相は、当面の米価に触れた発言だとの認識を示した。将来的には「(同)4000円でも買える経済」を目指すべきだとした。一方、適正米価を冷静に議論するため、「今は下げていかなければならない」と述べた。玉木氏への答弁。過度な米価下落に対する生産者の不安を訴える声が、野党に加え与党からも上がった。自民党の鈴木貴子氏は「政治が出すメッセージはそれ(米価抑制)ではない」と述べた。小泉農相は、価格抑制の構えを強く発信しなければ「局面は変えられない」とした。米の生産量を巡り、小泉農相は「増やしていきたい」と発言。石破首相が以前から生産調整を見直す意向だったとした上で、連携して新たな政策を検討する考えを示した。「作るだけ作って買い上げなきゃ駄目だというのは違う」とし、需要に応じた生産を基本とする方針も示唆した。玉木、野田両氏への答弁。米価下落時の対応として、農家の収入減を穴埋めする収入保険の拡充を示唆した。新たな直接支払制度を提案する野党に賛意は示さず、「全てテーブルに載せた上で(答えを)見いだしていかなければいけない」と述べるにとどめた。玉木氏への答弁。 *8-2-2:https://www.agrinews.co.jp/news/index/309162 (日本農業新聞 2025年5月28日) 水利施設の電気代補助 6月から高騰分の7割 物価高対策で農水省 農水省は28日、農業用ダムや揚排水ポンプといった農業水利施設の電気代を補助すると発表した。6月1日から、電力消費のピークを過ぎる9月末までの燃油費も含めたエネルギー価格について、2020~23年度の平均価格との差額の7割を交付する。エネルギー価格が高騰する中、水利施設の機能発揮に向けた負担を軽減する。対策は、22年度以降、毎年措置されてきた。対象となる施設は、国が管理費を補助する「基幹水利施設管理事業」または「水利施設管理強化事業」の支援対象の農業水利施設。もしくは、維持管理費に占めるエネルギー価格の割合が25%以上の農業水利施設。本年度から新たな施設で補助を活用したい場合、省エネ化やコスト削減の取り組みを2つ以上行うことが要件。同省が示したメニューから選び、26年度から3年間実施する。取り組みを記載した「省エネルギー化推進計画」を策定する必要がある。農業水利施設の管理費のうち、平均4分の1を電気料金が占めるとされ、エネルギー価格の上昇で受ける影響が大きい。 *8-2-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD268MU0W3A720C2000000/ (日経新聞 2023年8月10日) 肥料「迂回輸出」に走るロシア 中印シフト、食料不安に ロシアとベラルーシが肥料の迂回輸出に動いている。黒海の海上輸送からロシア国内の鉄道などにルートを切り替え、中国やインドへの供給を拡大している。ロシアは世界首位、ベラルーシは4位の肥料輸出大国。貿易取引の構造変化は世界の食料生産を左右しかねない危うさを伴う。 ●「黒海」合意停止の陰に肥料のパイプライン ウクライナから小麦などを海上輸送する「黒海回廊」の国際合意が7月18日、ロシアの延長反対で停止された。ロシアはウクライナ南部のオデッサなど港湾都市にも攻撃を加え、世界的に食料不安が高まっている。だが合意停止に肥料輸出が絡んでいたことはあまり知られていない。6月5日、ロシア南部トリヤッチとオデッサを結ぶアンモニアのパイプラインで爆発が起きた。ロシアとウクライナは互いに相手の攻撃だと主張し、原因は不明だが、ロシアのペスコフ大統領報道官はその直後に黒海回廊の合意停止を示唆した。アンモニアは窒素肥料の原料で、2022年2月のウクライナ侵攻以前はこのパイプラインがロシアの主要な輸出ルートだった。黒海回廊をめぐる協議でロシアはパイプラインを通じたアンモニア輸送の再開を求めていた。化学肥料の三要素である窒素(N)・リン酸(P)・カリウム(K)は生産地が偏っている。ロシアはそれら全てを産出する世界最大の肥料輸出国。国連食糧農業機関(FAO)のデータによると、21年の世界輸出量でロシア産は全体の17%、ベラルーシ産は6%を占める。とくにカリウムは両国が42%の世界シェアを握っている。 ●ロシア、肥料輸出で収益拡大 国際食糧政策研究所(IFPRI)ディレクターのシャーロット・ヒバブランド氏は「ロシアは明らかに肥料の輸出に関心を持っている。肥料価格が上昇し、ウクライナでの戦闘が続くなか、輸出による収益の確保は一段と重要になっている」と指摘する。IFPRIの分析によると、22年のロシアからの尿素肥料やリン酸二アンモニウム(DAP)の輸出量は前年を上回っている。カリウムは減少したが、なお多くの国への肥料の輸出は継続されている。しかも肥料の価格高騰によって「輸出から得られる収益は前年水準をはるかに上回った」(ヒバブランド氏)。中国の輸出規制などで21年秋から上昇していた肥料価格はウクライナ侵攻ではね上がり、世界銀行の商品価格指数(10年=100)は22年4月には294に達した。ただ市場の予想に反してロシアの輸出が続いているためか、直近の今年7月は146とピークの半分以下になっている。肥料輸出は米欧の経済制裁の対象外とはいえ、国際金融決済などの制約はある。それでもロシアの輸出がさほど影響を受けていないようにみえるのはロシアに対して友好的か、強く非難する立場を取らない国々に輸出取引が迂回されているためだ。インドの肥料調達先の変化がそれを物語る。IFPRIによると、昨年、ロシアからのDAPの輸入量は前年の約8倍に増え、ロシア産のシェアは2%から11%に急拡大した。ロシア産尿素の輸入量も約9倍に膨らんだ。 ●中国向けに「記録的な輸出」 ロシアと同盟関係にあるベラルーシは中国向け輸出への傾斜を強める。国際肥料協会(IFA)は「23年第1四半期には記録的な量のカリウムがベラルーシから中国に輸出された」と分析する。 ベラルーシにとって迂回輸出はより切実な問題だ。欧州連合(EU)がルカシェンコ大統領の人権侵害に対して、21年にカリウムなどの輸出を規制する経済制裁を決めたため、隣国リトアニアなどEU加盟国を経由してバルト海から肥料を輸出するルートは閉ざされている。ロシアとベラルーシはどのようなルートで肥料を輸出しているのか。IFAのローラ・クロス市場戦略情報ディレクターは「ロシアは黒海から輸出していた肥料のほとんどをバルト海経由に切り替え、中国に向かう国内鉄道でも輸送している」と語る。ロシア国内のルートは特定できないが、シベリア鉄道か、ロシアから中央アジアを経由して中国に至る中欧班列を利用しているとみられる。肥料を低コストで大量に運ぶには海上輸送が有利であり、ロシアはインドやブラジルなどへの肥料輸出の拡大に向け、バルト海に面する北西部ウスチ・ルガ港や北極圏のムルマンスク港などの能力増強に取り組んでいる。化学肥料の生産拠点であるペルミが内陸部に位置するため、そこで生産された肥料の一部を中国に鉄道輸送しているもようだ。クリミア半島の対岸にあり、黒海に面するタマン半島ではアンモニアなど肥料の積み替え施設の建設が進んでいる。ウクライナ国内を通るパイプラインでオデッサに輸送する従来のルートに代えて、タマン港から黒海経由でアンモニアを輸出する新ルートを構築するためとみられる。バルト海への輸送をEUにブロックされたベラルーシはどうか。IFAのクロス氏は「ロシアの鉄道網を使って中国にカリウムを輸出している。今のところ数量は限られるが、いったんロシアに輸出してバルト海から海上輸送するルートもある」と話す。 ●崩れる肥料供給バランス ウクライナ侵攻による世界的な肥料高騰は一服したが、ロシアやベラルーシが肥料の輸出先を中国やインド、ブラジルなどにシフトしているのは確か。米欧もカナダ産のカリウムやナイジェリア産の尿素などの輸入を増やしているが、国際取引の急激な変化は肥料供給のバランスを崩しかねない。実際にバングラデシュは昨年、カリウムの調達難に直面した。ロシアとベラルーシからの輸入に必要量の約8割を頼っていたためで、カナダやヨルダンに緊急輸入を要請せざるを得なくなった。気になるのは中国の動きだ。窒素とリン酸の世界最大の生産国だが、国内供給を優先するとの理由で21年秋から肥料の輸出規制を始めた。IFPRIによると、22年の中国からのDAPの輸出量は前年比で43%、尿素は47%それぞれ減少した。ロシアとベラルーシからはカリウムなどの輸入を拡大し、肥料の安定確保に走っているようにみえる。言うまでもなく肥料の使用量が減れば、農業生産方式を変えない限り、食料生産は減少する。IFAは窒素肥料の投入量が4%減るとコメの生産量は2.3%減少すると試算する。7月20日、インドが高級品のバスマティ米を除く白米の輸出を禁止すると発表した。豪雨で農作物が被害を受けたうえ、国内の輸送網が寸断されたのが原因だ。インドは国際取引されるコメの約40%を供給する世界最大のコメ輸出国であり、ほかの輸出国のタイやベトナムではコメ価格が急上昇している。肥料や食料の確保は各国とも「自国優先」に傾きがち。ロシアのウクライナ侵攻以降、グローバルなサプライチェーン(供給網)は揺れている。国際価格の高騰はピークを過ぎたが、肥料や食料の供給ショックが終わったと考えるのはまだ早い。 *8-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/384987 (東京新聞 2025年2月10日) 「石丸伸二氏は明らかに支払ってはいけない人に報酬を支払っている」…市民団体が公職選挙法違反の疑いで告発 昨年7月の東京都知事選で、映像配信業者のスタッフに人件費の支払いを約束したとして、市民団体が10日、候補者だった地域政党「再生の道」代表の石丸伸二氏(42)を公職選挙法違反(買収)の疑いで、東京地検に告発した。 ◆昨年の都知事選、「キャンセル料」で97万円を支払ったか 告発状によると、投開票の2日前に開いた決起集会で、配信業者のスタッフ約10人に報酬約45万円を支払う約束をしたとしている。公選法は、車上運動員らを除き、選挙運動は原則無報酬と定めている。告発後に記者会見した「検察庁法改正に反対する会」の岩田薫代表は「明らかに支払ってはいけない人に報酬を支払っている」と指摘した。石丸氏は10日、自身のホームページに「当局の指示に従います」とのコメントを出した。今月6日の会見での石丸氏側の説明によると、業者へのライブ配信の発注について、陣営幹部が集会の開催直前に公選法違反の恐れに気づき、キャンセルを指示したとしている。実際には無償の「ボランティア」名目で業者が配信業務を担った。その後、陣営は業者にキャンセル料名目で約97万円を支払った。当初の見積書には人件費約45万円が計上されていたため、人件費を外した内容の見積書が作成されたという。 *8-4-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16223172.html?iref=pc_shimenDigest_sougou2_01 (朝日新聞 2025年5月28日) 将来の年金、課題残し合意 底上げ策復活、今国会成立へ 自民党が一転して基礎年金の底上げ策の復活を受け入れたことで、将来的にほぼすべての受給者の年金水準は上がることになった。しかし、その財源の議論は先送りされ、底上げ策を実施するかどうかは、2029年まで不透明だ。 ■煮えきらぬ自民、実績欲しい立憲が接近 27日夕、自民、公明、立憲民主3党のトップが国会内に集まり、合意書にサインした。首相官邸に戻って記者団の取材に応じた石破茂首相は「非常に意義深いことで、うれしいことだ」と満足げに語った。立憲の野田佳彦代表も同じだ。「最も先送りをしてはいけないテーマで改革の一里塚に立つことができた」と、達成感をにじませた。21日の党首討論で、野田氏が「比較第1党と第2党が真剣に修正協議し、成案を得なければならない」と直談判してから1週間。急転直下の合意だったが、予兆は5月中旬にすでにあった。12日朝、予算委員会審議のため衆院第1委員室へ入った首相のもとへ年金問題に精通する立憲議員が近づき「うちは小幅な修正ですぐに通しますから」とささやいた。年金関連法案の焦点は、基礎年金(国民年金)の底上げ策を盛り込むかどうかだった。基礎年金のみの人や厚生年金が少ない人には恩恵が大きいが、将来的には新たな国庫負担が見込まれる。その財源のめどは立っていない。年金関連法案は当初、政府与党が今国会の重要法案に位置づけていたが、参院選への影響を懸念し自民が審議入りに反対。4月にはいったん見送りへと傾いていた。議論すれば批判が巻き起こるリスクがあり、議論しなければ無責任と言われかねない。「引くも地獄、進むも地獄」の状況に手をこまぬく自民へ「審議すべきだ」と立憲が呼びかけたのは、そんなタイミングだった。政府は16日、基礎年金の底上げ策を除いた年金関連法案を閣議決定。立憲が「あんこのないあんパン」(野田氏)と批判すると、3党協議で素早く盛り込んだ。協議は複雑な道をたどったが、つまりは自民・公明・立憲の3党が当初政府案を了承したことと同じだ。立憲はなぜ歩み寄ったのか。背景には、3党合意が参院選への実績アピールにつながるとの読みがある。昨秋の衆院選で与党を過半数割れに追い込んだが野党はなおバラバラで、立憲が議論をリードする思惑だった選択的夫婦別姓の導入や企業・団体献金の禁止は、なかなか前に進まない。ただし、与党へ歩み寄ることは野党第1党としての存在感を薄れさせかねない。6月の国会会期末を見据えて内閣不信任案の動向がにわかに注目されるが、単独で提出できるのは計算上、自民を除けば立憲のみだ。合意後、記者団から不信任案の扱いを繰り返し問われた野田氏は「答えはひとつ。適時、適切に判断する」と遮った。不信任案は出さなければ立憲が批判の的にされかねず、出せば衆参同日選までいく覚悟が問われる。「引くか、進むか」の選択が、立憲に突きつけられようとしている。 ■62歳以下の男性・66歳以下の女性、受給額増える試算 実質ゼロ成長と仮定 高齢者は減額も 「実質ゼロ成長を見込んだケースでは、男性で現在62歳以下、女性で66歳以下の方は年金受給総額が増加する見込みとなっている」。福岡資麿厚生労働相は20日の衆院本会議で述べた。発言のもとは、厚労省の試算だ。それによると、底上げ策によって生涯に受け取る年金総額は、男性よりも女性、高齢の人よりも若い人で増える傾向がある。試算には条件がある。「平均的な収入で40年間働いた夫と専業主婦の妻」というモデル世帯の夫婦が受け取る年金額をベースにしている。この半分を「1人分」とし、65歳時点の平均余命に基づいて男性は20年間、女性は24年間、年金を受給すると仮定。年金がどのくらい増えるかを機械的に出した。その際、「年収106万円の壁」の撤廃など、今回の法案に盛り込まれた厚生年金の加入対象を広げる措置が実施されることも加味している。その結果、男性では今年度の年齢が62歳以下の人は受給総額が増え、38歳以下は248万円の増額だ。女性では66歳以下の人は増え、38歳以下は298万円の増額だ。一方、男性は63歳、女性は67歳の場合、受給総額は変わらず、それより年齢が上がると受給額が減る。70歳までの結果しか試算で示されていないが、70歳の人は男性で23万円、女性で16万円の減額になるという。修正案には、年金受給額が減る影響を緩和する措置をとることも盛り込まれている。底上げ策は、現行制度のままでは基礎年金の水準低下が見込まれる場合に実施することが想定されている。 ■「2階」の積立金から65兆円回す 立憲など「厚生年金流用」否定 基礎年金の底上げ策をめぐっては、「厚生年金の積立金の流用」との批判が相次ぎ、自民党が年金関連法案から削る大きな要因となった。底上げ策を復活させる修正案を示した立憲民主党などは「流用ではない」と主張する。一体どのような仕組みなのか。日本の公的年金制度は2階建てになっている。1階部分は20歳以上のすべての人が入る「国民年金」だ。第1~3号に分かれ、会社員や公務員らは2号に分類。3号は2号の人に扶養されている配偶者。1号は、それ以外の自営業や無職の人らだ。2階部分は2号の人が上乗せで加入する厚生年金だ。労使折半で負担する年金保険料の額や期間に応じて、受け取る年金額が増える。1階は基礎年金部分として、2階は払った保険料に応じて支払われる。厚生年金保険料には基礎年金部分も含まれるため、支払う保険料は2階だけでなく、1階にも回る。保険料の一部を将来のために回す積立金も同様だ。厚生年金の積立金は、2024年度末時点で約290兆円。厚生労働省の試算によると、今後100年間で105兆円が1階に充てられる見通しだ。基礎年金の底上げ策では、この部分を約65兆円増やし、170兆円程度にして、今後30年続く可能性がある基礎年金の減額措置を早めに止める。25日にあったNHKの討論番組で、自民の田村憲久・元厚労相は「みんな国民年金に入っているので流用ではないが、そこを野党にご理解いただけるかが非常に不安だった」と説明。立憲の山井和則議員も「『厚生年金流用論』は全くの誤解」とし、底上げ策で厚生年金受給者も受給額が上がることを強調した。一方、日本維新の会の青柳仁士議員は「厚生年金を支払った人が積み立てた積立金を第2号以外の人の底上げに使う」ことを挙げ、やはり流用だと指摘した。確かに、底上げ策で1号の人の基礎年金も増える。厚労省によると、底上げ策のために厚生年金積立金から基礎年金に回す65兆円のうち、約10%が1号の人の基礎年金に充てられる計算だ。20年時点で1号のうち働いている人は約39%。無職や自営業の人は約58%と推計されている。 ■国負担分、財源どうする 衆院の議論、2日だけの見通し 課題も残されている。基礎年金の半分は国庫負担だ。厚労省の試算では、底上げを実施すると、70年度には2・6兆円が新たに必要になる。底上げしなければ、国庫負担も減り続ける。その財源を底上げに活用すれば、「新規財源の確保は不要ではないか」とする意見も与野党内にあるが、議論は先送りされている。26日の自公立の修正協議後、自民の田村憲久氏は「(財源が必要になるのは)今すぐの話ではないが、財源の議論をしっかり行わなければならないと思う」と述べた。今後の増税議論を懸念する声もある。今回の年金関連法案はすべての国民の老後の安心に関わる大きな制度改正だが、底上げ策を削除するなどの作業が自民内で続き、国会への提出が大幅に遅れた。その影響で審議できる時間はわずかだ。今回の修正案は衆院では2日しか議論できない見通しだ。国民民主党の玉木雄一郎代表は27日、「将来の潜在的な税負担の増加をビルトインしたような法案を、こんなに短期間で通すことは問題だ」と批判した。そもそも、底上げするかは、29年に公表予定の次回の財政検証の結果次第だ。 *8-4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250531&ng=DGKKZO89054500Q5A530C2EA4000 (日経新聞 2025.5.31) 年金法案が衆院通過 発動時の損益分岐点は…男性63歳・女性67歳 政府が国会に提出した年金制度改革法案が30日、衆院で可決された。基礎年金の目減り防止をうたうものの、措置を発動するかの判断は5年後に先送りされた。実際に発動された場合、一定の仮定のもとで試算すると男性63歳、女性67歳が平均的な「損益分岐点」となる。実際に底上げがなされた場合、年金受給者にどのような影響が出てくるだろうか。厚生労働省が立憲民主党などに提出した試算では、底上げ策を実施した場合、男性は1963年度生まれ(2025年度時点で62歳)、女性は59年度生まれ(同66歳)以降は受給総額はプラスになる。法案には、総額が減る世代への影響を緩和する措置を講じることも盛り込んだ。モデル世帯(夫婦2人)の年金を単純に2で割り、実質ゼロ%成長が続き、かつパート主婦らの厚生年金の加入拡大を実施した場合が前提での試算だ。底上げ策の影響は年金の受取額によって異なる。厚生年金の受給割合が少ない低年金の人ほど恩恵は大きい。月6万8000円の基礎年金のみを受け取る1960年度生まれ(2025年度時点で65歳)の男性の場合、受給総額は37万円のプラスになる。一方、6万3000円の基礎年金に加えて5万円の厚生年金(報酬比例部分)を受け取るケースでは18万円のマイナスとなる。厚労省は24年7月の財政検証で、経済成長が実質ゼロ%程度で推移する場合、モデル世帯では基礎年金の給付水準がおよそ30年後に3割低下するとの見通しを示した。基礎年金だけを受給する自営業者や、就職難で厚生年金の加入期間が短い氷河期世代らは給付水準が低下する影響を大きく受ける。このため厚労省は、厚生年金の積立金を活用して基礎年金の底上げを図る案を提起した。実施すれば、基礎年金のマイナス幅は1割減に抑えられる。 <止まない無駄使い> PS(2025年6月15、16、18日追加):*9-1-1・*9-1-2は、①自公幹事長が参院選公約の物価高対策として国民に現金等を給付する方針で一致 ②財源は税の増収分で2023年度は2.5兆円弱 ③税の増収分は国債発行の減額に使うのが筋 ④給付をしても貯蓄に回れば、消費は拡大せず、需要の押し上げ効果は疑わしい ⑤給付は本当に困っている人に限るべき ⑥人手不足・原燃料高騰の供給制約による物価高で需要を追加すれば物価が押し上げられる ⑦参院選は与党の給付と野党の消費減税が争点となるバラマキ合戦 ⑧立憲が「食品消費税0%」を公約に明記し、社会保障財源に穴を開け、再引き上げの展望を欠き、問題が多い ⑨自民党の参院選公約は15年後の40年に平均所得1.5倍を目指す方針 ⑩自公の物価高対策給付は、全国民に現金2万円/人給付と住民税非課税世帯への2万円上乗せ ⑪参院選後に補正予算案を編成して年内給付 ⑫野党から消費税減税の訴えが相次ぐ中で自民執行部は「減税すれば社会保障が崩壊する(森山裕幹事長)」と否定し、参院が国民生活の負担軽減に繋がる公約を求めた ⑬マイナンバーにひもづけた公金受取口座を活用 としている。 このうち①②については、近年、選挙前になると現金給付が増えたが、今回の大義名分は「物価高対策」と「税の増収分(2023年度:2.5兆円弱)が財源」で、全国民に現金2万円/人と住民税非課税世帯には2万円の上乗せ給付だった。しかし、1世帯(2人以上)の消費支出は、*9-1-3のように、2024年9月は約29万円/月で年間換算では348万円(29万円x12)であり、消費者物価指数は頻繁に購入する品目では前年と比較しただけでも6.4~9.1%(平均7.8%)上昇し、約14万円/人(348万円x7.8%/2)が物価上昇による1人あたり年間支出増になっているため、⑩のように、現金2万円~4万円給付されても、物価上昇の補填には届かず焼け石に水なのだ。また、2024年のエンゲル係数28.4%を使えば、2024年は食費だけで約4万円/人(348万円x28.4%x8%/2)・その他で約12万円/人(348万円x71.6%x10%/2)・合計約16万円/人の消費税を支払い、食品の消費税率を0%にすれば4万円/人の消費支出減になるが、現金給付2万円はその半分にすぎない。つまり、国民は、購入数量を減らしたり、より安価な製品にシフトしたりしながらも消費金額自体は既に拡大しているため、④⑤の「給付をしても貯蓄に回れば消費は拡大せず、需要の押し上げ効果は疑わしい」「給付は本当に困っている人に限るべき」などと言うのは、家計について考えたこともない人の主張であろう。しかし、マクロ経済は、観念ではなく、ミクロの行動の集積であるため、これでは正しい経済分析や原因追求・問題解決ができないのは当然である。 また、⑧⑫のように、「消費減税はバラマキで、減税すれば社会保障が崩壊する」という主張があるが、消費税は逆進税であるため、食品は0・生活必需品は低税率という国が多く、消費税減税は負担力主義に沿った改正となり、社会保障以前に貧しい人にほど重い税負担を強いるという悪税が改善される。そのため、「食品消費税0%は1年限りで、後は焼け石に水程度の給付」でも足りず、前にも書いたとおり、「社会保障財源は消費税でなければならない」などと決める必要はないのである。なお、⑥の「人手不足・原燃料高騰の供給制約による物価高で需要を追加すれば物価が押し上げられる」という点については、原燃料高騰の原因は、金融緩和による円安とロシアのウクライナ侵攻によるものであるため、何処の国でもやったように金融引き締めすれば、人手不足も同時に解決できる。しかし、その時は同時に国債金利も上がるため、③のように、日頃から税の増収分があればせっせと国債発行の減額に使う必要があるのだ。にもかかわらず、⑪⑬のように、参院選後に補正予算案を編成して年内給付し、それをマイナンバーにひもづけた公金受取口座に振り込むなど、ご都合主義で的外れの言動が多すぎる。そして、⑨の自民党の参院選公約で「15年後の40年に平均所得1.5倍を目指す」というのも、名目平均所得を1.5倍にし、同時に物価も1.5倍にするのであれば、実質所得は変わらず、実質年金受給額は1/1.5になり、同時に実質国債残高や預金残高も1/1.5になって、さらに国民負担を増やしながら意味の無いバラマキを止めない国に恩恵をもたらすだけなのだ。 ![]() ![]() ![]() 2024.11.8読売新聞 2025.5.10沖縄タイムス 2025.4.26沖縄タイムス (図の説明:左図は、2022~2024年の消費支出の実質増減率で、2023~2024年には実質で減少して、国民が貧しくなったことを示している。具体的には、中央の図のように、2024年度に食品のうち品薄で高騰した米への実質消費(家庭内在庫の積み増しか?)が増え、その分の節約のためか、他が減少した。消費税減税については、右図が、各党の主張であったが、6月15日現在、公明党は自民党執行部に歩調を合わせている) *9-2-1は、⑭サントリーHDが再エネ電気で作る「グリーン水素」を2027年以降に山梨県・東京都の事業者等に向けて販売開始 ⑮今秋に国内最大の製造施設が稼働する予定で、グリーン水素の製造・販売を一貫して手がける国内初の事例 ⑯製造設備は山梨県北杜市に建設中で、敷地面積は約3千㎡・稼働後の生産能力は年間最大約2,200t ⑰サントリーHD・山梨・東レ・東電グループ等の共同事業で、総事業費は約170億円・国が約110億円補助 としている。 私は、⑭~⑰のグリーン水素製造施設への補助は無駄使いとは思わないが、「散々、化石燃料や原発に補助してきたカネがあったら、再エネやグリーン水素を進めるためのインフラを作ればよかったのに」と思う。既存の電力会社がいつまでも旧来の発電方法に固執して高い電力料金を取り続けているのに愛想をつかし、個人や企業は電力会社を見切って自家発電にシフトしているのに、日本政府は、どうしてこうも合理的な発想に基づく改革ができないのだろうか。 そのような中、*9-2-2のCO₂地下貯留への初期投資費用(数千億円)や運営コスト(CO₂の回収・貯留に数千~数万円/t)の補助は、無駄使いそのものである。何故なら、化石燃料を使ってCO₂を地下貯留すれば、それだけコストが上乗せされる上、化石燃料を使用するエネルギーシステム自体が既に地球温暖化によって寿命が尽きかけているからで、そんなカネがあったら、21世紀の産業であり命に関わる介護の財源に使うべきだ。 また、*9-2-3は、⑱生成AI普及等で電力需要の増加が見込まれる ⑲建て替え・新増設が進まない中、今ある原発を長く使うため、最長60年だった原子力発電所の運転期間をさらに延ばせる新制度導入して、フクイチ事故後、政府は運転期間を「原則40年、最長60年」と定めたが、安全審査等による途中の停止期間を除外して延長を認めた ⑳運転延長は安定供給と温暖化ガス排出削減を両立する現実的対応 ㉑原発を将来も活用していくため、政府は電力業界に新規投資を促す方策が急務 ㉒政府が2月に閣議決定した第7次エネルギー基本計画には「原発の最大限活用」が明記され、2040年度電源構成の2割程度を見込む ㉓原発建設には約20年を要するため、早期に建設準備に着手する必要 ㉔自由化した今の電力市場で事業者は巨額投資の回収や資金調達の目途が立ちにくい ㉕GX電源法は原発を活用した安定供給や脱炭素実現を「国の責務」と位置づけた ㉖政府は固定費の回収保証に加え、インフレなどのコスト上昇分も一定程度まで支援する検討を進める ㉗投資の背中を押しつつ、使用済み核燃料の最終処分や福島第1原発の廃炉等の課題でも前面に立つべき ㉘国に支援を求めている電力会社は、安全・安心を最優先しつつ、低廉で潤沢な電力供給に全力を尽くすのが当然 等としている。 しかし、*9-2-3の文章は目を覆うほど矛盾だらけだ。その矛盾の第1は、日本政府が、⑳㉒㉕のように、「原発の運転延長が電力安定供給と温暖化ガス排出削減を両立する現実的対応」として、GX脱炭素電源法で原発を活用した安定供給や脱炭素実現を「国の責務」と位置づけた点である。何故なら、原発は炭素こそ出さないが、普段から温排水として熱そのものを海洋に排出して地球を温暖化させ続けており、事故時には莫大な汚染や健康被害を与えるのに、その全てを無視して第7次エネルギー基本計画にも原発の最大限活用を明記しているからである。矛盾の第2は、⑱のように、生成AI普及等ですぐに電力需要増が見込まれるとし、生成AIの進歩の方がずっと早いのに、㉓のように、建設に約20年も要する原発に頼ろうとしている点で、これは、原発を使うための屁理屈にすぎない。矛盾の第3は、㉘のように、原発を低廉で潤沢な電力供給源などと言いながら、㉔㉕のように、「自由化した電力市場では巨額投資の回収や資金調達の目途が立ちにくい」などと言い、政府に固定費回収保証やインフレ等のコスト上昇分まで一定程度支援するように求め、㉗のように、使用済み核燃料の最終処分や福島第1原発の廃炉等のコストも国に任せるという、赤子並みのおんぶに抱っこを求めている点である。再エネと違って、原発は1966年に日本で最初の商業運転を開始して既に59~60年経過しているので、すべての問題は解決済でもおかしくないところ、未だに何もかも国に頼りつつ高コストであるため、原発が低廉などとは言うべくもなく、早々に退出するのが、これ以上の膨大な無駄使いを止める方法であることは明白なのだ。そのため、国民は、⑲のように、原発の建て替えや新増設を望んでおらず、最長60年だった原発の運転期間をさらに延ばして危険を増す新制度の導入も望んでいなかったのである。ましてや、㉑のように、高コストの原発を将来も活用されて高い電気料金と血税からの無駄使いは容認したくないため、政府は電力業界に原発より再エネへの投資を促すべきである。 ![]() ![]() ![]() 2024.10.29NipponCom 2024.12.18佐賀新聞 (図の説明:左図は、現在の原子力発電所の稼働状況で、玄海原発は40年超の1・2号機は既に廃炉を決めているが、他は40年超でも足りず60年超まで延長しようとしており、危険だ。中央の図は、2023年度の発電量全体に占める電源別割合で、原発はフクイチ事故後0%になっていたのに8.5%まで上がったが、最終処分場の目途も立たず、国に頼ってばかりいるのに、使用済核燃料を増やしながら、原発の発電割合を20%まで上げる必要などない。しかし、右図のように、経産省の意向を受けて石破首相は原発0を封印し、自民党の大半が原発復権支持だそうだ) *9-3は、㉙政府は、賃上げの実現を重点に掲げ、実質賃金を年1%押し上げる目標を「骨太の方針」に明記 ㉚石破首相は「30年にわたって続いたコストカット型経済を高付加価値創出型経済へ着実に転換していかなければならない」と述べた ㉛「新しい資本主義実行計画」で重視した政策は地方創生と賃上げ ㉜賃金は2029年度までの5年間で年1%程度の実質ベースの上昇を目指し、最低賃金は20年代に全国平均で時給1500円を実現する ㉝足元では実質賃金がマイナス1%を超えて推移し、最低賃金は全国平均1055円 ㉞骨太の方針は「価格転嫁対策強化や生産性向上のための設備投資支援を総動員して、物価上昇を上回る賃上げを実現する」とした ㉟野村総研の木内氏は「実質賃金の上昇率は労働生産性の伸びに一致するため、賃金の上昇率自体ではなく、成長戦略や構造改革を通じた生産性向上を目標に据えるべき」と指摘 ㊱骨太の方針は「減税政策より賃上げ政策こそが成長戦略の要」であると明記して消費税率の引き下げ策をけん制 等としている。 「失われた30年」始め、「賃上げ」や「コストカット型経済から高付加価値創出型経済への転換」という言葉は、石破首相だけでなく安倍首相時代から言われてきたが、それが経済成長に繋がらなかったのは、正確な原因分析とその解決が行なわれないだけではなく、「原因と結果が逆」の理解も少なくなかったからである。 つまり、㉙の「実質賃金を年1%押し上げる」ためには、㉟のとおり「実質賃金の上昇率は労働生産性の伸びに依るため、賃金の上昇率自体ではなく、構造改革を通じた生産性の向上を目標に据えるべき」なのである。しかし、日本政府は、コストダウンに繋がる有為な構造改革をせず、むしろ、㉞のように、価格転嫁を強制して高コスト構造の強化に努めたり、時代を逆戻りさせる政策を行なったりしている点が間違いだったのである。これを詳しく説明すれば、生産性と比較して賃金はじめ各種コストが高すぎたり、規制によって生産活動がやりにくかったりすれば、日本国内は生産活動をしても儲からない国になるため、日本が得意としてきた製造業でさえ海外に出てしまって国内が空洞化し、新興国の製品が輸入されて物価が安く抑えられてきたというのが、1990年代からの30年だったのだ。そして、現在の物価高騰は、構造改革を伴わない金融緩和だけによる円安と戦争によるコストプッシュ・インフレ(悪いインフレ)によるものであり、国民全体を1980年代並みに貧しくしただけなのである。 言い換えれば、できるだけコストカット(労務費/人の削減ではない)しなければ生産性は上がらず、実質賃金を上げることもできず、生産性も上げずに増加したコストを単純に価格転嫁すれば、物価が上がって働く人の実質賃金は同じになるか、むしろ下がり、年金生活者の実質年金受給額は「マクロ経済スライド」の分だけ必ず下がるのである。さらに、需要は、高付加価値製品だけではなく生活全般で使用する製品に渡るため、「すべてを高付加価値製品に転換する」と主張する㉚も間違いだ。これら多くの間違いを続ければ、㉜㉝のように、「賃金は年1%程度の実質ベースの上昇を目指し、最低賃金は2020年代に全国平均で時給1500円を実現する」という目標を立てても、実際には実質(ここが重要)賃金の伸びは0近傍で、最低賃金も上げられないだろう。なお、㊱のように、骨太の方針は「減税政策より賃上げ政策こそが成長戦略の要」などと明記して消費税率の引き下げ策を牽制しているそうだが、そもそも「減税政策」と「賃上げ政策」は、対象となる人の範囲も経済への影響も異なるため、並列して比較すべきものではない。また、「賃上げ」は、労働分配率を上げるために労働組合が言うのなら理解できるが、賃金の安い新興国の方が製造業の適地となって高度経済成長しているのを見ればわかるとおり、賃上げしたから経済成長できるわけではないのだ。そのため、国の責任は、労働分配率を上げることだけではなく、世界競争している産業全体を見渡し、国民をより貧しくするのではなく、より豊かにする方策を考えることである。最後に、㉛の「新しい資本主義実行計画で重視した政策は地方創生」については、未だ整備の進んでいない地方こそが日本経済ののびしろであるため、海外から輸入して国富を流出させているエネルギー・知財・農業・製造業等の地方への回帰を図るべきであり、それはやればできるのである。 ![]() ![]() ![]() 2023.2.8東京新聞 2022.5.8読売新聞 2022.5.30Economist (図の説明:左図は、金融緩和を開始した2012~22年の実質賃金と生活実感賃金で、どちらも下がっており、この傾向は2025年現在も続いている。中央の図は、実質GDP成長率の推移で、コロナ禍前後を除き0近傍を推移している。右図は、1997~2022年の名目GDP成長率の推移だが、2012年以降は名目では上昇しているように見えるが、それは物価上昇分にすぎないため、実質は変化していないことが中央の図との比較で読み取れる) *9-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK1092M0Q5A610C2000000/ (日経新聞社説 2025年6月10日) 自公は税の増収分を選挙でばらまくな これこそ選挙目当てのバラマキではないか。自民党と公明党の両幹事長が10日、参院選公約の物価高対策として国民に現金などを給付する方針で一致した。財源には「税の増収分」を充てるという。効果と必要性の両面から再考を促したい。自公は4月、4万〜5万円の現金を全国民に配る案を検討したが、バラマキ批判で取りやめた経緯がある。この規模の給付だと5兆〜6兆円の財源が必要となる。今回の案では給付の規模をあくまで「税の増収分」に抑えるとしている。国の2023年度決算で税収の上振れは2.5兆円弱だった。24年度も同じぐらいの税収の上振れ幅であれば給付額は大幅に減り、赤字国債も発行しないで済むと自公は主張する。だが税の増収分は本来、将来世代の負担が軽くなるよう国債発行の減額に使うのが筋で、給付は本当に困っている人に限るべきだ。より大きな問題は需要の押し上げ効果が疑わしいことだ。実際、4月に実施した本社世論調査では物価高対策として国民に現金を給付したり、ポイントを付与したりしても「効果があると思わない」との回答が74%を占めた。給付をしても貯蓄に回れば消費は拡大しない。人手不足や原燃料高などの供給制約による物価高のなかで需要を追加すれば、物価をむしろ押し上げる方向に作用する。政策としてもちぐはぐだ。そもそも現在の日本経済が巨額の減税や給付を必要としているのか。5月に経済学者47人を対象に実施した「エコノミストパネル」の調査では「そう思わない」(55%)と「全くそう思わない」(6%)の回答が計6割を超す。公明党は自民党に歩み寄った。これまで主張してきた消費減税を「重要検討事項」に後退させ、公約から落とした。野党では立憲民主党が10日に発表した公約で「食品消費税ゼロ%」を明記した。これで参院選は与党の給付と野党の消費減税が争点となる。まさにバラマキ合戦だが、社会保障財源に穴を開け、再引き上げの展望を欠く野党案も問題が多い。自民党の参院選公約を巡っては9日に石破茂首相が15年後の40年に平均所得1.5倍を目指すとの方針を唐突に打ち出した。2%の物価上昇率を前提とすれば毎年、名目所得2.8%増、実質所得0.8%増と言い換えられる。目標としてあまりに低く、遠い。 *9-1-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16233360.html (朝日新聞 2025年6月12日) 自公、1人2万円給付案 参院選公約、非課税世帯さらに2万円 自民、公明両党が検討している物価高対策のための給付について、詳細が判明した。所得制限は設けず、全国民を対象に1人あたり現金2万円を給付する。さらに住民税非課税世帯に対し、2万円を上乗せする。自公はそれぞれ参院選の公約とし、年内の実施を目指す。複数の政権幹部が明らかにした。財務省は例年、前年度の決算見通しを7月上旬に発表する。政府は、2024年度の一般会計税収が予想より上振れすることを見込んでおり、これを給付の財源に充てる。参院選後に補正予算案を編成し、年内にも給付したい考えだ。自公は、4月にも1人あたり現金5万円の給付を検討したが、「ばらまき」への世論の批判を受けて見送っていた。今回は「増収分を国民に還元する」と位置づけ、低所得層向けに手厚くすることで、理解や支持を得ようとしている。一度見送った現金給付を再検討する背景には、参院選がある。野党から消費税減税の訴えが相次ぐ中、自民執行部は「減税すれば社会保障が崩壊する」(森山裕幹事長)と否定する姿勢を続けてきた。一方、選挙を戦う参院を中心に「目玉政策がない」などと、国民生活の負担軽減につながる公約の打ち出しを求める声が強まっていた。給付方法については、なるべく早く国民に届けるねらいから、マイナンバーにひもづけた公金受取口座を活用する考え。連携口座がない人には、別の方法での給付を検討する。住民税非課税世帯への加算部分は、自治体を通じた支給を想定している。 *9-1-3:https://www.yomiuri.co.jp/economy/20241108-OYT1T50027/ (読売新聞 2024/11/8) 1世帯あたりの消費支出は28万7963円…9月の家計調査、前年同月比1.1%減 総務省が8日発表した9月の家計調査によると、1世帯(2人以上)あたりの消費支出は28万7963円と、物価変動の影響を除いた実質で前年同月比1・1%減だった。前年同月を下回るのは2か月連続。台風の影響を受けて自動車購入を控える動きが出たほか、物価高による食料品の買い控えも続いた。品目別では「交通・通信」が11・8%減だった。台風で販売店への客足が伸びず、自動車購入は40・6%減となった。「食料」は横ばいだった。前年より休日数が多かったことで外食への支出は9・8%増だったが、肉類や野菜・海藻、果物、酒類などへの支出は減少した。価格の上昇が続くコメへの支出は、8月の買いだめの反動で購入が減ったとみられ、7・4%減だった。物価高で購入数量を減らしたり、より安いものを選んだりする節約志向が高まっている模様で、総務省によると、肉類への支出も豚肉が減り、より安価な鶏肉が増えているという。「教養娯楽」も横ばいで、宿泊料や遊園地入場・乗物代が増える一方、雑誌などが減った。2人以上の世帯のうち勤労者世帯の実収入は実質で1・6%減で5か月ぶりに前年同月を下回った。消費支出は3・9%減で5か月ぶりに実質で減少した。 *9-2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16233314.html (朝日新聞 2025年6月12日) 「グリーン水素」製造・販売へ サントリーが国内初 再生エネ電気で サントリーホールディングス(HD)は11日、再生可能エネルギーによる電気でつくる「グリーン水素」を2027年以降、山梨県や東京都の事業者などに向けて販売を始めると発表した。今秋に国内最大の製造施設が稼働する予定で、グリーン水素の製造と販売を一貫して手がける国内初の事例になるという。グリーン水素は、製造時に二酸化炭素を出さず、脱炭素に向けた次世代エネルギーとして注目されている。製造設備は山梨県北杜市に建設中で、敷地面積は約3千平方メートル。稼働後の生産能力は年間で最大約2200トンになる。総事業費は約170億円で、国が約110億円を補助。サントリーHD、山梨県、東レ、東京電力グループなどが共同で事業を進めている。サントリーHDは、この施設でつくったグリーン水素を今秋から、隣接するサントリーの天然水工場で殺菌用の蒸気を発生させる燃料に使う。将来は、ウイスキー蒸留所で水素のみを熱源とするウイスキーの「直火蒸留」にも利用する。グリーン水素の製造量が山梨県内の消費分を上回る規模になるため、東京都の事業者などにも販売し、市場拡大をめざすという。 *9-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250612&ng=DGKKZO89300960R10C25A6EP0000 (日経新聞 2025.6.12) CO2の地下貯留、初期投資費用を補助 経産省、15年程度支援 経済産業省は11日、二酸化炭素(CO2)の回収・地下貯留(CCS)の実用化に向け、初期投資や運営コストを支援する案を示した。支援期間は15年程度を見込む。企業の費用負担を抑え、国内で2030年をめどに事業開始を目指す。脱炭素につなげる。経産省が総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)の作業部会に案を示した。工場や発電所から発生したCO2を回収し、パイプラインで地下貯留施設に運ぶ事業を対象にする。CCSは初期投資に数千億円、CO2の回収・貯留に1トン当たり数千~数万円程度かかり脱炭素技術のなかでも投資負担が大きい。 *9-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250612&ng=DGKKZO89302050R10C25A6EA1000 (日経新聞社説 2025.6.12)AI時代に原発投資を促す方策が急務だ 最長60年だった原子力発電所の運転期間をさらに延ばせる新制度が導入された。建て替えや新増設が進まないなか、いまある原発をなるべく長く使う狙いだ。生成AI(人工知能)の普及などで今後の電力需要は増加が見込まれる。運転延長は安定供給と温暖化ガスの排出削減を両立する現実的な対応だが、一時しのぎでしかない。原発を将来も活用していくため、政府は電力業界に新規投資を促す方策の具体化が急務だ。電気事業法や原子炉等規制法などの改正を束ねた「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法」を6日施行した。2011年の東京電力福島第1原発事故の後、抑制的だった原発政策を転換する象徴が運転延長だ。福島の事故後、政府は運転期間を「原則40年、最長60年」と定めた。その枠組みは維持しつつ、安全審査などによる途中の停止期間を除外して延長を認める。ただ原子炉圧力容器など交換できない一部設備の経年劣化は未知の部分がある。定期的な安全性確認には万全を期す必要がある。1974年稼働と最も古い関西電力高浜原発1号機(福井県)の場合、従来ルールなら34年までに停止せざるを得ない。新ルールでは47年ごろまで動かせる。ただし東電の柏崎刈羽原発(新潟県)がテロ対策の不備で運転禁止命令を受けた2年8カ月のように、電力会社自身の失策で止まった期間は対象外だ。政府は2月に閣議決定した第7次エネルギー基本計画に「原発の最大限活用」を明記し、40年度の電源構成の2割程度と見込む。原発の建設には約20年を要する。直近で1割に満たない割合を引き上げ、維持するには、早期に建設準備に着手しなければならない。ただ自由化したいまの電力市場で、事業者は巨額投資の回収や資金調達のめどが立ちにくく、計画をためらう要因となっている。GX電源法は原発を活用した安定供給や脱炭素実現を「国の責務」と位置づけた。政府は固定費の回収保証に加え、インフレなどのコスト上昇分も一定程度まで支援する検討を進める。投資の背中を押しつつ、使用済み核燃料の最終処分や福島第1原発の廃炉などの課題でも前面に立つべきだ。国に支援を求めている電力会社は、安全・安心を最優先しつつ、低廉かつ潤沢な電力の供給に全力を尽くすのが当然である。 *9-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250614&ng=DGKKZO89365960U5A610C2MM8000 (日経新聞 2025/6/14) 骨太方針閣議決定「減税より賃上げ」 実質1%上昇に方策乏しく 政府は13日、経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)を閣議決定した。賃上げを起点とした成長型経済の実現を重点に掲げ、実質賃金を年1%押し上げる目標を明記した。経済の足腰を強くする成長戦略は新味に欠け、賃上げ実現に向けた具体策は乏しい。今年は石破茂政権で初めての骨太の方針となる。首相官邸で開いた会議で石破首相は「30年にわたって続いたコストカット型経済を高付加価値創出型経済へ着実に転換していかなければならない」と述べた。「新しい資本主義実行計画」の改訂版も閣議決定した。石破政権として最も重視した政策は地方創生と賃上げだ。特に賃金を巡っては、2029年度までの5年間で年1%程度の実質ベースでの上昇を目指すとした。最低賃金は20年代に全国平均で時給1500円を実現するとも強調した。足元は実質賃金がマイナス1%を超えて推移する。最低賃金は全国平均1055円にとどまる。目標はいずれも高い設定だ。骨太の方針では価格転嫁対策の強化や、生産性向上に向けた設備投資の支援などを「総動員」して、物価上昇を上回る賃上げを実現するとした。野村総合研究所の木内登英氏は、実質賃金の上昇率は労働生産性の伸びに一致するという。賃金の上昇率そのものを目標とするのではなく、「成長戦略や構造改革を通じた生産性向上を目標に据えるべきだ」と指摘する。今回の骨太の方針で、成長や構造改革につながる具体的な弾込めが十分だったとは言いがたい。安定的な成長に向けた前提となる財政健全化に向けては、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)について黒字に転換する時期をこれまでの25年度から25~26年度と幅を持たせた。PBは政策に必要な経費を国債に頼らず税収などでまかなえているかを示す指標だ。達成年度について、26年度と先延ばしを最小限に抑えた点は財政規律を保つ意志を示すものとして評価する声がある。骨太の方針では「減税政策よりも賃上げ政策こそが成長戦略の要」であると明記し、消費税率の引き下げ策をけん制した。石破首相は13日、物価高対策として参院選の公約に1人あたり2万円の給付を盛り込むと表明した。第一生命経済研究所の星野卓也氏は「期間や規模が変わらないなら、財政への影響で減税と給付に大きな違いはない」と指摘する。財政健全化に向けた政府・与党の動きにはちぐはぐ感が残る。 <米価格高騰から農業改革へ> PS(2025年6月25、26《図》日):日本人1人が食べた米の量は、2020年度50.7kg/年、2021年度51.4kg/年、2022年度50.9kg/年、2023年度は51.1kg/年・約4.3 kg/月・約140g/日になる(http://www.tahara-kantei.com/column/column2775.html 参照)。 そのような中、2024年に米不足となり、*10-1-1・*10-1-2は、①小泉農相が、6月10日、政府備蓄米を随意契約で2021年産10万t・20年産10万tの合計20万tを小売業者に直接追加放出すると表明 ②大手小売り・中小スーパー・精米機能を持つ米穀店の全ての事業者から受け付け ③小泉氏は「早く安く消費者の手元に届くようスピードを緩めず対応」と強調 ④5kgあたりの店頭価格は「21年産が1800円程度、20年産(古古古古米)が1700円程度」を見込む ⑤農水省はこれまで一般競争入札と随意契約で計61万tの備蓄米放出を表明し、在庫量は2024年6月末に91万tだったため、今回の20万tを放出した後は最大10万t程度 ⑥主食用米としては2011年の東日本大震災で2007~9年産を4万t、2016年の熊本地震で2015年産90tを放出 ⑦小泉氏は放出後在庫量は「過去の事例からも(災害時に)十分対応できる」との見解 としている。また、*10-1-3は、⑧備蓄米は「古いものから放出すべきだった」 ⑨米高騰理由1:政府が需要を見誤った生産調整を行い、2023・2024年に需要に生産が追いついていない ⑩米高騰理由2:政府公表の作況指数に農家と認識のズレがある ⑪米高騰理由3:小売業者の店頭に米がなくなり、卸売業者が米農家と直接契約をするようになって高値で交渉が成立し、JAに入る米の量が大幅に減った ⑫今年1月に約91万tあった政府備蓄米を2023年産から放出して残り約10万tになっているが、本来なら古いものから放出すべき ⑬倉庫は先入先出の形で保管するが、後入先出で放出したため、”流通ロス”が発生 ⑭初回31万tはトラック確保や倉庫からの積み込み問題で流通が遅くなった ⑮古い米はカビ問題等があるため、専門業者が処理する方が妥当 ⑯関税がかからず国内産より安いミニマムアクセス米が増えると供給過多になった場合に国内産価格が下がりすぎるリスクがあり、新米収穫で数量が増える時に輸入する必要はない ⑰米価を下げるには、輸入・増産の方法があるが、米価が下がった場合は十分な補償が必要 ⑱アメリカは農家所得の40%以上、今年は60%が補助金、日本は27%程度 ⑲若い人に農業をやってもらうには、大きな農家に就職してもらう形で給与を保障する等の施策が必要 等としている。 このうち①②③ついては、小泉農相になってから米を小売業者に直接追加放出したため、速やかに店頭に安価な米が並んで良かったし、農水省は、食糧法で国民の主食である米が不作でも国民が安定的に食べられるよう、国による米の備蓄を1995年から制度化して100万t(10年に一度の不作にも供給できる量)近くを備蓄していたのだから、足りずに価格高騰して食べられない人が出た時に備蓄米を放出するのは当然であり、それも備蓄の役割の1つにしなければならないだろう(https://www.maff.go.jp/j/heya/kodomo_sodan/0012/07.html、https://www.maff.go.jp/j/seisan/keikaku/kome_seisaku/pdf/bitiku_unei.pdf 参照)。 また、④の5kgあたり店頭価格が21年産(古古古米):1800円程度、20年産(古古古古米):1700円程度というのは妥当だと思うが、現在は温度や湿度の管理された低温倉庫で米を保管しているので米の味は変わらず、炊飯器も進歩しているため誰でも美味しく炊ける。そのため、⑮のように、「古い米はカビ問題等がある」ということもなく、日頃から古米や古古米を比較的安い価格で売り、それを買いたい人が買えば合理的であろう。さらに、収穫量を左右すると言われる「ふるい目幅」は、農水省は1.70mm、新潟県は1.85mm、富山県・石川県・福井県1.90mmを使っているそうだが、粒が小さくても美味しく食べられるし収穫量には入るため、単価を変えて販売したり、加工用に回したりなど販売戦略はいくらでも考えられる筈だ。 なお、⑤⑥⑦のように、これまで一般競争入札と随意契約で計61万tの備蓄米放出を表明し、在庫量は2024年6月末には91万tだったため、放出後は最大10万t程度しか残らず、小泉農相が「2011年の東日本大震災でも4万t、2016年の熊本地震では90tしか放出していないので放出後の在庫量でも災害時に十分対応できる」と述べておられるが、総需要量が約800万tの時に、その約1.4ヶ月分(91/800x12)しか備蓄していないのである。これは、食糧・エネルギーは、備蓄したとしてもせいぜい数ヶ月分が限度であるため、戦争等で輸入が途絶えれば、国民はすぐに飢えるということだ。従って、武器を買っても戦争ができるわけではなく、食糧・エネルギーを高い割合で自給できることは、国民の命を守る安全保障の重要な要素である。 また、⑧⑫のように、在庫は先入れ先出しで古いものから出すのが常識で、古いものから放出していけば国民の血税で購入した国民の財産を安すぎる価格で餌米として放出する必要はない。ただし、⑬⑭のように、江藤米の流通が遅れた理由を、「後入先出で放出したから”流通ロス”が発生した」とか「初回31万tはトラック確保や倉庫からの積み込み問題で流通が遅くなった」などと言っているのは、その後の放出時に小売業者が迅速に店頭に並べることができたことから見て、*10-2のとおり、「倉庫会社が収入を得られなくなる」「JAが米の値段を下げたくなかった」という本音を隠した言い訳に過ぎないと考える。なお、低温倉庫は、米の備蓄以外にも使い道が多いため、⑨⑩⑪まで含めて、農水省やJAの考えることは、工夫がなく、国民に迷惑をかけ過ぎている。そのため、私は、⑯⑰のミニマムアクセス米等の輸入による国内産価格の低下は、米生産の合理化のためには黒船として重要な役割を果たすと思う。また、⑱⑲の補助金は、大規模化・二期作・二毛作・品種改良・肥料の国産化・再エネとの共生等々によって世界競争に勝つ米作コスト引き下げ努力を全力で行いながら考えるべきであり、そのためには、この機会に農業法人設立要件を緩和して、企業が農業法人を作り易くするのが良いと思う。 なお、米その他の穀物の生産コストを根本的に引き下げる方法の1つに、*10-3-1のような農地の集積による大規模化・機械化・スマート化がある。そして、担い手への農地集積が大きく増加したのは、認定農業者や集落営農の作業受託面積も集積面積に算入することとなった2006年からで、私が2005年に衆議院議員になってすぐ提唱した品目横断的経営安定対策(2007年導入)の規模要件に即した認定農業者・農業生産法人・集落営農の育成が進められたからだが、担い手に農地が集積されても、20年後の今でもまだ飛び地のままでは変革のスピードが遅すぎるのだ。何故なら、飛び地のままでは、機械化やスマート化に限度があって大規模化のメリットが出ないため集積を速やかにやる必要があるからで、そのためには、*10-3-2のように、小泉農相が経団連会長らと会談し、企業の農業参入の加速やスマート農機の活用に向けて協力していくことで合意し、農地所有適格法人の出資要件を緩和する方向性を示したのは、農業を振興させる目的を忘れない限りタイムリーだと考える。 一方、日本農業新聞は、2025年6月22日の論説で、*10-3-3のように、⑳食料安全保障を確保するには、国内の生産基盤強化と気候変動に対応した持続可能な産地づくりが重要 ㉑農業振興と自給率向上には食品産業との繋がりを強くし、国産原材料の活用が不可欠 ㉒食品産業と産地が連携することで農業基盤を維持し、地域の雇用促進や地方創生に繋がる ㉓ウクライナ危機以降、小麦をはじめ穀物や資材価格が高止まりし、しわ寄せは農家だけでなく国民全体に広がった ㉔輸入依存のままでは食料安全保障のリスクは高まるばかり ㉕農水省が示す諸外国のカロリーベースの自給率(2021年)はカナダ204%、フランス121%、米国104%、ドイツ83%、英国58%などに対し、日本は38%と低迷 ㉖環境負荷軽減を目指す農水省の「みどりの食料システム戦略」実現には、地域・JAを挙げて有機農業等の環境保全型農業を推進すべき ㉗国産の価値を理解して買い支える消費者を増やし、再生産できる所得確保への政府支援が欠かせない ㉘環境負荷を減らした農産物の「温室効果ガス削減マーク」が参考 ㉙土壌への炭素貯留・緑肥の活用などに応じて温室効果ガスをどれだけ削減したかを算定して星印で表す ㉚環境に配慮した国産農産物を消費者が選んで食べることで、日本の農業を支えることになる ㉛農家の高齢化や離農、廃業が止まらず、生産基盤の弱体化は進む ㉜米の価格上昇で起きた混乱は、他の農畜産物でも起こり得る ㉝農家が意欲を持って再生産できる所得を得られなければ、政府が推し進めるスマート農機も導入できない 等と述べている。 このうち⑳~㉕について、私は全く賛成であるし、㉖の有機農業等の環境保全型農業も農業やJAだけでできるものではなく、国を挙げて技術開発を行い、地域で有機肥料の原材料を集める等の協力が必要だと思う。しかし、㉗㉙については、私は国産農産物や農業の価値については十分に理解しているものの、国際比較した場合に高すぎる国産農産物を買い支え続けることはできないため、再生産するためには大規模化・自家発電による電動化・再エネとの共生などを行って、質だけではなく価格でも国際競争力のある農産物を作るべきだと思う。つまり、日本政府が奨励しているような安易な価格転嫁やバラマキ型の補助金は、国民を貧しくするだけであるため、続けるべきではない。 最後に、㉘㉙の環境負荷を減らした農産物に「温室効果ガス削減マーク」をつけて、環境に配慮した国産農産物を消費者が選びやすくするのは良いアイデアだと思うが、価格が違いすぎては買いにくい。そのため、㉛㉜のように、農家の高齢化・離農・廃業が止まらず、生産基盤の弱体化が進む状況であれば、企業が農業法人を作り易くするタイミングは今だと思う。ただ、これまでも「百姓は生かさず、殺さず」とばかりに農機具はじめ農業資材の価格を高止まりさせ続け、㉝のように、農家が意欲を持って再生産できなくしてきたのは本当に問題だと思うが、これには日本政府の思考の浅さだけではなく、JAの工夫のなさも加担していたのではないだろうか? ![]() ![]() ![]() 2024.11.28三菱総研 2025.2.20キャノングローバル戦略研究所 (図の説明:左図のように、1995年に食管法が廃止されて食糧法に変わったが、価格維持のため、政府による米の生産量規制は続いてきた。実際、中央及び右図のように、他国は米を増産したが、日本は緩やかに減産してOECD平均よりも高い価格を維持し、その分は見えない国民負担となっている) ![]() ![]() ![]() 2024.11.30日本農業新聞 2024.12.5読売新聞 2025.2.20キャノングローバル戦略研究所 (図の説明:左図のうち、「自立した産業にすべき」「農業予算が多すぎ」については賛成だが、輸入を増やして食料自給率を低いままにしておくと、今後の世界人口増・日本の買い負け・有事などに対応できない。また、中央の図のように、米価は2024年10月に同年1月の1.5倍、2025年6月には2025年1月の2倍になっている。しかし、右図のように、日本の農業保護のための支出《農林水産予算》はOECD諸国と比較しても2倍以上で、世界でも突出して多いのだ) *10-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250610&ng=DGKKZO89255590Q5A610C2MM0000 (日経新聞 2025.6.10) 備蓄米20万トン追加放出 農相表明 随意契約、大手小売りなど 小泉進次郎農相は10日午前、政府備蓄米を小売業者に直接渡す随意契約で計20万トンを追加放出すると表明した。2021年産10万トンと20年産10万トンを対象にする。大手小売り、中小スーパー、精米機能を持つ米穀店の全ての事業者から受け付ける。閣議後の記者会見で明らかにした。11日午前10時から随意契約の申請受け付けを始める。まずは21年産10万トンと、中小スーパー向けに申請受け付け中で残っている同年産2万トンの計12万トン分を売り渡す。21年産が申し込み上限に達した場合は20年産を放出する。先着順となる。これまでに契約を結んだ事業者も対象とする。各事業者の申込数量に上限は設けない。小泉氏は「早く安く消費者の手元に届くようスピードを緩めずに対応する」と強調した。5キロあたりの店頭価格については「21年産が1800円程度、20年産が1700円ほど」を見込む。農林水産省はこれまでに一般競争入札と随意契約で計61万トンの備蓄米を放出すると表明した。備蓄米の在庫量は24年6月末時点で91万トンだった。今回の20万トンを放出した後の在庫量は最大で10万トンほどになる。主食用米としては11年の東日本大震災に07~09年産の4万トン、16年の熊本地震時には15年産90トンを放出した。小泉氏は放出後の在庫量は「過去の事例を考えても(災害時に)十分対応できる水準だ」との見解を示した。農水省によると、5月26日~6月1日時点のコメの平均店頭価格(5キログラム)は、前週より37円安い4223円だった。値下がりは2週連続。入札で放出した割安な備蓄米の流通拡大が影響したとみられる。 *10-1-2:https://www.yomiuri.co.jp/economy/20250610-OYT1T50041/ (読売新聞 2025/6/10) コメ高騰:古古古古米も放出へ…小泉農相、備蓄米20万トンの追加放出発表 小泉農相は10日の閣議後記者会見で、随意契約による政府備蓄米の放出について、20万トンを追加すると発表した。当初予定していた30万トンが上限に近づいたためで、新たに2021年産と20年産の10万トンずつを放出する。小泉氏は「備蓄米が早く、安く、消費者の手元に届くようにスピードを緩めずに対応していきたい」と意気込んだ。20年産は初めて放出の対象となり、店頭での販売価格は5キロ・グラムあたり1700円程度になる見通しだという。まずは21年産の10万トンに加え、中小スーパー向けに受け付けて買い手がついていない2万トンを合わせた計12万トンを11日午前10時から受け付ける。各事業者の申込量に上限は設けない。21年産が終了後、20年産の10万トンを放出する。備蓄米を巡っては、一般競争入札で31万トンを放出。その後、政府が安い価格を設定する随意契約に切り替えて30万トンの放出を決め、5月26日から受け付けを始めた。今回の20万トンを加えると、約90万トンあった政府備蓄米は残り約10万トンになる。 *10-1-3:https://www.yomiuri.co.jp/politics/20250529-OYT1T50207/ (読売新聞 2025/5/29) 玉木代表の「動物の餌になるようなもの」発言、立憲民主党の泉健太氏「これから我々が口にする主食」と苦言 備蓄米を巡り、「あと1年たったら動物の餌になるようなものだ」とした国民民主党の玉木代表による発言が波紋を広げている。発言は28日の衆院農林水産委員会の質問で出たもので、玉木氏は「餌米に回るようなものを安く出しても本当のニーズではない」とも述べた。政府は、約5年間の保管期間を過ぎた備蓄米を飼料用米に回しており、2021年産の備蓄米を念頭に置いた表現とみられる。小泉農相は28日、記者団に「事実はそうだとしても、放出のあり方について取り組んでいる時に残念だ」と述べた。立憲民主党の泉健太・前代表も自身のX(旧ツイッター)で「これから我々が口にする重要な主食だ。この局面で使う言葉ではない」と苦言を呈した。玉木氏は29日、Xで「(政府の放出に)茶々を入れる意図はなく、現在の制度を説明した」と釈明した。 *10-1-4:https://news.yahoo.co.jp/articles/f5391f062902bd6b4b2a62dfdc8e18d909f10c08 (Yahoo 2025/6/17) 備蓄米は「古いものから放出すべきだった」 コメ価格高騰のワケ…政府の認識にズレ? 今後について専門家解説 農水省が発表したスーパーでのコメの平均販売価格は、5kgあたり4000円台。依然、高止まりが続いていますが、なぜコメの価格が高騰しているのか。コメ流通評論家の常本泰志氏が解説します。 ●コメ高騰のワケ1「政府が需要を見誤った生産調整を行ってきた」 コメ(主食用)の生産量・需要量の推移のグラフです。2023、2024年をみると、需要に生産が追いついていないのがわかります。常本氏:2024年の推定需要量は約682万tでした。しかし実際は約705万tで、20万t以上見誤ったことになります。ちょうど2024年夏に、スーパーからコメがなくなったと思いますが、その理由の説明として、これが一番正しいのかなと思います。 (Qなぜ、見誤った?) 常本氏:コロナ禍では、需要より生産が上回っていたことがなど挙げられます。しかしコロナ禍以降、家庭内消費が増えているので、「需要量が底を打った」ということになります。 ●コメ高騰のワケ2「農家との認識のズレ」 小泉大臣は16日、作況指数の公表を廃止すると明らかにしました。農水省によると、2024年産のコメの収穫量は約679万t(前年比+約18万t)、その年の生育状況などを表す作況指数は101と平年並みでした。しかし、多くの農家から「穫れている実感ない」という声があり、認識にズレがありました。こうした農家からの声を受け、小泉大臣は16日、作況指数の公表を廃止すると明らかにしました。また、「収穫量調査でのふるい目の変更」「人工衛星や人工知能の活用」「生産者からの収穫量データを主体とする調査」など見直しを行うとしました。 常本氏:私は産地に行く人間なので、農家から直接、生産者量についての話を聞くのですが、ここ10年、数字が当ってたことはないと思います。それぐらいコメが余っていたわけです。 ●コメ高騰のワケ3「流通経路の乱れ」 去年夏、小売業者に店頭にコメがないという状況になり、卸売業者に対して小売り業者が仕入れを強く要望しました。すると、卸売業者はコメ農家と直接契約をするようになりました。つまり、通常のルートよりも高値で交渉が成立するようになったことが、コメ高騰の原因の1つとなりました。また、卸売業者に直接コメが流れた結果、JAに入ってくるコメの量が大幅に減ってしまったことも、高騰の要因に挙げられます。 ●政府の対策 専門家の評価は? 今年1月時点で約91万tあった政府備蓄米。23年産から放出し、残りは約10万tという状況になっていますが、常本氏は「本来なら古いものから放出すべきだった」と指摘します。常本氏:倉庫では通常、先に入れたものほど、先に出るように保管します。つまり今回、一番奥にあるものから出した。それにより”流通のロス”が出ました。また、輸送面でも問題がありました。初回31万tのうち、最初に21万t出てますけど、トラックが延べ台数で約2万台。このトラック確保や、先ほどの挙げた倉庫からの積み込みの問題もあり、流通するのが遅くなりました。常本氏:もう一点、小泉大臣が就任してからは、随意契約で小売業者に放出しました。確かに迅速でよかったですが、全体のコメ価格を下げるのだったら、卸売も買える状態にして23年産と混ぜた方が平均的に下がったんじゃないか。また、古いコメに関しては、カビの問題などいろいろ出てきてます。その辺もをみても、専門業者が処理する方が妥当だったのかなと思います。また、小泉大臣は、政府が関税ゼロで輸入している「ミニマムアクセス米」の入札を前倒しすると明らかにしています。主食用については例年9月ごろに入札、12月ごろ引き渡されます。それを早め、今回は今月27日に入札を実施(3万t予定)、9月下旬に引き渡す見込みです。これに対し、常本氏は「新米収穫で数量が増えるタイミングに、わざわざ輸入する必要があるとは思えない」と指摘します。 常本氏:関税がかからず国内産より安いミニマムアクセス米が増えると、供給過多になった時に、国内産の価格が下がりすぎてしまうリスクがあります。新米の状況を見てから判断しても、よかったんじゃないか。消費者の皆さんには、ちょっとの間、我慢していただけたらと思います。 ●今後どうやってコメ価格を下げる? では、今後どうやってコメ価格を下げていくべきか。常本氏は大きく2つ提言します。 1、輸入に頼る ミニマムアクセス米に対し、関税が1kgあたり341円かかる民間輸入米。この民間輸入米を徐々に増やしていけば、国内産の価格は緩やかに下がり、5年以内にスーパーで特売価格5kg2980円(一般的なコシヒカリ)になるとしています。 2、増産する(増産したいが難しい) 上記の「5kg2980円」より安くしたいのであれば、政府が農家に所得補償をするべきと常本氏は主張します。 常本氏:アメリカでは農家の所得の40%以上、今年の場合は60%が補助金です。一方の日本は27%ぐらいです。コメの価格が下がった場合、十分な補償が必要です。ただ、30年安かったんで、誰にも継がせられないという農家が大半です。コメ農家の平均年齢は約70歳。若い人に農業やってもらうため、新規就農の補助金の枠をどう増やすか。例えば大きい農家さんに就職してもらう形で給与を保障するなどの策が必要です。 *10-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/a5de3d56329b16a6ad19e03c70f3cc7925c73bfd (Yahoo 2025/6/9) 備蓄米の放出で倉庫業者が“廃業危機”報道も…「大量に保管していたのはJA」との指摘 “江藤米”の流通が遅れた真の理由とは 第1回【コメの流通経路は「際立って前時代的」と「ドンキ」社長が喝破…「小泉大臣」方式の圧倒的なスピード感に「これまで遅かったのは誰のせい?」】からの続き・・。共同通信は6月1日、「【独自】備蓄米放出で倉庫収入消失 月4億6千万円、廃業検討も」とのスクープ記事を配信した。 * * * 記事によると備蓄米は60万トンを超える量が放出されるため、全国各地で保管している倉庫では東京ドーム約8個分の空きが生じる。結果、倉庫会社が受け取ってきた保管料が1カ月あたり約4億6000億円失われる見通しだという。共同通信は《廃業を検討する事業者もある》と伝えた。記事はネット上でも拡散し、XなどのSNSには様々な感想や意見が投稿された。担当記者が言う。「何よりも多くの読者が驚きました。『倉庫に備蓄米が保管されていないと、倉庫会社は収入を得られない』との制度設計になっていると初めて知ったからです。これでは凶作や災害が発生して備蓄米を放出するたびに、倉庫会社は経営難で廃業することになるでしょう。Xでは『備蓄米は放出するのが本来の使い方だから、放出して破綻はおかしい』、『倉庫会社には備蓄米の保管料ではなく、倉庫自体のレンタル料を払ってほしい』、『備蓄米の保管は民間委託ではなく、国営の倉庫で行うほうがいい』など、放出しても倉庫会社が困らない制度に改めるべきという意見が目立ちました」。ところが、である。備蓄米を預かる倉庫のうち、かなりの数をJAが運営していることをご存知だろうか。 ●JAの低温倉庫で保存 「日本経済新聞の電子版は1月31日、『備蓄米100万トン、維持費は年478億円 低温倉庫で保管』との記事で、備蓄米は《各地のJAなどにある低温倉庫で保管される》と伝えました。また読売新聞の編集委員は自身のXで備蓄米の大量放出問題に触れ、《備蓄米の在庫が減れば1万トンあたり年1億円の血税を払ってきた倉庫費用が浮く》と指摘、《備蓄米の多くを保管してきたJAは収入減で困るだろう》と投稿したのです(註)」。備蓄米を保管する倉庫の所在地を、国は「防犯上の理由」から非公表としている。だが新聞記事のデータベースで調べてみると、JAの倉庫が備蓄米を保管していると伝える複数の記事が表示される。例えば東北地方のJAが低温保存も可能な倉庫を竣工したと伝えた記事では、「備蓄米を保管することも計画」と報じた。上越地方にあるJAの低温倉庫は一般開放を行い、ガイドツアーが備蓄米の保管状況を見学者に説明した。首都圏のJA倉庫では火事が発生し、多量の備蓄米が焼けた……。「もちろん物流など、備蓄米の保管を引き受けている、JAとは無関係の民間企業もあります。ただ考えてみると当たり前ですが、JAはコメの集荷を担っています。保管用の倉庫を整備することは重要な事業でしょう。最新型の低温管理倉庫も持っていますから、そこで大量の備蓄米を保管するのは理に適っていると言えます。そして、だからこそJAが落札した“江藤米”の流通がなぜ遅れたのかという疑問に再び注目が集まっているのです」 ●回転備蓄と棚上備蓄 多くの消費者は「国の倉庫に保管されている備蓄米をJAが落札。JAが国の倉庫から備蓄米を受け取って精米や発送を行っている」と思っていたのではないだろうか。しかしJAが備蓄米の相当量を保管しているのだから、中には「JAが倉庫に保管していた備蓄米をJAが落札した」というケースもあったかもしれない。その時にJAが急いで手元の備蓄米を卸に流してしまうと、倉庫の保管料は減少してしまう──。「JAが備蓄米制度に強い影響力を行使した問題は他にもあります。例えば備蓄米の保管方法は2011年に『回転備蓄』から『棚上備蓄』に変更されました。前者は備蓄米を数年保管した後、主食用の古米として市場に売却します。後者は数年保管した後、飼料用など非主食用として売却します」。棚上備蓄に切り替わったからこそ、国民民主党の玉木雄一郎代表は5年を過ぎた備蓄米を「エサ米」と呼んで炎上したわけだ。実は農水省の試算によると、今の棚上備蓄より昔の回転備蓄のほうが国民の負担は少ないのだという。なぜ国は棚上備蓄に変更したのか、そこにJAの圧力があったのか、第3回【東日本大震災での放出は「4万トン」…備蓄米は本当に「100万トン」も必要なのか JAの影が見え隠れする“備蓄米ビジネス”のカラクリ】では詳細に報じている。 *10-3-1:https://www.agrinews.co.jp/news/index/312787 (日本農業新聞 2025年6月15日) 担い手農地集積率微増 規模拡大に限界感か 24年度 2024年度の担い手への農地集積率が61・5%となり、前年度から1・1ポイント伸びたことが農水省の調べで分かった。前年度からの伸び幅が7年ぶりに1ポイントを超えたが、30年度までに7割にする政府目標達成に必要な水準には届いていない。農地を任せたくても担い手がいなかったり、担い手の規模拡大にも限界感が出たりしていることが、伸び悩みの背景にあるとみられる。集積率は、国内の農地のうち、担い手が利用している農地の割合。18年度までの5年間は毎年、前年度を1ポイント以上上回るペースで伸びていたが、近年は伸びが鈍化している。政府目標を達成するには、毎年1・4ポイントずつ伸ばす必要があるが、24年度は下回った。同省によると24年度時点で、担い手が利用している農地は262万7100ヘクタール。前年度から3万3700ヘクタール(1・3%)増えたが、うち農地中間管理機構(農地バンク)を介したものは75%だった。集積率を都道府県別に見ると、最も高い北海道(92・5%)に加え、秋田、山形、富山、福井、佐賀の6道県で7割を超えた。水田農業地帯で高い割合の一方、果樹産地や都市近郊で低い傾向がある。前年度からの伸び幅は沖縄(3・5ポイント増)、福島(2・8ポイント増)、奈良(2・6ポイント増)の順に大きかった。政府は、13年に策定した成長戦略「日本再興戦略」で、23年度までに集積率を8割にする目標を掲げた。ただ、23年度の集積率は60・4%にとどまり、目標は未達に終わった。同省は今年4月に閣議決定した食料・農業・農村基本計画で、30年度までに集積率を7割にする新たな目標を掲げた。最終的に「8割」を目指す方針に変わりはないが、30年度時点の現実的な目標として「7割」にした。 *10-3-2:https://www.agrinews.co.jp/news/index/313311 (日本農業新聞 2025年6月18日) 農相と経団連 企業参入加速へ合意 出資要件緩和は議論継続 小泉進次郎農相は17日、東京都内で経団連の筒井義信会長らと会談し、企業の農業参入の加速やスマート農機の活用に向けて協力していくことで合意した。農地所有適格法人の出資要件について、「緩和すれば参入できるという思いの民間企業がいることも事実」と述べ、議論を続ける考えを示した。農相と経団連の会談は、2014年以来11年ぶり。小泉農相は、食料安全保障の確保には、「(農業への)企業参入や民間の投資も不可欠」だと強調。経団連と連携して加速させる考えを示した。企業の農業参入には「一定の経済合理性がなければ参入が見込めないというのは当然」と指摘した。参入促進策に関しては「これから具体的にご提案をいただく」と述べた。農地所有適格法人は、農業者の経営決定権を踏まえ、農業者以外の出資割合を2分の1未満とする。ただ、食品事業者と地銀ファンドに限り、3分の2未満まで出資できるよう要件が緩和された。小泉農相は、法人数は「右肩上がりで増えている」と述べ、参入が進んでいるとの認識を示した。要件は「十分な面」もあるとしつつ、緩和を求める企業の声も踏まえて議論する方針を示した。農機価格の高騰を受け、建設業界の知見も踏まえたリースやレンタルの普及拡大について議論した。「サービスとして当たり前の農業界に変えていかなければいけない」と意欲を見せた。筒井会長は「官民でどのように協力し合いながら進めていけるのか。議論の土俵が今日出来上がった」と話した。 *10-3-3:https://www.agrinews.co.jp/opinion/index/314296 (日本農業新聞論説 2025年6月22日) 自給率向上の方策 食品産業との連携密に 気候変動や国際的な食料需要の増加で食を巡るリスクは高まっている。食料安全保障を確保するには、国内の生産基盤を強化することが先決だ。農業振興と自給率の向上には、食品産業とのつながりを強くし、国産の原材料を積極的に活用していくことが欠かせない。自民党は今月上旬、小泉進次郎農相に対し、食品産業による国産原材料の利用拡大などを求める提言を出した。輸出促進や環境調和とも連動させ、持続可能な食品産業の発展を求めた。農水省は、「持続的な食料システムの確立」に向けて2024年度の補正予算で47億2100万円、25年度は1億4500万円を計上。食品産業と産地が連携することで農業基盤を維持し、地域の雇用促進や地方創生につながる。ウクライナ危機以降、小麦をはじめ穀物や資材価格が高止まりし、しわ寄せは農家だけでなく国民全体に広がっている。輸入依存体質のままでは、食料安全保障のリスクは高まるばかりだ。同省が示す諸外国のカロリーベースの自給率(21年)はカナダ204%、フランス121%、米国104%、ドイツ83%、英国58%などに対し、日本は38%と低迷する。自給率向上につなげるには、国産の利用拡大が不可欠となる。生産基盤の強化へ、異常高温などの気候変動に対応した持続可能な産地づくりも重要だ。環境負荷の軽減を目指す同省の「みどりの食料システム戦略」実現には、地域やJAを挙げて有機農業など環境保全型農業を推進すべきだ。国産の価値を理解し、買い支える消費者を増やすとともに、再生産できる所得の確保へ政府による支援が欠かせない。環境負荷を減らした農産物であることが、ひと目で分かる「温室効果ガス削減マーク」の取り組みが参考になる。土壌への炭素貯留や、緑肥の活用などに応じて温室効果ガスをどれだけ削減したかを算定し、星印で表す。環境に配慮した国産農産物を消費者が選んで食べることで、日本の農業を支えることになる。生産者と消費者、産地と食品産業が共に支え合う「対等互恵」の関係を構築する時だ。農家の高齢化や離農、廃業が止まらず、生産基盤の弱体化は進む。米の価格上昇で起きた混乱は、他の農畜産物でも起こり得る。農業が先細れば、誰が日本の食を支えるのか。農家が意欲を持って再生産できる所得を得られなければ、政府が推し進めるスマート農機も導入できない。農業と食品産業は車の両輪だ。連携を密にし、国産原料の活用を推進することが、危機に強い生産基盤を築き、自給率向上につながる。
| 年金・社会保障::2019.7~ | 02:00 PM | comments (x) | trackback (x) |
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