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2015.10.17 日本における林業の振興について (2015/10/18、20、2016/9/10、12追加)
     
      下草刈り 上     林業女子     集められた材木       機械によるカット
 (牛・羊・山羊などの家畜では、駄目?)  
     
国産材・外材価格 現在の林業   イギリスの家具      フランスの家具     ドイツの室内

 TPP、安全保障法制、原発再稼働、辺野古の埋め立てなど、問題を指摘しなければならない話題は多いが、今日は、せっかく日本に大量にある資源を無駄にしている林業について、公認会計士として第二次・第三次産業を監査・税務で数多く見てきた私が、佐賀県の森林組合や材木店を廻って悩みを聞き、気がついたことを書く。その状況は、多少の違いがあっても他地域でも似ているだろう。

(1)林業の歴史
 林業は、*1-1のように、1950~60年代は戦後復興と高度経済成長を支える花形産業だったが、伐採し過ぎて60年代後半には日本産木材の価格が高くなり、また高度成長で人件費も高騰したため、安価な外材輸入に押され、日本の林業は衰退産業となった。しかし、伐採後の森に針葉樹の植林を続けてきた成果が出て、現在では、日本には、60億立方メートルの森林蓄積があり、これは世界最大の林業国、ドイツの2倍だそうだ。

 しかし、現在、日本の木材は外国産に比べてコスト競争力がないと言われて、あまり使われていない。一方で、森林の所有者は間伐などの手入れをするには収入よりもコストが高くなり、手入れもせずに放っておく人が多いため、森林環境税を徴収して、私有林の手入れに補助している地方自治体も多い。

 そのような中、現在では、日本産スギ丸太の価格は米国産ツガの半値近くで、人材も、欧州の主要林業国オーストリアでは林業機械の作業員に支払われる人件費は3万円/日超で日本の2倍近いが、オーストリアの林業家は利益を確保しながら森を健全に維持しているので、日本でも、機械を使って生産性を上げたり、外国人労働者を雇用したりして、問題解決すべきである。

 しかし、木材を燃やしてエネルギーを作るのは、最も付加価値の低い森林資源の使い方であるため、もっと木材の付加価値を高くする使い方を研究すべきだ。日本にとって、林業の衰退による森林の荒廃は二酸化炭素(CO2)の吸収量を下げ、治山・治水で災害に弱い山を作り、水産業の漁獲高を減らすため、健康な森林を維持しながら持続可能な伐採を行い、建築資材や家具などの付加価値の高い製品を、できるだけ機械化して作る6次産業化が最善の道だろう。

(2)森林復活と木材産業の振興
 日本が行うべき林業は、*1-2のような「スマート林業」で、人材不足は女性やこれまで林業が盛んだったタイ、マレーシア、インドネシアなどからの外国人を使う方法がある。また、女性は最終製品の選択者でもあるため、女性を使うと、林業や植林に対して今までなかったような新しい発想が得られるのではないかと思う。また、ITで間伐、伐採、管理計画を立てて効率化するのはよい考えだが、何十年もかかって育てた木を燃やして発電するのは、余程の屑でない限りもったいない。

 なお、佐賀銀行は、*1-3のように、緑化事業に取り組む公益財団法人「さが緑の基金」に120万円寄付し、佐賀県の里山づくりなどに貢献するそうだ。緑の基金は、来年、有田焼創業400年を迎える西松浦郡有田町でモミジなど400本を陶山神社に植えたり、唐津市厳木町笹原峠や佐賀市富士町中原地区で里山整備を進めたりするそうだが、このような企業の社会貢献は有価証券報告書に記載させたり、環境企業の認定マークを交付したりして、後押しするのがよいと考える。

 さらに、現在は放置された竹林が拡大して森林の荒廃に繋がっているが、竹の間伐材を炭化させて商品化するだけではなく、竹も資源と考えて高級食材の包装や道具・家具に使う等の工夫が望まれる。

(3)21世紀の木材産業は、コストを下げて付加価値を上げるしかない

   
            日本の家具                  学校の机・椅子    こんな素敵な色も・・

1)建物や家具の部品加工を機械化してコストを下げる
 日本で林業を行う以上、高い技術を導入し、加工は機械化すべきだ。例えば、上の写真の学校で使う机や椅子の例では、現状の金属・プラスティックを使った机や椅子ではあまりにも可哀想なので、ぬくもりがあり、自然の香りがする木材に交換していけばよいと思う。

 しかし、昔の形や白木に戻るのではなく、姿勢をよくするデザインの椅子やIT時代にあった便利な机を徹底して医学的・工学的にデザインし、そのデザインに合わせて木材を機械でカットし、素敵な色をつけて大量生産すればよい。この方法は、他の家具や建材でも、輸出品を大量に作るのに応用できる。

2)その他の技術開発
 *2-1のように、産学連携で取り組んだ全国の大学5校による環境住宅の実証実験を兼ねたコンペティション「エネマネハウス」が開催され、各大学は新興国での水資源の再利用を可能にする住宅システムや、地方の林業活性化へ合板木材を外壁に使う施工方法などを競うそうだ。芝浦工大のテーマは国内の木材需要の押し上げだそうだが、今後は、建材だけでなく家具の設計・デザインもして欲しい。

 なお、*2-2のように、諸富家具・建具が産地復活を懸けアジアへ進出しているが、私は、家具も、一度職人がデザインすれば、機械で作れるパーツも多く、それが多ければ多いほど、安価で大量に作って輸出することが可能だと考えている。また、*2-3の大川も、いつまでも近場の人だけを対象にしているのではなく、技術と地の利を活かして輸出という次のステージに進んだ方がよいだろう。

3)木材の品種改良
 現在は、生物学が進んで、植物の品種改良も早くなっている。そのため、家具や建材に適した色、硬さ、木目の木を栽培することも、やろうと思えばできる。

<日本の林業>
*1-1:http://www.nikkei.com/article/DGXNASDD010AA_R00C11A7000000/
(日経新聞 2011/7/4) 「今後40年間は有望」説も 持続可能な日本の“もうかる”林業
 日本で林業が「もうからない産業」の代表格のように言われて久しい。1950~60年代は戦後復興と高度経済成長を支える花形産業だったが、60年代後半になると状況が一変。安い外材の輸入に押され、人件費の高騰とともに、きつい作業を嫌う若者の増加で就業人口が減り、もうからない衰退産業になった。こうしたストーリーが「常識」として定着していた感がある。だが、近年、こうした常識を覆すような研究や事例が相次いで浮上し、林業関係者や森林を守る非営利組織(NPO)などで議論の的となっている。その内容を精査すると、日本の林業は今「もうかる林業」へ生まれ変わる転換点にあるのかもしれない、と思わせるものが多い。そんな議論の最先端を垣間見たのが6月9日、「我が国の森林・林業再生をいかに進めるか」をテーマに東京で開かれた「震災復興支援フォーラム」だった。「現在の日本には60億立方メートルもの森林蓄積がある。世界最大の林業国、ドイツの2倍もの規模で、我々は宝の山の上にいるようなものだ」。基調講演をした内閣官房国家戦略室の梶山恵司・内閣審議官は、日本の山林の有望性をこう説明した。「日本林業はよみがえる」という著作もある梶山氏は、4月に公布された改正森林法で推進する「森林・林業再生プラン」の策定などに携わった森林・林業問題のスペシャリストだ。森林蓄積とは、木材用として使える立木がどれだけ山林に残存しているかを示す。日本は森林蓄積が20億立方メートルしかなかった高度経済成長期の60年代前半に、毎年6000万立方メートルを伐採し続けたことで「木材資源を、ほぼ刈り尽くしてしまった」(梶山氏)。当時の木材需要は年1億立方メートルもあったとされ、この不足分を補うため外材の輸入が自由化された。伐採後の森に針葉樹の植林を続けてきた日本だが、材木用途で伐採に堪えるようになるまで、長きにわたり利益の出ない「蓄積の時代」をさまよってきた。その間、戦後すぐには全国で45万人いた林業の担い手は、現在5万人を切るまでに激減。うち65歳以上の就業者が3割近くと高齢化も進んだ。だが、梶山氏は、安い外材や人件費高騰といった林業疲弊の原因とされる要因も、「従来の常識を冷静な目で見直せばチャンスがあると分かるはず」と強調する。例えば、日本の木材は外国産に比べ「コスト競争力がない」という指摘。国産材で最も一般的なスギ丸太材の1立方メートルあたりの価格は90年以降、流通量の多い米国産ツガ丸太材に比べて安く推移している。現状ではスギ丸太の価格はツガの半値近くの水準で低迷しており、コスト競争力がないとは言い難い。高い人件費についても同様だ。前述の梶山氏の著作によれば、欧州の主要林業国、オーストリアでは伐採などに使う林業機械の作業員に支払われる人件費は1時間あたり29ユーロ(約3400円)。1日では3万円超にもなり、日本に比べて2倍近いという。それでいてオーストリアの林業家はきちんと利益を確保しながら森を健全に維持している。日本でも、小規模な林業家が利益を出しながら山林を管理し健全に保っていく方式を編み出したグループがある。高知県中部を流れる仁淀川。四万十川に匹敵するきれいな流れにアユが豊かなこの川の流域で、「兼業型自伐林家」の有効性を証明したのが特定非営利活動法人(NPO法人)、土佐の森・救援隊だ。「山林所有者のほとんどが近くの農村部に住み、山を守りたがっている。かといって伐採を業者に頼めばコストがかかりすぎて赤字になる。自分で木を切って売れば、実はそんなにコストがかからず山の管理もできることが分かったんです」。土佐の森・救援隊の中嶋健造事務局長が説明する。山林や農地を持ちながら定職に就いている兼業農家が、週末などの空いている時間に自分の山林の樹木を切り出し、特に間伐材を売却することで「晩酌代や小遣い銭を得ながら、山を健全に保っていく」(中嶋氏)という取り組みだ。仁淀川流域で同NPO法人に登録する自伐林家は現在、40人余りいるという。所有する山で間引くべき木をチェーンソーで伐採し、これを2メートルほどの長さに切り、軽トラックで製材所などに運んで売る。スギなら1立方メートルあたり約1万円、ヒノキなら同2万円程度になり、所有する山林の規模が小さくても月に数十万円の収入を得ている林家もいるという。間伐や間伐材の搬出に補助金を出す自治体も多く、「兼業の農家・林家にとっては結構な副収入となっている」と中嶋氏は説明する。険しく奥深い山では何人かがグループで作業する。手ごわい搬出作業の手間を省くため、同NPOは20万円ほどで導入可能な「土佐の森方式・軽架線」というツールを開発した。山の上にある木と、下にある木にワイヤ使って架線を張り、林内作業車のウインチと滑車を使って伐採した丸太を運び出す。こうした「土佐の森方式」は全国に広がりつつあり、現時点で10市町村以上が導入済みだ。さらに30の自治体が導入を検討中とされる。特に木質系のバイオマス(生物資源)エネルギーを活用するシステムを導入した自治体では間伐材収集の有効な手段となっており、林家の安定した収入につながるケースが多いという。中嶋氏は「ドイツでは45万の林業事業体が存在し、その8割超が個人経営。うち6割が農家であり、民宿や酪農などと兼業している例が多い」と解説する。梶山氏らが策定した「森林・林業再生プラン」でも、その要諦は「いかに森林を健全に保ち、持続可能な林業を日本に定着させるか」だ。「規律のない、単なる資金を出すだけの補助金を見直す」ことも掲げている。林業事業者だけでなく、ドイツなど欧州に多い高度な知識と豊かな経験を持つ「フォレスター(森林経営専門家)」などの人材も育成して豊かで健全な森の実現をめざす。同プランでは、伐採などの作業を集約する「大規模化のメリット」にも触れているが、一方で土佐の森方式のように「個人として山林を管理する方式を面的に広めた方が、かえって効率がよい」(中嶋氏)という意見もある。国土の約7割が森林という日本にとって、林業の衰退による森林の荒廃は二酸化炭素(CO2)の吸収量を下げ、治山・治水の面でも災害に弱い山を生み出すなどの大きな問題につながる。梶山氏によると、現在の日本の森林を健全に保つには毎年5000万立方メートルの伐採が必要で、それだけ切っても年間1億立方メートル分ずつ森林蓄積は増えていくという。「人材とともに持続可能な森林を育成すれば、今後40~50年はまともな林業を日本に根付かせることができる」。仮に年間5000万立方メートルの木々を国内消費すれば、木材の国内自給率は50%になると試算されている。こんな豊かな資源を抱えた日本の山を見直す時期は、確かに今しかないかもしれない。

*1-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20151017&ng=DGKKASDJ30H0D_X11C15A0MM0000 (日経新聞 2015.10.17) スマート林業 伸び盛り、伐採計画や管理、ITで効率化 人手不足に対応
 IT(情報技術)を活用した「スマート林業」が広がってきた。森林の測量データを解析してデータベースを構築したり、地理情報システム(GIS)で森林管理を効率化したりする取り組みだ。戦後の大規模な植林が伐採期に入っているが、人手不足の影響で未開発な部分も多い。ITを駆使して伐採を効率化し、林業活性化やコスト削減につなげる。住友林業は航空計測などを手掛ける中日本航空(愛知県豊山町)やデータ解析をする企業と組み、ITを使った林業経営コンサルティングを本格化する。ヘリコプターからレーザーを照射して木の本数や密度などを測り、測量データや写真を解析。データベースを構築して、自治体などが森林経営をするときの指針づくりに役立てる。データベースは常に更新して精度を高めていくという。7月から岡山県真庭市で伐採計画の指針づくりに向けた調査を始めた。まず5700ヘクタールの森林を対象とし、今後範囲を広げる。市ではバイオマス発電所や直交集成板(CLT)の工場が竣工し木材需要が高まっている。効率的な伐採で重要なのが調査や測量だ。伐採に適した木がどこにあり、どんな状態なのかを事前に知ることができれば、必要な人材や機材をピンポイントで投入できる。従来は調査や測量を人海戦術に頼ってきた。GISを使った取り組みも目立つ。GISはコンピューターで座標などの地理情報を作成して保管する仕組み。電子地図と組み合わせて使う。東京大学は測量システムのジツタ(松山市)などと組み、GISを使った測量を始めた。3D(3次元)スキャンシステムを活用して木の本数、形状などを測定する。従来の方法と比べると、作業効率は3倍以上になる。釜石地方森林組合(岩手県釜石市)は実際にこの仕組みを使って森林を調査した。データ量は現在の方法と比べて3~4倍になった。料金は1ヘクタール18万円程度と高い。だが「普及が進めば料金の下げも見込め、データ量の増加を考えれば調査コストの削減につながる」(同組合)という。戦後の植林材が伐採期に入り、出荷可能な蓄積量が増えているが伐採は進んでいない。林野庁によると、日本の森林面積は2500万ヘクタール。木の量に換算して49億立方メートルと10年前比で2割増えている。だが実際に伐採、利用されているのは約2500万立方メートルと1%未満にすぎないという。人手不足の影響が大きい。総務省の統計では木を伐採して運搬する林業従事者は2012年時点で7万人程度。1990年に比べて3割少ない。スマート林業はこうした人手不足を補い林業を活性化する狙いがある。運搬機械の機能も高まってきた。イワフジ工業(岩手県奥州市)は、森林にワイヤを張って伐採した木を運ぶ「タワーヤーダ」と呼ぶ機械を開発した。現在は1本のワイヤに木を1本ずつつるして運ぶ機械が多いが、枝分かれした複数のワイヤで複数の丸太を運べる。16年にも販売を始める予定だ。これまで運搬量は1日30立方メートルだったが、50立方メートルまで増やせる。国内の丸太需要は増加傾向にある。合板メーカーが国産スギを材料として使う比率を高めているほか、全国でバイオマス発電所の稼働も相次ぐ。14年の国内丸太生産量は1991万3000立方メートルと前年と比べて1.4%増えている。

*1-3:ttp://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/239955
(佐賀新聞 2015年10月16日) 佐銀、緑の基金に120万円を寄付、「エコ定期」で
 佐賀銀行は15日、緑化事業に取り組む公益財団法人さが緑の基金に120万円を寄付した。公募で選定された佐賀県内3カ所の里山づくりなどに活用される。エコ定期預金額の0・025%相当額を寄付した。緑の基金は、有田焼創業400年を来年迎える西松浦郡有田町でモミジなど400本を陶山神社に植え、唐津市厳木町笹原峠や佐賀市富士町中原地区で里山整備も進める。県庁の贈呈式で村木利雄佐賀銀行会長が「預金者の思いがこもっているので有効に活用を」と目録を手渡し、基金の理事長を務める和泉惠之県土づくり本部長が謝辞を述べた。放置された竹林が拡大し、森林の荒廃につながっている現状に話題が及んだ。村木会長は、竹の間伐材を炭化させて商品化する産業の推進に期待を寄せた。佐賀銀行の基金への寄付は2009年から続き、総額は2029万円。福岡、長崎両県でも取り組み、3県での合計は3836万円に上る。

<技術開発>
*2-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20151016&ng=DGKKZO92860600V11C15A0L83000 (日経新聞2015.10.16)環境住宅 5大学競う 産学連携、横浜であすから実験
 横浜・みなとみらい(MM)21地区で17日から、全国の大学5校による環境住宅の実証実験を兼ねたコンペティション「エネマネハウス」が開催される。住建会社などが協力した産学連携の取り組み。各大学は新興国での水資源の再利用を可能にする住宅システムや、地方の林業活性化へ合板木材を外壁に使う施工方法などを競う。環境住宅への意識を高め、製品化や海外展開を促す。立命館大は将来的な国内の住宅市場の縮小を見込み、「水」を前面に押し出した住宅システムの輸出を目指す。使用済みの水を自宅に備えた浄化槽などでろ過、風呂水やトイレなどで再利用するのが目標だ。全体の再利用システムは約15年ごとに更新が必要だが、「浄化槽は半永久的に使える」(同大学)という。見据えるのはアジアなど新興国の水ビジネス市場だ。特に日本企業も多く進出するバングラデシュではヒ素による水質汚染が深刻な問題となっており、水資源の確保が課題となっている。新興国のインフラ未整備のエリアへの展開をにらむ。早稲田大学も新興国市場を視野に、熟練工でなくても高い精度で建築できる施工方法を開発した。東南アジアでは素人でも工程に参加する「ハーフビルド」と呼ばれる工法が主流なため、比較的容易に仕上げができるよう作った木造大型パネルを採用したという。地方の林業、建築業の活性化を目指す大学もある。芝浦工業大学のテーマは国内の木材需要の押し上げ。外壁に使用例の少ない「CLT」と呼ばれる木材を採用。住宅の外壁としてはセメントが一般的だが「外壁材として木材の利用を進めたい」との考えから、従来は廃棄処分となることの多かった建築資材の再利用を打ち出した。エネマネハウスは17日から11月1日まで開催する。

*2-2:http://qbiz.jp/article/72169/1/
(西日本新聞 2015年10月6日) 【伝統産業の挑戦】諸富家具・建具 産地復活懸けアジアへ
 木の香りが漂う展示場。テーブルの感触を確かめながら「日本で丁寧に作った家具をアピールしたい」。諸富家具振興協同組合の理事長でレグナテック(佐賀市)の樺島雄大(たけひろ)社長(49)は言う。9月、台湾に店舗を出した。台北市の目抜き通りの約150平方メートル。テーブルやいす、木製の小物などを並べる。ターゲットはマンション住民や飲食店だ。最初の1年は来店客の声に耳を傾け、売れ筋を探る。樺島社長は「好調なアジア経済を見据え、早い段階で手を打ちたかった」と語る。親族が台湾で仕事をしていることもあり、進出を決めた。同社製品だけでなく、他の組合員の商品も置く予定だ。組合加盟の平田椅子製作所(佐賀市)も2014年2月、シンガポールに出展。ショールームの一角でいすを数点展示する。平田尚士社長(48)は「少しずつ注文が入っている」と声を弾ませる。諸富家具の各社がアジアに展開している背景には、産地全体の厳しい状況がある。組合によると、1993年度のピーク時に約210億円あった販売額は、04年度に3分の1の59億円に減少。少しずつ回復しているが、13年度は73億円にとどまる。かつて50社いた組合員も現在32社。輸入品との価格差や、大型家具を持たないライフスタイルの浸透で、苦戦が続く。大手家具店では8割が海外産の店もあり、樺島社長は「まさに(世界各国の家具が集う)オリンピック」と苦笑する。逆に言えば「海外から商品が来るなら、こちらが攻めてもいい」というわけだ。国内向けでも、組合の販促活動が活発になっている。5年前から、佐賀県内の道の駅で2週間ずつ商品を展示。佐賀市内の小学校には木製の机やいすを納入している。東京や大阪、福岡でも展示会を開く。「時代と生む良品」をブランドスローガンに「上質の木で作った、本物の家具を届けたい」と樺島社長は力を込めた。
    ◇   ◇
 九州各地に根差した伝統産業。国指定や県指定の伝統的工芸品などの産地を訪ね、新たな挑戦を紹介する。九州経済面で随時掲載する。

*2-3:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10105/238444
(佐賀新聞 2015年10月11日) 大川木工まつり、独自の家具1万点ずらり
 家具産地の大川市で10日、「第66回大川木工まつり」が始まった。メーン会場の大川産業会館では、メーカー200社が独自のデザインや素材による家具約1万点を直売。工場直送で普段より安く購入できるとあって、大勢の家族連れなどが詰めかけている。12日まで。県内メーカーでは、レグナテック(佐賀市諸富町)が本年度のグッドデザイン賞に選ばれたコートスタンドなどのシリーズ作を限定販売。平田椅子製作所(同)も食卓やリビングなどで使える新作のいすを発表、来年1月の本格出荷に向けてアピールした。同社の平田尚士社長は「作り手と消費者がダイレクトに結びつく数少ない機会」と来場に期待した。自宅を新築し、ダイニングセット目当てに来場した40代の夫婦は「長く使うものなので、素材や使い心地をじっくりとみて決めたい」と会場をくまなく回っていた。会場周辺では、屋台村やステージイベントのほか、アンケートに答え、総額300万円相当の家具が当たる抽選会、親子木工教室などの体験企画もある。問い合わせは同まつり実行委事務局(大川商工会議所内)、電話0944(86)2171。


PS(2015/10/18追加):*3-1のように、御嶽山麓などの森はもともと薬草の宝庫であるため、付近の耕作放棄地を活用して薬草を栽培すれば、高付加価値の生産物を作れそうだ。また、長野県の森はクマザサがどこにでもあるが、これも、下の写真や*3-2のように、付加価値がつけられそうである。

    
  森の中のクマザサの群生     クマザサの殺菌効果を利用した包装    クマザサと綿混紡の 
                                                    抗菌タオル
*3-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=34949 (日本農業新聞 2015/10/9) 薬草で放棄地 再生 “新食材”育成プロジェクト始動 民宿の逸品料理に 長野県木曽町
 御嶽山麓の長野県木曽町で、増える耕作放棄地を活用しようと、薬草の栽培が始まった。同町は今年から薬草を育てるプロジェクトを立ち上げ、町の試験農場で土地に合った薬草を探している。収穫した薬草をそのまま薬向けに販売するには、まだ十分な収量がない上、薬事法に対応した販売も求められるため、まずは新たな食材として栽培を進めていく考えだ。
●農家の知識醸成 お試し栽培提案
 プロジェクトのリーダーの都竹亜耶さん(36)は、2011年に地域おこし協力隊として東京から同町に移住した。御嶽山麓は古来から薬草の宝庫だったことに着目、「耕作放棄地の活用と、かつての薬草文化や知識を子どもたちに伝え食育につなげたい」と薬草栽培を思いついた。まずは5アールの畑で「カミツレ(カモミール)」などハーブ10種類の栽培から始め、5月には山から採取した薬草を追加。現在は合わせて約30種類を栽培する。月に1回、地元の農家を試験農場に招き、「薬草を試しに作ってみませんか」と栽培を勧めている。一方で毒性の強い薬草も多く、十分な知識がないと危険な場合もある。このため試験農場では黄色い花が特徴のキンポウゲ科の「キツネノボタン」など、間違って食べると死に至るような危険な薬草も栽培、農家に知識を伝えている。薬草栽培の指導に当たる特定非営利活動法人(NPO法人)自然科学研究所の小谷宗司代表は、胃腸を整える効果がある「センブリ」や、滋養強壮剤として市販される酒の原料になる「イカリソウ」などが土地に合うと提案、試験農場で栽培を始めた。都竹さんは「御嶽山噴火から1年が過ぎたが、もがきながらも、町に合った薬草栽培を通じて地域を元気にしたい。道の駅や地元の民宿で薬草を食材として使ってもらえば、町おこしにつながるのではないか」と構想を練る。

*3-2:http://sasaland.com/blog/150608/ 
薬がなかった時代から「クマザサ」は大活躍の働き者だった!!
 中国最古の薬物書「神農本草経」にも漢方薬として紹介されているほど、遠い昔から健康を支えてきたクマザサ。外界から離れ、霞を食べて生きてきたといわれる不老長寿の「仙人」は、実はクマザサを食べていたと伝えられてもいます。このほか、クマザサは李時珍の記した『本草網目』にも「じゃく」として収載されています。その中で、クマザサは次のように述べられています。
  気 味……甘し、寒にして毒なし
  主 治……男女の吐血、嘔血、下血、小便渋滞、喉痺、腫瘍を治す
 日本でも昔からクマザサは生活の中で広く使われていました。その昔、山仕事や旅の途中で食べるおにぎりや餅を包んだのは、クマザサの葉です。また、笹団子、笹あめ、笹寿司、笹酒、チマキ……防腐作用や殺菌効果の高いクマザサを使った食べ物は、昔からこんなにたくさんあったのです。今ほどたくさんの薬がなかった昔、人々は民間治療薬で病気や怪我を治していました。そこで大活躍したのはクマザサでした。東北地方では胃腸病、高血圧、ぜんそく、風邪の時にクマザサのせんじ薬を飲んでいたと言います。また、やけどや切り傷、湿疹にあせも、虫さされ、はては口臭や体臭を消すことにまで、暮らしに深く浸透していたのです。


PS(2015/10/20追加):山の幸には、*4のように、植物だけでなく、現在は増えすぎた野生動物の肉(ジビエ)もある。ジビエは、脂肪が少なく蛋白質が豊富で美容と健康によいため、捕獲した野生動物を食肉利用する割合が低いのはもったいないことである。なお、下の写真の(長野県)木曽漆器も、食洗機対応、手入れの簡単化、絵柄、住まいとの調和、コストダウンなど、21世紀の生活にマッチするように改良すれば、輪島漆器ほど高すぎないため日本人が買い安く、輸出も可能だろう。そのため、2020年までに現代化を終え、*4-2の東京オリンピックで選手村の食器に採用されるようにして、選手が帰る時には、使っていた食器を記念に持ち帰らせれば、世界への宣伝にもなると考える。

   
              木曽漆器 (*一番よいものを掲載したとは限りません)

*4-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=35014
(日本農業新聞 2015/10/15) 捕獲獣の運搬ネック 関係団体を意見聴取 自民ジビエ議連
 自民党の鳥獣食肉利活用推進議員連盟(ジビエ議連、会長=石破茂地方創生担当相)は14日、野生の鳥獣肉(ジビエ)の供給や販売を手掛ける関係団体から取り組み事例を聴き取った。北海道と長野県は、ジビエのブランド化に成果を挙げるものの、捕獲した野生動物を食肉利用している割合が低い実態を説明した。食肉処理施設への運搬に時間と労力がかかり、搬入が進んでいないのが課題とし、捕獲した個体の効率的な回収への支援を求めた。北海道はエゾシカ対策に力を入れ、2014年度の捕獲数は13万6000頭と、10年度より2割強増えたと報告。一方で、ジビエとしての活用は15%前後にとどまったままで、食肉での利用は進んでいないことを明らかにした。長野県もニホンジカの食肉利用率は5%未満にとどまるとした。その背景として、農水省は捕獲から1、2時間たった個体は食用に適さなくなり、運搬に時間がかかると食肉利用が困難になると説明。出席した議員からは「加工しながら移動できる手段も考えないと、施設への搬入が進まない」との意見が出た。石破会長はじめ議連メンバーは同日、東京都内で開かれたジビエ料理の試食会に参加し、鹿肉を使ったハンバーガーやカレーライスを試食した。同議連は11月に現地視察を予定しており、今回出た意見も踏まえてジビエの振興策をまとめる予定。課題を整理し、来年1月までに示す構えだ。

*4-2:http://qbiz.jp/article/73129/1/
(西日本新聞 2015年10月20日) 「五輪施設に国産木材活用を」 遠藤氏、積極検討要請
 政府は20日、2020年東京五輪・パラリンピック関連施設での国産木材の活用策を検討するワーキングチームの初会合を東京都内で開いた。遠藤利明五輪相は「木の持つ柔らかさや、日本のおもてなしの文化を発信する機会だ。木材を最大限利用する方向で進めてほしい」と述べ、積極的な議論を求めた。国産木材の活用は林業の活性化につながるとして、自治体も期待を寄せる。木材の板を直角に重ね合わせ、耐震性や断熱性に優れる「直交集成板」などの建材利用が念頭にある。政府は8月にまとめた新国立競技場の整備計画で、仕様のうち「特に配慮すべき事項」として木材の活用を盛り込んだ。


PS(2016.9.10追加):*5のように、「森を守る」として子供に「皮むき間伐」の“面白さ(?)”を教えるなどというのは、ゆとり教育・アニメ世代・コンクリート街育ちの大人の限界だと思う。何故なら、植物も生き物であり、せっかく誰かが植えた財産でもあるにもかかわらず、残酷な殺し方を面白いと教えた上に、無駄をしているからである。森を守ることを子どもに教えるのなら、間伐した後に植林したり、森の生き物や食物連鎖を教えたりし、間伐は伐採させても危険でない年齢になって、もしくは大人がついて行い、有効利用する方法をこそ教えるべきだ。しかし、そもそも植林する時に同種の木を密集させすぎて植えているため、一本一本の木の成長が遅く、頻繁に間伐しなければ育たない森になっているのである。

    
      *5より       間伐の必要性       子供の間伐        間伐材の利用    

*5:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160909&ng=DGKKZO07055810Z00C16A9NZBP00 (日経新聞 2016.9.9) 森を守る 主役は子供、「皮むき間伐」で山林管理 林業体験、自然考える契機
 子供たちが林業を体験するイベントが各地で盛んになっている。重機を使わず、誰でも簡単に取り組める間伐作業などを通じて、森を守ることの大切さを学ぶ。森林の荒廃は年々深刻になっており、イベントの主催者らは「楽しみながら、自然環境を考える機会にしてほしい」と期待する。台風一過の晴天が広がった8月23日、東京都八王子市西部の山林に子供たちの明るい声が響き渡った。「こっちのほうがうまくむけたよ」「もっとむきたい」。山林の整備や間伐イベントの企画を手掛ける「森と踊る」(同市)が主催した「きらめ樹体験会」には都内や神奈川県などから15人の親子が参加。同社が管理する区画で、スギやヒノキの「皮むき間伐」を体験した。
●日当たりを改善
 スギの表皮にナタや竹べらで切れ目を入れ、めくれた部分を力を合わせて引っ張る。「メリメリ」という音とともに表皮が一気にはがれた。つるつるの地肌が現れると、子供たちは思わず「おお」という歓声を上げた。スギやヒノキは水を吸い上げる春から夏に表皮をはがすと、1年ほどで枯れる。この性質を利用したのが皮むき間伐。一般的な間伐は、チェーンソーや重機を使って不要な木を切り倒すが、皮むき間伐は力のない子供でも簡単に取り組める。皮をむいて枯れた木は水分が抜けて軽くなり、切り倒した後、人力で簡単に運べるのも利点だ。間伐をしない森林は日光が届かず、地面には植物が育ちにくい。間伐後は日当たりが改善し、3年ほどたつと数十種類の植物が観察できるようになる。「森と踊る」取締役の村上右次さん(49)らが森林管理が持つこうした意味を分かりやすく説明していた。八王子市の浅野英子さん(44)は娘の杏樹マリさん(9)とともに参加。英子さんは「ふつうに生活していたら絶対できない貴重な体験。簡単で面白い作業で娘も喜んでいる」と声を弾ませた。英子さんはもともと林業に関心があり、子供と一緒に参加できるイベントを探していた。ただ、千葉県や静岡県など遠方での開催が多く、「東京にもこれだけ森があるのにもったいない」と感じていたところ、ネット上できらめ樹体験会の告知を発見したという。「森と踊る」はこれまで八王子市や奥多摩町などで約20回の体験会を開き、600本以上の木をむいてきた。多い回には160人ほどが参加し、親子連れを中心にリピーターも多い。
●森林放置深刻に
 国内の人工林は終戦前後に植えられたスギやヒノキが多く、伐採期を迎えている。ただ、安価な輸入木材に押され、価格が下落。採算が合わずに管理が行き届かなくなった放置林の増加が深刻化している。「森と踊る」の村上さんは「ほとんどの山が手入れができずに荒れ放題だ。そういう山の現状を知ってもらうきっかけにもしたい」と話す。代表の三木一弥さん(46)は機械メーカーに勤めていたが、水処理関係の仕事に携わって森林管理の仕事に関心を持ち、2年前に脱サラ。静岡県内のNPOのイベントで「皮むき間伐」を知った。「東京でも子供が参加できるこんな活動ができないか」と考え、「森と踊る」を立ち上げたという。三木さんは「林業の現状は厳しいが、イベントを通じて子供たちの意識が少しでも変わり、森の再生につなげられたらいい」と話している。


PS(2016年9月6日):最近は、木材カットをコンピューター制御で精密に行ったり、集成材にして強度を増したりすることもできるため、木造建築の強度を上げつつ、容易に大量生産できるようになった。そして、住宅は自動車と同じく波及効果が大きいため、耐震性が強くて省エネ・自家発電装備のゼロエミッション住宅なら、*6のように国内販売だけでなく輸出しても売れるだろう。

*6:http://qbiz.jp/article/93570/1/
(西日本新聞 2016年9月6日) 積水ハウス、ブランド材でマイホーム 飫肥杉など地元木材活用
 積水ハウスが、飫肥(おび)杉(宮崎県)や秋田杉(秋田県)といったブランド材の産地と手を組んで国産材の活用を進めている。各地で地元の木材を使ったマイホームを提案し、木造住宅全体の年間売上高を2016年1月期の1454億円から中長期的に2千億円規模に引き上げる目標。地産地消を促して林業の活性化にも一役買う狙いだ。積水ハウスは「シャーウッド」のブランドで木造一戸建て住宅を1995年から展開。当初は北欧からの輸入材が大半だったが、国内の二酸化炭素(CO2)削減といった環境面に配慮して徐々に国産材の利用を拡大。今年4月に国内のブランド材を柱など主要部分に使用した新商品「グラヴィス リアン」を発売した。これまでに10県の木材産地や加工業者と連携し、供給体制を整えた。宮崎と秋田のほかは、岩手、埼玉、長野、岐阜、奈良、岡山、愛媛、高知の各県。柱の部材には産地を表示して、身近に感じてもらえるような工夫をした。北海道と静岡県の木材も使えるように調整を進めており、今後も順次広げる方針だ。林野庁の試算によると、国産材の半分以上が建築向けに使用されているとみられ、住宅への利用拡大が進めば林業の活性化にも弾みがつく。積水ハウスの担当者は「肌触りや匂いの良さを前面に押し出して販売を伸ばし、国産材の利用を増やしていきたい」と話している。

☆この記述をするにあたって私が使った知識は、経済学、経営学、税制、栄養学、心理学、生物学、
  生態学、日本史、世界史などです。

| 農林漁業::2014.8~2015.10 | 04:56 PM | comments (x) | trackback (x) |
2015.4.14 農政について ← 「実現性がないから目標を下げる」「検証できない曖昧なことを目標にする」という発想は、科学的ではなく無責任である。 (2015.4.14に追加あり)
     
主な国の食料自給率推移 先進国の食料自給率比較      世界の人口推移

      
    日本の人口推移        カロリーベース    カロリーベースと生産額ベース
                       の食料自給率        の食料自給率
(1)農協改革の経過とその妥当性
1)農協監査について
①会計監査
 *1-1に書かれているように、農協監査は、これまでJA全中の監査部門であるJA全国監査機構が行っていたのを、会計監査に関しては公認会計士監査を義務付け、JA全国監査機構を外出しして新設される監査法人と、一般監査法人から農協が選ぶ「選択制」に変更するそうだ。そして、信用事業を行う貯金量200億円以上の農協等については、信金・信組等と同様、公認会計士による会計監査を義務付けることになったとのことである。

 ここまでの問題点は、貯金量200億円未満の地域農協は、監査を受けずに破綻して預金者に迷惑をかけるものが出やすくなり、その農協に預金している農業者や地域住民が保護されないということだ。そのため、信用事業を行う地域農協は、農協自体もしくは信用事業を合併して一定規模以上とし、必ず会計監査を受けるようにすべきだ。私は、気候や作物の似た農協が合併し、集めた預金はその地域で貸し付けを行うのが、営農方法や信用供与に関するノウハウが蓄積しやすいため、地域振興にもプラスになるのではないかと考えている。

 *1-1に、「外出しした監査法人は、会計監査チームと業務監査チームを分ければ、監査法人内で同一の農協に対し、会計監査と業務監査(コンサル)の両方を行うことが可能」とされているが、これは、監査法人では禁止されている。何故なら、業務監査をコンサルと解釈しているのであれば、コンサルティングチームと監査チームが同一組織に属していれば、コンサルの結果が監査意見に影響を与えるため、独立性のある監査ができないからである。しかし、そもそも業務監査はコンサルではなく業務に関する監査であるため、農協内部にいて毎回理事会に出席したり、いつでも内部統制をチェックできたりする立場にいなければできず、それを外部監査人が行うのは困難なのである。

 このように、監査は、組織の維持運営を公明正大かつ適切に行うためのツールであるため、「(監査を受けると損だから)現在の農協監査はイコールフッティングではない」といった消極的な批判は当たらず、(細かく理由は書ききれないが)優秀な監査や正確な会計に基づくコンサルティングを受けるのは、国内だけでなく海外展開するのにも有意義であり、この改正の良し悪しは使い方によるのである。

 例えば、ビッグ4などの監査を受けていれば、ビッグ4は、オーストラリア・ニュージーランド、南北アメリカ、ヨーロッパ、アジアなどでも長く監査を行い、豊富な事例と均質な横のネットワークを持っているため、世界のBest Practiceを集めて今後の改善に資するアドバイスを行うことができる。また、地域で開業している公認会計士の監査を受ければ、地域の事情に詳しく、地域愛がある上、ビッグ4と比較して安価であろう。そのため、農業所得や農家所得を向上させるためには、各種の監査法人やビッグ4系列のコンサルティング会社、マッキンゼー、ボストン、アクセンチュアなどのコンサルティング専門会社を、農協の負担が増えないというだけではなく、攻めの目的で使いこなすのがよい。

 上のような事情から、私は、農協以外の監査はできないが農協の業務監査に慣れている農協監査士やこれまでJA全国監査機構に所属していた公認会計士の一部は、農業協同組合中央会の中に内部監査部を作って残り、農協が正確で適法な経理や運営を行うことは担保した上で、その上のステップの外部監査やコンサルティングを安く受けられるようにするのがよいと考える。

②業務監査
 *1-1は、「業務監査はコンサルと看做す」としているが、上に記載した通り、業務監査は業務の妥当性や適法性を監査するものでコンサルではないため、業務監査は、業務監査担当理事を責任者として、内部監査部門が行うのが適切であり、それ自体が重要な役割を果たすものである。

 そして、農協の販売力の強化、6次産業化、輸出拡大などを図るためには、必要に応じてビッグ4系列のコンサルティング会社やマッキンゼー、ボストンなどのプロフェッショナル集団を、もちろん農協の自由意思で使いこなすことが望まれる。

2)中央会について
①全国中央会
 *1-2によれば、「全国中央会は、2019年3月31日までに一般社団法人に移行し、“農業協同組合中央会”と称し、会員の意思の代表、会員相互間の総合調整などを行う」とされているが、これまでも組合の主は組合員であるため、そういう組織だったのである。むしろ、株式会社にすれば、主は株主であるため、組合員はさておき株主利益のために行動する会社となるのだ。

②都道府県中央会
 i)新組織は、会員の要請を踏まえた経営相談・監査、会員の意思の代表、会員相互間の総合
  調整を行うとされているが、これは前からそれに近いため、改革の理由にはならない。
 ii)2019年3月31日までの間に農業協同組合連合会に移行し、移行した農業協同組合連合会
  は、「農業協同組合中央会」と称することができるので、これまでの全国中央会は、農業協同
  組合中央会の東京本部になればよいと考える。
 iii)都道府県中央会から移行した農業協同組合連合会が、会員の要請を踏まえた監査の事業
  を行う場合は、農水省令で定める資格を有する者を当該事業に従事させなければならない
  こととするというのは、意味不明だ。

3)准組合員の利用規制について
 組織の構成員を誰にするかは、その組織の都合で自由に決めるべきことである。そのため、銀行など他の組織のために農協の「准組合員の利用量規制」をするなど、成長を妨げる悪い規制の典型である。そのため、准組合員の利用量規制などはすべきではない。

4)その他
 このような状況であるため、*1-2のように、佐賀県内の農業関係者に、「全中は、なぜ妥協して農協改革案を容認したのか」という戸惑いが広がったのは理解できるが、監査に関しては、JA全国監査機構による監査が例外的な監査であり、監査導入初期に妥協して入れられたものであることから、監査法人監査に移行して、(1)1)のようにプロフェッショナルを活用すれば、農業が成長産業化して、農業所得や農家所得が増えると私も考える。

 しかし、(1)2)の中央会廃止や(1)3)の准組合員利用規制に関しては、私的組合の経営に口を出し、マイナスの効果の方が大きいため、上のような解決をするのがよいと思う。(申し訳ないが)東北や北陸は知らないが、私が衆議院議員をしていた佐賀県は、唐津・伊万里をはじめ全県を挙げて、農畜産物のブランド化や生産コストの削減に努めてきたため、周回遅れの“改革のための改革”を行ったり、農協を”改革イメージのためのスケープゴート”にされたりするのは迷惑なのである。また、農協の専門性・情報収集力・組織力があれば、国が意見を聞くのはよりよい方法であるため、国が農協の意見を聞くのは、どのような形であれ重要だ。

 従って、*1-3に書かれている“農協法改正案”に対する野党の修正は、「農業所得の増大だけでなく、農家所得の増大にも配慮しながら農業の成長産業化を行う」「これまでの中央会は都道府県中央会と合併して内部監査部門を持つ」「私的組合であるJAの理事構成に口を出させない」「どこであれ株式会社化を強制しない」「准組合員など私的組合の構成員に規制を設けない」などが必要である。

 なお、維新の党は株式会社しか知らないのか、農協の株式会社化にこだわっているが、農協を株式会社化すれば、農家の所得が増え、農業の成長産業化が進む理由は説明できない筈である。

(2)萬歳会長の辞任について
 このような中、*2-1のように、JA全中の萬歳章会長が4月9日、農協法改正案の閣議決定を節目に、今後のJAグループの自己改革や新しい全中づくりを新体制で進めるのが適切と判断して、全中会長を辞任したそうだ。萬歳会長はJA新潟みらい会長やJA新潟中央会会長などを務めた方で、環太平洋連携協定(TPP)交渉や米の生産調整の見直しなどの農政課題に当たってきた。

 そして、*2-2のように、農業所得の増大、組合員の所得向上、地域農業の活性化、地域活性化に向けて、10月に開かれるJA全国大会に向けた議案作りが始まっており、後任の会長に自己改革の実現を託したそうだ。上のグラフのように、グローバルでは急激な人口増加が進む中で、農業はますます重要な産業となっていくため、妥協することなく食料自給率や農産品輸出額を上げてもらいたい。

 一方、*2-3のように、日経新聞は、「圧力団体、農協の終焉」と報道している。そして、その理由を、「①全中の行動原理の根に、日本は食料難で規模の小さい農家がたくさんいるという終戦直後の農業構造を掲げている」「②食料供給を錦の御旗に掲げて組合員の数の力をバックに政治に圧力をかけてきた」「③最近ではTPPへの反対運動がその象徴だ」「④輸入農産物の増加も重なって食品価格が低迷した」「⑤経営環境の悪化を受け、意欲のある農家は規模を拡大し、法人化して農協から離れていった」「⑥古い圧力団体の体質を改め、真に農業に貢献できる組織になれるか。周囲の見方を変えるには全中自らの変革力が問われる」などとしている。

 しかし、1994年に食管法が廃止され、私が知っている農協はとうに①を卒業しているため、①は20年遅れの状況把握だ。また、②の食料供給はグローバルでは人口増加が進み、新興国も工業化している中、*4-2にも触れられているように大切なことである。さらに③は、私がこのブログの環太平洋連携協定(TPP)のカテゴリーでずっと述べてきたとおり、農業だけではなく日本の主権の問題であり、国民生活や農業をスケープゴートに差し出して拙い外交・防衛政策をカバーするのは、日本国憲法に照らしてもうやめるべき時だ。そして、④については、日本の農業は高品質化とブランド化で乗り切り、現在では(既に海外移転済の)製造業よりも輸出増が見込まれる。また、⑤についても、法人化して農協から離れてやれる人は既にやっており、食品会社で農業に参入している企業も多いため、20年遅れの現状認識だ。最後に、⑥に至っては、事実を踏まえない人が誹謗中傷するための念仏のような常套句で、これが今回の農協改革の本心であるため、強く対処しなければならない。

(3)TPPについて
 TPPがよいことであるかのように書いている新聞があるため、*3の「TPP交渉 何だったのか国会決議」という記事を紹介しておく。私も、余って困っている米を輸入拡大する必要はなく、国内産の米も転作すべきだと考える。これが、国民から選ばれた国会議員の多数派の意見であり、農業の崩壊は地方創生にも食料自給率にも逆行して、一般市民のためにも国益にもならない。「これを機会に何かが起こるだろう」などという超楽観論があるが、そのような無責任な態度で政策を作るべきではないのだ。

(4)食料自給率と食料自給力の違い及び目標変更の意味について
1)食料自給率とは
 食料自給率とは、国内で消費される食料のうち、国内産で賄われている割合で、以下の種類があるが(ウィキペディア Wikipediaより)、私は、太平洋戦争中ではあるまいし、栄養状態を良好に保てるイ)が必要だと考えている。
イ)品目別自給率:個別の品目毎の自給率で、品目の重量を使用
 国内の生産量(重量ベース)÷国内の消費量(重量ベース)
ロ)総合食料自給率:個別の品目毎ではなく、国の総合的な自給率で、2種類がある
 i)カロリーベースの食料自給率
   国民1人1日当たりの国内生産カロリー÷国民1人1日当たりの供給カロリー
   *供給カロリー=国産供給カロリー+輸入供給カロリー+ロス廃棄カロリー
 ii)生産額ベースの食料自給率
   国内の食料総生産額÷国内で消費する食料の総生産額
   *「生産額=価格×生産量」で品目毎の生産額を算出して合計し、一国の食料生産額を求める。

 しかし、これまでは、カロリーベースの食料自給率しか目標にしておらず、それでも疑問を感じなかったのは、為政者が栄養学について基礎知識もない男性ばかりで「腹いっぱいにさえなればいい」という発想だったからだ。また、「日本は生産額ベースの食料自給率は高い」とも言われるが、それは食料価格が高いからにすぎず、生産額ベースの食料自給率は、健康に生きていけるだけの食料生産を保障する指標ではない。

2)食料自給力とは
 *4-1、*4-2、*4-3に書かれている食料自給力は、「今ある農地などをすべて活用したときの潜在的な生産能力である」と新たに示す食料・農業・農村基本計画に定義するのだそうだ。

 しかし、生産要素は、農地だけではなく、労働力、種子、肥料、機械、資金など多岐にわたり、そのうちのボトルネックになるものが生産量を決めるため、普段から生産していないものを生産しようとしても予定(空想)どおりに生産することなどできない。そのため、食料自給力とは、生産の仕組みを考えない人が、机上で創造した空想上の生産力にすぎないのである。

3)食料自給率から食料自給力への目標変更の意味
 これらの農政変更を行う結果、*4-1、*4-2に書かれているように、農水省が、今後10年の長期指針である「食料・農業・農村基本計画」の見直しに向けた骨子案を示し、世界的な食料不足などの緊急事態に対応できるようにするために、国内農業の潜在的な生産能力を示す指標「食料自給力」を新たにつくる方針を明記しなければならないほど、日本の食料自給率は下がるのである。しかし、これは、(4)2)に記載したとおり、食料安全保障上、慰めにもならない空想上の生産力にすぎない。

 食料安全保障上は、まず国民が健康で豊かに過ごせる品目別自給率100%を目指し、輸出や生産の都合でそうならない場所を正確に把握して、どういう形で代替するのかを一つ一つ検討すべきなのである。本当の食料政策は、そういう具体的な過程を経てのみ作れる筈だ。

 なお、*4-3には、人口減少と高齢化で市場縮小と記載されているが、国民が必要とする食料は農地や生産基盤だけで作れるものではないため、日本及び地球の適正人口も考えなければならないことを、上のグラフを参考に重ねて述べておきたい。

<“農協改革”の経過>
*1-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=32008
(日本農業新聞 2015/2/10) 政府・自民党とJAグループ
 政府・自民党とJA全中は9日、通常国会に関連法案を提出する農協改革の骨格について合意した。公明党も大筋で了承した。単位JAへの監査について、公認会計士による会計監査を義務付け、JA全中の監査部門(JA全国監査機構)を分離して新設する監査法人と、一般の監査法人から選ぶ「選択制」に変更するのが柱。一方、分離後の全中は2019年3月末までに一般社団法人に移行するが、農協法上の付則で代表・総合調整機能などを担うと位置付ける。JAグループの大きな転換点となる。規制改革会議が求めていた准組合員の利用量規制は見送るなど、与党農林幹部による調整で急進的な改革案を一定程度押し戻し、JAグループ側とも歩み寄った。ただ組織変更が焦点となった改革が、政府が目的とする農家所得の向上にどう結びつくのか、農村社会にどのような影響をもたらすのかは不透明さも残す。具体的な法案の策定や国会審議の中で丁寧な説明が求められる。自民党農林幹部が8日に全中の萬歳章会長と会談するなど最終調整。9日に同党農協改革等法案検討プロジェクトチーム(PT、吉川貴盛座長)の会合を開き、改革の骨格を決めた。准組合員の利用量規制の見送りや監査法人への移行の際の配慮など、JAグループの要望が一部取り入れられたことを踏まえ、全中も同日、役員会を開いて受け入れを決めた。今後、自民党と公明党との協議を経て、政府は関連法案を3月中にも提出する見通しだ。改革の骨格では、信用金庫や信用組合などと同条件としてJA批判を避けるため、貯金量200億円以上のJAに公認会計士による会計監査を義務付ける。全中は全国監査機構を分離し、公認会計士法に基づく監査法人を新設。現在は全中の監査が義務付けられている単位JAが、この監査法人か一般の監査法人かを選ぶ「選択制」とする。業務監査はコンサルとみなし、JAが必要に応じて受けるかどうかを判断する。ただ新たな監査法人は、担当者を分けることなどで、同じJAに対して会計監査と業務監査を共に行えるようにする。農協監査士は(1)新たな監査法人で監査業務を行える(2)公認会計士試験に合格した場合は実務経験期間の免除など円滑に資格を取得できる――よう配慮を規定する。だが新たな監査法人をめぐっては、うまく移行できるかどうか事務的な協議が続いている。このため同法人の円滑な設立と業務運営を確保し、JAが負担を増やさずに確実に会計監査を受けられるよう政府が配慮すると規定。課題解決のため農水省や金融庁、全中、日本公認会計士協会による協議の場も設ける。また新制度が機能するかを確認するため、全中が一般社団法人に移行する19年3月末までは、JAが現行の全中監査か公認会計士監査を選べるようにする。政府・自民党は、この間に一部のJAが一般の監査法人の監査を受け、問題がないかを実証する考えだ。全中は19年3月31日までに、一般社団法人に移行する。ただ政府・自民党は、農協法の付則で、JAグループの代表機能や総合調整機能を担うよう位置付ける方針。都道府県の中央会は同日までに、農協法上の連合会に転換し、代表機能や総合調整機能、経営相談、貯金量200億円未満のJAの監査といった業務を行う。全中、都道府県中央会ともに「中央会」の名称は維持する。准組合員の利用量規制は、JAグループや与党内の強い反発を受け、今回は見送った。ただ法律の施行後5年間、正組合員と准組合員の利用実態や農協改革の実行状況を調査。その後規制の在り方をどうするか、あらためて慎重に決定する。吉川座長は同日のPTで「検討の結果、利用量規制が入らないこともあり得る」と語った。
●農協改革の骨格(全文)
 政府・自民党が、9日決定した農協改革の骨格(監査、中央会、准組合員関連)は次の通り。
1、会計監査については、
 農協が信用事業を、イコールフッティング(競争条件の同一化)でないといった批判を受けることなく、安定して継続できるようにするため、信用事業を行う農協(貯金量200億円以上の農協)等については、信金・信組等と同様、公認会計士による会計監査を義務付ける。
〇このため、全国中央会は、全国中央会の内部組織である全国監査機構を外出しして、公認会計士法に基づく監査法人を新設し、農協は当該監査法人または他の監査法人の監査を受けることとなる。
〇なお、当該監査法人は、同一の農協に対して、会計監査と業務監査の両方を行うこと(監査法人内で会計監査チームと業務監査チームを分けることを条件)が可能である。
〇政府は、全国監査機構の外出しによる監査法人の円滑な設立と業務運営が確保でき、農協が負担を増やさずに確実に会計監査を受けられるよう配慮する旨、規定する。
〇政府は、農協監査士について、当該監査法人等における農協に対する監査業務に従事できるように配慮するとともに、公認会計士試験に合格した場合に円滑に公認会計士資格を取得できるように運用上配慮する旨、規定する。
〇政府は、以上のような問題の迅速かつ適切な解決を図るため、関係省庁、日本公認会計士協会および全国中央会による協議の場を設ける旨、規定する。
〇全国中央会の新組織への移行等によりその監査業務が終了する時期までは、新しい会計監査制度への移行のための準備期間として、農協は全国中央会監査か公認会計士監査のいずれかを選べることとする。
2、業務監査(コンサル)については、
 農協の販売力の強化、6次産業化、輸出拡大等を図るために、必要なときに自由にコンサルを選ぶことができるようにするため、農協の任意とする。
3、都道府県中央会については、
(1)新組織は、会員の要請を踏まえた経営相談・監査、会員の意思の代表、会員相互間の総合調整という業務を行うこととする。
(2)2019年3月31日までの間に、農業協同組合連合会に移行する。
(3)移行した農業協同組合連合会は、「農業協同組合中央会」と称することができるように法的な手当てを行う。
(4)都道府県中央会から移行した農業協同組合連合会が、会員の要請を踏まえた監査の事業を行う場合は、農水省令で定める資格を有する者を当該事業に従事させなければならないこととする。
4、全国中央会については、
(1)19年3月31日までの間に、会員の意思の代表、会員相互間の総合調整などを行う一般社団法人に移行する。
(2)移行した一般社団法人は、「農業協同組合中央会」と称することができるように法的な手当てを行う。
5、准組合員の利用量規制のあり方については、直ちには決めず、5年間正組合員および准組合員の利用実態並びに農協改革の実行状況の調査を行い、慎重に決定する。

*1-2:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/154991
(佐賀新聞 2015年2月10日) 「全中なぜ妥協」県内関係者に戸惑い 農協改革案容認
 政府と自民党が9日に骨格を決めた農協改革について、県内の農業関係者に戸惑いが広がった。政府は全国農業協同組合中央会(JA全中)の組織改編による農業の成長産業化を主張するが、農協側は実効性を疑問視する。交渉がヤマ場を迎える環太平洋連携協定(TPP)の反対運動への影響を懸念する声も出ている。「JA全中はなぜ妥協したのだろう」。JA佐賀市中央の木塚公雄組合長は首をかしげ「全中の業務監査があったから農協がつぶれたり、職員が過ちを犯したりしなかった」。公認会計士による外部監査は数百万円負担が増える試算があり、不安も口にした。受け入れの背景に准組合員の事業利用制限の先送りがあるという指摘に、JA伊万里の岩永康則組合長は「全中もここが落としどころと考えたのだろう。ただ、こうした駆け引きをする政府のやり方はどうなのか」。当初は農協事業の分離案も検討されたことから「TPP交渉を控えており、農協の金融共済部門を外資に差し出す懸念がぬぐえた訳ではない」と警戒する。佐賀牛を含めて農畜産物のブランド化、生産コスト削減に努めてきたJAからつ。才田安俊組合長は「農家の所得向上のため、いろいろ取り組んできた。政府は実態を見ているのか」。JAさが組合長でJA佐賀中央会の金原壽秀副会長も「無味乾燥の改革のための改革」と批判。全中が国に意見する「建議」の権限を失う危険性を挙げ「結局、TPPへの異論を封じたいだけではないか。農政運動はこれまで通りできるが、今後の対策を検討したい」と述べた。生産者の受け止め方はさまざま。「今回の改革が農家にどんな影響をもたらすか分からない」と佐賀市のコメ農家(42)。神埼郡吉野ヶ里町の大規模農家(65)は「農協が大きくなり、生産者と距離ができたきらいはある。これを機に農家のための農協という原点に戻り、自ら改革を進めて」と注文した。

*1-3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=32852
(日本農業新聞 2015/4/4) 農協法 改正案を国会提出 野党は修正求める構え
 政府は3日、農協法改正案を閣議決定し、国会に提出した。JAの理事構成を見直し、JA事業運営の原則に「農業所得の増大に最大限の配慮をしなければならない」ことを明確化。農協法上の中央会制度は廃止し、JAに公認会計士監査を導入する。国会審議は統一地方選後の5月以降、本格化する見通し。改革の目的とした農業所得の増大につながるのか、監査制度をはじめJAに混乱をもたらさない仕組みにできるのかとの声もあり、国会審議では政府の丁寧な説明が求められそうだ。林芳正農相は同日の閣議後会見で「地域農協が農業者と力を合わせ、有利販売などに全力投球できるような環境を整備するのが目的だ」と述べ、農業の成長産業化につなげる考えを示した。改正案では2019年9月末までに全中は一般社団法人に、都道府県中央会は連合会にそれぞれ移行。JAの理事構成で例外を認めつつ原則、過半数を認定農業者や販売・経営のプロにすることや、全農の株式会社化を可能にする規定を盛り込んだ。一方、民主党は、准組合員を含めた地域社会を支える協同組合としての規定も置く必要があるなどとし政府案の修正を求める構え。維新の党も農協の株式会社化などを進める改革案を出している。中央会の組織変更に伴い、固定資産税などで課税が強化される恐れもある。政府は16年度の税制改正で対応を決める方針で、今後の議論に注視が必要だ。農業委員の公選制廃止など農業委員会法の改正案、農地を所有できる法人の要件緩和などを定める農地法の改正案もそれぞれ閣議決定した。 

<萬歳会長の辞任>
*2-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=32924
(日本農業新聞 2015/4/10) 萬歳会長が辞意 農協法改革案「区切り」に JA全中
 JA全中の萬歳章会長は9日、全中会長を辞任する考えを表明した。農協法改正案の閣議決定を節目に、今後のJAグループの自己改革や新しい全中づくりを新体制で進めるのが適切と判断した。8月の臨時総会で後任会長を決める運びだ。萬歳会長は同日の全中理事会で辞意を表明し、その後の定例会見で明らかにした。政府が農協法改正案を3日に閣議決定したことが退任を決断する「一つの区切り」になったと説明。「自己改革を実践していくため、新会長の下で流れをつくってほしい。前向きな姿勢で結論を出した」と述べた。任期は2017年8月まで残していた。萬歳会長は「一切相談はしていない」と、自らの判断で辞任を決めたことを強調。「この立場(全中会長)になった段階から、いろいろな区切りの中で決断することもあり得ると思っていた」と語った。農協改革や米政策の見直しなどの課題に対応するためにも「力を合わせることが原点だ」と組合員に結集を呼び掛けた。新会長の選出手続きは、5月の全中理事会で正式に決める。萬歳会長はJA新潟みらい会長やJA新潟中央会会長などを務め、11年8月に第13代の全中会長に就任。東日本大震災からの復興を最優先課題に挙げつつ、環太平洋連携協定(TPP)交渉や米の生産調整の見直しなど、農政課題に当たってきた。農協改革の議論が活発化する中で14年8月に会長に再任、JAグループの「自己改革」を取りまとめ、政府・与党との折衝に臨み、今年2月には全中の一般社団化など「経験したことのない組織の大転換」(萬歳会長)が求められる農協改革の骨子に合意した。会見では冨士重夫専務も健康上の理由で退任することを明らかにした。「激動の時代だったが、さまざまな方々に支えられた」と述べた。後任の学経理事候補にJA改革対策部の金井健総括部長を選んだことも報告。新たな執行部体制は5月の臨時総会、理事会で決める。
[解説] 自己改革 実践へ結束を 
 萬歳章会長は辞意の理由を記者から問われ、新たな体制でJA改革の実践に臨むためとの考えを強調、政府・与党による農協改革の結果を受けた引責辞任ではないと説明した。突然の表明はJA関係者を驚かせたが、農業所得増大や地域活性化という命題のため、JAグループは結束して自己改革に臨まなければならない。萬歳会長は、中央会が新たな組織に移行するに当たり、全中を新しい執行体制にすべきだと判断したという。当然のことながら後任の会長は、単位JAのための改革を着実に進める責務を負う。農政改革やTPP交渉といった課題も残っており、停滞は許されない。JAグループは、組合員や地域のための組織であり、その役割を発揮し続けることが重要だ。今年10月には3年に1度のJA全国大会を控え、議案づくりも本格化している。そのために揺らぐことなく、自らの改革に取り組まねばならない。

*2-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=32934
(日本農業新聞 2015/4/10) 全中会長辞意 組織結集し難局に臨め
 JA全中の萬歳章会長が辞意を表明した。農協法改正案が閣議決定され、法案審議に付されることを区切りとした。JAグループは課題山積の渦中にある。農業所得の増大と地域活性化に向けた自己改革に遅滞は許されない。既に10月のJA全国大会に向けた議案作りが始まっている。組合員の負託に応えるため、全中は執行体制を強固なものにし、組織一丸となって難局に臨むべきだ。9日の記者会見で萬歳会長は「組合員のため、新しい中央会の在り方を、新会長の下でつくってほしい」と述べ、後任の会長に自己改革の実現を託した。8月の臨時総会での交代で、任期を2年残しての退任となる。農業、農協の大変革期に、萬歳会長は常に組合員視点で難しいかじ取りをしてきただけに、その労を多としたい。だが、農協法改正の国会審議、大詰めを迎える環太平洋連携協定(TPP)交渉など、組織内外の課題は待ったなしだ。全中専務の5月退任も重なっているだけに、遅滞のない円滑な業務執行を求めたい。何より、緊張感とスピード感を持って、自己改革の実現に取り組んでいかなければならない。萬歳会長は7日に安倍晋三首相と会談した際、政府が改革の柱に掲げる農業所得の増大と地域の活性化を挙げ、これらの実現に向けて「自己改革を精いっぱい、組合員のために進めたい」と決意を示した。安倍首相も「目的は同じだ」と応じたが、問題はその実効性だ。農協法改正案の本格的な国会審議は統一地方選挙後になる見込みだ。組合員の所得向上、地域農業の活性化や地域振興につながる建設的な議論を求めたい。JA監査の公認会計士監査への変更、全中と都道府県中央会の新組織移行など組織改編を通じて、こうした目的が達成できるのかを注視したい。法改正論議と並行して、JAグループの自己改革の取り組みを加速させなければならない。萬歳会長は、次期執行部にも自己改革に果敢に挑戦するよう求めたが、まさにその実践こそが農協の将来を左右することになるだろう。農協改革をめぐっては急進的な改革論が、組合員やJAに混乱や不安を招いた。萬歳会長は、現場の実態を踏まえていない議論に対し、協同組合への理解不足を指摘してきた。JAグループの広報活動が足りなかった反省点もある。グローバル化が進む中で、協同組合セクターはますます重要となってくる。新たな中央会にはその役割と責任を果たしてもらいたい。JAグループが掲げる「食と農を基軸として地域に根差した協同組合」をどう実現していくか。総合事業を展開するJAは組織浮沈の正念場を迎える。全中の果たす役割、使命も重い。萬歳会長が、繰り返し訴えた組合員のための自己改革を組織一丸となって遂行していかなければ未来は開けない。

*2-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150410&ng=DGKKASGH09H2B_Z00C15A4EA2000 (日経新聞 2015.4.10) 「圧力団体」農協の終焉
 農協の幹部にとっても寝耳に水の辞任劇だった。東京・大手町のJAビル37階で9日午前、全中の理事会が開かれた。議題は環太平洋経済連携協定(TPP)や米価問題など。司会は万歳会長だ。開始から1時間余り。議題がつきたところで、万歳氏が突然立ち上がった。「農協法の改正案が閣議決定されたことを区切りに辞任します」。「いま辞任って言わなかったか」。会場が騒然とするなか、万歳氏は無言で部屋を後にした。区切りがついた――。この言葉は、たんに農協法の改正にとどまらない重い意味を持つ。戦後から最近までずっと続いてきた農業と農政の終焉(しゅうえん)だ。全中の行動原理の根っこにあるのが「日本は食料難で、規模の小さい農家がたくさんいる」という終戦直後の農業構造だ。食料供給を錦の御旗に掲げ、組合員の数の力をバックに政治に圧力をかけてきた。旧食糧管理制度時代は財政資金で農家を守るための米価闘争、最近ではTPPへの反対運動がその象徴だ。現実の農業はすでに大きく変質した。日本はまだ食べられるのに捨てられる食品ロスが年に数百万トン出る飽食の国になり、輸入農産物の増加も重なって食品価格が低迷。経営環境の悪化を受け、意欲のある農家は規模を拡大し、法人化して農協から離れていった。これに対応し、農政も「小さくて弱い農家」の保護からの脱皮を模索した。自民党が政権に復帰した後はその流れに拍車がかかった。将来性のある農家に田畑を集める農地バンクを創設し、コメの生産調整(減反)の廃止を決めるなどの手を打った。だが全中は行動パターンを変えられず、社団法人化という形で弱体化に追い込まれた。全中に存在意義がないわけではない。補助金を中心に農業制度は複雑で、変革期にあって今後も様々な見直しが予想される。それをきちんと理解し、約700の地域農協に伝えるなど果たすべき役割は十分にある。古い圧力団体の体質を改め、真に農業に貢献できる組織になれるか。周囲の見方を変えるには全中自らの変革力が問われる。

<TPPについて>
*3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=31867
(日本農業新聞 2015/1/31) TPP交渉 何だったのか国会決議
 「国会決議は何だったのか」「聖域を守るのは国民との約束だ」――。政府が環太平洋連携協定(TPP)交渉の日米協議で、ミニマムアクセス(最低輸入機会=MA)の枠外で米国産主食用米の特別輸入枠の新設を検討していることに対し、米価下落に苦しむ米産地からは怒りの声が続出した。さらに米国は牛肉関税の大幅引き下げも要求してきており、国会決議で「聖域」とした米や牛肉を守りきれるのか、現場の不安は募っている。
●米 輸入拡大許されない
 「聖域を守るという、国民との約束ではなかったのか。ばかにされている気持ち。政府にはがっかりだ」と憤るのは、栃木県那珂川町で水稲や稲発酵粗飼料用稲(WCS)など12ヘクタールを経営する古橋晃一さん(46)。2014年産米の価格下落で販売収入は、前年の6割ほどに落ち込んだ。再生産価格を大幅に下回り「生活すら厳しい」。米国のごり押しで輸入米が増えれば「一層の価格下落は間違いない。輸入拡大は許されない」。佐賀県白石町で水稲7ヘクタールを手掛ける田中秀範さん(65)も「妥協は約束違反だ」と怒り心頭だ。国会決議や公約に反するだけでなく、地方創生にも逆行するとして「統一地方選や参院選で反発が出ることになる」とくぎを刺す。輸入拡大の影響は大規模農家ほど大きい。北海道栗山町で水稲105ヘクタールを経営する農業法人・(有)粒里(つぶり)の大西勝博代表(61)は「国が本当に農業を守ろうとしているのか」と問う。低米価に加え円安による資材高も追い打ちをかけ、今でさえ経営は厳しい。「主食用米の輸入枠が拡大されれば、14年産米の価格さえ維持するのは危うい。営農継続はできなくなる」と主張する。岩手県花巻市で、米や小麦などを33ヘクタールで栽培する集落営農組織・鳥喰生産協業組合長の大和章利さん(66)も同様だ。14年産は資材代を払えるか心配になるほど低米価に苦しんだ。政府の農業改革に沿って農地集約や低コスト化などの強い農業づくりを進めても「経営は立ちゆかない」。国会決議の順守を強く求める。ブランド米産地にも激震が走った。新潟県魚沼市のJA北魚沼水稲部会部会長の佐藤清二さん(79)は「どこにこの怒りをぶつけていいのか分からないが、政府の対応はでたらめだ」と怒り心頭だ。生産調整で飼料用米生産を推進しつつも、米国産米の輸入を拡大するのは「明らかに矛盾している」と指摘する。島根県大田市で1集落1農場を実践する農事組合法人百姓天国の事務局長、三島賢三さん(63)は「次世代に稲作を引き継がなくてはいけない大事なときに、なぜ輸入米を増やすのか。所得倍増の政策とは相反する」と政府の姿勢に疑問を投げ掛ける。
●牛肉 米国に市場奪われる
 米国が牛肉関税の大幅引き下げを求めているという一報は、肉牛産地に衝撃をもたらした。「十勝若牛」として乳雄の肉を出荷する北海道清水町の吉田哲郎さん(37)は「JAと協力して切り開いた市場が、安い米国産に奪われかねない」と懸念。赤身肉のおいしさをアピールし、肉質を上げて対抗するしかないが「飼料などコストが上がる中、簡単なことじゃない。このままでは負けてしまう」と不安がる。宮崎県小林市で黒毛和種350頭を肥育する平野文宏さん(41)は「消費者が安価な米国産に走るのではないか」と不安視。現状では国産和牛は輸入牛肉と競合しないと考えるが「輸入拡大に伴い、国産和牛の値まで下がらないか、心配だ」と漏らす。

<食料自給率と食料自給力の違い>
*4-1:http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150223/k10015654951000.html
(NHK 2015年2月23日) 「食料自給力」を新たな指標に
 農林水産省は、来月をめどに閣議決定される今後10年の農業政策の方針を示す「基本計画」に、今ある農地などをすべて活用したときの潜在的な生産能力を示す「食料自給力」を新たな指標として設ける方針です。農林水産省は、今後10年の農業政策の方針を示す「食料・農業・農村基本計画」の策定を進めていて、来月をめどに閣議決定したいとしています。新たに示す基本計画には、今ある農地などをすべて活用したときの潜在的な生産能力を、「食料自給力」という新たな指標として設ける方針です。食料自給力は、食料の生産の割合を、栄養バランスを考慮した場合やいも類を中心に作付けした場合など4つのパターンに分けたうえで、それらの食料が最大限生産された場合の数値をカロリーに換算し、それぞれ毎年公表することにしています。農林水産省はこれまで、現状の国産の割合を「食料自給率」として毎年公表していますが、目標を下回る状況が続いています。このため、新年度から食料自給力も合わせて公表することで、食料の安定供給の確保に向けた国民的な議論を深めたいとしています。

*4-2:http://qbiz.jp/article/55884/1/
(西日本新聞 2015年2月13日) 食料自給力の新指標策定へ 農政の長期指針に明記
 農林水産省は13日、新たな農政を検討する審議会の会合を開き、今後10年の長期指針である「食料・農業・農村基本計画」の見直しに向けた骨子案を示した。世界的な食料不足などの緊急事態に対応できるようにするため、国内農業の潜在的な生産能力を示す指標「食料自給力」を新たにつくる方針を明記した。食料安全保障の議論で供給力の目安として新指標を活用する方針。その試算次第では、生産能力を維持するために必要な農地の確保策なども検討課題になりそうだ。2月下旬にも開く次回会合で新計画の原案を議論。政府は審議会の答申を受けて現行計画を5年ぶりに改定し、3月中に閣議決定する予定だ。食料自給力は、国内の農地面積や農業従事者数、農業技術に着目し、これらを最大限使った場合、どれくらいの生産能力があるかを表す指標。新計画では複数の指標を提示する見通しだ。骨子案では、国内で消費する食料を国内産でどの程度賄えているかを示す「食料自給率」に関しても2025年度に向けた目標を設定するとした。現行計画は20年度のカロリーベースの自給率目標を50%と設定したが、13年度で39%と目標との隔たりが大きい点を考慮し、今回は実現可能な目標を設定する方針だ。課題である農業再生に向けては、農地をまとめて意欲的な農家に貸し出す農地中間管理機構を活用し、担い手農家への農地集積を進める。海外需要を取り込むため、農林水産物・食品の輸出を拡大し、農業所得の増大を後押しする。新規就農や企業の参入も推進、農業を活性化していく。このほか、政府が今国会に農協改革の関連法案を提出することに歩調を合わせる形で、農協など農業団体の事業や組織見直しを進めるとした。

*4-3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=32207(日本農業新聞2015/2/24)人口減少・高齢化時代の基本計画 市場縮小へ対応が鍵 「自給力」指標を新設
 新たな食料・農業・農村基本計画の3月の決定に向け、議論が大詰めを迎えている。日本の人口が減少局面に入って策定される基本計画となり、生産基盤の弱体化、国内市場の縮小、農村集落の低下という重要課題にどう対応するかが大きな焦点になる。また、食料の潜在的な生産能力を示す「食料自給力」の指標も今回、新設する。基本計画は今後10年の中長期的な農政の方向性を位置付けるものだけに、慎重な議論が求められる。基本計画は5年に1度見直す。食料・農業・農村政策審議会企画部会で議論が続き、3月中に取りまとめる。民主党政権下で策定した現行計画から自公政権に移り、新たな基本計画では米政策改革の実施や担い手への農地集積をはじめとする農政改革を柱に位置付けた。次回の企画部会で原案が示される予定だ。
●担い手集積へ農地バンク
 人口減少と高齢化により担い手不足が深刻化する中、生産基盤の立て直しが急務になっている。このため、新規就農者の確保を進める。法人化を進め、就農だけでなく法人への就職というルートも重視する。ただ、担い手の育成は現実的には簡単でない。今回、構造展望では確保すべき担い手の人数以上に、担い手が農地をカバーしていく割合を高めていくことを重視する方針だ。今年度から動きだした農地中間管理機構(農地集積バンク)は、その大きな手段となる。バンクをフル活用し、担い手への農地集積割合を現状の6割から、今後10年間に8割に高める目標を設定した。農地集積を通じて農作業を効率化し、生産コストも削減していく。政府目標で担い手の米生産費は、現状の全国平均から4割減水準を10年後に実現すると掲げた。こうした取り組みで農家所得の倍増目標にも近づけていく。
●地域の維持に「基幹集落」
 農村では、人口減少・高齢化が都市に先駆けて進み、単独で農地や農業用施設などの資源の維持が困難になってきている。農村の振興には、いかに地域コミュニティーを維持し、農村の資源を守っていくのかが大きな鍵を握る。そこで同省が基本計画に盛り込む柱は大きく二つ。一つが地域コミュニティーを維持ししていくための「集落間のネットワーク化」だ。これは小学校区程度の範囲で、複数集落の中から「基幹集落」を定め、そこに農産物の出荷拠点や加工所などを整備する構想。この基幹集落に周辺集落の農家は通い、農産物を出荷したり6次産業化に取り組んだりする。15年度予算に必要額を計上し、事業に乗り出している。もう一つの柱が、農地や農業用施設といった農村の資源を守るための共同活動を支援する、多面的機能支払制度の着実な推進だ。担い手への農地集積を加速する半面、担い手の負荷も重くなるため、地域で担い手を支えていく重要性も増している。同制度は既に法案化されたが、基本計画の柱に位置付けることによって、予算的にもより安定的に制度運用ができる環境を整える狙いもある。
●需要の創出で輸出に活路
 日本全体の人口減少は、農産物を買ってくれる消費者が減少することも意味する。このため新たな需要の開拓も基本計画の大きな課題だ。経済成長が著しい新興国などへの農林水産物・食品の輸出促進に今まで以上に力を入れる。政府は現在の輸出額6000億円を2020年までに1兆円に増やす目標を掲げており、品目別の輸出拡大戦略を点検しながら達成を目指す。また、6次化による付加価値向上も進める。こうした取り組みで、新しい需要を生み出し、農家の所得向上にもつなげていく考えだ。国内需要の減少は、農政改革の柱である米政策改革の理由にもなった。主食用米の消費が減少する一方、生産が頭打ちの麦・大豆だけでは転作をこなしていくことが難しいと予想され、水田維持のために飼料用米の推進を打ち出した。基本計画には、飼料米、米粉用米、麦、大豆などの転作作物について、水田活用の直接支払交付金などを通じて生産努力目標の「確実な達成」を目指すことを盛り込む方向。財政当局が飼料用米の支援単価を引き下げたい意向を示したことから、基本計画に位置付けることで安定的な財政支援を確実にしたい狙いだ。
●生産基盤強化待ったなし
 新たな基本計画では「食料自給力」を初めて指標化する。「自給力」は、(1)農地・農業用水などの農業資源(2)農業技術(3)農業就業者――の3要素から構成されることから、国内生産基盤そのもののと言っていい。ただ、それぞれの要素とも弱体化が心配されている。農地面積は1960年に607万ヘクタールあったが、2013年には454万ヘクタールとなり25%も減った。荒廃農地も27万ヘクタール(12年)に達している。農業技術を示す生産性は、品目別の10アール当たり収量、畜種別の1頭当たり生産量とも増加傾向が頭打ち状態にある。そして農業者は、219万人のうち65歳以上の高齢者の割合は58%と過半を超え、10年後にはさらに労働力不足が顕在化しそうだ。生産基盤の立て直しは待ったなしで、今回「自給力」に焦点を当てたことは、生産者団体も賛同している。ただ、指標化に向けた議論に入ると、疑問が出始めた。農水省が「生産転換に要する期間は考慮しない」「生産に必要な労働力は確保されている」といった非現実的な前提条件を置くとし、何のための指標なのか分からなくなってきている。生産者団体からは「実際に作物を生産し、食料自給率を高めていくことの軽視につながらないか」との疑念も聞かれる。


PS(2015.4.14追加): *5のように、飼料用米増産を呼び掛けるために農水省幹部が単位JAの組合長を直接訪ねて意見交換するのは誤りだ。その理由は、飼料米への転作は、すでに水田や稲作機械を所有している農家に転作を促すためのものであり、Bestの転作ではないからだ。Bestの転作は、人間の食料向けには、本当に必要であるにもかかわらず足りていない大豆や小麦等への転作であり、家畜飼料の自給率向上が目的であれば、飼料としてBestな作物への転作である。つまり、飼料用米への転作は、それしかできない地域向けのSecond Bestの転作にすぎないため、どこにでもそれを押し付けるべく補助金をつけるのはよくないわけである。

*5:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=32983
(日本農業新聞 2015/4/14) 飼料米増産へ地方行脚 組合長ら直接訪問 農水省の部課長
 農水省は、飼料用米増産を呼び掛けようと、本省幹部が単位JAの組合長を直接訪ねて意見交換する異例の地方行脚を始めた。産地ごとに飼料用米を作った場合の所得試算を示し、メリットを分かりやすく伝える。6月末までの約3カ月間、米の主産地を重点的に回り、飼料用米の本作化に弾みを付けたい考えだ。2015年産の米価下落の懸念が強まる中、JAグループは主食用米の需給安定の切り札と位置付ける飼料用米を前年比3倍超の60万トンに増やす方針。10年後に10倍に増やす目標を掲げる政府にとって目標達成の成否を占う重要な年となる。同省が展開する地方行脚は「飼料用米推進キャラバン」。米を担当する同省農産部の部課長らが4班を編成、米の主産地や主食用米の過剰作付けが多い産地を中心に回る。より生産者に近いJA組合長から課題を吸い上げるとともに、飼料用米栽培のメリットを直接伝え、円滑な増産につなげる。キャラバンでは、地域ごとに複数JAの組合長に集まってもらい、約2時間意見交換する。14年産で主食用米と飼料用米をそれぞれ作った場合の所得試算を産地ごとに用意して説明。飼料用米の手厚い助成が長続きしないという生産現場の不安解消のため、その生産拡大が閣議決定され、政府全体の方針に格上げされたことも伝える。キャラバンは先週末の青森県を皮切りに始めた。現時点で意見交換を計画するのは17道県の約80JAに上り、さらに増える見通しだ。生産者が作付けを確定する「営農計画書」を国に提出する6月末まで続ける。飼料用米本作化に向けて同省は「とにかく足で稼ぐしかない。ぎりぎりまで徹底してやる」(穀物課)と意気込む。

| 農林漁業::2014.8~2015.10 | 11:48 AM | comments (x) | trackback (x) |
2015.3.3 大塚家具のお家騒動をプラスに解決する方法
   
                        大塚家具の製品

(1)大塚家具創業者一族の経営方針の違いと父娘の大げんか
 *1-1、*1-2のように、家具インテリア大手の大塚家具の創業者、大塚勝久会長(71)と社長の久美子氏が、販売手法をめぐって父娘で対立し、互いに相手に退陣要求していることが、メディアで報道された。親の後を継いだ子が経営方針の違いで親と喧嘩するケースはよくあるが、株主を巻き込み、メディアで報道される大規模なものは初めて見た。

 なお、*1-3では、創業者会長の大塚勝久氏が、「騒動が大きくなれば企業価値が毀損し、会社の存続にかかわる」としたそうだが、実際には、*2のように「株主総会に向けて委任状争奪戦が続いているため、双方の大株主が株式を買い増すのではないかという思惑と、配当利回りに着目した個人などの買いが入って、大塚家具の株価は市場で大幅続伸した」とのことで、私は、メディアで報道された久美子氏自身の話も大きな影響を与えたと考えている。

 大塚勝久氏は、長男で取締役の勝之氏(45)らとともに東京都内で会見に臨み、「(久美子氏が勝久氏らを外す)取締役の選任議案を独断的にまとめた」「悪い子どもを持った」と述べ、同席したほかの幹部も、「(久美子氏は前回社長を務めた2009年からの5年間)業績を残せなかった」と指摘し、勝久氏らは、さらに一族の資産管理会社の株式について久美子氏が虚偽の名義移転をしていたとして、株を返すよう求める民事訴訟を東京地裁に起こしたそうだ。

 大塚勝久氏と久美子氏の対立の理由は、*1-3、*1-4によれば、販売手法をめぐるもので、勝久氏が来店客を会員にして従業員が付き添ってまとめ買いを促す手法を主張しているのに対し、久美子氏は「消費者の購買スタイルは単品買いに変わり、受け付けや接客に客が抵抗を感じているため勝久氏が続けてきた『会員制』などの営業手法を見直す」としている。

(2)これは組織再編(会社分割)でうまく解決する事例だ
 私は、創業者である大塚勝久氏が、これまで会員制で従業員が付き添い、まとめ買いを促す手法で成功したのは、結婚や新築で家具をまとめ買いする需要が多く、高度成長期で資金にもゆとりがあったからであろうと考える。しかし、少子化と低成長経済で少なくなったとはいえ、現在でもそういう需要はあるため、その売り方をなくす必要はないだろう。

 また、久美子氏の「消費者の購買スタイルは単品買いに変わり、受け付けや接客に客が抵抗を感じている」というのも、現在は消費者が多様で、自分のセンスを信じて安くて良いものを比較して買う人も増えたということであり、勝久氏と久美子氏のやり方は、相手にする消費者や購買局面が異なるだけで、デパート、スーパー、インターネット通販の存在が両立するのと同様、両立するものだ。そのため、それぞれを別会社にして、販売する品にあった会社名をつけ、立地場所によって適した店舗を分け、従業員もそれぞれの売り方に適した人を分けて、シナジー効果を出しながらやった方がよいと考える。

 これは、NTTが、本体に固定電話部門を残し、携帯電話部門とインターネット部門を子会社にして外に出したのと同じ組織再編で、現在、私たちは、固定電話、携帯電話、インターネットのいずれも使っているが、NTTグループの事業利益は携帯電話部門が一番上がっていると聞いている。

(3)家具と日本産木材について
 大塚家具のHPを見ると、*3-1のように、大塚家具は、材料として主にシベリア産のタモを使用しているとのことだが、現在、日本は戦後植林した木が伐採期を迎え、政府を先頭にして間伐も進めており、日本産木材を比較的安価に使うことが可能になっている。

 また、林業を再生させるために、日本産木材を使うことが奨励されており、*3-2の大分県日田市の事例や、*3-3の福岡県産材を使った大川家具などは、そのよい事例だ。そして、今後は、他の地域も同様の取り組みを始めると思われるため、ヨーロッパやアジアへの輸出も視野に、どこに輸出しても通用する家具の新製品を開発して販売する子会社も作ればよいと考える。

<父娘の経営方針の違いと大規模なけんか>
*1-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11600791.html
(朝日新聞 2015年2月14日) 大塚家具会長、取締役退任へ
 家具インテリア大手の大塚家具の創業者、大塚勝久会長(71)が3月に開催予定の株主総会で取締役を退くことが分かった。勝久氏は、長女の久美子氏(46)が社長を解任された昨年7月から社長を兼務したが、久美子氏は今年1月に社長に復帰していた。大塚家具が13日公表した取締役の候補者に、勝久会長の名前がなかった。候補者は取締役会の過半数の賛成で決めたが、勝久氏を含む複数の取締役は賛成しなかったという。広報担当者は「勝久氏と久美子氏に経営方針の違いがあった」と述べた。勝久氏は1969年に実質的な前身である大塚家具センターを設けた。

*1-2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11607014.html
(朝日新聞 2015年2月18日) 大塚家具、お家騒動再び 会長、長女を社長から外す提案
 家具インテリア大手の大塚家具の創業者、大塚勝久会長(71)が、3月開催予定の株主総会に自らを取締役候補とする株主提案をしたことがわかった。長女で現社長の久美子氏(46)を候補者から外し、会社の提案と真っ向から対立している。勝久氏が提案した取締役の候補者には長男の勝之取締役(45)の名前もある。大塚家具は「経営を再び混乱させる」として17日に反対意見を発表した。勝久氏は創業以来、来店客に名前や住所を登録してもらって接客する「会員制」を販売手法の中心にすえてきた。業績不振を受けて、これを変えようとした久美子氏と勝久氏が対立。社長だった久美子氏は昨年7月に解任されたが、今年1月に復帰している。勝久氏は昨年6月末時点で株式の約18%を握り、株主総会で委任状争奪戦になる可能性もありそうだ。

*1-3:http://digital.asahi.com/articles/ASH2T7QZVH2TULFA031.html
(朝日新聞 2015年2月26日) 大塚家具、販売手法めぐり父娘が対立 互いに退陣要求
 創業者会長と長女の社長が対立する家具インテリア大手の大塚家具で、大塚勝久会長(71)が25日夜に記者会見し、勝久氏の退任を求める久美子社長(47)に対し、「騒動が大きくなれば企業価値が毀損(きそん)し、会社の存続にかかわる」と辞任を要求した。3月27日の株主総会に向けて、株主の委任状争奪戦に乗り出す方針だ。勝久氏は、長男で取締役の勝之氏(45)らとともに東京都内で会見に臨んだ。株主総会にあたり、「(久美子氏が勝久氏らを外す)取締役の選任議案を独断的にまとめた」と批判した。「悪い子どもを持った」とも述べた。同席したほかの幹部も、久美子氏が前回社長を務めた2009年からの5年間について「業績を残せなかった」と指摘した。父娘の対立は、消費増税後の需要低迷などで業績が悪化していた2014年7月、会長の勝久氏らが社長の久美子氏を解任し、勝久氏が社長を兼務したことで表面化した。その後、久美子氏は1月28日の取締役会で社長に復帰し、勝久氏は社長の兼務を解かれた。この時の舞台裏について、同席した幹部は25日の会見で「社長の兼務を解く議案が出され、取締役7人のうち4対3で可決された。突然のクーデターだった」と明かした。さらに勝久氏らは、一族の資産管理会社の株式について久美子氏が虚偽の名義移転をしていたとして、株を返すよう求める民事訴訟を25日に東京地裁に起こした。勝久氏と久美子氏は販売手法をめぐり対立。来店客を会員にし、従業員が付き添ってまとめ買いを促す勝久氏の手法に対して、久美子氏は「消費者の購買スタイルは単品買いに変わった」「受け付けや接客に客が抵抗を感じている」と批判する。途中で社長が久美子氏から勝久氏に代わった14年12月期決算が4年ぶりの営業赤字に転落したことで、対立に拍車がかかった。久美子氏側も、勝久氏を取締役から外す議案を株主総会に出す。両者の提案は株主総会にかけられ、委任状争奪戦に向けて両者とも大株主の説得に動くとみられている。有価証券報告書によると、筆頭株主の勝久氏の昨年6月末時点の株式保有比率は18%。米投資ファンドのブランデス・インベストメント・パートナーズも10%以上持つほか、保険会社などが大株主に名を連ねる。久美子氏は26日に記者会見を開く。
     ◇
 大塚家具 本社は東京都江東区。1969年に大塚家具センターとして埼玉県で創業した。店は東京や大阪、名古屋、福岡などに16店。2014年12月期の売上高は555億円、営業損益は4億円の赤字。従業員は1749人。ジャスダック上場。

*1-4:http://digital.asahi.com/articles/ASH2V46BHH2VULFA00H.html
(朝日新聞 2015年2月26日) 大塚家具の父娘対決、久美子社長が会見 「父が損失」
 創業者会長と長女の社長が対立する家具インテリア大手の大塚家具で、大塚久美子社長(47)は26日、対立が表面化後、初めての記者会見を開いた。「創業者から離れなければならない、ぎりぎりのタイミング」と述べて、勝久会長(71)の退任を改めて求めた。
●大塚家具、販売手法めぐり父娘が対立 互いに退陣要求
 途中で社長が久美子氏から勝久氏に代わった2014年12月期は、4年ぶりの営業赤字になった。赤字の責任は久美子氏にあると主張する勝久氏側に対し、久美子氏は会見で「(勝久氏が社長を兼ねた)下期に大きな損失を出した」と反論した。そのうえで久美子氏は、勝久氏が続けてきた「会員制」などの営業手法を見直し、17年12月期の営業利益を19億円まで伸ばす中期経営計画を説明。15年12月期の配当予想は、従来の40円から80円に引き上げた。3月27日に予定される株主総会に向けて両者は委任状争奪戦を展開する。敗れて退任に追い込まれるのは、どちらなのか。勝久氏は自身と妻千代子氏らの保有株20%強を確保したとみられる。一方の久美子氏は、妹の舞子氏が代表を務める大塚家の資産管理会社「ききょう企画」の持つ株式など約10%を押さえたもようだ。ただ、「ききょう企画」の保有株のうち約7%分は久美子氏が違法な手段で支配している、と勝久氏は主張。自身に返すよう求め、民事訴訟を東京地裁に25日付で起こした。久美子氏は経営者にふさわしくないと印象づけることで、委任状争奪戦で優位に立つ狙いもあるようだ。久美子氏は「事実認識に誤りがある」と反論している。大塚家具の大株主には米投資ファンド「ブランデス・インベストメント・パートナーズ」や日本生命保険、東京海上日動火災なども名を連ねており、こうした株主が、社長と会長のいずれの側につくのかも注目されている。勝久氏は26日夜、久美子氏が記者会見したことを踏まえ、「非常に残念。経営を安定化させるため決意を新たにした」とのコメントを発表。委任状争奪戦の勝利に意欲を示した。

<大塚家具の株価続伸>
*2:http://www.nikkei.com/article/DGXLASGD27H52_X20C15A2DTA000/
(日経新聞 2015/2/27) 大塚家具株、連日のストップ高 一時21%上昇
 27日の東京株式市場で大塚家具の株価が大幅続伸した。一時前日比300円(21%)高の1705円と、前日に続き制限値幅の上限(ストップ高)まで買われる場面があった。2015年12月期の年間配当を従来予想より40円多い80円(前期は40円)にすると25日の取引終了後に発表したことが引き続き手掛かりとなっている。大塚家具の経営を巡り、大塚久美子社長と実父で創業者の大塚勝久会長との対立が深まり、3月27日の株主総会に向けて委任状争奪戦が続いている。市場では「双方の大株主が株式を買い増すのではないかという思惑が買いを誘った」(松井証券の窪田朋一郎シニアマーケットアナリスト)との指摘も聞かれた。27日の終値は238円(17%)高の1643円だった。増配発表から2日間で49%上昇したが、予想配当利回りは約4.9%と比較的高く、配当利回りに着目した個人などの買いも入ったとみられている。

<家具と木材について>
*3-1:http://kagu.otsukac.co.jp/contents/ki_no_ohanashi_01_tamo.php
(木のお話 タモのお話) タモの特性・用途
 タモはとても柔軟性があり、歪みが生じにくい木材で曲げ加工に最も適しています。また、野球のバットにも使われるように頑丈さも持ち合わせています。このため多くの椅子やテーブル、キャビネットなどの家具に用いられます。見栄えが良いのに比較的値段が手ごろな点も人気の秘訣のようです。タモの生育地は日本の北海道や中国、樺太やシベリアなどの寒い地域です。大塚のタモは主にシベリア産の[タモアッシュ]と言う品種を使用しています。タモアッシュは乾燥性や加工性も良好で家具はもちろんスポーツ製品、建築造作など多方面にわたって利用されています。美しい木目はとても人気があり、珍重されている木材です。また、板目が高級木材の欅[けやき]と似ていることから日本人に好まれる木材の一つで、高級材と並ぶ美しさを持ち合わせているため、いつの時代も人気が衰えない木材なんです。

*3-2:http://qbiz.jp/article/56670/1/ (西日本新聞 2015年2月26日) 家具ポイント制導入や日田材拡販へ協議会 日田市の新年度事業案
 大分県日田市は2015年度一般会計当初予算案と「地方創生」関連事業を前倒して盛り込んだ14年度一般会計補正予算案を発表した。4月から実施予定の事業の中から、注目の取り組みを紹介する。
   ※    ※   
 基幹産業の林業を活性化させるため、市は3月策定予定の「新しい日田の森林・林業・木材産業振興ビジョン」に基づき、川上(山づくり)から川下(林業・木材産業の振興)まで一体的な施策を展開する。目玉の一つが、日田材の需要拡大を目指した木づかい促進事業(6365万円)だ。日田材を使った住宅の新築やリフォームに対し、条件を満たせば、日田材か日田家具と交換できるポイントをプレゼントする。これまでは日田材の支給だけだった。家具ポイント制の導入は初めて。交換できる家具を紹介したカタログを製作する予定だ。また同事業では「木の香る店舗を増やそう」(市林業振興課)と、店舗の内外装に木を使用するリフォームについても費用の一部を補助することにしているという。日田材ブランド化促進事業(106万円)も目玉だ。中小の製材業者などでつくる「日田材拡販協議会」を発足させ、大手のハウスメーカーなどに日田材を売り込むため、供給量を確保して共同販売できる仕組みづくりを検討してもらう。同事業では木工関係者らでつくる「ひた杉デザイン会議」も創設する。デザイナーやまちづくりに取り組む市民を交え、建築用材以外の活用策を考える。日田材のブランド化を目指し、早ければ今夏にもスタートさせたい考えだ。森林整備では、樹齢45年以上の樹木伐採を促すため、伐採後の植栽や下刈りにかかる費用の補助率を上げるなどして、山林所有者の負担軽減を図る森林整備総合対策事業(1億円)などを盛り込んだ。

*3-3:http://qbiz.jp/article/55713/1/
(西日本新聞 2015年2月12日) 福岡県産材家具の展示会を開催 12日から福岡市で
 福岡県産材を使った家具の展示会が12、13日、福岡市・天神のアクロス福岡である。県産材の利用拡大につなげようと、大川家具関連の組合でつくる大川インテリア振興センターと県が企画。デスクや書棚など約50点を展示するほか、12日には県産材を積極的に採用している栃木県鹿沼市の担当者が講演する。無料。午前10時〜午後5時(13日は午後4時まで)。同センター=0944(87)0035。

| 農林漁業::2014.8~2015.10 | 02:51 PM | comments (x) | trackback (x) |
2015.2.9 農協改革について (2015.2.10に追加あり)
     
    2014.1.4    2015.2.5   2015.2.5 2015.1.14   2014.11.7
    日経新聞     朝日新聞              農業新聞 

(1)農協改革の必要性は何か(私が考える最適解)
 日経新聞は、2015年1月4日、上の左図のようにピラミッド型に農協組織を表現し、①JA全中は3年後に任意団体に転換 ②JA全農は株式会社化 ③都道府県毎の地方中央会は原則5年で任意団体に転換 ④全国700の地域農協の競争促進 を行うべきだとしている。

 しかし、私は、この図から、金融部門の農林中金と保険部門のJA共済連は、他の事業と経理をごっちゃにしてはならないため、中央会の下にあってもよいが、それぞれを別会社にして監査法人の外部監査を受ける必要があると考える。一方、JA全農をどういう形態にするかは、JAが業務をやりやすく、組合員に最大の利益があがるようにすればよいのであり、JA自身が決めるべきことだ。また、協同組合は、組合員が出資者で一番上であるため、この図を逆にした逆三角形が正しい図であり、日経新聞は議論の出発点を誤っている。

 組織で情報が上下左右に正確に伝達され、迅速かつ的確な対応を可能にするためには、なるべくフラットで伝達経路が短い方がよく、適正規模というものもある。そのため、朝日新聞の2015年2月5日の香川県の役割分担事例と比較して考えれば、営農指導等の実業を行っているJA香川県とは別にJA香川中央会とJA全中があるが、JA全中の監査部を監査法人として独立させ、JA全中と各県中央会は合併して、ここに情報提供、経営指導、全国レベルの方針決定のすべてを任せるのがよいと考える。なお、監査は独立性を要するため、監査法人は法律上、経営指導を行うことはできない。その理由は、自分が経営指導したものに不適正意見は書けないため、監査の独立性を害するからである。また、業務についても、外部の人には不確実性が高く何とも言えない場合が多いため、監査法人は業務監査もできない。

 そのため、これまで監査機構で経営指導をしていた農協監査士の多くと公認会計士の何人かはJA中央会に残って内部監査部を作り、内部監査(業務監査を含む)と経営指導に従事することができるよう農協法で定めるのがよいと考える。何故なら、内部監査や業務監査をしっかり行っていれば、組織に規律を持たせる効果があるとともに、外部監査のコストを抑えることができ、多くの外資系企業や日本企業にも内部監査部門はあるからだ。

 また、*1-1、*1-2で、安倍首相が、「①このままでは農業が衰退するから抜本改革を断行する」「②地域農協を主役とし、創意工夫を生かして農業を 成長産業に変える」「③競争力ある農家を育てるには、中央会が持つ指導・監査権の廃止が不可欠」「④JA全中は脇役に徹していただきたい」とされていることについて、①は農業の衰退は製造業重視の国策によるところが大きく農協の責任ではない上、②は地域農協を主役にしさえすれば創意工夫ができるとは思えず、日本全国や国際競争という視野を持つためには③も当たらず、④は真中のグラフのように今までやりにくかったとする地域農協が殆どないことから見て言いがかりのように思われる。そして、全国に700近くある地域農協同士を競争させても国際競争に勝つことはできず、大切なのは地域の特性を活かし、近隣地域は協力し、情報を駆使して、コストダウンとブランド化を進める経営戦略を実行することなのである。

 *1-3に、日経新聞は佐賀県知事選の結果を受け参院自民党で農協改革への慎重論が相次いだと書いているが、農協の力を甘く見すぎているのは、その選挙力だけではなく実行力もである。何故なら、佐賀県の農協には、2005~2009年の私が衆議院議員だった期間、役に立つ最前線の情報を送り続けていたため、日本でも早くから農協のイニシアティブで大規模化によるコストダウンや転作、農産物のブランド化が行われていたからで、よい経営戦略を立てるには、質の良い情報の入手が重要なのだ。

 日本農業新聞は、*1-4のように、「全中の指導・監査権、准組合員制度などの抜本見直しは『農協解体』につながり断じて容認できない」としている。私は、監査については、前述の通り、中央会(全国+都道府県)に内部監査(業務監査を含む)を行う内部監査部を作って、その内部監査を農協法で規定すれば、内部統制がしっかりした組織の外部監査は費用を安くでき、よりよくなると考える。

 また、「①全中監査がJAの経営の自由度を奪っている実態はあるのか」「②公認会計士監査だとなぜ農業所得向上につながるのか」「③准組合員の利用制限は、むしろJA事業の総合力を弱め地域振興に逆行するのではないか」「④JA全農の株式会社化でどの共同経済行為が独占禁止法の違反になるか」のうち、①については、監査は利害関係者に必要な正確さを求めるものであり、大きな不正や過誤を行う自由は奪うが組織には必要なものであり、監査が経営の自由度を奪うという指摘は不適切である。また、②については、農林中金(金融)とJA共済連(保険)を別会社にして監査法人の外部監査を受けることにより、破綻して預金者や共済参加者に損害を与えるのを防ぐことができ、預金者の安心感が増せば預金量も増えるからである。さらに、事業部門である全農や地域農協も、一般監査法人の監査を受けることにより同業他社の管理方法に関する情報を得たり、製造業やサービス業の水準まで管理水準を上げたりすることも可能になる。しかし、③は顧客や組合員構成に国が口を出すのは、農協及び農業にとってマイナスでしかなく、④の独占禁止法違反なら電力会社の地域独占、郵便局の親書配達の独占、航空会社の寡占の方が重要であるにもかかわらず、全農にのみ言うのは変であり、根拠にも乏しい。

 そのため、*1-5の意見もあり、ここに長くは引用しないが、読んでおくべきだ。そして、農業者の所得増大、農業生産の拡大、地域活性化の3つの基本目標に向けて自主自立の協同組合として「農業と地域のために全力を尽くす」とするJAグループの11月6日の「JAグループの自己改革」は重視すべきだ。そのためにも、*1-6の合意は、上述のように対応するのがよいと考える。

 まだ、この文章をブログにアップしないうちに、日経新聞から*1-7の「農協改革 JA全中、受け入れ決定へ 社団法人に転換」という記事が入ったが、JA全中に内部監査(業務監査を含む)、経営指導を行う部門を作り、都道府県毎の地方中央会と合併するという提案に変更はない。このようにして、外部監査と内部監査・経営指導は分けるべきで、中央会は内部監査等の適正な費用を徴収してよいと考える。

    
    2015.2.7農業新聞             2015.2.7  2015.2.9  2015.2.6
                                  日経新聞        農業新聞
(2)農協改革、その他の論点
1)準組合員の制限は、私的組織に対する無用な口出しである
 *3-1のように、朝日新聞が「全国農業協同組合中央会が、農協への監査権を廃止する政府の農協改革案を受け入れる方向で最終調整に入り、准組合員を制限する改革案には反対する」としている。

 しかし、准組合員の制限に関することは、何かを譲るから認めるというような「条件闘争」にすべきものではなく、よそから口出しすべきものでもない。ただ、農林中央金庫や共済保険は、全中の支配下にあっても、組合員や準組合員など加入している人の資産保全のために、それぞれ別会社にして外部監査を受けるべきなのである。

 *3-2の日経新聞にも、「政府は全中が改革を拒んだ場合、農家でない准組合員が農協に大量加入している問題に切り込む姿勢を示していたが、全中も歩み寄ったことで、規制の導入は見送る」と書かれているが、このように関係のないことを交換条件にするなどというのは、人の一生をかけた営業努力をゲームの論理で遊びのように考えており、幼稚すぎて話にならない上、とうてい許されるものではない。

2)全農の株式会社化も自己判断でよい
 *4のように、自民党は1月23日、全国農業協同組合連合会(JA全農)の株式会社化を現時点では見送る方針を表明したそうだが、どういう組織形態で事業を行うかは、政治的に決めるべきではなく、組合員にとって最も使いやすいようにすべきである。そして、経済界との連携は、取引したい企業が全農や目的の農家に取引条件を示してアクセスすればよいのであり、全農の営業形態は全農に任せるべきだ。

 なお、「農業に詳しい人でなければ(監査は)難しいのではないか」という指摘については、日本以外(アメリカ、オーストラリア、ヨーロッパ、その他)では、農業に関する国際会計基準を使っており、通常の監査法人と公認会計士が農業主体の監査を行っていることを付け加えておく。

3)農地に関する権限移譲について
 *5-1、*5-3のように、地方団体が農地転用権限を市町村に移譲するよう求めているが、地方に権限を移譲すれば、どの地域も製造業の誘致や宅地開発を行いたがり、日本全体としては必要以上に転用されて、その結果、必要な農地の確保にも支障が出ると、私も考える。

 また、*5-2の企業の農地取得についても、2009年の農地法改正で、リース方式による農地集積を加速させていくと明確にしているため、私はリース方式で十分だと考える。何故なら、西鉄が悪いわけではないが、一例として、*5-4のように、営農されずに耕作放棄地になれば、結局は不可逆的に市街地や住宅地が広がるからである。しかし、我が国では、人口減、空き家、食料自給率の低さが問題なのだ。

(3)農産品の輸出入とTPPについて
 アベノミクスの第3の矢は、これから需要が伸びるフロンティアの領域で生産を増やすことである。その点、農林漁業は、①これまで製造業ほどには生産性を上げていなかったこと ②世界では人口増で日本の農産物の輸出可能性は大であること ③技術が進歩したこと などから、有力な第3の矢であり、現在の制度でも製造業よりも輸出が伸びているのだ。そのため、*6-1のように、農林水産物や食品の輸出促進などの施策を行うのは有益だが、*6-2のように、日本で余っている米をTPPでアメリカから輸入拡大して備蓄にまわすなど、気配りのない稚拙な外交の尻拭いとして無駄遣いするにもほどがある。

 つまり、アベノミクスの第3の矢である農林水産物の輸出は、TPPの変な妥協でこれまでの努力を台無しにされ、農協や農家の自助努力も政争の具にされ踏みにじられた感があり、情けない限りなのである。

<農協改革の必要性はあるのか>
*1-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11555227.html
(朝日新聞 2015年1月17日) 首相「全中は脇役に」 全中「組合員は支持」 農協改革めぐり応酬
 安倍晋三首相は16日、成長戦略の目玉に据える農協改革について「このままでは農業が衰退する。抜本改革を断行していく決意だ」と強い意欲を示した。政府の改革案に反対する全国農業協同組合中央会(全中)を名指しで批判。一方、全中側も簡単には引かない姿勢で両者に大きなあつれきが生じている。安倍首相は中東への外遊に出発する直前、羽田空港で「農業を成長産業に変えていく。中央会には脇役に徹していただきたい」と記者団に語った。政権はアベノミクス「第3の矢」として農業などの「岩盤規制」改革を掲げる。競争力のある農家を育てるには、中央会が持つ指導・監査権の廃止が不可欠と考え、26日召集の通常国会に改革関連法案を提出する方針だ。これに対し、全中の万歳章会長は15日の記者会見で「JA監査は農協を支える最も効果的な監査制度で、多くの組合員から支持されている」と主張。さらに「(政府の改革案で)どう農家の所得向上につながるのか説明がつかない」とも批判した。

*1-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=31664
(日本農業新聞 2015/1/17) 「抜本改革断行する」 与党、JAの慎重論けん制 首相
 安倍晋三首相は16日、農協改革について「抜本改革を断行する決意だ」とあらためて強調した。首相官邸主導の急進的な改革に反発する与党やJAグループをけん制する狙いとみられる。ただ、焦点となっているJA全中による監査廃止には問題点が多い。政府と与党による激しい綱引きになるのは避けられない。安倍首相はこの日、農協改革について「抜本改革を断行していく決意だ。地域の農協を主役とし、創意工夫を生かして農業を 成長産業に変えていくため 全力投球できるようにしていきたい」と強調。JA全中について「脇役に徹してもらいたい」とも語った。中東歴訪に先立ち、羽田空港で記者団の取材に語った。政府は農協法改正案を通常国会に提出する方針。官邸側は農協を岩盤規制の象徴とみなして抜本改革にこだわり、特に全中による単位農協の監査権限の廃止を強く迫っている。こうした方針に変わりがないことをあらためて強調した格好で、菅義偉官房長官も同日の会見で「まさに抜本的な改革を行っていく」と語った。西川公也農相も同日の会見で、与党やJAグループとの丁寧な協議を重ねる考えを示した一方で「監査法人、これが非常に望ましい形だ」と述べ、全中の監査権限を廃止し、公認会計士による監査を導入すべきとの考えをあらためて示した。農協改革をめぐっては自民党は来週からプロジェクトチームの会合を集中的に開き、農協法改正案の議論を本格化させる。安倍首相らの発言には与党内の慎重論を抑え込みたい思惑もありそうだが、与党側の反発は依然として強い。全中監査廃止には単協の経済的負担が増すなどの課題が多い上、なぜ廃止するのか目的がはっきりしない。政府は農政の大目標に農業所得向上を掲げるが、「全中監査の廃止がどう農業所得向上に結び付くのか見えない」(自民党農林議員)。これまで政府側から明快な説明はなく、この日も「地域農協が主役となって農業の成長産業化に全力投球できるように」(菅氏)などと抽象論にとどまり、今後の議論で大きな論点の一つになりそうだ。西川農相も、同日の会見で全中の監査権限廃止が農業の所得向上につながる理由を問われたが、明快な説明はなかった。

*1-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150116&ng=DGKKASFS15H5E_V10C15A1PP8000 (日経新聞2015.1.16)農協改革 参院自民に慎重論、統一選での票離れ危惧
 安倍晋三首相が進める農業協同組合(農協)改革を巡り、参院自民党を中心に慎重論が広がってきた。JAグループの推薦候補が与党推薦候補を破った先の佐賀県知事選を踏まえ、4月の統一地方選や来夏の参院選での農業票離れを危惧する声が出ている。自民党は20日から農協法改正案のとりまとめに向けた党内調整を本格化させるが先送り論も浮上している。
◆佐賀敗北「甘く見すぎ」 「しっかり問題意識を持って党の議論に加わらないと禍根を残す」。15日の参院自民党の有志会合では、農協改革への慎重論が相次いだ。「農協改革をやれば統一地方選はぼろ負けする」と、法案とりまとめの先送りを求める意見も出た。参院自民幹部は佐賀県知事選の敗北について「農協の力を甘く見すぎた」と述べ、農協改革を断行する官邸や党執行部の対応を批判した。JAグループは昨年12月の衆院選の公示前、候補者に「JAグループの自己改革案を尊重する」との誓約を求める踏み絵を迫った。党三役経験者の一人は「今後も同じような政治的手法を使ってくるかもしれない」と警戒する。公明党は「色々な声を謙虚に受け止め、今後の対応に生かすことが重要だ」(山口那津男代表)と、性急な改革には距離を置く。一方、官邸サイドは「佐賀県知事選の敗北は影響ない。改革は進める」(首相周辺)と強気だ。首相は26日召集の通常国会を「改革断行国会」と位置づけており、農協改革はその目玉。党内外の反対を受け、修正や先送りをすれば「改革後退」と受け取られかねない。
◆党幹部「必ず通常国会で」 首相に近い稲田朋美自民党政調会長は15日、都内での講演で「農協改革は反対論が多く、党内ではほとんど孤立無援だ」と改革の難しさを吐露しつつも「必ず通常国会で通していきたい」と意気込んだ。農家らに理解を深めてもらうため、稲田氏は17日に地元福井で農協改革の説明会を開く。改革に反対する全国農業協同組合中央会(JA全中)や県中央会を通さず、地域農協などと直接交渉してこの場を設けた。「地域農協の創意工夫を促し販売力を強める」という改革の利点を訴える。農協改革を巡る党内議論は、20日に開く党政調会の作業部会から本格化する。農林族が積極的にかかわる作業部会は2月中の取りまとめを目指し、連日開催する。政府は4月の統一地方選前に農協法改正案を通常国会に提出する方針だ。ただ自民党内には「農家の所得向上策とセットで改革すべきだ」と、予算対応を改革の見返りに求める意見や「改革の一部を参院選後に法案化しては」との声もある。

*1-4:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=31864
(日本農業新聞 2015/1/31) 農協改革攻防 解体招く法改正許すな
 農協改革の骨格づくりが週をまたぎ最終局面を迎える。論点はまだ多岐にわたり、政府は合理的な説明ができていない。全中の指導・監査権、准組合員制度などの抜本見直しは「農協解体」につながり断じて容認できない。当事者の理解と納得が得られない法改正に正当性はない。政府は結論ありきの態度を改め、JAグループの自己改革を踏まえ、事実と実態に基づき虚心に与党協議に臨むべきだ。農協改革をめぐっては政府の前のめりな姿勢が際立つ。安倍晋三首相自ら予算委員会で、農協法に位置付けられた中央会制度に疑問を示すなど、急進改革に意欲を見せる。2月12日の施政方針演説で、農協改革に切り込む政治姿勢をアピールするため、法改正作業を急いでいるとしかみえない。政府・与党は論点整理を基に、来週中にも決着を図る意向だとされるが、与党内、農業団体の反論を封じ込め、拙速に決めるなら国会、国民軽視と言わざるを得ない。熟議の民主主義と程遠く、農業現場のさらなる不信を招く。この間の与党協議、国会審議でも論点への疑問は解けていない。全中監査がJAの経営の自由度を奪っている実態はあるのか。公認会計士監査だとなぜ農業所得向上につながるのか。准組合員の利用制限は、むしろJA事業の総合力を弱め地域振興に逆行するのではないか。JA全農の株式会社化でどの共同経済行為が独占禁止法の違反になるのか、などだ。JA理事会構成など未消化な重要論点も多く、見切り発車は許されない。政府はこれらの疑問に明解に答えていない。いや根拠がなく答えられないのではないか。全中監査権や准組合員制度に議論を矮小(わいしょう)化するのは、JAグループの一体性を分断し、総合力を弱体化させることで政治的・経済的影響力をそぎ、アグリビジネスや外資による農業市場への一層の参入を促す狙いがあるのではないか。事実、政府の規制改革会議と歩調を合わせるかのように、在日米国商工会議所がJA改革の意見書を提出し、JA金融事業への金融庁規制の適用を求め、員外利用規制、准組合員制度、独禁法適用除外などの見直しを迫っている。安倍政権の成長戦略と規制改革は一体のものである。その典型が准組合員の事業利用制限で、事実上の「信用・共済事業分離」につながる。こうした文脈で農協改革を捉えれば、行き着くところは「農協解体」で、JAグループの金融、共済事業などをグローバル資本市場に差し出すことになるだろう。JAグループはいま、農業者の所得増大と豊かな地域社会づくりを掲げて、自己改革に取り組んでいる。総合事業の展開には、中央会の指導・監査など農協法上の位置付けが欠かせないことを実証し、理解を求める努力も必要だ。JAの特質、事業実態を踏まえ、自己改革に沿った法案づくりを求める。

*1-5:http://www.jacom.or.jp/proposal/proposal/2014/proposal141125-25884.php
【農業・農協改革、その狙いと背景】組合員目線から批判を 規制改革会議の改革論 増田佳昭・滋賀県立大学教授・「地方創生」を担う地域のための農協
  ・地域農業の困難増す「農業者だけの農協」
  ・決して甘くない自治監査
  ・組合員は喜ばない乱暴な改革明らか
 JAグループは11月6日、「JAグループの自己改革」を決定し公表した。農業者の所得増大、農業生産の拡大、地域の活性化の3つの基本目標に向けて自主自立の協同組合として「農業と地域のために全力を尽くす」改革を打ち出した。これに対して政府の規制改革会議は12日「意見」を公表、農協法から中央会規定を削除するなどの提起を行った。規制改革会議の意見はいまだ政府としての方針ではないがその問題点を徹底的に検証する必要がある。今回は滋賀県立大学の増田佳昭教授に緊急に問題点を執筆してもらった。増田教授は農業、農村の実態に生きる「組合員目線」からの検証が重要と説く。
<誰のためにもならない現実離れした形式論>
◆「地方創生」を担う地域のための農協
 11月6日、総合審議会の「中間とりまとめ」を受けて、全国農協中央会は「JAグループの自己改革について」を発表した。12日には規制改革会議が、「農業協同組合の見直しに関する意見」を発表、両者は中央会のあり方を中心に、「ガチで」ぶつかり合う様相だ。焦点は中央会問題に絞られているようにみえるが、農業協同組合のあり方に関する理念の対立は明確である。規制改革会議(いや農水省というべきか)は、農業協同組合を「農業者の組合」に純化する方向で大幅な制度の「刈り込み」を志向しているようだ。准組合員の利用率制限しかり、信用・共済事業分離しかりである。これに対して、JAグループの描く農協の姿は「食と農を基軸として地域に根ざした協同組合」であり、その姿勢は「農業と地域のために全力を尽くす」である。いま、存亡の危機にある「地域」のために、農業者、組合員とともに役に立つ存在になろうというわけである。この点では、客観的にみてもJAグループに理があると思う。高齢化と人口減少の本格化で、地方の経済、社会は息も絶え絶えである。政府でさえ「まち・ひと・しごと」、「だれもが安心して暮らすことができる地域づくり」を掲げて、「地方創生」に取り組まざるをえない今日である。これまで、農村地域に多様な組合員組織を重層的に持ち、ライフライン的店舗を構え、地域の福祉や文化、仕事づくりに実績を上げてきた農協から非農業分野を切り離してしまって、いったい誰が現場の「地方創生」を担うのだろうか。規制改革会議答申は「生協」や「社会医療法人」への移行をあげているが、いかにも官僚的形式論である。そもそも、農業はそれぞれの地域の社会や経済と密接な関係を持っている。だからこそ、1999年の食料・農業・農村基本法は、従来の「農業」の枠を拡大し、「農業者を含めた地域住民の生活の場で農業が営まれていることにより、農業の持続的な発展の基盤たる役割を果たしている」として、「農業の生産条件の整備、生活環境の整備その他の福祉の向上」という「農村振興」の課題を掲げたのである。そうした基本法の理念や方向に対して、いま進められようとしている農協法の農業純化志向がいかにずれていることか。
◆地域農業の困難増す「農業者だけの農協」
 それでは、農水省の考える農協の農業純化の先に、輝ける日本農業の姿が描けるのだろうか。正直に言えば、他国に比べても大幅に見劣りする現下の農業政策の下で明るい未来など描きようもない。「農業・農村所得倍増」、「輸出倍増」だのと威勢のいい言葉が並べ立てられるその下で、日々の農業経営の存立に必死に努力しているのが大多数の農業者の実情だ。農業協同組合のもともとの姿は、そうした農業経営が力を合わせて自らを防衛するためにつくったいわば自主的な「自衛組織」である。そんな自衛組織に対して、「しっかり儲けて利益を組合員に還元しなさい」などとお説教するのは、そもそも間違っているのである。ましてや、農業政策の責任を放棄し、農業がうまくいかないのは農業者と農協が努力しないからだとばかりに、責任を農協に押しつけるなど、為政者として恥を知るべきであろう。そもそも、農水省は農協の構成員を農業者に絞り込み、いったい何を農協にやらせようというのだろうか。そのような新しい農協に結集する農業者に助成を集中しようというのだろうか。あるいは「農業者の農協」に対して何らかの優遇措置を講じようというのだろうか。いや、昨今の農政を見れば、そんなことはとてもありえないだろう。 とすれば、農業純化した農協に対して、あとは勝手にやりなさいとばかりに、これまた「自助努力」を促すだけではないのか。何のことはない、農協法第1条の目的をたてに、農協組織と事業を「刈り込む」だけの形式論理の「改革」に終始するのではないか。農協の組合員を農業者に絞り込んだからといって、農業者組合員は喜ばないし、現在農協未利用の法人等が喜んで農協を利用するとも思えない。農業者組合員にとっては、准組合員利用制限と信共事業分離で専門農協化した経営基盤薄弱な農協経営を押しつけられることになり、営農指導事業の弱体化も明らかだ。そんな農協を組合員は望むのだろうか。現に農協を利用している農業者組合員が本当に求めているのは何か。それは、農業者組合員が抱えている営農上の課題にしっかりと応えてくれる農協だ。それは「農業者の組合」に純化したからできるというものではない。それぞれの農協が組合員とともにしっかりと考え、努力するべきことなのである。為政者が描く「農業者だけの農協」では、むしろ農業者の困難が増すと考えるべきだ。組合員の期待には、農業者の経営を守るための政策、制度要求も当然含まれる。米価暴落、乳価はじめ各種農産物価格の低迷、それらに対して、個々の農業者ができることは限られている。力を合わせて制度環境の改善を求めることは、大事なことだし当然のことだ。中央会組織の解体、連合組織否定の単協主体論、農協組織解体論は、本来必要な農業者の政治力を決定的に弱めることになるだろう。
◆決して甘くない自治監査
 中央会監査についてふれておきたい。中央会による監査は独立性を欠くとか、真の意味での外部監査といえないというのだが、本当にそうだろうか。グループ自治としておこなわれる中央会監査において、もしも身内に甘い監査をしたならばその影響は中央会のみならずグループ全体の信頼を毀損することになる。その意味で、自治監査は「甘い監査」に対して抑制的にならざるを得ないのである。これに対して規制改革会議が主張する「外部監査」はどうか。外部の会計監査人は市場に多数存在しており、会社はそれらを自由に選択することができる。さらに、会計監査人は監査対象から監査報酬を得るのであるから、完全な第三者として監査に臨むわけではない。会社側は厳しい指摘をしない監査人を選任し、監査人は来年度の契約を得るために、監査に手心を加えるという可能性は存在する。外部監査だから独立性を有するというのも、これまた形式論理なのである。ドイツ協同組合法においても、協同組合への監査連合会による監査の義務づけを一時廃止したことがあるが、その際に連合会監査を受けない「野生の協同組合」の経営破綻が頻発し、再び協同組合の監査連合会への強制加入を復活させて現在に至っている(多木誠一郎『協同組合における外部監査の研究』)。中央会監査は、協同組合という特質を踏まえて会計のみならず組織運営にまで及び広範な監査が可能である。しかも、単協に中央会監査を義務づけることで、中央会は単年度契約の外部監査人と違って、安定的な立場で組合に適切な監査を実施することが可能なのである。それに加えて、平成8年の農協法改正ですでに公認会計士による中央会監査への関与が法定化されており、公認会計士が中央会監査に関わる方式が作られている。これまでの法改正経過や実際の監査の現実に目をつぶって、何が何でも中央会監査を否定しようというのは、乱暴な議論だろう。
◆組合員は喜ばない乱暴な改革明らか
 規制改革会議の主張を一言で表せば、空虚な形式論理の羅列である。農業純化論自体も農協法第1条から形式的に導かれたものであって、実際の農協の姿や地域のニーズといった現実から乖離した観念的な形式論理である。また、上述のように外部監査の絶対視も形式論理に過ぎない。さらに、今回の中央会解体論の根拠となっている「単位農協の自由な活動を促進するため」という大義名分さえも現実離れした形式論理である。単協の自由な活動を保障するために、中央会を農協法から削除し、「単協が自主的に組織する純粋な民間組織」にし、「全中監査の義務づけを廃止」するというのだが、実情を知る立場からいえば、中央会がそれほどの統制力を有しているか、大いに疑問である。中央会の存在ゆえに単協が自由に活動できないなどというのは、ほとんど虚構に近い。かりに中央会に統制力があるとしても、その統制力の根源は監督官庁による統制であり、中央会はその代位、代行が中心である。規制改革をいうなら、事細かに口を出してきた監督官庁のそれを問題視すべきだとの意見もむべなるかなである。はっきり言って、今回の規制改革会議の農協改革論は、担い手農業者も含めて、組合員が喜ぶような改革でないことは明らかである。いわば農協批判者による農協批判者のための改革論でしかない。何よりも組合員目線で、この乱暴な改革案を批判していく必要があるだろう。

*1-6:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=31988
(日本農業新聞 2015/2/8) 農協改革で最終調整 政府・自民
 農協改革をめぐり、政府・自民党は8日、JA全中の萬歳章会長と東京都内で会談するなどし、法制度の骨格づくりに向けて最終調整した。関係者によると、准組合員の事業利用規制の導入については、今回は見送る方向が固まった。全中の監査部門(JA全国監査機構)を分離して公認会計士法に基づく監査法人を新設する案などでは調整が続いているもようだ。全中は9日に理事会を開き、対応を協議する。自民党は9日に農協改革等法案検討プロジェクトチーム(PT、吉川貴盛座長)の会合を開き、法制度の骨格案について了承を得たい考えだ。

*1-7:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150209&ng=DGKKZO82976590Z00C15A2MM0000 (日経新聞 2015.2.9)農協改革 JA全中、受け入れ決定へ 社団法人に転換
 安倍晋三首相が意欲を示す農業協同組合(農協)改革を巡り、政府・自民党と全国農業協同組合中央会(JA全中)の折衝が大筋で決着した。全国約700の地域農協に対するJA全中の監査・指導権を廃止し、2019年3月末までに一般社団法人に転換する。JA全中は9日午後の理事会で正式に受け入れを決める見通しだ。自民党の農林関係議員とJA全中の万歳章会長、農林水産省幹部が8日夜に都内で会談。万歳会長は政府の改革案を大筋で受け入れる考えを伝えた。自民党は9日午後、全所属議員が参加できる農林部会など合同会議を開く。谷垣禎一幹事長や稲田朋美政調会長も出席して最終的な党内手続きを進め、同日中にも了承する。公明党も9日にも容認する運びだ。首相は12日に予定する国会での施政方針演説で、農協改革案の骨格を表明する。政府は今国会に改革案を明記した農協法改正案を提出する。目玉は地域農協の自立に向けてJA全中の監査・指導権をなくすことだ。JA全中が一般社団法人になる19年3月末までは地域農協は試行的に公認会計士の監査も受けられるようにし、同年4月以降は全中の監査部門を監査法人として分離し公認会計士による外部監査に一本化する。地域農協は民間の監査法人と、JA全中を母体とする監査法人から選ぶようになる。法案には全中が一般社団法人になった後も地域農協の総合調整を担うと付則に盛り込む。農協の間の連絡や調整業務を担う点が盛り込まれる。

<JAの自己改革案>
*2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=30667 (日本農業新聞 2014/11/7)JAグループの自己改革具体策 中央会、農協法措置を 監査などに機能集約
 JA全中は6日の理事会で、JAグループ自己改革の具体策を決めた。農業者の所得増大と農業生産の拡大、地域の活性化を基本目標に据えた。中央会制度では、JAの自由な挑戦を後押しするよう機能を経営相談・監査など三つに集約し、この機能を責任を持って発揮するには「農協法上に措置することが必要」と明記した。JA改革では、担い手育成などを進める1000億円規模の支援策の創設を打ち出した。自らの改革とするため8月に全中会長の諮問機関、総合審議会で議論を開始。10月24日の中間取りまとめを踏まえて決めた。与党は年内に農協法改正案を取りまとめるもよう。JAグループはこれを基に政府・与党に働きかける。自己改革は中央会制度について、JAの定款を一律的に規制する模範定款例など農協法上の統制的な権限を廃止し、JAの意思で地方や全国段階に中央会を設置できる制度にすることを提起した。新たな中央会の機能として、JAの創意工夫を支えて経営相談や健全経営を保つための「経営相談・監査」、意見を取りまとめるなどの「代表機能」、JA間や連合会間の連絡・調整などの「総合調整機能」の三つに集約する。JA改革をめぐって、農家を支える職能組合とともに、地域社会を支える地域組合としての役割も発揮する考えを示した。こうした役割の農協法上への位置づけを検討するよう提案した。販売・購買事業は、組合員の多様な要望に応える方式に転換する。JAの業務執行体制の強化に向け、農業法人や若手、女性農家らの理事を増やしたり、販売や経営の専門家を事業に生かしたりすることも盛り込んだ。
●担い手育成へ1000億円
 全国連によるJA支援として「農業所得増大・地域活性化応援プログラム」を創設する。2018年度までの5年間で事業費は1000億円規模。JAが担い手に対して行う農機リース事業や経営相談、就農希望者を受け入れる農家への助成などに活用する。全農の株式会社化に ついては「会員総代の合意形成が前提」とした上で独禁法の適用除外が外れた場合の影響などを引き続き検討するとした。JA中央会・全国機関会長会議は同日、JAグループの自己改革の実現に向け決議した。
●必ずやり遂げる 全中会長
 JA全中の萬歳章会長は6日に開いた記者会見で、JAグループの「自己改革」について「自主自立の協同組合組織であるJAが、自らの組織改革を自らの手で必ずやり遂げる強い決意でまとめた」と強調した。「自己改革」を基に政府、与党へ働きかけ、農協法改正への意思反映を目指す考えも述べた。萬歳会長は、政府が農協改革の推進を含む規制改革実施計画の中で、JA系統の検討内容も踏まえるとしていることを指摘。「われわれの思いに理解を求めていく」と今後、政府、与党への働きかけに注力する考えを強調した。今後の対応では、「自己改革」を踏まえた政府、与党側の方針を受けて、全中会長の諮問機関である総合審議会を再開させる。審議会でさらなる課題などを検討し、今年度内に答申し、「自己改革」の改訂やその具体化につなげるとした。会見にはJA全農の中野吉實会長、JA共済連の市村幸太郎会長、農林中金の河野良雄理事長も出席した。

<準組合員制限は、無用な口出し>
*3-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11590501.html?_requesturl=articles%2FDA3S11590501.html&iref=comkiji_txt_end_s_kjid_DA3S11590501
(朝日新聞 2015年2月7日) 全中、監査権廃止容認へ 准組合員制限には反対 農協改革
 農協グループの司令塔である全国農業協同組合中央会(全中)は、農協への監査権を廃止する政府の農協改革案を受け入れる方向で最終調整に入った。農協の収益源である金融事業を守るため、農家ではない組合員(准組合員)を制限する改革案には反対する。週明けの決着をめざし、「条件闘争」に転換する。全中の万歳章会長は6日、自民党の農林関係の幹部議員らと会い、事務的に詰めるべき点を伝えた。事実上の方針転換だ。関係者によると、全中、全国農業協同組合連合会(全農)や農林中央金庫など、主要グループの首脳が集まった5日の会議で、全中の監査権の廃止は受け入れる代わり、組合員の利用条件などについては見直さないよう求める意見が多く出た。その後の都道府県代表者の会議で、全中幹部が「全中の監査権を維持するか、准組合員の利用制限を選ぶかを政府・与党が迫っている」と説明したのに対し「利用制限だけは避けるべきだ」との意見が多数を占めた。全中の法的位置づけなどについてはほとんど議論にならなかったという。准組合員は、住宅・自動車ローンや共済(保険)といった金融事業を利用する農家ではない組合員。農協がある地域に住んだり、働いていたりして、3千~1万円程度の出資金を払えば、准組合員としてサービスを利用できる。2012年度で農家である正組合員が461万人いるのに対し、准組合員は536万人にのぼる。全国の農協の事業総利益(約1兆9千億円)の7割近くを金融事業が占める。准組合員の資格が厳しくなると、ローンなどの利用が抑えられ、収益状況が大幅に悪化する可能性が高い。政府・与党と全中は週末も調整し、10日には農協改革案を決着させたい考え。全中は5年かけて一般社団法人になる公算が大きい。

*3-2:http://www.nikkei.com/article/DGXLASFK08H0N_Y5A200C1000000/?dg=1
(日経新聞 2015/2/8) 農協改革、大筋決着 JA全中が政府案容認
 全国約700の地域農協の競争と創意工夫を促す農協改革を巡り、政府・自民党と全国農業協同組合中央会(JA全中)の折衝が8日夜、大筋決着したことがわかった。地域農協を束ねるJA全中の監査・指導権をなくし、2019年3月末までに一般社団法人に転換する。1954年に始まった中央会制度をほぼ60年ぶりに見直し、地域農協の自立につなげる。自民党の農林系議員とJA全中の万歳章会長、農林水産省幹部が8日夜、都内のホテルで会談した。万歳会長は政府の改革案を大筋受け入れる考えを表明。9日午後に全中幹部が集まり、正式決定する段取りも示した。政府はいまの国会に農業協同組合法改正案を提出し、JA全中の監査・指導権をなくす。2019年3月末までに一般社団法人に移行させる。全中の統制をなくし、地域農協の組合長が経営感覚を磨き、競い合って生産性を高めるように促したい考え。JA全中は農協改革に反対の構えだった。だが、一般社団法人に転換した後も、農協法の付則に全中の役割を明記する譲歩案を政府側が示し、受け入れた。農協の間の連絡や調整業務を担う点が盛り込まれる。地域農協への事実上の統制につながらないか、注目点になりそうだ。全中が一般社団法人になると地域農協への監査権限がなくなり、全中の監査部門は新たに監査法人として再出発する。地域農協は既存の監査法人か全中を母体とする監査法人を選べるようになる。政府は全中が改革を拒んだ場合、農家でない「准組合員」が農協に大量加入している問題に切り込む姿勢を示していたが、全中も歩み寄ったことで、規制の導入は見送る。

<全農の株式会社化も不要>
*4:http://qbiz.jp/article/54394/1/
(西日本新聞 2015年1月23日) JA全農の株式会社化見送り表明 自民会合、対立鮮明
 自民党は23日、農協改革を議論する会合を開き、農協グループから意見を聞いた。全国農業協同組合連合会(JA全農)は、焦点の株式会社化を現時点では見送る方針を表明した。20日から続いた会合では、農協改革をめぐり推進派と慎重派の溝が一段と鮮明になった。自民党は来週も会合を開き、農業者へのヒアリングを実施。最大の論点である地域農協に対する全国農業協同組合中央会(JA全中)の監査について議論する。政府は2月上旬にも関連法改正案の骨格を固める考えだ。農産物の販売を手掛けるJA全農の在り方では、与党が昨年6月に経済界との連携をしやすくするよう、現在の協同組合組織から株式会社に転換できるよう法律を整備する方針を打ち出した。しかしJA全農は、企業との提携などに関して「現組織でもかなりの部分の対応が可能だ」として、当面は株式会社に転換しないとの考えを示した。出席議員からは「営業力強化のために株式会社になるべきだ」との発言があった。一方で「株式会社になってしまったら(特定組合員のための組織という)協同組合の論理が否定される」と反対する意見も出た。4日間続いた議論では、JA全中による農協監査をめぐり賛否が激突した。「現行監査が優れているのなら(公認会計士監査を導入して)自由にしても選ばれる」として、JA全中の監査を義務付けるのをやめるべきだとの声が上がった。だが「農業に詳しい人でなければ難しいのではないか」と、制度の維持を求める意見も多かった。JA全中の万歳章会長も「改革の真の目的は何なのか、現場で混乱が生じている」と強気の姿勢を崩さなかった。一方、農家でなくても農協事業を自由に活用できる准組合員の利用規制に関しては、23日の会合でも「正組合員だけでは経営を維持できない」といった慎重な意見が相次いだ。

<農地権限移譲について>
*5-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=30431
(日本農業新聞 2014/10/24) 農地権限移譲に慎重 総量確保で影響懸念 地方6団体と農相面会
 農地に関する権限の地方移譲をめぐり、西川公也農相は23日、東京・霞が関の農水省で全国知事会など地方6団体の代表と面会した。地方団体側は転用権限を市町村に移譲するよう求めたが、西川農相は必要な農地確保に支障が出る懸念があることから慎重に対応する考えを伝えた。政府は年内に結論を出す方針で、同省と地方団体側の綱引きは今後、さらに激しくなりそうだ。農地制度見直しについて、政府は昨年12月に方針を閣議決定した。2009年の改正農地法付則に沿い、14年をめどに地方分権と農地確保の観点から検討し、必要な措置を講じるとし、内閣府の専門家部会が議論を重ねている。総合的な街づくりの中で農地を商業向けなどにも開発したい地方6団体は、4ヘクタール超は農相としている農地転用の許可権限を市町村に移譲するよう要望。国が設定する農地総量確保目標を市町村が決める仕組みに見直すことも求めている。農水省は農地総量確保目標については、より市町村の意向をくんで設定する仕組みに見直す方針。ただ、農地転用の許可権限移譲は、地元の地権者や進出企業の意向の影響を受けにくい国や都道府県が判断する必要があるとして慎重で、議論の焦点となっている。この日、西川農相と面会した全国知事会の鈴木英敬三重県知事、全国市長会の小林眞青森県八戸市長、全国町村会の杉本博文福井県池田町長は、全国6団体の要望への理解を求めた。西川農相は「原則は昨年12月の閣議決定で進んでいかざるを得ない」と強調。閣議決定にある農地確保の観点から、転用権限移譲などには慎重に対応する考えを示した。一方で農村での6次産業化を促進するための農地転用には柔軟に対応したい意向も示した。食品産業などを念頭に、税制面などで優遇措置を講じる農村地域工業導入促進法や工業再配置法を活用して「周辺産業を農村に呼び込みたいといま検討している」と述べた。

*5-2:http://image.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=29055
(日本農業新聞 2014/7/31) [規制改革の論点 11] 法人(2)要件再検討 企業農地取得慎重に
 政府の規制改革実施計画では、農業生産法人の見直しで今回見送った要件緩和などについて、あらためて検討することを明記した。企業の農地取得をめぐる議論が再燃する恐れがある。今回の政府決定で、企業の農地取得は認めなかった。2009年の農地法改正で、リース方式による農地集積を加速させていくと明確にしているからだ。今年度に創設した農地中間管理機構もリース方式を土台にしており、安倍政権もこの方向性を踏襲、発展させている。ただ、経済界などからは企業の農地取得にこだわる声が依然強い。規制改革会議の農業ワーキング・グループが5月に打ち出した提案では、リース方式で参入した企業を念頭に、農業生産を継続している実績が一定あれば、農地を所有できる農業生産法人になれるようにすべきだと求めていた。産業競争力会議の農業分科会も4月の提案で「新しい農地改革」が今後の農政改革の最重点事項だと指摘。「企業がより集積した農地を取得しやすいような制度的枠組みを構築」する必要性を強調している。規制改革実施計画では、農地中間管理機構法の5年後見直しに合わせ、一層の農業生産法人要件の緩和や農地制度の見直しを検討、結論を得るとした。企業の農地取得には、撤退や転用で農地が耕作放棄や産廃置き場にされる懸念を払拭(ふっしょく)できないことから、国による農地没収など現状回復手法を確立することが前提だとしている。ただ、リース方式でも最長50年間借りることができる。リースに比べ農地の取得代金は高くつき、農業分科会の新浪剛史主査自ら「企業が農地を保有すると資本効率が低くなる」と認める。農地取得でなければならないとする理由には疑問が残るだけに、5年後見直しでも極めて慎重な検討が求められる。

*5-3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=31651
(日本農業新聞 2015/1/16) 対応方針、月内閣議決定へ 農地制度は保留 地方分権会議
 政府は15日、地方分権改革有識者会議に分権改革の対応方針案を示し、了承された。与党との調整を経て1月中の閣議決定を目指す。法改正が必要なものについては26日召集の通常国会に一括法案を提出する。ただ、全国知事会など地方6団体が強く要望していた農地制度に関する権限委譲への対応は、農水省と折衝中だとして示さなかった。今後、同会議の下に設置した農地・農村部会で結論を出し、閣議決定までに方針案に加える。現行の農地制度では、4ヘクタールを超える農地転用には農相の許可を要し、2ヘクタール超4ヘクタール以下は農相との協議が必要。地方6団体は、許可権限の市町村への移譲や農相との協議廃止を強く求めているが、農水省は、食料の安定供給を担う立場から権限委譲に慎重で、調整が難航している。会議では、富山市の森雅志市長が「農地制度の見直しは『まち・ひと・しごと創生』のための地方分権改革の最重要課題だ」として地方6団体の要望実現を求める意見を提出。鳥取県の平井伸治知事や愛媛県松前町の白石勝也町長らも同様の要求をしたという。この日示した対応方針案には、保安林の指定・解除権限の都道府県への一部移譲や、農業委員の公選制の廃止など、農林水産業関連で約40の案件への対応を盛り込んだ。農家レストランの農用地区域内への設置については「(規制改革を先行して行う)国家戦略特区制度の下で、可能な限り速やかに効果を検証し、全国適用を検討する」とした。また、これらを含め全国の自治体から寄せられた提案への対応結果を公表した。535件の提案のうち、実現・対応できるとしたのは15日時点で283件(52.9%)だった。

*5-4:http://qbiz.jp/article/52980/1/
(西日本新聞 2015年1月3日) 西鉄、耕作放棄地に住宅団地 大牟田線沿線で開発事業
 西日本鉄道(福岡市)が、福岡県の天神大牟田線沿線にある耕作放棄地の宅地開発事業に乗り出すことが分かった。営農されずに荒廃が進む土地に一戸建て住宅の団地を建設し、周囲の環境保全と沿線のにぎわい創出を目指す。農地所有者の要請を受け、宅地への転用手続きから販売まで一貫して手掛ける。農林水産省などによると、放棄地から住宅団地を開発する事業は全国的にも珍しい。福岡市・天神と福岡県大牟田市を結ぶ大牟田線(95・1キロ)の沿線で、住宅地としての人気が高い筑紫野、太宰府、小郡の3市の水田地帯などが候補地。農地として今後利用される見通しが乏しい中小規模の土地を複数の所有者から購入し、これらをまとめて50戸(1万5千平方メートル)から500戸(15万平方メートル)の住宅団地開発を目指す。農地法などで定められた転用の法的手続きや地元との協議・調整、宅地造成、住宅建設、販売などを一貫して担う。地元自治体や周辺住民と道路や公園などの整備計画についても協議し、県知事の許可を得て開発する。すでに地元不動産業者から放棄地の情報提供を受ける体制を整えた。第1弾となるのは、3市内にあるかつての水田約3万平方メートルに100戸程度の住宅団地を造成する事業。所有者十数人から相談を受け、地元自治体などと農地転用に向けた協議を進める。2015年度に造成工事に着手、16年度に区画販売を始める計画だ。西鉄はこれまで一戸建て宅地約1万2千区画を販売してきた。耕作放棄地の宅地開発は「通常の開発より時間と労力がかかり利益は少なくなるが、地元に根ざした鉄道会社にしかできない事業だ」(幹部)としており、今後5年以内に5カ所程度の開発を目指す。耕作放棄地は全国で増加し、都市部でも深刻化。病害虫や鳥獣害の発生、廃棄物不法投棄、火災発生などで周辺住民にも悪影響を与える恐れがある。中村学園大の甲斐諭学長(農業経済学)は「大牟田線沿線は農家ではない土地持ちが多い。また、米価下落で経済的にも営農が厳しくなっている」と指摘。放棄地の宅地化は「人口が過密になる福岡市だけでなく、沿線の街の発展にもつながるので意義がある」と評価している。

<農産品の輸出入とTPPについて>
*6-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=31652
(日本農業新聞 2015/1/16) 検疫協議を加速へ 重点品目中心に輸出促進 農水省
 農水省は15日、攻めの農林水産業実行本部の第4回会合を開いた。2014年度補正予算案、15年度予算案が閣議決定されたことを受け、農林水産物・食品の輸出促進など攻めの農林水産業の施策を実行し加速させる。輸出解禁に向けた各国との動植物検疫協議については、同省の国別品目別輸出戦略に位置付けられた重点国・品目を中心に加速させることを確認した。政府は20年までに輸出額を1兆円に増やす目標を立てており、輸出の壁になっている検疫問題の解決が課題だ。会議では、これまでの検疫協議で米国向け温州ミカンやオーストラリア向けブドウ、欧州連合(EU)やインドネシア向け牛肉の輸出が解禁されたと報告。今後はタイ向けかんきつ類、ベトナム向けリンゴ、台湾やオーストラリア 向け牛肉などについて 積極的に検疫協議を進めることを確認した。この他、宮崎、山口両県で鳥インフルエンザが発生したことを受けて、同病のまん延を防止するために、香港やシンガポールなど各国が、発生県や日本全体からの家きん肉・卵の輸入を停止しているとの報告があった。日本はこうした国との検疫協議を行い、輸出再開を目指している。同本部では、政府・与党の「農林水産業・地域の活力創造プラン」を実行に移して、農家所得を向上させる具体策を検討する。本部長を務める西川公也農相は、同日の会議で「それぞれの品目や分野が持つ課題をしっかり議論し、課題解決に向けた施策を整理した上で、農業者の 皆さんに分かる言葉で伝えてほしい」と出席した省幹部に呼び掛けた。

*6-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=31789
(日本農業新聞 2015/1/26) 米輸入拡大を 調製品含め20万トン規模 TPPで米国
 環太平洋連携協定(TPP)交渉の日米協議で、米側が同国産米の輸入拡大を20万トン規模で求めていることが分かった。日本は拒否しているが、国内需給への影響を抑えることを前提に、一定量の輸入を増やす案も検討しているもようだ。だが、米は数万トン程度の需給緩和でも大きく値下がりする。政府には国会決議を踏まえた交渉が強く求められる。米側は、昨年11月にオバマ大統領が安倍晋三首相に輸入拡大を直接求めるなど、米に強い関心を示し続けている。日本は現在、年間77万トンのミニマムアクセス(最低輸入機会=MA)米のうち、36万トン程度を米国から既に輸入している。だが交渉筋によると、米国は売買同時入札方式(SBS)で輸入する主食用米を中心に、調製品なども含め 20万トン規模の輸入拡大を要求。日本側は「法外な水準」(政府関係者)として拒否し、(1)国内で主食 用米の生産調整を行っている(2)生産数量目標は 減り続けている――ことなどを説明して理解を求めている。ただ政府内では、譲歩案も検討している。主食用米の需給への影響を抑える措置を前提に、数万トン程度の受け 入れが可能か探っているもようだ。牛肉や豚肉をはじめ他の重要品目の関税率とセーフガード(緊急輸入制限措置)、自動車の安全基準や自動車部品の関税といった要素と合わせ、米側と交渉を続けている。


PS(2015.2.10追加):*7のように、2014年の農林水産物輸出額(速報値)が前年比11・1%増の6117億円となったというように、農林水産物の輸出が過去最高を更新できたのは、時系列から見ても明らかに、全中の力を弱めることが目的の農協改革があったからではなく、これまで農協が農産品の品質を管理して「日本産農産物」の安全性と質の高さをブランド化してきたからであり、これに大きく水を差したのが、フクシマ原発事故による放射性物質汚染であったという事実を決して忘れてはならない。ちなみに、私も外国産の牛肉を買う時は、原発がなく、BSEが発生したこともないオーストラリア産にしている。
 また、「農産物の輸出=和食の優秀さ」というのも日本人独特の島国根性的な自意識過剰であり、有明海で邪魔ものにしていた「くらげ」も、干クラゲにして中国に輸出することにより立派に稼いでいる。つまり、和食だけではなく、相手国の食生活に合った食品の生産も可能であり、これも輸出に貢献するのだ。

*7:http://qbiz.jp/article/55605/1/
(西日本新聞 2015年2月10日) 農林水産輸出が最高更新、14年 初の6千億円台、輸入規制緩み
 農林水産省が10日発表した2014年の農林水産物の輸出額(速報値)は、前年比11・1%増の6117億円となった。過去最高だった13年の5505億円を上回り、初めて6千億円台に達した。円安の影響や海外での和食ブームに加え、東京電力福島第1原発事故後に各国で導入された日本産食品の輸入規制が徐々に緩和、撤廃されたことも貢献した。安倍政権は、農林水産物の輸出額を20年までに1兆円にする目標を掲げており、農協改革などと一体で国内農家の競争力を強化していく方針だ。原発事故後、放射性物質による汚染を懸念し、50カ国・地域以上が日本産食品に対する規制を強化。11年の輸出額は前年比8・3%減の4511億円に落ち込み、12年も4497億円だった。その後、日本の要請に応じて、オーストラリアが輸入規制を撤廃するなど規制緩和の動きが拡大。円安で日本産食品の割安感が強まったこともあり、輸出額は13年から増加に転じた。14年の輸出額の内訳は、農産物が13・8%増の3570億円、木材などの林産物が38・5%増の211億円、水産物は5・4%増の2337億円だった。国・地域別では、中国やカナダ、米国、欧州連合(EU)向けが大幅に増加。リンゴや牛肉、緑茶、真珠などが引き続き好調だった。中国などで需要がある丸太は約2・2倍と大きく伸びた。加工品も集計対象に含まれており、14年は和食を象徴するみそやしょうゆも増加。EUで日本産の人気が高まっているウイスキーは47・0%増だった。農水省は、官民のPR活動で和食が海外メディアで取り上げられる機会が増えたことも貢献したとみており「円安の影響だけでなく、日本産食品への実需が高まった」と分析している。

| 農林漁業::2014.8~2015.10 | 05:33 PM | comments (x) | trackback (x) |
2015.2.3 農協改革のうち、JA全中による監査権の廃止は、必要か? (2015.2.4に追加あり)
       
           *2-1         *2-3
2015.1.31  2015.1.21       2015.1.26       2015.1.19
日本農業新聞  日経新聞      日本農業新聞      日本農業新聞

(1)現在の農協中央会の監査について
 *3-1に、「①中央会監査制度は、農協法第73条の22、第37条の2の規定等に基づき、1052年(昭和29年)の農協法改正による中央会設立以来実施している監査で、農業協同組合監査士を中心として実施しており、公認会計士等も従事していた」「②1996年(平成8年)の農協法改正で農協中央会の決算監査が導入され、平成14年にJA全国監査機構が設立され、都道府県中央会と全中の監査事業を統合して全JAを毎年監査する体制を整えた」と記載されている。

 また、*3-2の農協法には、「JA全国監査機構が農協の監査を行う」と規定されており、これが、現在の農協監査だ。

(2)全中監査廃止論について
 *2-1、*2-2のように、政府内で単位JAに対する全中監査の廃止案が出ており、西川農相も全中監査を公認会計士による監査にすべきだとの方針を示しているが、これに対し、JA全中の萬歳会長は、「①2007年には当時の若林農相が、全中監査は有効に機能し、公認会計士監査と置き換えられないと評価した」「②(全中)監査の廃止が農家所得の増大にどのような関連があるのか理解しかねる」と疑問を呈し、全中監査の維持と中央会の農協法上への位置付けを求めており、私も、変更方針を示すのなら、「変更により、誰にとって、何故、よりよくなるのか」という根拠を示す必要があると考える。

 そして、私は、1996年の農協法改正による農協中央会の決算監査は、JA全国監査機構という組織を設立して行うよりも監査法人が監査した方がよかったとは思うものの、1996年の改正で農協組織はかなり現代的なものになったと認識している。ただ、農協のみを監査するJA全国監査機構が、農協から完全な独立性を保ち、マンネリ化しないで監査を続けることができるか否かについては疑問があるが、この点は、会計検査院による国の監査と同程度だ。

 しかし、*2-2で、「①公認会計士による監査に移行すれば、JAの経営改善に役立つ業務監査の機能を失う」「②さまざまな業務に関する知識に加え、協同組合を熟知している人による監査が欠かせない」と言われている点については、①については、公認会計士監査だけでは確かに業務監査は行わないため、監査役監査や内部監査のようなスタンスでJA全国監査機構による監査も残すべきだと思うが、公認会計士は銀行、生保、製造業など多業種の監査を行っており、その業種を熟知した人が監査担当者になり、その人は同業他社の状況も知っているため、同業種を横に比較した有益なアドバイスもできるという理由で、公認会計士監査も入れた方が有益だと、私は考える。

 また、②については、公認会計士は、社会福祉法人、学校法人等の監査も行っており、農協監査をするからには、(いろいろな形で)協同組合や農業に関する知識を得て監査するため、心配はいらない。

 しかし、私は、*2-2、*2-4に書かれているとおり、農業者の所得向上や地方創生に、JAは大きな役割を果たしているため、JAを弱くしたり、壊滅させたりすることが目的の変更は、決してすべきではないと考えている。

 このような中、*2-3に、「農水省はJA全中による単位JAの監査を廃止する意味を説明できず、改革ありきの改悪になりそうだ」と記載されているが、本当によい改革にするには、JA全国監査機構の組織を簡素化して監査を残した上で、公認会計士監査を入れるのがよいと、私は考える。何故なら、全中の監査部門(JA全国監査機構)には内部監査や業務監査をさせ、外部監査として公認会計士監査を導入すれば、今までの業務監査は十分に行われた上、独立した第三者による監査もできるからである。

 私は、これにより農協の会計制度を一般会社並みにして組合員のリスクを抑え、同業他社と比較した有益なアドバイスにより農家の所得向上を図ることができると考える。また、JA全中は「公認会計士が中山間地や離島などに足を運んでまで監査をするのか」と疑問視したそうだが、公認会計士は適正意見を出せるようにするために批判的機能だけではなく指導的機能も重視しており、必要なら離島や山間部はおろか外国にでも行き、大企業並みの質の高い監査をすることができるということを述べておきたい。

(3)その他の変革について
 *1-1のように、「①全国農業協同組合連合会(JA全農)を株式会社に転換することを可能とする」「②准組合員の利用規制」は、 ①については、農協がやりやすく組合員の意欲と所得が上がる方法を選択できるようにするのが筋であって、決して株式会社化が目的であってはならない。

 また、②については、准組合員も農協に貢献している以上、農協は、準組合員から見放されては、地方創生の核になるどころか、やっていけなくなる。そのため、農業の現状を知らず、農業が衰退しても責任をとるつもりのない外部が口出しすべきではない。

 なお、*1-2、*1-3を見ると、この農協改革法案の目的は、全国の農協を指導・監査する全国農業協同組合中央会(JA全中)の権限を縮小することのようだが、そのようなよこしまな理由の改革(改悪)は行うべきではない。また、農業主体は、経団連の構成企業と異なり、農協のリーダーシップで生産や品質管理等の面で助けられていることが多く、農産物の価格やサービス、流通経路は既に自由に競い合っているため、“改革”を提唱している人の事実認識の方が、20年も時代遅れで支離滅裂なのである。

(4)自己改革が重要
 (1)(2)(3)に書いた理由で、農協改革は、日本の質の高い農業を伸ばすというスタンスの人のアドバイスを受けながら、現状を知っている農協が主体になって行うのがよいと考える。

*1-1:http://qbiz.jp/article/54793/1/
(西日本新聞 2015年1月29日) 農協改革の骨格、来週決着へ 政府・自民党、議論大詰め
 政府と自民党は農協改革の骨格に関して、来週中の決着を目指していることが29日、分かった。2月12日に予定している安倍晋三首相の施政方針演説に反映させたい考えで、同月6日に演説内容を閣議決定する必要があるためだ。農協改革をめぐる議論は大詰めに入る。農林水産省は30日に自民党の農協改革会合で、全国農業協同組合連合会(JA全農)を株式会社に転換することを可能とする規定など、議論が収束しつつある項目について法案に盛り込む方針を説明する。一方、全国農業協同組合中央会(JA全中)の在り方や、農家以外でも農協事業を利用できる准組合員の利用規制といった賛否が割れている論点に関しては、方向性を明確にしない見通し。今後、自民党内の議論を見極めながら案を示す。自民党が29日に開いた会合では、これまでの与党の議論とJAグループの意見を整理した。JA全中の在り方と准組合員の利用規制で考え方に開きがあるとして、今後、重点的に議論をする見通しとなった。公明党も29日、農林水産部会を開催。農協監査を公認会計士監査へ移行する政府方針に関して意見聴取した。JA全中は「公認会計士よりJA全中のほうがふさわしい」と主張した。会合後、石田祝稔部会長は「公認会計士が中山間地や離島などに足を運んでまで監査をするのか」と記者団に語り慎重な検討を求めた。有村治子規制改革担当相は29日、皆川芳嗣農水次官を大臣室に呼び「規制改革会議による提言の趣旨が最大限発揮されるよう努力してほしい」と要請した。規制改革会議は昨年11月、JA全中を一般社団法人に移行することなどを求めた。

*1-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150121&ng=DGKKASFS20H2A_Q5A120C1PP8000 (日経新聞 2015.1.21) 農協改革法案の議論に着手 「JA全中縮小」で攻防 自民作業部会が初会合
 自民党は20日、安倍晋三首相が掲げる農業協同組合(農協)改革の法案を検討する作業部会の初会合を開いた。最大の焦点は全国の農協を指導・監査する全国農業協同組合中央会(JA全中)の権限縮小。与党内には統一地方選を前に農業票離れを懸念する慎重論が根強い。同部会がまとめる骨格をもとに政府は関連法案を作成し、3月までの国会提出を目指す。自民党本部で開いた初会合には100人以上の党所属議員が出席し、JA全中の改革案に反対意見が相次いだ。22日にはJA全中を呼んで意見を聴取し、早期に党の意見のとりまとめに入る。「農協には地方創生の核になってもらわないといけない」。稲田朋美政調会長は20日、党本部での役員連絡会で強調した。同氏は「このままでは大切な農業が衰退する」と主張する首相と歩調を合わせる改革推進派だ。JAの組織見直しを通じて農業を成長産業へてこ入れしたい思いがある。稲田氏が特に関心を寄せるのが、JA全中による強制的な監査権の廃止だ。JA全中を経団連などと同じ一般社団法人と位置づけ、地域農協の自主性を高める。農協や農家が農産物の価格やサービス、流通経路を自由に競い合えるようになる。地方選出議員ら慎重派はJA全中の縮小に反発する。作業部会では「監査をなくせばどうして農家が良くなるか説明できていない」など批判が噴出。「農協法で位置づけるべきだ」と一般社団法人化に反対する意見が出た。「地方の切り捨てにつながる。地方創生に逆行する」との声もあった。懸念するのは春の統一地方選や来夏の参院選での農業票離れだ。11日の佐賀県知事選では農協改革も争点となり、農協が支援する候補に与党推薦候補が敗北した。一方、官邸は農業政策を岩盤規制と位置づけ、首相も「抵抗勢力との対決」の構図を打ち出している。

*1-3:http://www.nikkei.com/paper/related-article/tc/?b=20150124&bu=BFBD (日経新聞 2015.1.24) 農協改革法案の議論に着手 「JA全中縮小」で攻防 自民作業部会が初会合
 自民党は20日、安倍晋三首相が掲げる農業協同組合(農協)改革の法案を検討する作業部会の初会合を開いた。最大の焦点は全国の農協を指導・監査する全国農業協同組合中央会(JA全中)の権限縮小。与党内には統一地方選を前に農業票離れを懸念する慎重論が根強い。同部会がまとめる骨格をもとに政府は関連法案を作成し、3月までの国会提出を目指す。自民党本部で開いた初会合には100人以上の党所属議員が出席し、JA全中の改革案に反対意見が相次いだ。22日にはJA全中を呼んで意見を聴取し、早期に党の意見のとりまとめに入る。「農協には地方創生の核になってもらわないといけない」。稲田朋美政調会長は20日、党本部での役員連絡会で強調した。同氏は「このままでは大切な農業が衰退する」と主張する首相と歩調を合わせる改革推進派だ。JAの組織見直しを通じて農業を成長産業へてこ入れしたい思いがある。稲田氏が特に関心を寄せるのが、JA全中による強制的な監査権の廃止だ。JA全中を経団連などと同じ一般社団法人と位置づけ、地域農協の自主性を高める。農協や農家が農産物の価格やサービス、流通経路を自由に競い合えるようになる。地方選出議員ら慎重派はJA全中の縮小に反発する。作業部会では「監査をなくせばどうして農家が良くなるか説明できていない」など批判が噴出。「農協法で位置づけるべきだ」と一般社団法人化に反対する意見が出た。「地方の切り捨てにつながる。地方創生に逆行する」との声もあった。懸念するのは春の統一地方選や来夏の参院選での農業票離れだ。11日の佐賀県知事選では農協改革も争点となり、農協が支援する候補に与党推薦候補が敗北した。一方、官邸は農業政策を岩盤規制と位置づけ、首相も「抵抗勢力との対決」の構図を打ち出している。

<自己改革が必要>
*2-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=31654
(日本農業新聞 2015/1/16) 自己改革実現求める 監査廃止論で全中会長
 JA全中の萬歳章会長は15日の記者会見で、政府内で単位JAに対する全中監査の廃止案が出ていることについて、「JAグループでは混乱している」と懸念を示した。自民党が 衆院選の公約で農協改革について「議論を深める」としていることから、JAグループがまとめた 自己改革の実現へ、同党への働き掛けを強める考えも示した。西川公也農相は9日の記者会見で、全中監査を公認会計士による監査にすべきだとの方針を示している。一方で萬歳会長は、2007年には当時の若林正俊農相が、全中監査は有効に機能し、公認会計士監査と置き換えられないなどと評価してきた経緯を説明。政府の評価が急 激に変わったことに、不信感を示した。また、西川農相が農協改革の目的に農家の所得増大を掲げていることを指摘。「(全中)監査の廃止が農家所得の増大にどのような関連があるのか理解しかねるとの声がJA現場にはある」と疑問を呈した。JAグループは昨年11月にまとめた自己改革で、全中監査の維持に向け中央会を農協法上に位置付けることを求めている。自民党は農協法改正案の骨格を2月上旬にもまとめることを目指し、来週から議論を本格化させる。萬歳会長は「理解を得られるよう最大の努力をしていく」と述べた。萬歳会長はまた「政府が掲げる地方創生には、地域インフラとしてのJAの機能を最大限活用することが必要だ」と指摘。准組合員を農業や地域を支えるパートナーとして積極的に位置付け、JAが総合事業を展開する必要性を訴えた。

*2-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=31705 (日本農業新聞 2015/1/20) 監査 事業熟知が欠かせぬ 全中の指摘有益 群馬・JA佐波伊勢崎
 農協改革をめぐる与党内の議論が今週から本格化する。政府は「農業の成長産業化」を改革の目的に掲げるが、その実現に向かっていくのか疑問視する声がJAから上がっている。JA事業の発展に結び付く改革には、どんな視点が必要なのか、現場の取り組みを通じて報告する。農協改革の焦点として浮上する監査制度の問題に対し、JA全中(JA全国監査機構)による監査の重要性を訴える声は多い。公認会計士による監査に移行すれば、JAの経営改善に役立つ業務監査の機能を失うからだ。「さまざまな業務に関する知識に加え、協同組合を熟知している人による監査が欠かせない」。群馬県のJA佐波伊勢崎の小内敏晴統括常務は、全中監査を支持する。監査におけるヒアリングや講評などは「JA経営の参考になり、安定した経営ができる」(小内統括常務)というのが理由だ。全中監査は農協法に基づくもので、会計監査に加え、日常の業務が正しく行われているか点検する業務監査を行う。JAは、市場出荷に加え、北関東で最大級の規模を誇る「からかーぜ」をはじめとしたJA農畜産物直売所を通じ、消費者に安全・安心な農畜産物を提供している。農産物の生産履歴記帳推進と適正農薬使用運動に取り組む。トレーサビリティー(生産流通履歴を追跡する仕組み)システムも活用。農家組合員のために営農指導を展開する。業務監査は不祥事防止、人事ローテーション、営農指導日誌の確認、農薬の取り扱いなどJA事業全般を法令や定款、諸規則に照らしてみる。農業の全体的な環境を把握し、協同組合原則なども踏まえ、JAがどう事業運営しているかを確認するものだ。JAが協同組合として運営されているかも点検するため、全国監査機構群馬県監査部は「組合員が座談会や支所運営委員会などで挙げた意見をJAの理事会に報告し、JAの事業活動につなげているかを確認する」と説明する。農業者の所得向上や地域コミュニティー維持のため、JAは適正規模での農地集積、地場産を販売する直売所に力を入れる。地域のニーズに応える葬祭場の運営も、大きな役割を果たしている。国際協同組合同盟(ICA)のバンセル理事は昨年秋、日本政府の規制改革の動きを懸念して来日し、同JAを訪れた。その際、バンセル理事は「葬祭事業は単なるビジネスではない。多くの協同組合は葬祭事業を行っている。直売所とともに、『地域へのかかわり』という協同組合原則の実践を感じた」と述べている。同JAは、県中央会が開く専門知識取得や人材育成などの研修に職員を積極的に参加させている。外部コンサルタントを活用するより費用が抑えられる。こうした機能は組合員や地域のために有益だとJAは認める。一方で、監査の結果、JAに課題が見つかれば中央会から改善を求められる。ただ、それは政府などが言うようなJAの活動を阻害するものではない。「経営方針を判断するのは実務者であるJAだからだ」。小内統括常務は、そう断言する。

*2-3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=31779
(日本農業新聞 2015/1/26) 農協改革 ヤマ場の議論へ 説明一貫せず 監査で農水省
 政府・与党の農協改革をめぐる議論は、今週後半に農水省が農協法改正案の検討状況を示し、ヤマ場を迎える。焦点はJA全中による単位JAの監査。政府は廃止を検討するが、改革の目的である農家の所得向上との関連性は明確に説明できていない。改革ありきの改悪にならないか――。慎重な検討が求められる。農水省は30日にも、自民党農協改革等法案検討プロジェクトチーム(PT、吉川貴盛座長)に農協法改正案の検討状況を示す。政府は3月中に同案を通常国会に提出し、「改革断行国会」(安倍晋三首相)の象徴としたい考え。このため2月上旬には法案の骨格を固める方針で、ごく短時間で決着を図る恐れがある。政府は昨年6月の与党取りまとめで「農協系統組織内での検討も踏まえて」結論を得るとした中央会制度の在り方をめぐり、(1)全中による単位JAへの監査の義務付け廃止(2)公認会計士監査の導入(3)全中の監査部門(JA全国監査機構)の独立――などを検討する。だがこれまでの与党内の議論では慎重論が続出。特に、「農家の所得向上にどうつながるのか」と疑問視する意見が多い。これに対し、政府の答弁はあいまいで一貫しない。西川公也農相は13日の衆院農林水産委員会で「(全中監査の廃止で)自由度を高めていかないと(所得を)上げようがない」、16日の記者会見では「(公認会計士監査導入で)経営の自由度を高める」と述べ、「全中監査がJAの自由度を縛る」との見解だった。だがJAグループなどが「そんな実態はない」と指摘すると政府は答弁を転換。菅義偉官房長官は20日に「(全中監査の)結果として、農協役員に経営者としての自覚、責任感が薄くなりがちだ」と述べた。「中央会におんぶに抱っこになっているからJAが育たない」(政府関係者)との理屈に変わったのだ。ただ、この答弁にも「監査は経営者としての自覚や責任感を高めるために行うもの」(自民党農林幹部)など、批判が出る。同党PTの議論では、JA組合長経験者らから「現行の全中監査を受けていても、先進的な取り組みは可能だ」との意見も相次いだ。与党内には「改革が必要な理由を説明できないと、現場で機能しない」(別の自民党農林幹部)との指摘もある。西川農相は23日の記者会見で「与党の議論を待ち、よく相談しながら進めていきたい」と述べており、政府・与党間での丁寧な調整が求められる。

*2-4:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=31857 [農協改革 首長に聞く 4] 地方創生つながらぬ 農家、地域住民 利便性が低下 茨城県行方市長 鈴木周也氏 (日本農業新聞 2015/1/30)
 JAは地域に根差し、総合事業で地域を守っている。農協改革の議論は、協同組合のあるべ き姿を根底から崩すものだ。政府が訴える「地方創生」につながるのかという点でも疑問がある。地域の声を置き去りにした金融、共済部門の分離議論などは時期尚早だ。中央会の監査は会計だけでなく、農業経営など業務も監査、指導する。合理性を追求する株式会社の公認会計士監査とは相い れない。中央会の意義や監査制度などは、時代に合わせて変えていく必要はある。しかし、地域の人々が置き去りにされ、損をするような改革であってはならない。そのためにも、中央会にはJAや連 合会への情報提供や支援を強化してほしい。地方でも兼業農家やサラリーマンが増えている。それに伴う准組合員の増加は、必然的なもの。農家以外の地域住民にとって、JAが提供するさまざまなサービスは、今や日常生活に欠かせない。こうした事業形態を脅かすようなことがあってはならない。JAにはぜひ農家や地域のための組織であり続けてもらいたい。信用、共済事業も分離する意味がどこにあるのか理解できない。以前、JA共済連茨城に勤務していた経験から考えても、JAが農家の生活プランニングを提案するためには収入や経営リスクのバランスなど、総合的に考える必要がある。政府が進める農協改革は、JAから総合性を奪うだけであり、農家、地域住民の利便性が下がるのではないか心配だ。地方では産業といえば農業。地域活性化、地方創生の鍵は農業であり、それを担うのがJAや農業法人だ。行方市も農業に頼っており、企業との連携、市外消費者へのPR、農作物の高付加価値化による農家所得向上が重要となっている。改革は、地方がそれぞれのやり方で進めていくべきものだ。地元のJAなめがたは、サツマイモの加工品などを全国展開する会社と協力し、加工施設を造るなど6次産業化を進めている。JA青年部による異業種との人的交流も盛んで生産・販売力の強化に力を注いでいる。今後、JA青年部や女性部などが独自の目線で情報発信することが、地域活性化には必要となる。JAはもっと過疎集落などに目を向け、営農、金融、共済の総合事業の強みを柔軟に活用し、地域活性化につなげてほしい。JAの可能性はまだまだ大きい。市としてもJAと協力し、地域活性化に取り組みたい。
<プロフィル> すずき・しゅうや
 1971年行方市生まれ。東京農業大学卒業後、94年から2011年までJA共済連茨城に勤務。野菜などの食品加工業を営む傍ら、11年に行方市議会議員。13年から現職。

<農協法について>
*3-1:http://www.zenchu-ja.or.jp/kansakikou/audit.html
(要点のみ)中央会監査制度・農業協同組合監査士とは
■農業協同組合中央会監査制度とは
農業協同組合法第73条の22、同第37条の2の規定等に基づく監査で、昭和29年の農業協同組合法改正による農業協同組合中央会設立以来、実施しています。その監査は、国家資格である「農業協同組合監査士」を中心として実施しており、公認会計士等も従事しています。中央会は個々の農業協同組合から独立した別法人であり、中央会監査は外部監査に分類することができますが、財務諸表等証明監査だけでなく、指導監査(業務運営監査)も実施しています。 また、中央会監査制度は、協同組合運動の盛んな諸国にしばしば見られる制度であり、日本の中央会監査制度もドイツの制度に学んだものです。
■農業協同組合監査士とは
農業協同組合監査士とは、農業協同組合法第73条の38により定められた資格で、中央会が組合の監査を実施するために置かなければならないとされています。農業協同組合監査士は、5科目の学科試験(監査論・会計学・簿記・農協制度(農協法・農業協同組合論)・関係法(法人税法・民法))に合格し、1年間の監査実務経験に加えて、所定の講習や論文試験、2年間の組合指導等の実務経験の条件を満たした後に選任されます。農業協同組合監査士は、農協界において農協会計・農協法の専門家として認知されており、広く社会で活躍しています。
■再興期:昭和29年~
戦後発足したばかりの農協は、政府のインフレ抑制政策(ドッジ・ライン)で生じたデフレ不況によりたちまち経営困難に陥り、農林漁業協同組合再建整備法に基づいて政府の援助を受けて経営再建をすすめることになります。この様な中で、強力な指導組織の確立が要請され、昭和29年農協法の改正により、農業協同組合中央会が設立され、監査事業の実施が法律に定められます。現在の農協中央会監査制度のはじまりです。農業協同組合監査士もこの時法律で定められます。この後、都道府県中央会は単位農協、全中は連合会、という分担で監査事業が進められます。監査体制は当初は弱体でしたが、次第に整備が進み、年間に全体の30%程度の組合の監査を実施するようになります。
■変革期:平成元年~
これまでの中央会監査は、会計監査を中心としながらも、指導監査であり、監事監査機能の補完的な側面を強く持っていましたが、平成元年には農林水産省経済局長通達により、信用事業を行う組合の決算証明監査を開始します。さらに、平成8年には農協法改正により法律に基づく財務諸表等証明監査を実施することとなる等、中央会監査の公共性は高まり、またその性質を大きく変えることになります。こうしたなか、中央会監査の体制強化・質的向上を図るために、平成14年にはJA全国監査機構を設立し、都道府県中央会と全中の監査事業を統合し、総合JAについては全JAを毎年監査する体制を整えるに至ります。

*3-2:http://www.houko.com/00/01/S22/132.HTM#s3.2
(農業協同組合法 要点のみ)
第37条の2 次に掲げる組合(政令で定める規模に達しない組合を除く。以下この条及び次条において「特定組合」という。)は、第36条第2項の規定により作成したものについて、監事の監査のほか、農林水産省令で定めるところにより、全国農業協同組合中央会(以下この条及び次条において「全国中央会」という。)の監査を受けなければならない。この場合において、監査を行う全国中央会は、農林水産省令で定めるところにより、監査報告を作成しなければならない。
一 第10条第1項第3号の事業を行う農業協同組合
二 農業協同組合連合会【令】第2条の4
【則】第153条
《全改》平17法0872 特定組合の監事は、全国中央会に対して、その監査報告につき説明を求めることができる。《全改》平17法0873 全国中央会は、第1項の監査について任務を怠つたときは、特定組合に対し、これによつて生じた損害を賠償する責任を負う。《全改》平17法0874 全国中央会が第1項の監査に関する職務を行うについて悪意又は重大な過失があつたときは、全国中央会は、これによつて第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。《全改》平17法0875 全国中央会が、監査報告に記載し、又は記録すべき重要な事項について虚偽の記載又は記録をしたときも、前項と同様とする。ただし、当該全国中央会が当該記載又は記録をすることについて注意を怠らなかつたことを証明したときは、この限りでない。《全改》平17法0876 全国中央会が特定組合又は第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合において、特定組合の役員も当該損害を賠償する責任を負うときは、これらの者は、連帯債務者とする。《全改》平17法0877 第1項の監査を行う全国中央会については、第35条の5第2項並びに会社法第381条第3項及び第4項、第397条第1項及び第2項、第398条第1項及び第2項並びに第7編第2章第2節(第847条第2項、第849条第2項第2号及び第5項、第850条第4項並びに第851条を除く。)の規定を、特定組合については、同法第439条の規定を準用する。この場合において、同法第381条第3項及び第4項中「子会社」とあるのは「子会社等(農業協同組合法第93条第2項に規定する子会社等をいう。)」と、同法第397条第1項中「取締役」とあるのは「理事又は経営管理委員」と、同法第398条第1項中「第396条第1項に規定する書類」とあるのは「農業協同組合法第36条第2項の規定により作成したもの」と、同法第439条中「第436条第3項の承認を受けた計算書類」とあるのは「農業協同組合法第36条第6項の承認を受けた貸借対照表、損益計算書その他農業協同組合又は農業協同組合連合会の財産及び損益の状況を示すために必要かつ適当なものとして農林水産省令で定めるもの」と、「法務省令」とあるのは「農林水産省令」と、「前条第2項」とあるのは「同法第44条第1項」と、同法第847条第1項及び第4項中「法務省令」とあるのは「農林水産省令」と読み替えるものとするほか、必要な技術的読替えは、政令で定める。
第73条の38 第73条の22第1項第2号の事業を行う中央会には、組合の監査に当たらせるため、農業協同組合監査士を置かなければならない。《改正》平13法0942 農業協同組合監査士は、農林水産省令で定める資格を有する者のうちから選任しなければならない。【則】第222条
《改正》平9法1023 農業協同組合監査士の選任及び解任は、会長が副会長及び過半数の理事の同意を得てこれを決する。4 第1項の中央会は、その行う組合の監査に関し公認会計士又は監査法人が公認会計士法(昭和23年法律第103号)第2条第1項又は第2項の業務を行う旨の契約を、公認会計士又は監査法人と締結しなければならない。
第73条の22 中央会は、その目的を達成するため、次に掲げる事業を行う。
一 組合の組織、事業及び経営の指導
二 組合の監査
三 組合に関する教育及び情報の提供
四 組合の連絡及び組合に関する紛争の調停
五 組合に関する調査及び研究
六 前各号の事業のほか、中央会の目的を達成するために必要な事業《改正》平13法0942 中央会は、組合に関する事項について、行政庁に建議することができる。3 中央会は、組合の定款について、模範定款例を定めることができる。


PS(2015.2.4追加):JA全中による単位JAの監査制度については、*4のように、①監査の「選択制」 ②全中の監査部門であるJA全国監査機構の分離・独立 が議論されているそうだ。①のケースは、地域農協がある程度以上の規模でなければ高くつくが、地域によって異なる地形や気候を反映した生産物に応じた多様なアドバイスを公認会計士から受けることができ、その後、農協間で情報交換できるメリットがある。②のケースは、JA全国監査機構が監査法人として独立し、これまでと同じような監査を行うことになるだろう。しかし、農協の力を弱めたり、解体したりするためというような不純な動機で行う変更は、改革ではなく改悪であり、決してやってはならないことである。

*4:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=31912
(日本農業新聞 2015/2/3)農協改革 監査分離の影響検討 6日まで協議詰め 政府、自民
 政府、自民党は2日、大詰めを迎えている農協法改正に向けた議論を続けた。同党農林幹部らで、JA全中による単位JAの監査制度について集中的に協議。監査の「選択制」や、全中の監査部門であるJA全国監査機構を分離・独立させた場合の影響も含め、さまざまな可能性を慎重に探ったもようだ。これまでの同党農協改革等法案検討プロジェクトチーム(PT、吉川貴盛座長)の議論では(1)監査を含むJA中央会の事業(2)中央会制度の在り方(3)准組合員の事業利用規制の是非――をめぐって調整が難航。同日は1日に引き続き、吉川座長や林芳正農林水産戦略調査会長ら一部の農林幹部による「インナー会議」で、農水省幹部を交えて課題を検討した。関係者によると、同日は監査制度について集中的に議論した。「監査を含め、中央会が行う事業を固めないと、中央会制度の在り方の議論には入れない」(同党農林幹部)ためだ。党内議論や西川公也農相の考えなどを受け、全中監査と公認会計士監査の「選択制」や、JA全国監査機構を監査法人として独立させた場合の影響なども検討したという。インナー会議は3日以降も連日開き、詰めの議論を行う。政府、自民党は、安倍晋三首相が12日に行う予定の施政方針演説に農協改革の方向性を反映するため、同演説を閣議で決める6日までの決着を目指している。

| 農林漁業::2014.8~2015.10 | 05:22 PM | comments (x) | trackback (x) |
2015.1.19 鳥インフルエンザへの対応の異常性 (2015.1.19に追加あり)
    
            佐賀県の養鶏場(無料の画像集より)          *2の宮崎県の対応

(1)二つの農場の7万2900羽を全て殺処分し、周囲3〜10キロは区域外への搬出を禁じる搬出制限区域とすることが本当に必要とは思えないため、疫学・公衆衛生学の専門家は再検討して欲しい
 *1のように、「①佐賀県有田町の養鶏場の鶏7羽から鳥インフルエンザウイルスの陽性反応が出たため、この養鶏場の二つの農場で飼育していた7万2900羽は全て殺処分する」「②陽性であれば、発生農場から半径3キロ(13戸、約41万羽)は鶏や卵、堆肥などの移動を禁止する移動制限区域になり、3〜10キロ(佐賀県で19戸、約24万羽)は区域外への搬出を禁じる搬出制限区域になる」「③佐賀県は、県内の養鶏農家全163戸に移動の自粛や消毒の徹底を要請した」「④そのため、ブランド産地に衝撃だ」「⑤伊万里市はツルの休息地であるため、いつ佐賀で出てもおかしくないと警戒していた」「⑥朝にも石灰をまいて拡大防止に努める」「⑦風評被害も心配」などと記載している。

 しかし、鳥インフルエンザ予防の視点から見ると、④⑤については、ウイルスを持つ野鳥や野生動物と接触させない造りの鶏舎にして、鳥インフルエンザを出さず、ブランドを護ることが重要だ。

 しかし、①②については、隔絶された場所にいる鶏はインフルエンザに感染しないため、鶏舎の構造や距離にもよるが、離れた場所にある二つの農場で飼育している7万2900羽の全てを殺したり、発生農場から半径3キロの鶏や卵、堆肥などを移動制限したり、3〜10キロの区域外へ搬出制限したりするのは過剰反応だ。これは、列車の一つの車両にスペイン風邪の人が乗っていても、別の車両や後続列車に乗っている人には伝染しないのと同じ理屈だ。

 つまり、感染しておらず、感染する疑いもない鶏やその生産物に制限をかける必要はなく、何が何でも何十万羽も殺処分するのには異なる目的があるように、私には思われた。また、*3のように、「鳥インフルエンザが恐れられるのはなぜか、作られた恐怖がパニックを招く」という神経内科医で医療社会学者が書いたHPもあるため、佐賀大学などの専門家は、ここまで大規模な殺処分と移動制限が本当に必要なのか否かを検討してもらいたい。

 また、これだけ大規模に養鶏を行っているのなら、鳥インフルエンザへの感染や伝染のリスクを最小にするため、①鶏を野生動物と接触させず ②鶏舎をいくつかの小部屋に分け ③太陽光発電による電力など無料のエネルギーを使って外に換気する などが必要で、そのための鶏舎の設計が重要である。

(2)インフルエンザウイルスの消毒のために消石灰を撒くのは疑問
 (1)の③⑥のように、インフルエンザウイルスを死滅させる(消毒する)ために消石灰を撒くというのも、それでインフルエンザウイルスが死滅するわけがないため、私は、無意味だと考える。ウイルスは、物質と生物(細菌)の間に位置する物体で、熱や薬に強いため、消石灰で死滅するとは思われず、免疫や予防が大切なのである。

(3)では、鳥インフルエンザへの過剰な対応はどうして起こるのか
 (1)(2)のように、私が鳥インフルエンザへの対応は変だと思っていたところ、*3のように、医師が書いたブログがあり、もっともだと思った。人間への強力な感染力を持つ鳥インフルエンザは、今のところ実在しておらず、その脅威は、既に起こっている原発由来の人工核種に依る放射線の脅威とは全く異なるため、必要以上に恐怖をあおって大げさな対応をするのは意図的のように思われる。

(4)宮崎県では農水副大臣と知事が鳥インフル対策の連携で一致とのこと
 *2に、「①宮崎県延岡市の養鶏場でH5型の高病原性鳥インフルエンザの遺伝子が確認されたことを受け、小泉農林水産副大臣は、16日、同県庁を訪れ、河野俊嗣知事と会談し、国と県が一体となり、ウイルスを封じ込めることなどで一致した」「②県と連携して封じ込めや風評被害の対策に当たる」「③国が対応しないといけない場合、要望してくれと申し上げた」と語り、河野知事は「④迅速な封じ込めに全力を挙げる」「⑤終息のめどが付くまで立候補している知事選(21日投票)の自身の活動は控える」と話したそうだ。

 しかし、①③④⑤は、「知事は与党でなければ国と県が一体となってウイルスを封じ込めることはできない」というメッセージを発しており、これは地方選挙を与党有利に運ぶものである。また、②からは、「風評被害対策を行う」として、原発事故による農産物の汚染と混同させようとする意図が透けて見える。

 これにより、実在していないインフルエンザに対する恐怖をあおり、ヒステリックに鶏を殺処分する過剰な反応を行う別の目的がわかった気がした。

*1:http://qbiz.jp/article/53968/1/
(西日本新聞 2015年1月18日) 佐賀で鳥インフルか 有田町の養鶏場、7万2900羽飼育
 佐賀県は17日夜、有田町の養鶏場の鶏7羽から簡易検査で鳥インフルエンザウイルスの陽性反応が出たと発表した。佐賀県内で発生の疑いが出たのは初めて。この養鶏場は二つの農場で計7万2900羽を飼育しており、18日未明に判明する遺伝子検査の結果で陽性が確認されれば全て殺処分する。県は、県内の養鶏農家全163戸に移動の自粛や消毒の徹底を要請した。県によると、有田町の養鶏農家の鶏舎1棟で15日に鶏4羽が死んでいた。16日に7羽、17日には8羽と死ぬ数が増え、農家が家畜保健衛生所に連絡。2度の簡易検査で10羽中7羽から陽性反応が出た。陽性が確認されると、発生農場から半径3キロ(13戸、約41万羽)は鶏や卵、堆肥などの移動を禁止する移動制限区域に、3〜10キロ(佐賀県で19戸、約24万羽)は区域外への搬出を禁じる搬出制限区域になる。同区域には長崎県の四つの養鶏場も含まれる。有田町はブロイラー生産が盛んで15の養鶏場があり約47万羽を飼育。隣接する伊万里市は21カ所54万羽、武雄市は13カ所36万羽。いずれも昨年12月に宮崎県で発生後、渡り鳥などが潜入しないよう防鳥ネットを点検していた。
   ◇   ◇
●ブランド産地に衝撃
 佐賀県有田町の養鶏場で鳥インフルエンザの疑いが出た17日、県内に衝撃が広がった。「ありたどり」「みつせ鶏」「骨太有明鶏」といったブランドの一大産地があり、感染が広がれば影響は計り知れない。県や九州農政局などによると、県内には163の養鶏場があり養鶏産出額(2013年度)はブロイラー75億円、鶏卵18億円。県の農業産出額全体の8%に当たる。「大変なことだ。最小限に食い止めるよう全力を挙げる」。有田町の山口隆敏町長は語気を強めた。隣接する伊万里市は、シベリアから鹿児島県出水平野に向かうツルの休息地。宮崎県でも発生し「いつ佐賀で出てもおかしくない」と警戒していた。養鶏農家に不安が広がる。鶏5千羽を飼育する佐賀市の女性(70)は「県から電話を受けびっくりした。消毒のため自宅や鶏舎の周りに石灰をまいているが広がらないか」。唐津市の40代の男性は「円安で飼料は高騰し、ただでさえ大変。拡大すれば大打撃だ」。武雄市で飼育し、卵を販売する男性(55)は「朝にも石灰をまいて拡大防止に努める」と険しい表情。太良町で6万羽を飼育する佐賀市の会社の男性社員(33)は「風評被害も心配だ」と話した。

*2:http://qbiz.jp/article/52043/1/
(西日本新聞 2014年12月17日) 農水副大臣と知事、鳥インフル対策の連携で一致 県庁で会談
 宮崎県延岡市の養鶏場でH5型の高病原性鳥インフルエンザの遺伝子が確認されたことを受け、小泉昭男農林水産副大臣は16日、同県庁を訪れ、河野俊嗣知事と会談。国と県が一体となり、ウイルスを封じ込めることなどで一致した。約20分間の協議は非公開で行われ、終了後に会見した小泉副大臣は県の初動を評価した上で「県と連携して封じ込めや風評被害の対策に当たる。国が対応しないといけない場合、要望してくれと申し上げた」と語った。河野知事も「迅速な封じ込めに全力を挙げる」と述べた。また、終息のめどが付くまで立候補している知事選(21日投票)の自身の活動は控えると話した。

*3:http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/v/01/index.html
(SAFTY JAPAN 神経内科医、医療社会学者 美馬達哉 2006年1月17日) 鳥インフルエンザが恐れられるのはなぜか、作られた「恐怖」がパニックを招く
I)「常識」を少し疑えば、違う事実が見えてくる
 恐るべき流行病が現実に存在しているわけでもないのに、「恐怖」という感情だけが流行病のように広がっていく――自身も医師でコラムニストのマーク・シーゲルは近著『偽りの警告 恐怖という流行病についての真実』(Wiley社)の中で、病気にならないための安心を求めてパニックとなった現代をこのように診断している。生物兵器テロについての政府筋情報、映画『アウトブレイク』のモデルともなったエボラ出血熱、新型肺炎であるSARS、人食いバクテリアのニュースなど、1990年代以降のアメリカのマスメディアは恐ろしい病気の話題であふれかえっていた。そうした背景のもとで、さまざまな恐怖という商品を取り揃えたショーケースに現れた“新製品”こそが、鳥インフルエンザと新型インフルエンザだというのだ。インフルエンザに対するパニックが日本も含めて世界に広がったという現状をみる限りでは、どうやらアメリカは「恐怖という流行病」を輸出することに大成功しているようだ。現代日本でも、恐ろしい病気についての話題が満載のTV健康番組があふれかえっている。さて、現実に起きるかどうかは別にして、インフルエンザが話題になる場合の恐怖のシナリオは大まかには次のようなストーリーである。2003年の冬以来、アジアを中心に、数百万羽単位での死亡を引き起こす鳥インフルエンザが猛威を振るっている。今のところはほぼ鳥類に限られた流行病であるが、人間にも感染するケースが見付かり始め、そのための死者もかなりの数に達している。今後、鳥インフルエンザのウイルスが突然変異して人間から人間に感染する能力を持ったならば、新型のインフルエンザとして大流行を引き起こしかねない。その理由は、鳥由来のウイルスであるために、これまで人類で流行してきたインフルエンザのウイルスとは異なっていて、だれも免疫を持っていないからだ。例えば、第一次世界大戦中の1918年に流行った『スペインかぜ』と呼ばれるインフルエンザの時には、それまで流行していたインフルエンザとウイルスのタイプが異なっていたために、戦争での死者数の数倍にあたる4000万人が世界中で死亡したといわれている。交通が発達した現在では、アジアでの鳥インフルエンザが新型インフルエンザとなって感染爆発を起こせば、その被害は1億人規模の甚大なものとなることが予測される――。「恐怖という流行病」を売り込むこの説得術に言いくるめられてしまう前に、立ち止まって医療社会学の目で少し考えてみることにしよう。医療社会学とは、その名前の通り、社会学という眼鏡をかけて医療という文化現象を観察する学問である。難しくは聞こえるが、その基本は、社会のなかで行われる医療・医学は、良かれ悪しかれ、特定の時代や地域、文化での特定の人々や、グループの価値観や利害に左右されているということを理解した上で、うまく医療・医学と付き合っていきましょうという態度のことだといってもよい。鳥インフルエンザに関して、まず、みなさんは次のような事実をご存じだろうか。

II)医療社会学から見たリスク 
●新型インフルエンザのリスクを再考する
(1)鳥インフルエンザによる健康被害は今のところはごくわずかであること
 2003年から断続的に続く鳥インフルエンザによる鳥類(と養鶏業者)の被害はもちろん甚大である。だが、人間での死者は2006年1月14日現在までの世界中の合計でも79人である。日本での公式統計上はインフルエンザによる死亡は年間で500人から1500人ぐらいであることを考えれば、その少なさが際立つだろう。メディアで鳥インフルエンザや新型インフルエンザとして話題になっているのは、人間を苦しめている現実の病気ではなく、不特定な未来に発生するかもしれないと予測されているに過ぎない、いわば架空の病気についての架空のシナリオであることを、しっかりと確認しておこう。限られた医療資源や医療費を、今のところ誰もかかったことがない新型インフルエンザへの(必要になるかどうかも分からない)備えのために使ってしまってよいものかどうかは、パニックに踊らされることなく冷静に判断していく必要がある点だ。では本当に、「恐怖という流行病」の売り手たちが叫んでいるように、鳥インフルエンザの流行が起きたために、人間での新型インフルエンザのリスクが最近になって高まっているのだろうか。この点についてアセスメントするためには、次のような事実が参考になるだろう。
(2)鳥インフルエンザは、最近になって新しく出現した病気ではないということ
 いま話題となっている鳥での死亡率の高い(高病原性)インフルエンザは、おそらく19世紀から「ニワトリの疫病」として知られているものと同じ病気であり、少なくともこの40年間では鳥類での流行が獣医学者によって何度か確認されている。それどころか、最新の研究によれば、そもそも人間のインフルエンザのウイルスの祖先は鳥インフルエンザのウイルスであって、鳥から豚にまず拡がり、その後に人間に感染するようになったらしいという。つまり、鳥インフルエンザはおそらく一番古くから存在しているインフルエンザなのだが、最近になってメディアで取り上げられることが多くなったので新しいもののように感じられるに過ぎないということになる。要するに、人類はずっと気づかないままに鳥インフルエンザからの新型インフルエンザ発生というリスクと隣りあわせだったのだ。それでも、人間と鳥類との接触の度合いが昔よりも密接になったというなら、新型インフルエンザ発生のリスクは高まっているといえるだろう。その点についてははっきりとは分からない。ただ、第一次産業(農業・牧畜業・水産業・林業・狩猟業など)従事者が減少している以上は、ニワトリと日常的に接触するという人間の数はどちらかといえば減っているのではないか。また、ニワトリもケージで飼われて他の野鳥と接触する機会が少ない分だけ、鳥インフルエンザに感染することも少なくなっているのではないか(いったん感染すれば、狭いケージの中では爆発的に広がるだろうが)。現在の鳥類での鳥インフルエンザ流行は、これまでにない世界規模の激しいものであることは事実だ。その意味では、新型インフルエンザ発生のリスクは多少とも大きくなっているのかもしれない。だが、そうとも簡単には断言できないというのは、こんな事実があるからだ。
(3)あるタイプの鳥インフルエンザが感染力や毒性が強かったとしても、それに由来するウイルスが人間にとって感染力や毒性が強いとは限らないこと
 いま、アジアを席巻している鳥インフルエンザは鳥類に対して強い感染力や毒性を持っている。人間に感染した場合の死亡率も高く、人間に対しても毒性が強いようだ。ただし、鳥類から鳥類にはたやすく感染するが、鳥類から人間への感染はまれであり、人間から人間への感染はほとんどない。感染力の強さという性質は種の壁を越えることができないわけだ。将来、この鳥インフルエンザのウイルスが突然変異して人間から人間に感染するようになるかどうか。そして、たとえそう突然変異した場合でも同じような強い毒性を保ったままかどうかということは予測できないことである。このことを逆に言えば、鳥類での大流行がなかったとしても、突然変異によって人間に感染するインフルエンザとして大流行する場合があるということになる。先に紹介したスペイン風邪の場合はこれにあたっている。一般的な鳥インフルエンザのウイルスが、鳥類での大流行を引き起こすことなく、豚に感染して突然変異が起き、人間での大流行を引き起こしたと推測されているからだ。他の動物は無視して鳥類だけを、しかも鳥類での大流行だけを心配するというのは危機管理としてあまりにも杜撰(ずさん)である。実際のリスクの大きさとは無関係に、鳥インフルエンザの大流行が起きてばたばたとニワトリが死んでいるというイメージは、豚の体内での目に見えないウイルスの突然変異よりもはるかに、人間での新型インフルエンザの大流行という恐怖と結び付きやすい。このようなバイアスが、一見したときの分かりやすさを重視するマスメディアなどによって増幅されがちであることはよく知られている通りだ。鳥インフルエンザの大流行だけを問題視するという見当違いをしでかすことは、笑い話のなかに出てくる落し物を探す男によく似ている。その男は、暗い夜道で落とした財布を捜すために、落としたかもしれない場所ではなく、一カ所だけにあった明るい街灯の下だけを探したというのだ。そこが探すのに便利だったからという理由で。しっかりした歴史記録の残されている16世紀以来、インフルエンザ大流行は十年から数十年に一度の周期で発生している。20世紀での大きな流行は、1918年(スペインかぜ)、1957年(アジアかぜ)、1968年(香港かぜ)の3回であり、新型インフルエンザはそう遠くない時期に発生すると考えたほうがいいだろう。だが、そのことと、それがあたかも今年や来年であると確定しているかのように恐れて騒ぎ立てるということは別物である。最初に、「恐怖という流行病」という視点を紹介したが、これは何も病気にだけ限られていることではない。最近の日本社会では、「安全神話の崩壊」などともいわれるように、病気はもちろんだが事故や犯罪、天災などに対する恐怖が蔓延している。こうした問題に対応する際、恐怖心によって動かされてしまえば、パニックに陥って、インフルエンザをめぐる騒ぎと同じように、ちょっとした危険を過大視したり、見当違いの対策を練ったりすることにつながりかねない。『アメリカは恐怖に踊る』(草思社)で有名な社会学者のバリー・グラスナーは、「人間の弱い心を刺激して恐怖を売り歩く者には富と権力が約束される」から、恐怖やパニックがはびこるのだと指摘している。インフルエンザをめぐる「恐怖という流行病」への最良のワクチンとは、そのことで誰にどんな富と権力が約束されるのかを冷静に疑ってみることではないか。


PS(2015.1.19追加):*4に、「家畜伝染病予防法が発生源の農場を中心に、鶏や卵の移動を禁じる移動制限区域(半径3キロ)と、区域外への搬出を禁じる搬出制限区域(同3キロ〜10キロ)を設定している」と書かれているが、私が医療や畜産の専門家に依り検証を行うべきと考えるのは、この家畜伝染病予防法の内容である。どういう構造の鶏舎でも同じ扱いになるのもおかしい。

    
    *4より                 養鶏場(無料の画像集より)
*4:http://qbiz.jp/article/53983/1/
(西日本新聞 2015年1月19日) 佐賀鳥インフル強毒性 有田の養鶏場 7万2900羽殺処分開始
 佐賀県は18日、鳥インフルエンザウイルスの陽性反応が出た有田町の養鶏場の鶏7羽について、強毒性のH5型高病原性鳥インフルエンザウイルスの遺伝子を確認したと発表した。これを受け県などは未明から、この養鶏農家が管理する同町内の2農場の肉用鶏約7万2900羽の殺処分や埋却作業を開始した。同県内での発生確認は初めて。国内養鶏場での今季発生は、宮崎県延岡市、宮崎市、山口県長門市、岡山県笠岡市に次ぎ5例目となる。県や有田町職員らが同日午前2時50分から殺処分を開始。県から災害派遣要請を受けた陸上自衛隊が夕方から投入されるなど計約1100人が作業にあたった。午後9時現在の処分数は約9割にあたる6万4900羽で、19日未明までの作業完了を目指す。家畜伝染病予防法に基づき、発生源の農場を中心に、鶏や卵の移動を禁じる移動制限区域(半径3キロ)と、区域外への搬出を禁じる搬出制限区域(同3キロ〜10キロ)を設定。移動制限区域の養鶏場は7戸(24万7千羽)、搬出制限区域は隣接する長崎県にまたがり、佐賀県は19戸(24万羽)、長崎県は4戸(2万3千羽)に上る。両県は計18カ所に車両用の消毒ポイントを設置し、通行車両の消毒を24時間態勢で実施。両県とも県内養鶏農家に確認したところ、異常はみられないという。一方、農林水産省の疫学チームが18日、感染ルート解明のため現地入り。佐賀県庁を訪れた小泉昭男農水副大臣は山口祥義知事と会談し、被害農家への補償など国が全面支援することを約束した。

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2015.1.13 農協が岩盤規制なのではない。 ← 佐賀県知事選挙と政府の農協改革のおかしさから (2015年1月14日に追加あり)
     
      *2-1より      2014.11.20日本農業新聞  2014.7.31日本農業新聞

(1)佐賀県知事選では改革が否定されたのではなく、自民党の“改革”方針が悪すぎるのだ
 *1-1に書かれているように、自公の推薦を得た元武雄市長の樋渡氏に対し、佐賀県民は元総務官僚の山口氏を立て、農協が中心となって佐賀県知事選に勝利した。私は、この記事で、「政権側の方が、規制改革色が強い」「切り込む官邸」としているのは間違いだと考える。何故なら、政権が主張する“農協改革”は、TPPに反対している農協の力を弱め、TPPを導入して現在の農業者を農業から撤退させ、食料自給率を下げる“改革”の名に値しないものだからである。

 また、政府の規制改革会議は、上図のように、①全国農業協同組合中央会を農協法で位置づける必要はない ②地域農協の監査権を公認会計士の会計監査で代替する ③経営指導権を法律で位置づける必要はない 等としている。①③は、法律で位置づけなくても、農協内の社内規定で明確にすればよいが、②は、公認会計士監査に替えるにしても、公認会計士監査は内部統制に依拠する上、業務監査は行わず、地域農協毎に公認会計士監査を行えば全体としてはかえって費用がかさむため、現在の内部監査の規模は縮小した上でこれを残し、全体を公認会計士に監査してもらった方がよいと考える。また、④の意見具申は、法律で位置づけなくてもどの業界もやっているので、実質的な変更はないだろう。

 しかし、佐賀県は、私が公認会計士として国内、国外の多くの製造業・サービス業を見てきた目で、衆議院議員時代に地元の農協を廻って農業におけるブランド化やコスト削減に関するアドバイスを行い、中央の政策に関する情報を農協や地元自治体に送り続け、農協が先頭に立ってそれを実践してきた経緯がある。そのため、佐賀県の農業は、日本で一番進んでおり、それには農協の実績が大きく、東北などの他地域とは異なる。そして、政府の方針の方が盲目的なところがあり、政府の農業改革よりも佐賀県の自治体と農協が進めてきた農業改革の方が、地に足をつけて進んでいるのだ。

 そういう経緯があるため、*1-1のように、佐賀県知事選では、自ら改革を進めてきたという自負のある農協が、政権側が擁立した前武雄市長の樋渡氏を応援せずに、元総務官僚の山口氏を立てて、*1-2、*1-3のように勝利したのはもっともなのである。従って、これを、「改革に切り込む官邸が悪い岩盤である農協に敗北した」と解説するのは、失礼だと思う(これも表現の自由だと言うのか?)。

 なお、*1-4のように、政権幹部は、「政策では支持されたが、候補者で支持されなかった」「今後も農業改革などに変更はない」などとしているが、正確に分析すれば、佐賀県は衆院選では、小選挙区と比例代表で、自民党・民主党の両方の候補者を通しており、与党が一方的に勝利したわけではない。しかし、知事選では、①衆院選後の政策や農協改革にたまりかねて農業団体が他の候補者を探してきて支援した ②樋渡氏は自民党の言う“改革(改悪も多い)”を推進する候補者だった ③樋渡氏はその逆風をはね返すほどには人間的に信用されていない面があった などが敗因だと考えている。

(2)農協が岩盤規制なのではない
 *2-1や*2-2で日経新聞は、「政府は、JA全中の指導・監査権を3年で全廃して任意団体に転換し、JAグループ内でのJA全中の強制力をなくす」と書いているが、私は法的強制力がなくても、ある程度の大きさのエリアをまとめて経営指導や内部監査を続けるのが、全中にとっても農協にとっても経営合理性があると考えている。

 また、「地域農協や農家が農産物の価格やサービス、流通経路を自由に競い合えるようにする」とも書かれているが、現在は20年前と異なり、自由に競い合って勝てる農家は既にそうしているのだ。そして、それをやれない零細な経営主体が農協に集まって地域ブランドを作り、地方自治体もこれを応援しているのである。何故なら、このような零細な経営主体は、放っておくと皆が同じ物を作って過当競争になり、共倒れになって市場の失敗が起こるからである(これは経済学のイロハで他国でも同じ)。

 さらに、地域の農産物(例えば、肉、野菜、果物等)は既に競争しており、JAが独占販売しているわけでもない。また、これまでの農家がなくなって株式会社が作ったものや外国産ばかりになれば、日本の消費者のためにではなく利益追求のために農産物が作られるため、日本の消費者はむしろ、有機農業で土づくりからこだわった自然派の農産物のような優良な農産物を選択するチャンスがなくなる。

 なお、農協は、零細農家や兼業農家などの規模の小さい農家だけの集まりではなく専業農家も入っており、農家が作った農産物の検品・販売・会計処理を請け負ったり、農家に肥料や農機具などの資材を販売したり、繁忙期の労働力を手配したり、情報を提供して技術進歩を先導したりもしている。そして、農産物の半分は農協を通さずに販売されているのであり、現在は、それも自由にできるのだが、それにもかかわらず半分が農協経由になっているのは、農協に包括ケアしてもらった方が生産に集中しやすいと感じる農家が多いからである。

 また、「農家には、農協のサービスはどこも画一的で、手数料も割高だといった不満も多い」と記されているが、そう感じる農家は農協を使わない方法をとればよく、近年は資材の専門店や農産物を直接仕入れるスーパーも多い。そのため、農協を弱体化させるのではなく、そちらを頑張らせるべきなのだ。

 このように、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉を進めるために、かなり前の実態から見た論理づけがなされているが、農協を弱体化させることを目的とする法律を通しても、農協経営は効率化するどころか非効率となり、それに伴って農家も弱り、国際競争力を高めるどころか弱めることになる。また、政府関係者が「地域農協が商品開発や輸出強化で自由に競争できるようになる」と指摘しているとのことだが、国際競争をする時には、地域農協は競争するより協力して、よりよいブランド品をまとまった量で生産しなければ、外国に太刀打ちすることはできない。

 なお、「JA全中は監査代などで地域農協などから毎年80億円程度の負担金を集めており、任意団体になれば負担金がなくなり、地域農協の自由度が高まる」と書かれているが、監査のみでそれほどの金額がかかるわけはないため、他のサービスも行っているのを分けずに書いているのではないだろうか。ここは、私が分析すればBestな案を出せると思うが、現在、それを分析する立場にないのが残念である。

 また、*2-1、*2-2の日経新聞記事は、「商社サービス機能を持つ全国農業協同組合連合会(JA全農)は、株式会社に転換できることを明記する」とし、*2-3では日本農業新聞が反論しているが、株式会社にしさえすれば問題が解決するかのような株式会社への盲信をしているのは問題である。生産資材は、大規模な主体が交渉した方が安価に仕入れることができるが、これまでは農業中心ではなく、製造業中心に補助金を見越した価格設定がなされていたため、値段が高い割に粗末だったのだ。

 そのような中、*2-2のように、全中を廃止したり、農協の力を弱めたりすることが目的の“農協改革”に、約700の地域農協を束ねる全国農業協同組合中央会(JA全中)が対決姿勢を鮮明にしたのは当然である。改革は、壊すことを目的とするのではなく、よりよくすることを目的として行うべきだ。私は改革派であって守旧派ではないが、「改革」とは、常時よくなる方向へ向かって行い続けるべきものであり、それは改悪することでは決してないと断言しておく。

<佐賀県知事選で示した農協の意志>
*1-1:http://www.asahi.com/articles/DA3S11536527.html
(朝日新聞 2015年1月6日) 政権・農協、佐賀知事選で激突 規制改革めぐり攻防
 安倍政権と自民党の支持団体である農協が、佐賀県知事選(11日投開票)を舞台に火花を散らしている。政権側が規制改革色の強い前同県武雄市長を擁立したのに対し、農協側は元総務官僚を担いだ。背景には、規制改革の象徴として政権が取り組む「農協改革」をめぐる攻防がある。
■切り込む官邸、地元が対抗
 「自信と責任を持って推薦しました」。前佐賀県武雄市長の樋渡啓祐氏(45)の集会では、安倍晋三首相がこう語る映像が流れる。政権を挙げて樋渡氏を推す、という演出だ。これまでも、菅義偉官房長官や竹下亘復興相らが応援に駆けつけ、5日には自民党の谷垣禎一幹事長が同県伊万里市の演説会に出席。「樋渡氏は武雄市長として、ツタヤで図書館をうまく活性化させたりした。あるいは(ハーブの一種の)『レモングラス』なんて、その辺にあるものをブランド品にしてしまう。こういうことがないと地方創生はうまくいかない」と持ち上げた。稲田朋美政調会長も8日に応援に入る。特に、首相の最側近である菅氏は樋渡氏の支援に力を入れる。市長時代、地元医師会の反対を押し切り、市民病院の民間移譲を進めるなどした姿勢が、アベノミクスの規制改革の方向性と一致すると評価。農業でも、レモングラスを農協を通さずに販売しており、菅氏は「樋渡氏は改革派で押し出せる」と周囲に語る。しかし、そうした樋渡氏の手法に、農協など業界団体などを中心に自民党の支持組織は警戒感をあらわにした。地元農協の政治組織「県農政協議会」が主導し、一部の自民党県議や県内の首長と擁立したのが元総務官僚の山口祥義氏(49)だ。県農政協議会の中野吉實(よしみ)会長は、JAグループの中核、全国農業協同組合連合会(JA全農)会長を務める。佐賀では、2007年参院選で民主党に敗れるまで自民が20連勝。正組合員約5万5千人のJAグループが、保守王国・佐賀を支えてきたという自負もある。農協と関係の深い自民党農林族議員の一人は「知事選の結果が、農業改革に突き進む安倍政権への牽制になる」ともくろむ。政府の規制改革会議は昨年5月、農協法で地域農協の指導などが認められている全国農業協同組合中央会(全中・万歳章会長)の「廃止」を提案。党農林族議員が猛烈に巻き返し、「廃止」の表現を撤回させた。これに対し、推進派は昨年10月、稲田氏のもとに「規制改革推進委員会」を設置。族議員に対抗する場をつくった。衆院選で議論は中断したが、今月中にも再始動する予定で、政権と農協は再び激突することになる。安倍政権が掲げる農協改革とこれに対する懸念。農協改革が隠れた争点になる中、山口氏は3日に伊万里市で開いた総決起大会で「農協は団結して佐賀の農業をつくってきた。守るべきものは守らなければならない」と訴えた。
■「勝っても負けてもしこり」
 知事選の選挙結果は、国政に少なからず影響を与えそうだ。安倍政権は樋渡氏が勝てば、農協の発言力は低下し、農協改革に弾みがつくとみる。官邸幹部は「自民党守旧派が山口氏に乗るのなら、一緒につぶすしかない」と闘争心を隠さない。一方、農協側が推す山口氏が勝てば、農協の組織力を見せつけられる結果になる。今春の統一地方選や来夏の参院選をにらみ、自民党内や地方組織から、支持団体である農協の改革に懸念の声が噴き出す可能性がある。党幹部の一人は「農協改革が『農協つぶし』と受け取られてはならない」と指摘。樋渡氏の応援で現地入りしたベテラン議員でさえ、「このままでは勝っても負けてもしこりが残る」と心配する。政権の目指す農協改革に党内外の反対が強まれば、政権が掲げる規制改革による成長戦略の失速につながる可能性もある。農協グループの司令塔である全中の中にも、知事選での激突で政権と抜き差しならない関係になることを心配する声がある。JAグループ幹部の一人は「衆院選が終わり、これからの自分たちの防御のことで精いっぱいだ」と話す。
 飯盛良隆(いさがいよしたか) 44 無新 農業
 樋渡啓祐(ひわたしけいすけ) 45 無新 [元]武雄市長 〈自〉〈公〉
 山口祥義(やまぐちよしのり) 49 無新 [元]総務省室長
 島谷幸宏(しまたにゆきひろ) 59 無新 九大院教授
 (届け出順、敬称略。〈 〉内の政党は推薦。年齢は投票日現在)

*1-2:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/144467
(佐賀新聞 2015年1月12日) 樋渡氏「私の力不足」 改革派、夢絶たれる
 「改革派首長」の次なる挑戦が絶たれた。樋渡啓祐さん(45)の事務所に「山口氏当確」の報が入ると一瞬にして静まり返り、重苦しい雰囲気になった。武雄市長時のユニークな政策で抜群の知名度があったものの、県農政協議会を中心とした強大な組織力に立ちふさがれてあと一歩届かなかった。樋渡さんは「私の力不足が今回の結果を招き、申し訳ありません」と深々と頭を下げた。事務所では県連会長の福岡資麿参院議員や古川康衆院議員ら4人の国会議員も並んで、支持者を前に頭を下げた。福岡会長は「私たちの力が及ばず、責任の重さを受け止めている」と苦渋の表情を見せた。教育改革を武雄市で進める樋渡さんは「投げ出し」の批判覚悟で市長辞職と知事選挑戦を決断した。自民党の推薦を受けたものの、保守分裂が起こり、自民の有力団体の県農政協が元総務官僚の候補を応援する事態に。党本部も乗り出して官房長官や幹事長らが続々と応援に駆け付けるなど国政選挙並みの態勢がとられた。一方で党本部の露骨な介入に反発も強まり、相手陣営の結束を誘引した。前知事の古川衆院議員との運動で「後継者」をアピールし、民間と連携した改革の実績や即戦力も示して訴えたものの、相手候補の猛追を止められなかった。武雄市を全国区の知名度に押し上げた情報発信力も、市長時代の政治手法や言動に対する批判の声にかき消された。最終盤に「潮目が変わった」と振りかえる樋渡さん。「佐賀を良くしたいという政策を訴えたが、思いが届かなかった」と淡々と語った。

*1-3:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/144469
(佐賀新聞 2015年01月12日) 山口氏歓喜の輪 「佐賀のことは佐賀で決める」
■「県民党」激戦制す
 「佐賀のことは佐賀で決める」。自公政権が国政選挙並みに幹部を送り込んだ異例の知事選を制した元総務省過疎対策室長の山口祥義(よしのり)さん(49)。歓喜の渦の中、「県民一人ひとりの力がどれほど強いか、日本中に示した」とつぶれた喉で叫んだ。事務所には、自民党の推薦する樋渡啓祐さんの政治手法に反発するJAグループ佐賀の政治団体・県農政協議会や多くの首長、地方議員ら約300人が詰め掛け、「ヤマグチ」コールで新知事を迎え入れた。何度も万歳して喜び合った。選挙戦を通じ、旗印に掲げたのが党派の垣根を越えた「県民党」だった。反樋渡の一点で、民主党議員や連合佐賀も参戦。集会では過去の選挙でしのぎを削った者同士が席を並べた。国対地方の構図は「佐賀の乱、佐賀の百姓一揆だ」(与党筋)と注目を集めた。中でも県内最大の政治団体である農政協は「かつてないほど死に物狂いで動いた」(幹部)。集落単位に張り巡らされた2千数百の生産組合の末端まで指示を下ろし、圧倒的な動員力で決起大会の会場を毎回、満杯にした。それでも、立候補表明が告示9日前と出遅れ、知名度不足をばん回できないまま、各報道機関の情勢分析でも苦戦が伝えられた。事務所開きでは司会に名前を「よしひろ」と間違えられ、陣営幹部も「先ほど本人とお会いしたばかり」と繕うほどだった。もともと地方自治や防災対策の経験が豊富で、誰とでもすぐに打ち解ける明るい性格。陣営内での認識も反樋渡の「みこし」から、「この人に知事になってほしい」へと変化していった。最終盤の県都決戦では大半の佐賀市議らが「自分の選挙でも記憶にない」ほど汗をかき、大逆転で勝利をもぎ取った。出馬を決意したのが昨年12月12日。1カ月前は無名の官僚が佐賀県知事になった。「奇跡の30日間だった。県民一人ひとりの声に耳を傾け、現場目線で改革を進める。選挙が終わればノーサイド」。山口さんは持ち前の気さくな笑顔で支援者らと抱き合った。

*1-4:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/144748
(佐賀新聞 2015年1月13日) =知事選= 政府与党「政策は支持された」
■敗因検証求める声も
 11日の佐賀県知事選で自民、公明両党の推薦候補が、農業団体が支援する候補に敗れたことについて、政府与党の幹部らが12日、相次いで言及した。安倍政権が取り組む農協改革や、4月の統一地方選への影響を否定する一方、敗因の検証を求める声も上がった。甘利明経済再生担当相は、首相官邸で記者団に「政策では支持されたが、候補者で支持されなかったというのが今回の結果だと思う」と述べ、安倍政権が進める農協改革への影響はないとの見方を示した。甘利氏は「アベノミクスは衆院選で支持された」として、政権の経済政策が知事選での敗因ではないと強調。環太平洋連携協定(TPP)交渉への影響についても「ありません」と否定した。自民党の稲田朋美政調会長は「農協改革にブレーキがかかることはない」と記者団に語った。二階俊博総務会長は記者会見で「衆院選で勝ったから、他は取りこぼしても良いとはならない。なぜ勝てなかったか考えるべきだ」と指摘した。公明党の山口那津男代表は、官邸で記者団の質問に「佐賀のいろいろな要因があり、地域の特性に応じた選挙が展開されるので、統一地方選に特に影響はない」との見方を示した。農協改革に関しては「いろいろな声がある。謙虚に受け止め今後に生かすことが重要だ」と述べた。

<農協が岩盤規制なのではない>
*2-1:http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS30H5V_T00C15A1MM8000/
(日経新聞 2015/1/4) JA全中の農協指導権「全廃」案 政府、任意団体に
 政府は今月始まる通常国会に提出する農業協同組合法改正案の骨格を固めた。全国の農協組織を束ねる全国農業協同組合中央会(JA全中)の指導・監査などの権限を3年で全廃して任意団体に転換する。JAグループ内でのJA全中の強制力をなくし、地域農協や農家が農産物の価格やサービス、流通経路を自由に競い合えるようにする。消費者も安価で魅力的な国産品を買える可能性が高まる。JA全中の下部組織である地方中央会は原則5年、最長10年以内に任意団体に変える。JA全中を岩盤規制の象徴と見なしてきた安倍晋三政権は農協法改正案の骨格を1月にも与党に示し、今春をめどに改正案を国会に提出したい考えだ。地域農協は零細農家や兼業農家など生産規模の小さい農家の集まりで、全国に約700ある。農家が作った農産物の販売を請け負ったり、肥料や農機具などの資材を農家に販売したりする。地域農協の頂点に立つのがJA全中で、都道府県ごとに設けた地方中央会を通じて統制している。全国の農家が出荷したコメや野菜などの農業総産出額約8兆5000億円のうち、約半分は農協経由で、JAグループの価格影響力は強大。ただ農家には「農協のサービスはどこも画一的で、手数料も割高だ」といった不満も多い。環太平洋経済連携協定(TPP)交渉を背景に強い農業の確立が急務になるなかで、改正案は農協の経営を効率化させ、国際競争力を高める狙いもある。改正案には、指導・監査権や、行政に意見を述べる建議権などJA全中が持つ法的権限を3年後にすべてなくし、ほかの業界団体と同じ一般社団法人や法的権限のない農協の連合会に転換させる内容を盛り込む。政府関係者は「地域農協が商品開発や輸出強化で自由に競争できるようになる」と指摘する。JA全中は監査代などで地域農協などから毎年80億円程度の負担金を集めている。任意団体になれば負担金がほぼなくなり、地域農協の自由度が高まる。政府内には、負担金を使ったTPP交渉や企業の農業参入などの反対運動を封じることができるとの思惑もある。地方中央会は原則5年で任意団体に転換。農相が認可すれば、さらに5年の猶予期間を設ける。今春の統一地方選を前に与党内に「選挙戦で集票マシンとして機能する地方中央会は残すべきだ」との声が強いためだ。商社サービス機能を持つ全国農業協同組合連合会(JA全農)は、株式会社に転換できることを明記する。当面は地域農協が出資する状態を維持するが、将来は経営合理化につながる農協外からの出資受け入れに含みを持たせる。合理化で生産資材などの価格が下がれば、生産者の競争力が高まるとの期待がある。企業や農家でつくる農業生産法人への企業の出資比率も原則25%から50%未満に引き上げ、企業の参入障壁を低くする。

*2-2:http://www.nikkei.com/article/DGKKZO79398060X01C14A1EA2000/?bu=BFBD (日経新聞 2014/11/7) JA全中、農協改革で政府と対立鮮明 独自案を公表 経営指導権の維持狙う
 安倍晋三政権が掲げる農協改革に、約700の地域農協を束ねる全国農業協同組合中央会(JA全中)が対決姿勢を鮮明にしている。JA全中は6日、自ら組織改革案を公表したが、各農協を指導する監査権限などを従来通り維持する方針を強調した。政府・与党は年末までに農協改革案をまとめるが、JA全中は自民党農林族を取り込んで巻き返しており、調整は難航しそうだ。農協の多くは農家からの農産物の買い取り価格や経営指導が画一的で、企業の農業参入にも否定的だった。政府は成長戦略で農産物輸出の拡大などを掲げ、大胆な農協改革を迫っている。中でもJA全中の全国一律の経営指導に問題があるとみていた。JA全中の万歳章会長は6日の記者会見で「自らの組織改革を自らの手でやり遂げるという決意でまとめた」と述べた。全中が公表した自己改革案は「新たな中央会は農協法上に措置することが必要」と明記した。首相は10月3日の衆院予算委員会で「農協法に基づく現行の中央会制度は存続しないことになる」と明言しており、両者の考えは真っ向から対立することになる。安倍政権は農協法で定めた全中の位置づけを廃止し、経団連などほかの業界団体と同じ一般社団法人への転換をめざす。各農協が独自の経営判断で農産物の開発や流通ルートの開拓に取り組むようにする。農協が監査代の対価などとして全中に支払う年間70億円程度の「負担金」もなくなり、経営の自由度は増す。だが全中は6日の改革案で経営指導権は「経営相談」に名称変更するものの、農協法で制度を存続する方針を盛り込んだ。社団法人化も見送った。農林水産省幹部は「政府と隔たりが大きい」と困惑する。安倍政権には農協改革に熱心な菅義偉官房長官らがおり、強硬姿勢を崩さない。来春には統一地方選を控え、自民党内には農協の集票力に期待がなお残る。「岩盤規制」の突破を掲げる安倍政権の改革姿勢を問われることにもなり、年末に向けて議論は波乱含みだ。

*2-3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=31440 
(日本農業新聞 2014/12/29) 良識ある自民党議員へ期待 株式会社 盲信を正せ 評論家・ノンフィクション作家 関岡 英之
 年明けの通常国会は、農協法改正問題で波乱含みとなるだろう。JA全中が現状通り同法上の組織として存続できるかどうかが最大の焦点だ。一部報道によると、政府原案には全中の一般社団法人化が盛り込まれるという。規制改革会議の農業ワーキンググループは、5月に公表した「農業改革に関する意見」で中央会制度の廃止を提言した。これに対し自民党内から異論が噴出したため、6月に閣議決定された「規制改革実施計画」では「新たな制度に移行する」という表現に弱められた。
●中央会廃止狙う
 しかし安倍総理は10月3日の衆議院予算委員会で「農協法に基づく現行の中央会制度は存続しないことになる」と明言していることから、同法改正の真意が中央会制度の「廃止」にあることは明白である。全中から監査権限を奪い、民間企業と同様、単協にも公認会計士の会計監査を受けさせることが狙いの一つだろう。それ以外にも、全農の株式会社化、単協・連合会の分割・再編や株式会社等への移行、民間企業の経営経験者の理事会参入、単協の信用事業を農林中金へ移管した上で農中・全共連を株式会社化するなどといった規制改革会議の提言が実現する可能性も排除できない。これら一連の“改革”案に通底しているのは、協同組合の存在否定と民間企業への盲信だ。だが、農協を解体して株式会社化すれば、我が国の農業が抱える複雑な問題が一挙に解決できるなどというのは、控えめに言っても誇大妄想である。よく目を開けて、大企業の経営者たちの情けない実情を見てみるがよい。ひたすら内部留保を溜(た)め込むだけでリスクテイクする気概もなく、賃上げや国内投資に踏み切ろうとしない。自動車会社は内外でリコール騒ぎを繰り返し、家電メーカーは新興国企業の追い上げになすすべもない。銀行は不良債権の山を築いて国民の血税で救済される体たらくで、いまだに預金者へまともな利息を払わない。東証一部上場企業に14年間勤務した経験のある筆者は断言できるが、株式会社を万能の救世主として神聖視するなど愚の骨頂である。
●問題をすり替え
 そもそも、農家の高齢化や後継者難、耕作放棄地の増加など、農業の衰退を全て農協のせいだと決め付けるのは、事の本質から国民の目をそらすことを狙った問題のすり替えだ。我が国の農業が長年にわたって苦境に陥ってきたのは、米国の貿易自由化圧力がもたらしたものであることは誰でも知っている。だが、政府の役人やマスコミはこの歴然たる事実を見て見ぬ振りを決めこみ、国民の目を誤魔化(ごまか)そうと躍起になっている。政府とマスコミ、背後に控える財界は「農業が衰退したのは農協が悪いからだ」と居丈高に叩(たた)く。それはまるで、子どもを真冬に裸でベランダに放置しておきながら、「衰弱したのはお前が悪い子だからだ」と子どもを虐待する鬼畜のごとき理不尽な言い草ではないか。良識ある自民党議員の奮起を期待したい。
<プロフィル> せきおか・ひでゆき
 1961年東京都生まれ。早稲田大学大学院修士修了。年次改革要望書による米国の内政干渉を解明した『拒否できない日本』、TPPに関する『国家の存亡』、『TPP黒い条約』『検証アベノミクスとTPP』など著書多数。


PS(2015年1月14日追加):*3をはじめとして、1月11日の佐賀県知事選を取り上げた記事は多いが、これを「佐賀の乱」と例えるのは、意味もなく歴史の知識を遊んでいるだけであり適切でない。何故なら、佐賀の乱は明治政府内の意見対立だが、今回の知事選は主権在民にのっとって行われた国民の意志表示だからだ。なお、現在は、殆どが改革派であり、「どう変えるか」に焦点が移っている。その点、樋渡氏は、ツタヤと組んで市立図書館を刷新したが、ツタヤと市立図書館のとり合わせには疑問を感じた人もいたし、市民病院は黒字ならいいというものでもないため、民間移譲がBestな選択だったかどうかは疑問だ。また、(岩盤の?)地元医師会の反発を押し切ったからよいことをしたというものでもなく、武雄市を挙げて、まじめに医療改革の内容と方法を問うた闘いであったため、新聞記者も勉強して報道の質を向上させてもらいたい。

*3:http://www.asahi.com/paper/editorial.html
(朝日新聞社説 2015年1月14日) 自民の敗北―佐賀の乱で見えたこと
 地方選には地域固有の事情が反映する。それを安易に国政に結びつけるべきではないにしても、安倍政権にとっては痛い結果だったに違いない。前知事の衆院選立候補に伴う11日の佐賀県知事選で、元総務官僚で新顔の山口祥義(よしのり)氏が当選した。衆院選で大勝した自民、公明両党推薦の樋渡(ひわたし)啓祐・前佐賀県武雄市長らを破っての「番狂わせ」である。知事選では、県内にある九州電力玄海原発の再稼働や、自衛隊のオスプレイ佐賀空港配備といった問題よりも、政権が進める農協改革をめぐる「政権対農協」の争いがクローズアップされた。政権が支援する樋渡氏に対し、改革に否定的な地元農協などが反旗を翻す形で山口氏を推したからだ。2006年から武雄市長を務めた樋渡氏は、レンタル大手ツタヤの運営会社と組んで市立図書館を刷新、全国的な注目を集めた。また、地元医師会の反発を押し切っての市民病院の民間移譲なども進めた。市長としての行動力に高い評価を得ると同時に、強引な手法への批判もまた根強かった。農協改革など規制改革に力を入れる政権が樋渡氏を全面的に支援したのは、「改革派」の側面を買ったからだ。農業県の知事選を制すれば、抵抗が大きい農協改革にも弾みがつくとの狙いだ。しかし、地元の側には、農協改革だけでなく、中央主導のトップダウンで知事選を仕切ろうとした政権のやり方への反発も強かったようだ。日本の農業が行き詰まりつつあるのは明らかだ。農政とともに農協の改革は避けられないという政権の意図はわかる。一方で、改革を進めようとすれば摩擦が生じる。突破するには強いリーダーシップが必要だとしても、同時に指導者の考え方を丁寧に説明し、議論を通じて異論をすくいとっていくプロセスもまた欠かせない。原発再稼働が問われた滋賀県、米軍普天間飛行場の県内移設が争点になった沖縄県。昨年来、自民党が支援する候補が敗れた知事選を振り返ると、いずれも地元の意思よりも「国策」を優先しようとする政権の姿勢が拒否されたという構図が浮かび上がる。4月の統一地方選を控え、安倍首相はきのうの党役員会で「敗因分析をしっかりしたい」と述べた。今回の結果を、農協改革の是非という狭い枠組みだけでとらえるべきではなかろう。問われたのは、民意に対する安倍政権の姿勢そのものだ。


PS(2015/1/14追加):私も、今回の農協改革は、農業所得向上にも食料自給率向上にも結び付くようには思えず、何のためにやっているのか不明確だと思うので、農協改革をしようとする人は、それらを理路整然と説明すべきだし、その論理は改革をしようと思った時にはわかっているのが当然であって、聞かれて初めて考えているようでは話にならない。しかし、「(公認会計士監査の方が監査する側の)権限が強くなり、厳しく見ていく方に働くのではないか」というのは、「監査は、まあまあの方がよい」という前提に立っているが、それでは監査の目的が達せられず、単なる無駄遣いになってしまうのである。

*4:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=31619
(日本農業新聞 2015/1/14) 農協改革 目的見えず 閉会中審査 野党が追及 衆院農水委
 衆院農林水産委員会は13日、閉会中審査を開いた。農政での最大の課題に浮上している農協改革をめぐり、野党側は政府が目指す農業所得向上にどう結び付くのか見えず、目的がはっきりしないと追及したが、政府側からは明快な答弁はなかった。農協改革の目的は何か、来週から本格化する政府・与党内の議論でもあらためて論点の一つとなりそうだ。政府は今春に農協法改正案を国会に提出する方針。政府・与党内の議論が今月下旬から本格化する見通し。政府は農協改革の目的を「農業所得の向上」と位置付け、焦点となる農協監査では「JA全中の強制監査権限はなくす」として単位農協が全中による監査を受ける義務付けをなくし、公認会計士による監査の導入を検討している。この日の委員会で民主党の玉木雄一郎氏は「強制権限を取れば、なぜ農家の所得が増えるのか。この強制権限の有無と所得増大、このことの因果関係がいまひとつよく分からない」と政府の見解をただした。西川農相は「身内が身内を監査するという状況を脱して、自由な発想でやるけれども、公認会計士などでしっかり監査しましょうと(いうこと)」「とにかく(単協の経営の)自由度を高めていきたいという考え方」などと説明した。ただ、玉木氏は「今の答弁を農家が聞いて、なぜJA全中の強制監査権限を外せば所得が増えるのか、今のままだとなぜ所得が増えないのか分からない」と反論。「むしろ(公認会計士監査の方が監査する側の)権限が強くなり、厳しく見ていく方に働くのではないか」とも指摘した。農協監査に公認会計士監査を導入することをめぐっては、現行の会計・業務一体の監査ができなくなり、費用負担も大きく増すなど問題が多い。この日の委員会では維新の党の村岡敏英氏も農協改革を取り上げ、農業関係者の不信が高まっていると指摘。「農協関係者の思いを把握しないで改革は進められない」とし、十分な話し合いを行った上で、現場の意向を踏まえるよう政府に迫った。

| 農林漁業::2014.8~2015.10 | 12:24 PM | comments (x) | trackback (x) |
2014.11.10 政府の「農業改革」は、農業を見たこともない人の発想のようで、農協解体による農協弱体化以外の目的が見えない → 農産物の付加価値を上げよう (2014/11/10、13に追加あり)
      
*1-1より     2014.7.3      2014.8.14  2014.7.15  *5より
                    西日本新聞より

(1)政府が求める「農協改革」は改革のための改革であり、農業への具体的なメリットが見えない
 *1-1に、「政府が中央会制度の抜本的な見直しをさらに進める踏み込んだ改革を求めるのは必至」と書かれているが、私も農協改革は自己改革でよいと考える。なお、「農協法でJA全中に認められている監査で、『農協監査士』などの資格を持つ中央会職員約500人が、地域農協の事業の妥当性や信用事業の法令順守態勢など多岐にわたって精査し、監査で得た情報を経営指導にも生かし、地域農協の経営安定に取り組んでいる」としても、それは、独立の第三者による監査ではなく内部監査である(その割には、人数が多すぎるが・・)。内部監査ももちろん重要なのだが、内部監査ではその組織のトップが指示する粉飾決算や組織ぐるみの不祥事は指摘できないというのが監査論のイロハだ。

 そのため、内部統制に依拠した外部監査も必要であり、*1-1の「企業監査は会計のチェックだけする」というのは、会計や監査を知らない人の失礼な暴言である。公認会計士などの外部監査を受けるとプラスになる点は、その組織が不正や不法行為を行っていないことを証明してもらうと同時に、あらゆる産業の監査をしている公認会計士を通じて他産業で行われている管理の知恵を得られることで、私が農業の弱点を見つけて改善策をすぐ提案できるのも、前に外部監査人として日本系・外資系の製造業、サービス業を多く廻った経験を持ち、他産業の事例を多く知っているからである。

 JA全中の幹部が「監査で経営状態を把握でき、東日本大震災でも破綻する農協はなかった。現行の監査がなければ地域の農業は守れない」と訴え、地域農協も理解を示しているのはよくわかる。何故なら、気候・風土の違いからくる地域による作物や経営方法の違いもあるが、集中しているからこそ安い単価で集まる知識や経験もあるからである。

 「農協改革を進める政府内に、全中の画一的な指導が、地域農協の自由な活動を阻害しているとの批判が根強く」「JA全中を一般社団法人化して監査などの権限を廃止する方向で検討が進む見通し」というのは、農協を弱めるための破壊の論理で、馬鹿の一つ覚えのように「法人化」を唱える人の意見は農業の競争力を弱めることこそあれ高めることはない。そのため、*1-2のように、中央会制度に関して 「改革ありき」の姿勢を疑問視する意見が出るのは当然である。 

(2)地方の豊かさを増すには、農林水産業及びその関連産業の付加価値向上が不可欠
 *2-1に書かれているように、農水省の有識者会議が「高齢化や人口減を解決するには、若者の地方移住促進に向けて農林水産業の6次産業化を進めて就業機会を確保すべきだ」とする方針を出したそうだが、そのとおりだ。何故なら、6次産業化によって農林水産業に新しい付加価値が加わり、就業機会が増えると同時に、地域を豊かにして活気づかせるからである。ちなみに、このスキームは、私が佐賀三区選出の衆議院議員をしていた時に考え、経産省が「6次産業化」という面白い名前をつけたものだ。

 そのため、*2-2のように、「ブランド化」や「6次産業化」を見つめた農業経営は、佐賀県ではかなり進んでおり、成功した農家には、学校農業クラブ全国大会で最高賞をとった中山君(農業高校3年)のようなりっぱな次世代も育っている。しかし、東北・北陸はじめその他の地域には、昔ながらの米作りのスキームに固執している場所も多く、これは農協組織の問題というよりも、国会議員はじめそれぞれの地域のリーダーが持っている地域活性化ビジョンの問題である。

 また、*2-3のように、長野県の工房「アトリエ・ド・フロマージュ」が、初の国産ナチュラルチーズコンテストで栄冠に輝き、来年6月のフランスでの国際コンクールに出るそうだ。ここでも上位優勝できれば、本場へのチーズの輸出で、農産物の輸出に貢献できそうである。

(3)農業・食品関連企業において期待される女性の活躍
 *3-1のように、地域経済の活性化に向けた男女共同参画会議(内閣府)専門調査会の報告で、働く人、管理職、起業家のいずれの項目でも、高知県の女性割合が最高だそうだ。それはよいことだが、高知県の担当者が「女性が働くことに寛容な(?)雰囲気がある」としているのは、働く女性が何かいけないことをしているかのようで、頑張って働いている女性に対して失礼である。一方、佐賀県は、起業家に占める女性の割合では高知県と並んで18.2%で最高だったそうだが、これは、食品・介護・家事支援サービスなどの家事延長系の会社が次々と立ち上がっているからだろう。

 また、*3-2のように、JAいわて花巻女性部が、17年前に購入した加工施設のアイスクリーム製造機を使ってアイスクリームを作ったところ、予想以上の出来となり、活性化に活用できるかもと期待しているそうだ。ブルーベリーやイチゴを入れた3種類のアイスクリームを作り、驚くほど良い出来で6次産業化につながるかもしれないとのことだが、農村で入手できる採れたての原材料を甘さ控えめのアイスクリームにすれば、美味しくて栄養価が高く、規格外の作物もうまく使うことができ、保存期間が長くなるため、作物全体の付加価値が高くなる。

 このほか、*3-3のように、佐賀県唐津市は、コスメ事業でフランスと協力連携協定を締結しており、フランスのコスメティックバレー協会のジャメ会長が、フランスのコスメ業界約30社をジャパン・コスメティックセンターの会員企業に紹介してビジネスマッチングを進めていくことを提案されたそうだ。アジア市場を睨んで日本で商品開発し、日本で原材料を調達して商品にするのはよいアイデアであり、(現在は原発で悪名高くなってしまっているが)玄海町も薬用植物の栽培を研究しているため、この機会を逃さず産学官連携して成功させるべきである。

 そのような中、*3-4のように、ふくおかフィナンシャルグループ(FFG、福岡市)は、副支店長級以上の管理職に占める女性の割合を2023年3月までに現在の4倍の10%に引き上げる目標を設定したそうだ。2023年3月に10%というのは、1985年頃に私が監査で訪れた東京のケミカルバンク日本支店で50%くらいが女性管理職だったことから考えればかなり低いが、金融にも女性の視点が不可欠であるため、何も目標を設定しないよりはよいだろう。

(4)有害動物とされるシカやイノシシなどの野生動物は、本当は資源である
 *4-1のように、北海道から屋久島までシカが増え続けて、被害は農作物だけにとどまらず、下草も食い尽くされて土砂崩れの危険が高まる場所もあるということだが、シカやイノシシを駆除することしか思いつかず、せっかく捕獲した獲物を埋めることしかできないのでは、人間の方が情けない。

 先日、私の夫が、患者さんが獲ったというシカ肉をもらって来たので、すりおろしリンゴに1晩つけてから高圧釜でシチューにして食べたが、赤身でコラーゲンが多くヘルシーな肉だった。「肉は霜降りで柔らかくなければ価値がない」というのも、常識のウソにすぎないのではないだろうか。

 なお、シカ皮、イノシシ皮、やぎ皮は牛皮よりも柔らかいため、靴やバッグや手袋に加工すれば高級品となり、ファッショナブルでもある。そのため、フランス、イタリア、日本のブランドと組めば、付加価値の大きな商品が作れることは間違いない。

 しかし、*4-2のように、フクシマ原発事故では、山林にも放射性物質が降り注いで山林を汚染したため、そこで獲れる東北のジビエは使い物にならなくなった。そのため、放射性物質の影響が無視できるようになるまで、それらの地域は野生動物の楽園にするか、捕獲した後、しばらく放射性物質を含まない餌を与えて解毒するなどの方法が考えられる。

<農協改革について>
*1-1:http://qbiz.jp/article/49354/1/
(西日本新聞 2014年11月7日) 「農協改革」調整難航か 全中、監査機能の維持求める
 「新たな中央会として、これからも農協への役割を果たしていく」。全国農業協同組合中央会(JA全中)の万歳章会長は6日の会見で、グループを束ねるJA全中の存在意義をあらためて強調した。ただ、中央会制度の抜本的な見直しを進める政府が、さらに踏み込んだ改革を求めるのは必至。与党内には農協改革に反発する意見もあり、年末にかけて激しい議論が続きそうだ。自己改革案でJA全中が強く存続を求めたのは、地域農協に対する監査機能だ。会計のチェックだけをする企業の監査とは異なり、農協法でJA全中に認められている監査では、「農協監査士」などの資格を持つ中央会職員約500人が、地域農協の事業の妥当性や、信用事業の法令順守態勢などを多岐にわたり精査。監査で得た情報を経営指導にも生かし、地域農協の経営安定に取り組んでいる。農協の破綻や不祥事を防ぐため、国が監査強化を促してきた経緯がある。JA全中の幹部は「監査によって経営状態を把握でき、東日本大震災でも破綻する農協はなかった。現行の監査がなければ、地域の農業は守れない」と訴える。こうした考えには、地域農協にも理解を示す声も。大分大山町農協(大分県日田市)の矢羽田正豪組合長は「地域農協が独自性を生かして自立的な経営をしていくことは重要だが、現状では法律的な知識や経営面で中央会に頼る農協も少なくない」と明かす。
   ◇    ◇
 一方、農協改革を進める政府内には「全中の画一的な指導が、地域農協の自由な活動を阻害している」との批判が根強い。安倍晋三首相も国会などで「農協法に基づく現行の中央会制度は存続しない」と繰り返しており、JA全中を一般社団法人化して監査などの権限を廃止する方向で検討が進む見通しだ。混迷が予想される調整の行方に対し、現場からは「全中として政府の意向をにらみながらぎりぎりの改革案を出したと思うが、政府がどう判断するか…」(熊本県の農協幹部)と不安が漏れる。政府主導で進む農協改革について、キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は「安倍政権としては、アベノミクスの重要政策であるTPPに反対している全中の政治力を弱める狙いがあるのでは」と指摘。「組織を変えるだけでは本質的な農業改革にならない。政府には、減反の廃止や輸出の拡大など、農業の競争力を高める政策を進められるかどうかが問われている」と話している。

*1-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=30651
(日本農業新聞 2014/11/6) 中央会制度 「改革ありき」疑問視 自民参院政審が勉強会
 自民党参院政策審議会は5日、農協改革について勉強会を開いた。議員からは、焦点のJA中央会制度をめぐり、改革ありきで議論が進んでいるのでは、と疑問視するような意見が相次いだ。一方、農水省は、6月の政府・与党の取りまとめに沿って、法改正に向けた作業をしていく原則論を説明するにとどまった。勉強会では農水省が、JAグループの現状や6月に閣議決定した「農林水産業・地域の活力創造プラン」に盛り込まれた農協改革の方針について説明。ただ来年の通常国会での関連法案の提出に向けた議論の方向性など、議員の最大の関心事には具体的な考え方を示さなかった。一方、議員からは「(中央会などの)組織をどうするかは(改革の)手段のはずが、目的化してしまっている」「中央会の権能のうち、どこに問題があると考えているのか」「(単位JAの自主性を尊重する仕組みに改革するのであれば)全中などの権限を変える必要はないのではないか」といった意見や、農水省への質問が出た。これに対し同省は、今回の改革の方向性について「いろいろなことを、組織でこうやろうと決めつけるのではなく、各単位農協が自由に頑張り、それを連合会や中央会がうまく支援する」形にすることが本筋だと説明した。また新たな中央会制度については「まだ定まっているわけではない」としながら、(1)自律的な新たな制度になる(2)単位JAは独り立ちしているということが前提――とする6月の取りまとめを踏まえ、「中央会が強制的な権限を持つことをどうするかが最大のポイントになる」と指摘した。同党参院政策審議会は定期的に勉強会を開いているが、今回は議員から「農協改革について議論するプロジェクトチーム(PT)を立ち上げてほしい」との声が出たことを受け、農協改革を議題とした。同党には有志議員でつくる「参院農業・農協研究会」もある。同党参院幹部によると、参院は1都道府県1選挙区で農村部を多く抱えるため、農協改革の議論にも関心が高いという。

<農業地帯における付加価値の向上>
*2-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=30574
(日本農業新聞 2014/11/1) 6次化で就業確保 指針に向け論点整理 活力ある農山漁村検討会
 農山漁村活性化に向けた政策の「指針」を検討している農水省の有識者会議「活力ある農山漁村づくり検討会」(委員長=小田切徳美明治大学教授)は31日の会合で論点整理をした。高齢化や人口減が深刻化する中、若者らの地域移住・定住促進に向け、農林水産物の6次産業化を進めることで就業機会を確保すべきだとする方針を打ち出した。指針は「活力ある農山漁村づくりに向けたビジョン」で来年3月をめどにまとめる。今回の論点整理では、田舎暮らしを求める若者が増えている「田園回帰」の動きをさらに広める取り組みが必要と強調。「地域経済の活性化」「地域コミュニティー機能の維持・発揮」「都市と農山漁村のつながり強化」という三つの柱を掲げた。地域経済の活性化に向けては「担い手以外の農林漁業者や地域住民、都市からの移住者を対象とし、就業機会を確保する必要がある」と指摘。地元の農林水産物や生物由来資源(バイオマス)など多様な地域資源を活用し、6次産業化や観光、福祉などの分野との連携強化などが鍵を握るとしている。6次産業化による農山漁村の活性化をめぐっては、西川公也農相も意欲を見せている。食品メーカーなどの企業に対して税制面などで優遇措置を講じる農村地域工業導入促進法などを活用したい意向を示している。

*2-2:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10105/122384
(佐賀新聞 2014年11月6日) 学校農業クラブ全国大会 中山君(唐津南高3年)最高賞
■県内26年ぶり快挙
 先月22日に沖縄県で開かれた「日本学校農業クラブ全国大会」意見発表の食料・生産部門で、唐津南高3年の中山駿(すぐる)君(17)が最優秀賞に輝いた。県内では26年ぶり2回目。中山君は「練習の成果を出せてうれしい。これも指導してくださった先生のおかげ」と喜んでいる。中山君は8月に伊万里市であった九州大会で最優秀賞を受賞。9ブロックの代表が参加した全国大会には、副担任の松尾信寿教諭(49)と審査員との質疑の練習を行うなど準備して臨み、牧場経営や地域が抱える課題の解決方法を自分の意見として堂々と発表したことなどが評価された。指導した松尾教諭は「(練習で)九州大会より自信に満ちた顔つきになり、どこに出しても恥ずかしくない発表ができるように成長した」と教え子の快挙に満足げ。農業大学校への進学を目指す中山君は「今後は発表したことを実行に移し、品質の良い佐賀牛をたくさん生産したい」と語っている。
=発表文抜粋=
〈目指せ日本一!~中山牧場の挑戦~〉
 「駿、おまえもこれだけは見とかないかん」。中学生の頃、父に連れて行かれた先には思いもよらない光景が待っていました。そこには呻(うめ)き声とともに頭を打ち抜かれ、首を切られ吊される牛の姿がありました。初めて見る「と畜」の現場に衝撃で言葉を失いました。多くを語らない父が私に畜産という仕事への覚悟を伝えたかったのだと思います。私の家は繁殖牛130頭、肥育牛2000頭を飼育する畜産農家です。畜産という仕事とどう向き合っていくかを深く考えるようになると、以前にも増して家の手伝いをするようになりました。後継者になる気持ちは決意へと変わり、迷うことなく唐津南高校生産技術科へ進学しました。1年生の時、学校に「安勝」と「安平隆」、2頭の子牛がやってきました。今年、出荷の日を迎え、体重300キロにも満たなかった2頭は700キロまで成長し、食肉センターで別れる時はあふれ出る涙を止めることができませんでした。翌々日、枝肉となった2頭を目の当たりにした時、中学時代の「と畜」の情景が頭をよぎり、胸が締め付けられる思いでしたが、そんな気持ちも喜びへと変わる瞬間が訪れました。安勝は最高ランクA-5の評価を受け、南高の牛肉として販売されたのです。ありったけの愛情を注ぐことで、おいしい肉となり、牛と人、命と命のリレーが行われる、その橋渡しを自分がしているんだと思う瞬間でした。2年生の時、「佐賀県世界にはばたく未来のスペシャリスト派遣団」に参加し、オランダの農業を視察しました。オランダでは狭い国土を有効活用し、IT技術を駆使した大規模農業、スマートアグリを展開しています。酪農経営の牧場では牛の飼育から牛乳、アイスクリームの製造販売という一貫した6次産業的経営が行われていました。家での手伝いや高校での貴重な体験は、自分なりの経営ビジョンを描くのに十分なものになりました。大規模経営とはいえ、口蹄疫(こうていえき)の影響は今も残り、わが家の経営も決して楽ではありません。父は言います。「今を乗り切るには時代に合った経営が必要になってくる」と。私はブランド力と6次産業化を経営の柱とする三つの計画を立てました。その一つがIT技術の導入です。ストレスを与えず良質な牛に育てるには、個々の牛への気配り・目配り・心配りが欠かせません。牛舎内の環境が測定できるセンサーや監視カメラを導入し、牛を常時把握できるようにすることで、わずかな変化も見逃さないきめの細かな経営に結びつけていけると考えました。二つめは子牛の産地にこだわったブランド牛生産への取り組みです。牧場では祖父の代から沖縄産子牛の優良性に着目し、大半を石垣島のある八重山諸島から導入しています。今年の夏休み、沖縄の子牛買い付けに同行し、石垣島にあるわが家の牧場の繁殖用牛舎で仕事をしてきました。その時、島の自然豊かな環境で高品質ブランドの素がしっかりと育っていることを肌で感じました。三つめは地域活性化への貢献です。玄海町は農海産物が豊富なところで、町が海と山の幸を「ふるさと納税」の返礼品にしたところ、今や国内でも上位を争う自治体となりました。牧場の本生ハンバーグやローストビーフは旨味(うまみ)がギュッと詰まった中山牧場のブランドとして一番人気です。また、玄海町は数年前から修学旅行生を受け入れ、民泊・体験学習を行っており、牧場のレストハウスでもマイバーガーづくりなどを行っています。自治体と連携し、さまざまなプランを提案することで「自然が満喫できる玄海町」のさらなる発展に努めます。小さい頃から常々言われていることがあります。「人に感謝し、人とのつながりを大切にすること」。これは祖父から両親へ、そして自分へと言い伝えられてきました。多額の借金を背負い、どん底から始まった自分の知らない中山牧場の歴史があります。いろんな人の助けがあったからこそ、今の牧場があることを忘れてはなりません。高校卒業後は、県外農家での研修を行い、経営者としてのスキルを身につけたいと考えています。そして、両親や牧場スタッフとともに、全国でもトップクラスの佐賀牛生産農家として、より高いレベルでの挑戦を続けていきます。

*2-3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=30579 (日本農業新聞 2014/11/1) 長野の工房「アトリエ・ド・フロマージュ」に栄冠 初の国産ナチュラルチーズコンテスト
 特定非営利活動法人(NPO法人)のチーズプロフェッショナル協会は30日、東京都内で国産限定のチーズコンテスト「ジャパンチーズアワード14」を初めて開いた。酪農家ら61工房が121のチーズを出品。最高位のグランプリには、アトリエ・ド・フロマージュ(長野県東御市)のブルーチーズが輝いた。コンテストは、国産ナチュラルチーズの評価を高めて消費拡大するのが狙い。来年6月にフランスで開かれる国際コンクールの選考会を兼ねる。同協会が商談会「日本の銘チーズ百選」の一環で開いた。応募があったチーズを種類別に15グループに分け、審査員が味や見た目を採点。グループごとの金賞からグランプリ1点を選んだ。グランプリは青かびを使ったチーズで、原料の生乳は地元の酪農家から仕入れる。同工房の粂井裕也課長は「日本人が好む味わいに仕上げることができた。受賞を機に、地元の酪農家とのつながりを深めていきたい」と抱負を話した。商談会には300人以上のチーズ愛好家やバイヤーが参加。フランス産チーズを輸入する業者は「国産の品質は本場の欧州にひけをとらないほどだ。今後、取り扱ってみたい」と手応えを話した。

<農業と食品関連企業>
*3-1:http://qbiz.jp/article/41167/1/
(西日本新聞 2014年7月3日) 女性起業家率、佐賀と高知がトップ18.2%
 地域経済の活性化に向けた男女共同参画会議(内閣府)専門調査会の報告書で、働く人、管理職、起業家のいずれの項目でも、女性の割合は全都道府県の中で高知県が最高であることが明らかになった。県の担当者は「共働き世帯が多く、女性が働くことに寛容な雰囲気がある。中小企業が中心で、社員数が少ないため女性が管理職になりやすいのでは」と分析している。総務省の2012年調査を基に、内閣府が作成した都道府県別ランキングによると、公務員を含む課長相当職以上のうち、女性の割合は高知21.8%、青森20.3%、和歌山18.4%の順だった。最下位は滋賀の8.0%。働く人に占める女性の割合も高知が46.7%でトップ。2位は宮崎の46.4%だった。高知は起業家に占める女性の割合も、佐賀と並び18.2%で最高だった。今年2月時点で、将来女性の幹部登用促進に「積極的に取り組む」とした都道府県は33。「ある程度取り組む」が9だった。

*3-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=30384
(日本農業新聞 2014/10/22) 古い調理機器生かせ 活動広げる糸口に JAいわて花巻女性部
 JAいわて花巻女性部花巻地域支部の各支部は、JA支店などで使用されなくなった調理機器を使って、JA店舗の利用拡大や女性部活動の活性化につなげている。JA本店農産加工施設の「アイスクリーム製造機」を使い、講習会を開いた同地域支部湯本支部の食母’S(クッカーズ)は、予想以上の出来上がりとなり、活性化に活用できると期待している。アイスクリーム製造機は、17年ほど前に購入した。時代とともに多様化する調理器具の普及で使用頻度が減り、近年は使い方を知る人も少ない状態だった。グループのリーダーらは「新たな活動につなげることはできないか」と試験を重ね、使い方を研究。果実を投入するタイミングなども吟味した。講習会には支部員ら14人が参加し、ブルーベリーやイチゴを入れた3種類のアイスクリームを作った。グループの吉田伯子代表は「驚くほどに良い出来だった。今後の活動に可能性が広がる」と話した。参加者は「自信を持って外に出せるほど、おいしく出来上がった。6次産業化にもつながるかも」などの積極的な声も出た。この他、同地域支部矢沢支部では、矢沢支店で30年以上前に使っていたパン焼き用オーブンに火入れを試みた。現在の機器とは使用法が異なるため、試作品を作りながら、不明だった温度や発酵時間の調節などを分析。もが使えるよう取り扱い使用書などを作った。講習会を開くなど活動の幅を広げる予定だ。

*3-3:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/123510
(佐賀新聞 2014年11月9日) 仏企業30社を紹介へ コスメバレー会長が初来訪
 フランスのコスメティックバレー協会のマーク・アントワーヌ・ジャメ会長が8日、コスメ事業で協力連携協定を締結している唐津市を訪れ、坂井俊之市長を表敬訪問した。ジャメ会長は日仏連携を軌道に乗せるため、フランスのコスメ業界の約30社をジャパン・コスメティックセンター(事務局・唐津市)の会員企業に紹介し、ビジネスマッチングを進めていくことを提案した。アジア市場をにらみ昨年4月に協定を締結して以来、具体的なビジネス提案は初めて。また、同協会が産学連携で進めている150の商品開発プロジェクトの中からも連携を模索したいとアイデアが出された。コスメ業界ではフランスは香水、日本は基礎化粧品を得意としており、ジャメ会長は「高い技術を持つ両国が協力すれば、得意分野をさらに伸ばせる。ともにいい商品を開発し、発展していきましょう」と述べた。コスメティックバレーはフランスのシャルトルに拠点を置く世界最大の化粧品産業集積地。3代目会長のジャメ氏が唐津を訪れるのは初めて。10日まで3日間滞在し、9日は玄海町の薬用植物栽培研究所、10日は県庁や佐賀大学を訪問する。

*3-4:http://qbiz.jp/article/49144/1/ (西日本新聞 2014年11月5日) FFG、管理職の10%を女性に 23年目標、積極活用で組織力強化
 ふくおかフィナンシャルグループ(FFG、福岡市)は、副支店長級以上の管理職に占める女性の割合を2023年3月までに現在の4倍の10%に引き上げる目標を設定したと発表した。女性行員を積極的に活用し、組織力を高める狙い。FFG傘下3行の女性管理職数は今年3月末で26人で、全体の2・5%。課長級以上の役職者を含めても7・7%にとどまるという。特に取引先との信頼関係が欠かせない法人融資部門が少なく、昨年10月に女性行員によるプロジェクトチームを立ち上げ、社内の意識や制度に改善点がないか検討してきたという。目標達成に向け、育児休業からスムーズに復職する制度なども検討するという。柴戸隆成社長は「お客さまの半分は女性なので、女性の視点を持つことは大事。中長期的には組織力も高まる」としている。

<シカやイノシシなどの野生動物について>
*4-1:http://news.goo.ne.jp/article/asahi/nation/incident/ASGBM520TGBMUUPI001.html (Gooニュース 2014年11月7日) シカ増殖、北海道から屋久島まで食害 土砂崩れの危険も
 シカが増え続けている。被害は北海道から屋久島まで広がり、農作物だけにとどまらない。下草が食い尽くされ土砂崩れの危険が高まる場所も。10年後に倍近くに増えるとの試算もある。捕獲を強化するため鳥獣保護法も改正され、官民一体で新たな試みも始まった。野生のシカを探して、富士山南斜面、静岡県裾野市の有料道路「南富士エバーグリーンライン」を車で走った。標高千メートル付近、シカが横切った。車を止めてカメラを構えたが間に合わない。走り出すとまた一頭、扉を開けた途端に逃げられた。昼は一頭も出てこなかったが、暗くなると次々現れる。数頭を逃し、今度は車を手前から徐行させる。近づいても、母子らしいシカは道路脇で草を食べ続けていた。静かに窓を開けて300ミリの望遠レンズで撮影できた。静岡県自然保護課によると、富士山地域の静岡県側には推定で1万頭前後が生息。木々は樹皮をはがされ、植林しても葉や枝先を食べられる。国有林では4年前、静岡森林管理署や県、富士宮市、猟友会などが協力して、シカの駆除を始めた。猟師ら十数人がかりで週末に通年行ったが、2010年度は288頭。簡単には減らせなかった。

*4-2:http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201411/20141107_75024.html
(河北新報 2014年11月7日) 東北のジビエ危機 原発事故で提供困難に
 東日本大震災に伴う東京電力福島第1原発事故を受け、野生鳥獣の食肉「ジビエ」を扱う料理を東北で提供できない状態が続いている。国の基準値を超える放射性物質が検出されたのが要因で、影響は岩手や山形、宮城各県など広範囲に及ぶ。マタギ文化の継承も危ぶまれる事態に、関係者の嘆きが深まっている。
<熊そば断念>
 「足を運んでもらっても断らなければならないのがつらい」。飯豊連峰に近い山形県小国町の小玉川地区。民宿と料理店を営む本間信義さん(64)は原発事故後、目玉だったツキノワグマ肉が提供できなくなった。県内全域で出荷が制限されたためだ。柔らかく煮込んだ赤身が入った「熊そば」などのメニューが人気だった。一時は東電への賠償請求も検討したが、手間の割に受け取れる金額が小さいことから諦めた。本間さんはマタギの9代目として、昔ながらの猟を仲間12人で守ってきた。肉の販売は収入源の一つだったこともあり、「この状態が続けば後継者がいなくなってしまう」と危機感を募らせる。
<シカ売れず>
 岩手県ではニホンジカの肉が基準値を超えた。五葉山に約1万頭が生息しており、原発事故までは大船渡市の第三セクター「三陸ふるさと振興」が「けせんしかカレー」を製造していた。五葉山から福島第1原発までの距離は約200キロ。ふるさと振興の志田健総務課長は「ヒット商品だったのに販売できなくなった。これだけ離れても実害を受けるとは…」と話す。フランス語で野生鳥獣肉を意味するジビエを使う料理が注目される背景には、野生鳥獣による深刻な農作物被害の増加がある。自治体などが近年、駆除促進と観光資源の発掘を狙い、食肉利用の拡大策を打ち出している。国が2012年度から年間30万頭分の補助金を用意し捕獲強化を促した結果、流通量が増加。メニュー開発も加速しブームに火が付いた。ただ出荷制限地域では食用販売できず、ほぼ全量が廃棄されているとみられる。
<イノシシも>
 宮城県丸森町でイノシシ肉を販売していた「いのしし館」は出荷制限が始まった11年8月、閉鎖に追い込まれた。農家らでつくる「丸森自然猪利用組合」が10年にオープンさせたばかりだった。町によると、10年度に252頭だった捕獲数は13年度に1236頭まで増えた。原発事故の影響が大きい福島県で繁殖が進み、域内に入り込む例が増えたらしい。組合の一條功代表(63)は「頭数は増え、施設の息の根も止められた。非常に理不尽だ」と嘆いた。


PS(2014/11/10追加):農林水産業は、①経営規模の拡大 ②6次産業化 ③再生可能エネルギーの利用など、これまであまりやってこなかったことを行うため初期投資が必要で、資金需要が大きい。その資金需要に的確に応えて農林水産業や地域の発展に繋げるには、農林水産業における資金需要の性格を知り、農林水産業を強い産業に育てたいという気持ちを持って、金融を行うことが大切である。

*5:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=30706
(日本農業新聞 2014/11/9) JAグループファンド 6次化 再エネ 法人経営 目的別出資で支援
JAグループは、ファンドを通じて農業と地域への支援を進めている。担い手である農業生産法人の経営安定や6次産業化の支援、再生可能エネルギーを活用した地域づくりという大きく三つの目的に沿って複数のファンドをそろえた。出資先が100件を超えたファンドもある。ファンドは農林中央金庫をはじめJAグループなどが拠出した資金で創設した。出資はJAグループなどが候補を運営会社に紹介し、運営会社が検討・審査した上で行う。法人などにとってファンドは借り入れと異なり、利息の支払いがない。出資を受けることで自己資本の比率が高まり、財務が安定。対外的な信用力も向上する。農業生産法人などを対象にしたファンドの数が多く、そのうち「アグリシードファンド」は資本過小ながら技術力のある法人に出資する。9月末までに119件に出資した。農林中金によると、イチゴの観光農園はファンドで1000万円の出資を受け、設備を改修。来園者が増え、経営が安定した。ファンドの活用で自己資本比率が低下せず、追加の借り入れが不要になったという。法人向けは他に、地域営農ビジョンの中核となる農業法人などを対象にした「担い手経営体応援ファンド」、大規模な法人向けには「アグリ社プロパーファンド」がある。東日本大震災からの復興を支援するファンドなども設けている。6次産業化を後押しするのが「JA・6次化ファンド」だ。農林漁業者とパートナー企業でつくる、6次産業化法に基づく認定事業者(6次産業化事業体)に出資する。これまでに、地元農産物を使った総菜の加工・販売、国産豚肉と鶏肉を使った料理を提供する外食産業を展開する会社などに出資した。「農山漁村再エネファンド」は、地域活性化の観点で取り組む再生可能エネルギー事業を支援する。10月に2件の出資が決まった。地域の営農と一体的に取り組む太陽光発電、地元林業者らによる木質バイオマス発電を行う会社を支援する。


PS(2014.11.13追加):日本商工会議所会頭の三村明夫新日鉄住金相談役が会長を務める諮問会議調査会が、「①女性や高齢者の就業率を5%引き上げれば」「②50年後も2%成長可能」で、「③結婚を希望する若者が皆結婚し、2人超の子どもを産み育てる環境を作れば、50年後の人口は1億人が維持できる」として、「④1億人維持を政府として目標に据えるべきだ」「⑤定期的に若返りが必要な企業は、高齢者雇用を増やすことで若者の働く場がなくなり、国全体の活力をそぐ」等と強調したそうだが、これらの諮問会議は、委員の頭が古すぎ、結果ありきの結論で、科学的・合理的な思考がないのが問題だ。 
 何故なら、このブログに何度も記載しているとおり、①は、50年後に女性や高齢者の就業率をわずか5%しか引き上げない予定で、さらに年金支給額を削減して需要を減らそうとしていること ②は、経済成長(正しくは、経済拡大)のみしか考えておらず、生活水準に関する考察がないこと ④は、合理的な説明なく1億人の人口が不可欠としており ③は、そのために2人超の子どもが必要だとしていること(この計算も間違い) ⑤は高齢化による需要構造の変化や高等教育での再教育を状況に合わせて考えていないこと などで、どれも正しくないからである。

*6:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20141113&ng=DGKKZO79623110T11C14A1EE8000 (日経新聞 2014.11.13) 女性・高齢者の就業率 5%引き上げを、諮問会議調査会の最終報告書案 50年後「2%成長可能」
 50年後の日本経済を議論する政府の「選択する未来」委員会の最終報告書案が12日、明らかになった。「女性や高齢者の就業率を5%引き上げる必要がある」としたうえで、生産性の上昇も実現すれば「50年後も1.5~2%超程度の経済成長を維持できる」と結論づけた。政府全体の施策を中期的視点でどう再構築するかが課題になる。同委は経済財政諮問会議の下に置かれた専門調査会で、日本商工会議所会頭の三村明夫新日鉄住金相談役が会長を務める。14日の会合で報告書を決定し、三村会長が記者会見で政策提言の狙いなどを説明する予定だ。現状のままでは人口は50年後に現在の3分の2の8700万人に落ち込む。報告書は「結婚を希望する若者が皆結婚し、2人超の子どもを産み育てる環境を作れば、50年後の人口は1億人が維持できる」とし、1億人維持を政府として目標に据えるべきだと強調した。労働参加を促しても、2031~60年平均で労働力不足は年0.3%成長を下押しする。1.5~2%の経済成長を実現するには、生産性が年1%台半ば~2%強、伸びる必要がある。報告書は「生産性の低いビジネスが淘汰されるよう起業促進や事業再編などを通じ、新陳代謝や若返りが活発化することが必要」と指摘した。特に20年代初頭までに改革を集中的に進め「生産性上昇率を世界トップレベルに引き上げる」ことを求めた。人口減への対応策は中長期的な視点から整理した。課題は実現に向けた具体策だ。報告書では女性の活躍を進めるため、現在1割程度の女性管理職を3割に高めるほか、事務職や販売職に偏った働く場を改善するよう求めた。育児休業の取得促進や長時間労働の是正を通じ、男女共に働きやすい職場作りを進める必要がある。報告書では税制や年金などを念頭に「女性の就労拡大を抑制する制度や慣行は積極的に見直す」とも強調した。ただ、主婦年金や配偶者控除の大胆な縮小は政治的な抵抗も強い。妻のパート収入に連動した公務員や企業従業員の配偶者手当も見直しが急務だ。高齢者の就労促進については「希望年齢まで働ける環境整備がまず重要だ」と提言した。現時点では高年齢者雇用安定法により、段階的に企業は65歳まで働く場を確保することが義務付けられている。さらに65歳を過ぎても働く意欲のある高齢者は多い。ただ、定期的に若返りが必要な企業にとって、年齢の高いシニアをどう活用するかは頭の痛い問題だ。高齢者雇用を増やすことで結果的に若者の働く場がなくなれば、国全体の活力をそぐリスクもある。

| 農林漁業::2014.8~2015.10 | 06:30 PM | comments (x) | trackback (x) |
2014.9.18 地方における雇用創出と農業、地域資源の発掘、産業化について (2014.9.21に追加あり)
     
    *2-2より                 女性の農作業着例

(1)地方人口の増加対策(?)について
 *1-1に、「政府は、人口減少対策や地域再生の司令塔となる『まち・ひと・しごと創生本部』を作り、地方雇用創出に全力 を上げ、長期ビジョンと5カ年計画の総合戦略を年内に策定し、臨時国会に基本的理念を定める『まち・ひと・しごと創生法案』を提出する」と書かれている。

 その目的が「農業・農村の所得増大」というのはもっともだが、人口減少克服を目的にすると、*1-3のように、「女性は結婚していなければ発言権がない」「女性は子どもを産み育てなければ発言権がない」等々、東京都議連会長でさえ「産めよ増やせよ」と考えるのを正当化することになり、女性に対する間接差別がさらに増える。そのため、「(1)若い世代の就労・結婚・子育ての希望の実現」は、そうしたい人ができる社会を実現するのだということを明文で明確にしておくべきだ。

 しかし、「(2)東京一極集中の歯止め」と「(3)地域の特性に則した地域課題の解決」は、人口減がなくても当然のことである上、地方から東京圏に人口が一極集中したため、東京圏が住みにくくなったという現状もある。住みにくさの事例は、①土地や住宅はじめ物価が高い ②狭い住宅に住み通勤時間もかかる などである。

 私は、*1-2の「文部科学省は年内にも学校規模の適正化を進めるため、小学校と児童の自宅との距離がおおむね4キロ以内としている現行の規定を見直し、「通学時間1時間以内」などを案に新たな指針を作る」としているのには驚いた。何故なら、これは、東京で私立校に通う生徒の通学時間であり、これでは一日2時間もの時間の無駄遣いがあり、可哀想で異常だと思うからである。つまり、小中学生に通学時間1時間は長すぎるのであり、小学校では15分、中学校でも30分以内が適正で、スクールバスを使えば渋滞のない地方では十分に広い範囲がスクールゾーンとなるため、このくらいを目安にすべきだ。そして、自然の中を(燃料電池)バスが走る教育効果と、職住接近した居心地の良さを地方に住むメリットの一つにすべきである。

 なお、*1-2によれば、文科省は「離島など統廃合が難しい地域における教育の質確保を検討したい」としているが、離島に住んでいる子どもでも学年や学級の人数が少なすぎるのは、いろいろな点で問題である。そのため、離島の住民からは、「離島の一つ一つに学校や病院を作れない場合は、舟(バスと同じ交通機関)で送り迎えするので、学校や病院を港近くに移して欲しい」と言われたことがある。これは、実際に離島に住んでいる人からの貴重な意見であるため、学校の再編時には実現してもらいたい。

 *1-1の「地方での雇用、医療、介護環境の整備に集中的に取り組む」というのは、高齢化先進地域となっている地方や離島では特に重要である上、医療や介護に必要な食品を生産すれば農業や食品産業での雇用も生まれるため、「地域に根ざした民間の創意工夫」を後押しすることは重要だ。

 しかし、*1-4に書かれているように、「農地転用権限を市町村へ移譲」するのは、市町村長が選挙で建設会社等の後援会の影響を大きく受けていることを考えれば賛成できない。それよりも、複数の農業委員からなる*1-5の農業委員会が、地域振興の理念を共有した上で、人口減・食糧難の時代にむやみな農地の転用は避け、必要最小限の転用で地域振興するのが安定的な運用ができると考えるし、農業委員会のメンバーには、そういう人を選ばなければならない。

(2)女性の活躍について
 *2-1のように、規制改革会議が再開され、地域活性化を規制改革の主要な検討課題に位置付けるそうだが、再び農業改革を議論の俎上に上げて、「企業への農地売却を可能にする」「農協が諸悪の根源であるため農協の力を弱める」といった単純な議論にするのは感心しない。しかし、女性が活躍できる分野として農業をとらえるのは、現実にあっていてよい。

 そこで、*2-2のように、安倍首相夫人も参加して、山口県立大学の学生らが、「おしゃれでカラフルな作業着で農業を盛り上げよう」と、女性が農業をしたくなるようなおしゃれな農作業着をまとい同県長門市の棚田で稲刈りをしたそうだ。農作業着は、農作業が終わったら都会の女性と同じ容姿で活動できるように、日焼け、爪の土汚れ、手荒れなどを防止した上で、ファッショナブルでなければならない。つまり、女性が喜んで農業に従事できるようにするためには、農作業着を、実用的であると同時にファッションとしてもかっこよくしなければならないのである。

(3)攻めの農林水産業へ
 農水省は、*3-1のように、「攻めの農林水産業実行本部」を発足させ、政府・与党の「農林水産業・地域の活力創造プラン」を実行に移して、農家所得を向上させる具体策を検討するそうだ。農家の所得が大きくなければ農業への新規参入はなく、当然、若い人も参入しないため、省を挙げて「輸出拡大」「6次産業化」「担い手への農地集積」「国内外の需要拡大」「需要と供給をつなぐバリューチェーンの構築」「生産現場の強化」「多面的機能の維持・発揮」などを進めるのは当然のことである。

 また、私は、輸出はその気になれば増やせると思うので、「高めの輸出目標を作る」のはよいことだと思うし、離農した小規模農家の就業機会の確保も、農業における熟練労働者の維持の目的から重要である。また、農家所得を増やすには、「農家が他産業と組んで価格決定権を持つ仕組みが必要」というのも、そのとおりだろう。

 このような中、*3-2のような医福食農連携は、既に健康づくりが進み健康長寿社会を実現している日本の農産物に新たな付加価値を付け、今後の世界に輸出可能性の高い産業を作れると考える。さらに、高齢者や障害者の雇用の場として農作業を活用し、国産原料を使った高付加価値の介護食品を開発し、冷凍技術を進歩させることも重要である。

(4)地域資源の発掘と産業への利用
 *4-1のように、フランス・ローヌ・アルプ州では私有林の有効活用を進め、森林経営者委員会のジャンルイ・ダビッドさんが、所有者の依頼を受けて、土地台帳を基に衛星利用測位システム(GPS)で私有地を確定する作業を続けているそうだ。私有地の確定すらできていない状況は、日本でも同じであるため、価値ある仕事を無償でやる必要はないが、誰かが私有地を確定する作業をやらなければならない。

 そして、森林には、木材、薬草、山菜、野生動物など利益をもたらす林産物が多いため、これを利用してよい産物を作ることができれば、地域の産業にできる。フランスの行政も、ヴォージュ産木材を建材に使えば資材の2%を補助するなど森林活用を後押しして、農林業と観光業を柱にした地域活性化が進み、環境や生物多様性を意識する住民が増えて、2011年には「ジオパーク」の認定を受け、住民の地域づくりへの意欲が高まったそうだ。

 また、*4-2のように、イノシシやシカが田畑を荒らすとして有害獣として駆除するだけではもったいなく、大分県豊後大野市の姉妹も3年前にわな猟免許を取得して、獣肉加工施設「女猟師の加工所」を開設し、捕獲したイノシシの精肉の販路開拓に取り組んでいる。私は、シカやヤギ(イノシシも?)の皮は、牛皮より薄くてしなやかなため、女性用バッグ等の高級品を作るのに適しており、フランスやイタリアのようにファッション系の人材がデザインを洗練させれば、Made in Japanの高級品ができると考えている。

(5)地域製品の世界展開
 有田焼は、積み出し港の名前“伊万里”と銘打って江戸時代には欧州を席巻していたが、現在は、売上高の減少で悩んでいる。そのため、*5のように、欧州復権を狙って窯元と商社8社が、フランス・パリで開催中の国際見本市「メゾン・エ・オブジェ」に出展し、 “復権”を目指す取り組みをしているのは、大変よいことである。有田焼は、400年の伝統があるわけだが、伝統の技術を踏まえながらも21世紀の技術を加え、現代の需要にマッチした製品に進化しようとしているのがよい。

 売上高の減少で悩んでいる多くの伝統的地場製品に共通することだが、伝統の技術を踏まえながらも、そこに21世紀の技術を加えて21世紀の需要にマッチした製品を作ることが必要不可欠である。

<地方人口の増加対策>
*1-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=29795 (日本農業新聞 2014/9/13) 地方雇用創出に全力 5カ年計画年内に策定 臨時国会へ基本法 創生本部初会合
 政府は12日、人口減少対策や地域再生の司令塔となる「まち・ひと・しごと創生本部」(本部長=安倍晋三首相)の初会合を開き、安倍政権が最重要課題に掲げる「地方創生」に向けた基本方針を決めた。長期ビジョンと5カ年計画の総合戦略を年内に策定する他、今秋の臨時国会には、基本的な理念を定める「まち・ひと・しごと創生法案」を提出する。農業・農村の所得増大も大きな論点になりそうだ。会合では、人口減少克服と地方創生に向けた基本的視点として(1)若い世代の就労・結婚・子育ての希望の実現(2)「東京一極集中」の歯止め(3)地域の特性に則した地域課題の解決――を掲げた。地方から東京圏への人口流出に歯止めをかけるため、地方での雇用、医療、介護環境の整備に集中的に取り組む。西川公也農相は、農山漁村の所得を向上させ、地域のにぎわいを取り戻すことが重要とし、積極的に地方創生に取り組む考えを示した。同本部の検討項目として「地方に仕事をつくり安心して働けるようにする」「若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる」などを柱に議論する。関連施策を進めるに当たり、数値目標を定めて「ばらまき型」の投資をしないよう徹底。各府省庁の縦割りを排除する。地方の自主的取り組みを基本に「地域に根ざした民間の創意工夫」を後押しするとの基本姿勢も確認した。農外・地域外からの企業の農業参入加速など規制改革を検討する可能性もあるが、地元農業者らの所得増大につながることが欠かせない。安倍首相は「地方の意見も聞きながら、従来とは異次元の大胆な政策をまとめていく」と述べ、国を挙げ地域活性化に取り組む姿勢を強調した。今秋の臨時国会に提出する法案について石破茂地方創生相は同日の閣議後会見で、「一種の基本法的なものになる」と説明、早急に内容を検討する考えを示した。その他、自治体の取り組みを支援する地域再生法改正案も提出する。
●改革色濃い人選 創生会議民間議員
 政府は12日、「まち・ひと・しごと創生本部」の下に設置した「まち・ひと・しごと創生会議」の民間議員に、元総務相の増田寛也・東京大学公共政策大学院客員教授、建設機械大手コマツの坂根正弘相談役ら12人を内定したと発表した。同会議は、安倍晋三首相が議長、地方創生相と官房長官が副議長を務める。議員には、経済財政担当相や少子化担当相、農相ら関係閣僚の他、学者や企業経営者、自治体首長らを起用。農業関連では、規制改革会議農業ワーキング・グループの専門委員を務める農業生産法人サラダボウルの田中進代表が入り、改革色の濃い人選となった。内定者の一人、経営コンサルタントの冨山和彦・経営共創基盤代表取締役CEOは、規制改革会議の大田弘子副議長(政策研究大学院大学教授)と政策提言グループをつくり、農業関連の規制改革で政府・与党の決定内容を上回る農業生産法人・農地制度の見直しを迫っている。地方創生でも国家戦略特区をはじめ規制改革を進める動きがあり、地方が逆に疲弊しないか警戒が必要だ。石破茂地方創生担当相は「地方創生のためにはあらゆる分野を総動員しなければならない。全体的なつながりも念頭に議論いただけると思っている」と期待を述べた。
 その他の民間議員は次の通り。
▽池田弘・公益社団法人日本ニュービジネス協議会連合会会長▽伊東香織・岡山県倉敷市長▽大社充・NPO法人グローバルキャンパス理事長▽奥田麻衣子・島根県海士町、隠岐島前高校魅力化コーディネーター▽清水志摩子・NPO法人全国商店街おかみさん会理事長▽中橋恵美子・NPO法人わははネット理事長▽樋口美雄・慶応義塾大学商学部教授▽山本眞樹夫・帯広畜産大学監事、前小樽商科大学長

*1-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=29687
(日本農業新聞 2014/9/7) 小学校 通学「1時間以内」 過疎に拍車懸念も 文科省指針案
 文部科学省は年内にも、学校規模の適正化を進めるため小学校と児童の自宅との距離 がおおむね4キロ以内としている現行の規定を見直し、「通学時間1時間以内」などを案に新たな指針を作る。人口の減少に対応して小規模校の統廃 合をさらに進め、学校運営の効率化や予算の確保、教育の質向上につなげる狙いだ。ただ、農村部では学校が地域住民を結 び付ける核として機能している側面もあり、専門家や地方自治体からは、過疎に拍車を 掛けるとして、懸念の声が上がる。同省は現在、学校規模適正化関係法令の中で、適正規模は小学校の場合、1学年当たり2、3学級、中学校が同じく4~6学級と設定。通学距離は小学校が4キロ以内、中学校が6キロ以内などとしている。過疎化などで生徒数の少ない学校が増える中、同省は学校規模を適正化しようと、スクールバスの整備などを進め、距離だけでなく通学時間に着目した新たな指針作りに着手した。通学時間の案として「1時間以内」などが挙がっている。統廃合については、設置者である各市町村の判断によるが、同省は各市町村の判断の参考になる指針を提示し、統廃合を進めやすいように教職員体制やスクールバスの充実、カリキュラム開発などの支援策も示す方針だ。ただ、過疎化が進む集落では、地域住民と学校が密接に連携して大規模校にない教育を進めている事例もある。専門家からは「集落の過疎化に追い打ちをかける」などと懸念する声もある。同省は「離島など統廃合が難しい地域における教育の質確保を検討したい」(同)としている。

*1-3:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11355510.html
(朝日新聞 2014年9月18日) 「結婚したらどう、と平場では言う」 都議連会長、発言を陳謝
 女性蔑視のヤジ問題で揺れた東京都議会が再び混乱している。再発防止のための会合が16日に開かれたが、会長に選ばれた自民党の野島善司都議(65)が「結婚したらどうだとは僕だって言う。平場では」と発言。他会派の反発を招き、野島都議は17日、「会長の立場で不適切だった」と陳謝した。都議会では6月、塩村文夏都議(36)の質問中に、自民党都議が「早く結婚した方がいいんじゃないか」とヤジを飛ばした。再発防止に向けて16日、超党派でつくる男女共同参画社会推進議員連盟が開かれたが、野島都議は会合後、報道陣に「公の場で発言者個人に言ったのが問題。まだ結婚しないの、と平場では言いますよ。平場とはプライベート」と述べた。議連は17日、急きょ臨時役員会を開催。野島都議は、会長の立場で取材を受けながら個人的な信条で発言したとして「大変申し訳ない」と語った。会長は続け、議連でセクハラ研修などを開くという。一方、塩村都議ら野党会派の都議4人は17日、ヤジ問題を考える市民との集会に参加。集会後、塩村都議は「公私に関係なく発言自体が女性差別。会長には問題をしっかり理解した人が就任すべきだ」と批判した。

*1-4:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=29807
(日本農業新聞 2014/9/13) 農地転用権限 市町村への移譲迫る 地方分権有識者会議
 内閣府の地方分権改革有識者会議は11日夜、農地・農村部会の第10回会合を開き、農地転用に関する事務・権限の国から地方への移譲について議論した。出席した有識者が、地方が転用許可を担うべきだと主張。開発が横行した場合、農地が減少する恐れもあるが、部会構成員からも分権に前向きな意見が出た。部会は今後、農地保全を担保する具体策について検討を進める方針だが、実効性のある策が示せるかが問われそうだ。農地転用は現在、4ヘクタール超の大規模な場合は農相の許可を要する他、2ヘクタール超4ヘクタール以下の場合も都道府県知事が農相と協議する必要がある。食料の安定供給に不可欠な農地を確保するためで、地方自治体の首長が開発を優先する場合でも一定の歯止めをかける効果がある。同日の会合には、地方公共団体情報システム機構の西尾勝理事長が出席。土地開発に関する規制について、欧米諸国では自治体に権限があるとして「転用に国の許可を要する現行制度は国際的に見てあまりにも異常」との持論を展開。早期の地方分権を求めた。ただ、欧州は「計画なくして開発なし」との理念で厳格な土地利用計画を前提にしており、そうした違いを無視した指摘には異論の声もある。柏木斉部会長(リクルートホールディングス相談役)は「農地確保の重要性は国も地方も共通に認識している」としながらも、「市町村に権限を移譲していくべきということは、(構成員間の)意見がかなり近い」と説明。現行の食料・農業・農村基本計画で定める農地の総量確保目標が現実と乖離(かいり)していることを理由に挙げ、市町村の積み上げ目標とするよう求めた。一方、農水省は、転用が農地減少の主因となっていることから、分権に慎重な姿勢を示している。無秩序な転用を抑えるため、地元の地権者や進出企業の意向を受けにくい国などが権限を持つのが適切との認識で、仮に市町村へ権限移譲する場合も、農地の保全を十分に担保する機能が必要としている。2009年に施行した改正農地法の付則で、施行後5年をめどに転用許可の主体を検討するとしていることから、同部会は年内に結論を得る方針。分権ありきではなく、農地保全を担保する具体策を示すことが求められる。

*1-5:http://www.maff.go.jp/j/keiei/koukai/iinkai.html
(農林水産省 24年5月15日) 農業委員会について
農業委員会について農業委員会は、農地法に基づく売買・貸借の許可、農地転用案件への意見具申、遊休農地の調査・指導などを中心に農地に関する事務を執行する行政委員会として市町村に設置されています。 農業委員会については、外部から、審議が形骸化しているのでないか等の指摘を受けていることから、農業委員会に対し、判断の透明性・公平性を確保するとともに、事務処理が迅速になされるよう指導を行っています。(「農業委員会の適正な事務実施について(適正化通知)」(平成21年1月23日付け20経営第5791号経営局長通知)) (以下略)

<女性の活躍>
*2-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=29809 (日本農業新聞 2014/9/13) 農業改革 再び議論も 来年6月めどに答申 規制改革会議再開へ担当相
 有村治子規制改革担当相は12日の報道各社のインタビューで、近く規制改革会議を再開して3期目となる規制改革の議論を始める方針を明らかにした。安倍晋三政権の重要政策である地域活性化を規制改革の主要な検討課題に位置付ける考えで、再び農業改革が議論の俎上(そじょう)に上る懸念が強まってきた。来年6月をめどに答申をまとめる。有村担当相は規制改革会議について「趣旨は既得権益の岩盤を打ち破るという安倍内閣の方針を実現すること」と、踏み込んだ規制改革を進める決意を強調。第3期の主要課題について「女性が活躍できる多様な働き方を実現する規制改革、地域活性化に資する規制改革など積極的に検討する」と説明した。同会議が6月上旬にまとめた答申を踏まえて政府は6月末、農協改革などを盛り込んだ「規制改革実施計画」を決定した。有村担当相は「今まで議論した改革をさらに仕上げ洗練していく」と述べ、同計画の着実な実現へ進捗(しんちょく)状況も監視していく考えも示した。同計画では来年の通常国会に農協法改正案を提出するとしており、政府はそれまでに政府・与党で具体的な制度設計を詰める考えだ。焦点の中央会制度の見直しについて有村担当相は「最も重要なのは、汗を流して頑張っている農業者の所得向上に向けた活動を農協が積極的に行えるか、そういう組織になっていけるか。その改革が実現できるよう対応したい」と述べるにとどめた。

*2-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=29846
(日本農業新聞 2014/9/17) おしゃれに 農業楽しく 山口県立大が収穫イベント 首相夫人も参加
 おしゃれでカラフルな作業着で農業を楽しく盛り上げよう――。山口県立大学(山口市)の学生らは16日、女性が思わず農業をしたくなるような、おしゃれな農作業着をまとい同県長門市の棚田で稲刈りをした。女子大生と共に農作業着の研究に携わったのは安倍昭恵首相夫人。同日、自前のつなぎを着て登場した。10月12日には同市で有名モデルを招いた農作業着のファッションショーも計画している。収穫イベントは、山口県立大学の水谷由美子教授が実行委員長を務める「アグリアート・フェスティバル2014」の一環で開いた。農業にファッションの要素を取り入れて新しいイメージを発信し、女性に農業への関心を深めてもらうのが狙い。安倍昭恵さんも共同研究者となり、同大学の学生らと13年から取り組んでいる。大学生や地元の農家らが米を収穫した長門市油谷地域は、全国的に珍しい海に接した棚田で、「日本の棚田百選」にも選ばれている。同地域では東後畑営農組合が、棚田での農薬と化学肥料を使わない自然栽培を実践。今回、自然栽培米の認知度アップに向け、大学と連携して収穫イベントを企画した。農作業着のデザインを手掛けた、同大学の荒木麻耶さん(20)は「動きやすさとかわいさを両立させ、通常の外出時でもおしゃれに見えるデザインに仕上げた」とポイントを語った。安倍昭恵さんも「おしゃれな農作業着を発信することで、若い人が農業に関心を持つきっかけになってほしい」と意義を語った。東後畑営農組合の大田寛治さん(59)は「棚田は景観の良さだけでなく治水効果があり、防災上、重要な役割がある。このイベントを通して農業の大切さを若い人にもっと知ってもらいたい」と期待を込めた。

<具体的なプラン>
*3-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=29718
(日本農業新聞 2014/9/9) 「活力プラン」具体化 所得増大へ実行本部 攻めの農業で農水省
 農水省は8日、「攻めの農林水産業実行本部」を発足させた。政府・与党の「農林水産業・地域の活力創造プラン」を実行に移し、農家所得を向上させる具体策を検討する。本部長を務める西川公也農相は、農家の高齢化に歯止めがかからない現状から「所得を大きくして農家の取り分を増やせば、若い人は戻ってくれる」と強調。省を挙げて新たな需要開拓を進める方針だ。「2020年に1兆円」を目指す農林水産物の輸出額目標は、さらに高い水準の目標設定を検討する。本部の体制は阿部俊子、小泉昭男両副大臣が副本部長、中川郁子、佐藤英道両政務官が本部長補佐を務める。事務局長には皆川芳嗣事務次官が就いた。活力創造プランでは「農業・農村全体の所得を今後10年で倍増させる」という大目標を掲げている。「国内外の需要拡大」「需要と供給をつなぐバリューチェーン構築」「生産現場の強化」「多面的機能の維持・発揮」の4本柱を提示。具体策には輸出拡大や6次産業化、農地中間管理機構(農地集積バンク)を通じた担い手への農地集積などを挙げる。西川農相は、この日の初会合で「プランを着実に実行したい」と強調。その上で「市場開拓に省を挙げて取り組みたい」と述べ、農家の所得増大には新たな 需要開拓が不可欠との認識を示した。需要開拓の一環で、輸出の拡大を重点的に進める考え。これまでの照準だったアジア市場に加え、人口5億人の欧州、3億1000万人の米国の市場開拓を検討する。現在の輸出額目標は「20年までに1兆円」の達成を目指す。欧州、米国を新たな開拓先に位置付けることで「高めの輸出目標をつくりたい」(西川農相)と、目標の上乗せも検討する。西川農相は就任当初から「個別の農家の所得が増えても農村のにぎわいは回復できない」との考え。担い手への農地集積だけでなく、離農した小規模農家の就業機会の確保も課題に挙げる。一方、農家所得を増やすには「他産業と組み、農家が価格決定権を持てる仕組みが必要」と指摘しており、実行本部の論点になる見込みだ。

*3-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=29623
(日本農業新聞 2014/9/3) 医福食農連携を 新たな市場に期待 農水省がシンポ
 農水省は2日、医療・福祉分野と食料・農業分野の連携をテーマにしたシンポジウムを開き、関連施策を説明した。事業者による事例報告もあった。政府が決定した農林水産業・地域の活力創造プランでは、6次産業化の発展形として医福食農連携に着目しており、新たな市場開拓、農業の成長産業化につなげていきたい考え。同日は各省庁、事業者間の報告を通じ、関係者の連携強化が重要だと確認した。同省は、医福食農連携に関連する14年度の取り組みを説明。機能性農林水産物の実用化に向けた研究の支援、高齢者の健康づくりや障害者の雇用の場として農作業を活用する取り組みの支援などを通し、食と農を基盤とした健康長寿社会を構築することを目指していると報告した。また地域農産物を活用した介護食品の開発なども重要な柱。医療・福祉分野との連携の推進により健康や介護など時代のニーズを捉え、新たな国内需要に対応していく。事業者による公開討論では医福食農連携への取り組み事例を紹介した。養命酒製造(株)の小山忠一生産管理部専門課長は、製品の原料となる生薬を国内で栽培する取り組みを説明。山口市などと協力して、栽培に乗り出したことを報告した。生薬の栽培は、耕作放棄地を利用して行っていることから、取り組みは地域活性化にもつながるとの考えを示した。この他、国産原料を使った高付加価値の介護食品の開発、障害者の農業分野での就労、野菜由来で冷凍食品の品質保持などに活用できる「不凍タンパク」開発の取り組みが紹介された。

<地域資源の発掘と産業化>
*4-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=29393
(日本農業新聞 2014/8/20) 森林活用 フランス ヴォージュ組合
 フランス・ローヌ・アルプ州で、地域づくりに取り組む地域自然公園(PNR)ヴォージュ組合の課題は、個人所有が多い森林の有効活用だ。ヴォージュ山塊内の森林所有者は約1万2000人。近年は、管理が行き届かない森林で鹿が増え、植林地や農地での食害が目立つ。自然を活用した農林業、観光業の振興に取り組む組合にとって、森林所有者の理解は地域づくりの成否を左右する。
●所有者の理解が鍵 建材消費へ行政も支援
 フランスでは、1804年制定のナポレオン法典で、土地の相続は均等分割が原則となった。森林も相続を繰り返す中で所有者が増大。数平方メートルの所有者も少なくない。山塊内の森林面積は5万1000ヘクタール、そのうち3万ヘクタールが私有林だ。同組合森林経営者委員会のジャンルイ・ダビッドさん(65)は、所有者の依頼を受け、土地台帳を基に衛星利用測位システム(GPS)で私有地を確定する作業を続ける。森林内を歩く地道な仕事を無償で引き受けるが、「森林に興味を持つ所有者が増えたのは良いことだ」と話す。個人の権利と義務が尊重されるフランス。同組合の活動も森林に限らず土地所有者の承諾が必要になる。40ヘクタールの森林を所有するダビッドさんは、「シャトラール町で林道整備を進めた時、所有者1人の反対で1年間計画が止まった」と話す。木材や薬草、山菜、野生動物など利益をもたらす林産物が多い森林には、同委員会の他、森林組合や製材所組合、木材販売業者など州や県、市町村単位で組織が乱立。共有林と私有林の連携もなく、「森林活用は停滞していた」(ダビッドさん)。同組合の設立を機に、森林関連団体が組合に参加することで団体再編が進んだ。しかし、個人所有者の参加判断は個人に委ねられたまま。経営者委員会の元会長で、同組合の副組合長を務めるアルベール・ダルベルさんは(59)は、「(組合への加入などを)所有者一人一人に説明して回った」と、当時を振り返る。標高500メートル以上の森林には建材で使われるホワイトウッドが豊富に育つ。人口増や地域の経済が活発化することで木材需要が高まる中、経営者委員会の働き掛けで地域づくりに賛同する森林所有者は増えている。行政も、ヴォージュ産木材を建材に使用すれば、資材の2%を補助して、森林活用を後押しする。組合設立から来年で20年。農林業と観光業を柱にした地域活性化が進み、環境や生物多様性を意識する住民が増えた。2011年には国連教育科学文化機関(ユネスコ)の支援を受けた国際機関が地質的に特徴のある地域を認定する「ジオパーク」の認定を受け、住民の地域づくりへの意欲は高まる。1980年代に人口減少で活気を失っていた山塊を知るダルベルさんは語る。「古くから受け継がれた自然、文化が宝物だったことに気付くことができた。まだ組合は若く、個人所有が多い森林などで課題はある。目指すのは、持続可能な資源の活用で地域を盛り立てることだ」

*4-2:http://qbiz.jp/article/45809/1/
(西日本新聞 2014年9月12日) 有害獣駆除、加工して販売
 中山間地の田畑を荒らすイノシシやシカから農作物を守ろうと、大分県豊後大野市の姉妹が女性に狩猟免許取得を勧めている。姉妹は3年前にわな猟免許を取得し、今年1月には獣肉加工施設「女猟師の加工所」を開設。捕獲したイノシシの精肉の販路開拓にも取り組む。2人は「先輩に学べば、女性も猟師の世界に踏み込めます。古里の田畑を守りましょう」と呼び掛けている。姉妹は、田北たず子さん(62)と東藤(とうどう)さき代さん(58)。勤務先の病院を早期退職後、実家が所有する山の竹林を整備し、自生するタケノコを出荷しようと考えた。ところがイノシシの被害に遭い、近くの水田やクリ畑でも被害が相次いだことから、狩猟免許の取得を決意した。イノシシの通り道の判別法やわなの仕掛け方などには、猟友会のメンバーに指南を受けた。免許取得後、餌でおびき寄せて中に入ると扉が閉まる「箱わな」と、通りがかった動物の足をワイヤで縛る「くくりわな」を駆使し、これまでにイノシシとシカ約110頭を捕獲した。解体した肉は家族で食べたり、知人に配ったりしていたが、一頭が数十キロもあり、消費し切れず限界に。「有害獣の駆除とはいっても命をいただく行為。せめて多くの人においしく食べてもらおう」(田北さん)と、冷凍庫や真空パック機などを備えた加工所を実家の敷地内に開設した。猟師からの持ち込み分は1キロ100円で買い取っている。肉は市内の「道の駅」2カ所で販売し、獣肉卸会社や大分市のイタリア料理店にも出荷している。「豚肉とはうまみやこくが違う。臭いが出ないよう、捕獲直後の血抜きには気を使う」という。月に7万〜27万円の売り上げがあり、加工所の運営費などに回している。東藤さんは「女性の仲間を増やしながら、あと10年は頑張りたい」と話している。

<地域製品の世界展開>
*5:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/102444
(佐賀新聞 2014年9月9日) 有田焼欧州復権狙う 国際見本市に窯元・商社8社
 有田焼創業400年事業の一環で、窯元・商社8社が、フランス・パリで開催中の国際見本市「メゾン・エ・オブジェ」に出展している。江戸時代に欧州を席巻した有田焼の“復権”を目指す取り組み。見本市のために開発した試作品を含む大皿や酒器など約100点を展示。来場者からは「伝統を引き継ぐ高い技術に感激した」など好意的な反応が寄せられている。見本市は5~9日の5日間、パリの会場で開かれている。染付の大皿や球体状の重箱、草花を描いた酒器などを並べた。伝統的な有田焼だけでなく、釉薬(ゆうやく)を工夫して金属的な雰囲気を出した商品など、欧州市場の感触をつかもうとする意欲的な商品を集めた。来場者からは「有田を訪れたい」「サイズを大きくできないか。資料を送ってほしい」「商品の価格帯は」といった感想や反応が聞かれたという。県は5日、現地でレセプションを開いた。古川康知事が、1900年のパリ万博で有田焼の花瓶が金賞を受賞したことに触れながら、「400年の歴史を刻んできた有田焼が、世界最高の舞台で大きく花開く姿を見届けていただきたい」と欧州での有田焼復権をアピールした。県は、2015年9月、16年1月の見本市にも出展する。


PS(2014.9.21):(1)に、学校規模の適正化と離島の学校の問題を書いたが、*6のように、通学できる範囲を無制限にして寮を作り、小中一貫校や中高一貫校として少人数教育などで良さを出せば、離島は農業と漁業の両方を近くで見ることができ、自然とのアクセスも抜群の場所であるため、外国の日本人学校や都会からも生徒が来るだろう。なお、子どもが勉強したり、体力づくりをしたりするのに、コンビニやゲームセンターは邪魔でしかなく、ゲームでせこせことタマゴッチなんかを育てているよりも、本物のアワビ、ウニ、魚、海藻などを取ったり、米や野菜を育てたりする方が、体力がつくとともに面白く、命に関する間違った認識も無くなる。そのため、*6はアッパレだ。

*6:http://www.asahi.com/articles/ASG9N53H3G9NUTIL00L.html?iref=comtop_6_06
(朝日新聞 2014年9月21日) 離島の高校、「逆転の発想」でV字回復 島留学に人集う
 中東ドバイの日本人学校から、日本海に浮かぶ隠岐諸島の高校へ。双子の兄弟の岩井元(げん)さん、玲(れい)さん(16)が2年前に選んだ道だ。2人が通う島根県立隠岐島前(どうぜん)高校は、松江市からフェリーで3時間かかる。日本の大学に行くためには日本の高校がいいと考え、祖父から高校のことを教わった。夏休みに帰国。いくつかの高校を見て回った。生徒が目を合わせてあいさつしてくれたのが島前高校だった。温かさを感じたのが決め手だった。「高層ビルが立ち並ぶドバイとは正反対の、隠岐の自然の豊かさに驚いた。地域全体が学校。ドバイの学校より小さいけど広い」。隠岐島前高校は離島ながら、生徒数が2008年度の89人から今年度の156人へとV字回復し、注目されている。高校はかつて統廃合の崖っぷちに立っていた。97年に77人いた入学者は08年には28人に落ち込んだ。高校が消えれば、15歳以上の若者がいなくなる。地域にとっては、死活問題だった。「島の最高学府を守れ」。島前の3町村長や住民らが08年に立ち上がり、高校の魅力化構想をつくった。通いたい高校にすれば生徒は増えるはず。「ピンチはチャンスだ」と考えた。いくつもの試みが「逆転の発想」から生まれた。「小さいことはよいことだ」と10人前後の少人数習熟度別授業を始めた。「田舎は都会にはない自然や人のつながりがある」と地域に根ざしたカリキュラムをつくった。生徒は船のダイヤ改定案から、島の太陽光発電まで考える。「仕事がないから島に帰れない」ではなく、「仕事をつくりに帰りたい」人を育てようと、課題を解決する力をつける教育を目指した。島にはコンビニもゲームセンターもない。「だからこそ工夫する力や粘り強さが磨かれる」と都会から生徒を受け入れる「島留学」を始めた。この春入学の「留学生」は31人。8月の島での見学会には全国から親子140人が参加した。島根県立大学連携大学院の藤山浩(こう)教授(中山間地域研究)は話す。「日本の高校は『蜘蛛(くも)の糸』の主人公のように、成長神話の糸にすがり、人より先に上へ上へと上がっていけと教えてきた。『東京すごろく』をよしとして生徒を都会に送り続けた。島前高校は人とつながり地域で生きる別のモデルをつくっている」。高校がいま取り組むのはグローバルな視野を持ちながら、足元のローカルな地域社会をつくる「グローカル人材」の育成だ。10月には2年生がシンガポールに5日間出かけ、シンガポール国立大生に島の課題を英語で発表する。離島での資源リサイクルは、冬場に観光客に来てもらうには……。「都会の島のシンガポールで、田舎の島の高校生が挑む。おもしろいじゃないですか」と常松徹校長。なぜ、この高校は人を引きつけるのか。カギは、都会から移住した人々の知恵を借りたことにあった。

| 農林漁業::2014.8~2015.10 | 02:25 PM | comments (x) | trackback (x) |
2014.8.17 自給力とは、絵空事ではないのか? (2014年8月18日、20日に追加あり)
     
2014.8.10西日本新聞  *3より     *6より     施設園芸

(1)自給率より自給力で意味があるのか?
 *1-1、*1-2のように、観念的な農業論を展開する大新聞は、農地を守るためには「食料自給率」よりも「いざというときに食料増産ができる潜在的な生産力、食料自給力が必要なのだ」としている。

 その理由の一つを、2013年度の食料自給率がカロリーベースで4年連続39%であり、数値目標を掲げても改善する気配がないからとしているが、目標に達しないから目標を下げるのでは目標を掲げた意味がない。また、「50%の目標に妥当性はない」というのも、私がこのブログの2014年1月8日に記載したとおり、他の先進国と比較すれば、80%程度の食料自給率を確保しても当たり前なのである。

 また、日本で食品ロスが多いのは事実だが、それを実際に減らして食料自給率を上げることが必要なのであって、食品ロスが多いから食料自給率の目標を下げてよいというのは本末転倒だ。さらに、耕作放棄地が多いのは、現在、農業が本当の意味で儲かる産業になっていないからであり、それを変えるために、生産性の向上や付加価値の増加を促しているのである。

 *1-2には、「自給率の引き上げにこだわりすぎれば、効果の乏しい政策に巨費を投じることになり、その代表例は、コメの生産調整(減反)とセットで進めてきた麦や大豆などへの転作奨励策で、費用対効果があいまいなまま、転作補助金が膨らむ」とも書かれているが、そう言う人は、安全な麦や大豆をずっと輸入し続けられると考えているのか、答えてもらいたい。必要になってあわてて増産しようとしてもそうはいかないのが農業であり、現に耕作放棄地が増え続けている理由は、(長くは書かないが)麦や大豆への転作奨励ではない。

 なお、現在、日本人は、小麦も多く消費しているので、「主食は米」という考え方もおかしい。農業は産業であるため、必要なものを作らなければ国内でも売れないし、外国では、料理の仕方や食事の中での位置づけが異なるため、誰でもジャポニカ米がとりわけ美味しいと感じるわけではないのである。

(2)農協改革に異論が噴出するのは当然である
 *2のように、自民党幹事長会議では、政府が進める農協改革について、地域経済の再生に逆行しているとして、決定内容の見直しを求める意見が噴出したそうだが、確かに、規制改革会議など政府の審議会では、農業地域を廻ったことすらない民間議員が政策決定を主導し、その改革案には、私がこのブログの2014年7月12日に記載しているように、農協が諸悪の根源という的外れの思い込みがあった。

 自民党は、与党時代が長かったため、地方議員にネットワークができており、そこから要望が上がってくる仕組みがあるが、規制改革会議は東京人の先入観と都合で政策を決めて突き進むため、こういうことになるのである。

(3)佐賀県における新規就農者の増加
 *3のように、佐賀県内では、新規就農者が増え続け、そのうち農業法人への就業者が多く、他の仕事を経験してから家業を継ぐ「Uターン」も伸びた。佐賀県は、私が衆議院議員になってすぐの2005年から、規模拡大や転作を言い始めて、すぐにそれを実行したため、他の地域よりも改革が進んで農業に明るさがある上、「青年就農給付金事業」が実施されているのが功を奏したと思われる。

 また、現代農業は、IT、機械、設備をふんだんに使うため、農業に従事する前にそれらの製造業・サービス業に従事して、その仕組みを身につけておくのは有意義である。

(4)農業が成長産業になるための女性農業者の役割
 *4のように、農水省の「輝く女性農業経営者育成事業」で、日本能率協会が、女性の就農人口を拡大し、地域農業を引っ張るリーダーを育成するために、女性農業者を対象とした「女性農業次世代リーダー育成塾」を開講したそうだ。

 農業が真の成長産業になるためには、(男性と同じ年齢でよいが)需要・食品・栄養に詳しい女性が、農業の現場で意見を述べ、意思決定できる立場に多くいることが重要だ。しかし、男女別に研修を行うと、人的ネットワークの形成という意味で効果が半減すると考える。

*1-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140806&ng=DGKDASFS05H0J_V00C14A8EE8000 (日経新聞 2014.8.6)農地守る「自給力」議論を 食料自給率、4年連続39%
 農林水産省が5日発表した2013年度の食料自給率は、カロリーベースで4年連続で39%だった。農水省は00年につくった農政の基本計画から自給率向上の数値目標を掲げているが、いっこうに改善する気配はない。自給率を高めるために、もっと対策を手厚くすべきなのだろうか。基本計画の改訂は5年に一度で、来年はちょうど改訂年にあたる。すでに関係の審議会で議論が始まっており、自給率の向上を最優先の課題にすることを批判する声が出ている。例えば「50%の目標に妥当性はない」といった意見だ。そもそもいまの自給率に本当に危機感を持つべきなのだろうか。農水省によると、日本の食品ロスは推計で年500万~800万トンと、世界の食糧援助量の約2倍。「飽食」としか言いようがない食生活を維持することを前提に、自給率の向上を目標に掲げることには疑問符がつく。一方で危機はべつの面から迫っている。高齢農家がこれから大量に引退し、耕作放棄が急増する可能性が高まっているのだ。とくに深刻なのが消費が減り続け、収益性が落ちている稲作だ。そこで農水省は、家畜のエサにする飼料米の生産の旗をふる。一見すると、田んぼを守り、しかも日本の自給率を押し下げている飼料をつくるので一石二鳥。だが飼料米は巨額の補助金に支えられており、いまの財政事情で大幅に増産するのは無理がある。求められているのは、少ない労力とコストで農地を守る方策だ。もし食料問題が起きたら、そこで最も必要な作物をつくる。いざというときに食料を増産できる潜在的な生産力を、次代につなぐという発想だ。これに関連し、基本計画を論議している審議会では「自給率より自給力が重要」という意見が出ている。飼料米と比べ経費のかからない牧草を生やし、家畜を放し飼いにするといった方法が課題になるだろう。「息をのむほど美しい棚田の風景」。安倍晋三首相は日本の農業と農村の魅力をそう表現する。だが将来の世代に食料の生産基地としての農地を残すには、日本の田園風景が変わることまで視野に入れた政策転換が必要になっている。

*1-2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11303315.html
(朝日新聞社説 2014年8月17日)食料の確保 自給率一辺倒をやめよ
 昨年度の食料自給率は39%(カロリー換算)で、4年続けて横ばいだった。政府が目標とする50%への道筋は、全く見えないのが実情である。カロリー換算では、国産牛でも飼料を輸入に頼れば「100%自給」ではなくなる。消費者が安さを求め、価格では海外産に太刀打ちできない品目が少なくない現状を考えると、カロリー換算の数値を絶対視することは賢明だろうか。国内での生産をできるだけ増やそうとする姿勢は大切だが、自給率の引き上げにこだわりすぎれば、効果の乏しい政策に巨費を投じることになりかねない。その代表例は、コメの生産調整(減反)とセットで進めてきた麦や大豆などへの転作奨励策だろう。減り続けるコメの消費に合わせて生産を絞る。余った田んぼで輸入頼みの作物を作れば、自給率も上がる。一見合理的だが、「費用対効果」があいまいなまま、転作補助金は膨らみがちだ。安い外国産に押される麦や大豆の生産は頭打ちで、現に耕作放棄地は増え続けている。政府はコメ政策を転換すると決めた。県ごとに置く機構を通じて田の集約と生産コスト削減を進め、4年後には国は減反から手を引く。それでも、需要に合わせて作るという考え方はそのままだ。麦や大豆から家畜に食べさせる飼料用米に力を入れる方針だが、非効率な補助金行政が温存されかねない。減反政策がもたらした「おいしくて高級」に偏ったコメ作りを多様化し、「より安く」も追求する。競争力を高めることが輸出への道を開き、国内生産の基盤を守ることにつながる。主食であるコメを中心に、そうした取り組みを進めるべきだ。海外からの調達が安定するよう相手国との関係を強め、廃棄や食べ残しによる「食品ロス」を減らすことも欠かせない。その意味で、日豪経済連携協定(EPA)に「輸出規制を新設・維持しないよう努める」といった規定を盛り込んだことは注目に値する。豪州以外の農畜水産物の輸出国からも同様の約束を取り付けてほしい。食品ロスは政府の推計で年500万~800万トンとされ、コメの生産量にも匹敵する。賞味期限から逆算して商品の受け取りに厳しく臨む小売業界の慣行を見直し、家庭での食生活を改めるなど、ただちに取り組めることは少なくない。食の確保は、自給率頼みでなく、多角的に考えたい。

*2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=29163
(日本農業新聞 2014/8/6) 農協改革に異論噴出 地方選影響も 自民党幹事長会議
 自民党は5日、都道府県連の幹部を集めた全国幹事長会議を党本部で開いた。来春の統一地方選に向けて結束を図るのが狙い。集まった県連幹部からは政府が進める農協改革について、地域経済の再生に逆行し、統一地方選にも悪影響を及ぼしかねないとして、決定内容の見直しを求める意見が噴出した。農協改革をめぐっては、政府が6月末に決定して以降、同党の地方組織からは党本部に再考を求める要望が相次いでいる。来春の地方統一選が近づくにつれて、一段と懸念の声は強まりそうだ。全国幹事長会議に続いて行われた「政策説明会」であいさつした安倍晋三首相(党総裁)は統一地方選について「衆院選、参院選に続く大切な選挙だ。まなじりを決して戦い抜く」と決意表明した。全国幹事長会議では石破茂幹事長が「地方組織あってこその自民党だ。統一地方選で勝利して初めて政権奪還が完成する」と強調。選挙公約の主要テーマに「地方創生」を掲げる方針を示し結束を呼び掛けた。ただ、出席した県連幹部からは、政府が進める政策への懸念や不満の声が少なくなかった。特に目立ったのが成長戦略の柱に位置付けられている農協改革。会議は石破幹事長らのあいさつを除いて非公開だったが、出席者によると宮城、富山、福井、和歌山、福岡など複数の県連幹部から意見が出たという。ある県連幹部は農協改革について「唐突感があり、スピードも早く生産現場はついていけない」と性急さを批判。「食料自給率が上がらなかったのは政府の責任で、それを現場に押し付けている。農水省と現場と互いに改革を進めるべきで、今回のやり方は一方的過ぎる」と決定内容の見直しを求めた。別の県連幹部も、規制改革会議など政府の審議会に経済界寄りの民間議員が大勢入り、政策決定を主導していることについて「(選挙で選ばれていない)外部の人に振り回されるべきではなく、政策をきちんと分かっている党議員で進める必要がある」と指摘、決定内容の再考を求めた。

*3:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10103/94418
(佐賀新聞 2014年8月16日) 給付金事業成果183人 「Uターン」伸び87人
 佐賀県内の2014年(13年6月~14年5月)の新規就農者数は183人で、平成に入って以降でみると、12年の186人に次いで2番目に多かった。就農前後、生活費を支援する青年就農給付金事業などが一定の成果を上げているようだ。準備の進め方、営農の工夫などを就農者に聞いた。2014年(13年6月~14年5月)の新規就農者は、前年比16人増の183人だった。農業法人への就業者が過去最多となり、他の仕事を経験して家業を継ぐ「Uターン」が伸びたことが要因。県農産課は「景気は回復してきたが、雇用環境や賃金体系は改善しておらず、農業への期待感が高まっているのではないか」とみている。法人就業は前年比4人増の58人で、13年と10年の54人を上回って過去最多となった。21~25歳が15人で最も多く、31~35歳が14人、15~20歳が11人、26~30歳が10人。野菜や果樹、米麦、畜産が目立っている。Uターンは87人(前年比15人増)で、過去最多だった12年(88人)より1人少なかった。31~35歳が19人で、26~30歳、36~40歳がいずれも17人だった。野菜や米麦栽培が半数近くを占めている。新規参入は前年比6人減の21人。31~35歳が6人、26~30歳が5人、36~40歳4人で、他の世代はいずれも1人だった。ほとんどが収入が安定しやすい野菜栽培となっている。一方、新規学卒は前年より3人増えて17人となったが、過去3番目に少なかった。15~20歳が10人、21~25歳が6人、26~30歳が1人。施設野菜や果樹が中心となっている。全体の平均年齢は33・3歳で、前年から0・7歳上昇した。地域別にみると、ミカン栽培が盛んな藤津地区が前年比20人増の47人と大幅に増え、タマネギ生産が多い杵島地区が40人(同4人増)、東松浦地区が31人(同2人減)と続く。法人就業が伸びた背景については「国が生産規模の拡大、農業法人の支援に力を入れたことが影響している」と県農産課。45歳未満の就農希望者に研修中や独立後5年間、年150万円を給付する「青年就農給付金事業」が12年度から実施されており、「生活費を気にせず、農業に打ち込める。異業種から参入はもちろん、農業後継者づくりにも一役買っている」と指摘する。

*4:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28832 
(日本農業新聞 2014/7/19)  女性の就農引っ張れ リーダー育成塾開講 選抜20人意気込む 日本能率協会
 日本能率協会は18日、東京都港区で会見を開き、全国の女性農業者を対象に「女性農業次世代リーダー育成塾」を開講したと発表した。女性就農人口の拡大や、地域農業を引っ張る次世代のリーダーを育成することが狙い。90人の応募者の中から選抜した20人の塾生が参加し、地域農業への思いを語った。年齢に縛られないで地域のリーダーを育成しようと、参加する女性農業者の年齢は「非公表」(同協会)とした。育成塾は座学だけではなく、毎週土曜日に東京・六本木で開くヒルズマルシェに参加する他、来年3月には食品・飲料の展示会「FOODEX JAPAN(フーデックス・ジャパン)2015」でブース出展を予定するなど、実践にも力を入れるのが特徴だ。育成塾は、農水省の「輝く女性農業経営者育成事業」の一環で、今年度を第1回とし、16年度の第3回まで予定している。塾に参加した秋田 県横手市の米農家、佐藤愛生さんは「育成塾で学んだことを地元に持ち帰り、地域全体のレベルアップを目指したい」と意気込みを語った。静岡市の茶農家、鈴木まゆさんは「塾生のメンバー全員、地域農業のために何かしたいという意識が高く、刺激を受ける。このメンバーで頑張っていきたい」と笑顔で語った。同省女性・高齢者活動推進室の佐藤一絵室長は「農業が成長産業になるためには、若い女性がリーダーとして引っ張ることが必要だ」と激励した。


PS(2014.8.18追加):*5のように、米麦ではなく、果樹・野菜・花などを作れば、気候や高度差を利用して出荷時期をずらすことができるため、「中山間地=条件不利地」とは限らない。必要なのは、地形、気候、高度差を活かせる作物を探して付加価値の高いものを作ることで、秋田県の取り組みは評価できる。

*5:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=29344
(日本農業新聞 2014/8/18) 中山間地の水田を無償で畑地化 秋田県が支援事業
 米どころ秋田県が、今年度から中山間地域の農家が負担ゼロで水田を畑地化できる支援事業をスタートした。人口減少を食い止めるため、条件不利地でも一定の所得確保ができる基盤づくりが急務と判断。市町村ごとにプラン策定を進め、圃場(ほじょう)の排水対策や土層改良をして、園芸や畑作物への転換を進める。4カ年で20地区程度の事業実施を見込む。農業産出額の64%を米が占める秋田県では、米の需要減退や米価の下落傾向に農家の不安が募る。県は「稲作への依存を続ければ人口減少につながる」(佐竹敬久県知事)として、今年度からの県農林水産ビジョンでは園芸振興を強く掲げ、米の産出額の割合を今後4年間で50%(961億円)に引き下げる。平場に比べて作業効率が悪い中山間地域では、米偏重への懸念が特に強い。県はビジョンに畑地化事業を盛り込み、県農業の構造改革に本腰を入れ始めた。支援事業は、国の農業基盤整備促進事業をベースに、通常、畑地化工事に必要な農家負担分(7.5%)を、県がかさ上げする内容だ。事業利用によって、工事費負担は国55%、県35%、市町村10%になる。県は「これまで自己負担分が事業利用の足かせになっていた。中山間地でてこ入れしたい」(農山村振興課)と期待する。事業は客土、暗きょや用排水施設などの工事を実施しやすくする。また、国では対象外になる200万円以下の小規模工事でも、県が費用の半額を助成することにした。県によると「既に中山間地でプラン策定に動きだす市町村が5~7出てきている」という。山林が8割以上を占める五城目町もその一つだ。稲作が盛んな同町では60年前のピーク時に比べ、人口が半分の約1万人に減り、過疎化が県内でも速いペースで進んでいる。町内の農業者はそうした状況に危機感を感じている。農事組合法人山ゆりの小林正志代表は「米だけに頼っていては先細りだ」と訴え、大豆やエダマメへ転換をいち早く進めてきた。だが水田転作では水はけが悪く、大豆は10アール収量が150キロと低め。小林代表は「排水性を改善し、収益性を高める」と畑地化事業を活用するつもりだ。県は「厳しい生産条件でも、地域の特性に合った作物を振興して、担い手確保や6次産業化につなげてほしい」と話す。


PS(2014.8.20追加):*6のように輸出を伸ばすのは良いが、現在の国際空港である成田に輸出拠点を設けても、付近に優良な農産物を産出する産地が少ないため、それらの産地に近い地方空港や倉庫を利用した方が輸送費が安い上、投資効率がよいと考える。なお、上図に記載されているように、海外で「和食の方が優れている」とアピールしすぎるのは、日本で「フランス料理やイタリア料理の方が優れている」とアピールされすぎるのと同様、相手国にとっては、あまり気持ちのよいものではないことを認識しておくべきだ。それぞれの国には、先祖から伝わる気候に合った自慢の食文化があり、よいものを選びながら、それが歴史と共に進歩しているものだからである。

*6:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140820&ng=DGKDASFS19H19_Z10C14A8PP8000 (日経新聞 2014.8.20) 
国際空港近くに農産物の輸出拠点 農水省が要求、低温施設に補助
 農林水産省は19日、2015年度予算案の概算要求に盛り込む重点事項をまとめた。20年に農林水産物・食品の輸出額を1兆円に倍増するために、成田空港など国際空港の近くに野菜や果物、花きなどの輸出拠点を設ける構想を進める。業者が輸出用の野菜などを長い間保存しておける低温貯蔵施設をつくる場合に補助する案も盛った。農林水産物・食品の輸出額は13年に約5500億円と過去最高となった。今年も記録を更新する勢いで増えているが、輸入額も年間で9兆円前後あり、圧倒的な輸入超過が続いている。成田空港など国際空港の近くに輸出拠点を設けるのは、野菜や果物などを鮮度を保ったまま海外に届けられるようにする狙いだ。政府はこれまでも農産物の輸出促進策をとってきたが、国内の生産コストや輸送費が高く、うまくいっていない。東アジアの富裕層のニーズをくみ取る取り組みが欠かせない。

| 農林漁業::2014.8~2015.10 | 11:35 PM | comments (x) | trackback (x) |

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