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2024,02,04, Sunday
2024.1.30TBS 2023.1.12佐賀新聞 2023.2.5佐賀新聞 (図の説明:左図のように、麻生副総裁が上川外務相を褒めたつもりが、名前を間違ったり、『女性外務相は初』と誤ったり、『美しくないおばさん』と言ったりして物議を醸している。しかし、根本的には、日本全体に蔓延する女性蔑視や高齢者に対する年齢揶揄の習慣がある。そして、この発言の土壌として、1年前のデータだが、中央の図のように、国会議員・地方議員・首長などの政治リーダーに占める女性の割合が著しく低く、女性リーダーはアウトサイダーであるという古ーい“常識”がある。そのため、生活関連の政策が多く、女性議員の存在が重要だと思われる地方議会でさえも、右図のように、女性ゼロ議会が少なくなく、ゼロでなくても女性議員の割合が50%どころか30%を超える議会も希な状況なのだ) (1)女性初の首相は、巧妙に隠された差別にも気づいて闘った人であって欲しいこと *1-1-1・*1-1-2・*1-1-3は、①自民党の麻生副総裁が講演で「そんなに美しい方とは言わんけど、英語できちんと話をし、外交官の手を借りずに自分でどんどん会うべき人に予約を取っちゃう。俺たちから見ても、このおばさんやるねえと思った」と語った ②立憲の田島氏は、参院本会議で同調圧力の強い日本社会で上川氏と同じ対応をしなければならないリスクを上川氏にただした ③上川氏の「どのような声もありがたく受け止めている」という答弁にも波紋が広がった ④ライターの望月さんは「『俺たち』が女性たちを評価するという構図が前提になっており、女性の登用をうたいながら、実際に誰を引き上げるかを決める権力はいまだ麻生氏ら男性たちが握り続けている現実を映している」とみる ⑤東大の瀬地山教授は「上川氏を評価しているのは分かるが、男性の外相なら容姿に言及することはなく、女性だけ美醜の評価を加えられる」「政治の世界で女性はアウトサイダーという認識があるから、男性政治家から『俺たちから見て』『女性ならではの』といった発言が出る」とした ⑥次の首相候補との声も上がり始め、20人の推薦人を集めて総裁選に出ようと思えば、麻生氏に反論するのは性別を問わず難しい ⑦共産党の田村委員長も、上川氏の答弁について「ジェンダー平等を進めようという立場なら、きちんと批判すべき」と語った ⑧麻生氏は上川外相の容姿を揶揄した発言を撤回し、「女性や若者が活躍できる環境を整えていくことが政治の責務」とも触れた としている。 麻生副総裁の発言の①のうち、「英語できちんと話をし、外交官の手を借りずに自分でどんどん会うべき人に予約を取る」については、私は、できない人よりはできる人の方が良いが、それは政治家の仕事というよりセクレタリーの仕事で、政治家の実力を評価したことにはならないと思う。しかし、「女性」と言えば「語学力」「コミュニケーション能力」で評価したり、「おしゃべり」と悪口を言ったりするのは、まさに女性の実力を内容で評価しない女性蔑視の第1だ。 また、「そんなに美しい方とは言わんけど」という発言について、⑤のように、東大の瀬地山教授が「男性の外相なら容姿に言及することはなく女性だけ美醜の評価を加えられる」とされているのは本当だが、より根本的には、「能力のある女性は美しくなく、美しい女性は能力が無い」という一般社会の女性蔑視に、麻生氏も同調しているか、おもねたところがあると思う。 さらに、「俺たちから見ても、このおばさんやるねえと思った」という言葉には、④のように、「(現在、リーダーの多くを男性が占めているため)男性の方が能力が上で、男性が評価する立場だ」という女性蔑視が確かに感じられるが、現在、リーダーの多くを男性が占めている理由は、日本では、*3-1のように、教育段階から女性差別して男性に下駄を履かせているからで、*3-2のように、同性の中にも大きな個人差がある。それでも、日本の一般社会は、*3-2の「執筆した論文数が男性より多い有能な女性の中に美人はいない」と言うのだろうか? なお、「おばさん」という言葉には、「おじさん」という言葉と同様、年齢に対する揶揄が感じられ、敬意は感じられない。 しかし、②のように、立憲の田島参議院議員が同調圧力の強い日本社会で上川氏と同じ対応をしなければならないリスクを上川氏にただしたり、⑦のように、共産党の田村委員長が上川氏の答弁について「ジェンダー平等を進めようという立場なら、きちんと批判すべき」と語ったりしたのは、確かに、国会議員の中に女性が増えた効果である。しかし、田島氏の質問に対し、③のように、上川氏が「どのような声もありがたく受け止めている」と答弁されたことについては、上川氏はわかっていないか、もしくは、わざと焦点をずらしてごまかしたと思う。 もちろん、上川氏が、⑥のように、次の首相候補との声も上がり始め、麻生氏に限らず、男女の議員の中に敵を作れば誰もが一票の投票権を持つ民主主義社会で首相になることはできないというジレンマを抱えていることは理解する。 が、国会議事堂の中央広間には4つの台座があり、既に板垣退助(自由民権運動を起こし、日本で最初の政党である自由党党首)、大隈重信(日本で最初の政党内閣の総理大臣)、伊藤博文(日本で最初の内閣総理大臣)の3つの銅像が立っており、4つ目の台座には、日本で女性初の首相が銅像として立ってもらいたいと、私は思っている。そして、その功績は、日本であらゆる女性差別をなくし、最初の女性内閣総理大臣になったというくらいであって欲しく(https://www.sangiin.go.jp/japanese/taiken/gijidou/3.html 参照)、そうでなければ他の銅像と釣り合いがとれない。 (2)女性の実力が公正に評価されない巧妙な差別の事例 *1-2は、①保利耕輔氏は謹厳実直が服を着たような人だった ②群れたがる同僚議員を尻目に夕方は自宅に直行して本や資料を読みふけった ③「予算獲得の陳情団に、普通の国会議員は本題もそこそこに地元の新しい噂話を聞きたがるが、保利さんは書類から目を離さず、事業の中身について質問した」というのが古川衆院議員の佐賀県知事の時の思い出 ④2003年に農相を打診されると教育基本法改正を巡る与党調整に注力したいとして固辞 ⑤党憲法改正推進本部長の時には「自主憲法制定は党是」という声が党内で勢いを増したが、結党時の資料を探し出して「わが党は結党以来、『憲法の自主的改正』を『党の使命』に掲げてきました」と書き改めさせた ⑥目立つことを嫌い、手柄を誇らず、常に筋を通す と記載している。 このうち⑤の「(結党時の資料を示して)全否定ではなかった」とまで言えたのはよかったが、国民の意識や時代の変化にもかかわらず、結党時と同じことを言うのではまだ弱いと思う。 また、③については、同じ選挙区から出ていたので意義があるわけだが、“本題もそこそこに地元の噂話を聞きたがる普通の国会議員”とは誰のことか?他の地元国会議員に失礼だと思うが、本題は自分発のテーマだったり、毎年似たようなものだったりするため、内容を根掘り葉掘り聞かなくてもわかる議員も多いだろう。 なお、*1-2は追悼文であるため褒めるのが当然ではあるが、①については反対しないものの、②は家で本や資料を読んでおられたとは限らないため、私は「どうしてそれがわかるのか?」と思った。さらに、④の「農相を打診されたが、教育基本法改正を巡る与党調整に注力したいとして固辞」については、保利氏は教育勅語を諳んじていて、よくその話をしておられたため、教育基本法改正は戦後世代に任せた方がよいと私は思ったし、地元には「農相になればいいのに・・」と言う人が多かったのである。 しかし、私が*1-2で最も問題だと思ったのは、⑥の「目立つことを嫌い、手柄を誇らず・・」という褒め方(≒価値観)である。何故なら、世襲ではない一般の人が目立つことを嫌えば、そもそも国会議員になろうとは思わないし、当然のことながら当選もしないからだ。また、実績(=手柄)を言わなければ内容で評価することができないため、性別・年齢・学歴等の情報からステレオタイプで常識的・観念的な評価をするしかない。 そして、特に女性には謙虚さのみを押しつけ、いかにも女性はくだらない噂話が好きであるかのように言う日本独特の女性蔑視の価値観こそが、政治の世界でも、*3-1と同様に、ジェンダーギャップを大きなままにし、*3-2のように、本当は少数精鋭で生き残っている女性研究者の執筆論文数は男性を上回るのに、それを隠して表に出させず、しばしば手柄を横取りして、女性差別を維持する仕組みにしているのである。 (3)地方議会の担い手不足と女性差別 *2-1は、①議員の担い手不足で、地方議会の空洞化が止まらない ②首長が議会ぬきで補正予算等を決める専決処分が多発 ③災害時等の非常時に限る仕組みのタガが緩み、住民が行政を監視する地方自治の根幹が揺らぐ ④4年毎の統一地方選で議員が無投票で決まる割合が右肩上がり ⑤議員は多様な住民の声を取り込む役割を担う ⑥専決処分多発のきっかけはコロナ禍だったが、コロナが落ち着いても「物価高対策のため」等として減らない ⑦議会が機能を十分果たすための改善策は通年制 としている。 また、*2-2は、⑧2018年施行の候補者男女均等法効果で女性議員が増えた地域もあったが、まだ十分ではない ⑨200以上の地方議会で女性0、2割前後で伸び悩む議会も ⑩女性が影響力を持つには議会の3~5割程度を占める必要 ⑪達成には選挙制度の抜本的改革が不可欠 ⑫1人区は無投票が多く現職有利になるため都道府県議選では止めるべき ⑬定数が多いと、党派も多様で女性や若い世代も立候補しやすい ⑭市町村議選では「制限連記制」が選択肢の一つ ⑮「クオータ制」も導入した方がよく、女性候補の多い政党には政党助成金を優遇するなどの方法も ⑯少子化進行は女性議員が少なかったことが大きな要因で、女性が増えれば政策が刷新される ⑰保護者に持ち帰らせていた使用済おむつを保育所で処分するよう求める動きも、女性議員らの議会質問で始まった ⑱生活に身近な議題を扱う市町村の議会に女性や若い世代は不可欠 ⑲海外には地方議会で女性が増えてから国政に波及した例も多く、日本も地方議員を増やせば国会に繋がる可能性 等としている。 このうち②は事実だろうし、③⑥の「災害時等の非常時に限る仕組みが、議会の監視をすりぬける手段となる」のは国の緊急事態条項も同じなので、⑦のように、議会の開催を短く制限しないようにするのは、国の場合も同様である。 また、⑤の「議員には多様な住民の声を取り込む役割がある」というのも事実で賛成だが、①の「議員の担い手不足で地方議会の空洞化が止まらない」は、⑧⑨⑩のように、人口の半数以上を占め生活系の知識が豊富な女性議員が地方議会に著しく少ないことを解決すべきだと思う。 しかし、④のように、4年毎の統一地方選では現職(男性)議員が無投票で再選される割合が右肩上がりに増えているそうで、そこに気の利いた女性が立候補しても、古い価値観で誹謗中傷されたり、家族も含めて妨害されたりして、著しく当選しにくい実情がある。そのため、⑪⑫⑬⑭⑮のいずれかの方法又はその組み合わせで、女性が立候補するのは当たり前、議会に女性が30~50%いるのも当たり前という状況を作るべきだ。 なお、⑰の「保護者に使用済おむつを持ち帰らせていた」というのには、「タイパ(時間あたりの成果)の高さが必要不可欠な共働き女性に何をさせているのか!」と私も思ったが、確かに⑯のとおり、これでは2人目を産む人は少なくなり、少子化が著しく進行するのは当然だろう。そのため、これに対し、女性議員の議会質問で保育所での処分が始まったのは期待通りであり、⑱のとおり、生活に身近な議題を扱う市町村議会に女性議員は不可欠なのである。 最後に、⑲のように、「地方議員を増やせば国会に繋がる可能性がある」という点については、国会議員選挙での公認獲得や選挙応援にあたって地方議員の役割は大きい上に、国民も女性議員の能力を具体的に見ることができるため、地方議員に女性が増えれば国会議員にも女性が増えるだろう。 (4)学術会におけるジェンダー不均衡の発生理由 *3-1は、日米の研究チームが、論文の著者名から性別を推定する方法を開発し、日本・韓国・中国・その他(主に欧米)で1950~2020年に発表された約1億本の論文データを解析したところ、①どの国でも研究者数は男性が女性より多いが、男女比の不均衡は日中韓が欧米より大きい ②個々の研究者がキャリアを通じて発表した論文数は、日本は女性が男性より42・6%少なく、中国は9・3%、韓国は20・2%、その他は31・2%少ないため、日本の性差が最も大きい ③女性の方が研究職としてのキャリア年数が短い(日本では男性より39・6%短い)のが原因の1つ ④研究論文の共同著者となっている場合も少ない ⑤論文が引用された回数は、日本は女性が男性より19・9%低く、中国・韓国では逆に女性が高い ⑥男性研究者主導論文を過多に引用し、女性研究者主導論文を過少に引用する傾向が日中韓でみられる ⑦女性研究者主導論文の過少引用は日本が最も強い ⑧この問題は国際的な社会課題であり、論文の査読や研究者の雇用などでも起こる としている。 このうち①は、日中韓が儒教国で女性差別が根強いことから尤もだ。しかし、②は、1975年に第1回世界女性会議で女性の地位向上のための「世界行動計画」が採択され、1979年に国連総会で女子差別撤廃条約が採択されて1981年に発効し、1995年に北京で世界女性会議が開催されたりしたのに対応して、中国・韓国はまじめに改善してきたのに対し、日本は政治的・公的活動、経済的・社会的活動における差別撤廃のため、まともに対応しなかったのが原因であることを、私は現場で比較しながら見ていたためよく知っている。 また、③のように、「女性はキャリア年数が短い」とよく言われるが、この統計方法は、結婚で女性が姓を変更すると別人としてカウントするのも理由の1つではないかと思われた。 しかし、④のように、共同著者となる機会が少なく、⑤⑥⑦⑧のように、日本の女性研究者は論文の引用回数が男性研究者より少ないのなら、実力で研究者として昇進する道が閉ざされるため退職せざるを得なくなることも、女性のキャリア年数が短くなる原因の1つだ。そして、多くの男性に思い当たるふしがあると思うが、これが隠された巧妙な差別の結果なのである。 *3-2は、⑨日本の研究者が直近5年間に執筆した論文数は男性より女性の方が多く世界の傾向と逆 ⑩日本の研究者全体に占める女性割合は約2割(総務省2016年調査では15.3%)で米国やEU28カ国の約4割と比較して低い ⑪2011~2015年の研究者1人当たり論文数は、日本の女性が1.8本で男性の1.3本よりもやや多く、他国・地域と異なる ⑫1996~2000年では、より男女差が大きいのが日本の特徴 ⑬エルゼビアは「日本では女性研究者のキャリア構築が他国より難しいため、生き残っている多くの人が有能なのではないか」とみている としている。 ⑩の日本の研究者全体に占める女性割合は約2割で、米国やEU28カ国の約4割と比較して半分というのは、優秀な人の割合が同じであれば、女性は他国と比較して2倍の狭き門をくぐらされて生き残っていることになる。ということは、退職させられた女性研究者の多くが、本来なら新しい付加価値を作れる人だったため、日本社会はもったいないことをしたということだ。 従って、そのような狭き門でも生き残っている女性研究者が、⑨のように、世界とは逆に、直近5年間に執筆した論文数は男性研究者より多く、⑪⑫のように、最近はやや多い程度だが、四半世紀前はさらに狭き門だったため執筆論文数の男女差がより大きかったというのは頷ける。そのため、⑬のエルゼビアの原因分析は、事実に基づいており、公正中立だと思う。 (5)治る病気は治すべき ← 日本で再生医療による治療が遅れる理由 *4-1は、①1型糖尿病(インスリンを分泌する膵臓のβ細胞が壊れて高血糖状態になる病気)の患者は、生涯インスリン補充が必要 ②20歳以降は行政による医療費助成が終わり、自己負担が重くなる ③20歳以上の患者は月1万~3万円程度の自己負担が発生する ④佐賀市の認定NPO法人「日本IDDMネットワークが、佐賀県に住む25歳までの患者を対象に4月から月額最大3万円の医療費支援を始める ⑤国内の1型糖尿病患者は10~14万人 としている。 しかし、*4-2は、⑥成熟した膵島細胞は自己複製能を持たず、その機能低下が糖尿病の原因 ⑦出生前後に増殖する膵島細胞ではMYCL遺伝子が発現し、MYCLを働かせると成熟した膵島β細胞に活発な自己増殖を誘発できる ⑧体内でMYCLを発現誘導したり、MYCLによって試験管内で増幅させた膵島細胞を移植してモデルマウスの糖尿病を治療した ⑨これにより、糖尿病の根治を目指した新たな再生治療法となりうる としている。 1型糖尿病は、①のように、現在は治らない病気であるため、生涯にわたってインスリンの補充が必要だが、これでは患者のQOL(Quality of life)が低すぎ、人生における選択が制限される。さらに、治療には健康保険と高額医療費制度が適用されて当然なのに、②③のように、20歳以降は行政による医療費助成が終わり、月1万~3万円程度の自己負担が生じるというのが、そもそもおかしいのである。 そして、④のように、佐賀市の認定NPO法人が佐賀県在住の25歳までの患者に月額最大3万円の医療費支援を始めるというのは、(何もしないよりは良いが)部分的援助にしかならないため、まず治療に健康保険と高額医療費制度を適用するのが当然と言える。 次に、⑥のように、成熟した膵島細胞は自己複製能を持たないが、⑦のように、出生前後にはMYCL遺伝子が発現して膵島β細胞が活発な自己増殖するため、⑧のように、体内でMYCLの発現を誘導したり、MYCLによって試験管内で増幅させた膵島細胞を移植したりすれば、1型糖尿病を治療でき、これは糖尿病のモデルマウスで既に証明されているのだ。従って、⑨のように、糖尿病を根治する人間の治療法にもなり得るため、これらを素早く実用化すべきである。 MYCL使用法は糖尿病を根治できるため、生涯にわたってインスリンを補充する必要が無く、根治後の患者は普通の生活ができるためQOLが高い。それと同時に、医療保険の視点からは、患者に生涯に渡ってインスリンを補充するよりもずっと安くつき、ビジネスとしても、⑤のように、国内だけで10~14万人の1型糖尿病患者がおり、世界では著しく多くの患者がいるため、市場は十分大きく、トップランナーと2番手以下では利益率の差も大きいのだ。 そのため、再生医療の基礎研究ではトップランナーの日本で再生医療による治療法が普及しない理由は、「政治・行政・経営・メディアの無知と不作為によって、優れた種を発見して速やかに育てることができないから」と言わざるを得ない。 (6)日本でEVと再エネが遅れた理由 日本は、1997年に京都で開かれた地球温暖化防止京都会議(COP3)で「地球環境京都宣言」をとりまとめ、それが「京都議定書」として採択された。京都議定書は、CO₂(二酸化炭素)やCH₄(メタン)等6種類の温室効果ガスを先進国が排出削減することを定めており、その有力なツールがEVや再エネなのである。 しかし、日本は、1990年代に、世界に先駆けてEVや太陽光発電機を実用化したにもかかわらず、「EVは音がしないから危ない(!!)」「充電設備が少ない(!)」「発電を化石燃料でするため、EVも地球温暖化に資さない(!!)」「再エネは出力が安定しないから使えない(!)」「太陽光発電は撤去が困難(!!)」等々、考えれば解決策はあるのに、工夫のない変なケチをつけてEVや再エネを普及させなかった経緯がある。 その結果として、*5-1のように、①JAIAが発表した2024年1月のEV輸入販売台数は2カ月連続で増加 ②そのうち2割が中国EV大手のBYD ③独メルセデス・ベンツ等の欧州勢もEV車種を揃えて顧客の選択肢を増やし、輸入EVは販売贈 ④BYDは2023年1月に日本の乗用車市場に参入し、2車種のEVを展開して販売台数は前年同月比約6倍 ⑤BYDの最先端安全装置等が人気で高級車からの乗り換えや60代以上の顧客も多い ⑥BYDは、2024年春もセダンEV「シール」を日本に投入 ⑦2025年末までに国内販売拠点を100カ所まで増やして拡販方針 ⑧輸入車全体では17ブランドが118モデルのEVを日本で展開 ⑨輸入EVは独VWの「ID.4」や独アウディの「Q4 e―tron」など欧州メーカーを中心に売れている ということになった。 このうち①②④⑥は、前年との比較で増加してシェアを増やしたということなので絶対数は多くないが、BYDのEVはスマートで安価であるため、私も好きだ。その上、⑤のように、最先端の安全装置等がついている等の工夫があれば、高級車からの乗り換えや60代以上の高齢者も多くなるのは理解できる。そのため、⑦のように、日本国内の販売拠点を100カ所まで増やして拡販してもよさそうである。 ③⑨の欧州勢のEVは自動車として安心感があるだけでなくスマートでもあるが、値段も高いため、普通の人は買換時期にでもならなければ乗り換えないだろう。しかし、⑧のように、輸入車全体で17ブランドが118モデルのEVを日本で展開するというのは、選択肢が増えて楽しみだ。 一方、日本メーカーは、「京都議定書」から30年近くも経過したのに、PHEVを含めなければ日産3車種、三菱・トヨタ・ホンダ・マツダ各1車種のEVしかない。地球環境に貢献しつつエネルギー自給率を上げるための技術開発をする時間的余裕は十分にあったため、遅れをとって利益機会を逃したのは、もったいなかったわけである。充電設備や水素ステーションは、スーパー・コンビニ・職場・マンション等の駐車場やガソリンスタンドに設置すれば便利だろう。 さらに、*5-2は、⑩太陽光パネル撤去積立金が災害リスクのある斜面に立地する全国1600施設(500kw以上)で不足の恐れ ⑪放置や不法投棄に繋がらないよう適正処理の仕組み作りが不可欠 ⑫2012年開始の固定価格買い取り制度による買い取り期間は10kw以上・20年間で、2032年に買い取り期間が終了し始めて売電価格が大幅下落 ⑬パネル寿命も25~30年程度 ⑭政府は事業者に毎月売電収入の4~7%程度を10年にわたって強制的に積み立てさせる制度を2022年に開始したが、算出根拠が平地での撤去・廃棄費で、割高になる傾斜地は考慮外 ⑮小野田早稲田大学教授:「短期間の検討で立地条件までは議論が及ばず、一部で撤去費が十分でない可能性はある」 ⑯松浦京都大学名誉教授:「排水路等が管理されず、表面侵食や土砂崩れが起きやすい状況を生む可能性もあるため、撤去だけでなく植林等が不可欠」 ⑰神戸市:2020年に5万㎡以上の設備新設時に廃棄費の積み立てを義務付け、長野県木曽町:条例で原状回復を制定 ⑱環境省:リサイクル設備を導入する事業者に費用の半分を上限に補助金を出して処理能力を向上させる ⑲丸紅と浜田(大阪府高槻市)は共同出資で新会社を設立して中古パネルの買い取り販売を始めた としている。 このうち⑩⑪⑫⑬⑭⑮⑯⑰については、「固定価格買い取り制度による買い取り期間が終了して売電価格が下がったり、パネルの寿命が尽きたりすれば、太陽光パネルは廃棄」という前提であるため不足だし、「傾斜地に立地すると撤去積立金が不足し、放置や不法投棄に繋がる」というのも不道徳で、かつ工夫がなく、もったいない話である。 何故なら、⑱⑲のように、中古パネルはリサイクルやアップサイクルすることができ、傾斜地は風力発電を設置しつつ放牧するなどのより有効な跡地利用もでき、そうしなければせっかく金をかけて整備した傾斜地や太陽光パネルがあまりにもったいないからである。 (7)付加価値向上・生産性向上と賃金の関係 1)GDP4位転落が改革加速の呼び水か 2022.7.25東洋経済 Wedge Online 2022.1.22 Financial Star (図の説明:左図のように、名目GDPで日本は世界4位に転落しているが、経済規模や順位は為替レートによって大きく変化するのでさほど問題ではなく、日本は他国と異なり30年間も横這いだったのが問題なのである。しかし、国民の豊かさは、中央の図の「1人当たり実質購買力平価GDP」が最もよく表し、これも日本は横這いでアジアの中でも4位に落ちた。また、右図のように、世界の「名目1人当たりGDP《名目しか出ていなかったため使用》」の順位は、1995年の9位から2000年の2位を最高に、その後は次第に下がって2020年には24位に落ちている) *6-1-1は、①日本の2023年名目GDPが世界4位に転落する見通しで、米国に次ぐ2位を2010年に中国に譲り、3位もドイツに明け渡す ②米欧との金利差拡大で2023年末141円/$台と大幅に円安が進み、GDP規模が目減りした要因が大 ③ドイツ経済はマイナス成長に喘いで「欧州の病人」と指摘されており、GDPだけで一喜一憂の必要はない ④日本の成長力底上げも進まない ⑤購買力平価で計算した日本の名目GDPはまだドイツを上回る ⑥今回の事態は怠った経済改革の加速を促す警鐘と受け止めるべき ⑦為替相場次第で順位が変わるため、順位より潜在成長力の低さや生産性の伸び悩みに注目すべき ⑧2000年にドイツの2.5倍だった日本の名目GDPは四半世紀近くで同等に近い水準に ⑨日本のGDP/人は世界で30位程度と低迷 ⑩全体の規模では経済大国の一角に見えても、実力では見劣りすることを真剣にとらえるべき ⑪対日経済審査後の声明でIMFは「所得税減税等の経済対策は的が絞られていない」等の理由で「妥当でなかった」と評し、痛み止めに終始して中長期の改革に及び腰な岸田政権には厳しい指摘だった ⑫OECDも、人手不足等を展望して、定年制廃止による高齢者就労拡大、女性・外国人の雇用促進を日本に提唱 ⑬労働市場の流動性を高め、成長する分野や企業に人材が移動する仕組みを整えることがなにより重要 ⑭環境が変化する中で政府も民間部門も日本経済が抱える構造問題を直視すべき ⑮成長促進の方策を的確に練り、迅速に行動に移す必要 としている。 私は、⑥のように、「転落して初めて改革を加速しよう(転落するまでは、さぼっていてよい)」と考える日本人の発想自体が、④のように、日本の成長力が低く、⑧のように、2000年にドイツ(現在の人口約84百万人)の2.5倍だった日本の名目GDPが四半世紀で同等まで落ち、⑨⑩のように、日本のGDP/人が世界で30位程度と低迷し続けている原因だと考える。 何故なら、時代の変化によって人々のニーズは刻々と変化するので、時代のニーズに適応したり、新しいニーズを提案型で示したりして、高い付加価値のある財・サービスを提供していくためには、政府も民間も日頃から改革し続けている必要があるからだ。 また、①②③⑦のように、名目GDPは為替相場次第で順位が変わるため、⑤のように、購買力平価で計算したGDPを見るのが、為替相場の変動による揺れを廃した本当の豊かさの比較になるが、⑨⑩のように、日本のGDP/人は購買力平価で計算しても世界30位程度と低迷しており、全体のGDPでは経済大国の一角でも、「国民1人当たりGDP」という実力では見劣りするのだ。 そして、*6-1-2のように、一国の経済水準は「GDP総額」ではなく、「国民1人当たりGDP」で比較するのが世界の常識で、日本は2000年の世界第2位から下落を続けて現在は先進国の下の方になっているのだが、経済の話となると株価・景況感指数・物価上昇率・失業率・平均賃金等の数字が取り上げられ、国民にとっては最も重要で日本政府にとっては都合の悪い「購買力平価による国民1人当たりGDP」が取り上げられることはないのだ。 さらに、「国民1人当たりGDP(名目ベース)」を主要国と比較して日本の立ち位置を確認すると、バブル期最後の1990年が8位(1990年末のドル円相場:160円/$)で、2000年に過去最高の2位(2000年末のドル円相場:115円/$)となっているため、ドル円相場で割ったドルベースによる国際比較では、2000年が日本経済のピークになっている。 そして、2000年以降の日本経済の低迷は、(理由を詳しくは書かないが)「どの政権も日本経済の凋落を止めることができなかったから」と総括するのが適切で、再度バブルを到来させた政策は、国民にとっては誤りの繰り返しにすぎない。 なお、*6-1-1の⑪⑫⑬⑭⑮については、日本の現状に関してよく分析しており、日本人が頼んで言ってもらったのではないかと思うほど的確な分析であるため、私もそのとおりだと思うし、日本政府はそのようにして欲しいと考えている。 2)再度バブルを起こした金融緩和政策の弊害 ← バブルでは実質賃金は上がらないこと 2024.1.19北海道新聞 2023.10.1日経新聞 (図の説明:左図のように、前年比・年平均の生鮮食品を除く全国消費者物価指数は、高度成長期・バブル期の1980年代に著しく高く、その後は消費税の導入時や税率引き上げ時以外は0%近傍を推移していたが、2021~2023年にかけてコストプッシュ・インフレにより著しく上がった。また、右図のように、物価上昇率は、生鮮食品やエネルギーなどの頻繁に購入する財・サービスを含む体感と生鮮食品を含まない統計との差が大きいと言われているが、これは事実だ) 2024.2.6日経新聞 2024.1.10中日BIZ 2023.7.21Daily Tohoku (図の説明:中央の図のように、実質賃金《名目賃金/物価水準》が前年同月比0以下の実質賃金減少局面では、左図のように、実質消費が落ち込む。そのため、右図のように、消費者物価指数が高くなると、実質GDP成長率は低くなるのである) 「金融緩和して円の価値を下げる」というのは、財・サービスの価値を計る尺度の価値を下げるということだ。わかりやすく例えれば、「これまで80cmとしていた長さを今後は1mと呼ぶ」と変更すれば、3,776mの富士山の高さは、実際は全く変わらないのに4,720m(3,776m/0.8)と言われるようになる。それと同様に、価値を変更しなかったドルと円の関係である為替相場は円安になり、価値の変わらない財・サービスの値段と株価は相対的に上がったのだ。 ただし、この大きな流れの中で変わらないものがあり、それは名目価値で示された借金や預金の金額だ。そのため、物価が上昇すれば借金や預金の価値が目減りし、それによって借金をしていた人は得をし、預金をしていた人は同じだけ損をするという所得移転がある。そして、借金には、国債・社債・借入金・住宅ローンなどの負債、預金には銀行預金や貸付金などがあるのだ。 そのような中、円の価値を下げると借金のある人が得をして預金のある人が損をし、それらの人の間でこっそり所得移転が行なわれているのだが、それでは通貨の信用がなくなるため、中央銀行の役割には「通貨価値の安定」があり、他国の中央銀行はそれをやっているのである。 一方、日本の中央銀行である日本銀行は、「通貨の安定」ではなく「2%のインフレ目標」を掲げて金融緩和をし続けてきたため、為替相場では円安が進んで輸入品の価格が上がり、ロシアのウクライナ侵攻に対する制裁返しで資源価格自体も上がったため、日本の消費者物価はコストプッシュ・インフレで著しく上がったわけである。 そして、これらの政策の結果はやってみなくても経済学の理論からわかる筈だが、日本政府と日本銀行がやってみた結果、やはり、*6-2-1・*6-2-2のように、実証されたのだ。 つまり、*6-2-1は、①2023年分の毎月勤労統計調査速報で働き手1人あたり実質賃金は前年比2.5%減 ②名目賃金は物価の伸びに追いつかず ③1990年以降で減少幅は、消費増税のあった2014年(2.8%減)に次ぐ大きさ ④昨年の正社員の賃上げ率は名目賃金にあたる現金給与総額が1.2%増 ⑤消費者物価指数は3.8%増 ⑥40代男性は「給料は上がったが、値上げに追いつかず家計は楽にならない。食費を削り暖房器具の利用を控えるなどでやりくりしている」と語る ⑦50代主婦は「みんな高くて、今日はトマトまで買うのはあきらめました」と話す ⑧家計が圧迫されている状況が顕著 ⑨春闘に含まれない中小・零細企業の賃上げ率が低めだったため基本給等の「所定内給与」が1.2%増でかなり低い ⑩現実的には物価上昇率が下がらないと実質賃金はプラスにならず、今年中に実質賃金をプラスにすることは無理 等としており、名目賃金の伸びが物価上昇に追いつかず、実質賃金が下がり続けていることを示している。 このうち②④⑤⑨は、主として円の価値低下と制裁返しによる輸入品の価格高騰によって物価が上がって消費者物価指数が3.8%増になっているのであるため、消費者が支払う金額の多くが海外に流出して国内に残らず、名目賃金を物価上昇分まで引き上げることができず、企業の中でも輸出が少ないため円安の恩恵を受けにくく、価格転嫁もしにくい中小・零細企業の賃上げ率が低いため、賃上げ率が1.2%増に留まっているのである。 その結果、①③のように、名目賃金は決して物価の伸びに追いつかず、働き手1人あたり実質賃金が「前年比2.5%減」など、大きく減少し続けるのだ。 その上、日本は、退職して年金暮らしの人口割合も高いため、⑥⑦⑧のように、家計が圧迫され、食費を削ったり、暖房器具の利用を控えたりなど、必需品の購入さえ抑えなくてはならない状況になった家計が多く、(7)1)で述べた「購買力平価(≒実質)による1人当たりGDP」は確実に下がって、国民は貧しくなったのである。 そして、国民を貧しくして移転された所得は、日本政府や企業を負債(国債・社債等)の目減りを通じてひっそり潤しているため、⑩はわかっていても、日本銀行と政府は、金融緩和をし続けるのだ。解決策は他にあるのに、無駄使いの限りを尽くしながら、こういうことをする政府を、国民は信用してよいのだろうか? また、*6-2-2は、⑪総務省の2023年家計調査で、2人以上の世帯が使った金は実質で前年より2.6%減 ⑫物価高が家計に打撃を与え ⑬支出の3割を占める食料は前年より2.2%減り、特に魚介類・乳製品の落ち込みが大きかった ⑭家具・医薬品・小遣い・仕送りも減 ⑮外食は10.3%、宿泊料は9.3%増 ⑯物価の影響を含めた名目支出は1.1%増 ⑰財布から出てゆく金は増えたが、実際に買えるモノやサービスの量は減ったことになる ⑱2023年12月の支出は、実質前年同月より2.5%減 ⑲名目では0.4%増えたが、家賃等の住居費をのぞけば前年同月より0.5%減 ⑳家計が節約志向を高めている様子がわかる 等としている。 実質所得が2.5%減少しているのだから、⑪⑫⑱のように、実質消費も前年より2.6%減少し、物価高が家計に打撃を与えたことは明らかだ。そして、⑯のように、物価の影響を含めた名目支出は1.1%増えたのに、⑬のように、食料でさえ前年より2.2%減り、特に価格の高い魚介類・乳製品の落ち込みが大きく、⑰⑲⑳のように、まさに財布から出てゆく金は増えたが、実際に買えるモノやサービスは減り、家計は節約志向を高めざるを得ないわけだが、これは体感と一致している。 従って、当然、⑭のように、家具・医薬品・小遣い・仕送りも減少しているが、⑮の外食や宿泊料が10%前後増加しているのは、外国人観光客の増加に依るところが大きいのではないか? 3)国民を豊かにする持続的賃上げは、どうすれば実現できるか これまでよりも賃金を上げて国民を豊かにするには、民間企業の場合は、「売上高(A)ー売上原価(B)ー販売費・一般管理費(C)ー金融費用(D)ー税金(E)=純利益(F)」のうちの純利益(F)が黒字であることが必要だ。そのため、(A)~(D)のそれぞれに関して、(F)を増やす方法を記載する。 (A) 売上高を増やす方法 売上高は、「販売単価x販売数量」であるため、i)付加価値を上げて販売単価を上げる ii)価値は変わらないが値上げする iii)販売数量を増やす の3つの方法がある。 i)の事例は、(5)で述べた再生医療で副作用をなくしながらこれまで治せなかった病気を治すようなもので、付加価値が高く、最初に開発すれば販売単価が高くても世界で売れるため、販売数量も伸びる。(6)のEVも、再エネ電力は国内自給でき、燃料代を安くすることも可能で、静かで乗り心地が良く、環境負荷を下げるため、ガソリン車より高くても売れる。これが、消費者も納得する単価のつけ方で、それによる増益分は持続的賃金アップに回すことができる。 ii)の「価値は変わらなくても値上げする」事例は、政府が盛んに提唱している方法だが、これでは全体として次々と物価が上がるだけで、すでに実証されたとおり賃金を物価以上に上げることはできないため、実質賃金が下がって販売数量が減り、1人1人の国民は貧しくなる。 iii)の販売数量は、日本だけでなく世界も見据えた現在と将来のニーズに合った製品を提供すれば、世界でシェアを上げて販売数量を増やすことができ、日本は先進国として有利な立場にある。国内だけを見ても、人口が増える年齢層のニーズは高い。 具体例を挙げれば、*6-4-1の介護や訪問介護のニーズは、現在でも高く、人手不足で、近未来には世界各国でニーズが増すことが人口構造や生活様式の変化を見れば明らかである。そのため、「介護は無駄遣い」と言わんばかりに、政府が工夫もなくサービスの対価としての介護報酬を他産業よりも低く抑え、介護サービスの提供体制そのものの維持を危うくさせているのは、再生医療やEVと同様、有望産業の芽を摘んでいることにほかならない。ちなみに、施設で過ごすよりも、ホームヘルパーの手を借りながら自宅で過ごす方が、QOL(Quality of life)が高いのは言うまでもない。 また、*6-4-2のように、客が理不尽な要求をする「カスハラの防止」を条例化する意見が出ているが、客のクレームには合理的なものと不合理なものがあり、不合理なものを前面に出して合理的なクレームまでシャットアウトすると、製品やサービスを改善して付加価値を上げる有効な手段を失う。タクシーやバス運転手の名札義務化は、人手不足で客を無視する対応が増えたバブル期に始まったもので、それなりの効果を出していた。 さらに、最近、うちの富士通製の新しいデスクトップPCがキーボードの上に倒れて画面が割れたので、富士通に電話で修理の依頼をしようとしたところ、電話は全く繋がらず、そのPCを買ったコジマを介して富士通にPCの修理をしてもらったら、画面を取り換えただけで新品を買うのと同じくらいの金額を請求されて呆れた。 呆れた理由は、「新品を買え」と言わんばかりの態度で修理に消極的だったことで、「日本の製造業はここまできてしまったのかー」と思っていたところ、富士通の英子会社が開発し、イギリス全土の郵便局に導入された会計システムで、残高より実際の窓口の現金が少なかったため、イギリス各地の郵便局長らが2000年以降15年にわたり、横領等の罪に問われて収監されたり多額の弁償を強いられたりする冤罪事件が起こっていた。 PCが計算した理論値と窓口の現金額の違いの理由は、(英国発の厳しい監査法人PWCが)監査すればすぐに特定でき、このような冤罪事件を起こす必要はなかった筈だが、日本にとっては、日本企業がこのようなお粗末な製品を作るようになった理由が大きな問題なのである。それは、過度に企業と労働者を守って顧客を疎かにする文化の発生で、この状況は1990年代の共産主義経済が市場主義経済と比較してよい製品を作れなかった時代とよく似ているのだ。 (B) 売上原価を減らす方法 会社には、モノを仕入れて売る事業と、モノを生産して売る事業の二通りがある。 モノを仕入れて売る事業の場合は、「売上原価」は仕入単価が低いほど減少するため、自社の従業員の賃金を上げるためには、仕入単価を下げる方法がある。しかし、輸入品が多く、円安で海外からの仕入単価が上がっている場合はそれができないし、下請けいじめもよくない。 モノを生産して売る事業の場合は、「製造原価」の引き下げを通して「売上原価」を下げることになる。(6)のEVの事例では、部品点数がガソリン車の1/3であるため、組み立て工数が少なく、人手を減らすことができるので、従業員1人当たりの生産性を上げて「製造原価」を下げることができる。そのため、従業員1人当たりの賃金を持続的に上げることができるのだ。 しかし、迅速に1人当たりの生産性を上げて持続的賃上げができるためには、過去の技術にしがみつく必要性をなくすことが重要だ。それには、イ)国民の教育を充実して技術やニーズをキャッチする力を養う ロ)研究力・普及力を上げる ハ)労働の流動性を高めて将来性のある部門に移動し易くするなど、我が国の教育・研究や労働慣行を見直す必要がある。 (C) 販売費・一般管理費を減らす方法 「販売費・一般管理費」は、事業活動費用のうち原価に入らないもので、「販売費」は営業スタッフの給与や交通費・広告宣伝費・配送料・出荷手数料など、「一般管理費」は総務・経理等間接部門の人件費・通信費・消耗品費・原価に含まれない事務所の家賃や水光熱費などである。 そのため、「売上原価」「製造原価」だけでなく「販売費・一般管理費」も人件費を含んでおり、賃金を上げるには「販売費・一般管理費」のうち人件費以外の部分を減らす方法と従業員1人当たりの生産性を上げる方法がある。 (D)金融費用を減らす方法 「金融収益」は預金や有価証券等の受取利息・配当金など財務活動から得られる収益、「金融費用」は支払利息など資金調達にかかった費用で、(D)はそれをnet(純額)で示している。 財務体質の良い企業は金融収益の方が金融費用より多くなるが、借入金等の負債の多い企業は金融費用の方が多くなる。そのため、財務体質を良くして運用を工夫すれば、金融収益が多くなってnetの金融費用が減り、賃上げにプラスになるが、生産性を上げるための投資をすれば一時的に財務体質が悪化し、本当に生産性が上がるのでなければ賃上げすることはできない。 (E)税金を減らす方法 日本国憲法が第30条で「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ」と定めているため、企業は「売上高(A)‐売上原価(B)-販売費・一般管理費(C)-金融費用(D)」の「税引前純利益」に税法を適用して計算された法人税(国税)・住民税(市町村民税と都道府県民税)・事業税(都道府県民税)などを支払う。 税引前に利益が出ず、法人税法による税務上の赤字である欠損金が発生している企業の場合は、法人税額が0になるだけでなく、その欠損金を翌期以降に10年間繰り越し、翌期以降の利益と相殺することができる。また、資本金の額もしくは出資金の額が1億円以下の中小企業に限り、前事業年度に繰戻し還付を請求することも可能だ。 住民税には全企業に均等割があり、事業税には資本金1億円超の企業に「資本割」「付加価値割」の「外形標準課税」があるため、欠損金があっても一定の税金は支払わなければならない。また、住民税・事業税には欠損金の繰り越しや繰り戻し還付制度はない。 そのため、税引前に利益が出ている企業も含め、税金の計算を誤って、本来なら支払う必要の無い税金を支払ってしまう羽目にならないよう、(税務署は払いすぎは指摘してくれないため)税額の計算時には税理士に相談することが推奨される。 なお、個人も同様に、所得税法・住民税法・事業税法等に従って、年間所得に対する所得税(国税)・住民税(市町村民税と都道府県民税)・事業税(都道府県民税)などを支払っている。しかし、現在の日本は、国も地方自治体も会計すら正確にできず、無駄が多くて生産性の低い税金の使われ方が多いため、常により生産性の高い使い方にシフトさせる努力が必要で、それを可能にするためには国際基準の複式簿記による公会計制度の導入が不可欠である。 4)日本の賃金と労働市場の流動姓 *6-3は、①日本の賃金は四半世紀にわたって伸び悩んだ ②労働市場が流動的な経済ほど賃金は高い ③転職に中立な社会保障・税制の整備を急ぐべき 等と記載している。 このうち、①については、事実なので賛成だが、②については、例えば欧米のような雇用流動姓の高い社会は、日本の年功序列型終身雇用のように「能力があってもなくても一定の年齢までは少ないながらも一定の昇給があり、低くはあるが所得が補償される」ということはない。 さらに、欧米先進国で4半世紀の間に賃金が2~4割上昇した理由は、不景気の業種では簡単にレイオフを行なって仕事のある業種や成長業種に労働移動させるため、各個人の生涯所得が増えるとは限らない。一方、日本はできるだけ正規社員のレイオフは行なわず、社内失業もないように従来の事業に固執するため、これが経済成長を妨げ、全体の賃金を低迷させることとなった。 労働市場が流動的になると、能力のある人は所得の高い仕事に転職する機会も多いが、そうでない人は失業の可能性がある個人差の大きな社会となる。そのため、③の転職に中立な社会保障(失業・年金・医療・介護)や税制の整備は必要不可欠だ。 また、*6-3は、④日本経済の行方を左右するのは賃金 ⑤日本で真に求められているのは経済の衰退を止めて成長軌道に乗せること ⑥その方法はデフレからの完全脱却で、賃金と物価の好循環を作ること とも記載している。 しかし、これまで書いてきたとおり、賃金上昇の源泉は、付加価値をつけて稼ぐ力と労働生産性を上げて生産コストを下げる力である。つまり、付加価値を高め、労働生産性を上げれば、企業は利益を増やし、投資をして生産性を高め、従業員の賃金も上げられるのである。 これに対し、④⑤⑥は、物価と賃金を短絡的に結びつけ、物価を上げれば賃金が上がって経済が成長軌道に乗るかのような主張を行なっており、実際の経済はそういう順番で進むわけではないため、ミスリードである。 さらに、*6-3は、⑦問われるのは賃上げの持続性 ⑧賃金の決定要因は労働需給バランスで人手不足なら賃金は上がる ⑨物価と賃金の間には正の相関関係があるが、日本は長期にわたって物価上昇に賃金が無反応だった ⑩賃金は労働生産性に依存するが、日本の労働生産性は長期にわたって低迷し、賃金を停滞させている ⑪労働市場構造は、「非正規雇用/雇用全体」が1984年の約15%から2023年の約4割に上昇し、非正規社員の賃金は正規社員の7割程度のため、経済全体の賃金が低下した としている。 このうち⑦の持続的賃上げは、国の一時的な補助金や号令で達成できるのではなく、各企業が付加価値を上げ、生産コストを下げて、本当に経済が軌道に乗らなければできないものである。 また、⑨の物価と賃金の正の相関関係は、鎖国状態の国で無理やり賃金を上げれば、物価も少しは上がるかもしれないが、現代は鎖国状態にはなく、世界市場で自由競争が行なわれている時代だ。その中で、⑩のように、日本の賃金が1990年代から長期にわたって低く抑えられた理由は、i)共産主義諸国や開発途上国が安い賃金で世界市場に参入して製品を輸出し始めたこと ii)日本でも働く女性の割合が増えて労働力供給が増えたこと iii)団塊ジュニア世代が就職時期を迎えて労働力供給が増えたこと iv) 日本企業は、世界市場での競争に勝つために、販売市場が近くてコストの安い地域を世界中で探して製造業を移転させたこと などに依るのである。 それに加えて、⑧の賃金の決定要因は、労働流動性の高い社会であれば労働需給バランスだけなので、人手不足になれば賃金が上がり、人手が余れば賃金は低く抑えられるが、日本は雇用流動姓の低い社会であるため、賃金が労働生産性と比較して高くなると、日本企業も海外の労働者を使って海外で生産することを選び、日本の製造業が空洞化した面も大きい。 なお、⑪の日本の労働市場構造のうち、「非正規雇用/雇用全体」が1984年の約15%から2023年の約4割に上昇し、非正規社員の賃金は正規社員の7割程度で、経済全体の賃金が低下したのは、やはり不健全な労働市場の状態だと言わざるを得ない。 日本企業が非正規雇用を増やした理由は、1990年代の不景気の時に新規の正規採用を抑え、1997年の男女共同参画基本法改正で性別による差別が禁止された時に女性を非正規社員として、労働者に対する差別をなくさなかったことが原因である。 そのため、私は“非正規(労働法で守られない被差別労働者)”という雇用形態は、(本人が希望する場合を除いて)法律で禁止すべきであり、それが、日本国憲法27条1項の「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う」や同14条の「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」にも合致する方法だと思う。 ・・参考資料・・ <女性初の首相は、隠された女性差別とも闘って変える人であるべき> *1-1-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15854885.html?iref=pc_photo_gallery_bottom (朝日新聞 2024年2月3日) 容姿発言、上川氏対応に波紋 「毅然と対応して欲しかった」「女性のサバイブ、難しい現実」 自民党の麻生太郎副総裁(83)が2日、上川陽子外相(70)の容姿を揶揄(やゆ)するなどした発言を撤回した。この問題をめぐっては、「どのような声もありがたく受け止めている」という上川氏の反応にも波紋が広がっている。「毅然(きぜん)と対応して欲しかった」との指摘があがる一方で、「責めるべきは麻生氏の側だ」と擁護する声もある。どう考えればいいのか。麻生氏は1月28日の講演で「俺たちから見てても、このおばさんやるねえと思った」「そんなに美しい方とは言わんけれども」と語った。上川氏は30日の会見で「様々なご意見があると承知しているが、どのような声もありがたく受け止めている」と述べ、麻生氏の発言への論評を避けた。これにSNSなどで様々な議論がわき起こった。「この同調圧力の強い日本社会で、同じ境遇にある女性たちも、大臣と同じような対応をしなければならないと感じてしまうリスクはないか」。2日の参院本会議で、立憲民主党の田島麻衣子氏が上川氏にただした。上川氏は「ありがたく」の表現はやめたうえで、「使命感を持って一意専心、努力を重ねていく」と述べ、正面から答えなかった。「外相として世界に間違ったメッセージを発信した」(立憲の蓮舫参院議員のX)との批判もあがっている。「百合子とたか子 女性政治リーダーの運命」の著書がある政治学者の岩本美砂子・三重大学名誉教授(67)は「女性が政界でサバイブする(生き残る)のは、まだまだ難しいという現実の表れ。女性の割合がせめて3割になれば」と言う。衆院の女性比率は10%、参院は27%。世界経済フォーラム(WEF)が昨年発表したジェンダーギャップ指数で、日本は146カ国中、過去最低の125位。政治分野では138位に沈む。一方で「次の首相候補にとの声も上がり始めた。政界での立ち位置の影響もある」とも指摘する。麻生氏は政権の中核で、昨年9月の内閣改造で上川氏の登用を推した経緯もある。今秋には自民党総裁選も迫る。「20人の推薦人を集め総裁選に出ようと思えば、麻生氏に反論するのは性別を問わず難しい」とみる。国際人権法の学者で、SNS上のグループ「全日本おばちゃん党」を立ち上げたこともある谷口真由美さん(48)は、社会における女性の立場をおもんぱかる。「女性たちは、セクハラ発言などを受け流すのが度量だとたたき込まれてきた。麻生氏のような発言にさらされ続けると、感覚がまひしてしまう」。谷口さんは2021年、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の会長だった森喜朗氏(86)が「女性がたくさん入っている会議は時間がかかる」と述べた問題で、当事者側に立った経験もある。森氏が名指しした日本ラグビー協会で、理事を務めていたからだ。「渦中にある当人は自分の思いを言語化しにくい。周りの自民党議員が、代わりに批判して支えて欲しい」と願う。そのうえで上川氏に注文をつける。「首相候補の女性として、一挙手一投足が注目される存在になった。今後は、前にも後ろにもたくさんの女性たちがいることを意識して発言して欲しい」。元自民党衆院議員の金子恵美(めぐみ)さん(45)は「若手の男性議員は、今回の麻生氏のような発言のおかしさに気づき、同調して笑わなくなりつつある。『麻生節』で済まされる時間はもう長くない」と語った。麻生氏は2日、上川氏に関する発言を撤回したコメントの中で、「女性や若者が活躍できる環境を整えていくことが政治の責務」とも触れた。 *1-1-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/307000 (東京新聞 2024年2月2日) 「なぜ抗議しないのか?」 麻生太郎氏に「おばさん」と呼ばれた上川陽子外相の答弁で議事が紛糾 上川陽子外相は2日の参院代表質問で、自民党の麻生太郎副総裁から「おばさん」と呼ばれたことに抗議しないのかを問われ、「世の中にはさまざまな意見や考えがあることは承知している」と述べるにとどめた。質問に正面から答えていない上川氏の答弁に対し、野党側が抗議し、議事は一時中断した。麻生氏は同日夜「表現に不適切な点があったことは否めず、指摘を真摯に受け止め、発言を撤回したい」とのコメントを発表した。麻生太郎氏へのルッキズム批判に当の本人、上川陽子外相が発言「どの声もありがたく」 ◆「信念に基づき、政治家としての職責を果たす」 立憲民主党の田島麻衣子氏は代表質問で、麻生氏の発言を問題視しなかった上川氏の対応について「同じ境遇にある女性たちも同じように対応しなければならないと感じるリスクはないか」「問題があるとすれば何か」「なぜ大臣は抗議をしないのか」と質問を重ねた。上川氏はこれらの問いに直接答えず「初当選以来、信念に基づき、政治家としての職責を果たす活動にまい進してきた」と説明。現在は紛争解決や平和構築の分野で女性参画を進める「女性・平和・安全保障(WPS)」の定着に向け、力を注いでいるとも語った。その上で「使命感をもって一意専心、(日本人初の国連難民高等弁務官を務めた)緒方貞子さんのように脇目もふらず、着実に努力を重ねていく考えだ」と強調し、「田島議員、ぜひWPS、一緒に頑張りましょう」と締めくくった。 ◆「慎むべきなのは当然」岸田首相の「一般論」 岸田文雄首相は一般論として「性別や立場を問わず、年齢や容姿を揶揄(やゆ)し、相手を不快にさせるような発言を慎むべきなのは当然のことだ」と述べた。上川氏の答弁に対し、立民の議院運営委員会理事が「質問に答えていない」と抗議。与野党の理事が議場内で協議した結果、自民理事が上川氏側に複数回にわたって再答弁を求めたが、上川氏は応じず、約10分間議事が中断した。田島氏は本紙の取材に「上川氏から十分な答弁がなく、がっかりした。たとえ外相でも、女性は抗議できないという自民党の限界が示された」と語った。共産党の田村智子委員長も記者会見で上川氏の答弁について「ジェンダー平等を進めようという立場なら、きちんと批判すべきではないか」と語った。 *1-1-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15851259.html (朝日新聞 2024年1月30日) 容姿言及、麻生氏に批判 女性差別/「評価する側」前提 自民党の麻生太郎副総裁が、上川陽子外相について「そんなに美しい方とは言わんけれども」などと述べた。上川氏の外交手腕を評価する文脈だったが、「女性差別の姿勢が見て取れる」「今までの暴言の中でも最悪」と批判が広がっている。今回の発言は28日、福岡県芦屋町での講演の中であった。「俺たちから見てても、このおばさんやるねえと思った」としたうえで、「そんなに美しい方とは言わんけれども、英語できちんと話をし、外交官の手を借りずに自分でどんどん会うべき人に予約を取っちゃう」などと語った。上川氏の名前も「カミムラ」と誤った。ライターの望月優大(ひろき)さんは取材に「上川氏を褒める文脈であっても、外相としての手腕を語るうえであえて容姿に触れるのは、不必要かつ不適切。女性への差別的な姿勢が見て取れる」と話す。さらに望月さんは「俺たちから見てても、このおばさんやるねえと思った」という部分に着目し、「『俺たち』が女性たちを評価するという構図が、当然の前提になっている」とみる。「女性の登用をうたいながらも、実際に誰を引き上げるかを決める権力はいまだに麻生氏ら男性たちが握り続けている現実も映している」。東京大学の瀬地山角教授(ジェンダー論)は「上川氏を評価しているのは分かるが、男性の外相についてであれば、容姿に言及することはない。女性だけ美醜の評価を付け加えられる。女性が社会で生きていくうえでのしんどさがうかがえる発言だ」と話す。瀬地山氏は、昨年9月に上川氏ら5人の女性が閣僚に就いた際、岸田文雄首相が「女性ならではの感性や共感力も十分発揮していただくことを期待したい」と述べた問題との共通性を指摘する。「政治の世界で、女性は周縁にいるアウトサイダーだという認識があるから、男性政治家から『俺たちから見て』『女性ならではの』といった発言が出てくる」。麻生氏は問題発言を繰り返しながら、要職にとどまり続けている。副総理兼財務相だった2018年5月には、財務省の前事務次官のセクハラ問題をめぐり、「(女性に)はめられた可能性は否定できない」と答弁して撤回。「セクハラ罪っていう罪はない」との発言も問題になった。共産党の小池晃書記局長は29日の会見で「麻生さんは暴言を繰り返しているが、今までの中でも最悪じゃないか」として撤回・謝罪を求めた。 *1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240202&ng=DGKKZO78174220S4A200C2EAC000 (日経新聞 2024.2.2) 保利耕輔さん(元自民党政調会長) 筋を通す「まっとうな保守」 謹厳実直が服を着たような人だった。ほとんど酒を飲まない甘党ということもあり、群れたがる同僚議員を尻目に夕方には自宅に直行し、本や資料を読みふけった。文相時代には高校野球の始球式の練習をしすぎて腕が上がらなくなり、痛みをこらえて投げた。予算獲得の陳情団が上京すると、ふつうの国会議員は本題もそこそこに地元の新しい噂話を聞きたがるものだ。「保利さんは書類から目を離さず、事業の中身について質問してきた」というのが、古川康衆院議員の佐賀県知事のときの思い出だ。役職を断ることでも知られた。2003年に農相を打診されると、教育基本法改正を巡る与党調整に注力したいとして固辞した。08年には自民党政調会長に指名されたが、「あれもこれもの政策なんかわからん」と難色を示した。仲のよい園田博之氏を会長代理にすることを条件にようやく引き受けた。当選同期だった麻生太郎自民党副総裁の弁を借りると「まっとうな保守」。そうした人柄がよく発揮されたのが、党憲法改正推進本部長のときだ。民主党政権に対抗しようと「自主憲法制定は党是」という声が党内で勢いを増していた。いまの憲法は米国の押し付けだ、と全否定する考え方だ。本当に自主憲法が党是なのか。党本部の薄暗い倉庫に自ら足を運ぶと、結党時の資料を探し出した。書いてあったのは「現行憲法の自主的改正」。全否定ではなかったとして、党のホームページの憲法に関する記述を「わが党は結党以来、『憲法の自主的改正』を『党の使命』に掲げてきました」と書き改めさせた。14年に政界を退く際、後継指名はしなかった。衆院議長を務めた父・茂氏と合わせて「70年も保利と投票用紙に書いてもらった。この先も、とは言えない」と語っていたそうだ。目立つことを嫌い、手柄を誇らない。常に筋を通す。大島理森元衆院議長は「ポピュリズムとはいちばん遠いところにいる政治家だった」と惜しんだ。 =2023年11月4日没、89歳 <地方議会の担い手不足と女性> *2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240204&ng=DGKKZO78220590U4A200C2MM8000 (日経新聞 2024.2.4) 地方議会、止まらぬ空洞化、首長「専決」数、10年前水準 担い手不足も顕著 地方議会の空洞化がとまらない。審議を担う議員のなり手不足は深刻になる一方だ。首長が議会ぬきで補正予算などを決める専決処分(総合2面きょうのことば)の多発も目につく。2012年の法改正で一定の歯止めをかけたはずが、コロナ禍で急増し、その後の戻りも鈍い。非常時に限るはずの仕組みのタガが緩んだままになれば、住民が行政を監視する地方自治の根幹が揺らぐ。 空洞化を端的に示すのは担い手不足だ。4年ごとの統一地方選で議員が無投票で決まる割合は右肩上がり。23年は改選定数1万4844人の14%(2080人)に達した。財政難や人口減少で定数は減っているにもかかわらずだ。地方自治は首長、議員それぞれを有権者が直接選ぶ二元代表制で成り立っている。とりわけ議員は地域に住んでいることが要件で、多様な住民の声を取り込む役割を担う。議会の力が弱まれば、首長のブレーキがききにくくなる。過去には例えば鹿児島県阿久根市で10年に市長が職員の賞与半減などの政策を次々と独断で進める騒ぎがあった。災害などの緊急時に限り、議会を通さずに予算や条例などを決められる「専決処分」の仕組みが抜け穴になった。当時の片山善博総務相は違法と断じ、歯止めに動いた。12年に改正した地方自治法は専決処分を議会が事後的に承認しない場合、首長が「必要な措置」をとって議会に報告するよう定めた。副知事や副市町村長の選任は専決できないようにした。抑制効果はすぐ表れた。10~12年に市町村合計で年平均1万件を超えていたのが、13年以降は8千件から9千件台半ばに落ち着いた。そのタガが再び緩んでいる懸念がある。きっかけはコロナ禍だった。感染が広がった20年は19年から5割以上増えて1万3千件を超えた。休業する飲食店への協力金などの補正予算が目立った。流行当初の混乱を考えればやむを得ない面はある。18、19年とゼロ件だった千葉県は5件になった。「命にかかわるのでその場で必要なことのみ専決していった」という。問題はその後だ。コロナが比較的落ち着いた22年もデータがそろう都道府県と市で計4500件超と19年より16%多い。22、23年の件数がコロナ前より多いある県は「物価高対策のため」と説明する。近年は疑問符がつくケースも散見される。21年は兵庫県明石市長が全市民への金券配布を専決し、翌年に問責決議を受けた。23年4月には広島県の安芸高田市長が良品計画の出店計画に関する費用を専決で計上した。議会は承認せず、6月に議員提出の修正案を可決した。自治体議会研究所の高沖秀宣代表は「緊急でない例もある。閉会中なら臨時会を開くなどすべきだ」と指摘する。コロナ禍で緊急事態宣言などを繰り返した首都圏でも神奈川県は件数が減った。議会局の担当者は「議会軽視ととられないよう、なるべく臨時会を開いて議決してもらった」と話す。どうすれば議会が機能を十分果たせるのか。ひとつの改善策として広がるのが通年制だ。予算編成などの時期だけ定例会を開くのと異なり、首長の招集を待たずに必要な議案を随時、議論できる。似た仕組みとして定例会年1回制もある。三重県が13年に採用し、翌14年以降は選挙期間を除いて専決処分はゼロだ。通年制などの導入例は全国で100を超えて徐々に増えている。もちろん計約1800の自治体の数に照らせばまだ少ない。地方自治は「民主主義の学校」と称される。それも首長と議会の健全な緊張関係があってこそだ。改革のネジを改めて巻き直す必要がある。 *2-2:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?R_FLG=1&b=2024・・=DMM8000 (日経新聞 2023/11/2) 女性増、国会に波及も 駒沢大学教授 大山礼子氏 4月の統一地方選で女性議員が増えた地域もあったが、まだ十分とは言えない。2018年施行の候補者男女均等法の効果が徐々に出て増えたのだと思うが、いまだ200以上の議会で女性がゼロだ。2割前後で伸び悩む議会もある。女性が影響力を持つには議会の3~5割程度を占める必要がある。達成には選挙制度の抜本的な改革が不可欠と考える。都道府県議選では1人区をやめるべきだ。無投票が多く現職に有利になる。定数が多いと党派も多様になり、女性や若い世代も立候補しやすくなる。市町村議選では(複数の候補者に投票できる)「制限連記制」が選択肢の一つだ。「クオータ制」も導入した方がいい。女性候補が多い政党に対して政党助成金を優遇するなどの方法が考えられる。首長や議会が自ら動き、女性の立候補につなげた地域もある。女性議員が半数近い兵庫県小野市では役員に女性を登用した自治会に補助金を出す取り組みなどが功を奏した。女性管理職を増やした県もある。こうした動きの積み重ねも一定の効果は期待できる。そもそも少子化の進行は女性議員が少なかったことが大きな要因だ。子育て中の女性への支援などが手薄だった。女性が増えれば政策が刷新される。保護者が持ち帰っていた使用済みおむつを保育所で処分するよう求める動きも、始まりは女性議員らの議会質問だ。生活に身近な議題を扱う市町村などの議会に女性や若い世代は不可欠だ。女性が増えると若い世代なども増え、多様性のある議会につながる効果もある。議会運営もオンライン化や定例日開催など変化が生まれている。投票率も伸びる。東京都武蔵野市では特に20~30代の投票率が飛躍的に上がった。女性がいることで政策面の期待が高まり、政治への関心が上がったのだろう。有権者が地方議員を自分たちの代表と思えるようになったのではないか。海外では地方議会でまず女性が増え、国政に波及した例も多い。日本も地方議員を増やせば国会にもつながる可能性はある。 <学術会のジェンダー不均衡> *3-1:https://digital.asahi.com/articles/ASS1D55X1S1DPLBJ003.html (朝日新聞 2024年1月16日) 学術界のジェンダー不均衡、日本が最も大きく 約1億本の論文を解析 日本は、研究者のキャリアの長さや研究論文の引用などで学術界のジェンダーギャップ(性差)が大きく、中国と韓国に比べても後れをとっていることが浮かび上がった。日米の研究チームが1950~2020年に出版された約1億本の論文データを解析した。研究チームの米ニューヨーク州立大バファロー校の増田直紀教授(ネットワーク科学)は「日本の学術界のジェンダーギャップを改善するには、研究職を長く続けられるようにすることが重要。子育てで女性が研究を中断しなくてすむような取り組みや、大学で女性教員を増やすなど、様々な試みをさらに進めてほしい」と指摘している。同校や神戸大、東京工業大、京都大でつくる研究チームは、論文の著者名から性別を高い精度(90%以上)で推定する方法を開発。日本と韓国、中国、「その他(主に欧米)」で、研究者のキャリアと論文の引用・被引用回数などについて性差がないかを調べた。その結果、いずれの国でも研究者数は男性が女性より多いが、男女比の不均衡は日中韓が欧米などより大きかった。個々の研究者がキャリアを通じて発表した論文数をみると、日本では女性が男性より42・6%少なかった。中国は9・3%、韓国は20・2%、その他は31・2%少なく、日本の性差が最も大きく出た。女性の方が研究職としてのキャリア年数が短い(日本では男性より39・6%短い)ことが原因の一つと推測されるほか、研究論文の共同著者となっている場合が少ないことも背景にあるとみられる。年平均でみると、発表論文数はいずれの国でも性差はほとんど見られなかった。論文が引用された回数の指標をみると、日本では女性が男性より19・9%低かったが、中国と韓国では逆に女性の方が高かった。さらに詳しく分析すると、男性研究者が主導する論文(筆頭著者と最終著者が男性)を過多に引用し、女性研究者が主導する論文(筆頭著者と最終著者が女性)を過少に引用する傾向が日中韓でみられ、とりわけ女性主導論文の過少引用は日本が最も強かった。研究チームの中嶋一貴・東京都立大助教(計算社会科学)は「学術界のジェンダー不均衡をビッグデータから定量的に分析する社会的意義がある研究をできた。この問題は国際的な社会課題で、論文の査読や研究者の雇用などでも起こりうる。今後も、様々な角度からデータ分析し、世に問う研究に取り組みたい」と話している。研究成果が国際専門誌(https://doi.org/10.1016/j.joi.2023.101460別ウインドウで開きます)に掲載された。 *3-2:https://newswitch.jp/p/8732 (NewSwitch、日刊工業新聞 2017年4月20日) 日本の女性研究者は少数精鋭!日本の研究論文数、女性が男性上回る、直近5年に執筆した論文数、エルゼビア調べ 日本の研究者が直近5年間に執筆した論文数は、男性より女性の方が多く、世界的な傾向と逆転している―。こんなデータをオランダの学術論文出版社、エルゼビアが明らかにした。人文社会系を含む同社の論文データベース(DB)による分析だが、日本の女性研究者の“少数精鋭ぶり”がうかがえるといえそうだ。これは同社の調査報告「世界の研究環境におけるジェンダー」で明らかになった。それによると、日本の研究者全体のうち女性の占める割合は約2割(総務省2016年調査では15・3%)。米国や欧州連合(EU)28カ国の約4割と比べて、女性の活躍度はかなり低い。しかし2011―15年の研究者1人当たりの論文数は、日本の女性が1・8本で男性の1・3本よりもやや多く、他国・地域と異なる傾向だった。論文数は96―2000年ではより男女差が大きく、日本の特徴として挙げられる。エルゼビアではこの結果を「日本では女性研究者のキャリア構築が他国より難しいだけに、生き残っている多くの人が有能なのではないか」とみている。調査は同社の論文DB「スコーパス」を活用。著者ファーストネームを基に、ソーシャルメディアの記載などから性別を導き、国別の傾向を分析した。 <再生医療:治る病気は治せばよいのに> *4-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1189121 (佐賀新聞 2024/2/5) インスリン補充、生涯必要 1型糖尿病の佐賀県内患者支援 佐賀市のNPO、20~25歳対象、月3万円、ふるさと納税活用 幼少期をはじめ幅広い年代で突然発症し、生涯にわたってインスリン補充が必要となる1型糖尿病の患者は、行政による医療費助成が終わる20歳以降は自己負担が重くなる。佐賀市の認定NPO法人「日本IDDMネットワーク」は若者を切れ目なくサポートしようと、佐賀県に住む25歳までの患者を対象に、4月から月額最大3万円の医療費支援を始める。全国で初めての取り組み。1型糖尿病はインスリンを分泌するすい臓の細胞が壊される病気で、主に注射によるインスリン補充が1日に4~5回必要になる。「小児慢性特定疾病」の一つで、18歳未満で発症した人は20歳までは医療費の助成が受けられる。20歳以上の患者は月1万~3万円程度の自己負担が発生し、出費を抑えるために治療の質を落とすケースも少なくないという。同法人はこうした現状から、20歳以上の患者や、18歳過ぎの発症で「小慢」の対象にならなかった患者について、25歳まで支援する体制を整えた。自己負担から所得に応じた一定額を差し引いたうち、月3万円を上限に助成する。財源は、佐賀県の企業版ふるさと納税を通じた寄付で賄う。昨年7月から昨年末までに1千万円を超える金額が集まり、支援の開始時期を今春に決めた。対象となる県内の患者は30人ほどを見込む。国内の1型糖尿病患者は10万~14万人とされる。同法人の岩永幸三理事長(61)は「治らない病気でありながら国の難病に指定されず、経済的な事情で望む治療を受けられない患者がいる。われわれだけでは人手や資金に限りがあり、取り組みが全国に広がることを期待したい」と話す。 *制度や寄付の問い合わせは日本IDDMネットワーク、電話0952(20)2062。 *4-2:https://www.amed.go.jp/news/release_20220214-01.html (東京大学日本医療研究開発機構 2023年2月14日) 成熟膵島細胞を増やすことに成功―糖尿病の根治に向け、新たな再生治療法の可能性を発表― ●発表者 山田 泰広(東京大学医科学研究所 附属システム疾患モデル研究センター 先進病態モデル研究分野 教授) 平野 利忠(東京大学医科学研究所 先進病態モデル研究分野 大学院生) ●発表のポイント ・成熟した膵島細胞(注1)は自己複製能を持たず、その機能低下が糖尿病の原因となっています。本研究は、出生前後に増殖する膵島細胞でMYCL遺伝子(注2)が発現し、MYCLを働かせると成熟した膵島β細胞(注3)に活発な自己増殖が誘発できることを見出しました。 ・体内でMYCLを発現誘導する、あるいはMYCLにより試験管内で増幅させた膵島細胞を移植することで、モデルマウスの糖尿病を治療できることを示しました。 ・本研究成果による試験管内での膵島細胞の増幅や、遺伝子治療(注4)による生体内での膵島細胞の増殖誘導は、糖尿病の根治を目指した新たな再生治療法となることが期待されます。 ●発表概要 ・平野利忠大学院生(東京大学医科学研究所 先進病態モデル研究分野)、山田泰広教授(同分野)、京都大学、愛知医科大学らの研究グループは、出生前後に増殖する膵島細胞で高発現するMYCLに着目し、MYCLを働かせることで生体内外の成熟膵島細胞に活発な自己増殖を誘発できることを明らかにしました。また、MYCLによる自己増殖の誘導には、遺伝子発現状態の若返りが関与することを示しました(図1)。さらにMYCLの発現により増殖した膵島β細胞は糖に応答してインスリン(注5)を分泌し、モデルマウスの糖尿病を治療できることを示しました。 ・本研究は、MYCL遺伝子により体外で増幅させた膵島細胞を再び体の中に戻す細胞移植療法や、MYCL遺伝子治療による体内での膵島細胞増幅技術の開発といった、膵島細胞の再生医療開発への応用が期待されます。本研究成果は2022年2月10日(英国時間)、英国医学誌「Nature Metabolism」(オンライン版)に掲載されました。(以下略) <SDGS:EVと再エネの遅れは何故起こったのか> *5-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240207&ng=DGKKZO78288850W4A200C2TB1000 (日経新聞 2024.2.7) 輸入EV販売、1月11%増 BYDシェア2割 日本自動車輸入組合(JAIA)が6日発表した1月の電気自動車(EV)の輸入販売台数(日本メーカー車除く)は、前年同月比11%増の1186台となり2カ月連続で増加した。そのうち約2割を中国のEV大手、比亜迪(BYD)が占めて存在感を高めた。独メルセデス・ベンツなど欧州勢もEV車種をそろえており、顧客の選択肢が増えたことで輸入EVの販売が伸びている。BYDの販売台数は前年同月比約6倍の217台だった。同社は2023年1月に日本の乗用車市場に参入し2車種のEVを展開している。主力車種は多目的スポーツ車(SUV)「ATTO3(アットスリー)」だ。最先端の安全装置などが人気で、高級車からの乗り換えや60代以上の顧客も多い。ただ、同社の担当者は「輸入EV全体をみると販売台数はかなり少ない。BYDの認知度もまだまだ低いので高めていく必要がある」と語った。同社は24年春にもセダンEV「シール」を日本に投入し、25年末までに国内の販売拠点を100カ所まで増やして拡販する方針だ。輸入車全体では17ブランドが118モデルのEVを日本で展開している。JAIAは各メーカーのEV販売台数を公表していないが、輸入EVでは独フォルクスワーゲン(VW)の「ID.4(アイディー4)」や同アウディの「Q4 e―tron(キュー4イートロン)」など欧州メーカーを中心に売れている。JAIAの担当者は「欧州メーカーなどが多様なグレードのEVを揃えたことで販売が安定してきた」とした。 *5-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240207&ng=DGKKZO78285620W4A200C2CM0000 (日経新聞 2024.2.7) 太陽光パネル、撤去難題、30年代以降、相次ぎ「引退」へ 傾斜地作業は費用割高に 事業終了後の太陽光パネルの撤去積立金が少なくとも災害リスクがある斜面に立地する全国1600施設(500キロワット以上)で不足する恐れが浮上している。放置や不法投棄につながる可能性もあり、適正処理へ向けた仕組み作りが不可欠だ。2012年に始まった固定価格買い取り制度(FIT)による買い取り期間は10キロワット以上で20年間。32年には各地の施設で買い取り期間が終了し始め、売電価格が大幅に下落する見通し。パネル寿命も25~30年程度とされ、各自治体は発電所の維持管理や更新を怠る事業者の増加を懸念する。高まる不安を払拭しようと政府は再エネ特措法を改正し、事業者に毎月売電収入の4~7%程度を10年にわたって強制的に積み立てさせる制度を22年に開始した。しかし、水準の算出根拠は解体事業者らへのアンケートを基とした平地での撤去・廃棄費。作業難易度が上がるため割高になるケースが多い傾斜地は考慮されていない。制度設計時の議論に参加した早稲田大学の小野田弘士教授は「データが限られる中、短期間での検討であったため立地条件までは議論が及ばなかった。一部で撤去費が十分でない可能性は否定できない」と指摘する。日本経済新聞の調べでは傾斜地に立地する施設は土砂災害(特別)警戒区域など、災害リスクが高いエリアだけでも全体の18%に上る。急な傾斜地での作業は公共事業の予定価格算出に使う賃金水準でみると平地に比べ3割高い(山林砂防工と普通作業員の全国平均を比較)。太陽光開発大手リニューアブル・ジャパンの撤去工事費の試算でも3割程度上振れする。資源エネルギー庁新エネルギー課は「傾斜地では発電効率が高くなることで売電収入も上がり平地より積立額が多くなる場合もある」とするものの、日経が傾斜地の発電効率の高さについて尋ねたところ「データはなく検証はしていない」と回答した。費用不足で放置された場合、災害も誘発しかねない。京都大学の松浦純生名誉教授は「排水路などが管理されず、表面侵食や土砂崩れが起きやすい状況を生む可能性がある。撤去に加え、植林などが不可欠」と話す。第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)では、30年に再生可能エネルギーを3倍に拡大することに130カ国が賛同した。日本でその中核を担う太陽光の持続可能性を高めることは社会的責務といえる。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の試算では使用済みパネル排出量は36年に年17万~28万トン。大量廃棄に備え、撤去や事業終了後の対応を促す狙いを盛り込んだ条例を制定する自治体も出始めた。神戸市は「多額の費用がかかる撤去や災害時のパネル飛散などに対応する」(環境保全課)ため、20年、5万平方メートル以上の設備新設時に、廃棄費の積み立てを義務付けた。長野県木曽町も原状回復を条例で定めた。適正処理を促すには規制だけでなく、事業終了後のコスト低減や再利用などを促す取り組みも必要となる。環境省はリサイクル設備を導入する事業者に対し費用の半分を上限に補助金を出し、処理能力を向上させる。丸紅と浜田(大阪府高槻市)は共同出資で新会社を設立し、中古パネルの買い取り販売を始めた。環境エネルギー政策研究所の山下紀明主任研究員は「太陽光は今後も重要な電源のひとつ。FIT後を見据えた『備え』に力を入れ、将来の懸念を払拭する努力が欠かせない」と指摘する。 <付加価値向上・生産性向上と賃金の関係> *6-1ー1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK097RF0Z00C24A2000000/ (日経新聞社説 2024年2月10日) GDP4位転落を改革加速の呼び水に 2023年の日本の名目国内総生産(GDP)がドイツに抜かれ世界4位に転落する見通しになった。米国に次ぐ2位を10年に中国に譲り、こんどは3位も明け渡すことになる。米欧との金利差の拡大などを背景に大幅な円安が進み、GDPの規模が目減りした。ドイツ経済は目下マイナス成長にあえぎ「欧州の病人」とも指摘される。逆転は為替変動の要因が大きく、それだけで一喜一憂する必要はない。とはいえ日本の成長力の底上げは進んでいない。今回の事態は怠った経済改革の加速を促す警鐘と受け止めるべきだ。ドイツ連邦統計庁が公表した23年の名目GDPを同年の平均為替相場で換算すると約4兆4500億ドル。日本の統計は同年9月までしか出ていないが、ドイツに並ぶには15日発表の10〜12月期のGDPが前年同期より3割増える必要がある。可能性は極めて低い。円相場は23年末に1ドル=141円台と年初より10円ほど下落した。逆にユーロは対ドルでやや強含み、日独逆転を生んだ。だが購買力平価で計算した日本の名目GDPはなおドイツを上回る。為替相場次第では再逆転も起きうる。順位自体より、潜在成長力の低さや生産性の伸び悩みに注目すべきだ。00年にドイツの2.5倍だった日本の名目GDPは四半世紀近くで同等に近い水準になった。日本の1人当たりGDPは世界で30位程度と低迷する。全体の規模では経済大国の一角にみえても、実力では見劣りすることを真剣にとらえねばならない。国際通貨基金(IMF)は年1回の対日経済審査後の声明で、昨年秋に決めた所得税減税などの経済対策について、的が絞られていないなどの理由で「妥当ではなかった」と評した。痛み止めに終始して中長期の改革に及び腰な岸田文雄政権には厳しい指摘だ。経済協力開発機構(OECD)も人手不足などを展望して定年制廃止による高齢者就労の拡大、女性や外国人の雇用促進を日本に提唱した。労働市場の流動性を高め、成長する分野や企業に人材が移動する仕組みを整えることがなにより重要だ。物価や賃金の上昇が始まり、日銀も超金融緩和策の正常化に動き出している。環境が変化するなかで政府も民間部門も日本経済が抱える構造問題を直視すべきだ。成長促進の方策を的確に練り、迅速に行動に移す必要がある。 *6-1ー2:https://toyokeizai.net/articles/-/605668?display=b (東洋経済 2022/7/25) 「仲良く貧乏」を選んだ日本は世界に見放される、1人当たりGDPは約20年前の2位から28位へ後退 日本は、アメリカ・中国に次ぐ「世界3位の経済大国」とよく言われます(2008年までは世界2位)。ここでの3位は、GDPの「総額」の順位です。しかし、一国の経済水準は、GDPの「総額」ではなく、「国民1人当たり」で比較するのが、世界の常識です。日本の2021年の1人当たりGDPは3万9340ドルで、世界28位です(IMF調査)。2000年には世界2位でしたが、そこから下落を続け、世界3位どころか、先進国の中では下のほうになっています。経済の話題になると、景況感指数・物価上昇率・失業率・平均賃金といった数字がよく取り上げられますが、これらは経済の一部分に光を当てているに過ぎません。総合評価としてもっとも大切なのに日本ではあまり注目されていないのが、1人当たりGDPです。日本や主要国の1人当たりGDPはどのように推移してきたのでしょうか。そこから日本にはどういう課題が見えてくるでしょうか。今回は1人当たりGDPを分析します。なお文中のGDPデータは、IMFの統計によるものです。 ●日本はもはや「アジアの盟主」ではない まず、1人当たりGDPを主要国と比較し、日本の立ち位置を確認します。グラフは、日本・アメリカ・中国・ドイツ・シンガポール・韓国の1990年から2021年の1人当たりGDP(名目ベース)の推移です。よく「バブル期が日本経済のピークだった」「バブル崩壊後の失われた30年」と言われますが、1990年は8位で、2000年に過去最高の2位でした。国際比較では、2000年が日本経済のピークだったと見ることができます。2000年以降の日本経済の低迷については、「小泉・竹中改革が日本を壊した」「民主党政権は期待外れだった」「アベノミクスが日本を復活させた」といった議論があります。ただ、この20年間、日本の順位はどんどん下がっており、「どの政権も日本経済の凋落を食い止めることはできなかった」と総括するのが適切でしょう。 *6-2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15857909.html (朝日新聞 2024年2月7日) (ニッポンの給料)上昇すれど、物価に追いつかず 昨年実質賃金2.5%減、2番目の減少幅 厚生労働省は6日、2023年分の毎月勤労統計調査(速報)を発表し、物価を考慮した働き手1人あたりの「実質賃金」は前年比2・5%減だった。名目賃金が物価の大幅な伸びに追いつかず、減少は2年連続。減少幅は比較可能な1990年以降では、消費増税のあった14年(2・8%減)に次ぐ大きさだった。昨年の春闘では、正社員の賃上げ率(連合集計)が30年ぶりの高水準だったことなどもあり、名目賃金にあたる現金給与総額は、1・2%増(月額32万9859円)と3年連続で増加。しかし、実質賃金の計算に使う消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)は3・8%増と、上昇率が大きかった。厚労省の担当者は「今年の春闘でベースアップの水準がどれくらい上がるかを注目したい」と語る。また、昨年12月分(速報)の実質賃金は、前年同月比1・9%減だった。前年割れは21カ月連続だ。武見敬三厚労相は同日の会見で「経済の好循環によって国民生活を豊かにしていくためにも実質賃金の上昇が必要だ」と強調。賃上げしやすい環境整備や三位一体の労働市場改革の推進に取り組む考えを示した。 ■食費削減・暖房も… 買い物客でにぎわう東京都練馬区にあるスーパー「アキダイ」。昨年は食品メーカーからの仕入れ価格の上昇や光熱費の高騰の影響で、1年間で約1千品目を値上げした。鉄道会社に勤める40代の男性は「給料は上がったものの、全く値上げに追いつかず家計は楽になっていない」と語る。昨年は定期昇給で月給が約5千円上がったが、コロナ禍での業績悪化によって抑えられた賞与は元の水準には回復していない。食費を削るほか暖房器具の利用を控えるなど、「何とかやりくりしている」と苦笑した。50代の主婦は「みんな高くて、今日はトマトまで買うのはあきらめました」と話す。夫はシステムエンジニアで、昨年給料は上がっていない。数年前に2人いる子どものうち1人が離れて暮らすようになり、いまは3人暮らし。だが、「家計簿を見ると、4人暮らしのころより、今の方が食費が高い」と肩を落とした。連合総合生活開発研究所が昨年12月に公表した報告書によると、首都・関西圏の企業に勤める2千人へのアンケートで、1年前と比べて賃金の増加が物価上昇より「小さい」と回答したのは約6割に上り、家計が圧迫されている状況が顕著になっている。 ■プラス化は物価減速後 野村総合研究所の木内登英(たかひで)エグゼクティブ・エコノミストの話 基本給などの「所定内給与」が、1・2%増とはかなり低い印象だ。春闘に含まれない中小・零細企業の賃上げ率は低めだったためとみられる。今春闘の賃上げ率は、昨年より若干高めになると思うが、それでも今年中に実質賃金をプラスにすることは明らかに無理だ。現実的には物価上昇率が下がらないと実質賃金はプラスにはならず、そうなるのは2025年の後半だと思う。物価上昇率が賃金上昇率より高いので国民の生活は圧迫されている。働き手が賃上げが不十分だと判断すれば、消費が落ち込み、物価上昇率の低下が進む。そうなれば、実質賃金がプラスになるのが少し早まるだろう。 *6-2-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15857906.html (朝日新聞 2024年2月7日) 消費支出、3年ぶり減 前年比実質マイナス2.6% 家計調査 総務省が6日発表した2023年の家計調査によると、2人以上の世帯が使ったお金は月平均29万3997円だった。物価変動の影響をのぞいた実質で、前年より2・6%減った。物価高が家計に打撃を与え、3年ぶりに減少に転じた。支出の3割を占める食料は、前年より2・2%減った。大半の品目で消費が減り、とくに魚介類や乳製品の落ち込みが大きかった。ほかに家具や医薬品、小遣いや仕送り金も減った。一方、外食は10・3%、宿泊料は9・3%増えた。コロナ禍の行動制限が解けて、外出する機会が増えたためだ。理美容サービスも2・2%伸びた。物価の影響をふくめた名目の支出は1・1%増えた。財布から出てゆくお金は増えたが、実際に買えるモノやサービスの量は減ったことになる。足元の消費も厳しい。23年12月の支出は、実質ベースで前年同月より2・5%減った。10カ月連続で前年水準を下回った。名目では0・4%増えたが、家賃などの住居費をのぞけば前年同月より0・5%減り、6カ月ぶりのマイナスになった。家計が節約志向を高めているようすがわかる。 ■ギョーザ購入、浜松首位奪還 総務省はこの日、都道府県庁所在地と政令指定市の品目別購入額も公表した。宮崎、宇都宮、浜松の3市で毎年、激しい争いを繰り広げるギョーザの年間購入額1位は、3年ぶりに浜松市に軍配が上がった。2位は宮崎市(前年1位)、3位は宇都宮市(同2位)だった。 *6-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240205&ng=DGKKZO78180240S4A200C2KE8000 (日経新聞 2024.2.5) 経済教室:賃上げの持続性(下) 労働市場の流動化こそ王道 宮本弘曉・東京都立大学教授(1977年生まれ。ウィスコンシン大博士。専門は労働経済学。IMFなどを経て現職) <ポイント> ○日本の賃金は四半世紀にわたり伸び悩み ○労働市場が流動的な経済ほど賃金は高い ○転職に中立な社会保障・税制の整備急げ 日本経済の行方を左右するのは賃金だ。日本では2022年春から物価が上昇し、約40年ぶりのインフレとなっている。生活必需品やサービスの価格が上昇するなか、賃金が伸び悩むと、国民生活は厳しさを増す。日本は過去30年間にわたり、低物価、低賃金、低成長、そして高債務の「日本病」に苦しんできた。日本で真に求められているのは経済の衰退を止め、再び成長軌道に乗せることだ。デフレから完全に脱却し、日本経済を新しいステージに移行させるには、賃金と物価の好循環が欠かせない。変化の兆しはある。厚生労働省によると、23年の春季労使交渉では賃上げ率が平均3.6%と1994年以来の3%台を記録した。日本経済新聞社によれば、冬のボーナスも75年の調査開始以来最高だった。24年も賃上げが期待される。しかし問われるのは賃上げの持続性だ。国民の間では「賃上げは一時的」との見方もある。果たして持続的な賃上げは可能なのか。賃上げの持続性を考える際には、そもそも賃金がどのように決まるのかを理解する必要がある。賃金の決定要因としては、主に労働需給のバランス、物価、労働生産性、労働市場の構造の4つが挙げられる。 第1に賃金は労働サービスの価格であり、その需要と供給のバランスにより決定される。労働への需要が供給を上回れば、すなわち人手不足であれば賃金は上がり、逆であれば賃金は下がる。日銀短観の雇用人員判断DIによると、人手不足感は歴史的な高水準にあり、賃金上昇が期待できる。ただし労働需給のバランスが賃金に与える影響は、90年代後半から弱まっていることが指摘されており、今後、労働需給と賃金の関連性が強まるかどうかが注目される。また人口減少に伴う人手不足が賃金に与える影響も注視が必要だ。 第2に賃金と物価は相互に連関するが、両者の間には正の関係がある。日本では長期にわたり、物価が上昇しても賃金が有意には反応しない状況が続いていたが、足元では物価上昇が賃金に影響を与えるように状況が変わりつつある。 第3に経済学では賃金は労働生産性に応じて決まると考えられている。労働生産性が上がれば賃金も上昇するが、日本の労働生産性の伸び率は長期にわたり低迷しており、これが賃金の停滞につながっている。 第4に雇用者の構成の変化も重要だ。日本では過去30年で雇用形態が大きく変化した。非正規雇用者が雇用者全体に占める割合は84年には約15%だったが、今は4割近くまで上昇した。非正社員の賃金は正社員の7割程度であり、相対的に賃金が低い非正社員の割合が高まることで、経済全体の賃金が低下している。 これらの要因は、異なる時間軸で賃金に影響を与える。前者の2つはどちらかといえば短期的な影響を及ぼし、後者の2つは中長期的に賃金に影響する。日本の賃金の推移を振り返ると、97年をピークに減少が続いている。月給はピーク時と比べて1割低く、時給は近年上昇に転じているが、ピーク時とほぼ変わらない水準にある。これは25年に及ぶ日本の賃金低迷が長期的かつ構造的な理由によるところが大きいことを意味する。なお、四半世紀の間に、米国や英国など他の先進国では賃金は2~4割上昇している。本来、賃金は上がるものなのだ。持続的な賃上げのためには、人件費の増加分を価格に転嫁できる環境整備や最低賃金引き上げが重要だ。だが王道は、労働生産性を向上させるとともに、労働市場の二極化などの構造問題に対応することだ。これらを同時に達成できるのが労働市場の流動化である。経済全体の生産性を向上させるには、個々の企業や労働者が生産性を高めるとともに、経済全体の新陳代謝を促進することが欠かせない。労働市場の流動化は、適材適所とスムーズな労働の再配分を通じて、これらを実現できる。実際に、データは労働市場が流動的な経済ほど生産性が高く、その結果、賃金が高い傾向を示している(図参照)。また労働市場が流動的であれば、同一労働同一賃金がマーケットメカニズムにより達成されうる。労働市場の流動性を高めるには、労働移動を妨げる制度や政策の見直しが必要だ。社会保障や税制の改革により転職に中立な環境をつくることが求められる。政府が23年の「骨太の方針」で転職に不利な退職金優遇税制の是正を盛り込んだことは評価に値する。また一定の所得を超えると税や社会保障負担が発生する「年収の壁」は撤廃すべきだ。流動的な労働市場では、人的投資の軸は企業から労働者へとシフトする。労働者の自己啓発投資を促すため、個人の人的投資にかかる費用を課税対象所得から控除する「自己啓発優遇税制」の導入を検討すべきだ。また解雇ルールを明確化して、意欲と能力をもつ若者が活躍できるよう環境を整える必要がある。解雇の金銭補償の実現も重要だ。さらに、労働市場の流動性を妨げている日本的雇用慣行からの脱却を急ぐべきだ。終身雇用や年功賃金などの日本的雇用慣行は、経済・社会構造の変化に伴い時代遅れとなっている。古い体質の雇用慣行の維持や雇用の硬直化は生産性を下げる要因だ。特に賃金体系は働きに見合う報酬を受け取れる仕組みに変えるべきだ。「賃金=生産性」となれば、あらゆる世代が雇用機会に恵まれるし、若年層の所得向上も期待できる。生産性の向上には中長期の成長戦略が欠かせない。多くの企業が画期的な構想で成果を上げつつある。政府は、こうした民間蓄積の成果を最大限に活用するための方策を考えるべきだ。日本経済には変化の兆しがみられる。長年のデフレからの脱却も視野に入ってきた。重要なのは、デフレという穴から出た世界が、単にインフレの世界ではなく新しいステージだと認識することだ。日本経済は人口構造の変化、技術進歩、グリーン化といったメガトレンドの変化に直面しており、インフレだけでなく、これらの変化に適応できる経済を構築することが欠かせない。これは今後数十年の日本のグランドデザインが求められているということだ。包括的かつ大胆な改革パッケージが必須だ。とりわけ、人口が減少し急速に高齢化していく日本では、こうした状況でも国民が安心できる環境をつくることが求められている。高齢化を伴う人口減少下でも強い経済を構築することは可能だ。高齢者が様々な形で社会活動に参加し、生産的に貢献する構造に組み直すことができれば、経済社会のバランスシートは大きく改善する。長寿雇用戦略や健康増進産業の推進、給付と負担のバランスのとれた全世代型社会保障などやれることはまだたくさんある。また将来悲観の払拭のためにも、成長に配慮した財政健全化が欠かせない。人々が「明日は今日より素晴らしい」と感じる社会にしていくことが、持続的な賃上げにもつながると考えられる。 *6-4-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1191990 (佐賀新聞 2024/2/10) 介護報酬改定、訪問サービス減額は疑問だ 2024年度から3年間の介護報酬の改定内容が決まった。介護現場の深刻な人手不足に対応するため、職員の賃金底上げを重点課題としたのが特徴だ。サービスの対価として介護事業者に支払う報酬を増やし、24年度に2・5%、25年度に2・0%の職員のベースアップ(ベア)を目指す。 介護職員の平均賃金は全産業平均より月約7万円低い。22年には介護の仕事を辞める人が働き始める人を上回る「離職超過」に陥り、多くの事業者が人材確保に頭を痛めている。改定では介護報酬全体で1・59%増額するうち、0・98%分を賃上げに充てる。職員の処遇改善を優先するのは妥当な措置だろう。もっとも、今年の春闘では連合が5%以上の賃上げを目標に掲げており、介護職員のベアが想定通りに実現したとしても、他産業との格差が広がる懸念はある。人材流出に歯止めをかける効果を上げられたかどうか、現場の実態を調べて検証することが欠かせない。事業者への報酬を増やすと、利用者の自己負担や保険料も上がることになる。しかし職員の離職が続くと、介護サービスの提供体制そのものの維持が危うくなりかねない。政府は国民に対し、処遇改善の重要性を丁寧に説明する必要がある。今回の改定で気がかりなのは、特別養護老人ホームなど施設系サービスの基本報酬が軒並み引き上げられるのと対照的に、訪問介護サービスでは引き下げられる点だ。訪問介護は、自宅で暮らす要介護の高齢者の日常生活を支える基本的なサービスで、年100万人以上が利用する。家族にとっても、訪問介護を使うことで仕事との両立が実現できているケースは少なくない。訪問介護の担い手となるホームヘルパーは人手不足が続き、有効求人倍率は約15倍に上る。平均年齢は50代半ばと高齢化。ヘルパー不足による倒産や事業の休廃止も増えている。基本報酬を引き下げると、こうした状況が加速しないか。厚生労働省は報酬減額の理由として、事業者の経営実態を調査したところ、訪問介護分野全体の収益が大幅な黒字だったことを挙げている。処遇改善に取り組む事業者に報酬を上乗せする加算を拡充するので、加算を取得すれば経営にダメージはないと説明する。だが介護現場では、この調査は実情を反映していないとの指摘がある。集合住宅に併設され、その入居者を中心に訪問する事業者の場合、同じ建物内で多数の利用者にサービスを提供して効率よく収益を上げている。訪問介護の収益率は、こうした事業者の存在により高めの結果が出ている可能性があるという。一方で中山間地を含む郡部など、広い範囲に点在する利用者宅をカバーするような、地域に密着した小規模事業者の経営状態は厳しい。ひとくくりに基本報酬を引き下げるのは乱暴ではないか。同一建物を中心にサービスを展開する事業者に対しては、報酬を減額算定する仕組みを強化して対応すべきだ。高齢化は急速に進み、重度の要介護高齢者の増加が見込まれている。在宅介護や在宅医療の役割がより重要になるが、訪問介護による日常生活支援はその基盤でもある。基本報酬引き下げでサービス提供が手薄になり、「介護難民」が増えることにならないか心配だ。 *6-4-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15857944.html (朝日新聞 2024年2月7日) 「カスハラ」防止条例検討へ サービス業、労組など要望 東京都 客が理不尽な要求をするカスタマーハラスメント(カスハラ)対策を検討している東京都の検討部会が6日、「条例化が望ましい」との意見を示した。これを受け、都が条例化へ検討を進めることになる。都によると、カスハラ防止を目的にした条例は全国的に例がないという。部会は商工団体や労働組合の代表者、大学教授、都幹部らがメンバーで昨秋から検討を続けている。条例化については、カスハラ防止の周知啓発を進める法的根拠として施行を望む意見が出た。業界ごとに異なる事情も勘案し、罰則付きではなく機運醸成や啓発が中心の「理念型」を推す意見も出された。こうした声を軸に今後、業界ごとのガイドラインなどの対策と合わせて、条例の中身が検討されることになる。カスハラは接客業界で広く問題化しており、タクシーやバス運転手が名札義務化をやめるなどの動きがある。サービス業従事者の多い東京で対策強化を望む声が労働組合の連合東京などから上がっていた。 <日本における避難民・移民の受入れについて> PS(2024年2月19日追加):*7-1は、①ウクライナから日本への避難民2098人のうち日本での定住を望む人が39・0%(818人)に急増 ②うち1799人が日本国内で1年働ける「特定活動」の在留資格あり ③最新の国別受入数は、ドイツ113万人・ポーランド95万人・チェコ38万人・英国25万人・ロシア121万人 ④日本財団は延べ約2千人に最長3年間・年100万円の生活費を支援 ⑤首都キーウで美容サロンを営んでいたポジダイエバ・アンナさん(50)は2022年秋に10代の娘2人と来日し、目の不自由な夫も呼び寄せて日本で人生の新しいチャプターを始めると決めた ⑥就労には日本語が欠かせない場合が多いが、殆ど話せない人が3割、簡単な日本語のみが4割 ⑦日本政府は紛争から逃れた人らを難民に準じて保護する制度を始め、対象者には定住資格が与えられ、日本語習得や生活支援が始まる 等としている。 また、*7-2は、⑧イスラエル軍はパレスチナ自治区ガザ南端のラファを激しく空爆 ⑨エジプトとの境界にあるラファにガザの全人口230万人の半数以上がひしめく ⑩避難民の多くはシェルターやテントの劣悪な環境で暮らし、安全な飲み水や食料が殆どない ⑪イスラエルのネタニヤフ首相は軍の地上作戦を拡大する準備を整えるよう命じた ⑫アメリカのバイデン大統領は「民間人の安全を確保する信頼できる計画なしに進めるべきでない」と発言 ⑬人々はどこに行けばいいのかと困っている ⑭米政府は「最短でも6週間」の休戦合意の実現に向けて取り組んでいる ⑮検問所に近いのにラファでは支援物資が不十分 等としており、2月19日のNHKの報道は、⑯イスラエル軍が南部のナセル病院で2月15日~18日に作戦を続けた結果、WHOが「ナセル病院は1週間の包囲と作戦で既に病院として機能しておらず、約200人の患者の少なくとも20人は緊急転院して治療を受ける必要がある」と訴えた としている。 ウクライナもガザも大変な状況だが、日本のメディアは悲惨さを情緒的に伝えるだけであり、これでは良い解決策は出て来ない。さらに、NHKはチャンネルや時間帯が余っているのに、「政治とカネ」以外の国会中継をまともに行わず、「政治は金まみれで汚い」という悪いイメージを国民に植え付けて民主主義を後退させている上、国民が本質的な問題点を深く考える機会を奪っている。民放は、これに加えて放送時間の1/3が広告であるため、「これが、記者や番組制作者の限界なのか?」と思う次第である。 そのような中、日本では人手不足が叫ばれているのに、上の③のように、最新のウクライナからの受入人数は、ドイツ113万人・ポーランド95万人・チェコ38万人・英国25万人・ロシア121万人と10~100万人単位であるにもかかわらず、日本は、①のように、現在、避難民が2098人おり、そのうち日本での定住を望む人が818人に“急増”し、②のように、1799人にのみ日本国内で1年間だけ働ける「特定活動」の在留資格を与えているとのことである。つまり、日本は、避難民や移民の受入れが極めて少なく、かつ期間限定・就業限定なのである。もちろん、日本に来たばかりの時期は就業困難な人もいるため、④のような生活費支援も必要で、支援額はむしろ少なすぎると思うが、⑥の日本語力については、大部分の日本人が英語でコミュニケーションでき、日本語を話さなくてもできる仕事で日本語は不要であるため、日本語を就労要件にするのは発想が旧すぎると思う。例えば、⑤の美容師のケースでは、日本のやり方を研修した上で外国の美容師資格を持つ者にも日本における就労資格を与えれば十分稼げる。ちなみに、私は、フランス語は全く話せないが、旅行中にパリの美容室に入って英語で必要事項を話した後、黙って座っていたら日本より素敵な髪型にしてもらえたし、ODAでキルギス(旧ソビエト連邦)に行った時に見つけたスカートは、(裏地はついていなかったが)スタイルが抜群で気に入ったため、25年以上も大切に身につけていた。そのため、欧米における洋風スタイルの伝統の重さを実感しており、⑦のように、紛争から逃れた人に難民・移民として定住資格を与えるのは必要不可欠であると同時に、日本にとっても有益だと考えているのだ。 そして、私が疑問に思うのは、パレスチナ自治区のガザ地区は面積365 km²(福岡市よりやや広い)、人口約222万人(福岡市は164万人)と過密な状態で、1947年に国連がパレスチナをアラブ国家とユダヤ国家に分ける決議を採択し、イスラエルが1948年に独立を宣言して以降、火薬庫になっているのに(https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/plo/data.html 参照)、どの国も自国への避難民・移民の受入れは表明せず、⑧⑨⑩のように、イスラエルのみを批判し、狭い場所で共存し続けることを強要している点である。疑問に思う理由は、広い国・人手不足の国でさえパレスチナ難民を受入れないのに、狭い土地で「共存せよ」と言うのはイスラエルとってもパレスチナにとっても無理だと思うからだ。そのため、⑪⑫⑭のように、イスラエルのネタニヤフ首相は軍の地上作戦拡大を命令し、バイデン米大統領は「民間人の安全を確保する信頼できる計画なしに進めるべきでない(最短でも6週間)」と発言しておられるが、“民間人の安全を確保する計画”は迅速に作る必要がある。何故なら、⑬⑮のように、検問所に近いのにラファで支援物資が不十分で、避難民はどこに行けばいいのかわからず、⑯のように、2月15日~18日にはナセル病院が既に病院として機能しなくなっている状態だからだ。そのような中、日本は人手不足の国であり、農林水産業・建設業・運送業・介護・観光業・軽工業等で特に労働力が足りないため、人口が減少している地域でガザの住民を入植させればよいと思う。大陸で揉まれながら4大文明の近くで生活し、アラビア語ができ、小麦・オリーブ・家畜の生産に慣れており、我慢強い人々の能力やスキルは、使い方によっては日本人以上なのだから。 *7-1:https://digital.asahi.com/articles/ASS2L6GN3S28ULLI001.html?iref=comtop_7_02 (朝日新聞 2024年2月19日) ウクライナ避難者、日本への定住希望が急増 「できるだけ長く」4割 ウクライナから日本に避難している人のうち、日本での定住を望む人が、この1年で24・7%から39・0%に急増したことが、日本財団が定期的に実施しているアンケートからわかった。反転攻勢がうまくいかずに戦争が長期化するのを目の当たりにし、「状況が落ち着くまでは、しばらく日本に滞在したい」と答えていた人の多くが帰国を諦めたとみられる。日本に住むウクライナからの避難者は2月14日現在で約2100人。日本財団はこれまで、延べ約2千人に年100万円の生活費を支援。18歳以上を対象に、生活状況や意識を計5回アンケートしてきた。朝日新聞は、日本財団と契約を結び、日本財団からアンケート結果のデータ提供を受けて内容を分析した。第5回アンケート(1022人回答、昨年11~12月実施)で、「できるだけ長く日本に滞在したい」と答えた人が急増し、その1年前の第2回アンケートで24・7%だったのが、39・0%と1・6倍になった。これまで40%前後で最も多かった「状況が落ち着くまで」様子を見ようという人を初めて上回った。 ●「日本で人生の新しいチャプター始める」 首都キーウで美容サロンを営んでいたポジダイエバ・アンナさん(50)は2022年秋、10代の娘2人と来日した。「ミサイルが自宅近くに落ちるのを経験した娘は日本に慣れ、もう戻りたくないと言った。目が不自由な夫も呼び寄せ、日本で人生の新しいチャプター(章)を始めると決めました」 ただ、定住への課題は大きい。アンケートでは、働いていない人は52・8%と半数を超え、働いている人でも4分の3はパートタイムだった。就労には、日本語が欠かせない場合が多いが、ほとんど話せない人が3割、簡単な日本語のみという人が4割だった。 ●専門家「経済的な自立策を話し合える場が必要」 財団による生活費支援は原則として最長3年間で、来年には期限という人が出始める。日本政府は昨年12月、紛争から逃れた人らを難民に準じて保護する「補完的保護対象者」制度を始めた。対象者は定住資格が与えられ、日本語の習得や生活支援が新年度から始まる。明治学院大教養教育センターの可部州彦(くにひこ)研究員(難民の就労支援)は「戦争が長びくなか、日本での生活を設計する人が増えている。子どもが教育を受けるには資金がどれくらい必要で、就労するにはどんな技能や資格がいるのか。それぞれのライフステージに合わせた経済的な自立策を具体的に話し合える場が必要だ」と話した。 *7-2:https://www.bbc.com/japanese/articles/ceqjw22lv7go (BBC 2024年2月13日) ラファの避難者ら、イスラエルの地上作戦におびえる 国際社会は攻撃の抑制求める パレスチナ自治区ガザ地区ラファで、人々がパレスチナ人がイスラエル軍の地上作戦におびえている。同軍は12日未明にかけ、ガザ南端のこの都市を激しく空爆した。国連やアメリカなどはイスラエルに対し、多くの民間人を殺傷する地上作戦は実施しないよう警告している。エジプトとの境界にあるラファには、ガザの全人口230万人の半数以上がひしめている。イスラエルとイスラム組織ハマスの戦争が始まる前はラファの人口は25万人程度だったが、ガザ各地から避難者が押し寄せている。避難住民の多くは、にわか作りのシェルターやテントの劣悪な環境で暮らしている。安全な飲み水や食料はほとんどない。そのラファをめぐり、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は先週、軍の地上作戦を拡大する準備を整えるよう命じたと明らかにした。11日夜から12日未明にかけては、イスラエル軍がラファを空爆した。ハマスが運営するガザ保健当局によると、イスラエル軍の空爆とラファでの人質救出作戦により、一晩で少なくとも67人が殺害されたという。現地にいる医師のアフメド・アブイバイドさんは、イスラエル軍の空爆が絶え間なく至る所で続いていると、BBCに電話でメッセージを送った。人々は「どこに行けばいいのかと困っている」状態だとした。こうした状況を受け、国連のフォルカー・トゥルク人権高等弁務官は12日、ラファへの攻撃は「子どもや女性を大半とする非常に多くの民間人が死傷する恐れがあり、恐ろしいことだ」と警告。ガザへの「わずかな」人道支援は現在、エジプトが管理するラファ検問所を通過して運び込まれており、それが停止する恐れもあるとした。昨年10月7日のハマスによるイスラエル南部の襲撃では1200人以上が殺害され、250人以上が人質として連れ去られた。一方、ハマスが運営するガザ保健当局によると、イスラエルとの戦闘が始まってから、2万8100人を超えるパレスチナ人が殺害されている。 ●「立ち止まって考えるべき」 アメリカのジョー・バイデン大統領も12日、イスラエルのラファでの作戦について、民間人の「安全を確保する信頼できる計画なしに進めるべきではない」と発言した。バイデン氏は先週、イスラエルによるガザへの報復作戦を「度を越している」と異例の厳しい言葉で批判していた。バイデン氏はこの日、ヨルダンのアブドラ国王と会談。終了後、米政府は「最短でも6週間」の休戦合意の実現に向けて取り組んでいると述べた。イギリスのデイヴィッド・キャメロン外相も、ラファでのさらなる行動の前に、イスラエルは「立ち止まって真剣に考える」べきだと主張。欧州連合(EU)の外交を取り仕切るジョゼップ・ボレル外交安全保障上級代表は12日、ガザで「あまりに多くの人々」が殺されているとし、イスラエルへの武器の提供をやめるよう同国の友好国などに求めた。BBCにメッセージを送った前出の医師アブイバイドさんは、ガザ南部ハンユニスのナセル病院で勤務していた。しかし、イスラエル軍の空爆で自宅が破壊され、父親は脊髄を損傷。ラファへの避難を余儀なくされたという。ところが現在、ラファからも移動しなければならない可能性に直面している。アブイバイドさんは、どこに行けば安全なのか分からない状態だと話した。「軍の地上作戦が市内でまもなく始まるかもしれず、人々はとてもおびえている」。アブイバイドさんはまた、ラファでは人々の間で多くの病気が見られ、「投薬や治療を受けられる可能性が著しく低下」していることで状況は悪化しているとした。ラファにいる別の医療関係者は、「友人など会う人すべてが、インフルエンザ、コレラ、下痢、疥癬(かいせん)、そして新たにA型肝炎などにかかっていて、どんどん悪くなっている」とBBCに述べた。ラファで避難生活を送っているアボ・モハメド・アティヤさんは、12日未明にかけて空爆があったとき、テントの中で家族と寝ていたとBBCに説明した。「突然(中略)ミサイルがあちこちに撃ち込まれ、発砲があり、飛行機もあちこちに飛んできた。路上のテントと人々の頭上でこうしたことが起きた」。ガザ中部ヌセイラット難民キャンプから避難してきたというアティヤさんは、ヌセイラットではイスラエル軍からの退避指示があったが、この夜のラファでは事前の警告はなかったと非難した。「言ってくれればラファからどこへでも避難していた」。「もう安全な場所はない。どこも安全ではなく、病院さえも安全ではない。人々は死にたいと思っている」 ●支援物資が不十分 検問所に近いにもかかわらず、ラファには十分な支援が届いていない。現地の男性はBBCに、人々は何日も支援を待っており、届いても水の供給は不十分だと話した。ラファの女性は、「水が見当たらず、十分な量を手に入れることができない。水不足で喉がカラカラだ」と述べた。ガザ最大の人道支援組織の国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)のトップは12日、現地の秩序が崩壊しつつあると述べた。ハマスが運営する地元警察のメンバーらが殺害されたり、身の危険を感じて支援物資輸送車の警護に消極的になったりしているという。「地元警察がいなかったため、トラックや輸送車列が略奪に遭い、トラックは何百人の若者らに破壊された」。避難者の中には、飲食物の確保をめぐる不安より、次に何が起こるかわからない恐怖の方が大きいという人もいる。イブラヒム・イスバイタさんは、「以前は食べ物や水や電気の不足について考えていた。でも今は、この先どうなるのか、どこに行けばいいのかが分からずトラウマになっている。これが現在の私たちの日常だ」とBBCに話した。ラファから移動しなければならなくなったら、彼の家族はどこへ行こうと考えているのか。そう問われると、イスバイタさんは「実際のところ、まったく分からない」と答えた。 <GX移行債の支出対象について> PS(2024年2月21,22《図》日):*8-1-1・*8-1-2は、①財務省が新国債「GX経済移行債」の初回入札を実施 ②初年度2023年度に1.6兆円、10年間で20兆円規模を発行予定 ③2050年の温暖化ガス排出実質0に向け産業構造転換を後押しする資金調達 ④海外で広く発行されている再エネ投資に使途を限った「環境債」より資金使途が広い ⑤初年度に製鉄工程の水素活用に2,564億円割り当て ⑥消費電力を抑える次世代半導体開発・工業炉の脱炭素・次世代原子力発電の開発も支援対象 ⑦次世代太陽電池・洋上風力発電・水素発電・次世代航空機・次世代船舶の技術開発も後押し ⑧EV等に使う蓄電池とパワー半導体の国内生産拡大に計4,800億円程度補助 ⑨省エネ性能の高い住宅機器導入・EVを含む低燃費車の購入補助事業に2000億円強充当 ⑩2023年度の1.6兆円からは「燃料アンモニア事業」は除外 ⑪資金使途が多岐で海外投資家から「グリーンウオッシュ」を懸念する声 ⑫政府は20兆円を呼び水に10年間で官民合わせて150兆円超の投資に繋げる ⑬環境への貢献度の高さを重視し、通常の国債より利回りが低い『グリーニアム』の水準が注目された ⑭応募者利回りは0・740%で直近の償還期間10年国債と比べグリーニアムによる利回り差は殆どなかった ⑮償還には2028年度から導入する化石燃料輸入企業への賦課金等を充てる としている。 これらの記述の中には、「環境保護は経済活動には邪魔なものであるため、環境保護に追加コストがかかるのは当然である」「環境保護目的なら利回りの低い債権でも売れる筈である」という、日本が開発途上国時代に振りかざしていた前提が色濃く残っている。 しかし、現代は、環境を悪化させる経済活動は許されず、環境を保護しながら高い利回りを上げることが求められる時代であり、その視点から見ると、⑩のアンモニア混焼は、環境保護が中途半端な上に、コストを上げるため、広く普及することのない技術だ。また、⑨のEV以外の低燃費車も、エンジンとモーターの両方を使うため、環境保護が中途半端なだけでなく、部品点数が多くて労働生産性は上がらずコストダウンも進まず、国内で産出しない化石燃料を使い続けるため貿易収支の改善にもエネルギー自給率の向上にも役立たない。さらに、⑥の中の次世代原発は、地震・火山国で面積の狭い日本に置く場所などなく、使用済核燃料の保管場所も限られるため普及できず、無駄な支出となる。このように、政府も民間も、将来の稼ぐ力を高める技術に投資しなければ、労働生産性は上がらず、貿易収支も改善せず、国民をより豊かにすることのできない、単なる無駄使いになるのである。 そのため、①②③のように、財務省が産業構造転換を後押しする資金調達のため「GX経済移行債」を発行し、⑮のように、化石燃料輸入企業への賦課金等を償還に充てることとしたのは良いが、⑬のように、「環境への貢献度が高いから通常の国債より利回りが低い『グリーニアム』が生じる」と考えたのは甘すぎるため、結果として、⑭のように、グリーニアムによる利回り差がなかったのは当然なのだ。 しかし、日本で遅れている⑨の省エネ性能の高い住宅機器の導入補助金や、⑦の次世代太陽電池・洋上風力発電・水素発電・次世代航空機・次世代船舶技術など、普及すれば環境保護・生産性向上・貿易収支改善・エネルギー自給率向上に役立つ技術への補助金や投資は、国民をより豊かにすると同時に税収も増やすため、無駄使いにはならない。 なお、⑤の製鉄工程の水素活用2,564億円、⑥の消費電力を抑える次世代半導体開発・工業炉の脱炭素、⑧のEV等に使う蓄電池とパワー半導体の国内生産拡大4,800億円の補助は、1990年代末~2000年代始めならスタート段階で必要だったが、現在なら遅れた企業の甘やかしすぎである。今は企業の実質借入金額が年々減っていく時代であるため、国民に負担をかけず自らやればよい。従って、⑫の政府の20兆円の呼び水は10年でもその半額でよく、ましてや病気や要介護状態で働けない高齢者の預金を目減りさせながら負担増まで押しつけるのは論外である。 そして、これが、④⑪のように、海外で広く発行されている再エネ投資に使途を限った「環境債」より資金使途が広すぎて、海外投資家から「グリーンウオッシュ」を懸念する声がある理由であり、私もその批判は正しいと思う。 このような中、太陽光発電は、*8-2-1のように、窓ガラスやビルの壁面などで使える建材一体型の太陽光発電パネルが普及段階に入っており、都市が発電所となって、82.8ギガワット発電できる可能性が高い。そのため、これもまた「高すぎて普及できず、他国に後れをとった」などという事態にならないようにすべきで、まずはビル・マンションの新築や改装工事で義務化したり補助金をつけたりすればよいと思う。 また、*8-2-2のように、フランスは、太陽光発電の適地を増やすため、80台以上の駐車場に太陽電池と一体化した屋根(ソーラーカーポート)の設置を義務付け、駐車場・農地等に設置する太陽光発電を再エネ拡大の突破口にするそうだ。さらに、*8-2-3のように、青森県つがる市は、再エネ発電促進と農林漁業の土地利用の調和を図るため2014年に施行された「農山漁村再生可能エネルギー法」に基づいて、農地で国内最大規模の風力発電所「ウィンドファームつがる」を稼働させて一般家庭約9万世帯分の電力を供給しているそうだが、風力発電機は田畑に陰を作らずに発電できるため、農地に適している。そのため、農地で再エネ発電をする場合には、「農業の戸別所得補償」のかわりに再エネ発電機設置補助金をつければ、発電能力を著しく大きくできると考える。 2019.12.9HATCH 2022.10.29政治ドットコム 2022.7.29日経新聞 (図の説明:左図のように、都市への人口流入により、過疎地では全国平均より高齢者比率が高く若年者比率は低くなっている。また、中央の図のように、高齢者比率が高くなるほど、空き家比率も高くなる。その結果、このままでは、過疎地は、鉄道・バス・水道等が赤字となり、インフラの維持も難しくなっていく) 2023.2.9政治ドットコム 白書・審議会データベース 2021.11.6日経新聞 (図の説明:左図のように、過疎地で頑張っていた高齢者がついに農業を辞めると、次世代のいない農家で耕作放棄地が増え、中央の図のように、農業総産出額は名目値でも漸減している。また、右図のように、燃油代・餌代の高騰で良質な蛋白源である漁業の産出額も著しく減少しているが、日本は製造業も振るわないため、「食料は輸入に頼ればよい」という考えは甘い) *8-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240211&ng=DGKKZO78400190Q4A210C2EA4000 (日経新聞 2024.2.11) 14日 財務省、「GX移行債」初入札、脱炭素加速、市場どう評価 財務省は14日、新たな国債「GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債」の初回入札を実施する。同日は10年債を、27日には5年債をそれぞれ8000億円予定する。脱炭素社会への移行(トランジション)を目的とした国債の発行は世界初の試みで、10年間で20兆円規模を計画する。正式名称は「クライメート・トランジション利付国債」。2050年の温暖化ガス排出の実質ゼロに向けた産業構造転換を後押しする資金を調達する。初年度の23年度は1.6兆円を発行する。海外では太陽光のような再生可能エネルギーの発電などに資金の使い道を絞る「グリーンボンド」が普及する。今回は化石燃料を主体とした経済・社会構造からの「トランジションボンド」と区別し、幅広い使途とする。初年度1.6兆円について、政府は製鉄工程の水素活用に2564億円を割り当てる。既存の製鉄は石炭を大量に使い二酸化炭素(CO2)を多く排出する。代わりに水素を使う製鉄技術の確立をめざし、日本製鉄やJFEスチールなどの取り組みを後押しする。消費電力を抑える「光電融合」といった次世代半導体の開発、金属部品などの熱処理に用いる工業炉の脱炭素、次世代原子力発電の開発も支援対象となる。具体的な支援先は未定だが、次世代の太陽電池や洋上風力発電、水素発電、次世代航空機・船舶といった技術開発も後押しする。電気自動車(EV)などに使う蓄電池と、パワー半導体の国内生産の拡大には計4800億円程度を補助する。省エネ性能の高い住宅機器の導入や、EVを含む低燃費車の購入補助といった事業には2000億円強をあてる。資金使途が多岐にわたり、海外投資家からは見せかけの環境対応にすぎない「グリーンウオッシュ」を懸念する声も聞かれる。日本のGX戦略は火力発電の燃料をアンモニアに転換するプロジェクトが含み、「石炭火力の延命」との見方がつきまとう。このため23年度発行の1.6兆円の使途から「燃料アンモニア事業」を除外した。財務省と経済産業省は1月中旬から投資家向け広報(IR)のため欧米各国を回った。財務省幹部は関心の高さを感じたという。SMBC日興証券の浅野達シニアESGアナリストは「グリーンウオッシュへの心配の声は小さくなった。むしろ初物としてのご祝儀相場に乗り遅れまいと需要が高まり、通常の国債より利回りが低くなる『グリーニアム』の水準が注目される」と話す。グリーニアムはグリーンとプレミアムの造語で、環境への貢献度の高さを重視して利回りが低く(債券価格は高く)なることを指す。政府にとっては通常より低いコストで資金調達できる。初回のプレミアムが高くても油断はできない。続く24年度は1.4兆円、その後に残る最大17兆円の発行を控える。「市場から日本のGX政策への信認としての適切なプレミアムを維持できるかが焦点となる」(浅野氏)。政府は20兆円を呼び水に10年間で官民合わせ150兆円超の投資につなげる。脱炭素技術はどれが普及するか見通せず、企業が予見可能性をもって投資に踏み切る環境づくりは欠かせない。資金の使い道や脱炭素の効果を広く開示し、安定的な資金調達をめざす。償還には企業のCO2排出に課金する「カーボンプライシング」の2つの手法を用いる。まず化石燃料の輸入企業に燃料のCO2排出量に応じて賦課金を28年度に導入する。もうひとつは排出量取引で政府が電力会社に排出枠を有償で割り当てる仕組みを33年度に始める。 *8-1-2:https://digital.asahi.com/articles/ASS2G62BQS2GULFA00N.html (朝日新聞 2024年2月14日) GX経済移行債8000億円を初入札 幅広い使途、環境債とは別物 財務省は14日、脱炭素化と経済成長をうたう政策の財源にする「GX(グリーン・トランスフォーメーション)経済移行債」の入札を初めて実施した。募集額は8千億円で、償還期間は10年。27日にも償還期間5年のGX債の入札を実施し、年度内に計1・6兆円の移行債を発行する。欧州で幅広く発行されている、再生可能エネルギーなどへの投資に使途を限定した「環境(グリーン)債」とは異なる。脱炭素社会への移行(トランジション)を目的としており、使い道は幅広い。調達したお金は、二酸化炭素(CO2)を排出しない水素を製鉄に使う技術や、電力消費の少ない次世代半導体などの、研究開発の補助金などに使われる。さらに、次世代原子炉の開発やCO2排出を抑えた火力発電などへの投資、経済安全保障上の重要物資と位置づける半導体や蓄電池の供給を安定させるための補助金にも使われる。政府は今後10年間でGX債を20兆円発行し、これを呼び水に150兆円超の官民投資につなげるねらいがある。償還には、化石燃料を輸入する企業に対する賦課金などを充てる。課金制度は28年度から導入する。環境への配慮や社会貢献を使い道とする国債は、同じ発行条件の国債と比べて利率が低く、価格が割高になる「グリーニアム」がつくことがある。ただ、この日の入札でついた応募者利回りは0・740%で、直近の償還期間10年の国債と比べ、利回りの差はほとんどなかった。SMBC日興証券の小路薫・金利ストラテジストは、「事前の予想と比べ、軟調な結果だった」と指摘。業者間の入札前取引の際にグリーニアムが大きく出た反動で、需要が抑えられた可能性があるとして、「投資家が利回りの低さをどの程度まで許容できるかは、まだ流動的だ」と述べた。 *8-2-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC21C8P0R21C23A2000000/ (日経新聞 2024年1月10日) カネカ、壁面用発電パネル生産3倍 ビルが都市発電所に カネカはビル壁面などで使える建材と一体にした太陽光発電パネルの年間生産量を2030年までに現在の約3倍に増やす。都心部ではパネル設置場所が限られており、窓ガラスやビル壁面に潜在需要がある。建材一体型の普及により、現在の国内の太陽光発電能力に匹敵するとの試算もある。ビル群が都市発電所として電源の一翼を担う可能性がある。カネカは窓ガラスなどに使える建材一体型発電パネルを大成建設と共同開発した。自社開発した高性能の太陽電池をガラスの間に挟んで窓ガラスや外壁材として使える。兵庫県豊岡市の既存工場の生産能力を段階的に高める。新工場建設も視野に入れる。30年に現状の3倍となる年産30万平方メートル(東京ドーム6.4個に相当)に増やす。同社の太陽光パネルは住宅向けが中心で現状の売上高は100億円前後だ。カネカは大成建設との共同開発品以外にも複数の商品発売を計画しており、30年に建材一体型のパネルだけで現在のパネル全体と同等の100億円まで増やす考えだ。インドの調査会社IMARCによると世界の建材一体型太陽光の市場規模は、28年までに22年比3倍近い548億米ドル(約8兆円)に達する見通しだ。太陽光パネルは中国メーカーが世界供給の7割を占める。国内勢はカネカや長州産業、シャープなどに限られているが、建材一体型のような付加価値商品で先行する。太陽光発電協会(東京・港)によると今後、建材一体型太陽光発電が導入可能な立地の総数を発電能力に換算すると82.8ギガワット(設備容量ベース)ある。日本国内で稼働している太陽光発電の導入実績(87ギガワット、22年度末)の95%に相当する規模が見込まれる。建材一体型パネルは単体の太陽光パネルと比べて数倍以上コストがかかるが、脱炭素を進めたい企業が持つビルの壁面などに商機がある。環境省が24年度から建材一体型の太陽光発電設備の設置費用について、最大5分の3を補助する制度を導入する予定で今後の普及への期待は高い。AGCも自社開発品の増産検討に入った。同社は2000年から発電ガラスを提供しており、これまでに約250件の施工事例を持つ。24年上期までの工場の稼働率は100%に近い水準だという。30年に向けて生産能力が不足する可能性があり、AGCは工場新設を視野に生産体制の見直しを進めている。ビル用では現在は新築向け商品が中心だが、今後は既存の建物に後付けできる商品の発売も検討する。建材一体型太陽光パネルを巡っては、カネカや積水化学工業などが開発中の「ペロブスカイト」型太陽電池も普及を後押しする技術として注目されている。軽くて曲げられるといった特徴があり、建材を使って発電する場合のコストが下がる可能性もある。政府も補助金を出し官民あげて実用化を急いでいる。 *8-2-2:https://www.nikkei.com/prime/gx/article/DGXZQOUC097NM0Z00C24A2000000 (NIKKEIGX 2024年2月19日) 太陽光適地不足、「併設」で打開 フランスは駐車場義務化 再生可能エネルギーの拡大に向け、太陽光発電の適地が不足していることが世界各地で課題となっている。フランスは80台以上の駐車場に太陽電池と一体化した屋根(ソーラーカーポート)の設置を義務付けた。駐車場や農地、水上などに設置する「デュアルユース太陽光発電」が再生エネ拡大の突破口になりそうだ。 *8-2-3:https://mainichi.jp/articles/20210515/k00/00m/040/064000c (毎日新聞 2021/5/15) 青森の農地に国内最大の風力発電所 風車38基、9万世帯分の出力 1年を通して強い風が吹き抜ける青森県つがる市の農地に、2020年4月から国内最大規模の風力発電所「ウィンドファームつがる」が稼働している。高さ約100メートルになる風車38基の総出力は一般家庭約9万世帯分の12万1600キロワット。年間約18万トンの二酸化炭素(CO2)削減効果が見込まれる。同発電所の建設は、再生可能エネルギー発電の促進と農林漁業の土地利用の調和を図るため14年に施行された「農山漁村再生可能エネルギー法」に基づき、農地を大半の用地として17年に着工。作付けの繁忙期を避けながら、約2年半かけて完成した。同法による市への協力金はメロンの栽培など農業振興に活用され、「エコな作物」として付加価値も期待される。風車6基が建つ菰槌(こもづち)地区で農業を営む長谷川藤行さん(77)は「ここは夏の寒暖差もあり、メロンなどの作付けにはとてもいい。農業の適地でエネルギーも日々作られ、うれしい」という。市では、政府が昨年末の「グリーン成長戦略」で導入拡大の方針を示した洋上風力発電の計画も進む。運営する「グリーンパワーインベストメント」(東京都港区)事業開発本部の力石晴子・対外連携推進グループ長(36)は「再生エネルギーは地域を強くする。より良い環境を地元の方々と作っていきたい」と話す。 <古代人の親子関係でもわかる時代の現代民法嫡出推定> PS(2024年2月26、27《図》日追加):*9-1のように、人のDNAも全部読めるようになり、最近は遺跡に埋葬された古い人骨に含まれるDNAからでも埋葬された人の血縁関係がわかるようになって、人類の移動経路や文化がより科学的に証明されつつある。それ自体が素晴らしいことだが、ここで強調したいのは、*9-2のように、それでも民法772条は「嫡出の推定」という規定を置き、「妻が婚姻中に懐胎した子は原則として夫の子と推定」「婚姻成立の日から200日を経過後or婚姻解消・取消しから300日以内に生まれた子は、婚姻中の懐胎と推定」など、婚姻関係と妊娠期間を前提とする推定をしており、DNA分析での事実認定はしないことにしている。そのため、実際の親子関係と異なる推定をされた場合に関係者全員が納得できず不幸な思いをしているため、民法722条1項の推定はそのまま、その推定に異議がある場合は関係者の誰からでも要求してDNA解析を実施し、親子関係を明らかにできるよう変更すべきだ。 すべて、*9-1より (図の説明:左の図は、岡山県津山市にある小規模集団の首長の墓《古墳時代》の血縁関係で、父親とその子である異母姉妹が葬られており、母親は実家の墓に入るため葬られていない。また、中央と右の図は、和歌山県田辺湾岸の磯間岩陰遺跡《古墳時代》にある漁民の墓地で、三浦半島の男性との婚姻関係が明らかになっている) *9-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240225&ng=DGKKZO78735340U4A220C2TYC000 (日経新聞 2024.2.25) DNAが導く考古学、古墳時代の血縁解き明かす 遺跡を発掘して歴史を解き明かす考古学で墓は有力な手がかりだ。近年、埋葬人骨に含まれる微量のDNAを解析して埋葬された人々の血縁関係を突き止めることが可能になり、注目を集める。収められた土器や装身具から分かるその人の社会的地位などと合わせて分析すると、権力の継承や人の移動が見えてくる。岡山県津山市に三成四号墳という前方後方墳がある。前方部の石棺には30~40代の男性と20~30代の女性が埋葬され、古墳時代の小規模集団の首長の墓とみられる。このほど、国立科学博物館の神澤秀明研究主幹らが2体の人骨の奥歯から細胞の核に含まれるDNAを抽出し、配列を詳しく調べると、この2人は夫婦ではなく親子だとわかった。後方部の石棺には高齢女性と女児が埋葬されていたが、女児は前方部の石棺の男性の子だった。先の女性とは姉妹ということになるが、2人は母が異なっていた。つまりこの古墳には父と腹違いの娘2人が埋葬されており、母たちは埋葬されていないということだ。古墳時代の埋葬人骨の関係を「ここまで詳しく特定できたのは初めて」と、古墳時代の社会構造を研究している岡山大学の清家章教授は話す。古墳時代や平安時代には、同じ墓に入るのは基本的に血族のみだった。結婚後も実家との結びつきが強く、夫婦も死後はそれぞれ実家の墓に入った。また当時は多産多死社会で、死別や再婚も多かったようだ。DNAの解析結果はこうした見方と符合する。庶民の墓についてはどうだろうか。和歌山県の田辺湾岸にある磯間岩陰遺跡は古墳時代の漁民の墓地で、8つの石棺に12体の人骨が埋葬されている。山梨大学の安達登教授らがこれらのミトコンドリアDNAを解析したところ、ほぼ全ての石棺に母方の血縁者同士が埋葬されていたが、一人だけ誰とも母方の血縁関係がない中年男性がいた。この男性の石棺には15歳の少年が先に葬られていたが、彼はほかの石棺の女性たちと母方の血縁関係にあった。男性が女性の誰かの夫で、少年が二人の間の息子だと考えるとつじつまが合う。なぜこの男性は実家の墓に戻らず、配偶者の実家の墓に葬られたのだろう。ヒントは彼らの埋葬方法にある。ほかの遺骨がまっすぐ足を伸ばしているのに対し、2人は膝を曲げ足を開いた形で置かれている。石室の底には貝殻とサンゴが敷かれ、海岸によくある穴だらけの磯石が置かれていた。いずれもこの地域の墓にはみられない特徴だ。実はこれらの特徴を備えた墓が、遠く神奈川県の三浦半島にある。田辺湾岸で作られた鹿の角の釣り針が三浦半島に伝わっており、当時から人の交流があったことがわかっている。男性はおそらく三浦半島から田辺湾岸にやってきて、ここで結婚して息子をもうけたが先立たれ、出身地の方法で埋葬したのだろう。自身が死んだときは実家は遠すぎて戻せず、同じ墓に埋葬されたのではないか。そんな仮説が浮かび上がり、調査が続いている。古墳時代より前の弥生時代の人骨も解析されている。鳥取県東部にある青谷上寺地遺跡からは100体分以上の人骨が出土しており、このうち13体について神澤研究主幹らが核のゲノムを解析した。その結果、現代の本州に住む日本人よりも縄文人寄りの人から、逆に渡来人寄りの人まで幅広く含まれていることがわかった。弥生時代の青谷上寺地には、現代の東京よりもっと多様な人々が暮らしていたらしい。「おそらく広い地域におよぶ交流が頻繁にあったのだろう」(神澤氏)。青谷上寺地は北陸や四国で産出する様々な素材を使って弥生時代の装身具「管玉」を作る職人の町だった。作った管玉は九州北部でも見つかっている。DNAの多様さは交易のハブだった当時の姿を反映しているのかもしれない。考古学に核DNAの解析が用いられるようになったのはここ5年ほどだ。血縁関係という重要な情報を明らかにするDNA解析は「今後、研究における基本的な手段になるだろう」と清家教授は話している。 *9-2:https://xn--ace-yc4g407bukbg65emna7a.com/index.php?%E6%B0%91%E6%B3%95772#:~:text=・・・%80%82 (弁護士法人エースより) 民法772条 (嫡出の推定) 第七百七十二条 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。 2 婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。 注1:婚姻関係にある男女から生まれた子を「嫡出子」といいます。婚姻中に懐胎した子は、嫡出子と推定されます。「婚姻成立から200日経過後に生まれた子」又は「婚姻の解消から300日以内に生まれた子」は嫡出子と推定されます。 注2:民法772条に該当する「推定される嫡出子」の場合、認知届は不要です。 ・推定される嫡出子(推定が及ぶ場合)とは、772条に該当する子供のことをいいます。 ・推定が及ばない場合とは、772条には該当するが、その期間中、妻が夫の子を妊娠することが事実上不可能な場合を言います。例えば、夫が海外滞在中で、肉体関係がないにも拘わらず、妻が妊娠をした場合などがこれにあたります。 ・推定されない嫡出子とは、772条に該当しない嫡出子のことをいいます。例えば「授かり婚」のように、婚姻成立前に妊娠し、婚姻成立から200日以内に産まれた子供は、婚姻関係にある男女から産まれたので嫡出子には該当しますが、772条における「推定」の適用はないので、推定されない嫡出となります。 ・二重の推定が及ぶ嫡出子とは、前婚の父性推定と後婚の父性推定とが重複する場合の嫡出子、つまり前夫との婚姻解消300日以内かつ現夫と婚姻成立200日経過後に産まれた子ということになります。この場合、773条の父を定めることを目的とする訴えによって父子関係を決めます。 <赤松良子さんの死去を悼む> PS(2024年2月29日、3月4日追加):*10-1-1のように、女子学生が極めて少なかった時代の東大卒で、1961年にさつき会(東大女子同窓会)を設立され、1963~67年にさつき会の代表理事を務められ、1979年には国連総会で採択された女子差別撤廃条約に国連公使として賛成票を投じられ、それが1981年に発効した翌年の1982年に担当の局長に就任して男女雇用機会均等法の成立に尽力された赤松良子さんが、2月6日に94歳で死去されて1つの時代が過ぎたことを感じざるを得なかった。ただ、1985年制定の第一次男女雇用機会均等法は差別の禁止が努力義務にされたため、女性を「補助職」という結婚退職を前提とする単純労働に就かせることによる女性差別が残り、これが(私が中心となって)1997年に採用・昇進・教育訓練等で禁止規定にするまで続いた。その第一次男女雇用機会均等法の理念に反して行なわれたことの1つ目は、*10-1-2の1986年の年金制度改革であり、「サラリーマンの専業主婦は保険料負担をせず、国民年金をもらえる」という第3号被保険者の創設である。これは、フルタイムで働く女性を不利に扱い、パートの非正規社員として働く主婦の年収が130万円以上になると夫の扶養から外れて年金や国民健康保険の保険料が発生し手取りが減ることによって女性が働かないことを奨励する現象を、現在でも生んでいる。また、第一次男女雇用機会均等法の理念に反して行なわれたことの2つ目は、1980年に三浦友和と結構して山口百恵が引退し、1986年に森進一と結婚して森昌子が引退して2つの才能が消えたことを著しく褒めて報道し、神田正輝と結婚しても歌手を続けた松田聖子は叩かれ続けたようなアホなメディアによる世論の誘導だった。これらの結果、未だに日本では女性蔑視がなくならず、*10-1-3のように、2024年2月にあった日本弁護士連合会の次期会長選挙で東京弁護士会所属の渕上玲子氏が当選し、法曹三者で初めて女性がトップに就いたのだそうだ。確かに、司法には「男性優位」の価値観が残っており、それは裁判結果にも出ている。ちなみに、公認会計士協会は、2016年に関根愛子氏を初の女性会長にしている。 そして、現在でさえ、*10-2-1のように、公的学童保育は待機児童が多い上に利用時間や利用学年に制限が多く、これが共働き世帯の「小1の壁」になっているそうだ。これに対し、企業などが運営する民間学童には、預かり時間が柔軟で学習塾・習い事などのプラスアルファ機能を併せ持ち、親世代からの支持を伸ばしているところもあるそうだが、その一方で、*10-2-2のように、民間保育園を運営する企業が習い事サービスに力を入れ、保育料とは別に料金を徴収して「付加的保育」と呼ばれる様々なサービスを提供しようとすると、「福祉的観点から“平等”でない」として保育料以外のサービス料を認めない自治体が多いとのことである。しかし、“平等”として最低の保育サービスしか受けられなければ、母親が退職して子のケアに専念するか、子を諦めるかの二者択一にしかならないため、いくら児童手当をもらっても、保育料が無償化されても、少子化は進むだろう。このように、日本は、未だに「子持ちの女性は専業主婦かパートの非正規労働者であるべき(⁇)」という前提を維持し続けているのだ。さらに、*10-2-3のように、岸田首相は「物価高に負けない賃上げに必要な報酬の改定率を決定した」と強調されるが、新年度の介護報酬改定で訪問介護の基本報酬は引き下げられた。そして、「働く女性は家族の介護はできない」ということを考慮すれば、介護保険制度は必要不可欠であり、特に住み慣れた家で介護を受けられるためQOLの高い訪問介護は重要なのだが、女性が多い介護職の報酬は2021年8月の月給制の月額平均で26万5,216円であり、これは2020年の全産業平均賃金30万7,700円より約4万円も低く、3Kになりがちで責任の重い介護職の労働対価として見合わないのである。そのため、介護人材の不足で介護保険制度の維持にかかわるわけだが、それでも介護職の報酬を全産業平均より高くしない理由は、介護職に女性が多く、「女性のケア労働は、無償か男性の労働以下である」という女性蔑視の固定観念が残っているからだ。 *10-3は、①全国漁協の役員に占める女性割合は2021年度で約0.5%(非常勤の監事や理事が大半で常勤理事は1人)に留まる ②19都道府県で女性役員は0 ③理由は「力仕事で長時間にわたる漁に出るのは圧倒的に男性が多く、女性の漁業者は少ないから」 ④「海の神様は女性で、女性が船に乗ると神様が嫉妬する」という言い伝えがある ⑤船や漁協に女性用トイレがない ⑥女性に適した漁具の開発がない ⑦女性・若者・外国人などの新しい力を入れなければ立ちゆかなくなる ⑧世界が持続可能な漁業を目指す中、資源管理や限られた漁獲物の価値向上のためのマーケティング・商品開発など活躍する余白はある ⑨これまでのやり方に固執せず、機械化・マニュアル化・データ活用党で誰もが参加しやすい漁業の方策を探るべき としている。 しかし、①②の状況であるため、女性が全漁連会長になったことはなく、③については、沿岸漁業・養殖漁業は夫婦で従事しているケースが多いのに、女性が表に出ないだけである。また、④は、いい加減にやめるべき迷信であり、⑤は、小さな船なら個室トイレがあれば女性用と男性用を分ける必要も無い。さらに、⑥は、女性に適した漁具というより、魚群探知機(https://sea-style.yamaha-motor.co.jp/tips/gps/001/ 参照)の機能を上げ、力仕事の部分を自動化すれば、誰にとっても容易で生産性の高い漁業になるのだ。しかし、それができるためには、それらの機器を備えた漁船が漁業収入で購入できる価格であることが必要なのだが、日本は先進機器や新しい漁船が高価すぎて普及できないのである。その結果、⑦⑧⑨のように、多様性があった方が漁業の付加価値も上げられるにもかかわらず、多様な人が参加しにくく、生産性も低いため持続可能性さえ危ぶまれる漁業になっているのだ。そして、これは漁業だけの問題ではなく、国民全体の食料の問題なのである。 *10-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK072ER0X00C24A2000000/ (日経新聞 2024年2月7日) 赤松良子さん死去、女性活躍の道開く 均等法の立役者 7日死去したことが分かった赤松良子さんは、男女雇用機会均等法の成立に尽力し、「均等法の母」と呼ばれる。小さな体にあふれるエネルギーで、女性の社会進出の道を開いた。大阪の画家の家に生まれ、津田塾と東大で学んだ。大卒の女性を採用するところがほとんどないなか、「婦人少年局」のある労働省に進んだ。男女平等に働きたいと思っても、壁の多かった時代。強みとなったのは、役所の外にも活躍の場を求めたことだ。多くの論文を執筆し、さまざまな人脈を広げた。国際感覚にも優れ、海外研修で欧米の働く女性の状況を見て回った。年齢や分野を問わず、国内外に多くの友人を持つ人だった。緻密で論理的、それでいて明るくユーモアもある。1960年代、女性の「結婚退職制」による解雇を無効とした判決が出ると、赤松良子ならぬ「青杉優子」のペンネームで、雑誌に喜びの評論を書いた。本領を発揮したのが、均等法だ。日本は国連の女子差別撤廃条約への批准を目指しており、そのための国内法整備が必要だった。国連公使として条約に賛成票を投じた赤松さんが82年、担当の局長に就任。経済界の根強い反対に対し、国際社会の流れを説き、根回ししてまわった。一方で、条文の多くが努力義務にとどまり、労働側の反発も強かった。妥協した法律とすることは、本人にとっても重い決断だったろう。「小さく産んで大きく育てる」「ゼロと1は違う」との思いは、その後の改正で結実した。退官後も、非政府組織(NGO)などの立場から活動を続け、生涯現役を貫いた。とりわけ、経済分野よりさらに遅れる政治分野の女性参画に力を入れてきた。「100までやる」と周囲に公言していた。原点には、かつて小学校も卒業できなかったという母親への思いがあっただろう。春には母親の郷里である高知に行く計画も温めていたという。好きな言葉に「長い列に加わる」をあげる。婦人参政権などを求めて戦前から活動してきた市川房枝・元参院議員や藤田たき・元津田塾大学長ら先人の努力に自らも加わり、後輩たちが後に続くのを励ましながら、笑顔で歩き抜けて行った。 *10-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240226&ng=DGKKZO78690640S4A220C2TCS000 (日経新聞 2024.2.26) 年金の主婦優遇は女性差別 多くの若い女性が会社員の夫に養われる専業主婦に憧れを抱く時代は確かにあった。高度成長ただ中の昭和37年(1962年)。大映映画「サラリーマンどんと節 気楽な稼業と来たもんだ」に、こんな場面がある。田舎のしょうゆ問屋のひとり娘が商社の支社に勤める若手社員と見合いをし、女友達にこう自慢するのだ。「あたしはサラリーマンの生活に憧れちゃうな。ホワイトカラーは現代のチャンピオンよ!」。折しもその前年、すべての国内居住者が公の年金制度に入る皆年金体制が整えられ、昭和61年(86年)の制度改革で「サラリーマン世帯の専業主婦も国民年金の強制加入対象とし、健康保険の被扶養配偶者が保険料を負担せずに医療給付を受けているのと同様に、独自の保険料負担は求めない」(厚生労働省年金局の資料から抜粋)ことにした。保険料を払わなくとも国民年金をもらえる第3号被保険者の誕生である。3号という呼び方がいかにも昭和的ではないか。ちなみに自営業、農業、学生、無職の人など勤め人以外の人(1号)が月々払う年金保険料は1万6520円(免除・猶予制度あり)。専業主婦も夫が1号なら3号には分類されず、この額を払わねばならない。いま3号でも離婚して無職のままならやはり1号になり、保険料の支払い義務が生ずる。事ほどさように奇っ怪な制度だ。3号は制度開始当初の1093万人から721万人(2022年度末)に減ったが、その98%、709万人が女性だ。主婦の年金問題といわれるゆえんである。問題の核心は、パート社員として働き、年収が130万円以上になると夫の扶養から外れて年金や国民健保の保険料を払わねばならなくなり、手取りがかえって減る「年収の壁」だ。一定規模の企業で働く非正規社員が雇い主と常用的使用関係にあれば厚生年金に入る「106万円の壁」もある。これらの問題を浮かび上がらせたのがコロナ後に顕著になったサービス業の人手不足。3年あまりの鎖国状態を解きインバウンドをどっと招き入れたのだから当然である。飲食、宿泊、交通などを支える働き手がコロナ前の水準には戻ってこず、サービスが滞った。客室が空いていても清掃が間に合わず、泣く泣く予約を断ったホテルがある。経営者がパート・アルバイトの採用を増やそうと時給を上げると、年収の壁に当たるまでの「距離」が近くなり、従業員がさらに就労時間を減らす矛盾にも直面した。いわば厚労官僚の不作為が生んだ人手不足であろう。何とかできないか、という岸田官邸の意を受けて同省が23年10月、苦し紛れに始めたのが「年収の壁・支援強化パッケージ」だ。パート社員が繁忙期に残業するなどして年収130万円以上になっても、一定条件をみたせば夫の扶養にとどまれるようにした。だがサービス業の経営者から歓迎する声はさほど聞かれない。むしろ「問題の実態と複雑な背景をかんがみれば、実効性が十分に発揮されるか不透明だ」(経済同友会「年収の壁タスクフォース」座長の菊地唯夫ロイヤルホールディングス会長)などと、取り繕いを喝破する声が目立つ。従業員側も「政府の支援があっても年収を増やさない」と答えた女性が37%いた(23年12月の本紙ネット調査の結果から)。政権が閣議決定した「女性版骨太の方針2023」は支援パッケージが当座の策であるのを認め、3号制度を見直すよう厚労省に求めている。ところが厚労相の諮問機関、社会保障審議会・年金部会の議論はまことに低調だ。専業主婦に保険料支払いを求めたり消費税の増税論議に火がついたりと、新たな負担論が俎上(そじょう)に載るのを官邸が封印したためでは、といぶかる声が政府内にはある。3号問題は主婦優遇の是正という観点から語られることがもっぱらだが、角度を変えると700万人もの女性を、自立を阻む制度に押し込めて「差別を助長している面がある」(西沢和彦日本総合研究所理事)実態がみえてくる。彼女たちの就労意欲は旺盛だ。内閣府の分析によると、6歳未満の子供をもつ母親の就業率はこの20年間に倍増した。にもかかわらず夫に扶養される立場にとどめ置かれれば、家庭内でおのずと従属的になり、外で働く意欲が弱められ、企業に雇われても低い収入に甘んぜざるを得ない。少なからぬ主婦が差別的な扱いを受け入れているのだ。海外を見わたしても同様の制度をもつ国はない。厚労省退官後にスウェーデン大使としてストックホルムに駐在した渡邉芳樹氏は「日本には3号という難しい問題がある」と、同国の年金改革をリードしたヘドボリ社会相に打ち明けたらこう言われた。「夫婦でも互いに依存せぬよう自立を重視して税制を個人単位にするのが基本。わが国は社会保障も個人単位にした」。英エコノミスト誌は日本の年収の壁を紹介し、主婦の職場復帰が思うに任せない要因を探った特集記事を載せた。3号の廃止を求めているのは連合だ。そのために、所得比例と最低保障の機能を組み合わせた新しい年金制度への衣替えを提唱している。この改革案を真面目に議論する責務が社会保障審にはある。夫への依存を前提にした昭和の年金をいつまでも引きずるのは、みっともない。女性が真に自立するカギは、令和の年金改革である。 *10-1-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15871849.html (朝日新聞社説 2024年2月25日) 女性初トップ 法曹の景色 変えるとき 法律家が性別に関係なく、のびやかに活動する環境づくりのきっかけにしてほしい。今月あった日本弁護士連合会の次期会長選挙で、東京弁護士会所属の渕上玲子(ふちがみれいこ)氏が当選した。女性の会長は初めてで、裁判所、検察庁を合わせた「法曹三者」でも、これまで女性がトップに就いたことはなかったという。「女性が日弁連のトップになることで景色を変えることが私の責任だ」と述べた。法律家には、法と正義に根ざして社会の課題や紛争を解決し、少数者の人権を守る役割がある。内なる多様性が求められるのは当然のことだ。ところが、女性が法曹になる道は、他の多くの専門職と同様、阻まれてきた歴史がある。初の女性の弁護士誕生は1940年、女性の裁判官、検察官が生まれたのは終戦後の49年になってからだ。今はどうか。「弁護士白書23年版」によると、裁判官と検察官(それぞれ簡裁判事、副検事を除く)、弁護士の女性の割合は、28%、27%、19%。着実に増えてきたとはいえ、半数には遠く及ばない。特に弁護士は、国家公務員である裁判官や検察官に比べて、育児休業など仕事と生活の両立のための制度を使いにくい壁がある。ただ近年、企業や官庁・自治体が弁護士の採用に積極的になり、働き方の選択肢は増えた。企業内弁護士でみると、女性は4割を超えている。日弁連は性別を問わず育児中の会費の免除などを制度化してきた。働きやすくする工夫をさらに考えてほしい。責任の特に重い立場に就く女性の割合は法曹三者とも少ない。最高裁裁判官は現在、15人中3人。しかも、これまでいずれも弁護士や行政官などの出身で、地裁、高裁の裁判官からは出せていない。1970年代には、司法研修所の教官らが女性の司法修習生に「女性は裁判に向いていない」などと差別的な発言をし、裁判官訴追委員会にかかったことさえあった。「男性優位」の価値観が残っていることはないか、裁判所は折に触れて自問すべきだ。近年の最高裁の重要判例をみても、婚外子の国籍や相続、女性の再婚禁止期間、性同一性障害の当事者の権利など、家族や性のあり方をめぐる問題が少なくない。さまざまな属性、背景の人が意思決定に関わることが望ましい。司法試験という門はだれにも開かれていると、若い世代に知ってもらうことも重要だ。法教育の一環で中学、高校などに出向き、法曹の活動を地道に伝え続けている人もいる。広がってほしい。 *10-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240229&ng=DGKKZO78825040Y4A220C2L83000 (日経新聞 2024.2.29) 共働き世帯「小1の壁」崩せ 首都圏、学童待機児童の対策急務、墨田区、3クラブ新設 定員3000人に増 首都圏で小学生を預かる放課後児童クラブ(学童保育)に希望しても入れない児童が増えている。2023年度の待機児童数は東京都、埼玉・千葉の両県で全国の4割を占めた。保育施設での待機児童解消が進む中、今度は小学校に上がると子どもの預け先がなくなる「小1の壁」が深刻になっている。こども家庭庁の調査によると、23年5月時点で全国の学童の待機児童は約1万6300人。東京都が約3500人と最多で、埼玉県の約1900人が続いた。共働き世帯が比較的多い首都圏で対策が急務だ。東京都墨田区は24年度予算案に学童クラブ関連経費を約1億5600万円計上した。25年4月ごろまでに3つの公立学童クラブを新設し、区内全体の定員を約3000人にまで増やす。同区では毎年全体の6割の児童が学童クラブの利用を希望。立地などで希望施設の偏りがあり、実際に入れなかった児童は23年度当初時点で約120人に上った。さいたま市は西区の栄小学校など4校で24年度から「さいたま市放課後子ども居場所事業」を始める。保護者の就労などの要件を必要とせず、午後5時まで遊べる利用区分を設けた。保護者が就労や求職活動をしている場合は午後7時まで利用できる。さいたま市の幼児・放課後児童課の担当者は「パート勤務をしている保護者などからは、夏休みをはじめとした長期休業期間のみ放課後児童クラブを利用したいという声も多く、様々な家庭のニーズに対応できる仕組みが必要だ」と話す。公立学童は経済的な負担が少ない一方、利用時間や学年などに制限があり、保護者の就労状況によっては利用できない場合もある。そこで自治体が注目するのが企業などが運営する民間学童だ。預かる時間は柔軟に対応し、独自のサービスを提供する学童が増えてきた。ネクスファ(千葉県柏市)が運営する学童は学習塾の機能も併せ持つ。塾を利用する場合は夕方から算数や国語、英語などを学ぶ。社会課題について調べたり発表したりといった場も設ける。4月には新たに流山市に教室を設け、多くの共働きの子育て世帯が流入している地域で事業の拡大をめざす。工作やプログラミングなどプラスアルファの体験を盛り込み、親世代からの支持を伸ばしているのは習い事一体型の学童保育だ。ウィズダムアカデミー横浜上大岡校(横浜市)にはランドセルを背負った子どもたちが笑顔で集まってくる。ただ見守るだけでなく、子どもたちが自宅で過ごすようにほっとできる環境をつくり出すため挨拶にも工夫をこらす。性別や学年、家庭環境も異なる子どもたちが楽しく過ごすために、力を入れているのが月ごとに選べるアクティビティーだ。ピアノや書道など定番の習い事からプログラミングや理科実験教室まで、保育時間中に様々な体験ができる。習い事や教室をこれまでどおり続けたいという場合は習い事の付き添いにも対応する。平日は送迎ができないという理由で習い事を諦めている家庭も多い。同校は「家庭では家族の会話をゆっくり楽しむ時間にしてほしい」とし、子どもの成長をともに見守る二人三脚のパートナーとなりつつある。全国の学童への登録児童数は23年度、過去最高を更新した。需要が高まる中、学童は子どもが家庭の代わりに過ごす居場所であるだけでなく、学びや成長ができる場所としての役割も求められている。 *10-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240225&ng=DGKKZO78736650U4A220C2EA5000 (日経新聞 2024.2.25) 民間保育園「学び」競う、待機児童減で定員割れに 学研HD・JPHDが体操や英会話 民間保育園を運営する企業が習い事サービスに力を入れている。保育の受け皿の拡大や就学前の子どもの数の減少で保育園に入れない「待機児童」が減少。地域によっては保育園が入園希望者を取り合う構図も出てきた。運営各社は体操教室や英語教育などで魅力を高め、収益的に経営が成り立つ子供の数を確保する「持久戦」を迫られている。こども家庭庁は毎年1度、待機児童数を調査している。最新の2023年4月時点のデータによると、待機児童の数は2680人と17年の2万6081人をピークに9割ほど減少した。こども園を含む保育所などの数は22年比345カ所増の3万9589カ所。定員に対する充足率は89%と全体としては「定員割れ」の状態だ。待機児童問題が深刻だった時代は、施設を開けば定員が埋まった。現在はサービスの質を上げなければ入園希望者を集められなくなっている。保育各社は保育料とは別に料金を徴収して様々な保育サービスを提供し始めた。学研ホールディングス(HD)は一部の園で22年度から体操教室を始めたほか、23年度には英会話プログラムも始めた。43施設中、埼玉や神奈川県内など26施設で提供している。週1回1時間のレッスンで、月6300円。外国人講師のビデオ通話で保育所とつなぎ、保育士が子どもたちの様子を見ながらサポートする。最大手のJPホールディングスは、英語や体操、ダンス、音楽などが習えるサービスを用意。ポピンズも、英語やアートなどの習い事プログラムのほか、アフリカの国立公園や水族館とオンラインでつなぎ、陸や海の動物の生態系を学べるプログラムを導入した。AIAIグループは、22年4月から運動プログラムと算数講座をセットにしたカリキュラムを提供している。運動は映像に映った講師のマネをして10分ほど体を動かす。運動後に机に座って、図形や引き算などの問題をプリント中心に解いていく。保育士が見回り、ヒントを出したり、丸付けしたりする。「付加的保育」と呼ばれるこうしたサービスは、保育園が立地する自治体によっては提供しにくいケースがある。認可保育所は、法律上で児童福祉施設とされる上、主に自治体からの補助金で運営されている。福祉的な観点から「平等」が重視され、保育料とは別にサービス料金をとる付加的保育を認めない自治体が多いからだ。こうした事情から、学研HDの英会話プログラムは保育時間外に実施し、講師などの派遣は外部に依頼。希望する保護者が直接、講師を派遣する事業者と契約する形をとっている。認可保育所と異なり、幼稚園や認可外保育所は比較的に自由に教育サービスを提供でき、預かり時間後も英会話やサッカーなどの課外授業を充実させている施設が多い。横浜市や川崎市のように認可保育所で付加的保育を認める自治体もある。JPHDなど保育各社は付加的保育が認められている自治体でのみ提供している。認めていない自治体では保護者が希望していても認可保育所での習い事は受けられない。保育大手の幹部によると、付加的保育を認めていない自治体から「保育所は福祉施設であり教育を施す場所ではない」「家庭の経済状況によって保育内容に差が出るため容認できない」と言われたこともあるという。日本経済新聞社が23年10月に実施した「サービス業調査」を通じて大手保育事業者に聞き取ったところ、同5月1日時点で「定員割れしている施設がある」と回答した企業は全体の52.8%(19社)にのぼった。定員割れしている施設数が「100施設以上」と答えた企業も2社あった。AIAIグループの貞松成社長兼最高経営責任者(CEO)は「待機児童の減少を受け、保護者が保育所を選ぶ時代になっている。魅力向上のために付加的保育が必要だ」と話す。収益的に経営が成り立たない場合、民間企業が事業撤退し、結果として子供の受け皿が不足する逆戻りの事態も懸念される。子どもの政策に詳しい日本総研の池本美香上席主任研究員は「これまでの政策が待機児童解消に重点が置かれており、保育内容の議論が置き去りにされた。習い事の質のチェックや、経済的な背景による教育格差などこども家庭庁が率先して実態調査し議論すべきだ」と話す。 *10-2-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15 (朝日新聞 2024年2月26日) 訪問介護報酬、実態に見合う改定か 新年度から基本報酬引き下げ、「加算」は手厚く 「物価高に負けない賃上げに必要な報酬の改定率を決定した」。岸田文雄首相がこう強調する新年度の介護報酬改定で、訪問介護の基本報酬が引き下げられたことに反発が広がっている。現場からは「在宅介護は崩壊する」との声も。 ■「セットで考えて」国は強調 訪問介護の基本報酬はなぜ引き下げられたのか。厚生労働省は二つの理由をあげる。一つは、訪問介護で介護職員の賃上げにあてる「加算」を手厚く配分したことだ。今回の改定では賃上げのため報酬全体を1・59%増という、例年を大きく上回る水準で引き上げた。このうち介護職員の賃上げに0・98%分、残る0・61%分は「介護職員以外」の処遇改善に配分。介護職員の賃上げは報酬への「加算」で対応すると決めた。加算は、職場環境の改善や研修の実施などの要件を満たせば基本報酬に上乗せできる制度。今回、職員のうち介護職員の割合が高い訪問介護では、全サービスで最も高い加算率(最大24・5%)を設定。一方、基本報酬の増減を左右する0・61%分は、事務職など介護職以外が多いサービスに手厚く配分された。もう一つが訪問介護の収支差率(利益率)の高さだ。基礎データとなる「経営実態調査」で訪問介護は2022年度決算が7・8%と、全サービス平均の2・4%を大きく上回った。特別養護老人ホームがマイナス1・0%、介護老人保健施設が同1・1%で赤字となる中、訪問介護は「かなり良かった」と同省はみる。訪問介護サービスは総費用も大きいため、「収支差率の全体を眺め、調整した」(同省担当者)結果、訪問介護の基本報酬は引き下げることになったと説明する。ただ厚労省は、加算を取得していない事業所が新たに取得できれば、基本報酬が下がっても報酬全体では11・8%増になるモデルケースも例示。みとりや認知症関連の加算も充実したとし、「改定は基本報酬だけでなく、全てをセットで考えてほしい」と強調する。加算がとれなければ報酬は減る。同省によると、従来の処遇改善加算を取得できていない訪問介護事業所は約1割、約3千事業所。同省は、3種類あり複雑化した処遇改善加算を統合し、手続きも簡素化して取得を促す。取得が難しい小規模事業者には「伴走型で相談できる仕組みをつくりたい」としている。 ■「高い利益率」根拠に疑義 しかし、厚労省の説明には反論が出ている。引き下げの根拠とした利益率の高さ(7・8%)について、元になった厚労省の経営実態調査のデータに疑問の声があがる。現場関係者の団体などは、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)といった集合住宅に併設され、効率よく訪問ができるタイプの訪問介護事業者の利益率が高いため、全体の数字が押し上げられていると指摘。地域を一軒一軒まわる事業者とは経営状況がまったく異なるとし、カテゴリーをわけて検討すべきものだ、と国を批判する。さらに、経営が厳しい小規模事業者はこの種の調査に応じる余裕がないとし、結果は実態を反映していないとする。経営実態調査では、延べ訪問回数別の分析がある。それによると、訪問回数が月「2001回以上」の事業所は利益率が13%台なのに対し、「201~400回」では1%台と、大きな開きがある。全体として、集合住宅併設型や都市部の大手事業所といった訪問回数が多い大規模な事業所の利益率が高く、小規模事業所が苦しい傾向をうかがわせるデータだ。処遇改善加算を含む全体で考えればプラスだという説明にも異論が相次ぐ。そもそも取得には様々な要件があり、小規模事業所にとって事務負担の重さも指摘される。厚労省は事務負担を軽くして取得を促すとしているが、どの程度効果があるかは未知数だ。さらに、改定後に最も高い区分の加算を取得しても、基本報酬の減額と相殺され、収入が減ってしまう場合がある。NPO法人「グレースケア機構」代表の柳本文貴さんは、事業所の訪問介護事業の23年分の実績をもとに現行と改定後の報酬を試算。処遇改善加算分では年間約144万円の増収だったが、基本報酬引き下げで年間約222万円のマイナスに。全体では年約78万円の減収となった。柳本さんは「厚生労働省が『処遇改善を含めるとプラス』と強弁するのはおかしい。頑張って処遇改善に取り組み、すでに上位の加算を取っている事業所は収入減になるだけだ」と話す。 ■現場は反発「終わりのはじまり」 「基本報酬引き下げは暴挙」。認定NPO法人「ウィメンズアクションネットワーク」(上野千鶴子理事長)、NPO法人「高齢社会をよくする女性の会」(樋口恵子理事長)など5団体は2月初め、引き下げに抗議し、撤回を求める緊急声明を公表した。2400を超す個人・団体から賛同を得た、としている。呼びかけ団体となった「ケア社会をつくる会」世話人の小島美里さんは記者会見で、「在宅介護の終わりのはじまり」と強い危機感を表明した。事業者や介護家族などからも抗議は相次ぐ。NPO法人「サポートハウス年輪」理事長の安岡厚子さんは、ヘルパー不足が原因で昨年春、訪問介護事業所の休止を余儀なくされた。「(介護職員の)地位向上に国が本気で取り組んでいればこんなことにはならなかった」と語り、引き下げは「言語道断」だとする。公益社団法人「認知症の人と家族の会」前代表理事の鈴木森夫さんは、介護を担う家族の介護離職防止のために訪問介護は不可欠で、「(引き下げは)介護のある暮らしを崩壊させる」と訴える。訪問介護員(ホームヘルパー)は介護が必要な高齢者宅で調理などの生活援助や身体介護を担う。介護福祉士や、所定の研修を修了した人らが務める。人材が不足し、有効求人倍率は15・53倍(2022年度)。若い世代が入らず、60代以上が約4割。年収は施設などの介護職員より約17万円少ない(介護労働安定センターの介護労働実態調査、22年度)。東京商工リサーチによると、23年の訪問介護事業者の倒産は67件。調査開始以降で最多だった。(編集委員・清川卓史) ■「基本給」増額すべきだった 川口啓子・大阪健康福祉短大特任教授(医療福祉政策)の話 ヘルパーの介護を受け、最期を自宅で迎えたいと考える人は多く、国も在宅介護を進めようとしている。だが報酬は不十分で、介護業界の中でも特に人手不足が深刻だ。事務手続きが煩雑で負担が大きい「手当」にあたる処遇改善加算ではなく、「基本給」の基本報酬を増額するべきだった。担い手は高齢化が進み、利用者や家族からのハラスメントも後を絶たない。事業者は人材紹介会社に多額の紹介料を払って人材を確保している。経営基盤となる基本報酬の減額が誤ったメッセージとなり、人手不足に拍車が掛かる懸念がある。 *10-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1202912 (佐賀新聞 2024/3/2) 漁協役員に占める女性0・5%、19都道府県はゼロ、農水省調査 全国の漁協役員に占める女性の割合が2021年度は約0・5%にとどまったことが2日、農林水産省の調査で分かった。19都道府県では女性役員が1人もいない。力仕事で長時間にわたる漁に出るのは圧倒的に男性が多く、女性の漁業者は少ないのが現状だが、後継者不足が深刻となる中、識者は「漁業や地域の活性化のため、若い世代や女性など多様な担い手が必要だ」と指摘する。調査は、海沿いの39都道府県と琵琶湖がある滋賀県の計40都道府県で、知事が認可した沿海地区の漁協が対象。848漁協の21年度の業務報告書を基に集計した。それによると、848漁協の役員計8346人のうち、女性は21県に計41人。非常勤の監事や理事が大半で常勤理事は1人だった。都道府県別で人数が最も多いのは広島と熊本の5人。続く福井、徳島、鹿児島が4人、岩手など3県が2人、残る13県は1人だった。熊本県は県の男女共同参画計画に基づき、県内の漁協に対し女性リーダーの育成や積極的な女性登用を働きかけている。アサリを専門とする広島県廿日市市の浜毛保漁協では、役員6人のうち2人が女性だ。福井県の雄島漁協(坂井市)は組合員の約半数が海女で役員10人中4人が女性。全5地区のうち4地区から女性を1人ずつ選んでいるという。徳島県で女性役員がいたのは比較的小規模な漁協で、正組合員の女性の割合も2割以上だった。鹿児島県では、水産会社の女性役員が監事に就いている漁協があった。農水省によると、漁業就業者はこの20年ほどで半減し、22年は約12万3千人。このうち女性は約1割に過ぎない。漁業とジェンダーに詳しい東海大の李銀姫准教授は女性の少なさについて、重労働であることに加え「海の神様は女性で、女性が船に乗ると神様が嫉妬する」という言い伝えが各地にあるといった文化的背景を説明。船や漁協に女性用トイレがない、女性に適した漁具の開発がないなど、環境が整っていないところもあるという。しかし高齢化や過疎化は深刻で、李准教授は「漁村の景観や食文化などの資源も活用して新たななりわい『海業』をつくり、地域を活性化させる必要がある」と指摘。そのためにも多様な視点は重要で「女性や若い人たちが入りやすくすることは、漁業の持続性につながる」と話している。元水産庁審議官で大日本水産会の高瀬美和子専務の話 漁業者は高齢化し、後継者や人手不足にも悩まされている。女性だけでなく若者や外国人など新しい力を取り入れなければ、いずれ立ちゆかなくなる。世界が持続可能な漁業を目指す中、資源管理や、限られた漁獲物の価値を高めるためのマーケティングや商品開発など、活躍する余白はまだまだあるはず。これまでのやり方に固執せず、機械化やマニュアル化、データ活用などで、誰もが参加しやすい漁業の方策を探っていくべきだ。
| 男女平等::2019.3~ | 04:15 PM | comments (x) | trackback (x) |
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2023,11,12, Sunday
(1)細田議長と保利元文科省の追悼
唐津市 2022.11.3朝日新聞 2021.11.4読売新聞 (図の説明:前は引き子の法被も粗末だったのだが、保利氏のご尽力でユネスコ無形文化遺産に指定されて山笠の塗り替え費用が国から出るようになったため、少しは豊かになったらしく、山笠の色に合わせて町毎に統一された引き子の絹の法被が見た目も美しくなった) 1)細田前衆院議長の死去について この前の前議員会で衆議院儀長としての元気なお姿を拝見し、「広津さん、頑張ってね」と声をかけて下さっただけに、*1-1のように、メディアが「細田さんが多臓器不全で亡くなった」と報道した時は、「ひどいバッシング続きで苦労が多かったのだろう」と思い、寂しく思った。 細田さんは、「東京教育大学附属駒場高校→東大法学部→通産省→運輸大臣等を勤めた父・吉蔵氏の議員秘書→1990年衆議院選挙で島根県全県区から初当選→11回連続当選」という絵に描いたようなサラブレッドであり、自らの選挙では苦労することのない人だったし、紳士でもあった(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B4%B0%E7%94%B0%E5%8D%9A%E4%B9%8B 参照)。 そのため、「一部週刊誌で指摘された女性記者へのセクハラ疑惑」というのは、私が経験したのと同様、本当の性格とは真逆の印象を擦り付けるための週刊誌によるあげつらいだと思われる。また、旧統一教会との接点についても、悪い結論ありきのしつこい質問が多すぎるが、「呼ばれて行ったので、リップサービスをした」というのは本当だろう。 そのため、*1-2のように、自分も経験のある議員仲間は、メディアや野党発の悪評を「またか」と思って気にしておらず、岸田首相は「心から哀悼の誠を捧げたい」「今日までの努力に心から敬意を表す」「様々なご縁で親しくしていただき、先輩としてアドバイスをいただいたことを思い返す」と述べられ、茂木自民党幹事長は「悲しみでいっぱい」と表現され、公明党の山口代表は「自公連立政権をより強固なものにする過程で大きな役割を果たしてもらった」と感謝しておられるのである。 2)保利元文科相の死去について 保利さんも前議員会で度々お会いし、同じ選挙区(佐賀三区)から出ていたため話が通じやすく、選挙区に関する会合等では親しくお話しすることが多かったため、*2-1・*2-2のように、誤嚥性肺炎で亡くなっていたという訃報に触れた時には寂しさを感じた。 保利さんは、「東京教育大附属中学・高校→慶應義塾大法学部→日本精工→日本精工フランス社長→父・保利茂氏の死去で1979年衆議院議員総選挙に佐賀県全県区から立候補し初当選→郵政民営化法案採決で反対票を投じて自民党離党→12回連続当選」という慶応ボーイで、大学時代は陸上部だったそうで、スマートなサラブレッドの一生だった(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BF%9D%E5%88%A9%E8%80%95%E8%BC%94 参照)。 保利さんは、佐賀県全県区から立候補した保利茂氏の選挙を手伝った時、「トラックに荷物を積んで佐賀県中を廻ったが、それでも佐賀方面では殆ど票が入らなかった」とボヤいておられた。佐賀方面は祐徳自動車社長の愛野さん父子の地盤だったからだろうが、金と時間がかかる中選挙区の大変さを垣間見た思いがした。 なお、2005年9月執行の第44回衆議院議員総選挙(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%AC44%E5%9B%9E%E8%A1%86%E8%AD%B0%E9%99%A2%E8%AD%B0%E5%93%A1%E7%B7%8F%E9%81%B8%E6%8C%99 参照)については、保利さんは郵政民営化法案採決で反対票を投じたため自民党の公認を得られず、もともと郵政民営化すべきだと思っていた私が自民党公認を得て佐賀3区で闘った。そして、佐賀県連の応援を受けた保利さんが小選挙区で当選し、私は九州比例で当選したが、総選挙後の特別国会で再提出された郵政民営化法案に保利さんたちは賛成票を投じられたものの、自民党を離党されることとなった。 郵政民営化すべき理由は、①国営のままでは郵便貯金を使った国の隠れ債務が発生するため、「隠れ○○」をなくして国の債務は全て国債残高に現れるようにすること ②国営では機動的なサービスができず、サービスも行き届かないこと 等の理由による。しかし、保利さんは自民党佐賀県連の要請で反対票を投じておられたため、自民党佐賀県連は無所属で立候補された保利さんを応援し、ネジレ選挙になったのだ。 その後、2008年に麻生内閣で自民党政調会長に就かれ、2009年8月執行の第45回衆議院議員総選挙では、保利さんが佐賀3区の自民党公認となり、私は九州比例の上位にもならなかったため、みんなの党佐賀3区から立候補して落選したわけである。 3)*2-3の記事で、私がひっかかった場所について *2-3は、①元唐津市議宮崎さんは「先生は厳しく、中途半端なことを言うとよくしかられた」「国のため地域のためを最優先に考え、政治家の範を示す実直な人だった」「唐津、佐賀のために頑張っていただき、本当に感謝の思いしかない」 ②熊本市議は「真面目な人柄で『選挙は情』だとよく話していたのが印象深かった」 ③昭和自動車常勤監査役の福岡修さんは「陣営の関係者に厳しかった分、自分にも厳しい方だった」 ④曳山取締会の山内総取締は「誠実で温厚な方だった」「曳山の塗り替えなど省庁との橋渡し役として支えていただいた」 等と語られたそうだ。 もちろんどの人も褒めておられるのだが、①のうち「先生は厳しく、中途半端なことを言うとよくしかられた」と③の「陣営の関係者に厳しかった分、自分にも厳しい方だった」というのは、中途半端だったり、徹底しなかったり、厳しくなかったりすれば生き残れないため、当然のことである。 しかし、男性の保利さんの場合は、「自分にも厳しい方だった」と言ってもらえるが、女性の私の場合は、「妥協しない」「優しくない」という批判が加わるため、女性であることにより、本来必要なことと矛盾した要求がなされるのである。 また、②については、選挙は本来なら「政策」が一番大切だが、政策に比べるべきものがない場合には情で決めることになるだろう。しかし、情にはいろいろな要素が入っており、その中には女性への偏見や差別も含まれているため、国民は心してそれを廃すべきである。 なお、④の曳山の塗り替えなどで保利さんが省庁との橋渡し役となっておられたことを、私は現職時代に聞き、それまで高額の費用を町内会が出して町内会費が高かったと言われていたため、無形文化財を支えるために良いことをされたと思っていた。ただし、要求される厳しさと温厚さを両立できるためには、選挙に晒されない秘書がしっかりしていて、憎まれ役を引き受けてくれることが必要なのである。 (2)政治における女性登用と無意識の偏見 2023.3.9日経新聞 2023.6.22日経新聞 2023.6.22西日本新聞 (図の説明:1番左の図のように、世界ではクウォータ制を採用している国が多く、スペインは閣僚の40%以上、フランス・イタリアは下院の公認候補者男女同数・ブラジルも30%以上となっている。その結果、左から2番目と右から2番目の図のように、日本では政治・経済分野の特にリーダー層でジェンダーギャップが大きく、男女平等が進んでいない。1番右の分野別ジェンダーギャップ指数を見ると、政治・経済分野で男女格差が大きく、健康はまあ良いものの、教育は大学以上で専攻選択や大学院進学において男女格差が大きい) 1)日本の政治には女性が少なく世襲議員が多いこと 岸田政権は、世界経済フォーラムの「ジェンダーギャップ報告書 2023年版」で日本が146カ国中125位で、特に政治分野が138位と足を引っ張っている状況を改善するためか、「女性活躍」を掲げて東証プライム上場企業の女性役員比率を2030年までに30%以上にする目標を示し、第2次岸田再改造内閣で閣僚の女性比率を30%に近づけるよう引き上げられたが、これには、私も賛成だ。 しかし、*3-1のように、少子化対策に育児の実態を反映させようと、2児を育てている加藤元国交政務官をこども政策・少子化担当相に起用されたのは、副大臣を経験していない抜擢人事だからではなく、「(世襲国会議員という特殊な立場で)自分の2児を育てただけで少子化の原因を把握でき、少子化を改善できる」と考えているのなら、子育てを馬鹿にしていると思った。本気で少子化対策を考えているのなら、経験豊富な子育て関係の専門家チームが適任である。 また、首相は、「自民党内に女性議員が少なく、なかなか適任者がいなかった」と漏らされたそうだが、女性5人の閣僚のうち初入閣の3人全員が世襲議員というのも、男性の場合と同様、限られた特殊な経験しかないため問題だ。しかし、自民党の女性議員比率が約1割しかなく、その多くが世襲議員になる理由は、事例を挙げながら以下で詳しく説明するが、根本的には、選挙制度・そこで票を集めやすい候補者の選別と党の公認・メディアの報道の仕方(ここが重要)による国民の投票行動の結果と言わざるを得ない。 なお、6月に閣議決定された児童手当の拡充などを含む「こども未来戦略方針」の財源確保ができていないとされているが、兆円単位の無駄使いが頻発しているのに、政府が社会保障の歳出削減や他の社会保険から少子化対策財源を出すというのは、社会保障を軽んじていると同時に、現在でも不足している他の社会保険財源の流用にほかならない。また、「子ども真ん中・・」というキャッチフレーズは、「子どもが生まれたら、(特に)母親が犠牲になれ」ということであるため、それなら子どもは作らずに仕事に専念しようという女性を増やすだけであろう。 その極端な事例が*3-6で、内容は、自家用車内に児童が放置されて死亡するケースが相次ぐ中、このような事を防ぐ目的として埼玉県議会自民党が9月の定例議会に提出した埼玉県虐待禁止条例案(別名:「埼玉のぶっ飛び条例」)だ。 その内容は、「小学3年生以下の子を自宅等に残したまま外出する(ゴミ捨ても含む)」「18歳未満の子と小学校3年生以下の子だけで留守番させる」「小学生だけで公園に遊びに行かせる」「児童を1人でお使いにやる」「小学校1~3年生だけで登下校させる」を「虐待に当たる」として禁じようとしたものだが、これは子どもを過保護にかつ自由を束縛しながら育ててしまうと同時に、実質的に共働きでは子育てできないようにする条例である。そのため、多くのオンラインによる反対署名で廃案になったが、定例議会に提出する前に、内部で理由を説明して反対できる県議がいなかったのが問題である。 従って、これらの矛盾に平気でいられるのは、年金等の社会保障に頼る必要のない特殊な環境で育ち、育児・介護を含む家事はこれまでもしなかったし、これからもする予定のない(多くは男性の)議員であろう。 2)「女性ならではの感性」を強調すると問題になる理由 *3-2は、①岸田政権は新たな布陣で女性登用への消極姿勢を転換した ②男性だけだった自民党4役人事で小渕優子氏を選対委員長に就けた ③首相は自信に満ちた表情で「女性ならではの感性・共感力を十分発揮して頂くことを期待したい」と語った ④女性登用の象徴的存在で首相が「選挙の顔」と称した小渕氏は「政治とカネ」をめぐる問題がある ⑤今回の内閣改造で首相を含む大臣20人のうち世襲議員は8人 等と記載している。 世界経済フォーラムの「ジェンダーギャップ報告書」で日本も順位を上げる目的だったとしても、①はよいと思う。しかし、②④のように、小渕優子氏は総額約3億2千万円に及ぶ架空の寄付金を関連団体間で計上したり、支援者向けに開いた「観劇会」の収支を改竄したりして元秘書が政治資金規正法違反(虚偽記載・不記載)で起訴され、罪を認めている。 私は、何のために架空の寄付金を関連団体間で計上したのか不明であるため、小渕氏の関連団体の虚偽記載・不記載が重い罪なのか否かは判断しかねるが、金額が大きいだけに、元秘書のみに罪を負わせて「自分は全く知らなかった」というのはあり得ないと思った。そのため、謝るよりも前に、何のためにそれを行い、それは重い罪に当たるのか否かについて説明すべきだったのだが、そのような時に、父の時代からの元秘書が一人で罪をかぶって小渕氏には影響が及ばないようにしたのは、考え方によっては世襲議員の特権である。 このように、最初から億単位の金があり、熟練した父親時代からの秘書がいて当選回数を重ね易いのが世襲議員である。そして、適材適所か否かは問わず、当選回数を重ねれば大臣や党内の重要ポストにも就いていくため、それが地元に還元されることを期待して、地元は弔い合戦と称して世襲議員を立候補させ、先代に続いて応援する。その結果、⑤のように、内閣は首相を含む大臣20人のうち世襲議員が8人ということになるわけである。 さらに、麻生元首相が2008年9月に最初に小渕優子氏を内閣府特命担当大臣(少子化対策・男女共同参画・公文書管理・青少年問題・食育)として登用した背景には、将来、世襲議員として立候補する自分の息子の面倒をしっかり見てもらいたいという意図があったと言われており、世襲議員同士の助け合いもあるようだ。 *3-3-1は、⑥首相の「女性ならではの感性や共感力を十分発揮しながら仕事をしていただきたい」「土屋品子復興大臣には、女性ならではの視点を最大限に活かし、被災地に寄り添った復興策に腕を振るってもらう」という言葉は、「ステレオタイプの助長や無意識の偏見」 ⑦「あくまでも適材適所。我が党の中に女性議員は少ないという指摘があったが、より増やしていかなければいけないという問題意識は認識している」 ⑧「現在活躍している女性議員もそれぞれ豊富な経験を持ち、優秀な人材は沢山いるが、今回は経済・社会・外交及び安全保障の3つの柱を中心に活躍できる方を選んだ」 ⑨「女性ならでは」という表現が意味するのは、「女性は育児をするもの」「女性特有の気配り」ということであり、無意識の偏見をばら撒き追認している ⑩第2次岸田改造内閣は、19の閣僚ポストのうち女性は5人で26%、3割に達せず ⑪男性優位組織の過去の成功体験に基づいた構造を変える必要がある」 としている。 *3-2の③と*3-3-1の⑥は、首相は「女性ならではの感性・共感力を十分発揮して頂くことを期待したい」と語られ、これが「ステレオタイプの助長や無意識の偏見」と言われる」理由は、女性は女性独特の感性や共感力しか持てないという前提があるからだ。 例えば、現実は、生活者や消費者としての視点は、女性だから持っているわけではなく、多くの場合、男女の性的役割分担によって消費・生活・家計を担当している女性が多く、男性は消費・生活・家計を担当していないから持っていないのである。しかし、これを是としているわけではないため、「女性ならではの感性」を強調することは、⑨のように、「ステレオタイプの助長」になるのである。 また、「女性ならではの感性」というのは、(私は思いつかなかったため)「女らしさ」で調べてみたところ、i) 淑やか(態度・服装・話し方・声・雰囲気等) ii) 慎ましい iii) 優しくて細やか iv) 感情豊か v) 子供を護ろうとする本能(母性)が強い vi) 本能的(男性のように理屈や理性を先行させない) vii) 嫉妬は女の常(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A5%B3%E3%82%89%E3%81%97%E3%81%95 参照)等が書かれていた。しかし、これは大した教育も受けられず、婚家に入って子を産み育てることに専念させられた時代・階層の女性の話であって、現在は事情が全く異なるわけである。 例えば、学問や仕事をする上で、慎ましかったり、感情的で本能的であったりすることは、邪魔にはなっても長所にはならない。また、淑やかで優しい話し方などとして、前置きや敬語・謙譲語(使い方の誤りもよく見かける)の多すぎる話し方をされるのも、忙しい時にいらいらさせられ、「要するに何?結論から言って」と思う。つまり、「女性ならではの感性(=女らしさ)」とは、社会的に作られた性(ジェンダー)そのものであって、それをすべての女性に押しつけるのは、論理的で男性よりも優秀な仕事をする女性も多い中、女性蔑視や女性に対する「無意識の偏見」を助長するのだ。 なお、「嫉妬」という言葉は女偏なので、いかにも女性特有のような印象を与えるが、一夫多妻ならともかく、男性の嫉妬も著しく多い。そのため、文字や日本語(漢字は中国語)の中に潜む女性に対する偏見も洗い出すべきで、これは英語では既に行われているのである。 結論として、⑦⑧のように、豊富な経験と能力を持つ優秀な女性議員を増やすことは必須で、そのためには、⑩のように、少なくとも3割の女性議員や閣僚はいるべきである。そして、⑪の男性優位組織が日本でも成功していなかったことについては、後で例を挙げて記載する。 3)理工系大学「女子枠」の公平性について *3-3-2は、①2024年度入試は理工系学部を中心に「女子枠」を設ける大学が多い ②我国では理工系分野で女子の人材育成が必要 ③東京理科大はダイバーシティー推進に力を入れ、女子の少ない工学系3学部16学科に『総合型選抜(女子)』を設けて理工系分野への女子の進学を後押し ④まず大学全体の入学定員の1.2%弱にあたる各学科3人計48人まで、将来リーダーシップを発揮する人材として意欲・向上心のある女子学生を受け入れ ⑤選考方法は調査書・志望理由書等で書類審査を行った上、面接・口頭試問と小論文を実施 ⑥意欲や目標のある人ほど大学入学後も自分を高め、リーダーシップを発揮する人材になり得る ⑦男女で視点や観点が異なるため、研究で多様な角度からの気づきが出て、良い刺激と技術革新を期待 ⑧理工系女子のロールモデルが少ないため就職や卒業後を心配する保護者がいるが、今は理工系女子は活躍の場が多く企業から引く手あまた ⑨女子の少ない学問分野が女子に不向きなわけではなく、『総合型選抜(女子)』は大学からの歓迎の証しということを高校の先生や父母に知っていただきたい ⑩2024年度入試で東京工大・東京都市大等も女子枠を新設、東京工大は2025年度入試で女子枠を募集人員全体の約14%にあたる143人まで拡大 ⑪国内で最初に女子枠を設けた名古屋工大も2024年度入試で女子枠を拡大 ⑫奈良女子大は2022年度に国内の女子大初の工学部開設 ⑬女性のエンジニアや研究者を育てていこうという動きが全国で活発化 と記載している。 このうち、⑦の「男女で視点や観点が異なるため、研究で多様な角度からの気づきが出る」というのは、岸田首相が言われた「女性ならではの視点を最大限に活かして欲しい」という言葉とどう違うかと言えば、学問では男性と対等かそれ以上の成績を持ちながら(ここが重要)、男女の性的役割分担によって消費・生活・家計を担当している女性の視点を活かせば、「研究で多様な角度からの気づきが出て技術革新に繋がる」ということである。 それなら、①③④⑤⑥⑩⑪のように、「『女子枠』など作らず、通常の入試で入るのが公平だ」という批判があるが、⑧のように、理工系女子の良いロールモデルが少ないため卒業後の就職や結婚を心配する保護者がいたり、⑨のように、女子の少ない学問分野は女子に不向きだと考える高校教師・保護者・周囲の環境があったりするため、本来は能力があるのに理工系に進学できる学力を備えた女子が少なくなるからである。その例として、⑫のように、女子大には理工系学部のないところが多いし、女子高には男子高と違って理系進学コースのないところが多い。 しかし、これまでも今も、日本の工業は、素材や部品には(マニアックなくらい)強いが、最終製品に弱かった。その理由は、最終製品は生活環境の中で使われ、性的役割分担の下では多くの最終製品が女性に選択されるため、技術者の中に消費・生活・家計を担当している女性の視点がなければ、生活にマッチしたデザインのよい製品ができないからである。 このように、②のように、「理工系分野で女子の人材育成が必要」で、⑧のように、「理工系女子は活躍の場が多く、引く手あまた」で、⑬のように、「女性のエンジニアや研究者を育てていこうという動きが全国で活発化している」が、女子学生の周囲の認識や女子の一般入試における実力がついて行っていない現実があるため、「女子枠は不公平」とは言えないのである。 4)副大臣26人・政務官28人の計54人は全員男性で女性0だったこと *3-4・*3-5は、①副大臣・政務官54人の人事で女性は0 ②首相は「チームとして人選した結果」と説明したが、内閣のチームなら閣僚・副大臣・政務官を合わせた政務三役の構成に目を光らせるべき ③多様な国民の意見を政策決定に公平・公正に反映させるため、政治分野での女性参画の拡大は重要 ④「指導的地位に占める女性の割合を2020年代の可能な限り早期に30%程度」とするとしているが、第4次計画の「2020年30%程度」からは後退 ⑤自民党には衆院21人・参院24人の計45人の女性議員がいるが、推薦名簿に女性を入れない派閥が多かった ⑥閣僚になるには副大臣・政務官として経験を積んで専門性を磨いておくことが有用で、女性を副大臣・政務官に就けることは女性閣僚を増やす道 ⑦女性比率が2割に満たない国会議員構成は変えなければならず、国際的に低い水準にある女性議員の数を増やすことも不可欠 ⑧政治分野における男女共同参画推進法は、政党に男女の候補者が均等になる目標設定を求めるが、衆院議員に占める女性割合は1割 ⑨小選挙区の公認候補は1選挙区1人に限られるため、現職を優先すると大半を占める男性を女性に交代させるのは容易でないが、比例代表なら女性を優先して名簿上位にすることが可能 ⑩政治活動・選挙運動中のハラスメント被害には女性が遭いやすいため、議席の一定割合を女性に割り当てる「クオータ制」は検討に値する 等と記載している。 このうち、①②③④⑥⑦⑧⑨については、全く同感だ。また、⑤については、自民党の派閥の多くが副大臣・政務官の推薦名簿に女性を入れなかったのは、何故だろう? 男性の待機組が多いからなのか、女性は標的にされやすいからなのか、その理由が不明である。 また、⑨に付け加えたいことは、まず比例代表で女性を名簿上位にして当選させ、その後、空いた小選挙区の公認候補にしていけば、現職として活動した後であるため状況がわかっており、小選挙区でも公認すれば当選し易くなるということだ。 これに対し、「比例代表で女性を名簿上位にすること」や「クオータ制」も女性優遇との批判があるが、⑩のように、女性は、そもそも公認されにくかったり、選挙運動中にハラスメント被害に遭い易かったり、良い政治活動をしてもメディアはじめ一般の人のステレオタイプな女性蔑視や無意識の偏見によって評価されなかったりするため、議席の一定割合を女性にする「クオータ制」は、それがなくても議席の30~40%以下になる性がなくなるまで行う必要がある。 (3)一般社会における女性登用と職場における女性蔑視 *4-1は、①2022年度の日本の管理職(企業の課長相当職以上)の女性割合は12.7% ②2022年10月時点で従業員10人以上の企業6000社を調査したところ、企業規模別では従業員数10~29人の企業が21.3%と最大 ③300~999人の企業は6.2%、1000~4999人では7.2%、5000人以上では8.2%と大企業の女性管理職割合が低い ④2021年の女性管理職割合で、日本は13.2%で、スウェーデン43.0%・米国41.4%・シンガポール38.1%と主要15カ国最低 ⑤政府は2030年までに東証プライム上場企業の女性役員比率を30%以上にする目標で、2022年から常用労働者301人以上の企業に男女賃金差の公表を義務づけた ⑥厚労省の担当者は「女性管理職の登用は息の長い取り組み」「引き続き登用率の向上を呼びかけたい」と話す 等と記載している。 また、*4-2は、東大の吉知郁子教授が、⑦雇用は労働者の経済的安定・社会資源の分配・自己確立・成長機会や居場所の提供・孤立防止等の効果を有す ⑧現役世代のセーフティーネットは、良質の雇用確保が最重要課題 ⑨良質な雇用の理想とされてきたのは大企業の正社員で、終身雇用・年功序列・手厚い手当で労働者と家族の生活を支えた ⑩1970~80年代には、男性稼ぎ主が主婦と子ども2人を養う世帯が標準モデルとされ、社会保障も労働者本人の厚生年金だけでなく第3号被保険者制度や遺族年金制度などによりこのモデルを補強した ⑪日本型雇用慣行の標準モデルは、自分自身や家族のケア責任を負わず、仕事に無制限に時間と労力を割ける無限定正社員 ⑫労働者本人は安定雇用と引き換えに長時間労働や転居も伴う頻繁な異動を甘受せねばならなかった ⑬判例は転勤命令を拒否した場合は懲戒解雇も有効とし、長期雇用や高待遇を保証しない企業でも、その解釈は同じ ⑭こうした価値観は健康障害や格差の固定と増大、多様性の阻害といった弊害ももたらした ⑮生活を支えるはずの仕事がストレスを生み、健康を害し生命を失う原因にもなった ⑯女性の労働力率が出産・育児期に落ち込み、出産離職率は約3割に及ぶ ⑰女性が正規雇用で働く割合は20代後半の約60%がピークで、年齢上昇につれて低下するL字を描き、女性労働者の過半数は非正規で働く ⑱晩婚化・非婚化・超高齢化・少子化という不可逆な社会変化が「標準」世帯を過去のものにしている ⑲労働力の先細りや教育水準の高まりを考慮すれば、性別・年齢・婚姻状態を問わず健全な雇用機会を確保することが必要 ⑳日本では男性の有償労働時間が突出して長く世界最長で、その裏返しとして、家事・育児などの無償労働時間は最短で男女格差は5.5倍 等と記載しておられる。 このうち①の課長は「上層部と社員の橋渡しをする中間管理職」であり、⑨のように、日本企業は「年功序列」「終身雇用」のため課長になるまでの平均勤続年数が20年で40代が中心、外資系企業は経験・能力等の「実力」を重視して活躍できる人材をすぐ戦力として適切な役職に割り当てるため「30歳で中間管理職は当たり前」であり、日本企業よりも管理職の平均年齢が低い(https://www.101s.co.jp/column/middle-management-age/ 参照)。 また、IT導入で現場の情報は上層部に直接伝えることが可能になり、フラットな組織の方が状況変化に素早く対応できるため、上層部と現場社員の橋渡し役である中間管理職は最小限に減らすことが可能だ。そのため、中間管理職を管理職に入れるべきか否かは疑問のあるところだ。 それにしても、②③のように、従業員10人以上の企業6000社で、課長まで入れても管理職に占める女性割合は2022年度は12.7%にすぎず、企業規模別に見ると従業員数10~29人が最大の21.3%、300~999人は6.2%、1000~4999人は7.2%、5000人以上は8.2%と、大企業で女性管理職の割合が低い。そうなる理由は、男性社員を採用しやすい大企業ほど男性優先で採用し、研修や配置でも男性を優遇しているためで、これは、男女雇用機会均等法違反である。 そして、④のように、2021年の比較で、女性管理職割合は、日本は主要15カ国のうち最低であるにもかかわらず、⑥のように、厚労省担当者は「息の長い取り組み」「引き続き登用率の向上を呼びかける」などと、やる気のない態度なのである。 なお、政府は、⑤のように、2030年までに東証プライム上場企業の女性役員比率を30%以上にする目標を掲げ、2022年から常用労働者301人以上の企業に男女間賃金格差の公表を義務づけたが、公表しただけで女性役員比率が上がるわけではない上、300人以下の企業の男女間賃金格差は容認されているのである。しかし、企業規模で分けるべきではない。 そして、⑦⑧のように、雇用が労働者の経済的安定・社会資源の分配・自己確立・成長機会や居場所の提供・孤立防止等の効果を有し、現役世代のセーフティーネットとして良質の雇用確保は最も重要であるにもかかわらず、女性労働者はその良質の雇用から除外されているのである。 そして、⑩の「1970~80年代に男性稼ぎ手が主婦と子2人を養う世帯を標準モデルとし、社会保障も労働者本人の厚生年金だけでなく第3号被保険者制度や遺族年金制度等によってこのモデルを補強した」というのは、⑲の教育水準の高まりは戦後の男女平等型教育制度の開始から始まっており、1970~80年代には、既に男性と同じかそれよりも「実力」のある女性も多く生まれていたが、日本企業が良質の雇用機会を与えなかったため、外資系企業で働いていたという事情があり、第3号被保険者制度等は不公平の上塗りでしかなかった。 しかし、どこで働いても、⑪の「仕事に無制限に時間と労力を割けること」が標準だったため、⑫⑬のように、育児・介護はじめケア労働をする人に対するケア労働罰は確実に存在した。そして、⑯のように、女性の労働力率は出産・育児期に落ち込んで出産離職率は約3割に及び、⑰のように、女性が正規雇用で働く割合は年齢が上がるにつれて低下するL字カーブを描き、女性労働者の過半数は非正規で働かざるを得ない状況になっているのである。 そのため、⑱のように、静かに非婚化・晩婚化・無子化が進み、その結果として少子高齢化が進行したのであるため、⑲の性別や婚姻状態を問わない健全な雇用機会の確保は、1960~70年代から必要だったのだ。そして、政治が遅れ馳せながらやっと著しい少子化に気づいた時には、既に手遅れだったのである。 しかし、そう言う私でさえ、近年よく言われる「女性は生理痛が大変で、更年期障害があり、その間に長期育児休暇をとる」というのが本当であれば、やはり女性は戦力にならず、採用・研修・配置で配慮してもやり甲斐がないため、男性を雇いたいと思う。そのため、「すべての女性が、働けないほど生理痛が大変で、更年期障害もあり、それに対する対処方法はない」などという誤った触れ込みをメディアが大々的に行うと、実質的に女性差別を助長することになるのだ。 (4)外国人の登用について 1)政府有識者会議の最終報告書について 2023.11.21、2023.11.20日経新聞 2023.11.25東京新聞 (図の説明:左図のように、日本側にニーズがあるため、外国人労働者総数は増えて180万人以上になっているのだが、中央の図のように、技能実習生の所得は高卒非正規より低く、家族帯同もできない。そのため、右図のように、政府の有識者会議が、技能実習から育成労働に変更する新制度案の最終報告書を出したが、就労期間を3年に限定し、対象分野は特定技能と同じに限定し、《日本語能力と技能が要件を満たせば》1年間で転籍可能にするなど、未だ外国人労働者に対する制限の多い人材鎖国状態である) *5-1-1は、①厳しい職場環境に置かれた技能実習生の失踪が相次ぎ人権侵害の指摘がある ②政府有識者会議は、国際貢献を目的とした「技能実習制度」を廃止し、外国人材の確保と育成を目的とした「育成就労制度」にする最終報告書をまとめた ③基本的に3年で一定の専門性や技能を持つ水準にまで育成 ④受け入れ職種は介護・建設・農業等の分野に限定 ⑤特定技能への移行には技能と日本語試験の合格という条件 ⑥「転籍」は1年以上働いた上で一定の技能と日本語の能力があれば同じ分野に限り認める ⑦実習生の多くが母国の送り出し機関や仲介者に多額の手数料を支払って来日しているので、日本の受け入れ企業と費用を分担する仕組みを導入 ⑧農家は新たな制度に期待しつつ、雇用主の負担が増えることを懸念 ⑨1年以上働いていること等を要件に「転籍」を認めるので人材流出を懸念 ⑩「日越ともいき支援会」には、職場での暴力・残業代未払い・妊娠による雇い止めなど実習生からの相談が多く、今年に入って保護した人数は127人。「海外の若者たちが日本に来てよかったと思う制度にしないといけない」と話す ⑪野村総研の木内エグゼクティブ・エコノミストは、「人権侵害の温床は『転籍』問題で、条件が緩和されることで企業も従来以上に実習生の人権に配慮することになる」「日本企業にとっては人材を確保していくための重要な仕組みだが、企業がコストをかけて技能を習得させる努力をしても転籍されるという問題が出る可能性もあり、その場合は国が支援することも検討材料」 ⑫日本は、賃金が上がらず円安も進んで、待遇や働く環境を改善しなければ実習生が来てくれない状況なので、日本経済を支えてもらう長期の視点で見直す必要がある 等としている。 これに加えて、*5-1-2は、⑬最終報告書は現行の厳しい転籍制限で「人権侵害が発生し、深刻化する背景・原因となっている」と記載 ⑭政府有識者会議は、「転籍」の制限期間は現行「3年」から「1年」への緩和を原則としつつ、当分1年を超える制限を認める等の「経過措置」の検討を求めた ⑮政府有識者会議が転籍制限期間延長等の経過措置を「検討」としたのは、地方の事業者や自民党内から「人材が都会に流出する」等の声が相次ぎ、「懸念への対応が必要」と判断したため ⑯経過措置の「当分の間」がどれだけ続くかも透明 ⑰技能実習は2023年6月末時点で全国に約36万人在留、特定技能は2023年6月末時点で約17万人が在留 としている。 日本国憲法は22条第1項で、「何人も公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択 の自由を有する」 と職業選択の自由を保障しており、労働基準法は3条で「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない」と定め、労働組合法は5条2項4号は「何人もいかなる場合においても、人種、宗教、性別、門地又は身分によって組合員たる資格を奪われない」とし、職業安定法3条は「何人も、人種、国籍、信条、性別、社会的身分、門地、従前の職業、労働組合の組合員であること等を理由として、職業紹介、職業指導等について、差別的取扱を受けることがない」とし、外国人であることを理由に差別的扱いをしてはならないと規定している。 しかし、①⑩⑪⑫⑬のように、技能実習生は転籍が制限され、人権侵害が発生しても我慢するか、失踪するかしか方法がなく、これが外国人労働者に対する人権侵害が深刻化したり、待遇や働く環境が改善されない背景・原因となっているため、転籍の自由を認めることは重要である。 そのため、⑤⑥⑭⑮⑯のように、政府有識者会議が特定技能への移行に技能と日本語試験の合格という条件を設け、「1年」であっても「転籍」に制限期間や「経過措置」の検討を求めたのは、外国人労働者に差別的労働条件を押しつけ、人権侵害する状況を温存することになる。 これに対し、⑦の「実習生の多くが母国の送り出し機関や仲介者に多額の手数料を支払って来日している」というのは、メリットがあるから外国人労働者を受け入れている日本企業が費用を全額負担するのは当然であり、その金額が高すぎるのなら、それこそ日本政府が相手国政府に交渉して下げてもらうべきである。 また、⑧⑨のように、農家が「雇用主の負担が増える」「転籍で人材流出する」等を懸念しているのであれば、i)農協その他の派遣労働事業者が外国人労働者を雇用し、繁忙期の農家に派遣することによって生産性を上げ、外国人労働者の所得を上げる ii)農業法人が外国人労働者を雇用して大規模な農業を行い、自ら及び外国人労働者の所得を上げる iii)外国人労働者にも独立して日本の農業を担えるという夢を与える 等、外国人労働者を使い捨てしなければ、日本で農業に従事したい外国人は多いと思うし、新しい作物を事業化することも可能であろう。 そのため、②のように、政府有識者会議が建前と本音の異なる「技能実習制度」を廃止し、「育成就労制度」に移行する最終報告書を纏めたことは評価するが、③のように、「3年で一定の専門性や技能を持つ水準にまで育成」するには、日本人と同様、働きながら夜間中学・高校に通う方が効率的で、雇用主の負担も少ない。 さらに、⑰のように、2023年6月末時点で、技能実習約36万人、特定技能約17万人が在留していても、④のように、受け入れ職種を介護・建設・農業等の分野に限定しているため、保育や高齢者の生活援助はじめ政府が思いつかないような多くの産業で外国人労働者を獲得できず、その皺寄せがケア労働をしている女性にかかっていることも忘れてはならない。 2)日本は外国人に「選ばれる国」になれるのか? Nipponcom 出入国在留管理庁 2022.3.23GlobalSuponet (図の説明:少し前のデータになるが、左図のように、国籍別技能実習生の数は、2017年にベトナムが1位になっているが、現在は円安と他国の賃金上昇で日本の優位性が下がっている。このような中、中央の図のように、2019年に「特定技能」という在留資格を作ったが、特定の産業分野に限られ、「技能実習」から「特定分野」に移行するのにも要件を課している。その特定分野は、右図のように、細かく制限されているが、これは日本国内で労働力が余っている時ならまだわかるものの、少子高齢化で人手不足の時代には合わない) *5-2-1は、①「選ばれる国」になれるか否かは今が正念場で、外国人が歓迎されていると感じる環境提供が必要 ②職場や地域社会で外国人が共生できる教育・福祉の基盤づくりが急務 ③6月に「特定技能」で長期就労や家族帯同ができる業種を大幅に増やし、永住に道を開いて外国人労働者受け入れ政策は今や転換点 ④日本には総人口の2%、約300万人の外国人が暮らして第2世代も社会に出始めている ⑤日本語がままならないまま社会に放り出されて疎外感を感じ、日本社会に溶け込めない外国人を放置しておくのはリスク ⑥浜松市は外国人家庭を訪問して相談に応じるなどきめ細かな支援で学校に通っていない子を0にしているが、多くの自治体はそこまで手が回らない ⑦日本国憲法は義務教育の対象を「国民」としているが、日本は「すべての者」への教育提供を定めた国連人権規約と児童の権利条約に批准しており、国籍を問わず子に教育を受けさせるのは政府の責任 ⑧外国人がどこでも教育・福祉を受けられるようにすべき ⑨「移民政策はとらない」「単純労働者は受け入れない」という制約を取り払って日本の外国人受け入れ制度を議論する時 ⑩日本国際交流センターの円卓会議は、外国人を日本社会の一員とし、対等な社会参加で共生社会を築くことを理念に掲げる「在留外国人基本法」を提唱し、そのための基盤整備、財源確保は国の責務とした ⑪企業も意識を変えて長期就労を前提に昇給・昇進や能力開発を日本人と同等にし、優秀な人材は幹部候補として育て、独立を支援するくらいの度量がないと魅力的な会社に映らない ⑫外国人に選ばれる職場づくりは、多様な人材が活躍できるオープンで創造的な企業風土 ⑬豊かで活力ある経済の維持には、開放的な社会であることが前提 ⑭それは古来より海外との交流を深めることで発展してきた日本の歴史 としている。 このうち⑨の「移民政策はとらない」「単純労働者は受け入れない」と言う人は、メディアや国民だけでなく国会議員にも少なからず存在するため驚くのだが、少子化対策に何兆円も使うより外国人の受入制限を緩めた方が、i)どの産業の人手不足もすぐ補える ii)生産年齢人口が増えるため、少子高齢化の諸問題(負担増・給付減)をすぐ解決できる iii)日本に来る外国人は学びや仕事に積極的な人が多いため、日本文化に良い影響を与える iv)人口密度が高すぎたり、若年層が余っていたりする国もあるため、国際貢献になる v)日本が物価高にならず、国際競争力を持てる 等の理由で著しく効果的である。 従って、①②⑧⑩のように、職場や地域社会で外国人が共生できる教育や福祉の基盤を作り、外国人が歓迎されていると感じる環境を提供して、日本が「選ばれる国」になることは必要不可欠だ。そのため、⑩の日本国際交流センターの「在留外国人基本法」も良いと思うが、私は、外国人差別だけではなく、女性差別・高齢者差別・障害者差別の禁止も含む公民権法を定めるのがBestだと考えている。 しかし、③のように、「特定技能」で長期就労や家族帯同ができる業種を大幅に増やしたといっても未だ制限が多すぎ、介護は認めるが生活援助は認めないなど、できないことを挙げればきりが無いのだ。そのため、政府は、やれる仕事のポジティブリストではなく、やれない仕事のネガティブリストを作るべきであり、ネガティブリストを作るに当たってはネガティブな理由・ネガティブにしておくことによる日本経済への影響について国民的な議論をする必要がある。 そして、④⑤⑥⑦のように、日本には、現在、総人口の2%、約300万人の外国人が暮らしており、次世代も社会に出始めているそうだが、日本語も学校教育も不十分なまま社会に放り出されれば職業選択の幅が著しく狭くなって疎外感を感じ、犯罪を犯さざるを得なくなる。そのため、浜松市はきめ細かな支援で学校に通っていない子を0にしているが、そこまでできない自治体も多いため、「すべての者」への教育提供を定めた国連人権規約と児童の権利条約(日本も批准)に従って、日本政府の責任で国籍を問わずすべての子に教育を受けさせるべきである。 さらに、外国人労働者が日本を選んで良かったと思えるためには、⑪⑫のように、企業も長期就労を前提に昇給・昇進や能力開発を日本人男性と同じにし、優秀な人材は幹部候補として育て、将来は独立も支援する必要がある。そして、外国人に選ばれる職場は、多様な人材が活躍しやすい開放的で創造的な職場であり、それは女性にとっても働きやすい職場なのである。 なお、⑬⑭のように、日本が豊かで活力ある経済を維持できるためには、新しいことを好む開放的な社会であることが必要で、それは、i)稲作の伝来 ii)青銅器・鉄器・馬の伝来 iii)ガラス・絹織物の伝来 iv)有田焼・唐津焼等の陶磁器製法の伝来 v)明治維新後の産業革命 vi)第二次世界大戦後の大改革 など海外との貿易、海外からの移民・後術者の招聘、黒船に起因した大改革など、世界の中の日本の歴史そのものである。 *5-2-2は、⑭文科省は海外への留学生を2033年までに年50万人にする目標の実現に向け、給付型奨学金対象者を2024年度に7割増3万人にする方針を固め、国際競争力向上のためグローバル人材の育成を急ぐ ⑮政府の教育未来創造会議は4月、2033年までに日本人留学生を年50万人、外国人留学生を年40万人に増やす提言 ⑯文科省が派遣する留学生の奨学金拡充のため、2024年度予算案概算要求に114億円盛り込む ⑰内閣府の2018年度のアンケートでは、経済的理由や語学力不足で外国留学に消極的な若者が5割超で、2割程度の韓国・米国に比べて消極性が際立つ ⑱高校段階での意欲喚起も重要なので「留学コーディネーター」の高校配置も進める ⑲外国人留学生も受け入れ拡大するため、日本学生支援機構に誘致戦略を立案する部署を新設 ⑳日本の在学者に占める外国人留学生割合は5%で、英国20%、オーストラリア30%と比べて著しく低い としている。 このうち、⑭⑯のように、文科省が海外留学生を増やして国際競争力を向上させるためグローバル人材の育成を急ぎ給付型奨学金対象者を増やすのは良いが、そのための2024年度予算案概算要求が114億円というのは、産業への補助金が兆円単位であるのに対し、教育投資の金額は渋すぎる。何故なら、教育を充実させれば産業への補助金の方が不要で、(政府が邪魔しなければ)日本がトップランナーになることも可能だからである。 また、⑰のように、消極的な若者が韓国や米国の2倍以上を占めるのは、日本では教育者の賃金を低く抑えているため、⑱のように、教育者自身のレベルが低いことも影響を与えていると思う。そのため、⑮のように外国人留学生を増やし、消極的な若者が日本国内にいても世界に目を向けるきっかけを作るのは、外国人留学生だけでなく、日本人学生にとっても良いことなのだ。 なお、⑳のように、日本の在学者に占める外国人留学生の割合も5%で、英国20%、オーストラリア30%と比べて著しく低く、⑲のように、外国人留学生も受入拡大するため、日本学生支援機構に誘致戦略を立案する部署を新設するそうだが、それは良いと思う。ここまでやれば、日本は外国人に「選ばれる国」になれるかもしれないからである。 3)経済に寄与する外国人労働者政策とは? *5-3には、①外国人材の技能水準が企業の生産性を左右 ②現政策は非高技能者割合を高める可能性 ③成長企業を外国人材確保で優遇する案もある として、具体的には、④外国人にとっては受入国の人口・経済政策や出入国管理制度が実質的「国境」 ⑤外国人労働者の増加は受入国の労働市場にも影響をもたらし、自国民の働き方も変える ⑥2020~22年の外国人一般労働者の賃金水準は専門的・技術的分野の労働者と技能実習生・特定技能外国人で大きく異なる ⑦高技能外国人は賃金が日本人正社員と同水準かそれ以上の者が少なくない一方、勤続年数は短くボーナス支給割合も低いことから、日本型雇用慣行下の正社員として働く者は少数で専門的職種に就いてジョブ型雇用される者が多い ⑧技能実習生と特定技能外国人の賃金水準の中央値は2020年~22年の間にそれぞれ1.4万円、3.6万円上昇し、特定技能外国人の2022年の中央値(20.4万円)は高卒非正規労働者の所定内給与額の中央値(19.2万円)より高い ⑨転職制限によって需要独占的だった技能実習生の労働市場が、転職が認められる特定技能外国人の労働市場との接続で競争的になりつつある ⑩高技能外国人を雇う事業所は日本人の賃金も高く、非高技能外国人を雇う事業所は日本人の賃金も低い ⑪ダストマン英ロンドン大教授らは、ドイツの労働市場で地域に流入した移民労働者の技能レベルに応じて企業内の生産技術が変化することを実証 ⑫日本でも高技能者向け技術を使って生産性を高めた企業は賃金が高く、非高技能外国人の雇用を増やして労働集約的となった企業は生産性・賃金が停滞した可能性 ⑬三菱UFJリサーチ&コンサルティングによる製造業分野の中小企業支援調査では、97%の事業所が自社で技能実習を修了した者を特定技能1号とした際に月給額を引き上げた ⑭2018年時点は全技能実習生の約6割が最低賃金1千円未満(2022年時点)の自治体に在留し、2021年以降は全特定技能外国人で最低賃金1千円未満の自治体に在留する者は5割を下回った ⑮その結果、2022年は最低賃金が1千円以上の都府県で非高技能労働者総数に占める特定技能外国人の割合は有意に高かった ⑯多くの先進諸国で経済成長に貢献する人材として高技能移民の就労や定住を推進し、非高技能移民は適所で受け入れつつ定住は制限する政策をとるが、現在の日本は専門的・技術的分野の人材以外の外国人労働者にも定住への道を開きつつあり、外国人の受け入れでも大規模な「量的緩和政策」に転じている ⑰高技能外国人と非高技能外国人の新規入国者数は2012年にはほぼ同数だったが、2022年には後者が前者の2.3倍となった ⑱現在の日本は非高技能労働者により選ばれ、非高技能者が日本の外国人労働者の多数派となる日は遠くない ⑲こうした傾向が生じたのは、現行政策が外国人の質と量をともに求めても、技術革新に貢献しうる高度人材には日本で就労する魅力が乏しいから ⑳経済成長というマクロの目標に沿う外国人労働政策を目指すべきと考える 等が記載されている。 私は、公認会計士・税理士として、現在は組織再編によってBig4になっている外資系監査法人及び同税理士法人で働いていたため、海外から日本に進出してきた企業の監査や税務申告を行うことが多く、それをやるためには外資系企業の社長や重要ポストの担当者に話を聞くことが不可決だった。また、日本から海外に進出する企業のために、Big4のネットワークを使って進出国の法制度や税制を調べることも多かったため、日本と海外の事業環境の違いや雇用環境の違いについて、日本系監査法人に勤務して日本系企業ばかりを担当してきた男性公認会計士より知っているだろう。 その私の目から見て、*5-3の記事は、調査やデータに基づき精緻に書かれている点では評価できるものの、経済産業研究所(日本系企業)に勤務している橋本氏が、労働経済学の中の外国人雇用という視点のみから記載しているため、日本経済全体の状況を現場の視点から因果関係を明らかにしつつ説明することが不十分だと思った。 例えば、②⑯⑰の「現政策は非高技能者の割合を高める可能性がある」「多くの先進諸国で経済成長に貢献する人材として高技能移民の就労や定住を推進し、非高技能移民は適所で受け入れつつ定住は制限しているが、日本だけが外国人受入でも大規模な量的緩和政策に転換している」「2022年に非高技能外国人の新規入国者数が高技能外国人の2.3倍になった」というのは、他の先進諸国が日本より前からずっと多くの難民・移民を既に受け入れ、どの産業も日本の農業・製造業・建設業・保育・介護等のように、必要なサービスも提供できなかったり、人手不足で価格が高止まりして国際競争力に乏しいため世界の大競争について行けなかったりして、重要な国内産業を衰退させてしまったことを無視している。 確かに、⑱⑲のように、「現在の日本は非高技能労働者に選ばれている」とは思うが、「技術革新に貢献しうる高度人材に日本で就労する魅力が乏しい」というのは、外国人にとってのみならず日本人にとっても同じであるため、これら全体に対する日本の解決法は、非高技能外国人労働者の流入を抑えることではなく、日本人を含む全労働者が自己の教育レベルや熟練度を高めたいと思う文化や労働慣行を作ることである。 そうすれば、③のように、成長企業を外国人材確保で優遇しつつ、非高技能外国人労働者(そもそも、この区分は政府が判断できるものではない)を使い捨てにしなくても、また、④のように出入国管理法で非高技能外国人労働者を閉め出しながら、産業に対しては大量の補助金をばら撒いて国民負担を増やすことばかり考えなくても、⑳の経済成長は進む筈なのである。 それでは、どの文化や労働慣行がどう変わるのかと言えば、①⑤⑥⑩⑪のように、外国人材の技能水準は企業内の生産技術を変化させ、日本人労働者の技能水準にも影響を与えて企業の生産性を左右するので、外国人労働者の割合が増えれば受入国の文化や労働市場にも影響をもたらして日本人の働き方をも変える。その著しい事例は高給を支払って外国から技術者を招き、技術移転を計った明治初期であり、外国人技術者がいなければ日本が産業革命を起こすことはできなかったし、高技能外国人を雇った事業所は生産のイノベーションを起こして日本人の賃金も高くできたのである。 なお、⑦のi)高技能外国人は賃金が日本人正社員と同水準かそれ以上の者が多い ii)勤続年数が短い iii)ボーナス支給割合が低い については、まず高技能外国人は賃金が日本人正社員と同水準かそれ以上でなければ日本に来る理由がないからで、これには住居の広さや快適さも含む(例えば米国で広い一軒家に住んでいた人が、東京で狭いマンション《米国ではアパートメントと呼ぶ》にすむのは嫌がる)ため、高技能外国人を東京に招く時の住居費支給額は著しく高くなるのだ。しかし、日本人はそのような住居で我慢しているのである。 また、ii)の「勤続年数が短い」のは、日本型雇用慣行の終身雇用・年功序列を前提としておらず、職階や年収を上げるためには他企業に移らざるを得ない場合が多いからで、これをジョブ型雇用と呼ぶ。しかし、他企業に移って職階や年収を上げられるためには、受入企業から専門性や熟練度が要求される。そのかわり、専門とかけ離れた部署に次々と転勤させられて専門を磨けないということはないのだ。 さらに、iii)の「ボーナスの支給割合が低い」については、ジョブ型雇用はジョブに見合った年収があらかじめ決まっているため、それを「12で割って毎月もらってボーナスなし」や「16で割って夏冬のボーナスは月収の2ヶ月分づつ」という具合になり、経営者の気分でボーナスの金額が決まるわけではないため、こちらの方が確実だと私は思う。そのかわり、家族手当や会社所有の社宅・療養施設等はなく、その分は年収に含まれており、日本人も含めて賃金体系が単純になっているのだ。このように、賃金体系が違うと、企業文化やそこで働く人の考え方も異なる。 なお、⑧⑨のように、転職制限によって需要独占的だった技能実習生の労働市場が、転職が認められる特定技能外国人の労働市場との接続で競争的になり、技能実習生と特定技能外国人の賃金水準が上昇し、高卒非正規労働者の所定内給与額より高くなったというのは、あるべき姿だ。何故なら、日本人と言うだけで生産性の低い労働者に高い賃金を支払えば、それによって皺寄せを被る人が出るのは確実であるため、日本人であっても、専門性を高めたり、熟練したりしなければならないのは当然だからである。 4)日本列島に来た渡来人が日本の産業革命に果たした役割 現在の人類は全てホモ・サピエンスだ。また、人類のDNAは複雑なので同種の人類は1ヶ所でしか発生せず、現生人類は全て発生したアフリカをいつの時代かに出て他の地域に移り住み、その地域に前からいた他の人類(例:ネアンデルタール人)と混血しながら地球上に広がり、その地域の気候に適応していった人たちだと言える。 日本については、神武天皇の即位を皇紀元年とし、西暦2023年は皇紀2683年になるため、皇紀元年は西暦では紀元前660年で、これはサマリア陥落(紀元前723年)の63年後である。 「記紀(古事記、日本書紀)」によれば、紀元前660年に神武天皇が大和(ヤマト)を平定して初代天皇に即位されたが、天皇は古来から「スメラミコト」と呼ばれ、「スメラ」とは「サマリア人」のことで「サムライ」の語源でもあるそうだ。 また、神武天皇は「ハツクニシラススメラミコト」「カムヤマトイワレビコノミコト」とも呼ばれ、これは日本語では意味不明であるものの、ヘブライ語では意味があり、「神の民であるユダヤ人が集まって建国した最初の栄光ある主」という意味だそうだ(https://nihonjintoseisho.com/blog001/2016/11/21/japanese-and-jews-13/ 参照)。 そして、*5-4は、①紀元前後の約千年にわたり展開した弥生時代の幕を開けたのは、水田稲作や金属器文化を携えて北部九州沿岸部に現れた朝鮮半島からの渡来人 ②2010年代に登場した核ゲノム分析で、列島在来系と渡来人は、縄文時代以前から海を挟んで同じ遺伝子を共有していたことがわかった ③研究チームは、その理由を「旧石器時代の東アジア沿岸部や島々に両者の元となった集団がいたからではないか」と解釈している ④弥生時代の西日本には想像以上に遺伝的多様な集団が存在していた ⑤弥生文化という特定の文化を、特定の集団だけが独占したとは限らない ⑥先進文化をもたらした渡来人が弥生社会の中核だったとみる説と縄文以来の在来人が主体的に外来文化を取り込んで発展させたとみる説がある ⑦核DNAの分析成果と各地の文化的様相を比較検討すれば人間集団と文化の相関関係がわかる 等と記載している。 このうち①については、先日、(私の実家近くの)日本最古の稲作跡がある佐賀県唐津市菜畑の末盧館に行ったところ、2600年前の炭化米が見つかったとして展示されていた(http://www.karatsu-bunka.or.jp/matsuro.html 参照)。 また、②③④は、舟で移動しながら交易や移住をしていたことを考えれば当然と思われるし、実際に、東アジアに住む人々は顔や体型では殆ど区別がつかない。そのため、⑤⑥⑦のように、核ゲノム分析をより広い範囲・多くの検体で行ないつつ、それを文化や言語で補強すれば、先進文化をもたらした渡来人と原住民の関係や集団・技術・文物の伝わり方を科学的に解明できる。 そして、改革や発展は、開放的でイノベーションの起こりやすい、異文化の交わる場所で起こり易いこともわかる筈である。 ・・参考資料・・ <細田議長と保利元文科省を追悼する> *1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231111&ng=DGKKZO76056290R11C23A1MM8000 (日経新聞 2023.11.11) 細田博之氏 死去 79歳 前衆院議長、先月に辞任 前衆院議長の細田博之氏が11月10日午前10時58分、多臓器不全のため都内の病院で死去した。79歳だった。東大卒業後、通商産業省(現経済産業省)へ入った。父の吉蔵元運輸相の秘書を経て、1990年衆院選で自民党から出馬し初当選した。当選回数は11回で、2004年に小泉内閣で官房長官、08年に麻生政権で党幹事長を務めた。14年から21年まで清和政策研究会(現安倍派)の会長として党最大派閥をまとめた。21年11月に衆院議長に就き、体調不良を理由に23年10月に辞任した。10月に辞任表明の記者会見を開き、脳梗塞の症状があり治療していると明らかにした。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との接点について野党から説明を求める声があがっていた。一部週刊誌で指摘された女性記者へのセクハラ疑惑について記者会見で「心当たりはない」と否定した。死去に伴う衆院島根1区補欠選挙は、衆院解散がなければ24年4月になる見通し。 *1-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA104DC0Q3A111C2000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2023.11.10) 岸田首相「心から哀悼の誠ささげる」、細田博之氏死去で 岸田文雄首相は10日、前衆院議長の細田博之氏が死去したことについて「心から哀悼の誠をささげたい」と述べた。細田氏が官房長官や自民党幹事長など要職を務めたのを踏まえ「今日までのご努力に心から敬意を表したい」と語った。細田氏と同じ中国地方の出身である点や派閥のトップとして意見交換したと発言した。「様々なご縁で親しくしていただき、先輩としてアドバイスをいただいたことを思い返している」と話した。首相官邸で記者団の質問に答えた。額賀福志郎衆院議長は「与野党を問わず数多くの議員から信頼され、尊敬される政治家だった」との談話を発表した。与野党からも反応が相次いだ。自民党の茂木敏充幹事長は「悲しみでいっぱいだ」と表現した。「議長を勇退されて健康回復にお努めだと聞いていた」と語った。細田氏がかつて会長を務めた清和政策研究会(現安倍派)の塩谷立座長は「頼りにしていた存在で残念でならない」と述べた。公明党の山口那津男代表は「自公連立政権をより強固なものにする過程で大きな役割を果たしてもらった」と感謝した。立憲民主党の安住淳国会対策委員長は細田氏が旧通商産業省の職員だったときから接点があったと明かした。「ざっくばらんな人柄で楽しい人で、今時使わないが『ネアカ』な人だった」と振り返った。日本維新の会の馬場伸幸代表は書面のコメントで「選挙制度改革やカジノを含む統合型リゾート(IR)の法制化などに尽力した功績に感謝と敬意を表する」と記した。細田氏が追及を受けてきた世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との接点などの問題に関する言及も出た。塩谷氏は「基本的には(生前に)記者会見をしたことが説明責任になると思う」と触れた。安住氏は「立法府の最高責任者として説明責任はぜひ果たしてもらいたかった」と指摘した。国民民主党の玉木雄一郎代表は「十分な説明責任を果たされていないという指摘があり、すっきりしない形で終わってしまった」と話した。細田氏は2021年11月に衆院議長に就き、体調不良を理由に23年10月に辞任した。 *2-1:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231110/k10014254661000.html (NHK 2023年11月10日) 保利耕輔 元文部相が死去 89歳 文部大臣や自民党の政務調査会長などを歴任した保利耕輔氏が今月4日に亡くなりました。89歳でした。保利氏は昭和54年の衆議院選挙に自民党から立候補して初当選し、連続12回、当選しました。文部大臣や自治大臣、党の国会対策委員長などを務めましたが、平成17年に郵政民営化に反対して離党しました。その後復党し、党の政務調査会長などを歴任しました。そして平成26年の衆議院選挙に立候補せず政界を引退していました。関係者によりますと、保利氏は今月4日に川崎市の病院で亡くなったということです。 *2-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1141187 (佐賀新聞 2023/11/10) 保利耕輔元文相死去、89歳、元自民政調会長 文部相や自民党政調会長を歴任した保利耕輔元衆院議員が4日午後、誤嚥性肺炎のため川崎市の病院で死去した。89歳。衆院議長などを務めた父茂氏の後継として会社員から転身し、1979年に衆院佐賀全県区で初当選。12期務めた。教育行政や農政に詳しく、90年に海部内閣で文部相として初入閣。小渕内閣で自治相兼国家公安委員長を務めた。2005年の郵政民営化関連法案の衆院本会議採決では反対票を投じて造反し、自民党を離党した。翌年復党が認められた。08年に党政調会長に就いた。 *2-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1141290 (佐賀新聞 2023/11/11) <保利耕輔さん死去>「芯の通った政治家」 地元唐津でしのぶ声 唐津市を中心にした地盤で約35年にわたって衆院議員を務めた保利耕輔さんが4日死去した。「保利党」として支えてきた唐津市の関係者に衝撃が広がった。地域の活性化に力を尽くし、芯の通った政治家としての生き方をしのんだ。保利さんの後援会青年部長を務めたのをきっかけに、交友を深めた元唐津市議の宮崎卓さん(78)=唐津市鎮西町。「先生はとにかく厳しく、中途半端なことを言うとよくしかられた。国のため、地域のためにと最優先に考え、政治家の範を示す実直な人だった」と振り返り、「唐津、佐賀のために頑張っていただき、本当に感謝の思いしかない」としのんだ。選挙時に陣営幹部として関わってきた熊本大成市議(74)は、最後に会ったのは今春の県議選だった。党の公認候補の事務所を回ったといい「元気な姿を見ていたから驚いた」と話しつつ、「真面目な人柄で口数は少なかったが、ゴルフの話になると上機嫌に話されていた。『選挙は情』だとよく話していたのが印象深かった」と語った。昭和自動車常勤監査役の福岡修さん(67)は全ての選挙にスタッフとして関わった。「陣営の関係者に厳しかった分、自分にも厳しい方だった」と振り返る。保利さんが週末に地元入りする時は付き人も務め、元首相の小渕恵三氏が唐津市を訪れる際、あえて渋滞が激しい時間帯に車を走らせて唐津-福岡間の道路整備の重要性を訴える場面に車内で居合わせたという。「地元の困り事を何とかして伝えたいという思いだったのだと思う。真面目な姿勢が党派を超えた支持につながった」と話す。唐津神社の秋季例大祭「唐津くんち」を運営する唐津曳山(ひきやま)取締会の山内啓慈総取締(74)は「誠実で温厚な方だった。ただただ寂しい」。文化庁長官を唐津に招き、国の重要無形民俗文化財に指定されている唐津くんちの曳山(やま)について熱心に説明するなど「曳山の塗り替えなど省庁との橋渡し役として支えていただいた」。「くんちだけでなく、唐津を本当に愛した方だった。唐津を永遠に見守っていてください」と言葉をかけた。 <政治における女性登用と無意識の偏見> *3-1:https://digital.asahi.com/articles/ASR9F61RYR9FUTFL01V.html (朝日新聞 2023年9月13日) 女性閣僚最多、政権は刷新感に期待 「世襲ばかり」の側面も 第2次岸田再改造内閣が13日、発足する。新内閣の閣僚(岸田文雄首相含め20人)のうち女性は過去最多タイの5人と、改造前の2人から倍増。「女性活躍」を掲げる岸田政権は、東証プライム上場企業の女性役員比率を2030年までに30%以上にする目標を示し、内閣の女性比率もそれに近づくように引き上げた形だ。だが一方、刷新感を演出した側面も否めない。過去に5人の女性閣僚を据えたのは、2001年4月発足の小泉内閣と14年9月発足の第2次安倍改造内閣。14年は安倍晋三首相が「女性活躍担当相」を新たに設け、直後の朝日新聞社の世論調査では女性の内閣支持率が36%から44%へと回復傾向を見せた。岸田内閣は支持率が30%台で推移する。直近の8月の世論調査では女性の支持率は35%。男性の30%は上回るものの昨年7月の59%と比べれば落ち込んでいる。政権内には女性の支持獲得が政権浮揚のカギ―との見方もあり、年頭に首相が「異次元の少子化対策」を打ち出したのも、そうした思惑が透ける。 ●少子化対策に育児反映、副大臣未経験で抜擢も 首相は今回の内閣改造で、少子化対策に育児の実態を反映させようと、2児を育てる加藤鮎子・元国交政務官をこども政策・少子化担当相に起用した。44歳で閣内最年少。衆院当選5回が入閣の目安とされる中、加藤氏は3回。副大臣を経験していない抜擢人事となった。さらに重要閣僚の外相には自派閥から上川陽子元法相を起用。首相は周囲に「海外では女性外相は多い」と語り、上川氏を含む女性閣僚の登用が政権が取り組む「女性活躍」推進の体現を狙った。政権幹部は「女性閣僚が5人になったことで、刷新感が出るといい」と期待を込める。ただ、自民党内に女性議員が少ない現状を踏まえ、首相は周囲に「なかなか適任者がいなかった」と漏らした。5人のうち今回初入閣した3人は、加藤紘一・元自民党幹事長の娘である加藤氏を含め、いずれも世襲議員。「古い政治」のイメージが広まれば、期待した「刷新感」が薄れてしまう可能性もある。 ●ジェンダーギャップ、厳しい政治分野 ただ、「女性登用」をPRしなければならないほど、日本の現状は厳しい。新たにこども政策・少子化担当相に就く加藤氏は、女性活躍担当相も兼務するが、世界経済フォーラムの「ジェンダーギャップ報告書 2023年版」によると、日本は146カ国のうち125位。とりわけ、138位の政治分野が足を引っ張る。6月の主要7カ国(G7)男女共同参画・女性活躍担当相会合では、小倉将信・男女共同参画相(当時)以外の出席者全員が女性で、日本政治の象徴と批判された。自民党内の女性議員の比率は約1割。民間への働きかけはもちろん、足元の状況打開に向け手腕が問われる。一方、政権の掲げる「異次元の少子化対策」は、今後が正念場だ。児童手当の拡充などを盛り込んだ「こども未来戦略方針」は6月に閣議決定。しかし、24年度から3年間で集中的に実施していく「加速化プラン」の具体的な財源確保策は、今年の年末まで先送りされた。政府は社会保障の歳出削減や、社会保険の仕組みを活用した「支援金制度(仮称)」の創設などによって賄う目算だが、痛みや負担増を伴うもので、今後本格化する与党や経済界との調整は難航をきわめそうだ。来年の通常国会には、少子化対策の関連法案の提出も予定する。野党から厳しい質問が飛ぶことも必至だ。こうした状況に、こども家庭庁では複数の幹部が、組閣前から「安定感のある大臣でないと乗り切れない」と漏らしていた。子ども政策自体の評判も芳しくない。子ども連れや妊婦らの優先レーン「こどもファスト・トラック」の全国展開や、子育てしやすい社会づくりに携わる「こどもまんなか応援サポーター」のサッカー・Jリーグとの連携など、本格実施を前にした関連施策がSNS上で批判を浴びた。朝日新聞が7月に実施した全国世論調査(電話)で、少子化対策の取り組みを4択で尋ねると、「評価しない」が「あまり」「全く」を合わせて65%を占めた。2児を育てる新担当相が、どこまで幅広い世代に少子化対策への理解を広げられるかも問われる。 *3-2: https://digital.asahi.com/articles/ASR9F72G8R9FUTFK01H.html?ref=commentplus_mail_top_20230916&comment_id=17922#expertsComments (朝日新聞 2023年9月14日) 女性登用への消極姿勢を転換 支持率上げ解散、首相が描く再選戦略 岸田政権の新たな布陣がスタートした。岸田文雄首相が女性登用への消極姿勢を転換させたのは、年内でも衆院解散できるよう低迷する支持率を好転させる狙いがある。ただ、新閣僚はそれぞれに重い課題を抱え、その力量が問われる。13日夜、内閣改造を終え、官邸での会見に臨んだ首相は自信に満ちあふれた表情で語った。「女性ならではの感性、共感力を十分発揮して頂くことを期待したい」。今回、際立つのは女性の積極的な登用だ。内閣では過去最多に並ぶ5人を起用し、改造前より3人増やした。男性ばかりだった自民党4役の人事では小渕優子氏を選挙対策委員長に就けた。首相は周囲に「女性閣僚を増やしたい」と漏らしていた。8月の朝日新聞の世論調査での内閣支持率は33%。女性を増やすことで支持率を好転させたい思惑がある。「女性」を前面に押し出して支持率回復につなげた例はある。安倍晋三元首相は2014年の改造で新たに「女性活躍担当相」を設け、女性議員を充てた。直後の女性の支持率は前月の36%から44%に回復。党中堅幹部は今回の女性登用について「首相はいつでも衆院解散のカードを切れるよう組み立てた」とみる。首相が外遊先での会見で「必要な予算に裏打ちされた思い切った内容の経済対策を実行したい」と語ったことで、秋の臨時国会での補正予算成立後、解散に踏み切るのでは、との臆測も出る。首相も周囲に「解散は常に考えている。人事と経済対策をやってからだ」と語り、当面の世論の動向を慎重に見極める構えを示している。衆院解散は来秋の総裁選での再選戦略と大きく関係している。安倍元首相は14年12月に衆院選を行い、与党を大勝に導くと、翌15年秋の総裁選では無投票で再選を果たし、7年8カ月に及ぶ長期政権の足場を築いた。総裁選までそう遠くない時期に衆院選で勝利したことから、国民から選ばれたばかりの総理総裁を、内輪の権力闘争で代えるわけにはいかない、という理屈が働いた。ただ、今回の人事が支持率好転につながるかどうかは不透明だ。女性登用の象徴的存在で首相が会見で「選挙の顔」とまで称した小渕氏には、「政治とカネ」をめぐる説明責任の問題がくすぶる。ベテラン議員は「過去の問題がクローズアップされた影響がどうなるか」と気をもむ。各派閥の意向に沿った順送り人事の側面も強い。当選4回の衆院議員は、衆院解散の有無にかかわらず、総裁選を無風ですませられるよう各派に秋波を送ったとみて、こう揶揄(やゆ)する。「女性を増やしてごまかした感じだが、実態は『人事処遇したので総裁選よろしくね内閣』だ」 ●「世襲」大臣は2人増の8人 今回の内閣改造で首相を含む大臣20人のうち、実の父か母が国会議員だった、いわゆる「世襲」の大臣は8人で、約1年前に発足した第2次岸田改造内閣の6人から2人増えた。首相は祖父の正記氏、父の文武氏ともに衆院議員で、財務相に留任した鈴木俊一氏は善幸元首相の長男だ。こども政策・少子化相として初入閣した加藤鮎子氏は、岸田派(宏池会)会長だった加藤紘一元官房長官の三女。地方創生相で初入閣の自見英子氏も、元郵政改革担当相の庄三郎氏を父に持つ。 *3-3-1:https://news.yahoo.co.jp/articles/e852bbc5e07d95a1a0958e9be74c20cd5c6d5300 (Yahoo、ハフポスト 2023/9/14) 「女性ならではの感性」はなぜ問題?ステレオタイプの助長や無意識の偏見も 「女性としての、女性ならではの感性や共感力を十分発揮していただきながら仕事をしていただくことを期待したい」ー。9月13日に発足した第2次岸田第2次改造内閣を巡り、岸田文雄首相の記者会見での発言が波紋を呼んでいる。発言は、過去最多に並ぶ5人の女性閣僚を誕生させた理由について問われた際に出たもので、Xでは「女性ならでは」がトレンド入り。「使い古されたステレオタイプな表現」などと批判されている。では、「女性ならでは」といった表現はなぜ問題なのか。新聞労連の専門チームがまとめた著書「失敗しないためのジェンダー表現ガイドブック」(2022年)からポイントをまとめる。 ●「女性ならではの感性や、あるいは共感力」 第2次岸田第2次改造内閣では、上川陽子氏(外務大臣)、土屋品子氏(復興大臣)、加藤鮎子氏(内閣府特命担当大臣・少子化対策)、高市早苗氏(同・経済安全保障)、自見はなこ氏(同・地方創生)がそれぞれ就任した。5人の女性閣僚は過去最多タイだが、この数字は第1次小泉内閣(2001年)、第2次安倍改造内閣(14年)と変わらない。岸田首相は9月13日の記者会見で、内閣改造の実施を報告。冒頭、 「新しい時代を国民の皆様と共に創っていく『新時代共創内閣』である」とした上で、女性閣僚をこう紹介した。「こども・子育て政策や女性活躍は、こども・子育ての当事者でもある加藤鮎子さんに担当してもらいます」「土屋品子復興大臣には、女性ならではの視点を最大限にいかし、被災地に寄り添った復興策に腕を振るってもらいます」。さらに、フジテレビの記者から「5人の女性閣僚を起用した考え」について聞かれると、次のように回答した。「あくまでも適材適所。我が党の中に女性議員は少ないという指摘があったが、より増やしていかなければいけないという問題意識は認識している」「現在活躍している女性議員もそれぞれ豊富な経験を持ち、優秀な人材はたくさんいる。今回、経済、社会、外交・安全保障の3つの柱を中心に政策を進めていくために活躍できる方を選んだ」。「ぜひ、それぞれの皆様に、女性としての、女性ならではの感性や、あるいは共感力、こうしたものも十分発揮していただきながら仕事をしていただくことを期待したい」 ●ジェンダー表現について この「女性ならではの感性」はXでトレンド入りし、ジェンダー平等の観点から発言を疑問視する声も多くみられた。では、岸田首相の発言の問題点は何か。新聞労連の「失敗しないためのジェンダー表現ガイドブック」から確認する。このガイドブックは、日本のジェンダー平等に強い危機感を感じている現役の記者たちが執筆。「女性らしさ」などという表現を使ってきたメディアの反省点も踏まえ、ジェンダー表現のリテラシーを社会全体で高めることを目的としている。 ●ステレオタイプの助長や無意識の偏見 まず、岸田首相の発言であった「女性ならでは」という表現については、「『女性ならできて当然』というステレオタイプな考え方を助長する」と指摘している。例えば、育児関連商品の開発談で「女性ならではの発想」、女性管理職について「女性特有の気配り」といった表現がある。しかし、これらの表現は「女性は育児をするもの」、「女性は気配りしなければならない」というステレオタイプな考え方を助長してしまう。そして、たとえ発言した人に差別する意図がなかったとしても、「無意識の偏見をばらまき、追認している」ことにつながるという。これは「マイクロアグレッション(微細な攻撃)」と呼ばれており、「使う側に差別的な意図はなくとも、現状の差別的な状況を追認し、多くの人を苦しめる土台となってきた」と指摘している。つまり、「女性ならでは感性」という岸田首相の発言自体が、現状の差別的な状況を追認し、ステレオタイプな考え方を助長していることになる。 ●自分も当事者だという意識 このようなことから学ぶことは何か。ガイドブックでは、「自分も当事者の視点が必要だ」と訴えている。ジェンダーは性別に関係なく、誰もが当事者となるテーマだからこそ、男性も自分事として考えていかなければならない。また、意思決定の場に女性がいる割合も重要という。ある結果を得るのに最低限必要な数「クリティカルマス」という言葉があるが、組織の中での比率が3割を超えた時に主張が実現すると言われている。日本政府が「指導的地位の女性比率を30%」という目標を掲げているのも、このためだ。なお、第2次岸田第2次改造内閣では、19の閣僚ポストのうち女性は5人。26%で、3割に達していない。ガイドブックの編集チームは「多様な視点が確保されれば、一人一人の『らしさ』が大事にされ、暮らしやすい社会につながる。だからこそ、男性優位組織の過去の成功体験に基づいた構造を変える必要がある」と言及している。 *3-3-2:https://www.asahi.com/thinkcampus/article-100913/?cid=pcsp_top_infeed (朝日新聞 2023.11.8) 理工系「女子枠」、導入する大学の狙いは? 「男女の視点の違いで、現場に技術革新を」 2024年度入試では、理工系の学部を中心に「女子枠」を設ける大学が多く見られます。「女子だけを優遇するのか?」など批判の声もあるなか、なぜ理工系に女子を増やす必要性があるのでしょうか。総合型選抜(女子)をスタートする東京理科大学に、新しい入試の形を始める背景や、どんな人に入ってもらいたいのか、期待することなどを聞きました。 ●意欲と向上心を持つ最大48人を募集 科学技術の分野で活躍する女子を増やそうと、総合型選抜や学校推薦型選抜で、女子に限定した「女子枠」を設ける大学が増えています。2024年度入試から「総合型選抜(女子)」をスタートする東京理科大学では、どのような経緯で導入を決めたのでしょうか。井手本康副学長はこう話します。「わが国では現在、特に理工系分野で女子の人材育成が必要とされています。そこでダイバーシティーの推進に力を入れている東京理科大学でも、特に女子の少ない工学系3学部16学科に『総合型選抜(女子)』を設け、理工系分野への女子の進学を後押しすることにしました。まずは大学全体の入学定員の1.2%弱にあたる各学科3人、計48人までの範囲で、将来的にリーダーシップを発揮する人材として、意欲や向上心のある女子学生を受け入れたいと考えています」選考方法は、調査書や志望理由書などで書類審査を行ったうえで、面接・口頭試問と小論文を実施します。意欲や目標、数学と理科に関する基礎知識、科学的な観点などから、総合的に見て合否を判断します。「大学入試はゴールではなく、人生で成長していくための通過点の一つです。意欲や目標がある人ほど、大学入学後もより自分を高めていけるでしょうし、リーダーシップを発揮する人材になり得るでしょう。総合型選抜は受験生の志望動機などを重視する選抜方法ですから、『東京理科大学でこれを学びたい』『将来こうなりたい』といった意欲や目標があり、本学の学びを通してそれを高めていける学生を見極め、歓迎したいと考えています」(井手本副学長) ●多様性がさらなる技術革新につながる 理工系学部の女子が増えることで、大学はどう変わっていくのでしょうか。「私は化学が専門ですが、女性は男性が気づかないようなことに気づいたり、ものの捉え方が少し違っていたりと、男性と女性とでは視点や観点が異なることを日々実感しています。研究をしていく上で大切なのは、さまざまな角度からの気づきです。意欲や向上心のある女子が増えることで学生にもいい刺激になるでしょうし、研究や開発の現場でも今までになかったような技術革新が起こると期待しています」(井手本副学長)。理工系女子のロールモデルが少ないため、就職や卒業後のことを心配する保護者がいますが、今は理工系の女子は活躍の場が多く、企業から引く手あまたの状況にあります。 「女子が少ない学問分野は女子には不向きだというわけではありません。『総合型選抜(女子)』は大学からの歓迎の証しだということを、高校の先生やご父母の方にも知っていただきたいです」(井手本副学長) ●2024年度入試は「女子枠」の新設ラッシュ 2024年度入試では、東京工業大学、東京都市大学なども女子枠を新設します。東京工業大学は、2025年度入試で女子枠を募集人員全体の約14%にあたる143人まで広げるということでも話題になっています。また、国内の大学で最初に女子枠を設けた名古屋工業大学も2024年度入試で女子枠を拡大するほか、奈良女子大学は2022年度に国内の女子大学では初となる工学部を開設するなど、女性のエンジニアや研究者を育てていこうという動きが全国で活発化しています。東京理科大学では、「総合型選抜(女子)」の動向を見つつ「まずはスモールスタートで、効果検証を行いながら、今後は他の学科や女性に限定しない形への展開も検討していきたいという考えもある」と井手本副学長は話します。大学にとって女子枠の拡大は、意欲的な女子が入学することで、理工系分野の活性化を図るだけではありません。「自分は何を学びたいか」という意欲や目標を重視した入試に移行していきたいということが背景にあるようです。 *3-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15746023.html?iref=comtop_Opinion_03 (朝日新聞社説 2023年9月20日) 女性起用ゼロ 「活躍促進」は口だけか 首相官邸のひな壇に、ともに並ぶ二十数人が男性ばかりという光景が、異様だとは想像できなかったのだろうか。過去最多に並ぶ5人の女性閣僚が任命された内閣改造から一転、副大臣26人と政務官28人の計54人の人事では、女性の起用はゼロとなった。岸田首相は改造後の記者会見で、自民党が「女性議員の活躍促進を最重要課題に掲げた」と述べたが、口だけと言われても仕方あるまい。多様な国民の意見を政策決定に公平・公正に反映させるために、政治分野における女性の参画拡大は特に重要である――。20年末に閣議決定した第5次男女共同参画基本計画にそう記したのは、他ならぬ政府自身である。指導的地位に占める女性の割合は、「20年代の可能な限り早期に30%程度」とするとした。第4次計画の「20年に30%程度」から後退した、この目標にすら逆行するようでは「政治分野が率先してあるべき姿を示す」という計画の文言も空しく響く。首相は「(政務三役を)チームとして人選を行った結果」であり、女性2人を起用した首相補佐官も合わせれば、「老壮青、男女のバランス」はとれているという。しかし、実際に考慮したのは、各派閥の要望であり、派閥間のバランスだろう。自民党には現在、衆院21人、参院24人の計45人の女性議員がいるが、推薦名簿に女性を入れない派閥が多かったようだ。ならば、首相官邸が全体を見渡して調整を加えるのが、本来である。秘書官を含め、首相の意思決定を周辺で支える主要な官邸スタッフが、男性で占められていることが、多様性の意義に思いが至らぬ一因となってはいないか。女性に限らず、閣僚になるには、副大臣や政務官として経験を積み、専門性を磨いておくことが有用だ。女性を積極的に副大臣や政務官に就けることは、女性閣僚を増やす道でもある。国際的にも極めて低い水準にとどまる女性議員の数そのものを、抜本的に増やすことも不可欠だ。衆院議員に占める女性の割合は1割に過ぎず、候補者男女均等法が18年に施行された後も、改善の歩みは鈍い。特に対応が遅れていた自民党はようやく、この6月、「女性議員の育成、登用に関する基本計画」を定め、同党の国会議員に占める女性の割合を、現在の11%から10年間で30%に引き上げる目標を掲げた。看板だけに終わらぬよう、候補者の発掘からキャリア形成への支援まで、体系的な取り組みが問われる。 *3-5:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1129791/ (西日本新聞社説 2023/9/24) 副大臣・政務官 まさか女性起用ゼロとは 先日の内閣改造で副大臣、政務官から女性が消えた。社会全体で女性の登用を進めようと呼びかけていたのは、岸田文雄首相ではなかったか。看板倒れも甚だしい。今回の改造で、閣僚には過去最多に並ぶ5人の女性が就任した。副大臣26人、政務官28人の人事は、一転して女性が一人もいなかった。首相は「どの閣僚にどの副大臣、政務官を付けるのか、チームとして人選した結果だ」と説明した。苦しい言い訳にしか聞こえない。内閣のチームと言うなら、閣僚に副大臣、政務官を合わせた政務三役の構成に首相が目を光らせるべきだろう。女性の適任者が見当たらない場合は、民間に人材を求めることもできるはずだ。首相による戦略的な抜てき人事がある閣僚に比べると、副大臣や政務官は自民党の派閥が推薦した議員の中から選ぶ傾向が強い。当選回数や衆院、参院のバランスにも配慮する。今回はそれを踏襲したとみられる。国土交通相の留任にこだわった連立与党の公明党も、女性の政務三役起用は重視しなかったのだろう。政府は2020年に閣議決定した第5次男女共同参画基本計画で、指導的地位に占める女性の割合について「20年代の可能な限り早期に30%程度」を目標にしている。現状は政務三役73人のうち女性は約7%でしかない。昨年8月の内閣改造時の約18%から大きく後退している。首相は内閣改造をした13日の記者会見で、女性閣僚について「女性ならではの感性や共感力も十分発揮し、仕事をしていただくことを期待したい」と述べ、批判を受けた。性別による偏見、古い役割分担意識を図らずも露呈してしまった形だ。そもそも、女性比率が2割に満たない国会議員の構成を変えなければならない。政治分野における男女共同参画推進法は、男女の候補者ができるだけ均等になることを目指し、政党に目標設定を求めている。自民党は6月、女性の割合を現在の約12%から今後10年間で30%に引き上げる目標を打ち出した。新人女性の衆院選立候補予定者に100万円を提供し、資金面の支援策を拡大する。問題は候補者調整だ。小選挙区の公認候補は1選挙区1人に限られるため、現職を優先する。その大半を占める男性を女性に交代させるのは容易でない。比例代表であれば、女性を優先して名簿の上位にすることができる。議席の一定割合を女性に割り当てる「クオータ制」は検討に値する。政治活動や選挙運動中のハラスメントは女性が被害に遭いやすい。男性中心の政治風土を改め、女性が力を発揮しやすい環境づくりに与野党で取り組むべきだ。その先頭に立つ自覚を各党のリーダーに求めたい。 *3-6:https://news.yahoo.co.jp/articles/8aca1dea8d63dcf038252e2b00b6d6418d46ec32 (Yahoo 2023/10/9) 「埼玉のぶっ飛び条例」自民党提出の埼玉県虐待禁止条例案に反対するネット署名に賛同が拡大 小学生3年生以下の子どもを自宅などに残したまま外出することは「虐待」に当たるとして禁じるなどした虐待禁止条例案が、13日に埼玉県議会の本会議で採決が行われることを前に、採決に反対するオンライン署名への賛同が広がっていることが分かった。オンライン署名サイト「change org.」では9日午後2時までに、7万人超が賛同の意を示した。サイトによると、9日だけで1万8000人近くが賛同したとしている。8日には「留守番禁止条例」がSNSのトレンドワードになったが、9日にも「埼玉県虐待禁止条例」がトレンドワードになるなど、関心が集まり続けている。同条例案は、埼玉県議会最大会派の自民党が9月定例議会に提出した。自家用車内に児童が放置されて死亡するケースなどが全国で相次ぐ中、こうした事案を防ぐ目的としている。内容は「小学校1年生から3年生だけでの登下校」や「18歳未満の子どもと小学校3年生以下の子どもが一緒に留守番をする」「小学生だけで公園で遊びに行く」「児童が1人でお使いに行く」などの行為を「虐待」として禁じるもの。6日に県の福祉保健医療委員会で可決された。13日の本会議で採決が予定され、可決される見通しになっている。SNS上には「埼玉のぶっ飛び条例、共働きで子育てをすることを想定すれば現実的ではないことなんて容易に分かるだろうに、そうならない人達が政治を回していることが見えたよね」「何を考えたらこんな条例案を可決しようと思えるんだろう」「埼玉県民の子育て世代を虐待することになるのでは?」など、条例案の内容や、提出した自民党の対応にも批判が相次いでいる。 <一般社会における女性登用について> *4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230815&ng=DGKKZO73590370U3A810C2EP0000 (日経新聞 2023.8.15) 管理職、女性は12.7% 厚労省調べ 昨年度、国際的には低水準 企業の課長相当職以上の管理職に占める女性の割合が2022年度は12.7%だったことが厚生労働省の「雇用均等基本調査」で分かった。過去最高を更新したものの、21年度からの上昇幅は0.4ポイントと限定的で、国際比較では低い水準にとどまる。22年10月時点で、従業員が10人以上いる全国の企業6000社を対象に調査した。企業規模別では従業員数が10~29人の企業が21.3%と最大だった。300~999人の企業は6.2%、1000~4999人の企業は7.2%、5000人以上の企業は8.2%といずれも1割に満たなかった。大企業における女性管理職の割合は総じて低い傾向にある。全体の数字でも国際的に低い水準が続いている。労働政策研究・研修機構によると、21年の日本の女性管理職割合は13.2%だった。スウェーデンは43.0%、米国は41.4%、シンガポールは38.1%と欧米など主要15カ国で最も低かった。政府は30年までに東証プライム市場に上場する企業の女性役員の比率を30%以上とする目標を打ち出している。22年からは常用労働者301人以上の企業に男女の賃金差の公表も義務づけた。厚労省の担当者は「女性管理職の登用は息の長い取り組みであり、引き続き登用率の向上を呼びかけていきたい」と話す。 *4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231019&ng=DGKKZO75369360Y3A011C2KE8000 (日経新聞 2023年10月19日) 再考 セーフティーネット(下) 雇用の自律的選択こそ必須 神吉知郁子・東京大学教授(かんき・ちかこ 77年生まれ。東京大法卒、同大博士(法学)。専門は労働法、最低賃金などの賃金規制) <ポイント> ○男性稼ぎ主モデルへの依存は持続不可能 ○無限定な働き方が多様性を妨げる要因に ○日々の労働時間予測・管理の可能性重要 セーフティーネット(安全網)は社会保障制度だけではない。稼働能力のある現役世代にとって、生活保護はほとんど使うことが想定されない最終手段だ。実際に安定した生活基盤を提供する1次的セーフティーネットとして機能しているのは雇用だといってよい。労働力調査(2023年4~6月)によると、就業者約6747万人のうち、雇用されている者は約6067万人と9割に及ぶ。雇用は労働者の経済的生活を安定化させ、社会資源の分配を果たす。同時に能力や技能を発揮して対価を受け取ることで、労働者が保護の客体ではなく主体的に自己を確立し、自尊心や存在意義を確認する場や、成長の機会や人とのつながり、居場所を提供し、孤立・孤独を防ぐ効果も有する。社会にとっては、税や社会保険などのより大きなセーフティーネットを担う基盤ともなる。従って現役世代のセーフティーネットを再考するにあたっては、いかに良質な雇用を確保するかが最重要課題の一つだ。これまで良質な雇用の理想とされてきたのは、大企業の正社員だろう。定年までの長期の雇用保障を前提として、年功的に上昇する基本給に加え、手厚い手当により住宅の取得や教育投資を可能とし、労働者と家族の生活を支えてきた。1970~80年代には、男性稼ぎ主が主婦と子ども2人を養う世帯が標準モデルとされ、社会保障も労働者本人の厚生年金だけでなく第3号被保険者制度や遺族年金制度などによりこのモデルを補強してきた。ではこの失われつつある「古き良き」スタイルに回帰し、拡大を目指すべきか。答えは否、既に不可能だ。晩婚・非婚化、超高齢化、少子化という不可逆な社会の変化は「標準」世帯を遠い過去のものとした。労働力の先細りや教育水準の高まりを考慮すれば、性別や年齢、婚姻状態を問わず、より多様な人々に健全な雇用機会を確保することが必要になる。そのためには、負の側面に目を向けねばならない。日本型雇用慣行における労働者の標準モデルは、自分自身や家族のケア責任を負わず、仕事に無制限に時間と労力を割ける無限定正社員だった。こうした価値観は健康障害や格差の固定と増大、多様性の阻害といった弊害ももたらしてきた。まず労働者本人は、安定雇用と引き換えに、長時間労働や転居も伴う頻繁な異動を甘受せねばならない。法的には19年まで絶対的な労働時間上限がなく、過重労働に歯止めはかからなかった。判例は企業に広範な人事権を認め、転勤命令を拒否した場合には懲戒解雇も有効としてきた。必ずしも長期雇用や高待遇が保証されない企業であっても、その解釈は変わらない。22年度に労災と認定された過労死など(脳心臓疾患、精神疾患)は904件だが、請求件数は3486件にのぼり、健康障害はより多いと考えられる。職場のハラスメントを巡る紛争も増加傾向にある。生活を支えるはずの仕事がストレスを生み、健康を害し生命を失う原因にもなっている。一方、仕事優先の無限定な働き方が求められる労働者には恒常的な他者のケアが難しく、しわ寄せは家族に及ぶ。ケア責任を引き受けるパートナー側の職業生活に制限がかかる。性別役割分業の実態もあり、この影響は女性に大きく出る。女性の労働力率が出産・育児期に落ち込む、いわゆるM字カーブは改善傾向とはいえ、出産離職率はいまだに約3割に及ぶ。また女性が正規雇用で働く割合は20代後半の約60%がピークで、年齢上昇につれて低下するL字を描く。そして女性労働者の過半数は非正規で働いている。日本では男性の有償労働時間が突出して長く、世界最長である(図参照)。その裏返しとして、家事・育児などの無償労働時間は最短で、男女格差は5.5倍に達する。経済協力開発機構(OECD)加盟諸国の男女格差はほとんど2倍未満だ。長時間無限定労働をスタンダードとする日本型雇用慣行の下では、構造的にワークがライフの、ライフがワークの足かせになってきたのである。もっとも、非正規の処遇が十分であれば、ケアのニーズに合わせた働き方はむしろ多様性の一環と評価できる。例えばパートタイム労働者にフルタイムとの比例的な待遇を保障できれば、格差問題はそれほど深刻ではないかもしれない。だが正社員の本質がフルタイムよりも無限定性にあるとみれば、単純な時間での比較はそぐわない。そして戦後の非正規労働の典型が主婦パートだったため、被扶養者であり家計補助者にすぎないという想定のもと、多くは最低賃金を参照するなど、正社員とは全く異なる制度理念で処遇が決定されてきた。労働契約が有期の場合は、雇用が不安定なため交渉力も弱く、処遇改善の手段をもちえない状況に置かれる。生涯未婚率が高まり単身世帯も増えるなか、様々な事情で働き方に制約のあるすべての人に「セーフ」な雇用機会を保障するには、正社員も含めた働き方の見直しが必須だ。まずは時間外労働を前提とせず、契約で決めた労働時間を守って、十分な生活時間と処遇を確保することだ。労働基準法の上限はいわゆる過労死基準であり、これだけに依拠しては健全な生活は維持できない。休暇も有効だが、自分のケアを他人に任せず仕事と両立でき、共働きやシングルで子育てをしながら持続可能な働き方に転換するには、日々の労働時間の予測、コントロール可能性こそが重要だ。本来的には、時間という貴重な資源の処分がほぼ使用者側に委ねられるという契約解釈自体に再考の余地がある。より労働者の意思を反映した労働条件の決定・変更も課題だ。契約である以上、条件の決定・変更は合意ベースが原則だが、司法判断は使用者の一方的な変更余地を広く認めてきた。特に転勤命令については、労働者の不利益が通常甘受すべき程度かを権利濫用(らんよう)判断の基準としつつ、それが認められたのは家族全員に疾病や障害があり、他に介護者がいないような深刻な場合ばかりだった。現在の社会状況に即して基準を見直し、根本的には変更を望まない労働者の選択が尊重されるべきだろう。また正規・非正規の労働条件格差については、労働契約法などにより不合理な格差が禁止されてきた。しかし昇進や異動といった職務の変更の範囲に正社員との違いがある場合には、特に基本給格差の不合理性は認められないケースがほとんどだ。ここでも正社員の働き方の無限定性がネックとなる。結果的な賃金格差のみならず、評価の仕組みを見直すことが格差是正の手掛かりとなるはずだ。雇用における労働者の自律性確保は、セーフティーネットを自らの手で張ることにつながり、社会保障による再分配では実現できない価値をもつ。過重労働や性別役割分業に依存せず、自律的選択を尊重する雇用のあり方が望まれる。 <外国人の登用について> *5-1-1:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231124/k10014267741000.html (NHK 2023年11月24日) 技能実習生制度を廃止 「育成就労制度」に名称変更 最終報告書 厳しい職場環境に置かれた技能実習生の失踪が相次ぎ、人権侵害の指摘があるとして、政府の有識者会議は今の制度を廃止するとした最終報告書をまとめました。新たな制度は人材の確保と育成を目的とし、名称も「育成就労制度」に変えるとしています。技能実習制度は外国人が最長で5年間、働きながら技能を学ぶことができますが、厳しい職場環境に置かれた実習生の失踪が相次ぎ、人権侵害の指摘があるなどとして、政府の有識者会議は今の制度を廃止するとした最終報告書をまとめました。それによりますと、新制度の目的をこれまでの国際貢献から外国人材の確保と育成に変え、名称も「育成就労制度」にするとしています。そして、基本的に3年で一定の専門性や技能を持つ水準にまで育成します。専門の知識が求められる特定技能制度へのつながりを重視し、受け入れる職種を介護や建設、農業などの分野に限定します。一方で、特定技能への移行には、技能と日本語の試験に合格するという条件を加えます。また、これまで原則できなかった別の企業などに移る「転籍」は、1年以上働いたうえで、一定の技能と日本語の能力があれば同じ分野にかぎり認めることにしています。期間をめぐっては2年までとすることも検討されましたが、制度が複雑になるなどとして盛り込まれませんでした。さらに、実習生の多くが母国の送り出し機関や仲介者に多額の手数料を支払って来日していることを踏まえ、負担軽減を図るために、日本の受け入れ企業と費用を分担する仕組みを導入します。有識者会議は早ければ来週にも、最終報告書を小泉法務大臣に提出する方針です。 ●農家からは新制度に期待する一方 雇用主の負担増への懸念も 長年、技能実習生を受け入れてきた茨城県内の農家からは、新たな制度に期待する一方、雇用主の負担が増えることへの懸念の声も聞かれました。東京のホテルやレストランなどにいちごを出荷している茨城県鉾田市の農家では、20年以上、外国人材を受け入れていて、今は技能実習生など10人のインドネシア人が働いています。技能実習制度が国際貢献を目的にしながら実際は人手確保の手段になっていると指摘される中、実態にあわせた形で外国人材の確保と育成のための新たな制度となることについて、「村田農園」の村田和寿代表は「実際には労働力となっていて、その中で育成もしてきたので、実際の形に近づくことはいいことではないか」と新たな制度への期待を語りました。この農園では技能実習生ひとりひとりにアルバムを作るなど、大切に育成しているということで、村田さんは「実習生のおかげで農園の大規模化が進められ、非常に助かっています。なくてはならない存在なので、制度が変わっても雇用を続けたいです」と話しています。一方、新たな制度では、これまで原則できなかった別の企業などに移る「転籍」について、1年以上働いていることなどを要件に認めるとしていて、これが実際に広がれば人材が流出するのではないかと懸念しています。また、現在、技能実習生を新たに受け入れる際には、渡航費用や来日後1か月間の宿泊費や研修費用などで1人あたりおよそ25万円から30万円前後を負担しているということです。これに加え新たな制度では外国人が母国で送り出し機関などに支払っている手数料を受け入れ側も負担するよう求めていて、金銭的な負担はさらに大きくなる可能性があります。村田代表は「プラスで費用がかかるのは農家にとっては痛手になります。ただ、実習生のスキルアップのための研修は必要なので、現地で実習生が払っている費用を明確にするなど、適切な仕組みづくりをしてほしいです。農業が選ばれ、事業者が選ばれる環境は厳しくなっているので、受け入れる側としても改善を続けていきたいです」と話しています。 ●支援団体「現場の声を聞きながら新制度を作ってほしい」 技能実習生を支援している団体は最終報告書の内容について一定の評価をした上で、いかにサポート体制を充実させていくかが引き続き課題だと指摘します。東京 港区のNPO法人「日越ともいき支援会」では、2020年からベトナム人の技能実習生の保護などを行っています。この団体には、職場での暴力や残業代の未払い、妊娠を機に雇い止めされたといった実習生などからの相談があとを絶たず、ことしに入ってシェルターに保護した人数は127人に上るということです。技能実習制度を廃止するという最終報告書がまとまったことについて、団体の吉水慈豊代表は「30年続く中で海外からも批判されてきた今の制度をようやく見直そうという国の姿勢は評価できる」としています。一方で「これまで、パワハラやセクハラ、賃金の未払いなどの問題が生じたときにきちんと対応できる体制が整っていないことが大きな問題だった。新たな制度で認められる転籍についてはハローワークなどが支援するというが、外国人の支援に慣れていないと難しい面もある。支援体制が十分整わないまま新しい制度に向かうのは危険で、職を失ったり、今より早く失踪したりする人が続出するおそれもある」と懸念しています。そのうえで「海外の若者たちが日本にきてよかったと思える制度にしないといけない。現場の声を聞きながら新たな制度を作っていってほしい」と話していました。 ●専門家「外国人側と企業側の双方に細心の配慮を」 最終報告書について、外国人労働者の受け入れの問題に詳しい野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは「長い間、人権侵害が指摘される温床になっていたのが『転籍』の問題で、非常に厳しく制限されていたが条件が緩和されることで、企業も従来以上に実習生の人権に配慮することになり、労働環境が非常によくなるきっかけとなるのではないか」と評価します。一方で、外国人側だけでなく受け入れる企業側にとってもメリットのある制度にする必要があるとして、「日本企業にとっては人材を確保していくための重要な仕組みだが、企業がコストをかけて技能を習得させる努力をしても転籍されてしまうという問題が出てくる可能性もある。その場合は、国が、支援するといったことも今後、検討材料になってくるだろう」と指摘します。そのうえで「技能実習制度ができた30年前と現在では、日本の経済的立場が変わり、以前は、国際貢献の観点から実習生を受け入れる立場だったが、賃金が上がらず、円安も進んだ結果、待遇や働く環境などを改善しないと実習生が来てくれない状況だ。今回の見直しは日本経済を支えてもらう仕組みという長期の視点で考える必要がある。具体的な制度設計の中で、外国人側と企業側の双方に細心の配慮をはかるほか、実際に動き出したあと、過重な負担を強いていると判断した場合には、柔軟に制度を見直す姿勢も必要だ」と話していました。 *5-1-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/292093 (東京新聞 2023年11月25日) 結論は「丸投げ」…将来の技能実習の焦点「転籍の制限期間」 有識者会議が最終報告 議論の着地点見いだせず 外国人技能実習制度に代わる新制度を検討してきた政府の有識者会議は24日、新制度「育成就労」の創設を提言する最終報告書を取りまとめた。焦点となっていた別の職場への「転籍」の制限期間は、現行の「3年」から「1年」への緩和を原則としつつ、当分の間は1年を超える制限を認めるなどの「経過措置」の検討を求めた。具体的な内容は盛り込まず、今後の政府・与党の対応に委ねた。政府は提言を基に新制度の詳細を検討し、早ければ来年の通常国会に関連法案を提出する方針。経過措置の内容次第では、転籍制限の緩和が限定的になる可能性もある。最終報告書は、現行の厳しい転籍制限が「さまざまな人権侵害が発生し、深刻化させる背景・原因となっていると指摘されている」と記載。新制度では、就労が1年を超えた上で日本語と技能の一定要件を満たせば、本人の意向での転籍を認めるとした。 ◆「必要な経過措置を求めることを検討する」 一方で、急激な変化を緩和するため「当分の間、受け入れ対象分野によっては1年を超える期間の設定を認めるなど、必要な経過措置を設けることを検討する」よう政府に求めた。設定できる具体的な年数や要件などは示さなかった。新制度案は「人材確保と人材育成」を目的に掲げ、労働者としての受け入れを明確にする。現行制度は「人材育成による国際貢献」を目的にしており、人手不足の現場で労働力の確保に使われている実態との乖離(かいり)が指摘されていた。就労期間は3年とし、一定の専門性を持つ外国人を対象とした「特定技能制度」の水準まで育成。現在は技能実習と特定技能の受け入れ対象分野がばらばらだが、新制度では一致させ、技能実習から特定技能に移行しやすくする。技能実習と特定技能 技能実習は「人材育成による国際貢献」を目的に途上国の外国人を最長5年受け入れる制度で、1993年に始まった。2023年6月末時点で全国に約36万人が在留する。特定技能は、人材確保が困難な産業分野に一定の専門性・技能を有する外国人労働者を受け入れる制度で、19年に開始。技能水準に応じて1号と2号がある。23年6月末時点で約17万人が在留。 ◆「人材確保」と「人権保護」 外国人技能実習制度の見直しを巡り、政府有識者会議が最終報告書で、転籍制限期間の延長などの経過措置を「検討する」と盛り込んだのは、人材確保と人権保護をてんびんにかけるような議論の着地点を見いだせなかったためだ。今後の制度設計では、外国人の人権保護が骨抜きにならないような対応が求められる。一般の有期雇用者と同様に1年での転籍を認めることは、外国人の人権保護を目指した制度見直しの根幹だった。だが、10月に新制度案のたたき台が示されると、実習生を受け入れてきた地方の事業者や自民党内から「人材が都会に流出する」などの声が相次ぎ、有識者会議は「懸念への対応が必要」と判断した。一度は制限期間を「最大2年」に延ばせる例外規定を示したが、賛否が分かれたため削除。「最大2年」の記述すら消えたことで、現行の「3年不可」に近い制限が継続される懸念も残った。経過措置の「当分の間」がどれだけ続くかも不透明だ。自民党内の緩和への根強い慎重論が制度設計に影響する可能性もある。人材確保と人権保護は相反するものなのか。外国人の人権保護を大前提にした上で、地方の不安にどう応えるべきか。政府・与党は知恵を尽くすべきだ。(井上峻輔) *5-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230813&ng=DGKKZO73560080S3A810C2EA1000 (日経新聞社説 2023.8.13) 〈人手不足に克つ〉「選ばれる国」へ外国人基本法を 日本は外国人に「選ばれる国」になれるのか。今がまさに正念場である。選ばれるには外国人が歓迎されていると感じる環境を提供しなければならない。職場はもちろん、生活する地域社会でも外国人が共生できる教育や福祉の基盤づくりが急務だ。その礎として外国人をどのように受け入れるか、我が国の姿勢を内外に示す外国人基本法を考える時期である。 ●疎外感の放置はリスク 外国人労働者を受け入れる政策は転換点にある。6月に在留資格「特定技能」で長期就労や家族帯同ができる業種を大幅に増やし、永住に道を開いた。賃金不払いや失踪などトラブルが絶えない技能実習制度を廃止し、新制度に移行する議論も進む。技能実習は国際貢献を名目にしながらも、実質的に外国人を景気変動に伴う一時的な雇用の調整弁として扱ってきた。人手不足が恒常化した今、これでは対応できない。人権侵害が指摘される制度でもあり、早急に廃止して特定技能に一本化すべきだ。複雑になっている在留資格も整理したい。制度のわかりにくさは外国人が日本を避ける理由になりかねないためだ。日本にはすでに総人口の2%に相当する約300万人の外国人が暮らしている。外国人比率が1割ある欧州ほどには社会のあつれきはまだ目立たないが、技能実習の受け入れから30年たち、第2世代が社会に出始めている。なかには日本語がままならないまま社会に放り出され、疎外感を感じている若者もいよう。日本社会に溶け込めない外国人を放置しておくのは、欧州の移民問題のようなリスクを抱えていると考えるべきだ。それが顕在化しないうちに社会的に包摂する手立てを考える必要がある。最も重要なのが日本語教育である。多文化共生を進める浜松市は、外国人家庭を訪問して相談に応じるなど、きめ細かな支援で学校に通っていない子どもをゼロにするようにしている。だが多くの自治体はそこまで手が回らない。外国人に日本語教育が行き届かないのは、自治体やNPO任せにしてきたためだ。憲法は義務教育の対象を「国民」としているが、日本は「すべての者」への教育の提供を定めた国連人権規約と児童の権利条約を批准している。国籍を問わず、子どもに教育を受けさせるのは政府の責任である。明治の市町村合併は小学校、昭和の大合併は中学校を運営できるよう自治体を強化するのが目的だった。外国人の住民登録がない自治体はいまや全国に3つしかない。外国人がどこにいても一定の教育を受けられるようにするのが令和の公教育のあるべき姿だ。そこでは教育だけでなく、福祉なども含めて外国人受け入れのあり方を一から考えていく必要がある。これまでは移民の是非をめぐる対立から入り口で思考停止に陥っていた。「移民政策はとらない」「単純労働者は受け入れない」といった制約をいったん取り払い、日本にふさわしい外国人受け入れ制度を議論するときだ。 ●共生社会は国の責務 外国人政策を議論する日本国際交流センターの円卓会議は「在留外国人基本法」を提唱している。外国人を日本社会の一員とし、対等な社会参加で共生社会を築くことを理念に掲げる。そのための基盤整備、財源確保は国の責務とした。賛同できる。各論はさまざま議論があろう。だが、基本法で外国人を歓迎する姿勢を打ち出すことは、人口減少を日本の成長の制約とみている世界に向けて、日本は変わるとのメッセージになるだろう。企業も意識を変えなければならない。長期就労を前提に昇給・昇進や能力開発を日本人と同等にする必要がある。優秀な人材は幹部候補として育て、独立を支援するくらいの度量がないと魅力的な会社に映らないのではないか。外国人を積極的に受け入れる韓国や台湾などとの競争は激しさを増している。外国人に選んでもらえる職場づくりは、多様な人材が活躍できるオープンで創造的な企業風土につながると考えたい。豊かで活力ある経済を維持してゆくには、開放的な社会であることが前提になる。それは古来、海外との交流を深めることで発展してきた我が国の歴史そのものだ。そのDNAを呼び覚ましたい。 *5-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230826&ng=DGKKZO73919710W3A820C2EA1000 (日経新聞 2023.8.26) 留学増へ給付型奨学金拡充 来年度7割増3万人に、文科省、国際人材育成急ぐ 海外への留学生を2033年までに年50万人にする目標の実現に向け、文部科学省は給付型奨学金の対象者を24年度に現在に比べ7割増の3万人にする方針を固めた。国際競争力向上へグローバル人材の育成を急ぐ。政府の教育未来創造会議が4月、33年までに日本人留学生を新型コロナウイルス禍前の年22.2万人から年50万人に、外国人留学生を年31.8万人から年40万人に増やすよう提言した。同省が経済面の支援策などを検討していた。派遣する留学生の奨学金を拡充するため24年度予算案の概算要求に114億円を盛り込む。留学支援の給付型奨学金は現在、交換留学など中短期の留学を支援する「協定派遣型」と、学位取得を目指す「学部学位取得型」「大学院学位取得型」などがある。協定派遣型は月額で最大10万円を支給し23年度は約1万6900人が利用している。24年度はこの受給者を約1万3000人分増やし、3万人を対象にする。最大で月11万8000円を支給する学部学位取得型、月額最大14万8000円の大学院学位取得型の受給者は23年度の600人から700人強に増やす。自治体などと連携して高校を卒業してすぐ海外大に進学する生徒らを支援する。内閣府が18年度に若者約1000人を対象に実施したアンケートによると、経済的な理由や語学力不足などを理由に「外国留学をしたいと思わない」と答える若者は全体の5割を超えた。2割程度の韓国、米国などに比べて消極性が際立つ。学位取得を目的とする留学者数は20年に4万2000人だったが、33年には年50万人のうちの15万人に引き上げたい考えだ。実現すればフランス(10万人)や米国(10万9000人)、ドイツ(12万3000人)を抜く規模となる。文科省関係者は「まずは中短期留学者の支援を充実させ、留学機運を醸成したい」と話す。高校段階での意欲喚起も重要とみており、留学情報の発信やプラン策定などを担う「留学コーディネーター」の高校への配置も進める。外国人留学生も受け入れ拡大へ日本学生支援機構に誘致戦略を立案する部署を新設する。諸外国の動向やデータなどを分析して戦略を練る。同機構によると、日本の在学者に占める外国人留学生の割合は5%。英国の20%、オーストラリアの30%と比べ低い。5月に富山市と金沢市で開催された主要7カ国(G7)教育相会合の閣僚宣言では「G7各国間の国際交流をコロナ前の水準に戻し、それ以上に拡大する」と盛り込まれた。同省はG7とともに東南アジア諸国連合(ASEAN)との大学間共同教育プログラムの策定支援や、これらの国から受け入れる留学生への奨学金を拡充する方針だ。 *5-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231120&ng=DGKKZO76206190X11C23A1KE8000 (日経新聞 2023.11.20) 経済教室外国人労働者政策の針路(上) 経済成長に寄与する制度に 橋本由紀・経済産業研究所研究員(東京大経済学部卒、同大博士(経済学)。専門は労働経済学、外国人雇用) <ポイント> ○外国人材の技能水準が企業の生産性左右 ○現政策は非高技能者割合を高める可能性 ○成長企業を外国人材確保で優遇する案も 外国人には受け入れ国の人口・経済政策や出入国管理制度が実質的な「国境」となり、就労の可否や働き方は制度や政策の調整の影響を強く受ける。同時に外国人労働者の増加は受け入れ国の労働市場にも多少の影響をもたらし、自国民の働き方も変えうる。本稿では、これまでの政策の帰結としての日本の外国人労働者の現状を踏まえつつ、これからの外国人労働政策を議論したい。図は、賃金構造基本統計調査を基に2020~22年の外国人労働者(一般労働者のみ)の所定内給与額の推移を示したものだ。専門的・技術的分野の労働者(身分系の在留資格者は含まない)と、技能実習生・特定技能外国人の賃金水準や分布は大きく異なっている。賃金分布の差異に加え在留資格取得に必要な学歴や経験の違いも踏まえると、専門的・技術的分野の外国人と技能実習生・特定技能外国人は異なるグループとみなしうる。前者を高技能者、後者を非高技能者とする分類は、多くの研究が用いる区分にも対応する。まず高技能外国人の雇用状況を確認する。筆者が連合総合生活開発研究所(連合総研)のプロジェクトで行った賃金構造基本統計調査の分析結果を紹介しよう。高技能外国人には賃金が日本人正社員と同水準かそれ以上の者が少なくない。図に示すように分散も大きい。一方で勤続年数が短くボーナス支給割合も低いことから、日本型雇用慣行の下で正社員的に働く者は少なく、専門的な職種に就きジョブ型で雇用される者が多いと推測される。次に非高技能外国人の雇用をみてみよう。図の技能実習生と特定技能外国人の所定内給与額の中央値は、20年から22年の間にそれぞれ1.4万円、3.6万円上昇し、分散も拡大している。特定技能外国人の22年の中央値(20.4万円)は、高卒非正規労働者の所定内給与額の中央値(19.2万円)よりも高い。かつて技能実習生の賃金は、事業者が立地する地域の最低賃金を目安とした相場が形成され、分散も小さかった。だが現在は、高まった技能に見合う給与を支払う事業者が増えている。転職の制限により需要独占的となっていた技能実習生の労働市場が、転職が認められる特定技能外国人の労働市場と接続されたことで競争的になりつつある。同調査では、外国人を雇用しない企業と比べ、高技能外国人を雇う事業所では日本人の賃金が高く、非高技能外国人を雇う事業所では日本人の賃金が低いことも確認できた。これは因果関係を示すものではない。しかしクリスチャン・ダストマン英ロンドン大教授らはドイツの労働市場を分析し、地域に流入した移民労働者の技能レベルに応じて企業内の生産技術が変化することを実証している。日本でも、高技能者向けの技術を使い生産性を高めた企業では賃金が高く、非高技能外国人の雇用を増やし労働集約的となった企業では生産性や賃金が停滞していた可能性がある。日本商工会議所の調査によれば、23年度に賃上げを実施した中小企業は62%だった。一方、三菱UFJリサーチ&コンサルティングによる製造業分野の中小企業支援調査では、97%の事業所が自社で技能実習を修了した者を特定技能1号として雇用した際に月給額を引き上げていた。ここで働きや貢献に応じた賃上げが日本人労働者と特定技能外国人で同時になされなければ、特定技能外国人の賃上げは制度の要請によるもので、生産性や業績の向上を伴わない防衛的賃上げである可能性が示唆される。各都道府県の技能実習生と特定技能外国人の在留者数をみると、18年時点では全技能実習生の約6割が、22年時点の最低賃金が1千円未満の自治体に在留していた。21年以降、全特定技能外国人のうち、これらの自治体に在留する者は5割を下回っている。その結果、22年には最低賃金が1千円以上の都府県では、非高技能労働者総数に占める特定技能外国人の割合は有意に高い傾向があった。特定技能制度創設時に懸念された都市部への移動は既に顕在化の兆しがある。多くの先進諸国では、経済成長に貢献する人材として高技能移民の就労や定住を推進し、非高技能移民は適所で受け入れつつ定住は制限する政策をとる。翻って現在の日本は、専門的・技術的分野の人材以外の外国人労働者にも定住への道を開きつつあり、外国人の受け入れでも大規模な「量的緩和政策」に転じている。そこでは、外国籍者の在留の範囲や期間など線引きに関する議論は後退し、外国人労働政策の新たな課題は求める人材にいかに日本を選んでもらうかとなる。高技能外国人と非高技能外国人の新規入国者数は12年にはほぼ同数だったが、22年は後者が前者の2.3倍となった。現在の日本は、非高技能労働者により選ばれている。この傾向が続けば、非高技能者が日本の外国人労働者の多数派となる日は遠くない。こうした傾向が生じたのは、現行政策が外国人の質と量をともに求めても、技術革新に貢献しうる高度人材には日本で就労する魅力が乏しいからだ。非高技能者にとっても円安により賃金面では日本で働く誘因は低下しているが、門戸の広さや生活環境が評価されて在留者は急増している。10月に公表された「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」の最終報告案は、新制度下での職場変更制約の緩和を提案した。これが実現すれば、非高技能外国人の働きやすさが相対的に高まるため、外国人労働者に占める非高技能者の割合はさらに高まると思われる。では今後の外国人労働政策は何を目指すべきか。政府は制度を順守しない悪質な機関や企業の適正化に重きを置く考え方もある。筆者は、外国人雇用の過程で生じた課題への対処と人手確保に重きを置く方針から、経済成長というマクロの目標に沿う外国人労働政策を目指すべきだと考える。現在の政策は高技能者と非高技能者向けの政策をそれぞれの枠組みの中で適正化しようとする。政策全体の展望は見えにくく、「新しい資本主義」が掲げる人と技術への投資強化や賃上げなどの主要労働政策との直接的な関連付けもない。人材確保のために特定技能外国人の賃金を引き上げる一方で、日本人の賃金を据え置いたり設備投資を控えたりすることは、企業や経済の成長にはつながらない可能性が高い。外国人に「選ばれる国」となるだけではなく、日本人が働き続けたい日本であるためにも、まず必要なことは日本経済の成長である。そこでは、すべての労働者が満足できる水準の所得と活躍機会の提供が不可欠だ。外国人労働政策にも、賃上げや設備投資を進めて生産性を高めた企業を優遇する仕組みを導入することも一案だ。日本的雇用慣行の下で働く正社員を支える存在として外国人労働者を位置け、限定的な機会や処遇しか提供しない非成長企業は選ばれなくなるだろう。 *5-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15753499.html?_requesturl=articles%2FDA3S15753499.html&pn=3 (朝日新聞 2023年9月28日) 「弥生人」像、核ゲノム分析が変える 文化の担い手は?見直し迫られる通説 「弥生人」とは何者か。縄文時代から日本列島に住む在来の人々と、海外から先進技術を持ち込んだ渡来人が徐々に混血しながら弥生文化を担う――。そんな人類学上の通説だった弥生人観が、近年急速に進む核ゲノムの分析で様変わりしようとしている。 ■渡来人と在来人、骨格違うが共通の「縄文的」遺伝子も 紀元前後の約千年にわたり展開した弥生時代。その幕を開けたのが、水田稲作や金属器文化を携えて北部九州沿岸部に現れた、朝鮮半島からの渡来人だ。彼らは遺跡から出土する骨の形の違いから、前代の縄文人とは姿がまったく異なるとされてきた。背が高くてすっきりした顔立ちの渡来人。対して、がっしりした肢体で彫りの深い在来系。両者は徐々に混じり合いながら現在の日本人を形作ったとされる。この説は「二重構造モデル」と呼ばれ、定説となっている。ところが、2010年代に登場した核ゲノム分析でこれが揺らぎ始めた。ゲノムとはすべての遺伝情報のこと。細胞の核が持つ情報量は、それまで分析対象の主流だったミトコンドリアDNAよりもはるかに多い。不可能と思われてきた古人骨の核の遺伝子分析を最新機器が可能にした。18年、日本人の起源をさぐる通称「ヤポネシアゲノム」プロジェクトがスタート。国立科学博物館の篠田謙一館長(DNA人類学)や、国立歴史民俗博物館の藤尾慎一郎教授(考古学)らが分析を重ねてきた。その結果、意外なことがわかってきた。渡来人の故郷である当時の朝鮮半島にも、縄文人に似た遺伝的要素を持つ人々がいたらしいのだ。つまり、二重構造モデルではまったく異質なはずの列島在来系と渡来人が、実は縄文時代以前から海を挟みつつ同じ遺伝子を共有していたことになる。研究チームはその理由を、はるか旧石器時代の東アジア沿岸部や島々に、両者のもととなった集団がいたからではないかと解釈。「(核ゲノムの分析では)骨の観察だけではわからなかった混血の度合いがわかる。従来、在地の人々に形質の異なる人々が入ってきた構図を描いてきたが、そう単純な話ではないことが見えてきた」と篠田さん。藤尾さんも「二重構造モデルも部分的な見直しが必要ではないか」という。生粋の渡来系と考えられてきた安徳台遺跡(福岡県那珂川市)の骨も縄文的要素を含んでいたことや、多量の出土人骨で有名な青谷上寺地(あおやかみじち)遺跡(鳥取市)の分析を通して混血度合いのかなり異なる人々が幅広くいたことも判明。弥生時代の西日本には想像以上に、遺伝的に多様な集団が存在していたようだ。既存の枠組みにも再考を迫る。九州では骨の形をもとに、渡来系が密集する北部九州から山口県の沿岸部に対し、長崎県を中心にした縄文人直系の在地集団を「西北九州弥生人」として区別してきた。ところが下本山遺跡(長崎県佐世保市)などのゲノム分析で、このタイプにも渡来系要素を持つ「ハイブリッド」な人々がいることが明らかに。こんな例は九州中部や南部にも広がる可能性があるらしい。もはや一概に「西北九州」とまとめることが難しくなったわけだ。弥生文化の担い手は誰か。特定の文化を特定の集団だけが独占するとは限らない。だから、先進文化をもたらした渡来人がそのまま弥生社会の中核だったとみる説と、縄文以来の在来人が主体的に外来文化を取り込んで発展させたとみる説が対立してきた。藤尾さんは「核DNAの分析成果と各地の文化的様相をもっと比較検討していけば、人間集団と文化の相関関係がわかってくるかもしれない」と話す。 <有明ノリは独禁法違反ではありません> PS(2023年12月2日追加):*6のように、公正取引委員会が有明海のノリ取引に関し、佐賀県有明海漁協と熊本県漁連の独禁法違反を認定して排除措置命令を出す方針を固め、理由は、①全てのノリを漁協や漁連に出荷することを生産者に求める「全量出荷」と呼ばれる慣行があること ②そのための誓約書を提出させていること ③生産者が独自ルートで取引することを制限していること 等が、拘束条件付き取引にあたると判断したからだそうだ。 しかし、有明海の海苔生産は、i)漁業者全員による海岸のゴミ掃除 ii)佐賀県による森林の育成 iii)佐賀市による海水の養分管理 iv)冷凍網の干し場としての漁港前空き地の利用 v)川に除草剤・農薬・洗剤を流さない 等々、個人の生産者だけではなく地域一丸となった付加価値の高い上質な海苔づくりのための努力があって行なわれている。さらに、佐賀県では(私が衆議院議員時代に提案して)有明海苔をブランド化し、多数の小規模生産者が自由に販売すれば大規模事業者に安く買い叩かれて所得が減り、佐賀県や佐賀市に環流する税金も減るのを防ぐため、つまり有明海苔のブランドと価格を守るために、①②③の“拘束条件”をつけているのである。もちろん、「有明海苔」というブランドに入らない海苔もできるが、これもまとめて等級に分け、買い叩かれず販売するために、なるべく漁協や漁連に集めるようにしている。そのため、この“拘束条件”は独占禁止法違反にあたるものではないと、私は考える。 なお、良い海苔ができるためには、海苔を生産している海や流れ込む川の水を汚染せず、山から栄養塩が流れてくる必要がある。以前は浅草海苔も採れていたのに今では採れないのは、東京港を行き交う船が東京湾を汚しすぎ、川から流れ込む水の水質管理もできていないからで、消費者が高すぎない価格で海苔を買えるようにするためには、多くの地域で海や川の水質に気をつけて海苔の生産量を増やすのが正攻法なのだ。そして、これは、他の水産物も同じである。 *6:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15805375.html (朝日新聞 2023年11月30日) 有明ノリ全量出荷、独禁法違反認定へ 佐賀・熊本に排除命令方針 有明海のノリ取引をめぐり、九州3県の漁連や漁協に独占禁止法違反(不公正な取引方法)の疑いがあるとして公正取引委員会が立ち入り検査をしていた問題で、公取委は、このうち佐賀と熊本の漁協と漁連の違反を認定し、排除措置命令を出す方針を固めた。関係者への取材でわかった。命令の対象となるのは、佐賀県有明海漁業協同組合(佐賀市)と熊本県漁業協同組合連合会(熊本市)。公取委は、両者に処分案を通知しており、意見を聴いたうえで最終的な結論を出す。関係者によると、公取委が問題視しているのは、全てのノリを漁協や漁連に出荷することを生産者に求める「全量出荷」と呼ばれる慣行。誓約書を提出させるなどの方法で生産者が独自ルートで取引することを制限しており、独禁法が禁止する拘束条件付き取引などにあたると判断した。公取委は昨年6月、福岡有明海漁業協同組合連合会(福岡県柳川市)を含む3者に立ち入り検査に入っていた。福岡は問題点を認め、誓約書を廃止するなどの改善計画を公取委に提出。公取委が6月に計画を認め、違反は認定せずに調査を終了していた。一方で佐賀と熊本は取引手法の違法性を否定し、改善計画も提出していない。公取委はこうした点も踏まえ、違反認定に踏み切る方針を決めた模様だ。 <中国産の花粉がないと受粉できない!?> PS(2023年12月2日追加):ホタテの殻むきを“加工”と呼んで、殻付きホタテを中国に輸出し、殻むき済ホタテを中国から米国に輸出していたのには驚いたが、外国人難民を移民労働者として受け入れれば、無駄な輸送費がかからず、技能レベルの低い人でも日本国内で“加工”でき、働けば日本社会の支え手になる。 そのような中、*7のように、①「幸水(ナシ)」の授粉に使う中国産の花粉が防疫で輸入停止になり、必要な量の花粉を確保できないため、来年は幸水の減産になるかも ②佐賀県は栽培面積の約4割で中国産の花粉を使用している ③農水省は自給体制を整えるよう求めた ④佐賀県内には花粉を共有して大量に保管する仕組みがない ⑤打開策の1つとして幸水より1週間ほど早く開花する「豊水(ナシ)」の花粉の採取が検討されている 等というのも驚きだった。 何故なら、「中国産の花粉がなければ植物の受粉ができない」ということはあり得ず、養蜂家にしばらくナシ畑にいてもらって、ナシの蜂蜜も採取すればよいからである。人間が他のナシから花粉を集めて保存したり、受粉したりすれば、それだけ労力とコストがかかってナシの値段が高くなる上、中国産の花粉がなければナシができないようなら、農水省が言うまでもなくナシを自給したことにはならず、輸送コストをかけて化石燃料を使っている。人手が足りないのなら、それこそ外国人労働者を雇えばよいし、アーモンド・レモン・オリーブ等の人手のかからない作物に転換することもできるため、生産コストを下げる工夫もしたらどうかと思った。消費者は、(贈答品でもらわなくても)果物を存分に食べるくらいのことはしたいのだから。 *7:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1151968 (佐賀新聞 2023/11/30) 佐賀県産ナシ、花粉不足に 中国で「火傷病」発生→農水省、防疫へ輸入停止、生産者、来年の減産回避へ奔走 伊万里市などのナシの産地に、深刻な問題が降りかかっている。授粉に使う中国産の花粉が防疫のため急きょ輸入停止になり、来年の生産に必要な花粉の量を確保できない恐れが出てきた。佐賀県では栽培面積の約4割で中国産花粉を使っており、生産量の大きな落ち込みを回避しようと農家やJA、行政が対策に当たっている。農水省は8月30日、中国で火傷病(かしょうびょう)の発生を確認したとして、花粉の輸入を停止した。火傷病は花粉を介して国内に侵入する恐れがあり、同省は中国産の利用実態を調査。農家やJAに在庫があっても使用しないことや、輸入禁止の長期化を見据えて自給体制を整えるよう求めた。ナシは主に人工授粉をして着果させるが、花から授粉用の花粉を採取するのは手間がかかる。産地では高齢化や人手不足も背景に、手に入りやすい中国産を使う農家が増えていった。佐賀県内は全国に先駆けて出荷する早生種「幸水」の施設栽培の割合が多く、早い時期の授粉に間に合わせるため中国産花粉に頼る傾向がある。県によると、2022年の県産ナシで中国の花粉を使ったのは栽培面積の約4割を占め、全国平均の約3割を上回る。県、関係する市、JAによる対策会議はこれまでに3回開かれ、来年の花粉をどう確保するかが重要課題に挙がっている。県園芸農産課は「国が対策を呼びかけた時は自前で花粉を採取できる時期は過ぎていた。また県内には、花粉を共有して大量に保管する他産地のような仕組みもない」と頭を悩ませる。県は農家ができる対策として、授粉の際に花粉を節約したり、各農家のストックを融通し合ったりすることを呼びかける。ただ、こうした取り組みでも不足を補うには至らず、県が9月に行った農家へのアンケートでは、来年必要な花粉が面積で約2割分足りないという試算が出た。一つの打開策として検討されているのが、幸水より1週間ほど早く開花する「豊水」の花粉の採取だ。現在、ハウス豊水の花が咲き始める2月末ごろに向け、関係者が奔走している。約130軒のナシ農家が加入するJA伊万里の担当職員は「不足分を補うには花粉採取用の豊水の木を何十本、何百本と確保しなければならず、生産者に協力を求めるなど調整している。授粉の適期は3~4日しかなく短期勝負。技術的にも難しく、どのくらいの花粉や人手が必要か、詰める作業をしている」と話す。影響をいかに抑え、生産量の減少をゼロに近づけられるか。産地全体で知恵を出し、助け合うことができるかが鍵を握る。 ■火傷病 ナシやリンゴなどの果樹が感染し、枝や葉が火にあぶられたように枯れ、木全体に及ぶ場合もある。火傷病菌を根絶できる有効な防除方法が確立されていないため、感染すれば伐採による防除が必要になる。日本での発生は確認されておらず、韓国や中国など約60カ国・地域で発生している。 <吉野ケ里遺跡で青銅器鋳型出土> PS(2023/12/7追加):*8のように、①吉野ケ里遺跡(佐賀県神埼市)で「細形銅剣(銅矛)」と呼ばれる最も古いタイプの蛇紋岩の鋳型が出土した ②九州北部は日本で最初に青銅器生産を始めた地域 ③このような鋳型は佐賀9遺跡20点、福岡6遺跡30点、熊本2遺跡4点出土 ④鋳型の石材を調べることで朝鮮半島との関わりが考察でき、青銅器生産の技術がどう伝わったかを考える材料になる とのことだ。確かに、日本人は貿易で手に入れたものを国内生産したがるため、青銅器も同じであろうし、遺跡からの出土品も韓国と北部九州で類似しているため、九州北部は韓国を通じてユーラシア大陸と繋がっていたのだと思われる。 *8:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1154069 (佐賀新聞 2023/12/5) <吉野ケ里遺跡・青銅器鋳型出土>生産技術伝来解明の材料に 蛇紋岩製「全国でも初の出土例」、「謎のエリア」で発見 吉野ケ里遺跡(神埼市郡)の北墳丘墓西側にある「謎のエリア」で見つかった鋳型。鋳型に刻まれた形状から、「細形銅剣(銅矛)」と呼ばれる最も古いタイプと判明した。県文化課は「佐賀平野の遺跡の出土例が今回増えたことで、青銅器生産の技術がどう伝わったかを考える材料になる」と指摘する。県によると、このような最古級の鋳型は佐賀の9遺跡から20点、福岡の6遺跡から30点、熊本の2遺跡から4点出土している。福岡にある一つの遺跡から16点が一気に見つかったケースもある。九州北部は日本で最初に青銅器生産を始めた地域であり、その研究を進める材料の一つといえる。今回、全国でも出土例がないという蛇紋岩の鋳型が見つかったことについて、県文化課は「あまり注目されてこなかった石材を調べることで、朝鮮半島との関わりも考察できる」とする。一方、今回の発見で、吉野ケ里遺跡の南側にあったとされる「青銅器工房」が北側にも存在する可能性が出てきた。県文化課は、関連遺物が日吉神社境内跡地から複数見つかったことをその理由に挙げて、「鋳造に使われた土器製容器が見つかった点が大きい。生産設備の近くに捨てられるケースが多いから」とした上で「昭和60年代、鋳型の破片が、今回の出土地点からさらに西側で出土している。どこかからもたらされたというこれまでの考察を改め、製造拠点があったという可能性が高くなった」と述べた。 <日本の15歳、数学的リテラシーに課題> PS(2023年12月7日追加):*9-1は、①政府は3人以上の子がいる多子世帯は2025年度から所得制限なく子の大学授業料を無償化する方針 ②教育費の負担軽減で子をもうけやすくする ③大学生のほか短期大学・高等専門学校等の学生も含める ④現在、年収380万円未満の世帯は授業料を減免したり、給付型奨学金を出す支援制度がある ⑤政府は、2024年度から年収600万円までの中間層の多子世帯等に授業料を減免すると発表した ⑥今回は、多子世帯は所得制限なく無償化 ⑦政府は近く3.5兆円規模の財源確保策も示す方針だが、社会保障の歳出削減も必要になる としている。 しかし、①②④⑤⑥については、多子世帯の親に恩恵がある点で「とにかく生んでくれ!」という時代錯誤の政策である。また、子育て支援策が重複してきたため、子の育成を中心に考えて所得制限を設けず国公立大学の授業料を1万円/月以下にし、優秀にもかかわらず親の世帯所得が低いため進学が困難な子には奨学金を支給すればよい。国公立大学に絞る理由は、国公立大学はどの受験生にも英数国社理の試験を課し、大学入学前に常識として必要な最低限の知識を身につけることを促すからである。従って③も、本当に勉強して向上したい人だけを優遇すれば良いという意味でやりすぎだ。さらに、⑦の子育て財源に社会保障の負担増・歳出削減も取り沙汰されているが、社会保障間で融通しようとするのは不合理だ。何故なら、自立して社会を支え、社会を引っ張れる大人を育てるために教育支援をするので、教育支援をしっかり行なえば自立しているべき生産年齢人口の大人に景気対策のバラマキをする必要はないからだ。 *9-2は、⑧各国の15歳を対象とする2022年学習到達度調査結果を経済協力開発機構が発表 ⑨日本の数学の授業は「日常生活とからめた指導を受けている」と答えた割合が低い ⑩「先生は日常生活の問題を数学でどう解決できるか考えるよう言ったか」は日本36・1%・OECD加盟国平均51・9%で加盟37カ国中36位 ⑪「先生は日常生活で数学がどう役立つか示して見せたか」は日本28・0%で37カ国中最低 ⑫その理由は各大学の個別入試は数式や図形のみを使った従来型の問題が多く、対策を優先すると演習が増えて社会事象とからめた問題に時間をかける余裕がないから ⑬「数学が大好きな教科か」は「そう思わない」が6割でOECD平均より高い ⑭実社会とからめる指導は生徒の関心を呼びやすく、数学が苦手な子の意欲を引き出す効果 ⑮新指導要領で教える内容が増え、教え込むのに手いっぱいで実生活とからめた授業をする余裕がないと感じる教員も多い ⑯事情は中学も同様で都内公立中学校の50代教諭は「教科書には日常生活とからめた問題が多くない」と指摘 ⑰「例えば米国の教科書には関数の学習でハンバーガーのカロリーと脂肪分の関係を考察するものもあり、互いに考えを出し合い探究する学びや実社会の問題を扱う学びを採り入れていかないと数学嫌いはなくならない」 としている。 日常生活とからめた数のセンスは幼稚園以前から形づくられ、小学校で確立し、中学・高校ではより一般化・抽象化した数学の概念を学ぶのだと、私は思う。例えば、保育園・幼稚園・家庭で、食事の前に「餃子が○個あるけど、みんなが同じ数だけ食べるには、1人何個食べればいい?」「ぶどうは、1人何個食べれば、同じ数だけ食べられる?」など、具体的に数えたり触ったりしながら食べ物を前にして教えれば、幼い子でも数や割り算が頭に入る。小学校では、もう少し学問的に身長・体重・成績などの中央値・平均値・分散・標準偏差等から統計学の基礎を教えられるため、⑨⑩⑪⑭は教え方次第である。そのため、⑮⑯⑰については、指導要領の中に実生活とからめたわかりやすい事例を盛り込んでおけば、先生も生徒も理解し易いだろう。⑫の大学入試の段階は、既に高校で学んだ一般化・抽象化された数学の概念が身についているか否かをチェックするもので、数学と実生活のかかわりは、⑧のように、15歳くらいまでに勉強しておくものだ。なお、⑬の「数学は好きか否か」は、「数学のセンスがなければ論理的・合理的にものを考えることができず、論理的・合理的にものを考えられなければ正しい結論は出せない」と教えておけば、殆どの子どもは数学が好きになろうとするだろう。 *9-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15811208.html (朝日新聞 2023年12月7日) 多子世帯、大学無償化へ 25年度から、所得制限なし 政府方針 「異次元の少子化対策」をめぐり、政府は3人以上の子どもがいる多子世帯について、2025年度から子どもの大学授業料などを無償化する方針を固めた。所得制限は設けない。教育費の負担軽減で、子どもをもうけやすくする。「こども未来戦略」に盛り込み、月内に閣議決定する。対象は子どもが3人以上の世帯。大学生のほか、短期大学や高等専門学校などの学生も含める方針。入学金なども含む方向で調整している。子どもとしての数え方も今後詰める。年収380万円未満の世帯では現在、授業料を減免したり、給付型奨学金を出す支援制度がある。政府は今春、少子化対策として、24年度から、年収600万円までの中間層の多子世帯などに対象を広げ、授業料を減免すると発表した。今回は多子世帯は原則、所得制限なく無償化すると踏み込んだ。政府は6月に、児童手当の拡充などを盛り込んだ少子化対策の「戦略方針」を決定。当初は事業規模を約3兆円で検討していたが、戦略方針の素案公表の直前の5月31日、5千億円ほどが上乗せされた。この際、岸田文雄首相は「高等教育の支援拡充」などを「私の指示で実施することにした」と表明。これまでその内容は明らかになっていなかった。政府は近く3・5兆円規模の財源確保策も示す方針だが、社会保障の歳出削減なども必要になる。 *9-2:https://digital.asahi.com/articles/ASRD54V05RCXUTIL02D.html?iref=comtop_7_04 (朝日新聞 2023年12月5日) 日本の15歳、数学的リテラシーに課題 教諭ら「授業する余裕ない」 各国の15歳(日本では高1)を対象とする2022年の学習到達度調査「PISA〈ピザ〉」の結果を経済協力開発機構(OECD)が発表した。調査の一環で実施された生徒へのアンケートでは、日本の数学の授業で「日常生活とからめた指導を受けている」と答えた割合が低いとの結果が出た。背景に何があるのか。今月4日、東京都練馬区の都立大泉桜高校の2年生を対象にした「数学Ⅰ・A演習」の選択授業で、新型コロナのPCR検査を題材にした授業が行われた。生徒たちはこれまでの授業で、全員検査の場合と感染疑いのある人にのみ検査した場合のそれぞれの陽性者数などを試算。4日の授業ではこうしたデータを元に、政策としてどちらが妥当かといった点を議論した。検査対象を絞る政策について、生徒からは「無駄な病床を使わなくて済んだ」「感染を広げたのでは」と賛否両論が出た。熱心に議論していた男子生徒は授業後、「おもしろかった。数学は社会とは関係ないと思っていたけど、身近に感じた」。担当した上田凜太郎主任教諭は「データに基づいて判断する力が生徒たちの将来に生きる。価値観や前提によって結論が変わることに数学を通して気づけるのも大きな学び」と狙いを話す。PISAは、多くの国で義務教育修了段階にある15歳時点の学習到達度を測るため、OECDが00年から3年ごとに実施。コロナ禍による1年延期を経て行われた今回の22年調査では、OECD加盟37カ国を含む81カ国・地域が参加した。PISAは毎回、3分野のうち1分野を重点調査しており、今回は数学的リテラシーが対象となった。アンケートで「先生は私たちに日常生活の問題を数学でどう解決できるか考えるよう言った」かを尋ねたところ、「全てまたはほとんどの授業」「授業の半数以上」「授業の半数程度」で指導があったと答えた日本の生徒は計36・1%。OECD加盟国の平均51・9%を下回り、加盟37カ国中36位だった。「先生は日常生活で数学がどう役立つか示して見せた」は計28・0%で、37カ国で最低だった。 ●なぜ教育現場で浸透しない? 「大学入試と関係」の声も 22年度から順次実施されている高校数学の学習指導要領では、日常生活や社会の事象を数理的に捉えて問題を解決する力を養うことが重視されている。ただ、教育現場では浸透しきっていないのが実情だ。都立西高校の森本貴彦教諭は「各大学の個別入試との関係が大きい」。21年に大学入試センター試験に代わって始まった大学入学共通テストの数Ⅰ・Aではキャンプ場から山頂を見上げる際の角度を考える問題や、短距離走での歩数と1歩で進む距離の関係について取り上げた問題などの出題がある。一方、特に各大学の個別入試は数式や図形のみを使った従来型の問題が多いといい、その対策を優先すると演習が増え、「社会事象とからめた問題に時間をかける余裕があまりない」という。数学的リテラシーの日本の結果をみると、成績を6段階に分けたときの上位2層が、前回と比べて統計的に有意に増えた一方、最下位層は11・5%から12・0%と横ばい。アンケートで数学が大好きな教科か尋ねると、そう思わない生徒の割合は6割でOECD平均より高かった。 ●順位は上昇、学校への「所属感」向上 でも… 専門家が読むPISA 実社会とからめる指導は生徒の関心を呼びやすく、数学が苦手な子の意欲を引き出す効果もあるとされる。関東地方の公立高校で数学を教える30代教諭も、各単元ごとに1度は日常の題材を採り入れている。ただ、通常の授業よりも準備などに時間がかかるため毎回扱うのは難しいという。周囲を見ても取り組みが進んでいないと感じる。「新指導要領で教える内容が増えた。教え込むのに手いっぱいで、実生活とからめた授業をする余裕がないと感じている教員も多いと思う」。事情は中学でも同様だ。都内の公立中学校の50代教諭は「教科書には、日常生活とからめた問題が多くはない」と指摘する。自身は独自に開発した教材などを使うが、「多忙で教材が作成できず、教科書に依拠して授業をする教員は多い。その結果、日常生活との関連が弱くなりがちだ」という。西村圭一・東京学芸大教授(数学教育)は「例えば米国の教科書には、関数の学習でハンバーガーのカロリーと脂肪分の関係を考察するものもある。互いに考えを出し合い探究する学びや、実社会の問題を扱う学びを採り入れていかないと、数学嫌いはなくならない」と話す。今回のアンケート結果などを分析した文部科学省の担当者は「残念だ」と受け止める。これまでも高校に入ると計算などの問題演習が増える傾向が指摘されてきたとし、「結果を受け止めて対応を検討したい」と話す。
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2021,09,02, Thursday
(1)アフガニスタンについて
(図の説明:1番左の図のように、中村医師はアフガニスタンに2003年から用水路を建設し、用水路が完成した地域には、左から2番目の図のように緑地が広がっている。現在は、右から2番目の図のように、太陽光発電所と羊牧場を併設したり、1番右の図のように、砂漠に風力発電機を設置して動力を得たりすることもできる) アフガンの人口ピラミッド 日本の人口ピラミッド 2018.6.4東洋経済 (図の説明:左図のように、アフガニスタンの人口ピラミッドは富士山型に近く、栄養状態が悪くて医療も普及していないため乳児死亡率が高いことを示す。これは、中央の図の日本の1950年以前《主に戦前》の状態に近いが、日本では、右図のように、戦後、急速に実質GDPが伸び、それにつれて栄養状態が改善し、教育や医療が普及して、一人一人の生産性が前より上がって豊かになり、人口ピラミッドがつりがね型からつぼ型へと変化した。つまり、多産と経済成長は正の相関関係がないだけでなく、教育を通して負の相関関係がありそうなのである) 1)米軍のアフガニスタン駐留終了が人権に与える影響 バイデン米大統領は、*1-1-1のように、「20年間にわたる米軍のアフガニスタン駐留が終了した」と明らかにし、12万3000人の米国人及び米国に協力したアフガン人の国外退避をだいたい終えた後、掃討をめざしていたイスラム主義組織タリバンが復権した。 が、未だ100~200人の米国人が出国できずに残っており、タリバンが求める経済支援と引き換えに自由かつ安全な移動に関する合意を履行するよう求めており、タリバンの報道官の方は米軍撤収について「私たちの国は完全な独立を手に入れた」とツイッターに投稿したそうだ。 *1-1-2は、①タリバンの統治を恐れて空港周辺に出国を望む市民数千人が殺到して死者が出た ②アフガン在住の各国国民や協力したアフガン人の国外退避は緊急を要する最優先事項 ③タリバンは国外退避を望むアフガン人に対し、新たな国造りに必要な人材として空港到着を阻んでいる ④在アフガニスタン米大使館員らは7月13日付の極秘公電で駐留米軍が8月31日に撤退すれば、直後にガニ政権や政府軍は崩壊する恐れがあると警告していた ⑤警告にもかかわらず、米政府はガニ政権とタリバンとの戦闘見通しを誤った と記載している。 また、*1-1-2は、⑥日米欧のG7は8月24日に緊急首脳会議を開いて、退避支援に全力を挙げること・人道危機回避への貢献・女性の権利擁護・テロ対策での緊密な連携を確認 ⑦日本政府は出国を求める人に各自で空港までの移動手段を確保するよう求めたが、市民に自己責任で移動を求めるのは無責任 ⑧日本政府はタリバンと交渉し安全地帯を確保して迎えに行くなどの安全で確実な方法を示すべき ⑨米軍撤退の教訓は、中央アジアの覇権争いを繰り返さず、故中村哲医師が実践したような取り組みで国を再生させること とも記載している。 さらに、*1-1-3は、⑩タリバンは、8月17日に首都カブールで開いた記者会見でザビフラ・ムジャヒド報道官が初めて姿を見せて国際テロ組織を国内から排除する方針を明らかにし ⑪報道官は「外国組織が他国に危害を与えるために国土を使うことを許さない」とも強調し ⑫資金源であるケシ栽培は「金輪際関わらない。そのためにも国際社会の援助が必要」と訴え ⑬ジェイク・サリバン米国家安全保障担当大統領補佐官は、8月17日の記者会見で「タリバンがどのような行動を世界に示すか次第。(政権承認の是非を)判断するのは時期尚早だ」と答え、女性の権利を守らせるために同盟国と連携してタリバンに圧力をかける と記載している。 このうち①は悲惨で、酷い刑がしばしば行われる国では②が不可欠だ。また、③は、タリバンの支配層が新たな国造り要員としてアフガン人の出国をの望まなかったとしても、その意味するところを文字の読めない末端まで理解できるとは限らず、自由な思想を持つリーダーの方がいつ殺されて失脚するかわからないため、残された人はやはり危険である。これは、日本の明治維新から第二次世界大戦以前と同じような状況だ。 従って、④⑤⑥については、⑤の警告に基づいて必要なことを終わらせた後で撤退すれば、①②は起こらず、何とか合格点だったただろう。しかし、日本の⑦も、市民に無理を強いている。⑧は、日本大使館を再開して安全地帯とし、ビザを発行して国外退避したい人をアフガニスタン国外に移送し、その後、日本に空輸するしかないと思われる。 それを可能にするには、⑨や*1-3に書かれている中村医師の実績と今後の日本の援助方針が効くだろう。中村医師は、アフガンを干ばつが襲って農地が砂漠化するのを見て、病気の背景には食料不足と栄養失調があると考え、「100の診療所より、1本の用水路を」と2003年からアフガン東部で用水路建設に着手した。 この用水路は、これまで約27kmが開通し、1万6,500haを潤して砂漠に緑地を回復させ、農民65万人の暮らしを支えている。中村哲医師の灌漑は、現地の人が維持・管理できるように江戸時代に築かれ今も使われている福岡県朝倉市の山田堰をモデルとし、護岸はコンクリートではなく鉄線で編んだ「蛇籠」に石を詰めて積み、そこに根を張る柳を植えて補強したもので、その防風・防砂林の植樹総数は100万本を超えて、工事に携わった人たちは現場で技術を習得して熟練工となり、中村さんは近年、国連機関やJICAとも連携してノウハウをアフガン全土に広めようとしていたのだそうだ。 農林業の技術移転によってアフガン全土に実りの豊かさをもたらすことは、戦争に割く人員を減らして穏やかに暮らすために不可欠な条件だと思われるため、適切な作物を選んで必要な工事を行い、今後の技術支援の軸にすべきだろう。 2)イスラム圏で女性の人権と自由をどう守るか タリバン執行部は、*1-2-1のように、「イスラム法の範囲内で女性の権利を尊重する」と主張しているが、旧タリバン政権下で女性を抑圧した過去があるため、国際社会は女性の人権が守られるのか強い懸念を抱いている。 そもそも、「『イスラム法の範囲内』で尊重される女性の権利」は、女性を1人の人間として男性と差別なく人権・自由を保障するものではなく、アフガン国内の女性が変えることはできない性格のものである。その例として、カブールで美容院の女性の肖像がスプレーで汚されていたり、女性が夫以外の男性の前で着飾ることや目以外の部位を露出することを認めなかったり、女性を拉致したり、女性を職場から追い出したりする事例は枚挙に暇がない。 アフガンで低迷する女性の識字率や社会進出の課題を告発し続けてきた女性記者エストライ・カリミさんは、「西部ヘラート州で、夫が運転する車で取材先に向かっていたところ、銃声が響き、戦闘員に取り囲まれて夫婦で拉致され、モスクの脇にあるタリバンの施設で『運転席の男は誰だ。女が夫や兄弟の同伴なしで出歩けると思っているのか』と尋問され、憤激するタリバン幹部に夫だと説明すると、勤務先や住所も確認され、約1時間後にモスクの宗教指導者がタリバン幹部をなだめて解放された」のだそうだ。 また、タリバン傘下に入った国営テレビ局「RTA」では、画面から女性キャスターの姿が消え、その一人のシャブナム・ダウランさんがSNSに投稿したビデオ声明で「タリバンから『帰れ』『政権が変わったんだ』と追い返された」と訴えた。 さらに、ロイター通信によると、南部カンダハルでは7月にタリバンが銀行を訪れ、女性職員9人に出勤停止を命じ、カンダハルの女子校に勤める女性教員は「学校は閉鎖したままで生徒が心配。たとえ授業が再開しても、科目は宗教に偏るでしょう。進学を志す女子がまた減ってしまう」と憤っているそうだ。 タリバンは政権に就いていた1996~2001年、極端なイスラム教解釈で女性の通学や就労を妨げ、服装を強要して国際的な批判を浴び、今後も女性の行動に一定の縛りをかける恐れが強いため、カブールではタリバンの権力掌握を受け、全身をすっぽり覆う衣装「ブルカ」を買い求める女性が店に殺到したのだそうだ。 アフガンでタリバンが猛攻を続けていた頃から、*1-2-2のように、海外留学中のアフガン人学生からは「また教育が奪われる」と懸念の声が上がっていた。アフガンで裁判官になるのが目標で、3年前に激しい競争の中でアズハル大の奨学金を勝ち取って単身でカイロに来た7人兄妹の長女は、教育を禁じるタリバンが国を支配すれば、「女性で単身留学している私は標的になる。帰国すれば命を狙われる」と話し、医者を目指していた妹は「もう諦めた。ここから逃げたい」と毎日泣いているそうだ。 タリバンが制圧した州都では、教育機関や政府施設が破壊され、一部では女性に体や顔を覆う衣装「ブルカ」の強要も始まったそうで、これらからわかるように、イスラムの女性が「ブルカ」を着たり、教育を受けなかったり、識字率が低かったりするのは、その文化を自ら望んでいるからではなく、支配者に強要されるからなのである。 3)今後の対応について アフガンの状況は、日本の第二次世界大戦前後の状況や女性の地位に似ている。これらを同時に解決するには、日本国憲法に近い徹底した民主主義憲法を導入し、男女平等の民法を制定し、女子差別撤廃条約に調印させ、男女雇用機会均等法や男女共同参画基本法を成立させなければならない。 外圧でそれらを行わなければ、アフガン内部のリーダーは、自由で人権を尊重する人ほど殺されて早く失脚するのである。そのため、私は、*1-3のような経済支援や日本企業の進出を、民主主義に基づく新憲法の導入等を条件として行うべきだと思う。そして、女性を教育して男女共同参画させることは、実は、産業や経済の発展にも大きく寄与するのだ。 (2)日本では、豪雨で繰り返す内水氾濫・外水氾濫 Weathe News 2019.8.29佐賀新聞 2021.8.14産経新聞 (図の説明:今夏は、左図のように、佐賀県《特に嬉野市》で1,000mmを超える雨が降り、低い土地にある市や町で、中央の図のような内水氾濫が起こった。そのうち武雄市や大町町は、2019年にも同じ場所で内水氾濫が起こっており、右図のように、洪水が予想される地域である) 2021.8.14日本TV 2021.8.16佐賀TV 2021.8.14朝日新聞 2021.9.1 順天堂病院 佐賀新聞 (図の説明:1番左の図のように、豪雨時の六角川本流の水面は住宅地の屋根より高く、一部で外水氾濫を起こしたと同時に広い範囲で内水氾濫を起こした。その結果、左から2番目の図のように、武雄市では住宅地が一時は3mも水に浸かった。また、右から2番目の図のように、大町町の順天堂病院も1年おきに1階が水没しており、せっかく病院を誘致できたのに残念なことだ。さらに、1番右の図のように、激甚災害の指定を受けて国庫補助率が上がったのはよかったが、かさ上げしなければならないのは補助率だけではなく住宅地そのものであるため、復旧にしか使えないのは使い勝手が悪い) 1)2021年8月の浸水被害 8月11日から降り続いた豪雨で九州北部の佐賀県武雄市・福岡県久留米市は、*2-1のように、水路や下水道の排水が追い付かず、雨水が地表にあふれる「内水氾濫」が起きて住宅浸水や道路の冠水が相次いだ。武雄市内では支流の内水氾濫に加えて六角川本流も一部で外水氾濫し、東部を中心に住宅地などが濁った水で覆われた。また、武雄市と隣接する大町町の順天堂病院も周囲を泥水で囲まれ、2019年と同様に孤立状態となった。 久留米市では、8月14日午前までの24時間降水量が観測史上最大の387mmとなり、筑後川支流で内水氾濫が起きて4年連続で市街地と田園地帯が水に漬かった。久留米市によると、支流は本流からの逆流を防ぐため合流点の水門を閉鎖し、水は本流にポンプで送るが、処理できなくなった雨水が広域であふれ、ポンプを増やしたり、堤防のかさ上げに取り組んだりしたが、圧倒的な雨量に及ばなかったそうだ。 佐賀県武雄市の被害概要について、*2-2のように、浸水の深さ・内水氾濫の面積・家屋被害数等が、2019年8月に県を襲った記録的大雨より深刻で、2年前の8月は降雨期間が3日間だったが、今夏は7日間(11~17日)続き、総雨量も最大約1,300mm(2年前は最大約500mm)で、六角川の排水ポンプが3回合計8時間50分(前回は1回合計3時間10分)停止し、家屋への浸水被害は2021年8月25日現在で床上1,273棟・床下390棟の計1,663棟(前回は1,536棟)、通行止めは約90カ所(前回は63カ所)、浸水の深さや内水氾濫の面積は2年前より大きく、地滑りの兆候も今回は3カ所で確認されたそうだ。 武雄市は、2年前と比べて内水氾濫が広がった理由を長時間の降雨と六角川の水位上昇に伴って排水ポンプの停止時間が長引いたことなどが影響したとみており、市長は「国交省には内水氾濫対策に目を向けてほしい」とし、ポンプ機能を維持する方策を専門家や国交省の河川事務所と早急に協議する意向を示しているそうだ。 2)国からの支援としての激甚災害の指定とこれから行うべきことについて 佐賀県武雄市や大町町で「内水氾濫」がよく起こる理由は、海抜0m地帯で、有明海に注ぐ六角川の勾配が緩く、満潮時は有明海の海水が上流約29kmまで遡り、広範囲で住宅地が川面より低くなり、雨水が下水道等から溢れることによるそうだ。つまり、標高が低いため自然排水が難しく、もともと浸水リスクの高いこの地域は、上の段の右図のように、洪水予想地域として地図上に記載されているのである。 これに対し、国交省は、六角川と牛津川流域の60カ所以上にポンプを設置し、住宅地に降った雨水を河川に排水しているが、大雨で河川の水位が上昇するとポンプの運転を停止せざるを得なくなり、ポンプによる排水が追いつかなくなる。これは、気候変動によって海面の高さが上昇し、豪雨も激しくなれば、ますます被害を大きくするものである。 確かに、下の段の1番左の図のように、豪雨時の六角川本流の水面は住宅地の屋根より高く、一部で外水氾濫を起こしたと同時に広い範囲で内水氾濫を起こしている。そのため、下の段の左から2番目の図のように、武雄市では住宅地が3mも水に浸かり、大町町の順天堂病院も、右から2番目の図のように、1年おきに1階が水没しているのだ。 これらの被害について、*2-3のように、今回も激甚災害の指定を受けることができ、国庫補助率が上がったのは不幸中の幸いだったが、広範囲に降る自然の豪雨を人工のポンプで排水すること自体に無理があるため、住宅地は土地を交換して高台に移転し、低地でもいつも川の水面上になるようかさ上げして田畑にするのが、今後の被害を免れる唯一の方法だと考える。 私が衆議院議員をしていた2005~2009年の間にも浸水被害があったため、地元の人に「土地のかさ上げか、高台への移転ができないのか」を聞いたところ、「①かさ上げする土がない」「②浚渫していないため、ダムや川の底に土が溜まって浅くなっている」「③それをする人手がない」「④個人の住宅に補助を出すことはできない」などのできない理由ばかりが返ってきた。 しかし、②の浚渫を行えば①の土も出るため、③は外国人労働者を雇用してでもやった方がよいだろう。また、このように頻繁に浸水するのなら、④の個人住宅や病院もかさ上げするか、高台に移転する方法を考えた方が、費用と時間をかけて行う復旧を「賽の河原の石積み」にせずに済むと思うわけである。 ・・参考資料・・ <アフガニスタン> *1-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210831&ng=DGKKZO75292470R30C21A8MM0000 (日経新聞 2021.8.31) 米軍、アフガン撤収完了、米最長の20年戦争終結、米国人ら12万人退避 バイデン米大統領は30日の声明で「20年間にわたる米軍のアフガニスタン駐留が終了した」と明らかにした。掃討をめざしたイスラム主義組織タリバンが復権し、米史上最長の戦争は敗走に近い形で幕を閉じた。国際テロ組織がアフガンを拠点に米国本土を再び攻撃するリスクは消えていない。バイデン氏は声明で、アフガンの首都カブールの空港で米国人やアフガン人の国外退避を支援した米兵に対し「米史上最大の空輸任務を実行した」と謝意を示した。米東部時間31日午後1時30分(日本時間9月1日午前2時30分)にアフガン戦争の終結について国民向け演説を行う。米軍がアフガンの国外に退避させたり退避を支援したりした米国人やアフガン人などの数は12万3000人に上る。ブリンケン国務長官は30日の演説で「米国の軍事面での戦いは終わった。米国のアフガンに対する新しい関与のチャプターが始まる」と強調した。米国の在アフガン大使館を閉鎖し、カタールの首都ドーハでタリバンとの対話を進めていく。アフガンでは100~200人の米国人が出国できずに残っていると明らかにした。アフガン戦争で米国に協力したアフガン人について「期限を設けずに彼らとの約束を守る」と断言。退避を望む米国人と並んで退避支援を続けるとした。タリバンに対して自由かつ安全な移動に関する合意を履行するよう改めて求めた。タリバンが求める経済支援などを念頭に「我々の対応は言葉ではなく行動に基づいて決まる」と指摘し、米国との協力を促した。一方、タリバン報道官は米軍撤収について「私たちの国は完全な独立を手に入れた」とツイッターに投稿。タリバンがカブールを制圧して以降、「恐怖政治」が復活するリスクが浮上している。バイデン氏は4月、約2500人のアフガン駐留部隊を撤収させると表明した。部隊を5800人規模に増やし、米国人に加えてアフガン戦争で米国に協力したアフガン人の国外退避を8月末まで進めると説明してきた。欧州や日本も自国民らを退避させた。泥沼の戦争を批判的にみる世論に配慮し、バイデン氏はアフガン撤収を貫いた。2001年の開戦直後はテロとの戦いを米国民の大半が支持したが、巨額の戦費や米兵の犠牲を伴う戦争に一般国民は恩恵を感じず熱気は冷めていった。バイデン氏が副大統領を務めたオバマ政権は16年末までの撤収を目指したが、治安悪化を受けて断念していた。タリバン復権でアフガン民主化の取り組みは失敗に終わった。アフガン戦争を通じて根付きつつあった女性の権利や報道の自由が後退する可能性が高まる。バイデン氏は軍事力を通じて「国家建設に関与しない」と繰り返し主張しているが、民主主義や人権を重視する外交方針に逆行する。 *1-1-2:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1381635.html (琉球新報社説 2021年8月26日) タリバン復権と混乱 国外退避に全力尽くせ アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンが首都カブールを制圧し、ガニ政権の崩壊から10日が過ぎた。空港周辺にはタリバンの統治を恐れ出国を望む市民数千人が連日殺到し、死者が出るなど混乱が続いている。ベトナム戦争末期に、米大使館からヘリコプターによる脱出を迫られたサイゴンの混乱を彷彿(ほうふつ)とさせる事態だ。アフガン在住の各国の国民や通訳などで協力したアフガン人の安全な国外退避は緊急を要する最優先事項である。各国は結束して退避支援に全力を挙げてもらいたい。バイデン大統領は8月に設定した米軍の撤退期限を維持する考えを強調したが、見通しが甘いのではないか。米メディアによると、タリバンは国外退避を望むアフガン人に対し、新たな国造りに必要な人材だとして空港到着を阻んでいるという。撤退期限の順守ではなく、人命を守ることを最優先させるべきだ。混乱の原因は米国にある。米史上最長の戦争の最終段階で「出口戦略」を誤った。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、在アフガニスタン米大使館員らが7月13日付の極秘公電で、駐留米軍が8月31日に撤退すれば直後にガニ政権や政府軍が崩壊する恐れがあると警告していたと報じた。米軍に協力したアフガン人らの退避手続きを急ぐようブリンケン国務長官らに求めていたという。警告されたにもかかわらず米政府は、ガニ政権とタリバンとの戦闘の見通しを誤った。タリバンによる侵攻が想定外の早さで進み、政府崩壊は予期できなかったというのは言い訳にすぎない。日米欧の先進7カ国(G7)は24日、アフガニスタン情勢を巡る緊急首脳会議を開き、退避支援に全力を挙げ、人道危機回避への貢献や女性の権利擁護、テロ対策で緊密に連携することを確認した。ここは国際社会の結束が求められる局面だ。一方、邦人と日本の協力者を退避させるため日本政府は自衛隊機を現地に派遣した。政府は出国を求める人に対し各自で空港までの移動手段を確保するよう求めている。だがタリバン戦闘員が空港に続く道路に検問所を設け、外国人を一時的に拘束する事態も出ている。丸腰の市民に自己責任で移動を求めるのは無責任である。日本政府はタリバンと交渉して安全地帯を確保して迎えに行くなど、安全で確実な方法を示すべきだ。タリバン政権は2001年、米中枢同時テロを起こしたアルカイダ指導者ビンラディン容疑者の引き渡しを拒んだため、米英軍の攻撃によって崩壊した。米軍はその後20年間、アフガニスタンに駐留したが、国家建設に失敗した。米軍撤退の教訓は何か。中央アジアの覇権争いを繰り返すのではなく、凶弾に倒れた故中村哲医師が実践した持続可能な取り組みによって国を再生させることではないか。 *1-1-3:https://www.yomiuri.co.jp/world/20210818-OYT1T50258/ (読売新聞 2021/8/19) アフガン制圧したタリバン、「国際テロ組織の排除」強調…政府承認取り付ける狙いか アフガニスタンのイスラム主義勢力タリバンは17日に首都カブールで開いた記者会見で、国際テロ組織を国内から排除する方針を明らかにした。テロの温床になりかねないとする国際社会の懸念を 払拭ふっしょく し、「政府承認」を取り付ける狙いがある。会見には、正体不明だったザビフラ・ムジャヒド報道官が初めて姿を見せた。タリバンは2001年、米同時テロを起こした国際テロ組織「アル・カーイダ」の指導者をかくまい、政権崩壊を招いた。報道官は「外国組織が他国に危害を与えるために国土を使うことを許さない」と強調した。資金源である麻薬原料のケシ栽培についても「金輪際関わらない。そのためにも、国際社会の援助が必要だ」と訴えた。17日には、ナンバー2のアブドル・ガニ・バラダル師がカタールから帰国した。米国とのパイプを持つ穏健派として知られ、「バラダル師を大統領に据え、国際社会との関係構築を進めるのでは」(地元記者)との観測も出ている。ただ、18日にはタリバンの一派で、パキスタンとの国境付近を拠点とする「ハッカニ・ネットワーク」幹部もカブール入りし、タリバン幹部らと協議を行った。ハッカニ一派は各国でテロを引き起こし、米国がテロ組織に指定している。「アル・カーイダ」系のイスラム過激派組織「アル・シャバブ」など各国の武装勢力もタリバンに「祝意」を送っており、タリバンがテロ組織と関係を断絶できるかは不透明だ。一方、米ホワイトハウスは17日、アフガニスタン情勢に関する先進7か国(G7)首脳会議が、来週中にオンライン形式で開催されると発表した。バイデン大統領が、G7議長国を務めるジョンソン英首相との電話会談で合意した。タリバンが主導する新政権の承認などが議題となる見通しだ。ジェイク・サリバン米国家安全保障担当大統領補佐官は17日の記者会見で、タリバンの融和姿勢について、「タリバンがどのような行動を世界に示すか次第だ。(政権承認の是非を)判断するのは時期尚早だ」と答えた。女性の権利を守らせるため、同盟国と連携してタリバンに圧力をかける考えも明らかにした。 *1-2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15017957.html (朝日新聞 2021年8月22日) アフガン、息潜める女性 政権崩壊1週間 カブールで18日、美容院の女性の肖像がスプレーで汚されていた。その前を歩くタリバンの戦闘員=AFP時事。タリバン強硬派は、女性が夫以外の男性の前で着飾ることや、目以外の部位を露出することを認めていない。アフガニスタンでイスラム主義勢力タリバンが権力を掌握し、ガニ政権が崩壊してから22日で1週間となる。タリバン執行部は「イスラム法の範囲内で女性の権利を尊重する」と主張しているが、旧タリバン政権下で女性を抑圧した過去があり、国際社会は女性の人権が守られるのか強い懸念を抱いている。女性が拉致されたり、職場から追い出されたりする事例は後を絶たない。社会は圧制の時代に逆戻りしてしまうのか。 ■タリバン、取材に向かう記者拉致 キャスターや銀行員、職場追われ 「州都を包囲するタリバンの戦闘部隊に見つかり、銃撃された。記者人生で最も死に近づいた瞬間でした」。地元メディア「パジュワク・アフガン通信」の女性記者エストライ・カリミさん(38)は、朝日新聞の取材に応じ、証言した。西部ヘラート州で今月2日、夫が運転する車で取材先に向かっていた。銃声が響き、とっさに顔をうずめた。耳元でサイドミラーが「カン! カン!」と弾をはじいた。戦闘員に取り囲まれ、夫婦は拉致された。カリミさんはモスクの脇にあるタリバンの施設で尋問された。「運転席の男は誰だ。女が夫や兄弟の同伴なしで出歩けると思っているのか」と憤激するタリバン幹部に、夫だと説明した。勤務先や住所も確認された。尋問が約1時間続いた後、モスクの宗教指導者がタリバン幹部をなだめ、解放された。夫婦はパソコンやカメラをバッグに詰め、翌朝の飛行機で首都カブールへと脱出した。同国で低迷する女性の識字率や社会進出の課題を、カリミさんは告発し続けてきた。「駆け出しの15年前、女性記者はほとんどいなかった。女性の尊厳を守りたい一心で書き続けた」。記事への反響が支えだった。ヘラートからカブールに退避して12日後の15日、カブールも陥落した。現在は夫婦で、保護団体のシェルターに隠れて暮らす。タリバンの一部戦闘員が「記者狩り」をしており、外出できない。カリミさんは「15年積み上げたものが政権崩壊と同時に崩れた。やっと女性たちが怒りの声を政治にぶつけられる時代になったのに」と声を落とした。タリバン傘下に入った国営テレビ局「RTA」では政権崩壊後、画面から女性キャスターの姿が消えた。その一人、シャブナム・カーン・ダウランさんはSNSに投稿したビデオ声明で「タリバンから『帰れ』『政権が変わったんだ』と追い返された」と訴えた。ロイター通信によると、南部カンダハルでは7月にタリバンが銀行を訪れ、女性職員9人に出勤停止を命じたという。タリバンは政権に就いていた1996~2001年、極端なイスラム教の解釈で女性の通学や就労を妨げ、服装を強要して国際的な批判を浴びた。今後、女性の行動に一定の縛りをかける恐れが強い。カブールではタリバンの権力掌握を受け、全身をすっぽり覆う衣装「ブルカ」を買い求める女性が店に殺到し、政権崩壊前に1着1千アフガニ(約1400円)ほどだったものが約5倍に値上がりした。カンダハルの女子校に勤める女性教員(29)は「学校は閉鎖したままで生徒が心配。たとえ授業が再開しても、科目は宗教に偏るでしょう。進学を志す女子がまた減ってしまう」と憤った。 *1-2-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/123786 (東京新聞 2021年8月13日) 「留学女性は命狙われる」「もう帰国できない」 教育禁じるタリバン支配地拡大でアフガン留学生ら悲鳴 アフガニスタンで反政府武装勢力・タリバンが猛攻を続ける中、海外留学中のアフガン人学生が危機感を募らせている。教育を禁じたタリバン政権が2001年末に崩壊して以降、アフガンでは教育が再開し、エジプトの首都カイロにあるイスラム教スンニ派権威機関アズハルの付属大学には若者約300人が留学している。タリバンが支配地域を広げる現状に、学生からは「また教育が奪われる」と懸念の声が上がっている。「なぜアフガンだけ何度もひどいことが起きるのか。私は何でアフガンに生まれたの?」。アズハル大で法律を学ぶララ・アブドラさん(22)が「戦争の日記」と呼ぶ小さな手帳には、1ページ目にこう書いてある。駐留米軍の8月末撤退を見据え、タリバンが侵攻を激化させた3週間前から日記を付け、友人や家族から聞いた現地の状況をつづっている。3年前、激しい競争の中でアズハル大の奨学金を勝ち取り、単身でカイロに来た。女6人、男1人の7人きょうだいの長女。アフガンで裁判官になるのが目標で、父(50)の夢でもある。父は女性が教育を受けることを重視し、母と共にカイロに送り出してくれた。妹たちも姉が目標だ。しかし、教育を禁じるタリバンが国を支配すれば、「女性で単身留学している私は標的になる。帰国すれば命を狙われる」と話す。家族が暮らす西部ヘラート州は、イラン国境付近がタリバン支配下に落ち、州都は陥落目前となっている。「お姉ちゃんの後に続く」と医者を目指していた妹(17)は「もう諦めた。ただ、ここから逃げたい」と毎日泣いているという。タリバンが制圧した州都では、教育機関や政府施設が破壊され、一部では女性に体や顔を覆う衣装「ブルカ」の強要も始まったという。20年前を思わせる状況に、アズハル大の学生らは「もう帰れない」「昔に逆戻りだ」と懸念する。教育が再開したアフガンからは、アズハル大への留学生が大幅に増えた。前学生会長のオスマン・ヌーリスタニさん(26)は「私の世代は教育を受けることができ、みんな必死に勉強してきた。それがまた奪われるのか」と憤る。攻防が続くアフガンでは、国軍約30万人に対してタリバンは約7万人。数では国軍が勝るものの、タリバンに攻め込まれた地域では、国軍が戦闘を放棄して逃げたとの情報もある。在エジプト大使館のアミヌラーク・アフマディ領事は「米軍に頼らずわれわれの手で国を守る必要があるが、国際社会からの財政支援も必要だ」と話す。 *1-3:https://digital.asahi.com/articles/ASMDB5QJTMDBTIPE01X.html?iref=pc_photo_gallery_bottom (朝日新聞 2019年12月11日) 「100の診療所より用水路」 中村さんが変えた暮らし アフガニスタンで銃撃されて亡くなったペシャワール会(福岡市)の現地代表、中村哲さん(73)が医療から灌漑(かんがい)・農業支援へと活動を広げたのは、アフガンを大干ばつが襲い、農地が砂漠化するのを目の当たりにしたからだ。病気の背景には食料不足と栄養失調があると考えて「100の診療所より、1本の用水路を」と、2003年からアフガン東部で用水路の建設に着手した。これまで約27キロが開通。用水路は福岡市の面積のほぼ半分に当たる1万6500ヘクタールを潤し、砂漠に緑地を回復させた。今、農民65万人の暮らしを支えている。高価な資機材がなくても現地の人が維持・管理できるようにと、現代的な施設ではなく、伝統的な技法を採り入れた。取水堰(ぜき)は、江戸時代に築かれて今も使われている山田堰(福岡県朝倉市)がモデル。護岸はコンクリートを使わず、鉄線で編んだ「蛇籠(じゃかご)」に石を詰めて積み、そこに根を張る柳を植えて、護岸を補強した。防風・防砂林の植樹総数は100万本を超えた。工事に携わった人たちは現場で技術を習得し、熟練工が育った。中村さんは近年、国連機関や国際協力機構(JICA)とも連携して、ノウハウをアフガン全土に広めようと考えていた。ペシャワール会の村上優会長は9日の記者会見で「全ての事業を継続していきたい」と決意を述べた。 <日本 ← 繰り返す豪雨による内水氾濫・外水氾濫> *2-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/785375/ (西日本新聞 2021/8/15) 「同じことの繰り返し」内水氾濫に住民疲弊 久留米、武雄で浸水被害 激しい雨音で眠れずに朝を迎えると、自宅は茶色い泥水に囲まれていた-。14日も豪雨に見舞われた九州北部。佐賀県武雄市や福岡県久留米市では住宅浸水や道路の冠水が相次いだ。水路や下水道の排水が追い付かず、雨水が地表にあふれる「内水氾濫」が起きたという。両市周辺では近年同じ被害が繰り返されており、住民たちは疲れ切った表情を見せた。「大雨が怖く、昨夜から2階で過ごした」。同日午前、武雄市朝日町の自宅から消防のボートで助け出された福田タケ子さん(85)は振り返った。市内では支流の内水氾濫に加え、近くを流れる本流の六角川が一部で氾濫。東部を中心に住宅地などが濁った水で覆われた。市や近隣自治体では2019年にも冠水被害が起きている。自宅が浸水した同市朝日町の樋口勝則さん(56)は、13日夕から避難所に身を寄せる。前回浸水時は避難所で1カ月を過ごし、泥水に漬かった家具の片付けに加え、職場も被災した。「元の生活に戻るのに半年かかった。たった2年で同じことの繰り返し。これからを考えると力が抜けてしまう」と頭を抱えた。市と隣接する大町町の順天堂病院は周囲を泥水で囲まれ、前回に続き孤立状態となった。町によると、雨水が建物内部に入り、入院患者を上階に避難させたという。周辺でも消防への救助要請が相次いだ。筑後川が流れる久留米市。14日午前までの24時間降水量は、観測史上最大の387ミリとなった。支流では内水氾濫が起き、4年連続で市街地や田園地帯が水に漬かった。市によると、支流では本流からの逆流を防ぐため合流点の水門を閉鎖。本流にポンプで水を送るものの、処理できなくなった雨水が広域であふれた。ポンプを増やし、堤防のかさ上げにも取り組んでいるが、圧倒的な雨量に及ばなかった。一部で道路が冠水した市中心部では、消防のボートで助け出される住民がいた。水をかき分けながら各戸を回り、取り残された人がいないかを見回っていた消防隊員は「水位が首の高さまである場所があった」と話した。膝まで水に漬かりながら自力で避難していた女性は「これほどの浸水は初めて。アパートの2階に住んでいるが、1階が浸水したので知人宅に避難する」と声を震わせた。 *2-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/12a76f5f1a8d5cbf30e81fd6caefc619ca5c692c (Yahoo 2021.8.26) 大雨 家屋1663棟浸水 「2年前より深刻」 佐賀・武雄市 8月11日から降り続いた大雨で甚大な被害が出た佐賀県武雄市で被害概要がまとまり、小松政市長が25日、記者会見で発表した。浸水の深さや内水氾濫の面積、家屋被害数などが2019年8月に県を襲った記録的大雨より深刻との認識を示し、「被災者の苦しみ、痛みに寄り添いながら一日も早い復旧と生活再建に全力で取り組む」と語った。小松市長はまた被災した市民、事業者らに市独自の生活支援策を検討する考えも示した。武雄市によると、2年前の8月は降雨期間が3日間だったのに対し、今夏の大雨は7日間(11~17日)続き、総雨量も最大約1300ミリ(2年前は同約500ミリ)に達した。武雄市を流れる六角川の排水ポンプが3回計8時間50分(同1回計3時間10分)停止した。家屋への浸水被害は25日現在、床上1273棟、床下390棟の計1663棟(同1536棟)で通行止めは約90カ所(同63カ所)。浸水の深さや内水氾濫の面積は「2年前より大」としている。地滑りの兆候も今回は3カ所で確認された。2年前と比べ、内水氾濫が広がった理由について市は、長時間の降雨と六角川の水位上昇に伴い、排水ポンプの停止時間が長引いたことなどが影響したとみている。この結果、朝日町、北方町、橘町で浸水の被害が大きかったと指摘した。小松市長は内水氾濫による被害が続いていることに「(管轄の)国土交通省には内水氾濫対策に目を向けてほしい。国、県、市町が可及的速やかに対策を打ち出す必要がある」と注文をつけた。今後、ポンプ機能を維持する方策を専門家や国交省の河川事務所と早急に協議する意向も示した。復旧・復興に向けては、新型コロナウイルスの急拡大に伴い、2年前と比べてボランティアが集まりにくい状況にあると報告。小松市長は「被災者支援を2年前より強化する」と語り、2年前に被災しながら再建した事業者らに「もう1回頑張っていただける再建費用の補助検討を現在、進めている」とした。市は災害復旧に関する支援策を9月議会に追加提案する予定。 ◇商工業被害額、店舗など84億円 記録的大雨で多大な被害を受けた武雄市で商工業被害額が25日時点で約84億円(速報値)にのぼることが、同日の県産業振興課への取材で判明した。県によると、同市の中小企業や個人事業主計230店舗が被災。最も多かったのが浸水被害という。さらに被害額は膨らむ可能性もあるという。2019年8月に県内を襲った大雨で武雄市は今回とほぼ同数の約230店舗が被災、被害額は約80億円だった。 *2-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/733382 (佐賀新聞 2021.9.1) 大雨被害、激甚災害指定へ 農業分野復旧は佐賀県全域、中小企業支援は武雄、大町 佐賀県内で11日から降り続いた記録的な大雨の被害に関し、棚橋泰文防災担当相は31日の閣議後会見で、激甚災害に指定する見通しになったと発表した。農業分野では地域を限定せず県内全域が対象になる「本激」となり、国庫補助率をかさ上げする。融資による中小企業の再建支援は武雄市、杵島郡大町町に限定する「局激」となる見込み。内閣府によると、農地や農道、水路などの農業用施設や林道の災害復旧事業は、通常の国庫補助率をかさ上げする。過去5年間の実績の平均では、農地は補助率を84%から96%にかさ上げしている。国庫補助の対象とならない小規模な農地でも、交付税措置などで自治体負担を軽減する。被災した市町や農家の財政負担を軽減し、早期復旧を後押しする。これらの措置は地域を限定しない。さらに武雄市、大町町には、中小企業の事業再建のための特例措置を適用する。保証限度額を増額することで、中小企業は民間金融機関から再建資金を借りやすくなる。激甚災害は経済的被害を基準に指定する。県市町が被害額を調査し、各省庁が査定。局激の場合、市町の財政規模ごとに基準額が設定され、基準額を超えた時点で指定の見込みが示される。閣議決定による正式指定には、1カ月ほどかかる見通し。棚橋氏は「被災した自治体は、財政面に不安なく、迅速な災害復旧に取り組んでいただきたい」と述べた。内閣府によると、公共土木分野での被害状況も査定を続けている。早期指定を要望していた佐賀県は「農地などの復旧が本激指定になることはありがたい。適用される措置を活用し、この2年間で再び被災された多くの方の支援に取り組んでいきたい」とした。一方、中小企業への特例措置が、武雄市と大町町に限る局激となることについては「具体的にどういった支援ができるのか中身を精査していく」としつつ、「本激でなければ実施されない『なりわい再建補助金』(復旧費の最大4分の3を公費補助)に関し、局激でも実施してほしいと要望していた。今後の国の対応を注視したい」と述べた。 <アフガンの攻防と女性デモ> PS(2021年9月6、7日追加):*3-1のように、アフガンのタリバン指導部は、制圧した都市で住民財産保護や生活維持に気を配るように戦闘員に指示したが、タリバン戦闘員は、①民家で「50人分の食事を作れ」と要求したり ②民家や学校に放火したり ③降伏した政府軍兵士を処刑したり ④12歳の少女に自分と結婚するよう強要したり など蛮行が目立ち、国連のグテレス事務総長は、8月13日、タリバンを非難した。 アフガン女性は、*3-2のように、9月2~4日、国の発展には女性の力が不可欠だと訴えて女性の教育機会保障・働く権利保障・政治参加保障をするよう求めるデモを行ったが、これに対して、タリバンは催涙ガスを使ったり、小銃の弾倉で女性の頭を殴ったりしたそうだ。タリバンは、8月中旬にカブールを制圧した直後の記者会見で「女性は働けるし、教育も受けられる。女性の権利はイスラム法の枠内で認められる」としたが、BBCのインタビューでタリバン幹部は、「女性が高い地位につくことはない」などと世界の女性を敵に廻すような発言をしている。 そのような中、*3-3のように、9月4日、タリバンは唯一制圧していない北東部パンジシール州を支配下におさめようと抵抗勢力(旧政府軍)と衝突し、米軍制服組トップは、タリバンが権力基盤を固めることができなければ「内戦」に陥る恐れがあると警告したそうだが、国民的英雄マスード司令官の息子で同地域を率いるアフマド・マスード氏は、パンジシール州は「強い抵抗を続けている」と強調している。 アフガンの地形 パミール高原 パンジシール州の位置 パンジシール州の風景 ペシャワール会より Ameba Parstoday (図の悦明:1番左の図のように、アフガニスタンは高い山や高原に囲まれており、水がないわけではなく水利施設が整っていないようで、左から2番目の図のパミール高原も手入れをした場所には緑がある。また、強い抵抗を続けているパンジシール州は、右から2番目の図のように北東部にあり、1番右の図のように、緑豊かな渓谷があって農業の潜在力も大きそうだ) 2016.11.1Ameba Smartagri Smartagri Perfectstone (図の説明:1番左はアフガニスタンの主食である小麦、左から2番目はアフガニスタンの葡萄、右から2番目は同サフランで、戦争前のアフガニスタンは食料自給率100%の農業国だったそうだ。また、1番右の図のように、パンジシール州ではエメラルドも採れる) *3-1:https://www.yomiuri.co.jp/world/20210814-OYT1T50221/ (読売新聞 2021/8/15) 民家や学校に放火、12歳少女に結婚強要…タリバン支配地で蛮行目立つ アフガニスタンの旧支配勢力タリバン指導部は13日の声明で、制圧した都市では住民財産の保護や生活の維持に気を配るよう、戦闘員に指示した。住民を懐柔し、支持を広げる狙いだが、支配地では蛮行が目立ち、国際社会からも批判が高まっている。タリバンは声明で、支配地の拡大は「我々に対する支持があってこそだ」と強調し、タリバンを恐れる住民に「心配する必要はない」と呼びかけた。だが、実態は違うようだ。タリバンが10日に制圧した北部プレフムリの主婦(22)によると、タリバン戦闘員は主婦の自宅に押しかけ、「50人分の食事を作れ」と要求したという。夫はスリッパ商人で、一家は裕福ではないが、肉や野菜、ヨーグルトなどを大量に提供させられたという。プレフムリからカブールに避難してきたリロマさん(43)は本紙通信員に、タリバンが民家や学校などに放火していると語った。リロマさんは、「タリバンの暴虐ぶりは昔と変わっていない」と非難した。カブールの米大使館によると、降伏した政府軍兵士の処刑も確認されている。タリバンは米国と和平合意を交わした昨年2月以降、住民の取り扱いに注意するよう、指導部が戦闘員に指示してきたが、浸透していないようだ。英紙デイリー・メール(電子版)によると、あるタリバン戦闘員は支配地域で、12歳の少女に自分と結婚するよう強要した。戦闘で夫を失った女性も、タリバン戦闘員の妻にされる場合が多い。国連のアントニオ・グテレス事務総長は13日、ニューヨークで記者団に、「アフガンの少女や女性が苦労して得た権利を奪われている。胸が張り裂けそうだ」と語り、タリバンを非難した。 *3-2:https://www.msn.com/ja-jp/news/world/ (毎日新聞 2021/9/5) アフガンで女性デモ 就業や政治参加求め タリバン、催涙ガスで応酬 イスラム主義組織タリバンが実権を掌握したアフガニスタンで2日から4日にかけ、女性の就業や政治参加の権利を保障するよう求めるデモがあった。首都カブールではタリバンが催涙ガスを使うなどし、負傷者が出たという。タリバンは2001年までの旧政権でイスラム教の厳格な教義に基づき女性の権利を制限した。デモ参加者は、国の発展には女性の力が不可欠だと訴えている。アフガンの民間放送局「トロニュース」(電子版)などによると、4日にカブール中心部で行われたデモでは、活動家やジャーナリストらが女性の働く権利や教育の機会の保障を求めるスローガンを掲げて行進した。大統領府に向かおうとしたデモ参加者に対し、タリバンの戦闘員らは催涙ガスを使ったという。ロイター通信は、女性が戦闘員によって小銃の弾倉などで頭を殴られ、血を流していたとの参加者の証言を報じた。参加者の一人はトロニュースに対し「私はタリバン政権崩壊後の20年間で学校で学ぶことができ、よりよい将来のために努力してきた。この成果を失いたくない」と訴えた。同様のデモはカブールで3日にあったほか、2日に西部ヘラートでも起きた。01年にタリバンの旧政権が崩壊するまでの約5年間、アフガニスタンの女性は教育が禁止されるなど厳しい制約下に置かれた。タリバンは8月中旬にカブールを制圧した直後の記者会見で「女性は働けるし、教育も受けられる。社会に必要な存在だ」とする一方、女性の権利はイスラム法の枠内で認められるとも強調した。タリバン幹部は英BBC放送のインタビューで、新政府の省庁で女性職員が元の職場に戻ることを希望すると述べる一方で「高い地位につくことはないだろう」と要職への女性登用を否定した。最終調整が続くタリバン政権の組閣でも、女性は起用されない見通し。 *3-3:https://news.yahoo.co.jp/articles/bc9b9a7323934577f5db64c0f7b950c62d5ce6d0 (RUETERS 2021/9/5) タリバン、北東部で抵抗勢力と戦闘 米軍幹部は「内戦」警告 アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンは4日、唯一制圧していない北東部パンジシール州を支配下におさめようと抵抗勢力と衝突した。米軍制服組トップは、タリバンが権力基盤を固めることができなければ「内戦」に陥る恐れがあると警告した。タリバンと抵抗勢力はともにパンジシール州を掌握したと主張しているが、いずれも確かな証拠は示していない。タリバンは1996─2001年にアフガンを統治した際、首都カブールの北にあるパンジシール渓谷を支配できなかった。タリバンの報道官は、パンジシール州の7地域のうち4地域を制圧したと主張。ツイッターで、タリバン兵士が州中心部に向けて進軍していると述べた。だが、国民的英雄マスード司令官の息子で同地域を率いるアフマド・マスード氏に忠実なアフガニスタン民族抵抗戦線(NRFA)は、「数千人のテロリスト」を包囲し、タリバンが車両や機材を放棄したと主張。マスード氏はフェイスブックへの投稿で、パンジシール州は「強い抵抗を続けている」と強調した。米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長はFOXニュースで「内戦に発展する可能性が高い状況というのが私の軍事的な見立てだ。タリバンが権力基盤を固め、統治を確立できるか分からない」と述べた。その上で、タリバンが統治を確立できなければ、今後3年で「アルカイダの復活やイスラム国(IS)もしくは他のさまざまなテロ集団の拡大につながる」との見方を示した。こうした中、パキスタンの軍情報機関、3軍統合情報局(ISI)のハミード長官が4日、カブール入りした。目的は明らかになっていないが、パキスタン政府高官は数日前に、タリバンによるアフガン軍再編成をハミード氏が支援する可能性があると述べていた。 <女性が権利尊重求めデモ> 現地メディアのトロ・ニュースによると、首都カブールでは、十数人の女性がタリバンに女性の権利尊重を求める抗議デモを行ったが、タリバンはこれを排除した。女性らが口を覆い、咳をしながら武装した兵士と衝突するのが映像で確認できる。デモ参加者の1人は、タリバンが催涙ガスやテーザー銃を使用したと語った。タリバンが女性らの頭を弾倉で殴り、出血したと話す参加者もいた。 <新政権は「あらゆる勢力」で構成> タリバン関係筋は、新政権の発表が5日からの週に先送りされるとの見方を示した。タリバン共同創設者のバラダル師は中東のテレビ局アルジャジーラで、新政権はアフガンのあらゆる勢力によって構成されると述べた。複数のタリバン関係者はこれまでに、バラダル師が新政権を率いるとの見方を示している。アルジャジーラによると、カタールの駐アフガン大使は、技術チームによりカブールの空港が再開され、支援物資などの受け取りが可能になったと明らかにした。アルジャジーラの記者は、アフガンの国内線運航も再開されたとしている。国連は、人道危機の回避に向けてアフガン支援拡大を呼び掛ける国際会合を13日に開く。 <自民党総裁選と政策論争> PS(2021年9月8、9日追加):日本のメディアは、アフガン情勢を事前に報道せず、オリ・パラの開催を批判することに専念し、新型コロナ危機は必要以上に言い立て、首相を変えさえすれば物事がうまくいくかのような報道をしていた。その結果、日本は、人を貶めるための不正確な人格攻撃情報であふれ、首相は短期で交代して民主主義政治の貧困を招いている。 そして、河野太郎氏の総裁選立候補の話が出ると、*4-1のように、原子力利権の守護神である経産省は、週刊文春を使って河野氏を人格攻撃する最終戦争に打って出た。私も週刊文春を使った人格攻撃をされた経験があるので知っているのだが、政策でかなわない時、論点をずらし、変なところを誇張して人格攻撃を行い、対象となった人を貶める卑怯な方法がよく使われる。河野氏の場合は、資源エネルギー庁幹部との会議で近く閣議決定される「エネルギー基本計画」に繰り返しダメ出しをしてパワハラを行ったように書かれているが、本当は世界に例を見ない出鱈目な「容量市場制度(大手電力の石炭火力に多額の補助金を与え、再エネ電力供給業者に多額の資金拠出を強制する制度)」の即時廃止又は抜本的改革を主張し、経産省がこれを無視したのだそうだ。また、原発と再エネの電源比率も、経産省は再エネ比率が想定以上に上がるのを妨げて原発の維持拡大に有利な抜け穴を作ろうとしているが、河野氏が「理不尽な内容のままなら閣議で反対する」と言い、経産省が論戦で完敗して、河野氏の「脅し」として一部週刊誌に漏洩し、「個人攻撃」で河野氏を叩こうとしたのだそうである。しかし、次の衆議院議員選挙は表紙を変えればいいのではなく、「脱原発して再エネ移行」を掲げるくらいの政策を掲げるのでなければ、(理由を長くは書かないが)自民党は落選者が続出すると思う。 本来は産業振興のために頭を使うべき経産省だが、このようにやるべきことの逆を繰り返した結果、*4-3のように、日本は労働生産性がOECD加盟36カ国中21位・主要先進7カ国最下位、賃金は唯一下がっている国になった。労働生産性は「付加価値(≒売上高-売上原価《人件費を除く》-経費《人件費を除く》)/総労働時間」であるため、水光熱費や土地代などの人件費以外の経費が高ければ労働生産性は下がり、賃金を労働生産性より高くはできないからである。 なお、付加価値を上げるには、人件費以外の経費を下げる以外に販売単価を上げて売上高を増やす方法もあるが、その基となる技術力も、*4-2のように、中国が注目度の高い科学論文の数で米国を抜いて初めて首位に立ち、年間の論文総数でも2年連続で1位になっているのに、日本は研究者数と研究開発費は世界3位、論文総数は4位であるにもかかわらず、「トップ10%論文数」の順位はインドにも抜かれてG7最下位の世界10位まで転落した。私も、その最大の原因は、「何をやっても日本の技術力は優れたままである」と根拠もなく思い込み、政治・行政がやるべき努力をしなかったことだと考えている。 日本で光熱費を下げて付加価値を上げるには、*4-4のように、変動費0の再エネで100%のエネルギーを賄い、外国に支払っていたエネルギー代金を国内で廻して、エネルギー自給率を100%にするのがよいし、それは可能である。一方、原子炉は、新型で小型でも、冷却時に海水を温め、外国に高い燃料代を支払う必要があり、暴走のリスクが0ではなく、使用済核燃料の処分に多額の費用がかかり、エネルギー安全保障でも劣るため、賢い選択肢とは言えない。そのため、それが見えることは、日本の首相には特に重要だ。なお、脱原発については、2011年のフクイチ事故以降は本気で議論してきており、既に10年も経過しているため、「明日や来年やめろ」というような性急な話ではないだろう。 2019.8.29東京新聞 News.Mynavi 2021.8.10毎日新聞 2021.8.10西日本新聞 (図の説明:1番左の図のように、1997年を基準とした主要国の時間当たり賃金は、日本のみがマイナスになっている。また、左から2番目の図のように、労働生産性は日本がOECD加盟36カ国中21位・主要先進7カ国で最下位だ。また、右から2番目及び1番右の図のように、世界の平均気温上昇による極端現象は明らかに増えており、エネルギーの変換や技術開発はできるかぎり速やかに行わなければならない状況なのだ) 2021.6.10日経新聞 2021.8.26日経新聞 (図の説明:左図のように、日本の国別発電コストは著しく高く、日本の産業は足に重りをつけて競争させられているようなものである。しかし、日本には、中央の図の地熱発電はじめ未利用の再エネがふんだんにあり、これらを使えば安価な電力を実現できる。また、右図のように、今では自家発電しながらエネルギーを使う方法も多くできているため、決断が遅いくらいなのだ) *4-1:https://news.yahoo.co.jp/articles/e3cdefcb9a0801e0983015441b3fc90dc28995ed (Yahoo 2021/9/7) 経産省による「河野太郎叩き」が意味すること〈週刊朝日〉 自民党総裁選の裏で大戦争が起きている。主役は、原子力利権の守護神・経済産業省の官僚と河野太郎規制改革担当相だ。連戦連勝の河野氏に対して、経産省は「文春砲」で最終戦争に打って出た。先週の週刊文春は、近く閣議決定される「エネルギー基本計画(エネ基)」について、経産省資源エネルギー庁幹部との会議で、河野氏が繰り返しダメ出しする様子を伝えた。普通に読めば、河野氏が理由なくパワハラ発言をしたと読める内容だ。文春は、菅義偉政権の目玉閣僚である河野氏を叩こうと考えた。その姿勢は、忖度報道ばかりの大手マスコミにはないもので貴重ではあるが、この記事はあることを報じていない。実は、この会議に至るまで、経産省と河野大臣、そして、河野大臣直轄の有識者会議「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース(TF)」の間では、1年近く議論が行われてきたということだ。TFは電力会社から完全に独立した国内最高の専門家4人からなる。そのため、私が見る限り、経産省は論戦で完敗した。経産官僚はネット生配信で毎回恥をさらしたのだ。例えば、文春の記事にあった「容量市場」制度(将来の電力需要に備えるため、電力会社が準備する安定供給電源設備に対して、供給が不安定になりがちな再エネ電力などの供給業者が一定の資金をあらかじめ支払って、設備を維持してもらう制度)は、世界に例を見ないでたらめな制度だ。驚いたことに、大手電力会社の石炭火力に多大な補助金を与え、逆に再エネ電力供給業者に事実上の死刑宣告になるような多額の資金拠出を強制する制度になっている。河野氏は、即時廃止または抜本的改革を主張したが、経産省はこれを無視。エネ基最終案にも即時抜本改革さえ盛り込まなかった。河野氏が怒るはずだ。原発と再エネの電源比率の書き方についての争いも、文春の記事からわかるのは、経産省が、再エネの比率を想定以上に引き上げるのを妨げ、原発維持拡大に有利になるような抜け穴を作ろうとしているということ。30年以上官僚をやっていた私には彼らの魂胆がよくわかる。経産官僚は、電力利権と安倍晋三前総理や甘利明税調会長などの利権政治家の側に立ち、国民の利益を全く無視している。こうした真実を知れば、国民の多くは、経産官僚に対して罵声を浴びせたくなるだろう。やむなく河野氏が、理不尽な内容のままなら閣議で反対すると言ったのは当然のことだろう。それがどうして「脅し」になるのか、意味不明だ。経産省が、内部調整中のエネ基の文言を一部週刊誌だけに漏洩して、「個人攻撃」で河野氏を叩こうとしたのは、彼らの「政策論」が世の中で通用しないと悟ったからだ。つまり、彼らは負けを認めたのだ。官僚と族議員の利権に容赦なく切り込む河野氏の敵は、利権擁護派の官僚と自民党族議員全体に及ぶ。彼らは、週刊文春を味方につけた経産省とともに、かさにかかって河野叩きに出るはずだ。河野総裁や要職での起用の可能性もあるとなればなおさらだろう。マスコミによる河野氏への人格攻撃は、その報道の意図とは関係なく、原発維持拡大などの利権擁護派に利用されていることを国民はよく理解しておかなければならない。 ※「週刊朝日」9月17日号より ■古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『官邸の暴走』(角川新書)など *4-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15036209.html?iref=comtop_Opinion_01 (朝日新聞 2021年9月7日) 論文引用数、中国躍進の一方で日本10位 科学技術力の岐路、おごり捨てて 桜井林太郎 科学技術政策について考えさせられるリポートが先月、公表された。注目度が高い科学論文の数で、中国が米国を抜き、初めて首位に立ったという。文部科学省の科学技術・学術政策研究所が、引用された回数が上位10%に入る「トップ10%論文数」を調べた結果で、その国の科学技術力を示す一つの指標となっている。中国は、年間の論文総数でも2年連続で1位となり、「質、量ともに世界一になった」と報じたメディアもあった。知り合いの材料研究者は「10年前、中国の研究者は独創性が高い日本の論文を追いかけていたが、今では中国の論文を日本の研究者が追試していることも多い」と嘆く。ただ、中国が質でも世界一になったと言い切るのは時期尚早という意見もある。理工系のある大学教授によると「中国は自国の科学雑誌への投稿を促し、格が高い雑誌に育てた上で、論文を引用し合う場合も多い」からだ。文科省の研究所の分析でも、英ネイチャーや米サイエンスといった世界屈指の科学誌のシェアでは今なお、米国が圧倒的に強かった。中国は、米国に次ぐ英独の2位争いに加わろうと猛追している段階だ。一方、日本の凋落(ちょうらく)ぶりは目を覆うばかりだ。日本は、研究者数と研究開発費は世界3位で、論文総数は4位。なのに、「トップ10%論文数」の順位は2000年代半ばから下がり続けている。今回はインドにも抜かれ、G7最下位の世界10位に転落した。研究時間の減少や博士課程進学者の減少など、さまざまな要因が原因として挙げられている。しかし、最大の原因は「慢心」にあったのではないか。この10年余り、皮肉にも日本はノーベル賞の受賞ラッシュに沸いた。「中国のノーベル賞はごくわずか。科学技術力は日本が上だ」。そんな話を何度も耳にした。現状の認識がこの有り様では、中国だけでなく、世界から取り残されてしまうだろう。日本政府も危機感を強め、テコ入れを始めた。日本の科学技術力は今まさに分岐点にある。「失われた10年」を「失われた20年」にしてはいけない。 *4-3:https://news.mynavi.jp/article/20191218-941815/ (マイナビニュース 2019/12/18) 「労働生産性の国際比較 2019」公開 - 日本は主要先進7カ国中最下位 日本生産性本部は12月18日、「労働生産性の国際比較 2019」を公表した。これは、同本部がOECDデータベースなどをもとに毎年分析・検証し、公表しているもの。OECDデータに基づく2018年の日本の時間当たり労働生産性は46.8ドル(4,744円)で、OECD加盟36カ国中21位だった。名目ベースで見ると、前年から1.5%上昇したが、順位は変わっていない。日本の労働生産性は、米国(74.7ドル/7,571円)の6割強で、イタリア(57.9ドル)やカナダ(54.8ドル)をやや下回る程度の水準。主要先進7カ国では、データが取得可能な1970年以降、最下位の状況が続いているという。就業者1人当たりの労働生産性は81,258ドル(824万円)で、同じくOECD加盟36カ国中21位だった。日本の1人当たり労働生産性は、英国(93,482ドル/948万円)やカナダ(95,553ドル/969万円)といった国をやや下回る水準。米国(132,127ドル/1,339万円)と比較すると、6割強の水準となっている。1990年代初頭は米国の4分の3近い水準だったが、2010年代に入ってから3分の2前後で推移しているという。 *4-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA07CK60X00C21A9000000/ (日経新聞 2021年9月9日) 脱炭素が問う自民総裁選 原発と再生エネが主戦場 自民党総裁選は17日に告示され、29日投開票する。新総裁が首相になるため、誰が勝つかが関心事だが、そのまま政権公約となる各候補の政策についても国内外の熱い視線が注がれる。政府が掲げた2050年までに国内の温暖化ガス排出実質ゼロ、30年度に13年度比で46%削減する目標に向けた原子力発電と再生可能エネルギーのあり方が論戦の主戦場になる。総裁選は岸田文雄前政調会長、高市早苗前総務相が立候補を表明し、河野太郎規制改革相は10日にも明らかにする。今回の総裁選がこれまでとは異なり、エネルギー政策が注目されるのは、河野氏の脱原発を巡る過去の発言がある。河野氏は東日本大震災直後の11年7月の自民党の総合エネルギー政策特命委員会で原発政策について「放射性廃棄物を出すのに、なぜクリーンエネルギーと言ってきたのか」と批判。12年には超党派議連「原発ゼロの会」の発起人となった。河野氏は8日、内閣府で記者団に「再生エネを最優先に広く取り入れていくのが基本だ」と力説。「いずれ原子力はなくなっていくだろうが、明日や来年やめろというつもりはない」と述べた。「安全が確認された原発を再稼働するのはカーボンニュートラルを目指すうえである程度必要だ」と容認した。脱原発の考え方が変わったのかの質問には「変わっていない」と説明した。一連の発言には総裁選で脱原発に関して過度に焦点が当たるのを回避する狙いもあるとみられる。河野氏は新著「日本を前に進める」(PHP新書)で「与党議員ではできないことも、閣僚として権限を持てれば実現できる。権限があるということは、やる気になれば、実現できる」と記している。岸田氏は8日に発表した経済政策で「再生エネの最大限の導入は当然」とするとともに蓄電池、新型の小型原子炉などへの投資を提唱した。記者会見で原発を巡り「新増設の前に既存の原発の再稼働を進めていくのが大事だ」と話した。2日の日本経済新聞とのインタビューでは「脱炭素目標を掲げる以上は、より丁寧に日本の産業に目配りをし、責任を持って考えていかなければならない」と語った。7月に原案を示したエネルギー基本計画は30年度の電源比率で再生エネの割合を36~38%にした。高市氏は8日の記者会見で環境政策とエネルギー政策を一元的に担う「環境エネルギー省」の創設を主張。天候で変わる太陽光の発電量を補う電源として火力を挙げ、再生エネのさらなる導入と原子力の平和利用を唱えた。新著「美しく、強く、成長する国へ。私の『日本経済強靱(きょうじん)化計画』」(WAC BUNKO)で太陽光のリスクの最小化を提言。「太陽光パネルの傾斜が雨天時に地面を削り取る原因となっている」と指摘した。エネルギー政策の主な論点は電源構成だ。脱炭素へ原子力や再生エネ、火力の構成が適正で、実現可能かどうか。再生エネが季節や時間帯で発電量が変動する可変動電源ならそれを補強する電源とそのコストの議論も国民負担にかかわるだけに避けて通れない。地球温暖化は異常気象を生み、死者が出るほどの高気温や山火事、台風を含めた暴風雨など世界を恐怖に陥れる。生態系の破壊がもたらす異常気象の際限は想像がつかない。地球温暖化が国民の生命と財産を危険にさらす以上、国家指導者は最優先課題として防止策に取り組まなければならない。そのための国際連携も急務だ。総裁選は各候補の脱炭素への決意を確認すると同時にその政策の根拠が精緻で、実現できるのかを見極める場にもしたい。 <計画性なき日本の安全保障政策> PS(2021年9月10、11、15、23日追加):自民党保守派と称する人は、軍備を増強するのに予算を使うことには熱心だが、国民の生命・財産・領土・領海・資源を守る本当の国防計画はないようだ。何故なら、*5-1-1のように、食料自給率は2020年度に37%、エネルギー自給率は2018年に11.8%なのに、それを改善する努力はせず、国民の生殺与奪の権を食料やエネルギーを依存する国に委ねているからだ。 それどころか、*5-1-2のように、日本一の海苔産地である有明海沿岸の佐賀空港にオスプレイを配備することを自己目的化し、九州防衛局(=政府?)は、漁民と地権者は異なるため地権者にアンケート調査をしても意味がないのに、オスプレイ配備計画について地権者にアンケート調査し、土地売却の意向は「条件次第で売却」が最も多かったなどとしているのだ。しかし、重要なのは漁業権を持ち、安心・安全な食料を作っている漁業者であり、オスプレイ配備で隊員や家族ら2千人以上が移住してくることよりも、宝の海で食料生産を続けて食料自給率を上げることの方が、防衛にも協力することになり、地域活性化の上でも重要なのである。 一方で、*5-2-1のように、沖縄・尖閣諸島周辺の領海の外側にある接続水域では、112日間連続で中国海警局の公船「海警」4隻が航行し、領海への侵入も今年は18件起き、日本漁船への接近もたびたび発生し、海上保安庁は巡視船12隻を専従させて警戒を続けているが、中国は尖閣諸島を自国領土と主張し、中国公船の活動は“パトロール”として「釣魚島と付属島嶼は中国固有の領土で海警船が巡航することは法に基づく正当な措置だ」としている。また、中国海警局の元幹部は「365日の活動を可能にする『常態化』は10年以上前から計画されてきたもので、日本側にもその意思を伝えてきた」とし、中国外交筋は「日本側はいつも『領土問題は存在しない』としか言わず、まともに議論する意思がない。日本の漁船が挑発的に尖閣領海に入っている状況からも合意を破っているのは明らかに日本だ」と批判している。 これに対し、加藤官房長官は「極めて深刻な事態。我が国として冷静かつ毅然と対応していく考えだ」と述べ、赤羽国交相も「極めて深刻に受け止めている。海上保安庁では常に相手の勢力を上回る巡視船の隻数で対応し、万全の領海警備体制を確保している。事態をエスカレートさせず、冷静かつ毅然と対応を続けて領海警備には万全を期していく」と述べながら、*5-2-2のように、石垣市が尖閣諸島に行政標柱の設置を目指すと、*5-2-3のように、加藤官房長官は「政府は尖閣諸島および周辺海域の安定的な維持管理という目的のため、原則として政府関係者を除き、何人も上陸を認めない」と語り、肝心なところでは「毅然とした姿勢」どころか「及び腰」なのである。つまり、中国が10年以上前から計画してきた尖閣諸島領有については「領土問題は存在しない」と言ってまともな議論もせず、「冷静かつ毅然と対応する」としながら何もせず、「安定」の名の下に領土を放棄しようとしている。これは、どういうわけか。 *5-3のように、河野氏も「安全が確認された原発を当面は再稼働させるのが現実的」と言われたが、これは新たな安全神話だ。何故なら、原子力規制委員会は「①安全を考える場合、リスク0にならないことを前提に確率論的リスク評価が必要で、不完全性・不確実性はある」「②安全性目標は、他の死亡リスクとの比較や土地汚染に関する根拠(100TBq の根拠等)などある程度の価値判断を含む定性的な上位概念を示すことを考えて良い」としており、この安全性目標から外れていれば何が起こっても“想定外”とし、ある程度の汚染は甘んじるべきという価値判断をしているからである(https://www.nsr.go.jp/data/000227853.pdf 参照)。 また、本当に安全なら、i)電源三法による交付金 ii)原発関連施設の固定資産税 iii)電力会社からの寄付金 などの原発マネー(これまでに支払われた金額は総額2兆5,353億233万円と言われる)は不要な筈だが、原発立地自治体は原発が安全だと思っているからではなく、原発マネーが財政を潤すから原発の立地を受け入れているのである。しかし、1966年に日本で最初の原発が商業発電を始めてから既に55年が経過しているのに、未だに補助金を出さなければ運用できないような発電方法は既に破綻しているため、原発の処理と再エネ100%の実現こそが、汗をかき少し手を伸ばして可能にしなければならない課題なのだ。 なお、「デジタルの力で日本を前に進める」とも言われたが、デジタル化や自動化は民間では1980年代からやっているため、今頃、これを言わなければならないのは行政だけだ。さらに、デジタル化を当然としても個人情報保護や犯罪防止は必要不可欠であるのに、「デジタル化さえ進めば、後はどうでもよい」と考えている点で日本は著しく遅れている。なお、「自民党は保守政党だ」としながら「自民党を変え、政治を変える」と言うのは日本語の意味を間違えている。何故なら、「保守」とは、読んで字の如く「保ち守る」という意味で、「続けられてきた状態を維持し続けること、維持するための取り組み、維持するための主張」を指すからだ。 このような中、*5-4のように、①原子力規制委は中国電力島根原発2号機の安全対策が新規制基準に適合しているとする審査書を決定したが ②県庁所在地にある原発で事故時には46万人の住民避難が課題で ③中国電力は敷地近くの宍道断層による地震は基準地震動が最大加速度820ガルと想定 ④津波は最大11.9mと想定 ⑤三瓶山噴火の火山灰は最大56cm積ると想定 ⑥安全対策費は原発全体で6千億円程度の見積もっている そうだ。しかし、②は、事故時に46万人もの住民がどこに、どれだけの期間避難するつもりか問題であり、③の基準地震動は最大ではなく平均地震動であるため、最大地震動でも使用済核燃料プールの水がこぼれることはなく、管を含む原発のすべての部品が正常であるという前提に無理がある。④⑤については、その前提でよい理由は不明だが、事故が起これば歴史的に重要な地域で取り返しのつかない状況になることを考えれば、①は甘い審査だと私は思う。 なお、*5-5のように、台湾がTPP加盟の正式申請手続きを行うと、日本のメディアは、「⑥中国は中国大陸と台湾は1つの国に属するという『1つの中国』を唱えているため、中国の強い反発が予想される」「⑦対立する中台のTPP加盟を日本などの加盟国がどう判断するか外交的な駆け引きも含めて交渉が激しくなる」などと報道している。これに対し、台湾通商交渉トップの鄧政務委員は、「⑧中国はいつも台湾の国際社会との連携を阻もうとしてきた。もし中国が先にTPPに加盟すれば台湾のTPP参加は不利になる」「⑨台湾のTPP参加は台湾の利益と経済発展のために行うもので、中国の反対があっても彼らの問題だ」などと切り捨てて強い不満を表明されたそうだ。私は、独立国の意思決定に対する⑥⑦の質問や考察は失礼なので、⑧⑨の反発の方が尤もだと思う。また、尖閣諸島と同様、肝心なところで敵対する相手の顔色を見て首尾一貫性がなくなる国は、誰からも信用されなくなるだろう。 MotorFan Quara 2021.8.26山陰中央 2021.4.15Yahoo エネルギー自給率国際比較 食料自給率国際比較 食料自給率推移 尖閣諸島の位置 (図の説明:1番左の図のように、エネルギー自給率は先進国の中でも著しく低く、左から2番目の図のように、食料自給率も先進国の中でかなり低い。また、右から2番目の図のように、食料自給率は一貫して下がっており、政策が悪かったとしか言いようがない。さらに、1番右は尖閣諸島の位置関係を示す図で、沖縄県石垣島と中華民国《台湾》が170kmで等距離であるものの、中華人民共和国《中国》は330kmも離れており、全く関係ないと言える) 2021.4.9産経新聞 Goo 2021.4.29東京新聞 (図の説明:1番左の図のように、2019年時点で原発の発電量は6%しかなく、2050年までに原発と火力を30~40%にするということこそ、世界の流れに反しており、非現実的である上、理念が見えない。また、左から2番目と右から2番目の図のように、膨大な量の使用済核燃料が満杯に近く貯蔵されており、残りの貯蔵空間は少ないが、最終処分の方法もまだ決まっていない。そして、1番右の図のように、仮に玄海原発が自然災害や戦争による爆撃で爆発すると、歴史的に重要な場所を含む食料生産地域が汚染され、食料自給率は現在の1/4程度減ると思うが、日本政府は食料・エネルギーの自給率や食料の汚染にとりわけ疎いのだ) iMart 2016.6.19Goo 2016.10.21 朝日新聞 (図の説明:1番左の図のように、日本は北米プレートとユーラシアプレートの上にあり、ここに太平洋プレートとフィリピン海プレートが沈み込んで、その内側に火山帯がある。そのため、左から2番目の図のように、押されてできた割れ目が多数の活断層になっており、知られている活断層が全てではない上、新しい活断層ができない保証もない。そして、右から2番目の図の熊本・大分の地震は中央構造線から連なる活断層の上で起こったが、特に伊方原発と川内原発は中央構造線に極めて近い場所にあり、図に活断層は描かれていないものの、近くには活断層が多いと考えるのが自然だ。また、1番右の図のように、2016年の鳥取地震では地殻変動によるひずみの集中で地震の起こるメカニズムが初めて明らかにされ、これもノーベル賞級の研究だと思う) *5-1-1:https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/84726 (山陰中央新報 2021/8/26) 食料自給率37% 過去最低 20年度、コメや小麦減少 農林水産省は25日、2020年度のカロリーベースの食料自給率が前年度から1ポイント低下し37%だったと発表した。1993年度と2018年度に並ぶ過去最低の水準。自給できているコメの需要減少や、ただでさえ輸入頼みの小麦の生産量が落ち込んだことが響いた。新型コロナウイルス禍で外食需要減少に伴う消費の落ち込みも押し下げた。新型コロナの影響では、家庭食の増加など自給率向上に寄与する要因もあったが、マイナス面が上回った。 1993年度は記録的なコメの凶作の年で、2018年度は長期的な自給率低下が続く中で天候不順となり、小麦などの生産量が減少し、いずれも37%だった。一方、生産額ベースの自給率は前年度から1ポイント上昇の67%だった。単価の高い豚肉や鶏肉、野菜、果実の生産額が増加した一方、魚介類などの輸入額が減少したため4年ぶりに上昇した。農水省の担当者は「外出自粛で清涼飲料水や土産物の菓子の需要が落ち込んだ」と説明。これらの原料として使用する砂糖類や植物油脂の輸入額が減ったことも上昇要因となった。品目別(重量ベース)の自給率では、コメが前年度と同じ97%、小麦は1ポイント下落し15%となった。野菜は1ポイント上がり80%、魚介類は2ポイント上昇の55%だった。農水省は19年度の都道府県別の食料自給率も発表した。カロリーベースでは北海道が216%で3年連続の1位となり、2位は205%の秋田県。東京都は都道府県別の統計として初めて0%を記録した。島根、鳥取はともに61%だった。 *5-1-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/735211 (佐賀新聞 2021/9/4) <オスプレイ配備>割れた意見、漁業者ら受け止めさまざま、配備候補地 地権者アンケート結果 オスプレイ配備計画の地権者アンケートで、計画への理解を尋ねた設問の結果は、賛否と「どちらとも言えない」の三つに割れた。土地売却の意向も、賛否に直接的にくくれない「条件次第で売却」が最も多く、地権者や漁業者の受け止め方はさまざまだった。漁協支所の運営委員の一人は、計画への理解について「どちらとも言えない」が3分の1を超えた点を「多くの人が判断しようがなかったのだろう」と推し量る。「説明不足」との指摘が相次いだ九州防衛局の地権者説明会を引き合いに「ずっと判断材料が不足したまま。アンケート結果をもってしても、どっちにも進めようがないだろう」。駐屯地予定地の直接の地権者が所属する漁協南川副支所では、「売却する」が「売却しない」をやや上回り「条件次第」が半数近くだった。微妙な数字で、田中浩人運営委員長は「正式な数字を見たばかりで、コメントする立場でもない。皆さんの考えが表れたものとしか言えない」と口数は少なかった。ただ、「条件次第」が多かった点には「どういう条件なのか精査し、今後、漁協内で協議すべきものと思う」とした。南川副支所の50代のノリ漁師は計画に賛成の立場で、土地を売却すると回答した。結果は「条件付きを含めると売却に賛成が多く、思った通り」と受け止める。配備で隊員や家族ら2千人以上が住み、地域活性化につながると期待する。「今回の結果を機に計画が前進してほしい」と話した。地権者でつくる有志の会の古賀初次さんは、質問が誘導的として疑問を呈しつつ「お金が欲しくない人はいないのだから、条件次第で土地を売ってもいいという人が多いのは当たり前」と指摘した。ノリ漁の準備が始まっており「この多忙な時期に、こんな大事なことを話すなんておかしい」と、漁協が防衛省のペースに乗って議論を進めていると批判した。 *5-2-1:https://digital.asahi.com/articles/ASP646HKSP62UTIL041.html (朝日新聞 2021年6月4日) 尖閣周辺の中国公船確認、112日連続 最長記録を更新 沖縄・尖閣諸島周辺の領海外側にある接続水域で4日、中国海警局の公船「海警」4隻が航行しているのが確認された。接続水域での航行は2月13日から112日連続。2012年の尖閣国有化後、最長だった111日連続(昨年4~8月)を更新した。領海への侵入も今年は3日までに18件起き、漁船への接近もたびたび発生。海上保安庁は巡視船12隻を専従させて警戒を続けている。4日は午後3時現在、大正島沖で2隻、久場島沖で別の2隻が確認された。うち1隻は機関砲のようなものを搭載していた。通常、中国公船は4隻で航行していることが多いという。領海は、通常は潮が最も引いている大潮の干潮時の海岸線を基線とし、そこから12カイリ(約22キロ)までの海域をいう。沿岸国の主権が及ぶが、その国の平和や秩序を乱さなければ「無害通航権」といって他国船は事前通告なく通ることが認められる。この領海外側にある24カイリ(約44キロ)までが接続水域だ。沿岸国は犯罪が領海で起きるのを防いだり、違反した船を取り締まったりすることができる。日本は2012年9月に尖閣諸島にある五つの島のうち、魚釣島、北小島、南小島の3島を国有化した。それ以降、中国当局の船が周辺海域に近づく事案が頻繁に発生するようになり、領海侵入も増えた。1年間に接続水域内で確認された日数は12年は91日で、13年には232日に増加。一時期は減少していたが、19年に282日と再び増えると、昨年は333日と過去最多を記録した。頻度とともに懸念されるのは、船舶の大型化や武装化だ。海上保安庁が公開情報をもとに推定したところ、大型船(1千トン級以上)は12年に40隻だったが、昨年は131隻と8年間に3倍以上に増加した。海上保安庁の同水準の巡視船69隻を上回る勢力になっている。また、15年12月に機関砲を搭載した海警船も初めて確認され、以降は機関砲を搭載した船の接近が頻繁に発生している。海警局は18年7月に人民武装警察部隊に編入され、今年2月には武器使用を認める中国海警法も施行された。海上保安庁の奥島高弘長官は5月の定例会見で、尖閣周辺の情勢を「依然として予断を許さない厳しい状況」との見解を示し、「関係機関と緊密に連携して冷静にかつ毅然(きぜん)として対応を続け領海警備に万全を期す」と述べた。加藤勝信官房長官は4日の会見で「極めて深刻な事態と認識している。我が国として冷静かつ毅然(きぜん)と対応していく考えだ」と述べた。赤羽一嘉・国土交通相も4日の閣議後会見で「極めて深刻に受け止めている。海上保安庁では常に相手の勢力を上回る巡視船の隻数で対応し、万全の領海警備体制を確保している。事態をエスカレートさせず、冷静かつ毅然と対応を続けて領海警備には万全を期していく」と述べた。これに対し、尖閣諸島を自国領土と主張する中国は、中国公船の活動を「パトロール」と強調。日本政府が「国際法違反」と指摘している点について、中国外務省の汪文斌副報道局長は4日の定例会見で「釣魚島(尖閣諸島の中国名)と付属島嶼(とうしょ)は中国固有の領土であり、海警船が巡航することは、法に基づく正当な措置だ」と主張した。中国公船は12年の日本の尖閣国有化直後から定期的に航行するようになり、段階的に回数と態勢を引き上げてきた。自身も尖閣周辺のパトロール経験がある海警局元幹部は「365日の活動を可能にする『常態化』は10年以上前から計画されてきたものであり、日本側にもその意思を伝えてきた。当たり前のことができるようになっただけなのに、日本があおり立てて問題を大きくしている」と語る。日中両政府は14年、尖閣問題について「対話と協議を通じて、情勢の悪化を防ぐ」などとする4カ条の合意を交わした。だが、中国外交筋は「日本側はいつも『領土問題は存在しない』としか言わず、まともに議論する意思がない。日本の漁船が挑発的に尖閣領海に入っている状況からも、合意を破っているのは明らかに日本だ」と批判する。 *5-2-2:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1380399.html (琉球新報 2021年8月24日) 石垣市、国に尖閣上陸申請へ 行政標柱が完成、設置目指す 石垣市は23日、尖閣諸島への設置を目指している行政標柱が完成したと発表した。市が昨年10月に、市の行政区域に含まれる尖閣諸島の住所地の字名を「登野城」から「登野城尖閣」に変更したことに伴う取り組みの一環。市は今後、標柱設置のために国に尖閣諸島への上陸申請をしていくが、具体的な時期は未定という。23日に市内であった完成発表会で、中山義隆市長は「尖閣諸島とその周辺を取り巻く環境は大変厳しい状況が続いている。市はこれまで国に対し必要な措置を要請してきたが、いまだ状況に変化がない。尖閣諸島を市民、国民の皆さんに広く正しく知ってもらうことが重要だと考えている」と語った。標柱には石垣島産の御影石が使われ、「八重山尖閣諸島魚釣島」や「沖縄県石垣市字登野城尖閣二三九二番地」などと記されている。製作費は総額約200万円で、ふるさと納税による寄付でまかなった。国から上陸許可が出るまでの間は、この冬のオープンに向けて計画中の「市尖閣諸島情報発信センター」(仮称)で展示を予定している。 *5-2-3:https://news.yahoo.co.jp/articles/34ca6f79116d9ef11551a757e36c497cba10781c (Yahoo 2021年8月30日) 石垣市の尖閣標柱に日本政府「弱腰」 上陸申請めぐり“中国に屈した発言”も 石平氏「中国の反応など考慮する必要はない」 中国当局が東シナ海での休漁期間を解禁して以降、沖縄県・尖閣諸島周辺には連日、数十隻もの中国漁船が大挙して押し寄せている。日本の領土・領海を守り、先祖から受け継いだ海洋資源を守るためにも、尖閣諸島を行政区域とする石垣市は近く、「行政標柱設置のための上陸申請」を行う方針だが、日本政府は「及び腰」「弱腰」だという。これで、国民の生命や財産を守り抜けるのか。菅義偉政権の胆力が試される展開となっている。 ◇ 第11管区海上保安本部(那覇)によると、尖閣周辺の接続水域外側で25日、約60隻の中国漁船が操業しているのが確認された。中国当局が漁を解禁した16日以降、漁船を確認しない日はなく、19日には最多の約100隻が押し寄せた。海上保安庁の担当者は「接続水域や領海に接近する様子があれば、警告するとともに、違法操業があれば退去させる」と説明した。中国海警局船も要警戒だ。尖閣周辺の接続水域では26日、海警局船2隻の航行が確認された。18日連続で、1隻は機関砲のようなものを搭載していた。巡視船が領海に近づかないよう警告した。こうしたなか、石垣市は、昨年10月に尖閣諸島の字名を「石垣市字登野城」から「石垣市字登野城尖閣」に変更したことを受け、島名などを刻んだ行政標柱を製作し、23日公開した。魚釣島と南小島、北小島、久場島、大正島に設置する方針で、今後、国に上陸申請を行うという。中山義隆市長は同日の記者会見で、「尖閣周辺に中国船が連日出没し、大変厳しい状況が続いている」「これまでも国に対し、尖閣周辺海域の適正な管理や漁業者の安全操業の確保など、必要な措置を要請してきたが、状況に変化がない」「尖閣について国民に広く正しく知ってもらうことが大切だ」などと語った。行政標柱の設置は、日本の毅然(きぜん)とした姿勢を示すことになる。ところが、菅首相の女房役である加藤勝信官房長官は24日の記者会見で、「政府は尖閣諸島および周辺海域の安定的な維持管理という目的のため、原則として政府関係者をのぞき、何人も上陸を認めない」と語った。まだ、上陸申請が出ていない段階で、これを拒否する考えを示したのだ。日本沖縄政策研究フォーラム理事長の仲村覚氏は「菅政権の考えは、まったく理解できない。尖閣諸島は日本領土ではないのか?現在の状況では、『安定的な維持管理』ができているとは言えない。『中国に屈した発言』としか思えない。これでは、尖閣諸島だけでなく、他の領土も危ない」と懸念を示した。石垣市は淡々としている。企画部の担当者は、上陸申請を提出する時期を「検討中」としたうえで、「今回の標柱設置は、市の行政手続きの1つとして理解していただきたい。今後、申請にあたって政府に説明したい」といい、一切譲歩しない姿勢を示した。菅政権による新型コロナウイルス対策への不満などから、一部の世論調査では内閣支持率が30%を下回る「危険水域」に突入している。菅首相の地元・横浜市の市長選(22日投開票)では、首相が全面支援した候補が惨敗した。尖閣諸島に関する「及び腰」「弱腰」といえる姿勢は、習近平国家主席の中国にナメられ、さらに菅内閣の支持率を下落させかねない。中国事情に詳しい評論家の石平氏は「日本の領土である尖閣諸島について、(中国の反応などを)考慮する必要はない。ここまで中国を増長させた責任は、今回の加藤長官の発言をはじめとする、愚かな姿勢を示してきた日本政府にある。日本の領土であることをハッキリと主張して、行動すべきだ」と指摘した。 *5-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210911&ng=DGKKZO75676950R10C21A9MM8000 (日経新聞 2021.9.11) 河野氏「安全な原発は再稼働」 総裁選出馬を表明 河野太郎規制改革相は10日、国会内で記者会見し、自民党総裁選への出馬を表明した。原子力発電所について「安全が確認された原発を当面は再稼働させるのが現実的だ」と強調した。「デジタルの力で日本を前に進める」とも語った。新型コロナウイルス禍を踏まえ「皆さんと一緒に直面する危機を乗り越えていかなければならない」と訴えた。「人が人に寄り添う、ぬくもりのある社会をつくっていきたい」と述べた。総裁選への立候補を表明したのは岸田文雄、高市早苗両氏に続き3人目となった。出馬表明した3人で唯一の現職閣僚になる。規制改革、ワクチン担当の職務は続ける。河野氏は総裁選向けの政策パンフレットで「産業界も安心できる現実的なエネルギー政策を進める」と明記した。持論の「脱原発」政策を推進するとの見方があったため、現実的な路線をとると強調した。冊子は「日本を前に進める」と題し「自民党を変え、政治を変える」と掲げた。会見の冒頭で「自民党は保守政党だ」と指摘し「日本の一番の礎は伝統と歴史、文化に裏付けられた皇室と日本語だ」と力説した。保守層からの支持が念頭にある。記者会見では政府と日銀が掲げる2%のインフレ目標の達成に慎重な考えを示した。「かなり厳しいものがあるのではないか」と説いた。河野氏は10日夜のテレビ東京番組で、原発で燃え残った核燃料を再利用する「核燃料サイクル政策」に言及した。「方向転換することもテーブルの上に載せる必要がある。我々の責任で解決策を見いだし、実行していく必要がある」と話した。過去にも核燃料サイクルに異論を唱えていた。総裁選は17日告示―29日投開票で実施する。3人以上で争う構図になった。河野氏は世論調査で「次の総裁にふさわしい人」の上位に挙がる。日本経済新聞社の8月の調査は16%で首位だった。派閥横断的に若手を中心に衆院選の「選挙の顔」に期待する声がある。 *5-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/740315 (佐賀新聞 2021.9.15) 島根原発2号機が審査合格、全国唯一、県庁所在地立地 原子力規制委員会は15日の定例会合で、中国電力島根原発2号機(松江市)の安全対策が、新規制基準に適合しているとする「審査書」を決定した。これで正式に審査に合格した。合格は10原発17基目。事故を起こした東京電力福島第1原発と同じ沸騰水型軽水炉としては4原発5基目となる。全国で唯一、県庁所在地にある原発で、事故時の住民避難が課題だ。中国電は再稼働に向け、本年度内の安全対策工事完了を目指す。再稼働には、原発が立地する島根県と松江市の同意を得る必要があり、時期は未定。原発の30キロ圏に入る鳥取県などの動向も焦点となる。会合では、6月に取りまとめた審査書案に対する一般からの意見公募で、中国電が規制委から借り受けたテロ対策施設に関する機密文書を誤廃棄した問題に関し、「中国電に原発を運転する資格があるのか疑問」などの意見が寄せられたことを規制委事務局の担当者が説明。規制委側は、施設の運用ルールを定めた保安規定の審査の中で、引き続き中国電の改善姿勢を確認していくとした。審査書の決定には5人の委員全員が賛成した。中国電は、敷地近くの宍道断層による地震などを検討し、耐震設計の目安となる揺れ(基準地震動)を最大加速度820ガルと設定。最大で海抜11・9メートルの津波が敷地に到達すると想定し、海抜15メートルの防波壁を建設した。三瓶山(島根県)の噴火で敷地に最大56センチの火山灰が降り積もるとして対策を取る。中国電は2013年12月に審査を申請。18年には、新規稼働を目指して建設中の3号機の審査も申請した。1号機は17年から廃炉作業中。原発全体での安全対策費は6千億円程度と見積もる。 *5-5:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM230B00T20C21A9000000/?n_cid=BMSR3P001_202109231017 (日経新聞 2021年9月23日) 台湾、TPP加盟申請を発表 中国反発でも加入に強い意欲 台湾当局は23日、環太平洋経済連携協定(TPP)への加盟に向け、正式に申請手続きを行ったと発表した。同日午前、記者会見を開き、行政院(内閣)の報道官が明らかにした。加盟申請は22日午後に行った。中国の強い反発が予想されるなか、TPP加盟に強い意欲をみせた。TPPを巡っては、中国が16日に加盟申請を行ったことを公表したばかりだ。台湾として中国に加盟申請で大きく遅れれば、加盟が困難になるとみて申請手続きを急いだ。台湾の通商交渉トップである鄧振中・政務委員(無任所大臣に相当)は会見で、「中国はいつも、台湾の国際社会との連携を阻もうとしてきた。もし中国が先にTPPに加盟してしまえば、台湾のTPP参加は不利になることが予想された」と述べた。そのうえで、鄧氏は「台湾のTPP参加は、台湾の利益と経済発展のために行うものだ。中国の反対があっても、それは彼らの問題だ」などと切り捨て、強い不満を表明した。さらに「TPP加盟国は、台湾の貿易総額の24%以上を占める。今年、(閣僚級会合のTPP委員会の)議長国である日本とは非常に緊密な関係にあり、今こそ加盟すべき時が来た」と語った。蔡英文(ツァイ・インウェン)総統は、2016年の就任時からTPP加盟を悲願としてきた。台湾経済は中国に大きく依存している。台湾からの輸出は4割強を中国が占める。統一圧力を強める中国からの脱却を急ぐには、TPPに加盟し、中国への経済依存度を引き下げる必要があると判断した。ただ中国は、中国大陸と台湾は1つの国に属するという「一つの中国」を唱えている。台湾のTPP加盟には強硬に反対する姿勢だ。TPPには現在、日本やオーストラリアなど11カ国が加盟している。参加するには、加盟国すべての同意が必要となる。今後、対立する中台のTPP加盟を、日本などの加盟国がどう判断するか、外交的な駆け引きも含めて交渉が激しくなりそうだ。米国の今後の動きも大きな焦点となる。トランプ前大統領は17年1月、TPPから「永久に離脱する」とした大統領令に署名し、TPPから離脱した。バイデン政権が復帰を決定することは容易ではないが、中台の加盟申請でTPPを取り巻く状況は大きく変化しており、米国としても何らかの対応が必要になる可能性がある。 <アフガンへの支援と今後> PS(2021年9月17、18、24日追加):*6-1のように、タリバンが権力を掌握したアフガンで食料不足や物価高騰が深刻で、「①国民の93%が食事を十分にとれない事態で人道危機が迫っている」として、国連は、*6-2のように、9月13日、96カ国が参加する緊急会合で計12億㌦(約1300億円)超の拠出を表明した。グテレス事務総長は、ジュネーブの国連欧州本部で開かれた会合で「②事実上の政府であるタリバンとの関わりなしに人道支援を行うのは不可能」「③経済が崩壊すれば人道支援だけで問題は解決しない」「④国外資産凍結・IMF・世界銀行の支援停止などでアフガン経済はさらなる苦境に陥っている」と訴えたが、ドイツのマース外相や米国のトーマスグリーンフィールド国連大使は「⑤国際社会の支援を受けたいタリバンは政権発足にあたって女性の人権や旧政権に参加した人の安全などを守るとしていたが、既に多くの市民への暴力が報告された」と、タリバンの実行動に懸念を示されたそうだ。 また、*6-1には、2年前に戦闘に巻き込まれて夫を失い、自身も右足をけがして不自由になり、3歳から14歳までの7人の子どもと逃れてきた避難民女性が首都カブールの公園などにテントを張って暮らしている様子も書かれている。アフガンは食事も十分にとれない国民が93%に上るそうだが、男性は戦闘という破壊活動(生産とは反対の活動)を行い、女性は勉強も就業もできずに次々と7人も子どもを作っていれば、貧しかったり飢えたりするのは当然のようにも思うが、放っておくわけにもいかない。そのため、日本で消費期限が近づく災害用非常食や1年以上備蓄されている備蓄米・脱脂粉乳等々を、団体を通じて援助物資として送ったらどうか。その際、梱包する箱や袋に日本の国名・(男女を含む)作っている人の写真・農村の生産風景・再エネ発電等を映した印刷物を添付し、女性が働かなければ付加価値を高めることは困難で、豊かさは戦争をしても作れないことを示すメッセージにすればよいと思う。 なお、*6-3のように、イスラム主義勢力タリバンが首都カブールを制圧してから、自分たちの権利を守るために声を上げる女性も出てきているが、タリバンのメンバーが抗議デモの女性をムチで打つなど暴力を振るったり、女子学生への教育は認めたが学校で男女の間に仕切りを置いたり、女性は働くことができないと言ったり、女性に頭髪を覆うスカーフやブルカの着用を義務づけたりなど、女性差別が多すぎる。そのため、*6-1のドイツのマース外相や米国のトーマスグリーンフィール国連大使の懸念は的を得ているのである。 こちらが先だが、アフガンに平和・民主主義・人権・平等・信教の自由などを重視する憲法ができ、それに沿った民法・商法・税法等の法律ができれば、その後は、*6-4の中国主導の広域経済圏構想「一帯一路」やその他の鉄道・道路によって、アフガンで見込まれる非鉄金属・レアアース(希土類)等の資源開発や輸出が期待でき、バーミヤンの石仏などを復元すれば観光の要所にもなれるだろう。 *6-5のように、「⑥G20外相会議は、女性の権利尊重をタリバンに求めることで一致し」「⑦タリバンへの経済制裁については、維持を訴える米国と解除を求める中国で違いが明らかになり」「⑧G7は、タリバンに対し人権尊重・テロ対策・少数派を含む包括的な政権作りを求め」「⑨中国の王毅外相は、人道支援・難民問題に取り組むよう求め」「⑩中国は、タリバンとの意思疎通を続けて包括的な政権作りを促す方針でロシア等と協調して情勢の安定化を図る」とのことだ。⑦については、制裁をちらつかせながら「基本的人権の尊重」「男女平等」「信教の自由」等を定める憲法その他の法律を整備しなければ、⑥の女性の権利尊重はできないし、⑧⑩の人権尊重や包括的な政権作りもできない。そのため、よりよい形で安定をもたらすためには北風と太陽の両方が必要であり、男女平等に関しては、下の1番右の図のように、ドイツ11位・フィリピン17位・米国30位・韓国102位・中国107位・ミャンマー109位・日本120位と儒教・仏教・イスラム教を基盤とする国はキリスト教を基盤とする国より遅れているため、自由・平等・博愛を重視するキリスト教国に先導してもらった方がよいと思う。 2021.9.10 2021.9.8CNN 2021.9.9afpbb 2021.9.17 2021.4.1 TokyoHeadline 日経新聞 毎日新聞 (図の説明:1番左の図は、アフガン女性が命がけで女性差別に抗議している様子で、左から2番目の図は、学校で男女間に仕切りを付けられた様子だ。また、中央の図は、イスラム世界において女性に許された服装で、男性目線のSEX中心でしかない。さらに、右から2番目の図は、鉱山開発のためにアフガンが期待する中国の「一帯一路」だ。そして、1番右の図は、男女格差の小さい順に並べた国名で、アフガニスタンは156ヶ国中156位で全体最下位である) *6-1:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210912/k10013255411000.html (NHK 2021年9月12日) アフガニスタン 国民の93%が「十分に食事をとれない事態」に 武装勢力タリバンが権力を掌握したアフガニスタンでは、食料不足や物価の高騰が深刻になっていて、国連は、国民の93%が食事を十分にとれない事態に陥っているとして、国際社会の支援が急務だと訴えています。アフガニスタンでは、仕事ができなくなったり銀行が閉鎖されたりして、多くの人が現金収入を絶たれ、食料不足や物価の高騰が深刻化しています。首都カブールには、国内各地で家を追われた避難民が公園などにテントを張って暮らしていますが、多くの人は近くの住民などが善意で運んでくれる食料を頼りにして飢えをしのいでいるということです。2か月半前に戦闘で家が破壊され、北部の州から子ども7人と避難してきたという女性は「子どもたちは飢えていて、ひと切れの小さなパンをめぐって奪い合いになっています。このひどい状況から抜け出すためにも支援が必要です」と話していました。WFP=世界食糧計画は、地域事務所の担当者がオンライン会見を開き、タリバンが権力を掌握した8月中旬以降、食事を十分にとれない人は、国民の93%にのぼるとして、支援のための食料の備蓄もなくなるおそれがあると説明しました。担当者は「冬を迎える前に助けを必要としている人たちを救えるかは、時間との戦いになっている」と話し、国際社会の支援が急務だと訴えました。 ●「誰も助けてくれず、取り残されている」 アフガニスタンで、各地での混乱を逃れ、首都カブールに避難してきた人たちは、多くが支援を受けられず、食事が確保できない深刻な状況に陥っています。このうちカブール中心部の公園には2000人余りの避難民がテントを張って生活しています。2か月半前に北部バグラン州での戦闘で家が破壊されたというザル・ベグムさん(42)は3歳から14歳までの子ども7人と逃れてきました。ザルさんは2年前、戦闘に巻き込まれて夫を失ったほか、自身も右足がけがで不自由となりました。着の身着のままで逃れてきたため食料を買う金もなく、近くの住民などが善意で運んでくれる食料だけが頼りですが、子どもたちの飢えをしのぐには十分ではないといいます。ザルさんは「政権の崩壊以降、誰も助けてくれず、取り残されています。私は足が不自由で、子どもたちもまだ幼いので食料の分け前をほかの人たちに取られてしまいます。子どもたちは飢えていて、ひと切れの小さなパンをめぐって奪い合いになっています。このひどい状況から抜け出すためにも支援が必要です」と窮状を訴えていました。 *6-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR13CXG0T10C21A9000000/ (日経新聞 2021年9月14日) アフガン支援でジレンマ 「タリバン政権」に米欧慎重、国連が緊急会合、1300億円超の拠出表明 アフガニスタンへの支援を協議する国連の緊急会合で各国は13日、計12億㌦(約1300億円)超の拠出を表明した。イスラム主義組織タリバンによる制圧後、食料不足や経済のまひ状態が続くアフガンに人道危機が迫る。「タリバン政権」の承認に慎重な国際社会は、暫定政権との協力をめぐりジレンマを抱えている。「事実上の政府であるタリバンとの関わりなしに人道支援を行うのは不可能だ」。国連のグテレス事務総長は13日スイス西部ジュネーブの国連欧州本部で開いた会合で、タリバンとの協力は不可欠だと繰り返し訴えた。会合には96カ国が参加した。国連が9~12月を乗り切るために必要としていた目標の6億ドルは達成できる見込みとなったが、グテレス氏は「経済が崩壊すれば、人道支援だけで問題は解決しない」とも述べ、アフガンが直面する現金不足の問題を指摘した。名指しこそしなかったものの、念頭にあるのは米国などが凍結した、アフガン中央銀行の約100億ドルもの国外資産だ。資産凍結や国際通貨基金(IMF)、世界銀行による支援の停止などで、最貧国の一つであるアフガン経済はさらなる苦境に陥っている。現金の不足で銀行は営業停止や引き出しの制限をしている。物価は高騰し、経済はまひ状態にある。国連開発計画(UNDP)によると、既に7割程度だった貧困率は22年半ばまでに97%に上昇する恐れがある。国民の3人に1人は次の食事もままならない状況だという。国際社会の支援を受けたいタリバンは政権の発足にあたり、女性の人権や旧政権に参加した人の安全などを守るとしているが、既に多くの市民への暴力が報告されている。7日に発表した暫定政権の顔ぶれには、国連制裁や米連邦捜査局(FBI)の指名手配対象が含まれた。女性や少数派の姿は見られない。ドイツのマース外相は「良いシグナルではない」と指摘。米国のトーマスグリーンフィールド国連大使も「言葉だけでは不十分だ。実際の行動を見なければいけない」とくぎを刺した。タリバン側との対話や調整を通じた大規模な支援や資産凍結の解除は「タリバン政権」の承認につながりかねないだけに、米欧は消極姿勢を崩さない。人道支援に約6400万ドルを拠出すると発表した米国では、13日の議会下院外交委員会の公聴会で懸念の声が出た。共和党のスコット・ペリー下院議員は「(米国民の)税金をテロ組織へ支払うことは米国の政策なのか」とブリンケン国務長官を問い詰めた。ブリンケン氏は「国連などを通じて支援する」と応じたが、議会の監視は厳しい。一方、隣国パキスタンはいち早く援助物資の空輸に動いた。パキスタンとともにタリバンと密接な関係を持つカタールも「無条件の支援」を国際社会に呼びかけている。12日にはムハンマド副首相兼外相がカブールを訪れた。中国は医療支援などでタリバンと接近している。王毅(ワン・イー)国務委員兼外相は8日、オンラインで開いたアフガン隣国の外相協議に参加し、「新型コロナウイルスワクチンを第1回分として300万回分寄贈する」と表明した。総額2億元(約34億円)分の食料や越冬物資なども提供すると述べた。ロシア、中央アジア諸国などとともに加盟する上海協力機構(SCO)の枠組みも活用してアフガンへの関与を強める。16日から2日間の日程で、タジキスタンの首都ドゥシャンベで首脳会議を開く。習近平(シー・ジンピン)国家主席がオンラインで出席する見通しだ。中国はアフガンからのイスラム過激派流入を警戒しており、人民解放軍は11日からロシア南部オレンブルク州で実施する対テロ合同軍事演習に参加している。タリバンとの関係を築き、復興を支援することでアフガンを安定させたい考えだ。 *6-3:https://news.yahoo.co.jp/articles/bdd36bb3e32f4f012c9261580af02629210e2879 (Yahoo、日テレ 2021/9/15) カブール制圧から1か月 タリバン支配下のアフガン女性たちの現状は? アフガニスタンでイスラム主義勢力タリバンが首都カブールを制圧してから1か月たち、注目されているのが「女性の権利」だ。旧タリバン政権下でその権利を大きく制限されてきた女性たちの間では、手に入れた自由がまた制限されてしまうのではないかと不安が広がっている。アフガン女性たちに現状を聞いた。 ●自分たちの権利を守るため 声を上げる女性たち 9月、首都カブールで行われた抗議デモ。自分たちの権利を守るために声を上げる女性も出てきている。デモに参加した女性たちは――「仕事に行けない女性、学校に行けない女性の助けになるために外に出ている。私は彼女たちの声になりたい」「アフガン女性は常に女性の権利を訴えてきた。アフガン女性も他の女性と変わりない。なぜ私たちは権利が無いのか。私たちもすべての権利を持つべきだ」。そして、9月8日、ロイター通信によると、タリバンのメンバーが抗議デモに参加した女性らをムチで打つなど暴力をふるったという話も出てきた。 ●旧タリバン政権下で権利を制限されてきた女性たち 1996年から2001年まで続いた旧タリバン政権下では、女性の権利は大きく制限されていた。例えば… ・頭の先からつま先まで全身を覆うブルカの着用義務 ・学校教育、就労の禁止 ・外出は男性親族の同伴が必要 などの制約があった。それが2001年、アメリカ同時多発テロをきっかけに、アメリカがアフガンを攻撃。旧タリバン政権が崩壊したことで、女性たちはそれまでの抑圧から解放された。女性YouTuberたちが登場し、日常生活の様子を動画で配信。おしゃれをして街を歩き、その様子を積極的に発信するなど、タリバン政権下とは打って変わって女性たちが輝いているように見えた。しかし、今回タリバンの支配が復活したことで、せっかく手に入れた自由がまた制限されてしまうのではないかという不安が女性たちの間で広がっている。 ●男女で仕切られた教室 タリバンは、「女性の権利を尊重する」として、12日には女子学生への教育を認めると発表したが、学校では男女の間に仕切りを置いたり、女性は頭髪を覆うスカーフの着用が義務づけられるなどさまざまな条件が課されている。タリバンの復権以降、女性たちはどんな思いで過ごしているのか、アフガン女性2人に話を聞いた。以前NGOで働いていて現在はパキスタンに避難している30代の女性――「タリバンから女性は働くことができないと言われ、新しい方針が決まるまでは家にいるよう言われた」「以前は、人と集まることも仕事もピクニックなども自由にできていたのに、今はそのすべてが奪われた」。日本に留学経験があり、現地の国際機関に勤めていた20代の女性――「出勤しても、オフィスは閉鎖され、タリバンの戦闘員に追い返され、いまだ出社できない状態」「外国人と仕事をしていたことが分かると危害を加えられる恐れがあることから、自宅の書類をすべて燃やした」「銀行にお金をおろしに行ったときには銃で武装したタリバン兵がいて、彼らの意に沿わない行動をしたら死につながってしまうだろう」と不安の中で生活している。20年ぶりに復権したタリバンは国際社会の目を意識して、表向きは女性の権利を保障すると主張している。しかし、女性たちの話や今実際に起きていることを見ていると、女性の権利がどこまで守られるのかは不透明で、今後、国際社会が注視していく必要がある。 *6-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210917&ng=DGKKZO75832810W1A910C2FF1000 (日経新聞 2021.9.17) タリバン、「一帯一路」意欲 パキスタンと道路接続も 鉱山開発、進展に期待 アフガニスタンを制圧したイスラム主義組織タリバンが大規模インフラ整備事業「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)」への参加に意欲を見せ始めた。中国主導の広域経済圏構想「一帯一路」の関連で、アフガンの鉱山開発で利点がある。だが、アフガン情勢はなお安定せず、専門家は「中国はアフガンの加入に慎重だ」と指摘する。タリバンの報道担当は16日までに、CPECに加わりたいと述べた。中国とパキスタンを鉄道や道路で結び、同国南西部のグワダルの港を軸に発電所なども整備する計画で500億ドル(約5兆5000億円)前後の投資が見込まれる。鉄道や道路をアフガンに延伸すれば、同国で見込まれる非鉄金属やレアアース(希土類)などの開発を促せるとタリバンは期待しているようだ。アフガンは内陸国だが、パキスタンの港を使えば鉱物の輸出先を広げられる。中国は経済成長に欠かせない資源を大量に確保できる。タリバンを支えてきたパキスタンはアフガンへの影響力を強め、対立するインドをけん制できる。13日にはタリバンのメンバーがカブール近郊のアイナック鉱山を視察した。ロイター通信が報じた。中国企業は2008年、世界有数の銅鉱床があるこの鉱山の開発権を30億ドルで獲得したが、アフガン情勢が不安定だとの理由で、実質的な工事に着手していない。アフガンには未開発の鉱物資源が大量に埋蔵されているといわれる。中国は18年からタリバンにインフラでの協力を持ちかけてきたとされる。タリバンに近い関係者は「口頭では合意した。(タリバンの)暫定政権が国際社会に承認されれば、中国はアフガンで整備を進めるはずだ」と明かした。8日に開かれたアフガン周辺国の外相会議で中国は、アフガン側に穀物、防寒具、医薬品など3100万ドルの緊急支援を約束した。タリバンの報道担当は9月上旬の記者会見で「中国とよい関係を築きたい」と主張した。その前に中国の呉江浩外務次官補はタリバン幹部と電話で協議した。呉氏は「アフガンへの友好政策を励行する」という構えだった。だが、情勢に詳しいチェコの大学の専門家は「中国は焦らない。アフガンへの関与を深めるかどうか慎重に判断するだろう」と指摘する。パキスタンの内相は先週の記者会見で同国とアフガンの発展は相互に影響すると述べ、アフガンのCPEC参加を歓迎する姿勢をみせたが、この専門家は「パキスタンはテロの脅威にさらされており、CPECを広げれば同国のリスクも高まる」と説明した。 *6-5:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15053909.html (朝日新聞 2021年9月24日) 女性の権利尊重、G20要求 経済制裁、米中に相違 対タリバン イスラム主義勢力タリバンが政権を掌握したアフガニスタン情勢を協議する主要20カ国・地域(G20)外相会議が22日、オンラインで開かれた。米国務省によると、女性の権利尊重をタリバンに求めることで一致した。一方、タリバンへの経済制裁については、維持を訴える米国と解除を求める中国の姿勢の違いが浮き彫りとなった。米国務省によると、ブリンケン国務長官は外相会議で「制裁がアフガン市民に与える影響を抑えつつ、タリバンに対する制裁は維持する」との意向を示した。米政府は主要7カ国(G7)メンバーと足並みをそろえ、タリバンに対して人権尊重やテロ対策、少数派を含む包括的な政権づくりなどを求めている。タリバンは「人権を守る」などと表明しているものの、実際に行動で示すまでは制裁を維持したい考えだ。一方、中国外務省によると、中国の王毅(ワンイー)国務委員兼外相は「制裁を政治圧力のカードとすべきではない」と訴えた。米国や北大西洋条約機構(NATO)の拙速な撤退が混乱を招いたと非難し、人道支援や難民問題に取り組むよう求めた。中国はタリバンとの意思疎通を続けて包括的な政権づくりを促す方針。ロシアなどと協調して情勢の安定化をはかる姿勢を示している。日本外務省によると、茂木敏充外相は「タリバンに対し、多様な民族や宗派を含む包摂的な政治プロセスや、女性らの権利尊重を統一したメッセージで求めていくべきだ」と訴えた。 <無駄遣い・高齢者いじめ・消費税増税は何故起こるのか?> PS(2021年9月20日、10月2日追加):日本記者クラブ主催の公開討論会で、*7-1のように、自民党総裁に立候補した4氏が論戦し、河野氏はエネルギー政策のやりとりで「①私の脱原発は耐用年数が来たものは速やかに廃炉にして、緩やかに原子力から離脱していくことだけ」「②野田さんは将来も原子力に頼った方がいいと思っているのか」「③再エネを増やせなかったのは原発に重きを置こうという力が働いていたから」「④原発のコストが見直されて再エネの方が安いことが明確になった」「⑤核のごみの現実的な処分方法をどうするのかを議論をした方がいい」と言われた。私は、①②③④については、耐用年数が来ていなくても廃炉にすべきものやできるものはできるだけ早く廃炉にすべきだと思う。その代替は再エネ以外になく、日本の場合は再エネ化を進めることによって国や地方自治体に税外収入が入るため、呪縛のように言われている消費税増税を行わず、消費税を廃止することすらできる。また、最悪の事態に備えるのなら、⑤の核のごみも早急に処分すべきだ。 上の⑤を受けてか、*7-2のように、経産省が「⑥廃炉が相次ぎ、低レベル廃棄物の『蒸気発生器』と『給水加熱器』の処分を有用資源として安全に再利用されるなど一定基準を満たす場合に限り例外的輸出を可能にすることを新エネルギー基本計画改定案に盛り込んだ」「⑦電力会社から海外業者への支払いでコストが膨らむ可能性もある」そうだ。しかし、⑥について、私は、国内処分の原則は不要だと思うが、除染する人に被曝の可能性があり、除染の程度も疑問であるため、「放射性廃棄物を有用資源として安全に再利用する」とするのはよほどの放射能好きだ。また、⑦は、これ以上の負担を電力使用者にかけないためにも、安価に処分してくれるのでなければ、密閉した容器に入れて排他的経済水域内の3,000m以上深くて流れのない窪地に沈めるのが最も安価だと思う。しかし、その分量にも限界があるので、これ以上核廃棄物を増やさないことが最も重要だ。 また、*7-3のように、「⑧新型コロナ対策として人流抑制を考え」「⑨個人への給付金を検討し」「⑩緊急事態宣言より強制力の強いロックダウンに向けた法整備をする」と言った人もいたが、⑧⑩は感染症が蔓延しやすく、ワクチンや治療薬を作れない国のすることで、(もう長くは書かないが)日本はこれとは異なる。そして、今回の蔓延と個人の経済破綻は政治による人災であり、経済を止められて破綻した生産年齢人口の人が30万円の給付金をもらっても焼石に水だが、数が多ければ国民負担は大きい。つまり、生産年齢人口の人に補助しなければならないような政策を作ること自体が誤りなのである。 なお、*7-1では、「⑥全額消費税で支える基礎年金への制度変更」の話も出ていたが、これまで年金保険料を支払っていた人への基礎年金の支払いを停止するのは契約違反だ。そのため、最低保証年金を作るのなら、これまでの1~3階はそのままにして、最低生活に満たない人に保障する0階を設けるべきであり、その原資が消費税でなければならない理由もない。例えば、生産年齢人口にあたる人に景気対策として補助する政策をなくし、原発は早期にやめて再エネに変え、国内にある資源を有効に使って国や地方自治体が税外収入を獲得すればよいのである。 その1例は、*7-4のように、排他的経済水域内にコバルトリッチクラストが広く分布しており、コバルト・ニッケル・白金などのレアメタルやレアアース等を含む海底金属資源があるため、(国立公園内の地熱とともに海も国有なので)採取すれば国が税外収入を得られるのだ。 *7-5には、⑪バイク・自動車・航空機等を作ってきたホンダが宇宙事業に参入を表明 ⑫小型の人工衛星を載せるロケットを開発し、2020年代に打ち上げる目標 ⑬月面での作業ロボットも検討 ⑭火星探査の中継地と想定される月面での居住空間作りにも参画 ⑮地球から月面での作業ができる遠隔操作の分身ロボットにも取り組む ⑯地球と月の間の通信には遅延が生じるので、アシモの技術などを活用してスムーズに動かす機能を採用 などが記載されている。他の惑星における住居や作業ロボットは面白く、⑪~⑯は、既に必要な技術を持つ企業が多いので、それらとベンチャー企業を作れば比較的容易にできると思う。しかし、下の図のような海底金属資源を採取する海底作業にも、深海の圧力に耐える強靭な海底作業ロボットと運搬手段が必要で通信の遅延は生じないため、可能な会社は造船会社とベンチャー企業を作って、必要な機械を作ったらどうかと思う。そして、この装置の需要も国内だけではないだろう。 *7-4より (図の説明:左図は*7-4の図1、中央は図5、右図は図6で、日本の南東約1,800km沖にある巨大平頂海山の南斜面に、多量のコバルトリッチクラストが存在することがわかった) *7-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/803028/ (西日本新聞 2021/9/19) 「狙い撃ち」された河野氏のカウンター「原発に頼った方がいいんでしょうか」 「ポスト菅」を決める自民党総裁選(29日投開票)は18日、日本記者クラブ主催の公開討論会で立候補4氏による論戦が本格化。主役を張ったのは、報道各社の世論調査などで「次の首相にふさわしい人」の首位を走る河野太郎行政改革担当相だった。脱原発をはじめ数々のとがった改革志向の持論に対し、他の3氏が質問を集中。河野氏は「守り」の回答を崩さず、時には逆質問して「攻め」に転じる柔軟さも見せた。 ●改革志向の持論に定められた照準 相手を指名して見解をただせる討論会第1部の見せ場は、エネルギー政策のやりとりだった。自民内では少数派である河野氏の脱原発に照準を定め、野田聖子幹事長代行が「総理になったら、速やかに過去の発言を実行してしまうのか」と切り込んだ。河野氏は表情を動かさず、「私が言っている脱原発は、耐用年数が来たものは速やかに廃炉になる。緩やかに原子力から離脱していくことになる、というだけだ」。返す刀で、「野田さんは将来も、原子力に頼っていった方がいいと思っているんでしょうか」と切り返した。手元に準備した資料にはほぼ目を落とさない。「再生可能エネルギーを増やすことができなかったのは、原子力発電に重きを置こうという力が働いていたからだ」「原子力発電のコストが見直されて、再生可能エネルギーの方が安いということが明確になった」。こう畳み掛けた河野氏は、「原子力産業は、あまり先が見通せない」と言い切ってみせた。第2部で、原発の「核のごみ」を埋める最終処分場の場所が決まっていない問題を問われた際は、「もう、現実的な処分方法をどうするのかをテーブルに載せて議論をした方がいい」と一歩踏み込んだ。今回の総裁選。河野氏は支持の裾野を広げたいがためか原発再稼働の容認を明言し、脱原発の姿勢は玉虫色となった。だが、使用済み核燃料を再利用する「核燃料サイクル」の見直しは掲げ続けており、自民政権の伝統的な原子力政策路線との違いが際立っている。岸田文雄前政調会長は、そのアキレス腱(けん)を突き「(核燃料サイクルの停止は)原発再稼働と両立できるのか」「核燃料サイクルを止めればプルトニウムが積み上がり、外交問題にも発展しかねない」と整合性に疑問を投げ掛けた。 ●「一対一」の討論、最多の5回指名 河野氏の持論の一つである「税金で支える方式への公的年金制度改革」もまた、俎上(そじょう)に載せられた。 高市早苗前総務相は「基礎年金を税金で、となるとかなりの増税になる。年金制度の仕組みそのものに、大きなひずみが出てしまう」、岸田氏も「(消費税は)何%上がるのか」などと追及。これに対し、河野氏は「どれぐらいの年金を、どういう人を対象に支払うかによって税金の必要な額が違ってくる」と慎重な言い回しで言質を取らせない一方、「高齢者でも所得1億円の方に最低保障年金を出す必要はない」とアピールも忘れなかった。この日、候補者同士の「一対一」のやりとりは計12回あり、うち最多の5回で河野氏が質問相手に指名された。力をそいでおくべき標的に位置付けられたことは、自民の同僚議員間における人気は別として、国民的な知名度では頭一つ抜けている現実を裏付けた。 *7-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15048847.html (朝日新聞 2021年9月20日) 放射性廃棄物、海外委託も 国内処分の方針、転換 低レベルの原発主要機器 経産省 原発の放射性廃棄物は国内ですべて処分するという原則に関わる規制が、変わろうとしている。廃炉が相次ぐなか、低レベル廃棄物である一部の大型機器について、処分を海外業者に委託できるように輸出規制を緩和する。新たなエネルギー基本計画の改定案に方針が盛り込まれた。経済産業省が見直し案を検討するが、実施に向けては不透明な部分もある。海外での処分を検討しているのは「蒸気発生器」と「給水加熱器」、「核燃料の輸送・貯蔵用キャスク」の3種類の大型機器だ。いずれも原発の重要機器で、主なものだと長さは5~20メートル前後、重さは100~300トン前後もある。使用済み核燃料から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)ほど放射能レベルは高くはないが、低レベルの廃棄物として埋設処分などが必要だ。エネルギー基本計画の改定案に「有用資源として安全に再利用されるなどの一定の基準を満たす場合に限り例外的に輸出することが可能となるよう、必要な輸出規制の見直しを進める」と明記された。改定案には、今月3日から10月4日まで意見を公募している。国内ではこれまで原発24基の廃炉が決まり、2020年代半ば以降に原子炉の解体などが本格化する。国内に専用の処理施設がなく、発電所の敷地内で保管したままだと作業スペースが圧迫され、廃炉の妨げになると経産省は説明する。米国やスウェーデンでは放射性廃棄物を国外から受け入れ、除染や溶融をしたうえで、金属素材などとして再利用するビジネスが確立しているという。国際条約では、放射性廃棄物は発生国での処分が原則だ。相手国の同意があれば例外的に輸出できるが、日本は外国為替及び外国貿易法(外為法)の通達で禁じている。経産省は大手電力会社の要望などをもとに、専門家らを交えて検討してきた。国内処分を基本としつつ、対象を3種類の大型機器に絞り、再利用されることなどを条件に例外的に輸出を認める方向だ。法改正をしなくても通達の見直しなどで対応できるという。原発敷地内で保管している大型機器も対象になるとしており、稼働中の原発の廃棄物が輸出される可能性もある。電力会社から海外業者への支払額ははっきりしておらず、コストがふくらむ恐れもある。安全な輸送方法など課題は多い。規制が緩和されても、実施まで時間がかかりそうだ。低レベルの廃棄物は電力会社が責任を持って処分することになっている。原発の稼働や廃炉にともなって増えているが、処分先が決まらないことが大きな問題だ。たまり続ける廃棄物への地元住民らの不安感もあり、海外での処分に期待する見方もある。ただ、国内処分の原則を揺るがしかねないだけに、国や電力会社には十分な説明が求められる。 *7-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210920&ng=DGKKZO75906870Z10C21A9NN1000 (日経新聞 2021.9.20) 個人に給付金検討 一律の現金支給は否定 自民党総裁選の各候補は新型コロナウイルスの感染が再び拡大局面に入った場合の対策として、人流抑制を引き続き視野に入れる。個人への給付金を検討する考えを示し、一律の現金支給は否定する。規模や範囲、時期などが焦点になる。河野太郎規制改革相は19日のNHK番組で「次の緊急事態宣言に備えて給付金を一律ではなく、必要性や規模に応じて出せるようにする」と述べた。岸田文雄氏はかねて「非正規労働者や女性、困っている方々には直接給付金を用意しないといけない」と言明する。高市早苗氏は「本当にお困りの低所得者に手厚くする」と語る。野田聖子幹事長代行はクーポンでの配布を主張する。2020年4月に決めた経済対策で1人あたり一律10万円が特別定額給付金として支給された。所得が一定水準を下回った世帯に30万円を配る内容だったのを公平性や支給スピードを重視して転換した経緯がある。河野、高市両氏は緊急事態宣言よりも飲食店の営業制限などへの強制力が強い「ロックダウン(都市封鎖)」に向けた法整備の必要性に言及している。経済的な影響もより大きくなり、個人へのさらなる生活支援の議論が必要になる。 *7-4:http://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20160209_2/ (国立研究開発法人海洋研究開発機構、国立大学法人高知大学 2016年2月9日)5,500mを超える大水深に広がるコバルトリッチクラストを確認~コバルトリッチクラストの成因解明に大きな前進~ 1.概要 国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という)は、国立大学法人高知大学(学長 脇口 宏、以下「高知大学」)と共同で、戦略的イノベーション創造プログラム(※1以下「SIP」)の課題「次世代海洋資源調査技術(海のジパング計画)」における「海洋資源の成因に関する科学的研究」(研究代表者:鈴木 勝彦、JAMSTEC次世代海洋資源調査技術研究開発プロジェクトチーム成因研究ユニットリーダー)の一環として、日本の南東約1,800km沖に存在する巨大平頂海山 拓洋第5海山(図1左図)の南斜面において、無人探査機「かいこうMk-IV」(図2)を用いたコバルトリッチクラストの調査を実施しました(※2)。コバルトリッチクラストは、コバルト、ニッケル、白金などのレアメタルやレアアースの資源として期待されている海底の岩石です。今回の調査により、世界で初めて5,500mを超える大水深の海山の斜面においてコバルトリッチクラストの存在を確認し、研究用試料の採取に成功しました。今後、採取したコバルトリッチクラスト試料を詳細に分析・解析することによって、日本周辺におけるコバルトリッチクラストの成因解明に関する研究を進め、海洋資源調査技術の開発につなげていく予定です。 2.研究の背景・目的 形成後時間が経過した古い海山の斜面には、海山を形成する玄武岩や水深の浅い石灰岩等の基盤岩を覆うように鉄・マンガン酸化物を主体とした数mmから10cmあまりの厚さのコバルトリッチクラストが広く分布しており、コバルト、ニッケル、白金などのレアメタルやレアアース等を含む海底金属資源として注目されています(※3)。SIP「次世代海洋資源調査技術(海のジパング計画)」の「海洋資源の成因に関する科学的研究」課題においても、コバルトリッチクラストが対象となっており、科学的な研究を基にその調査技術の研究開発を進めています。過去にもJAMSTECの船舶・無人探査機を用いた拓洋第5海山の調査が行われており、水深3,000mより浅い海域において、系統的、かつ、連続的なコバルトリッチクラストのサンプリングや厚み計測などの調査が行われてきました。平成21年に海洋調査船「なつしま」航海(NT09-02 leg2、首席研究者:浦辺 徹郎、国立大学法人東京大学教授(当時))において、無人探査機「ハイパードルフィン」を用いて最初のコバルトリッチクラストの現場産状観察と系統的な試料採取が水深1,200mから3,000mまでの連続的な水深で実施されました(図1右図青線)。平成27年には、深海調査研究船「かいれい」航海(KR15-E01、首席研究者:飯島 耕一、JAMSTEC海底資源研究開発センター調査研究推進グループ技術主任)において「かいこうMk-IV」が拓洋第5海山の南方尾根にて潜航し、水深3,491mから3,360mの調査によってコバルトリッチクラストの産状観察と試料採取を行いました(図1右図青点)。JAMSTECにおけるこれまでのコバルトリッチクラストの研究で、採取された試料などから、同位体を用いた年代測定によって、コバルトリッチクラストの成長速度が数mm/百万年であることを明らかにするとともに(Usui et al., 2007; Goto et al., 2014)、モリブデン,タングステン、テルルなどのレアメタルがコバルトリッチクラストに濃集するメカニズムを解明し(Kashiwabara et al., 2011; 2013; 2014)、さらにコバルトリッチクラストの遺伝子解析(Nitahara et al., 2011)などを行って、多様な微生物が生息していることを明らかにしてきました。本調査では、コバルトリッチクラストの成因研究をさらに進めるため、無人探査機「かいこうMk-IV」を用いて、これまでの調査で成し得なかった拓洋第5海山の5,500m以深のコバルトリッチクラストの産状観察や試料採取を行って、拓洋第5海山のような巨大海山の大水深部にコバルトリッチクラストが広がっているかどうかを明らかにすることを計画しました。さらに、コバルトリッチクラストの現場環境と生成メカニズムの理解に向けて、電磁流速計、微生物現場培養・化学吸着実験装置の設置を計画しました。 3.成果 本調査では、無人探査機「かいこうMk-IV」を用いて、世界で初めて拓洋第5海山南方尾根の水深5,500mに広がるコバルトリッチクラストの現場観察に成功し、研究用のコバルトリッチクラスト試料を採取しました。これまでは、詳細なコバルトリッチクラストの調査のために、拓洋第5海山にて水深3,500mまでの現場観察と試料採取が連続的に行われていましたが、そこから2,000mも水深方向に延伸するものです。さらに、水深1,150m、3,000m、5,500mという異なる3つの水深での電磁流速計の設置、現場培養・化学吸着装置を設置しました。これによって、コバルトリッチクラストが形成される環境での有用なメタルを効率的に集めるメカニズムを観察し、さらには、コバルトリッチクラストの成長や有用メタル濃集に関わる微生物の観察が可能になり、コバルトリッチクラストの成因研究に大きな前進が期待されます。今回の調査で、南方尾根水深4,500m付近にコバルトリッチクラストが広がっていることを確認し(図3)、約2cmから約7cmの厚みのコバルトリッチクラストを採取しました(図4)。さらに南方へ進んだ5,500m付近では、崩れた崖が続く海底の所々に板状のクラストや庇状のクラストがあることを確認し(図5)、マニピュレータを使って幅30~40cm、厚さ約3cm~約8cmの板状の多数のクラスト試料を採取しました(図6)。これまで、大水深のコバルトリッチクラストのほとんどが船上からドレッジ(ケーブルで降ろしたバケツ状の採取器具を底引き網のように引っ張ること)によって試料が採取されているために、その試料は転石と呼ばれる現地性を確証できない試料でした。また、有人潜水調査船による火山岩の調査で同時にコバルトリッチクラストが採取された例はありますが、コバルトリッチクラストの調査を目的としていないため、散点的に発見されたものでその広がりは明確ではなく、試料採取も系統的なものではありませんでした。さらに、無人探査機を用いたコバルトリッチクラストの現場観察を系統的に行ったのは、拓洋第5海山の一連の調査のみで、水深も3,500mが最深でした。今回の調査により、拓洋第5海山の深さが5,500mを超える斜面にコバルトリッチクラストの広がりが確認され、さらに試料採取も行えたことから、コバルトリッチクラストの形成メカニズムを解明するための微生物学的・地球化学的機能の分析が行えるようになります。 4.今後の展望 採取したコバルトリッチクラスト試料の化学組成、同位体組成を分析し、水深によるレアメタル濃度(品位)の違いを調べます。そのデータと、海水の溶存酸素濃度や海水の元素組成とを比べることで、コバルトリッチクラストのレアメタル濃度を決めている要素を明らかにすることが期待されます。また、微生物の解析を行うことによって、コバルトリッチクラストに存在する微生物の種類等を把握します。現場培養装置と化学吸着装置は、いわゆる天然での実験装置であり、次年度に予定されている調査航海にて回収を行い、その分析・解析を行うことによって、深海におけるコバルトリッチクラストと海水との相互作用を把握し、コバルトリッチクラストに元素が濃集するメカニズムの全容を把握するとともに、微生物とコバルトリッチクラストの形成開始,成長との関わりを明らかにできることが期待されます。我々は拓洋第5海山をコバルトリッチクラストの成因研究を行うためのモデル地域と位置づけており、これまでの研究の蓄積と今回の成果、および、今後得られるデータにより、コバルトリッチクラストの成因の解明に迫ります。これを基にSIP「次世代海洋資源調査技術(海のジパング計画)」における「海洋資源の成因に関する科学的研究」の目的である高品位のコバルトリッチクラストの存在地域の予測と、調査手法の開発につなげます。これらの成果は、コバルトリッチクラストの鉱量評価にも貢献します。 ※1 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) 総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)が自らの司令塔機能を発揮して、府省の枠や旧来の分野の枠を超えたマネジメントに主導的な役割を果たすことを通じて、科学技術イノベーションを実現するために平成26年度より5カ年の計画で新たに創設したプログラム。CSTIにより選定された11課題のうち、「次世代海洋資源調査技術(海のジパング計画)」(プログラムディレクター 浦辺 徹郎、東京大学名誉教授、国際資源開発研修センター顧問)はJAMSTECが管理法人を務めており、海洋資源の成因に関する科学的研究、海洋資源調査技術の開発、生態系の実態調査と長期監視技術の開発を実施し、民間企業へ技術移転する計画となっている。 ※2 深海調査研究船「かいれい」KR16-01 leg1航海(首席研究者:飯島 耕一、JAMSTEC海底資源研究開発センター調査研究推進グループ技術主任、調査期間:平成28年1月9日~1月30日) ※3 コバルトリッチクラストの経済価値 一般社団法人日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)の見積もりでは、日本周辺のコバルトリッチクラストの経済価値は、回収率45%を仮定し、約100兆円とされている。現時点で商業的に採掘されている例は無く、深海から環境への影響を適切に評価しながら採鉱する技術を確立する必要がある。環境影響評価についてはSIP「次世代海洋資源調査技術(海のジパング計画)」の「海洋生態系観測と変動予測手法の開発」課題(研究代表者:山本啓之、JAMSTEC次世代海洋資源調査技術研究開発プロジェクトチーム生態系観測手法開発ユニットリーダー)において評価手法の国際標準確立を目指している。 *7-5:https://news.yahoo.co.jp/articles/314d36df22c554dc5246e96dffdbef0248786750 (Yahoo 2021/9/30) ホンダ、宇宙事業に参入 2020年代にロケットの打ち上げ目指す ホンダは30日、宇宙事業への参入を表明した。小型の人工衛星を載せるロケットを開発し、2020年代のうちに打ち上げることをめざす。国内の大手自動車メーカーが、打ち上げロケットを本格的に手がけるのは初めてという。月面で作業できるロボットなども、検討していく。ホンダはバイクや自動車、航空機など様々なものをつくってきた。宇宙事業は利益を出しにくいが、新領域に挑戦し、将来の成長の芽を育てたい考えだ。小形の人工衛星は、通信や地球観測などでの利用拡大が見込まれる。まずは高度100キロ程度の地球を周回しない「準軌道」に打ち上げ、距離を伸ばしていく方針だ。若手技術者を中心に19年末から開発をスタートした。エンジン開発で培った燃焼技術を応用する。火星探査の中継地として想定されている月面での居住空間づくりにも参画する。宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同で、生活に必要な水や酸素のシステム開発を進める。 ■月面開発に意欲 分身ロボットの実用化も 遠隔操作の「アバター(分身)ロボット」の実用化にも取り組む。月面開発が進む30年代以降に、地球にいながら月面での作業ができるようにする。アバターロボットは、VR(仮想現実)ゴーグルや手の動きを伝えるグローブをつけて操作する。開発中のものでは、コインをつまんだり、缶のプルタブをつかんだりできるようになったという。地球と月の間の通信は遅延が生じるため、人工知能(AI)を使って視線や手の動きなどから操作者の行動を予測し、スムーズに動かす機能を取り入れる。二足歩行ロボット「アシモ」の技術なども活用する。NTTデータ経営研究所によると、40年の世界の宇宙産業の市場は約120兆円で、20年の約40兆円から3倍になる見込みだ。小型衛星からのデータを、災害の予測や農業支援などへ活用することが期待される。民間の宇宙開発は広がっている。電気自動車メーカー、テスラを率いるイーロン・マスク氏の「スペースX」などが、大型ロケットを打ち上げている。国内では三菱重工業が大型の「H2A」を運用している。小型ロケットはコストが下がったこともあり、複数のベンチャー企業が事業化をねらう。ホンダは宇宙事業を大きく育てたい考えだが、競争は激しく開発費もかさむため、利益を出すのは簡単ではない。また、宇宙事業と並ぶ新領域として、4人乗りの垂直離着陸機「eVTOL(イーブイトール)」も開発する。試作機の実験を23年に北米で始め、30年以降の実用化をめざす。
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2021,06,12, Saturday
2021.3.31Huffintonpost 2021.5.10日経新聞 2021.5.31東京新聞 (図の説明:左図のように、2021年のジェンダーギャップ指数は156ヶ国中120位で、政治・経済は3桁代、教育は辛うじて2桁代、医療も65位と新興国以下だった。また、中央の図のように、日本は、女性の就業率が上がってM字カーブの底は浅くなったが、出産・育児後は労働法で護られない非正規労働者の割合が高くなるため、正規雇用率はL字カーブだ。そして、非正規労働者は専門職の公務員女性にも多いとのことである) (1)女性差別による人権侵害 差別によって不平等な条件を突きつけたり、人生の可能性を狭めさせたりすることは、そもそも人権侵害である。 1)ジェンダーギャップ指数が156か国中120位の理由と日本の現状 世界経済フォーラムの「ジェンダーギャップ指数」の発表によれば、*1-1-1のように、日本は156か国中120位でG7では最下位、アジアの主要国よりも下位で、順位を下げる要因となったのは、経済分野117位、政治分野147位と経済・政治分野の順位の低さだそうだ。 経済分野は、男女間の賃金格差、管理職の男女差、専門職・技術職の男女比が、いずれも100位以下で、中でも管理職の男女差は139位と前年の131位から順位を下げた。日本政府は女性活躍促進を政策に掲げていたのだが、政治分野は世界のワースト10に入り、政治分野のジェンダー不平等は、多様な視点を欠いた政策に繋がっている。 私も、政治分野のジェンダー平等は、個人を尊重し、多様性の確保された社会を実現し、民主主義を発展させ、あらゆる分野で女性の地位を向上させるための必須条件だと思う。しかし、今なお日本社会に厳然と存在する女性に対する偏見・差別・不平等な取扱いによって起こる男性より高いハードルによって、男性より実力がある人でも選挙で公認されにくかったり、公認されて立候補しても当選しにくかったりすることは多いため、その不利を帳消しにするためクオータ制を法制化することは「逆差別」にはならないと考える。 このような中、*1-1-2のように、政治分野の女性参画拡大を目指すためとして男女共同参画推進法が改正され、女性議員の増加のため女性の立候補を妨げる要因であるセクハラ・マタハラ防止策を国や地方自治体に求める条文が新設されたそうだ。2018年に制定された男女共同参画推進法は、地方選挙や国政選挙の候補者数を「できる限り男女均等」にするよう各政党に促したが、努力義務だったため既得権のある男性候補者に阻まれて進まなかった。これにセクハラ、マタハラ防止の規定を入れたら政治分野の女性参画が進むかと言えば、もともとセクハラ・マタハラくらいは跳ね除けられる人しか議員になろうとは思わないため、影響は小さそうだ。 2)女性に多い非正規雇用 *1-1-3・*1-1-4のとおり、女性活躍の機運の高まりを背景に「M字カーブ」は解消が進んだが、子育て後に再就職するには非正規雇用が主な受け皿で、女性の正規雇用率は20代後半をピークに右肩下がりで減っていく「L字カーブ」が新たな課題として浮上している。 そして、内閣府の有識者懇談会が「①正社員に加えて短時間勤務の限定正社員等の選択肢を拡大し、出産後の継続就業率を高める必要がある」と指摘しているように、「②正規雇用以外の働き方が『仕事と育児を両立できる働き方』であり、本人の希望だ」と説明されることが多い。 しかし、「③都内の公立学校の図書館で司書として働く女性も非正規」「④自治体の非正規公務員の大半は女性」「⑤1年毎の採用で気持ちを安定させて働けない」「⑥全国の自治体で働く非正規公務員は約69.4万人で、9割を会計年度任用職員が占め、その3/4以上が女性」「⑦専門性があっても給与は手取りで月約16万円」「⑧契約更新で理由も分からず職場を去らざるを得なかった人もいた」「⑧声をあげにくい人が多く、問題が覆い隠されている」等の現状がある。 非正規雇用労働者が増えたのは、1997 年に男女雇用機会均等法が改正され、1999 年に施行された後であり、「女子差別撤廃条約(黒船)」批准のために国内法を整備するために1985 年に成立した旧均等法が「パート・女性のみ」「一般職・女性のみ」というようなコース別の募集・採用することを均等法違反ではないとしていたのを、改正法は違反としたからである。 つまり、旧均等法ではパートや一般職として女性のみを募集することが許されており、1997 年改正でそれをできなくしたため、「非正規雇用」という労働法で護られない労働者を作って年改正法をザル法化したのだ。そのため、もともと「非正規雇用」は女性に照準を当てており、このように、日本は女性差別を禁止する度にザル法化してきた経緯があるのだ。 なお、1997 年の主な改正点は、「募集・採用・配置・昇進等の雇用におけるすべての場面で直接差別を禁止」「積極的な差別是正措置に対する国の援助を規定」「セクシャルハラスメント防止のための事業主の配慮義務を規定」「均等法違反企業の企業名公表など一定の制裁措置を講じた」などであり、それまではこれらが堂々と行われていたのだ(https://core.ac.uk/download/pdf/229188692.pdf 参照)。 3)女性の自立を応援しなかった日本社会 *1-1-5のように、日本国憲法は「個人の尊重と幸福追求権を定める13条」「法の下の平等に基づき性差別を禁じる14条」「両性の本質的平等を保障する24条」を持っているが、それに反して、正規労働者を護るために、解雇しても支障の出ない労働契約になっている非正規労働者を容易に解雇する。そして、非正規労働者に女性をあてていることが多いため、日本は働く女性を応援せず犠牲にしている社会なのである。 つまり、「非正規労働」は合法的に差別される労働契約であるため、決して自ら好んで選ぶべきではないが、日本政府は出産後の継続就業率を高められる選択肢として推奨しているのだ。 なお、私自身は、差別される側の労働力になるつもりはなかったため、キャリアを積み男性と同じく働いた上で言うべきことは言い、「仕事は自分で選ぶ」「それができるためのキャリアを積む」「空気は読むのではなく作る」ということをやっているのだが、それについて「女のくせに生意気だ(←女性蔑視)」「性格が悪い(←女性差別)」「変わっている(←女性差別)」「夫婦仲は悪いに違いない(←憶測にすぎず、大きなお世話)」等と言われることがあり、要するに「活躍する女性が幸福な姿は見たくない」と思う差別意識の強い人がいるのだ。 4)女性差別によって享受させられた女性の不利益 東京都立高校の普通科一般入試は、*1-2-1のように、募集定員を男女に分けて設定しているため性別によって合格ラインが異なり、対象校の約8割で女子の合格ラインが最終的に高かったそうだ。都立高は全国の都道府県立高校で唯一男女別定員があるためこのようなことが起こるが、埼玉県の場合は男女別定員ではなく受験できる公立高校自体が男女で異なるため、どちらも憲法違反であり、ひどい。 また、合否を中学校が提出する内申点と筆記試験の合計で決めるのも、中学教諭の偏見や先入観が内申点に出やすく、教諭の判断基準は教諭の時代の常識であったとしても(それも疑わしいが)、生徒たちが活躍する時代や場所の常識であるとは限らず、公平・中立にもなりにくいため、私は、内申点を(参考に留めるのではなく)筆記試験と合計することに反対である。 このように、意図的な選抜を繰り返していると、より優秀な人、より努力する人を合格者にすることができないため、時間が経つにつれて選抜の誤謬が結果として現れる。そして、それが、日本の現在の状況を作っているのではないかと思う。 しかし、*1-2-2のように、マイケル・サンデルのように「①成功は努力の結果ではない」「②入学を手助けした親や教師、そもそもの才能や素質があるので本人の功績とは言い切れない」と言ったり、上野千鶴子氏のように「③自分が頑張ったから報われたと思えること自体、環境のおかげだ」として、能力や努力に問題提起する人もいる。 女性に関しては、米国は日本より男女にかかわらず能力を基準として公正に評価する傾向が強いため、日本ほどの女性差別はない。それでもマイノリティーが上昇して成功するには、成功を助ける力より成功を妨げる力の方が大きく、成功にはかなりの努力を要するため、①②は当たらないと思う。さらに、日本は、女性は強い意志と努力がなければ成功できないほど女性が成功するのを妨げる力の大きな環境であるため、環境と才能だけで成功できた女性はいないだろう。 5)結果として変な政策が決まる イ)少子化自体を問題とする政策の誤り 主要国の人口推移と人口 地域別世界人口 人口ピラミッドの形状 (図の説明:左図は、主要国の人口推移と現在の人口で、日本は1960年代後半に1億人を超えたのであり、ドイツは今でも8千万人代であるため、経済成長率には人口以外の要素が大きく関わっていることを示している。中央の図は、地域別世界人口の推移で、中国・インドが属するアジア地域で人口増加率が大きく、世界人口に占める割合も大きい。右図は、人口ピラミッドの形状で多産多死型から少産少死型に替わる時に釣鐘型からツボ型となり、多産多死型の間はピラミッド型をしているのだ) *1-3-1のように、日本では、男性が育児休業をとりやすくする改正育児・介護休業法が成立し、①男性は子の誕生後8週間まで最大4週間の育児休業を取れる ②業務を理由に育休取得に二の足を踏む男性も多いので労使の合意があれば育休中もスポットで就労可 ③休業の申し出は2週間前までに短縮 などが加わったそうだ。しかし、私は、男性がちょっと育児を手伝うには至れり尽くせりだと思った。 何故なら、②の業務が理由で育休取得が困難であるのは女性も同じであるため、出産後に(1)2)の女性の「M字カーブ」ができるのであり、「M字カーブ」の底が浅くなったとしても出産後の女性の就職は非正規雇用が多いため、女性の正規雇用率は20代後半をピークに「L字カーブ」になっているのである。そのため、女性の多くに「『出産しなければ正規雇用として得られた筈の報酬+社会保障』-『出産したため非正規雇用として得られる報酬+社会保障』」という出産・育児による生涯所得の損失があり、非正規になるため労働法による保護もなくなる上、莫大な子育て費用がかかるのである。 このような中、第一生命経済研究所の試算では「③出生率の低下は将来の労働力の減少等を通じて中長期の経済成長力を押し下げる」「④2030年代後半に日本は潜在成長率が0.2%程度のマイナスになる」としているが、③④については、女性・高齢者を含めた労働力を100%利用しているわけではなく、日本の成長率が低いのは成長分野に投資しないからなので、少子化のせいでないことは明らかだ。 ニッセイ基礎研究所の調査では、「⑤持ちたい子どもの数が減った理由で多かったのは、子育てへの経済的な不安」だそうだが、実際には経済的不安・仕事の安定に関する不安・子育てに対する不安・自己実現に対する不安がある。そのため、3・4歳児の教育や大学生向けの奨学金拡充で子育てや教育に対する親の過重負担を軽減するのも大切だが、女性が出産・子育てをしても仕事や研究で自己実現でき、経済的不利益を被らない社会にしなければ出生率は上がらない。 また、*1-3-2も、「⑥新型コロナの影響で、2020年の合計特殊出生率が1.34で5年連続の低下」「⑦2005年の1.26を底に緩やかに上昇し、2015年に1.45となったが、その後は低下基調」「⑧女性の年代別では20代以下の低下が目立ち、30~34歳で最も高く、40歳以上の出生率も少し上がったが、全体として20代以下の落ち込みを補えなかった」「⑨2021年の出生数は80万人割れの可能性が高い」などと出産競争を促す書きぶりだが、文明の進歩によって女性も高学歴化し、出産・子育てによる自己実現の犠牲を嫌って、晩婚化や生涯未婚化したのが最も大きな理由だと思う。 さらに、*1-3-3は、「⑪出生数が最少の84万人になったため、急減の流れを止めたい」「⑫このままだと将来の働き手が減少し、社会保障の担い手不足がさらに深刻になる」「⑬雇用情勢悪化による解雇や給料カットで経済的余裕を失ったカップルが多いことも出生数減少に響いた」「⑭政府は結婚や出産を後押しする観点での新たな支援に乗り出すべきではないか」「⑮出生数最多は第1次ベビーブームの1949年の269万人超で、2019年に90万人を割り込んで第1次ブームの1/3に落ち込んだ」「⑯近代以降、乳児死亡率が下がって子どもを多く産む動機が薄れた」「⑰文明の発展に連れて『多産多死』から『少産少死』へ変化する大きな流れに抗えない」「⑰出生数急減を何とか乗り越えたい」等と記載している。 しかし、現在は⑬の状態なのであり、特に非正規労働者に皺寄せが行っているので、⑫は、まず男女とも正規労働者として100%近い本物の雇用を達成し、本当に人手不足になって初めて移民などの外国人労働者の活用も含めて考えればよいと思う。何故なら、⑭は支援の内容にも依るが、景気対策のバラマキや支援でやっと生活できる人ばかりになると国が潰れるからである。 また、⑮については、このように出生数が1/3に落ち込み、学校や職場は増えているにもかかわらず、第1次ベビーブーム世代と同じく教育や仕事で不利な状況を与えて女性を活躍させず、競争を著しく減らしたことが、日本の働き手の質を落としたのだ。 さらに、⑯⑰は、多く産んでも大人になるまで育つ子が少かった不幸な時代から、殆ど全員が大人になるまで育つため少し産めばよい時代になっても、一般の人がその変化を認識して出産数を減らすという生物的行動をとるまでに1~2世代かかることを意味している。そのため、増えすぎる人口を調整するための出生率低下を超える出生率低下は止めるべきだが、⑰のように、「とにかく出生数急減を乗り越えよう」と呼びかけると、地球が人口を支え切れなくなるのだ。 つまり、日本は、食料・エネルギーを100%以上自給し、これから人口爆発するアフリカ諸国にも輸出できるようにしながら、100%近い本物の雇用を達成し、それでも人手不足があればいろいろと考えるべきである。そのため、教育は、重度障害者でもないのに働くことのできない大人を作らないようにすべきだ。 ロ)遅すぎる対応←「骨太の方針」から 政府は、*1-3-4のように、経済財政諮問会議で今年の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」原案を公表し、グリーン(脱炭素)、デジタル、地方創生、子育て支援の4分野に予算を重点配分する方針を明記したそうだ。 このうち、2025年度に国・地方の基礎的財政収支の黒字化をめざすとする財政再建目標は、現在は国の財政が現金主義であるため、目標を守ったとしても公正ではなく問題解決もしない。そのため、財政改革の1丁目1番地は、国・地方の財政(年間収支と資産・負債)を複式簿記で把握して発生主義で物を考えられるようにすることで、これをやられると困る人がいるのか、一向に進まないのが現状だ。そして、財政再建と言えば高齢者に対する社会保障費が無駄だから抑えるというのは、今でも社会保障は不十分であるため、高齢者いじめの歪んだ政策である。 また、脱炭素化に向けて、基金や優遇税制で企業の投資を後押しし、炭素を出さないEV・FCVの普及を進め、「再エネの主力電源化に最優先して最大限の導入を促す」としたのはよいが、もともとトップランナーだった日本のEV・FCV・再エネを、環境を軽視して主要国が軌道に乗せ終わるまで応援せず、ここまで遅れさせたのはまずい政策だった。 さらに、デジタル化については、マイナンバーカードの健康保険証や運転免許証との一体化等でカードの普及を加速させる意図があるとのことだが、①個人情報を商業目的で売ることに違和感を感じない ②個人情報もビッグデータなら流通させてかまわないと考える ③民間委託を繰り返すことによってデータ保護に責任を持たない体制を作る など、国民の福利を主にして物を考えない姿勢であるため、マイナンバーカードに多くの情報を連結させるのは危険である。 なお、子育ての良いインフラとなるべき幼保一体化は進まず、2006年10 月1日に施行された認定こども園は、未だ幼稚園と保育所が温存されているため3制度併存となっている。そのため、「子ども庁」を作っても、せっかく省庁再編で減らした省庁をまた増やして予算を増加させ、幼稚園・保育所はそのままにして役所のポストを増やすだけになりそうなので、期待薄だ。 最低賃金の引き上げについては、地域によって異なる物価水準や人によって異なる生産性に見合わなければ、賃金引き上げは改悪になってしまうため、全国加重平均を1000円以上にする必要はないと思う。 最後に、コロナ対策で失敗したのは厚労省はじめ政府であり、その無思慮・無能力を補うため、日本の国民は強制力なしでも自粛したのだ。そのため、「④感染症有事の体制強化で、法的措置を速やかに検討」「⑤緊急時対応のより強力な体制と司令塔を持つ」などというのは本末転倒であり、能力も資格もない所に強力な権限を与えて国民の私権を制限できるようにすれば、基本的人権の尊重や主権在民(民主主義)から外れ、日本国憲法違反になる。 ハ)遅すぎた再エネと地熱発電開発 2021.6.10日経新聞より (図の説明:1番左の図のように、日本は火山帯の上にある国なので、地熱資源が多い。また、左から2番目の図のように、2015年で日本企業が作る地熱発電設備は世界シェアの6割をしめ、日本企業が関わる海外プロジェクトも、右から2番目の図のように多い。それにもかかわらず、1番右の図のように、日本国内の発電量にしめる地熱のシェアが著しく小さいのは、無尽蔵に近い豊富な資源を使わずにいるということだ) 「世界でホットな地熱発電 出遅れ日本も『地殻変動』」とする*1-3-5の見出しは面白いが、発電の安定性に優れ、燃料費は無料で、資源量の豊富な地熱を使用した発電を、日本政府は世界で評価され機運が盛り上がって始めて2030年に発電所を倍増させる方針を掲げたのだから、これも無思慮・無能力の一例である。それどころか、天文学的高コストの原子力発電を安価だと強弁して優先してきたため、これによる財政の損失は著しく大きかった。 これは、地熱資源量で世界第3位の日本の発電量が2020年時点で55万kwに留まり、日本企業のタービンの世界シェアは6割強に達するという対照的な結果を産んでいる。つまり、「政府は、環境も考慮しながら、4の5の言わずに10ットとやれよ」と言いたいのである。 このような中、*1-3-6のように、全国知事会議によって「デジタル化を進める」「5G移動通信システムに対応する通信網を基礎的インフラとして全国に普及させる」「脱炭素社会の実現を再エネ豊富な地方への分散型国土創出のチャンスとする」などの提言がなされたのは注目に値する。 二)非科学的なコロナ対応 政府(特に厚労省とその専門家会議)は、検査・ワクチン・治療薬などのコロナ対応で失敗したことは言うまでもないが、限られたワクチン接種の優先順位でもおかしなことが続いた。そもそも、接種会場に行けないような寝たきりに近い高齢者にワクチンを接種するのは、ワクチン接種による健康リスクが高い上、そういう高齢者が新型コロナを他人に感染させるリスクは低いため、そういう人に接する人(介護士や家族)にワクチンを接種した方が効果的なのだ。 また、ワクチンが十分に供給された後も、*1-3-7のように、64歳以下の接種に優先順位をつけ、無駄に煩雑化して時間の浪費をしている。そのため、市区町村ごとに独自に優先対象枠を設定するのはよいが、なるべく多くの人に素早く接種することが感染を広げないためには最も重要なので、20~30代を優先するというのもおかしいのである。 さらに、五輪は「中止だ」「無観客だ」と騒いでいるメディアが多いが、免疫パスポートを持っている人と直近の陰性証明書を持っている人だけが入場できるようにすれば何の問題もないし、日本なのだから、客席の下に航空機レベルの強力な換気扇を設置しておけば、観客の中に少し陽性者が混ざっていたとしても感染リスクはかなり軽減されるのである。 にもかかわらず、「ワクチン接種が進めば、何となく政権に好感が持たれる」「10~11月にかけて、すべての接種を終える」などのボヤっとした政治的意見が出るのには呆れる。そのため、企業・学校などの職域接種をできるだけ早く始め、終わったところは一般の人にも開放した方がよいと思う。このような場合に、「五輪は特別か」「自治体毎に差が生じるではないか」「免疫パスポートの提示は差別に繋がる」などの悪平等を奨める議論をするのは筋が悪すぎる。 (2)年齢差別による人権侵害 *2-3(図表1) *2-3(図表2) *2-3(図表3) (図の説明:左図のように、65歳の健康余命は、男14.43年・女16.71年であり、75歳でも男7.96年・女9.24年である。また、中央の図のように、平均余命も健康余命も、男女とも伸びている。さらに、右図のように、健康上の理由で日常生活に影響のある人は、85歳未満では50%以下で、85歳くらいから増え始めている) 1)“高齢者”に定年は必要か “高齢”になった時、頭脳や身体の機能がどのくらい衰えるかは、生物年齢によって一律に決まるのではなく、個人差が大きい。そのため、一定年齢になると全員を退職させる「定年」というシステムは、余剰人員があって若い世代の出番がなかなか回ってこないような企業には便利かもしれないが、人材不足の企業にはむしろ不都合なのである。また、年齢を理由に解雇される被用者にとっては、これまでより悪い条件の職場に移動して勤務しなければならず、年齢による差別であると同時に人権侵害でもある。 さらに、65歳以下の従業員しかいない会社は高齢者のニーズを把握できず、ここでも多様性のなさが利益機会を逃す結果となっている。 そのため、健康状態に合わせて負荷を軽くしながら、健康で働ける限りは働いた方が経済的にも健康維持にもプラスであり、同じ生活を続けられた方が被用者にとって精神的負荷が少い。 イ)定年の廃止 現在の一般的定年年齢である65歳は、*2-3のように、仕事、家事、学業などが制限されない健康余命が男性14.43年、女性16.71年(80歳前後まで)残っており、75歳でも男性7.96年、女性9.24年残っているそうだ。 そのため、*2-1-1ように、YKKが正社員の定年を廃止して、本人が希望すれば何歳までも正社員として働けるようにし、生涯現役時代に備え始めたのは妥当である。しかし、これらがうまく機能するためには、役割に応じて給与が決まる役割給(≒能力給・成果給)を採用し、同じ能力・成果なら年齢に関係なく同じ給与になる仕組みが必要だ。そして、「年齢だけを理由に処遇を変えたり、退職させたりするのは公正でない」というのは正しい。 三菱ケミカルは2022年4月に現在60歳の定年を65歳に引き上げ、将来は定年廃止も検討しているそうだが、給与制度は能力・経験に基づく職能給と、仕事の成果・役割に基づく職務給で構成していたのを、2021年4月から職務給に一本化したそうだ。 三谷産業の場合は、2021年4月から再雇用の年齢上限をなくして65歳以上は1年ごとの更新制としたそうだが、これは年齢だけを理由に雇用条件を変えており、公正とは言えない。 ロ)70歳定年制 ダイキン工業は、*2-1-1のように、希望者全員が70歳まで働き続けられる制度を始め、少子高齢化で人手不足が続く中、企業がシニアの意欲と生産性を高める人事制度の整備に本格的に乗り出したそうだ。しかし、これまで定年が60歳で65歳まで希望者を再雇用していたのは、やはり年齢だけを理由に処遇を変えたり、退職させたりしており、公正ではなかった。 各社が対応を急ぐ背景には、年金の支給開始年齢が段階的に引き上げられ、所得の空白期間をなくすため、2021年4月に施行された改正高年齢者雇用安定法があり、従来、企業は従業員が希望する限り65歳まで雇用を継続する義務があったが、法改正で70歳まで就業機会確保の努力義務が課されたからだそうだ。 大半の企業は再雇用期間の単純延長などで対応し、多くは現役時代に比べて2~5割程度給与が下がってシニアのやる気と生産性の低下が課題になっているため、定年を廃止する企業は成果に応じた賃金制度を導入したりして給与の減少を一定程度に留めるそうだ。私は、成果や能力に応じた賃金制度を導入した方が、年齢に関わらず誰にとっても公平でやる気が出ると思う。 世界では定年制は一般的でなく、米国・英国は年齢を理由とする解雇を禁止・制限しているが、日本は定年のない企業の方が2.7%に留まる。その理由は、正社員に対して年功序列型賃金体系を採用し解雇規制も厳しいため、定年を延長・廃止しただけでは生産性に見合わない人への人件費が増加するからだ。ただ、職務を十分に果たせない理由は年齢ではないため、公正な雇用環境とは、成果主義・能力主義による賃金体系にほかならない。 ちなみに、年功序列型賃金や解雇規制によって護られた正規雇用を維持するため、出産後の女性(もしくは多くの女性)に非正規雇用の職しかないのは、雇用の調整弁にされているからである。そのため、女性は、もともと、非正規雇用の職を押し付けられるよりは、(年功序列よりは厳しいかもしれないが)能力主義・成果主義賃金体系の中、正社員として企業間移動も容易である方がずっと公平・公正になるという環境下にあるのである。 ハ)中小企業の対応 *2-1-2のように、70歳まで働く機会の確保を企業の努力義務と定める改正高年齢者雇用安定法が4月に施行されたのを受けて、日本商工会議所が中小企業に対応を聞いたところ、必要な対応を講じているのは約3割に留まることがわかったそうだ。 新型コロナで企業の業績が悪化し、余剰人員が増えて人件費の負担増に繋がる施策の導入は難しそうだが、中小企業に熟練労働者は貴重であるため、もともと定年のない企業も多い。そのためか、必要な対応を講じている企業の具体策は、70歳までの継続雇用制度の導入(65.8%)、定年制の廃止(20.2%)と定年制の廃止も少くない。 2)高齢者医療←“公平”とは何か *2-3に書かれているとおり、平均寿命は0歳の人の平均余命で、64歳以下でなくなる人の死亡時年齢も加えた平均であるため、65歳まで生きた人の平均余命は平均寿命より長い。 そのため、平均寿命を目安にして老後生活のための資産形成をしたのでは不十分な上、健康寿命を過ぎた後は医療・介護の世話になることになる。これは、若い世代が医療・介護保険料を支払っても殆ど医療・介護の世話にならないのと対照的だが、このサイクルはすべての人に起こるものである。 従って、人口構成が変わる国は、若い時代に支払った医療保険料・介護保険料を発生主義で積み立てておかなければ、国民が高齢になった時に医療・介護費を負担できず、まさに現在の日本のような状態になる。しかし、このライフ・サイクルは、今になって初めてわかったことではなく、保険制度を作った時からわかっていたことであるため、適切な対応をしなかった管理者に全責任がある。 そのような中、*2-2-1・*2-2-2は、「①高齢化に対応するため、全ての世代に公平で持続可能な医療保険制度の構築を急ぐべき」「②75歳以上の後期高齢者で一定以上の所得がある人の医療費窓口負担を1割から2割に引き上げる医療制度改革関連法が成立」「③一定収入とは年収が単身で200万円・夫婦世帯で計320万円以上」「④後期高齢者医療費のうち自己負担分を除く約4割は現役世代の保険料で賄っている」「⑤政府はこの改正が現役世代の負担増を抑える一歩にすぎないことを認識し、さらなる改革を急ぐべき」「⑥厚労省は負担引き上げによる受診減で75歳以上の医療費が年約900億円減少するとみる」「⑦実際の負担は、高額療養費制度の活用で軽減を図れる」「⑧政府の説明は『受診行動の変化のみで健康への影響を分析するのは困難』と繰り返すだけ」「⑨健康診断受診率を高め、疾病を早期発見する環境整備も必要」「⑩今後は資産に着目した制度設計が不可欠なので、高齢者の収入・資産状況を把握するマイナンバーを使った改革を急ぐべき」などを記載している。 このうち、①については、ライフ・サイクルを考慮した時、i) 殆ど医療・介護のニーズがない若い世代が入る保険 と、ii) 医療・介護のニーズが高くなる定年後に入る保険 を分けたことが、保険の原理に反しており、不公平を作っているのだ。その不公平の一部を解消するため、④のように、自己負担分を除く約4割を現役世代の保険料で賄うという恣意的割合での補助を行っているのだが、若い時代に支払った保険で定年後も面倒を見るのが本来の保険の姿である。従って、現在の仕組みなら、若い世代だけが入っている医療保険は大きな黒字になっている筈だ。 また、②③の一定以上の所得を単身で200万円・夫婦世帯で計320万円以上と定めたのは、医療費が0の生活保護家庭と同レベルの所得でも、後期高齢者は医療費窓口負担2割としている点で不公平だ。何故なら、健康寿命を過ぎると、医療・介護を継続的に利用し続けなければならなくなるため、医療・介護費、水光熱費を除いた可処分所得が少なくとも食費・住居費・交際費を支払える程度に残らなければ、最低生活ができないからである。そのため、⑦は最低生活を保障できる金額でなければならないのである。 なお、⑥⑧は、科学的根拠はないが、とにかく高齢者は邪魔だと考える行政の言いそうなことだ。⑨に反対する人はいないと思うが、いくら健康診断をしても最後は誰しも健康寿命が尽きて亡くなるため、かかる医療費・介護費は変わらないと思う。違いは、それが早いか遅いかだけであろう。 ⑤⑩については、高齢者の資産はその人が働いて所得税を引かれた後の税引後所得から貯めたものであるため、ここに課税すれば二重課税になる。また、多くの資産を子孫に残す人は相続税で課税されるため公平性が保たれており、マイナンバーを使って高齢者の資産に手を突っ込もうなどと考えるから、政府に信用がなくなって、マイナンバーカードも普及しないのである。 なお、*2-2-3に、「⑪負担能力を判断する収入に、貯金などの金融資産を含める意見もあるが、稼働所得が少ない高齢者に負担増を求めるのは極力避けなければならない」と書かれているのは本当で、「⑫高齢化がピークに近づく2040年に向け、抜本的な社会保障制度改革は避けて通れない」というのは、私が上に書いた変更を行い、積立金の不足する分は、バラマキの無駄遣いをやめ、日本に豊富に存在する資源の開発を行ってその収益を充てたり、それこそ国債で賄ったりすべきなのである。 (3)外国人差別による人権侵害 1)日本の難民受け入れと「入管法改正案」 *3-1・*3-2のように、政府・与党は、「①現行の出入国管理法では、外国人が難民としての認定を日本政府に申請している間は強制送還できず」「②その結果、施設収容が長期化している」として、「③難民認定申請を2回までに制限して退去命令に従わない際の罰則を設け」「④繰り返し申請する人を送還可能にする規定を盛り込んだ」改正案を、入管施設に長期収容されていたスリランカ人女性が死亡したのをきっかけに、今国会での成立を断念した。しかし、筋の悪いこの改正案は廃案にすべきである。 何故なら、この改正案は、迫害から逃れてきて帰国できない事情のある人への配慮に欠け、国連難民高等弁務官事務所や国連人権部門から懸念を示されていたものであるため、国際水準に沿った入管法改正を行うことが必要なのだ。例えば、日本の2019年難民認定率は0.4%で、米国29.6%やドイツ25.9%より著しく少なく、外国人労働者は労働力の調整弁として受け入れてきた経緯があるため、人権を尊重した抜本的な制度改正が必要なのである。 さらに、出入国在留管理庁は、「退去回避や就労目的が相当数含まれていた」と主張するなど、(母国にいるため外国人より優位な立場にある筈の)日本人労働者の職を護るため外国人の就労を著しく厳しく制限しており、外国人は悪人であるかのような偏見を持って管理している。この行為は、祖国で迫害されて脱出し、日本で保護されるべき外国人を送還して危険にさらす恐れがあるため、人権侵害であるとともに、日本国憲法にも違反している。 しかし、紛争や差別、迫害から逃れてきた難民申請者には高学歴の人も多く、2つの祖国を持つ人は両方の文化を理解して懸け橋になったり、日本企業のグローバル展開に貢献できたりしやすい。さらに、従業員の出身国もまた、多様性があった方が、新しい製品やサービスを開発する機会が増えるので、外国人も排除するより認定基準を変えて活用した方が、双方にってプラスなのである。 2)自分が差別される側だったら、看過できないにもかかわらず・・ 日本で、「差別はいけない」と言って男性はじめ多くの人に賛成してもらうには、人種差別を例に出すのが最もピンとくるらしくて早いというのが、私の経験だ。 そのような中、*3-3は、「新型コロナが中国から世界に広がったことがきっかけで、米国でアジア系の人を標的にしたヘイトクライムが目立つようになり、日本人まで巻き込まれているので差別解消に向けて日本から声を上げるべきだ」という抗議をしているが、アジア出身の人への差別は、(3)1)のように、日本人も行っている。にもかかわらず、多くの米国民に中国人・韓国人・日本人が同じに見えて出自が中国でないアジア系移民まで襲撃対象にされていることを不満に思うのは自分勝手すぎる。 欧米人には、中国・韓国・日本の人は同じに見えるようで、私は台湾の人と米国人の家を訪問した時に「貴女たちは、お互いに言葉が通じるの?」と聞かれて、2人同時に「No!」と答えたことがある。その人は、標準語と関西弁くらいの違いだと思っていたらしい。 もちろん、外交・安全保障で近隣国に毅然として言うべきことは言わなければならないが、それとは別に、アジア人であれ、アフリカ人であれ、人を差別すべきではない。幸運が重なることによって、日本の経済力が長い歴史から見れば瞬間的により進んでいたからといって、日本に住む1人1人が、より優れているわけではないことを心すべきだ。 (4)雇用形態について 正規雇用と非正規雇用の社員間にある“不合理”な格差の解消を目指す「同一労働同一賃金」のルールが、*4-1のように、2021年4月から中小企業にも適用されたそうだが、合理的な待遇差は認められている。しかし、①厚労省は、基本給では能力・経験、業績・成果、勤続年数に応じて支給する場合は同一の支給、違いがあればその違いに応じた支給を求め ②最高裁は、賞与と退職金などについて格差を認める判断を示し 何が合理的な待遇差の範囲かは曖昧だ。 しかし、①の能力・経験の違いについては、日本は年功序列(勤続年数による評価)の企業が多かったため、能力・経験、業績・成果などを公正かつ正確に評価して報酬に結び付ける文化がなく、合理的な待遇差か否かが客観的ではなく恣意的な説明になるのが問題なのである。 また、②は、企業が非正規雇用を使う目的から、「賞与・退職金・福利厚生に違いがあるのは当然だ」ということになる。また、非正規雇用は短期の雇用になりがちで、労働生産性を高める研修も受けにくく、これは職務を限定せずジョブローテーションを繰り返して専門性の高い人材を育てない正規雇用と相まって、日本の労働生産性を低くする原因となっている。 私も、欧米型の「ジョブ型」雇用の方が労働生産性を高めるとは思うが、ジョブ型雇用は、そのジョブで必要がなくなれば、正規か非正規かに拘らず配置転換ではなくクビにするものだ。そのため、日本のように、社員を正規と非正規に分ける必要はなく、正社員でも成果さえあがれば短時間勤務でもOKで、休職した後でも不利なく復職することができる反面、これらがうまく機能するためには、辞めた従業員の能力・経験を評価して労働者に不利益を与えることなく受け入れる企業の多い労働市場が必要なのである。 日本は、ジョブ型雇用、能力や実績を報酬と結び付けるための評価システム、辞めた従業員の能力や経験を評価して不利益なく受け入れる労働市場に乏しいため、*4-2のように、パート・派遣などの有期労働契約が5年を超えて繰り返し更新され本人が希望すれば、無期雇用契約に切り替えられる「無期転換ルール」ができたわけだ。 しかし、無期契約は昇給制度を作る必要がなくても人件費が重荷になるため、対応にあたって、③契約更新の回数に上限を設けて5年を超えない運用にする ④無期転換した人材は、特定の仕事には力を発揮するが配置換えをすると能力不足を感じることが多い とする企業もある。 ③は、ザル法化で、④は、*4-3のように、正規雇用の労働者でも専門外の仕事に配置換えすればやる気も生産性も落ち、度重なる配置換えによって専門性も育たなくなるという悪影響がある。そのため、有期労働者の不安定な状況を改善するには、長期の雇用保障や年功賃金で正社員が手厚く保護され、コスト抑制策として非正規雇用が活用されている労働市場の構造を変える必要があるのだ。 そのためには、労働者を犠牲にするのではなく、転職しやすいジョブ型雇用の労働市場を作り、解雇規制の緩和とセットにする金銭補償は会社都合退職金を自己都合退職金の3倍にするなどを行う必要がある。この「会社都合退職金を自己都合退職金の3倍にする」というのは、事業縮小のために希望退職を募っていたオランダ銀行日本支店が行っていたことで、監査に伺っていた私は、その筋の通った徹底ぶりに感心した次第だ。 (5)不合理な政策が通る理由は何か 1)新型コロナワクチンについて 加藤官房長官は、*5-1-1のように、6月17日の閣議後会見で、①新型コロナワクチンの接種を公的に証明する「ワクチン証明書」の交付を市区町村が7月中下旬から始める ②まず書面で交付し、電子交付も見据えて検討を進める ③ワクチン接種の有無による国内での差別を防ぐため、同証明書は海外との往来を主な目的とする という方針を明らかにした。 しかし、①②は、接種券に「新型コロナワクチン予防接種済証」が付いており、接種時にワクチンの種類・接種日・接種場所が記録されるため、ワクチン接種後はすぐに書面による交付ができている。そのため、電子証明は、接種済証を所定の場所に持っていけばできるようにすればよいのである。また、③は、「糖尿病や肥満の人に食事制限するのは差別にあたるので、家族全員が食事制限すべきだ」と言うのと同じくらい不合理で馬鹿げている。 そのため、ワクチン接種済証か直近の陰性証明書の提示を条件にすれば、*5-1-2のような入場者制限・飲食店の時短・酒類の提供制限も不要であり、恩着せがましく少しずつ緩和していただく必要はない。にもかかわらず、「五輪は、中止か、無観客で」などと言っていた新型コロナ対策分科会の“専門家”が、五輪の開催方法については「人の流れを止める」以外の助言もできず、役割を果たしていない。これは、「“専門家”の選び方が悪い」というほかないのである。 さらに、*5-1-3のように、ファイザー製ワクチンの接種対象が12~15歳に広がっているのを受け、小児科学会等が、「③(かかりつけ医による)個別接種が望ましい」「④感染予防策としてワクチン接種は意義があるが、副反応の説明や接種前後の健康観察を入念にするように求める」「⑤基礎疾患がある子どもは、健康状態をよく把握している主治医との相談が望ましい」という見解を発表したそうだ。 しかし、④⑤については同意するものの、③については、健康な子どもは学校で集団接種して問題ないだろう(私たちの世代は普通に集団接種していたが、近年はしないのか?)。それより、日本の場合は、体重に比例してワクチン接種量を加減しないため、体重45kgの痩せた女性が体重90kgの米国人男性と同じ分量のワクチンを接種すれば副反応が強く出るのは当たり前だ。まして、体重30kgの子どもなら分量は1/3程度でよい筈だが、それこそ日本の“専門家”は何も調べておらず、意思決定権者もそれを求めていない点で、勉強不足である。 なお、東京五輪・パラリンピックに合わせて来日する外国メディアの行動を、*5-1-4ように、スマートフォンのGPSを使って管理する方針は、確かに、⑥ジャーナリストのプライバシー権を完全に無視しており ⑦報道の自由を制限するもの であるため、国際ジャーナリスト連盟(IFJ)が強く反発するのは当然で、このような規制をしようと思つくこと自体が恥である。安全を維持するためなら、ジャーナリストはじめ関係者の入国時に免疫パスポートの提示を義務付ければよく、性犯罪者ででもあるかのようにGPSで追いかける必要はない。 最後に、五輪で入場者数の制限・飲食店の時短・酒類の提供制限等をして世界のお祭りに水をかけたりせず、来られた方を「おもてなし」できるためには、*5-1-5の職域接種を五輪までに関係者全員(の希望者)に完了するための経済界の活躍が期待される。新型コロナで損害が大きく、世界標準も知っている航空会社が前倒しでワクチン接種を始めたのは尤もだが、ほかにも政府が職域接種の目安とする従業員千人に満たない中小企業が素早くワクチンを接種できる工夫はあった。そのため、顧客企業が素早く立ち直ることこそが貸付金の返済に繋がる都市銀行・地方銀行・信用金庫等も、顧客企業の従業員や家族まで対象にしたワクチンの集団接種を行い、地域の安全・安心を作り出すのがよいと思う。 2)社会保障について 一定所得(単身:200万円以上、複数世帯:320万円以上)以上の75歳以上の後期高齢者医療費窓口負担を、1割から2割に引き上げる医療制度改革関連法が、*5-2-1のように、自民・公明両党などの賛成多数で成立した。田村厚労大臣は、その目的を「①若い人の負担の伸びを抑える目的だ」と述べられ、持続可能な医療保険制度に向けて税制(消費税)も含めた総合的な議論に着手することも明記しているそうだ。ちなみに、現役並所得(単身:年収383万円、複数世帯:520万円以上)とされる人は、雇用の不安定さにかかわらず現在も3割負担である。 これについては、厚労省の杜撰な資金管理を改善することもなく、国民の負担増・給付減ばかりを決めており、日本国憲法25条の「1項:すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。2項:国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」に違反している(https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/shiryo/dl-constitution.htm 参照)。そして、これは人口構成とは関係のない問題だ。 さらに、全世代型社会保障はよいし、若い世代も介護保険制度に加入して負担すると同時に給付も受けられるようにすべきだと思うが、保険制度はリスクの高い人と低い人が混ざっていて初めて成立するものなので、高齢者を労働していた現役時代とは別の保険制度に入れ、「②財源は窓口負担を除いて5割を公費で負担し、残り4割は現役世代からの支援金、1割を高齢者の保険料で賄う」「③75歳以上の人口が増えて医療費が膨らめば現役世代の負担も重くなる」などと言うのは恩着せがましいし、これまで制度の基盤を固めてきた人に対して恩知らずで失礼でもある。 なお、*5-2-2のように、「④高齢者の中には、所得が少なくても金融資産を多く持っている人もいるので、資産も合わせて判断するようにすべきだ」などと、課税済所得から蓄積した金融資産まで考慮して給付を減らすべきだという不公正な理論を展開している人もおり、「高齢者は日本国憲法で護るべき国民のうちに入らないから、理屈はともかく犠牲を払ってもらいたいし、資産だけはもらいたい」という考えが丸見えで、どういう教育をするとこういう利己的な考え方をする人間ができるのか、親の顔を見て苦情を言いたいくらいである。 3)まとめ 私は、東大医学部保健学科卒なので、医療システム・疫学・地球環境・公衆衛生学・母子保健・栄養学・解剖学・人体の健康維持システム・精神衛生・成人病等について大学で習った。しかし、仕事のために公認会計士資格(経済学・経営学・会計学・原価計算・財務諸表論・商法・監査論等が必須だった)をとり、監査で外資系の薬剤会社・医療機器メーカー・銀行・保険会社などを担当し、税理士としては税務申告や金融商品にまつわる税務コンサルティングを行った。そして、国会議員時代は、社会調査を兼ねて佐賀県の地元を1件1件挨拶廻りしながら話を聞き、地方の課題を洗い出して解決法を考えた。 その結果として得た総合力でこのブログを書いているのだが、その目で日本で専門家として意見を述べている人たち(殆ど男性)を見ると、専門の範囲が狭く、丸暗記型で、他分野のことに疎く、小さな範囲の部分最適しか述べていない。それにもかかわらず、女性が意見を言うと、「非科学的」「感情論」等の女性に対する偏見に満ちた理解をするため、始末が悪いのだ。 そのような中、(5)1)の新型コロナについては、下の指摘ができる。 ①中国は当初から「無症状者にも感染力のある人がいる」と指摘していたため、厚労省は クラスターだけを追いかけて武漢ウイルスと呼ぶのではなく、万難を排してPCR検査を 徹底し、蔓延を防止すべきだったのに、それをしなかった。 ②検疫もいい加減だったため、島国であるにもかかわらず水際で止められなかった。 ③医療システムに感染症対応が抜けており、治療すらまともにできないという、日本では 考えられない事態を起こして、日本医療の評価を著しく下げた。 ④政府が治療薬やワクチンの開発・承認を遅らせたため、膨大な金額の支援金で国費を 無駄遣いしたのみならず、新薬や新ワクチンで得られる筈の利益機会も逸した。 ⑤ロックダウンやまん延防止措置など、中学校の校則のように杓子定規な規制を一斉に かけ、それを乱発して、国民の私権を制限した。そして、行政は、これを「断固とした 対応」などと言っている点で質が悪い。 ⑥さらに、日本国憲法に「緊急事態宣言を入れ、大っぴらに国民の私権を制限できるよう にせよ」と言っているのは、憲法改悪の第一である。 また、(5)2)の社会保障については、下の指摘ができる。 ①「社会保障が高齢者に手厚すぎる」などと呪文のように唱え、高齢者への負担増・ 給付減をやり続けて生活を脅かしているのは、家計の分析すらできない人のする ことで、憲法25条違反である。 ②介護保険制度を軽視し続けているのは、自らは家事や介護にあたらないと思って いる男性が大多数の政治だからである。 ③人口減自体を問題視する愚かな論調が多いのも、「子育ては女性の仕事」と信じ、 自らは家計すら考えたことのない男性が大多数の政治だからであろう。 ④「課税済所得から蓄積した金融資産まで考慮して給付を減らすべきだ」などという 理論を展開している人が少くないのは、二重課税の弊害もわからずに政策提言を しているからであり、不公正を招いている。 しかし、国民にも責任はある。何故なら、主権在民の国である日本で議員や首長を選んでいるのは国民だからで、メディアが変な論調を続けてもまともな批判ができず、それに引きずられた意見形成をしているのも国民だからである。 (6)教育と人材 2019.8.1福井新聞 2019.8.1西日本新聞 2020.4.25毎日新聞 Resemom (図の説明:1番左の図のように、小学6年生と中学3年生の全国学力テストは、福井・秋田など北陸・東北の平均が高く、東高西低になっている。また、左から2番目の図のように、九州7県は全国平均以下の地域が殆どで、公立は私立より低いため、何故こうなるかの原因分析が必要だ。また、右から2番目の図のように、教育用PCの普及は2人に1台《これでも自由には使えない》の佐賀県が最も多く、1番右の図のように、電子黒板整備率は佐賀県が突出して高いが、これには、ふるさと納税制度も利用した県を挙げての努力が見える) 先端技術の開発や生産、サービスの提供など、どんな仕事をするにも教育を受けた質の高い人材が行えば、質の高い仕事ができる。ここでいう“質の高い”にはいろいろな要素があり、知識・思考力・体力だけでなく倫理観・勤勉・真面目などの性格を備えていることが必要だが、話を複雑化させないため、以下では、知識と思考力に絞って記述する。 イ)大学入試について 国立大学協会入試委員会が、これまでの「国語」「地歴・公民」「数学」「理科」「外国語」の5教科7科目に「情報」を上乗せして、*6-1-1のように、2025年の大学入学共通テストから、国立大学の受験生に原則として「6教科8科目」を課す案を検討しているそうだ。 プログラミング等を学ぶ情報Ⅰもデータサイエンスによる分析を学ぶ情報Ⅱも大切ではあろうが、私たちの世代は、理系の人でも、プログラミングは大学の教養で、データサイエンスは大学の専門や大学院で学んだため、大学入試で必須科目として高校までの履修を不可欠にするのなら、義務教育を3~18歳にしてゆとりを持って学べるようにしなければ消化不良になりそうだ。それでも、分析するには影響しそうなファクターをあらかじめ予想しなければならないため、知識と経験が必要であり、学校での限られた経験しか持たない生徒には難しそうだ。 また、「義務教育終了段階での高い理数能力を、文系・理系を問わず大学入学以降も伸ばしていく」ことも重要だが、それには、高校では文系も数Ⅲを履修しておく必要がある。何故なら、大学で学ぶ経済学やデータ解析には、個の行動を統計的に集計して全体の行動にする過程があり、それには数Ⅲの微分・積分の理解が必要だからである。 なお、情報を教える態勢は地域によって差があって、教員の確保が急務となっており、文科省の調査では、情報担当教員の2割が「情報免許状保有教員」ではない「免許外教科担任」や「臨時免許状」を持つ教員で、今のままでは新指導要領の内容をきちんと教えることができない学校が出るそうだ。ただし、教育用PCの普及は、むしろ地方の方が進んでおり、電子黒板整備率は佐賀県が突出して高い。さらに、私立と公立のPC整備率を比較すると私立の方が高いので、公立も頑張ってPCを整備し、教えられる人材を教員に採用しなければ教育格差は広がるだろう。 ロ)全国学力テストについて 2019年4月に行われた全国学力テストの結果は、*6-1-3のように、福井県は「①中3は、英語で東京都等と並んで1位、数学も1位、国語は2位」「②小6は、国語2位、算数4位」「③小中とも調査開始以来12年連続で全国トップクラスを維持」「④県教委は授業や家庭学習に熱心に取り組む子どもと教員らの努力の成果と評価」「⑤目的や意図に応じて自分の考えを明確に書いたり、複数の資料から必要な情報を読み取って判断したりするのが苦手な傾向は変わらなかった」「⑥文科省は、学力の底上げ傾向は続いていると指摘した」とのことである。 ①②③は立派な成績で、まさに④のとおりだろう。⑤は、日本人は大人も、自分の考えを明確に述べることを嫌ったり、分析が苦手だったりする人が多い上、TVもまともな意見を出し合って議論する設定の番組が少ないため、子どもも訓練される機会がないのだと思う。そのため、全体の底上げは重要で、⑥は正しい。 一方、全国学力テストについて、*6-1-2は、「⑥全国学力テストの結果をより重視する学校もある」「⑦過去問を解くなどの事前準備が常態化し、本来の調査目的から逸脱している状況もある」「⑧研究者は『学力の一部しか測れないにもかかわらず、現場だけが結果責任を問われ、追い詰められている』と訴える」「⑨学校側が意識するのは県教育委員会が各公立小中に作成を求める学力向上プランで、全国学力テストの目標点を示した上で、課題の分析や授業の改善を促している」「⑩とにかく結果を優先せざるを得ない状況になっている」等と記載している。 私は、⑨は全体の底上げのために正しいと思う。そのため、⑥⑦⑧の弱点は改善すればよく、⑥⑦については、生徒が初めて受ける形式の試験で何を答えればよいのかわからなければテストする意味がないため、少しは過去問を解く練習も必要だ。また、⑧は、確かに英語・数学・国語しかテストしていないので学力の一部しか測っていないが、それなら科目数を増やせばよい。そのため、「現場だけが結果責任を問われ、追い詰められている」というのは、責任のある人が責任を果たさず、言い訳しているように見える。現場以外に責任があるのなら、それもまた明確にして改善していくべきで、⑩については、結果が出なければやる意味はないと心得るべきだ。 なお、子どもの実力を正しく把握する上で、学校内や狭い地域内だけでなく、全国規模で比較し検討する意味は大きい。また、公立校のレベルが低ければ、親の資金力が子どもの学力を決め、貧困の連鎖が生まれる。その上、外国人労働者を差別したり、景気対策と称するバラマキをしたりしなければ日本人労働者の雇用を守れず、国際競争に勝てない大人を大量に作り出したりもする。そのため、学力テストを使って子どもの学力を伸ばそうとしていることは重要で、これは、世界でも日本だけではないことに留意すべきだ。 ハ)私立と公立の差 新型コロナの緊急事態宣言中、都立高校は、*6-2-1のように、校内の生徒数を3分の2以下に抑える分散登校を続け、登校しない生徒はオンラインを活用した自宅学習としているが、学校の通信環境や取り組みに差があって出欠確認だけの都立高もあり、生徒や保護者からは「学習が遅れていないか」と不安の声が漏れているそうで、当たり前である。 また、*6-2-2のように、IT・ネット分野専門のミック経済研究所が学校の無線LAN普及率を調査し、「①2015年5月の無線LAN平均普及率は、私立59.3%(中学56.3%・高校61.2%)・公立42.6%(中学40.2%・高校35.0%)だった」「教室数等単位では、私立17.8%・公立16.4%で、特に公立高等学校が2.6%と低い」と発表した。 PC・タブレットを使う時間が長いと、物事を理解したり覚えたりする時間はむしろ短くなり、深く思索することも少なくなるため、成績がよくなるとは限らない。しかし、辞書・参考書・筆記用具・電話と同じ文房具として使いこなせば、今までできなかったことができるし、今はそれをやるべき時代であろう。そのため、私は、教育に使うPC・タブレットは、ゲーム等の無駄な機能を搭載しない教育用の機種を1人1台支給して、通常の授業で使いこなすのがよいと思う。 使いこなし方は、①英語の練習として英語圏のニュースを見る ②地学や歴史に関する映像を見る ③理科の内容を動画で見る ④音楽で本物の演奏を視聴する ⑤美術で国内外の美術館・博物館をリモートで訪れる ⑥体育でダンス等の動画を見ながら練習する など、紙の教科書と担任だけでは不十分になりがちな内容を視聴したり、国内外の同学年の生徒とリモートでディスカッションしたりなど、さまざまに考えられる。そのため、これらに沿う動画を紙の教科書以外に副読本として作成する必要はあるが、一度作成すれば国内外の多くの生徒が使うことができるため、決して高価なものにはならないと思う。重要なのは、本物を見せることだ。 なお、最近、私は中国政府が国家の威信をかけて作ったという「三国志(完全版)、全5巻、日本語字幕付」のDVDを買って、まだ1巻の始めだけだが見た。すると、高校時代に漢文で習った内容が多く入っており、中国の有名な俳優が当時の服装で出ているため中国の歴史が目に見え、中国語の美しさにも触れることができた。これは、日本や欧米の歴史についても行っておけば、世界の人がその国の言葉を感じながら、その国の歴史や文化の由来を理解できると思う。 二)誤った教育をいつまで続けるのか 2021.6.22日経新聞 2021.5.24日経新聞 (図の説明:年代別の接種方針は、1番左の図のようになっている。大学は、左から2番目の図のように、2021年6月21日に集団接種を開始した。また、ワクチン接種の注意点は、右から2番目の図のようになっているが、「注意すべき人」の範囲を広く取りすぎており、誤解や差別を生む。さらに、ワクチンの副作用を、1番右の図のようにしており、大げさだ) 文科省は、*6-3-1のように、高校での「①集団接種を現時点では推奨しない」とする指針をまとめて全国の自治体に通知し、中高生は個別接種を基本とすることになった。その理由を、「②学校で集団接種をすれば、接種への同調圧力を生む恐れがある」「③副作用が出た場合に対応できる医療従事者の確保が困難」とし、「④集団接種する場合は、いじめ・差別を避ける配慮を要請する」「⑤接種を学校行事への参加条件としない」としている。 しかし、①は、子どもを個別に医者に連れて行かなければならない保護者の負担が大きい。また、③で言われている“副作用”のうち、「注射部位の痛み」などは副作用のうちに入らないし、その他も十分な栄養と睡眠をとって1日程度休めば治るものである。さらに、持病があってかかりつけ医のいる人は、かかりつけ医に相談するか、そこで接種すればよいし、②④については、「同調圧力をかけてはならない」「接種できない事情のある人を、いじめたり差別したりしてはならない」と、きちんと生徒に教えるのが学校の役目であり、そのためのよい機会でもあろう。 そして、⑤については、陰性証明書か免疫パスポートを学校行事への参加条件とするのは、教育を継続するために必要なことであり、全く差別には当たらない。 配慮が必要な持病については、*6-3-2のように、厚労省はワクチンを接種できない人に「⑥明らかな発熱」「⑦重い急性疾患」「⑧ワクチン成分に対するアナフィラキシーなどの重度の過敏症の経験」などを挙げているが、⑥⑦は当然だが治ってから接種すればよいし、⑧は、米疾病対策センターが、ポリエチレングリコールに重いアレルギー反応を起こした人への接種を推奨していないだけで、そのアナフィラキシーも接種100万回あたり13件が確認されているのみだ。そのため、根拠もなくワクチンにアナフィラキシーを起こしているのは厚労省の方である。 なお、他に注意が必要な人として、「⑨過去に免疫不全の診断を受けた人」「⑩過去に痙攣を起こした人」「⑪心臓、腎臓、肝臓などに疾患がある人」などを挙げているが、⑨⑩は過去にそうでも現在そうでなければ問題ないし、⑪も疾患の重症度によって異なるため、「注意が必要な人」として指定することでむしろ科学的根拠に基づかない差別を生んでおり、国民のワクチンへのアナフィラキシーを増加させてもいる。そのため、国民に無駄な心配をさせぬよう、(あるのなら)科学的根拠となるデータを速やかに開示すべきだ。 大学の方は、*6-3-3のように、慶応大学などの全国17大学が、ワクチン接種を職場接種として本格的に始め、今後、大学を拠点とした接種がさらに広がりそうとのことである。対面で授業を受けるにも、イベントを行うにも、帰省するにも必要なことなのだ。それにもかかわらず、「中高生には集団接種を推奨しない」というのは、おかしな話である。 ・・参考資料・・ <女性差別> *1-1-1:https://www.nichibenren.or.jp/document/statement/year/2021/210422.html (日本弁護士連合会会長 荒 中 2021年4月22日) 世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数に対する会長談話 2021年3月31日、世界経済フォーラム(WEF、本部・ジュネーブ)は、世界各国の男女平等の度合いを指数化した「ジェンダーギャップ指数」を発表した。日本は前回よりも1つ順位を上げたものの156か国中120位と過去2番目に低い順位であり、主要7か国(G7)中最下位で、アジアの主要な国々よりも下位であった。ジェンダーギャップ指数は、女性の地位を、経済、政治、教育、健康の4分野で分析し、ランク付けをしている。例年、経済分野と政治分野が日本の全体順位を下げる要因となっているが、今回、経済分野は117位、政治分野は147位となり、前回から更に順位を下げた。経済分野は、男女間の賃金格差、管理職の男女差、専門職・技術職の男女比のスコアが、前回と同様、いずれも100位以下である。中でも管理職の男女差は139位と前年の131位から順位を下げた。日本政府は女性活躍促進を政策に掲げているが、経済分野でのジェンダー不平等は一向に解消されていない。そして、前回に引き続き、最も深刻な状況にあるのが政治分野である。前回、その前年から19も順位を下げて世界のワースト10に入ったが、今回は更に順位を3つ下げた。国会議員の男女比は140位、閣僚の男女比は126位と低位のままである。このような政治におけるジェンダー不平等は、ジェンダーの視点を欠いた政策につながり、いまだに社会的・経済的に弱者である女性にとって日々の生活に直結する悪影響を及ぼしている。例えば、新型コロナウイルス感染症の拡大による混乱は、雇用環境の悪化、DV(ドメスティックバイオレンス)や児童虐待の増大、母子家庭の一層の貧困化、女性自殺者の急増などをもたらしたが、これらに対する適切な施策がなされず、むしろ、全国の小中学校に対する突然の臨時休校の要請により、事実上育児の大半を担う女性が就業困難な状況に陥ったり、特別給付金の受給権者が世帯主とされたことにより、DV被害者の受給が困難となったりした。また、国連女性差別撤廃委員会からの勧告や国民意識の変化にもかかわらず、選択的夫婦別姓制の導入は遅々として進まない。女性の政治参画は、あらゆる分野における女性の地位向上のための必須条件である。女性の政治参画なくして、個人が尊重され、多様性が確保された社会の実現や、日本の民主主義を発展させることは不可能であり、女性議員数、女性閣僚数を増加させることは喫緊の課題である。日本の現状は、もはや一刻の猶予も許される状況になく、クオータ制の法制化も含めた具体的取組は急務である。当連合会は、日本の置かれている状況を懸念し、ジェンダーギャップ指数に対し毎年談話を発表しているが、状況は依然として改善されない。2021年2月の公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の会長(当時)の発言と、同会長を擁護するかのごとき同組織委員会や公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)の対応は、今なお日本社会に厳然と存在する性に基づく偏見、差別、不平等な取扱いを露呈した。日本社会の男女不平等状態は、国際的な信用さえ失墜させ得るレベルであり、社会の閉塞感にもつながっている。当連合会は、日本政府に対し、日本社会の現状を直視し、個人が性別にかかわらず閉塞感なく生き生きと暮らせる社会を実現するため、職場における男女格差を解消し、女性活躍を更に促進する施策を実施するとともに、女性の政治参画の推進を喫緊の重点課題と位置付け、より実効性ある具体的措置、施策を直ちに講じるよう強く要請する。 *1-1-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/689591 (佐賀新聞 2021.6.10) 女性の政治参画拡大、改正法成立 政治分野の女性参画拡大を目指す改正推進法は10日の衆院本会議で可決、成立した。女性議員の増加に向けて、セクハラやマタニティーハラスメント(マタハラ)の防止策を国や地方自治体に求める条文を新設。政党や衆参両院に加え、地方議会を新たに男女共同参画の推進主体として明記し、積極的な取り組みを求めた。2018年に制定された推進法は、地方選挙や国政選挙の候補者数を「できる限り男女均等」にするよう各政党に促している。改正法には、女性の立候補を妨げる要因とされるセクハラ、マタハラへの対応が盛り込まれた。国と自治体の責務として、問題発生を防ぐための研修実施や相談体制整備を新たに規定。防止策や問題の「適切な解決」に関し、自主的な取り組みを政党の努力義務として課す。基本原則にも1項を加え、地方議会を含めて推進主体を列挙した。議会を欠席する要件として妊娠や育児を例示し、国や自治体に両立支援の環境整備も求めた。制定当時の付帯決議を踏まえ、超党派で改正案をまとめた。 *1-1-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/107671?rct=life (東京新聞 2021年5月31日) 非正規公務員 新制度から1年 女性たち、苦境改善へ連携 「公共サービスの危機」懸念 DVや児童虐待の相談業務といった仕事の増加に伴い、増える自治体の非正規公務員。大半は女性で、非正規の地位を安定させようと昨年四月に導入された会計年度任用職員制度によって一層つらい立場に追いやられている。期末手当(ボーナス)の支給対象にはなったが、一年ごとの採用が厳格になったためだ。そうした中、苦境に立つ女性たちが、自ら現状を発信、改善を求めていこうと動き始めた。「気持ちを安定させて働きたいけれど、来年のことを考えると…」。都内の公立学校の図書館で非正規の司書として働く女性(44)は不安げだ。現在働く自治体に採用されたのは十二年前。契約を更新しながら、購入図書の選択や本の整理にとどまらず、子ども一人一人の個性や状況に配慮して接し、図書館が安心できる場になるよう心掛けてきた。若手の教員から授業のテーマに沿った本の相談をされることも。新型コロナウイルス禍の今は、本や館内の消毒が新たな仕事として加わった。図書館の使い方などの指導も、密を避けるため、子どもを少人数に分けて何度も繰り返す必要がある。総務省の二〇二〇年の調査によると、全国の自治体で働く非正規公務員は約六九・四万人。うち九割を会計年度任用職員が占め、さらにその四分の三以上が女性だ。期末手当の支給で、女性の年収は百九十万円から二百三十万円に増えた。一方で、更新はあるが、年度ごとの採用が基本となり、雇用の不安定さは増した。「教員と違う立場で子どもと接し、本を手渡すには経験の積み重ねや継続した関係が大事なのに」。専門性を生かせ、やりがいはあるが、給与は手取りで月約十六万円。「夫と共働きで何とか子育てできるが、司書仲間にはダブルワークをするひとり親もいる」と話す。年度ごとの契約で賃金は低く、昇格もない。三月下旬、当事者がSNSなどで参加を募って開いたオンラインの緊急集会「官製ワーキングプアの女性たち」では、さまざまな仕事に携わる非正規職員が窮状を訴えた。DV対応などに当たる婦人相談員の「コロナ禍で相談が増え、やる気だけでは無理」、ハローワーク職員の「コロナで混乱する中で契約更新があり、理由も分からないまま職場を去らざるを得なかった同僚がいた」など内容は多岐にわたった。「住民サービスに不可欠なエッセンシャルワーカーが、こうした状態にあることを、社会全体が課題としてとらえるべきだ」。非正規公務員の問題に詳しいジャーナリストで和光大名誉教授の竹信三恵子さんは訴える。最近はさらなる経費削減のため、官が担ってきた仕事を民間に委託する例も増加。自治体の非正規職員ではないが、そこにも低待遇の働き手がいる。竹信さんは「相談業務などは、従事する側も利用する側も経済的、精神的に余裕がなく、声をあげにくい人が多い。そのため問題が覆い隠されてきた」と指摘する。こうした流れを変えようと、集会の企画者や参加者らは四月、「公務非正規女性全国ネットワーク(はむねっと)」を結成した。今後は、問題解決に向けた調査や提言に加え、当事者同士の交流や学習会などを進める予定だ。中心メンバーの瀬山紀子さん(46)は「このままでは公共サービスが崩れてしまう。私たち女性がまとまって動くことで、非正規公務員全体の問題を解決したい」と話す。まずは六月四日まで、当事者から現状を聞きとるアンケートをネット上で実施中。既に八百件以上の声が寄せられているという。回答は、ホームページ=「はむねっと 非正規」で検索=から。集計結果は同月中に公表する予定だ。 *1-1-4:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO71693340Z00C21A5CT0000/ (日経新聞 2021年5月10日) 女性の雇用、「L字」課題、出産後、正社員比率低く 出産や育児で仕事を辞めることで30代を中心に就業率が下がる「M字カーブ」は長年、女性の労働参加が進んでいない象徴とされてきたが、近年は解消が進んでいる。女性活躍の機運の高まりを背景に仕事と育児を両立できる働き方が広がった結果とみられ、2019年には就業者数が初めて3000万人を突破した。新たな課題として浮上したのが「L字カーブ」だ。子育てが一段落した後に再就職しやすくなったとはいえ、非正規雇用が主な受け皿で、女性の正規雇用率は20代後半をピークに右肩下がりで減っていく。最近はコロナの影響も大きい。内閣府の有識者懇談会「選択する未来2.0」は「正社員に加え、短時間勤務の限定正社員など、選択肢を拡大し、出産後の継続就業率を高めることが求められる」と指摘している。 *1-1-5:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14891821.html (朝日新聞 2021年5月3日) (憲法を考える)男女平等の理念、遠い日本 「女性の自立、応援しなかった社会」 日本国憲法は、「男女平等」を完全に保障した条文をもつ。しかし、新型コロナウイルス禍のもと、制度や社会におけるジェンダー格差が改めて浮き彫りになっている。施行から74年経った今なお、憲法がめざす理念に日本社会が近づけていないのはなぜなのか。緊急事態宣言下の3月半ば。どしゃ降りの雨の中、東京・新宿の区立公園にたてられたテントに女性たちが吸い込まれていく。弁護士や労組関係者らが開いた「女性による女性のための相談会」。コロナで生活に困る女性を対象としたところ、2日間で20~70代の125人が訪れた。 ■コロナ禍で顕著 関東地方に住む40代の女性は、野菜やお菓子、生理用品を受け取った。昨年6月、新型コロナの影響で仕事を失った。派遣で2年近くコールセンターに勤めてきたが、突然契約を打ち切られた。コロナ対策の1人10万円の特別定額給付金は、支給先は世帯主で、別居する親に配られた。中高生の頃から暴力を受けて疎遠になっていた。年末に失業給付が切れ、何も食べられない日もあった。所持金は1万3千円だった。「立場の弱い女性のほうが安定した仕事がなかったり、支援が届かなかったり。コロナはそんな現実を浮き彫りにした」。個人の尊重と幸福追求の権利を定める13条。法の下の平等をうたい性差別を禁じる14条。そして、両性の本質的平等を保障する24条――。憲法は三つの条文によって男女平等を保障する。しかし、雇用における差別は残り、支援制度も世帯単位で作られ、個人に重きが置かれていない。総務省発表では昨年、非正規雇用の働き手は75万人減ったが、うち女性は男性の倍を占めた。厚生労働省によると、昨年の女性の自殺者は7026人。前年より男性の数は減少したが、女性は935人(前年比15・4%)も増えた。 ■選んでいいの? 相談会スタッフ、吉祥(よしざき)真佐緒さんは「相談を受けて痛感したのは、夫婦間や職場で、空気を読んで口答えせず、自分のことは後回しにする生き方を強いられてきた女性が、本当に多いということだった」と話す。吉祥さんは、DV(家庭内暴力)被害者の相談も受けるが、昨春以降に件数は急増した。「自分が好きなものを飲んで」。相談に来た女性にはまず、日本茶やコーヒー、紅茶を選んでもらう。多くの女性が「え、私が選んでいいの?」と戸惑うという。だから、吉祥さんはこう問いかける。「私たちが持つ当たり前の権利ってなんだろう」と。「彼女たちは家の中で娘として妻として嫁として役割を背負わされてきた。自分にも権利があると考えられる人が多くないのは、女性の自立を応援してこなかった国の、社会の責任ではないか」 *1-2-1:https://news.yahoo.co.jp/articles/aa55ec861ba9ef03e6ad714d3df5127d3b1dd3cb (Yahoo、毎日新聞 2021/5/26) 都立高入試、男女の合格ラインで最大243点差 8割で女子が高く 東京都立高校の普通科の一般入試は、募集定員を男女に分けて設定しているため性別によって合格ラインが異なる。都教委は毎年30~40校を対象に是正措置を講じているものの、2015~20年に実施した入試では、対象校の約8割で女子の合格ラインが最終的に高かったことが、都教委の内部資料で判明した。1000点満点で最大243点上回るケースや、男子の合格最低点を上回った女子20人が不合格とされた事例もあった。毎日新聞の調べでは、都立高は全国の都道府県立高校で唯一、男女別の定員があり、各校とも都内の公立中学の卒業生の男女比に応じて決まる。合否は中学校が提出する内申点(300点満点)と、国数英理社の筆記試験(700点満点)の合計で決めるが、合格ラインは男女で異なる。著しい格差を防ぐため、都教委は1998年の入試から、特に差が大きい傾向にある高校を対象に是正措置を行っている。定員の9割までは男女別に合否を判定し、残り1割は男女合同の順位で合格者を決めるもので、近年は普通科高校(約110校)のうち30~40校程度で実施している。都教委はその効果を確認するため合格ラインの変化を毎年調査している。毎日新聞が調査結果の資料などの情報公開を求めたところ、都教委は今年3月、15~20年入試の是正措置の対象校(延べ199校)の回答用紙について、校名の特定につながる情報を伏せる形で開示した。このうち無回答や明らかに誤記と考えられるものを除く184校の男女差を毎日新聞が分析した。是正前は約9割の170校で女子の合格最低点が高く、男子との差は、①100点以上=27校②50~99点=41校③40~49点=31校④30~39点=27校⑤20~29点=26校⑥10~19点=8校⑦9点以下=10校。最大で女子の方が426点高い学校もあった。残り1割は男女が同水準か、男子の合格最低点の方が高かった。是正後も約8割の153校で女子が上回った。男子との差は、①5校②14校③5校④13校⑤34校⑥36校⑦46校と全体的に縮小したものの、それでも最大で243点の差がみられるなど是正につながっていないケースもあった。毎日新聞は、是正措置を講じていない高校の男女別の合格最低点についても情報公開請求したが、都教委は「学校の順位付けが可能となり、競争が助長される」などとして不開示にした。男女で合格ラインに差がある現状について、都教委の担当者は「入試が男女別であることは周知しているので、受験生は合格ラインが異なることを理解した上で受けているはずだ」と制度自体に問題はないとの認識だが、「現在の是正措置が完璧ではないことは認識している。世の中の情勢に合わせて改善策を考えていきたい」と話した。文部科学省は「一般論としては、合理的な理由なく性別によって異なる扱いを受けるのは望ましくない」としつつ、「男女別定員制は東京都が『合理的』と判断して採用しているものと考えている」と静観する。 ◇ 今回明らかになった東京都立高校の合格ラインの男女差を含め、入試を巡るジェンダー問題について、ご意見を募集します。毎日新聞東京社会部(t.shakaibu@mainichi.co.jp)まで。 *1-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210605&ng=DGKKZO72585360U1A600C2MY5000 (日経新聞 2021.6.5) 実力も運のうち 能力主義は正義か? マイケル・サンデル著 成功は努力の結果ではない 《評》東京大学教授 宇野重規 『これからの「正義」の話をしよう』や『ハーバード白熱教室』で知られるマイケル・サンデルの新著である。現代社会に広がる能力主義の支配に対して問題を提起し、「機会の平等」を超えた共通善の実現を目指すサンデルの議論は、そこであげられている数々の事例の豊富さもあって読むものを飽きさせない。読んでいて、思い起こしたのは一昨年の東京大学入学式における、上野千鶴子名誉教授による祝辞である。その祝辞はいささか型破りのものであった。入学者に対する単なる祝辞にとどまらず、入学者における女性比率の低さや、女子学生の入りにくさに対する厳しい指摘を含むものであった。さらに入学者が、自分ががんばったから報われたと思っているとすれば、そう思えること自体が、「あなたがたの努力の成果ではなく、環境のおかげだった」という発言は大きな波紋を呼んだ。入学者の努力自体は否定していない上野氏に対し、サンデルはよりストレートである。ハーバードの学生における「自分の成功は、自分の手柄、努力の当然の結果」とする能力主義的な信念の拡大に警鐘を鳴らすサンデルは、入学を手助けした親や教師の存在を指摘し、さらにはそもそもの才能や素質すら本人の功績とは言い切れないと強調する。大切なのは感謝と謙虚さであり、社会の共通善に対する貢献であると説く。それでも現実には、能力主義の信念に歯止めがかからない。格差が拡大する中、成功者はどうしてもそれを自分の努力の結果と思いたがるし、貧困に苦しむものは、単なる経済的苦境のみならず、道徳的な屈辱と怒りに苛(さいな)まれる。難しいのは左派やリベラル派にも、この信念が見られることである。米国のオバマ元大統領もまた、「努力が報われるのが米国」と繰り返した。逆にトランプ大統領は、「才能と努力の許すかぎり出世できる」とはあまり言わなかったという対比は面白い。現実の米国の社会的流動性は低く、金持ちやエリートの世襲の貴族社会が能力主義の名の下に固定化しているとサンデルは指摘する。その批判の鋭さを思うと、処方箋があまり明確ではないことが惜しまれるが、それだけ問題が難しいということだろう。 *1-3-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA034E00T00C21A6000000/ (日経新聞 2021年6月3日) 迫る少子化危機、育児支援急ぐ世界 持続成長のカギ 世界各国・地域が少子化対策・育児支援策の拡充を急いでいる。日本では3日、衆院本会議で男性が育児休業をとりやすくする改正育児・介護休業法が可決、成立した。米国でもバイデン政権が10年間で1.8兆㌦規模(約198兆円)を投じる対策を打ち出した。背景には新型コロナウイルス危機が加速させた世界的な出生数の減少がある。子育て環境の整備に加えて、出産への経済的な不安を和らげる対策が肝となる。3日に成立した改正育児・介護休業法は従来の育児休業制度に加えて、男性は子の誕生後8週間まで、最大4週間の育児休業を取れるようにする。業務を理由に育休取得に二の足を踏む男性も多いため、改正法では労使の合意があれば育休中もスポットで就労できる仕組みも盛り込んだ。休業の申し出も従来は1カ月前までに必要だったが、2週間前までに短縮した。機動的に取得できる仕組みに目を配った。厚生労働省がまとめている妊娠届などを基に推計すると、21年の出生数は80万人を割り込む可能性が高い。16年に100万人を割り込んでから約5年で年間20万人程度も新生児が減る。出生率の低下は将来の労働力の減少などを通じて中長期の経済成長力を押し下げる。第一生命経済研究所の星野卓也氏が人口の推移などを基に試算したところ、30年代後半に日本は潜在成長率が0.2%程度のマイナスになる。「出生数の急減が続いて少子高齢化が加速すれば、40年代以降も成長率が低迷を続ける可能性がある」と指摘する。今回成立した改正法はあくまで男性の育児参加を促す環境づくりがメーンで、財政支援なども繰り出して国を挙げて支援する海外の各国・地域との差は大きい。バイデン政権が打ち出した少子化対策「米国家族計画」に盛り込まれた対策は幅広い。子育て世帯の生活を支援するため、最長で12週間取れる有給の家族・医療休暇などを提供。低中所得層の家庭へのチャイルドケアの公的支援も増やす。子育て世帯への税額控除を使った実質手当の給付も拡大する。21年に限って導入した同制度では子ども1人につき年最大3000ドル(6~17歳の場合)を給付するとしていたが、これを5年間延長する。教育ではすべての3・4歳児への無償の幼児教育の提供や2年間のコミュニティーカレッジの無償化、中低所得者向けの児童保育の補助やマイノリティー向け奨学金の拡大などをメニューに並べた。米疾病対策センター(CDC)によると20年の米国の出生数は前年比4%減の約360万5000人だった。早めの対策で少子化が少子化を招く負の連鎖を防ぐ。フランスも少子化対策を強化する。7月から男性の育児休暇を従来の14日から28日に延ばす。会社側は最低でも7日分の取得を認める必要がある。男性の育休は子どもの生後4カ月以内に1度で取る必要があったが、生誕後6カ月で2回に分けて取得できるようにもする。日本以上に少子化が深刻な韓国も22年度からは出産時に200万ウォン(約20万円)のバウチャー(サービス利用券)を支給する計画など、財政出動もからめた支援強化を急ぐ。産児制限を40年以上続けてきた中国も少子化から目を背けられなくなっている。5月末には1組の夫婦に3人目の出産を認める方針を示した。出産にからむ休暇や保険も整える。ニッセイ基礎研究所の調査で、コロナ禍で将来的に持ちたい子どもの数が減った40歳以下の回答者が挙げた理由で最も多かったのは「子育てへの経済的な不安」だった。少子化に対抗するには、育児休暇をとりやすくするなど今回の改正法のような子育て環境の支援に加えて、出産や結婚をちゅうちょさせるような経済不安を和らげる必要もある。政府の子育て関連支出を国内総生産(GDP)比でみると日本は1%台で、欧州諸国の3%台を下回る。省庁横断で取り組む「子ども庁」創設論議が本格化するが、財政支援も含めた少子化対策に各国・地域が本腰を入れるなか、後手に回ればコロナ後の世界経済で存在感を失うリスクをはらむ。 *1-3-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA043NS0U1A600C2000000/?n_cid=BMSR3P001_202106041436 (日経新聞 2021年6月4日) 20年出生率1.34、5年連続低下 13年ぶり低水準 厚生労働省が4日発表した2020年の人口動態統計によると、1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率は1.34だった。前年から0.02ポイント下がり、5年連続の低下となった。07年(1.34)以来の低水準となっており、新型コロナウイルス禍の影響も重なり21年には一段と低下する可能性が高い。出生率は団塊ジュニア世代が出産適齢期に入ったことを背景に、05年の1.26を底に緩やかに上昇し15年には1.45となった。その後、晩婚化や育児と仕事の両立の難しさなどが影響し、再び低下基調にある。20年の出生率を女性の年代別にみると20代以下の低下が目立つ。最も出生率が高かったのは30~34歳で、0.0002ポイント前年を上回った。40歳以上の出生率もわずかに伸びたものの、全体として20代以下の落ち込みを補うことはできなかった。20年に生まれた子どもの数(出生数)は過去最少の84万832人で、前年から2.8%減った。婚姻件数は12%減の52万5490件となり、戦後最少を更新。コロナ禍による経済不安や出会いの機会の減少などで、若い世代が結婚に踏み切りにくくなっている。厚労省がまとめている妊娠届の減少などをもとに日本総合研究所の藤波匠・上席主任研究員が試算したところ「21年の出生数は80万人割れの可能性が高い」という。20年の死亡者数は137万2648人となり、前年から8445人少なくなった。高齢化で死亡者数は増加基調が続いていたが、前年の水準を割り込むのは11年ぶり。死因別ではコロナで3466人が亡くなる一方、肺炎で亡くなる人が前年より1万7073人少なくなった。手洗いやマスク着用、接触機会の減少などコロナの感染対策が他の感染症などによる死者数を減らしたとみられる。死亡者数から出生数を引いた自然減は53万1816人と過去最大の減少となった。 *1-3-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/689885 (佐賀新聞 2021年6月11日) 出生数最少84万人、急減の流れを止めたい 2020年生まれの赤ちゃんは統計開始以降最少の84万832人となった。女性1人が生涯に産む子どもの推定人数「合計特殊出生率」は1・34。婚姻件数も52万5490組と戦後最少だった。新型コロナウイルス流行で結婚、妊娠を避ける男女が増え少子化が加速。21年の出生数は従来推計より10年早く70万人台に落ちることが濃厚だ。このままだと将来の働き手減少、社会保障の担い手不足がさらに深刻となる。近隣アジア諸国も同じ状況に危機感を強める。この流れを止めるため、政府、自治体は子どもを産み育てやすい環境を早急に整える政策を具体化しなければならない。コロナ禍で母子への感染不安が高まり、立ち会い出産、里帰り出産も難しくなった。行政側は相談態勢強化、里帰りできない人の育児支援、さらには妊婦が感染の不安なく通院でき、感染した場合でも十分なケアの下で出産できる医療体制整備に一層力を注ぐべきだ。雇用情勢悪化による解雇や給料カットで経済的余裕を失ったカップルが多いことも出生数減少に響いている。今彼らを支えなければワクチン接種が進んでも出生数回復が難しくなる。政府は困窮世帯に3カ月で最大30万円の支給などを行うが、結婚や出産を後押しする観点での新たな支援に乗り出すべきではないか。父親の家事育児参加を促すため、子どもが生まれて8週間以内に計4週分休みを取れるようにする「男性版産休」を盛り込んだ改正育児・介護休業法が成立した。こうした基本的な子育て環境の整備も官民一体で引き続き推進する必要がある。出生数最多は第1次ベビーブームの1949年の269万人超。71~74年の第2次ブームも年200万人を超えた。その後減少し2019年に初めて90万人を割り込み、第1次ブーム当時の3分の1程度に落ち込んだ。移民など国境を越えた人の移動を除けば国の人口増減は出生数と死亡数で決まる。近代以降、母子の栄養、健康状態が改善し乳児死亡率が下がった。そうなれば昔のように子どもを多く産む動機が薄れる。医学の進歩で平均寿命は大きく延びた。感染症流行という突発要因がなくても、こうした「文明の発展」に連れ人口構造が「多産多死」から「少産少死」へ変化する大きな流れにはあらがえない。が、何とかその進行速度は抑えたい。一足早く人口減少期に入った日本のみならず中国、韓国も思いは同じだろう。コロナ禍に見舞われた20年の中国の合計特殊出生率は1・3と日本を下回り、共産党は16年の「一人っ子政策」廃止に続き第3子まで容認する方針を決めた。韓国も20年の出生数が前年比10%減で初めて人口が自然減になった。出生率は0・84と極端に低い。少子化は東アジア全域で加速している。少子高齢化がピークに近づく40年ごろの日本は、ただでさえ不足する就業者の5人に1人が医療・福祉の仕事に取られる社会となることが予想される。それに向け日本政府は、国内の介護事業の要員にアジア諸国からの技能実習生を呼び込む。一方、アジアの高齢化をビジネスの好機と捉え日本式介護事業を輸出する構想も進む。各国の少子化は東南アジア諸国も巻き込む人材争奪を呼び日本の高齢者介護を揺るがしかねない。出生数急減を何とか乗り越えたい。 *1-3-4:https://digital.asahi.com/articles/ASP697453P69ULFA010.html?iref=comtop_7_06 (朝日新聞 2021年6月9日) 脱炭素など4分野重視、財政目標見直しに含み 骨太原案 政府は9日の経済財政諮問会議で、今年の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」の原案を公表した。グリーン(脱炭素)、デジタル化、地方創生、子育て支援の4分野に予算を重点配分する方針を明記。2025年度に国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)の黒字化をめざす財政再建目標は、今年度内にコロナ禍の影響を踏まえて検証するとし、目標時期の見直しに含みを持たせた。骨太の方針は、政府の経済財政運営や来年度予算案の基本となる。昨年9月に発足した菅政権としては初めての方針で、与党などとの調整を経て、6月中旬に閣議決定する予定だ。原案によると、重点4分野のうち、政権がめざす脱炭素化に向けては、2兆円規模の基金や優遇税制などで企業の投資を後押し。炭素を出さない電気自動車や燃料電池車の普及を進める。再生可能エネルギーの主力電源化にも「最優先の原則」で取り組むとした。デジタル化では、9月に発足するデジタル庁を中心に行政手続きのオンライン化を5年以内に進める一方、マイナンバーカードの健康保険証や運転免許証との一体化などでカードの普及を加速させるとした。子育て支援では、児童手当などの既存の施策を総点検し、具体的な評価指標を定めた「包括的な政策パッケージ」を年内につくるとした。与党内で浮上する「子ども庁」については、子どもの問題に対応する行政組織を創設するため、「早急に検討に着手する」と記すにとどめた。地方関連では、都市との賃金格差を埋めるため、菅首相がこだわる最低賃金の引き上げについて、「より早期に全国加重平均1千円とすることを目指し、本年の引き上げに取り組む」と書き込んだ。財政再建については、25年度のPB黒字化をめざす目標を「堅持する」と記し、22~24年度も、社会保障費の伸びをその年の高齢化による範囲におさえるなどの歳出抑制を続けるとした。しかし、目標については、コロナ禍による経済や財政への影響を今年度内に検証し、その結果を踏まえて「目標年度を再確認する」としている。巨額のコロナ対策で財政悪化は加速しており、検証の結果次第では、目標時期が先送りされる可能性もある。 ●「骨太の方針」原案の主なポイント 〈グリーン〉 ・再生可能エネルギーを最優先し、最大限の導入を促す ・成長に資するカーボンプライシングはちゅうちょなく取り組む ・電気自動車や燃料電池車の普及を促進 〈デジタル化〉 ・行政手続きの大部分を5年以内にオンライン化 ・22年度末までにマイナンバーカードをほぼ全国民に 〈地方創生〉 ・都市部と地方の二地域居住・多拠点居住を促進 ・最低賃金はより早期に全国加重平均千円を目指し、本年の引き上げに取り組む 〈子育て支援〉 ・包括的な政策パッケージを年内に策定 ・子どもの課題に対応する行政組織創設の検討に着手 〈コロナ対策〉 ・緊急時対応はより強力な体制と司令塔の下で推進 ・感染症有事の体制強化で、法的措置を速やかに検討 〈財政〉 ・25年度の基礎的財政収支黒字化目標を堅持。年度内にコロナ禍の影響を検証し、目標年度を再確認 ・社会保障費の伸びをおさえる歳出抑制策などを22~24年度も続ける ・歳入面での応能負担を強化する 〈その他〉 ・経済安全保障の取り組みを強化 *1-3-5:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC06D5C0W1A400C2000000/ (日経新聞 2021年6月10日) 世界でホットな地熱発電 出遅れ日本も「地殻変動」 脱炭素の流れを受け、世界で地熱発電が盛り上がっている。再生可能エネルギーの中でも、太陽光や風力のように天候に左右されない安定性が評価され、発電容量は10年で4割増えた。世界3位の潜在量を持ちながら原子力優先で出遅れた日本も、政府が2030年に発電所を倍増させる方針を掲げ、にわかに「地殻変動」が起きている。 ●地熱発電所、2030年に倍増 「地熱は稼働までの期間が長いが(温暖化ガスの排出量を13年度比で46%減らす30年度に)間に合わせたい。環境省も自ら率先して行動する」。小泉進次郎環境相が4月下旬に開発加速を宣言した地熱発電。6月1日には、河野太郎規制改革相が30年に地熱発電施設を倍増する目標を掲げ、脱炭素電源の有力な選択肢として浮上してきた。地熱発電は地下から150度を超す蒸気や熱水を取り出してタービンを回し発電する。昼夜ほぼ一定の出力で発電でき、再生エネ電源の中で安定性は群を抜く。設備利用率は70%強と太陽光、風力の10~20%程度をはるかに上回る。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、20年末の発電容量は1400万キロワットを超え、10年で約4割増えた。直近5年で伸びが著しいのがトルコだ。00年代から政府系の地質調査所が資源量の調査を進め、国策として事業者の参入を促した。英BPなどによると、10年時点で9万キロワットだった発電容量は20年に154万キロワットへ急増した。東アフリカのケニアでも、発電容量が119万キロワットと過去10年で6倍に増えた。国際エネルギー機関(IEA)統計などによると同国の発電容量の半分近くを占める。干ばつで発電量が安定しづらい水力発電所の代替手段として地熱発電が盛んだ。地熱のエネルギー源は地下のマグマの熱で、資源量が多いのは環太平洋火山帯に位置する地域と、アフリカの一部地域やアイスランドなどとなっている。潜在する資源量は米国が3000万キロワットと首位に立ち、インドネシア、日本が続く。世界3位の日本は潜在する資源量2340万キロワットに対し、実際の発電導入量は20年時点で55万キロワットにとどまる。10年前からほぼ横ばいだ。米国やインドネシアが事業者への税制優遇や政府支援などで、20年の導入量をそれぞれ10年比12%増の370万キロワット、同92%増の228万キロワットまで伸ばしたのとは対照的だ。 ●日本の開発コスト高く 日本市場が低調な理由はいくつかある。まず、開発コストの高さが挙げられる。西日本技術開発(福岡市)の金子正彦・特別参与が経済協力開発機構(OECD)の資料などで調べたところ、日本は地熱発電所を建設してから稼働を終えるまでに1キロワット時当たり税抜き10~18円の費用がかかる。これに対し米国は5~9円、ニュージーランドは3~5円と低い。山間部が多い日本は平地主体の海外と比べ工事費が膨らみがちだ。掘削技術や大型の重機をもつ企業も限られる。地熱開発は油田と同じで掘ってみないと正確な資源量が分からない。国内では資源量の調査から稼働まで、平均15年近くかかる。実際の成功率は3割程度といわれ、1本に5億円強かかる井戸を当てるまで複数、掘り続ける必要がある。こうした事業リスクをのんで長期投資できるような民間企業はごく一部に限られる。石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の安川香澄・特命審議役は「ある程度まで地熱開発が進んで民間任せになった途端、開発が止まるのはよくあるケース」と指摘する。地熱開発には国の後押しが不可欠なのだ。国内ではオイルショックの起きた1970年代から地熱開発の機運が盛り上がったが、90年代に入ると原発政策に押されて勢いを失った。これが2つ目の理由だ。出力1万キロワットを超す地熱発電所の新設は96年稼働の滝上発電所(大分県九重町)を最後に冬の時代に突入。19年の山葵沢発電所(秋田県湯沢市)まで23年間なかった。業界関係者からは「塩漬けの20年」などと呼ばれる。 ●タービンの世界シェア6割 国内市場が低調な半面、日本企業の技術は世界で求められている。地熱発電用タービンでは、東芝や三菱重工業など日本勢の世界シェアが6割強に達する。「この数年でインドネシアや東アフリカからの引き合いが強まった」と話すのは東芝エネルギーシステムズ海外営業戦略部の川崎博久氏。同社は建設中の発電所を含めて米国やケニアなど11カ国でタービンを納入した。海外メーカーと比べ出力が低下しづらく、長期の使用にも耐えられる点が特長だ。低い温度でも1000キロワットから発電できる小型地熱発電を商品化するなど、この分野では世界の先頭を走る。三菱重工も13カ国にタービンを納入し、特にアイスランドではシェアが55%に達している。同国は地熱発電所の温排水を利用した温泉リゾート「ブルーラグーン」で知られ、自国の電力を全て再生エネでまかなう。三菱重工は地熱開発の初期段階で国営電力と取引が生まれ、その後の連続受注に繫がった。設備の設計や調達、建設まで一括で請け負う点も評価されている。商社も海外企業とEPC(設計・調達・建設)契約を結び、海外でノウハウをためる。豊田通商は現代エンジニアリングと共同で世界最大規模のケニア・オルカリア地熱発電所(最大出力28万キロワット)を受注した。伊藤忠商事と九州電力はインドネシア・サルーラ地区の地熱プロジェクトに開発段階から参加。18年までに3基が稼働し、総出力は33万キロワットにのぼる。脱炭素の流れを受け、日本でも地熱発電は見直されつつある。北海道では環境省が15年に国立・国定公園の「第1種特別地域」の地下で域外から斜めに穴を掘って開発できるよう規制を緩和し、企業の進出構想が相次ぐ。22年に北海道函館市でオリックスが道内40年ぶりとなる大型地熱発電所を稼働。出光興産がINPEXと組んで北海道赤井川村で計画中の地熱発電所は、国内最大級の出力との観測もある。小泉環境相は関係法令の運用見直しなどで、地熱発電の稼働にかかる時間を最短8年まで縮める方針も明らかにした。技術もポテンシャルもあるのに、導入量は低調――。そんな状況を覆す素地が整いつつある。 *1-3-6:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/690450 (佐賀新聞 2021年6月12日) 全国知事会議、コロナ後の地方像を 今後1年の活動方針を決める全国知事会議が新型コロナウイルス感染症の流行のため2年連続オンライン方式で開かれた。「新型コロナ感染抑制に向けた行動宣言」「ポストコロナに向けた日本再生宣言」などがまとめられたように、コロナ対策が議論の柱となった。会議では多くの知事が、10月から11月にかけ必要な国民のワクチン接種を全て終えるとの菅義偉首相の目標に対し意見を述べている。いつどの種類のワクチンが自治体に供給されるのか早急にスケジュールを示すべきだと強く求めた。さらに千人以上の大企業などから始める職場接種には、地方の中小企業が置き去りにされるとの批判もあった。迅速な接種には、自治体が発送する接種券の有無をどうするかも含めて、地元に接種体制を任せる柔軟な対応が必要ではないか。第5波の可能性、特に感染力が強いデルタ株(インドで確認された変異株の一つ)流行への懸念も強く示された。国の検査体制の充実を求める声が出たのも当然と言える。知事らもワクチンがコロナとの闘い方を大きく変える「ゲームチェンジャー」と認識する。だが、国からのワクチン供給の見通しが立ちにくく、都道府県や市区町村は、態勢づくりに苦労してきた。菅氏が4月に高齢者の接種を「7月末をめどに終了」と表明してからは、達成するよう国から強い圧力を受けている。国と地方の関係は対等ではなく、昔の上意下達に戻った雰囲気である。会議では「まん延防止等重点措置」の適用を知事が要請して政府が決定するまで時間がかかり過ぎるとして、手続きの簡素化を求める意見もあった。緊急事態宣言の対策では、自治体が選べるよう求める声もあった。感染の状況を分かっている自治体が、自ら対策を組み立てられるよう自由度を上げるべきである。病床の逼迫(ひっぱく)に備えて、都道府県境を越え広域搬送する仕組みをつくるべきだとの提案もあった。これらの実現に関係法の改正が必要であれば、今国会を延長してでも国は迅速に対応してほしい。本来なら昨年のうちにコロナ対策や迅速な接種の在り方を広く議論し、必要な態勢を整えておくべきだった。それを政府は怠った。対策に国の戦略性が乏しいのもそのためだ。感染症と最前線で向き合う医療関係者や自治体が、つけを払わされていると指摘できる。コロナ禍は、給付金の支給やワクチン接種での「行政のデジタル化の遅れ」を浮き彫りにし、地域経済を支える飲食や観光、交通などの事業者に大きく影響した。今後の地方活性化の方向性として知事会は、デジタル化を進めるとともに、第5世代(5G)移動通信システムに対応する通信網を基礎的なインフラとして全国普及させるよう提言した。オンラインでの診療や遠隔手術も可能となり都市との医療格差も縮小する。リモートワークの普及にもつながると期待したい。2050年に脱炭素社会を実現するには、再生可能エネルギーの普及が不可欠である。土地や風、バイオマスなどが多い地方には有利だ。知事会が提案する「新次元の分散型国土」を創出するチャンスである。国の地方創生策に手詰まり感があるだけに、コロナ後の国土の在り方、地方重視の国土政策を地方から打ち出すべきである。 *1-3-7:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14937001.html (朝日新聞 2021年6月12日) 64歳以下の接種、誰を優先 各自治体、独自で判断 高齢から順番・20~30代・職種別 コロナワクチン 新型コロナウイルスワクチンについて、1回目の接種を終えた65歳以上の高齢者らが3割となる中、「64歳以下」への接種に乗り出す市区町村が目立ち始めた。感染拡大を防ぎ、接種ペースを加速させるため、市区町村ごとに独自に優先対象枠を設定する動きも広がっている。ワクチン接種について、政府は当初、供給量が限られることなどから、(1)医療従事者ら(2)高齢者(3)基礎疾患のある人、高齢者施設などで働く人、60~64歳の人などと順番を決めていた。だが、ワクチン供給が本格化した5月以降、方針を修正。64歳以下の接種は各市区町村に判断を委ねることとした。各市区町村がこれまで明らかにしている方針をみると、政府が当初示した通りの60~64歳や、教育関係者を対象とするところが目立つ。一方で、独自の優先対象枠を設けるところも。大まかに分類すると、「年代」と「職種」に分かれている。例えば東京都新宿区では、59歳以下の集団接種については20~30代の予約を優先するとしている。都内では7日までの1週間の新規感染者のうち、20~30代が5割近くを占める。こうした状況を踏まえ、新宿区は行動範囲が広く比較的症状が出にくいとされる20~30代にいち早く接種することで、他の世代への感染を防ぐ狙いだ。一方、夏の観光シーズンを前に、沖縄県では観光業界に携わる人を対象とする動きも。沖縄本島北の2島からなる伊平屋(いへや)村では、宿泊業やダイビングショップ、飲食店従業員、島外との唯一の交通手段であるフェリーの船員らの優先接種を始めた。村の担当者は「小さな島の中でも行動範囲が広く、多くの人に触れあう可能性がある人に先に接種してもらうことにした」と説明する。 ■1日100万回、急ぐ政権 政府が64歳以下にも対象を拡大するのは、菅義偉首相が掲げる「1日100万回接種」を、できるだけ早く実現させたいからだ。官邸幹部の一人は「ワクチン接種が進めば、なんとなく政権に好感が持たれる。五輪への雰囲気も徐々に変わってくる」と期待する。「7月末までに高齢者接種を終わらせる」「10月から11月にかけて、必要な国民、希望する方、すべて(の接種)を終える」。首相自らがこうした具体的な目標を掲げることで、コロナ対策が進んでいることを国民にアピールするとともに、自治体などの接種現場を動かす「圧力」とする狙いがある。さらに一般の人も対象にした企業や学校などでの「職域接種」は21日からで、先に準備が整った企業では来週にも始まる。予約に空きの目立つ自衛隊による大規模接種センターについては、対象年齢を64歳以下に引き下げることを検討する。接種機会の公平性をどう担保するかなどの課題も多いなか、政府関係者はこう説明する。「自治体ごとに差が生じるとの意見はあるが、できるだけ早く接種を進めるということこそが、一番大事だ」 <年齢差別> *2-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODZ202BP0Q1A320C2000000/?n_cid=NMAIL006_20210419_Y (日経新聞 2021年4月19日) YKK、正社員の定年廃止 生涯現役時代に企業が備え 日本企業が「生涯現役時代」への備えを急いでいる。YKKグループは正社員の定年を廃止。ダイキン工業は希望者全員が70歳まで働き続けられる制度を始めた。企業は4月から、70歳までのシニア雇用の確保が求められるようになった。少子高齢化に歯止めがかからず人手不足が続く中、企業がシニアの意欲と生産性を高める人事制度の整備に本格的に乗り出した。YKKは4月、国内事業会社で従来の65歳定年制を廃止し、本人が希望すれば何歳までも正社員として働けるようにした。同社は職場での役割に応じて給与が決まる役割給を採用している。今後は会社が同じ役割を果たせると判断すれば、65歳以上でも以前の給与水準を維持できるようにした。「従来も年齢だけを理由に処遇を変えたり、退職させたりするのは公正でないという考えが強かった」と同社幹部は説明する。同社は今後5年間で約800人が従来定年の65歳に到達する見通しだった。その大半が正社員としての雇用継続を希望するとみられる。定年廃止による新規の採用抑制はしない。人件費が増える可能性があるが、人手不足の中、熟練技能者などシニア活用のメリットは大きいと判断した。三谷産業も21年4月から再雇用の年齢上限をなくし、65歳以上は1年ごとの更新制とした。再雇用者になかった昇給制度も設ける。専門知識や人脈を生かし、社内外の技術指導や営業先の開拓など本業以外の仕事で貢献した場合、別途報酬を支払う「出来高払いオプション制度」も新設した。実力あるシニアが現役に近い報酬を得られるようにする。ダイキンの定年は60歳で従来は65歳まで希望者を再雇用していた。今回、再雇用の期間を5年延長した。原則一律だった再雇用者の賞与も成果に応じて4つの段階を設け、最大1.6倍の差がつくようにした。シニアの働く意欲を引き出す。三菱ケミカルも22年4月、現在60歳の定年を65歳に引き上げる。将来の定年廃止も検討している。給与制度は能力・経験に基づく職能給と、仕事の成果・役割に基づく職務給で構成していたが、21年4月から職務給に一本化した。各社が対応を急ぐ背景には21年4月に施行された改正高年齢者雇用安定法がある。従来制度で企業は従業員が希望する限り65歳まで雇用を継続する義務があるが、法改正で70歳まで就業機会確保の努力義務が課された。年金の支給開始年齢が段階的に引き上げられるなか、所得の空白期間をなくすための措置だ。大半の企業は再雇用期間の単純延長などで対応するが、多くは現役時代に比べて2~5割程度給与が下がる。シニアのやる気と生産性の低下が課題だ。定年を廃止する企業は、成果に応じた賃金制度を導入するなどして給与の減少を一定程度にとどめる。企業がシニアに期待する役割はさまざまだ。20年10月に60歳定年を廃止したシステム開発のサイオスグループは、IT(情報技術)人材が不足するなか、案件遂行で経験豊富な中高年の技術者取り込みを狙う。成果に応じた評価をシニアでも徹底する。製造業では生産管理部門などでベテラン技術者のニーズがある。一方、専門性のない一般管理職などはシニアのニーズは少ない。三谷産業などは、新たな再雇用制度の開始に合わせ、全社員にキャリア面談を義務付け、定年後を見据えたスキル習得を支援する。定年は世界では一般的でない。米国や英国などは年齢を理由とする解雇は禁止・制限されている。一方、厚生労働省の20年の調査では国内で定年のない企業は2.7%にとどまる。日本の賃金は年功色が強く解雇規制も厳格なため、単純に定年を延長・廃止すれば、人件費増加に歯止めがかからなくなる。みずほリサーチ&テクノロジーズが再雇用などで70歳まで働く人が増えた場合の影響額を20年に試算したところ、65~69歳の従業員にかかる企業の人件費は30年時点で19年比6%増の5.5兆円に、40年時点で同29%増の6.7兆円に増える。定年を廃止する場合、高齢になり職務を十分に果たせなくなったシニアを解雇する仕組みも必要になる。話し合いを通じた双方の合意で契約を終える形を想定している企業が多いが、合意に至らないケースも考えられるからだ。金銭補償などを伴う解雇ルールの策定も求められる。 *2-1-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14894047.html (朝日新聞 2021年5月5日) 70歳まで働く機会、中小の対応まだ3割 コロナ禍、人件費増も重荷 70歳まで働く機会の確保を企業の努力義務と定める改正高年齢者雇用安定法が4月に施行されたのを受けて、日本商工会議所が中小企業に対応を聞いたところ、必要な対応を講じているのは約3割にとどまることがわかった。新型コロナウイルスの感染拡大で企業の業績悪化が目立つ中、人件費の負担増につながる施策の導入は難しい。中小企業にとって、法改正への対応はハードルが高いことがうかがえる。日商が4月14~20日に全国の会員企業2752社を対象に調査し、76.2%から回答を得た。4月30日に発表した調査結果によると、「必要な対応を講じている」企業が32.6%あった一方、「具体的な対応はできていない」は31.9%。「具体的な対応を準備・検討中」は10.6%だった。日商は「就業規則や労働環境の整備も必要で、コロナ禍で対応が遅れた面もあるのでは」(産業政策第二部)とみている。必要な対応を講じている企業の具体策(複数回答)は、70歳までの継続雇用制度の導入(65.8%)、定年制の廃止(20.2%)の順に多かった。「対象の社員がいない」「対象の社員はいるが、努力義務である」ことを理由に「対応予定はない」と答えた企業も計24.9%にのぼった。「専門職の技術者の再雇用には同一労働同一賃金の対応が課題で、なかなか検討が進まない」との声もあったという。日商は30日、4月から中小企業に適用された「同一労働同一賃金」への対応について、適用直前の2月に実施した調査結果も発表した。回答のあった全国の中小企業約3千社のうち、「対象になりそうな非正規社員がいる」のは445社。このうち「対応のめどがついている」のは56.2%にとどまった。昨年2~3月の前回調査より9.5ポイント増えたが、対応が遅れている企業も多い。 *2-2-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/747686/ (西日本新聞社説 2021/6/1) 高齢医療負担増 公平で持続可能な制度に 急速に進む社会の高齢化に対応するため、全ての世代に公平で、持続可能な医療保険制度の構築を急がねばならない。75歳以上の後期高齢者で一定収入がある人を対象に、医療費の窓口負担を1割から2割に引き上げる医療制度改革関連法案の参院審議が大詰めを迎えている。今国会で成立の見通しだ。年収が単身で200万円、夫婦世帯で計320万円以上の約370万人に、2022年度後半から新たな負担が加わる。現役世代並みの所得がある人は既に3割負担になっている。年収には年金も含まれ、負担増は後期高齢者の約2割に当たる。改革の眼目は現役世代の負担軽減だ。後期高齢者の医療費のうち自己負担分を除く約4割は現役世代の保険料から支援金という形で賄われている。本年度は総額6兆8千億円(1人当たり6万4千円)に上る。このままでは団塊の世代が全て後期高齢者となる25年度の支援金は8兆1千億円(同8万円)に達すると厚生労働省は試算する。法案審議でも現役世代の負担軽減に異論はなく、論点は対象の線引きと受診控えによる健康悪化の懸念にほぼ絞られた。厚労省の試算は負担引き上げに伴う受診減を織り込み、75歳以上の医療費が年約900億円減少するとみる。一方、実際の負担については、当初の3年間は外来受診の負担増を月3千円以内に抑える経過措置を設けるほか、高額療養費制度の活用でも軽減を図れるとしている。医療費の膨張を考えると、本来必要がない受診の抑制は重要だ。ただし、本当に必要な受診を我慢した結果、健康が悪化してしまうことがあってはならない。政府の説明は「受診行動の変化のみで健康への影響を分析するのは困難」と繰り返すばかりで、不安は拭い切れない。高齢者側にとって、所得は同程度でも貯蓄の有無や必要な支出の多寡などで経済事情はさまざまだろう。所得ごとの受診記録などを基に健康の悪化につながっていないか、検証を続けることが必要だ。現在3割弱にとどまる健康診断受診率を高めるといった疾病を早期に発見する環境整備も求められる。今回の改革でも、現役世代の負担軽減効果は25年度で1人当たり800円程度にすぎない。法案の付則には、速やかに社会保障制度改革と少子化対策の総合的な検討に着手するよう書き込まれた。大きな宿題だ。後期高齢者医療制度の導入から既に13年になる。来年から団塊の世代が75歳に達し始めることは自明の理だったはずだ。必要な負担を国民に説くことは政治の責務である。改革本丸の先送りはもう許されない。 *2-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210607&ng=DGKKZO72637810W1A600C2PE8000 (日経新聞社説 2021.6.7) 高齢者医療の見直し続けよ 75歳以上の後期高齢者で一定以上の所得がある人の医療費窓口負担を2割に引き上げる医療制度改革関連法が成立した。政府はこの改正が現役世代の負担増を抑える小さな一歩にすぎないことを認識し、さらなる改革を急ぐべきだ。75歳以上の窓口負担は原則1割だが、今回の改正で単身世帯で年収が200万円以上、夫婦とも75歳以上の世帯では年収が320万円以上あると2割に上がる。約1870万人いる後期高齢者の2割が対象となる。実施日は2022年10月から23年3月までの間で政令で今後定められる。ただ現役世代が背負う荷を軽くする効果はごくわずかだ。後期高齢者の医療費を支えるために、現役世代は20年度に1人あたり6万3000円の支援金を労使で支払った。少子高齢化の進展で10年で1.4倍に増えている。25年度時点では1人あたり7万9700円まで増える見込みで、今改正の抑制効果は年800円程度しかない。新型コロナウイルス禍を理由に法改正を見送らなかったことは評価できるが、これで改革を打ち止めにしては困る。まずは2割負担の対象をもっと拡大し、これを原則とすべきだ。今回の改正だけでは、2割以上を負担する後期高齢者は、現役世代並みの所得があって3割負担になっている約7%の人を含めても全体の約27%にとどまる。22~25年には「団塊の世代」が75歳以上に到達し、現役世代の荷はさらに重くなる。高齢者を一律に弱者と位置づけて手厚く支える従来型の社会保障制度でこの難所を乗り切ることはできない。窓口負担は年齢と所得で線引きしているが、今後は資産に着目した制度設計が不可欠だ。高齢者のなかには所得は少なくても金融資産を持っている人もいる。収入・資産状況を把握するマイナンバーを使った改革を急ぐべきだ。若くても生活に困っている人は支えなければならない。年齢に関係なく、余裕がある人は支える側に回る制度にしたほうがいい。 *2-2-3:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1334324.html (琉球新報社説 2021年6月7日) 75歳医療費2割負担 社会保障の在り方改革を 一定の収入がある75歳以上の医療費窓口負担を1割から2割に引き上げる医療制度改革関連法が、参院本会議で成立した。人口の多い団塊の世代が2022年から75歳以上になり始め医療費が急増するため、高齢者に手厚い給付を見直し財源を賄う現役世代の保険料負担を抑える狙いがある。しかし、現役世代の負担軽減効果は限定的だ。逆に高齢者への負担増によって経済的理由から受診控えを招き、健康を損なうことになりかねない。小手先の見直しでなく、社会保障制度の在り方について、徹底的に論議する時期に来ている。21年度の75歳以上の医療費総額は18兆円(予算ベース)で、うち6兆8千億円を現役世代が「支援金」という形で負担している。22年度に高齢者の負担引き上げを1年間実施したと仮定すると、現役世代の支援金は720億円抑制されるが、1人当たりでは年700円、企業負担分を除くと月額約30円にすぎない。一方、2割負担の対象は、単身では年金を含む年収が200万円以上の人か、夫婦の場合は年収が合計320万円以上の世帯の約370万人。都道府県別にみると、沖縄県は15・2%が2割負担の対象になる。厚生労働省の試算によると、3年間の緩和措置を講じても窓口負担の年間平均額が約8万3千円から約10万9千円となり、2万6千円増える見込みだ。負担増による受診控えなどの影響について田村憲久厚労相は「受診行動はさまざまな要因で変わる。分析できない」と述べ、調査予定はないと国会答弁した。想定される影響を試算せず、所得基準を設定して負担増を求めるやり方は不誠実だ。実施後に受診控えの影響を調査すべきだ。日本福祉大の二木立名誉教授(医療経済・政策学)は「能力に応じて負担する考え方は保険料を徴収する時に用いるべきで、医療が必要となった段階では所得にかかわらず平等に給付を受けるのが社会保険の原則だ」と指摘し2割引き上げを批判している。それでは、どういう解決策があるのか。立憲民主党は、2割枠を新設せず窓口負担を原則1割のままとし、代わりに75歳以上の高所得者の保険料上限を引き上げることで、政府案と同等の財政効果を得られると主張する。負担能力を判断する「収入」に、貯金などの金融資産を含める意見もある。しかし、稼働所得が少ない高齢者に負担増を求めるのは極力避けなければならない。高齢化がピークに近づく40年に向け、抜本的な社会保障制度改革は避けて通れない。保険料や税の負担の在り方を議論する必要がある。同時に、結婚したくてもできない若者の貧困解消、子育てしやすい労働環境の改善、先進国の中で最低水準の教育支出の増額など少子化対策に一層力を入れなければならない。 *2-3:https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=66966?pno=2&site=nli (ニッセイ基礎研究所 2021年2月16日) 2019年における65歳時点での“健康余命”は延伸~余命との差は短縮傾向、保険研究部 准主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子 (1)65歳時点の健康余命も延伸 1)65歳の男性/女性の健康余命は14.43/16.71年 現在、一般的に使われている「健康寿命」は厚生労働省の基準によるもので、“健康”とは、「健康上の問題で日常生活に影響がない」ことを言う1。「日常生活」とは、たとえば「日常生活の動作(起床、衣服着脱、食事、入浴など)」、「外出(時間や作業量などが制限される)」、「仕事、家事、学業(時間や作業量などが制限される)」、「運動(スポーツを含む)」等、幅広い。この定義による2019年の健康寿命は、前稿2で示したとおり男性/女性それぞれ72.68/75.38年だった(筆者による概算)。65歳以上の各年齢の健康余命は、65歳時点で14.43/16.71年、75歳時点で7.96/9.24年だった(図表1)。平均余命は、65歳時点で19.83/24.63年なので、余命から健康余命を差し引いて、不健康な期間は男女それぞれ5.40/7.92年となる計算だ。「65歳時点の余命」は「寿命 – 年齢(65)」より長い。これは、平均寿命(=0歳児の余命)が65歳未満で亡くなる人の寿命を含んだ平均であるのに対し、65歳の平均余命は65歳まで生きた人のみで計算した余命だからだ。では、「65歳時点の健康余命」は?というと、やはり「健康寿命-年齢(65))」ではない。これは、健康寿命(=0歳児の健康余命)が65歳未満の不健康な期間も差し引いて計算しているのに対し、65歳の平均健康余命は65歳以降の不健康な期間のみを差し引いているからだ。 2)65歳の健康余命は延伸。平均余命との差は短縮の傾向 2001年以降の65歳時点の平均余命と健康余命の推移を見ると、いずれも延伸している(図表2)。その差は、調査年による差が大きいものの、平均余命と健康余命の差(65歳以上の不健康期間)は、男女ともどちらかと言えば縮小している。2019年は、2004年(15年前)と比べると、男女それぞれ平均余命は1.62年/1.35年、健康余命は96年/2.13年延びており、平均余命と健康余命の差は、それぞれ0.34年/0.78年短縮していた。 (2)健康上の問題で日常生活に影響がある割合は12年間で5ポイント程度低下 では、健康度状態はどの程度改善しているのだろうか。健康寿命の計算に使われているのは、「国民生活基礎調査」の「あなたは現在、健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか」という設問である。2019 年の結果は、全体の13.4%(男性12.0%、女性14.6%)が「健康上の問題で日常生活に影響がある」と回答していた。65歳以上の健康上の問題で日常生活に影響がある割合を年齢階層別にみると、男女とも年齢が高いほど健康上の問題で日常生活への影響がある割合が高い(図表3)。この割合は、時系列でみると、男女とも各年齢層で低下しており、2007年と2019年を比較すると、70~84歳で男女ともそれぞれ日常生活に影響がある割合は5ポイント程度低下している。こういった健康状態の改善が、平均余命の延伸を上回る健康余命の延伸につながっている。 (3)国全体では改善傾向。加齢や健康上の問題があっても制限なく日常生活を送ることができる社会の構築も重要 「健康寿命」という言葉は、高齢期における健康や生活に不安を感じている中、広く使われるようになった。2019年の健康寿命は男女それぞれ72.68/75.38年、65歳時点での健康余命は14.43/16.71年であり、いずれも延伸している。健康上の問題で日常生活に影響がある割合が、近年減少していることから、65歳以上では余命の延伸を上回って健康余命が延伸している。こういった健康状態の改善は、喜ばしいことである。しかし、この計算は、もともとは都道府県による健康格差を縮小することを目的として、保健医療に関する取り組みの計画や評価のために行われた。したがって、ある集団において同様の条件で計算し、諸外国や都道府県、時系列で比較するのに適している。一方で、その集団を構成する個人の健康状態は様々な状況にある。概算結果を、個人の生涯設計に適用するとすれば、寿命も健康寿命も「寿命 ‐ 年齢」よりも「ある年齢における余命」の方が長い傾向があること、および、今後、各種健康政策によって健康寿命を延伸したとしても日常生活に影響がある期間は一定期間生じるということだろう。65歳まで生きている人は、平均寿命より長生きすることが予想されるため、平均寿命を目安に老後の生活のための資産形成をするのでは不十分である可能性がある。また、健康上の問題で日常生活に影響がない期間も、健康寿命より長いことが予想される。また、国の政策としては、健康状態の改善と同時に、加齢や健康上の問題があっても、なるべく自立して日常生活を送ることができる社会を構築することも、重要となるだろう。 <外国人差別> *3-1:https://mainichi.jp/articles/20210519/ddm/005/070/039000c (毎日新聞社説 2021/5/19) 入管法の改正見送り 人権重視の制度が必要だ 非正規滞在となった外国人の帰国を徹底させる入管法改正案について、政府・与党が今国会での成立を断念した。各種世論調査で菅内閣の支持率が下がる中、採決を強行するのは困難だと判断した。廃案となる見通しだ。当然の対応である。改正案には人権上の問題が多く、国内外から批判の声が上がっていた。政府は、国外退去処分を受けた人が帰国を拒み、入管施設に長期間収容される状況の解消が法改正の目的だと説明していた。しかし、難民認定申請を事実上2回までに制限し、退去命令に従わない際の罰則を設ける内容だ。帰国できない事情がある人への配慮に欠けていた。政府は、国際水準に沿った形で入管法の改正案をつくり直す必要がある。日本の入管制度には、問題点が多い。昨年6月末時点で入管施設に527人が収容され、うち232人は半年以上が経過している。収容は入管当局だけで決められる。期間の制限もなく、国連の人権部門などが繰り返し懸念を表明してきた。金銭的に困窮したり、労働環境が劣悪だったりして在留資格を失うケースもある。非正規滞在になっても一定の条件の下、社会で生活できる仕組みが欠かせない。世界的に見て厳しい難民認定も見直すべきだ。審査基準が明確に示されていないことが問題だ。野党は、難民認定の権限を法相から独立組織に移し、収容に裁判所の許可を義務づける対案を出していた。参考にすべきだろう。国会審議では、名古屋市の入管施設に半年あまり収容されていたスリランカ人女性が死亡した経緯が問題視された。施設内で体調が悪化したにもかかわらず、必要な医療を受けられなかった疑いが出ている。入管当局の対応が適切だったかどうか検証することは、入管制度を考えるうえで重要だ。政府には真相を解明する責任がある。非正規滞在者が生まれる背景には、外国人を労働力の調整弁として受け入れてきた政策がある。人権を尊重した抜本的な制度改正が求められる。 *3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210603&ng=DGKKZO72533050T00C21A6EA1000+ (日経新聞 2021.6.3) 難民受け入れ、なお慎重 「入管法改正案」成立を断念、送還強化に海外から懸念 政府・与党は出入国管理法改正案の今国会での成立を断念した。現行法では、来日した外国人が難民としての認定を日本政府に申請している間は強制送還ができない。結果的に施設収容が長期化しているとして、改正案は繰り返し申請する人を送還可能にする規定を盛り込んだが、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)などは懸念を示していた。難民申請者らは安堵するものの、認定率が低い「難民鎖国」を脱する道筋は依然見えない。5月18日、政府が改正案を取り下げたと聞き、埼玉県川口市在住のトルコ国籍のクルド人男性(23)は「よかった」と目を潤ませた。9歳で家族と来日し、4回目の難民申請中。改正案が成立すれば送還の恐れがあった。就労は許されず、県外に出るにも入管の許可が必要だ。「それでも日本に残りたい。クルド人が迫害されるトルコに戻ればどんな目に遭うか分からない」と訴える。 ●一時2万人申請 難民申請中は強制送還されない現行制度について、改正案は3回目以上の申請なら効力を停止できるとの見直しを予定していた。出入国在留管理庁には、申請が乱用されているとの思いがある。申請から6カ月後に一律に就労を認める運用を始めた2010年に約1200人だったのが17年には2万人近くに達した。一方、運用を厳格化すると18年は半減。同庁は「退去回避や就労目的が相当数含まれていたことを示す」と主張する。ただ送還の強化で、本来保護すべき外国人を危険にさらす恐れもある。「非常に重大な懸念を生じさせる」。UNHCRは4月、改正案に強い表現で警鐘を鳴らした。生命や自由が脅かされかねない人の入国拒否や追放を禁止する国際法上の「ノン・ルフールマン原則」を損なうリスクがあるとの主張だ。弁護士らが「監理人」となり、その監督下で入管施設外で生活できる「監理措置」の新設にも批判が相次いだ。300万円以下の保証金支払いを条件に認める仕組みだが、逃亡の恐れがある場合などに監理人が入管側に届け出る義務を課しており、日本弁護士連合会などが「弁護士として依頼者の秘密を守る義務と両立しない」と反対した。日本は難民受け入れに後ろ向きだとして批判されてきた。NPO法人「難民支援協会」(東京)がUNHCRや法務省のデータに基づき作成した資料では、19年に日本で難民認定を受けたのは44人で認定率は0.4%。ドイツ(約5万3千人、25.9%)、米国(約4万4千人、29.6%)などと大きな開きがある。元UNHCR駐日代表の滝澤三郎・東洋英和女学院大名誉教授は「日本では難民に否定的なイメージが強く、政治家も難民問題に消極的だ」と話す。国は認定基準を厳格に運用してきた。中東やアフリカの紛争地から遠く現地の政治情勢などの情報が乏しいことも背景にあると滝澤氏はいう。 ●企業に活躍の場 一方で、紛争や差別、迫害から逃れてきた人を活用する動きもある。 ヤマハ発動機に、アフリカと日本を行き来する西アフリカ出身の30代の男性社員がいる。政治的迫害から逃れるため来日。難民認定を申請中だった19年に、中国留学中の起業経験などが評価され嘱託社員として採用された。今は別の在留資格に切り替えアフリカでの新規事業を担う。「文化や国民性の違いを越えてチームを束ねられる」。同社の白石章二フェローは高く評価する。男性と同社を仲介したNPO法人「WELgee」(東京)によると、16年の設立以来関わった難民申請者ら170人の53%が大学・大学院卒。医師や弁護士の経験者もいる。担当者は「日本企業のグローバル展開に貢献できる人材は少なくない」と説明する。出入国在留管理庁は法改正と別に、海外事例やUNHCRの立場を参考に難民認定のあり方を見直す方針だったが、送還強化を先行しようとし「排除より認定基準を変えるのが先だ」(難民申請に詳しい渡辺彰悟弁護士)と反発を受けた。難民政策の全体像を巡る議論は仕切り直しとなる。 *3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210502&ng=DGKKZO71562630R00C21A5EA1000 (日経新聞社説 2021.5.2) アジア系差別は看過できない 米国でアジア系の人々を標的にしたヘイトクライム(人種差別によって起きる犯罪)が目立っている。新型コロナウイルスが中国から広がったことへの反感がきっかけだが、現地の日本人まで事件に巻き込まれており、海の向こうの話では済まされない。差別解消に向けて、日本から、もっと声を上げるべきだ。3月にジョージア州であったマッサージ店銃撃事件では、アジア系女性6人が亡くなった。米世論調査会社ピュー・リサーチ・センターによると、コロナ感染が広がった昨年初め以降、アジア系住民の81%が危害を加えられる機会が増えたと感じているという。中国からの移民への差別は前からあったが、コロナに加え、米中関係の悪化も影響し、あつれきに拍車がかかった。多くの米国民には中国人も韓国人も日本人も同じに見えるため、出自が中国でないアジア系移民まで襲撃対象にされている。在米邦人を守る最良の方法は「よく見分けてくれ」ではなく、「ヘイトクライムはよくない」と広く自制を促すことだ。移民問題でよく話題になるヒスパニック(中南米系)の米国流入はこの20年間で70%増えた。実はアジア系は81%伸びている。米国民の中国嫌いを放置すれば、いずれアジア系全般への敵対心を助長しかねない。これは、外交・安全保障政策において、中国に毅然と対峙するのと別の話である。4月の日米首脳会談で、菅義偉首相がバイデン大統領にアジア系差別への懸念を伝えたことは評価できる。内政干渉と受け止められるのではないかと心配する声があったそうだが、菅首相は共同記者会見で「人種による差別はいかなる社会でも許容されないとの認識を共有した」と明言した。米国にもの申したからには、日本における人種差別にも厳しい目を向ける必要がある。すべての人が暮らしやすい世界をつくる一翼を担う気概を持って取り組んでもらいたい。 <雇用形態> *4-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/679481 (佐賀新聞論説 2021年5月21日) 同一労働同一賃金 正社員と非正規社員との間にある不合理な格差の解消を目指す「同一労働同一賃金」のルールが、4月から中小企業にも適用された。新型コロナウイルスの感染拡大の影響は企業経営に暗い影を落としており、中小企業の対応は決して万全とは言えないのが現状だ。日本商工会議所が2月に全国の中小企業約6千社を対象に実施した調査では、同一労働同一賃金について「対応のめどがついている」としたのは56・2%。前年同期に比べ9・5ポイント上昇したものの、4割強の企業がルール適用開始直前の時期に対応の見通しが立っていないとした。制度は不合理な格差の解消を求めているが、「不合理ではない」と具体的に説明できれば待遇差が認められる。ここに対応の難しさがある。厚生労働省が示すガイドラインは、通勤手当や出張旅費、慶弔休暇などでは正社員と同一の対応を求めている。一方で基本給では、能力や経験、業績・成果、勤続年数に応じて支給する場合は同一の支給を求めているが、「一定の違いがあった場合、その相違に応じた支給」を求める。こうした記述は賞与などでも見られ、あいまいな表現が目につく。さらに昨年10月には、非正規労働者と正社員の待遇格差を巡る訴訟で、最高裁が賞与と退職金などについて格差を認める判断を示しており、こうした事情も関係者を戸惑わせている。企業からは「何が不合理な待遇格差に当たるのか分からない」との声も聞こえる。厚労省は「働き方改革推進支援センター」を各地に設けて企業の相談に対応しており、県内にも佐賀市に設置されている。さらに、佐賀労働局では、昨年6月から同一労働同一賃金特別相談窓口を開設しており、本年度も継続している。相談窓口では、企業が対応の見通しを立てやすいよう細やかで具体的な助言、指導が必要だ。一方、企業側にも人事、賃金、福利厚生など各種制度の見直しへの本気度が問い掛けられている。そもそも同一労働同一賃金は働き方改革の看板政策と位置づけられ、労働人口が減少する中、労働生産性の向上と労働者の生活の質向上を両立させる狙いがある。2019年の日本の時間当たりの労働生産性は47・9ドルと経済協力開発機構(OECD)加盟37カ国中21位で、先進7カ国では最下位。低い労働生産性の要因の一つとして挙げられるのが、「メンバーシップ型」と呼ばれる日本特有の雇用形態だ。職務を限定せずジョブローテーションを繰り返しながら企業に貢献する人材を育成する。年功序列型賃金、終身雇用もこの特徴だ。報酬が勤続年数や労働時間に依存する側面がある、専門性が高い人材が育ちにくい、などの課題が指摘される。労働生産性向上の手だての一つとして注目されているのが、欧米型の「ジョブ型」雇用だ。正社員か非正規かにかかわらず、職務ごとに賃金を規定するスタイルで、メンバーシップ型を「就社」とするなら、業務内容に人を当てはめるジョブ型は「就職」といえる。「ジョブ型」は欧米でも各国で形態が異なるとされる。企業が今抱える課題を踏まえた上で、どのような形態が適しているのか。検討を重ねながら、改善への歩みを着実に進めたい。 *4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210609&ng=DGKKZO72695450Y1A600C2TCR000 (日経新聞 2021.6.9) 「無期転換」より正社員改革を 上級論説委員 水野裕司 労働法の目的は、企業との力関係で弱い立場にある個人を保護することだ。賃金や労働時間など労働条件の決定を企業と個人の自由な交渉にゆだねた場合に、個人は不利な条件を強いられることがある。そこに歯止めをかけるのが労働法の役割だ。労働基準法は残業の制限や時間外労働への割増賃金などの規定を設ける。最低賃金法はこの額は下回れないという賃金の基準を定める。働き手が健康を維持し、生活していけるだけの収入を得られるよう、労働条件決定に程度の差はあれ干渉する側面が労働法にはある。そのなかで介入の度合いの強さが際立つのが、2013年4月施行の改正労働契約法で新設された「無期転換ルール」だ。パート、派遣などの有期労働契約が5年を超えて繰り返し更新された場合、本人が希望すれば期間の定めのない無期雇用契約に切り替えられるようになった。有期から無期へという労働契約の枠組み自体を変更する権利を、一定の条件のもとで有期契約労働者に与えた点が特徴だ。契約の内容は当事者の自由な意思で決まり、国家は干渉しないという「契約自由の原則」を、正面から修正したものといえる。改正労契法には成立時、施行から8年後に無期転換ルールの利用状況を踏まえて必要な措置を講じるとの規定がおかれた。厚生労働省は今年3月、学識者による検討会を設置。有期労働者への周知や無期転換を申し込む機会の確保など、ルールの普及策を今秋以降まとめる予定だ。気になるのは、企業からみれば強引に無期契約の締結を迫られることの影響だ。労働政策研究・研修機構が企業に無期転換ルールへの対応を聞いたところ、通算5年を超える前も含め、何らかの形で無期契約に切り替えるという企業が6割を占めた。一方、契約更新の回数に上限を設けるなどで、「5年を超えないよう運用」という企業も1割近くあった。無期契約は昇給制度を必ずしもつくる必要がないが、正社員と同様に長期雇用なので人件費が重荷になり得る。人手不足を背景に無期契約に抵抗のない企業が多い半面、コスト増を嫌い、契約更新しない「雇い止め」を辞さない企業もあるのが実態だ。雇用を不安定にする要因になる。無期転換した人材の活用が壁にぶつかる例もある。「特定の仕事には力を発揮するが、配置換えをすると能力不足を感じることが多い」(建設会社)。有期のときと違い、長期雇用が前提になれば職務の柔軟な変更も珍しくなくなる。雇用する側もされる側も負担になる可能性がある。有期労働者は契約更新が企業の裁量による面があり、労働条件の交渉力がとりわけ弱い。その不安定な立場を改善するという無期転換ルールの考え方自体は理解できる。だが、負の影響が少なくないなかでルールの普及を図ることに無理はないのか。無期転換ルールは企業の「採用の自由」の制限にあたる。労働市場の需給調整機能もゆがめる。有期契約で雇用しようと考えている企業を萎縮させることは大きな問題だ。有期労働者の不安定な状況を改善するには、その根本原因に目を向ける必要がある。長期の雇用保障や年功賃金で正社員が手厚く保護され、コスト抑制策として非正規雇用が活用されている構造だ。企業は正社員に転勤や職種転換などを命令できる半面、採用後は解雇が厳しく制限される。正社員の雇用や賃金を雇われて働く人全体の4割近い非正規従業員が支えている。正規・非正規の格差是正には世界でも特殊な正社員システムの改革が不可欠だ。現実には長期雇用は縮小する方向にある。デジタル化の進展で企業はイノベーション力のある人材を外部からも集めなければならない。人材の新陳代謝が求められる。金銭補償とセットにした解雇規制の緩和や転職支援などの政策で、雇用の流動化を推し進めるときに来ている。無期転換ルールも特権的な正社員のあり方も、行き過ぎた労働者保護という点が共通する。日本の労働法制の問題点を象徴している。 *4-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210505&ng=DGKKZO71581610U1A500C2CC1000 (日経新聞 2021.5.5) 職歴尊重の判決 「ジョブ型」映す、高裁、専門外への配転「無効」 一般職種も保護の流れ 運送会社で運行管理などを任されていた社員に倉庫勤務を命じた人事異動を無効とする司法判断が注目されている。名古屋高裁が1月、保護するキャリアの対象を高度なIT技術者や医師など専門職から一般的な職務にまで広げた。労働者が積み重ねた職歴と本人の意向を重視した雇用のあり方を後押しするのではないか――。働く人々の期待は大きい。「職種=事務職員(運行管理業務)、職務内容=事務所内での配車など」。東海地方に住む50代の男性は2015年、ハローワークで愛知県内の運送会社の求人を見つけて応募した。男性は「運行管理者」の国家資格を持ち、運転手への乗務の割り振りや疲労度を把握するといった経験を複数の会社で重ねていた。採用面接の際、以前の勤務先を辞めた理由について「運行管理などをしたかったが、夜間の点呼業務に異動させられたから」と説明すると、会社側は「夜間点呼への異動はない」と応じ、男性を採用した。入社後は運行管理や配車を任され、3カ月もたたない16年1月、運行管理者の統括役に任命された。しかし、程なくして「配車方法に偏りがある」という運転手の苦情や高速道路料金の増加などを会社側が問題視するようになる。男性は17年5月、「業務の必要により社員の配置転換を行う」との就業規則に基づき倉庫部門の勤務を命じられた。納得できない男性は「採用時に職種を限る合意があった」として会社を提訴。会社側は訴訟で「職種を限る合意はなかった」とした上で「会社が業界で生き残るために拡大していた倉庫業務の新たな担当者として適性を検討した結果だった」と合理性を主張した。意に沿わない配置転換は多くの働き手にとって避けては通れない。配転命令の合理性については、最高裁が1986年の判決で▽業務上の必要性▽動機や目的の正当性▽労働者が被る著しい不利益――といった判断枠組みを示している。19年11月の一審・名古屋地裁判決は、職種を限定する合意はなかったとしながらも、配転先の業務内容は「運行管理者として培ってきた能力や経験が生かせるという(男性側の)期待に大きく反する」と指摘。業務上の必要性が高かったとは言えず、不慣れな肉体労働を命じられる可能性なども踏まえて「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせた」として配転命令を無効と認めた。二審・名古屋高裁判決も一審判決を支持し「能力や経験を生かせない業務に漫然と配転した。権利の乱用に当たる」と言及。会社側は上告を見送り、判決は確定した。培ったキャリアなどを考慮して配転無効を認める司法判断は、ここ10年ほどで広がってきた。大手企業から転職しプロジェクトリーダーを務めた後に倉庫係への配転を命じられたIT技術者や、外科医が臨床の現場から外された例がある。ただ、これまで法的保護の対象は高度な技能を持った労働者に限られており、名古屋高裁判決は、より一般的な業務も保護すべきキャリアと明確に判断した。この間、人口減少を前提に、限られた人材でいかに成長力を高めていくか、雇用を巡る企業の模索が続いてきた。経団連は20年の春季労使交渉で、職務と職責を明示する「ジョブ型雇用」を高度人材の確保に「効果的な手法」だと指摘。今年1月に公表した調査では、回答した会員企業の25.2%が、正社員に職務・仕事別の雇用区分を設け、このうち35%がジョブ型を導入していた。東京大の水町勇一郎教授(労働法)は「判決はジョブ型雇用など専門性を生かした働き方が浸透する社会情勢を反映している」と評価する。「法的に保護される可能性がある労働者の幅を大きく広げたといえ、個人のキャリア形成の意向を尊重する流れが加速しそうだ」と話している。 <不合理な政策が通る理由は何か> *5-1-1:https://digital.asahi.com/articles/ASP6K3VS4P6KULFA00W.html?iref=comtop_7_03 (朝日新聞 2021年6月17日) 「ワクチン証明書」を発行へ 7月から、交付は市区町村 加藤勝信官房長官は17日の閣議後会見で、新型コロナウイルスワクチンの接種を公的に証明する「ワクチン証明書」の発行を7月中下旬から始める方針を明らかにした。当面は、日本からの海外渡航者向けに発行するという。加藤氏は「予防接種法に基づくワクチン接種を実施し、記録を管理している市区町村において、発行していただく」と説明。そのうえで「まずは書面での交付とし、電子での交付も見据えて検討を進める」と述べ、早ければ来週にも自治体に対しての説明を始める考えを示した。政府は、加藤氏のもとに検討組織を設置していた。海外で入国時にワクチン接種の証明を求める動きがあることを踏まえたもので、ワクチン接種の有無による国内での差別を防ぐため、証明書は海外との往来を主な目的とする方針。 *5-1-2:https://www.yomiuri.co.jp/politics/20210616-OYT1T50211/ (読売新聞 2021/6/16) 「まん延防止」解除後、イベント制限を「1万人以下」に緩和へ…五輪観客数に適用も 政府は16日、新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言と「まん延防止等重点措置」を解除した地域で、大規模イベントの参加人数制限を段階的に緩和する方針を固めた。これまで「5000人以下」としていた基準を「1万人以下」とする考えだ。宣言と重点措置の対象地域では、イベントの参加人数は「5000人以下」かつ「収容定員の50%以内」に限られている。今回の緩和は、宣言や重点措置を解除した日から約1か月間の「経過措置」となる予定だ。その後、問題がなければ、さらに人数制限を緩和する見通し。一方、宣言から重点措置に移行した地域では、これまで通り「5000人以下」の制限を続ける。政府は16日、専門家でつくる新型コロナ対策分科会に緩和基準案を示し、了承を得た。会合後、西村経済再生相は記者団に「東京五輪・パラリンピックの観客の上限のあり方を決めたわけではない」と述べた。ただ、7月23日に開幕する東京五輪の観客数上限にも適用される見通しだ。 *5-1-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14941581.html (朝日新聞 2021年6月17日) 子どもへ「個別接種が望ましい」 説明・健康観察「入念に」 小児科学会など コロナワクチン 子どもに対する新型コロナウイルスのワクチン接種について、日本小児科学会は16日、保護者や子ども本人に丁寧な対応が必要だとして、「できれば(かかりつけ医による)個別接種が望ましい」との見解を発表した。感染予防策としてワクチン接種は「意義がある」としたうえで、副反応の説明や接種前後の健康観察を入念にするように求めている。学会の見解ではほかに、子どもに関わる仕事をしている人へのワクチン接種を終えることが重要だと指摘。基礎疾患がある子どもは、健康状態をよく把握している主治医との相談が望ましいとした。海外では、接種後の10代がごくまれに心臓の筋肉が炎症を起こす心筋炎や心膜炎を起こした例が報告されている。理事の森内浩幸・長崎大教授は「世界でも10代への接種は始まったばかり。データを継続的に集め解析したい」と話した。日本小児科医会も同日、同様の提言を発表した。集団接種、個別接種でそれぞれ配慮すべき点を挙げ、神川晃会長は、「痛みや発熱、だるさなどの反応は高齢者に比べ若い人に出やすい。接種時の緊張も含めてワクチンの成分とは関係の薄い、年齢特有の反応もある」と指摘した。また、個人の意思や健康上の理由から接種をしない子どもが差別を受けないように配慮すべきだとしている。当初16歳以上とされたファイザー製のワクチンの接種対象は、6月から12~15歳へも広がっている。高齢者らへの接種が進んだ一部の自治体では、子どもに対する接種券の配布など、手続きが始まっている。 *5-1-4:https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-06-16/QUSDK0T1UM1301 (Bloomberg 2021年6月16日) 東京五輪のGPS使った行動管理、外国メディアが非難-撤回を要求 ●「プライバシーの完全な無視」-国際ジャーナリスト連盟 ●安全を維持するための別の方法を議論するよう促す 東京五輪・パラリンピックに合わせて来日する外国メディアの行動をスマートフォンの衛星利用測位システム(GPS)機能を使って管理する大会組織委員会の方針に、国際ジャーナリスト連盟(IFJ)が強く反発している。NHKによると、組織委の橋本聖子会長は先週、来日する外国メディアについて入国後14日間を念頭に厳格に行動管理をすると言明。菅義偉首相は、新型コロナウイルス対策のルールに違反した外国人記者を国外退去とすることも検討すると5月に述べていた。これに対し世界中のジャーナリスト60万人を代表するIFJは発表文で、「プライバシーの完全な無視」だとして組織委を非難。この規則を撤回し、安全を維持するための別の方法を議論するよう促した。IFJは「このような予防措置の導入はジャーナリストのプライバシー権を否定し、報道の自由を制限するものだ」と主張するとともに、この制約が課せられるのは来日するメディアに対してだけで、日本のメディアには適用されない点も指摘した。15日には組織委と国際オリンピック委員会(IOC)、国際パラリンピック委員会(IPC)が選手および関係者向けの新型コロナウイルス対策指針をまとめた「プレーブック」の最新版を発表し、ルールに従わない場合の罰則なども打ち出した。ただ、メディア向けのガイドラインはまだ示されていない。 *5-1-5:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14940351.html?iref=mor_articlelink02 (朝日新聞 2021年6月16日)職域接種、工夫する経済界 コロナワクチン 航空会社などが前倒しで始めた新型コロナウイルスワクチンの職域接種をめぐり、15日も経済界の動きが続いた。地域の医療従事者への接種から始めたソフトバンクグループが、2回打ち終えればプロ野球の主催試合を半額で観戦OKにする方針を示すなど、自社以外にも接種を広げようとする取り組みも増えている。 ■接種者、半額でプロ野球観戦OK ソフトバンク ソフトバンクグループは15日、東京都内に大規模接種会場を立ち上げ、首都圏の医療従事者への接種を始めた。その会場で孫正義会長兼社長は、職域接種などを含めてワクチンの接種を2回終えて2週間以上たった人は、福岡ソフトバンクホークスの試合を半額で観戦できるようにする計画を明らかにした。若い世代の接種率を高めるきっかけをつくり、経済活動の正常化につなげる狙いだ。同社は詳細は今後詰めるとしている。孫氏は今回の取り組みを機に、他社にも若者の接種を後押しする取り組みが広がることに期待を示した。職域接種の会場は全国15カ所に設け、1日1万人が接種できる体制を整える方針。対象人数は従来の計画より5万人多い15万人に広げ、地域住民10万人も受け入れるという。人数は、さらに追加で増やすことも検討する。 ■ノウハウを系列企業に提供 トヨタ自動車 伊藤忠商事の東京本社には15日、職域接種に使うワクチン1200回分が到着し、本社内に設置された冷凍庫に保管された。同社は21日から、東京と大阪の両本社で接種を始める予定。事業所内保育所の委託先「ポピンズ」の保育士約1500人も含め、約7500人への接種を見込む。接種会場の様子は22日以降、見学希望の企業に公開して参考にしてもらう予定という。ワクチン到着を見守った岡藤正広会長CEO(最高経営責任者)は「多くの人に接種し、早く明るい世の中にしたい」と話した。トヨタ自動車は15日、仕入れ先企業を含めた約8万人を対象に、21日から職域接種を始めることを明らかにした。ピーク時は一日8千人以上に接種し、9月10日までに2回の接種を終える計画。トヨタは車づくりで培った「トヨタ生産方式」を活用して、地元自治体の接種の効率を高めるサポートもしてきた。その成果を職域接種にも生かし、系列企業にもノウハウを提供するという。 ■中小企業対象に集団接種へ 経済同友会 経済同友会は15日、貸会議室大手のティーケーピー(TKP)の協力を得て、会員の所属企業の従業員と家族を対象に、21日から集団での職域接種を始めると発表した。スタートアップなど、従業員1千人未満の企業が対象。まずは希望があった118社の約4万3千人を対象に順次、接種を始める。政府が職域接種の目安とする従業員1千人に満たない、小規模の企業にも接種を広げる狙いだ。同友会の幹事を務めるTKPの河野貴輝(かわのたかてる)社長が、接種会場の無償提供を申し出た。河野氏は記者会見で「中小企業の方々への接種促進に貢献していきたい」と話した。 *5-2-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA03C310T00C21A6000000/?n_cid=NMAIL006_20210604_Y (日経新聞 2021年6月4日) 75歳以上医療費2割負担、関連法成立 年収200万円から 一定の所得がある75歳以上の後期高齢者の医療費窓口負担を1割から2割に引き上げる医療制度改革関連法が4日の参院本会議で、自民・公明両党などの賛成多数で可決、成立した。単身世帯は年金を含めて年収200万円以上、複数世帯では合計320万円以上が対象になる。高齢者に収入に応じた支払いを求めて現役世代の負担を抑制する狙いだが効果は限定的だ。現在、75歳以上の大半は窓口負担が1割だ。現役並みの所得(単身で年収383万円、複数世帯で520万円以上)の人は3割を負担するが全体の7%にすぎない。2割負担の層をつくり、3段階とする。2割負担となるのは75歳以上の約20%で約370万人が該当する。田村憲久厚生労働相は4日の閣議後の記者会見で「若い人々の負担の伸びを抑えていく目的だ。法律の趣旨、意図を国民に理解してもらいながら周知に努めたい」と述べた。導入時期は2022年10月から23年3月の間で、今後政令で定める。外来患者は導入から3年間、1カ月の負担増を3千円以内に抑える激変緩和措置もある。関連法では育児休業中に社会保険料を免除する対象を22年10月から広げることや、国民健康保険に加入する未就学児を対象に22年4月から保険料を軽減する措置も盛り込んだ。3日の参院厚生労働委員会では付帯決議も採択した。窓口負担の見直しが後期高齢者の受診に与える影響を把握すること、持続可能な医療保険制度に向けて税制も含めた総合的な議論に着手することなどを明記した。高齢者に負担増を求める背景には人口の多い団塊の世代が22年から75歳以上になり始めることがある。医療費の急増が見込まれ、政府の全世代型社会保障検討会議が20年12月、改革案をまとめた。後期高齢者医療制度の財源は窓口負担を除いて5割を公費で負担し、残り4割は現役世代からの支援金、1割を高齢者の保険料でまかなう。75歳以上の人口が増えて医療費が膨らめば現役世代の負担も重くなる。厚労省の試算によると21年度の支援金総額は6.8兆円で、現状のままだと22年度に7.1兆円、25年度に8.1兆円と急速に膨らむ。2割負担を導入しても支援金の軽減効果は25年度で830億円にとどまる。現役世代の負担を1人あたり年800円軽減するにすぎない。事業主との折半などもあり、本人の軽減効果は月30円程度と試算される。今後も給付と負担の議論は避けて通れない。 *5-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210605&ng=DGKKZO72615300U1A600C2M10800 (日経新聞 2021.6.5) 所得のみで区別、見直しを 一橋大学教授 小塩隆士氏 全世代型社会保障改革は支え手を増やし、年齢に関係なく能力のある人には負担してもらうという2本柱だ。後期高齢者医療制度の窓口2割負担導入はこれに沿っている。ただ、これだけで社会保障の抱える問題が解決できるわけではない。医療機関での窓口負担は所得のみで判断する。高齢者のなかには所得は少なくても金融資産を多く持っている人もいる。能力に応じた負担に向け、資産も合わせて判断するようにすべきだ。少子高齢化で医療費の伸びが続くなか、2割負担の人を限ったままでは別の方策が必要になる。例えば医療機関のネットワーク化を進めて効率化するなどが検討課題だ。負担引き上げの議論では、高齢者が受診を抑制して重症化し、医療費が膨らむという議論がある。今回の見直しで高齢者の受診行動が変化し、健康に影響を及ぼしたかデータを蓄積し、確認する必要がある。受診抑制の影響は深刻か限定的かはっきりしない。社会保障の支え手を増やすのに少子化対策は欠かせないが、大人になって財政面で貢献するのは時間がかかる。働く意欲のある高齢者の就労環境を整えていくべきだ。働く高齢者の年金を減らす「在職老齢年金制度」は65~69歳の減額基準を引き上げてはどうか。65歳から一律で支えられる側という区切りは非合理的だ。若くても生活に困っている人は支えないといけない。年齢に関係なく、余裕がある人は支える側に回るといった形にした方がいい。 <教育と人材> *6-1-1:https://digital.asahi.com/articles/ASP5R4CQQP5KUTIL069.html?iref=comtop_7_01 (朝日新聞 2021年5月23日) 国立大受験生に「6教科8科目」案 「情報」を追加検討 2025年の大学入学共通テストから、国立大学の受験生には原則として「6教科8科目」を課す――。国立大学協会の入試委員会(委員長=岡正朗・山口大学長)が、そんな案の検討を進めていることがわかった。従来の「5教科7科目」に、プログラミングなどを学ぶ教科「情報」を上乗せする案だ。各国立大は大学入試センター試験時代の04年から、国語▽地歴・公民▽数学▽理科▽外国語の5教科から7科目を課すことを原則としてきた。これに情報を加えた6教科8科目を原則とすることが決まれば、21年ぶりの科目増となる。情報は03年度から高校で全員が必ず履修する教科となり、22年度の高1から導入される新学習指導要領では情報Ⅰと情報Ⅱの2科目に再編される。プログラミングなどを学ぶ情報Ⅰが必ず履修する科目で、データサイエンスの手法を使った分析も学ぶ発展的な情報Ⅱは選択科目となっている。政府は18年に公表した成長戦略のなかで「義務教育終了段階での高い理数能力を、文系・理系を問わず大学入学以降も伸ばしていけるよう、大学入学共通テストで基礎的な科目として情報Ⅰを追加する」との方向性を打ち出した。今年3月には、共通テストの問題作成を担う大学入試センターが、25年実施の共通テストから出題教科に情報を追加する方針を発表。出題範囲は情報Ⅰの内容とした。国大協入試委の議論は、こうした流れのなかでスタートした。一連の議論は非公開で行われており、関係者によると、共通テストで情報を使いたい大学も不要だとする大学も、それぞれ一定数あるという。今月18日のオンライン会議では、25年から6教科8科目にすることについて「生徒の学習環境がまだ整っていない」と反対する声も出た。だが、「国を挙げてデジタルと言っている時に入試に入れないのは違うという意見が多く、引き続き議論することになった」(関係者)という。国大協事務局は取材に「入試委の内容は非公開」と回答した。大学入試をめぐっては、「教科・科目の変更が大きな影響を及ぼす場合には、2年程度前には予告・公表する」という文部科学省の定めた「2年前ルール」がある。国大協入試委が「25年の共通テストから6教科8科目を原則とする」と決めた場合、各大学はそれを踏まえ、遅くとも22年度にはそれぞれの大学の方針を正式に決めることになりそうだ。 ●「『第三の失敗』にならないよう」 情報を教える態勢は地域によって差があり、各地で教員の確保が急務となっている。文科省が47都道府県と、高校を設置していない神奈川県相模原市を除く19政令指定都市を対象に実施した調査では、昨年5月1日時点で、情報担当教員5072人のうち2割以上の1233人が、情報免許状保有教員ではなく、校内の他教科の教員が1年以内に限り教えられる「免許外教科担任」や「臨時免許状」を持つ教員だった。これまで情報は、「情報の科学」「社会と情報」のうち1科目を必ず履修する形で、プログラミングを学ぶ「情報の科学」を選ぶ生徒は約2割だった。だが新指導要領のもとでは、全員が情報Ⅰでプログラミングを学ぶことになる。ある公立高校の教員は「いまのままだと教員が不足し、新指導要領の内容をきちんと教えることができない学校が出る恐れがある」と話す。それだけに、そもそも共通テストで情報Ⅰの内容を出題すること自体に慎重な検討を求める声も根強い。全国高等学校長協会は昨年11月、大学入試センターに「出題科目とするには解決すべき事項が多い」として「課題を解決した上での実施」を要望した。大学関係者の間でも意見は一様ではない。情報処理学会の理事で、情報教育に力を入れてきた中山泰一・電気通信大教授は「情報Ⅰは文理問わず身につけるべき内容。国立大はぜひ課すべきだ」。一方、国立大教員の一人は「学習環境が整わず地域間格差も大きい現状のまま、国立大受験生に課すのは難しい」と語る。大学入試をめぐっては近年、目玉改革が相次いで頓挫した。共通テストでの英語民間試験の活用が19年11月、受験生の住む地域や家庭の経済状況による格差の問題から見送りに。さらに共通テストの国語と数学での記述式導入も翌月、採点の質の確保などの課題が解消し切れず見送られ、受験生や高校を混乱させた。ある県立高校の教員は「6教科8科目への移行が『第3の失敗』にならないよう、受験生の立場に立って検討してほしい」と話す。 ◇ 〈教科「情報」〉2022年度の高1から適用される新学習指導要領では、プログラミングも行う情報Ⅰ(必ず全員が履修する科目)、発展的な情報Ⅱ(選択科目)に再編された。情報Ⅰは、「情報社会の問題解決」「コミュニケーションと情報デザイン」「コンピュータとプログラミング」「情報通信ネットワークとデータの活用」の4領域からなる。すべての生徒がプログラミング、ネットワーク(情報セキュリティを含む)やデータベース(データ活用)の基礎などを学ぶことになる。 【大学入学共通テストへの「情報」導入をめぐる主な動き】 2018年3月 文部科学省、22年度からの高校の新学習指導要領を告示。教科「情報」は 情報Ⅰと情報Ⅱの2科目に再編 6月 政府が「未来投資戦略2018」を公表。「大学入学共通テストで基礎的な科目 として情報Ⅰを追加」 2019年11月 共通テストでの英語民間試験の活用見送り 12月 共通テストの国語と数学での記述式問題導入も見送り 2020年4月 小学校でプログラミング教育開始 2021年1月 第1回共通テスト 3月 大学入試センター、25年の共通テストから情報を出題する方針を表明 2022年4月 高校の新学習指導要領スタート 2025年 新学習指導要領に基づく共通テスト実施(国立大受験生は6教科8科目受験が 原則に?) *6-1-2:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/745124/ (西日本新聞 2021/5/27) 全国学テ「結果」に追われる学校 「目的逸脱」事前準備が常態化 小学6年と中学3年を対象とした全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)が27日に行われる。新型コロナウイルスの感染拡大で昨年は中止されたため、2年ぶりの実施。導入から丸14年が経過し、テスト結果をより重視する学校もみられる。過去問を解くなど事前準備が常態化し、本来の調査目的から逸脱している状況も。研究者は「学力の一部しか測れないにもかかわらず、現場だけが結果責任を問われ、追い詰められている」と訴える。「事前練習は当たり前。目標点を掲げて達成を要求する校長もいる」。福岡県内の公立小に勤める30代の女性教員はため息をつく。勤務校では歴代の小6の得点から「弱点」を分析し、市販の教材で何度も事前練習する。前任校では過去問が使われていた。学校側が意識するのは、県教育委員会が各公立小中に作成を求める「学力向上プラン」。2017年度から全国学力テストの目標点を示した上で、課題の分析や授業の改善を促す。計画的な改善につなげるのが目的だが、女性教員は「とにかく結果を優先せざるを得ない状況になっている」。佐賀県内の公立小中では毎年、全教員参加の校内研修で自校の得点を分析し改善点を話し合う。50代の男性教員が勤める公立小では週3日、1時限前の20分間をドリルやプリント学習に充てる。男性教員は「子どもの朝の様子を観察し、ケアする時間も大切なのに」と釈然としない。学校現場が対策に追われる現状を踏まえ、全国学力テストの在り方に疑問を呈する研究者は少なくない。国の専門家委員会委員で、福岡教育大の川口俊明准教授は「そもそも目的と手法にずれがある」と強調する。国は(1)学校現場の指導改善(2)国の政策に反映-という二つの目的を掲げる。川口准教授は「指導のためなら、学校で行う普段のテストで十分。政策に生かすためなら、子どもの実態を正しく把握する必要がある。事前準備などの対策を取る学校がある中で、全員対象の現行調査は結果が偏る可能性が高い」と説明する。世界各国の学力テストの状況を編著にまとめた福岡大の佐藤仁教授によると、日本では実施から約3カ月後に結果が学校現場に通知されるが、ドイツでは授業改善に特化したテストの結果が2~3週間後には教員に伝わる。ノルウェーでは学校ごとの得点を公表するが、子どもの家庭環境など数ある情報と一緒に示されるという。佐藤教授は「『学力』の一部しか測れないにもかかわらず、日本にはテスト結果に敏感に反応する文化があり、責任は学校が問われる。行政、保護者、地域が一緒に改善点を考えることが大切だ」と提起する。子どもへの評価がテストに偏る中、居場所を失う子どもたちもいる。熊本県の公立小で特別支援学級を担任する50代男性教員は、問題用紙をくしゃくしゃにした子を目の当たりにした。「解けない子には嫌な時間でしかない。学力の意味がテストに矮小(わいしょう)化されていることは分かっていても、学校では学力を問い直す議論はない」 *全国学力テスト:2007年、小6と中3の全員を対象に国語と算数(数学)の2教科でスタート。民主党政権が10年に抽出調査に切り替えたが、自民党政権下で13年に全員対象に戻った。現在は理科と英語(中3)も3年に1度行っている。18年8月には大阪市長が学力テストの成績を教員らの給与に反映させる意向を表明(後に撤回)し、学校現場への圧力や負担が問題となった。 *6-1-3:https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/905866 (福井新聞 2019年8月1日) 全国学力テスト福井は中3英語1位、2019年度、トップ級の順位維持 文部科学省は7月31日、小学6年と中学3年の全員を対象に4月に行った2019年度全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の結果を公表した。公立校の平均正答率を都道府県別に見ると、福井県は、初めて実施された中3英語で東京都などと並び1位、数学も1位、国語は2位だった。小6は国語2位、算数4位。小中ともに調査開始以来12年連続で全国トップクラスを維持した。国語と算数・数学の2教科は、これまでの基礎知識を問うA問題、知識の活用力をみるB問題が統合され、知識活用力が一体的に問われた。中3の英語は「読む、聞く、書く、話す」の4技能をみる試験が行われ、機器がそろっていない一部の学校で未実施となった「話す」を除く3技能の結果が公表された。福井県は国公私立270校の1万3727人が参加。公立の平均正答率は中3の英語が59%(全国平均56・0%)、数学は66%(同59・8%)、国語は77%(同72・8%)だった。小6は国語が72%(同63・8%)、算数が69%(同66・6%)。県教委はテストや学習状況調査の結果を受け「授業や家庭学習に熱心に取り組む子どもと、熱心に指導する教員らの努力の成果」と評価。一方で、各教科で課題もあるとし、8月上旬に開く教員対象の研修会で結果の分析と授業改善策を伝えるとした。県内の市町別の結果は公表せず、各市町教委に判断や対応を委ねている。文科省は全国の小6、中3の計201万7876人分を集計。中3英語の4技能のうち「書く」では、2枚の図を比較して25語以上で考えを記す問題で正答率が1・9%にとどまり、基本的な語や文法を活用した表現ができていなかった。国語と算数・数学は小中とも、目的や意図に応じて自分の考えを明確に書いたり、複数の資料から必要な情報を読み取って判断したりするのが苦手な傾向は変わらなかった。平均正答率は従来と同様に秋田や石川、福井などが上位を占める状況が継続。ただ、下位も全国平均とは正答数で1問程度の差で、文科省は「学力の底上げ傾向は続いている」と指摘している。 *6-2-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/105934 (東京新聞 2021年5月23日) Wi-Fi未整備168校も…格差くっきり、都立高のオンライン授業 学習遅れ懸念の声 新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言中、東京都立高校は、校内の生徒数を3分の2以下に抑える分散登校を続けている。登校しない生徒はオンラインを活用した自宅学習としているが、学校側の通信環境や取り組みに差があり、生徒や保護者から「学習が遅れていないか」と不安が漏れる。 (土門哲雄、松尾博史) ◆無人の教室からスマホで授業 都教育委員会は4月29日~5月9日の大型連休中、授業のある日も全ての高校生を登校させず、自宅学習の「全面オンライン」とした。連休後の分散登校は、登校日や時間帯を学年ごとに分け、自宅学習ではオンラインの活用を促している。連休中の7日には、都立向丘むこうがおか高校(文京区)でオンライン授業が報道公開された。生徒がいない教室で、飯塚大貴だいき教諭(27)がスマートフォンを使って化学基礎の授業を配信し、1年生のクラス40人が自宅からタブレットなどで参加。同時双方向のライブ形式で行われ、生徒からも画面越しに質問が飛んだ。滝本秀人校長は「通信回線が命綱。オンライン授業は学校全体で取り組むことが大切」と強調。同校は連休後も自宅学習で同時双方向のオンライン授業を続けている。 ◆未整備校では出欠確認だけ ただ、こうした学校ばかりではない。都教委の教育政策課によると、高校のほか特別支援学校なども含めた都立校のうち、無線LANのWi―Fiが全教室に整備されているのは2020年度末時点で87校で、全体の約3分の1にとどまる。通信環境が不十分な残りの168校は、当初の計画を1年前倒しして本年度中にWi―Fiを整備するという。未整備のある都立高は、大型連休中に同時双方向で各学年一斉に行ったのはホームルーム(HR)の出欠確認だけだった。生徒は事前に用意された授業動画を見たり、課題学習に取り組んだりした。副校長は「同時双方向のオンライン授業は通信環境が厳しく、できない」と打ち明ける。この高校は感染者が確認された昨年末以降、6限までの通常授業は行わず、4限で終え、感染リスクが高まる昼食前に生徒を帰宅させている。電車の混雑を避ける時差通学で始業も遅らせ、通常の50分授業を40分に短縮している。連休後は午前と午後で4限ずつに分け、学年ごとに分散登校を続けている。 ◆都教委「本年度中に全校に」 同校の3年の女子生徒は「本当なら授業がもっと進んでいるはずなのに。他の学校より遅れてないか」と不安を隠せない様子。母親も「感染拡大から1年以上たち、私立は通信環境も充実しているのに」と残念がる。こうした声に、都教委の担当者は「オンラインを活用した学習は同時双方向のライブ形式に限らず、繰り返し見られる動画配信のニーズも高い。本年度中にWi―Fiを全校に整備し、環境を改善する」と理解を求めている。 *6-2-2:https://resemom.jp/article/2015/09/25/27046.html (Resemom 2015/9/25) 学校の無線LAN普及率、私立と公立に差…MIC調査 IT・ネット分野専門の市場調査機関であるミック経済研究所は、学校の無線LAN普及率などのアンケート調査結果を発表。無線LANの平均普及率(平成27年5月時点)は、私立学校が59.3%、公立学校が42.6%。アクセスポイントのメーカーシェアでは、バッファローがトップだった。ミック経済研究所の同調査は、2015年5~6月にアンケート調査で実施。無線LANの現在の普及率や導入無線LANアクセスポイントメーカーの掲出回数・シェアなどについて、私立中・高等学校の186法人、公立の小・中・高等学校を管轄する全国教育委員会229団体から回答を得た。また、遅れている無線LANの導入促進に役立つ調査レポートとして回答者にフィードバックしている。平成27年5月時点の無線LANの平均普及率(学校数単位)は、私立学校が59.3%(中学校56.3%、高校61.2%)であるのに対し、公立学校が42.6%(中学校40.2%、公立高校35.0%)。教室数等単位での平均普及率は、私立学校17.8%、公立学校16.4%。特に、公立の高等学校は2.6%と低い割合となっている。公立学校の中では小学校の普及率が比較的高く、学校数単位では45.8%、教室数等単位では17.7%だった。同社では、「無線LAN普及の決め手はタブレット端末で、私立学校の普及率の方が高いのはタブレット端末の活用がより進んでいるから」と分析している。平成29年度までの導入予定を調査しており、私立学校で73.6%、公立学校で53.1%と、文部科学省が平成29年度の目標数値に掲げる「普及率100%(教室等数ベース)」に及ばない状態となっている。無線LANのアクセスポイントのメーカーシェアのトップは、50.8%を占めるメルコグループのバッファロー。ついで、アライドテレシス9.8%、シスコシステムズ7.5%、富士通4.2%が続いた。同社では、各社を学校が選択した理由と各社の特長を解説。バッファローの選択理由では、バッファロの強みである「手頃な価格(予算の範囲)」が多くあがっており、私立学校では「システム開発・導入会社の推薦」も多かったという。2位のアライドテレシスの選択理由では、公立学校が「手頃な価格」、私立学校が「ICT関連製品の取引業者の推薦」をあげていた。 <行き過ぎた規制で台無しの五輪> PS(2021年6月24、25日、7月7日追加):東京五輪の観客向けガイドラインは、*7-1のように、新型コロナを理由に「①祝祭感のあふれる会場にしてはならない」として、「②飲酒禁止(会場内販売・持ち込みの禁止)」「③直行直帰」「④接触・飛沫感染を防ぐため、観戦中もマスク着用・大声を出すなどの応援禁止」「⑤ハイタッチや肩を組んでの応援も禁止」などの多くのルール順守を観客に求め、守らなければ退場などの厳しい措置をとるそうだ。 しかし、②③④⑤は、まるでイスラム教のラマダンのようで、①では、オリ・パラを行う意味がない。また、そのようなルールを作った理由が国内の飲食店などに合わせることだというのだから、馬鹿げている。しかし、ワクチン接種した人と陰性証明のある人しか会場に入れなければ、混雑したからといって感染するリスクは殆どない。また、国内の飲食店も従業員がワクチン接種を済ませ、「こういう時期ですから」と断って、ワクチン接種した人と陰性証明のある人しか入れないようにすれば普通に営業できるため、「飲酒規制」や「時短要請」などを行う必要がなくなり、五輪を稼ぎ時にしながら「おもてなし」することもできるのだ。 そのため、*7-2のように、埼玉県は、「新型コロナ蔓延防止等重点措置が継続中で解除後も何らかの制限を設ける可能性があるから、さいたま市で実施される五輪のバスケットボールとサッカーの夜遅い競技を無観客とするよう大会組織委員会に要請された」とのことだが、大野知事が「考えにくい」からといって科学的根拠があるわけではないため、埼玉県民としては変なことをして世界に医療後進国であることを発信しないで欲しいと思う。そして、「自分は健康でないから危ない」と思う人は、その間、家でTVを見ていれば良いのである。 一方、英政府と欧州サッカー連盟は、*7-3のように、観客が入場時に新型コロナの陰性証明かワクチンの接種証明を提示するルールを残し、7月にロンドンで開催するサッカー欧州選手権の準決勝と決勝に6万人超の観客入場を決めたそうだ。ドイツのメルケル首相はこれに反対しておられるようだが、この点については、私は英国政府に賛成だ。 23日に公表されたデータによると、新型コロナワクチンの接種回数は、*7-4のように、累計3,438万回を超え、2回接種を終えた人も1,037万人になったそうだが、「⑥高齢者の1回目接種率が67%と最も高い佐賀県は、重症者の病床使用率が2%まで抑えられた」等の効果が明らかであるのに、「⑦希望する人への接種を10~11月までに完了させる目標」というのは遅すぎる。さらに、「⑧厚労省内で『接種率と新規感染者数減少との因果関係は証明が難しい』」という声がある」というのは呆れるほかなく、河野規制改革相が、「⑨申請が殺到して、1日に可能な配送量が上限に達し、モデルナ製ワクチンを供給できる量の上限にも達しそうなので、企業での職場接種の新規受け付けを一時休止する」と発表したのも驚きで、むしろ佐川急便等の民間にワクチンの入荷・保存・管理・配送までを一括して任せた方が、厚労省よりスムーズに行ったのではないかと思った。 *7-5のように、政府が、7月12日~8月22日の間、東京都に4度目の新型コロナ緊急事態宣言を発令し、東京五輪の都内会場は無観客にすると伝えられている。これには、五輪を政治利用した政党やメディアも悪いが、ワクチンや治療薬の開発・承認・接種が遅く、五輪を中止か無観客にするという非科学的な選択しかできないのに、「東京の感染増を万全の態勢をとって抑えていく」などと述べている点で、政府も情けない。私自身は、スカスカの会場で行われる感動の伝わらない五輪など見たくもないし、五輪の主役は選手だけでなく観客も含まれるため、仮に私が五輪の会長だったら「今後は絶対に日本で開催しないように」と言い残すだろう。 2021.6.24日経新聞 2021.5.12News24 2021.6.5日経新聞 (図の説明:左図のように、観客に直行直帰・飲酒禁止などを求めているのは小中学校の校則のようだし、「37.5度以上は入場不可」としているのは、無症状感染者のいることがわかっているため「ワクチン接種証明書か陰性証明書の提示」に変更するのが正しい。また、ワクチンは変異株に効きが悪いという弁解もよく聞くが、有効性が中央の図に示されており、これを否定するには同レベルの調査に基づく科学的根拠が必要である。さらに、ワクチン接種は、右図のように、職場でSpeedyに行われているため、政府は、これに全面協力すべきだ) *7-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210624&ng=DGKKZO73197860U1A620C2EA1000 (日経新聞 2021.6.24) 五輪観戦、違反なら退場も 酒禁止決定・ハイタッチNG・応援は拍手 東京五輪・パラリンピックの観客向けガイドラインが23日公表された。新型コロナウイルス禍で飲酒の禁止や「直行直帰」など過去大会と比べ観客に多くのルール順守を求め、守らなければ退場などの厳しい措置もとる。大会組織委員会の橋本聖子会長は「祝祭感のあふれる会場にはならない」と話す。東京大会では酒類を会場内で販売せず、持ち込みによる飲酒も禁止した。飲料大手が大会スポンサーで当初は同社の酒類を販売する計画だったが、酒類提供の検討が明らかになるとSNS(交流サイト)などを中心に反発が広がった。組織委は専門家の意見を踏まえスポンサーとも協議。橋本氏は23日、記者会見で「少しでも国民に不安があるようなことがあれば、断念しなければいけない。スポンサーからも同意を得た」と説明する。接触や飛沫感染を防ぐため、コロナ禍五輪の観戦方法は大きく変わる。ガイドラインは観戦中もマスクを着用し、大声を出したりタオルを振り回したりする応援は行わないよう明記した。周囲の観客とハイタッチや、肩を組んでの応援も禁止となる。好プレーには声援ではなく拍手を促す。他の観客と距離を確保し、会場内を不必要に移動しないことなどで協力を求める。組織委は一部の競技会場について、トイレや売店の混雑状況をスマートフォンで確認できる仕組みを導入する。競技が終われば密を回避するために分散退場し、どこにも立ち寄らず自宅や宿泊先に直帰するよう求める。座席番号が分かるようにチケットの半券やデータは最低14日間保管することも要請する。観戦後に陽性が確認されれば保健所に観戦日時や座席位置を申告できるようにする。組織委は、ガイドラインの実効性を高めるために、順守しない観客に入場拒否や退場措置をとることもあるという。 *7-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/3cb34625693b1917401ccdaad767cf944db9afcf (Yahoo 2021/6/22) 夜遅い競技、埼玉県「無観客で」 バスケとサッカー、組織委に要請 埼玉県は22日、さいたま市で実施される東京五輪のバスケットボールとサッカーに関し、夜遅い試合を無観客とするよう大会組織委員会に要請したと明らかにした。同市では新型コロナウイルスまん延防止等重点措置が継続中で、解除後も何らかの制限を設ける可能性があり、大野元裕知事は記者団に「観客有りは考えにくい」と述べた。県によると、さいたまスーパーアリーナで実施予定のバスケットボールは一部の試合が午後9時~11時。埼玉スタジアムでのサッカーも午後11時終了の試合がある。特例で無観客とするよう大野知事が組織委の橋本聖子会長に要請し「検討する」と回答があったという。 *7-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210624&ng=DGKKZO73190060T20C21A6FFJ000 (日経新聞 2021.6.24) 英、観客6万人超に拡大 サッカー欧州選手権、インド型流行で感染増、独伊首相が懸念 英政府と欧州サッカー連盟(UEFA)は7月にロンドンで開催するサッカー欧州選手権の準決勝と決勝について、6万人超の観客入場を決めた。世界が注目する試合をテコに、新型コロナウイルスからの復活をアピールする。足元では感染力の強いインド型(デルタ株)が流行し、欧州では懸念も広がる。東京五輪の開幕を控え、コロナ禍での大規模イベント開催に関心が集まる。UEFAが22日に発表した。準決勝は7月6、7日、決勝は11日に「サッカーの聖地」とされるウェンブリー競技場で開催する。収容可能人数(9万人)の75%まで入場させる計画だ。UEFAのチェフェリン会長は「この大会は、人々の暮らしが通常に戻りつつあることを確信させるための希望の光だ」とした。同競技場で開催中の予選では収容可能人数の25%に絞っており、準決勝と決勝では一気に3倍に増やす。観客は入場時に新型コロナの陰性証明か、ワクチンの接種証明を提示するルールは残す。米国では大リーグやフットボールで観客の収容数を緩和する動きが広がるが、欧州でこの規模で入場させるのは珍しい。これに対し、欧州首脳は相次いで懸念を表明した。ドイツのメルケル首相は22日、「スタジアムを埋めることが、良いことだとは思わない」と述べたと公共放送ZDFが伝えた。イタリアのドラギ首相も21日の記者会見で「感染リスクが非常に高い国で開催しないことを支持する」と語り、決勝をローマで代替開催することを示唆した。念頭にあるのが、英国で流行するデルタ株だ。感染力が従来型よりも40~80%強いとされる。足元ではデルタ株の影響で感染者数が再び拡大し、1日に1万人を超える日が続く。政府はワクチン接種を急ぐことで重症者や死者を抑える考えだが、大勢が集まるイベントでの感染増への懸念はぬぐえない。主要7カ国首脳会議(G7サミット)が開かれた英南西部コーンウォールでは、開催中に感染者が増えていたことが分かった。英紙ガーディアンによると、コーンウォール地方の10万人当たりの感染者数は3日時点で約5人だったが、16日には約131人に急増した。G7サミットでは小さなリゾート地に要人警備などで6500人の警察官が集まった。ブラジルで開催中のサッカー南米選手権では各国の選手やスタッフらの感染も確認された。AP通信によると、22日までに140人が感染した。感染対策を徹底しないと、新型コロナの収束が遠のく可能性もある。東京五輪では、競技会場の収容人数を最大1万人とすることが決まっている。大会組織委員会などによると、1日あたりの観客数は、最も多い日で約20万人を見込む。欧州選手権は五輪の直前に開かれるだけに、収容人数の論議は当面注目を集めそうだ。 *7-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA2351H0T20C21A6000000/ (日経新聞 2021年6月23日) ワクチン2回完了、1000万人超 職場接種は受け付け休止 政府は23日、新型コロナウイルスワクチンに関し、2回の接種を終えた人が1037万人になったと発表した。累計の接種回数も3438万回を超えた。65歳以上の高齢者のうち1回目を終えた割合も5割に迫る。接種率の高い一部地域で新規感染や重症化を抑えられている事例が出ている。1日あたりの接種回数も政府目標の100万回に近づく。23日公表のデータによると、9日が99万回で最多だった。14日は101万回だったが、同日は月曜日で、集計の仕組み上、土日に接種した医療従事者分を一度に計上している。政府は希望するすべての人への接種を10~11月までに完了させる目標を掲げる。まずは重症化しやすいとされる高齢者からワクチンを普及させ、感染拡大防止の効果を期待する。国のワクチン接種記録システム(VRS)への入力の集計によると、22日時点で1回目の接種は高齢者向けで1748万9340回となり、全体の49.2%に達した。2回目まで終わったのは566万5012回と15.9%だった。米ファイザー製は3週間、米モデルナ製は4週間の間隔を空けて2回目を打つため、7月中旬には半数を超す高齢者が2回の接種を終える見込みだ。菅義偉首相は23日、首相官邸で開いた新型コロナ対策の進捗に関する閣僚会議で「1回接種した高齢者の人口は半数程度となっている」と説明した。「新規陽性者に占める高齢者の割合は、先月末の17%台から直近では11%台まで低下した」とも語った。接種が先行する地域で感染状況が落ち着いてきた例が出ている。高齢者1回目が67%と最も接種率が高い佐賀県は重症者の病床使用率が2%まで抑えられ、新規感染者は4日以降で5人以下を維持している。高齢者の1回目接種率が59.7%の和歌山県は接種の進捗と並行して新規感染者は減り、2ケタとなったのは5月29日の17人が最後だった。6月22日には県民向けに1万円を上限に県内での旅行代金を割り引くキャンペーンを始めるなど、経済活動の正常化をめざす。厚生労働省の専門家組織「アドバイザリーボード」も23日の会合でワクチンの効果を分析した。同会合の資料によると2月から先行して医療従事者への接種を始めたのに伴い、クラスター(感染者集団)の発生場所のうち医療機関が占める割合は2月15日で3割ほどだったのが、6月21日時点で3%まで下がった。感染状況は緊急事態宣言や飲食店の時短営業、クラスター対策など複合的な要因があり、ワクチンの効果がどの程度かが分析されているわけではない。厚労省内でも各種のデータを分析し「接種率と新規感染者数の減少との因果関係は証明が難しい」との声はある。全国で多くの人が免疫を持って感染しにくくなる「集団免疫」を得るには課題がある。なかでも懸念されるのはより感染力が強いインド型(デルタ株)の拡大だ。インド型が新規感染者の9割ほどを占める英国は21日時点で成人の1回目接種が82%、2回目は60%に上ったものの、感染は再び広がっている。京大の西浦博教授がアドバイザリーボードで示した試算では、日本でも東京五輪が開幕する7月23日時点でインド型が新型コロナの68.9%を占める。世界保健機関(WHO)の研究者は昨年8月に新型コロナの感染を断ち切るには少なくとも60~70%の人が免疫を持つ必要があるとの見方を示した。感染力が強い変異ウイルスの広がりで、こうした割合の想定も上がるとの指摘が出ている。アドバイザリーボードは23日の会合で、ワクチン接種で高齢者の重症化抑制に期待を示す一方で「今後リバウンドが懸念される」との見解も示した。感染拡大を急速に招けば「結果的に重症者数も増加し、医療の逼迫につながる」と指摘した。ワクチン接種に関連し、河野太郎規制改革相は23日の記者会見で、企業での職場接種の新規受け付けを25日午後5時で一時休止すると発表した。申請が殺到し、モデルナ製ワクチンを供給できる量の上限に達しそうだと判断した。「相当な勢いで申請をいただいている。1日に可能な配送量は上限に達しているので一度ここで申請を休止したい。このままいくと供給できる総量を超えてしまう」と述べた。同じくモデルナ製を使う自治体の大規模接種会場向けも23日で新規の受け付けを止めた。すでに1回目を接種した人の2回目分は確保している。モデルナ製を使う自衛隊の大規模接種センターや大学での接種分は別枠で確保しており運用に支障はないという。厚労省はモデルナ社からワクチンを6月末までに4000万回分、9月末までにさらに1000万回分の供給を受ける契約を結んでいる。河野氏によるとこれまでの申請で、企業と大学と合わせて3300万回分、自治体の大規模接種会場で1200万回分をそれぞれ超えた。当面の対応は「若干、綱渡りのようなオペレーションになるかと思う」と話した。 *7-5:https://www.tokyo-np.co.jp/article/115172 (東京新聞 2021年7月7日) 東京に緊急事態宣言を発令へ、8月22日まで 東京五輪、都内は無観客で調整 政府は7日、東京都に4度目の新型コロナウイルス緊急事態宣言を12日から発令する方針を固めた。まん延防止等重点措置を延長する当初方針から転換した。23日に開会式を迎える東京五輪の都内の会場を無観客とする方向で調整する。沖縄県の緊急事態宣言は延長する。埼玉、神奈川、千葉、大阪の各府県のまん延防止等重点措置は延長する見通しだ。いずれも8月22日が期限。政府対策本部を8日に開いて正式決定する。緊急事態宣言下で開催される異例の五輪となる。東京都に宣言を発令すれば6月20日に解除して以来。北海道と愛知、京都、兵庫、福岡各府県に適用中の重点措置は期限の11日までで解除する方向だ。政府は宣言の対象地域では酒類を提供する飲食店への休業要請を引き続き行う。条件付きで午後7時まで容認していた重点措置の地域での酒類提供は原則停止とする。ただ知事の判断で緩和措置も可能とする。菅義偉首相は7日、10都道府県に発令している重点措置を巡り、西村康稔経済再生担当相や田村憲久厚生労働相ら関係閣僚と協議した。その後、東京の感染増を「万全の態勢をとって抑えていく」と記者団に述べた。五輪観客数の扱いについては、東京などの重点措置の対応を決定した上で、東京都、大会組織委員会、国際オリンピック委員会(IOC)などの代表による5者協議で決まると強調。「地方においては全体的に下げ止まりの傾向だ」とも語った。 <非科学的な政策(その1:新型コロナ対策)> PS(2021年6月28日、7月1日追加): 公衆衛生学が専門で英国キングス・カレッジ・ロンドンの教授だった渋谷さんが、*8-1のように、「感染症対策の基本は、①感染経路の遮断(マスク・手洗い・三密回避) ②検査による感染者の把握と隔離 ③ワクチン」だが、「日本では①がメインで、国民の自主的努力に頼ってきた」「②の検査は抑制された」「③のワクチン承認プロセスが何カ月も遅れた」と言っておられるのに、私は全く賛成だ。つまり、政府(特に厚労省)は、国民の努力のみに頼り、邪魔こそすれ応援しなかったのである。 その上、ワクチンを接種していない日本の一般人の方がずっとリスクは高いにもかかわらず、*8-2のように、来日前にワクチン接種し陰性証明を持っているウガンダ選手団の2人に「デルタ株」の感染があり、空港検疫を「すり抜けた」として、練習もさせずにホテルで待機させ、市の職員4人を濃厚接触者に認定しているのは非科学的だ。何故なら、選手は健康な人であり、「デルタ株」であってもワクチン接種で本人の重症化は防がれており、短期間で陰性に戻ることができる筈で、他人への感染力は小さいので、関係した人にPCR検査を行って陰性であることを確かめればすむからだ。そして、このような簡単な理屈もわからない人は、愚鈍であると同時に国籍による差別をしている。 また、*8-3のように、東京五輪のプレーブックは、「④2回の陰性証明」「⑤大会期間中、検査を毎日選手に受けてもらう」「⑥日本の一般市民との接点を極力減らし、社会へのリスクを減らす」「⑦特定の場所の間を公共交通を使わずに移動」「⑧食事は競技・練習会場、宿泊施設レストラン・ルームサービス等の限定された形」「⑨五輪期間中の選手村での滞在は、各選手の競技開始5日前から終了2日後まで」というルールを決めたそうだが、④⑤はまあよいとしても、⑥⑦は、現在のワクチン接種率なら「日本の一般市民との接点を極力減らし、選手の感染リスクを減らす」と書き替えるべきである。さらに、⑧は、検査で陰性同士の人が接しても全く問題ないため、世界から集う選手の交歓という五輪の核となる特性を感染症対策を理由に過度に制限しており、⑨は、「競技が済んだらさっさと国に帰れ」という規定で、それでは選手も日本に来た意味が半減するだろう。そのため、私は、日本に来た選手に専用バスかはとバスを使ったオプションを企画し、日本の工場や観光地を巡るコースを準備したらよいと思う。この時、「おもてなし」をする日本人が全員ワクチン接種済であることが必要なのは言うまでもない。 なお、*8-4のように、「五輪を無観客にすべき」というメディア等の大合唱で与党政治家も無観客開催の方向になびいているそうだが、感染者数だけ発表して「命が一番大切」などと粋がっていても意味がない。それより重要なことは、①中等症・重症の人が何人いるか ②それが首都圏や全国の医療をひっ迫させる数か ③その数で医療が逼迫するとすれば、その理由は何か ④ワクチン接種を全力で行って感染者数を減らす などである。「国民一丸となって」「総力戦で」など、まるで太平洋戦争中のように、非科学的で無責任な政策の責任を国民に押し付けるのは止めてもらいたい。 2021.4.26毎日新聞 2020.10.29東京新聞 2021.6.23日経新聞 (図の説明:左図のように、日本全体の重症者数は最も多かった1月でも1000人程度であり、中央の図のように、重症化率は高齢者ほど大きい。また、右図のように、ワクチン接種率が高い地域ほど重症者の病床使用率は小さい。そのため、健康で若いワクチン接種済のオリンピック選手や関係者に重症者が出る確率は非常に低く、病床逼迫の理由とはならないだろう) *8-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14953444.html (朝日新聞 2021年6月28日) (新型コロナ)現場から 日本の感染対策、国民の努力頼み 渋谷健司さんに聞く 公衆衛生学が専門で、英国キングス・カレッジ・ロンドンの教授だった渋谷健司さんは5月に帰国し、福島県相馬市で新型コロナウイルスワクチンの接種事業を支援しています。日本のコロナ対策をどうみるか。オンラインで話を聞きました。 ―日本の対策はどうですか。 感染症対策の基本は三つです。一つ目が感染経路の遮断、つまりマスクや手洗い、三密を避けること。二つ目が検査をして感染者を見つけ隔離する。三つ目が免疫をつけるワクチン。日本では一つ目がメインで、国民の自主的努力に頼ってきました。敬服するほど皆さん努力してきたと思います。二つ目の検査は、ずっと抑制されてきた。社会経済を回すための検査がもっと必要だと私は主張してきましたが、なかなか増えません。多くの人が安心を求めて民間検査をしているのも日本の特徴だと思います。 ―三つ目のワクチンは? ワクチンの承認プロセスは何カ月も遅れました。日本人での治験をせずに緊急承認する選択もあったのに、そうしなかった。緊急時ではない平時のプロセスでやっているようにみえます。 ―福島県相馬市の新型コロナウイルスワクチン接種メディカルセンター長に就任しました。 今は国難の時期で、ワクチンは最も優先順位が高い医療問題。貢献したいという思いで来ました。英国ではワクチン接種が進むにつれ感染者が減り、日に日に社会が明るくなってきました。日本でもワクチンの効果が数字に表れてくると、どんどんよい方向に変わっていくと思います。ただし集団免疫がつくには時間がかかります。接種したからといって安心せず、感染症対策の基本を継続していく必要があります。 ―相馬モデルと呼ばれる方法の特徴は? 接種する日時を地区ごとに決めた集団接種を基本としています。予約は不要で、その日に会場にくればいい。7月中旬には、16歳以上の希望者への接種がほぼ終了する見込みです。新型コロナに打ち勝つにはスピード勝負で、総力戦になります。会場設営の仕方や、どうやって滞在時間を短くするかなど、ノウハウをほかの自治体とも共有できたらいいと思います。 *8-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/96d397fe797163dfa4349f7bb0ca9c997b3a4cef (Yahoo 2021/6/26) 検疫「すり抜け」感染発覚……来日前にワクチン接種のウガンダ選手団、「デルタ株」に感染 東京オリンピックへの出場で来日したウガンダ選手団で新型コロナウイルス感染が確認された2人について、デルタ株(インド型)だったことが分かりました。選手らは来日前にワクチンを接種していましたが、2人目は検疫をすり抜ける形で発覚しました。 ■空港検疫「すり抜け」対策は 東京オリンピックのため来日したウガンダ選手団の1人が、成田空港の検疫で新型コロナウイルス陽性が確認されましたが、感染していたのはインドで確認された「デルタ株」だったことが25日、分かりました。他の選手らはホストタウンの大阪府泉佐野市に移動した後、ホテルで待機していましたが、そのうちの1人も23日に陽性が判明しました。市の職員4人も濃厚接触者に認定されました。選手らは全員、来日前にワクチンを接種していました。大阪府の吉村知事は25日、「空港で陽性がもうすでに分かったのであれば、周りの一緒に行動している選手団に広がっている可能性は十分あるわけだから、その段階で止めておかないと、より広がってくる可能性が高いのではないか」と述べました。吉村知事は、ホテルで待機していた1人についても、スクリーニング検査でデルタ株(インド型)だったことを明らかにしました。空港検疫をすり抜け、感染が発覚したケースとなりました。厚生労働省は、検疫で選手らの感染が判明した場合、濃厚接触の疑いがある人を別の専用バスで合宿先まで運ぶことを検討しているといいます。 ■ホストタウン「計画」変更で… 25日夜、セルビア選手団のホストタウンになっている埼玉県富士見市では、ボランティアへの説明会が行われ、遵守事項や、「おもてなしの心」をいつも意識することの大切さが伝えられました。市のオリパラ担当課長が案内してくれた体育館では、7月20日からセルビアのレスリング選手の合宿が行われる予定で、国際基準のレスリングマットを(今後)2面ほど用意するということです。「当初はレスリングの実際の競技の体験を、(市民が)一緒に選手と交わってやろうということも企画はしていたのですが、残念ながらそういう状況がつくれなくて」と残念がります。選手には毎日のPCR検査や、移動の制限が求められます。市民は選手たちと距離を取った観覧席からのみ練習を見学できるよう、計画しているといいます。 *担当課長 「『市民に(感染の)影響が出るのか』と心配されている市民の方も多いですが、セルビア共和国の方もしっかりとした心構えで来ていただけるということで、無事最後まで成功できるような形を取りたいとは思っています」 *8-3:https://www.yomiuri.co.jp/column/henshu/20210511-OYT8T50056/ (読売新聞 2021/5/14) 「プレーブック」が語る「安心・安全」な東京五輪の開催とは 新型コロナウイルス感染症は収束する気配が見えず、今夏の東京五輪・パラリンピック開催に向けた世論の懸念が高まっている。大会組織委員会、国際オリンピック委員会(IOC)などは4月28日以降、大会期間中の感染症対策指針をまとめた「プレーブック」第2版を公表したが、「安心・安全」な大会開催に、どこまで迫れるのだろう。 ●変異型ウイルスの拡大受け、対策レベルを向上 2月に初版が公表された「プレーブック」は、日本政府や国内外の感染症専門家などの知見を得て、選手、役員、報道関係などの対象ごとに、コロナ対策の指針をまとめたものだ。6月に最終版を出す予定という。第2版の特徴は、変異型ウイルスという新たな課題を意識し、対策のレベルが上がったことだ。選手や関係者が日本入国時に提出を義務づけられる「陰性証明」は、各国で受ける検査が1回から2回に増やされた。入国直後のフォローも厳格化。大会期間中選手に受けてもらう検査も、4日に1度程度としていたものが、原則毎日に引きあげられた。より感染が広がりやすいとされる変異型ウイルス。検査の網の目を細かくして早期に捉え、リスクを抑える狙いだろう。検査頻度を上げて大会参加者の安心を確保するだけではなく、日本の一般市民との接点を極力減らす「バブル」と呼ばれる考え方も徹底、社会へのリスクも減らす方針だ。選手・関係者は入国後、14日間の自己隔離を免除される代わりに、事前に提出・承認を受ける「行動計画」に従い、宿泊施設と練習・競技会場など特定の場所の間を、公共交通を使わずに移動することを求められる。感染リスクが高まりやすい食事についても、競技・練習会場、宿泊施設のレストランやルームサービスなど、限定された形で取ってもらうという。「バブル」は各国で開催されてきた国際競技大会でも採用された手法で、状況によっては参加者に、かなりの負担をかけることになり得る。五輪期間中の選手村での滞在は、各選手の競技開始5日前から終了2日後までと、世界から集う選手の交歓という五輪の核となる特性も、感染症対策が最優先される中ではお預けだ。ただ、選手は「コロナ陽性」となれば大会参加の夢を絶たれてしまうため、バブルの中で行動することが自分やチームを守るための方策ともなる。IOCのクリストフ・ドゥビ五輪執行局長は、選手団によるプレーブックの順守に自信を見せる。 *8-4:https://www.tokyo-np.co.jp/article/113820 (東京新聞 2021年6月30日) 4都県まん延防止延長検討 五輪無観客の可能性浮上 政府は、新型コロナウイルス対応のまん延防止等重点措置を7月11日までの期限で適用している10都道府県のうち、東京など首都圏4都県について延長も視野に検討に入った。政府関係者が30日、明らかにした。感染再拡大(リバウンド)が続いており、感染状況を注視した上で来週中に判断する。政府内には緊急事態宣言発令に言及する声もある。重点措置延長や宣言発令がされれば、7月23日に開幕する東京五輪と重なり、無観客開催の可能性も浮上している。先週末に「東京が下げ止まるかが重点措置の延長の可否に影響する」と指摘していた首相周辺は「厳しい状況になってきた」と述べた。 <非科学的な政策(その2:開発を妨害するのはよくない規制と過去の常識)> PS(2021年6月30日追加):*9-1に、富士フイルムHDが、「①900億円投じてバイオ医薬品の開発製造受託拠点を増強」「②ワクチン原薬の生産能力を米国で2倍に増強し、英国でも遺伝子治療薬の原薬の生産能力を高める」「③富士フイルムはバイオ薬のCDMOに注力して事業買収や設備増強を積極的に進めてきた」「④富士フイルムは、CDMO分野でデンマーク工場の設備を増強し、米ノースカロライナ州に新工場の稼働計画がある」「⑤写真フィルムで培った技術を活用してバイオ薬のCDMO事業に参入した」「⑥AGCは英製薬大手アストラゼネカから米国工場を約100億円で買収し、デンマーク工場は約200億円投じて生産能力を増強」と書かれている。 このように、今まで培ってきた技術を活かして日本企業がバイオ医薬品産業に力を入れているのだが、投資先は欧米であって日本ではなく、その理由は、i)日本国内では承認を得にくいため、医薬品開発をすれば外国に負けること ii)希望者に治験を行うことすらメディアの批判に晒されること iii)そのため実用化や普及に絶望的時間を要すること iv)開発後の知的所有権もままならないこと v)従って、欧米で承認されたものを輸入した方が早いという判断になること 等が挙げられる。つまり、今の日本のやり方では、医薬関係のハイテク化に遅れるのである。 それでも、*9-2は、「⑦苦い教訓から政府はワクチン開発・生産体制強化戦略を閣議決定」「⑧国家としてのワクチン戦略が不在だった」「⑨モデルナには米政府の手厚い支援があり、米政府は感染症を重大な安全保障の問題と位置付けている」「⑩ワクチン市場は米欧メーカーが席巻している」「⑪癌・高血圧・糖尿病等の薬は安定した需要が見込めるが、感染症は事前に分からない」「⑫そのため、民間企業だけでワクチン開発に取り組むのは経済合理性に乏しく、政府との二人三脚が欠かせない」「⑬先立つものはカネで、ワクチン敗戦を語る識者は費用負担の構えができているだろうか」などと記載している。しかし、⑪のような「ワクチンのニーズが事前にわからない」会社にワクチンの企画・開発は無理であるため、⑫⑬のように政府が予算をつぎ込んでも公共事業化するだけである。そのため、日本人の科学力を上げ、よいアイデアを持つ人に資金的バックアップをすることが必要なのであり、その際には、i)、ii)、iii)、iv)、v)をまず解決して、関係する周囲からの妨害がないようにすべきなのだ。 このような中、立憲民主党の議員が、*9-4のように、「⑭東京オリ・パラの選手が新型コロナに感染して重症化したらベッド不足にならないか」「⑮選手・関係者に多数の感染者が出れば、東京都民のベッドが不足し、医療が逼迫するのではないか」と質問し、内閣官房のオリパラ推進本部事務局の担当者が、「⑯毎日検査をして行動管理・健康管理も行うし、選手から陽性者が発生した場合でも殆どは無症状か軽症であることが想定されている」「⑰一般の集団に比べ、選手は若い人が多いため、重症化して入院病床が埋まることは考えにくい」としたそうだ。 しかし、⑭⑮は医療の逼迫を盾にして五輪中止か無観客に追い込むための批判のように思う。何故なら、EUでは、*9-5のように、2021年7月1日からワクチン接種完了と新型コロナからの回復データを空港等で提示すれば、事前の検査や隔離期間が免除され、こちらの方が科学的だからである。その上、五輪の選手はワクチン接種証明か陰性証明を持って来るとりわけ健康な人で、(日本政府の想定だから信じられないという不幸はあるものの)⑯⑰は妥当な判断と言えるからだ。それでも、「医療逼迫」を心配する人がいるのなら、選手村を租界のように扱って、可能な国には選手団に医師を随行させればよいだろう。その理由は、随行してくるドクターも健康管理や感染症の初期治療はでき、日本の医療に負担をかけることが著しく減るからである。 *9-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210630&ng=DGKKZO73398500Z20C21A6TB1000 (日経新聞 2021.6.30) 富士フイルム、バイオ薬900億円追加投資 米英拠点に、ワクチン原薬を増産 富士フイルムホールディングスは900億円を投じ、バイオ医薬品の開発製造受託(CDMO)の拠点を増強する。米国でワクチン原薬の生産能力を2倍に引き上げ、英国でも遺伝子治療薬の原薬の生産能力を高める。新型コロナウイルスの感染拡大を受けワクチンなどの需要は伸びている。同社はCDMO向けの投資を積み増し、この分野のシェア拡大を目指す。バイオ薬は細胞培養や遺伝子組み換えなどのバイオ技術を使ってつくる。バイオ薬の製造設備は投資負担が重く、高い生産技術が求められるため、製薬会社が外部の企業に製造を委託する動きが広がっている。富士フイルムはこのバイオ薬のCDMOに注力している。事業買収や設備増強を積極的に進めており、今回の900億円の投資により、この分野への累計投資額は6000億円程度にのぼることになる。富士フイルムは29日、900億円の投資を発表した。三菱商事との共同出資会社、フジフイルム・ダイオシンス・バイオテクノロジーズが米国に持つ生産拠点に細胞培養タンクなどを導入する。「遺伝子組み換えタンパク質ワクチン」の原薬の生産能力が約2倍に増える。このワクチンは遺伝子組み換え技術を使ってウイルスのタンパク質をつくり、これを投与して免疫反応を引き出すもので、新型コロナ向けの利用も見込まれている。英国工場でも、遺伝子を体内に入れて病気を治す遺伝子治療薬の生産開発棟を新設し、同拠点での原薬生産能力を10倍以上に拡大する。バイオ薬の一種である抗体医薬品向けでも中小型の培養タンクを追加し、生産能力を3倍に増やす。今回の投資に先立ち、富士フイルムはCDMO分野で、デンマークの工場の設備増強や、米ノースカロライナ州に新工場を稼働させる計画を打ち出してきた。さらなる積極投資に踏み込む。富士フイルムは写真フィルムで培った技術を活用し、2011年にバイオ薬のCDMO事業に参入した。世界で十数%のシェアを持つとみられ、ロンザ(スイス)に次ぐ2位グループに入る。バイオ薬のCDMO市場は年平均10%程度で成長している。足元ではコロナ用ワクチンや治療薬の生産で、市場の需給も逼迫している。富士フイルムのバイオ薬のCDMO事業は米バイオ医薬品大手バイオジェンから事業を買収した効果もあり、21年3月期の売上高が1000億円超と前の期から7割増えた。25年3月期には売上高を2000億円に引き上げ、その後も年率20%の成長を目指している。バイオ薬のCDMOは投資競争の様相だ。2位グループの一角、韓国サムスンバイオロジクスは20年に約1550億円を投じる新工場の建設を決めた。AGCは英製薬大手アストラゼネカから米国工場を約100億円で買収し、デンマーク工場では約200億円を投じて生産能力を増強する。 *9-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210622&ng=DGKKZO73109490R20C21A6EN8000 (日経新聞 2021.6.22) ワクチン開発、カネの覚悟を 新型コロナウイルスのワクチン開発で米英に後れを取った日本は、ワクチンを入手するために涙ぐましい努力を払った。日本への帰国直前の杉山晋輔駐米大使(当時)が、米ファイザーのブーラ最高経営責任者(CEO)と直談判で供給を確保するなど、異例の交渉を余儀なくされた。苦い教訓を基に政府は6月1日、ワクチン開発・生産体制強化戦略を閣議決定した。文書には従来の開発・製造体制の問題点が率直につづられている。一読して明らかなのは、国家としてのワクチン戦略が不在だったことである。日本でファイザー製と並んで接種されている米モデルナ製。モデルナはバイオベンチャーと紹介されることが多いが、日ごろから開発には米政府の手厚い支援がある。同社は2013年から米国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)から2500万ドル(約27億5000万円)の支援を受けている。保健省からは16年に最大1億2500万ドルの研究資金を得た。緊急時である今回のコロナ禍に際し、ワクチン開発のために追加で9億5500万ドルの政府資金が注ぎ込まれた。米政府が感染症を重大な安全保障の問題と位置付けていることがハッキリする。モデルナの創業時に遡ると、マサチューセッツ州のベンチャーキャピタルから資金と人材が提供されている。日ごろからの力の入れようの差が、コロナ禍で浮き彫りになったといえる。次の感染症に備えて日本も開発を強化すべし。外野席から説教するのは簡単だが、経済的条件を直視する必要がある。国内のワクチンの市場規模は、コロナ前の19年で3200億円。10兆円の医薬品全体の3%あまりにすぎない。世界のワクチン市場4兆円の約8%を占めるが、市場は米欧メーカーが席巻している。しかもワクチンは製薬会社にとり経営リスクが大きい。がんや高血圧、糖尿病などの薬は安定した需要が見込めるが、感染症はいつ、どれだけ発生するか事前には分からない。民間だけでワクチン開発に取り組むのは経済的な合理性に乏しい。モデルナの例が物語る政府と企業の二人三脚が欠かせないのである。日本政府はその方向を模索しようとしているが、先立つものはカネ。ワクチン敗戦を語る識者は費用負担の構えができているのだろうか。 *9-3:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO73398810Z20C21A6TB1000/ (日経新聞 2021年6月30日) 東芝、再生医療で新会社、独立し意思決定を迅速化 東芝は、再生医療向けの装置・ソフトウエア事業を新会社として独立させる。研究開発を主導していた研究者2人が新会社に出資し、代表取締役となる。2人が議決権の過半を握り、東芝の出資比率は2割未満に抑える。東芝から独立した企業となることで、意思決定のスピードを速め、拡大が見込まれる再生医療の市場を取り込む。新会社のサイトロニクス(川崎市)は細胞を培養する際の管理を効率化できる機器とシステムを提供する。資本金(資本準備金含む)は1億9000万円で、7月1日から営業を始める。東芝のほか、ベンチャーキャピタル(VC)のビヨンドネクストベンチャーズ(東京・中央)が出資する。東芝は同事業に関わる知的財産を譲渡する。再生医療は、やけどの治療として皮膚の細胞を培養して患者に投与するなどする。サイトロニクスが開発する装置は、再生医療向けに培養する細胞が入った容器を設置するだけで微細な画像を自動で取得し解析できる。従来品に比べて5分の1程度に小型化し、無線通信を活用できる。機器を置く装置内部の温度や湿度を一定に保てる。研究機関や医療関連企業など向けに売り込み、2030年をメドに年間の売上高100億円を目指す。早期の新規株式公開(IPO)も検討する。 *9-4:https://digital.asahi.com/articles/ASP6Z6FQBP6ZUTFK01D.html?iref=comtop_7_03 (朝日新聞 2021年6月30日) 五輪選手、陽性でもほぼ無症状か軽症? 政府が想定説明 東京五輪・パラリンピックの選手が新型コロナに感染して重症化したらベッド不足にならないかという疑問に対する政府側の答えは、「選手に陽性者が出てもほとんど無症状か軽症」だった。30日にあった立憲民主党の会合でのやりとり。出席した国会議員からは「希望的観測だ」と懸念する声が上がった。立憲議員が「選手・関係者に多数の感染者が出れば、東京都民のベッドが不足し、医療が逼迫(ひっぱく)するのではないか」と質問。内閣官房のオリパラ推進本部事務局の担当者は「日々、検査をし、行動管理も健康管理も行う。仮に選手から陽性者が発生した場合でも、ほとんどは無症状、あるいは軽症であることが想定されている」と説明。「地域医療に支障を生じさせないよう対応する」と述べた。これに対し、議員からは「命の選別が起きる事態をどう想定するのか」といった厳しい意見も出た。この担当者は会合後、朝日新聞の取材に、大会組織委員会の医療の専門家から、管理が行き届いた選手について「仮に陽性者が出ても、症状が出る前に陽性と分かるだろう」との見解を得ていると語った。そのうえで「一般の集団に比べ、選手は若い人が多い。重症化し、入院病床が埋まるということは考えにくい」との認識を示した。 *9-5:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR25EXU0V20C21A6000000/ (日経新聞 2021年6月30日) EUがワクチン証明本格稼働へ 1日から、感染増リスクも 欧州連合(EU)で新型コロナウイルスのワクチン接種を証明するシステムが7月1日から本格稼働する。夏のバカンス期に観光などを目的とした多くの人の移動にお墨付きを与え、景気浮揚につなげる考えだ。EUでも変異ウイルスの感染が広がりつつあり、人の移動の正常化と感染抑制の両立の取り組みが成功するか注目を集めている。EUが導入する「デジタルCOVID証明書」には、ワクチン接種完了や新型コロナ感染からの回復といったデータが記録され、QRコードのついた形でデジタルや紙で発行される。空港などで提示することで、事前の検査や隔離期間が免除される。EUの欧州委員会の提案に基づいて、加盟27カ国が5月までに証明書の共通書式や技術面の仕様で合意した。6月からギリシャやドイツなど7カ国が先行導入して以降、準備が整った加盟国からシステムに接続してきた。30日時点で27加盟国中21カ国が導入済み。EU非加盟のノルウェーやアイスランドなども加わっている。証明書の狙いは、人の移動を活発にし、新型コロナで打撃を受けた経済の再生につなげることだ。EU統計局によると、外国人による宿泊回数は2020年で約4億回と前年から7割減った。なかでもギリシャ(77%減)やスペイン(79%減)、キプロス(83%減)など南欧諸国の落ち込みが目立つ。EUでは、新型コロナを機に加盟国が相次ぎ国境管理などの制限措置を導入した。域内の移動を自由化した長年の欧州統合の成果が長期間損なわれれば「EUの結束に悪影響が出る」(EU高官)との懸念も強い。20年はEU全体でマイナス成長になったが、観光業への経済依存度が大きい南欧諸国が受けた打撃はとりわけ大きい。観光立国のギリシャはEU規模の証明書の導入を当初から主張してきた。同国のホテル協会の関係者は「観光客は戻り始めたが、まだとても不安定な状況だ。本格的な観光復活には証明書が不可欠だ」と語る。加盟国は移動規制や店舗の営業制限の緩和に動き出している。スペインなど南欧の一部では屋外でのマスクの着用義務も解除され、市民生活は平時に戻りつつある。EU復興基金の資金も7月には加盟国への分配が始まる見通しで、景気には好材料が多い。ユーロ圏の成長率が20年の6.6%減から21年は4.5%増に改善すると予測する独コメルツ銀行は「21年末には景気はコロナ危機前の水準に戻る」と分析する。「絶えず警戒し続けねばならない。変異ウイルスが急速に広がっている」。フォンデアライエン欧州委員長は6月25日の記者会見で油断を戒めた。足元では感染力の強いインド型(デルタ株)の感染が広がっている。EUの専門機関、欧州疾病予防管理センター(ECDC)は23日、8月末までにデルタ株の感染が全体の9割に達するとの予測を公表した。当初遅れていたワクチン接種の速度は上がっている。ECDCによると、少なくとも1回の接種を終えた成人は28日時点で59%に上る。だが、より高い効果を得られる2回目の接種を終えた人は36%にとどまる。このまま多くの人が移動する夏のバカンスシーズンを迎えることへの不安はくすぶっている。 <非科学的な政策(その3:不要な規制・外国人に対する差別と人権軽視)> PS(2021年7月3、6日追加):*10-1のように、大会組織委員会が国立競技場で実施する開閉会式を無観客とする方向で検討しているそうだが、「接種を受けていない人への不公平な扱いや不当な差別に繋がる」などという馬鹿なことを言わずに、*10-3のワクチンパスポートを活用すれば、「50%以内で1万人が上限」「50%以内で5千人が上限」「無観客」などの科学的根拠のない規制を行って経済に迷惑をかけず、五輪も有観客で行うことができたのだ。 また、*10-2のように、五輪の取材のために来日するワクチン接種済の記者に、「①GPSで行動確認」「②水際対策アプリのダウンロード要求」「③観客への取材制限」等の行動制限を設けたことに対し、アメリカの有力紙12社が「④個人のプライバシーと技術上の安全面を軽視している」「⑤制限が来日する記者に限られることは不公平」「⑥報道の自由を侵害しないよう再検討を求める」と連名で大会組織委員会に抗議文を送ったのは全く尤もであり、私も外国人差別が過ぎると思って呆れていたところだった。 さらに、そのワクチンの職場接種は、*10-4のように、「ワクチン供給が追いつかなくなったため」として政府が新規申請受付を停止しているが、職場接種した人は自治体で接種する必要がないため、年齢を問わず接種券を素早く発行し、既接種者を自治体が直ちに把握できるようにして、1人の人にワクチンを二重に準備することがないようにすればよかったのだ。その理由は、接種券なしで職場接種を行えば接種済の入力に手作業の時間を要するため、既接種者をすぐ把握することができないからだ。そして、合理的にやってもワクチンが足りないのであれば、英アストラゼネカ製や米ジョンソン&ジョンソン製を使えばよいのである。 なお、*10-5の「⑦政府が自治体等の接種実態を正確に把握できずにいる」というのは、(申し訳ないが)デジタル庁を作ると言いながら、どこまでアホかと呆れさせられる。何故なら、「⑧どこで」「⑨誰に」「⑩どれだけの数量を接種したか」「⑪それぞれの場所の在庫と不足数量はどれだけか」は、ポスシステム(1980年代からスーパーやコンビニで使っているシステム)を使えば、何カ所で接種してもすぐ把握できるからだ。しかし、行政による代理登録はしてよいものの、手作業を入れずに集計できるよう、接種券を発行して番号管理をする必要はあった。そのため、「国がどんどん打てと急がせた」などと文句を言うのは、まるで自治体はやりたくなかったのにやっているようで感心しない。実際には、必要以上に年齢制限をして接種券を発行しなかった自治体にも責任があるだろう。 *10-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE025TZ0S1A700C2000000/ (日経新聞 2021年7月2日) 五輪開閉会式、無観客で検討 8日にも5者協議 東京五輪の観客数を巡り、新型コロナウイルス対策で東京都などに発令中の「まん延防止等重点措置」が延長される場合、大会組織委員会が国立競技場(東京・新宿)で実施する開閉会式を無観客とする方向で検討していることが2日、関係者への取材で分かった。収容定員の「50%以内で最大1万人」としていた観客上限を見直す。その他の大規模会場や夜間の一部試合を無観客にする案も浮上している。組織委は8日にも政府や都、国際オリンピック委員会(IOC)、国際パラリンピック委員会(IPC)と5者協議を開き、観客上限の見直しについて検討する。前回6月21日の協議で五輪の観客を最大1万人などに決める一方、都などへの重点措置が今月12日以降も続くなどした場合、無観客も含め対応を検討するとしていた。現在の政府基準では、重点措置下でのイベントの観客は「50%以内で5千人」が上限となっている。過労で一時静養していた小池百合子東京都知事は2日、都庁で公務復帰後初めての記者会見に臨み、都内で新型コロナ感染が再び広がっていることから「無観客も軸に考えていく必要がある」との認識を示した。組織委の橋本聖子会長は同日の定例記者会見で「政府が示す基準にのっとって5者協議を行いたい。無観客も覚悟しながら対応できるようにしていきたい」と述べた。組織委は観客上限を超過した販売済みチケットの再抽選を行い、6日に結果を公表する予定だった。上限の見直しが必要になる公算が大きく、延期を検討している。 *10-2:https://news.goo.ne.jp/article/fnn/world/fnn-204309.html (Goo 2021/7/2) 米有力紙が組織委に抗議文 来日記者の取材制限に 東京オリンピック・パラリンピックの取材で来日する記者らに設けられた行動制限に対して、アメリカの有力紙12社が、連名で大会組織委員会に抗議文を送ったことがわかった。来日する記者は、GPS(衛星利用測位システム)での行動確認が設けられるほか、水際対策アプリのダウンロードが求められ、観客への取材も制限される。これに対し、6月28日、ニューヨーク・タイムズ紙など有力紙12社が、連名で「個人のプライバシーと技術上の安全面を軽視している」と、大会組織委員会に抗議文を送った。制限が、来日する記者に限られることは不公平だとし、報道の自由を侵害しないよう再検討を求めている。 *10-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/114256?rct=politics (東京新聞 2021年7月2日) ワクチンパスポートを今月下旬に発行 経済活性化への期待の半面、接種受けない人への差別招く恐れも 政府は、新型コロナウイルスワクチンの接種歴を公的に証明する「ワクチンパスポート」を7月下旬に書面で発行する。外国への渡航時だけでなく、国内でもコロナの感染拡大で落ち込んだ経済効果への期待も高いが、接種を受けない人への差別を招く恐れもある。政府は当面、国外での利用のみを想定している。欧州連合(EU)では夏休みの時期を前に、1日から域内共通のコロナワクチン接種のデジタル証明書の運用を本格的に開始した。日本での発行について、加藤勝信官房長官は1日の記者会見で「システムの試行などを行った上で、具体的な発行を開始したい」と説明。デジタル化は「検討を進めている」と話した。 ◆申請、発行は市区町村 ワクチンパスポートは、仕事や留学で外国へ入国する際、隔離や検査などの措置が緩和されることが期待される。正式名称は「新型コロナウイルスワクチン接種証明書」となる予定で、氏名や旅券番号、ワクチンの種類や接種日などを日本語と英語で記載する。当面は国外での利用に限定し、日本への入国時で活用するかは今後検討する。早期に交付するため、まずは紙による申請・交付を行い、A4サイズの偽造防止用紙に印刷する。費用は国が負担する。申請先、発行主体は市区町村になる。 ◆経団連は早期活用を提言 経団連は6月24日、ワクチンパスポートの早期活用を求める提言を政府へ提出。国内での活用として(1)飲食店などでの各種割引、特典の付与(2)国内移動、ツアーでの活用(3)イベント会場での優先入場(4)介護施設や医療機関での面会制限の緩和ーなどを挙げた。 ◆国内での活用は「検討が必要」と官房長官 ワクチン接種については、持病など健康上の理由などから受けられない人や副反応を心配して希望しない人もいる。パスポートの活用は、接種を受けていない人への不公平な扱いや偏見が生じるとの指摘もある。加藤氏は2日の記者会見で「国内での接種の事実は、接種済証で証明できる」とした上で、ワクチンパスポートの国内での活用に関しては「接種の有無で不当な差別的扱いを行うことは適当でなく、検討が必要」と話した。 *10-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/700570 (佐賀新聞論説 2021.7.3) 職場接種申請停止、ワクチン供給に全力を 企業、大学を対象とする新型コロナウイルスワクチンの職場接種は、ワクチン供給が追いつかなくなったため本格開始の2日後に政府が新規申請受け付け停止を発表した。再開の見通しはつかず、このまま打ち切りになる可能性もある。自治体や自衛隊による接種を補う職場接種は、菅義偉首相が掲げた10~11月までに全希望者へ打ち終える目標に向け、作業加速化の切り札だった。しかしスピードを優先するあまり、需要見通しを甘く見た上、過大な量の申請をチェックする態勢なども未整備だった。大企業は早く申請して接種が進む一方、医療従事者確保など準備に時間を要した未申請の中小企業は、はしごを外された形だ。前例のない大規模ミッションとはいえ、やみくもな「強行軍」では国民の命と健康を守り切れない。市区町村による接種向けのワクチンも滞り始めた。政府はワクチン供給を軌道に戻すことに全力を挙げてほしい。政府は、若者を含む現役世代の接種率を一気に上げようと、同一会場で最低千人程度に2回打つことを基本に職場接種を開始した。使うのは5千万回分の供給契約を結んだ米モデルナ製ワクチンで、うち3300万回分を職場接種に割り当てた。だが早々に申請が供給を上回るペースとなり受け付けを止めざるを得なくなった。現場を混乱させる朝令暮改の対応だと言わざるを得ない。河野太郎行政改革担当相は原因に関し、従業員約千人の企業がワクチン5千回分を求めるなど過大な申請が散見されると述べた。実際に多すぎた例もあるだろうが、家族や取引先、近隣住民まで接種対象を広げるよう求めたのは政府だ。民間のやる気を駆り立てながら、過大請求を指摘するのはちぐはぐな対応と言わざるを得ない。企業や大学には反発、戸惑いが広がる。受け付け停止直前に駆け込み申請したが、予定する複数会場のうち一部にワクチンが回らない企業もある。経済同友会は地方で計画していた中小企業対象の集団接種を取りやめた。打ち手や会場を確保しながら申請できなかった企業は、それまでの手間やコストが無駄になる。この混乱の責任は重い。政府はモデルナ製の逼迫ひっぱくを受け、都道府県などが新たに開設する大規模接種会場向けをモデルナ製から米ファイザー製に切り替え、余ったモデルナ製500万回分を職場接種に回す方針だ。異なるワクチンのすみ分けがきちんと管理できるなら、こうした融通を利かせて危機を乗り切りたい。ただ、市区町村による個別・集団接種に従来使用されてきたファイザー製も現場に十分届かなくなっている。大阪市は、医療機関からの申請に追いつかないとして7月から個別接種向けのファイザー製供給を制限した。自治体や医療機関の一部に在庫が滞留し、必要な地域に回らないのが原因とされる。政府は自治体と連携し、早急に在庫の実態を調べて配分先を再調整してほしい。また政府は英アストラゼネカ製1億2千万回分も調達契約済みだが、まれに血栓症の副反応があるため使用を見送っている。だが海外では十分な接種実績と効果が報告されている。ワクチン供給の逼迫解消には、リスクを慎重に見極めた上、比較的安全とされる60歳以上に限定して使う選択肢もあり得るのではないか。 *10-5:https://digital.asahi.com/articles/ASP757H8DP75ULFA024.html?iref=comtop_AcsRank_05 (朝日新聞 2021年7月6日) 「どんどん打て」急かされた結果…接種記録遅れ現場混乱 新型コロナウイルスのワクチン接種をめぐり、政府が自治体などの接種実態を正確に把握できずにいる。接種回数や自治体の在庫量は、国のワクチン接種記録システム(VRS)で一元的に管理するが、接種の入力が煩雑で遅れるケースが相次ぐ。ワクチン不足を訴える自治体が出ているなか、今後の配送計画にも影響を及ぼしかねない。 「VRSの作業は煩雑で負担になる。接種に注力させてほしい」。大阪市はこうした大阪府医師会からの要請を受け、診療所などから個別接種がすんだ人の接種券を回収し、登録作業を代行している。国は接種券の情報を瞬時に読み取る専用端末を全国に配布。医療機関や自治体が接種の際に登録する仕組みだが、個別接種を行う市内約1800の診療所などのうち、9割がVRSの端末の利用を希望しなかった。このため、接種日から登録まで平均1カ月のタイムラグが発生。市の集団接種会場では、当日のうちにVRSの登録を済ませるのとは対照的だ。松井一郎市長は、「VRSの作業に手間がかかり、(診療所などでの)接種人数が抑えられるなら本末転倒」と、登録より接種を優先してきた事情を強調する。ただ、市の人口は大阪府内の3割を占め、府全体の接種率に大きく影響する。吉村洋文知事からの要請もあり、7月以降は接種券をこまめに回収するなどして登録遅れを1週間に縮める対応を取っている。行政による代理登録は、大阪市だけでなく、東京都世田谷区でも行われている。VRSの入力遅れは、地域ごとにさまざまな事情で生じており、政府が掲げた「1日100万回接種」の目標達成も実際の達成と発表まで最大15日間の遅れがあった。そもそも、VRSは国がリアルタイムに接種記録を管理するためにつくり、ワクチンの在庫把握にも利用される。ところが、「国がどんどん打てと急がせた」(官邸関係者)ことで、自治体の入力が追いつかず現実とシステム上の数字にギャップが生まれた。こうした状況に、政府内の調整を担う河野太郎行政改革相は、7月からVRSへの登録実績に応じてワクチンの一部を傾斜配分する方針を表明。接種登録の作業が遅れている自治体は、システム上は接種が進んでおらずワクチンが余っていると見立てた。自治体側からは反発が出ており、7月の自治体へのワクチン配送量が6月より約3割減になるところにこの傾斜配分が加わったことで、全国の自治体に「ワクチンが足りなくなる」との懸念が広がった要因の一つとなった。さらに接種状況の把握を難しくさせたのが、6月から始まった企業や大学の職域接種だった。自治体での接種と異なり、接種券がなくても従業員名簿や学生簿で管理することで接種を可能にした。後日、自治体から本人に接種券が届けば企業や大学に提出して、VRSに登録してもらう。このため、自治体からすれば、住民の誰が職域接種を済ませたのかすぐに分からず、接種計画が立てづらくなった。官邸関係者は「職域接種により、自治体全体での接種が早いのか遅いのか見えなくなる。ブラックボックスになってしまった」と説明する。自治体接種で使われる米ファイザー製と、職域接種で使われる米モデルナ製は、年内に計2億4400万回分(1億2200万人分)が供給される見通し。接種対象となる約1億1千万人分のワクチンは確保されているが、7月以降は自治体への配送量が減る。今後、ワクチンの配分を「最適化」させるには、正確な接種状況や迅速な在庫量の把握が欠かせない。河野氏は6月23日の記者会見で、今後のワクチンの配送計画について「目をつぶって綱渡りをするようなオペレーションにならざるを得ない」と漏らした。そのうえで、在庫を減らして必要なものを必要な時につくるトヨタ自動車の生産方式を引き合いに見通しを語った。「自動車工場のようにジャスト・イン・タイムというわけにもいかない。すぐにVRSで(職域の)数字が見えないので、正直ちょっと厳しいと思っている」 <不合理な政策(外国人への不公平・不公正な規制と人権侵害)> PS(2021年7月4日追加):*11-1のように、米国務省が世界各国の人身売買に関する2021年版報告書で日本の外国人技能実習制度の悪用を問題視した。具体的には、「①手取り13万5000円と聞いていた給与は8万円ほどだった」「②社長の従業員に対する暴力や嫌がらせがあった」「③実習制度は劣悪な職場でも仕事を変えられない職場移動の自由がない仕組み」「④多くの実習生が劣悪な環境でも働き続けるしかない」「⑤2019年に7割以上で労働時間や残業代支払いなどでの違反があった」などで、技能実習の建前の下で、搾取・パワハラ・人権侵害が横行しているため、私も技能実習制度を廃止して人権を守る受け入れ制度をつくるべきだと思う。 また、*11-2の上毛新聞(群馬県の地方紙)によると、「⑥2020年に県警が摘発した在日外国人は、433人と過去10年で2番目に多かった」「⑦日本人を含めた全摘発数に占める割合は前年比0.5ポイント上昇の10.9%で2年連続全国最高だった」「⑧新型コロナの影響で失職した外国人がコミュニティーを頼って群馬県に集まっていることが影響した」「⑨罪は、窃盗95人、傷害・暴行66人、詐欺8人、薬物事犯26人、入管難民法違反187人(過去10年最多)」「⑩国籍別では、ベトナム212人、ブラジル41人、中国34人、フィリピン33人、ペルー18人でベトナム人増加に伴って摘発も増えた」とのことだ。しかし、このうち、⑨の入管難民法違反は、日本人にはない罪で不合理なほど厳しい上、窃盗は⑧の新型コロナの影響で失職した外国人が生きるための最後の手段として行ったものと考えられる。そのため、この2つを除けば、県警が摘発した在日外国人は151人(=433-95-187)・4.1%(151/《433/0.109-95-187》)となって、日本人の犯罪率と変わらないのではないかと思う。つまり、いかにも外国人が悪いことをする人であるようなイメージを作っているが、その罪の多くは外国人に課された不公平・不公正な待遇に起因するものと言える。 また、*11-3の難民保護でも、相手の立場に立って考えない人権侵害が多く、具体的には「⑪10年代には紛争激化で世界の難民数が増え」「⑫紛争や人権侵害のため母国に住めず、日本に難民申請する人が増加した」にもかかわらず、「⑬法務省は申請増に歯止めをかけようと、2018年に難民に当てはまらない申請者の在留や就労の制限を強化し」「⑭2020年の難民認定率を0.4%に留めたため先進国の中で極めて低い水準になった(カナダ56%、英国46%)」。さらに、「⑮在留期限が切れて不法残留者となった人は2021年1月時点で8万2868人に達して、摘発され帰国するまで入管施設に留めおかれ」「⑯名古屋出入国在留管理局で死亡したスリランカ人女性は半年以上施設に収容され、仮放免を求めてハンガーストライキを起こし体調を崩した収容者も多い」という状況だ。つまり、日本が好きで日本に来てくれた人をひどい目に合わせて追い返すことによって、その一族を根っこからの日本嫌いにするという愚策を行っているわけだ。 2021.2.7上毛新聞 2021.5.28日経新聞 2021.5.28日経新聞 (図の説明:左図のように、群馬県警における在日外国人の摘発数が上がったそうだが、その内訳は、外国人に課された不公平・不公正な待遇に起因するものが半分以上である。また、中央の図のように、日本への難民申請者の数は高水準が続いているのに、日本は難民認定を厳格化して認定割合を0.4%に留めている。そのため、右図のように、第三者機関による審査制度は必要だが、そもそも先進国並みの認定水準にして人材鎖国をやめることが必要不可欠だ) *11-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/114281 (東京新聞 2021年7月2日) 「搾取」の汚名負った外国人技能実習制度 米国務省の人身売買報告書が指摘 米国務省が1日発表した世界各国の人身売買に関する2021年版の報告書で日本の外国人技能実習制度の悪用が問題視されたのは、多くの実習生が劣悪な環境でも働き続けるしかない状況に追い込まれているからだ。日本の技術を母国に持ち帰ってもらう「国際貢献」の理念は色あせ、逆に「搾取」の汚名を負った。 ◆「手取り月13万5千円」、実際は8万円 「稼げないし、職場のいじめが怖くて逃げ出すしかなかった」。元実習生のベトナム人男性(30)は2日、本紙に2018年の実習先での経験を明かした。125万円を借金して来日したが、手取り13万5000円と聞いていた給与はわずか8万円ほど。社長の従業員に対する暴力や嫌がらせから、「次は自分かも」と不安に陥り、半年ほどで逃げ出した。 ◆7割以上の事業所で労働時間などの違反 いったんは入管施設に収容され、今は仮放免中。働くことは認められない。コロナ禍で航空便がないため帰国もできず、生活に窮して支援団体に保護された。そもそも実習制度は劣悪な職場であっても簡単に仕事を変えられない仕組みだ。この男性のような失踪者は19年、9000人近くに上り、その後も後を絶たない。厚生労働省によると、技能実習生は毎年増え、昨年10月で40万2356人。外国人労働者の23・3%を占める。賃金は月平均16万1700円で、外国人労働者全体の同21万8100円を大きく下回る。19年に実習先約1万事業所を調べると、7割以上で労働時間や残業代の支払いなどで違反があった。 ◆指宿弁護士は「制度廃止を」 人身売買と闘うヒーローに選ばれた指宿昭一弁護士は2日、「実習生はブローカーへの手数料などで多額の借金を背負い、職場移動の自由はなく、低賃金やパワハラなどがあっても働き続けなければならない。実習制度はまさに人身取引的な労働の根源だ」と指摘。「制度を廃止し、中間搾取されず、人権も守られる受け入れ制度をつくるべきだ」と話す。 *11-2:https://www.jomo-news.co.jp/news/gunma/society/272265 (上毛新聞 2021/2/7) 在日外国人の摘発数 2020年は433人 群馬県警 半数がベトナム人 2020年に県警が摘発した在日外国人(永住者、特別永住者などを除く)は433人と過去10年で2番目に多かったことが6日、群馬県警のまとめで分かった。このうちベトナム人が212人と国籍別で最多。日本人を含めた全摘発数に占める割合は前年比0.5ポイント上昇の10.9%となり、2年連続で全国最高となった。新型コロナウイルスの影響で失職した外国人がコミュニティーを頼って群馬県に集まっていることなどが影響したとみられる。国籍別では、ベトナムがほぼ半数を占めたのをはじめ、ブラジル41人、中国34人、フィリピン33人、ペルー18人と続いた。刑法による摘発は196人(前年比15人減)で、このうち窃盗が半数近い95人に上った。次いで、傷害や暴行などの粗暴犯が66人、詐欺などの知能犯が8人。特別法での摘発は237人(11人増)。入管難民法違反が187人で過去10年で最多となり、覚醒剤取締法違反などの薬物事犯は26人などだった。昨年9月に発生した前橋市のホテルで女性経営者が刺殺された強盗殺人事件で県警はベトナム人の男を逮捕。10月には、北関東で家畜や果物が相次いで盗まれた事件に絡み、入管難民法違反容疑でベトナム人の男女13人を逮捕した。群馬県によると、県内の外国人住民は昨年12月末時点で6万1461人で、県人口の約3%。県警組織犯罪対策課によると、在日外国人の摘発は16年256人、17年338人、18年368人、19年437人と増加傾向にある。県警による全摘発人数に占める割合も16年5.2%、17年7.4%、18年8.4%、19年10.4%と上昇が続いている。同課は、県内に住むベトナム人の増加に伴い、摘発も増えていると指摘。「犯罪が減るよう適切に取り締まるとともに、多文化共生への対策にも取り組む」とした。 *11-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA2334E0T20C21A5000000/ (日経新聞 2021年5月28日) 難民保護、政策手薄の10年 日本の認定率は0.4% オーバーステイ(超過滞在)などの理由で在留資格のない外国人の保護のあり方が注目を集める。政府・与党は入管施設での長期収容を防ごうと出入国管理法の改正を目指したが野党が反発し今国会での成立を見送った。難民認定をはじめ入管行政は効果的な政策が打たれないままだ。「きょう食べるものにも困っている」。NPO法人の難民支援協会(東京・千代田)には、生活や就労などの支援を求める外国人からの連絡が年間4000件近く寄せられる。最近は新型コロナウイルス禍で困窮した人からの相談が急増しているという。紛争や人権侵害のため母国に住めず日本に難民申請する人は増加傾向にある。申請者数はピークの2017年に1万9629人となり10年に比べ16倍に達した。協会は「難民は仲介人らを通じ国を探す。入国できそうな国の航空券を取り入管などで保護を求めることが多い」と指摘する。難民が日本を訪れるのは多くの場合「偶然、査証(ビザ)が発給された」ためだ。日本に来る難民はもともと、ベトナム、ラオス、カンボジア人が中心だった。ベトナム戦争の「ボート・ピープル」が典型例として知られる。02年に中国の日本総領事館に北朝鮮の脱北者が駆け込む事件が発生。それを機に、難民の申請要件を緩和し、認定前の仮滞在を可能にした改正入管法が04年に成立し申請がしやすくなった。政府は10年、申請者の就労も一律で認めた。年間1000人程度だった申請者数は14年には5000人に。入管の人手不足もあり「就労目的で申請を悪用したとみられる事例が増え審査期間も長くなった」(出入国在留管理庁)。10年代には紛争の激化で世界の難民の数も増えた。日本は観光客の誘致へビザの発給要件を緩和したこともあり難民が来日する事例も増えた。法務省は申請増に歯止めをかけようと、18年、明らかに難民に当てはまらない申請者の在留や就労の制限を強化した。支援団体は日本の認定率を問題視する。19年は1万375人の申請に対し認定は44人と、0.4%にとどまった。56%のカナダ、46%の英国に比べ低水準が際立つ。在留期限が切れて日本に残る不法残留者は今年1月時点で17年に比べ3割多い8万2868人に達する。そうした人は摘発され帰国するまで原則として入管施設にとどまる。3月に名古屋出入国在留管理局で死亡したスリランカ人女性は半年以上施設に収容されていた。仮放免を求めハンガーストライキを起こし体調を崩す収容者も多い。難民申請を繰り返す人が多く入管施設は逼迫する。「送還忌避者」は20年12月時点で3100人にのぼる。「入管法改正の背景には送還忌避があとをたたない状況がある。迅速な送還の実施に支障が出て収容が長期になることの要因となっていた」(上川陽子法相)。法務省は入管法改正案で長期収容の問題解決を目指した。3回目以降の申請は強制送還の対象になるとの規定を設けた。現在は認定申請すると回数や理由に関係なく送還できない。強制送還が可能になると収容者は減るが帰国先で迫害を受けかねない。野党は「人権侵害のスリーアウトルール」と呼び反対の論拠にした。法務省は外国人の受け入れを広げるため難民に準じた新資格「補完的保護対象者」を提案した。母国が紛争中の人を念頭に難民と同じように定住者の資格で在留を認める。筑波大の明石純一准教授は法改正の必要を強調する。それだけでは長期収容の問題は解決せず「難民認定などを審査する入管の体制強化が必要だ」と話す。支援団体などは難民認定を入管当局ではなく専門性の高い独立機関がすべきだと主張する。日本の入管行政はこの10年間、申請の急増に対応する政策が手薄だった。改正案の成立は見送りになったが長期収容の問題は残る。入管法改正案の今国会成立が見送られた背景には、スリランカ人女性の死亡事案がある。死亡の経緯を巡り野党が法務省の説明不足を指摘し、事実関係の提示がなければ採決に応じない姿勢を示した。法務省は遺族が求めた女性の映像の公開に消極的だ。遺族は「真実で公正な答えが欲しかった」と訴えた。出入国在留管理庁によると、収容中の外国人が施設で死亡した例は2007年以降17件起きている。現在の入管行政は難民申請者の増加に追いついていない。生活が苦しく就労も不安定で、申請にいたるケースも多い。外国人の人権保障を巡り、世界から日本に向けられる視線は厳しい。スリランカ人女性の死亡事案についても世界が納得する説明がないと、日本への不信感は高まるだろう。
| 男女平等::2019.3~ | 04:56 PM | comments (x) | trackback (x) |
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2020,12,20, Sunday
(図の説明:左図のように、日本のジェンダーギャップ指数は、2018年の110位から2019年は121位と下がった。そして、中央の図のように、経済分野と政治分野の遅れが目立っている。特に、右図のように、政治分野が世界平均より著しく低いことがわかる) (1)製造業における女性差別と女性蔑視 1)自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)の主張について 自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)が、*1-1-1・*1-1-2のように、「①電動化車両は、EVだけでなくPHV・PHEVも含まれるのでミスリードはやめるべき」「②自動車産業はCO₂削減努力を行ってきて、平均燃費は2001年の13.2km/Lから2018年の22.6km/Lと71%向上し、CO₂排出量も2.3億トンから1.8億トンに22%減るという結果を出している」「③今の電力状況のままクルマをすべてEVに置き換えれば電力不足になるため、EVへの急激な移行に反対する」「④日本は火力発電所がメインであるため、EV化がCO₂排出量削減にはならない」「⑤50年『実質ゼロ』目標の実現には研究開発に10年~20年はかかり、個別企業として続けるのは無理なので国の支援を求める」「⑥ガソリン車比率の高い軽自動車は、地方のライフラインなので、脱ガソリンで困るのは国民だ」「⑦2030年代に新車のガソリン車販売をなくすことを検討しているのは、自動車業界のビジネスモデルを崩壊させる」「⑧EVは製造や発電段階でCO2を多く排出するので、日本で車をつくれなくなる」「⑨ガソリン車をなくすことでカーボンニュートラルと思われがちだが、今までの実績が無駄にならないように日本の良さを維持することを応援してほしい」「⑩日本はエネルギー問題の方が大きく、原発新設どころか既存施設の再稼働もできない状況であり、カーボンフリーの電力をどうやって確保するのか」等を述べられた。 しかし、この発言には、私や小池知事などの女性政治家が作った方針はどうせ大したことはなく、理系に弱くて現状把握もしていないだろうという事実とは異なる女性蔑視を含んでいる。製造業(特に自動車)には女性管理職が少なく、それにはこのような女性蔑視が影響しており、その結果として判断の誤りも生んでいるため、その内容をここに記載する。 まず、①については、排気ガスによる公害を出し続けてきたガソリン車からEVへの変換時における過渡的状況の下ではPHV・PHEVも認められるが、たとえ②の実績があったとしても、PHV・PHEVは排気ガスを出さず環境を汚さない車とは言えないのがFactであるため、これをEVと強弁することこそニーズを理解していないミスリードである。 また、⑤については、1995年に私が経産省に提案して1997年にCOP3で京都議定書が採択された時に、EV化・再エネ発電・蓄電池開発の必要性が日本企業に開示されており、その時点から開発が始まっているため、10年~20年どころか25年(四半世紀)も前から始めてこれまで応援し続けてきたのだ。しかし、日産はゴーン社長の下でEVに進んで結果を出したが、トヨタはハイブリッド車と燃料電池車に進んでいつまでも資本を集中投下しなかったため、未だに⑦⑨の問題が残っているのであり、これは経営者の判断ミスに基づく経営の失敗だ。そして、日本は、リーダーに合理的判断力がないため欧米に追随することしかできず、欧米は既に米テスラのみならず、*1-3のように、独ダイムラーも本業のEVへの注力を鮮明にしている。 なお、③④⑧⑩については、地震が多くて国土の狭い日本に原発という選択肢はなく、既に原発は進歩的な電源でもないため、私は、2011年の東日本大震災直後から再エネへのシフトを10年以上も提唱しており、あらゆる意味でその方が日本にプラスであることもずっと述べている。そして、*1-4のように、東芝の車谷社長は、再エネ関連事業の売上高を2030年度には2019年度の約3.4倍にあたる6,500億円とする目標を掲げ、達成に自信を見せている。 また、⑥の軽自動車が地方の重要なライフラインであるというのはFactだが、軽自動車のガソリン車比率の高かったり、*1-2のように、EVにすると割安さや車体のコンパクトさが失われかねないというのは嘘だ。何故なら、EVはガソリンエンジンを作って積む必要がなく、軽自動車で往復する距離は短いためこれまでの蓄電池でも十分で、製造コストが安くなるからである。そのため、脱ガソリン・電動化シフトで困るのは、これまでガソリンエンジンだけしか視野に入れてこなかった製造メーカーであり、軽自動車のユーザーである国民ではないというのがFactだ。さらに、軽自動車のユーザーは女性が多いため、環境意識が高く、デザインのよさも求めており、EV版のVWやフィアットがあればそちらでもよいのだ。 そのため、私は、*1-5の2030年までに都内で販売される新車すべてをEVかHVに切り替えるため、充電器などのインフラ整備向けの補助金を拡充するのはよいと思う。東京都は既にマンションの駐車場に設置する充電器への補助制度を設けているそうだが、これは、スーパー・コンビニ・事業所などの駐車場にも広げ、太陽光発電する駐車場屋根とセットで全国ベースに広げて欲しい。そうすれば、客はそのような設備のあるスーパーやコンビニを選び、自動車は無料か非常に安い燃費で動くことになる。 なお、エンジンは水素燃料電池にも応用できるので、いつまでもガソリンにこだわる必要はない。日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)は、2030年代半ばに全ての新車を脱ガソリン車とする目標に懸念を示し、守りの姿勢に入ってかえって守れない状況に陥っているが、これがトヨタグループの創始者で豊田自動織機製作所(現:豊田自動織機)を創業した豊田佐吉だったら、「いつまでも車だけにこだわる必要はない。もっているノウハウと人材を使って、水素燃料電池を飛行機や列車や船舶に応用しろ」と言ったに違いない。 (2)農業における女性差別と女性蔑視 農業は主に食品産業であるため、共働きが増えても家事における性的役割分担が顕在する日本では、購入の選択をする人は女性が多い。そのため、栄養や料理に強く、女性のニーズに気付きやすい女性が活躍できる素地がもともとあるのである。 そのような中、*2-1のように、事業の効率化や需要の拡大・新規開拓を目指して、JAグループ高知が高知市に開設する直売所「とさのさと」と同じ敷地に大型スーパーが出店し、互いの強みを活かして客を呼び込むのは良い案だと思う。 最近は、スーパーもカット野菜・総菜・加工品・調味料を豊富に扱い、共働きの主婦や高齢者が食事の質を落とさずに家事の省力化をできる提案が多くなったが、同じ敷地内にJAの直売所があれば新鮮な地場産野菜や果物を比較的安く購入できてさらによい。ただ、それぞれの売り場で清算しなければならないのは時間がかかるため、まとめて清算できる仕組みにして欲しく、それは店や出品者に番号をつけて区別することで可能だ。 また、JAわかやまは地域経済の活性化に向けて地元の和食チェーン「信濃路」と連携することで合意したそうだが、コロナ禍では、需要減だけではなく需要増もあり、それは中食や出前であるため、長く続いた規制のために店じまいに追い込まれたレストランとJAが組んで、新鮮な食材で美味しさに妥協しない省力化料理を販売すれば、互いの強みを生かせるだろう。 このような新規アイデアの実現には、ポイントをついたマーケティングと結果を経営に反映できる経営者(役員)の存在が必要で、*2-2のように、JA全中では、2020年7月現在、JA役員(理事・経営管理委員・監事)に占める女性比率が9.1%と前年比で0.7%増えたそうだ。全中は、今後も目標達成に向けて、JAに働き掛けを強めるそうである。 全正組合員に占める女性の割合が22.7%しかいないのは、前年比で増えたといっても少ないと思うが、総代は9.8%と前年比0.4%増、役員総数は1,419人で前年より53人の増加だそうだ。女性の割合を高めるために非常勤理事の定数は増やさず、地域選出の女性理事を増やしたり、地域選出の理事定数を削減して全域の女性理事枠を設定したりするなど役員選出方法の見直しを行ったりしており、製造業や政治よりも努力しているとは思う。 しかし、会議で少数意見として無視されないためには、役員に少なくとも30%の女性が必要なので、次の男女共同参画基本計画では、正組合員に占める女性の割合を40%以上、JA役員に占める女性の割合を30%以上にするのがよいだろう。 (3)政治における男女不平等と生活関連政策の軽視・縦割行政 1)政治分野に女性議員が少ない理由 日本では、政治だけでなく製造業・農業などの他分野でも、トヨタ自動車社長の豊田章男氏のように、創業者の直系男子が地位を受け継ぐ世襲になっている場合が多い。これは、江戸時代に成熟した封建制と儒教文化によるのだろうが、このような先入観があると、一般国民が無意識でも、民主主義に基づいて投票した筈の女性の当選確率は下がり、この結果は能力に比例するものではない。 また、県連の推薦に基づいて党本部が公認する場合、県連でも女性蔑視が働き、地方の県連は中央よりもさらに保守的な場合が多いため、女性を公認候補として党本部に推薦することに積極的ではない。そのため、女性は、地方で推薦されるより中央で推薦される方が容易なくらいである。もちろん、男性はそうではない。 このようなことが重なる結果、*3-1のように、小選挙区の多くに現職候補がいる自民党で特に女性議員の割合が小さく、自民党国会議員393人(衆参両院議長を除く)のうち女性国会議員は39人の約1割で、衆議院議員全体でも女性議員の割合は1割足らずになり、各国の議会と比較した世界ランキングは167位だそうだ。 それでは、「世襲制は政治によい影響を与えるのか?」と言えば、わかりやすい例を挙げると、(1)のトヨタ自動車社長である豊田章男氏がトヨタグループ創始者で初代の豊田佐吉と比較すると、偉人ではなく普通のぼんぼんであるのと同じことが政治の世界でも起こっている。つまり、世襲の場合、(全部ではないが)選りすぐられていない普通の人が多くなるのである。 このような中、女性蔑視の先入観というハンディを乗り越え、世襲でないのに衆議院議員になった女性は、同じく世襲でないのに衆議院議員になった男性よりも、ハンディの分だけ狭き門になっており、より選りすぐられていると言える。 そのため、*3-1のように、①クオータ制には現職らから「議員の質が下がる」といった批判もある ②議員や候補者へのハラスメント防止 ③多様性が必要だが、明確な目標設定がないと進まない と言われているそうだが、①については、現在の現職は、男性や世襲ということで下駄をはかせてもらって当選した人が多いため、クオータ制にして女性割合を30%(50%ではない)にしたからといって、議員の質(そもそも、質の定義が不明)は下がらないと思う。 また、②は実際に起こるため、特に女性議員や候補者に対するハラスメントは、インターネットによる女性蔑視を利用した誹謗中傷も含めて徹底して禁止すべきだ。そして、③の多様性がなければ、2)に記載するように、政策に関するあらゆる方向からの議論ができないので、明確な目標設定をした女性の政治進出を含め、多様性は維持すべきなのである。 しかし、私は女性だが、夫婦別姓を認めない民法の規定を合憲とした2015年の最高裁判決は妥当だと思う。その理由は、憲法24条1項は、「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立する」と規定しているだけで、夫婦の姓については規定していないからだ。 そして、民法第750条も、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と規定しているので、条文上、男女不平等ではない。そのため、21世紀の現在なら、憲法と民法の理念に従って両性が平等な立場で結婚し、家族が使う「Family Name」を話し合いで決めた上、改姓する人が旧姓を使いたい場合には、戸籍法上の届け出を行えば徹底して旧姓を使えるよう、戸籍法を改正すればよいと考える。 2)女性議員が少ないことの政策への悪影響 i) 2020年度第3次補正予算について 2020.12.16東京新聞 2020.12.15産経BZ (図の説明:左図のように、新型コロナを名目とした追加経済対策や補正予算を含めて、2020年度は歳出が175.6兆円、国債発行額は112.5兆円と跳ね上がったが、これは、新型コロナへの対応失敗を原因とする人災によるものだ。また、新型コロナを名目とする追加経済対策と第三次補正予算の内訳は右図のとおりだが、普段から計画的・継続的・無駄なく行うべきものが多い) 2020.12.15NHK (図の説明:左図のような医療提供体制の充実は普段から行っておくべきもので、新型コロナ対策としてそこだけに焦点をあてて行うのは、お粗末すぎる。また、中央の図のような経済構造改革は、新型コロナとは関係なく、変化に伴って継続的に行っておくべきものだ。さらに、右図の国土強靭化も、計画的で無駄のないよう、普段から行っておくべきものである) 日本政府(特に厚労省)は、初めから新型コロナウイルスに対し非科学的で誤った対応をしていたため、日本は他の東アジア諸国と比べて極めて悪い成績となり、経済を止めたので「需要不足」にもなり、何がいけなかったのかについて反省することもなく、*3-2-1のように、国民の血税をばら撒いて大きな経済対策を行う第3次補正予算案を出した。そのため、このような馬鹿なことは、今後も続くと思わざるを得ない。 そして、年換算で34兆円になる“需要不足”を財政支出で穴埋めするそうだが、本物の需要と財政支出で無理に作り出す需要は供給者が異なる上、作り出された需要によって福利を得る者も変わり、慣れない人がもともと求められていなかった仕事をするため、生産性や意欲が低くなる。 その財政支出による支出先は、①コロナの感染拡大防止 ②ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の実現 ③防災・減災のための国土強靱化 が柱だそうだ。 しかし、このうち、①については、無症状でも感染力のあることが最初からわかっていたので、なるべく多くPCR検査をして感染者を隔離すべきだったのに、検査をするのに何段階もの障壁を設けて感染症を市中に蔓延させ、技術力を上げる機会となる治療薬やワクチンの開発も時間のかかることがよいことででもあるかのように吹聴して外国頼みになってしまった。そのため、政府の誤った政策とメディアが発した悪いメッセージが、まず猛省されるべきなのである。 また、②の時代に合った経済構造への転換は、コロナとは関係なくいつでも行っていなければ無駄の多いヒト・モノ・カネの使い方になるのに、日本では、それが行われない。つまり、日本の終身雇用・年功序列・一度辞めたら戻れないという雇用体系の下では、雇用調整助成金を支払ってでも人の移動をさせないことが必要になり、生産性の著しく低い人や実質的に仕事をしていない人が多くなるため、景気が好循環するわけがないのだ。従って、本当は、企業に雇用調整助成金を支払うより、失業した個人に適時に失業保険を支払う政策にした方がよく、失業しても失業保険給付ももらえないような労働者は、男女にかかわらず作ってはいけないのである。 さらに、③の防災・減災のための国土強靱化も、景気対策ではなく、よく設計された無駄のない使い方をしなければ、失業者救済のための質の低いばら撒きに終わってしまう。そのため、失政を改めることなく、“需給ギャップ”を理由に国民につけを廻して「真水」と「財政投融資」を緩めるのは、借金を増やすだけの大きな問題である。 結局、*3-2-2のように、閣議決定された第3次補正予算は19兆1761億円と決定されたが、日本は台湾と同じく島国であるため、科学的理論にのっとり、いい加減でない検疫や防疫措置を行っていれば、感染症を市中に蔓延させることはなく、強制力を持つ営業時間の短縮・休業・ロックダウンやそれに伴う血税の無駄遣いも必要なかった。 そのため、新型コロナ感染拡大防止目的と称して何兆円もの予算を使い、経済対策としてグリーンニューディールを行い、無駄遣いの多い防災・減災・国土強靭化を推進して、100兆円超の国債を新規に発行し、社会保障を持続可能なものにすると称して、つけを国民負担増と社会保障削減で国民に支払わせることには憤りしか感じない。 そして、このように、生活を無視した政策を平気で行えるのは、生活感も計画性も科学的センスもない男性が中心となって政策を決めているからであろう。 ii) 106兆円の2021年度予算案について 2020.12.21毎日新聞 同、北海道新聞 2020.12.15NHK 政府は、*3-2-3のように、12月21日の閣議で106兆6097億円の2021年度予算案を決定し、長引く新型コロナ禍の中、さらなる積極財政をとるそうだ。 水素や蓄電池などの技術開発が進み、グリーン社会が実現して、エネルギー自給率が100%以上となり、排他的経済水域内の海底資源も掘り出して使えるようになれば、失政続きで積みあがった国債を国民に迷惑をかけずに税外収入で償還することも可能かもしれないが、支出は収入がある程度は確実になってからするもので、全く不確実な段階でするものではない。 また、デジタル化やスマート化は、省力化に必要な手段かもしれないが、世界では既に当たり前になっているため、これが国の収入増に結び付くか否かはわからない。さらに、自治体のシステムを一つに統一してしまうと、それぞれの工夫によるその後の発展がなくなる上、マイナンバーカードや都市封鎖で国民を管理したがる国を、私はよい国だとは思わない。 なお、NHKは、*3-2-2で、令和3年度は、①感染拡大防止 ②ポストコロナに向けた経済構造転換 ③財政健全化 という3つの課題に対し、バランスをはかりながら予算を組む必要があるとしているが、①は、感染症対策の基本を守りながら、新しい治療や予防の方法があれば積極的に取り入れることに尽き、これがすべてできなかった厚労省のレベルの低さに驚く。 そして、“ポストコロナ”“新たな日常”などという言葉を使って、新型コロナ感染症を経済構造改革の起爆剤にしようと言うのでは、わざと新型コロナを蔓延させているのではないかとさえ思われる。しかし、構造改革は、企業や個人がContenuing Improvementを行いながら、常日頃から継続的に行っていかなければ世の中についていけなくなる当然のものなのである。 従って、東アジアにある日本は、新型コロナに対して欧米とは異なる特性を持っているため、感染症対策の基本を徹底して行い、早々に新型コロナを収束させて、経済を止めずに、返す当てもない選挙対策の際限なき財政出動はやめるべきだ。 iii) 「命を守るため」と言いながらの新型コロナ蔓延政策は故意か重過失か (図の説明:左図のように、人口100万人当たりの新型コロナ死者数は、中国・韓国・日本で著しく低い。また、中央の図のように、日本企業が開発したアビガンは、米国・ドイツほか20ヶ国が既に購入を決定し、イスラエルが治験を開始しているものだ。アビガンは、ウイルスの増殖を抑える機序で効くため、既にウイルスが増えてしまった重症の患者より、まだウイルスがそれほど増えていない軽症・中等症の患者に使った方が有効なわけである) 厚労省の医薬品専門部会は、12月21日、*3-2-4のように、新型コロナ感染症治療薬候補「アビガン」の承認を見送り、その理由を、「開発した富士フイルム富山化学等から得られたデータは、アビガンを投与した患者は偽薬投与の患者よりも症状が軽快し、陰性になるのが約2.8日短くなったが、『偽薬は効かない』との先入観から医師が適切に判断できていない事例があった」としている。 しかし、新型コロナに感染しているのに偽薬を飲まされる患者はたまったものではない上、アビガンを投与した患者は偽薬投与の患者よりも症状が軽快し、陰性になるのが約2.8日短くなり、海外では既にアビガンを使っていることから、この判断は、医師や患者の負担を顧みず、アビガンを承認しない理由を探しているにすぎない。 一方、*3-2-5のように、政府は、12月23日、新型コロナ感染症対策分科会に特別措置法の改正に向けた論点を示し、都道府県知事が要請・指示した休業や営業時間短縮に応じない店舗などに罰則の導入を検討していることを明らかにしたそうだが、休業や営業時間短縮などの国民に対する私権制限が新型コロナ感染症拡大を止めるという証拠は示しておらず、私権を制限する特措法を作るため、故意に新型コロナ感染症を長引かせているのではないかとさえ思われる。 その上、尾身氏が「東京、首都圏が他地域と比べて人流が減っていない」「午後10時よりも早くという意見が多く出た」と話していることから、このような休業や営業時間短縮等の強制によって損害を受けた店舗は、自分の店の時短が新型コロナ感染症拡大を止めるという根拠を、アビガンのレベルで明らかにするよう、集団訴訟して損害賠償請求を行えばよい。何故なら、そのくらいのことをしなければ、政治・行政・メディアの横暴が止まらないからである。 iv) 年収200万円(月収16.7万円)の暮らしと後期高齢者医療費の窓口負担増 *3-2-6に、「①菅首相と公明党山口代表が、年収200万円以上の後期高齢者医療費窓口負担を1割から2割に引き上げることに合意」「②後期高齢者でも現役並みの所得がある年収383万円以上の人は3割負担」「③2022年に団塊の世代が75歳以上になり始めるのを前に、現役世代の負担を軽減する狙いで2022年10月から実施」「④厚労省は年金収入のみの単身世帯で年収240万円以上に絞る案から155万円以上まで5つの案を示し、年収200万円以上は3つ目」「⑤これにより現役世代の負担が880億円減る」「⑥首相は、将来の若い世代の負担を少しでも減らしていくのは大事だと述べた」と記載されている。 そのため、年収200万円の単身年金受給者はどういう暮らしができるのか計算したところ、年間社会保険料9.41万円(=《200-120-33》X9.64%+4.88)、年間所得税3.25万円(=《200-120-38-9.41》X0.1)円、年間市県民税9.9万円(=《200-120-9.41-33》X0.10+6.2)がかかるため、手取り年収は約177万円(=200-9.41-3.25-9.9)となり、手取り月収が14.8万円となる。これは、最低生活とされる生活保護受給額(物価の低い地域13.1万円、物価の高い地域15.8万円)の中間程度だが、生活保護受給者は医療費の自己負担がない。 そして、手取り月収が14.8万円の人の生活費を例に上げると、家賃5.3万円、食費3万円、水光熱費 1万円、通信費 1万円、交通費1万円、雑費(日用品・消耗品) 1万円、その他(交際費等々)2.5万円となり、借家の場合は、特に苦しい生活になる。 そのため、現役世代の負担を880億円減らすために、生活保護受給者程度の所得しかない人から、後期高齢者という病気しがちな年齢になって、医療費の窓口負担を1割から2割に引き上げるのはいかがなものかと思う。何故なら、この人たちが使える1カ月分の食費は、麻生財務大臣の1回分の飲み代にも満たない金額だからだ。しかし、男性の政治家や行政官は、生活費の計算ができないらしいのだ。 結論として、後期高齢者医療費を現役世代のために880億円節約することを考えるのは、命を大切にしない高齢者いじめに過ぎず、それより、いくらでも働ける現役世代にばら撒く何十兆円もの無駄遣いをやめるべきことは、誰が考えても当然である。 さらに、「高齢者の方が若者より貯金があるから不公平だ」などと言う馬鹿者が少なくないが、働けなくなり病気がちになった時のために、働けるうちに一生をかけて貯金しているのだから、高齢者の方が若者より貯金があるのは当たり前だ。にもかかわらず、このようなことを言う馬鹿者がいるのは、「どういう育て方をしたのか。教育が悪い」としか言いようがない。 v)最低所得保障は、働けない人に行うべきであること 菅政権が設けた「成長戦略会議」のメンバーの竹中氏が、*3-2-7のように、生活保護や年金を縮小して全国民を対象に1人当たり月7万円を支給する「ベーシックインカム(BI、最低所得保障)」の将来の導入に備えて議論を進めるべきだとの考えを示されたそうだが、生産年齢人口にあたる働き盛りのハンディキャップもない人に国が金を配る必要はない。 それより、これを行う原資として生活保護や年金を縮小すれば、①本当に必要とする人への所得保障ができず ②働き盛りの人がやる気を出して頑張るのも阻害する。つまり、列車が力強く進むためには、なるべく多くの機関車を繋ぐ必要があるのに、国民を全員客車にすれば列車は動かなくなる。客車ばかりを多く繋げても、列車は決して動かないことを忘れてはならない。 そのため、何を考えているのかと思うが、日本では、このようにわけのわからない人が一流と言われる経済学者で、首相の「成長戦略会議」メンバーであり、その発言におかしさを感じない人が多いのに、さらに驚くわけである。 vi) 縦割りとセクショナリズムは、縄張りを作りたがる男性の本能では? イ)縦割りでは戦えない自衛隊 菅首相が、*3-3-1のように、航空自衛隊入間基地で開かれた航空観閲式で、①組織の縦割りを排し、陸海空自衛隊の垣根を越えて取り組むことが重要 ②宇宙・サイバー・電磁波など新たな領域への対応が求められている ③個々の組織のみでの対処はより難しくなったので、知見と経験を最大限に活用し、特別チームのように新たな任務に挑戦し、自衛隊をさらに進化させることを強く望む と言われたのには賛成だ。 太平洋戦争当時は、既に航空機の時代が到来していたにもかかわらず、日本軍は帝国陸軍と帝国海軍しかなく、それぞれが航空隊を持ち、お互いの意思疎通は悪かったと言われている。今後は、②のように、宇宙・サイバー・電磁波などを使って、自分は安全な場所にいながら、省力化した安上がりの戦闘を行うのが主流になると思われるため、①③は重要だ。 しかし、日本は、憲法9条のおかげで幸い陸海空軍はなく、あるのは自衛隊(以下、自衛軍と呼ぶ)だけだと言える。そのため、自衛軍の組織替えを行えば、必要な場所に必要な人を配置できる。従って、新しいことは効果的なメンバーを集めてまずプロジェクトチームで行い、軌道に乗って増員が必要になれば増員すればよいが、そのメンバーも量より質の時代なのだ。そして、このような時に縦割りとセクショナリズムを振りかざして組織再編に反対すれば、合目的的でない軍隊となり、太平洋戦争と同じ結果になるだろう。 軍隊の場合は、外国との戦争で結果が如実に出るのでわかりやすいが、日本では、省庁にも縦割り・セクショナリズム・無責任体制があり、ポジションを増やそうとして、既得権益を失わないようにしながら予算の分捕り合戦を行っている。そのため、真に国民のために使われる予算が小さくなり、合理的な配分にもならず、国民のためにならない上に国力を弱めている。 ロ)農水省と経産省を統合したらどうか? 地方に関係している中央省庁は、通信は総務省、産業は農水省・経産省、労働は法務省・厚労省、交通は国交省だ。そして、これらが漏れなく重複なく、うまく機能しなければ、無駄が多い割に役に立たない。 一つの例として、農業地帯は、*3-3-2のように、農地が10ha規模の場所も存在する北海道でさえ高齢化や担い手不足で離農が急速に進んで過疎地となっている。そして、農家の自助努力では農地を維持することが難しく、現場からは作業の自動化を求める声が根強いが、通信環境が未整備でスマート農業の導入が進まない現実があり、これでは、日本の食料自給率は、さらに下がるだろう。 「このような考え方は保護主義で、食料は外国から輸入すればよい」などと考える人がいるが、外国から食料を輸入できるのは製造業が比較優位にあって輸出額が多い場合であり、日本は、既にコスト高になっている上、付加価値の高いものを作る努力もしていないため、製造業も風前の灯なのである。その上、食料自給率が低いと安全保障上の問題も大きい。 しかし、高齢化の進行によって担い手に農地を集積することで、1戸あたりの平均耕地面積を10ha以上にできる時代は、農業も生産性の高い産業にできるため、やり方によっては、ピンチをチャンスに変えることができる有望な時代である。 その規模拡大を実現できるためには、農機の自動化・通信基盤の整備・労働者の常用雇用・繁忙期のアルバイト雇用など、大規模経営を可能にするインフラが整っていなければならない。これに関わる省庁は、農水省だけではなく経産省・総務省・法務省・厚労省などで、地域の事情に詳しい地方自治体が必要事項を取り纏めて要求していく必要がある。この時、省庁が縦割りで全体の展望が見えておらず、おかしな判断をすると、すべてが頓挫してしまうのだ。 なお、*3-3-3のように、「役所にとって負けず劣らず重要なのが組織定員要求」というのは農水省に限ったことではないが、これを放っておくと「税金で養っている公務員の数/生産年齢人口」や「税金で養っている公務員の数/GDP」が上がる。これがまずい理由は、税金で養われる公務員には、効率化・付加価値増大の圧力がなく、格付けを重視して仕事の柔軟性が乏しく、働いているふりをしながら後ろ向きの仕事をしていても倒産しないため、公務員の割合が高くなればなるほど国全体の生産性が下がることである。そのため、橋本内閣が行った2001年の省庁再編は重要だったのだ。 そのような中、*3-3-3に、「①単独省として存続した農水省は、どの局が削減されるか大議論になった」「②現在、廃止された畜産局が復活するかどうかのヤマ場を迎えている」「③現在の食料産業局は新組織案では大臣官房に新事業・食品産業部が設置されるらしい」「④輸出・国際局や作物原局(農産局、畜産局、林野庁、水産庁)との連携が今以上に図られ、食料産業のますますの発展につながる組織改正となることを期待したい」などと記載されている。 このうち①②は、元に戻そうとする後ろ向きの仕事のような気がする。しかし、農業を産業として強くしつつ、食料自給率を上げて安全保障に貢献し、余剰能力があれば輸出して外貨を稼ぐことが、現在の農林漁業に課せられたニーズであるため、より効果的にそれができる方法を考えた方がよいと思う。 そして、より効果的にそれができる方法は、農林漁業・自然・地域に関する知識を多く持つ農水省と産業政策・輸出入・エネルギーを担ってきた経産省を統合し、農林水産品の輸出に既にある経産省の基盤を使いながら、農林漁業地帯で再エネ発電も行い、産業としても強い農業を作ることではないかと、私は思う。何故なら、経産省管轄の第二次産業である製造業は高コスト構造によって既に先細りになっているが、食品生産も製造業の一部で、民間にとってはどの省庁の管轄かよりも、既にある知識やインフラを使って効率的に発展できることが重要だからである。 ハ)エネルギーについて Goo Jcca WWFジャパン (図の説明:左図のように、1973~2016年は、名目GDPは2.5倍になっているが、エネルギー消費は1.2倍にしかなっていない。その理由は、省エネが進んだこともあろうが、内訳を見ると業務他部門は2.1倍になっているのに対し、産業部門は0.8倍になっているため、第二次産業が海外に出て減り、第三次産業に移行したのではないかと考える。2018年の部門別CO₂排出量割合が中央の図で、産業関係の56.3%《35.0+17.2+4.1》が最も大きく、運輸部門が18.5%、家庭部門は14.6%である。これを右図のように次第に減らし、温暖化ガス排出量を2050年に実質0にする計画だそうだが、本気でやれば15年後の2035年でもできそうな気がする) 日本にとって有利なエネルギーの変換なのに、仕方なく世界についていくという情けない形で、日本政府は、*3-3-4のように、温暖化ガス排出量を2050年に実質0にするというゆっくりした行動計画を公表した。 その内容のうち、①新車は2030年代半ばに全て電動化(HVも含む)する ②2050年に電力需要が30~50%膨らむと想定し、再エネ比率を50~60%に高める ③産業・運輸・民生全体で電化を加速し、エネルギー源の電力部門は脱炭素化する ④洋上風力は40年までに最大4500万kw(原発45基分)の導入を目指す ⑤蓄電池は2030年までに車載用の価格を1万円/kwh以下に下げる ⑥住宅・建築物は2030年度までに新築平均で実質0にする などである。 これらに成績をつけると、①は、2030年代半ばになってもHVを含むので「可」に留まる。また、②は、2050年(今から30年後)なら再エネ比率を100%にすることもできるのに、*3-3-6のように、高コストで激しい公害を出す原発にまだ固執しているため「不可」。③の産業・運輸・民生全体で電化というのは「優」だが、電力部門が激しい公害を出す原発を使うつもりなので「可」に留まる。④は、再エネは洋上風力だけではないため「良」程度だ。⑤は、安いほどよいが、まあ「優」だろう。⑥は、可能かつ重要なので「優」。これらをまとめると、経産省と大手の絡むところが、既得権を護るために改革の足を引っ張っていると言える。 メディアの説明も、i) 風車は部品数が多く裾野が広い ii) 国内に風車は製造拠点がない iii) 燃焼時にCO2を排出しない水素を火力発電で2050年に2000万t消費する目標 iv) 需要拡大で水素でガス火力以下のコストを実現 v) アンモニアを水素社会への移行期の燃料とする vi) 軽自動車は、電動化するとコスト競争力を失う恐れがある vii) バスやトラックなどは電動化が難しい vii) 船舶は50年までに水素やアンモニアといった代替燃料に転換 となっているが、おかしな部分が多い。 例えば、i)のように、部品数を多くし裾野を広くすると、ユーザーにとってはコスト高で管理が難しく、サプライヤーにとっては安価で柔軟な生産体制にできないため、効果が同じなら簡単な作りで部品数の少ない製品の方が優れている。 また、ii)は、風車は紀元前から使われている道具であり、最新の材料や流体力学を駆使したとしても、作るのは容易だ。さらに、iii)は、再エネ由来の電力で水(H₂O)を電気分解すれば水素(H₂)と酸素(O₂)ができるのに、それを燃やして火力発電を行うというのは愚かである。iv) v)については、水素は燃料のいらない再エネ発電で作れるため、化石燃料由来のガス以下のコストになるのは当然で、水素の方が容易に作れるのに移行期と称してアンモニアに投資するのは資本の無駄遣いである。 なお、vi)の軽自動車は、電動化した方が軽量で安いものができ、環境意識・コスト意識が高く、デザインも気にする女性にもっと売れるだろう。vii) のバス・トラックの電動化は外国では既にできているのに、日本では難しいと言うのか(??)。さらに、vii) の船舶は、2050年までなら水素燃料で十分で、アンモニアを使う必要などない。このように、非科学的で不合理な選択を促しているのは、無駄が多すぎて見るに堪えないのである。 そのため、国民は、原発を使おうとしている大手電力会社の電力を使わない選択をせざるを得ず、それには、*3-3-5のように、2030年に新築住宅・建築物のCO₂排出量を0にする目標は歓迎だ。ゼロ・エネルギー・ハウスの価格は、一般国民の手の届く範囲でなければならないが、それが標準になれば大量生産でコストが下がるので、価格も下げられるだろう。 最後に、除雪技術・高性能建材・エネルギーの最適利用システム・ビル壁面設置型太陽電池の実用化などの新しい工夫は、大いに期待できる。 (4)女性がリーダーに選ばれにくい理由と女性差別の関係 1)女性がリーダーに選ばれにくい理由と女性差別の関係の本質 「『女性にリーダーは向かない』というジェンダー・バイアスをなくそう」として、*4-1に、「①働く女性は有償の仕事と無償のケア労働を担い、ダブルワークになっている」「②有償労働と無償労働は足して考えるべき」「③日本人女性の総労働時間は日本人男性より長く、睡眠時間は短い」「④日本人女性の総労働時間はOECD諸国の中で最長」と書かれている。 これは、無償労働が女性に偏り、無償であることによって「大した仕事ではない」「働いていない」と誤解されていることによって起こった悲劇だ。実際には、家事は必ず結果を出さなければならない大変な仕事で、子育てを含む家事をすべて外注すれば20~30代の一般サラリーマンの給料より高くなるが、有償で働いているサラリーマンは「働いている」とされ、無償で家事と子育てを受け持つ妻は「働いていない」と言われるのである。 それでも、女性の立場が弱くて状況を変えることができないとすれば、理由はさまざまだろうが、有償で働いて見せることができない女性が多いからだろう。 *4-1には、「⑤2019年12月に世界経済フォーラムが発表したジェンダー・ギャップ指数で、日本は153カ国中121位」「⑥特に政治・経済分野の女性リーダーが少ない」「⑦経営陣が均質の集団だと集団浅慮が起きる」とも書かれている。 ⑤⑥は、日本が女性の登用で非常に遅れている事実を数値で示しており、その結果、⑦のように、意思決定に関わる経営陣が均質化しすぎて多面的に議論できない状態になっているのだ また、*4-1は、「⑧アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)がある」「⑨無意識の偏見により、採用、評価、昇進昇格などで差が出る」「⑩男性として望ましく、リーダーとしても望ましい特性で共通するのは『責任感がある』『行動力がある』『説得力がある』など重なりが多く」「⑪女性として望ましく、リーダーとしても望ましい特性で共通するのは『責任感が強い』『自立している』のみだった」「⑫ここから分かるのは『リーダーは男性向きで、女性には向かない』という偏見があることだ」「⑬力強いリーダーシップを発揮している女性を、『女性らしくない』とマイナス評価してしまう可能性がある」「⑭リーダーは男性向きで、女性には向かない」など、無意識の偏見による女性差別についても記載しており、その点でこれまでの記述よりずっと深く、「女性活躍→子育て支援」ばかりの記述とは雲泥の差がある。 このうち、⑧⑨は、私の経験から見ても正しく、日本人には、女性に特に謙虚さや楚々とした態度を求め、女性が実績を示してリーダーにふさわしいことを証明することを不可能にしたがる人が多い。それでも、能力やリーダーにふさわしい事実を証明した女性には、⑪⑫⑬のように、それとは両立しない“女性らしさ”の要素を勝手に作り出して持ち出し、どうしても⑭の結果を導こうとするのである。こういう人は、男女にかかわらず多いため、教育に原因があるだろう。 なお、メディアも、能力や体力が十分な女性には、「意地が悪い」「優しくない」などの負の印象付けをして偏見や差別を助長し固定化させている。それがフジテレビの演出で、それを間に受けて悪乗りし、ネットで中傷し続けた人によって引き起こされた女性プロレスラーの自殺事件が、*4-2だ。これは、損害賠償請求してもよい事件だが、メディアもネットも嘘であっても言いたい放題(「言論の自由」「表現の自由」には値しない)で、投稿した人が誰かもわからないようにして、ずっと残すわけである。私の場合は、名誉棄損で侮辱の週刊文春の嘘記事とそれを引用したネット記事が代表だが、決してそれだけではない。 こんなことを放置していてよいわけがないのだが、「発信者情報の開示を求める申し立ては、不都合なことを書かれた企業などからも起こされていて、正当な批判や内部告発をためらわせる圧力になっている」などとする意見もある。しかし、正当な批判や内部告発なら、ネットを使って匿名で行うのではなく、しかるべき所に責任を持って行うべきであり、“試行錯誤”などと言っているうちは、人権侵害による損害が多発し続けているのだ。 2)夫婦別姓と通称使用 夫婦別姓は世界の常識とまで言われるようになったが、中国・台湾・韓国で妻の姓が夫と異なるのは、子はその家の子としてその家の姓を名乗るが、妻は他家の人であり、子の母と認めるか否かは夫が決めるという超女性蔑視の名残だと、いろいろな人から聞いている。 日本は、第二次世界大戦後、敗戦によって民主化が行われ、(3)1)に記載したとおり、日本国憲法24条1項で「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立する」と規定され、民法第750条で「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と規定されて、条文上は男女平等になった。 それでも改姓するのは殆ど女性で、女性が改姓の不利益を受けがちなのは、21世紀の現在も、日本人が憲法と民法の理念に基づいて平等な立場で結婚していないからだと言える。その理由には、①女性労働には無償や低賃金が多いため、平等に交渉できない ②儒教文化の弊害 など国民に内在する本質的な問題があるからだが、少数とはいえ、改姓した場合に不利益を受けるのは女性だけではない。 そのため、私は、家族が使う「Family Name」は平等な立場でどちらかに決め、改姓する人が旧姓を使いたい場合は、戸籍法上の届け出を行えば徹底して旧姓を使えるよう、戸籍法を改正すればよいと考えるのである。 しかし、*4-4は、「③選択的夫婦別姓制度の導入が後退した」「④働き続ける女性が増える中、改姓で仕事に支障が生じる」「⑤1人っ子が増え、結婚しても実家の姓を残したいという希望も強い」「⑥選択的夫婦別姓はあくまで希望者に新たな選択肢を示すというものだ」「⑦今回の計画は、旧姓の通称使用拡大を強調するが、2つの姓の使い分けには限界がある」「⑧夫婦同姓を法律で義務付けているのは、主要国でも異例だ」「⑨家族の一体感のみなもとは同姓であることだけでもない」「⑩大事なのは、議論を止めず、しっかり続けることだ」としている。 このうち、④は、徹底して旧姓を使えるようにすればよいので、③のように後退したとは言えない。⑤は、残したい姓を「Family Name」にすればよく、統一した「Family Name」を持つ意味は、子の姓の不安定性をなくし、誰も他人ではない家族の一体感を得ることだ。⑥では、夫婦別姓を選択しなかった場合にやはり改姓の不利益が残り、⑦は戸籍に記載すれば徹底して旧姓を使えるよう戸籍法を改正すれば足りる。さらに、⑧は、むしろ夫婦別姓の方に女性蔑視の歴史があり、⑨は、家族の一体感の源はもちろん同姓であることだけではないが、1要素ではあり、⑩のように、議論を続けるばかりでは改姓の不利益の被害者が増え続けるのである。 そのため、*4-3のように、外務省が、2021年4月1日の申請分からパスポートの旧姓併記要件を緩和し、戸籍謄本、旧姓を記載した住民票の写し、マイナンバーカードのいずれかを提出すれば旧姓を明示できるようにするとしたのは当然のことだ。 私は、2020年6月に、戸籍謄本と旧姓を記載した住民票を持って、夫とともにパスポートを更新しに行ったところ、外国での論文の発表や業務による渡航など旧姓使用の実績を証明していないから旧姓を併記させないと難癖をつけられて怒りを覚えた。何故なら、衆議院議員の間は旧姓を使い、現在の名刺も旧姓を記載しているため、実績を証明していないなどと外務省から言われる筋合いはなかったからである。 そして、この時点で旧姓を併記させなかった省庁は外務省だけであり、総務省のマイナンバーカードも警察庁の運転免許証も地方自治体の住民票も旧姓併記できていたのだ。 ・・参考資料・・ <製造業> *1-1-1:https://news.yahoo.co.jp/articles/7545be8044b2a87b478132aa7bbd6c705869fc8d (Yahoo 2020/12/17) 自工会・豊田章男会長が大手メディアに「電動化車両はEVだけではない!」ミスリードやめてと苦言 ●いまの状況でEVが増えると電力不足になる!? 自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)が、2020年12月17日に懇談会規模の記者会見をおこなった。挨拶に代表される無駄な時間を掛けず、冒頭より記者からの質問を受けるという内容です。最初に出たのは、昨今話題にあがる電動化について。記者側から「自工会としてどう考えるのか?」という茫洋とした問いだったのだけれど、熱い回答になりました。長い内容になったため概要を説明すると、まず会長自らトヨタ調べの数字で現状を紹介した。自動車産業はずっと二酸化炭素削減努力をおこなっており、その結果、販売している車両の平均燃費でいえば、2001年の13.2km/Lから2018年の22.6km/Lと71%も向上しており、自動車が排出する二酸化炭素の排出量も2.3億トンから1.8億トンへ22%も減っているという。あまり公表されていない数字だったこともあり、改めて自動車環境技術の進化に驚かされる。続けて電気自動車の話になった。多くのメディアはすべて電気自動車にすべきだというけれど、いまの電力状況のままクルマをすべて置き換えようとすれば電力不足になるうえ、そもそも日本は火力発電所がメインのため二酸化炭素の排出量削減にならないという。この件、裏を返せば、日本という国全体のエネルギー問題のほうが大きいということだと考えます。現時点でカーボンフリーの電力をどうやって確保したらいいかという論議はまったく進んでいない。原子力発電所を新設するどころか、既存の施設の再稼働すら出来ない状況。十分な安全性を担保出来なければこのまま廃炉になっていくと思う。 ●「EVだけになるわけではない」大手メディアの誤認識に苦言も 実際問題として「2050年にカーボンニュートラル」という目標を、どういった方策で実現するかまったくわからない。少なくとも現在の排出量を提示し、大雑把でいいからそれぞれの分野でどのくらいの目標設定をするか、エネルギー事情をどうするのかくらいの目安がなければ、自動車業界の対応策すらイメージ出来ないということなんだろう。どうやら2050年カーボンニュートラルや、東京都知事の電動化車両以外販売停止の件、政治家サイドで突如に決めたことらしい。いうのは簡単ながら、エネルギー政策まで考えてくれなければ対応するのも難しいと思う。そもそも、脱ガソリン車で困るのは国民です。地方で移動手段の主力となっている軽自動車もどう対応したらいいかわからず、このままだとユーザーが困る。返す刀でメディアもバッサリ切った。電動化車両のなかにハイブリッド(HV)や、プラグインハイブリッド(PHV/PHEV)も含まれているのに、報道を見ると電気自動車しか販売出来ないようなミスリードをしているという。これはもう、報道するメディア側に大きな問題があります。大手メディアの記者は勉強不足のため、電動化車両にハイブリッドやプラグインハイブリッドも含まれることを認識していない。結果、少なからずそうした報道を見た人が、東京都は2030年からすべて電気自動車になると理解している。そのほか、豊田会長はメディアの誤認識や意地の悪い報道に対し苦言を呈す。聞いていて「その通りですね!」の連続だ。これだけ率直に自分の意見をいうトップは珍しい。「これだけいうと叩かれると思います」と会長自らオチまで付けた。今後も自動車産業代表として大暴れして欲しい。 *1-1-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/677759feaa63e0627321fc86f24f2ef515f8fb1f (Yahoo 2020年12月17日) トヨタ社長「自動車のビジネスモデル崩壊」 政府の「脱ガソリン」に苦言 菅義偉首相が打ち出した2050年に温室効果ガス排出を「実質ゼロ」にする目標に向け、産業界の「重鎮」が苦言を呈した。日本自動車工業会(自工会)の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)は17日、オンラインで取材に応じ、政府が30年代に新車のガソリン車販売をなくすことを検討していることについて「自動車業界のビジネスモデルが崩壊してしまう」と懸念を示した。日本は火力発電の割合が大きいため、自動車の電動化だけでは二酸化炭素(CO2)の排出削減につながらないとの認識を強調し、電気自動車(EV)への急激な移行に反対する意向を示した。原発比率が高く、火力発電が日本と比べて少ないフランスを例に挙げ、「国のエネルギー政策の大変革なしに達成は難しい」「このままでは日本で車をつくれなくなる」などと発言。EVが製造や発電段階でCO2を多く排出することに触れ、「(そのことを)理解した上で、政治家の方はガソリン車なしと言っているのか」と語気を強めた。ガソリン車の比率が高い軽自動車を「地方では完全なライフライン」とし、「ガソリン車をなくすことでカーボンニュートラルに近づくと思われがちだが、今までの実績が無駄にならないように日本の良さを維持することを応援してほしい」と述べ、拙速な「脱ガソリン車」には賛成できない考えを示した。一方、日本鉄鋼連盟の橋本英二会長(日本製鉄社長)は17日の定例記者会見で、50年「実質ゼロ」の目標の実現について、研究開発に「10年、20年はかかり、個別企業として続けるのは無理だ」と述べ、国の支援を求める考えを示した。政府の目標達成には、自動車業界や鉄鋼業界の協力が不可欠。「財界総理」と言われる経団連会長を輩出し、政府に対する発言力も強いトヨタや日鉄のトップから懸念が示されたことで首相の「ゼロエミッション」は曲折も予想される。 *1-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODZ1135N0R11C20A2000000/ (日経新聞 2020/12/17) 電動化、軽・トラック遅れ ダイハツなど価格・車体が壁 政府が自動車業界に「脱ガソリン車」への対応を迫っている。国内では新車市場の約5割を占める軽自動車やトラックが課題となりそうだ。例えば軽は約7割がガソリン車で、電気自動車(EV)にすると割安さや車体のコンパクトさが失われかねない。軽シェア首位のダイハツ工業やトラック首位の日野自動車などにとって、電動化シフトは険しい道のりとなる。政府は10月に「2050年に温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする」との方針を発表。この達成に向け、経済産業省は具体的な工程表を年内にまとめる。30年代半ばに新車販売を全てハイブリッド車(HV)やEVなどの電動車にする目標を盛り込む見通しだ。軽やトラックがこの対象に含まれるかは未定。それでも「特別扱いは難しいのでは」(自動車メーカー幹部)と業界は身構える。日本独自の規格車である軽は、2019年の新車販売台数が148万台と全体の約3割。ただ現在は約7割がガソリンエンジンのみで動くタイプだ。軽以外の乗用車と比べて電動化が進んでいない上に、足元では燃費改善効果が小さい「マイルドハイブリッド」と呼ばれる簡易式HVしかなく、EVや燃料電池車(FCV)はまだない。首位のダイハツや3位のホンダは、現時点で軽の電動車の品ぞろえがゼロだ。電動車比率が6割以上の2位のスズキも簡易式HVしか持たない。小型・軽量化で燃費性能を高めてきた軽は、電動化に本格的に取り組んでこなかった。HVやEVに必要なモーターやバッテリーは価格が高く、軽の最大の強みである安さが失われるためだ。総務省によると19年の軽の平均価格は143万円で、一般的な小型車(217万円)よりも3割強安い。地方を中心とした重要な移動手段でもあるため、ダイハツ幹部は「電動車にすると軽の価格が上がって顧客が離れてしまう。補助金など支援策が必要だ」と困惑する。車内空間を確保するため、電池の搭載スペースが限られることも電動化の足かせとなる。ダイハツは今後は低価格のHV開発を急ぐ。一方、三菱自動車は日産自動車と共同開発する軽のEVを23年度にも投入する計画で、電動化の試金石になりそうだ。さらに厳しいのがトラックだ。国土交通省によると、19年度のトラック(3.5トン以上)販売のうちHVなど電動車は1%に満たず、大半はディーゼル車だ。電池を積んだEVだと搭載できる荷物が減ってしまう上に、充電にも時間がかかってしまうためだ。小型トラックでは三菱ふそうトラック・バスがEVを販売し、いすゞ自動車や日野自はHVを手掛ける。ただ「価格が高いのでニーズは少ない」(関係者)。それでも世界で環境規制が強まるなか、脱炭素への取り組みは不可欠だ。電動化への圧力は、協業や再編を加速させるきっかけにもなりそうだ。 *1-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201219&ng=DGKKZO67507380Z11C20A2NNE000 (日経新聞 2020.12.19) ダイムラー、F1出資半減 「常勝」の自社チーム EVへ注力鮮明 独ダイムラーは18日、自動車レースの最高峰、フォーミュラ・ワン(F1)の自社チームへの出資比率を現在の60%から33.3%に減らすと発表した。新たな株主に欧州化学大手のイネオスを迎える。ダイムラーの高級車事業会社メルセデス・ベンツは本業で電気自動車(EV)への注力を鮮明にしており、その影響もあるとみられる。メルセデスのF1チーム「メルセデスAMGペトロナス」は2014年から7年連続で総合優勝し、20年も17戦中13戦で勝利するなど圧倒的な強さを誇っている。こうしたなかで21年シーズンからイネオスとダイムラー、チームの代表を務めるトト・ヴォルフ氏の3者がそれぞれ対等な出資比率とする。出資比率変更の方法などについては明らかにしていない。メルセデスは引き続き車体やエンジンの供給を続ける。 *1-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14736310.html (朝日新聞 2020年12月19日) 東芝、再エネ3.4倍目標に自信 車谷社長に聞く 東芝の車谷暢昭(のぶあき)社長は17日、朝日新聞の取材に応じ、再生エネルギー関連事業の売上高を2030年度に19年度の約3・4倍にあたる6500億円とする目標について「かなり細かく積み上げた数字」と述べ、達成に自信を見せた。そのうえで「比較にならないような規模に成長する可能性もある」とも語った。東芝は11月、20~22年度の3年間で、過去3年間の約5倍にあたる1600億円を再生エネルギーの分野に投資する計画を示していた。車谷社長は、20年を「新型コロナでデジタルとグリーン(環境)の必要性があぶり出され、次の数十年のスタートの年になった」と振り返った。世界中で進む「脱炭素」の実現に向けて期待される技術のうち、水素エネルギーや、二酸化炭素を回収して有効利用する手法などは「ずっと開発してきたが、これまでは需要がついてこなかった。環境が様変わりし、すごく順風になった」と手応えを語った。一方で、東芝は原発事業による巨額損失で債務超過に陥ったために17年、東京証券取引所1部から2部に降格。今春から審査が続いている1部への復帰については、子会社で新たな不正取引が見つかったことなどが影響し、時間がかかるとみられている。「株主や取引先、従業員のみなさんが再生の象徴として希望しておられるので、実現に最大限努力することにつきる」と述べるにとどめた。9月には約4割を出資する半導体大手キオクシアホールディングスが、米中摩擦などから株式上場を延期した。上場していれば、東芝はキオクシア株の一部を売り、得た利益の半分を株主に還元する予定だった。「(上場が)達成された時に約束通りやっていく」と話した。 *1-5:https://r.nikkei.com/article/DGXZQOFB168O10W0A211C2000000 (日経新聞 2020年12月19日) 小池都知事、EVインフラの補助金拡充の意向 、「30年すべて電動車」へ周辺自治体と連携も模索 東京都の小池百合子知事は日本経済新聞のインタビューに応じ、2030年までに都内で販売される新車すべてを電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)などの電動車に切り替えるため、充電器などのインフラ整備向け補助金を拡充する意向を示した。「内燃のエンジンは貴重な技術」としつつ、世界的な脱ガソリン車の流れに先んじる政策の必要性を訴えた。都は既にマンション駐車場に設置する充電器への補助制度を設けているが、小池氏は「充電設備の充実は引き続き行う」と述べた。21年度当初予算編成における知事査定で対応策を検討する。都税でEVなどを優遇する制度も「総合的に対応したい」と語った。ただ、都内のEVインフラが充実するだけでは、広域に走る利用者の利便性は確保できない。小池氏は「(1都3県と5つの政令指定都市を含めた)9都県市の共通課題として挙げていく」と話し、周辺自治体との連携を模索する姿勢を示した。脱ガソリン車を巡っては、日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)が、政府が調整中の30年代半ばに全ての新車を脱ガソリン車とする目標に懸念を示している。小池氏は「内燃のエンジン、ハイブリッドは大変貴重な技術だ」とする一方、次世代車の技術開発競争について「これは覇権争いだ」とも指摘。「産業が大きく変わる中で、日本の居場所を確保しておくことは重要だ」と語った。小池氏は「世界市場を考えると電動二輪はニーズが増える」として、35年までに二輪車も全て電動化する目標も表明した。 <農業と食品> *2-1:https://www.agrinews.co.jp/p52633.html (日本農業新聞論説 2020年12月10日) JAと企業の連携 地域振興に相乗効果を JAと企業との新たな連携が生まれている。地域の人口減少や新型コロナウイルス禍でモノやサービスの需要が減退。地域の実情などに応じて連携することで、事業の効率化や需要の拡大、新規開拓を目指す。農業と地域経済の振興につながるよう相乗効果の発揮を求めたい。JAグループ高知が高知市に開設する直売所「とさのさと」と同じ敷地には、大型スーパーが出店。互いの強みを発揮して客を呼び込む。スーパーはカット野菜や総菜、加工品、調味料を豊富に扱う。一方、直売所は高知県産にこだわり、県内から新鮮な地場産が毎朝届く。野菜の県産率は8割に上る。直売所の関係者は「商品が全く異なり競合しない」と言い切る。むしろ、連携で来店者の6割が両方を利用。直売所は午後と若年層の利用者が増え、スーパーは午前中の売り上げが増え、双方に効果が出ている。LPガスでも連携の動きがある。JA全農みえとLPガス大手の岩谷産業は、伊勢市に同社が新設したLPGセンターの相互利用などに乗り出した。LPガスの充填(じゅうてん)・配送業務を効率化するのが狙い。同じエリアに拠点を置く両者が連携し、経営資源を効果的、効率的に利用してLPガス事業の機能強化を図る。当面は、それぞれの容器を使って配送するが、将来的には容器の統一や配送の一元化を目指す。業務用を中心に、コロナ禍で需要が減少した農産物を、地元の企業と組んで地域内で消費する取り組みも見られる。JAわかやまは、地域経済の活性化に向けて地元の和食チェーン「信濃路」(和歌山市)と連携することで合意した。第1弾として、業務用米を同社が買い入れる。使用する米の全量を同JA産に切り替えるという。毎月6トンの無洗米を22店舗で提供する予定だ。商品開発も見られる。農協観光と日本航空は、岡山、島根、広島県の3空港をチャーター便で結ぶ日帰り観光の企画商品の販売を始めた。コロナ禍で就航本数が減った国際線の飛行機を使う。岡山を起点に島根から広島へのルートを1日で往復し、県内観光をしてもらう。広島では遊覧飛行もする。各空港で旅行客を乗せることで飛行機の稼働率を高め、価格を抑え、近隣地域での観光を促す。隣県を1日で結ぶチャーター便の企画は日本航空では初という。JA同士や協同組合間と並行して、地域やJAの実情に応じた連携の取り組みが始まっている。JA事業を巡っては、高齢化や過疎化で地域の需要が減少する中で、他の事業者との競争が激化、コロナ禍が需要減に拍車を掛けている。また、JAだけでは地域の生活インフラを支えきれない場合もある。こうしたことが背景だ。「地域をより良くしたい」との共通の思いを基盤に協調するところは協調し、互いの強みやブランド力を生かしてほしい。 *2-2:https://www.agrinews.co.jp/p52605.html?page=1 (日本農業新聞 2020年12月6日) JA運営で女性参画着々 役員、正組…軒並み増 JA全中は2020年7月現在のJAの女性運営参画状況を公表した。役員(理事・経営管理委員・監事)に占める女性の比率が9・1%と前年比で0・7ポイント増えた。数値目標を掲げる①正組合員②総代③理事など──の女性割合が前年を上回った。全中は目標達成に向け、JAに働き掛けを強める考えだ。全正組合員に占める女性の割合は22・7%となり、前年比で0・3ポイント増えた。総代は9・8%で同0・4ポイント増。役員総数は1419人となり同53人増加した。県域JAへの合併などで役員総数が680人減って1万5580人となる中で、女性役員が増えた。JAグループ愛知は、女性役員を1年で44人増やし、県の女性役員比率を47都道府県で最も高い15・3%に伸ばした。「女性役員割合15%以上」の目標達成へ期限を設定。女性の割合を高めるため非常勤理事の定数は増やさずに、地域選出の女性理事を増やしたり、地域選出の理事定数を削減して全域の女性理事枠を設定したりするなど、具体的に役員選出方法を見直した。JAあいち女性組織協議会の会長も務める、JA全国女性組織協議会の加藤和奈会長は「目標設定を明確にし、段階的に進めたことが良かった。男性、女性双方が意見を出し合えればJA運営は良くなる」と指摘する。JAグループは、19年3月の第28回JA全国大会で、女性参画の数値目標を決定。①正組合員30%以上②総代15%以上③理事など15%以上──の目標を掲げている。政府は第4次男女共同参画基本計画で、20年度にJA役員に占める女性の割合を10%にするよう求めていた。20年度に達成できなかったことから現在策定中の第5次計画(21~25年度)で目標を据え置く見込みだ。JA全中青年女性対策課は、女性のJA運営参画のメリットとして理事会・会議の活発化などを挙げ、「JAが変われば地域も変わる。愛知を参考に女性の運営参画をJAに働き掛けていきたい」と強調する。 <政治分野における男女不平等と生活関連政策軽視・縦割行政> *3-1:https://digital.asahi.com/articles/ASNCC7FXSNCCULFA00Y.html?ref=mor_mail_topix1 (朝日新聞 2020年11月12日) 「女性は野党に出して頂いて」 男女平等、遅れる政界 日本のジェンダー平等を進めるための、次の男女共同参画基本計画のメニューが出そろった。指導的地位の女性割合を30%に高める目標は未達のまま持ち越され、足もとでは取り組みを強める動きも広がるが、今度こそ達成に向かうのか。新たに緊急避妊薬の市販検討なども盛り込まれたが、議論が続く選択的夫婦別姓と同様に慎重論も根強く、実現は簡単ではない。 ●女性議員1割の自民、増えぬ理由は 日本が特に遅れているのが政治分野だ。衆院議員の女性割合は1割足らずで、各国の議会を比べた世界ランキングは167位。2018年には、議会選挙の候補者を出来る限り男女同数にするよう政党に求める「候補者男女均等法」ができ、翌年の参院選では候補者の女性割合が過去最高の28・1%になったが、男女同数には遠く及んでいない。今年9月には、自民党の下村博文選挙対策委員長(当時)が「30年に党の女性議員が3割」になることを目指して、国政や地方の選挙で候補者の一定数を女性にする「クオータ制」を導入する提言をまとめて二階俊博幹事長に申し入れた。ただ、その後は導入に向けた動きは見えていない。二階氏は今月9日の記者会見で、その後の取り組みについて問われ「バックアップすることはできるが、女性議員をつくることに党が真正面からどうだと言ってみても、国民のみなさんが決めること。そう期待通りにはいかない」と述べた。自民党の国会議員393人(衆参両院議長を除く)のうち、女性国会議員は39人で約1割。選挙で候補者を擁立する際は、男性が多い「現職」が優先されるため、与党が女性候補を増やすのは簡単ではない、というのが党内の見方だ。野田聖子幹事長代行も9日、記者団に「野党にどんどん女性を出して頂いて、効果があれば循環していくのだろう。うち(自民)は残念ながら動かすだけの(空白区などの)キャパがない」と語った。野党第1党の立憲民主党は、国会議員149人(衆参両院の副議長は含めず)のうち、女性国会議員は28人で2割弱。党のジェンダー平等推進本部で、女性候補者を増やすための取り組みを検討している。選挙資金の援助や、女性のスタッフ配置などを想定しているという。だが、衆院議員の任期も残り1年を切り、すでに候補者選考も進んでいる。9月6日、記者団に女性擁立の数値目標について問われた枝野幸男代表は「理想論だけでは進まない。リアリティーある目標を掲げていくのが誠実な対応だ」などと述べるにとどめている。候補者男女均等法をとりまとめた超党派の「政治分野における女性の参画と活躍を推進する議員連盟」(中川正春会長)も、同法改正の検討を始めている。だが、クオータ制には現職らから「議員の質が下がる」といった批判もあるため、超党派での合意を得られやすい、議員や候補者へのハラスメント防止などが主な検討項目になっているという。一方、新たな動きを見せているのが経済界だ。経団連は9日、日本企業の役員に占める女性の割合を「30年までに30%以上」とする数値目標を初めて掲げた。いまは上場企業の役員で6・2%でハードルは高いが、少子高齢化やデジタル化など変化が激しい社会で企業が生き残るには多様性が必要で、そのためには「明確な目標設定がないと、なかなか進まない」(中西宏明会長)と考えたという。グローバル企業には、市場や投資家の視線という「外圧」も高まっている。幹部は「企業の経営のあり方を重視するESG投資が急速に広がっており、女性役員の比率が判断基準の一つになっていく」と話す。答申は今回、最高裁判事を含めた裁判官の女性割合の引き上げにも初めて触れた。夫婦別姓を認めない民法の規定を合憲とした2015年の最高裁判決で、違憲の意見を述べたのは女性3人を含む5人。家族や社会のあり方への司法判断にもジェンダーバランスが求められるからだ。最高裁判事は裁判官や弁護士、検察官、学者などから候補が挙がり、内閣が任命するが、今は15人のうち弁護士出身の宮崎裕子氏と行政官出身の岡村和美氏の2人(13・3%)だけ。最も多かった昨年2月時点でも3人で、裁判官出身で最高裁判事になった女性は、まだいない。ただ、最高裁によると昨年12月時点で裁判官3484人のうち女性は22・6%の787人。弁護士や検察官より3ポイントほど高く、40年前の2・8%(76人)から増え続けており、任官10年未満の判事補に限れば34・5%という。最高裁の担当者は「裁判官にふさわしい女性の任官について努力を継続する」としている。 *3-2-1:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?R_FLG=1&b=20201208&be=NDSKDBDGKKZ・・・ (日経新聞 2020/12/4) 34兆円「需要不足」穴埋め 経済対策、支出積み上げへ 量ありき、効果に懸念 政府が近く決定する追加経済対策の規模拡大に向け、財政支出の積み増しを検討している。7~9月期に年換算で34兆円と試算した「需要不足」を穴埋めできる財政支出とする方向で調整する。低金利で貸し出す財政投融資や2021年度当初予算案の予備費も活用し、長期化する新型コロナウイルスの感染拡大に対応するために規模優先の財政運営を続ける。経済対策は(1)コロナの感染拡大防止(2)ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の実現(3)防災・減災のための国土強靱(きょうじん)化――が柱になる。20年度第3次補正予算案と21年度当初予算案を一体で編成し「15カ月予算」と位置づける。第3次補正予算案は一般会計から歳出を追加するほか、特別会計から雇用調整助成金の特例措置を延長する財源を捻出する。こうした「真水」と呼ばれる国費とは別に、財政投融資も積み増す。21年度一般会計予算案での予備費も例年の5千億円から大幅に増やし、機動的にコロナ対策に回せるようにする。財政支出の規模として意識するのが34兆円。内閣府は日本経済全体の需要と潜在的な供給力の差を示す「需給ギャップ」が7~9月期にマイナス6.2%で、金額にすると年換算で34兆円だったと発表している。緊急事態宣言が出された4~6月期の57兆円よりは縮む一方、コロナによる経済活動の停滞で需要不足はなお大きい。自民党の下村博文政調会長は11月30日、菅義偉首相に「34兆円の需給ギャップを埋めるような近い額で大型補正を組んでほしい」と要望した。野村総合研究所の木内登英氏は「需給ギャップで経済対策の規模を決めるのはかなり無謀だ」と指摘する。34兆円は7~9月期の年換算の金額であり、21年に執行する追加経済対策に当てはめるのは不適切だとみる。経済協力開発機構(OECD)は12月1日、日本の経済成長率は20年にマイナス5.3%、21年はプラス2.3%となる見通しを公表した。経済対策の予算を支出する時期には、需給ギャップは足元よりも小さくなっている可能性が高い。ポストコロナに向けた経済構造の転換は長い時間をかけて取り組むため、予算が即効性ある需要穴埋めに結びつかない面もある。温暖化ガス実質ゼロに向けた技術革新の支援や大学の研究基盤整備、自治体システムの標準化は基金をつくり、複数年で支出する。どうしても規模ありきの経済対策は中身の精査が甘くなる面がある。財政支出は20年度第1次補正予算が48兆円、第2次補正予算では72兆円に上った。「青少年交流の家」の空調設備などコロナ対策として疑問符がついた費用も計上された。 *3-2-2:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201215/k10012765931000.html (MHK 2020年12月15日) 第3次補正予算案 閣議決定 追加の歳出19兆円余 政府は、新型コロナウイルスの感染防止やポストコロナに向けた経済構造の転換などを後押しする経済対策を実行するため、追加の歳出を19兆1761億円とする今年度の第3次補正予算案を決定しました。政府は15日の臨時閣議で先週まとめた経済対策を実行するため、追加の歳出として一般会計で19兆1761億円を盛り込んだ今年度の第3次補正予算案を決定しました。 ●主な施策 新型コロナウイルスの感染拡大防止のための予算としては、 ▽病床や宿泊療養施設の確保など医療を提供する体制を強化するために「緊急包括支援交付金」を増額する費用として1兆3011億円 ▽各都道府県が飲食店に営業時間の短縮や休業を要請する際の協力金などの財源として「地方創生臨時交付金」を拡充する費用として1兆5000億円を盛り込んでいます。 ポストコロナに向けた経済構造の転換や好循環を実現するための予算としては、 ▽中堅・中小企業が事業転換を行うための設備投資などを最大で1億円補助するための費用として1兆1485億円 ▽遅れが指摘される行政サービスのデジタル化を進めるため、地方自治体のシステムを統一する費用などに1788億円 ▽「脱炭素社会」の実現に向けて基金を創設し、野心的なイノベーションに挑戦する企業を10年間継続して支援する費用として2兆円を計上しています。 ●防災・減災や国土強じん化を推進 防災・減災や国土強じん化を推進する予算として、 ▽激甚化する風水害や巨大地震などへの対策、インフラの老朽化対策などの費用として2兆2604億円が盛り込まれました。 ●国債の新規発行額は初の100兆円超え 一方で、新型コロナウイルスの影響による企業業績の悪化や消費の低迷で今年度の国の税収は、当初の見込みから8兆円余り減少して、55兆1250億円となりました。今年度は当初予算が一般会計の総額で102兆円余りでしたが、補正予算を3度にわたって組んだ結果、一般会計の総額は175兆円余りに膨らみました。今回の補正予算に必要な財源を確保するため、政府は追加で赤字国債などを発行する方針で、今年度の国債の新規発行額は、112兆5539億円と、初めて100兆円を超えることになります。今年度の予算全体でみますと、歳入の64%余りを国債に頼る過去最悪の状況になります。政府は、15日、第3次補正予算案を決定したのに続いて、来週には来年度の予算案を決定し、15か月予算の形で切れ目のない対策を実行することにしています。 ●新規国債発行額の推移は 新規の国債発行額は、今から30年前、1990年度は7兆円余りでした。その後、増加が続き、2000年代は30兆円前後で推移していました。この時期には、すでに歳入の3割から4割を国債に頼る状況となり、財政の健全化が課題とされていました。2009年度にはリーマンショックに伴う景気対策などで歳出が一気に膨らみ、国債発行は過去最大の51兆9550億円となりました。その後、景気回復に伴う税収増加で国債の増加ペースはいくぶん抑えられましたがそれでも30兆円台から40兆円台で高止まりする状況が続いていました。そうした中、今年度は新型コロナウイルスへの対策で、3度にわたる補正予算が編成される一方、企業業績の悪化で税収は当初の見込みを8兆円余り下回りました。巨額の歳出を賄うため、大量の国債発行を余儀なくされ、今年度の発行額は112兆5539億円に上ることになりました。過去最大だった2009年度の51兆9550億円を2倍以上も上回る規模で、初めて100兆円を超えることになります。歳入に占める国債の割合は実に64%を超え、過去最悪の状況です。 ●次の焦点 来年度予算の課題は 今年度の第3次補正予算案の編成が終わり、次の焦点は編成作業が大詰めを迎えている来年度・令和3年度予算案に移ります。「感染拡大の防止」「ポストコロナに向けた経済構造の転換」それに「財政健全化」という3つの課題に対し、バランスをはかりながら、予算を組んでいく例年以上に難しい編成作業となります。 ●感染拡大の防止 このところ、新規の感染者や重症患者の数が夏の“第2波”のピークを超え、“第3波”に入ったという指摘もあります。国民の命はもとより、経済を下支えし、雇用や暮らしを守るうえでも、感染拡大の防止は最重要の課題です。医療体制が機能不全に陥ることを食い止める実効性のある対策が求められています。 ●ポストコロナに向けた経済構造の転換 日本経済を安定的な成長軌道に戻すには、新型コロナウイルスで様変わりした人々の意識に適応した形に社会や経済を転換していく必要があります。政府は来年度の予算編成の基本方針で、デジタル改革や、脱炭素に代表されるグリーン社会の実現、それに中小企業などの事業転換を後押しすることで、生産性の向上と継続的な賃金の底上げによる好循環の実現などを打ち出しています。 “新たな日常”への対応で海外に遅れを取らず、国際競争力を高めていけるかが問われます。 ●財政の健全化 感染拡大を防ぎながら、将来の成長への種をまき、財政状況にも目配りしなければならないという難題を抱えての予算編成となります。 ●麻生副総理・財務相「民需主導の経済回復を確かに」 麻生副総理兼財務大臣は、今年度の第3次補正予算案を閣議決定したあとの記者会見で「コロナの危機を乗り越えて未来をつないでいくことが責任だと思っている。経済対策を迅速に実行してコロナの災いを乗り越えて、未来の成長力を強化して民需主導の経済回復を確かなものにしないといけない」と述べました。一方、今年度の予算全体で、歳入の64%余りを国債に頼る過去最悪の財政状況になったことについて、麻生副総理は「足元の財政が悪化しているのは事実だ。信認が損なわれないよう経済再生と財政健全化の両立を進める必要がある。また、難しい時だからこそコロナだけではなく日本が抱える構造的な課題に着実に取り組まないといけない。最も差し迫った問題が少子高齢化で引き続き、社会保障を持続可能なものにしていかなければならない」と述べ、歳出と歳入の両面で改革を進めていく考えを強調しました。 *3-2-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODF188IF0Y0A211C2000000/ (日経新聞 2020/12/21) 2021年度予算案106兆円、脱炭素で成長 実効性カギ 政府は21日の閣議で一般会計総額106兆6097億円の2021年度予算案を決定した。長引く新型コロナウイルス禍で国民の不安が消えないなか、積極的な財政出動で支える姿勢を示した。コロナ禍を抜け出すには成長を促す戦略が必要だ。支出ありきではなく、予算の無駄づかいを防ぎ、実効性を高めることが重要になる。菅義偉首相は「感染拡大の防止に万全の対応をとりつつ、次の成長の原動力となるグリーン社会実現やデジタル化に対応する」と語る。21年度予算案の一般会計総額は過去最大で、20年度第3次補正予算案と合わせた「15カ月予算」の規模は126兆円に達する。特徴はコロナ禍を機に構造転換を促す成長戦略を打ち出した点だ。脱炭素社会に向けた2兆円基金は最大10年間にわたり水素や蓄電池などの技術開発を支援する。21年9月にはデジタル庁を発足させ、自治体のシステム標準化やマイナンバーカードの普及を推進する。19年12月に決定した19年度補正の経済対策分4.3兆円と20年度当初予算102.7兆円の合計は107兆円だった。15カ月予算として比べると、今回は前年よりも19兆円ほど大きい。政府は財政で支える姿勢を鮮明に打ち出し、コロナ禍が拡大すればさらに補正で上積みする可能性もある。欧米各国も一斉に財政出動に動く。国際通貨基金(IMF)によると、財政支出や金融支援を含む日本のコロナ対策は20年度第2次補正予算までの段階で国内総生産(GDP)比35%に達した。ドイツやイタリアも30%台後半の高水準だ。日本はさらにGDPの1割を超す事業費73.6兆円の追加対策を加え、単純計算でGDP比は5割近くに達した。米国では米議会が9000億ドル規模の追加対策で合意し、対策のGDP比は2割を超える見通しだ。コロナ感染の再拡大が収束せず、欧米では都市封鎖も繰り返される。政府の支えが必要との指摘は多い。課題はどう実効性を高めていくかだ。コロナに対応する現場ではまだまだ課題が多い。コロナ患者を治療する病院では重症患者などを受け入れる病床が不足し、医師や看護師の負担も高まる一方だ。コロナ対策予算では執行が遅れているものもある。病床や宿泊療養施設の確保などに使う都道府県向けの交付金は第1次と第2次の補正などで2.7兆円を計上した。しかし実際に医療現場に届いたのは8000億円にとどまる。申請手続きが複雑な点などが指摘されており、目詰まりを防ぐ改善が欠かせない。予算の効率的な執行とともに必要なのは、無駄遣いの監視だ。規模ありきで事業が積み上がると、必ずしも必要ではない事業にお金が回る事態が増えかねない。例えばデジタルや脱炭素を推進する基金は5~10年といった中期で事業に取り組める一方、いったん予算が成立すれば各省や公益法人が国会のチェックなしで支出を続けることが可能だ。最初に使途を決めない予備費は20年度補正予算で11.5兆円を計上した。7兆円近くは使わなかったが、21年度予算案にも5兆円を盛り込んだ。非効率とムダを排除しながら実効性を高め、日本経済を浮上させる効果を得られるかが問われる。 *3-2-4:https://www.tokyo-np.co.jp/article/75795 (東京新聞 2020年12月21日) アビガン承認見送り、厚労省部会 コロナ治療、有効性の判断は困難 厚生労働省の医薬品に関する専門部会は21日、新型コロナ感染症の治療薬候補「アビガン」の承認を見送り、新たなデータの提出を待ってから再審議することを決めた。開発した富士フイルム富山化学などからこれまでに得られたデータでは、有効性を明確に判断するのが困難なことが理由。富士フイルム富山化学は10月、治験結果を基に承認申請。治験は重篤を除く患者計156人が対象で、アビガンを投与した患者は偽薬投与の患者よりも症状が軽快し、陰性になるのが約2・8日短くなったとした。だが関係者によると「偽薬は効かない」との先入観から、医師が適切に判断できていない事例があったという。 *3-2-5:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14742156.html (朝日新聞 2020年12月24日) 時短応じぬ店、罰則検討 政府、特措法で 私権制限など課題 政府は23日、新型コロナウイルス感染症対策分科会に特別措置法の改正に向けた論点を示し、都道府県知事が要請・指示した休業や営業時間短縮に応じない店舗などに罰則の導入を検討していることを明らかにした。実効性を高める案の一つだが、私権制限のあり方などの課題は多い。政府が23日に示した論点は、(1)特措法が対象とする感染症の中に新型コロナをどう位置づけるか(2)緊急事態宣言後に開設するとしている「臨時の医療施設」を宣言前にもつくれるようにするか(3)罰則や支援措置を設けて知事の時短要請などの実効性を高めるかの三つ。政府は分科会の意見を踏まえ、来年の通常国会に提出をめざす改正案の内容を固める。新型コロナが収束し、一連の対応などを検証してからとしてきた特措法の改正に政府が前向きに転じた背景の一つには、11月以降の感染拡大への対策に「打てる手が見つからない」(政府高官)など手詰まり感が出ていることがある。政府は一時、東京都に午後10時までの営業時間の短縮を1時間繰り上げて強化する案なども水面下で打診。だが、小池百合子知事が「協力してくれる事業者が少なくなる現実も考えなければいけない」と述べるなど両者には距離がある。全国知事会が以前から要請の実効性を高めるよう求めていたこともあり、特措法の改正が浮上した。ただ、焦点の罰則については政府・与党や専門家にも様々な意見がある。自民党の下村博文政調会長は「法的な根拠をもうけることは理にかなっている」と述べる一方で、内閣法制局の関係者は「罰則を設けるには根拠が必要だ」と指摘する。メンバーの日本医師会常任理事の釜萢敏氏は分科会後「冷静に議論するのはまだ難しいという意見もあった」と話した。新設するにしても、どの程度の金額水準とすれば効果があるのかなどの検討が必要だ。また西村氏は、東京など感染拡大が続く地域を対象に、1月11日までイベントの参加者数の上限を5千人までに戻す規制強化を発表した。販売済みチケットのキャンセルは求めず、上限を超える新規販売の自粛を呼びかける。分科会は東京都内を念頭に、午後10時までの営業時間の短縮要請を早めて強化することを改めて求めた。尾身氏は「東京、首都圏が他地域と比べて人流が減っていない」と指摘した上で、「午後10時よりも早くという意見が多く出た」と話した。 *3-2-6:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFS079N00X01C20A2000000/ (日経新聞 2020/12/9) 75歳以上の医療費窓口負担 年収200万円以上は2割に 菅義偉首相(自民党総裁)と公明党の山口那津男代表は9日夜、都内で会談した。75歳以上の後期高齢者の医療費窓口負担を1割から2割に引き上げる対象を年収200万円以上にすると合意した。2022年10月から実施する。22年に「団塊の世代」が75歳以上になり始めるのを前に、現役世代の負担を軽減する狙いがある。後期高齢者の医療費窓口負担は現在、原則として1割で、現役並みの所得がある年収383万円以上の人は3割を負担する。新たに2割負担を求める対象の所得基準を巡り、政府・与党が協議を続けてきた。与党は医療費の負担が急増しないよう制度導入時に激変緩和措置も検討する。政府は11日にも全世代型社会保障検討会議を開き、引き上げ方針を盛り込んだ最終報告をまとめる。厚生労働省は11月、年金収入のみの単身世帯で年収240万円以上に絞る案から、より幅広い155万円以上まで5つの案を示した。対象人数は200万人から605万人としていた。政府・与党が合意した年収200万円以上は5つの案のうち、中間の3つ目にあたり、平均的な年金額を目安とする基準だ。2割に負担が増える人の対象は370万人となる。厚労省の試算ではこれにより、現役世代の負担が880億円減る。首相は4日の記者会見で「将来の若い世代の負担を少しでも減らしていくのは大事だ」と述べた。5案のうち年収170万円以上を軸に調整するよう指示していた。公明党は「負担が増える高齢者を減らすべきだ」と主張し、年収240万円以上とするよう求めていた。自公両党の幹部が協議してきたが折り合わず、党首会談で決着した。2割への引き上げ時期は22年10月からとする。政府は19年末の中間報告で「遅くとも22年度初めまでに改革を実施」と明記していたが、同年夏の参院選への影響を考慮した。関連法案を21年1月召集の通常国会に提出する。後期高齢者の医療費改革を巡っては安倍政権が19年12月、一定以上の所得がある人はいまの原則1割から2割に引き上げる方針を決めた。政府の全世代型社会保障検討会議は当初、今年6月に最終報告をまとめる予定だった。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う影響で、議論を先延ばしした経緯がある。 *3-2-7:https://www.tokyo-np.co.jp/article/65553?rct=politics (東京新聞 2020年10月31日) 最低所得保障、将来に備え議論を 竹中平蔵氏が見解 菅義偉政権が新たに設けた「成長戦略会議」のメンバーで、慶応大名誉教授の竹中平蔵氏(69)が31日までに共同通信のインタビューに応じた。最低限の生活を保障するため全国民にお金を配る「ベーシックインカム(BI)」(最低所得保障)について、「将来の導入に備えて議論を進めるべきだ」との考えを示した。竹中氏は9月下旬、BS番組に出演し、BIについて全国民を対象に1人当たり月7万円支給するよう提言。財源は生活保護や年金を縮小して充てるとした。菅政権のブレーンの一人として注目され始めた時期と重なり、波紋が広がっていた。 *3-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201129&ng=DGKKZO66772390Y0A121C2EA3000 (日経新聞 2020.11.29) 首相「陸海空自、縦割り排して」 航空観閲式で訓示 菅義偉首相は28日、航空自衛隊入間基地(埼玉県狭山市)で開いた航空観閲式で訓示した。「組織の縦割りを排し、陸海空自衛隊の垣根を越えて取り組むのが重要だ」と指示した。首相は「宇宙やサイバー、電磁波などの新たな領域の対応が求められている」と述べ、個々の組織のみでの対処がより難しくなったと指摘した。「知見と経験を最大限に活用し、特別チームのように新たな任務に果敢に挑戦し、自衛隊をさらに進化させるのを強く望む」とも話した。1964年の東京五輪の開会式で上空に五輪を描いた空自の任務に触れた。「固定観念や前例にとらわれることなく、試行錯誤を重ねた結果、新たな道を切り開くことができた」と訴えた。「来年の夏、人類がウイルスに打ち勝った証しとして東京五輪・パラリンピックを開催する決意だ」と強調した。 *3-3-2:https://www.agrinews.co.jp/p52725.html (日本農業新聞 2020年12月21日) [現場ルポ 熱源を歩く] 遠いスマート化 担い手限界寸前 進まぬ通信整備 北海道留萌市 高齢化や担い手不足で離農が急速に進む北海道の過疎地。都府県と違い一つの農地が10ヘクタール規模の場所も存在するが、人手が足りない。農家の自助努力では農地を維持することが難しく、現場からは作業の自動化を求める声が根強い。ただ通信環境が未整備で、スマート農業の導入が進まない現実がある。中心市街地から車で30分の山奥にある道北部の留萌市藤山町。古くから山間の沢に沿って水田が列を成す地域だ。谷津の奥地は12月、腰の高さまで雪が積もる。一部携帯電話はつながらない。「請け負える農地はもってあと5ヘクタール。それ以上は限界だ」と、同市の水稲農家、中尾淳さん(43)は胸中を吐露する。同市の水稲農家は今年1月時点で35戸。10年前から14戸減った。高齢化も進行。担い手が減る中、耕作放棄地を出すまいと30~50代の担い手数人が離農地を集積している。それに伴い1戸の平均耕地面積も12・5ヘクタールと10年前から2・2ヘクタール増えた。この差は都府県の農家1戸の平均的な経営面積と同じ大きさだ。中尾さんも年々面積が増え、山奥の水田16ヘクタールなどを管理する。豪雪地帯で雪解けが遅く作業期間が限られるため、春先の田植え作業に多大な労力がいる。高齢の両親の手伝いと併せ繁忙期はアルバイトを雇い対応する。既に手が回らず、草刈りの回数は半減させた。道内の1戸当たりの平均経営耕地面積は年々増加し、30・6ヘクタールと都府県の14倍だ。十勝やオホーツク地方など大規模農業地帯では自動操舵(そうだ)が当たり前になってきたが、過疎地への導入は進まない。通信基盤が整っていないためだ。中尾さんは「担い手が減る中、まずは農機運転の自動化ができなければ地域農業は守れない。実現できれば他の作業を手伝える。でも当分無理だろうね」と苦笑いした。JA南るもい幌糠支所の鳥羽桂行支所長は「省力化したくてもできず、諦めている農家が多い。あと1ヘクタール増やすだけでも限界という担い手もいる」と説明。ただ、放棄地を出さないために現場が望む作業の自動化には、インターネット環境の整備が必要となる。北海道大学の野口伸教授は、道の過疎地の通信基盤整備の必要性を強調した上で「受益者負担も生じ、地域によっては費用対効果の話も出る。非常に難しい問題だ」と解決の複雑さを語る。総務省によると、道内全農地における超高速ブロードバンド(光ファイバー)の整備率は51・6%。農地面積が広大かつ点在する北海道では、残りの整備負担の試算額は全体で最大1600億円必要で、整備されていない自治体は山間地が大半を占めている。この莫大(ばくだい)な予算をどう捻出するのか。同省は今年度の補正予算で「高度無線環境整備推進事業」に過去最大の計531億9000万円を計上。地方創生臨時交付金と併せて自治体の整備負担額を減らし、農家世帯や住宅地などへの完備を目指す。ただ、同省が目指すのは世帯への完備で、農地ではない。留萌市は来年度から同省の事業を活用して基盤の整備を進める。一方で市の担当者は「山奥の農地への整備をどうしていくかは世帯整備後の話となる」(農林水産課)と説明する。中尾さんは使命感を語る。「親父から受け継いだこの田んぼに食わせてもらった。子どもたちの古里をなくさないためにも守り続けたい」 *3-3-3:https://www.agrinews.co.jp/p52614.html (日本農業新聞 2020年12月8日) 組織改正と行政力 食料産業発展に期待 元農水省官房長 荒川隆氏 師走の声を聞き、来年度予算編成も大詰めだ。予算の陰に隠れ目立たないが、役所にとって負けず劣らず重要なのが、組織定員要求だ。組織の形を定め、その格付けごとの定員(級別定数)を決める組織定員要求は、役人にとって自らの処遇や組織の格にも関わる大事だ。橋本内閣が道筋をつけた2001年の省庁再編により、1府22省庁の中央官庁が再編され、現在につながる1府12省庁(当時)体制が導入された。役所の数を減らすだけでなく、各省庁の内部部局も一律に1局削減するとともに、全省庁を通じて局の数に上限が設定された。国土交通省や総務省など統合省にあっては、内局の数も多く問題はなかったろうが、単独省として存続した農水省では、どの局が削減されるか大議論になった。定員の割に局の数が少ない農水省で、5局(当時)を4局(当時)に再編することは難題で、結局、「畜産局」が廃止され耕種部門(農産園芸局)と統合し「生産局」が設置された。今、その「畜産局」が復活するかどうかのヤマ場を迎えている。「生産金額では米を凌駕(りょうが)している」「今後の輸出拡大の目玉だ」など理屈はいろいろあろうが、それはそれで、「昔の名前で出ています」の感がなくもない。5兆円の新たな目標に向かい、今後本格化するだろう輸出攻勢を担う「輸出・国際局」の新設と「合わせ一本」ということだろう。この組織改正の陰で見逃せないのが、飲食料品産業や外食産業などを所掌する部局の位置付けの変更だ。現在はその名の通り「食料産業局」が設置されているが、新組織案では、大臣官房に「新事業・食品産業部」なるものが設置されるらしい。わが国の食料・農林水産業の売り上げは100兆円で、そのうち農業が8兆円、林業・水産業は4兆円、残りは全て広義の食料産業部門だ。その食料産業部門を国の行政組織としてどう扱うかは、農水省の組織改正の歴史上、悩ましい問題だった。とかく1次産業偏重、農業偏重といわれてきたこの役所で、1972年に「企業流通部」が局に格上げされ、現在の「食料産業局」の前身である「食品流通局」が設置された。食料産業関係者の悲願が実現したのだ。あれから50年、今般の組織改正が、よもや食料産業の格下げではないと信じたいが、はたからはそんな懸念も聞こえてくる。多忙な官房長が新たなこの部を直接指揮監督するのは難しかろうから、何らかの総括整理職が設置されるのだろう。それにより、「輸出・国際局」や作物原局(農産局、畜産局、林野庁、水産庁)との連携が今以上に図られ、食料産業のますますの発展につながる組織改正となることを期待したい。凡人の懸念が杞憂(きゆう)で終わりますように。 *3-3-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODF2492P0U0A221C2000000/?n_cid=BMSR3P001_202012251359 (日経新聞 2020/12/25) 再生エネ比率、50年50~60%に 脱炭素へ政府成長戦略 政府は25日、温暖化ガス排出量を2050年に実質ゼロにする行動計画を公表した。新車は30年代半ばに全て電動化する。50年に電力需要が30~50%膨らむと想定し、再生可能エネルギーの比率は今の3倍の50~60%に高める目安を示した。脱炭素を成長のてこにする戦略で、50年に年190兆円の経済効果を見込む。実現には政策の総動員と技術革新が欠かせない。50年ゼロという高い目標を掲げ、温暖化対策を成長の制約ではなくチャンスとして位置づける。産業構造の大転換に向けて企業の背中を押す実効的な仕組み作りが重要になる。例えば脱炭素の税制支援で今後10年の間に1.7兆円の民間投資を促す。このほか予算や金融支援などの措置に加え、排出枠取引などの経済的手法も検討課題に挙げた。全体として産業・運輸・民生の各部門は電化を加速し、そのためにエネルギー源となる電力部門は脱炭素を進める構図になる。個別には洋上風力や水素、自動車・蓄電池など14の重点分野を定め、課題と対応策を工程表としてまとめた。国内では現在ほとんど普及していない洋上風力は40年までに最大4500万キロワットの導入を目指す。原子力発電所45基分に相当し、再生エネ先進国であるドイツをしのぐ規模となる。風車は部品数が多く裾野が広い。産業育成へ40年に国内調達量を60%にする目標も打ち出した。現状では国内に風車は製造拠点がない。燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出しない水素は、火力発電での利用を念頭に50年に2000万トン程度の消費量を目標とする。国内の発電設備容量の2割程度をまかなえる規模だ。需要拡大を通じてガス火力以下のコストを実現する。水素社会への移行期の燃料とするアンモニアは30年に天然ガス価格を下回る価格水準での供給をめざす。自動車は30年代半ばまでに新車販売の100%を電動車に切り替える。電動化するとコスト競争力を失う恐れのある軽自動車も例外にはせず、同様の対応を求める。電気自動車(EV)などの普及のカギを握る蓄電池については30年までに車載用の価格を1キロワット時あたり1万円以下に下げる。現状は1万円台半ばから2万円程度とされる。電動化が難しいバスやトラックといった商用車は来年夏ごろをめどに結論を出す。住宅・建築物は30年度までに新築平均で実質ゼロにする。半導体・情報通信産業は40年までにデータセンターで実質ゼロを実現する。船舶は50年までに水素やアンモニアといった代替燃料に転換する。 *3-3-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201226&ng=DGKKZO67722550V21C20A2M11700 (日経新聞 2020.12.26) 住宅 30年に新築の排出ゼロへ 温暖化ガス排出を減らすには、住宅や建築物のエネルギー消費削減も必要になる。国内の温暖化ガス排出量の15%は家庭から。政府は新戦略で新築住宅の排出量を2030年にゼロとする目標を掲げた。エネルギー収支が実質ゼロの「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)」をどこまで普及できるかがカギを握る。ZEHは家庭で使う電力を太陽光発電などの再生可能エネルギーで賄い、温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする住宅だ。発電した電気をためる蓄電池や断熱材などを生かし、最小限のエネルギーで暮らせる家をめざす。国内メーカーも導入に前向きだ。積水ハウスは19年度に手掛けた一戸建ての87%がZEH。20年度の8割目標を前倒しで達成した。大京や穴吹工務店もZEHマンションの建設を進めている。ただコストは高い。ZEHの初期費用は戸建ての場合、通常よりも200万~300万円ほどかさむという。日本は暖房費や除雪費などエネルギー消費量がかかる寒冷地での普及が進まない面もある。政府はこのほか、高性能建材のコスト低減や木造建築物の普及拡大、窓ガラスなどの性能評価制度の拡充などを新戦略に盛り込んだ。エアコンの制御や充電を効率化するエネルギーの最適利用の仕組みを検討する必要があるとしている。建材・設備の開発を巡っては、ビルの壁面に設置できる次世代型太陽電池の実用化を急ぎ、導入を拡大する。 *3-3-6:https://digital.asahi.com/articles/ASNDV5T89NDCULFA03D.html?iref=comtop_BreakingNews_list (朝日新聞 2020年12月27日) 長官来県に「いよいよ来た」東電と経産省、再稼働へ着々 肌を刺すような冷たい風に小雪が舞った14日、東京電力の柏崎刈羽原発を東京商工会議所の三村明夫会頭(日本製鉄名誉会長)ら経済界の視察団が訪れていた。敷地内では、7号機の再稼働に向け、原子力規制委員会から求められた安全対策工事が急ピッチで進む。案内役を務めた東電ホールディングスの小早川智明社長は、2011年の東日本大震災で太平洋側の発電所が軒並み止まったことを引き合いに、「日本海側の柏崎刈羽は非常に重要な電源だ」と強調。原発推進派で知られる三村氏も「原子力を相当程度活用せざるを得ない。大事なきっかけとして柏崎刈羽の稼働に強く期待する」と応じた。視察を持ちかけたのは、早期の再稼働を望む地元の柏崎商工会議所だった。電気を使う首都圏の経済界と一緒に原発の必要性を訴えることで、再稼働に向けた弾みにする狙いがあった。福島第一原発の事故から約10年。事故を引き起こした東電は今年9月、規制委から再び原発を動かす「適格性」の「お墨付き」を得て、再稼働への環境づくりを推し進めている。年明けに対策工事が終われば、いよいよ焦点は再稼働への地元同意となる。その地ならしもすでに、半年ほど前から水面下で進んでいる。 ●「ここで動かせなければ二度と動かせない」 コロナ禍による政府の緊急事態宣言が明けて間もない6月ごろ、資源エネルギー庁の高橋泰三長官(当時)は自民党新潟県連を訪れていた。長官がわざわざ乗り込んできたことに、同席した県連幹部は「いよいよ来たか」と身構えた。「お金もかけているし、安全審査も進んでいる。動かさないままにすることはできない」。そう訴える高橋氏に対し、この県連幹部は「再稼働はすぐには難しいですよ」と伝えた。県内では再稼働への反発が強く、同意した場合の知事選への影響が懸念された。東電も経済産業省もそこを意識し、知事の任期が切れる22年6月の1年ほど前、来年6月までに再稼働への同意を取りつけるシナリオを描く。再稼働で収益を改善しなければ、膨らむ福島第一の事故処理費用を賄い切れないからだ。ある経産省幹部は「ここで動かせなければ二度と動かせないかもしれない」と意気込む。高橋氏の後任、保坂伸・エネ庁長官も7月の着任以来、何度も新潟入りする異例の対応を取っている。11月27日、非公開で開かれた自民党県連向けのエネルギー政策の勉強会。自ら講師を務めた保坂氏は、再稼働への理解を直接求めることはなかったが、政府の原発政策などを紹介しつつ、日本海側の電源の重要性を訴えた。議員からは原発周辺の避難道路の整備を求める声などが挙がったという。再稼働を求める地元の経済界の要請を受け、県議会が同調し、最後は知事が同意を決断する。多くの原発再稼働で見られたプロセスが繰り返されるのか。自民、公明両党の支持で当選した国土交通省出身の花角英世・新潟県知事は、県独自の検証委員会の報告を受けて判断するとし、再稼働への態度をまだ明らかにしていない。だが、原発事故から10年を経て、東電と経産省は再稼働への地ならしを着実に進めつつある。 <女性がリーダーに選ばれにくい理由と女性差別の関係> *4-1:https://synodos.jp/economy/23872#google_vignette (SYNODOS 2020.10.27) 「女性にリーダーは向かない」というジェンダー・バイアスをなくそう ●ポストコロナにこそ女性リーダーが求められる もう元には戻れない――。コロナ禍を受けて、働く側も、企業も、そして自治体や自治体も模索が続く。過去の延長線上に、新たな社会は構築できない。社会を再構築するにあたって求められる重要な視点のひとつが、ジェンダー目線である。政治の世界においては、女性活躍推進といいながらも、働く女性の「ケア労働」に対するフォローが欠けていたことが、今回のコロナ禍で明らかになった。働く女性は職場の仕事に加えて家事育児・介護といったケア労働を担い、ダブルワーク、トリプルワークになっている。日本はOECD諸国のなかで最も、有償労働は男性に偏り、無償労働は女性に偏っている。日本人女性の有償労働、無償労働を足し合わせた総労働時間は日本人男性よりも長く、OECD諸国のなかで最長である。付言するなら、日本人女性の睡眠時間は最も短い。女性が輝く社会というキャッチフレーズの裏には、女性が睡眠時間を削って無償労働を担う姿がある。企業においては、今回のコロナ禍を受けて働き方の見直しが進んでいる。これまで在宅勤務は子育て中の女性社員のためという位置づけの企業もあったが、今回は一気に全社員に対象が広がった。性別、階層問わず広がったテレワークの実験的導入が、今後フレキシブル・ワーク(柔軟な働き方)を広げる契機となるだろう。これは正社員として働く女性にとっては追い風となる。ただし課題は山積だ。時間でなく成果で評価する仕組みをどう作るか、マネジメントの在り方をどう変えるか。在宅での仕事とケアワークとの両立をどう認めるのか。一例を挙げたまでだが、政治の世界も企業も、そして地域社会も家庭も、ジェンダー視点で見つめなおしてみると、新たな社会を築く上での課題とヒントが見えてくる。むろんジェンダー意識の高い男性リーダーもいるが、より多くの女性リーダーを登用することにより、変化が加速していくだろう。 ●日本はジェンダー・ギャップ指数121位。政財界に少ない女性リーダー では、日本における女性リーダーの現状はどうか。そのお寒い状況を表すのが、2019年12月、世界経済フォーラムが発表したジェンダー・ギャップ指数が153カ国中121位という結果である。過去最低の順位に沈み込んだが、その大きな要因が政治と経済分野における女性リーダーの少なさだ。衆議院の女性比率は約10%と世界最低水準、全国市区町村議会では女性の議員ゼロが2割を占める。2020年9月に誕生した菅義偉政権の女性の閣僚も、わずか2人。カナダ、スペイン、フィンランドなど閣僚の半数を女性が占める国が出てきているなか、登用が遅れているのは明らかだ。危機感を抱いた超党派の議員連盟などの働きかけにより、2018年5月、男女の候補者の数が均等になるように各政党に努力を求める「政治分野における男女共同参画推進法」が制定された。施行後初めての国政選挙となった2019年4月の参院選では女性候補者は28%と前回の25%をわずかに上回った程度。自民党の女性候補者は15%にとどまった。結果として、当選した女性議員は前回と同数という結果となった。罰則規定のない努力義務では、男女均等の実現には効力がないことが実証されることとなった。経済界でも、女性管理職比率は11.9%にとどまる(厚生労働省、2019年度「雇用均等基本調査」)。政府は2020年に、あらゆる分野で指導的地位に占める女性の割合を30%にしようという目標を掲げ「202030」という掛け言葉をかけてきたが、残念ながら目標未達は必至だ。ちなみになぜ30%かというと、ある集団の中で少数派が30%を超えると意思決定に影響を及ぼすようになるという、米ハーバード大のロザべス・モス・カンター教授の黄金の3割理論によるものだ。女性の役員比率をみると5.2%(2019年7月末現在、東洋経済新報社「役員四季報」)。欧米の2~4割に比べると、その差は明らかである。ただし人数は10年で4倍に増えている。役員増のきっかけは、2013年に安倍晋三政権が成長戦略のひとつとして女性活躍推進を掲げ、上場企業に「最低ひとりは女性役員を置くように」と産業界に要請をしたことだ。さらに2018年改訂のコーポレート・ガバナンス・コード(企業統治指針)で女性取締役を登用することを促し、もし実行できない場合は投資家への説明を求めたことも、女性取締役増の後押しとなった。 ●海外では女性リーダー不在への危機感が高い 近年ではESG投資の観点からも、女性取締役を求める機関投資家の声が高まっている。女性取締役のいない場合、株主総会で社長の選任などに反対票を投じる海外機関投資家も現れた。そこまで女性取締役を求めるのは、なぜか。一つには、企業統治の強化である。経営陣が均質な集団だとグループシンキング(集団浅慮)が起き、リスクが回避できないという。その典型例が、リーマン・ショックだ。リーマンブラザーズの経営陣が、男性、アングロサクソン、白人と極めて均質な集団であったために、危うい経営判断に歯止めがかけられなかったとされている。もう一つは、女性取締役を迎えることが業績向上につながるという期待だ。実際に女性取締役比率の高い企業ほど業績がいいという分析が様々発表されている。マッキンゼー・アンド・カンパニーの2018年のレポートでは、経営陣に占める女性の割合が多い企業上位25%と下位25%を比較したところ、企業の収益性を示すEBITマージン(金利税引前の利益であるEBITを売上高で割ったもの)が前者のほうが2割も高いことが示されている。ただし、女性役員をひとり登用すれば業績が向上するといった単純な話ではない。性別、年齢問わず優秀な人にチャンスを与え、意思決定層を多様化している企業は業績が伸びる、ということだろう。属性や経験が異なる知と知がぶつかり合うことで新しいものが生まれるのだ。欧米では、女性リーダー不在への危機感が強い。現状のままではあらゆる分野で男女平等を実現するのに99.5年かかると世界経済フォーラムは試算している。男女間格差を是正するため、変化を加速させる必要があるとして各国が導入するのが、ジェンダー・クオータ制(割当制)だ。政治分野でいえば、議席の一定割合を女性に割り当てることを法律で定める「議席割当制」、議員候補者の一定割合を女性または男女に割り当てる「法的候補者クオータ制」、政党による「自発的クオータ制」などがある。現在世界の約6割、100を超える国と地域で導入されている。議会に占める女性割合は世界平均で約24%(2019年1月、列国議会連盟調べ)、この25年間で女性議員数が倍増したのは、クオータ制導入によるものとされている。経済分野では取締役会に占める女性の割合を3割以上、4割以上とする「女性役員クオータ制」の導入が、欧州で進んでいる。欧州連合(EU)は2013年秋、欧州議会で欧州全体の上場企業に「2020年までに社外取締役の40%を女性にすべし」という指令案を圧倒的多数で可決した。その後理事会で通らなかったため、欧州全域でのクオータ制は実現しなかったものの、押し付けを嫌った各国が独自にクオータ制を導入。今や女性役員比率2~4割に達する国が多い。なぜ、クオータ制などという強硬策まで講じて、女性役員を増やそうとしたのか。それは欧州経済危機を受けて「女性の力を生かさないと、この経済危機を乗り切ることはできない」と考えたからだ。これを現在のコロナ危機に当てはめて考えるとどうか。日本はこれまで不況を迎える度に「女性活躍推進などと悠長なことを言っていられない」と後退してきた。果たして今回はどうだろう。「女性の力を生かさないと、このコロナ危機を乗り越えることはできない」と考える企業は再生へのステップを踏み始めるのではないか。 ●リーダーは男性向きというアンコンシャス・バイアスをなくそう 政財界でなぜここまで女性リーダーが少ないのか。その一因として「リーダーは男性向きである」という「アンコンシャス・バイアス」があると考えらえる。アンコンシャス・バイアスとは、日本語でいうと「無意識の偏見」。いわば無意識のうちの刷り込みである。これは100%悪いわけではない。これまでの仕事の経験から得た刷り込みで素早く判断して効率性を上げるといった利点もある。問題は差別などマイナスを生む刷り込みだ。先進国のダイバーシティ推進企業がいま問題意識をもつのが、性別、人種や国籍などに関するアンコンシャス・バイアスにより、採用、評価、昇進昇格などで差別をしてしまうことだ。アンコンシャス・バイアスのなかでも、ジェンダー(社会的性差)に関するバイアスを、「ジェンダー・バイアス」という。筆者は2018年に大手企業25社約2500人を対象に、リーダーシップの性差とジェンダー・バイアスに関する調査を行った(桜美林大学講師、川崎昌氏との共同研究)。「野心的である」「愛想がいい」といった特性語38に対して、「女性として望ましい」「男性として望ましい」「組織リーダーとして望ましい」の3分類で望ましさの程度を7件法で回答してもらった。その結果、男性として望ましい、リーダーとして望ましい特性は「責任感がある」「行動力がある」「説得力がある」など重なりが多かったが、女性として望ましい、リーダーとして望ましい特性で共通するのはわずかで「責任感が強い」「自立している」のみだった。回答者の性別、階層別でみても同じ傾向だった。ここから分かるのは「リーダーは男性向きで、女性には向かない」というバイアスがあることだ。こうしたバイアスがある限り、女性自身が無意識のうちに上を目指すことにブレーキをかけることになりかねない。組織内評価でも意図せずとも「女性らしさ」と「リーダーらしさ」の異なる2つの軸で印象をもとに評価してしまう可能性もある。力強いリーダーシップを発揮している女性を、無意識のうちに「女性らしくない」とマイナス評価してしまう可能性もある。登用にあたっては「管理職にふさわしい女性がいない」という言葉がよく聞かれるが、この言葉の裏にもまた「リーダーは女性には向かない」というジェンダー・バイアスが潜んでいるかもしれない。「リーダーは男性向きで、女性には向かない」というバイアスを取り除かない限り、女性リーダーの登用はおぼつかない。 *野村浩子(のむら・ひろこ):ジャーナリスト 1962年生まれ。84年お茶の水女子大学文教育学部卒業。日経ホーム出版社(現日経BP)発行の「日経WOMAN」編集長、日本初の女性リーダー向け雑誌「日経EW」編集長、日本経済新聞社・編集委員、淑徳大学教授などを経て、2020年4月東京家政学院大学特別招聘教授。財務省・財政制度等審議会委員など政府、自治体の各種委員も務める。著書に「女性リーダーが生まれるとき」(光文社新書)、「未来が変わる働き方」(KADOKAWA)、「定年が見えてきた女性たちへ」(WAVE出版)など。 *4-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14714790.html?iref=comtop_Opinion_04 (朝日新聞社説 2020年12月1日) ネット中傷対策 試行錯誤を重ねながら ネット上の書き込みで被害を受けた人の救済を図るため、法律を改正して新たな仕組みを導入する見通しになった。損害賠償などを求めるには、投稿した相手が誰なのかをまず突き止める必要がある。現在はサイトの運営者と接続業者を相手に、ネット上の住所や本人の氏名の開示を求めて裁判を2回起こさなければならない。これを1回で済ませられる簡易な手続きを設けるよう、総務省の有識者でつくる研究会が提言した。そこで示された裁判所の決定に不服がある時は正式な訴訟で争うことも可能にする。妥当な内容といえる。フジテレビの番組に出演していたプロレスラーの木村花さんが亡くなったこともあって、議論の行方が注目されていた。手続きの煩雑さから泣き寝入りせざるを得なかった人にとっては朗報だ。一方で、発信者情報の開示を求める申し立ては、不都合なことを書かれた企業などからも起こされていて、正当な批判や内部告発をためらわせる圧力になっている。新たな手続きが乱用されれば表現活動が広く萎縮しかねない。法施行後に運用状況を検証し、不具合が見つかればまた手直しをするという前提で、制度の設計に当たってほしい。表現の自由は民主社会の基盤であり、発信行為を禁ずることはできない。それが人権を傷つける内容であった時、どうやって被害回復を図り、再発の防止につなげるか。発展途上にある技術とどうつきあうか。試行錯誤を重ねながらより良い答えを探り続けねばならない。裁判手続きの整備や被害相談に応じる仕組みの強化に力を入れるのはもちろんだが、SNSなどを運営するプラットフォーム事業者の責任も重い。総務省はこの夏、海外勢を含む事業者から不適切な投稿への取り組み状況を聴取した。だが具体的で納得できる説明がされたとは言い難く、外国の本社任せのような回答もあった。社会的責任の大きさを自覚し、早急に態勢を整えるべきだ。米ツイッター社が事実と異なる投稿に警告表示をしたり、大統領選前にリツイート機能を見直したりして関心を集めた。事業者の介入をどこまで是とするか、国内でも議論を深めたい。利用する側も問われる。ネットは公共財と認識し、感情に流されず一呼吸おいてから発信することなどを通じて、ゆがみを正していく努力が必要だ。ネットを見ているだけで、不快な情報に心を乱されることもある。「見ない」という選択も当然あっていい。自分なりのネットとの適切な距離の取り方を改めて考えてみてはどうか。 *4-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201226&ng=DGKKZO67743270V21C20A2EA3000 (日経新聞 2020.12.26) 旅券 旧姓併記しやすく 4月から、実績証明不要に 外務省は25日、2021年4月1日の申請分から旅券(パスポート)の旧姓を併記する要件を緩和すると発表した。戸籍謄本、旧姓を記載した住民票の写し、マイナンバーカードのいずれかを提出すれば旧姓を明示できるようにする。現状は戸籍謄本の提出に加えて、外国での論文の発表や業務による渡航など旧姓使用の実績を証明する必要がある。パスポートでの表記方法も改める。カッコ内で示す旧姓について英語で「Former surname」との説明を加える。国際結婚をした場合などに使う旧姓以外の「別名」に関しては「Alternative surname」などと記す。これまではカッコ内に旧姓が示されているだけで説明書きはなかった。外務省によると旧姓を併記する国は少なく、入国時に入国管理当局から説明を求められるケースがあるという。茂木敏充外相は記者会見で「今回の変更で円滑な渡航が可能になることを期待する」と述べた。 *4-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201229&ng=DGKKZO67802970Z21C20A2EA1000 (日経新聞社説 2020.12.29) 夫婦別姓の議論を止めるな 実現に向けて動き出したかと思われていたのが、一転して大きく後退した。夫婦が希望すれば結婚前の姓を名乗れる、選択的夫婦別姓制度の導入のことだ。政府が閣議決定した新しい男女共同参画基本計画の書きぶりは以前よりかなり後ろ向きだ。計画は2000年に始まり、今回が第5次だ。第1次から4次までは、選択的夫婦別氏(姓)制度という言葉を明記していた。この文言がなくなり「夫婦の氏に関する具体的な制度」というあいまいな表現になった。政府として「必要な対応を進める」という第5次の当初案も、「さらなる検討を進める」にトーンダウンした。変更の理由は、自民党内からの強い反論だ。党内には賛否それぞれの意見があり、調整は難航した。最終的には保守系に配慮したかたちで「夫婦同氏制度の歴史」などの言葉が追加された。選択的夫婦別姓の導入には、大きな逆風になりかねない。働き続ける女性が増えるなか、改姓で仕事に支障が生じるとの声は多い。一人っ子が増え、結婚しても実家の姓を残したい、という希望も強い。計画策定に先立つパブリックコメントでは、導入を求める多くの声が寄せられた。今回の計画は、こうした声に真摯にこたえたとはいえない。1996年には法制審議会が導入するよう答申した。17年の内閣府の世論調査でも、導入に賛成する人は当事者世代である18~29歳、30代でいずれも5割を超える。選択的夫婦別姓はあくまでも希望者に新たな選択肢を示すというものだ。今回の計画は、旧姓の通称使用拡大を強調するが、2つの姓の使い分けには限界がある。夫婦同姓を法律で義務付けているのは、主要国でも異例だ。家族の一体感のみなもとは「同姓であること」だけでもないだろう。大事なのは、議論を止めず、しっかり続けることだ。菅義偉首相はかつて導入に賛意を示していた。将来に向け、何が必要なのか。議論をリードしてほしい。 <外国人差別もよくないこと> PS(2020年12月30日追加):フランスを代表するファッションデザイナーのピエール・カルダンが、*5-1のように、パリ郊外の病院で亡くなられたそうで残念だ。このHPの表紙で着ている白のスーツを始め、私のおしゃれ系スーツは殆どピエール・カルダンとクリスチャン・ディオールで、鮮やかで意外な色と洗練されたデザインの組み合わせがよく、さすがにイタリアとフランスだと思う。これに、シャネルのバッグ・フェラガモの靴・ボルボのEVを合わせるとおしゃれは完成するだろうが、日本も先進性やデザインに力を入れたらどうかと思う。 なお、*5-2のように、棚田保全のために担い手の確保が必要だそうだ。棚田はじめ祖先が苦労して開墾した農地は国民の財産であるため、放牧地にするのはまだよいとしても、林地や緩衝帯にするのはもったいない。むしろ、レモン・オリーブ・アーモンドなどこれまで日本ではあまり作っていなかったものを作ったり、住居を用意して日本人だけでなく難民の中から希望者を募って集団移住させたりなど、人材確保を工夫すればよいと思う。農業も多様性があった方が面白いアイデアが出るのであり、私は東南アジア由来のパクチーを最近よく買っている。 棚田の春 浜野浦の棚田 棚田の秋 *5-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR294970Z21C20A2000000/?n_cid=BMSR3P001_202012292230 (日経新聞 2020/12/29) ピエール・カルダンさん死去 仏の世界的デザイナー フランスを代表するファッションデザイナー、ピエール・カルダン氏が29日、パリ郊外の病院で死去した。98歳だった。死因は明らかにされていない。仏メディアが一斉に報じた。同氏の名前を冠したブランドは世界的に知られる。1922年、イタリア北部で7人兄弟の末っ子として生まれる。当時のイタリアのファシズムから逃れるため家族でフランスに移住した。14歳で仕立ての仕事を学ぶなどして修業を積んだ後、著名ファッションデザイナー、故クリスチャン・ディオールのもとで働く。50年にパリで自身の高級注文服の店を開き、評価を高めた。「多くの人に作品を知ってもらうのが大切だ」としてパリ百貨店プランタンに自分の服を置くプレタポルテ(高級既製服)の道を開いた。当時としては異例の対応で、同業者から批判を受けたこともある。だが一部の人だけのものだった高級ファッションを「民主化」したとの評価もある。斬新な感性を持つデザイナーで、60年代には初めてビニールを服の素材として使って周囲を驚かせた。96年4月には日本経済新聞に「私の履歴書」を連載した。91年勲二等瑞宝章。 *5-2:https://www.agrinews.co.jp/p52776.html (日本農業新聞論説 2020年12月27日) 棚田の保全 担い手確保の政策必要 棚田地域振興法の指定地域が順調に増え、指定開始から1年で600近くになった。棚田が持つ多面的機能への評価が高まる一方、中山間地域では高齢化や人口減少に歯止めがかからない。同法が掲げる「国民的財産」を守るには、移住者を含め、棚田の多様な担い手を確保・育成する総合的な政策が必要だ。同法は2019年6月に議員立法で成立した。旧市町村単位で都道府県が申請した地域を、国が指定する。指定を受けた地域では農家や自治体、住民らが地域協議会を組織。計画に基づいて、農業生産にとどまらない多様な活動を展開し、それを国が支援する。具体的には、中山間地域等直接支払制度で10アール当たりの基準額に1万円を上乗せする。また、地域振興に関連する事業の優先採択や面積要件の緩和、補助率かさ上げなどのメリットもある。指定地域は、19年12月の第1弾の指定から約1年で合計33道府県583地域に拡大した。最も指定が多いのは大分県で98地域。次いで新潟県・92地域、岡山県・45地域と続く。農水省は、今後も指定地域の増加が見込まれるとして、一層の浸透を図りたい考えだ。現場からは支援の拡充を求める声もある。また棚田支援に関する自民党のプロジェクトチームは、制度の課題を洗い出し、必要に応じて法改正にも乗り出す考えだ。棚田を抱える中山間地域で高齢化、人口減少が進む中、支援策と並行して農水省は、生産基盤として長期的にも棚田を残すかどうかの是非も議論している。食料・農業・農村基本計画の具体化に向けて設けた「長期的な土地利用に関する検討会」で同省は、政策支援しても維持できない場合、放牧地や林地への転換も選択肢に挙げている。また野生鳥獣の被害が増えている現状から、作物を栽培せずに草刈りなどを行い緩衝帯として活用することも提示。農地にいつでも戻せる仕組みも議論の俎上(そじょう)に載せている。農地を維持するために支援を手厚くするか、農地からの転換に踏み切るか。中山間地域対策を巡ってはこうした議論が繰り返されてきた。しかし、最優先すべきは「人材確保」である。地縁の有無や世代を問わず、都市など他の地域から人を呼び込み、移住者や関係人口などとして、棚田の保全に多様な形で携わる人材を確保する政策が必要である。また、定住できるように、所得・就業機会の確保と生活条件の整備が重要である。棚田の価値について国民理解の醸成も一層進めなければならない。自然災害が頻発する昨今、洪水防止や水源涵養(かんよう)などの多面的機能を発揮し日本の原風景も守っていることや、それには農地として人の手で維持しなければならないとの認識を共有する必要がある。食料安全保障の確立に向けて基本計画は国民運動を提起した。生産基盤としても貴重な棚田を守る機運を政府は高めるべきだ。 <病人差別と私権制限好きの存在> PS(2021年1月2日追加):年末はNHK番組でも、*6-1のように、①新型コロナの感染者数は100年前のスペイン風邪(当時の新型インフルエンザ)と同じとし ②感染症は抑え込まねば流行を繰り返すとして ③欧米の感染者数を出して日本で危機感をあおり ④都市封鎖を奨める報道が目立ったが、100年前とは比較ににならないほど生物学・医学などの科学が進歩し、ウイルスの姿や行動もわかり、衛生設備の普及や衛生教育が進み、治療薬やワクチンもできているため、よほど無知で非科学的な行動をしない限り、歴史を繰り返すことはないのである。 にもかかわらず、日本の場合は、*6-2のように、空港での検疫や入国後の処遇が何カ月経っても的を得ず、ウイルスの変異は日常的に起こるのにそれを調べもせず、英国が新型コロナに変異種があると発表して初めて国内で確認するという情けなさで、新型コロナ対策分科会の尾身会長が、年末に「医療体制等が逼迫して機能不全に近い状態に近づきつつある。変異種が国内で拡大すれば極めて危機的な状況が起こる」などと述べたが、厚労省がこの程度では情けない。 さらに、平井デジタル改革相が、*6-3のように、「⑤新型コロナウイルス対策として、海外から入国した人の移動を把握するシステムを開発中だ」「⑥海外と同様、日本でのトレーサビリティーをデジタルでやろうと考えており、使わないと入国させない」「⑦GPSをオンにしてとお願いしないといけない。こういう事態だから許されると思う」と述べておられる。 しかし、⑤については、日本では、失政続きのせいで新型コロナが市中に蔓延しており、その中から変異種が現れることも当然あるため、海外から入国した人の移動だけを把握しても無意味だ。その上、⑦については、性犯罪者でもないのに新型コロナの可能性があるとして政府から移動を監視される言われはなく、⑥を行っているのは、それこそ中国や韓国などの人権後進国なのに、そこだけ真似しようというのでは民主主義国家とは言えない。 さらに、*6-4のように、政府が新型コロナ対策の実効性を高めるためとして特別措置法の改正を進めており、焦点は休業や営業時間短縮の要請に応じない事業者に罰則を科すことだそうだが、これは、営業の自由に反する規制である上、このような後ろ向きの規制による個人の営業上の損失を国民の血税で補填する仕組みであるため、どれだけの効果をもたらすのか明確なエビデンスが必要だ。私は、そんなことに使う金の1/10でも治療薬やワクチンの開発、ゆとりある医療システムの整備などに使った方がずっと役に立つと思っている。そして、日本独特の“積極的疫学調査”は新型コロナを市中に蔓延させた失政であり、接触した人を洗い出す方法は警察の捜査ではよく使われるが、病気は検査・治療・隔離と事前予防しかなく、疫学調査はサンプルをランダムに抽出して行うものなのである。 *6-1:https://digital.asahi.com/articles/ASNDC44M4ND3ULZU009.html (朝日新聞 2020年12月11日) ウイルスがまいた第2次大戦の種 歴史生かせぬ宰相ら ●コラム「多事奏論」 駒野剛(編集委員) 新型コロナウイルスのパンデミックが止まらない。米国では1日当たりの新規感染者数が20万人を超え、欧州もいったん解除した都市封鎖を再発動している。約100年前、今以上の大流行が世界を脅かした。スペイン風邪という新型インフルエンザにより、諸説あるが世界で2500万人から4千万人、日本も植民地を除く本土だけで45万人の命が奪われたという。1918年から20年までの流行で、同時期に戦われた第1次大戦の死者、約1千万人をはるかに上回る大災厄となったのだ。22年、内務省衛生局が刊行した「流行性感冒」は、この感染症の特徴を「本病の一度流行するや老幼、貴賤(きせん)の別なく之(これ)を侵し、土地の遠近を問はず迅速に蔓延(まんえん)して種々の社会的事情を生ずる」と書いている。事実、感染に貴賤の別はなかった。18年10月末、「平民宰相」と呼ばれた原敬(はらたかし)が、初代首相伊藤博文の墓参りの後、インフルエンザを発症した。さらに当時の皇太子、つまり昭和天皇や秩父宮ら皇族、元老山県有朋も感染し、回復した原らが対応に右往左往した記録が残っている。 ◇ 新型インフルエンザは、短期の混乱にとどまらず、その後の世界史すら変えた、という指摘がある。 18年1月、米国のウィルソン大統領は平和14原則と呼ばれる教書を発表した。外交の公開、軍備縮小、そして諸国家の政治的独立や領土保全の相互保障のための組織、国際連盟の結成を呼びかけた。力の均衡という旧来の安全保障の枠を超えて、相互信頼に基づく公平な運営により、悲惨な戦争を繰り返さない決意がこめられている。ウィルソンは、戦勝国、敗戦国が怨讐(おんしゅう)から離れるべきだと考え、仏英が強く求めた独からの賠償金取り立ても反対だった。19年3月、講和条約を話し合う首脳会談に臨むため、ウィルソンはパリに入った。当時のパリはインフルエンザが流行し、「まるで我々の周りには何百万もののどに悪さするばい菌がうようよしている」と米代表団の一員が書き残すほどだった。1カ月ほどの会談で米仏が鋭く対立した。クレマンソー仏首相は、独が二度と立ち上がれないような措置を求め、ロイド・ジョージ英首相も、「独皇帝を絞首刑に、独から賠償を」といった国民感情を背景に、この会談の場にやってきていた。大詰めの4月3日。ウィルソンに魔の手が襲いかかり39・4度の高熱を発し会談を離脱。結局、賠償金支払いの義務を独に負わせる条項が条約に盛り込まれてしまう。その後決まった賠償額は1320億金マルク。当時の独の国民総所得の約2・5倍という膨大なもので、国民の窮乏を招き、復讐(ふくしゅう)心がナチス台頭のきっかけになった。パンデミックの実相を記した「史上最悪のインフルエンザ」の著者アルフレッド・W・クロスビーは「インフルエンザの被害に遭った人々のうちで最も痛ましい道をたどったのは、『戦争というすべての戦争をなくし、人類を高いモラルを持つ新たなレベルにまで引き上げようとする任務』に自ら着手したこの男であった」と述べ、ウィルソンの悲劇が、その後の第2次大戦の悲劇に連なっていくことを静かに暗示する。 ◇ こうした歴史が示す宰相の判断の重さを思うと、前政権も菅義偉首相も危機感が乏しくないか。3カ月前、私は当欄で「流行中に『Go To トラベルキャンペーン』を実施した。感染症抑制に逆効果という人の移動を税金を投じ後押しする」と疑問を呈した。事態はどうなったか。経済と感染症予防の両立と言うが、感染症は抑え込まねば流行を繰り返し、その度に経済は混乱する悪循環に陥るだけだ。菅氏は危機に迅速かつ適切に対処してきたと自負した。しかし歴史の経験に学ばない政治は、所詮(しょせん)、傲慢(ごうまん)を超えて愚行と言うしかない。この冬の終わりは遠そうだ。 *6-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODG25CK50V21C20A2000000/ (日経新聞 2020/12/25) コロナ変異種、感染者を国内初確認 空港検疫で5人 厚生労働省は25日、英国から航空機で入国した男女5人から感染力の強い新型コロナウイルス変異種が検出されたと発表した。変異種の確認は国内で初めて。いずれも空港検疫で見つかった。菅義偉首相は田村憲久厚労相に「水際対策もしっかり対応してほしい」と指示した。変異種への感染が確認されたのは18~21日に英国から羽田空港や関西国際空港に到着した10歳未満~60代の男女5人。うち4人は無症状で、60代男性はだるさを訴えていた。5人は陽性判明後に空港から宿泊施設に移され、現在も療養中で、濃厚接触者はいないという。5人の国籍は非公表。変異種は英国以外にイタリアやオランダ、デンマーク、オーストラリアなどでも見つかり、24日にドイツでも初確認されるなど拡大している。従来のウイルスより最大70%ほど感染しやすいが、重症化リスクは変わらないとされる。政府の新型コロナ対策分科会の尾身茂会長は25日、首相の記者会見に同席し、仮に変異種が国内で拡大すれば「いまでも医療体制などが逼迫、機能不全に近い状態に近づきつつある。極めて危機的な状況が起こる」と述べた。日本政府は英国からの航空便について、当面1週間の新規予約の受け付けを原則停止。26日以降、英国や南アフリカからの入国者について検疫所が指定する宿泊施設などで3日間の待機を求め、再検査で陰性を確認する。24日からは英国からの外国人の新規入国を禁止していた。日本人や日本在住の外国人が英国から帰国・再入国する場合もこれまで一定の条件下で認めていた2週間の待機期間の免除を取りやめている。26日からは南アフリカについても同様の措置とする。田村厚労相は25日夜、記者会見し、英国や南アフリカ以外からの入国者についても検疫体制を強化する意向を示した。英国では南アフリカの渡航者と接触した人からさらに別の変異種も見つかっている。英政府はこちらの方がさらに感染力が強いと説明している。 *6-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFS271DE0X21C20A2000000/ (日経新聞 2020/12/27) 入国者の追跡システム、義務化意向 平井デジタル相 平井卓也デジタル改革相は27日のフジテレビ番組で、新型コロナウイルス対策として海外から入国した人の移動を把握するシステムを開発中だと明らかにした。東京五輪・パラリンピック向けを念頭に、入国者に利用を義務付ける意向を示した。平井氏は「使ってもらわないと入国させないというところまでやらないと効果がない」と語った。五輪について「選手のほか観客も来る。海外と同じように日本でのトレーサビリティーをデジタルでやろうと考えて進めている」と述べた。システムの詳細については明言しなかった。平井氏は「GPS(全地球測位システム)をオンにしてとお願いしないといけない。こういう事態だから許されると私は思う」と強調した。政府は東京五輪に向けビザ(査証)と入場チケット、移動情報の記録を連携させるスマホ向けのアプリの導入を検討している。 *6-4:https://www.jiji.com/jc/article?k=2020123000536&g=pol (時事 2020年12月31日) 特措法改正、罰則規定が焦点 「私権制限」に慎重論も―コロナ対策強化へ策定急ぐ 新型コロナウイルス対策の実効性を高めるため、政府は特別措置法改正案の取りまとめを急ぐ。焦点は休業や営業時間短縮の要請に応じない事業者の罰則の在り方。菅義偉首相は罰則規定に前向きな立場を示しているが、憲法が保障する国民の権利の制限につながりかねず、政府・与党にも慎重論が根強い。改正案の早期成立は見通せておらず、首相の指導力が問われている。「時間短縮をより実効的にするため、特措法改正を視野に入れている」。首相は28日、記者団にこう語り、来年1月18日に召集される通常国会での法改正に改めて意欲を表明。自民、立憲民主両党は国対委員長会談で、2021年度予算案の成立を待たず、改正案を処理することで一致した。時短要請を担保する鍵と見込まれるのが、応じない事業者への罰則規定だ。政府は特措法改正で、緊急事態宣言の発令前でも都道府県知事が団体や個人に必要な協力を要請できると定めた24条を見直し、時短だけでなく休業の「指示」を含めた営業規制と、違反した場合の「罰金」を可能とすることで一定の強制力を持たせる方向だ。背景には、東京都の時短要請が新型コロナの拡大抑制につながらなかった苦い経験がある。都は新規感染者が目に見えて急増してきた11月28日から、飲食店などに午後10時までの時短を要請。政府は、7月から8月にかけての「第2波」の収束には時短が奏功したとみており、都の要請直後、首相周辺は「1週間でピークアウトする」と自信を示していた。だが、実際には12月以降も都の感染者は右肩上がりを続け、感染は首都圏全体に広がった。新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は、春先からの各種要請に事業者や国民が「へきえきして」おり、時短への協力が得られにくくなっているとの見方を示す。強制力を持たせるための罰則には「私権制限」の懸念が拭えず、関係省庁と内閣法制局が協議した結果、事業者への「罰金」については憲法との整合性が保たれるとの認識で一致した。政府は併せて、感染症法改正により各保健所による感染ルート追跡のための「積極的疫学調査」を拒否した人への罰則も検討したが、個人に対する措置は「合憲性に疑義がある」との指摘が法制局から出て、今回の改正では見送りとなりそうだ。罰則規定には事業者からの反発も予想されるため、与党内は「議論はまとまっていない」(公明党関係者)とされ、野党の立場もまちまち。与野党が特措法改正案の内容で早期に合意できる見通しは立っていない。首相は24日の講演で、時短要請への罰則について、分科会の慎重論にも触れながら「必要ではないか」と明言した。内閣支持率が急落する背景に、政府の新型コロナ対策に対する不満があることを意識した発言とみられる。ただ、目に見える効果が上げられなければさらなる批判も予想され、まずは実効性が期待できる改正案取りまとめに手腕を求められる。 <年齢差別もよくないこと> PS(2021年1月3日追加):*7-1の高年齢者雇用安定法が1986年に制定され60歳定年が企業の努力義務になっていたことは知らなかったが、90年に希望者を65歳まで継続雇用することが努力義務となったことは、私も知っていた。つまり、努力義務は方向性を示すだけで大きな変化は得られず、年金財政の逼迫で老齢厚生年金の支給開始年齢が65歳になるのと並行して定年年齢も徐々に引き上げられたわけである。しかし、65歳までの希望者全員が働けるよう義務づけられた現行の高年齢者雇用安定法は2012年に改正されたもので、年齢差別の廃止というよりは経済が理由で、まだ60歳以降は嘱託社員として再雇用する企業が多いのが実情だ。 そのような中、*7-2のように、嘱託社員として低賃金で再雇用され、やる気をなくしたシニア社員を「腰掛けシニア」と呼ぶそうだが、年齢にかかわらず仕事の内容・成果を給与に反映させるのは当然と言える。また、高齢化社会では、消費者も高齢者が多いので、生産する人の年齢も多様性があった方がニーズに合った製品・サービスを作ることができ、知識・経験・ネットワークを持っているシニアはむしろ宝物だ。 ここで面白い事例を紹介すると、私が2020年5月に運転免許証の更新のため警察署に行ったら、「コロナで休止になっているが、HPは見ていない?」と担当職員に言われてがっかりした。何故なら、私は、警察署のHPこそ見ていないが、自分のHPを持って毎日のようにブログを更新しており、そもそも1990年代からパソコンを使って意見書や論文を書いたり、インターネットを使って外国の事務所と議論したりしていたのに、60歳以上の人はすべてパソコンを見たこともないかのように言われたからである。そして、「タイピストをしていた女性などは、この若者たちよりずっと早く、正確にKey操作ができるのに・・」と思った次第だ。 10年近く掲げていた「広津もと子HP」の前の表紙 (図の説明:左図は、2011年3月11日に発生した東日本大震災の後、福島第一原発事故が起こってすぐに掲げたこのHPの表紙の文章で、右図は、再生可能エネルギーは農山漁村など地方を潤すツールにすることができることを示す図だ。原発は広汎なリスクを伴うため経過的なエネルギー源とし、できるだけ早く再エネに転換すべきことを、私は2000年くらいから考えていたが、衆議院議員時代《2005~2009年》に農山漁村の多い地方の地元を廻り、再エネに転換するための技術進歩を後押ししながら、確固たる信念にしたものである) *7-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210101&ng=DGKKZO67692680V21C20A2M12100 (日経新聞 2021.1.1) 高年齢者雇用安定法 高年齢者雇用安定法は1986年に制定され、60歳定年が企業の努力義務となった。90年には希望者を対象に65歳まで継続雇用することが努力義務となり、98年には60歳以上の定年が義務化された。老齢厚生年金の支給開始年齢が段階的に65歳になるのと並行し、定年となる年齢も徐々に引き上げられてきた経緯がある。現行の高年齢者雇用安定法は2012年に改正。それまでは65歳まで働く対象を限定することができたが、希望者全員が働けるように義務づけられた。終身雇用や年功序列を前提とした制度が続くなか、60歳以降は嘱託社員などとして再雇用する制度を採用する企業が多い。一方で労働力不足の解消や生産性向上を目的に、正社員の立場を続ける「定年延長」を採用する動きも徐々に出ている。 *7-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201212&ng=DGKKZO67241090R11C20A2MM8000 (日経新聞 2020.12.12) ニューワーカー 新常態の芽生え(5) 「腰掛けシニア」は限界 現役続行、自ら磨いてこそ 「腰掛けシニア」。こんな言葉が企業でささやかれている。定年後にやる気をなくしたまま企業にしがみつく社員のことだ。企業活力研究所(東京・港)の調査によると「意欲を持って働いている」と答えた60代は54%と半数にすぎない。働き手としてもう一度輝いてもらおうと、一律の処遇をやめ、仕事の内容や成果を給与に反映するといった取り組みが広がっている。 ●現役並み給与に システム開発大手TISは今春、能力や実績のあるシニア人材を対象に現役世代並みの給与を支払う制度を導入した。59歳でバンコクに赴任し、タイ資本との合弁会社で働く菅原徳男さん(65)。当初ゼロだった日系の顧客企業を100社に増やした実績が買われ、新制度が適用された。「自分のキャリアを生かせる仕事を続けられ、成果に応じてきちんと評価もしてもらえる」。60歳で定年を迎えてからは契約社員となり、年収は2~3割下がっていたが、実績を基に賞与も出て、昇給もあり得る。「体力や気力の衰えを感じるまでは、このまま働き続けたい」。処遇に変化をつける企業の方が、シニアの意欲が高い傾向にあるとの調査結果もある。60歳以上が労働人口に占める比率は2019年時点で21%と、10年比で3ポイント上昇した。大量採用したバブル世代が役職定年に差しかかるなか、中高年の生産性向上は企業にとって死活問題となった。中央大学大学院の佐藤博樹教授は「定年後などもマインドを変えられない管理職経験者が増えており、第二の『新人教育』が必要だ」と指摘する。先を見越して動き始めたシニアもいる。10月上旬の週末、プログラミング教室のテックガーデンスクール(東京・千代田)が運営する中高年向けの講座では、講師を務める20代の学生の指示に20人ほどの生徒が耳を傾け、パソコンに向かって手を動かしていた。 ●危機感から学ぶ 例えばホームページの地図上に会社所在地を示したり、作成したウェブページがきちんと表示されるか確認したり。生徒の相田俊之さん(56)は素材メーカーの技術職だが、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が出ていた5月から週末を利用してオンラインで授業に参加する。「あと4年で定年退職だが、今のスキルの延長では稼げない」。そんな危機感からプログラミングの勉強を始めた。終身雇用を前提とした従来型のメンバーシップ制の雇用では、社内で通用するスキルを磨くことが大事だったが、発想を転換する時期に差し掛かっている。NECは自分のキャリアをそれぞれが築く「キャリアオーナーシップ」の意識を養う研修を始めた。対象には20代の若手も含め、社内ではなく、世の中で求められ続ける人材の育成につなげる狙いがある。経験を生かして世の中の役に立つという「生きがい」だけでなく、膨らむ社会保障費を抑える観点からも、長く働き続けることが強く求められるようになった。その一方でコロナ禍で企業業績が低迷し、早期・希望退職者の募集も広がる。楽しく長く働き続けるために自分が何をすべきか。その努力は、人事制度を決める企業だけではなく、働く人すべてが問われている。
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2020,08,15, Saturday
Wikipedia 2020.7.30日本放送 Wikipedia 2020.7.31産経新聞 台湾の地図 李登輝元総統 蔡英文総統 中国・米国との関係 (https://search.yahoo.co.jp/video/search?rkf=2&ei=UTF-8&dd=1&p=%E6%9D%8E%E7%99%BB%E8%BC%9D&st=youtube 台湾・李登輝元総統の日本外国特派員協会での記者会見《動画》 2015/7/23 参照) (1)李登輝元台湾総統のご冥福を祈りつつ 1)李登輝元台湾総統を追悼して 「台湾民主化の父」と呼ばれた李登輝元総統(1923年《大正12年》1月15日 - 2020年《令和2年》7月30日)が、*1-1のように、7月30日に97歳で亡くなられた。惜しみつつ、ご冥福を祈る 日本は、太平洋戦争敗戦までの約50年間、台湾を植民地支配し、李元総統は日本の植民地時代に台湾で生まれて京都帝大で学び、日本軍人として終戦を迎えて、「自分は22歳まで日本人だった」と言っておられた。その流暢な日本語で、「日本の政治家は、小手先のことばかり論じている」等と語られていた言葉は、見識の深さを感じさせるものだった。 台湾大手紙、蘋果日報は、7月31日付の社説で、*1-2のように、李登輝元総統は「政治家」「哲学者」「宗教家」の3つの顔を持つ「類いまれなリーダーだ」と総括し、「台湾に民主主義を残したことは彼の最大の業績だ」と高く評価している。 李元総統の業績は、民意を反映させる議会改革を断行し、初の総統直接選挙を実現させ、台湾政治の自由化を加速させたことだ。これについては、李元総統が、日本の大正デモクラシー時代に生まれて教育を受けられた影響もあると思う。 何故なら、女性の私を教育で差別しなかった私の父も大正12年生まれの九州帝大卒で自由平等の思想を持つ人だったし、職場で最初に私を引っ張ってくれたトップも大正12年生まれの陸士出身の人で、戦前生まれにもかかわらず女性を差別することなく、仕事で多くの機会を与えてくれた。皆、時代の激しいうねりの中で戦争に巻き込まれつつも、心には自由・平等・独立の精神を持っていたと思う。 2)台湾と中国の関係 天安門事件の後、中国共産党が民主化の芽を武力で封じ込めたのとは反対に、李元総統率いる台湾は、民主化路線を歩んで高い経済力を身につけたが、台湾と中国の関係は悪化し、1990年代の半ばには台湾海峡危機が起き、中国は台湾に激しい統一攻勢をかけた。 このような中、*1-3のように、1972年の「日中国交正常化」時の日中共同声明が、「中華人民共和国政府は,台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は,この中華人民共和国政府の立場を十分理解し,尊重し,ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する」としたため、日本は台湾を見捨てて国としての交流を絶つこととなり、中国の圧力によって台湾の国旗や総統府をTV画面で流すことすら難しい状況になった。 そして、*1-4のように、日本からの李元総統の弔問団には、①安倍政権の閣僚はおらず ②人数も簡素で ③台湾に4時間しか滞在しなかった ため、台湾の学者からは、「日本は台湾との友好より、対中関係を気にしている」と指摘されている。私もそう思うが、我が国の「寄らば大樹の陰」「弱者切り捨て」の態度はあまりに見苦しく、民主主義の理念も感じられないため、少なくとも内政干渉せず、独立国には敬意を持って接するよう、日中共同声明を変更すべきだと考える。 米国の方は、*1-5のように、李元総統が強化した対米関係を蔡総統が引き継ぎ、中国からの統一圧力に直面する台湾にとって安全保障の最大の後ろ盾となっている。台湾の民主化を進めた李元総統は、「自由と民主主義」を旗印に米国との関係強化に取り組み、李氏が切り開いた米台関係の道筋を現在の蔡英文政権は引き継いでいる。私は、蔡総統が低姿勢だから米国の支持を得ているのだとは思わず、米議会とトランプ政権は、民主主義を護ることに関して日本よりずっと筋が通っているのだと思う。 3)台北での思い出 ← 台湾人は韓国人と異なり、日本を恨んでいなかった! 私は、1990年代の前半に台北大学で開催された夫の学会に同伴して、台北に行ったことがある。昼間、1人で大学の近くを歩いていたら、台湾人の品のいい男性から「この台北大学は、日本が作ったことを知っていますか?」と、日本語で声をかけられた。 外国で外国人から流暢な日本語で声をかけられたことにまず驚いたのだが、中国や韓国の反日ばかりが報道される中で、太平洋戦争後に日本に好意を持つ国があることも予想外だったため、「知りませんでした」と答えるのがやっとだったが、私の2重の驚きは顔に書いてあったようで、その方は笑顔で去って行かれた。 その夜の懇親会に、白大島の着物に真っ白の帯を組みあわせ、紫とこげ茶の模様が入った帯揚げ・帯締めをして、夫と同伴で出席したところ、私が入っていった時に拍手が起こり、多くの人が立ち上がってこちらを向いて拍手してくれたのにも驚いた。深く考えて選んだわけではなかったが、台湾に近い奄美大島の本場大島紬を着たのがよかったかも知れない。 (2)日本における女性活躍 1)職場での女性差別解消はどこまで進んだか 台湾では、李元総統に見いだされた女性初の蔡総統が活躍している。日本で初の女性首相はまだ誕生していないが、私は、日本で女性初の首相になる人は伊藤博文・李登輝級であって欲しいと思っている。 そのような中、*2-1のように、日本では「①高賃金の男女間で説明できない格差が拡大している」「②昇進に伴う昇給格差にもガラスの天井がある」「③外形的なポストの差解消だけでは不十分」という記事があり、ジェンダーも、やっとこういう分析が行われるところまで来たかと思った。 経験的には、「ガラスの天井」と「床への張りつき」は確かにあり、日本は両方が観察される先進国では特殊な国というのも事実だ。そして、これは女性の管理職への昇進が難しいことが一因だが、昇進に伴う昇給でも男女間格差は大きく、同じ役職でも女性は基幹的でないポスト(名ばかり管理職)に配置されている可能性が高いと分析されており、実際に日本企業ではよくあることだ。 日本では、女性活躍推進法が施行され、常時雇用する労働者が301人以上の事業主は、女性従業員の勤務状況を数値で把握し、改善のための数値目標を立てて実行に移すことが義務付けられている。そして、2022年4月には101人以上の事業主に拡大適用されるそうだが、女性は中小企業で働いている割合が高いため、101人以上の事業主に拡大適用しても多くの女性の実態がつかめないままだろう。 2)男女間の人的資本量蓄積の差異 *2-1に書かれているとおり、女性労働者への①教育 ②勤続年数 ③労働市場での経験 などの人的資本量は、生産性の違いから合理的な賃金格差を生む。 そのため、②③を経るためのパスポートとなる①について男女間格差を比較すると、*2-2のように、東大学部学生の女性比率は、2019年5月現在で19.3%だそうだ。ちなみに、京都大の22.3%、大阪大の34.3%となっており、大学全体では学部生の45.4%が女性であるため、難関大学ほど女子学生の割合が低いと言える。また、大学全体ではなく、学部毎に女子学生の割合を比較すると、東大最多の2千人超が籍を置く工学部で女子は1割に満たないなど、社会で人的資本量にカウントされる学部の男子学生の割合が高いという結果が出ている。 つまり、教育段階で既に、社会や家庭の圧力によって女性差別が生じているため、職場における男性優位の構図も変わりにくいのだろう。 3)農業における女性活躍 農業は、家族労働が主であるため女性が働くのは当たり前なのだが、働いても女性の地位は低く、「床への張りつき」の典型だっただろう。 しかし、*2-3のように、近年は、日本農業新聞が「①内閣府は、第5次男女共同参画基本計画の素案への意見募集を始めた」「②同計画素案では農業の持続性の確保に女性の活躍支援が欠かせないと明示している」「③地方では固定的な性別役割分担の意識が根強く、若い女性が大都市圏に転入する要因になっている」「④農業でも女性の都市流出で基幹的従事者に占める女性の割合が低下している」「⑤農業委員やJA役員の女性登用を一層進める」「⑥女性が働きやすい環境づくりをする」などのアナウンスをしているため、まだ男女共同参画の段階でしかないものの、今後に期待したい。 (3)女性を軽視する会社の業績は悪いことを実績で示す 1)日産自動車のケース 経営の立て直しを進める日産自動車は、*3-1のように、今期(2021年3月期)の年間配当を見送る見通しだそうで、販売低迷の理由は必ず①カルロス・ゴーン元会長を巡る一連の問題 ②新型コロナウイルス感染拡大の影響による世界的な新車需要の急減 などとして、現経営陣は誰も悪くないというスタンスをとる。 しかし、①については、カルロス・ゴーン氏を追い出すために検察を利用して行った捜査に問題があることは多くの人の目に明らかで、その汚い手法によって、これまで培われた日産ブランドが見放されたと考えた方がよいだろう。 また、②の新車需要減は新型コロナウイルス感染拡大以前から起こっており、その理由は、EV需要は環境意識の高い女性に多いにもかかわらず、ターゲットを女性に当てず、女性が好きそうなスタイルの車を売らなかったことにあると考える。つまり、社内に発言力のある人的資本量の大きな女性がいなかった(又は、少なかった)ことが販売低迷の理由である。 2)三越伊勢丹のケース 三越伊勢丹も、*3-2のように、最終赤字600億円で2021年3月期の最終損益が600億円の赤字(前期は111億円の赤字)だそうだ。しかし、赤字は前期にも出ているため、新型コロナウイルスの感染拡大による消費低迷だけでなく、構造的な売上減少がある。 何故か。確かにスーパーよりよいものを置いているが、その良さ以上に値段が高いため、買い物客が三越伊勢丹ブランドを過度に評価しなくなった現在では、客離れが進んでいるのだろう。 そして、三越は、就職時には女性を多く採用するが、「床への張りつき」を前提としているため、顧客には女性が多いにもかかわらず、人的資本量が多くて発言力のある女性役員や女性管理職が少ない。また、消費者としての女性も馬鹿にした値付けをしているように思うのだ。 (4)政治分野における女性の登用の遅れ 1)政治分野で女性の登用が遅れる理由 安倍首相は、*4-1のように、確かに女性活躍を推進して下さったが、「指導的地位に占める女性を2020年までに30%とする」という目標が先送りされたことについては、私もそれでは目標にならないと思った。しかし、このように、メディアも含む社会全体に女性蔑視がある時に、「達成できなかったのは政府の責任」として、少なくともやろうとした人に責任を押し付けても何の解決にもならない。 何故なら、女性閣僚が少ないのは女性議員が少ないことが発端で、女性議員が少ないのは男女間の人的資本量蓄積に差があると同時に、同じ人的資本量を蓄積している男女間での社会的評価にも差があるからである。そして、民主主義の下では、一般社会の評価が現実するため、①候補者になる女性数 ②勝つ候補として政党が公認する女性数 ③候補者のうち当選できる女性の割合 が女性に不利に働いて、女性議員が少ない状態になっているからだ。 ただし、「指導的立場に着く層に、女性の人材が十分でなかった」というのは、前からよく使われる言い訳で、女性に対して極めて失礼である。何故なら、才能ある女性の割合は男性と変わらず、教育や仕事の経験を通して蓄積された人的資本量で差が出るのであり、人的資本量の蓄積が同じ男女でも男女間で一般社会の評価が異なり、評価は女性蔑視側に傾くのを、私は経験済だからだ。この状況は、「女性の就業率は伸びたが、賃金は男性の74%しか得ていない」という統計データにも出ている。 なお、マッキンゼー・レポートが「男性は可能性を買われて昇進するが、女性は過去の実績で昇進する」と指摘しており、これは昇進するには女性は実績を示す必要があるという意味だが、女性が実績を言うと今度はそれが悪い評価に繋がるため極めてやりにくい。つまり、「女性は表に立たず、控えめにして男性を立て、男性を支えるのがよいことだ」という古い時代の美徳や先入観が日本社会に存在し続けていることが、現代の積極的な女性の邪魔をしているのである。 2)女性登用の壁を取り払う手段としてクオータ制は必要か 指導的地位は、*4-2のように、国会・地方議会議員、企業・公務員の管理職などを指し、いずれも目標との隔たりが大きいが、その理由は、これまで書いてきたとおり、①人的資本量蓄積の差 ②人的資本量蓄積が同じ男女に対する女性蔑視に傾いた評価 にある。 その結果、世界経済フォーラムの男女格差指数で、日本は2019年に調査対象の153カ国中121位になった。日本女性は、そこまで人的資本量の蓄積ある人材がいないのかといえば、そうではなく、人的資本量蓄積が同じ男女に対する女性蔑視に傾いた評価に原因があるだろう。 そのため、阻んでいる壁を低くするには、特に政治分野で一定割合を女性に割り当てるクオータ制を導入するのに、私は賛成だ。クオータ制は「逆差別」という批判もあるが、男性は①の人的資本量蓄積時点と②の人的資本量蓄積が同じ男女に対する女性蔑視に傾いた評価によって既に優遇されているため、「逆差別」という苦情は当たらない。 つまり、皆さんもお気づきのとおり、男性は「あんな人が?」というような人も重要な意思決定をする地位についているが、女性は「もったいない!」と思う人でもそういう地位につけないでいるのは、女性側の性格の問題ではなく、女性の努力だけでは解決できないからである。 (5)政治で女性登用が進むと何が変わるのか 2020.5.27時事 2020.6.13毎日新聞 2020.7.18東京新聞 (図の説明:日本は、検疫が不十分でPCR検査もケチったため、新型コロナの陽性者を陰性になるまで徹底して隔離することができず、国民全員に営業自粛・外出自粛を要請して経済を停止させた。そして、これによって破綻する中小企業や解雇される労働者を出さないよう、膨大な補正予算を組まざるを得なくなった。具体的には、右から2番目の図のうち地方自治体の医療体制強化交付金だけは後に残る投資にもなりうるが、持続化給付金・家賃支援・GoToキャンペーン・雇用調整助成金・10万円の特別定額給付金は、その場限りのバラマキと言わざるを得ない。補正予算は、1番左の図の1次補正16兆8,057億円、左から2番目の図の2次補正31兆9,114億円の合計48兆7,171億円を計上しており、当初予算102兆6,580億円との総合計は151兆3,751億円にもなる。その結果、1番右の図のように、日本の債務残高は名目GDPの225%と世界1の借金大国になり、国民をさらに貧しくすることなく借金を返すには、財政支出の優先順位変更・徹底した無駄遣いの排除・税収及び税外収入を合わせた歳入増加の取組が欠かせないのである) ざっくり言うと、日本は教育や社会を通じて性的役割分担が大きくなっているため、政治で女性登用が進むと、女性が担当している場合が多い子育て系(保育・教育)、介護系(介護・医療)、家事系(年金・消費税・家族の安全保障・栄養・環境)などの政策が国民本位に変更され、財政支出の優先順位が変わると思う。 もちろん、女性なら誰でも政策が同じということはないが、私だったら、財政法を改正して発生主義に変更し、決算を迅速にして前年度の決算書を見ながら次年度の予算を作成できるようにして、資本生産性(支出あたりの効果)を上げる。また、年金支給額がその時の為政者の判断で変わることがないよう、また誰も損せず不満が出ないように、年金積立金を発生主義で積立てる積立方式にする。また、下の事例でも発想が異なる。 1)新型コロナの対応から見た医療 世界主要国の2020年4~6月期のGDPは、*5-1-1のように、前年同期比で9.1%減少し、これはリーマン危機時の約3.5倍の落ち込みだそうだ。しかし、感染を早期に抑えて経済活動を始めた中国はプラス成長を達成し、ワクチンなどの研究も活発だ。 感染抑制のために厳しく行動制限すれば生産や消費も抑制することになるため、GDPが落ち込むのは当然だ。そのため、他国が有効な手を打っていない早期に防疫と3週間の外出制限を行って、経済をプラス成長に導いたベトナムも立派で、対応の優劣は経済再生に明確に出ている。 このような中、PCR検査をケチって感染者を重症化させ、検査方法のイノベーションも行わせず、治療薬も変なことを言って承認させず、ワクチン開発ものんびりしてきた日本で、*5-1-2のように、さらに、「新型コロナウイルスの『弱毒化』は、根拠が乏しい」という否定的な記事が掲載されたのには呆れた。 しかし、「弱毒化した」らしいのは、各国で新型コロナの致死率が下がっていることからわかる。そして、ウイルス(生物)は変異しながら進化していくもので、変異そのものには意図がないため強毒化と弱毒化の両方の変異がありうるが、弱毒化して宿主を自由に行動させなければ他の宿主にうつって生き残っていくことができないため、弱毒化への自然淘汰圧がかかる。 この淘汰を人為的に起こしているのは、*5-1-3の鶏卵を使って作る生ワクチン(病原ウイルスを数十代以上にわたって培養を繰り返すことによって弱毒化する)で、培養を繰り返しているうちに強毒化する株も弱毒化する株も現れるが、強毒化して鶏卵を殺してしまう株は捨て、弱毒化して抗体を作るものを残して、弱毒株を作るのである。また、人工的に淘汰して短い期間で目的に合った生命体を作るのは、農作物や家畜などで頻繁に行われている。 なお、日本で致死率が下がったのは、重症化しにくいとされる若者の陽性者の発見が増えたこともあるだろうが、これは検査数が増えたことを意味するだけで、ウイルスが弱毒化しない証拠にはならない。 つまり、女性は、(本能の違いからか)強制力を行使すること自体に快感を感じるわけではないため、経済を停滞させず、的確に予防や治療を行うことによって乗り越え、生活を防衛しようとする。これは、命と生活を第一に考えるからだ。 2)浸水想定区域に立地する介護施設 浸水想定区域内の特養が浸水して多数の犠牲者が出たのは熊本県だけではなかったが、東京23区内の特養は、*5-2-1のように、その約4割が国や都の想定で洪水時に最大3メートル以上の浸水が見込まれる場所に立地しているというのに驚く。つまり、多くの地域で低地に建つ特養は多く、これらは浸水リスクを抱えている。 誰が考えても避難弱者の高齢者を護る筈の特養が、高齢者をあの世に送るための特養になってはならない。そのため、水防法が、浸水想定区域に立地する高齢者施設などを「要配慮者利用施設」として、避難計画の策定や避難訓練の実施を義務付けているだけというのは、どこに避難して、どれだけの期間、どういう生活を送らせるのかを配慮しておらず、要するに親身になって考えていない。 跡見学園女子大の鍵屋教授(福祉防災)は、「急速な高齢化を背景に施設の用地確保が優先され、災害リスクのある場所でも建てざるを得なかった」としておられるが、これらは速やかに安全な場所に移設すべきである。何故なら、そうしなければ、そこに居住する高齢者が危険なのはもとより、福祉人材や福祉設備も失うこととなり、結局は大きな無駄遣いになるからだ。 3)浸水エリアへの居住誘導 国交省は、*5-2-2のように、自治体が住宅の立地を促す「居住誘導区域」を浸水想定区域内に設定している問題で、これを避けられない問題として、堤防整備などの水害対策と土地利用を一体的に進めて被害を防ぐ方針を固めたそうだ。 しかし、それでは賽の河原の石積みのように、膨大な労力と費用をかけて、壊されては作り直し、また壊されては作り直すという、危険な上に無意味な作業を続けなければならない。それなら、高台を整地して21世紀の需要にマッチした居住区域を整備した方が、長期的にはずっと安上がりで意味ある投資になるだろう。 そして、いつ浸水するかわからない地域は、田畑・牧場・森林・公園・運動場などとして、自然環境と融合させながら安全な街を造っていった方が、街の価値も上がる。そのため、浸水想定区域などのハザードエリアを公表し、計画的に安全な場所に街を移転するのがよいと考える。 4)エネルギーの選択とモビリティーの電動化 日本は資源のない国と自らを定義づけて存在するエネルギー資源を利用せず、1973年のオイルショックの後に燃料価格が高騰し、1974年には消費者物価指数が23%も急騰したにもかかわらず、エネルギーを原油から切り替えようとしなかった。なお、原発による発電は始まったが、(既に何度も理由を書いたので長くは書かないものの)これも著しく高コストの電源だ。 i)使用済核燃料の保管場所にもなる原発運用の変更 原発は、建設当初の方が現在より安全に配慮していた状態だ。その理由は、①2006年にモックス燃料を使ってプルサーマル発電を始めたが、これは原子炉内の圧力のゆとりが減るものであること ②2011年の世界最悪のフクイチ事故の後、原発の耐用年数を40年から65年に延ばしたこと ③*5-3-1のように、使用済核燃料の貯蔵容量を「リラッキング(原発の建屋内近くにある貯蔵プール内の核燃料の間隔を詰めて保管量を増やす操作)」して狭い場所により多くの使用済核燃料を詰め込むようにしたこと などである。 九電の玄海原発で使用済核燃料の保管を現状の1050体から1672体に増えると、事故が起こった時の爆発力や被害はそれだけ大きい。そのほか、原発の敷地内に乾式貯蔵施設も作れば、原発は使用済核燃料の保管施設にもなるため、近隣住民の安全はさらに脅かされる。 ii)原発の立地 日本原電が、*5-3-2のように、敦賀原発2号機の地質データを再稼働に有利なように書き換えていたことが発覚し、原子炉の真下に活断層のある可能性が高いそうだ。2011年の東日本大震災以前は活断層や大地震の影響をあまり考えず、ここに原発を建設したのだろうが、原発の安全性の問題に加え、原発を稼働させるためなら何でもやる電力会社の資質も問題だ。 iii)解決策 ← 自然エネルギーによる安価な電力とモビリティーの電動化 日本がエネルギーを自給できれば、外国に支払う高額なエネルギー代金が原因で高コスト構造になっている部分が解決し、農業地帯で発電すれば農業の副収入となって農業補助金をカットできる。また、国内の製造業も息を吹き返すので、福祉財源が出て、消費税も下げることができ、その経済効果は大きい。また、日本が得意とする自給できるエネルギーは自然再生可能エネルギーであるため、世界の環境志向にも合致する。 しかし、自然エネルギーでものを動かすには、自然エネルギーを電力に換え、モビリティーを電動化しなければならない。実は、これも1995年前後に、私が経産省に提案して手が付けられたので、それから25年経過した現在は、電動モビリティーが普通に走っていてもおかしくない時期なのである。 なお、EVの普及で、埋蔵量が少なく精錬が難しいとされるレアメタルの需要が拡大する見通しで、レアメタルは中国からの輸入が多く中国は輸出規制もするため、日本政府は「①資源獲得競争激化を見据えて、安定供給確保と中国依存脱却を進める」「②60日分の備蓄を行う」としている。このうち①は、中国の輸出規制の影響は受けにくくなるが、資源代金が外国に支払われることに変わりはない。また、②の60日分の備蓄は、しないよりはよいという程度の対策だ。 しかし、実際には、*5-4-1のように、世界で6番目に広い日本のEEZからはレアメタルも採掘でき、2020年代後半の商業化を目指しているそうだ。が、技術は生産現場で磨かれるものであるため、「高い技術力」などと威張る前に、輸出することも視野に早く実用化すべきで、経産省が「海底資源を有効利用できるのは数十年先」などと言っているのは、「やる気がない」と言っているのと同じである。 また、1995年前後に、私は経産省に電動モビリティーの提案も同時に行っており、その後、トヨタはハイブリッド車、日産はEV、三菱自動車は燃料電池車を開発した。私は、ハイブリッド車は繋ぎでしかなく、EVと燃料電池車が本命だと思っていたが、EVは、日本では周囲から変な悪評を立てられて振るわなかった。 今度、日産は、*5-4-2のように、2021年に10年ぶりにEVの新型車「アリア」を市場投入するそうだが、EVは米中欧で近未来の標準車として既に市民権を得ている。にもかかわらず、先行していた日産は、EVに研究資源を集中せず、新興企業の米テスラにも及ばなくなってしまった。私は、EVの構造はガソリンエンジンやハイブリッド車よりもずっと単純であるため、日本での新車販売価格は約500万円どころか200~300万円代にしてよいくらいだと思っている。 ・・参考資料・・ *1-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14570856.html (朝日新聞社説 2020年8月1日) 李登輝氏死去 築き上げた民主の重み 台湾の李登輝(リートンホイ)元総統が亡くなった。97歳だった。独裁から民主への制度転換を平和裏に進めた業績は、歴史に深く刻まれる。強大化した中国が民主主義に逆行するなか、台湾の自由は、その重みをいっそう増している。1980年代後半、中国大陸出身者が中心だった国民党政権で、初めて台湾出身の総統となった。その後、政治の自由化を加速させた。民意を反映させる議会改革を断行し、初の総統の直接選挙を実現させた。米国を引き寄せ、台湾での権力闘争を勝ち抜く上で改革を推進力にしたとの見方もあろう。だが随所で国際潮流を読み、社会を混乱させることなく、民主化を軟着陸させた手腕は高く評価されるべきだ。中国共産党政権が同じころ、天安門事件で民主化の芽を武力で封じ込めたのとは対照的だった。台湾はいまやアジアの代表的な民主社会であり、高い経済力も身につけた。中国のような弾圧などしなくとも、安定した発展が可能であることを中国の人々に証明してみせた。ただ、中国との関係は悪化した。90年代半ばには台湾海峡危機が起き、緊張も高まった。人口2300万の台湾にとって、14億人の中国はあまりにも巨大だ。国防費は台湾の約15倍、経済規模は二十数倍に上る。圧倒的な力を持った共産党政権は政治改革を口にすることもなくなり、「一国二制度」を約束した香港では、自治の権利を強引に奪おうとしている。いまでは台湾の存在感の最大のよりどころは、民主と自由という理念にほかならない。コロナ禍でも、それは如実に示された。当局の積極的な情報公開によって市民が自発的に感染防止に動いたことが世界の注目を集めた。個の自由に否定的な中国の強権と比べ、個の自主と活力を尊ぶ文化が台湾の強みとして根付きつつある。日本は先の大戦に敗れるまで半世紀、台湾を植民地支配していた。その歴史を背景に、李氏は日本にとって特別な政治家だった。植民地時代の台湾で生まれ、京都帝大に学んだ。日本軍人として終戦を迎えた。流暢(りゅうちょう)な日本語で「22歳まで自分は日本人だった」などと語る言葉が、当時を肯定するかのように受け止められることもあった。だが、本人は動じることなく、ときに日本の政治家について「小手先のことばかり論じている」と厳しかった。日本は台湾との歴史にどう向き合ってきたのか。これからどんな関係をめざすのか。そんな重い問いを、日本人に静かに考えさせる存在でもあった。 *1-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/910a1cdadb5c8634773df473e277e8e6b0902ea1 (Yahoo 2020/8/10) 李登輝元総統死去 台湾紙「流血なき民主革命を実現」 中国紙は「台湾化」の礎にいらだち 「台湾民主化の父」と呼ばれた李登輝元総統が97歳で死去した。外省人(中国大陸出身者)の支配が長く続いた台湾で、本省人(台湾出身者)として初の総統になった李氏は民主化を強力に推進。本省人主導の政治を目指す台湾本土化(台湾化)路線をとり、中国と一線を画した台湾人意識を根付かせた。台湾紙は、今日の礎を築いた李氏を称賛して追悼。中国紙は李氏を「中華民族の罪人」などと痛罵した。 ■台湾 流血なき民主革命を実現 7月31日付の台湾大手紙、蘋果(ひんか)日報は社説で、前日夜に死去した台湾の元総統、李登輝氏について「政治家」「哲学者」「宗教家」の3つの顔を持つ「類いまれなリーダーだ」と総括し、「台湾に民主主義を残したことは彼の最大の業績だ」と高く評価した。同社説は、前任者の蒋経国の死去を受けて急遽(きゅうきょ)、総統に就いた李氏の政権が、当初はきわめて不安定だったことに言及。その上で「権威主義時代に頭角を現した李氏自身にも、強権政治家の側面があった。彼にとって民主主義は自らの理念であると同時に、政敵と闘争する際の武器でもあった」と指摘した。民主化を求める民意を背景に政敵を失脚させ、憲法改正によって立法委員(国会議員に相当)の全面改選や総統の直接選挙を実現した手腕が念頭に置かれている。「李氏には、同世代の政治家にない高い見識と行動力があり、彼の選択が結局、台湾を正しい方向に導いた」。こう述べる同紙は、李氏が台湾で成功させた民主化は「民主主義が欧米など西側社会のみならず、華人社会でも十分実現可能であることを証明した」とし、「中国大陸の人々も李氏に感謝し、敬意を払うべきだ」と主張した。別の台湾大手紙、自由時報の社説は、李氏が推進した台湾本土化(台湾化)路線を詳しく振り返った。李氏が総統だった当時、日本人作家、司馬遼太郎との対談で「台湾人に生まれた悲哀」について語ったことを紹介。さまざまな外来政権によって支配されてきた台湾人は長年、自分で自分の運命を決められなかったが、「李氏は生涯をかけてそれを変えた」と評した。本土化路線の推進により、中国からやってきた支配者たちの特権をなくし、台湾の価値観を重視する政治が実現した。李氏の最も素晴らしいところは、その過程で流血も大きな混乱もなしに「最も低コストで静かな革命を実現した」ことだと同紙は絶賛する。台湾がその後、中国の激しい統一攻勢に耐えてこられたのも李氏の民主化と本土化路線のおかげであり、台湾は「今も民主主義陣営の先頭として、独裁政権(中国)に対抗している」と同紙は誇った。これらの李氏を礼賛する論評に対し、中国寄りの新聞、中国時報は別の見方を示している。同紙は、李氏が台湾の民主化に果たした功績を評価しながらも、政治家としての李氏は「功罪相半ばする」と評した。李氏が晩年、両岸関係を「特殊な国と国の関係」とする「2国論」を提唱したことで、「中国大陸の強烈な反発を招き、両岸の対立関係を深化させた責任がある」と論じた。 ■中国 「台湾化」の礎にいらだち このほど死去した李登輝氏について、中国官製メディアは死者に鞭(むち)打つような言葉を連ねた。中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報(電子版)は7月31日の社説で「疑いなく中華民族の罪人だ」と罵倒した。なぜ、中国側にとって李氏は「罪人」とまでいうべき存在なのか。環球時報は「台湾の民主主義に祖国分裂の根を植え付けた」と一方的に断ずるが、その意味を理解するには中台両岸にまつわる歴史を振り返る必要がある。1949年、中国共産党との内戦に敗れた蒋介石(しょう・かいせき)率いる中国国民党政権が台湾に移った。国民党政権は台湾を「大陸反攻(中国大陸奪還)」の拠点と位置付けて一党独裁体制を続けたが、88年に本省人(台湾出身者)として初の総統となったのが李氏だった。民主化を進めた李氏は、その功績から「台湾民主化の父」と台湾内外で広く称される。民主化と同時に進めたのが、中国全土の統治を前提に国民党政権がとってきた政治体制を改めることだった。実効支配する台湾本島と周辺島嶼(とうしょ)に見合った体制へと改編し、「台湾化」を強力に推進。教育改革で「台湾人」意識も向上させた。これら李氏が進めたことは「台湾は中国の領土の不可分の一部」とする中国側には、中台両岸の「分断」を図るものにほかならなかった。環球時報は「李登輝が推進した台湾式民主主義は、最初から『台湾独立』に乗っ取られていた。そのため台湾の近年の政治の主軸は決して純粋な民主主義ではなく、その衣をまとった『台湾独立』なのだ」という主張を展開する。李氏が「民主主義を歪曲(わいきょく)した」がゆえに、「両岸には徐々に距離ができ、危機と対立が発展と協力に取って代わった」。中台両岸に距離が生じた責任をこう李氏に押し付けた。李氏が総統時代に取り組んだ「台湾化」は、現在の蔡英文政権に至る台湾の礎を築いたといえる。この現実が中国側をいらだたせている。日本との関係も糾弾の材料となった。国営新華社通信は7月31日に配信した論評記事で、李氏が「22歳までは日本人だった」などと語っていたことについて「植民統治を被った屈辱感が完全にない」と批判。台湾も領有権を主張する尖閣諸島(沖縄県石垣市)について李氏が「日本の領土だ」と公言したことも、「台湾当局の元指導者だったが、日本の利益を守るのに尽力した」との不満を呼んだ。官製メディアが痛罵を浴びせる様を通じ、李氏がなしたことに対する共産党政権のいらだちの大きさが改めて明白になったといえよう。 *1-3:http://www.cl.aoyama.ac.jp/history/sodaishi/t_links/shomondai/taiwan/kokko30.html (東洋史学の諸問題) 日中国交正常化・残された課題 ~「正常化」の裏にある「不正常化」・今後の問題点を考える~ 1972年9月29日、日本の田中角栄首相、大平正芳外相、および中国の周恩来総理・姫鵬飛外相らの間において、日中共同声明が署名され、日中の国交は回復されることになった。この国交回復は、通常「正常化」と呼ばれる。では、正常化以前はどうであったか。正常でない、異常な状態であったということか。確かに、ある意味で異常であった。すなわち、まったく大陸を支配していない国民党政府(国府)を全中国の代表と認め、実質的に大陸を統治している共産党政府の支配権を認めていなかったのであるから、これは異常であったと言わざるを得ない。この意味において、まさに国交回復は「正常化」であり、これが1972年までずれ込んだことは、遅すぎたとも言える。フランスなどは、すでに1964年から北京との国交を回復していたのである。しかし、日本と中国の関係のみならず、アジア全体を考えたときに、1972年以降がまったく「正常」であったのか、といえば、決してそうとはいえない。むしろ、1972年以降、かえって異常な状態になってしまった面もある。「台湾問題」だ。日中の関係は、このとき「正常化」し、両国の関係は安定化へ向かった。だが、台湾は見捨てられ、日本と台湾が国としての交流が絶たれただけではなく、中国の圧力によって、台湾の国旗や総統府をTV画面で流すことすら難しいといった、極めて不健全、かつ「不正常」なものとなってしまったのである。「台湾問題」とは何か。私が報道等を総合的に見て感じることは、日本の立場から見れば、事実上(de facto)台湾が中国の一部分とはなっておらず、主権独立国家を構えているにも関わらず、中国がこれを承認せず、急速な軍備拡張を続け、戦争をも辞さない非平和的姿勢を取っていること、これが「台湾問題」の核心である。だが一方、中国の立場としては、日本(米国も同様)がこの中国の姿勢に必ずしも同意せず、台湾併合という現状変更には積極的ではなく、むしろ台湾の民主化を歓迎している点、さらに中国の武力行使に断固反対の立場をとっている点が、「台湾問題」なのである。また、「台湾問題」という言い方自体、若干の政治的偏向でもある。なぜなら、台湾の立場としては、問題の核心は中国の覇権主義であるから「中国問題」であって、台湾側の問題ではない、ということにもなる。一般に「台湾問題」と言わず、「両岸問題」と称する所以である。日中共同声明中において、日中両国は、「中華人民共和国政府は,台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は,この中華人民共和国政府の立場を十分理解し,尊重し,ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する。」(外交青書17号) 。と宣言している。この表現は、日本では通常、中国政府に譲歩しすぎであると批判されるが、ただそう簡単に言い切れない点もある。現実には他の西側諸国と中国との間の取り決めの表現も大差なく、しかも「承認」という言葉を日本が決して使わなかった点において、かならずしも日本が突出して中国に譲歩したとは言えない。また、台湾の帰属に関してはまだ未決定という議論も存在し、少なくとも日本が積極的に台湾の中華人民共和国への編入を促進する内容とはなっていないのである。しかしながら、この声明と続く台湾断交以降、日本と台湾という二つの国家が相互に承認を取りやめるという、新たな「異常」状態が発生してしまったのは確かであり、最低限、台湾関係法を整備して時間をかけて国交を回復した米国と比べれば、田中・大平は長期的見通しなく拙速であったとも言える。中共・国府両方とは同時に国交を維持しないのは、北京の要請であったのみならず、「一つの中国」を堅持しようとした蒋介石の望みでもあった。しかしながら、断交とは、そもそも戦争を行うか、国家の消滅といった事態を前に行われるものであり、台湾という一国家と主要国が次々断交してしまうということ自体、地域に大きな不安定要素を抱え込むことになることは、明らかだったはずだ。日中国交正常化は、東アジアにおける安全と経済的繁栄を確実にしてゆく契機として、貴重な一歩であり、慶賀すべきであることに、間違いはない。しかし、それが台湾という事実上の一国家との「断交」の上に成り立っていることは、やはり現在の東アジアが内包する歪みであり、安全保障上の不安定要因である。多くの人々の犠牲の上にではあるが、日朝関係が、相互に国家承認していない、という異常状態を脱しつつあり、安全が確保されつつある現在、東アジアにおいて次に求められるのが台湾海峡の安定であることに、異論はないであろう。筆者は歴史研究者であって、政治家でも外交官でもないし、国際政治専門家ですらないから、その最も良い具体的な道筋を描くことはできない。また、台湾が今後、主権独立国家としての道を歩むのか、あるいは中国との一体化を選択するのかは、当事者たる台湾人自身の選択に委ねられるべきことであって、決して部外者である我々が口を挟むべき問題ではない。しかし、1972年の日中国交回復という、アジアにとっての安定化の大きな画期が、実は多くの課題を残したものであり、そのときから30年を経た現在、それらの課題をどう解決してゆくかが問われているのは確かであり、これは我々アジア研究に携わるもの一人ひとりが考えなくてはならない、問題である。 *1-4:https://news.biglobe.ne.jp/international/0812/rec_200812_0445300575.html (Biglobe 2020年8月12日) 森元首相の台湾滞在はわずか4時間、台湾学者「日本は台日友好よりも対中関係」—中国紙 中国紙・海峡導報は12日、森喜朗元首相が亡くなった李登輝氏の弔問のために台湾を訪れたことについて、台湾の学者から「日本は台湾との友好よりも対中関係を気にしている」との指摘が出たと伝えた。記事によると、台湾中興大学国際政治研究所のアシスタントプロフェッサー・劉泰廷氏は森氏の訪台が日台関係に与える影響について、「マイナスではないがプラスでもない」と評価。日本からの弔問団に安倍政権の閣僚がいなかったことや、人数が極めて簡素だったこと、森氏ら一行が台湾に「4時間しか」滞在しなかったことに言及し、これらは3つのことを明らかにしていると指摘した。それは、「日本政府が訪台において『官』の色合いをできる限り抑えたかったこと」「弔問の目的をはっきりさせ、かつスピーディーに終わらせることで、政治的な意味を薄めたかったこと」「森氏の談話では日台協力などについて一切触れられず、(弔問という)訪台の焦点がずらされたくないことが明らかだったこと」だと説明。「森氏と日本政府の接点は安倍晋三首相から依頼されたという点だけであり、その他は基本的に民間の訪問団と言っていい。政府を代表しない訪問団(の派遣)で『台日友好』と言えるだろうか。疑問が残る」とした。劉氏はこの背景に、日本が中国との関係を気にしたことがあると指摘。「日本は新型コロナウイルスの影響で経済的損失を、中国との経済協力によって回復する必要がある。米国など主要な同盟国は中国に強硬な姿勢を示しているが、日本は両者の間でバランスを取っている」との見方を示した。 *1-5:https://jp24h.com/post/106474.html (JPnews August1.2020) 登輝氏が強化した対米関係 蔡総統引き継ぐ 中国からの統一圧力に直面する台湾にとり、安全保障を依存する米国は最大の後ろ盾だ。台湾の民主化を進めた李登輝(り・とうき)元総統は、「自由と民主主義」を旗印に米国との関係強化に取り組んだ。李氏が切り開いた米台関係の道筋は、現在の蔡英文(さい・えいぶん)政権にも引き継がれている。後に「ミスター・デモクラシー(民主化の父)」と称される李氏の政界進出も、米国の存在と無縁ではなかった。1979年の米台断交とそれに伴う米華相互防衛条約の失効は、独裁体制の蒋経国(しょう・けいこく)政権に衝撃を与えた。外憂を抱えた蒋経国は足下の体制安定のため、人口で多数を占める李氏ら「本省人」を政権に登用、李氏の総統就任に道を開いた。また、米議会などから批判を受け、38年間続いた戒厳令の解除や野党・民主進歩党の結党容認など、民主化の基礎となる自由化を進めた。蒋経国の死去で総統に昇格した李氏は民主化を進める一方、社会主義の中国と対峙(たいじ)する上で、米国との関係強化に「民主主義」を利用した。95年6月には、対中融和的なクリントン政権を窓口とせず、自由と民主主義という理念への共感を得やすい米議会から支持を取り付け、現職総統として初の訪米を実現した。初の政権交代を実現した民進党の陳水扁(ちん・すいへん)氏は、2期目に「台湾独立」志向を強めて米国に「トラブルメーカー」とみなされ、国民党の馬英九(ば・えいきゅう)氏に政権奪還を許す一因となった。馬氏も政権発足当初は「親米・和中」路線が米国に歓迎されたが、対中傾斜を強めて米国との距離感が目立つようになった。特に南シナ海問題で中国と歩調を合わせたことで、欧米から批判を招いた。現在の民進党の蔡総統は、陳、馬両政権の反省から、中国と距離を保つ一方で、中国を挑発せず低姿勢を取る「優等生」的な対応で、米国の支持を得ている。李氏を彷彿(ほうふつ)させる「理念の近い民主主義国家との連携」を強調する姿勢は、米議会、トランプ政権の双方から支持されている。 <日本女性は?> *2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200730&ng=DGKKZO62037690Z20C20A7KE8000 (日経新聞 2020.7.30) 女性活躍どこまで進んだ(下)「昇進」は改善も なお賃金格差、原ひろみ・日本女子大学准教授(1970年生まれ。東京大経卒、同大博士(経済学)。専門は労働経済学、実証ミクロ経済学) <ポイント> ○高賃金の男女で説明できない格差が拡大 ○昇進に伴う昇給の格差もガラスの天井に ○外形的な働き方の差解消だけでは不十分 日本の男女間賃金格差は改善されてきている。厚生労働省「賃金構造基本統計調査」によると、労働の対価である賃金の男女差は30年間で約23%も縮小した。だがこれは女性の教育水準や勤続年数の上昇が反映された結果でもあるので、手放しで評価できない。女性労働者の教育や勤続年数は上昇しているが、今でも男性労働者の水準には届いていない。教育、勤続年数、労働市場での経験などの人的資本は生産性ひいては賃金を規定するので、人的資本量が異なる労働者の間に発生する賃金格差は合理的な範囲といえる。よって私たちが注目すべきなのは、人的資本量に男女差があることを考慮しても残される男女間賃金格差、すなわち人的資本の男女差では説明できない格差だ。この説明できない格差は「目には見えない障壁」の存在を示唆する。「ガラスの天井」はその一つで、企業や官公庁、アカデミアなどで女性が地位の高い仕事に就くことを阻害する見えない障壁のことだ。人的資本の男女差をコントロールしたならば、男性の中での高収入と女性の中での高収入に違いはないはずだ。例えば人的資本の差をコントロールしても、女性の中で上位10%である女性の賃金が、男性の中で上位10%である男性の賃金よりも低いという状態が起きているとしよう。この状態は人的資本の男女差以外の理由で、女性の中では高賃金だとしても、男性ほどには高賃金の仕事には就けていないと解釈できる。よって賃金分布の上位で説明できない男女間格差が観察される場合、ガラスの天井があるととらえられる。逆に賃金分布の低位で説明できない格差が観察される場合、「床への張りつき」があると考えられる。低賃金の女性は低賃金の男性と比べても、低い賃金しか得ていないことを意味する。こうした説明できない格差は、要因分解という計量経済学的手法を用いることで推定できる。分析手法の発展のおかげで、賃金分布を通じた要因分解が可能となり、平均だけでは把握できなかったことが分かるようになってきた。例えばジェームス・アルブレヒト米ジョージタウン大教授らが、女性が働きやすいとされるスウェーデンですら、ガラスの天井が強く観察されることを発見した。これをきっかけに、世界各国で同様の分析が競って進められている。以下では、筆者による日本の分析結果を紹介したい。図は1980~2015年のうち5カ年分のデータを使い、人的資本の男女差では説明できない男女間賃金格差を分位数(パーセンタイル)ごとにプロットしたものだ。縦軸の値が大きくなるほど説明できない男女間賃金格差が大きいことを意味する。なお短時間労働者は分析から除外した。まず15年のラインの左側に着目すると、賃金が下位20%の男女の間の説明できない格差は15.4%で、中央での格差12.5%より2ポイント以上大きい。このことから、低賃金の男女の賃金格差が相対的に大きいことがわかり、床への張りつきが起きていると解釈できる。次に15年のラインの右側では、分布の中央から高位に向けて加速度的に男女間格差が大きくなっている。上位10%の男女の賃金格差は25.7%で、中央での格差との差は13.2ポイントとなる。高賃金の男女の賃金格差も相対的に大きいことがわかり、ガラスの天井の存在を強くうかがわせる。時系列で比較すると、90年から15年に向かうにつれて、分布の低位と中央での男女間格差の差は小さくなっている。近年では床への張りつき現象は弱まっていると解釈できる。逆に分布の高位と中央での男女間格差の差は拡大し、ガラスの天井現象はより強く観察されるようになっている。諸外国の研究から、発展途上国の多くで床への張りつきが観察される。一方、先進国の多くでガラスの天井が観察される。欧州では床への張りつきが観察される国はイタリアやスペインなどに限られることが明らかにされている。日本はガラスの天井と床への張りつきの両方が観察される先進国では特殊な国といえる。本稿では詳細な説明は省略するが、床への張りつきとガラスの天井は、事業所間よりも事業所内で強く観察される。つまり女性が賃金の低い企業に配置されることから生まれる男女間格差よりも、企業内で女性が賃金の低い仕事に配置されることから生まれる男女間格差の方が大きいわけだ。ではガラスの天井は何に起因するのだろうか。当然、女性の管理職への昇進が難しいことが一因と考えられる。以前と比べれば、管理職の女性は公表統計を見ても増えている。だが学歴や勤続年数などの男女差をコントロールしたうえで管理職への昇進確率を計算しても、部長・課長・係長のいずれの職位に関しても、90年と15年の両年で男性より女性の昇進確率が低いことに変わりはない。一方、女性の昇進確率を両年で比較すると、90年より15年の方が昇進確率は高いことが明らかにされている。にもかかわらず、近年ガラスの天井が強く観察されるのはなぜだろうか。女性の管理職への昇進確率が高まると同時に、昇進に伴う昇給の男女間格差が大きくなっていると考えられる。90年と15年の昇進に伴う昇給を推定すると、男性では部長・課長・係長のいずれの職位に関しても、90年よりも15年の方が高くなっている。一方、女性ではどの職位に関しても、15年の方が低くなっている。企業には同じ役職でも基幹的なポストとそうではないポストがある。例えば将来の幹部候補が配属される花形のポストがある一方、さほど重要ではないポストや名ばかり管理職のようなポストもある。分析結果を踏まえると、女性は後者のポストに配置されている可能性が高いと考えられる。女性は以前より教育や勤続年数を高めて職位も上がっているが、賃金という処遇の最終段階では必ずしも報われていない。この状況は、比喩的に「swimming upstream現象」と呼ばれる。流れに逆らいながら懸命に上流に向かって泳いでも、逆流に押し戻されてしまい最後まで登り切れない状況だ。こうした現象は日本だけでなく米国、英国、カナダでも観察されている。職位などの働き方や仕事の男女差が縮小しても、労働の対価である賃金の男女差が解消されなければ、労働市場での男女間格差が解消されたとはいえない。日本では女性活躍推進法が施行され、常時雇用する労働者が301人以上の事業主は、女性従業員の勤務状況を数値で把握し、改善のための数値目標を立て、実行に移すことが義務付けられた。22年4月には101人以上の事業主に拡大適用される。そこでは、管理職に占める女性労働者の割合や平均勤続年数の男女差などが必ず把握すべき項目とされる。だが男女間賃金格差の解消には、外形的な働き方の男女差の解消を目指すだけでは不十分であることが、この分析結果から示唆される。 *2-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14385475.html?iref=comtop_list_gold_n04 (朝日新聞 2020年3月1日) 東大、「2割の壁」を破れるか 男社会の偏り、学生も大学も「変えたい」 ■〈Dear Girls〉東京大学の学部学生の女子比率19.3%(2019年5月) 東京大学の学部生に占める女性の割合は、一度も2割を超えたことがない。東大の女子学生がつくるフリーペーパー「biscUiT(ビスケット)」は昨秋、「女子2割の壁」を特集した。代表で2年の徳永紗彩(さあや)さん(20)は「女性差別的だ、嫌だよね、という会話が増えた。女子が少ないことの背景や影響について、調べてみようと思った」と話す。最近では、東大男子と他大女子が入る「東大女子お断り」のサークルが、学内外から批判を浴びた。キャンパスでも、そうしたサークルの男子学生が、他大女子の話題で盛り上がる会話が聞こえてくる。「アタマが弱い」「あの子はかわいい」。見下したり、外見を「品評」したり。徳永さんは「女性をモノのように扱っている。差別意識がにじみ出ていて苦痛」と話す。 * 日本の大学全体では学部生の45・4%が女子だが、東大は19・3%。京都大の22・3%や大阪大の34・3%と比べても低い。昨年の入学式の祝辞で、社会学者の上野千鶴子・東大名誉教授は「2割の壁」や、女性教授が1割に満たないことなどを挙げ、男性優位の構図が変わっていないことを批判した。「biscUiT」の特集は、進学校とされる各地の共学高校に取材。東大の受験者数に明らかな男女差があると伝えた。東大生と高校3年生、計約1千人へのアンケートでは、親元から通える大学に行くよう親などから言われたことがある高校生のうち、7割が女子だった。徳永さんは「社会が変わるのは難しい。社会のトップ層になりうる人が多く輩出する大学だからこそ、東大が先に変わるべきだと思う」と話す。女子の受験生を増やそうと活動する学生団体もある。「女子高校生のための東大オリエンテーションキャンプ」は、女子高校生向けのキャンパスツアーなどを企画してきた。前代表で2年の山田碩人(ひろと)さん(20)は「女子には上京や浪人をさせたくない、高学歴は必要ないという考えは根強い。男子とはスタートラインに立つまでに越える壁の数が違う」と話す。男子学生にも「自分たちの問題」ととらえてほしくて、2月に団体名を「polaris(ポラリス)」に変えた。 * 東大当局は「2割の壁」をどう考えているのか。「グローバルに活躍する人材を育てるにあたり、こうした環境は問題だ」。東大の松木則夫理事はそう話す。「女子比率の低さは将来にわたり、『男社会』の偏りを助長してしまう。海外の大学改革のアドバイザーからは、まずジェンダーバランスの悪さを何とかしろと言われた」。学内最多の2千人超が籍を置く工学部では、女子は1割に満たない。女子の受験者数が増えないのは、周囲の期待に男女差があり、「最難関」をめざすモチベーションに影響しているからだとみる。学内広報も昨年12月、「2割の壁」を特集。大学の公式サイトのトップページに「未来の形:女子のちから」と掲げ、「志ある女子の力に期待します」との五神(ごのかみ)真総長のメッセージも添えた。上京の負担を軽くしようと、女子学生向けに家賃補助制度をつくり、昨年新設した寮でも、今春入学する女子学生向けに50室の枠を用意した。しかし、女子の受験者は目立って増えてはいない。海外では差別是正や多様性の確保のため、人種や性別に応じて枠を設ける大学がある。ただ、松木さんは、一般入試に女子枠を設けることについては慎重だ。「大学内外の理解を得るのは難しい。社会の側の意識も変わってもらわないと……」。この春、「2割の壁」はどうなるか。2020年度入試の志願者9259人のうち、女子は20・5%だった。 ◇「ジェンダーギャップ(男女格差)」の大きさを国別に順位付けした世界経済フォーラムの昨年の報告書で日本は153カ国中121位。過去最低の順位でした。この社会はどのような男女格差を抱えているのでしょうか。現在地を4回の連載で報告します。次回以降のテーマは「賃金」「家事・育児」「メディア」です。 *2-3:https://www.agrinews.co.jp/p51520.html (日本農業新聞 2020年8月2日) 女性参画へ意見募集 基本計画策定で素案 内閣府 内閣府は、女性の社会参画の拡大に向けて今後5年間の政府方針を示す「第5次男女共同参画基本計画」の素案に関する国民への意見募集を、1日から始めた。同計画素案では、農業の持続性の確保には女性の活躍支援が欠かせないと明示。「田園回帰」で都市部の女性が農山漁村に関心を示す動きを後押しする。親元や結婚による就農に加えて雇用や新規参入など女性の農業への関わり方が多様化し、それぞれの立場に合わせた細やかな支援が必要とした。有識者会議がまとめた新たな基本計画の素案は、「2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%にする」としていた政府目標の到達が見通せないことから、「20年代の可能な限り早期に30%を目指す」と先送りした。地方では固定的な性別役割分担の意識が根強く、若い女性が大都市圏に転入する要因になっていると指摘。農業でも女性の都市流出で基幹的従事者に占める女性の割合が低下していることに危機感を示した。地方公共団体や経済界、農林水産団体と連携して意識改革を求めていく。具体的には、農業委員やJA役員の女性登用を一層進める。地域ごとの女性グループ形成に加えて、全国規模で女性グループ間のネットワークを作る。女性が働きやすい環境づくりで、「農業女子プロジェクト」の企業や教育機関との連携を強化。労働時間の管理や経験を積む道筋の提示、コミュニケーションの充実を推進する。政府は意見募集を経て秋ごろに有識者会議で計画案を取りまとめる。12月にも具体的な目標数値を盛り込んだ基本計画を閣議決定する予定だ。意見募集は、9月7日まで。内閣府男女共同参画局のホームページからインターネットで送信するか、郵送する。8月25、29の両日にはオンラインで公聴会を開く。希望者は同局のホームページから事前に申し込む。 <女性蔑視する会社の業績> *3-1:https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-07-28/QE5T47DWRGG201 (Bloomberg 2020年7月28日) 日産は今期無配の方向、業績悪化でコスト削減なども加速-関係者 経営の立て直しを進める日産自動車は今期(2021年3月期)の年間配当を見送る見通しだ。28日午後の決算発表時に公表する。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。未公表の情報だとして匿名を条件に話した関係者らによると、5月の決算発表時点では「未定」としていた今期の年間配当をゼロとするとの見通しを示す方向だ。日産はカルロス・ゴーン元会長を巡る一連の問題で販売が低迷していたところに、新型コロナウイルス感染拡大の影響による世界的な新車需要の急減が追い打ちをかけて業績が悪化。前期(20年3月期)はリストラに伴う固定資産の減損などで、6712億円の純損失と2000年3月期以来の規模に拡大していた。前期の年間配当は期初に40円を見込んでいたが、結果的には前の期比47円減となる10円まで減少した。アライアンスのパートナーで日産と同様に業績が悪化している三菱自動車も今期の年間配当をゼロとする方針を示した。日産の株価はこの日の取引開始直後に一時前日比4.8%安となる408.9円の日中安値を付けた。その後、下げ幅を縮小していたが午後に今期の無配方針の報道が出たことで再び下落幅が拡大、4.3%安の410.8円で取引を終えた。日産広報担当の百瀬梓氏はコメントを控えた。ブルームバーグが集計した第1四半期(4-6月期)の営業赤字額のアナリスト予想平均値は2529億円となっていたが、関係者によると、日産が進めてきたコスト削減の進展などが奏功して実際の赤字額は1500億円程度にとどまる見通し。関係者によると、きょう午後5時に発表を予定している決算では、5月の時点では新型コロナが事業に与える影響が未確定なため合理的に算定するのが困難として公表していなかった今期の業績予想も発表する見通し。ブルームバーグが集計したアナリスト15人の今期の純損失の予想平均値は3124億円となっている。 *3-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62036490Z20C20A7I00000/ (日経新聞 2020/7/29) 三越伊勢丹、最終赤字600億円 21年3月期消費低迷続く 三越伊勢丹ホールディングスは29日、2021年3月期の最終損益が600億円の赤字(前期は111億円の赤字)になりそうだと発表した。赤字額は店舗閉鎖で損失を出し、過去最大だった10年3月期(635億円)に並ぶ規模となる。新型コロナウイルスの感染拡大による消費低迷が長引き、売り上げが減る。業績悪化を受け、未定としていた年間配当を前期比3円減の9円と10年ぶりに減らす。新型コロナで4~5月にかけて主要店舗での休業が相次いだ。再開後も回復が鈍く、7月以降の売上高も平常時の15%減で推移するとみている。三越銀座店(東京・中央)などのけん引役となっていた訪日客需要はゼロになる見込み。売上高は26%減の8230億円、営業損益は380億円の赤字(同156億円の黒字)に転落する。10年3月期の巨額赤字は伊勢丹吉祥寺店や三越池袋店など3店舗を閉店したのに伴う特別損失が主因で、営業損益は黒字だった。今期は収入が落ち込んでおり、新型コロナ影響による消費の落ち込みの深刻さが際立つ。同日発表した20年4~6月期の連結決算は最終損益が305億円の赤字(前年同期は60億円の黒字)だった。店舗休業で売上高は前年同期比53%減の1316億円に落ち込んだ。営業再開後の6月も売上高は休業前の8割弱にとどまった。 <政治分野における女性の登用> *4-1:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1162740.html (琉球新報社説 2020年7月26日) 女性登用未達成 看板倒れの責任は政府に 安倍政権が成長戦略の柱とした「指導的地位に占める女性を2020年までに30%とする」目標を先送りした。「女性が輝く社会」をうたってきた安倍晋三首相だが、現在の女性閣僚はわずか3人、衆院議員は9・9%だ。主要政策ですら達成できていない。看板倒れと言われても仕方がない。達成できなかった責任を問われるのは政府であるはずだが、そう受け取ってはいないようだ。自民党の世耕弘成参院幹事長は目標の先送りに関し「指導的立場に着く層に、女性の人材が十分ではなかったのが要因だ」と述べた。未達成の責任を女性に押しつけている。男女雇用均等法から35年、採用差別は少なくなったかもしれないが、待機児童問題に代表されるように女性が働きながら子育てをする環境はいまだ整っていない。女性が出産や育児によって職を離れ、30代を中心に働く女性が減少する「M字カーブ」は日本に特徴的な現象だ。政府は03年に「20年までに30%」の目標を掲げ、13年には成長戦略に位置づけた。女性の就業率は伸びたものの、賃金は男性の74%しか得ていない。非正規労働の比率も女性が圧倒的に多い。雇用の格差は歴然としている。加えて女性登用に社会のためらいはないだろうか。11年のマッキンゼー・レポートは「男性は可能性を買われて昇進するが、女性は過去の実績で昇進する」と指摘した。昇進に当たって女性は実績を示す必要があるという意だ。多くのハードルに管理職予備層は育ちにくい。その結果、企業の役員や課長相当職以上の女性は14・8%にとどまる。米国やスウェーデンの40%超、英国やノルウェー、フランスの30%超と、先進国と比べても開きは大きい。18年に選挙で男女の候補者数を均等にする努力義務を課した「政治分野の男女共同参画推進法」が誕生したが、直後の参院選では女性候補者の大きな増加につながらず、県内でも法成立後初の県議選で候補者64人中、女性は8人、12・5%でしかなかった。女性登用を巡る障壁を除くことが「女性が輝く社会」には必須だ。世界的なコロナ禍で対策に手腕を発揮したのは台湾やドイツ、ニュージーランドなどの女性首脳だった。日本で、準備もなく全国一斉の休校要請が出され大混乱を引き起こした時には政権に生活者の目線が薄いことが露呈した。意志決定の場に女性が圧倒的に少ないことが背景にあると考えざるを得ない。政府は30%目標を「20年代の可能な限り早期に」と改めた素案を公表したが、そこにも到達するための具体的な道筋や手法は示されていない。単に数値目標の旗を振るだけでなく、女性が活躍するために求められる環境など、土台づくりから始め、実効性のある施策に取り組むべきだ。 *4-2:https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20200727/KT200723ETI090001000.php (信濃毎日新聞 2020年7月27日) 女性の登用 壁取り払う手だてが要る 2020年までに、各分野で指導的地位に占める女性の割合を3割にする―。政府が03年に掲げた女性登用の目標は実現が遠い。だからといって、いつまでに達成するかをぼやかす形で先送りしていいはずがない。21年度から5年間の男女共同参画基本計画である。内閣府が有識者会議に示した素案は、新たな目標時期を明示せず、「20年代の可能な限り早期に30%程度を目指す」とした。姿勢を後退させるのはあべこべだ。指導的地位は、国会や地方議会の議員のほか、企業や公務員の管理職などを指す。いずれも、目標との隔たりは大きい。国会は参院で2割を上回るものの、衆院は1割に届かない。地方議会も14・3%と少なく、女性が一人もいない議会もある。企業や公務員の管理職も15%ほどで、4割を超す米国や3割台の英国、フランスとは開きがある。世界経済フォーラムが発表している男女格差の指数で、日本は昨年、調査対象の153カ国のうち121位と過去最低に沈んだ。アジアでもタイやベトナム、中国、韓国に後れを取る。議員や管理職が少ないほか、賃金格差が大きいことが反映しているという。「女性活躍」は、安倍政権が成長戦略の柱と位置づける看板政策だ。15年に成立した女性活躍推進法は、企業に女性登用の目標や計画の策定を義務づけ、取り組みを促してきた。ただ、政策の軸足は労働力不足を補う経済対策にあり、賃金格差をはじめ働く場での不平等の是正はなおざりだ。「家庭を守るのは女性」といった意識も根強く、家事や育児、介護の負担は依然、女性に偏っている。掛け声をかけて自主的な取り組みに任せていても、女性が置かれた状況は大きく変わらない。阻んでいる壁をなくし、参画を後押しする具体的な手だてが要る。その一つが、一定の割合を女性に割り当てるクオータ制だ。既に多くの国が議員選挙で取り入れ、企業の役員についてもノルウェーやオランダが制度化している。アイスランドは、中規模以上の企業に取締役の4〜6割を女性とするよう定めているという。日本の政府、与党は後ろ向きだ。経済界からも「逆差別になる」といった声が聞こえてくる。けれども、女性への構造的な差別をなくしていくには、制度の後ろ盾が欠かせない。あらためて目標年度を明確にし、クオータ制を含め、踏み込んだ議論をすべきだ。 <女性政治家が増えると何が変わるか> *5-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200818&ng=DGKKZO62731860X10C20A8MM8000 (日経新聞 2020.8.18) 主要国経済1割縮小 リーマン時の3.5倍、4~6月 GDP前年同期比 感染早期抑制が左右 世界の主要国の2020年4~6月期の実質国内総生産(GDP)は前年同期比9.1%減少した。リーマン危機時の約3.5倍の落ち込みで、コロナ禍の傷の深さが鮮明になった。それでも感染を早期に抑え、経済復調に動いた中国やベトナムはプラス成長を達成した。感染抑制と経済活動の両立の重要性を改めて浮き彫りにした。世界GDPの3分の2を占める日米英中とカナダ、ユーロ圏の計24カ国を「主要国」として集計した。GDP統計では変化を早く捉えられる前期比を使うことが多いが、コロナ禍で経済規模が平常時に比べてどれだけ縮んだかをみるため前年同期と比べた。リーマン危機の影響がピークだった09年1~3月期は2.6%減だった。米グーグルがスマートフォン利用者の位置情報をもとに移動先を分析したデータでみると、感染抑制のために厳しい行動制限を導入して人出が少なかった国・地域ほど、GDPの落ち込みが大きい。4~6月期の人出(中央値)が52%減と主要国で最も減ったスペインと英国はGDP減少率も上位2位を占めた。世界旅行ツーリズム協議会によると、主要経済国でGDPに占める観光の割合が最も高いのがメキシコ(15%超)、2位がスペイン(14%超)。観光依存が高いほどGDPも落ち込んだ。スペインは6~9月に国外から多数の観光客が訪れるが、今年は6月下旬まで受け入れを停止。6月の国外からの来訪者は前年同月比97.7%減った。英国は新型コロナウイルス対策が遅れ、他国よりロックダウン(都市封鎖)が長引いた。日米欧の大半は5~6月初旬に段階的に再開したが、英国は飲食や宿泊の休業解除が7月にずれ込んだ。主要国で4~6月期に唯一、プラス成長となったのが中国(3.2%増)だ。企業活動が先導する形で、2四半期ぶりにプラス成長に戻した。国の政策頼みの面が強く、民間投資はマイナスのまま。力強さを欠く家計や民間に恩恵が波及するかが持続力のカギを握る。主要国以外ではベトナムもプラス成長だった。早期のコロナ防疫で外出制限を4月の約3週間にとどめたことが奏功し、4~6月期の人出はコロナが本格化する前に比べて3%減まで戻った。英エコノミスト誌の調査部門のエコノミスト・インテリジェンス・ユニットによると、日米欧7カ国(G7)は7~9月期にすべて前期比プラスに戻る見通し。それでもGDPの規模は米国が17年、英独仏とカナダが16年、日本が12年、イタリアは1997年の水準にとどまる。正常化には時間がかかりそうだ。 *5-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200816&ng=DGKKZO62692910V10C20A8EA1000 (日経新聞 2020.8.16) 新型コロナウイルス「弱毒化」根拠乏しく 変異で感染力に影響も 新型コロナウイルスの変異に関する研究が注目されている。英メディアで「ウイルスは弱毒化している」とみる専門家の意見が紹介されたことなどがきっかけだ。現時点でウイルスの危険性の低下を示す科学的な裏付けはない。ウイルスの変異は一定の確率で起こる。病原性や感染力がどう変化するか、世界規模の継続的な分析が重要だ。英テレグラフ紙で6月中旬、イタリアの医師による「弱毒化」の発言が掲載されて話題となった。各国で発表される新型コロナの致死率が地域や時期ごとに違うことなどから、ウイルスの変異に注目が集まる。しかし病原性の低下を示す科学的な根拠は無く、あくまでも期待を含んだ臆測にとどまる。それでもウイルスの新たな変異が見つかったとの報告はある。米ロスアラモス国立研究所などの研究チームは7月上旬、特定の変異を持つウイルスが世界中に広がったとする論文を米科学誌セルに発表した。感染時に働くウイルス表面のたんぱく質のうち、1カ所だけ構造が変化していた。米国や欧州、アジアで見つかっている。このウイルスは変異前より感染力が増している恐れがある。米スクリプス研究所などの研究チームは実験室内でこの変異を再現し、構造が変化したたんぱく質の方が安定性が増したと報告した。安定性が増すと感染力も高まると考えられる。論文は査読前だが、動物のコロナウイルスを研究する北里大学の高野友美教授は「手法も結論も信頼性は高い」と評価する。一般的にウイルスは一定の確率でランダムに変異を繰り返す。しかしゲノム(全遺伝情報)が変異しても性質は変化しない場合がほとんどだ。まれにウイルスの構造や機能が変わり、危険性が増す「強毒化」や、減る「弱毒化」につながる。このためウイルス学などの研究者らは、流行当初から新型コロナウイルスの変異を追跡している。世界各地の研究機関から集まった新型コロナの遺伝子配列情報を解析し公表する国際プロジェクト「ネクストストレイン」は、ウイルスのゲノムに1年間で24個の変異が生じると見積もる。ただウイルスの性質が変化しているかどうかをゲノムのみから判断するのは難しい。高野教授は「実際にそれぞれの変異をもつウイルスで培養細胞や実験動物に感染させる実験が必要だ」と話す。そもそも、ウイルスの「弱毒化」には医療関係者らも懐疑的だ。日本でも直近の致死率は低下する傾向にあるが、ウイルスの性質の変化よりも重症化しにくい若者の患者が多いこととの関連性が指摘されている。けいゆう病院(横浜市)感染制御センターの菅谷憲夫センター長は「高齢者の患者が占める割合が小さいため弱毒化しているように見えるだけ」と指摘。「家庭内や施設内の感染で高齢者の患者が増えれば致死率は上がる。油断は禁物だ」と注意を呼びかける。 *5-1-3:https://www.pharm.or.jp/dictionary/wiki.cgi?%E7%94%9F%E3%83%AF%E3%82%AF%E3%83%81%E3%83%B3 (日本薬学会 2006.10.24) 生ワクチン 病原ウイルスを初代培養細胞または培養細胞などで数十代以上にわたり継代培養を繰り返すことにより、病原性を弱毒化して、ヒトへの感染力と感染防御に必要な抗原(感染防御抗原)を持つ安定な弱毒株を作る。これを生ワクチン製造用株として培養を重ね調整されたものが弱毒性ウイルスワクチンである。一方、細菌の中で唯一の生菌ワクチンであるBCGワクチンは、弱毒ウシ型結核菌を230代培養することによって弱毒化されたものである。また、経口生ポリオワクチンはポリオウイルス1型、2型、3型の弱毒株を混合した多価ワクチンである。他には麻疹、風疹、おたふくかぜ、水痘などの生ワクチンがある。生ワクチン製剤はその有効性を維持するため、ワクチン微生物が死滅しないように、安定剤を加えた凍結乾燥製剤にしてある。生ポリオワクチンは、凍結乾燥でワクチンウイルスが死滅するので、液状製剤である。そのため、凍結保存が要求されている。最終製品はすべて製品ロットごとに、国立感染症研究所において国家検定が実施され、適合するものだけが出荷される。 *5-2-1: https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200816&ng=DGKKZO62692170V10C20A8EA1000 (日経新聞 2020/8/16) 特養4割に浸水リスク 洪水時に最大3メートル以上 、東京23区、避難対策の強化急務 東京23区内にある特別養護老人ホーム(特養)の約4割が、国や都の想定で洪水時に最大3メートル以上の浸水が見込まれる場所に立地していることが分かった。7月の豪雨では熊本県で浸水想定区域内の特養が浸水し、多数の犠牲者が出た。水害が各地で頻発するなか、避難対策の強化が急務だ。 厚生労働省によると、特養は全国に1万502施設(2019年9月末時点)ある。今回の調査は東京23区を対象にしたが、他地域でも低地に建つ特養があり、浸水リスクを抱えるとみられる。7月1日時点で23区内で運営する特養319施設を対象に、国や都が想定する最大規模での洪水時の状況を調べた。調査には住所から災害の被害想定を検索できる国土地理院の「重ねるハザードマップ」を活用した。最大で3メートル以上の浸水が想定されるのは319施設中128施設あり、定員の合計は約1万1千人に上った。内訳は最大3メートルが63施設、同5メートルが56施設、同10メートルは9施設だった。一般的に3メートルの浸水で1階の天井付近まで水没し、10メートルでは3~4階まで水につかる計算になる。大規模浸水が見込まれる東部の区で最大3メートル以上の浸水が見込まれる施設が多い。2017年の九州北部豪雨、18年の西日本豪雨、九州を中心とする今年7月の豪雨など、近年は大規模な水害が相次いでいる。厚労省によると、今年7月の豪雨では高齢者施設91カ所が浸水被害に遭った。入所者14人が犠牲になった熊本県球磨村の特養「千寿園」は、国が洪水時に10~20メートルの浸水を想定する区域にあった。水防法はこうした浸水想定区域に立地する高齢者施設などの「要配慮者利用施設」に対し、避難計画の策定や避難訓練の実施を義務付けている。具体的な訓練内容は各施設に任され、備えは施設によって差がある。江戸川区のある特養は最大5メートルの浸水が見込まれるものの、年2回実施する避難訓練は、地震や火災の想定にとどまる。担当者は「車いすで生活する利用者が多く、職員が階上まで運ぶのは大変。洪水時については机上で避難の流れを確認するだけになってしまっている」と話す。最大10メートルの浸水が想定される北区の特養では19年10月の台風19号の際に近くの川の水位が上がり、1階にいた利用者約20人を職員4人で2階以上に避難させた。担当者は「当時はエレベーターを使えたが、浸水で停電すると避難が難しくなる」と懸念する。国が「高齢者保健福祉推進10カ年戦略」(ゴールドプラン)を策定した1989年以降、全国各地で高齢者施設の建設が相次いだ。跡見学園女子大の鍵屋一教授(福祉防災)は「急速な高齢化を背景に施設の用地確保が優先され、災害リスクのある場所でも建てざるを得なかった」と解説する。今回調査した東京23区の特養でも、最大10メートルの浸水を見込む9施設はすべて、90年代以降に事業を開始していた。鍵屋教授は「高齢者施設では利用者を別の場所に移動させることで症状が悪化したり、十分なケアができなくなったりするリスクがあり、早めの避難に踏み切りにくい事情もある」と指摘する。中長期的には福祉施設を安全な市街地に移設することが必要だとしたうえで「国や自治体は、避難が必要になった施設の利用者を福祉施設が連携して受け入れる仕組み作りや、安全な避難場所の確保を急ぐべきだ」と話している。 *5-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60690050T20C20A6000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2020/6/26) 浸水エリアへの居住誘導やむなし 国交省が指針作成へ 自治体が住宅の立地を促す「居住誘導区域」を浸水想定区域内に設定している問題で、国土交通省は両区域の重複は避けられないとみて、堤防整備などの水害対策と土地利用などのまちづくりを一体的に進めて被害を防ぐ方針を固めた。水害対策に貢献する再開発ビルの容積率を緩和する制度も創設する。 ■「除外すると、まちが成り立たない」 2019年10月の東日本台風(台風19号)では、浸水したエリアが居住誘導区域に設定されているケースが少なくなかった。全国でも、浸水想定区域を居住誘導区域に含めている自治体は多い。防災やまちづくりの専門家の間では、「浸水が想定されるエリアに居住を誘導するのはおかしい」との声が上がっていた。そこで、国交省は20年1月、都市、水管理・国土保全、住宅の3局合同で有識者会議を設置。そうした区域設定の問題も含め、水害対策とまちづくりの連携を検討してきた。6月12日に開いた第3回会合では、5月に実施した自治体への聞き取り調査の結果を公表。自治体からの意見を紹介した。ある自治体は、交通事業者と連携して、居住や医療、商業などの都市機能を中心部に集約する「コンパクト・プラス・ネットワーク」のまちづくりを推進。都市の成り立ち上、中心部にある鉄道駅や高次医療施設(大学病院)を浸水深3メートル以上の浸水想定区域に含めている。「浸水想定区域を都市機能・居住誘導区域から除外するのは厳しい」とみる。別の自治体は、「(浸水想定区域など)ハザードエリアに既成市街地が多く存在し、誘導区域から除外すると、まちが成立しなくなる。一方、ハザードエリアを誘導区域として公表することにも抵抗がある」と打ち明ける。そのため、国交省の有識者会議は、「多くの都市部が水災害ハザードエリア内にあるなか、居住や都市機能を誘導する区域から完全にハザードエリアを除外することは困難だ」と指摘。河川や下水道などの治水施設の整備と併せ、水害リスクの低い地域への居住・都市機能の誘導、地形に応じた住まい方の工夫、避難体制の構築など、水害対策とまちづくりが一体となった取り組みを推進する必要があるとの認識を示した。国交省は、有識者会議が7月初旬までにまとめる提言を受け、8月にモデル都市を複数選定。その取り組みを踏まえ、21年3月にガイドラインを作成し、自治体などに通知する。 ■防災貢献で容積率緩和の新制度 有識者会議の第3回会合で示したガイドラインのイメージでは、水害対策とまちづくりの連携を促進する考え方を提示。自治体は、防災・治水部局が提供する水害情報を基に、まちづくり部局が地域の水害リスクを評価し、防災目標を設定したうえで、地域の危険度に応じて居住誘導区域などの指定を判断することが重要だと述べている。区域設定のための考え方も提示した。特にリスクが大きい地域(災害レッドゾーン)は原則、立地や開発を規制し、居住誘導区域から除外する。よりリスクが小さい地域(災害イエローゾーン)は、浸水深や建物倒壊の恐れ、避難の容易さなどに応じて、居住誘導区域に含めるか否かを判断する。さらに、浸水深をベースに、浸水継続時間や洪水到達時間、流速、避難時間など他要素も考慮して、区域を設定する。区域設定の具体例も紹介。福島県郡山市は原則として、氾濫水の流れが激しい「家屋倒壊等氾濫想定区域」(L2)と浸水深1メートル以上の区域(L1)を居住誘導区域から除外している。埼玉県志木市は、既成市街地の大部分が浸水想定区域と重なっているが、災害避難場所から1キロの範囲(徒歩10~15分圏内)に含まれるため、居住誘導区域に設定している。一方、まちづくりの防災・減災対策も例示した。土地のかさ上げや緑地・農地の保全など災害発生を未然に防ぐ手法の他、避難路の整備や浸水深以上への居室の配置など災害発生時の人的被害を最小化する手法、宅地や基礎のかさ上げなど災害発生時の建物被害を最小化する手法を列挙。さらに、まちづくりと連携した水害対策として、遊水機能の強化や下水道の整備など内水氾濫を防ぐ手法を挙げている。この他、都市開発プロジェクトで民間事業者が地域の水害対策に貢献する施設整備などに取り組む場合、新築する再開発ビルの容積率を緩和する制度を創設する方針を示した。国交省は、有識者会議の提言を受け、早ければ20年夏にも新制度を導入する。新制度で容積率緩和の対象となるのは、民間事業者が再開発ビルの最上階などに近隣住民が避難できるスペースを設けたり、周辺街区に避難路や避難地などを整備したりする場合だ。都市再生特別措置法に基づく都市再生特別地区で実施する再開発事業では、河川の上流域など離れた場所に仮設住宅用地などを確保すれば、容積率緩和の対象となる。 *5-3-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/445208 (佐賀新聞 2019年10月24日) <玄海原発>リラッキング、規制委が了承 原子力規制委員会は23日、九州電力玄海原発(東松浦郡玄海町)3、4号機の使用済み核燃料の貯蔵容量に関し、貯蔵プール内の核燃料の間隔を詰めて保管量を増やす「リラッキング」で増強する計画を了承した。事実上の審査合格となり、九電は2024年度の工事完了を目指している。計画は乾式貯蔵施設との併用を前提とし、乾式貯蔵の審査は継続している。3号機でリラッキングを実施し、貯蔵設備の一部を3、4号機で共用する。貯蔵能力は、現状の1050体から1672体に増える。工事費見込みは約70億円。九電は10年に計画を申請し、今年1月22日に補正書を提出していた。九電はこれまでの審査で、貯蔵プールで15年以上冷却した使用済み核燃料を、今後整備する乾式貯蔵施設に貯蔵する方針を示しており、規制委はこの方針を了承している。審査書の取りまとめで意見募集するかどうかについて、委員長含む5委員の意見が分かれた。「リラッキング自体は技術的に新しくない」として不要とする意見と、「規制委がリラッキングの審査書を取りまとめるのは初めてなので実施すべき」との意見が出た。多数決の結果、3対2で意見募集しないことを決めた。経済産業相の意見聴取などを経て、約1カ月後に正式許可となる見通し。リラッキングと併用する乾式貯蔵施設は、使用済み核燃料を特殊な金属容器(キャスク)に入れて空気で冷やす施設。リラッキングの補正書提出と同じ日に申請し、審査が続いている。リラッキングを巡っては、田中俊一前委員長が安全性の観点から否定的な見解を示していた経緯がある。更田豊志委員長は会合で「プールの貯蔵量が増えることをよしとしないことは規制委で明確にしている。乾式貯蔵施設が整うことがいたずらに遅れないことが重要」と発言した。 *5-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200301&ng=DGKKZO56242840Z20C20A2EA1000 (日経新聞社説 2020.3.1) 原発を運転する資質を疑う 日本原子力発電が敦賀原発2号機の地質データを再稼働に有利な方向に勝手に書き換えていたことが発覚した。原子力規制委員会が規制基準に適合するかどうかを判断するのに重要なデータで、言語道断の行為だ。原発事業者としての資質を疑う。敦賀2号機は原子炉の真下に活断層がある可能性が高く、このままだと廃炉に追い込まれる。原電は規制委の審査会合で、活断層でないと繰り返し反論してきた。そして2月7日、提出した資料のなかの地質データが過去に示したものと10カ所以上も書き換わっていることが、わかった。事態を重くみた規制委が審査を中断し、解析に使った元データの提出を求めたのは当然の対応だ。なぜこうした書き換えが起きたのか。徹底的に追究し、明らかにしてもらいたい。責任の所在も明確にすべきだ。意図的ではなかったと原電は釈明するが、それで許される次元の話ではない。新たな解析で結果が変わったのなら、併記するなどして修正がわかるようにするのが、データを扱う際の初歩だ。それを知らない会社に原発を動かす資格があるのか。こんなことでは18年夏に適合審査に合格した東海第2原発の再稼働も遠のくだろう。地元の合意形成がさらに難しくなる。1966年に国内初の商業用炉となる東海原発を動かした原電は、国策民営で歩んできた「日本の原発」の象徴的な存在だ。主要株主の電力9社にとっても今回の問題は人ごとではない。昨年秋には関西電力で金品受領問題が表沙汰になった。時代錯誤というべき地元との癒着を、東京電力福島第1原発事故後も断ち切れていなかった。四国電力の伊方3号機でも今年1月、信頼を損なう深刻なトラブルが続いた。東日本大震災からもうすぐ9年。電力会社の安全・安心への姿勢は何も変わっていないのではないか。原発の安全性に加え各社の資質も規制委は問うべきである。 *5-4-1:https://www.sankeibiz.jp/macro/news/171017/mca1710170500004-n1.htm (Sankeibiz 2017.10.17) 日本のEEZは資源の宝庫 海のレアメタル、高い採掘技術で国産化前進 日本にとって“夢”だった国産資源開発の扉が開かれようとしている。経済産業省と石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が9月下旬、金や銅などのレアメタル(希少金属)を含む海底の鉱石を安定的に引き揚げる実験に世界で初めて成功。2020年代後半の商業化を目指している。日本は海に囲まれ、世界有数の広さの排他的経済水域(EEZ)を持つ。商業化が実現すれば、外交上の弱点補強にもつながる。成功したのは、マグマで熱せられた海水が海底から噴き出した際、海水に含まれる金属が冷えて固まってできる「海底熱水鉱床」から鉱石を連続して大量に引き揚げる実験だ。鉱石にはレアメタルや鉄のメッキに欠かせない亜鉛などを多く含むとされる。8月中旬から9月下旬まで、JOGMECなどが沖縄県近海で実施した。水深約1600メートルの鉱床に投入した掘削機で鉱石を直径約3センチに砕き、水中ポンプで引き揚げた。重い鉱石を海水とともに目詰まりなく吸い上げるのが課題で、実験では、期間中に数十分間に渡る連続採掘を16回実施し、計16.4トンを引き揚げた。鉱石には7~8%程度鉱物資源が含まれているとみられる。これまでは海底熱水鉱床から鉱石を引き揚げる手段がなく、潜水艇で採掘するしかなかった。 ●高い技術力武器 今回、世界に先駆けて海底鉱石の連続採掘に成功したのは、日本の企業が高い掘削技術を持つからだ。掘削機やポンプは“機械のデパート”とも呼ばれる三菱重工業が手がけた。加えて、海流がある中で船を停止して掘削する高い操船技術もあった。商業化には、ポンプの大型化や掘削機の低価格化など技術革新に取り組まなければならないが、かつて油田開発が盛んだったこともあり、もともと技術水準が高く日本は他国より優位だ。経産省はEEZの他海域での資源量などを調査し、18年度に商業化できるかどうか判断する。海底熱水鉱床は沖縄県近海のほか、小笠原諸島近海など8カ所で確認されている。沖縄本島から北西に約110キロの海底にある伊是名海穴(いぜなかいけつ)の資源量は740万トンで、このうち国内の年間消費量と同等の亜鉛が埋蔵されているとみられている。また、日本のEEZは世界6位の広さで、海底熱水鉱床だけでなく、より深海には、コバルトやニッケル、白金などレアメタルを多く含んだ岩石の集まり「コバルトリッチクラスト」、レアメタルが含まれる球状の岩石「マンガン団塊」など有力な海底資源が存在するといわれている。これらには、高性能モーター用磁石の原料となるレアアース(希土類)なども含まれているとされる。本州から約1800キロ離れた日本最東端の南鳥島周辺からはレアアースを含む泥(レアアース泥)も発見されている。世耕弘成経済産業相は「日本近海では、国内の年間消費量を上回る鉱物の存在が見込まれている。今回の成功を踏まえて国産資源の開発を進め、わが国の鉱物資源の安定供給体制のさらなる強化を主導したい」と語る。ただ、これらの海底資源の開発を成功させるにはいくつもの壁が立ちはだかる。まずは水深だ。比較的浅い海底熱水鉱床でも水深700~2000メートル。マンガン団塊やレアアース堆積物は4000~6000メートル、コバルトリッチクラストも800~5500メートルと深海の底に眠る。採掘機器は海底熱水鉱床でも重要だが、さらに高い耐圧性や密閉性が求められる。また、不純物と有用鉱物を分離する「選鉱」の手法が海中鉱物と陸上鉱物では異なるため、海中鉱物に適した選鉱方法を確立する必要がある。国内ではほとんどの鉱山が閉鎖され、かつては鉱山とともにあった選鉱施設がなくなったことも障害の一つだ。 ●有効利用は数十年先 「登山に例えるなら、ようやく装備が整って、登山口に立てたところ」。経産省幹部はこう打ち明ける。全ての海底資源を有効利用できたとしても、数十年先の未来になりそうだ。ただ、国産資源を持つことは、「生き馬の目を抜く資源外交」(関係者)において、有力な交渉材料となる。10年9月に尖閣諸島(沖縄県石垣市)沖で海上保安庁の巡視船と中国漁船が衝突。海保が船長を逮捕すると、中国のレアアース対日輸出が停滞した。当時、日本のメーカーは、レアアースを使わないモーターの開発を目指したが、国産資源を持てば対抗できるようになるかもしれない。今回の実験成功を受け、経産省幹部は「何はともあれ、1つの壁を越えた感はある」と安堵(あんど)の表情を浮かべる。JOGMECの辻本崇史理事は「海底資源開発の転機になる」と太鼓判を押す。日本は資源がない国ではない。光が届かない海の底に、日本の希望の光が眠っている。 *5-4-2:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO61563740V10C20A7TJ2000/ (日経新聞 2020/7/16) 日産EV、10年ぶり新型 SUV「アリア」21年投入、航続距離強み、米中勢追う 日産自動車は15日、10年ぶりに電気自動車(EV)の新型車を発表した。かつて米テスラと並ぶEVの先駆者だったが新型車を投入できず、販売シェアは4位に沈む。走行距離の長さなどを武器に巻き返しを図るが、シェアの6割を占める米テスラや中国勢の牙城を崩すのは一筋縄ではいかない。「新しい時代を象徴する『アリア』には我々の決意が表れている」。日産の内田誠社長兼最高経営責任者(CEO)は15日、21年から発売する新型EV「アリア」をお披露目した。SUV(多目的スポーツ車)で、日本の実質価格は約500万円から。航続距離は90キロワット時の電池を搭載した二輪駆動タイプで最大610キロメートルと、10年に発売した初代EV「リーフ」に比べ約3倍に伸びた。新型EVは中国専売車を除くとリーフ以来10年ぶりだ。当時リーフはテスラの初期モデル「ロードスター」と並んで量産型EVの草分けだった。日産は当時、仏ルノーと合わせて16年度までに累計150万台のEVを販売する計画を掲げたが、リーフの販売は足元で計45万台超にとどまる。日産は航続距離の短さや充電設備の不足などでEVの普及は限定的とにらみ、独自のハイブリッド車(HV)技術「eパワー」に注力するなど、EVに研究資源を集中しなかった。英LMCオートモーティブによると、19年のEVの世界販売台数は167万台。新車販売全体に占める割合は2%だが、4年で5倍に増えた。けん引したのがテスラだ。廉価車「モデル3」の量産で世界首位に躍り出た。ナカニシ自動車産業リサーチの中西孝樹代表はテスラの強みを「米アップルのiPhoneのように洗練されたイメージでファンを増やしてきた」と分析する。中国も新エネ車を普及させたい政府による補助金を背景に市場が急拡大。北京汽車集団など現地メーカーが躍進した。いまや、世界のEV販売でテスラは37万台と22%を占めるまで成長したのに対し、日産とルノー、三菱自動車を合わせた日仏連合は13万台と8%にとどまる。日産はアリアをてこに巻き返しを図る。社内測定で単純比較はできないが、アリアの最大610キロメートルの航続距離はテスラの「モデル3」の上位モデル(560キロメートル)を上回る。内田CEOは「今後はEV含めて年間100万台の電動車を販売する」と意気込む。日産以外の日本車メーカーもEVに本腰を入れ始めた。トヨタ自動車は高級車ブランド「レクサス」初のEVを今春、中国で先駆けて発売した。欧州は今夏、日本は21年前半に発売する。ホンダとマツダも初の量産型EVを年内に欧州で販売し、その後国内で投入する。21年に欧州連合(EU)が自動車の環境規制を強めるなど、EVはさらなる市場拡大が見込まれるためだ。ただ、テスラは先を行く。21年にドイツに欧州初の完成車工場を稼働させる予定だ。中国、欧州の2大市場で製造・販売する体制を築き、米国工場を含む同社の年産能力は現状の1.4倍の100万台に増える。日産のアリアやトヨタの中国で発売済みのレクサスはともに500万円台からと、テスラの「モデル3」と同価格帯の高価格戦略で挑む。ただ「売れるEVを作れるのはまだテスラだけ」(ナカニシ自動車産業リサーチの中西代表)。テスラに匹敵する魅力を消費者に伝えられなければ、苦戦は避けられない。トヨタ幹部は「環境対応車のどれが本命になるかまだ分からない。当面は全方位の対応を続けざるを得ない」と話す。独フォルクスワーゲンなど欧州勢は「EV重視」の戦略を明確化し始めている。国内勢が資源配分に悩んでいるうちに、手遅れになる恐れがある。 <農業の前進> PS(2020年8月22日追加):*6-1のように、新型コロナウイルスの感染拡大で大阪・山梨のワイナリーの3~6月の売り上げが前年の半分以下に減少し、今年の仕込み量が減らされるそうだ。それなら、新型コロナウイルスに耐性のあるワイン酵母を使ってワインを作れば、付加価値がついて高く売れるので、速やかに新型コロナ耐性ワイン酵母を作ったらどうか? 欧米輸出用は欧米型新型コロナ株、国内用は日本型新型コロナ株に感染させて生き残ったワイン酵母を使えばできると考える。そのため、「新型コロナの影響でマイナスだった」として何でも補助の対象にするのではなく、それを逆手にとって儲かることを考えて欲しい。美味しいワインで新型コロナウイルスを撃退できれば、一石二鳥だ。 このような中、*6-2のように、JA全中の新執行部は「①JA自己改革の継続や経営基盤強化が重要課題」「②准組合員に運営参画をさせ、関係を強化し、理解・評価を得て准組合員規制を阻止したい」「③食料安全保障と食料自給率向上には食料・農業・農村基本計画の実践が最重要」「④新型コロナの影響で対話の機会が減っているが、可能な限り機会を設けて取り組む必要がある」等と述べておられる。 このうち①は、農協をあげてならできる新商品の開発やグリーン発電事業を追加して農家と社会のニーズに応えたらどうかと思う。また、②の規制は、いたずらに農協の営業を妨害する望ましくない規制であるためはねつけた方がよく、準組合員の中に食品・ワイン・ジュースの加工業者やグリーン発電事業者を加えれば、農家と一体になって品質のよいものを作ることが可能だ。さらに、③は、これまでの政府のやり方では食料自給率は向上せず、食料安全保障も達成できなかったのであるため、悪かった点をリストアップして変更する必要がある。また、④については、農協もZOOMのようなツールを使って会議をすれば、どこからでも参加できるので必要な人を参加させやすい上、インターネットになじみができてスマート農業に資すると思う。なお、外国の農協ともZOOMのようなツールを使って会議をすれば、参考になる点が多いと思われる。 ブドウ ロボットで収穫 ドローンで自動化 水田 *6-1:https://www.agrinews.co.jp/p51678.html (日本農業新聞 2020年8月20日) [新型コロナ] 日本ワイン コロナ打撃 醸造用ブドウ豊作も…仕込み減 苦渋の決断 大阪 新型コロナウイルスの感染拡大で、日本ワインの苦戦が続いている。大阪や山梨のワイナリーでは、3~6月の売り上げは前年の半分以下に減少。宴会やイベント、インバウンド(訪日外国人)需要の減少などにより、需要が戻らない。2020年産醸造用ブドウは豊作傾向の一方で、今年産の仕込み量を減らすワイナリーも出ている。昭和初期に全国屈指のブドウ産地だった大阪府。100年以上ワイン醸造を続ける大阪府柏原市のカタシモワインフードでは、宴会やイベント向けの需要が落ち込み、3~6月上旬の売り上げは前年と比べ約5割減った。いまだに需要回復の傾向はみられないという。同社は約14万リットル分のタンクを抱える。本来なら今年産の仕込みのためにタンクを空にして準備しているところだが、需要が落ち込んだため、ワインの半分ほどがタンクに残ったままだ。ワインを瓶に移してしまうと半年~1年以下で劣化してしまう。新型コロナ禍で個人消費の減退も予測される中で、早めに売り切れる見込みもない。廃棄するにも費用がかかる。こうした状況から同社では、今年産の仕込み量を減らす予定だという。近年の大阪ワインの人気の高まりから、同社では醸造用ブドウの不足が続いていたという。2019年には20カ国・地域(G20)大阪サミットで大阪ワインが提供されたのをきっかけに知名度が一気に向上し、売り上げは急増。同社では現在の3・5ヘクタールまで「デラウェア」の栽培面積を拡大し続けていた。他にも、同社など府内のワイナリーでつくる大阪ワイナリー協会では、JA大阪中河内や府などとともに「デラウェア」の契約栽培に今年3月から乗り出していたところで「増産に向けて動いていたところに急ブレーキをかけられたような状況だ」(同社)という。同社は「契約栽培分は何としても買い取りたい」とするが、他産地からの購入は減らさざるを得ないという。同協会では、オンラインによるワイナリー見学や、クラウドファンディングなどにも取り組み始めた。消費拡大に向けて試行錯誤を重ねているが「需要の回復にはまだまだ遠い」(同社)。同協会会長で同社の高井利洋代表取締役は「待ったなしで秋が来るが、手の打ちようがない」と葛藤する。 ●「全国一」の山梨 需要最大8割減 3~6月 18年度の国税庁調査で全国一の日本ワイン生産量を誇る山梨県でも、需要が大きく落ち込んでいる。山梨県ワイン酒造組合は、3月中旬から6月にかけて県内のワイナリーで最大で前年比8割減少したとみる。山梨県のJAふえふき直営のワイナリー「ニュー山梨ワイン醸造」では、首都圏からの観光需要の落ち込みで宴会向けや土産向けで大きく減らし、3~5月の売り上げは約5割下がった。県外への移動自粛要請の解除後も、大きな回復はまだみられないという。イベントなどの中止で今後の消費PRも見込めないため、今年産の仕込み量は前年比6割ほどに落とす予定だ。日本ワイナリー協会は「飲食店向けやインバウンドなどの需要が戻らない以上、今後も同様の状況が続く。このまま今年産の仕込みが進んでいけば、在庫処分せざるを得ないワイナリーも出てくるのではないか」と指摘する。 ●輸入も1割減 輸入ワインもコロナの影響を受けている。財務省貿易統計によると、1~6月のぶどう酒の輸入金額は、前年同期比で9%減少した。日本洋酒輸入協会によると「昨年は日欧経済連携協定(EPA)の影響で輸入が伸びていた分、コロナの影響はかなり大きく、前年割れが続いている」。特に、宴会の自粛などでスパークリングワインなどの需要が大きく落ち込んでいるという。 *6-2:https://www.agrinews.co.jp/p51687.html (日本農業新聞 2020年8月21日) 全中・中家会長2期目始動 改革継続へ決意 JA全中は20日、東京都内で通常総会を開き、中家徹会長(JA和歌山中央会会長)を再任した。2期目をスタートさせた中家会長は総会後の記者会見で、JA自己改革の継続や経営基盤強化などが重要課題になると指摘。「いつまでもJAは必要な組織だと評価してもらうため、自己改革に終わりはない」と決意を示した。准組合員の事業利用規制に関する調査期限が2021年3月に迫る問題では、引き続き准組合員の運営参画が重要だと強調。「関係を強化し、理解・評価を得て規制を阻止したい」と訴えた。経営基盤の確立・強化は「組合員の負託に応え続けるために不可欠」とした。現場実態に応じた改革に向け「組合員と徹底的に対話することが重要だ」と表明。新型コロナウイルスの影響で対話の機会が減っているが、「可能な限り機会を設けて取り組む必要がある」との考えを示した。食料安全保障の重要性にも言及。19年度の食料自給率は38%で目標の45%の達成は「非常に厳しいという見方もある」と指摘した。自給率向上には食料・農業・農村基本計画の実践が最重要とし、行政と協力し対応を進めるとした。この他、新型コロナの影響への万全な対策なども重要課題に挙げた。副会長にはJA佐賀中央会会長の金原壽秀氏を再任、JA福島中央会会長の菅野孝志氏を新任した。会見で菅野副会長は「食料自給率は、地域が自らの課題としてどう高めるかが重要。全国のJAや県連と連携し精力的に取り組みたい」と語った。金原副会長は「農家・組合員の生活を守り地域活性化のために尽力したい」と述べた。通常総会後の理事会で新専務に馬場利彦氏、新常務には山下富徳氏を選んだ。 <中山間地・離島の高校過疎化> PS(2020年8月24日追加):*7-1に、「①公立高のない市区町村が3割あり、特に中山間地・離島などで『高校の過疎化』が進んでいる」「②農山村の教育力は大きく、(そこでの体験は)高校生にとって大きな財産になる」「③高校・地域社会の協働で地域密着教育を行い、人材育成・地域の課題解決に繋げて高校を核に地方創生に取り組みたい」「④高校との連携には、産業界・自治体・自治会、住民グループ、地域運営組織、NPOなどが参画して、地域づくりの大きな可能性が芽生えた」「⑤大分県の県立久住高原農業高校は全国から生徒を募集する仕組みを作り、新規就農者や地元の農家も集う場と位置付けて地域や農業に活気を呼び込む」「⑥人口減少が進む中、財政事情や効率化だけを考えれば過疎地域の高校は統廃合を迫られるが、過疎地域の高校だからこそできる教育がある」「⑦オンライン教育を過疎地域と都会の高校の連携に活用したい」等が書かれている。 このうち、②③④は貴重で、農山漁村は、コンクリート造りの都会で勉強していても決して得られない豊富な体験をすることができるという長所があり、農業高校だけでなく普通高校の生徒も、豊かな自然の中で住民と近い関係から得られる体験は大きい。そのため、⑤の全国から生徒を募集する仕組みは、農業高校に限らずよいと思う。また、①⑥のように、過疎化が進んだから現在ある学校を統廃合するというのはもったいなく、例えばスイスのル・ロゼ校(小3~高3、名門寄宿学校)は、世界から生徒を集めている。つまり、校舎や寄宿舎の改修・整備の仕方によっては、学校の足りない国や女子が学ぶと危険な国から生徒を集めたり、都会から生徒を集めたり、企業の研修施設にしたりすることが可能なのだ。さらに、⑦のオンライン教育を取り入れると、中山間地や離島の短所を補うこともできる。 このような中、*7-2のように、台風8号で沖縄県本部町130世帯、久米島町60世帯、大宜味村10世帯で停電が発生したそうだが、太陽光発電機や風力発電機をつけていれば、停電は問題にならなかったと思う。 (図の説明:1番左の図は、令和3年度に離島留学を募集している離島で、左から2番目の図は、長崎県の離島。離島は狭い範囲に山・田畑・海が1セット揃っているため、容易に多様な自然と触れ合うことができ、放課後に山までマラソンしたり、海で泳いだり、ヨットやボート・釣りなどをすることもできる。右の2つは、洋上風力発電機と尾根などに設置された風力発電機だ) (図の説明:1番左は、養殖場に設置された風リング風車の風力発電機で、左から2番目は、手入れの行き届いた森林だ。右から2番目は、巣箱でかえったフクロウの雛で、1番右は沖縄県慶良間の海中の様子だ。例えば、雪国の野球部の生徒が、冬は雪のない地域の学校で勉強や練習をするのもありだろう) *7-1:https://www.agrinews.co.jp/p51611.html (日本農業新聞 2020年8月12日) 地域の高校魅力化 農村再生の拠点になる 公立高校がない市区町村が3割に上る。特に、中山間地や離島では「高校の過疎化」に歯止めがかからない。財政事情や効率化といった基準だけで統廃合を進めるべきではない。高校を核に地方創生に取り組む「高校魅力化」を広げたい。農山村の教育力は計り知れない。高校生にとっても大きな財産になる。公立高校の立地状況は2019年度で、文部科学省が今年7月に初めて公表した。ゼロもしくは1校の割合も6割を超えた。割合は10年度より高まっている。全国で高校が消えていく一方、政府は「高校魅力化」を地方創生政策の柱に据える。高校と地域社会との協働で地域密着での教育を行い、人材の育成や地域の課題解決などにつなげる。高校との連携には、農業をはじめとした産業界や自治体・自治会、住民グループ、地域運営組織、NPOなどが参画。各地で実践が進み、地域づくりに大きな可能性が芽生えている。例えば大分県竹田市久住地区の県立久住高原農業高校。70年以上も分校だったが、19年度に単独校として再スタートした全国でも珍しい農高だ。地域住民と手を取り合って、地域づくりを進める。農高は全国から生徒を募集する仕組みを作り、新規就農者や地元の農家も集う場と位置付け、地域や農業に活気を呼び込む考えだ。「地域にかっこいい大人がたくさんいる」「先進的で地域密着の農業を学べる環境は他にない」など、農高の生徒は地域密着で学べる意義を実感する。人口減少が進む中で、財政事情や効率化だけを考えれば過疎地域の高校は統廃合を迫られる。しかし、地方創生の柱と位置付ける一方で、生徒が減ったから閉校するというのは矛盾だ。高校は、地域を担う人材育成の拠点として捉えるべきだ。地域の教育力も評価すべきである。高校を進学や就職のための通過点とはせずに、生徒が地域の魅力を学ぶ価値を見直したい。農家らから直接教わったり、地域課題の解決策を共に考えたりするなど過疎地域の高校だからこそできる教育がある。新型コロナウイルスの影響により、オンライン教育も一般的になりつつある。これを過疎地域と都会の高校の連携に活用したい。19年度の高校数は全国4887校で09年度から296校も減った。農業系学科がある高校は19年度792校で10年間で53校も減ってしまった。高校の価値を再考し、オンライン教育の活用も進めれば、高校をなくすだけではない選択肢も出てくるはずだ。文科省は22年の春から、都道府県など学校設置者の判断で新しい学科の新設や再編ができるようにする方針だ。農業や地域を包括的に教えることも可能になる。地域に密着した魅力ある高校づくりに、JAや農家などは積極的に関わってほしい。高校は、農山村再生の拠点になる可能性を秘めている。 *7-2:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1178919.html (琉球新報 2020年8月24日) 台風8号で停電発生、本部町130世帯、久米島町60世帯、大宜味村10世帯 沖縄電力によると、24日午後12時21分現在、本部町の130世帯、久米島町の60世帯、大宜味村の10世帯で停電が発生している。 <日本の産業と外国人の雇用> PS(2020年8月27日追加):*8-1-1のように、ミャンマー国軍がロヒンギャを迫害し、74万人のロヒンギャが命からがら隣国のバングラデシュに逃げ込んだ。日本の政府・メディアは、「ロヒンギャの祖国への帰還」をミャンマー政府に働き掛けただけだが、政権トップがアウン・サン・スー・チー氏であっても軍と対立してまで戻すことができない状況は想像に難くない。また、ロヒンギャの方も、再度迫害を受ける可能性のある危険な“祖国”に帰れないのは当然であるため、私は、数多く日本にある(国境離島ではない)離島に公営住宅を建て、企業を誘致して、ロヒンギャの子どもを教育し、若者を就業させるのがよいと考える。何故なら、ある程度、独立したコロニーを作って生活できるからだ。 しかし、日本には、*8-1-2のように、まだ「①外国人受け入れ、是か非か」という議論があり、「②社会構造の持続へ不可避」という意見がある一方、「③日本人の賃金が安くなるから反対」という意見もある。私は、難民の受入を増やすことは、②に加えて人権侵害されている人に手を差し伸べるという国際貢献にもなる。また、③については、日本人労働者の賃金が生産性と比較して高止まりしすぎていることが、日本企業が海外に逃げ出す原因の1つとなっており、さらに非正規労働者やフリーターも人手不足の業種には行きたがらず、地方は地域を支える力が不足している現状もある。そのため、「人口維持の目的」というより、国際競争力のある生産性に見合った賃金で働く人材としても難民の受入は必要不可欠なのだ。このような中、*8-2-1のように、愛媛県のJAにしうわは、ミカン収穫の作業手順を分かりやすくまとめた動画の作成を進め、熟練アルバイターの獲得が不透明な中で県内のアルバイターの募集を始めるそうだ。しかし、これなら難民や外国人労働者にもわかりやすいだろう。 なお、*8-2-2のように、日本はLowTech産業による個人用防護具の輸入に占める中国比率が8割、マスクの同比率は96%で、需要急拡大に輸出拡大で応えた中国は偉いが、日本は情けないと言わざるを得ない。また、価格競争になると負けるのが中国依存度を上げた理由だが、これを続けると日本から輸出するものはなくなり、輸入するものばかりになる。何故なら、HighTech産業による新型コロナの予防薬・治療薬も、*8-3-1のように外国頼みであり、日本はビッグチャンスに大学の研究室が自粛させられ、米バンダービルト大学・英オックスフォード大学・アストラゼネカなどのように迅速に結果を出せないからだ。 このように何でも遅い理由は、*8-3-2のように、「ワクチンは安全性最優先を忘れるな(そんなこと、専門家は百も承知)」などとメディアが足を引っ張るからで、実際には、④不確定な要素があるから研究するのであって(確定していれば研究する必要はない) ⑤遅いから着実とは限らず(単なる怠惰の場合も多い) ⑥初めから透明だったら治験する必要はない わけである。なお、近年起こった子宮頸癌ワクチン接種の副作用とは異なり、新型コロナワクチンは多くの人の目前に迫る感染症リスクを軽減するために行うものであるため、接種したい人も多く、接種に不適当な人や接種したくない人に摂取する必要はないのだ。 2018.12.6産経新聞 2019.5.11東京新聞 法務省 2017.6.16東洋経済 (図の説明:政府は2019年4月に入管法を改正して在留資格に「特定技能」を創設したが、これは、人手不足に対応するため一定の専門性・技能を有して即戦力となる外国人材を受け入れる制度であるため、1番左と左から2番目の図のように、難民は対象外である。そして、右から2番目の図のように、日本は難民申請者と比較して難民認定者が非常に少ない。さらに、次の先進技術を獲得する手段となる論文数も、1番右の図のように、日本より人口の少ないドイツ・英国以下であり、全く振るわない。何故だろうか?) *8-1-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/51157 (東京新聞 2020年8月26日) ロヒンギャ迫害 政権は差別解消率先を ミャンマー国軍が、イスラム教徒少数民族ロヒンギャを大量に隣国へ流出させた迫害から三年。祖国への帰還はいまだ実現せず、コロナ禍が追い打ちをかける中、難民長期化の弊害が拡大している。二〇一七年八月二十五日、過激派アラカン・ロヒンギャ救世軍との軍事衝突がきっかけとなったミャンマー国軍の暴力は、酸鼻を極めた。同国西部で住民への無差別殺害やレイプ、放火を起こし、国連によると少なくとも住民一万人が死亡。七十四万人が隣国バングラデシュに逃げ込んだ。国軍兵士らによる迫害は、一一年まで半世紀間の軍事政権時代から始まった。一九七八年、九一〜九二年などに数度、計約五十万人がバングラに逃れている。これらを合わせ、現在の難民は百万人を超えているとみられる。ロヒンギャにはミャンマー国籍がない。軍政下の改正国籍法で、正規国民になれる百三十五民族から除外されたためである。一一年の民政移管後も無国籍のままだ。実は、一七年の軍事衝突の数時間前、アナン元国連事務総長らによるミャンマー政府の諮問委員会が「国籍付与を検討せよ」と政府に勧告する報告書を出していた。諮問委をつくったのは、民政移管後の一六年に国家顧問に就任したかつての民主化指導者アウン・サン・スー・チー氏だった。しかし、報告書提出直後からの軍事衝突の大混乱で勧告は放置された。政権の事実上のトップは文民のスー・チー氏である。半面、憲法では国軍や警察、国境治安の管理などロヒンギャに直結する分野の権限は軍部が握り「スー・チー氏はロヒンギャに無策」との国際社会からの批判につながっている。同国では十一月に総選挙を控える。スー・チー氏の与党国民民主連盟(NLD)が過半数を維持できるかが焦点だが、政権はこの問題を先送りする可能性があり、看過できない。背景にはロヒンギャを「無国籍の不法移民だ」「仏教徒でない」「人種が違う」「ミャンマー語を話せない」と突き放す冷淡な世論がある。再びの迫害を恐れ、帰還は進まない。難民キャンプでは子どもへの教育や若者への職業訓練の不足で「失われた世代」化への懸念が広がる。コロナ禍で死者も出た。政権は、国際司法裁判所(ICJ)に「迫害停止」を命じられてもおり、諮問委勧告の実施と差別意識の解消に動くべきだ。日本など国際社会も、ミャンマーに救済を強く働き掛け続けてほしい。 *8-1-2:https://www.chugoku-np.co.jp/column/article/article.php?comment_id=598319&comment_sub_id=0&category_id=1153 (中国新聞 2019/12/20) 外国人受け入れ拡大、是か非か 外国人労働者の大幅な受け入れ拡大を図る改正入管難民法が昨年12月に成立してから1年。政府が「移民政策はとらない」との立場を取る中、なし崩し的に地域や職場で国際化が進む。外国人労働者や移民の受け入れについて賛否の立場の識者に意見を聞いた。 ◇社会構造の持続へ不可避 日本国際交流センター執行理事・毛受敏浩氏 ―外国人労働者の受け入れの拡大は必要ですか。 多様な価値観の人が集まり、独自の人脈を生かすことで新しいビジネスが起こる。移民300万人を受け入れた場合の経済効果は20兆円に上るとの試算もある。地方が国際的に発展する起爆剤になる。今後10年ぐらいは本格的な移民受け入れの準備期間と考えるべきだ。どんな人を受け入れるか入り口が大事。学歴や日本語ができるかなどで国に必要な人材を選択すれば、教育などの受け入れコストは下がる。日本は制度と意識の転換期を迎えた。 ―新しい在留資格「特定技能」をどうみますか。 外国人労働者の受け入れが前進した。しかし、手続きが煩雑で人数はまだ少ない。一方で技能実習は急増している。受け入れ企業の本音ではコストが安い技能実習生を使いたい。日本人並みの給料で転職が可能な特定技能が健全に発展するのか注視している。技能実習制度は根本から見直すべきだ。1993年から続け、中小零細企業に「外国人は安い」という考えが染みついてしまった。制度の目的である技術移転による国際貢献に限定すれば1割も残らないのではないか。就労目的の外国人は特定技能で受け入れるべきだ。 ―日本人の仕事が奪われると批判もあります。 今の日本は景気が良くなって人手不足になっているのではない。少子化が急速に進み、人口の減少が止まらない。地場産業が衰退し農業や介護の現場が回らなくなる可能性がある。社会構造を持続させるために移民の受け入れは避けて通れない。 ■地域支える力に ―外国人に期待する役割は。 これまで「いつか帰る労働者」と過小評価されてきた。しかし、地域には国籍を問わず若い人が必要だ。災害時、高齢者ばかりでは命を助けるのは難しい。半面で一時的に受け入れる今の政策では災害が起きれば出稼ぎ労働者が一斉に帰国するリスクもある。定住外国人は消防団員や伝統文化の担い手として地域を支える力になる。人口減少から外国人の定住政策を積極的に掲げる安芸高田市のような自治体も出てきた。同じような相談が多く寄せられている。自治体間で外国人材の獲得競争が激しくなるだろう。 ■国民の意識変化 ―政府は「移民政策はとらない」との方針です。 安倍政権を支持する保守層が拒絶している。移民が増えると治安が悪くなるという国民の先入観にも配慮しているのだろう。しかし、ここ数年で国民の意識は大きく変わっている。外国人と交流している人は受け入れに前向きな傾向がある。国のトップにこそ地域で活躍する外国人を表彰するなど多文化共生の先頭に立ってほしい。 ◇日本人の待遇改善遠のく 久留米大教授(日本経済論)・塚崎公義氏 ―人手不足から外国人労働者の受け入れ拡大が進んでいます。 反対だ。日本人労働者、特に非正規雇用やフリーターなどが影響を受ける。人手不足とは経営者側の視点の言葉。裏を返せば労働者側には「仕事がある」ということ。賃上げが期待できる素晴らしい状態だ。人手不足になると、ブラック企業のホワイト化も期待できる。これまで「辞めたら失業者だ」と思って退職をとどまっていた社員も転職先が見つけやすいので踏み切りやすい。そうなると、ブラック企業はホワイト化しないと存続できない。外国人労働者を受け入れることでこうした日本人労働者の待遇改善の機会が遠のいてしまう。不況時の失業リスクも高まる。 ■企業にだけ恩恵 ―一般的には人手不足は悪いことのように捉えられていますが。 労働者だけでなく、日本経済にもメリットがある。景気対策の公共投資は不要になるし、失業手当の申請も減るだろう。労働力が不足すると、企業も省力化の投資を始める。例えばアルバイトに皿洗いをさせていた店で食洗機を購入すると労働生産性が高まる。外国人労働者の受け入れは企業側にメリットはあるが、日本人労働者や日本経済にはデメリットでしかない。 ―そうは言っても介護業界などは人材難が深刻です。 介護士不足の解消には介護保険料を値上げするしかない。今の介護業界は待遇が悪すぎるから人材が集まらないだけだ。安価な外国人労働者を受け入れるのではなく、日本人の介護士の賃金を上げるべきだ。 ―行政は外国人労働者との「共生」に向けた受け入れの準備を進めています。 日本人労働者が支払った税金で行政コストが賄われているのに対し、外国人労働者の受け入れでメリットを得る企業はコストを支払っていない。これは著しい不公平だ。受益者である企業が負担するべきだ。日本で働く外国人が家族を連れて来られない点を問題視する意見もある。ただ、そうなると行政コストはさらに膨れ上がる。家族帯同を認めると、外国人労働者の子どもに日本語を教えるための費用なども必要になる。そうしたコストに税金を使うのはおかしい。 ■人口減やむなし ―人口減少が進む中、将来的に移民を認めるべきだとの声もあります。 何を大事に考えるかだ。国家の維持か、国民の幸せか。日本の国内総生産(GDP)を守るために人口を維持するなら、大量の外国人を受け入れる必要がある。ただ、GDPが減ること自体は深刻な問題ではない。人口が半分になり、GDPが半分になっても、1人当たりのGDPが変わらなければ、日本人の生活水準は変わらない。私は移民を受け入れてまで人口を維持する必要はないと思う。 *8-2-1:https://www.agrinews.co.jp/p51713.html (日本農業新聞 2020年8月25日) ミカン収穫手順を動画に コロナ受け新規アルバイター獲得へ 愛媛・JAにしうわ JAにしうわは、ミカン収穫の作業手順などを分かりやすくまとめた動画の作成を進めている。新型コロナウイルスの影響で県外在住の熟練アルバイターの来県が不透明なことを受けた取り組み。県内アルバイターの募集を始める9月上旬から、ホームページなどで公開することにしている。ミカンの収穫や出荷が集中するのは11、12月。JA管内の八幡浜市、伊方町では昨年度、全国から約350人のアルバイターらが収穫や運搬の作業を手伝い、高齢化が進む産地の貴重な戦力として活躍した。JAは今年度、新型コロナの影響で県外のアルバイター募集を中止。県内での募集に注力し、100人の受け入れを目標に掲げる。過去に何回も収穫作業を経験している熟練アルバイターは、県外在住者が多い。今年は作業に不慣れなアルバイターも増えることが予想されるため、動画を使って収穫方法の周知や産地をPRすることにした。派遣会社などで説明用としての活用も期待されている。JA農業振興部は「新型コロナの感染状況を見極めながら、安心して今シーズンを乗り切れるようにJAとしてあの手この手で支援したい」と強調する。 *8-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200824&ng=DGKKZO62961000T20C20A8MM8000 (日経新聞 2020.8.24) 医療防護具 中国頼み 輸入急増、8割に、マスクなど4品 日米欧、対応に限界 世界で医療防護具の輸入における中国依存が高まっている。個人用防護具(PPE、総合・経済面きょうのことば)の輸入に占める中国比率は1月の6割弱から8割強まで上昇した。急増した世界の需要に、中国が輸出拡大で対応した。日本の医療用マスクの同比率は96%だ。日米欧は命綱を中国に握られるリスクを警戒し国内生産や調達先の多様化を目指すが、ハードルは高い。国連貿易統計によると、医療従事者が感染を防ぐために身につける主な4品目(マスク、ガウン、防護服、メガネ)の世界貿易額は直近のデータを取得できる5月にかけて急増した。新型コロナウイルス感染者の拡大でPPEの需要が高まった。航空便への切り替えに伴う輸送費も上がった。並行して輸入における中国依存度も1月の平均59%から5月は同83%に上昇した。例えば医師や看護師が使う医療用マスクの世界貿易額は1月に約9億ドル(約950億円)だったが、5月には約10倍の92億ドルまで膨らんだ。日本の5月の輸入に占める中国の割合は96%と1月に比べて16ポイント上昇した。米国は92%で20ポイント増、欧州連合(EU)は93%で45ポイントも高まった。医療用ガウンは5月の日米欧の輸入での対中依存度は8~9割で、1月の4~6割から大幅に増えた。防護メガネの輸入に占める対中比率は日本が73%で1月に比べて2ポイント下がったものの依然として高水準だ。防護服関連も5月時点で7~9割と中国に頼る構造が鮮明になっている。対中依存度が高まったのは、世界の需要急拡大に、感染拡大が一服した中国が輸出拡大で応えた結果だ。主要国はPPEを確保するため中国に頼った。中国からの輸入を増やす一方、輸出を抑えた。米政府は医療用マスクなどPPEの輸出規制を4月から続けると同時に、中国製PPEに課していた制裁関税を特例で解除して輸入を後押ししている。ただ中国は尖閣諸島で対立した日本へのレアアース(希土類)の輸出を絞るなど、貿易を外交の武器に使うことがある。このため各国は国産化と調達先の分散を目指している。バイデン前米副大統領は「必要な医療品や防護具を米国内で生産する」と公約に掲げる。米国は朝鮮戦争下に制定された国防生産法を活用し、米スリーエム(3M)に「N95マスク」の増産を命じるなど国内生産の拡充を急ぐ。それでも高い対中依存度をすぐゼロに近づけるのは難しい。州政府は独自に安価な中国製品の調達に動き足並みもそろわない。世界保健機関(WHO)でPPEなどの物流を指揮するポール・モリナロ氏は「(各国の)増産体制が整ったため現在のPPE供給は大流行開始当初と比べ安定している」と話す。ただ感染再拡大が止まらず「非常に警戒している」と気を緩めない。供給国の1国集中の回避と「第2波」への対応力向上には各国の地道な生産と備蓄の積み増しが欠かせない。WHOはメーカーとの協力で「供給網が止まっても1カ月程度を在庫から各国に供給できるようにしたい」(モリナロ氏)という。日本政府は国産化を後押ししている。18日には興研とサンエムパッケージの2社が国内に設ける「N95マスク」の製造ラインへの助成を決めた。興研は来年1月までに生産能力を月60万枚超上積みする。医療用ガウンは、帝人や東レなどが国内生産を増やす。ワールドは5月に国内の6工場で生産を始めた。ただ中長期的には供給過剰で価格競争に巻き込まれるリスクがあり、新規の設備投資に慎重な企業も少なくない。 *8-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200826&ng=DGKKZO63050910W0A820C2EAF000 (日経新聞 2020.8.26) コロナ抗体薬の治験開始、英アストラゼネカ、予防や症状抑制 英製薬大手アストラゼネカは25日、新型コロナウイルスの予防・治療薬である抗体医薬の初期臨床試験(治験)を始めたと発表した。特定の細胞に作用する抗体によってウイルスを抑える効果が期待され、安全性や有用性を調べる。英国の18~55歳の健康な被験者を対象に、開発中の候補薬「AZD7442」の投与を開始した。最大48人を対象に検証する。初期治験であるフェーズ1(第1相)で有用性が認められれば、より大規模なフェーズ2以降に移る。この薬は特定の抗原に反応する「モノクローナル抗体」を2種類組み合わせたものだ。がん治療薬にも応用されている抗体の仕組みで新型コロナウイルスを攻撃する。感染の予防に加え、既に感染した患者を治療したり症状の進行を抑えたりする可能性があるという。AZD7442は米バンダービルト大学が発見し、6月にアストラゼネカがライセンス供与を受けた。治験には米政府傘下の国防高等研究計画局(DARPA)と、生物医学先端研究開発局(BARDA)が資金を拠出している。アストラゼネカはこれとは別に、英オックスフォード大と共同で新型コロナワクチンの開発も進めている。抗体医薬は人間の免疫細胞が外敵を攻撃する抗体を人工的につくる。効果が高く副作用が少ないとして期待されている。 *8-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200826&ng=DGKKZO63031550V20C20A8EA1000 (日経新聞 2020.8.26) ワクチンは安全性最優先を忘れるな 新型コロナウイルスのワクチン接種について、政府の分科会が提言をまとめた。医療従事者、高齢者、基礎疾患がある人を優先対象とする一方で、安全性や効果の両面で理想的なワクチンができる保証はないとの考えも盛り込んだ。今回の提言をもとに政府は秋ごろをメドに接種に関する方針をまとめる。ワクチンへの期待が先行するが、不確定な要素が多い。安全性を最優先することを忘れずに着実に進めてほしい。接種のあり方を議論した21日の分科会では「安全性や有効性についてわからないことが多すぎる」との慎重な意見が相次いだ。米中を軸にしたワクチン開発レースがかつてないスピードで進み、5~10年かかる実用化までの期間を大幅に短くしようとしている。自国ワクチンを世界に広め影響力を強める「ワクチン外交」の動きも活発で、ロシアは今月、最終の臨床試験(治験)を経ずに承認した。安全性を軽視しているともいえ、不安や懸念が広がる。世界保健機関(WHO)によると、6つが最終治験に入っている。英米が手掛ける3つは遺伝子技術を使っており、こうした新タイプのワクチンは医療現場での実績がない。効果があったとしてもどれほど持続するかも不透明だ。ワクチンは治療薬と違って予防を目的に健康な人に接種する。何より安全性が大事になる。深刻な副作用がでると、大きな社会問題にもなりかねない。政府は米ファイザーと英アストラゼネカから供給を受けることで基本合意している。接種によって健康被害が出た場合に、製薬会社の責任を問わない方針だ。通常とは異なる措置で、交渉の経緯や免責判断に至った経緯をきちんと説明すべきである。コロナのワクチンは実現できたとしても当初は感染を防ぐのではなく、発症や重症化を予防するものになりそうだ。流行状況に合わせて、効果と感染リスクや重症化リスクとのバランスを吟味して使い方を判断する必要がある。当面、供給量が限られる中、接種の順位を決めるのは当然の対応である。高齢者の年齢をどこで線引きするか、救急隊員、高齢者施設や保健所の職員も「医療従事者」に含めるかは今後の検討課題になった。詳細を詰める議論の内容もすみやかな公開が求められる。パブリックコメントを募ったうえで政府は方針を決定すべきだ。
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2020,06,23, Tuesday
2019.12.18産経BZ Goo 2018.10.10朝日新聞 (図の説明:1番左の図のように、2019年の男女格差報告で、日本は同じ儒教国である中国《106位》・韓国《108位》より低い121位で、仏教国インド《112位》・イスラム教国のアラブ首長国連邦《120位》よりも下だった。また、左から2番目の図のように、他国は努力しているのに日本は形だけの対応をしているため、順位が毎年下がっている。それでは何が低いのかといえば、右から2番目の図のように、政治が世界の中でも低く、経済はまあ世界並の低さだ。教育は、世界の中でもよいとされるが、実際には1番右の図のように、女性は短大や大学でも職業に結び付きにくい文学・芸術への進学が多いため、政治・経済への参画が不利になる。しかし、これらは、現在の国民全体の平均的な意識である“常識”を現していると思う) (1)国民に根付いている女性蔑視の偏見と 女性蔑視発言をする人がよく使う“言論の自由”“表現の自由” テレビ番組での言動を巡り、SNS上で匿名の誹謗中傷をされていた女子プロレスラーが、*1-1・*1-2・*1-3のように自殺して亡くなった。亡くならなければクローズアップされないのも問題だが、SNS上の匿名での卑怯な発信は他人の人生や職業人生を狂わせたり終わらせたりする効果があるため、発信者が“言論の自由”や“表現の自由”として罪の意識もなく発信していたとしても、やはり人権侵害である。 SNS上の匿名での発信については、プロバイダー責任制限法により、被害者が損害賠償を求める場合に発信者情報の開示を事業者に請求できるようにはなったが、「権利の侵害が明確でない(この判断にも女性蔑視や企業側の論理が多く存在する)」などとして開示されないことが多い上、裁判に訴えると費用や時間もかかりすぎるため被害者が泣き寝入りせざるを得ない局面が多い。さらに、弁護士や裁判官などの司法関係者も潜在的女性蔑視から自由ではないため、権利の侵害があってもそれを過小に評価したり、権利の侵害による逸失利益自体を過小評価したりして、女性に不利な判決が出やすいのである。ちなみに、交通事故で死亡した男児と女児の間でも、逸失利益とされる金額は女児の方が少ないそうだ。 そのため、高市総務相が、スムーズな情報開示で悪意ある投稿を抑止するために発信者の特定を容易にする制度改正の検討を本格化させるのはよいことだ。また、私は、政治家として、“言論の自由” “表現の自由”と称する女性蔑視に満ちた嘘のキャンペーンを張られたことがあり、その被害は今でも続いているため、“正当な批判”と称する偏見に満ちた“表現”に対して、政治家も発信者の開示を求められるようにするのが公正だと考える。 つまり、“言論の自由”とは、嘘でも何でもいいから言いがかりをつけて政治家を失脚させる権利ではなく、権力に抗することになるかもしれない本物の主張を言うことができる権利であるため、対象が政治家であっても言いがかりまで“言論の自由”として護ってはならない。また、メディアが使う“表現の自由”も“常識”と呼ばれる国民の心の底に潜む女性蔑視を含んでいたり、利用したりしており、人権侵害に繋がっていることが多い。そして、日本には、この“言論の自由” “表現の自由”をわざと誤って使う人も多いため、人権侵害や差別を横行させ、民主主義が正常に機能しない状態になっているのである。 (2)女性差別の多い日本の“常識” 1)女性の政治参画への遅れ ジェンダーギャップ(男女格差)の大きさを国別に順位付けした世界経済フォーラム(WEF)の2019年の報告書で、*2-1-1のように、日本は153カ国中121位で過去最低だったそうだ。日本は衆院議員は女性が10.1%で、閣僚は9月の内閣改造前まで19人中1人の5.3%で、女性の政治参画の停滞が順位を下げる要因になった。 政治への女性進出が遅れているため、男女の候補者を均等にするよう政党に求める候補者男女均等法が施行されて初めての国政選挙となった2019年7月の参院選でも自民党の女性候補の割合は15%で、衆議院議員も女性候補を大幅に増やす具体策がないようだが、これは、現職を優先して候補者に立てるため、現在の男女比がなかなか変わらない上、有権者の意識がかわらなければ女性が候補者となっても当選しにくいからである。 ただし、空白区の多かった野党は参院選で女性候補者の擁立を進め、立憲民主党候補者の女性比率は45%、国民民主党は36%、共産党は55%だった。確かにジェンダー平等は国際的な潮流なのだが、日本には根底に戦前からの男尊女卑思想があり、この女性差別と偏見が“常識”や“良識”という形で有権者の意識も支配しているために、何人の有権者が投票したかを競う民主主義では女性が当選しにくいわけである。 日本と同じく東アジアに位置して儒教・仏教の男尊女卑思想が広がっている韓国は、2019年に108位となり、初めて121位の日本を抜いた。これには、政治分野(日本144位、韓国79位)でフェミニスト大統領を名乗る文在寅大統領が2017年の就任時に女性を一気に5人閣僚に起用し、任期終了(2022年)までに「男女半々」にすると約束していることが大きいそうだ。このように、諸外国は多様性を尊重して女性にチャンスを与えようと具体的なしくみを整えつつあるそうだが、同じ東アジアに位置する中国の全人代を見ると、一般議員にも女性が著しく少なく、舞台の上のお偉方は全部男性のようだった。 列国議会同盟(IPU)とUNウィメンは、2020年3月10日、*2-1-2のように、「今年1月1日時点で閣僚ポストに女性が占める割合は21.3%で過去最高だったが、15.8%の日本は113位で、先進7カ国(G7)では最下位だった」という女性の政治参画に関する報告を発表した。また、国家元首または行政の長を女性が務める国は20カ国あり、そのうち4カ国はスウェーデンを除く北欧諸国で、議会で議長に女性が占める割合は20.5%あり、これは25年前と比較すれば倍増だそうだ。 2)経済分野における男女格差解消の遅れ 世界経済フォーラムが2019年12月に発表した各国のジェンダーギャップ(男女格差)で、日本は153カ国中121位と過去最低であったことを、*2-2-1のように、共産党の大門氏が取り上げ、「男女格差の原因はどこにあるのか。日本は女性の閣僚と国会議員の比率があまりにも低い。経済でも男女の所得格差が大きい」と、安倍首相に見解を求められたそうだ。 それに対し、安倍首相は「我が国の順位が低いのは、経済分野の女性管理職の割合が低いことなどが主な要因だ」と指摘し、女性活躍推進法の整備や女性の就業人口増などの格差解消に向けた安倍内閣の実績を強調されたが、質問にあった国会議員や閣僚の女性比率の低さには言及されなかったそうだ。安倍首相は、確かに女性活躍推進法の整備や女性の就業人口増などに尽力されたのだが、女性の就業人口の増加は、派遣やパートなどの補完的非正規労働者の増加が多かったように見える。 派遣やパートなどの補完的非正規労働者は、男女雇用機会均等法で護られないため、男女の別なく採用・研修・配置・昇進させて女性管理職や女性役員にする義務がなく、企業は女性を補助的な立場のままで働かせることができる。この結果、*2-2-2のように、女性役員ゼロや女性管理職割合の少ない会社が多く存在するのだ。 また、朝日新聞が国内主要企業のうち「女性役員ゼロ」の14社に取材したところ、「経営トップより女性本人の意識改革が必要だ」と考えている企業が多かったそうだが、日本企業のリーダー層に女性が少ない理由は、女性の能力を信じてリーダー候補として研修や配置を行わないため、昇進意欲のある女性はつぶされ、その結果として「管理職経験や役員適性のある役員候補の女性がいない」か「いても、いないということにされている」のだと思われる。 3)この無意識の差別や偏見が存在する理由は何か? 21世紀職業財団が、2020年6月22日、*2-2-3のように、「『重要な仕事は男性が担当することが多い』と思っている人が総合職の正社員で男女とも過半数に上る」という調査結果を公表したそうだが、これは、「過半数の人が重要な仕事は男性が担当した方がよい」と思っているわけではなく、「現在、重要な仕事は男性が担当することが多い」と過半数の人が認識しているということではないかと思う。 しかし、性別に基づく無意識の偏見が、仕事を割り振ったり能力評価をしたりする立場の経営者・管理職だけでなく、平社員や家庭に至るまで根強く残っており、これが職場における女性の活躍を妨げているのは事実だ。 では、どうして女性に対し、無意識の偏見を持っているのかといえば、儒教国の女性たちは、*2-3-1のように、儒教によって“良妻”か“悪妻”かの二者択一の生を生きることを強制され、殆どの女性は男性が作り上げた“良妻”としての「婦道」を守ろうとし、その生き方に疑問を抱いて抵抗した人は“悪女”として厳しく罰せられ、“悪女”が“良妻”の価値を高めるために利用されてきたからだそうだ。言われてみれば、確かに日本にもそういうところがある。また、儒教の中の『礼記』は、女性に受動的に行動することを強要する「三従の道」などを示している。 さらに仏教も、*2-3-2のように、「測り知れないほどの理知を持っていても、女性は完全な悟りの境地を得がたい」「女性は女性のままでは仏になれない」「女性のままでは救われない」などと説いており、ひどい女性蔑視の思想である。 そのため、第二次世界大戦後、日本国憲法24条で男女平等が定められ、民法でおおかた男女を区別しなくなっても、(理由は多々あるものの)根底にある人々の意識が十分に変わっていないというのが現実のようだ。 (3)出生率の低下を女性の責任にした日本の愚行 (図の説明:左図のように、合計特殊出生率は1975年以降ずっと2.0以下である。しかし、中央の図のように、人口が減り始めたのは2008年からであり、この間は、人口置換水準が2.0以下だったことを意味する。しかし、右図のように、日本の人口ピラミッドは第二次世界大戦後のベビーブームと第二次ベビーブームで二ヵ所の突起があるため、これが次第になくなるのは必然である。また、長寿命化に伴って生産年齢人口の定義を変えなければ、短い労働期間で長い老後の分まで貯蓄しなければならず、これは無理である) 「母親に育児を押し付け、保育園・学童保育・病児保育などの整備を怠ったため、仕事を大切にする女性ほどDINKSや独身を選ぶ人が増えて少子化した」と1995年頃に最初に言ったのは私で、それをきっかけに男女雇用機会均等法が改正され、雇用における女性差別禁止が義務になったと同時に、育児・介護休業制度も入った。 しかし、これは、「少子化自体が悪いことだから、産めよ、増やせよ」とか「産まない女性は、怠慢だ」などと言ったのではなく、「仕事と子育てを両立できる環境がなければ、仕事を大切にする人ほど子育てはできない」と言ったのである。 が、何故か、*3-1・*3-2などいろいろな場所で、「①昨年の合計特殊出生率は1.36で、前年より0.06ポイント下落した」「②人口置換水準(人口維持に必要とされる合計特殊出生率)は2.07だ」「③死亡数は戦後最多の138万人で、自然減が52万人の過去最大を記録した」「④政府は少子化社会対策大綱の見直しで、希望出生率1.8を2025年までの目標とした」など、少子化自体が問題であるかのように書かれている。 しかし、①は、教育を受け、仕事をして稼ぐことができ、キャリアを積んで昇進したい女性が増える中で、安心して子育てを外部化できる状態になければ出生率が下がるのは当然だ。さらに、教育費も高いため、女性が子育てのために仕事を辞めることになれば、子育てはダブルパンチの経済負担となり、出産祝い金程度では到底カバーできない大きな損失になる。 また、②も、日本では1975年以降の合計特殊出生率はずっと2以下であるにもかかわらず、日本の人口が減少し始めたのは2008年からで、これは寿命が延びて2世代ではなく3世代以上が同時に生きられるようになったことから当然であり、人口置換水準は2以下だったのだ。そして、「現在は、人口置換水準が2.07」という主張についても、Evidenceがあるわけではない。 さらに、③のように、死亡数が最多になって自然減が出始めることは、第二次世界大戦後に出生率が急激に上がってできた団塊の世代が死亡し始める時期であることから当然だ。これからしばらくは、医学の進歩による乳児死亡率の低下・少子化・長寿命化によって高齢化率も上昇するが、その条件の下で年金制度や定年年齢を考えておくべきだったし、日本の国土における適正人口も考慮すべきなのである。 しかし、*3-3のように、まだまだ不十分ではあるものの、最近は病児保育施設ができているのはよいことだ。これは必要なインフラであるため、黒字経営か赤字経営かにかかわらず、補助金を使っても維持しなければならない。何故なら、なければ子育てができないからである。 私は、少子化を問題視しすぎて、子ができない人に1回15万円の支援金を出し、*3-4のような不妊治療を奨励することには賛成しない。何故なら、ダウン症の発生が増えるのは35歳からで、「43歳未満」や「44歳未満」など一応の年齢制限はあるものの母体によくないことは明らかだからだ。また、生まれてくる子も、自然受精なら何億もの精子の中から元気で幸運な1個が卵子と結びつくのでかなりの選別が行われるが、人工授精の場合はこの競争と選別がないのだ。 つまり、子どもが欲しい人は35歳までか、少なくとも自然妊娠可能な時期までに出産するのが母子のためによく、そのためには出産・育児で休暇をとってもクビにならない程度には、出産までに仕事や生活を安定させておかなければならない。また、そうでなければ、子が生まれても育てることができないのである。 そのため、④の希望出生率1.8を現実にしたければ、それができる環境を作らなければならないわけである。 (4)女性差別の結果 1)家計を考慮しない男性が作った消費動向を顧みない経済政策と消費税の導入 私は、1989年の消費税導入の議論当初から、消費税は消費を抑制する税制だと感じていた。そして、国内の消費に支えられて新しい製品を開発しなければならない時代に国内消費を抑制すれば、国内供給も減り、輸出で稼がない限りは景気が悪くなるに違いないと思ったが、税制や経済に詳しいと自負する多くの男性たちは、自分は生産者であって消費者ではないから自動車と家以外は消費税がかかってもよいと思っていたらしく、無駄遣いはそのままにしつつ、社会保障を人質にして消費税を上げることに余念がなかった。 ちなみに、消費税導入にあたって日本が手本にしたとされる欧州は、企業の売上に対して課税する売上税や企業がつけた付加価値に課税する付加価値税はあるが、消費者に転嫁する消費税はないし、社会保障は消費税で賄わなければならないとしている国もない。 また、その後の東西冷戦終結・中国の市場開放などにより、賃金の安い国が次々と市場に参入して製品を作り始めたため、既に賃金が上昇した日本で作るよりも、それらの国で作って輸入した方が企業経営上合理的となり、日本企業も海外で生産するようになって現在に至っている。そして、現在のところ、日本で有望な産業は需要地でしか供給できない第三次産業しかなくなったと言わざるを得ないのだ。 消費税の引き上げは、財務省が主導して行っており、メディアもそれに歩調を合わせているため、それに反対すれば国会議員でも「ポピュリズム」などと揶揄されるため、消費税を引き上げるしか方法がなくなっていたらしく、*4-1のように、教育無償化を目的として2019年10月1日から消費税が10%に引き上げられた。 そして、当然のことながら、2019年10~12月期の国内総生産(GDP、季節調整値)は、物価変動を除いた実質で前期比1.8%減(年率換算:1.8x4=7.1%減)となった。新型コロナの影響以前でこれなのだが、消費税を増税すれば消費が減るため、企業の設備投資が減るのも当然だ。なお、財布の中身で買えるものが実質であるため、名目GDPの方が景気実感に近いという意見に、私は同意しない。 2)男女平等に機会を与えた方が、全体の福利を増やすこと 2020年3月8日、*4-2のように、国連の「国際女性デー」記念行事が、ニューヨークの国連本部で行われ、フィンランドのマリン首相(34歳)ら世界の各分野で活躍する女性が「男女平等は女性のためだけでなく、全体の利益になる」と不平等を是正する社会的・経済的な意義を訴えられたそうだ。 私もこれに賛成で、(4)1)のような「家計を考慮せず、消費動向も顧みず、国民を豊かにする意志のない経済政策」や「消費税導入や税率アップ」が行われるのは、家計を担当したことがなく、観念的に経済を論じることしかできない男性だけで政策を作っているからだと考える。しかし、経済学で男性の経済学者を公に論破できる女性経済学者は、いろいろな理由で、今のところ少ないのが現状だ。 また、環境活動を引っ張っている人の多くが女性である理由は、女性の方が環境に敏感で、ガソリン車やガソリンエンジンへの郷愁で動くのではなく、クリーンで燃費の安い車を求める合理性があるからだと思う。 3)女性の生き方に中立で公正・公平な税制の必要性 「少子高齢化で生産年齢人口の割合が減少するため、“高齢者”を支えられない」という論調が目立つが、現在は金融緩和や景気対策なしで雇用が十分にあるわけではなく、生産年齢人口の人でも実は養われている場合が多い。さらに、女性や高齢者にはまっとうな仕事が少ないため、まずは職につきたい人が国の補助なしで職につけるようにしてから少子化を論じるべきである。 日本で、就職時の女性差別を厳しくして性的役割分担を特に強力に進めるようになったのは、団塊の世代が生産年齢人口に加わり始めた頃で、仕事の方が働き手の数より少なかったため、男性には下駄をはかせ、女性には言いがかりをつけて仕事を譲らせたという経緯がある。 そのため、それを埋め合わせるかのように、*4-3の「①所得税の配偶者控除」「②年金の3号被保険者」「③企業の扶養手当」など、奥さんに仕事を辞めさせた男性と仕事を辞めた既婚女性を優遇する制度が設けられた。しかし、1982年から公認会計士として外資系Big8(働いているうちに合併してBig4までなった)で働いていた私は、この制度で恩恵を受けることがなかっただけでなく、働く女性に対する強い逆風の中で苦労して稼いで納税したり社会保険料を納めたりした金を原資として①②③の制度を支えさせられて、とても納得できなかった。 また、パート勤務の女性は、夫の扶養控除や扶養手当の上限を超えないように時間調整して働いているため、所得税改革は必要だったものの、働きたくても男性に仕事を譲らされて職場で男女平等の採用・研修・配置・昇進がかなわなかった女性にも同じ論理を適用するのは酷である。 そのため、男女雇用機会均等法が義務化されて以降に就職した世代から、イ)所得税は原則として個人単位とするが ロ)本人が望めばフランスと同じN分N乗方式(https://kotobank.jp/word/N%E5%88%86N%E4%B9%97%E6%96%B9%E5%BC%8F-183863 参照)を選択できるようにする(=世帯単位となる) のが、公正・中立・簡素の税の基本に沿った上で、個人を尊重しつつ子育てに必要な資金まで税や社会保険料として取り上げない仕組みだと思う。 なお、「⑥働いて稼いでもらいたい人に光を当てる」「⑦豊かな人に負担させる」等の恣意的なことをすると、2019年分の所得税法のように複雑な計算をさせた上に、公正・中立・簡素という税の基本から外れるものとなる。 (5)人種や性別による差別をなくすには・・ 旭化成 東洋経済 Goo (図の説明:日本の男女雇用機会均等関係法の歴史は、左図のようになっている。しかし、現在は、右図のように、子育て世代の女性を非正規労働者として女性の労働参加率を上げ安価に使っているため、そのような立場になりたくない女性が著しく少子化し、2005年の合計特殊出生率は1.25まで下がった。また、中央の図のように、日本には、社会保障の整ったスウェーデンにはない著しいM字カーブが存在し、それが少しづつ解消されている状況だ) 1)日本にける男女平等の歴史 日本における女性差別は、戦後、日本国憲法で両性の平等や職業選択の自由が決められた後も、民間の隅々にまで張り巡らされた女性蔑視を前提とする仕組みによって維持されてきた(http://www.jicl.jp/old/now/jiji/backnumber/1986.html 参照)。 そのため、1979年に国連で女子差別撤廃条約が成立した後、1985年に日本がこれに批准し、同年に最初の男女雇用機会均等法が制定されて1986年に発効したのが、最初の雇用における男女平等である。しかし、この男女雇用機会均等法は、採用・研修・配置・退職の機会均等などが努力義務とされていたため、発効後も女性を補助職として昇進させない日本企業が多かった。 そこで、(1995年前後の私の提案で)1997年に男女雇用機会均等法が改正され、採用・研修・配置・退職の機会均等が義務化されたのだが、今度は多くの女性を非正規労働者や派遣労働者として男女雇用機会均等法の対象から外し、今に至っているのである。 このようにして、女性差別の禁止や各種改革は、敗戦によって制定された日本国憲法や国連女子差別撤廃条約の批准に伴って行われた男女雇用機会均等法制定など、黒船を利用して法律を制定することにより行われたものが多い。しかし、内部の抵抗によって不完全に終わっているため、今後の改善が望まれるわけである。 2)米国における黒人への人種差別 日本人男性は女性差別には鈍感だが、人種差別には敏感な人が多い。そのため、人種差別の例を出すと、*5-1・*5-2のように、アメリカでは、2020年5月25日に、ミシガン州ミネアポリス警察の警察官が暴行によって46歳の黒人男性ジョージ・フロイドさんを殺害した事件の映像が放映されたのち、Black Lives Matter(黒人の命も重要だ)という運動が起こっている。 フロイドさんは偽札を使用したとされるが、それが事実か否か、故意か否かもわからないのに暴行を加えて殺害した警官の行動は、アメリカ合衆国の黒人が数百年間に渡って直面してきたリンチや黒人差別そのものだそうだ。また、フロイドさんが偽札を使用したとされる疑惑は、事実の検証や裁判もなく、警官が勝手に人を殺してもよい根拠にはならない。 しかし、警察も含めたアメリカの司法システムは、軽犯罪から重犯罪まで、同じ罪を犯しても黒人には白人よりもはるかに重い刑罰を課しており、いずれも刑法に則った量刑だが全体の統計を見れば明らかに量刑に人種差別が現れており、人口当たりの受刑者の比率は、ラテン系男性は白人男性の2倍、アフリカ系男性はさらに5倍に上るそうだ。 アメリカは、1950年代以降に国内で活発化した公民権運動により、1964年に合衆国連邦議会で公民権法成立させ、合衆国内において職場・公共施設・連邦から助成金を得る機関・選挙人登録における差別を禁じ、白人と黒人の分離教育を禁じてハードコアな人種差別は数十年前に撤廃しているが、人種差別自体は社会制度、行政制度などに染み付いた慣習として今も続いており、特に問題なのはSystemic racism, institutional racism (機関的、制度的人種差別)だそうだ。 3)日本にもある人種差別・外国人差別 日本でも、*5-1のように、警察はじめ司法システムによる差別に基づく暴力は日常的に行われており、日本の場合は、「人種」ではなく「外国人」や「民族」というくくりの差別だ。確かに、入管は入所者の人権を無視した肉体的精神的暴力を日常的に振るっており、メディアも「外国人が増えて犯罪が増えた」などという偏見に満ちた報道を平気で行っている。 4)では、どうすればよいのか? 日本における人種差別・外国人差別は、日本人男性を優遇する点で日本人女性に対する差別と同根だ。そのため、まず、国連で差別撤廃条約を作り、それに批准する国は、国内で公民権法を作って人権を護り、あらゆる差別を禁止するようにすればよいと思う。 (参考資料) <女性蔑視発言は“言論の自由”“表現の自由”に入らないこと> *1-1:https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20200527/KT200526ETI090005000.php (信濃毎日新聞 2020.5.27) ネット中傷 幅広い観点から抑止策を 痛ましい出来事である。22歳の女子プロレスラーが亡くなった。出演したテレビ番組の言動を巡ってSNS上で誹謗(ひぼう)中傷の集中砲火を浴びていた。遺書のようなメモが見つかっており、自殺とみられる。死を前にした「愛されたかった人生でした」とのツイートに胸が痛む。心無い言葉を個人に浴びせかけるネットの暴力がなくならない。投稿している人は匿名をいいことに日頃の鬱憤(うっぷん)を晴らしているだけの気軽さかもしれない。それが一人に集中した時、有名人であれ、一般人であれ、痛みや疎外感は極めて大きい。特に若い世代は社会との「つながり」の相当部分をネットで築いている。命を絶つほどの苦しみを覚える危険がある。発信者には罪の意識はないのだろうか。誰も助けられなかったのだろうか。日本は海外に比べ、SNSの匿名利用が突出して多いとされている。匿名の投稿が言葉の暴力や人権侵害の温床となっている側面は否定できない。プロバイダー責任制限法では、被害者が損害賠償を求める上で発信者情報の開示を事業者に請求できるが、「権利侵害が明確でない」と開示されないことも多い。訴訟は被害者の負担も大きい。高市早苗総務相は悪意ある投稿を抑止するため、発信者の特定を容易にする制度改正の検討を本格化させる考えだ。確かにスムーズな情報開示は暴力の抑止を期待できる。半面、社会に与える副作用にも注意深く目を向けねばならない。例えば、政治家や利害関係者が正当な批判に対しても安易に発信者情報の開示を求め、圧力をかける心配はないか。言論全体を萎縮させる懸念も考えられる。表現の自由とのバランスが絡む。短兵急な対応でなく、幅広い観点から抑止策の検討を重ねたい。ネット事業者は人権侵害を放置してはならない。出演したのは、若い男女の共同生活を記録する「リアリティー番組」だった。「台本のないドラマ」として近年人気がある。視聴者は恋愛を中心とした人間関係の展開に一喜一憂し、知人の出来事のように共感する。番組内の言動から出演者のSNSが炎上することは過去にもあったはずだ。テレビ局側も、出演者の保護などについて省みるべき点があるのではないか。自由かつ安全で、責任ある発言が交わされるネット空間を実現したい。待ったなしの問題だ。 *1-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59930380T00C20A6SHF000/ (日経新聞社説 2020/6/3) ネット中傷の撲滅へまず民間が動こう SNS(交流サイト)で誹謗(ひぼう)中傷を受けていたプロレスラーの木村花さん(22)が亡くなった。ネットはいじめの道具ではない。同じ悲劇を繰り返さず、政府の過度の介入を避けるためにも、まず民間の企業や利用者が真剣に解決策を考えてほしい。テレビ番組での木村さんの言動を巡り、人格をおとしめるような匿名投稿が相次いでいた。姿が見えない無数の相手からの攻撃だ。木村さんの自宅には、遺書とみられるメモが残っていた。どんなにつらかっただろう。匿名を盾にした言葉の暴力は許されるものではない。番組を盛り上げるためにSNSを使うケースは多いが、出演者の保護は十分だったのか。制作側はこうした点を徹底的に検証すべきだ。日本ではプロバイダー責任制限法に基づき、事業者にネット中傷の削除や投稿者情報の開示を請求できる。だが裁判に訴えても費用や時間がかかり、泣き寝入りを迫られる個人被害者は多かった。悪意ある匿名の投稿を防ぐため、政府は開示の手続きを簡素化する法改正を進める考えだ。発信者を特定しやすくなれば、安易な匿名投稿の抑止力となろう。ネット中傷の相談件数は年々増えており、誰がいつ被害者になってもおかしくはない。SNS各社に厳しいヘイトスピーチ対策を課す欧州などに比べ、日本の対応はむしろ遅すぎたぐらいだ。だが過剰な規制が自由な言論を妨げるのでは困る。そうならぬよう民間がやるべきことは多い。SNS各社は実名登録を促したり、利用規約で他人への中傷を明確に禁じたりする手立てが欠かせない。SNSは現代社会を支えるインフラだ。重大な権利侵害には相応の対策を取る責任がある。すでに各社は悪質投稿者の利用停止などを始めたが、企業任せでもいけない。第三者による自主規制団体を立ち上げるのは一案だ。学界や法曹界、報道機関などから幅広く知恵を募り、ネット中傷を巡る権利侵害の指針をつくれば、事業者側も情報開示に応じやすくなる。政治家や公人への批判まで封じられていないかを確認する一方、弱者を救済する相談窓口を設けることも必要だろう。若年層も含め、誰もが情報の送り手になれる時代だ。家庭や学校の役割も増す。自由で安全なネット社会を育めるかは、使い手一人ひとりの行動にかかっている。 *1-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/33268 (東京新聞 2020年6月4日) 総務省、投稿者の電話番号開示へ 要件緩和検討、ネット中傷対策で 総務省は4日、インターネット上で匿名による誹謗中傷を受けた際に、投稿者を特定しやすくするための制度改正に向けた有識者検討会を開いた。被害者がサイト運営者や接続業者(プロバイダー)に開示を求める情報の対象に、氏名などに加えて電話番号を含める方向でおおむね一致した。7月に改正の方向性を取りまとめる。論点の一つとして、発信者情報の開示を定めるプロバイダー責任制限法に基づき匿名の投稿者を特定する際の要件緩和も検討する方針を示した。投稿による権利侵害が明らかな場合とする要件はハードルが高く、被害者救済の壁となっている。 <女性差別の多い日本の“常識”> *2-1-1:https://digital.asahi.com/articles/ASMDK4SHTMDKUHBI01J.html?iref=pc_rellink_02 (朝日新聞 2019年12月18日) ジェンダーギャップ、政治参画に遅れ 自民に薄い危機感 ジェンダーギャップ(男女格差)の大きさを国別に順位付けした世界経済フォーラム(WEF)の2019年の報告書で、日本は153カ国中121位で過去最低だった。女性の政治参画の停滞が順位に影響した。日本は調査対象の衆院議員で女性が10・1%。閣僚は9月の内閣改造前まで19人中1人の5・3%で、順位を下げる要因になった。政治への女性進出があまりに遅れている状況が、浮き彫りになった。だが、6割の議席を持ちながら女性比率は7%という自民党に、危機感は薄い。二階俊博幹事長は17日、記者会見で、日本の低迷ぶりを示す結果について感想を聞かれ、「いまさら別に驚いているわけでも何でもない」としたうえで、「徐々に理想的な形に直すというか、取り組むことが大事だ」と述べるにとどめた。男女の候補者を均等にするよう政党に求める候補者男女均等法の施行後、初めての国政選挙となった7月の参院選。自民の女性候補割合は15%で、安倍晋三首相(自民党総裁)も当時、「努力不足だと言われても仕方がない」と反省を口にしていた。菅義偉官房長官は17日の記者会見で、「各政党への取り組みの検討要請も進める」と語ったが、衆院議員の任期満了まで2年足らず。女性候補を大幅に増やす具体策は、打ち出せていない。自民の世耕弘成・参院幹事長は会見で「地方議員を経たり、企業や社会のいろんな組織における経験を経たりして国会議員になる。そういったところで、(女性の)層が厚くなっていくことによって、最終的に国会でも女性の数が増えるということになるのではないか」として、ある程度の時間が必要との認識を示した。鈴木俊一総務会長は「議員は国民が投票によって選ぶ。政治だけの責任のみならず、国民がどういう意識で選挙に臨むのかもあると思う」と語り、有権者の意識にも要因があるとの見方を披露した。一方、野党は参院選で女性候補の擁立を進めた。立憲民主党の候補者の女性比率は45%、国民民主党は36%だった。55%を女性にした共産党の小池晃書記局長は、会見でこう踏み込んだ。「ジェンダー平等は国際的な潮流だ。日本はその流れに背を向けている。根底にあるのは戦前からの男尊女卑という古い政治的な思想。こういったものを克服する取り組みを強めたい」 ●韓国の取り組み「フェミニスト大統領の閣僚起用」 具体的な取り組みで男女格差を縮めた国もある。日本が昨年の110位から121位に順位を落とした一方、共に下位が定位置だった韓国は115位から108位に上がり、2006年の調査開始以来、初めて日本を抜き去った。差がついたのは政治分野(日本144位、韓国79位)。女性閣僚の割合が影響した。申琪栄(シンキヨン)・お茶の水女子大院准教授(比較政治学)によると、「フェミニスト大統領」を名乗る文在寅(ムンジェイン)大統領は17年の就任時、女性を一気に5人閣僚に起用した。文氏は、任期終了(2022年)までに「パリテ(男女半々)」にすると約束していて、実現できるか注目を集めているという。また、韓国は00年から、議員選挙で比例名簿の奇数順位を女性にするなどのクオータ(割り当て)制も導入。法改正を重ね、強制力を強めてきた。国会の女性議員の割合は16・7%で、日本の衆院の10・1%を上回る。申准教授は「日本でも首相の意思さえあれば、女性閣僚は増やせる。女性議員が少ないことを言い訳にせず、民間から登用しても良い。経済界に女性管理職を増やすよう言う前に、まず政治の世界で示すべきだ」と指摘する。日本は今回、女性管理職比率など評価がやや改善した項目もあったが、全体の順位が大きく後退した。上智大の三浦まり教授(政治学)は「平成の30年間、日本は男女格差を放置してきた。他方、諸外国は多様性を尊重し、女性にチャンスを与えようと、具体的なしくみを整えてきた。このままでは、日本は国際社会から取り残される一方だ」と指摘する。 *2-1-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/498406 (佐賀新聞 2020.3.10) 女性閣僚率、日本はG7で最低、世界は過去最高の21% 列国議会同盟(IPU)とUNウィメンは10日、女性の政治参画に関する報告を発表し、今年1月1日時点で閣僚ポストに女性が占める割合は21・3%で、過去最高となったことが分かった。15・8%の日本は113位で、先進7カ国(G7)では最下位だった。66・7%のスペインが首位で、61・1%のフィンランド、58・8%のニカラグアが続く。女性閣僚率は、同報告が最初に出た2005年には14・2%だった。今回の調査で、女性閣僚がいない国はベトナムなど9カ国にとどまったが、閣僚の半数以上が女性の国もわずか14カ国だった。また女性の財務相は25人、国防相は22人にとどまる一方、若者や高齢者、社会問題や環境といった分野の閣僚は女性が占める率が高くなっている。調査は190カ国を対象に実施され、北朝鮮、リビア、ハイチなどは含まれていない。国家元首または行政の長を女性が務める国は20カ国に上り、うち4カ国はスウェーデンを除く北欧諸国。世界の議会で議長に女性が占める割合は20・5%で、25年前と比較すると倍増した。 *2-2-1:https://digital.asahi.com/articles/ASN366RWVN36UTFK02R.html?iref=comtop_list_pol_n01 (朝日新聞 2020年3月7日) 男女格差、経済分野に原因? 首相答弁「政治」はスルー 男女格差解消の遅れは企業に主な原因がある――。そう受け取られかねない答弁を、安倍晋三首相が6日の参院本会議で繰り広げた。世界経済フォーラムが昨年12月に発表した各国のジェンダーギャップ(男女格差)では、日本は153カ国中121位と過去最低。共産党の大門実紀史氏がこの順位を取り上げ、「男女格差の原因はどこにあるのか。日本は女性の閣僚と国会議員の比率があまりにも低い。経済でも男女の所得格差が大きい」と見解を求めた。首相は「我が国の順位が低いのは、経済分野の女性管理職の割合が低いことなどが主な要因だ」と指摘。そのうえで、女性活躍推進法の整備や女性の就業人口増など、格差解消に向けた安倍内閣の実績を強調した。ただ、質問にあった国会議員や閣僚の女性比率の低さには直接言及しなかった。わずかに決意表明の部分で、「政治分野も含めて女性の活躍を促す政策を推し進める」と触れただけだった。世界経済フォーラムは毎年、政治、経済、教育、健康の4分野を調査し、順位を発表している。日本の順位を押し下げた大きな要因は政治分野。日本の衆院議員で女性が占める割合は10・1%。調査時点で女性閣僚は1人だったことも響き、前年の125位から144位に後退した。一方、前年117位だった経済分野は115位とほぼ横ばい。首相が言及した企業の女性管理職の割合に関する指数は、前年よりも上昇していた。 ◇ 第201回通常国会。国会や政党など政治の現場での様子を「政治ひとコマ」としてお届けします。 *2-2-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14394789.html (朝日新聞 2020年3月8日) (Dear Girls)女性役員ゼロ、自己責任? 全て男性の主要企業に聞く 世界経済フォーラム(WEF)の男女格差(ジェンダーギャップ)の最新の報告書で日本は過去最低の世界121位に沈んだ。その大きな要因が、政治や経済のリーダー層における女性の少なさだ。8日の国際女性デーを前に、朝日新聞が国内主要企業のうち「女性役員ゼロ」の14社に取材したところ、経営トップよりも女性本人の意識改革が必要だと考えている企業が多かった。日本の経済分野でのジェンダーギャップ指数は世界115位。なかでも女性の管理職割合での順位は131位と低い。指数の対象ではないが、日本の上場企業の2019年の女性役員比率(内閣府まとめ)は5・2%にとどまる。なぜ日本企業のリーダー層に女性が少ないのか。朝日新聞社が国内主要100社に年2回行っているアンケート対象企業のうち、最新の有価証券報告書などで取締役・監査役に女性がゼロだった企業14社に質問状を送り、11社から回答を得た。どんな条件が整えば女性役員が誕生しやすくなるかを聞いた質問(複数回答)で、最も多かったのは「女性社員の昇進意欲の向上」と「女性採用者数の増加」で各5社。これに対し「経営層の意識改革」と答えたのは2社、「男性社員の意識改革」は1社だった。女性役員がいない理由(複数回答)は、「役員は適性で選ばれるべきでジェンダーは指標にならない」「役員候補の世代は女性が少なく、管理職経験や役員適性のある女性がいない」が共に最多で6社だった。100社アンケート対象企業全体でみると、各社の女性役員の合計は153人(全体の9・3%)。このうち131人は社外取締役か社外監査役で、日本の主要企業ではほとんど「生え抜き」の女性役員を生み出せていない。このため日本の経済団体の役員構成も圧倒的に男性に偏り、大企業でつくる経団連では、正副会長計19人が全員男性だ。世界では、経営陣の構成は性別や人種が多様性に富んでいる方が、投資家から高い評価を得る傾向が強まる。米フォーチュン誌500社にランキングされる大企業の女性取締役比率は17年で22・2%に達する。内閣府が18年、機関投資家を対象に行ったアンケートでは、投資判断に女性活躍情報を活用する理由として7割近くの機関投資家が「企業業績に影響がある情報と考えたため」と答えた。多様性の確保が働き方改革による生産性の向上やリスクの低減につながるとみている投資家が多いという。「身内の男性ばかり」という日本企業の経営陣の構成自体がリスクになりかねない状況といえる。 ■「女性役員ゼロ」の14社 ニトリHD、近鉄グループHD、サントリーHD、スズキ、キヤノン、大日本印刷、JR東海、シャープ、信越化学工業、東レ、TOTO、DMG森精機、ミズノ、セコム *2-2-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14522465.html (朝日新聞 2020年6月23日) 「重要な仕事は男性」男女とも半数超 無意識の偏見根強く 21世紀職業財団調査 「重要な仕事は男性が担当することが多い」と思っている人が、総合職の正社員では男女とも半数超に上るとの調査結果を、21世紀職業財団が22日公表した。性別などに基づく「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)」が、仕事を割り振る立場の経営者や管理職に根強く残っている可能性があるとしている。同財団が今年1月、女性活躍の実態を把握するため、男女計4500人を対象にウェブで調査した。「重要な仕事は男性が担当することが多い」と思っている割合は、総合職の正社員でみると、大企業(従業員300人以上)は男性50・7%、女性55・5%。中小企業(100~299人)は男性56・5%、女性58・1%だった。総合職以外も含めた大企業の女性正社員でみると、2018年の53・7%から60・3%に増えていた。調査を担当した山谷真名・主任研究員は「アンコンシャスバイアスの存在を管理職向けに研修し、仕事の与え方を変えようとしている企業は増えているが、全体ではまだ難しい面がある」と指摘している。 *2-3-1:https://uuair.lib.utsunomiya-u.ac.jp/dspace/bitstream/10241/9105/1/32-7-Women.pdf#search=%27%E5%84%92%E6%95%99%E3%81%AE%E4%B8%AD%E3%81%AE%E5%A5%B3%E6%80%A7%E8%A6%B3%27 (東アジアの近代と女性、そして「悪女」 :金 多希 より抜粋) 儒教理念の中の東アジアの女性たちは「良妻」か「悪妻」かの二者択一の生しか生きられず、殆どの女性は男性が作り上げた社会規範「婦道」を守ることによって「良妻」になろうとしたが、そのような生き方に疑問を抱き、抵抗した人も存在し「悪女 」として厳しく処罰された。つまり、「悪女」は「良妻」の価値を高めるために利用されたのである。また、『礼記』は、女性は本来他人に服従する者として定めており、女性には自主的に行動する本分がないことを提示し、受動的に行動することを強要している。そして、「三従の道」として広く知られているのは、女性は幼い頃は父兄に従い、結婚後は夫に従い、また、夫が亡くなったら息子に従うべきであり、それ以外の女性の人生は主張できないように示されている。 *2-3-2:http://www2.biglobe.ne.jp/~remnant/bukkyokirisuto08.htm (仏教の「女性」、キリスト教の「女性」より抜粋) 仏教では「女性は女性のままでは仏になれない」。キリスト教では? 仏教とキリスト教の大きな違いの一つは、女性に対する考え方でしょう。仏典に、「女性は女性のままでは仏になれない」と書いてあるのを、あなたは知っていますか。女性は救われない、というのではありません。女性は女性のままでは成仏できない、女性のままでは救われない、というのです。女性は女性のままでは仏になれない。「仏教の女性観は、いささかひどい女性蔑視だと思います」こう語るのは、仏教解説家として知られる、ひろさちや氏です。氏自身は仏教徒ですが、続けてこう言っています。「というのは、仏教においては、まず女性は、女性のままでは仏や菩薩(仏の候補生)になれない、とされているのです。仏や菩薩になるためには、女性は一度男子に生まれ変わらなければなりません。それを、『変成男子』(へんじょうなんし)と言います。……これは、どうにも言い逃れのしようのない女性差別です」。この「変成男子」とは、どういうことでしょうか。仏教には、もともと女性は修行をしても仏になれない、という考えがありました。仏典にはこう書かれています。「悟りに達しようと堅く決心して、ひるむことなく、たとえ測り知れないほどの理知を持っているとしても、女性は、完全な悟りの境地は得がたい。女性が、勤め励む心をくじくことなく、幾百劫(一劫は四三億二〇〇〇万年)・幾千劫の間、福徳のある修行を続け、六波羅蜜(修行の六ヶ条)を実現したとしても、今日までだれも仏になってはいない」(法華経・堤婆達多品)。さらに、「なぜかというと、女性には"五つの障り"があるからだ」と述べ、女性がなれないものを五つ列挙しています。それらは、①梵天王になることはできない ②帝釈天になることはできない ③魔王になることはできない ④転輪聖王になることはできない ⑤仏になることはできない です。1~4の「梵天王」「帝釈天」「魔王」「転輪聖王」は、いずれもインドの神々を仏教に取り入れたものですから、現実には問題ないでしょう。しかし最後の「女性は仏になることができない」は、女性信者にとって大問題であるはずです。この「女性は仏になれない」という考えは、仏教の創始期からありました。実際仏典には、あちこちに女性を劣等視した言葉が見受けられます。なかには露骨な表現で、「女は、大小便の満ちあふれた汚い容器である」というような、耳を覆いたくなるような表現さえ少なくありません(スッタ・ニバータ)。「汚い容器」であるのは男も同じなのですが、どういうわけか仏典には、男については決してそのような表現がないのです。女性が劣った者であり、仏になる能力のない者であるという考えは、仏教の創始者シャカ自身が持っていたようです。実際、シャカは従者アーナンダに対して、「女は愚かなのだ……」と語っています。仏教は、インド古来の階級制度である「カースト制」は否定しましたが、女性差別の考えは捨てきれなかったようです。 <出生率の低下を女性の責任にした日本の愚行> *3-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14503438.html (朝日新聞 2020年6月6日) 昨年出生率1.36、大幅下落 出生数は最少86.5万人 人口動態統計 図:出生数と死亡数、合計特殊出生率の推移 1人の女性が生涯に産むと見込まれる子どもの数を示す「合計特殊出生率」は、2019年が前年より0・06ポイント低い1・36と、8年ぶりに1・4を割り込んだ。低下は4年連続。厚生労働省が5日発表した人口動態統計で明らかになった。出生率はここ3年、毎年0・01ポイントずつ低下していたが、19年は大幅な下落となり、人口の維持に必要とされる2・07からさらに遠ざかった。都道府県別では沖縄県の1・82が最高で、東京都が1・15と最低だった。19年に国内で生まれた日本人の子どもの数(出生数)は86万5234人と、前年を5万3166人下回り、統計がある1899年以降で最少となった。死亡数は戦後最多の138万1098人にのぼり、出生数から死亡数を引いた自然減は51万5864人と、過去最大の減少幅を記録した。出生率が下がり続ける背景には、親になる世代の減少や晩婚化などが挙げられる。25~39歳の女性人口は1年で2・0%減った。平均初婚年齢は夫31・2歳、妻29・6歳と夫妻とも6年ぶりに上昇した。第1子の平均出産年齢は15年以降、30・7歳で推移する。厚労省はまた、18年の結婚件数が前年よりも2万471組(3・4%)減ったことが翌年の出生率に影響したとの見方を示す。19年の結婚件数は59万8965組と、7年ぶりに増加した。改元に合わせた「令和婚」が増えたためとしている。政府は少子化対策の指針となる「少子化社会対策大綱」で20年までの5年間を「集中取組期間」と位置づけるが、出生数の減少に歯止めがかからない。今年5月に5年ぶりに見直した大綱では、25年までの目標として子どもがほしい人の希望がかなった場合に見込める出生率「希望出生率1・8」の実現を掲げた。人口問題に詳しい鬼頭宏・静岡県立大学長は「子育て世帯への経済的支援は大事だが、時間がかかっても男女格差のない社会に作り直す覚悟で臨まなければ、出生数増加にはつながらない」と話す。 *3-2:https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/580749 (沖縄タイムス社説 2020年6月4日) [少子化対策大綱]拡充の道筋が見えない 思い切った施策と、その施策を具体化する財源をセットで示さなければ、同じ轍(てつ)を踏むことになる。今後5年間の少子化施策の指針となる政府の「少子化社会対策大綱」が閣議決定された。昨年生まれた赤ちゃんの数が、統計開始以来初めて90万人を割る「86万ショック」という危機感を背景にまとまった指針である。大綱が目標とするのは安倍政権が掲げる「希望出生率1・8」。子どもの数や年齢に応じた児童手当の充実▽大学無償化制度の中間所得層への拡充▽育休中に支払われる給付金の在り方-などの支援策を提言する。子育てにお金がかかるため2人目、3人目を諦めたという夫婦は少なくない。多子世帯へ児童手当を手厚く配分するのは必要な支援だ。教育費に関しては、大学無償化の範囲を現在の低所得世帯から拡大するよう求めている。コロナ禍で学業継続への不安を訴える声が示すように、大学進学にかかる費用は中間層にも重くのしかかっている。育休中に雇用保険から支払われる給付金の充実は、男性の育休を取りやすくするための政策である。いずれも実現すれば一歩踏み込んだ対策といえる。しかし児童手当の充実も、大学無償化の拡充も、財源の裏付けはなく「検討」段階でしかない。目玉の育休給付金の引き上げは、当初、休業前の手取りと変わらない水準を目指す考えだったというが、大綱に具体的文言は盛り込まれなかった。 ■ ■ 合計特殊出生率が戦後最低となった1990年の「1・57ショック」を契機に、少子化は社会問題化した。政府はエンゼルプランに始まる支援策を次々と打ち出したが、対策は失敗続きで、少子化に歯止めをかけることはできなかった。安倍晋三首相はことあるごとに少子高齢化を「国難」と強調する。大綱も冒頭に「国民共通の困難に真正面から立ち向かう時期に来ている」と記す。にもかかわらず財源については「社会全体で費用負担の在り方を含め、幅広く検討」とぴりっとしない。国難という認識に立つのなら、施策を具体化する道筋を示すべきである。日本の「家族関係社会支出」がGDPに占める比率は低水準で欧州諸国に比べ見劣りしている。もう小手先の対応では、どうにもならないところまで来ているのだ。 ■ ■ 出生率全国一の沖縄でも少子高齢化は着実に進行している。80年代半ばまで2万人前後で推移してきた出生数が、今は1万5千人台。2012年には老年人口が年少人口を上回った。結婚や出産は個人の自由な意思に基づくものだ。ただ非正規で働く男性の未婚率が顕著に高いなど、経済的理由が少子化に影響を与えている側面は見過ごせない。県内男性の未婚率と県の非正規雇用率が全国一高いことは無関係ではない。若い世代の雇用の安定を図ることも必要不可欠な対策だ。 *3-3:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/614803/ (西日本新聞 2020/6/7) 病児保育、コロナ直撃で経営危機 働く親「なくなると困る」 ●3密回避で受け入れ制限 急な風邪や発熱で保育園や学校に行けない子どもたちを一時的に預かる「病児保育」の施設が、新型コロナウイルスの影響で利用が激減し、経営危機に直面している。全国病児保育協議会(東京)によると、病児保育施設は元々約6割が赤字経営だが、コロナ禍が追い打ちを掛けた形。一方、仕事を休めない親にとって「駆け込み寺」のような存在なだけに、存続を求める切実な声が上がっている。病児保育施設は、病気になった子どもたちを保育士や看護師が一時的に保育する施設。厚生労働省によると、病児保育施設は全国に1068カ所(2018年度)あり、多くが医療機関に併設されている。福岡市の施設を利用している保育士(40)は、インフルエンザが流行する冬に病気がちな息子(2)を預けることが多く、3日連続で利用することもあるという。「仕事をどうしても休めないときに心強い存在。病児保育がないと、仕事を辞めざるを得ない」と必要性を強調する。 ●「コロナかも」 全国病児保育協議会によると、新型コロナの感染拡大に伴い、インフルエンザや溶連菌といったコロナ以外の疾患だと確定できる場合のみ受け入れる施設や、呼吸器疾患以外を預かるといった基準を設ける施設が増加。休業した施設もある。福岡県内の企業主導型保育園に併設する病児保育施設では「インフルエンザだとしても、コロナがひも付いているかもしれない」(園長)として、3月から受け入れを事実上ストップした。6月に各種自粛が緩和されたため、基準を厳しくして徐々に受け入れ始める予定だ。小児科に併設した「ベビートットセンター」(福岡市)は三つある個室に最大計6人までを受け入れていたが、感染防止の観点から3月以降は1室につき1人の計3人に縮小。3月下旬から利用者は激減し、4月は前年同期の82人から21人と4分の1。5月は4人のみと厳しい状況が続く。預け先での感染を恐れ、利用を躊躇(ちゅうちょ)する保護者もいるという。 ●実績基に補助 施設にとっては利用者が減っても保育士などは確保しなければならず、人件費が経営を圧迫する。頼みの綱の補助金の一部も年間の延べ利用人数に応じて交付されるため、本年度は落ち込みが予想される。ベビートットセンターを運営する小児科医の米倉順孝さん(45)は「病児保育はセーフティーネット」と施設を続ける決意だが、経営の先行きは見通せないのが現状だ。緊急事態宣言は解除されたが、全国病児保育協議会に加盟する約750施設の多くで、利用者は定員を大きく下回っている。大川洋二会長は「本年度の実績にとらわれず、十分な交付金をお願いしたい」と訴える。 *3-4:https://www.jiji.com/jc/article?k=2020040900569&g=soc (時事 2020年4月9日) 不妊治療助成、1歳緩和 コロナ影響で時限的に―厚労省 厚生労働省は9日、不妊治療に臨む夫婦が新型コロナウイルスの影響で治療を延期するケースに対応するため、治療費の助成対象となる妻の年齢要件を時限的に緩和する方針を決めた。今年度に限り、現在の「43歳未満」を「44歳未満」にする。同省は近く通知を出す。日本生殖医学会は1日付の声明で、妊婦が新型コロナに感染すると重症化する恐れがあることなどを挙げ、産婦人科などに不妊治療の延期を選択肢として提示するよう求めた。医療物資や医療従事者が不足し、延期を余儀なくされる夫婦が増えることも懸念されている。体外受精や顕微授精を行う不妊治療は高額なことから、厚労省は患者の経済的負担を減らすため、助成制度を設けている。現行では一定の所得以下の夫婦に対し、治療開始時の妻の年齢が▽40歳未満なら通算6回まで▽40歳以上43歳未満なら同3回まで、原則1回15万円を支援している。今回の要件緩和は、新型コロナ感染防止を理由に、今年度は治療を見合わせる夫婦が対象。今年3月31日時点で妻の年齢が42歳である場合、延期後44歳になる前日までを助成対象とする。同じ時点で妻が39歳の場合は、従来40歳未満としていた通算6回の助成対象を1歳緩和し「41歳になる前日まで」にする。 <女性差別の結果> *4-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/497750 (佐賀新聞 2020.3.9) GDP、年7・1%減に改定、10~12月期、下方修正 内閣府が9日発表した2019年10~12月期の国内総生産(GDP、季節調整値)改定値は、物価変動を除いた実質で前期比1・8%減、このペースが1年続くと仮定した年率換算は7・1%減となり、速報値の年率6・3%減から下方修正した。企業の設備投資が落ち込んだことが要因。マイナス成長は5四半期(1年3カ月)ぶり。新型コロナウイルス感染症の拡大で、20年1~3月期も2四半期連続のマイナス成長となる可能性が高まっており、日本経済は長期停滞入りの瀬戸際に立っている。年率の減少幅は前回消費税増税時の14年4~6月期(7・4%減)以来、5年半ぶりの大きさだった。増税に伴う駆け込み消費の反動減や世界経済の減速、台風19号など経済を押し下げる要因が重なった。改定値は最新の法人企業統計などを反映して2月に公表した速報値を見直した。設備投資は前期比4・6%減と、速報値の3・7%減から下方修正した。減少幅は09年1~3月期(6・0%減)以来の大きさ。消費税増税対応の投資が一時的に増えた反動も影響した。個人消費は速報値の2・9%減から2・8%減に上方修正した。住宅投資は2・5%減、公共投資は0・7%増だった。輸出は速報値と変わらず0・1%減、輸入は2・6%減から2・7%減に小幅に下方修正した。景気実感に近いとされる名目GDPは1・5%減、年率換算で5・8%減だった。速報値の年率4・9%減から下方修正した。 *4-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/202003/CK2020030702000255.html (東京新聞 2020年3月7日) <女性に力を>「男女平等は世界全体の利益に」 国連「国際女性デー」記念行事 国連が定める「国際女性デー」(八日)の記念行事が六日、ニューヨークの国連本部であった。フィンランドのサンナ・マリン首相(34)ら世界の各分野で活躍する女性が「男女平等は女性のためだけでなく、全体の利益になる」などと不平等を是正する社会的、経済的な意義を訴えた。一九〇六年に世界で初めて女性の完全参政権を認め、男女平等の先進国として知られるフィンランド。マリン氏は国連加盟百九十三カ国中、女性の大統領や首相が計二十人(一月時点)にとどまる現状を指摘し、「この国連総会議場は世界各国が意見を聞いてもらう場だが、大抵の場合、それは男性の意見だ」と切り出した。フィンランドが女性政治家らの提案で四〇年代に無償の学校給食を導入し、共働きを支えて発展を遂げた実績などを例に「男女平等の実現には、政治的な意思決定をする立場に一層多くの女性を置くのが最良だ」と主張。「女性や女の子の権利を前進させてきた強い女性指導者らの努力と模範がなければ、きょう私が皆さんの前に立つこともなかったでしょう」と話した。一方、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさん(17)らに感化されて国連本部前でデモを続ける米国のアレクサンドリア・ビラセナーさん(14)は「世界の仲間と出会い、面白いことに気付いた。みんな女性。女性が環境活動を引っ張っている」と強調。その半面、読み書きできない人の三分の二を女性が占める実態に触れ、「地球を救うために変えなければならない」と女性が教育を受ける機会の重要性を説いた。 *4-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160930&ng=DGKKZO07810310Z20C16A9EE8000 (日経新聞 2016.9.30) 中里税調会長「所得税改革、複数案を提示」 政府税制調査会の会長の中里実東大教授は日本経済新聞のインタビューで、所得税改革の方向性について、複数案を提示し与党の判断をあおぐ可能性があると語った。 ―配偶者控除の見直しが焦点です。 「(改正前後の税収が同じになる)税収中立が条件のため、改革すると得する人と損する人がでてくる。損する人の声が大きくなれば民主主義では改革は実行に移しづらい」「働き方への中立性を阻害しないようにするには税制だけでは無理だ。一番は社会保険料の問題だ。年収が130万円を超えると社会保険料の負担が突然、生じる。また多くの企業が扶養手当を103万円や130万円を基準に支払っている。今回の議論をきっかけに社会保険料や手当のあり方を見直すきっかけになれば意義がある」 ―なぜ所得税改革が必要なのでしょうか。 「昨年、長い時間をかけて政府税調が実施した経済・社会の実態調査で、所得税制が現在の経済・社会の実態に合わなくなっていることがわかった。負担軽減のターゲットは若い低所得者だ。働いて稼いでもらいたい人達に光を当てる。女性が働きたいのに家に閉じこもるのもよくない」「増税じゃないかと疑う人がいるが、そうではない。豊かな人に負担をお願いするという方向は考えている。どの程度の所得以上かとなると調整は難しい」「税は利害調整だから、今回のような改革はソフトランディングもありえる。改革案を松竹梅と用意して、徐々に梅から竹という方向でもいいかもしれない。様々な改革メニューをだすのが政府税調の仕事だ。(政治が)必要な改革なら必要な時期に対応をとるのではないか」 <人種や性別による差別をなくすには・・> *5-1:https://news.yahoo.co.jp/byline/furuyayukiko/20200614-00183211/ (Yahoo 2020.6.14) ブラックライブスマター運動から考える警察の暴力と人種差別 (社会学博士 古谷有希子) この数週間、アメリカではコロナウイルス以上にBlack Lives Matter(黒人の命も重要だ)運動がトップニュースを占めている。日本でも報道されているようだが、かなり偏った伝え方をしているように思う。たとえばNHKはアフリカ系の人々に対する偏見に満ちた動画を配信してしまい、各国のニュースで批判され、更には駐日米大使も苦言を呈すという事態に陥った。また、ワシントン州シアトル市で抗議運動の一環として警察が立ち入らない「自治区」が立ち上がった経緯についても不正確な報道がなされているように思う。元々、シアトルの抗議活動は許可を得たものと得ていないものが混ざっていた(いずれも平和的デモ)。だが警察が暴力的、強制的に無許可デモを排除しようとしたことで、抵抗したデモ参加者たちにパトカーを燃やされ、更には混乱に乗じた略奪などが起こった。平和的デモ参加者まで逮捕し、催涙ガスを使用し、暴力的に対応し、街のあちこちを封鎖したからだ。結果として警察の暴力に対する市民の批判が更に強まり、警察はそのエリアからの撤退を決定した。警察が撤退した後、そのエリアをアーティストやアクティビストが「自治区」として掲げ、人種差別問題や警察の暴力の問題を壁画や音楽で訴える平和的抗議運動の中心地となっているのが現状だ。トランプ大統領は一連の活動を「テロリスト」と呼んで非難し武力行使を示唆しているが、シアトル市長は「政府の権威、権力に挑むのは市民の権利だ」として「自治区」や一連の抗議活動を擁護している。 ●抗議活動の発端となった警察による黒人男性殺害事件 そもそも、こうした抗議活動の発端となったのは5月25日にミシガン州のミネアポリス警察の警察官が暴行により46歳の黒人男性ジョージ・フロイドさんを殺害した事件である。フロイドさんがコンビニで偽札を使ったとして店員が通報し、駆け付けた警官によって殺害された。警官に首を後ろから押さえつけられたフロイドさんが「息ができないんです…」「ママ、ママ…」とうめき声を上げながらと死亡していく映像がSNSに流れ、多くの人がショックを受けた。8分46秒に渡りフロイドさんに暴行を加え窒息死させた警官の行動は、まさにアメリカの黒人が数百年間に渡り直面してきたリンチ、黒人差別そのものであり、人を人とも思わない白人警察の暴力性まざまざと見せつけた。フロイドさんが実際に偽札を使用したのか、もし使っていた場合それが故意だったのかどうかはわかっていない。仮に彼が偽札を故意に使用してたことが事実だったとしても、その程度の軽犯罪を犯した人を警官が不法かつ不当に殺害してよい根拠にはならない。殺害に関与した四人の警察官は全員懲戒免職となり、主犯のデレク・ショウビン元警察官は第二級殺人罪、第三級殺人罪、第二級過失致死罪で起訴されている。 ●警察の黒人差別 これまでもアメリカの警察はアフリカ系の人々を不当に扱ってきた。そのうちの殺害ケースの多くは射殺だが、警官が殺人罪で起訴されることは稀で、せいぜいが過失致死、多くの場合は何の罪にも問われずそのまま警官として働き続けている。アメリカの警察は「黒人は犯罪者が多い」「黒人は乱暴」といった人種的偏見に基づいた対応(racial profilingという)をしていると批判されている。黒人であるというだけで頻繁に職質を受けたり、車を止められたりすることは当たり前で、ひどい場合にはいきなり銃を向けられる、いきなり発砲されるということがずっと続いてきたからだ。近年も、おもちゃの銃で遊んでいた黒人の子どもが警官に射殺された事件、看護師志望の二十代の黒人女性が自宅で警官に射殺された事件など、警官による黒人の不当な暴行や殺害は枚挙に暇がない。それ以外にもトレイボン・マーチン殺害事件、アフムード・オーブリー殺害事件など、「自警」「自衛」と称して何の罪もないアフリカ系の人をリンチ殺害する事件も後を絶たない。そのため、アフリカ系の家庭では子どもがまだ小さいうちから「警官に呼び止められたら両手を挙げて動きを止めること」「必ずサーの敬称をつけて丁寧に話すこと」などを教える。特に男の子の場合にはこれを徹底して身につけさせなければ、その子の命に関わる。 ●今も残る人種差別 警察も含めアメリカの司法システムは、軽犯罪から重犯罪まで、同じ罪を犯しても黒人には白人よりもはるかに重い刑罰を課してきた。いずれも刑法に則った量刑であり、個々の逮捕や裁判の不当性は見えにくいが、全体の統計を見たときに明らかに量刑に人種差別が現れている。そもそも歩いているだけ、車で走っているだけで黒人だからと目をつけられて職質されるのだから、どんなささいな不法行為でも黒人の方が白人よりも捕まりやすいのは当然だ。たとえばアメリカではマリファナは州によっては娯楽使用も合法で、誰でも一度は吸ったことがあるような気軽なものだ。場合によってはたばこよりありふれているくらいなので、使用率は黒人も白人も変わらない。だが黒人は白人の四倍近くも「ただ持っているだけ」で逮捕されている。人口当たりの受刑者の比率は、ラテン系男性は白人男性の二倍、アフリカ系男性はさらに五倍にも上る。連邦刑務所の受刑者の八割、州刑務所の受刑者の六割はアフリカ系かラテン系である。運良く不起訴となっても、逮捕歴が残るので就職、住居、銀行ローンなどで生涯にわたる差別を受けることになる。黒人を完全に分離し、同じ学校に通うことを禁じたり、白人との結婚を禁じるようなハードコアな人種差別は公民権運動を通じて数十年前に撤廃された。しかし人種差別は社会制度、行政制度などに染み付いた慣習として今日も続いている。特に問題なのはSystemic racism, institutional racism (機関的、制度的人種差別)だ。 ●制度的人種差別 社会制度(法律、警察、役所や学校などの行政機関、行政・社会制度、教育機関、社会慣習まで様々なものを含む)には人種差別がこびりついている。「黒人だから」という理由で頻繁に職質をされたり、いきなり銃を向けられたり、重い量刑を課されるのは、司法や行政を担う担当者が人種的偏見に基づいた行動や決定を意識的、無意識的に行なっているからだ。こうした個人レベルの人種差別的行動や偏見が積み重なって社会や行政の様々なレベルでの白人と黒人との膨大な格差や差別となる。個人レベルで「黒人は凶暴だ」とヘイトスピーチをする人の数は減ったかもしれないが、社会全体での制度的人種差別は根強い。そして、個人レベルで差別行為を行わなくとも、差別を内包した社会で生活しているだけで、こうした制度的差別に加担することになる。アメリカには長きにわたる人種隔離政策の影響が色濃く残っており、その最たるものが居住区域と学区分けである。まず、アメリカの公立学校の財源は学区ごとの固定資産税に大きく依拠しているので、貧困層が多い学区は常に財政難に直面しており、教師や教材も揃えられないということもままある。そして、学区と居住区域が連動しているので白人中流家庭の多い区域は黒人貧困家庭の多い区域と学区が重なることを決して許さず、そのような状況になると猛抗議を行い阻止しようとする。白人中流層の多い区域でアフリカ系の人が家を購入しようとすると不動産屋や大家は白人相手よりも高い値段を提示する。黒人が流入するとその区域の白人が流出して地価が下がるため、それを避けようとするのだ。つまりジム・クロウ法(人種隔離法)が行なっていたことと同じことが、白人中流層居住地域では現在も事実上続いているのである。また、エボニーやジャマルなど「黒人に多い名前」で求人に応募すると面接に呼ばれにくいが、全く同じ履歴書を送っても名前が白人的だと面接に呼ばれやすいという研究もある。こうした差別や偏見、不当な暴力に立ち向かっているのが、今起こっている Black Lives Matter 運動なのである。コロナ渦にあって大規模な抗議運動などしてはコロナウイルスをさらに拡大させるという懸念もあるが、黒人を取り巻く人種差別の恐怖はコロナウイルスの恐怖を凌ぐ。黒人であるというだけで暴力を受ける社会で、アフリカ系の人々は安心してマスクも付けられない。顔を隠した強盗と間違われて即射殺などということになりかねないからだ。アフリカ系の人々が日常的に直面している不当な差別、暴力、偏見はコロナウイルス以上に多くのアフリカ系の人々を精神的に肉体的に傷つけ命を奪っている。 ●抗議活動の「暴徒化」は本当か? 抗議活動の一部が暴徒化しているという報道もあるが、前述したように「混乱に乗じて略奪などが起こっている」のであり、抗議活動が過激化して暴徒化するというのは必ずしも正確な表現ではない。そもそも、警察が暴力的な対応をしている結果として混乱が生じているのである。また、略奪や放火などの過激な行動を取っているのもアフリカ系の人々に限ったことではない。そもそも略奪などが起こる背景には、必要なものも手に入らない苦しい生活と厳しい経済格差がある。収入、雇用、財産、教育、ありとあらゆる面で、制度的人種差別を背景とした白人と黒人の歴然とした格差があり、その差は1960年代からほとんど変わっていない。暴動だと非難するだけではなく、異常なまでの富の不均衡、機会の不平等、人種差別の問題にこそ目を向ける必要がある。そもそも今日のアメリカの富の礎は奴隷制の上に築かれたものだ。アフリカ系の人々が何百年も耐え忍んできた暴力、差別、圧政、搾取に比べれば、暴動でほんの一部を取り返したとしても何の足しにもならない。社会運動において平和的抗議運動と暴力は容易に分離できるものではない。歴史を見ても、世界中で人権や独立などを求める平和的抗議運動はあったが、それだけで社会は動かなかった。インドでもフランスでもアメリカでも、非暴力運動と前後あるいは並行して暴力を否定しない社会運動があったことを忘れてはならない。今回の抗議運動も平和的デモだけではなかったからこそ、ネガティブな反応も含めて、より大きな注目を集めたという側面もある。注目を集めれば、当事者だけではなく問題意識を持つ多くの人が参加して、社会を動かす大きなうねりを生み出すことにつながる。たとえば今回の抗議活動にはアフリカ系以外にも多くの人が老若男女問わずに幅広く参加している。筆者の知人にも「自分は白人だからこの抗議運動に参加する社会的義務がある」と言って、参加している人がいる。抗議に参加していた白人女性や白人高齢男性が、デモを抑えようとする警察に暴行を加えられて重傷を負っている映像なども流れており、一連の抗議活動の発端となった警察の暴力性を更に強調する結果となっており、抗議活動はまだまだ収束する気配が無い。 ●日本にもある人種差別 黒人人口が非常に少ない日本で Black Lives Matter 運動や現在の警察に対するの抗議運動に対する関心が低いのは仕方のない面もあるだろう。しかし、同様の差別や警察をはじめとする司法システムによる暴力は日本でも日常的に起きている。日本では「人種」という括りよりも「外国人」「民族」のくくりで差別が行われることが多い。最近では渋谷警察がクルド人の男性に不当な暴力を振るっている映像がSNSに流れ、渋谷警察署前に200人が集まる抗議活動があった。そして、入管は入所者の人権を無視した肉体的精神的暴力を日常的に振るっている。日本でよく聞く「外国人が増えて犯罪が増えた」などというのも全く根拠の無い偏見だが、こうした差別的思考を持つ人は警官も含めて多い。外国人であるというだけで頻繁に職質されるのは、警察が外国人に対する強い偏見を持っているからだ。司法システム以外でも日本の外国人差別は根深い。たとえば「外国人お断り」を平然と掲げている賃貸物件は多いが、外国人だからお断りというのは差別以外の何ものでもない。また、高校無償化制度からの朝鮮学校除外、朝鮮学校に対する街宣、公然と繰り広げられるヘイトスピーチなど、在日コリアンに対する差別も深刻だ。そして、日本にも黒人差別はある。数年前には、新宿でナイジェリア人男性に対して「黒人は怖いからな」などと言いながら警察が暴行を加え、膝を複雑骨折させ重篤な傷害を負わせる事件があった。昨年は、大坂なおみ選手の肌の色を白くした日清のCMや「黒すぎる」などと揶揄する漫才が問題となった。いずれも「良かれと思って」「面白いと思って」行ったことだろうが、その背後にあるのは「黒い肌は醜い」という侮蔑的心情だろう。意識的であろうと無意識的であろうと、肌の白さこそ美しさの象徴であるとばかりに、異なる人種の人の肌を白く見せようとしたり、肌の色を嘲笑したり蔑むのは人種差別にほかならない。また、近年日本で台頭してきている「黒人ハーフ」アスリートについて、ポジティブな論調で彼らの成功を筋肉やバネなどの「人種的特徴」と結びつける評価を目にするが、それが生物学やスポーツ科学の皮を被った人種的偏見でないか批判的に考えるべきだ。大阪なおみ選手やサニブラウン選手を見て、彼らの成功を「黒人だから」と考えているとすれば、それは彼らの努力や個人の資質を無視する、人種的偏見以外の何物でもない。そもそも「人種」というのは科学的、生物的分類ではなく社会的分類である。アフリカ大陸は多種多様な人種・民族を抱える地域であり、いわゆる「黒人」とされる人たちの中にも、背の低い人もいれば高い人もいるし、太った人も痩せた人も、農耕民族も狩猟民族も牧羊民族もいる。アフリカ系の人々の肌の色もいわゆる白人のような色からチョコレート色まで多種多様だ。このように多様性に富んだ地域に住む人々を「アフリカ系」「黒人」と一括りにして、共通の「資質」「特徴」を論じること自体が非科学的である。また、アフリカの人々以上にアメリカの「黒人」は民族的にも、いわゆる人種的にも混血している(白人奴隷所有者は日常的に奴隷女性をレイプしていたから)。スポーツにせよ、社会、文化、経済面での成功にせよ、或いは失敗にせよ、それを安易に「人種」と結びつけることは人種的偏見に他ならない。スポーツが「黒人だから」成功できる程度のものならば、世界のアスリートは黒人だけで占拠されていなければおかしいが、現実にはそうではない。むしろ「運動に素質がある黒人の子ども」がいた場合、「黒人だからバネがいい」などという安易な人種的偏見がその子を特定のスポーツに誘導することになっていないか、その子から勉強や芸術など、他の分野のことを学ぶ機会を奪っていないか、親や教師は考慮する必要がある。たとえばアメリカではアメフト、バスケットボール、陸上競技はアフリカ系の選手が非常に多い一方で、ウィンタースポーツや水泳は極端に少ない。個々人の資質以上に、スポーツがレッスン費用や周辺のスポーツ施設の有無など「始めやすさ」「アクセスのしやすさ」、あるいは人種的偏見に基づいた周囲の期待などに大きく影響されるものだからだ。一見すると黒人差別とは無縁に見えるかの日本社会にも、アフリカ系の人々に対する偏見や差別は存在する。アメリカの抗議活動を「人ごと」「対岸の火事」と傍観するのではなく、警察の暴力と人種差別の問題を考えるきっかけとして捉えるべきである。 *5-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14526552.html (朝日新聞 2020年6月26日) 黒人の兄と白人の弟、同じ国、違う世界 米ミネアポリスルポ ■兄は職を転々、警官からの尋問絶えず 弟は博士号「差別で恩恵、責任感じた」 黒人男性のジョージ・フロイドさん(46)が亡くなった米ミネアポリスの現場に6月14日、ある兄弟が並んで立った。「人種を超え、共に祈りを捧げられ、うれしかった」と話した兄のチャド・リンダマンさん(52)は、褐色の肌。「黒人の声に耳を傾けたかった。差別の仕組みから恩恵を受ける立場として、責任を感じた」と語った弟のデイナ・リンダマンさん(49)は白人だ。黒人の父と白人の母の間に生まれたチャドさんは1歳のとき、ミネアポリス郊外の白人家庭に養子として迎えられた。2年後、デイナさんが生まれ、兄弟として同じ家庭で育った。チャドさんが小学校に上がると、学年120人で黒人は1人。同級生から「ニグロ」(黒人)と呼ばれ、好きな女子とダンスをすることもかなわなかった。先生は「勉強には向いていないから、スポーツをがんばりなさい」と言った。デイナさんは運動神経抜群の兄を「ヒーロー」と慕った。だが、11歳のとき、兄をイメージしてつくったのは肌が黒く、囚人服のような白黒の服を着た人形。無意識の差別の表れだと気づいたのは、大学で人種について学んだ後だった。兄弟は次第に、別々の道を歩んだ。野球の投手として頭角を現したチャドさんはマイナーリーグでプレーしたが、肩を壊し、3年で引退。貸金業などで働いた。一方、幼い頃から成績優秀だったデイナさんはハーバード大学院で仏文学の博士号を取得し、研究者となった。「黒人と、白人の子どもがなりたい職業のステレオタイプをなぞるようだった」と振り返る。チャドさんの人生に影を落とし続けたのは、警察との関係だった。白人が多いミネアポリスで警官に車を止められて尋問されることに嫌気がさし、黒人が多い南部アトランタに移ったが、そこでも尋問は絶えなかった。バーで運転免許証の提示を求められて断り、警官からスタンガンで撃たれて留置所に入れられたことや、スピード違反を理由に、拳銃を頭に突きつけられたこともあった。11年前にミネアポリスへ戻ってからは、奨学金ローンの取り立てや造園業など時給制の仕事を転々としてきたが、昨年に建設現場で大けがし、ホームレスになった。5月からは、市が提供する施設に身を寄せる。入居者の半数が黒人だ。5月25日、そこからわずか5キロ先で、白人警官がフロイドさんの首を約8分間押さえつけ、死亡させた。食料品店でたばこを買うために払った20ドルが偽札だったとして、店員が通報したことがきっかけだった。無言のまま、フロイドさんをひざで押さえ続ける警官の動画を見て、チャドさんは体が震えた。「黒人というだけで警官に疑いの目を向けられる。自分の経験がよみがえった」。米国では、黒人の方が警察から暴力を受けやすい傾向が顕著だ。米メディアの統計によると、年間で約1千人が警察に射殺されているが、黒人が射殺される率は白人の約2・5倍だ。ミネアポリスでは、黒人が人口の約2割にとどまるが、市警が押さえつけたり、たたいたりする「有形力の行使」の件数は、約6割が黒人を対象としていた。ミネソタ大准教授になったデイナさんは、「フロイドさんに起きたことは、兄に起きても不思議はなかった」と話す。自身は警官に職務質問されたことも、交通切符を切られたこともない。事件をきっかけに、久しぶりに兄と連絡を取り、現場を訪れた。白いメッセージボードに追悼の言葉を書き込むと、2人の影が映った。そこには、肌の色が映らない。「その瞬間、黒人と白人ではなく、ただの兄弟だと実感できた」と、デイナさんはシャッターを切った。 ■「白人、もはや国の代表でない」 デモ、人種・世代超え 米メディアによると、フロイドさんの事件に端を発した抗議デモは、全米の2千カ所以上で行われてきた。公民権運動を率いたキング牧師が1968年に暗殺されて以来の規模ともいわれる。警察による黒人の殺害を抗議するデモは、これまでもあった。ただ、今回は白人の若い世代が多く加わっているのが特徴だ。6月上旬にニューヨーク、ワシントン、ロサンゼルスで行われた調査では、参加者の6割以上が白人で、4分の3が34歳以下だった。フロイドさんの事件にかかわった4人の元警官がすぐに起訴されたのは、デモのうねりが影響しているとみられる。また、人種差別や奴隷制度に関連した人物の像が撤去されたり、企業が「差別的」とされた商品を見直したりするなどの動きも出ている。最後まで拘束されていた奴隷に、制度の廃止が告げられたことから「奴隷解放記念日」とされる19日は、デモの人数が特に膨れあがった。ニューヨークで加わったエリザベス・チャパさん(20)は、インスタグラムでデモを知ったという。「選挙で存在感を発揮してきた白人、富裕層、年配の人たちはもはや、この国を代表しているわけではない。フロイドさんの事件は、政治が我々の生活の一部なのだと、気づかせてくれた」。このエネルギーが11月に行われる大統領や議会の選挙にどうつながるのかも、注目される。上院選に向け、23日にケンタッキー州であった民主党の予備選では、差別の解消を訴えた35歳の黒人男性が予想以上の健闘を見せるなど、影響は既に出始めている。 <農業・製造業における男女共同参画> PS(2020年6月29、30日、7月2日追加):日本農業新聞が、*6-1のように、「①新型コロナ対策では世界で女性リーダーの手腕が際立った」「②性別に拘らず個性と能力を十分に発揮できる社会を目指して1999年に施行された男女共同参画社会基本法の施行から20年たっても、日本は男女格差が根強く残っている」「③誰もが働きやすく暮らしやすい農業・農村を作りたい」「④2019年度の『農業白書』は、『輝きを増す女性農業者』を特集した」「⑤生産者と生活者・消費者の視点を併せ持つ女性農業者が農業経営に関与しているほど利益増加率が高い」「⑥ 2019年までの20年間に農業系は女性の割合が10%増えて半数になった」「⑦農村地域の女性の人口は子育て世代の25~44歳で特に減少率が大きい」「⑧仕事に家事・育児を加えた労働時間は農林漁業者では女性が長く負担が大きい」「⑨収入を含め魅力的な職場を増やしていかなければならない」「⑩ライフステージに合わせて勤務時間や業務などを選べるようにする」等を記載している。①②は紛れもない事実だが、農業分野における③④⑤の認識があれば、農業に従事する女性の地位向上に大いに資するだろう。しかし、⑥にもかかわらず、⑦になる理由は、⑧のように農村では特に女性の地位が低く、女性にとっては住む魅力に欠けるからである。しかし、⑨を実現させれば、⑩のようにライフステージに合わせて勤務時間や業務を選ぶには、職住が接近し家族労働を中心とする農業の方が他の業種より優位だ。 また、*6-2のように、日本政府が「食料安全保障強化」を打ち出し、外国産から国産への原料切り替え等による国内生産基盤の強化や国民の理解醸成を進めるようにしたことは、国内農業に追い風になる。そして、農林水産物や食品の輸出も含めて加工食品や外食・中食向けの原料を国産に切り替えれば、国内での加工が増えて女性や外国人労働者の必要性はさらに高まる。 そのような中、外国人労働者の子どもは、教育すれば両国の文化を理解し日本をふるさととする貴重な人材になるにもかかわらず、日本には外国人労働者の子どもを邪魔者のように扱ったり、無視したりする見方がある。そのため、*6-3のように、国際人権規約や子どもの権利条約に従って外国籍を含めた子どもの「学ぶ権利」を保障する必要があり、これは不就学児を作らないために、早急にやるべきだ。 なお、*6-4のように、日産自動車(以下“日産”)は、①新型コロナによる販売不振 ②巨額の構造改革費用 で純損益が6,712億円の赤字に転落し、内田社長が6月29日の定時株主総会で「必ず成長軌道に戻す」と述べられたそうだが、①の販売不振は新型コロナ以前から起こっており、日産はEVや自動運転の強みを活かしてその中心顧客である女性や高齢者が気に入るデザインの車にそれらを組み込めばよかったのに、そうしなかったため不振に陥っているのであり、これは、日産が比較的若い男性を中心とする会社であることに原因があるだろう。また、②の構造改革は、グローバルな視野を持った外国人経営者ゴーン氏に対する反発にすぎず、経営の正攻法ではないため、そのまま進めば業績回復は難しいと思われる。 また、*6-5のように、2008年に開発を始めた三菱航空機の国産ジェット(MRJ)が航空会社への納入を6度も延期したのは、日本の技術力の低さを露呈した深刻な事態だ。先進国より遅れて開発し始めたジェット機なら、既存のものより何かで優れているか、今までにない航空機(例えば、燃料電池を動力とするとか)で代替品がないか、価格が安いかでなければ買う理由がないのに、三菱重工は価格が安いわけではない日本製品の技術力が劣っていることを世界中に見せつけてしまったのだ。従って、新型コロナは言い訳にすぎず、2番手なのに納入延期ばかりしている従来型航空機には期待できない。これは、少子化した日本で日本人男性に下駄をはかせて雇用した結果、創造力や技術力などの能力が落ちているということではないのか? (図の説明:1番左の図のように、農林水産地帯は自然エネルギーの宝庫であるため、発電は半農半Xの強力なXになりうる。また、左から2番目の図のように、農地は集積され担い手に集まってきているため、大規模農業も可能になりつつある。しかし、女性は、担い手の妻ではなく担い手になれるのかと言えば、右から2番目の図のように、2019年でもJAの正組員に占める女性の割合は23%程度で、担い手に占める女性の割合はもっと低い。さらに、JAの役員に占める女性の割合も10%以下だ。なお、1番右の図のように、外国人労働者は増加し続け、2018年には260万人を超えて重要な労働力になっているが、まだ外国人差別は多い) *6-1:https://www.agrinews.co.jp/p51148.html (日本農業新聞論説 2020年6月23日) 男女共同参画週間 多様性で魅力ある農を 今日から男女共同参画週間。新型コロナウイルス対策では世界で女性リーダーの手腕が際立ったが、男女共同参画社会基本法の施行から20年たっても日本では男女格差は根強く残る。コロナ禍で、働き方の多様性への意識が高まった。この風に乗って、誰もが働きやすく暮らしやすい農業・農村をつくりたい。同基本法は、性別にかかわらず個性と能力を十分に発揮できる社会を目指し1999年に施行された。同年施行の食料・農業・農村基本法も男女共同参画を規定。女性の社会参画を後押しする法が整備された。2019年度の「農業白書」は、両基本法施行から20年の節目として「輝きを増す女性農業者」を特集した。そこで紹介している調査結果が、女性の活躍の進展と、依然として参画を阻む要因を浮き彫りにしている。農業経営に女性が関与しているほど経常利益の増加率が高い。また、学科別高校生の男女比では、19年までの20年間に農業系は女性の割合が10ポイントほど増え半数になった。加工・販売など幅広い科目設定が奏功した。一方で、農村地域の女性の人口は、子育て世代の25~44歳で特に減少率が大きい。また「医療・福祉分野での需要増加で、女性労働力確保に関する競合が強まっている」(白書)。学ぶ段階で農業分野に意欲的な女性を得ながら、就職の過程で都市や他分野へ流出している。収入を含めて、魅力的な職場を増やしていかなければならない。女性の社会参画を阻む要因の一つは、今も家事・育児・教育・介護の負担だ。仕事に家事と育児を加えた労働時間は、農林漁業者では女性が長く、負担が大きい。女性活躍の指標として役員や管理職の数と割合を話題にしがちだが、労働を男女で分かち合うことが女性の参画の土台である。大事な視点は二つ。一つは、家庭内の役割分担の割合を可視化すること。家庭も組織である。特定の人の労働が過重なら全体が回らない。まずは家族会議から始めよう。もう一つは、ライフステージや能力に合わせて勤務時間や業務などを選べるようにすること。柔軟な勤務体系で従業員が定着している農業経営がある。また、得意分野で業務を分担し、妻が経営・販売を、夫が生産部門を担い収益を上げている事例もある。多様な働き方を可能にすることで、男女ともに働きやすくなる。全てをこなす女性のロールモデル(模範となる人物像)には無理がある。仕事と家事や育児などの役割全てを女性に求めるのはやめよう。頑張り過ぎて心身に不調を来たしたり、寿命を縮めたりする女性は多い。コロナ禍で国民が気付いたのは、農業や医療・福祉といった「生命産業」の大切さだ。これらを重視する経済・社会に変えていかなくてはならない。それには、生産者と生活者・消費者の視点を併せ持つ女性農業者の能力発揮は欠かせない。 *6-2:https://www.agrinews.co.jp/p51190.html (日本農業新聞 2020年6月27日) [新型コロナ] 政府、食料安保を強化 コロナ対応 国産切り替え推進 政府は26日、農林水産業・地域の活力創造本部(議長=安倍晋三首相)を開き、新型コロナウイルスによる食料供給リスクの高まりを踏まえ、農林水産政策の展開方向として「食料安全保障の強化」を打ち出した。外国産から国産品への原料切り替えなどによる国内生産基盤の強化、国民理解の醸成を進める。各施策で検討を進め「農林水産業・地域の活力創造プラン」や2021年度予算概算要求に反映する。安倍首相は「食料の安定供給は政府が果たすべき最も重要な責務。国内の生産基盤を強化し、食料自給率や自給力の向上を図ることが必要」だとし、関連政策の見直しを関係閣僚に指示した。同省は、新型コロナ発生後、中国産野菜の輸入が一時的に滞ったことなどを受け、日本にも影響が及んだと指摘。欧米では労働力不足で収穫などが停滞し、物流が混乱する恐れもあるとした。アフリカ豚熱や中東などで猛威を振るうサバクトビバッタなども挙げ、「食料供給を脅かす新たなリスクが発生」と分析。半面、国民の食料供給への関心が高くなっているとし、食料安保を今後の政策の柱に据えた。食料・農業・農村基本計画に盛り込んだ内容などを踏まえて取りまとめた検討事項のうち、「国内生産基盤の強化」では、加工食品や外食・中食向け原料の国産への切り替えを重視する。生産現場を支える取り組みとして、スマート技術の開発・普及や農業支援サービスの育成を挙げた。さらに、食料安保や農林水産業の役割への理解を促す国民運動を展開するとした。今後の政策課題のうち「農産物検査規格の高度化」は、穀粒判別機の導入拡大などを念頭に置く。一方、規制改革推進会議も農産物検査の見直しを検討事項に挙げており、近く政府への答申を取りまとめる。「セーフティーネットの見直し」では、収入保険について、野菜価格安定制度など関連制度全体を検証し、総合的な対策の在り方を検討する。農林水産物・食品の輸出額を30年に5兆円とする政府目標の実現に向け、中国向けの輸出などを強化することも盛り込んだ。 *6-3:https://www.kochinews.co.jp/article/377797/ (高知新聞 2020.6.29) 【外国人の就学】「学ぶ権利」を保障したい 日本も批准している国際人権規約や子どもの権利条約では、外国籍を含めた子どもの「学ぶ権利」を保障している。にもかかわらず、日本にいる外国籍の子どもは、その恩恵を十分受けることができなかった。やっとというべきだろう。政府が閣議決定した日本語教育推進の基本方針に、外国籍の子ども全ての就学機会確保を目指して状況把握を進めたり、日本語教育の水準向上を図ったりすることが明記された。さらに、外国人への日本語教育は国や自治体の責務とも記された。基本方針は、昨年施行された日本語教育推進法に基づいた指針だが、まだまだ第一歩にすぎない。就学していない子どもの詳しい状況確認を国は急ぐとともに、「学ぶ権利」が保障されるよう予算措置を含めた体制整備を進めるべきだ。文部科学省の昨年の調査で、本来なら小中学校に通っている年齢にもかかわらず外国人学校などを含めて不就学の可能性がある子どもは全国に約1万9千人いた。調査自体が初めてで、対象となる子ども全体の16%近くを占めたという。文科省によると、外国籍の子どもが公立小中学校への就学を希望すれば、国際人権規約などにより無償で教育が受けられる。しかし、日本人と違って外国人には就学義務がなく、それが不就学が増える理由の一つとされる。また、保護者や子どもが日本語を十分理解できなかったり、住んでいる自治体のサポートが整っていなかったりすると学校に行かないケースがあるという。在留外国人は、30年前の約108万人と比べて3倍近くの約290万人に増えている。昨年4月には外国人材を受け入れる新たな制度も始まり、家族を含めて外国人がさらに増加することが見込まれる。就学していない児童生徒を増やさないためには実態把握に加えて、自治体などによるきめ細かい日本語教育が大事になる。基本方針では、状況把握のために自治体の関連部署の連携を促した。例えば住民基本台帳や福祉、国際交流を担当する部署などが連携して就学状況を調べ、保護者に学校の情報を提供するよう求めている。日本語がよく分からない子どもや保護者らには、レベルに応じた語学教育が大切になる。基本方針では、日本語教育に関わる全ての人が参照できる学習や教育、評価の指標を作る計画も確認した。さまざまな施策に対して日本語教育推進法は国による財政措置を求めている。外国人のニーズにあった日本語教育が円滑に進むよう自治体への支援を急いでほしい。先進地の例を共有することも大切だ。外国人の働く工場が多い岐阜県可児市では、NPO法人と行政が連携した就学支援を長年続けている。「子どもは環境を選べない」。そんな思いで関係者は活動しているという。共生社会を支えていくには地域の協力が大切だ。 *6-4:https://www.chugoku-np.co.jp/news/article/article.php?comment_id=656964&comment_sub_id=0&category_id=1206 (中国新聞 2020/6/29) 日産社長「必ず成長軌道に戻す」 株主総会、巨額赤字を謝罪 日産自動車は29日、横浜市の本社で定時株主総会を開いた。2020年3月期連結決算は、新型コロナウイルスの影響による販売不振や、巨額の構造改革費用で純損益が6712億円の赤字に転落。内田誠社長兼CEOは業績悪化を謝罪し「必ず成長軌道に戻す。この危機を乗り越えたい」と述べ、株主の理解を求めた。赤字額は前会長カルロス・ゴーン被告が大規模リストラを実施した00年3月期(6843億円)に迫る。内田氏は「株主の皆さまには大変申し訳ない」と陳謝した。業績悪化に伴う株価低迷に関する株主の質問に対し「株価を健全なレベルに戻すことは経営層の使命だ」と強調した。 *6-5:https://digital.asahi.com/articles/ASN6H5RP6N6HOIPE01D.html (朝日新聞 2020年6月15日) 国産ジェット、開発態勢を大幅に縮小 コロナが追い打ち 三菱重工業傘下の三菱航空機は15日、国産初のジェット旅客機「スペースジェット(旧MRJ)」の開発態勢を大幅に縮小すると明らかにした。開発に向けた作業は一部中断され、いっそうの遅れは避けられない。これまで航空会社への納入を6度も延期したことで三菱重工本体の経営を圧迫。そこへ新型コロナウイルスが追い打ちをかけた。三菱重工は、新型コロナによる収益悪化を背景に、今年度のスペースジェットの開発費を約600億円と前年から半減させた。そのため三菱航空機は現在約1600人いる国内の従業員を段階的に半分ほどまで減らす。米国とカナダにある開発拠点3カ所のうち、米ワシントン州にある飛行試験拠点を除く2カ所を閉鎖することも決めた。実用化の大前提となる「型式証明(TC)」を取得するために昨年始めた米国での飛行試験も中断。新型コロナの影響で最新の試験機を日本から持ち込めないことなどを踏まえ、当面試験はせず、今年度中は過去の試験データの検証などにあてる。人員削減は近年積極的に採用してきた外国人技術者にも及ぶ。海外航空機メーカーでの経験が豊富なアレックス・ベラミー最高開発責任者は6月30日付で退任。後任は置かず、技術トップのチーフエンジニアに川口泰彦氏を据える。スペースジェットをめぐっては、2008年に始めた開発作業が難航し、航空会社への納入開始は度々延期されてきた。今年2月にはそれまでの「20年半ば」から「21年度以降」へ6度目となる延期を発表。現在開発する「M90」の後発機となる、より小型の「M100」の計画をいったん凍結することも決めている。新型コロナはスペースジェットを購入する立場の航空会社も直撃している。すでに約300機を受注済みだがキャンセルが発生する可能性もある。積極的な営業活動も見あわせている。コロナの沈静化まで開発も「足踏み」状態となる。 <変だった専門家会議と厚労省の論調> PS(2020年7月2、3日追加):PCR検査を抑制し、人との接触を避けて国民に我慢を強いることばかりを推奨した専門家会議と厚労省は、科学的にも人道的にもおかしかった。そのため、*7-1のように、厚労省と専門家会議が「①感染症予防の観点から、すべての人にPCR検査をすることはウイルス対策としては有効でない」「②設備や人員の制約のため、限られたPCR検査の資源を重症化の恐れのある方に集中させる」「③相談や受診の基準(目安)は37.5度以上の発熱が4日以上続いた場合」として、それを何カ月も改善しなかったことは、「④誰が、どういう目的で、そうしたのか」を専門家会議の議事録から明らかにすることが最も重要だと思う。この間、「⑤帰国者・接触者相談センターに電話しても基準にあわない」などとして患者が検査を受けられず、感染者を隔離しないことで感染が広がり、感染者自身も重症化して自宅で亡くなり、先進国とは思えない医療となっていた。さらに、トップが専門家会議のメンバーである日本感染症学会と日本環境感染学会は、「⑥PCR検査は早期に検査しても精度の点で頼りにならない」「⑦軽症例にはPCR検査を奨励しない」とPCR検査抑制を打ち出し、理由として「⑧患者が殺到して医療体制が混乱するのを防ぐ」とした。しかし、日本は多数の検査可能な施設があり、技術開発もできるため、PCR検査を増やそうと思えば増やせたのだ。 この専門家会議は、「⑨人と人との接触8割減」「⑩新しい生活様式」など医学的evidenceの示されないことを次々に発表していたため、6月24日に「十分な説明ができない政府に代わって前面に出ざるを得なかった」「コミュニケーションの専門家が必要」などと東京都内で会見していたのを見た時、私は専門家として責任逃れをしているように感じた。わかりやすい説明やコミュニケーションとは、根拠を示して明確に行う説明であるため、*7-2の西村経済再生担当相の会議廃止表明にもあまり違和感は感じなかった。にもかかわらず、メディアが途中経過の検証もせず、政治家のみを批判して専門家会議や厚労省の方針にメスを入れないのは、本当の批判機能を果たしていない。 なお、最近、換気が必要とも言われているが、窓を開けられないビルも多く、関東は放射性物質が飛んでいるため窓を開けるのも必ずしもよくない。そのため、私は、従来のエアコンの空気取り入れ口に換気扇のフィルターを張っているが、これでかなりの埃がとれる。本当は、*7-3の「空気清浄機付きエアコン」に変えるのがよいが、エアコンの中でプラズマや紫外線を発生させて殺菌した空気を出すようにすればさらによい。そして、これはすぐ製品化できて、食品工場・病院・学校・オフィス・家庭などで空気の流れを考慮して設置すれば効果的だろう。 結局、日本の新型コロナ死亡率は5.1%(死者数977人/感染者数19153人、7月2日現在)で、世界の新型コロナ死亡率は4.79%(死者数521,298人/感染者数10,869,739人、2020年7月3日現在)であり、統計の取り方に違いがあるので単純比較はできないものの、日本の死亡率は世界より高く、日本が低いとは決して言えなくなった。 *7-1:https://webronza.asahi.com/business/articles/2020061600003.html (論座 2020.6.16) PCR検査抑制論者たちの責任を問う、国民に我慢を強いた政府、専門家会議、医学会の役割と責任を検証する、木代泰之 経済・科学ジャーナリスト 新型コロナの第1波は、東京都で依然くすぶっているものの、2~5月に比べれば全国的に落ち着きを見せている。こういう時期にこそ第1波における課題を検証し、第2波、第3波に備えるべきだと考えるが、「それは収束後でよい」というのが、安倍首相の見解である。そこで筆者なりに、第1波でもっとも問題となった「PCR検査抑制論」について、政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議、日本感染症学会、日本環境感染学会などの資料をもとに、検証してみたい。 ●専門家会議は「すべての人にPCR検査はできない」 PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)検査法とは、ウイルス遺伝子の特徴的な一部を切り取り、特殊な液体の中で増幅させる検査法である。2月24日の専門家会議の見解は「PCR検査は新型コロナウイルスを検出できる唯一の検査法であり、必要とされる場合には適切に実施する必要がある」とし、PCR検査実施の意義を強調している。ところが、それに続けて「感染症予防の観点からは、すべての人にPCR検査をすることはウイルス対策としては有効ではない。産官学で努力しているが、設備や人員の制約のため、すべての人にPCR検査をすることはできない。限られたPCR検査の資源を、重症化の恐れのある方に集中させる必要がある」と述べている。つまり、コロナ感染を検出するにはPCR検査しかないが、PCR検査の能力が足りないので、重症化しそうな人以外は検査するなとブレーキをかけている。厚労省は2月17日に、相談や受診の基準(目安)を「37.5度以上の発熱が4日以上続く」と公表しており、24日の専門家会議はその方針を裏打ちした。このPCR検査抑制論が噴き出してきた2月は、冒頭のグラフのように検査体制が機能しなかった時期に当たる。 ●帰国者・接触者相談センターに電話しても相手にされず この頃、医療の現場では混乱が始まっていた。千葉県のある開業医はこう振り返る。「千葉で最初の感染者が出たのは1月31日。2月に入ると、コロナを心配する発熱患者が訪れ始めた。肺炎患者では喀痰検査、採血、画像診断などの結果を見て総合的に診断するが、コロナでは早期発見のためにPCR検査が必須。火事と同じで初期消火が一番大事なのです」。患者は窓口の帰国者・接触者相談センターに検査を依頼したが、症状が基準に達していないとして相手にしてもらえない。「そこで自分が直接電話したら、センターは『依頼が多すぎて対応できない』と断ってきた。第一線にいる医師として、なぜ診断=PCR検査ができないのか、憤慨にたえなかった」。一刻も早いPCR検査を望む患者や医師と、できるだけ検査をさせまいとする厚労省や専門家会議。そのギャップはあまりにも大きかった。 ●2009年に掲げた「PCR検査体制の強化」は実現されず PCR検査の必要性は、2009年の新型インフルエンザ(パンデミック2009)の流行時から強く認識されていた。厚労省が翌10年にまとめた報告書は、PCR検査体制の強化、危機管理の専門体制強化などを反省点として挙げている。しかし、それは文章に書いただけであって、PCR検査体制の強化は10年後の今年に至っても実現していなかった。台湾や韓国との違いはそこにあった。 ●「PCR検査は限界があり万能ではない」と抑制に動いた2つの学会 今回の緊急事態に、医学会はどのように対応していたのだろうか。日本環境感染学会は2月13日、PCR検査に関する最初のコメントを出した。検査の対象者を「37.5度以上の発熱や呼吸器症状があり、湖北省への渡航歴がある人、その濃厚接触者など」に絞っており、その後の感染急拡大について、今から言えば「甘く見ていた」ことは否定できない。2月21日には、日本環境感染学会と日本感染症学会が連名で声明を出した。「ウイルス検出のための検査(PCR法)には限界があります」という見出しの下、「新型コロナはインフルエンザに比べてウイルスが1/100~1/1000と少なく、検査結果の判定を難しくしています。特に早い段階でのPCR検査は決して万能ではないことをご理解下さい」と述べている。つまりPCR検査法は、早期に検査しても精度の点で頼りにならないとして、はっきりPCR検査抑制論を打ち出している。 ●更に「軽症例にはPCR検査を奨励しない」と踏み込む 更に4月2日、両学会は連名で臨床対応についての声明を出した。「PCR検査の対象者は原則、入院治療の必要な肺炎患者でウイルス性肺炎を強く疑う症例とする。軽症例にはPCR検査を奨励しない」と述べ、一段とPCR検査の抑制に踏み込んだ。「患者が殺到して医療体制が混乱するのを防ぐ」というのが理由だが、この10年間、厚労省がPCR検査の体制整備を怠り、そのしわ寄せが国民に来ていることへの言及はない。感染症の2学会が患者の殺到を抑える方向で政府と足並みをそろえたことで、大学や医療機関の研究者は委縮し、一部の人を除いて異論を述べる勇気を失ってしまった。この両学会のトップ(理事長)は専門家会議のメンバーでもある。 ●PCR検査が広く行えるよう政府に働きかけるのが学会の役目 先の千葉県の開業医は、第一線の医療現場の声として、「両学会は、政府のやり方を補完するのではなく、早期段階でもPCR検査が広く行えるよう、政府に対して人員や物資の動員、体制整備、予算確保などに全力を尽くすよう強く求めるべきだった」と、疑問を投げかける。加藤厚労大臣は5月8日、「37.5度以上の発熱が4日以上」という相談・受診の基準について、「目安だったのに基準のように誤解されていた」と述べ、勝手に「誤解」した国民や保健所に責任があるとした。上記の基準は、検査を望む国民や医師に抑制の圧力をかけ、PCR検査体制の不備という厚労省の失態を隠すことに本当の狙いがあったのだろうと、今にして納得がいく。 ●PCR検査が広く行えるよう政府に働きかけるのが学会の役目 先の千葉県の開業医は、第一線の医療現場の声として、「両学会は、政府のやり方を補完するのではなく、早期段階でもPCR検査が広く行えるよう、政府に対して人員や物資の動員、体制整備、予算確保などに全力を尽くすよう強く求めるべきだった」と、疑問を投げかける。加藤厚労大臣は5月8日、「37.5度以上の発熱が4日以上」という相談・受診の基準について、「目安だったのに基準のように誤解されていた」と述べ、勝手に「誤解」した国民や保健所に責任があるとした。上記の基準は、検査を望む国民や医師に抑制の圧力をかけ、PCR検査体制の不備という厚労省の失態を隠すことに本当の狙いがあったのだろうと、今にして納得がいく。 ●委員の発言記録がない専門家会議の議事録 今、PCR検査は従来の保健所、地方衛生研究所、国立感染症研究所という行政ルートの他に、地元医師会や自治体が民間検査会社と組んで独自に検査体制を整えつつあり、ようやく改善の方向に向かっている。もっと早い段階でそう動くべきだった。政府の専門家会議については、委員発言の議事録がなかったことが最近明らかになった。内部でどんな議論があったのか、PCR検査抑制には誰がどんな意見を言ったのか、不透明なままだ。政府に助言する専門家会議の議事録は、後日、政府の対応を検証するための重要な資料である。議事録が政府や官僚に都合よく作文されないためにも、委員発言は正確に残しておかなくてはならない。 *7-2:https://www.jiji.com/jc/article?k=2020062700143&g=pol (時事 2020年6月27日) 専門家会議、唐突に幕 政権批判封じ?政府発表前倒し―新型コロナ 新型コロナウイルス対策の方向性を主導してきた政府の専門家会議が突如、廃止されることとなった。政府が廃止を発表したのは、折しも会議メンバーが位置付けの見直しを主張して記者会見していたさなか。あっけない幕切れには、政権批判と受け取られかねないその提言を打ち消す思惑がにじむ。一連の経緯を検証した。 ◇苦い経験 「え?もう1回言って」。24日夕、東京都内で会見していた専門家会議の尾身茂副座長は、記者から西村康稔経済再生担当相が会議廃止を表明したことを問われ、戸惑いをあらわにした。専門家会議の見直し自体は、5月の緊急事態宣言解除前後から尾身氏らが政府に打診していたこと。この日の会見では、政府の政策決定と会議の関係を明確にする必要性を訴えていた。背景には「十分な説明ができない政府に代わって前面に出ざるを得なかった」(会議メンバー)ことによる苦い経験がある。会議は国内で流行が広がった2月、感染症専門家を中心に置かれ、「人と人の接触8割減」「新しい生活様式」などを次々と発表。政府は提言を「錦の御旗」とし、国民に大きな影響を及ぼす対策を実行に移した。その結果、専門家会議が政府のコロナ対応を決めているように映り、メンバーは批判の矢面にも立つことに。5月4日の安倍晋三首相の会見では、同席した尾身氏がPCR検査の少なさについて説明に追われた。会議の存在感が高まるにつれ、経済・社会の混乱を避けたい政府と事前に擦り合わせる機会が拡大。5月1日の提言では緊急事態宣言の長期化も念頭に「今後1年以上、何らかの持続的対策が必要」とした原案の文言が削られた。関係者は「会議の方向性をめぐりメンバー間でもぎくしゃくしていった」と明かす。 ◇高まる相互不信 揺れる専門家を政府は「どうしても見直すなら政府の外でやってもらう」(内閣官房幹部)と突き放していた。亀裂を表面化させない思惑が働いたことで最近になってから調整が進み、(1)会議の廃止(2)法的な位置付けを持つ新型コロナ対策分科会への衣替え(3)自治体代表らの参加―が固まった。当初は尾身氏らの提言を受け、25日に発表する段取りだった。それが覆ったのは24日の尾身氏らの会見直前。「きょう発表する」。西村再生相の一声で関係職員が準備に追われた。ある政府高官は西村氏の狙いを「専門家の会見で、政府が後手に回った印象を与える事態を回避しようとした」と断言する。専門家会議の脇田隆字座長や尾身氏には連絡を試みたが、急だったため電話はつながらないまま。「分科会とは一言も聞いてない」とこぼす専門家らに、内閣官房から24日夜、おわびのメールが送られた。後味の悪さが残る最後のボタンの掛け違い。会議メンバーの一人は「政治とはそういうもの。分科会で専門家が表に立つことはない」と静かに語った。 *7-3:https://www.bcnretail.com/news/detail/20191126_146567.html (BCNOR 2019/11/26) シャープ、業界唯一の「空気清浄機」付きエアコン 従来比99%ホコリ侵入抑制 シャープは11月26日、業界で唯一、空気清浄機を搭載したプラズマクラスターエアコンの新シリーズ「Airest(エアレスト)」4機種を12月19日に発売すると発表した。「室内の空気清浄」と「本体内部の清潔性」を徹底的に追求し、空気清浄機の業界基準をクリア。従来比99%ホコリの侵入を抑制するなど、業界No.1の空気清浄力を持つ独特な今回の製品は、年末商戦の目玉になるかもしれない。Airestシリーズは、従来のエアコンの本体構造を抜本的に見直し、空気の吸い込み口全てを集じんフィルターで覆った新構造を採用。これにより、空気清浄機の業界基準をエアコンで唯一クリアした。税別の実勢価格は22万円前後からとしている。室内の空気だけでなく、集じんフィルターがカビ発生の原因となるホコリや菌を除去するので、本体内部を清潔に保つことができる。フィルターで除去できない、付着したにおいやカビ菌にも効果を発揮する「プラズマクラスターNEXT」も搭載し、最適な空気環境を実現する。掃除をする際は、引き出して手入れできる。吹き出し口には、シャープ独自の上下両開きロングパネルで気流を制御。大きなパネルで、風を感じにくい快適な気流を遠くまで届ける。暖房時はパネルを下から開き、風を抑え込んで足もとに暖かい風を送る。冷房時はパネルを上から開き、天井方向へ風を持ち上げて、風が直接体に当たらないように制御する。Smart Appliances&Solutions事業本部の中島光雄副本部長は、「『空気の浄化』がエアコンの基本機能として求められている。ただ、従来の構造では、空気清浄機を搭載するとそれが抵抗になり、風量が低下してしまう。しかし、新製品は当社の空気清浄機に搭載されている機構を採用したことで、フィルターを搭載しても風量を低下させないようにした。空気清浄機と呼ばれる唯一のエアコン」と紹介した。このほか、気象予報を活用したクラウドAIによる運転制御により、日中から睡眠時まで快適さを保つ機能などを搭載。気象予報で得られたデータを基に、花粉やPM2.5への対策として風量/センサーの感度を最適化する。また、COCORO AIRアプリと連携すれば、フィルターなど消耗品の状況や部屋の汚れ度合を確認することができる。 <電通への委託の意味は・・> PS(2020年7月3日追加):新型コロナによる自粛で収入が減った中小企業に最大200万円支払う持続化給付金は、対象事業者が約200万もあるので、総額2兆円超の巨大事業だ。しかし、これは、経済波及効果のある前向きの投資ではなく、大損した人々にちょっと補填する程度の補助金で、そんなことをするよりも、ダイヤモンドプリンセス号への対応や検疫でしっかり防御し、技術力で検査数を増やして自粛に至らせなかった方が、よほど安上がりで今後の新製品開発に資したことは言うまでもない。 そういう持続化給付金だが、*8-1のように、経産省は業務を(社)サービスデザイン推進協議会(以下“協議会”)という電通関連のトンネル会社を通じて丸ごと電通に委託した。その委託費は、協議会が経産省から769億円で受注し、97%にあたる749億円で電通に再委託し、電通は業務の大部分をその子会社5社に外注し、子会社のうち電通ライブはさらに協議会設立に関わったパソナやトランスコスモス等に外注した。つまり、協議会から再委託された費用749億円は、電通とその子会社及び協議会設立に協力した会社が入手したことになる。検査数を増やして陽性者だけ隔離すれば一斉自粛などする必要がなかった上、市役所や税務署を使うなど持続化給付金を支払う他の効率的な方法もあるのに、経産省は電通関係に749億円も支払ったわけだ。 何故、こういう不合理な無駄遣いが起こるのかが最も重要で、それを解決しなければ国が破綻するまでこの無駄遣いは続くと思うが、経産省は多額の金を払って電通を味方につけておく必要があったようだ。その理由は、*8-2のように、新型コロナ騒動の間に原子力規制委員会が、2020年6月13日、日本原燃の使用済み核燃料再処理工場の事故対策が新規制基準に適合しているとする「審査書案」をひっそり了承し、本格稼働の前提となる新基準に事実上適合しているというお墨付きを与えたことだ。この間、メディアは電通の広告を通じた圧力が効いていたらしく、新型コロナに関する非科学的な報道を繰り返し、政治家の確定でもない買収疑惑に時間をさいたりしながら、原発には全く触れなかったが、このようなことは他にも多々あるのである。 2020.4.15毎日新聞 2020.6.4朝日新聞 (図の説明:1番左の図のように、日本は能力があったのにPCR検査を増やさず、左から2番目の図のように、感染者が増えて緊急事態宣言を出すことになった。そのため、営業自粛によって固定費を賄えない企業が続出し、企業が、右から2番目の図のような雇い止めや倒産に至るのを防ぐため、持続化給付金等が支払われることになった。しかし、コロナ関係支出は、1番右の図のように、第1次・第2次補正予算で総額約57.6兆円、持続化給付金だけで約4.3兆円にもなった) *8-1:https://digital.asahi.com/articles/ASN6X5597N6XULFA008.html (朝日新聞 2020年6月29日) 問題だらけの持続化給付金 経産省と電通へ疑念止まらず ●経済インサイド 新型コロナウイルスの問題で収入が減った中小企業などに最大200万円を払う持続化給付金。対象の事業者は約200万、予算総額は1次補正予算で2兆円超の巨大事業だ。新型コロナによるダメージが深刻になった3月末から、ばたばたと準備が進んだ。経済産業省は事業の手続き業務を民間に丸ごと委託することにした。事業者の公募を前に、経産省の担当者が複数回接触していたのが一般社団法人サービスデザイン推進協議会や電通の関係者だ。協議会は2016年に電通が中心となり立ち上げた。設立から経産省の事業を10件以上受注していた。経産省はコンサルティング会社「デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー」などとも接触しており、協議会や電通側だけ優遇したものではないと説明する。だが、経産省の担当者が面会した回数や時間などを比較すると、協議会がデロイトなどより上回っていた。公募には協議会とデロイトが参加した。締め切り直前の4月13日、両者は企画提案書を経産省に提出。分量は合計400ページ近い。経産省はその翌日の午後2時に、協議会を落札予定者と決めた。持続化給付金をめぐる疑問が強まっている。経産省が事業を民間委託するやり方や、電通への再委託などについて多くの問題点が浮上した。経産省は改善するとアピールしているが、情報開示は不十分で、多くの疑問は解けないままだ。入札における評価指標でもある「等級」は、落札できなかったデロイトは最高の「A」、協議会は「C」。経産省中小企業庁の職員5人で提案内容を採点し、協議会を選んだという。外部の専門家らに意見は求めていなかった。 ●電通のための「トンネル団体」? 経産省は採点結果など、選んだ理由について詳しく説明していない。入札予定価格やデロイトの入札価格も非公表だ。経産省が選んだ協議会は、東京・築地のビルに拠をかまえる。この事務所の電話番号は非公開で、事務所の入り口にあったインターホンは取り外された。野党の国会議員らが訪れても職員らの応答はなかった。設立以来、法で義務づけられている「決算公告」もしていなかった。協議会は経産省から769億円で事業を受注した。委託費の97%分にあたる749億円で、業務の大半を電通に再委託した。電通は業務の大部分を子会社5社にそれぞれ外注。子会社の電通ライブはさらに業務を、大手人材サービス会社のパソナやITサービス大手トランスコスモスなどに外注していた。協議会設立に関わった企業だ。実態のない団体が利益を抜いて仕事を丸投げしたのではないか――。こんな疑問が広がった。国会では野党側が、協議会は電通が公的事業を担うための「トンネル団体」だと追及を続ける。経産省は民間委託にあたって、なぜこんなやり方をしたのか。電通に直接発注しなかった理由について経産省は「どのような態勢で事業を受託するかは事業者側の判断」との立場だ。その上で、梶山弘志経産相は会見などで、支給対象者に電通が給付していると勘違いされかねないこと、電通の経理上好ましくないことなどを挙げてきた。こうした説明は、野党側や識者から反論された。支給対象者への振り込み名義は電通ではなく、勘違いされる恐れは少ない。経理上好ましくないといっても、企業の会計処理上の問題であり、直接発注できない理由にはならないとの見方がある。電通側は直接受注しなかったことについて、6月8日の会見で「協議会が給付金事業の経験を持っていた」などと説明している。経産省や電通の説明は説得力に乏しい。協議会を挟むことで、電通が業務を担っていることや利益や経費の内訳を見えにくくする狙いがあったのではないか――。こんな疑念が生じている。野党側は経産省へのヒアリングを重ねた。協議会や電通の担当者を出席させることも求めたが、経産省は拒否した。 ●電通はいくらもうかったのか 大きな「なぞ」は、電通がいくらもうかっているのかだ。電通は749億円で協議会から再委託された業務を、子会社5社へ645億円で外注していた。電通本体の主な利益になるのが「一般管理費」だ。経産省の規定により、まず外注費645億円の10%の64・5億円が計上できる。そこに、電通本体が担う広報費や人件費計36億円の10%にあたる3・6億円も加算できる。合わせると約68億円に上る。ここから家賃や光熱費などの支出、消費税分などを引いて余ったお金が電通本体のもうけになる。広報など実際の業務でも、手数料などとして利益が出ている可能性がある。外注先の子会社5社の利益も考えられるため、電通グループ全体でいくらもうかるのか具体的な金額はわからない。電通の榑谷(くれたに)典洋・取締役副社長執行役員は6月8日の会見で、最終的な利益を見通すのは難しいとしながら、「我々が通常実施する業務と比較すると、低い営業利益になる。不当な利益を狙うのはルール上、不可能な構造だ」などと主張した。経産省が事業をきちんと把握できていないのではないかといった懸念もある。経産省と協議会が結んだ契約では、再委託先などを含む事業の実施体制を記した「履行体制図」を出すルールがある。実施体制が変わればすぐに届け出なければならない。契約当初の体制図には協議会を含め、経産省から見て3次下請け相当までの11事業者が記されている。実際にはコールセンター業務などで何段階にもわたって、委託・外注が重ねられていた。協議会は経産省に体制図の変更をすぐに届け出ないといけないのに、していなかった。5次下請けくらいまでの60以上の事業者を記した体制図が出されたのは、事業開始から1カ月半以上経った6月23日夜。関わる事業者はさらに増える可能性もあるという。契約では、個人情報や情報セキュリティーについて、委託・外注先を含めて責任者名や管理体制を届けることになっている。これも、きちんと行われていなかった。 ●税金の無駄遣い、チェックできず 経産省が事業の全体像を把握しておかないと、税金が無駄なく使われているのか、業務が適切に行われているのかチェックできない。給付が一部で遅れたが、多重下請け構造もあって経産省の監視は十分には機能せず、責任の所在もあいまいになっている。経産省は事業について「中間検査」をする方針だ。事業終了後には精算をして「無駄なお金が出ていれば返還要求をしていく」(梶山氏)という。だが、末端の下請け企業の業務内容まで見るのは難しい。支出した金額が、適正な水準なのかどうか判断するのも困難だ。全国の中小企業などにいち早く給付金を届けなければいけないこの事業。経産省には民間に頼らざるを得ない事情がある。経産省は地方に経済産業局があるものの、拠点数は比較的少ない。ハローワークがある厚生労働省や、税務署がある財務省など他の省庁に比べ、対応能力に余裕はない。民間への業務委託先として、経産省が頼りにしてきたのが電通だった。ある広告業界関係者は、電通の企画力の高さや仕事の速さは「図抜けている」とし、こう話す。「いざとなれば電通に頼めばいいという考えがあるのではないか」 ●「前田ハウス」でパーティー 民間委託そのものが悪いわけではない。ほかの省庁や自治体などでも取り入れられているし、行政の効率化につながるとの見方もある。委託する場合は公平に業者を選び、税金を適切に使って、国民から理解されることが大前提だ。ところが、今回の事業では、国民が疑問を持つようなことが次々に発覚している。事業の責任者である前田泰宏・中小企業庁長官が、2017年に米国でのイベントを視察した際に、会場近くに借りたアパートを「前田ハウス」と称して連日パーティーを開いた。そこには、電通出身で、当時は協議会理事だった平川健司氏も同席していた。前田長官は国会で平川氏との関係を聞かれ、このパーティーとは別に2回ぐらい食事をしたことがあることも明らかにしている。野党側は経産省と電通の「蜜月ぶり」を示すものだと追及している。持続化給付金とは別の経済対策「家賃支援給付金」をめぐっては、電通の圧力問題が波紋を広げる。電通の管理職で持続化給付金の事業を担当していた社員が、イベント会社テー・オー・ダブリュー(TOW)の社員に、ライバルの広告大手博報堂に協力しないよう発言していた。持続化給付金で電通から仕事を請け負うTOWの社員は、発言をまとめ下請け企業の担当者に対話アプリで送っていた。「事業に協力をした場合、給付金、補助金のノウハウ流出ととらえ、言葉を選ばないと出禁レベルの対応をする」「すいませんが、強制的にお願いしたい次第です」などの内容だ。家賃支援事業の公募には博報堂も参加したが、経産省が選んだのはリクルート。博報堂は落選した。 ◇ 情報をお寄せください。eメールアドレスt-rodo@asahi.com *8-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/16839 (東京新聞 2020年5月13日) 青森・六ケ所村 核燃再処理 新基準「適合」 規制委了承 稼働は見通せず 原子力規制委員会は十三日の定例会合で、日本原燃の使用済み核燃料再処理工場(青森県六ケ所村)の事故対策が新規制基準に適合しているとする「審査書案」を了承した。本格稼働の前提となる新基準に事実上適合した。今後、一般からの意見公募や経済産業相への意見照会などを経て、正式適合となる。再処理工場では、原発の使用済み燃料から、再利用できるプルトニウムやウランを取り出す。燃料を繰り返し使う国の「核燃料サイクル政策」の中核施設とされ、適合は稼働に向けた一歩となる。ただ、適合後も設備の工事計画の審査が続くため、稼働時期は見通せない。核兵器に転用可能なプルトニウムの大量保有は国際社会から懸念を招きかねず、工場が完成しても、どれほど稼働できるかは不透明だ。原燃は二〇一四年一月に審査を申請した。耐震設計の目安となる揺れ(基準地震動)を最大加速度七〇〇ガルと想定。海抜五十五メートルにあり、津波の影響は受けないとした。再処理の工程で発生する溶液や廃液が蒸発し、放射性物質が拡散する事故などに備え、冷却設備や電源を強化したとしている。十三日の会合では、規制委事務局の担当者が審査内容を説明し、五人の委員がそれぞれ重大事故対策などについて問いただした。最後に更田豊志(ふけたとよし)委員長が「審査結果に異存はないと考えてよいか」と問い掛け、委員から異論は出なかった。 ◆「核燃サイクル」必要性に疑問 建設費は当初計画の四倍の約三兆円、完成延期は二十四回、着工して二十七年でも未完成-。原発の使用済み核燃料の再処理工場(青森県六ケ所村)。民間企業ならば断念していたはずの施設が、稼働の条件である原子力規制委員会の審査を事実上通過した。繰り返し核燃料を再利用できるかのように宣伝してきた「核燃料サイクル」という夢のような政策を実現する要の施設は、稼働の必要性に大いに疑問がある。東京電力福島第一原発事故後、五十四基稼働していた原発は廃炉が相次ぎ、規制委の審査で再稼働したのは九基。今後再稼働する原発が増えたとしても、再処理で取り出したプルトニウムとウランを混ぜて作るMOX燃料を使える原発は限られ、消費量が少ない。また、MOX燃料のみを使うはずだった高速増殖原型炉もんじゅ(福井県)は廃炉。再生可能エネルギーが台頭する中、政府は原発の新増設を打ち出しておらず、高コストのMOX燃料を使う経済性に欠ける。消費者が支払う電気代が元となった約十四兆円という巨費が投じられてきた核燃料サイクルは、実現困難で破綻が明らかだ。ただ、再処理撤退も簡単ではない。最大の壁は、六ケ所村内に貯蔵されている大量の使用済み核燃料が「核のごみ」になること。青森県との取り決めで県外に運ぶ必要があるものの、各原発に置き場がなく、最終処分場は確保の見通しすらない。夢に固執したツケが重くのしかかる。 <核燃料サイクル政策> 原発の使用済み核燃料からプルトニウムやウランを化学処理(再処理)で抽出し、混合酸化物(MOX)燃料として再利用する政策。燃料の有効利用が目的で高レベル放射性廃棄物の量も少なくなるとされるが、中核となる再処理工場の完成が遅れ、各地の原発で使用済み燃料がたまり続けている。政府、電力業界は普通の原発でMOX燃料を使うプルサーマル発電を進めるが、東日本大震災以降、実施したのは4基にとどまる。 <ふるさと納税訴訟の最高裁判決は当然だった> PS(2020年7月4日追加):*9-1のように、(私が提案してできた)ふるさと納税制度から除外した総務省の決定は違法として、泉佐野市が決定取り消しを求めていた訴訟の上告審判決で、最高裁第3小法廷(宮崎裕子裁判長)が、6月30日、国側勝訴とした大阪高裁判決を破棄して総務省の決定を取り消すよう命じた。宮崎裕子裁判長の判決は法治国家なら当然のことであり、これまで国側勝訴としていた大阪高裁の男性裁判長は法律に遡及効がないことを知らなかったのかといぶかしく思い、いくつもの行政訴訟でまともな判決を出された宮崎裕子裁判長には敬意を表する。この訴訟の内容は、*9-2のように、「①総務省が『寄付額の30%以下の地場産品』」を返礼品の基準とする地方税法を2019年6月から開始し」「②法施行前に遡って、基準外の返礼品で寄付を集めていた泉佐野市などをふるさと納税制度から締めだした」ことが妥当か否かであり、法律に遡及効はないため、宮崎裕子裁判長が「総務省の決定を違法として取り消す」としたのは筋の通った、しかし勇気のいる判決なのだ。 泉佐野市は、*9-3にも書かれているように、i)地元関西空港に拠点を置く格安航空会社(LCC)の航空券購入に使えるポイント ii)アマゾンのギフト券 などを返礼品とすることによって寄付額を伸ばし、2017年度から2年連続で全国一の寄付を集めたことが問題視されたが、私は、i)については地場産品と見做してよいと考える。 それよりも、工夫して寄付金を集めると「③返礼品競争の過熱がいけない」「④高所得者ほど得をする仕組みがいけない」「⑤ランキング形式で返礼品を紹介する仲介サイトの存在がいけない」「⑥制度を廃止せよ」など、無駄遣いが多くて工夫のない都市部から苦情が起こり、そちらが優先されたことの方がよほど大きな問題だ。何故なら、③の返礼品については、それぞれの自治体が自慢できるものを出して地場産を磨いた方が国全体のGDPが上がる上、その中には、農水産物だけでなく、LCC航空券や音楽会への入場券等があっても不思議ではないからだ。また、④の高所得者ほど得をするというのも変で、高所得者を大人になってから受け入れた自治体の方がずっと得しており、高所得者になるまで育てたふるさとが、個人住民税所得割額の約20%(https://furusatoplus.com/info/003/ 参照)を上限としてふるさと納税を受けても全くおかしくなく、その高所得者の老親もふるさとでケアされているのに、何と利己主義なことを言っているのか。さらに、⑤の競争がいけないというのは共産主義経済が破綻した理由そのものであり、⑥の制度廃止を唱える人やメディアがあるのは、逆切れとしか言いようがない。なお、「返礼品を廃止せよ」という声もあったが、そう言った本人は九州豪雨などに返礼品なしでいくら寄付するのか、また全体でいくら寄付が集まるのか見ものだ。 *9-1:https://www.sankeibiz.jp/workstyle/news/200630/cpd2006301615002-n1.htm (産経BZ 2020.6.30) 泉佐野市の除外決定を取り消し ふるさと納税訴訟の最高裁判決 ふるさと納税制度から除外した総務省の決定は違法だとして、大阪府泉佐野市が決定取り消しを求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第3小法廷(宮崎裕子裁判長)は30日、除外に違法性はないとして国側勝訴とした大阪高裁判決を破棄し、総務省の決定を取り消すよう命じた。泉佐野市の逆転勝訴が確定した。高裁判決などによると、泉佐野市は地場産品以外の返礼品に加えアマゾンのギフト券を贈る手法で寄付を募り、平成30年度に全国の寄付総額の約1割にあたる約497億円を集めた。総務省は昨年6月の改正地方税法施行に伴い「返礼品は寄付額の3割以下」などの基準を設定した新制度をスタート。法改正前に高額な返礼品で多額の寄付を集めた泉佐野市など4市町の参加を認めなかった。 *9-2:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1148085.html (琉球新報社説 2020年7月2日) ふるさと納税国敗訴 後出しルール許されない ふるさと納税の新制度から大阪府泉佐野市を除外した総務省の決定を巡る裁判で、最高裁は6月30日、国勝訴とした大阪高裁判決を破棄し、総務省の決定を違法として取り消した。泉佐野市の逆転勝訴が確定した。特定の地方自治体を排除しようとした国の強権的な手法を厳しく批判した内容であり、妥当な判決だ。法廷闘争の原因は、ふるさと納税を巡る自治体間の寄付獲得競争の過熱だ。豪華な返礼品を呼び水に寄付を集める自治体が相次ぎ、制度の本来の趣旨とは違う運用のゆがみが目立っていた。こうした過度な競争を防ぐ目的で、国は2019年3月に地方税法を改正する。総務省は「寄付額の30%以下の地場産品」を返礼品の基準とする新制度を同年6月から開始し、それまでに基準外の返礼品で寄付を集めていた泉佐野市などをふるさと納税の制度から締めだした。国の方針に従わなかった自治体に対し、新たな法制度を作り、施行前にさかのぼって責を負わせることが許されるのかが裁判の焦点になった。最高裁の示した判決は明確だ。「新制度移行前の募集実態を参加可否の判断材料にするといった趣旨はない」と改正地方税法の解釈を示し、過去の多額な寄付金集めを理由とした総務省の除外決定は違法と結論付けた。新しく作ったルールを過去にさかのぼって適用することを認めてしまえば、国の意に沿わない自治体を「後出しじゃんけん」でいくらでも狙い撃ちできることになる。2000年施行の地方分権一括法で、国と地方の関係は「上下・主従」から「対等・協力」へと改められている。国の技術的助言に従わないからといって、地方自治体に不利益な取り扱いをすることは許されない。寄付集めをエスカレートさせた泉佐野市に眉をひそめる部分があるとはいえ、自治体に対する国の関与は法的な根拠が厳格でなければならない。今回の判決は、地方自治や分権改革の成果を保持したという観点で評価できる。ふるさと納税制度も本来は、東京一極集中の税収格差を是正する地方自治の仕組みとして導入された。だが、自治体同士で税を奪い合い、地方間で新たな格差や分断を生むという矛盾を来している。泉佐野市はインターネット通販大手アマゾンのギフト券などを贈り、18年度に全国一の498億円の寄付を集めている。地域外の特産品や高額な返礼品でなりふり構わず寄付を集める手法に、最高裁も「社会通念上、節度を欠いていたと評価されてもやむを得ない」と苦言を呈している。制度導入時から想定されていた弊害を放置し、制度を進めてきた国の責任は大きい。ふるさと納税制度の見直しとともに、地方自治を保障する税制の在り方について本質的な議論を進めたい。 *9-3:https://kumanichi.com/column/syasetsu/1510003/ (熊本日日新聞 2020年7月2日) ふるさと納税判決 国と地方の関係再確認を ふるさと納税の新制度から除外された大阪府泉佐野市が起こした訴訟の上告審判決で、最高裁は請求を棄却した大阪高裁判決を破棄し、国の除外決定を取り消した。返礼品を巡る法規制が始まる昨年6月より前に、市が国の基準に従わず多額の寄付を集めてきた点を国が除外の理由としたことが争点となった。国側は過去の実績を判断材料とすることには合理性があると主張したが、最高裁は新制度が始まる以前の寄付金の集め方を問題にしたのは違法とし、除外決定は無効と判断した。確かに、寄付を“荒稼ぎ”する市の手法は、生まれ故郷などを応援するというふるさと納税制度の趣旨から外れている。とはいえ、意に沿わない自治体を狙い撃ちするかのように排除した国の姿勢は、地方分権の方向性を自ら打ち消すようなもので、あまりに強権的だった。国と地方は「対等・協力」の関係である。最高裁の判断を、そのことを再確認する機会としたい。ただ、市の寄付集めを巡っては、国が懲罰的に実施した特別交付税減額の取り消しを求める訴訟もあり、対立はなおも続く。制裁と反発を繰り返す実りなき対立は速やかに終わらせ、制度の立て直しを図るべきだ。2008年創設のふるさと納税制度で、泉佐野市は地元の関西空港に拠点を置く格安航空会社(LCC)の航空券購入に使えるポイントや、ネット通販大手のギフト券を返礼品とすることで寄付額を伸ばし、17年度から2年連続で全国一となった。こうした動きを問題視した総務省は返礼品の規制を本格化。17年4月には「調達費は寄付額の3割以下」、18年4月には「地場産品に限る」とする基準を設け、自治体に通知した。市は「一方的な押し付け」と反発。地場産品に限定すると自治体間に格差が生じるとして「自治体や有識者らを交えて議論すべきだ」と訴えた。だが総務省は耳を貸さず市への交付税を減額。基準に従う自治体だけを参加させる新制度から市を除外した。市も返礼品にギフト券を上乗せし、駆け込みで多額の寄付を集めて対抗した。その後、国地方係争処理委員会が除外決定の再検討を勧告したが、総務省は応じなかった。税収の奪い合いをここまで過熱させた責任の一端は国にもある。15年に減税対象となる寄付の上限を2倍にしたが、返礼品競争への対応では後手に回った。制度設計が甘かったと言わざるを得まい。税収の東京一極集中を是正し、高齢化や財政難にあえぐ地方の自治体を支援するという制度の趣旨に異論はない。ただ、返礼品に限らず、高所得者ほど得をする仕組みや、ランキング形式で返礼品を紹介する仲介サイトの存在など、現行の制度が多くの課題を抱えていることも事実だ。国は一方的に地方を従わせるのではなく、独自性を尊重し、不満の声にも耳を傾けながら最良の道を探るやり方で制度を立て直してもらいたい。 <人口分散と高速鉄道の必要性> PS(2020年7月5日追加):関東はじめ都市に人口が集中し、混雑・地価の高騰・水不足・保育所不足などの問題が起こっている理由は、日本政府が多額の資本を投下してこれらの地域を整備し、工場や企業がこの地域に立地して雇用吸収力が高くなったため、生産年齢人口がここに流入したからである。一方、地方は育てた子どもを都市に送り出し、生産年齢人口が減少して平均年齢が上がったのであるため、地方で税収が伸びない理由は、その地方の努力不足というより政府の資本投下の結果なのだ。そのため、私は、既に人口が集中して混雑し、地価高騰・水不足等が起こっている地域に追加投資するよりは、ゆとりのある地方に資本投下した方が、日本全体としては資本効率がよいと考える。 そのような中、*10-1のように、新型コロナ禍を契機に、中国山地への移住者を増やして都市への一極集中を是正しようというウェブ会議がインターネット上で開かれ、「①小規模分散型の社会を中国山地から構想する」「②住民の繋がりが強いのが地域の魅力」「③里山の恵みや自然に囲まれて子育てできることも魅力」とアピールしているのは面白い。 地方の産業には、農業・漁業のほか、最近は森林管理や林業も加わっているが、それに加えて、*10-2の北フランスのように、日本企業や海外企業の進出を促すのもよいと思う。北フランス地方は、地理的優位性・豊かな生活・「TGV」を使ったアクセス・(フランスで最上級の病院を含む)あらゆるインフラの整備・コストの安さが強みだそうだ。日本の地方にも、これに似た地域は多く、バイオ・健康産業・栄養関連・デジタル産業や最先端の研究施設も、豊かで雑音が少なく環境の美しい田舎にあった方が働きやすそうだ。 また、いつもウェブ会議やリモートワークばかりでは足りないものがあるため、高速鉄道によるアクセスの良さも重要だ。しかし、*10-3のリニア中央新幹線は、工事に伴う大井川の流量減少のみならず、陸上を走るのに地下ばかりで魅力に乏しい上、地震や噴火の際に危険だ。なお、リニアは地下しか走れない乗り物ではないため、「富士山を見つつ」「大井川を渡りつつ」など、高架を走って東海道の美しい景色を見せた方が、大井川の流量減少も起こらず、楽しみながら移動できると思われる。 リニア中央新幹線(予定) ゆりかもめ 上海のリニアモーターカー (図の説明:1番左の図のように、リニア中央新幹線は東海道新幹線に似たルートの地下を走る予定なので、大井川の流量減少問題が出た上、左から2番目の図のように、窓が少なくて速いだけの乗り物となっており、地下を走ることによる危険性もある。しかし、リニアは、右から2番目の図の「ゆりかもめ」のように高架を走ることもでき、1番右の図のドイツの技術を採用した上海のリニアモーターカーは、「浦東国際空港⇔上海の地下鉄2号線『龍陽路駅』」間の陸上30kmを約8分で結んでおり、私も乗ったことがあるが快適だった) *10-1:https://www.agrinews.co.jp/p51262.html (日本農業新聞 2020年7月5日) 中国山地移住者増へ 「魅力発信」ネットで議論 新型コロナウイルス禍を契機に、都市への一極集中を是正し、中国山地への移住者を増やしていこうというシンポジウムが4日、インターネット上で開かれた。中国地方各地で活動するパネリストが、地域の魅力をどう発信するかなどについて議論した。中国山地に関する雑誌を製作する中国山地編集舎が主催した。ビデオ会議アプリを使い、約200人が参加した。持続可能な地域社会総合研究所の藤山浩所長は基調報告で、コロナ禍で都市に一極集中した大規模経済のもろさが露呈したと指摘。地域の魅力である「地元の力」を見直し、「小規模分散型の持続可能な社会を中国山地から構想していこう」と呼び掛けた。「地元から暮らしと世界をつなぎ直す」をテーマにした座談会では、鳥取県智頭町で森の中で園児を育てる幼稚園職員や山口市で小さな拠点づくりに取り組むNPOの事務局長ら7人が議論。都市住民がコロナの影響が少ない地方への移住に関心を寄せているとして、住民のつながりが強い地域の魅力をどんどん発信すべきだといった声が出た。アピールする中国山地の魅力として、里山の恵みや自然に囲まれながら子育てできることなどの意見が挙がった。 *10-2:https://toyokeizai.net/articles/-/9341 (東洋経済 2012/6/8) 年間3000人の雇用創出目指し海外企業誘致に傾注、北フランス地方投資促進開発局CEOに聞く 北フランス(ノール・パ・ドゥ・カレ)地方には多くの海外企業が進出。トヨタ自動車がヴァランシエンヌに工場を構えるなど、日系企業の拠点立ち上げも目立つ。来日した北フランス地方投資促進開発局のヤン・ピトレ最高経営責任者(CEO)に直接投資誘致の現状などを聞いた。 ●北フランス地方の最大の強みはなんですか。 地理的な優位性でしょう。欧州でも非常に生活が豊かであり、経済発展を遂げた地域の中心に位置しています。アクセスの面でも恵まれており、仏の新幹線「TGV」を使えば、中心都市のリールからロンドンまで80分。ベルギーのブリュッセルまで35分。ドイツのケルンまでは2時間35分で行くことができます。リール~シャルル・ド・ゴール空港間は50分。「成田エクスプレス」に乗車すると、JR東京駅から成田空港までの所要時間は59分でしょう。それよりも短い。とても便利ですよ。日系企業が北フランスへ進出を考えているのであれば、パリ、ロンドン、ドイツのフランクフルトなどの代替地としても最適です。生活の質は高く、しかも、あらゆるインフラが整備されている。フランスで最上級の病院もあります。にもかかわらず、コストは欧州の他の主要都市に比べて低い。北フランスが「欧州の玄関口」と称されるゆえんです。 ●北フランス地方の従業員の給与水準や賃料はパリよりも低いようですが、フランス国立統計経済研究所(INSEE)のデータによると、北フランス(ノール・パ・ドゥ・カレ)の失業率は10%を超えています。2011年10~12月期は12.7%に達し、フランス全国の平均や(パリのある)イル・ド・フランス地方、(フランス第2の都市リヨンがある)ローヌ・アルプ地方の水準を上回っています。これらの地域に比べて給料が安いのは、失業率が高いからではないですか。 北フランス地方の失業率が高いのは若い人たちが多く住んでいるためです。人口の34%が25歳以下。仏国内では1位です。全国平均だと、25歳以下の人たちは31%にとどまっています。フランスでは若者の職探しが難しくなっています。だから、どうしても北フランスの失業率は高くなる。フランスでも南の地域へ行けば、退職者が多く暮らしているでしょう。失業者は少ないから問題ない。数字はそうした状況を反映しているにすぎません。パリで暮らせば賃料はリールの2倍。オフィスを借りると4倍です。生活費などが高い分、雇っている人には余計に給料を払わなければならない。イル・ド・フランス地方にはさまざまな企業が本社を構えている。リールもそう。でも、パリに比べて従業員の質が劣っているわけではありません。それなのに、給与水準は低い。失業率と給与水準はパラレルな関係ではないと思います。マクロ経済の観点からすれば、失業率が高ければ給料は下がるかもしれません。しかし、現実は違う。ベルギー南部の(フランス語圏の)ワロニー地域の給料は北フランスよりも20%程度高い。でも、失業率もそんなには低くないのです。雇用環境の厳しさは北フランスよりもはるかに深刻。失業率と給与水準に相関関係はないと見ています。 ●北フランス地方への直接投資の現状は。 海外からの投資誘致ではずっと追い風が吹いています。直接投資の受け入れではフランスで(イル・ド・フランス、ローヌアルプに次ぐ)第3の地域。北フランスは欧州随一の購買力を備えています。テクノロジーの面でも大きな可能性があります。研究開発には積極的です。今日では直接投資の中身も徐々に多様化が進んできました。この地域は伝統的に多くの産業の投資を受け入れてきました。自動車、鉄道などの分野です。そうした領域の投資は今も続いています。一方、最近は第3次産業、特にサービスセクターの投資も増えてきました。最先端のセクターでの投資もあります。(製薬会社の)英国グラクソ・スミスクラインの研究施設もつい最近、オープンしました。 ●北フランスの産業には栄枯盛衰があったと聞きました。 歴史を話そうとしたら1日経ってしまうかもしれません(笑)。19世紀には炭鉱がありました。製鉄や繊維産業の中心としても栄えていました。「繊維」といっても、生地製造というクラシックな分野です。今日では忘れられてしまいましたが、実はフランスで最初に航空機製造を手掛けたのもこの地域なのです。だが、1914年から4年にわたって続いた第1次世界大戦では戦場と化してしまいました。ベルギーとの国境に位置し、侵略を受けた地域でした。これを受けてフランス政府は第1次大戦後、軍需、航空機、機械など戦略的産業を南へ移転させました。トゥールーズが航空機産業の中心都市になったのもそのときからです。第2次大戦後は旧ソビエト連邦の脅威にさらされました。1970年代に入ると、大きな経済構造の変化に直面しました。炭鉱の閉山や繊維産業の移転。そして、鉄鋼業の斜陽化に伴う大規模なリストラの実施。このため、別の成長のタネを探し出さなければならなかったのです。目を向けたのは新しい産業。ただ、伝統的な領域でも大きな雇用吸収力を有する産業が残っています。鉄道がその一つ。自動車産業も工場の進出が加速するなど賑わいをみせています。鉄道産業では現在、フランス第1の地域。自動車では2番目の地域です。ロジスティクスやバイオテクノロジーでは3番目。農産物加工品では第4の地域です。一方で、新興型の産業も台頭しました。バイオテクノロジー、健康産業、栄養関連…。ただ、その歴史は古く、19世紀末にはパスツール研究所が設立されました。フランスの偉大な研究者パスツールの研究所です。今は健康関連のクラスターや大規模な大学病院のコンプレックスが存在しています。リールには「ユーロ・リール」と呼ばれるオフィス街もあります。パリの「デファンス」に次いで開発が行われた2番目のオフィス街です。フランスの第3次産業にとっては極めて重要な場所です。さまざまな企業の地方統括機能が集中しているうえ、保険会社や銀行もあります。繊維産業は進化し、先端製品を製造する会社が増えています。ただ、伝統的なテクノロジーに依存した会社が消えてしまったわけではありません。英国のウィリアム王子と結婚したキャサリン妃のウェディングドレスを作った「ダンテル・ドゥ・カレー」の生産拠点もありますよ。彼女は英国ではなく、北フランスで注文を出したんですよ(笑)。 ●テレビゲームや3D技術などデジタル関連の企業も多いですね。 トヨタの工場があるヴァランシエンヌには、「スプインフォコム」というデジタル産業で世界中に名の知られた学校があります。ヴァランシエンヌの商工会議所は「デジタル作品やビデオゲームの領域で世界ナンバーワンの学校を作った」と言っています。「スプインフォゲーム」という名の学校もあります。ピクサー、ドリームワークス、ソニー、イルミネーション・スタジオなど米国を代表するスタジオが学校の卒業生を採用しています。オンラインゲームの運営などを手掛ける「アンカマ」は4人の社員で立ち上げましたが、今では500人規模の会社に成長しました。リールに程近いところに「プレーヌ・イマージュ」というデジタル産業の集積するクラスターがあります。赤レンガ造りの建物で、「アンカマ」の本社もそこにあります。かつて工場があった場所で、敷地は2万5000平方メートル。リール市が誘致を決めました。「レイルニウム」という鉄道インフラを研究するための機関もあります。これも行政がイニシアチブを発揮。未来の鉄道インフラ作りを考えようという野心的なプロジェクトで、2017年の利用開始を目指しています。予算は5億ユーロ超。政府や地方自治体が資金を拠出。仏アルストム、カナダのボンバルディエ、独シーメンスなど鉄道関連の企業がこのプロジェクトに着目、拠点を設けています。 ●海外企業の誘致で数値目標はありますか。 日系企業は現在、49社が進出しています。これを何社にするといった目標を掲げるのは難しい。海外企業誘致の面でフランス第3の地域の座を維持するのが目標です。雇用面では日系を含めた海外企業を迎え入れることで、年間3000人に新たな職場を提供したいと考えています。 ●オランド氏が大統領に就任しましたが、海外企業の誘致政策になんらかの変化は。 それを語るのは早過ぎます。就任してからまだ、数週間です。選挙戦でも直接投資の受け入れ方針をめぐって何らかの発言があったとは聞いて言いません。 *10-3:https://www.at-s.com/news/article/topics/shizuoka/781771.html (静岡孫文 2020/7/2) トップ会談後ネットに相次ぐ静岡県批判 「駅ないからごねてる」、リニア不要論も 大井川水問題 リニア中央新幹線工事に伴う大井川の流量減少問題を巡って26日に行われた川勝平太静岡県知事とJR東海の金子慎社長による初のトップ会談の後、インターネット上で「静岡県がごねている」と批判するコメントの書き込みが相次いでいる。県や流域市町はJRの対応が着工を遅らせているとの立場だが、ネット上では県側が着工を妨げているとの論調が目立ち、水問題を巡る地元の認識との隔たりが浮き彫りになっている。「ごねている」と書き込んだ人の多くが「静岡県にはリニアの駅がない」ことを理由に挙げる。中には県内に駅が造られないため、JRへの報復で水問題を使っているという趣旨の書き込みも。全国の注目を集めたトップ会談で、2027年のリニア開業延期が不可避となったため「静岡県のせいでリニア開業が遅れた」との主張も多数あった。一方「JR自身が着工を遅らせているように見える」などJRへの批判も以前より目立つ。新型コロナウイルスの影響でテレワークやテレビ会議が普及する中、「リニア自体が不要」の声も少なくない。「自然破壊するリニアは今や時代遅れ。リモートはリニアより速い」とのコメントは多くの支持を集めた。トップ会談でも川勝知事が「静岡県が27年開業の足を引っ張っているかのごとき発言を繰り返されている」と金子社長を非難する場面があった。金子社長は「静岡県のせいと言っているのではない」としながらも「最初に(静岡工区の工事の)締め切りが来てしまう」と静岡工区の着工遅れが開業遅れに直結する点を指摘した。
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2020,01,15, Wednesday
2020年1月11日の総統選で勝利した蔡英文氏 日本のジェンダー・ギャップ指数 (図の説明:中国と向き合うにはかなりの覚悟が必要だが、左の2つの図のように、2020年1月11日の総統選では、中国と向き合う台湾の女性総統である蔡英文氏が圧勝した。日本は、右の2つの図のように、世界経済フォーラムの2019年ジェンダー・ギャップ指数で、総合121位《中国、韓国、インド以下》となり、特に政治分野における順位が144位と低い) (1)台湾の民意と関係諸外国の対応 1)台湾総統選での蔡英文氏の圧勝を祝福する 台湾の総統選(2020年1月11日投開票)で、*1-1のように、蔡英文候補が圧勝されたことを心から祝福する。高い投票率と蔡氏の過去最多得票により、台湾の民意は「中国との距離を保って自由で民主的な社会であり続けることだ」と明確に示された。 これには、香港の状況を目の当たりにした台湾の有権者の切実な危機感と昨年1月の習近平中国国家主席の「一国二制度」による統一を迫る演説が影響し、総統選前に中国が台湾海峡を航行させた国産空母も台湾住民の反発を招いたそうだ。その理由は、自由や人権の有り難みを知っている人は、それが踏みにじられようとすれば必死でそれを護ろうとする上、台湾の人口構成は中国系ばかりではないからだろう。 2)米国の対応 このような中、*1-2のように、トランプ米政権は、軍事・経済の両面で台湾を支援しており、今後は米国が世界における自国の「抑止力の源泉」と位置づける軍事と経済の両分野で中国の覇権的な攻勢の最前線に立つ台湾を積極支援していく考えだそうで、これには私も賛成だ。 米国は、2018年に米高官の台湾訪問や定期的な武器売却を求める「アジア再保証イニシアチブ法」をトランプ大統領の署名で成立させ、「自由で開かれたインド太平洋地域」の推進に向けた台湾支援を着実に進めてきた。トランプ政権は、台湾経済が中国への依存度を急速に強めていることにも危機感を募らせ、現在、議会や政府内部で米国と台湾との経済関係の緊密化に向けた自由貿易協定(FTA)の締結を提唱する声が広がりつつあるそうだ。 ここが、*1-1に書かれている「①台湾独立志向の蔡政権に対して中国は牽制を強め、台湾と国交を持つ国は中国の圧力で15ヶ国まで減った」「②蔡氏は中国が主張する『一つの中国』を受け入れないが、民進党が綱領で定める『独立』も封印してきており、そのバランス感覚を持ち続けてほしい」などと言うような強い側について、前例どおりに、いつまでも現状維持すればよいとする日本人の態度とは異なる。私自身は、台湾(中華民国)が中国から独立したままでいてよいと考える。 3)中国の対応 2016年、トランプ米次期大統領が1979年以来の前例を破って正式な外交関係のない台湾の蔡英文総統と電話会談した時には、*1-3のように、中国は米政府に「米中関係の大局が不要な妨害を受けることがないよう、『1つの中国』政策を守って台湾問題を扱うよう促した」とのことである。 また、2020年の台湾総統選における蔡総統の再選について、日米英の高官らが歓迎の談話を出したことについて、*1-4のように、中国外務省報道局長は「一つの中国の原則に反するやり方で、強烈な不満と断固とした反対を表明する」とのコメントを発表して各国に抗議した。 4)日本の対応 日本は、*1-5のように、日経新聞も「台湾の中国離れ加速が米中対立の火種になる」などと記載しているが、台湾は親日的な国であり、火種になっても弱者を犠牲にすればよいのではなく、やらなければならないことはある。 さらに、「台湾(中華民国)が独立したままでは、中国とよい経済関係を持てない」ということはあってはならない筈で、日本はじめ他の独立国は中国と経済関係を持ち貿易をしている。そのため、台湾は中華民国として国連に加入し、台湾の「経済的利益」をWTOを通して、または米国・ヨーロッパなどとのFTAで保ちながら、「国家の安全」と「経済的利益」を両立させればよいと考える。その方が、近くの日本も安心して付き合いやすい。 (2)女性に「控えめであること」を要求する日本文化 台湾総統選では、台湾人の人権や一国二制度への賛否が重要なテーマになったため、今回は蔡英文氏への女性差別どころではなかったと思うが、*2-1のように、男女は発信についても機会均等ではない。 私自身は、ディスカッション時には積極的に挙手して堂々と発言する方だが、そうすると、女性の場合は「声が大きい」「でしゃばり」「人の意見を聞かない」「独善的」等々の男性ならありえない批判に晒されることが多い。しかし、発言も発信もしなければ認められないため、女性の場合は矛盾した要求の下に置かれるわけだ。 また、黙っていても周りが実績を理解し評価して昇進させてくれるほど世の中は甘くないため、上を目指せば自分の経歴や実績をアピールせざるを得ないが、女性がそれを行うと「謙虚でない」「目立ちたがり」「性格が悪い」等々のマイナス評価もついてくる。つまり、女性が発言や発信に控えめになるのは、生まれつきの「男女の違い」や「女性の不得意部分」などではなく、女性に「控えめであること」を要求する文化によるものであり、女性への矛盾した要求が女性の活躍を妨害しているわけである。 そのため、*2-3のように、女性リーダーの育成において、まるで女性に覚悟が足りないかのように女性に覚悟の大切さを学ばせるというのは、本当の理由を理解しておらず、女性に対して失礼である。 (3)女性の実績と評価 「ウィキペディア」の記事も、*2-2のように、男性の記事が8割を占めるそうだが、リーダーに占める女性の割合が低ければ、実績があっても「ウィキペディア」に載らないため、「ウィキペディア」だけが是正を目指しても限界があるだろう。 さらに、「ウィキペディア」はじめメディアやネットに掲載されている記事は、その多くが本人ではなく他人が書いたものであるため、社会の一般常識と同様、女性を過小評価したり、頑張る女性をちゃかしたり、馬鹿にしたりする女性蔑視を含んだものが多い。そして、これが長く露出し続けるため、その評判が定着するというのが、私の経験である。 (4)農業における女性の参画とリーダーシップ 農業は食品を扱う業種であるため、消費者の心をつかむには、*3-1のように、マーケティングが重要であると同時に、食品に関する知識が多くマーケットで商品選択の主体になっている女性を活躍させることがKeyである。そもそも「道の駅」の原点は、自分で作った農産物をリヤカーに積んで道端で売っていた農家の主婦で、彼女たちが持ってきた新鮮で安価な農産物や行き届いたサービス・料理に関するアドバイスなどが消費者の人気を集めていたのだった。 そのため、*3-2のように、農漁業の経営が6次産業化を進める中、生産者であると同時に、生活者・消費者の視点を併せ持つ女性の役割が重要であることは明らかである。それにもかかわらず、農山漁村の女性の地位が低く、女性の社会参画促進や地位向上への啓発を今頃やっているのは、(何もしないよりはずっとよいが)遅すぎる。 そして、2017年3月5日の記事によると、JA女性役員、女性農業委員の割合は10%には届かず、①役員になり外出が増えると夫が嫌な顔をし ②男性役員ばかりの中で意見が通らず ③組織化されていない農業女子の集まりでさえ出掛けるのに家族の許可がいる のだそうだ。 日本農業新聞の2020年1月13日の記事では、*3-3のように、国連がジェンダー平等を含む持続可能な開発目標(SDGs)達成の担い手に協同組合を位置付け、JAグループが女性参画の数値目標を決めて女性参画を進展させた結果、2019年7月末時点で正組合員や役員比率の全てが前年を超し、女性正組合員比率が22.36%、女性総代が9.4%、全役員に占める女性割合は8.4%と増えたそうだ。しかし、役員どころか、女性正組合員比率も22.36%しかないのでは、日本の農村地帯におけるジェンダー平等はまだまだだと言わざるを得ない。 ・・参考資料・・ <台湾の民意と関係諸外国の対応> *1-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/575782/ (西日本新聞社説 2020/1/15) 台湾総統選 中国は危機感受け止めよ 中国とは距離を保ち、現在の自由で民主的な社会を守るという民意が明確に示された。台湾総統選(11日投開票)は中国との統一を拒否する与党民進党の現職蔡英文氏が過去最多得票で圧勝し、再選された。高い投票率も考え合わせると、半年以上に及ぶ香港の混乱を自国の将来と重ねた有権者の切実な危機感の表れと言えるだろう。蔡氏勝利の流れをつくったのは昨年1月の台湾政策に関する習近平中国国家主席の演説である。高度な自治を認める「一国二制度」による統一を迫った。当時、蔡氏は窮地に立たされていた。前年の統一地方選で年金制度改革など内政の混乱が響いて民進党が大敗し、党主席辞任に追い込まれ、総統再選も容易ではないとみられていた。習氏の演説以降、風向きは変わり、台湾で中国への警戒感が高まった。6月以降、香港で起こった大規模な反政府デモは「一国二制度」が形骸化している現実を国際社会に示し、それを目の当たりにした台湾では総統選の流れを決定的にした。「今日の香港は明日の台湾」と訴えた蔡氏の言葉が有権者の心をつかみ、総統選と同時に行われた立法委員(国会議員)選も民進党が過半数を維持した。中国にとっては民主派が圧勝した昨年の香港区議選に続く受け入れ難い結果だろう。だが、強権政治への拒否感が香港や台湾で広がっている現実を真剣に受け止めなければならない。台湾独立志向である民進党の蔡政権に対し、中国はけん制を強めてきた。台湾と国交を持つ国は中国の圧力で7カ国が断交し、今や15まで減った。総統選前には初の国産空母を台湾海峡で航行させた。こうした行為は台湾住民の反発を招くだけで、逆効果だったことは選挙結果から一目瞭然である。今後さらに台湾へ圧力をかけ続ければ、蔡政権を積極的に支援するトランプ米政権との対立も一段と深まりかねない。米国は昨年、インド太平洋戦略で「強力なパートナーシップ」を結ぶ相手と台湾を位置付け、戦闘機などの兵器売却を決めた。大国となった中国には、武力統一もちらつかせる強権的態度を慎み、香港や台湾の声に耳を傾ける懐の深さを示す-そうした振る舞いが求められる。蔡氏は、中国が主張する「一つの中国」を受け入れない一方で民進党が綱領で定める「独立」を封印してきた。中台間の緊張を不必要に高めない現実的な判断だろう。中台関係は東アジア情勢にも悪影響を及ぼしかねない。米中の覇権争いの最前線でもあり、難しいかじ取りを迫られるが、そうしたバランス感覚は持ち続けてほしい。 *1-2:https://www.sankei.com/world/news/200112/wor2001120024-n1.html (産経新聞 2020.1.12) トランプ政権 軍事・経済の両面で台湾支援へ トランプ米政権は台湾総統選での蔡英文氏の再選に関し、中国の脅威をにらんだ米台連携を円滑に継続できるとして歓迎する立場を明確に打ち出した。今後は、米国が世界における自国の「抑止力の源泉」と位置づける軍事と経済の両分野で、中国の覇権的な攻勢の最前線に立つ台湾を積極支援していく考えだ。ポンペオ国務長官は11日に発表した声明で、蔡氏について「(中国からの)容赦ない圧力にさらされる中、中台関係の安定維持に取り組んできたことを称賛する」と強調。さらに「台湾が蔡氏の下、自由、繁栄、国民のためのより良き道を希求する国々の輝かしい手本となり続けることを期待する」と表明した。米国では2018年、米高官の台湾訪問や定期的な武器売却を求める「アジア再保証イニシアチブ法」がトランプ大統領の署名で成立し、「自由で開かれたインド太平洋地域」の推進に向けた台湾支援が着実に進められてきた。中国問題に詳しい政策研究機関「戦略国際問題研究所」(CSIS)のボニー・グレイザー研究員は今後の中国の出方について「当面は米台の動向を見極め、台湾に圧力をかける機会を模索するだろう」と分析。近い将来に中台が武力衝突する可能性は否定しつつも、「米国は台湾の抑止力強化に向け一層の協力を図るべきだ」と訴えた。トランプ政権は一方で、台湾経済が中国への依存度を急速に強めていることに危機感を募らせている。議会や政府内部では、米国と台湾との経済関係の緊密化に向けた自由貿易協定(FTA)の締結を提唱する声が広がりつつある。政策研究機関「ヘリテージ財団」のライリー・ウォルターズ研究員は、米台がFTA交渉に向けた「高官級の経済対話」の枠組みを構築すべきだと指摘する。同財団のウォルター・ローマン氏も「トランプ政権が中国や日本などと貿易合意に達し、蔡氏が再選した今こそが米台FTAに向けた好機だ」と強調した。 *1-3:https://www.bbc.com/japanese/38204570 (BBC 2016年12月5日) 中国、トランプ氏と台湾総統の電話会談に抗議 ドナルド・トランプ米次期大統領が1979年以来の前例を破り、正式な外交関係のない台湾の蔡英文総統と電話会談したことについて、中国外交部は3日、「米国の関係各方面に厳正な申し入れをした」と明らかにした。中国国営メディアによると、外交部は米政府に「米中関係の大局が不要な妨害を受けることがないよう」、「1つの中国」政策を守り、台湾問題を「慎重に、適切に扱うよう」促したという。またこれに先立ち王毅外相は3日朝、台湾側による「つまらない策略だ」と台湾を批判した。トランプ氏と蔡総統は2日に電話会談。トランプ陣営側が台湾総統に電話をしたという情報もあるが、トランプ氏は2日、「大統領に当選しておめでとうと、台湾総統から電話してきた」とツイートした(強調原文ママ)。トランプ陣営によると、トランプ氏は蔡総統に今年1月の総統就任への祝辞を述べたと言う。米国は1979年に中国と国交を樹立し、台湾とは断交した。それ以来、大統領や次期大統領が台湾首脳と直接会話したことはないとされている。中国の反発を呼ぶ可能性についてメディアが報道すると、トランプ氏は「米国は台湾に何十億ドルもの兵器を売ってるのに、おめでとうの電話を受けちゃいけないって、興味深いな」とツイートした。ホワイトハウスは、トランプ氏と台湾総統との電話会談は、米外交政策の転換を意味するものではないと強調。米メディア報道によると、ホワイトハウスも電話会談の後に知らされたという。トランプ氏の報道担当は、次期大統領は米国の台湾政策について「よく承知している」と述べた。 ●何が問題なのか 国共内戦で毛沢東率いる中国共和党軍に敗れた中華民国と国民党は1949年、台湾に移動。中華民国は国連代表権を維持し、欧米諸国には唯一の中国政府と承認されていたが、1971年に国連総会が中華人民共和国を唯一の中国の正統な政府と承認。中華民国は国連を脱退した。米政府は1979年に台湾と断交し、中華人民共和国の「一国二制度」を支持した。しかし断交してもなお、台湾にとって米国は唯一の同盟相手で最大の友好国だ。米国の台湾関係法ではは、台湾防衛用のみに限り米国製兵器を提供すると約束し、台湾の安全などを脅かす武力行使などに対抗し得る防衛力を米政府が維持すると約束している。中国は台湾に向けて多数のミサイルを配備しており、もし台湾が公式に独立を宣言すれば武力行使も辞さないと言明している。今年1月に圧勝した蔡総統率いる民進党は、伝統的に台湾独立を綱領としており、蔡政権は「一国二制度」政策を受け入れていない。 <解説1> 懸念から危機感と怒りへ キャリー・グレイシーBBC中国編集長 台湾に関する米政府の40年近くにおよぶ慣例をトランプ氏が破り、台湾総統と直接会談したことは、中国政府関係者を驚嘆させた。11月8日の当選以来、中国政府はトランプ氏のアジア政策顧問が誰で、対中政策がどうなるのか理解しようと、躍起になっている。台湾総統との電話会談は、これまで懸念だったものを怒りに変質させるだろう。中国政府は台湾を一地方自治体とみなしている。独立主権国家としての形式を一切否定することが、中国外交政策の主要優先事項なのだ。 <解説2> 穏やかな反応 シンディ・スイBBC記者、台北 中国の反応は比較的穏やかだった。最初からいきなりトランプ氏とぎくしゃくしたくないからだ。加えて中国は、トランプ氏は政治家として経験不足だとみているので、今のところはとりたてて騒がず、見逃すつもりだ。米政府が、中国と台湾に関する政策に変化はないと表明したことも、中国にとってはある程度の安心材料だろう。しかし舞台裏では中国はほぼ間違いなく、このような外交失態を二度と起こさないよう、トランプ陣営を懸命に「教育」しているに違いない。蔡総統のこの動きを受けて、中国政府はいっそう蔡氏に対して怒り、不信感を抱き、中国からの正式独立を目指しているものとみなすだろう。 *1-4:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54333200S0A110C2FF8000/?n_cid=TRPN0017 (日経新聞 2020.1.12) 中国が日米英に不満表明 蔡氏への祝意に反発 中国外務省の耿爽副報道局長は12日、台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統の再選に日米英の高官らが歓迎の談話を出したことに「(中国大陸と台湾は一つの国に属するという)一つの中国の原則に反するやり方で、強烈な不満と断固とした反対を表明する」とのコメントを発表した。すでに各国へ抗議したという。耿氏は「台湾地区の選挙は中国の一地方のことだ」と指摘。「台湾問題は中国の核心的利益だ。中国と国交を結ぶ国と台湾とのいかなる形の政府間往来にも反対する」と強調した。 *1-5:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54327820R10C20A1EA2000/ (日経新聞 2020/1/11) 台湾、「中国離れ」加速 米中対立の火種に 統一を遠ざけるため距離を置くか、経済交流の果実を求めて接近するか――。中国との距離を巡る「自立と繁栄のジレンマ」と呼ばれる問題を巡り、台湾の民意は揺れ動いてきた。鴻海(ホンハイ)精密工業など台湾企業は1990年代から中国に進出し、連携を深めた。2001年の世界貿易機関(WTO)加盟で中国の経済成長に弾みがつくと、中台経済の一体化を求める声が強まり、08年には対中融和を掲げる国民党の馬英九政権が発足した。だが情勢は一変した。台湾の中央研究院による19年3月の世論調査では、対中関係で「国家安全を重視する」との回答が58%に上り、「経済利益を優先する」を27ポイントも上回った。呉介民・副研究員は「統一への危機感の高まりに加え、米中摩擦で対中接近が必ずしも利益に結びつかなくなった面もある」と分析する。対中強硬路線を鮮明にする蔡氏の再選で、台湾を巡る米中対立が激化するのも確実だ。米国は1979年に台湾と断交して中国と国交を樹立。その後は「台湾関係法」に基づき台湾の安全保障を支える一方、対中協調を重視して台湾独立を綱領に掲げる民進党と距離を置いてきた。だがトランプ米大統領は就任直前の16年12月に蔡氏と電話で直接やりとりし、19年にはF16戦闘機の台湾への売却を決めるなど、中国への配慮で封印されてきた「タブー」は次々と破られた。蔡政権は中国大陸と台湾が1つの国に属するという「一つの中国」原則を認めない一方、党が持つ独立志向を封印する立場をとる。「現実路線で米の信頼を得る戦略」(民進党幹部)だ。米国防総省は19年のインド太平洋戦略の報告書で、台湾をシンガポールなどと並ぶ「有能なパートナー」とした。蔡氏は「米国との関係は過去最高にある」と誇り、2期目では同戦略への協力や米との軍事接近を鮮明にする公算が大きい。中国にとって台湾は海洋進出の出入り口に位置し、東アジアへの米国の介入を防ぐ安保体制を築くうえでも譲れない「核心的利益」だ。米台の接近は中国の激しい反発を引き起こすのが必至だ。半導体受託生産最大手、台湾積体電路製造(TSMC)など次世代通信規格「5G」の核心技術を握る企業が存在する台湾は米中ハイテク摩擦の最前線にもなる。米国がハイテク分野で中国とのデカップリング(切り離し)を本格化すれば台湾を避けて通れず、供給網で深く関わる日本にも影響が及びかねない。 <女性に「控えめであること」を要求する文化> *2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191202&ng=DGKKZO52770090Z21C19A1TY5000 (日経新聞 2019.12.2) 男女の発信スタイルの違い 機会平等を担保しよう OECD東京センター所長 村上由美子 米ハーバード・ビジネススクールでは、成績上位5%の学生にベイカー・スカラーという最優秀賞を与える。MBA(経営学修士)を取得する女子学生は4割を超えたが、ベイカー・スカラーの女性比率は2割程度にとどまっていた。学力や潜在的能力など男性と同じ条件を満たして入学した女性達。入学後に苦戦したのは、クラスでのディスカッションだった。ハーバードでは成績の50%がディスカッションへの参加で決まる。積極的に高々と挙手し、ものおじせず発言する男性に比べ、女性の参加は控えめだった。この問題に気がついた大学側は、意識的に発言機会を男女平等にするよう教授陣を促した。その結果、ベイカー・スカラーの男女比率は改善。ついに昨年は男女間の成績の差異は完全に消滅した。男女のコミュニケーションや発信スタイルの違いに配慮することで、機会平等を担保するという興味深い例だ。私自身にも経験がある。ニューヨークの投資銀行で管理職に昇進した時だ。ボーナスシーズン前に自分の功績をアピールしにくる部下は全員男性だった。女性の部下が昇進やボーナスの交渉に来る事はめったになかった。私自身も新入社員時代「主張せずとも上司は私の成果を認めてくれている」と勝手に思い込んでいた。部下を評価する立場になって初めて、男性がいかに積極的に自己アピールしていたかに気づいたのだ。公平な評価・判断には、男女の違いを意識し、自らにインプットされる情報の偏りを精査する必要があると学んだ。日本でも女性を積極的に採用し、昇進を促進する企業は増えた。しかし彼女達の声は経営に生かされているだろうか。男女の違いを理解した上で、女性の持つ能力を開花させる取り組みが必要だ。効果的に会議に参加するためのコーチングを提供したり、司会役が女性に積極的に発言機会を与えたり、意識的に女性の背中を押し議論への参加を促すことが効果的だ。経済協力開発機構(OECD)の調査では、宿題にかける時間は女子学生の方が男子学生よりも長いという結果が出ている。女性は準備を周到に整える傾向があるが、自己肯定力は男性の方が往々にして高い。このような特性を理解した上で、女性の不得意部分を補う工夫を施せば、自らの能力を発揮し活躍する女性がさらに増えるはずだ。 *2-2:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/570293/ (西日本新聞 2019/12/22) 「ウィキペディア」にも男女格差 ネット事典、男性記事が8割占める ●是正目指す「ウィキギャップ」 インターネット上の百科事典「ウィキペディア」。何かを検索したら上位に出てくるおなじみのサイトだ。ただ、人物を紹介する記事の約8割は男性で、女性は実績があって著名でも記事が存在しないケースも多いという。そこで、ウィキペディアに女性の記事を増やし、ネット上の男女格差をなくそうというイベント「ウィキギャップ」が世界各地で開かれている。新たな試みが目指すゴールは、ネット上だけでなく、実社会における格差解消だ。2001年に登場したウィキペディアは、誰もが無料で自由に編集に参加できるのが特徴で、世界約300言語で展開されている。11月末、福岡市内のビルの一室で、女性を中心に15人ほどがパソコンに向き合い、作業に没頭していた。それぞれが詩人や経済学者など「載せるにふさわしい」と思う女性の業績や経歴を調べ、3時間ほどかけて執筆した。参加した司書の古島信子さん(50)はネットサーフィンという言葉を普及させたとされる司書「ジーン・アーマー・ポリー」について翻訳。「興味を持った人が彼女を知るツールの一つになればうれしい」。なぜ男性の記事が多いのか。「執筆者に男性が多いので、女性著名人や女性の関心が高い事柄は軽視されやすい」と指摘するのはウィキペディアに詳しい武蔵大の北村紗衣准教授(フェミニズム批評)。英王室キャサリン妃のウエディングドレスに関する記事やブラックホールの撮影に携わった女性科学者に関する記事が「百科事典として取り上げるに足らない話題」として“削除依頼”が出されたこともあるそうだ。運営するウィキメディア財団によると執筆者の9割が男性と推測される。北村准教授は「書く人の多様性がないと内容にも偏りが生じる。女性執筆者が増えることが女性記事の増加、百科事典の質の向上につながる」と力を込める。そもそも、現在「活躍する立場」の多くを男性が占めているのが現状で、男性の人物記事が多いのは当然という指摘も。特に日本は、先日発表された男女格差を指数化した報告書でも世界153カ国中、121位と低迷。女性議員(衆議院)や女性管理職の割合は1割程度にすぎない。政治分野の男女共同参画推進法や女性活躍推進法など法整備が進んでも、実態の改善には時間がかかりそうだ。一方で、ウィキペディアに女性の記事を増やす取り組みは、さまざまな立場の人が参加しやすい。北村准教授は「ネット上の男女格差解消の動きが、実社会に波及することも期待できる」と話す。 【ウィキギャップ】スウェーデン外務省などの呼びかけで「ネットの男女格差を埋めよう」と2017年に始まり、約60カ国で開催。30の言語で約3万2000本の記事が編集された。国内では東京や大阪でも開催され、今後も横浜などである予定。福岡のイベントは丸 *2-3:http://qbiz.jp/article/103068/1/ (西日本新聞 2017年2月5日) 女性リーダー育成 覚悟の大切さ学ぶ 福岡市で研修 企業など組織の担い手となる女性を育成する「女性トップリーダー育成研修」が2〜4日、福岡市で開かれた。福岡県内の企業役員や管理職などの女性20人が参加し、さらに飛躍するために必要なことを学んだ。研修は福岡女子大(同市東区)が初めて企画。2泊3日を共にして交流を深め、将来につながる人脈を築く狙いがあるという。国際基督教大の北城恪太郎理事長や地元経済界トップらがリーダーに欠かせない心構えや教養を伝授した。4日のグループワークでは、参加者が目指すリーダー像を議論。「周囲の意見を聞きすぎて、自分らしさを出せていない」「リスクを避けようとすると部下が育たずさじ加減が難しい」などと悩みを語り合い、自分の克服すべき弱点や強みをあぶり出した。参加した福岡空港ビルディング営業部次長の鰺坂裕子さん(49)は「意識して上を目指す覚悟が必要だと感じた。ここでできたネットワークは財産になると思う」と手応えを語った。参加者は3月の最終研修までに目指すリーダー像を固め、それを実現する行動計画を発表する。 <農業における女性の参画とリーダーシップ> *3-1:https://www.agrinews.co.jp/p39945.html (日本農業新聞 2017年1月19日) 販売革新へ戦略を 人材育成で初講習会 全中・全農 JA全中とJA全農は18日、農畜産物のブランド化など販売戦略の企画・実践力を向上させるための講習会を東京都町田市で初開催した。JAや連合会の販売事業戦略担当職員らが、「販売革新」をテーマに少人数のグループ討議を展開。どんな戦略をとれば販売力アップが見込めるかを参加者が提案し合うスタイルで、消費者の心をつかむ方策について議論を掘り下げた。20日まで開く。担当者と経営側との間に立つ職員を対象とし、11人が参加した。2、3人のグループでの討議で、参加者のJAが抱える販売戦略の課題克服や、JA内の意識改革をどう進めるかなど販売革新の方向性を話し合った。JA高知市が展開する、野菜「芥藍菜(かいらんさい)」の認知度向上策に関して、試食や貯金・共済の粗品とすることで消費者の認知度を高めていくとの提案があった。新潟県JA新潟みらいのカレー専用米の販路拡大に向けては、他産地との差別化のため「米どころ新潟が本気で作った専用米」とPRしたり、既存の有名カレー商品とタイアップ販売したりしてみてはどうか、といった意見が参加者から示された。これに先立ち、農産物流通に詳しい流通経済研究所の南部哲宏特任研究員が講義。マーケティングの意義について、卸売市場だけでなく「実際に食べてくれる人たちの情報を集めて意味を見つけ、どういうことが求められるのかを発見することが大事」と強調した。JAグループは自己改革でマーケットイン(需要に応じた生産・販売)に基づく事業方式への転換を目指している。講習会は、抜本的な改革が求められる中、実需・消費者の潜在的なニーズを掘り起こし、新たな販売戦略を中心となって担う人材の育成を狙って企画した。2日目は課題解決に向けた販売事業戦略の提案書を作成するためグループ討議を実施し、最終日に発表する。 *3-2:https://www.agrinews.co.jp/p40297.html (日本農業新聞 2017年3月5日) 農山漁村女性の日 発展の鍵握る活躍期待 3月10日は「農山漁村女性の日」。この日を前後して、農山漁村女性の社会参画促進や地位向上へ、さまざまな啓発行事が行われる。女性は農業従事者の約半数を占め、農村社会と農業の発展に欠かせない存在だ。農業経営が6次産業化を進める中、生産者であり、かつ生活者と消費者の視点も併せ持つ女性の役割は、ますます重要さを増していくはずだ。その役割の価値を見つめ直すきっかけにしよう。農業経営やJAなどの方針決定の場へ、女性の参画が増えている。農水省の調査によると、女性の認定農業者は2016年3月で1万1241人と前年より429人増えた。12年から毎年400人以上増え続けている。JA女性役員は1305人(16年7月)で、全役員に占める割合は7.5%と前年比0.3ポイント増。女性農業委員も2636人(15年9月)で、全委員に占める割合は7.4%と同0.1ポイント増となった。農水省の「農業女子プロジェクト」も4年目を迎え、農業女子メンバーは、今では500人を超える。企業と提携して商品を開発したり、教育機関と組んで学生に就農を促したりと活動が盛んだ。ことし初めて、農業女子の取り組みを表彰するイベントを開いてPRを強める。ただ、社会参画への進み方は遅い。女性認定農業者が増えているとはいえ、全体の4.6%だ。JA女性役員、女性農業委員も、第4次男女共同参画基本計画で共に早期目標に掲げる10%には届かない。「役員になり外出が増えると、夫が嫌な顔をする」「男性役員ばかりの中で意見が通らない」。JA女性役員からは、そういった不満の声が上がる。一方、組織化せず活動の自由度が高く見える農業女子の集まりの中でさえ「出掛けるには家族の許可がいる」と悩む声を聞く。家族経営が主流で、かつ男性が中心となっている農村社会の閉鎖的な構図が、依然としてうかがえる。女性農業者が真に活躍し、能力を発揮するにはまだ厚い壁があるのだ。家族の後押しはもちろん、活動を受け止める男性らがさらに理解を深める必要がある。日本政策金融公庫が16年に発表した調査では、女性が経営に関与している経営体は、関与していない経営体よりも経常利益の増加率が2倍以上高かった。特に、女性が6次産業化や営業・販売を担当している経営体で、経常利益の増加率が高い傾向にあった。買い物好きでコミュニケーション能力が高い女性だからこそ、的確に消費者ニーズを把握できていることの表れだ。農業収益を増やし、経営発展の鍵を握るのは女性農業者だ。「農山漁村女性の日」が3月10日とされたのは、女性の三つの能力である知恵、技、経験をトータル(10)に発揮してほしい――との願いが込められている。もっと活躍できる社会へ、家族、地域挙げて環境整備を急ぐべきだ。 *3-3:https://www.agrinews.co.jp/p49717.html (日本農業新聞 2020年1月13日) 女性参画が進展 JA新目標着実に JAの運営で女性の参画が進んでいることが、JA全中の調査で分かった。正組合員と総代、役員(理事など)全ての女性参画割合が前年を上回った。国連は、ジェンダー平等を含む持続可能な開発目標(SDGs)の達成の担い手に協同組合を位置付けており、識者は「けん引する勢いで取り組んでほしい」とJAグループに期待する。 ●正組や役員率全て前年超す 19年7月末 JAグループは、2019年3月の第28回JA全国大会で、従来を上回る女性参画の数値目標を決めた。①正組合員30%以上②総代15%以上③理事など15%以上──を掲げた。第4次男女共同参画基本計画やJA全国女性組織協議会の独自目標を踏まえた。19年7月末現在の女性正組合員比率は、22・36%と前年から0・49ポイント上昇。総代は9・4%と同0・4ポイント増えた。全役員に占める女性の割合は8・4%で同0・4ポイント増だった。女性役員総数は同9人減の1366人。JAの大規模合併で、役員総数が847人減の1万6260人と大幅に減った影響とみられる。一方、100JAで女性役員がゼロだった。全中は「女性参画の推進には、JA経営トップ層の理解が欠かせない。トップ層が集まる会議で必要性や意義を伝え、理解を求めていきたい」としている。 ●SDGsけん引を △協同組合や農村女性の活躍に詳しい奈良女子大学の青木美紗講師の話 SDGsの視点で見ると、数値を引き上げ、高い目標を持つことは大切だ。協同組合は、SDGsの推進で大切な事業や活動をしている。JAが、けん引する勢いで取り組んでほしい。一方、数値目標が独り歩きしないようにすべきだ。女性参画のメリットは、女性目線の事業提案ができること。女性組合員や生活者の視点に立った提案の実行でJA事業の拡大も期待できる。女性の意見に耳を傾け、否定しないことが重要だ。家事や育児などを行うことの多い女性が、参加しやすい環境を整えることも大事。女性参画が進めば、性別や立場を問わずさまざまな人がJAの経営や事業に参画しやすくなるはずだ。 <EU委員長の意思決定と日本の政治・行政> PS(2020年1月17日追加):*4-1のように、EUは、域内での温室効果ガスの排出を2050年に実質0にする目標達成に向けて、経済・社会構造を転換していくために、低炭素社会への移行を支える技術革新への投資を今後10年間で少なくとも約122兆円行い、これによって再エネへの転換を図って経済成長に繋げるそうだ。これは覚悟のいる大胆な判断で、かつ科学的・合理的な判断でもあり、フォンデアライエン欧州委員長も女性だ。 一方、私が提案して(私がこう言うと、必ず嘘だと決めつける人がいるが)太陽光発電・EV・自動運転車を世界で最初に市場投入した日本は、*4-3のように、原発と石炭を“ベースロード電源”に指定したり、送電網のコストを太陽光企業にツケ回したりするなど、再エネやEVの普及を妨害するための経産省の後ろ向きの対応にことかかない。そして、こういうことが続けば、日本に豊富な再エネの利用が阻害され、日本国民を豊かにすることはできない。 このような中、*4-2のように、農業では無人田植え機の電動版もできたそうで、これなら日本だけでなく世界でニーズがあると思われるが、メーカー希望小売価格が1468万1700円では高すぎて国内でもなかなか普及できず、世界で普及するのは中国製をはじめとする他国製になるだろう。これが、名目インフレ(名目物価上昇)の悪弊の一つなのである。 このように、日本では殆ど男性の“(同じ仕事を続けてきた国内志向で視野の狭い)ベテラン”と言われる政治家・行政官が政治・行政を担当してきた結果、*4-4のように、税収が伸び悩んで2025年の「基礎的財政収支」は国・地方あわせて3兆6千億円の赤字になるのだそうだ。そして、その原因に必ず世界経済の減速というような外的要因を挙げるが、景気対策と呼ぶ無駄遣いが多く、根本的解決になる投資をしないのが本当の原因であるため、これまでどおりではいけないということだ。 *4-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/202001/CK2020011502000274.html (東京新聞 2020年1月15日) 温室ガスゼロへ122兆円投資 EU、技術革新へ今後10年で 欧州連合(EU)欧州委員会は十四日、EU域内で温室効果ガス排出を二〇五〇年に実質ゼロにする目標の達成に向けて経済・社会構造を転換していくため、今後十年で少なくとも一兆ユーロ(約百二十二兆円)を投資する計画を発表した。低炭素社会移行を支える技術革新への投資を通じて経済成長を図る一方、石炭発電の比率が高い東欧などに対し、再生可能エネルギーへの転換を支援する構え。投資計画は、フォンデアライエン欧州委員長の総合環境政策「欧州グリーンディール」の資金面の裏付けとなる。一兆ユーロの約半分はEU予算で賄い、残りは加盟国や公的機関、民間などが拠出する。投資計画はEU欧州議会と加盟国の承認が必要。フォンデアライエン氏は十四日、フランス・ストラスブールで開かれた欧州議会本会議で「行動し損ねた場合のコストは巨大なものになる。今、投資するしか選択肢がないのだ」と訴え、巨額の出資に理解を求めた。「欧州グリーンディール」は先月就任したフォンデアライエン氏の看板政策。欧州委は現在策定中の二一~二七年のEU中期予算の25%を気候変動対策に充てる方針を既に示すなど、気候変動対策を急いでいる。フォンデアライエン氏は「われわれを待ち受ける(経済・社会の)転換は前例がない」と強調。構造転換の波に激しく揺さぶられる「人々や地域を支援」しつつ、「グリーン経済の投資の波を起こす」と訴えた。石炭への依存度が特に高いポーランドは、低炭素社会移行に莫大(ばくだい)な費用がかかるとして、昨年十二月のEU首脳会議で「五〇年に排出ゼロ」のEU目標への合意を留保するなど、資金調達が重要な問題となっている。 *4-2:https://www.agrinews.co.jp/p49749.html (日本農業新聞 2020年1月16日) 業界初 無人田植え機 電動コンセプトも クボタ展示会 農機メーカーのクボタは15日、京都市内で製品展示見学会を開き、基地局の設置が必要ない自動運転トラクターや、業界で初となる無人運転田植え機を発表した。同社は、トラクターと田植え機、コンバインで自動運転農機をそろえることになる。無人運転の電動トラクターなどコンセプト農機、創立130周年記念の特別モデルも展示。スマート農業の普及につながる製品を充実させた形だ。新しく発表した「アグリロボトラクタMR1000A」は、単独で自動運転ができる機種だ。従来の無人トラクターは自動運転の際、近くに移動基地局の設置が必要で、農家にとって負担になっていた。新製品は、国の電子基準点情報を利用することで、基地局を設けなくてもよい初めての機種となった。今月中に発売。メーカー希望小売価格は1468万1700円とした。会場ではトラクターと田植え機、コンバインで、自動運転のラインアップをそろえたことをアピールした。10月に発売する「アグリロボ田植機NW8SA」は、業界初の無人運転田植え機だ。有人自動運転ができる自脱型コンバイン「アグリロボDR6130A」は昨年12月に発売した。新型機械「X(クロス)トラクター」のコンセプト機も披露した。完全無人運転の電動トラクターで、4輪クローラーで動く。車高を変える機能を備え、水田でも畑でも使えるのが特徴だ。有人運転の電動機は2023年の発売を目指す。同社は20年に創立130周年を迎えることから、会場には記念特別モデルも展示した。オレンジメタリックの特装色で、田植え機や耕運機などを用意した。この他、衛星利用測位システム(GPS)直進アシスト機能付きトラクターなどの試乗も行った。展示見学会は16日まで。2日間で代理店の担当者ら5000人の来場を見込む。 *4-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200117&ng=DGKKZO54478640W0A110C2EA1000 (日経新聞 2020.1.17) 送電網コスト、誰が負担? 太陽光企業にツケ回し案、国「後出し」非難受け修正も 再生可能エネルギーの普及に向け、費用負担のルールを決める議論が紛糾している。焦点は送配電網の維持費用を誰が負担するか。普及させるには国民負担をできるだけ減らす必要があるが、新たなコスト負担を強いられる見込みが濃厚な再エネ事業者側からは、海外勢を含めて「後出しじゃんけん」との非難が噴出。今年度内の着地に向け、大詰めを迎えている。もめているのは、政府が2023年度に導入見込みの「発電側基本料金」制度の詳細だ。これまで電力の小売事業者が託送料金で負担していた送配電設備費用を発電事業者にも分担させる。負担の公平性の確保や電力システム全体のコスト低減につなげるのが狙いだ。23年度の制度導入を目指すことは19年9月の経済産業相直属の専門会合で決まっていた。ただFIT(再生可能エネルギー固定価格買い取り制度)の発電事業者については、追加コストと同水準を補填して調整する措置(調整措置)を置くことを検討することになっていた。FIT事業者が販売価格への転嫁ができないことに配慮した。ところが、前後して「利潤配慮期間」と呼ばれる12年7月~15年6月に認定された電源については、買い取り価格自体が高額に設定されていることを理由に、調整措置の対象外という案が19年夏に浮上した。これに驚いたのが、この期間に高額な買い取り価格を当て込んで日本の太陽光発電事業に参入した発電事業者らだ。 ●10年間で6000億円 太陽光発電を手掛けるオリックスの関係者は「こんなひどい後出しじゃんけんは見たことがない。当社の株主は外国人投資家も多い。日本の再エネ制度への信頼を損なう制度変更だ」と憤る。発電事業者らの試算によると、該当する期間の電源で稼働済みの全案件を対象にすると、23年度以降の10年間で計約6千億円の課金につながるという。カナディアン・ソーラー・アセットマネジメントの中村哲也社長は「予定していた利益を遡及的に奪う制度変更で納得できない。将来の投資も難しくなる」と話す。事業者からは、このまま利潤配慮期間に何の調整措置も講じられない場合、日本も加盟するエネルギー憲章条約に基づき「投資家に対する公正待遇義務に違反する」として、国との仲裁を求める訴えを起こすとの発言も飛び出す。再エネ制度の変更をめぐるトラブルが起きているのは日本だけではない。スペイン政府は10年に制度変更を行い、海外の発電事業者らから30件以上の仲裁を申し立てられた。資源エネルギー庁は「スペインの例は買い取り価格自体を引き下げるなど、より直接的な制度の不利益変更だった。日本のようにコストが上昇して間接的に利益が減ることまで条約違反といえるかは疑問」と反論する。国は高まる事業者らの不満を収めるため、19年12月17日の専門会合で新たな制度案を示した。発電側の課金によって負担が減る小売事業者と、FITの発電事業者が交渉して新たな取引価格を決める内容だ。小売り側が取引価格に一定程度を補填することを見越した案だ。 ●普及へ透明性を 結局、負担をグルグル付け替えているだけで、誰が何を負担しているのか理解しにくい構図になっている。新提案への発電事業者の反応は「少しでも補填してもらえるならありがたい」というものから「交渉力が劣る事業者が損をするのでは解決にならない」など温度差がある。1月以降も制度設計を巡る議論が続く見通しだが、結論が出るかどうかは微妙だ。再エネを普及させるために政府が当初高い収益モデルを示し、国内外から投資を呼び込む手法は欧州など海外政府も活用している。ただその後、持続可能性の観点から参入事業者に不利な制度に変え、事業者が不信感を抱く事態が繰り返されれば、再生エネの普及自体が遠のく。必要な負担をどう配分するのか。丁寧な説明も含めて、透明性の高い制度設計が欠かせない。 *4-4:https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2020011701001236.html (東京新聞 2020年1月17日) 25年度の赤字額は3・6兆円に 基礎的財政収支、税収伸び悩み 政府は17日、経済財政諮問会議を開き、中長期財政試算を示した。重要指標の「基礎的財政収支」は、高い成長率が続く楽観的な想定でも、黒字化を目指す2025年度に国・地方の合計で3兆6千億円の赤字になる。世界経済の減速で税収が伸び悩み、赤字額は昨年7月試算の2兆3千億円から拡大。目標達成に向け、一段の歳出抑制と歳入増加策が必要となる。GDP成長率は、昨年12月に決定した経済対策の効果などで、23年度に実質で2%、名目で3%台の高成長を実現すると想定した。この場合、基礎的収支は前回試算と同じ27年度に黒字化するが、黒字額は1兆6千億円から3千億円に縮小した。 <農林中金は職員を地方に多く置くべき> PS(2020年1月18日追加):農林中金は、*5-1のように、①2022年にも本店を有楽町から大手町に移転する ②都内の複数の事務所を集約して効率化に繋げる ③賃料等で年間約20億円のコスト削減をする ④ペーパーレス化等で職員1人当たりのスペースを半減させる ⑤JAグループ一体となって効率的で働きがいのある職場づくりを目指す としているが、農林中金の役割は、農協が地方の農業者から集めた預金を農業の発展のために使うことであり、都市銀行と同様に外国で散財することではない。そのため、地方の農協に支店を置いて優秀な人材を配置し、農業地帯を歩いて実情を知った上で、農業の発展のためにできることを企画すべきだ。 従って、①②はよいと思うが、農林中金本社に約1200人もの職員を置いておく必要はなく、本社は300人くらいにして残りは地方に配置し、農村地帯で経験を積ませるのがよいだろう。何故なら、そうすれば農業現場のニーズを知ってスキームを作ることができ、③の賃料も格段に安くなる上、地方に人材が供給されるからである。ただし、人の能力が結果を左右するため、優秀な人材を採用する必要があり、そのためには④のように職員1人当たりのスペースを半減させるのではなく、外資系並みのゆとりある快適なオフィスを作って、⑤を達成させるべきである。 なお、現在は、*5-2のように、政府が技術革新でCO2を削減するために、今後10年間で官民あわせて30兆円を研究開発に投資し、2050年までに世界で予想される排出量以上の年600億トン以上を削減する目標を掲げているが、ここで重要な役割を果たすのは、地方にある再エネ資源と農林漁業なのだ。 さらに、*5-3のように、台湾の鴻海がFCAと中国でのEVの合弁会社設立に向けて交渉する時代となり、再エネ・EV・自動運転は農林漁業や地方で大きな役割を果たすのである。 *5-1:https://www.agrinews.co.jp/p49765.html (日本農業新聞 2020年1月18日) 農林中金本店移転へ 東京・大手町に 事務所集約し効率化 農林中央金庫が本店を東京・有楽町から大手町に移転する方向で検討していることが17日、分かった。都内にある複数の事務所を集約し、効率化につなげる。賃料などで、年間約20億円のコスト減を見込む。年度内をめどに移転を巡る方針を正式決定。2022年にも移転する。農林中金は1923年に創立し、当初は日本橋に本店があった。1933年に現在の場所にあった「農林中央金庫有楽町ビル」に移った。93年に第一生命ビルと一体化し、現在の「DNタワー21」となった。農林中金は土地の約4分の1、建物の3分の1強を所有している。現在のビルには農林中金の職員約1200人が勤めており、同ビル近くや豊洲、大手町のJAビルにも本店機能を持つ事務所がある。どこまで集約するかは調整中だが、これらを集約し移転することで、賃料をはじめとした運営コストの削減につなげる。移転先は、JA全中やJA全農が入るJAビル近隣のビルで調整。複数フロアを購入する方向だ。22年から1年程度で段階的に移転をしていく。厳しい事業環境を受けて、JAが経営基盤強化に取り組む中で、農林中金としても効率化を進める。ペーパーレス化などを通じて、新たなビルではこれまでに比べて、職員1人当たりのスペースを半減させることを目指す。JAビルの近くとすることで、JAグループ内の連携強化にもつなげる。農林中金は「関係者と調整中だが、本店機能集約は検討している。創立100周年に向けて、JAグループ一体となり、効率的で働きやすく、働きがいのある職場づくりを目指したい」として、移転を働き方改革にもつなげる考えだ。 *5-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200118&ng=DGKKZO54509560X10C20A1EA3000 (日経新聞 2020.1.18) 技術革新でCO2削減 政府新戦略、10年で官民30兆円投資 政府は技術革新で世界の二酸化炭素(CO2)排出削減をめざす新戦略をまとめた。CO2吸収素材を活用したセメントの普及など日本が得意とする先端技術の研究を加速し、今後10年間で官民あわせて30兆円を研究開発に投資する。2050年までに世界で予想される排出量を上回る年600億トン以上を削減する目標を掲げた。政府が21日に開く統合イノベーション戦略推進会議で、革新的環境イノベーション戦略として決定する。政府は地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」実現のため19年6月に長期戦略を閣議決定した。今回の戦略はこれを補完し、日本が強みを持つエネルギー・環境分野の施策を打ち出し、世界のCO2削減を先導する役割を強調する。各国の研究機関をつなぐ拠点となるゼロエミッション国際共同研究センターを立ち上げる。ノーベル化学賞を受賞した旭化成の吉野彰名誉フェローが研究センター長に就く。吉野氏は17日、安倍晋三首相と面会し「地球環境問題は人類共通の課題。高い目標があるほど研究者は一生懸命頑張る」と述べた。内閣府などによると、世界全体では毎年500億トン規模のCO2が排出され、30年には570億トンになる見込みだ。600億トン以上削減できる技術の達成をめざす。 *5-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200118&ng=DGKKZO54539960X10C20A1FFN000 (日経新聞 2020.1.18) FCA、EVで巻き返し、鴻海と「空白地」中国攻略へ 欧米自動車大手フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)は17日、台湾の電子機器の受託製造サービス(EMS)世界最大手、鴻海(ホンハイ)精密工業と中国での電気自動車(EV)の合弁会社設立に向け交渉していると発表した。FCAにとって中国とEVはほぼ「空白地」。自動車生産のノウハウが薄い鴻海と組む異例の戦略で巻き返しを図る。鴻海側は16日に合弁を設立する方針だと発表。FCAの17日の声明では、「最終的な合意に至るとは限らない」との注記をつけたうえで、2~3カ月以内に拘束力のある合意を目指すとした。FCAによると折半出資で次世代のEVと「つながるクルマ」を開発・生産する新会社も設立を目指す。鴻海は同社からの直接出資は4割を超えないとし、残りは関連会社などを通じた出資になる見通しだ。FCAの自動車生産のノウハウと、鴻海のスマートフォンなどデジタル機器製造のノウハウを融合し、つながるEVの生産を目指す。EVなどの次世代車の生産を巡り、自動運転技術開発の米ウェイモと自動車部品大手のマグナ・インターナショナル(カナダ)が組んだり、中国新興EV大手の上海蔚来汽車(NIO)が中堅自動車メーカーの安徽江淮汽車集団(JAC)に生産委託をするなどの動きが出ている。ソフトに強みを持つ新興企業と伝統的な自動車産業のプレーヤーが組む動きが多く、大手自動車メーカーとEMSという今回の組み合わせは異例だ。鴻海は中国の配車サービス最大手、滴滴出行に出資、FCAはウェイモと協業しており、今後こうした新興企業が合弁に合流する可能性も注目される。FCAは2019年12月に仏グループPSAと対等合併で合意、規模を生かしてEVを強化する方針を示していた。ただ両社にとって中国を含むアジアは空白地だ。調査会社のLMCオートモーティブによると、両社を合わせてもアジア全体の販売台数は約50万台(18年)でシェアは約1%にとどまる。中国のEV市場は足元では停滞しているが、長期的には成長が見込まれる。FCAは中国では広州汽車集団と自動車合弁を組んでいるが、広州汽車はトヨタ自動車やホンダとも広くEVを生産している。FCAとPSAの統合が完了すれば、鴻海との合弁を軸に、PSAが欧州で培ったEVのノウハウもつぎ込みながら、巨大市場を開拓する考えとみられる。 <女性議員や閣僚も標的になりやすいこと> PS(2020.1.20追加):「選挙が汚れて国会議員の質は悪い」というイメージ操作が頻繁に行われ、今回は女性である河井案里氏が、昨夏の参院選で違法な報酬を支払ったと運動員が証言したと話題になっている。しかし、*6-1に書かれている「①2019年夏の参院選でウグイス嬢に法定金額を上回る、3万円の日当を支払った」「②ビラ配り、のぼりを持ったり、手を振ったりなど、選挙事務所や現場で選挙運動に直接かかわったAさんに11日で15万5千円の報酬を支払った」「③時給1000円くらいで上限は日当15000円までになると言われた」「④最初から報酬を約束されていた」「⑤数十万円の報酬を受け取った運動員が地元紙で報じられている」「⑥公職選挙法で認められていない運動員に報酬を支払った容疑」を、*6-2の現在の公職選挙法に照らして見ると、選挙運動員には報酬を支給することはできないが、うぐいす嬢には1日 1 人につき15,000円以内(超過勤務手当は支給できない)を支給することができ、労務者(人数制限はない)にも1日 1 人につき15,000円以内(10,000円+超過勤務手当はの上限5,000 円を支給することができる。そのため、①については、ウグイス嬢が手振りやビラ配りなどの単純労働も行っていれば(ウグイス嬢は、ふつう雑用も行い、地元の人とは限らないため買収しても仕方なく、こういう少額では買収されないだろう)市場価格と言われる3万円の日当を払っても法令違反とは言えないだろう。また、Aさんは単純労働しかしていないため、②③④は公職選挙法違反ではない。さらに、⑤⑥は、事実なら違法だが、検察はこの点は指摘していない。 つまり、女性である河井案里氏を標的にして「国会議員は金で汚れている」というイメージを作っているが、現在は収支報告書で収支を報告し、監査も受けているため、昔のようなビッグな金の動きはないのである。 *6-1:https://dot.asahi.com/wa/2020011500092.html?page=1 (週刊朝日 2020.1.15) 河井案里参院議員が違法報酬も 昨夏の参院選で運動員が証言 2019年夏の参院選で、車上運動員(ウグイス嬢)に法定金額を上回る、3万円の日当を支払ったとして刑事告発されている、河井案里参院議員。広島地検は15日、河井議員と夫で前法相の克行衆院議員の事務所を強制捜索した。さらに案里議員にはウグイス嬢への「日当疑惑」だけではなく、選挙運動した男性、Aさんにも15万5千円の報酬を支払っていたことが本誌の調べでわかった。公職選挙法では、ウグイス嬢や、選挙運動に直接関わらない事務スタッフに限り報酬の支払いが認められる。Aさんは選挙運動に直接かかわり、報酬をもらっていた。ウグイス嬢と同様に、その支払いは買収になる可能性がある。Aさんによれば、参院選の少し前に、案里議員の知り合いから選挙を手伝ってくれないかと話があったという。「4月の統一地方選で広島の地方議員さんの事務所に出入りしていたことがあった。その関係で声がかかりました」。予定が空いていたAさんは承諾。当時をこう証言する。「時給1000円くらいで、上限は日当で15000円までになるけど、いいかと聞かれました。週刊文春でも名前が出ていた、Tという秘書からでした」。ビラ配り、のぼりを持ったり、手を振ったり、選挙事務所や現場で直接、選挙運動に加わった。7月6日から選挙が終わるまで合計11日間、手伝ったという。その後、T秘書から「時間がある時に、寄ってほしい」と言われて、指定された広島市安佐南区にある案里議員の夫、克行衆院議員の政治資金管理団体「河井克行を育てる会」の事務所(広島市安佐南区安東)を訪れたのは、7月31日だった。「T秘書から封筒に入った現金112500円を渡されました。そして『残りは振り込みます』と言われました。スマートフォンで銀行口座をチェックしたところ、同じ日に43000円が案里議員の自民党広島県参議院選挙区第7支部から振り込まれていた。合計で155000円をもらったことになります」。Aさんは本誌にこう証言し、スマートフォンで銀行の取引履歴を見せてくれた。そこには<20190731 43000円 ジユウミンシュトウヒロシマケンサンギインセンキョクダイナナシブ>と記されていた。自民党広島県参議院選挙区第7支部は案里議員が支部長を務めている。「口座番号は選挙期間中に聞かれたのでメモして渡したように記憶しています。最初から報酬を約束されていましたから」(Aさん)。また、案里議員の選挙を手伝っていたBさんも報酬を打診されたという。「案里議員の選対責任者から、30万円でと言われた。断ると50万円でどうかと言われた。内容からして、公選法に引っかかるかもと辞退した。私以外にも、複数の人が報酬をもらっていると聞いた」(Bさん)。すでに、数十万円の報酬を受け取った運動員が地元紙で報じられている。「ウグイス嬢への法定で決められた金額以上の日当を払っていたという疑いや、公職選挙法で認められていない運動員に報酬を支払った容疑も浮上している。運動員への報酬は支払いがあるだけでアウトだ。そちらも捜査を進めている」(捜査関係者)。Aさんはこう言う。「公選法で受け取ることができない金とは知らなかった。取材を受けて認識しました。何か対応を考えたいと思っています」。案里議員の事務所は取材に対し、こう回答した。「刑事事件の進捗や捜査への支障の有無などを勘案し、適切な時期に皆様に説明致したい」 *6-2:https://www.city.kumagaya.lg.jp/about/soshiki/senkyo/senkyokanriiinkai/oshirase/20181106.files/senkyoundouhiyou.pdf#search=%27%E9%81%B8%E6%8C%99%E9%81%8B%E5%8B%95%E3%81%AE%E5%A0%B1%E9%85%AC%E4%B8%8A%E9%99%90%27 (「選挙運動費用の制限と届出」より抜粋) 報酬及び実費弁償の支給 <選挙運動従事者、労務者に支給することができる報酬> ①選挙運動員 支給できない ②選挙運動のために使用する車上運動員 1日 1 人につき15,000円以内 (いわゆるうぐいす嬢 等) (超過勤務手当は支給できない) ③専ら手話通訳のために使用する者 1日 1 人につき15,000円以内 (超過勤務手当は支給できない) ④専ら要約筆記のために使用する者 1日 1 人につき15,000円以内 (超過勤務手当は支給できない) ⑤労務者(人数制限はない) 1日 1 人につき10,000円以内 (超過勤務手当は10,000 円の 5 割以内) <女性がリードした環境政策とエネルギー変換> PS(2020.1.21追加):太陽光発電・分散発電・電気自動車は、1995年前後に私がインドに行った時、人口の多いインドで自動車が普及し始めたのを見て「化石燃料では必ず行き詰る」と考え、日本の経産省に提案したものだ。しかし、これを「私が最初に提唱した」と言うと、必ず「嘘だ。謙虚でない。そんなことは誰でもできるのに傲慢な思い込みだ」などと言われた。その後、誰でもできるのならさっさと他の人がやればよいのに、日本は大したこともせずにくだらない妨害行為を行い、ドイツのメルケル首相やヨーロッパ諸国、中国などが先に採用して、日本はまたまた外国に追随するという情けない結果となった。 世界では、*7-1のように、ドイツで再エネによる分散発電が進みつつあり、日本では、*7-2・*7-3のように、広島高裁が伊方原発3号機の運転を認めない仮処分決定をしたところだ。原発に絶対安全はなく、事故が起これば広い地域を壊滅させる猛烈な公害を引き起こし、伊方原発は中央構造線の上にあるのに災害想定が甘すぎる上、原発を海水で冷却することによって海に大量の熱を捨てて海水温度を上げているのだが、四国電力は、まだ「極めて遺憾で、到底承服できない」として不服申し立てをしようとしている。さらに、経産省は依然として原発を重要なベースロード電源と位置付け、2030年度の電源構成に占める割合を20~22%に引き上げる計画で、脱原発を求める国民世論と大きな乖離があるのだ。そのため、安全対策の拡充で発電コストが上がり、核燃サイクル計画も破綻し、日本が世界有数の火山国で地震も極めて多いことを考えれば、今国会で速やかにエネルギー政策を考え直すべきである。 そして、後輩の皆さん、*7-4のように、佐賀県立唐津東高校の校歌は下村湖人作詞で、大きな志や開拓者精神、希望を歌に込めた素晴らしいものだが、私はこれを歌っていた生徒の頃には、「われらの理想は祖国の理想、 祖国の理想は世界の理想」というのはどうやって実現するのか、全くわからなかった。しかし、本物の理想を追求すれば、祖国がついてきたり、祖国がすぐについてこなくても世界で採用されて祖国が後から追随してきたりすることもあり、こういうことも可能だったのだ。そして、ここに表現されている自然も護らないと・・。 2020.1.18毎日新聞 2020.1.17 2017.12.14朝日新聞 2019.9.12東京新聞 中日新聞 (図の説明:左から1番目と2番目の図のように、広島高裁が伊方原発3号機の運転を認めない仮処分決定をした。右から2番目の図のように、阿蘇山から160km以内にある原発は、このほかに玄海原発と川内原発がある。また、1番右の図のように、福島第一原発事故では、広い範囲が放射性物質で汚染され、成長中で細胞分裂の激しい若い人が特に帰還できない状況だ) *7-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200121&ng=DGKKZO54622930Q0A120C2MM8000 (日経新聞 2020.1.21) エネルギーバトル 電力、代わる主役(上) 技術が変える供給網、大手介さず個人で融通 電力の主役が電力会社から個人や新興企業に移ろうとしている。自然エネルギーを使った発電技術とIT(情報技術)が急速に発展し、個人間や地域内で電力を自在にやりとりできるようになったためだ。電力会社が大型発電所でつくった電気を自社の送電網で送るという当たり前だった景色が変わりつつある。「不便を感じずに環境に貢献できてうれしい」。独南部に住むエンジニアのトーマス・フリューガーさんは、独ゾネンの蓄電池を使った電力サービスをこう評価する。2010年創業の同社は契約者間で電力を融通し合う仕組みを実用化。顧客は欧州で5万人いる。 ●月額料金はゼロ 蓄電池とソーラーパネルを家庭に取り付ける初期費用に平均200万円かかるが、月に約20ユーロ(2400円)支払うフリューガーさんは年間の電気代が6分の1程度になった。今は月額料金ゼロが標準プランだ。電気は需要と供給が一致しないと停電が起きる。日本の電力会社は多くの発電所を抱え、その稼働率の変化で供給量を調整して対応する役割を担ってきたが、ゾネンはそれを崩す。強みは人工知能(AI)に基づくアルゴリズムによる調整だ。電気が余分なところから足りないところへ、安くつくれる場所から市場で高く売れる場所へと自動で判断する。利用者は自ら気づかない間に電気を融通し合い、家庭で必要な分をまかなう。クリストフ・オスターマン最高経営責任者(CEO)は「旧来の電力会社のモデルは時代遅れだ。巨大な発電所が国全体に電力を供給するモデルは機能しなくなる」と話す。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は蓄電池の価格が30年までに16年の約4割に下がるとみる。中国企業の増産を背景に、さらに下がると指摘する関係者もおり、ゾネンのような活用は広がりそうだ。 ●巨額投資不要に 国際エネルギー機関(IEA)によると、新興国の経済成長を背景に電力需要は40年に17年の1.5倍に増える。その4割を太陽光などの再生エネが占める見込みで、発電の主役も石炭から交代する。大型の石炭火力や原子力発電所の発電能力は約100万キロワット。国内の家庭の電力消費量は1カ月250~260キロワット時で、家庭用太陽光の月間発電量は300キロワット時超が多いとされる。蓄電池でためたり、地域で融通できたりすればマネジメントは可能だ。大型発電所や、それをつなぐ長い送電網を巨額の投資で作らなくても、電力ビジネスを展開できるようになる。国内で地域ごとに独占権を持つ電力会社が「発電・送配電・小売り」の事業をまとめて手掛けるようになったのは1951年。再生エネやテクノロジーの進化が、70年の慣行を変える。電力自由化で先行した欧州では電気をつくる会社、送る会社、売る会社など、機能ごとの再編が進んだ。既に英独では石炭などの化石燃料よりも再生エネの発電量が上回る月もある。電力大手は石炭やガス、原子力などの大型発電所の効率をどう高めるかにばかり力を入れてきた。ただ、競争のルールそのものが大きくかわり、エネルギー産業は転換期を迎えている。 *7-2:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1059877.html (琉球新報社説 2020年1月20日) 伊方差し止め 原発ゼロへ転換すべきだ 四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)について、広島高裁が運転を認めない仮処分決定をした。伊方3号機の運転を禁じる司法判断は、2017年の広島高裁仮処分決定以来2回目だ。再び出た差し止め決定を業界や政府は重く受け止めるべきである。今回主な争点となったのは、耐震設計の目安となる地震の揺れ(基準地震動)や、約130キロ離れた熊本県・阿蘇カルデラの火山リスクに関する四国電や原子力規制委員会の評価の妥当性だった。地震に対する安全性について四国電は、伊方原発がある佐田岬半島北岸部に活断層は存在せず、活断層が敷地に極めて近い場合の地震動評価は必要ないと主張していた。だが高裁は「敷地2キロ以内にある中央構造線自体が横ずれ断層である可能性は否定できない」ことを根拠に挙げ、「四国電は十分な調査をしないまま安全性審査を申請し、規制委も問題ないと判断したが、その過程は過誤ないし欠落があった」と指摘した。火山の危険性を巡っては、最初の禁止判断となった17年の仮処分決定は阿蘇カルデラの破局的噴火による火砕流到達の可能性に言及したが、その後の原発訴訟などでリスクを否定する判断が続いた。だが今回は「破局的噴火に至らない程度の噴火も考慮すべきだ」として、その場合でも噴出量は四国電想定の3~5倍に上り、降下火砕物などの想定が過小だと指摘した。それを前提とした規制委の判断も不合理だと結論付けた。東京電力福島第1原発事故で得られた教訓は「安全に絶対はない」という大原則だ。最優先されるべきは住民の安全であり、災害想定の甘さを批判した今回の決定は当然である。四国電は「極めて遺憾で、到底承服できない」と反発し、不服申し立てをする方針を示した。政府も原発の再稼働方針は変わらないとしている。だがむしろ原発ありきの姿勢を改める契機とすべきだ。共同通信の集計によると原発の再稼働や維持、廃炉に関わる費用の総額は全国で約13兆5千億円に上る。費用はさらに膨らみ、最終的には国民負担となる見通しだ。原発の価格競争力は既に失われている。電力会社には訴訟などの経営リスクも小さくない。一方、関西電力役員らの金品受領問題では原発立地地域に不明瞭な資金が流れ込んでいる実態が浮かび上がった。原発マネーの流れにも疑念の目が向けられている。政府は依然、原発を重要なベースロード電源と位置付け、2030年度に電源構成に占める割合を20~22%に引き上げる計画だ。脱原発を求める国民世論とは大きな乖離(かいり)があり、再生可能エネルギーを拡大させている世界の潮流からも取り残されつつある。政府や電力業界は原発神話の呪縛からいい加減抜け出し、現実的な政策として原発ゼロを追求すべきである。 *7-3:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/576849/ (西日本新聞社説 2020/1/19) 伊方差し止め 甘い災害想定に重い警鐘 原発再稼働を進める電力各社の安全対策と、それを容認している原子力規制委員会の判断は妥当なのか。その根幹に疑問を投げ掛ける司法判断である。四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の運転禁止を求めて、50キロ圏内である山口県の住民3人が申し立てた仮処分の即時抗告審で、広島高裁が運転を差し止める決定をした。伊方原発は細く延びる佐田岬半島の根元にある。深刻な事故が起きれば半島住民の避難は困難を極める。対岸約40キロの大分県を含む九州や中国地方にも甚大な被害が広がりかねない。伊方原発のそばを国内最大規模の中央構造線断層帯が走り、約130キロ離れた熊本県・阿蘇山も活発に活動を続けている。地震と噴火による災害リスクが適切に調査、判断された結果として、再稼働が認められたのか-。これが争点だった。決定は調査、判断ともに「甘い」との結論になった。地震については、原発周辺の活断層の調査が不十分と指摘した。阿蘇カルデラの噴火によるリスク評価も過小と判断した。加えて、安全性に問題がないとした原子力規制委の判断も誤りで不合理と断定している。福島第1原発の事故後、政府は「世界最高レベルの新たな規制基準」に適合した原発の再稼働を進めてきた。伊方3号もその一つだ。今回の決定は、規制基準へ適合させてきた電力会社の調査と、規制委の判断がともに不十分と指弾しており、「基準適合」に対する国民の信頼が揺らぐことは間違いない。規制委は最新の知見を踏まえながら、不断に基準を見直す努力を重ねる必要がある。電力各社も災害リスク調査のあり方などを改めて検証すべきだ。原発に関する司法判断はかつて、行政や専門家の判断を追認するものが大半だった。福島の事故後は裁判官によって従来より厳しい判断も出るようになった。運転差し止めを認めたのは今回で5例目であり、伊方3号機の運転を認めない仮処分決定は2017年に続き2回目だ。政府は福島事故後も原発をベースロード電源と位置付け、30年度に電源構成に占める割合を20~22%に引き上げる計画だ。ただ再稼働できたのは5原発9基にとどまる。再稼働しても、司法判断で止まる可能性があることが今回改めて示された。安全対策の拡充で、発電コストにおける原発の優位性は後退している。核燃サイクル計画も事実上、破綻したと言えよう。日本は世界有数の火山国で地震も極めて多い。ここで将来にわたり原発と共存していけるのか。今回の決定はエネルギー政策を考え直す契機ともしたい。 *7-4:http://www.people-i.ne.jp/~kakujyo/kooka.htm (佐賀県立唐津東高等学校校歌 下村湖人作詞、諸井三郎作曲) 天日輝き 1.天日かがやき大地は匂い 潮風平和を奏づる郷に 息づくわれらは松浦の浜の 光の学徒 光、光、光の学徒 2.はてなく広ごる真理の海に 抜手をきりつつ浪また浪を こえゆくわれらは松浦の浜の 力の学徒 力、力、力の学徒 3. 平和と真理に生命をうけて 久遠の花咲く文化の園を 耕すわれらは松浦の浜の 希望の学徒 希望、希望、希望の学徒 4.われらの理想は祖国の理想 祖国の理想は世界の理想 理想を見つめて日毎に進む われらは学徒 光、力、希望の学徒
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2019,07,22, Monday
国会議員の女性割合 管理職の女性比率 女性・女系天皇(2019.7.10毎日新聞) (図の説明:左図のように、日本の国会議員に占める女性割合は著しく低く、中央の図のように、管理職に占める女性割合も低い。さらに、右図のように、女性天皇・女系天皇に未だ反対する政党もあり、世界からは周回遅れになっている) 2019.7.22毎日新聞 2019.7.22読売新聞 2019.5.13朝日新聞 (図の説明:2019年参院選の結果は、左図のようになった。女性は、中央の図のように、候補者に占める女性割合より当選者に占める女性割合が低く、一般に女性の当選率の方が悪いことがわかる。また、女性・女系天皇を認めた場合の皇位継承順位は、右図のようになる) (1)リーダーになる機会の男女平等はあるのか 1)2019年の参院選について *1-2のように、①2013年4月に安倍首相が成長戦略に女性活躍を盛り込み ②2014年1月の国会施政方針演説では「全ての女性が活躍できる社会をつくるのが安倍内閣の成長戦略の中核」と述べられ ③2016年4月には企業や自治体に女性の登用目標などの計画策定・公表を義務付けた女性活躍推進法を施行し ④2018年5月には「政治分野の男女共同参画推進法」が議員立法で成立して、女性が活躍しリーダーになるための法律整備は既にできている。 しかし、2019年の参院選における主要政党の女性候補割合は、野党は社民(71%)、共産(55%)など女性が半数を超える政党もあり、立憲民主(45%)も約半数だが、与党は自民(15%)、公明(8%)と低かった。これには意識の低さ以外に、すでに現職で埋まっているため新しい候補を擁立しにくいという事情もあるだろう。 世の中は、少子化による生産年齢人口割合の減少で物理的にも女性労働力の重要性は増しておりが、女性の地位向上によって男性にはない視点からの気付きを意思決定や政策に反映しやすくなる。そのため、男性優位の習慣や制度は大胆に変えるのが経済的にも有効だが、日本の女性登用は欧州連合(EU)委員長と欧州中央銀行(ECB)総裁に女性を起用した欧州に比べると30年遅れである。 なお、7月21日に投開票された参院選の候補者となった女性の当選率は、*1-1のように、26.9%で、男性の36.1%に及ばず、女性候補の比率は過去最高の28.1%となったものの全当選者に占める女性の比率は22.6%に留まった。選挙区別では、女性当選者が東京で半数の3人を占め、神奈川や大阪でも半数だったが、九州は全体で0だった。 女性の当選率が低い理由は、女性候補が野党に多く、現職でない上に準備期間も短いため、不利な闘いを強いられることだろう。しかし、九州の0は、*2-2に代表される女性蔑視が大きな原因の一つだと考える。 2)世界と日本の男女平等度 日本の男女平等度は、*1-3のように、世界経済フォーラムが公表する「ジェンダーギャップ指数」で示されており、この指標による日本の2018年の順位は149か国中110位とG7、G20で最下位だ。指標の内訳は、2018年で、①経済分野 0.595(117位) ②教育分野 0.994(65位) ③健康分野 0.979(41位) ④政治分野 0.081(125位) であり、いずれも決して高くはないが、政治分野は特に低い。 政治分野の評価の対象は、「国会議員の男女比」、「女性の閣僚率」、「女性首相の在任期間」などだが、国会議員における女性の割合が衆議院10.2%、参議院20.7%(平成31年1月現在)であるのは、日本のジェンダー平等への進行が遅すぎるということだ。 今回の参院選では、370人の候補者のうち女性は104人で28.1%を占め、過去最高の高さと言われているものの、政党別では、①自民党15%(12人) ②立憲民主党45%(19人) ③国民民主党36%(10人) ④公明党8% (2人) ⑤共産党55%(22人) ⑥日本維新の会32%(7人) ⑦社民党71%(5人)と党による差が大きい。 しかし、採用時点で30%では、指導的地位に女性が占める割合を30%程度にすることはできず、2020年に指導的地位の女性割合を30%にするためには、採用時は50%くらいでなければ、女性に多いハードルや偏見をクリアして生き残る人は30%にならない。そして、衆議院議員・参議院議員も、なっただけでは指導的地位についたとは言えず、実力と実績で閣僚や党幹部になれて初めて指導的地位についたと言えるのである。 3)他分野における指導的地位に女性が占める割合 i) キャリア官僚への女性合格 国家公務員キャリア官僚への女性合格率は、*1-4のように、2019年度の採用試験で1798人が合格し、女性割合は過去最高の31.5%で初めて3割を超えたそうだが、キャリア官僚になったから指導的地位に就いたとは言えないため、採用時は女性を50%採用すべきだ。 そうすれば、次官や局長などの女性割合が次第に30%になると思われるが、2020年にはとても間に合いそうにない。 ii) 女性天皇、女系天皇は何故いけないのか このように、「指導的地位の女性割合を30%にしよう」と言っている時代に、*1-5のように、女性天皇や女系天皇に拒否感を示す政党は、科学的でも論理的でもなく感情的である。 立憲民主党は「皇位継承資格を女性・女系皇族に拡大し、現代における男女間の人格の根源的対等性を認める価値観は一過性ではない」と明記し、「皇位継承順位は長子優先」とした。共産党は女性・女系天皇に賛成する立場を明らかにしており、自民党と国民民主党は男系維持だ。この「立憲民主党」「共産党」と何かと自民党に近い「国民民主党」の違いが、今回の野党間の選挙結果の違いに繋がっていると思う。 (2)女性がリーダーになることを阻害する偏見・女性蔑視 2019年7月22日、*2-1のように、佐賀新聞が「政治分野の男女共同参画推進法成立後、初めての大型国政選挙だったが、参院選の女性当選者数は、選挙区18人、比例代表10人の計28人で過去最多の前回2016年と同数だったものの、立候補した女性104人のうち当選率は26.9%は前回を下回り、当選者全体に占める女性比率は22.6%だったと記載している。 せっかくこの認識に至ったのなら、私には心当たりが多いため、九州は全県で女性当選者が0だったという日本の平均から見ても周回遅れだったことも含めて、何故そうなるのかを分析し、女性候補に対する報道や表現を改めてもらいたい。何故なら、選挙は候補者を直接には知らない有権者が多く投票するため、メディアの女性蔑視表現で票が減ることが多いからである。 このような中、選挙の最中の2019年7月20日、西日本新聞が、*2-2のように、「IQ(論理的思考)とEQ(情緒的感性)には明確な男女差がある」と書いており、その内容は、「男性は論理的に思考するタイプが多く、女性は情緒的・感覚的に思考するタイプが多いという明確な差が出て、男性は論理的に考えるのが得意で、女性は共感力が高いというイメージに近い結果になった」というものだ。 これは、「(原因が何であれ)女性は感情的で男性ほど論理的でないため、リーダーには向かない」と言っているのであり、個に当てはめると妄想であって現実ではない。また、調査の仕方にも問題があり、出した結果は女性に対する偏見や女性差別にほかならない。さらに、こういう記事を書くことは女性候補者を不利にするため、選挙違反である。相手の立場に立って考える「おもいやり」は男女の別なく持っていなければならないものだが、そもそも“共感力”とはどういう能力なのか、特定の接客業以外で必要な能力なのか、私には意味不明である。 (3)女性差別を禁止する条約締結と法律制定の経緯 私は、東大医学部保健学科を1977年に卒業し、男性に比べて就職の条件が悪かったので公認会計士の資格を取るために勉強をしていた時、1978年頃、さつき会(東大女子同窓会)の代表だった正木直子さんから電話をいただき、「どうしてさつき会に入らないの?」と聞かれた。 そのため、「東大の卒業証書が就職であまり役に立たなかったからで、現在は公認会計士試験の勉強中です」と答えたところ、1979年の第34回国連総会で、*3-1の女子差別撤廃条約が採択され、日本は、1985年に、*3-2の最初の男女雇用機会均等法を外圧を借りて制定し、同年、女子差別撤廃条約を締結した。正木直子さんは、労働省勤務だったのだ! 女子差別撤廃条約の締結と最初の男女雇用機会均等法制定は、赤松良子さんや正木直子さんなど、労働省(当時)に勤務していたさつき会の先輩方が変わった人であるかのように言われながらも、日本の男女平等を進めるための法律を作ったのである。一方、同じ1985年に、厚生省(当時)は、専業主婦の奨めともなる年金3号被保険者を作り、年金制度を積立方式から賦課方式に変更し、日本では女性活躍のアクセルとブレーキが同時に踏まれたのである。 そして、*3-3のように、内閣府が男女共同参画社会基本法を作ったのは、*1-3のように、20年前の1999年だ。しかし、男女平等ではなく、男女共同参画に過ぎない。これに先立ち、1997年に男女雇用機会均等法が改正され、努力義務でしかなかった男女の雇用機会均等を義務化したが、これは経産省に私が頼んでやってもらったものである。 そのほか、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)」は、第2次安倍内閣下の最重要施策の1つとなり、2015年9月4日に公布・施行されたが、これは私の提案がきっかけだ。 また、2018年5月23日に公布・施行された「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」は、赤松良子さんが中心になって女性たちが協力してできた法律である。 つまり、女性差別を禁止する法律は、日本国憲法制定で男女平等を勝ち取ったのに差別され続けた日本女性が協力して制定してきたものだ。にもかかわらず、「男性には論理的に思考するタイプが多く、女性には情緒的、感覚的に思考するタイプが多い」とか「均等法以降の女性にのみキャリアがある」「空気を読むことが大切」などと言っているのは、馬鹿にも程があるのだ。 <リーダーになる機会の男女平等はあるのか> *1-1:https://www.jiji.com/jc/article?k=2019072200284&g=pol (時事 2019年7月22日) 女性28人、過去最多タイ=当選率、男性に及ばず-東京など半数占める【19参院選】 21日投開票の参院選で、女性の当選者は選挙区18人、比例代表10人の計28人となり、過去最多の前回2016年に並んだ。選挙区の当選者は16年より1人多く、最多記録を更新。一方、女性候補全体に占める当選者の比率は16年より2.3ポイント減の26.9%で、男性の36.1%には及ばなかった。今回の参院選は、男女の候補者数をできるだけ均等にするよう政党や政治団体に求める「政治分野における男女共同参画推進法」が18年5月に成立して以降、初の大規模国政選挙となった。ただ、女性候補の比率は過去最高の28.1%となったものの、全当選者に占める女性の比率は22.6%にとどまった。選挙区別では、改選数が1増えた6人区の東京で女性が半数の3人を占め、ともに4人区の神奈川と大阪でも男女の当選者が同数だった。政党別で見ると、12人が挑んだ自民党の当選者が10人で、16年に続き最も多かった。公明党は2人の候補がともに当選。女性を積極的に擁立した主要野党4党では、立憲民主党で19人中6人が議席を得たのに対し、候補者数が最多だった共産党は22人中3人、国民民主党は10人中1人の当選にとどまり、社民党はゼロだった。NHKから国民を守る党も女性当選者がいなかった。改選数1の1人区で無所属の野党統一候補として出馬した中では4人が勝利。日本維新の会、れいわ新選組はそれぞれ1人が初当選した。 *1-2:https://www.kochinews.co.jp/article/293741/ (高知新聞社説 2019.7.18) 【2019参院選 女性活躍の社会】看板倒れの現実直視を 「全ての女性が活躍できる社会をつくる。これは安倍内閣の成長戦略の中核です」。2014年1月の国会の施政方針演説で、安倍首相はそう決意を述べた。13年4月に成長戦略に女性活躍を盛り込んで、もう6年以上がたつ。演説では「20年には、あらゆる分野で指導的地位の3割以上が女性となる社会を目指す」と数値目標も掲げる意気込みだった。14年9月の内閣改造では、新設した女性活躍担当相ら5人の女性閣僚を起用。16年4月には企業や自治体に、女性の登用目標などの計画策定・公表を義務付けた女性活躍推進法が施行された。矢継ぎ早に打ち出された政策に対し、現在の実績はどうか。まず13年の政策演説で発表された「17年度末までに待機児童をゼロにする」との目標は、早々と断念し20年度末に先送りされた。女性閣僚の数も内閣改造のたびに減り、現在は片山地方創生担当相ただ1人だ。鳴り物入りで設置された女性活躍担当相も、片山氏が兼務するありさまである。政策を遂行する体制がこれでは、安倍政権のやる気を疑われても仕方がない。世界経済フォーラムが公表した18年版の男女格差報告によると、日本は調査対象の149カ国中110位だ。先進国では閣僚が男女ほぼ半々という国も珍しくない。女性1人というのは極端に遅れている。こうした現状を打開しようと昨年、「政治分野の男女共同参画推進法」が議員立法で成立した。選挙で男女の候補者数をできる限り均等にすることを目指す。同法が施行されて初の国政選挙となる今回の参院選が、今後を占う試金石となる。ところが主要政党の女性候補の割合を見ると、がくぜんとする事実が浮かんでくる。野党は社民(71%)、共産(55%)と女性が半数を超え、立憲民主(45%)もほぼ半数に近い。これに対し与党は自民(15%)、公明(8%)とあまりにも低い。自公が政権を握って6年半、早くから「女性が輝く社会」をぶち上げていったい何をしてきたのか。言い出しっぺがこのありさまでは、女性活躍推進法に真面目に取り組んでいる民間企業のやる気もそぎかねないだろう。安倍首相は男女が共同参画する社会の意義について、理解と努力が不足しているのではないか。少子高齢化が進む中で、国民の半数以上を占める女性の地位向上がなければ、よい政策や企画も生まれまい。これまでの「女性活躍」が看板倒れになっている現実を直視し、男性優位の習慣や制度を大胆に変えていく気概が必要だ。激動が続く欧州では先日、欧州連合(EU)委員長と欧州中央銀行(ECB)総裁に、ともに女性を起用する人事が固まった。世界との差は開く一方のようだ。 *1-3:http://ivote-media.jp/2019/07/09/post-3196/ (Ivote 2019.7.9) 2019年は節目の年【政治×女性】〜参院選2019〜 第25回参議院議員通常選挙が7月4日に公示され、投開票日は、7月21日となっています。2019年は12年に一度の「統一地方選挙」と「参議院議員選挙」が重なる亥年の選挙として大きな節目の年になっていてivote mediaでも取り上げています。そして、もう一つ大きな節目として、2019年は「男女共同参画社会基本法」が制定・施行されてから20年という節目の年でもあるのです。男女共同参画社会の実現というものを21世紀の日本の最重要課題と位置づけ、課題の解消のために走り始めた年から20年経過をした年になります。ジェンダー平等に関して、近年では「女性活躍」という言葉を頻繁に聞くようになり、女性活躍は安倍政権の看板政策の一つでもあり、立憲民主党はじめ他政党でもジェンダー平等について動きを見せています。そこで今回の記事では、男女共同参画社会基本法が成立してから20年が経過をした現在の日本の男女平等における状況、とりわけ「政治」の分野における状況を確認し、参議院議員選挙における、読者の方々の投票の一つの視点となってもらえればと思います。 ●日本における男女平等の現状 男女平等を世界の国々と比較するときに用いられる指標は、世界経済フォーラム(World Economic Forum)が公表する「ジェンダーギャップ指数」です。この指標では、経済・教育・健康・政治の4つの分野のデータから作成されています。そして、日本の2018年の順位は149か国中110位(前年:144か国中114位)であり、前年から4つ順位を上げたものの、G7内では最下位となっていて、男女平等については後進国といっても過言ではありません。 指標の内訳としては、(2018年←2017年) ◇経済分野 0.595(117位) ← 0.580 ◇教育分野 0.994(65位) ← 0.991 ◇健康分野 0.979(41位) ← 0.980 ◇政治分野 0.081(125位) ← 0.078 となっています。(1が完全平等を示す。) 政治分野の評価の対象には、「国会議員の男女比」、「女性の閣僚率」、「女性の首相在任期間」などが評価の対象となっています。皆さん、ご存じの通り、日本では未だ女性首相の誕生は一度もありません。そして、国会議員の男女比の割合について、衆議院では10.2%、参議院では、20.7%(平成31年1月現在)が女性の議員となっています。これらのデータや、皆さんの方々の実感から分かるように日本では、政治分野における男女平等は、後進国であると考えられます。しかし、男女共同参画社会基本法が成立してから、今現在まで無策だったわけではありません。国・都道府県においては、男女共同参画計画を策定し、ほぼ全ての基礎自治体においても、男女共同参画に関する計画を策定して施策を実施しています。自治体の施策だけでは解決しない問題ではありますが、ジェンダー平等に関する課題は日本の大きな課題として掲げ続けられています。そのような状況から、特に政治分野におけるジェンダー平等の不平等を解消しようという大きな動きも出てきています。平成30年(2018年)5月23日に「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」が公布・施行されました。この法律では、衆議院、参議院及び地方議会の選挙において、男女の候補者の数ができる限り均等となることを努力目標として掲げ、目指しています。そこで、この法律が成立をしてから初めての国政選挙となる第25回参議院議員通常選挙の立候補者の男女の割合を見てみましょう。 ●政党別立候補者数の男女比(今回の参院選) 第25回参議院議員通常選挙には、370人が立候補をすることを予定しています。そのうちの女性候補は104人で28.1%を占めています。これは、過去最高の割合の高さとなっています。では、政党別に女性候補の数と割合を見てみましょう。 ◇自由民主党 15%(12人) ◇立憲民主党 45%(19人) ◇国民民主党 36%(10人) ◇公明党 8% (2人) ◇共産党 55%(22人) ◇日本維新の会 32%(7人) ◇社民党 71%(5人) 政治分野における男女共同参画の推進に関する法律が制定されてからのはじめての国政選挙で、以上のような立候補者の状況となっています。 ●2020年30%目標 「2020年30%目標」初めて聞く人も多いかと思います。これは、「社会のあらゆる分野において、2020年までに指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%程度とする」という平成22年12月に閣議決定をされた目標です。「指導的地位」の中には、衆議院議員や参議院議員も含まれているため、国の目標としても30%という目標は達成をすべき大きな指標となっています。この目標は、兼ねてから掲げられてきた目標でありますが、今回の参議院議員選挙の立候補者の男女の割合、政党別にみたときの男女の割合はどうでしょうか。判断は皆さま方にお任せをします。(以下略) *1-4:https://www.hokkaido-np.co.jp/article/318756?rct=n_topic (北海道新聞 2019/6/25) 国家公務員の女性合格、初3割超 19年度、総合職 人事院は25日、2019年度の国家公務員採用試験で、中央省庁のキャリア官僚として政策の企画立案を担う総合職に1798人が合格したと発表した。うち女性は567人。割合は過去最高の31・5%で、初めて3割を超えた。前年度から4・3ポイントの増加。人事院は「中央省庁で活躍する女性が増え、入省後のイメージを描きやすくなったことが一因」と分析している。申込者数は1万7295人で、倍率は9・6倍だった。合格者の出身大学別は、東大の307人が最多で、京大126人、早稲田大97人、北海道大81人、東北大と慶応大が75人で続いた。 *1-5:https://www.sankei.com/politics/news/190611/plt1906110035-n1.html (産経新聞 2019.6.11) 立民が「女系天皇」容認 国民との違いが浮き彫りに 立憲民主党は11日、「安定的な皇位継承を確保するための論点整理」を取りまとめた。皇位継承資格を「女性・女系の皇族」に拡大し、126代に及ぶ男系継承の伝統を改める考えを打ち出した。「女性宮家」創設の必要性も強調した。一方、国民民主党「皇位検討委員会」は同日、男系維持に主眼を置いた皇室典範改正案の概要を玉木雄一郎代表に提出。両党間で皇室観の違いが浮き彫りとなった。立憲民主党の「論点整理」は伝統的な男系継承について「偶然性に委ねる余地があまりに大きい」と指摘した。また、「現代における男女間の人格の根源的対等性を認める価値観は一過性ではない」などと明記した上で、女系天皇を容認すべきだと訴えた。皇位継承順位に関しては、男女の別を問わず、「長子優先の制度が望ましい」とした。男系を維持する手段として旧皇族を皇室に復帰させる案は明確に否定。「今上天皇との共通の祖先は約600年前までさかのぼる遠い血筋だ。国民からの自然な理解と支持、それに基づく敬愛を得ることは難しい」と断じた。また、皇族減少に歯止めをかけるため、女性皇族が結婚後、宮家を立てて皇室に残り皇族として活動する女性宮家の創設を訴えた。一方、国民民主党は女系天皇を「時期尚早」として認めず、改正案も男系を維持する内容だ。ただ、過去に10代8人いた「男系の女性天皇」の皇位継承は認める。きょうだいの中では男子を優先した。皇統に関しては、共産党がすでに女性・女系天皇に賛成する立場を明らかにしている。3党は参院選の32ある改選1人区の全てで候補を一本化したが、最重要の皇室をめぐり、「立憲民主党・共産党」と「国民民主党」の間で方向性の違いが表面化した。 <女性がリーダーになることを阻害する偏見> *2-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/403685 (佐賀新聞 2019年7月22日) 女性当選者28人、過去最多に並ぶ、政府目標には届かず 参院選の女性当選者数は、選挙区18人、比例代表10人の計28人で、過去最多の前回2016年と同数となった。立候補した女性は104人で当選率は26・9%。前回を下回った。当選者全体に占める女性の比率は22・6%だった。政党に男女の候補者数を均等にするよう促す「政治分野の男女共同参画推進法」の成立後、初めての大型国政選挙。「指導的地位に占める女性の割合」を2020年までに30%にするとの政府目標には届かなかった。秋田と愛媛両県選挙管理委員会によると、両選挙区で戦後女性参院議員が誕生したのは初めて。 *2-2:https://www.nishinippon.co.jp/item/o/528623/ (西日本新聞 2019年7月20日) IQ(論理的思考)とEQ(情緒的感性)には明確な男女差が ●43万人の個性診断結果をビッグデータ解析して見えてきた、男女の思考性の違い COLOR INSIDE YOURSELF( https://ciy-totem.com/ )は43万人以上が利用する、自己診断サービスです。43万人以上の診断結果をビッグデータ解析した結果みえてきた、個性や性格に関する興味深い統計データをお届けします。 ●IQ(論理的思考)とEQ(情緒的感性)には明確な男女差が COLOR INSIDE YOURSELF(以下「CIY」)の診断結果では、個人の様々な特性が明らかになりますが、その中でも特に、「論理的に思考するタイプ」と「情緒的、感覚的に思考するタイプ」では、男女間で明確に差がでました。年齢別の診断結果の割合を多項式近似曲線で表すと、「論理的に思考するタイプ」は全年齢層で男性の割合が高く、逆に「情緒的、感覚的に思考するタイプ」では、全年齢層で女性の割合が高くなっています。ステレオタイプに言われているような「男性は論理的に考えるのが得意、女性は共感力が高い」というイメージに近い結果となりました。 ●男女によって、求められる思考性が異なる? さらに、ライフスタイル別の統計結果を見ると、男性では新社会人(23歳~29歳)から40代にかけて「論理的に思考するタイプ」が増加しています。女性では、高校から大学、社会人になるに従って「情緒的、感覚的に思考するタイプ」が増えており、30代からは緩やかに減っていきます。 ●年齢とともに性格が変化する要因は、何でしょうか? A:組織の中で、「男性は論理的であること、女性は情緒的で共感し合うこと」を求められた結果、年齢とともにそれぞれの思考性が変化していく B:そもそも男女で年齢とともに思考性が変化していく傾向があり、結果的に「男性は論理的、女性は情緒的で共感力が高い」という集団ができていく いずれの要因かまでは分析結果からはわかりませんでしたが、ここまで明らかになると、さらに興味深い洞察が得られそうです。 ●年齢とともに性格は変わるのか? 世代別の結果では、男性では「ゆとり第一世代~団塊ジュニア世代」までが、やや「論理的に思考するタイプ」が高くなっているようです。(女性では、世代別の変化は、あまり見られません。上述の通り、年齢や社会的なポジションに伴って性格が変わっていくのか、特定の世代に限って「論理的に思考するタイプ」がそもそも多いのかについても、興味深いポイントです。個性や性格の半分は遺伝で決まり、残りの半分はその他の要因によって決まると言われています。そのため加齢による性格の変化はそこまでないはずですが、男性で30−40代が「論理的に思考するタイプ」が多く、50代をすぎると「情緒的、感覚的に思考するタイプ」が増えていくという傾向を見ると、年齢とともに性格が変化しているとも感じられます。今後も継続的に結果を分析することで、年齢による変化なのか、特定の世代による傾向なのかを明らかにしていきたいと思います。 <女性差別を禁止する法律と条約> *3-1:https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/josi/index.html (外務省) 女子差別撤廃条約 女子差別撤廃条約は、男女の完全な平等の達成に貢献することを目的として、女子に対するあらゆる差別を撤廃することを基本理念としています。具体的には、「女子に対する差別」を定義し、締約国に対し、政治的及び公的活動、並びに経済的及び社会的活動における差別の撤廃のために適当な措置をとることを求めています。本条約は、1979年の第34回国連総会において採択され、1981年に発効しました。日本は1985年に締結しました。(以下略) *3-2:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/danjokintou/index.html (厚労省) 男女雇用機会均等法 *3-3:http://www.gender.go.jp/about_danjo/law/index.html#law_brilliant_women (内閣府男女共同参画局) 男女共同参画社会基本法 配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律 女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法) 政治分野における男女共同参画の推進に関する法律 <女性の当選者> PS(2019/7/23追加):滋賀県選挙区は1人区だが、脱原発を掲げる前滋賀県知事の嘉田由紀子さんが無所属で初当選された。無所属で立候補すると費用が自分持ちで大変なのだが、よく頑張られたと思う。 *4:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190722-00010002-bbcbiwakov-l25 (BBCびわ湖放送 2019/7/22) 参院選 嘉田氏当選/滋賀 参議院議員選挙は、21日投票が行われました。即日開票の結果、滋賀県選挙区は無所属新人で、前の滋賀県知事の嘉田由紀子さんが初めての当選を果たしました。初当選を果たした嘉田さんは「この滋賀から草の根の声をあげる転換点にしたい」と意気込みを語りました。参議院選挙滋賀県選挙区の開票結果は、嘉田由紀子さんが、29万1072票自民党現職で再選を目指した二之湯武史さんが27万7165票NHKから国民を守る党の新人服部修さんは、2万1358票でした。なお、投票率は51.96%で、3年前の前回を4.56ポイント下回りました。 <多様性、正常と異常の境界など> PS(2019/7/24追加):*5に「①生産年齢人口(15~64歳)の減少が進む日本では、女性・高齢者(65歳~)・外国人など働き手の多様化が必要」「②企業が収益・生産性を高めるためには、多様性が重要」「③多様な人材を活用するためには日本的な雇用慣行の見直しが不可欠」と書かれている。 このうち、②③はそのとおりだが、①は、生産年齢人口を15~64歳としているのが実態に合わないので18~70又は75歳にすべきで、そうすると年金など社会保障の支え手が増えると同時に、健康寿命を伸ばすこともできる。さらに、(若年男性の雇用だけを優遇するのはもともと憲法違反だが)“生産年齢人口”が減って人手不足であり、技術革新や新産業も起こっているため、高齢者・女性・外国人の雇用が若年男性の雇用を抑制することはない。むしろ、人材の多様性により、同質ではない人材の相互作用により、新製品が作られたり、新しい販路が開けたり、生産性が上がったりする。ただし、人材が多様化した時に報酬や賃金の公平性を保つためには、年功ではなく実績に基づいた個人に対する公正な評価が必要なのである。 なお、多様性と言えば「障害者」「LGBT」と書く記事が多いが、障害者やLGBTの人にも人権があって生きる喜びや働く喜びを享受したいのは当然であるものの、それらは多様性とは異なり異常の範疇に入る。さらに、現在、*6のように、「知的な遅れ」がないのに、たった3歳で「発達の遅れ」を指摘するような「同一主義」が横行するのは「ゆとり教育」による基礎教育不足のせいだろうか? そういう学級にいれば、正常な人は意味もなくざわつくのはうるさいと感じるだろうから、「発達障害」などとする過剰診断で、1人の人生が無限の夢あるものから支えられるだけのものになるのは痛ましく、もったいないことである。このように、“生産年齢人口”に統計学等の基礎教育が足りないのは、ますます“高齢者”の重要性を増加させるのである。 (図の説明:左図の人口ピラミッドを見ればわかるように、生産年齢人口が著しく減っているため女性が就職活動しても人手不足でいられ、これからは、“高齢者”や外国人も重要な労働力になるだろう。また、右図のように、“高齢就業者数”は増えているが、女性・高齢者・外国人の労働条件はいまだに悪いと言わざるを得ない) *5:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO47657400T20C19A7MM0000/?nf=1 (日経新聞 2019/7/23) 生産性向上、働き手の多様化が必要 経済財政白書 茂木敏充経済財政・再生相は23日の閣議に2019年度の年次経済財政報告(経済財政白書)を提出した。少子高齢化と人口減少が進む日本で企業が収益や生産性を高めるためには、働き手の多様化を進める必要があると分析。多様な人材を活用していくために、年功的な人事や長時間労働など「日本的な雇用慣行の見直し」が欠かせないと強調した。白書は内閣府が日本経済の現状を毎年分析するもので、今後の政策立案の指針の一つとなる。今回の副題は「『令和』新時代の日本経済」。生産性の向上を通じて、潜在成長率を高める必要性を訴えた。白書によると、日本の生産年齢人口(15~64歳)に対する高齢者人口(65歳~)の割合は43%で、世界の先進国平均より高い。2040年には64%まで増加することが見込まれている。政府は年齢や性別にかかわらず多様な人材を活用することで人手不足を緩和する働き方改革を進めてきた。高齢者の雇用拡大を巡っては、若者の処遇に影響を与えるとの懸念も根強いが、白書が上場企業の実際の状況を分析したところ、高齢者雇用の増加が若年層の賃金や雇用を抑制する関係性は見られなかったという。外国人労働者に関しても日本人雇用者との関係は補完関係にあるとの見解を示した。人材の多様性は生産性の向上につながることも分かった。企業における人材の多様性と収益・生産性の関係を検証したところ、男性と女性が平等に活躍している企業ほど収益率が向上している傾向が明らかになった。人材の多様性が高まった企業の生産性は、年率1.3%程度高まるとの分析を示した。内閣府による企業の意識調査によると、多様な人材が働く職場では、柔軟に働ける制度や、仕事の範囲・評価制度の明確化が求められている。「同質性と年功を基準とする人事制度では、個人の状況に応じた適切な評価ができない」として、日本型の雇用慣行の見直しを迫った。今年の白書では日本企業の国際展開が雇用に与える影響も分析した。グローバル化が進んでいる企業ほど、生産性や雇用者数、賃金の水準が平均的に高かった。実証分析の結果をみると、輸出の開始だけでなく、海外企業との共同研究や人材交流にも生産性が上がる効果が認められた。足元の日本経済については「緩やかな回復が続いている」との判断を示す一方、中国経済の減速などで「生産の減少や投資の一部先送りもみられる」とした。生産性の向上を賃金の上昇や個人消費の活性化につなげることが「デフレ脱却にも資する」と指摘した。 *6:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/529530/ (西日本新聞 2019/7/24) 発達障害 学ぶ場は 「通級教室」希望でも入れず 需要急増、教員が不足… 「通級指導教室を希望したが、かなわなかった。もっと数を増やせないのでしょうか」。発達障害があるという中学3年の男子生徒(14)から、特命取材班に訴えが届いた。調べてみると、通常学級に在籍しながら特別な指導を受けられる通級指導教室の需要は急激に伸びており、各自治体が運営に苦慮している実態が浮かび上がった。福岡県に住む生徒は、3歳で「発達の遅れ」を指摘された。知的な遅れはなく、小学校は通常学級で過ごした。中学入学後、問題が生じ始めた。通常学級に在籍したが、聴覚、視覚過敏が現れ、教室のざわつきに耐えられず、同級生とのコミュニケーションも難しくなった。昨年10月に「自閉スペクトラム症」との診断を受けた。今年2月、「コミュニケーションの方法を学びたい」として通級指導教室への入級を学校に申し出た。これに対し、特別支援教育の必要性を判定する「教育支援委員会」は9、11月の年2回しか開かれず、次回9月の委員会までは「難しい」と説明された。そもそも学校に通級指導教室がなかった。今春、通級教室が新設されたものの、既に定員は満杯。「落ち着ける場所をつくる」「苦しい時は教室を抜けることを認める」などの個別支援計画に沿って、スクールカウンセラーや補助教員がサポートすることで落ち着いた。生徒は「中学生になって急に苦しいことが増えた。状況に応じて柔軟に対応してほしい」。校長は「通級指導教室にいるのとほぼ同じ支援をしている」とする半面、「特別支援を希望する生徒は多いのに専門教員が足りず、希望に応じきれていない」と打ち明ける。 ■ 通級指導教室は、自閉症や情緒障害、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)などが対象。文部科学省によると、2017年度、通級指導を受けている児童生徒は全国で10万8946人と10年前の2・4倍。特に、発達障害の子どもが急増している。教室がある学校は5283校で全体の17・7%。福岡県は18年度は156校(271クラス)と10年で2・5倍に増えたが、全体の14・7%にとどまる。福岡市は16年度に通級の対象となったのに入れなかった児童生徒が113人と最多になったことから、設置を急ぎ、17年度以降、待機者はゼロという。北九州市も希望者が毎年200人前後に上るため、08年度に通級の対象期間を上限3年と決め、12年度以降は待機者ゼロになった。一方、特命取材班に訴えを寄せた男子生徒が住む町は本年度、待機者が12人。町教育委員会は「県に専門教員の配置は申請している。配置されるまでは現場に頑張ってもらうしかない」。福岡教育大の中山健教授(特別支援教育学)は「希望者の増加は、障害への理解が進み、保護者や本人が特別支援を望むようになったことが背景の一つにある。通常か通級かという『教育の場』だけではなく、本人、保護者、学校がよく話し合い、安心して学べる環境をつくることが大切だ」としている。 <投票率と投票の中身> PS(2019年7月25日追加):*7-1、*7-2のように、選挙前に「参院選の投票に必ず行く」と答えた人は55.5%いたが、実際の投票率は48.8%だった。中でも10代・20代の若年層は、「必ず行く」と答えた人も男女ともに3割と低調であり、実際の10代の投票率は31%(性別:男性30.02%、女性32.75%、年齢別:18歳34.68%、19歳28.05%)で全世代より17%低かったそうだ。今回の争点は、幼児教育・保育の無償化、全世代型社会保障、年金、消費税、憲法、原発などだったため、「興味がない」「高校・大学が試験期間で選挙前に主権者教育できなかった」等は、普段から意識が低いということであって弁解の余地がない。ただ、親元を離れて進学した若者は、通常は住民票を移していないため投票できないので、国政選挙はどこででも投票できるようにして、学食付近に期日前投票所を設ければよいと考える(インターネット投票は、本人確認・重投票の防止・投票の秘密保持が不確実なため、私は賛成しない)。 しかし、選挙権は権利であって義務でないため、興味のない人が棄権するのは自由である。さらに、普段から政治に関心を持って情報を集めていない人が適当に投票すると、選挙結果を歪める弊害もある。そのため、メディアは、殺人・放火・吉本興業事件や安っぽいなまぬる番組に大量の時間を使うのではなく、普段から正確に分析した政治情報を報道しておく必要があるのだ。 2019.6.9赤旗 2019.7.24東京新聞 2019.7.17朝日新聞 2019.7.24朝日新聞 (図の説明:選挙の争点をわかりやすく纏めた新聞もいくつかあったが、左の赤旗もわかりやすい。年代別投票率は、中央の2つの図のように、若い世代で低く、他人任せだ。右図は、投票しない理由だそうである) *7-1:https://www.sankei.com/politics/news/190716/plt1907160044-n1.html (産経新聞 2019.7.16) 【産経・FNN合同世論調査】参院選投票「必ず行く」55% 若年層は3割、投票率低い懸念 産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)が14、15両日に実施した合同世論調査で、21日投開票の参院選の投票に行くか尋ねたところ「必ず行く」が55・5%に上った。ただし10・20代の若年層は男女ともに3割と低調だった。今年は統一地方選と参院選が12年に一度重なる「亥年選挙」で有権者らの「選挙疲れ」による投票率の低下が懸念されており、前回の平成28年参院選(54・70%)を上回るかが焦点となる。調査によると、投票に「たぶん行かない」は7・9%、「行かない」は4・8%にとどまった。これに対し「できれば行く」は20・1%、「期日前投票を済ませた」は10・2%で、投票に前向きな回答が否定的な回答を大きく上回った。性別・年代別では、高齢層ほど「必ず行く」が多くなり、「60代以上」の男性は73・3%、女性では61・3%を占めた。50代の男性は64・4%、女性では51・5%、40代の男性は56・8%、女性で53・6%といずれも過半数に達した。一方、10・20代の男性は36・5%、女性は37・3%で、それぞれ「60代以上」の約5~6割にとどまる。若年層のうち、20代の投票率低迷は顕著だ。総務省によると、全体の投票率が過去最低の44・52%を記録した7年参院選では20代が前回比8・2ポイント減の25・15%に急落した。その後は30%台で推移している。一方、有権者が投票しやすい環境に向けて増えているのが期日前投票所だ。世論調査で「期日前投票を済ませた」との回答について、男性は「60代以上」が最も多く13・1%、50代が9・7%。女性は30代が最多の15・3%に上り、「60代以上」の14・2%、40代の10・6%が続いた。総務省が発表した14日現在の期日前投票者数は630万9589人で有権者の5・92%に相当し、選挙期間が1日長かった前回の水準に迫っている。与野党は選挙戦の最終盤まで勝敗を左右する若年層や無党派層などの動向に気をもむことになりそうだ。 *7-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201907/CK2019072402000138.html (西日本新聞 2019年7月24日) 参院選、10代 投票率31% 全世代より17ポイント低く 総務省は二十三日、参院選(選挙区)の十八歳と十九歳の投票率(速報値)は31・33%だったと発表した。全年代平均の投票率48・80%(確定値)より17・47ポイント低い。大型国政選挙で選挙権年齢が初めて十八歳に引き下げられた前回二〇一六年参院選に比べ、速報値で14・12ポイント、全数調査による確定値からは15・45ポイント下がった。政治参加を促す主権者教育の在り方が課題になりそうだ。速報値は抽出調査で算出した。男性が30・02%、女性が32・75%。年齢別では、十八歳は34・68%で、十九歳は28・05%と三割を下回った。同省選挙課によると、今回は確定値を出すための全数調査は行わない。大型国政選の十八、十九歳投票率は、一六年参院選が速報値45・45%、確定値46・78%。一七年衆院選は速報値41・51%、確定値40・49%で、下落傾向が続いている。若者の投票率向上のため高校で出前授業を行ってきた「お笑いジャーナリスト」のたかまつななさんは、十代の投票率低下について「多くの高校や大学が試験期間だったことで、選挙前に主権者教育の機会を設けづらかったのではないか」と分析。「投票率が高ければ『この世代を無視すると危ないよ』というプレッシャーを政治側に与えられるのに」と悔しがった。若者の投票行動に詳しい埼玉大学の松本正生(まさお)教授(政治学)は「主権者教育だけでなく、若者が投票しやすいよう選挙制度も問い直すべき事態だ」と指摘。その上で「年長世代が『十代は投票に行かない』と一方的に批判できない」と、有権者全体の五割超が投票しない状況に危機感を示した。 <空港の設計とアクセス←女性の視点から> PS(2019/7/26追加):*8のように、北海道で2020年に7空港が民営化され、空港ビルの建設・路線の増加・国際ハブ(拠点)空港化・道の駅機能の追加が考えられているそうだ。福岡空港は2019年4月2日に民営化され、観光客誘致のためのバス網を充実したり、ターミナルビルの商業機能を強化したりしたが、頻繁に往来する私から見ると、①空港の水道の出が悪くて不潔 ②電車と離発着窓口の距離がものすごく長くなり、重たい荷物を持っての移動が苦痛 ③航空機を利用しない人も土産物店に並んでおり、土産を買うのに時間がかかるようになった ④レストランも混んで入れなかった など、利用者の目線で改善してもらいたい点が多い。 国交省は、羽田に行く交通機関の乗り継ぎを見ても、未だに「航空機は観光で使うもので、乗り換え距離が長ければ途中の店で買い物をする」などと思っているようだが、用があって頻繁に航空機を利用する人が荷物の多い時に買い物をすることはないため、アクセスや空港利用者の便利を第一に考え直すべきである。そして、今から整備する北海道は、このような不便を航空機の利用者に与えない設計にすることこそ、最善の空港利用者増加方法だと考える。 *8:https://www.hokkaido-np.co.jp/article/328927 (北海道新聞 2019/7/26) HKK連合、地方空港も重視 計画概要判明 稚内、ビル建て替え 釧路はアジア便誘致 新千歳新ビル470億円 2020年度の道内7空港民営化で運営事業者に内定した、北海道空港(HKK、札幌)中心の企業連合による投資計画などの概要が25日、判明した。中核の新千歳では新空港ビル建設を計画。稚内で空港ビルの建て替え計画を盛り込むなど、新千歳以外の6空港にも積極投資する方針だ。新千歳には運営委託期間最終年度の49年度までに2900億円を投資する。現在は、国内、国際線それぞれ専用のビルがあり、国際線ビルは拡張工事中。新ビルは、両ビルを維持したまま、両ビルの南側に整備する。国内、国際線共用で30年ごろの開業を目指す。建設費は約470億円。多様な路線を展開できる態勢を整え、国際ハブ(拠点)空港としての位置付けを強める狙いとみられる。新千歳以外の6空港への投資額は、49年度までに約1300億円。稚内は空港ビルを全面建て替えし、商業施設と観光拠点を兼ねる「道の駅」のような機能を持たせる。台湾など国際チャーター便誘致も進める。 <「伝統」「言語」による女性蔑視を守るべきか?> PS(2019年7月26日追加):私がPrice Warterhouse(当時、青山監査法人)東京事務所に勤めていた1982年、アメリカ南部の同事務所に勤務していた黒人の女性シニア・マネージャーが、「女性差別を含む不公正な評価によって、パートナーになれなかった」として提訴し、最高裁まで闘って1988年にPrice Warterhouseに勝った。私は、その女性が膨大な時間と労力を使って闘ったことに感謝するとともに、敗訴した途端に世界で使う自社出版物で「chairman」を「chairman/woman」に変更するなど、男性でなければならないと誤解させるような女性差別を含む言葉をすべて書き換えて世界に影響を与えたPrice Warterhouseにも敬意を表する。日本では、今でも「日本語だから」「伝統だから」などとして、女性に過度の尊敬語・謙譲語・謙遜・やさしさを要求し、「姦しい(かしましい)」「女々しい」「嫉妬」「姦計」「奸策」「雌伏」など悪い意味を表す言葉に「女性」を意味する漢字を多用しているのと対照的だ。 そのため、私は、*9の「chairperson」は女性ではなくジェンダーニュートラルだと思うし、自分には「Ms.」を使うが、日本人の中には「Ms.」を使ったり、旧姓を通称使用していたりすると、「離婚したのでは?」とか「夫婦仲が悪いのでは?」などといらぬ詮索をする人がいて呆れることが多い。日本も、女性蔑視や女性差別を含む言葉を、「日本語だ」「伝統だ」として合理化するのをやめるべき時代にとっくの昔に入っているのに、である。 *9:https://digital.asahi.com/articles/ASM7T4RP5M7TUHBI01V.html?iref=comtop_8_06 (朝日新聞 2019年7月26日)「ze」を知ってますか?性別表す用語、進む言い換え 「マンホール」の「マン」は男性を指す言葉だから、性別と関係のない「メンテナンスホール」に改める――。そんな風に、市の用語を性別にとらわれない言葉に言い換えようという条例が、アメリカ西海岸のカリフォルニア州バークリー市で提案され、話題を呼んでいます。同州では男女の平等をめぐる議論にとどまらず、性的少数者の権利を尊重する観点からも、男女の性にとらわれない「ノンバイナリー」が選択できるようになっていて、そうした意識の高まりが条例の背景にあるそうです。でも記者(32)が大学で英語を学んでいた頃から、すでに「ポリスマンは古い英語だから、ポリスオフィサーと言うように」と教わったような記憶も……。こういった言葉の言い換えは、いつから始まったのでしょうか? ゆくゆくは英語は全然違った形になるかも? 「manの語法」という論文も書いている関西学院大学の神崎高明・名誉教授(英語学)に話を聞きました。 ●ハリケーンの名前も男女交互に □ 中性的な言葉に言い換える取り組みは、いつごろ始まったのでしょうか。 中性的なことを「ジェンダーニュートラル」と言いますが、この動きは欧米で1970年代初頭から始まったと考えられています。1960年代末から女性の権利や束縛からの解放を求めた女性解放運動「ウーマン・リブ」が活発化しました。その流れで、言語学者たちが、英語にある女性差別的・男性中心的な言葉を指摘し、言葉の整理を始めたのです。このころ、アメリカでは企業や自治体など、いろんな組織がマニュアルとして「言い換え集」を作りました。言葉の性差別の問題が非常に注目を集めたのです。 □ 例えばどんな言葉でしょうか。 「fireman」→「firefighter」(消防士)、「chairman」→「chairperson」(議長)、「policeman」→「police officer」(警察官)などです。女性の社会進出で男女が同じ職業に就くようになり、新しい表現が必要だということになったんですね。また、アメリカではハリケーン(台風)に名前をつけるのですが、女性名をつけるのが通例でした。ところが1979年以降、男女交互につけるように変わりました。例えですが、「アンドリュー」とつけたら、次は「カトリーナ」のような具合です。 ●「chairperson」は女性? □ ジェンダーニュートラルな言葉が定着していった背景は? 1980年代後半になると、今度は「ポリティカル・コレクトネス」という人種や性別、障害の有無などによる偏見や差別を含まない言葉や表現を使おうという動きが、アメリカの大学を中心に広まりました。1990年以降、これが世界にも広まり、性差を含まない言葉が好まれるようになっていきました。このころにはポリティカル・コレクトネスの考え方を踏まえた辞書が欧米でいくつも出版されました。アメリカでの「police officer」の使用率を調べた大阪国際大学の畠山利一・名誉教授の調査があるんですが、それによると、1970年代は20%、1980年代で50%、2000年に入って80%です。だいぶ定着していると言えるでしょう。でも、全ての言葉が定着していったわけではありません。バークリー市の言葉の言い換え案の中に含まれている「manhole(マンホール)」だって、辞書には「personhole(パーソンホール)」などの言い換えが載っていますが、定着していません。 □ 新たな言葉が生まれるのと、その言葉が定着して広く使われるのとは別の話だと。 そうなんです。しかも、広く使われてくると、別の問題も生まれてきます。例えば「chairperson」はかなり定着してきていますが、男性議長にはいまだに「chairman」を使い、「chairperson」は暗に女性議長を指す人もいます。形が変わっても、これでは差別は変わりません。同じようなものに、女性の呼称「Ms.(ミズ)」があります。男性は結婚の有無にかかわらず「Mr.(ミスター)」なのに、女性は未婚だと「Miss(ミス)」、既婚者だと「Mrs.(ミセス)」と呼ぶのは不公平ということで「Ms.」が生まれました。でも、裏の意味で「Ms.」を離婚した人やフェミニストに対して使う人もいるのです。いろんな言葉の言い換え案ができても、定着するもの、しないもの、別の意味合いで使われてしまうものがあります。今回のバークリー市のように、すでに定着しつつある言葉も含めて、市が公に使っていくことは、定着に向けた一つの取り組みとして意義のあることだと思います。 ●「his」はもう古い? □ ジェンダーニュートラルが進むと、「he」「she」のように性別で代名詞が変わる英語は、大きく変わることになるのでは? 「he」「she」が将来的になくなる可能性もありますよ。例えば、「Everyone loves his mother」という文章。「everyone」は単数形なので、「his」を使うのが正解でした。でも今は、「Everyone loves their mother」のように、男女を問わない「their」を使うことが広まっています。ちょっと前までは、「they」や「their」は複数形なので文法的には間違いとされましたが、現在はどちらでも正解。むしろ最近の文法書では「hisは古い用法」と注が付いているものもあります。さらに、欧米では「he」「she」に変わって、中性的な代名詞として新しく「ze(ズィー)」という語を使う大学生も出てきています。学者の中には抵抗感を示す人もいますが、言葉は大衆が使うもの。時代が変化すれば、大衆が変化し、言葉が変化するのも当然のことです。これからどの国の言葉もますます中立的な単語や表現になっていくことが予想されます。
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2019,03,25, Monday
2018.12.18朝日新聞 日本における女性管理職の推移 2019.3.8琉球新報 (図の説明:左図のように、日本の2017年ジェンダーギャップ指数は、総合でも110位で先進国中最低だ。また、中央の図のように、女性管理職割合の推移も低迷している。そして、右図のように、沖縄の小学校教諭は70%が女性であるのに、管理職になると女性は22%しかおらず、中学・高校では、さらに低くなっているそうだ) (1)日本における女性差別の実態 日本国憲法は、*1のように、「第13条:すべて国民は個人として尊重される」「第14条:すべて国民は法の下に平等であつて、人種・信条・性別・社会的身分・門地により、政治的、経済的又は社会的関係において差別されない」等を定めており、この憲法で新しく定められた内容だけが太平洋戦争のプラスの遺産だったと、私は考える。 しかし、「女性が平等に個人として尊重され、基本的人権を有すると認められているか」については、*2のジェンダーギャップ指数を見れば、日本は戦後70年以上経過しても149か国中の110位であり、G7では最下位で、達成に程遠い。特に、経済分野の117位、政治分野の125位が低く、教育分野は初等・中等教育では1位で男女平等と評価されているものの、大学等の高等教育では103位となり、多くの女性が高度な仕事や意思決定の場で、未だに閉ざされている状況が現れている。 また、*5-3のように、2018年に明るみに出た大学医学部入試における女性差別は、教育段階から女性が高度な仕事に就くことを妨げている一例であり、あるべき姿から程遠いが、これは大学だけでなく、高校以下の教育や(社会の価値観を反映した)家庭教育にも原因がある。 (2)高校教育における女性差別 1)男女共学高校での女性差別の刷り込み 私自身は、東京大学を卒業するまで機会の与えられ方について女性差別を感じたことは全くなかったが、*5-1のように、東京医大だけでなく都立高校入試でも、男女別募集定員によって女子学生は男子合格者より高い点数を取っても不合格になっているそうだ。 そして、「男女別募集定員の緩和措置すら必要でない」と答える中学校長が2割おり、その理由を「①東京都には私立女子高が多く、教育の支えの一つだが、男女別定員制の緩和の結果、私立の女子高から生徒を奪う」「②成績上位には女子の方が多いので、全てを男女合同定員制として合否を判定すると男女比が大きく女子に偏り、学校施設等に影響が出る」「③結果的に男子生徒の進学先が決まらない」などとしており、「他を配慮するために、女子生徒を犠牲にするのは、何でもないことだ」とする呆れた考え方を持っている。 だが、公立学校が性別を理由に女子生徒から教育機会を奪うと、*1のように、日本国憲法「第99条:公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」という規定に違反し、「第17条:何人も、公務員の不法行為により損害を受けたときは、法律の定めるところにより国又は公共団体に賠償を求めることができる」という規定によって、損害を受けた女子生徒は損害賠償請求することができる。そして、これが、戦後、公立で男女共学が進んだ理由である。 しかし、*5-2のように、福岡県立高校の入学式では、前列に男子、後列に女子が並ばされたそうだ。私が卒業した佐賀県立唐津東高校は、男女別でも左右に分かれて並ぶため並び方では女性蔑視は感じられなかったが、名簿は男子が先、卒業アルバムも男子の写真が先に掲載されており、確かに「男子が主で重要」「男子の方が上」というような刷り込みをしている。 このような中、教育で大切なのは教員や保護者の意識である。その理由は、私は実力テストでは殆ど学年1番、(文系科目も90点代後半だったが)理数系科目はだいたい満点で、それに関して「男子がやる気をなくす」「女子は、今はできても先では伸びない」「ガリ勉」「カカア天下」などと聞こえよがしに言う人が少なからずいたからだ。これは、小学校時代から教員や友達の保護者まで含めて同じだったが、私はそういう“空気”を無視できたから道が開けたのである。 従って、「ジェンダーチェック」は、先生だけでなく保護者や生徒にも必要で、小学校入学時に配布して保護者や生徒の意識からも女子への偏見や差別を徹底的になくすべきなのだ。 2)男女別学高校での男女差別の刷り込み *6-1に、「公立高校といえば共学のイメージですが、北関東には男女別学の公立高校がまだ残っている」「②数学・科学は男子の方が得点高く、読解力は女子が得点高いので、男女の違いを活かした教育ができるのが男女別学男女別学の強み」「③別学は勉強に集中しやすい環境と言える」「④男子任せや女子任せにせず、いろんなことに挑戦できる」「⑤別学は異性と出会うチャンスがない」などと書かれている。 しかし、①は憲法違反で、②は平均が個人を表すわけではないので偏見による差別であり、まさにジェンダーの根源である。さらに、③⑤のように、多感な時期に異性から隔離されて育った人は、その後も異性に対して先入観を持ちがちで、職場ではジェンダーの温床となる。また、④は、男女一緒にいる中でもいろいろなことに挑戦できなければ、男女別になっていない社会ではさらに挑戦することができないので、男女共学の中で鍛えるべきなのである。 私は関東に住んで、都立高校は特に優秀ではなく、私立は殆ど男女別学なのに驚くとともに呆れた。しかし、その周辺は公立高校も男女別学であり、これは憲法違反だと思った。しかし、*6-1に書かれているとおり、北関東に残っている男女別学は「旧制中学校・高等女学校を前身とする伝統ある高校だから」なのだそうだ。しかし、冗談いっちゃいけない。私が卒業した佐賀県立唐津東高校も、元は小笠原氏の志道館という藩校だった立派な伝統校だが、戦後に男女共学になった学校なのである。 3)男子校と女子高の教育理念の違い ← 生徒がよく歌う校歌で比較する そこで、旧制中学・高等女学校を前身とする伝統ある高校だとして、男女別学を譲らなかった埼玉県立浦和高校(*6-2-1、東大合格者数22人)と同浦和第一女子高校(*6-2-2、東大合格者数4人)の校歌で教育理念を比べると、以下のとおりだ。 *6-2-1の男子校の方は、「①国家に望みある学生」「②広き宇内に雄飛せん」と生徒に国家への貢献や宇宙への雄飛を鼓舞している。しかし、*6-2-2の女子高の方は、「①三年の春秋を選ばれてすごす喜び」「②三年の青春を選ばれて誇る幸い」「③三年の教えを選ばれて受ける楽しさ」などと選ばれて入学してきたことのみを誇って卒業後の活躍を鼓舞しておらず、選ばれたレッテル付きの女性が、卒業後は家庭で子育てし、真心を込めて夫や家庭を支える良妻賢母を目指す「女子教育」を行っているのだ。 一方、私が卒業した佐賀県立唐津東高校(*6-3、東大合格者数1人)の校歌は、下村湖人作で「天日かがやき・・光の学徒」「はてなく広ごる眞理の海を抜き手をきりつつ泳ぐ力の学徒」「平和と眞理に生命を享けた希望の学徒」「われらの理想は祖国の理想、祖国の理想は世界の理想、理想を見つめて日毎に進む」と、東大合格者数は浦女より少ないが崇高な理念を述べている。そして、これが、女性が男女共学校で教育を受ける最も大きな意味なのである。 (注)1つの指標として2019年3月の東大合格者数を比較すると、東京都立日比谷高校(男女共学)47名、埼玉県立浦和高校(男子校)22名、埼玉県立浦和女子高等学校(女子高)4名、東京にある私立中高一貫女子高のうち①桜蔭高等学校66名 ②女子学院高等学校33名 ③しらゆり学園高等学校7名、東京にある私立中高一貫男子高のうち④開成高校(男子校)187名 ⑤麻布高校(男子校)100名など、男女とは関係なく早くから計画的に勉強した方がよい成績を納めている。そのため、地方の学校は、これ以上のんびりしている場合ではなく、親の所得や教育観が子に悪い影響を与えないためには、子が行きたい大学に行けるシステムの構築が不可欠だ。 (3)女性差別は大学だけの問題ではないこと ← 「女性の教育」と「女子教育」の違い、メディアの表現 女性差別は、高校・大学の入試だけでなく、メディアも含めた社会全体の問題である。その良い例は、*3-1・*3-3のように、女性が教育を受ける権利を訴えてノーベル平和賞を受賞したマララさんが、3月22日に来日して首相官邸を訪れ、安倍首相に「①G20で全ての国の指導者に女性の教育に投資するよう働きかけてほしい」「②女性も仕事ができるようにして欲しい」と語ったにもかかわらず、まず安倍首相が勘違いして「女子教育(良妻賢母養成型教育)」と表現し、その後、日本のメディアは、*3-2のように、一貫して「女子教育」と表現し続けて、マララさんが英オックスフォード大で学んでいることには殆どが触れなかったことだ。 しかし、本当にすごいのは、パキスタン出身で女性が教育を受ける権利さえおぼつかないにもかかわらず、それを訴えて銃撃されたマララさんに、世界はノーベル平和賞を与え、英国は英オックスフォード大で学ぶ機会を与え、その人が日本の首相にG20での働きかけを頼みに来たことであり、マララさんが自分の理想を祖国や世界の理想にしようとしていることなのである。 (4)社会における女性差別 学校を卒業して社会に出ると、*4-1のように、「小学校の先生は70%が女性なのに管理職はわずが22%」「中学・高校はさらに低い」というコンクリートの天井があり、その理由はいつも「長時間労働」と「女性の家事・育児負担」と説明される。そして、「女性への重圧が大きく、管理職を勧めるのも躊躇する」となる。しかし、自ら「家事育児を負担したいので、管理職にはならない」と希望する人以外は、何らかの形で乗り切って上に行きたいのだから、そうする機会を差別なく与えるべきであり、「平均」をもって管理職に登用しないのを差別と呼ぶのだ。 また、*4-2に「性別役割分業の転換が急務」と書かれているが、これは教育段階でジェンダー教育が行われ、女性は家事育児が得意となるための、また男性は生計を支えるための、中等・高等教育を受ける例が多いため、ここから変えなければならないのである。 ・・参考資料・・ <日本における男女平等の理想と現実> *1:http://www.japaneselawtranslation.go.jp/law/detail_main?id=174 (日本国憲法抜粋) 第三章 国民の権利及び義務 第十一条 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。 第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。 第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。 第十七条 何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。 第九十九条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。 *2:https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2019/190117.html (2019年1月17日 日本弁護士連合会会長 菊地 裕太郎) 世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数に対する会長談話 2018年12月19日、世界各国の男女平等の度合いを指数化した「ジェンダーギャップ指数」について、世界経済フォーラムから報告書が発表された。日本は149か国中110位であり、主要7か国(G7)中最下位である。ジェンダーギャップ指数は、女性の地位を、経済、政治、教育、健康の4分野で分析し、ランク付けをしているが、日本は、経済分野は117位、政治分野125位、教育分野65位、健康分野は41位である。前年と比較すると、教育分野がわずかに順位を上げただけで、その他の3分野についてはいずれも前年より後退している。経済分野においては、同種業務での賃金格差、専門的・技術職の男女比など5項目全てにおいて指数自体は改善されたにもかかわらず、順位は前年の114位から117位に後退している。これは、他国の男女格差の改善の度合いが我が国よりも進んでいるためと考えられ、経済分野における世界的な男女格差の解消に日本が追い付いていないことがうかがえる。また、政治分野が125位と上記4分野の中でも最も低い順位であったことは憂慮すべきことである。女性の政治参加は、あらゆる分野における女性の地位向上のための必須の条件というべきであり、国政の場においても地方政治の場においても、女性議員の増加を図るなど、女性の政治分野への進出が強く望まれる。教育分野については、識字率や初等・中等教育は1位で男女平等と評価されているものの、大学などの高等教育の就学率は103位と、他の項目と比して極端に低く、是正が求められる。昨年明らかとなった複数の大学医学部入試における女性差別は、この点からしてもあるべき姿に逆行しているといえる。以上から、当連合会は、日本政府に対し、職場における男女格差を解消し、女性の活躍を更に推進するために、働き方改革の取組にとどまらず、女性の政治参加や高等教育における男女格差の解消を重点課題とし、加えてこれらの課題実現に向け、速やかに具体的措置・施策を講じるよう強く求めるものである。 <女性教育と女子教育の違いとメディアの表現> *3-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13945827.html?iref=pc_ss_date (朝日新聞 2019年3月23日) 「女性の教育へ投資、呼びかけて」 マララさん、首相訪問 女性教育の権利を訴えてノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイさん(21)が22日、初めて来日した。首相官邸を訪れ、安倍晋三首相と会談。6月に大阪で主要20カ国・地域(G20)首脳会議が開かれることから、「安倍首相と日本には全ての国の指導者に女性の教育に投資するよう働きかけてほしい」と語った。マララさんは首相と会談後、共同記者発表に臨み、世界中の学校に通えない女性のために「個人、企業、政府の支援が必要だ」と訴えた。首相は「マララさんが武装勢力からの脅迫に屈せず女性が教育を受ける権利を訴え続けたことは、世界中の人々に勇気を与えた」と話した。マララさんは23日、東京都内で開かれる政府主催の「第5回国際女性会議WAW!」で講演するため、来日した。 *3-2:https://www.jiji.com/jc/article?k=2019032200903&g=pol (時事ドットコム 2019年3月22日) 安倍首相、ノーベル平和賞マララさんと会談=女性活躍、G20で議題に 安倍晋三首相は22日、初来日したノーベル平和賞受賞者マララ・ユスフザイさんと首相官邸で会談した。首相は「圧力や暴力に屈せず、女子教育の重要性を世界に訴えたマララさんに敬意を表したい」とたたえた。会談後、マララさんと共同記者発表に臨み、6月に大阪で開かれる20カ国・地域(G20)首脳会議で「女性が輝く社会の実現」を重要議題の一つに位置付ける考えを示した。女性教育活動家のマララさんは記者発表で「G20の議長国として、女子の教育について率先して各国リーダーに働き掛け、女子が将来の仕事に備えることを支援すべく新たな資金をコミットするよう奨励していただきたい」と語った。マララさんは23、24両日に東京都内で開催される「国際女性会議WAW!」に出席し、同会議で基調講演を行う。 *3-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13947532.html (朝日新聞 2019年3月24日) マララさん「女子教育へ投資、未来作る」 国際女性会議で講演 女性が教育を受ける権利を訴えてノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイさん(21)が23日、東京都内で開かれた政府主催の第5回国際女性会議と主要20カ国・地域(G20)に政策提言を行う「Women 20(W20)」の合同セッションで講演した。マララさんは「今、女子教育に投資すれば、想像できないほどの未来を作ることができる」と訴え、各国に支援を求めた。マララさんはパキスタン出身。女性が教育を受ける権利を訴え、2012年10月にイスラム武装勢力に銃撃された。現在は英オックスフォード大に通う。講演で「過激派は教育の権利を訴えた私を攻撃した。でも失敗した」と主張。「私の声は大きくなっている。今、学校に行くことのできない1億3千万人の子どもを代表してここにいる」と語った。また、全ての女子が中等教育を受けられれば、30兆ドルの経済効果があるとの試算を紹介。「我々は行動を起こさなければいけない」と呼びかけた。安倍晋三首相は国際女性会議のあいさつで、日本政府として途上国での女子教育の支援を表明。「20年までの3年間で、少なくとも400万人に上る途上国の女性たちに質の高い教育、人材育成の機会を提供して参ります」と述べた。 ■男女の労働参加、格差縮小へ提言 W20は23日、今年6月に大阪で開かれるG20首脳会議を前に、安倍首相に女性に関する経済政策の提言を手渡した。企業のリーダーや研究者の女性たちでつくるW20はG20の公認グループで、2015年に発足した。経済発展には男女平等が不可欠として、政策を女性の視点で捉え直そうという取り組みだ。日本で初のW20開催となった今年は、「労働」「デジタル」「投資」など計7項目の提言をまとめた。重視したのは、労働参加率の男女格差の縮小。14年にG20が採択した「25年までに各国の労働参加率の男女間格差を25%減らす」という目標を達成するため、20年のG20で中間報告を行うことを求めた。企業や役所の管理職を30年までに男女同数にするとした国連による目標の達成に向けてG20が各国の進み具合を確認する仕組みも求めた。 <社会における女性差別> *4-1:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-885652.html (琉球新報 2019年3月8日) 小学校の先生70%が女性なのに、管理職はわずが22% 2018年度沖縄県内 中学・高校はさらに低く 沖縄県内の小学校教諭は女性が70.2%を占めるにもかかわらず、教頭以上の管理職は女性が22.0%と低く、男女比率が逆転していることが2018年度学校基本調査から分かった。長時間労働が常態化する中で家事・育児まで負担する女性教諭は管理職に挑戦しにくく、数が伸び悩んでいると見られる。管理職経験者も「女性への重圧は大きく、管理職を勧めるのもちゅうちょする」と話す。女性管理職の割合は中学16.2%(女性教諭割合50.0%)、高校10.4%(同45.3%)とさらに低い。国が掲げる指導的地位にある女性の割合「2020年までに30%」は現実的に不可能だ。全国平均は県内よりさらに少なく、中学は県内より6.5ポイント低い9.7%、高校は1.6ポイント低い8.8%にとどまる。小学校は22.9%で県内より0.9ポイント高かった。1986年の男女雇用機会均等法の施行後、県内の女性管理職は小中学校は90年代前半、高校は半ばごろから増え始めた。小学校は2001~06年に3割を超えたが、その後減少に転じ、ここ数年は20%前半で横ばいだ。学校管理職は、年齢や教職経験などの条件を満たした教諭が試験を受けて昇任する。県教委は「試験は公平に行うため性別で区別していない」とし、女性比率の目標値は設定していない。19年度選考試験で小中高と特別支援学校を合わせた受験者は604人で、うち女性は104人と17.2%にすぎず、受験する人数自体が少ない。合格者は210人で女性は50人(23.8%)だった。多くの教員が長時間労働を強いられる中、現場からは「家事や育児もある女性が男性と同じように管理職を目指すのは難しい」との声が上がる。女性の退職教諭は「社会の変化は遅い。男性は家事・育児を引き取り、女性を解放して」と訴えた。 *4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190322&ng=DGKKZO42704410Q9A320C1KE8000 (日経新聞 2019年3月22日) 働き方改革 今後の課題(上)雇用慣行見直し 抜本的に、性別役割分業の転換が急務 永瀬伸子・お茶の水女子大学教授 (1959年生まれ。東京大博士(経済学)。専門は労働経済学) <ポイント> ○若年人口減で日本的雇用慣行の矛盾拡大 ○女性の賃金底上げへ正社員比率上げ必要 ○父親の帰宅なお遅く子育て参加は限定的 2019年4月から働き方改革法のうち残業の上限規制が実施される(中小企業は20年4月から)。時間外の上限について「月45時間、年360時間」を原則とし、臨時的な事情がある場合でも年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(同)が限度となる。また20年以降に施行される正規・非正規雇用労働者間の不合理な待遇差の禁止も重要だ。働き方改革は、日本経済にとって次の点から必要だ。第1に日本的雇用慣行のひずみが拡大している。企業側が長期雇用を保障し、年功的な賃金制度をとる代わりに、企業側に強い残業命令権や配転命令権が与えられる。景気が悪いときも解雇しないで済むようコア社員数を少なく採用する。このため景気が良くなると残業が発生しやすい。さらに長期雇用なので、その時々の仕事内容よりも、年功的な職能資格で賃金が決められてきた。しかし若年人口が少数となり、中高齢人口が多数を占めるような人口構造では、中年期に賃金が大きく上がる賃金制度の維持は難しくなっている。そのため企業は正社員採用を絞り、非正社員の採用を増やしていった。こうした中で、正社員の仕事負担が増えて長時間労働が恒常化する一方、非正社員の賃金は低く、若年男女の一部には貧困が拡大している。第2にグローバル競争の中で、どの先進国でも平均的な男性の年収は下落傾向にあるが、女性の稼得賃金の上昇が家計の豊かさに貢献している。しかし日本では男性が長時間労働をする一方で、女性は出産を機に離職し、その後は最低賃金近くで働く者がいまだ多い。女性の稼得能力を引き上げるには、長時間労働を当然とする働き方を改革したうえで、女性の正社員の就業継続の奨励や、非正社員と正社員の賃金格差を縮小させることが重要となる。第3に「長時間労働だが高賃金」もしくは「労働時間の自由度は高いが低賃金」という働き方の二分化は少子化を促進する。たとえ長時間働いても、男性が1人で家族を支える生涯賃金を得られる見通しを持ちにくくなった。また未婚男女に後者の働き方が広がっているが、金銭面からも、育児休業制度などの社会的保護が不十分なことからも、家族形成が困難だ。女性が稼得能力を持続しつつ子どもを持てる働き方と社会保障をつくり出すには、男性を含めた働き方の見直しが必要だ。つまりこれまでの日本的雇用慣行の大改革が必要だ。日本的雇用では、家族のケアは無職の妻が担うことが暗黙の前提とされてきた。給料に配偶者手当を上乗せする企業が多いことも、サラリーマンの被扶養配偶者を保護する社会保険での第3号被保険者制度も、こうした背景から維持されてきたのだろう。男女雇用機会均等法が施行されて30年になるが、これまでは働き方改革を伴っていなかった。このため女性にとって相対的に高賃金を得られる未婚期を延ばすインセンティブ(誘因)にしかならず、家族形成を機に「長時間労働が前提で高賃金」な仕事を離職する者が多数だった。総務省「労働力調査」によれば、17年の35~39歳層の女性正社員比率は35%程度にとどまり、有配偶に限定すれば29%で、40歳代も同程度だ。07年の35~39歳層の29%、有配偶の21%からは上昇しているが、中年期の女性正社員割合は3割程度にとどまる。また女性正社員の平均年収は300万円を超えるが、パートは100万円台、契約社員・嘱託社員でも200万円前後だ(労働力調査から所得階級の中位数を使って金額を推計)。女性の賃金の底上げには、正社員比率を上げるか、非正社員の立場でも経験とともに賃金が上がるような働き方をつくり出すしかない。ここまでの働き方改革は成功しているのだろうか。正社員女性の出産離職が大卒中心に減っているほか、女性正社員だけでなく男性正社員の労働時間についても、特に子どものいる層を中心に安倍政権下で減少しており、一定の成功を収めたといえる。労働力調査によれば、労働時間は一貫して減少している(図参照)。育児休業取得が増え育児短時間勤務も法制化されるなど、特に幼い子どものいる女性正社員の労働時間は目立って減った。変化は比較的小さいが、男性正社員の労働時間も減っている。幼い子どもを持つ男性の労働時間はより大きく減っている。しかし事業所に対する調査である厚生労働省「賃金構造基本統計調査」でみた傾向は異なる。25~34歳男性の所定内労働時間と残業時間の合計は、世界金融危機後の09年に下落した後、緩やかな増加傾向にある(図参照)。図には示していないが、10~99人企業の月間所定内労働時間は1千人以上の企業よりも10時間ほど長い。一方、1千人以上企業は景気動向とともに残業時間が最も伸びる。景気が良いときに残業が増えるのは通常の景気循環の動きだ。ではなぜ両調査の傾向はかい離しているのか。労働力調査は月末1週間の労働時間を個人に尋ねたものだから個人の記憶による。一方、賃金構造基本統計調査は常用労働者10人以上の企業で賃金台帳に記録され、賃金が支払われた労働時間だ。労働力調査はサービス残業を含めた正社員の労働時間が減少傾向にあることを示す。賃金構造基本統計調査は、最近の景気回復による需要増で残業が増加傾向にあることを示すとみられる。全般に、個人対象の調査からは依然男性の労働時間が長い実態が見えてくる。16年の総務省「社会生活基本調査」によれば、小学校在学の10歳未満の子どものいる父親は、午後7時には半数、8時には37%、9時には25%がそれぞれ仕事をしている。専業主婦世帯と夫婦共働き世帯を比較すると、8時に父親が仕事をしている割合はそれぞれ43%と35%で、共働き世帯の父親はやや帰宅時間が早い。しかし夕食時間の6時をみると、どちらの世帯の父親も7割超が仕事をしている。一方、共働きの母親は、6時を過ぎると1割未満しか仕事をしておらず、子育てへの父親参加はまだ限定されている。賃金面では、一般雇用男性の40~44歳層の所定内賃金は07年からの10年で33万円ほど減ったが358万円だ。一方、同年齢の正社員女性の賃金は13万円ほど上昇したとはいえ262万円にとどまる。なお賃金構造基本統計調査から、月間労働時間が205時間(週40時間労働で4週働き、時間外上限の原則である月45時間を足した水準)を超える者の割合を計算すると、景気回復とともに上昇しており、20歳代~40歳代の男性正社員の2割弱、女性正社員では6%程度にのぼる。特に男性については今後も仕事の効率化など工夫が求められる。残業規制の強化により、疾病やメンタルヘルス悪化の緩和が期待される。しかし男性が家庭時間を持ち、女性が働きやすくなるにはまだ道は遠い。同時に正社員と非正社員の格差縮小も重要だ。日本企業の強みは人材育成にあったとされるが、非正社員は企業内の人材育成の仕組みから外れてしまっている。同一労働同一賃金ガイドラインでは、仕事の差と賃金差について納得できるものとするよう求めている。筆者は今後の日本経済を考えれば、納得性に加えて、人材育成に寄与するステップアップ可能な働き方とすることが重要だと考える。 <男女共学高校での女性蔑視の刷り込み> *5-1:https://news.yahoo.co.jp/byline/sendayuki/20180803-00091738/ (Yahoo 2018/8/3) 東京医大だけではない。女子中学生も入試で不当に落とされているー都立高校の入試 ●東京医大以外にも、女性枠はある。 東京医大では、2011年以降、女性が入学者の3割を超えないように入試の点数を操作していたという。女子の受験生のペーパーテストの点数を一律に減点し、男子の小論文に加点していたというのだ。酷い話である。しかし、女性がテストで優秀な点をとっても入学が許可されないことは、大学入試だけではない。実は都立高校の入試もそうである。女子学生は男子の合格者よりも高い点数を取っていても、不合格になっているのである。その理由は、男女別募集定員の存在である。 ●男女別募集定員の緩和措置すら必要でないと答える中学校長が2割 男女別定員があることによって割を食っているのは、成績優秀者が多いほうの女子である。1998年から、この男女別に募集人員を定めている都立高校の「男女間の合格最低点における著しい格差を是正するため」、募集人員の1割だけは男女に関係なく、成績順に合否を決めることで、少しでもこの不平等を是正する制度を始めている。全定員のなかのたった1割だが、それでもこの制度すら不要だと考えているひとはいるようだ。アンケートに答えた中学校の校長53人のうち、約2割程度はこの是正措置すら不要だと考えているようだ(平成30年度東京都立高等学校入学者選抜検討委員会報告書。以後、この報告書を紹介する)。 ●男女別定員を緩和すべきではない理由 それでは、中学校長が男女別定員を緩和すらすべきでないと考える理由はなんだろうか。 ○ 男女別定員制の緩和により合格するのは、ほとんどが女子である。東京都には私立の女子高等学校が多く、東京都の教育の支えの一つであると考えるが、男女別定員制の緩和の制度により、結果的に女子を多く入学させることになり、私立の女子高等学校から学生を奪う形となってしまう難しさがある。 ○ 成績の上位には女子の方が多い傾向がある。そのため、全てを男女合同定員制として合否を判定したとすると、今以上に男女比に大きな偏りが生じ学校施設等に影響が出ることが懸念される。 ○ 実際に男女別定員制の緩和を行うと、多くの場合、女子の入学者数が増加する。私立高等学校でも女子の定員の方が多いため、結果的に男子生徒の進路先が決まらない状況が生まれてしまう。つまり、女子を入学させると、私立の女子校から生徒を奪ってしまう、男性生徒が進学できなくて困ってしまう、学校の施設に影響がでる、というのである。これに対して、現場の高校の校長は、また違った意見を持っている。 ○ 男女間の学力差が縮まることで授業効率が良くなり、生徒の学力向上につながっている。 ○ 男女別定員制の緩和により、総合成績が同じでも性別によって合否の結果が異なってしまうことに対する不公平感を緩和することができる。 ○ 男女別定員制の緩和によって女子が多く入学し、男女の生徒数のバランスを欠く状況にある。体育の授業や学校行事を実施する際の不都合や、部活動等への影響が生じる場合がある。性別ではなく学力で選抜することにより、生徒の学力向上につながっていること、不公平感が緩和されることである。他方、体育の授業や学校行事、部活動等への影響が生じるという意見もある。私自身は高校のときに男子に較べて女子の比率は半分、大学に至っては男女比が9対1(それでも女子合格者が、1割を超えたとニュースになった)、その後の仕事も男性が圧倒的に多い人生を生きている。そこまで熱心に、男女同数に配慮してもらったという記憶もない。何よりも都立高校は、定員は男女同数ですらなく、どの学校も男子の定員のほうが多い(かろうじて数校が、男女同数だ)。男女枠の緩和をこれから導入する高校もあれば、廃止する高校も同じくらいある。 ○ 男女別定員制の緩和については、男女間の合格最低点を是正する点で一定の成果があるため、現行どおり、真に必要と認められる高等学校に限定して実施する。「真に必要と認められる高等学校」がどのようなものかは分からない。しかし、公立の学校が性別を理由に、女子生徒から教育機会を奪っていいのだろうか。とくに親の子に対する進学期待は、いまだ男女で違いがある。女子の進学を妨げる方向で、定員を決めることの妥当性は、何だろうか。少なくとも私には、事前に告知してあること以外、東京医大との違いは見つけられない。 *5-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13912705.html (朝日新聞 2019年2月28日) (サヨナラしたい8つの呪縛:2)「男が上」、学校の刷り込み ■Dear Girls 「なんで女子が後ろなの?」。昨春、福岡県立高校から早稲田大学に進学した女性(19)は、高校の入学式でそう思った。前列に男子、後列に女子が並ばされた。担任の女性教諭に理由を尋ねたが、教室も男子、女子と分かれた名簿順に座っており、「前からこうなっている」と返された。卒業式でもこの構図は変わらなかった。女性は「女子は男子の陰に隠れていろということか、と思えた」と振り返る。 ■「差別を再生産」 学校の中に潜む性差別を指す「隠れたカリキュラム」の事例だ、と女子栄養大の橋本紀子名誉教授(教育学)は指摘する。「例えば校長の男女比をみると、圧倒的に男性が多く、いびつだ。『上に立つのは男性』といったメッセージを子どもに伝える。学校が差別の再生産装置になっている側面もある」。橋本名誉教授によると、日本では1985年に発効した国連の女子差別撤廃条約を受け、「男女平等教育」が注目され始めた。90年代には隠れたカリキュラムへの関心が高まり、性別に関する固定的な見方から解放された教育が提唱されるように。だが、02年ごろから「伝統文化を破壊する」などとしてバッシングが始まった。 ■平等めざす試み ただ、遅れの中にも、男女平等をめざす取り組みは重ねられてきた。滋賀県は、性別による偏見や思い込みにとらわれず、進路選択や指導ができるようにと、20年前から小中高校向けに独自の教材を作り、全校に配っている。小学生向けの教材では、学校生活の中で起こりうる場面を想定し、かける言葉を考えたり、性別による決めつけがないかを振り返ったりするページがある。「調理クラブのメンバーに、男の子は1人だけ。その子に向かって『女子の中に男子が1人だな』と言った友だちに、あなたはどんな声をかけますか――」。指導の手引には、「先生のためのジェンダーチェック」の一覧表もある。「男子に対しては女子に比べると少々厳しく指導した方がよいと思う」「生徒会や応援団長は男子がなるべきだと思う」といった意見への賛否を書き込みながら、思い込みや偏見がないか見つめ直せる作りになっている。福岡県では今年度、県教委が県立高校に男女混合名簿の導入を促した。新年度には、95校中80校近くが取り入れる。その一つの県立須恵高校の教頭は「男子が前、女子が後ろの式典風景も変わるだろう」と言う。「これまで違和感を感じる生徒もいたはずで、その気持ちにも思いを巡らせた」 ■偏見知り、進む学び ある高校を取材した時のこと。家事分担をめぐり険悪になっている、保育士とトラック運転手の夫婦に助言を――。課題に取り組む生徒たちに先生が「ちなみに夫が保育士、妻が運転手だよ」と伝えると、「マジか!」と声が上がった。思い込みに気づいた瞬間の輝くような表情が印象的だった。無意識の偏見に気づくことは様々な学びの基礎になる。ジェンダーは格好の材料だと思う。 *5-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13918841.html (朝日新聞 2019年3月5日) (Dear Girls)下げられた女性のスタートライン 医学部生、差別体験 入試面接で「出産したらどうやって育てていくのか」と聞かれた。女子は外科に興味がないだろうからと、手術を見学させてもらえなかった――。複数の医学部入試で女子受験生が不利な扱いを受けていた問題を受け、医学生の団体が行ったアンケートには、性別を理由に差別された体験が多く寄せられた。男女のスタートラインは、女性に対する「減点」や「女性だから」という決めつけによって、一直線ではなくなっている。不正入試問題の発覚から半年あまり。現役医学部生からも、変革を求める動きが活発になっている。全日本医学生自治会連合(医学連)は先月、全国の医学生を対象にしたアンケートの中間集計と提言をまとめた。不正入試問題の受け止めや、入試や大学で性差別を受けた体験を尋ねる内容で、昨年12月から今月末まで実施中。2月1日時点で2186人(男性57・5%、女性40・7%、性別無回答1・8%)が答えた。入試に関しては「医師という職業に就く権利は最大限尊重されるべきであり、医師の多様性は社会の要請するところだと考える」(男性、3年)などの回答があった。入試の面接で、結婚や出産などに関する質問を受けた人は14%。主に女性から「妊娠はあなたにとってメリットかデメリットか」(2年)といった質問を受けた経験談が寄せられた。入学後も「『女子は外科に興味が無いだろ』と言われ、手術見学の機会を与えられなかったことがあった」(5年)など、性別を理由に学ぶ機会を奪われたという声もあったという。不正入試の背景として、医師の過重労働の問題が指摘されていることに関しては、約7割が「将来の働き方を不安に思っている」と答えた。医学連は調査結果を踏まえ、大学や自治体、病院に対して、性別・年齢を理由にした不公正な扱いを禁止することや、医師の労働環境の改善、医師の多様性を確保することなどを求める提言をまとめた。一方、先月27日、東京・永田町では、医療系学生団体「入試差別をなくそう!学生緊急アピール」の集会が開かれた。あいさつに立った医学部3年の女子学生は「受験生の時から疑問だったことが、やっと公になった。行動し、社会で問題を共有したい」と訴えた。団体は、問題発覚後の文部科学省の対応は不十分だとし、完全な差別撤廃などを求めている。 ■「生きにくそう」海外志望も 「在学中に感じていた違和感は、気のせいではなかったんだ」。20代の女性医師は昨年、医学部の不正入試問題が発覚したとき、そう思ったという。文科省の調査で、出身大学でも男女の合格率に差があったことがわかった。在学中、複数の教授らがこう発言しているのを耳にした。「最近、女子学生が増えてきて大変なんだよね、『調整』が」。めざす医師像を語っても、担当教授に「今はそう言っていても、女医さんは家庭をもったら考えが変わっちゃうから」と返された。女性は「入試でも、入学後も、医師になってからも、女性というだけで結婚・出産とひもづけられ、マイナスとみなされる。世の中の半分の人の道を閉ざすような仕組みを、残していいはずがない」と憤る。「それでも」と、女性は付け加えた。「医師の仕事にはやりがいを感じているし、経済的にも自立できる。海外で学ぶ手だってある。医師になりたい女の子たちは、どうかあきらめないでほしい」。実際、海外で医学を学ぶ女子学生もいる。千葉県出身の吉田いづみさん(24)は、2013年にハンガリーへ渡った。現在、医大4年生。留学を考えている日本の女子高校生から相談が寄せられることもある。なかには「日本だと、女子の自分は医学部への入学が難しいのではないか」という声もあるという。海外の医大を志望する都立高校1年の女子生徒(16)も「日本の医学部だと、『女子はこの診療科』と言われることがあると聞く。生きにくそう」と話す。 ■浪人・地方…受験前にも壁 18年度の学校基本調査によると、医学科の入学志願者の男女比は6:4。差があるのは、女子がそもそも受験に至る前にあきらめてしまっている面もあるのではないか。都内で医師の夫と、3人の子を育てる消化器外科医で漫画家の「さーたり」さん(41)は、そう思う。周囲には、「女の子なんだから」に続く言葉があふれていた。「多浪は恥ずかしい」「薬学部も受けておいたら?」「体力ないよね」。こうした風潮が、「女性のスタートラインを下げることにつながってきた」と感じている。「機会の不平等は医学部入試に限らない」。ジェンダー論が専門の瀬地山角(かく)・東大教授はそう話す。英国の教育専門誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)の世界大学ランキング2019によると、米ハーバード大の男女比は52:48で、中国・北京大も52:48とほぼ半々だ。選抜の仕方の違いはあるが、東大の資料(18年)によると、女子は24・3%。学部生に限ると19・5%に落ち込む。同様の傾向は京大や阪大にもあり、THEによると、男女比はそれぞれ76:24、69:31だ。東大は女子学生を歓迎するというメッセージを強く打ち出すために、17年度から女子学生向け家賃補助制度を始めた。「研究や教育の更なる向上のため、多様な学生が活躍するよう支援したい」という。ただ、なかなか「成果」は出ない。学部生に占める女子の割合は09年も19・0%で、横ばいで推移する。瀬地山教授によると、東大の合格者と受験生の男女比はほぼ同じ。「理系に進む女子が少ないのは一因だが、それだけではない。受験というスタートラインにすら立てない女子がいる」と指摘する。北日本の国立大の女性教授は「地方に優秀な女子が残る傾向にある」と打ち明ける。「経済状況が悪くなると、なかなか東京に子どもを出せなくなる。息子と娘がいて『1人だけなら出せる』となると、息子を行かせる傾向がある」。東大の瀬地山教授は言う。「地方出身、浪人の二つの属性を持つ女子は、東大では極めて少なくなる。社会は、自分の能力の限界まで努力する自由が制限されるのは深刻な差別だと認識し、女子をディスカレッジ(やる気をそぐ)しないでほしい」 <男女別学の公立・私立高校> *6-1:https://mikata.shingaku.mynavi.jp/article/22791/ (進路のミカタ 2016.6.23) 栃木はなぜ公立校の男女別学が多い? 公立高校といえば共学のイメージですが、北関東には男女別学の公立高校がまだ残っています。埼玉県に16校、群馬県に17校、栃木県に11校の別学校があるそう(2015年次のデータ)。この3県の教育委員会が、いまだに別学を存続させているのは、なぜでしょうか?まず、男女別学・共学のメリットをそれぞれ整理してみましょう。この記事をまとめると ○別学のメリットがわかる ○共学以外に併学というシステムもある ○栃木県にはいまだに公立校の別学が残っている ●男女別学の特色 男女別学の強みは、男女それぞれの違いに応じた指導を受けられること。別学は勉強に集中しやすい環境と言えるでしょう。2012年のPISA(生徒の学習到達度調査)を見ると、読解力・数学的リテラシー・科学的リテラシーすべての面において、男女の得点に差があるのです。数学的リテラシーと科学的リテラシーにおいては男子の方が得点高い一方、読解力においては女子の方が得点高いことが明らかに。やはり、男子は女子に比べて生まれつき脳の空間認知中枢が大きいけれど、言語中枢が小さいため言語能力の発達が遅いという特徴を表していますね。このように、男女の違いを活かした教育ができるのが、男女別学なのです。男女別学のメリットを挙げてみると…… ・男女の違いに応じた教育ができる ・異性の目を気にすることなく伸び伸びとできる ・男子任せになったり女子任せにすることがないので、バランスよくいろんなことに挑戦できる などがあります。 ただ、高校生といえば、学校で異性とおしゃべりするのも楽しみな年ごろではあります。実際に、別学の高校だと異性と出会うチャンスは、ほとんどありません。文化祭だけが他校の異性と交流できるチャンス!と思わず力が入ってしまう学生も多いのでは? もちろん出会いは共学に比べたら圧倒的に少ないですが、それでも異性がいない気楽さや、同性ならではの団結力は魅力の一つと言えるでしょう。 ●共学の特色 一方、共学の特色を挙げて見ると…… ・男女問わず友だちがたくさんできる ・学園祭や運動会が盛り上がる ・恋愛のチャンスも多い 勉強面でも、男女が共に机を並べることで、刺激し合えることもあります。別学出身の人は、いまだに共学に憧れるという声は少なくありません。一方で、恋愛に夢中になり、学業や部活がおろそかになってしまうケースもあるようです。同級生だけでなく、先輩の男子と付き合うこともあるとか。そして、別学と共学のいいところをミックスしたのが、「併学」というスタイルです。東京や神奈川にある私立のある学校3校では、校舎やクラスなどは男女別々、行事やクラブ活動を男女合同で行うことで、学習面では男女それぞれの個性を伸ばしクラブ活動では互いに刺激し合うことができます。実際に、その私学の学校は3校とも、「文部両道」の私学として全国的にも知られています。 ●北関東の公立高校には男女別学が多い? 別学、共学そして併学の特色を挙げてみましたが、実際のところほとんどの公立高校は共学で、別学か共学かという選択肢がないのが現状です。ほとんどの公立高校が共学になったのは、こんな時代背景があります。戦後新たな民主主義教育が導入されたことで、公立中学校はすべて共学になり、公立高校も北関東から東北エリアの一部を除いてほとんどが共学に。そして1970年代には、別学校が多かった東北地方や中部地方でも、共学校への移行や共学校を新設する動きが多かったようです。これは、男女共学の高校を増やすことが目的でした。男女差別撤廃条約が批准された1980年代には、さらにこの動きが加速し、1989年3月には学習指導要領が改訂され、家庭科が1994年度から男女共修になっています。こうした時代の流れで、別学はどんどん減少していく一方。それにも関わらず、北関東の埼玉県・群馬県・栃木県の3県では、別学校の共学化が議論されたことはあっても、存続されているのです。なぜかというと、北関東に残っている男女別学は、もともとは旧制中学校・高等女学校を前身とする伝統ある高校だったこともあり、歴史を重んじるという意味でも、別学を残したかったのです。特に栃木県においては、県政世論調査によると、8割近くの生徒・保護者や6割の県民が共学校と別学校の共存を望んでいることがわかります。栃木県民が、男女別学に関心があることは、ツイッターでも明らかになりました。2015年地元の新聞(下野新聞)ホームページ「SOON」のツイッターで、編集部が「全国でも屈指の『別学県』である栃木県。時代の流れか、それとも『伝統』か」と意見を求めたところ、これまでにない盛り上がりを見せ、「維持」60%、「原則禁止」26%、「分からない・その他」14%という結果になっています。栃木県民は、男女別学への想いが人一倍あることが、一目瞭然と言えるでしょう。北関東に別学が残っていたのは、偶然ではなく、きちんと意味があるのですね。地域の歴史を勉強すると、さまざまな発見があります。歴史を知ることで、より自分が住んでいるところに興味を持てるようになるかもしれません。自分が住んでいる地域に興味がある方は、地域の歴史を学んでみてはいかがでしょう。 *6-2-1:http://www.urawa-h.spec.ed.jp/index.php?page_id=189 (浦和高等学校校歌) 一、 校舎の礎動きなき 我が武蔵野の鹿島台 朝に望む富士の嶺の 雪千秋の色清く 夕にうたふ荒川の 水万歳の声高し 二、 将来国家に望みある 一千有余の学生が 守る倹素と廉潔の 美風示して春ごとに 大和心の香も深く 匂ふや庭の桜花 三、 花あり実ある丈夫が 堅忍不抜の精神を 川ゆく水の末絶えず 高嶺の雪と磨きつつ 雲井に続く武蔵野の 広き宇内に雄飛せん *6-2-2:http://www.geocities.jp/musichall_8888/kouka.html (浦和第一女子高等学校校歌) 一 アカシアはもえ さみどりの 二 流れたゆとう 荒川の 広き野をとぶ 綿雲に 朝もやをつく せきれいの 望みはわきて かぎりなく うたごえひびく たまゆらも わが胸にあふる 清らかな空に 思いみよ 心ひそめて 乙女子のゆめは はてなし ここに三年の春秋を ここに三年の青春を えらばれてすごす よろこび えらばれて 誇るさいわい ああ 浦和第一女子高校 ああ 浦和第一女子高校 三 夕月匂う つくばねを 四 枯葉とび散る 木枯しに はるかにあおぐ ひとときも 山脈 雪をかつぐとき 瞳をあげて 祈らまし 日ざしはとおる おおらかさ あつき心に 生命もあらたに 花ひらく 遠きみらいを まごころをこめて いそしめ ここに三年を学び舎に ここに三年の御教えを えらばれて集う さだめを えらばれて うけるたのしさ ああ 浦和第一女子高校 ああ 浦和第一女子高校 *6-3:http://cms.saga-ed.jp/hp/karatsuhigashikoukou/home/template/html/htmlView.do?MENU_ID=18744 唐津東高等学校・唐津東中学校校歌(併設型中高一貫校) 「天日かがやき」(昭和二十五年) 下村湖人作詞 諸井三郎作曲 一. 天日かがやき大地は匂ひ 二. はてなく廣ごる眞理の海に 潮風平和を奏づる郷に 抜手を切りつつ浪また浪を 息づくわれらは松浦の浜の こえ行くわれらは松浦の浜の 光の学徒 力の学徒 光 光 光の学徒 力 力 力の学徒 三. 平和と眞理に生命を享けて 四.われらの理想は祖国の理想 久遠の花咲く文化の園を 祖国の理想は世界の理想 耕すわれらは松浦の浜の 理想を見つめて日毎に進む 希望の学徒 われらは学徒 希望 希望 希望の学徒 光 力 希望の学徒 <女性の政治参画について> PS(2019年3月26日追加):*7に、「①朝日新聞社が2007~18年の47都道府県議選を4年ずつ1~3期に分けて分析したところ、1人区では無投票が35%から49%に広がっていた」「②候補者の中で女性が占める割合は1~3期いずれも11~12%と低い」「③特に1人区で女性候補者が少なく、3期とも6~7%」「④当選者の中での女性の割合も、1人区は3%→2%→2%と極めて低く、3期はわずか8人だった」と記載している。 私は、佐賀三区を地元として、2005~2009年の間、自民党衆議院議員をしていたので理由がわかるのだが、①は、確かに無投票は有権者の選択機会を奪うため望ましくないが、メディアが権力と闘っている姿を演出するために薄っぺらな理由で議員を叩きすぎるので、仕事と比較して議員が尊敬されず、4年毎に選挙があるため安定しないのに報酬は低く、勤め人から議員になると損失の多いことが、まず男女共通の問題である。さらに、②③④の女性については、1人区なら男性を出して地元に強く利益誘導して欲しいという住民の願いから女性の当選率は男性より低くなり、既に男性の現職県議がいる場合は現職有利で公認されるため女性が公認されず、女性が候補者になると良妻賢母をよしとする人から「でしゃばり」「目立ちたがり」「性格が悪い」等々の罵詈雑言を浴びせられ、その結果、家族にも迷惑をかけることになるからで、つまりメディアはじめ有権者(男女とも)も女性に対して差別意識を持っているからである。 *7:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13949873.html (朝日新聞 2019年3月26日) 無投票が半数/女性当選わずか 都道府県議選1人区、課題の山 統一地方選 朝日新聞社が2007~18年の47都道府県議選を4年ずつ1~3期に分けて分析したところ、無投票の選挙区が1期(07~10年)の24%から、3期(15~18年)には32%に増え、なかでも1人しか当選しない1人区では無投票が35%から49%に広がっていた。1人区では、女性当選者が極端に少ない状態も続いている。1人区を見直す必要性を指摘する専門家もいる。 ■07~18年分析 1期と3期を比べると、全国の総定数は98減って2686に、総候補者数は252人減って3922人に。無投票の選挙区は、275から356に増えた。県議選は選挙区ごとに定数が決められており、1人区が全体の4割を占める。その1人区では、1期から3期にかけて無投票が166選挙区(1人区の35%)→179(同39%)→212(同49%)と急増。3割ある2人区でも、無投票は23%→25%→32%と拡大した。29日告示の統一地方選道府県議選でも、神奈川(前回11)や埼玉(前回9)などで増え、全国の無投票選挙区は過去最多だった前回を超えそうな情勢だ。候補者の中で女性が占める割合は1~3期いずれも11~12%と低い。特に1人区で女性候補者が少なく、3期とも6~7%。当選者の中での女性の割合も、1人区は3%→2%→2%と極めて低く、3期はわずか8人だった。1人区は複数が当選する中選挙区・大選挙区に比べ、「死票」も多くなり、得票率と議席占有率にズレが生まれる場合もある。3期の愛知では、選挙戦になった1人区12選挙区で、自民の得票率が49%だったが、自民の議席占有率は75%。1人区が多い埼玉でも得票率50%に対し、占有率は70%だった。 ■「選択機会奪う」 地方選挙に詳しい関西大・名取良太教授(現代政治分析)の話 無投票は有権者の選択機会を奪い、政治的関心を低下させるので望ましくない。抜本的な対策ではないものの、選挙区の区割りを変えて1、2人区を減らせば無投票は減るだろう。ただし制度だけの改革でなく、無投票を減らすには自民に対抗できる政党の存在が必要だろう。 <女性の登用について> PS(2019年3月27日追加):*8は、見えない壁ではなく明確に見えている壁であり、その内容は1985年に制定された最初の男女雇用機会均等法で努力義務を課し、1997年の改正で禁止した女性差別そのものである(https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11902000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Koyoukintouseisakuka/0000087683.pdf 参照)。 そのため、現在もそのような女性差別が続いているのなら、その地域は日本の先端より35年も遅れていることになるが、世帯の貧しさは女性が相応の給料で働かなければ改善せず、地域の貧しさも女性を教育して質のよい労働力を多く作らなければ改善できないため、早急に変える必要があることは明白だ。また、男女が結婚相手を選ぶ基準も、時代とともに変わる。 なお、*9については、私も「女性の地位向上は今一つ」「強く印象に残ったのは東日本大震災と福島第1原発事故」「好きな歌謡曲は『世界に一つだけの花』」「平成は戦争のない良い時代だった」と思うし、「ネットは悪事に使う人もいるが、生活や社会を便利な方に一変させる効果があった」と考える。 *8:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13953008.html?iref=pc_ss_date (朝日新聞 2019年3月27日) 女性ゼロ、市議も管理職も 出る杭打たれる風土 鹿児島・垂水 女性市議が一度も存在したことがないまちがある。鹿児島県垂水(たるみず)市。4月に行われる市議選では2人の女性が立候補を予定するが、見えない壁がそびえ立つ。意思決定の場に女性がいないという現実。そして、その背景にあるものは。2月の定例会の本会議場で、議長席と議員席に12人の男性が陣取った。答弁に備える市長、副市長、各課の課長の席も男性一色。全国1788地方議会のうち、「女性ゼロ議会」は339。その一つが垂水市議会で、1958年の市制施行以来、女性議員が誕生したことはない。市役所の管理職に女性が就いたこともない。市総務課によると、昨年4月現在の職員数は男性139人に対し、女性47人。管理職にあたる課長級以上の17人は全員男性だ。森山博之総務課長(60)は「結果的にそうなっているだけ」と話した。一方、15年以上勤める女性職員は「女性に管理職を任せる下地ができていないと感じる」と言う。その象徴とみるのが、「総財企」と呼ばれる総務、財政、企画政策の3課の人事だ。この3課は市政の中枢を担い、職員数も多いが、係長級には男性が就くのが常。この女性職員は「部下の多い重要ポストに配属して育てないと、管理職も見えてこない」と漏らす。内閣府の2017年調査によると、鹿児島県の43市町村のうち、課長級以上の女性職員がいないのは、3割弱の12市町村。市区町村の管理職に占める女性比率も、鹿児島県は7・8%で、7・3%の愛媛県に次ぐ全国ワースト2だ。来月1日付の人事で、垂水市役所初の女性課長が誕生することが決まったが、変革は簡単ではない。民間での管理職経験がある市内の女性は「会社で男性社員が女性の上司に指示されると落ち込んで辞める、ということも目にしてきた」と証言する。「女性が上に立ちにくい。出る杭は打たれる風土が残っている」 ■進学率、男子と開き 女性の政治進出を阻む壁の一つが、「女性は教育水準が低いという意識」(県内の女性市議)。その根っこには、性別で教育投資が左右される現実がある。鹿児島市の女性公務員(24)は学生時代、九州大理学部を目指した。前期試験は不合格。後期は親に黙って熊本大を受験。合格を聞いた母に入学を猛反対され、地元の短大に進んだ。悔しい思いは今も残る。県内の20代の女性公務員は「女だから」「県内で就職するなら有利」と両親に言われ、短大を出た。弟は県外の4年制に通った。「女子は短大でいい、という風潮を感じる」。文部科学省の「学校基本調査」をもとに18年度の都道府県別進学率(浪人を含む)を算出すると、鹿児島県の4年制進学率は男子が43・4%で全国35位なのに対し、女子は34・1%(全国平均50・1%)で最下位。だが、女子の短大進学率は15・1%(同8・3%)で1位だ。県内で約20年短大講師をしている50代の男性は「優秀な旦那さんと結婚し、次世代を担う子を育てるという女性の役割は大きい。学生にもその思いを伝えている」と持論を述べた。鹿児島国際大の山田晋名誉教授(ジェンダー論)は、1人当たり県民所得が全国44位(15年度)という経済的な厳しさと男性優先の社会の二つが、「男女に能力差がある」との固定観念を生む「負の両輪」だと指摘。「希望する進学を妨げられて女性が負うハンデが、学歴に対する偏見と相まって、女性議員の誕生も阻んでいる」 *9:http://qbiz.jp/article/150916/1/ (西日本新聞 2019年3月27日) 平成は「良い時代」7割超が評価 女性の地位は低評価、世論調査で 天皇代替わりに伴って、間もなく幕を閉じる平成の時代に関する郵送世論調査(3千人対象)の結果、「どちらかといえば」を含め、73%が「良い時代」と評価していることが分かった。57%が他者に対し「不寛容になった」と回答。女性の地位については「ほとんど向上していない」「まだ不十分」を合わせると86%を占めた。調査は共同通信社が2〜3月に実施した。経済が停滞し、大災害が相次いだが、戦争のない平和な時代であり、多くの人が日々の暮らしに一定の充足を感じていたといえそうだ。一方でインターネットを中心に、弱者への攻撃や排外主義的な主張が勢いを増している世相を懸念する姿も浮かぶ。強く印象に残る国内ニュース(三つまで)は、「東日本大震災と東京電力福島第1原発事故」が70%で最も多く、「オウム真理教事件」50%、「阪神大震災」40%が続いた。国際ニュースは「米中枢同時テロ(9・11テロ)」が44%でトップだった。業績を評価する歴代首相(3人まで)は、「自民党をぶっ壊す」と訴えて国民を熱狂させた小泉純一郎氏が77%の支持を得た。現首相の安倍晋三氏が38%、消費税導入を断行した竹下登氏が22%だった。平成を代表するスポーツ選手(3人まで自由回答)は、米大リーグで数々の記録を打ち立てたイチロー元選手が1位。フィギュアスケートの羽生結弦選手と浅田真央元選手が2位と3位で続いた。芸能分野では、2016年末に解散した国民的アイドルグループ「SMAP」が1位。代表曲の「世界に一つだけの花」は、好きな歌謡曲でも圧倒的に支持されてのトップだった。ネットの普及が生活や社会を一変させたことについては、「良かった」41%、「どちらかといえば良かった」45%で肯定的な意見が優勢だった。
| 男女平等::2019.3~ | 04:41 PM | comments (x) | trackback (x) |
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