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2019.3.8 日本は人権を大切にしない国である ← ゴーン氏の逮捕と長期勾留から (2019年3月9、10、11、12、13日に追加あり)

    2018.11.19逮捕       2018.12.7朝日新聞    2019.3.6朝日新聞

(図の説明:左図のように、2018年11月19日、ゴーン氏とケリー氏が突然逮捕され、日産は速やかにゴーン氏を会長からケリー氏を代表取締役から解任し、中央の図のように、西川社長が記者会見した。この後、右図のように、108日後にゴーン氏は保釈されたが、保釈条件はまるで殺人犯・性犯罪者・テロリストのようなものだった)

(1)ゴーン氏が殺人犯やテロリストのような扱いを受ける理由はないこと
1)ゴーン氏の報酬は巨額過ぎ、巨額報酬は犯罪になるか? ← 報酬は雇用者と被用者の合意に基づけばよいのであり、金額が多すぎるからといって犯罪にはならない

 報酬が多額であることを理由に刑事犯として裁かれた経営者はいないだろう。株主・投資家にとって重要なのは、実績と比較して報酬が多きすぎるか否かであり、仮に株主の賛成が得られなかったとしても株主総会の決議によって否決されるだけの民事上の問題で、利害関係のない人には無関係のことである。そして、株主・投資家の判断根拠となる開示方法が、有価証券取引法で定められているわけだ。

 そのような中、*1-1のように、日産自動車元会長のゴーン氏が逮捕され、西川広人社長兼CEOが「①不正の背景としてゴーン元会長に会社全体が依存していた」「②経営手腕への期待が先行し、個人に権限が集中する企業統治の議論が不十分だった」「③昨年10月に社内調査の結果が来て、トップとして守るべきことから完全に逸脱しており、ゴーン元会長の不正自体が問題だ」「④最初うまくいっていたという見方は幻想だ」と話したそうだ。

 しかし、①②については、*1-2に「西川社長ら現経営陣の責任を問わない」と書かれており、他の人は何もしなくてよいほど権限を集中させた上で、日産・ルノー組を世界第二位の自動車会社に押し上げたのなら、ゴーン氏の報酬は20億円でも足りないくらいで、取締役はじめ他の役員は1千万円でも高すぎるだろう。また、本当に不正があったのなら、八田名誉教授の意見のとおり、上場会社である日産の経営陣はゴーン氏の不正を長年見過ごしてきたのだから、社外取締役を中心とする特別委は当事者の一部であって独立性がなく、不正の真因を突き止める役割を果たすことはできない。しかし、それなら、上場会社である日産は、内部統制に関する外部監査も通らなかった筈で、形だけの監査をしていたのでなければ、①②は成立しないのである。

 また、③については、*1-5のように、2019年1月下旬に日産のCFOが社内調査に追われていたそうだが、このような調査は外部監査法人に依頼するのが世界標準だ。その外部監査法人は、これまで監査意見を書いてきたEYではなく、PWCやトーマツのような他のBig4である。私は、PWCで外資系企業の不正の監査に携わったことがあるが、それほど難しいものではなく、このように会社が協力的である場合はなおさら容易だ。

 そして、監査(調査)結果は、不正があったとすれば「いつ」「どのようにして」「いくら」あったのかを明らかにしなければならず、「不正はない」という結論が出ることもあり、これらは利害関係のない第三者だから信じてもらえるのである。また、日本人記者の目に、「日本の大企業とは思えないずさんな資金の流れ」に見えたとしても、その国の文化に従いつつマーケティング目的を果たすために使われたのかも知れないため、直ちに不正と決めつけることはできない。そのため、正確を期すには、その国にある系列監査法人の意見を聞く必要もあるのである。

 さらに、④のゴーン氏の経営能力に関する評価は、監査手続きの一つとして外資・内資系企業の経営者と話し慣れている私には過小評価に思える。何故なら、ゴーン氏は最新技術の導入にあたって経営意思決定を誤らなかったが、ゴーン氏逮捕事件の後は、*1-2のように、日産・ルノーの売上高は、北米・中国で新車販売が大きく落ち込み、その理由は、このような司法の使い方をしたり、ガソリン車(e-Power搭載のIMQも同様)に昔返りしたりしている日産に対する失望の気持ちが加わっているからである。つまり、日産が、今になってe-Power搭載のIMQなどを作るのは、人材・資本など経営資源の無駄遣いにすぎず、企業利益率を落とすものでしかない。

 従って、*1-3の「ゴーン前会長の巨額報酬を問いたい」とする記事については、20億円/年が正当だったが、日本メディアの不合理でしつこい追及を避けるため、退職後に退職慰労金として受け取るスキームを法律・会計・税務の専門家が頭を絞って合法になるよう検討したのだろうと、私は推測する。

2)長く経営者をしているのは、逮捕されるべきことか? ← 普通は褒められることである
 *1-4には、「①ゴーン退場、長く居すぎたカリスマ、迷走する日産・ルノー」「②V字回復後に「独裁」の土壌」「③2018年12月、インドネシア日産自動車のトップが古巣の三菱自動車に戻された」「④日産が2010年に発売したEVリーフは、6年後にルノーと共同で累計150万台のEV販売目標を掲げたが、3年目で7万台と苦戦」「⑤長く居すぎたカリスマ経営者の末路」などと書かれている。
 
 しかし、②のV字回復に独裁が必要だったのなら、ゴーン氏は恨まれるリスクを犯して日産をV次回復させた英雄である。が、ゴーン氏が行った人事は、③や中国事業担当幹部のムニョス氏などの外国人幹部が主要業務から外れ、この100日間にEV系が後退したように見える。しかし、①⑤の「長く居過ぎた」というのは意味不明で、フィットした人なら長く居てもらった方がよく、実際、長くやっている経営者は多い。

 私は、③のリーフがあまり売れなかった背景は、i)電池が永く持つ改良をしなかったこと ii)リーフの名のとおり、環境に優しいことのみを前面に出して、EVの低燃費・運転支援のすごさ・(例えばélégance《エレガンス:優雅》、joie《ジュア:喜び》などの名称で)車の優雅さなどを主張しなかったこと iii)最初に出したEVだったためか、メディアをはじめとして的外れたEV批判が多かったこと などだと考える。そのため、世界にEVの潮流を作り、その流れに乗る選択と集中を行って、EVのラインアップを増やすのが正解だっただろう。

(2)これまでの日産・ルノーの実績は、誰でもできたことか? 
1)世界初のEV市場投入は、日本人経営者にはできなかった
 日産は、ゴーン氏がトップであった時代にEVに手を付け、*2-1のように、現在、中国の環境規制を追い風として中国ではEV戦略を加速している。私は、シルフィEVなら関心があるが、*2-2のジュネーブモーターショーで初披露されたというガソリン発電で動くIMQには全く興味がなく、これはどの国なら売れるのだろうかと疑問に思うくらいで、この車の制作は無駄遣いだったと思う。つまり、ゴーン氏なき日産は、このように既に目的もなく漂流し始めているのであり、これまでの日産・ルノーの実績は、誰にでもできたことではないのだ。

2)メディアの悪質な報道ぶり
 日本のメディアは、*2-3のように、ゴーン氏は光と影をもたらした(=優秀な人には必ず悪いところがあり、普通の私たちこそ模範だ)と決めつけて、ワンマン経営者の没落ぶりを報道したくて集まっていた。そこに、作業着姿で青い帽子にオレンジ色の反射ベストを身につけ、マスクをしたゴーン氏が出てきて、スズキの軽ワゴン車に乗り込んだため、「変装か」「後ろめたいところがないなら、変装などせずに堂々と出てきてほしかった」などと書いているが、このような目的で集まった報道陣の前で何を話しても悪くしか報道しないため、準備してから記者会見を開くのが正解だ(ただし、それでも主観的な感想を書かれるので危ないのである)。

 そのため、この日にはメディアの前で語ることなく、無罪の証拠を揃えるのが賢明である。弁護人の弘中氏は、*2-4のように、「ゴーン氏の変装をテレビ見てびっくりした」としているが、ゴーン氏も入社した当時は作業服を着て現場で働きつつ、厳しい競争に勝ち抜いて社長になったのだから、作業服も似合っていたし、背筋を伸ばして堂々ともしていた。この点が、現場と経営者は入社当時から異なる道を歩いていると考える日本人のおかしさなのである。

 ゴーン氏が乗車したスズキの社長は長く社長を務めた創業者だが、ガソリン車に固執しすぎたため、スズキは先が見えなくなっている。また、スズキ(https://www.suzuki.co.jp/corporate/producingbase/abroad.html 参照)は静岡県に生産拠点が多く、インドでも販売を伸ばしているが、今後は鉄道車両も蓄電池電車や燃料電池電車に行く方向であるため、ゴーン氏の保釈姿は、今後のゴーン氏の役割を示しているように、私には思われた。

 さらに、日産は、*1-6-1・*1-6-2のように、ゴーン氏の報酬約92億円分を確定報酬分としてあわてて決算計上し、有価証券報告書に記載していなかった報酬の支払いは確定していたと主張しやすくしたと同時に、報酬の支払いを凍結した。これは、ゴーン氏に対して司法判断で敵対しつつ、日産がゴーン氏に損害賠償請求しようとするものだが、まさに、このように理由をつけて凍結されたり、支払いを拒否されたりする可能性があるから、報酬は受領日まで確定しておらず、受領日の属する期に認識するのである。

 また、ルノーも、*1-6-3のように、ゴーン氏が退任に伴って受け取る金銭の約3千万ユーロ(約38億円)相当の支払いを認めないことを決め、退任時に報酬として受け取る権利のあったルノー株約46万株(約33億円相当)の支給もとりやめ、ライバル会社に退任後2年間転職しないことを条件に支給する補償金400万~500万ユーロ(約5億~6億3千万円)も支払わないそうだ。

 そのため、ゴーン氏はライバル会社に転職することも自由であり、それはスズキでもよいし、*1-6-4のテスラでもよいだろう。何故なら、米EV大手、テスラ社のイーロン・マスクCEOは、イノベーションには優れた人だが、関心が自動車だけでなく宇宙にも広がっているため、ゴーン氏が自動車部門のリーダーを引き受けて世界展開に導くのが合理的だと思われるからだ。しかし、この時ネックになるのが日本の司法は審理にも時間がかかることで、日本の司法は、*3-1のブラジル弁護士会によるゴーン元会長への「人権侵害」の指摘や*3-2・*3-5の「人質司法」だけでなく、時間を引き延ばすことによる人権侵害も重ねているのである。

(3)逮捕と懲罰用監房での勾留について
 日本は、憲法で罪刑法定主義「第31条:何人も法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない」「第39条:何人も実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない」と定めている。

 そして、刑罰でもないのに、身体の自由を拘束したり、抑留や拘禁したりすることを禁止し、拷問や自白の強要を禁止している。当然、新しく法律を作って、過去に遡及して処罰することも禁止されている。

 にもかかわらず、ゴーン氏は、*3-6のように、有罪が確定したわけでもないのに、証拠隠滅の恐れがあるとして懲罰用の監房で108日間も勾留された。そして、①居住地の日本国内への制限 ②海外渡航の禁止 ③関係者との接触を疑われないよう住居の出入口に監視カメラを設置し、録画映像を定期的に地裁に提出する ④携帯電話の通信制限 など、まるで殺人犯か性犯罪者かテロリストのような条件で保釈されたが、その上、*3-3のように、保釈金10億円も支払わされている。そのため、ゴーン氏は、*3-4のように、この保釈条件に「嫌そうな顔」をしたそうだが尤もであり、これら一連のやり方は日本国憲法に違反している。

 そして、ゴーン氏を108日も勾留し、日産も会社として地検に協力しているのに、地検がまだ金融商品取引法違反や特別背任罪の証拠を得ていないのなら、そのような罪はないことが明らかだ。何故なら、本当に何かあれば、1~2カ月で報告書までできるからだ。さらに、日産の西川社長がゴーン氏の保釈について「経営や仕事への影響はない」と言っているように、元会長のゴーン氏は、社長を退いて以降(特に現在)は、日産に影響力を駆使して証拠を捏造することは不可能であるため、③の関係者と接触させない理由は、ゴーン氏が無実である証拠を作成して提出するのを邪魔する目的にすぎないと思われる。

・・参考資料・・
<ゴーン氏が殺人犯やテロリストのような扱いを受ける理由はないこと>
*1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190228&ng=DGKKZO41846630Y9A220C1MM8000 (日経新聞 2019年2月28日) 日産・西川社長「あの時、議論すべきだった」、ゴーン元会長に全権 2005年が転機
 日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告が逮捕され、27日で100日を迎えた。西川広人社長兼最高経営責任者(CEO)は日本経済新聞の取材に応じ、不正の背景として、ゴーン元会長に会社全体が依存していたと指摘した。経営手腕への期待が先行し、個人に権限が集中するガバナンス(企業統治)十分だったと認めた。同時に「(ゴーン元会長が仏ルノーのトップを兼務した)2005年ごろに自分たちで問いかけるべきだった」と語った。ゴーン元会長は1月30日、日本経済新聞の取材に対し、自らを巡る日産社内の不正調査を「策略であり、反逆だ」と主張した。西川社長は「昨年10月頭に私に社内調査の結果が来た」としたうえで「刑事事件になるかどうかにかかわらず、トップとして守るべきことから完全に逸脱していた」と、ゴーン元会長の不正自体が問題だと反論した。ゴーン元会長は1999年、ルノーから最高執行責任者(COO)として経営危機の日産に乗り込み、V字回復をさせた。西川社長は不正が起きた背景を「99年の記憶が生々しく、トップをやってもらえると日産が成長し将来的に安定していけるという気持ちが強かった」と説明した。西川社長はCEOだったゴーン元会長がルノーCEOも兼務した05年が「大きな変化点」になったと振り返った。05年はゴーン元会長が事実上両社のトップを兼ね、日仏連合の権限の集中が始まった年になる。西川社長も「ゴーン元会長がルノーの責任者にもなってくれるなら日産の自立性を担保してくれる」と受け止めたという。同時に社内外が「祭り上げすぎたというのは正直ある」と述べ、「ガバナンスが非常に難しくなるという議論が十分でなかった」とも認めた。経営破綻の危機から脱するには権限集中がプラスに働いた面もある。ただ西川社長は「企業連合は1本のリポートラインで個人に情報がいくことを中心に考えられていた」と指摘した。企業連合を築いた先代経営者と比べ「剛腕だけでは駄目だ」と、独裁的な運営手法を批判。「当時うまくいっていたとの見方は幻想だ」と話した。日産では17年秋、完成車検査の不正が発覚し、社内で不正を申告しやすい雰囲気になっていたという。ワンマン体制を築いたゴーン元会長だが、18年春ごろから不正を巡る社内調査が始まっていた。18年11月、ゴーン元会長は東京地検特捜部に逮捕されたが、社内調査には気づかなかった。西川社長はこの理由を「本人が現場から遠くなり、幹部も含めた掌握力が弱くなっていった」と述べた。近年のゴーン元会長は1カ月に数日しか日産に出社していない。西川社長は部品などの調達畑が長く、ゴーン改革を裏側から支え、17年に社長兼CEOに就いた。実際のトップはゴーン元会長であり続けたことに対し「徐々に実力と実績ではね返していくしかないと思った」という。一方、日産の取締役会が長くゴーン元会長の不正を見抜けず、日産は有価証券報告書への虚偽記載の罪で法人としても起訴されている。西川社長は不正を見抜けなかった理由について「非常に頭が良い人」として「プロや自分の側近を使って実行し、なかなか分からない」と説明した。取締役会は「気がつかないというか、分からない」と釈明した。側近は、ゴーン元会長と同時に逮捕された元代表取締役のグレッグ・ケリー被告らを念頭においているとみられる。西川社長は自らの経営責任に関しては「トップの責任を果たしていく。社内の動揺を元に戻してまとめ、ルノーとの提携関係を前に進めることなどは自分がやるしかない」と、6月の定時株主総会以降も社長を続投する考えを示した。今後の焦点は日仏連合の運営体制だ。空席の日産会長職をルノーが指名する意向を伝え、日産は拒否してきた。ルノーでは1月下旬にジャンドミニク・スナール氏が会長に就き、2月中旬に来日し西川社長と会談した。西川社長はルノーとの関係について「普通の状態に戻りつつある。(両社の問題は)解消していく」と話した。「会長は日産内部で決めていく。スナール氏も十分理解している」と述べ、日産が会長を指名できる展開に自信を見せた。もっとも両社の資本関係は、ルノーが43%の日産株を持つ一方、日産はルノーへの15%出資にとどまる。ルノーの筆頭株主である仏政府の出方を含め流動的な面は残る。

*1-2:http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201902/CK2019022302000150.html (東京新聞 2019年2月23日) 日産経営陣の責任問わず 特別委方針「議論の対象外」 ゴーン被告不正
 前会長カルロス・ゴーン被告の不正を許してきた日産自動車の企業統治(ガバナンス)の見直しについて有識者らが議論する「ガバナンス改善特別委員会」が、西川広人社長ら現経営陣の責任を問わない見通しであることが分かった。専門家からは、責任の所在を明確にしないままでは、実効性のある改善案にはならない、との指摘が出ている。特別委関係者は取材に「委員会の主要議題はガバナンス改革。責任を問うのは仕事ではない」と述べた。これまでの議論で、役員の人事や報酬などを社外取締役が中心となって決める「指名委員会等設置会社」への移行などを検討している。人事や報酬を決める権限がゴーン被告に集中した反省などからだ。だが、不正を見逃してきた経営陣の責任の検証については議論の対象になっていないという。特別委は昨年十二月に設置。三月末までに提言案をまとめる計画だ。委員は、弁護士ら外部有識者四人と日産の社外取締役三人の計七人。社外取締役は経営陣の一角を占め、責任検証の対象となりうるため、特別委はそもそも経営陣の責任を問いづらい体制になっている。社外取締役を委員に選んだ理由を日産は「会社の状況を把握しており、提言を速やかに行うため」としている。ガバナンスの問題に詳しい青山学院大の八田進二名誉教授は「日産の経営陣はゴーン被告の不正を長年見過ごしてきた。なぜ不正が起きたのか真因を突き止めようとすれば必然的にその責任を検証しなければならない。特別委は役割を果たしていない」と指摘している。

*1-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2019030702000191.html (東京新聞社説 2019年3月7日) ゴーン前会長 巨額報酬を問いたい
 ゴーン被告については昨日、いわゆる人質司法の問題を指摘したが、一般的に巨額すぎるような報酬についても改めて考えてみたい。富を偏らせる政治や経済の仕組みに、ゆがみはないのかと。著しい収入格差は世界に広まっている。格差を研究する国際非政府組織(NGO)、オックスファムは二〇一八年、世界の富豪上位二十六人の資産約百五十兆円と、世界人口の半分にあたる三十八億人の貧困層の資産がほぼ同額だと報告した。数字を見て資本主義の暴走を感じはしまいか。国内に目を向ければ、企業が収入を人件費に回す労働分配率は約66%で、石油ショックに苦しんだ一九七〇年代中頃の水準まで落ち込んでいる。富裕層は富を増やし続け、勤労世帯の所得が減る流れが国内外で定着している。保釈されたゴーン被告は日産会長として一時、年十億円を超す報酬をもらっていた。これに対し、株主総会で批判が出ていた。九九年以降、経営危機に陥っていた日産の立て直しに尽力したのは事実だ。彼なしに今の日産はないだろう。しかし、経営再建に際し多くの系列会社が取引を停止され、社員も大量に去らざるを得なかった。多大な犠牲を払った上での再建だ。ルノーも再三困難に直面した。雇用不安を抱える従業員や株主らが、突出した報酬を批判するのは理解できる。もちろん巨額報酬をもらっている経営者は、ゴーン被告だけではない。突出した巨額な報酬が目立ち始めたのは、九〇年代以降の米国の金融界だった。自社株による報酬支払いを巧みに使いこなし、多くの経営者が天文学的な額の報酬をもらい続けた。生産性の高い人間が高い報酬を得るのは資本主義の原則だろう。だが一握りの経営者があまりにも巨額な報酬をもらい、一般労働者は残りを分け合うという構図は、社会のあり方としてどうか。不公平は、社会全体の不安定を招きはしないだろうか。フランスの経済学者、トマ・ピケティは一三年、著書「21世紀の資本」で資産課税強化による格差の是正を唱えている。しかし、政策に反映されてはいない。ゴーン被告の巨額報酬は、格差の現実を改めて可視化し人々に提示した。それが資本主義のゆがみであるなら、たださねばならないだろう。 

*1-4:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO39977060S9A110C1EA2000/ (日経新聞 2019/1/13) ゴーン退場 長く居すぎたカリスマ、迷走する日産・ルノー(中)V字回復後に「独裁」の土壌
 「また詰め腹を切らされたか」。2018年12月、インドネシア日産自動車のトップが古巣の三菱自動車に戻された。16年10月に日産が三菱自を実質的に傘下に収めたのを機に、両社のトップを務めていたカルロス・ゴーン元会長(64)が打ち出した交流人事の目玉だったが、就任からわずか1年半で職を解かれた。ゴーン元会長は日産の第2ブランドとして「ダットサン」ブランドを14年に復活させた。新興国向けの低価格車を投入してトヨタ自動車グループの牙城切り崩しを狙ったが、18年1~11月の販売台数は1万202台、シェアは1%(マークラインズ調べ)。多目的車が主流となるなか、小型車投入があだとなった。「リーマン・ショック後の10年以降、明らかに彼は変わった」。多くの日産幹部は口をそろえる。同じく日産が世界に先駆けて10年に発売した電気自動車(EV)「リーフ」。6年後にルノーと共同で累計150万台のEV販売目標を掲げたが、発売から3年目で7万台と苦戦していた。元会長は腹心の志賀俊之・最高執行責任者(COO、当時)をEVの責任者に据えてこ入れを託したが、7カ月後の13年11月にCOOを解任する。北米戦略の失敗も重なり、2期連続で業績見通しの下方修正を迫られた。一世を風靡した「コミットメント経営」は封印、古参の日本人幹部も一斉に入れ替えた。「再建」から「成長」モードに入ったゴーン元会長は、トップダウンでロシアのプーチン大統領の要請に応じ同国最大手のアフトワズを買収。経営者同士の友好関係を生かし独ダイムラーとの提携も決めた。しかし、側近を相次いで排除していった結果、実務が滞りゴーン元会長の思った通りの成果を上げられなかった。それがまた焦りを生み、意にそぐわない幹部を次々と入れ替える「独裁」につながっていった。ゴーン元会長をはじめ、企業の危機などを乗り越え、V字復活を遂げた経営者は「カリスマ化」されることが多い。しかし、「経営が軌道にのった後の成長や新機軸を打ち出すのに苦労するケースが多い」と、ローランドベルガーの貝瀬斉パートナーは指摘する。この点で、米ゼネラル・エレクトリック(GE)のジェフ・イメルト元最高経営責任者(CEO、62)も似ている。イメルト氏は米同時多発テロやリーマン・ショックの2度の危機を放送や金融などの事業売却で乗り切り、「選択と集中」の経営手腕は高く評価された。復活を遂げたあと、さらなる成長に向け目をつけたのが電力事業だった。仏アルストムの電力事業の買収合戦で三菱重工業を制し傘下に収めたが、再生可能エネルギーの台頭を読み切れず主力のガスタービンが不振に陥った。17年の退任直前の株価は在任中最高値の半分の水準に下落した。後継CEOに再生を託したが、アルストムの事業買収で2兆円近い減損処理を迫られ、後継者は志半ばで退任する事態を招いた。20年以上、独フォルクスワーゲン(VW)の実権を握ったオーナー家出身のフェルディナント・ピエヒ氏(81)。世界一を目指す中で、ピエヒ氏にシェアの低い米国市場の攻略を求められた幹部らは、不正なソフトウエアを使い排ガスデータを改ざん。全世界で1100万台が不正の対象となる不祥事の元凶となった。ピエヒ氏は社長に引き上げたマルティン・ヴィンターコーン氏(71)の解任を画策したが、逆に辞任に追い込まれた。いずれも「長く居すぎた」カリスマ経営者の末路だ。

*1-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190301&ng=DGKKZO41853860Y9A220C1EA1000 (日経新聞 2019年3月1日) ゴーン退場100日(4) 「特注銘柄は避けたい」
 1月下旬、日産自動車の最高財務責任者(CFO)、軽部博(62)は社内調査に追われていた。元会長、カルロス・ゴーン(64)の役員報酬は本当はいくらだったのか。ほかに財務諸表への記載漏れはないのかも確認が必要だ。調査チームからは「事実がなかったと証明するのは至難の業。まるで悪魔の証明だ」と嘆きの声。事件の影響をできる限り示さないと市場の信頼を失ってしまう。帳簿を遡る作業は終わりが見えなかった。金融市場が日産への不信感を強めている。役員報酬の虚偽記載や親族を含む元会長周辺の不明瞭な資金の流れ。国内有数の大企業とは思えないずさんな実態が次々と明るみに出てくる。昨年11月、ゴーンが逮捕されると日本取引所グループ(JPX)は即座に動いた。内部管理に問題があると注意を促す「特設注意市場(特注)銘柄」に指定する必要があるかの調査だ。2月22日の定例会見。JPXの最高経営責任者(CEO)、清田瞭(73)は「全容が分からず情報収集の段階」と言葉を選んだ。だがJPXの幹部は「虚偽記載は投資家の判断を誤らせる重大な不正」と厳しい。「東芝にはなりたくない」と日産幹部は漏らす。トップの暴走で不適切会計に手を染めた東芝は2015年に特注銘柄に指定され2年にわたり苦しんだ。実質的に市場から資金調達できず、多くの機関投資家は内部規定に従い株を売る。50万人近い株主がいる日産にとって「何としても避けたい」シナリオだ。株主には不満が蓄積する。個人株主の石上晶敏(62)は「これほどの不正に気づかないのは会社としておかしい」と口にする。機関投資家に影響力がある米議決権行使助言会社、インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズの日本法人代表、石田猛行(50)は「企業統治の仕組みが脆弱だ」と指摘する。このままなら株主総会で取締役の選任議案に反対が相次ぐ事態になりかねない。「もはやコスト削減では補えない」。2月初旬、軽部は営業報告を見てうなった。北米や中国で新車販売が大きく落ち込み、19年3月期の営業利益は900億円の下方修正を余儀なくされた。事件の影響ばかりではない。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の杉本浩一(48)は「魅力のある新型車を増やさないと厳しい」と話す。ゆがんだ企業統治、低下する収益力。経営危機だった20年前の記憶は今も色濃く残る。ゴーン退場で日産は再び瀬戸際に追い込まれた。

*1-6-1:http://qbiz.jp/article/148306/1/ (西日本新聞 2019年2月5日) 日産、ゴーン被告の報酬凍結へ 90億円を決算計上
 日産自動車が、前会長のカルロス・ゴーン被告=会社法違反(特別背任)などの罪で起訴=に関し、有価証券報告書に記載していなかった報酬の支払いを凍結する方針を固めたことが5日、分かった。約90億円分を確定報酬分として近く決算に計上するが、ゴーン被告の報酬過少申告の事件を巡る司法判断や、日産が検討しているゴーン被告への損害賠償請求をにらみ実際の支給は見送る。関係者は「ゴーン被告が絡んだ不正の総額は、確定報酬額を上回る可能性がある」との見方を示した。報酬額が賠償額と事実上相殺され、ゴーン被告が最終的に受け取れないケースも考えられる。東京地検特捜部は、ゴーン被告の役員報酬が、2015年3月期までの5年間に計約50億円、16年3月期〜18年3月期に計約40億円それぞれ有価証券報告書に過少記載されたとして、ゴーン被告らを起訴した。法人としての日産も起訴された。日産は起訴内容を認めているが、ゴーン被告側は先送り分の報酬は金額が確定していないとして否認していることを踏まえ、裁判所がどのように認定するかを見極めたい考えだ。このほか、日産の社内調査でゴーン被告が多額の高級住宅の購入や改装費などを日産側から支出させていたことなどが判明。ゴーン被告に損害賠償請求訴訟を起こすことも検討している。ゴーン被告は1999年6月、日産の最高執行責任者(COO)として就任。業績回復に経営手腕を発揮し、2001年6月に社長兼最高経営責任者(CEO)、17年4月に会長となった。

*1-6-2:http://qbiz.jp/article/148648/1/ (西日本新聞 2019年2月12日) 日産、通期純利益半減へ ゴーン被告報酬92億円計上
 日産自動車は12日、2019年3月期の連結純利益予想を従来の5千億円から4100億円に下方修正した。前期の実績に比べ45・1%減と約半分になる。主力市場の米国での販売不振と貿易摩擦による中国の景気減速が響く。同時に発表した18年4〜12月期決算には、会社法違反(特別背任)などの罪で起訴された前会長カルロス・ゴーン被告の確定報酬分として92億3200万円を追加費用計上した。ゴーン被告が昨年11月に逮捕されて以来、初めての決算発表だった。トヨタ自動車なども通期業績予想を下方修正しており、国内基幹産業の自動車大手に影響が本格的に顕在化し始めた。フランス自動車大手ルノーなどと組む企業連合の世界販売台数2位の地位が揺らぎかねない。西川広人社長は横浜市の本社で記者会見し、ゴーン被告の確定報酬の計上に関して「大きな責任を感じている。(会社に多額の損害を与えた被告に)支払いをするという結論に至るとは思っていない」と述べた。ルノーとの連合については「われわれの大きな強みであり財産。将来的にも磨きを掛けたい」と話し、互いに自立性を尊重しながら成長を進めるとの認識を示した。業績に関しては、競争が激化する米国でセダンを中心に販売台数が減少した。値引きの原資となる販売奨励金を抑えるなど立て直しに取り組む。中国は「踊り場に来ている」(西川氏)との認識で、市場の減速により販売台数が従来の予想に届かなかったという。19年3月期予想は、売上高も4千億円少ない11兆6千億円に下方修正した。相次いで発覚した検査不正などの影響は計200億円の利益の圧縮要因となる。18年4〜12月期の売上高は前年同期比0・6%増の8兆5784億円だったが、純利益は45・2%減の3166億円だった。

*1-6-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13891827.html (朝日新聞 2019年2月14日) ルノー「退職金」払わず ゴーン前会長への38億円相当
 仏ルノーは13日、同社の会長兼CEO(最高経営責任者)職を退いたカルロス・ゴーン被告が退任に伴って受け取る金銭をめぐり、約3千万ユーロ(約38億円)相当の支払いを認めないことを決めたと発表した。同日開いた取締役会で決めた。ゴーン被告は退任時にルノー株約46万株(約33億円相当)を報酬として受け取る権利があったが、ルノーは支給をとりやめる。ライバル会社に退任後2年間転職しないことを条件に支給する補償金も支払わない。仏メディアによると、400万~500万ユーロ(約5億~6億3千万円)を受け取れる規定だった。パリ郊外のベルサイユ宮殿で2016年に開かれたゴーン被告の結婚式にルノーの資金が流用されていたことなどが報じられており、世間の理解が得られないと判断したとみられる。

*1-6-4:https://www.asahi.com/articles/ASM2V36F1M2VUHBI00L.html?iref=comtop_8_04 (朝日新聞 2019年2月26日) テスラCEO、またまた舌禍ツイート 株価は急落
 米証券取引委員会(SEC)が、米電気自動車(EV)大手、テスラ社のイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が和解条項に違反したとして、米連邦地裁に申し立てていたことが26日、わかった。テスラ株は26日の時間外取引で、4%程度急落している。マスク氏は19日夜、テスラ社の年の生産台数について「2019年は約50万台になる」とツイート。その約4時間後のツイートで、「19年末段階での生産台数ペースが年換算で50万台になるという意味だった。今年の引き渡しベースの台数は依然として約40万台だ」と修正した。マスク氏は1月末の四半期決算発表の際の説明では「19年には、36万~40万台の引き渡しを見込んでいる」としていた。マスク氏は昨年8月、テスラ社を非上場化するとツイートして株価を乱高下させた。その後、投資家から非上場化する正式な提案がなかったことも表面化して、非上場化の「断念」を表明した経緯がある。SECはこの一連の動きで、市場を混乱させたとして、マスク氏を提訴。昨年秋に多額の制裁金のほか、マスク氏が兼務していた会長職から離れることや、ツイートを含めたマスク氏の対外的なコミュニケーションを監視する態勢をつくることでマスク氏側と和解していた。

<これまでの日産・ルノーの実績と今後>
*2-1:http://qbiz.jp/article/147920/1/ (西日本新聞 2019年1月30日) 日産が中国でEV戦略加速 現地生産、販売網拡大 環境規制が追い風
 日産自動車が中国市場への電気自動車(EV)投入・販売策を進めている。中国政府が新たな環境規制を導入し、EVなどエコカー普及を促す動きに合わせたものだ。EV戦略は今後、同社が中国市場で覇権を握れるかどうかの試金石となる。現地の生産・販売現場を訪ねた。「都是奮斗出来的、加油(全ては奮闘した結果だ、頑張れ)」−。中国語の看板が掲げられた工場内で、ヘルメット姿の作業員たちがきびきびと動き回る。広東省広州市にある東風日産花都工場。これまでガソリン車のみを生産してきた組み立てラインに、12〜13台に1台の割合でエンジンの代わりにモーター、そして燃料タンク部分にバッテリーを搭載するEVが流れる。昨年9月から販売を開始した「シルフィ ゼロ・エミッション」だ。中国で人気のセダン「シルフィ」に、EV「リーフ」のシステムを応用した。同工場で1日に90台生産する。2003年に中国へ進出した日産は、地元メーカー「東風汽車集団」との合弁で事業展開。今年末までにEV5車種を市場に投入予定で、シルフィEVが先陣を切った。
■連 動
 広州市の東風日産販売店。シルフィEVが店舗入り口の“一等地”に展示され、EV売り込みへの意欲が伝わる。同店では月間販売数約200台のうち10台前後がEV。昨年末までに販売網約800店のうち約2割でEV販売を始め、さらに増やす方針という。EV普及の鍵を握るのが広州、北京、上海など主要7都市でのナンバープレート規制だ。渋滞緩和や環境対応のため、マイカー保有には抽選などによるナンバー取得が必要だが、EVなら比較的容易に入手可能。東風汽車の泉田金太郎経営企画本部長は「規制都市がEV市場を創出する。対象都市が倍以上に増える可能性もある」とみる。中国は今年から自動車メーカーに対し、一定割合でEVなど新エネルギー車(NEV)の生産を義務付ける制度を導入。こうした動きを受け、日産はEVをけん引役に22年の中国での販売台数を17年比7割増の260万台に引き上げる青写真を描く。
■懸 念
 ただ、EV戦略に動くのは日産だけではない。昨年11月に広州市で開かれた広州国際モーターショーでは、国内外のメーカーがEVを並べた。中国専用の量産EVを初公開したのはホンダ。現地法人、広汽ホンダの佐藤利彦総経理は「18年は電動車元年。今回のEVはその第1弾だ」と強調する。トヨタ自動車も来年、EV生産を開始する方針を明らかにしている。一方で中国経済は減速。中国自動車工業協会によると、18年の年間販売数は28年ぶりに前年を割った。米中貿易戦争、さらには日産固有の問題として前会長カルロス・ゴーン被告の事件も影を落とす。日産では中国事業の担当幹部だったホセ・ムニョス氏が退任するなど、ゴーン被告の信任が厚かった外国人幹部が主要業務から外れるケースも起きている。こうした内外の変化が今後のEV戦略にどう影響するかも注目される。

*2-2:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190306-00010005-kurumans-bus_all (Yahoo 2019.3.6) 「e-POWER」搭載のコンセプトカー日産「IMQ」を発表 欧州へ「e-POWER」投入も宣言
●クロスオーバーSUVタイプのコンセプトカー「IMQ」
 日産はジュネーブモーターショー2019において、全輪駆動タイプの電動パワートレイン「e-POWER」を搭載したクロスオーバーSUVのコンセプトカー「IMQ」を世界で初めて公開。また「e-POWER」技術の欧州市場への投入も発表しました。電動パワートレインの「e-POWER」は、コンパクトカー「ノート」に搭載されて、2018年国内登録車販売で1位を獲得しています。100%電動モーター駆動システムと、モーターを駆動するための電気を発電するガソリンエンジンを組み合わせた「e-POWER」は、素早く滑らかな加速と優れた燃費性能を提供。欧州では、日産「リーフ」が販売台数トップの電気自動車となっていますが、日産は「e-POWER」を投入することで、同地域における電動車両のリーダーシップを更に強化するとしています。2022年までに「e-POWER」を欧州の量販モデルに搭載することで、欧州における日産の電動車両の販売は現在の約5倍となり、2022年度末には市場平均の2倍の規模となる見込みです。日産の常務執行役員であるルードゥ・ブリースは次のように述べています。「日産は量販EV技術におけるグローバルリーダーシップの上に、欧州における全面的な電動化を見据えています。今後2年のうちに「e-POWER」を欧州市場に投入することで、“ニッサン インテリジェント モビリティ”の提供する価値をさらに多くのお客さまにお届けしていきます」
  ※ ※ ※
 ジュネーブモーターショーで初披露された「IMQ」は、先進の技術とデザインを搭載した全輪駆動の「e-POWER」搭載車です。欧州の小型クロスオーバーの概念を超えた外観や技術が、日産のクロスオーバーセグメントにおけるリーダーシップを反映します。具体的には「e-POWER」システムは、発電専用のガソリンエンジンに加え、発電機、インバーター、バッテリー、電動モーターが搭載されます。ガソリンエンジンは発電にのみ使用され、常に最適な回転数で作動し、従来型の内燃エンジンと比べより優れた燃費と低排出ガス性能を実現。日本では「ノート」と「セレナ」に「e-POWER」が搭載されています。「ノート」は購入者の70%以上が、「セレナ」は約半数が「e-POWER」搭載車を選んでいます。なお、100%電気自動車「日産リーフ」の累計グローバル販売台数が40万台を突破し、世界販売台数No.1の地位を確固たるものにしたことも、車両の電動化における日産のリーダーシップを明確に示しています。

*2-3:https://digital.asahi.com/articles/ASM366WFCM36UTIL07Z.html?iref=pc_rellink (朝日新聞 2019年3月6日) 車はスズキ、関係ない社名が次々 ゴーン前会長保釈
 東京拘置所では200人を超える報道陣が、ゴーン前会長の保釈を待っていた。午後4時17分、保釈手続きを担当していた弁護人の高野隆弁護士らが黒塗りのワゴン車を拘置所の正面玄関前に止め、建物内に。約12分後、布団やキャリーケースなどの荷物を持って外に出て、ワゴン車に積み込み始めた。
●カルロス・ゴーン もたらした光と影
 その2分後、玄関から10人ほどの拘置所職員が出てきた。職員らに挟まれるように、青い帽子にオレンジ色の反射ベストを身につけ、マスクをした男性がいた。背筋を伸ばし、ゆっくりとした歩み。黒塗りワゴン車の前を素通りし、前方に止めてあったスズキ製の軽ワゴン車に乗り込んだ。埼玉県内の塗装会社の社名が書かれ、塗装道具が積まれた軽ワゴン車は、静かに走り出した。黒塗りワゴン車は停車したまま。弁護人も玄関付近に残っていた。だが、軽ワゴン車の後部座席に座った男性の帽子とマスクの間には、特徴的な太い眉毛と鋭い目つきが見て取れた。「えっ、ゴーン被告?」。中継中のテレビ局の記者は声を裏返し、言葉に詰まった。他の報道陣も「変装か」とざわつき始めた。軽ワゴン車が拘置所敷地内をぐるりと回って車道に出ようとすると、カメラマンたちが一斉にシャッターを切った。拘置所を出発した軽ワゴン車が行き着いたのは、東京都千代田区の弁護士事務所。車から出てきたのは、作業員風の服装から、濃いグレーのコートに着替えたゴーン前会長だった。事務所に入った後も、メディアの前で語ることはなかった。法務省関係者によると、ゴーン前会長が着ていた衣服と移動用の軽ワゴン車は弁護人が用意したという。同省幹部は「変装して保釈なんて聞いたことない」。塗装会社の関係者は「車の塗装はやっていない」と語り、ゴーン前会長との関係は「全然わからないし聞いたことがない。もしかしたら、お客さんのつてでつながりがあったのかも」と語った。青い帽子には、埼玉県内の鉄道車両整備会社の社名が書いてあった。この会社の担当者は「日産とは取引がないし、今回の件も関係がない」と戸惑った様子だった。なぜ、変装までする必要があったのか。関係者は「マスコミに追われないようにする意図があったが、確実にだますのは難しいと思っていた」と語る。日産の40代の女性社員は、「後ろめたいところがないなら、変装などせずに堂々と出てきてほしかった」と残念がった。別の30代の男性社員は「ゴーンさんは人の目を気にするタイプだから、変装してマスコミに追われないようにしたのでは」と推測した。
●妻と娘? にこやかな表情で車に
 東京拘置所には朝から、ゴーン前会長の弁護人や家族とみられる人たちが頻繁に出入りした。報道陣も朝から100人以上が詰めかけ、周囲には10段ほどの大型脚立がずらりと並んだ。午前10時40分ごろには、ゴーン前会長の妻と娘とみられる2人がフランス大使館の車で到着。約1時間半ほど、拘置所内で過ごしてからいったん離れた。報道陣は増え続け、昼過ぎには200人超に。フランスのほか、米、英、ロシア、ブラジルなどの海外メディアも並んだ。午後1時40分過ぎ、「保釈保証金の納付が完了した」と速報が流れると、カメラマンたちは地面に置いていたテレビカメラを担ぎ上げ、脚立に上って構え始めた。妻と娘とみられる2人は午後3時過ぎ、再びフランス大使館の車で姿を現した。変装したゴーン前会長が軽ワゴン車に乗って走り去ってから約10分後、にこやかな表情で車に乗り込んだ。

*2-4:https://digital.asahi.com/articles/ASM373HH2M37UTIL005.html (朝日新聞 2019年3月7日) ゴーン氏の変装、弁護人の弘中氏「テレビ見てびっくり」
 会社法違反(特別背任)などの罪で起訴された日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告(64)が保釈されたことについて、弁護人の弘中惇一郎弁護士が7日、記者団の取材に応じ、「人質司法がなくなるきっかけになれば」と改めて語った。前会長の記者会見については、休養や打ち合わせの必要があるため同日中はないとし、引き続き検討するという。昨年11月の逮捕後、ゴーン前会長の身柄拘束は108日間に及んだ。弘中氏は「長期勾留の状態で裁判をするのはアンフェアだ。制限付きだが、裁判所が保釈を認めたことは非常によかった」と話した。保釈の際、前会長が作業着姿に変装していたことについて、弘中氏は「ゴーンさんと現場にいた弁護士のアイデアだったと思う」と話し、「テレビを見てびっくりした」という。「無罪を訴えるならもっと堂々との意見もあるが、ユーモラスでいいという考え方もある」と語った。ゴーン前会長は保釈後、事前に定められた都内の住居で、来日した家族と過ごしているとみられる。弁護団は今後、会見の時期や内容、弁護方針などを協議する。

<日本の司法の違憲性>
*3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190217&ng=DGKKZO41377720W9A210C1CC1000 (日経新聞 2019年2月17日) ゴーン元会長への「人権侵害」懸念 ブラジル弁護士会
 日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告(64)が会社法違反罪などで起訴されたことに絡み、ブラジル主要紙フォリャ・ジ・サンパウロ(電子版)は16日までに、ブラジル弁護士会が日弁連にゴーン被告への「人権侵害」への懸念を表明する文書を送ったと伝えた。クラウディオ・ラマシア会長名の文書は、ゴーン被告が「拷問による自白を得る明確な目的により、肉体と精神の状態を害する状況で不当に勾留されている」と非難し、日弁連に対処を求めた。文書はゴーン被告の家族の弁護士が要請し作成されたという。

*3-2:http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/201902/CK2019022302000263.html (東京新聞 2019年2月23日) NYタイムズ、社説で「人質司法」批判 ゴーン被告勾留巡り
 日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告(64)が金融商品取引法違反と会社法違反(特別背任)の罪で起訴された事件で、米紙ニューヨーク・タイムズは二十二日付の社説で、自白偏重型とされる日本の司法制度を批判した。社説は「ゴーン氏は日本の“正義”と相対している」と題し、ゴーン被告が問われている罪を「深刻」としながらも「保釈を拒むべき理由にはならない」と述べ、逮捕から三カ月過ぎても拘置所に勾留されている現状を疑問視。日本では「保釈は一般的に、公判で罪を認める用意がある被告のためのものだ」と指摘し、保釈請求が繰り返し却下されているのはゴーン被告側の無罪主張が理由との見方を示した。「公判はいつになるか分からないが、裁かれるのは伝説の経営者だけではない。日本の司法制度もそうだ」と締めくくっている。

*3-3:https://digital.asahi.com/articles/ASM3544RQM35UTIL00Y.html?iref=comtop_8_01 (朝日新聞 2019年3月5日) ゴーン被告の保釈認める決定 東京地裁、保釈金10億円
 日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告(64)が会社法違反(特別背任)などの罪で起訴された事件で、東京地裁は5日、前会長の保釈を認める決定を出した。保釈保証金は10億円。前会長の保釈請求はこれまで2回退けられていたが、弁護人が一新した後、2月28日に3回目の請求が出されていた。検察側は決定を不服として準抗告するとみられるが、これが退けられ、前会長が保証金を納付すれば、東京拘置所から保釈される見通しだ。前会長は一貫して起訴内容を否認しており、身柄拘束は昨年11月19日に逮捕されてから100日以上に及んでいる。東京地検特捜部の事件で否認のまま、裁判の争点や証拠を絞り込む公判前整理手続き前に保釈されるのは極めて異例だ。特捜部は今年1月11日、ゴーン前会長を特別背任と金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の罪で追起訴した。弁護人は同日、保釈を請求したが、地裁が却下。保釈後にフランスに住むなどの条件を提示したが、地裁は証拠隠滅や逃亡の恐れがあると判断したとみられる。弁護人は1月18日、再び保釈を請求し、保釈後の住居を日本国内に変更するなどしたが、これも却下された。前会長の弁護人は11月の逮捕後、元東京地検特捜部長の大鶴基成弁護士が務めていたが、2月13日付で辞任。弘中惇一郎弁護士らが新たに就任し、3度目の保釈請求をしていた。起訴状によると、ゴーン前会長は2008年10月、約18億5千万円の評価損が生じた私的な投資契約を日産に付け替えたほか、信用保証に協力したサウジアラビアの実業家に日産の子会社から09年6月~12年3月、計1470万ドル(当時のレートで約13億円)を不正に送金したとされる。また、10~17年度の役員報酬計約91億円を有価証券報告書に記載しなかったとされる。

*3-4:https://digital.asahi.com/articles/ASM355T49M35UTIL03M.html?iref=comtop_8_03 (朝日新聞 2019年3月5日) ゴーン前会長、保釈条件に「嫌そうな顔」 弁護人明かす
 「手続きをスムーズに進めたい」。東京地裁が、ゴーン前会長の保釈を認める決定をしたと速報が流れてから約4時間半後。ゴーン前会長の弁護人の弘中惇一郎弁護士は、東京都千代田区の事務所に集まった報道陣の質問に答えた。保釈決定の主な要因については「証拠隠滅、逃亡の恐れを防止できる極めて具体的な手立てを、こちらが提示したこと」と強調。ゴーン前会長の住まいに監視カメラを設置したり、携帯電話に通信制限を設けたりするほか、事件関係者との連絡も一切禁止する内容になった。こうした条件には、保釈決定の知らせ自体には喜んだゴーン前会長も「びっくりして、嫌そうな顔はした」。弁護人が条件の必要性を説得したという。横浜市西区の日産自動車グローバル本社で、帰路につく社員たちの口は重かった。30代の男性社員は「話さないように言われているので」とうつむいた。別の社員は「逮捕から3カ月以上たち、もはや過去の人という印象。資金の私的流用などの不正があったことは事実だと思うので、経営の邪魔はせず反省してほしい」と思いを明かした。東京拘置所(東京都葛飾区)には数百人の報道陣が駆けつけた。ロイター通信のティム・ケリー記者(50)は「欧米の基準からすれば、保釈までの期間が長すぎる」と日本の司法制度を批判する一方、「保釈されれば、ゴーン氏は検察や日産への批判が自由にできる。検察、日産との戦いがこれから本格化する」と注目する。さらに、「長い拘束でどれくらいやせたか、白髪が増えたのか容姿の変化も気になる」と語った。

*3-5:https://www.kyoto-np.co.jp/info/syasetsu/20190307_4.html (京都新聞 2019年3月7日) ゴーン被告保釈  「人質司法」から脱却を
 昨年11月の電撃的な逮捕以降、108日に及ぶ身柄拘束が続いていた日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告が保釈された。起訴内容を全て否認する被告の保釈決定は異例であり、画期的だ。冤罪(えんざい)の温床とも指摘される「人質司法」の不当性を考えれば当然といえる。会社法違反(特別背任)などの罪で起訴されていたゴーン被告はきのう、保証金10億円を納付して保釈された。保釈請求に対し、東京地裁は証拠隠滅や逃亡の恐れが大きくないと判断した。保釈決定を不服とした検察側の準抗告も棄却した。ゴーン被告は無罪を主張し、法廷で全面的に争う姿勢をみせる。米国の代理人を通じ、「私は無実であり、公正な裁判を通じ強く抗弁する」と強調した。請求は3回目で認められた。公判に向けた争点整理が進んでいない段階で、否認している被告が保釈されるケースはまれだ。事件関係者との口裏合わせなど、証拠隠滅の不安が拭えないためだ。とりわけ検察の特捜部が手掛ける複雑な事件では、保釈は珍しい。2度も請求を退けた地裁が、なぜ許可へかじを切ったのか。「人質司法」との批判が強まる中、むやみに勾留を続けたくないというのが本音ではなかろうか。「検察と一体」とみられては裁判自体の公正を損ない、国民の信頼を失いかねない。証拠隠滅の恐れなどを綿密に審査し、身柄の拘束がもたらす不利益をも考慮して問題がなければ否認でも弾力的に保釈を認めるべきであろう。新たに就任した弁護団は住居の出入り口への監視カメラ設置や携帯電話の使用制限といった厳しい行動制限を提起し、地裁も応じた。刑事弁護にたけた弁護団の手段が奏功したとみられる。ただ証拠隠滅や逃亡の防止を担保するとはいえ、過剰な保釈条件は人権侵害につながりかねない。前例として定着する懸念が残る。否認すれば罪証隠滅の恐れがあるなどとして長期にわたり勾留される「人質司法」への批判は強い。長期の拘束は日産事件で海外からも厳しい目が向けられている。日本も批准した国連の自由権規約には、無罪推定の原則とともに妥当な期間内に裁判を受ける権利や釈放される権利、起訴後の勾留原則禁止が定められ、勾留を短期間にとどめる国は多い。最近、勾留請求却下率や保釈率は上がっているが、裁判所の責任は重い。「人質司法」から脱却する契機としたい。

*3-6:https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2019030690135519.html (東京新聞 2019年3月6日) 一貫否認、ゴーン前会長保釈へ 108日間拘束、何語る
 日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告(64)=会社法違反(特別背任)罪などで起訴=の弁護人は六日午前、東京地裁に保釈保証金の十億円を納付しなかった。地裁は五日夜、保釈決定に対する東京地検の準抗告も棄却しており、保釈金を納めればいつでも保釈される状況になっていた。ゴーン被告の保釈は早くても六日午後以降になる。ゴーン被告は昨年十一月十九日の逮捕後、一貫して否認。百八日間にわたる身柄拘束が解かれれば、記者会見を開く可能性があり、何を語るか注目される。地裁は五日、弁護人の保釈請求に対し、保釈を決定。居住地を日本国内に制限し、海外渡航を禁止する条件を付けたことを明らかにしていた。弁護人によると、関係者との接触を疑われないよう住居の出入り口に監視カメラを設置する案を示したところ、地裁は保釈条件に組み入れた。録画映像は定期的に地裁に提出する。東京地検は決定を不服として準抗告したが、地裁の別の部が棄却していた。ゴーン被告は、有価証券報告書に自身の役員報酬の一部を記載しなかったとする金融商品取引法違反容疑で二度逮捕され、日産に損害を与えたとする特別背任容疑でも再逮捕された。ゴーン被告の当初の弁護人は今年一月、二度にわたり保釈請求。いずれも却下され、勾留が続いていた。その後の一月二十四日、ルノーの会長と最高経営責任者(CEO)を辞任。新たに弁護人に選任された弘中惇一郎弁護士らが二月二十八日、三回目の保釈を請求していた。
   ◇ 
 ゴーン被告が勾留されている東京・小菅の東京拘置所には、六日早朝から保釈の瞬間を捉えようと、二百人以上の記者やカメラマンが詰め掛けた。現場には足の高い脚立や三脚などがずらりと並び、拘置所職員や警察官が警戒に当たった。午前中からテレビ中継が断続的にあり、上空をマスコミのヘリコプターが旋回するなど、ものものしい雰囲気となった。最初の逮捕から百八日にわたる長期間の勾留は、国際社会から「人質司法」と批判されてきた。日産自動車の経営を立て直した世界的な「カリスマ経営者」の動向をいち早く報じようと、仏国をはじめとする海外メディアの記者も多く集まった。
◆日産社長「仕事影響ない」
 日産自動車の西川広人社長は六日朝、都内で記者団にカルロス・ゴーン被告の保釈について問われ「司法手続きなので、そういうこともある」と平静を強調した。ゴーン被告は一貫して無罪を主張しているが、経営に与える影響についても「仕事への影響はない」と明言した。

<航空機や船舶にも電力を使う時代に・・>
PS(2019年3月9、11日追加): *4-1のハイブリッド内航船は、現在なら、それほど大きな期待を持てない船出だ。何故なら、太平洋等を航行する時はディーゼルエンジンを使い、港湾内では洋上充電したリチウムイオン電池をエネルギーとして使うからだ。日本人は、空気や海を汚す化石燃料を高い金を出して外国から買うのがよほど好きなのかも知れないが、私は、再生可能エネルギー由来の水素燃料を使った方が液体燃料より軽く、公害も出ないのでずっとよいと考える。また、船舶の場合は、風とのハイブリッドにもできるそうだ。さらに、船舶は自動車よりも自動運転にしやすいため、自動運転の導入が人手不足解消に繋がるだろう。
 そして、造船会社は、*4-2のように、自動車会社やIT会社からヘッドハントしてでも転職者を採用して活かせば、短時間で船舶のイノベーションを行うことができるのだが、そのためには転職が不利にならない賃金体系(年功序列ではなく能力主義)を作っておくことが必要だ。従って、今頃、「定年まで勤めあげるだけが職業人生のゴールではない(当然)」「生え抜き社員だけでなく・・(これも当然)」などと言っていること自体、かなり遅れているのである。
 なお、*4-3の記事の「①グローバル化で報酬制度改革が不可避で、役員報酬は序列から誘因型へ」「②資本生産性やESG等の指標も考慮を」と書かれているが、このうち①は、ゴーン氏の報酬が高いことを強く問題にした日本国内の批判に一石を投じるものだ。実際には、②も加味して実績を挙げた経営者の報酬が高いのは世界標準であり、経営者の多様化が進めば進むほど単純な高額報酬批判は当たらなくなる。私の経験では、報酬がその人の貢献度(=実績、価値)を表す代理変数であるのは、米国だけでなく日本以外はどこも同じで、年功序列型雇用制度を堅持している日本だけが勤務年数の代理変数になっている。そして、年功序列型雇用制度の中では、問題を先送りして静かに長く勤めた人が役員になり、中途採用は不利であるため従業員の転職も進まず、改善はできても摩擦の起きる改革ができない企業体質を作ることになるわけだ。

*4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190309&ng=DGKKZO42076550V00C19A3QM8000 (日経新聞 2019年3月9日) ハイブリッド内航船、期待の船出 少ない騒音 労働環境改善も
 人手不足に悩む内航海運業界に一石を投じる船が走り出した。NSユナイテッド内航海運(東京・千代田)が2月に就航させた「うたしま」はリチウムイオン電池を使ったハイブリッド(HV)推進システムを搭載した新型船。騒音や振動が少ないため、環境負荷の低減だけでなく洋上の労働環境改善を後押しするモデルとして注目される。うたしまは新日鉄住金の鋼材を運ぶ。生産計画に基づき最適な航路や運航頻度を今後決める。太平洋などを航行する際はディーゼルエンジンを使うが、港湾内では洋上で充電したリチウムイオン電池から電動機に給電する。陸上の設備からも充電可能だ。船の建造にかかるコストは従来の2倍近いが、同様のシステムの内航貨物船は日本で初という。利点は二酸化炭素(CO2)排出量を削減できるだけではない。「リチウムイオン電池を使っている際の音が静かで驚いた」。船主である向島ドック(広島県尾道市)の竹嶋秋智船長は話す。内航船の船員は2~3カ月間乗船した後、1カ月ほど休暇をとるのが一般的。勤務中、エンジンの音や振動で睡眠や業務を妨げられるとの声も多い。HV船は港湾内で船を移動させる際、エンジンの温度を管理する作業も軽減できる。日本内航海運組合総連合会(東京・千代田)によると2018年の輸送量は前年並みの2億2254万トン。荷動きは総じて堅調だった。トラックから船や鉄道に輸送手段を変える荷主が増加。トラック運転手の労働環境が厳しくなる中、物流網に船を加え負荷を分散させる動きもある。だが人手不足に悩むのは海運も同じ。内航貨物船は60歳以上の船員が約3割を占めるとされる。船舶管理会社、イコーズ(山口県周南市)の蔵本由紀夫相談役は「船員を年々確保しづらくなった」と懸念する。「労働環境の改善は人手確保にもつながる」とNSユナイテッド内航海運の和田康太郎常務。洋上の働き方改革に一役買えるか、HV船の行方に期待が集まる。

*4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190114&ng=DGKKZO39985250T10C19A1PE8000 (日経新聞社説 2019年1月14日) もっと転職者を生かす会社に
 終身雇用の慣習が崩れ、転職や起業が珍しくなくなった。でも円満退職へのハードルは高い。いまだに転職をマイナスの印象でとらえる風潮が、日本の会社に残っていないだろうか。人手の確保が難しい今こそ、転職した人材も活用する視点をもちたい。総務省の2018年7~9月の調査によると、過去1年以内に転職した経験のある人は341万人に達し、リーマン・ショック以降で最も高い水準となった。一方で民間の調査では、35歳以上の退職者の半数が「後任が不在」などの理由で強引に慰留され、円滑に辞められなかった。本人に代わって手続きをする退職支援サービスが伸びているのは、退社をめぐる会社と個人のギクシャクした関係の裏返しだろう。退職・転職は「別れ」ではなくコミュニティーの「広がり」と考えたい。退職希望者を無理に引きとめても、意欲は下がり周りの社員にも悪影響を及ぼしかねない。連帯感を持ち続けることで得られる利点に目を向けるべきだ。元社員の転職先が仕入れ先や外注先、代理店となる場合がある。一度やめて社外で経験を積んだ人材を再雇用すれば、客観的な視野から経営改善に取り組める。さらに起業が増えれば、起業家を輩出する企業として評価され、優秀な人材を獲得しやすくなる。米マイクロソフトが現役の研究者と元社員の交流の場を設け、研究分野の相乗効果を生みだそうとしている。社外の知恵を持ち寄って製品やサービスを企画・開発するオープンイノベーションの発想が、人材の確保や育成においても求められる。企業は働き手の人生設計に応じた制度を考えてほしい。転職や再雇用を含めた将来のキャリア形成について、採用時に担当者と率直に話せる企業はまだ少ない。人生100年時代には、定年まで勤めあげるだけが職業人生のゴールではない。生え抜き社員だけでなく、社外の多様な人材も生かすことが企業の成長につながる。

*4-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190117&ng=DGKKZO40069050W9A110C1KE8000 (日経新聞 2019年1月17日) 企業統治、何が足りないか(上)役員報酬、「序列」から「誘因」型へ、指標や開示 統合的に改革 伊藤邦雄・一橋大学特任教授(1951年生まれ。一橋大博士。専門は会計学、企業統治論、企業価値評価論)
<ポイント>
○グローバル化で報酬制度の改革不可避に
○業績連動の株式報酬は比率高める方向へ
○資本生産性やESGなどの指標も考慮を
 いま進んでいる企業統治改革は当初、取締役会の機関設計、複数社外取締役の導入、取締役会の実効性評価などに焦点が当てられたため、役員報酬の議論が比較的遅れていた。ところが、日産自動車のカルロス・ゴーン元会長の高額報酬や有価証券報告書記載漏れ、官民ファンドの「高額報酬」問題に世間の耳目が集まったこともあり、経営者報酬への関心がにわかに高まった。ただ昨今の論調は、報酬水準の多寡だけが独り歩きしており、危険でもある。皮相的な議論は統治改革の流れを逆行させる恐れもある。経営者報酬制度は本来、企業統治や企業価値の持続的向上の文脈で冷静に議論されるべきものである。本稿では、日本の経営者報酬に焦点を当て、その課題や今後のあり方をグローバルな視点も入れながら論じてみたい。日本企業の経営者報酬水準は2009年以降、上昇傾向にある(図参照)。ウイリス・タワーズワトソンの調査によれば、17年度の日本の時価総額上位100社のうち売上高1兆円以上の74社の経営トップの報酬額は1億5千万円(中央値)。米国は14億円、英国とドイツはそれぞれ6億円、7億2千万円である。この彼我の差には、経営者報酬に対する各国の経緯と基本的な考え方が投影されていることを看過してはならない。米国では、報酬を自分の価値を表す代理変数であり、自らの働きのベクトルをけん引するインセンティブ(誘因)と捉える傾向がある。将来に向けた「けん引指標」なのだ。日本では、経営陣の報酬水準は社内序列の代理変数であり、株主総会をにらんだ報酬総枠内での調整結果であり、過去の「処遇指標」の性格が強い。そこには「インセンティブ」の要素は薄い。日本では自社の報酬水準が業界内で突出するのを避け、従業員との給与格差が拡大し過ぎないよう配意してきた。また、おカネのことを言い出しにくい雰囲気の中で、過去を踏襲した、抑制型の「逆お手盛り」実務が多く見られた。経営者が自らの報酬水準を独断で設定した日産には、多くの日本人が目を疑った。日本の統治改革の狙いは、過去の慣習を問題視し、株主・投資家視点で報酬制度の透明性の向上と「攻め」の統治に基づくインセンティブとして性格づけることにある。興味深いことに、経営者報酬を巡って日本と欧米は逆の方向にある。欧米では最近、高額報酬が企業の持続的発展に寄与しているとは限らないとの認識から、株主が経営者報酬の暴走を抑止する動きが見られる。背景には、経営者が目先の利益に走る「短期主義」への反省がある。日本の報酬水準が低位にある理由は他にもある。欧米企業が高額報酬を払うのは、選任の際に経営者としての過去の実績や人脈の豊富さなどを重視するからだ。日本は内部昇格が普通で、自社の事業経験はあるが、経営者としての実績は「未知数」状態で選任されるのが通例だ。人脈も限られる。経営トップに登りつめた人材は流動性が低く、経営者市場が育たなかった。こうした実情から一見、日本の役員報酬制度をあえて変革する必然的理由は見いだしにくい。ところが急速に進む日本企業のグローバル化がこうした現状に揺らぎを与え、変革を余儀なくしているのだ。海外M&A(合併・買収)などにより、外国籍の経営人材がグループ内に流入し、かつ買収先の経営陣には日本型とは異なる報酬制度を認めざるを得ない。また、競争戦略の面からも、海外の有能な経営人材を獲得しなければならない。報酬は、数値化し比較できる重要な指標だ。見直す際の基本的視点は、「序列処遇型」から未来志向の「インセンティブ制度」に変えていくことだ。確かに「報酬の多寡で働きが変わるものではない」と喝破する日本の経営者も多い。筆者もその美意識には共感するが、報酬を競争戦略の一環と捉える限り、インセンティブを高められない報酬制度は危機的だ。今後は、以下の点に留意しながら報酬制度を設計・運用すべきである。第1はプロセスの透明性と客観性の確保。この点はコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)でも強調されている。最低限、任意でも報酬委員会を設置すべきだ。委員会は社外取締役が過半(社外が委員長)を占めるのが肝要だ。日産の悲劇の発端は、最低限の要件を満たさなかったことにある。要は、役員報酬について堂々と透明性をもって議論すべきだ。客観性の担保として、外部の報酬データベースを使うのもよい。その際に散見されるのが「中央値傾斜症候群」だ。確かに報酬水準の突出を回避する点では意義があるが、そこには世間相場に引っ張られた標準化志向がうかがえる。重要なのは、競争環境を視野に入れ、自社のビジネスモデルや中期経営計画の積極性などを考慮して、柔軟に報酬制度を設計することだ。報酬と指名の委員会を連携させるのも一法だ。両委員会は役割が異なる。指名委員会は、選任・昇格・降格・解任という「ゼロ・イチ」の鋭角的性格をもつ。報酬委員会は、役員のパフォーマンスを評価して報酬を決定するという「連続的」な性格をもつ。評価結果が各役員への人事的なメッセージや警鐘となる。「組織内公平性」も忘れてはならない。余りに高い役員報酬は、従業員のやる気をそぐ恐れもある。それを防ぐのが報酬決定プロセスの透明性と客観性だ。従業員にプロセスを丁寧に説明すべきだ。第2は基本報酬と中・長期インセンティブ(LTI)の組み合わせだ。LTIは中長期の業績に連動した報酬のことで、統計によれば、米国は基本報酬1割、年次インセンティブ2割で、LTIが7割である。日本は5割が基本報酬、年次インセンティブ3割で、LTIは2割だ。昨今、日本でも中長期業績に連動した株式報酬制度を導入する企業が増えている。それでもLTIの導入割合は欧米がほぼ100%に対し、日本は半分にとどまる。企業価値について経営陣が株主と利害を共通化するには、業績に連動する株式報酬の比率を高めるべきだ。大事なのは、インセンティブの構成比を自社の哲学や文化、競争環境や戦略の時間軸を踏まえて統合的にデザインすることである。第3の点は、KPI(重要経営指標)だ。三井住友信託銀行によれば、日本では中長期業績連動報酬に用いるKPIは売上高など損益計算書の項目が多い。統治改革では資本生産性の向上を課題としており、そうしたKPIを入れる必要があろう。LTIの指標と中期経営計画で掲げるKPIとの間にかい離があると、投資家から「二枚舌」と捉えられかねない。定性評価の指標にも目配りすべきだ。「持続可能性」の観点からESG(環境・社会・企業統治)や国連の持続可能な開発目標に関わる指標の導入も検討すべきだろう。最後は説明責任の問題だ。欧米の報酬水準は高額だが、一方で詳細で厳しい開示規制がある。米では最高経営責任者(CEO)と最高財務責任者(CFO)に加え報酬額上位3人の個別開示と説明、英でも「取締役報酬報告書」の作成、毎年の事前と事後の開示が要求されている。それに比べ、日本の開示は見劣りがし、改革の余地が大きい。経営者報酬ガバナンスを実効性あるものにするには、開示を通して納得性と妥当性を高めることが鍵となる。経営者報酬制度は単に欧米に追従するのではなく、企業価値を中長期で高めるよう、持続可能性の観点から統合的に設計されるべきである。

<ルノー・日産の権力闘争という背景>
PS(2019年3月9日): *5-1のように、ゴーン氏はルノー・日産・三菱自動車の業務提携の立役者で、「①自身の逮捕は策略と反逆の結果だ」「②日産の一部幹部が日産と業務提携しているルノーとの経営統合を望んでいなかった」「③自分は、3社をより緊密に統合した後、持ち株会社の傘下でそれぞれの自主性を確保する計画だった」と語っている。そして、逮捕直後に日産と三菱の会長職を追われ、2019年に入ってからルノーの会長兼CEOも解任されているため、ゴーン氏逮捕事件の背景にはルノー・日産の権力闘争があったことが明らかだ。しかし、権力闘争に役員報酬の過少記載や会社資金の不正利用などという別件逮捕を使うのは人権侵害であるため、私は、Big4で監査・税務・コンサルティングのすべてを経験しながら多くの会社を見てきた専門家として、感性の良い経営者であるゴーン氏が無罪である理由を説明しているわけである。
 なお、ゴーン氏は、執行役員の半分(25人)を日本以外から採用し、成果給の比率を高めて外国人材を獲得してきたが、ゴーン氏の逮捕後は、*5-2・*5-3のように、ゴーン氏の信任が厚く国際業務で重責を担ってきた人事統括のバジャージュ専務執行役員や中国事業担当のムニョス氏が外され、ゴーン体制は崩されつつある。そして、この3月末の人事異動で、それも完了するということなのだろう。

*5-1:https://blogos.com/article/354799/ (BBCニュース 2019年1月31日) ゴーン前会長、逮捕は「策略と反逆」の結果と 日経新聞が逮捕後初インタビュー
 金融商品取引法違反などの罪で勾留されている日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告(64)は、自身の逮捕は「策略と反逆」による結果だと、30日付の日本経済新聞に語った。昨年11月の逮捕以来初めてとなるインタビューでゴーン前会長は、日産の一部の幹部が日産とアライアンスを組んでいるルノーとの経営統合を望んでいなかったと話した。経営統合の計画については、日産の西川広人社長兼最高経営責任者(CEO)と協議していたという。日本経済新聞の取材に応じたゴーン前会長は、現在も東京拘置所に勾留されている。取材は20分にわたり、拘置所内で行われた。ゴーン前会長はルノー・日産アライアンスの立役者で、2016年には三菱自動車もアライアンスに組み込んだ。しかし逮捕直後に日産と三菱の会長職を追われたほか、今年に入ってルノーの会長兼CEOからも解任されている。ゴーン前会長は、アライアンスの将来について三菱自の益子修CEOにも会話に加わってほしかったが、西川社長が「一対一での会話を求めてきた」と話した。ゴーン前会長の構想では、3社をより緊密に統合した後、「持ち株会社の傘下でそれぞれの自主性を確保する」計画だったという。その上で、自身の逮捕・起訴に日産幹部が関係していたことは「疑いようがない」と話した。ゴーン前会長は昨年11月19日、役員報酬の過少記載や会社資金の不正利用など「重大な不正行為」があったとして、金融商品取引法違反容疑で逮捕された。その後、別の時期の金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)容疑および会社法違反(特別背任)の疑いで2回再逮捕・起訴されている。今年1月8日に東京地裁で開かれた勾留理由開示手続きで、多田裕一裁判官は、前会長には国外逃亡と罪証隠滅を図る恐れがあったとして、勾留は正当なものだと認めた。一方、ゴーン前会長は無罪を主張している。

*5-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190109&ng=DGKKZO39789860Y9A100C1TJ1000 (日経新聞 2019年1月9日) 日産外国人幹部、また職務外れる 中国担当に続き人事も
 日産自動車で上級外国人幹部が職務から外れる例が続いている。人事を統括するアルン・バジャージュ専務執行役員が通常業務から外れたことが8日分かった。中国事業を担当するホセ・ムニョス氏も同様に業務から離れた。ともにカルロス・ゴーン元会長の信任が厚く、国際業務で重責を担ってきた。求心力だったゴーン元会長の逮捕を受け、同様の動きが続く可能性がある。バジャージュ氏はすでに通常業務を離れ、新たな担当業務なども決まっていない。同氏は弁護士として活動し、米フォード・モーターを経て、2003年に日産カナダ法人の弁護士として入社。08年に日産本体の人事部の担当部長に就き、アジアや海外人事の要職を担った。14年に人事統括の常務執行役員に昇格すると、ゴーン元会長の右腕として人事を差配。15年から仏ルノー・三菱自動車との3社連合でも人事担当役員の職に就いていた。チーフ・パフォーマンス・オフィサー(CPO)で中国事業を担ってきたムニョス氏も通常業務から外れたことが明らかになっている。新たな担当業務は非公表。同氏は北米など主要地域を統括し、18年4月から重点地域の中国戦略を一手に任されるなど、ゴーン元会長の信任が厚かった。日産は両氏が職務から離れた理由を明らかにしていない。ムニョス氏に関しては、統括していた北米事業は採算が悪化。中国でも足元の新車販売が減速し、同氏の責任を問う声もあった。日産はゴーン元会長のもとで国籍にとらわれない「ダイバーシティー経営」を推進し、18年には執行役員の半分にあたる25人を日本以外の出身者が占めた。ルノーからの派遣に加え、グローバル企業で実績を積んだ人材を多く幹部として迎え入れてきたのが特徴だ。日産は成果給の比率を高める欧米流の給与体系などの制度を整備し、海外でも知名度が高いゴーン元会長の存在も求心力となり外国人の人材を獲得してきた。海外事業や3社連合の統括業務では、元会長の信任を得て抜てきされた外国人役員が多い。元会長逮捕による社内の動揺は大きく、こうした動きが続く可能性がある。

*5-3:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2019011201001248.html (東京新聞 2019年2月1日) 日産ゴーン前会長の側近が辞任 執行役員のムニョス氏
 日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告に近い存在とされてきたホセ・ムニョス執行役員が辞任したことが12日分かった。ムニョス氏は日産の重要市場である中国を受け持ってきたが担当を外れていた。ロイター通信は11日、日産がゴーン被告に関する内部調査の対象を米国、インド、南米にも拡大すると報じた。日産はムニョス氏が中国担当を外れたことについて「別の業務に専念するため」と説明してきたが、関係者は「ゴーン被告に忠実な人間なので現経営陣に警戒されている」と指摘していた。一方、内部調査はムニョス氏が米国事業を統括していた際に行った決定などが対象になるとしている。

<足元にある未来:再生可能エネルギーと電気自動車>
PS(2019年3月10、11、12、13日):原発事故で放射性物質に汚染された地域で生産された食品は、いくら「基準値越えした食品は0だから、風評被害だ」と叫んでみても、基準値が0ではないので生産・販売を続けることが難しいが、*6-1のような再生可能エネルギーなら全く問題ない。そのため、「飯舘電力」が太陽光発電・風力発電を行って送電したり、水素を作ったりするのは、どうせ街づくりをやり直さなければならない被災地にとって大変よく、せっかくなら宮城県以北の比較的安全な場所に、BMW・6-5のフォルクスワーゲン・ポルシェなどの電気自動車や炭素繊維工場などを集積し、東北大学と組んでさらに開発を進めてはどうかと思った。
 なお、*6-2のように、宮城県東松島市赤井地区に落雷があり、赤井地区全体は停電したが、東松島市が震災後に住宅メーカーと作った「スマート防災エコタウン」の住宅街の電気は消えず、約二百人の住民は誰も停電に気付かなかったそうだ。非常時は蓄電池だけでなく、ディーゼル発電機も自動で動くそうだが、私は、これがディーゼルではなく水素か国産の天然ガスであれば、電気は100%国産にできる上、地産地消も進むと考える。
 また、*6-3のように、北海道内の酪農地帯でも自家発電機の導入が相次いでいるそうだが、広い牧場や畑に風力発電設備を設置すれば、停電の心配がなく農家が農業と売電のハイブリッドで稼げるため、外国産に負けない農産品価格にすることもできる。さらに、北海道地震におけるブラックアウトは、再エネは大地震後も稼働していたのに電力需給の調整弁を果たす火力発電所の停止で活用できなかったのであるため、道内の足元の資源を生かして100%再エネ発電をすれば停電の心配がなく、エネルギー代金も外部に流出しないわけである。
 さらに、北海道だけでなく、農業地帯はどこも再生可能エネルギーが豊富なため、発電とのハイブリッドで稼げば日本産農産物の価格を外国産農産物に負けない価格にすることができる筈だ。そのため、*6-4のように、国民のツケで既得権益にしがみつく抵抗勢力に忖度して高コストの電源にしがみつくのではなく、世界の状況と時代の要請にあった政策に大転換すべきで、そうすれば国内に製造業を戻したり、無駄な財政支出を減らしたりすることができるが、このような大転換に乗り出す政治家が現れた時に、それを支持する国民が多くなければその人は政治家たりえないという意味で民主主義の主権者は国民であるため、国民の判断を支えるメディアの普段からの表現も重要なのである。


  岩手県の復興住宅   宮城県石巻市の災害公営住宅       北欧の住宅

(図の説明:大災害の後に新しい街づくりをして復興するのなら、全住宅に太陽光発電をつけて電気代を無料にし、電線を地中化し、デザインのよい家づくり・景観のよい街づくりをすればピンチをチャンスに変えられるが、前と同じかそれより悪い家に住むことになるのなら帰還する人は少ないだろう。その点、欧米の住宅や街づくりは参考にすべきものがある)

*6-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2019031002000136.html (東京新聞社説 2019年3月10日) 3・11から8年 再生の光、復権の風
 国は福島県を「再生可能エネルギー先駆けの地」と位置付ける。でも、忘れないでほしい。太陽や風の電気には、脱原発の願いがこめられていることを。福島県飯舘村は、福島第一原発の三十キロ圏外にもかかわらず、あの日の風向きの影響で放射性物質が降り注ぎ、全村避難を余儀なくされた。おととし三月、避難指示は解除されたが、事故以前、約六千人いた村民は、一割しか戻っていない。高原の美しい風景が、都会の人に愛された。「までい」という土地の言葉に象徴される村人の生き方も。「丁寧、心がこもる、つつましさ」という意味だ。原発事故は「までい」な暮らしを引き裂いた。
◆自信と尊厳を取り戻す
 二〇一四年九月に設立された「飯舘電力」は、「までい」再生の象徴だ。村民出資の地域電力会社である。設立の理念は、こうだ。<『産業の創造』『村民の自立と再生』『自信と尊厳を取り戻すこと』をめざして飯舘村のあるべき未来を自らの手により造り成すものとする->原発事故で不自然に傷つけられたふるさとの尊厳を、村に豊富な自然の力を借りて、取り戻そうというのである。現在、出力四九・五キロワットの低電圧太陽光発電所、計四十三基を保有する。年末には五十五基に増設する計画だ。当初は、採算性の高い千五百キロワットの大規模発電所(メガソーラー)を造ろうとした。ところが設立直後、東北電力送電網が一基五十キロワット以上の高圧電力の受け入れを制限することにしたために、方針を転換せざるを得なかった。三年目には、風力発電所を建設しようと考えた。やはり東北電力に「接続には送電網の増強が必要で、それには二十億円の“受益者負担”が発生する」と言われ、断念したという。「風車が回る風景を、地域再生のシンボルにしたかった…」。飯舘電力創設者の一人で取締役の千葉訓道さんは、悔しがる。送電網が“壁”なのだ。送電線を保有する電力大手は、原発の再稼働や、建設中の原発の新規稼働も前提に、太陽光や風力など再生可能エネルギーの接続可能量を決めている。原発がいつ再稼働してもいいように、再エネの受け入れを絞り込み、場所を空けて待っている。「送電線は行列のできるガラガラのソバ屋さん」(安田陽・京都大特任教授)と言われるゆえんである。
◆原発いまだ特別待遇
 発電量が多すぎて送電網がパンクしそうになった時にも、国の定めた給電ルールでは、原発は最後に出力を制限される。あれから八年。原発はいまだ特別待遇なのである。電力自由化の流れの中で、二〇年、電力会社の発電部門と送配電部門が別会社に分けられる。しかし今のままでは一六年にひと足早く分離した東京電力がそうしたように、形式的に分かれただけで、同じ持ち株会社に両者がぶら下がり、「送電支配」を続けるだろう。大手による送電支配がある限り、再エネは伸び悩む。先月初め、「東京電力ホールディングス」が出資する「福島送電合同会社」が、経済産業省から送電事業の許可を受けた。「先駆けの地」の先行例として、福島県内でつくった再生エネの電力を、東電が分社化した子会社の「東京電力パワーグリッド」の送電線で、首都圏へ送り込む計画だ。大手による実質的な送電支配は変わっていない。「発電事業にも大企業の資本が入っており、私たちには、何のメリットもありません」と、千葉さんは突き放す。福島県の復興計画は「原子力に依存しない、持続的に発展可能な社会づくり」をうたっている。千葉さんは、しみじみ言った。「私たちがお日さまや風の力を借りて、こつこつ発電を続けていけば、いつかきっと原発のいらない社会ができるはず-」
◆再エネ優先の送電網を
 最悪の公害に引き裂かれたミナマタが、日本の「環境首都」をめざして再生を果たしたように、脱原発依存は、最悪の事故に見舞われたフクシマ再生の基本であり、風力や太陽光発電は、文字通り再生のシンボル、そして原動力、すなわちエネルギーではないのだろうか。脱原発こそ、福島復興や飯舘復権の原点なのだ。原発優先の国の姿勢は、福島再生と矛盾する。例えば飯舘電力などに、地域再生の活力を思う存分注ぎ込んでもらうべく、再エネ最優先の電力網を全国に張り巡らせる-。今「先駆け」として、やるべきことだ。

*6-2:https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2019031190070628.html (東京新聞 2019年3月11日) <原発のない国へ すぐそばの未来>(1)停電3日 耐える街 宮城・東松島 電気を地産地消
 太平洋の海岸線から北に三キロ、宮城県東松島市を横断するJR仙石(せんせき)線の線路沿いに、平屋や二階建ての住宅八十五戸が並ぶ。この住宅街を含む赤井地区に落雷があったのは、二〇一七年七月二十五日の午前一時すぎのことだった。停電し、地区は一時間半にわたり真っ暗に。だが、この街の電気は消えず、約二百人の住民は誰も停電に気付かなかった。地元自治会副会長の相沢正勝さん(68)は「二、三日後になって、初めて知ったよ」。八年前、相沢さんは大津波で壊滅的被害を受けた海沿いの大曲(おおまがり)地区に住んでいた。自宅は流され、五人の家族や親戚を失った。停電が長引き、避難先の姉の家では、庭で火をおこして米を炊き、ドラム缶を風呂にした。記憶は鮮明に残っている。「あんな災害は二度と起こってほしくない。でも、ここでは万が一の電気の心配だけはないんだ」。この住宅街は災害などで外部からの電力供給が途絶えても、三日間は自前で電気を賄える。東松島市が震災後、住宅メーカーの積水ハウスと共に水田に開発した復興住宅で「スマート防災エコタウン」と呼ばれる。日本初の取り組みだ。街の真ん中には、太陽光発電の黒いパネル。夏なら昼間の電力需要を100%満たせる。足りない分は、電力事業を担う「東松島みらいとし機構」が東北電力の送電網を通じて市内の別の太陽光発電所から買ったり、太陽光で充電した大型蓄電池を活用したりして補う。機構の常務理事、渥美裕介さん(34)は「街の全需要の半分近くを、地元の再生可能エネルギーで満たしている」と説明した。非常時は蓄電池だけでなく、ディーゼル発電機が自動で動く。渥美さんは「二年前の停電の時、発電機が動きだして黒煙を上げたので、火事と勘違いした人もいました」と明かした。街の中の電線は自営で、東北電の送電網から独立。住宅だけでなく、近くにある仙石病院など四つの医療機関と県の運転免許センターにつながり、普段から電気を供給している。これらの施設は災害時には避難所となる。停電が四日以上となれば、街の非常用電源から最優先で電気の供給を続ける。仙石病院では八年前、長期化した停電で腎不全患者の人工透析が続けられなくなったが、これで助かる命が増えた。街の整備には約五億円の税金が投じられた。四分の三は環境省の補助金が充てられ、残りを市が負担。みらいとし機構は街の外の公共施設や漁協、農協に電気を売って利益を得ており、市が負担した一億二千五百万円を十五年ほどで回収できる見込みだという。再生エネの電気を地産地消しながら防災に生かす試みは、東京都武蔵野市など全国四十カ所以上で進む。震災の苦い経験が、その挑戦を後押ししている。
 ◇ 
 東日本大震災と東京電力福島第一原発事故から八年。原発のない国をどう実現するか。先進的な取り組みから、未来を展望する。

*6-3:https://www.agrinews.co.jp/p46981.html (日本農業新聞論説 2019年3月9日) 大地震と電力 鍵を握る再エネの活用
 北海道地震から半年が過ぎた。国内初の全域停電(ブラックアウト)の教訓から、道内の酪農地帯では自家発電機の導入が相次ぐ。ただ、自家発電は自衛手段の一つ。停電が長引けば燃料確保の問題も出てくる。災害が多発する今こそ、再生可能エネルギー(再エネ)を活用した地域分散型の電力供給システムを導入すべきだ。別海町の30代の酪農家はブラックアウトの衝撃をこう振り返った。「数分で復旧するだろうと思っていたが、朝の搾乳が夕方にずれ込んだ。牛の乳房は風船のように膨らみ噴水のように生乳が噴き出した」。乳房が張り、牛が鳴き叫ぶ声が耳に残っているという。この酪農家は、知人から大型発電機を借り、停電時も搾乳ができた。近隣の酪農家2戸と交代で使い、電気が復旧した翌日の9月7日夜遅くまで牛の命を支えた。現在は万一に備えて自家発電機を配備したという。乳業メーカーも電力確保に動きだした。よつ葉乳業は既に3工場で自家発電機を導入。他の大手メーカーでも配備に向けた検討や調査を進めている。よつば乳業の有田真社長は本紙インタビューで「非常時でも余裕があれば、他メーカーが集乳した分の処理を手伝う」と述べた。災害時の市民生活に欠かせない小売店の営業継続に向けた動きも出てきた。北海道の日産自動車の販売会社7社と、道内で1000店超のコンビニエンスストアを運営する札幌市のセコマが、電気自動車(EV)を電源に活用し、営業を続ける体制の確立へ協定を結んだ。試乗車として配備するEVをコンビニに派遣し、バッテリーの電力を供給する。今後、モデル店舗を札幌市に設ける予定で、20時間程度の給電が可能という。問われるのは、ブラックアウトを二度と起こさないための電力供給網の整備だ。北海道電力は先月末、燃料に液化天然ガス(LNG)を使う石狩湾新港発電所の営業運転を始めた。大規模停電の発端となった苫東厚真石炭火力発電所を補い、電力の安定供給を目指すためだ。それでも「集中型電力システム」の仕組みは変わらない。ブラックアウトは、電気の需給バランスが乱れたことが原因。再エネは地震後も稼働していたが、電力需給の調整弁を果たす同発電所の停止で、活用できなかったことを教訓にすべきだ。酪農や畜産から出るふん尿、林業から出る木質バイオマス、地形や気象条件を生かした風力。道内には足元の資源を生かした再エネ発電施設がある。太陽光、風力を合わせて地震前日の最大需要の4割に相当する160万キロワットの発電容量を持つ。石炭火力、LNGともに化石燃料の採掘は永遠には続かない。燃焼に伴い、地球温暖化につながる二酸化炭素(CO2)の排出も増える。今こそ環境に負荷をかけない持続可能な「地域分散型」の電力供給システムを検討すべきである。

*6-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/348131 (佐賀新聞 2019年3月12日) 原発とエネルギー政策、世界の現実に目を向けよ
 東京電力福島第1原発事故から8年間、世界のエネルギー情勢は大きく変わった。高コスト化が目立つ原発が低迷する一方で、再生可能エネルギーが急成長し、地球温暖化対策として脱化石燃料、特に石炭火力廃止の動きが広がった。だが、日本では、世界で進む大転換から懸け離れ、旧態依然としたエネルギー政策が続いている。このままでは、エネルギーに関するリスクが高まり、日本の産業の国際競争力が大きく損なわれることになる。政策決定者は一刻も早く現在の過ちを改め、世界の状況と時代の要請に即した政策の大転換に向けかじを切るべきだ。高コスト化が目立つ原発は事故前から停滞していたのだが、福島事故後の安全対策費用の高騰がこれを加速し、競争力を失った。東芝の子会社だったウェスチングハウス・エレクトリックは経営破綻、フランスの原発大手アレバも事実上、破綻した。トルコ、英国などで国策として進めた日本の原発輸出案件もすべて頓挫した。2015年には、「脱炭素社会」実現を掲げるパリ協定が採択された。英国、フランスなどが相次いで石炭火力の廃止を決め、石炭への依存度が高かったドイツでさえ、最近になって38年までに石炭火力発電を全廃する方向を打ち出した。一方で、世界の電力供給に占める水力を含む再生可能エネルギーの比率は17年には26・5%にまで増え、多くの国で最も低価格な電源とされるまでになった。消費電力の100%を再生可能エネで賄うとの目標を掲げる国も増えている。こんな中、日本の状況を見ると、暗い気持ちにならざるを得ない。日本でも原発事故後、太陽光発電が急成長し、国も再生可能エネルギーの主流化を打ち出した。だが、30年度の発電比率の目標は22~24%と、現在の世界平均より低い。発電と送電の分離が進まず、大電力会社が送電網を支配する状況が続いているのも、国際的には異例だ。逆に高すぎて、多くの専門家が実現の可能性が低いとするのが20~22%という原発の目標だ。電力会社は多大な労力とコストを投じて原発の再稼働を進めているが、17年の比率は3%弱だ。石炭火力の目標が26%と高いこともあって、日本は石炭火力の新設を進める数少ない国の一つになっている。20、21年にかけて建設中の100キロワット級の大型を含む10基近くが運転開始する予定だ。石炭重視の日本の政策には、外国政府からも厳しい批判が出ている。重厚長大、大規模集中型の発電技術にこだわり、「革命」とも称される再生可能エネルギーの拡大で後れを取り、脱炭素社会づくりに向けた国際競争でも劣後するとなれば、国際社会での日本の発言力は低下し、日本の産業界は多くのビジネスチャンスを失うだろう。再生可能エネルギー拡大のために政治家や官僚が口にするのは、水素や二酸化炭素の固定など画期的な技術開発の必要性だ。だが、適切な政策が社会の変革を促せば、既存の技術で原発も温暖化もない社会の実現が可能であることを、過去8年間の世界の経験は示した。日本にないのは新技術ではない。欠けているのは、既得権益にしがみつく勢力の抵抗を排して大転換に乗り出す政治家の勇気と確固たる意志である。

*6-5:http://qbiz.jp/article/150190/1/ (西日本新聞 2019年3月13日) VW、EV生産2200万台に 今後10年で、重視姿勢鮮明
 ドイツ自動車大手フォルクスワーゲン(VW)は12日、今後10年間の電気自動車(EV)の生産台数を2200万台にするとの計画を公表した。2028年までに計約70車種のEVを売り出す。従来より野心的な方針を示し、電動車重視の姿勢を鮮明にした。VW本社があるドイツ北部ウォルフスブルクで記者会見したディース最高経営責任者(CEO)は「予見可能な将来においては、道路交通分野で二酸化炭素を削減するために、EVが最良で一番効率的な方法だろう」と強調した。VWはこれまでEV約50車種を25年までに投入するとの計画を示していた。22年までに欧州と北米、中国の計18工場でEV生産を始める。ディースCEOはEVの推進で生産の省力化が進み、人員削減の必要性が生じるとも指摘した。ドイツ紙は、VWが今後数年間でドイツの2工場の従業員約7千人を削減する計画だと報じている。中国政府が外資規制の緩和方針を示したことで可能になる合弁企業への過半出資に関しては、19年中にも結論を出す考えであることを明らかにした。

<日本の司法の問題点>
PS(2019年3月13日): *7-1のように、東京地検特捜部がこれまでの逮捕容疑をすべて起訴したそうだが、有価証券報告書への役員報酬の過少記載が金融商品取引法違反に当たらない可能性が高くなると、「とことんやるしかない(検察幹部)」「何とか事件に結び付ける」として特別背任に問える疑いがないか捜査するのは、“司法の信頼を保つ”以外には何のメリットもなく、*7-2-5の松橋事件のように、司法の名誉のために無罪の人の人生を奪うことに繋がるため厳に慎むべきだ。そして、「俺が黒と言ったら白でも黒になる」という思い上がりは、日本の司法が冤罪を生む原因となっているが、いくつもの整合的な物証のない自白だけでは証拠にならないというのが、監査では基本中の基本である。
 また、*7-2-1のように、「ゴーン氏は会社を私物化した悪者」という筋書きで話が進められているが、個人企業ではあるまいし上場企業でそのようなことはできないので、検察は経済事案に疎いと考える。さらに、日産と三菱が作った統括会社からゴーン氏が報酬約10億円を受け取っていたとしても、それが日産の有価証券報告書に開示されないのは当然であるとともに、特定目的会社のように連結対象でない会社も日産の有価証券報告書に記載されない。そして、「日産がゴーン氏の姉とアドバイザリー契約を結んで毎年10万ドル(約千百三十万円)前後を支出していたのは実態がない」と決めつけるのは、日本独特のキャリアに関する女性蔑視である。なお、娘が通う大学への寄付金を日産の名前で支払ったり、*7-2-3のように、ルノーがベルサイユ宮殿と文化芸術を支援する「メセナ」契約を結んで宮殿の改修費用の一部を負担する代わりに城館を借りられるようにし、ルノーの会長だったゴーン氏がベルサイユ宮殿で結婚披露宴を無料で開催したというのも、寄付を尊ぶ文化の中では日産やルノーの名声と知名度を高める方向に働くため、ゴーン氏は家族を挙げて日産車のマーケティングに尽くしていたとも考えられ、私的流用と決めつけて批判ばかりしているのはむしろ変である。
 さらに、*7-2-2のように、ゴーン氏がオマーンの日産販売代理店オーナーから私的に3千万ドル(現在のレートで約33億円)を借り入れ、この後に日産子会社から代理店に計約3500万ドル(同約38億円)送金させていたのも、CEOリザーブから「販売促進費」として支出されており、CEOリザーブの支出について従業員の要請はいらない上、従業員がすべての必要性を把握しているわけでもない。また、損失の付け替えについては、*7-2-4のように、郷原弁護士も取引の決済期限が来て損益が確定するまで損失は「評価損」に留まり、損失を発生させることなくゴーン氏に契約上の権利が戻っているので罪に問えないとされており、私と同意見だ。

*7-1:https://digital.asahi.com/articles/ASM1C5782M1CUTIL02R.html?iref=pc_rellink (朝日新聞 2019年1月12日)「とことんやるしかない」対ゴーン氏、目算狂った特捜は
 日産自動車の前会長カルロス・ゴーン容疑者(64)をめぐる一連の捜査は11日、東京地検特捜部がこれまでの逮捕容疑をすべて起訴した。世界的な経営者に対して、前例のない容疑での着手で始まった54日間の捜査は、異例の展開をたどった。「ゴーン氏という世界的に有名な方に対する強制捜査。様々な反響があるとは考えていた」。東京地検の久木元(くきもと)伸・次席検事は11日の定例会見で、捜査に対して海外から寄せられた疑問の声についてこう答えた。特捜部が逮捕に踏み切ったのは昨年11月19日。ゴーン前会長と前代表取締役グレッグ・ケリー容疑者(62)が、2010~14年度の前会長の役員報酬を有価証券報告書に過少記載したという金融商品取引法違反容疑だった。報酬の過少記載を問うのは初めてだ。前例のない捜査が本格化した。毎年の報酬は約20億円だったが、開示するのは約10億円だけにし、差額の約10億円は顧問料など別の名目に偽装し、退任後に受け取る――。特捜部が描く「報酬隠し」はこうした仕組みだ。この「退任後支払い」の報酬が確定しており、記載義務があったかどうかが争点となった。ゴーン前会長は「退任後の報酬支払いは確定していない」と容疑を否認。ケリー前代表取締役も「役員報酬とは関係ない」と主張した。未受領の報酬の事件化には「形式犯」の批判もあり、専門家でも意見が割れる。ただ検察幹部らは「役員報酬の開示はガバナンス(企業統治)にゆがみがないかを投資家が判断するうえで重要だ」と強調する。2人の勾留期限となる12月10日、特捜部は5年分の虚偽記載の罪で起訴。15~17年度の3年分の容疑で再逮捕した。8年分の容疑を2回に分けて捜査を続ける想定通りの展開だった。このころ特捜部では、虚偽記載の解明を進める検事と別の検事たちが、前会長を特別背任に問える疑いがないか捜査していた。だが検察としてはあくまで「虚偽記載につながる予備的な主張」との位置づけ。ある幹部は「立件できるものがあればやればいい」と語り、別の幹部は「日産ほどの規模の会社で数十億円程度の損害を与えた話より、投資家を欺いた虚偽記載の方が重要だ」と話していた。検察は虚偽記載事件を「本丸」とし、捜査を進める構えだった。目算が狂ったのは再逮捕から10日後の12月20日。東京地裁が検察側の勾留延長請求を却下した。特捜部が担当する事件で勾留延長が却下されるのは極めて異例だ。地裁は5日後、否認したままのケリー前代表取締役を保釈。異例の早期保釈だった。ゴーン前会長の早期保釈の観測も広がる中、特捜部が再逮捕に踏み切ったのは、前会長の私的取引の評価損をめぐる行為だった。約18億5千万円の評価損が生じた契約を日産に付け替えた容疑と、信用保証に協力したサウジアラビアの実業家ハリド・ジュファリ氏に計約13億円を不正送金した容疑の二つだ。「もうとことんやるしかない」(検察幹部)。徹底抗戦の構えの前会長は1月8日、勾留理由の開示手続きに出廷。付け替えについて「日産に金銭的な損失を負わせない限りで、一時的に担保を提供してもらっただけ。一切損害を与えていない」と反論した。送金も「ジュファリ氏は日産に対して重要な業務を推進してくれた。関係部署の承認に基づき、相応の対価を支払った」と訴えた。特捜部はジュファリ氏の取り調べをしていない。元特捜部長であるゴーン前会長の弁護人、大鶴基成弁護士はこう古巣に疑問を呈した。「特別背任で、金の支払われた先から話を聞かずに逮捕するのは異例だ」
●「私物化」捜査は継続 4回目の逮捕は
 今後、新たな容疑での再逮捕はあるのか。特捜部はゴーン前会長による「会社の私物化」を疑わせる膨大な証拠をつかんでおり、捜査は継続するとみられる。
一連の捜査で特捜部が注目した資金の一つは、CEO(最高経営責任者)直轄の「CEOリザーブ(予備費)」だった。関係者によると、この資金から、特別背任事件でサウジアラビアの実業家へ支払った約13億円以外にも、オマーンとレバノンの販売代理店に計50億円超が支出されるなどしていた。代理店幹部は前会長の知人で、前会長に「還流」したように見える資金の流れもあるという。ただ検察幹部は「簡単にはひも付けられない。CEOリザーブが全て不正とは言えない」と慎重に見極める構えだ。またゴーン前会長は未払いの役員報酬を退任後に受け取る方法として、日産、ルノー、三菱自動車の統括会社(オランダ)や、ベンチャー投資名目で設立された子会社「ジーア」(同)からの支出を検討していた。ジーアなどが絡む資金は、租税回避地(タックスヘイブン)や実態のないペーパーカンパニーを経由しており、解明は容易ではない。特捜部は、中東各国に捜査共助を要請して協力を求めており、その回答待ちだ。日産関係者の聴取もまだ続いている。今後は、起訴された罪について弁護側への証拠開示も進む。ただ資料の英訳などが必要で、初公判までに半年~1年ほどかかるとみられている。特捜部は、初公判の冒頭陳述で描く「犯行に至る経緯」を分厚くする捜査を続けながら、別途事件化できる容疑が煮詰まれば、4回目の逮捕も排除しないとみられる。現時点では、再逮捕をにおわす検察幹部がいる一方、「すぐに事件にできる材料はない」と語る幹部もおり、見通しは不透明だ。
●広がる疑惑 「ゴーン後」へ日産混迷
 日産が特捜部に社内調査の結果を報告し、幹部が司法取引に応じた結果、経営トップらの逮捕に至った事件は、ゴーン前会長の追起訴で一区切りを迎えた。だが、日産社内の混迷は、3社連合を組む仏ルノーや三菱自動車を巻き込んで、むしろ深まりつつある。ゴーン前会長が羽田空港で身柄を確保された昨年11月19日の夜、西川(さいかわ)広人社長兼CEO(最高経営責任者)は前会長の不正行為として①役員報酬の過少記載②投資資金の不正支出③経費の不正支出――の三つを挙げた。①は特捜部による立件に至ったものの、三菱自とつくる統括会社から前会長が非開示の報酬約10億円を受け取っていたことが追加の社内調査で判明。3社連合を統治する別の統括会社から仏ルノー副社長に不透明な報酬が支払われた疑いも浮上するなど、起訴内容とは異なる不正が相次いで明るみに出ている。ゴーン前会長が私的な投資で生じた損失を日産に付け替えたなどとして起訴された特別背任事件は、社内調査が端緒ではなく、検察独自の捜査によるものだった。オランダの子会社を通じた高級住宅の購入、業務実態がない前会長の姉に対する経費の不正支出など、②③に関する疑惑も次々と発覚し、混迷が収束する兆しは見えない。裏を返せば、長年にわたる前会長の「暴走」を止められなかった深刻なガバナンス(企業統治)の不全が次々と露呈しているともいえる。西川氏ら経営陣の責任は重い。日産は先月、社外の弁護士らでつくる「ガバナンス改善特別委員会」を新設することを決めた。3月末までに抜本的な統治体制の改善策の提言を受ける予定だが、20年近く君臨した前会長に重用された「イエスマン」が多く、企業風土を刷新できるかは不透明だ。日産、三菱自と異なり、会長職の解任を見送っているルノーや、「推定無罪」の原則を主張してルノーの判断を支持する仏政府との足並みも乱れたままだ。「ゴーン後」の統治体制もなかなか定まらない。
●元検事の落合洋司弁護士の話
 日産の資金が支出されたサウジアラビアの実業家への聴取なしで違法性を裏付けられるかが焦点になる。通常は、資金の趣旨を裏付ける上で、支出先の聴取は欠かせない。公判で検察の想定しない説明がなされる可能性もあり、有罪となるかは予断を許さない。今回の捜査を通じては、経営者の暴走を、企業内部でどう解決するのかという課題も浮き彫りになった。
●元刑事裁判官の木谷明弁護士の話
 日本でこれまで当たり前だと思われてきた刑事司法が、「外圧」で変わろうとしている。従来は、否認しているうちは保釈しないという「人質司法」が当然だった。ケリー前代表取締役も従来なら、保釈されていなかったはずだ。前例ができた以上、裁判所は今後、外国人だけを特別扱いするのではなく、運用自体を変える必要に迫られるだろう。

*7-2-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201812/CK2018120202000136.html (東京新聞 2018年12月2日) 「会社私物化」疑惑続々 ゴーン容疑者
 日産自動車の前会長カルロス・ゴーン容疑者(64)を巡っては、有価証券報告書に自分の報酬を約五十億円少なく記載したとする逮捕容疑とは別に、海外社宅の無償利用や経費の私的利用などの問題も次々と持ち上がっている。カリスマ経営者として二十年近くトップに君臨する中、会社を「私物化」していた実態が浮き彫りになってきた。「『コストカッター』としてあれほど人員や経費を削ってきたのに、自分だけ私腹を肥やしていたのか…。驚いたというより、あきれたね」。ある検察幹部がこう苦笑するほど、ゴーン容疑者の会社私物化疑惑は底が知れない。その象徴的な舞台がオランダ・アムステルダムにある日産の子会社「ジーア」。日産が約六十億円出資し、二〇一〇年に投資会社として設立された。関係者によると、ジーアはタックスヘイブン(租税回避地)などの会社に約二十億円を投じ、ゴーン容疑者が出生したブラジルのリオデジャネイロ、幼少期から高校まで過ごしたレバノンのベイルートに高級住宅を相次いで購入。ゴーン容疑者が私的に無償で使っていたという。また、パリやアムステルダムにも別の会社を通じて住宅を用意し、ゴーン容疑者が私的に利用していたにもかかわらず、賃料の一部を負担していたとされる。ゴーン容疑者は逮捕後、海外住宅の私的利用疑惑について、周囲に「仕事で世界中を飛び回るので、拠点として使っていた」と正当性を主張しているという。ゴーン容疑者の指示でジーアに深く関与したとされるのが、側近の前代表取締役グレゴリー・ケリー容疑者(62)だ。ゴーン容疑者の意向をごく限られた部下に伝え、契約などの実務を担わせていたとされる。関係者によると、日産は一二~一四年、監査法人から「ジーアは設立趣旨に沿った投資活動がされていないのではないか」などの指摘を複数回受けた。しかし日産側は「ゴーン氏が戦略的投資をするための会社で問題ない」と回答。私的利用疑惑は見過ごされた。ゴーン容疑者の指示を受けたケリー容疑者が、会社の資金をゴーン容疑者個人のために使う-。こういった疑惑は、ほかにも複数持ち上がっている。ジーアを通じて購入したリオの家では、実はゴーン容疑者の姉が暮らしていた。さらに日産は姉とアドバイザリー契約を結び、毎年十万ドル(約千百三十万円)前後を支出。だが、アドバイザー業務の実態はなかったとされる。このほか家族の海外旅行費数千万円、娘が通う大学への寄付金…。日産のプライベートジェット機で、会社の拠点がないレバノンにも渡航していた。ある日産関係者は「プライベートで誰かと食事をするときも、会社のカードで支払っていた。自分に関わるものは会社に支払わせるのが当然だと思っていたのか。誰も彼に意見できない中で、公私混同が進んでいったのだろう」と話した。

*7-2-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13853476.html (朝日新聞 2019年1月18日) 日産資金で借金返済か ゴーン前会長、38億円送金 オマーンの友人側に
 日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告(64)が2009年1月にオマーンの日産販売代理店のオーナーから私的に3千万ドル(現在のレートで約33億円)を借り入れ、この後に日産子会社から代理店に計約3500万ドル(同約38億円)を送金させていたことが、関係者への取材でわかった。東京地検特捜部が、この資金の流れに焦点をあてて捜査していることも判明。貸借契約書を押収し、日産の資金を借金の返済に充てた可能性もあるとみて調べている。関係者によると、ゴーン前会長はオマーンの日産販売代理店のオーナーと長年の友人で、09年1月20日付で、個人的に3千万ドルを借りる貸借契約書を交わした。その後、子会社の「中東日産」(アラブ首長国連邦)に指示し、複数年にわたってこの販売代理店に500万ドル前後ずつを送金させ、総額は約3500万ドルに上った。原資はCEO(最高経営責任者)直轄の「CEOリザーブ(予備費)」で、「販売促進費」名目で支出された。CEOリザーブからの支出について、日産関係者は「現場は要請していない」と証言し、必要性を否定しているという。一方、ゴーン前会長はオマーンを含む中東各国の代理店への支出について「奨励金であり、問題ない」と反論。借金返済という自らの利益を図るため、業務とまったく無関係な支出をして会社に損害を与えたと立証されれば会社法違反(特別背任)に問われるが、ハードルは高い。特捜部は関係者の聴取や、日産を通じた現地での証拠集めを続け、立件の可否を慎重に検討するとみられる。ゴーン前会長は既に起訴されている特別背任事件で、リーマン・ショックの後の08年10月、約18億5千万円の評価損が生じた私的な投資契約を日産に付け替えたとされる。さらに、この契約を自分に戻す際に約30億円の信用保証に協力したサウジアラビアの実業家の会社に09~12年、中東日産からCEOリザーブで計1470万ドル(当時のレートで約13億円)を不正送金したとされる。オマーンの販売代理店オーナーからの借金は、サウジの実業家からの信用保証と同時期にあたり、特捜部は当時の前会長の資金繰りを調べているとみられる。
■準抗告を棄却
 前会長の弁護人は17日、保釈請求の却下を不服として準抗告したが、東京地裁は同日、これを棄却した。

*7-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190313&ng=DGKKZO42345310S9A310C1EA2000 (日経新聞 2019年3月13日) 仏検察もゴーン元会長捜査、国際世論に影響も
 日産自動車元会長、カルロス・ゴーン被告(65)を巡る捜査が海外にも広がりつつある。ベルサイユ宮殿で開いた結婚披露宴を巡り、ルノーの資金を不正に使用した疑惑に関して、フランス検察当局が11日、初期段階にあたる「予備捜査」を開始したことが判明。東京地検特捜部も中東ルートへの捜査を継続している。日本に続き、フランスも捜査に着手したことは国際世論に影響を与える可能性もある。ルノーなどによると、2016年10月、ベルサイユ宮殿内の大トリアノン宮殿で妻キャロルさんとの結婚披露宴を開催した。検察当局は、宮殿使用料に当たる5万ユーロ(約625万円)が、「個人的な利益」だった疑いがあるとみていると、フランスメディアが一斉に報じた。フランスでは経済事件の疑いが生じた場合、検察がまず「予備捜査」を行う。ナンテール検事局が予備捜査を始めた今回もこのケース。事件の複雑さにもよるが、年単位で行われることもあり、重大事件と判断されれば裁判官による「予審」の捜査手続きに移行する。起訴するか不起訴にするかを決めるのが予審判事だ。フランスの経済事件の場合、在宅捜査が主流だが、予審が始まれば本格的に容疑者扱いとなるため、打撃は大きい。南山大学の末道康之教授(フランス刑法)は「予審が開始される可能性がある」と話す。一方、ゴーン元会長は12日、弁護団会議に参加。弁護人によると、ゴーン元会長は記者会見について「やる以上は、自分でどういうことを言うか決めてから出たい」とし、発言内容の精査に時間が必要との考えを示したという。記者会見は来週以降になる見通し。現時点で、4月8日の日産の臨時株主総会に参加しない方針も説明したという。

*7-2-4:https://news.yahoo.co.jp/byline/goharanobuo/20181224-00108835/ (Yahoo2018/12/24)ゴーン氏「特別背任」での司法取引に関する “重大な疑問”(郷原信郎)
 日産自動車の前会長のカルロス・ゴーン氏が12月21日に特別背任で再逮捕されたが、その後の報道によれば、その逮捕容疑の概要は、以下のようなもののようである。[ゴーン氏は、10年前の2008年、リーマンショックの影響でみずからの資産管理会社が銀行と契約して行った金融派生商品への投資で18億5000万円の含み損を出したため、新生銀行から担保の追加を求められ、投資の権利を日産に移し損失を付け替えた。その付け替えが日産の取締役会の承認を経ておらず違法ではないかということが証券取引等監視委員会の新生銀行の検査の際に問題にされ、結局、この権利は、ゴーン氏の資産管理会社に戻された。その権利を戻す際に、サウジアラビア人の知人の会社が、担保不足を補うための信用保証に協力した。平成21年から24年にかけて、日産の子会社から1470万ドル(日本円でおよそ16億円)が送金された。]このうち、損失を付け替えたことが第1の特別背任、サウジの知人に送金したことが第2の特別背任だというのが検察の主張のようだ。しかし、報道によって明らかになった事実を総合すれば、二つの事実について特別背任罪で起訴しても、有罪判決を得ることは極めて困難だと考えられる。検察は、ここでも日産秘書室長との司法取引を使おうと考えているのかもしれないが、そうなると、「日本版司法取引」の制度自体の重大な問題が顕在化することになる。第1については、新生銀行側が担保不足への対応を求めたのに対して、ゴーン氏側が、「日産への一時的な付け替え」で対応することを提案し、新生銀行がこれに応じたが、証券取引等監視委員会による銀行への検査で、新生銀行が違法の疑いを指摘されて、新生銀行側が日産に対して再度対応を求め、それが日産社内でも問題となり、結局、短期間で「付け替え」は解消され、日産側には損失は発生していないようだ。それを、「会社に財産上の損害を発生させた」特別背任罪ととらえるのは無理がある。確かに、その時点で計算上損失となっている取引を日産に付け替えたのだとすれば、その時点だけを見れば、「損失」と言えなくもない。しかし、少なくとも、その取引の決済期限が来て、損益が確定するまでは、損失は「評価損」にとどまり、現実には発生しない。不正融資の背任事件の場合、融資した段階で「財産上の損失」があったとされるが、それは、その時点で資金の移動があるからであり「評価損」の問題とは異なる。ゴーン氏側が、「計算上損失となった取引を、一時的に、日産名義で預かってもらっていただけで、決済期限までに円高が反転して損失は解消されなければ、自己名義に移すつもりだった」と弁解した場合、実際に、損失を発生させることなくゴーン氏側に契約上の権利が戻っている以上、「損害を発生させる認識」を立証することも困難だ。第2については、サウジアラビア人の会社への支出は、当時CEOだったゴーン氏の裁量で支出できる「CEO(最高経営責任者)リザーブ(積立金)」から行われたもので、ゴーン氏は、その目的について、「投資に関する王族へのロビー活動や、現地の有力販売店との長期にわたるトラブル解決などで全般的に日産のために尽力してくれたことへの報酬だった」と供述しているとのことだ。実際に、そのような「ロビー活動」や「トラブル解決」などが行われたのかどうかを、サウジアラビア人側の証言で明らかにしなければ、その支出がゴーン氏の任務に反したものであることの立証は困難であり(「販促費」の名目で支出されていたということだが、ゴーン氏の裁量で支出できたのであれば、名目は問題にはならない)、そのサウジアラビア人の証言が得られる目途が立たない限り、特別背任は立件できないとの判断が常識的であろう。検察は、サウジアラビア人の聴取を行える目途が立たないことから、特別背任の立件は困難と判断していたと考えられる。サウジアラビア人の証言に代えて、検察との司法取引に応じている秘書室長が、「支出の目的は、信用保証をしてくれたことの見返りであり、正当な支出ではなかった」と供述していることで、ゴーン氏の弁解を排斥できると判断して、特別背任での再逮捕に踏み切ったのかもしれない。しかし、そこには、「司法取引供述の虚偽供述の疑い」という重大な問題がある。この秘書室長は、ゴーン氏の「退任後の報酬の支払」に関する覚書の作成を行っており、今回の事件では、それが有価証券報告書の虚偽記載という犯罪に該当することを前提に、検察との司法取引に応じ、自らの刑事責任を減免してもらう見返りに検察捜査に全面的に供述している人間だ。そのような供述には、「共犯者の引き込み」の虚偽供述の疑いがある。そのため、信用性を慎重に判断し、十分な裏付けが得られた場合でなければ、証拠として使えないということは、法務省が、刑訴法改正の国会審議の場でも繰り返し強調してきたことだ。「覚書」という客観証拠もあり、外形的事実にはほとんど争いがない「退任後の報酬の支払」に関する供述の方は、有価証券報告書への記載義務があるか否かとか、「重要な事項」に当たるのか否かなど法律上の問題があるだけで、供述の信用性には問題がない。しかし、秘書室長の「サウジアラビア人の会社への支出」の目的についての供述は、それとは大きく異なる。ゴーン氏の説明と完全に相反しているので、供述の信用性が重大な問題となる。その点に関して致命的なのは、この支払については、日産側は社内調査で全く把握しておらず、「退任後の報酬の支払」の覚書について供述した秘書室長が、この支出の問題については、社内調査に対して何一つ話していないことだ(上記朝日記事でも、「再逮捕は検察独自の捜査によるもので、社内調査が捜査に貢献するという思惑通りにはなっていない」としている。)。秘書室長は、検察と司法取引する前提で、社内調査にも全面的に協力したはずであり、もし、このサウジアラビア人に対する支出が特別背任に当たる違法行為だと考えていたのであれば、なぜ社内調査に対してそれを言わなかったのか。「その点は隠したかった」というのも考えにくい。この支出が特別背任に当たり、秘書室長がその共犯の刑事責任を負う可能性があるとしても、既に7年の公訴時効が完成しており、刑事責任を問われる余地はないからである(ゴーン氏については海外渡航期間の関係で時効が停止していて、未完成だとしても、その時効停止の効果は、共犯者には及ばない)。結局、秘書室長の供述の信用性には重大な問題があり、ゴーン氏の説明・弁解を覆して「サウジアラビア人への支出」が不当な目的であったと立証するのは極めて困難だと言わざるを得ない。以上のとおり、第1、第2について、ゴーン氏を特別背任で起訴しても、有罪に持ち込むことは極めて困難だと考えられる。勾留延長請求却下を受けて急遽、ゴーン氏を再逮捕した検察の、年末年始をはさんだ捜査には、多大な困難が予想される。(以下略)

*7-2-5:https://www.topics.or.jp/articles/-/162254 (徳島新聞社説 2019年2月14日) 松橋事件無罪へ 冤罪を防ぐ法整備急げ
 冤罪を巡るさまざまな問題が、司法と立法府に改めて厳しく突きつけられた。熊本県松橋町(現宇城市)で男性が刺殺された松橋事件で、殺人罪などに問われ服役した宮田浩喜さん(85)の再審初公判が熊本地裁で即日結審し、来月の判決で無罪になることが確実となった。なぜ宮田さんは殺人犯にされたのか。どうして、名誉回復まで何十年もかかったのか。しっかりと検証し、悲劇を繰り返さない対策を進めなければならない。事件は1985年に起きた。男性の将棋仲間だった宮田さんが、警察に任意で12日間連続で取り調べられ自供、逮捕された。否認し続けたものの「うそ発見器で陽性反応が出た」と告げられ、「自白」してしまったという。長時間の過酷な取り調べで疲弊させ、精神的に追い詰める。行き過ぎた自白偏重捜査の典型と言えよう。物証はほぼなく、この自白が唯一の証拠となった。宮田さんは一審で全面否認に転じ、必死に無実を訴えたが、聞き入れられなかった。90年に最高裁で懲役13年が確定、99年の仮出所まで服役した。自白の信頼性が揺らいだのは、判決確定から7年も後だった。再審請求に際し、弁護団が検察に開示を求めた証拠の中から、あるはずのないシャツ片が見つかったのだ。自白では「シャツから左袖を切って、凶器の小刀に巻き、犯行後に燃やした」とされていた。その左袖である。弁護団は、小刀と傷の形状が一致しないとする法医学者の鑑定書も加え、2012年に再審を請求。16年に熊本地裁が再審開始を決め、昨年10月に最高裁で確定した。不都合な証拠を検察が隠していなければ、有罪判決は変わっていた可能性がある。証拠開示については、16年の改正刑事訴訟法施行で、被告側への一覧表交付が検察に義務付けられた。しかし、それではまだ十分とは言えまい。やはり全面開示が原則だろう。一覧表の交付義務が通常の裁判に限られているのも問題だ。今回のように、再審請求の段階で「新証拠」が発見される例は少なくない。裁判官の判断に委ねている現状を改め、開示手続きの明確なルール作りを急ぐ必要がある。高齢の宮田さんは、認知症で寝たきりの状態になっているという。「生きているうちに無罪を」との願いはかないそうだが、再審請求から約7年、地裁の再審開始決定からでも2年半以上になる。明らかな新証拠が見つかったのに、検察が有罪立証に固執し、抗告を重ねたためだ。無用な引き延ばしを防ぎ、早期に名誉回復を図るには、少なくとも再審開始決定に対する検察の抗告権を制限すべきである。捜査当局はもちろん、虚偽の自白を見抜けなかった裁判所も、事件を教訓にしなければならない。法を整備する国会も対応が問われている。

| 日本国憲法::2016.6~2019.3 | 12:05 PM | comments (x) | trackback (x) |
2018.8.14 日本は人権を大切にしない国である ← データの売買・利用に関する意識から (2018年8月15、16、17、18、20日に追加あり)
  
                               上 政治経済塾
              (http://www.seijikeizaijuku.com/kihontekijinken.html)

(図の説明:日本国憲法は、一番左の図のように、「国民主権」「基本的人権の尊重」「平和主義」の3本柱から成る。そのうち「基本的人権の尊重」は「自由権」を含み、監視社会は「自由権」を奪うものだ。また、「国民主権」は国民が選挙で為政者を選ぶことだが、これが有効に機能するためにはメディアの質の高い分析と先入観や偏見のない真実の報道が必要だ。さらに、「介護は節約しさえすればよい」という主張は、基本的人権の中の生存権を脅かしている)

(1)経産省による個人情報及び個人データの利用推進はおかしい
1)個人のデータは個人のものである
 経産省は、データの活用は企業の競争力を左右するとして、*1-1のように、補助金などの新制度を設け、企業間の産業データ共有を支援する制度を始めるそうだ。そして、これを受け、日本の産業界では企業の枠を超えてデータの活用が広がり、セブン&アイ、NTTドコモ、東急電鉄、三井物産、三井住友フィナンシャルグループなど10社が、2018年6月からビッグデータの共同利用をするとのことである。

 しかし、個人のデータは個人情報であって、本人が予定していない企業に勝手に提供されては迷惑である。何故なら、ビッグデータやAIを使ったデータ分析と呼んで見ても、*1-3のように、匿名性に関しては何が起こるかわからない上、予定外の第三者に勝手に個人データを使用されるなど、とんでもない話だからだ。

 また、マーケティングのためなら、各社がそれぞれの会社に有用なデータを集めればすむため、「ビッグデータを共有しなければならない」「経産省が補助金をつけて推進している」というのは、国民を管理する別の目的があるように見える。

2)「データ売買取引所」を設けるとは!
 そのような中、博報堂ホールディングスは、*1-2のように、2019年度、企業が持つ商品の販売データなどを売買する「取引所」事業に参入するそうだ。また、日立・オムロンはセンサーデータなどを流通させる環境を官民連携で整えて、安全を確保したデータ流通基盤を米欧に先行して整えるとのことだが、これは、日本が「米欧に先行している」のではなく、「米欧に比べて人権意識が低い」ことの証明である。

3)個人情報の第三者への提供は、政府に届け出れば問題がないわけではない
 また、ベネッセコーポレーションの個人情報流出事件で犯人が不正取得したデータを名簿業者に売却し他の名簿業者を通じて拡散した対策としては、*1-3のように、本人が拒否した場合のみ第三者に提供しない「オプトアウト方式」でデータを提供する業者には政府の個人情報保護委員会への届け出を義務付けたそうだが、第三者に提供してよいか否かは、政府に届け出ればよいのではなく、すべて本人に確認するのが筋である。

 何故なら、病歴・犯罪歴等の開示は差別を助長するだけでなく、しつこい営業もはなはだ迷惑であり、いずれもプライバシーの侵害だからである。

(2)EUのデータ規制が正常である
 EUは、*2-1のように、名前・住所・メールアドレス・IPアドレス・ネットの閲覧履歴・GPSによる位置情報・顔画像・指紋認証・遺伝子情報等を規制対象にしており、これらを対象にしていない日本の規制が甘すぎて、人権侵害になっているのだ。

 そこで、EUは、*2-2のように、企業が欧州市民の情報を保管するにあたっては、プライバシー保護の水準が十分でない国のサーバーへの保管を禁じている。私は、日本も日本企業の海外赴任の従業員情報なら移転してよいなどとするように交渉するのではなく、日本国民にもEU並みのプライバシー保護規則を導入すべきだと考える。

(3)医療・介護の個人情報共有(?!)
 このような中、3-1、*3-2のように、本人の了承なく治療・服薬履歴・介護サービスの利用実績などの医療・介護にかかわる個人情報を全国の関係者が共有できる仕組みを政府が作るとしたのには驚いた。医療・介護は、セカンド・オピニオンを得るために患者が別の病院を受診することもあり、これは先入観の入らない診断が独立的に行われて初めて機能するため、医療・介護にかかわる個人情報を全国の関係者が共有すると機能しなくなる。

 また、電子カルテの普及はよいが、患者に関する情報は患者のものであり、医療費を減らす目的などで本人の了承なく勝手に他者に受け渡しすることは、著しい個人情報の侵害・プライバシーの侵害である。そのため、患者が必要とする時のみ、患者が電子カルテのコピーデータを別の病院に持参できるようにすべきだ。

 さらに、科学的な観点から効率的に医療・介護サービスを提供するには、役所の都合で医療・介護の重要な要素である守秘義務を廃するのではなく、それぞれの専門家が綿密な計画を立ててから調査するのが有効だ。

(4)メディア報道の質について
 このようなことが議論されている最中、TVは殺人・犯罪・スポーツ・天気の話ばかりだったが、日本の民主主義は、既に「依らしむべし、知らしむべからず」という時代を終えている。

 そのため、メディアは、主権者に対して正確に分析された質の高い真実の情報を提供することによって、本物の民主主義を実現させなければならない。

<経産省の個人情報データ利用推進>
*1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180601&ng=DGKKZO31239970R00C18A6MM8000 (日経新聞 2018年6月1日) データ共有で競争力 セブンなど10社、経産省も補助金など新制度
 日本の産業界で企業の枠を超えたデータ活用が広がる。セブン&アイ・ホールディングス(HD)やNTTドコモなど10社は6月から、ビッグデータ(総合2面きょうのことば)の共同活用に乗り出す。これとは別に経済産業省は企業間の産業データ共有を支援する制度を始める。人工知能(AI)の進化を受け、データの活用法は企業の競争力を左右する。「データ資源」を求め企業が手を組む動きが加速する。セブン&アイとドコモのほか、東京急行電鉄や三井物産、三井住友フィナンシャルグループなど異業種の10社がビッグデータ活用で協力する。1日、研究組織「セブン&アイ・データラボ」を発足。データ共有の手法や事業化の検討を進める。セブン&アイは1日約2300万人分の消費データを得ている一方、ドコモは約7600万件の携帯利用者を抱える。各社はデータを共有することで情報量を増やし、AIを使ったデータ分析の精度向上や、以前は得られなかった解析結果の取得につなげる。例えばセブン&アイの消費データとドコモの携帯電話の位置情報を掛け合わせる。日常の買い物が不便な地域を割り出し、ネットスーパーの展開に役立てることができる。人の動きや嗜好を組み合わせれば、魅力的な街づくりや効果的な出店計画なども可能になる。まずセブン&アイと他社が1対1でデータを共有し分析結果を参加企業で共有。全社のデータを一元的に活用する仕組みを検討するほか、10社以外にも参加を呼びかける。データは個人を特定できない形に加工し、プライバシーを保護する。一方、経産省は製造ノウハウなど産業データの共有を支援する制度を始める。参画する企業に補助金を出すほか、6月にも施行する生産性向上特別措置法をもとに減税措置を取る。日本郵船、商船三井などはこの制度を活用し、船舶の運航データを共有。気象条件によってエンジンがどのように動くのかなどのデータを共有し、省エネ船や自動運航船の開発につなげる。JXTGエネルギーや出光興産など石油元売り大手も、製油所の配管の腐食データなどを共有し、効率的な保守点検を目指す。各社は競合関係にあるが、データの一部を共有することで無駄をなくし、個別の注力分野に人材や資金など経営資源を集中的に投下する。ドイツでは工場にあるロボットの稼働状況を企業間で共有して効率化を図るなど、データを活用した生産改革の動きが広がる。日本は現場での擦り合わせに強みを持つ一方、企業の枠を超えたデータ共有による生産性の向上は遅れていた。これまでは技術力やブランド力が企業の価値の中核を占めた。経済のデジタル化が進むなか、企業の価値にデータ資源が加わる。今後、データ獲得へ向け企業の合従連衡が進む可能性がある。公正取引委員会は2017年6月に独占禁止法の適用指針を公表。データの集積や利活用は競争を促す一方、寡占により競争が損なわれる場合は独禁法による規制が考えられるとした。産業全体でデータを活用し価値を生むための仕組み作りが必要になる。

*1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180525&ng=DGKKZO30923060U8A520C1TJ2000 (日経新聞 2018年5月25日) データ売買に「取引所」 博報堂DYが参入、安全な基盤整備、利用促す
 企業が持つ様々なデータを相互利用し、新サービス創出などにつなげようとする試みが広がってきた。博報堂DYホールディングスは2019年度に、企業が持つ商品の販売データなどを売買する「取引所」事業に参入する。日立製作所やオムロンはセンサーデータなどを流通させる環境を官民連携で整える。個人情報の流出が問題となる中、安全を確保したデータ流通基盤を米欧に先行して整える。博報堂DYは8月にも、データ取引所事業の実証実験を始める。カード会社や小売企業が参加し、自社のデータを売ったり、他社のデータを買ったりする。企業は購入したデータを基に消費者像をより具体的に絞り込み、効果的な広告配信や商品開発につなげられる。例えば、自動車の販売会社が近隣のホームセンターの販売データを入手できれば、キャンプ関連商品の販売が増えている場合に、キャンプで使いやすい多目的スポーツ車(SUV)の品ぞろえを増やすなどの販売戦略を立てることができる。データの販売価格や受け渡し方法などを検証し、19年度から本格展開する。博報堂DYはデータ活用支援など周辺サービスの需要を開拓する。海外企業からデータを集めるなど取引所事業の海外展開も視野に入れる。企業が保有するデータ量は、あらゆるものがネットにつながるIoTなどの普及で大幅に増えている。各社が持つ様々なデータを互いに利用できれば、新たな製品やサービスの迅速な開発につなげられる可能性が高く、企業間でデータを取引できる仕組みやルールの整備が急務になっている。日立製作所やオムロン、ソフトバンクなど100以上の企業と団体でつくるデータ流通推進協議会は、企業やデータ取引会社の枠を超え、横断的にデータ検索・取引ができる方法の検討に着手した。経済産業省などとも連携し、検索しやすいようデータの形式を整えたり、信頼できる取引参加者の認定をしたりする。ヤフーも検索など同社のサービスで蓄積したデータを、企業や行政のデータと組み合わせ、新商品開発などにつなげる取り組みを始めた。日産自動車やサッカーJリーグ、神戸市など十数の企業・団体が参加する。米フェイスブックの個人情報流出が問題となり、欧州連合(EU)も25日、新たな個人情報保護ルール「一般データ保護規則」(GDPR)を施行するなど、データ管理に求められる安全性のハードルは高まっている。博報堂DYは個人情報を数十~数百件ごとにまとめて統計処理してつくった仮想の個人データを取引所で提供することで、個人を特定できないようにする。仮想データは元のデータと統計的に同じように活用できる一方、仮想データはGDPRの規制の対象外となるという。データ流通推進協議会もGDPRやEU域内でのデータ流通に関する有識者研究会を設け、対応を進める。交流サイト(SNS)など個人の情報流通基盤では米欧が先行したが、企業が持つIoTや販売データの流通基盤は米欧でも固まっていないという。日本勢は企業のビッグデータが安全に流通する仕組みを早期に整え、主導権を狙う。

*1-3:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO15317100U7A410C1TCJ000/ (日経新聞 2017/4/17) 〈情報を極める〉個人情報保護法(2) 第三者への提供、ルール厳格に
 5月30日に全面施行される改正個人情報保護法では、企業などが保有する個人データを第三者に提供する際のルールが厳格になった。2014年に発覚したベネッセコーポレーションの個人情報流出事件で、犯人が不正取得したデータを名簿業者に売却し、他の名簿業者を通じて拡散したことなどがきっかけだ。名簿業者を意識した対策の1つめとして、本人が拒否した場合のみ第三者に提供しない「オプトアウト方式」でデータを提供する業者には、政府の個人情報保護委員会への届け出を義務付けた。個人データを第三者に提供するには原則として本人同意が必要であり、オプトアウト方式は名簿業者が多用するためだ。加えて、病歴や犯罪歴など特に慎重に扱うべき「要配慮個人情報」は、本人の同意なしには第三者に提供できないこととした。対策の2つめとして、個人データを第三者とやり取りした業者には、新たに記録の作成と保存の義務を課した。データを提供する場合は第三者の社名や氏名、情報の項目など、提供を受ける場合は第三者の社名や氏名、相手側がそのデータを取得した経緯などを記録し、原則3年間保存しなければならない。不正な利益を得るために個人情報データベースなどを盗用・提供した者には1年以下の懲役または50万円以下の罰金を科す。外国にある第三者に個人情報を提供する場合も厳しく規制する。合併、委託、共同利用も対象となる。提供できるのは、現時点では「あらかじめ外国にある第三者への提供を認める本人の同意を得る」か「外国にある第三者が個人情報保護委員会の規則で定める基準に適合する情報保護体制を整備する」場合だ。この国外移転規制は海外のコールセンターを活用する企業などで要注意となる。個人情報保護に詳しい上村哲史弁護士は「データの国外移転を実施・検討する企業は今、海外のグループ会社や拠点先の保護体制を担保するための内規や契約を策定中だ」と指摘する。

<EUのデータ規制>
*2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180525&ng=DGKKZO30946670V20C18A5TJ2000 (日経新聞 2018年5月25日) よくわかるEUデータ規制(1)企業はまず何から? 所有情報の棚卸し重要
 欧州連合(EU)は25日、個人情報保護の新ルール「一般データ保護規則(GDPR)」を施行する。日本より厳しいルールのポイントについて4回にわたり考える。1回目は企業が何をすべきかを取り上げる。規制の対象となる情報は名前や住所、メールアドレスだけではない。インターネットの住所を指すIPアドレス、「クッキー」と呼ぶネットの閲覧履歴、スマートフォンの全地球測位システムによる位置情報も入る。顔画像や指紋認証、遺伝子の情報も対象になる。企業は対策を取る上で、EUに住む人の個人情報について「社内にどんな種類の情報を、どれだけ持っているか調べる必要がある」(PwCコンサルティングの松浦大マネージャー)。ビジネスに個人情報をどう使っているか把握することも重要だ。こうした所有情報の棚卸し作業をデータマッピングと呼ぶ。EUの現地法人や日本の本社はもちろん、各国にある拠点で調べることが欠かせない。企業は棚卸ししたデータをもとに、消費者から情報の利用目的について同意を得なければならない。例えば日本に本社のある企業のフランス現地法人で働くAさん。商品を店舗やネットで販売する際、消費者に記入してもらう情報を巡って「こういう目的で利用してよいですか」と聞き、同意を取る必要がある。一方、社内では安全に管理する仕組みを整える。暗号化などでセキュリティ水準を高めたり、情報を扱える人を限定したりする。情報漏洩が発覚した際にはEU当局に72時間以内に通知する体制も求められている。日本の個人情報保護法にも報告義務はあるが、制限時間は決めていない。GDPRの規則を守るための責任者として、大企業などは「データ保護オフィサー」の設置が義務付けられている。EUは規則違反に高い制裁金を科す。最大で世界での年間売上高の4%か2千万ユーロ(約26億円)の高い方を科される。日本IBMで企業に助言している中山裕之氏は「これほど高い罰金の設定は他国にない」と話す。

*2-2:https://jp.reuters.com/article/eu-data-japan-idJPKBN1K800B (ロイター 2018年7月18日) EUと日本、個人データ相互移転で最終合意 年内実施へ
 日本と欧州連合(EU)は17日、日本とEU間で企業による個人データの円滑な移転を認めることで最終合意した。これにより、7年に及んだデータ移転を巡る協議が終了。年内の実施に向け、欧州委員会と日本政府は今後、最終的な詰めの作業に入る。欧州委のヨウロバー委員(司法担当)は声明で、「データは世界経済の原動力であり、今回の合意により、EUと日本の間での安全なデータの移転が可能になり、双方の市民と経済に恩恵がもたらされる」と述べた。EUは厳格なデータ保護規則を導入し、企業が欧州市民の情報を保管するにあたって、プライバシー保護の水準が十分でない国のサーバーへの保管を禁じている。欧州委によると、今回の日欧合意により、欧州経済領域(EEA)から日本への個人データの移転が特段の手続きを経ることなく行えるようになる。企業が重視する越境データには、海外赴任の従業員情報やオンライン取引の完了に必要なクレジットカード情報、消費者のインターネットの閲覧傾向などが含まれる。17日には東京で日欧首脳会談が開催され、日欧経済連携協定(EPA)への署名が行われた。

<医療・介護の個人情報共有>
*3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180729&ng=DGKKZO33542830Y8A720C1MM8000 (日経新聞 2018年7月29日) 医療・介護の個人情報共有 全国の病院、適切処置で費用抑制
 政府は治療や服薬の履歴、介護サービスの利用実績など医療や介護にかかわる個人情報を全国の関係者が共有できる仕組みをつくる。今は地域ごとに管理しているデータベースを順次統合し、2020年度には全国の医療機関などが同じデータを利用する体制を目指す。データを適切な医療に役立てつつ、重複した投薬などを避けて医療費の抑制につなげる。今は270に分かれた地域ごとに医療の情報を共有する仕組みはあるが、この地域をまたぐとオンラインでの情報共有はできない。介護施設で受けたケアの内容や、会社で受ける健康診断の結果などもバラバラに保管され、医療データと結びつけられていない。データを連携できない理由の一つが、保存する形式がそれぞれ異なることにある。政府は20年度までにデータ統合の仕組みを整え、入退院や介護などの情報を既存のデータベースから政府が新たに整備する「健康・医療・介護情報基盤(仮称)」に移す。内閣官房や厚生労働省、総務省など関係府省で構成する「健康・医療・介護情報基盤検討タスクフォース(TF)」で、年内に具体的な方法を決める。医療や介護の個人別データベースは、国の支出の3分の1を占める社会保障費(18年度は約33兆円)の抑制に欠かせない。野村総合研究所は情報の共有が進めば、医療費を5千億円近く減らせると試算している。電子カルテの普及は日本が3割程度で、9割を超えるノルウェーやオランダなど欧米に劣っている。今年5月に施行された次世代医療基盤法では患者の同意があればデータを匿名加工して大学や製薬会社が研究に使えるようになっており、今後は診療情報のデータ整備が官民で進みそうだ。

*3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180812&ng=DGKKZO34080450R10C18A8MM8000 (日経新聞 2018年8月12日) 介護データ、厚労省が民間開放 サービス効率化へ知恵生かす
 厚生労働省は介護保険サービスの利用状況や利用者の状態などに関するデータを民間の研究機関などに開放する。膨大なデータを民間の知恵を生かして分析することで、介護サービスの効果的な提供の手法や効率化策などの発見につながる可能性があると判断した。9月末までに利用目的などの提案を募り、年内にも提供先の第1陣が決まる見通し。提供するのは要介護状態の区分や利用するサービスなどを記載した「介護レセプト」と、利用者の心身の状態を詳細に記載した「要介護認定データ」の2つ。現在は個人情報を匿名化した上で市町村などから厚労省に提供されており、計9億件のデータがある。いまは行政だけがデータを利用し、第三者への提供はしていない。医療では診療や検診のデータを大学や研究機関などに提供する取り組みが始まっており、介護でも求める声が出ていた。介護費は医療や年金を上回るペースで増加が見込まれており、より科学的な観点から効率的に介護サービスを提供する必要性が指摘されている。民間へのデータ開放によって要介護度の進行や介護サービスの有効性、地域差などの精緻な分析が進み、有効な対策が見いだされることを期待している。データを提供する際は、利用目的に公益性があるかどうかなどを有識者が審査し、その助言に基づいて厚労相が最終的に可否を決める。

<高齢者の人権と被介護者主体の介護サービスへの転換>
PS(2018年8月15日追加):*4には、「介護離職を本気で減らすため」と題して、①政府・企業は介護と仕事の両立に本気で取り組むべき ②両立に向けて社員が努力しやすい環境(短時間勤務制度など)を整えるべき ③業務が滞らないために介護に時間をとられやすい社員のカバー体制も必要 ④管理職は代わりに仕事をこなす人を日頃から決めておくべき ⑤介護サービスも利用しやすくしなくてはならないが、人手不足が深刻なので介護現場で働く人の収入を増やすべき ⑥介護保険外のサービスを事業者が柔軟に提供できるように、規制改革を推進すべき などが記載されている。
 このうち①②③④は、税金で運営されている役所や人手にゆとりのある大企業しか実現できず、生産性と報酬から考えて、介護に時間をとられやすい社員(女性が多い)と認定されれば、医学科の入試だけでなく就職や昇進でも不利な扱いを受けるものだ。しかし、この主張の根本的な問題は、「介護は愛のある家族ならできる」という発想があることで、実際には、介護はプロの知識と経験を要するものなのである。
 さらに、⑤は、「介護保険料は高いが介護サービスは足りない」現状で、どうやって介護現場で働く人の収入を増やすかの解決策が考えられていない。しかし、そもそも介護サービスは被介護者のために作ったものであり、条件のよい雇用を増やすために作ったものではないため、考え方の優先順位が違う。なお、私自身は、外国人労働者も含めた組織的介護(グループ介護)を行うことによって、限られた財源で、知識と経験のある熟練した介護者には十分な報酬を支払うことも可能になると考えている。
 ⑥については、被介護者になるとできなくなってしまう生活補助などのサービスも柔軟に行えるよう混合介護が認められるようにするのがよく、多くの人が満額を払ってでも使うサービスは、本当に必要とされるサービスなので、速やかに介護保険の対象にすることが必要だ。

*4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180814&ng=DGKKZO34118470T10C18A8EA1000 (日経新聞 2018年8月14日) 介護離職を本気で減らそう
 家族の介護のために仕事をやめる人が、依然として多い。働き盛りの社員の退職は、企業にとっても国民経済にとっても損失だ。経営者は介護離職防止を重要課題ととらえ、手を打つ必要がある。総務省の2017年の就業構造基本調査によると、過去1年間に介護や看護を理由に離職した人は9万9100人にのぼる。前回12年調査の10万1100人に比べ、ほぼ横ばいだ。政府は「介護離職ゼロ」を掲げているが、目標達成にはほど遠い。会社勤めなど雇用されて働きながら介護をしている人は299万9200人で、12年調査より59万9900人増えた。介護と仕事の両立に、政府も企業も本気で取り組まなければならない。企業の役割は、両立に向けて社員が努力しやすい環境を整えることだ。短時間勤務制度など柔軟に働ける仕組みが欠かせない。国の介護休業制度や企業独自の休暇制度などを社員が理解できるように、マニュアルをつくることも求められる。一定の年齢に達した社員を対象に、説明会を開催することも必要だろう。家族の介護をすることになった社員の心理的負担は大きい。これを軽減できるよう、企業は丁寧な情報提供に努めるべきだ。一方で、業務が滞らないよう、介護に時間をとられやすい社員のカバー体制も大切だ。管理職などについては一人ひとり、代わりに仕事をこなす人を日ごろから決めておくといいだろう。補完体制づくりが、本人が安心して介護に携われることにもつながる。介護サービスも利用しやすくしなくてはならない。ただ、介護の現場では人手不足が深刻だ。新しい在留資格を設けるなど、外国から人材を受け入れる間口を政府は広げているが、限界がある。介護現場で働く人の収入を増やすことで人手不足を和らげていくのが本筋だ。介護保険外の付加価値の高いサービスを事業者が柔軟に提供できるよう、規制改革を政府は強力に推進すべきだ。

<幼児教育・保育と子どもの人権>
PS(2018/8/16追加):*5の「3~5歳の子全員と保育所に通う0~2歳の住民税非課税世帯の子について、幼児教育と保育の費用を無償化する」というのは賛成だが、保育サービスについては1995年くらいから大きく問題にしている実需であるため、まだ量が足りないと言っている自治体は不作為だ。また、年少でも、やり直しのきかない体験を子どもにさせるため、質も重要であり、無認可保育所まで無償化の対象に加えるのは疑問だ。
 なお、せっかく子どもを預かるのなら、単に居場所を作るだけでなく、家庭ではできない教育(言語・音感・読み書き・計算・ダンス・食・自然と親しむ等々)をした方がよいので、小学校の入学年齢を3歳にし、余っている小学校のインフラを改修して使うのがよいと思われる。そうして保育を0~2歳児と学童保育に特化すれば、待機児童はなくなるだろう。

*5:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31009550W8A520C1MM0000/?n_cid=SPTMG022 (日経新聞 2018/5/26) 幼児教育・保育の無償化 19年10月から全面実施
 政府は2019年10月から幼児教育・保育の無償化を全面的に実施する方針を固めた。これまでは19年4月から5歳児のみを無償化し、20年度から全体に広げる予定だったが、半年前倒しする。19年10月に予定する消費税率10%への引き上げに合わせることで子育て世帯の暮らしに配慮する。幼稚園や認可保育所に加え、預かり保育などの認可外施設も対象にする。6月にまとめる経済財政運営の基本方針(骨太の方針)に盛り込む。教育無償化は昨年の衆院選で安倍晋三首相が公約に掲げていた。消費税増税による増収分の一部を財源に使う。幼稚園や保育所に通う3~5歳の全ての子どもと、保育所に通う0~2歳の住民税非課税世帯の子どもについて、利用料を無料にする。増税に伴う税収がすべて入るのは20年度。そのため、これまでは税収の確保に合わせて、19年4月と20年4月の2段階で無償化する予定だった。無償化を半年前倒しすると、19年度に2000億~3000億円程度の追加予算が必要になる可能性がある。税収による財源確保の前に歳出が膨らむため、財政に悪影響がでる。それでも政府が前倒しに踏み切るのは、14年4月に消費税率を8%に引き上げた際の経緯が背景にある。当時は増税に向けた駆け込み需要の反動で、増税後の半年間は消費が落ち込んだ。政府は19年10月の消費税率引き上げが景気に与える影響を少しでも抑えたい考え。増税に合わせて教育無償化を全面的に実施すれば、子育て世帯の暮らしを支援できる。増税への理解も広がると判断した。無償化の対象は預かり保育やベビーホテルといった認可外施設も含む方針だ。市区町村から保育が必要と認定された世帯であれば、施設の種類を問わず支援を受けられるようにする。ただ、認可外施設は原則として国や自治体が定める一定の基準を満たしたところに限る。5年間は経過措置として、基準を満たしていない場合も無償化対象に加える。認可外は施設によっては保育料が高額になるため、認可保育所の保育料の全国平均額を上限に支援する。

<人権とは関係ないが、お祭りの話>
PS(2018年8月16、17日追加):*6のように、「阿波踊り」の人出が1974年以降最少だったそうだが、徳島市を中心とする実行委員会が観覧席の入場料収入を増やそうと決定した「総踊りの中止」は、営業センスのない「阿呆」の発想だ。何故なら、「阿波踊り」が人を集める最大の魅力は、千人以上の上手な踊り手が1つの演舞場に集って踊る華やかさにあるからで、有料の演舞場に分かれて見なければならないのなら「祭」ではなくショーになる。そのため、徳島市がやった方がいいのは、唐津くんち(2015年にユネスコ無形文化遺産に登録)のように、ユネスコ無形文化遺産に登録してもらって国から継続のための少々の補助金をもらったり、ふるさと納税で「阿波踊り保存のための寄付金」を全国の徳島県人会から集めたりすることである。
 また、*7-1のように、2020年の東京五輪・パラリンピックを機にサマータイムを導入する話もあるが、暑さ対策なら「サマータイム」より開催時期を9月末頃の収穫と紅葉の時期に合わせた方が根本的な解決策になるし、ついでに観光して帰る外国人客も増えるだろう。
 一方、「サマータイム」を導入して時間を操作すると、現在の時間を前提として住宅を買い通勤している人の健康に悪い。そのため、*7-2のように、EUは廃止を検討しているのだ。日本の場合は、東西の距離が短く明石標準時を使っているため、「日の出」「日の入り」が速いと感じられるのは関東以東だけであり、西日本は時間と日照はずれていない。しかし、関東地方は通勤時間が長いため、始業時を早めると健康への悪影響がより大きいのである。

*6:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180816&ng=DGKKZO34211040W8A810C1CC0000 (日経新聞 2018年8月16日) 阿波おどり 人出最少に 徳島、「総踊り」巡る対立影響か
 15日に閉幕した徳島の夏の風物詩「阿波おどり」の人出が昨年より約15万人少ない約108万人で、記録が残る1974年以降、最少だったことが16日、徳島市への取材で分かった。有力踊り手団体が、市を中心とする実行委員会の中止決定に反して「総踊り」を強行するなど運営を巡る対立が影響した可能性があり、市は原因を検証する。昨年まで主催していた市観光協会が多額の累積赤字を抱えて破産。今年から、市主導でつくる実行委が新たな主催者となった。毎年8月12~15日に開催しており、市によると、雨天で一部の日程が開催できなかった年を除き、これまでの最少は2014年の約114万人だった。今年は雨が降った15日の人出が落ち込んだという。総踊りは期間中、毎晩のクライマックスとして千人以上の踊り手が1つの演舞場に集まって踊る演出で人気が高いが、実行委は複数の演舞場に踊り手と観客を分散させて観覧席の入場料収入を増やそうと中止を決定。14の踊り手グループでつくる「阿波おどり振興協会」がこれに反発し、13日夜、市の制止を振り切って総踊りを実施した。

*7-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO33528920X20C18A7CC1000/?n_cid=DSREA001 (日経新聞 2018/7/27) サマータイム導入 五輪組織委、暑さ対策で要望
 2020年東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長は27日、安倍晋三首相と首相官邸で面会し、暑さ対策のため、大会に合わせて全国一律で時間を早める「サマータイム」の導入を求めたことを明らかにした。安倍首相は「ひとつの解決策かもしれない」と応じたという。森会長は今夏の猛暑に「来年、再来年に今のような状況になっているとスポーツを進めるのは非常に難しい」と指摘。面会に同席した武藤敏郎事務総長は「国民の理解が得られてその後もサマータイムが続けば、東京大会のレガシー(遺産)となる」としている。観客や選手の暑さ対策は大会の大きな課題。組織委は屋外競技のスタート時間を早朝に前倒しするなどしたほか、競技会場ごとにテントや冷風機の設置を検討している。

*7-2:http://qbiz.jp/article/139321/1/ (西日本新聞 2018年8月17日) EUが夏時間廃止を検討 睡眠障害招く 省エネ効果薄く
 2020年東京五輪・パラリンピックの暑さ対策として、安倍晋三首相が時間を夏季だけ早めるサマータイム(夏時間)導入の可否を検討するよう自民党に指示する中、欧州連合(EU)は長年続ける夏時間の存廃の検討を本格化させている。標準時を年2回、1時間前後させることによる健康への悪影響や、想定されたほどの省エネ効果が得られないことなどが指摘されるためだ。EU欧州委員会は16日まで実施するパブリックコメント(意見公募)も参考に方針を決める。欧州委によると、欧州諸国の多くは夜間の明るい時間を増やして電力を節約することを主目的に、1970年代ごろまでに夏時間を採用した。EUが2000年代初頭に定めた法令では、3月下旬〜10月下旬に夏時間を一斉実施するとしている。交通事故防止や仕事後の余暇時間の拡大も重要な効果だ。しかし、欧州メディアによると、北欧フィンランドで昨年、夏時間廃止を求める7万人超の署名が議会に提出された。首都ヘルシンキは北緯60度に位置し、6月下旬の日没は午後10時50分。夏時間がなくても夜は明るい。フィンランド議会の委員会は専門家からの意見聴取も重ね、標準時を動かすことで睡眠障害を引き起こすなど夏時間は問題が大きいと結論付けた。同国政府はこれを受け、欧州委に対応を要求。リトアニアなど高緯度の加盟国も同様の声を上げ、EU欧州議会は今年2月、欧州委に存否の検討を求める決議を採択した。EUのブルツ欧州委員(運輸担当)は夏時間の採用が各国ばらばらになると、列車の運行など「運輸部門にかなり大きな問題が生じる」と訴える。欧州委は意見公募の参考資料として、「省エネ効果は薄い。地理的要因が左右する」「体内リズムへの悪影響はこれまで考えられていた以上に大きい可能性も」などと研究結果を紹介している。

<「表現の自由」はメディアだけにあるのではなく、人権に優先しないこと>
PS(2018年8月18日追加):*8-1のように、「ア)自由な報道は民主主義の存立基盤」「イ)近年、メディアに対する政治の敵視が目立つ」「ウ)『言論、出版、その他一切の表現の自由』が、憲法21条に定められている」「エ)どんな政権に対しても、メディアは沈黙してはならない」と書かれている。
 しかし、*8-3のように、日本国憲法は、「①すべての国民に基本的人権を認める」「②憲法が国民に保障する自由・権利は、国民の不断の努力によつて保持しなければならない」「③すべての国民は法の下に平等」「④すべて国民は、個人として尊重される」「⑤思想・良心の自由を侵してはならない」「⑥集会・結社・言論・出版その他一切の表現の自由を保障する」「⑦検閲をしてはならない」「⑧通信の秘密を侵してはならない」「⑨何人も職業選択の自由を有する」という立派な条文を持っており、「表現の自由」は、メディアに限らず国民すべてが平等に持っており、嘘や偏見に満ちた記事を書いて他人の人権を侵害してはならないのである。
 そして、メディアが行政の記者発表を報道しているだけで分析力や人権意識に欠けた記事を書いていたり、女性蔑視の価値観を表現していたり、変な印象付けをしたりして、正確な報道をしていない事例は枚挙にいとまがない。そのため、トランプ大統領が「フェイクニュースだ」と言っていることの一部に私は賛成で、米国民が選んだトランプ大統領の政策が正解かどうかは、メディアの評価ではなく歴史が証明するだろう。
 また、日本国憲法は、「検閲の禁止・通信の秘密」も明記しているが、*8-2のように、データを繋げさえすればよいという論調も多い。さらに、「グーグルなどのネット企業は競争法違反やプライバシー侵害といった批判を受けているが、業績は拡大している」というように、業績が拡大しさえすれば人権侵害をしても何をしてもよいという論調も多く、メディアが正しいことを言っているとは限らない。そのため、まずメディアの姿勢が問われるのである。

*8-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13640288.html (朝日新聞社説 2018年8月18日) 自由な報道 民主主義の存立基盤だ
 社会の中に「敵」をつくり、自分の支持層の歓心をかう。そんな分断の政治が招く破局は、世界史にしばしば現れる。近年、各地で政治による敵視が目立つのはメディアである。とりわけ民主主義の旗手を自任してきた米国の大統領が、「国民の敵」と公言した。明確にしておく。言論の自由は民主主義の基盤である。政権に都合の悪いことも含めて情報を集め、報じるメディアは民主社会を支える必須の存在だ。米国の多くの新聞や雑誌が、一斉に社説を掲げた。「ジャーナリストは敵ではない」(ボストン・グローブ紙)とし、政治的な立場や規模を問わず、結束を示した。その決意に敬意を表したい。報道への敵視や弾圧は広がっている。中国のような共産党一党体制の国だけでなく、フィリピンやトルコなど民主主義国家でも強権政治によるメディアの閉鎖が相次いでいる。そのうえ米国で自由が揺らげば、「世界の独裁者をより大胆にさせる」と、ニューヨークの組織「ジャーナリスト保護委員会」は懸念している。米国の多くの社説がよりどころとしているのは、米国憲法の修正第1条だ。建国後間もない18世紀に報道の自由をうたった条項は、今でも米社会で広く引用され、尊重されている。その原則は、日本でも保障されている。「言論、出版、その他一切の表現の自由」が、憲法21条に定められている。ところが他の国々と同様に、日本にも厳しい目が注がれている。国連の専門家は、特定秘密保護法の成立などを理由に「報道の独立性が重大な脅威に直面している」と警鐘を鳴らした。自民党による一部テレビ局に対する聴取が起きたのは記憶に新しい。近年相次いで発覚した財務省や防衛省による公文書の改ざんや隠蔽(いんぺい)は、都合の悪い事実を国民の目から遠ざけようとする公権力の体質の表れだ。光の当たらぬ事実や隠された歴史を掘り起こすとともに、人びとの声をすくい上げ、問題点を探る。そのジャーナリズムの営みなくして、国民の「知る権利」は完結しない。報道や論評自体ももちろん、批判や検証の対象である。報道への信頼を保つ責任はつねに、朝日新聞を含む世界のメディアが自覚せねばならない。「国民の本当の敵は、無知であり、権力の乱用であり、腐敗とウソである」(ミシガン州のデッドライン・デトロイト)。どんな政権に対しても、メディアは沈黙してはなるまい。

*8-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180816&ng=DGKKZO34198400V10C18A8EA1000 (日経新聞社説 2018年8月16日) データ社会3.0 世界と競える利用基盤をつくろう
 身の回りの情報機器や様々な機械が生み出すデータの量が急速に増えている。こうしたデータを活用する能力が社会や経済、産業の競争力を大きく左右する傾向が強まり、世界的な競争が激しくなってきた。日本もこの課題に真剣に取り組み、後れを取らないようにする必要がある。
●800億個がつながる
 データが急増するのは自動車や産業機械、医療機器といったあらゆるモノがネットにつながる「IoT」が普及するのが一因だ。米調査会社のIDCによると、2025年に世界のネットにつながるモノは800億個に増え、1年間に生まれるデータの量も10年前の約10倍に膨らむ。まず1990年代にパソコンが普及し、デジタルのデータが身近になった。次の変化はネットの普及だ。データを動かす速度が上がり、コストは大幅に下がった。IoTや人工知能(AI)といった技術革新は過去2回に続くデータ社会の大きな転換点となる。「データ社会3.0」ではあらゆる分野で競争の構図が大きく変わる可能性が高い。広告業界はいち早く変化に直面し、世界のネット広告費は今年、テレビなどを上回る見通しだ。世界最大の広告市場である米国ではデータを高度に利用したグーグルとフェイスブックの2社が合計で約6割のシェアを握った。グーグルなどのネット企業は競争法違反やプライバシー侵害といった批判を受けているが、業績は拡大している。ひとたびデータを集める基盤を押さえると、そこにより多くのデータが集まる。強者がますます強くなるというのが広告市場から学ぶべき教訓だ。今後、ネットにつながる多くのモノがデータを生み、広告以外の様々な市場でも、収集や分析、活用の基盤が必要になる。日本企業も世界に通用する基盤づくりを急ぐべきだ。まず重要なのは、多くの企業や利用者が使う開かれた基盤とすることだ。日本企業は以前、家電製品などで自社製品だけをつなぐ閉じた仕組みをつくり、利用者を十分に取り込めなかった。こうした反省を生かす必要がある。参考になるのは建機大手のコマツの事例だ。以前は自社の製品のみを対象としたデータ基盤を運営していたが、今年から他社にも開放した。利用企業はコマツ以外の建機からもデータを取り込み、外部企業がつくったソフトで業務の効率を高められる。コマツの大橋徹二社長は開かれた基盤により「人口減少やインフラの老朽化といった社会課題を解決する」と話す。多くの企業や利用者に参画してもらうには、明確な目標を示して共有することが前提となる。人材の確保も課題になる。資源開発や農業などのために超小型衛星から撮影した画像を販売するアクセルスペース(東京・中央)は社内にデータ活用の基盤を開発する部門を設け、イタリア人をトップに据えた。約15人の担当者の過半が海外出身だ。
●「課題先進国」を生かす
 日本は統計学を学ぶ学生が少ないなど、データを扱う人材が不足している。大学のカリキュラムの見直しや社会人の再教育などはもちろんだが、スピードを上げるために必要に応じて海外から優秀な人材を受け入れるべきだ。米国ではネット企業が新たな基盤をつくる動きをけん引する。欧州では産官学が連携し、自動車などの競争力が高い産業を基盤づくりに積極的に活用している。世界的な競争に勝つには、日本もその強みを利用する必要がある。画像データを活用した介護支援サービスを手がけるエクサウィザーズ(東京・港)は年内に中国と欧州に進出する。同社の石山洸社長は「超高齢化が進む日本はデータを集めやすい」と日本から世界を目指す理由を説明する。「課題先進国」としての強みを利用して技術力を高め、海外に広げていく手もある。政府は未来投資戦略などでデータの活用を進める方針を示している。重要なのは利用者の安心や安全を前提に、企業がデータを活用しやすい環境を整えることだ。障害となる規制の緩和などにスピード感をもって取り組む必要がある。規模の大小や国籍に関係なく、企業が公正に競争できるルールの整備も急ぐべきだ。

*8-3:http://www.houko.com/00/01/S21/000.HTM (日本国憲法抜粋)
第3章 国民の権利及び義務
第11条 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本
    的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。
第12条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持
    しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に
    公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。
第13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利
    については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を
    必要とする。
第14条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地に
    より、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
第19条 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。
第21条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
   2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
第22条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
   2 何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。

<ない責任を押し付けるのは人権侵害である>
PS(2018年8月20日追加):*9-1に、「既婚で子どもがいない女性の5割超が周囲の言葉で『肩身が狭い』と感じた経験を持つと書かれているが、「子どもは?」という言葉を繰り返すのはセクハラだ。私は既婚だが、仕事をとって子どもを持たない選択をし、この場合は、*9-2のような「ロールモデルになれない」という理由で不利な扱いを受けた。これは昇進における間接差別(形式的には差別していないが、無理な要件を課して実質的に差別することで、欧米では禁止)で、セクハラと同様、日本国憲法13、14、19条に違反する人権侵害である。
 また、*9-2の①仕事で成果を上げ ②結婚と出産を経験し ③育児と仕事を両立させ ④マネジャーに昇進した女性 は、家事や育児を他人に任せられる状態にあった人以外にはないと私は確信する。何故なら、②③は育児休業期間だけではなく1人の子どもに10年以上続くため、①④とは両立不可能だからだ。そして、「ロールモデル論でトクする人」とは、不作為によって実需である保育所を増やさず必要以上の少子化に至らしめた2000年代前半までの厚労省はじめ為政者で、「官のすることに間違いはない」という体裁にするために、「女性が頑張らなかったから少子化した」などという論理にしているのである。

*9-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180820&ng=DGKKZO34326930Z10C18A8CR8000 (日経新聞 2018年8月20日) 「子供なく肩身狭い」5割 30~40代前半の既婚女性、多様な生き方、理解必要 民間調査
 既婚で子供がいない30代~40代前半の女性の5割超が周囲の言葉などで「肩身が狭い」などと感じた経験を持つことが、明治安田生活福祉研究所(東京)の調査で分かった。同研究所は「既婚者は子供がいて当然とする考えがまだ社会にある」と指摘する。個々の家庭の事情への配慮や、多様な生き方への理解を広げることが求められている。調査は2018年3月、25~44歳の男女約1万2千人を対象に実施。結婚状況や子供の有無に応じて、出産や子育てに関する意識を調べた。調査対象のうち子供がいないと答えた人は6592人で、うち既婚者は2472人。「子供がいないことで肩身の狭い思いやハラスメントを感じているか」との問いに対し、「よく感じる」「感じることがある」と答えた既婚女性の割合は20代後半で41.1%、30代前半では51.7%。30代後半では66.7%、40代前半は66.0%に達し、およそ3人に2人が当てはまった。既婚男性は既婚女性に比べると低く、20代後半で24.9%、30代前半で32.4%。ただ、30代後半は40.5%、40代前半でも37.6%と、40歳前後の層は約4割が嫌な思いをしている。未婚者は男女とも既婚者に比べると低い傾向がみられ、40代前半女性で44.7%、同男性で27.6%だった。調査では、具体的にどのような周囲の言動、場面で肩身の狭い思いをしたかまでは尋ねていない。同研究所は「年齢が上がるにつれ、身内や知人からの『なんで子供ができないの』『子供はいつできる』などの問いに傷ついている人が増えるのではないか」と推測する。子供の有無を巡っては、自民党の杉田水脈衆院議員が性的少数者(LGBT)のカップルを念頭に「彼ら彼女らは子供を作らない、つまり『生産性』がない」などと月刊誌に寄稿。批判が集まり、同党は杉田議員を指導した。明治安田生活福祉研究所は「身体的な理由や経済的な事情などで子供ができなかったり、持たない選択をしたりした夫婦もいる。社会全体がそうした人々の生き方に配慮する必要がある」としている。

*9-2:https://diamond.jp/articles/-/175292 (DIAMOND 2018.8.2) 「ロールモデルがいないから女性は活躍できない」は本当か? 中原淳:立教大学 経営学部 教授

 女性活躍推進法が施行されて数年になるが、「女性活躍推進」という言葉にある種のモヤモヤを感じている人もいるはずだ。たとえば、「女性が活躍できないのは、ロールモデルがいないから」という言説はどこまで本当なのだろうか? 「7,400人への徹底リサーチ」と「人材開発の研究・理論」に基づいて、立教大学教授・中原淳氏らがまとめた最新刊『女性の視点で見直す人材育成――だれもが働きやすい「最高の職場」をつくる』から、一部を抜粋してお送りする。
●模範となる「完璧な女性」はどこにいるのか?
 女性が活躍できる状況をつくろうというとき、多くの人が真っ先に語るのが、ロールモデルとなる女性の存在です。女性活躍推進の旗を振る政府も「ロールモデル創出」を謳っていますし、メディアでもそれを前提とした報道が繰り返されています。じつは、そもそもこの言葉が何を意味しているのかもあまり明確ではないのですが、ほとんどの人が「ロールモデル」に相応しいと考えているのは、次のような複数の条件を満たす女性のことではないかと思います。
 条件1 仕事で成果を上げていて、
 条件2 結婚と出産も経験し、
 条件3 育児と仕事を両立させ、
 条件4 マネジャーに昇進した女性
 多くの企業は、程度の差こそあれ、4つの条件すべてを満たす女性をロールモデルとして掲げているように思います。こういう女性を企業が発掘し、高く掲げておけば、女性従業員たちは「私も彼女みたいになれるようにがんばろう!」とやる気になるはずだ―ごくごく大づかみではありますが、ロールモデル論はこういう考え方に支配されているように僕には思えます。しかし、このような複数の条件を満たす女性は、いったいどのくらいいるのでしょうか? また、このような女性像は、多くの女性が目指すべき「ロールモデル」として本当に機能するのでしょうか?あくまで単純化した議論ですが、それぞれの分岐における達成確率を50%とした場合でも、4条件すべてを達成できる可能性は6%ちょっとです。ひょっとすると、実際の達成確率は50%よりも低いかもしれません。そんなわずかな可能性に、僕たちは将来の希望を託すべきなのでしょうか? そのような女性が現れるのを待っているだけで、女性活躍は進むのでしょうか?もちろん、仕事で成果を上げて、結婚・出産を経験し、産休・育休の制度を使いながら仕事と育事を両立させ、管理職としてバリバリ働く女性が、会社にとって貴重であることは言うまでもありません。そのような女性たちの奮闘には、心から賞賛を贈りたくなります。しかし、多くの働く一般の方々にとって、こうした女性たちは、わずか6%の可能性でしかありません。一般の女性から見れば、会社が設定したロールモデルは、目指したくても到達できない「高嶺の花」のように受け取られないか、心配になります。
●ロールモデル論でじつはトクする人たち
 「でも、もしそんな優秀な先輩女性がいれば、それに越したことはないのでは?」と思う人もいるでしょう。そのとおりです。現にそういう女性はいるでしょうし、懸命に努力している女性や企業さんもたくさんあります。一方で、もう一つ指摘しておきたいことがあります。じつは、「女性にはロールモデルがいない」という前提そのものが、かなりあやしいのかもしれないということです。次のデータをご覧ください。ご覧のとおり、4人中3人(75.1%)の女性は「自分にはロールモデルがいる」と考えているようです。だとすると、「女性にはロールモデルがいない」「だから会社がなんとかすべきだ」という議論自体も、根拠は薄いのかもしれません。また、人事担当者のなかには、「女性陣に意識を変えてほしくて、社内で特別セミナーを開催した」という人もいるかもしれません。なんらかの女性活躍推進策を講じねばならないので、外部講師や専門家を招いて、女性社員向けのイベントを行うというケースもあるようです。しかし、こうしたイベント型の女性活躍推進もまた、ロールモデル論と本質的には同じです。ワンワードで申し上げれば、両者に共通するのは「個人の力」に頼る発想、「女性社員に手本や刺激を与えて、個々の女性に努力させていけば、女性が活躍する組織をつくれる」という考え方です。このイベント型施策には大きく2つの問題点があります。まず何よりも、それは、一過性のイベントであるがゆえに、継続性がないということです。「女性のみなさん、もっと自信を持っていいんです。自分らしく仕事をしましょう!」と励まされれば、誰だってその場では「明日からがんばるぞ!」とモティベーションが高まります。とはいえ、これはいわば「徹夜を覚悟したときに飲む栄養剤」のようなもので、たしかに一瞬元気になりますが、根本的な解決にはなりません。そして、もう1つの問題は多くの場合、こうした講演は「個人の経験談」にならざるを得ないということです。セミナーにしろ書籍にしろ、語り手のほとんどは、自ら活躍の道を切り開いてきたスーパーウーマン(=ロールモデル)です。彼女たちは、自分の経験をベースに、聴衆・読者に何が足りていないのかを延々と語ります。「私もかつてはみなさんと同じような普通の女性でした。しかし……」という具合です。しかし、その「個人の経験談」が、ほかの一般的な女性にもあてはまると考えるのは早計です。彼女が「活躍」できたのは、その奮闘が認められるような環境が、たまたまそこにあったおかげかもしれないからです。
●なぜ女性は「入社2年目」で昇進をあきらめるのか?
 ロールモデルもダメ、うまくいった個人の自分語りもダメ……そうだとすれば、何が現実を変えられるのでしょうか? そこで見ていただきたいのが、次のデータです。注目すべきポイントは2つです。まず、入社1年目の段階で管理職志向には大きな男女差があること。入社1年目の男性は94.1%が管理職を目指したいと考えているのに対し、女性でそう答えているのは64.7%。男女でじつに30ポイントほどの開きがあることになります。みなさんの実感と照らし合わせてみて、いかがでしょうか?しかし、より重要なのはもう1つの点です。2年目以降も継続して「管理職を目指したい」と考えている男性は、9ポイントほどしか減っていませんが(85.2%)、女性ではなんと20ポイント以上の減少が見られます(44.1%)。驚くべきことに、職場での日々の仕事をしていくなかで、入社2年目の段階にキャリア見通しを「下方修正」する女性がかなり多くいるというわけです。データ上にここまで大きな男女差が出ているとなると、女性のモティベーションを一気に低下させる「構造的要因」の存在が推測されます。これは、本人の努力や個人の資質だけに着目して女性の労働問題を語っていてはなかなか見えてこない「現実」です。個人がどれだけ成果を上げられるか、どこまで成長できるか、どんな価値観を持つかといったことは、本人の努力もあるのですが、彼女たちにどのような職場でどのような仕事を任せるかに大きく左右されます。予告的に言えば、女性活躍推進に最も必要なのは「(1)女性たちが働く職場づくり」と「(2)キャリアステージに応じた支援」なのです。だとすれば、みなさん(経営者・人事担当者・マネジャー、そして働く女性たち自身)がまずもって捨てなければならないのは、女性だけの努力に頼りきって女性の労働問題にアプローチしようとする発想です。僕たちは、女性をはじめとした「多様な働き方を求める人々」が、もっと働きやすくなるよう、自らの組織や職場のあり方を見直していく必要があるのです。
●なぜいま、「女性の働く」を科学するのか?
―著者・中原淳からのメッセージ
 このたび、『女性の視点で見直す人材育成―だれもが働きやすい「最高の職場」をつくる』という本をトーマツ イノベーションのみなさんと一緒に執筆させていただきました。この本の内容は、あえてアカデミックな言い方をすれば、「ジェンダー(文化的性差)の視点を取り入れた人材育成研究」ということになります。誤解しないでいただきたいのですが、同書は決して女性のためだけの本ではありませんし、ましてや男性のためだけの本でもありません。この本には 
 ・部下を持つリーダーやマネジャー
 ・社内の人材育成を担当する人事・研修担当者
 ・社員の採用・育成に責任を持つ経営者や経営幹部
の皆さんにぜひ知っていただきたい「これからの時代の人材育成のヒント」が凝縮されています。
●では、なぜ、わざわざジェンダーに着目して、企業内の人材育成を見直すのでしょうか?
 僕たちが働く職場では、日々、なんらかの機能不全が起こっています。こうした職場の機能不全は、順調にキャリアを積み上げている職場のマジョリティ(多数派)には、なかなか見えづらいものです。あるいは、これらの事実に気づいても、見えないふりをするかもしれません。一方、現代の職場では、育児・介護・ハンディキャップ・病気など、さまざまな事情を抱えながら働く人々――いわば職場のマイノリティ(少数派)が増えてきています。これから数十年のあいだに、おそらく「ダイバーシティ」のような言葉は、おおよそ「死語」になっていくでしょう。わざわざそんな言葉を使わずとも、おそらく職場は“そのようなもの”になっていくからです。しかし目下のところでは、組織が抱える問題のしわ寄せを真っ先に受けるのはいつも、そうしたマイノリティたちです。子育て中のワーキングマザー、家族の介護をしている人、病気を抱えつつ働いている人……彼らこそがまず、「職場の課題」に相対し、「うちの職場はココがおかしい!」と疑念を持ちはじめます。「さまざまな事情を抱えた人々が、やりがいを感じながら長く働き続け、かつ、幸せな人生を営むためには、何が必要なのか?」。これがいまの僕の、最も大きな関心事です。そして、それを考えていくうえでの「思考のファーストステップ」として、僕たちは、「ジェンダー(文化的性差)」の視点を選び取りました。誤解を恐れず言えば、男性中心文化がいまだ支配的な日本の職場において、女性には“最もメジャーなマイノリティ”としての側面があるからです。僕たちは信じています。今後、女性にすらやさしいチーム・職場・企業をつくれない人・組織は、ダイバーシティの荒波に直面したときに、まず間違いなく暗礁に乗り上げます。そうした職場は、魅力的な人材を採用することも、志溢れるプロジェクトを率いるリーダーを育成することも難しくなり、人手不足に苦しむことになるでしょう。未来の職場において結果を出し続けたいと願うマネジャー、優秀な社員に働き続けてほしい人事担当者・経営者……これらすべての人にとって、「女性視点での職場の見直し」は、今後の成否を大きく左右する試金石の一つとも言えます。ぜひ『女性の視点で見直す人材育成』を参考に、だれもが働きやすい「最高の職場」をつくっていただければと思います。
*中原 淳(なかはら・じゅん):立教大学経営学部 教授/同リーダーシップ研究所 副所長/立教大学BLP(ビジネスリーダーシッププログラム)主査/大阪大学博士(人間科学)
 1975年北海道旭川市生まれ。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院 人間科学研究科、メディア教育開発センター(現・放送大学)、米国マサチューセッツ工科大学、東京大学などを経て、2018年より現職。「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発、リーダーシップ開発について研究している。専門は経営学習論・人的資源開発論。妻はフルタイムで働くワーキングマザーで、2人の男の子(4歳と11歳 ※本書刊行時点)の父親でもある。 著書に今回発売となった『女性の視点で見直す人材育成』のほか、『企業内人材育成入門』『研修開発入門』『アルバイト・パート[採用・育成]入門』(以上、ダイヤモンド社)等多数。
*トーマツ イノベーション株式会社
 デロイト トーマツ グループの法人で2006年に設立。中堅中小ベンチャー企業を中心に、人材育成の総合的な支援を行うプロフェッショナルファーム。支援実績は累計1万社以上、研修の受講者数は累計200万人以上と業界トップクラス。定額制研修サービス「Biz CAMPUS Basic」、モバイルラーニングと反転学習を融合した「Mobile Knowledge」など、業界初の革新的な教育プログラムを次々と開発・提供している。著書に『女性の視点で見直す人材育成』『人材育成ハンドブック――いま知っておくべき100のテーマ』(ともにダイヤモンド社)がある。

| 日本国憲法::2016.6~2019.3 | 10:15 AM | comments (x) | trackback (x) |
2018.2.18 日本国憲法のその他の変更論点 - 地方自治・主権在民・1票の価値・教育の充実など
   
     日本の人口構造         2018.1.17日経新聞   2018.2.17
                                 西日本新聞    
(図の説明:1番左の図のように、日本の人口構造は高齢者の割合が増加している。そのため、定年を延長もしくは廃止して高齢者が働けるようにし、70歳超まで年金受給を遅らせることができる案が浮上している。また、外国人労働者は、国内の雇用を守るために現在は制限されているが、増やすことは容易であり、財・サービスの生産に役立つだろう)

    
             2018.2.2日経新聞(*2-2-1より)   
(図の説明:上の図のように、高齢者の割合が増え投票率も高齢者の方が高いため、高齢者の意見が通り易いという指摘があるが、高齢者は女性も含めた普通選挙を有難く思い、社会保障に頼る側になり政治の影響を大きく受けるようになったので、若者よりも積極的に投票するのである。それに対し、若者はこれから将来が開けるため、政治に関わっているよりも仕事に集中して自分の将来を拓く意欲が高く、住まいはまだ固定していないためその地域の議員とのなじみが薄い。そのため、若者の投票率が低いのは必然で、前からそういう傾向はあったのである)

(1)地方自治について
 昭和21年11月3日に公布され、昭和22年5月3日に施行された日本国憲法は、*1-1のように、地方自治を、第92条で「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める」としているのみである。

 そして、昭和22年4月17日に公布され何度も改正されてきた地方自治法は、*1-2のように、日本国憲法を受け、第一条で「この法律は、地方自治の本旨に基いて、地方公共団体の区分並びに地方公共団体の組織及び運営に関する事項の大綱を定め、国と地方公共団体との間の基本的関係を確立し、地方公共団体における民主的で能率的な行政の確保を図り、地方公共団体の健全な発達を保障することを目的とする」としている。

 従って、*1-3のように、「地方自治の本旨」は、地方自治法で明確にすればよく、それは既になされており、足りなければ地方自治法を改正すればよいだけだ。例えば、道州制にして徹底した地方分権を行いたいのなら、それは憲法を変更する問題ではなく、「地方自治体」の区割りと税源配分の問題である。確かに、地方自治の展開を妨げているのは日本国憲法ではなく、地方分権を骨抜きにして権力を維持してきた官僚だろうが、知事会・県議会は、どこまで分権しても(地方の)人材を含めて自立できるかを考慮し、うまくいく分権改革案を提出すべきだ。

(2)合区の解消について
 自民党の憲法改正推進本部は、*2-1-3のように、参院選の合区を解消するための憲法改正条文案を了承し、改選毎に各都道府県から1人以上選出できる内容を盛り込み、細田会長が「法の下の平等と地方自治重視のバランスをとるための改正だ」と説明されたそうだが、地方自治重視は、沖縄県のように県を挙げて米軍基地の縮小や撤去を要望し、総合開発に取り組もうとしている県を応援するのが早道だと考える。

 これに対し、朝日新聞は社説で、*2-1-4のように、法の下の平等をうたい、投票価値の平等を求める憲法第14条と矛盾し、国会議員を全国民の代表と定める憲法第43条とも相いれないと記載している。

 衆議院議員は、*2-1-1のように定数465人(小選挙区選出議員289人、比例代表選出議員176人)で、*2-1-2のように憲法第45条で「任期4年・解散あり」と定められている。また、参議院議員は、定数242人(選挙区選出議員146人、比例代表選出議員96人)で、憲法第46条により「任期6年・解散なし・3年毎に半数入れ替え」と定められている。

 そして、*2-1-2の憲法第47条は、「選挙区、投票方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律(公職選挙法のこと)で定める」としているため、選挙区、投票方法その他選挙に関する事項は、基本的には公職選挙法で決めればよく、憲法を変更する必要はない。

 また、憲法第43条に「両議院の議員の定数は、法律で定める」と書かれているため、一票の価値を同じにしながら合区を無くしたければ、合区を無くした後の人口に合わせて他地域の小選挙区選出議員を増やす選択肢もあり、これは公職選挙法を改正すればできる。この場合は、参議院の比例代表選出を減らすか無くすのが、議員数を多くしすぎない方法になる。

 しかし、衆議院も地域代表になりがちな小選挙区を地盤とする議員が60%以上いるため、国民が政党の政策に対して意思表示を行い、解散・総選挙を通じて示された国民の意思が選挙結果に正確に反映されるためには、衆議院議員は全員を比例代表にするくらいでなければ、衆参両院のチェック機能が働かない。そして、どのような選び方をしても、国会議員は、(精神的にはともかく)形式的には全国民を代表するため、憲法の変更は不要なのである。
 
(3)法の下の平等と1票の価値について
 日本国憲法第14条1項で「すべて国民は法の下に平等であつて、人種・信条・性別・社会的身分又は門地により、政治的・経済的又は社会的関係において差別されない」と定められており、1票の価値が人によって異なることがあってはならない。これについては、司法も同じ見解だ。

 しかし、*2-2-1のように、日経新聞などいくつかのメディアや“研究者”が、①高齢者の意見が反映されやすい「シルバー民主主義」になるのはよくない ②「頑張って保険料を納付してきたのに、年金を減らされることは認めない」と言う高齢者は冷静でない ③社会保障給付は医療・年金・介護が約9割を占め、若い世代ほど給付より負担が重い ④投票率は若者が低く、高齢者は高い ⑤大票田は高齢者で、子育て世代や結婚・出産を考える世代は存在感が薄いため、団塊世代が年をとるにつれ「高齢者の声」が大きくなる ⑥18歳未満やこれから生まれてくる世代の声を誰がどのように政治に反映するかが問題だ 等として、*2-2-2のように、「イ.余命に応じて投票権に重みをつけ、若い人の一票を高齢者の一票よりも重くする」「ロ.投票権を持たない未成年に投票権を与え、親が代わりに投票する」などと書いた記事もある。

 しかし、①⑥の見解は、*2-1-2の憲法第14条1項「すべて国民は法の下に平等であつて、人種・信条・性別・社会的身分又は門地により、政治的・経済的又は社会的関係において差別されない」に反する。また、②の高齢者の主張は事実であり、厚労省の杜撰な管理により働き手が多かった時代に必要な年金資産を積み立てられなかったことが問題なのであって、勝手に減らすのは契約違反であるとともに、生存権・財産権の侵害に当たる。

 さらに、③のうちの年金・医療については、1980年代に予想可能だったため、厚労省と社会保険庁は支払時の資産を準備しておくのが当然であったし、介護保険制度については2000年に施行されものであるため、多くの高齢者が支払っていないのは当然なのである。そのかわり、高齢者は、自分がやりたいことを二の次にして親と同居し、生活補助や介護をした人が多いが、若者はそちらの方がよいのだろうか?

 また、④の投票率は若者が低く高齢者は高い ⑤の大票田は高齢者 というのは事実だが、高齢者の現在のみを考えて政策を練る議員はおらず、私も票田に媚びるために政策を提唱したことはない。それより、*2-2-2のように、若者の投票率が低いから選挙で若者を特別扱いするなどという発想は、憲法第14条1項に反するとともに、政治に関心がないから投票に行かないような人が政治関連の情報を普段からキャッチして正しい選択をする筈がないため、わけのわかっていない浮動票が増えて、かえって選挙結果を狂わせると考える。

 なお、少子化による労働力の減少は、*3-1のように、定年を延長・廃止して年金開始年齢を70歳超でも選択可能にしたり、働きたい女性を差別なく雇用したり、*3-2のように、外国人労働者を積極的に雇用したりすることによって解決できる。そして、これらハングリー精神を持つ人材の方が、甘えきった日本の若者より役に立つのは既に経験済みなのだ。

<地方自治>
*1-1:http://www.cc.kyoto-su.ac.jp/~kazyoshi/constitution/jobun/chap08.html (日本国憲法 昭和21年11月3日公布、昭和22年5月3日施行 より抜粋)
第8章 地方自治
第92条(地方自治の基本原則)
 地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて法律でこれを定める。
第93条(地方公共団体の機関、その直接選挙) 1.地方公共団体には、法律の定めるところに
 より、その議事機関として議会を設置する。
 2.地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共
 団体の住民が、直接これを選挙する。
第94条(地方公共団体の権能)
 地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の
 範囲内で条例を制定することができる。
第95条(特別法の住民投票)
 一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体
 の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができ
 ない。

*1-2:http://www.houko.com/00/01/S22/067.HTM (地方自治法 昭和22年4月17日公布、改正平成28年6月7日最終改正・平28年11月30日施行)
第一編 総 則
第一条 この法律は、地方自治の本旨に基いて、地方公共団体の区分並びに地方公共団体の
 組織及び運営に関する事項の大綱を定め、併せて国と地方公共団体との間の基本的関係を
 確立することにより、地方公共団体における民主的にして能率的な行政の確保を図るととも
 に、地方公共団体の健全な発達を保障することを目的とする。
第一条の二 地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を
 自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする。《追加》平11法087
 2 国は、前項の規定の趣旨を達成するため、国においては国際社会における国家としての存
 立にかかわる事務、全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動若しくは地方自治に
 関する基本的な準則に関する事務又は全国的な規模で若しくは全国的な視点に立つて行わな
 ければならない施策及び事業の実施その他の国が本来果たすべき役割を重点的に担い、住民
 に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本として、地方公共団体との間で
 適切に役割を分担するとともに、地方公共団体に関する制度の策定及び施策の実施に当たつ
 て、地方公共団体の自主性及び自立性が十分に発揮されるようにしなければならない。
 《追加》平11法087
第一条の三 地方公共団体は、普通地方公共団体及び特別地方公共団体とする。
 2 普通地方公共団体は、都道府県及び市町村とする。
 3 特別地方公共団体は、特別区、地方公共団体の組合及び財産区とする。
 《改正》平23法035
第二条 地方公共団体は、法人とする。
 2 普通地方公共団体は、地域における事務及びその他の事務で法律又はこれに基づく政令に
 より処理することとされるものを処理する。《全改》平11法087《1項削除》平11法087
 3 市町村は、基礎的な地方公共団体として、第五項において都道府県が処理するものと
 されているものを除き、一般的に、前項の事務を処理するものとする。《改正》平23法035
 4 市町村は、前項の規定にかかわらず、次項に規定する事務のうち、その規模又は性質に
 おいて一般の市町村が処理することが適当でないと認められるものについては、当該市町村
 の規模及び能力に応じて、これを処理することができる。《全改》平23法035
 5 都道府県は、市町村を包括する広域の地方公共団体として、第二項の事務で、広域に
 わたるもの、市町村に関する連絡調整に関するもの及びその規模又は性質において一般の
 市町村が処理することが適当でないと認められるものを処理するものとする。
 《改正》平11法087
 6 都道府県及び市町村は、その事務を処理するに当つては、相互に競合しないように
 しなければならない。《3項削除》平11法087
 7 特別地方公共団体は、この法律の定めるところにより、その事務を処理する。
 8 この法律において「自治事務」とは、地方公共団体が処理する事務のうち、法定受託事務
 以外のものをいう。《追加》平11法087
 9 この法律において「法定受託事務」とは、次に掲げる事務をいう。
  一 法律又はこれに基づく政令により都道府県、市町村又は特別区が処理することとされる
 事務のうち、国が本来果たすべき役割に係るものであつて、国においてその適正な処理を
 特に確保する必要があるものとして法律又はこれに基づく政令に特に定めるもの
 (以下「第一号法定受託事務」という。)
  二 法律又はこれに基づく政令により市町村又は特別区が処理することとされる事務の
  うち、都道府県が本来果たすべき役割に係るものであつて、都道府県においてその適正な
  処理を特に確保する必要があるものとして法律又はこれに基づく政令に特に定めるもの
  (以下「第二号法定受託事務」という。)《追加》平11法087
 10 この法律又はこれに基づく政令に規定するもののほか、法律に定める法定受託事務は
 第一号法定受託事務にあつては別表第一の上欄に掲げる法律についてそれぞれ同表の
 下欄に、第二号法定受託事務にあつては別表第二の上欄に掲げる法律についてそれぞれ
 同表の下欄に掲げるとおりであり、政令に定める法定受託事務はこの法律に基づく政令に
 示すとおりである。《追加》平11法087
 11 地方公共団体に関する法令の規定は、地方自治の本旨に基づき、かつ、国と地方公共
 団体との適切な役割分担を踏まえたものでなければならない。《追加》平11法087
 12 地方公共団体に関する法令の規定は、地方自治の本旨に基づいて、かつ、国と地方公
 共団体との適切な役割分担を踏まえて、これを解釈し、及び運用するようにしなければならな
 い。この場合において、特別地方公共団体に関する法令の規定は、この法律に定める特別
 地方公共団体の特性にも照応するように、これを解釈し、及び運用しなければならない。
 《改正》平11法087
 13 法律又はこれに基づく政令により地方公共団体が処理することとされる事務が自治事務
 である場合においては、国は、地方公共団体が地域の特性に応じて当該事務を処理すること
 ができるよう特に配慮しなければならない。《追加》平11法087
 14 地方公共団体は、その事務を処理するに当つては、住民の福祉の増進に努めるとともに、
 最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。
 15 地方公共団体は、常にその組織及び運営の合理化に努めるとともに、他の地方公共団体
 に協力を求めてその規模の適正化を図らなければならない。
 16 地方公共団体は、法令に違反してその事務を処理してはならない。なお、市町村及び
 特別区は、当該都道府県の条例に違反してその事務を処理してはならない。
 17 前項の規定に違反して行つた地方公共団体の行為は、これを無効とする。 (以下略)

*1-3:http://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20180108/KT180106ETI090004000.php (信濃毎日新聞 2018年1月8日) 憲法の岐路 知事会改憲案 生煮えで示されても
 全国知事会の作業部会が独自の改憲草案を発表した。92条にうたわれている「地方自治の本旨」規定の中身を明確化するのが柱だ。〈地方公共団体の組織および運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律でこれを定める〉。92条である。本旨とは何かの説明はない。明治憲法に地方自治の規定はなかった。知事は政府が任命する官僚だった。憲法に「第8章地方自治」の項を設け、知事、市町村長や議会議員を公選制にしたのは戦後改革の柱の一つだった。それなのに肝心の部分が曖昧だ。徹底した分権型を目指したGHQ(連合国軍総司令部)と旧体制を維持したい日本側とのせめぎ合いの結果という見方がある。▽住民は国民主権の原則に基づき地方自治に参画する権利を持つ▽地方公共団体固有の権能は国政で尊重される▽国は地方自治に影響を及ぼす政策の企画、立案、実施に当たっては地方との協議の場を設けなければならない。草案にはこんな中身が盛り込まれている。本旨の意味はかなりはっきりしてくる。それでも、今度の案には問題が多い。理由は三つある。第一に、本旨の意味を明確化するには必ずしも憲法を変えなくても済むことだ。地方自治法を抜本改正する、あるいは地方自治基本法を制定して本旨の意味を盛り込む、といったやり方がある。その方が手っ取り早いし国民に理解されやすいだろう。第二は議論が生煮えなことだ。知事会が全国の知事47人を対象に行ったアンケートでは、8項目の改憲項目に対し「賛同する」と答えた知事はそれぞれ36〜21人にとどまった。「趣旨は分かるが幅広い議論が必要」といったコメントが多く寄せられている。そして第三に打ち出したタイミングだ。安倍晋三首相は今年中の改憲発議を目指している。国民の間には慎重論が根強い。そんな中での改憲案提示である。改憲を急ぐべきでないと考える人たちにとっては、知事会が首相を後押ししている、あるいは改憲の動きに便乗しようとしていると見えておかしくない。地方自治の豊かな展開を妨げているのは憲法なのか。そうではあるまい。政治家と官僚が分権を骨抜きにしてきた経緯がある。知事会が今やるべきは、国に要求して分権改革を再始動させることだ。

<主権在民と一票の価値>
*2-1-1:http://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/naruhodo/naruhodo03.html (総務省)選挙<抜粋>
1.衆議院議員総選挙
 総選挙とは、衆議院議員の全員を選ぶために行われる選挙のことです。小選挙区選挙と比例代表選挙が、同じ投票日に行われます。総選挙は、衆議院議員の任期満了(4年)によるものと、衆議院の解散によって行われるものの2つに分けられます。衆議院議員の定数は465人で、うち289人が小選挙区選出議員、176人が比例代表選出議員です。
2.参議院議員通常選挙
 参議院議員の半数を選ぶための選挙です。参議院に解散はありませんから、常に任期満了(6年)によるものだけです。ただし、参議院議員は3年ごとに半数が入れ替わるよう憲法で定められていますので、3年に1回、定数の半分を選ぶことになるのです。参議院議員の定数は242人で、うち96人が比例代表選出議員、146人が選挙区選出議員です。

*2-1-2:http://www.houko.com/00/01/S21/000.HTM#s4 (日本国憲法抜粋)
第14条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
 2 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
 3 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。
第15条 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
 2 すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
 3 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
 4 すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。
第4章 国 会
第41条 国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。
第42条 国会は、衆議院及び参議院の両議院でこれを構成する。
第43条 両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。
 2 両議院の議員の定数は、法律でこれを定める。
第44条 両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない。
第45条 衆議院議員の任期は、4年とする。但し、衆議院解散の場合には、その期間満了前に終了する。
第46条 参議院議員の任期は、6年とし、3年ごとに議員の半数を改選する。
第47条 選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。

*2-1-3:http://www.saga-s.co.jp/articles/-/182285 (佐賀新聞 2018.2.16) 自民、合区解消の改憲条文を了承、「都道府県に1人以上」
自民党の憲法改正推進本部(細田博之本部長)は16日午前、全体会合を党本部で開き、参院選「合区」解消に向けた条文案を了承した。参院選挙区に関し、改選ごとに各都道府県から1人以上選出できる内容を盛り込んだ。自民党が改憲を目指す4項目のうち具体案がまとまったのは初めてで、細田氏に今後の対応を一任した。公明党も今年初の憲法調査会全体会合を開催し、論議を本格化させた。細田氏は全体会合で条文案について「法の下の平等と地方自治重視のバランスをとる改正だ」と意義を説明した。

*2-1-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13363301.html (朝日新聞社説 2018年2月17日) 憲法70年 「合区」改憲、筋通らぬ
 参院選で二つの県を一つの選挙区にする「合区」の解消に向けた改憲条文素案が、きのう自民党の憲法改正推進本部で大筋了承された。鳥取・島根と徳島・高知の県境をまたぐ合区が導入されたのは、16年の参院選。「一票の格差」を是正するためだ。これに対し素案は、改選ごとに各都道府県から最低1人を選べるようにすることが柱だ。そのために、国政選挙制度の根拠となる47条に「改選ごとに各選挙区において少なくとも1人を選挙すべきもの」と明記する。人口減少が進むなか、合区が増えればいっそう置き去りにされかねない。危機感をもつ地方には歓迎されるかもしれない。しかし素案は、法の下の平等をうたい、投票価値の平等を求める14条と矛盾する。国会議員を「全国民の代表」と定める43条とも相いれない。参院は「地域代表」とし、衆院は人口比例を徹底した「国民代表」とする。自民党がもし、中長期的にそんな議論をしようというなら理解はできる。
だがそれには衆参の権限や役割分担、国と地方の関係も含む統治機構全体を見渡す議論が不可欠だ。憲法の他の条文との整合性をどう保つかといった論点にも、答えを出す必要がある。素案には、衆参両院の選挙区を「人口を基本とし、行政区画、地域的な一体性、地勢等を総合的に勘案して」定めることも盛り込まれた。昨年の衆院選で自民党が訴えたのは参院の合区解消であり、衆院については何の言及もなかった。あまりに唐突な提案だ。参院選の合区も、衆院小選挙区で市町村を分割する区割りが増えていることも、一票の格差を正すためである。それにブレーキをかけようとする今回の素案は、結局は、一票の格差が広がっても違憲性を問われないようにしたい――。そんな狙いが明らかだ。忘れてならないのは、2年前の参院選で合区を導入した改正公選法の付則である。19年の参院選に向けて選挙制度の「抜本的な見直し」を検討し、「必ず結論を得る」と明記した。抜本改革を怠った小手先の対応の末に、やっと合区にたどりついた実情を省みてのことだ。見直しの期限まで1年余。公明党を含め、他党の多くはこの件での改憲に否定的だ。おおがかりな統治機構改革の議論が今さら間に合うはずもない。非現実的な改憲ではなく、まずは憲法の下で可能な手だてを探る。それが与野党の、とりわけ政権与党の責任である。

*2-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180202&ng=DGKKZO26462770S8A200C1EAC000 (日経新聞 2018.2.2) 進むシルバー民主主義、投票者の4割、65歳以上
 国会議員はよく「国民や有権者の意見を聞く」と口にする。この「国民」「有権者」とは、どのような人をイメージしているのだろう。若者なのか、高齢者なのか。少子高齢化が続くなか、近年は高齢者の意見が反映されやすい「シルバー民主主義」という言葉が広がっている。国会議員を選ぶ票はどの世代が投じているのかを分析した。「頑張って保険料を納付してきたのに、年金を減らされることは認められない」。日本維新の会の足立康史幹事長代理は最近、こう言われて驚いた。相手は年配の支持者。普段は冷静な人だが、高齢の富裕層に年金抑制を求める政策案への意見を尋ねると、急に感情的になったからだ。社会保障給付はいま医療・年金・介護が約9割を占め、対象は主に高齢者。少子高齢化が進み、若い世代ほど給付より負担が重い。高齢者に給付の抑制や負担を求める案が現実的だが、当事者は受け入れがたい。選挙区を回る政治家はその空気を肌で感じる。いまは「シルバー民主主義」といわれている。高齢者の投票行動が大きな影響力を持つ2つの構造的な現象があるからだ。(1)急速な少子高齢化で、人口に占める高齢者の割合が高まっている(2)投票率は若者は低く、高齢者は高い――という要素だ。まず高齢者の割合だ。2017年10月時点の総務省の人口推計の概算値は1億2672万人。このうち65歳以上は27.7%。一方、20~30歳代は21.7%にとどまる。次に投票率をみてみよう。同省が昨年10月の衆院選で年齢別投票者数を抽出調査した結果をみると、投票率は年齢が上がるごとに高くなる傾向が顕著だ。5歳ごとの年齢階層別では、60~64歳から75~79歳までは全て7割を超える高水準だ。それが50歳代は6割台、40歳代は5割台、30歳代は4割台、20歳代は3割台と、きれいに下がっていく。2つの調査をもとに、実際に投票した有権者の数を推計してみた。5歳ごとの年齢階層別で最も投票者が多いのは65~69歳で、700万人を超えた。この層は、第2次世界大戦直後のベビーブームに生まれた「団塊世代」。子育てを終えて年金を受給し始めている人が多い世代が、選挙で「大票田」になっている。65歳以上の高齢者は投票者全体の4割近くにのぼる。65~69歳を除く40歳以上の各世代はそれぞれ500万人前後。それが30歳代以下では若くなるほど投票者が減り、20~24歳は200万人を割った。18~39歳は全体の2割にとどまる。子育て世代やこれから結婚や出産を考える世代の票は存在感が薄い。過去の推定投票者数と比べると、団塊世代が年をとるにつれ「高齢者の声」がどんどん大きくなることが分かる。1980年の衆院選で最も投票者が多かった年齢層はこの時に30~34歳だった団塊世代で、800万人近くいた。年齢階層別の投票者数の分布は、年齢が上がるほど先細りになる右下がりの三角形に近い。子育てまっただ中の世代の票が厚みを持ち、65歳以上の高齢者は全体の約13%と、存在感は大きくなかった。その20年後の2000年衆院選。団塊世代は50~54歳になり、やはり最多投票層だった。投票者数の分布は高齢者と若年層が少ない山の形。この時は「大票田」の年齢層はまだ働く現役世代だった。これまでの傾向を考えれば、今後も投票者数の分布はさらに右肩上がりの三角形になる可能性がありそうだ。安倍晋三首相は昨年の衆院選で「全世代型社会保障」を打ち出した。財政健全化に充てる財源の一部を、子育て支援や教育無償化に回す。借金返済は将来に先送りする。「若者と高齢者の対立ではなく、生まれる前の将来世代にツケを押し付け、若者も高齢者も給付を受けているのが現実だ」。中部圏社会経済研究所の島沢諭主席研究員はこう指摘する。シルバー民主主義は、有権者間の世代間不公平から、有権者と非有権者の間の不公平の時代に入ろうとしている。問題は高齢者の発言力が強いことだけではない。18歳未満やこれから生まれてくる世代の声を誰がどのように政治に反映するかだ。

*2-2-2:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20180202&c=DE1&d=0&nbm=DGKKZO26462770S8A200C1EAC000&ng=DGKKZO26462830S8A200C1EAC000&ue=DEAC000 (日経新聞 2018.2.2) 若者の意思反映 試行錯誤 18歳から選挙権/ネット活動解禁 選挙制度の改革案も
 シルバー民主主義への問題意識から、若者の投票をできるだけ政治に反映させる工夫も出てきている。2016年からは選挙権年齢を「20歳以上」から「18歳以上」に下げ、若い有権者を増やした。13年にはインターネットを使った選挙活動を解禁し、若者の政治参加を促した。それだけでは足りない――。そう考える学者は選挙制度改革も提案している。例えば「世代別選挙区制度」。選挙区を年齢階層別に分け、各世代の代表の政治家を選ぶ構想だ。30歳代以下は青年区、40~50歳代は中年区、60歳代以上は老年区と分け、各世代の有権者数に比例した定数を割り当てる。若い世代の投票率が低くても、各世代の人口に比例した議会構成にできる。政治が短期的な視点にならない仕組みにするのは「余命別選挙制度」。余命に応じて投票権に重みをつけ、若い人の一票を高齢者の一票よりも重くする。投票権を持たない将来世代に配慮する制度もある。「ドメイン投票方式」だ。投票権を持たない未成年に投票権を与え、その親が代わりに投票する仕組みだ。とはいえ、こうした選挙制度改革が実施できるかというと、かなり難しい。いま大きな影響力を持つ高齢者の世代が反対するのは必至だからだ。理論としての研究にとどまり、現実政治の俎上(そじょう)に上ることは期待薄だ。八代尚宏・昭和女子大学特命教授は「借金依存の年金制度は現時点で大きなリスクがある。高齢者に自分の問題だと説明すれば、ある程度の負担増は受け入れられる」と強調する。高齢者票の反発を恐れず説明しなければならない。

*3-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201802/CK2018021602000259.html (東京新聞 2018年2月16日) 【政治】年金開始 70歳超可能に 政府、定年延長を支援
 政府は十六日の閣議で、公的年金の受給開始時期を七十歳超も選択できるようにする方針を盛り込んだ高齢社会対策大綱を決定した。これを受け、厚生労働省は二〇二〇年度中の関連法改正を目指し、検討を始める。少子高齢化が進行する中、健康な高齢者は働き続け、社会の支え手になってもらう狙い。大綱は六十五歳以上を一律に高齢者とみる考え方を見直し、年齢にかかわらず柔軟に働ける環境の整備を打ち出した。高齢者の体力的年齢が若くなっており、就業や地域活動への意欲も高いと指摘。「年齢区分でライフステージを画一化することを見直し全世代型の社会保障を見据える」とした。同日の高齢社会対策会議で、安倍晋三首相は「高齢化はますます進行し地方人口の減少も見込まれている。全ての世代が幅広く活躍できるような社会を実現することが重要だ」と話した。年金受給の開始時期は現在、原則六十五歳で本人が申し出れば六十~七十歳の間で選択できる。六十五歳より遅らせると、その分、毎月の受給額は増えるが、仕組みの利用は低調だ。厚労省は一九年の年金の財政検証を踏まえて、具体的な制度設計を進める。生涯現役を実現するため定年延長や継続雇用延長を進める企業を支援する。再就職や起業支援、職場以外で働くテレワークの拡大も目指す。先進技術を活用し、高齢者の移動手段を確保するための無人自動運転サービスの実現や、介護ロボットの開発にも取り組む。数値目標も掲げた。二〇年時点で(1)八十歳以上の高齢運転者による交通事故死者数を二百人以下(一六年二百六十六人)(2)六十~六十四歳の就業率を67・0%(同63・6%)(3)健康寿命を一歳以上延伸-など。高齢社会対策大綱は政府の施策の指針となり、およそ五年に一度見直される。

*3-2:http://qbiz.jp/article/128252/1/ (西日本新聞 2018年2月17日) 外国人労働者4万人迫る 福岡労働局 卸売、製造など25%増最多更新
 福岡県内の外国人労働者数(2017年10月末時点)が3万9428人となり、5年連続で過去最多を更新した。前年同期比で25・0%増。県内の有効求人倍率が過去最高を更新する状況が続く中、人手不足の製造や卸売などの業界を中心に、外国人を雇用する傾向が強まっている。福岡労働局が発表した統計によると、産業別では卸売業・小売業で働く外国人が7465人(全体の18・9%)でトップ。製造業の7303人(同18・5%)、サービス業の6379人(同16・2%)が続いた。国籍別は、中国人が最多の1万1299人(同28・7%)。次いでベトナム人が1万84人(同25・6%)、ネパール人が6591人(同16・7%)だった。ベトナム人の増加率が最も著しく、前年同期比49・0%増だった。在留資格別では、技能実習が同47・8%増の8265人。勉強しながら働く「出稼ぎ留学生」は同21・3%増で1万6345人だった。外国人を雇用する事業所数は、同17・4%増の6621となった。外国人労働者数は、雇用対策法に基づくもので、全事業主に雇用状況の報告が義務付けられている。

<教育の充実>
PS(2018年2月24日追加):*4-1、*4-2に書かれているとおり、自民党の教育充実に関する改憲条文案以上のことが、既に日本国憲法・教育基本法・国連人権規約等に書かれている。そのため、「日本維新の会を改憲論議に取り込む思惑」のような改憲は、日本国憲法と下部の法律全体の調和を害する上、改善にはならず、このような改憲は全く不要だ。それよりも、現行法を実行すべく、手を尽くすべきである。

*4-1:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-670902.html (琉球新報社説 2018年2月24日) 自民党改憲条文案 教育拡充は口実にすぎず
 自民党の憲法改正推進本部は、教育の充実に関する改憲条文案を大筋で了承した。教育を受ける権利などを定めた26条に3項を新設し、国に教育環境を整備する努力義務を課す。財源難などを理由に教育の無償化の明記は見送ったものの、日本維新の会の改憲案の内容を一部取り入れた。しかし、改憲条文案は既に現行憲法と教育基本法に盛り込まれている。国際人権規約上も国の義務となっている。改憲する必要性はない。教育拡充は、改憲の口実にすぎない。幅広い勢力による改憲の国会発議に向け、教育無償化を掲げる日本維新の会の取り込みを狙った姑息なやり方だ。自民党案は26条1項に「経済的理由によって教育上差別されない」と付け加えているが、憲法14条で法の下の平等をうたっている。教育の機会均等を定めた教育基本法4条も「人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって教育上差別されない」と明記している。わざわざ憲法に追加する必要はない。国連人権規約の社会権規約13条は、高校・大学までの段階的な無償化を定めている。この規約は1966年に採択され、日本は79年に批准したが、無償化部分については保留していた。だが、2012年に保留を撤回し、国際的に教育の無償化を約束している。改憲する必要はないのである。新設される26条3項で教育は「国の未来を切り拓(ひら)く上で極めて重要な役割を担う」としている。教育基本法前文は「日本国憲法の精神にのっとり、我が国の未来を切り拓く」としている。3項には「憲法の精神」が抜け落ちている。これでは国民ではなく、国家が望む教育を促しかねない危険性をはらむ。与党内にも異論がある。法改正や予算措置で対応すべきだとする公明党の山口那津男代表は「教育の環境整備は法律でこれまでも最大限の努力をしてきたし、今後もやっていく」と述べ、自民党と距離を置いている。政府は昨年12月、3~5歳児の幼児教育・保育を原則として全て無償にし、低所得世帯では高等教育まで無償化の対象を広げることを閣議決定した。教育無償化は既に動き出している。教育無償化だけでなく、教員の待遇改善も急務だ。文科省が昨年4月に公表した実態調査で、中学校教諭の57%が「過労死ライン」を上回っている。背景に、教員の残業代を給料月額の4%と定めた、教職員給与特別措置法(給特法)がある。週2時間しか残業していないことになっているから、残業代はつかず残業記録もない。給特法を見直す必要がある。改憲ありきは本末転倒だ。憲法の精神を生かした施策こそ政治に求められている。

*4-2:http://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20180222/KT180221ETI090003000.php (信濃毎日新聞 2018年2月22日) 憲法の岐路 教育充実 自民本部の党利党略
 自民党の憲法改正推進本部が全体会合を開き、教育充実に関する改憲条文案をまとめた。26条に3項を新設し、国に教育環境整備の努力義務を課すことが柱である。26条は国民に対し「その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利」を保障している。教育環境の整備は今も国の責務である。改めて努力義務をうたうことで何が変わるのか、と疑問を持つ人は多いだろう。自民本部が決めた条文案は必要性が乏しく、実効性も期待できない。背景には日本維新の会を改憲論議に取り込む思惑がありそうだ。維新は幼児期から高等教育までの無償化を改憲案の柱に据えている。維新を取り込めば改憲に慎重な公明党へのけん制になる、ともにらんでいるのではないか。自民の改憲案には「(国民は)経済的理由によって教育上差別されない」との文言もある。これも維新案の引き写しだ。教育に関して政府が今やるべきは、返済不要の奨学金の拡充、大学授業料の減免など負担軽減に向けた地道な取り組みである。それは憲法を変えなくてもできる。反対に、憲法に努力義務を盛り込んでも政府がその気にならなければ状況は改善しない。自民は先日の全体会合では参院選の「合区」解消に向けた改憲案を了承している。改選ごとに各都道府県から1人以上選出できる規定を47条に加える。この案も問題が多い。解消を目指すのはいいとしても、都道府県代表制を明記すると国会議員を「全国民の代表」と定めた43条との整合性が問われる。合区の対象となるのは主に地方の選挙区だ。自民は地方で強い。自民の解消論の背景には選挙絡みの思惑がある。教育充実も合区解消も党利党略が見え隠れする。これでは憲法審査会の議論は深まらない。そもそも合区は政治制度全体に関わる問題である。衆参の在り方や地方制度も含めた検討が要る。自民の議論はそこも足りない。自民は教育充実、合区解消に加えて、9条への自衛隊明記、緊急事態対応の合わせて4項目を改憲対象としている。一番の狙いはむろん9条だ。教育充実や合区のような底の浅い議論を9条でもするようでは日本の針路が危うくなる。厳しく見ていかなければならない。

| 日本国憲法::2016.6~2019.3 | 03:03 PM | comments (x) | trackback (x) |
2018.2.8 辺野古移設から見た日米安全保障条約・尖閣防衛・日本国憲法の変更について (2017年2月11、12、13、14、15、18、21日追加)
 
                      2017.5.14琉球新報
(図の説明:1番左のグラフのように、防衛費はうなぎ上りに増えているが、費用対効果は疑わしい。また、沖縄は、本土復帰後、米軍基地面積は65%に減っているが、自衛隊基地面積が2倍近くに増えている)

    
     尖閣諸島      沖縄の自衛隊基地   沖縄の米軍基地  2018.2.6日経新聞

(図の説明:1番左の写真の尖閣諸島対応には、下地島、石垣島などの基地を使った方が近くて便利なため、沖縄本島の米軍基地・自衛隊基地は異常に多すぎ、速やかに減らしてもっと稼げる有効な土地利用をした方が良いと考える。また、1番右の図の自民党憲法改正案は、基本的人権や民主主義を疎かにしそうなものが多い)

(1)普天間基地の辺野古移設について
1)名護市長選
 任期満了に伴う名護市長選は、*1-1のように、稲嶺陣営は新基地建設阻止を前面に掲げ、渡具知陣営は辺野古問題にはほとんど触れずに経済振興をアピールする戦術に徹し、*1-3のように、2018年2月4日に、約3500票差での渡具知氏の勝利で終わった。

 そのため、*1-4のように、安倍首相は5日朝、辺野古移設について、「市民の皆様のご理解をいただきながら、最高裁判決に従って進めていきたい。市街地に囲まれている普天間基地の移設についてはその方針で進めていきたい」と述べられたそうだが、渡具知氏は移設問題への言及や争点化を避けて当選したのだから、*1-5のとおり、名護市民が辺野古新基地の建設を容認したと解釈するのは行き過ぎだ。また、*1-2のように、「移設先の理解が得られない」のは辺野古も同じであり、日本の国土面積の0.6%しかない沖縄に在日米軍専用基地の70%が置かれている事実も変わっていない。

 しかし、米軍キャンプ・シュワブ沖で護岸工事が進む辺野古新基地が不要であることについて、米軍属女性暴行殺人事件やヘリ部品落下問題だけでは足りないため、私は、2)に「米国海兵隊が沖縄に基地を持っていても、日本の国境防衛には役立たないこと」について述べる。

2)沖縄基地の役割と尖閣諸島の防衛
 尖閣諸島防衛は、*2-1のように、自衛隊がまず対応し、米軍はその「支援」「補完」をすることになっている。そして、辺野古に移設しようとしている米海兵隊は、防衛ではなく攻撃部隊であるため、中谷元防衛相には、尖閣諸島防衛のために沖縄の島嶼部に自衛隊基地を増やしながら、さらに米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設の必要性を力説する根拠を明確に説明してもらいたい。

 また、中国公船の尖閣諸島周辺海域への侵入については、それ自体が既に有事であるにもかかわらず、現在は日本側だけで情けない対処をしており、2015年4月改定の日米防衛協力の指針でも自衛隊が一義的な責務を負うとしており、米軍が最初から軍事攻撃に加わることは想定されていない。また、トランプ大統領は、「米国ファーストで、米国は世界の警察ではない」としているが、これは米国民の立場から見れば当然のことである。

 そして、仮に尖閣諸島が中国に占領された場合、*2-2のように、総理大臣が防衛出動を発令すると陸海空3自衛隊が一気に動き、最後は陸上自衛隊の島嶼防衛部隊が奪還する予定だそうで、元航空幕僚長の田母神氏は、宮古島の隣の下地島に3000m級の滑走路があるので、ここに整備支援力を展開すれば、尖閣上空まで10分でF-15やF-2を飛ばして制空権を握ることができ、下地島空港で地対空ミサイル部隊や基地防空部隊で防御も固められるとしていた。防衛による尖閣対応は、「それ+α」で十分ではないのか?

 しかし、*2-3のように、2016年3月時点で沖縄自衛隊は、施設数41、施設面積694.4haになったそうだ。2016年3月には先島初の陸上自衛隊の基地が与那国島にでき、今後は宮古島、石垣島にも新基地が建設される計画があるそうだが、島嶼防衛をネタに自衛隊が大宴会を開いているようでやりすぎだ。施設数は、自衛隊・米軍合わせて5指以内、島の数も2つくらいまでにすべきで、米軍と同様、自衛隊も沖縄を占有すべきではないだろう。

(2)安保法と憲法
 自民党は、*3-1のように、昨年末、「憲法改正に関する論点取りまとめ」を作成して議論の方向性を示し、①自衛隊 ②緊急事態 ③合区解消等 ④教育無償化の4項目について憲法改正の発議に向けて議論を進めていくとしたそうだ。しかし、これだけに絞るとすれば、まず平成24年4月27日に決定した自民党憲法改正草案(https://jimin.ncss.nifty.com/pdf/news/policy/130250_1.pdf 参照)を撤回すべきだ。何故なら、この自民党憲法改正草案は、主権者である日本国民(注)が定めた形の現行憲法を日本国という抽象的な主体が定める形に改め、国民の基本的人権に制限を加えて民主主義に逆行するものだからである。
(注:日本国憲法の日本語訳は、現在は「日本国民は」と訳されているが、前は「われわれ日本国民は」と訳されていた。英語の原文は「We,the Japanese people,」 であるため前の訳の方が正しく、原文は、国民が定めた憲法であり主権者は国民であることを明確に表しているのだ)

 また、②の緊急事態条項も、「緊急事態が発生した場合には、国民の権利を制限することができる」としており、「緊急事態」は政府の都合によってどこまでも拡大解釈可能であるため、決して認めるべきでない。さらに、③の合区解消は、一票の価値を同じにしながらより賢い方法があるため改悪だ。④に至っては、憲法が教育無償化を阻害していたのではなく、教育・福祉を軽視する政府の政策が阻害していた面が大きいため、憲法変更はかえって憲法を頂点とする全体の法体系の整合性を壊して見苦しくする。

 そして、①の自衛隊の明記についても、*3-2のように、まともに議論すれば違憲となる存立危機事態を安全保障関連法で定め、これを改憲で合憲化しようとするのはあまりにも危険な政府である。そのため、私は、*3-1の「理論的な体系性や整合性に配慮が必要」という主張に賛成で、つぎはぎでも何でもいいから憲法を変更することのみが党是であるかのように言う理念のなさは問題だと考える。

 私は、日本国憲法については、裁判所も含め、なるべく影響を小さくしようと努力してきた人々がいると考える。裁判所は、直接的に訴えの利益がある人以外は違憲立法を申し立てられないという不要な制限をつけ、*3-2のように、一審の東京地裁は、提訴した自衛官に対し「出動命令が出る具体的な可能性はない」と述べて、踏みこんだ審理をしないまま訴えを却下した。また、国は、安全保障関連法の立法時とは異なり、裁判では存立危機事態の発生は想定できないとの立場を終始とり続けたそうである。

 つまり、このような人たちの議論を真に受けて憲法を変更することは、国民が第二次世界大戦で多大な犠牲を払って得た理想憲法を自ら投げ捨てることになるのだ。

(3)日本国憲法と基本的人権の尊重
1)緊急事態条項
 自民党憲法改正推進本部は、*4-1のように、大規模災害時の緊急事態条項について議論し、私権制限を求める声が続出したそうだ。しかし、大災害や武力攻撃を受けた際に、どういう私権を行使してその対処に反対する人がいると言うのだろうか。私は、緊急事態条項は、他に目的があって行う制限のための制限だと考えている。また、自民党内でも、2012年の自民党改憲草案が理想だと考えている人が何人いるのか、自民党議員の正確なアンケート調査をして公表すべきだ。その結果によっては、国民は経済や景気だけを考えて選べばよいわけではない。

2)特定秘密保護法
 *4-2の特定秘密保護法も、何が特定秘密かわからず、罪の予想はできないが、逮捕されることのある人権侵害の法律だ。衆参両院に常設される情報監視審査会は秘密会にもかかわらず、政府側は回答を拒む場面が目立ち、これでは北朝鮮を批判するどころか、よく似た国である。

3)個人データの移転
 日本政府は、*4-3のように、個人データを柔軟に使用できるようにするそうだ。EUは、個人情報保護について十分な対応をしていると認定する国や地域以外へのデータ持ち出しを原則として禁じており、ある程度は信頼できるが、日本がEUから認定されていないのは尤もである。何故なら、個人情報保護法のせいにして仲間内の同窓会名簿さえ明らかにしないような誤った運用をしながら、ビッグデータと称すれば企業は自由かつ無責任にどこまでも個人情報を利用できるからだ。日本企業が競争上不利になるのは、人権に対するこの節度のなさからである。

4)部落差別
 昭和22年5月3日施行の日本国憲法は、第14条1項で、「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と定めている。従って、この日から、人種差別・女性差別は憲法違反であり、認められないものになっている。

 しかし、*4-4のように、部落差別がなくならなかったので、2016年12月16日に部落差別解消推進法が公布・施行された。しかし、「部落差別禁止法」として差別を禁止したのではなく、「部落差別解消推進法」として罰則のない理念法にしたのは、差別の是非を曖昧にしている。差別は、差別される側に問題があるのではなく、差別する側に問題があるため、とっつきにくい云々ではなく、禁止してなくさなければならないものなのだ。

<名護市長選>
*1-1:http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/204719 (沖縄タイムス社説 2018年2月4日) [名護市長選投開票]地域の将来この1票に
 任期満了に伴う名護市長選は4日、投開票される。前回2014年の選挙とは多くの点で様相を異にしており、予断を許さない激戦となっている。立候補しているのは無所属現職の稲嶺進氏(72)=社民、共産、社大、自由、民進推薦、立民支持=と、前市議で無所属新人の渡具知武豊氏(56)=自民、公明、維新推薦=の2人。米軍普天間飛行場の辺野古移設問題と地域の活性化が最大の争点だ。稲嶺陣営が相次ぐ米軍ヘリ事故などを取り上げ、新基地建設阻止を前面に掲げているのに対し、渡具知陣営は辺野古問題にはほとんど触れず、経済振興をアピールする戦術に徹した。選挙期間中、辺野古移設の是非を正面から戦わせることはなく、両者が公の場に同席し有権者に対立軸を提示する場面もなかった。日米両政府が普天間飛行場返還に合意した1996年以降、市長選は今度で6回目。政府が埋め立て工事に着手してからは初めてである。有権者の思いは複雑だ。「反対しても工事は止められない」とのあきらめムードが広がっている一方、相次ぐ米軍ヘリ事故に対する怒りや、政府高官が言い放った暴言への反発は根強い。「決定権は与えられていないのに、自分たちだけが何度も選択を迫られるのはおかしい」と、現状への不満をぶつける市民もいる。選挙によって地域が分断され、ぎすぎすした空気が広がるのを懸念する声は多い。
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 いくつかの注目点を挙げたい。政府は「辺野古が唯一」と繰り返すだけで、「なぜ自分たちだけが…」という市民の切実な疑問に答えたことがない。政府の姿勢に対する疑問が投票行動にどう表れるか。選挙人名簿登録者数は1月27日現在4万9372人で、前回からおよそ2700人増えた。今度の市長選は18歳選挙権が施行されてから初めての市長選でもある。新たに有権者の仲間入りをした若者票がどこに流れるかも大きな注目点だ。前回選挙で自主投票だった公明党は今回、渡具知氏を推薦し、積極的に集票活動を行っている。公明党の推薦は渡具知陣営にとって大きなプラス要因である。ただ公明党県本は普天間問題について「県外・国外移設」の方針を堅持しており、組織票をどの程度まとめ切れているか未知数の部分もある。
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 選挙結果は、秋の知事選に連動し、辺野古埋め立て工事にも直接影響する。一市長選にもかかわらず、政府自民党が相次いで大物を投入し、総力を挙げて新人候補を支援しているのは、そのためだ。オール沖縄勢力にとっては、取りこぼしの許されない象徴的な選挙である。翁長雄志知事も危機感をあらわにし、現職候補の応援に全力を挙げた。市長選は地域の将来を決める大事な選挙。政策をよく吟味し、自分自身の考えで1票を行使してほしい。

*1-2:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-658830.html (琉球新報社説 2018年2月4日) 「本土理解困難」発言 いつまでも捨て石なのか
 安倍晋三首相が衆院予算委員会で、沖縄の基地の県外移設が実現しない理由について「移設先となる本土の理解が得られない」と述べた。裏を返せば沖縄県民の理解を得ることは全く念頭にないことを意味する。これが本音だろう。同じ国民に対する二重基準を放置することはできない。沖縄の基地負担軽減策のほとんどが県内移設だ。政府は米軍普天間飛行場の移設に伴い、名護市辺野古への新基地建設を進めている。琉球新報が昨年9月に実施した世論調査では80・2%が普天間飛行場の県内移設に反対した。沖縄の理解など得られていない。それにもかかわらず安倍政権は基地建設を強行している。国土面積の0・6%しかない沖縄に在日米軍専用基地の70%が置かれている。沖縄への基地集中は米統治下の1950~60年代に日本各地の基地が移転したためだ。56年に岐阜、山梨両県から海兵隊第3海兵師団が移転し、69年には安倍首相の地元・山口県岩国基地から第36海兵航空群が普天間飛行場に移転した。本土住民の反対運動に追いやられる形で、沖縄に基地が移転したのだ。しかし防衛省は冊子「在沖米軍・海兵隊の意義および役割」の中で「沖縄は(中略)朝鮮半島や台湾海峡といった潜在的紛争地域に近い(近すぎない)位置にある」と記し、沖縄の基地集中は地理的な理由だと主張していた。今回の安倍首相の見解で、それが欺瞞(ぎまん)であることが一層明白になった。これまでも閣僚らから沖縄の米軍基地駐留の根拠は軍事上ではなく政治的な理由であるとの見解が示されてきた。森本敏防衛相(当時)は2012年に普天間飛行場の移設について「軍事的には沖縄でなくてもよいが、政治的に考えると沖縄が最適地だ。許容できるところが沖縄にしかない」と述べた。中谷元・元防衛相も14年、沖縄への基地集中について「分散しようと思えば九州でも分散できるが(県外の)抵抗が大きくてなかなかできない」と述べている。73年前に沖縄で繰り広げられた地上戦は沖縄の住民を守ることではなく、国体護持、本土防衛のための捨て石作戦だった。政府は現在も本土への基地駐留を回避するために、沖縄を日米安保の捨て石として扱い、沖縄ばかりに犠牲を強いている。差別以外の何ものでもない。安倍首相には05年に小泉純一郎首相(当時)が述べた言葉を突き返したい。「沖縄以外のどういう地域に移転すればいいか。そういう点も含め、沖縄の過重負担は日本全体で考える問題だ」。政府は辺野古新基地建設を即座に中止すべきだ。そして沖縄にこれまで押し付けてきた基地の県外移設を進める必要がある。これ以上、沖縄を捨て石として扱い続けることは許されない。

*1-3:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-659269.html (琉球新報 2018年2月5日) 名護市長選「市民の選択の結果」 稲嶺さん、声絞り出す
 「残念ながら、辺野古が争点とならなかった」。2期8年の実績と沖縄県名護市辺野古の新基地阻止を訴えた稲嶺進さんは、約3500票差で3選に届かなかった。午後10時28分、渡具知武豊さんの当選確実がテレビで流れると、市大中の選挙事務所は沈黙に包まれ、カメラのシャッター音だけが響いた。稲嶺さんは報道陣のインタビューに「市民の選択の結果だ。真摯に受け止めないといけない」と言葉少なに話した。米軍キャンプ・シュワブ沖での護岸工事が進む中、今回の市長選は過去2回と比べものにならないほど厳しかった。新基地建設の是非に触れず、経済振興を前面に押し出す相手候補。選挙期間中、稲嶺さんは「基地で栄えても、裏には人の犠牲がある」「市民の良識を信じている」と強調し、建設阻止を懸命に訴えた。陣営には毎日、多くの人が訪れ、メッセージや手紙を寄せた。米軍属女性暴行殺人事件の被害者の父親からも、応援の差し入れが届けられた。「子どもたちに安心と安全を届ける」と勝利を信じて闘った。気温11度まで冷え込む中、稲嶺さんは翁長雄志知事や地元選出の国会議員、多くの支持者らと事務所の外で開票を見守った。落選が伝えられると、鼻を赤くし、涙を拭うしぐさを見せた。インタビューで「工事はまだ予定の1%にも満たない。止めることはできる。諦める必要はない」と強調すると、支持者は「そうだ」と声を上げ、拍手と指笛で応えた。

*1-4:https://digital.asahi.com/articles/ASL252SY7L25UTFK004.html (朝日新聞 2018年2月5日) 辺野古移設、首相「進めていく」 名護市長選の結果受け
 安倍晋三首相は5日朝、沖縄県名護市長選で、米軍普天間飛行場移設計画を事実上容認する新顔の渡具知(とぐち)武豊氏が現職の稲嶺進氏を破ったことについて「最も強いと言われている3選目の現職市長。破るのは難しいと思っていたが、本当に勝ってよかった」と述べた。首相官邸で記者団の取材に応じた。普天間飛行場の名護市辺野古への移設計画については「市民の皆様のご理解をいただきながら、最高裁判決に従って進めていきたい。市街地に囲まれている普天間基地の移設についてはその方針で進めていきたい」と述べた。今後は「落ち着いた政治」を求めるとし、「教育や福祉や環境にしっかりと力を入れてもらいたいという市民の声に応えていってもらいたい。市長が公約したことは国としても責任をもって応援する」とも強調した。

*1-5:https://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=90241 (南日本新聞社説 1018/2/6) [名護市長選] 新基地の容認ではない
 沖縄県名護市長選は、新人の渡具知武豊氏が3選を目指した現職稲嶺進氏を破って初当選した。一地方自治体の首長選挙が全国の注目を集めたのは、名護市辺野古への米軍普天間飛行場(宜野湾市)移設が最大の争点とみられていたからだ。稲嶺氏は移設反対を訴え、同じ立場の翁長雄志知事が全面支援した。渡具知氏は移設を推進する安倍政権の支援を受けた。渡具知氏が約3500票の差をつけて勝利したことで、移設に弾みがつくとの見方もあろう。だが、基地建設を容認する地元の民意が示されたと捉えるのは早計だ。稲嶺氏は2010年に初めて市長選に立候補した時から一貫して移設反対を主張しており、今回の選挙戦でも揺るがなかった。これに対し、渡具知氏は学校給食や医療費の無償化など生活支援を掲げ、移設問題への言及を避けた。安倍政権は今秋の知事選の前哨戦と位置付け、与党幹部や閣僚を相次いで応援に送り込んだ。地方選としては異例の総力戦である。その一方で争点をずらす戦術をとった渡具知陣営自身が、移設の是非を正面から問われれば勝ち目はないことを理解していたはずだ。共同通信の出口調査では、渡具知氏に投票した人のうち、3割超が辺野古移設に反対の立場を示した。稲嶺氏への投票者は反対派が87.5%を占めた。市民の意向は明らかだ。渡具知氏は当選後、移設に関し「国と県が係争中なので注視していく」と述べた。政府は昨年4月、辺野古沿岸部の埋め立て護岸工事に着手したが、県は差し止めを求めて法廷闘争に発展している。渡具知氏は裁判の行方同様に、市民の声にも十分に耳を傾けなければならない。渡具知氏は選挙戦で、「移設阻止にこだわり市民生活が放置されている」と稲嶺氏を批判した。この主張が一定程度受け入れられたのは事実だ。反対を続けても工事が進むことへの失望感や疲労感が、市民の間に漂っているとの指摘もある。浮かび上がるのは、米軍基地問題で市民が分断され、街づくりや行政サービスの議論が後回しにされている沖縄の自治体の姿だ。在日米軍専用施設の7割超を沖縄県に押しつけている日米安全保障体制のひずみであり、目をそらすわけにはいかない。政府は移設反対派の敗北で勢いづき、辺野古の工事を加速させる可能性がある。反対の声を踏みつぶすような強引な進め方をすれば、激しい反発が全国に広がることになろう。

<沖縄基地の役割>
*2-1:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-244831.html (琉球新報 2016年3月24日) <沖縄基地の虚実2>自衛隊まず対応 米軍は「支援」「補完」
 2015年5月、県庁で翁長雄志知事と初会談した中谷元・防衛相は、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設の必要性を力説し、中国公船の尖閣諸島周辺海域への侵入を挙げた。米海兵隊の重要性を説くものだった。現状では日本側だけで中国船に対処していると説明した上で「自衛隊や海上保安庁もこの対応が大変だ」と述べている。そして中谷氏はこう続けた。「先日の日米防衛相会談でも尖閣諸島でも安全保障条約におけるコミットをすると再確認した。沖縄は戦略的に極めて重要な位置にある」。つまり仮に現在よりも緊迫した尖閣有事が起きれば、米軍が即座に自動的に海兵隊を派遣し、奪還作戦を行うことを念頭に置いたとも受け取れる発言をしている。インターネット上などでは、尖閣有事が発生すれば海兵隊員が尖閣に急行し、中国軍を撃破、島を奪還する筋書きが示され、米海兵隊を沖縄に置き続ける根拠として挙げられている。一方、15年4月に改定された日米防衛協力の指針(ガイドライン)では、日本に対する陸上攻撃への対応をこう明記している。「自衛隊は島嶼(とうしょ)に対するものを含む陸上攻撃を阻止し、排除する作戦を行う一義的責務を負う。必要が生じれば、自衛隊は島嶼を奪還する作戦を実施する」。つまり他国から尖閣への武力侵攻に対しては自衛隊が一義的な責務を負うとしており、米軍が最初から軍事攻撃に加わることを想定していない。むしろ指針では米軍について「(自衛隊を)支援し、補完するための作戦を実施する」と定めている。13年4月、米議会上院が設置する米中経済安全保障調査委員会で「東・南シナ海における海洋紛争」に関する公聴会が開かれた。参考人の一人に米海軍シンクタンク「海軍分析センター」のマイケル・マクデビット上席研究員が招かれた。同氏は退役海軍少将で主にアジア太平洋の安全保障に精通し、ブッシュ政権時には国防総省でアジア政策を統括した。尖閣をめぐる日中の紛争を問われたマクデビット氏は、米政府が尖閣諸島を日米安保条約の対象だと公式に説明したことに触れ、「米国はこれらの島をめぐる防衛では日本側を『支援する責務』がある」と述べた。だが続けて、安倍晋三首相がその2カ月前に首都ワシントンでの講演で「尖閣について日本は米側にあれやこれをしてほしいと頼む意図はない。自国の領土は今も将来も自分で守るつもりだ」と述べたと強調し「ホワイトハウスは、尖閣防衛では日本が主導的役割を果たすことを明確にすべきだ」と続けた。その後、マクデビット氏はより露骨な考えを示した。「尖閣には元来住んでいる住民もおらず、米国にとって地理的な戦略的価値も、本質的な価値もない。ワシントンは無人の小島のことで中国軍と銃弾を交えることを強く避けるべきだ」。昨年改定された日米防衛協力の指針(ガイドライン)で、島嶼(とうしょ)防衛における米軍の役割が自衛隊の「支援」と定められる中、支援の具体的な内容は米政府から示されておらず、あいまいだ。尖閣問題で「米政府は無人の小島のことで中国軍と銃弾を交えることは強く避けるべきだ」との見解を示した米海軍分析センターのマイケル・マクデビット上級研究員(元海軍少将)は米側が担う「支援」の具体例として「監視、補給、技術指導」を挙げている。「抑止力」の意味について政府見解はこう定義している。「侵略を行えば耐え難い損害を被ることを明白に認識させることで、侵略を思いとどまらせる機能」。一方、元防衛官僚で内閣官房副長官補を務めた柳沢協二氏は「離島防衛は陸上自衛隊が主体で、米軍の役割はその支援に限られる。日本政府は『海兵隊は抑止力だから沖縄に必要だ』としているが、米国は日本の離島防衛で海兵隊を出す気はない。つまり抑止力じゃない」と指摘する。日米両政府が尖閣諸島を日米安保条約第5条の対象だと確認した際、日本政府は米国の支援という約束を「引き出した」(外務省幹部)と成果を強調した。一方、同条項は日本の施政権下の地域で日米いずれかに対する武力攻撃があれば「自国の憲法上の規定と手続きに従い共通の危険に対処する」と規定する。米国憲法の手続きに沿えば、大統領は例外措置があるものの、武力行使に際しては議会承認が必要だ。他国の「無人の小島」をめぐり、米国と並ぶ大国となった中国と戦火を交えることについて大統領が議会に承認を求めることが現実として起こり得るのか。米側ではその政治決断に一定の時間を要することは想像に難くない。県辺野古新基地建設問題対策課は「米海兵隊が尖閣に派遣される可能性が全くないとは言わない。ただ仮にその場合も、まずは海上保安庁や自衛隊による対応、外交交渉など長いプロセスを経てからになる」と指摘する。実際、森本敏防衛相(当時)は2012年に尖閣問題への対応はまず海保や自衛隊が行うとし「尖閣諸島の安全に米軍がすぐ活動する状態にはない」と明言している。県は「政府は普天間飛行場を県外に移設した場合、(日本本土から尖閣に飛行する)数時間の遅れが致命的な遅延となり得ると主張するが、実際のシナリオを考えれば、数時間では即応力は失われない」として、尖閣問題への対処は普天間を県内移設する理由にはならないと強調する。14年4月に東京で開かれた日米首脳会談。オバマ米大統領は安倍晋三首相との共同記者会見で、尖閣は日米安保条約の適用範囲だと表明し、併せて日本側に「この懸案の平和的解決の重要性を強調した。事態がエスカレートし続けるのは重大な誤りだ」と伝達したことも明らかにした。オバマ氏の“真意”を確かめる米メディアの記者から「明確にしたい。中国がこれらの島に侵入すれば、米国は武力行使を検討するのか」と質問を浴びせた。オバマ氏は気色ばみ、こう答えた。「他国が国際法や規則を破るたびに、米国は戦争しなければならないのか。そうじゃないだろう」

*2-2:http://www.news-postseven.com/archives/20121205_156435.html (NEWSポスト 2012.12.5) 中国尖閣占領も最後は陸上自衛隊の島嶼防衛部隊が奪還の予測
 漁民を装った人民軍兵士が上陸するなどして尖閣諸島が中国に占領された場合、日本の自衛隊はどのように動くのか。魚釣島を奪還できるのか。総理大臣が防衛出動を発令すると、陸海空3自衛隊が一気に動く。まず日中の尖閣攻防は航空戦で始まる可能性が高い。先陣を切るのは西部航空方面隊と南西航空混成団だ。元航空幕僚長の田母神俊雄氏は、こう予測する。「最初に出撃するのはF-15戦闘機。同機は世界で最高レベルの要撃戦闘機で、制空権の確保が主な任務。同時にF-2戦闘機が出撃する。こちらは強力な対艦ミサイルで中国海軍の艦艇を迎撃するのが役目だ。宮古島の隣の下地島には3000m級の滑走路があり、ここに整備支援力を展開すれば、尖閣上空まで10分でF-15やF-2を飛ばして制空権を握ることができる。下地島空港は当然地対空ミサイル部隊や基地防空部隊で防御も固められることになる。さらに半径400km以上先までの探知能力を持つ早期警戒管制機E767を投入して中国側の動きを先にキャッチする。戦闘機の戦闘能力を決めるのは、現代戦においては空中におけるリアルタイムの情報収集能力であり、E767を中心とする組織戦闘能力だ」。襲来する中国機はSu-27やJ-10などの最新戦闘機、早期警戒管制機KJ2000などが考えられるが、『尖閣を獲りに来る中国海軍の実力』(小学館刊)著者で元統幕学校副校長の川村純彦氏は、こう見る。「中国空軍は早期警戒管制機の機数が十分ではない上に、管制能力も空自より劣っており、実戦的経験も乏しい。強力な防空体制を構築して待ち構えている日本に航空戦を挑んでも勝ち目はない」。中国空軍は最近になって福建省寧徳市に秘密基地を作り、戦闘機を配備しているが、それでも専門家の見方は、この緒戦では日本が有利という声が多い。一方、海上自衛隊は8隻の護衛艦からなる第2護衛隊群(佐世保)を尖閣周辺海域に差し向ける。沖縄本島周辺で作戦展開中だった最新鋭の潜水艦2隻も南下。第5航空群(那覇)、第1航空群(鹿屋)からは、P3C対潜哨戒機各20機が一斉に飛び立つ。尖閣周辺では中国の漁業監視船に代わって中国海軍の艦隊が展開するだろう。だが、海自の優位は揺るがない。前出・川村氏はこう分析する。「艦艇の戦闘能力、乗組員の練度、情報指揮通信管制能力などでは、海上自衛隊が格段に優れている。特に海自の対潜水艦作戦能力は極めて高く、世界最高レベルにある。中国海軍の潜水艦は昔に比べて格段に静粛性を増しているが、それでも海自は発見できるだろう。東シナ海という海域の特性を考えても、海自が圧倒的に勝っていると断言できる」。海自の潜水艦が発射した魚雷が中国のフリゲート艦に命中。F-2の空対艦ミサイルも精度が高く、駆逐艦数隻から水しぶきと黒煙が上がるそのようにして自衛隊は中国艦隊をじりじり西側に押し返していくと予測される。そうなれば魚釣島に上陸した“漁民”は完全に孤立する。そこから先は陸上自衛隊の出番となる。沖縄を拠点とする第15旅団、特殊部隊を擁する中央即応集団などの精鋭部隊が続々と石垣島、宮古島や与那国島に結集する。魚釣島に逆上陸してとどめを刺すのは西部方面普通科連隊(佐世保)の約600名。島嶼(とうしょ)防衛のスペシャリスト部隊だ。「夜間、密かにゴムボートなどで接近、上陸、暗視スコープを携帯して奇襲する。小銃や機関銃のほかに迫撃砲なども携行。狙撃銃で遠方の敵を狙い撃つヒットマン顔負けの隊員もいる。ただし生身の人間がぶつかり合う陸戦なので、かなりの死傷者が出ても不思議ではない」(前出・田母神氏)。戦闘は1日で終わる。自衛隊の死傷者に比べ、中国側の死傷者が多いと予想される。

*2-3:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-495454.html (琉球新報 2017年5月14日) 自衛隊面積は復帰後4倍に 沖縄、先島諸島で新設の動き加速
 沖縄では1972年の復帰を境に、それまで配備されていなかった自衛隊が駐屯するようになった。記録に残っている1972年5月時点では施設数3、施設面積は166・1ヘクタールだったが、2016年3月時点では施設数41、施設面積は694・4ヘクタールとなり、面積は4倍に拡大した。隊員数も増加傾向にあり、特に防衛省が旧ソ連を念頭に置いていた「北方重視」戦略から、北朝鮮や中国を重視した「南西シフト」に転換して以降、沖縄での自衛隊基地の機能強化が一層鮮明になっている。陸上自衛隊那覇基地は10年3月にそれまでの混成団から旅団に格上げされ、隊員も1800人から2100に増員した。航空自衛隊那覇基地でも09年に、従来使用していた戦闘機をF4からより機動性の高いF15に切り替え、さらに16年には20機を追加し、計40機体制へと強化した。さらに近年では、先島での自衛隊基地新設が加速している。16年3月、先島で初となる陸上自衛隊の基地が与那国島にできた。レーダーによる沿岸監視活動を主任務とする「沿岸監視部隊」の約160人が常駐する。今後は宮古島でも、有事の際に初動を担う警備部隊とミサイル運用を担う部隊など計700~800人規模の陸上自衛隊が配備される計画があるほか、石垣島にも500~600人規模の新基地が建設される計画がある。県内米軍基地での自衛隊による共同使用も重ねられており、沖縄が日米双方の防衛力強化の拠点とされつつある。

<安保法と憲法>
*3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180206&ng=DGKKZO26526210V00C18A2KE8000 (日経新聞 2018.2.6) 経済教室憲法改正の論点を探る(上)統治構造改革の議論必須、国に継続的な議論の場を 曽我部真裕・京都大学教授(1974年生まれ。京都大修士(法学)。専門は憲法、情報法)
〈ポイント〉
○理論的な体系性や整合性にも配慮が必要
○専門的知識や議論の透明性確保欠かせず
○議論の場として憲法審査会の活用も一案
 自由民主党は昨年末、「憲法改正に関する論点取りまとめ」を作成して議論の方向性を示した。自衛隊、緊急事態、合区解消等、教育無償化(教育の充実等)の4項目について憲法改正の発議に向けて議論を進めていくとしている。こうした方向性に対してはまず、既に定着していたり法律で対応可能だったりすることから、憲法を改正する必要はないとの批判がありうる。確かにその通りである一方で、自衛隊の問題のように憲法の規定に曖昧な点があり、それを巡り長年争われてきた末に一定の収束をみた場合には、明文化のために改正すること自体がおかしいとは言えないのではないか。もっとも、この種の改正には性質上緊急性はないから、こうした改正論を提起することの政治的動機には注意が必要だろう。同じく法律により実現可能な教育無償化も、憲法に明記するからには純粋に象徴的な意味合いを超えて、将来にわたり一定の拘束力を確保するようなものにすべきだろう。曖昧な文言で、しかも別途無関係に無償化論議が進んでいるような現状では、別の政治的動機によるものでないことの説明が特に求められる。次に憲法改正にあたっては理論的な体系性・整合性についてもより一層の配意が必要だ。およそ法というものは内的な一貫性が求められる。憲法改正は国民主権の発露だからといって、この点が軽視されてはならない。とりわけ合区解消の項目は、参議院での一票の価値の大きな不平等を容認する一方で、参議院の権限が現状のままであることの不整合については、多くの論者の指摘するところだ。さらに改正の影響を十分に考慮する必要がある。この点、9条は現在のような文言であるからこそ、自衛隊の権限や規模の拡大に対する一定の歯止めになってきたのであり、現状を追認する文言改正がなされれば、それを起点としてさらなる拡大が危惧されるとの意見がありうる。現状を変えないという大前提で改正するのであれば、改正時の意思としてその点を明確にすべきだろう。改正原案の審議の際に明確にしたり、発議の際の付帯決議で明記したりするなどの工夫が求められる。これらの観点を踏まえれば検討の進め方についても現状には問題が多い。憲法改正論議に政府が表立って関与していないのは、憲法改正の発議権が国会にあること(憲法96条1項)が理由だろうが、それにより検討のための人材が不足することになっていないか。また議員立法に共通する問題だが、改正原案の柱になる内容が政党内あるいは政党間で議論される結果、国会の場では議論の経緯が十分に説明されず、前述の懸念が払拭されないことにならないか。専門的知識の調達と議論の透明性確保が求められる。以上、自民党の議論に即して筆を進めてきた。より視野を広げると、憲法に加え、国会法、内閣法などの憲法を具体化する法律(憲法付属法と総称される)、さらには慣習などで形成されている政治の仕組み(統治機構)については、様々な改革の論点がある。今回の改正論議が筋の良くないものであったとしても、これを契機に少なくとも統治機構についてはより良いものに向かって、憲法改正も含めて不断に改革を議論できるような変化が求められる。課題を大まかに示せば、まずは主に1990年代にそれなりの一貫性をもって進められた統治構造改革のフォローアップがある。これにより首相のリーダーシップが強化された。しかし一方で「ねじれ国会」の問題などリーダーシップの限界、他方で首相が権限をフル活用することに対する制度的な備えの脆弱性などが明らかになっている。これらの課題をどう受け止め、どのように改革を進めるのか。「統治構造改革2.0」が求められる。そこでの問題は、統治のエンジンとブレーキをどう最適配置するかだ。「ねじれ国会」の問題のほか国会改革が求められることはもちろん、裁判所、中央銀行、公共放送といった独立機関を制度的に強化することなども重要な課題となる。こうした文脈では、政界でも解散権の制限や憲法裁判所の設置問題などが実際に提案されている。解散権の行使に制限のないことは比較憲法的にみて異例であり、政党間競争の観点からは正当化の余地がないことも確かだ。他方で、解散権行使のメッセージにより与党議員の造反を抑制するといった機能も考慮すべきであり、要は統治機構全体の観点からの検討が必要だろう。ほかにも21世紀の日本社会の状況や各国の統治機構改革の水準に合わせて、どうアップデートしていくかが問われている。例えば(1)各国で「代表制の危機」が叫ばれる中で、選挙以外に国民意思を反映する回路をどう構築していくか(2)財政や環境の問題も含めて将来世代の利益を制度上どのように考慮すべきか(3)多様化し続ける個々人を国民として統合しつつ、各人が自分らしい人生を送れるような枠組みをどう構想するか――といった大きな問題を統治機構論の文脈でどう受け止めるのか考えていかなければならない。最後に、これまで述べてきたような憲法論議の改善に向けて、継続的な議論の場の重要性を強調したい。議論の枠組みや質は、議論の場のあり方にも左右される。憲法については日本国中の様々な場で議論されるべきなのは当然だが、こうした国民の声や専門家による問題提起を受け止めて制度改革のための憲法・法律の改正プロセスに入力したり、国民的な議論を喚起したりする場が、国の側に設けられる必要があろう。実は、行政府には憲法全体を所管する省庁はない。周知のように内閣法制局は9条をはじめとする政府の憲法解釈に決定的な役割を果たしてきたが、所掌事務上憲法を所管しているわけではない。前述のような意味での「場」に近いものでありうるのは、衆参各院に設けられた憲法審査会だ。憲法審査会は憲法改正原案などの審査のほか、日本国憲法のみならず、それに「密接に関連する基本法制」について「広範かつ総合的に調査を行」うことを任務とする(国会法102条の6)。憲法改正問題だけでなく、法令レベルの制度も含めて統治機構に関して海外諸国の動向や学界その他国内での問題提起を受け、現状を調査し論点を整理し、場合によっては改革案の問題提起をするといった役割を、憲法審査会のようなところで担うことも考えられてよいのではないか。もちろん、そのためには多くの課題があろう。例えば(1)前述のような国会法の規定がこうした活動の根拠として十分かどうか(2)専門性を持つスタッフや十分な活動を展開するための予算を確保できるかどうか(3)各議院の他の委員会との関係はどうか(4)党派的に利用されるのではないか――など枚挙にいとまがない。だが日本の統治機構改革は90年代の政治改革がリクルート事件を発端としたように、不祥事などを受けて偶発的に行われるのが常だ。より効率的にであれ、民主的にであれ、統治機構を改善しようとする不断の取り組みは軽視されてきた。今回の改憲論議を通じてこの問題点に光が当たり、こうした仕組みあるいは「場」が統治機構にビルトインされる必要性の認識が広がるのであれば、それなりの意義があったと言えるだろう。

*3-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13343426.html (朝日新聞社説 2018年2月3日)「安保法」訴訟 あぜんとする国の主張
 安全保障関連法をめぐる訴訟で、国が驚くような主張をして裁判所に退けられた。安保・防衛論議の土台にかかわる問題である。国民に対する真摯(しんし)で丁寧な説明が必要だ。舞台になったのは、安保法の成立をうけて現職の陸上自衛官が起こした裁判だ。自衛官は、集団的自衛権の行使は違憲との立場から、法が定める「存立危機事態」になっても、防衛出動の命令に従う義務がないことの確認を求めていた。一審の東京地裁は「出動命令が出る具体的な可能性はない」などと述べ、踏みこんだ審理をしないまま訴えを却下したが、東京高裁はこれを否定。「命令に反すれば重い処分や刑事罰を受ける可能性がある」として、自衛官が裁判で争う利益を認め、審理を差し戻した。あぜんとするのは、裁判で国が、存立危機事態の発生は想定できないとの立場を終始とり続けたことだ。安倍首相が北朝鮮情勢を「国難」と位置づけ、衆院選を戦った後の昨年11月の段階でも「国際情勢に鑑みても具体的に想定しうる状況にない」「(北朝鮮との衝突は)抽象的な仮定に過ぎない」と述べた。説得力を欠くこと甚だしい。ならばなぜ、長年の憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認し、強引な国会運営で安保法を成立させたのか。広範な疑問の声を抑えこみ、「国民の平和と安全なくらしを守り抜くため不可欠だ」と法の成立を急いだのは安倍内閣だ。ところが裁判になると、自らに有利になるよう「存立危機事態は想定できない」と主張する。ご都合主義が過ぎる。高裁が、国の言い分を「安保法の成立に照らし、採用できない」と一蹴したのは当然だ。どんな場合が存立危機事態にあたり、集団的自衛権の行使が許されるのか。安保法案の国会審議を通じて、安倍内閣は納得できる具体例を示さなかった。首相が当初、象徴的な事例としてあげたホルムズ海峡の機雷除去も、審議の終盤には「現実問題として具体的に想定していない」と発言を一変させた。一方で小野寺防衛相は昨年夏、米グアムが北朝鮮のミサイル攻撃を受ければ日本の存立危機事態にあたりうると、国会で前のめりの答弁をした。裁判での国の主張とは相いれない。ただ共通するのは、存立危機自体の認定が、時の政府の恣意(しい)的な判断に委ねられている現状の危うさである。判決を機に、安保法がはらむこの本質的な問題を改めて問い直す議論を、国会に望む。

<人権と憲法>
*4-1:https://www.jiji.com/jc/article?k=2018013100155&g=pol (時事 2018.1.31) 私権制限求める声続出=緊急事態条項-自民改憲本部
 自民党憲法改正推進本部は31日午前、今年初の全体会合を党本部で開き、大規模災害時の緊急事態条項について議論した。国会議員任期の延長などに加え私権制限も検討すべきだとの意見が相次いだ。推進本部幹部の間では、任期延長に限るべきだとの見解が大勢となっており、根本匠事務総長は全体会合後、「まだ議論が必要だ」と記者団に述べた。会合では「大災害や武力攻撃の事態を真剣に想定しないといけない」「理想は2012年の党改憲草案だ」などの意見が続出した。一方、野党などの理解を得るため、「党改憲草案が理想だが(改憲を)実現しないといけない」との声も上がった。

*4-2:https://www.nishinippon.co.jp/nnp/syasetu/article/380219/ (西日本新聞 2017年12月14日) 秘密保護法3年 監視機能の強化を早急に
 国民の知る権利を侵害しかねない特定秘密保護法が施行されて10日で3年が経過した。特定秘密に指定され、国民には知らされない文書や写真などは時間の経過とともに増え続ける。一体何が指定されているのか、指定は正しいか、運用に誤りはないのか-監視機能は弱いままだ。内閣府によると、指定された特定秘密は2014年末に382件18万9千点だったのが、15年末には443件27万2千点、16年末には487件32万6千点に増えた。特定秘密に指定される情報は防衛▽外交▽スパイ活動防止▽テロ防止の4分野で、漏らしたり不正に取得しようとしたりすると最高で懲役10年が科せられる。北朝鮮情勢の緊迫化などを背景に件数の増加は当然との見方もあろう。ところが、15年末までに指定された特定秘密の37%に当たる166件は件名だけで具体的な文書や写真がなかった。担当者の「頭の中」(知識や記憶)を指定した-などずさんな運用もあった。衆参両院に常設される情報監視審査会は秘密会にもかかわらず政府側が回答を拒む場面が目立つという。審査会は過半数の賛成で特定秘密の開示を求めることができるが、政府は拒否できる。運用改善を勧告しても強制力はない。そもそも審査の手掛かりとなる特定秘密指定管理簿は「開催した会議の結論に関する情報」など抽象的な表記が並び、どんな情報なのか想像もつかない。審査会は具体的表記への改善を求めているが、政府はゼロ回答を繰り返す。内閣府には独立公文書管理監が室長の情報保全監察室がある。官房長官あるいは法相が委員長の内閣保全監視委員会もあるが、「身内のチェック」には限界がある。特定秘密ではないが、森友・加計(かけ)学園問題や防衛省の日報隠蔽(いんぺい)問題など政策決定に関わる重要情報の開示を政府が拒んだり早々に廃棄したりする実態は目に余る。国の情報は国民のものであり、政府の独占物ではない。国会の監視機能を強化するとともに、第三者機関の設置を検討すべきだ。

*4-3:http://qbiz.jp/article/124575/1/ (西日本新聞 2017年12月14日) 日EU、データ移転で大枠合意 企業、域外持ち出し容易に
 政府と欧州連合(EU)が、互いの進出企業が現地で得た個人データを柔軟に域外に持ち出せるようにすることで大枠合意したことが14日、分かった。地域を越えた情報の自由なやりとりが可能となり、新サービスの創出が期待される。日欧は今月、経済連携協定(EPA)交渉も妥結しており、日欧間のビジネスが一層活性化しそうだ。政府の個人情報保護委員会と来日している欧州委員会のそれぞれの委員が14日に協議。来年3月までに最終合意を目指すことを確認した。日欧は15日午後に合意文書を公表する見通しだ。インターネットが普及する中で、膨大な個人データが国境を越えて行き交うが、EUは個人情報保護について十分な対応をしていると認定する国や地域以外へのデータ持ち出しを原則として禁じている。現状、日本はEUから認定されていないため、EU域内に支社や子会社を持つ日本企業が、住所や電話番号、クレジットカード番号などを含む顧客リストを日本の本社に送るのには煩雑な手続きが必要だった。今回合意すれば、簡単な手続きだけで従業員や顧客のデータを送ることができる。昨年夏に本格的に協議入りしたが、EU側は当初、法制度の違いを指摘するなど、早期合意は困難だとみられていた。14日の協議で、日本側がEU市民の個人データを慎重に取り扱うように配慮するガイドラインをつくることで折り合った。EUはスイスやアルゼンチンなど11の国・地域を認定済み。このままでは日本企業が競争上不利になるとして、産業界から対応を求める要望が出ていた。

*4-4:http://www.saga-s.co.jp/articles/-/160774 (佐賀新聞 2017.12.17) 部落差別解消推進法の周知を、施行から1年
 「部落差別解消推進法」の施行から1年となった16日、部落解放同盟大阪府連合会などの人権団体が「法律が十分浸透していない」として、大阪市北区のJR大阪駅前で、法律の概要を解説したチラシなどを配り周知を図った。インターネット上に同和地区の地名が書き込まれたりしている実態も訴えた。同法は「現在もなお部落差別が存在するとともに、情報化の進展に伴って部落差別に関する状況の変化が生じている」と明記。すべての国民が、部落差別解消への理解を深めるよう努めるとする基本理念を定めた。解放同盟大阪府連の村井康利書記長は「(差別解消への)具体化が課題。部落差別の問題はとっつきにくい印象を持たれるので、貧困対策などの地域・福祉活動と一体で取り組んでいきたい」と話した。

<軍事技術と基地>
PS(2018年2月11日追加):私も、*5のように、久間元防衛相の「①軍事技術の進展で現状の基地の存在について疑問」「②あんな広い飛行場もいらない」「③日米地位協定も改定すべき」という意見に賛成で、もっと小さな費用で合理的な防衛をすべきだと考える。なお、返還される広い敷地は、温暖で、近くに資源が眠り、宝石のように美しい自然に囲まれた島として、使い道はいくらでもある。

*5:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-663195.html (琉球新報 2018年2月11日) 「辺野古 基地いるのか」 久間元防衛相、軍事技術進展理由に
 米軍普天間飛行場返還を巡り、SACO最終報告やキャンプ・シュワブ沿岸部案の合意時に防衛庁長官を務めた久間章生元防衛相が8日までに琉球新報のインタビューに応じ「辺野古でも普天間でもそういう所に基地がいるのか。いらないのか」と必要性を疑問視した。を呈したものだが、新基地建設を推進してきた当事者として極めて異例の発言となった。普天間飛行場移設を巡っては、これまでも森本敏防衛相(当時)が2012年に「軍事的には沖縄でなくてもよいが、政治的に考えると沖縄が最適地だ」と述べるなど、閣僚から「政治的な理由」で沖縄に基地を押し付ける発言が展開されてきた。久間氏の発言は補強する格好で、波紋を広げそうだ。久間氏は軍事技術が向上しており、ミサイル防衛態勢の強化や無人攻撃機といった防衛装備品も進歩しているとして「辺野古でも普天間でもそういう所に基地がいるのか。いらないのか。そういう議論をしなくても安保は昔と違ってきている」と指摘した。その上で「」と面積の大きい飛行場建設も疑問視した。同時に自主防衛能力が高まっている現状を念頭にと主張した。在沖海兵隊の存在についても異議を唱えながらとの持論も展開した。辺野古新基地の現行計画にも理解を示した。一方、辺野古新基地について埋め立て方式に決まった理由について、外部からの攻撃を想定し「防衛庁(現・防衛省)で検討した」と証言した。当時の橋本龍太郎首相は撤去可能なメガフロート案を検討していたが、防衛省が基地を固定化する案を提示していたことになる。久間氏は1996年11月~98年7月、06年9月~07年1月に防衛庁長官、07年1月~同年7月まで初代の防衛相を務めた。


<踏みにじられた言論の自由>
PS(2017年2月11日追加):このブログを書いた途端、*6-1のメールが日経新聞読者応答センターから私のところに送られてきた。内容は、私がこのブログに掲載している日経新聞及びグループ各社の記事が、著作権の侵害に当たるということだった。しかし、私は日経新聞及び日経電子版の読者であるため、その記事を見ることができるのであり、ブログに掲載する日経新聞の記事には必ず新聞名と掲載日を記載しており、新聞記事を自分の著作と偽った事実は皆無だ。そして、私のブログ記事は、私が見ることのできる範囲の別の新聞記事も比較し、問題点を把握し、真実の所在を明らかにして、私が考える処方箋を書いているものだ。そのために掲載した記事は、記事・メディア・行政に対する批判やディスカッションのための参考資料もしくは証拠であり、記事の比較で私が使っているのは、公認会計士として培ってきた監査の手法であるため、ブログ全体の内容は私の著作物である。にもかかわらず、著作権法違反などとして私の言論を封じようとするのは、日本国憲法第21条1項「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」のうちの「言論の自由」に反する。なお、憲法は、あらゆる国内法の上位に立つため、憲法違反の法律をいくら作っても、それは違憲立法であり無効だ。
 さらに日経新聞は、*6-2のように、SNSやブログは政治のもろ刃の剣などとしているが、真実から遠い記事を書き続けて世論操作を行うため弊害が多いのはメディアの方であり、政治家は言われっぱなしで反論するツールがなかったが、インターネットの登場で反論の場を得たという方が正しい。また、仮に私のブログ記事を大衆迎合や世論操作だと言うのであれば、自分の記事の価値をどのくらいだと思っているのかと呆れてモノが言えない。まず、メディアが、真実ではなく、真実と認める相当の理由もない低レベルで興味本位の記事を書くのをやめ、20年後に読まれても恥ずかしくない記事(私が25年前に書いたアドバイスレターは、今でも通用する)を書いていれば、いちゃもんをつけて私のブログをあわてて消させる必要はなく、国民の意識も高まる筈なのだ。

*6-1:From: ◇読者応答センター
Sent: Friday, February 9, 2018 11:27 AM
To: hirotsu@hirotsu-motoko.com
Subject: 著作権侵害の件について
広津様
http://hirotsu-motoko.com/weblog/index.php
 広津様が運営されている上記ページに、日本経済新聞社及び日経グループ各社等が、著作権を有するコンテンツが数千件規模の多数、長期間にわたり転載されていることを、2018年2月までに把握いたしました。日経電子版の記事、写真、グラフイメージ等のデータは全て、日本経済新聞グループ各社および筆者が、著作権を有しております。弊社には、当掲示板設置者に記事転載を許諾した記録がございません。したがって同ブログ上での行為は、弊社著作権の侵害に当たると、認識しております。弊社が読者との契約に基づき、提供している製品・商品であるコンテンツが大量に無断転載され、無償での送信・複写が可能な状態となっていることは、弊社にとり大きな損失となります。貴台におかれましては、当該掲示板による弊社コンテンツ無断転載等の著作権侵害に関して、所要の対応をお願いします。具体的には全転載記事を速やかに削除していただけるよう請求いたします。対応がみられない場合、弊社としてもさらに踏み込んだ措置を、とらざるを得なくなりますことを、ご承知おきいただきたく存じます。以上、宜しくお願い申し上げます。

*6-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180210&ng=DGKKZO26746610Z00C18A2TM1000 (日経新聞 2018.2.10) SNSやブログ 政治のもろ刃の剣、「真意」発信/世論操作の危うさ ネット台頭(6)
 平成に入って普及したインターネットは、政治の風景も大きく変えた。誰もが気軽に発信し、共感し合える社会――。それは国境や人種、宗教の壁を超えた世界を切り開くとともに、政治の大衆迎合や意図的な世論操作を助長する危うさもはらんでいる。村山内閣の発足から間もない1994年8月、首相官邸が公式ホームページを開設した。通信できるパソコンの本格的な普及は翌年に基本ソフト「ウィンドウズ95」が発売されてからで、当時は永田町でもネット利用者はまだ少数に限られていた。現在では首相官邸のネット発信はユーチューブ、ツイッター、LINE、フェイスブックへと広がり、今年1月からインスタグラムでの写真や動画の配信も始まった。これとは別に安倍晋三首相も自身の名前で交流サイト(SNS)で積極的に発信している。立憲民主党の幹部は「野党もネットの活用に力を入れているが、残念ながら政府への注目度にはかなわない。海外を訪問して沿道の市民に大歓迎を受ける首相の動画などは確かにアピール力がある」と悔しげに語る。大手メディアは伝統的に権力の監視に力を入れ、時の政権幹部の言動に批判的な立場で報道する機会も多い。政府の直接発信は首相や閣僚らの生の姿を国民に伝えるのが売りだが、権力側に都合がよい場面だけを公表する要素があるのは間違いない。日本では選挙で物を言うのは「地盤(後援会)、看板(知名度)、カバン(資金力)」と長く言われてきた。政治活動とネットとの親和性はもともと高くなく、政党や国会議員らが90年代後半から公式サイトを立ち上げはじめても党の綱領や政策、プロフィルなどを掲載するだけの簡素なものが目立った。だが21世紀に入るとネット利用は次第に広がっていく。特に後援会組織が弱い都市部の政治家にとって、最近の活動を有権者に報告するのにホームページやメールマガジン、ブログは手間や経費がかからない便利なツールとして定着していった。こうした動きを一気に加速させたのが、2013年夏の参院選でのインターネットを使った選挙運動の解禁だ。街頭演説や選挙カーでの選挙区回りが主な活動なのは不変だったが、日ごろからのこまめな発信とフォロワー数の拡大が得票に結びつくことに気づいた政治家が多かった。日本の先をいく米国には、多くのヒントと教訓がある。08年の米大統領選でオバマ氏はネットを積極活用した。ボランティアへの呼びかけなど既存の組織に頼らない選挙戦術を展開し、献金をクレジットカードで「広く薄く」集める手法も導入した。16年の前回の大統領選では、トランプ氏が自身に批判的な既存メディアを攻撃し、自分の「真意」を伝える手段としてツイッターなどを活用した。大統領就任後も続く品位を欠いた発信には眉をひそめる米国人も多い。日本でもネットの台頭が政治にもたらす負の影響が目立ち始めている。野党の女性議員は自身のホームページに「デマについて」とのコーナーを設けた。自身の健康問題や家族関係、果ては東日本大震災の支援物資流用から北朝鮮との親密な関係まで事実に反する中傷が飛び交った。放置すると情報がどんどん拡散していくため、第三者の見解などを付けて反論することにした。ネットでは中国や韓国、在日外国人、社会的弱者らを過激な言葉で非難し、違う考えの個人や政治家、マスメディアを「反日」「売国奴」などと決めつけて一方的に非難する論調も飛び交っている。立教大学社会学部の木村忠正教授は「過激な言動を繰り返しているのはごく一部。ただ、それを見ている多数も『少数派の権利が過剰に守られている』といら立ちを感じている面がある」と指摘する。同時に「ネットという手段そのものに問題があるわけではなく、大事なのはどう利用するかという使い手の意志だ。今後は他国がサイバー攻撃的に日本の世論を誘導するような動きにも気をつけないといけない」と語る。自宅のパソコンで行政や政治家に関する情報を集めたり、自分の考えを表明したりする手段としてネットはすでに重要な役割を果たしている。「ふるさと納税」などを活用して特定の自治体を応援する仕組みも、ネット無しでは広まらなかっただろう。言論の自由、開かれた政治活動や公正な選挙は、民主国家を支える基盤だ。民意をつかみ、異なる意見にも耳を傾けて調整する政治の役割は、次の時代にも決して変質させてはならない。そのためにはネットが持つ長所と短所をよく理解し、上手に活用するための社会的なルールを確立していく必要がある。

<原発再稼働は高コストの不用な挑戦>
PS(2018年2月11、12、13、14日追加):*6と時を同じくして、*7-1のように、原子力規制委員会の更田委員長が佐賀県唐津市を訪れ、「阿蘇山の巨大噴火が起きる可能性は十分に低い」と述べられたそうだが、「十分に低い」というのは「0でない」ということである。しかし、原発が事故を起こせば、第一次産業は壊滅し、そこに住むこともできなくなるため、事故の確率は0でなければならない。従って、原発再稼働は、他のあらゆるエネルギーよりも高コストで、近くに住む人の人権・財産権を脅かす不用な挑戦だ。なお、この論調を「風評被害」「世論操作」などと言う人がいれば、そちらの方がリスク管理に欠ける人である。
 なお、*7-2には、更田委員長が、①「再稼働を判断する主体は規制委とは別」としていること ②「少しでもリスクを語る方向に向けたい。私にあのような質問が出るのは、経済産業省、九電の努力が理解されていない表れだ」と述べたこと などが記載されているが、②のように仮に経産省や九電が努力したとしても、リスクが0にならなければ意味がない上、①のように再稼働判断の主体と安全性判断の主体は別として無責任体制にしている点は、地域の安全や産業等の広い意味でのリスクを真剣に考えている人から見ると、経産省・規制委・九電の形だけのごまかしに過ぎない。そのため、伊万里市長の欠席は、再稼働に反対して佐賀県知事らとけんかしたくないことが理由だと思われ、ここは広島県同様、長崎県の住民に頑張って欲しい。
 なお、埼玉県も原発事故の被害を受けており、それを忘れて原発再稼働を求める意見書を可決・提出したというのはあまりに愚かで、私も、*7-3の意見に全く同感だ。

*7-1:https://ryukyushimpo.jp/kyodo/entry-663519.html (琉球新報 2018年2月11日) 玄海原発の火山灰対策視察 規制委員長、知事と会談
 原子力規制委員会の更田豊志委員長は11日、九州電力玄海原発(佐賀県玄海町)を訪れ、火山灰の対策設備などを視察した。佐賀県の山口祥義知事らと視察後に会談し、熊本県・阿蘇山の影響について「巨大噴火が起きる可能性は十分に低い」と述べた。九電は3号機を3月、4号機を5月に再稼働させる方針だ。更田氏は非常用ディーゼル発電機の吸気口に取り付けた火山灰の侵入を防ぐフィルターや、3、4号機の中央制御室などを見て回った。会談は佐賀県唐津市で実施し、同原発の半径30キロ圏に含まれる福岡、長崎の両県幹部や市町の首長らも出席したほか、九電の瓜生道明社長が同席した。

*7-2:https://mainichi.jp/articles/20180212/k00/00m/040/094000c?fm=mnm (毎日新聞 2018年2月11日) 玄海原発:3首長、規制委に反対訴え「リスク説明不十分」
 原子力規制委員会の更田(ふけた)豊志委員長が11日、九州電力玄海原発(佐賀県玄海町)から半径30キロ圏内にある佐賀、長崎、福岡3県の8市町の首長らと意見交換をした。16日に核燃料の装着が始まる予定の3号機は3月中旬以降、再稼働の見通し。再稼働に反対する4市長のうち、出席した3市長が「リスクの説明が不十分」と改めて反対を訴えた。意見交換は、立地自治体や周辺地域との意思疎通を強化する目的で、全国の原発で初めて実施。更田委員長らが同原発の火山灰対策などを視察後、佐賀県オフサイトセンター(佐賀県唐津市)で開催した。自治体側は佐賀県の山口祥義(よしのり)知事と岸本英雄・玄海町長の他、再稼働に反対してきた長崎県の松浦、平戸、壱岐の3市長も参加。黒田成彦・平戸市長が「ゼロリスクではないと住民に説明しても理解されない。避難道路の整備を国に要望しても無視されている」と指摘した。出席しなかった佐賀県伊万里市長も反対している。更田委員長は「再稼働を判断する主体は規制委とは別」と回答。終了後、報道陣に「少しでもリスクを語る方向に向けたい。私にあのような質問が出るのは、経済産業省、九電の努力が理解されていない表れだ」と述べた。

*7-3:http://www.kahoku.co.jp/editorial/20180213_01.html (河北新報社説 2018年2月13日) 原発再稼働意見書/目に余る住民軽視、議論軽視
 東京電力福島第1原発事故の風化もついにここまで来たか。誰もがそう感じたに違いない。埼玉県議会が原発再稼働を求める意見書を可決、提出した一件だ。地方議会が機関意思を表明することに異論はない。それでもなお、国民議論が生煮えの再稼働問題で真っ先に一方へとかじを切ったのが埼玉県議会であることには、驚きと落胆を禁じ得ない。原発被災者の多くが埼玉県の人々に感謝しているからこその率直な感想だ。事故直後から原発避難者を官民一体で支援してきたのが埼玉県だった。加須市には福島県双葉町の行政機能と住民が丸ごと身を寄せた。県内では今も福島から3300人が避難生活を送っている。手続きそのものに瑕疵(かし)はなかったとはいえ、議論は十分だったのだろうか。自民党系会派を中心に議員11人が意見書案を提出したのは、昨年12月の定例会最終日だった。即日採決が行われ、賛成多数で可決された。県民からすれば、住民排除の密室で意に沿わない決定がなされたに等しい。定例会が閉じてから初めて意見書可決の事実を知った人々が、連日のように抗議行動を続けているのが何よりの証拠だ。地方自治法は、地方公共団体の公益に関する事項について国会や関係行政庁への意見書提出を認めている。つまり地方自治に資するかどうかが意見書の眼目となる。法の趣旨に従えば、意見書はその内容も不可解だった。原発再稼働と同時に「避難のための道路や港湾の整備や避難計画の策定支援」を求めているからだ。事故に備えた港湾整備や避難計画策定は、少なくとも海も原発もない埼玉県には無関係の事項だろう。また意見書は、原発再稼働を求める理由に経済効率の向上を挙げた。経済効率こそが埼玉県にとっての「公益」であり、そのために他県は原発を再稼働すべきなのか。暮らしの便利を謳歌(おうか)するだけで、「コンセントの向こう側」で起きた過酷事故の現実や、原発立地自治体の苦悩を理解しようといない埼玉県議会の不見識を問いたい。意見書を取りまとめたという議員は、総合経済誌の取材に対して「そもそも(意見書を)提出してどうなるのかという疑問もある」と述べていた。自治体の議決機関として驚くべき自覚の欠如と言わざるを得ない。確かに関係行政庁に応答の義務はないのだが、一方で提出したら撤回できないのが地方議会の意見書だ。それ故、徹底した議論や世論の賛否が割れる事項では慎重な取り扱いが求められる。しかし今回は、意見書提出を端緒として県民の抗議行動が起こった。事の順序が逆であり、この混乱を埼玉県議会はどう収束させるつもりなのか。住民軽視、議論軽視の代償は、あまりにも大きい。

<日本におけるEV普及の遅れについて>
PS(2018年2月13日追加):*8に、「①インド政府は、2030年までにすべての自動車販売をEVにするとの目標を掲げた」「②インド・タタ自動車のブチェックCEOは、スマート・エナジー・ゾーンに小型セダンやバスなどEVを6台展示し、年内にもEVの発売を始めたいと語った」「③EV販売で先行するマヒンドラも様々なEVの試作車を公開した」等が書かれており、インド政府は合理的な判断を行って自国の自動車産業を育てようとしていることがわかる。
 それに対する朝日新聞のコメントは、「i. 広い国土で充電設備の整備が必要」「ii. インドでは停電が多く石炭火力発電の割合が6割と高いので、EV拡大で石炭火発が増えれば二酸化炭素排出量は減らない」「iii. EVは高価になりがちなので、成長途上のインドで販売が増えるかも未知数」である。しかし、充電設備の整備はガソリンスタンドの整備よりずっと安価で何処にでも設置でき、インドは太陽光が豊富なので住宅・駐車場等への太陽光発電の設置で石炭火力は減らすことすらできる。また、EVは、HVよりずっと部品点数が少ないため安価に製造できる。従って反論が非論理的すぎ、このような反論を続けてスズキがHVの量産に資金を投入すれば、原発への固執と同様、無用な寄り道をして各国の自動車会社に敗退することになるだろう。


    インド、グレーターノイダの「オートエキスポ」で展示されているEV

*8:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13356989.html (朝日新聞 2018年2月13日) インド、国策EVの風 普及へ税制優遇で後押し
 拡大するインドの自動車市場で電気自動車(EV)への注目が集まっている。首都ニューデリー郊外のグレーターノイダで開かれている自動車ショー「オートエキスポ」では、EVの普及を掲げるインド政府の意向を受け、各社が試作車などを次々と公開。普及への期待は強まるが、課題も多い。
■広い国土、充電設備課題
 「今こそ、インドがEV大国となるようあらゆる推進策に注力していく」。ショーの会場を訪れたインド・タタ自動車のブチェック最高経営責任者(CEO)はこう語り、EV化を進める姿勢を強調した。タタは会場に「スマート・エナジー・ゾーン」を設け、小型セダンやバスなどEVを6台展示。ブチェック氏は「年内にもEVの発売を始めたい」と語った。オートエキスポは2年に1回開かれ、部品メーカーも含めて1300社が参加するインド最大の自動車ショーだ。インドの2017年の新車販売は400万台を超え、ドイツを抜き世界4位。成長市場で各社はEVに注目する。EV販売で先行するインドのマヒンドラ・アンド・マヒンドラも様々なEVの試作車を公開。バスやSUV(スポーツ用多目的車)、三輪車のほか、渋滞をすり抜けられる超小型車など8台を展示した。韓国の現代自動車は19年にもEVをインド市場に投入予定で、EV「アイオニック」を展示した。背景にはインド政府の方針がある。昨年、2030年までにすべての自動車販売をEVにするとの目標を掲げた。昨年7月から税制優遇でEVを後押しし始めた。電気モーターで走るEVの税率は12%に抑え、モーターとエンジンを併用するハイブリッド車(HV)は43%に引き上げられた。ニティン・ガドカリ道路交通相は、朝日新聞の取材に「インドにとって原油の輸入に依存するのは財政的に大きな問題だ。大気汚染も深刻で、排出のないEVが最適だ」と話す。ただ、EV普及には課題も山積みだ。広い国土での充電設備の整備が必要で、そもそもインドでは停電が多い。石炭火力発電の割合が6割と高く、EV拡大で石炭火発が増えれば、二酸化炭素の排出量は減らない。さらにEVは高価になりがちで、成長途上のインドで販売が増えるかも未知数だ。インド自動車工業会は、新車販売に占めるEVの割合は30年時点で3~4割にとどまるとみる。政府内でも、30年までの目標達成は不可能だとして見直しを求める声がある。
■日系はHVも重視 目前の規制に対応
 HVで先行する日系メーカーは、インド政府のEV推進策への対応を迫られる。新税導入後、HVの売れ行きは軒並み落ちている。ただインドでは20年以降相次いで、排ガス規制や燃費規制が強化される。目先の規制をクリアするには「HVが現実的な解」(自動車アナリスト)として、当面はHVを重視する構えだ。インド最大手でスズキ子会社のマルチ・スズキはショーにEV試作車を出品し、20年に市販する。HVの量産も急ぐ。モディ首相の地元州に工場を建て、20年からHVを生産する。マルチ・スズキの鮎川堅一社長は「EVは突然の動きで、国も業界もまだ地に足がついていない」としたうえで、「インド政府の強い考えには応えていくが、EV化がすべてではない。HVも一つのソリューションだ」と話した。トヨタは昨年12月、20年代前半にインドでEVを売り出す方針を発表した。トヨタの17年のインドでの販売台数は前年比6・7%増の14万台。台数はまだ少ないが、今後も成長が見込めるとみて環境規制にも対応する方針だ。EVやHVが注目されるが、市場の中心はエンジン車で、各社は戦略車を投入している。ホンダは八郷隆弘社長がショーに出席。「インドはホンダにとって重要な市場の一つ」と述べ、新型の小型セダン「アメイズ」を世界で初公開した。バイクから自動車への乗り換え需要をねらう。2017年の新車販売は17万9千台で前年比10・9%増。アメイズをてこにさらなる飛躍をねらう。成長市場での競争は激しい。韓国の現代自動車グループ傘下の起亜自動車と中国の上海汽車集団は、いずれもインドに参入することを表明。生産準備を進めている。

<鉄軌道について>
PS(2018年2月13、18日追加):*9-1のように、今まで鉄道のなかった沖縄で、「那覇⇔浦添⇔宜野湾⇔北谷⇔沖縄⇔うるま⇔恩納⇔名護」のルート案を、有識者の検討委員会が推奨決定したそうだ。私は、鉄道を導入するのなら、那覇市内などの既開発地域は地下鉄がよいとしても、それ以外は、海が見えるように鉄道を作って景色を眺めながら走れるようにするのがよいと考える。しかし、乗用車だけでなくバスやトラックも電動化するため、道路を3階建てにして最上階はバスなどの公共交通機関のみ走らせれば、鉄軌道でなくても環境汚染や渋滞はなくなるし、3階部分に鉄道を敷設することも可能だ。また、沖縄は太陽光が豊富で自然が売りの離島であることから、スイスのマッターホルンの麓の町ツェルマットのように(https://www.zermatt.ch/jp/zermatt-matterhorn 参照)、自然エネルギーとEVの導入を素早くやれば、それを見て感心する国内外の観光客は多いだろう。
 このような中、*9-2のように、JR九州は鉄路削減をしようとしているが、どうしても貨物や乗客を増やすことができず、送電線を敷設して収益を上げることもできず、数人の高校通学者のためだけにがら空きの電車を走らせているのなら、廃線にしてバス会社が必要な時間帯に小型EVバスを走らせる方法もある。しかし、収益は全体として上がるものであるため、「“鉄道カンパニー”が大赤字のままでは、鉄道以外の事業の発展もない」というのは正しくない。なお、*9-3のような自動運転が在来線やバスに導入されれば損益分岐点はさらに下がるが、それらをどう組み合わせるかは、何をどこに配置して何で稼ぐのかという近未来の総合計画があって初めて決定できることだ。
 なお、*9-4の琉球新報2月18日に、「大手スーパーの複合商業施設拡張展開にあたり、県道38号をまたぐ空中通路構想が浮上している」と書かれているが、県道38号を3階建にし、2階を乗用車・トラック、3階を公共交通機関専用道にして、大手スーパーの駐車場を2階部分、公共交通機関の停車駅を同3階部分に設置すれば、既にある土地を有効に利用して渋滞をなくすことができ、水害に強くて便利な街づくりができる。東京では渋谷駅ビル内の東急百貨店がそうで、私は東急百貨店はそこしか行かない。そして、県道の1階部分は、歩行者・二輪車専用道と、ブーゲンビリアなど本土から見れば珍しい沖縄の花咲く緑地公園にするのがよいだろう。


台湾の鉄道と地下鉄路線  台湾の高速鉄道        2018.2.12西日本新聞 

*9-1:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-655103.html (琉球新報社説 2018年1月29日) 鉄軌道の推奨ルート 総合交通体系の視点必要
 沖縄本島の鉄軌道導入に向けて、県が設置した有識者の検討委員会が推奨ルート案を決定した。那覇から浦添、宜野湾、北谷、沖縄、うるま、恩納を通り、名護に至る「C派生案」だ。過度に自動車に依存した沖縄の交通体系は、もはや限界に来ている。鉄軌道だけではなく、バスやモノレール、タクシーなどと連携した総合的な公共交通体系の観点から包括的に議論し、今後の計画を進めていくべきだ。沖縄鉄軌道計画検討委員会(委員長・森地茂東京大名誉教授)は那覇と名護を1時間で結ぶ七つのルート案を比較検討してきた。(1)利便性(2)採算性(3)事業費と建設期間(4)施工性と環境への影響-を基に、推奨ルートを絞り込んだ。事業費は約6100億円と最安ではないものの、集客地域の広さや乗客数から最良と判断した。慢性的な渋滞は沖縄が抱える積年の課題だ。経済的損失、時間的損失に加えて、観光イメージの悪化、環境や健康への負荷など多方面に悪影響を及ぼす。本紙が今月から始めた連載「交通改革-未来への地図」では、渋滞による弊害が多角的に報じられている。那覇市の混雑時の自動車の走行速度(2012年度)は時速16・9キロと全国ワーストで、14年度はさらに悪化した。車社会は加速しており、17年の自動車保有台数は113万台と30年間で2倍以上に増えた。レンタカーも年々増え3万5千台に達している。一方で、鈍化したとは言え、バス離れも深刻だ。16年度の輸送人員は約2600万人。30年間で3分の1に減った。陸上交通全体に占める鉄道・バスの人員輸送の割合は沖縄はわずか3・2%で、全国平均29・9%の10分の1だ。自家用車が9割と極端に高い。鉄軌道の整備には渋滞解消への期待も大きい。そのためには他の交通機関との有機的な連結も欠かせない。検討委は基幹の鉄軌道から分かれる支線は路線バスの活用を提言している。次世代型路面電車(LRT)やバス高速輸送システム(BRT)なども同時に考えるべきだ。推奨ルートで懸念されるのは、大半が地下トンネル方式になっている点だ。用地買収期間の短縮という利点はあるかもしれないが、建設コストが膨らみ、実現性が遠のいてしまうのではないか。国は採算性の厳しさを理由に沖縄の鉄軌道整備に慎重姿勢だ。しかし、国などの公共予算で整備し、鉄道会社は運行に専念する「上下分離方式」がある。検討委の試算では、上下分離だと開業後30年で黒字化できる見通しだ。整備新幹線は上下分離で進められている。沖縄は戦後、国鉄の恩恵も受けていない。戦後補償の一環として、上下分離で国が関わるべきだ。検討委は2月から意見を公募する。多くの県民の声を反映した鉄軌道にしてほしい。

*9-2:http://qbiz.jp/article/127888/1/ (西日本新聞 2018年2月12日) 鉄路削減に諦めと困惑 JRダイヤ改正 対象列車ルポ 「慣れた学校通いたい」「乗客少なく仕方ない」
 3月17日のダイヤ改正で、1日117本の運行本数削減などを計画するJR九州。沿線自治体から改正見直しの要望を受け一部の修正方針を固めたが、削減の大枠は変わらない見込みだ。運行取りやめが予定されている列車に乗車し現状を見るとともに、利用者や沿線住民の声を聞いた。1日午後9時半すぎ、宮崎県都城市のJR都城駅。待合室に利用客の姿はまばらだ。「最終列車がなくなったらどうすればいいのか…」。吉都線の列車を待っていた都城工業高2年の柿木大地さん(17)は戸惑いを隠さない。バレーボール部の練習後、帰りはいつもこの時間だ。ダイヤ改正で列車がなくなれば親の迎えが必要になる。「困ったなという感じ」とつぶやき、列車に乗り込んだ。午後9時45分、記者を含めて17人を乗せた2両編成の列車は、吉松駅に向けて動きだした。車内は多くが制服姿の学生で、飲み会帰りとみられるサラリーマンの姿もちらほら。乗客の1人に声を掛けると、都城泉ケ丘高の定時制に通う男子生徒(16)だった。通学に利用しており、この列車がなくなれば、通信課程がある宮崎市内の高校への転校も視野に入れなければならないという。「親は深夜に働いており送迎は難しい。環境が変わるのは不安だし、慣れ親しんだ学校に通い続けたい」と訴えた。JR九州はこの最終列車について、定時制高校生の通学を考慮し、学校のある平日のみ、運行を継続する方針に転換した。小林駅で大半の乗客が降り、車内は記者を含め3人に。えびの駅で塾帰りの女子高生が下車すると、終着駅の吉松まで乗車したのは記者だけだった。
   §    §
 翌朝、午前10時5分吉松発の都城行き減便対象列車にも乗車した。通院で利用する高齢女性、近隣の街に遊びに出かける女子高生5人組、パチンコをしに行くという高齢男性…。車内には空席が目立つ。入院中の妹の見舞いに行くという鹿児島県霧島市の境田タエ子さん(80)は「いつもは夫の運転する車で行く。こんなに乗客が少ないのでは、減便も仕方ないのかなと思う」と話した。鉄道は生活の足だけでなく、観光資源としての役割も大きい。吉松−鹿児島中央を1日2往復する観光列車「はやとの風」は平日の定期運行を取りやめる計画だ。午後3時1分の吉松発列車の乗客は、2両編成の車内に老夫婦や訪日外国人客など記者を含めて18人。停車駅のJR嘉例川駅周辺で町おこしに取り組む団体の山木由美子委員長(70)は「1日1往復でもいいから、平日も維持してもらいたい」としつつも、「『はやとの風』に頼らずに観光客に来てもらえる取り組みも考えないといけない」と前を向いた。
●鉄道部門の効率化が必要 古宮洋二・JR九州常務鉄道事業本部長
 ダイヤ改正の狙いや見直しの方針などについて、JR九州の古宮洋二常務鉄道事業本部長に聞いた。
−大規模な減便を含むダイヤ改正の狙いは。
 「JR九州発足後、列車本数は1・8倍に増えたが利用者は1・3倍にとどまる。線区別に見ると利用者が減っているところもある。各エリアでのローカル線の意義を確認しながら、効率的に列車を動かすように検証した結果だ」
−不動産など好収益事業で補填(ほてん)し、鉄道を維持すればよいとの意見もある。
 「“鉄道カンパニー”が大赤字のままでは、鉄道以外の事業の発展もない。株式上場が全く関係ないとは言わないが、民営化後30年間ずっと効率化に取り組んできた。増収施策や効率化で鉄道部門を良くしていく役目がある」
−自治体などからは見直しを求める声が大きい。
 「必要であれば検討する。(ダイヤ改正後の)時刻表の発表時期を考えると今の時点で大きな見直しは難しく、一部修正になると思う。改正後も足りない部分は対応する」
−自治体とのコミュニケーション不足だったようにも映るが。
 「沿線自治体それぞれに多様な意見があり、非常に難しいところ。最大公約数を見つけるのがダイヤ改正であり、どこに重点を当てるかは会社の判断だ」
−どう理解を得るか。
 「定期的に地元の方々とつながりを持っていくことは必要と思っている」

*9-3:http://qbiz.jp/article/127896/1/ (西日本新聞 2018年2月13日) JR九州が自動運転研究に着手 19年度にも試験運行 大量退職に備え
 JR九州が在来線への自動運転の導入に向けた研究を進めていることが分かった。早ければ2019年度中の試験運行を目指す。自動運転技術の活用で乗務員の負担を軽減し、人材不足や将来的な大量退職などに対応したい考えだ。同社によると、部署を横断したプロジェクトチームを1年ほど前に編成し、メーカーも交えながら自動運転技術について研究。発車から停車までを自動で行い、乗務員は安全の確保などを担う仕組みを想定している。導入線区については「検討中」としているが、投資効果が期待できる都市部を視野に入れているとみられる。背景には人材確保が厳しさを増していることや、旧国鉄時代に採用した社員の大量退職を控えていることがある。自動運転の導入により、高齢の運転士や運転士の資格を保有しない社員の活用が期待できるという。事故や故障など異常時の対応や、国が省令で定めた技術基準との整合性など課題はあるが、古宮洋二常務は「チャレンジすることが社員の意欲向上にもつながる」と期待を寄せる。国内では東京の新交通システム「ゆりかもめ」や神戸新交通の「ポートライナー」などが既に無人化。九州でも福岡市営地下鉄が自動運転を導入しているが、JR各社が実施した事例はない。

*9-4:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-667384.html (琉球新報 2018年2月18日) サンエー西原シティに「空中通路」構想 県や町などと議論
 2020年9月の完成に向けて関係自治体などが協議している沖縄県内最大手スーパー、サンエーの複合商業施設「西原シティ」(西原町)の拡張展開について、既存の施設に隣接して増築する0・45ヘクタールの部分と西原町役場跡地に新築する1・64ヘクタール部分を、県道38号をまたぐ「空中通路」でつなぐ案が持ち上がっている。14日に那覇市の県市町村自治会館であった2017年度第3回県都市計画審議会で県から中間報告があった。ただ道路規制上の問題もあり、空中通路の実現について県都市計画・モノレール課の担当者は「あくまで構想段階」との認識を示している。8月の県都市計画審議会で拡張展開の妥当性が承認されれば、事業者側が増築に向けて着工できるよう県や西原町は各種手続きを進める。

<長所を活かした沖縄の発展>
PS(2018.2.15追加):*10-1のように、久間元防衛相や森本元防衛相が、辺野古や普天間基地の必要性を疑問視しておられ、私も海上にある日本の国境を護るためであれば、それに近い離島や半島に陸海空の自衛隊を配置するのが合理的だと考える。そして、現在、日本海は対馬に陸海空1セットあり、東シナ海は、(反対も多いが)宮古・与那国・石垣島に自衛隊基地が整備されようとしている。従って、沖縄本島にある広大な米軍基地や自衛隊基地は必要最小限まで整理・統合し、その跡地を使って、*10-2のような翁長知事の「アジアの中心に位置する地理的優位性とソフトパワーを生かした味諸国(東南アジア諸国)との経済交流や連携」「教育の充実」を行うのが最もよいだろう。そして、*10-3のようなスマートシティーを作るためにも、既存施設のない広い敷地の存在は好条件である。
 なお、沖縄の長所は、*10-4のように、平均寿命が女性7位と長いことだ。男性が36位に落ちたのは、死因別の死亡率で肝疾患が全国一高い値を示していることから、夜中に集まって泡盛などを飲む習慣が原因で、糖尿病が多いのは地元産の砂糖をよく食べるからだろう(女性の平均寿命が最も長い長野県は、食生活の改善や健康診断に本気で取り組んできたのだ)。そのため、私は、沖縄は、東南アジア諸国や日本国内を視野に、空港近くに、温暖で環境の良い沖縄で人間ドック・医療・リハビリなどを行うことができるような施設を作ってはどうかどうかと考える。それには、*10-5に書かれているような介護人材はじめ医療関係の専門人材を確保することが課題となるが、沖縄なら、国内だけでなく海外の人材も広く使えるのではないだろうか。


              2017.12.13琉球新報        2018.2.15日経新聞
                平均寿命          スマートシティーの可能性

*10-1:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-664764.html (琉球新報社説 2018年2月14日) 久間元防衛相発言 新基地の正当性揺らいだ
 米軍普天間飛行場返還を巡り、名護市辺野古の新基地建設の正当性を揺るがす発言である。普天間飛行場の返還合意時に防衛庁長官を務めた久間章生元防衛相が「辺野古でも普天間でもそういう所に基地がいるのか。いらないのか」と必要性を疑問視した。琉球新報のインタビューに応えた。久間氏は軍事技術が向上し、ミサイル防衛態勢の強化や無人攻撃機といった防衛装備品の進歩などを挙げ「あんな広い飛行場もいらない」と飛行場建設に疑問を投げ掛けた。重い問い掛けだ。「辺野古が唯一」と繰り返し、別の選択肢を検討しない日本政府の硬直した姿勢が沖縄との対立を生み、解決を遅らせている。思考の転換が求められる。例えば、民間のシンクタンク「新外交イニシアティブ(ND)」は、米軍の運用を見直せば、新基地を建設する必要はないと提言している。これまで政府は、普天間飛行場を県外ではなく県内に移設する理由として地理的、軍事的理由を挙げていた。しかし、2012年に森本敏防衛相(当時)はまったく違う発言をしている。「例えば、日本の西半分のどこかに、三つの機能(地上部隊、航空、後方支援)を持っているMAGTF(マグタフ=海兵空陸任務部隊)が完全に機能するような状態であれば、沖縄でなくてもよい。軍事的に言えばそうなる」と述べている。軍事的理由から県外移設は可能という認識を示した。だが、森本氏は「政治的に考えると沖縄が最適地だ」と述べている。返還合意時の官房長官だった故梶山静六氏は、普天間飛行場の移設先が沖縄以外だと「必ず本土の反対勢力が組織的に住民投票運動を起こす」との書簡を残している。今国会で安倍晋三首相も「移設先となる本土の理解が得られない」と答弁した。これらの発言から、政治的な理由で沖縄に基地を押し付けていることは明白である。他府県の意見は聞くが、沖縄の民意は無視するというなら差別でしかない。一方、久間氏は、普天間返還交渉で米側が「辺野古に造れば(普天間を)返す」と提案し、政府もこれに「乗った」と証言している。なぜ辺野古なのか。米側は1966年に辺野古周辺のキャンプ・シュワブ沖に飛行場と軍港、大浦湾北沿岸に弾薬庫建設を計画していた。辺野古の新基地はV字滑走路、強襲揚陸艦が接岸できる岸壁が整備され、辺野古弾薬庫の再開発を加えると、過去の計画と酷似している。普天間飛行場の移設に名を借りて、基地機能を再編・強化しているのである。政治的理由で辺野古に新基地を押し付け、基地の整理縮小で合意した日米特別行動委員会(SACO)最終報告に反する行為に、正当性があるはずがない。

*10-2:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-664933.html (琉球新報 2018年2月14日) 「県民に大きな不安と衝撃」 米軍機トラブル頻発受け 翁長知事が県政運営方針
 沖縄県議会2月定例会が14日開会し、翁長雄志知事が2018年度の県政運営方針を発表した。米軍機の不時着や部品落下が頻発していることに触れ、「県民に大きな不安と衝撃を与えている。事件や事故、それに対する日米両政府の対応は今後の日米安全保障体制に大きな影響を与える恐れがある」と指摘した。米軍普天間飛行場の移設に伴う辺野古新基地建設について「辺野古に新基地は造らせないということを引き続き県政運営の柱に全力で取り組んでいく」と語った。普天間飛行場について「固定化は絶対に許されない。残り約1年となった『5年以内の運用停止』を含めた危険性の除去を政府に強く求めていく」と強調した。経済面では「アジアの中心に位置する地理的優位性と沖縄が誇るソフトパワーなどの強みを生かし、味諸国との経済交流に向けた連携を強化する」とした。子どもの貧困対策については「基金を活用し、市町村における就学援助の充実などを促進し、国と連携し、県立高校内の居場所設置などを引き続き取り組む」と語った。

*10-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180215&ng=DGKKZO26889260U8A210C1MM8000 (日経新聞 2018.2.15) ベトナムにスマート都市 官民で中国に対抗、住商など、生活インフラ4兆円開発
 日本の官民がベトナムで最先端技術を結集したスマートタウン(総合2面きょうのことば)を建設する。自動運転バスや、IT(情報技術)を活用した省エネルギー機器を備えた街を2023年までに完成させる。住友商事、三菱重工業など20社以上と経済産業省が参画。交通渋滞や大気汚染に悩むアジア各国に新たな都市のモデルを示す。中国の影響力が高まる東南アジアで、親日ぶりが際立つベトナムとの関係も深める。日本企業が発電所や鉄道のような個別の大型インフラだけでなく、身近で最先端の生活インフラを「街ごと」輸出できることを示す。住商が中心となり、地元不動産大手のBRGグループと提携して開発。日建設計が街全体をデザインする。首都ハノイの中心地から北に車で15分ほどの土地310ヘクタールを開発する。第1期は18年10月にも着工し、19年末までに7000戸のマンションと商業施設などを整備する。中間所得層を対象に1戸1000万~1500万円程度で販売する。このほど地元当局から40億ドル(約4400億円)の投資認可が下り、まず住商やBRGが10億ドルの初期投資をする。排ガスを出す自動車とバイクの利用を減らすため、三菱重工が自動運転バスを提供するほか、電気自動車の充電基地を設ける。パナソニックがスマート家電、KDDIがスマートメーターなどのITシステムを導入し、省エネにつなげる。住宅には太陽光発電設備や生ごみのリサイクル装置も設置する。第1期の周辺の土地も開発する。計画地にはハノイの都市鉄道2号線が25年をめどに延伸される見込み。鉄道などの交通インフラや駅ビルを含む事業規模は「4兆円近くに達する」(日本企業関係者)とされ、日本企業を中核とした海外の都市開発で最大規模となる。各社が調達する資金に加え、日本の政府開発援助(ODA)やベトナムの補助金を活用する。ベトナムは世界有数の親日国。中国と南シナ海の島々の領有権を巡って対立しており、日本に接近しているため、日本企業は投資しやすい。日本政府にとっても、アジアへの影響力を拡大する中国に対抗するうえで、ベトナムとの関係を強化する意味は大きい。中国は広域経済圏構想「一帯一路」を掲げ、価格競争力を強みにアジアでインフラ受注を拡大している。これに対し、安倍晋三政権は安全や環境にも配慮した「質の高さ」で受注する考えで、今回のハノイのスマートタウンも安倍政権の方針に合わせた開発とする。アジアでは都市への人口集中が急速に進んでいる。国連によると、都市人口は15年までの10年間で30%増と世界全体の伸び率(24%)を大幅に上回る。25年までの10年間でも21%増と高水準の伸びが続く見込みだ。交通渋滞や劣悪な住環境などの問題を抱え、各国では先端技術を活用したスマートタウンへの関心が高い。シンガポールの官民もマレーシアなどでスマートタウンの開発を手掛けている。日本企業はアジア各地で都市開発に参入している。インドネシアで事業費約2兆3千億円に上る大規模開発の一部に三菱商事が参加するといった例が出てきたが、多数の有力企業が先端技術を持ち寄る例はなかった。

*10-4:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-630080.html#prettyPhoto (琉球新報 2017年12月13日) 〝長寿沖縄〟復活遠のく 平均寿命、沖縄は女性7位、男性36位 順位後退に歯止めかからず 厚労省発表
 厚生労働省は13日、平均寿命などをまとめた「2015年都道府県別生命表」を発表した。沖縄県の平均寿命は女性が87・44歳となり、全国7位で前回調査(10年)の3位(87・02歳)から順位を落とした。男性も全国36位の80・27歳で、前回の30位(79・40歳)から下がった。男女とも全国と比較した平均寿命の延びが鈍く、順位後退に歯止めがかかっていない。「健康長寿・沖縄」の面影はすっかり薄れている。平均寿命は厚労省が人口動態統計や国勢調査などを用いて5年ごとにまとめている。最も高かったのは男性が滋賀県(81・78歳)、女性が長野県(87・67歳)だった。最も低いのは男女とも青森県で、男性78・67歳、女性85・93歳。男女とも全都道府県で前回より平均寿命が延びた。沖縄県は日本復帰後の1975年調査からデータがあり、女性が05年調査まで全国1位を維持したが、前回の10年調査で3位となり初めて順位を落とした。男性も2000年調査で4位から26位に急落し、その後も下降傾向が続く。順位後退の理由に挙げられるのが、平均寿命の延び悩みだ。10年と比較した寿命の延びは全国平均が男性1・18、女性0・66だったのに対し、沖縄は男性0・87(都道府県別41位)、女性0・42(同42位)と全国値を下回った。死因別の死亡率では、沖縄の男女の肝疾患が全国一高い値を示したほか、女性の糖尿病も全国一だった。同様な傾向は一貫して続いており、過度のアルコール摂取や肥満率の高さとの関連などが指摘されている。前回調査の結果を受け、沖縄県は14年に「健康長寿おきなわ復活県民会議」を立ち上げるなど、長寿日本一の復活を掲げてきたが、道のりは険しくなっている。

*10-5:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-656400.html (琉球新報社説 2018年1月31日) 介護報酬改定 専門人材確保が課題だ
 高齢者の自立を促して生活の質を高め、介護費用の抑制を図る。理想的な一挙両得策に見えるが、国の狙い通りに高齢者の要介護度の改善を促すには、自立型を支援する介護施設と専門知識を備えた職員が必要だ。人材の確保は大きな課題である。厚生労働省が3年に1度の介護報酬の見直しの内容を公表した。リハビリによって高齢者の自立支援や重度化防止を進める事業所に配分を重点化するのが特徴だ。終末期の高齢者が増えていることを背景に「みとり」へ対応する介護施設への報酬を加算する。高齢者の自立支援に努力した事業所に報いる狙いは評価できる。現在の仕組みでは要介護の状態が悪化すれば費用も増える。逆に質の高いサービスで高齢者の状態が改善すると、事業所は減収となる。これはおかしいとの指摘は以前からあった。実際に福井県や岡山市など一部自治体は、成果を上げれば報酬を払う独自の仕組みを既に導入している。ただ、今回の「報酬」加算は1人当たり月30~60円で、認定も複雑だ。即、効果が出るとは考えにくい。さらに高齢者の生活を支える介護予防やリハビリ、状態の回復には、自立支援型ケアの手法の確立が必要となる。それにはさらに専門性を持つ人材が必要だ。しかし、介護分野の人材不足は深刻化している。介護職員の平均給与は月約22万円と全業種より10万円以上安く、離職率も高い。人手不足が職員の負担増を招く悪循環になっている。逆に家事代行などの生活援助サービスは報酬を引き下げる。ただ、独居などでヘルパーらによる家事援助で生活を維持できている高齢者も多い。個々の事情に応じた援助も必要だ。今改定では訪問介護のうち生活援助について、研修を受けた幅広い人材の参入を図る。介護福祉士など専門性のある職員は身体介護に集中してもらうためだ。介護の質を維持するための研修なども欠かせない。介護報酬は介護サービスを提供する事業者に支払われる報酬で、いわば価格表だ。利用者の自己負担は1~2割で、残りを40歳以上が支払う保険料と国、地方の税金で賄っている。報酬を引き上げるとサービスの充実が期待される半面、利用料や保険料は上がる。今年4月の改定では全体で0・54%の引き上げが決まり、国の必要財源は約140億円増える。現役世代や国、自治体の財政を圧迫することになる。団塊の世代が全て75歳になる2025年の超高齢社会に向けて、いかに介護費用の膨張を抑えつつ、介護ニーズの増加に対応するかは難しい課題だ。しかし、介護保険の趣旨が社会全体で介護を支えることである以上、知恵を絞って持続可能な介護制度へ向け、対策を模索するしかない。

PS(2018年2月21日追加):*11-1のように、沖縄県では農畜産業の労働力に関して約6割の自治体が労働力不足としており、農業特区の外国人材は活動範囲の広さなどで関係者の期待が大きく、JA沖縄中央会の担当者は「特区の導入は必要で、特区に期待している」と述べたそうだ。一方で、*11-2のように、ロヒンギャ難民約5300人は、バングラデシュとの国境地帯に留まっており、赤十字やUNHCRが支援物資の配布を始めているそうだが、あの状態でミャンマーに帰れるわけがない。そのため、私は、農畜産業・林業・食品加工・織物などは、適切な指導者の下では、教育がなく日本語を話せなくてもできることも多いため、これらの難民を受け入れて雇用すればよいと考える。子は日本の法律に従って義務教育から始め、親子とも望む人には中等・高等教育を受けさせられる準備が、*11-3のような国際大学の設置や教育の実質無償化によって既にできつつある。

*11-1:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-669143.html (琉球新報 2018年2月21日) 経済:労働力不足、農業も深刻 沖縄、6割の自治体「不足」 花卉、野菜、キビ…外国人受け入れに期待も
 沖縄県内の農業・畜産業の労働力に関して都市部以外の市町村を中心に、約6割の自治体が「労働力が不足している」と認識していることが、県の調査で20日までに分かった。品目別では花卉(かき)、野菜、サトウキビなどで不足し、12月~3月の冬春期に不足人数が多かった。他の期間にも常に100人以上が不足するなど、農業の労働力不足の深刻さが浮き彫りとなっている。県が導入を検討する国家戦略特区の農業の外国人材の受け入れに関し、県農林水産部が調査した。調査は昨年12月から今年1月、県内41市町村と農業関係11団体を対象に実施。市町村の労働力不足については、29市町村が回答し、18市町村(62%)が「不足している」と答えた。農業団体の調査で農業生産に関わる労働力不足人数を月別に見ると、12月から3月までの冬春期に最大282人が不足していた。沖縄は県外が寒くなる冬春期に農業生産が活発で、とりわけ季節性があり通年雇用が困難なことから労働力の確保が難しいとみられる。年間を通じて100人以上が不足していた。花卉や野菜・キビなどの「耕種分野」は145の経営体で外国人材の雇用を要望しているが、一方で「畜産分野」の要望は8経営体にとどまった。畜産では海外の伝染病などの侵入を懸念し、受け入れに慎重な声もある。アンケートでは他に、外国人材の採用に関し、言語や生活習慣の違い、農業技術の流出などの課題が挙がった。労働力の確保には前向きな意見もある半面、国内の若手就労者、後継者などへの支援充実に注力すべきとの指摘もあった。現在、県内で受け入れが進む外国人技能実習生と比較して、農業特区の外国人材は活動範囲の広さなど関係者の期待も大きい。JA沖縄中央会の担当者は本紙の取材に「(特区の導入は)当然、必要だ。かなりの人数で労働力が必要となり、特区に期待している」と述べた。別の農業関係者は「外国人材に慎重な人もいるだろうが、潜在的な需要はまだまだある」と話した。

*11-2:https://ryukyushimpo.jp/kyodo/entry-669168.html (琉球新報 2018年2月21日) ロヒンギャ5千人が国境に 支援なく取り残されとUNHCR
 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)報道官は20日、ミャンマーでの迫害から逃れたイスラム教徒少数民族ロヒンギャ約5300人が隣国バングラデシュとの国境地帯にとどまっていると明らかにした。昨年8月以降、65万人以上のロヒンギャが難民としてバングラデシュに逃れた。帰還への準備作業も始まったが、国境地帯のロヒンギャには支援が行き届かず、事実上、取り残された状態だという。UNHCRによると、バングラデシュ南東の国境の無人地帯に約1300世帯がとどまっているのを確認。女性や子どももおり、赤十字やUNHCRが支援物資の配布を始めたという。

*11-3:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-663617.html (琉球新報 2018年2月12日) 初の式典、伝統織物が花を添え 沖縄科学技術大学院大の学位授与式に「読谷山花織」 アカデミックドレスフードに
 2012年の開学後、24日に初めての学位授与式を開く沖縄科学技術大学院大学(OIST、沖縄県恩納村)はこのほど、読谷山花織事業協同組合(池原節子理事長)と共同で、学位を授与される学生が身に着けるアカデミックドレスのフード部分を製作した。フード部分を織った我喜屋さんは「アカデミックドレスはなじみが薄く、製作イメージが湧きにくかった」と振り返りつつ、羽織った学生たちの姿を見て「素晴らしいドレスになり、感激した」と喜んだ。フードは、学位授与式で学長が学生に掛け、修了証書と同様の役割を果たす。学生がデザインし、同組合に所属する我喜屋美小枝さん(63)が織って完成させた。池原理事長は「読谷山花織は海外から600年前に伝わってきたと言われている。これを身に着け、世界を股にかけて活躍してほしい」と激励した。9日、フードをデザインしたOIST学生自治会のレショドコ・イリーナさん(30)=カザフスタン出身、ブリエル・山土林(サンドリン)さん(40)=フランス出身、渡辺桜子さん(30)=東京都出身=が読谷村役場に石嶺伝実村長を訪ねて、報告した。学位授与式の式典を担当する大学院事務局マネージャーのウィルソン・ハリーさんは「OISTは40カ国から学生が来ている。沖縄の伝統を入れたかった」と話した。学生側からも「卒業後も沖縄との絆をずっと持っていきたい」(レショドコさん)などの声が上がった。フードはOISTカラーの赤い糸で織り、読谷山花織の特徴の「金花(じんばな)」、「風車花(かじまやーばな)」と科学の象徴「正弦波」が織り込まれている。

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2017.9.17 精神障害者・ハンセン病患者に対する差別と最近の人権軽視への歩み (2017年9月21、24日、10月10日に追加あり)
  

(図の説明:左のグラフのように、精神病床の平均在院日数は日本が著しく高い。また、真ん中のグラフのように、統合失調症入院患者への向精神病薬投与量も日本が著しく高く、自閉症と診断される人もうなぎ上りに増えている。これは、日本人には特に重度の精神障害者が多いというわけではなく、診断と入院及び薬の投与方針の問題だろう)

  

(図の説明:左のグラフのように、ADHDと診断される子どももどんどん増え、子どもへの使用に関する安全性は疑問であるにもかかわらず、メチルフェニードの子どもへの処方が著しく増えている。これに加えて睡眠薬の処方も日本で著しく高いため、精神科の診断と睡眠薬を含む薬剤使用の妥当性について再検討する必要がある)

(1)精神障害者・知的障害者について
1)精神障害者を殺人犯になり易い人と理解するのは間違っていること
 植松容疑者が措置入院からの退院後に相模原市障害者施設「津久井やまゆり園」の入所者19人を殺害した事件を受けて、*1-1、*1-2のように、厚労省は、責任能力の有無を調べていると報道されている。これは、刑法第39条に、「①心神喪失者の行為は、罰しない」「②心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する」という古い規定があり、心神喪失者・心神耗弱者の定義が不明確であるにもかかわらず、精神障害者や精神障害の病歴のある人がこれにあたると非科学的に決めつけているからで、これは大多数の精神障害者に対する人権侵害である。

 しかし、植松容疑者の障害者殺害事件は精神障害が理由ではないため、精神障害者に対する監視強化等は福祉目的ではなく意味のない防犯目的の差別である。私は、①精神障害者が引っ越せば、その自治体に支援計画と呼ぶ監視計画を引き継ぐ(精神障害者と殺人犯を結び付けて監視する人権侵害) ②自治体・警察・病院が参加する協議会を設置して病気の個人情報を共有する(精神障害者と犯罪者とを結び付けて個人情報を開示する人権侵害) ③障害者差別解消法の理念を啓発(共生社会の推進) ④障害者の地域生活を支援(共生社会の推進)のうち、①②は精神障害者への言われなき差別を助長して、③④をやりにくくするものだと考える。

 そして、*1-4のように、東京都港区で厚労省のキャリア官僚女性が弟に包丁で刺されて死亡した事件も、弟は精神疾患での通院歴があり、警視庁が男の責任能力の有無を調べていると報道されているが、これは刑法第39条の規定を根拠としており、このような報道が続けば「精神障害者=殺人犯予備軍」という先入観ができる。

 さらに、*1-5では、埼玉県熊谷市で小学生2人を含む6人が殺害された事件で、強盗殺人などの罪で起訴されたペルー人のナカダ・ルデナ・バイロン・ジョナタン被告について弁護側が請求して実施された精神鑑定では、さいたま地検の鑑定と異なり、「精神疾患がある」という診断結果が出たそうだが、弁護側も罪を軽減するために刑法第39条をよく使い、冤罪の際にも刑法第39条を使ってうやむやにすることがあるのは、「殺人犯=精神疾患」というイメージを一般の人につけるという意味で、精神障害者に対する差別を醸成する人権侵害である。

 そのため、今回の厚労省の精神障害者と殺人犯を関連付けて精神障害者を監視するという再発防止策は、精神障害者に対する差別や人権侵害を無くすために、これまで培われてきた精神科の歴史に逆行する程度の低いものである。

2)知的障害者施設「津久井やまゆり園」について
 神奈川県の「津久井やまゆり園」を再生する案が、*1-3のように持ち上がり、入所者の意思を尊重したものだとも評価されたそうだが、知的障害者である入所者も、自宅から離れた交通の便の悪い場所で滅多に家族にも会えず積極的に集団生活をしたかったわけではないだろう。

 そのため、公聴会で、「入所者の意向を聞くべきだ」「時代錯誤だ」との批判が続出し、大規模施設の建て替え案が撤回されたのはよかった。私は、セキュリティーが悪く、当直の職員が身をもって防衛することもなく、植松被告が殺人するに任せておいた他の職員の意識にも疑問を感じている。

3)「殺人犯=精神障害者」というイメージの社会では、精神障害者の雇用が進まないこと
 *1-6のように、佐賀労働局と佐賀県は、佐賀県の経営者協会など経済4団体に、障害者の積極的な雇用を要請したそうだが、ここで言う障害者に精神障害者は入っているのだろうか?

 「殺人犯=精神障害者」というイメージがついた社会では、トライアル雇用など労働条件の悪い雇用でも難しいと思われるが、それが政府とメディアがまき散らした精神障害者差別の大きな問題点なのである。

(2)“発達障害”について
 最近、*2-1のように、“発達障害”として、「落ち着きがない注意欠陥・多動性障害(ADHD)」「読み書きや計算など特定分野が苦手な学習障害(LD)」「対人関係をうまく築けず、限られた対象にこだわる傾向(アスペルガー症候群)」など、何でも異常だと言うことが多いが、言語や知能に遅れがなければ周囲の“常識的”な大人が理解できなくても全く問題ない。

 何故なら、将来、周囲の“常識的”な大人には想像もつかないことを行って“常識”を変える人物かも知れず、別の面でとびぬけた能力を持っている人かも知れないからである。

 にもかかわらず、*2-2のように、いちいち発達障害として病気扱いし、*2-3のように、全国学力テストの結果として文科省に報告さえせず、一人前と見做さないでいると、本当にその子の将来性をつぶしてしまう。そのため、何でも異常だとしてしまう最近の子どもへの扱いは問題であり、人権侵害である。

(3)ハンセン病患者に対する差別
 *3のように、国がハンセン病患者に対する不要な隔離政策を行い、司法が加担して「密室の法廷」で死刑判決を下し、ハンセン病患者の人権が無視された差別助長の歴史に対し、国は、元患者らを差別や偏見の中に置き続けて精神的苦痛を与えたり、人生を台無しにしたりした責任をとって損害賠償すべきだ。

 しかし、現在でも、国は「精神障害者=殺人犯、犯罪者予備軍」というレッテルを張って監視することにより、病気の人に対する人権侵害の過ちを繰り返そうとしているわけである。

<精神障害者と殺人犯の関連付け>
*1-1:http://digital.asahi.com/articles/ASJD924FDJD9UBQU001.html (朝日新聞 2016年12月9日) 措置入院中から 退院後の支援計画
 相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者19人が殺害された事件を受けて、厚生労働省は8日、再発防止策の報告書を公表した。精神保健福祉法に基づく措置入院中から都道府県や政令指定市が支援計画を作成。植松聖(さとし)容疑者(26)の退院後に事件が発生したことから、自治体や医療機関が連携して退院後も患者を孤立させない仕組みをつくることが柱だ。
■厚労省 相模原事件 再発防止策
 有識者9人による厚労省の検証・再発防止策検討チーム(座長=山本輝之成城大教授)がまとめた。厚労省は報告書を踏まえ、精神保健福祉法改正案を来年の通常国会に提出する方針。報告書では、措置入院を決める都道府県や政令指定市に対し、すべての患者について入院中から退院後の支援計画づくりを求めた。計画に盛り込む支援内容は入院先の病院や居住する自治体の職員による「調整会議」で検討。会議には患者本人や家族の参加も促す。現行法では退院後の支援体制が定まっていないため、退院後もチームで支援を続けられるようにする狙いだ。患者が転居した場合には支援計画を自治体間で引き継ぐことも明記した。
■「監視強化」の懸念も
 相模原市の事件を受けた厚生労働省の再発防止策は、措置入院患者の退院後の継続支援に重点を置いた。ただ、障害者の監視が強まることへの懸念は残った。東京都内の診療所で働く精神保健福祉士の男性(50)は、自治体や医療機関などによるチームで連携することで、継続支援をしやすくなると評価している。治療を拒否する患者は多く、措置入院と通院中断を繰り返し、通院を続けるようになって症状が安定する人もいるためだという。「治療継続の重要性を患者本人が自覚できる働きかけが必要で、ネットワークが大切になる」。一方、自身も精神障害者という「全国『精神病』者集団」運営委員の桐原尚之さんは、現行の措置入院について「『社会防衛的』に運用されることがあり、多くの精神障害者のトラウマになっている」と指摘。事件の再発防止を理由にした退院後の継続支援であることから、「福祉目的ではなく防犯目的であることは自明だ。精神障害者を監視する方向に秩序化されるのではないか」と心配する。こうした懸念に対し、報告書をまとめた厚労省の検証・再発防止策検討チームの山本輝之座長(成城大教授)は記者会見で「あくまでも退院後、孤立せず安心して暮らせる支援体制を築くもので、精神障害者の利益にもなる」と強調した。退院後にいつまで支援は続くのか――。報告書は「国が一定の目安を示す」として方向性を示さなかった。患者の症状によって期間が異なるうえ、長くなれば自治体の負担が増えるため調整がつかなかった。厚労省が別途議論を進め、年度内に結論を出す予定だ。事件における警察の対応については「法令に沿ったもの」と触れるにとどめ、再発防止につながる検証結果などは明らかにされなかった。
■再発防止策のポイント
【入院中の対応】
・国が心理検査や薬物使用に対応するガイドラインを作成し、それに基づいて治療
・都道府県や政令指定市が病院職員らを交えた「調整会議」などの意見を参考に退院後の支援計画を作成
【退院後の対応】
・保健所を持つ自治体が支援計画に基づいて支援
・患者が引っ越せば、その自治体に支援計画を引き継ぐ
・自治体や警察、病院が参加する協議会を設置し、情報を共有
【共生社会の推進】
・障害者差別解消法の理念を啓発
・障害者の地域生活を支援

*1-2:http://digital.asahi.com/articles/ASJCF6286JCFUTFL002.html
(朝日新聞 2016年11月14日) 措置入院の患者情報、自治体間で共有へ 厚労省の原案
 相模原市の障害者施設で入所者19人が刺殺された事件で、厚生労働省は措置入院をした患者の個人情報を共有できるような制度改正を盛り込んだ再発防止策の原案をまとめた。自治体間の連携強化が狙いで、14日の検証・再発防止策検討チーム(座長=山本輝之成城大教授)で提示。11月中にも最終報告書を公表する。植松聖(さとし)容疑者(26)は退院後、「東京都八王子市で家族と同居する」としていたが、相模原市と八王子市は連携できていなかった。個人情報は原則、自治体間で共有できない。そこで措置入院について定めた精神保健福祉法を改正し、特例的に患者の精神症状や住所地などの個人情報を共有できるようにする。原案には、措置入院を決めた都道府県や政令指定市が、患者の入院中から家族らの情報も踏まえて中長期的な支援計画をつくる方針も盛り込んだ。この計画をもとに、患者が居住する自治体が退院後の生活や治療の相談にのる。病院は相談員を選び、患者の地域での生活に目を配る。また、警察や病院、自治体が地域ごとに集まる協議会を設け、措置入院を決める際の仕組みを強化。措置入院や退院を判断する精神保健指定医の研修には、薬物に関する課程を加える。原案に対して検討チームでは「(措置入院患者は)年間7千人ほどいるので、自治体や病院の負担が大きい」などの意見が出た。

*1-3:http://www.tokyo-np.co.jp/article/kanagawa/list/201709/CK2017090602000178.html(東京新聞2017年9月6日)【神奈川】やまゆり園再生案 入所者の意思尊重 評価
 昨年七月に殺傷事件があった知的障害者施設「津久井やまゆり園」(相模原市緑区)の再生基本構想案の説明会が五日、横浜市神奈川区で開かれ、全七回の説明会が終了した。この間、入所者の意思を尊重して居住先を決める仕組みを評価する意見が目立った一方、建て替え後も指定管理者が運営することに懸念を示す声もあった。神奈川区の説明会には、障害者団体の関係者ら約六十人が出席。「時間をかけて入所者の意思確認をする考えが盛り込まれて良かった」などと、構想案を前向きに捉える人が多かった。県が一月、定員百五十人規模での現地建て替えを発表した際の公聴会では、「入所者の意向を聞くべきだ」「時代錯誤だ」と批判が続出。県は大規模施設の建て替え案を撤回するとともに、入所者の意思を二年がかりで確認する仕組みを構想案の柱の一つにした。ただ、家族からは不安も漏2016年12月8日、措置入院患者の退院後の継続支援(支援と呼ぶ監視)という再発防止策を公表した。

*1-4:https://headlines.yahoo.co.jp/videonews/ann?a=20170813-00000013-ann-soci (Yahoo 2017/8/13) 死因は出血性ショック 厚労省女性キャリア官僚刺殺
 東京・港区で厚生労働省のキャリア官僚の女性が弟に包丁で刺されて死亡した事件で、女性の死因が腹を刺されたことによる「出血性ショック」だったことが新たに分かりました。52歳の男は12日午前5時半ごろ、自宅マンションで、姉の厚労省関東信越厚生局長・北島智子さん(56)の腹を包丁で刺し、殺害した疑いで13日朝、送検されました。その後の警視庁への取材で、北島さんは腹を複数回刺されたことによる「出血性ショック」で死亡していたことが新たに分かりました。男は「私がやりました」と容疑を認めています。男には精神疾患での通院歴があり、警視庁は、男の責任能力の有無を含めて当時の状況を調べています。北島さんは男と同居する母親の介助のため、事件前夜から泊まりにきていたということです。

*1-5:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/462726 (佐賀新聞 2017年9月12日) ペルー人被告「精神疾患」の診断、埼玉・熊谷6人殺害事件で再鑑定
 埼玉県熊谷市で2015年9月14~16日、小学生2人を含む6人が殺害された事件で、強盗殺人などの罪で起訴されたペルー人のナカダ・ルデナ・バイロン・ジョナタン被告(32)について弁護側が請求し実施された精神鑑定で、「精神疾患がある」との診断結果が出たことが12日、関係者への取材で分かった。さいたま地検が起訴前に実施した鑑定では「精神疾患なし」と診断されていた。裁判はさいたま地裁で年度内にも始まる見通し。異なる鑑定結果が出たことで、刑事責任能力が主な争点になる。事件は間もなく発生から2年となる。ナカダ被告は逮捕後の県警の調べに不可解な説明もみられた。

*1-6:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/460108 (佐賀新聞 2017年9月2日) 障害者の積極雇用を 労働局と県が要請
■経済4団体に
 9月の障害者雇用支援月間に合わせて、佐賀労働局と佐賀県は1日、県経営者協会など経済4団体に、障害者の積極的な雇用を要請した。他の要請先は県商工会議所連合会、県中小企業団体中央会、県商工会連合会。松森靖佐賀労働局長は県経営者協会で、前年度の県内のハローワークにおける障害者の就職件数が8年連続で増加した点を踏まえつつ、「精神障害者雇用が全体に占める割合が7・3%にとどまっている。積極的な採用を」と促した。協会側は「トライアル雇用などの多様な手段を使いながら、障害者雇用の機運を高めていきたい」と応じた。県内の障害者雇用率は2・43%で全国5位(昨年6月現在)。法定雇用率達成企業の割合は73・1%で6年連続で全国トップを維持している。

<発達障害>
*2-1:http://www.asahi.com/topics/word/%E7%99%BA%E9%81%94%E9%9A%9C%E5%AE%B3.html
(朝日新聞 2013年2月27日) 発達障害
 生まれながらの脳の機能障害が原因と考えられ、犯罪など反社会的な行動に直接結びつくことはないとされる。落ち着きがない注意欠陥・多動性障害(ADHD)、読み書きや計算など特定分野が苦手な学習障害(LD)などがある。アスペルガー症候群は対人関係をうまく築けず、限られた対象にこだわる傾向がみられるが、言語や知能に遅れがなく、周囲が障害を見過ごすケースも少なくない。文部科学省の調査(2012年12月)は、小中学校の通常学級の子の6.5%に発達障害の可能性があるとしている。

*2-2:http://www.nishinippon.co.jp/nnp/lifestyle/article/302604 (西日本新聞 2017年1月20日) 発達障害、進学先と連携を 総務省が文科、厚労両省に勧告
 総務省行政評価局は20日、自閉症やアスペルガー症候群などの発達障害を抱える児童・生徒に対する個人別の支援計画を、進学時に引き継ぐ仕組みが不十分だとして、文部科学省と厚生労働省に改善を勧告した。全国の計42施設を抽出した調査で、中学は卒業生の15%、高校は6%しか進学先へ計画を引き継いでいなかった。小学校は79%、保育所は35%、幼稚園は47%だった。計画の作成対象が施設ごとに異なる実態も判明。文科省の通知などは「必要に応じて」計画をつくるよう学校側に求めているが、医師の診断書を必要としたり、特別支援学級の児童に絞ったりというケースもあった。

*2-3:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-570430.html (琉球新報 2017年8月30日) <“学力向上”の現場>障がいある子、全国学力テストを問う、全国学力・学習状況調査、全国学テ
◆点に入れないで/「手の掛かる子」対象外に
 「標準的な学力が身に付いていないなら、入れなくていい」。沖縄県内南部のある小学校で昨年、発達障がいがある生徒が受けた全国学力テストの結果を、文科省に報告しなくていいと管理職が断言した。担任らは「子どもたちの実力を把握するための調査なのだから出すべきだ」と主張したが、通らなかったという。文部科学省によると全国学テの対象は該当学年の学習内容を履修できている全児童・生徒。知的障がいの診断が付くと対象外にされるが「学習内容を履修できているか」の判断は学校に任される。診断が付いていないグレーゾーンや、発達障がいがある児童・生徒を一律に対象から外したり、点数によって選択したりすることが、少なくない県内学校で行われている。情緒障がいやADHD、学習障害などがある児童・生徒が、通常学級に在籍しながら必要に応じて別教室で指導を受ける「通級指導教室」。県内の設置数は右肩上がりで、2017年には過去最多を記録した。通う子どもたちに知的障がいはないが、一斉授業では力を伸ばしにくく、教科などによって得手不得手が出る場合もある。「通級の子どもは、学テを受けても結果は文科省に出さない」と多くの教員が口をそろえる。県は「数人の調査結果を抜いても学校の平均正答率は大きく上下しない。点数が悪いからと、結果を報告しないことは考えにくい」と否定するが、現場教員は「平均点が取れるなら入れて、取れないなら入れなくていいと言われることもある」と明かす。学テの目的は「義務教育の機会均等と水準の維持向上」だ。だがわずかな点差を競い合う中で、全ての子どもの学習を保障するはずの「学力向上」の現場から、平均から外れる子どもたちが排除されている。「誰かの指示というより慣例」で通級学級の児童の結果を除外すると説明していた若手の小学校教諭は、記者と話をするうち「学力向上の対象に通級の児童が入る認識がなかった。恐ろしいことをしていたのかもしれない」と表情を変えた。

<ハンセン病患者差別>
*3:https://www.nishinippon.co.jp/nnp/syasetu/article/354631/ (西日本新聞 2017年8月30日 ) ハンセン病差別 司法が加担した罪を問う
 「密室の法廷」で下された死刑判決は妥当だったのか、重大な疑義があるのに司法が検証を拒むのは不当-として、国家賠償を求める訴訟が熊本地裁に起こされた。ハンセン病患者の誤った隔離政策に司法が加担し、差別を助長した歴史を踏まえ、国はこの訴えを重く受け止めるべきだ。訴えたのは熊本県でハンセン病患者とされた男性が殺人罪などで死刑判決を受け執行された「菊池事件」を巡り、裁判のやり直しを求めてきた支援者の元患者らだ。隔離施設内に設けられた「特別法廷」で裁かれた男性について、元患者らは差別的な扱いを受けた冤罪(えんざい)の疑いが強いとして、検察自らが刑事訴訟法に基づき「公益の代表者」として再審を請求すべきだと主張してきた。しかし、最高検は「再審の事由がない」とこれを拒み、元患者らは差別や偏見の被害回復を求める権利が侵害され、精神的苦痛を被ったと訴えている。再審の道が開かれない中で、国賠訴訟を通じて事件の真相に迫るのが狙いだ。熊本県の元役場職員を殺害するなどした罪に問われた男性は一貫して無罪を主張しながらも1962年、3度目の再審請求が棄却された翌日に死刑が執行された。最大の問題は、人権尊重や裁判の公開をうたった憲法に反した疑いが強い特別法廷である。最高裁が1948~72年に開廷を認めた事例は全国で95件に上る。最高検は今年3月、隔離法廷に関与したこと自体は認め、最高裁や日弁連に続き謝罪した。菊池事件は特別法廷で下された唯一の死刑事案とされる。元患者らの弁護団は冤罪の新証拠などを示すとともに、特別法廷の違憲性を明らかにしていく方針という。ハンセン病問題は、国の隔離政策を違憲とした2001年の熊本地裁判決(確定)後、元患者の救済策が進む一方、今も差別と偏見に苦しむ家族が国を集団提訴するなど、全面解決にはほど遠い。菊池事件が問うのは人権侵害に対する司法全体としての姿勢だ。真相を闇に葬ってはならない。

<共謀罪と個人情報運用も人権侵害の方向>
PS(2017年9月21日追加):*4-1のように、犯罪を計画段階で逮捕でき、そのためには監視社会になる「共謀罪」法案も国民の反対を無視して可決された。これは、安倍首相が人権侵害を好む人なのでは全くなく、官僚機構やそれに便乗して民主主義(国民主権)の理念を護るためではなく他の目的のために働く国会議員やメディアに原因がある。そのため、誰が首相になっても余程の気概と力がなければ「共謀罪」の廃止はできないと思われる。
 また、*4-2のように、総務省は、①個人が健康状態や購買履歴等の情報を一括で企業に預けて報酬やポイントを得る仕組みを作り ②データを預かる事業者は個人情報を匿名化した上で情報が欲しい企業に提供できるようにする とのことだが、民間企業の利用によって歯止めがなくなる上、個人から同意を取る形で次第に個人の選択の余地もなくなるため、この規制緩和は個人情報の過度な開示や利用による人権侵害に繋がる。
 つまり、近年は、民主主義や人権尊重の歴史に逆行する改革が次々と行われているのだ。

*4-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201709/CK2017091602000145.html (東京新聞 2017年9月16日) 【社会】「共謀罪」廃止へ集結 「監視を恐れず」「改憲つながる恐れ」
 犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法の廃止を目指す市民団体や法律家団体などでつくる「共謀罪廃止のための連絡会」は十五日、東京都千代田区の日比谷野外音楽堂で「共謀罪は廃止できる!9・15大集会」を開いた。約三千人(主催者発表)が参加し、「共謀罪は絶対廃止」などと声を上げた。連絡会は今月七日、「SEALDs(シールズ)」の元メンバーらがつくった「未来のための公共」や日本消費者連盟など十四団体が結成した。アムネスティ・インターナショナル日本の山口薫さんは「今、市民活動は危機にさらされている。法は施行されたが廃止できる。監視を恐れず、萎縮せず活動したい」と話した。「共謀罪対策弁護団」の三澤麻衣子事務局長は多くの弁護士で、摘発された場合の対策や予防を考えるとした。世田谷区の会社員横山淳さん(46)は「共謀罪の強行採決はひどかった。計画段階で捕まり、監視社会が進む。改憲の流れにもつなげられるのでは」と話した。民進党など野党四党の国会議員らは、二十八日からの臨時国会への廃止法案の提出を明らかにした。

*4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170828&ng=DGKKASFS25H54_X20C17A8MM8000 (日経新聞 2017.8.27) 個人情報 運用を一任、総務省、利用増へ事業者認定 データ利用先を自由に
 総務省は個人が健康状態や購買履歴などの情報を一括で企業に預け、ビジネスに役立ててもらって報酬を得る仕組みを作る。2020年をめどに、情報を預かって運用する事業者への認定制度を設ける。個人にとってはデータを預けて、その先の利用を運用者に任せる「簡易型」の仕組みだ。データの運用先まで個人が選ぶ「厳格型」と合わせて、政府は個人データをビジネスに利用する制度を整える。ビジネスに個人データを活用する仕組みは、実際に情報を使う企業まで個人が指定する「情報銀行(総合・経済面きょうのことば)」も政府内で検討が進んでいる。総務省が取り組むのは、運用者が一定のルールのもとで個人のデータを自由に利用できる仕組み。個人情報のビジネス利用は2本柱で設計が進む。総務省は新たな仕組みを「情報信託」と呼んで整理する。データを扱う事業者はIT(情報技術)系の企業やシンクタンクを想定する。個人はあらかじめ病院や銀行、旅行会社などのデータベースを事業者に指定し、病歴や資産情報、渡航履歴などの情報に運用担当者がアクセスできるようにする。データの開示範囲は個人が設定する。データを預かる事業者は個人情報を匿名化したうえで、情報を欲しい企業に提供する。医療や観光、金融といった企業のニーズを見込む。データをもらう企業は対価を払い、一部を特定のサービスに使えるポイントなどの形で個人に還元する。個人情報を適切に管理するため、データを運用する事業者に対し、民間が設立する団体による認定制度を導入する方針だ。提供元の個人との間ではデータを漏洩しない、提供先の企業との間では個人データを不正に使わない、などの約款を交わすことを義務付ける。18年度予算の概算要求に実験費用を盛り込む。政府はIT総合戦略本部を中心に、個人が預ける情報を管理・運用する仕組みとして「情報銀行」を検討している。ただ、「どの企業にどのデータを提供する」といった具合にデータの提供先まで個人が指定する方法が議論されている。銀行方式は最終的にデータを使う企業が分かる。個人に詳細なデータを出してもらうかわりに、大きなポイントを出すといった個別の設計をしやすい。総務省の方式はデータ運用の自由がある一方、個人がデータ提供をためらう可能性はある。政府は個人の使い勝手に応じて2案を設け、流通の仕組み作りを進める。日本は海外と比べて個人データの外部提供への抵抗感が強いとの調査もある。信託方式はデータ管理のルール作りとともに、認定制度の信頼を高めることが課題になる。

<子どもへの人権侵害>
PS(2017年9月24日追加):*5-1のように、1000人あたりの向精神薬の処方件数を算出し、年齢層ごとの処方件数の経年変化を統計解析で比較したところ、2002年~2004年と2008年~2010年の比較で、13歳~18歳のADHD治療薬使用が2.49倍、統合失調症などに使う抗精神病薬が1.43倍、抗うつ薬が1.31倍と増加し、小学生でもADHD治療薬が1.84倍、抗精神病薬が1.58倍となっており、病気も効果も安全性も確立していないのに子どもへの適応外処方や多剤併用が浮上しているのだ。また、*5-2のように、以前はADHDという名前の病気はなく、子どもに元気があるのは当たり前で、そういう人が大人になってもやはり元気に仕事をしているため、「子どもに落ち着きがないから、ADHDが疑われる」などとして、すぐ子どもを異常扱いして薬漬けにするのは疑問が多い。

*5-1:https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20150120-OYTEW54767/ (読売新聞 2015年1月20日) 「子供に向精神薬処方増」のなぜ?
 1月13日の朝刊社会面で、「子供に向精神薬処方増」のニュースを書いた。臨床現場では以前から指摘されていた傾向が、初の全国調査で確かめられたのだ。いささか硬い内容になるが、子どもへの投薬を考える上で重要なデータが多く含まれているので、今回は調査結果を詳しく紹介してみたい。調査を行ったのは、医療経済研究機構研究員の奥村泰之さん、神奈川県立こども医療センター児童思春期精神科医師の藤田純一さん、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部室長の松本俊彦さん。2002年~2010年の外来患者(18歳以下)の診療報酬明細書と調剤報酬明細書の一部、計23万3399件をもとに、1000人あたりの向精神薬の処方件数などを算出し、統計解析で年齢層ごとの処方件数の経年変化などを比較した。2002年~2004年と2008年~2010年を比較すると、13歳~18歳では、注意欠如・多動症に使うADHD治療薬が2・49倍、統合失調症などに使う抗精神病薬が1・43倍、抗うつ薬が1・31倍と増加した。2008年~2010年の同年代の人口1000人あたりの処方件数は、抗不安薬・睡眠薬が4・8件、抗精神病薬が3・9件、抗うつ薬が3件、気分安定薬が3件だった。小学生(6歳~12歳)への向精神薬処方も増え、2002年~2004年と2008年~2010年の比較では、ADHD治療薬が1・84倍、抗精神病薬が1・58倍となった。依存性のあるベンゾジアゼピン系薬剤を中心とする抗不安薬・睡眠薬は、この年代では0・67倍と減少した。同年代の人口1000人あたりの処方件数は、気分安定薬が3・6件、ADHD治療薬が1・5件、抗精神病薬が1・2件、抗うつ薬が1・2件だった。件数は少ないが、0歳から5歳の幼児に対しても、抗精神病薬などの処方が確認された。処方件数増加の背景について、調査報告書は、受診者数の増加(厚生労働省の患者調査では、未成年の精神疾患受診者数は2002年に9万5000人、2008年は14万8000人)や、思春期外来の増加(2001年は523施設、2009年は1746施設)、ADHD治療薬など新薬の承認、などの影響を挙げている。
●適応外処方と多剤併用の問題も浮上
 果たして診断や投薬は適切に行われているのだろうか。過剰診断や誤診、不適切投薬の症例はないのか。診療報酬明細書などを基にした今回の統計調査では、個々の状況が分からず、処方が適正か否かの判断はできない。だが、疑問点はいくつも浮かび上がる。特に、処方件数が増えている向精神薬の多くが、子どもに対しては「適応外」であることは認識しておく必要がある。現在使われているADHD治療薬は、子どもに対する臨床試験を行って適応(6歳以上)を得ているが、抗精神病薬や抗うつ薬、抗不安薬・睡眠薬などは、子どもを対象とした大規模な臨床試験が日本では行われておらず、有効性や安全性の確認が十分ではない。このような向精神薬の添付文書(薬の説明書。インターネットで簡単に読める)には、子ども(小児)への投与について、「安全性は確立していない」「使用経験がない」などの記述があるので、関心のある方は確認していただきたい。子どもへの薬の適応外処方は、向精神薬以外にも行われることが多く、すぐに「悪」と決めつけることはできない。本物の薬か偽の薬を、ランダムにグループ分けした子どもたちに飲ませ、効果を比較する臨床試験への抵抗感が日本では根強く、実施しにくい事情もある。大切な子どもたちを、薬の「実験」に巻き込みたくないのだ。しかし一方で、成長期の脳に作用する向精神薬が、「安全性は確立していない」「使用経験がない」とされながらも、実際には使用が拡大している。子どもたちを守りたいがゆえに、子どもたちを未知のリスクにさらす。そんな矛盾した状況が生じているのだ。子どもに対する臨床試験が行われなければ、副作用の種類や発生頻度は分からず、市販後の副作用調査も徹底されないなど、被害を組織的に防ぐ手立てが乏しくなってしまう。さらに、深刻な問題が起こった時の救済策も、適応外処方の場合は不十分になりかねず、善意で処方した医師が責任を問われる可能性もある。このような状況で、誰が得をするというのだろうか。この調査でもう一つ注目したいのが、一人の子どもに異なる向精神薬を複数処方する例が多いという指摘だ。向精神薬が、他の種類の向精神薬と併用される割合は、気分安定薬で93%、抗うつ薬で77%、抗不安薬・睡眠薬で62%、抗精神病薬で61%に上った。言い方を変えると、例えば抗精神病薬を処方される子どもの61%は、抗不安薬・睡眠薬や抗うつ薬など、他の種類の向精神薬も併用処方されている、ということになる。調査報告書は「この数値は欧米と比べて著しく高い」と指摘し、欧米での未成年への向精神薬併用処方割合について、米国19%、オランダ9%、ドイツ6%という数字を示した。医療提供体制の違いや調査対象の等質性などの点から、この結果だけで「安易に『わが国では、向精神薬の不適切な多剤併用処方の割合が異様に高い』と結論づけるのには慎重であるべき」と注意を求めたが、「今後、わが国の多剤併用処方の割合が欧米よりも高くなる理由について、検討していく必要がある」とした。当然の指摘だろう。日本では以前から、成人患者に対して抗精神病薬を何種類も使う多剤大量処方が続き、国際的にも問題視されてきた。ベンゾジアゼピン系薬剤を漫然と長期間処方され、常用量依存に苦しむ人も多い。カウンセリング技術の未熟さや診療時間の短さ、マンパワーの少なさなど様々な事情から、薬に過度に頼る医師が多いのだ。そして更に、過剰な処方が子どもたちにも及んでいるとすれば、早急に歯止めをかけなければならない。日本の子どもへの多剤併用処方や適応外処方は、どのような根拠で、どのような必要に迫られて行われているのか。処方医や患者、家族を対象とした詳細な実態調査が求められている。

*5-2:http://healthpress.jp/2015/07/adhd-1.html (Health Press 2015.7.8) 覚せい剤に似た性質を持つADHD薬。子どもへの処方は本当に害はないのか?
 近年、ADHD(注意欠陥・多動性障害)など発達障害と診断される子どもが増えている。ADHDの特徴は、集中力や注意力に欠けたり、衝動性や多動性が見られたりすることだ。詳しい原因はわかっていないが、脳の機能障害ではないかといわれている。しかし、以前はADHDという名前の病気はなく、"元気があること"はその子どもの個性だと思われていた。そして、そうした子どもたちも、たいていは成長するにしたがって落ち着いて生活できるようになっていた。今は病気というレッテルを貼られ、薬漬けにされる時代だ。メディアでこの病気が取り上げられるようになると、「この子も落ち着きがないのでADHDではないか」と、親や教師など周囲の大人が心配し、子どもを受診させるケースが多くなった。また、少しでも兆候があるとADHDとみなし、脳の中枢神経に作用する強い向精神薬を処方する医師も増えている。
●向精神薬を服用していた米銃撃事件犯の少年たち
 この向精神薬の代表的な薬のひとつに、リタリン(塩酸メチルフェニデートの一般製剤)がある。すでに、スウェーデンでは1960年代後半に同剤の発売が禁止されており、1970年代にはヘロインと同等の依存性があると指摘されていた。それにもかかわらず、アメリカではADHDの特効薬として患者への投与を継続。また、子どもへの投与だけではなく、大人の間でも「活動的になり仕事や家事がはかどる」という理由で、急激に広まっていった。リタリン生産量は1990~1999年に全世界で700%という高い伸びを示し、その9割がアメリカで使用されていた。だがそうしたなか、少年たちによる銃乱射事件が学校内で多発する。彼らは学習機能障害と診断され、リタリンなどの向精神薬を投薬されていた。コロラド州ではその後、厳密な検査を行わず安易に診断を下されたADHDの子どもに対して、リタリンを強制投与することを禁止した。日本において、ADHDはリタリンの適応外であったものの、うつ病の患者に処方されてきた。だが、2007年、ある男性が複数の病院を受診して安易にリタリンを処方され、同剤の依存に陥り自殺するという事件が起こる。このことからうつ病も適応外となり、ナルコレプシーのみの適応となった。2008年からは登録された専門医にしか処方できなくなっている。現在、日本でADHDと診断された子どもに処方されるのは、コンサータ(メチルフェニデート徐放剤*)という薬だ。しかし、このコンサータには覚せい剤に似た性質があるため、承認にあたって"コンサータ錠適正流通管理委員会"を設置し、処方できる医師や調剤できる薬局を登録制にするという厳しい規制が設けられた。また、薬局はリストにない場合は拒否しなければならないなど、流通・処方状態の管理がしっかり行われている。このように、子どものADHDに処方される薬は、厳重な規制を必要とする危険な薬だ。これを子どもに与え続けて、果たして悪影響がないといいきれるのだろうか。ADHDが疑われるからといって子どもを安易に薬漬けにしてしまう医療には、疑問を持たざるを得ない。何らかの弊害が起こらないよう、親をはじめとする周囲の大人たちが、子どもに投与される薬には、どのようなリスクがあるのかを十分理解するべきである。
○徐放剤:成分の放出を遅くし、服用回数を減らせるように開発された薬。血中濃度を長時間一定にすることで、副作用を回避できる。

<精神障害者差別>
PS(2017年10月10日追加):*6-1のように、「①ラスベガスで銃乱射事件があった」「②容疑者の動機は謎に包まれている」「③米ABCは事件の数カ月前から容疑者の精神状態が悪化していたと報じた」と朝日新聞が報道し、日本の多くのメディアは、「原因は米国が銃社会であることだ」としているが、①は事実であるとしても、②の動機は、容疑者の弟が「最近、金額の大きなカケをしていた」と証言していることから、私は「カケで破産するほどの大損をしてラスベガスに恨みを持った」のが動機ではないかと考える。しかし、この容疑者の弟の証言は相手にされず、③のように「容疑者は精神状態が悪化していた」ということになっており、この「精神状態の悪化」の定義は全く曖昧で、それが銃乱射を行う動機になるとは思えない。にもかかわらず、こういう報道が堂々となされることは、国連の「障害者権利条約」や日本の「障害者基本法」「障害者差別解消法」などに反しており、精神障害者への差別を助長して社会参加をやりにくくするとともに、その尊厳を無視する見識の低いものである。
 そのような中、*6-2のように、「農福連携」して農業を障害者雇用の場とする取り組みが始まっている。私は、衆議院議員時代(2005~2009年)に、伊万里市の障害者福祉施設で精神障害者が有田焼の絵付けをしているのを視察したことがあるが、この仕事は自閉症でも問題なく、集中する分だけ出来は上々で、高級品を作らせればそれにも対応できそうに思われた。

*6-1:http://digital.asahi.com/articles/ASKB55F2ZKB5UHBI018.html (朝日新聞 2017年10月6日) ラスベガス銃乱射容疑者、精神状態悪化か 米報道
 米史上最悪の銃乱射事件を起こしたスティーブン・パドック容疑者(64)の動機は、いぜん謎に包まれている。解明のかぎを握ると思われた交際相手の女性(62)は帰国後、「全く知らない」と困惑した。容疑者の精神状態が悪化していたとの報道も出ているが、なおはっきりしない。「こんな事件を計画していたとは全く考えられなかった」。女性が4日、事件後初めて弁護士を通じて出した声明には、突然捜査対象となった困惑とともに、容疑者への思いがにじんだ。「親切で思いやりのある、静かな人だった。私は彼を愛していて、将来をともにすることを望んでいた」。容疑者は、事件前に女性にフィリピンに帰るための航空券を買い与えていた。女性は9月15日に日本を経由してマニラに到着。その後、容疑者から「フィリピンの家族のために家を買うお金」として10万ドルの入金があった。米メディアによると、女性が容疑者と知り合ったのは、地元のカジノだった。女性は接客担当をしており、度々訪れる容疑者と親しくなり、交際を始めた。ネバダ州の地元紙リノ・ガゼット・ジャーナルによると、女性は容疑者と知り合った当時、別の男性と結婚していたという。2013年、女性は夫と暮らしていた家を出て、パドック容疑者が所有していた同州リノのアパートに引っ越した。それから2年後、女性は夫と離婚した。女性が元夫と暮らしていた当時の隣人は「家でパーティーをしたり、近所の子どもたちを家に泊めてあげたりしていた。近隣の皆に好かれ、とてもすてきな女性だった。家族に会いによくフィリピンへ往復していた」と話し、事件に衝撃を受けていたという。しかし、容疑者と暮らし始めてから、女性の近隣の人は全く違った印象を語る。「2人とも見た覚えがない」。事件直前まで2人が暮らしていた家の隣人はそう話す。他の近隣住民も、つきあいのあった人はほとんどいなかった。オーストラリアに住む女性の姉妹は米NBCの取材に「彼女は何も知らぬままフィリピンに行かされた。(容疑者が)計画を邪魔されたくないと思ったのだろう」と涙ながらに訴えた。一方、米ABCは4日、事件関係者の話として、容疑者は事件の数カ月前から精神状態が悪化していたと報じた。体重が減り、身なりも汚くなり、女性の元夫に対する妄想にとりつかれていたという。確たる動機が見えぬまま、捜査関係者のいらだちは高まっている。ラスベガス警察のロンバルド保安官は4日の会見で「1人で全てやったとは信じがたい」と話し、協力者がいた可能性も視野に入れていることを示唆した。同保安官は、容疑者が9月下旬に高層コンドミニアムの一室を予約していたことも明らかにした。その時期、今回の事件と同じように、ここから見下ろせる場所で別の音楽祭が開かれていた。警察は「理由は不明」としているが、容疑者が当初、この音楽祭を狙おうとした可能性もある。ラスベガス警察は、これまで事件での死者を59人としていたが、自殺した容疑者を除く58人に訂正。けが人も489人とした。

*6-2:http://special.nikkeibp.co.jp/NBO/businessfarm/bizseed/05/ (日経BP 2017.2.28) キーワードは“ノウフク”、浸透し始めた「農福連携」、「働き手」が欲しい農と「働く場」を求める福祉、両者のニーズが合致
 「農福連携」と呼ばれる取り組みが活発化している。農業を福祉の現場に取り入れる試みは従来からあるが、どちらかというと障がい者支援が中心だ。引きこもりやニートなどの生活困窮者への支援は、それほど多くなかった。最近になって、生活困窮者の支援にも手が広がる。また、農作物の生産・加工・販売を広く手掛けたり、農家からのニーズに応じて農作業の委託請負をしたりする法人が少しずつ増えている。一般にはまだそれほど馴染みがないが、「農福連携」という言葉がじわじわと浸透し始めている。農福連携とは、文字通り、農業の現場と福祉の現場が連携することだ。具体的には、障がい者や生活困窮者などの社会的に弱い立場にいる人たちが、農園で畑仕事に従事したり、農産物の加工・販売をしたりして、自分の働く場所と居場所を手に入れる取り組みを指すことが多い。農業の現場では、高齢化などにより担い手の減少が止まらず労働力不足が悩みの種だ。一方の福祉サイドでは、障がい者・生活困窮者の働く場所がなかなか見つからない。農業の「働き手がいない」という問題と、福祉の「働く場がない」という問題を解決し、補完してくれるのが農福連携というわけだ。
●農福連携のシンポジウムやフォーラム、マルシェ
 最近、農福連携を冠したシンポジウムやフォーラム、マルシェなどの催しが頻繁に開かれるようになった。農業・福祉関係者だけでなく、行政や一般の人も巻き込みながら、大きなうねりになろうとしている。この2月14日には、農林水産省の政策研究機関である農林水産研究所主催の「農福連携」シンポジウムが開催された。「農業を通じた障害者就労。生活困窮者等の自立支援と農業・農村の活性化」というテーマが掲げられ、障がい者や引きこもり、ニートなどを実際に引き受けている事業者をはじめとして、農業関係者、行政の担当者、自治体、研究機関など多くの人たちが集結。農福連携の最前線について報告が行われ、活発な議論が交わされた。3月には農福連携の取り組みを全国レベルで推し進める「全国農福連携推進協議会」が設立される。ここに全国の福祉事業所や農家、行政や研究者、企業など、多くの賛同者が参加する。行政の側でも、該当省庁でもある農林水産省と厚生労働省の関心度は高い。協力しながら、積極的に連携を推し進めている。「農福連携マルシェ」などはその一例だろう。2015年6月に初のマルシェを霞が関で開催。2016年5月には官庁街を出て東京・有楽町、その後全国規模で開かれている。予算面でも、両省庁に農福連携を意識したものが少しずつ目立つようになってきた。
●取り組みには2つの方向がある
 一般社団法人JA共済総合研究所主任研究員で、長らく農福連携分野の研究を先導してきた濱田健司氏は、今、農福連携の取り組みとして大きく2つの方向があると分析する。1つは、障がい者や生活困窮者が身を寄せる福祉関係の事業者が取得したり借りたりした農地で農業生産を行う方向だ。生産だけでなく、できた農産物の加工・製造や販売まで手掛けるところも多い。もう1つは、農家や農業生産法人などに対して農作業の請負契約を結ぶというもの。こちらは、障がい者や生活困窮者が農業側の田畑やハウスに出向いて、いわゆる施設外就労として農作業に従事する。直接生産を手掛ける事業者の中には、独自の工夫で、持続可能な事業にしているところもある。代表例は、農福連携のパイオニアとしても知られる農事組合法人「共働学舎新得農場」だ。共働学舎は、北海道十勝地方・新得町に約120ha(120万㎡)の農地を構え、酪農、チーズや有機野菜の生産、工芸品づくりなどを行っている。ここには障がいを持つ人をはじめ、引きこもりやホームレスなど、様々な困難を背負った人たちが集まり共同生活をしながら農業生産・販売を行う。ここで生産されるチーズなどの農産物や工芸品はその品質の高さで知られ、学舎の経営にも寄与する。共働学舎の総売上高は約2億2千万円にのぼり、代表宮嶋望氏によれば「生活に必要な経費は賄えるほど」だという。後者でよく知られている取り組みは、特定非営利活動法人(NPO法人)香川県社会就労センター協議会の例だ。生産者と同協議会が農作業の請負契約を結んで、協議会から障がい者施設に作業の参加を募集・依頼する。農作業の対価として工賃が支払われる。請け負う農作業は、野菜類の苗の植え付けから収穫、除草、出荷調整に至るまで多種多様だ。協議会を中心として、障がい者施設と地域行政、JA、生産者の間で協力し合う仕組みを構築し、上手に連携している例といえる。生活困窮者への支援をする団体も増えている。厚生労働省が2015年4月にスタートさせた「生活困窮者自立支援制度」の中には、生活困窮者に対する就労訓練事業を行う社会福祉法人や生活協同組合で条件を満たすところに対して、支援をする仕組みがある。内容も地域によって違ってくるが、固定資産税や不動産取得税などの一部を非課税にする措置や、事業を立ち上げる時の経費の補助、自治体による商品の優先発注がある。農林水産省でも、いわゆる「福祉農園地域支援事業」という、福祉農園の全国展開を支援する事業を進めている。平成29年度の予算でも、同様の施策が取られていて、「農山漁村振興交付金」といわれるものの中に、福祉農園を支援する枠が設けられた。こちらはNPO法人、民間企業、一般社団法人も申請できる。
●生活困窮者への就労訓練の場としても注目
 こうした制度の充実に伴って、引きこもりやニートなどの生活困窮者に対して就労訓練をする団体が今後増えてきそうだ。ホームレスの就農支援プログラムを手掛けるところも出てきている。JA共済総合研究所の濱田氏は、こうした一連の動きを、「単なる社会貢献や福祉という範疇を超えて、障がい者や生活困窮者はいまや農業にとって必要な人材だと見る動きだ」と語る。担い手不足に悩む農業の現場からのニーズは今後ますます高まってくるだろう。社会的な弱者といわれる人たちが、農業を通じて働く場と収入を得て自立できれば、それだけ社会保障費の削減につながる。同時に、農業の衰退にも一定の歯止めがかかり、生産の拡大に寄与する可能性もある。もちろん解決しなければいけない問題は山ほどある。現在のセーフティネットにアプローチできなかったり、しなかったりする人もまだまだ多い。受け入れる側の意識や体制もまだまだだ。しかし、農福連携には大きな可能性が秘められている。今後の進展に大きな期待がかかっている。

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2017.6.8 壊される平和主義、壊されそうな主権在民(国民主権=民主主義)、壊された基本的人権の尊重 (2017年6月10、11、14、15、19日に追加あり)
(1)壊される平和主義
 自民党が、*1-1のように、憲法9条1項・2項を残して自衛隊の存在を新たに憲法に明記する方針で改憲の原案づくりに向けた作業をスタートさせたそうだが、私も、憲法・安保基本法・自衛隊法等の個別法と合わせて法体系を整理し、自衛隊の存在から安全保障の全体像にまで及ぶ総合的な議論をすることが必要だと考える。その理由は、国民が知らないうちに、自ら平和主義を壊して危険な社会を作るという事態を招かないためである。

 しかし、我が国では、現在のように自衛隊への文民統制が定められていても、自衛隊出身の政治家が防衛大臣を務めることもあり、これはいろいろな意味で文民統制のうちに入らないと思われるため、運用にも気を付けるべきだ。

 また、*1-2に、「①憲法の理想と現実の間には隔たりがあるが、現実を理想へと近づけることこそが正義の姿である」「②だから九条の平和主義を高く掲げよ」と述べ、「③被爆国日本の役割、不戦の国の誇り、自衛隊らしい人助け、非戦は国家戦略である」「④戦後七十年余の長きにわたって戦争をせず今日に至ることのできたのは、それが国民多数の願いであり、願いの象徴的文言が九条である」と書かれているが、私は、①は全くそのとおりで、現実を理想に近づける努力をするのが当たり前であるにもかかわらず、現在は「理想と現実は異なる」として理想を諦め、現実に妥協することが正義のようになっているのが問題だと考える。さらに、②③のように、非戦はまさに国家戦略であり、④のように70年以上に渡って戦争をせずに今日に至ったことが、破壊や武器等への後ろ向きの支出がなく、我が国が富を蓄積できた大きな理由だと考える。

 そのため、日本国憲法・安保基本法・自衛隊法等の個別法を総合して、自衛隊の存在から安全保障の全体像に及ぶ中身のある総合的な議論をすることが必要だ。

(2)壊されそうな民主主義(主権在民=国民主権)
1)有権者に投票根拠となる事項を開示するよう公職選挙法を改正すべきこと
 *2-1に、「①国政選挙と首長選では、法定はがきやビラ以外にマニフェストの冊子が配布可能になったが、地方議員選挙ではマニフェストを配れない」「②新たな配布物が増えると資金力による候補者間の格差が生じるのが慎重論の根拠」「③民進党は2015年に公選法改正案を国会に提出し、自民党は2019年の統一地方選には間に合わせるが、この都議選での解禁は難しいとした」と書かれている。しかし、有権者に候補者の公約や人となりを正確に知らせることは、誰に投票するかを決める上で、最も重要なことなのである。

 しかし、①については、ビラは集会に集まった人にだけ配れるのであって、どこででも配ってよいわけではないため、集会で大人数を集めたり、組織的にボランティアを行う団体(≒政策によって利益誘導される団体)に支援されている候補の方が有利である。また、②は、資金力とビラやマニフェストの配布場所は関係なく、ビラに公約を書けば追加費用はかからないため、屁理屈にすぎない。そのため、③のように、民進党が公選法改正案を国会に提出しても、自民党はなるべく変えたくないのだと思われる。

2)高齢者を1人の有権者と考えないとする暴論の出現
 *2-2に、1964年生まれ(ゆとり教育世代)の京都大博士(経済学)で、公共経済学・人口経済学専門と標榜する岡本岡山大教授が、①経済学的に育児支援と年金削減が望ましい ②全体利益ある政策も現選挙制度では否決される(これがポピュリズムと呼ばれる) ③そのため、余命投票方式が効果が大きいが導入への壁が高い として、根拠薄弱で自信過剰な暴論を書き連ねておられる。

 私が、*2-2を、根拠薄弱で自信過剰だと書く理由は、①で「育児支援と年金削減が望ましい」としているのが、社会保障間の予算のやり取りしか考えられない厚労省の算術を基にした政策に乗っているにすぎず、公共経済学・人口経済学を専門とする京都大卒経済学博士の大学教授が調査・分析をして得た結果とはとても思えないからである。さらに、②のように、全体利益を口実にして個人の権利をないがしろにする政策が現選挙制度で否決されるのをポピュリズムと評しているのは、稚拙な論理をふりかざしての独裁であり、民主主義の否定にすぎない。

 また、①には「経済学的に」とも書かれているが、*2-4のように、これからの経済成長の源泉は人口で多数を占める高齢者の需要に応える財・サービスの開発と生産で、*2-2は経済学的にはマイナスであり、日本の経済学者はこの程度かと思わざるを得ないのである。

 そして、その結果、③のように、余命投票方式の方が効果は大きいが導入への壁が高いため、ドメイン投票方式や世代別選挙区制度を組み合わせるのがよいとして、*2-3の日本国憲法第15条「公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する」という条文とその内容の価値を無視している。つまり、日本では、日本国憲法も年金・医療・介護の重要性も理解しておらず、単純な算術しかできない人が経済学の専門家として公共経済学・人口経済学専攻と称しているのが、最も大きな問題なのである。

3)*2-2の文章の稚拙さについて、具体的に述べる


 2016.9.20  家計収入と消費支出の推移    出生数と      年齢別潜在的
  日経新聞   総務省家計調査報告   合計特殊出生率の推移  労働力率と就業率

(図の説明:政府は物価上昇を目的として異次元の金融緩和を続け、円安にもなったが、一番左のグラフのように物価はあまり上昇しなかった。その理由は、物価上昇・利子率低下・消費税増税・社会保障の負担増・給付減で、65歳以上の人が人口に占める割合が27.3%になっている我が国の高齢者の可処分所得を減少させたからである。また、2014年4月から消費税が8%に上げられたため、左から2番目のグラフのように、2014年5月以降の家計収入・消費支出はマイナスとなり、消費税増税や社会保障の負担増・給付減は、福利を低下させ経済にも悪影響を与えている。さらに、人口における高齢者の割合が増加した理由は、右から2番目のグラフのように、第二次世界大戦後の第一次ベビーブームの後、国の家族計画によって合計特殊出生率がゆるやかに低下し始め、ベビーブーム世代が出産期を迎えた1965~75年の第二次ベビーブーム期に出生数は増加したものの、合計特殊出生率は一貫して下がっているからだ。合計特殊出生率が一貫して下がった理由は、戦後教育を受けた女性の社会進出が増えても、厚労省が育児に対する社会的支援を行わず、多くの女性が結婚や出産で正規の仕事を辞めた後にはパートしか仕事がない状態が続いたからで、それにより女性は結婚や出産を先延ばししたり、諦めたりし、その状況が、一番右のグラフのように、今でも女性は労働力率が低く、M字カーブがあることに現れている)

   
年金に関する論戦    2016.11.2東京新聞     2016.1.28    2016.10.21 
                           朝日新聞     佐賀新聞

(図の説明:2007年度の年金制度見直し時に、国民がもらえる年金額の確定(=政府債務の確定)のために、年金特別便や年金定期便を提案したのは私なのでよく知っているのだが、その時挙げられた①年金制度の不合理 ②不正免除など年金保険料回収の杜撰 ③年金積立金の運用における杜撰 ④管理の杜撰 等々の問題は、いまだに実質的には改善されていない。それにもかかわらず、積立金が足りなくなると少子高齢化を理由として給付減・負担増を言い出すのはやめるべきだ。また、年金定期便で確認された金額から減額するのは契約違反であるにもかかわらず、左から2番目の図のように、賃金か物価のどちらかが下がれば、その低い方に合わせて年金支給額を下げる変更は、(子どもの世話にならずに)年金生活をしている高齢者の生活設計を破壊する。さらに、年金受取額が多い厚生年金には正規労働者の会社員と公務員しか入れず、非正規労働者や無職者が入る国民年金は自営業者向けに設計されたもので定年を想定していないため、負担額が大きく給付額は小さい。その上、年金支給は保険料を支払った人すべてに行われるのではなく25年以上支払った人に対してのみで、2017年8月1日からは10年以上であれば支給されることになったものの、10年以上支払わなければもらえないというのもおかしい)

 *2-2の文章は、学位論文だとしても落第だ。何故なら、「①巨額の政府債務を抱えて財政再建が急務であり、プライマリーバランスの黒字化を当面の目標とするが、年金、医療などの社会保障給付が拡大する半面、若年の意見が政治に反映されにくい」として、 “当面の”プライマリーバランス黒字化を目標とし、これまで長期間かけてできた政府債務の原因究明をせず、若者に寄り添うふりをしながら社会保障給付を削減することを目的とする文章であり、真実に基づいて問題を解決しようという姿勢が全く見られないからである。

 真実は、これまでの政府債務の増大は、景気対策と称して支出した膨大な無駄遣いによるものだ。また、年金・医療・介護などの社会保障は契約により保険料を徴収して給付しているものであるため、給付時に足りなくなった金額は厚労省の杜撰な管理・運用により積立金が足りなくなったことが原因で、そうなった真の原因を追究して改善すべきなのである。

 また、*2-2の「②分析の結果、育児支援の促進政策と年金給付の削減政策はともに経済学的に望ましい政策であることが示された」と書かれているのは、突然、結論だけが出てきて根拠が書かれておらず、実際には、日本だけでなく世界で人口に占める割合が増える高齢者の年金・医療・介護給付を減らすことが経済学的に望ましいことなどあり得ない。

 その後、「③“無限先”の将来世代の効用までを考慮した上で、経済厚生全体のパイが拡大するため、世代間での適切な資源配分によりすべての世代が改革前と同じか、改革前よりも良い状態に移行できる」として、突然、時間を“無限先”にして出生率上昇によるパイの拡大を効用として挙げている。こうすれば“無限先”には人口が増加してパイが拡大するという馬鹿なモデルを想定しているが、このように個人を犠牲にすることを何とも思わず、老後が保障されない国で、支出ばかりが多い子育てをするよりも、正社員として働き続けて貯蓄しておかなければ自らの生活が危うくなるため、考えのある人ほど出生率は低くなるだろう。

 さらに、「④少子高齢化・人口減少が急速に進展する中、少子化対策を拡充する必要性が認識されているが、日本の家族政策に対する公的支出は国際的にみて低水準」というのは、1970年代後半から長期的に起こってきたことで、厚労省がそれこそ長期的視野で対応してこなかったまさに失政の結果である。そのため、何故、そのような怠惰なことを続けてきたのかを徹底して原因究明し、改善しなければ解決しないのだ。

 にもかかわらず、「⑤人口比率の高い高齢者の政治への影響力増大は、世代間不公平につながり、若者の政治的無関心を引き起こしている可能性があるため、シルバー民主主義に弊害がある」というように、高齢者に一票の選挙権があるのが問題だという違憲の結論を導き出している。このように変に若者を甘やかし、若者のためにならない議論のシャワーを浴びせられて育った若者が、成長すれば正義感にあふれた社会に役立つ人材になるということはあり得ないため、モチベーションが高くてやる気にあふれ、高齢者に親切な外国人労働者を導入した方がずっとよいというのが、今後の日本が辿る道になる。

 なお、このように、厚労省の重大ミスを隠して官にはミスがないと強弁し、屁理屈を付けて国民を分断しながら国民にしわ寄せするという発想は、*2-5のように、憲法に天皇を元首として位置付けようとする昔帰りの発想をする人たちが、(特に自民党)政治家の中に多いことにも起因している。何故なら、官は選挙で選ばれるのではなく天皇の官吏であって判断ミスなど犯すわけがなく、官が犯したミスは国民か政治家が悪いため、問題とされた時点でたまたま大臣をしている政治家を引責辞任させ、国民の溜飲を下げればよいという発想になるからだ。

 もちろん、官の走り使いとして形だけの民主主義を演じている政治家は、本当の意味での国民代表ではないが、官に都合のよい政治家が官によって選挙の便宜を図られることは多く、回を重ねて当選した人が大臣や首相になるのである。また、日経新聞はじめメディアも官の太鼓持ちが多く、「言論の自由」「表現の自由」を標榜している割には真実で中身のある言論や表現は少ないため民主主義を下支えするには堪えず、国民はそれも見抜いて変えなくてはならない。

4)成長戦略が成果を出せない理由
 政府の成長戦略がなぜ成果を出せないのかについて、*2-4を土台にして説明すると、政府(特に官である経産省)は、成長戦略として二番煎じのAI・ビッグデータ・ロボットを活用して課題解決する社会の実現ばかりを掲げているが、そこには機械に対する狭い興味しか反映されておらず、国民の福利を増そうという発想がないからである。それは、最終需要者である国民の所得が減れば全体の需要も減るという経済学の基本原則を無視している。

 また、「日本経済の最大の課題は、成長力の強化と財政健全化の両立だ」と書かれているが、何故、経済成長(正しくは経済拡大)しなければならないのかについての考察がなく、国の経済拡大だけを目的としているようであり、国民の福利を無視している。さらに、ベビーブームがあったからには適正人口まで人口が減るのは当然で、その局面では経済拡大よりも個人の豊かさを増す財やサービスの提供の方が重要だという発想もない。その結果、「財政健全化には、消費税増税と社会保障の削減しかない」という算術(足し算と引き算のみ)に基づく愚かな政策提言しかできていないのだ。

 さらに、日銀による異次元の金融緩和による物価上昇は、消費税増税とあいまって人口に占める割合の多い年金受給者の実質所得を減らした。その上、社会保障の負担増・給付減がめじろおしであるため、日本経済の潜在成長率が2014年時点の0.8%台から16年後半には0.6%台まで下がったのは当たり前で、今後も高齢者の生活を締め付ければ締め付けるほど、人口の多くを占める高齢者に対応した新しい技術や製品開発は進まず、現在から将来にわたって世界で需要される財・サービスの開発を邪魔することになるのである。

 なお、自動運転車やEVも、日本発のアイデアでありながら抵抗勢力のため世界に出遅れて税収増の機会を失ったが、このようなことになる原因分析を行わずに、古い技術に大きな予算をつけ、官が作った法律を通しさえすれば実績をあげたなどと考えている政治家は、官の走り使いとして形だけの民主主義を演じている信念なき政治家にすぎない。

(3)壊された基本的人権の尊重
 「テロ等準備罪」と名を変え、表題と内容の異なる「共謀罪」法案が、自民党・公明党・維新の会の賛成多数で衆議院を通過し、現在は参議院で審議中だ。これに対しては、*3-1のように、国連のプライバシー権に関する特別報告者ジョセフ・ケナタッチ氏が懸念を表明し、それに対する菅官房長官の抗議に対して、「中身のないただの怒り」「内容は本質的な反論になっておらず、プライバシーや他の欠陥など、私が多々挙げた懸念に一つも言及がなかった」と批判するとともに、プライバシーが侵害される恐れに配慮した措置を整える必要性をあらためて強調している。そして、私も、全くそのとおりだと考える。

 また、*3-2のように、衆院憲法審査会は2017年5月25日、「新しい人権」などをテーマに審議を行い、「共謀罪」の趣旨を含む組織犯罪処罰法改正案に対し、野党の委員から「(新しい人権の一つとされる)プライバシー権の侵害で、違憲立法」などの批判が相次いだそうだ。しかし、日本国憲法は、第21条で「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない」と定めており、プライバシー権は、1947年(昭和22年)5月3日に施行された日本国憲法に規定されている権利であって、最近になって初めて認められた新しい権利ではない。

 そして、共謀罪の捜査で最も有力なツールとなる盗聴・盗撮については、*3-3のように、米国家安全保障局(NSA)による大規模な個人情報収集を告発し、現在はロシアに亡命中の米中央情報局のスノーデン元職員が、モスクワで共同通信と会見し、①NSAが情報監視システムを日本側に供与した ②日本政府は個人のメールや通話等の大量監視を行える状態にある ③「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案は個人情報の大規模収集を公認することになる ④これまで日本に存在していなかった監視文化が日常のものになる として、共謀罪法案に懸念を表明した国連特別報告者ケナタッチ氏に「同意する」と述べたそうだ。

 その上、*3-4のように、国際組織犯罪防止条約(TOC条約)締結のため政府が必要と言う共謀罪法案について、国連の「立法ガイド」を執筆した刑事司法学者のニコス・パッサス氏は、「1)条約はテロ防止を目的としたものではない」「2)英国は長年TOC条約のメンバーだが、条約を締結するだけではテロ防止にはならない」「3)新たな法案等の導入を正当化するために条約を利用してはならない」「4)非民主的な国では政府への抗議活動を犯罪とみなす場合があるので、イデオロギーに由来する犯罪は除外された」「5)現行法で条約締結の条件を満たさなければ、既存法の改正か新法導入で対応しなければならない」「6)条約はプライバシーの侵害に繋がる捜査手法の導入を求めていない」と述べ、条約を新たな施策導入の口実にしないよう注意喚起したそうだ。

 私は、ロンドンでテロが多発したとしても、英国と日本は歴史が異なる上、日本は自衛戦以外の戦争をしないため、他国のテロが日本での立法理由にはならないと考える。

 佐賀新聞は、2017年6月7日の記事で、*3-5のように、「民主主義社会において発言や行動の自由がいかに大切かをあらためて確認する必要がある」と述べている。確かに、「共謀罪」「特定秘密保護法」などは、「何を行えば罰になるのか」が曖昧で、憲法21条に違反しているが、これまでメディアや野党が行ってきた言いたい放題の言論も、疑惑どまりのくだらない人格攻撃が多く、民主主義を守るために体を張って行った言論や表現とはとても言えず、言論の自由や表現の自由で守られる価値のあるものだけだったわけではないため、猛省すべきだ。

 そのような中、*3-6のように、法律の専門家である日本労働弁護団が「衆議院法務委員会における共謀罪法案の採決強行に抗議する声明」を出している。また、*3-7のように、真宗大谷派《東本願寺》宗務総長の但馬氏も「テロ等組織犯罪準備罪(共謀罪)法案に反対する声明」を発表しておられ、さらに、*3-8のように、カトリック団体も戦中の弾圧に言及して「共謀罪」法案の衆院通過に反対する声明を出しておられる。つまり、普段は温厚で熟考するタイプの方々が、歴史に基づいて次々と反対表明を出しておられるのは重視すべきだ。

 最後に、*3-9のように、国際ペンクラブのジェニファー・クレメント会長も、「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案が国会で審議されていることを受け、「共謀罪は日本における表現の自由とプライバシーの権利を侵害する」と題する声明を発表しておられる。同法が成立すれば、日本における言論・表現の自由やプライバシーの権利は必ず脅かされる。しかし、それでも党議拘束だからと言ってすべての議員が党の決定に従うのであれば、日本には、国あって国民がない(人が主役でない)のと同様に、党あって議員がいないのであり、その「組織あって個人なし」の発想こそがわが国で最も大きな問題なのだ。

<壊される平和主義>
*1-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170601&ng=DGKKZO17153520R00C17A6EA1000 (日経新聞社説 2017年6月1日)9条論議は安保基本法を含め総合的に
 安倍晋三首相が火をつけた憲法9条の改正論議が広がりを見せている。自民党が改憲の原案づくりに向けた作業をスタートさせ、日本維新の会も調整を本格化。経済団体に加え、民進党の支持団体である連合も議論をはじめる。憲法施行70年、9条問題にわれわれ自身も真っ正面から向き合うときがいよいよ来たようだ。首相がこれまでに明らかにしている方向は、9条の1項と2項は残しつつ、新たに自衛隊の存在を憲法に明記するというものだ。自民党としての改憲案を年内にまとめ、2020年の新憲法の施行をめざすとしている。これは、自民党が野党当時に決めた12年の改正案を捨てて、公明党の主張である現行憲法をそのままにして必要なものを加える「加憲」の考え方に沿ったものだ。民進党の一部にも9条3項などのかたちで自衛隊の存在を明記する意見があるのもにらんでいる。自民党内では首相の唐突な見解表明を批判する声があるように、従来の議論と異なったものであるのは間違いない。そうだとしても、本社調査で51%の有権者が自衛隊の明記に賛成している世論の動向を踏まえた場合、しっかりした議論を通じて方向性を見いだしていくことが望まれる。必要なのは単に自衛隊を明記するのが是か非かといった形式的な憲法論ではなく、安全保障のあり方を含めた総合的な議論だ。そのとき参考になるのが12年当時、自民党が集団的自衛権の行使を容認する際に定めようとしていた国家安全保障基本法案だ。もし自衛隊を憲法上で明文化するのなら、自衛隊に対する文民統制、安全保障基本計画の策定といった同基本法案に盛り込んだ規定なども改めて検討すべきだ。憲法、安保基本法そして自衛隊法などの個別法と法体系を整理し、自衛隊の存在から安全保障の全体像にまで及ぶ議論が求められる。その前提として21世紀の国家のあり方を含めた中長期的なビジョンも必要になってくるだろう。9条改正消極論のひとつとして、目ぼしい成果があらわれていない成長戦略や規制改革などのテーマに政権の力を集中すべきだといった声があるのは事実だ。首相の宿願である改憲を実現するためにも、国民の多くが望む経済再生につながる政策を断行し、具体的な果実を示していく努力もまた必要になる。

*1-2:http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017051502000118.html (東京新聞社説 2017年5月15日) 日本の平和主義 9条の精神を壊すな
 憲法記念日に、安倍首相が自民党総裁としてとことわりつつも、九条改正を唱えたのを聞き、皆さんはどう思われただろう。自衛隊の存在を書き込むだけなら認めていいと思われたか、それとも不安を覚えられたか。私たち論説室は今年の元日前後に「日本の平和主義」と題した連載型の社説を掲げた。安保法が成立し次にはどんな形であれ、改憲の動きが出てくる。そうなれば焦点は九条、日本の平和主義が危うくなると考えたからだ。連載の初回(十二月三十日)は、ずばり「憲法改正が来年の大テーマとなるでしょう」と書き出して、憲法の理想と現実の間には隔たりがあるが、現実を理想へと近づけることこそが正義の姿であると述べた。だから九条の平和主義を高く掲げよ、と。私たちのその姿勢は今ももちろん変わらない。連載は被爆国日本の役割、不戦の国の誇り、自衛隊らしい「人助け」、「非戦」は国家戦略であると続けた。訴えたかったのは、戦後七十年余の長きにわたり戦争をせず今日に至ることのできたのは、それが国民多数の願いであり、願いの象徴的文言が九条であるということだ。政治に知恵を絞らせもした。自衛隊はたしかに憲法の字句外にある。戦力不保持をいう憲法下で発足し、国連PKО(平和維持活動)の名の下に今は外国へも行く。しかしそれでも九条を侵しはしない。守るべきは専守防衛。他国の侵害はしない。首相は九条の一、二項、すなわち戦争放棄と戦力不保持を維持したうえで、自衛隊を認める明文を加えたいという。巧みな言い方である。しかし、そもそも歴代の政府も多くの国民もその存在を認めてきた自衛隊を、急いで書き込む理由は何なのか。しかも今の自衛隊は安保法により違憲濃厚な集団的自衛権を付与されている。展開次第では九条が歪(ゆが)められ、日本の平和主義は変質してしまうかもしれない。父や母、祖父や祖母、戦争体験者たちが命がけで守ってきた戦後日本の思いが霧消してしまう。キナ臭い現実をまだ見えぬ理想に近づけよう。現実の追認は未来への否認である。人類の正義は理想へ向かう行動にある。九条の精神を壊してはなるまい。

<壊される民主主義>
*2-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201705/CK2017052202000114.html (東京新聞 2017年5月22日) 【政治】都議選で公約ビラ配れない 法改正、間に合わぬ見通し
 国政選挙と地方の首長選では公約が書かれた冊子やビラを配れるが、地方議員選では配れない-。東京都議選を前に、こうした公職選挙法の規制を見直すよう求める声が高まっている。だが、六月二十三日の告示が一カ月後に迫り、法改正は間に合わないとの見方が強い。国政選挙は二〇〇三年の公選法改正により、法定はがきやビラ以外にマニフェスト(政権公約)の冊子が配布可能になった。さらに〇七年の法改正で、地方首長選もA4判以下の一枚紙のローカル・マニフェストが配れるようになった。国政選挙や首長選に比べ、地方議員選は不特定多数に政策を訴える色合いが薄いのが実態。「新たな配布物が増えると、資金力による候補者間の格差が生じる」との慎重論も根強い。一方、政策本位の選挙に向け、地方議員選での解禁を求める声は強い。早稲田大マニフェスト研究所(マニ研)によると、〇六年から今年にかけて千葉、神奈川、長野など八県議会と東京都町田市、岐阜県多治見市など二十二市町議会が地方議員選での解禁を求める意見書を可決した。全国の地方議員でつくるローカル・マニフェスト推進地方議員連盟は昨年、都議選に間に合う法改正を求める決議を採択。学識者や弁護士でつくる選挙市民審議会も今年一月の中間答申に、地方版マニフェスト配布自由化を盛り込んだ。国会も放置しているわけではない。一六年の公選法改正の際、衆参の特別委員会は解禁について「速やかに検討を進める」と付帯決議。自民党は選挙制度調査会が全国地方組織にヒアリングを実施し、民進党は民主党時代の一五年に公選法改正案を国会に提出した。ただ、自民党関係者は「一九年の統一地方選には間に合わせるが、この都議選での解禁は難しい」と打ち明ける。都議会の定数一二七は、全国の地方議会で最多。都議選は「ビラが配布できない最も大規模な選挙」になる公算が大きい。

*2-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170505&ng=DGKKZO15995160S7A500C1KE8000 (日経新聞 2017.5.5) 経済教室:シルバー民主主義を考える(下)選挙制度の大胆改革急げ 、まず「世代別選挙区」導入を 岡本章・岡山大学教授
 現在の日本では「シルバー民主主義」の弊害が指摘されることが多くなっている。巨額の政府債務を抱えて財政再建が急務であり、プライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化を当面の目標とするが、その達成は遠のくばかりだ。年金、医療などの社会保障給付が拡大する半面、少数派の若年層の意見が政治に反映されにくくなっている。また少子高齢化・人口減少が急速に進展する中で、少子化対策を拡充する必要性が認識されているにもかかわらず、日本の家族政策に対する公的支出は国際的にみて低水準のままだ。さらに高齢層の政治への影響力の増大は、世代間の不公平につながり、若者の政治的無関心を引き起こしている可能性がある。政策決定にあたっては、今生きている現在世代のみならず、子どもの世代、さらには今後生まれてくる将来世代への影響も考慮する必要がある。こうした問題を分析するため、筆者は乃村能成・岡山大准教授と共同で「人口内生化世代重複シミュレーションモデル」を構築した。そして政府の育児支援の促進政策と公的年金給付の削減政策が、各世代の生涯効用(人が商品やサービスを消費することで得られる満足度)に与える影響を定量的に分析した。その結果、政策の変更の影響は世代により大きく異なることが示唆された。これら2つの政策は1970~75年以降生まれの若い世代や将来世代の効用を改善する半面、それより前に生まれた世代や高齢世代の効用を悪化させる。本研究では、無限先の将来世代を含むすべての世代の効用を総合的に考慮して、改革案が全体の経済厚生(経済学的な「効率性」を表す)に与える影響を厳密に分析した。分析の結果、育児支援の促進政策と年金給付の削減政策はともに経済学的に望ましい政策であることが示された。無限先の将来世代の効用まで考慮したうえで経済厚生全体のパイが拡大するため、世代間での適切な資源配分によりすべての世代が改革前と同じか、改革前よりも良い状態に移行できる。問題は、全体にとって望ましい改革ではあるものの高齢者が損をするため、こうした改革案は政治的に実現されにくいことにある。そこで現行の日本の選挙制度の下でこれらの政策が政治的に実現可能かどうかについて検討した。育児支援の促進政策は、若い世代や将来世代の効用を改善する半面、高齢世代では税負担が増えるだけで受益がないために効用が悪化する。シミュレーションの結果、損得は2014年時点の44歳と45歳の間で分かれる。投票にあたって、改革により効用が改善する者は賛成票を、悪化する者は反対票を投じるものとする。現行の日本の選挙制度や有権者の各年齢での現実的な投票率の下では、圧倒的な差(20対45)で育児支援の促進政策は否決される(表参照)。公的年金給付の削減政策の政治的な実現可能性についても分析したが、ほぼ同様の結果が得られた。以上のように現行の選挙制度や現実的な投票率の下では、全体にとって望ましい政策(育児支援の促進・年金給付の抑制)が否決され、シルバー民主主義の弊害が如実に表れる結果となった。その理由として日本での高い高齢者人口比率、若者の低い投票率、および改革により効用が改善する選挙権年齢以下の若い世代と将来世代が投票に参加できないことが挙げられる。こうした問題を解決するには、子どもや孫世代の利益を尊重する高齢者の良識に期待するだけでなく、制度として若い世代の声を政治に反映させる仕組みを構築する必要がある。ここでは3つの選挙制度の改革案を取り上げる。まず「ドメイン投票方式」は、米国の人口学者ポール・ドメイン氏が考案したもので、投票権を持たない未成年に投票権を与え、親が子どもの代わりに投票する。次に「世代別選挙区制度」は、井堀利宏・東大名誉教授と土居丈朗・慶大教授により提唱されたもので、有権者を年齢階層別にグループ分けし選挙区を構成する。例えば30代以下を青年区、40~50代を中年区、60代以上を老年区とする。各グループから有権者数に比例した定数の議員を選ぶため、青年区の投票率が低くても必ず若年層を代表する議員を議会に送り出せる。最後に「余命別選挙制度(余命投票方式)」は、竹内幹・一橋大准教授により提唱されたもので、余命に応じて投票権に重みをつけ、若い人の一票を高齢者の一票よりも重くする。例えば20歳の有権者の一票を64票とカウントする一方、80歳の一票を10票とカウントすることが考えられる。ただし表をみると、シルバー民主主義を克服するには、3つの代表的な選挙制度改革案の中から一つを導入するだけでは不十分で、最もドラスチックな改革である余命投票方式とさらにもう一つ別の選挙改革を同時に実施する必要があることが示唆される。3つの改革案の中で、最も効果が弱いのは世代別選挙区制度だ。日本では既に少子高齢化の水準が深刻な状況にあり、そもそも高齢者と若者の人口比率自体が大変ゆがんだものとなっているからだ。余命投票方式の効果は大きいが、年齢により一票の価値が異なる。ドメイン投票方式では未成年にも選挙権を与える。劇的な変化を伴うため、導入へのハードルは高い。政治的な実現可能性の点から当面はまず世代別選挙区制度の導入から始めるべきだろう。この制度の導入を契機として現在の危機的な状況についての理解が深まり、子どもや孫世代の利益を尊重する機運が高まることも期待される。世代別選挙区制度の導入は理念的な話にとどまらない。東京都狛江市の内山恵一氏は民間企業を定年退職した後、市民団体に所属しながら、次世代のため同制度を導入すべく地元の市議会に働きかけている。漠然としたイメージの同制度を憲法上の問題に配慮しつつ、具体的で実用的な改革案に練り上げた。この案は現行憲法の下で実現可能であり、公職選挙法の改正で済むと考えられる。改革の実現は困難を極めているが、この案の存在が広く社会に認識されて、他の自治体にも論議が波及し、早急に改革に着手することを期待している。シルバー民主主義に伴う低水準の家族政策が子育て環境を悪化させ、さらに少子高齢化・人口減少の流れに拍車をかけることもその弊害として挙げられる。こうした悪循環を断ち切るために、大胆な発想に基づいた選挙制度改革を断行すべき時期に来ている。もはや時間的猶予はない。今すぐに実施しなければ、たとえ実現できても効果は限られたものになる。現在の日本では子どもを産み、親になる可能性のある女性の数自体が急激に減少しているからだ。選挙制度の改革には大きな痛みを伴うが、長期的な視野の下で全体の経済厚生が高まる経済学的に望ましい改革であることを認識してほしい。ともかく改革を実施するのが大事で、もし改革を実施できれば得られる果実は大きい。改革により経済成長が促進されるため、たとえ損失を被る高齢者へ損失分の補償をしたとしても、まだ余りある。若者世代にまん延する閉塞感を取り除き、時間軸の長い施策が実行可能となる。そして財政破綻や急激な人口減少を回避することにより、長期的に持続可能な社会を構築し、未来への展望を切り開くことが可能となるだろう。
<ポイント>
 ○経済学的に育児支援と年金削減望ましい
 ○全体利益ある政策も現選挙制度では否決
 ○余命投票方式は効果大だが導入へ壁高い
*おかもと・あきら 64年生まれ。京都大博士(経済学)。専門は公共経済学、人口経済学

*2-3:http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S21/S21KE000.html より抜粋
第十五条 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
  2  すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
  3  公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
  4  すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に
     関し公的にも私的にも責任を問はれない。

*2-4:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170531&ng=DGKKZO17106690R30C17A5EA1000 (日経新聞社説 2017.5.31) 成長戦略はなぜ成果を出せないのか
 政府が今年の成長戦略(日本再興戦略)の素案をまとめた。人工知能(AI)やビッグデータ、ロボットを活用し、さまざまな社会課題を解決する「ソサエティー5.0」の実現を掲げた。その目標が悪いわけではない。問題は、安倍晋三政権が過去の成長戦略で示しながら、なお実現できずにいる難題と十分に向き合っていない点である。日本経済の最大の課題は成長力の強化と、財政健全化の両立である。日銀による異次元の金融緩和と、2度にわたる消費増税延期で時間を買っている間に、経済の実力を高めることができたか。残念ながら、日銀の推計では、日本経済の潜在成長率は2014年時点の0.8%台から16年後半に0.6%台まで下がった。この厳しい現実を政府は直視する必要がある。安倍政権は法人税の実効税率を20%台まで下げ、農業や医療などの岩盤規制改革に取り組んだ。企業統治も強化した。さらに今年の成長戦略が、IT(情報技術)を使った医療・介護の効率化策を示したのは妥当だ。高速道路での自動運転や、金融とITを融合したフィンテックの推進を打ち出したのも理解できる。しかし、こうした新政策を次々と繰り出す一方で、過去の政策目標が未達に終わった原因をしっかり分析していない。数値目標を言いっ放しで、軽々しく扱うのは民間企業ではあり得ない対応だ。たとえば、20年までに世界銀行のビジネス環境ランキングで「先進国3位以内に入る」という目標を掲げながら、昨年時点の順位は26位まで下がってしまった。ほかにも「開業率・廃業率を米英レベル(10%台)に」「外国企業による対内直接投資残高を倍増」といった目標の達成はほぼ絶望的だ。新陳代謝を促す規制改革や、信用保証制度の見直しなどが不十分だからではないか。時間に縛られない「脱時間給」という働き方を解禁する労働基準法改正案は国会で棚ざらしにされ、一般の自家用車で利用客を送迎するライドシェア(相乗り)のサービスは進まない。100ページ超に及ぶ文書をまとめて「やってる感」を国民にアピールするだけでは困る。決めたことを着実に実行する。結果を厳しく検証し、不断の改革に挑む。そんな政策のサイクルを徹底していない政府に猛省を求めたい。

*2-5:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/436170 (佐賀新聞 2017年6月8日) 自民、天皇の元首明記提案、改憲論議巡り、民進反対
 衆院憲法審査会は8日午前、「天皇制」をテーマに議論した。自民党は、国家および国民統合の象徴としての地位を「元首」と定義した上で、憲法に天皇を「元首」と位置付けることも改憲論議の対象になり得るとの認識を示した。国旗や国歌、元号を憲法に明記する可能性にも触れた。民進党は、天皇の元首化は必要はないとして反対した。天皇の地位を巡り、2012年の自民党改憲草案は「天皇は日本国の元首であり、日本国および日本国民統合の象徴」と明記。「国旗を日章旗とし、国歌を君が代とする」と盛り込んでいる。

<壊される基本的人権の尊重>
*3-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/201705/CK2017052302000119.html (東京新聞 2017年5月23日) 【国際】「共謀罪」書簡の国連特別報告者 日本政府の抗議に反論
 安倍晋三首相宛ての公開書簡で、「共謀罪」の趣旨を含む組織犯罪処罰法改正案に懸念を表明した国連のプライバシー権に関する特別報告者ジョセフ・ケナタッチ氏は二十二日、菅義偉(すがよしひで)官房長官が同日の記者会見で抗議したと明らかにした日本政府の対応を「中身のないただの怒り」と批判し、プライバシーが侵害される恐れに配慮した措置を整える必要性をあらためて強調した。電子メールで本紙の取材に答えた。ケナタッチ氏によると、「強い抗議」は十九日午後、国連人権高等弁務官事務所を訪れた在ジュネーブ日本政府代表部の職員が申し入れ、その後、約一ページ余りの文書を受け取った。しかし、内容は本質的な反論になっておらず「プライバシーや他の欠陥など、私が多々挙げた懸念に一つも言及がなかった」と指摘した。抗議文で日本側が、国際組織犯罪防止条約の締結に法案が必要だと述べた点について、ケナタッチ氏は「プライバシーを守る適当な措置を取らないまま、法案を通過させる説明にはならない」と強く批判。法学者であるケナタッチ氏自身、日本のプライバシー権の性質や歴史について三十年にわたって研究を続けてきたとし、「日本政府はいったん立ち止まって熟考し、必要な保護措置を導入することで、世界に名だたる民主主義国家として行動する時だ」と訴えた。ケナタッチ氏は日本政府に引き続き、法案の公式な英訳文とともに説明を求めている。菅官房長官は二十二日、ケナタッチ氏の書簡に「不適切だ」と反論していた。犯罪の合意を処罰する「共謀罪」の趣旨を含む組織犯罪処罰法改正案を巡り、衆院議院運営委員会は二十二日の理事会で、衆院本会議を二十三日に開くことを佐藤勉委員長(自民党)の職権で決めた。与党は「共謀罪」法案を採決し、衆院を通過させる方針。二十四日の参院での審議入りを目指している。与党が理事会で「共謀罪」法案の採決を提案したのに対し、民進、共産両党は、与党が衆院法務委員会で法案の採決を強行したことに反発して拒否。双方が折り合わず、佐藤氏が本会議開催を決めた。「共謀罪」法案を採決するかどうかは与野党の協議に委ねた。法案を巡っては、安倍晋三首相(自民党総裁)が二十二日の党役員会で「今国会での確実な成立を目指す」と強調。高村正彦副総裁も「二十三日に間違いなく衆院通過させる」と話した。民進党の野田佳彦幹事長は記者会見で「審議は不十分だし、この間のやり方は極めて遺憾だ」と与党の国会運営を批判した。与党は法案の成立を確実にするため、来月十八日までの今国会の会期延長も検討している。  
<国連特別報告者> 国連人権理事会から任命され、特定の国やテーマ別に人権侵害の状況を調査したり、監視したりする。子どもの人身売買や、表現の自由に関する人権状況などの報告者がいる。政府や組織などから独立した専門家で、調査結果は理事会に報告する。

*3-2:http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201705/CK2017052602000135.html (東京新聞 2017年5月26日) 【政治】共謀罪は「プライバシー権侵害」 憲法審で委員から「違憲」
 衆院憲法審査会は二十五日、「新しい人権」などをテーマに審議を行った。衆院を二十三日に通過した「共謀罪」の趣旨を含む組織犯罪処罰法改正案に対し、野党の委員からは「(新しい人権の一つとされる)プライバシー権の侵害で、違憲立法」などの批判が相次いだ。民進党の山尾志桜里氏は、犯罪の共謀を処罰することは「包括的なプライバシー情報の収集なしには実現できない」と指摘。「共謀罪」法案について「プライバシー権の核心を侵しかねない」と訴えた。共産党の大平喜信氏も、「共謀罪」法案について「表現の自由をはじめ、憲法が保障する国民の権利を幾重にも侵害する」と指摘。プライバシー権に関する国連特別報告者ケナタッチ氏が法案に懸念を示したことに触れ「安倍政権は、この指摘を重く受け止めるべきだ」と求めた。また、民進党の辻元清美氏は、学校法人加計学園の獣医学部新設を巡る記録文書問題について「(新しい人権の)『知る権利』以前の問題。政府の隠ぺい体質そのもの」などとして、憲法審として調査を求めた。一方、共産党の赤嶺政賢氏は、自民党が年内にも改憲案をまとめる作業を始めたことについて「憲法審査会の議論は無視して、安倍晋三首相主導で改憲案をまとめようとしている」と批判。自民党の中谷元氏は、憲法審での議論は「首相に縛られるものではない」と強調した。

*3-3:http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/201706/CK2017060202000125.html (東京新聞 2017年6月2日) 【国際】「共謀罪で監視が日常に」 元CIAのスノーデン氏が警鐘
 米国家安全保障局(NSA)による大規模な個人情報収集を告発し、ロシアに亡命中の米中央情報局(CIA)のエドワード・スノーデン元職員(33)が一日までにモスクワで共同通信と単独会見した。元職員は持ち出して暴露した文書は全て「本物」と述べ、NSAが極秘の情報監視システムを日本側に供与していたことを強調した。日本政府が個人のメールや通話などの大量監視を行える状態にあることを指摘する証言。元職員は、参院で審議中の「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案が、個人情報の大規模収集を公認することになると警鐘を鳴らした。元職員によると、NSAは「XKEYSCORE(エックスキースコア)」と呼ばれるメールや通話などの大規模監視システムを日本側に供与。同システムは、国内だけでなく世界中のほぼ全ての通信情報を収集できる。米ネットメディア「インターセプト」は四月、元職員の暴露文書として、日本に供与した「エックスキースコア」を使って、NSA要員が日本での訓練実施を上層部に求めた二〇一三年四月八日付の文書を公開した。元職員は共謀罪について「日本における(一般人も対象とする)大量監視の始まり。日本にこれまで存在していなかった監視文化が日常のものになる」と指摘。法案に懸念を表明した国連特別報告者に「同意する」と述べた。

*3-4:http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/201706/CK2017060502000127.html (東京新聞 2017年6月5日) 【国際】「共謀罪」崩れる政府根拠 「条約はテロ防止目的でない」
 国際組織犯罪防止条約(TOC条約)締結のため、政府が必要であるとしている「共謀罪」法案をめぐり、各国が立法作業をする際の指針とする国連の「立法ガイド」を執筆した刑事司法学者のニコス・パッサス氏(58)が本紙の取材に、「条約はテロ防止を目的としたものではない」と明言した。三日にロンドン中心部で起きたテロなどを指し、「英国は長年TOC条約のメンバーだが、条約を締結するだけでは、テロの防止にはならない」と語った。さらに「新たな法案などの導入を正当化するために条約を利用してはならない」と警鐘を鳴らした。政府は東京五輪・パラリンピックに向けたテロ対策として、共謀罪の趣旨を含む組織犯罪処罰法改正案を成立させ、条約を締結しなければならないと主張。法案を参院で審議している。パッサス氏は条約を締結する国が、国内の法律や制度を整備する際の指針を示した国連の立法ガイドを執筆した。同氏はテロ対策に関して、それぞれの国に異なった事情があり、まずは刑法など国内の制度や政策を活用するものだと主張。条約はあくまで各国の捜査協力を容易にするためのものという認識を示した。また、TOC条約については「組織的犯罪集団による金銭的な利益を目的とした国際犯罪が対象」で、「テロは対象から除外されている」と指摘。「非民主的な国では、政府への抗議活動を犯罪とみなす場合がある。だからイデオロギーに由来する犯罪は除外された」と、条約の起草過程を振り返りつつ説明した。TOC条約を締結するため新法の導入が必要かとの問いには、「現行法で条約締結の条件を満たさなければ、既存法の改正か、新法の導入で対応しなければならない」と指摘。一方で「条約はプライバシーの侵害につながるような捜査手法の導入を求めていない」と述べ、条約を新たな施策導入の口実にしないよう注意喚起した。さらに、当局に過剰な権力を与え、プライバシー侵害につながる捜査ができるようにすることを懸念するのは「理解できる」と発言。捜査の主体や手法、それらを監督する仕組みを明確にするよう助言した。
<Nikos Passas> 1959年2月、ギリシャ・アテネ生まれ。アテネ大やパリ第二大で法学などを学び、欧米各地の大学で犯罪学や刑事司法を研究。現在は米ボストンにあるノースイースタン大犯罪学・刑事司法学科教授。
<国際組織犯罪防止条約(TOC条約)> 「国際的で組織的な犯罪集団」の対策に向け、2000年11月の国連総会で採択。組織による重大事件の合意を犯罪とみなし、マネーロンダリング(資金洗浄)などによる犯罪収益の没収や、犯人引き渡しなどでも相互協力するよう定める。「金銭的な利益その他の物質的利益」を目的とする集団を対象とし、テロについては全く触れられていない。今年4月時点で187の国・地域が締結しているが、日本は「条約を実施するための国内法が未成立」との理由で締結していない。

*3-5:http://www.saga-s.co.jp/column/ronsetsu/435789 (佐賀新聞 2017年6月7日) 表現の自由、意義を再確認したい
 民主主義の社会において発言や行動の自由がいかに大切か。今、その意義をあらためて確認する必要があろう。犯罪の計画を罰する「共謀罪」の構成要件を取り込んだ組織犯罪処罰法改正案や2014年に施行された特定秘密保護法、権力の強権的な姿勢など一般市民や報道機関を萎縮させかねない抑圧の動きへの危惧が強まるからだ。現状の問題点を指摘する声や多数意見に対する異論は議論を喚起し、その声を取り込んで政治や社会は進展してきた。例えば、人権や生活を保障するさまざまな制度はこうして築かれたものだ。「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」という憲法21条は、国民が政治の意思決定に参加する権利を定めた規定だ。「表現の自由」の重要性を再確認し、抑圧の動きに対抗したい。まず「共謀罪」法案から指摘しよう。その問題点の一つは「何を行えば罰になるのか」の線引きがあいまいなことだ。不明確な線引きのため「もしかしたら罰せられるかもしれない」と恐れた市民は萎縮して発言や行動を控える可能性がある。先日の衆院本会議で民進党の山尾志桜里衆院議員はこの点を指摘。「線引きの明確性や安定性を欠いた刑罰法規は自由の範囲を不明確、不安定にする」と強調し、「迷ったら、やめておこうという自発的な萎縮をもたらし、いったん萎縮した自由を取り戻すのは並大抵ではない」と主張した。計画段階の動きを把握するため捜査当局による監視が拡大する懸念も拭えない。国際ペンクラブのジェニファー・クレメント会長も声明を発表し、「共謀罪は日本の表現の自由とプライバシーの権利を侵害する」と批判している。もっと直接的な抑圧の動きもある。沖縄県で米軍基地移設への抗議活動を続ける反対派リーダーの山城博治さんは、米軍訓練場近くで有刺鉄線を切った器物損害の疑いなど逮捕、起訴され、微罪で約5カ月間も拘束された。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは「抗議活動への参加をためらう人が出始め、市民に平和的な表現や集会の権利の行使を思いとどまらせる悪影響が出ている」と警告したが、これも萎縮の問題だ。危惧が強まる状況の中で重要なのは報道機関の役割だろう。だが現状はどうか。国連人権高等弁務官事務所は5月末、言論と表現の自由に関する特別報告者デービッド・ケイ米大学教授の対日調査報告書を公表。特定秘密保護法で日本のメディアが萎縮している可能性や、政府が放送局を規制できる放送法によってメディアの「自由と独立」に不当な制約が課せられる懸念を指摘している。報告書は国連としての見解ではないが、近く国連人権理事会で説明される。日本政府は「伝聞情報に基づき不正確で不十分な内容だ」と反論する。だが国際的な視点からの指摘を謙虚に受け止めるべきだろう。国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」が発表する世界の報道自由度ランキングで日本は10年の11位から17年は72位に落ち込んだ。侵される「表現の自由」の問題は、報道機関の在り方も問うている。権力を監視するという本来の役割を果たせているのか。自主規制に陥っていないか。報道機関の重い責任も再確認したい。

*3-6:http://roudou-bengodan.org/topics/4745/ (日本労働弁護団 2017/5/19) 衆議院法務委員会における共謀罪法案の採決強行に抗議する声明   <共謀罪法案に反対する法律家団体連絡会、社会文化法律センター代表理事 宮里邦雄、自由法曹団団長 荒井新二、青年法律家協会弁護士学者合同部会議長 原和良、日本国際法律家協会会長 大熊政一、日本反核法律家協会会長 佐々木猛也、日本民主法律家協会理事長 森英樹、日本労働弁護団会長 徳住堅治、明日の自由を守る若手弁護士の会共同代表 神保大地・黒澤いつき>
 衆議院法務委員会での採決の強行を受けて、労働弁護団も加わる共謀罪法案に反対する法律家団体連絡会で声明を発表しました。本日,衆院法務委員会において、共謀罪(「テロ等準備罪」)法案を含む組織犯罪処罰法改正案の採決が強行された。来週にも本会議への上程を計画していると伝えられる。私たちは,この暴挙に対し,満腔の怒りをもって強く抗議する。そもそも、刑法は、どの行為が犯罪とされるかを定めているが、裏返せば、犯罪とされずに自由に行動できる範囲を定めているといえる。犯罪とは人の生命や身体自由名誉財産に被害を及ぼす行為と説明され、法益の侵害又はその現実の危険性が生じて初めて事後的に国家権力が発動されるというシステムは,我々の社会の自由を守るための制度の根幹である。約300もの多くの犯罪について共謀の段階から処罰できることとする共謀罪法案は、既遂処罰を基本としてきた我が国の刑法体系を覆し、人々の自由な行動を制限し、国家が市民社会に介入する際の境界線を、大きく引き下げるものである。私たちは沖縄ですでに弾圧の道具に使われている威力業務妨害罪の共謀罪が法案化されていることに警鐘を鳴らしたい。1999年に制定された組織犯罪処罰法によって、組織的威力業務妨害罪、組織的強要罪、組織的信用毀損罪が作られ、法定刑が長期3年から5年に引き上げられ、廃案となった2003年法案で共謀罪の対象犯罪とされた。これらの犯罪は、もともと構成要件があいまいで、労働運動などの弾圧法規として使われてきた問題のある犯罪である。この共謀罪はひとつだけでも治安維持法に匹敵する著しい危険性を持っている。自民党の2007年小委員会案では、これらの犯罪は共謀罪の対象から外されていたのに、これを何が何でも共謀罪の対象としようとしている安倍政権には、市民の異議申し立て活動に対する一網打尽的弾圧の意図を疑わざるを得ない。「組織犯罪集団」の関与と「準備行為」を要件としても、法案の適用範囲を厳しく限定したものとは評価できない。首相は、一般人は処罰の対象にならないと説明しているが、同法案では、原発反対運動や基地建設反対運動などに適用され得る組織的威力業務妨害罪や、楽譜のコピー(著作権法違反)や節税(所得税法違反)など市民が普通の生活の中で行う行為が犯罪に問われかねないものも,対象犯罪に含まれている。そもそも、同法案には一般人を対象としないなどという文言はなく、「計画」と「準備行為」があれば、条文解釈上、誰でもが処罰対象となり得る規定となっている。現在の審議状況では、到底、私たち市民が納得できるだけの充分な説明が尽くされたとは言えない。警察は今でも,市民運動に関わる人の情報を収集したり,イスラム教徒だというだけで調査の対象とするなどの違法なプライバシー侵害を繰り返しているが,共謀罪が制定されれば、今以上に,市民の行動や,人と人との会話、目配せ、メール、LINEなど、人の合意のためのコミュニケーションそのものが広く監視対象とされる可能性が高い。政府は,共謀罪の制定が国連越境組織犯罪防止条約(TOC条約)の批准のために不可欠であるかのように主張するが,諸外国の例を踏まえれば、このような広範な共謀罪法案を成立させることなく国連条約を批准しても、国際的な問題は全く起きるものではない。また,この条約の目的はマフィアなどの経済的な組織犯罪集団対策であり、テロ対策ではない。日本は、国連の13主要テロ対策条約についてその批准と国内法化を完了している。法案には「テロリズム集団その他の組織犯罪集団」という言葉は入れられたものの、テロリズムの定義もなく、法の適用範囲を限定する意味はない。共謀罪法案をめぐる衆議院法務委員会の審議・運営は,政府が野党議員の質問にまともに答える姿勢を放棄して「一般市民は捜査の対象にもならない」など根拠のない答弁を機械的に繰り返したり,野党議員が大臣に答弁を求めたにもかかわらず政府職員が勝手に答弁するなど,異常かつ非民主的という他ないものであった。5月17日,野党議員が金田法務大臣の解任決議案を提出したことは,道理にかなったものである。こうした異常な審議の挙句,いまだ審議すべき重要問題が多数積み残されたまま,本日,採決が強行されたことは,暴挙といわざるを得ない。5月16日報道された朝日新聞の世論調査では、共謀罪法案を今国会で成立させる必要はないという意見は64%に達し、必要とする意見18%を大きく上回った。共謀罪法案反対の世論は急速に広がっており,国民の多数は、この間の審議を通じて浮かび上がってきた法案の多くの問題点について,審議を深めることを願っている。私たち共謀罪法案に反対する法律家団体連絡会は、我が国の人権保障と民主主義の未来に大きな禍根を残す共謀罪法案の成立を阻止するため、引き続き全力を尽くす決意である。      以上

*3-7:http://www.higashihonganji.or.jp/news/important-info/19796/ (真宗大谷派《東本願寺》宗務総長但馬弘 2017年5月18日) 「テロ等組織犯罪準備罪(共謀罪)法案に反対する声明」を発表
 真宗大谷派では5月18日、宗務総長名による「テロ等組織犯罪準備罪(共謀罪)法案に反対する声明」を発表しました。
       *テロ等組織犯罪準備罪(共謀罪)法案に反対する声明*
 現在、テロ等組織犯罪準備罪を新設する組織犯罪処罰法改正案が、国会で審議されています。当然テロ等の犯罪行為は、決して許されるものではありません。しかしこの法案は、実際の行為がなくとも、犯罪とみなされる計画をしただけで処罰することができる、いわゆる「共謀罪」の内容が盛り込まれており、市民の日常生活に重大な制約をもたらす恐れがあります。どのような計画が犯罪になるのかは捜査機関の判断によることから、恣意的な検挙が行われ、市民の思想や言論、表現の自由全般が損なわれる可能性は否めません。さらに犯罪の事実を立証するために、日常的にプライバシーが侵害され、市民どうしが相互に監視する社会をつくりだしてしまうことを危惧します。宗祖親鸞聖人は、時の権力によって「専修念仏」が罪とされたことにより、同行たちが斬首され、聖人自身も流罪となった承元の法難を経験されました。権力側が欲する秩序を護るために個を抹殺しても厭わない当時、宗祖は「主上臣下、法に背き義に違し」との痛みをもった厳しい言葉を残しておられます。また明治期の日本では、国家による思想弾圧事件として、多くの人たちが無実の罪で死刑、無期懲役となった「大逆事件」が起こりました。国全体が戦争へと突き進む中、宗祖の教えに生きんとし、非戦と平等を説いた当派僧侶・高木顕明師もこの事件に連座した一人でありました。思想や信条は、他から侵害されてはならないものです。そして、思想や信条の自由は、一人ひとりが声をあげてこそ守られるものと考えます。すべての人が共に生き合える同朋社会の実現をめざす教団として、テロ対策という名のもとに政府が市民を監視し、私たち個人の思想や言論、表現を統制しようとする今回の法案に対して、真宗大谷派は強く遺憾の意を表明し、廃案を求めます。

*3-8:http://www.christiantoday.co.jp/articles/23810/20170524/kyobozai-catholic-council-for-justice-peace-statement.htm (Christian Today, Japan 2017年5月24日) 「共謀罪」法案衆院通過、カトリック団体が反対声明 戦中の弾圧にも言及
 犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の内容を盛り込んだ「テロ等準備罪」を新設する「組織犯罪処罰法」の改正案が23日、自民、公明両党と日本維新の会などの賛成多数により、衆院本会議で可決された。これを受け、日本カトリック正義と平和協議会は24日、反対声明を発表。戦中の宗教弾圧により拷問を受けて亡くなった外国人神父の存在についても触れ、同法案の撤回、廃案を強く求めた。同協議会は、同法案に反対する理由を4つ挙げている。最初に挙げたのは、社会に対して実際に損害をもたらした犯罪のみを処罰するという「行為原理」や、刑罰を科す範囲をあらかじめ明確に定めるという「罪刑法定主義」などの近代刑法の原則に反することだ。「犯罪の範囲はいっきに拡大し、犯罪の『共謀』『計画』をはかったという理由で、犯罪を実行していない人間の意思や内心が処罰の対象となり、国家による恣意的な処罰、自白の強要によるえん罪の危険が高まります」と警告している。また、任意の捜査と情報収集の幅が拡大することで、プライバシーの侵害が頻発し、監視社会になってしまうと危惧。自首した場合の免罪が盛り込まれていることから、仲間うちでの密告が推奨され、社会の中に深刻な相互不信を作り出すとしている。さらに、恣意的な捜査や逮捕が可能になった監視社会では、実際の監視行動がなくても市民活動が萎縮し、憲法が保障する思想、信条、信教の自由、集会・結社の自由が破壊されかねないとしている。第2次世界大戦下では、治安維持法により多くの宗教弾圧が行われ、日本のカトリック教会でも司祭や修道者、信者らが逮捕・勾留されることは多くあった。パリ外国宣教会のシルベン・ブスケ神父は、天皇への不敬言動やスパイ活動などの容疑をかけられ、拷問を受けて亡くなった。同協議会は声明でこうした過去の弾圧について触れ、「私たちの信仰するカトリックの教義が、権力にとって都合の悪い危険思想と見なされたからです」と説明。同法案が国家に恣意的に用いられた場合の危機感をにじませた。さらに戦中は、こうした宗教弾圧により「信徒は萎縮し、警察への密告が行われ、教会は分断されました」と言い、「教会に、私たちが希求する愛と信頼に基づいた世界と正反対の出来事が起こりました。このようなことは、いかなる場所においても、もう二度と繰り返されてはなりません」と訴えている。

*3-9:http://ryukyushimpo.jp/kyodo/entry-509218.html (琉球新報 2017年6月5日) 「共謀罪」で国際ペン会長が声明 「日本の表現の自由を侵害」
 いわゆる「共謀罪」法案について記者会見する日本ペンクラブの浅田次郎会長。上は国際ペンクラブのジェニファー・クレメント会長の顔写真=5日午後、東京都中央区
「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案が国会で審議されていることを受け、国際ペンクラブのジェニファー・クレメント会長は5日、「共謀罪は日本の表現の自由とプライバシーの権利を侵害する」と題する声明を発表。日本ペンクラブ(浅田次郎会長)が同日記者会見し、明らかにした。声明は「いわゆる『共謀罪』という法律を制定しようという日本政府の意図を注視している。同法が成立すれば、日本における表現の自由とプライバシーの権利を脅かすものとなるであろう」と警告。「日本国民の基本的な自由を深く侵害することとなる立法に反対するよう、国会に対し強く求める」としている。


PS(2017.6.10追加):*4のように、「集団的自衛権の行使を認めた安全保障関連法は憲法違反」として、自衛官の家族や元教員が札幌地裁に同法に基づく自衛隊派遣の差し止めと慰謝料の支払いを国に求めたそうで、私は、北海道の人も頑張っていると思うが、集団的自衛権のすべてが違憲なわけではないため、違憲になる部分を具体的にリストアップして提訴しなければ勝訴しにくいと考える。また、野党の主張には手続き論が多いが、それでは手続きさえよければよいということになって本質的な問題提議にならないため、市民の共感は得られないだろう。

*4:http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/society/society/1-0408956.html (北海道新聞 2017.6.10) 「安保法、手続きも違憲」 札幌訴訟初弁論 原告が主張
 集団的自衛権の行使を認めた安全保障関連法は憲法違反として、自衛官の家族や元教員ら268人が同法に基づく自衛隊派遣の差し止めと慰謝料の支払いを国に求めた訴訟の第1回口頭弁論が9日、札幌地裁(岡山忠広裁判長)であった。国側は派遣差し止めの請求却下と、慰謝料の請求棄却を求めた。原告は、安保法成立で平和的に生きる権利を脅かされたとして、1人につき10万円の慰謝料を求めている。原告側は6人が意見陳述し「安保法は内容も成立までの手続きも、憲法の恒久平和主義、立憲主義、民主主義に違反する」と強調。自衛官の息子を持つ70代男性は「自衛官の家族は、いつ大事なわが子、夫、父親の命が奪われるかもしれない恐怖と不安の中で過ごしている」と訴えた。


PS(2017年6月11日追加):*5のように、「取り調べの可視化を検討することを附則に盛り込む」ことによって、どこまでの範囲の取り調べ可視化が約束されるかについては全く期待できない。また、警察のシナリオに沿った自白をしない人に対するカメラには映らない取り調べ中の嫌がらせも多い。さらに、最高裁で「令状無しの捜査は違法だ」という判決が出たGPS捜査を合法化するために法律を変更するのは、プライバシーの侵害や人権侵害を合法化するものであり、憲法違反である。それでも与党は、「一般人は対象にならない」等々と強弁しているが、この場合の“一般人”の範囲はかなり狭いため、ここで言う「一般人」「普通の人」の定義も明らかにすべきで、その結果、共謀罪法案は廃案にすべきだということは自明である。

*5:http://www.news24.jp/articles/2017/05/11/04361244.html (日テレNEWS24 2017年5月11日) 自公と維新の会“共謀罪”修正案で合意
 自民・公明両党と日本維新の会は11日、共謀罪の趣旨を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案を修正し、取り調べの可視化を検討することなどを附則に盛り込むことで合意した。修正協議では日本維新の会が取り調べの録音・録画を義務づける「可視化」を求めた。このため修正案では「捜査の適性の確保に十分配慮する」とした上で、附則に「取り調べの録画・録音の制度を検討する」などと明記することになった。また、最高裁判所で令状無しの捜査は違法だとの判決が出た全地球測位システム(=GPS)を使った捜査については、立法措置の検討を附則に盛り込むという。自民・公明両党と日本維新の会は12日にも修正案を共同提出し、18日の衆議院通過を目指している。一方、民進党などは「政府案は人権侵害につながる上、テロ対策にもなっていない」として廃案を求めており、独自案を衆議院に提出した。組織的な詐欺などに限り犯罪の準備行為を「予備罪」として罰することや、ハイジャック防止に向け国が空港の保安体制を強化することを義務づけていて、速やかな審議入りを求めている。


PS(2017年6月14日追加):*6のように、法務委員会で議論している最中で疑問ばかりの「共謀罪」法案だが、法務委員会の採決を省略して6月15日未明に本会議で採決しそうである。これでは内容だけでなく手続きも異例で、未明に本会議で採決するなど、“働き方改革”を提唱している人たちのすることかと呆れるばかりだ。

*6:http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201706/CK2017061402000252.html (東京新聞 2017年6月14日) 【政治】「共謀罪」の委員会採決省略を提案 自民、本会議へ 民進は拒否
 自民党の松山政司参院国対委員長は十四日、民進党の榛葉賀津也(しんばかづや)参院国対委員長と国会内で会談し、「共謀罪」の趣旨を含む組織犯罪処罰法改正案について、参院法務委員会での採決を省略し、同日午後の参院本会議で「中間報告」を行った後、採決すると提案した。榛葉氏は「法務委で議論している最中だ」などとして拒否した。民進党など野党四党は内閣不信任決議案の提出も視野に成立阻止を図る方針。自民党の竹下亘国対委員長は十四日午後、党本部の会合で「中間報告の形で可決することを今日中にやらないといけない」と語った。法案は通常、委員会で審議・採決された後に本会議で採決されるが、国会法は「特に必要があるとき」は、本会議での中間報告を経て、本会議採決できる手順を定める。報告は通常、委員長が行うが、動議により委員長以外が行うこともできる。現在、参院法務委員長は公明党の秋野公造氏。十四日午後の参院本会議では、「共謀罪」法案を巡り、民進、共産両党が提出した金田勝年法相の問責決議案を与党などの反対多数で否決する見通し。自民党は、この本会議の後に「共謀罪」法案に関する中間報告と採決に踏み切ると提案した。与党は十五日に参院法務委員会で「共謀罪」法案を採決する意向だった。民進党の山井和則国対委員長は十四日昼、党会合で「近いうちに内閣不信任決議案の提出も視野に入ってくる」と指摘。自民党提案の中間報告については「強権政治は許さない」と反発した。民進党の蓮舫代表は党参院議員総会で「共謀罪」法案について「安倍内閣は充実した審議より採決ありきの姿勢だ。共謀罪は絶対に通すべきではない」と、成立阻止を訴えた。民進、共産両党は十三日、「共謀罪」法案の審議を巡り、金田法相の答弁能力が欠けるとして、問責決議案を共同提出。法務委の審議が中断した。参院本会議は十四日午前、山本幸三地方創生担当相の問責決議案を与党などの反対多数で否決した。学校法人「加計(かけ)学園」(岡山市)問題に関し、国家戦略特区制度を担当する山本氏が「事実の隠蔽(いんぺい)に加担している」などとして、民進党が十三日提出した。


PS(2017年6月15日追加):*7-1のように、犯罪を計画段階で処罰する“テロ等準備罪”を新設する改正組織犯罪処罰法が、実行後の処罰を原則としてきた日本の刑法体系を変える重大な岐路であるにもかかわらず、参院法務委員会の採決すら省略して、6月15日朝の参院本会議で自民党・公明党・日本維新の会などの賛成多数により強硬採決されたが、これは警察の監視社会・捜査権乱用と密告社会に繋がるものである。
 この法案は、地下鉄サリン事件を例に説明されることが多かったが、地下鉄サリン事件は松本サリン事件(犯罪)が起こった時、被害者を守る主張をする筈の被害者の夫を犯人に仕立て上げ、真犯人を探さなかった警察の不作為と冤罪によって起こったもので、原因と解決法が合わない。基督教関係団体・真宗大谷派住職・浄土真宗本願寺派住職・金光教教会副教会長など多くの宗教家が、*7-2のように、その歴史的教訓や宗教の理念から“テロ等準備罪(共謀罪)”に反対しておられるが、創価学会の皆様は公明党の態度に納得しておられるのだろうか。
 なお、「共謀罪」の対象となる277の犯罪には、*7-3のように、騒乱・放火・水道汚染・組織的な威力業務妨害・海底電信線の損壊・自動車道における自動車往来危険・他人の森林への放火・放射線の発散・けしの栽培・強制わいせつ・強姦・無資格自転車競走・特許権/著作権等の侵害・所得税/法人税の免脱・偽証など、テロとは関係なく犯罪実行後に処罰すればよいものが多く含まれ、放射線の発散のように、むしろ政府や東電に当てはまると思われるものもあって、“テロ等準備罪”の成立によってメリットがあるのは権力側につく警察だけである。

*7-1:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2017061501000632.html (東京新聞 2017年6月15日) 「共謀罪」法が成立、自公強行 委員会採決省略、懸念置き去り
 犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ「テロ等準備罪」を新設する改正組織犯罪処罰法が15日朝の参院本会議で自民、公明両党と日本維新の会などの賛成多数により可決、成立した。自公は参院法務委員会の採決を省略するため「中間報告」と呼ばれる異例の手続きで採決を強行。同法は実行後の処罰を原則としてきた日本の刑法体系を大きく変える内容で、野党は「監視社会や捜査権乱用につながる懸念を置き去りにした」と猛反発した。安倍内閣への不信任決議案は15日未明の衆院本会議で否決された。法務省は、法施行は7月11日になる見込みだと発表した。

*7-2:https://kansaisyukyosya.wixsite.com/kyobozai/blank、https://kansaisyukyosya.wixsite.com/kyobozai/blank-1(2017年6月13日)私たちは「共謀罪」に反対します。
【呼びかけ人】
浅野献一  (日本基督教団室町教会 牧師)
菴原淳   (真宗大谷派 教福寺 住職)
一木千鶴子 (日本基督教団高石教会 牧師)
今給黎真弓 (日本バプテスト連盟豊中バプテスト教会 牧師)
大仁田拓朗 (日本基督教団兵庫教区 議長、鈴蘭台教会 牧師)
大薮朝祥  (日本基督教団 長崎飽之浦教会 牧師)
小倉雅昭  (浄土真宗本願寺派宣光寺 住職)
上内鏡子  (日本基督教団神戸イエス団教会 牧師)
清川泰司  (日本カトリック正義と平和協議会大阪教区担当 司祭)
古郝荘八  (日本基督教団高石教会 牧師)
後藤正敏  (日本基督教団京都上賀茂教会 牧師)
斎藤成二  (日本基督教団大阪東十三教会 牧師)
斉藤 壹  (日本聖公会  司祭)
佐々木基文 (西光院 名誉住職)
高木孝裕  (大阪宗教者平和協議会 理事長 日蓮宗)
高島保   (金光教稗島教会 副教会長)
佃真人   (日本基督教団宝塚教会 牧師)
長田譲   (真宗仏光寺派正念寺 住職)
中道基夫  (関西学院大学神学部学部 教授)
袴田康裕  (神戸改革派神学校 教授)
樋口洋一  (日本基督教団島原教会 牧師、九州教区平和・人権部門 委員長)
水野隆一  (関西学院大学神学部 教授)
森口あおい  (日本基督教団大阪西淀川教会 牧師)
森田幸男   (日本キリスト教会 大阪北教会  牧師)
矢野太一  (天理教平和の会 会長)
山本有紀  (日本基督教団尼崎教会 牧師)
弓矢健児  (日本キリスト改革派千里山教会 牧師)
<声明文>
 私たちは、今国会で審議されている「組織犯罪処罰法改正案」(以下、「「共謀罪」法案」)に対して深い憂慮を抱き、その成立に反対します。この法案は、具体的な犯罪行為の前段階で取り締まる法案となっており、日本の刑法が拠って立っている原理である「行為原理」に反する法案であるとの指摘がなされています。また、「共謀罪」を取り締まるためには市民の日常的な会話や行動が監視対象となり、それによって市民生活が萎縮し、自由、ことに集会や思想信条の自由が制限されることが危惧されています。さらに、告発による罪の軽減も含まれているために、市民同士がお互いを監視し、告発し合う、「警察社会」の出現やえん罪の増加すら、引き起こしかねないと思われます。「共謀罪」法案の持つ問題については、国連人権委員会の任命した特別報告者も懸念を表明し、日本政府に対して説明を求めています。「共謀罪」法案が成立すれば、すべての宗教団体がその監視対象となることが危惧されます。政府の当初の説明では、対象は「組織的犯罪集団」のみが適用の対象となるとしてきましたが、その定義は曖昧であり、「普通の団体」も「その性格が一変すれば」対象となる事がありうると国会答弁で答えています。また、犯罪の構成要件も非常にあいまいであり、各宗教団体が行う、祈り、礼拝などの、日常的な宗教行為まで、「共謀罪」、準備行為とみなされる可能性があります。政府は、犯罪の構成要件は犯罪の具体的計画を立て、合意をし、その「準備行為」を行うことであると説明しています。しかし、その合意は集会に参加したり、SNS・メーリングリスト等でその合意が行われたグループに参加したりしているだけでも成立することがありうると指摘できます。つまり、日常的に行われる各宗教団体の集会における法話や説教で語られたことも、信者の集まりで話合われたことも、果ては、信者同士の何気ない会話も「共謀」とみなされる可能性があることは否定できません。歴史を振り返れば、「治安維持法」も「言論文章の自由」を最大限尊重すると答弁されていたにもかかわらず、多くの宗教団体が国家権力によって、監視され、自由な宗教活動は制限されました。私たちは、自らの宗教者としての信条に基づき、戦争や「国体」に反対し、それゆえ、「治安維持法」により逮捕され、拷問すら受けた宗教者のあったことを想い起こします。その一方、宗教団体が組織として、国家による弾圧を恐れて、自らの教説を曲げてまで「聖戦完遂」のために協力した歴史もあったことを認識しています。私たちが「共謀罪」法案に反対するのは、このような歴史に対する反省の上に立っています。国会審議の過程では、オウム真理教による事件が、テロ組織に変貌した宗教団体による事件の例として言及されました。彼らのような犯罪を企てることは決してありませんが、私たちが所属するそれぞれの宗教の教説には、理想的な社会の実現を信じ、そのために力を尽くすことが含まれています。「治安維持法」下では、これが「国体」を否定し、転覆させようとしたと見なされました。今回の「共謀罪」法案でも、今現在の社会を、民主的な手段で、あるいは、教育や福祉という方法で、よりよいものに変革しようとするグループすら「組織的犯罪集団」と見なされかねない危険があることが指摘されています。社会をよりよくしようとするすべての人々と手をたずさえて協力し合うことは、自らの教説に基づいており、また、これまで宗教が担ってきた社会における役割の一つであることを、私たちは認識し、これからもその役割を果たすものでありたいとの願いも、「共謀罪」法案反対の理由です。以上のようなことに鑑み、私たちは、良心の自由、思想信条の自由、集会の自由、表現の自由を守っていくため、この「共謀罪」法案に強く反対します。

*7-3:http://www.chunichi.co.jp/s/article/2017061590040437.html (中日新聞 2017年6月15日) 政治:「共謀罪」の対象犯罪
 「共謀罪」の対象となる277の罪は次の通り。
【テロの実行に関する犯罪=110】
(刑法)内乱等ほう助▽騒乱▽現住建造物等放火▽非現住建造物等放火▽建造物等以外放火
  ▽激発物破裂▽現住建造物等浸害▽非現住建造物等浸害▽往来危険▽汽車転覆等
  ▽水道汚染▽水道毒物等混入▽水道損壊及び閉塞(へいそく)▽傷害▽未成年者略取及び
  誘拐▽営利目的等略取及び誘拐▽所在国外移送目的略取及び誘拐▽被略取者等所在国
  外移送▽営利拐取等ほう助目的被拐取者収受▽営利被拐取者収受▽身代金被拐取者収
  受等▽電子計算機損壊等業務妨害▽強盗
(組織犯罪処罰法)組織的な殺人▽組織的な逮捕監禁▽組織的な強要▽組織的な身代金目的
  略取等▽組織的な威力業務妨害▽組織的な建造物等損壊
(爆発物取締罰則)製造・輸入・所持・注文▽ほう助のための製造・輸入等▽製造・輸入・所
  持・注文=第1条の犯罪の目的でないことが証明できないとき
(海底電信線保護万国連合条約罰則)海底電信線の損壊
(外為法)国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなる無許可取引等▽特定技術提供目的
  の無許可取引等
(電波法)電気通信業務等の用に供する無線局の無線設備の損壊等
(文化財保護法)重要文化財の損壊等▽史跡名勝天然記念物の滅失等
(道路運送法)自動車道における自動車往来危険▽事業用自動車の転覆等
(森林法)他人の森林への放火
(刑事特別法)軍用物の損壊等
(有線電気通信法)有線電気通信設備の損壊等
(武器等製造法)銃砲の無許可製造▽銃砲弾の無許可製造▽猟銃等の無許可製造
(ガス事業法)ガス工作物の損壊等
(関税法)輸入してはならない貨物の輸入▽輸入してはならない貨物の保税地域への蔵置等
  ▽無許可輸出等▽輸出してはならない貨物の運搬等
(自衛隊法)自衛隊の所有する武器等の損壊等
(高速自動車国道法)高速自動車国道の損壊等
(水道法)水道施設の損壊等
(銃刀法)拳銃等の発射▽拳銃等の輸入▽拳銃等の所持等▽拳銃等の譲り渡し等▽営利
  目的の拳銃等の譲り渡し等▽偽りの方法による許可▽拳銃実包の輸入▽拳銃実包の
  所持▽拳銃実包の譲り渡し等▽猟銃の所持等▽拳銃等の輸入に係る資金等の提供
(下水道法)公共下水道の施設の損壊等
(道交法)不正な信号機の操作等
(新幹線特例法)自動列車制御設備の損壊等
(電気事業法)電気工作物の損壊等
(海底電線等損壊行為処罰法)海底電線の損壊▽海底パイプライン等の損壊
(ハイジャック防止法)航空機の強取等▽航空機の運航阻害
(火炎瓶処罰法)火炎瓶の使用
(熱供給事業法)熱供給施設の損壊等
(航空危険行為処罰法)航空危険▽航行中の航空機を墜落させる行為等▽業務中の航空
  機の破壊等▽業務中の航空機内への爆発物等の持込み
(人質強要処罰法)人質による強要等▽加重人質強要
(生物兵器禁止法)生物兵器等の使用▽生物剤等の発散▽生物兵器等の製造▽生物兵器
  等の所持等
(流通食品毒物混入防止法)流通食品への毒物の混入等
(化学兵器禁止法)化学兵器の使用▽毒性物質等の発散▽化学兵器の製造▽化学兵器の
  所持等▽毒性物質等の製造等
(サリン等人身被害防止法)サリン等の発散▽サリン等の製造等
(感染症予防法)一種病原体等の発散▽一種病原体等の輸入▽一種病原体等の所持等
  ▽二種病原体等の輸入
(対人地雷禁止法)対人地雷の製造▽対人地雷の所持
(公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金等の提供等の処罰に関する法律)公衆等脅迫
  目的の犯罪行為を実行しようとする者による資金等を提供させる行為▽公衆等脅迫目的
  の犯罪行為を実行しようとする者以外の者による資金等の提供等
(放射線発散処罰法)放射線の発散等▽原子核分裂等装置の製造▽原子核分裂等装置の
  所持等▽特定核燃料物質の輸出入▽放射性物質等の使用の告知による脅迫▽特定核
  燃料物質の窃取等の告知による強要
(海賊対処法)海賊行為
(クラスター弾禁止法)クラスター弾等の製造▽クラスター弾等の所持
【薬物に関する犯罪=29】
(刑法)あへん煙輸入等▽あへん煙吸食器具輸入等▽あへん煙吸食のための場所提供
(大麻取締法)大麻の栽培等▽大麻の所持等▽大麻の使用等
(覚せい剤取締法)覚醒剤の輸入等▽覚醒剤の所持等▽営利目的の覚醒剤の所持等
  ▽覚醒剤の使用等▽営利目的の覚醒剤の使用等▽管理外覚醒剤の施用等
(麻薬取締法)ジアセチルモルヒネ等の輸入等▽ジアセチルモルヒネ等の製剤等▽営利目的
  のジアセチルモルヒネ等の製剤等▽ジアセチルモルヒネ等の施用等▽営利目的のジアセ
  チルモルヒネ等の施用等▽ジアセチルモルヒネ等以外の麻薬の輸入等▽営利目的のジ
  アセチルモルヒネ等以外の麻薬の輸入等▽ジアセチルモルヒネ等以外の麻薬の製剤等
  ▽麻薬の施用等▽向精神薬の輸入等▽営利目的の向精神薬の譲り渡し等
(関税法)輸出してはならない貨物の輸出
(あへん法)けしの栽培等▽営利目的のけしの栽培等▽あへんの譲り渡し等
(医薬品医療機器法)業として行う指定薬物の製造等
(麻薬特例法)薬物犯罪収益等隠匿
【人身に関する搾取犯罪=28】
(刑法)強制わいせつ▽強姦(ごうかん)▽準強制わいせつ▽準強姦▽人身売買
(労働基準法)強制労働
(職業安定法)暴行等による職業紹介等
(児童福祉法)児童淫行
(船員職業安定法)暴行等による船員職業紹介等
(入管難民法)在留カード偽造等▽偽造在留カード等所持▽集団密航者を不法入国させる行為等
  ▽営利目的の集団密航者の輸送▽集団密航者の収受等▽営利目的の難民旅行証明書等の
  不正受交付等▽営利目的の不法入国者等の蔵匿等
(旅券法)旅券等の不正受交付等
(売春防止法)対償の収受等▽業として行う場所の提供▽売春をさせる業▽資金等の提供
(労働者派遣法)有害業務目的の労働者派遣
(入管特例法)特別永住者証明書の偽造等▽偽造特別永住者証明書等の所持
(臓器移植法)臓器売買等
(児童買春・ポルノ禁止法)児童買春周旋▽児童買春勧誘▽児童ポルノ等の不特定又は多数の者
  に対する提供等
【その他資金源犯罪=101】
(刑法)通貨偽造及び行使等▽外国通貨偽造及び行使等▽有印公文書偽造等▽有印虚偽公文書
  作成等▽公正証書原本不実記載等▽偽造公文書行使等▽有印私文書偽造等▽偽造私文書等
  行使▽私電磁的記録不正作出及び供用▽公電磁的記録不正作出及び供用▽有価証券偽造等
  ▽偽造有価証券行使等▽支払用カード電磁的記録不正作出等▽不正電磁的記録カード所持
  ▽公印偽造及び不正使用等▽墳墓発掘死体損壊等▽収賄▽事前収賄▽第三者供賄▽加重収賄
  ▽事後収賄▽あっせん収賄▽窃盗▽不動産侵奪▽事後強盗▽昏睡(こんすい)強盗
  ▽電子計算機使用詐欺▽背任▽準詐欺▽横領▽盗品有償譲り受け等
(組織犯罪処罰法)組織的な封印等破棄▽組織的な強制執行妨害目的財産損壊等▽組織的な強制
  執行行為妨害等▽組織的な強制執行関係売却妨害▽組織的な常習賭博▽組織的な賭博場開帳
  等図利▽組織的な信用毀損(きそん)・業務妨害▽組織的な詐欺▽組織的な恐喝▽不法収益
  等による法人等の事業経営の支配を目的とする行為▽犯罪収益等隠匿
(外国貨幣の偽造に関する法律)偽造等▽偽造外国流通貨幣等の輸入▽偽造外国流通貨幣等の
  行使等
(印紙犯罪処罰法)偽造等▽偽造印紙等の使用等
(郵便法)切手類の偽造等
(金融商品取引法)虚偽有価証券届出書等の提出等▽内部者取引等
(競馬法)無資格競馬等
(自転車競技法)無資格自転車競走等
(小型自動車競走法)無資格小型自動車競走等
(文化財保護法)重要文化財の無許可輸出
(地方税法)軽油等の不正製造▽軽油引取税に係る脱税
(商品先物取引法)商品市場における取引等に関する風説の流布等
(投資信託及び投資法人に関する法律)投資主の権利の行使に関する利益の受供与等について
  の威迫行為
(モーターボート競走法)無資格モーターボート競走等
(森林法)保安林の区域内における森林窃盗▽森林窃盗の贓(ぞう)物の運搬等
(関税法)偽りにより関税を免れる行為等
(出資法)高金利の契約等▽業として行う高金利の契約等▽高保証料▽保証料がある場合の
  高金利等▽業として行う著しい高金利の脱法行為等
(補助金適正化法)不正の手段による補助金等の受交付等
(特許法)特許権等の侵害
(実用新案法)実用新案権等の侵害
(意匠法)意匠権等の侵害
(商標法)商標権等の侵害
(所得税法)偽りその他不正の行為による所得税の免脱等▽偽りその他不正の行為による
  所得税の免脱▽所得税の不納付
(法人税法)偽りにより法人税を免れる行為等
(著作権法)著作権等の侵害等
(廃棄物処理法)無許可廃棄物処理業等
(貸金業法)無登録営業等
(消費税法)偽りにより消費税を免れる行為等
(種の保存法)国内希少野生動植物種の捕獲等
(不正競争防止法)営業秘密侵害等▽不正競争等
(保険業法)株主等の権利の行使に関する利益の受供与等についての威迫行為
(スポーツ振興投票法)無資格スポーツ振興投票
(種苗法)育成者権等の侵害
(資産の流動化に関する法律)社員等の権利等の行使に関する利益の受供与等について
  の威迫行為
(民事再生法)詐欺再生▽特定の債権者に対する担保の供与等
(電子署名等に係る地方公共団体情報システム機構の認証業務に関する法律)不実の署名
  用電子証明書等を発行させる行為
(会社更生法)詐欺更生▽特定の債権者等に対する担保の供与等
(破産法)詐欺破産▽特定の債権者に対する担保の供与等
(会社法)会社財産を危うくする行為▽虚偽文書行使等▽預合い▽株式の超過発行▽株主等
  の権利の行使に関する贈収賄▽株主等の権利の行使に関する利益の受供与等について
  の威迫行為
(放射性物質汚染対処特別措置法)汚染廃棄物等の投棄等
【司法妨害に関する犯罪=9】
(刑法)加重逃走▽被拘禁者奪取▽逃走援助▽偽証
(組織犯罪処罰法)組織的な犯罪に係る犯人蔵匿等
(爆発物取締罰則)爆発物の使用、製造等の犯人の蔵匿等
(刑事特別法)偽証
(国際刑事裁判所に対する協力等に関する法律)組織的な犯罪に係る証拠隠滅等▽偽証


PS(2017年6月19日追加):*8-1のように、共謀罪法に反対する大学教授が抗議声明を出して共謀罪法の廃止を求めておられるのは心強いが、反政府的な運動を弾圧することを政府が容認するという妄想のためではなく、政府が行ってきた現在も含む歴史上の弾圧の事実のために反対しているのであり、「司法は正しいことしかしない」という考えの方がよほど妄想である。
 また、公職選挙法や政治資金規正法が共謀罪法に含まれていないのはよいことで、その理由は、公選法違反や政治資金規正法違反を用いて、*8-2のように、警察が罪を捏造して選挙結果を歪めることが少なくないからであり、志布志事件の例では県議の任期終了後に無罪が確定している。県警と自民党が共謀するのは、県警を管理する公安委員会が知事の下部組織で、知事が与党であれば自民党の影響を受けやすいからである。さらに、裁判所も財務省の予算付けに弱く、最高裁判事は内閣が任命するため、与党との繋がりが深い。これらは、公選法違反で挙げられるのが、自民党以外の候補や警察への仕返しをしない落選候補が多いことからも明らかで、学者であれば、①どのような候補が ②何を理由として公選法違反や政治資金規正法違反とされ ③それがどういう役割を果たしたか について統計をとるくらいの調査はすべきだ。
 なお、民主党代表だった小沢一郎氏が、本当は間違ってすらいなかった政治資金規正法違反を挙げられて権力の座を追われたことも記憶に新しく、民主党が政権を失ってから氏の無罪判決が出たが、このように公選法違反・政治資金規正法違反は権力闘争に用いられているのだ。さらに、氏に対するメディアの印象操作もものすごく、日本国憲法に定められている「表現の自由」「言論の自由」は、「基本的人権の尊重」「民主主義」に優先する権利ではないのに、小沢氏に対する警察捜査時の報道が連日だったのと比較して、氏の無罪確定後にメディアは謝罪していない。そして、こういうことは、私を含む他の政治家に対しても、しばしば行われているのだ。
 さらに、*8-3のように、共謀罪の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法が成立し、警察が犯罪計画を把握するための監視を強めるそうだが、これは憲法に定められている「通信の秘密」に反する。また、「ポスト真実」と言われるように、盗聴・盗撮されたデータもどうにでも加工され得る。これを妄想と言う人もいるのだろうが、実際には、*8-4の足利事件のように、最新の科学を使った筈のDNA鑑定で菅家さんは誤って犯人と認定された。しかし、DNAは、一卵性双生児なら全く同じであり、ポイントのみ調べるのであれば血縁関係の近い人なら同じであることも多い上、意図的に証拠を捏造すれば何とでも言える。そして、先端技術であるだけに、そうされたことを証明するのは難しいのである。

*8-1:http://digital.asahi.com/articles/ASK6L5S6DK6LUTIL020.html (朝日新聞 2017年6月18日) 「共謀罪」法、学者ら廃止訴える「内容も手続きも暴挙」
 犯罪を計画段階から処罰できる「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織的犯罪処罰法の成立を受け、反対する立場の大学教授らが18日、抗議声明を出した。「法律の内容も、国会での手続きも民主主義を破壊する暴挙だ」と批判。法律の廃止を訴えている。安全保障関連法に反対する学者の会」(約1万4千人)の呼びかけ人の62人。参院で委員会採決を省略する「中間報告」の手続きを使ったことについて、「特に緊急を要する場合にしか認められず、国会法に違反する」と主張。表現の自由の観点から法案に懸念を示した国連の特別報告者に政府が抗議したことにも触れ、「国連との関係悪化は日本の国益を侵害する」とした。この日、7人が東京都内で会見し、高山佳奈子・京都大教授は「テロ対策の主要な国際条約を批准し、すでに国内法の整備は終わっている。五輪の安全のため、テロ対策のためという政府の説明は虚偽だ」と話した。内田樹(たつる)・神戸女学院大名誉教授も「反政府的な運動を弾圧することを政府が容認しているという妄想をこの法律が生む素地がある」と述べた。7月9日午後1時半から「自由が危ない」と題した市民向け集会を早稲田大学(東京都新宿区)で開く。
■共謀罪法案の強行採決に対する抗議声明
 2017年6月15日に、自民党・公明党・日本維新の会は、参議院において、組織的犯罪処罰法改正法案につき、法務委員会での採決を経ることなく本会議での採決を強行した。内容的にも、手続的にも、民主主義を破壊する暴挙である。閣僚・与党および法務省は本法案を「テロ等準備罪」を創設するものと称したが、当初明らかになった案には「テロ」の語が存在しなかった。その後も「テロリズム集団その他」の語が挿入されただけで、テロ対策を内容とする条文は全く含まれない。しかも、日本はテロ対策主要国際条約をすべて批准し、国内法化を終えていることから、組織的なテロの準備行為はすでに網羅的に処罰対象である。本立法にテロ対策の意義はない。内閣が法案提出にあたって理由とした国連国際組織犯罪防止条約も、その公式「立法ガイド」の執筆者が明言するとおり、テロ対策を内容とするものではない。本改正法の処罰対象は、犯罪の計画の合意と「実行準備行為」から成る、国際的に共謀罪(conspiracy)と理解されるものにほかならない。主体の要件とされる「組織的犯罪集団」には、一般の団体の一部をなす集団の性質が犯罪的なものに変化すれば該当することとなり、人権団体や環境保護団体として組織されたものも対象たりうることを政府答弁は認めている。「実行準備行為」は実質的な危険を含まない単なる「行為」で足り、無限定である。約300に及ぶ対象犯罪は、テロにもマフィアにも関係のない多数の類型を含む一方で、警察の職権濫用(らんよう)・暴行陵虐罪や公職選挙法違反など公権力を私物化する罪や、民間の商業賄賂罪など組織的経済犯罪を意図的に除外しており、国連条約の趣旨に明らかに反している。こうした点について国会で実質的な議論を拒み、虚偽の呼称により国民をだまし討ちにしようとする政府の姿勢は、議会制民主主義への攻撃である。さらに参議院での採決は、委員会採決を経ない手続を「特に緊急を要する」場合にしか認めない国会法に違反している。これらの内容・手続の問題点を問いただす公式の書簡がプライバシー権に関する国連特別報告者から首相宛てに出されたにもかかわらず、政府は質問に回答するどころかこれに抗議した。国連人権委員会においては、表現の自由に関する特別報告者によって、日本の政治家の圧力によるメディアの情報操作も公式に報告されている。国連との関係の悪化は、北朝鮮問題の解決や国連国際組織犯罪防止条約への参加を要する日本の国益を侵害している。ここに、本強行採決に強く抗議し、今後、市民の自由を侵害する怖(おそ)れのある法が悪用されないよう厳しく監視することと、立憲主義と民主主義を回復する勢力によって、この法を廃止することを広く社会に対して呼びかける。
<安全保障関連法に反対する学者の会・呼びかけ人一同>
     ◇
「安全保障関連法に反対する学者の会」の呼びかけ人
・青井 未帆 (学習院大学教授 法学)
・浅倉 むつ子 (早稲田大学教授 法学)
・淡路 剛久 (立教大学名誉教授・弁護士 民法・環境法)
・池内 了 (名古屋大学名誉教授 宇宙物理学)
・石田 英敬 (東京大学教授 記号学・メディア論)
・市野川容孝 (東京大学教授 社会学)
・伊藤 誠 (東京大学名誉教授 経済学)
・上田 誠也 (東京大学名誉教授 地球物理学/日本学士院会員)
・上野 健爾 (京都大学名誉教授 数学)
・上野 千鶴子 (東京大学名誉教授 社会学)
・鵜飼 哲 (一橋大学教授 フランス文学・フランス思想)
・内田 樹 (神戸女学院大学名誉教授 哲学)
・内海 愛子 (恵泉女学園大学名誉教授 日本―アジア関係論)
・宇野 重規 (東京大学教授 政治思想史)
・大澤 眞理 (東京大学教授 社会政策)
・岡野 八代 (同志社大学教授 西洋政治思想史・フェミニズム理論)
・小熊 英二 (慶応義塾大学教授 歴史社会学)
・戒能 通厚 (早稲田大学名誉教授 法学)
・海部 宣男 (国立天文台名誉教授 天文学)
・加藤 節 (成蹊大学名誉教授 政治哲学)
・金子 勝 (慶応義塾大学教授 財政学)
・川本 隆史 (国際基督教大学特任教授 社会倫理学)
・君島 東彦 (立命館大学教授 憲法学・平和学)
・久保 亨 (信州大学教授 歴史学)
・栗原 彬 (立教大学名誉教授 政治社会学)
・小林 節 (慶応義塾大学名誉教授 憲法学)
・小森 陽一 (東京大学教授 日本近代文学)
・齊藤 純一 (早稲田大学教授 政治学)
・酒井 啓子 (千葉大学教授 イラク政治研究)
・佐藤 学 (学習院大学教授 教育学)
・島薗 進 (上智大学教授 宗教学)
・杉田 敦 (法政大学教授 政治学)
・高橋 哲哉 (東京大学教授 哲学)
・高山 佳奈子 (京都大学教授 法学)
・千葉 眞 (国際基督教大学特任教授 政治思想)
・中塚 明 (奈良女子大学名誉教授 日本近代史)
・永田 和宏 (京都大学名誉教授・京都産業大学教授 細胞生物学)
・中野 晃一 (上智大学教授 政治学)
・西川 潤 (早稲田大学名誉教授 国際経済学・開発経済学)
・西崎 文子 (東京大学教授 歴史学)
・西谷 修 (立教大学特任教授 哲学・思想史)
・野田 正彰 (精神病理学者 精神病理学)
・浜 矩子 (同志社大学教授 国際経済)
・樋口 陽一 (憲法学者 法学/日本学士院会員)
・広田 照幸 (日本大学教授 教育学)
・廣渡 清吾 (東京大学名誉教授 法学/日本学術会議前会長)
・堀尾 輝久 (東京大学名誉教授 教育学)
・益川 敏英 (京都大学名誉教授 物理学/ノーベル賞受賞者)
・間宮 陽介 (青山学院大学特任教授 経済学)
・三島 憲一 (大阪大学名誉教授 哲学・思想史)
・水島 朝穂 (早稲田大学教授 憲法学)
・水野 和夫 (法政大学教授 経済学)
・宮本 憲一 (大阪市立大学名誉教授 経済学)
・宮本 久雄 (東京大学名誉教授・東京純心大学教授 哲学)
・山口 二郎 (法政大学教授 政治学)
・山室 信一 (京都大学教授 政治学)
・横湯 園子 (中央大学元教授・北海道大学元教授 臨床心理学)
・吉岡 斉 (九州大学教授 科学史)
・吉田 裕 (一橋大学教授 日本史)
・鷲谷 いづみ (中央大学教授 保全生態学)
・渡辺 治 (一橋大学名誉教授 政治学・憲法学)
・和田 春樹 (東京大学名誉教授 歴史学)

*8-2:http://cocologsatoko.cocolog-nifty.com/blog/2015/05/post-595e.html (飯山一郎 2015.5.15) 志布志事件の真相は? 県警と自民党の共謀
 志布志事件とは、警察が犯罪をデッチアゲた事件である。買収などの選挙犯罪を一切ヤっていないのに、鹿児島県警が虚偽の自白を強要して犯罪をデッチアゲた悪質な事件である。犯罪者は、むしろ警察である。なぜ? 鹿児島県警は無実の人間を次々に逮捕してウソの自白を強要し、悪質な犯罪デッチアゲ事件を犯したのか?鹿児島県警は無実の市民を強引に犯罪者に仕立てあげた!この志布志事件の動機は何だったのか? このことを明らかにしないかぎり、警察の犯罪はなくならない。

*8-3:http://qbiz.jp/article/112247/1/ (西日本新聞 2017年6月18日) SNS、防犯カメラ…監視を「受容」 情報提供のルールない「共謀罪」法成立
 「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法が成立し、警察が犯罪の計画を把握するために市民への監視を強めるとの懸念が強まっている。ITの発展で行政や企業が膨大な個人情報を持つようになった一方、捜査機関への提供に関するルールはほとんど整備されていない。国民が安全や利便性を追求すれば、意図しなくても監視を受け入れざるを得ない状況の中、専門家からはプライバシー保護のための仕組みを求める声が上がっている。
●歓迎 
 道路の脇に電柱と並んで長いポールが立っている。千葉県松戸市の住宅街。視線を上げると、地上に向けて設置された防犯カメラが行き交う車や通行人の姿を捉えている。「防犯カメラ作動中」の表示に気付く人は、ほとんどいないようだ。松戸市では3月に小3女児が行方不明になり、通っていた小学校の保護者会長が殺人などの疑いで逮捕された。住民の要望で、市は学校の近くに3台の防犯カメラを設置。映像はインターネット回線を通じて山梨県にある民間企業のデータセンターに送られ、1週間保存されることになった。近くに住む女性(67)は「設置されたことは知らなかったけど、悪いことをしてないから気にならない。犯罪抑止につながればいい」と歓迎。市の担当者は「任意でも提出を求められれば映像は警察に提供する。行政の責務だ」と話す。早稲田大の西原博史教授(憲法学)によると、かつては行政が防犯カメラを直接設置したり、補助金を出したりするのは商業地区が多かったが、近年は住宅街にまで広がっているという。
●丸裸 
 電子データの保存コストが大幅に下がった今、自治体や企業はカメラの映像を長時間蓄積することが可能になっている。会員制交流サイト(SNS)を飛び交う無数のやりとりも保管される。西原教授は「警察がこれらの情報を結び付ければ、人々のあらゆるコミュニケーションが丸裸になる」と指摘。「自分は捜査の対象にならないと安全・安心を求め、監視を受け入れることは自由を差し出すことと同じ。やがて、本当の自分のままでいられる空間を失う」と警鐘を鳴らす。警察は現在でも「捜査関係事項照会」などの任意捜査で、クレジットカードや出入国、銀行口座の履歴など広範囲にわたって市民の情報を集めている。だが、企業などがどういう場合に、どの程度の情報を警察に提供しているのかは“ブラックボックス”だ。無料通信アプリを運営する「LINE」(東京)は今年4月、2016年7〜12月に警察などから1500件の情報提供を求められ、うち928件を開示したことを公表。裁判所の令状に基づく強制捜査なのか任意の「照会」なのかも明らかにした。大半は強制捜査だった。LINEは「透明性を保つことが利用者の利益になる」との立場だが、NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクの携帯電話大手3社は、いずれも取材に「義務はない」として件数すら公表していない。
●保証 
 プライバシー権に詳しい中央大の宮下紘准教授は「監視社会の気味悪さは、権力を持つ側がどれだけの情報を集めているのか分からないことにある」と言う。企業や自治体が捜査機関から照会のあった件数を積極的に公表することで一定程度は乱用を抑止できるとし、捜査機関に国会への報告を義務付ける制度を設けるべきだと提言する。「乱用しないという政府の説明だけでは何の保証にもならない。『監視に対する監視』のシステムをつくることで、初めて市民のプライバシーが守られる」
●警察からの要請件数など公表、LINE
 警察などから情報提供の要請があった件数を明らかにしているLINE(ライン)の法務担当執行役員、中山剛志氏に公表の理由などを聞いた。
−なぜ公開するのか。
 「私も一利用者の立場から言えば、自分の情報がどう扱われているのか分からないと気持ちが悪い。公表することで少しでも不安が払拭(ふっしょく)できればと考えた。今後も透明性を高めていきたい」
−全ての要請に対応しているのか。
 「プライバシー保護を担当する部署で審査し、請求の範囲が広過ぎるなど問題があると判断した場合は、対応しない」
−どういう情報を提供しているのか。
 「裁判所の令状に基づく強制捜査では、利用者のトークの内容を明らかにしなければならない。ただし利用者が暗号化機能を解除していなければ、捜査機関にも知られることはない」。「任意捜査である捜査関係事項照会に開示するのは利用者の氏名、電話番号などの登録情報やプロフィル画像までで、トーク内容は開示しない」
−同業他社の対応は。
 「グーグルやフェイスブックなどのグローバル企業は、捜査当局などから情報提供を求められた件数を公開している。ラインも世界中でサービスを提供しているので、同水準の情報開示をすべきだと考えた」

*8-4:http://www.nikkei.com/article/DGXDASDG2603L_W0A320C1CC1000/ (日経新聞 2010/3/27) 足利事件再審 宇都宮地裁判決要旨
【再審までの経緯】
 1990年5月、栃木県足利市で4歳の女児が誘拐、殺害された。被害者が着用していた半袖下着に付着した体液と菅家利和さんの体液のDNA鑑定が行われ、同型だった。逮捕、起訴された菅家さんは1992年12月の第6回公判で否認したが、第7回公判で再び認め一度結審。弁論再開後、全面的に否認する供述をした。1993年の一審判決は(1)DNA鑑定(2)自白――を主な証拠とし菅家さんを犯人と認定。無期懲役とした一審判決が確定した。菅家さんは2002年、再審を請求。東京高裁は再審開始を決定した。
【DNA鑑定】
 東京高裁は2009年、鈴木広一大阪医大教授らを鑑定人に命じ、被害者の下着に付着した体液と菅家さんの血液のDNA再鑑定をし、同一の男性に由来しないと判定された。菅家さんが犯人でないことを如実に示す。最高裁が証拠能力を認めた当時のDNA鑑定は、鈴木鑑定の結果、証拠価値がなくなり、具体的な実施方法にも疑問を抱かざるを得ない。現段階においては証拠能力を認めることができず、証拠から排除する。
【菅家さんの自白】
 鈴木鑑定の結果は、捜査段階や公判での菅家さんの自白を前提とすると到底説明がつかず、自白は信用できない。起訴後でも公判維持に必要な取り調べはできるが、慎重な配慮や対応が求められる。森川大司検事は既に2度の被告人質問が行われた後の1992年12月7日、別件の取り調べで菅家さんが突如、本件の否認を始めたことから翌日、本件の犯人ではないかと追及する取り調べをした。弁護人への事前連絡を一切せず、黙秘権告知や弁護人の援助を受ける権利も説明しておらず、当事者主義や公判中心主義の趣旨を没却する違法な取り調べだった。取り調べで、DNA型が一致したとの鑑定結果を告げられたことが、菅家さんが自白するに至った最大の要因。捜査段階の自白の任意性には影響しないが、その信用性には大きく影響している。自白の証拠能力自体に影響する事情は見当たらないものの、再審公判で明らかとなった当時の取り調べ状況や、強く言われるとなかなか反論できない菅家さんの性格からすると「当時の新聞記事の記憶などから想像を交えて捜査官の気に入るように供述した」という控訴審での菅家さんの供述は信用性がある。自白は信用性が皆無で、虚偽であることが明らかだ。
【結論】
 犯人のものと考えられるDNA型が菅家さんの型と一致しないことが判明し、自白が虚偽であることが明らかになったのだから、菅家さんが犯人ではないことは誰の目にも明らかになった。

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2017.5.11 日本国憲法の変更と共謀罪・安全保障法制について (2017年5月12、14、15、18、20、24日追加)
(1)日本国憲法の変更について

  
     2016.8.12東京新聞     昭和天皇の御名御璽  戦争放棄と国民の権利・義務  

(図の説明:これまで「敗戦後に日本の国力を弱めるため米国によって押し付けられた」と説明されることが多かった日本国憲法9条は、実は幣原首相が提案したものだと米上院でマッカーサーが証言している。その憲法には、①国民主権 ②平和主義と戦力不保持 ③基本的人権の尊重 が記載されており、現在でも最先端の内容だと考える。そのため、足りない部分があると言う人は、a.どこが b.どう足りないので c.どう修正したいのか を具体的に指摘すべきだ)


 
   憲法変更前に拡張された安全保障法制          特定秘密保護法   

(図の説明:安全保障法制の拡大により、自衛権の発動と称すればどこででも戦争ができるようになったが、私は、これは違憲立法だと考える。また、特定秘密保護法は、民主主義の根幹である国民の”知る権利”を制限する上、秘密を漏らしたと称すればいつでも逮捕できるようになり、憲法の主権在民(民主主義)を脅かしている。また、特定秘密保護法の適性評価制度は、2014年3月15日に、日本精神神経学会が、①精神疾患・精神障害に対する偏見・差別を助長し、患者、精神障害者が安心して医療・福祉を受ける基本的人権を侵害する ②医療情報の提供義務は、医学・医療の根本原則(守秘義務)を破壊する ③精神科医療全体が特定秘密保護法の監視対象になる危険性が高い 等の理由で反対しているものだ《https://www.jspn.or.jp/uploads/uploads/files/activity/20140315.pdf 参照》)

 安倍首相(=自民党総裁)は、*1-1のように、2017年5月8日の党役員会で憲法9条への自衛隊明記について議論開始を求め、*1-2のように、①憲法改正は自民党立党以来の党是だ ②少子高齢化・人口減少・経済再生・安全保障環境の悪化など、我が国が直面する課題に対し、次の70年に向けて日本がどういう国を目指すのか、真正面から立ち向かって未来への責任を果たさなければならない ③自衛隊の存在を憲法に位置づけ、『自衛隊が違憲かもしれない』という議論が生まれる余地をなくすべく、憲法9条1項、2項を残しながら自衛隊を明文で書き込む ④義務教育だけでなく高等教育も無償化する旨、憲法に書き込む ⑤新しく生まれ変わった日本が動き出す2020年を新しい憲法施行日にしたい などを語られている。

 しかし、①のように、憲法改正は自民党立党以来の党是であるため、②のように、近年我が国が直面している課題に対して未来への責任を果たすために憲法を改正するというのは、国民が騙されやすい言葉を並べただけの嘘である。また、④の教育無償化は、*1-5のように、憲法を変更しなくてもできるにもかかわらず財源を理由としてやっていないだけであり、憲法の変更を行うだしにすぎない。

 ③については、私は、自衛隊は既に存在するため安全保障法制制定前なら憲法に書き加えた方がよいと思っていたが(例えば、3項に「前項の規定にかかわらず、自衛目的のために自衛隊を有する」と付け加えれば、条文上は問題ない)、*1-4のように、安全保障法制が制定され自衛戦だと主張しさえすればどこででも戦えるようになった現在では、日本国憲法のみが戦争を踏みとどまらせるツールになるため、憲法は変更すべきではなくなったと考える。

 また、*1-3のように、日本国憲法第13条は「すべて国民は、個人として尊重される」としており、これは「どういう個性(思想・信条・価値観・性etc.)を持つ人も尊重されるという意味だが、自民党憲法改正草案は「個人」を「人」に変え、草案作りに携わった礒崎参議院議員は、憲法13条は「個人主義を助長した」「個人という異様な思想」「個人という思想が家族観を破壊した」などと自らのHPに記載しているそうだ。

 これは、日本国憲法施行前の我が国で、同じ人間として扱われてすらいなかった女性の犠牲の上になりたっていた家族観や、思想・信条・価値観・身分の異なる人を差別したり、迫害したりした我が国の負の歴史を無視しており、「すべての国民を個人として尊重する」という規定の重さを理解していない。そして、そのような人たちが、自民党憲法改正草案を作ったのだから、国民は安心して笑顔でいる場合ではないのである。

 さらに、*1-3の自民党憲法改正草案前文に加えられた「和の精神」は、角突き合わさず、みんな仲良くすることだそうだが、加害者と被害者が存在する時に「和の精神」を説けば、やりたい放題になって不公正となり、このように対立する利害を公正に調整するために、基本的人権の尊重・男女平等・三権分立などが近代憲法や下部の法律で定められているのである。そのため、今さら聖徳太子の時代に戻ってよいわけがない。

 私は、日本国憲法の理念は素晴らしく、制定から70年経過しても最先端であり、決して古くなっていないと考える。そのため、*1-5のように、まさに現憲法の理念を実現することが先で、その理念を実現すれば、個人主義と利己主義を混同して「個人主義は家族観を破壊した」などと言う人はいなくなり、民主主義も徹底するだろう。そのため、「今の段階では、現憲法を変更しない」というのも立派な対案だと、私は考えている。
 
(2)基本的人権の尊重と共謀罪

     
   共謀罪に関する政府の説明     共謀罪新設で変わること   警察の通信傍受

 何度も廃案になった「共謀罪」法案が、*2-2のように、277の罪を対象とし、「テロ等準備罪」と名を変えて国会に提出されたが、このうち本当にテロの実行に関するものは110に留まるそうだ。政府は「組織的犯罪集団が対象で、一般市民が対象になることはない」と説明しているが、ここに示された罪の多くは一般市民に関係するもので、組織で行われるとは限らないものだ。つまり、法令の名前も政府の説明も事実とは異なり、日本のTVもこういう事実を正確に報道しなければ、日本国憲法に定められた主権在民(民主主義)は機能しない。

 「現在ではテロ対策が必要だ」という人は多く、それが「テロ等準備罪」制定の根拠とされているが、平和主義の国日本では、これまでサリン事件という犯罪以外は起こっておらず、今後、もしテロが起こるとすれば安全保障法制によって同盟国について行き、理不尽な戦争をして恨みを買った場合だろう。そのため、あの安全保障法制は、抑止力になるどころか国内でテロが起こるリスクを増加させているのだ。

 また、*2-3のように、現行の刑事法の下では、罪を犯した者を罰するのが原則であるため、捜査は基本的に事件が発生してから始まるが、「テロ等準備罪(=共謀罪)」は計画段階の犯罪を処罰対象とするため、事件もないのに証拠収集や取り調べを行うことが可能になり、これは日本国憲法の基本的人権の尊重に反する。これに対し、政府は「捜査権の乱用はない」と強調しているが、捜査当局が前のめりになって人権侵害したケースは過去から現在まで多い。

 さらに、政府は、テロ組織や暴力団などの組織的犯罪集団が対象で、摘発には資金・物品の手配・現場の下見などの「準備行為」が必要だと説明しているが、その適用団体の定義は曖昧で、犯罪集団か否かは捜査機関が自ら判断する上、準備行為が事件に関係していることを裏付けるために供述証拠に頼ることになる。その場合、犯罪実行前に自首した場合は刑を減免するという規定があるため、他人に罪をなすりつける虚偽供述や密告・冤罪がはびこる社会になりかねず、証拠収集のための通信傍受も広がるに違いない。

 そこで、*2-1のように、民進党は、「テロ等準備罪」を新設する政府提出の組織犯罪処罰法改正案の対案として、人身売買や組織的詐欺の予備罪新設などを柱とした法案をまとめたそうだ。そのため、TVも客観性に欠け分析力を疑うようなくだらないニュースばかり報道していないで、日本国民の人権の根幹に拘わる政策の違いや理由をわかりやすく解説すべきである。

 また、*2-4、*2-5のように、法律の専門家集団である弁護士会は、かねてから明確に、①“共謀罪”法案は、現行刑法の体系を根底から変容させるものであること ②犯罪を共同して実行しようとする意思を処罰の対象とする基本的性格はこの法案においても変わらず維持されていること ③テロ対策のための国内法上の手当はなされており、共謀罪法案を創設することなく国連越境組織犯罪防止条約について一部留保して締結することは可能であること ④仮にテロ対策等のための立法が十分でないとすれば個別立法で対応すべきこと などを指摘し、廃案を求めている。TVメディアの組織には、これらの内容を読み解ける人材が一人もいないのだろうか。

 なお、信濃毎日新聞は、*2-6のように、「憲法の岐路 強まる監視 拒否する意思示す時」「共謀罪は弾圧に道を開く」として反対しており、そのとおりである。

<憲法変更>
*1-1:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/427756 (佐賀新聞 2017年5月8日) 首相、改憲へ議論加速を指示、自民役員会、9条改正巡り
 安倍晋三首相(自民党総裁)は8日の党役員会で、憲法9条への自衛隊明記などを掲げた自らの発言を踏まえ、党内論議を加速するよう指示した。「わが党は現実的かつ具体的な議論をリードする責任がある。それが歴史的使命だ」と述べた。これに先立つ衆院予算委員会では、野党に対して衆参両院の憲法審査会での活発な議論を求めた。民進党の蓮舫代表は反発し、次期衆院選の争点になるとの認識を示した。首相が2020年の改正憲法施行を目指すと3日のビデオメッセージで表明したのを受けた与野党の動きだが、自民党と民進党が改憲で合意点を見いだすのは難しい状況が改めて浮かび上がった。

*1-2:http://www.nikkei.com/article/DGXLASFK03H16_T00C17A5000000/?nf=1 (日経新聞 2017/5/3) 憲法改正に関する首相メッセージ全文
 安倍晋三首相(自民党総裁)のビデオメッセージの全文は次の通り。ご来場のみなさま、こんにちは。自由民主党総裁の安倍晋三です。憲法施行70年の節目の年に、「第19回 公開憲法フォーラム」が盛大に開催されましたことに、まずもってお喜び申し上げます。憲法改正の早期実現に向けて、それぞれのお立場で精力的に活動されているみなさまに心から敬意を表します。憲法改正は、自由民主党の立党以来の党是です。自民党結党者の悲願であり、歴代の総裁が受け継いでまいりました。私が首相・総裁であった10年前、施行60年の年に国民投票法が成立し、改正に向けての一歩を踏み出すことができましたが、憲法はたった1字も変わることなく、施行70年の節目を迎えるに至りました。憲法を改正するか否かは、最終的には国民投票によって、国民が決めるものですが、その発議は国会にしかできません。私たち国会議員は、その大きな責任をかみしめるべきであると思います。次なる70年に向かって、日本がどういう国を目指すのか。今を生きる私たちは、少子高齢化、人口減少、経済再生、安全保障環境の悪化など、我が国が直面する困難な課題に対し、真正面から立ち向かい、未来への責任を果たさなければなりません。憲法は、国の未来、理想の姿を語るものです。私たち国会議員は、この国の未来像について、憲法改正の発議案を国民に提示するための「具体的な議論」を始めなければならない、その時期にきていると思います。わが党、自由民主党は未来に、国民に責任を持つ政党として、憲法審査会における「具体的な議論」をリードし、その歴史的使命を果たしてまいりたいと思います。例えば、憲法9条です。今日、災害救助を含め、命懸けで24時間、365日、領土、領海、領空、日本人の命を守り抜く、その任務を果たしている自衛隊の姿に対して、国民の信頼は9割を超えています。しかし、多くの憲法学者や政党の中には、自衛隊を違憲とする議論が、今なお存在しています。「自衛隊は違憲かもしれないけれども、何かあれば、命を張って守ってくれ」というのは、あまりにも無責任です。私は少なくとも、私たちの世代のうちに、自衛隊の存在を憲法上にしっかりと位置づけ、「自衛隊が違憲かもしれない」などの議論が生まれる余地をなくすべきである、と考えます。もちろん、9条の平和主義の理念については、未来に向けて、しっかりと堅持していかなければなりません。そこで「9条1項、2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込む」という考え方、これは国民的な議論に値するのだろうと思います。教育の問題。子どもたちこそ我が国の未来であり、憲法において国の未来の姿を議論する際、教育は極めて重要なテーマだと思います。誰もが生きがいを持って、その能力を存分に発揮できる一億総活躍社会を実現するうえで、教育が果たすべき役割は極めて大きい。世代を超えた貧困の連鎖を断ち切り、経済状況にかかわらず、子どもたちがそれぞれの夢に向かって頑張ることができる、そうした日本でありたいと思っています。70年前、現行憲法の下で制度化された、小中学校9年間の義務教育制度、普通教育の無償化は、まさに、戦後の発展の大きな原動力となりました。70年の時を経て、社会も経済も大きく変化した現在、子どもたちがそれぞれの夢を追いかけるためには、高等教育についても、全ての国民に真に開かれたものとしなければならないと思います。これは個人の問題にとどまりません。人材を育てることは、社会・経済の発展に確実につながっていくものであります。これらの議論の他にも、この国の未来を見据えて議論していくべき課題は多々あるでしょう。私はかねがね、半世紀ぶりに夏期の五輪・パラリンピックが開催される2020年を、未来を見据えながら日本が新しく生まれ変わる大きなきっかけにすべきだと申し上げてきました、かつて、1964年の東京五輪を目指して、日本は大きく生まれ変わりました、その際に得た自信が、その後、先進国へと急成長を遂げる原動力となりました。2020年もまた、日本人共通の大きな目標となっています。新しく生まれ変わった日本が、しっかりと動き出す年、2020年を新しい憲法が施行される年にしたいと強く願っています。私は、こうした形で国の未来を切りひらいていきたいと考えています。本日は、自由民主党総裁として、憲法改正に向けた基本的な考え方を述べました。これを契機に、国民的な議論が深まっていくことを切に願います。自由民主党としても、その歴史的使命をしっかりと果たしていく決意であることを改めて申し上げます。最後になりましたが、国民的な議論と理解を深めていくためには、みなさまがた「民間憲法臨調」、「美しい日本の憲法をつくる国民の会」のこうした取り組みが不可欠であり、大変心強く感じております。憲法改正に向けて、ともにがんばりましょう。

*1-3:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12920934.html (朝日新聞社説 2017年5月3日) 憲法70年 先人刻んだ立憲を次代へ
 時代劇で江戸の長屋に住む八っつぁん熊さんが万歳三唱をしたら、脚本家は落第である。あれは日本古来の振る舞いではないと、NHK大河ドラマなどの時代考証を手がける大森洋平さんが著書で書いている。1889年、明治憲法の発布を祝うために大学教授らが作り出した。ちゃぶ台も洗濯板も、明治になって登場した。動作や品物だけではない。西欧の思想や文化に出会った当時の知識人は、その内容を人々に伝えようと苦心し、新しく単語をつくったり、旧来の言葉に意味を加えたりした。いまでは、それらなくして世の中は成り立たないと言ってもいい。
■消えた「個人」
 個人、もその賜物(たまもの)の一つだ。「すべて国民は、個人として尊重される」。日本国憲法第13条は、そう定めている。根底に流れるのは、憲法は一人ひとりの人権を守るために国家権力を縛るものである、という近代立憲主義の考えだ。英文では〈as individuals(個人として)〉となっている。翻訳家の柴田元幸さんはここに、固有の権利を持つ人間というニュアンスを感じたという。もし〈as humans(人間として)〉だったら「単に動物ではないと言っているだけに聞こえます」。ひとり、一身ノ身持、独一個人(どくいつこじん)と〈individual〉の訳語に試行錯誤した福沢諭吉らがこの話を聞いたら、ひざを打ったに違いない。『文明論之概略』で福沢は、日本の歴史には「独一個人の気象」がないと嘆いた。個人の尊厳をふまえ、幸福を追い求める権利をうたいあげた13条の文言には、洋の東西を超えた先人たちの思いと労苦が息づいている。ところが自民党は、5年前に公表した憲法改正草案で「個人」を「人」にしてしまった。安倍首相は昨年、言い換えに「さしたる意味はない」と国会で答弁した。しかし草案作りに携わった礒崎陽輔参院議員は、自身のホームページで、13条は「個人主義を助長してきた嫌いがある」と書いている。
■和の精神と同調圧力
 「個人という異様な思想」「個人という思想が家族観を破壊した」。首相を強く支持する一部の保守層から聞こえてくるのは、こんな声だ。一方で、草案の前文には「和を尊び」という一節が加えられた。「和の精神は、聖徳太子以来の我が国の徳性である」と草案のQ&Aは説明する。角突き合わさず、みんな仲良く。うまくことを進めるうえで「和」はたしかに役に立つ。しかし、何が歴史や文化、伝統に根ざした「我が国」らしさなのかは、万歳三唱やちゃぶ台の例を持ち出すまでもなく、それぞれの人の立場や時間の幅の取り方で変わる。国内に争乱の記録はいくらもあるし、かつて琉球王国として別の歴史を歩んだ沖縄は、ここで一顧だにされていない。一見もっともな価値を掲げ、それを都合よく解釈し、社会の多様な姿や動きを封じてしまう危うさは、道徳の教科書でパン屋が和菓子屋に変わった一件を思いおこせば十分だ。検定意見の根拠は「我が国や郷土の文化と生活に親しみ、愛着をもつ」と定めた学習指導要領だった。ただでさえ同調圧力の強いこの社会で、和の精神は、するりと「強制と排除の論理」に入れ替わりうる。
■近代的憲法観の転覆
 「個人」を削り、「和」の尊重を書きこむ。そこに表れているのは、改憲草案に流れる憲法観――憲法は歴史や伝統などの国柄を織り込むべきもので、国家権力を縛るものという考えはもう古い――である。だから、人は生まれながらにして権利を持つという天賦人権説を西欧由来のものとして排除し、憲法を、国家と国民がともに守るべき共通ルールという位置づけに変えようとする。これは憲法観の転覆にほかならない。経験知を尊重する保守の立場とは相いれない、急進・破壊の考えと言っていい。明治憲法を起草した伊藤博文は、憲法を創設する精神について、第一に「君権(天皇の権限)を制限」し、第二に「臣民の権利を保護する」ことにあると力説した。むろん、その権利は一定の範囲内でしか認められないなどの限界はあった。だが、時代の制約の中に身を置きながら、立憲の何たるかを考えた伊藤の目に、今の政権担当者の憲法観はどう映るか。明治になって生まれたり意味が定着したりした言葉は、「個人」だけではない。「権利」も「自由」もそうだった。70年前の日本国憲法の施行で改めて命が吹き込まれたこれらの概念と、立憲主義の思想をより豊かなものにして、次の世代に受け渡す。いまを生きる私たちが背負う重大な使命である。

*1-4:http://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20170504/KT170503ETI090003000.php (信濃毎日新聞社説 2017年5月4日) 首相改憲発言 身勝手な使命感の表明
 安倍晋三首相が改憲について踏み込んだ発言をした。「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と初めて具体的な時期を示している。なぜ、それほど急ぐのか。唐突な決意表明である。東京都内で開かれた憲法改正を訴える会合に自民党総裁として寄せたビデオメッセージだ。具体的な項目として9条や教育無償化に触れている。憲法を尊重し、擁護する義務を負う首相が憲法記念日に改憲を主張する。強い違和感を抱かせる発言である。改憲時期について「半世紀ぶりに夏季のオリンピック、パラリンピックが開催される2020年を未来を見据えながら日本が新しく生まれ変わる大きなきっかけにすべきだ」とし、20年施行という目標を明示した。期限をはっきりさせることで論議を加速させたいのか。衆参両院の憲法審査会では各党の主張の隔たりが大きい。改憲項目の絞り込みが進まず、国民的な議論も熟していない状況で3年後に施行とはあまりにも性急な提示だ。9条については、戦争放棄の1項、戦力不保持の2項を残しつつ自衛隊を明文で書き込むという考え方を示し、「国民的な議論に値するだろう」とした。多くの憲法学者や政党の中に自衛隊を違憲とする議論が今なお存在するとし、憲法に位置付けることで「違憲かもしれない」などの議論が生まれる余地をなくすべきだとも述べている。「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」と定める2項を残し、どのように書き込もうというのか。専守防衛の枠から自衛隊が踏み出すことにならないか。疑問は尽きない。安倍政権は一内閣の判断で憲法解釈を変更し、違憲との批判を顧みることなく集団的自衛権行使の安全保障関連法を定めた。立憲主義を軽んじる首相の提案に乗ることはできない。首相は、未来と国民に責任を持つ政党として憲法審査会での「具体的な議論」をリードし、歴史的使命を果たしていきたいとも述べた。世論調査では、安倍政権下での改憲に過半数が反対と答えている。自身の悲願を果たしたいだけの身勝手な使命感ではないか。改憲派の会合での一方的なメッセージである。見過ごすことはできない。首相は自身の考えを国会できちんと説明する必要がある。

*1-5:http://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-490324.html (琉球新報社説 2017年5月5日) 首相改憲表明 現憲法の理念実現が先だ
 安倍晋三首相が憲法記念日の3日、改憲を実現し、2020年の施行を目指す方針を表明した。改定内容として、戦争放棄などを定めた憲法9条に自衛隊の存在を明記する文言を追加することや、教育無償化などを挙げた。「憲法改正は自民党の立党以来の党是だ」と述べる安倍首相にとって、国会での憲法論議は遅々として進んでいないと見えるのだろう。しかし、あと3年で憲法改定まで進むというのは拙速に過ぎる。9条は条文上、あらゆる武力行使を禁止し、自衛隊の活動に一定の歯止めをかけてきた。しかし集団的自衛権の行使容認という憲法解釈の変更で事実上、自衛隊の任務は国際紛争の場にまで広がった。さらに自衛隊が明文化されれば、武力行使の歯止めは利かなくなるのではないか。共同通信の全国世論調査でも日本が戦後、海外で武力行使しなかった理由について「9条があったからだ」とする回答は75%に上った。国民に一定評価されている9条改定の機運が熟したとは思えない。安倍首相が同時に、高等教育の無償化を理由に挙げたことも解せない。教育の無償化は憲法を改定せずともできることだ。現に民主党政権は高校の無償化を実現させた。自公政権になってから所得制限を設けたため、安倍首相が言う「全ての国民に真に開かれた」ものではなくなったのだ。共同通信調査では、安倍首相の下での改憲に51%が反対し、賛成は45%だった。本紙の世論調査でも、戦争放棄や戦力不保持を定めた9条を「堅持すべきだ」が44・2%で最も多く、「改正すべきだ」の21・7%を22・5ポイント上回った。県内では9条堅持を望む声が高い。憲法を変えるよりも先に行うべきことがある。先月の衆院憲法審査会では4人の参考人全員が、沖縄県に米軍基地負担が集中し、政府と対立する現状を問題視して、それぞれ異なる道筋を示しながら、沖縄の自治権強化を求めた。地方自治を保障した現憲法下でも、基地が偏在し、沖縄の自治がないがしろにされている。参考人として出席した学識者全員が現状を変えるよう促したのだ。安倍首相は改憲を唱える前に、現憲法の平和希求や地方自治の理念を実現するよう努力すべきだ。

<基本的人権の尊重と共謀罪>
*2-1:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2017050801001796.html (東京新聞 2017年5月8日) 民進が「共謀罪」の対案決定 予備罪新設、テロ対策強化
 民進党は8日、「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ「テロ等準備罪」を新設する政府提出の組織犯罪処罰法改正案の対案として、人身売買や組織的詐欺の予備罪新設などを柱とした法案をまとめた。テロ対策も強化する。政府が法改正の根拠とする国際組織犯罪防止条約(TOC条約)の締結を見据え、責任野党をアピールする狙い。9日の「次の内閣」会合で正式に決定し、週内にも衆院に提出する。蓮舫代表は8日の党会合で共謀罪について「一般の方も対象になるリスクが相当大きく、明確に反対したい」と述べ、廃案を目指す考えを重ねて表明した。

*2-2:http://digital.asahi.com/articles/ASK3102FVK2XUTIL05K.html (朝日新聞 2017年3月1日) 「共謀罪」法案、対象となる法律と罪名
 犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織的犯罪処罰法改正案の全容が判明した。対象は91の法律で規定した277の罪。政府の分類では、「テロの実行」に関するものはこのうち110罪にとどまる。277の罪名は次の通り。
     ◇
【刑法】内乱等幇助(ほうじょ)▽加重逃走▽被拘禁者奪取▽逃走援助▽騒乱▽現住建造物等放火▽非現住建造物等放火▽建造物等以外放火▽激発物破裂▽現住建造物等浸害▽非現住建造物等浸害▽往来危険▽汽車転覆等▽あへん煙輸入等▽あへん煙吸食器具輸入等▽あへん煙吸食のための場所提供▽水道汚染▽水道毒物等混入▽水道損壊及び閉塞(へいそく)▽通貨偽造及び行使等▽外国通貨偽造及び行使等▽有印公文書偽造等▽有印虚偽公文書作成等▽公正証書原本不実記載等▽偽造公文書行使等▽有印私文書偽造等▽偽造私文書等行使▽私電磁的記録不正作出及び供用▽公電磁的記録不正作出及び供用▽有価証券偽造等▽偽造有価証券行使等▽支払用カード電磁的記録不正作出等▽不正電磁的記録カード所持▽公印偽造及び不正使用等▽偽証▽強制わいせつ▽強姦(ごうかん)▽準強制わいせつ▽準強姦▽墳墓発掘死体損壊等▽収賄▽事前収賄▽第三者供賄▽加重収賄▽事後収賄▽あっせん収賄▽傷害▽未成年者略取及び誘拐▽営利目的等略取及び誘拐▽所在国外移送目的略取及び誘拐▽人身売買▽被略取者等所在国外移送▽営利拐取等幇助目的被拐取者収受▽営利被拐取者収受▽身の代金被拐取者収受等▽電子計算機損壊等業務妨害▽窃盗▽不動産侵奪▽強盗▽事後強盗▽昏酔(こんすい)強盗▽電子計算機使用詐欺▽背任▽準詐欺▽横領▽盗品有償譲受け等
【組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律】組織的な封印等破棄▽組織的な強制執行妨害目的財産損壊等▽組織的な強制執行行為妨害等▽組織的な強制執行関係売却妨害▽組織的な常習賭博▽組織的な賭博場開張等図利▽組織的な殺人▽組織的な逮捕監禁▽組織的な強要▽組織的な身の代金目的略取等▽組織的な信用毀損(きそん)・業務妨害▽組織的な威力業務妨害▽組織的な詐欺▽組織的な恐喝▽組織的な建造物等損壊▽組織的な犯罪に係る犯人蔵匿等▽不法収益等による法人等の事業経営の支配を目的とする行為▽犯罪収益等隠匿
【爆発物取締罰則】製造・輸入・所持・注文▽幇助のための製造・輸入等▽製造・輸入・所持・注文(第1条の犯罪の目的でないことが証明できないとき)▽爆発物の使用、製造等の犯人の蔵匿等
【外国ニ於テ流通スル貨幣紙幣銀行券証券偽造変造及模造ニ関スル法律】偽造等▽偽造外国流通貨幣等の輸入▽偽造外国流通貨幣等の行使等
【印紙犯罪処罰法】偽造等▽偽造印紙等の使用等
【海底電信線保護万国連合条約罰則】海底電信線の損壊
【労働基準法】強制労働
【職業安定法】暴行等による職業紹介等
【児童福祉法】児童淫行
【郵便法】切手類の偽造等
【金融商品取引法】虚偽有価証券届出書等の提出等▽内部者取引等
【大麻取締法】大麻の栽培等▽大麻の所持等▽大麻の使用等
【船員職業安定法】暴行等による船員職業紹介等
【競馬法】無資格競馬等
【自転車競技法】無資格自転車競走等
【外国為替及び外国貿易法】国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなる無許可取引等▽特定技術提供目的の無許可取引等
【電波法】電気通信業務等の用に供する無線局の無線設備の損壊等
【小型自動車競走法】無資格小型自動車競走等
【文化財保護法】重要文化財の無許可輸出▽重要文化財の損壊等▽史跡名勝天然記念物の滅失等
【地方税法】軽油等の不正製造▽軽油引取税に係る脱税
【商品先物取引法】商品市場における取引等に関する風説の流布等
【道路運送法】自動車道における自動車往来危険▽事業用自動車の転覆等
【投資信託及び投資法人に関する法律】投資主の権利の行使に関する利益の受供与等についての威迫行為
【モーターボート競走法】無資格モーターボート競走等
【森林法】保安林の区域内における森林窃盗▽森林窃盗の贓物(ぞうぶつ)の運搬等▽他人の森林への放火
【覚せい剤取締法】覚醒剤の輸入等▽覚醒剤の所持等▽営利目的の覚醒剤の所持等▽覚醒剤の使用等▽営利目的の覚醒剤の使用等▽管理外覚醒剤の施用等
【出入国管理及び難民認定法】在留カード偽造等▽偽造在留カード等所持▽集団密航者を不法入国させる行為等▽営利目的の集団密航者の輸送▽集団密航者の収受等▽営利目的の難民旅行証明書等の不正受交付等▽営利目的の不法入国者等の蔵匿等
【旅券法】旅券等の不正受交付等
【日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う刑事特別法】偽証▽軍用物の損壊等
【麻薬及び向精神薬取締法】ジアセチルモルヒネ等の輸入等▽ジアセチルモルヒネ等の製剤等▽営利目的のジアセチルモルヒネ等の製剤等▽ジアセチルモルヒネ等の施用等▽営利目的のジアセチルモルヒネ等の施用等▽ジアセチルモルヒネ等以外の麻薬の輸入等▽営利目的のジアセチルモルヒネ等以外の麻薬の輸入等▽ジアセチルモルヒネ等以外の麻薬の製剤等▽麻薬の施用等▽向精神薬の輸入等▽営利目的の向精神薬の譲渡等
【有線電気通信法】有線電気通信設備の損壊等
【武器等製造法】銃砲の無許可製造▽銃砲弾の無許可製造▽猟銃等の無許可製造
【ガス事業法】ガス工作物の損壊等
【関税法】輸出してはならない貨物の輸出▽輸入してはならない貨物の輸入▽輸入してはならない貨物の保税地域への蔵置等▽偽りにより関税を免れる行為等▽無許可輸出等▽輸出してはならない貨物の運搬等
【あへん法】けしの栽培等▽営利目的のけしの栽培等▽あへんの譲渡し等
【自衛隊法】自衛隊の所有する武器等の損壊等
【出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律】高金利の契約等▽業として行う高金利の契約等▽高保証料▽保証料がある場合の高金利等▽業として行う著しい高金利の脱法行為等
【補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律】不正の手段による補助金等の受交付等
【売春防止法】対償の収受等▽業として行う場所の提供▽売春をさせる業▽資金等の提供
【高速自動車国道法】高速自動車国道の損壊等
【水道法】水道施設の損壊等
【銃砲刀剣類所持等取締法】拳銃等の発射▽拳銃等の輸入▽拳銃等の所持等▽拳銃等の譲渡し等▽営利目的の拳銃等の譲渡し等▽偽りの方法による許可▽拳銃実包の輸入▽拳銃実包の所持▽拳銃実包の譲渡し等▽猟銃の所持等▽拳銃等の輸入に係る資金等の提供
【下水道法】公共下水道の施設の損壊等
【特許法】特許権等の侵害
【実用新案法】実用新案権等の侵害
【意匠法】意匠権等の侵害
【商標法】商標権等の侵害
【道路交通法】不正な信号機の操作等
【医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律】業として行う指定薬物の製造等
【新幹線鉄道における列車運行の安全を妨げる行為の処罰に関する特例法】自動列車制御設備の損壊等
【電気事業法】電気工作物の損壊等
【所得税法】偽りその他不正の行為による所得税の免脱等▽偽りその他不正の行為による所得税の免脱▽所得税の不納付
【法人税法】偽りにより法人税を免れる行為等
【公海に関する条約の実施に伴う海底電線等の損壊行為の処罰に関する法律】海底電線の損壊▽海底パイプライン等の損壊
【著作権法】著作権等の侵害等
【航空機の強取等の処罰に関する法律】航空機の強取等▽航空機の運航阻害
【廃棄物の処理及び清掃に関する法律】無許可廃棄物処理業等
【火炎びんの使用等の処罰に関する法律】火炎びんの使用
【熱供給事業法】熱供給施設の損壊等
【航空の危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律】航空危険▽航行中の航空機を墜落させる行為等▽業務中の航空機の破壊等▽業務中の航空機内への爆発物等の持込み
【人質による強要行為等の処罰に関する法律】人質による強要等▽加重人質強要
【細菌兵器(生物兵器)及び毒素兵器の開発、生産及び貯蔵の禁止並びに廃棄に関する条約等の実施に関する法律】生物兵器等の使用▽生物剤等の発散▽生物兵器等の製造▽生物兵器等の所持等
【貸金業法】無登録営業等
【労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律】有害業務目的の労働者派遣
【流通食品への毒物の混入等の防止等に関する特別措置法】流通食品への毒物の混入等
【消費税法】偽りにより消費税を免れる行為等
【日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法】特別永住者証明書の偽造等▽偽造特別永住者証明書等の所持
【国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律】薬物犯罪収益等隠匿
【絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律】国内希少野生動植物種の捕獲等
【不正競争防止法】営業秘密侵害等▽不正競争等
【化学兵器の禁止及び特定物質の規制等に関する法律】化学兵器の使用▽毒性物質等の発散▽化学兵器の製造▽化学兵器の所持等▽毒性物質等の製造等
【サリン等による人身被害の防止に関する法律】サリン等の発散▽サリン等の製造等
【保険業法】株主等の権利の行使に関する利益の受供与等についての威迫行為
【臓器の移植に関する法律】臓器売買等
【スポーツ振興投票の実施等に関する法律】無資格スポーツ振興投票
【種苗法】育成者権等の侵害
【資産の流動化に関する法律】社員等の権利等の行使に関する利益の受供与等についての威迫行為
【感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律】一種病原体等の発散▽一種病原体等の輸入▽一種病原体等の所持等▽二種病原体等の輸入
【対人地雷の製造の禁止及び所持の規制等に関する法律】対人地雷の製造▽対人地雷の所持
【児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律】児童買春周旋▽児童買春勧誘▽児童ポルノ等の不特定又は多数の者に対する提供等
【民事再生法】詐欺再生▽特定の債権者に対する担保の供与等
【公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金等の提供等の処罰に関する法律】公衆等脅迫目的の犯罪行為を実行しようとする者による資金等を提供させる行為▽公衆等脅迫目的の犯罪行為を実行しようとする者以外の者による資金等の提供等
【電子署名等に係る地方公共団体情報システム機構の認証業務に関する法律】不実の署名用電子証明書等を発行させる行為
【会社更生法】詐欺更生▽特定の債権者等に対する担保の供与等
【破産法】詐欺破産▽特定の債権者に対する担保の供与等
【会社法】会社財産を危うくする行為▽虚偽文書行使等▽預合い▽株式の超過発行▽株主等の権利の行使に関する贈収賄▽株主等の権利の行使に関する利益の受供与等についての威迫行為
【国際刑事裁判所に対する協力等に関する法律】組織的な犯罪に係る証拠隠滅等▽偽証
【放射線を発散させて人の生命等に危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律】放射線の発散等▽原子核分裂等装置の製造▽原子核分裂等装置の所持等▽特定核燃料物質の輸出入▽放射性物質等の使用の告知による脅迫▽特定核燃料物質の窃取等の告知による強要
【海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律】海賊行為
【クラスター弾等の製造の禁止及び所持の規制等に関する法律】クラスター弾等の製造▽クラスター弾等の所持
【平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法】汚染廃棄物等の投棄等

*2-3:http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/opinion/editorial/2-0113272.html (北海道新聞 2017/5/7) 「共謀罪」と捜査 前のめりの危険性高い
 現行の刑事法の下では、捜査は基本的に事件が発生してから始まる。罪を犯した者を罰するのが原則だからだ。だが、「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ「テロ等準備罪」は計画段階の犯罪を広く処罰対象とする。事件がないのに、証拠収集や取り調べが行われる可能性がある。そこに、共謀罪の本質的な危険が潜んでいる。政府は国会審議で、捜査権の乱用はないと強調するが、当局が前のめりになって人権を侵害する恐れはまったく拭えていない。政府はテロ等準備罪を新設する組織犯罪処罰法改正案について、テロ組織や暴力団など組織的犯罪集団が対象だと説明。摘発には資金や物品の手配、現場の下見など「準備行為」が必要だという。だが、適用団体の定義は曖昧で、犯罪集団かどうかは捜査機関が自ら判断する。その危うさは重ねて指摘してきた。加えて、準備行為が事件に関係していることを、客観的な証拠で裏付けるのも困難ではないか。たとえば、銀行の現金自動預払機(ATM)からのお金の引き出しや、花見会場の下見である。一見、日常的な行為に過ぎず、その目的を探る捜査は供述に頼らざるを得なくなるだろう。供述偏重の捜査は、冤罪(えんざい)につながりかねない。過去の数々の事件が証明済みだ。金田勝年法相は「捜査に当たっては、客観証拠や供述の裏付け証拠の収集が重視される」と国会で答弁しているが、具体的な方法は明らかにしていない。一般的に、密室性の高い謀議の立証はハードルが高い。結局、証拠収集のための通信傍受が、なし崩し的に広がるのではないか。さらに注意すべきは、犯罪の実行前に自首した場合は刑を減免する―という規定である。他人に罪をなすりつける虚偽供述や、密告がはびこる社会になりかねない。それが心配だ。金田法相は、捜査機関の令状請求を審査する裁判所が、行きすぎた捜査を防ぐ歯止めになるとの見解も示している。しかし、令状審査は捜査側の言い分で判断するため、形式的になっているのが実情だ。最高裁が違法と断じた衛星利用測位システム(GPS)捜査は、そもそも警察が令状を取っていなかった。なのに、法相がもっともらしく令状主義を持ち出すのは、いかにも都合が良すぎる。

*2-4:https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2017/170331.html (日本弁護士連合会会長 中本和洋 2017年3月31日) いわゆる共謀罪の創設を含む組織的犯罪処罰法改正案の国会上程に対する会長声明
 政府は、本年3月21日、いわゆる共謀罪の創設を含む組織的犯罪処罰法改正案(以下「本法案」という。)を閣議決定し、国会に本法案を上程した。当連合会は、本年2月17日付けで「いわゆる共謀罪を創設する法案を国会に上程することに反対する意見書」(以下「日弁連意見書」という。)を公表した。そこでは、いわゆる共謀罪法案は、現行刑法の体系を根底から変容させるものであること、犯罪を共同して実行しようとする意思を処罰の対象とする基本的性格はこの法案においても変わらず維持されていること、テロ対策のための国内法上の手当はなされており、共謀罪法案を創設することなく国連越境組織犯罪防止条約について一部留保して締結することは可能であること、仮にテロ対策等のための立法が十分でないとすれば個別立法で対応すべきことなどを指摘した。本法案は、日弁連意見書が検討の対象とした法案に比べて、①犯罪主体について、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団と規定している点、②準備行為は計画に「基づき」行われる必要があることを明記し、対象犯罪の実行に向けた準備行為が必要とされている点、③対象となる犯罪が長期4年以上の刑を定める676の犯罪から、組織的犯罪集団が関与することが現実的に想定される277の犯罪にまで減じられている点が異なっている。しかしながら、①テロリズム集団は組織的犯罪集団の例示として掲げられているに過ぎず、この例示が記載されたからといって、犯罪主体がテロ組織、暴力団等に限定されることになるものではないこと、②準備行為について、計画に基づき行われるものに限定したとしても、準備行為自体は法益侵害への危険性を帯びる必要がないことに変わりなく、犯罪の成立を限定する機能を果たさないこと、③対象となる犯罪が277に減じられたとしても、組織犯罪やテロ犯罪と無縁の犯罪が依然として対象とされていることから、上記3点を勘案したとしても、日弁連意見書で指摘した問題点が解消されたとは言えない。当連合会は、監視社会化を招き、市民の人権や自由を広く侵害するおそれが強い本法案の制定に強く反対するものであり、全国の弁護士会及び弁護士会連合会とともに、市民に対して本法案の危険性を訴えかけ、本法案が廃案になるように全力で取り組む所存である。

*2-5:http://www.kanaben.or.jp/profile/gaiyou/statement/2017/post-268.html (2017年4月26日 神奈川県弁護士会会長 延命政之) いわゆる「共謀罪」法案の廃案を求める会長声明
1.  政府は、本年3月21日、いわゆる共謀罪の創設を含む組織的犯罪処罰法一部改正案(以下「本法案」という。)を閣議決定し、衆議院に提出した。当会は、2016年12月8日付けで「いわゆる共謀罪新法案の国会提出に反対する会長声明」を発しているところであるが、それにもかかわらず本法案が提出されたことは極めて遺憾であり、改めて本法案に対する当会の意見を表明する。
2.  本法案では、①犯罪主体について、従前「組織的犯罪集団」とされていた規定が「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」と改められており、また、②対象犯罪を676から277に減じたとされている。①の「テロリズム集団」の文言は、テロ対策を標榜しつつテロとの関係が明らかでなかった政府原案に対する批判を受けて急遽追加されたものであるが、本法案には「テロリズム集団」の定義規定はない。「組織的犯罪集団」の意義が捜査機関によって恣意的に解釈され、摘発される対象が拡大する危険性が高いという問題点は何ら解消されていない。すなわち「テロリズム集団」の文言が加わったとしても、処罰範囲の限定にならないことは明白である。また、②についても、仮に対象犯罪が277に減じられたとしても、組織的犯罪やテロ犯罪と無縁のものも依然として対象とされている。共謀罪は、「行為」を処罰する我が国の刑法の基本原則を否定するものである以上、いかに対象犯罪数を減らそうとも、軽々に認められるものではない。つまり、本法案は、過去3回も廃案になった共謀罪の問題点が何ら解消されていないのである。  
3.  当会が従前指摘していたとおり、構成要件が不明瞭であって罪刑法定主義にも反する本法案は、共謀という意思の連絡自体が犯罪として捜査対象となるために、通信傍受の対象とされた場合監視社会化を招き、憲法の保障する思想・良心の自由、表現の自由、通信の秘密及びプライバシーなどを侵害し、基本的人権の行使に対して深刻な萎縮効果をもたらすおそれがある。当会は、本法案の閣議決定および衆議院提出に対して、改めて抗議すると共に、本法案の廃案を求めるものである。  

*2-6:http://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20170501/KT170428ETI090010000.php (信濃毎日新聞 2017.5.1) 憲法の岐路 強まる監視 拒否する意思示すとき
 新たな米軍基地建設のため、海を埋め立てる工事が強行された沖縄・辺野古。基地反対運動の先頭に立ち続けてきた山城博治さんの姿がそこにない。昨年秋に逮捕、起訴され、勾留は5カ月にも及んだ。この3月に保釈が認められたものの、事件関係者と接触を禁じる条件がつき、現場に行けない日が続く。有刺鉄線を1本切ったことが器物損壊に、工事車両の進入を阻もうとコンクリートブロックを積んだことが威力業務妨害にあたるとされた。逮捕する必要性すら疑わしい事案だと、多くの刑事法学者が指摘している。言論・表現の自由は憲法が保障する基本的人権の核を成す。政治的な意見の表明は、民主主義による意思決定の基盤としてとりわけ尊重されなければならない。
●弾圧に道開く共謀罪
 基地建設を強権的に進める政府に抗議するのは何ら不当なことではない。反対運動の中心人物の行動を強制力をもって封じることは弾圧にほかならない。沖縄で起きていることに目を凝らすと、政府・与党が今、強引に成立させようとしている共謀罪法案の怖さが際立ってくる。市民運動へのさらに厳しい弾圧に道を開きかねないからだ。犯罪の実行に至らなくても、共謀しただけで処罰の対象にする。合意した人すべてに網がかかる。何をもって合意したと判断するかは明確でない。相づちを打つことも合意とみなされ得る。誰か1人が準備行為をすれば、他の人を含めて一網打尽にできる―。安倍晋三首相の答弁が、本質を映し出している。共謀罪が設けられる犯罪は幅広い。組織的な威力業務妨害も含まれる。原発再稼働や公共事業への抗議運動を含め、政府の方針に反対する人たちが、妨害行為を計画したとして一掃される恐れさえ、ないとは言えない。準備行為として挙げた資金・物品の手配や下見は、日常の行動と見分けにくい。事前に共謀を察知しなければ、準備と判断しようがない。当局が目をつけた組織や市民の動向を把握することが、捜査を名目に正当化される。欠かせないのが盗聴だ。通信傍受法の対象犯罪に共謀罪を加えることを政府は「検討課題」としている。憲法が保障する「通信の秘密」が有名無実化しかねない。室内に盗聴器を置く会話傍受も、いずれ認められないか心配だ。警察の権限が強まり、監視と個人情報の収集が一段と進むことは間違いない。プライバシーが侵され、公権力が内心に踏み入ってくる危険は増す。密告を促す規定もある。当局の監視にとどまらず、人と人が互いに監視し合う息苦しさを生み、社会を表情のない人の群れに変えていかないか。
●戦時治安国家の様相
 戦時下、思想・言論の弾圧によって人権が著しく損なわれた反省から、現憲法は刑罰権の乱用を防ぐ詳細な規定を置いた。刑法も刑罰権に縛りをかけることに本来の役割がある。思想でなく行為を罰することは根本原則だ。共謀罪はそれを逸脱し、処罰の枠組みを一気に押し広げる。人権を守り、自由を確保するための憲法の骨組み全体が揺らぐ。政府が持つ情報を広く覆い隠す特定秘密保護法。集団的自衛権の行使を容認し、憲法の平和主義を変質させた安全保障法制。そして共謀罪。次々と進む法整備によって、日本は再び“戦時治安国家”の様相を帯びていないか。その先に安倍政権が目指す改憲がある。自民党の改憲草案は、権利全体に〈公益及び公の秩序に反してはならない〉と枠をはめた。人権の主体である「個人」は、単に「人」と変えられている。国民の権利と自由の前に、国家が大きく立ちはだかる。公権力の横暴にさらされても、対抗するためのよりどころはそこにない。日本の現在の状況は、昭和3(1928)年に似ている―。九州大名誉教授の内田博文さん(刑事法)が著書で指摘している。31年の満州事変に始まる15年戦争の“前夜”にあたる時期だ。
●今はまだ引き返せる
 25年に制定された治安維持法は3年後のこの年の改定で「目的遂行罪」が設けられた。何であれ、「国体変革」の目的を遂行するための行為と当局が決めつければ取り締まれる。それによって処罰の対象が歯止めなく広がったことは、共謀罪と重なる。治安維持法の廃止を含め、「引き返す」選択もあり得たのに、当時の日本は放棄してしまった、と内田さんは述べる。けれど今はまだその道が残っている、と。監視が強まり、権力が内心に踏み込んでくるのを黙って認めるわけにはいかない。一人一人が自分の言葉で拒否の意思を示したい。押しとどめる力は、声を積み重ねることでしか生まれない。


<軽視された民主主義>
PS(2017年5月12日):安倍内閣が、*3-1のように、「教育勅語を憲法や教育基本法に反しない形で教材として用いることまでは否定されない」という答弁書を閣議決定したそうだが、教育勅語は、天皇主権に基づき、天皇の臣民である国民は事が起きれば天皇のために命を捧げよと言っているのであり、ここで述べられている親孝行や家族愛も家制度の下で家父長や親への服従を強いたものである。そのため、教育勅語は、日本国憲法の主権在民(民主主義)・基本的人権の尊重・男女平等などに根本的に反しており、私も、*3-2のように、歴史教育以外では、憲法や教育基本法に反せず教育勅語を学校教育で使用することは不可能だと考える。

*3-1:http://blogos.com/article/216902/ (BLOGOS 2017年4月4日) 教育勅語を教材で使用認める閣議決定は時代錯誤
 安倍内閣が、教育勅語について、「憲法や教育基本法に反しない形で教材として用いることまでは否定されない」という答弁書を閣議決定しました。これは、時代錯誤でしかないと思います。教育勅語は、終戦後の1948年、衆議院で排除の決議が、参議院で失効の決議がされているものです。参議院決議では、「われらは日本国憲法ののっとり、教育基本法を制定し、わが国とわが民族を中心とする教育の誤りを払拭し、真理と平和を希求する人間を育成する民主主義的教育理念を宣言した。教育勅語がすでに効力を失った事実を明確にし、政府は勅語の謄本をもれなく回収せよ」としています。今回の閣議決定は、これと対立するものです。森友問題をめぐって、稲田防衛大臣が「教育勅語に流れているところの核の部分は取り戻すべきだ」と答弁したことが、直接のきっかけになった、とも言われています。教育勅語は、天皇中心の国体観に基づき、事が起きれば天皇のために命を捧げるという考え方であり、憲法や教育基本法に反するから排除されたものです。親孝行や家族愛、友達を大切に等は、今も必要ということのようですが、それは教育勅語によらなくても教えられるはずです。戦後レジームからの脱却を掲げてきた総理や、現在の政権の体質に強い危惧を持ちます。

*3-2:https://sites.google.com/site/kyoikuchokugonikansuruseimei/home (2017年4月27日 教育研究者有志) 教育現場における教育勅語の使用に関する声明
【要約】
 次世代を担う子どもたちの成長に対し重要な責任を負う教育において、現憲法下での国民主権に反する教育勅語を復活させることは弊害が大きい。しかし、最近の政府は「憲法や教育基本法の趣旨に反しない」という条件をつけながらも、「教員および学校長の判断において」教育勅語の学校教育での使用を容認する姿勢を示している。これは教育勅語そのものが憲法と教育基本法に反しているとした過去の国会決議や政府発言を根拠なく変更するものである。それゆえ我々は、「教育現場において、教育勅語の全体及び一部を、その歴史的な性格に対する批判的な認識を形成する指導を伴わずに使用することを認めない」という決然たる姿勢を政府に求めるとともに、教員・学校長・所轄庁のいずれもが、民主主義・国民主権・基本的人権と相対立する教育勅語の思想や価値観と決別することの必要性を、強く訴える。
【全文】
 現代においては、国境を超えた人々や情報の交流が進むとともに、人々の生活や人生の多様化も進んでいる。このような中で次世代を担う子どもたちは、多様な他者との協同のもとで、全ての人々の基本的人権を尊重し民主主義的な社会を築く主体となることが期待されており、そのために教育は重要な責任を負っている。それゆえ、戦前の大日本帝国憲法下における「国家元首かつ統治権の総攬者」としての天皇や国体思想を前提とし、現憲法下での国民主権に反するかつての教育思想を現在に復活させることは、いかなる面から見ても弊害が大きいことは論を俟たない。しかるに今、教育勅語を教育現場で使用することに対する政府の容認的姿勢が目立ち始めている。政府は、2017年2月27日に逢坂誠二議員より提出された「教育基本法の理念と教育勅語の整合性に関する質問主意書」に対する答弁書において、学校教育法上の学校において教育のために教育勅語が使用されること、教育勅語を繰り返し暗唱させることに関して、「お尋ねのような行為が教育基本法(平成十八年法律第百二十号)や学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)に違反するか否かについては、個別具体的な状況に即して判断されるべきものであり、一概にお答えすることは困難である。その上で、一般論として、仮に、同法第一条の「幼稚園」又は「小学校」(以下これらを合わせて「学校」という。)において不適切な教育が行われている場合は、まずは、当該学校の設置者である市町村又は学校法人等において、必要に応じ、当該学校に対して適切な対応をとり、都道府県においても、必要に応じ、当該学校又は当該学校の設置者である市町村若しくは学校法人等に対して適切な対応をとることになる。また、文部科学省においては、必要に応じ、当該学校の設置者である市町村又は当該都道府県に対して適切な対応をとることになる。」と答弁している。その後も国会答弁、文部科学省記者会見、質問主意書に対する答弁において、政府は「憲法や教育基本法の趣旨に反しない限り」、「教員および学校長の判断において」教育勅語の学校教育での使用を容認し、不適切な場合は「所轄庁が適切に指導する」という発言を繰り返している。むろん、個々の教師は思想信条の自由を保障されるべきであり、また私立の学校は建学の理念に即した教育を行うことが認められている。しかし、教育勅語という対象への上記のような政府の姿勢は、過去の国会決議や政府見解に照らせば、従来の方針に対して重大な変更を恣意的に加えたものと言わざるをえない。すでに1948年の時点で、衆参両院は、「根本理念が主権在君並びに神話的國体観に基いている事実は、明かに基本的人権を損い、且つ國際信義に対して疑点を残すもととなる」(1948年6月19日衆議院・教育勅語等排除に関する決議)との理由から、教育勅語の排除・失効を決議している。それゆえ、教育勅語そのものが憲法と教育基本法に反しているのであり、「それらに反しない」形での使用とは、「教育勅語は憲法と教育基本法に反している」ことを教える場合のみであるということになる。また歴代文部大臣は、「敗戰後の日本は、國民教育の指導理念として民主主義と平和主義とを高く揚げましたが、同時に、これと矛盾せる教育勅語その他の詔勅に対しましては、教育上の指導原理たる性格を否定してきたのであります」という1948年6月19日第2回国会衆議院本会議における森戸辰男文部大臣発言、およびある私立高校が学校行事で教育勅語を朗読していることが問題とされた際の「昭和二十一年及び二十三年、自後教育勅語を朗読しないこと、学校教育において使わないこと、また衆参両議院でもそういう趣旨のことを決議されております。(中略)教育勅語の成り立ち及び性格、そういう観点からいって、現在の憲法、教育基本法のもとでは不適切である、こういうことが方針が決まっておるわけでございます」という1983年5月11日第98国会参議院決算委員会における瀬戸山三男文部大臣発言等、これを教育理念とすることを明確に否定してきた。過去の国会決議や政府発言と比べて、今回の政府見解等は、教育勅語への容認の度合いを根拠なく強めるものであり、正当性を欠いている。さらに、以下の諸点において、前記の政府の姿勢は、子どもたちが民主主義的な社会の担い手として成長を遂げる過程に対し、教育現場で教育勅語が不適切な形で使用される事態を防ぐためにはきわめて不十分である。第一に、その成り立ちや性格全体から切り離して、憲法や教育基本法の趣旨と一見合致するような教育勅語の一部分が教育現場で使用された場合、教育勅語全体の性質や歴史的背景についての批判的理解が子どもたちに形成されないおそれがある。第二に、実際に学校教育法上の学校(幼稚園を含む)において教育勅語の朗読等が長期にわたり行われていた複数の事例が存在することからもわかるように、憲法や教育基本法の趣旨と反する思想をもつ教員や学校長が教育勅語を使用し、所轄庁の発見や指導が遅れたり不十分となったりするケースは容易に想定される。その場合、子どもたちは、そのような教育が行われなければ実現されていたはずの成長を阻害されるという点で、多大な損害を被ることになる。これらの理由により、教育現場における教育勅語の不適切な使用に対しては、より実効ある防止策が求められる。それゆえ、我々は、過去の政府見解も踏まえ、「教育現場において、教育勅語の全体及び一部を、その歴史的な性格に対する批判的な認識を形成する指導を伴わずに使用することを認めない」という決然たる姿勢を政府に求めるとともに、教員・学校長・所轄庁のいずれもが、民主主義・国民主権・基本的人権と相対立する教育勅語の思想や価値観と決別することの必要性を、強く訴えるものである。


PS(2017年5月14日追加):*4のように、警察は自らストーリーを描き、それに合わせて供述や証拠を集めるため、聞く耳を持たず強引になる。さらに、そのストーリーは、裁判で確実に罪にするため、過去の判例で犯罪とされたことのあるものに近くなるよう設定されるので、古くて陳腐化したものになる。もちろん、その原因には、一般社会と切り離された生活をしている警察官の想像力の限界や権威主義もあるだろうが、どんな理由があるにせよ、捜査による冤罪被害者が長期間拘束された後で無罪であることがわかっても、その間の人権侵害や名誉棄損等の人生における被害は、取り返しのつくものではないのだ。

*4:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12936582.html (朝日新聞 2017年5月14日) 筋書き通りの自白、危惧 「共謀罪」少ない物証、供述頼みに?
 「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織的犯罪処罰法改正案は、犯罪を実行前の計画段階で処罰するため、物証が少なく自白重視の捜査になる、との指摘がある。2003年の鹿児島県議選をめぐる冤罪(えんざい)事件「志布志事件」=キーワード=で無罪となった元被告たちは、取り調べで虚偽自白を迫られた自らの体験から「強引な捜査が行われるのでは」と危惧する。
●「『共謀罪』ができたら、いま以上に怖い社会になる」
 鹿児島県志布志市の酒造会社社長、中山信一さん(71)は14年前、県議に初当選した直後に逮捕、起訴された。会合を開いて有権者に現金を配った公職選挙法違反(買収)の疑い。裁判でアリバイが認められ、判決は、会合自体が存在しない「架空の事件」だったことを示唆。起訴された12人全員の無罪が確定した。「共謀罪」の国会審議で政府は「一般人は対象外」「裁判所による令状審査が機能しており、恣意(しい)的な運用はできない」などと答弁している。ただ、一般人かどうか、嫌疑の有無などの判断をするのは捜査当局だ。中山さんは「一度決めれば、あらゆる手段を使って、描いた筋書き通りに『犯人』を仕立てる危険がある」と感じる。志布志事件では、警察からは「自白」を迫られ、否認すると395日間勾留された。取調官は「認めなければ娘も息子も逮捕する」などと怒鳴った。ともに逮捕された妻が自供したので罪を認めるように、と迫られたこともある。心が折れそうになったが、否認を貫いた。後で妻は自供しておらず、取調官がうそをついていたことを知った。「警察はシナリオを書いたらあの手この手で認めさせようとする。みな自分に関係ないと思っているのだろうが、自分に降りかかってきてからでは手遅れだ」
■「警察聞く耳もたなかった」
 志布志事件では6人が、捜査側に強要されてうその自白をした。そのひとり、藤山忠(すなお)さん(69)は逮捕前に14日間、約138時間事情聴取された。逮捕後も含めると、取り調べ時間は計538時間。結局、虚偽の自白をし、容疑を認めた。「いくらやっていないと言っても、警察は聞く耳をもたなかった。『共謀罪』で政府が『恣意的な捜査はしない』『適正に運用する』と言っても信用できない」。元被告以外にも多くの住民が「任意捜査」の名のもとで厳しい取り調べを受けた。同市でホテルを経営する川畑幸夫さん(71)は「ちょっと話を聞かせて」と連れていかれた警察署で、朝から晩まで取り調べを受けた。「警察という組織はバックすることを知らない。こっちの話は全く聞かず、そのまま突っ走る。法案を成立させるなら、任意の段階から取り調べを全面的に可視化し、すべてを録画・録音するべきだ」
    ◇
 国会でも「供述頼みの捜査が加速する」との懸念が議論になっている。政府は「共謀罪」で「通信傍受(盗聴)はしない」と説明。容疑者が犯罪を「共謀」したことを示す証拠として、メールやLINEのほか、関係者の供述が重視されることになるとみられる。一部の野党は違法な取り調べを避けるため「録音・録画を義務づけるべきだ」と主張。与党と日本維新の会は、条文に「取り調べを含む捜査の適正確保への配慮」を明記し、「付則」に「可視化を検討する」などと盛りこむ法案の修正に合意した。ただ、可視化も条文に明記すべきだとの意見もある。
◆キーワード
<志布志事件> 2003年の鹿児島県議選で当選した県議が同県志布志市の住民らと買収の会合を開き計191万円の授受をしたとして、鹿児島県警が公職選挙法違反容疑で15人を逮捕。うち13人が起訴された(うち1人は公判中に死亡)。07年、鹿児島地裁で被告全員の無罪判決が確定。元被告らが起こした民事訴訟で、捜査の違法性が認定された。


<教育基本法に定められている義務教育の無償・教育の機会均等・生涯教育>
PS(2017年5月14日追加): *5-2のように、①義務教育は授業料をとらず ②高等教育は機会均等になるようにし ③生涯教育を充実する ということが、教育基本法で立派に定められているため、より充実したければ教育基本法を改正して幼稚園から高校までを義務教育(無償)とし、大学以降は授業料の引下げ、学生寮の充実、奨学金の拡充などを行うのが合理的だと考える。そして、その財源は、景気対策と称して行う無駄遣いや廃止すべき補助金の廃止で何十兆円も出る筈で、財源の問題は高等教育までの無償化を憲法に記載するか否かとは無関係だ。そのため、*5-1に書かれているとおり、防衛の重大な転機とする憲法変更のだしとして教育無償化を使うのはやめてもらいたい。

 
   幼稚園利用率推移     保育所利用率推移     幼稚園と保育所の違い   
(図の説明:幼稚園と保育所の利用率は、5歳児では95%以上、3歳児でも76%以上であり、保育所の待機児童数は多い。一方、幼稚園は教育機関として幼児教育を行うのに対し、保育所は家庭と同じ居場所の位置付けにすぎない。しかし、働いている親も、幼児教育をしてくれた方が有り難く、必要な場合は長時間預かって欲しいため、3歳以上は義務教育とし、それ以外の時間帯に預かる場合は学童保育とするのがよいと思われる。なお、義務教育なら授業料は無料だ)

      
       高校進学率推移         大学・短大・専門学校進学率推移
(図の説明:高校進学率は平成20年度でも97%程度であるため、義務教育として授業料を無料にするのがよいと思われる。しかし、大学・短大・専門学校は、合わせても平成27年度で71%程度であるため、授業料の低減、奨学金の充実、安価で質の良い学生寮の整備などの方が公正で効果的だと考える)

*5-1:http://digital.asahi.com/articles/ASK5C4J02K5CUTIL018.html (朝日新聞 2017年5月14日) 教育無償化に改憲必要? 木村草太教授「法律で十分だ」
 安倍晋三首相が憲法改正の項目として打ち上げた、大学や短大、専門学校といった高等教育の無償化。だが、民主党政権は、改憲ではなく法律で高校授業料の無償化を実現した。さらに自民党は高校無償化に強く反対し、その文言は今でも党のホームページにある。そんな政権の矛盾した姿勢に、「憲法改正の方便だ」との声が相次ぐ。「高等教育についても、全ての国民に真に開かれたものとしなければならない」。安倍首相(自民党総裁)は今月3日、憲法改正を訴える団体が開いた集会に寄せたメッセージでこう述べた。「義務教育は、これを無償とする」とした憲法26条を評価したうえでの発言だった。9日の参院予算委員会では、教育無償化を憲法に盛り込むべきだとする日本維新の会の片山虎之助氏が「(憲法改正の項目に)教育を入れていただいたのは何かお考えがあるのですか」と質問。これに対し、首相は「世代を超えた貧困の連鎖を断ち切り、家庭の経済事情にかかわらず、子どもたちが夢に向かって頑張ることができる日本でありたい」と応じ、9条と並ぶ改憲項目に位置づけた。しかし、憲法学者の間では「高等教育の無償化に憲法改正は必要ない」という見方が大勢だ。高校無償化についてはすでに民主党政権で立法によって実施済み。首都大学東京の木村草太教授(憲法学)も「法律で必要十分だ。自民党が日本維新の会が出している教育無償化の法案に賛成すればいいだけだ」と指摘する。憲法に書けば、無償化が実現しない場合に違憲訴訟が起こせるなど、時の政権への強制力が増すことも考えられるが、木村教授は「本当に無償化が必要だと思うのなら、時間がかかる憲法改正ではなく、今すぐ法律でやるべきだ」と話す。
■自民、野党時は高校無償化批判
 加えて、自民党はそもそも高校無償化に後ろ向きだった経緯があり、野党からは、教育無償化が改憲のための大義名分に過ぎないといった見方が出ている。自民党は野党時代、民主党政権が提案した公立高校の授業料の無償化と私立高校生への就学支援金の導入に反対した。国会審議では「ある種のばらまき的な政策」「一律に無償化するのではなく、低所得者にもっと拡充するべきではないか」などと追及。11日現在でも、党のホームページに「高校授業料無償化の問題点!」として、「理念なき選挙目当てのバラマキ政策には反対です」と掲げる。また、自民党政権は1979年に批准した国際人権規約で、中等教育と高等教育に対する「無償教育の漸進的な導入」を掲げた部分について、「日本では私立学校の割合が高く、私学を含めた無償教育の導入は、私学制度の根本原則にも関わる」と主張し、適用されないよう「留保」。高校無償化を実現した民主党政権が2012年に撤回した。現在、日本は高等教育への公的な財政支出が少なく、先進国の中で最低レベルだ。経済協力開発機構(OECD)の調査によると、13年時点で、高等教育機関に対する私費負担の割合は65%。韓国に次いで高く、OECD平均30%の2倍以上にのぼる。矢野真和・東京工業大名誉教授(教育経済学)の試算によると、大学の授業料の無償化には約2・5兆円が必要で、維新の試算によると、0歳児から大学院までの無償化に約4・3兆円の財源が必要だという。矢野名誉教授は「これまで『財源がない』として教育予算を減らしてきた中で、どう財源を確保するのかのグランドデザインを議論するほうが先だ」と話す。こうした安倍政権や自民党の姿勢に対し、民進党の野田佳彦幹事長は8日の記者会見でこう批判した。「我々が高校の授業料の無償化をやった時には『バラマキ』と言って反対してきたにもかかわらず、今度は無償化を憲法改正に位置づけようという話だ。一貫性を感じない」(杉原里美)

*5-2:http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H18/H18HO120.html 教育基本法 (平成十八年十二月二十二日法律第百二十号)
 教育基本法(昭和二十二年法律第二十五号)の全部を改正する。我々日本国民は、たゆまぬ努力によって築いてきた民主的で文化的な国家を更に発展させるとともに、世界の平和と人類の福祉の向上に貢献することを願うものである。我々は、この理想を実現するため、個人の尊厳を重んじ、真理と正義を希求し、公共の精神を尊び、豊かな人間性と創造性を備えた人間の育成を期するとともに、伝統を継承し、新しい文化の創造を目指す教育を推進する。ここに、我々は、日本国憲法 の精神にのっとり、我が国の未来を切り拓く教育の基本を確立し、その振興を図るため、この法律を制定する。
 前文
 第一章 教育の目的及び理念(第一条―第四条)
 第二章 教育の実施に関する基本(第五条―第十五条)
 第三章 教育行政(第十六条・第十七条)
 第四章 法令の制定(第十八条)
 附則
  第一章 教育の目的及び理念
(教育の目的)
第一条  教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。
(教育の目標)
第二条  教育は、その目的を実現するため、学問の自由を尊重しつつ、次に掲げる目標を達成するよう行われるものとする。
一  幅広い知識と教養を身に付け、真理を求める態度を養い、豊かな情操と道徳心を培うとともに、健やかな身体を養うこと。
二  個人の価値を尊重して、その能力を伸ばし、創造性を培い、自主及び自律の精神を養うとともに、職業及び生活との関連を重視し、勤労を重んずる態度を養うこと。
三  正義と責任、男女の平等、自他の敬愛と協力を重んずるとともに、公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと。
四  生命を尊び、自然を大切にし、環境の保全に寄与する態度を養うこと。
五  伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと。
(生涯学習の理念)
第三条  国民一人一人が、自己の人格を磨き、豊かな人生を送ることができるよう、その生涯にわたって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができ、その成果を適切に生かすことのできる社会の実現が図られなければならない。
(教育の機会均等)
第四条  すべて国民は、ひとしく、その能力に応じた教育を受ける機会を与えられなければならず、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない。
2  国及び地方公共団体は、障害のある者が、その障害の状態に応じ、十分な教育を受けられるよう、教育上必要な支援を講じなければならない。
3  国及び地方公共団体は、能力があるにもかかわらず、経済的理由によって修学が困難な者に対して、奨学の措置を講じなければならない。
  第二章 教育の実施に関する基本
(義務教育)
第五条  国民は、その保護する子に、別に法律で定めるところにより、普通教育を受けさせる義務を負う。
2  義務教育として行われる普通教育は、各個人の有する能力を伸ばしつつ社会において自立的に生きる基礎を培い、また、国家及び社会の形成者として必要とされる基本的な資質を養うことを目的として行われるものとする。
3  国及び地方公共団体は、義務教育の機会を保障し、その水準を確保するため、適切な役割分担及び相互の協力の下、その実施に責任を負う。
4  国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については、授業料を徴収しない。
(学校教育)
第六条  法律に定める学校は、公の性質を有するものであって、国、地方公共団体及び法律に定める法人のみが、これを設置することができる。
2  前項の学校においては、教育の目標が達成されるよう、教育を受ける者の心身の発達に応じて、体系的な教育が組織的に行われなければならない。この場合において、教育を受ける者が、学校生活を営む上で必要な規律を重んずるとともに、自ら進んで学習に取り組む意欲を高めることを重視して行われなければならない。
(大学)
第七条  大学は、学術の中心として、高い教養と専門的能力を培うとともに、深く真理を探究して新たな知見を創造し、これらの成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与するものとする。
2  大学については、自主性、自律性その他の大学における教育及び研究の特性が尊重されなければならない。
(私立学校)
第八条  私立学校の有する公の性質及び学校教育において果たす重要な役割にかんがみ、国及び地方公共団体は、その自主性を尊重しつつ、助成その他の適当な方法によって私立学校教育の振興に努めなければならない。
(教員)
第九条  法律に定める学校の教員は、自己の崇高な使命を深く自覚し、絶えず研究と修養に励み、その職責の遂行に努めなければならない。
2  前項の教員については、その使命と職責の重要性にかんがみ、その身分は尊重され、待遇の適正が期せられるとともに、養成と研修の充実が図られなければならない。
(家庭教育)
第十条  父母その他の保護者は、子の教育について第一義的責任を有するものであって、生活のために必要な習慣を身に付けさせるとともに、自立心を育成し、心身の調和のとれた発達を図るよう努めるものとする。
2  国及び地方公共団体は、家庭教育の自主性を尊重しつつ、保護者に対する学習の機会及び情報の提供その他の家庭教育を支援するために必要な施策を講ずるよう努めなければならない。
(幼児期の教育)
第十一条  幼児期の教育は、生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要なものであることにかんがみ、国及び地方公共団体は、幼児の健やかな成長に資する良好な環境の整備その他適当な方法によって、その振興に努めなければならない。
(社会教育)
第十二条  個人の要望や社会の要請にこたえ、社会において行われる教育は、国及び地方公共団体によって奨励されなければならない。
2  国及び地方公共団体は、図書館、博物館、公民館その他の社会教育施設の設置、学校の施設の利用、学習の機会及び情報の提供その他の適当な方法によって社会教育の振興に努めなければならない。
(学校、家庭及び地域住民等の相互の連携協力)
第十三条  学校、家庭及び地域住民その他の関係者は、教育におけるそれぞれの役割と責任を自覚するとともに、相互の連携及び協力に努めるものとする。
(政治教育)
第十四条  良識ある公民として必要な政治的教養は、教育上尊重されなければならない。
2  法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない。
(宗教教育)
第十五条  宗教に関する寛容の態度、宗教に関する一般的な教養及び宗教の社会生活における地位は、教育上尊重されなければならない。
2  国及び地方公共団体が設置する学校は、特定の宗教のための宗教教育その他宗教的活動をしてはならない。
  第三章 教育行政
(教育行政)
第十六条  教育は、不当な支配に服することなく、この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものであり、教育行政は、国と地方公共団体との適切な役割分担及び相互の協力の下、公正かつ適正に行われなければならない。
2  国は、全国的な教育の機会均等と教育水準の維持向上を図るため、教育に関する施策を総合的に策定し、実施しなければならない。
3  地方公共団体は、その地域における教育の振興を図るため、その実情に応じた教育に関する施策を策定し、実施しなければならない。
4  国及び地方公共団体は、教育が円滑かつ継続的に実施されるよう、必要な財政上の措置を講じなければならない。
(教育振興基本計画)
第十七条  政府は、教育の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、教育の振興に関する施策についての基本的な方針及び講ずべき施策その他必要な事項について、基本的な計画を定め、これを国会に報告するとともに、公表しなければならない。
2  地方公共団体は、前項の計画を参酌し、その地域の実情に応じ、当該地方公共団体における教育の振興のための施策に関する基本的な計画を定めるよう努めなければならない。
  第四章 法令の制定
第十八条  この法律に規定する諸条項を実施するため、必要な法令が制定されなければならない。
   附 則 抄
(施行期日)
1  この法律は、公布の日から施行する。


PS(2017年5月15日追加):憲法とは関係ないが、*6のように、「教員の長時間労働は深刻で、中学校の6割が過労死ライン」というような記事が多い。具体的には、①教諭は1日11時間以上働いている ②小学校教諭の約2割と中学校教諭の約4割が労災認定基準の「過労死ライン」に触れている などだ。しかし、公認会計士・税理士として働いてきた私から見ると、i)教員は夏休み・冬休み・春休みがあるので1年間を平準化すればそれほど長時間の拘束になるわけがない ii)教科の内容が毎年大きく変わるわけではないため、過去の蓄積が利用できる iii)事務作業は、担任ではなく新人教諭や事務員に任せられることも多い iv)部活も教諭よりうまく教えられる監督も多いため、そういう人を使えばよい 等々、業務の効率化・合理化により、教育の質を高めながら拘束時間を減らす解決策があると考える。そもそも、新人教諭が見習い期間もなく、採用後、直ちに経験豊富な教諭と同様の担任になるのは無理があろう。
 また、*5-2の教育基本法第9条で「教員は、自己の崇高な使命を深く自覚し、絶えず研究と修養に励み、その職責の遂行に努めなければならない」「教員の使命と職責の重要性にかんがみ、その身分は尊重され、待遇の適正が期せられるとともに、養成と研修の充実が図られなければならない」とされており、これを実現させるために、第16条で「国及び地方公共団体は、教育が円滑かつ継続的に実施されるよう、必要な財政上の措置を講じなければならない」と規定されているため、教育の質を上げながら必要な改善をするのも教育関係者の仕事の一つだ。

*6:http://digital.asahi.com/articles/ASK4Z7SG9K4ZUBQU00D.html (朝日新聞 2017年5月1日) 教員の長時間労働、深刻 中学の6割「過労死ライン」
 公立小中学校の教員の勤務時間が10年前と比べて増えたことが28日、文部科学省の調査で分かった。授業の増加が主な理由とみられ、教諭の場合は1日あたり30~40分増え、11時間以上働いている。教育現場が深刻な長時間労働に支えられている実態が、改めて裏付けられた。調査は昨年10~11月、全国の小中学校400校ずつを抽出し、校長や副校長、教諭や講師らフルタイムで働く教員を対象に実施された。小学校は8951人、中学校は1万687人が答えた。その結果によると、小学校教諭は平均で平日1日あたり11時間15分(2006年度比43分増)、中学校教諭は同11時間32分(同32分増)働いていた。労災認定基準で使われる時間外労働の「過労死ライン」は、1カ月100時間または2~6カ月の月平均80時間とされている。今回の結果をあてはめると、小学校教諭の約2割と中学校教諭の約4割が100時間、小学校の約3割と中学校の約6割が80時間の基準に触れている。文科省は「脱ゆとり」にかじを切った08年の学習指導要領改訂で、小中学校の授業時間を増やした。今回の調査と06年度を比較すると、授業と準備時間の合計は小学校教諭で1日あたり35分、中学校教諭で30分増えており、授業の増加が反映された形だ。その一方、成績処理や学級経営などの時間は減っておらず、結果的に総時間が膨らんでいる。管理職の勤務時間も増えている。小中ともに平日の勤務がもっとも長いのは副校長・教頭で、小学校は12時間12分(06年度比49分増)、中学校は12時間6分(同21分増)に上った。文科省は「地域や保護者への対応、学校からの情報公開など組織として対応しなければいけない仕事が増えた」と説明する。文科省が同様の調査を実施したのは06年度以来、10年ぶり。松野博一文科相は28日の会見で「看過できない深刻な事態が裏付けられた」と述べ、中央教育審議会で教員の働き方改革の議論を本格化させたい考えを明らかにした。


PS(2017年5月18日追加):安全保障関連法で国連憲章第51条を根拠とするフルスペックの集団的自衛権を認めたのは日本国憲法違反であり、最高裁が違憲立法審査権を持っているが、憲法を変更すれば議論の余地もなく合憲となるため、*7のように、安全保障関連法の方を見直すべきだと、私も思う。つまり、具体的に自国の領土・領海を護る範囲を超える集団的自衛権は、どんなに屁理屈をつけても違憲であり、現在では憲法だけが行き過ぎを抑えるツールになっているわけなのだ。また、兵站(英語はMilitary Logistics:広義には軍隊の「総務・管理」を意味し、狭義には武器弾薬・食料・燃料等の物資補給や兵器の輸送・メンテナンス)も、少し長期戦になると勝利を決する決定的な要素になるため、「日本は後方支援しかしていないので、戦争には参加していない」という屁理屈は、世界のどこでも通用しないだろう。さらに、現在の安保法は、シビリアンコントロールの点からも問題が多くなっている。

*7:http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017051802000145.html (東京新聞 2017年5月18日) 日本の平和主義 見直すべきは安保法だ
 現行憲法に自衛隊を規定した項目はない。それでも東日本大震災があった翌二〇一二年の内閣府の世論調査で自衛隊に「良い印象を持っている」と答えた国民は初めて九割を超えた。次に行われた一五年の調査でも九割を超え、各地の災害救援で献身的に働く隊員の姿が自衛隊の評価を押し上げている。本来任務の国防をみると、「必要最小限の実力組織」(政府見解)とされながらも、毎年五兆円前後の防衛費が計上され、世界有数の軍事力を保有する。自衛隊は安全・安心を担う組織として広く国民の間に定着している。変化を求めているのは安倍晋三首相ではないのか。憲法解釈を一方的に変更して安全保障関連法を制定し、他国を武力で守る集団的自衛権行使を解禁したり、武力行使の一体化につながる他国軍への後方支援を拡大したり、と専守防衛の国是を踏み越えようとするからである。安倍政権は、自衛隊に安保法にもとづく初の米艦防護を命じた。北朝鮮からの攻撃を警戒する目的にもかかわらず、北朝鮮の軍事力が及びにくい太平洋側に限定したことで安保法の既成事実化が狙いだったとわかる。米艦を守るために他国軍と交戦すれば、外形的には集団的自衛権行使と変わりはない。安保法で改定された自衛隊法は、武器使用を決断するのは自衛官と規定する。集団的自衛権行使を命じることができるのは大統領と国防長官の二人だけとさだめている米国と比べ、あまりにも軽く、政治家が軍事を統制するシビリアンコントロールの観点からも問題が多い。米艦を防護しても国会報告は必要とされておらず、速やかに公表するのは「特異な事態が発生した場合」だけである。今回、報道機関の取材で防護が明らかになった後も政府は非公表の姿勢を貫いた。国会が関与できず、情報公開もない。政府が恣意(しい)的な判断をしても歯止めは利かないことになる。安保法により、自衛隊は軍隊の活動に踏み込みつつある。憲法九条に自衛隊の存在を明記するべきだと発言した安倍首相の真意は名実ともに軍隊として活用することにあるのではないのか。現在の自衛隊が国民から高く評価されている事実を軽視するべきではない。必要なのは憲法を変えることではなく、安保法を見直し、自衛隊を民主的に統制していくことである。


PS(2017年5月20日追加):*8-1のように、日本国憲法は第21条で「集会・結社・言論・出版・その他一切の表現の自由を保障する」「検閲をしてはならない」「通信の秘密を侵してはならない」と規定しているが、その下位の法律で、*8-2のように、盗聴法(通信傍受法)が拡大されて立会人なしで盗聴が可能となり、警察が何を盗聴しているかを第三者が監視することはできなくなった(ちなみに、私はこれを織り込み済みなので電話やインターネットで重要なKey部分の話をしないが、不便である)。そして、盗聴されたことを立証するのは困難で、共謀罪の創設により犯罪と関係のない人が盗聴されるケースは確実に増えるだろう。

*8-1:http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S21/S21KE000.html (日本国憲法 抜粋)
第21条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
 ○2  検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

*8-2:https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/book/184173 (日刊ゲンダイ 2016年6月24日) 盗聴法改悪で国民のプライバシーがさらされる
 先月、極めて問題の大きい重要法案が可決した。刑事訴訟法や組織犯罪処罰法などいくつかの法律を一本化して改正した「刑事訴訟法等改正法案」がそれだが、この中に含まれていた通信傍受法、いわゆる「盗聴法」の拡大により、我々のプライバシーがのぞかれ、警察の暴走を招く恐れがあるのだ。足立昌勝著「改悪『盗聴法』その危険な仕組み」(社会評論社 1700円+税)では、今回の法案によって何が変わり、今後どんな事態がやってくるのかを詳しく解説している。従来までも、犯罪捜査のため盗聴することは合法的に許されていた。しかし、1999年に成立した盗聴法には厳しい制約があり、対象となるのは薬物・銃器・集団密航・組織的殺人の4罪種。つまり、主に暴力団が行う犯罪や組織犯罪に限定されていた。盗聴に至る手続きも複雑で、全国どこの警察も通信会社本社のある東京に出向き、通信会社社員の立ち会いでの盗聴が条件とされていた。使い勝手が悪いことで、警察による盗聴の悪用を防いでいたと言える。ところが今回の盗聴法では一般刑法犯罪も対象となり、殺人や放火はもとより、傷害、窃盗、ポルノ処罰法違反としての提供罪および製造罪など、大きく拡大された。そして、指定した日数分の通話やデータを通信会社から送ってもらうことで、立会人なしでの盗聴が可能となった。警察が何を盗聴しているか、第三者による監視ができなくなったのだ。さらに、“将来の犯罪”も盗聴対象となった。例としては、薬物や銃の密売からの売りさばきなどが挙げられているが、対象が一般刑法犯罪になった今、警察が怪しいと感じた場合は誰もが盗聴対象となり、今後は予防的に捜査されたり、逮捕されるような事態も招きかねない。犯罪撲滅のみに利用されるのならいい。しかし、2013年に成立した特定秘密保護法もある。警察のやりたい放題を招く恐れはないのか、目を光らせたい。


PS(2017年5月24日):このような中、下の写真のように、多くの国民が危険性を感じて反対している「共謀罪」法案が、対テロを名目として形ばかりの審議を30時間で終え、自民党・公明党・維新の党の全議員の賛成で衆院を通過した。*9-1、*9-2のように、この法案が参議院も通過すれば、日本が監視社会・密告社会になることは明らかであるにも拘らず、「(決めてはいけない法律も)景気回復名目で集めた多数派与党の力で強引に決める政治がよい」とするのは、民主主義を理解していないおかしな話だ。

   

*9-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201705/CK2017052402000121.html (東京新聞 2017年5月24日) 「対テロ」名目で心も捜査 「共謀罪」の危険な本質 参院で熟議を
 政府与党の都合で三十時間で打ち切られた衆院の審議では、政府が「心の中」の処罰や一般人の処罰につながるといった共謀罪が抱える本質的な危険を隠そうとするあまり、答弁をはぐらかす姿勢が目立った。例えば、最大の論点だった「一般人」が捜査や監視の対象になるか、という問題。「組織的犯罪集団」の構成員かどうかを、捜査機関が判断するには捜査してみなければ分からない。しかし金田勝年法相は、一般人とは「何らかの団体に属しない方や、通常の団体に属して通常の社会生活を送っている方」という意味なので「捜査対象になることはあり得ない」と言い続けている。これでは「犯罪に関係ない人は捜査されない」という当たり前のことを言っているに等しい。「心の中で考えたことが処罰や捜査につながり、言論の萎縮を招く」といった野党の指摘に対し、政府は「準備行為があって初めて処罰の対象とするので内心を処罰するものではない」と答え続けていた。金田氏は、採決が強行された十九日の衆院法務委員会で、「心の中」にある目的が捜査対象になることや、警察が目を付けた人物の知人が捜査対象になることを認めた。政府は「テロ対策」を強調しているが、その必要性を証明しきれていない。そもそも共謀罪は、意思の合致があったときに成立するもので、心の中に踏み込まなければ証明できない。参院では、政府はそうした危険性を認めた上で熟議をすべきだ。

*9-2:http://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-501374.html (琉球新報社説 2017年5月24日) 共謀罪衆院可決 その先にあるのは独裁 立憲主義の破壊許さず
 衆院は、犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」法案を本会議で強行採決し、自民、公明両党と日本維新の会の賛成多数で可決した。法案は内心の自由を侵害し、憲法が保障する思想の自由に抵触する。捜査機関が団体や市民生活を常に監視し、取り締まりの対象とするため表現の自由、集会・結社の自由に重大な影響を与える。治安維持法下の戦前戦中のような監視社会を招いてはならない。十分な論議もなく憲法に反する法案を強行採決したことに強く抗議する。立憲主義・民主主義の破壊は許されない。廃案しかない。
●監視社会招く
 政府は法律の適用対象を「組織的犯罪集団」とし、具体的な「合意」と、現場の下見や資金調達などの「準備行為」を処罰する。安倍晋三首相は当初、一般市民は対象外として、過去に3度廃案になった共謀罪法案とは別物と強調した。しかし後に「犯罪集団に一変した段階で一般人であるわけがない」と答弁を変えている。対象は際限なく広がり、労働組合など正当な目的の団体であっても、捜査機関が「組織的犯罪集団」として認定すれば処罰対象になる可能性がある。治安維持法の下で、言論や思想が弾圧された反省を踏まえ、戦後日本の刑法は、犯罪が実行されて結果が出た段階の「既遂」を罰する原則がある。しかし共謀罪は、実行行為がなくても2人以上が話し合って合意することが罪になる。基準が曖昧である。「内心」という人の心の中を推し量って共謀の意図があるかどうかを捜査機関の判断に任せてしまえば、恣意(しい)的な運用に歯止めがかからなくなる。国連も法案を懸念している。プライバシーや表現の自由を不当に制約する恐れがあるとして、国連特別報告者が安倍首相宛てに書簡を送った。これに対し日本政府が「不適切」と抗議すると「深刻な欠陥がある法案をこれだけ拙速に押し通すことは絶対に正当化できない」と批判している。安倍政権はこの批判を真摯(しんし)に受け止めるべきだ。共謀罪がない今ですら、辺野古新基地と高江ヘリパッド建設に反対する沖縄平和運動センターの山城博治議長らを、微罪で逮捕し長期勾留した。共謀罪法案が成立したら、より広範かつ日常的に室内盗聴や潜入捜査などによって市民が監視され、捜査当局の都合で逮捕・勾留が可能になる。
治安維持法も文言が曖昧で漠然としていたので拡大解釈された。暴力や不法行為の実態がなくても処罰の対象になり、監視社会を招いたことを忘れてはならない。
●印象操作にすぎない
 政府は共謀罪法案の必要性をテロ対策強化と説明し、罪名を「テロ等準備罪」に変更した。「テロ対策」を掲げて世論の賛同を得ようとしたが、同法なくしては批准できないとする国際組織犯罪防止条約は、テロ対策を目的としていない。麻薬など国境を越えた犯罪を取り締まる条約だ。テロ対策に必要だというのは印象操作にすぎない。日弁連が主張するように、関連する多少の法整備をするだけで条約批准は可能である。日本では現在、既遂、未遂ではなくても罪に問えるものとして陰謀罪8、共謀罪15、予備罪40、準備罪9が既に存在している。過去を振り返ると、治安維持法が成立した最大の要因は、憲政会と政友会が連立政権を組み、衆院の多数を確保していたからである。「一般人には関係ない」と説明し数の力を使って成立させた。共謀罪法案は、内容に問題があるからこそ過去に3度廃案になった。4度目の今回、実質審議はわずか30時間である。しかも委員会審議で法案の提案者である法務大臣が内容を理解していなかった。数の力によって表現の自由だけでなく思想の自由まで制限する悪法を成立させてはならない。その先にあるのは独裁国家だ。

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2016.7.8 日本国憲法を変えたい勢力は、①何のために ②何を改正しようとしているのか ③改正した場合の効果 について正面からの説明が必要である - 日本国憲法、自民党改正草案の「前文」「天皇」「憲法改正要件」「緊急事態条項」「道州制」について (2016年7月11、13日に追加あり)
       
2016.7.8西日本新聞 憲法改正必要論の理由 憲法改正要件国際比較 日本国憲法に署名した人 

    
  憲法改正   自民党憲法 自民党憲法改正案    日本国憲法は     憲法改正世論調査
   手続き  改正案のポイント 緊急事態条項  今でも最先端であること

(1)「自民党憲法改正草案」は、改正ではなく改悪である
1)敗戦後の占領下で作られたから悪いわけではないこと
 今回の参議院議員選挙では、上の一番左の表のように「日本のこころ(自民党の中でも右だった人の分派)」が、「占領下で制定された日本国憲法をまるごと変えて自主憲法を制定したい」という憲法改正理由を書いており、これが憲法改正を強く主張する勢力の本音だ。この発想は自民党も同じであるため、上の左から2番目の表のように憲法改正理由の第一に、「敗戦後の占領下で作られ、日本国民の自由な意思を反映していないので、国民の手によって憲法を制定する」というのがあがっているわけだ。

 そして、自民党が、平成24年4月27日に総務会を通して党として決定した憲法改正草案(https://jimin.ncss.nifty.com/pdf/news/policy/130250_1.pdf 参照)は、結論から言ってひどい改悪だと考える。分量が多いため、今日は国の形を現す最も重要な部分である「前文」と「天皇の地位」を中心に記載するが、他の部分にも戦前への郷愁が散見される。

2)前文について
 日本国憲法の前文は、*1-1のように、「①日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、・・主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する」「②国政は、国民の厳粛な信託によるもので、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する」「③日本国民は、恒久の平和を念願し、・・平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」「④われらは平和を維持し、・・国際社会において名誉ある地位を占めたいと思ふ」「⑤われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」としており、現在でも通用する立派なものである。

 この文章中にある「公正と信義に信頼して」という文章はテニヲハの使い方が誤りだと言う人もいるが、私は、文語調で訳した法律用語であるため、違和感を感じない。

 そして、ここで重要なのは、「国政は国民の信託によるもので、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その結果生じる福利は国民が享受する」というように、国民を主人公とする徹底した国民主権が述べられていることである。つまり、国民が主であり、国という組織を主として国民が国という組織のために尽くすのではない民主主義の発想が明確に記されており、日本国憲法は、第二次世界大戦とその敗戦で多くのものを失ったが、唯一得ることができた資産だと私は考える。*1-2の日本国憲法原文(The Constitution Of Japan)が、「We, the Japanese people, 」や「We」を主語としているのを見れば、一人一人の国民が主体であることがさらに明確になる。

 一方、自民党憲法改正草案は、*1-3のように、「①日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴く国家である」「②日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り」「③基本的人権を尊重するとともに、和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する」「④自由と規律を重んじ、美しい国土と自然環境を守りつつ、教育や科学技術を振興し、活力ある経済活動を通じて国を成長させる」「⑤日本国民は、良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承するため、ここに、この憲法を制定する」としている。

 しかし、①は国を主体とする国家の成り立ちに関する自慢話が多すぎ、これについては科学的・文化的に正確な歴史書で述べるべきである。また、②で国民は国と郷土(いずれも組織)を守るための存在になり下がり、③は基本的人権を尊重するとさらっと書いてはいるものの、和を尊び家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成することこそ大切だとして個人の人権に制限を加え、④は国民の福利より国を成長させることが重要だというメッセージを発している。そして、⑤では、国民を国家存続のための道具と位置付けている。つまり、自民党憲法改正草案は、国が主であり、国の存続のためとして国民の福利をないがしろにし、「国民の国民による国民のための政治」という資産がなくなっているのである。

 つまり、占領下だったからこそ国民同士が争うことなく大きな改革をして国民主権にできた日本国憲法を、100%とまでは言わないにしても、国を主にしてかなり戦前回帰させているため、自民党憲法改正草案は改悪なのである。

3)天皇について
 日本国憲法における天皇の地位は、*2-1のように「日本国の象徴であり、日本国民統合の象徴」とされているが、自民党憲法改正草案における天皇の地位は、*2-2のように「日本国の元首であり、日本国及び日本国民統合の象徴」とされ、「元首」という言葉が加わっている。

 国家元首(英訳:head of state)とは、対外的に代表権を持つ存在であり、大日本帝国憲法では第4条で天皇を元首と規定していたが、日本国憲法には天皇を元首とする規定はなく、国事行為に関する規定があるのみだ。国民主権の国で世襲による天皇を対外的代表権を持つ存在である“元首”と位置づけるのは矛盾であり、これも自民党憲法改正草案の戦前回帰であるため、とても賛成できない。

(2)改憲論議は、現在の憲法をしっかり護り、その考え方が国民に浸透してからにすべきである
 東京新聞によると、*3のように、安倍首相は「ニコニコ動画」の党首討論会で、「参院選の結果を受け、どの条文を変えていくか、条文の中身をどのように変えていくかについて議論を進めたい。次の国会から、自民党総裁として憲法審査会をぜひ動かしたい」と述べられたそうだ。憲法改正は自民党にとっては結党以来の党是であり、自民党憲法改正草案は安倍首相が作ったものではなく、自民党憲法改正推進本部(本部長・保利耕輔衆院議員《当時》)が作ったものである。

 私は「いくらなんでも天皇が元首とは・・」と思ったので、地元の離島関係の会合で保利浩輔氏にお会いした時に、「天皇が元首というあの憲法改正草案は、いくらなんでも駄目ですよ」と言ったところ、保利耕輔衆院議員(当時)は「今までと同じことをするんだし、(自民党の)総務会も通ったもん」と言っておられたので、この憲法改正草案には憲法改正に執着する自民党議員の考え方が多く含まれていると考える。

 従って、野党の「安部政権の下での憲法改正に反対する」という批判は、感情論に終始して問題を矮小化している。私は、日本人が日本国憲法を本当に遵守し、そのよさを理解した上で、それよりもよい方向に改正できる時がくるまで、憲法改正は止めるべきだと考える。

<憲法前文の比較>
*1-1:http://www.houko.com/00/01/S21/000.HTM (日本国憲法)
前文 日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものてあつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。

*1-2:http://japan.kantei.go.jp/constitution_and_government/frame_01.html (THE CONSTITUTION OF JAPAN)
 We, the Japanese people, acting through our duly elected representatives in the National Diet, determined that we shall secure for ourselves and our posterity the fruits of peaceful cooperation with all nations and the blessings of liberty throughout this land, and resolved that never again shall we be visited with the horrors of war through the action of government, do proclaim that sovereign power resides with the people and do firmly establish this Constitution. Government is a sacred trust of the people, the authority for which is derived from the people, the powers of which are exercised by the representatives of the people, and the benefits of which are enjoyed by the people. This is a universal principle of mankind upon which this Constitution is founded. We reject and revoke all constitutions, laws, ordinances, and rescripts in conflict herewith.
 We, the Japanese people, desire peace for all time and are deeply conscious of the high ideals controlling human relationship, and we have determined to preserve our security and existence, trusting in the justice and faith of the peace-loving peoples of the world. We desire to occupy an honored place in an international society striving for the preservation of peace, and the banishment of tyranny and slavery, oppression and intolerance for all time from the earth. We recognize that all peoples of the world have the right to live in peace, free from fear and want.
 We believe that no nation is responsible to itself alone, but that laws of political morality are universal; and that obedience to such laws is incumbent upon all nations who would sustain their own sovereignty and justify their sovereign relationship with other nations.
 We, the Japanese people, pledge our national honor to accomplish these high ideals and purposes with all our resources.

*1-3:http://www.saga-s.co.jp/senkyo/sanin/30402/320758 (佐賀新聞 2016年6月9日) 自民党憲法改正草案全文(抜粋)
自民党が2012年に発表した憲法改正草案は11章、102条から成る。前文など、日本国憲法を大幅に手直しした部分が少なくない。日本国憲法とともに、その全文を紹介する。
■自民党憲法改正草案全文
 (前文)
 日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴く国家であって、国民主権の下、立法、行政及び司法の三権分立に基づいて統治される。我が国は、先の大戦による荒廃や幾多の大災害を乗り越えて発展し、今や国際社会において重要な地位を占めており、平和主義の下、諸外国との友好関係を増進し、世界の平和と繁栄に貢献する。日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り、基本的人権を尊重するとともに、和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する。我々は、自由と規律を重んじ、美しい国土と自然環境を守りつつ、教育や科学技術を振興し、活力ある経済活動を通じて国を成長させる。日本国民は、良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承するため、ここに、この憲法を制定する。

<天皇についての比較>
*2-1:http://www.saga-s.co.jp/senkyo/sanin/30402/320757 (佐賀新聞 2016年6月9日) 日本国憲法(抜粋)
  第一章 天皇
第一条 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する
      日本国民の総意に基く。
第二条 皇位は世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。
第三条 天皇の国事に関するすべての行為には内閣の助言と承認を必要とし、内閣がその責任を負ふ。
第四条 天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。
      天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる。
第五条 皇室典範の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名でその国事に関する行為を
      行ふ。この場合には、前条第一項の規定を準用する。
第六条 天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する。
      天皇は、内閣の指名に基いて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。
第七条 天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
 一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
 二 国会を召集すること。
 三 衆議院を解散すること。
 四 国会議員の総選挙の施行を公示すること。
 五 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状
   を認証すること。
 六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
 七 栄典を授与すること。
 八 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
 九 外国の大使及び公使を接受すること。
 十 儀式を行ふこと。
第八条 皇室に財産を譲り渡し、又は皇室が、財産を譲り受け、若しくは賜与することは、国会の議決に
      基かなければならない。

*2-2:http://www.saga-s.co.jp/senkyo/sanin/30402/320758 (佐賀新聞 2016年6月9日) 自民党憲法改正草案(天皇) 
第一章 天皇
 (天皇)
第一条 天皇は、日本国の元首であり、日本国及び日本国民統合の象徴であって、その地位は、
      主権の存する日本国民の総意に基づく。
 (皇位の継承)
第二条 皇位は世襲のものであって、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。
 (国旗及び国歌)
第三条 国旗は日章旗とし、国歌は君が代とする。
 2 日本国民は、国旗及び国歌を尊重しなければならない。
 (元号)
第四条 元号は、法律の定めるところにより、皇位の継承があったときに制定する。
 (天皇の権能)
第五条 天皇は、この憲法に定める国事に関する行為を行い、国政に関する権能を有しない。
 (天皇の国事行為等)
第六条 天皇は、国民のために、国会の指名に基づいて内閣総理大臣を任命し、内閣の指名に基づいて
     最高裁判所の長である裁判官を任命する。
 2 天皇は、国民のために、次に掲げる国事に関する行為を行う。
 一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
 二 国会を召集すること。
 三 衆議院を解散すること。
 四 衆議院議員の総選挙及び参議院議員の通常選挙の施行を公示すること。
 五 国務大臣及び法律の定めるその他の国の公務員の任免を認証すること。
 六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
 七 栄典を授与すること。
 八 全権委任状並びに大使及び公使の信任状並びに批准書及び法律の定めるその他の外交文書を
    認証すること。
 九 外国の大使及び公使を接受すること。
 十 儀式を行うこと。
 3 天皇は、法律の定めるところにより、前二項の行為を委任することができる。
 4 天皇の国事に関する全ての行為には、内閣の進言を必要とし、内閣がその責任を負う。ただし、
    衆議院の解散については、内閣総理大臣の進言による。
 5 第一項及び第二項に掲げるもののほか、天皇は、国又は地方自治体その他の公共団体が
    主催する式典への出席その他の公的な行為を行う。
 (摂政)
第七条 皇室典範の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名で、その国事に
    関する行為を行う。
 2 第五条及び前条第四項の規定は、摂政について準用する。
 (皇室への財産の譲渡等の制限)
第八条 皇室に財産を譲り渡し、又は皇室が財産を譲り受け、若しくは賜与するには、法律で
     定める場合を除き、国会の承認を経なければならない。

<憲法改正手続き>
*3:http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201606/CK2016062002000120.html (東京新聞2016年6月20日)安倍首相「次の国会から改憲議論」 参院選後 具体的に条文審査
 安倍晋三首相は十九日、インターネット動画中継サイト「ニコニコ動画」の党首討論会で、改憲について「参院選の結果を受け、どの条文を変えていくか、条文の中身をどのように変えていくかについて、議論を進めていきたい。次の国会から憲法審査会を動かしていきたい。自民党の総裁としてぜひ動かしたい」と秋の臨時国会から、衆参両院に設置されている憲法審査会で、具体的な改憲項目の議論を与野党で進めたい考えを示した。首相は在任中の改憲に意欲を示している。首相の自民党総裁としての任期が切れる二〇一八年九月までに改憲の国民投票を終えるためには、来年秋の臨時国会で原案を審議し、発議する必要がある。そのためには、今年後半から国会で議論を始め、来年前半の通常国会までに原案をまとめる必要がある。参院選で与党が改憲の争点化を避けていると野党側が批判したのに対し、首相は「(改憲は)自民党結党の精神。選挙で争点とすることは必ずしも必要はない」と反論。「私たちは党草案を示しており、何も隠していない」と強調した。一方、公明党の山口那津男代表は「改憲について、国民に問いかけるほど議論が成熟していない。議論を深めて国民の理解を伴うようにしなければならない」と慎重な議論を求めた。民進党の岡田克也代表は「立憲主義を理解している首相でないと、非常に危ない。(首相は)最後は力で押し切る。改憲はよほど慎重でなければならない」と首相をけん制した。改憲には原案を衆院百人以上、参院五十人以上の賛同で提案。その後、両院の憲法審査会で審査した後、衆参の本会議でともに三分の二以上の賛成で可決し、国民に発議しなければならない。発議後、六十~百八十日以内に国民投票が行われ、承認には過半数の賛成が必要となる。討論会には、首相を含む与野党九党の党首が参加した。


<憲法の改正要件について>
PS(2016年7月11日追加):参院選の結果、*4-1のように、参議院でも改憲勢力が3分の2を超えた。「改憲項目が異なるので3分の2を超えても問題ない」とする勢力もあるが、両院で3分の2を超えると、*4-2の憲法改正要件を緩和するという姑息な改正を行うことも可能となり、上の図のようにこれを改正項目の一つとする人もいるため要注意だ。なお、我が国の憲法改正回数は0だが、それは国民が憲法改正の必要性を感じなかったからで我が国の憲法改正要件が世界の中で特に厳しいからではない。

*4-1:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/332433
(佐賀新聞 2016年7月11日) 議席確定、改憲勢力で3分の2超、野党共闘及ばず
 第24回参院選は11日午前、全121議席が確定した。安倍晋三首相(自民党総裁)が目指す憲法改正に賛同する改憲勢力は、非改選議席と合わせ165議席となり、国会発議に必要な全議席の3分の2(162議席)を超えた。自民党は55議席、公明党は14議席へ伸ばし、与党で改選過半数(61議席)を上回り、勝利した。民進党は32議席。民進、共産、社民、生活の野党4党は32の改選1人区で候補を一本化し、3分の2阻止へ共闘したが及ばなかった。おおさか維新の会は7議席、共産党は6議席で伸長した。自民党は無所属1人を追加公認したが27年ぶりとなる単独過半数に届かなかった。

*4-2:http://www.saga-s.co.jp/senkyo/sanin/30402/320757
(佐賀新聞 2016年6月9日) 日本国憲法全文(抜粋)
 第九十六条 この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、
          国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は
          国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
          憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を
          成すものとして、直ちにこれを公布する。


<緊急事態条項と道州制について>
PS(2016年7月13日追加):上の下の段の左から3番目の表、*5-1、*5-2のように、自民党憲法改正草案は「緊急事態条項」を新設し、①武力攻撃 ②内乱 ③大災害 の時に、内閣総理大臣は国会の事後承認で緊急事態を宣言でき、緊急事態が宣言された時は、基本的人権を最大限尊重はするものの何人も国や公的機関の指示に従わなければならないとのことである。しかし、最も賛同を得やすい③でさえ、内閣総理大臣が緊急事態を宣言するより地方自治体が最前線で救援を行い、国は最前線から必要と言われるものを援助した方が効果的だという意見が多い。まして、①の武力攻撃はどういう理由で起こり、その時に何をすることが想定されているのか、②はどういう状態を内乱(犯罪とは異なる)と定義して国が鎮圧するのか について説明する必要がある。全体から見ると、「緊急事態条項」は、民主主義・基本的人権の尊重・平和主義という日本国憲法の三大原則から離れており、戦前の戒厳令や国家総動員法を思わせるため、決して入れるべきではないと私は考える。
 さらに、*5-2で触れられている道州制については、地方自治法を改正して県が合併すればよいため、憲法改正はいらない。しかし、北海道、九州、四国については道州の区切りに異論が出にくいものの、他地域については堺目をどこにするかについても異論が出やすい。そのため、まとまりになれる県が先に合併していくのがよいだろうが、県が合併したくない場合は道州制は成立しない。

*5-1:http://qbiz.jp/article/90492/1/
(西日本新聞 2016年7月11日) 改憲 まず9条以外 緊急事態条項 参院改革 環境権
●抵抗少ない項目から議論
 憲法改正論議の対象項目として、大規模自然災害時の国会議員任期延長を含む「緊急事態条項」新設や、参院選の合区解消に向けた参院改革などが浮上している。自民党は「本丸」の9条改正について、憲法の基本原則である平和主義に関わるため野党や国民の抵抗感が強いと判断。最初の改憲対象にはせず、比較的理解を得やすいと思われる項目で改憲の「実績」をつくりたい考えだ。自民党は昨年5月の衆院憲法審査会で緊急事態条項以外に、良好な自然環境を享受する権利の「環境権」、野放図な国の借金拡大を防いで財政の健全性を確保する「財政規律条項」の新設を提示した。首相が今秋の臨時国会から開始したい意向を示した衆参両院憲法審査会の議論でも、引き続き候補になるとみられる。自民党改憲草案の緊急事態条項は、国会議員任期延長以外に(1)首相による緊急事態宣言発出(2)内閣への権限集中(3)国民に国の指示に従うよう義務付け−などを規定。自然災害以外に他国からの武力攻撃、内乱時も列挙した。野党や弁護士会からは、過度な人権制限や政府による乱用の危険性が指摘されている。合区解消は、「1票の格差」に関係なく、改選ごとに各都道府県から参院議員を選出する趣旨の条文を盛り込むべきだとの主張だ。今回の参院選から鳥取・島根、徳島・高知の二つの合区が導入され、自民党参院議員や地方自治体が「地方切り捨てにつながる」と強く批判している。おおさか維新の会が改憲項目として参院選で公約した道州制導入を含む「統治機構改革」なども、議論の対象になる可能性がある。
 ◇  ◇
●壁高き改憲 世界では実現、ドイツ60回 米国27回 フランス24回
 世界の多くの国は日本と同様、憲法改正に一般の法律よりも厳格な手続きを定めている。高いハードルを乗り越えて改正にこぎ着けた回数や具体例は、国によってさまざまだ。ドイツでは、旧西ドイツで1949年に制定された憲法を「基本法」と呼ぶ。議会事務局によると、改正は旧西ドイツ時代に36回、東西統一後に24回の計60回に上る。「文化財の国外流出防止」を国の義務とするといった、日本では一般の法律で規定するような内容も基本法に盛り込まれていることが、改正が多い理由の一つ。ナチス時代の反省から、人権尊重などを定めた条文は改正できない。世界最初の近代的成文憲法である米合衆国憲法は、1787年に制定された。これまで27回修正され、奴隷解放や婦人参政権のほか、銃所持の権利を保障するとされる「武装の権利」などを明文化した。修正には連邦議会で上下両院の出席議員の3分の2以上が賛成した上で、全米50州の州議会のうち、4分の3以上の賛成が必要。超党派の幅広い支持が最低条件となるため、容易ではない。1958年に制定されたフランス現行憲法の改正は24回。これによって大統領直接選挙制などが実現した。

*5-2:http://www.saga-s.co.jp/senkyo/sanin/30402/320758 (佐賀新聞 2016年6月9日) 自民党憲法改正草案全文 (第九章 緊急事態 《抜粋》)
(緊急事態の宣言)
第九十八条 内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、
        地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要が
        あると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発す
        ることができる。
      2 緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なけれ
        ばならない。
      3 内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があったとき、国会が緊急事態の
        宣言を解除すべき旨を議決したとき、又は事態の推移により当該宣言を継続する必要が
        ないと認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、当該宣言を速やかに
        解除しなければならない。また、百日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは、
        百日を超えるごとに、事前に国会の承認を得なければならない。
      4 第二項及び前項後段の国会の承認については、第六十条第二項の規定を準用する。こ
        の場合において、同項中「三十日以内」とあるのは、「五日以内」と読み替えるものとする。
(緊急事態の宣言の効果)
第九十九条 緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の
        効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その
        他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。
      2 前項の政令の制定及び処分については、法律の定めるところにより、事後に国会の承認
        を得なければならない。
      3 緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言
        に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発
        せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。この場合においても、
        第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、
        最大限に尊重されなければならない。
      4 緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が
        効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及びその選挙
        期日の特例を設けることができる。

| 日本国憲法::2016.6~2019.3 | 10:34 AM | comments (x) | trackback (x) |
2016.7.5 日本国憲法は、同性婚を禁止しておらず環境権も含んでいるため加憲の必要はなく、地域主権・議員の選出方法・裁判所の違憲立法審査権行使にも憲法改正は不要であること (2016年7月5、9、10日《図表を含む》に追加あり)

       2015.4.28朝日新聞       2015.5.3朝日新聞     2014.12衆院選時の  
         有権者の意見                        憲法改正賛否 集団的自衛権賛否

 
 2016.6.26佐賀新聞   2016.6.28            2016.7.1日経新聞
                  西日本新聞

 *1-1のように、「憲法をめぐる議論は9条に集中しがちだが、『同性婚』や『環境権』などの新しい権利も憲法と深く関わる」として、同性婚や環境権などの加憲を餌に、一気に憲法改正を進めようとする勢力もあるため、同性婚を認めたり、環境を守ったりするのに加憲は不要であることについて述べる。

 なお、下の段の一番左のグラフのように、今回の参院選で憲法改正を重視する人の割合は低いが、憲法は、日本が今後どういう方向に進んで行くかの羅針盤であるため、最も重要なテーマだ。

(1)環境権や同性婚の加憲は不要である
1)同性婚について
 *1-1に「憲法24条は同性婚の禁止を意味するかが議論になっている」と書かれている。しかし、*2のように、日本国憲法24条は、「1項:婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により維持されなければならない」「2項:配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならない」としている。

 この憲法24条の立法趣旨は、それまで大日本帝国憲法(明治憲法)の家制度の下で、本人同士の意志とは関係なく決められることが多かった結婚相手を、個人の尊厳と両性の本質的平等に基づいて民法を定めて具体化せよということであり、まさにライフスタイルに関する「自己決定権」を認めたものである。

 では、「両性」とは男女でなければならないかと言えば、日本国憲法成立当初は男女しか意図していなかったかもしれないが、「両性」は異性でなければならないとは書かれていないため、夫婦役をする2人が同等の権利を有することを基本とし、個人の尊厳を維持しながら相互協力により婚姻関係を維持すればよく、同性婚を禁止しているのではないと解せられる。

 しかし、現在の日本は過度のジェンダー(生物学的ではなく社会的に要請される「男らしさ」「女らしさ」)を要求するため、それと正面から闘えない人は、性同一性障害でなくても性同一性障害のような気になってしまうのではないかと私は危惧している。しかし、ともかく同性婚のために憲法を改正する必要はなく、例外として民法に同性婚を書き加えればよいだろう。

2)環境権について
 私は、結論から言って、*1-1のように、「環境権」を憲法に加える必要はないと考える。何故なら、憲法25条は、「1項:すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」「2項:国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と定めており、国民が健康で文化的な生活を営むためには、良好な環境の維持が不可欠だからだ。

 また、*3の環境基本法は、①国民が健康で文化的な生活を確保するためには環境保全が不可欠であると明確に述べ ②人の活動により環境に負荷をかけること(公害を出すこと)を禁止し ③事業者は事業活動を行うに当たって、煤煙、汚水、廃棄物等の処理を適正に行い、公害を防止して自然環境を適正に保全するために必要な措置を講ずる責務を有するとし ④環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会の構築が必要 としているので、Perfect(完全)に近い。

 そのため、現在、環境に悪いことがまかり通っているのは、法律が不備なのではなく、環境を守るという意識が薄いからにすぎない。従って、これは、憲法を改正したから変わるというものではなく、国民が自らの健康で文化的な生活を護るために環境を守るという意識を高めなければならないのだ。

(2)原発事故と健康被害、及び、それを隠すためにさらに環境破壊を行う環境意識の低さ
 *1-2のように、日本と米国の専門家は、福島原発事故で漏洩した放射能汚染物質は太平洋をまたぎ、北米西海岸に影響を及ぼしていると発表したそうだ。そして、東京海洋大学副学長、日本海洋学会副会長の神田穣太氏は、「セシウム137が福島原発事故の放射能漏れの最も中心的な物質で、1−2万テラベクレルが海洋に流出した」とし、この数値を5万テラベクレルと見積もる研究者もいるそうだ。そして、1万5000テラベクレルは、広島原爆168発分とのことである。

 そして、「福島原発事故の海洋への影響は、空前絶後」で、この放射能汚染に関して日本はすでに多くの調査結果を出しているそうだが、メディアは、一般の人が見る時間には、この事実を報道していない。

 また、*1-3のように、東京電力福島第一原発事故事故後、子どもたちの甲状腺検査を進めてきた福島県は有識者による検討委員会などで、罹患統計から推定される有病数に比べ「数十倍のオーダーで多い甲状腺がんが発見されている」と認めながら、科学的とは言えない根拠で「放射線の影響とは考えにくい」と主張しており、憲法にも環境基本法にも違反している。

 その上、*1-4のように、環境省の有識者検討会が、放射性物質濃度が基準以下となった除染土(放射性セシウム濃度が1キログラム当たり5千~8千ベクレル以下)を全国の公共工事で使うとする再利用方針案を大筋で了承したそうで呆れた。何故なら、コンクリートで枠を作って漏れ出さないようにし、もともと放射性物質濃度の高い場所の防潮堤に使うならまだしも、汚染土を全国の道路などの公共工事に使って拡散すれば、工事中の作業員や周辺住民の環境からの年間被曝線量が1ミリシーベルト以下であったとしても、地下水に溶けて長期間日本全国を汚染するからだ。

 その効果は、「日本全国で心臓病や癌が増えているので、心臓病や癌が増えた理由は原発事故のせいではなく高齢化のせいだ」と言うことができるようになるという恐ろしいものだが、大手メディアは、お天気、災害、テロ事件、舛添氏の政治資金問題の表面的な追求ばかりを行い、このような事実の報道はしていない。

<現在の状況>
*1-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160703&ng=DGKKASDG02H7X_S6A700C1CR8000 (日経新聞 2016.7.3) 「9条以外も議論して」 同性婚や環境権 憲法めぐり当事者ら
 参院選は与党などが改憲を発議できる議席数を確保するかどうかが焦点の一つ。憲法をめぐる議論は9条に集中しがちだが「同性婚」や「環境権」などの新しい権利も憲法と深く関わる。改憲の是非は別として、当事者たちは選挙を機会にこうしたテーマの議論が深まることを期待している。
■国に拒まれたみたい
 「婚姻届が受理されないのは、国から『あなたたちの関係はダメ』と拒まれるようなもの。少数派も尊重してほしい」。自らレズビアンだと公表し、昨年4月に女性同士で結婚式を挙げたタレントの一ノ瀬文香さん(35)は訴える。憲法は24条で「結婚は両性の合意のみに基づく」と規定すると同時に、14条では性差別を禁じている。これが同性婚の禁止を意味するかが議論になっている。民法に同性婚の規定はない。国の研究班が昨年実施した意識調査では、同性婚の法制化に「賛成」「やや賛成」は計51%で反対を上回ったが、20代は71%が賛成なのに70代は24%と、賛否は世代で大きく割れている。一ノ瀬さんは同性婚をきっかけに、憲法に関心を寄せるようになった。「改憲せず民法改正で同性婚を実現すべきだ」との立場だが、多くの人が議論することが大切と考えている。「憲法や民法を通じて、少数者や多様性を尊重することを皆が考えてほしい」と話す。
■新章設置訴え
 大気や水、日照など良好な自然環境を享受できる「環境権」。環境問題に取り組むNPO「環境文明21」は憲法に環境専門の新章を設け、基本原則のひとつにすべきだと訴える。共同代表で環境庁出身の加藤三郎さん(76)は「昨年末の第21回気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で採択されたパリ協定は、覚悟を決めて環境問題に取り組むよう世界に求めた」と強調。「国内の環境問題を巡る議論は以前より低調だ。この機会に改めて活発な議論を促したい」
■広がる新たな権利
 中絶や尊厳死、ライフスタイルなど、一定の個人的事柄を公権力の干渉を受けることなく、幅広く自分で決められるとする「自己決定権」を憲法で認めるべきだとの意見もある。衆参両院の憲法審査会では、自己決定権を憲法上の権利として明記すべきだとの意見が出た。一方で、明文規定がないことがこうした権利の実現にとって障害になっているわけではないとの声もあり、議論の方向性は明確になっていない。木村草太・首都大学東京教授は「憲法には9条以外にも様々なテーマがあり、日常生活と密接につながっている。どんな国にしていくかという理念を考えることが、憲法改正について考えることになる」と話す。

*1-2:http://japanese.china.org.cn/jp/txt/2016-05/26/content_38539636.htm (中国網日本語版 2016年5月26日) 福島原発事故、原爆168発分のセシウムが漏えい 太平洋全体にほぼ拡散へ
 日本と米国の専門家は、福島原発事故から5年が経過するが、漏えいした放射能汚染物質は潮の流れにより太平洋をまたぎ、北米西海岸に影響を及ぼしていると発表した。東京海洋大学副学長、日本海洋学会副会長の神田穣太氏によると、セシウム137は福島原発事故の放射能漏れの最も中心的な物質で、1−2万テラベクレルが海洋に流出したという。この数値を5万テラベクレルと見積もる研究者もいる。ベクレルは放射性物質の計量単位だ。厚生労働省は福島原発事故後、安全に食用できる野菜・穀物・肉類などの食品中の放射性物質の新たな基準値を、1キロ当たり500ベクレルとした。1テラベクレルは1兆ベクレル。日本政府は2011年に発表した報告書の中で、福島原発の原子炉3基が放出したセシウムは1万5000テラベクレルに達するとしていた。米国が第二次大戦中に広島に投下した原爆は、89テラベクレルのセシウムを放出していた。1万5000テラベクレルは、広島の原爆168発分だ。しかし日本政府内には、原爆を福島原発が放出した放射性物質と、単純に比較することはできないとする観点もある。神田氏によると、太平洋東部のセシウム濃度は西部より高めとなっている。これはセシウムが潮の流れにより、米国西海岸に到達したことを意味する。多くの専門家が同じ観点を持つ。福島原発事故後まもなく、日本原子力研究開発機構の中野政尚研究員が行った研究によると、セシウムは潮の流れにより5年後に北米に到達し、10年後に一部がアジア東部に回帰し、30年後に太平洋全体にほぼ拡散するという。福島大学環境放射能研究所の青山道夫教授も2015年、1年内に約800テラベクレルのセシウムが北米西海岸に到達すると予想していた。北米の科学界は、すでに実地調査によりこれを裏付けている。米国科学アカデミー紀要が昨年掲載した、カナダのベッドフォード海洋学研究所の報告書によると、北米西海岸で福島原発事故による放射性物質が検出されている。米ウッズホール海洋研究所の専門家は、「1986年のチェルノブイリ事故による放射能漏れは福島原発事故の10倍だが、海洋への影響は後者の方が大きい。漏えいした放射性物質の8割が海に入ったからだ。福島原発事故の海洋への影響は、空前絶後と言える」と指摘した。この放射能汚染は、魚介類と海の生態系に影響を及ぼす恐れがある。日本はすでにこれに関する、多くの調査結果を出している。

*1-3:http://digital.asahi.com/articles/ASJ4H3JLHJ4HUGTB007.html
(朝日新聞 2016年4月18日) 福島)甲状腺がんの県見解、ロ報告書と矛盾 尾松氏講演
 チェルノブイリ原発事故から30年の26日を前に、「避難の権利」を明記したチェルノブイリ法を日本に初めて体系的に紹介したロシア研究者の尾松亮氏がこのほど、東京都内で講演した。「ロシア政府報告書」を取り上げ、県や県立医大が県内の小児甲状腺がんの「多発」について原発事故の影響を否定する論拠にした「チェルノブイリ後の事実」とは異なる事実が報告されている、と指摘した。東京電力福島第一原発事故事故後、子どもたちの甲状腺検査を進めてきた県は有識者による検討委員会などで、罹患(りかん)統計から推定される有病数に比べ「数十倍のオーダーで多い甲状腺がんが発見されている」と認めつつ、「放射線の影響とは考えにくい」と主張。その論拠として、チェルノブイリ事故後に甲状腺がんが多発したのは①事故から5年後②5歳以下であるのに対し、福島では①がん発見が1~4年で早い②事故当時5歳以下の発見がない③被曝(ひばく)線量がはるかに少ない――などとしてきた。2011年発表のロシア政府報告書を詳細に検討した尾松氏は、報告書の内容が、県側の説明と「大きく食い違う」と批判。同報告書では甲状腺がんは①事故翌年から著しく増え(年平均1・7倍)、4~5年後にさらに大幅に増加②事故時5歳以下に急増するのは事故約10年後で彼らが10代半ばになって以降③被曝推計の最高値比較では大差があるが、低線量被災地でも増加――などと分析していることを明らかにした。そのうえで尾松氏は「現時点でデータは少ないが、チェルノブイリ後の10代での増え方などは違いより類似が目立つ」とし、「先例となる被災国の知見をゆがめて伝えることで、教訓を生かせなくなるのではないか」との懸念を表明した。

*1-4:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2016060701001850.html
(東京新聞 2016年6月7日) 公共工事で除染土を再利用へ 全国の道路、防潮堤に
 東京電力福島第1原発事故に伴う除染廃棄物の減量と再利用に向けた環境省の有識者検討会は7日、東京都内で会合を開き、放射性物質濃度が基準以下となった除染土を全国の公共工事で使うとする再利用の方針案を大筋で了承した。近く同省が正式決定する。方針案によると、管理責任が明確で、長期間掘り返されることがない道路や防潮堤などの公共工事に利用先を限定。工事中の作業員や周辺住民の年間被ばく線量が1ミリシーベルト以下となるよう、用途や期間に応じて放射性セシウム濃度を1キログラム当たり5千~8千ベクレル以下と定めた。

<日本国憲法の規定>
*2:http://www.jicl.jp/kenpou_all/kenpou.html 日本国憲法(抜粋)
第二十四条 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、
        相互の協力により、維持されなければならない。
      2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他
        の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなけ
        ればならない。
第二十五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
      2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進
        に努めなければならない。

<環境基本法>
*3:http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H05/H05HO091.html 環境基本法 (平成五年十一月十九日法律第九十一号) 最終改正:平成二六年五月三〇日法律第四六号
第一章 総則
(目的)
第一条  この法律は、環境の保全について、基本理念を定め、並びに国、地方公共団体、事業者及び国民の責務を明らかにするとともに、環境の保全に関する施策の基本となる事項を定めることにより、環境の保全に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するとともに人類の福祉に貢献することを目的とする。
(定義)
第二条  この法律において「環境への負荷」とは、人の活動により環境に加えられる影響であって、環境の保全上の支障の原因となるおそれのあるものをいう。
2  この法律において「地球環境保全」とは、人の活動による地球全体の温暖化又はオゾン層の破壊の進行、海洋の汚染、野生生物の種の減少その他の地球の全体又はその広範な部分の環境に影響を及ぼす事態に係る環境の保全であって、人類の福祉に貢献するとともに国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するものをいう。
3  この法律において「公害」とは、環境の保全上の支障のうち、事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気の汚染、水質の汚濁(水質以外の水の状態又は水底の底質が悪化することを含む。第二十一条第一項第一号において同じ。)、土壌の汚染、騒音、振動、地盤の沈下(鉱物の掘採のための土地の掘削によるものを除く。以下同じ。)及び悪臭によって、人の健康又は生活環境(人の生活に密接な関係のある財産並びに人の生活に密接な関係のある動植物及びその生育環境を含む。以下同じ。)に係る被害が生ずることをいう。
(環境の恵沢の享受と継承等)
第三条  環境の保全は、環境を健全で恵み豊かなものとして維持することが人間の健康で文化的な生活に欠くことのできないものであること及び生態系が微妙な均衡を保つことによって成り立っており人類の存続の基盤である限りある環境が、人間の活動による環境への負荷によって損なわれるおそれが生じてきていることにかんがみ、現在及び将来の世代の人間が健全で恵み豊かな環境の恵沢を享受するとともに人類の存続の基盤である環境が将来にわたって維持されるように適切に行われなければならない。
(環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会の構築等)
第四条  環境の保全は、社会経済活動その他の活動による環境への負荷をできる限り低減することその他の環境の保全に関する行動がすべての者の公平な役割分担の下に自主的かつ積極的に行われるようになることによって、健全で恵み豊かな環境を維持しつつ、環境への負荷の少ない健全な経済の発展を図りながら持続的に発展することができる社会が構築されることを旨とし、及び科学的知見の充実の下に環境の保全上の支障が未然に防がれることを旨として、行われなければならない。
(国際的協調による地球環境保全の積極的推進)
第五条  地球環境保全が人類共通の課題であるとともに国民の健康で文化的な生活を将来にわたって確保する上での課題であること及び我が国の経済社会が国際的な密接な相互依存関係の中で営まれていることにかんがみ、地球環境保全は、我が国の能力を生かして、及び国際社会において我が国の占める地位に応じて、国際的協調の下に積極的に推進されなければならない。
(国の責務)
第六条  国は、前三条に定める環境の保全についての基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、環境の保全に関する基本的かつ総合的な施策を策定し、及び実施する責務を有する。
(地方公共団体の責務)
第七条  地方公共団体は、基本理念にのっとり、環境の保全に関し、国の施策に準じた施策及びその他のその地方公共団体の区域の自然的社会的条件に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。
(事業者の責務)
第八条  事業者は、基本理念にのっとり、その事業活動を行うに当たっては、これに伴って生ずるばい煙、汚水、廃棄物等の処理その他の公害を防止し、又は自然環境を適正に保全するために必要な措置を講ずる責務を有する。
2  事業者は、基本理念にのっとり、環境の保全上の支障を防止するため、物の製造、加工又は販売その他の事業活動を行うに当たって、その事業活動に係る製品その他の物が廃棄物となった場合にその適正な処理が図られることとなるように必要な措置を講ずる責務を有する。
3  前二項に定めるもののほか、事業者は、基本理念にのっとり、環境の保全上の支障を防止するため、物の製造、加工又は販売その他の事業活動を行うに当たって、その事業活動に係る製品その他の物が使用され又は廃棄されることによる環境への負荷の低減に資するように努めるとともに、その事業活動において、再生資源その他の環境への負荷の低減に資する原材料、役務等を利用するように努めなければならない。
4  前三項に定めるもののほか、事業者は、基本理念にのっとり、その事業活動に関し、これに伴う環境への負荷の低減その他環境の保全に自ら努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する環境の保全に関する施策に協力する責務を有する。
(国民の責務)
第九条  国民は、基本理念にのっとり、環境の保全上の支障を防止するため、その日常生活に伴う環境への負荷の低減に努めなければならない。
2  前項に定めるもののほか、国民は、基本理念にのっとり、環境の保全に自ら努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する環境の保全に関する施策に協力する責務を有する。
(環境の日)
第十条  事業者及び国民の間に広く環境の保全についての関心と理解を深めるとともに、積極的に環境の保全に関する活動を行う意欲を高めるため、環境の日を設ける。
2  環境の日は、六月五日とする。
3  国及び地方公共団体は、環境の日の趣旨にふさわしい事業を実施するように努めなければならない。
(法制上の措置等)
第十一条  政府は、環境の保全に関する施策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならない。
(年次報告等)
第十二条  政府は、毎年、国会に、環境の状況及び政府が環境の保全に関して講じた施策に関する報告を提出しなければならない。
2  政府は、毎年、前項の報告に係る環境の状況を考慮して講じようとする施策を明らかにした文書を作成し、これを国会に提出しなければならない。
第十三条  削除
   第二章 環境の保全に関する基本的施策
    第一節 施策の策定等に係る指針
第十四条  この章に定める環境の保全に関する施策の策定及び実施は、基本理念にのっとり、次に掲げる事項の確保を旨として、各種の施策相互の有機的な連携を図りつつ総合的かつ計画的に行わなければならない。
一  人の健康が保護され、及び生活環境が保全され、並びに自然環境が適正に保全されるよう、大気、水、土壌その他の環境の自然的構成要素が良好な状態に保持されること。
二  生態系の多様性の確保、野生生物の種の保存その他の生物の多様性の確保が図られるとともに、森林、農地、水辺地等における多様な自然環境が地域の自然的社会的条件に応じて体系的に保全されること。
三  人と自然との豊かな触れ合いが保たれること。
    第二節 環境基本計画
第十五条  政府は、環境の保全に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、環境の保全に関する基本的な計画(以下「環境基本計画」という。)を定めなければならない。
2  環境基本計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。
一  環境の保全に関する総合的かつ長期的な施策の大綱
二  前号に掲げるもののほか、環境の保全に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項
3  環境大臣は、中央環境審議会の意見を聴いて、環境基本計画の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。
4  環境大臣は、前項の規定による閣議の決定があったときは、遅滞なく、環境基本計画を公表しなければならない。
5  前二項の規定は、環境基本計画の変更について準用する。
    第三節 環境基準
第十六条  政府は、大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染及び騒音に係る環境上の条件について、それぞれ、人の健康を保護し、及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準を定めるものとする。
2  前項の基準が、二以上の類型を設け、かつ、それぞれの類型を当てはめる地域又は水域を指定すべきものとして定められる場合には、その地域又は水域の指定に関する事務は、次の各号に掲げる地域又は水域の区分に応じ、当該各号に定める者が行うものとする。
一  二以上の都道府県の区域にわたる地域又は水域であって政令で定めるもの 政府
二  前号に掲げる地域又は水域以外の地域又は水域 次のイ又はロに掲げる地域又は水域の区分に応じ、当該イ又はロに定める者
イ 騒音に係る基準(航空機の騒音に係る基準及び新幹線鉄道の列車の騒音に係る基準を除く。)の類型を当てはめる地域であって市に属するもの その地域が属する市の長
ロ イに掲げる地域以外の地域又は水域 その地域又は水域が属する都道府県の知事
3  第一項の基準については、常に適切な科学的判断が加えられ、必要な改定がなされなければならない。
4  政府は、この章に定める施策であって公害の防止に関係するもの(以下「公害の防止に関する施策」という。)を総合的かつ有効適切に講ずることにより、第一項の基準が確保されるように努めなければならない。
    第四節 特定地域における公害の防止
(公害防止計画の作成)
第十七条  都道府県知事は、次のいずれかに該当する地域について、環境基本計画を基本として、当該地域において実施する公害の防止に関する施策に係る計画(以下「公害防止計画」という。)を作成することができる。
一  現に公害が著しく、かつ、公害の防止に関する施策を総合的に講じなければ公害の防止を図ることが著しく困難であると認められる地域
二  人口及び産業の急速な集中その他の事情により公害が著しくなるおそれがあり、かつ、公害の防止に関する施策を総合的に講じなければ公害の防止を図ることが著しく困難になると認められる地域
(公害防止計画の達成の推進)
第十八条  国及び地方公共団体は、公害防止計画の達成に必要な措置を講ずるように努めるものとする。
    第五節 国が講ずる環境の保全のための施策等
(国の施策の策定等に当たっての配慮)
第十九条  国は、環境に影響を及ぼすと認められる施策を策定し、及び実施するに当たっては、環境の保全について配慮しなければならない。
(環境影響評価の推進)
第二十条  国は、土地の形状の変更、工作物の新設その他これらに類する事業を行う事業者が、その事業の実施に当たりあらかじめその事業に係る環境への影響について自ら適正に調査、予測又は評価を行い、その結果に基づき、その事業に係る環境の保全について適正に配慮することを推進するため、必要な措置を講ずるものとする。
(環境の保全上の支障を防止するための規制)
第二十一条  国は、環境の保全上の支障を防止するため、次に掲げる規制の措置を講じなければならない。
一  大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染又は悪臭の原因となる物質の排出、騒音又は振動の発生、地盤の沈下の原因となる地下水の採取その他の行為に関し、事業者等の遵守すべき基準を定めること等により行う公害を防止するために必要な規制の措置
二  土地利用に関し公害を防止するために必要な規制の措置及び公害が著しく、又は著しくなるおそれがある地域における公害の原因となる施設の設置に関し公害を防止するために必要な規制の措置
三  自然環境を保全することが特に必要な区域における土地の形状の変更、工作物の新設、木竹の伐採その他の自然環境の適正な保全に支障を及ぼすおそれがある行為に関し、その支障を防止するために必要な規制の措置
四  採捕、損傷その他の行為であって、保護することが必要な野生生物、地形若しくは地質又は温泉源その他の自然物の適正な保護に支障を及ぼすおそれがあるものに関し、その支障を防止するために必要な規制の措置
五  公害及び自然環境の保全上の支障が共に生ずるか又は生ずるおそれがある場合にこれらを共に防止するために必要な規制の措置
2  前項に定めるもののほか、国は、人の健康又は生活環境に係る環境の保全上の支障を防止するため、同項第一号又は第二号に掲げる措置に準じて必要な規制の措置を講ずるように努めなければならない。
(環境の保全上の支障を防止するための経済的措置)
第二十二条  国は、環境への負荷を生じさせる活動又は生じさせる原因となる活動(以下この条において「負荷活動」という。)を行う者がその負荷活動に係る環境への負荷の低減のための施設の整備その他の適切な措置をとることを助長することにより環境の保全上の支障を防止するため、その負荷活動を行う者にその者の経済的な状況等を勘案しつつ必要かつ適正な経済的な助成を行うために必要な措置を講ずるように努めるものとする。
2  国は、負荷活動を行う者に対し適正かつ公平な経済的な負担を課すことによりその者が自らその負荷活動に係る環境への負荷の低減に努めることとなるように誘導することを目的とする施策が、環境の保全上の支障を防止するための有効性を期待され、国際的にも推奨されていることにかんがみ、その施策に関し、これに係る措置を講じた場合における環境の保全上の支障の防止に係る効果、我が国の経済に与える影響等を適切に調査し及び研究するとともに、その措置を講ずる必要がある場合には、その措置に係る施策を活用して環境の保全上の支障を防止することについて国民の理解と協力を得るように努めるものとする。この場合において、その措置が地球環境保全のための施策に係るものであるときは、その効果が適切に確保されるようにするため、国際的な連携に配慮するものとする。
(環境の保全に関する施設の整備その他の事業の推進)
第二十三条  国は、緩衝地帯その他の環境の保全上の支障を防止するための公共的施設の整備及び汚泥のしゅんせつ、絶滅のおそれのある野生動植物の保護増殖その他の環境の保全上の支障を防止するための事業を推進するため、必要な措置を講ずるものとする。
2  国は、下水道、廃棄物の公共的な処理施設、環境への負荷の低減に資する交通施設(移動施設を含む。)その他の環境の保全上の支障の防止に資する公共的施設の整備及び森林の整備その他の環境の保全上の支障の防止に資する事業を推進するため、必要な措置を講ずるものとする。
3  国は、公園、緑地その他の公共的施設の整備その他の自然環境の適正な整備及び健全な利用のための事業を推進するため、必要な措置を講ずるものとする。
4  国は、前二項に定める公共的施設の適切な利用を促進するための措置その他のこれらの施設に係る環境の保全上の効果が増進されるために必要な措置を講ずるものとする。
(環境への負荷の低減に資する製品等の利用の促進)
第二十四条  国は、事業者に対し、物の製造、加工又は販売その他の事業活動に際して、あらかじめ、その事業活動に係る製品その他の物が使用され又は廃棄されることによる環境への負荷について事業者が自ら評価することにより、その物に係る環境への負荷の低減について適正に配慮することができるように技術的支援等を行うため、必要な措置を講ずるものとする。
2  国は、再生資源その他の環境への負荷の低減に資する原材料、製品、役務等の利用が促進されるように、必要な措置を講ずるものとする。
(環境の保全に関する教育、学習等)
第二十五条  国は、環境の保全に関する教育及び学習の振興並びに環境の保全に関する広報活動の充実により事業者及び国民が環境の保全についての理解を深めるとともにこれらの者の環境の保全に関する活動を行う意欲が増進されるようにするため、必要な措置を講ずるものとする。
(民間団体等の自発的な活動を促進するための措置)
第二十六条  国は、事業者、国民又はこれらの者の組織する民間の団体(以下「民間団体等」という。)が自発的に行う緑化活動、再生資源に係る回収活動その他の環境の保全に関する活動が促進されるように、必要な措置を講ずるものとする。
(情報の提供)
第二十七条  国は、第二十五条の環境の保全に関する教育及び学習の振興並びに前条の民間団体等が自発的に行う環境の保全に関する活動の促進に資するため、個人及び法人の権利利益の保護に配慮しつつ環境の状況その他の環境の保全に関する必要な情報を適切に提供するように努めるものとする。
(調査の実施)
第二十八条  国は、環境の状況の把握、環境の変化の予測又は環境の変化による影響の予測に関する調査その他の環境を保全するための施策の策定に必要な調査を実施するものとする。
(監視等の体制の整備)
第二十九条  国は、環境の状況を把握し、及び環境の保全に関する施策を適正に実施するために必要な監視、巡視、観測、測定、試験及び検査の体制の整備に努めるものとする。
(科学技術の振興)
第三十条  国は、環境の変化の機構の解明、環境への負荷の低減並びに環境が経済から受ける影響及び経済に与える恵沢を総合的に評価するための方法の開発に関する科学技術その他の環境の保全に関する科学技術の振興を図るものとする。
2  国は、環境の保全に関する科学技術の振興を図るため、試験研究の体制の整備、研究開発の推進及びその成果の普及、研究者の養成その他の必要な措置を講ずるものとする。
(公害に係る紛争の処理及び被害の救済)
第三十一条  国は、公害に係る紛争に関するあっせん、調停その他の措置を効果的に実施し、その他公害に係る紛争の円滑な処理を図るため、必要な措置を講じなければならない。
2  国は、公害に係る被害の救済のための措置の円滑な実施を図るため、必要な措置を講じなければならない。
    第六節 地球環境保全等に関する国際協力等
(地球環境保全等に関する国際協力等)
第三十二条  国は、地球環境保全に関する国際的な連携を確保することその他の地球環境保全に関する国際協力を推進するために必要な措置を講ずるように努めるほか、開発途上にある海外の地域の環境の保全及び国際的に高い価値があると認められている環境の保全であって人類の福祉に貢献するとともに国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するもの(以下この条において「開発途上地域の環境の保全等」という。)に資するための支援を行うことその他の開発途上地域の環境の保全等に関する国際協力を推進するために必要な措置を講ずるように努めるものとする。
2  国は、地球環境保全及び開発途上地域の環境の保全等(以下「地球環境保全等」という。)に関する国際協力について専門的な知見を有する者の育成、本邦以外の地域の環境の状況その他の地球環境保全等に関する情報の収集、整理及び分析その他の地球環境保全等に関する国際協力の円滑な推進を図るために必要な措置を講ずるように努めるものとする。
(監視、観測等に係る国際的な連携の確保等)
第三十三条  国は、地球環境保全等に関する環境の状況の監視、観測及び測定の効果的な推進を図るための国際的な連携を確保するように努めるとともに、地球環境保全等に関する調査及び試験研究の推進を図るための国際協力を推進するように努めるものとする。
(地方公共団体又は民間団体等による活動を促進するための措置)
第三十四条  国は、地球環境保全等に関する国際協力を推進する上で地方公共団体が果たす役割の重要性にかんがみ、地方公共団体による地球環境保全等に関する国際協力のための活動の促進を図るため、情報の提供その他の必要な措置を講ずるように努めるものとする。
2  国は、地球環境保全等に関する国際協力を推進する上で民間団体等によって本邦以外の地域において地球環境保全等に関する国際協力のための自発的な活動が行われることの重要性にかんがみ、その活動の促進を図るため、情報の提供その他の必要な措置を講ずるように努めるものとする。
(国際協力の実施等に当たっての配慮)
第三十五条  国は、国際協力の実施に当たっては、その国際協力の実施に関する地域に係る地球環境保全等について配慮するように努めなければならない。
2  国は、本邦以外の地域において行われる事業活動に関し、その事業活動に係る事業者がその事業活動が行われる地域に係る地球環境保全等について適正に配慮することができるようにするため、その事業者に対する情報の提供その他の必要な措置を講ずるように努めるものとする。
    第七節 地方公共団体の施策
第三十六条  地方公共団体は、第五節に定める国の施策に準じた施策及びその他のその地方公共団体の区域の自然的社会的条件に応じた環境の保全のために必要な施策を、これらの総合的かつ計画的な推進を図りつつ実施するものとする。この場合において、都道府県は、主として、広域にわたる施策の実施及び市町村が行う施策の総合調整を行うものとする。
    第八節 費用負担等
(原因者負担)
第三十七条  国及び地方公共団体は、公害又は自然環境の保全上の支障(以下この条において「公害等に係る支障」という。)を防止するために国若しくは地方公共団体又はこれらに準ずる者(以下この条において「公的事業主体」という。)により実施されることが公害等に係る支障の迅速な防止の必要性、事業の規模その他の事情を勘案して必要かつ適切であると認められる事業が公的事業主体により実施される場合において、その事業の必要を生じさせた者の活動により生ずる公害等に係る支障の程度及びその活動がその公害等に係る支障の原因となると認められる程度を勘案してその事業の必要を生じさせた者にその事業の実施に要する費用を負担させることが適当であると認められるものについて、その事業の必要を生じさせた者にその事業の必要を生じさせた限度においてその事業の実施に要する費用の全部又は一部を適正かつ公平に負担させるために必要な措置を講ずるものとする。
(受益者負担)
第三十八条  国及び地方公共団体は、自然環境を保全することが特に必要な区域における自然環境の保全のための事業の実施により著しく利益を受ける者がある場合において、その者にその受益の限度においてその事業の実施に要する費用の全部又は一部を適正かつ公平に負担させるために必要な措置を講ずるものとする。
(地方公共団体に対する財政措置等)
第三十九条  国は、地方公共団体が環境の保全に関する施策を策定し、及び実施するための費用について、必要な財政上の措置その他の措置を講ずるように努めるものとする。
(国及び地方公共団体の協力)
第四十条  国及び地方公共団体は、環境の保全に関する施策を講ずるにつき、相協力するものとする。
(事務の区分)
第四十条の二  第十六条第二項の規定により都道府県又は市が処理することとされている事務(政令で定めるものを除く。)は、地方自治法 (昭和二十二年法律第六十七号)第二条第九項第一号 に規定する第一号 法定受託事務とする。
   第三章 環境の保全に関する審議会その他の合議制の機関等
    第一節 環境の保全に関する審議会その他の合議制の機関
(中央環境審議会)
第四十一条  環境省に、中央環境審議会を置く。
2  中央環境審議会は、次に掲げる事務をつかさどる。
一  環境基本計画に関し、第十五条第三項に規定する事項を処理すること。
二  環境大臣又は関係大臣の諮問に応じ、環境の保全に関する重要事項を調査審議すること。
三  自然公園法 (昭和三十二年法律第百六十一号)、農用地の土壌の汚染防止等に関する法律 (昭和四十五年法律第百三十九号)、自然環境保全法 (昭和四十七年法律第八十五号)、動物の愛護及び管理に関する法律 (昭和四十八年法律第百五号)、瀬戸内海環境保全特別措置法 (昭和四十八年法律第百十号)、公害健康被害の補償等に関する法律 (昭和四十八年法律第百十一号)、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律 (平成四年法律第七十五号)、ダイオキシン類対策特別措置法 (平成十一年法律第百五号)、循環型社会形成推進基本法 (平成十二年法律第百十号)、食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律 (平成十二年法律第百十六号)、使用済自動車の再資源化等に関する法律 (平成十四年法律第八十七号)、鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(平成十四年法律第八十八号)、特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律 (平成十六年法律第七十八号)、石綿による健康被害の救済に関する法律 (平成十八年法律第四号)、生物多様性基本法 (平成二十年法律第五十八号)及び愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律 (平成二十年法律第八十三号)によりその権限に属させられた事項を処理すること。
3  中央環境審議会は、前項に規定する事項に関し、環境大臣又は関係大臣に意見を述べることができる。
4  前二項に定めるもののほか、中央環境審議会の組織、所掌事務及び委員その他の職員その他中央環境審議会に関し必要な事項については、政令で定める。
第四十二条  削除
(都道府県の環境の保全に関する審議会その他の合議制の機関)
第四十三条  都道府県は、その都道府県の区域における環境の保全に関して、基本的事項を調査審議させる等のため、環境の保全に関し学識経験のある者を含む者で構成される審議会その他の合議制の機関を置く。
2  前項の審議会その他の合議制の機関の組織及び運営に関し必要な事項は、その都道府県の条例で定める。
(市町村の環境の保全に関する審議会その他の合議制の機関)
第四十四条  市町村は、その市町村の区域における環境の保全に関して、基本的事項を調査審議させる等のため、その市町村の条例で定めるところにより、環境の保全に関し学識経験のある者を含む者で構成される審議会その他の合議制の機関を置くことができる。
    第二節 公害対策会議
(設置及び所掌事務)
第四十五条  環境省に、特別の機関として、公害対策会議(以下「会議」という。)を置く。
2  会議は、次に掲げる事務をつかさどる。
一  公害の防止に関する施策であって基本的かつ総合的なものの企画に関して審議し、及びその施策の実施を推進すること。
二  前号に掲げるもののほか、他の法令の規定によりその権限に属させられた事務
(組織等)
第四十六条  会議は、会長及び委員をもって組織する。
2  会長は、環境大臣をもって充てる。
3  委員は、内閣官房長官、関係行政機関の長及び内閣府設置法 (平成十一年法律第八十九号)第九条第一項 に規定する特命担当大臣のうちから、環境大臣の申出により、内閣総理大臣が任命する。
4  会議に、幹事を置く。
5  幹事は、関係行政機関の職員のうちから、環境大臣が任命する。
6  幹事は、会議の所掌事務について、会長及び委員を助ける。
7  前各項に定めるもののほか、会議の組織及び運営に関し必要な事項は、政令で定める。
   附 則
 この法律は、公布の日から施行する。ただし、第四十三条及び第四十四条の規定は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
   附 則 (平成一一年七月一六日法律第八七号) 抄
(施行期日)
第一条  この法律は、平成十二年四月一日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
一  第一条中地方自治法第二百五十条の次に五条、節名並びに二款及び款名を加える改正規定(同法第二百五十条の九第一項に係る部分(両議院の同意を得ることに係る部分に限る。)に限る。)、第四十条中自然公園法附則第九項及び第十項の改正規定(同法附則第十項に係る部分に限る。)、第二百四十四条の規定(農業改良助長法第十四条の三の改正規定に係る部分を除く。)並びに第四百七十二条の規定(市町村の合併の特例に関する法律第六条、第八条及び第十七条の改正規定に係る部分を除く。)並びに附則第七条、第十条、第十二条、第五十九条ただし書、第六十条第四項及び第五項、第七十三条、第七十七条、第百五十七条第四項から第六項まで、第百六十条、第百六十三条、第百六十四条並びに第二百二条の規定 公布の日
(環境基本法の一部改正に伴う経過措置)
第二十七条  施行日前に第五十三条の規定による改正前の環境基本法第十七条第三項の規定により内閣総理大臣の承認を受けた公害防止計画は、第五十三条の規定による改正後の同法第十七条第三項の規定により内閣総理大臣の同意を得た公害防止計画とみなす。
(国等の事務)
第百五十九条  この法律による改正前のそれぞれの法律に規定するもののほか、この法律の施行前において、地方公共団体の機関が法律又はこれに基づく政令により管理し又は執行する国、他の地方公共団体その他公共団体の事務(附則第百六十一条において「国等の事務」という。)は、この法律の施行後は、地方公共団体が法律又はこれに基づく政令により当該地方公共団体の事務として処理するものとする。
(処分、申請等に関する経過措置)
第百六十条  この法律(附則第一条各号に掲げる規定については、当該各規定。以下この条及び附則第百六十三条において同じ。)の施行前に改正前のそれぞれの法律の規定によりされた許可等の処分その他の行為(以下この条において「処分等の行為」という。)又はこの法律の施行の際現に改正前のそれぞれの法律の規定によりされている許可等の申請その他の行為(以下この条において「申請等の行為」という。)で、この法律の施行の日においてこれらの行為に係る行政事務を行うべき者が異なることとなるものは、附則第二条から前条までの規定又は改正後のそれぞれの法律(これに基づく命令を含む。)の経過措置に関する規定に定めるものを除き、この法律の施行の日以後における改正後のそれぞれの法律の適用については、改正後のそれぞれの法律の相当規定によりされた処分等の行為又は申請等の行為とみなす。
2  この法律の施行前に改正前のそれぞれの法律の規定により国又は地方公共団体の機関に対し報告、届出、提出その他の手続をしなければならない事項で、この法律の施行の日前にその手続がされていないものについては、この法律及びこれに基づく政令に別段の定めがあるもののほか、これを、改正後のそれぞれの法律の相当規定により国又は地方公共団体の相当の機関に対して報告、届出、提出その他の手続をしなければならない事項についてその手続がされていないものとみなして、この法律による改正後のそれぞれの法律の規定を適用する。
(不服申立てに関する経過措置)
第百六十一条  施行日前にされた国等の事務に係る処分であって、当該処分をした行政庁(以下この条において「処分庁」という。)に施行日前に行政不服審査法に規定する上級行政庁(以下この条において「上級行政庁」という。)があったものについての同法による不服申立てについては、施行日以後においても、当該処分庁に引き続き上級行政庁があるものとみなして、行政不服審査法の規定を適用する。この場合において、当該処分庁の上級行政庁とみなされる行政庁は、施行日前に当該処分庁の上級行政庁であった行政庁とする。
2  前項の場合において、上級行政庁とみなされる行政庁が地方公共団体の機関であるときは、当該機関が行政不服審査法の規定により処理することとされる事務は、新地方自治法第二条第九項第一号に規定する第一号法定受託事務とする。
(手数料に関する経過措置)
第百六十二条  施行日前においてこの法律による改正前のそれぞれの法律(これに基づく命令を含む。)の規定により納付すべきであった手数料については、この法律及びこれに基づく政令に別段の定めがあるもののほか、なお従前の例による。
(罰則に関する経過措置)
第百六十三条  この法律の施行前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。
(その他の経過措置の政令への委任)
第百六十四条  この附則に規定するもののほか、この法律の施行に伴い必要な経過措置(罰則に関する経過措置を含む。)は、政令で定める。
2  附則第十八条、第五十一条及び第百八十四条の規定の適用に関して必要な事項は、政令で定める。
(検討)
第二百五十条  新地方自治法第二条第九項第一号に規定する第一号法定受託事務については、できる限り新たに設けることのないようにするとともに、新地方自治法別表第一に掲げるもの及び新地方自治法に基づく政令に示すものについては、地方分権を推進する観点から検討を加え、適宜、適切な見直しを行うものとする。
第二百五十一条  政府は、地方公共団体が事務及び事業を自主的かつ自立的に執行できるよう、国と地方公共団体との役割分担に応じた地方税財源の充実確保の方途について、経済情勢の推移等を勘案しつつ検討し、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。
第二百五十二条  政府は、医療保険制度、年金制度等の改革に伴い、社会保険の事務処理の体制、これに従事する職員の在り方等について、被保険者等の利便性の確保、事務処理の効率化等の視点に立って、検討し、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。
   附 則 (平成一一年七月一六日法律第一〇二号) 抄
(施行期日)
第一条  この法律は、内閣法の一部を改正する法律(平成十一年法律第八十八号)の施行の日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
二  附則第十条第一項及び第五項、第十四条第三項、第二十三条、第二十八条並びに第三十条の規定 公布の日
(職員の身分引継ぎ)
第三条  この法律の施行の際現に従前の総理府、法務省、外務省、大蔵省、文部省、厚生省、農林水産省、通商産業省、運輸省、郵政省、労働省、建設省又は自治省(以下この条において「従前の府省」という。)の職員(国家行政組織法(昭和二十三年法律第百二十号)第八条の審議会等の会長又は委員長及び委員、中央防災会議の委員、日本工業標準調査会の会長及び委員並びに これらに類する者として政令で定めるものを除く。)である者は、別に辞令を発せられない限り、同一の勤務条件をもって、この法律の施行後の内閣府、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省若しくは環境省(以下この条において「新府省」という。)又はこれに置かれる部局若しくは機関のうち、この法律の施行の際現に当該職員が属する従前の府省又はこれに置かれる部局若しくは機関の相当の新府省又はこれに置かれる部局若しくは機関として政令で定めるものの相当の職員となるものとする。
(別に定める経過措置)
第三十条  第二条から前条までに規定するもののほか、この法律の施行に伴い必要となる経過措置は、別に法律で定める。 (以下略)


<地域主権は憲法改正を要しないこと>
PS(2016.7.5追加):「地域主権のために憲法改正が必要」と主張して憲法改正にこぎつけようとしている勢力もあるが、*4-1のように、日本国憲法は、第92条で「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて法律で定める」としており、これにより地方自治法が定められている。そのため、地域主権にしたければ地方自治法を改正すればよいのだが、*4-2のように、地方自治法はかなり地域主権であり、問題があるとすればその大部分は運用にあるだろう。 

*4-1:http://www.cc.kyoto-su.ac.jp/~kazyoshi/constitution/jobun/chap08.html (日本国憲法)  第8章 地方自治
第92条(地方自治の基本原則)
地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。
第93条(地方公共団体の機関、その直接選挙)
1.地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。
2.地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。
第94条(地方公共団体の権能)
地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
第95条(特別法の住民投票)
一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。

*4-2:http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO067.html (地方自治法)
第一編 総則
第一条  この法律は、地方自治の本旨に基いて、地方公共団体の区分並びに地方公共団体の組織及び運営に関する事項の大綱を定め、併せて国と地方公共団体との間の基本的関係を確立することにより、地方公共団体における民主的にして能率的な行政の確保を図るとともに、地方公共団体の健全な発達を保障することを目的とする。
第一条の二  地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする。
2  国は、前項の規定の趣旨を達成するため、国においては国際社会における国家としての存立にかかわる事務、全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動若しくは地方自治に関する基本的な準則に関する事務又は全国的な規模で若しくは全国的な視点に立つて行わなければならない施策及び事業の実施その他の国が本来果たすべき役割を重点的に担い、住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本として、地方公共団体との間で適切に役割を分担するとともに、地方公共団体に関する制度の策定及び施策の実施に当たつて、地方公共団体の自主性及び自立性が十分に発揮されるようにしなければならない。(以下略)


<議員定数の都道府県割も憲法改正を要しないこと>
PS(2016年7月9日追加):*5-1のように、「自民党が各都道府県から改選ごとに少なくとも一人の参院議員を選出できるよう憲法改正することを盛り込む」とのことだが、*5-2のように、憲法は第43条で「両議院は全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する」「両議院の議員定数は法律でこれを定める」、及び、第44条で「両議院の議員及びその選挙人の資格は法律でこれを定める」「人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない」と規定しているだけで、地域による一票の重み格差(差別?)については言及していないため、議員定数の都道府県割を目的とする憲法改正は不要であり、公職選挙法を変更すれば足りる。そのため、何でも憲法改正に結び付けようとしているのは見苦しく、このような主張をする人は日本国憲法を読んだこともないのかと思われる。

*5-1:http://www.sankei.com/politics/news/160404/plt1604040023-n1.html (産経新聞 2016.4.4) 「参院議員は都道府県から必ず1人選出」 自民党が参院選公約に盛り込みへ 憲法改正案に規定を追加
 自民党が夏の参院選公約に、各都道府県から改選ごとに少なくとも一人の参院議員を選出できるよう憲法を改正することを盛り込む検討を始めたことが3日、分かった。「一票の格差」是正に向け、今回の参院選から一部選挙区が合区されることに対し、党内に「地方の声がかき消される」との懸念が根強いことから、安倍晋三政権が掲げる「地方創生」と合わせて参院選で訴える方針だ。夏の参院選では、改選1人区だった鳥取、島根、徳島、高知4県が、それぞれ「鳥取・島根」「徳島・高知」の2選挙区に合区される。自民党は2選挙区でともに現職の青木一彦氏(島根)と中西祐介氏(徳島)を擁立するが、合区のままの選挙が続けば、1人も参院議員を選出できない県が出る可能性がある。

*5-2:http://www.saga-s.co.jp/senkyo/sanin/30402/320757 (佐賀新聞 2016年6月9日) 日本国憲法全文(抜粋)
第四章 国会
第四十一条 国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。
第四十二条 国会は、衆議院及び参議院の両議院でこれを構成する。
第四十三条 両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。
         両議院の議員の定数は、法律でこれを定める。
第四十四条 両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、
         社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない。
第四十五条 衆議院議員の任期は、四年とする。但し、衆議院解散の場合には、その期間満了前に
         終了する。
第四十六条 参議院議員の任期は、六年とし、三年ごとに議員の半数を改選する。


<裁判所の違憲立法審査権行使にも憲法改正は不要であること>
PS(2016年7月10日追加):*6-1のように、おおさか維新の会は「憲法の恣意的解釈を許さないため憲法裁判所の設置が必要」としているが、*6-2のように、現行憲法は第81条で「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である」と規定している。そして、*6-3のように、「個別の法律などについて抽象的に憲法違反を訴えることはできない」と制限していることこそ憲法違反であり、裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを判定すべきなのだ。なお、政府の意向を受けるため最高裁判所でさえできないこと(実は、これは三権分立違反だが)は、憲法裁判所などという小さな組織を作れば、さらに政府の意向に沿った決定しかできなくなるだろう。

*6-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12418837.html
(朝日新聞 2016年6月21日) 参院選公約(要旨) おおさか維新の会 (抜粋)
◆憲法改正し教育無償化
■古い政治を壊す。新しい政治を創る。
1 憲法改正で教育無償化、道州制含む統治機構改革、憲法裁判所設置
 教育無償化を憲法で規定、国に予算措置と立法を義務づけ▽自治体を広域自治体の「道州」と「基礎自治体」の二層制にする▽恣意的憲法解釈を許さない憲法裁判所を設置

*6-2:http://www.saga-s.co.jp/senkyo/sanin/30402/320757
(佐賀新聞 2016年6月9日) 日本国憲法全文(抜粋)
第八十一条 最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。

*6-3:https://kotobank.jp/word/%E9%81%95%E6%86%B2%E7%AB%8B%E6%B3%95%E5%AF%A9%E6%9F%BB%E6%A8%A9-431676 (朝日新聞 2013..5.3 朝日新聞掲載「キーワード」の解説より) 違憲立法審査権
 法律や行政行為が憲法に違反していないか審査する権限。日本では、憲法81条により、最高裁に最終的な権限が与えられていることから、最高裁は「憲法の番人」とも呼ばれる。この規定により、地裁や高裁も憲法判断できる。日本の場合、個別の法律などについて抽象的に憲法違反を訴えることはできないとされており、具体的な争いの中で合憲・違憲が判断される仕組みになっている。

| 日本国憲法::2016.6~2019.3 | 12:00 PM | comments (x) | trackback (x) |
2016.6.26 日本国憲法や教育基本法を護ることが重要で、教育の無償化に憲法改正は不要であること ← 日本国憲法、教育基本法と教育について (2016年6月27、28日、7月2、3日に追加あり)
     
2016.6.20 働き手の比率低下 2016.5.31   女性の労働力率      2015.5.31  
 東京新聞               日経新聞                      佐賀新聞

 
   上  高校進学率      65歳以上の   産業別・国籍別外国人労働者数 日本の難民認定数
(97%超の人が高校に進学) 労働力率世界比較                    2015.9.4朝日新聞

 「憲法は権力のみを縛るもので、国民を縛るものではない」と主張する勢力があるが、これは日本国憲法になるべく影響されずに国政を進めたいと考えた日本国憲法導入当初の人たちが法学部教育を通じて行った解釈の拡散ではないかと、私は考える。

 何故なら、具体的事例として、*1-1の憲法第26条2項に定められているとおり、「すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ」とされ、憲法は義務を設けて国民をも明確に縛っているからだ。また、日本国憲法は、「義務教育は、これを無償とする」と定めているが、「義務教育以外は有償でなければならない」とは定めていないため、教育を無償化するのに憲法改正は不要である。それどころか、*1-2の教育基本法には「教育の機会均等」が定められており、消費税増税とは関係なく、誰もが教育を受ける機会を保証されなければならないことになっている。

 さらに、「憲法改正しない」というのも明確な代替案であるため、「憲法改正草案を出していない党は代替案を示していない」という批判は当たらない。つまり、各政党、行政、メディアなどが主張している議論には事実に反するものが多いため、主権者たる国民はしっかり勉強して騙されないようにチェックしなければならないのである。

 なお、*1-2の日本国憲法の理念から導かれた教育基本法はPerfect(完全)であり、憲法改正の理由に教育の無償化を掲げるのは、「消費税を社会保障財源にする」と主張するのと同様、憲法改正を進めるためのごまかしにすぎない。私は、教育については、まず日本国憲法と教育基本法の理念をしっかり実現することこそ、最も重要だと考える。

<*立憲主義(https://kotobank.jp/word/%E7%AB%8B%E6%86%B2%E4%B8%BB%E7%BE%A9-148946) 法の支配 rule of the lawに類似した意味を持ち、権力保持者の恣意によってではなく、法に従って権力が行使されるべきであるという政治原則をいう。狭義においては、特に政治権力を複数の権力保持者に分有せしめ、その相互的抑制作用を通じて権力の濫用を防止し、もって権力名宛人の利益を守り、政治体系の保全をはかろうとする政治原則>

(1)義務教育と無償化の範囲
 *1-3に書かれているとおり、保育所や学童保育の待機児童は子育て問題の一部にすぎず、大学や塾などの教育にかかる費用は増加し、インフレと比較して賃金上昇率は低く、実質賃金が下がって子育ての経済的負担は大きく、第二子、第三子となるにつれて高くなる児童手当は子の生活費に差をつけており金額も少ない。また、非正規労働者には、奨学金の返済も負担である。

 しかし、産業の付加価値を上げられず、その結果として一人当たりの分配が小さくなるのは、労働者の教育の不十分さ(単なる学歴を言っているのではない)とイノベーション不足に由来するところが大きい。その上、教育費が高くなれば、親の貧富の差が子の教育格差となり、十分な教育費を出せない親の子はハンディを背負って、次世代もまた貧しい生活を強いられるという悪循環になる。

 そのため、私は以下のことを提案する。
  1)学校外教育費の負担を減らすため、公教育を充実させること
  2)義務教育を3歳~18歳までとし、幼児教育と高校教育を義務教育として無償化すること
    学校の幅広い選択権を保護者に与え、教育内容は前倒しして、飛び級も可能にすること
  3)保育園は0~2歳とし、この間も生活習慣や外国語などの家庭ではできない教育を行うこと
  4)貸与型ではなく給付型の奨学金を増やし、条件を満たす人は大学や大学院も無償にすること

(2)財源 ← 教育は投資であり、社会保障と同様、財源が消費税でなければならない理由はない
 民進党の公約では、*1-4のように、①消費税増税を2年間再延期するかわりに行政改革を徹底して財源を捻出し社会保障を充実させる ②返済不要の給付型奨学金創設など「人への投資」で経済成長を図る としている。私は、行政改革を徹底すれば消費税を増税しなくても社会保障費や教育費は出る上、教育を充実させて教育された人材を有効に使えば産業の付加価値を上げることができるため、消費税増税は不要であると考える。

 何故なら、よく勉強した人材は、*1-5の「朝三暮四」のような算術でしかものを考えられないのではなく、「消費税を増税しないから社会保障財源がない」「痛みがあるからよい改革だ」「国会議員が身を切ったから増税を飲む」などの馬鹿な詭弁を信じない、論理性や創造力を持った人材になれるからである。

(3)小・中・高校について
 馳文科大臣は、*2-1のように、かつての「ゆとり教育」には戻らないとする見解を公表したが、これは、公教育を充実して貧しい家庭の子にも十分な教育を受けさせるために重要なことだ。知識は思考するためのツールとして不可欠であるため、仮に小・中・高の教育関係者が、「『ゆとり教育』か『詰め込み教育』かといった選択しかできないとすれば、それこそが重要な問題である。

 なお、日本に限らず、親を失って学校に行きたくても行けない子もいる。そのため、*2-2のように社会奉仕活動を重視するライオンズクラブの会員のような人たちが、外国からでも親のない子を引き取ってもう一人(もしくは兄弟・姉妹)を育てる取り組みを進めれば、①不幸な子が減り ②少子化による労働力減少の影響が緩和でき ③育った子どもたちが生まれた国と日本との懸け橋になる。そして、その里親の負担を軽くするためにも、やはり義務教育を3歳~18歳までとして無償化し、給付型の奨学金を増やして大学や大学院も無償で行けるようにすることが必要なのである。

(4)大学について
 *3のように、東京大学など東京都内の有名5大学で、今春の入試合格者の75~55%を首都圏の高校出身者が占め、その比率は30年間で約1.4倍に増えており、理由は、①公教育のゆとり化の結果、塾や受験指導に力を入れる男女別学の私立中高一貫校が多い都市部の子が学力習得に有利になったこと ②地方からの進学者の経済的負担増(家賃を含む) などだそうだ。

 これは、中央省庁(農水省、国土交通省、総務省、経産省、厚労省、財務省、内閣府を含む)、大企業、大手メディアなどにも首都圏の男女別学の私立中高一貫校出身者の採用が増えるという結果をもたらし、政策作成やメディアの論調に歪みをきたしている。そのため、地方は、それ以上、ゆとりを追求している場合ではないことを忘れないで欲しい。

(5)職場において
 *4-1の三菱自動車の燃費偽装事件は、燃費のよさで税金を軽減するという馬鹿な制度に根本的原因があると思うが、(空気を読んでか)それを誰も正面から指摘することなく長期間机上で不適切な測定をし続けたのは、エンジニアのあるべき姿ではない。しかし、何かそうさせてしまうものが、現在の教育や企業の指揮命令系統の中にあると思われ、その本質が問題であるため、社長が引責辞任すれば問題解決するというものではないだろう。

 なお、*4-2のように、女性研究者の国際的人材ネットワークの創設が行われるそうだが、研究開発においても女性の視点は重要であるため、(30~60年遅れではあるが)「男女差に対する偏見の解消」や「女性研究者を活躍させる職場環境の整備」は大切だ。島尻担当相は「仕事と家事の両立で困っている日本のリケジョ(理系女性)に海外のロールモデルを示せば大いに刺激になる」などとしているが、実際には、日本女性の意識が低いのではなく女性を育成する環境がなかったことがポイントで、家事・子育てもハードワークで第一線の仕事と両立するのは困難であるため、海外と同様に、女性を差別しない職場環境を整え、お手伝いさんを雇って家事・子育ての負担を軽減しやすくするのが効果的である。

*1-1:http://www.mext.go.jp/b_menu/kihon/about/a002.htm
(日本国憲法より抜粋)
第23条  学問の自由は、これを保障する。
第26条  すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を
      有する。
2  すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。
   義務教育は、これを無償とする。

*1-2:http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H18/H18HO120.html
教育基本法より抜粋 (平成十八年十二月二十二日法律第百二十号)
●前文
 教育基本法(昭和二十二年法律第二十五号)の全部を改正する。我々日本国民は、たゆまぬ努力によって築いてきた民主的で文化的な国家を更に発展させるとともに、世界の平和と人類の福祉の向上に貢献することを願うものである。我々は、この理想を実現するため、個人の尊厳を重んじ、真理と正義を希求し、公共の精神を尊び、豊かな人間性と創造性を備えた人間の育成を期するとともに、伝統を継承し、新しい文化の創造を目指す教育を推進する。ここに、我々は、日本国憲法の精神にのっとり、我が国の未来を切り拓く教育の基本を確立し、その振興を図るため、この法律を制定する。
●第一章 教育の目的及び理念
(教育の目的)
第一条  教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。
(教育の目標)
第二条  教育は、その目的を実現するため、学問の自由を尊重しつつ、次に掲げる目標を達成するよう行われるものとする。
一  幅広い知識と教養を身に付け、真理を求める態度を養い、豊かな情操と道徳心を培うとともに、健やかな身体を養うこと。
二  個人の価値を尊重して、その能力を伸ばし、創造性を培い、自主及び自律の精神を養うとともに、職業及び生活との関連を重視し、勤労を重んずる態度を養うこと。
三  正義と責任、男女の平等、自他の敬愛と協力を重んずるとともに、公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと。
四  生命を尊び、自然を大切にし、環境の保全に寄与する態度を養うこと。
五  伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと。
(生涯学習の理念)
第三条  国民一人一人が、自己の人格を磨き、豊かな人生を送ることができるよう、その生涯にわたって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができ、その成果を適切に生かすことのできる社会の実現が図られなければならない。
(教育の機会均等)
第四条  すべて国民は、ひとしく、その能力に応じた教育を受ける機会を与えられなければならず、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない。
2  国及び地方公共団体は、障害のある者が、その障害の状態に応じ、十分な教育を受けられるよう、教育上必要な支援を講じなければならない。
3  国及び地方公共団体は、能力があるにもかかわらず、経済的理由によって修学が困難な者に対して、奨学の措置を講じなければならない。
●第二章 教育の実施に関する基本
(義務教育)
第五条  国民は、その保護する子に、別に法律で定めるところにより、普通教育を受けさせる義務を負う。
2  義務教育として行われる普通教育は、各個人の有する能力を伸ばしつつ社会において自立的に生きる基礎を培い、また、国家及び社会の形成者として必要とされる基本的な資質を養うことを目的として行われるものとする。
3  国及び地方公共団体は、義務教育の機会を保障し、その水準を確保するため、適切な役割分担及び相互の協力の下、その実施に責任を負う。
4  国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については、授業料を徴収しない。
(学校教育)
第六条  法律に定める学校は、公の性質を有するものであって、国、地方公共団体及び法律に定める法人のみが、これを設置することができる。
2  前項の学校においては、教育の目標が達成されるよう、教育を受ける者の心身の発達に応じて、体系的な教育が組織的に行われなければならない。この場合において、教育を受ける者が、学校生活を営む上で必要な規律を重んずるとともに、自ら進んで学習に取り組む意欲を高めることを重視して行われなければならない。
(大学)
第七条  大学は、学術の中心として、高い教養と専門的能力を培うとともに、深く真理を探究して新たな知見を創造し、これらの成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与するものとする。
2  大学については、自主性、自律性その他の大学における教育及び研究の特性が尊重されなければならない。
(私立学校)
第八条  私立学校の有する公の性質及び学校教育において果たす重要な役割にかんがみ、国及び地方公共団体は、その自主性を尊重しつつ、助成その他の適当な方法によって私立学校教育の振興に努めなければならない。
(教員)
第九条  法律に定める学校の教員は、自己の崇高な使命を深く自覚し、絶えず研究と修養に励み、その職責の遂行に努めなければならない。
2  前項の教員については、その使命と職責の重要性にかんがみ、その身分は尊重され、待遇の適正が期せられるとともに、養成と研修の充実が図られなければならない。
(家庭教育)
第十条  父母その他の保護者は、子の教育について第一義的責任を有するものであって、生活のために必要な習慣を身に付けさせるとともに、自立心を育成し、心身の調和のとれた発達を図るよう努めるものとする。
2  国及び地方公共団体は、家庭教育の自主性を尊重しつつ、保護者に対する学習の機会及び情報の提供その他の家庭教育を支援するために必要な施策を講ずるよう努めなければならない。
(幼児期の教育)
第十一条  幼児期の教育は、生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要なものであることにかんがみ、国及び地方公共団体は、幼児の健やかな成長に資する良好な環境の整備その他適当な方法によって、その振興に努めなければならない。
(社会教育)
第十二条  個人の要望や社会の要請にこたえ、社会において行われる教育は、国及び地方公共団体によって奨励されなければならない。
2  国及び地方公共団体は、図書館、博物館、公民館その他の社会教育施設の設置、学校の施設の利用、学習の機会及び情報の提供その他の適当な方法によって社会教育の振興に努めなければならない。
(学校、家庭及び地域住民等の相互の連携協力)
第十三条  学校、家庭及び地域住民その他の関係者は、教育におけるそれぞれの役割と責任を自覚するとともに、相互の連携及び協力に努めるものとする。
(政治教育)
第十四条  良識ある公民として必要な政治的教養は、教育上尊重されなければならない。
2  法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない。
(宗教教育)
第十五条  宗教に関する寛容の態度、宗教に関する一般的な教養及び宗教の社会生活における地位は、教育上尊重されなければならない。
2  国及び地方公共団体が設置する学校は、特定の宗教のための宗教教育その他宗教的活動をしてはならない。
●第三章 教育行政
(教育行政)
第十六条  教育は、不当な支配に服することなく、この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものであり、教育行政は、国と地方公共団体との適切な役割分担及び相互の協力の下、公正かつ適正に行われなければならない。
2  国は、全国的な教育の機会均等と教育水準の維持向上を図るため、教育に関する施策を総合的に策定し、実施しなければならない。
3  地方公共団体は、その地域における教育の振興を図るため、その実情に応じた教育に関する施策を策定し、実施しなければならない。
4  国及び地方公共団体は、教育が円滑かつ継続的に実施されるよう、必要な財政上の措置を講じなければならない。
(教育振興基本計画)
第十七条  政府は、教育の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、教育の振興に関する施策についての基本的な方針及び講ずべき施策その他必要な事項について、基本的な計画を定め、これを国会に報告するとともに、公表しなければならない。
2  地方公共団体は、前項の計画を参酌し、その地域の実情に応じ、当該地方公共団体における教育の振興のための施策に関する基本的な計画を定めるよう努めなければならない。
●第四章 法令の制定
第十八条  この法律に規定する諸条項を実施するため、必要な法令が制定されなければならない。
   附 則 抄
(施行期日)
1  この法律は、公布の日から施行する。

*1-3:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/322021 (佐賀新聞 2016年6月12日) 収入増「実感ない」85% 地方ほど高い割合、子育て世代、大きな経済負担 全国面接世論調査
 アベノミクスの一環として経済界に賃上げを求めてきた安倍政権だが、2012年12月の第2次政権発足以降に給与などの収入が増えたという実感がないと答えた人は「あまりない」も含め85%に上った。地方ほどこの割合は高まり、景気が回復したとの感覚が得られていない現状が浮き彫りとなった。収入増の実感がないと答えた割合を衆院比例代表のブロック別にみると、四国が94%で最も高かった。中国は92%、東北は91%と高かった。収入が増えたとの実感があると答えた人は「ある程度ある」も含め全体で13%だった。ブロック別では東京の19%が最高で、南関東、近畿がいずれも16%。景気回復を感じている人は大都市圏に偏っていた。政権発足以降に経済格差が広がったと思うかどうかを尋ねると「変わらない」が59%で最も多くを占めた。「広がった」は36%で、「縮まった」との回答は2%しかなかった。経済格差の認識について年代別に見ると、年齢層が高くなるほど格差が広がっていると感じていた。「広がった」と答えた人は、中年層(40~50代)は34%、高年層(60代以上)は44%だった。一方、若年層(20~30代)では「変わらない」が72%にまで高まり、「広がった」という人は25%だった。
■子育て世代大きな経済負担
 池本美香・日本総研主任研究員の話 子育て支援などの少子化対策を社会保障の重要項目に挙げた人が増えたのは、待機児童や保育所建設中止の問題が昨今大きく報道されたことが背景にあるのだろう。しかし、保育所不足は少子化や子育て問題の一部にすぎない。大学や塾など教育にかかる費用は増加の一途だが、世帯収入は伸びておらず、子育て世代は経済的負担に苦しんでいる。具体的な支援策に「施設整備」と並んで「費用の負担軽減」を求める人が若年層に多いのはその現れだ。「奨学金を返すのに精いっぱいで結婚や子育てなんて考えられない」という声もよく聞く。貸与型ではなく給付型の奨学金を増やしたり、学校以外の教育費負担を減らしたりするなどの思い切った支援や若い世代が安定した収入が得られるような雇用対策が必要だ。

*1-4:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/322370
(佐賀新聞 2016年6月14日) 民進、行革徹底で社会保障充実、成長目指し「人への投資」
 民進党が参院選で掲げる公約の全容が13日、判明した。消費税増税の2年再延期を表明。行政改革を徹底して財源を捻出し、社会保障を充実させると強調した。憲法9条改正に反対し、安全保障関連法の撤回も求めた。党独自の経済政策として返済不要の給付型奨学金創設など「人への投資」で経済成長を図る一方、大企業や富裕層に税負担を求め、格差を是正する姿勢を打ち出した。アベノミクスに対抗し、経済政策を前面に押し出すことで、安倍晋三首相の「経済対案がない」という批判をかわす狙いがあるとみられる。

*1-5:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12416400.html
(朝日新聞社説 2016年6月19日)参院選 社会保障の将来 給付と負担の全体像を
 たくさんの猿を飼っている人が、家計が苦しくなって餌のトチの実を減らすことにした。朝は三つ、夕方に四つ与えると言うと猿たちが怒ったので、朝に四つ、夕方は三つにすると言ったら喜んだ。「朝三暮四」の由来になった中国の寓話だ。目先を変えて言いくるめるたとえである。参院選での社会保障をめぐる議論もさながらこの話のようだ。各党は選挙公約で「充実策」を競い合う。その先にある「痛み」を覆い隠すように。だが、そんなその場しのぎは有権者に見透かされるだろう。むしろそうした姿勢が、制度への不信や将来への不安を高め、消費を冷やし、経済低迷の一因となっているのではないか。「子育て世帯を支援していく決意は揺らぎません」。消費増税の再延期を表明した記者会見での安倍首相の言葉だ。「アベノミクス」の成果と誇る税収の増加分を使い、保育や介護の「受け皿」を増やし、保育士と介護職員の賃金アップに優先して取り組むという。
■財源危うい「充実」
 だが、保育所を増やせば運営費として毎年約1千億円がかかる。保育士や介護職員の待遇改善には年に約2千億円が必要とされる。景気次第の税収増は、安定した財源とは言えない。そもそも子育て支援では、「税と社会保障の一体改革」で決めた施策が置き去りになっている。消費税収などを財源に保育士の配置を厚くするといった充実策を進めるはずなのに、いまだに財源のあてがない。子育てだけではない。低所得者の介護保険料の負担を軽くする、無年金の人を減らすといった対策も、消費増税の再延期で宙に浮いている。国民は今、さまざまな不安を感じている。子育て、医療や介護、雇用、貧困・格差の拡大……。これらを解消していくために社会保障を立て直す。そのために必要な財源を確保する。一体改革で示した対策は国民への「約束」であり、いずれも喫緊の課題ではなかったのか。約束をなし崩しにしているのは、首相が率いる自民党だけではない。一体改革をともにまとめた公明党や民進党も消費増税の延期に賛成し、安定した財源のめどがないままにもっぱら充実策を言っている。置き去りになっているのは、充実・強化の約束だけではない。少子高齢社会のもとで制度をどう維持していくかという議論が一向に聞こえて来ない。
■高まる抑制の圧力
 日本の総人口が減っていく一方で、2025年には「団塊の世代」が75歳以上になり、社会保障費は増えていく。医療費は今より約1・4倍、介護費は約1・9倍に膨らむと見込まれている。国の財政は国債発行という将来世代へのつけ回しに頼っており、国の借金は1千兆円を超えてなお増え続ける。社会保障費は政府予算の約3割を占め、財政難と表裏の関係にある。一体改革では、消費税の増税分をすべて社会保障に充てるとされたが、その大半は借金が増えるのを抑えるのに使われ、新たな「充実策」には約1%分しか回らない。社会保障を支える財政の状況はそれほど厳しい。さらに、消費税率を10%にしてもそれだけでは借金の増加は止まらない。安倍政権は、社会保障費の毎年度の増加を高齢化に伴う「自然増」程度に抑える目標を掲げている。そのための方策として、高齢者の医療費の負担増、介護保険の利用者負担の引き上げ、要介護度の低い人へのサービスの見直しなどが検討課題に挙がっている。しかし本格的な議論は参院選後に先送りされた。
■政治の役割は何か
 選挙では充実ばかり唱え、終わった途端に負担増や給付減を言い出すのか。そんなやり方は、政治や社会保障への国民の不信を強めるだけだろう。制度のほころびを繕い新たなニーズに対応する。全体の費用はできるだけ抑えていく。これをどう両立させるのか。経済的に余裕のある人には、高齢者であっても負担を求める流れは加速するだろう。だが、それにも限界はある。これ以上の給付の抑制・削減が難しければ、国民全体でさらなる負担増も考えねばならない。既存の制度をどう見直し、限りある財源をどこに振り向けるのか。必要な財源をどうやって確保していくか。選択肢を示し、合意を作っていくことは、まさに政治の責任だ。税・社会保障一体改革は、与野党の枠を超えて「給付」と「負担」の全体像を示し、国民の理解を得ようとする「覚悟」だったはずだ。だが、参院選に臨む3党の姿勢は一体改革の土台を自ら掘り崩すかのような惨状である。このままずるずると「一体改革前」へと後戻りしていくのか、それとも踏ん張るのか。3党の責任はとりわけ重い。

<小・中・高校>
*2-1:http://mainichi.jp/articles/20160510/dde/041/100/065000c
(毎日新聞 2016年5月10日) 馳文科相、「脱ゆとり」を宣言 次期指導要領 「知識軽視」誤解解く
 馳浩文部科学相は10日、今年度中に予定されている次期学習指導要領改定に向け、授業内容を減らしたかつての「ゆとり教育」には戻らないとする見解を公表した。次期指導要領では、児童・生徒が討論や体験などを通じて課題を探究する学習形態「アクティブ・ラーニング」の全面的な導入を目指しているが、教育関係者の一部から「ゆとり教育の理念を復活させる」と誤解されていることを受けた対応という。馳氏は10日の閣議後の記者会見で「『ゆとり教育』が『緩み教育』というふうに間違った解釈で現場に浸透してしまった。どこかで『ゆとり教育』との決別宣言を明確にしておきたいと思った」と話した。馳氏は「教育の強靱(きょうじん)化に向けて」と題する見解で「学習内容の削減を行うことはしない」と強調。「『ゆとり教育』か『詰め込み教育』かといった、二項対立的な議論には戻らない。知識と思考力の双方をバランスよく、確実に育む」とした。そのうえでアクティブ・ラーニングについて「知識が生きて働くものとして習得され、必要な力が身につくことを目指すもの。知識の量を削減せず、質の高い理解を図るための学習過程の質的改善を行う」と説明している。指導要領の改定はほぼ10年ごとに実施される。前回の2008年は、詰め込み教育の反省で1970年代から軽減されてきた授業内容を約40年ぶりに増やし、「脱ゆとり」と呼ばれた。今年度改定される指導要領では、思考力や表現力の育成を重視する方針だが、これが一部で「知識の軽視」との誤解を招いており、改めて文科省としての考え方を示したという。

*2-2:http://qbiz.jp/article/89285/1/
(西日本新聞 2016年6月22日) ライオンズクラブ活動紹介パネル展 福岡市・天神
 福岡市で24日に開幕する「第99回ライオンズクラブ国際大会」にちなんで、クラブの活動を紹介するパネル展が21日、福岡市・天神のエルガーラ・パサージュ広場で始まった=写真。県内116団体のクラブの歴史のほか、献血や青少年育成など社会奉仕活動を約120枚のパネルで説明。岩田屋本店本館7階では22日から、来年創立100周年を迎えるライオンズクラブ国際協会の取り組みを紹介するパネル展も開催される。いずれも国際大会が閉幕する28日まで。国際大会は福岡ヤフオクドーム(中央区地行浜)をメイン会場に、国内外から約3万8千人が訪れる。パネル展の問い合わせは大会ホスト委員会事務局=092(407)8199=へ。

<大学>
*3:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12337211.html
(朝日新聞 2016年5月1日) 東京5大学合格、大半が首都圏高 東大・早慶など、30年で1.4倍
 東京大など東京都内の有名5大学で、今春の入試合格者の75~55%を首都圏の高校出身者が占め、30年間で約1・4倍に増えていることがわかった。下宿生の経済負担増などが背景にあるとみられる。地方出身者の東京離れを食い止めようと、大学側は奨学金新設などの対策を始めている。進学情報誌を発行する大学通信と毎日新聞出版は毎年、主要大学の出身高校別合格者を調査。1986年と2016年のデータ(16年分は朝日新聞出版も調査に参加)を元に、東大、東京工業大、一橋大、早稲田大、慶応義塾大の合格者(早大と慶大は一般入試のみ対象)を分析した。その結果、首都圏(東京都、埼玉、千葉、神奈川県)の高校出身者は、東大は86年の47・3%に対し今春は55・2%。ほかは東工大61・6%→74・7%▽一橋大44・7%→69・4%▽早大51・8%→73・9%▽慶大56・0%→72・6%と、いずれも増えていた。東京地区私立大学教職員組合連合の15年度の調査では、都内で下宿する私大生への平均仕送り月額は86年度比で16%減少。一方で家賃は76%上がった。また、受験指導に力を入れる学校が多い私立中高一貫校は、全国の約4割が首都圏にある。高校関係者や専門家からは、こうしたことが影響しているとの指摘がある。学生の画一化などを懸念する大学側は、地方出身者の確保策に乗り出した。早大や慶大は近年、地方出身者向けの奨学金制度を新設している。

<職場>
*4-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12364251.html
(朝日新聞 2016年5月19日) 三菱自社長、引責辞任へ 燃費偽装、新たに5車種
 三菱自動車は18日、すでに燃費偽装が発覚している軽自動車の4車種(日産自動車向け含む)のほか、新たに5車種でデータを机上計算する偽装があったと発表した。不適切な測定をしていた車種を含め、軽4車種を含む13車種のうち12車種で問題があった。相川哲郎社長と中尾龍吾副社長は、6月24日の株主総会日付で引責辞任する。相川氏は「不正があった開発部門に長く在籍してきた。その風土で育った私が社長として残っていては、改革の妨げになる」と辞任理由を語った。軽4車種以外の販売は続ける。燃費を測り直したところカタログ値との隔たりが最大3%ほどにとどまったとして、中尾氏は「お客さまに迷惑をかけるレベルではない」と述べた。三菱自によると、新たに偽装がわかった5車種は、人気のスポーツ用多目的車(SUV)やミニバン。法定の実走試験を省き、机上の計算によって燃費測定の元データとなる「走行抵抗値」を出していた。「RVR」は別のセダンのデータを元に机上計算。「アウトランダー」「パジェロ」「(プラグインハイブリッド車の)アウトランダーPHEV」と「デリカD:5」のガソリン車は、車体に所定の重さを加えない軽い状態で実走試験をし、机上計算でデータを補正した。さらに「パジェロ」のガソリン車では、空気抵抗が小さい別の車のデータを流用する偽装も見つかった。また、これらと一部重複する6車種では、国の定めと違う不適切な方法で走行抵抗値を測定。試験日や天候も、国土交通省に事実と違う報告をしていた。生産・販売を止めている軽4車種では、三菱自本社の性能実験部幹部が、子会社「三菱自動車エンジニアリング」の管理職にデータ不正を指示していたことを正式に認めた。相川氏の後任社長は未定。今月12日に日産との資本業務提携で基本合意しており、年内をめどに34%の出資を受けて日産傘下に入る方針。その後、新たな経営陣で再建をめざす。益子修会長兼最高経営責任者(CEO)は「新体制が誕生するまで現職にとどまる」としつつ、その間の報酬はすべて自主返納するという。

*4-2:http://mainichi.jp/articles/20160515/k00/00m/040/112000c
(毎日新聞 2016年5月15日) 「リケジョ」人材ネット創設へ
 15日に茨城県つくば市で開幕する主要7カ国(G7)科学技術相会合の共同声明に、女性研究者に特化した国際的な人材ネットワークの創設が盛り込まれる見通しであることが分かった。議長を務める島尻安伊子科学技術担当相が14日、毎日新聞などの取材に明らかにした。同会合では「保健医療」「海洋の未来」など六つのテーマが議論される。このうち「次世代の人材育成」の議題について、島尻担当相は研究人材の多様性確保の観点から、女性研究者を支える国際協力の必要性を強調。17日にまとめる共同声明「つくばコミュニケ」に、▽国際人材ネットワーク作りの支援▽女性研究者の模範例の共有▽男女差に対する偏見解消▽女性研究者が活躍できる政策や職場環境の整備−−を盛り込む考えを示した。国際人材ネットワークでは、海外の企業や研究機関の採用情報などを共有し、行き来しやすくする仕組みを整えることで、女性研究者のキャリアアップにつなげてもらうという。科学技術分野では、男性に比べ女性の割合が少ない国が大半。日本の女性研究者は約13万人で、20年前からほぼ倍増したが、全体に占める割合は2014年で14.6%と国際的に最低レベル。英国(37.8%)やイタリア(35.5%)など同会合参加国と比べ著しく低い。島尻担当相は「仕事と家事の両立などで困っている日本のリケジョ(理系女性)に海外のロールモデルを示せば大いに刺激になるし、国内の対策にも生かせる」と話した。


<給食費と食育・食器>
PS(2016年6月27日追加):*5のように、公立小中学校の給食費は無償化してよいと私も思うが、文科省は「財源や給食を実施していない自治体との公平性を考える必要がある」として、いつものとおり最悪に合わせる形の公平性を主張している。しかし、「給食は食育にも活用されており、教材でもある。無償とする義務教育の範囲に給食を入れるべきだ」というのは尤もだ。また、食育には食材だけでなく食器の使い方も含まれるため、磁器による食器の画像を掲載しておく。

  
   従来の食器              強化磁器の食器           佐賀県鳥栖市の食器
(エサの入れ物のようだ) (強化磁器はよいが、模様がイマイチだにぱっ)   (トレイ以外はGood)

*5:http://qbiz.jp/article/89584/1/
(西日本新聞 2016年6月27日) 給食費、負担に地域差 九州の市町村、3割が補助制度
 公立小中学校の給食費について2015年度、九州7県の全233市町村の約3割、64市町村が全額または一部を補助していることが西日本新聞のまとめで分かった。人口減対策で子育て環境を整えようと補助制度を導入する自治体は増加傾向にある一方、食材費高騰から値上げも相次いでおり、負担の二極化が進んでいる。保護者からは地域間格差の是正、一律無償化を求める声も出ている。九州の各県教育委員会によると、64市町村は生活保護や就学援助とは別に、すべての小中学生無料や、小1と中1が無料、第2子以降は半額などの補助制度を設けている。県別では鹿児島が21市町村と最も多く、熊本(15市町村)、福岡(14市町村)、宮崎(6町村)、佐賀(5市町)、長崎(3市町)と続いた。大分はゼロだった。制度導入の背景には、人口減少に対する自治体の危機感がある。民間提言機関による「消滅可能性都市」に含まれる佐賀県太良町。手厚い支援で子育て世代の流入と流出防止を図ろうと、15年度に全額無償に踏み切った。16年度も制度を新設、拡充する自治体は増え、福岡県古賀市は第3子以降を無償化(これまでは半額)。熊本県人吉市も全ての児童生徒に対する月額千円の補助を始め「最終的には全額補助が目標」(担当者)という。宮崎県小林市は、ふるさと納税を財源に半額補助に乗り出している。一方、給食費は近年の消費税増税や食材費の上昇を受けて値上がり傾向にある。文部科学省の調査によると、14年度の平均月額給食費は小学校4266円、中学校4882円。5年前に比べてそれぞれ153円、200円上がった。福岡市は15年度、小学校で300円増の月額4200円、中学校は400円増の同5千円に値上げした。中1と小4の母親(40)=福岡市西区=は「わずかな値上げでも毎月必要な給食費は負担感が大きい。地域によって異なるのは不公平でおかしい」と疑問の声を上げる。一律無償化について、文科省健康教育・食育課は「財源や給食を実施していない自治体との公平性を考える必要がある」との姿勢。名古屋大大学院の中嶋哲彦教授(教育行政学)は「給食は食育にも活用されており、教材でもある。無償とする義務教育の範囲に給食を入れるべきだ」と指摘している。学校給食 公立小中学校では、学校給食法に基づき学校を設置する各自治体などが実施。食材費は保護者負担、給食にかかる施設整備や人件費は自治体の負担と定めている。文部科学省によると、公立の小学校の99.7%、中学校の93.7%で実施(2014年度)。また、同省の12年度の抽出調査では、児童生徒の0.9%が給食費を納めておらず、その理由の6割は「保護者の責任感や規範意識の問題」、3割が「保護者の経済的な問題」などとなっている。政府の経済財政諮問会議の民間議員は4月の同会議で、給食費の免除制度を充実させるよう政府に提言している。

<IT教育とデジタル教科書>
PS(2016年6月27日追加):*6-1のように、タブレット端末の導入が全3学年に行き渡った佐賀県の県立高で来年度以降に導入する学習用パソコンをキーボード付にするかどうか検討する会合が開かれたそうだが、キーボード操作は、(日本に限らない)大学に進んだり、会社で仕事をしたりして文章を書く時に必要不可欠であるため、キーボード操作にも慣れさせておくことを、私は薦める。
 そのような中、*6-2のように、生徒の上達と比較して、情報を管理する「校務支援システム」のセキュリティーは甘すぎたらしく、「最先端の佐賀県システムが破られた」として文科省担当者がショックをあらわにしたそうだ。しかし、小中学生3万4,739人、高校・特別支援学校などの県立学校生5万6,590人、教職員7,987人という大量の個人情報をまとめて保存し、校外からアクセスできるシステムにしておくのは、個人情報の意味やセキュリティーについてあまりにも疎すぎると言わざるを得ない。
 なお、*6-3のように、最近は「デジタル教科書」があり、私も雑誌「ニュートン」が作ったデジタル教科書で地球46億年の大陸移動や日本列島ができる様子を動画で見たことがあり、とてもわかりやすくて最近の生徒を羨ましく思ったほどだ。しかし、デジタル教科書は紙の教科書のようにめくったり全体を一覧したりすることはできないため、紙の教科書と併用するのがよいと考える。

*6-1:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/320345
(佐賀新聞 2016年6月8日) 県立高の使用端末、次期機種選定で会合
 生徒一人一人へのタブレット端末の導入が全3学年に行き渡った県立高について、来年度以降に導入する学習用パソコンの在り方を協議する専門委員会の初会合が7日、佐賀県庁で開かれた。学校現場の意見を踏まえながら次期機種選定に向け、秋ごろ佐賀県教委に提言する。専門委は藤原久嗣県情報統括監や学校長ら7人で構成。渡辺健次・広島大大学院教授が委員長を務める。機種の選定はせず、キーボード付きのタブレットで続けていくかどうかや、OS(基本ソフト)は何にするかなどを論議する。委員からは「英語のリスニング学習で効果的に使われている」「工業系資格試験対策で作業手順を何度も動画で確認できる」といった事例が報告された。「今まで構築した教材がそのまま使えるか不安」と現行機種を望む声や、使い勝手向上のため変更してもよいとする意見も紹介された。渡辺委員長は「県民の中には導入を『やめろ』という意見もあるかもしれない。必要性を説明するためには、ICT利活用を県の教育目標でどう位置付けるか、もう一度確認しないといけない」と語った。

*6-2:http://mainichi.jp/articles/20160627/k00/00e/040/156000c
(毎日新聞 2016年6月27日) 「最先端の佐賀県システム破られるとは」
●文科省担当者はショックをあらわに
 「ICT(情報通信技術)化が最も進んでいる佐賀県のシステムが破られた。とても驚いている」。佐賀県立高校の生徒の成績などが流出した事件で、文部科学省の担当者はショックをあらわにした。同省は27日、佐賀県教委に事実関係の早急な報告を求めた。全国の公立小中高校の普通教室に設置されている電子黒板の整備率(2015年3月時点)は全国平均が9%なのに対し、佐賀県は76.5%で全国1位。パソコンの整備状況も生徒2.6人に1台と全国トップで、国が第2期教育振興基本計画(13〜17年度)で定める目標の3.6人に1台を唯一超えており、ICT化の先進地域として知られていた。同省によると、児童や生徒の学籍や成績などの情報をコンピューターで管理するシステムは「校務支援システム」と呼ばれ、各地の学校で導入が進んでいる。教職員同士が情報を共有することできめ細かな指導をしたり、教員の校務負担の軽減を図ったりするメリットがあるとされる。佐賀県のシステム「SEI−Net(セイネット)」は全国に先駆けて13年度から導入された。学校側が授業支援のためのデジタル教材を提供し、児童生徒が家庭でダウンロードして予習や復習に利用したり、ネット経由で相談に乗ったり、学校行事の確認をしたりすることも可能にしていた。佐賀県教委によると、このシステムには5月1日現在で小中学生3万4739人、高校や特別支援学校などの県立学校生5万6590人、教職員7987人の情報が登録されていた。教職員が成績や住所などの個人情報にアクセスするには、校内ネットワークに接続したうえでIDとパスワードを入力する必要がある。児童生徒はIDとパスワードを入力すれば、校外からでもネットに接続して、自分のテスト結果や電子教材などは閲覧できるという。

*6-3:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10206/318376
(佐賀新聞 2016年6月2日) デジタル教科書、20年度から、当面は紙と併用、文科省中間案
 文部科学省の有識者会議は2日、タブレット端末などを使う「デジタル教科書」を、次期学習指導要領が実施される2020年度から、紙の教科書と併用する形で導入するとの報告書の中間まとめ案を大筋了承した。4月に示した案から大きな変更はなかった。年内に報告書をまとめる予定。当面は紙の教科書を基本とし、単元によってデジタル版だけを使う形を認める。教育効果や健康への影響などを調べた上で、教育委員会の判断で紙かデジタル版のどちらかを選ぶ制度も将来的には考えられるとした。


<社会科の学び方>
PS(2016.6.28追加):*7で公民科が適切に教えられるのか否かは不明だが、日本国憲法の理念は正しく教えるべきである。また、地理と歴史は相互関係が深く、時代によって国境線も変化し、日本は古代から世界と無関係に存在していたわけではない。そのため、日本史と世界史を総合的に学習するのは真実を理解するためによいことで、そうすることによって社会科が単なる暗記科目ではなく、人類の歴史の壮大な物語として理解できるだろう。

*7:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160628&ng=DGKKASDG27HDD_X20C16A6CR8000 (日経新聞 2016.6.28) 現代社会を廃止 高校必修、公共・歴史総合に 次期指導要領で中教審案
 中央教育審議会の専門部会は27日、2022年度以降に導入する高校の次期学習指導要領の地理歴史・公民について、科目の構成やおおまかな学習内容を取りまとめた。公民科は選挙権年齢の18歳への引き下げを踏まえ「公共」を新設。法律や経済の仕組みに加え、社会保障の現状などを学び問題点を理解する。学習内容が重複する「現代社会」は廃止する。地理歴史科は近現代史の理解度が低いことから、18世紀以降を中心に日本史と世界史を関連づけて学ぶ「歴史総合」を新必修科目とする。近代化やグローバル化の流れを学習の中心に据える。近代以前の歴史も含めてより深く学習する「日本史探究」「世界史探究」は選択科目とする。「地理総合」も新たに必修科目に。環境問題など、全世界が直面する共通の課題と国際協力の在り方などを学ぶ。地図情報をコンピューターで加工する「地理情報システム(GIS)」の使い方も学習する。選択科目の「地理探究」は世界の民族・宗教や産業、資源などをより深く知ることを目指す。現行の学習指導要領では、公民科は「現代社会」1科目か「倫理」「政治・経済」の2科目が必修。地理歴史科は「世界史A」「世界史B」から1科目、「日本史A」「日本史B」「地理A」「地理B」から1科目が必修となっている。


<地方の人手不足>
PS(2016年7月2、3日追加):*8-2の高齢化率が高いという結果は、出生率や死亡率の統計を見れば1980年代から予想できたことで、その原因を究明して政策を作るのが当然だったわけである。しかし、*8-3の人手不足をカバーする方法もあり、それは日本人女性や高齢者を採用したり、雇用が不足している国から外国人労働者を採用したりすることだ。そのため、外国人労働者の生活基盤を準備した上で、九州でまとまって海外募集を行ってはいかがかと考える。なお、社会保険の観点から、女性・高齢者・外国人労働者も正規労働者として人権をないがしろにしない採用をすべきだ。

     
主な企業の外国人採用     高齢者の雇用条件     女性管理職比率   給与・雇用・議員数 
2016.5.3西日本新聞    <同一労働同一賃金?>   <何とかかんとか言って日本の職場
                                       における男女平等度は低いので、
                                       *8-1の憲法27条、労働基準法、
                                       男女雇用機会均等法を護るべきだ>

*8-1:http://www.jicl.jp/kenpou_all/kenpou.html 日本国憲法(抜粋)
第二十七条 すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。
2 賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。
3 児童は、これを酷使してはならない。

*8-2:http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS29H27_Z20C16A6000000/?n_cid=NMAIL002 (日経新聞 2016/6/29) 全都道府県で子供より高齢者多く 15年国勢調査人口
 総務省は29日、2015年国勢調査の抽出速報集計結果を公表した。65歳以上の高齢者人口は10年の前回調査比で14%増の3342万人となり過去最高だった。高齢者の割合は26.7%で、5年前の調査に続き世界各国で最も高い。15歳未満の子ども人口の割合も12.7%と過去最低で、調査開始以来初めて全都道府県で高齢者人口が子ども人口を上回った。労働力人口は5年間で294万人減少した。15歳以上人口に占める働く意欲のある人の比率である労働力率は59.8%と10年比1.4ポイント低下した。少子高齢化により全体の就労者が減るなか、女性の労働力率は49.8%と0.2ポイント上昇した。女性は25~29歳の労働力率が初めて8割を超え、35~39歳も72.4%と4.4ポイント上昇。出産による退職などで女性の30歳代の労働力率が下がり、育児後に再び上昇する「M字カーブ」の底が上昇した形だ。

*8-3:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/329364
(西日本新聞 2016年7月2日) 豊かさはどこに(上)雇用 人材確保に悩む中小企業
■大手の求人増、経営に逆風
 「自動車メーカーが押し上げ、大手企業の夏のボーナスは過去3番目の高水準です」。喜々として伝えるテレビのアナウンサーに、佐賀市の自動車部品メーカーの専務(35)はいら立ちを隠さなかった。「うちの社員が変に期待してしまうから、こんなニュースは流してほしくない」。これ以上、賃上げをする余力がないことを強調した。安倍政権の経済政策「アベノミクス」は円安を誘導し、自動車メーカーなど輸出企業の業績を回復させた。その孫請け企業が潤う「トリクルダウン効果」はあったのか。「何も恩恵はない」と専務。コスト削減ばかり求められ、受注単価は横ばいか微減。受注量はリーマンショック前の水準にすら戻っていない。むしろ円安で原材料費が10%値上がりし、利幅は目減りしている。安倍晋三首相が参院選で強調する雇用改善。佐賀労働局によると、県内の5月の有効求人倍率は1・11倍で、バブル期の水準までに回復した。6カ月連続で1倍を超える。年度別にみても、アベノミクスが始まった2012年から急速に数値は上向いている。自動車部品メーカーの専務はそれも実感できずにいる。毎年数人採用してきた新入社員は期待をかけて仕事を丁寧に教えても、半年たたずに辞めてしまう。「ものづくりに魅力を感じず、楽で給料がいい業種に移ってしまうのか」。若手の引き留め策で新たな手当を導入し、月給を最大28万円に引き上げた。それでも求人票には反応がない。今春卒の高校生の県外就職率は44・3%。過去10年で4番目に高い水準となった。佐賀市内の高校の進路担当教諭は2年前から、大手・中堅の製造業、建設業の求人が県外から急増していると明かす。「保護者が安定を求めるからなのか、優秀な学生ほど大企業に挑戦したがる」と説明する。先の自動車部品メーカーの従業員は約20人で、平均年齢は30代後半。一人前に育てるには5年かかり「50代の工場長がしっかりして、仕事が回る今のうちに技術を継承したいのだが…」と専務は危機感を口にした。派遣社員は短い期間で入れ替わるため育成が難しいだけに、産業用ロボットの導入を本気で検討し始めた。人材不足は製造業だけの問題ではない。佐賀市のIT企業は、年3回の会社説明会を倍に増やした。社員だけでは対応できなくなり、外部に業務委託せざるを得なくなった。経営幹部はコストがかさむ現状に「首都圏の雇用改善が私たちの足かせになっている」と困惑する。円安の恩恵を享受してきた大企業も、英国の欧州連合(EU)離脱で風向きが変わった。県内の大手電子部品メーカーは「円高が1円進むだけで6億円の利益が吹き飛ぶ。コスト削減に努める以外に方法はない」。為替リスクに左右される無常感を口にした。


PS(2016年7月3日追加):*9に、「現代の学校教育では美術、音楽の時間がないがしろにされており、活動は実質20分程度で芸術は育たない」と書かれているが、義務教育を3歳から始めれば時間にゆとりがあるため、適時に適切な時間を芸術やスポーツにも当てることができる。しかし、現在、学んでいる知識や服飾技術などもすべて人類の文化に入るため、*9で言う「文化」とは具体的に何なのか書いてなければわからない。また、世界の第一線で活躍できる人を育てるには、時間さえとればよいというものではなく、ベースを教える指導者も本物でなければならない。そのため、児童・生徒に時間の無駄をさせず、その魅力を教えて効果を上げられる人材を、日本人に限らず探してきて揃えるべきだと考える。

*9:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/329649
(佐賀新聞 2016年7月3日) 候補者へ(11) 文化教育の充実を
 現代の学校教育では美術、音楽の時間がないがしろにされている。40分授業なら準備、後片付けもあって活動は実質20分程度。そんなんじゃ芸術は育たない。このような状況は家庭にも悪影響を及ぼし、子どもたちから文化の芽を摘む。世界の第一線で活躍する芸術家を育てるには、まずはベースから。家庭でも文化を愛する教養が育まれるような素地をつくらないと。フランスがそうであるように、芸術は世界中から人を呼び寄せる経済的資源になり得る。芸術や文化に敬意を払う政策を願いたい。

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