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2017.1.31 東芝の7,000億円規模の原発関連損失と原子力及び再生可能エネルギーの今後について (2017年2月1日、2、13、15、17日に追加あり)

米国原子力発電のコスト 世界のエネルギー フランスのソーラーロード エチオピアの 
 2017.1.20東京新聞   コスト推移   Newsweek2017.1.17 ソーラーキオスク     

  
 南アフリカのソーラー空港 アフリカのソーラー航空機  スイス船籍のソーラー船

(図の説明:原子力発電のコストは上がり、太陽光発電のコストは規模の拡大により下がって、2016年には風力発電よりも低くなった。今後は、太陽光発電の原材料変化によるコストダウンも見込まれる中、フランスでは太陽光発電を埋め込んだ道路ができ、道路で発電できるようになった。また、アフリカでは、電線の引かれている地域が限られているため、太陽光発電等に依る分散発電には大きな意味がある。さらに、ソーラー空港・ソーラー航空機・ソーラー船は、太陽光発電の将来性の大きさを感じさせる)

(1)東芝の経営意思決定における失敗と損失 ← 原発への固執は、会社を破綻させること
 東芝は、*1-1、*1-3のように、4,800億円と見込まれていた損失額が7,000億円になりそうなため、債務超過を回避する目的で、世界シェアの高い半導体事業を分社化してつくる新会社の株式を一部売却するのだそうだ。そして、綱川社長は、*1-4のように、2017年1月27日に原発事業の海外建設工事から撤退する等の方針を表明し、「原発事業はエネルギー事業のなかで最注力としていたが変える」と強調したそうだ。

 東芝の家電や太陽光発電機器は優れているため、私は東芝の失敗とその後の「選択と集中」に関する経営意思決定を残念だと思っていたが、東芝の原発事業からの撤退が、フクイチの後にすぐ決定されていれば、損失はずっと少なかったと思う。また、東芝の主導権は50%超の株式を保有していれば確実に維持できるため、株式は金もうけ目的で会社を買って転売する投資ファンドではなく、協業することによってシナジー効果を得られる他業種の製造会社に売却すれば、前向きの効果が得られると考える。

 なお、東芝が、S&W社を275億円で買収して数千億円もの損失を出した理由について、*1-2は、東芝の子会社である米ウェスチングハウスが1年前に原発建設会社S&W社を買収し、米規制当局の安全規制強化等で建設コストが膨らんだので生じたとしている。しかし、私には、フクイチの後、世界が原発から手を引こうとしている時に、純資産額を約105億円も超える価格で原発関連会社を買収し、買収後に純資産額がマイナス数千億円に達したのは、リーダーが世界の潮流を見誤って甘い意思決定をしたからとしか思われない。さらに、ウェスチングハウスとS&W社は、今回の損失を予見した上で、原発から撤退するに当たって、日本企業の東芝に損失を負わせた可能性すらある。

 また、*1-3に、「7,000億円」という数字は、世界の4大監査法人の一つで老舗監査法人のプライスウォーターハウスクーパース(PwC)の米国事務所がウェスチングハウスに対して示した数字だと書かれているが、これが監査であり、顧問先企業の損失を冷静に把握して監査に反映させなければ、後で株主・投資家・債権者などに対して、監査法人は会社と連帯責任を負うことになるのである。

 それらの総合的な結果として、米格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズは、東芝の格付けを「シングルBマイナス」から「トリプルCプラス」に引き下げたそうだ。

(2)フクイチとその後の状況
 フクイチでは、*2-1のように、昨年の透視調査で核燃料の大部分が原子炉圧力容器内に残っていると推定されていた2号機に、事故から約6年経ってカメラを入れて見たところ、溶けた核燃料のような塊が飛び散っている様子が見え、核燃料取り出しや廃炉の困難さがわかったのだそうだ。そして、1号機と3号機は、核燃料の大部分が原子炉圧力容器内に残ってもいないようだ。

 溶けた核燃料が原子炉の外に出た事故は、これまで旧ソ連のチェルノブイリ原発事故だけで、事故から30年経過した今でも取り出しに着手していない。東電などは、2018年度に溶けた核燃料の取り出し方法を決め、2021年にも着手するとしているが、事故から約6年経って核燃料かもしれない姿の一部を見ただけで、広がりも、量も、状態も公表していないのである。

 1~3号機を合わせて、放射性物質が大気中に放出された量については、*2-2のように、ノルウェーの研究チームが、日本政府が2011年6月に発表した推定放出量よりもずっと多いと報告している。これは、世界各地で観測された放射能データを組み合わせて、大気中の放射性物質の量と流れを推定した結果だそうだ。

 さらに、日本政府の主張とは異なり、4号機の使用済み核燃料プールからも大量のセシウム137が放出されていたと報告しており、もっと迅速に対応していれば、これほど大量の放射性物質が放出されずにすんだかもしれないと述べており、私もそのとおりだと思う。そして、原子炉から何が放出されたのかがより重要で、それには原子炉内で何が起きたのかを厳密に知らなければならないが、それがまだ明らかにされていないのである。

 なお、*2-2に、「3月14日の午後、風向きが変わって陸に向かって吹き始め、セシウム137が東北南部から中部地方にまで広がり、15日夜から16日未明にかけて雨が降った栃木県と群馬県の山間部では土壌から比較的高濃度の放射性物質が検出された」と書かれているが、埼玉県では15日夕方からぽつぽつと雨が降り、その時外出していた私の傘は、後に放射線量が非常に高いことがわかった。これは、あらかじめ予報されていれば、外出を控えたり、傘を洗ったりなどの対応ができた筈のものである。

 原発事故による放射能汚染廃棄物は、焼却しても放射性物質が空中に飛び散るためさらに問題なのだが、*2-3には、汚染牧草をすき込んで牧草の堆肥化をすると書かれている。なお、国の指定基準(1キロ当たり8000ベクレル)以下の廃棄物なら何をしてもよいのかと言えば、放射性物質は総量が重要であるため、「400ベクレル以下の牧草はすき込み、400ベクレルを超えるものも堆肥に混ぜ込むことで、ほとんど焼却しないで済む」などというのは、「放射性物質は閉じ込める」という原則的対応からかけ離れた判断なのだ。

 政府は、*2-4のように、福島の復興指針を改定し、除染費用は東電が負担するとの原則を転換して「帰還困難区域」の除染に国費を投入することを閣議決定し、同区域に5年後をめどに避難指示の解除を目指す「特定復興拠点」を設け、除染費用として2017年度予算に約300億円計上するそうだ。これは、フクイチの放射性物質への対応すら決まっていないのに、放射性物質をあまりにも甘く見た決定だ。

 さらに、*2-5のとおり、原発の廃炉費用の一部は、原発を所有しない新電力にも負担させるなどの費用負担をさせ、送電網の使用料として徴収することにしたそうだが、既存の電力会社が積立不足にした過去費用を関係のない新電力に負担させると、電力市場を歪めて市場の自由化に逆行する。それではどういう解決策があるかについては、総括原価方式で消費者の負担によって作ってきた大手電力会社の送電網を別会社化し、シナジー効果の出る会社に出資してもらい、それで得た資金を廃炉費用に充てるのがまっとうな方法だろう。

 その上、*2-6のとおり、1兆円超の資金を投じても稼働のメドが立たなかった高速炉開発を進める方針にしたそうだが、原発事故のリスクは0ではなく、一度起これば取り返しのつかない事態になることが明らかで、再生可能エネルギーの進歩も著しいため、核燃料サイクルは凍結や断念も視野に根本的に再考すべきであり、被爆国としての責任は原爆廃止へのリーダーシップを発揮することだと考える。

 なお、*2-7のように、原発の発電費用を研究してきた立命館大学の大島教授が、原発で一キロワット時の電力をつくるために必要な費用を、実際原価で13.1円と試算し、水力発電11.0円、石炭火力12.3円、LNG火力13.7円など他の発電方法よりも高いとしている。しかし、大島教授も原発と水力・火力の比較しかできていない。これは、「再生可能エネルギーは高い」という神話を信奉し続け、再生可能エネルギーの研究に水を差し続けた日本の政府・メディアの一つ一つの行動の総合的結末である。

(3)世界の再生可能エネルギーの進歩と日本の遅れ
 「太陽光発電の発電コストが石炭火力発電以下になり、長年"コスト高"というデメリットを抱えてきた太陽光発電が、近年、技術の進化と規模の経済性で、コスト競争力のある発電方式となりつつあることが明らかになった」と、*3-1に書かれている。

 太陽光発電は化石燃料を必要とせず、発電時に温室効果ガスや騒音・振動を発生させない、環境負荷の低い発電方式だが、日本では、発電設備のコストが高いと批判ばかりされ、あまり推進されなかった。

 しかし、世界経済フォーラムの報告書によると、オーストラリア、ブラジル、チリ、メキシコなどの世界30カ国以上で、太陽光発電のコストは既に石炭火力以下になったそうだ。日本では太陽光発電のデメリットばかりが強調されて普及が進まなかった結果、発電効率の改善や発電設備の廉価化が進まず、日本のシャープが世界で最初に商品化したにもかかわらず、シャープは破綻しそうになり、台湾企業に買収されて日本企業ではなくなった。これが、日本の政治やメディアの悪い点なのである。

 よい例は、2016年12月、世界で初めてフランスで完成したソーラーパネルを敷設した道路だ。道路は広い面積を持っているため発電量が多く、電気自動車の充電にも適している。また、2015年12月の国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)に続き、2016年4月には、インド、オーストラリア、フランス、エチオピア、ブラジルを含む25カ国が、太陽光発電に関する研究開発や普及のために1兆ドル(約114兆円)投資することで合意したとのことだ。

 世界の自然エネルギー導入量は、*3-2のように、過去数年で急速に拡大し、風力発電は5億kW、太陽光発電は3億kW近くに達したそうだ。また、導入量以上に画期的なのは、コストが劇的な低下を続け、風力発電は1kWhあたり3.0セント、太陽光発電も1kWhあたり2.42セントという水準に至り、条件に恵まれた地域の太陽光発電は、火力発電だけでなく、風力発電よりも安くなっていることである。

 「パリ協定」は、今世紀後半には世界の温室効果ガス排出量を実質的にゼロにすることを決め、そのためには、化石燃料から自然エネルギーへの全面的な転換が必要で、現在では、世界のトップ企業が、自らの企業の使う電力を率先して100%自然エネルギーに転換する「RE100」に取組んでいるそうだ。

 「RE100」には、欧米だけでなくインド・中国の企業も参加しているが、日本企業は参加しておらず、日本での自然エネルギー導入が遅れている中で、「RE100」の目標を掲げることに二の足を踏んでいる状況なのだそうだ。パリ協定が発効し脱炭素への転換が求められる中、世界規模でビジネスを展開する企業には、温室効果ガスの排出を大幅に削減すること、その取組として自然エネルギー100%をめざすことが、マーケットでのその企業の評価を左右するようなり、世界の多くのトップ企業が「RE100」に参加しているのは、この動向を熟知しているからだそうである。

 日本のエネルギー政策は、自然エネルギーの導入に消極的であるのみならず、石炭火力の大量の新増設を可能にするなど、「パリ協定」後の世界の流れに逆行している上、送電網を管理する電力会社が自然エネルギーの接続や有効利用に制限を加えるなど、自然エネルギーのコスト低下を阻む多くの障害を作っている。

 また、「ベースロード電源市場の創設」という名目で、原子力や石炭火力の利用を進める政策を経産省が導入するなど、「工業国に公害はつきものだ」「100%完全なことはあり得ない」などの誤った信念を持つリーダーの環境意識の低さと、「空気は汚してもよいが、現在の空気(それも身の廻りのみ)を読むのが最も重要」と考える人々の意識の低さが、日本の環境技術開発の妨げになってきたことは明らかだ。

<東芝の失敗と損失>
*1-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12767261.html (朝日新聞 2017年1月27日) 東芝、入札2月上旬にも 損失7000億円見込み 半導体分社
 米国の原発事業で巨額損失を計上する見通しとなった東芝は、半導体事業を分社化してつくる新会社の株式の一部売却に向け、売却先を決める入札を来月上旬にも実施する方針だ。今月27日に開く取締役会で分社化を正式に決め、3月末の臨時株主総会で必要な決議を得る予定だ。現時点で損失額は7千億円前後に拡大する見通しになっている。関係者によると、東芝は当初、損失額を4800億円と見込んでいたが、米国で損失額の確定作業を進める担当部署から、2千億円程度増えるとの見通しが伝えられているという。半導体の分社化では、新会社の株式の2割弱を手放す方向で調整しており、少なくとも2千億円程度の売却益を見込む。2割弱にとどめるのは、新会社が他社の持ち分法適用会社になるのを避け、東芝の主導権を維持するためとみられる。また、東芝のNAND(ナンド)型フラッシュメモリー事業は世界シェアが2割を超える。米ウエスタンデジタル(WD)のような同業大手の場合、出資比率が高くなると独占禁止法上の審査が必要になり、売却に時間がかかる恐れがある。確定作業を進めている米原発事業の損失額次第では、売却する株式の割合を増やす可能性も残る。損失額は、来月14日の昨年4~12月期決算発表と同時に公表する方針。東芝の自己資本は昨年9月末時点で約3600億円しかなく、販売が好調なフラッシュメモリーを軸とした半導体事業の分社化・株式売却が、債務超過の回避策の柱となる見込み。2017年3月期の債務超過を避けるには3月末までに売却益を得る必要があり、入札手続きを急ぐ。入札には、米WDに加え、キヤノンなどの取引先、英ペルミラ、米ベインキャピタルといった投資ファンドなど10社程度が関心を示している。27日の取締役会では、事業や資産の売却、投資の抑制などの対策も議論する見通し。上場グループ会社の株式売却を検討するほか、16年度下半期に約600億円を使う予定だったリストラを先送りするなどして支出を抑える方針。本業での利益の上ぶれなども含め、3千億円規模の損失対策を計画している。

*1-2:http://mainichi.jp/premier/business/articles/20170106/biz/00m/010/001000c
(毎日新聞 2017年1月10日) 「275億円の買収で東芝損失数千億円?」の大疑問
●「数千億円損失?」への疑問(1)
 自社の事業でいきなり「数千億円の損失の可能性」が出てきたら、どんな経営者も平静ではいられないだろう。東芝が昨年12月末に発表した子会社の米原子力大手ウェスチングハウスをめぐる問題は、綱川智・東芝社長ら経営陣にとって降って湧いたような衝撃の出来事だったに違いない。なぜ、こんな事態になったのか。問題は、1年前にウェスチングハウスが原発建設会社、S&W社を買収したことで生じた。ウェスチングハウスは、S&W社とともに、米国で電力会社2社から発注を受けて原発4基の建設を進めてきた。総額2兆円にのぼるプロジェクトで、ウェスチングハウスが原発の設計や主要機器を供給し、S&W社が実際の建設作業にあたる分担だった。4基は当初、2016年に2基、17年に1基、19年に1基というスケジュールで運転開始する予定だった。ところが米規制当局の安全規制強化などの対応で完成が遅れ、運転開始予定は19年に2基、20年に2基になった。規制強化と完成遅れで建設コストは膨らみ、ウェスチングハウスと電力会社が負担をめぐり互いに訴え合う事態になっていた。また、ウェスチングハウスとS&W社も同様にコスト負担をめぐって争っていた。
●買収先は売上高2000億円の企業
 そうしたなか、ウェスチングハウスは15年12月、S&W社を買収した。買収額は2億2900万ドル(当時の為替レートで約275億円)。S&W社の年間売上高は約2000億円。ウェスチングハウスはこの規模の企業を、少額で買収したことになる。ウェスチングハウスは、買収でS&W社との争いについて双方が取り下げ、同時に電力会社との訴訟や争いについても取り下げることで和解に達したと説明した。買収時のS&W社の純資産の査定額は公表されていないが、1億4200万ドル(約170億円)だったと推定される。東芝とウェスチングハウスは、買収額から純資産額を引いた8700万ドル(約105億円)を「のれん」として資産に計上することになった。のれんの資産計上は、S&W社が将来、利益を上げることを前提にしている。ところがそこに大きな落とし穴があった。純資産額が170億円どころか、マイナス数千億円にのぼる可能性が出てきたというのだ。これは次の事情による。
●新たな下請け会社の見積もり
 ウェスチングハウスは買収後、新たに別の米大手エンジニアリング会社を原発建設の下請け会社として現地で工事にあたらせることにした。S&W社の建設作業者は、この下請け会社に移管されることになった。下請け会社は改めて完成までの建設コストの見積もりを行った。そして10月にウェスチングハウスに見積もりの結果を提出した。ウェスチングハウスが精査したところ、それまで想定していた建設コストを大幅に上回ったというのだ。膨らんだ建設コストを前提にすると、S&W社の収支はこの先、大幅に悪化する。この結果、純資産額が、数千億円のマイナスになる可能性が出てきたというのだ。米国での原発事業で数千億円規模の損失が出る可能性があるとして、膨らんだ建設コストのリスクをなぜ、ウェスチングハウスがすべて背負うことになったのか。買収時にS&W社や電力会社との争いを取り下げたことに問題はなかったのか。買収契約に危険を回避する項目を盛り込むことは考えなかったのか。さまざまな疑問が湧いてくる。その疑問の先に生じてくるのは、ウェスチングハウスは本当に今回のリスクを予見できなかったのかという問いだ。そして「数千億円の損失リスク」は、S&W社固有の問題ではなく、原発新設プロジェクトでウェスチングハウス自身が抱えてきたリスクではないのか、という根本の疑問である。

*1-3:http://mainichi.jp/premier/business/articles/20170125/biz/00m/010/017000c (毎日新聞 2017年1月27日) 「東芝7000億円損失」で銀行・取引先に広がる疑心
●半導体事業の入札(1)
 東芝問題が激しく動いている。大手各紙は1月中旬、東芝の子会社である米ウェスチングハウスの原発事業で生じる損失の規模について「最大7000億円」という記事を一斉に報道した。さらに、毎日新聞は1月26日、損失額が「6800億円程度」と詳細な数字を報じた。一方、東芝の主力事業である半導体部門を分社化し、株式の2割弱を売却する方向で入札の手続きが始まったことも各紙で報じられた。いったい東芝に何が起きているのか。損失の規模について「最大7000億円」とされた点について、まず解説しよう。東芝は昨年12月末に、ウェスチングハウスが進めている米国の原子力発電所建設で追加コストが発生し、数千億円の損失が生じる可能性があると発表した。1月に入って、「損失額は4000億~5000億円」という情報が流れた。さらに1月19日に「最大7000億円」という記事が出たのだ。
●「7000億円」は米会計事務所が示した数字!?
 4000億円から7000億円まで大きな開きがあるが、これはどういう数字なのか。「7000億円」は、米国の会計事務所プライスウォーターハウスクーパース(PwC)がウェスチングハウスに対して示している数字だと関係者は説明する。これに対し、ウェスチングハウス側は4000億円から5000億円程度を主張しており、両者の間で協議が続いている、というのだ。PwCは世界4大会計事務所の一つ。4大事務所のなかでも筆頭格だ。日本ではPwCあらた監査法人と提携している。不正会計の発覚で、それまで東芝の監査を担当していた新日本監査法人は16年3月期限りで監査を降りた。その後釜は、PwCあらた監査法人になった。それと同時に、ウェスチングハウスの会計監査は、新日本監査法人と提携していたアーンスト・アンド・ヤング(EY)から、PwCに交代した。ウェスチングハウスは米原子力事業の損失について、そのPwCの監査を受けているのだ。
●東芝は2月14日に確定値を公表
 東芝の不正会計問題をめぐっては、「監査法人はなぜ見過ごしたのか」と批判の声が上がった。注目度の高い案件であり、PwCは厳しい監査に臨んでいると言われる。その結果が「7000億円」という主張になっている可能性がある。ただ、この数値も流動的だと言われている。東芝の正式な発表が遅れているなかで、額が少しずつ膨らんできた。銀行や取引先に疑心暗鬼が広がらないわけがない。東芝は1月24日、プレスリリースを出し、損失額の確定や、第3四半期決算数値について2月14日に公表することを明らかにした。その際、合わせて損失発生の原因と再発防止策についても報告するという。公表日を示すことで沈静化を図ったとみられる。
●格付け会社が再び格下げ
 そのプレスリリースが出た同じ1月24日、米格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズが、東芝の長期会社格付けを「シングルBマイナス」から「トリプルCプラス」に1段階引き下げた。シングルBもトリプルCも「投機的」な位置づけだ。今後も格下げ方向であることは変わらないという。2017年1月25日付の毎日新聞東京朝刊  スタンダード・アンド・プアーズは格下げの理由として、「株主資本の大幅な毀損(きそん)が不可避と推定されることから、債務履行を長期的に継続することに対する不透明感が従来より強まった」と説明している。そして、こうした動きの一方で、東芝の主力事業である半導体部門を分社化し、一部株式を入札で外部に売却する手続きが始まった。売却先候補として、投資ファンドや事業会社の名前がキヤノンなど10社以上上がっているのである。

*1-4:http://digital.asahi.com/articles/ASK1W5FT8K1WULFA025.html?iref=comtop_list_biz_n04(朝日新聞 2017年1月27日)東芝、海外の原発建設から撤退へ 社長「あり方見直す」
 東芝は27日、米国で巨額損失を計上する見通しとなった原発事業について、海外の建設工事から撤退するなど、大幅に見直す方針を表明した。同事業で損失が急拡大する事態の再発を避ける狙い。半導体事業の分社化も27日の取締役会で正式決定。2017年3月期の債務超過回避を目指し、入札手続きを急ぐ。この日記者会見した綱川智社長は、原発事業について「エネルギー(事業)のなかで最注力としたが、変えていく」「海外事業は今後のあり方を見直していく」と強調した。巨額の損失をなかなか把握できなかった反省から、社長直属の事業に変更して管理を強化。今後の受注では、設計や原子炉の製造・納入などに専念し、コストが見通しにくい建設工事から手を引いて「リスク遮断する」(綱川社長)。30年度までに海外で原発45基以上の受注を見込む従来計画も、基数を含めて見直す方針を示した。半導体事業では、スマートフォンなどに使われる主力のNAND(ナンド)型フラッシュメモリー事業(従業員約9千人)を分社化。3月下旬の臨時株主総会で株主の承認を得て同月末に実施する予定。新会社の株式の一部売却は「20%未満が基本」(綱川社長)としている。米原発事業での損失額は、現時点での精査では7千億円前後に拡大する見通し。東芝は昨年4~12月期決算を発表する来月14日に、確定した損失額を公表する。半導体事業の分社化で2千億円超の利益を見込むが、債務超過が回避できるかどうかについて、綱川社長は「それ(回避)に向けて資本増強をあらゆる手段でとりたい」などと述べるにとどめ、資本増強策や原発事業見直しの詳細は、来月14日に説明する考えを繰り返し強調した。

(フクイチとその後の状況)
*2-1:http://digital.asahi.com/articles/ASK1Z5Q0KK1ZULBJ00F.html?iref=comtop_8_07 (朝日新聞 2017年1月31日) 核燃料?飛散、取り出し困難 チェルノブイリ以来の事態
 東電は宇宙線を利用した昨年の透視調査で、2号機の核燃料は大部分が原子炉圧力容器の中に残っていると推定していた。圧力容器直下にカメラを入れても、溶け落ちた核燃料が見える可能性は低いとみていた。だが、カメラの視野には、溶けた核燃料のような塊がそこかしこに飛び散っている様子が浮かび上がった。そこから分かることは、これからの核燃料取り出しや廃炉の困難さだ。溶けた核燃料が原子炉の外に出た事故は、これまで旧ソ連のチェルノブイリ原発事故以外にない。チェルノブイリ原発では、事故後30年が経過した今も、取り出しに着手していない。東電などは、2018年度に溶けた核燃料の取り出し方法を決め、21年にも着手するとしている。だが、事故から約6年で、核燃料かもしれない姿の一部が見えただけだ。広がりも、量も、状態もわからない。核燃料や、核燃料がこびりついた金属をどう切り出すのか。作業員の被曝(ひばく)をどう抑えるのか。取り出した燃料をどこに保管し、いつ処分するのか。3基がメルトダウンした世界でも例のない廃炉作業は、まだ、何一つ決まっていない。

*2-2:http://www.natureasia.com/ja-jp/nature/specials/contents/earthquake/id/nature-news-102711#fig1 (Nature 2011年10月27日号 Geoff Brumfiel) 放射性物質はどのくらい放出された?
 ノルウェーの研究チームにより、新たに福島第一原発事故で大気中に放出された放射性物質の総量が計算され、政府が6月に発表した推定放出量よりもずっと多いという報告があった。世界各地で観測された放射能データを組み合わせて大気中の放射性物質の量とその流れを推定した結果、福島第一原子力発電所の事故では、政府の推定よりもはるかに大量の放射性物質が放出されていたという研究が、Atmospheric Chemistry and Physics に発表された1。さらに、日本政府の主張とは裏腹に、4号機の使用済み核燃料プールから大量のセシウム137(半減期が長く、長期にわたって環境を汚染する物質)が放出されていたとも報告しており、もっと迅速に対応していれば、これほど大量の放射性物質が放出されずにすんだかもしれないと述べている。論文はオンライン掲載され、現在、公開査読を受けている。研究チームを率いたのは、ノルウェー大気研究所(シェラー)の大気科学者 Andreas Stohl だ。Stohl は、自分たちの分析は、これまで行われてきた福島第一原発から放出された放射性物質の量についての調査研究の中で、最も包括的なものであると自負している。スウェーデン防衛研究所(ストックホルム)の大気モデル作成の専門家 Lars-Erik De Geer は、今回の研究には関与していないが、「非常に価値のある成果です」と評価している。オンライン特集 原発事故による放射性物質の放出過程の再現は、日本国内をはじめ世界各地にある数十か所の放射性核種モニタリングステーションで観測されたデータに基づいて行われた。その多くは、包括的核実験禁止条約機構(オーストリア:ウィーン)が核実験の監視のために運用している世界規模での観測ネットワークに属する。このデータに、カナダ、日本、ヨーロッパの独立観測ステーションのデータも付け加え、これらをヨーロッパと米国が保管している広域気象データと組み合わせた。ただし、Stohl は、自分たちが作成したモデルは完全にはほど遠いものだとして注意を促している。原発事故発生直後の測定データが非常に少ないうえ、一部のモニタリングポストは放射能汚染がひどく、信頼できるデータが得られなかったからである。より重要なのは、原子炉から何が放出されたのかを知るためには、原子炉内で何が起きたのかを厳密に知らなければならないのだが、いまだ明らかになっておらず、永久に謎のままかもしれないという事実である。「チェルノブイリ事故から25年後もたった今でも、その推定値は不確かな部分が非常に多いのです」と Stohl は言う。それでも、今回の研究は、福島第一原発事故を全般的に調査したものであり、De Geer は、「Stohl らは真に地球規模の視点から、現在入手できるかぎりのデータを利用して推定しています」と話す。
●政府の発表
 3月11日の地震後に原発で起こった出来事については、すでに日本の研究者たちが詳細な経緯を推定している。福島第一原発電の6機の原子炉が激しい揺れに見舞われた50分後、巨大津波が襲来し、緊急時に原子炉を冷却するための非常用ディーゼル発電機が破壊された。それから数日の間に、地震発生時に稼働していた3機の原子炉が過熱して水素ガスを発生し、次々に水素爆発を起こした。定期点検のために停止していた4号機では、核燃料は使用済み核燃料プールに貯蔵されていたが、3月14日にこのプールが過熱し、おそらく数日にわたり建屋内で火災が発生した。一方で、原発から放出された放射性物質の量の解明は、事故の経過の再現に比べてはるかに難しい。政府が6月に発表した『原子力安全に関するIAEA閣僚会議に対する日本国政府の報告書 ―東京電力福島原子力発電所の事故について―』では、今回の事故により放出されたセシウム137は1.5×1016ベクレル(Bq)、キセノン133は1.1×1019Bqと推定している2。セシウム137は半減期30年の放射性核種で、原発事故による長期的汚染のほとんどの原因となっている。一方、キセノン133はウラン235の崩壊によって放出される半減期約5日の放射性核種であり、原発事故や核実験の際、初期に観測される。ところが、Stohl らが原発事故の再現結果に基づいて推定した放出キセノン133の量は1.7×1019Bq、セシウム137の量は3.5×1016 Bqで、政府の見積もりよりキセノンが約1.5倍、セシウムが約2倍となった。キセノン133の放出量は、チェルノブイリの総放出量1.4×1019Bqよりも多いことになる。だが、De Geer によれば、チェルノブイリでは爆発した原子炉が1機であったのに対して、福島の事故では3機も水素爆発したことで説明できるという。また、キセノン133は生体や環境に吸収されないため、健康に深刻な影響を及ぼすおそれはない。 問題なのは、数十年にわたり環境に残存するセシウム137だ。Stohl らのモデルの値は、チェルノブイリ事故での放出量の約1/2に相当する。De Geer は、このような高い値が出たことを懸念している。今後、セシウム137が人々の健康に及ぼす影響を明らかにするためには、現在行われている地表での測定を進めていくしかない。Stohl は、自分たちの推定値が政府の発表と食い違いっているのは、今回の調査ではより多くのデータを使用したことが原因の1つであるという。政府の推定の基礎となったデータは、主として日本国内のモニタリングポストによるものであり3、風に乗って太平洋を越え、北米やヨーロッパに到達した膨大な量の放射性物質は考慮されていないのだ。神戸大学の放射線物理学者で、福島周辺の土壌汚染を測定している山内知也(やまうちともや)は、「事故の本当の規模と特徴を明らかにするためには、太平洋上に出ていった放射性物質も検討する必要があります」と言う。Stohl は、政府の依頼を受けて公式な推定値を出した研究チームを非難しているのではない。むしろ、「できるだけ早く結果を出す必要があったのでしょう」と慮っている。群馬大学の火山学者で、自らも原発事故のモデルを作成した早川由紀夫(はやかわゆきお)は、「確かにこの数値だけを見れば、両者は大きく違うでしょう。けれども、どちらのモデルにもまだまだ不確実な要素があり、実際には2つの推定は非常に近いのかもしれませんね」と言う。さらに、Stohl らは、4号機の使用済み核燃料プールに貯蔵されていた核燃料が、莫大な量のセシウム137を放出していた可能性を指摘している。政府はこれまで、プールからは放射性物質はほとんど漏れ出していないと主張してきた。しかし、研究チームのモデルでは、プールへの放水をきっかけに原発からのセシウム137の放出が激減したことが、はっきり示されている(図「原発事故の経過」参照)。つまり、もっと早い段階から4号機プールへの放水を行っていれば、放射性物質の放出をもっと抑制できたかもしれないのだ。しかし、政府は、使用済み核燃料プール自体に大きな損傷はなく、使用済み核燃料が重大な汚染源になったとは考えられないと主張している。政府による公式推定値の算出にかかわった日本原子力研究開発機構(茨城県東海村)の茅野政道(ちのまさみち)は、「4号機から放出された放射性物質は多くはなかったと思います」と言う。だが De Geer は、核燃料プールの関与を含めた今回の新しい分析は、「説得力があるように見えます」と語る。さらに今回の分析は、もう1つ新たなデータを提示している。地震の直後、津波が福島第一原発に襲いかかる前から、キセノン133が漏れ始めていたというのだ。つまり、原発は、津波が襲来する前から、地震によって損傷していたことになる。政府の報告書でも、福島第一原発電を襲った揺れの大きさが、原発設計時に想定されていた揺れを上回っていたことを認めている。反原発の活動家は、以前から、政府が原発を認可する際に地質学的な危険を十分に考慮していないと主張しており(Nature 448, 392-393; 2007)、今回のキセノンの大量放出は、原発の安全性についての評価方法の再考を促すことになるかもしれないと、山内は言う。この事故で、首都圏はどうだったのか。実は、原発事故により甚大な被害を受けるおそれがあった。事故直後の数日間は、風は海に向かって吹いていたが、3月14日の午後、風向きが変わって陸に向かって吹き始め、セシウム137が東北南部から中部地方にまで広がっていった(図「放射性物質の拡散」参照)。実際、15日夜から16日未明にかけて雨が降った栃木県と群馬県の山間部では、のちに土壌から比較的高濃度の放射性物質が検出された。一方、首都圏では、そうした高濃度の放射性物質が上空を通過したときに、たまたま雨が降らなかったことが幸いした。「この時期に雨が降っていたら、東京も今よりずっと深刻な事態になっていたかもしれません」と Stohl は言う。(編集部註:ただし、(独)国立環境研究所の空間線量測定とシミュレーションによれば、21日から22日にかけても放射性物質が南関東に流れ込んだことが示されている。このときは、雨が降っていたため、南関東でも一部の地域で比較的高い線量が観測されていると思われる。)

*2-3:http://mainichi.jp/articles/20161229/ddl/k04/040/044000c (毎日新聞 2016年12月29日) 東日本大震災 .福島第1原発事故 放射能汚染廃棄物 焼却以外の「出口」模索 反対2市、すき込みや堆肥化/宮城
 東京電力福島第1原発事故による放射能汚染廃棄物の試験焼却を協議した27日の市町村長会議は「半年以内に再協議する」と結論を先送りした。この席で県が求める「年明けからの実施」に異を唱えた登米市の布施孝尚市長は28日の取材に、近く汚染牧草のすき込み実証実験を始める意向を明らかにした。会議で焼却反対を明言した栗原市も牧草の堆肥(たいひ)化を続ける方針で、汚染廃棄物の処理問題に独自の「出口」を描いたことが県方針に反する自治体の主張に結びついたといえる。布施市長は会議で、すき込みの検証作業を進める考えを示し「いましばらく時間をいただきたい」と発言した。登米市にある国の指定基準(1キロ当たり8000ベクレル)以下の廃棄物約4700トンのうち約3500トンは、堆肥化やすき込みが許容される同400ベクレル以下。布施市長によると、市役所内部で検討したところ、「400ベクレル以下の牧草はすき込み、400ベクレルを超えるものも堆肥に混ぜ込むことで、ほとんどを焼却しないで済む」との見通しがたったという。市関係の草地でさまざまな条件を設定しながら、牧草をすき込む準備もほぼ終了した。検証がまとまる時期に関連して「『半年以内』は知事のお考えであり、牧草の最初の収穫が間に合うかわからない。(次回市町村長会議までに)十分検証ができなければ、期間の延長を求めることもある」と述べた。一方、栗原市は12月議会で汚染牧草の堆肥化を本格的に進めるための予算案を認められなかったが、年度内に一部を修正し改めて提案する構えだ。販売を含め、堆肥の利用方法も検討に入るという。県議の一人は「一斉焼却に固執するのではなく、地域ごとに実情にあった出口を模索することが必要。県もそのために必要な支援策を国に働きかけるべきだ」と話す。

*2-4:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/388663 (佐賀新聞 2016年12月21日) 福島除染に国費300億円 復興指針閣議決定、2017年度帰還困難区域で
 政府は20日、東京電力福島第1原発事故で多大な被害を受けた福島の復興指針を改定し、閣議決定した。除染費用は東電が負担するとの原則を転換し「帰還困難区域」の除染に国費を投入。同区域に5年後をめどに避難指示の解除を目指す「特定復興拠点」を設け、除染費用として2017年度予算に約300億円を計上する。同区域で本格的な除染はされておらず、方針決定は初めて。関連法改正案を来年の通常国会に提出する。安倍晋三首相は官邸で開かれた原子力災害対策本部会議で「一日も早い福島の復興、再生に向け、道筋を具体化していただきたい」と述べた。改定指針は政府内での有識者を交えた検討会や国会での議論を経ていない。国民負担による東電救済との見方が多く、批判も予想される。同拠点の除染費用は5年間で3千億円規模の見通しだが整備が遅れればさらに増額する可能性がある。国費投入の背景には、費用が当初の政府試算の2兆5千億円から4兆円に拡大したことがある。試算には、放射線量が高い帰還困難区域の除染費用は含まれていない。除染関連の特別措置法は「費用は東電負担」と定めており、国費投入はできない仕組み。このため政府は、復興拠点に居住できるようにするインフラ整備に、周辺の表土のはぎ取りや樹木の伐採などの作業を組み込み、事実上の除染を「公共事業」と位置付ける。この枠組みが東電救済との批判をかわすため、福島復興再生特別措置法を改正して必要な措置ができるようにする。改定指針では、復興拠点以外の帰還困難区域も将来的な住民帰還を目指すとしている。国費での除染が増えれば、国民負担は数兆円規模に上る恐れもある。国費負担の理由については、帰還困難区域には長期間戻れないとの前提で東電が住民に賠償してきたとして、改定指針に「東電に求償せず国が負担する」と明記した。

*2-5:http://megalodon.jp/2016-1211-2210-32/ibarakinews.jp/hp/hpdetail.php?elem=ronsetu (茨城新聞論説 2016年12月11日) 原発廃炉の費用負担 電力市場をゆがめるな
 経済産業省の委員会は、原発事故の賠償金や電力会社が原発早期廃炉を決めた場合に生じる費用の一部を、原発を所有しない新電力にも負担させるなどの提言案をまとめた。経産省はこれを基に2017年度から順次、政策化することを目指す。費用は、既存の電力会社が所有する送電網の使用料(託送料)の形で徴収する方針で、最終的には電気料金に上乗せされて消費者負担となる。これは原発を所有する電力会社や事故を起こした東京電力への露骨な支援策だ。始まったばかりの電力市場の全面自由化の流れに逆行し、市場をゆがめる政策は受け入れがたい。経産省が公表した試算では、東京電力福島第1原発事故の損害賠償の費用は当初の見込みの5兆4千億円から7兆9千億円に拡大する。これまで、費用は東京電力や原発を所有する既存電力会社が負担してきたのだが、経産省は増加分2兆5千億円のうち2400億円を新電力に負担させる方針だ。経産省はまた、事故を起こしていない原発を、電力会社が当初の予定より早く廃炉にした場合に生じる費用の一部負担も新電力に求める。「過去にすべての需要家が安い原発の電力を利用してきたから」というのが広範囲の負担を求める理由だが、これらの費用は、原発運転で利益を得てきた電力会社が負担すべきものである。その原則をないがしろにし、消費者負担を求めることは、競争の中で不利になりつつある原発を所有する既存電力会社への保護策にほかならない。原発の利益はすべて享受し、経営上の判断の誤りによって生じたコストは消費者に転嫁するということが、市民の支持を得られるとは思えない。ただでも不透明な託送料への安易な上乗せを認めれば、今後に予想される賠償費用のさらなる増大などによって、電気料金が際限なく上昇するリスクも生まれる。経産省は、原発や石炭火力などからの電気を供出させ、新電力に優先的に供給する「ベースロード電源市場」を創設する方針だ。原発関連の費用負担に反対する新電力への懐柔策だろうが、これも、生まれたばかりの自由な電力市場をゆがめる政策だ。「原発と無縁な電気を使いたい」との消費者の希望に応え、原発の電力に手を出さない新電力は何のメリットも享受できずに、託送料を通じた負担だけを背負わされることになる。電力システム改革は、既存電力会社が送電網も所有する現在の仕組みを改めて、送電網を独立した企業の所有とし、すべての発電事業者が公平なルールの下でそこに電力を供給するという透明性の高い競争環境を確保することが筋だ。政府や電力会社は「原発の発電コストは安い」と主張するのだから、他の発電手法と公平な形で競争をしても何の問題もないはずだ。そもそも今回の議論の在り方自体に大きな問題がある。経産省が原発に好意的な識者や関連業界の代表を勝手に選んだ委員会で議論が進められ、一部は非公開で行われた。消費者を含めた広い議論への参加はおろか、国会の関与すらまったくないまま、国の将来を左右するエネルギー政策上の重要な改変を決めることは許されない。

*2-6:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12771846.html
(朝日新聞社説 2017年1月30日) 核燃料サイクル 再処理工場を動かすな
 高速増殖原型炉「もんじゅ」の廃炉が昨年末に決まった。計画から半世紀、1兆円超の資金を投じてもフル稼働のメドが立たなかっただけに、当然の帰結である。しかし政府は成算もないまま、再び高速炉開発を進める方針を決めた。原子力工学者らからなる国の原子力委員会は今月、新たな高速炉開発ではコスト面の課題を重視するべきで、急ぐ必要はないという趣旨の見解をまとめた。もんじゅの二の舞いを恐れての警告である。この高速炉ももんじゅ同様、核燃料サイクルの中核に位置づけられる。通常の原発の使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを取り出し、それを高速炉などで燃やすという構想だ。プルトニウムは原爆の原料になる。高速炉の実用化が見通せない以上、危険なプルトニウムを増やすべきではない。青森県六ケ所村では使用済み燃料の再処理工場が建設中で、2018年度上期に稼働する予定だが、操業を中止すべきだ。その上で、核燃料サイクル全体について、凍結や断念も視野に、根本的に再考することを政府に求める。将来世代を含む国民への責任が問われている。
■経済性に疑問符
 天然のウランを加工して作った燃料を原発で燃やし、使用済み燃料はすべて再処理する。取り出したプルトニウムをウランと混ぜたMOX燃料にする。政府は長年、そうした全量再処理路線を掲げてきた。最大の誤算は、ウランが枯渇する心配は当分ないとわかり、価格も安定していることだ。六ケ所再処理工場の建設費は93年の着工以来、2兆2千億円に達する。完工時期は20回以上、延期されてきた。トラブル続きで稼働の先延ばしを重ねたもんじゅと同じ構図だ。大手電力など原子力事業者の共同子会社である日本原燃が建設主体で、費用は電気料金でまかなわれてきた。建設費を含む総事業費は約12兆6千億円と見積もられている。再処理の手間がいるMOX燃料が高くつくのは明白だ。経済性を重くみた米英独などは高速炉から撤退し、プルトニウムはもっぱら廃棄物扱いしている。プルトニウムには核兵器拡散問題がつきまとう。高速炉開発を続けているのが、ロシアや中国、フランス、インドと核保有国ばかりなのは偶然ではない。日本は国内の研究施設や英仏への委託で見切り発車的に再処理を進めてきた。計算上、原爆6千発分に当たる約48トンものプルトニウムを持っている。
■被爆国としての責任
 余剰なプルトニウムは持たないという核不拡散の国際規範に照らし、とりわけ唯一の戦争被爆国として、早急に保有量を減らすことが求められている。MOX燃料を原発で燃やすプルサーマル発電もあるが、四国電力の伊方原発3号機で実施されているだけで、プルトニウムは年に0・1トンほどしか減らない。原発の再稼働がどんどん進み、プルサーマルが広がるという見込みも立っていない。日本のプルトニウム現有量は六ケ所村の工場が約8年フル稼働した時の生産量にあたる。消費が進まないまま工場を動かせば、日本の核不拡散や核廃絶への姿勢まで疑われかねない。安全面の懸念も残る。六ケ所工場には使用済み燃料が3千トン近くある。大規模な火災や核分裂の連鎖反応が起きれば、放射性物質の放出リスクは原発以上とも言われる。昨年12月以降、原燃社内での安全上の虚偽報告や非常用発電機の故障、雨水の流入、核燃料物質の不適切保管が次々に発覚した。
■しがらみ超え再考を
 もんじゅ廃炉を待つまでもなく、サイクル構想には大きな無理があった。福島第一原発の事故後、長く原子力政策の司令塔役を務めてきた原子力委員会はサイクルの費用を試算し、再処理工場を稼働しないことも含めて政策の選択肢を検討する議論に踏み込もうとした。だが、原子力委の権限縮小や政権交代があり、実を結ばなかった。民主党政権下で「責任を持って議論する」(革新的エネルギー・環境戦略)とされたサイクル政策は、安倍政権下では「再処理やプルサーマル等を推進する」(エネルギー基本計画)と先祖返りしている。原子力委は今月の見解の中で、サイクル政策に「戦略的柔軟性の確保」を求め、使用済み核燃料を再処理せず長期保管する中間貯蔵の強化を推した。再処理・サイクル路線への慎重姿勢が強くにじむ。核燃料サイクルの抜本見直しは簡単ではない。国のエネルギー政策に直結し、関連施設がある各地の地域づくりにも影響する。青森県は再処理を条件に使用済み燃料を受け入れてきた。それでも今、立ち止まらなければ、国民全体が大きなつけを背負うことになりかねない。もんじゅ廃炉という、部分的な手直しですませてはならない。

*2-7:http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201612/CK2016121102000125.html?ref=hourly (東京新聞 2016年12月11日) 経済:事故処理費増え「原発は高い」 立命館大教授・大島堅一氏に聞く
 原発の発電費用を研究してきた立命館大学国際関係学部の大島堅一教授が、原発で一キロワット時(エアコン一時間分)の電力量をつくるために必要な費用を、実際にかかってきた費用を基に「一三・一円」と試算した。政府が九日にまとめた福島第一原発の処理費用二一・五兆円を反映した。本紙のインタビューで、政府の「最大でも一〇・四円で、さまざまな発電方法の中で最も安い」とする試算を「架空の前提に基づくため実態を反映していない」と否定した。大島氏は「原発は高い」と説明する。現実に東京電力は必要な費用を払えない状態のため、「資本主義のルールに従って破綻処理したうえ、株主にも責任をとらせて財産を処分、それでもお金が足りない場合は国が責任を持って税金などを充てるべきだ」と提言。ほかの大手電力会社の原発への支援策もやめるべきだと指摘した。立命館大国際関係学部の大島堅一教授が試算した方法は明快だ。原発の建設費や投じられてきた税金、福島第一原発の賠償に充てられたお金など、実際にかかった費用を積み上げ、原発が過去につくった発電量で割った。すると、一キロワット時当たりの発電費用は一二・三円だった。さらに、経済産業省が九日、原発の事故処理費が二一・五兆円へと倍増する試算を示したため、これを反映させると一三・一円になったという。一方、経産省はこの二一・五兆円を考慮しても、原発の発電費用は一〇・二~一〇・四円にとどまると計算した。二〇一五年に試算した一〇・一円とほぼ変わらず、水力発電(一一・〇円)などほかの発電方法を下回って最も安いとの説明を続ける。経産省と財界人らでつくる「東京電力改革・1F(福島第一原発)問題委員会」の伊藤邦雄委員長(一橋大大学院特任教授)も「原発は最も効率的な発電方法だ」と語る。委員会の議論では「事故があっても安いということをもっと広報するべきだ」という意見があったという。この食い違いについて、大島氏は「政府の試算は『モデルプラント方式』といって、建設費の安い原発が事故もなく順調に稼働し続けるという理想的なシナリオを描いた計算。だから実際にかかった費用をそのまま反映するのではなく、仮定を置いて数字を変えるので安く見せるよう操作できる」と指摘する。例えば、日本の原発は稼働年数が平均三十年の時点で三基の炉心が溶融する「過酷事故」が起きた。十年に一基で事故が起きる確率だ。しかし政府試算は事故はほとんど起きない前提。このため福島第一原発にかかる費用がいくら膨らんでも、政府の試算にはほぼ影響しない。国民負担が増えているのに、政府が「原発は安い」と主張し続けるからくりはここにある。また、震災後は原発に厳しい安全対策が求められるようになり、建設費は世界的に高騰している。しかし、政府試算の前提は従来の建設費と同じ。大島氏は「政府試算の建設費の前提を、英国で新設されるヒンクリーポイント原発の建設費に置き換えただけでも、発電費用は一七・四円に跳ね上がる」と分析する。石炭火力(一二・三円)はもちろん、液化天然ガス(LNG)火力(一三・七円)より高くなる。ほかにも、政府が着手しようとしている次世代の原子炉「高速炉」の開発に投じられる税金は規模すらつかめない状態で、政府試算に反映されている金額を大幅に超えることは確実だ。大島氏は「原発は高い」と断言。「原発を続けるという選択肢があってもいいが、そのためには『原発は安い』という架空のシナリオではなく、客観的なデータを国民に示して判断を仰ぐべきだ」と語った。
<おおしま・けんいち> 一橋大大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学、高崎経済大経済学部助教授などを経て現職。専門は環境経済学。著書に「原発のコスト」(岩波書店)など。

<世界の再生可能エネルギーと日本>
*3-1:http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/01/post-6741.php (Newsweek 2017.1.17)太陽光発電の発電コストが石炭火力発電以下に。ソーラーが「お得」な時代へ
<長年"コスト高"という大きなデメリットを抱えてきた太陽光発電が、近年、技術の進化と規模の経済性で、コスト競争力のある発電方式となりつつあることが明らかになった>
 太陽光発電は、化石燃料を必要とせず、発電時に温室効果ガスや騒音、振動などが発生しない、環境負荷の低い再生可能エネルギーの発電方式だが、発電設備のコストが比較的高いため、発電量あたりのコストが従来の火力発電に比べて高くなりがちであった。このように長年"コスト高"という大きなデメリットを抱えてきた太陽光発電だが、近年、技術の進化などに伴って、コスト競争力のある発電方式となりつつあることが明らかになっている。
●世界30カ国以上で、太陽光発電コストは石炭火力発電以下に
 世界経済フォーラムの報告書では、オーストラリア、ブラジル、チリ、メキシコなど、世界30カ国以上で、太陽光発電の発電コストが、石炭火力発電以下に低下しており、2020年頃までに、同様の現象が世界の約3分の2の国々に広がると予測している。発電所の設計、建設から運用、廃止までのコストを総発電量で割った「均等化発電原価(LCOE)」で比較すると、石炭火力発電では、メガワット時のコストが100ドル前後で推移してきた一方、太陽光発電は、10年前の600ドルから100ドル以下へと6分の1にまで縮小した。太陽光発電の発電コストが低下した要因として、発電効率の改善と発電設備の廉価化が挙げられる。米国の国立再生可能エネルギー研究所(NREL)によると、ソーラーパネルの変換効率は、20年前の15%から、現在、46%にまで上昇。また、生産プロセスの改善や規模の経済性により、発電設備の製造コストが大幅に削減され、太陽光発電の発電コストを押し下げている。太陽光発電の発電コスト低下は、新興国でも顕著に認められる。ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス(BNEF)によると、中国、インド、ブラジルなど、非OECD加盟国58カ国では、2016年時点で、太陽光発電導入コストが165万ドル/MWとなり、風力エネルギーをわずかに下回った。また南米チリでは、太陽光発電業者が29.1ドル/MWhの条件で政府と売電契約を設定した事例が話題となっている。
●フランスで世界で初めて、ソーラーパネルを敷設した道路が完成
 規模を問わず、発電効率が一定な太陽光発電は、大規模な発電所からスマートフォン向けの充電器まで、様々に導入できるのも特徴だ。たとえば、フランスでは、2016年12月、世界で初めて、ソーラーパネルを敷設した道路が完成。英国では、2017年1月から、電車の側面にソーラーパネルを装着し、太陽光エネルギーを電力として利用する調査プロジェクトが始動している。いわずもがな、地球温暖化防止の観点からも、太陽光発電は有力な発電方式だ。2015年12月の国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)に続き、2016年4月には、インド、オーストラリア、フランス、エチオピア、ブラジルを含む25カ国が、太陽光発電に関する研究開発や普及のために1兆ドル(約114兆円)を投資することで合意した。太陽光発電のコスト競争力が高まるにつれて、先進国、新興国を問わず、日射量の多い国・地域を中心に、太陽光発電への投資が多様に増え、太陽光エネルギーの活用は、ますます広がっていきそうだ。

*3-2:http://www.renewable-ei.org/column/column_20170105.php (自然エネルギー財団常務理事 大野輝之 2017年1月5日) 自然エネルギーが脱炭素社会への扉を開く―2017年、自然エネルギー100%への転換を日本からも
●自然エネルギー発展の画期となった2016年
 世界の自然エネルギー導入量は過去数年、急速に拡大してきました。2016年末の導入量はまだ明らかになっていませんが、風力発電は5億kW、太陽光発電は3億kW近くに達したのではないかと見込まれます。5年前の2011年末と比較すると、風力は2倍以上、太陽光は4倍以上という高い水準です。昨年の自然エネルギーの発展に関して、導入量の大きさ以上に画期的だったのは、そのコストが劇的な低下を続けたことです。風力発電は、既に昨年1月にモロッコで行われた入札で1kWhあたり3.0セントというレベルまで低下していましたが、太陽光発電も昨年中に世界各地で行われた入札で、次々に最安値を更新し、9月にアブダビで行われた入札では、2.42セントという水準に至りました。今や日照時間など条件に恵まれた地域では、太陽光発電は従来からの火力発電だけでなく、風力発電よりも安い電源になっているのです。自然エネルギーの発電コストの低下は今後も続くと予測されています。国際再生エネルギー機関(IRENA)が昨年6月に公表した報告書(“THE POWER TO CHANGE”)では、2015年から2025年までに、大規模太陽光発電の導入コストは、世界平均で57%下落するとしています。
●世界のトップ企業は自然エネルギー100%をめざす
 昨年11月に発効した「パリ協定」は、今世紀後半には世界の温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにすることを決めています。排出ゼロを達成するためには、エネルギー利用の効率化とともに、使用するエネルギーを化石燃料から自然エネルギーに全面的に転換する必要があります。今、世界のトップ企業の中で広がっているのは、自らの企業の使う電力を、率先して100%自然エネルギーに転換する「RE100」という取組みです。「RE100」には、アップル、グーグル、フェイスブックなどのIT企業やゴールドマンサックスやバンクオブアメリカなどの金融機関、更にはGM、コカコーラ、ヒューレットパッカードなどの名だたる世界のトップ企業が80社以上も参加しています。グーグルが今年中には100%の達成を見込むなど、これらの企業は積極的な自然エネルギー開発や調達を進めています。
●2017年:日本の未来を開くエネルギー政策への転換を
 「RE100」には、欧米だけでなくインドや中国の企業も参加していますが、残念ながら現在までのところ、日本企業は参加していません。日本企業の中にも、自然エネルギー100%を目指そうとしている会社はあるのですが、日本での自然エネルギー導入が立ち遅れている中で、「RE100」の目標を掲げることに二の足を踏んでいる状況です。パリ協定が発効し脱炭素への転換が求められる中で、世界規模でビジネスを展開する企業には、温室効果ガスの排出を大幅に削減すること、その代表的な取組として自然エネルギー100%をめざすことが、マーケットでのその企業の評価を左右するようなってきています。世界の多くのトップ企業が「RE100」に参加しているのは、こうした動向を熟知しているからに他なりません。また冒頭に見たように、欧米などでは自然エネルギーコストが安くなってきているため、自然エネルギー100%への転換が経済的にも大きな負担を伴うものではなくなってきているのです。日本のエネルギー政策は自然エネルギーの導入に消極的であるだけでなく、石炭火力発電の大量の新増設を可能にするなど、「パリ協定」後の世界の流れに逆行しています。送電網を管理する電力会社が、自然エネルギーの接続や有効利用に制限を加えるなど、日本には自然エネルギーのコスト低下を阻む様々な障害が残っています。一方、「ベースロード電源市場の創設」という名目で、石炭火力の利用を進める政策も導入されようとしています。エネルギー政策を転換し、日本の企業が石炭火力からの電力を利用しないで済むようにすること、自然エネルギー100%への転換を容易にできるようにすることは、脱炭素経済への転換が進む世界で日本企業が活躍するためにも必要になってきています。毎年恒例の自然エネルギー財団の国際シンポジウム"REvision"は、今年は3月8日に「自然エネルギーが切り拓く未来」をテーマに開催いたします。世界各地でビジネスが自然エネルギーの導入を先導している状況をお伝えしようと思っています。"REvision 2017"などのシンポジウムの開催、様々な調査研究の実施、アジアスーパーグリッドの実現をめざす共同の取組など、自然エネルギー財団は、本年も、日本と世界のエネルギー転換を進める活動に取り組んでいきます。


<強引な原発再稼働への動き>
PS(2017年2月1日追加):日本農業新聞が、*4-1に、「世界はパリ協定の下、既に地球温暖化防止へ動きだしている」「日本も再生可能エネルギーに軸足を移さなければ世界の潮流から取り残される」「日本が昨年決めた2030年度の電源構成は、天然ガス27%(13年度43%)、石炭26%(同30%)、再エネ22~24%(同11%)、原子力20~22%(同1%)、石油3%(同15%)であり、石炭火力と原発依存が鮮明で、時代を見誤っている」と記載しているのは、全くそのとおりだ。
 また、*4-2のように、「運転中や運転可能な全国の商用原発42基のうち40基で、重要設備である中央制御室の空調換気配管の詳細な点検が行われていなかったことが、電力9社と日本原子力発電への取材で分かった」とのことで、これは原発事故や放射性物資の危険性を無視したあまりにも杜撰な行動だ。しかし、*4-3のように、玄海原発3、4号機は新基準で「適合」とされ、これは全国で6例目だそうだ。国会議員選挙では、「経済」「補助金」「ばらまき予算」を前面に出して闘うため、脱原発を主にして選択する人は多くないが、原発再稼働の賛否のみを問えば反対する人の方が多い。
 そのため、*4-4のように、「玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止める裁判の会」は、司法を使って再稼働を止めようとしている。今後、玄海原発の再稼働は「地元同意」の手続に入るが、*4-5のように、唐津市長選で初当選した元県議の峰達郎氏が「地元同意」の範囲について、「佐賀県伊万里市や福岡県糸島市など周辺自治体と連携して、国に避難や屋内退避が必要となる半径30キロ圏への拡大を要請する」という意向を明らかにされたのは尤もで、事故時に被害を受ける範囲を考えればまだ狭いくらいである。

*4-1:https://www.agrinews.co.jp/p39774.html
(日本農業新聞論説 2016年12月27日) 地球温暖化防止 再エネ立国へ転換急げ
 世界は先月発効したパリ協定の下で、地球温暖化防止へ動きだしている。目標は「脱炭素」社会で、今世紀後半に二酸化炭素(CO2)など温室効果ガス排出を実質ゼロにする。ドイツ、北米各国は既に脱炭素への長期計画を国連に提出した。だが、日本はその検討を始めたばかりだ。安全で脱炭素の切り札の再生可能エネルギーに早く軸足を移さないと、世界の潮流から置き去りにされてしまう。世界と日本の平均気温は今年も観測史上最高となった。温暖化によって、熱波、干ばつ、洪水など異常気象による災禍は地球上で枚挙にいとまがない。パリ協定は、今世紀末の気温上昇を産業革命以前と比べ2度未満に抑える目標を設定した。正確には「2度を十分下回る」という表現で、追求目標1.5度未満が真意といえる。実現手段が脱炭素化だ。CO2排出を森林などの吸収と同等にまで減らし、差し引きゼロにする。同協定は2020年以降の枠組みだが、事前に温室ガス削減の30年目標の上積みと長期計画を各国に求めている。米国は50年までの長期計画を先月提出。電源構成の再エネ比率を55%に高め、温室ガス80%削減を目指す。トランプ次期大統領は自国経済優先で協定離脱を示唆したが、選挙後は軟化している。ドイツは80~95%削減を明示。原発全廃と再エネ推進を先導する環境先進国の気概がある。カナダも80%削減を表明した。それに比べ、日本の消極性が際立つ。50年目標80%削減という民主党政権下での閣議決定があるが、自民党政権下ではたなざらし状態だ。パリ協定での日本の30年目標は26%削減にとどまる。政府に上積み修正する気配はなく、まして80%削減達成への道筋は見えない。日本が硬直的なのは、昨年決めた30年度の電源構成に固執するからだ。構成は天然ガス27%(13年度43%)、石炭26%(同30%)、再エネ22~24%(同11%)、原子力20~22%(同1%)、石油3%(同15%)と石炭火力と原発依存が鮮明だ。これをベースにする限り、温室ガス削減目標も変えようがない。CO2を多く出す石炭火力依存の日本は先月、国際環境団体から批判の化石賞を受け面目をつぶした。原発依存も潮流に逆行している。世界では安全・経済性両面での懸念から原発離れが目立つ。わが国で進む石炭火力発電の新増設も、原発関連の高速増殖原型炉「もんじゅ」廃炉後の次世代実証炉開発も時代性を見誤っている。クリーンで安全、新ビジネスとしても有望な再エネにこそ投資すべきだ。脱炭素への長期計画の検討を経済産業省と環境省が今夏から進めている。政府の全体検討は来年度以降と遅いが、再エネ加速による温室ガス大幅削減を打ち出す決断を求めたい。再エネ立国を目指せば、地方創生を含めた持続可能な経済・社会づくりと、地球温暖化を防ぐ国際貢献の両方ができる。

*4-2:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170115-00000014-jij-soci (時事通信 2017/1/15) 原発40基、詳細点検せず=配管腐食、再稼働の川内・伊方も―電力各社
 運転中や運転可能な全国の商用原発42基のうち40基で、重要設備である中央制御室の空調換気配管の詳細な点検が行われていなかったことが14日、原発を保有する電力9社と日本原子力発電への取材で分かった。中国電力島根原発2号機(松江市)の換気配管では腐食による穴が多数見つかっており、事故が起きた場合に機能を維持できない恐れがある。中国電は昨年12月、運転開始後初めて島根2号機で配管に巻かれた保温材を外し、腐食や穴を発見。必要な機能を満たしていないと判断し、原子力規制委員会に報告した。再稼働した九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県)や関西電力高浜原発3、4号機(福井県)、四国電力伊方原発3号機(愛媛県)の点検でも保温材を外していない。点検方法は各社の判断に委ねられており、規制委は全国の原発の実態を確認する。中央制御室は原発を運転・監視する中枢施設で、運転員が24時間常駐する。通常は配管を通じて外気を取り入れ換気するが、事故発生時には外気を遮断し、機密性を保つ機能が求められる。原発を保有する各社によると、島根2号機と北陸電力志賀原発1号機(石川県)を除く40基で、保温材を外さないまま配管の外観点検が行われていた。40基には東京電力福島第2原発の4基も含まれる。外気取り入れ口付近の目視点検や異音検査などが実施された例はあったが、配管の保温材を全て外した上での目視確認は行っていなかった。一方、北陸電は2003年に志賀1号機の配管でさびを発見。保温材を外して点検し、08年に取り換えた。規制委は島根2号機で見つかった腐食について「規制基準に抵触する可能性がある」とみている。中国電は「海に近いため塩分を含んだ空気が配管に流れ込み、腐食が進んだ可能性がある」と説明している。日本の原発は発電用タービンを回した蒸気を海水で冷却し循環させるため、海辺に立地している。40基の内訳は北海道電力泊原発1~3号機、東北電力東通原発1号機、同女川原発1~3号機、東京電力福島第2原発1~4号機、同柏崎刈羽原発1~7号機、中部電力浜岡原発3~5号機、北陸電力志賀原発2号機、関西電力美浜原発3号機、同大飯原発1~4号機、同高浜原発1~4号機、四国電力伊方原発2、3号機、九州電力玄海原発2~4号機、同川内原発1、2号機、日本原子力発電東海第2原発、同敦賀原発2号機。

*4-3:http://qbiz.jp/article/101937/1/ (西日本新聞 2017年1月18日) 玄海3、4号機が新基準で「適合」決定 全国6例目
●再稼働は早くても夏以降
 原子力規制委員会は18日午前の定例会合で、九州電力が再稼働を目指す玄海原発3、4号機(佐賀県玄海町)の安全対策について、原発の新規制基準を満たすとする「審査書」を全会一致で正式決定した。残る審査手続きや地元同意手続きが必要なため、再稼働は早くても今夏以降となる見通しだ。審査書の正式決定は、既に再稼働した九電の川内原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)などに続いて全国6例目、九電の原発では2例目となった。審査書は、規制委が昨年11月に審査書案を作成した後、一般公募した意見を踏まえて取りまとめた。内容は審査書案と大筋で変わらず、想定される最大の地震の揺れ「基準地震動」は620ガル、津波の高さは約4メートルとした上で、重大事故対策や基本的な設計方針が東京電力福島第1原発事故後の新基準に「適合している」と結論付けた。規制委は今後、施設の詳細設計をまとめた「工事計画」、運転管理体制を定めた「保安規定」の認可の可否を審査する。再稼働に対する地元同意の範囲を巡っては、国が基準を示しておらず、九電は立地自治体の佐賀県と玄海町の同意で再稼働したい考え。山口祥義知事は住民理解などを条件に容認する意向を示唆し、岸本英雄町長は一貫して賛成している。ただ同県内では複数の自治体の首長が再稼働に反対しており、同意を得るべき自治体の拡大を求める声も上がっている。玄海3号機は1994年3月、4号機は97年7月に運転開始。ともに出力は118万キロワット。3号機はプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料を使うプルサーマル発電を行う。2基の審査は、九電が新基準の施行直後の2013年7月に申請していた。

*4-4:http://qbiz.jp/article/101796/1/ (西日本新聞 2017年1月17日) 玄海原発差し止め 仮処分審尋が結審  年度内に決定か
 九州電力玄海原発(佐賀県玄海町)3、4号機が耐震性などの基準を満たしていないとして、住民団体が運転再開差し止めを求めた仮処分の第24回審尋が16日、佐賀地裁であり、結審した。地裁は双方の当事者に対し、決定の2週間前に期日を通知する。原告は、佐賀市の「玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止める裁判の会」(石丸初美代表)の236人。2011年7月に3号機の差し止め仮処分を申し立て、昨年10月には4号機についても追加申請して非公開の審尋を続けてきた。立川毅裁判長は「主張と立証の関係は本日で終了する」として審尋を終結。裁判の会は、年度内に決定が出るとみている。3、4号機を巡っては、安全対策が新規制基準を満たしているとして、18日に原子力規制委員会が審査書を正式決定する予定。地元同意などを経て運転再開の手続きに入る。

*4-5:http://qbiz.jp/article/102680/1/ (西日本新聞 2017年1月31日) 「地元同意」拡大要求へ 玄海原発再稼働 糸島、伊万里と連携 唐津市長選当選の峰氏
 佐賀県唐津市長選で初当選した元県議の峰達郎氏(56)は30日、隣接する玄海町の九州電力玄海原発の再稼働に向けた「地元同意」の範囲について、同県伊万里市や福岡県糸島市など周辺自治体と連携し、国に拡大を要請する意向を明らかにした。地元同意の範囲は法令の定めがなく、再稼働を先行した鹿児島などの3県はいずれも立地自治体と県に限定。玄海原発も玄海町と佐賀県だけとなる可能性が高い。玄海3、4号機については原子力規制委員会が18日、新規制基準に適合するとした審査書を決定し、国は玄海町と県に再稼働の方針を伝達。地元同意に焦点が移っている。峰氏は、唐津市の一部が玄海原発の5キロ圏にあることを念頭に「立地町、県と同じ立場にないことがどうしても納得できない」と強調した。また、国が福島原発事故後、緊急時に避難や屋内退避が必要となる範囲を半径30キロ圏の緊急防護措置区域(UPZ)に拡大したことを踏まえ、「UPZで考えれば唐津も伊万里も糸島(福岡県)も一緒。国がつくったなら、それなりに対応してほしい」と述べ、30キロ圏にある3県8市町で連携して国に要請する考えを示した。一方、九電との安全協定については「事前了解権は欲しいが、今後の検討課題としたい」と述べるにとどめた。
●市長給与減提案へ
 唐津市長選から一夜明けた30日、初当選した元県議の峰達郎氏(56)は、公約に掲げた市長給与の2割削減を新年度当初予算案に盛り込む意向を明らかにした。同市町田の事務所で記者団の取材に答えた。峰氏は給与削減のほか、就任初年度に取り組む施策として機構改革を挙げ「全国から特別顧問のような方を3〜5人招いて市長室をつくり、市政に外からの空気を入れていきたい」との構想を語った。官製談合事件、現職市長の政治献金問題で傷ついた市政の信頼回復を図るため「これまでの既得権益と決別する」と訴えてきた峰氏は「年間100億円前後の公共工事費が使われているが、有効に使われているか見えていない。就任後はしっかり見極めたい」とし、市庁舎建て替えについても再検証する考えを示した。公約としていた支所機能の強化に関しては「機能の検証、職員配置の再構築が必要。市民センターの統廃合という形になるかもしれない。センター長には決裁権を持たせる」と述べた。当選から一夜明けた感想を問われると「いよいよ変わると信じていると激励を受けた。公約の具現化を期待されている。3万を超える方から支持をいただき、涙が出ないほど身の引き締まる思いだ」と語り、激戦を振り返って「唐津市は一つにならないと発展できない。選挙後はノーサイドでやっていかなければならない」と融和を呼び掛けた。

<技術進歩を正確に伝えない世論操作>
PS(2017年2月2日追加):日本では、*5のように、電力の需要と供給が一致しなければならないとして太陽光発電の出力を制御しているが、余った電力は、蓄電したり、水素社会に向けて水から水素を作るのに使ったりする方が賢い。何故なら、①太陽光発電システムを十分に稼働させて発電コストを下げ ②水素社会に向けて水から水素と同時に酸素を作って販売することで、空気中の酸素が薄くなるという「公害」を防ぐことができるからだ。そのためには、電力会社は定款を変更して電力以外のものも売れるようにするか、水素や酸素などのガス製造部門を切り出して子会社化しなければならないが・・。

*5:http://qbiz.jp/article/102856/1/ (西日本新聞 2017年2月2日) 太陽光出力を正確に予測 九電、システム実用化目指す 無駄な制御回避へ
 九州電力が、太陽光発電の出力を2、3時間前に予測するシステムの実証実験を進めている。毎日の電力の需要と供給などの運用計画を策定するため、現在は前日に出力を予測している。システムが実用化すれば、当日の天候によって出力が大きく変動する太陽光の発電量予測の精度が高まる。太陽光発電が増加する中、無駄な出力制御を回避し、より多くの電力を受け入れられるようになる。システムは、九電と気象会社、大手電機メーカーが共同で開発。昨年9月に試験的な運用を始めた。今後1、2年の試験運用を経て、実用化を目指す。九電は現在、前日午前10時の気象予測の画像と日照量に基づき、翌日の太陽光発電の出力を予測し、電力の需給計画を決定。その後、当日午前4時の気象予測で修正し、管内の需給が一致するようにしている。しかし、現在のシステムでは、太陽光発電量の予測と実績に差が生まれる。例えば2015年秋には、予想外の晴天となり、電力消費のピーク時に実績が予測を2倍以上も上回る日があった。火力発電所の出力を落とすなどして需給を調整したという。一方、秋雨前線の予測が外れて太陽光発電が大幅に不足し、火力発電所の出力を増やして対応することもあった。新たなシステムでは、当日の2、3時間先の気象予測データを解析し、日中に出力予測を細かく修正し続けることが可能。実績と予測の誤差を縮めることで、時間に余裕を持って火力発電の出力を調整できる。九電管内の太陽光発電の接続量は、単純計算で大型原発約6基分に相当する668万キロワット(16年11月末時点)。太陽光パネルの設置が増え続ければ出力の実績と予測の差はさらに広がるが、新システムで出力予測の精度が上がれば、無駄な出力制御を要請する事態も回避することが可能になるという。九電電力輸送本部の深川文博給電計画グループ長は「雲が急に発生した場合など予測が当たらないこともまだある。さらに工夫し、精度を上げたい」と意気込んでいる。

<脱原発へ>
PS(2017年2月13日追加):*6-1のように、世界が原発の危険を認識した中、フクイチ事故を起こした日本の経産省が米と原発の売り込みを提案することを検討しているとのことだが、日本政府のこのような誤った方針が東芝などの損失を膨らませた一因だ。これは、第二次世界大戦が航空戦の時代になっていたにもかかわらず、巨艦を建造して「不沈艦(実際にはあり得ない)」などと言っていたのと変わりない。また、経産省は「2030年までに新興国を中心に世界で30~330基の原発が新設される」などとしているが、それでは世界の原発事故発生リスクは非常に高いものになる。そのため、*6-2の台湾政府は脱原発法を成立させ、*6-3のベトナム・リトアニア政府も原発計画を撤回し、インド・トルコでも反対運動が起こっているのだ。なお、*6-4のように、民進党が「原発ゼロ基本法案(仮称)」に「2030年ゼロ」を明記するそうだが、省エネ・再エネ技術が進んだ現在、「2025年までのなるべく早い時期に脱原発」とするのが八方によいと考える。大手電力会社の社員にとっても、この方が次の東電や東芝にならずにすみ、経営資源を新エネルギーに集中させることができるため、メリットがあるだろう。

*6-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201702/CK2017020802000131.html (東京新聞 2017年2月8日) 【経済】米と原発売り込みを提案へ 世界が危険認識、損失膨らむ中
 世耕弘成経済産業相は七日の記者会見で、日米首脳会談に合わせて訪米する考えを示した。政府は世耕経産相も会談に同席する方向で調整しており、米国に対して、新興国への原発の共同売り込みなどを提案することを検討している。しかし福島第一原発の事故を受けて原発の市場は世界的に縮小し、原発産業では損失が相次いでいる。専門家は「原発を売り込んで資金を稼ぐシナリオは現実的ではない」と疑問視している。原発の共同売り込みは、日本が首脳会談で提示を目指す経済協力のための政策集「日米成長雇用イニシアチブ」の原案に載っており、「十年間で五百億ドル(五兆円超)の市場を開拓」するとされている。国内の原発メーカーのうち東芝と日立製作所は米国の企業と組んでおり、日米双方に利益があることをアピールする。しかし福島第一原発の事故により米国や欧州で安全のための規制が強まり、建設費は世界的に高騰。建設が止まったり、白紙撤回になる例が相次いでいる。さらに米国のシェール革命により、原油など火力発電の燃料価格が長期にわたって安定するめどが立ち、原発の市場は縮小しつつある。このため東芝は米国の原発関連事業で七千億円規模の損失を見込み、原発の建設から撤退することも検討中。日立も米国での研究開発をやめ、七百億円の損失を計上する。それでも世耕経産相は三日の記者会見で「世界各国で、原発を新設しようという動きはたくさんある」と述べ、原発輸出を進める考え。経産省は国際原子力機関(IAEA)の見通しなどから「二〇三〇年までに新興国を中心に世界で三十~三百三十基の原発が新設される」などとみている。しかし、ベトナム政府が住民の反対や財政難から原発計画を撤回するなど、新興国でも新設は難しくなっている。九州国際大の中野洋一教授(国際経済学)は「福島第一原発の事故で世界に危険性が知られ、価格面でも再生可能エネルギーや火力に見劣りするようになった。米国の威を借りて原発を売り込んでも、受注は難しいだろう」と指摘した。

*6-2:http://mainichi.jp/articles/20170112/k00/00m/030/068000c
(毎日新聞 2017年1月11日) 台湾、「脱原発法」成立 「25年までに全て停止」
 台湾の蔡英文政権が2025年までに脱原発を実現するため提案した電気事業法改正案が11日夜、立法院(国会)の本会議で、可決・成立した。改正法には「25年までに原発の運転を全て停止する」との条文が盛り込まれた。改正法は、原発分の電力を代替する再生可能エネルギーの普及など電力改革を行う内容。脱原発が実現すればアジアでは初となる。東京電力福島第1原発事故後、台湾では反原発の機運が高まっていた。蔡総統は総統選前から「25年までに非核家園(原発のない郷土)」の実現を掲げてきた。台湾では、完成した原発3カ所の原子炉6基(2基は停止、1基は点検中)が18年から25年までに順次40年の運転期間が終わる。日本企業が原子炉などを輸出し「日の丸原発」とも呼ばれた第4原発は14年に建設が凍結されている。蔡政権は運転延長や新規稼働を認めず、脱原発を達成する狙いだ。代替として再エネの普及拡大を目指し、電源構成で再エネ比率を現在4%から25年に20%まで大幅に引き上げ、再エネ事業への民間参加を促す。蘭嶼島にある低レベル放射性廃棄物貯蔵施設の移転計画も進める。しかし産業界を中心に電力供給の不安定化や電力価格の高騰を招きかねないと懸念の声も相次ぐ。

*6-3:http://blogos.com/article/205962/ (THE BIG ISSUE JAPAN 302号 2017年1月1日発売) ベトナム、原発計画中止 リトアニア、計画凍結 日本の脱原発への政策転換必至
●90年代からオールジャパン体制でこぎ着けた受注がご破算
ベトナム国会が原発立地計画を中止する政府提案を11月22日に可決した。ベトナム政府は電力需要に応える切り札として、2009年に4基の原発を建設する計画を承認し14年に着工する予定だった。しかし、当初案は資金難や人材不足で延期が繰り返されてきていた。また、11年の福島原発事故の教訓を生かし、津波対策として予定地をやや内陸へ移動する計画変更も行っていた。予定地は、風光明媚で漁業や果樹生産の盛んな南部ニントゥアン省ニンハイ県タイアン村だった。直前の計画では、第一原発2基は28年に、第2原発2基は29年に稼働、第一原発はロシア、第2原発は日本が受注、各100万キロワットで、計400万キロワットの設備となる予定だった。中止の理由は、福島原発事故を受けて建設コストが2倍に高騰したことに加えて、同国の財政悪化が重なったからだ。また、住民の反対の強まりや、コストをさらに大きく引き上げる要因にもなる原発の使用済燃料の処理・処分の未解決問題も指摘された。原発に代えて、今後は再生可能エネルギーやガス火力などを導入するという。マスコミのインタビューに応じたレ・ホン・ティン科学技術環境委員会副主任は「勇気ある撤退」と評価している。日本はこれまでベトナムの原発建設計画を受注すべく、90年代から原子力産業協会を中心に働きかけを繰り返してきた。2010年には「国際原子力開発(株)」を設立し、オールジャパン体制を作って臨んだ。同社は電力9社と原子力メーカー3社に、09年に政府出資で設立された「(株)産業革新機構」が株主となり設立された会社である。ロシア、韓国、中国、フランスなどの企業と受注を競う中で、ようやく合意にこぎ着け、11年9月に第2原発建設の協力覚え書きを取り交わした。同社の活動はベトナムに限定されており、同国向けに設立された会社だと言える。そんな万全の態勢で臨んだが、計画は中止となった。
●リトアニア、6割の国民が反対、日本の原子力産業界は大打撃
 また、リトアニアでも原発計画が凍結された。同国はEUに加盟する時点で、旧ソ連製の古いイグナリナ原発を廃止。09年、その敷地に隣接して新たなヴィサギナス原発建設が計画された。この建設を受注したのが日立製作所だ。12年6月21日に議会が承認、正式契約は周辺国の合意を得てからではあるが、政府による契約がほぼ固まった。事業規模は約4千億円、合計出力は最大340万キロワット、建設は2基になりそうだった。ところが、福島原発事故を受けて原発建設への反対が強まる中、野党が原発計画の是非を問う国民投票議案を提出、国民投票が12年10月に実施された。結果は建設反対が6割を超えたが、この国民投票は法的拘束力を持たず、政府は計画を中止しなかった。しかし、同時に行われた議会選挙で社会民主党が勝利し、次期首相候補は建設計画の見直しを明言。ここにきて正式に計画が凍結されることとなった。原発が市場で競争力を持つようになるか、電力供給の上で必要になるまでの間は凍結される。市場競争力は望めず、事実上の計画撤回と見てよい。国内での原発建設計画が停滞する中、輸出に活路を見いだそうと日本の原子力産業界は海外での活動を活発化させてきた。両国の撤退が原子力産業界にとって大打撃となるのは必至だ。9月に原子力関係閣僚会議が「もんじゅ」廃止の方向を決めた。再稼働は住民の反対や裁判所の決定で電力会社の期待に反してさほど進んでいない。さらに電力自由化の中で競争力を失う原発に対して、政府はさまざまな保護政策を講じ、福島原発事故の賠償や廃炉の費用を国民に転嫁しようとしている。それでも原発が以前のように復活することはないだろう。 17年にはエネルギー基本計画の改訂議論がスタートするが、今回の撤退を受けて、原子力政策の抜本的な見直しを検討するべきだ。

*6-4:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12778780.html?ref=pcviewpage (朝日新聞 2017年2月3日) 30年に「原発ゼロ」、民進法案に明記へ 「30年代」から前倒し
 民進党のエネルギー・環境調査会(会長・玄葉光一郎元外相)は2日、検討中の「原発ゼロ基本法案」(仮称)に「2030年ゼロ」を明記する考えを示した。従来の「30年代ゼロ」を実質9年前倒しする。蓮舫代表が3月の党大会で打ち出せるよう調整に入る。この日、同調査会役員会で玄葉氏が原案として示した。役員十数人で議論し、「賛成の方が多かった」(玄葉氏)。今後、党所属国会議員が参加する総会を開き、今月内に正式決定する。従来方針の「30年代ゼロ」は民主党政権時の12年に決定。党内の原発容認派に配慮し幅を持たせた。今回「30年ゼロ」へ早める背景には、13年9月から約2年続いた全原発停止の状況でも電力不足は起こらなかった事実がある。玄葉氏は記者団に、「電力をめぐる状況は変わった。省エネ技術や再生エネルギーも進んでいる」と話し、これらの推進も明記する方向。原発を利用し続ける方針の安倍政権との対立軸にする。また、原子力規制委員会の安全確認を得た原発の再稼働を条件付きで容認するとした従来方針も、要件をさらに厳しくする案が浮上している。


<メディアの質>
PS(2017年2月15日追加):*7-1に、「①新聞の発行部数は減少に歯止めがかかっていない」「②ネットを使うことにより、マスメディアを通さず個人も情報発信できるようになった」「③ソーシャルメディアにより、メディアは多数の中の一つでしかなくなった」「④ローカルは市場が小さく、広告モデルでの収益に限界がある。発行エリア以外からの収益を模索しているが、どう考えるか」と書かれている。
 私は、①の理由は、新聞が真実を追求せず、行政の広報機関と化して記事の内容に責任を持たないことにあり、②のように、本人やわかっている個人がリスクを侵して真実の情報を発信した場合には、それに内容で負けるのだと考える。ネットがなかった時代は、人々はマスメディアからしか情報を得ることができなかったが、現在は、②③のように、個人も情報を発信でき、人々は多方面から情報を入手できるようになったからだ。そして、人々が真実を求めて検索する時代になり、日本では、特に原発事故以来、行政の広報機関をして人々の側に立たなかったメディアへの信頼がなくなった。そのような中、私は、全国紙だけでなく、原発は東京新聞・河北新報・福島民友・西日本新聞・佐賀新聞、辺野古は琉球新報・沖縄タイムス、農業は日本農業新聞の記事を多く参考にした。そのため、④については、地方紙もデジタルで全国に読者を作ればよく、その方がいろいろな立場の人の考え方を知り易くなり、デジタル版に動画をつければテレビ報道も容易であるため、報道は大競争の時代に入ったのだと考える。
 なお、日本のメディアが経産省の広報機関をして国民を馬鹿にした情報を出している間に、*7-2のように、世界では自然エネルギーによる電力の普及が進んだ。そして、オランダ鉄道は、*7-3のように年明けから風力発電で全列車を運行しており、コストダウンが進んだことは間違いない。

*7-1:http://qbiz.jp/article/103658/1/
(西日新聞 2017年2月15日) 地方紙は生き残れるか ジャービス米教授、発想の転換促す
●IT先進国、米にも事例なし、ジャーナリズムを「サービス」に
 従来のビジネスモデルや伝え方に固執するメディアは淘汰される―。ジャーナリズムの将来に関する論考が世界的に注目を集める米ニューヨーク市立大のジェフ・ジャービス教授は、こう断言した。そして、特に地方紙について、その生き残りに向けた処方箋は「コミュニティーに耳を傾け、役立つサービスを提供すること」だという。部数減が続き、苦闘する地方紙の一記者として、その言葉の意味を考えた。ジャービス氏は米ローカルメディアの経験が豊富で、日本でも昨年発刊された「デジタル・ジャーナリズムは稼げるか」(東洋経済新報社刊)の著者として注目された人物。1月27日、東京都で開かれた「Media×Tech 2017」(Yahoo!ニュース・日経電子版主催)にネット中継で基調講演し、「ローカルメディアはどう生き残るか」と題したセッションにも参加した。イベントはメディアの今を受け止め、その将来を模索することを目的に初開催。地方紙や雑誌、ネットメディアなど幅広い分野の責任者が議論を深めた。
■「マス」のビジネスモデル殺した
 「ネットが殺したのは、マスメディアのビジネスモデルだ。マス、という考え方そのものもなくした」。ジャービス氏は基調講演の冒頭で、こう指摘した。今はツイッターを使うことで一個人でも影響力を行使できる。そうした手法で、マスメディアを通さずに情報発信でき、そこで関心がある人同士を見つけて、ともに行動することもできるようになった。マスメディアが出す情報はかつては手間がかかり、高価だったが、その希少性が失われている、という指摘だ。ジャービス氏は「マスメディアは、もっと人と人との関係性によって立つ存在にならなければならない」として、ジャーナリズムを「サービス」と考える発想への転換を促す。読者を「マス(集合体)」としてではなく、「個人」として捉え直すことから始めるべきだという。若い母親や商店主、それぞれのコミュニティーに耳を傾け、役立つサービスを提供することが重要だと説明した。
■単なるコンテンツ販売には限界
 「一つの製品を垂れ流しにするのではなく、たくさんの製品をつくっておく。まず自分たちのアイデアを見せるのではなく、ニーズを把握するところから始める。その上で何ができるのかを考える。それは新しいやり方で難しいが、大きな企業が小さく考えることのきっかけになると思う。それが新しいニュース組織の始まりだ」。ジャービス氏は収益について「単に(購読料として)コンテンツを販売するだけなら限界がある。メンバーから収益を取ることが重要で、そのほかに広告もあるし、イベントも活用できる」と指摘する。そして最後に、トランプ新政権についてこう言及した。「フェイクニュースには失望している。残念ながらトランプ氏が大統領になってしまった。しかし一方でフェイクニュースがあれだけ広まったということは、彼らがわれわれより、よりよい形で人々にリーチできたということでもある。シェアするのはその内容に共感するからであって、マスメディアはそこから学ばないといけない」。「コミュニティーのニーズをもっと聞くことはできる。ソーシャルメディアの存在によって、私たち(メディア)は希少な存在ではなく、多くあるうちの一つでしかなくなった。ジャーナリストになるのは、昔より大変になっていると言えるだろう」。来場者からは「ニュース記事はコンテンツではなくサービスだ、という指摘は理解できた。そこにはどのような技術が必要なのか」という質問があった。ジャービス氏は「やり方はいろいろある。フェイスブックなどの既存ツールを使うこともできる。(従来の)外向きジャーナリズムは世界で起きていることを伝えて世界を変えようとしている。そうではなく、コミュニティーの細かなニーズを満たすのが、内向きのジャーナリズム。それはネットの力でなせると思う」と答えた。
■加速する部数減への対応策は
 新聞の発行部数は減少に歯止めがかかっていない。日本新聞協会の調べでは、2000年10月に約5370万部あった新聞発行部数(朝夕刊セットを1部として計算)は2016年10月時点で約4327万部。16年間で1000万部以上減少したことになる。さらに減少率も2000年代前半は1%未満だったが、2010年以降は1~3%程度と高まっており、部数減が加速していることもうかがえる。こうした状況の中で、地方メディアはどのような取り組みが求められるのか。イベントでは、西日本新聞メディアラボの吉村康祐社長(福岡市)、十勝毎日新聞社(北海道)の林浩史社長が登壇し、その取り組みを紹介した。西日本新聞メディアラボは、西日本新聞社のデジタル部門的な存在。昨年は紙面企画と連動して「子ども貧困」対策に力を注ぎ、ヤフー・ニュースなどを経由して全国に伝えた。その結果、「子ども食堂」の支援に約1,100万円が集まった。そのほか、地元地銀の福岡銀行と業務提携してフィンテック事業(ITを活用した新たな金融サービス)や、情報コンテンツのウェブサイト「mymo」を展開。さらに九州のブロガーなど45の情報発信者を集めて、「九州を理解できる」キュレーションサイト「piQ」を運営している。一方、十勝毎日新聞社ではフェイスブックなどのSNSを活用して情報を集め、災害の紙面づくりに役立てようとしている。将来像について林氏は、こう説明した。「さらにハイパーローカルな存在を目指す。十勝は狭いので、『友達の友達は友達』という状況。権利の問題はあるが、人々の生活や一生を記録していく新聞をつくりたい。今は出生時も結婚時もお悔やみでも記事にしている。デジタルではさらに踏み込んで、人の一生を記録できるメディアにしたいと考えている」。両社の取り組みは、ジャービス氏の言う「コミュニティー」に着目しており、方向性としては間違っていないようだ。ローカルメディアの取り組みについて、吉村氏はジャービス氏に「ローカルは市場が小さく、広告モデルでの収益には限界がある。発行エリア以外からの収益を模索しているが、どう考えるか」と質問。ジャービス氏はこのように答えた。「市場以上に届けたいのなら、特別な商品が必要だ。特定のスポーツチームとか、エリアとか。オーディエンス(読者)と広告が結びついていないといけない。地方(地元)向けにやることと全国でやることを分けてほしい」
■苦しくても自らやるしかない
 印象的だったのは、米国の地方紙の事例を尋ねられたジャービス氏の反応。「2人に比べれば遅れているので、話すことはない」というものだった。地方紙は、よって立つ地域の人々と生きていくほかに方法はない。これまでも日本の各地方紙は「紙」を使ってさまざまな手法を駆使してきた。本紙以外にもフリーペーパーを発行したり、イベントを実施したりしながら、読者の囲い込みに力を注いできた。その意味では「コミュニティー」に目を向けてきたことは間違いない。ただ、それはあくまで「紙」の販売を主眼とするものだった。日本の新聞社がホームページの運営を始めてすでに20年以上が過ぎた。デジタルというツールを使い、コミュニティーとどのように接していけば、ビジネスモデルとして成り立つのか。ジャービス氏が言うように、米国より日本の地方紙の方が先進的であるとするなら、苦しくても自分たちで具体策を練るしかない、ということなのだ。

*7-2:http://www.renewable-ei.org/column/column_20160614.php (自然エネルギー財団理事長 トーマス・コーベリエル、自然エネルギー財団研究員 ロマン・ジスラー 2016年6月14日) 連載コラム 自然エネルギー・アップデート、世界の素晴らしい進歩から目をそらすな
 日本のエネルギー業界は、発電のためにウランと石炭のどちらを輸入するべきか議論しているようだが、世界の国々は、別の素晴らしい解決策をとっている。ここ数カ月間に発表されたデータを見れば、このことは明らかだ。2015年の米国の発電データが発表され、2010年比で目覚ましい進展があったことが明らかになった。化石燃料による電力は150TWh(1,500億kWh)以上減少し、原子力も10TWh(100億kWh)減少した。成長したのは自然エネルギーによる電力で、2015年には2010年比で約135TWh(1,350億kWh)増加した。今年第1四半期における化石燃料の新規導入量は18MW(1.8万kW)であった。一方、自然エネルギーの新規導入量は1,291MW(129.1万kW)で、化石燃料の70倍以上増加した。英国では、今年第1四半期に、風力による電力供給量が石炭火力を上回った。風力の電力供給量が2.3TWh(23億kWh)だったのに対し、石炭火力は1.8TWh(18億kWh)にすぎなかった。5月9日には、1882年以来初めて、石炭火力による電力が英国の電力系統に全く供給されない瞬間が訪れたと報じられた。さらに、太陽光の電力供給量が石炭火力を上回る日が1週間続いた*。ポルトガルは早くから風力発電を利用しており、風力の新規導入はポルトガルで最もコストの低い発電オプションとなっている。2015年には自然エネルギーが同国の電力消費量のほぼ半分を賄った。そして今年5月初め、ポルトガルは4日間連続で自然エネルギー100%を達成したことを報告している。このように、世界のさまざまな国で自然エネルギーが主流になってきた事例がたくさんある。ここまで発展できたのは、自然エネルギー開発に多額の支出が必要だったときに、多くの資金を産業界に投じる先駆的な国々があったおかげである。米国では開発の多くが軍の研究プログラムとして実施された。中国では、自然エネルギー支出が経済をさらに成長させるための一手段と考えられてきた。そしてドイツでは、多くの費用が必要となる原子炉事故のリスクを軽減するための手段の一つであった。このような大胆な取り組みの結果、自然エネルギーは今や世界中のほとんどの国で、競争力のある価格で利用できるようになった。2年前から、風力は世界の多くの地域で最もコストの低い新電源となっている。また昨年はいくつかの国で、太陽光が新たな電力供給のための競争に勝利を収めた。最近の最も素晴らしい成果は、ドバイで800MW(80万kW)の太陽光発電の応札価格が1kWhあたり3円となったことである。太陽光発電の価格がわずか18カ月で半分になったことになる。日本の太陽エネルギー量はドバイの半分にすぎないため、日本でのコストがドバイと同程度まで低下することはないだろうが、2倍以上である必要もない。世界の自然エネルギーは発展し続けており、日本が石炭やウランの輸入に代わって国産エネルギー源である自然エネルギーを導入する機会は、ますます拡大している。
* 更新情報:2016年5月、英国における太陽光発電推定量は1,336GWh(13.36億kWh)にのぼり、石炭火力の893 GWh(8.93億kWh)を50%も上回った。http://www.carbonbrief.org/analysis-solar-beats-coal-over-a-whole-month-in-uk-for-first-time

*7-3:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/395693
(佐賀新聞 2017年1月16日) 風力発電で全列車を運行、オランダ鉄道、年明けから世界初
 オランダ最大の旅客列車運行会社、オランダ鉄道(NS)は年明けから、風力発電の電気のみで全列車を運行し始めた。同国全土で毎日約60万人が「風力電車」で移動しているといい、NSなどは世界初の快挙だと強調。「風車の国」の面目躍如と言えそうだ。NSは2015年、同国電力会社エネコと共同で、風力発電だけで列車を走らせるプロジェクトを開始。16年には既に全列車の75%が風力の電気で動いていた。NSは年間、人口約80万人の首都アムステルダムの全世帯合計とほぼ同じ電力量を消費。欧州メディアによると、NSは毎日約5500本の列車を走らせている。

<自然エネルギーの実力>
PS(2017年2月17日追加):*8のように、日本が「100%自然エネルギー」を実現すれば、投入する設備費用を差し引いても、燃料代節約などで84兆円の「得」になるそうだが、それは技術の普及・進歩によって前倒しが可能だ。そして、その効果は、①地球環境への好影響 ②環境技術の進歩 ③外国に支払っていた燃料コスト削減による企業利益率や税収の増加 ④設備導入時の前向きな投資増による資本生産性向上と景気上昇 ⑤国民生活の豊かさ実現 等で、100%の解である。そのため、「100%の解はあり得ない」「実現は遠い未来のことだ」などと決めつけるのは、自分で自分の首を絞める行為だ。

*8:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12799670.html (朝日新聞 2017年2月16日) 自然エネ100%、日本で実現すると「84兆円お得」 WWFジャパン試算
 世界自然保護基金(WWF)ジャパンは16日、日本が2050年までに石炭や石油などの化石燃料に頼らない「100%自然エネルギー」を実現すれば、必要な設備費用を投入しても、燃料代節約などで84兆円の「得」になるとの試算を発表する。地球温暖化対策の国際ルール「パリ協定」がめざす脱炭素社会は実現可能だとしている。試算によれば、10~50年の約40年間で、設備費用は産業部門や家庭での省エネに191兆円、太陽光などの自然エネルギーの導入に174兆円の計365兆円が必要な一方、化石燃料の消費が減って449兆円の節約になるという。温室効果ガスの排出量は10年に比べて95%削減できるとした。現在ある技術が広く普及すれば、エネルギー需要は10年比で47%減らせると試算。すべて自然エネルギーで賄えるとし、国内の気象データから太陽光と風力の発電量は2対1の割合が望ましいとした。30年ごろから自然エネルギー発電で余った電力から水素をつくって活用すると想定している。昨年発効したパリ協定では、各国が温暖化対策の長期戦略を国連に提出するよう求められている。日本は環境省と経済産業省がそれぞれに素案をまとめている。WWFジャパンは、政府に長期戦略の早期策定を求めている。

| 資源・エネルギー::2017.1~ | 02:24 PM | comments (x) | trackback (x) |
2017.1.24 “ポピュリズム(衆愚)”という表現は、生活者として多様な立場から考えている国民に対する上から目線の罵倒であり、日本のメディアが、トランプ米大統領の「米国第一主義」や英国の「EU離脱決定」を“保護主義”“ポピュリズム”と評するのは傲慢である。 (2017年1月25、26、27、29日に追加あり)
      
トランプ大統領就任演説 英国のEU離脱をめぐる経緯  メイ首相の演説    日本の永住資格

(1)トランプ大統領の政策と日本政府・メディアの反応
 米国大統領選は候補者同士のくさしあいとなり、両候補とも魅力に欠ける状態に陥ってしまったが、*1-1のトランプ大統領就任演説全文を見ると、私はトランプ大統領は米国大統領としては当たり前のことを言っている部分が多いと思った。

1)「国民に権力を」について
 トランプ大統領が述べている「①大切なのは、国民が政府を動かしているかどうかだ」「②権力を首都ワシントンからあなた方国民に返還する」「③支配層は保身に走り、市民を擁護しようとしなかったため、支配層の勝利や成功は皆さんの勝利や成功とはならなかった」というのは、米国でもそうだったのかと思われたが、日本では実質的にそうなっていないため、もっと深刻である。そのため、このフレーズは、日本人こそよく考えて聞くべきで、主権者に権力があるのは、日本国憲法に明示されているとおり、民主主義(主権在民)の国なら当たり前のことなのだ。

2)「全てが変わる」について
 「①この米国は皆さんの国だ」「②大切なのは、どの政党が政権を握るかではなく、国民が政府を動かしているかどうかだ」「③国家は国民に仕えるために存在する」「④国民は子どもたちのために素晴らしい学校を望み、家族のため安全な環境を欲し、いい仕事を求めており、それは善良な人々のごく当たり前の要求だ」のうち、①③は日本国憲法にも明示されている理念だ。また②も真実であるし、④はどこの国の人も同じで、どこかの国だけが特別ではないだろう。

3)「殺りくに終止符」について
 しかし、「①都市の市街地で母子が貧困から抜け出せないでいる」というのは、米国では特に、離婚や無計画な出産が多すぎるのではないかと思う。「②さびついた工場群が墓石のように国内の至る所に散らばっている」というのは本当かも知れないが、それを解決するためには昔に戻せばよいのではなく、米国内に高コスト構造に耐える現代産業を育成するしかない。

 「③何十年もの間、われわれは米国の産業を犠牲にして、他国の産業を豊かにしてきた」というのは、NAFTA・中国・日本のことを言っているのだろうが、これらの国は、「遅れているから」として米国に負担ばかりをかけられる時代が過ぎ、相互主義でやるべき時代が来たことを実感すべき時なのだろう。

 なお、「④自国の国境防衛は疎かにしながら、他国の国境を守ってきた」というのは真実なので笑ってしまったが、その相手が日本だとすれば、それは米国がアドバイスしてできた世界でも理想的な日本国憲法の下、日本は弱い自衛軍しか持たないため、日米安全保障条約を結んで米軍に頼っているのだが、本当に頼りになるかどうかは心配だ」というのが本音である。

 また、「⑤国外で何兆ドルも金を費やしている間に、米国のインフラは荒廃し、朽ち果ててしまった」というのは、米国のインフラもIT時代の最新のものに更新すべきで、日本も他山の石とすべきだろう。

4)「米国第一」について
 「①今日からはひたすら『米国第一』で、貿易、税金、移民、外交で常に米国の労働者と家族の利益となる決定を下す」というのは、時代錯誤にあたるような過度の保護主義でなければ、米国大統領として当然のことだ。また、「②この素晴らしい国の全土に新しい道、高速道路、橋、空港、トンネル、鉄道を造る」「③国民を生活保護から抜け出させ、仕事に戻ってもらう」というのも、失業者に生活保護給付をし続けるよりも、その労働力を使ってインフラ整備をした方が建設的であるため同意する。

 「④国益を最優先する権利が全ての国にあるという考えに基づき実行する」というのも、過度の保護主義でなければ当然のことであり、「⑤われわれの流儀を押しつけたりはせず、模範として追随されるように、われわれを輝かせよう」というのも、民主主義には発展段階があり、専制から一足飛びに完成型にはならないため、米国流を押し付けるのではなく、次第に理想形に変えていく必要があり、同意だ。

5)「国民の結束」について
 「①われわれの政治の根底にあるのは、米国への完全な忠誠や国民同士の忠誠心だ」「②心を開いて愛国主義を受け入れれば、偏見が生まれる余地はない」「③神の民が一つになって共に生きることは、なんと幸せで楽しいことか」というのは、戦後の日本人には馴染みの薄い言葉の連続だ。

6)「行動の時」について
 「①大きく考え、大きな夢を見よう」というのは賛成だ。しかし、権限があってできる立場にいるのに「②口ばかりで行動しない政治家、不平ばかり言って自分では何もしない政治家」が米国にはいるのだろうか?この章は、全体として論理の飛躍が多く、一般の人が夢を持てる言葉を並べたものと思われる。

7)「声・希望・夢」について
 「全ての米国民の皆さん。住んでいる町が近くても遠くても、小さくても大きくても、山々や海に囲まれていようとも、あなたたちが無視されることは金輪際ない。あなたたちの声、希望、夢が米国の運命を決めるのだ」というのは、本当に実行されれば、それこそ民主主義のよい国である。そして、現代では、IT技術の発達によって、それも可能になっている。

8)「一つの中国」の見直しについて
 トランプ次期米大統領は、*1-2のように、「中国と台湾を不可分とする『一つの中国』原則を含めて全てが協議される」と述べ、見直しもあり得るとの考えを示した。これには、中国は反発するだろうが、台湾の望みを考えれば、日本政府にはできない勇気ある行動だ。

9)環太平洋連携協定(TPP)からの離脱表明について
 *1-3に、「TPPを成長戦略の柱に据える日本は、経済・外交・安全保障分野で大転換が求められ、新たな対米関係が迫られる中で日本の立ち位置が問い直される」と書かれているが、自国の国益を第一に考えるのは日本も同じであるべきだ(でなければ日本国民が困る)。しかし、だからといって国際協調をしないということではないため、*1-4なども含め、日本のメディアは冷静さを欠く保護主義キャンペーンをし過ぎている。

 また、企業のグローバル化とは、地球規模で生産・販売・研究開発・資金調達・租税政策などを行うことであり、EU、TPP、NAFTAのように経済の囲い込みをすることではないため、「トランプ現象=反グローバル」というのは間違いだ。そして、どの国にとっても産業政策・雇用政策は重要で、日米自由貿易協定(FTA)などの2国間協議でも、日本政府は国益を優先して交渉すべきだ。しかし、これに関して、私はビジネスマン出身のトランプ大統領と比べて、日本の政治家・行政官はもめないことを最重要課題として本当の交渉をしないため、不利な交渉結果を導くことが心配である。

10)オバマケアの撤廃について
 トランプ米大統領は、オバマ前政権が進めた医療保険制度改革の撤廃に向けた大統領令に署名されたそうだが、誰にとっても必要不可欠な国の医療・介護保険制度をきっちり作った方がよいと、私は考える。何故なら、それは必需品であり、雇用吸収力があるとともに、中産階級以下の国民の将来の心配を軽減することによって、現在の需要への支出を増やすことができるからだ。

(2)「欧州覆うか『自国第一』、相乗効果狙い右翼ポピュリズム政党結集」というメディアの論調
 「トランプ米大統領の就任式参加者がオバマ前大統領よりも少なかった」という報道が日本では多い。しかし、トランプ米大統領の就任演説は、就任式に参加した人だけでなく、衛星放送やインターネットで聞いた人も多いため、前評判やトランプ米大統領の政策の世界への影響から、世界ではオバマ大統領よりも多かったかもしれない。日本では、私も就任演説を聞きたいと思ったが、真夜中だったため、翌朝の新聞に英文と日本語訳の全文が掲載されたのを読んだ。つまり、トランプ米大統領の就任演説は、オバマ前大統領に劣らず、世界中で関心が高かったと言える。

 そして、*1-5のように、「重要選挙を迎える欧州連合(EU)各国の右翼ポピュリズム政党が就任式翌日の21日、ドイツに集まって『エリートでなく、民衆による政治が始まった』と気勢を上げ、トランプ大統領と同じ『自国第一』を掲げた」そうだ。

 しかし、私は、「右翼ポピュリズム政党」という表現は正しくないと考える。何故なら、「自国第一」を掲げるのは「右翼ポピュリズム政党」と定義するのであれば、世界中の多くの政党が「右翼ポピュリズム政党」ということになり、日本では全政党が「右翼ポピュリズム政党」ということになって事実に反するからだ。

 日本は、*4-1のように、難民受入国支援のために約2800億円拠出し、シリア人留学生150人の受け入れ表明をしたが、難民の受け入れは極端に少なく、「国境を自由にして難民が自由に出入りできるようにせよ」と主張している政党はないため、相手によって異なる多重基準でモノを言うのは不公平だ。

 また、*4-2のように、外国人労働者の受け入れも、留学生・実習生として日本に入国した外国人を介護専門職に育成して就職に繋げる法律ができたばかりで未施行であり、その留学生も、*4-3のように、例年20人程度だった留学生の入学者数が2016年度は257人になった程度だ。なお、研究者や企業経営者等の高度の専門性を持つ外国人は、*4-4のように、従来は最短5年で永住権取得を認めてきたが、今後は1年で永住権を取得できるようにするそうだ。ただ、その要件は非常に厳しい。

 しかし、私は、*1-5のように、難民受け入れに寛容なドイツのメルケル首相が批判されているのは気の毒だと思う。何故なら、メルケル首相は、東ドイツ出身でありながら統一ドイツの首相になった聡明な人で、難民の受け入れに寛容な精神を持っている理由が理解できるからだ。

(3)英国の欧州連合(EU)離脱決定をポピュリズム(衆愚)と呼ぶのは、民主主義への挑戦である
1)英国国民投票でのEU離脱決定はポピュリズム(衆愚)か
 2016年6月24日の英国国民投票でEU離脱が決定し、*2-1は、「①反EUのポピュリズム(衆愚)が理性に勝った」「②英国のEU離脱決定は欧州統合の機関車役ドイツにも打撃」「③この開票結果は、欧州市民の間でEUへの失望がいかに深く、右派ポピュリズム勢力への支持が強まっているかを示した」「④英国に追随して国民投票によるEU離脱の動きが広がる可能性があり、2016年6月24日は、欧州の歴史の中で暗黒の日として記憶されるだろう」としている。

 私は、①の表現は、国を単位とする民主主義への挑戦であり、誰から見た目かわからないが、国民投票の結果をポピュリズム(衆愚)と呼んでいる点で傲慢だと考える。②は、国境という国の主権にかかわる問題にEUが自由化を強制した点が問題なのであり、③は、ギリシャに強制的に年金削減をさせるなど財政という国家主権に関わる部分にまでEUが口を出しすぎ、国情によっては唯一の解決策ではないのに強制したという不安・不満があったため、きっかけさえあれば、④のように同じ動きが広がるのである。

2)EU離脱で英国経済の競争力は低下するか
 *2-1に「①英国のEU離脱決定は英国経済にとって激震となる」「②英国の輸出額のうち半分以上をEU加盟国向けが占め、対EU輸出は英国のGDP(国内総生産)の約15%を稼ぎ出し、英国の輸入額の約50%もEU諸国からである」「③そのため、英国はEU脱退によって雇用が脅かされるかもしれない」「④EU離脱によって多くの金融機関がロンドンから欧州中央銀行(ECB)があるドイツのフランクフルトに拠点を移すと予測されている」「⑤英国に拠点を持つ日本企業も欧州市場戦略を大きく見直す必要がある」「⑥スコットランドがEU加盟を求めて、英国からの独立運動を再燃させる可能性もある」「⑦英国の唯一の経済的利点は、EU加盟国が支払う会費を納める必要がなくなることだ」と書かれている。

 このうち、①は本当だが、マイルドな方がよいとはいうものの、変革に震動はつきものだ。②③④については、東西冷戦後の東欧諸国からの安い賃金の移民を使った経済モデルが終わり、新しく英国は雇用吸収力のある現代産業を育成する必要があるのであって、私は、それが可能だと考える。⑤は、日本企業の都合であって英国の都合ではないため、英国から見れば、『だから外資に頼らず自国の産業を育てておくべきだ』ということになり、立場を逆にすれば日本政府も同じだ。⑥は、現在、その最中だが、困った時に協力できない分断された国なのかと思う。⑦の利点は、国家主権にかかわることにまで強制が及ぶことも考えれば、英国にとって大きく、新しい経済モデルに踏み出す時と言えるだろう。

3)移民増加と排外主義の高まりか?
 *2-1に、「EU脱退がもたらす経済的打撃にもかかわらず、英国の有権者がEU離脱の道を選んだ理由は、難民危機を追い風として、英国だけでなく欧州全体で右派ポピュリストに対する支持が高まっている事実がある」と書かれている。

 しかし、*2-2に、「EU離脱がポピュリズムというのはこじつけだと、離脱派の旗振り役だったジョンソン英外相が反論した」「英国には、EUを弱体化させたり、EUに対して意地悪をしたりする意図は全くない」などが書かれている。

 私は、英国の有権者がEU離脱を選んだ理由を右派ポピュリストと呼べば、世界中が右派ポピュリストと呼ばれる政党ばかりとなり、その呼称はおかしいと考える。そして、先進国の高い賃金の労働者が賃金の安い移民・難民に労働市場で敗退するのは、どの先進国でもあったことで、EUの重要な原則の一つである域内移動の自由は、国が計画的に移民・難民を受け入れることを不可能にするため、反発があったのだと考える。

(4)英国、メイ首相の方針
 英国のメイ首相は、*3-1のように、EUとの離脱交渉を控えてロンドンで演説し、域内での人、モノ、サービス、資本の移動の自由を原則とする欧州単一市場に「とどまることはできない」としてEUから完全に離脱する意向を示し、EU域外の国々との貿易強化方針も打ち出し、「より強く、よりグローバルな英国をつくる」と主張したそうだ。

 これは、英国へ進出した日本企業にも影響を及ぼすが、日本企業も東欧の安い労働力を使って生産したものを欧州に輸出するという経済モデルは終わりに近づいたことを認識し、英国の方針転換に適応して次のモデルの準備をした方がよいだろう。そして、新しいモデルには適応できない企業は別の場所に移転するしかない。

 なお、*3-2のように、日本のメディアは、「英国とEU『自国優先』に歯止めを」というような論調が大半であり、その価値観は異常だ。何故なら、ある国の政府が自国民のために政治を行うのは、主権在民(民主主義)の政府であれば当然であり、地球のことを考えれば愛国心だけでは足りないというだけである。そのため、「人の移動の自由を受け入れてまで、EUの単一市場に残る選択をしない」という選択も、批判すべきではない。英国なら、それよりダイナミックな、次の時代に向けての展開もあり得る。

<トランプ大統領就任>
*1-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/201701/CK2017012202000110.html (東京新聞 2017年1月22日) トランプ大統領就任演説全文 「米国はかつてないほど勝利していく」「みんなで米国を再び偉大にしよう」
◆大切なのは、国民が政府を動かしているかどうか
 ロバーツ最高裁長官、カーター元大統領、クリントン元大統領、ブッシュ元大統領(子)、オバマ前大統領、米国民の皆さん、世界の皆さん、ありがとう。
▽国民に権力を
 米国の市民は今、国を挙げた壮大な取り組みに臨もうとしている。国家を再建し、全ての人が希望を取り戻す取り組みだ。われわれは共に、米国や世界が今後何年にもわたって進む針路を決定する。難題や苦難に直面するだろうが、仕事をやり遂げる。四年ごとにわれわれはここに集まり整然と平和裏に権力を移行する。オバマ前大統領とミシェル夫人に感謝する。政権移行を丁重に支援してくれた。彼らは素晴らしかった。ありがとう。ただし、今日の式典には特別な意味がある。単に政権交代が実現し、権力が政党から別の政党へと移っただけではない。権力を首都ワシントンからあなた方国民に返還するのだ。あまりに長きにわたり、政府から恩恵を享受するのは首都にいる一握りの人々にとどまり、国民にはしわ寄せが及んできた。ワシントンは繁栄しても、国民が富を共有することはなかった。政治家が潤う一方で、職は失われ、工場は閉鎖された。支配層は保身に走り、市民を擁護しようとはしなかった。支配層の勝利や成功は、皆さんの勝利や成功とはならなかった。支配層が首都で祝杯を挙げていても、懸命に生きる全米の人々に浮かれる理由はなかった。
▽全てが変わる
 ここから、たった今から、全てが変わる。この瞬間は皆さんのためにある。今日ここに集まった皆さんと、式典を見守る全米の皆さんのためにある。今日は皆さんこそが主役で、これは皆さんの祝典だ。そしてこの米国は皆さんの国なのだ。大切なのは、どの政党が政権を握るかではない。国民が政府を動かしているかどうかが大切なのだ。二〇一七年一月二十日は、国民が再び主権者となった日として記憶されるだろう。忘れられてきた人々も、これからは忘れられることはない。皆さんの声に誰もが耳を傾けている。大勢の皆さんが歴史的なうねりの当事者となるためやって来た。世界がかつて目撃したことがないような社会現象だ。その中心には重大な信念がある。国家は国民に仕えるために存在するという信念だ。国民は子どもたちのために素晴らしい学校を望んでいる。家族のため安全な環境を欲し、いい仕事を求めている。善良な人々のごく当たり前の要求だ。
▽殺りくに終止符
 しかし、あまりに多くの市民にとって、現実は異なっている。都市の市街地で母子が貧困から抜け出せないでいる。さびついた工場群が墓石のように国内の至る所に散らばっている。教育システムに金がつぎ込まれても、若く優れた学生たちは知識を得ることができずにいる。犯罪、悪党、麻薬が多くの命を奪い、可能性の芽を摘んできた。こうした米国の殺りくは今ここで終わる。われわれは同じ米国民だ。彼らの苦悩はわれわれの苦悩だ。彼らの夢はわれわれの夢だ。彼らの成功はわれわれの成功となる。われわれは一つの心、一つの故郷、そして一つの輝かしい運命を共有している。今日の私の大統領就任宣誓は、全ての米国人に対する忠誠の誓いだ。何十年もの間、われわれは米国の産業を犠牲にして、他国の産業を豊かにしてきた。米軍の嘆かわしい劣化を招いた一方で、他国の軍に資金援助してきた。自国の国境防衛はおろそかにしながら、他国の国境を守ってきた。そして国外で何兆ドルも金を費やしている間に、米国のインフラは荒廃し、朽ち果ててしまった。他国を豊かにしている間に、われわれの富や強さ、自信は地平のかなたへ消え去っていった。工場は次々と閉鎖され、残された何百万人もの米国人労働者を顧みることなく、国外へ移転していった。中間層の富が奪われ、世界中にばらまかれた。だがそれは過去のことだ。今、われわれは未来だけを見据えている。
▽米国第一
 今日ここに集まったわれわれは、全ての都市、全ての外国政府、全ての権力機関に向かって、新たな決意を宣言する。今日から、新たな考え方でわが国を治める。今日からはひたすら「米国第一」だ。米国が第一だ。貿易、税金、移民、外交では常に、米国の労働者と家族の利益となるような決定を下す。物作り、企業、雇用を奪う外国から、われわれは国境を守らなければならない。(貿易や雇用の)保護は、大いなる繁栄と強さをもたらす。私は全身全霊で、皆さんのために戦う。そして私は皆さんを決して失望させない。米国は再び勝利し始める。いまだかつてないほど勝利していく。われわれの雇用を取り戻す。国境を取り戻す。富を取り戻す。そして夢を取り戻す。この素晴らしい国の全土に新しい道、高速道路、橋、空港、トンネル、鉄道を造る。国民を生活保護から抜け出させ、仕事に戻ってもらう。そしてわれわれの国を、米国人の手によって、米国人の労働力で再建する。われわれは二つの簡潔な規則を守っていく。米国製品を買い、米国人を雇う。われわれは世界の国々との友好、親善関係を求めていく。ただし、国益を最優先する権利が全ての国にあるという考えに基づき、実行していく。われわれの流儀を(他国に)押しつけたりはしない。むしろ模範として追随されるように、われわれを輝かせよう。古くからの同盟を強化し、新たな同盟関係も築き、文明国を一つに束ねてイスラム過激派によるテロに対抗し、地球上から完全に根絶する。
▽国民の結束
 われわれの政治の根底にあるのは、米国への完全な忠誠だ。そして国への忠誠心を通して、われわれは国民同士の忠誠心も再発見することになるだろう。もし、心を開いて愛国主義を受け入れれば、偏見が生まれる余地はない。聖書にこう書かれている。「神の民が一つになって共に生きることは、なんと幸せで楽しいことか」。自分の考えを包み隠さず語り、相違があれば率直に議論しなければならないが、常に結束を目指さねばならない。米国が団結すれば、誰にも止めることはできない。恐れることはない。われわれは守られており、これからも常に守られる。軍、治安機関がわれわれを守ってくれる。そして、何より重要なことに、われわれは神に守られている。
▽行動の時
 最後に言いたい。大きく考え、より大きな夢を見よう。米国では、努力してこそ国は存続するということをみんな知っている。口ばかりで行動しない政治家、不平ばかり言って自分では何もしない政治家はもう認めない。無駄話の時間は終わりだ。行動する時だ。できないなどと言わせてはならない。米国の熱意、闘志、気概をもってすれば打ち勝てない困難などない。失敗することはない。米国は再び繁栄し、成功するのだ。宇宙の謎を解き、地球上から病の苦しみをなくし、未来のエネルギー、産業、技術を活用する新たな時代が始まったばかりだ。国への新たな誇りがわれわれの魂を揺り動かし、視野を広げ、分断を修復してくれるだろう。わが国の兵士たちが決して忘れない、古くからの格言を今こそ思い出そう。肌が黒くても、白くても、褐色でも、同じ赤い血が流れ、国を愛する気持ちに変わりはないということだ。同じ輝かしい自由を享受し、同じ偉大な米国旗に敬礼するのだ。子どもたちはデトロイトの都市部で生まれようとも、ネブラスカの風吹きすさぶ平野で生まれようとも、同じ夜空を見上げ、同じ夢で心を満たし、同じ全能の創造主により命の息吹を吹き込まれる。
▽声・希望・夢
 全ての米国民の皆さん。住んでいる町が近くても遠くても、小さくても大きくても、山々や海に囲まれていようとも、次の言葉を聞いてほしい。あなたたちが無視されることは金輪際ない。あなたたちの声、希望、夢が米国の運命を決めるのだ。あなたたちの勇気、優しさ、愛がわれわれを永遠に導くのだ。みんなで米国を再び強くしよう。米国を再び豊かにしよう。米国を再び誇り高くしよう。米国を再び安全にしよう。そう、みんなで米国を再び偉大にしよう。ありがとう。皆さんに神のご加護があらんことを。米国に神のご加護があらんことを。ありがとう。米国に神のご加護があらんことを。
(原文略)

*1-2:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/395328
(佐賀新聞 2017年1月14日) 「一つの中国」見直しも、トランプ氏、中国反発必至
 トランプ次期米大統領は米紙ウォールストリート・ジャーナルとのインタビューで、中国と台湾は不可分とする「一つの中国」原則を含め「全てが協議される」と述べ、同原則の見直しもあり得るとの考えを示した。ロシアに科されている制裁解除の可能性にも触れた。同紙電子版が13日伝えた。「一つの中国」原則の尊重を米中の「政治的基礎」と位置付ける中国の習近平指導部の反発は必至だ。トランプ氏は昨年12月、米歴代政権の慣例を破って台湾の蔡英文総統と電話会談し、「為替操作国」と批判する中国に揺さぶりを掛けた。

*1-3:https://www.agrinews.co.jp/p39970.html (日本農業新聞2017年1月22日) トランプ政権発足 問い直される対米関係
 米国の新大統領にトランプ氏が就任し、新政権は環太平洋連携協定(TPP)からの離脱を正式表明した。就任演説では「米国第一」主義を宣言し、「米国製品を買おう」「米国人を雇おう」と呼び掛けた。TPPを成長戦略の柱に据える日本は、経済・外交・安全保障分野で大転換が求められるのは必至だ。新たな対米関係が迫られる中で日本の主権、立ち位置が問い直されている。異様な雰囲気での新大統領誕生となった。首都ワシントンの就任式には多くの民主党議員がトランプ氏の人種差別的な発言に抗議して欠席、全米各地で就任に反対する市民団体の集会が開かれた。就任時の支持率が4割という歴史的な不人気ぶりだ。歓迎と抗議が交錯する。分断された米社会が浮き彫りとなった。米国第一主義は世界に何をもたらすのか。オバマ前政権の国際協調路線から自国中心主義に傾くのは明らかで、安全保障や貿易ルール、地球温暖化問題に影響を及ぼすのは避けられない。国と国が協力し、譲歩し合い、時間を掛けて構築してきた秩序をそう簡単に放棄すべきではない。米国は国際社会の一員として、世界の平和と安定に貢献し続けるべきである。極端な米国第一主義には、保護主義や差別・排外主義が潜む。こうした考えは、世界に受け入れられるものではない。一方でグローバル資本が利益の最大化を目的とした自由貿易のひずみと矛盾も直視すべきだ。就任演説でトランプ氏は「権力をワシントンからあなた方国民に返還する」と断言した。政府から恩恵を受けたのは一握りのエリート層にとどまり、市民の職は失われ、工場は閉鎖されたとし、これからは国境、製造業、雇用を守ると強調した。「トランプ現象」を生んだ反グローバルの潮流は、格差と貧困が社会問題化する欧米で広がった。そうした民意が新大統領を生んだのも事実だ。このことから目を背けてはならない。トランプ氏がどう民意に応えていくか、注視したい。トランプ政権は、TPPからの離脱、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉を表明した。米国抜きのTPPは発効が一層難しくなった。一方で、トランプ氏は2国間貿易協定に意欲を示す。2国間交渉となれば、米国からの農産物の市場開放圧力はTPPの合意内容以上に攻め込まれるのは必至だ。米国に追従する安倍政権の経済・外交政策は限界を迎え、抜本見直しを迫られている。新政権の動向を見極め、日米自由貿易協定(FTA)の阻止に備えることこそ肝要である。トランプ氏は各国との関係について、「国益を最優先する権利が全ての国にあるという考えに基づき、実行していく」とも明言した。安倍政権は日米同盟の在り方も含め、日本の国益を損なわない政策実現が急がれる。.

*1-4:http://digital.asahi.com/articles/ASK1M7X8ZK1MUHBI047.html
(朝日新聞 2017年1月21日) TPP発効は絶望的 日本、通商戦略見直し必至
 トランプ政権は就任式直後から、ホワイトハウスのホームページで、「米国第一エネルギー計画」「米国第一外交政策」「雇用と成長を取り戻す」「再び米国軍を強くする」など、外交や貿易に関する6項目の主要政策を発表した。そのなかで、「強固で公平な協定により、貿易は我が国の成長のために活用できる」として、「その戦略はTPPからの離脱によって始まる」と強調。公約通り、就任初日から、TPPから離脱する方針を正式に表明した。さらに、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉を求める方針も示し、参加国のカナダとメキシコが交渉を拒めば、NAFTAから離脱することも打ち出した。TPPの発効には米国の批准が不可欠で、TPPは発効が不可能となる。TPPを成長戦略の柱としてきた安倍政権は、戦略の見直しを迫られる。雇用創出では、「年4%成長への回帰をめざす」と強調。選挙中に35%から15%への引き下げを訴えた法人税率は、「世界で最高水準の税率を引き下げる」としたが、数字には触れなかった。一方、外交・安全保障政策については、「米国の国益と安全保障を最重視する」ことを基本方針に掲げた。そのために、米軍の軍事力の再構築を進めていく方針を打ち出した。過激派組織「イスラム国」(IS)やイスラム過激主義のテロ組織の壊滅を最優先課題と位置づけ、軍事作戦を強化する。その上で、各国と協調して、テロ組織の資金源の遮断や情報共有を進めていく。また、防衛予算の一律削減を終わらせ、海軍の艦船と空軍の航空機を増強していく。北朝鮮やイランのような国からのミサイル攻撃を防ぐため、最新のミサイル防衛システムを開発することを表明。サイバー分野での防衛・攻撃双方の能力向上も優先的に進めていく。さらにトランプ氏はこの日、オバマ前政権が進めた医療保険制度改革(オバマケア)の撤廃に向けた大統領令にも署名。新たな規制の凍結も各省庁に指示するなど、精力的に動いた。
■トランプ氏方針、覆る見込み薄
 米国のトランプ大統領が環太平洋経済連携協定(TPP)を離脱する方針を明確に打ち出したことで、安倍政権が成長戦略の柱に据えてきたTPPの発効は、絶望的になった。日本政府は、まずは自由貿易の重要性を米側に訴え、TPPへの理解を得たい考えだが、トランプ氏の思い入れが強い貿易政策の方針が覆る見込みは薄い。日本側が通商戦略の練り直しを迫られるのは必至だ。TPPは、太平洋を取り囲む日米など12カ国で域内の関税を撤廃したり投資などのルールを共通化したりする協定で、2015年10月に合意に至った。しかし、経済大国である日米両国が批准しなければ発効できない条件になっている。トランプ氏の離脱表明を受け、日本の内閣官房幹部は「時間はかかるが、TPPが米国にとっても利益になるということを分かってもらうように説得するしかない」。だが、オバマ前政権の貿易政策を転換し、米国の雇用を守るという主張は、トランプ氏の最重要の公約で、簡単に方針を転換するとは考えられない。安倍晋三首相は20日の施政方針演説で、TPPを「今後の経済連携の礎」とし、発効をめざす考えを強調していた。TPPによって、アジア・太平洋地域への輸出を増やしたり、日本企業の進出を促したりすることで、日本経済を押し上げようと考えてきたからだ。また、この地域の経済ルールを日米が主導して決め、台頭する中国に対抗する狙いもあったが、米国の離脱が決定的となり、こうした通商戦略の見直しは避けられない状況だ。

*1-5:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12760754.html (朝日新聞 2017年1月23日) (トランプの時代)欧州覆うか「自国第一」 右翼ポピュリズム政党、相乗効果狙い結集
 トランプ米大統領の就任による大波が、早くも欧州に及んでいる。今年、重要選挙を迎える欧州連合(EU)各国の右翼ポピュリズム政党が就任式翌日の21日、ドイツに集まり、「エリートでなく、民衆による政治が始まった」と気勢を上げた。掲げるのは、トランプ大統領と同じ「自国第一」だ。
■反移民掲げ「次は我々だ」
 21日、ドイツ西部の人口11万の町コブレンツに、欧州各国で「自国第一」を掲げる面々が勢ぞろいした。オランダのウィルダース自由党党首やフランスのルペン国民戦線(FN)党首、新興政党「ドイツのための選択肢」(AfD)のペトリ党首らは、約千人の聴衆を前に「次は欧州の番だ」と言わんばかりだった。「エリートが、我々の自由を危険にさらしている」「我々は、我々の国を再び偉大にする」。ウィルダース氏の発言は明らかにトランプ氏の就任演説を意識していた。ルペン氏は「最初のパンチは英国の民衆が選んだEU離脱。二つ目がトランプ政権。2017年は大陸欧州が目覚める」と宣言した。会合は、EU批判を繰り広げる右翼政党が結成した欧州議会の会派「国家と自由の欧州」の主催。相乗効果で支持拡大を図る狙いがあるのは明らかだ。各党とも移民制限を主張し、中東やアジアからの難民受け入れへの反対で一致している。ペトリ氏は「政治家やメディアは寛容を口にするが、なぜ普通の人々に聞かないのか。彼らは不安だらけだ」と話した。3月に総選挙を迎えるオランダでは、イスラム教への敵意をむき出しにする自由党が、世論調査で支持率トップを走る。フランスでも4月の大統領選第1回投票でルペン氏が首位に躍り出る可能性がある。9月に連邦議会選が予定されるドイツでも、支持率が12~15%のAfDは初の連邦議会入りが確実視される。
■メルケル氏批判
 批判の矛先は、欧州の統合を重んじ、難民受け入れに寛容なドイツのメルケル首相に向かう。会場では、党首らの演説に、聴衆がしばしば「メルケルは去れ」と連呼して応えた。トランプ政権の発足と右翼政党の高揚で、欧州でも分断と緊張が広がる。会場付近では、開催に抗議する約3千人が「開かれた欧州を」と訴えてデモ行進した。ドイツのガブリエル副首相や、ユンケル欧州委員長の出身国ルクセンブルクのアッセルボーン外相ら、いま政治を動かしている側の姿もあった。
■政策はそろわず
 「自国第一」や「愛国心」を唱える各党。EUやエリート層への批判で一致はしているが、具体的な政策で足並みをそろえているわけではない。訴えも日和見主義的だ。例えばAfDは、ギリシャ危機後の13年に共通通貨ユーロへの反対を掲げて誕生した。だが15年にペトリ氏が実権を握ると、難民危機を受けて反難民、反イスラム色を強めた。ルペン氏は「違いを探すことに意味はない」と意に介さなかった。「大義のために集まったのだ。国境を管理して国民を守る。国を愛し、主権を取り返す」。この日の会合には、ドイツの公共放送など、一部メディアの取材登録が認められなかった。その一人、フランクフルター・アルゲマイネ紙のユストゥス・ベンダー記者は「主催者から『うそを書くのをやめろ。フェアな記事を書け』とのメールが来た」と話した。「彼らは批判的な記事を書くジャーナリストを受けつけない。これも米国と同じだ」
■分断の背景、各国で相似
 トランプ氏は、就任演説で「ピープル」という単語を10回繰り返した。「2017年1月20日は、民衆(ピープル)が再び、この国の支配者になった日として記憶される」。19世紀末の米国で、既成政党に属さない農民運動として「ピープルズ・パーティー(人民党)」が台頭。「ポピュリスト党」とも呼ばれたことからポピュリズムという言葉が生まれた。そして今、「ピープル」を強調し、「自国第一」を主張する政治家が、各国で支持を集める。トランプ氏らへの支持が広がる背景や世論の動向も、各国で相似形を描く。きっかけは2008年のリーマン・ショック後の世界不況だと米ジョージタウン大学のマイケル・カジン教授は説く。不況とともに、大量の移民、格差の拡大、ITによる省力化などで、「自分たちは見捨てられた」と考える人が急増した。「政府は経済を統制できず、救済を必要としている国民を助けようともしないと、人々は悟った。既成政治への不安と怒り、叫びこそが、米欧で起きている現象の理由です」。従来の政党が効果的な回答を見いだせない限り、反既成政治の運動は成長する。一方で、怒りや反発だけで国家を治めることはできない。「ポピュリズム運動が政権を取っても、効果的に統治を行うのが難しい」とカジン教授は言う。トランプ氏は、欧州の政治家に先駆けて、現実という試練に向き合うことになる。

<ポピュリズムとは?>
*2-1:http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/219486/062400017/?rt=nocnt (日経ビジネス 2016年6月24日) 反EUのポピュリズムが理性に勝った日、英国のEU離脱決定は、欧州統合の機関車役ドイツにも打撃
 6月24日、英国の国民投票でEU離脱派が勝った。英国の有権者は、キャメロン首相の嘆願を拒絶し、43年ぶりにEUに背を向ける道を選んだ。実際に英国がEUから脱退するまでには、少なくとも2年間はかかると見られているが、この国がEUと袂を分かつことは確実だ。キャメロン首相は辞任を表明した。離脱によって悪影響を受けるのは、英国の経済界だけではない。長期的には、EUそして欧州統合を最も強力に進めてきたドイツにとっても大きな打撃となる。この開票結果は、欧州市民の間でEUへの失望がいかに深く、右派ポピュリズム勢力への支持が強まっているかを示した。英国のEU離脱は、EU政府に相当する欧州委員会に対し、EUの根本的な改革を迫るものだ。英国に追随して他のEU諸国でも、国民投票による離脱の動きが広がる可能性がある。6月24日は、欧州の歴史の中で暗黒の日として記憶されるだろう。
●英国経済の競争力低下へ
 この決定はまず、6月24日のポンド暴落が象徴するように、英国経済にとって激震となる。同国の輸出額のうち、半分以上をEU加盟国向けが占める。対EU輸出は、英国のGDP(国内総生産)の約15%を稼ぎ出している。また英国の輸入額の約50%も、EU諸国からのものだ。英国はEU脱退によって、単一市場の利点(関税廃止、人と物の自由な移動、自由な資本取引)を失う。英国では輸入品の価格が上昇する。対EU貿易での価格競争力も弱くなる。したがって、同国はスイスやノルウェーのようにEUと交渉して、少なくとも関税廃止などの利点を維持しようとするだろう。同国にとって特に大きな懸念は、金融機関の動きだ。英国のGDPの約8%は金融サービスによって生み出されている。ロンドンには、米国の投資銀行、商業銀行など外国の多くの金融機関の欧州本社がある。EU離脱によって、ロンドンはEU域内の自由な資本取引の流れから遮断される。国民投票の直前に金融機関に対して行われたアンケートによると、回答企業の33%が「英国がEUから離脱した場合、同国でのオペレーションの規模を縮小する」と答えていた。EU離脱は、欧州最大の金融センターであるシティーで働く人々の雇用を脅かすことになるかもしれない。欧州では、「EU離脱によって、多くの金融機関はロンドンから、欧州中央銀行(ECB)があるドイツのフランクフルトに拠点を移すだろう」と予測されている。日本の外務省によると、英国には約1000社の日本企業が進出し、約16万人を雇用している。同国に拠点を持つ日本企業にとっても、欧州市場戦略を大きく見直す必要がある。ドイツのバーテルスマン財団の研究報告書によると、EU離脱が英国経済にもたらす損失は、2030年までにGDPの0.6%~3%に達する。外国企業の数が減少し、失業率が上昇することも避けられないだろう。さらにスコットランドがEU加盟を求めて、英国からの独立運動を再燃させる可能性もある。英国にとって唯一の経済的な利点は、EU加盟国が支払う「会費」を納める必要がなくなることだ。英国は現在約86億4000万ユーロの「会費」をEUに払っている。しかしこれは英国のGDPの0.5%にすぎない。価格競争力の低下や外国企業のユーロ圏への流出、雇用の減少などのデメリットを相殺することはできない。EUにとっても英国の離脱は大きな痛手だ。2015年の英国のGDPは約2兆5690億ユーロで、ドイツに次ぐ第2位。EUは同国の脱退によって、GDPが一挙に17.6%減ることになる。ドイツにとっても、英国の喪失はマイナスだ。両国の意見はしばしば対立してきたが、英国は南欧の債務過重国の経済を立て直す上で、財政出動よりも構造改革を重視するという点では、ドイツと考え方が似ていた。財政出動を重んじるギリシャ、イタリア、スペインの意見を抑える上で、プラグマティズムを重視する英国はドイツの「盟友」だった。つまりドイツは、南欧諸国との交渉の中で重要な応援団を失うことになる。
●移民増加と排外主義の高まり
 日本の読者の皆さんは、「EU脱退がもたらす経済的な打撃について再三伝えられていたのに、なぜ英国の有権者はEU離脱の道を選んだのか」と不思議に思われるだろう。この背景には、難民危機を追い風として、英国だけでなく欧州全体で右派ポピュリストに対する支持が高まっている事実がある。英国のEU脱退を最も強く求めていたのが、ナイジェル・ファラージ率いる「イギリス独立党(UKIP)」だ。同党の党員数は2002年には約9000人だったが、2014年には約4倍に増えて約3万6000人となっている。2015年の下院選挙で同党は12.6%の得票率を確保。2014年の欧州議会選挙では得票率が28%に達し、英国社会に強い衝撃を与えた。英国のポピュリストたちがEUを批判する最大の理由は、EUが政治統合・経済統合を進める中で、域内での移動の自由と他国での就職の自由を促進したことだ。この結果、英国ではポーランドなど東欧諸国からの移民が急増し、ロンドン以外の地方都市を中心として、移民制限を求める声が強まった。英国の反EU勢力は、EUの事実上の憲法に匹敵するリスボン条約を改正し、域内での移動の自由を制限することを求めていた。だがEUにとって、域内の移動の自由は欧州連合にとって最も重要な原則の1つだ。ドイツのメルケル首相をはじめとして、他国の首脳は英国のためにリスボン条約を改正することに難色を示していた。英国のポピュリスト勢力は、「我々はEUが自らを根本的に改革し、加盟国の利益を尊重しなければ、脱退すると再三訴えてきた。だがEUは結局、改革を拒絶した。だから我々はEUから出ていく」と主張していた。私の脳裏に去来するのは、ウインストン・チャーチルが1946年9月19日にチューリヒで行った演説である。彼は、この中で第二次世界大戦のような惨劇を二度と起こさないために、欧州大陸の国々が統合し『欧州合衆国』を作るべきだと提唱したのだ。だがチャーチルは、この合衆国に英国は加わるべきではないと断言していた。彼は、大戦中の苦い経験から、英国は欧州大陸とは一線を画するべきだという態度を持っていたのである。英国はユーロ圏に加盟しない道を選んだ時にも、チャーチルのこの思想を実践した。今回の国民投票により、ジョン・ブル(英国人のこと)たちは再びチャーチルの警告に耳を貸したのである。

*2-2:http://digital.asahi.com/articles/ASJD26QWTJD2UHBI02Y.html
(朝日新聞 2016年12月2日) EU離脱はポピュリズム? 英外相が反論「こじつけだ」
 欧州連合(EU)をめぐる国民投票で離脱派の旗振り役だったジョンソン英外相が2日、英王立国際問題研究所(チャタムハウス)で講演し、「離脱の投票結果を世界中に広がるポピュリズム(大衆迎合)と比較しようとする性急な議論がある」と述べ、米国のトランプ現象とEU離脱を結びつける議論を「こじつけ」と反論した。ジョンソン氏は「私を含め、離脱に投票した人の多くは、外国人への嫌悪や恐怖から投じたのではない」「英国には、EUを弱体化させたり、EUに対して意地悪をしたりする意図は全くない」とも述べた。フランスの右翼・国民戦線(FN)のルペン党首や英国独立党(UKIP)のファラージ前党首らEUを敵対視する政治家や、排外主義的なゼノフォビア(外国人嫌悪)と英国政府の立場に一線を画したい意図があるようだ。対アジア政策では、国連安保理常任理事国拡大に賛成だとしてインドの国名に言及した。中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に「英国はいち早く加盟した」と語った。日本については質疑応答で「すでに非常に強固な関係をさらに伸ばす余地がある」と述べるにとどまった。

<メイ首相の方針>
*3-1:http://qbiz.jp/article/101901/1/ (西日本新聞 2017年1月18日) 英、EU単一市場を離脱 移民制限を優先 メイ首相が交渉方針表明
 欧州連合(EU)との離脱交渉を控える英国のメイ首相は17日、ロンドンで演説し、域内での人、モノ、サービス、資本の移動の自由を原則とする欧州単一市場に「とどまることはできない」としてEUから完全に離脱する意向を示した。英国へ進出した日本企業にも影響を及ぼすのは必至。メイ氏が交渉方針を表明したのは初めて。単一市場への参加継続を訴えてきた与野党議員や経済界の反発は避けられず、政局や市場の混乱が予想される。メイ氏はEU域内からの移民流入を制限するなどの優先事項を提示。加盟国間の関税を撤廃し域外との貿易に共通関税を設けるEUの関税同盟から離脱、新たにEUと貿易協定を結びたい意向も表明した。メイ氏は3月末までにEUに離脱の意思を通知し、原則2年の離脱交渉に入る考え。2年の交渉で離脱した後に一定の移行期間を設けることが望ましいとしたほか、EUとの最終的な合意について、上下両院に投票による承認を求めるとも述べた。演説では「EUとは前向きで新しい関係構築」を目指すとし「部分的にEUのメンバーになるような中途半端なことは目指さない」と強調。単一市場の規則に関する判断を示すEU司法裁判所の管轄から外れる考えを表明したほか、EU域外の国々との貿易強化方針も打ち出し「より強く、よりグローバルな英国をつくる」と主張した。英国の離脱派は単一市場へのアクセス維持と移民制限の両方を交渉で勝ち取るとの考えを示していたが、EU側は移動の自由が単一市場参加の条件だとの原則を示し「いいとこ取り」は許さないとの姿勢を堅持。メイ氏がどちらを優先させるのか、その選択に大きな注目が集まっていた。

*3-2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12754139.html (朝日新聞社説 2017年1月19日) 英国とEU 「自国優先」に歯止めを
 欧州の「一つ屋根」から完全に離別し、孤独な道を歩むのか。それは英国にも世界にも利益になるとは思えない。メイ首相が欧州連合(EU)からの完全離脱を表明した。昨年6月の国民投票の結果をふまえ、方針を鮮明にした。EUの単一市場に残るには、人の移動の自由を受け入れざるをえない。その選択肢を捨てて「完全離脱」するのは、あくまで移民の流入規制を優先させるためだという。英世論は今も割れ、政治も揺れている。首相はその混迷に区切りをつけたかったようだ。しかし、英国はEUを含む国際協調の枠組みの中に常にいた国だ。自由貿易の理念や、移民に門戸を開く寛容な価値観を推進する責任を果たしてきた。国民の反移民感情に配慮する必要があったとしても、英国が欧州の国々と積み上げてきた政治・経済の協調枠組みから早々に決別するのは得策ではない。メイ氏は「よりグローバルな英国を築く」と、楽観的な将来像を描く。EU域外との貿易協定を目指していくという。だが英国の最大の貿易相手はEUであり、輸出のほぼ半分を占める。日本を含む多くの外国企業も「EUへの足がかり」として英国に拠点を置いてきた。離脱は、英国自身の貿易を損ねるだけでなく、保護主義を広げかねない。規制に批判的だった英国を欠いたEUは、障壁を強めるかもしれない。EUが揺らげば、経済・金融危機は他の地域にも波及する。移民が経済的な繁栄を下支えしてきた事実を無視して英国が規制に突き進めば、排斥の機運が各国にも広がりかねない。EU離脱は実現しても、それにかわるEUとの貿易協定交渉がスムーズにまとまる保証はない。むしろ国内にEU懐疑勢力を抱える国々は、英国に厳しい条件を求めるはずだ。英国に住むEU市民や、EU域内の英国人の権利や雇用をどう守るか。同じ「欧州」の人間として長く共生した関係を変えるのは容易ではあるまい。少なくとも離脱の衝撃を和らげる十分な移行期間が欠かせない。EU側もこれを引きがねに、欧州の統合という歴史的な取り組みを頓挫させてはならない。国際協調路線を守り、「自国優先」の拡散を防ぐために、英国もEUも、長期的な秩序安定の道を探ってもらいたい。交渉の過程で孤立主義の弊害が顕在化すれば、民意が変化することもありえるだろう。その時、英国は改めて引き返す賢明さも忘れないでほしい。

<日本の場合>
*4-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12572990.html (朝日新聞社説 2016年9月23日) 難民と世界 もっと支援に本腰を
 世界の難民・避難民が6500万人に達し、第2次大戦以降で最大になった。迫害や戦火を逃れる難民だけではない。より良い暮らしを求めて他国へ渡る移民の流れも急速に広がっている。この喫緊の問題にどう取り組むべきか。その国際協調を探るサミットが国連で開かれた。とりわけ内戦の出口が見えないシリア、アフガニスタンなどから逃れる難民の流出は深刻だ。国際社会は停戦への努力を強めるとともに、難民受け入れの負担に苦しむ周辺国に、まず目を向ける必要があろう。100万人超のシリア難民を受け入れたレバノンや、250万人が避難したトルコなどからは「限界だ」との声が漏れる。全会一致で採択された宣言に「責任の公平な分担」が明記されたのは当然だ。地球規模で人が移動する時代であり、難民・移民問題は世界の政治・経済に直結する。紛争地からの距離にとらわれず、国際社会全体で負担を分かち合うべきだ。では、各国がどう分担するのか。具体的な数字や期限が宣言に盛り込まれなかったことは、大きな課題として残った。腰が引ける背景には、テロの恐怖や、「仕事を奪われる」との不安による排斥感情の高まりがある。欧米では近年、そうした主張をする政治家や政党が勢いを増している。しかし、こうした排他的な非難は、貧富の格差など広範な社会問題への国民の怒りを利用した責任転嫁であることも多い。長い目で見れば、難民や移民は受け入れ国に、利益や活力を少なからずもたらしてきた。サミットの会合で、経営者や労働者の団体は「秩序ある移民や難民の受け入れは経済を活性化させる」と述べた。経済協力開発機構(OECD)も、長期的に経済的にプラスになると指摘する。各国政府は、そうした受け入れのメリットについて国民にきちんと説明すべきだ。安倍首相は受け入れ国支援のための約2800億円の拠出や、シリア人留学生150人の受け入れなどを表明した。だが、多くの国と比べて難民の受け入れが極端に少ない現実は変わっておらず、国際的に批判の的となっている。近年は日本でも難民の雇用に取り組む企業や、支援団体に寄付する人が増えている。政府も行動の幅を広げ、もっと世界に門戸を開き、十分な責任を果たす国の姿をめざすべきだ。

*4-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161119&ng=DGKKASFS18H5J_Y6A111C1EA2000 (日経新聞 2016.11.19) 外国人労働者、まず介護から 改正入管法成立 「高度人材」と両にらみ
外国人労働者の受け入れを拡大するための法律が18日、成立した。留学生や実習生として日本に入国した外国人を介護専門職に育成し、就職につなげる。来年中に施行する。国内での外国人材育成を重視する新たな仕組みで受け入れの大幅増を目指す。政府は人手不足分野と高度人材の2本柱で受け入れを検討中で、介護での制度構築は、その第1弾になる。在留資格に「介護」を追加する改正出入国管理・難民認定法と、外国人技能実習制度を拡充する法律が成立した。18日の参院本会議で自民、公明、民進など各党の賛成多数で可決した。改正入管法は日本の介護福祉士の資格を取得した外国人を対象に、介護の在留資格を認める。外国人技能実習適正実施法は、実習期間を最長3年から5年に延ばす。長時間労働などを防ぐため、受け入れ団体・企業を監督する機構を新設。同法の施行と共に、技能実習の対象に介護を加える省令改正をする。2法の成立を受け、政府は外国人が実習中に国家資格を取れば、実習後に介護の在留資格で就職できる制度を設計する。これまでの制度では、介護職は経済連携協定(EPA)の枠組みに限って受け入れをしてきた。インドネシア、フィリピン、ベトナムの3カ国が対象だ。滞在期間を限定しているうえ、現地の資格や日本語能力が条件。ハードルが高く、過去8年間の累計で看護師とあわせ約3800人(9月時点)にとどまる。厚生労働省の推計では、介護職員は2025年に日本国内で約38万人も不足する。この差を少しでも埋めるため、今回の法整備はEPAを締結する3カ国以外の留学生も対象にした。少子高齢化で日本人の生産年齢人口は減少の一途だ。今後の成長のためには外国人労働力は有力な選択肢になる。政府は2本柱で受け入れを進める考え。経営者や技術者ら高度人材では、最短1年の滞在で永住権を認める制度を検討中だ。もう一つ、介護を含めた人手不足産業では、日本は単純労働者の入国を原則認めていない。だが政府内では建設業で2国間協定を使った受け入れ拡大を考えているほか、農業では特区での受け入れ解禁を検討中だ。

*4-3:http://digital.asahi.com/articles/ASJC46QKVJC4PTFC01M.html
(朝日新聞 2016年11月10日) 介護福祉士の学校、留学生急増 入管法改正の見通し
 日本介護福祉士養成施設協会によると、例年20人程度だった留学生の入学者数は、昨年度は94人、今年度は2・7倍の257人に。国籍はベトナムが114人と最も多く、中国53人、ネパール35人、フィリピン28人と続く。入学者全体の3%を占める。なぜ急増しているのか。留学生が介護福祉士の資格を得ても、現状では日本で介護の仕事はできない。これが変わる可能性が出てきたためだ。政府は今国会で、出入国管理及び難民認定法(入管法)改正法案の成立をめざす。外国人の在留資格に新たに「介護」を設ける内容。成立すれば留学生が卒業後に在留資格を「留学」から「介護」に切り替え、日本で仕事に就くことができる。外国人の介護福祉士をめぐっては、2008年度から経済連携協定(EPA)に基づく候補者の受け入れが始まった。しかし資格試験に不合格なら原則帰国など、留学ルートよりハードルが高い。今国会では、この入管法改正法案とは別に、外国人技能実習制度の適正化法案も審議されており、成立、施行されれば実習の対象職種に介護が加わる方向だ。外国人が介護現場で働く流れが一気に拡大することになる。ただ、介護業界の慢性的な人材難の大きな理由は賃金の低さだ。そこが改善されていない状況で外国人を広く受け入れると、現在の低い賃金水準が固定化されるのでは、という懸念はぬぐえない。日本介護福祉士会は「外国人が介護を担うことにより、介護職の処遇や労働環境をよくするための努力が損なわれることになってはならない。その点は国の検討会で確認されており、受け入れの前提と理解している」と話す。介護現場で働く外国人への支援も検討しており、「日本の介護全体の質を上げる努力をしていきたい」という。留学生の処遇も課題だ。外国人介護労働者の問題に詳しい京大大学院の安里(あさと)和晃特定准教授(45)は、授業料が借金となる懸念があるとし、「授業料の軽減や教育内容の充実、就職先を選択する自由を保障すべきだ」と訴える。「多様な人々が尊重され活躍できる場になるよう、学校や施設側は業界を挙げて努力する必要がある」
■ベトナムから視察団
 10月中旬、介護福祉士を養成する関西社会福祉専門学校(大阪市阿倍野区)に、日本への関心が高いベトナムからの視察団が訪れた。現地の医療短大の学長らだ。この専門学校では、今春に新入生の約2割を占める9人の外国人が入学。6人がベトナム人で、新たに日本育ちのベトナム人講師を採用し、10月から専門用語の学習をフォローする授業を始めた。「来年はベトナム人だけで25人程度入学します」。山本容平学校長(35)が説明すると、視察団の学長は大きくうなずいた。視察団をこの学校へ案内したのは、大阪市の医療法人「敬英会」だ。今夏以降、この医療短大から卒業生7人を受け入れた。7人は敬英会が用意した寮に住み、敬英会が運営する介護施設でアルバイトをしながら、日本語学校で学んでいる。来春はこの専門学校に入学し、介護福祉士の勉強をスタートさせる予定だ。その一人、グェン・ティ・ハンさん(22)は、母国で看護の勉強をしながら日本語を学んできた。「今は漢字の勉強が大変だけど、介護の免許をとって、日本で働きたい」と話す。敬英会の光山(みつやま)誠理事長(51)は将来の人材不足に備えてきた。「質が高く信頼される育成の仕組みを作りたい」。この動きを参考に、大阪介護老人保健施設協会も取り組みを進める方向だ。いま、同じような留学生受け入れのルートが国内各地で生まれている。東京国際福祉専門学校(東京都新宿区)では今春、中国、フィリピン、ベトナム、台湾から6人の留学生が介護福祉科に入学した。しかし日本人はゼロ。来春に向けて、人材紹介業者や外国人採用を考える法人とのパイプを増やし、定員の40人に近づけたいという。担当者は「経営を考えると数が多いほどいいが、授業についていけないようでは困る。いかに日本語能力が高い人を見つけるかがカギ。現場のリーダーとなる人材を育てたい」と話す。
■事業者自ら養成する例も
 人材難に苦しむ介護事業者が、自ら介護福祉士の養成校を作り、留学生を受け入れようとする動きもある。兵庫県篠山(ささやま)市。無人駅から徒歩約15分の山や田んぼに囲まれた場所に、3階建ての校舎が建っている。特別養護老人ホームを運営する社会福祉法人「ウエルライフ」(同県西宮市)が来秋の開校をめざす「篠山学園」だ。1学年80人の2年課程。ホーチミンの日本語学校と提携し、入学者の多くをベトナム人留学生にする予定という。介護福祉士の養成校の多くは専門学校。専門学校は、外国人がほとんどを占める状況では認可されない。しかし篠山学園は、あえて外国人の制限がない「各種学校」での養成校をめざし、県に申請中だ。ウエルライフ側の危機感は強い。十分な採用ができずに人材派遣会社に頼らざるをえず、その費用が大きくなっている。開設準備室の安平衛(まもる)事務長(58)は「施設運営に介護福祉士は絶対必要。リスクは大きいが、直接のルートを作る方がいいと判断した」と話す。篠山市も期待をかける。県立高校の分校だった建物を県から約6千万円で購入し、同法人に貸す。校内で高齢者サロンを開く計画もある。「留学生のために、ベトナム料理に欠かせないパクチーを作ろうか」という地元からの提案も。市の担当者は「地域活性化につながるだけでなく、卒業後はできる限り市内で働いてもらえればありがたい」と話す。

*4-4:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170118-00000014-asahi-pol (朝日新聞 2017/1/18) 外国人の永住権、最短1年で付与へ 高度人材の確保狙う
 研究者や企業経営者など高い専門性を持つ外国人が最短1年で永住権を取得できる「日本版高度外国人材グリーンカード」が3月から始まる。現在は5年間日本で暮らせば永住許可を申請できるが、学歴や年収などを点数化し、条件を満たした場合は取得に必要な在留期間を短縮する。1年での永住権取得は国際的にも最短クラスで、獲得競争が激しくなっている外国人の人材を呼び込む狙いだ。外国人が永住権を取得するには、通常は10年以上の在留期間が必要だが、法務省は2012年に「高度人材ポイント制」を導入した。「学術研究」「専門・技術」「経営・管理」の3分野に分け、研究者の「博士号取得者」に30点、経営者の「年収3千万円以上」に50点などとポイントを積算。70点以上で「高度外国人材」と認めて最短5年で永住権取得を認めてきた。今回は、永住許可の申請に必要な在留期間を5年から3年に短縮。さらに、ポイントが80点以上の対象者は最短1年とする。「大学ランキングの上位校を卒業」(10点)、「国内で経営している事業に1億円の投資」(5点)なども新たにポイントとして加算する。


PS(2017年1月25日追加):*1-4の「米国第一エネルギー計画」「新たな規制の凍結も各省庁に指示」に関連して、トランプ米大統領は、*5-1のように、「①日本との自動車貿易は不公平だ」「②われわれが自動車を売る際、日本が販売を難しくしているが、日本は米国で多くの自動車を販売している」と指摘している。これは、関税だけでなく規制による非関税障壁も含む発言だが、環境規制などは規制緩和しさえすればよいわけではない。日本車は、1)狭い道路を走れる小型車を開発したり 2)高いエネルギー代金に対応する省エネを進めたり 3)厳しい環境規制をクリアしたりすることによって、付加価値の高い自動車を作ったため、米国でも売れているのである。そして、今後は、高齢化社会対応の自動運転車や環境対応の電気自動車・燃料電池車の開発が進むため、*5-2のように、米国がシェール、石油資源などの化石燃料を開発し、*5-3のように、化石燃料の増産や環境規制の緩和を図る方針を打ち出せば、米国の自動車は機能で他国の市場では売れなくなる。つまり、1980年代の日米自動車摩擦が再現するのではなく、需要者がどのような自動車を選択するかが重要であるため、販売は日本車に限らず顧客ファーストで考えたところが勝つのだ。
 これに対して、英国は、*5-4のように、①グローバルな競争力をもつ製造業の集積 ②世界最先端の専門知識の集積と研究開発 ③英国政府の支援 などによるビジネス環境の魅力により、自動車でゲームチェンジ(イノベーション)が起こった時に勝つための準備ができつつあるようだ。

    
  テスラ電気自動車    BMW電気自動車    日産電気自動車   ジャガー電気自動車


  日産電気トラック    トヨタ・ヒノ燃料電池バス   トヨタ燃料電池列車   ホンダ燃料電池車

*5-1:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2017012590070133.html (東京新聞 2017年1月25日) 【経済】日本の車市場を狙い撃ち 日米貿易摩擦再燃の恐れ
 トランプ米大統領は二十三日、ホワイトハウスで環太平洋連携協定(TPP)から「永久に離脱する」とする大統領令に署名した。一方で「二国間の貿易協定を目指す」と明言、米国の利益を最優先にする米国第一主義に基づき、各国に市場開放を迫る方針を示した。日本については「日本との自動車貿易は不公平だ」と指摘しており、一九八〇年代から九〇年代にかけての日米自動車摩擦時のような厳しい交渉を強いられる可能性もある。「米国の労働者にとって非常に良いことだ」。トランプ氏は大統領令を掲げ、満足そうに語った。通商政策の司令塔となる新設の国家通商会議(NTC)のトップに就くカリフォルニア大のピーター・ナバロ教授らが見守った。政権が本格稼働した同日、ホワイトハウスで最初に署名した大統領令が、TPPからの永久離脱だった。続く労働組合の幹部らとの会合で「交渉参加国と二国間の貿易協定を目指す」と宣言した。署名の前には企業経営者らと会合。「われわれが自動車を売る際、日本が販売を難しくしている。だが、日本は米国で多くの自動車を販売している」と批判し、対日圧力を強める考えを示した。日本は自動車の関税を撤廃しているが、米国メーカーは燃費や安全規制が厳しいと主張してきた。トランプ氏は、大統領選挙戦では「ラストベルト」と呼ばれる中西部各州で、自動車産業などで働く白人労働者階級に「海外に奪われた仕事を取り戻す」とアピールし、彼らの支持を集めることで勝利の原動力とした。日本の自動車市場批判は米国から日本への輸出を増やし、支持層に報いる狙いがあるとみられる。トランプ氏の日本批判について菅義偉官房長官は二十四日のテレビ番組で「日本は関税ゼロで、事実誤認。米国メーカーも右ハンドルにするとか努力をすれば問題ない」と反論した。日本政府は米国との二国間交渉には否定的な立場で米国にTPPに加わるよう翻意を促す方針。日米首脳会談を二月上旬に行う方向で調整しており、安倍晋三首相はその場でもTPPの重要性を訴える考え。だが、逆にトランプ氏から二国間交渉の要求を突きつけられる可能性がある。TPPの事前協議に農林水産省の交渉官として携わった明治大の作山巧(たくみ)准教授は「多国間交渉では、大国でも主張を押し通せない場合があるが、二国間では理屈抜きに主張がぶつかり合うため、大国が優位になる」と指摘。二国間交渉になった場合、農産物や自動車で米国の圧力が強まると予想している。
<日米自動車摩擦> 1973年の第1次石油危機などを背景に米国で小型車の需要が高まり、日本車の輸入が増える一方、対応が遅れた米自動車メーカーは大きな打撃を受けた。米国内で対日感情が悪化し、日本車の輸入規制を求める動きが広がった。日本側は81年以降、対米輸出の自主規制を実施。93年に始まった日米包括経済協議で自動車は優先分野となり、95年に両国政府は日本市場への参入拡大などで合意した。摩擦を受けて日本自動車メーカーの海外進出が進んだ。
<米大統領令> 立法手続きを経ずに米大統領が直接、連邦政府機関や軍に発する命令。議会は大統領令の内容を覆したり修正したりする法律を制定することで対抗することができる。憲法に反する内容の場合は、最高裁が違憲判断を示して無効とすることもある。太平洋戦争開戦から約2カ月後の1942年2月19日にルーズベルト大統領が出した大統領令9066号は、日系人の強制収容につながった。 

*5-2:http://ieei.or.jp/2016/11/special201603013/ (国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院 教授 有馬 純 2016/11/15) トランプ政権の下で米国のエネルギー・温暖化政策はどうなるか
 米大統領選でドナルド・トランプ氏が当選したことは世界中を驚かせた。そのマグニチュードは本年6月の英国のEU離脱国民投票の比ではない。選挙キャンペーン中のトランプ氏の過激な言動や公約が、大統領就任後、どの程度実行に移されるのかは未知数である。しかし確実に言えることは米国のエネルギー温暖化政策が大きく様変わりするということである。
1.国内エネルギー生産の拡大、安価なエネルギー価格が中核
 トランプ氏のエネルギー政策の中核は国内エネルギー生産の拡大と米国のエネルギー自給の確立である。彼の「米国第一エネルギー計画(An America First Energy Plan)」注1) は以下の公約を列挙している。
●米国のエネルギー自給の確立、数百万の雇用創出
●50兆ドルにのぼる米国のシェール、石油、ガス、クリーンコール資源の開発
●OPECカルテルや米国の利害に敵対する国々からの輸入を不要に
●連邦所有地(陸域、海域)のエネルギー資源開発への開放
●排出削減、エネルギー価格の低下、経済成長につながる天然ガスその他の国産エネルギー源の使用を促進
●オバマ政権の雇用破壊的な行政措置を全て廃止し、エネルギー生産への障壁を削減・撤廃することにより、年間50万人の雇用創出、300億ドルの賃金引上げ、エネルギー価格の低下を図る
 またトランプ氏はAn American First Energy Plan の中で、オバマ政権の「反石炭的な規制」を引き継ぐクリントン氏を強く批判している。トランプ氏が10月に発表した「米国を偉大にするための100日行動計画(100-day Action Plan to Make America Great Again)」注2) では「米国の労働者を守るための7つの行動」の中で上記のエネルギー資源開発の促進に加え、「キーストーンパイプラインを含むエネルギーインフラプロジェクトに対してオバマ・クリントンが課した制約を撤廃する」としている。こうした彼のエネルギー関連の公約には、シェール開発で巨万の富を得たContinental Resources 社オーナーのハロルド・ハム氏が強い影響力を及ぼしているといわれる。ハロルド・ハム氏は以前から2012年の大統領選ではミット・ロムニー候補のエネルギー問題のアドバイザーを務めており、トランプ政権のエネルギー長官候補としても名前が挙がっている。またトランプ氏の移行チームの中でエネルギー省を担当するのはMWR Strategies社長のマイク・マッケンナ氏である。彼はエネルギー省、運輸省の対外エネルギー関係アドバイザーやバージニア州環境局の政策・対外関係局長の経験があり、MWR Strategies社はダウ・ケミカルやKoch Industries, TECO Energy, GDF Suez 等のためのロビイングを行っている。エネルギー長官候補として彼の名前を挙げる記事もある。

*5-3:http://www.cnn.co.jp/usa/35093713.html (CNN 2016.12.14) トランプ氏、エネルギー長官にペリー氏を指名へ 情報筋
米国のトランプ次期大統領は、新政権のエネルギー長官にリック・ペリー前テキサス州知事を指名する方針を固めたことが14日までに分かった。政権移行チームの複数の情報筋がCNNに語った。
ペリー氏は同州の共和党重鎮として知られ、2012年と今回の大統領選に名乗りを上げたものの撤退していた。12年の共和党指名レースでは3つの省庁を閉鎖するべきだと訴えたが、討論会でそのうち1つを思い出せずに立ち往生した。この省庁がまさにエネルギー省だった。今回の指名レースでは当初、トランプ氏批判の先頭に立ったものの、資金集めに行き詰まって昨年9月に撤退。その後はトランプ氏支持に回っていた。オバマ現政権下のエネルギー省は再生可能エネルギー開発事業への助成や融資などを通し、化石燃料からの方向転換を推進してきた。一方、トランプ氏は現政権のエネルギー政策を覆し、化石燃料の増産や環境規制の緩和を図る方針を打ち出している。規制の多くは環境保護庁の管轄下にあるが、エネルギー省も重要な役割を果たすことになる。連邦所有地での化石燃料掘削には内務省の許可が必要とされる。移行チームから13日に入った情報によると、新政権の内務長官にはエネルギー自給を主張し、環境保護団体から批判を浴びているライアン・ジンキ下院議員が就任する見通しとなった。

*5-4:http://special.nikkeibp.co.jp/as/201501/innovation_is_great/great4.html
 急速なグローバル化が進展する自動車産業の中で、英国の存在感が増している。その背景には3つのファクターが存在する。英国の自動車産業に詳しいリカルド ジャパン株式会社代表取締役社長の山本雄二氏に話を聞くことができた。同社は英国の自動車産業を代表する総合エンジニアリング企業であるリカルド社の日本法人だ。リカルド社は今年で創業100周年を迎える歴史を誇り、英国のみならず日本および世界の自動車メーカーと幅広くビジネスを展開している。
 第一のファクターは、グローバルな競争力をもつ製造業の集積である。「欧州では自動車の開発プロセスにも数多くのサプライヤーが関わります。自動車メーカーにとって、確固たる技術基盤をもったエンジニアリング企業の存在は必要不可欠になっています」と山本氏。同社が提供するエンジニアリング分野は幅広く、自動車分野だけでもパワートレイン開発、ワイヤハーネス設計、軽量化技術など、多岐にわたるソリューションを提供している。「およそ自動車メーカーができることはリカルド社もできると思っていただいて結構です」。さらに同社の大きな特徴に「戦略コンサルティング」が挙げられる。単に技術の提供だけでなく、商品企画段階から市場予測に基づく戦略的コンサルティングを行っているのだ。リカルド社は現在、ジャガー・ランドローバー社と長期的かつ包括的なサポート契約を結び、エンジン・車体開発の一部を担当している。また、マクラーレン・オートモーティブ社が製造する超高性能スポーツカー向けのエンジンを共同開発し、その生産まで請け負うなど、エンジニアリング企業の枠を超えた自動車メーカーとの関係を築いている。リカルド社のような企業の存在こそが、英国の自動車産業のイノバティブな躍進を支える大きな原動力と言えるだろう。
 第二のファクターは、世界最先端の専門知識だ。英国にはホンダ、日産、フォード、BMW、上海汽車、吉利汽車など、世界を代表する自動車メーカーが拠点を構え、研究開発を行う。リカルド社でも「既存のエンジン技術での資源の有効活用、低排出ガス(CO2抑制)などが求められるなかで、高効率ハイブリッドシステムやEV関連などの研究開発も行っています。特にバッテリーやモーターに関するソリューションを提供できるエンジニアリング企業は世界的に見ても少ないのが実情で、当社の強みの一つとなっています」とその先進性を語る。「英国には次世代のイノベーションが期待できる産官学連携のプログラムが数多く用意されています。当社でもいくつかの基礎研究分野において英国の大学との共同研究を行っています」。英国におけるイノバティブな産業育成プログラムといえば、前々回記事で紹介した、政府と産業界が資金を拠出する「カタパルト」が知られている。自動車関連では「高付加価値製造(HVM: High Value Manufacturing)カタパルト」によって多くの研究機関が連携するほか、輸送システムにおける将来のイノベーションの開発と展開を目指す「輸送システム・カタパルト」も積極的に活用されている。
 最後のファクターは、ビジネス環境としての英国の魅力である。英国政府は産業界と連携し、前出のカタパルトを補完しながら、将来の自動車技術を開発する企業を支援している。投資受け入れ先として英国自動車産業の魅力を高めることにも積極的だ。取り組みの一部を紹介する。
 ・先端推進システム技術センター(APC: Advanced Propulsion Centre )
  産官共同の自動車産業戦略の中心となり、今後10年間に10億ポンド(約1940億円)の資金を
  投じ、先端推進技術の開発、商業化の実現を促進。
 ・低排出車両庁(OLEV:Office for Low Emission Vehicles)
  超低公害車の初期市場を支援する政府横断的な組織。9億ポンド(約1740億円)超の資金を
  投入し、超低公害車の開発、製造および利用で世界の先頭に立ち、温室効果ガス排出と
  大気汚染の削減を促進。
 ・国立自動車イノベーションキャンパス(NAIC:National Auto Innovation Campus)
  政府、ジャガー・ランドローバーおよびタタ・モーターズによる9200万ポンド(約178億円)の構想。
  化石燃料依存を削減し、二酸化炭素排出を低減する新技術の開発を目指す。約1000名の研
  究者、科学技術者、エンジニアが働く。
 ・政府、ジャガー・ランドローバーおよびタタ・モーターズによる9200万ポンド(約178億円)の構想。
  化石燃料依存を削減し、二酸化炭素排出を低減する新技術の開発を目指す。約1000名の研
  究者、科学技術者、エンジニアが働く。
 英国に拠点を置く企業に対する税務上のインセンティブも大きい。英国の法人税は現在、G20諸国中で最も低い20%にまで引き下げられている。大幅な研究開発費控除(適格研究開発支出1 ポンドにつき最大27 ペンス控除)を提供しているほか、特許発明などのイノベーションから生じた利益に対して法人税率を軽減(10%)するパテントボックス税制も適用している。また、製造部門の労働費用も西欧諸国としては最も低い水準であり、人件費の面でもメリットがある。「グローバル化とともに、自動車メーカーが全てのリソースを自前で賄うのがむずかしい時代になりつつあります。すでに欧州がそうであるように、日本でも外部のエンジニアリング企業にアウトソースを求める時代が到来しつつあります。そうしたなかで、日本企業が英国および英国企業とパートナーシップを組むことは意義のあることだと思います」。グローバルな視座からマーケットを俯瞰し、ダイナミックに変化し続ける需要にフレキシブルに対応できる英国のビジネス環境。そこには新しいビジネスの可能性が広がっている。すでに新しい日英パートナーシップは走り出している。その象徴が、欧州最大の自動車生産工場である日産サンダーランド工場が製造する電気自動車「リーフ」である。2015年9月8日(火)~9月18日(金)、英国政府による「Innovation is GREAT~英国と創る未来~」のキャンペーンロゴをまとった日産リーフが、東京の英国大使館から全国ツアーに出発する。日本各地の観光名所、英国ゆかりの地を巡りながら、日英パートナーシップをアピールするという。日本F3に参戦する英国人ドライバー、ストゥラン・ムーア選手が運転することが既に決定している。


PS(2017年1月26日):*6のように、佐賀県内の追突事故の1割弱は自動前進機能が原因だそうだが、運転車が意図しないのに自動車が動き出すのはプログラムミスだ。そのため、オートマチック車の運転者に「停止中はニュートラルして、サイドブレーキを使うように」と言うよりは、オートマチック車のプログラムを変更した方がよいと考える。また、確かに警察が集計した交通事故原因を参考にして改良すれば「運転支援システム」や「自動運転機能」の完成に役立つだろうし、事故が起こった際の関係者の怪我を集計すれば、車体の安全性における改良ができるだろう。

*6:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/399034
(佐賀新聞 2017年1月26日) 県内の追突事故、1割弱が「自動前進」原因、県警「サイドブレーキを」
 佐賀県内で昨年1年間に発生した追突事故のうち316件(8.7%)が、ブレーキから足を離すと自動的に進む「クリープ現象」によるものだったことが県警の集計で分かった。オートマチック車の運転者にサイドブレーキの徹底を促している。25日の定例会見で説明した。交通安全企画課によると、信号待ちなどで停止した際、後部座席のチャイルドシートを見ていて踏みが弱くなり追突したケースや、ブレーキペダルを踏む筋力自体の衰えでぶつかった高齢ドライバーもいた。同課は「ゆっくりとした前進でも大きな事故につながる可能性はある」と指摘し、「停止中は車間距離を十分取ってニュートラルの状態にし、サイドブレーキを引くことを徹底してほしい」と呼び掛けている。追突事故を原因別で見ると、脇見などの前方不注意が最も多く2378件(65.1%)。次いで歩行者らへの注視を怠った事例が744件(20.4%)、クリープ現象を含むブレーキ操作に起因するケースが435件(11.9%)だった。


PS(2017年1月27日追加):ゴーン社長率いる日産・ルノー組が世界で最初にEVを開発したが、日本の政府・メディアは航続距離が短いなどの批判ばかりを行ってディーゼル車やガソリン車への回帰を進め、EVの短所解決に協力することはなかった。そのため、*7のように、EVで世界の第一線から外れたのであり、日本の技術は、ハンドルを握っている文系の愚(中等・高等教育や組織構成に問題があると思われる)により、世界から遅れて初めてエンジンをかけられるというお粗末さなのである。なお、PHVは、ガソリンエンジンを併用しているため、部品が多くてコストダウンできず、車内も従来のガソリン車と同様なので、EVのメリットが出ない。

*7:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12767174.html (朝日新聞 2017年1月27日) ホンダ、EV開発に注力 燃料電池車の普及進まず
 ホンダが、出遅れた電気自動車(EV)の開発に本腰を入れ始めた。水素で走る燃料電池車(FCV)を「究極のエコカー」と位置づけてきたが、FCVの普及が進まず、米国で今秋に始まる環境規制への対応も急務となっているためだ。「EVをやめたわけではない」。昨年12月、早稲田大で講演したホンダの八郷隆弘社長は、「なぜEVに力を入れないのか」と質問した学生にこう強調した。社外には公表していないが、昨年10月、開発部門ごとに散らばっていたEVの技術者を集め、専門組織を新設。四輪車開発の責任者の直属とし、米国で今年売り出すEVの仕上げや、次世代のEV開発に当たらせている。ホンダは昨年3月、FCV「クラリティ フューエルセル」のリース販売を始めたが、初年度の国内販売計画は200台。米国も当面はカリフォルニア州の12店舗だけでの販売で、普及にはほど遠い。一方のライバルは、日産自動車がEV「リーフ」を世界で約25万台売った。同じくFCV重視だったトヨタ自動車も昨年11月、2020年をめどにEV量産を目指すことが判明した。米カリフォルニア州で今秋発売の18年モデルから始まる規制強化も、ホンダにEV開発を迫る背景だ。排ガスのない車(ZEV〈ゼブ〉)をより多く売り、一定の「点数」を稼ぐ必要があるが、ホンダなど日本勢が得意のハイブリッド車(HV)はZEVから外れた。三菱UFJモルガン・スタンレー証券によると、18年モデルでホンダが規制を達成するための販売の水準はEV約3千台、FCV約1千台、プラグインハイブリッド車(PHV)約8千台と厳しい。点数を満たせなければ罰金を支払うか、超過達成した他社から点数を買わなければならない。日産のようなEVの量産経験に乏しく、研究開発費がトヨタより3割少ないホンダにとって、EVとFCVとの「二正面作戦」が重荷になる可能性もある。ただ、ホンダが12年からリース販売した小型車「フィット」のEVは、開発にHVやFCVの知見を生かし、一度の充電で走れる距離を当時の世界最高水準にした。広報担当者は「技術で他社より遅れているとは思わない」と話す。
■自動車大手3社はZEV規制への対応を急ぐ
<ホンダ>
●従来の主なエコカー/クラリティ フューエルセル(FCV)
●累計世界販売/年200台以上を予定(16年3月発売)
●米国のZEV規制への対応/16年にクラリティ、17年にクラリティの車台を使ったEVとPHVを投入
<トヨタ自動車>
●従来の主なエコカー/ミライ(FCV)
●累計世界販売/約2300台(14年12月発売)
●米国のZEV規制への対応/ミライに加え、「プリウスPHV」の2代目を投入。20年メドにEV量産
<日産自動車>
●従来の主なエコカー/リーフ(EV)
●累計世界販売/約25万台(10年12月発売)
●米国のZEV規制への対応/リーフで対応。近い将来にリーフは全面改良し、傘下の三菱自動車のPHV技術も導入


PS(2017年1月29日追加):台湾には、17世紀頃に中国福建省の人が移民して来る前から居住していた先住民がおり、第二次世界大戦後に日本に代わって台湾を統治した中華民国政府は、1949年2月7日に蒋介石率いる中国国民党が台湾島に来たことにより実効支配するようになったものである。そのため、*8-1のように、中国から「日本が台湾を侵略したことを忘れたのか」と批判されるのはおかしい上、日本が侵略したとされる他国と異なり、台湾の人々は親日的な人が多いのだ。
 また、*8-2のように、厚労省の発表では、2016年10月末時点の外国人労働者は108万人で、(労働条件は改善すべき点が多いものの)中国からの34万4,658人が最も多く、日本は中国へのODAもかなりやってきたため、「日本が中国を侵略した」ということを、いつまでも外交カードに使ってもらいたくない。さらに、私は個人的に、中国はスケールが大きく将来性もある国だが、民主国家とは言えず、まだ公害が多くて人権が疎かにされているため、安心して住めないような気がしている。 

*8-1:http://mainichi.jp/articles/20170129/k00/00e/030/107000c (毎日新聞 2017年1月29日) 台湾、蔡英文総統が英語と日本語でツイート 内外に波紋
 台湾の蔡英文総統が28日の春節(旧正月)に合わせて英語と日本語で新年のあいさつをツイッターで投稿したところ、中国から「なぜ中国語で書かないのか」と批判の書き込みが相次いだ。これに対し日本や台湾からも反論が投稿され、激論となった。台湾紙、自由時報(電子版)が28日、伝えた。蔡氏は大みそかにあたる27日、英語と同時に日本語で「日本の皆様、今年は実のある素晴らしい一年となりますよう、心よりお祈り致します」と書いた。中国からは「ごますり」「日本が台湾を侵略したことを忘れたのか」などと批判が殺到した。

*8-2:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201701/CK2017012802000113.html (東京新聞 2017年1月28日) 外国人労働者108万人 昨年10月末 技能実習生、受け入れ拡大
 厚生労働省は二十七日、二〇一六年十月末時点の外国人労働者数が初めて百万人を突破し、百八万三千七百六十九人になったと発表した。前年比で19・4%増加し、企業に届け出を義務付け集計を始めた〇八年以来最多となった。全体の増加率はこれまでで最も大きく、全ての都道府県で前年の人数を上回った。人口減少で人手不足感が強まる中、外国人労働者に頼る流れは続くとみられるが、欧米諸国では外国人居住者の増加が国を二分する論争になっている。日本でも受け入れを巡り国民的な議論が必要となりそうだ。人手不足から高い技能を持つ人材や留学生アルバイトの受け入れが増えたほか、安価な労働力との批判がある技能実習生の大幅増も全体を引き上げた。国籍別で最多は中国の三十四万四千六百五十八人で前年比6・9%増。次いでベトナムが十七万二千十八人で56・4%増加し、留学生によるアルバイトや技能実習生が多くを占めた。フィリピンが十二万七千五百十八人で続いた。ネパールはベトナムに次ぐ増加率(35・1%)だった。都道府県別では、東京が最多で三十三万三千百四十一人、愛知が十一万七百六十五人、神奈川が六万百四十八人だった。

| 経済・雇用::2016.8~2017.12 | 02:51 PM | comments (x) | trackback (x) |
2017.1.13 武器の高度化に合わせて強化されるわけではない人類に本能として組み込まれた抑制機能の限界と安全保障 (2017年1月14、17、20、23日、2月2、3、6日に追加あり)
     
安保法制で広がる 今回の共謀罪法案        共謀罪導入の効果          共謀罪の
 自衛隊の活動  2016.8.25朝日新聞                           これまでの経緯

(図の説明:「自衛のための戦争」という理屈はどうにでもつくだろうが、行き過ぎた集団的自衛権の行使や他国軍の後方支援は、実際には自衛の範囲ではなく憲法9条違反だ。また、“テロリスト”と呼ばれている人たちの中にも、自分の領域を護るための闘いをしている人もいるため、双方の事情を公正に見ることなく外国で戦争をすれば、恨みを買って日本国内も危なくなる。そして、“テロリスト”を未然に逮捕するためとして何度も国会に提出されている“共謀罪”は、刑法や日本国憲法の理念に反しており、人権侵害を引き起こす可能性が高い)

(1)人間(動物の一種)に備わっている攻撃本能と抑制本能について
 動物(特にオス)には、縄張りを護ったり、自分のDNAを遺すためにメスを獲得したりするため、攻撃の本能を持つものが多い(「攻撃」:コンラート・ローレンツ《動物行動学者》著 参照)。そのうち、ライオンのように強い動物のオスは、種を滅亡させないための淘汰圧も働くので、負けた相手が逃げれば追わない抑制本能も兼ね備えている。

 一方、人間は、進化の上では、こぶしや石斧・剣程度の武器にしか攻撃抑制本能が対応していないのに、*3-3のように、強力な武器を使うようになったため、進化で獲得された攻撃本能や抑制本能が武器についていっていない。そのため、空爆のように、攻撃している相手が見えなくなれば攻撃しやすく、近代戦争ほど悲惨さの度合いが大きくなった。

 そして、核兵器はボタンを押すだけで相手の苦しみを見ずに多くの人を殺せるため、その極致なのだが、地球を汚染して自分をも苦境に陥らせる。しかし、攻撃している最中はそれに気づかず、気がついた時には自分も人類も終わっていることになりかねない。また、核兵器が抑止力になるというのも、私には信用できないため、そのような危険すぎる武器は、唯一の被爆国である日本が率先して廃絶に持って行って欲しいと願っている。

(2)世界と日本の核政策
 そして、2016年8月、*1-1のように、国連核軍縮作業部会が、核兵器禁止条約の交渉を来年中に開始するよう国連総会に勧告する報告書を採択し、*1-2のように、米国のオバマ大統領が「核なき世界」訴えたが、被爆国としてリーダーシップを取るべき日本は、*1-3のように、後ろ向きだった。

 しかし、国連総会第1委員会(軍縮)は、2016年10月27日、核兵器禁止条約に向けた交渉を2017年に開始するよう求める決議案を賛成多数で採択し、123カ国が賛成したが、日本や核兵器保有国の米英仏露など38カ国が反対し、中国を含む16カ国が棄権したそうだ。その決議案は、オーストリアやメキシコなどの57カ国が共同提案し、総会本会議で採択される見通しだそうで、これらの国々は立派だ。

 日本は北朝鮮の核・ミサイル開発を理由として反対したそうだが、北朝鮮の敵は本来は日本ではない筈で、核兵器廃絶にリーダーシップを取るべき日本が北朝鮮を理由に反対するのはどうかと思う。

(3)他の国は・・
 北朝鮮は、*2-1のように、使用済核燃料を再処理して核兵器の原料となるプルトニウムを新たに生産したことを明らかにし、弾頭の「小型化、軽量化、多種化」を達成して水爆保有に至ったと主張し、「米国が核兵器でわれわれを恒常的に脅かしている条件下では核実験を中断しない」としており、言っていることはわかるが、何度も日本海に落下させられると日本海が汚染されるので困る。また、電力不足を解決するため軽水炉原発の建設も進めるとしているが、北朝鮮が発電に原発を使う必要はないだろう。

 そして、日本海は狭くて湖のような海である上、食料となる魚介類の宝庫でもあるため、環日本海諸国で「日本海汚染防止条約」を結ぶのがよいと考える。

 なお、*2-2のように、パキスタンは、「包括的核実験禁止条約の署名や批准が求められれば、インドとともに検討せざるを得ない」と述べ、パキスタンとインドが包括的核実験禁止条約の署名に応じれば、核兵器なき世界へと大きく前進するそうだ。

(4)シリア等の空爆
 *3-1のように、シリアの空爆で顔中が血とほこりにまみれた5歳の少年が、茫然と前を見つめている姿に動揺と非難が沸き起こったそうだが、助けられずに建物の下敷きになっている人は無数にいる筈だ。そして、空爆している国は、*3-2のように、ロシアだけではなく、米国や有志連合もだ。

(5)日本の武器輸出
 経団連は、*4-1のように、安全保障関連法の成立で自衛隊の役割が拡大し、「防衛産業の役割は一層高まるので武器輸出推進を」と提言したそうだ。しかし、「Made in Japan」の武器が世界に出回れば、日本の平和ブランドがなくなり、その武器で攻撃された国から恨みを買うという大きなつけを支払わされる。そのため、*4-2のような武器輸出は控えるべきで、儲かるからやってよいというものではない。

(6)安保法と共謀罪
 日米両政府は、*5-1のように、2015年4月27日に防衛協力のための指針(ガイドライン)を改定し、自衛隊の活動を制限してきた日米協力は転機を迎えて、沖縄県の尖閣諸島も日米安全保障条約5条の適用範囲にあるとしたそうだが、これは大統領が変わっても確かだろうか。

 また、*5-2のように、集団的自衛権を行使できるようにする安全保障関連法を2015年3月29日に施行し、日本が専守防衛を転換して世界のどこへでも行けるようにしたのは日本国憲法違反だ。

 さらに、どちらにも理があるのに、どちらかについて外国で戦争をすると、恨みを買うことになる。そうすると、日本でもテロが起きる可能性が増して、*5-3のように、「共謀罪」などを整備せざるを得ないことになる。そのため、安全保障法制の強化は抑止力を増したのではなく、リスクを上げたのである。

 そして、日本政府は、テロ対策を口実に、「共謀罪」又は「テロ等準備罪」をしつこく提出しているが、「共謀罪」関連法案は過去3回にわたって提出され、捜査当局の拡大解釈で「一般の市民団体や労働組合も対象になる」「内心や思想を理由に処罰される」との批判を浴びて廃案になったものだ。

 今回は676の罪(テロ関連は167件)に対象を絞り込んだそうだが、「その他」というジャンルもあり、捜査当局が拡大解釈して共謀罪の範囲だと強弁することは容易であるため、実際に犯行が行われていないのに罪とするのは、刑法の理念にも日本国憲法の内容にも反する。また、*5-4のように、「共謀罪」を東京五輪対策とするのは、幼稚な口実だ。

<世界と日本の核政策>
*1-1:http://mainichi.jp/articles/20160820/k00/00e/040/245000c (毎日新聞 2016年8月20日) 核禁止条約:.広島の被爆者「核廃絶への一歩」 報告書採択
 国連核軍縮作業部会が、核兵器禁止条約の交渉を来年中に開始するよう国連総会に勧告する報告書を採択したことについて、広島の市民団体や被爆者らは「核廃絶への一歩」と歓迎。今後の議論が前進するよう後押しする構えだ。市民団体「核兵器廃絶をめざすヒロシマの会」共同代表の森滝春子さん(77)は「核拡散防止条約(NPT)の枠組みでは核兵器廃絶は前進しないと分かってきた中で、報告書の採択は今後に展望が持てる」と歓迎し、「秋の国連総会でどう取り入れるかが重要。志のある国、市民、NGOが連携してここまできた。さらに連携を強めたい」と話した。一方、広島県被団協(坪井直理事長)の箕牧智之副理事長(74)は「一歩前進だが、安心はできない」と複雑な表情。米ニューヨークで昨年あったNPT再検討会議で最終文書案が採択できなかった経緯があり、核保有国と非保有国との溝は深いと感じているからだ。「本来、被爆国としてリーダーシップを取るべき日本政府が後ろ向きな態度なのが、被爆者としてとてもはがゆい。『核の傘』への依存からチェンジする勇気を持ってほしい」と求めた。 もう一つの県被団協の佐久間邦彦理事長(71)は「核保有国と非保有国の溝を埋めるため、私たち市民も世論という形でこの動きを後押ししたい」と話した。

*1-2:http://mainichi.jp/articles/20160921/k00/00m/030/141000c (毎日新聞 2016年9月21日) オバマ大統領、「核なき世界」訴え 最後の国連演説
 国連総会の一般討論演説が20日午前(日本時間同日夜)、ニューヨークの国連本部で始まり、オバマ米大統領が任期中最後の演説に臨んだ。オバマ氏は「分断された世界に後退するのか、より協調的な世界に進むのか岐路にある」と述べた。地球温暖化や、難民問題など、地球規模で取り組む課題が増えており、解決するためには国際協調がさらに重要になると訴えた。オバマ氏は2009年1月の就任から7年半に及ぶ外交を総括し、「核兵器のない世界を追求しなければならない」と改めて主張。米国をはじめとする核保有国は「核兵器を削減する必要があり、核実験を二度としないという国際的な約束を確認しなければならない」と主張した。今月9日に5回目の核実験を強行した北朝鮮については「報いを受ける必要がある」と圧力強化の必要性を強調した。ただ、今年5月に被爆地・広島を訪問した以外は「核なき世界」に向けた具体的な実績がなく、道半ばでの最後の演説となった。また、原理主義的な考えや人種差別を拒否し、人権にもとづいた国際協力を進めることが重要と指摘。南シナ海の権益をめぐる問題については、平和的に解決する必要があると訴えた。経済分野では、国際化の進展で貧困率が下がる効果があったことを紹介し、経済のグローバル化を否定する動きをけん制した。環境規制の強化や環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の実現、経済的格差の縮小が必要と訴えた。

*1-3:http://mainichi.jp/articles/20161028/k00/00e/030/166000c (毎日新聞 2016年10月28日) 国連:核兵器禁止交渉決議を採択 日本は反対
 国連総会第1委員会(軍縮)は27日(日本時間28日)、核兵器禁止条約に向けた交渉を2017年に開始するよう求める決議案を賛成多数で採択した。123カ国が賛成し、日本や核兵器保有国の米英仏露など38カ国が反対した。中国を含む16カ国は棄権した。同案を推進してきた非核保有国は保有国の反発を押し切り、核兵器を禁止する国際的な法的枠組み作りを目指して一歩を踏み出した。決議案はオーストリアやメキシコなど少なくとも57カ国が共同提案した。今年中にも総会本会議で採択される見通し。核兵器の非人道性を強調し法的に禁止する国際条約を作って、核兵器廃絶への動きの推進を図る。交渉は、来年3月27~31日と6月15日~7月7日に、ニューヨークの国連本部で実施。核兵器の開発や実験、製造、保有や使用など、具体的に何を禁じるかも討議する。国際機関や非政府組織(NGO)も参加できる。日本の岸田文雄外相は28日午前の記者会見で、反対理由について、北朝鮮の核・ミサイル開発の深刻化に言及しつつ、「核兵器国と非核兵器国の対立を一層助長する」と説明。ただ、交渉には積極的に参加する意向も示した。今回の決議が採択された背景には、米国やロシアなど核兵器保有国による核軍縮の停滞がある。この10年、核軍縮交渉の後押しを目指す一部の非核保有国は、核兵器の非人道性を強調して使用に法的な歯止めをかける「人道的アプローチ」を推進し、世界的な潮流の形成を図ってきた。こうした中、15年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議で最終文書を採択できなかったことから、現状の核軍縮への取り組みに対する不満がさらに強まっていた。核兵器の法的禁止を目指す非核保有国の動きに対し、保有国は激しく反発。米国は、米国の「核の傘」が持つ抑止力に悪影響を及ぼすと主張。同盟国である北大西洋条約機構(NATO)諸国やアジア諸国に、採決での反対投票と交渉不参加を呼びかけた。一方、日本が提出した核兵器廃絶決議案も27日、賛成多数で採択された。

<他の国は・・>
*2-1:http://www.chunichi.co.jp/article/front/list/CK2016081802000055.html
(中日新聞 2016.8.18) 北朝鮮、核再処理認める 核兵器増産可能に
 北朝鮮の原子力研究院は十七日、共同通信に対し「黒鉛減速炉(原子炉)から取り出した使用済み核燃料を再処理した」と表明、寧辺(ニョンビョン)の核施設で核兵器の原料となるプルトニウムを新たに生産したことを明らかにした。北朝鮮が六カ国協議合意に基づき停止していた原子炉の再稼働を二〇一三年に表明して以降、再処理実施を公式に認めたのは初めて。核兵器増産が可能になったことを意味する。核実験は中断しないとし、濃縮ウランの核兵器利用も明言した。共同通信の取材に書面で回答した。核開発を担当する原子力研究院が外国メディアの取材に応じたのは初めて。国際社会の制裁下でも、核兵器開発を加速させる姿勢をアピールする狙いがあるとみられる。北朝鮮は六カ国協議合意に基づき〇七年七月に原子炉や再処理施設の稼働を停止。その後、主要部品を取り外すなどの「無能力化措置」に応じたが、今回の再処理再開で合意は完全に白紙に戻ったことになる。原子力研究院は、核弾頭の「小型化、軽量化、多種化」を達成、水爆保有に至ったとも主張。プルトニウムや濃縮ウランの生産量については明らかにしなかった。「米国が核兵器でわれわれを恒常的に脅かしている条件下で、核実験を中断しない」と強調し、五回目の核実験をいずれは行う立場を表明。ウラン濃縮については「核武力建設と原子力発電に必要な濃縮ウランを計画通りに生産している」と述べ、核兵器に使われる高濃縮ウランを生産していることも認めた。また、電力不足を解決するため軽水炉原発の建設を進めるとし、出力十万キロワットの実験用軽水炉の建設を推進していると明らかにした。クラッパー米国家情報長官は今年二月、衛星写真の分析などに基づき、北朝鮮が数週間から数カ月内にプルトニウム生産が可能な段階にあるとの分析を明らかにしており、これが裏付けられた。米専門家らは一年間で核兵器一~三個分に相当するプルトニウム約六キロ前後を追加生産することが可能とみている。
◆原子力研究院の回答骨子
▼プルトニウム生産のため使用済み核燃料を再処理した
▼米国が核兵器でわれわれを脅かしているため、核実験を中断しない
▼核武力建設と原子力発電に必要な濃縮ウランを生産している
▼核弾頭は既に小型化、軽量化、多種化されており、水爆まで保有
▼電力問題の解決のため出力10万キロワットの実験用軽水炉の建設を推進
<原子力研究院> 北朝鮮で原子力関連の研究や実験などを行う国家機関。核開発と経済建設を並行して推進する「並進」路線が国家方針とされたのを受け、2013年4月の政令で内閣に設けられた原子力工業省に所属する。核燃料棒工場や、プルトニウム生産に使われる黒鉛減速炉などの施設を管轄する。

*2-2:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/355958
(佐賀新聞 2016年9月15日) パキスタン、核実験禁止署名検討、NSG加入で「インドとともに」
 核拡散防止条約(NPT)未加盟国パキスタンのアハタル外務省軍縮局長は14日、核技術などの輸出を管理する「原子力供給国グループ」(NSG)の加入条件として、包括的核実験禁止条約(CTBT)の署名や批准が求められれば「インドとともに検討せざるを得ない」と述べた。共同通信とのインタビューで語った。オバマ米政権は、あらゆる国に爆発を伴う核実験の自制を求める国連安全保障理事会決議の草案を全理事国に配布。北朝鮮の核実験が脅威となる中、NSG加入を目指すNPT未加盟国パキスタンとインドがCTBTの署名などに応じれば「核兵器なき世界」へ大きく前進する。

<空爆>
*3-1:http://jp.reuters.com/article/syria-boy-video-idJPKCN10U091
(ロイター 2016.8.18) シリア空爆で流血の5歳男児映像、SNSで動揺と非難広がる
 顔中が血とぼこりにまみれた小さな少年が、静かに腰かけ、ただぼう然とまっすぐに前を見つめている。シリアの都市アレッポで、空爆とみられる攻撃が起きた後のことだ。救急車の中にたった1人で座っているこの少年は、医師らが確認したところによると、オムラン・ダクニシュちゃん(5)で、頭から流れる血をぬぐおうとしている。受けたけがには気づいていない。空爆に直撃された建物のがれきから救出された子どもたちの動画がソーシャルメディアで拡散し、5年にわたるシリア内戦の悲惨な現実に動揺と非難が沸き起こっている。アレッポは反体制派と政府が支配する地域に分かれており、激戦地となっている。2週間前に奪われたアレッポ南西の地域を奪還すべく、政府軍は連日のように反体制派が支配する地域を激しく空爆している。動画は17日、市内の反体制派が支配する地域で撮影された。動画には、救急隊員が建物から少年を救出し、救急車の座席に座らせる様子が映し出されている。2人の子どもがさらに救急車に乗ってくるまで、少年は放心した様子で1人座っている。その後、救急車には顔中血だらけの男性も乗ってくる。昨年は、溺死したシリア難民のアイラン・クルディちゃん(当時3歳)の写真がソーシャルメディアを駆け巡り、シリア内戦の犠牲者に対する同情が世界的に高まった。

*3-2:http://www.cnn.co.jp/special/interactive/35074449.html
(CNN 2015年11月) ISISを空爆している国はどこか
 パリ同時多発テロの発生後、米国と有志連合は過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」の掃討作戦の強化に向けた動きを見せている。米国と有志連合は2014年8月以来、ISISへの攻撃を続けている。ロシアなど有志連合に参加していない国も空爆を行っている。トルコやヨルダン、サウジアラビアといったアラブ諸国も規模は小さいが空爆を実施している。
●米国と有志連合
 米国防総省のカーター長官は下院の委員会で、イラクでの攻撃を増やすため特殊遠征部隊を派遣する方針を示している。米当局者によれば、この決断は、イラクでISISと戦うために展開している米特殊部隊が増強されることを意味している。オバマ米大統領は10月、シリアでの対ISIS作戦の支援に向けて、「50人未満」の特殊部隊を派遣することを承認していた。米国防総省によれば、11月19日までに、米国と有志連合はISISを標的に、イラクで5432回、シリアで2857回、計8289回の空爆を行っている。両国に対する空爆の多くは米国が単独で行った。その数は6471回に上る。米国以外がイラクとシリアで1818回の空爆を行った。有志連合には、英仏のほかにもオーストラリアやベルギー、カナダ、デンマーク、オランダ、バーレーン、アラブ首長国連邦(UAE)も参加している。有志連合による空爆の大部分(約66%)はイラクの目標に向けて行われた。イラクとシリアで現在行われている有志連合による空爆について知っていることの多くは、米軍からの情報提供による。空爆は米中央軍(CENTCOM)によって実施されている。米国以外の各国がISIS掃討のための空爆をどれだけ行っているのか正確に知ることは難しい。各国がそれぞれに報告を行い、そのタイムテーブルもばらばらなためだ。有志連合を率いる米国は、情報公開について各国の裁量に任せている。例えば、カナダは、シリアで実施した全ての空爆について報告を行っている。空爆の情報を集めている非営利組織「エアウォーズ」によれば、オーストラリアは毎月報告を行っているが、イラクの正確な目標については情報提供していない。エアウォーズによれば、2014年の晩夏に空爆が始まった当初、フランスの空爆に関する透明性はかなりの水準を目指していたという。仏国防省は24時間以内に空爆について報告を行い、使われた戦闘機や武器、目標などの詳細を明らかにしていた。フランスは現在、週ごとの報告となり、標的の場所もほとんど明らかにされなくなったという。
●ロシアがISISを標的に
 ロシアは今秋、シリアで空爆を開始した。しかし、トルコがロシア機を撃墜した後は複雑な状況となっている。トルコのエルドアン大統領はロシア機は領空を侵犯したと主張。一方、ロシアのプーチン大統領は、ロシア機撃墜について、ISISとの石油密輸を守るためだったとトルコを非難している。プーチン氏によれば、撃墜されたロシア機はシリアでISISへの攻撃を実行しようとしていた。ロシアは9月下旬から10月上旬にかけて、戦闘機や戦車、戦闘ヘリなどをシリアに移送した。ロシア海軍はまた、10月上旬にシリアの目標に対する攻撃を開始した。ロシアはISISを標的に攻撃を行っているとしているが、米国などは、空爆の多くは、ロシアの友好国であるシリアの政府軍と戦う反体制派を攻撃したものだとみている。10月31日、ロシアの旅客機がエジプトで墜落し乗客乗員224人が死亡した。ISISが旅客機を爆破したと犯行声明を出した。パリ同時多発テロの5日後、ロシアはラッカを爆撃した。

*3-3:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12550433.html (朝日新聞 2016年9月9日) (インタビュー)戦場に立つということ 戦場の心理学の専門家、デーブ・グロスマンさん
 戦場に立たされたとき、人の心はどうなってしまうのか。国家の命令とはいえ、人を殺すことに人は耐えられるものか。軍事心理学の専門家で、長く人間の攻撃心について研究してきた元米陸軍士官学校心理学教授、デーブ・グロスマンさんに聞いた。戦争という圧倒的な暴力が、人間にもたらすものとは。
――戦場で戦うとき、人はどんな感覚に陥るものですか。
 「自分はどこかおかしくなったのか、と思うようなことが起きるのが戦場です。生きるか死ぬかの局面では、異常なまでのストレスから知覚がゆがむことすらある。耳元の大きな銃撃音が聞こえなくなり、動きがスローモーションに見え、視野がトンネルのように狭まる。記憶がすっぽり抜け落ちる人もいます。実戦の経験がないと、わからないでしょうが」
――殺される恐怖が、激しいストレスになるのですね。
 「殺される恐怖より、むしろ殺すことへの抵抗感です。殺せば、その重い体験を引きずって生きていかねばならない。でも殺さなければ、そいつが戦友を殺し、部隊を滅ぼすかもしれない。殺しても殺さなくても大変なことになる。これを私は『兵士のジレンマ』と呼んでいます」「この抵抗感をデータで裏付けたのが米陸軍のマーシャル准将でした。第2次大戦中、日本やドイツで接近戦を体験した米兵に『いつ』『何を』撃ったのかと聞いて回った。驚いたことに、わざと当て損なったり、敵のいない方角に撃ったりした兵士が大勢いて、姿の見える敵に発砲していた小銃手は、わずか15~20%でした。いざという瞬間、事実上の良心的兵役拒否者が続出していたのです」
――なぜでしょう。
 「同種殺しへの抵抗感からです。それが人間の本能なのです。多くは至近距離で人を殺せるようには生まれついていない。それに文明社会では幼いころから、命を奪うことは恐ろしいことだと教わって育ちますから」「発砲率の低さは軍にとって衝撃的で、訓練を見直す転機となりました。まず射撃で狙う標的を、従来の丸型から人型のリアルなものに換えた。それが目の前に飛び出し、弾が当たれば倒れる。成績がいいと休暇が3日もらえたりする。条件付けです。刺激―反応、刺激―反応と何百回も射撃を繰り返すうちに、意識的な思考を伴わずに撃てるようになる。発砲率は朝鮮戦争で50~55%、ベトナム戦争で95%前後に上がりました」
    ■     ■
――訓練のやり方次第で、人は変えられるということですか。
 「その通り。戦場の革命です。心身を追い込む訓練でストレス耐性をつけ、心理的課題もあらかじめ解決しておく。現代の訓練をもってすれば、我々は戦場において驚くほどの優越性を得ることができます。敵を100人倒し、かつ我々の犠牲はゼロというような圧倒的な戦いもできるのです」「ただし、無差別殺人者を養成しているわけではない。上官の命令に従い、一定のルールのもとで殺人の任務を遂行するのですから。この違いは重要です。実際、イラクやアフガニスタン戦争の帰還兵たちが平時に殺人を犯す比率は、戦争に参加しなかった同世代の若者に比べてはるかに低い」
――技術進歩で戦争の形が変わり、殺人への抵抗感が薄れている面もあるのでは?
 「ドローンを飛ばし、遠隔操作で攻撃するテレビゲーム型の戦闘が戦争の性格を変えたのは確かです。人は敵との間に距離があり、機械が介在するとき、殺人への抵抗感が著しく低下しますから」「しかし接近戦は、私の感覚ではむしろ増えています。いま最大の敵であるテロリストたちは、正面から火砲で攻撃なんかしてこない。我々の技術を乗り越え、こっそり近づき、即席爆弾を爆破させます。最前線の対テロ戦争は、とても近い戦いなのです」
――本能に反する行為だから、心が傷つくのではありませんか。
 「敵を殺した直後には、任務を果たして生き残ったという陶酔感を感じるものです。次に罪悪感や嘔吐(おうと)感がやってくる。最後に、人を殺したことを合理化し、受け入れる段階が訪れる。ここで失敗するとPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症しやすい」「国家は無垢(むく)で未経験の若者を訓練し、心理的に操作して戦場に送り出してきました。しかし、ベトナム戦争で大失敗をした。徴兵制によって戦場に送り込んだのは、まったく準備のできていない若者たちでした。彼らは帰国後、つばを吐かれ、人殺しとまで呼ばれた。未熟な青年が何の脅威でもない人を殺すよう強いられ、その任務で非難されたら、心に傷を負うのは当たり前です」「PTSDにつながる要素は三つ。(1)幼児期に健康に育ったか(2)戦闘体験の衝撃度の度合い(3)帰国後に十分なサポートを受けたか、です。たとえば幼児期の虐待で、すでにトラウマを抱えていた兵士が戦場で罪のない民を虐殺すれば、リスクは高まる。3要素のかけ算になるのです」
――防衛のために戦う場合と、他国に出て戦う場合とでは、兵士の心理も違うと思うのですが。
 「その通り。第2次大戦中、カナダは国内には徴兵した兵士を展開し、海外には志願兵を送りました。成熟した志願兵なら、たとえ戦場体験が衝撃的なものであったとしても、帰還後に社会から称賛されたりすれば、さほど心の負担にはならない。もし日本が自衛隊を海外に送るなら、望んだもののみを送るべきだし、望まないものは名誉をもって抜ける選択肢が与えられるべきです」「ただ、21世紀はテロリストとの非対称的な戦争の時代です。国と国が戦った20世紀とは違う。もしも彼らが核を入手したら、すぐに使うでしょう。いま国を守るとは、自国に要塞(ようさい)を築き、攻撃を受けて初めて反撃することではない。こちらから敵の拠点をたたき、打ち負かす必要がある。これが世界の現実です」
――でも日本は米国のような軍事大国と違って、戦後ずっと専守防衛でやってきた平和国家です。
 「我々もベトナム戦争で学んだことがあります。世論が支持しない戦争には兵士を送らないという原則です。国防長官の名から、ワインバーガー・ドクトリンと呼ばれている。国家が国民に戦えと命じるとき、その戦争について世論が大きく分裂していないこと。もしも兵を送るなら彼らを全力で支援すること。これが最低限の条件だといえるでしょう」
     ■     ■
――気になっているのですが、腰につけたふくらんだポーチには何が入っているのですか。
 「短銃です。私はいつも武装しています。いつでも立ち上がる用意のある市民がいる間は、政府は国民が望まないことを強制することはできない。武器を持つ、憲法にも認められたこの権利こそが、専制への最大の防御なのです」
――でも銃があふれているから銃撃事件が頻発しているのでは?
 「日本の障害者施設で最近起きた大量殺人ではナイフが使われたそうですね。我々は市民からナイフを取り上げるべきでしょうか」
――現代の戦争とは。
 「戦闘は進化しています。火砲の攻撃力は以前とは比較にならないほど強く、精密度も上がり、兵士はかつてなかったほど躊躇(ちゅうちょ)なく殺人を行える。志願兵が十分に訓練され、絆を深めた部隊単位で戦っている限り、PTSDの発症率も5~8%に抑えられます」「一方で、いまは誰もがカメラを持っていて、いつでも撮影し、ネットに流すことができる時代です。ベトナム戦争さなかの1968年、ソンミ村の村民500人を米軍が虐殺した事件の映像がもしも夜のニュースで流れていたら、米国民は怒り、大騒ぎになっていたでしょう。現代の戦争は、社会に計り知れないダメージを与えるリスクも抱えているのです」
     *
 Dave Grossman 1956年生まれ。米陸軍退役中佐。陸軍士官学校・心理学教授、アーカンソー州立大学・軍事学教授をへて、98年から殺人学研究所所長。著書に「戦争における『人殺し』の心理学」など。
■戦闘がもたらすトラウマ深刻 一橋大学特任講師・中村江里さん
 米国では、戦場の現実をリアルな視点からとらえる軍事心理学や軍事精神医学の研究が盛んで、グロスマンさんもこの観点から兵士の心理を考えています。根底にあるのは、いかに兵士を効率的に戦わせるかという意識です。兵士が心身ともに健康で、きちんと軍務を果たしてくれることが、軍と国家には重要なわけです。しかし、軍事医学が関心を注ぐ主な対象は、戦闘を遂行している兵士の「いま」の健康です。その後の長い人生に及ぼす影響まで、考慮しているとは思えません。私自身、イラク帰還米兵の証言やアートを紹介するプロジェクトに関わって知ったのですが、イラクで戦争の大義に疑問を抱き、帰還後に良心の呵責(かしゃく)に苦しんでいる若者は大勢います。自殺した帰還兵のほうが、戦闘で死んだ米兵より多いというデータもある。戦場では地元民も多く巻き添えになり苦しんでいるのに、そのトラウマもまったく考慮されない。軍事医学には国境があるのです。一方で、日本には戦争の現実を直視しない傾向がありました。戦後、米軍の研究に接した日本の元軍医は、兵士が恐怖心を表に出すのを米軍が重視していたことに驚いていた。旧日本軍は「恥」として否定していましたから。口に出せず、抑え込まれた感情は結局、手足の震えや、声が出ないといった形で表れ、「戦争神経症」の症状を示す兵士は日中戦争以降、問題化していました。その存在が極力隠されたのは、心の病は国民精神の堕落の象徴と位置づけられたためです。こうした病は「皇軍」には存在しない、とまで報じられた。精神主義が影を落としていたわけです。戦争による心の傷は、戦後も長らく「見えない問題」のままでした。トラウマやPTSDという言葉が人々の関心を集め始めたのは1995年の阪神・淡路大震災がきっかけです。激戦だった沖縄戦や被爆地について、心の傷という観点から研究が広がったのもそれ以降。戦争への忌避感がそれほど強かったからでしょう。昨年の安保関連法制定により、自衛隊はますます「戦える」組織へと変貌(へんぼう)しつつあります。「敵」と殺し殺される関係に陥ったとき、人の心や社会にはどんな影響がもたらされるのか。私たちも知っておくべきでしょう。暴力が存在するところでは、トラウマは決してなくならないのですから。
     *
なかむらえり 1982年生まれ。専門は日本近現代史。旧日本軍の戦争神経症を題材にした新著を執筆中。
■取材を終えて
 戦場に立つということは、これほどまでに凄(すさ)まじいことなのだと思った。ただ、米国民がこぞって支持したイラク戦争では結局、大量破壊兵器は見つからず、「イスラム国」誕生につながったことも指摘しておきたい。日本が今後、集団的自衛権を行使し、米国と一心同体となっていけば、まさに泥沼の「テロとの戦い」に引き込まれ、手足として使われる恐れを強く感じる。やはり、どこかに太い一線を引いておくべきではないだろうか。一生残る心の傷を、若者たちに負わせないためにも。

<日本の武器輸出>
*4-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11958784.html
(朝日新聞 2015年9月11日) 経団連「武器輸出推進を」
 提言では、審議中の安全保障関連法案が成立すれば、自衛隊の国際的な役割が拡大するとし、「防衛産業の役割は一層高まり、その基盤の維持・強化には中長期的な展望が必要」と指摘。防衛装備庁に対し、「適正な予算確保」や人員充実のほか、装備品の調達や生産、輸出の促進を求めた。

*4-2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11994297.html
(朝日新聞社説 2015年10月2日) 防衛装備庁 なし崩し許さぬ監視を
 防衛省の外局となる防衛装備庁がきのう発足した。これまで陸海空の自衛隊などがバラバラに扱っていた武器の研究開発から購入、民間企業による武器輸出の窓口役まで一元的に担うことになる。とりわけ気がかりなのが、武器輸出の行方だ。安倍政権は昨春、「武器輸出三原則」を撤廃し、「防衛装備移転三原則」を決定した。一定の基準を満たせば、武器輸出や国際的な共同開発・生産を解禁するもので、装備庁はその中心となる。安保法制の成立で自衛隊の活動範囲を地球規模に拡大したことと合わせ、戦後日本の平和主義を転換させる安倍政権の安保政策の一環といえる。問題は武器購入や輸出という特殊な分野で、いかに監視を機能させるかだ。技術の専門性が高いうえに機密の壁もあり、外部からの監視が届きにくい。輸出した武器がどう扱われるか、海外での監視は難しい。新原則では「平和貢献や日本の安全保障に資する場合などに限定し、厳格に審査する」としているが、実効性は保てるのか。米国製兵器の購入をめぐる費用対効果も問われる。今年の概算要求でも、新型輸送機オスプレイや滞空型無人機グローバルホークなど高額兵器の購入が目白押しだ。米国への配慮から採算を度外視することはないか。かねて自衛隊と防衛産業は、天下りを通じた「防衛ムラ」と呼ばれる癒着構造が指摘され、コスト高にもつながってきた。そこに手をつけないまま、2兆円の予算を握る巨大官庁が誕生した。高額の武器取引が腐敗の温床とならないように、透明性をどう確保していくか。装備庁には「監察監査・評価官」を長とする20人規模の組織ができたが、いずれも防衛省の職員である。身内のチェックでは足りないのは明らかだ。武器の購入や輸出は装備庁だけでなく、政府全体の判断となる。ビジネスの好機とみた経団連は先月、「防衛装備品の海外移転は国家戦略として推進すべきだ」との提言をまとめ、政府に働きかけている。しかし、戦後の歴代内閣が曲がりなりにもとってきた抑制的な安保政策は、多くの国民の理解にもとづくものだ。経済の論理を優先させ、日本の安保政策の節度をなし崩しに失う結果になってはならない。何よりも国会による監視が、これまで以上に重要になる。

<安保法と共謀罪>
*5-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150428&ng=DGKKASFS27H6F_X20C15A4MM8000 (日経新聞 2015.4.28) 日米、世界で安保協力 指針18年ぶり改定、新法制も与党実質合意
 日米両政府は27日午前(日本時間28日未明)、防衛協力のための指針(ガイドライン)を改定した。中国による海洋進出など安全保障環境の変化を受け、日米がアジア太平洋を越えた地域で連携し、平時から有事まで切れ目なく対処する。与党はこれを裏付ける新たな安保法制で実質合意。自衛隊の活動を制限してきた日米協力は転機を迎えた。日米両政府がニューヨーク市内で開いた外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)で合意した。日本側から岸田文雄外相と中谷元・防衛相、米側はケリー国務長官、カーター国防長官が出席。指針改定は18年ぶり。関連の共同文書も発表した。指針改定は「アジア太平洋地域およびこれを越えた地域が安定し平和で繁栄したものになる」ことを目的とし、日米の安保協力を拡大。自衛隊による米軍支援をさらに大幅に広げる。ケリー氏は協議後の共同記者会見で、指針改定を「歴史的な転換点」と指摘。沖縄県・尖閣諸島が日米安全保障条約5条の適用範囲にあると強調した。岸田文雄外相は「内外に日米の強い同盟関係を示すことができた」と述べた。日米同盟は1951年締結の安保条約で始まり、60年の改定で米国の日本防衛義務を明記。日米指針は冷戦下に旧ソ連への対処、97年改定で北朝鮮の脅威などに対応するものに変わってきた。ただ、活動地域や協力内容を厳しく制約した。今回の指針改定は安保法制をめぐる与党協議が先行。与党合意を反映した協力項目を列挙し、制約を大幅に緩和した。たとえば「日本周辺」としていた後方支援の範囲を日本の平和や安全に重要な影響を及ぼすようなケースと再定義。日本周辺以外で他国軍への給油などの後方支援ができる。米軍による日本防衛に重点を置いた協力から地理的制約を設けずに共同対処や国際貢献を可能にする協力体制を築く。日本が直接攻撃を受けていなくても米国などへの攻撃に対処できるようにする集団的自衛権の行使にあたる協力も、安保法制の与党合意に沿って盛り込んだ。直接の武力攻撃を受けた際に最小限度の武力行使を認めていた戦後の安保政策の転換を一段と進めた。集団的自衛権行使の具体例では、中東・ホルムズ海峡や南シナ海など海上交通路での機雷掃海、強制的な船舶検査を明示。武力攻撃事態対処では尖閣諸島などを念頭に、日米共同で島しょ防衛にあたるとした。与党は27日、武力攻撃事態法改正案など法改正案10本と新法案1本を実質合意。政府は5月半ばに関連法案を国会提出し、早期成立を目指す。

*5-2:http://digital.asahi.com/articles/ASJ3X5VM0J3XUTFK00P.html
(朝日新聞 2016年3月29日) 安保法が施行 集団的自衛権容認、専守防衛を大きく転換
 集団的自衛権を行使できるようにする安全保障関連法が29日、施行された。自衛隊の海外での武力行使や、米軍など他国軍への後方支援を世界中で可能とし、戦後日本が維持してきた「専守防衛」の政策を大きく転換した。民進、共産など野党は集団的自衛権の行使容認を憲法違反と批判。安保法廃止で一致し、夏の参院選の争点に据える。安保法は、昨年9月の通常国会で、自民、公明両党が採決を強行し、成立した。集団的自衛権行使を認める改正武力攻撃事態法など10法を束ねた一括法「平和安全法制整備法」と、自衛隊をいつでも海外に派遣できる恒久法「国際平和支援法」の2本からなる。戦後の歴代政権は、集団的自衛権行使を認めてこなかった。しかし安保法により、政府が日本の存立が脅かされる明白な危険がある「存立危機事態」と認定すれば、日本が直接武力攻撃されなくても、自衛隊の武力行使が可能になった。自衛隊が戦争中の他国軍を後方支援できる範囲も格段に広がった。安倍晋三首相は日本の安全保障環境の悪化を挙げて法成立を急いだ。しかし、国連平和維持活動(PKO)での「駆けつけ警護」や平時から米艦船などを守る「武器等防護」をはじめ、同法に基づく自衛隊への新たな任務の付与は、夏以降に先送りする。念頭にあるのは、今夏の参院選だ。世論の反対がなお強いなかで、安保法を具体的に適用すれば、注目を集めて参院選に影響する。そうした事態を避ける狙いがある。その一方で、安保法を踏まえた日米防衛協力のための指針(ガイドライン)に基づき「同盟調整メカニズム」が始動。自衛隊と米軍の連絡調整は一層緊密化した。今年1月以降の北朝鮮の核実験やミサイル発射を受け、首相は「日米は従来よりも増して緊密に連携して対応できた」と安保法の効果を強調した。ただ、日米の現場で交わされる情報の多くは軍事機密に当たり、特定秘密保護法で厳重に隠されている。中谷元・防衛相は28日、防衛省幹部に「隊員の安全確保のため、引き続き慎重を期して準備作業、教育訓練を進めてほしい」と訓示した。自衛隊は今後、部隊行動基準や武器使用規範を改定し、それに従った訓練を行う。民進党に合流する前の民主、維新両党は2月、安保法の対案として「領域警備法案」などを国会に提出。共産党など他の野党とは「集団的自衛権の行使容認は違憲」との点で一致し、安保法廃止法案も提出している。首相は野党連携に対し、「安全保障に無責任な勢力」と批判を強める。安保法をどう見るかは、今夏の参院選で大きな争点となる。
■安全保障関連法の主な法律
・集団的自衛権の行使を認める改正武力攻撃事態法
・地球規模で米軍などを後方支援できる重要影響事態法
・平時でも米艦防護を可能とする改正自衛隊法
・武器使用基準を緩め、「駆けつけ警護」や「治安維持任務」を可能とする改正PKO協力法
・他国軍の後方支援のために自衛隊をいつでも派遣可能にする国際平和支援法(新法)

*5-3:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12740997.html (朝日新聞 2017年1月11日) 「共謀罪」絞り込み、焦点 676の罪対象、テロ関連は167件 通常国会で議論へ
 菅義偉官房長官は10日、衆参両院の議院運営委員会理事会で、通常国会を20日に召集する方針を伝えた。犯罪の計画段階で処罰する「共謀罪」の構成要件を変えた「テロ等準備罪」を新設する法案が大きな焦点で、政府の原案で676に上る対象犯罪の数が与党協議や国会審議の論点となりそうだ。自民党の二階俊博幹事長は10日の記者会見で、法案成立への意欲を見せた。「テロに対する対策をしっかり講じておかないといけない。提案する以上は、できれば今国会で(成立)ということになる」。「共謀罪」関連法案は過去3回にわたり提出されたが、捜査当局の拡大解釈によって「一般の市民団体や労働組合も対象になる」「内心や思想を理由に処罰される」との批判を浴び、廃案になっていた。政府は当初、昨年の臨時国会に提出する方針だった。結局は環太平洋経済連携協定(TPP)の国会承認に万全を期すとして見送ったが、長年の懸案である国際組織犯罪防止条約を締結する上で、国内法の整備が必要だとして法案の成立にこだわる。条約を結べば、テロの計画段階で処罰する法律を持つ締結国と同じレベルで、日本でも準備行為での取り締まりを行うことや、国際的な組織犯罪に対する捜査協力が可能になる。法務省幹部は「今のままでは国際的な信頼を欠く」と話す。今回の法案では、過去の法案で適用対象とした「団体」から、テロ組織や暴力団、振り込め詐欺グループなどを想定した「組織的犯罪集団」に限定。さらに、犯罪を実行するための「準備行為」をすることを、法を適用する要件に追加した。具体的には、凶器を買う資金の調達や犯行現場の下見などが当たるという。適用の条件を厳しくしたといえるが、対象犯罪は「懲役・禁錮4年以上の刑が定められた重大な犯罪」としたため、犯罪の数は676になった。政府内部では「テロに関する罪」や「組織的犯罪集団の資金源に関する罪」などに分類されているが、「テロに関する罪」と位置付けられたのは167で、全体の4分の1にすぎない。法案に反対する日本弁護士連合会は昨年に発表した会長声明で「条約の締結のために新たに共謀罪を導入する必要はなく、条約は経済的な組織犯罪を対象とするもので、テロ対策とは無関係だ」と指摘している。
■提出時期も難題
 国会審議は夏の東京都議選の直前の時期に重なる。公明党はテロ対策としての法整備の必要性は認めているが、「対象はまだかなり広い。テロに限定するなら600超も必要はない」(党幹部)との立場。法案提出前の与党協議で対象を絞り込みたい考えだ。だが、外務省幹部は対象犯罪を限定すれば、条約締結自体ができなくなる恐れがあるとみて、「世界基準に日本だけ合わせなくてもいいのか」と絞り込みに難色を示している。一方、民進党の蓮舫代表は8日のNHK番組で「3回も廃案になった法案がほとんど中身を変えずに出てくるのは立法府の軽視だ」と指摘したが、党内の論議はこれからだ。民主党時代は「5年を超える懲役・禁錮」で国際的な犯罪に限定するよう修正提案をした経緯があり、党内に一定の賛成派を抱える。党の意見集約とともに、与党との修正協議に応じるかが課題となる。共産党の小池晃書記局長は10日の記者会見で「治安維持法の現代版とも言える大悪法」と批判、反対を鮮明にしている。国会の会期は国会法に定める150日間で、6月18日まで。直後に都議選を抱えるため大幅延長は難しい。天皇陛下の退位をめぐる法整備を抱える国会でもあるため、政府与党にとっては衣替えした「共謀罪」法案の提出時期や審議の進め方の見極めも難しそうだ。
■テロ等準備罪の対象となる676の「重大な犯罪」
◇組織的犯罪集団の資金源に関する罪(339)
 強盗、詐欺、犯罪収益等隠匿など
◇テロに関する罪(167)
 殺人、放火、化学兵器使用による毒性物質等の発散、テロ資金の提供など
◇薬物に関する罪(49)
 覚醒剤の製造・密輸など
◇人身に関する罪(43)
 人身売買、営利目的等略取・誘拐など
◇司法の妨害に関する罪(27)
 偽証、組織的な犯罪における犯人蔵匿など
◇その他(10)
〈政府資料などによる。このほか、「組織的犯罪集団」による犯罪の計画にはあたらないものの、「懲役・禁錮4年以上の刑」にあたるために対象に数える罪(過失犯など)が41ある〉

*5-4:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/392819 (佐賀新聞 2017年1月6日) 「共謀罪」通常国会提出 首相、東京五輪対策へ、捜査機関の乱用で人権侵害も不安視
 安倍晋三首相は5日、テロ対策強化に向けて「共謀罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案を、今月20日召集の通常国会に提出する方針を固めた。2020年の東京五輪・パラリンピックを見据え、国際的なテロに備えるためにも法整備が必要だと判断した。官邸は自民党幹部に提出方針を伝達。共謀罪を巡っては、捜査機関の職権乱用による人権侵害を不安視する声があり、日弁連などが反対している。共謀罪は国会で過去に3度、廃案になった経緯がある。当初は重大犯罪の謀議に加わると罪に問われる内容だった。政府は昨年秋の臨時国会提出を見送り、罪の名称や構成要件の見直しを進めていた。罪名は「テロ等組織犯罪準備罪」に変更した上で、対象を「組織的犯罪集団」に限定し、単なる共謀だけでなく「準備行為」も要件に加える案で調整している。菅義偉官房長官は5日の記者会見で、東京五輪が3年後となることに触れ、国際組織犯罪防止条約に基づいて各国と連携するため、法整備が不可欠と訴えた。「テロを含む組織犯罪を未然に防ぐため、万全の体制を整えることが必要だ」と述べた。民進党や共産党は反対するとみられ、国会審議で議論となりそうだ。首相は政府与党連絡会議で、通常国会での重要法案成立に向けて万全を期すよう与党側に要請した。自民党の二階俊博幹事長は会見で改正案について「政府は名称も変更し、極端な誤解を生まないよう配慮している」と指摘し、成立へ努力する考えを示した。
=ズーム 国際組織犯罪防止条約=
 国際組織犯罪防止条約 複数の国にまたがる組織犯罪を防ぐため、各国が協調して法の網を国際的に広げるための条約。重大犯罪の共謀や、犯罪で得た資金の洗浄(マネーロンダリング)の取り締まりを義務付けている。国連総会で2000年11月に採択。12月にイタリア・パレルモで条約署名会議が開かれ、日本も署名した。政府は「共謀罪」の法整備が条約締結の要件だとして組織犯罪処罰法改正を目指すが、成立に至っていない。世界180以上の締結国全てが法整備したわけではないとの指摘もある。


PS(2017年1月14日追加):*6の琉球新報社説記事に、論点が網羅されていた。私も、国民のプライバシーに土足で政府が侵入し、戦前の治安維持法のような監視社会になることを危惧している。

*6:http://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-423394.html
(琉球新報社説 2017年1月7日) 共謀罪提出へ 監視招く悪法は必要ない
 罪名を言い換える印象操作をしても悪法は悪法だ。思想・信条の自由を侵す危うさは消えない。安倍晋三首相はテロ対策強化を名目に「共謀罪」の新設を柱とする組織犯罪処罰法改正案を今月20日召集の通常国会に提出する方針を固めた。2020年の東京五輪・パラリンピックを見据え、国際的なテロに備えるために法整備が必要だと説明する。しかし、現行刑法でも予備罪や陰謀罪など処罰する仕組みはあり「共謀罪」の新設は必要ない。治安維持法の下で言論や思想が弾圧された戦前、戦中の反省を踏まえ、日本の刑法は犯罪が実行された「既遂」を罰する原則がある。しかし共謀罪とは、実行行為がなくても犯罪を行う合意が成立するだけで処罰する。日本の刑法体系に反するものである。通常は共謀が密室で誰も知らないところで行われることを考えると、合意の成立を認定することは難しい。いかなる場合に合意が成立したのかが曖昧になり、捜査機関の恣意(しい)的な運用を招く恐れがある。捜査機関の拡大解釈で市民運動や労働組合が摘発対象になる可能性もある。共謀罪を摘発するための捜査手法として尾行のほか、おとり捜査や潜入捜査が考えられる。それだけでなく2016年5月に通信傍受法を改正して、組織犯罪だけでなく一般犯罪まで傍受対象範囲を広げている。15年6月には裁判官の令状があれば、捜査機関が本人が知らないうちにGPS機能を利用した位置情報を取得できるようになった。法制審議会では室内に盗聴器を仕掛ける室内盗聴の導入についても議論している。法務省は「共謀段階での摘発が可能となり、重大犯罪から国民を守ることができる」と必要性を訴えるが、むしろ国民のプライバシーが根こそぎ政府に把握される恐れがある。政府は今回、罪名を「共謀罪」から「テロ等組織犯罪準備罪」に言い換え、対象を「組織的犯罪集団」に限定したと説明する。しかし、合意の成立だけで犯罪が成立するという点は変わらない。組織犯罪処罰法案が成立すれば、既に成立している特定秘密保護法などと組み合わせて、戦前の治安維持法のように運用される恐れがある。戦前のような監視社会に逆戻りさせてはならない。


PS(2017年1月17日追加):*7-1のように、「共謀罪の構成要件を変えた“テロ等準備罪”を新設する法案について、政府が対象犯罪の数を300程度に絞り込む方向で検討している」とのことだが、*7-2のように、日弁連共謀罪法案対策本部は「どのような修正を加えても、共謀罪を新設すれば刑事法体系を変えてしまう」としており、私もそのとおりだと考える。また、*7-1で、菅官房長官は「共謀罪で一般の方々が対象になることはない」としているが、*7-2のように、実行されていない共謀罪を取り締まるためには、司法取引による刑事免責、おとり捜査(潜入捜査)、通信傍受等を行うため、一般の人が捜査に巻き込まれることが普通になる。また、「政府に反対表明している人は、“一般の人”には入らない」という運用もありうる。そのため、*7-2に書かれているとおり、国連越境組織犯罪防止条約締結のために刑法の理念や日本国憲法を無視する「共謀罪」を設置してはならないと考える。

*7-1:http://digital.asahi.com/articles/ASK1J7X5JK1JUTIL047.html?iref=comtop_list_pol_n02 (朝日新聞 2017年1月17日) 「共謀罪」対象、約300に 政府検討、原案の半数以下
 犯罪の計画段階で処罰する「共謀罪」の構成要件を変えた「テロ等準備罪」を新設する法案について、政府が対象犯罪の数を原案の676から半数以下の300程度に絞り込む方向で検討していることが16日、分かった。与党内の協議で今後さらに調整した上で、政府は20日召集の通常国会に法案を提出する方針。
●共謀罪「一般の方々が対象、あり得ない」 菅官房長官
 政府は、日本が「国際組織犯罪防止条約」を締結するために必要な国内法整備として、法案の成立を目指している。条約は「懲役・禁錮4年以上の刑が定められた重大な犯罪」を対象とするよう求めており、対象犯罪数は676に上った。これに対し、与党・公明党からも対象犯罪数の絞り込みを求める声が上がり、政府は「組織的犯罪集団」によって行われることが想定される犯罪を中心に、対象犯罪を絞り込む方向で調整を始めた。

*7-2:http://www.nichibenren.or.jp/activity/criminal/complicity.html (日弁連共謀罪法案対策本部) 日弁連は共謀罪に反対します
 「共謀罪」が、国連越境組織犯罪防止条約を理由に制定されようとしており、法案は、2003年の第156回通常国会で最初に審議されました。その後二度の廃案を経て、2005年の第163回特別国会に再度上程され、継続審議の扱いとなり、第165回臨時国会においても、幾度とない審議入り即日強行採決の危機を乗り越えて継続審議となり、第170回臨時国会においても継続審議となりました。そして、2009年7月21日の衆議院解散で第171回通常国会閉幕により審議未了廃案となりました。今後も予断を許さない状況が続くことが予想されます。日弁連は、共謀罪の立法に強く反対し、引き続き運動を展開していきます。詳細はこちらのページをご覧ください。
・パンフレット「合意したら犯罪?合意だけで処罰?―日弁連は共謀罪に反対します!!―」
●共謀罪なしで国連越境組織犯罪防止条約は批准できます
 日弁連は、2006年9月14日の理事会にて、「共謀罪新設に関する意見書」を採択し、2012年4月13日の理事会にて、新たに「共謀罪の創設に反対する意見書」を採択いたしました。
・共謀罪の創設に反対する意見書(2012年)
・共謀罪新設に関する意見書(2006年)
●共謀罪の基本問題
 政府は、共謀罪新設の提案は、専ら、国連越境組織犯罪防止条約を批准するためと説明し、この立法をしないと条約の批准は不可能で、国際的にも批判を浴びるとしてきました。法務省は、条約審議の場で、共謀罪の制定が我が国の国内法の原則と両立しないことを明言していました。刑法では、法益侵害に対する危険性がある行為を処罰するのが原則で、未遂や予備の処罰でさえ例外とされています。ところが、予備よりもはるかに以前の段階の行為を共謀罪として処罰しようとしています。どのような修正を加えても、刑法犯を含めて600を超える犯罪について共謀罪を新設することは、刑事法体系を変えてしまいます。現在の共謀共同正犯においては、「黙示の共謀」が認められています。共謀罪ができれば、「黙示の共謀」で共謀罪成立とされてしまい、処罰範囲が著しく拡大するおそれがあります。共謀罪を実効的に取り締まるためには、刑事免責、おとり捜査(潜入捜査)、通信傍受法の改正による対象犯罪等の拡大や手続の緩和が必然となります。この間の国会における審議とマスコミの報道などを通じて、共謀罪新設の是非が多くの国民の関心と議論の対象となり、共謀罪の新設を提案する法案を取り巻く環境は、根本的に変わっています。
●国連越境組織犯罪防止条約は締約国に何を求めているのでしょうか
 国連越境組織犯罪防止条約第34条第1項は、国内法の基本原則に基づく国内法化を行えばよいことを定めています。国連の立法ガイドによれば、国連越境組織犯罪防止条約の文言通りの共謀罪立法をすることは求められておらず、国連越境組織犯罪防止条約第5条は締約国に組織犯罪対策のために未遂以前の段階での対応を可能とする立法措置を求められているものと理解されます。
●条約の批准について
 国連が条約の批准の適否を審査するわけではありません。条約の批准とは、条約締結国となる旨の主権国家の一方的な意思の表明であって、条約の批准にあたって国連による審査という手続は存在しません。国連越境組織犯罪防止条約の実施のために、同条約第32条に基づいて設置された締約国会議の目的は、国際協力、情報交換、地域機関・非政府組織との協力、実施状況 の定期的検討、条約実施の改善のための勧告に限定されていて(同条第3項)、批准の適否の審査などの権能は当然もっていません。
●国連越境組織犯罪防止条約を批准した各国は、どのように対応しているのでしょうか
 第164回通常国会では、世界各国の国内法の整備状況について、国会で質問がなされましたが、政府は、「わからない」としてほとんど説明がなされませんでした。この点について、日弁連の国際室の調査によって次のような事実が明らかになりました。新たな共謀罪立法を行ったことが確認された国は、ノルウェーなどごくわずかです。アメリカ合衆国は、州法では極めて限定された共謀罪しか定めていない場合があるとして国連越境組織犯罪防止条約について州での立法の必要がないようにするため、留保を行っています。セントクリストファー・ネーヴィスは、越境性を要件とした共謀罪を制定して、留保なしで国連越境組織犯罪防止条約を批准しています。
●新たな共謀罪立法なしで国連越境組織犯罪防止条約を批准することはできます
 我が国においては、組織犯罪集団の関与する犯罪行為については、未遂前の段階で取り締まることができる各種予備・共謀罪が合計で58あり、凶器準備集合罪など独立罪として重大犯罪の予備的段階を処罰しているものを含めれば重大犯罪についての、未遂以前の処罰がかなり行われています。刑法の共犯規定が存在し、また、その当否はともかくとして、共謀共同正犯を認める判例もあるので、犯罪行為に参加する行為については、実際には相当な範囲の共犯処罰が可能となっています。テロ防止のための国連条約のほとんどが批准され、国内法化されています。銃砲刀剣の厳重な所持制限など、アメリカよりも規制が強化されている領域もあります。以上のことから、新たな立法を要することなく、国連の立法ガイドが求めている組織犯罪を有効に抑止できる法制度はすでに確立されているといえます。政府が提案している法案や与党の修正試案で提案されている共謀罪の新設をすることなく、国連越境組織犯罪防止条約の批准をすることが可能であり、共謀罪の新設はすべきではありません。
●法務省ホームページに掲載されている文書について
 法務省ホームページ上に「『組織的な犯罪の共謀罪』に対する御懸念について」と題するコーナーがあります。同コーナーの文書で挙げられている点に絞って、疑問点を指摘します。
「共謀罪」に関する法務省ホームページの記載について(2006年5月8日)(PDFファイル;129KB)
日弁連が意見書などで指摘している点について、法務省が2006年10月16日付けで以下文書をホームページに掲載しています。
・「組織的な犯罪の共謀罪」の創設が条約上の義務であることについて
・現行法のままでも条約を締結できるのではないかとの指摘について
・条約の交渉過程での共謀罪に関する政府の発言について
・条約の交渉過程における参加罪に関する日本の提案について
・参加罪を選択しなかった理由
これらの文書で挙げられている点に絞って、疑問点を指摘します。
●外務省ホームページに掲載されている文書について
 日弁連などの調査により、アメリカ合衆国は、州法では極めて限定された共謀罪しか定めていない場合があるとして国連越境組織犯罪防止条約について州での立法の必要がないようにするため、留保を行っているということがわかりました。この点について、外務省が2006年10月11日付けで「米国の留保についての政府の考え方」と題する文書を掲載しています。この文書で挙げられている点に絞って、疑問点を指摘します。10月11日に外務省ホームページに掲載された米国が国連越境組織犯罪防止条約に関して行った留保に関する文書(「米国の留保についての政府の考え方」)について(PDFファイル;26KB)
●意見書、会長声明等
・いわゆる共謀罪法案の国会への提出に反対する会長声明(2016年8月31日)
・共謀罪の創設に反対する意見書(2012年4月13日)
・「犯罪に強い社会の実現のための行動計画2008」に関する意見書(2009年1月16日)
・共謀罪新設に関する意見書(2006年9月14日)
・「共謀罪」に関する与党再修正案に対するコメント(2006年5月15日)
・共謀罪与党修正案についての会長声明(2006年4月21日)
・共謀罪が継続審議とされたことについての会長談話(2005年11月1日)
・国連「越境組織犯罪防止条約」締結にともなう国内法整備に関する意見書(2003年1月20日)
 (以下略)


PS(2017年1月20日追加):政府は「国際組織犯罪防止条約の締結のため、国内法の整備が必要だ」としてきたが、*8のように、外務省は「既に条約を結んでいる国・地域のうち、条約締結のため新たに『共謀罪』を設けたことを把握しているのはノルウェーとブルガリアだけで、自信を持って説明できる国は限られる」としている。消費税増税や年金・医療などの社会保障削減も含め、政府は根拠なきことを理由にやりたい政策を推進しようとし、メディアもその片棒を担いでいるが、その基にあるのは、「何を言ってもわからないだろう」という国民を馬鹿にした態度だ。しかし、実際には、現在の日本国民は、政治家や行政官の経験しかないジェネラリストよりも専門性や経験を持ち、それぞれの分野で深く分析できる人が多くなっているため、それらの意見を“ポピュリズム(衆愚)”として無視することこそが問題なのだ。

*8:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12755902.html (朝日新聞 2017年1月20日) 「共謀罪」新設、2国だけ 外務省説明、条約締結に必要なはずが
 犯罪の計画段階で処罰する「共謀罪」の構成要件を変えた「テロ等準備罪」を新設する法案をめぐり、外務省は19日、他国の法整備の状況を明らかにした。政府は「国際組織犯罪防止条約の締結のため、国内法の整備が必要だ」としているが、すでに条約を結ぶ187の国・地域のうち、締結に際して新たに「共謀罪」を設けたことを外務省が把握しているのは、ノルウェーとブルガリアだけだという。民進党内の会議で外務省が説明した。英国と米国はもともと国内にあった法律の「共謀罪」で対応。フランス、ドイツ、イタリア、ロシア、中国、韓国は「参加罪」で対応した。カナダはすでに「共謀罪」があったが、条約の締結に向けて新たに「参加罪」も設けたという。民進党は187カ国・地域の一覧表を出すよう求めていたが、外務省の担当者は会議で「政府としては納得のいく精査をしたものしか出せない。自信を持って説明できる国は限られている」と述べた。政府はこれまで、条約締結のためには「共謀罪」か、組織的な犯罪集団の活動への「参加罪」が必要だと説明してきた。20日召集の通常国会に法案を提出する方針だ。


PS(2017年1月23日追加):パレスチナは、紀元前12世紀前後から闘いの続いてきた古い地域で(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%A4%E4%BB%A3%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%82%A8%E3%83%AB 参照)、どちらも強く権利を主張するため、*9-1の“和平”は大変だろう。しかし、現代だからこそできる解決法もあり、それは砂漠を豊かな土地に変え、実質的に領土と認められる地域を増やすことだ。それには、*9-2のサウジアラビアのやり方が参考になるが、イスラエルは面積の小さいことがネックであるため、日本やアメリカがエジプトかサウジアラビアの砂漠地帯の農業開発を援助することにより、面積の広いエジプトかサウジアラビアからイスラエルへの土地の一部割譲を取りつけたらどうかと考える。それにより、世界の食糧安全保障と中東紛争の解決ができればよいのではないだろうか。


   中東の地図           *9-2サウジアラビア大使館より      サウジアラビアの畜産

*9-1:http://digital.asahi.com/articles/ASK1R25N5K1RUHBI004.html?iref=comtop_8_03 (朝日新聞 2017年1月23日) トランプ氏、イスラエルの安全保障に「空前の取り組み」
 イスラエル首相府によると、両首脳はトランプ氏が「破棄する」と主張したイランとの核合意や、パレスチナとの和平などについて協議した。ホワイトハウスによると、トランプ氏はイスラエルの安全保障に対して「空前の取り組み」を明言した。パレスチナとの和平についてはイスラエルとパレスチナが直接交渉することでのみなされると強調。米国はイスラエルと緊密に協働していくとした。トランプ氏が選挙戦で表明した米大使館のエルサレム移転について協議されたかは明らかになっていない。AP通信によると、ホワイトハウスは会談前、国内での議論がまだ初期段階だとの認識を示した。これに先立ち、エルサレム市当局は22日、イスラエルが占領する東エルサレムの入植地で約560軒の住宅を建設することを承認した。入植活動を批判するオバマ前政権の圧力で延期していたが、イスラエル寄りの姿勢を示すトランプ氏の就任を待って判断した。一方、パレスチナ自治政府のアッバス議長は22日、ヨルダンの首都アンマンでアブドラ国王と会談した。AP通信によると、米大使館がエルサレムに移転した場合の対抗策などを話し合ったという。

*9-2:http://www.saudiembassy.or.jp/Jp/SA/7.htm (サウジアラビア大使館)
 サウジアラビア王国は、食糧の安全保障確保と国内で生産される農産物及び牛乳、鶏卵、食肉など畜産物の食料の自給自足実現を目的とした農業政策を採用してきました。王国政府は、初期の段階から、政策の優先事項の筆頭にこの目的を置き、その実現に最大限の努力を傾けてきました。アブドルアジーズ国王が王国建国時に実施した最初のステップは、国民の農地開発投資の活性化支援と、その活動に完全な自由を与え、必要な機械器具を購入する場合、それを無税扱いにすることでした。また、王国政府は、政府の経費で農業機械器具を輸入し、それを購入した農民には無利子月賦で政府に返済する制度を確立しました。アブドルアジーズ国王は、1948年、農政局の設置を命じ、これを財務省とリンクさせることによって、同局が灌漑設備の改善、水ポンプの設置、ダムや運河の建設、泉や井戸などの水資源の開発、農民宛資金貸付けなどの事業が実施できるようにしました。農政局は活動の幅を広げたことによって、必然的に重い職責を担うようになり、その結果、1953年、同局は「農業・水資源省」に格上げされ、スルターン・ビン・アブドルアジーズ殿下が初代の大臣に就任しました。同省は創設以来、水資源の開発とともに、農産・畜産部門の振興に貢献する研究と計画立案をおこなってきました。王国の地勢については、国土の大半が砂漠気候であり、厳しい環境であることはよく知られています。さらに、水資源に乏しく、降雨量もきわめて限られています。しかし、王国はアッラーのご加護と王国の固い決意の下に近代農業の技法と技術を駆使することによって、こうした環境的な問題を克服してきました。サウジアラビア王国は、短期間において食糧輸入国から農業生産国へ、さらに、輸出国になったのです。農産物の生産高も増大し、農業部門は、生産経済部門の一部門として重要な役割を果たすようになりました。
●奨励政策
 政府は、農業振興のため農業部門の奨励政策を実施してきました。その中でも特に重要な政策は、農民と農業会社に未開墾地を無償で分配してきたことであり、この政策は現在も継続しておこなわれています。また、政府は1962年に設立した、農業銀行を通じ、長期ローンの貸付けと補助金を農民に提供しています。政府は、農業機械と灌漑用ポンプの購入費用の50%を負担し、農業器具と用品、国内産と輸入肥料購入費用の45%を負担しています。種や苗などは、きわめて低い価格で配布されています。さらに、王国各地に設置されている農業局、農業試験場、農業事務所を通じて農業指導、獣医の派遣、農業災害対策などのサービスが提供されています。国は農業生産物を買い上げており、とりわけ、小麦、大麦は、1972年に設立されたサイロ・製粉公団を通して奨励価格で買い上げています。
●農業道路
 国家は、農業道路に多大な関心を払ってきました。これは、農民の足を確保することによって市場中央センターへの農業生産物の運送を容易にすることを目的としています。交通省は、主要な道路建設プログラムとの調整をおこないながらバランスの取れた農業道路建設プログラムを実行してきました。農業道路の全長は、1970年の時点では3,600キロメートルだったものが、1998年末には10万キロメートルに達しました。
●農地の拡大
 政府は、農業部門に対する継続的な支援をおこなってきました。その結果、王国では、国民による農業部門の投資が促進され、大手農業企業が数社設立されました。1980年の時点では60万ヘクタールだった農地面積は、1992年には160万ヘクタールにまで拡大しました。また、政府は、約250万ヘクタールの未開墾地を国民に分配しました。農業銀行が農民と農畜産部門の投資会社に提供した資金貸付額は、1998年末で304億リヤール強に達しました。これらの貸付けは、3,000以上もの野菜、果物、酪農、畜産の農業プロジェクトに使われました。農業銀行はまた、生産に必要な農業機械、器具、道具購入の資金を貸し付けています。1973年から始まったこうした貸付け金は、1998年(イスラム暦1418年から1419年)末で111億リヤールに達しています。サイロ・製粉公団は、王国内に穀物貯蔵と製粉、飼料生産のため10の工業団地を建設しました。同公団の貯蔵能力は、238万トンに達し、製粉の生産能力は、年間161万トンに達しています。
●小麦生産
 サウジアラビア王国は、小麦の生産分野において輝かしい成果を収めました。1985年、小麦の生産量は、国内需要を満たし、自給自足が実現しました。そして1986年以降は、余剰分を国際市場に輸出できるようになりました。1992年(イスラム暦1412年)、王国の小麦生産高は、420万トンにまで増加し、最高レベルに達しました。しかしながら、水資源利用の指導と地下水の保全という観点から、生産削減が段階的に実施されました。この措置は、1993年(イスラム暦1413年)の農作期から始まり、1997年(イスラム暦1417年)まで継続され、小麦の生産量は180万トンに減少しました。これは、国内の自給自足に必要な量であり、輸出はおこなわれなくなりました。小麦が最後に輸出されたのは、1995年5月(イスラム暦1415年ズール・ヒッジャ月20日)でした。大麦の生産においても同じような生産削減措置がとられ、1994年(イスラム暦1414年)に182万2,950トンだった大麦の生産高は、1996年(イスラム暦1416年)には46万4,000トンまで減少しました。
●野菜と果物
 王国の野菜の生産高は、1998年には約270万トンに達し、種類によっては近隣諸国に輸出できるほどの生産量を記録しました。果物の生産は約120万トンに達しました。そのうち、ブドウの収穫量は14万トン、かんきつ類は8万7,000トンに達しました。王国は年間約64万9,000トンのナツメヤシの実(王国内のナツメヤシの木は1,300万本)を生産しています。王国内におけるナツメヤシの実の瓶詰め・包装工場は24を数え、王国の内外に製品を送り出してします。世界の食糧生産プログラムにておいて王国がナツメヤシの実の生産で大きな貢献をしていることは広く知られています。
●畜産
 王国の家畜数は、1997年には、牛28万頭、羊100万頭、山羊62万6,400頭、ラクダ75万頭、家禽3億9,520万羽にまで増加しました。王国の畜産生産物は、年を追うごとに増加しており、その増加率は急カーブを描いて上昇しています。同年の生産高では、牛乳88万3,000トン、食用鶏卵25億個、食用鶏肉45万1,000トン、赤肉15万7,000トンに達し、魚肉の生産高も5万5,000トンに達しました。この結果、王国は、農業生産部門の穀物生産と畜産において自給自足を達成し、余剰生産物を国外に輸出できるようになりました。こうした実績に基づき、国際食料農業機関(FAO)は、ファハド国王の農業部門の指導的役割を称えるとともに、発展途上国の貧困と餓えの一掃に貢献したことを評価し、1997年、国王にFAO賞を授与しました。
●高い成長率
 王国がたどった農業政策は実を結び、農業部門は高い成長率を実現しました。1969年から1996年の期間における同部門の年間平均成長率は8.4%を記録しました。農業部門は国内総生産に大きく貢献しており、総額は340億リヤールに達しています。
●水資源開発
 農業・水資源省は、水資源開発のため王国全土の水資源調査を実施しました。また、王国内の市町村への十分な飲料水の供給に努力を傾注しました。同省は、飲料用・監視用・探査用の水井戸を5,500本以上採掘しました。民間によって管理されている井戸の数は10万3,118に達していますが、その多くは農業に使用されています。同省が実施した市町村への飲料水供給プロジェクト数は1,290を数えており、国営企業・公的機関がその運営と保守を担当しています。同省は、雨水と河川の水を有効利用するため1998年末までに189のダムを王国の各地に建設しました。その貯水能力は、総計約7億8,000万立方メートルに達しています。王国は、戦略的な見地から飲料用の水資源を恒常的に確保するため海水淡水化計画を採用し、その実現のため海水淡水化公団を設立しました。淡水化プロジェクトは短期間のうちに多大の実績を達成し、王国は西部・東部海岸沿いには27の海水淡水化プラントが建設されており、これらのプラントで生産された飲料水は、40を越える市町村に供給されています。これらのプラントの一日あたりの生産量は、淡水は、250万立方メートル(6億6,700万ガロン)、電力は、3,600メガワットに達しています。現在建設中のプラントが完成すると、同公団の一日当たりの生産能力は、淡水は、300万立方メートル(8億ガロン)、電力は5,000メガワットに達する予定です。現在、海水淡水化プラントで生産されている飲料水は、王国の主要都市の総需要量の70%を満たし、電力は、消費電力の30%を満たしてします。


PS(2017年2月2日追加):*10-1のように、「テロ等準備罪」の「等」は、範囲を無限に広げることができ、むしろ「等」の方が中心ではないかと思われる法律もあるくらいなので反対だ。また、*10-2のように、「テロ」の範囲も限定列挙しなければ、市民団体・労組・政治団体などの正当な活動も政府に不都合な場合には適用される可能性があり、安心できない。その上、「共謀罪」や最近言っている「合意罪」が成立するか否かは、*10-3のように、一般市民を監視・盗聴して立証する必要があるため、容疑者だけでなく一般市民も、通信の秘密が犯されたり、人権侵害されたりする。そして、*10-4の通信傍受法も、小さく産んで大きく育てる方法が使われているのだ。

*10-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12776820.html
(朝日新聞 2017年2月2日) 「共謀罪」対案、維新が策定へ
 日本維新の会の松井一郎代表(大阪府知事)は1日、政府が検討する「共謀罪」の構成要件を変えた「テロ等準備罪」を新設する法案への対案として、「テロ防止法案」を策定すると表明した。記者団に「テロ『等』は駄目だ。広すぎる。テロ等準備罪ということであれば、我々としては『はいそうですか』と言うわけにいかない」と語った。

*10-2:http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201701/CK2017012602000125.html (東京新聞 2017年1月26日) 「共謀罪」法案 テロ「等」範囲拡大の恐れ 市民団体、労組、会社にも
 安倍晋三首相の施政方針演説などに対する参院の各党代表質問が二十五日行われた。首相は「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案について、共謀罪を言い換えた「テロ等準備罪」の「等」が示す犯罪の範囲を問われ「テロ組織をはじめとする組織犯罪集団に限定し、一般の方々が対象となることはあり得ないことがより明確になるよう検討している」と述べた。これに対し、渕野貴生・立命館大教授は「一般市民も対象になり得る」と懸念した。自由党の山本太郎共同代表は「『等』とはどういう意味か。テロ以外にも適用される余地を残す理由を教えてほしい」と尋ねた。首相は、テロと関連が薄い犯罪も対象に含める意図があるかどうかは、明確にしなかった。首相は国連の国際組織犯罪防止条約の締結のために必要だと強調し、テロ対策を前面に押し出す。今後、対象犯罪を絞り込む方針だが、条約が共謀罪の対象に求める死刑や四年以上の禁錮・懲役に当たる犯罪は六百七十六。このうち政府が「テロに関する罪」と分類するのは百六十七(24・7%)にとどまり、大多数が「テロ以外」という矛盾をはらむ。組織的犯罪集団に限定しても、警察の恣意(しい)的な捜査で市民団体や労組、会社も対象になりかねない。政府は二〇一三年に成立した特定秘密保護法で「特定秘密の範囲を限定した」と説明したが、条文に三十六の「その他」を盛り込み、大幅な拡大解釈の余地を残した前例もある。刑事法が専門の渕野教授は「テロと無関係の犯罪も多く、名称と実体が一致していない。一般市民の犯罪も対象になり得るのに、あたかもテロだけを対象とするかのように説明するのは、国民を誤解させる表現だ」と指摘。「組織的な犯罪集団に限定しても、捜査機関による恣意的な解釈や適用を適切に規制できない」と危ぶむ。

*10-3:http://www.tokyo-np.co.jp/article/entertainment/news/CK2017012602000184.html (東京新聞 2017年1月26日) 監視社会の脅威 映画「スノーデン」あす公開
 ベトナム戦争や歴代の米大統領を題材にした骨太の作品で知られるオリバー・ストーン監督(70)の最新作「スノーデン」が二十七日公開される。あらゆる個人さえも対象とする米政府の監視プログラムを暴露した情報機関職員エドワード・スノーデン氏の内部告発は、誰もがプライバシーの危機にさらされている事実を明るみに出した。トランプ大統領誕生の過程でも、さまざまな真偽不明の情報に世界は踊らされている。いまスノーデン事件から何が見えるのか。「スノーデンとは亡命先のモスクワで、この二年間に九回会って話を聞いた。彼の視点から語られる物語を映画にしようと思った」。二〇一三年六月、英ガーディアン紙などが報じたスノーデン氏の告発に監督は拍手喝采を贈ったという。「その半年ほど前、私はドキュメンタリー作品でオバマ政権で強化されてきた監視社会を取り上げた。まさに、その通りのことが起きていたわけです」。本作では、米国防総省の情報機関である国家安全保障局(NSA)に勤務するスノーデン(ジョセフ・ゴードン=レビット)が、赴任先のジュネーブや東京で世界中のメールやSNS、通話を監視し、膨大な情報を収集している実態を目の当たりにする。同盟国である日本も例外ではなく、インフラ産業のコンピューターにはマルウェア(悪意のあるソフト)が既に埋め込まれており、もし日本が米国に敵対したら、インフラがダウンするようになっていることが明かされる。「私個人の考えは作品に一切入れていない。すべてスノーデンが私に語った内容です。NSAからも話を聞こうとしたが、答えてもらえなかった。私の経験からいって彼の言っていることは真実だと思う」。スノーデン事件に関しては、香港のホテルでスノーデン氏が告発する場面に密着し、アカデミー賞を受賞したドキュメンタリー映画「シチズンフォー スノーデンの暴露」がある。ストーン監督は本作で、スノーデン氏の内面を描こうと思ったと打ち明ける。「若い愛国者である彼がなぜNSAの任務に疑念を抱くようになったのか。それは対テロの戦いではなかったわけです。世界中の情報を監視することで政治、経済を含むあらゆる力関係で米国が優位に立てる。スノーデンはその危険に気づいた。そして彼が人間性を保てたのは恋人の存在が大きかったと思います」。米政府に不都合な本作は米国企業の支援が受けられず、フランスやドイツ企業の出資で製作されたと監督は付言する。「米国では自己規制や当局に対する恐怖があるのかもしれない。米政府や主要メディアが伝えることが真実だと思わないでほしい」と話す。
◆主要メディアに一石 トランプ氏を評価
 過激な発言で物議を醸すトランプ米大統領だが、ストーン監督は米情報機関と主要メディアへの不信感から、トランプ氏に「奇妙な形で新鮮な空気を持ち込んだ」と期待をにじませる。「トランプに対するヒステリックな報道は、冷戦時代の赤狩り(共産主義者への弾圧)のようだ。ロシアとつながりがあるかのような報道も、彼を大統領にしたくない力が働いたのだと思う。米メディアも新保守主義の権力側にある。トランプは主要メディアに対し新しい見方をしているのは確かだ」と断言する。その上で「米国は今、帝国化している。日本は米国をそこまで信頼していいのか。米国はそれほど日本を大切に思っていないかもしれない。日本をどうするかはみなさんが考えることだ」とアドバイスする。
◆オリバー・ストーン監督
 米ニューヨーク生まれ。ベトナム戦争に従軍後、ニューヨーク大学で映画製作を学ぶ。1978年「ミッドナイト・エクスプレス」でアカデミー賞脚本賞。86年「プラトーン」で同作品賞や監督賞など4部門を制し、89年「7月4日に生まれて」で2度目の同監督賞に輝いた。ほかに「JFK」「ニクソン」など。

*10-4:http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201702/CK2017020202000247.html (東京新聞 2017年2月2日) 【政治】「共謀罪」捜査に通信傍受も 法相「今後検討すべき」
 衆院予算委員会は二日午前、安倍晋三首相と全閣僚が出席して、二〇一七年度予算案に関する基本的質疑を続けた。金田勝年法相は、犯罪に合意することを処罰対象にする「共謀罪」と趣旨が同じ「テロ等準備罪」の捜査を進めるため、電話の盗聴などができる通信傍受法を用いる可能性を認めた。通信傍受法は、憲法が保障する通信の秘密を侵す危険が指摘され、捜査機関が利用できる対象犯罪が限定されている。金田氏は、テロ等準備罪を対象犯罪に加えるかどうかについて現時点では「予定していない」としつつ、「今後、捜査の実情を踏まえて検討すべき課題」と将来的には否定しなかった。これに対し、質問した民進党の階猛氏は「一億総監視社会がもたらされる危険もある」と懸念を示した。政府はテロ等準備罪について、犯罪の合意だけでなく、準備行為がなければ逮捕・勾留しないと説明しているが、準備行為については捜査機関が判断するため、拡大解釈の恐れが指摘されている。通信傍受法は、犯罪捜査のために裁判所が出す令状に基づき、電話や電子メールの傍受を認める法律。一九九九年の成立時には、通信の秘密を侵害する懸念を受け、薬物・銃器犯罪、集団密航、組織的殺人の四類型に限定されていた。しかし昨年十二月、殺人や放火、詐欺、窃盗、傷害、児童買春など対象犯罪が大幅に増えた改正法が施行された。さらに幅広い犯罪の合意を処罰するテロ等準備罪が対象犯罪に加われば、通信傍受の件数が大幅に増えることが予想される。テロ等準備罪の捜査では捜査当局が犯罪の話し合いや合意、準備行為を把握し、ある特定の団体の構成員を日常的に監視する必要がある。テロ等準備罪の捜査で通信傍受を活用することになれば、捜査当局が監視できる市民生活の範囲が大幅に広がる恐れがある。
<通信傍受法> 通話開始から一定時間聴き、犯罪関連の通話と判断した場合に限って継続して傍受できる。令状の容疑でなくても対象犯罪などに関する通信は傍受できる。2000年の法施行から15年までに傍受した10万2342件のうち82%が犯罪に関係のない通話。傍受したことや、記録の閲覧や不服申し立てができることを本人に通知するが、犯罪に関係のない通話相手には通知されない。


PS(2017年2月3日追加):*11のGPS捜査や移動追跡装置は、本当に犯罪の疑いや危険性が高い場合だけに使われているのではなく、他の意図や興味本位でも使われていると、私は考えている。そして、GPSは携帯電話にもついているため、一般の人もプライバシーの侵害には要注意だ。

*11:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/401561
(佐賀新聞 2017年2月2日) GPS捜査の秘匿指示 警察庁06年、都道府県警に
 捜査対象者の車などに衛星利用測位システム(GPS)端末を取り付けて尾行する捜査を巡り、警察庁が2006年6月に都道府県警に出した通達で、端末使用について取り調べの中で容疑者らに明らかにしないなど秘密の保持を指示していたことが1日、警察当局への取材で分かった。捜査書類の作成に当たっても、記載しないよう徹底を求めていた。警察庁はGPS捜査を「任意捜査」と位置付けているが、各地の裁判所で「プライバシーを侵害する」として、令状のない捜査の違法性が争われている。判断は割れており、最高裁大法廷が春にも統一判断を示すとみられる。日弁連は1日、GPS捜査の要件や手続きを定めた新たな法律をつくり、裁判所の出す令状に基づき行うべきだとする意見書を警察庁に提出した。警察当局によると、通達はGPS捜査のマニュアルである「移動追跡装置運用要領」の運用について説明。「保秘の徹底」として、取り調べで明らかにしないほか、捜査書類の作成においても「移動追跡装置の存在を推知させるような記載をしない」と求めた。都道府県警が報道機関に容疑者逮捕を発表する際も「移動追跡装置を使用した捜査を実施したことを公にしない」と明記していた。警察庁は、こうした通達を出した理由を「具体的な捜査手段を推測されると、対抗手段を講じられかねないため」と説明している。警察庁の運用要領は、裁判所の令状が必要ないGPS端末の設置について、犯罪の疑いや危険性が高いため速やかな摘発が求められ、ほかの手段で追跡が困難な場合の任意捜査において可能と規定している。日弁連は、GPS捜査は「強制捜査」に当たり「令状なしの捜査は憲法に反する」として、即時中止を求めている。


PS(2017年2月6日追加):*12-1のように、一橋大の葛野教授や京都大の高山教授が呼び掛け人となり、刑事法学者ら約140人が、「①日本の法制度は『予備罪』『準備罪』を広く処罰してきており、国際組織犯罪防止条約の締結に新たな立法は必要ない」「②日本は世界で最も治安のいい国の一つで、具体的な必要性もないのに条約締結を口実として犯罪類型を一気に増やすべきではない」として「共謀罪」の構成要件を変えた「テロ等準備罪」を新設する法案に反対する声明を出したそうだ。私は、「テロ等準備罪」の本当の目的は条約締結ではなく、*12-2のような盗聴・通信傍受やGPSを使った捜査の正当化だと思うので、法学者等の専門家の参戦に賛成だ。

*12-1:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/402452
(佐賀新聞 2017年2月5日) 法学者ら140人、「共謀罪」反対声明、現制度でテロ対策可
 刑事法学者ら約140人が4日までに、組織犯罪を計画段階で処罰できる「共謀罪」の構成要件を変えた「テロ等準備罪」を新設する法案に反対する声明を出した。呼び掛け人は葛野尋之一橋大教授、高山佳奈子京都大教授ら。声明では、日本は「テロ資金供与防止条約」などテロ対策に関する13の条約を締結し、国内の立法も終えていると指摘。日本の法制度は「予備罪」や「準備罪」を広く処罰してきた点に特徴があるとし、国際組織犯罪防止条約の締結に新たな立法は必要ないと強調している。さらに「日本は世界で最も治安のいい国の一つで、具体的な必要性もないのに条約締結を口実として犯罪類型を一気に増やすべきではない」としている。呼び掛け人と賛同者は3日現在で計146人。

*12-2:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201702/CK2017020302000125.html (東京新聞 2017年2月3日)「共謀罪」捜査に通信傍受も 無関係な「盗聴」拡大の恐れ
 犯罪に合意することを処罰対象とする「共謀罪」と趣旨が同じ「テロ等準備罪」を設ける組織犯罪処罰法改正案について、金田勝年法相は二日の衆院予算委員会で、捜査で電話やメールなどを盗聴できる通信傍受法を使う可能性を認めた。実行行為より前の「罪を犯しそうだ」という段階から傍受が行われ、犯罪と無関係の通信の盗聴が拡大する恐れがある。テロ等準備罪を通信傍受の対象犯罪に加えるかどうかについて、金田氏は現時点では「予定していない」としながらも、「今後、捜査の実情を踏まえて検討すべき課題」と将来的には否定しなかった。質問した民進党の階(しな)猛氏は「一億総監視社会がもたらされる危険もある」と懸念を示した。通信傍受法は、憲法が保障する通信の秘密を侵す危険が指摘され、捜査機関が利用できる対象犯罪が限定されている。テロ等準備罪の捜査は、犯罪組織による話し合いや合意、準備行為を実際の犯罪が行われる前に把握する必要があり、通信傍受が有効とされる。関西学院大法科大学院の川崎英明教授(刑事訴訟法)は「盗聴は共謀罪捜査に最も効率的な手法。将来的には対象拡大を想定しているはずだ」とみる。川崎教授は「テロ等準備罪に通信傍受が認められれば、例えば窃盗グループが窃盗をやりそうだという段階から傍受できる。犯罪と無関係の通信の盗聴がもっと広く行われるようになる」と指摘。傍受したことは本人に通知されるが、犯罪に関係ない通話相手には通知されないため、「捜査機関による盗聴が増え、知らないうちにプライバシー侵害が広がる」と危ぶむ。沖縄の新基地建設反対運動に対する警察の捜査に詳しい金高望弁護士は「警察は運動のリーダーを逮捕した事件などで関係者のスマホを押収し、事件と関係ない無料通信アプリLINE(ライン)や、メールのやりとりも証拠として取っている。将来的には、通信傍受で得られる膨大な情報を基に共謀罪の適用を図ることも考えられる。テロ対策の名目で、あらゆる情報や自由が奪われる恐れがある」と話す。
<通信傍受法>犯罪捜査のために裁判所が出す令状に基づき、電話や電子メールの傍受を認める法律。2000年の施行時には薬物、銃器、集団密航、組織的殺人の4類型に限定されていたが、昨年12月、殺人や放火、詐欺、窃盗、児童買春など対象犯罪を9類型に増やす改正法が施行された。00年から15年までに傍受した10万2342件のうち、82%が犯罪に関係のない通話だった。

| 外交・防衛::2014.9~2019.8 | 10:24 AM | comments (x) | trackback (x) |
2017.1.5 日本が先進国となり、少子高齢化した中で増える需要と雇用吸収力のある産業は何か → 高齢者いじめの年金・医療・介護の負担増・給付減は憲法違反であると同時に、国民経済を悪化させること (2017年1月6、8、10、13、15日に追加あり)
 あけまして、おめでとうございます。書くべきことは多いのですが、今日は2017年度の国家予算と高齢者いじめの年金・医療・介護の負担増・給付減の話です。


国の借金    国の一般会計  2017年度予算案 社会保障推移 日本の人口構成
       2015.1.28Goo 2016.12.22毎日新聞

(図の説明:国の借金は1989年《平成1年》の消費税導入以降、次第に増えて2015年《平成27年》には1000兆円を超えた。これは、消費税増税を目的として税収増以上の景気対策と称する歳出増を行ってきた結果である。また、消費税は、価格を上げて消費を抑える効果もある。この結果、2017年政府予算案では、国債費が最も大きな支出項目となっているが、このうち国債の利払費は低金利の現在、国債を借り換えすることによってかなり節約できる。社会保障費の割合は大きく金額も増えているが、これは高齢者の数が増加したことが原因で一人当たりの社会保障費が増えたわけではない。特に介護は大きく不足しており、我が国の社会保障は、まだ削減するよりも充実すべき段階にある)

 
労働生産性 労働者一人当たり労働時間推移 労働時間世界比較 医師の労働時間世界比較

(図の説明:我が国の労働生産性はOECD加盟国のうち21位で決して高くないが、全員の労働生産性が低いわけではなく、公的部門や雇用対策・景気対策でなされる事業の生産性が特に低いのだろう。また、我が国の労働者1人当たりの年平均実労働時間は、1980年には2,104時間/年だったが、2012年には1,765時間/年まで減っており、これはアメリカ・イタリアより少ないため、我が国の労働者は働き過ぎだと主張する人は30年古い感覚である。しかし、医師の労働時間数は世界でもとりわけ高く、過労死認定基準を超えており、このように疲れていては治療の安全性さえ危ぶまれるが、他の職種との給与差は世界でも小さい方であり、度重なる診療報酬の引き下げは医療の質を落とす可能性が高い)

(1)国の異次元の借金と歳入・歳出について
 *1-4に、「①国の借金が1062兆5745億円に達して国民1人当たり約837万円の借金になった」「②高齢化で増え続ける社会保障費を賄うため借金が膨らんだ」「③経済対策の財源として建設国債を発行するため、2016年度末の国の借金は1119兆3000億円程度になる」と記載されている。

 このうち①は、国の負債部分しか見ておらず資産を考慮していないため正しくない。そして、その資産は使い方によっては大きな収益を産んで価値が高くなるが、金をどぶに捨てるような使い方をすれば価値がなくなり、現在は後者の使い方が目立つ。

 また、③は事実を書いたのだろうが、②の「借金が膨らんだ理由は社会保障費だ」というのは間違いだ。何故なら、社会保障費はあらかじめ予測できた支出であり、受益者たる国民は働いた期間に保険料を支払ってきたため、基本的に保険料収入から支出すべきもので財政支出すべきものではないからだ。それにもかかわらず、国民が支払った保険料では賄いきれずに財政支出しているのは、これまで監督官庁が単年度の収支しか考えておらず、保険料の徴収や積立金の管理・運用・配分等が著しく杜撰だったからである。

 そのため、その本質的な原因をなくさずに、「官は正しいことをしてきたが、少子高齢化(これも予見できた)が原因だ」などとして積立金不足の責任を特定世代の国民にしわ寄せするのは、正義に反する上、それでは社会保障が信頼をなくし、杜撰な管理・運用が今後とも改善されないのでよくない。

(2)2017年度の政府予算案について
1)予算案はまともに審議されるのか?
 一般会計歳出総額97兆円台半ばの2017年度政府予算案が、*1-1のように閣議決定されたが、これでもし衆議院が1月に解散されれば、国会のしっかりした審議もなく膨大な予算が執行されることになる。そのため、これは主権者である国民を無視した憂慮すべき事態だ。

2)国債残高と利払いについて
 大手新聞社は、*1-1のように、一貫して「社会保障が膨らみ、新規国債の発行額は16年度の34.4兆円をわずかに下回る薄氷の減額で、改革の切れ味が鈍い」という論調だが、正しくは国債増加額と国債の利払いを問題にすべきだ。そうすると、金利の低い現在は、新規国債を発行して金利の高い国債を返済し、今後の利払いを抑えるのが賢明だということがわかる。そして、「歳出の中で割合が大きいから、社会保障費を削るのが改革だ」とするのは、後で理由を書くとおり、間違いである。

3)沖縄振興と政府開発援助について
 沖縄振興は、基地を縮小し、沖縄自身が観光業・その他の産業を起こし、街づくりをして自ら稼ぐことができるようにするのが最も有効な投資であり、基地負担を強いるためにいつまでも補助金をばら撒くのは誰にとってもプラスにならない。

 また、政府開発援助(ODA)も大きいが、日本の外交は、国民に負担させて金をばら撒くばかりで、論理的に交渉する力に欠けているため、無駄遣いが多すぎる。

4)高齢者の負担増について
 高齢化による自然増6400億円の社会保障費を1400億円抑え、中高所得者とも言えない所得の低い高齢者の医療・介護負担を増やして高齢者向け社会保障費を5000億円増に抑えたのは、現在の本物のニーズである高齢者の医療・介護需要を減らさせ、命を支えている医療・介護従事者に不当な負担を強いた上、高齢化社会で必要となる財・サービスの開発・普及を妨げているため、間違った政策である。

 一方で、健康な生産年齢人口に当たる人の“働き方改革”に2100億円も充てているが、これは、脱法行為も含む労働基準法違反や男女雇用機会均等法違反をしっかりと取り締まればよいのであり、補助金を積んで改善していただくべき事項ではない。

 なお、*1-5のように、電通の新入社員である高橋まつりさんが異常な長時間労働の末に自殺した事件について、母の幸美さんが「日本の働く全ての人の意識が変わってほしい」と求める手記を公表し、一つの特殊な事例を働く全ての人に敷衍しようとしているが、これには無理がある。何故なら、(アウト・プットを見ればわかるとおり)電通は広告会社であり、東大は研究者や各界のリーダーを養成する校風であるため、東大文学部を卒業したからといって電通の仕事をする能力に長けているとは限らないからだ。

 また、上司が「目を充血させて会社に来るな」と言ったのも、本人が長くエネルギーを出し続けるためには無茶な残業をするよりも規則正しく仕事をする方がよい上、朝から他の社員に疲れを伝染させるようなことはしない配慮も必要であるため、上司として必要な注意だったかも知れず、パワハラとは決めつけられない。さらに、上司が「君の残業は電通にとって無駄だ」と言ったのも、成果があがらないので少なくとも頑張っているところを見せたいため長時間残業をする人もおり、それは本当に無駄であるため、必要な注意をしたのかもしれないからである。しかし、新入社員に、一人で責任を持つ形で困難な仕事をさせていたのであれば、それは異常であるとともに、社員を育てる意識に欠ける。

 そのため、まつりさんは、①社内の人事部などに相談する ②私もされた経験があるのでわかるのだが、東大卒など上昇志向の女性いじめの可能性も高いため、大学の就職相談室に相談しておく (労働基準監督署は、それ自体に女性差別があり、賃金と残業時間くらいしか対応できないため、このような女性差別の問題は大学の就職相談室が相談を受け付け、会社毎に挙がってくる問題を集計して対処した方がよい) ③労働問題・男女共同参画問題の専門家である弁護士に相談する ④(本当に自殺なら)母一人子一人の母親に喪失感を与えるような自殺はしない ⑤どうしても仕事や社風が合わなければ転職する など、大人としてやるべきことがあった筈なのだ。

 なお、日本社会は、「会社に入ったら辞めるのは落後者だ」という烙印を押すのをやめ、諸外国と同様、転職や中途入社をしても不利にならない雇用システムにすることが重要だ。また、本気で仕事における女性軽視や上昇志向の女性いじめをやめることも必要である。そして、この事件に対する日本社会の変な反応によって、本当に必要な時間外労働をしている人までが批判され、わかりやすい例を挙げれば、医療・介護も夜間・休日は休業しなければならないとか、メディアも生放送や朝刊をなくさざるをえないなどの負の結果が出るのは論外だ。さらに、仕事量が減らないのに午後8時や10時に全館消灯されると、家に仕事を持ち帰らざるを得ない人が増え、電車に忘れたりしてセキュリティー上のリスクが上がるとともに、それこそ仕事とプライベートの堺をなくさせ、ペースを乱させて労働生産性を下げる。なお、生産年齢人口が減る中で労働生産性を下げると、労働の量と質の両方が減ることを忘れてはならない。

 最後に、*1-2に、「1億総活躍社会の実現」として、保育士や介護職員の処遇改善に952億円を充てたと書かれているが、このやり方は保育と教育の連携や医療・介護制度の全体を考慮していないため、資本生産性が低い。

5)防衛費について
 防衛費は過去最高の5.1兆円に増やしたそうだが、東京オリンピックの競技場と同様、政府が購入する物品は国内市場価格の3~4倍であり、中国と比較すれば5倍にものぼる。そのため、多く支出する割には大したことはできておらず、公的部門の資本生産性(支出1円当たりの効果)は著しく低い。

 また、*1-2の海上保安庁の予算(2106億円)も同様だと思われるため、高コスト構造や公的部門の購入コストを何とかしなければ、無駄遣いが非常に大きいのだ。

6)土地改良事業について
 資本生産性が低いのは、4020億円を充てた土地改良事業も同じだ。土地改良費はこの20年の累積で約8兆円(4000億円/年 x 20年)近くにのぼるが、未だに大型機械が入らない区割りになって
いる場所があったり、いつまでも土地改良事業が必要だと言っていたりするのは、これまで何をしてきたのかと思われる。私は、災害で壊れた場所を治す時も、何度も同じ場所を工事する必要がないように、復旧して元に戻すのではなく、時代の要請にあったものを造るべきだと考える。

7)歳入・歳出と消費税増税について
 歳入面では、来年度の税収は今年度当初比1000億円増の57.7兆円に留まり、歳出の伸びと比較して税収の伸びが鈍いため、外国為替資金特別会計の運用益等の税外収入を2016年度の4.7兆円から2017年は5兆円超に伸ばす方針なのだそうだ。しかし、これまでに書いてきたとおり、税収増は、各生産性を上げ、国産自然エネルギーに代替したり、新産業を創出したりすることによって実現でき、税外収入は地熱・天然ガス・地下資源などの国産資源を開発する方が大きな効果が得られる。

 なお、日本の消費税は、1989年(平成1年)に導入されて税率3%でスタートし、1997年(平成9年)に5%に引き上げられ、2014年(平成26年)4月からは8%に引き上げられた。そして、一番上の左から2番目のグラフを見ればわかるとおり、消費税導入翌年の平成2年から国の歳出が歳入を大きく上回り始め、その差は増税毎にますます大きくなって、それにつれて国債発行残高が増えているのだ。これは、消費税増税のための景気対策と称して消費税増税以上の歳出をしているからで、消費税が財政に貢献するというのは消費税増税自体が目的である政府の御都合主義の神話である。なお、「社会保障費は消費税や付加価値税からしか支出してはいけない」などとする国は、日本以外にはない。

8)少子高齢化社会のニーズに合ったサービスである社会保障の削減について
 東京新聞が*1-3に記載しているように、政府が12月22日に閣議決定した2017年度予算案は、上記3)~6)の増加があった半面、高齢者関係の社会保障費の増加を抑え、高齢者に対して予算のしわ寄せを行っている。

 そして、歳出の1/3を占める社会保障費の伸びを抑えるためとして、医療・介護の分野での高齢者の負担増が多く、①一定の所得のある70歳以上を対象とした医療費の自己負担上限引き上げ ②後期高齢者医療制度保険料の自己負担増加 ③高齢中所得者の介護保険サービスの利用者負担上限引き上げ が盛り込まれ、菅官房長官が12月22日の記者会見で「社会保障と財政を持続可能にすることができるようにするということは当然」として、翌年度以降も医療・介護での負担増は避けられないとの考えを早くも強調したそうだ。

 しかし、この政策は、“社会保障”と“財政”を持続可能にするどころか社会保障の機能を失わせ、「高齢者は国民負担になるから、次世代のために早く他界してくれ」と言わんばかりだ。これは、憲法25条の「①すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する  ②国はすべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」という国民の生存権と国の社会的任務を定める規定に反する。

 また、(3)で書くとおり、もともと少ない高齢者の可処分所得を削り、生産年齢人口にあたる健康な人のために景気対策と称して資本生産性の低い大きな財政出動を行って国全体の労働生産性を落としつつ、今後人口における割合が高くなる領域(一番上の右端のグラフ参照)の消費を抑えてGDPの増加(=経済成長)を阻害している点で、賢くない政策である。

(3)GDP算出方法の基準変更と実質GDPが増えない理由
 異次元の金融緩和や莫大な財政支出による景気対策を行っても、*2-1のように、実質国内総生産(GDP)の成長率は2%に満たず、①個人消費などの内需は弱くて輸出が牽引している構図に変わりない ②企業の設備投資が下方修正された ③民間在庫の減少も下押し要因となった とのことである。私は、①は税と社会保障の一体改革で人口の25%を占める65歳以上の消費を抑制した影響が大きく、その結果、国内消費が冷え込んだため、②③のように国内投資が抑制されたのだと考える。

 また、内閣府はGDP算出方法の国際基準変更に伴って、今回から研究開発費を投資に追加する変更を行い、過去分にさかのぼって数値を修正したところ、設備投資は速報値の前期比0.03%増から0.4%減と悪化し、GDPの6割を占める個人消費は0.1%増から0.3%増に改善したそうで、内閣府が国際基準の変更に伴ってGDPの計算方法を見直した結果、2015年度の名目GDP確報値は532兆2千億円になり、基準変更の影響だけで2015年度の名目GDPは旧基準と比較して31兆6千億円拡大して、安倍政権が目標として掲げる名目GDP600兆円に近づいたそうだ。しかし、これは尺度の変更にすぎない。

 このうち最も大きな変更点は、今まで費用とされてきた研究開発費を付加価値を生む投資としてGDPに加えるようになったことで、これによる名目GDPへの上乗せ効果が研究開発費だけで19兆2千億円あるそうだが、研究開発に失敗はつきもので研究開発費のすべてが付加価値を生む投資になるわけではないため、私はこの認定は甘すぎると考える。国際会計基準(IFRS)では、研究開発投資について合理的な根拠がある場合(新商品に繋がる可能性が高く、その際に特許権・商標権等が生じるなど)に限って資産性を認めて資産計上できることになっている。

 なお、*2-2に書かれているとおり、新基準では統計の基礎となる産業連関表を実勢に近い2011年分に切り替えるそうだが、日本の産業連関表は、第二次産業(製造業)が細かく分析されているのに対し、第一次産業(農林漁業、鉱業)や第三次産業(サービス業)が大雑把にしか扱われていない点で時代についていっていないため、これを改善すべきだと、私は考える。

 何故なら、先進国で高コスト構造の日本は、既に製造業による加工貿易に適した国ではなく、そのような国で雇用吸収力の高い産業は国内向けの財・サービスを生産する産業で、実際にそれらのGDPに占める割合が高くなっているからだ。さらに、人口に占める割合の高い高齢者向けの需要は増え、日本で高齢者向けの洗練された財・サービスを開発すれば、それは後に続く他国へも輸出可能な筈である。

 なお、日本で輸出を伸ばせる産業には、これまで重視してこなかったため伸びしろが大きく、工場のように移転できない農林漁業と関連食品産業、鉱業、現代の技術を取り入れた伝統産業などもある。

 そのため、(2)の予算のように、高齢者から可処分所得を巻き上げ、高齢者がQOLを高くするために自由に選択して消費することを不可能にし、それによって高齢者向けの洗練された財・サービスの開発を妨げて、一方でグローバル化と称して農業を犠牲にして自動車の輸出を計るのは、過去のやり方を繰り返そうとしているだけで現在と将来を見すえていないため愚かである。

(4)高齢者に対する給付減・負担増は日本経済にマイナスであること
1)年金について

“改革”の工程 圧縮案   年金“改革”の内容  賃金スライド  “改革”の理由
      2016.11.24  2016.10.13    2016.12.3  
       佐賀新聞    毎日新聞     西日本新聞

(図の説明:一番右の表のように少子化で支え手が減るという理由で、一番左の表のように年金・医療・介護などの高齢者向け社会保障は給付減・負担増ばかりだが、これでは社会保障の機能を果たさない。そのうち年金に関する支給開始年齢の引き上げはよいと思うが、仕事も蓄えもなければ生活保護に頼らざるを得ないため、70歳くらいを年金支給開始年齢(=定年)として、それ以前に健康で仕事がない人には失業保険で対応するのがよいと考える。なお、年金については、受託者が失敗した徴収・管理・運用の責任を国民に押し付け、受給額引き下げや賃金スライドまで取り入れて減額に専念しているが、このままでは今後も同じことが繰り返される。そのため、組織の見直しでお茶を濁すことなく、年金に退職給付会計を採用して要積立額の数理計算を行い、年金受給者のための徴収・管理・運用を徹底すべきだ)

 
 各国の公的年運用    日本は積立金運用方針変更で赤字    厚生年金未加入者

(図の説明:公的年金の積立金運用は、アメリカでは100%債権であり、そうでない国もあるものの、金融技術が進んでいるのはアメリカだ。私も、老後資金であり喪失できない年金積立金の運用は、元本が減らないような割合(80%以上)で債権による運用をすべきだと考えているが、日本では年金積立金をリスク資産に振り向けた結果、大きな赤字を出し、積立金のさらなる減少を招いた。なお、物価上昇や低金利は債権での運用に不利だが、そもそも物価上昇や異常な低金利は国民生活を害する経済政策なのだ。また、利子率は労働生産性や資本生産性などの生産年齢人口の稼ぎ方に依るため、日本は労働生産性や資本生産性を上げるような予算の使い方をしていない点でも政策が間違っている。なお、日本では厚生年金に加入できない人が多く、老後の生活に不安があるが、これらの人も厚生年金に加入させれば、厚生年金財政も少し楽になる)

 日経新聞は、2016年12月8日に経済教室で、*3-1のように、中央大学教授の山田氏の見解を掲載しているが、このように高齢者は金を使わないと言うのが、現在言われている高齢者からは金を巻き上げてよいとする根拠だ。しかし、この感覚は全く変である。

 その内容は、「①欧米と違い、家族の制約から高齢者はお金があっても消費に回さない」「②日本では家計を妻が管理しており、引退後も夫は自由に金を使えない」「③団塊世代の夫婦年齢差は平均4歳で平均寿命も6歳ほど女性が長く、妻は夫が亡くなった後の10年を1人で生活しなければならないため、金を夫に使わせたくない」「④日本では夫婦共通の趣味を持つ高齢者が少なく、共通の趣味を楽しむために2人で金を使う夫婦は少数」「⑤夫婦仲も欧米に比べて良いとは言えず、自分の趣味のために夫婦のお金を使うと相手に嫌がられる」「⑥高齢者は子との関係が悪化することに不安をもっており、資産のない高齢者は子との関係が疎遠になりがちなため、資産がなくなったら子から見捨てられるかもしれないという不安がある」「⑦そのため、金を持っていようという高齢者が増える」「⑧日本では、病気や介護状態が長期化した時、中流生活を維持しようとすれば、ヘルパーなど余分な費用がかかるので、可能性は低くてもそういう状態になった時に困らないように、お金を取っておこうとする」などと書かれている。

 このうち、①は間違いで、⑧の医療・介護需要は必需品の消費だ。そして、高齢者は医療・介護が必要になった時に、あてにできない子に頼らなくてもよいように蓄えを持っておこうとしているというのが正しい。さらに、③のように一人で生きなければならない期間に年金が減らされて貧困に陥るのを避けるため、②のように無駄遣いをしないようにしているのだ。また、④⑤は一般化できず、⑥⑦のように子との関係維持のために資産が必要だというのは、よほど子の教育が悪かった人だろう。

 そのため、私は、意図的に高齢者の消費を抑えなければ、堺屋氏の言うように高齢者が多く消費する時代が来て、洗練された高齢者のニーズが新たな財・サービスの開発に繋がると考える。

 しかし、*3-1のような世論を作った上で、将来の年金水準確保が狙いだとして、*3-2のように、政府は、「物価が下がった場合だけでなく現役世代の賃金が下がった場合にも高齢者への年金支給額を減額する」という新ルールを作って高齢者への年金支給額抑制を強化した。これにより、*3-3のように、国民年金の支給水準が現行より最大0.6%下がり、将来世代の受け取りが最大0.6%上昇する計算だそうだが、このような単純な算術しかできない人が日本経済を考えたり年金の設計をしたりするのが、大きな間違いなのである。

 なお、中小企業の従業員や非正規社員も、本来は厚生年金に加入しなければ老後の生活に困るため、ここを厚生年金に加入させることは、本人のためである同時に、年金財政上も重要である。そして、年金で生活できなければ貯蓄を増やさざるを得ず、貯蓄がなければ生活保護受給者になるのだ。

 また、私は、*3-4の「年金運用巨額赤字 国民に失敗のつけを回すな」という琉球新報の社説に同感で、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がリスク資産への投資を増やして、2015年度の運用損が5兆円を超える巨額赤字になる見通しだというのは失策だと考える。そして、ここまで大きな責任に対し、誰かが引責辞任したからといって、国民にとっては何の役にもたたない。

 さらに、*3-5のように、厚労省は、75歳以上の後期高齢者医療制度で保険料徴収システムの不備があり、2008年度の制度発足時から全国的に計算ミスで保険料を過大・過小に徴収し、ミス発覚から5年間も放置していたとのことだが、これがこれまでにも多かった厚労省の杜撰さで、民間企業ならとっくに倒産しているところだ。しかし、2年を超えて請求のなかった債権債務は、短期消滅時効にかかるため請求はできない。

 なお、*3-6のように、国民年金・厚生年金を受け取るのに必要な受給資格期間が25年から10年に短縮されたのは、少し進歩だ。しかし、本来は、短い期間でも年金保険料を支払った人は、支払期間と支払金額に応じて年金を受けとれるようにするのが公正で、今まで支払期間が25年に満たないとして年金が支払われなかった分は、国の不当利得になっていたのである。

2)医療・介護について

“改革”の工程 圧縮案   医療の高額療養費   介護負担 65歳以上の介護保険料
      2016.11.24  2016.12.16 
       佐賀新聞    東京新聞

(図の説明:高齢になると病気が増えるので医療・介護費がかさむが、働いている期間は病気もしないのに保険料を支払っているので、これによって保険制度が成立するわけである。そのため、高齢者のみが入る後期高齢者医療制度を作るなどというのは、保険を理解していない人のすることだ。また、高齢になると医療・介護の出費がかさむため、大金持ち以外は75歳以上の窓口負担を1割にしたり、高額医療費の上限を低くしたりするのが当然で、支払上限は医療・介護の双方を足した金額も考慮して決めるべきだ。また、救急で近くの専門医に運んでもらったり、深刻な病気でセカンド・オピニオンをとったりする場合もあるため、かかりつけ医以外を受診すると追加負担させるというのも先進国のすることではない。さらに、入院した際に部屋代以外に高熱水費をとられるのは、ホテル代を支払う時に高熱水費を別に請求されるのと同じくらい違和感がある。そして、こうまでしてたった数百億円を節約するために既に法案提出の準備を終わったというのだから呆れる。さらに、介護については、2000年(平成12年)4月に始まったばかりで、まだ軌道にさえ乗っていないのに、上限引き上げ・利用料引き上げ・保険料引き上げ・サービスカットなど負担増・給付減の話ばかりで、40歳以上からしか介護保険料を徴収せず、利用者の年齢も制限しているという不合理で変則的な制度については改善していない。つまり、他では兆円単位の無駄遣いをしながら、命を支える医療・介護には数百億円単位でケチケチしており、倫理に反する)

 来年度から順次実施される医療保険と介護保険の見直し案が、*4-1のように決まり、それは高齢者に負担増を求める内容で、①医療は70歳以上で現役並みに所得のある人の月毎の負担上限額を現役世代と同水準に引き上げ ②75歳以上の保険料を本来より軽減している特例も段階的に縮小し ③介護では、現役並み所得者の利用者負担を2割から3割に引き上げる ④現役よりも所得の少ない人も、住民税が課税されていれば月毎の負担上限額を医療並みに上げる とのことだ。

 さらに、*4-1には、会社勤めの人の保険料は、大企業の社員は重く、中小企業の社員は軽くなると書かれている。見直しの根底にあるのは、大企業・高額所得者という分類を設けて負担を重くすることだが、「大企業」を分ける意味はなく、「現役並み」とする境界も低すぎる。また、所得の再分配は累進課税で既に行っているため、同一サービスを同一対価で受けられないのはむしろ差別にあたる。その上、高齢者は支えてもらう側というのも、働いている期間に多額の保険料を払って来た人にとっては失礼な話だ。さらに、悪影響を受けるのが高齢者だけならよいとする発想はあくどい。

 つまり、*4-2のように、高齢者の命に関わる支えをはずし、高齢者の生活を脅かす改悪をして公正さを損ないながら、社会保障費でたった1400億円を抑制するよりも、(2)に記載したとおり、抑制すべき桁違いに多額の無駄遣い予算がいくらでもあるのだ。

 さらに、*4-4のように、医療費と介護費の毎月の自己負担額にそれぞれ上限を設ける「高額療養費制度」「高額介護費制度」も上限を上げるそうだが、医療費で高額療養費制度を適用されるような高齢者は、介護も受け続けなければならないケースが多く、高齢者の収入から両方を支払うのは年収370万円(=月収約31万円だが、介護保険料や水光熱費は必ず引かれる)だったとしても容易ではないだろう。そのため、医療費と介護費を合計した上限も設定すべきである。

 また、*4-3のように、厚労省は、2017年度から予定する公的医療保険制度の見直しで、75歳以上の後期高齢者医療制度で、所得が比較的低かったり扶養家族だったりした人も保険料の特例軽減を廃止して段階的に引き上げ、70歳以上の医療費優遇措置も縮小して、国費350億円の抑制を見込むそうだが、小さな効果のために高齢者の生活を脅かすのはいい加減にすべきだ。

 そして、診療報酬削減も繰り返した結果、*4-5のように、地域医療が崩壊の危機に瀕し、居宅・特別養護老人ホーム・有料老人ホーム・介護老人保健施設のニーズの見直しが進んでいるが、高齢化が進んでいる農村で、住民が住み慣れた土地で安心して暮らし続けられるためには、医療・介護の一体化が欠かせず、地域包括ケアを根付かせることができるかどうかが地域医療の試金石となるそうだ。

 なお、日本農業新聞が、*4-6の2016年11月13日に書いているとおり、介護の必要度が比較的軽い「要介護1、2」でも、社会的入院をせず自宅療養するためには在宅支援サービスの生活援助が不可欠であるため、介護保険が縮小されると介護利用者の不安が頂点に達するそうだ。そのため、現在でも足りないくらいの介護費用を数百億円削り、健康な生産年齢人口の人に対して景気対策と称する数兆円規模の無駄遣いをするのは不適切である。また、年中、制度変更と削減を繰り返されると、介護主体も経営が安定せず混乱する。その上、介護や生活支援のように毎日必要とされる重労働に報酬で報いることなく、善意のボランティアで済ませようとするのは、介護や家事労働を馬鹿にしている人の発想だ。

<国の財政支出、借金>
*1-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161218&ng=DGKKZO10806150X11C16A2NN1000 (日経新聞 2016.12.18) 来年度予算 改革の切れ味鈍く、歳出、社会保障膨らむ/歳入、薄氷の国債減額
 政府は2017年度予算案で一般会計の歳出総額を97兆円台半ばとする方針だ。5年連続で過去最高を更新する。国債の想定金利を過去最低の1.1%に据え国債費を抑えたが、高齢化で社会保障費の膨張が続く。歳入面では税収が16年度当初予算並みの水準にとどまると想定し、新規国債の発行額は16年度の34.4兆円をわずかに下回る薄氷の減額となる。麻生太郎財務相らが19日に関係閣僚と折衝し、沖縄振興や政府開発援助(ODA)、教職員定数など残された課題の予算規模や方針を詰める。22日に閣議決定し、来年の通常国会に提出する。歳出総額は前年度の96.7兆円から増やし、97.4兆~97.5兆円とする案を軸に最終調整している。夏の概算要求の段階で高齢化による自然増を6400億円と見積もった社会保障費は、中高所得者の高齢者の医療・介護分野の負担を増やし5000億円増に抑えた。その一方で、子育てや介護、年金などの充実策には新たに3000億円程度を投じ、働き方改革の予算には前年比3割増の2100億円を充てた。ミサイル防衛などを強化する防衛費は過去最高の5.1兆円に増やし、4020億円を充てた土地改良事業を含む公共事業費は5年連続増の6.0兆円とした。今年度第2次補正予算案で追加支出した農林水産関係費は20億円減の2.3兆円に、文教・科学技術振興費も微減の5.4兆円とした。一般歳出以外の経費では、財務・総務両省が地方交付税交付金を前年比3000億円増の15.6兆円前後とする方向で詰めの協議を進めている。国債費は国債の想定金利を過去最低の1.1%に据えた。5000億円程度の抑制効果があり、国債費全体でも16年度当初の23.6兆円を最大1000億円下回る。歳入面では、今年度第3次補正で税収見積もりを1.7兆円下方修正する影響で、来年度税収が今年度当初比1000億円増の57.7兆円にとどまる。歳出の伸びと比べ、税収の伸びが鈍かったため、外国為替資金特会などの運用益などの税外収入を確保し、16年度の4.7兆円から5兆円超に大幅に伸ばす方針だ。この結果、財源不足を穴埋めする新規国債の発行額は16年度の34.4兆円を数百億円程度下回る見通しだ。ただ、国債減は想定利率の大幅な引き下げや税外収入の確保といった特殊要因の寄与度が大きく、減額幅は安倍政権発足後ではもっとも小さくなった。

*1-2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12719390.html (朝日新聞 2016年12月23日) 膨張予算、歯止め遠く 来年度、過去最大97.5兆円案決定
 政府が22日に閣議決定した2017年度予算案は、5年連続で過去最大になった。高齢化で年金や医療など社会保障費が膨らむ中、防衛費や公共事業費も増える。一方、ここ数年は数兆円伸びていた税収は、16年度当初比で1080億円の微増にとどまる。一般会計の歳出総額は97兆4547億円。歳入穴埋めのための新たな国債(国の借金)発行額は34兆3698億円となった。16年度当初より622億円減らすが、17年度末の国債の残高は2・4%増の865兆円に膨らみそうだ。税収は、政府の17年度の経済成長率見通し(名目2・5%、実質1・5%)が前提。米大統領選後の円安・株高も織り込んでおり、世界経済の動向によっては想定通りの税収が得られない可能性もある。社会保障費も1・6%増の32兆4735億円で、過去最大を更新した。一部の負担増で自然増を圧縮しつつ、「1億総活躍社会の実現」として、保育士や介護職員などの処遇改善には952億円を充てた。防衛力強化に向け、防衛費も過去最大の5兆1251億円とした。海上保安庁の予算は要求を上回る2106億円を認めた。公共事業費も、5年連続で前年度を上回った。政府は、16年度より新たな借金はわずかに減らせたことから、「経済再生」と「財政再建」を両立できたとする。だが、税収は伸び悩み、新たな借金に頼らない財政という20年度の目標は遠のいた。

*1-3:http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201612/CK2016122302000143.html (東京新聞 2016年12月23日) 安倍カラー 暮らしにツケ 17年度予算案 閣議決定
 政府が二十二日に閣議決定した二〇一七年度予算案の一般会計の歳出総額は九十七兆四千五百四十七億円で、五年連続で過去最大になった。防衛費は五年連続で増やし五兆一千二百五十一億円と過去最高を更新。一方で社会保障費は増加を抑えるなど、安倍政権の姿勢を反映した予算のしわ寄せは、国民の暮らしに及んでいる。
◆膨張
 「わが国を取り巻く厳しい安全保障環境の下で、防衛の質と量をしっかり充実させることが必要だ」
 稲田朋美防衛相は二十二日の記者会見で強調した。一七年度予算案では防衛費が過去最高額を更新。予算額は一六年度当初比で1・4%増の五兆一千二百五十一億円に膨れあがった。押し上げ要因として浮かび上がるのは、米国製の高額な武器を積極的に購入していることだ。最新鋭ステルス戦闘機F35六機の取得費計八百八十億円、新型輸送機オスプレイ四機の取得費計三百九十一億円、無人偵察機グローバルホーク一機の組み立て費百六十八億円…。米国から買う武器で一七年度予算案に盛り込まれた総額は三千五百九十六億円に上る。四千億円台だった一五、一六年度よりは減ったが、一四年度の千九百五億円を大幅に上回る高水準だ。F35を巡っては、トランプ次期米大統領が「計画も費用も制御不能だ」と批判し、米国防総省による購入費の削減に取り組む考えを表明。日本政府内にも「高額であることは間違いない」(高官)との意見がある。
◆圧迫
 一方、歳出の三分の一を占める社会保障費の伸びを少しでも抑えるため、医療や介護などの分野で国民の暮らしを圧迫するメニューはめじろ押しだ。一定の所得のある七十歳以上を対象とした医療費の自己負担上限を引き上げることや、後期高齢者医療制度の保険料の自己負担を段階的に増やすこと、さらには、中所得者を対象に介護保険サービスの利用者負担上限を高くすることなどが盛り込まれた。菅義偉官房長官は二十二日の会見で「社会保障と財政を持続可能にすることができるようにするということは当然。不断の取り組みが大事だ」と話して、翌年度以降の予算編成でも医療や介護での負担増が避けられないとの考えを早くも強調した。歳出は拡大していく一方だ。公共事業は老朽インフラの更新などで五兆九千七百六十三億円と微増ながら増加を続け高止まりだ。中でも五年連続で増やした防衛費は五兆円を突破しただけでなく、一六年度第三次補正予算案でも千七百六億円を計上する大盤振る舞いだ。高齢者の医療や介護では自己負担の増加を求める一方で、防衛費や効果が見えない「アベノミクス」の柱である公共事業を優先-。安倍政権の「本音」がより鮮明になった予算の姿を浮かび上がらせている。

*1-4:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/376438 (佐賀新聞 2016年11月14日) 国の借金1062兆円 過去最大、国民1人837万円
 財務省は、国債と借入金、政府短期証券を合計した9月末時点での「国の借金」が1062兆5745億円に達し、過去最大を更新したと発表した。国民1人当たり約837万円の借金を抱えている計算になる。高齢化で増え続ける社会保障費を賄うため、借金が膨らんだ。経済対策の財源として建設国債などを発行するため、2016年度末には1119兆3000億円程度になると財務省は見込んでいる。これまでは15年6月末の1057兆2235億円が最大だった。今年6月末からは9兆1069億円増えた。9月末の借金の内訳は、国債が926兆1383億円に上り、6月末に比べ7兆6619億円増加した。金融機関などからの借入金は9749億円増えて53兆6869億円。一時的な資金不足を穴埋めする政府短期証券は4701億円増の82兆7493億円だった。

*1-5:http://qbiz.jp/article/100680/1/ (西日本新聞 2016年12月25日) 過労死ない社会、母の願い 電通社員自殺1年で手記
 電通の新入社員、高橋まつりさん=当時(24)=が長時間労働の末、自殺してから25日で1年を迎え、母の幸美さん(53)が、電通の役員や幹部に「まつりの死に対して心から反省をして、見せかけではなく本当の改革を行い、二度と犠牲者が出ないよう決意していただきたい」と求める手記を公表した。「仕事のために不幸になったり、命を落としたりすることはあってはならない」とも記述。最後を「日本の働く全ての人の意識が変わってほしい」という一文で締めくくっており、過労死を招く社会の在り方を考え直すことを求める内容となっている。まつりさんが命を絶ったのは、昨年12月のクリスマスの朝。幸美さんは娘を失った喪失感を「あの日から私の時は止まり、未来も希望も失った。息をするのも苦しい毎日。朝、目覚めたら全て夢であってほしいと思い続けている」とつづる。夫と離婚後、静岡県で働きながら育て上げたまつりさんについて「困難な境遇でも絶望せず、10歳の時に中学受験をすると自分で決めた時から夢に向かって努力し続けた」と振り返り、電通に入社後も「期待に応えようと手を抜くことなく仕事を続けたのだと思う」と推察。「あの時、会社を辞めるよう強く言えばよかった。母親なのにどうして助けられなかったのか」と後悔を吐露している。今年9月にまつりさんの自殺が労災認定されると、東京労働局などが電通への強制捜査を実施。折しも政府の働き方改革実現会議の議論も進んでおり、長時間労働を抑制する機運が高まっている。こうした状況について、幸美さんは「まつりの死が、日本の働き方を変えることに影響を与えているとしたら、それは、まつり自身の力かもしれない」とする一方、「まつりは生きて社会に貢献できることを目指していた。そう思うと悔しくてならない」「本当の望みは娘が生きていてくれること」とも書いてあり、抑えきれない悲しみが伝わってくる。
   ◇   ◇
●午後10時全館消灯…改革半ば
 昨年12月に自殺した電通社員、高橋まつりさんの母幸美さんが、悲痛な思いをつづった手記を公表した。まつりさんは昨年春、電通に入社。東大在学中に就職先として広告大手を選んだのは「一流企業に就職し、お母さんを楽にしてあげたい」という思いがあったから。入社後はインターネット広告などを担当した。しかし、昨年10月に本採用になると業務が激増。月100時間以上の残業も強いられた。「死にたいと思いながらこんなストレスフルな毎日を乗り越えた先に何が残るんだろうか」。亡くなる直前まで書き込み続けたツイッターの文面を見ると、今となってはSOSにしか映らない。若者の雇用問題に取り組むNPO法人「POSSE」の今野晴貴代表は「企業の自主的取り組みだけでなく、長時間労働の法規制まで踏み込むべきだ」と、政府に注文を付けた。電通は午後10時以降の全館消灯を始めるなど改善に取り組むが「みんな仕事を持ち帰るようになっただけ」(20代社員)という声もあり、改革は道半ばのようだ。「会社の深夜の仕事が東京の夜景をつくっている」。まつりさんは生前、深夜残業がまん延している異常さを、こんな表現で幸美さんに伝えていたという。「制度をつくっても、人間の心が変わらなければ改革は実行できない」。幸美さんが突き付ける言葉が重く響く。
■電通社員の過労自殺 2015年4月に電通に入社した高橋まつりさんが、同年12月に東京都内の社宅から飛び降り、24歳で亡くなった。三田労働基準監督署は、長時間労働が原因として16年9月に労災と認定。まつりさんは自殺前「本気で死んでしまいたい」「もう体も心もズタズタだ」などの思いを会員制交流サイト(SNS)などに書き込んでいた。

<GDP>
*2-1:http://qbiz.jp/article/99717/1/ (西日本新聞 2016年12月9日) GDP下方修正、年1.3%増 内需低調、輸出頼み続く 7−9月期改定値
 内閣府が8日発表した7〜9月期の国内総生産(GDP、季節調整値)の改定値は、物価変動を除いた実質で前期比0・3%増、このペースが1年間続くと仮定した年率換算は1・3%増で、速報値の年率2・2%増から下方修正した。3四半期連続のプラス成長だが、個人消費など内需が弱い中で輸出がけん引する構図に変わりはなく、景気は力強さを欠いている。速報後に公表された法人企業統計を受けて企業の設備投資が下方修正され、民間在庫の減少も下押し要因となった。内閣府は国際基準の変更に伴い、今回から研究開発費を投資に追加するなどGDPの算出方法を変更。過去分にさかのぼって数値を修正した。改定値の内訳をみると、設備投資は速報値の前期比0・03%増から0・4%減と悪化。不動産業や鉄鋼業などで減り、2期ぶりのマイナスだった。GDPの6割を占める個人消費は0・1%増から0・3%増に改善。内閣府は「テレビや飲料販売、宿泊施設関連の増加がプラスに寄与した」と説明する。一方で、大和総研の長内智氏は「引き続き内需に力強さが欠けている点には留意しておく必要がある」と指摘する。輸出は速報値の2・0%増から1・6%増に下方修正されたものの2期ぶりに増加。実質GDPへの影響を示す外需の寄与度は0・3%と、押し上げ効果をもたらした。トランプ次期米大統領の政策が見通せないことなど、世界経済を巡る「不確実性の高い状況は続く」(黒田東彦日銀総裁)中で、今後も輸出が成長を主導できるかは流動的といえる。景気実感に近いとされる名目GDPは前期比0・1%増、年率換算0・5%増で3期連続の増加だった。
   ◇   ◇
●名目GDP31兆円拡大 15年度、国際基準見直しに伴い
 内閣府は8日、国際基準の変更に伴って国内総生産(GDP)の計算方法を見直した結果、2015年度の名目GDP確報値は532兆2千億円になったと発表した。安倍政権が目標として掲げる名目GDP600兆円にやや近づいた形だ。内閣府は新基準の採用に合わせ、GDPを過去22年分にさかのぼって改定した。16年7〜9月期の実質GDPは速報値に比べ下方修正されたが、内閣府は「基準改定による影響は分からない」と説明している。計算方法の見直しは、統計の精度向上が目的だが、基準変更に伴う影響だけで15年度の名目GDPは旧基準と比べ24兆1千億円拡大した。今回、約5年に1回実施している基準改定や、統計の基礎となる産業連関表の切り替えも行った。これらの影響も含めると、15年度の名目GDP確報値は旧基準の推計値から31兆6千億円増えた。GDPは一定期間に国内でつくり出されたモノやサービスの付加価値の合計額だ。計算方法は国連が定める国際基準を基に各国が決めている。今回の見直しは国際基準が08年に刷新されたことに対応したもので、日本では16年ぶりの大幅改定になる。もっとも大きな変更点は、これまで費用とされてきた研究開発費が付加価値を生む投資と認められ、GDPに加えるようになったことだ。名目GDPへの上乗せ効果は研究開発費だけで19兆2千億円あった。この他に、特許使用料や不動産の仲介手数料、防衛装備品なども加算された。

*2-2:http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS08H0R_Y6A201C1MM0000/?dg=1&nf=1 (日経新聞 2016/12/8) 15年度の名目GDP、31兆円かさ上げで532兆円、基準改定、研究開発費など加算
 内閣府が8日発表した2015年度の名目国内総生産(GDP)の確報値は532.2兆円となった。研究開発費の加算など新たな基準に切り替えた影響などで、31.6兆円かさ上げされた。旧基準では500.6兆円に相当する。安倍晋三首相は20年ごろまでに名目GDPを600兆円に増やす目標を掲げており、100兆円の開きが一気に縮まることになる。新基準は統計の基礎となる産業連関表を、実勢に近い11年分に切り替える。これまでは05年分を使っていた。また国連の最新の基準を使い、推計方法も見直し、1994年まで遡って再計算した。GDPの押し上げに大きく影響したのは研究開発費で、それだけで19.2兆円上振れした。これまでは「経費」として扱ったが「投資」とみなしてGDPに加えた。このほか、特許使用料の加算が3.1兆円、不動産仲介手数料の加算が0.9兆円のかさ上げ要因になった。新基準への切り替えで、16年7~9月期の名目GDPは季節調整済みの年率換算で537.3兆円となり、過去最高を更新した。旧基準では日本経済がデフレに陥る直前の1997年10~12月期の524.5兆円(新基準では536.6兆円に相当)がピークだった。

<年金>
*3-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161208&ng=DGKKZO10386900X01C16A2KE8000 (日経新聞 2016.12.8) 経済教室:家族の衰退と消費低迷(7)高齢者のお金は消費に回らず 中央大学教授 山田昌弘
 今回は高齢者の家族状況と消費との関連を示しましょう。10年ほど前、堺屋太一氏と対談したとき、堺屋さんは「これから高齢者消費の黄金時代が来る」と言われました。堺屋さんが名付けた「団塊の世代」が退職する。資産があり、年金もまだ高水準、時間も十分にある高齢者が消費市場に出てくるというのです。しかし、筆者は、欧米と違い、日本では「家族のあり方」が制約になり、次に挙げるいくつかの理由で、お金があってもなかなか消費に回らないのではないかと疑問を呈しました。まず、日本では通常、家計を妻が管理しています。筆者の調査では、現役世帯で4組に3組の夫婦が、夫は収入を全額妻に渡し、小遣いを妻からもらう形態をとっています。引退後も、財布のひもは妻が握るのが多数派です。すると、いくらお金があっても、夫は自由には使えません。団塊世代の夫婦年齢差は平均4歳で、平均寿命も6歳ほど女性が長くなっています。平均すれば、妻は夫が亡くなった後の10年を1人で生活しなければなりません。それを考えると、お金を夫に使わせたくないのです。さらに日本では夫婦共通の趣味を持つ高齢者は少なく、共通の趣味を楽しむために2人でお金を使う夫婦は少数派です。夫婦仲も欧米に比べて良いとは言えないので、自分の趣味のために夫婦のお金を使うと相手に嫌がられます。夫が引退後、田舎で暮らしたいと言っても、妻が反対して実現しないことが多いのです。子どもとの関係も問題になります。高齢者は子どもとの関係が悪化することに不安をもっています。現実に日本では、資産がない高齢者は子どもとの関係が疎遠になりがちです。これはいい悪いの問題ではありません。資産がなくなったら子どもから見捨てられるかもしれないという不安があるので、自分で使わずに持っていようという高齢者が増えるのです。また日本では、いざ病気や介護状態が長期化したとき、中流生活を維持しようとすれば、ヘルパーなど余分な費用がかかります。可能性は低くても、そのような状態になったときに困らないように、お金を取っておこうとするのです。

*3-2:http://qbiz.jp/article/100046/1/ (西日本新聞 2016年12月14日) 年金額の抑制強化へ、改革法成立 現役賃金下がれば減額
 年金制度改革法が14日午後、参院本会議で自民、公明両党や日本維新の会などによる賛成多数で可決、成立した。将来の年金水準を確保することを狙い、支給額の抑制を強化。毎年度の改定ルールを見直し、現役世代の賃金が下がれば高齢者への支給を減額する。中小企業に勤めるパートなどの短時間労働者は、労使が合意すれば厚生年金に加入できるようになる。現行制度では、支給額改定に際して高齢者の暮らしに大きな影響を与える物価の変動を重視している。2021年度以降は保険料の支払いで制度を支える現役世代の賃金を重視し、賃金が下がった場合は年金も必ず減額する。

*3-3:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/390819
(佐賀新聞 2016年12月28日) 年金新ルールで支給0・6%減 厚労省が試算公表
 厚生労働省は27日、先の臨時国会で成立した年金制度改革法に基づく支給額改定の新ルールが適用された場合の試算を公表した。リーマン・ショック時のような経済状況になり現役世代の賃金が下落すると、国民年金(老齢基礎年金)の支給水準は現行ルールよりも最大0・6%下がる。その分、将来受け取る世代は最大0・6%上昇する計算だ。支給額は毎年度、物価や現役世代の賃金を踏まえて改定されている。2021年度からは賃金が下がった場合は、その下落率に合わせて必ず減額するようルールが変更される。試算では、リーマン・ショックの影響を受けた08~09年度の賃金下落率を21~22年度に当てはめ、それ以降の支給水準を現行ルールと新ルールで比較した。賃金の下落は数年後の改定に反映される仕組みで、ルール見直しによる水準の低下は26年度に最も大きくなった。早い時期に支給水準が下がれば、その分、年金財政に余裕が生まれるため、現役世代が将来受け取る水準は上がる。43~44年度にかけての支給水準は新ルールの方が0・6%上昇した。

*3-4:http://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-251749.html (琉球新報社説 2016年4月6日) 年金運用巨額赤字 国民に失敗のつけを回すな
 政権の面目を保つために国民の資産を危険にさらすのは、もうやめにしてもらいたい。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の2015年度運用損益が、専門家の試算で5兆円を超える巨額の赤字になる見通しが強まっている。安倍政権が金看板とするアベノミクスと連動した投資配分の変更が、いまや全て裏目に出た。GPIFが運用する約140兆円のうち、国内株式投資は25%、約35兆円とみられる。この半分、約17兆円を売りに出すだけでも市場の混乱は必至だ。損失拡大を防ぐ株式売却すらできない。まさに袋小路だ。国民の資産を守り、混乱を最小限に抑えるため、GPIFは緩やかな退却を模索する以外にない。GPIFの資産構成割合は、かつては比較的安全な国債60%、国内外の株式に12%ずつだった。2014年10月に資産構成割合を国債35%、国内外の株式で計50%へ変更したのは、日銀の大規模金融緩和により、国債の利回りが低下したことと株式市場が上昇基調にあったからだ。その後、市場が安定したのは、ほかでもないGPIFの資金が流入したからだ。株価を下支えしたのが国民の資産だった。ところが15年8月には中国を「震源地」とする世界同時株安が進み、日本市場も乱高下した。最終的に日経平均株価は15年度だけで2400円値下がりした。運用比率変更当初から複数のエコノミストが「年金運用の安定性が損なわれる」「年金資産が株価操作に使われる」と懸念したことが現実になった。GPIFの担当者は「長期的な視点で捉えてほしい」と言う。だが客観的に見れば、損失を出した当事者が責任を取らず、次世代に先送りしているとしか見えない。責任を取るべきは、株価上昇を演出するために国民の資産を相場につぎ込んだ安倍政権だ。しかも例年、6月末から7月上旬に発表している年度の運用実績を、ことしは参院選後の7月下旬に公表するという。選挙に影響しないよう公表を先送りする意図が見え、論外だ。政府は少子高齢化時代を見据え、年金給付抑制策を強化する。積立金が目減りすれば、つけは国民に回ってくる。政府は運用比率を見直すなど「長期的な視点から、安全かつ効率的」(国民年金法)な運用にかじを切るべきだ。

*3-5:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/390597
(佐賀新聞 2016年12月27日) 厚労省、徴収ミス5年放置、後期医療、保険料6億円
 厚生労働省は27日、75歳以上が加入する後期高齢者医療制度で保険料徴収システムの不備があり、2008年度の制度発足時から全国的に計算ミスで保険料を過大、または過小に徴収していたと発表した。ミス発覚から5年放置していた。対象者の抽出などは来年1月以降に行うが、推計では約2万人、総額約6億円に上る可能性があり、取り過ぎた分は返還、不足分は追加徴収する。厚労省によると、11年から同省には制度を運営する都道府県の広域連合から正しい計算方法に関する問い合わせがあったが、個別対応で済ませ放置してきたという。

*3-6:http://mainichi.jp/articles/20161116/dde/007/010/037000c (毎日新聞 2016年11月16日) 無年金救済法.成立 加入期間短縮 新たに64万人受給
 国民年金や厚生年金を受け取るのに必要な加入期間(受給資格期間)を現行の25年から10年に短縮する改正年金機能強化法が16日、参院本会議で全会一致により可決、成立した。来年10月から約64万人が新たに年金を受けられるようになる見通しだ。受給資格期間は保険料を納めた期間や免除された期間を合計する。2015年10月に予定されていた消費税率10%への引き上げと同時に短縮する予定だったが、安倍政権による増税延期で先延ばしされていた。改正法は来年8月に施行。加入期間が10年以上25年未満の人は9月分の年金から受け取れるようになり、実際の支給は10月に始まる予定だ。無年金の人の救済につながる一方で、加入期間が短いと支給額は低く、将来低年金者が増えるとの懸念もある。国民年金の場合、加入期間が10年だと支給額は月約1万6000円、20年だと約3万2000円にとどまる。対象となるのは65歳以上の人と60代の前半から厚生年金の一部を受け取る人を合わせて計約64万人。費用は通年で約650億円。

<医療・介護>
*4-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12711673.html (朝日新聞社説 2016年12月18日) 高齢者負担増 将来像示し不安なくせ
 来年度から順次実施される医療保険と介護保険の見直し案が決まった。高齢者を中心に負担増を求める内容だ。医療では、70歳以上で現役並みに所得のある人の月ごとの負担上限額を、現役世代と同水準に引き上げる。75歳以上の保険料を本来より軽減している特例も段階的に縮小する。介護では、現役並み所得者の利用者負担を2割から3割に上げる。それより所得の少ない人も、住民税が課税されていれば月ごとの負担上限額が医療並みに上がる。会社勤めの人の保険料は賞与を含む収入に応じた負担とし、大企業の社員は重く、中小企業の社員は軽くなる。見直しの根底にあるのは「年齢を問わず、負担能力に応じた負担を求めていく」という考え方だ。4年前の社会保障・税一体改革大綱で示された方針だ。少子高齢社会のもと、社会保障費が膨らむ一方で、制度を担う現役世代は減る。高齢者は支えてもらう側、若い人は支える側という従来の考え方では、立ちゆかなくなる。高齢者でも負担ができる人には負担を求めることは必要だろう。ただ、生活の実態に照らして過重な負担にならないか、影響は丁寧にみる必要がある。とりわけ介護は、治療を終えれば負担がなくなる医療と違い、長期化する傾向にある。必要な介護サービスが利用できなくなれば、家族の介護のために仕事をやめる介護離職が増えてしまうかも知れない。影響を受けるのは高齢者だけでないことも、忘れてはならない。介護保険では、昨年夏に一定所得以上の人の利用者負担が1割から2割になったばかりだ。わずか1年あまりでさらなる引き上げを決めたのは、あまりに場当たり的との印象を与えた。負担はどこまで増えるのか。そんな先行きへの不安に応える改革の全体像と将来ビジョンを示すことが不可欠だ。政府は、社会保障費の伸びを抑えるために、さまざまな検討項目を示している。しかし、それらをどこまで、どう実施していく考えなのかが見えない。検討課題の一つだった軽度の人への介護サービスの縮小などは今回、見送りになった。今後、そうした給付の抑制にも踏み込むのか。給付の抑制が限界だというなら、今のサービス水準を維持するために、保険料や税の負担を増やすことも考える必要がある。サービスを担う人材の不足も深刻で、そのための財源も考えねばならない。社会保障制度の根本に立ち返った改革に取り組んでほしい。

*4-2:http://mainichi.jp/articles/20161216/ddm/002/010/128000c (毎日新聞 2016年12月16日) 社会保障費 1400億円抑制 高額療養など自己負担増
 厚生労働省は15日、自民党と公明党の部会で、2017年度予算で高齢化による社会保障費の自然増を約1400億円分抑制する案を提示し、大筋で了承を得た。焦点となっていた70歳以上の一般所得者(住民税が課税される年収370万円未満の人)が外来の窓口で支払う毎月の限度額を、現行の1万2000円から17年8月に1万4000円に引き上げる方針でまとまったほか、介護費の自己負担増、大企業に勤める会社員の介護保険料の引き上げなどによって抑制を図る。  医療費の毎月の自己負担額に上限を設ける「高額療養費制度」を見直し、約220億円を捻出する。70歳以上の一般所得者について、厚労省は当初2万4600円への引き上げを提案したが、引き上げ幅を圧縮し、年間上限額(14万4000円)も設ける。一方、18年8月には1万8000円に引き上げる。年収370万円以上の現役並み所得者は外来限度額を5万7600円とする。40~64歳の介護保険料は、収入に応じた計算方法「総報酬割り」による算出を段階的に導入し、収入の高い大企業のサラリーマンなどの保険料負担を増やす。来年8月の導入で500億円弱を確保する見通し。また、75歳以上を対象とする後期高齢者医療制度の保険料では、負担軽減のための特例を段階的に縮小し、180億円前後を確保する。介護保険で利用者の自己負担に上限を設ける「高額介護サービス費」は、住民税が課税される一般所得者の毎月の負担上限額を3万7200円から4万4400円に引き上げる。厚労省は17年度予算の概算要求で社会保障費の自然増を6400億円と見込んだが、財務省から最終的な増加を5000億円程度に抑えることが求められている。

*4-3:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/381488 (佐賀新聞 2016年11月29日) 75歳以上329万人に保険料軽減を廃止
 厚生労働省が2017年度から予定する公的医療保険制度の見直し案の全容が28日、分かった。75歳以上の後期高齢者医療制度では、所得が比較的低かったり、扶養家族だったりした人ら計329万人を対象に、保険料の特例軽減を廃止し、段階的に引き上げる。医療費の自己負担に月ごとの上限を設ける「高額療養費制度」でも、70歳以上の優遇措置を縮小する。厚労省は、後期高齢者医療と高額療養費の見直しで、17年度にそれぞれ国費350億円の抑制を見込む。30日の社会保障審議会の部会で提案し、来月上旬までに与党と調整して最終決定する。75歳以上が支払う保険料の軽減措置には(1)所得に応じた部分(2)定額部分-の2種類があり、合わせて900万人以上が対象となっている。このうち74歳まで専業主婦ら扶養家族だった人(169万人)の定額部分は、最大9割の軽減を17年度に5割に縮小。18年度には77歳以上で軽減を廃止し、保険料は現在の月380円から約10倍に引き上げる。所得に応じた保険料は現在徴収していないが、77歳以上は18年度から支払うようになる。また年金収入が年153万~211万円の160万人を対象に、所得に応じた保険料を5割軽減している特例も17年度に廃止する。定額部分を9~8・5割軽減する特例(約614万人対象)は、新たに75歳になる人を含め当面存続する。「高額療養費制度」では、70歳以上の上限を見直す。「現役並み所得」の人は、17年8月から外来医療費の月ごとの上限額4万4400円を5万7600円に引き上げる。18年8月からは特例を完全に廃止し、入院などを含めた世帯全体の上限も現役世代に合わせる形で引き上げる方針だ。

*4-4:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/389660 (佐賀新聞 2016年12月24日) 保険料増、介護3割負担 医療・介護制度見直し
■70歳以上の高額費上限額を引き上げ
 今回の見直しは、高齢者らの支払い能力に応じ、負担増を求めているのが特徴だ。医療では、患者の窓口負担が重くなりすぎないようにするため、月ごとの上限額を定めた「高額療養費制度」があるが、70歳以上を対象に上限額を段階的に引き上げる。年収370万円未満で住民税を課税されている人の場合、外来の上限額(月1万2千円)は2017年8月に1万4千円、18年8月には1万8千円になる。ただ持病などで通院している人は出費がかさむため、年間の上限額14万4千円(1万2千円の12カ月分)も新たに設けた。入院を含めた世帯当たりの上限額(月4万4400円)は5万7600円に上がる。年収370万円以上の人は、外来が月5万7600円に引き上げられた後、18年8月に上限がなくなる。入院を含めた世帯の上限額は18年8月以降、月8万100~25万2600円になる。後期高齢者医療制度に加入する75歳以上は、これまで特例で安くなっていた保険料が増える。所得が比較的低かったり、74歳まで夫や子らに扶養されたりしていた人が対象だ。このほか慢性疾患で医療療養病床に長期入院している65歳以上の人は、光熱水費の支払いが増える。18年4月以降は一律で1日370円(難病を除く)。介護では、サービスを主に利用する高齢者と、制度を支える現役世代が負担を分かち合う。現役並みに所得が高い高齢者は、18年8月から介護サービス利用時の自己負担が現在の2割から3割にアップ。さらに医療と同様に、月ごとの上限額(高額介護サービス費)も見直す。住民税が課税されている年収383万円未満の単身世帯などで、17年8月から上限額が7200円増えて月4万4400円に。収入が少ない世帯は3年間に限り、年間の上限額を据え置く。40~64歳が支払う保険料は、収入に応じた「総報酬割」と呼ばれる計算方式に変更。20年度までに段階的に導入し、大企業の社員や公務員の負担が増えることになる。
■高額医療・介護費、合算制度で払い戻しも 
あまり知られていないが、1年間(毎年8月から翌年7月)に支払った医療と介護の自己負担額を合算して、一定額を超えた場合は払い戻しを受けられる仕組みがある。「高額介護合算療養費制度」または「高額医療合算介護サービス費制度」と呼ばれ、市町村に毎年申請しないと利用できないので注意が必要だ。数十万円が戻ってくるケースもある。井戸さんは「手続きに手間がかかるが、分からないときは市町村の窓口で相談してほしい」と話す。

*4-5:https://www.agrinews.co.jp/p39294.html (日本農業新聞 2016年10月27日) 危機の地域医療 厚生連の包括ケア期待
 地域を支える医療が崩壊の危機にさらされている。都会と農村の医療格差は拡大する一方だ。日本農村医学会は未来の地域医療をテーマに27、28の両日、第65回学術総会を三重県志摩市で開く。JA厚生連病院の課題と試みを共有し、農村再生につなぐ。成果を期待したい。玉置久雄学会長(JA三重厚生連松阪中央総合病院名誉院長)は「地域医療について国や行政は対策を講じてきたが、むしろ医療の偏在化、格差は広がっている」と指摘する。総会の主催県・三重は人口当たりの医師数が全国平均より少なく、遠隔地ほど慢性的な医師不足が深刻だ。医師の高齢化は救急医療を制限せざるを得ない事態にまで追い込んでいる。国は増え続ける医療費の削減のため地域医療構想を各地で検討するよう指示している。効率化を求めた病床数の削減などが始まっている。これから厳しい診療報酬改定、消費税増税が待ち構えている。在宅医療については居宅、特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、介護老人保健施設などの需要見直しが進む。その結果、地域の統廃合で病床数の削減の影響を最も受けるのは、農山村に立地する厚生連病院である。全国の厚生連病院の多くが地方にあり、変革を迫られるのは必至だ。地域医療の崩壊は、地域社会の崩壊につながる。人口流出を生み、若い世代のU・Iターンといった田園回帰の流れを阻みかねない。高齢化が進む農村では住民が住み慣れた地で安心して暮らし続けるための医療と介護の一体化が欠かせない。この地域包括ケアを根付かせることができるか、農村医療の試金石ともなる。玉置学会長は「将来の人口減を見据えれば立場の異なる地域の病院が限られた医療資源を補完し合うことも必要だ」とし、競争から協調へ、かじを切る時期が迫っていると言う。シンポジウム「地方から発信するこれからの医療」には三重、新潟、広島、愛知の厚生連病院の取り組みが発表される。医師・看護師不足の下、救急医療や在宅医療、地域包括ケアにどう取り組んでいるか、先進的な取り組みに期待したい。一般演題は540とこれまでにない応募数となった。終末期医療、大災害時の医療、看護教育、在宅ケア、病院食の地産地消など今日の課題を網羅する。市民公開講座には関心の高い認知症を取り上げた。家族を支えるための知識、認知症患者の安全対策について報告される。ポスター発表では、韓国農村振興庁が取り組む農業労災を予定している。総会後の29日には、日本農村医学会と韓国の主催で第8回日韓合同農作業安全シンポジウムが開かれる。韓国が国家資格として今年創設した「農作業安全指導士」制度が報告される。日本の参考となろう。地域医療、農作業安全に貢献する学会となることを望む。

*4-6:https://www.agrinews.co.jp/p39431.html (日本農業新聞 2016年11月13日) 介護保険縮小 利用者の不安 直視せよ
 2018年度の介護保険改正に向けた見直し議論が進んでいる。介護の必要度が比較的軽い「要介護1、2」のサービスを中心に削減する考えだ。現場の反発は強く、大幅な改正は見送る方向だが、年末の取りまとめに注視が必要だ。要介護度は軽い順から5段階に分かれる。見直し議論の焦点は軽度者向け在宅支援サービスで、訪問介護の生活援助など。厚生労働省は、ホームヘルパーが自宅を訪れて掃除や調理などを介助する生活援助を保険対象から外し、市町村事業へ移行する改革案を示した。この案に利用者や介護関連団体は猛反発している。「自宅で自立した生活を送るために欠かせないサービス」「サービスの質が変わることで重度化を招き、かえって介護費用が膨らむのではないか」など、制度変更を疑問視する声だ。既に前回の15年度改正で、要介護よりさらに軽度な「要支援」向けサービスの一部を保険から外し、市町村事業に切り替えた。移行期間を経て来年4月には全市町村で事業を開始しなければならない。介護保険にかかる費用を国の全国一律給付から市町村の独自事業とし、NPOやボランティアなど地域住民の活用によってコストを抑える狙いだ。しかし、実際は体制がなかなか整わない。そこに要介護1、2まで市町村に移行するとなると、これまでと同様のサービスを受けるのは難しい。介護の必要性は数値では測りきれない。「要支援」「要介護1、2」は一つの基準にすぎず、高齢者を取り巻く状況は千差万別である。介護の必要度が軽い人でも、独居であったり老夫婦世帯であったり、家族が介護できない状態であるかなどで異なる。例えば、認知症なら重度化を防ぐため介護保険サービスを続ける必要性が高くなる。暮らす環境も違う。住まいが過疎の山間部にあるのか、都会なのか。「要介護度」という物差しで一律に当てはめるのは難しい。利用者の状況に合った適切なサービスが行き渡る手法を模索するべきだ。高齢者は年を取るほど心身の調子が不安定になり、要介護度は変化しやすい。利用者の環境や状況を考慮した上で支え方を見極めなければならない。在宅介護で欠かせない視点である。介護の世界で懸念されるのが“2025年問題”だ。団塊世代が75歳を過ぎ、要介護者が急増し、社会保障財政が行き詰まる事態が予測される。少子高齢化は加速し、介護サービスのコスト削減、効率化は免れないだろう。肝心なのは本当に支援を必要としている人に、適切なサービスが提供できるかだ。既存のサービス縮小を論じるだけでは介護を必要とする人や家族の不安は募る。利用者が尊厳を保ち、安心して暮らせるよう、自立を支える支援の在り方について議論を深めるべきだ。


PS(2017年1月6日追加):日本老年学会は、*5のように、心身の若返りを理由に65歳以上とされている高齢者の定義を75歳以上に見直す提言を発表したそうだ。そのため、年金支給開始年齢と定年年齢を75歳にし、前提が覆る日が来るかもしれない。しかし、人に依って若さや健康状態は全く異なるので、「超高齢者」や「准高齢者」と呼び分ける必要はないだろう。なお、仕事を続けている高齢者の方が矍鑠(かくしゃく)としているのは、よく知られているところだ。


 国の歳入・歳出    社会保障費の抑制     介護費と介護保険料の推移 高齢者の定義
 2016.12.23      2016.12.23                          2017.1.6      
  佐賀新聞         東京新聞                             佐賀新聞

(図の説明:一番左のグラフのように、国家予算に占める社会保障費は大きいが、高齢者が仕事を続けて収入があるのでなければ年金や医療・介護の軽減を受けて支えられる側にならざるを得ない。しかし、一番右の図のように、高齢者の定義を75歳以上として65~75歳の人が働ける環境を整えれば、支える側になれるので、その前提が変わる。そのため、社会保障費を節約するには、70~75歳まで仕事を続けられる環境を整えるのが、誰にも無理がいかない。一方、国債の支払利子も大きいが、これは借り換えで節約できる。地方交付税は、それぞれの地方がエンジンとなる産業を持てば節減できる)

*5:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/392784
(佐賀新聞 2017年1月6日) 「高齢者」は75歳以上 身体若返り、学会見直し
 高齢問題の研究者らでつくる日本老年学会などは5日、現在は65歳以上とされている「高齢者」の定義を75歳以上に見直し、前期高齢者の65~74歳は「准高齢者」として社会の支え手と捉え直すよう求める提言を発表した。医療の進歩や生活環境の改善により、10年前に比べ身体の働きや知的能力が5~10歳は若返っていると判断。活発な社会活動が可能な人が大多数を占める70歳前後の人たちの活躍が、明るく活力ある高齢化社会につながるとしている。高齢者の定義見直しは、65歳以上を「支えられる側」として設計されている社会保障や雇用制度の在り方に関する議論にも影響を与えそうだ。学会は、年金の支給年齢の引き上げなど社会保障制度の見直しに関しては「国民の幅広い議論が必要だ」と強調している。提言をまとめた大内尉義(やすよし)・虎の門病院院長は「高齢者に対する意識を変え、社会参加を促すきっかけになってほしい」と述べた。平均寿命を超える90歳以上は「超高齢者」とした。学会によると、日本は50年以上前から国連機関の文書などに基づき、慣例的に65歳以上を高齢者としている。学会は、脳卒中や骨粗しょう症などの病気や運動のデータを解析。慢性疾患の受診率は低下し、生物学的な年齢が5~10歳若返っているとみている。知能の検査では、最も得点の高い世代が40代から50~60代に変化。残った歯の数も同一年齢で比べると年々増える傾向にあり、死亡率や要介護認定率は減少していた。国の意識調査で、65歳以上を高齢者とすることに否定的な意見が大半であることも考慮した。昨年9月の総務省の推計によると、65歳以上は約3400万人で人口の約27%。高齢者を75歳以上とした場合は約13%に半減する格好だ。准高齢者は、仕事やボランティアなど社会に参加しながら、病気の予防に取り組み、高齢期に備える時期としている。
=解説= 保障や雇用に影響も
 現行の社会保障や雇用・労働の制度は高齢者を65歳以上とすることを前提としているものが多く、今回の提言は制度の見直しにも影響する可能性がある。少子高齢化の中、働き手、社会保障の支え手を増やす議論は加速しそうだ。高齢者の急増で国の財政負担は重くなり、現状のまま制度を存続させるのは難しい。医療保険や介護保険では、高所得者への負担増などが相次いで打ち出されている。会社員らの厚生年金の支給開始年齢は、60歳から段階的に65歳に引き上げられている途中段階だ。高齢になっても働き続ける人が増えた。高齢者の定義を巡る国民の意識も変わりつつある。40歳以上を対象にした昨年の厚生労働省調査で「高齢者と思う年齢」を尋ねたところ「70歳以上」との回答が最も多く、41・1%で、「65歳以上」は20・2%にとどまった。「75歳以上」は16・0%だった。日本老年学会などは「提言は医学的なもの」と強調するが、提言がこうした流れを後押しする可能性もある。ただ、高齢者の負担増については、反発も大きく、見直しは容易ではない。


PS(2017年1月8日追加):*6のように、確かに病院や介護施設の食器も、趣のないプラスチックではなく、軽くて強い磁器があればよいだろう。なお、年末に、一年に一度の人間ドックに行ったところ、壁に素敵な絵がかかっており、有田焼で作った絵もいいのではないか思った。

*6:http://qbiz.jp/article/101294/1/
(西日本新聞 2017年1月8日) 熟練のろくろで「くるまおろし」 有田・深川製磁
 有田町幸平の深川製磁で7日、仕事始めとなる「くるまおろしの儀」があり、ろくろ師たちが熟練の技を披露した。神職による祝詞奏上や玉串奉納の後、この日89歳の誕生日を迎えたろくろ師、深川剛さんが「ようっ」と気合の声を上げながら土の塊からつぼを形作った。隣に座る剛さんの長男、聰(そう)さん(60)は直径65センチの大皿の仕上げにいそしんだ。深川一太社長(68)は年頭あいさつで欧州での発信拠点をミラノからパリに移したことに言及。「継続性ある海外ブランディングを展開したい」と話した。高齢化社会に応じた医療用食器や葬祭用具作りにも意欲を見せた。


PS(2017年1月8日追加):*7のように、輸入チーズは伝統に根ざした美味しさがあるが、日本産チーズも負けてはいない。例えば、カルシウムや鉄分を強化した製品やワサビ・ゆず・からしめんたい・アーモンドなどと混ぜて小さく包装した製品など、日本でしか作らないような逸品もあり、これらは、どこにでも輸出できるだろう。なお、牛乳・卵はアイスクリームにすると保存がきき食べやすいが、私は、まだハーゲンダッツ以上の日本産アイスクリームに出会ったことがない。しかし、アイスクリームも、日本産の果物等を使えば工夫の余地が大きく、輸出可能だと考える。

*7:https://www.agrinews.co.jp/p39853.html (日本農業新聞 2017年1月7日) [TPP徹底報道 需要奪還 5] 乳製品 地元密着で付加価値 成長市場のチーズ
 国内での総消費量がここ10年で2割増と、需要拡大がさらに見込まれるチーズ。国産割合はまだ15%(2015年度)で、伸びしろは大きい。酪農振興の新しい柱と期待されるが、有望市場は他国も狙う。EUは、大詰めを迎えるEPA交渉で大幅な自由化を要求。欧州産のブランド力は脅威で、酪農家らは生き残りに向け、価格だけではない酪農の価値を発信しようと、地域や消費者との結び付きを強めている。150万人が暮らす大都市・神戸市の中心部から車で約20分、閑静な住宅街の一角に牧場へと続く門が現れる。酪農家が手掛ける国産チーズの先駆けとして、1985年から代表商品「フロマージュ・フレ」などを販売する弓削牧場だ。約9ヘクタールの敷地内では、放牧された牛が歩き回り、全国から訪れる年間約3万人の客がログハウス風のレストランでチーズをふんだんに使った料理を楽しむ。弓削牧場では、生乳生産部門の箕谷酪農場から加工部門のレチェール・ユゲが生乳の3割を買い取り、チーズやホエー(乳清)を使った化粧品作りなどを手掛ける。和食と組み合わせた日本人向けの食べ方提案など、欧州のチーズと差別化を図りながらファンを増やしてきた。加工部門は売り上げ全体の7割を占め、今や経営の柱だ。
●価格競争に懸念
 国内のチーズ消費量も増え、裾野は広がっている。その半面、安さを重視する中食・外食の需要で、輸入品が入り込む可能性が高い。輸入量は10年で2割以上増えたが、国産割合は思うように上がらず、むしろこの5年は4ポイント下げている。代表の弓削忠生さん(71)は「ただチーズを作って売るだけなら、輸入も国産も同じ」と言う。生産現場と切り離された商品として扱われれば、外国産との単なる価格競争に陥りかねない。TPPや日欧EPA交渉が、心配を膨らませる。外国産にはない価値をどう発信するか。弓削牧場では生乳生産を基本に置き、命につながる食料を生産する農業の本質を伝える講座や牧場での結婚式の企画などに力を入れる。近隣の森林植物園にカフェを出店するなど、地域との連携も重要視する。バイオガスプラントを設け、資源循環型農業にも乗り出した。弓削牧場と同様、同県明石市の住宅街の一角で酪農を営む伊藤靖昌さん(32)も「都市型酪農を続けていくには地域との結び付きが必要だ」と呼応し、生乳の価値を発信するため加工にも取り組む。
●取り組み発信を
 国産チーズの活路について、酪農情勢に詳しい名古屋大学大学院の生源寺眞一教授は「品質面での差別化だけでなく、発達した情報通信技術(ICT)も活用しながら、背景にある作り手の思いや取り組みを発信していくことが重要だ」と指摘する。


PS(2017年1月10日追加):*8のように、シルバー人材センターが耕作放棄地を農地として整備し、会員高齢者の就労や技能習得の場として利用するのは、アクションが速くてよいと思う。このケースなら、最終的に高齢者が月収15万円くらい稼げるようにすると、生活を支えることができるだろう。

*8:http://qbiz.jp/article/101357/1/ (西日本新聞 2017年1月10日) 耕作放棄地 高齢者に“活” 九州各地 シルバー人材センターが整備
 九州各地のシルバー人材センターが、全国的に増えている耕作放棄地を農地として整備し、会員の高齢者の就労や技能習得の場として利用する例が相次いでいる。高齢者の生きがいづくりと、低迷する農業の活性化につながる「一石二鳥」の取り組み。今後の充実・拡大が期待される。一方で、収穫物の売り上げだけでは必要経費を捻出できないなど、事業の難しさも浮かび上がっている。
●就労、技能習得の場に
 北九州市シルバー人材センターは2014年度から、会員たちに農作業の知識・技術を習得してもらう「シルバー農園」事業を開始。同市小倉南区の約1200平方メートルと若松区の約千平方メートルの耕作放棄地(放棄地になる恐れがある農地を含む)を借り、雑草を除去して事業を進めている。参加する会員は約100人で、大半が農業未経験者。月数回、シルバー農園に通い、元農家の会員らの指導を受けながら大根やジャガイモなどを育てている。収穫物はイベントなどで販売。売り上げは会員に分配せず、借地料や苗代などに充てている。会員たちはシルバー農園で稼ぐことはないが、身に付けた農業技術を生かし、センターが外部から受注した農作業の仕事に出向いている。その受注額は14年度約50万円、15年度約100万円。「シルバー農園によって農作業ができる会員が増えたので、受注に積極的に動いている。会員の就労機会拡大を図り、地域の農業活性化に貢献したい」とセンター企画課の神野譲嗣課長。
   ◆     ◆
 福岡県の築上町シルバー人材センターは、耕作放棄地になる恐れがある農地約2千平方メートルを15年度から借り、会員たちの就労の場として利用。会員15〜20人がイチゴ栽培に取り組んでいる。イチゴの売り上げで、会員の報酬をはじめ、農地の借り賃など必要経費を賄う仕組み。ただし1年目に報酬を時給850円に設定して赤字が出たため、本年度の途中から時給を定めず、売り上げの範囲で報酬を払う「出来高払い」に変更した。センター業務主任の古門敏彦さんは「会員の皆さんが頑張って売り上げを伸ばせば、報酬も増える。出来高払いに納得してもらっている」と話す。熊本県の八代市シルバー人材センターも12年度から放棄地を借り、就労の場にしている。場所は山に囲まれた同市坂本町鶴喰(つるばみ)地区で現在は約6千平方メートル。本年度は会員16人でコメ2460キロを収穫した。やはり出来高払いで、会員1人当たりの報酬は平均で約2万円(時給で800円強)になる見通しだ。 (編集委員・西山忠宏)
   ◇  ◇
●農地再生へ思惑一致 国・自治体センター
 各地のシルバー人材センターが耕作放棄地の活用に乗り出しているのは、放棄地の増加に歯止めがかからないことが背景にある。国も自治体も放棄地の解消・発生抑制に取り組んでいるが、力不足は否めず、センターが対策の加勢をしている形だ。放棄地は農家の高齢化などで増加。農林水産省の「農林業センサス」によると2015年には全国で計42万3千ヘクタールと過去最大を更新、富山県とほぼ同じ面積になっている。問題点として農地減少だけでなく(1)雑草や害虫が増え、周辺農地に影響を与える(2)鳥獣の隠れ家となり農作物への被害が増える(3)廃棄物が不法投棄される恐れが高まる−などが指摘されている。一方、センター側からすれば、農業分野に積極参入することで、主目的の「高齢者への就労の機会提供」を拡大できる利点がある。放棄地の問題を解決して地域に貢献でき、存在感を高める狙いだ。全国シルバー人材センター事業協会(東京)によると、センターは全国に1282団体(昨年3月末現在)。放棄地の活用事業に取り組むセンターの数は把握できていないが、放棄地を安く借りられることもあり、かなり広がっているとみられる。ただ、事業を拡大するには「しっかり稼ぐ手法」の確立が欠かせない。


PS(2017年1月13日追加):森林の手入れや草刈りなどの環境関連の仕事は、最近できたものであるため人手不足だ。そこで、「製造業や事務職は高給取りだが、森林の手入れは環境好きのボランティアの仕事」などと考えるのではなく、働きに応じた報酬を支払えば中高齢者を含めて雇用吸収力がある。

*9:http://qbiz.jp/article/101616/1/
(西日本新聞 2017年1月13日) 福岡県、森林環境税継続へ 保全、再生「理解得られる」
 福岡県は森林の保全や再生を目的に2008年度から導入した森林環境税について、徴収期間が終わる17年度以降も継続する方針を固めた。温室効果のある二酸化炭素を吸収し、地下水を蓄えて土砂流出や崩壊を防ぐ森林の機能は公益性が高く、県民負担への理解は得られると判断した。森林環境税は10年間の時限措置として、個人県民税に一律500円を上乗せして徴収。法人は資本金などに応じて、千円から4万円までの5通りの税額を設定している。新たな課税期間は18年度から5年間を軸に検討し、税額は変更しない。森林環境税の検証や在り方を検討する有識者委員会の報告を受けて、正式決定する。15年度までの8年間で103億円超の税収があり、間伐や植栽をする市町村への助成、森づくりに関わるボランティアの育成などに充てている。有識者委員会が昨年実施した県民アンケートでは「良い取り組みだと思う」と評価する回答が多かった。


PS(2017年1月15日追加):日本では、65歳以上の“高齢者”に対する介護と65歳未満の“障害者”に対する福祉は、サービスの内容が異なる。そのため、障害者が65歳になると、それまで受けていた自立支援サービス等を受けられなくなったりする。しかし、年齢で差別するのは不合理であるため、介護事業者は両方の指定を受けられるようにし、地域包括ケアシステムを整備して、どのサービスを受けるかについては、本人・家族・医師・ソーシャルワーカーなどが相談して決められるようにするのがよいと私も考える。また、その場合は40歳未満の人からも介護(福祉)保険料を徴収し、介護・福祉サービスの内容に年齢を理由とする差をつけないのが妥当だろう。

   
年齢階層別障害者数推移 サービス利用手続  介護サービスの内容      障害者福祉の内容

(図の説明:障害者に占める65歳以上の割合は次第に増え、2011年には2/3を超えている。そこで、介護と福祉サービスを年齢で分けず、必要なサービスは年齢に関わらず受けられるようにすべきだ)

*10:http://mainichi.jp/articles/20170115/k00/00m/040/103000c
(毎日新聞 2017年1月15日) 厚労省、介護・障害を一括サービス 18年度実施へ法案
 厚生労働省は、介護保険と障害福祉両制度に共通のサービス創設の方針を固めた。高齢の障害者が、一つの事業所で一括してサービスを受けられるようにするなど、利用者の利便性を高めるのが狙い。2018年度の実施を目指し、20日開会の通常国会に関連法案を提出する。介護・障害の両制度は、サービスを提供するのに、それぞれ指定を受ける必要がある。このため、65歳以上の高齢の障害者が、障害福祉事業所で介護サービスを受けられないなどの課題が指摘されている。そこで同省は、通所や訪問など、いずれの制度にもあるサービスについて、事業者が両方の指定を受けやすくするよう制度を見直す。同省は、高齢者や障害者、児童といった福祉分野に関し、地域住民とも協力して包括的にサービスを展開する「地域共生社会」を目指している。高齢化がさらに進む中、地域内の限られた施設や人材の有効活用を促す。実施には介護保険法や障害者総合支援法などの改正が必要で、関連法案を一括し、「地域包括ケアシステム構築推進法案」として提出する方針だ。同法案には、介護サービス利用時の自己負担について、特に所得の高い人は、現在の2割から3割に引き上げることも盛り込む。対象は、単身の場合で年収約340万円以上、夫婦世帯は約460万円以上。当初は単身で383万円以上を想定していたが、見直した。負担増になるのは利用者の3%に当たる12万人で、18年8月実施を目指す。一方、40~64歳の介護保険料について、年収の高い会社員らの負担が増える「総報酬割り」の導入も盛り込む。17年8月分からの適用を想定している。

| 経済・雇用::2016.8~2017.12 | 11:55 AM | comments (x) | trackback (x) |

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