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2015.10.27 もう低コストの安定電源という言い訳は通らないのに、川内原発・伊方原発再稼働とは・・ (2015年10月28日、29日、30日、31日、11月3日、28日に追加あり)
         
 パブリック・ 政府のエネル 大手メディア   フクイチ作業員   一般住民の放射線防護
コメント結果 ギー・ミックス   の報道     の被曝状況   (平時は1mSv以下で、「100mSv
                                         以下なら健康への影響はない」
                                         という科学的根拠はない)
(1)東電福島第一原発事故(以下、“フクイチ”)後について
 *2-1のように、現在のフクイチは、「①周辺に“怪しい霧”が発生し、近くにいると異様な日焼けをする」「②港湾内外の海水から検出される放射性物質の濃度が上昇している」「③1~3号機から溶け落ちた大量の核燃料デブリが地中へメルトアウトして地下水流の汚染をより高めている可能性があり、プルトニウムは含まれていないため、3号機のデブリは格納容器の底に留まっているか、爆発時に外に放出してしまった可能性が高い」「④メルトアウトした核燃料デブリが、今も核分裂反応を起こしているらしい」などである。そして、いまだに「中のことはよくわかっていない」などと曖昧なことを言っているのは、「わかっているが、言えない」ということで、ここまで国民を粗末にする、技術的にもずさんでチェルノブイリより劣る対応が、現代の日本にあってよい筈がない。

 そして、*1-1のように、フクイチ後の作業で被曝した後に白血病になった元作業員に、労災保険が認定された。これまで、白血病の労災が認められるには、年5ミリシーベルト以上を被曝し、作業開始から発症まで1年以上あることが基準だが、この男性の累積被曝線量は19.8ミリシーベルトであり、そのうち大半の15.7ミリシーベルトをフクイチでの作業が占めたため、福島県の富岡労働基準監督署がフクイチでの被曝が大きな原因と判断したそうだ。厚労省は「科学的に被曝と健康影響の因果関係を証明したわけではない」としているが、フクイチの収束作業で白血病も含む癌を発症したとする申請は既に8件も出ており、因果関係があると考える方が自然だ。

 また、*1-2のように、放射能汚染されたガレキの撤去作業をしていたフクイチの元作業員(53歳、男性)が、4か月で56・41mSv被曝し、作業後11か月で転移ではない3つ癌(胃癌、結腸癌、膀胱癌)を同時に発症して、東京電力らを相手に損害賠償請求訴訟を起こしたそうだ。Aさんの被曝線量は年間上限の50mSvを少し超えただけだったとしても、線量計をはずして働いたり、放射線値の高いガレキを直接抱えたりしたのであれば、線量計に出た数値以上に被曝しており、転移ではない3つの癌はそれらの結果として発生したのだろう。

 なお、*1-3のように、岡山大大学院の津田教授(生命環境学)が、国際環境疫学会の医学専門誌エピデミオロジー(疫学)に、「福島県が福島原発事故当時18歳以下だった県民を対象に実施した健康調査の結果を分析したところ、甲状腺がんの発生率が国内平均の20~50倍に達していた」という内容の論文を発表された。そして、都内の外国特派員協会の会見で「①福島県では小児や青少年の甲状腺がんの過剰発生がすでに検出されており、多発は避けがたい」「②チェルノブイリ原発事故の経験は生かされず」「③チェルノブイリ事故と比べて放射性物質の放出量は10分の1と公表されたが、もっと大きな放出・被曝があったと考えざるを得ず」「④今後、患者数が爆発的に増える可能性がある」と示唆されたそうだ。この発表を「時期尚早」として、癌と原発事故の因果関係を否定するのは、非科学的であるとともに、国民の命を大切にしない人権侵害である。

 さらに、*1-4のように、外務省が1984年、国内の原発が戦争やテロ等で攻撃を受けた場合は急性被曝で最悪1万8千人が亡くなり、原発の約86キロ圏が居住不能になると試算していたにもかかわらず公表されなかったのだそうで、現在、再稼働し始めている原発周辺の住民は、そういう前提で考えるべきである。これまでは、「危険性を知らなかった」という理由で地元住民に責任はなかったが、これからは、「危険を承知で交付金目的の原発再稼働をさせたのだから、自己責任だ」と言われても仕方あるまい。

 しかし、経産省が2030年の電源構成(エネルギーミックス)を決めるために国民から意見を募った「パブリックコメント(意見公募)」では、*1-5のように、原発への依存度をさらに引き下げるかゼロにするよう求める意見が約9割に上ったにもかかわらず、経産省は原発割合を「20~22%」として公募意見を「黙殺」し、意見公募を単なる儀式にして、あらかじめ予定していた電源構成に決めた。権力で自然現象を変えることはできず、自然の摂理を無視した法律や基準は、次第にその不遜さが表れるのに、である。

 なお、*2-2のように、フクイチの避難者が「『避難の権利』を求める全国避難者の会」を結成したそうだが、これはフクイチを小さく見せ、地域振興するためには、住民(国民)の命を犠牲にしてもよいと考えている本末転倒の政治・行政に対抗する手段として重要だ。

(2)川内原発再稼働について
 鹿児島県の川内原発2号機は、*3-1のように、2015年10月15日に4年1か月ぶり再稼働し、今年8月に再稼働した1号機に続いて2基目となったそうだ。川内原発1号機は1984年7月4日、2号機は1985年(昭和60年)11月28日に営業運転を開始して約30年経過しており、川内原発の蒸気発生器は中を通る細い管に傷が入るトラブルがたびたび見つかり、原発に反対するグループからは「このまま、再稼働させるのは安全性に問題がある」と指摘されている。

 また、*3-2のように、九電川内原子力総合事務所の藤原伸彦所長は、2号機の稼働が約4年ぶりであることに触れ「何が起こるか分からないという緊張感を持ち、営業運転まで当たりたい」と述べたそうだが、川内原発前では、反原発派の100人が集会を開催して「再稼働のスイッチを押すな」と声を上げ、福岡市の九電本店前でも抗議する人たちの姿が見られたそうだ。

 東京新聞も、*3-3のように、2011年3月のフクイチ事故後、新規制基準に基づく審査に適合した原発として川内原発の再稼働を取り上げ、夏の電力需要ピークも原発なしで乗り切った九州で、太陽光発電の買い取りを制限しながら、複数の原子炉を近くで稼働させるのは危険性だとしている。また、新規制基準に合格しても、火山の巨大噴火への備えはなく、鹿児島県の伊藤知事らは「広域に避難するような事態にはならないだろう(いわゆる想定外)」と楽観的に見て再稼働を認めているのだ。

 そのため、南日本新聞も、*3-4のように、福島原発事故では放射性物質が立地自治体の外にまで拡散し、局地的に放射線量の高い「ホットスポット」も見つかり、当初は川内原発30キロ圏市町の多くが、立地自治体並みの協定を求め、それは住民の不安を踏まえれば当然だった筈で、少なくとも避難対象地域となる半径30キロ圏までは、同意が必要な「地元」と解すべきだとしている。私は、同意が必要な「地元」は、過酷事故時に被害を受ける80キロ圏もしくは250キロ圏だと考えている。

(3)玄海原発について
 フクイチで拡散した放射性物質は、当時の防災対策重点区域だった10キロ圏を超え、50キロ圏の福島県飯舘村を汚染して全村避難に追い込んだ。そのため、*4-1のように、佐賀新聞社の佐賀県民世論調査で、従来の手続きを適切とした県民は15%に満たず、80%以上の県民が地元の範囲を広げるべきだと回答したそうだ。玄海原発の半径30キロ圏内には、立地自治体の東松浦郡玄海町のほか、佐賀県唐津市、伊万里市、福岡県糸島市、長崎県佐世保市、平戸市、松浦市、壱岐市が含まれ、影響を受ける人口や産業が大きすぎるため、私は、いろいろな資源の多いこの地域でわざわざ原発を行うよりも、筑肥線を複線化して呼子・玄海町、伊万里、松浦、平戸などまで延長する方が、将来に役立つ投資になると考えている。

 そのような中、半径30キロ圏内の同意や説明を省略して、*4-2のように、九電の黒字化のために原発再稼働をすることは許されず、このようなことを続ければ、単に価格だけの問題ではなく、環境という視点から国民の新電力への切り替えが進むだろう。

 また、*4-3のように、「玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止める裁判の会」(石丸初美代表)は、佐賀市の中央大通りで抗議活動を行い、「①フクイチの犠牲を踏みにじる暴挙」「②フクイチは収束どころか、まだまだ続いている」「③(火山対策や避難計画の不備を挙げて)原発事故は起きる。原発事故は地球を滅ぼす。そんな原発はいらない」「④山口知事は、佐賀のことは佐賀で決めるといって当選した。知事は再稼働の同意権を持っており、住民説明会や地元の範囲など国任せではなく、県民の立場で判断すべき」と批判し、即時停止を訴えたとのことで、そのとおりだ。

(4)伊方原発再稼働について
 *5-1のように、佐田岬半島に位置する伊方町にある四国電力伊方原発3号機の再稼働をめぐる陳情の採択について、町議会の特別委員会の審議は非公開とされ、早期再稼働を求める陳情3件が全員一致で採択されたそうだ。そして、愛媛県議会も再稼働を認める決議案を本会議で可決し、中村知事は、*5-2のように、2015年10月26日、伊方再稼働に同意した。

 中村知事は「非常に重い責任を伴う判断」「国の考え方、四国電力の取り組み姿勢、地元の議論を総合的に判断した」などとして再稼働に同意する意思を伝えているが、交付金目当てで再稼働に進んだ責任を、事故時にどう負えるのか、国の考え方、四国電力の取り組み姿勢が何故よいのかについては、説明がとんでいるため不明だ。瀬戸内海に面した原発で過酷事故が起きれば、その事故が瀬戸内海に与える影響は太平洋の比ではないのに・・。

<東電福島第一原発事故(“フクイチ”)の影響>
*1-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201510/CK2015102102000134.html (東京新聞2015年10月21日)福島事故後被ばくで初の労災認定 白血病発症の元作業員
 厚生労働省は二十日、東京電力福島第一原発事故後の作業で被ばくした後に白血病になった元作業員に、労災保険を認定した。事故収束作業に伴う白血病の発症で労災が認められたのは初めて。厚労省によると、労災が認められたのは発症時三十代後半だった男性。建設会社の社員として二〇一一年十一月~一三年十二月、複数の原発で作業した。一二年十月以降の一年一カ月間は福島第一を担当。原子炉建屋に覆いを造ったり、使用済みの防護服などを焼却する施設を建設した。男性は一三年十二月に福島第一を去った後に体の不調を感じ、白血病と診断され労災申請した。現在は通院治療している。白血病の労災が認められるには、年五ミリシーベルト以上を被ばくし、作業開始から発症まで一年以上あることが基準。男性の累積被ばく線量は一九・八ミリシーベルトで、福島第一での線量は大半の一五・七ミリシーベルトを占めた。福島県の富岡労働基準監督署は、厚労省の専門家による検討会の見解を聴いた上で、福島第一での被ばくが白血病の大きな原因になった可能性があると判断した。男性には医療費や休業補償が支払われる。厚労省は「労災認定は補償が欠けることがないよう配慮した行政上の判断で、科学的に被ばくと健康影響の因果関係を証明したわけではない」としている。事故前に全国の原発で白血病や悪性リンパ腫などの労災を認められた作業員は十三人。福島第一の収束作業で白血病も含むがんを発症したとする申請は八件。今回の男性を除く七件の内訳は三件が不支給、一件が取り下げ、三件が調査中。福島第一原発での作業をし、白血病となった男性が初めて労災認定されたことに、作業員からは「認められてよかった」との声が上がったが、収束作業の現場が被ばくとの闘いであることは変わりない。他のがんなどの労災認定には高いハードルが設けられていることなど、作業員を取り巻く環境は課題が山積している。白血病の認定条件の一つは「年五ミリシーベルト以上の被ばく」。東電のまとめによると、事故発生後、福島第一での作業に関わって累積で五ミリシーベルト以上被ばくした人は二万人強いる。二〇一一年度だけで一万人以上が五ミリシーベルト超被ばくしていることなどから、「累積五ミリシーベルト以上」の二万人強の多くが、「年五ミリシーベルト以上」という条件に当てはまるとみられる。仮に白血病になった場合、救済の道が開けたことは安心材料になる。ただ、胃がんなどでは明確な基準が定まっておらず、一〇〇ミリシーベルト以上の被ばくが認定の一つの目安とされるなど、白血病に比べ厳しい運用がされている。技術者の作業員は「がんになるのでは、と不安になることもある。どうすれば認定されるのか、決めてほしい」と話した。別の作業員も「福島第一で命をかけて働いている。(国は)家族のためにも救済側に立ってほしい」と訴えた。胃など三カ所のがんになった元作業員は、高線量の作業をしたが、記録上の線量が一〇〇ミリシーベルトに満たないなどとして労災が認められなかった。この男性を含め、線量計を低線量の場所に置いて作業していたと証言した作業員は少なくない。その場合、実際の被ばく線量は記録より高くなる。現場では、がれきが除去されるなどして当初よりは線量が下がった。現在はタンク増設や敷地内の舗装が中心のため、作業員の被ばく線量も全般的には低めで推移している。だが今後、廃炉作業は原子炉へと近づく。ベテラン作業員は「来年はもっと高線量の作業が増える。がんになる人が増えたら、福島第一に来なくなる人が出てくるかもしれない」と懸念した。
<東電の広報担当者の話> 作業員の労災申請や認定状況について当社はコメントする立場にない。今後も作業環境改善に取り組み、被ばく管理を徹底していく。

*1-2:http://news.livedoor.com/article/detail/10747967/
(週刊女性 2015年10月24日) 第一原発元作業員の53歳、作業11か月で3つのがんを同時発症
○北海道に住む53歳男性は、膀胱がん、胃がん、結腸がんを発症した
○福島第一原発の元作業員で、放射能汚染されたガレキの撤去作業をしていた
○男性は9月、東京電力らを相手取り、損害賠償を求める訴訟を起こした
 わずか11か月間で膀胱がん、胃がん、結腸がんを発症。それも転移ではなく別々の発症だ。しかも、53歳という若年期での同時発症は極めてまれだ。汚染された樹木を高圧洗浄する作業員。除染による被ばくの影響も危惧されている。3つのがんに見舞われたのは北海道札幌市に住む男性(現在57)。仮にAさんとしておく。Aさんは長年“一人親方”として重機のオペレーターに従事していた。その腕と経験を買われ、知人から誘われたのが福島第一原発の収束作業だった。簡単に言えば、放射能汚染されたガレキ等の撤去作業だ。原発爆発事故からわずか数か月後に誘いを受けたとき、Aさんは「行きたくない」と思った。だが、どうしてもとの誘いを断れず、「いやいや行った」のだ。就労は2011年7月4日から10月31日までの4か月間。Aさんは今、働いたことを悔いている。一般人の年間被ばく量は1ミリシーベルト(以下、mSv)と規制されているが、原発労働者の場合は、年間最大で50mSv(5年間の累計で100mSvまで)。だが、Aさんは4か月で56・41mSvと年間の上限に達したため退職する。そして翌’12年6月、’13年3月、5月と冒頭の3つのがんに侵されたのだ。自分がこうなったのは、原発の労働環境以外に考えられない。Aさんは今年9月1日、東京電力、その元請けの大成建設、そして一次下請け業者の山粼建設の三者を相手取り約6500万円の損害賠償を求める訴訟を札幌地裁に起こした。「福島第一原発での収束作業と発がんの因果関係を争うことでは初めての裁判になります」。こう語るのは、9人の弁護士で構成するAさんの弁護団団長、高崎暢弁護士(たかさき法律事務所)だ。「本人には身体をボロボロにされた憤りはあります。でもそれ以上に、もう被ばく者を出してはいけないとの思いが強いんです」。だが、Aさんの被ばく量は年間上限の50mSvを少し超えただけだ。これで、3つのがんとの因果関係を争えるのか。この疑問を高崎弁護士にぶつけると、「56・41mSvはあくまでも表向きの数字。なぜなら、Aさんらは線量計をはずして働いたこともあるし、放射線値の高いガレキなどを直接、人力で抱える危ない労働もしていたからです」と、その労働環境こそが被ばく者を生み出すと強調した。じつは、体調を崩して労災申請をした福島第一原発の元労働者は、Aさんを含め8人いる。1人だけ申請を取り下げたが、Aさんを含む5人に不支給が決定し、2人が審査中だ。行政の壁は厚い。それを突き破るための今回の提訴だ。しかし「闘える」と高崎弁護士は読んでいる。高崎弁護士は、かつて『原爆症集団訴訟』を担当。原爆症と認定されない被爆者数百人が、2003年から全国各地で認定を求めて提訴したもので、31の裁判のうち29で原告が勝訴、原告の訴えがほぼ認められた。この裁判で明らかになったことがある。2号機と3号機の間にある通路に積まれたガレキ。作業員が重機で撤去した。「ここから上の線量が危険で、ここから下が安全という“しきい値”が存在しないことです。つまり、低線量でも危険というのは司法の場で決着ずみ。今回も、線量にこだわらないで裁いてほしい」(高崎弁護士)。だが厳しい闘いになるのは間違いない。日本の原発で働いた労働者は推定数十万人だが、自らの被ばくについて訴えた裁判となると敗訴続きだ。日本初の原発労働者による裁判は、放射線皮膚炎と二次性リンパ浮腫に罹患した岩佐嘉寿夫さんが1975年に起こした。しかし、「被ばくを記録した証拠がない」ことで地裁、高裁、最高裁で敗訴。岩佐さんはその後、亡くなる。市民団体『原子力情報資料室』によると、最近では1979年2月から6月まで島根原発と敦賀原発で働いた福岡市の梅田隆亮さんが、2000年に心筋梗塞を発症したのは被ばくが原因だと’12年、福岡地裁に国を相手取り提訴した事例がある。ところが国は、「100mSv以下の線量による影響の推定には、非がん疾患を含めない」「心疾患は生活習慣病のひとつ」として因果関係を認めない(原爆症認定訴訟では、心筋梗塞は認定されている)。梅田さんとAさんに共通するのは、「放射線の人体への害悪や危険性を教えられていなかった」ことだ。梅田さんは責任感から、作業中にブザーが鳴らないよう、床面にたまった強度に汚染された汚水のふき取りなどの危険な仕事を、線量計を人に預けて作業した。Aさんらも長時間にわたる屋外作業をなかば強いられ、ガレキを直接持ち運び線量計をはずしてきた。高線量のホコリも吸った。ここに、大成建設と山粼建設は、労働者への「安全配慮義務違反」を犯したと高崎弁護士は主張する。現在、Aさんは経過観察のため定期受診をしているが、もうフルタイムで働けない。体調のいいときに短時間労働をこなすだけだ。「被ばく者は被害者。だけど、その現状を訴えると逆に差別されたり、仕事を干されます。だから、Aさんの提訴は勇気ある行為なんです」(高崎弁護士)。11月5日、札幌地裁での初公判でAさんは意見陳述を行う。安全性が無視され誰もがお払い箱になる現場で、2度と原発被ばく者を出さないために。

*1-3:http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/165762
(日刊ゲンダイ 2015年10月9日) 福島の甲状腺がん発生率50倍…岡山大・津田教授が警告会見
 岡山大大学院の津田敏秀教授(生命環境学)が6日付の国際環境疫学会の医学専門誌「エピデミオロジー(疫学)」に発表した論文に衝撃が広がっている。福島県が福島原発事故当時に18歳以下だった県民を対象に実施している健康調査の結果を分析したところ、甲状腺がんの発生率がナント! 国内平均の「50~20倍」に達していた――という内容だ。8日、都内の外国特派員協会で会見した津田教授は「福島県では小児や青少年の甲状腺がんの過剰発生がすでに検出されている。多発は避けがたい」と強調した。福島県で原発事故と子どもの甲状腺がんの因果関係を指摘する声は多いが、権威ある医学専門誌に論文が掲載された意味は重い。国際的な専門家も事態を深刻に受け止めた証しだからだ。津田教授は会見であらためて論文の詳細を説明。原発事故から2014年末までに県が調査した約37万人を分析した結果、「二本松市」「本宮市」「三春町」「大玉村」の「福島中通り中部」で甲状腺がんの発生率が国内平均と比較して50倍に達したほか、「郡山市」で39倍などとなった。津田教授は、86年のチェルノブイリ原発事故では5~6年後から甲状腺がんの患者数が増えたことや、WHO(世界保健機関)が13年にまとめた福島のがん発生予測をすでに上回っている――として、今後、患者数が爆発的に増える可能性を示唆した。その上で、「チェルノブイリ原発事故の経験が生かされなかった」「事故直後に安定ヨウ素剤を飲ませておけば、これから起きる発生は半分くらいに防げた」と言い、当時の政府・自治体の対応を批判。チェルノブイリ事故と比べて放射性物質の放出量が「10分の1」と公表されたことについても「もっと大きな放出、被曝があったと考えざるを得ない」と指摘した。一方、公表した論文について「時期尚早」や「過剰診断の結果」との指摘が出ていることに対しては「やりとりしている海外の研究者で時期尚早と言う人は誰もいない。むしろ早く論文にしろという声が圧倒的だ」「過剰診断で増える発生率はどの程度なのか。(証拠の)論文を示してほしい」と真っ向から反論。「日本では(論文が)理解されず、何の準備もされていない。対策を早く考えるべき」と訴えた。「原発事故と甲状腺がんの因果関係は不明」とトボケ続けている政府と福島県の責任は重い。

*1-4:http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/nucerror/list/CK2015040802100010.html (東京新聞 2015年4月8日) 
【福島原発事故】被ばく死 最悪1.8万人 原発攻撃被害 84年に極秘研究
 国内の原発が戦争やテロなどで攻撃を受けた場合の被害予測を、外務省が一九八四(昭和五十九)年、極秘に研究していたことが分かった。原子炉格納容器が破壊され、大量の放射性物質が漏れ出した場合、最悪のシナリオとして急性被ばくで一万八千人が亡くなり、原発の約八十六キロ圏が居住不能になると試算していた。研究では東京電力福島第一原発事故と同じ全電源喪失も想定していたが、反原発運動が広がることを懸念し公表されなかった。八一年にイスラエル軍がイラクの原子力施設を空爆したことを受け、外務省国際連合局軍縮課が外郭団体の日本国際問題研究所(東京)に研究委託。成果は「原子炉施設に対する攻撃の影響に関する一考察」と題した六十三ページの報告書にまとめられ、本紙が情報公開を通じてコピーを入手した。報告書は出力百万キロワット級の原発が攻撃されたと仮定。原発の場所は特定せず、(1)送電線や発電所内の非常用発電機がすべて破壊され、すべての電源を失う(2)原子炉格納容器が爆撃され、電気系統と冷却機能を失う(3)格納容器内部の原子炉が直接破壊され、高濃度な放射性物質を含む核燃料棒などが飛散する-の三つのシナリオで検証した。このうち、具体的な被害が示されたのは(2)の格納容器破壊のみ。当時、米国立研究所が米原子力規制委員会(NRC)に提出した最新の研究論文を参考に、日本の原発周辺人口を考慮して試算した。それによると、緊急避難しない場合、放射性物質が都市部など人口密集地に飛来する最悪のケースでは一万八千人が急性被ばくで死亡。ただ、被害は風向きや天候で大きく変わるとして、平均では三千六百人の死亡になると試算した。五時間以内に避難した場合は最悪八千二百人、平均八百三十人が亡くなるという。急性死亡が現れる範囲について、報告書は「十五~二十五キロを超えることはない」と記述している。長期的影響としては、放射性物質セシウムなどで土壌汚染が深刻化すると指摘。農業や居住など土地利用が制限される地域は原発から最大で八六・九キロ、平均で三〇・六キロにまで及ぶとしている。最も被害が大きい(3)の原子炉破壊については「さらに過酷な事態になる恐れは大きいが、詳しい分析は容易ではない」と紹介。福島原発事故と同じ(1)の全電源喪失では、実際に起きた水素爆発の可能性に触れ「被害が拡大する危険性がある」と指摘しており、報告書が公表されていれば、事故の未然防止や住民避難に役立った可能性がある。八〇年代は、七〇年代の二度にわたる石油危機を受け、国は原発建設を積極的に推進。国内の原発十六基が運転を始めた。軍事攻撃が想定とはいえ、原子炉に重大な損害が生じれば深刻な被害が及ぶとのシナリオは世論の不安を呼び、国の原子力政策に水を差す可能性があった。報告書にも「反原発運動などへの影響」などと、神経をとがらせていたことをうかがわせる記述がある。原子力資料情報室の伴英幸・共同代表は報告書の存在を「知らなかった」とした上で「反対運動を理由にした非公開ならとても納得できない。テロの脅威が高まる中、原発のリスクを国民にもっと知らせるべきだ」と話している。
◆公表する理由がない
 外務省軍備管理軍縮課の話 報告書は保存されているが、作成部数や配布先など詳しい経緯は分からない。今後、公表の予定はない。積極的に公表する理由がない。
◆原発攻撃被害報告書 「福島」に生かされず
 軍事攻撃による原発の放射能被害を予測していた外務省の報告書。水素爆発した福島第一原発事故は地震と津波が引き金とはいえ、報告書が指摘していた「全電源喪失」の危機がシナリオ通りに再現された。三十年も前から原発の潜在的な危険性を知りながら、反原発運動の広がりを恐れて公表を控えた外務省。原発推進を掲げた当時の国策の下で、都合の悪い情報をひた隠しにする官僚の隠蔽(いんぺい)体質が浮かび上がる。 「限定配布の部内資料(『取扱注意』なるも実質的に部外秘)」「外務省の公式見解でないことを念のため申し添える」…。高度な秘密性を裏付けるように、報告書には当時の国際連合局軍縮課長が書いた「ことわりがき」が添えてある。当時、同局の審議官だった元外交官の遠藤哲也氏(80)は本紙の取材に「記憶が確かではない」としながらも「ショッキングな内容なので(非公表に)せざるを得なかったでしょうね」と話した。同氏によると、一般的に部内資料は省外への持ち出しが禁止されており、報告書が官邸や原子力委員会などに配布されていなかった可能性が高い。作成された二年後の一九八六(昭和六十一)年には旧ソ連・チェルノブイリ原発事故が起きたが、その時ですら報告書の公表はなく、原発の安全対策に生かされることはなかった。当時は米ソが核兵器の開発を競う冷戦時代。科学技術史が専門の吉岡斉・九州大教授(61)は原発の軍事攻撃を想定した報告書が公表されれば「国民の間で核兵器と原発が一体的に連想されることを心配したのではないか」と推測する。「国家と秘密 隠される公文書」(集英社新書)の共著者で、歴史学者の久保亨・信州大教授(62)も「原子力は、軍事に転用できる技術の最たるもの」と指摘する。久保教授が懸念するのは昨年十二月に施行された特定秘密保護法。安全保障やテロ対策などを理由に原発に関する情報が一段と制限され「闇から闇へ葬られかねない」と懸念を示している。

*1-5:http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201510/CK2015102602000124.html(東京新聞2015年10月26日)公募意見の9割が「原発多すぎ」 電源構成で異論「黙殺」
 経済産業省が2030年度に目指す電源構成(エネルギーミックス)のうち、原発の占める割合を「20~22%」とする報告書をまとめる際に国民から意見を募った「パブリックコメント(意見公募)」で、原発への依存度をさらに引き下げるかゼロにするよう求める意見が約9割に上っていたことが分かった。寄せられたすべての意見を本紙が情報公開請求して取得し、分析した。政府は国民から意見を募集しながら全体傾向や詳細は明らかにしなかった。構成目標の最終決定にも反映させておらず、一般の人々からの異論を「封殺」するかのような国民軽視の姿勢が浮き彫りになった。経産省は今年六月に電源構成の原案を示し、六月二日~七月一日まで意見公募を実施。メールやファクスなどで二千五十七件(本紙集計)が寄せられた。しかし、同省は意見の全容を示さず、七月十六日に原案通り構成を決定。その際、件数と意見を部分的に抜粋し公表したにとどまった。本紙は開示された三千三百八十六ページの文書すべてを分析、内訳を分類した。原発については千六百十七件の意見があり、うち依存度を引き下げるかゼロにするよう求める意見は千四百四十九件で、89・6%だった。原案の依存度を支持するか、さらなる拡大を求める「維持・推進」は三十八件で2・4%にとどまり、賛否の判断が困難な意見は百三十件で8%だった。原発比率引き下げを求める理由は「老朽原発の稼働を前提としていて事故が心配」「使用済み核燃料の処分方法が解決していない」などが多かった。政府原案が「22~24%」とした太陽光や風力など再生可能エネルギーに関する意見は延べ千六百六件(原発への意見と重複分含む)。うち91・7%の千四百七十二件が「もっと増やす」ことを要求。原案の支持か、比率引き下げを求める意見は十四件(0・9%)にとどまった。行政手続法は各省庁が重要な指針などを決める際は意見公募し結果を公表するよう定めているが、公表範囲は各省庁の裁量に委ねられている。民主党政権下の一二年、将来の原発比率を決める際は政府は公募意見約八万八千件を分析、87%が「原発ゼロ」を支持していることを公表していた。
<電源構成見通し(エネルギーミックス)> 中長期的に日本がどんな電源に発電を頼るかについての比率。この見通しに沿う形で、政府は規制や財政支出を行い、電力各社も原発の運営方針や、再生エネルギーの活用策を決めるため、日本のエネルギー政策の基本となる重要な数字。家庭の省エネ目標もあり、国民生活へのかかわりも深い。2030年度時点の見通しは、14年4月に安倍政権が閣議決定したエネルギー基本計画に基づき、経産省の審議会の報告も反映し今年7月に策定した。

<フクイチの後始末>
*2-1:http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20151025-00055426-playboyz-soci (週プレNEWS 2015年10月25日) フクイチ周辺にだけ発生する“怪しい霧”に“異様な日焼け”が警告するものとは
 福島第一原発事故から4年半――。『週刊プレイボーイ』本誌では当時の総理大臣・菅直人氏とともに、“フクイチ沖1.5km”の海上から見た事故現場の現状をリポートしたーー。フクイチで今も続いている危機は、前回記事(「元総理・菅直人が初めての“フクイチ”海上視察!」)で指摘したベント塔の老朽化だけではない。事故発生以来、港湾内外の海水から検出される放射性物質の濃度も上昇するばかりなのだ。これは構内の地面から流れた汚染水と、フクイチ施設の地下を流れる汚染地下水が海へ漏れ出ている影響としか考えられない。さらに、1~3号機から溶け落ちた大量の核燃料デブリが地中へメルトアウトして、地下水流の汚染をより高めている可能性もある。そこで本誌は、フクイチ沖1500mの「海水」1リットルと、海底(深さ15m)の「海砂」約3㎏を採取し、専門機関に測定を依頼した。その結果、事故当時に大量放出された「セシウム137」(半減期約30年)と「セシウム134」(同約2年)が検出され、やはりフクイチ事故の影響が続いていることがわかった。さらに重要なのが、セシウムと同じくウラン燃料が核分裂した直後に放出される「ヨウソ123」(同約13時間)が、何度か変化して生まれる同位体の放射性物質「テルル123」(同約13時間)も微量ながら検出されたことだ。この海水は、採取1日後から約47時間をかけて測定したので、微量ながら「テルル123」が検出されたことは「採取の数十時間前くらいにフクイチからメルトアウトした核燃料デブリが核分裂反応を起こした?」という見方もできるのだ。では「海砂」の測定結果はどうか。船上に引き上げた限りでは、泥を含んだ様子もなく、生きたハマグリの稚貝も交じるきれいな砂だった。しかし測定結果を見ると、海水よりも多くの放射性物質を含んでいた。まず注目されるのが、核燃料そのものといえる「ウラン235」(同約7億年)と「セシウム134」「セシウム137」。それ以外に「タリウム208」(同約3分)、「アクチニウム228」(同約6時間)、「ラジウム224」(同3・66日)、「ユーロピウム」(同4・76年)など、セシウムよりも半減期が短い放射性物質もいくつか検出された。採取に立ち会った、フクイチ事故の汚染拡大パターンを研究する長崎大学院工学研究科の小川進教授(工学、農学博士)は、こう分析する。「このウラン235は自然界にも存在しますが、やはり採取場所からみてフクイチ事故で放出されたと判断すべきでしょう。そして、これは放射線科学の教科書的内容ともいえる基礎知識ですが、ウラン燃料が原子炉内で核分裂すれば、今回この海砂から検出された、すべての〝短半減期核種〟が発生します。しかし、もうフクイチの原子炉は存在しないので、これらの短半減期核種とウラン235の発生源は、デブリの臨界反応とみるのが理にかなっています。もしデブリが建屋の地中へ抜けているなら、海の汚染を防ぐのは至難の業になるでしょう。ただ、ひとつ気になるのは、3号機だけで使われていたウラン+プルトニウム混合燃料(MOX燃料)のデブリから発生するはずのプルトニウムが、この砂から検出されていないことです。もしかしたら3号機のデブリだけは、まだ格納容器内の底にとどまった状態なのかもしれません」(小川進教授)。今年5月に1・2号機の格納容器内へ投入した探査ロボットの映像からは、今のところデブリの落下位置は突き止められていない。しかし、フクイチ付近の海で放射能汚染が急に高まった昨年前半あたりから、1・2・3号機それぞれのデブリの位置と反応に大きな変化が起き始めた可能性がある。かつてフクイチ構内を作業員として取材したジャーナリストの桐島瞬氏が、こう推理する。「事故後しばらくは、1・2・3号機から蒸気や煙状の気体が出ていたと現場の作業員が話していました。いまだに中のことはよくわかっていないので、3号機のデブリが1・2号機とは違った場所で発熱しているとも考えられます。もうひとつ気になるのは、一昨年から海際近くの汚染水くみ出し井戸などで、濃度の高い“トリチウム”が検出されるようになったことです。この放射性物質は“三重化水素”とも呼ばれ、急速に水と結びつき、その水を放射能を帯びた特殊な水に変えます。フクイチの原子炉周辺は濃い霧に包まれることが多いのですが、これも放出量が増えたトリチウムの影響ではないかという意見も聞かれます」。空気中の水(水蒸気)と三重化水素が結びつけば分子量が大きくなるので、当然、霧が発生しやすくなる。そういえば今回の海上取材でも、南側の4号機から北側の5・6号機にかけて、約1㎞幅、厚さ20mほどの霧の帯がフクイチ構内の地上から高さ30~40m、巨大な原子炉建屋の上部3分の1ほどの空中に浮いていた。6、7月頃の福島県沿岸には「やませ」と呼ばれる冷たい風が吹き寄せ、浜通りの海岸地帯では朝晩に霧が立つことが多い。実際、今回の船上取材でも朝9時に久之浜港を出て、しばらくは沿岸のあちこちに霧がかかり、福島第二原発にも薄霧の層がたなびいていた。しかしフクイチの霧は、どうも様子が違った。気温の上がった昼近くになっても、他の場所よりも濃い霧の層がしつこく居座り続けた。少し強く海風が吹くと一時的に薄れるが、しばらくするとまたモヤモヤと同じ場所に霧の塊が現れた。この海上取材から10日後の8月2日には、3号機燃料プール内に落下した大型瓦礫を撤去する作業が行なわれた。その際にも、3・4号機付近から濃霧が湧き出すように見えるニュース画像が話題になった。このフクイチ上空の“怪霧”について、船上取材に同行した放射線知識が豊富な「南相馬特定避難推奨地域の会」小澤洋一氏も、後日、あれは気になる現象だったと話してくれた。「私は昔から海へ出る機会が多いのですが、フクイチだけに濃い霧がかかる現象は記憶にありません。凍土遮水壁の影響で部分的に地上気温が下がっているとも考えられますが、トリチウムが出ているのは事実なので、その作用で霧が発生する可能性は大いにあると思います。だとすれば、あの船上で起きた“気になる出来事”にも関係しているかもしれません」。その出来事とは、取材班全員が短時間のうちにひどく“日焼け”したことだ。フクイチ沖を離れた後、我々は楢葉町の沖合20㎞で実験稼働している大型風力発電設備「ふくしま未来」の視察に向かった。この時は薄日は差したが、取材班数名は船酔いでずっとキャビンにこもっていたにもかかわらず、久之浜に帰港した時には、菅氏とK秘書、取材スタッフ全員の顔と腕は妙に赤黒く変わっていた。つまり、曇り状態のフクイチ沖にいた時間にも“日焼け”したとしか考えられないのだ。「トリチウムは崩壊する際にβ(ベータ)線を放射します。これは飛距離が1m以内と短い半面、強いエネルギーを帯びています。私たちが1時間ほどいたフクイチ沖1500mの空気にも濃度の高いトリチウムが含まれていたはずで、それが皮膚に作用したのではないでしょうか」(小澤氏)。だとすれば、我々は、トリチウムによるβ線外部被曝を体験したのか…。とにかく、今回訪れた福島県内では多くの新事実を知ることができた。まず実感したのは、福島復興政策の柱として進められている除染事業が、避難住民を帰還させるに十分な効果を発揮しているか非常に疑わしいことだ。また、フクイチ事故で行方知れずになった燃料デブリが地下水、海洋汚染のみならず今後もさらに想定外の危機を再発させる恐れもある。やはりこの事故は、まだまだ厳重な監視が必要なステージにあるとみるべきなのだ。今回の現地取材に同行した菅直人氏は、フクイチ事故当時の総理としての行動と判断が賛否両論の評価を受けてきたが、今後も政治生命のすべてを「脱原発」に注ぐと宣言している。また機会をあらためて、次はフクイチ構内への同行取材を成功させ、事故現場の現状を明らかにしたいものだ…。

*2-2:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201510/CK2015102502000113.html (東京新聞 2015年10月25日) 原発避難の権利確立を 全国組織、29日に設立集会
 東京電力福島第一原発事故の避難者らが「『避難の権利』を求める全国避難者の会」を結成し、二十九日に東京で設立集会を開く。強制避難と自主避難の壁を越え、全国に散らばった避難者のネットワークをつくり、政府や自治体に、避難の権利を保障する立法や支援策を求めていく考えだ。「さまざまな避難者に呼び掛けが伝わる工夫を」「住宅支援問題の取り組みは外せない」。七日夜、札幌市のアパートで福島市から妻子と自主避難した介護サービス業中手聖一さん(54)が、インターネット電話「スカイプ」で設立準備会の会議に臨んでいた。準備会メンバーは、福島県やその近隣から避難し、十都道府県で暮らす約十五人で、今夏ごろから話し合いを重ねてきた。この夜も活動方針や入会方法など、会議は三時間を超えた。同会が求める避難の権利を、中手さんは「避難する人もとどまる人も、自分の意思で選択できるよう等しく支援を受けられること」と説明する。政府は住民が帰還できる環境が整ったとして、これまでに福島県楢葉町などの避難指示を解除。放射線量が高い帰還困難区域以外の他の地域も二〇一七年三月までに解除する方針だ。福島県も自主避難者に対する住宅無償提供を同じ時期に打ち切ることを決めている。こうした状況に中手さんらは「避難の権利が切り捨てられようとしている」と危機感を抱き、政府と交渉できる全国組織が必要と考えたという。会では、避難の支援や健康診断の充実を政府に求めていくとともに、避難者の実態把握などにも取り組む方針だ。強制避難、自主避難にかかわらず入会でき、被災当時、どこにいたかも問わない。経済的な理由などで帰還した人も参加可能だ。避難者が抱える課題は一人一人異なり、行政からの支援にも格差がある。避難指示の解除により、自主避難の立場に変わる人が増える可能性もある。福島市から京都府木津川市に家族で避難し、中手さんと共に共同代表に就任予定の宇野朗子(さえこ)さん(44)は「お互いに理解して支え合い、分断を乗り越えたい」と話している。問い合わせは、中手さん、電080(1678)5562。

<川内原発再稼働>
*3-1:http://www3.nhk.or.jp/news/html/20151015/k10010270051000.html
(NHK 2015年10月15日) 川内原発2号機 きょう再稼働
 鹿児島県にある川内原子力発電所2号機は15日午前、原子炉を起動する操作が行われ、再稼働します。原発事故後に作られた新しい規制基準の下で国内の原発が再稼働するのは同じ川内原発の1号機に続き、2基目になります。川内原発は去年9月、東京電力福島第一原発の事故後に作られた新しい規制基準の審査に全国の原発で初めて合格し、1号機は、ことし8月に再稼働しました。これに続いて、2号機でも再稼働前に必要な検査を14日までに終え、九州電力は15日午前10時半から核分裂反応を抑える32本の制御棒を順次、引き抜いて2号機の原子炉を起動し、再稼働させることにしています。川内原発2号機は原発事故の半年後に定期検査に入って以降、運転を停止しており、稼働すれば4年1か月ぶりとなります。また、新しい規制基準の下、国内の原発が再稼働するのは同じ川内原発の1号機に続き、2基目になります。九州電力によりますと、再稼働後12時間程度で、核分裂反応が連続する「臨界」の状態になり、今月21日に発電と送電を開始するとしています。その後、運転の状態を確認しながら、徐々に原子炉の出力を高め、問題がなければ、来月中旬に営業運転を始める計画です。 .川内原発2号機とは川内原子力発電所2号機は昭和56年5月に建設工事が始まり、昭和60年11月に営業運転を開始しました。福島第一原発の事故の、およそ半年後から運転を停止した状態が続いています。その後、原発の新しい規制基準が作られ、これを踏まえて、九州電力は津波の被害を防ぐための海抜15メートルの防護壁を設置したり、移動式の大型発電機や非常用のポンプを整備したりしてきました。その結果、去年9月2号機は1号機とともに、全国の原発で初めて新しい規制基準に適合していると認められました。ことし6月からは再稼働に向けた設備や機器の検査、使用前検査が始まり、先月、原子炉に157体の燃料が入れられ、準備が最終段階に入っていました。一方、川内原発では原子炉の熱でタービンを回すための蒸気を作り出す蒸気発生器が、1号機は7年前に交換されましたが、2号機は昭和60年の営業運転開始以来、取り替えられていません。蒸気発生器では中を通る細い管に傷が入るトラブルがたびたび見つかっており、原発に反対するグループからは「このまま、再稼働させるのは安全性に問題がある」という指摘も出されています。これについて九州電力は、平成30年の定期検査に合わせて2号機の蒸気発生器を交換することにしており、「現段階でも、検査を通して安全性は十分確保されている」としています。この冬 自社のみで電力供給可能に九州電力が発表している、この冬の電力需給の見通しによりますと、最も多く見積もった需要は平成23年並みの厳しい寒さとなった場合で、1515万キロワットと予測しています。これに対し、川内原発1号機に続いて2号機も再稼働すれば、供給は最大で1648万キロワットとなり、8.8%の余力を確保できるとしています。九州電力は原発の運転停止によって需要の増える夏と、冬の時期にほかの電力会社から電力の融通を受けていましたが、今シーズンは冬としては平成22年以来5年ぶりに、自社のみで電力を供給できる見通しだとしています。避難計画 残る不安川内原子力発電所の周辺に住む住民からは1号機が再稼働したあとも、事故の際の避難計画などに不安の声が出ているとして、県や自治体は説明や対応を行っています。このうち、全域が川内原発の30キロ圏内に入る鹿児島県いちき串木野市では、原発事故の際、高齢者や入院患者などいわゆる災害弱者から不安の声が出ているとして、今月6日、市議会が県に対し、医療機関や福祉施設を対象にした説明会を行うことや、避難に必要な福祉車両の充実を図ることなどを求める意見書を提出しました。また、市には、住民から事故の際に避難する場所を事前に確認したいという要望が寄せられているため、市が用意したバスで避難所まで案内する取り組みも行っています。いちき串木野市まちづくり防災課の久木野親志課長は、「原発事故に対する住民の不安は根強いので、再稼働したあとも不安の声を丁寧に聞き取り、解消していく必要がある」と話しています。一方、鹿児島県の計画では、川内原発で事故が起きた際の住民の避難にバスも使うことになっており、県は、ことし6月、地元のバス協会やバス会社と協定を結びました。8月にはバス会社の担当者およそ70人を集め、初めての研修会を開きましたが、出席者の間には、「運転手や車体の除染に関して具体的な説明は聞けず、不安の残る内容だった」といった声があります。これについて県は、「研修会を繰り返し開き、理解を進めていきたい」としています。

*3-2:http://qbiz.jp/article/72800/1/
(西日本新聞 2015年10月15日) 九電、川内2号機再稼働 1号機に次ぎ全国2基目
 九州電力は15日午前、川内原発2号機(鹿児島県薩摩川内市、出力89万キロワット)を再稼働させた。東京電力福島第1原発事故後に策定された新規制基準に基づく原発の再稼働は、8月の川内原発1号機(同)に次いで全国で2基目。午前10時半、中央制御室からの遠隔操作で、核分裂を抑える制御棒を引き抜いて原子炉を起動させた。約12時間後の午後11時ごろ、分裂反応が安定的に継続する「臨界」に達する見通し。工程が順調に進めば21日に発電と送電を開始。11月中旬の営業運転を目指す。九電川内原子力総合事務所の藤原伸彦所長は、2号機の稼働が約4年ぶりであることに触れ「何が起こるか分からないという緊張感を持ち、営業運転まで当たりたい」と述べた。川内原発前では、反原発派の100人が集会を開催。「再稼働のスイッチを押すな」などと声を上げた。11日から座り込み、抗議のハンガーストライキをしている同市の自営業川畑清明さん(59)は「原発は命より経済を優先する社会の象徴。廃炉まで反対し続ける」と訴えた。福岡市の九電本店前でも抗議する人たちの姿が見られた。

*3-3:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201510/CK2015101502000258.html (東京新聞 2015年10月15日) 川内2号機 再稼働 複数炉の危険、想定せず
 九州電力は十五日、川内(せんだい)原発2号機(鹿児島県薩摩川内市)の原子炉を起動し再稼働させた。二十一日に発電と送電を開始する。二〇一一年三月の東京電力福島第一原発事故後、新規制基準に基づく審査に適合した原発の再稼働は、今年八月の川内1号機に続いて二基目。2号機は十五日午前十時半に再稼働した後、約十二時間後に核分裂反応が安定的に続く「臨界」に達する見通し。営業運転への移行は十一月中旬を予定している。川内原発前や福岡市の九電本店前では、再稼働に反対する住民らが抗議の声を上げた。1号機では再稼働後の出力上昇中に復水器のトラブルが発生し、作業が一時中断した。2号機でも問題が起きれば再稼働に厳しい目が向けられるのは必至で、九電は慎重に作業を進める。瓜生(うりう)道明社長は十五日、「緊張感を持って安全確保を最優先に今後の工程を進めていく」とのコメントを発表した。十五日午前十時半に九電の作業員が川内原発の中央制御室で、2号機の原子炉内の核分裂を抑えていた制御棒の引き抜き操作を始め、原子炉が起動した。再稼働の前提となる規制委の審査には、川内原発のほか関西電力高浜3、4号機(福井県高浜町)、四国電力伊方3号機(愛媛県伊方町)が合格している。
◆福島事故の教訓どこへ
 夏の電力需要ピークも原発なしで乗り切り、その後も安定的な電力供給が続いている九州で再稼働二基目となる川内原発2号機が動きだした。原発は目先のコストは安く、九電の経営にとっては好都合だが、原発の内外とも多くの課題を積み残したままだ。東京電力福島第一原発事故が見せつけたのは、複数の原子炉が近くで稼働する危険性だ。1号機の水素爆発で全作業の一時中断を迫られ、3号機の爆発では突貫工事で完成したばかりの2号機の注水ラインがずたずたにされた。複数炉が悪影響を与え合い、事態を深刻化させた。しかし、原子力規制委員会の審査は、複数炉の問題をあまり考慮していない。「新規制基準さえ満たしていれば、各号機で対処できる」(田中俊一委員長)ことが大前提となっている。がれきで資材を運べなかったり、十分な要員が集まらなかったり事前の事故収束シナリオを外れるような事態は想定していない。国内で火山活動が活発化しているが、桜島もその一つ。周辺の姶良(あいら)カルデラなどの巨大噴火への備えも必要だが、監視態勢は不十分で、核燃料の緊急移送もまだ検討中だ。住民の避難計画も形はできているが、県のトップらは「広域に避難するような事態にはならないだろう」と楽観的にみて再稼働を認めている。
<川内原発> 鹿児島県薩摩川内市にある九州電力の加圧水型軽水炉。1号機が1984年、2号機が85年に営業運転を開始した。出力はともに89万キロワット。定期検査で1号機が2011年5月、2号機が同9月に停止した。13年7月、新規制基準の施行日に原子力規制委員会に審査を申請し、14年9月に全国の原発で初めて審査に適合した。1号機は今年8月11日に再稼働し、同14日に発電と送電を始めた。

*3-4:http://373news.com/_column/syasetu.php?ym=201510&storyid=70609
(南日本新聞 2015.10.23)[2号機発送電] 「川内方式」には反対だ
 九州電力は川内原発2号機の発電と送電を4年ぶりに始めた。これから出力を段階的に引き上げ、11月1日のフル稼働をめざす。すでに営業運転中の1号機は、出力上昇中に復水器の細管が破損し、計画に狂いが生じた。「1号機の経験を踏まえ、慎重にやっていく」と九電は述べた。根強い不安や反対を振り切っての運転再開である。スケジュールありきは許されない。営業運転30年を昨年迎えた1号機に続いて、2号機も来月には30年となる。そろそろ老朽化が懸念される。1号機は運転開始から24年後、「加圧水型炉のアキレスけん」と言われる蒸気発生器を交換した。しかし、2号機は東京電力福島第1原発事故の影響で、交換予定を2018年へ先送りしている。1号機の交換タイミングに比べるとほぼ10年遅れだ。安全上の問題はないのか。1号機以上に厳しい目が注がれていることを忘れてはならない。問題はまだある。原発再稼働の地元同意手続きで「川内方式」と呼ばれているものも、その一つである。川内原発では「鹿児島県と薩摩川内市で十分」と伊藤祐一郎知事が発言し、薩摩川内市議会の賛成陳情採択から2週間足らずで手続きを済ませた。安倍内閣も「川内原発の対応が基本的なことになる」(菅義偉官房長官)と、原発が立地する自治体に限定した川内方式を踏襲する姿勢だ。福島原発事故では放射性物質が立地自治体の外にまで拡散した。局地的に放射線量の高い「ホットスポット」も、半径20キロ圏外で見つかった。尻すぼみになったものの、当初は川内原発30キロ圏市町の多くが、立地自治体並みの協定を求めた。住民の不安を踏まえれば当然の判断だったはずだ。少なくとも避難対象地域となる半径30キロ圏までは、同意が必要な「地元」と解すべきだ。事故の教訓を忘れたような川内方式は同意できない。川内に続いて新規制基準に適合した関西電力高浜原発3、4号機でも、政府は福井県と高浜町の同意だけで十分との考えだ。5キロ圏の京都府舞鶴市などは、事故が起これば立地自治体並みの被害を受けるのは明らかである。川内方式をごり押しすべきではない。来年、電力自由化を控える九電にも聞きたい。「核のごみ」の処分、廃炉などの難題とどう向き合うか。誠実に答えてほしい。

<玄海原発>
*4-1:http://www.saga-s.co.jp/column/genkai_pluthermal/20201/238628
(佐賀新聞 2015年10月12日) 原発再稼働「同意地域広げて」80%超、県民世論調査
 被害が広域化した福島の原発事故後、再稼働の際に同意が必要な「地元」の範囲をどう定めるべきかが課題となっている。8月の川内原発の再稼働では鹿児島県と立地自治体の薩摩川内市に限られたが、佐賀新聞社の県民世論調査では、従来の手続きを適当とした県民は15%に満たず、80%以上が地元の範囲を広げるべきと回答した。玄海原発の半径30キロ圏内には、立地自治体の東松浦郡玄海町のほかに唐津市と伊万里市、福岡県糸島市、長崎県の佐世保、平戸、松浦、壱岐市が含まれる。世論調査では、川内原発のケースと同じ従来通りの立地自治体と県が地元範囲となる「玄海町と佐賀県」が14・7%にとどまった。これに対し、「福岡、長崎両県を含む30キロ圏内の自治体」が最も多い52・7%を占め、「佐賀県内の全自治体」も30・5%に上った。性別や年代、支持政党に関わらず、満遍なく同様の傾向となった。福島の事故で拡散した放射性物質は当時の防災対策重点区域だった10キロ圏を超え、50キロ圏の福島県飯舘村を汚染し、全村避難に追い込んだ。こうした実例から原発事故が起きれば立地自治体だけの問題ではなくなるとの思いが県民の中に根強くあることが浮き彫りとなった。地域別(16市郡)にみると、九電に立地自治体並みの権限拡大を求め、県内で唯一、安全協定を結んでいない伊万里市は、地元の範囲を「30キロ圏内の自治体」にすべきとの回答の割合が全市町で最も多い75%を占めた。ほかに玄海町と唐津市、有田町でも60%を超えた。政府は原発再稼働の手続きに関して「川内原発の対応が基本」(菅義偉官房長官)とし、半径30キロ圏内の自治体に避難計画の策定を求める一方、地元同意の範囲は「立地県の知事の判断を尊重する」と判断を丸投げしている。一方、山口祥義知事は8月の定例会見で、地元同意の範囲について「基本的には国が考えること」と述べた。これを受け、伊万里市の塚部芳和市長は「薩摩川内市の面積は玄海町に唐津市、伊万里市を合わせたぐらいの大きさ。位置関係が違うので、知事には国に働き掛けてほしい」と強調した。

*4-2:http://qbiz.jp/article/72889/1/
(西日本新聞 2015年10月16日) 九電、本格回復道半ば 電力自由化対策急務
 川内原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)を相次いで再稼働させたことで、九州電力は2016年3月期の通期黒字が明確に見通せる状況になった。電力供給にも大きな余力が生まれる。ただ、16年4月には電力小売りの全面自由化が控え、業界の垣根を越えた大競争が始まる。玄海原発3、4号機(佐賀県玄海町)の再稼働に向けた手続きも道半ばで、直面する課題はなお尽きない。九電は川内原発2基の再稼働で月平均150億円の収支改善を見込む。2号機は21日から段階的に出力を上げ、機器トラブルなどがなければ、11月から再稼働による財務面への効果が本格的に出てくる見通し。16年3月期は5年ぶりに黒字化できる公算が大きくなった。電力供給面では、余力分を市場で販売できる。高負荷での稼働が続いた火力発電所の維持・補修作業にも順次、取り組む方針だ。だが、瓜生道明社長は株主への復配や社員の賞与復活など今後の利益配分については「さまざまな利害関係者がおり、バランスをとる。現時点でどうこうという答えは出さない」と慎重な構え。他の九電幹部からも、川内原発の再稼働による安堵(あんど)感はうかがえない。財務状況が好転するとはいえ「抜本的な改善には玄海原発2基の再稼働が不可欠」(幹部)だが、本年度内の再稼働は厳しい状況。引き続き経営効率化を図っていくという。原発が停止していた間に九電が失ったのは、それまで積み上げた利益だけではない。電気購入契約を新電力などに切り替え、九電から「離脱」した企業や自治体は、電気料金を抜本値上げする以前の3倍以上に増えた。電力小売り全面自由化は約5カ月後。なお自由度の限られた経営資源を使って、どれだけ魅力的な料金やサービスを提供できるか−。引き続き難しい対応を迫られる。

*4-3:http://www.saga-s.co.jp/column/genkai_pluthermal/20201/239751
(佐賀新聞 2015年10月15日) 川内2号機再稼働、佐賀市で抗議行動
 九州電力が川内原発(鹿児島県薩摩川内市)2号機を15日に再稼働させたことを受け、反原発の市民団体「玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止める裁判の会」(石丸初美代表)は佐賀市の中央大通りで抗議活動を展開した。「福島第1原発事故の犠牲を踏みにじる暴挙」と批判し、即時停止を訴えた。石丸代表らメンバー約10人は抗議声明のビラを配り、「福島原発事故は収束どころか、まだまだ続いている」と指摘した。火山対策や避難計画の不備を挙げて「原発事故は起きる。原発事故は地球を滅ぼす。そんな原発はいらない」と呼び掛けた。さらに隣県を含む川内原発周辺の自治体住民が、説明会開催を求めているにも関わらず、九電が応じていない現状も批判した。近く原子力規制委員会の適合性審査が再開される玄海原発ついても「山口知事は、佐賀のことは佐賀で決めるといって当選した。知事は再稼働の同意権を持っており、住民説明会や地元の範囲など国任せではなく、県民の立場で判断すべき」と主張した。

<伊方原発>
*5-1:http://digital.asahi.com/articles/ASHB84Q6RHB8PTIL00P.html?iref=comtop_list_pol_f01 (朝日新聞 2015年10月16日) 原発の町 閉じた審議なぜ(考 民主主義はいま)
 愛媛県の佐田岬半島に位置する伊方町にある四国電力伊方原発3号機の再稼働をめぐる陳情の採択について、町議会の特別委員会の審議は非公開とされた。原発再稼働の行方は、住民にとって最大の関心事。議会制民主主義の下で選ばれた住民代表による議論は、公開を求める声があったにもかかわらず、なぜ閉ざされたのか――。早期再稼働を求める陳情3件が全員一致で採択された2日の伊方町議会原子力発電対策特別委員会は、現在手続きが進む「地元同意」の第一歩となった。6日に本会議でも採択し、9日に県議会も再稼働を認める決議案を本会議で可決した。中村時広知事と山下和彦町長は、同意の是非を近く判断するとしている。議会関係者によると、町議会では議会運営をリードする「主流派」10人と「非主流派」の6人に分かれる。運営方法を決める会議で非主流派議員から「再稼働の是非は住民の関心が高い。公開すべきだ」との意見が出たが、冒頭と最後の採決の公開だけになった。ふだん審議をめぐり、公開の是非が焦点となることはない。今回非公開とした判断の根拠は「議員のほか委員長の許可を得た者が傍聴することができる」という町の条例だ。必要と認める時は委員長の判断で傍聴人の退場を命じ、非公開にできる。委員長は非公開の理由を「忌憚(きたん)のない意見を聞きたいから」と説明した。主流派議員の一人は「非公開は全会一致を目指すためだった。議員を選んだ伊方町民の総意としても『よし、行け』なんだという結論を出したかった。立地自治体としてもめんように丸く収めたかった」と打ち明ける。もう一つ別の思惑もあったという。「賛成意見だけで議論が盛り上がらなかった場合、公開だと格好悪い。『反対意見も出ない伊方町ってどんな町なんや』と思われるのも嫌だった」。人口約1万人の町の今年度一般会計予算は約100億円。3割を原発による電源三法交付金や固定資産税が占める。町に落ちた「原発マネー」はこの40年間で約900億円。地元振興のための施設が各地に散らばる。非公開には反対したが、再稼働には賛成の立場を取った議員の一人は「原発なしの町政は考えられん。恩恵があまりにも大きすぎる」と漏らした。
■「議会の意味ない」
 議会は民意を代表しチェック機能を果たすべき存在だ。非公開の審議に60代の町民の男性は険しい表情で語った。「再稼働反対の町民はいるのに、議員は反対意見を言わない。しかも特別委は非公開。議員がどんな意見を持っているか、聞けるはずだったのに議会の意味がない」と、「政治」と「民意」の乖離(かいり)を嘆く。「町が長いものに巻かれようという考えだと、事故があったとき、町民が何か意見を言っても、国や県は聞く耳を持たないだろう」。一方、再稼働に賛成の住民は多い。別の男性は「様々な意見を表に出さないようにして、全会一致で賛成を表明した方が再稼働に向かいやすくなる」と話す。九州電力川内原発1、2号機が再稼働した鹿児島県薩摩川内市では「再稼働賛成」と「反対」の陳情が付託された市議会特別委員会の審議は公開だった。副委員長を務めた成川幸太郎市議は「非公開との声は全くなかった。よその議会のことをどうこう言えないが、非公開だと住民に変な疑念を持たれてしまうのでは」。原発の国の新規制基準作りに関わった勝田忠広・明治大准教授(原子力政策)は「町議の考えを知る大事な機会をなくし、町民が主体的に考えるきっかけも失わせた」と批判。「東京電力福島第一原発事故後、技術的な安全性は改善に向かっていると言えるが、地元の自治体が経済的に過度に原発に依存する体質について議論がない。そもそも原発はなぜ必要かという根源的な議論が必要だ」と指摘する。
     ◇
〈伊方原発〉 愛媛県伊方町の瀬戸内海側に1~3号機がある。再稼働に向けて準備が進む3号機は1994年に運転が始まった。東京電力福島第一原発と異なる加圧水型炉で、出力は89万キロワット。使用済み燃料から取り出したプルトニウムを混ぜた燃料を使うプルサーマル発電を計画している。

*5-2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12036328.html
(朝日新聞 2015年10月26日) 伊方再稼働、県が同意 愛媛知事表明、地元手続き完了
 愛媛県の中村時広知事は26日、四国電力伊方原発3号機(同県伊方町)の再稼働への同意を表明した。これで地元同意手続きは完了となり、今後は原子力規制委員会による認可手続きや設備の使用前検査を経て、早ければ今冬以降に再稼働する見通し。原発の新規制基準ができて以降、地元同意は九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)に次いで2例目。中村知事はこの日、松山市の愛媛県庁で、四電の佐伯勇人社長と面会。中村知事は「非常に重い責任を伴う判断だ」と述べ、「国の考え方、四国電力の取り組み姿勢、地元の議論を総合的に判断した」と、再稼働に同意する意思を伝えた。そのうえで、▽異常通報連絡の徹底や地元住民への真摯(しんし)な説明の継続▽県や市町が行う原子力防災対策への支援――など9項目を要請した。中村知事はその後、記者会見し、安全対策について県独自に四電に求めてきたことなどを解説。再稼働への同意を決断した理由に理解を求めた。22日には山下和彦町長が中村知事に同意の意思を伝えていた。中村知事は26日午後に上京し、林幹雄経済産業相に同意の意思を伝える。伊方原発の防災重点区域となる半径30キロ圏は、山口県上関(かみのせき)町の離島・八島(やしま)の一部も含まれるが、同意手続きには関わらなかった。30キロ圏で反対を表明する県内の自治体もなく、川内1、2号機のケースと同様、四電と安全協定を結ぶ原発立地自治体の伊方町と県のみの判断となった。1994年12月に営業運転を始めた伊方3号機は、2010年3月から原発の使用済み燃料から取り出したプルトニウムを混ぜた核燃料を使うプルサーマル発電をしていたが、11年4月に定期検査で停止した。今回の知事同意で、福島第一原発事故後、プルサーマル運転を地元自治体が初めて認めたことになる。
     ◇
 菅義偉官房長官は26日午前の会見で、中村知事が伊方3号機の再稼働への同意を表明したことを受け、「知事の理解を得られたことは極めて重要だ。引き続き、法令上の手続きに基づき、四国電力が安全確保を最優先に対応することが極めて大事だ」と述べた。


PS(2015年10月27日追加):そもそも、*6-1のような空母・潜水艦は戦争で使うものであるため撃沈される確率が高く、それが原子力を動力にしているのは危なくて仕方がない上、事故時に乗組員が退避するのでは周囲の人はたまったものではない。そのため、空母や潜水艦は真っ先に燃料電池船にすべきだし、*6-2のように、洋上風力発電などの自然エネルギーを利用して燃料電池を充電する漁船があれば、離島でも燃料費高に悩まされることなく漁業をすることができるのに、と考えている。

*6-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201510/CK2015102302000149.html (東京新聞 2015年10月23日) 
原子力艦事故の避難判断基準 防災相、原発並みに変更を検討
 河野太郎防災担当相は二十二日、米軍空母など原子力艦で事故が起きた場合の避難判断基準の変更を検討する考えを示した。原発と同様、停泊地の周辺で放射線量が毎時五マイクロシーベルトを超えたら住民が避難や屋内退避を始めるよう、国の災害対策マニュアルを見直す。首相官邸で記者団に語った。現在の原子力艦事故の避難判断基準は、毎時一〇〇マイクロシーベルトで原発事故の二十倍。河野氏は「同じ放射性物質なのに(原発と)変える意味がない」と述べ、十一月に開く関係省庁や有識者の作業委員会で見直すとした。また河野氏は原子力艦事故の屋内退避の範囲が、空母の場合は半径三キロとされていると指摘。原発事故の原子力規制委員会の指針は半径三十キロ圏内となっており「原子力艦は、今のままでいいのか範囲を広げるのがいいのか(作業委で)議論してもらう」と述べた。内閣府によると、原子力空母や原子力潜水艦が入港する米海軍基地があるのは神奈川県横須賀市、長崎県佐世保市、沖縄県うるま市。

*6-2:http://qbiz.jp/article/73552/1/
(西日本新聞2015年10月27日) 洋上で風力発電を燃料電池に利用 エコ漁船へ研究会、長崎
 国立研究開発法人水産総合研究センター(横浜市)や長崎県、五島市などは26日、水素を燃料とする燃料電池漁船の導入を目指す「五島市離島漁業振興策研究会」を発足させた=写真。2020年度以降の実用化に向け、漁船の設計に必要な条件を検証していく。環境省は既に同市沖で進める「浮体式洋上風力発電実証事業」の余剰電力から水素を製造し、燃料電池船(10トン級)の燃料にする実証事業を行っている。同事業から得られるデータを基に、漁具を積んで操業する際の安全性や、必要な電力量などを検証し、定置網の水揚げなど沿岸漁業に適した漁船の開発を目指す。研究会には、燃料電池車を市販するトヨタ自動車も技術アドバイザーとして加わる。同センターの宮原正典理事長は「再生可能エネルギーの地産地消で、五島の基幹産業である漁業の振興につなげたい」と話した。


PS(2015年9月28日追加):*7-1、*7-2のように、川内原発は、カリフォルニア州サンオノフレ原発と同じ三菱重工業製の加圧水型原子炉で、高い気圧の水を蒸気発生器に送るため配管破断のリスクがあり、サンオノフレ原発は2012年に起きた蒸気発生器配管の水漏れをきっかけに廃炉になったそうだ。そして、*8のように、2010年1月29日、九電川内原発でも7人が死傷する大事故があり、死者は靴しか残っていないほどのひどい火傷で、瞬時に超高熱火災が発生したとのことだが、これは高温・高圧の蒸気による事故だったのではないのか?

1)高温高圧に耐えなければならない加圧水型原子炉蒸気発生器の設計には無理がある
*7-1:http://dot.asahi.com/wa/2015090900135.html
(週刊朝日 2015年9月18日号)  再稼働 川内原発の“大事故”が危ぶまれる本当の理由
 発端は、2012年1月。カリフォルニア州サンオノフレ原発3号機で、交換後の蒸気発生器の配管から放射性物質を含む水漏れ事故が起きたことだった。蒸気発生器とは加圧水型原子炉に備わる装置で、タービンを回して発電するための蒸気を作り出す重要なもの。それが新品に交換した後に故障したのだ。同原発を運営する南カリフォルニア・エジソン社は、装置内に張り巡らされた伝熱細管と呼ばれる管が異常摩耗していたことが原因だったと断定。定期点検中の2号機にも同様の摩耗が見つかった。米国でこの問題を取材していたジャーナリストの堀潤氏が解説する。「米原子力規制委員会(NRC)の調査では、問題となった三菱重工業製の蒸気発生器の1万5千カ所以上に異常な摩耗が見つかったと報告されました。しかもNRCによると、三菱重工は製造した蒸気発生器に欠陥部分があることを設置前に認知していて、それを認めた報告書を12年9月にNRC側に提出していたと言います」。そのとおりなら、三菱重工は欠陥品を売ったことになる。事態を重く見たNRCは、原因究明と安全確保がなされるまで再稼働を禁止。12年10月には、神戸にある三菱重工の事業所に抜き打ち検査を行った。「そのときNRCは、蒸気発生器の欠陥部品を改良した配管に対する安全検査の方法が、連邦法などが定める基準に沿っていないことを見つけたのです。具体的な問題点は、[1]住友金属工業(現・新日鉄住金)から購入したモックアップ用配管が検査要求を満たす仕様になっていたか確認しなかった[2]東京測器研究所による市販の測定サービスの精度が基準を満たすか確認していなかったことなどです」(堀氏)。 つまり、三菱重工側の品質保証が、NRCや顧客の求める基準を満たしていなかったということになる。トラブルを起こした蒸気発生器は「経済性重視」のため、設計上の無理があったとの指摘もある。原子炉停止に追い込まれたエジソン社は早期再稼働を目指すが、周辺住民が反発。NRCも安全性が確保できないとして再稼働許可を与えず、13年6月にサンオノフレ原発は廃炉の選択を余儀なくされる。その後、責任を巡ってエジソン社と三菱重工の泥仕合が始まる。エジソン社は検査や補修にかかった費用1億ドル(約97億円)を三菱側に請求したが、折り合いがつかず13年に国際仲裁裁判所(国際商業会議所)へ仲裁を申請。そして今年7月、「欠陥のある蒸気発生器を設計、製造した三菱重工には甚大な被害の責任がある」として75.7億ドル(約9300億円)を請求したのだ。問題は三菱重工製の蒸気発生器が、再稼働した川内原発の加圧水型の原子炉(同社製)にも採用されていることだ。三菱重工によると、同社がいままで納めた蒸気発生器は122基。「サンオノフレ原発と同一仕様の蒸気発生器は他の原発に納入されていない」という。だが、トラブルを起こすリスクはあると指摘するのは、川内原発再稼働の異議申し立てを原子力規制委員会に行った山崎久隆氏だ。九州電力が公表した資料によると、7年前に交換した川内原発1号機の蒸気発生器にはすでに35本の配管(伝熱細管)に穴が開きかけて施栓をしています。これが30年間使い続けている2号機の装置になると、栓をした本数は400カ所を超える。加えて古いタイプの装置は改良型に比べて配管に応力が集中しやすく、大きな地震が来たら耐えられない危険さえあるのです」。蒸気発生器は、熱交換効率を上げるために配管の厚みがわずか1.1ミリから1.3ミリほどしかない。常に加圧された熱水が管の中を流れているため、時間の経過によって摩耗し、穴が開くリスクも高まる。「常時どこかに穴が開いていて、定期点検で塞ぐ」(原発エンジニア)といわれるほどだ。摩耗した配管が裂けて高圧水が漏れだすと、重大事故につながりかねない。原発の危険性を訴え続ける作家の広瀬隆氏も「加圧水型の原子炉は高い気圧をかけた水を蒸気発生器に送るため、配管破断のリスクがある」と話す。「摩耗したどこかの配管が破れて水が噴き出すと鉄砲玉のように隣の配管を壊し、連鎖反応で一気に破壊される。1987年にイギリスの高速増殖炉で起きた事故では、10秒未満で40本の配管が連鎖破断しました。91年に起きた美浜原発2号機の事故は、蒸気発生器から噴き出した高圧水で配管がスパッと切れたギロチン破断だったのです」。蒸気発生器の配管が破損すると、1次冷却水が圧力の低い2次側へ急速に漏出する。つまり原子炉の冷却水が失われ、メルトダウンにつながる危険性をはらんでいる。事実、美浜原発の事故では20トン以上の冷却水が漏れ、炉が空焚き状態になりかけたと言われた。このように蒸気発生器のトラブルは深刻な事故につながるため、慎重な安全対策が必要。だが高価で大がかりな装置の上、取り換えにも時間を要するため、補修費用がかさむか、施栓が増えて定格出力ダウンにでもならない限り交換はしない。全部で1万本程度ある配管の18%程度が施栓で使えなくなると交換時期ともいわれる。その一方、再稼働を急ぐあまりか、耳を疑うような出来事もある。九電は400カ所以上に栓をした川内原発2号機の古い蒸気発生器を交換するため、新品を準備済み。だが、変えずに再稼働するという。九電はこう主張する。「信頼性向上の観点から14年度の取り換えを計画していたが、新規制基準適合への作業などがあり、ひとまず交換せずに再稼働を目指すことにした。現行の蒸気発生器は非破壊検査をして健全性を確認している」。だが、前出の山崎氏は「新しいものを発注したのは、九電が交換する必要があると判断したから。これでは安全軽視以外の何物でもありません」と批判する。川内原発1号機では再稼働直後の8月下旬、蒸気を海水で冷やして水に戻す復水器が海水混入事故を起こした。九電は混入の原因となった管など69本に施栓したが、同様の事故は今回が初めてではない。97年と99年にも玄海原発で同じ事故が起きていたのだ。広瀬氏が言う。「日本の原発は海岸線にあり、ただでさえ塩分で腐食しやすい。それが再稼働で高温環境になれば、ますます進む。4年以上動かしていない原子炉はすぐにトラブルを起こすのが当たり前で、いま現場の技術者は戦々恐々としているはず」。国民は大事故が起きないことを、祈るしかない。

*7-2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12036505.html?rm=150#Continuation
(朝日新聞 2015年10月27日) 三菱重工への請求9160億円 米原発廃炉
 三菱重工は7月、賠償請求額が75.7億ドルになる見通しを発表しており、今回、額が確定した。三菱重工は、契約上の賠償の上限は1億3700万ドル(約166億円)と主張しており、国際商業会議所(パリ)の国際仲裁裁判所が仲裁に入っている。問題になったのは、カリフォルニア州のサンオノフレ原発。2012年に起きた蒸気発生器の配管の水漏れがきっかけとなって、運営会社の南カリフォルニア・エジソン社が廃炉を決めていた。

2)本当はどういう事故だったのか?
*8:http://www.data-max.co.jp/2010/04/post_9611.html
(NetIBNews 2010年4月21日) 九電川内原発7人死傷事故―許されない談合決着
 九州電力川内原子力発電所の現実を検証していくにあたり、まずは今年1月に同原発で起きた事故についての記事を再掲載する。1月29日、九州電力川内原発1号機で7人が死傷した。原発では「大事故」にも関わらず、メディアの続報がない。ひたすら「調査中」しか繰り返さない九電は、一体何をしているのか。電力会社とは持ちつ持たれつの連合がバックアップするのが、「小鳩政権」。その「政治とカネ」にメディアの注目が集まっているのを幸いに、ツジツマ合わせに苦慮している姿が思い浮かぶ摩訶不思議な事故だ。
<「事故は隠せ」 電力会社長年の悪癖>
 どうしてこんなことが起きるのか。テレビ、新聞の第一報に接しても理解不能だったのが、今回の事故だ。「原発は安全」を謳い文句に原発建設を推進してきたのは国と電力会社。チェリノブイリ級超巨大惨事になりかねない重大事故は当然ながら、小さな事故も原発のイメージを悪くするというので握りつぶすのを当たり前としてきた。そこには本社員であろうが末端の下請け作業員であろうが、一個人に対する尊厳のかけらもなく、ともかくその場を糊塗するのを旨としてきたのが電力会社だ。とくに原発は「放射能=被曝」のイメージが強いため、電力会社は放射線被曝事故や周辺への放射能漏洩にはことさら神経を尖らす。しかし、原発という巨大システムは、放射能に直接関わりはないところにも重要施設や機材がヤマほどあり、それらが一体に運用されている。そんな場所や機材での事故や故障が原発中枢の原子炉やタービンに影響をおよぼし、重大事故になることもあり得る。したがって、放射能漏洩や被曝とは直接関係なくても、とにかく「事故は隠せ」が電力会社のいわば習い性になっている。そんな電力会社の体質も近年はわずかながら改善され、情報公開の重要性を理解してきたように見受けられたが、長年の悪癖はそう簡単に直るものではなかったようだ。ましてや、今回のような大事故は隠せるものではないだけに、注視すべきは今回の事故への九電および国の今後の対応だ。事故は1月29日早朝の午前7時過ぎに起きた。原子炉の運転を止めて行なわれる定検は、原子炉をはじめとするあらゆる機器の保守・点検を行なう。原発の点検作業は事前に予定されたものと、事故、トラブルで緊急に行なわれるものがある。後者は当然のことながら、今回のように事前に予定されていたものも、早く終えて運転再開したいのが電力会社の性。企業として生産性を上げるのはもとより、コストは「原発が安い」をアピールする国策にも沿うからだ。その結果、現場は大変だが、原発では徹夜作業も早朝作業も当たり前に行なわれている。事故そのものは、九電と協力企業の西日本プラント工業、西日本技術開発の作業員7人で、配電室にある配電機器の保守・点検を行なう際に発生した。配電室は、タービン建屋という原子炉建屋とは別棟の放射線管理区域外に設置されている。したがって、彼らの着衣は放射線防護服ではなく、通常の作業衣である。そして、配電設備の分電盤を点検するため、1人の作業員が電気を地中に逃がすアースを取り付けようとしたときに火花が発生。本人を含む3人が重症、4人が軽傷を負い、救急車で病院へ搬送された。しかし、重傷者のうち、アースを取り付けようとした西日本プラントの作業員はその日のうちに死亡した。
<追加情報がない「大事故」>
 原発での死傷事故は過去にたびたび起きているが、もっとも多い放射線被曝によるそれは、公式記録では極端に少ない。「原発は安全」を金科玉条とする国と電力会社は、被曝事故などあってはならないので、それらは握りつぶす。証拠の記録やデータの改ざんなどは電力会社の得意とするところで、それらの数値を盾に被曝との因果関係を否定するからだ。被曝以外の死傷は公式記録上もかなりあって、作業中の転落や熱水や火災による火傷、感電などさまざまだが、今回のように7人も同時に死傷するのは異例。原発内事故としては「大事故」である。しかも、発生したのは配電室という中枢施設だ。というのも原発は、心臓部の原子炉を中心に水系統や油圧など無数の配管、いわば血管が通っている。それらを正常に機能させるには、コンピュータ制御を含めた電気系統が不可欠。これまた血管類の一つとして、原発内各所に張りめぐらされている。その電気系統のいわば心臓部が、配電室だ。そんな中枢施設を保守・点検するのは、電気系統に通じたプロ集団であるべき。チームのトップは当然ながら九電社員で、ほかの6人も九電社員と同じ九電グループのしかるべき社員であり、「知識のない孫請け、ひ孫請けの作業員ではありません」(死亡者を出した西日本プラント)というのも当然だろう。それが大事故を起こす、あるいは起きてしまったのはなぜか。九電が発表した写真では、点検しようとした分電板がかなり焼けこげているが、死傷者について当初は「感電」としていたのも不可解。2月1日に、国の原子力安全委員会へ経産省原子力安全・保安院が報告したときも、「感電」である。火災と感電。一体何が起きたのか。事故当時の現場のイメージが湧かない。続報を注視していたが、九電からもメディアにもさらなる追加情報がない。
<地元軽視の電力会社 明かされない真相>
 九電に問い合わせしたのが事故後2週間以上経ち、全体像が見えておかしくない頃だが、同社広報部門の回答は基本的に「調査中」の繰り返し。2月16日に九電と協議会を開いた薩摩川内市側の、「作業マニュアルを出して欲しい」との要請を九電は断っている。出して何か不都合があるのか。地元をバカにするのも電力会社の悪癖だ。県も同様、本来なら電力会社には国と同等の影響力をもつ立場ながら、九電の報告待ちの姿勢は同じだ。それは国も同じである。電力会社のすべてを管理するのが経産省であり、原発はそのなかの原子力安全・保安院が管理する。そこには、電力会社から真っ先に報告が行く。2月22日に問い合わせをすると「本日発表」と言うので、それを見ると想定通りである。詳細は省くが、よくできた報告文だ。一言でいえば結論はまだ出していない。作業員個人のミスやチームとしての意志疎通の不備などに言及し、あくまでも「推定」という逃げの余地を残したものである。それが最終的にどんな結論に至るのか。少なくとも事故は捜査中ながら、死因は「熱傷」(薩摩川内警察署)すなわち火傷であり、搬送されるときの死傷者のうち死者は「90%火傷。靴しか残っていない状態」(薩摩川内消防局)であり、感電ではない。つまり事故のイメージとしては、火花を機に周辺で瞬時に超高熱火災が発生したということだ。専門家も、「このようなケースはきわめて希な現象」(関東電気保安協会員)と見ている。それが作業員個人に帰せられるのか、チームの監督者責任なのか。そんな個人よりも市に作業マニュアルを出さない九電の定検とは何か。事故は常に複合的な要因で起こる。死傷した作業員の着衣が純綿なら死亡しなくても済んだのに、化繊系が災いした可能性もある。それはコスト削減のためか。さらに、過労によるミスもある。それらも念頭に、今回の定検のなかで配電施設点検がどう位置付けられていたのか。九電の姿勢を知りたいもの。これだけの大事故。作業者たちだけに目を奪われていては、真相を見誤る。機材そのものの経年劣化も影響した可能性もあり、メーカーと電力会社のパワーバランス、そして国とのそれで「真相」はいかようにもなるのがこれまでの原子力行政。それを覆すのが地元の県市や警察の責任。それができなければ3号機の増設など論外。鹿児島や九州はもとより、日本に住む人間にはハタ迷惑というものだ。


PS(2015年10月29日追加):*9-1、*9-2のように、東電がフクイチの汚染水海洋流出を抑える柱として建設を進めていた海側遮水壁が完成したそうだが、本当に壁で水をせき止められると考えている人はいないだろう。何故なら、壁で流れをせき止められた水は、壁のない横か、上に行くのであって、流れ込んだ400トンもの地下水を護岸近くの井戸でくみ上げて浄化するのが間に合う筈はなく、くみ上げればくみ上げた分だけ、さらに多くの水が流れ込むからである。また、海水に鋼管ではすぐ錆びるだろう。
 なお、「浄化後の汚染水は、トリチウムだけは取り除けない」とも書かれているが、他の放射性物質がすべて取り除けているのなら上出来の方であり、本当に他の放射性物質が含まれていないかどうかについては、溜められた汚染水をぬきうちでサンプリング調査すべきだ。
 さらに、「周囲の地盤を凍らせる凍土壁の建設が進んでいる」とも書かれているが、大量の地下水が流れ込み、核燃料デブリが崩壊熱を出している中で、凍らせ続けるためには、これまでフクイチが発電した電力と挙げた利益の全てを使っても足りないと思うが、これまでで凍った部分はあるのだろうか?

  
                        *9-2より
*9-1:http://www.minpo.jp/news/detail/2015102726281
(福島民報 2015/10/27) 海側遮水壁が完成 港湾内流出大幅減へ 第一原発
 東京電力が福島第一原発で汚染された地下水の海洋流出を抑える柱として建設を進めていた海側遮水壁が完成した。東電が26日、発表した。港湾内への流出量は1日400トンから10トンと大幅に減る見通し。東日本大震災と原発事故から4年7カ月余。汚染水対策は大きな節目を迎え、今後は建屋内への地下水の流入を防ぐ凍土遮水壁の運用などが焦点となる。東電によると、海側遮水壁は総延長780メートルで、594本の円筒状の鋼材を壁のように並べて打ち込んだ。26日午前9時40分ごろ、鋼材の隙間にモルタルを注入する止水工事の完了を確認し、一連の作業を終えた。地下水の流れをせき止めることで、港湾内への地下水の流出量は1日400トンから10トンに減らせ、放射性セシウムやストロンチウムは40分の1、トリチウムは15分の1まで低減できると試算している。せき止められた地下水は建屋周辺の井戸「サブドレン」や護岸近くの井戸「地下水ドレン」でくみ上げ、浄化した上で海洋放出する。これにより地下水の上昇を防ぐ。今後1カ月程度かけ、港湾内の海水に含まれる放射性物質の濃度などを分析し、遮水壁の効果を確認する。東電は平成24年4月に遮水壁の建設を開始した。26年9月の完成を目指していたが、水位が上昇して地表にあふれ出る恐れがあったため、約10メートルを残して工事を中断していた。今年8月、県漁連が「サブドレン計画」の受け入れを決定したのを受け、9月から工事を再開していた。遮水壁の完成を受け、県原子力安全対策課は「汚染水の低減につながるだろうが、運用に当たっては地下水位のコントロールを徹底してほしい」と求めた。県漁連の野崎哲会長は「港湾内の放射性物質濃度が目に見えて改善されると期待している。引き続き、注意深く廃炉作業を進めてほしい」と注文した。
   ◇  ◇
 今後は建屋内への地下水の流入をいかに防ぐかが課題になる。現在、1日約160トンの地下水が流入し、汚染水になっている。東電は、東京五輪・パラリンピックが開催される32(2020)年内に地下水の流入をなくし、建屋にたまっている汚染水をほぼゼロにする計画。当面は建屋内への地下水の流入を氷の壁で抑える凍土遮水壁を運用させるなどし、28年度中に流入量を1日当たり100トン未満に減らす方針。

*9-2:http://www.imart.co.jp/houshasen-level-jyouhou.html
(福島第一原事故後の最新情報 27.10.26) 汚染水の海流出防ぐ遮水壁 きょう完成へ (要点のみ)
 東京電力福島第一原子力発電所で3年越しで建設が進められてきた「遮水壁」と呼ばれる設備が、26日にも完成する見通しです。汚染された地下水が海に流れ出すのを抑えるため、護岸を鉄の壁で完全に囲うもので、事故から4年半余りたって汚染水対策は大きな節目を迎えることになります。「遮水壁」は、福島第一原発の護岸沿いの地中に深さ30メートル、全長780メートルにわたって鋼鉄製の壁を設け、海に流れ出している汚染された地下水をせき止めるもので、東京電力は、事故の翌年から建設を進めていました。鋼鉄の板を打ち込む作業はすでに終わっていて、26日午前中に鉄板の隙間をセメントで埋める最後の作業を行い、問題がなければ3年越しで進められてきたすべての建設作業が終わる見通しです。遮水壁でせき止めた地下水はポンプでくみ上げ、浄化して海に流す計画で、東京電力は今後、地下水の水位や海水中の放射性物質の濃度を監視するなどして効果を確かめるとしています。東京電力は、遮水壁が完成すれば海に流れ出す地下水の量がこれまでの1日400トンから10トンまで減り、放射性物質の流出も抑えられるとしていて、海への流出が大きな課題となってきた汚染水への対策は、事故から4年半余りたって大きな節目を迎えることになります。遮水壁の経緯と予想される効果
【遮水壁の経緯】
 福島第一原発で遮水壁の建設が始まったのは、事故発生から1年余りたった平成24年5月でした。しかし、完成に向けては大きな課題がありました。何も対策を取らなければ、せき止められた地下水が地表などからあふれ出してしまうのです。このため東京電力はせき止めた地下水をポンプでくみ上げ、浄化したうえで海に排水する計画をたて、去年8月、地元の漁業関係者に了承を求めました。しかし、浄化するとはいえ1度は汚染された地下水を海に流すことへの不安に加え、汚染水対策を巡る東京電力への不信感もあり、地元からは強い反対の声が上がりました。長い交渉を経て地元が計画に同意したのは1年後のことし8月。その結果、中断していた遮水壁の建設作業が再開し、26日、ようやく完成にこぎ着ける見通しとなりました。
【海の汚染の現状は】
 福島第一原発では、海の汚染は当初から深刻な問題として対策が求められてきました。事故発生直後、核燃料から放出された放射性物質に加え、原子炉に注がれた冷却水が高濃度の汚染水となって海に流れ出し、海水の放射性物質の濃度は、「セシウム137」の場合、原発に隣接する場所で1リットル当たり数百万ベクレルに上りました。その後、濃度は1年後までに大きく下がったあと、おおむね横ばいの状態が続いています。現在は、雨やトラブルの影響による変動はありますが、「セシウム137」で比較するといずれも高いところで、原発の港湾の内側で十ベクレル前後、外で数ベクレル程度となっています。こうしたなか、地下水の問題は、海を汚し続ける残された課題の一つとなっていました。
【遮水壁の効果は】
 東京電力は、遮水壁が完成すれば地下水を通じて海に流れ出す放射性物質の量が、セシウムとストロンチウムはこれまでの40分の1に、トリチウムは15分の1に減ると試算していて、今後、海水に含まれる放射性物質の濃度の変化を調べ、効果を確かめることにしています。
●汚染水対策の現状と残る課題
汚染水を巡っては、「遮水壁」の完成後も数多くの課題が残されています。
【課題1 海への流出対策】
 福島第一原発では毎日400トンの地下水が海に流れ出していて、一部は原子炉建屋の周辺など汚染された場所を通るため、海を汚染する原因の一つと指摘されてきました。東京電力は、「遮水壁」が完成すれば海に流れ出す量は10トンまで減るとしていて、「海への流出」への対策は1つの区切りを迎えることになります。
【課題2 汚染水の増加対策】
 一方、汚染水の増加を抑える対策も進められています。福島第1原発では地下水が建屋に流れ込んで内部の高濃度の汚染水と混ざり、毎日新たに400トンずつ汚染水が発生していました。東京電力は、建屋に流れ込む前の地下水をくみ上げて海に流す「地下水バイパス」と呼ばれる取り組みなどで、地下水の流入量を1日当たりおよそ100トン減らすことができたとしています。先月からは「サブドレン」と呼ばれる建屋の周辺の井戸から地下水をくみ上げて浄化して海に放出する対策を始めたほか、周囲の地盤を凍らせる「凍土壁」の建設も進んでいます。将来的には、建屋を補修して地下水を完全に止水したうえで汚染水をすべて取り除きたいとしていますが、具体的なめどは立っていません。しかも、事故で溶け落ちた核燃料を取り出さない限り、汚染水の発生を完全に無くすことは難しいのが実情です。
【課題3 汚染水管理と処分】
 さらに、汚染水の管理や最終的な処分も課題として残されています。
おととし、建屋からつながる「トレンチ」と呼ばれる地下のトンネルにたまった高濃度の汚染水によって地下水が汚染され、海に流れ出していたことが明らかになりました。さらに、保管用のタンクから高濃度の汚染水およそ300トンが漏れ、一部が海に流れ出すトラブルも発生しました。このため東京電力は、「トレンチ」にたまった汚染水の抜き取りを進め、ことし7月までに作業を終えてセメントで埋め立てたほか、タンクで保管している汚染水から放射性物質を取り除く作業を進めています。しかし、「トリチウム」と呼ばれる放射性物質は取り除くことはできません。現在、タンクで保管している汚染水の量は70万トン余りに上っていますが、最終的な処分についてはめどさえ立たないのが現状です。


PS(2015年10月30日追加):*10-1、*10-2のように、大間原発建設差止訴訟を起こしている函館市の工藤市長を激励に、小泉純一郎、細川護熙両元首相が函館を訪れ、建設中の大間原発と函館の近さも確認して、「函館から意見は聞かずに避難計画を作れという法律は、矛盾している(小泉氏)」「(原発建設は)青森側だけの同意ではなく、函館やその他の沿岸地域の同意を受けるべきだ(小泉氏)」。「私たちも原発ゼロや自然エネルギー普及へ頑張りたい(細川氏)」等、述べられたそうだ。津軽海峡も替えのないよい漁場で日本国民の宝であるのに、何からでもできる発電のために豊かな生態系を破壊するなど、とても許されるものではない。

*10-1:http://www.asahi.com/articles/ASHBY4TP7HBYUTFK00D.html
(朝日新聞 2015年10月29日) 小泉元首相「矛盾している」 原発訴訟の函館市長を支持
 小泉純一郎、細川護熙両元首相が29日、北海道函館市を訪れ、大間原発(青森県大間町)の建設差し止めを求める訴訟を起こしている函館市の工藤寿樹市長と意見を交わした。函館市の一部は大間原発から30キロ圏にあり、福島第一原発事故後に避難計画の策定が義務づけられた。一方、工藤市長は原発の稼働に当たって函館市には同意権がないことを問題視し、提訴の理由としている。小泉氏は「函館から意見を聞かない。しかし、避難計画を作るという法律がある。矛盾している」と函館市の姿勢を支持した。原発事故後に工事がいったん中断していた大間原発について、工藤市長は「完成して稼働すれば、これからもドンドン新しい原発をつくっていくことにつながる」と指摘した。

*10-2:http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/area/donan/1-0196153.html
(北海道新聞 2015年10月30日) 原発ゼロ、函館から訴え 小泉、細川両元首相が来函
 電源開発大間原発(青森県大間町)の建設差し止め訴訟を起こしている函館市の工藤寿樹市長の激励を目的に、29日に函館を訪れた小泉純一郎、細川護熙両元首相は、市役所で工藤市長の説明を聞き、津軽海峡の対岸で建設中の同原発と函館の距離の近さも確認した。「(原発建設は)青森側だけの同意じゃいけない。函館やそのほかの沿岸地域の同意を受けるべきだ」(小泉氏)。「私たちも原発ゼロや自然エネルギー普及へ頑張りたい」(細川氏)。道内外から集まった大勢の報道陣に囲まれ、函館から「原発ゼロ」を訴えた。両元首相ら一般社団法人「自然エネルギー推進会議」(東京)のメンバーら7人は29日正午ごろ、函館空港から市役所に到着。正面玄関で出迎えた工藤市長と笑顔で握手を交わし、道内や東北、東京などから集まった報道陣が待つ市長会議室に入った。約20分間の非公開の会談で、小泉氏らは大間原発の建設状況などを質問。会談後の取材で、小泉氏は事故時の避難計画作成を求められながら建設同意権がない函館の状況に理解を示し、工藤市長は「短時間で他の原発との違いをよく分かってもらえた」と手応えを語った。下北半島を一望する庁舎8階では「あの白いのか」などと言いながら、ガラス越しにうっすら見える大間原発を肉眼や双眼鏡で確認。小泉氏は「距離が短いねえ。これじゃあ風が吹いたらもう…」と、原発事故時の函館での放射能汚染の恐れにも言及した。午後2時から市内のホテルで開かれた小泉氏の講演会には、実行委の想定を約200人上回る約800人が集まった。歯切れのいい「小泉節」に、実行委代表で大間原発訴訟の会の竹田とし子代表は「小泉さんは原発ゼロでも国内の電力が十分賄えることを明確に語ってくれた。今後も活動を続けて頑張らなければと思った」。講演を聴いた市内の無職菅原久美子さん(66)は「原発の温排水が海に与える影響に関する話は参考になった。周囲には大間原発の問題は考えないようにしているという人も多いが、講演会を聞き、やっぱり反対しないとダメだと感じた」と感想を語った。


PS(2015.10.31追加): *11-1のように、英国がいくつもの新原発建設を行うのは、英国の失敗の始まりで残念だと思うが、その受注額は1700億円前後などと桁違いに大きい。しかし、事実でないことを根拠にした首相のトップセールスで原発を売り込めば、*11-2のように、事故時には、信用をなくしたり、国民負担が生じたり、恨まれたりする可能性が高いのである。

*11-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20151031&ng=DGKKASDZ22HH1_Q5A031C1MM8000 (日経新聞 2015.10.31) 
日揮、原発建設に参入 日立の英計画、1700億円で受注へ
 日揮は原子力発電所の建設事業に参入する。日立製作所が計画する英国西部ウィルファの原発で建屋などの建設工事を請け負う見通しで、受注額は1700億円前後に達する見込み。海外でのプラント建設で培ったノウハウを生かす。国内の原発建設はこれまで総合建設会社(ゼネコン)が手掛けてきたが、国内の新規案件が止まるなか、大成建設などが海外での建設に乗り出す方針。プラント大手の日揮の参入で受注競争が激しくなりそうだ。英国では日立傘下の原発事業会社が原発4基の建設を計画。このうち2基を設置するウィルファの計画は2019年にも着工、24年の稼働を目指しており、1基目の建屋の発注に向けて日立が日揮と交渉に入った。原子炉などの中核機器を日立が手掛け、日揮は米エンジニアリング大手ベクテルと共同で建屋建設などを担う見通し。1基あたりの事業費は約50億ポンド(約9200億円)で、建設費は7~8割を占める。日揮の受注分は建設費のうち2~3割となるもようだ。日揮は日本で原発建設の実績はない。一方、アジアや中東でエネルギープラントの工事経験が豊富で、数千人に及ぶ外国人労働者の管理や建築資材の大量調達など、大型案件を得意としている。

*11-2:http://blogs.yahoo.co.jp/liliumnokai/9984591.html
(毎日新聞 2013年8月3日) 原発輸出:国民負担に直結 国のリスク不十分な説明
 日本が安全確認体制を整備しないまま、原発輸出を強力に推進し続ける背景には、原子力安全条約の存在がある。条約は原発事故の責任を「原発を規制する国(立地国)が負う」と規定しており、日本は免責されるという論法だ。茂木敏充経済産業相も5月28日の衆院本会議で「(海外で事故があっても)日本が賠償に関する財務負担を負うものではない」と強調している。果たして本当に「知らぬ顔」は通用するのか。推進役の経産省幹部でさえ「賠償でなくても援助などの形で実質的な責任を取らざるを得ない」と高いリスクの存在を認める。売り込み先の一部には別のリスクもある。インドには電気事業者だけでなく、製造元の原発メーカーにも賠償責任を負わせる法律があり、米国はこの法律を理由に輸出に消極的とされるが、日本は前のめりだ。そもそも、輸出国向けに実行される国際協力銀行の融資は税金が原資であり、何らかの原因で貸し倒れが起これば、国民負担に直結しかねない。国のリスクに関する説明は不十分だ。安倍晋三首相は原発輸出について「新規制基準(などによって)技術を発展させ、世界最高水準の安全性を実現できる。この技術を世界と共有していくことが我が国の責務」(5月8日、参院予算委)と正当化。公明党の山口那津男代表も6月、新規制基準を前提に輸出を容認する姿勢に転換した。しかし、この基準は国内の原発にしか適用されず、輸出前に原子力規制委員会が安全確認を行うシステムはないのだから牽強付会(けんきょうふかい)だ。「安全」を強調する一方、事故時の責任回避も主張する姿は、原発を推進しつつ賠償責任を電力会社に負わせる「国策民営」と呼ばれてきた原子力政策に重なる。原発事故から2年超を経てなお約15万人が避難する現状に照らせば、無責任な輸出は到底許されない。


PS(2015年11月3日追加):*12-1、*12-2のように、伊方3号機再稼働に愛媛県知事が同意したため、市民が同意撤回の請願書を知事に渡し、愛媛県松山市の城山公園で伊方原発再稼働反対の全国集会を開いた。そして、行動している人よりずっと多くの人が原発再稼働に反対しているのだ。

       
         伊方原発の位置          2015.11.2愛媛新聞  2015.9.20東京新聞

*12-1:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2015110201001401.html
(東京新聞 2015年11月2日) 伊方3号機の再稼働同意撤回を 市民ら愛媛県知事に請願書
 愛媛県伊方町の四国電力伊方原発3号機の再稼働に反対する市民らは2日、中村時広知事が10月に再稼働に同意したことを受け、同意の撤回を求める知事宛ての請願書を県に提出した。請願書は、四国電がおおむね千ガルの地震の揺れに耐えられるとしている3号機の耐震性に関し、想定外の地震に耐えられず不十分だと訴えた。集まった約60人の市民らが、1人ずつ県の職員に向かって請願書を読み上げた上で提出した。提出を呼び掛けた松山市の市民団体「伊方原発をとめる会」の和田宰事務局次長は「知事は一度も批判的な立場の専門家から意見を聴取していない」などと批判した。

*12-2:http://www.ehime-np.co.jp/news/local/20151102/news20151102014.html
(愛媛新聞 2015年11月2日) 4000人再稼働ノー 伊方原発再稼働反対全国集会
 四国電力伊方原発の再稼働に反対する全国集会が1日、愛媛県松山市堀之内の城山公園であった。10月26日に中村時広知事が伊方3号機の再稼働に同意したことを受け、参加者は「断固許さない」との決意を胸に、市内をデモ行進した。主催の市民団体「伊方原発をとめる会」(松山市)によると、北海道、福島、鹿児島など全国から約4千人が参加した。集会でとめる会の草薙順一事務局長は、中村知事の同意に対して「理性も倫理も投げ捨てた行為」と批判。再稼働の阻止に全力を挙げると宣言した。会場の参加者は「原発再稼働ゆるさん」と書かれたメッセージを一斉に掲げてアピール。市内のデモ行進では「命を守れ」「再稼働反対」とシュプレヒコールを上げて、買い物客らに訴えた。


PS(2015年11月24日追加): このブログに何度も記載しているため理由を長くは書かないが、*13は、①30キロ圏の住民だけが避難すればよいという科学的根拠はない(チェルノブイリ、フクイチを参照) ②どれだけの期間、避難すればよいかという認識が甘い(チェルノブイリ、フクイチを参照) ③汚染水で(狭い)日本海が使い物にならなくなるという認識がない(フクイチを参照) ④フクイチの場合は、陸地に落ちた放射性物質は20%以下だったが、玄海原発の場合は80%以上が陸地に落ち、西日本の広域が汚染される という認識がなく、また安全神話によりかかっている。

*13:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/254265
(佐賀新聞 2015年11月28日) 玄海原発事故想定し合同訓練、30キロ圏の3県、6千人参加
 佐賀、福岡、長崎の3県は28日、九州電力玄海原発(佐賀県玄海町)の重大事故を想定した合同防災訓練を実施した。原発から30キロ圏の住民、関係機関の担当者ら約6千人が参加。避難手順の確認に加え、被ばく者が出た際の搬送訓練も行い、万一の場合に備える。3県の合同訓練は今回で3回目。玄海原発4号機が運転中に電源を失い、炉心が冷却できなくなった事故を想定した。佐賀県では、通過するだけで車両に付着する放射性物質を検出できるゲート型の機器を初めて設置。原発内で被ばくした負傷者を、国の指定医療施設の長崎大病院にヘリコプターで搬送し、迅速に対応できるか確認する。

星このような記事を女性が書くと、「感情論」「風評(根拠のない噂)」等の矮小化した解釈をされることが多く、これは先入観と偏見による女性に対する過小評価だ。そのため、私は、上の記事を書くにあたって、公衆衛生学、生物学、生態学、物理学、化学、経済学、法律、監査などの知識・経験を使っており、これらの知識・経験を一人で使って考えることのできる人は日本全体でもあまりいないということを記載しておく。しかし、こう書くと今度は、「謙虚でない」「女らしくない」などと言う人がおり、両方を合わせると「女性は全員、感情的で科学や論理に弱く知識もないため、風評をまき散らすだけだから、謙虚にして黙っていろ」ということになり、これは、女性蔑視そのものだ。そして、こういうことを書くと、「生意気だから嫌い」「あいつの政策は(正論でも)実現させない」と言う人も少なくないが、それこそ感情論である。

| 原発::2015.4~10 | 02:07 PM | comments (x) | trackback (x) |
2015.9.13 フクイチ事故の事実、甚大な被害、そして原発再稼働について (2015年9月14日、15日、16日、21日、27日、10月2日、11月24日、25日に追加あり)
  
              2014.12.13東京新聞           2015.9.5東京新聞

   
1号機と3号機の爆発比較  3号機の爆発  2015.9.11   2015.9.12東京新聞
                    時系列      佐賀新聞
(1)フクイチ事故について
 *1-1のように、今頃になって原子炉内部を画像で確認したというのは誠実さに欠けるが、東電が公表した宇宙線を利用してフクイチの原子炉内を透視した画像では、大きな燃料は確認されず、本来核燃料があった場所に、核燃料は殆ど残っていないことが確かめられた。

 これについて、東電は「燃料の大部分が溶け落ちた」としているが、それはまだ甘い解釈であり、3号機は上の写真のように1号機とは全く別の爆発の仕方をしており、最初にオレンジ色の光が出ているため核爆発だと外国のメディアでは説明しており、このオレンジの光は日本のメディアでは公表されていない。このため、3号機は核爆発して内部の核燃料を外に吹き出し、本来燃料があった場所に核燃料は殆ど残っていないと考えるのが自然で、これは、上の段の左図のように、1、2号機と比べて3号機建屋内の線量が桁違いに低いことからも明らかだ。

 そして、*1-2のように、この原発事故賠償のために、国は東電に税金から上限9兆円(一年間の消費税3.6%分)の支援を行い、その資金の回収を終えるまでに最長30年かかるとする試算を会計検査院がまとめた。私は、資金回収の原資は送電子会社の株式売却によっても得られると思うが、それにしても9兆円は膨大な金額であり、これで賠償が終わるという保証はない。

 また、国際原子力機関(IAEA)は、*1-3のように、フクイチ原発事故を総括する最終報告書を公表し、事故の主な要因は「日本に原発が安全だという思い込みがあり、備えが不十分だった」と指摘した上で、安全基準を定期的に再検討する必要があると提言した。また、「いくつかの自然災害が同時に発生することなど、あらゆる可能性を考慮して安全基準を定期的に再検討する必要がある」とも提言している。

 一方、市民の健康について、IAEAは、*1-3のように、「事故を原因とする影響は確認されていない」とし、原子力学会も、*2-5のように、「除染や帰還をめぐり1ミリシーベルトの壁(目標)ができているのはとてもおかしいことだ」という考えを示している。しかし、どちらも原発の機械の専門家であって病気や健康の専門家ではないため、謙虚になってお手盛りの発言は控えるべきだ。東電フクイチ事故調査委員長を務めた畑村氏は、*2-5のように、「年間追加被曝線量1ミリシーベルト以下を掲げる必要はない」とし、その根拠として、自然放射線による年間被曝線量が国内の平均値で年間1.5ミリシーベルトだとしているが、私が過酷事故の影響を受けていない佐賀県唐津市で測った線量は0.05~0.13マイクロシーベルト/時であり、これは0.438~1.14ミリシーベルト/年(0.05~0.13マイクロシーベルトX 24時間 X 365日/1000)にしかならず、国際基準も1ミリシーベルト以下なのである。

 このような中、*1-5のように、小泉元首相が「原発は環境汚染産業」としているのは当然であり、もはや必要がないのに高リスク・高コストをかけて原発再稼働を行うのは、原子力発電が自己目的化しているからにすぎない。

 なお、*1-4のように、「原発安全神話」の復活に危機感を持ち、原発の元技術者にも「原発を疑え」という人が出ている。川内原発の地元商店主は、原発の再稼働で全国から作業員が大挙して行う定期点検を待ちわびているそうだが、それで街の経済が本物に育っていくわけがなく、原発があることで「危険で不便な街」として住民がますます減り、街は衰退する方向に向かうだろう。そのため、「再稼働を認めない」という地元住民も多いことに注目すべきであり、今が原発から撤退する潮時なのである。

(2)年間20ミリシーベルト以下の地域の避難解除では国民の命を守れない
 *2-1のように、国は、「楢葉町の宅地における空間線量が1時間当たり平均0.3マイクロシーベルト/時(昨年7〜11月)に低下し、年間被曝線量が帰還の目安である年間20ミリシーベルトを下回ることが確実になった」として避難解除を決定した。

 しかし、*2-4の日本弁護士連合会会長声明に書かれているとおり、チェルノブイリ法では、年間5ミリシーベルトを超える地域では避難が義務付けられ、1~5ミリシーベルトでは避難の選択権があり、我が国でもこれまで一般公衆の被曝限度は年間1ミリシーベルト以下とされ、労災認定基準や放射線管理区域の基準は年間5ミリシーベルトとされてきた。これらに比べて、年間20ミリシーベルトという基準はあまりにも高すぎるため、*2-2のように、「復興拠点に」と国が後押ししても、戻った住民は1割で、医者がいないのは当然なのだ。何故なら、住宅地の空間線量が0.3マイクロシーベルト/時(2.6ミリシーベルト/年)にまで下がったとしても、住宅地以外は除染されておらず、水がめの木戸ダムの湖底の土からも放射性物質が検出され、農作物の安全も危ぶまれるからである。

 また、*2-6のように、9月11~12日の豪雨によって除染された土が入っていた袋が240個流出したことについても、袋が劣化してしまう現在まで豪雨で流れるような場所に放っておいたことや国民の多額の税金を使って除染したことの意味を理解しておらず、環境意識が低すぎることに対し、私は怒りを覚えている。そのため、*2-3のように、家族を残して帰還するケースや戻らぬ決断をするのも当然であって、こういう意思決定をした人に不利益が生じることがあってはならない。

(3)川内原発はじめ他の原発の再稼働について
 太陽光発電は、*3-1のように、2012年7月1日に買取制度がスタートして3年以内に、大手電力会社と経産省が買取制限したくなるほど短期間に普及した。このほか、再生エネには、地熱・風力・小水力・潮流・バイオマスなどがあり、そのすべてが自給率100%で輸入代金を支払う必要がなく、CO2をはじめとする排気ガスも排出しないため、再生エネに投資した方が将来の日本経済にプラスであり、当面も、原発より安全な新しい仕事ができる。そして、一般市民は、素直にそれを感じており、*3-2、*3-4、*3-5のように、8月10日、11日に、川内原発再稼働反対の拳があちこちであげられたのだ。

 なお、*3-3に書かれているように、米国のカリフォルニア州サンオノフレ原発3号機で、交換後の蒸気発生器の配管から放射性物質を含む水漏れ事故が起きて廃炉に至った原発は、三菱重工業製で九電川内原発と同じ型だそうだ。

 佐賀県では、*3-7のように、佐賀県商工会議所連合会が佐賀市で総会を開き、「原発停止後の電気料金値上げで過酷な負担を強いられている」として、玄海原発の早期再稼働の要望を採択したとのことだが、自分本位の超短期的視点でものを考えるのはもうやめてもらいたい。また、会員企業による議員大会は開かず総会で決定し、総会には県内8商議所の会頭、副会頭、専務理事26人が出席したそうだが、もし全体の意見を聞いていれば、再生エネや食品関係の事業者も多く、農業者は既に再生エネに取り組んでいるため、このような結論にはならなかっただろう。

 しかし、*3-6の玄海原発停止訴訟は有名な訴訟で、原告数が1万人に迫っている。また、*3-8のように、伊方原発再稼働についても反対が51%となっており、原発再稼働のための屁理屈はもうやめるべきである。

<フクイチ事故>
*1-1:http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20150320k0000m040078000c.html (毎日新聞 2015年3月19日) 福島第1原発:「透視」画像公表 大きな燃料確認されず
 東京電力は19日、宇宙線を利用して福島第1原発1号機の原子炉内をエックス線写真のように「透視」した画像を公表した。原子炉圧力容器内の核燃料が収められていた位置に1メートル以上の大きな燃料は確認されなかった。燃料の大部分が溶け落ちたとする東電などの計算結果が裏付けられた。原子炉の内部を、直接画像で確認したのは初めて。今後、格納容器下部にカメラを搭載したロボットを入れ、溶け落ちた燃料の場所などを調べる。調査は、宇宙から降り注ぐ宇宙線が地球の大気に当たって生じる素粒子「ミュー粒子」を利用。ミュー粒子はコンクリートなどは透過するが、核燃料のように密度の高い物質には吸収される。2月12日〜3月10日に撮影した結果、本来燃料があった場所は白っぽく写り、燃料がほとんど残っていないことが確かめられた。今回の調査では1メートル程度の大きさの燃料が検知できるという。

*1-2:http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150323/k10010025401000.html
(NHK 2015年3月23日) 原発事故賠償の9兆円 回収に最長30年
 福島第一原子力発電所の事故の賠償などのため国が東京電力に行っている上限9兆円の支援について、資金の回収を終えるまでに最長で30年かかるとする試算を会計検査院がまとめました。会計検査院は、東京電力や電力各社などが納める負担金などの水準によっては資金の回収が長期化し、国の財政負担が増えることになると指摘しています。福島第一原発の事故を巡り、国は、上限としている9兆円の国債を発行していて、原子力損害賠償・廃炉等支援機構を通じて東京電力に資金が交付され、住民などへの賠償や除染にかかった費用の支払いなどに充てられることになっています。交付された資金は、東京電力と電力各社などから毎年納められる負担金や、支援機構が保有する東京電力の株式の売却益などによって回収されることになっていて、会計検査院は、今後の見通しを試算しました。それによりますと、東京電力が特別負担金として昨年度分と同じ500億円を毎年納めることを想定した場合、資金の回収が終わるのは、株式の売却益の金額によって、最長で30年後の平成56年度、最短で21年後の平成47年度になるとしています。また、経常利益の半分を毎年納めることを想定した場合でも、資金の回収が終わるのは最短で18年後の平成44年度になるとしています。試算では、国が支援に必要な資金を金融機関から借り入れるために負担する支払利息は、総額890億円余りから最大で1260億円余りに上り、追加の財政負担が必要になるとしています。会計検査院は、負担金や株式の売却益の水準によっては資金の回収が長期化し、支払利息など国の財政負担が増えることになると指摘しています。 資金回収のカギになるのは?国が交付する9兆円の資金の回収を終えるまでにどのぐらいの期間がかかるのか。その鍵を握るのが、東京電力の株式の売却益と、東京電力と電力各社などが納める「負担金」の水準です。会計検査院は、今回の試算で資金の回収に充てられる株式の売却益について、▽3兆5000億円、▽2兆5000億円、▽1兆5000億円の、3つのケースを想定しました。これを1株当たりの平均の売却価格にすると、それぞれ、▽1350円、▽1050円、▽750円となり、株式の価格が高くなるほど資金の回収が終わるまでの期間が短くなるとしています。会計検査院は、株式を高い価格で売却するためには財務状況のさらなる改善や内部留保の蓄積などが必要だが、その取り組みは容易ではないとして、国などに対し、資金の確実な回収と東京電力の企業価値の向上の双方に十分に配慮する必要があると指摘しています。また、資金の回収には、電力会社などが毎年納める「負担金」が充てられ、昨年度分は、「特別負担金」として東京電力が500億円、「一般負担金」として東京電力を含む電力各社などが1630億円を納めました。このうち「一般負担金」は、コストとして電力料金の原価に算入できるもので、電力会社などの収支の状況などを踏まえて、原子力損害賠償・廃炉等支援機構が定めることになっています。今回の試算では、今後も電力会社などが昨年度分と同じ額の一般負担金を納めることを想定しています。一方、会計検査院は、原発の停止に伴う燃料費の増大などの影響で電力会社の中には複数年にわたって経常収支が赤字になっているところがあるとして、今後も同じ程度の水準の一般負担金を維持できるか注視が必要だとしています。専門家「改めて負担の在り方検討を」東京電力の経営について詳しい立命館大学の大島堅一教授は、「事故処理の対策はまだ入り口で、これから除染で出た廃棄物の最終処分の費用も発生し、今の9兆円の支援ではすまない可能性がある。改めて費用負担や資金の回収の在り方を検討する必要が出てくると思う」と指摘しています。そのうえで大島教授は、「電力各社などが納める一般負担金は電気料金の原価に含まれていて、国民の負担は税金だけでなく電気料金にも及ぶ。費用がいくら発生し誰がどのように負担しているか国民にきちんと開示して、判断を仰ぐことが必要だ」と指摘しています。東電「コストさらに削減」東京電力は「現時点で柏崎刈羽原子力発電所の具体的な運転計画を示すことができる状況にないが、コスト削減のさらなる徹底などにより、事業計画で掲げた目標の達成に向け最大限努力して参りたい」とコメントしています。さらに、廃炉・汚染水対策について「指摘された留意事項を真摯(しんし)に受け止め、対応を検討していきます」とコメントしています。

*1-3:http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150901/k10010211871000.html
(NHK 2015年9月1日) IAEA最終報告書「原発が安全との思い込み」
 IAEA=国際原子力機関は、東京電力福島第一原子力発電所の事故を総括する最終報告書を公表し、事故の主な要因として「日本に原発が安全だという思い込みがあり備えが不十分だった」と指摘したうえで、安全基準を定期的に再検討する必要があると提言しました。IAEA=国際原子力機関は31日、福島第一原発の事故について40を超える加盟国からおよそ180人の専門家が参加してまとめた1200ページ以上に上る最終報告書を公表しました。この中でIAEAは、事故の主な要因として「日本に原発は安全だという思い込みがあり、原発の設計や緊急時の備えなどが不十分だった」と指摘しました。そのうえで、いくつかの自然災害が同時に発生することなどあらゆる可能性を考慮する、安全基準に絶えず疑問を提起して定期的に再検討する必要がある、と提言しています。また、市民の健康については、これまでのところ事故を原因とする影響は確認されていないとしたうえで、遅発性の放射線健康影響の潜伏期間は、数十年に及ぶ場合があるものの、報告された被ばく線量が低いため、健康影響の発生率が将来、識別できるほど上昇するとは予測されないとしています。IAEAは、この報告書を今月行われる年次総会に提出して、事故の教訓を各国と共有し、原発の安全性の向上につなげたいとしています。 .「経験から学ぶ姿勢が安全の鍵」今回の報告書について、IAEAの天野事務局長は「世界中の政府や規制当局、関係者が、必要な教訓に基づいて行動を取れるようにするため、何が、なぜ起きたのかについての理解を提供することを目指している」と述べ、その意義を強調しました。そのうえで、事故の甚大な影響を忘れてはならないとし、「福島第一原発の事故につながったいくつかの要因は日本に特有だったわけではない。常に疑問を持ち、経験から学ぶ開かれた姿勢が安全文化への鍵であり、原子力に携わるすべての人にとって必要不可欠だ」と述べ、事故の教訓を原発の安全性の向上につなげてほしいと訴えました。安全の問題に責任と権限が不明確IAEAは、福島第一原発の事故の背景には、原発は安全だという思い込みが日本にあり、重大な事故への備えが十分ではなかったと指摘しています。具体的には、仮にマグニチュード8.3の地震が発生すれば最大で15メートルの津波が到達することが予想されたのに、東京電力などが必要な対応を取らなかったとしているほか、IAEAの基準に基づく十分な安全評価が行われず、非常用のディーゼル発電機の浸水対策などが不十分だったとしています。また、東京電力は、複数の場所で電源や冷却装置が喪失した場合の十分な準備をしていなかったほか、原発の作業員は非常時に備えた適切な訓練を受けておらず、悪化する状況に対応するための機器もなかったと結論づけています。さらに、当時の日本の原子力の安全や規制については、多くの組織が存在していて、安全上の問題に遅滞なく対応するために拘束力のある指示を出す責任と権限がどの組織にあるのか明確ではなかったとしています。そのうえで、当時の規制や指針は国際的な慣行に完全に沿うものではなかったとも指摘しています。これまでのところ健康影響確認されず市民の健康について、IAEAは、これまでのところ、事故を原因とする影響は確認されていないとしています。そのうえで遅発性の放射線健康影響の潜伏期間は、数10年に及ぶ場合があるものの、報告された被ばく線量が低いため、健康影響の発生率が、将来識別できるほど上昇するとは予測されないとしています。そして、甲状腺検査の結果、一部で異常が検知された子どもたちについては、被ばく線量が低いことから、事故と関係づけられる可能性は低く、この年代の子どもたちの自然な発生を示している可能性が高いと分析しています。ただ、事故直後の子どもの被ばく線量については不確かさが残るともしています。一方で、地震や津波などいくつかの要素が関わっているとみられるため、どこまでが原発事故の影響かは判断することは難しいものの、住民の中には、不安感やPTSD=心的外傷後ストレス障害の増加など、心理面での問題があったと指摘しており、その影響を和らげるための対策が求められると強調しています。東電旧経営陣3人強制起訴へ福島第一原子力発電所の事故を巡っては、検察審査会の議決を受けて旧経営陣3人が業務上過失致死傷の罪で強制的に起訴されることになり、今後、裁判で刑事責任が争われます。政府の事故調査・検証委員会の報告書によりますと、東京電力は事故の3年前に福島第一原発に高さ15.7メートルの津波が押し寄せる可能性があるという試算をまとめましたが、根拠が十分でない仮定の試算で実際にはこうした津波は来ないなどと考え、十分な対策は取られませんでした。こうした東京電力の対応について検察は、これまでの捜査で、「予測を超える巨大な津波で刑事責任は問えない」などとして旧経営陣を不起訴にしました。これに対して検察審査会はことし7月に出した議決の中で、自然現象を確実に予測するのはそもそも不可能で、原発を扱う事業者としては災害の可能性が一定程度あれば対策を取るべきだったと指摘しています。さらに議決では、当時の東京電力の姿勢について、「安全対策よりも経済合理性を優先させ、何ら効果的な対策を講じようとはしなかった」と批判しています。この検察審査会の議決によって東京電力の勝俣恒久元会長ら旧経営陣3人が、業務上過失致死傷の罪で強制的に起訴されることになり、今後、裁判で刑事責任が争われます。

*1-4:http://qbiz.jp/article/70677/1/ (西日本新聞 2015年9月11日) 元技術者「原発疑え」、”安全神話”復活に危機感 川内1号機営業運転
 九州電力川内原発1号機(鹿児島県薩摩川内市)の再稼働から11日で1カ月を迎える。フル稼働への過程でトラブルが発覚した復水器を建設当時、技術者として取り付けた市内の山下勝次さん(73)は今、やりきれない思いを抱く。福島原発事故で崩れ去ったはずの“安全神話”が復活しつつあるからだ。「原発に絶対の安全はない」。そう訴え続けることが自分に課せられた使命だと信じる。再稼働後の8月28日、山下さんは薩摩川内市役所にいた。「九電はなぜ、チェックしなかったんだ。安全意識がお粗末だ」。再稼働直後、蒸気を水に戻す復水器の配管に穴が開くトラブルが発生。反対派住民の先頭に立ち、荒い口調で市職員に詰め寄った。復水器は自ら設置したものだった。プラントメーカーに勤務していた1982年。現場責任者として技術者80人を束ね、1、2号機に計6基を据え付けた。機器の組み立てで許される誤差はマイクロ単位、溶接作業は微小の傷でも元請け担当者からやり直しを命じられた。考え得る最高水準の技術を集め「当時としては完璧な仕事だった」と振り返る。もともと原発推進派。上司に駆り出され、九電営業所前で反対派のデモ隊と何度もにらみ合いになり「ろうそくで暮らす気か」と決まり文句を浴びせた。退職後、福島事故が発生。安全神話を信じ切っていた自分に罪悪感を抱き、原発反対派の集会に足を運ぶようになる。すると、政府が「世界最高水準」と強調する新規制基準の下、川内原発は再び動きだした。再稼働後、原発の報道はめっきり減った。街頭での反対運動に足を止める人もわずか。中年男性からは「いまさら何言ってんだ」となじられた。動きだしたからしょうがない−。そんな空気が漂うが、街に活気が戻ったわけでもない。全国から作業員が大挙する定期点検は13カ月後。商店主らはじっと待ちわびる。落ち着きだけを取り戻した街で、山下さんは街頭に立ち、元技術者、元原発推進派の立場で訴え続ける。「皆さん、原発を疑って」
◆「再稼働認めない」住民らが抗議集会
 九州電力川内原発1号機(鹿児島県薩摩川内市)が営業運転を始めた10日、県内の反原発団体が発電所ゲート前で集会を開いた。参加した住民ら約40人は「国民も県民も再稼働を認めていない」などと抗議の声を上げた。警備員らが警戒する中、参加者は次々にマイクを握った。川内原発建設反対連絡協議会会長の鳥原良子さん(66)は「原発は街の活性化に何の足しにもならない。住民無視の再稼働だ」と批判し、「推進派は『安全だ』と言うが、住民は信じていない」と訴えた。来月にも初孫が生まれるという市内の自営業、川畑清明さん(59)は「危険があるこの街に住まわせるべきか迷っている」と明かし、「黙っていれば、原発を認めたことにされる。『嫌なものは嫌だ』と声を上げ続ける」と語った。

*1-5:http://digital.asahi.com/articles/ASH9C5QFQH9CUTFK00V.html
(朝日新聞 2015年9月12日) 「原発は環境汚染産業」 小泉元首相、再稼働を批判
 小泉純一郎元首相(73)が朝日新聞の単独インタビューに応じ、川内原発1号機が営業運転を再開するなど原発再稼働の動きが進んでいることについて、「間違っている。日本は直ちに原発ゼロでやっていける」と語った。政府や電力会社が説明する原発の安全性や発電コストの安さに関して「全部うそ。福島の状況を見ても明らか。原発は環境汚染産業だ」と痛烈に批判した。小泉氏は首相在任中は原発を推進してきたが、東京電力福島第一原発の事故後、原発の危険性を訴え講演活動を続けている。小泉氏が報道機関のインタビューに応じるのは、2006年9月の首相退任以来初めて。インタビューは原発問題をテーマに9日、東京都内で行った。小泉氏は、07年の新潟県中越沖地震や11年の東日本大震災など、近年、日本で大きな地震が頻発していることから「原発は安全ではなく、対策を講じようとすればさらに莫大(ばくだい)な金がかかる」と主張。原発が温暖化対策になるという政府の説明についても、「(火力発電で発生する)CO2(二酸化炭素)より危険な『核のゴミ』(高レベル放射性廃棄物)を生み出しているのは明らかで、全然クリーンじゃない」と語った。原発再稼働を推し進める安倍政権に対しては「原発推進論者の意向に影響を受けている。残念だ」と批判。今年3月、首相経験者による会合の席で安倍晋三首相に「原発ゼロは首相の決断一つでできる。こんないいチャンスはないじゃないか」と直接迫ったことも明らかにした。米国と原発推進で歩調を合わせていることには「日本が『原発ゼロでいく』と決めれば、米国は必ず認める。同盟国であり、民主主義の国だから」と述べた。原発ゼロを掲げる政治勢力を結集するための政界復帰は「まったくない」と否定。ただ、原発政策が選挙の争点にならない現状について「争点になる時は必ずくる。その時に候補者自身がどう判断するかだ」と強調し、原発ゼロの国づくりをめざす国民運動を「焦ることなく、あきらめずに続けていく。そういう価値のある運動だ」と決意を示した。

<避難解除は妥当か>
*2-1:http://mainichi.jp/select/news/20150905k0000m040138000c.html?fm=mnm
(毎日新聞 2015年9月5日) 楢葉町:全域避難を解除…すぐに帰還1割未満、再生険しく
 政府の原子力災害対策本部(本部長・安倍晋三首相)は5日午前0時、東京電力福島第1原発事故で全域避難となった福島県楢葉町の避難指示を解除した。解除は田村市都路地区と川内村東部に続き3例目で、全域避難した県内7町村では初めて。国は今後、楢葉町を拠点に沿岸部に広がる避難指示区域の除染やインフラ整備を進める。一方、放射線への不安や病院などの生活基盤の不備などから、すぐに帰還する住民は約7300人のうち1割に満たないとみられ、町再生への道のりは険しい。
◇財源確保が課題
 国は2017年3月までに放射線量の特に高い「帰還困難区域」を除き、県内の避難指示を解除する方針だ。3段階ある避難指示区域の中で最も放射線量が低い「避難指示解除準備区域」(年間積算放射線量20ミリシーベルト以下)の楢葉町を「復興の拠点」と位置づけ12年9月から除染に着手。道路などの整備も14年度中にほぼ完了した。国によると、楢葉町では宅地の空間線量が1時間当たり平均0.3マイクロシーベルト(昨年7〜11月)に低下。国は「年間被ばく量が帰還の目安の20ミリシーベルトを下回ることが確実になった」として、町や住民らとの協議を経て、解除を決定した。医療や買い物への不安を緩和するため、病院への無料送迎バスの運行や町内のスーパーによる宅配サービスも始まる。町内には福島第1原発の収束作業や除染を請け負う大手ゼネコンの作業員の宿舎が急増。しかし、住民の転出が相次ぎ、町の人口は事故前の8100人前後から約1割減少した。町の税収も減り、震災前に6割を超えていた自主財源率も3割程度と低迷が続く。一方、復興関連事業費は膨らみ、今年度の当初予算は10年度の5倍となる過去最高の200億円を突破。復興の財源確保は解除後の大きな課題だ。復興庁が昨年10月実施した帰還意向調査(回収率55.6%)では、「すぐに戻る」「条件が整えば戻る」と答えた町民は46%で、うち帰還時期を避難指示解除から「1年以内」と答えた人は37%だった。しかし、今年4月に始まった「準備宿泊」に登録した町民は約780人にとどまった。17年4月に同県いわき市の仮設校から町に戻る町立小中学校に「通学する」とした児童生徒数も、町のアンケート調査で就学対象者の7%しかない。

*2-2:http://digital.asahi.com/articles/ASH955JN3H95UTIL00Z.html
(朝日新聞 2015年9月6日) 避難解除、戻った住民1割 楢葉「医者いない、店ない」
 東京電力福島第一原発事故で福島県楢葉(ならは)町に出ていた避難指示が5日、解除された。全自治体規模で解除されるのは初めて。戻ってきたのは、住民7400人のうち1割にも満たない。事故から4年半がたち、町は廃炉の前線基地へと変わった。いまだ避難指示が出ている福島県内9市町村の7万人余りは帰還できるか。政府が試金石とする町の復興は始まったばかりだ。5日、町内で開かれた復興祈念式典には政府関係者がずらりと並んだ。町の未来図を示したパネルが披露された。仮設校舎で学ぶ子どもたちは植樹したエノキを「きぼうの木」と命名。町は祝賀ムードに包まれた。昨年7~11月の調査では住宅地の空間線量の平均が毎時0・3マイクロシーベルトにまで下がり、政府は「帰還して居住することは可能」と説明する。だが、町の水がめの木戸ダムの湖底の土から放射性物質が検出され、飲料水の安全を心配する住民は少なくない。町の姿は事故前とは大きく変わった。空き家状態だった多くの民家が荒れた。事故で原則立ち入りが禁じられる警戒区域に指定されたが、2012年8月から日中の立ち入り、今年4月からは宿泊もできるようになった。だが、住宅の解体や修理を担う業者が足りず、再建が進んでない。このため、町に戻った住民は一部にとどまる。自宅に戻る準備をするための宿泊制度に登録していたのは351世帯780人程度。実際に戻った人はさらに少なく全体の1割に届かない。「医者もいないし、店もない」。町に戻った志賀良久さん(77)は生活の不便さを訴える。町内にあった内科医院は10月に再開され、県立診療所も来年2月に開院する。だが、住民が通院していた近隣自治体の医療機関は避難指示が出ており、閉鎖されたままだ。町内で食料品を買えるのは仮設商店街にあるスーパーとコンビニ店のみ。町商工会によると、事故前に59店舗あった会員の小売店や飲食店のうち、先月20日までに町内で営業を再開したのは14店舗にとどまる。4年半に及ぶ避難生活で、避難先で職をみつけ、学校に通うなどして、現役世代や子どもたちを中心に避難先で定住することを決めた人も多い。いわき市の仮設住宅に住む無職男性(61)は市内に中古の一戸建てを買った。「楢葉町は治安と飲み水が心配だ」と話す。
■「復興拠点に」国は後押し
 政府は、避難指示が出た区域の中では放射線量が比較的低い楢葉町を「復興の拠点」と位置づける。そのため、除染や道路、医療機関などを整備して町の復興を後押ししてきた。政府にとって今回の解除は、帰還政策がうまくいくかを占う試金石となる。除染などが進み、楢葉町は廃炉作業の前線基地となりつつある。関連産業に伴う新たな雇用を作り出し、元の住民が戻る環境を整えようとしている。町の工業団地には、廃炉技術を研究する原発の大型模型(モックアップ)が建設中だ。日本原子力研究開発機構が運営し、研究者ら60人が勤める予定。滞在を当て込み、17年秋には町で初めてビジネスホテルが進出する。東電の関連企業の社員の宿舎も建つ。災害公営住宅などを建てる「コンパクトタウン」には、ホームセンターや食料品店が入る商業施設をつくる計画もある。しかし、どれだけの雇用が生まれ、町にどれだけの人が戻ってくるのかは未知数だ。福島県内ではなお9市町村の7万人余りが戻れず、6町村は自治体丸ごと避難指示が出ている。政府はこのうち、放射線量が一定量以下に下がった地域は「17年3月までに帰れるようにする」ことを掲げる。来春には南相馬市や川俣町、葛尾村でも避難指示を解除したい考えだ。福島第一原発のある大熊、双葉両町の大部分など放射線量の高い帰還困難区域(人口約2万4千人)は解除のめどが立たない。両町にまたがる16平方キロは、福島県内の放射能に汚染された土を30年間保管する、中間貯蔵施設となる予定だ。双葉町幹部は「5年後も状況は何も改善していないかもしれない」と話す。

*2-3:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150906-00000008-asahi-soci
(朝日新聞 2015年9月6日) 家族残し帰還・自宅荒れ戻らぬ決断… 楢葉避難解除
 東京電力福島第一原発事故で福島県楢葉町に出ていた避難指示が5日、解除された。故郷に戻った人、戻るか迷っている人、戻らないと決めた人。それぞれに4年半の歳月が重くのしかかる。
■「子どもたち、避難先になじんだ」
 避難指示が解除された、5日午前0時。大楽院第43代住職・酒主秀寛(さかぬししゅうかん)さん(44)は町の復興を願い、火柱の前で経を唱えた。「寺に住む者は、人びとに寄り添うべき人間。一つの区切りの日。今日から寺に戻ります」。2011年3月11日は酒主さんにとって特別な日だった。真言宗豊山派本部から住職に任命され、住職を50年務めた父の明寛(みょうかん)さん(78)から寺の仕事の大半を引き継ぐつもりだった。避難指示が出た後、一家6人で避難した。町職員でもある秀寛さんは、同県会津若松市の借り上げアパートに一時避難して被災者支援にあたった。その後、妻千咲さん(39)、長女真由さん(11)と長男大誉(ほまれ)君(7)の避難する茨城県北茨城市に移った。明寛さん夫妻は群馬県を経て、福島県いわき市に避難した。今回、楢葉町に戻ったのは秀寛さん1人だけ。子どもたちを戻らせるか決めかねている。町は17年春に小中学校が再開する。だが、大誉君に町の記憶はほとんどない。秀寛さんは「家族一緒に住みたい気持ちはある。だが、子どもたちは向こうの暮らしになじんでいる。学校再開までに、家族みんなで帰るかどうかを考えたい」と話す。檀家(だんか)には生活の不便さや放射線への不安から楢葉町に戻れない人も多い。楢葉町民の8割が避難するいわき市に設けた「別院」は当面、維持するという。
■「農業も無理、知り合いもいない」
 事故でまちは大きく変わった。沿岸部は津波で倒壊した住宅が今なお残る。田畑だった一帯には、汚染土を詰めた黒い袋が並ぶ。事故後、町内には原発の廃炉や除染作業に携わる業者の事務所や宿泊施設などが建つようになった。作業員が千人以上暮らし、元からの住民の数を上回る。昼時になると仮設商店街はトラックやワゴン車が駐車場に並び、作業服姿の男性たちでにぎわう。町に戻った元の住民も少なく、夜は暗くひっそりとしている。地域の結びつきも切れたままだ。いわき市の仮設住宅で暮らす石沢輝之さん(75)は「帰りたいけど帰れない。町が暗くて、とても妻を一人で歩かせられない」と話す。5日夕、楢葉町から名古屋市緑区の公営住宅に避難している松本頌子(のぶこ)さん(79)は、避難指示解除を伝えるニュースを見つめた。「もう帰れねえ。今さら解除って言われてもな。悔しい。悔しいけどね」。愛知県に住む長女(52)を頼って名古屋市にきた。当初、夫の義治さん(80)と「1年ぐらいで帰れっぺ」と励ましあった避難生活は、4年半になる。楢葉町の自宅はかびが生え、ネズミに荒らされ、生い茂った草木は背丈を超えていた。家財の処分や片付けのために一時帰宅した長女らから、荒れていく様を聞いた。今春、「直すには1千万円かかる」と言われ、頌子さんは覚悟を決めた。「私はもう名古屋にいるわ」。「おれは1人でも帰っからな」。それでも義治さんは言い続けていた。8月上旬、片付けの仕上げのつもりで一家で帰った。腰の痛みをおし、避難後初めて自宅に戻った義治さんは、涙をこらえきれなかった。隣は家を壊し始め、向かいも壊すと決めていた。一家5人で暮らしていた裏手は、80代のおばあちゃんだけが戻るという。近所の知り合いで、ふるさとに戻るのは1人だけだった。「帰りたい。でも百姓もできない、知り合いもいないでは、生きていかれねえ。あの家を見て、遠くなっちゃった気がした」と義治さん。自宅を取り壊すかどうかは、まだ決められずにいる。「ご先祖様には怒られっぺな」。少なくとも代々の墓だけは、楢葉町に残して欲しい。子どもたちには、そう頼んだ。

*2-4:http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2014/140131.html (日本弁護士連合会会長 山岸憲司 2014年1月31日) 避難住民の帰還に当たっての線量基準に関する会長声明  
 原子力規制委員会は、昨年11月20日、「帰還に向けた安全・安心対策に関する基本的考え方(線量水準に応じた防護措置の具体化のために)」と題する報告書を取りまとめ、その後、政府の原子力災害対策本部は、12月20日に「原子力災害からの福島復興の加速に向けて」と題する指針を決定した。原子力規制委員会の報告書は、避難指示区域への住民の帰還に当たっての年間の被ばく線量について、20ミリシーベルト以下を必須条件とし、長期的な目標として、個人の追加被ばく線量が1ミリシーベルト以下になるよう目指すこと、また、被ばく線量については、「空間線量率から推定される被ばく線量」ではなく、個人線量計等を用いて直接実測された個々人の被ばく線量による評価をすることを提案しており、政府の指針もこれを踏まえて作成されている。しかしながら、低線量被ばくの危険性については、疫学的に有意差があるとの報告もあり、専門家の間でも意見が分かれている。特に子どもたちは放射線感受性が高いことが知られており、予防原則に基づく対策が求められている。いわゆるチェルノブイリ法では、年間5ミリシーベルトを超える地域では避難を義務付けられ、1~5ミリシーベルトでは避難の選択ができるとされている。 我が国でも、一般公衆の被ばく限度は年間1ミリシーベルトとされており、労災認定基準や放射線管理区域の基準は年間5ミリシーベルトとされてきている。これらに比して、年間20ミリシーベルトという基準は、たとえ必須条件にすぎないとしても、高きにすぎるといわざるを得ない。国際放射線防護委員会(ICRP)の「長期汚染地域住民の防護に関する委員会勧告」は、汚染地域内に居住する人々の防護の最適化のための参考レベルは1~20ミリシーベルトの範囲の下方部分から選定すべきであり、過去の経験により、その代表的な値は実効線量が年間1ミリシーベルトであることが示されているとした上で、防護措置の策定及び実施には住民が関わるべきであると勧告している。このような勧告に照らしても、年間20ミリシーベルトという基準は、国際的水準を逸脱するもので、到底容認できるものではない。確かに、福島県県民健康管理調査が継続されてはいるが、その結果について様々な評価がされているところであり、住民が適切に自己決定できるように、調査方法・内容をより充実させ、住民に対して正確かつ詳細な情報を提供することが必要といえる。また、被ばく線量の評価方法について、空間線量による推計ではなく、個人線量計による実測値による評価へと変更することについても、これによって住民の自己管理が可能になるとの側面はあるが、他方で、個人線量計の不適切な使用等による測定誤差は避けられないこと、個人線量計では全ての放射線量を計測することはできないこと等を勘案すれば、むしろ過少評価となるおそれも否定できない。また、屋外活動時間を避けられない等の事情がある個人にとっては、被ばく量が自己責任であるとされるおそれもある。できる限り安全側に立った評価を行うためには、空間線量による推計値を基本とすべきであり、個人線量計の実測値はそれを補完するものと位置付けるべきである。当連合会は、昨年10月4日に「福島第一原子力発電所事故被害の完全救済及び脱原発を求める決議」を採択し、国に対して、予防原則に基づき、避難指示解除は年間1ミリシーベルト以下であることが確認された地域から行うべきであること、年間5ミリシーベルトを超える地域については、十分な補償・避難先での生活保障を前提に、避難指示を出すこと等を要請した。残念ながら、今回の報告書及び指針は、到底当連合会の要請に応えるものではない。よって、当連合会は、国に対し、予防原則に立った以下の措置を求める。
(1) 避難指示解除の線量基準については、地域住民の参加の下で十分に時間をかけて住民の合意に基づき決定されるべきで、拙速な決定はなすべきではないこと。
(2) 避難指示解除は、年間1ミリシーベルト以下であることが確認された地域から行うべきであり、年間5ミリシーベルトを超える地域については解除すべきでないこと。
(3) 帰還するか、避難を継続するか、避難先で生活再建するか、いずれの選択をしても、住民が健康で安定した生活を送れるように十分な配慮・支援を行うこと。
(4) 被ばく線量の評価は、安全側に立った空間線量による推計値を基本とし、さらに住民の自己管理に資するように個人線量計による実測値を補完的に用いること。

*2-5:http://www.minyu-net.com/news/news/0910/news7.html
(福島民友ニュース 2015年9月10日) 「1ミリシーベルトの壁」疑問視 原子力学会「秋の大会」
 日本原子力学会の本年度「秋の大会」は9日、静岡市の静岡大で始まった。11日まで。初日の分科会では東京電力福島第1原発事故で政府の事故調査委員長を務めた畑村洋太郎東大名誉教授が講演し、本県での事故後の取り組みについて「除染や帰還をめぐり1ミリシーベルトの壁(目標)ができているのはとてもおかしいことだ」との考えを示した。政府は除染の長期的な目標として「年間追加被ばく線量1ミリシーベルト以下」を掲げている。畑村氏は、自然放射線による被ばく量が国内の平均値で年間1.5ミリシーベルトあることを示す資料を提示。原発事故の避難でストレスを抱えた人などがいることを踏まえ「人間を取り囲むさまざまな健康阻害要因がある中で、放射線のリスクだけを取り上げ1ミリシーベルトの壁をつくったのはいけないことだった」と語った。畑村氏はまた、今後の原子力分野について「事故はこれからも必ず起こると考える必要がある。原子力ムラのような閉鎖的体制ではいけない。他の分野の失敗経験からも学んでほしい」と呼び掛けた。

*2-6:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2015091201001793.html
(東京新聞 2015年9月12日) 豪雨による除染袋流出240個に 一部は破損、中身空に
 東京電力福島第1原発事故の除染で出た汚染廃棄物を入れた大型の袋が豪雨で福島県飯舘村の河川に流出した問題で、環境省は12日、流出が計240袋になったと発表した。このうち113袋を回収したが、一部の袋は破れて中身が空になっていたという。環境省は残りの袋の回収を急ぐとともに、回収した袋の状態や周辺環境への影響がないか確認を急ぐ。道路の通行止めなどで調査ができていない場所もあり、今後流出数が増える可能性がある。12日午後9時半現在の調査結果を集計した。240袋のうち238袋は飯舘村で、2袋は保管場所から約20キロ下流の南相馬市原町区で見つかった。

<川内原発はじめ原発の再稼働>
*3-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11960658.html (朝日新聞 2015年9月12日) 太陽光、管理強化へ始動 再生エネ有識者、初会合 登録制や急増対策を議論
 経済産業省は11日、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)を抜本的に見直す検討を始めた。急増する太陽光発電への国の管理を強めるため、設備の登録制や買い取り急増時の歯止め策などを検討する。普及が遅い地熱や風力などは規制緩和で後押しする。普及拡大と国民負担の抑制の両立が課題となる。FITは、電気料金に再生エネの買い取り費用を上乗せし、電力会社が再生エネを高値で買い取るしくみ。割高な再生エネの普及を加速させる狙いで2012年に始まった。FITの見直しに向けて同省が11日開いた有識者会議の初会合では、有識者らから「(見直しの)タイミングが遅すぎた」などと批判が相次いだ。太陽光に導入が偏りすぎたためだ。買い取り価格が割高で、参入障壁も低い太陽光に認定容量の約9割が集中。太陽光は30年度の電源構成で6400万キロワットを想定しているのに、今年3月末の認定容量で、すでに想定を3割上回る約8千万キロワットに急増した。買い取り費用は電気代に賦課金として上乗せされ、利用者全体で負担している。標準的な家庭が負担する賦課金は12年度の月66円から15年度は月474円と7倍に。太陽光の買い取り費用の総額は、30年度に見込む2・4兆円の8割近い1・8兆円に15年度で達する見込みだ。経産省は「太陽光の導入ペースが速すぎる」と判断。30年度の電源構成に沿ったペースに抑えるよう国の管理を強めるしくみを導入したい考えだ。年間の認定量に上限を設ける案などを検討する。認定済みの設備についても選別を強める。実際に発電を始めているのは容量ベースで2割程度にとどまるためだ。買い取り価格が高いうちに認定を受け、設置費用が下がるまで発電をしない「空押さえ」が数十万件に上るとみられ、発電コストの低い後発の事業者が参入しづらくなっていた。このため経産省は、要件を満たせば認定するいまの制度を改め、電力会社との接続契約を条件とする「登録制」を導入する方向。発電開始を義務づける対象設備を、いまの400キロワット以上から大幅に広げることも検討する。年内に見直し案をまとめ、来年の通常国会で法整備を目指す。ただ、太陽光は今夏、電力需要が最も多かった日の日差しが強まる時間帯に電気の約1割を担うなど、ピーク時に頼りになる電源になりつつある。規制を強め過ぎると、普及に急ブレーキがかかるおそれもある。
■地熱・風力は普及テコ入れ
 一方、地熱や風力、バイオマスなど太陽光以外の再生エネについては普及のてこ入れ策を検討する。
 30年度の電源構成を実現するには、設備容量をそれぞれいまの3倍に増やす必要があるが、FIT開始前から3年間の増加率は4・4%にとどまる。着工に必要な環境評価に数年かかり、温泉事業者や漁協など地元関係者の同意を得る必要があることが普及の壁になっている。経産省は今後、環境評価の期間を短くするしくみや、国立公園で地熱発電をしやすくする規制緩和などを検討する。

*3-2:http://qbiz.jp/article/68677/1/
(西日本新聞 2015年8月11日) 「再稼働ノー」怒りの拳 薩摩川内市
 「福島を忘れたのか」−。全国の原発の先頭を切って九州電力川内原発1号機(鹿児島県薩摩川内市)が再稼働した11日、発電所ゲート前では反原発団体のメンバーらが抗議の声を張り上げた。一方、地元の市民からは地域経済を潤してきた原発が動きだすことに期待の声も上がった。ゲート前では約200人の警察官が警戒に当たる物々しい雰囲気の中、早朝から約100人の反対派が座り込んだり、テントを張ったりして「再稼働ノー」の声を上げた。制御棒を抜いた午前10時半の5分前から参加者たちは原子炉建屋に向かい、拳を突き上げた。市民団体メンバーの野呂正和さん(64)はジョン・レノンのイマジンを歌い「原発事故の恐ろしさを想像しよう」と呼び掛けた。集会には、菅直人元首相やルポライターの鎌田慧さんも駆け付けた。菅氏は「原発がないと電気が足りないというのは大うそ。原発事故への備えは全くできていない」と政府を批判した。鹿児島市の徳満正守さん(64)は「事故が起きても誰も責任をとらない。核廃棄物の処分場も決まっていない」と指摘。福岡市から来た大学4年の熊川果穂さん(21)=鹿児島県姶良市出身=は「1パーセントでも事故が起こる可能性があるなら原発は動かすべきじゃない」と訴えた。参加者の一部は午前6時から車5台をゲート前に止めて封鎖。警官から移動を求められても応じず、4時間後に封鎖を解いた。反対派の男性が持つ工具をめぐり、警官隊ともみ合う場面もあり、緊張が走った。川内原発から東へ十数キロ。薩摩川内市の中心街にいた専門学生の女性(19)は「生活に電気は必要。九電と国が安全と言うなら事故はないはずだ」と話した。スーパーで買い物をしていた建設作業員、瀬戸口豊隆さん(58)は「電気が足りているなら再稼働しないでほしいが…」とうつむきながら言う。昨年夏は3カ月間、川内原発で作業員として働いた。「ほかの現場より賃金は高い。原発で経済が回っている街だから、再稼働はしょうがない」
●「なぜ月命日に…」 福島事故の避難者、憤り
 鹿児島県の川内原発1号機の再稼働について、東京電力福島第1原発事故で避難生活を余儀なくされている福島県の住民からは「同じ苦しみを味わってほしくない」「福島の深刻さを分かっていない」と事故再発を懸念する声が相次ぐ一方、原発で生計を立てる住民に理解を示す声も聞かれた。「再稼働という事実だけでも胸が痛むのに、なぜあえて(震災の月命日の)11日を選んだのか。怒りや悲しみ、失望の感情が渦巻いている」と話すのは、同県浪江町から避難し福島市で暮らす主婦金井春子さん(66)。病気がちの夫を支えながらの避難生活は4年以上が経過したが、終わりは見えない。「心身ともに限界。他の人には同じ苦しみを味わってほしくない」と訴えた。原発事故で電気工事の仕事を休業に追い込まれ、同県二本松市の仮設住宅で生活する岩倉文雄さん(67)も、第1原発事故の検証が終わる前の再稼働に「福島で起きたことの深刻さを考えていないのでは」と疑問を呈した。一方で「原発のおかげで地域経済が支えられてきたのは事実。再稼働してほしいという(立地自治体周辺の)人の気持ちも分かる」と話すのは、同県いわき市で避難生活を送る原発作業員の男性(28)だ。事故がまた起きて故郷を追われる人々が出るのは心配だが、原発をきっぱりと否定することもできない。男性は「生活を支えてもらった恩がある。俺は原発に生かされてきたから」と複雑な胸中を明かした。

*3-3:http://dot.asahi.com/wa/2015090900135.html?page=1 (朝日新聞 2015.9.9) 再稼働 川内原発の“大事故”が危ぶまれる本当の理由
 発端は、2012年1月。カリフォルニア州サンオノフレ原発3号機で、交換後の蒸気発生器の配管から放射性物質を含む水漏れ事故が起きたことだった。蒸気発生器とは加圧水型原子炉に備わる装置で、タービンを回して発電するための蒸気を作り出す重要なもの。それが新品に交換した後に故障したのだ。同原発を運営する南カリフォルニア・エジソン社は、装置内に張り巡らされた伝熱細管と呼ばれる管が異常摩耗していたことが原因だったと断定。定期点検中の2号機にも同様の摩耗が見つかった。米国でこの問題を取材していたジャーナリストの堀潤氏が解説する。「米原子力規制委員会(NRC)の調査では、問題となった三菱重工業製の蒸気発生器の1万5千カ所以上に異常な摩耗が見つかったと報告されました。しかもNRCによると、三菱重工は製造した蒸気発生器に欠陥部分があることを設置前に認知していて、それを認めた報告書を12年9月にNRC側に提出していたと言います」。そのとおりなら、三菱重工は欠陥品を売ったことになる。事態を重く見たNRCは、原因究明と安全確保がなされるまで再稼働を禁止。12年10月には、神戸にある三菱重工の事業所に抜き打ち検査を行った。「そのときNRCは、蒸気発生器の欠陥部品を改良した配管に対する安全検査の方法が、連邦法などが定める基準に沿っていないことを見つけたのです。具体的な問題点は、[1]住友金属工業(現・新日鉄住金)から購入したモックアップ用配管が検査要求を満たす仕様になっていたか確認しなかった[2]東京測器研究所による市販の測定サービスの精度が基準を満たすか確認していなかったことなどです」(堀氏)。 つまり、三菱重工側の品質保証が、NRCや顧客の求める基準を満たしていなかったということになる。トラブルを起こした蒸気発生器は「経済性重視」のため、設計上の無理があったとの指摘もある。原子炉停止に追い込まれたエジソン社は早期再稼働を目指すが、周辺住民が反発。NRCも安全性が確保できないとして再稼働許可を与えず、13年6月にサンオノフレ原発は廃炉の選択を余儀なくされる。その後、責任を巡ってエジソン社と三菱重工の泥仕合が始まる。エジソン社は検査や補修にかかった費用1億ドル(約97億円)を三菱側に請求したが、折り合いがつかず13年に国際仲裁裁判所(国際商業会議所)へ仲裁を申請。そして今年7月、「欠陥のある蒸気発生器を設計、製造した三菱重工には甚大な被害の責任がある」として75.7億ドル(約9300億円)を請求したのだ。問題は三菱重工製の蒸気発生器が、再稼働した川内原発の加圧水型の原子炉(同社製)にも採用されていることだ。三菱重工によると、同社がいままで納めた蒸気発生器は122基。「サンオノフレ原発と同一仕様の蒸気発生器は他の原発に納入されていない」という。だが、トラブルを起こすリスクはあると指摘するのは、川内原発再稼働の異議申し立てを原子力規制委員会に行った山崎久隆氏だ。「九州電力が公表した資料によると、7年前に交換した川内原発1号機の蒸気発生器にはすでに35本の配管(伝熱細管)に穴が開きかけて施栓をしています。これが30年間使い続けている2号機の装置になると、栓をした本数は400カ所を超える。加えて古いタイプの装置は改良型に比べて配管に応力が集中しやすく、大きな地震が来たら耐えられない危険さえあるのです」。蒸気発生器は、熱交換効率を上げるために配管の厚みがわずか1.1ミリから1.3ミリほどしかない。常に加圧された熱水が管の中を流れているため、時間の経過によって摩耗し、穴が開くリスクも高まる。「常時どこかに穴が開いていて、定期点検で塞ぐ」(原発エンジニア)といわれるほどだ。摩耗した配管が裂けて高圧水が漏れだすと、重大事故につながりかねない。原発の危険性を訴え続ける作家の広瀬隆氏も「加圧水型の原子炉は高い気圧をかけた水を蒸気発生器に送るため、配管破断のリスクがある」と話す。「摩耗したどこかの配管が破れて水が噴き出すと鉄砲玉のように隣の配管を壊し、連鎖反応で一気に破壊される。1987年にイギリスの高速増殖炉で起きた事故では、10秒未満で40本の配管が連鎖破断しました。91年に起きた美浜原発2号機の事故は、蒸気発生器から噴き出した高圧水で配管がスパッと切れたギロチン破断だったのです」。蒸気発生器の配管が破損すると、1次冷却水が圧力の低い2次側へ急速に漏出する。つまり原子炉の冷却水が失われ、メルトダウンにつながる危険性をはらんでいる。事実、美浜原発の事故では20トン以上の冷却水が漏れ、炉が空焚き状態になりかけたと言われた。このように蒸気発生器のトラブルは深刻な事故につながるため、慎重な安全対策が必要。だが高価で大がかりな装置の上、取り換えにも時間を要するため、補修費用がかさむか、施栓が増えて定格出力ダウンにでもならない限り交換はしない。全部で1万本程度ある配管の18%程度が施栓で使えなくなると交換時期ともいわれる。その一方、再稼働を急ぐあまりか、耳を疑うような出来事もある。九電は400カ所以上に栓をした川内原発2号機の古い蒸気発生器を交換するため、新品を準備済み。だが、変えずに再稼働するという。九電はこう主張する。「信頼性向上の観点から14年度の取り換えを計画していたが、新規制基準適合への作業などがあり、ひとまず交換せずに再稼働を目指すことにした。現行の蒸気発生器は非破壊検査をして健全性を確認している」。だが、前出の山崎氏は「新しいものを発注したのは、九電が交換する必要があると判断したから。これでは安全軽視以外の何物でもありません」と批判する。川内原発1号機では再稼働直後の8月下旬、蒸気を海水で冷やして水に戻す復水器が海水混入事故を起こした。九電は混入の原因となった管など69本に施栓したが、同様の事故は今回が初めてではない。97年と99年にも玄海原発で同じ事故が起きていたのだ。広瀬氏が言う。「日本の原発は海岸線にあり、ただでさえ塩分で腐食しやすい。それが再稼働で高温環境になれば、ますます進む。4年以上動かしていない原子炉はすぐにトラブルを起こすのが当たり前で、いま現場の技術者は戦々恐々としているはず」。国民は大事故が起きないことを、祈るしかない。

*3-4:http://qbiz.jp/article/68609/1/
(西日本新聞 2015年8月10日) 川内再稼働「中止を」 原発前と九電で500人抗議
 九州電力川内原発1号機(鹿児島県薩摩川内市)の再稼働を控え、原発ゲート前と福岡市の九電本店前では10日、原発反対派らが再稼働を止めようとシュプレヒコールを上げた。「原発事故の責任をとるのは誰だ」。原発ゲート前には全国から約400人が集結し、こんな横断幕を掲げた。警察官が厳戒態勢を敷く中、「老朽原発は危険」「再稼働は中止すべきだ」と叫んだ。集会には菅直人元首相も参加。福島第1原発事故時に首相だった菅氏は避難計画の不備から大混乱を招いたとして「大変申し訳なかった」と謝罪。その上で自治体の避難計画は依然として不十分と指摘し「安全も確保されないで再稼働は認められない」と訴えた。作家の広瀬隆氏は「4年間も停止した原発を動かすのは非常に危険。その結果が何をもたらすかは福島の人々がよく知っている」。東京から友人8人と駆けつけた大学4年の嶋根健二さん(23)は「原発におびえながら生活したくない」と語気を強めた。福岡市の九電本店前では、市民団体の約100人が「原発いらない」などと声を上げた。非政府組織「ピースボート」の吉岡達也共同代表は「福島の事故で世界中の人が恐怖におののいたことを忘れてはならない」と唱えた。一方、原発から30キロ圏内に工場を持つ鹿児島県阿久根市の部品製造会社の男性社長(48)は「原発がなければ電気料金の値上げも懸念される。事故の備えを考えるより生活が先だ」。同県薩摩川内市内の飲食店経営者の男性(43)は再稼働には賛成でも反対でもないと前置きし「将来は(原発を)無くすべきだけど、急には無くせない」との立場だ。

*3-5:http://www.saga-s.co.jp/column/genkai_pluthermal/20201/217837
(佐賀新聞 2015年8月11日) 川内再稼働 反原発団体、県内でも抗議
 九州電力が川内原発(鹿児島県薩摩川内市)1号機の11日の再稼働を正式公表した10日、玄海原発を抱える佐賀県内では反原発団体が抗議活動を展開した。「世論を無視した暴挙。絶対に許されない」と再稼働の中止を訴えた。11日も現地で抗議活動したり、佐賀市内で街宣活動を行う。佐賀市の九電佐賀支社前では、県平和運動センターの呼び掛けで県内3団体約100人が抗議集会を開いた。「電気は足りてるぞ」「国民の声を聞け」などと、シュプレヒコールを繰り返した。平和運動センターの原口郁哉議長は「再稼働に大義はない。あるのは九電の赤字解消の目的だけ」と批判。「福島事故の検証もできていない中での再稼働は人類に対する犯罪行為」とする抗議文を採択した。九電や政府に送る。玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止める裁判の会など九州4団体は午前中、博多港に寄港した国際交流団体「ピースボート」とともに福岡市の九電本店前で抗議活動を行った。その後、玄海原発が立地する東松浦郡玄海町を訪れ、再稼働を認めないように求める要請書を提出した。要請書は「日本だけでなく、東アジアの人々の命と子どもたちの未来を守るためにも、原発に頼らない社会をつくるべき」と主張している。韓国・ソウル市の女性パク・キュンハさん(43)は「韓国も海に面して多くの原発が稼働しており、福島の事故は韓国の未来になるかもしれない。再生可能エネルギーの推進を積極的に進めていくべきだと思う」と指摘した。

*3-6:http://www.saga-s.co.jp/column/genkai_pluthermal/20201/228143 (佐賀新聞 2015年9月10日) 玄海原発停止訴訟の原告1万人に迫る、15回目の提訴で413人追加
 原発の再稼働に反対する佐賀県内外の市民が国と九州電力に玄海原発全4基の操業停止を求めている訴訟で10日、新たに413人が佐賀地裁に追加提訴した。提訴は15回目で、原告数は計9809人となった。弁護団の東島浩幸幹事長は「川内原発の再稼働など政府のやり方に対する不信感を反映し、原告数が伸びている。1万人を達成するとともに、原発の周辺自治体に脱原発を提言する活動などを進めたい」と話した。

*3-7:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/228659
(佐賀新聞 2015年9月11日) 県商議所連合会、県への要望27項目を採択
 佐賀県商工会議所連合会(井田出海会長)は11日、佐賀市で総会を開き、玄海原発(東松浦郡玄海町)の早期再稼働など県への要望27項目を採択した。新規は、来年1月に運用が始まるマイナンバー制度の情報セキュリティー対策、老朽化した宿泊施設の改修に対する費用支援など6項目。25日に山口祥義知事、中倉政義県議会議長に提出する。原発の早期再稼働は、2012年から継続して要望している。原発停止後の電気料金値上げで過酷な負担を強いられているとして、電気の安定供給を求め、再生可能エネルギーの普及・促進も盛り込んだ。新規では、人口減少対策として、女性が活躍できる環境整備や、結婚や出産、子育て支援、高齢者の地方移住支援など具体的な取り組みを求める。県産素材を使った食品や加工品のブランド化を進めるため、原材料の品薄や価格変動への対応も新たに加えた。総会には、県内8商議所の会頭、副会頭、専務理事26人が出席した。台風15号の影響で当初予定していた8月25日の開催を延期しており、会員企業による議員大会は開かず、総会で決定した。

*3-8:http://www.shikoku-np.co.jp/kagawa_news/social/20150819000115
(四国新聞 2015/8/19) 伊方再稼働「反対」51%/愛媛の市民団体アンケート
 愛媛県の市民団体「伊方原発50キロ圏内住民有志の会」は18日、四国電力伊方原発3号機(同県伊方町)の再稼働の賛否を問うアンケートを伊方町で実施し、反対は51%で、賛成の27%を大幅に上回ったと明らかにした。賛否を明らかにしなかったのは22%だった。同会によると、今年2~8月、2488戸を訪問した。アンケートは対面か、留守の場合は回答用紙を郵送してもらって実施し、合計881戸から回答があった。伊方町には約4800世帯あるが、訪問した2488戸には空き家も含まれていたとみられる。また、トラブルを避けるため四電の社宅は訪問しなかった。アンケート結果は途中経過で、全戸を訪問した上で10月ごろにあらためて公表する。同会世話人で松山市の堀内美鈴さん(51)は「再稼働をめぐる地元同意の手続きが進んでいて、危機感から前倒しで公表した。町や県は結果を考慮して」と話した。伊方町の担当者は「詳細を把握していないのでコメントできない」とし、県の担当者は「結果を知らないので何ともいえない」と話した。伊方3号機は7月に原子力規制委員会の審査に合格した。


PS(2015.9.14追加):原発で加圧する以上、パイプやその連結部分を含むすべての部品が、長期間、その熱と圧力と放射性物質に耐え続けなければならないが、私は、それは不可能だと考えるため、*4は、「やはり・・」と感じられた。そして、利益を上げられず、将来の成長も見込めない事業を他の事業と一緒に行えば、一緒に行う事業の足を引っ張るだけであるため、撤退すべきなのである。

*4:http://www.nikkei.com/article/DGXLZO86436700V00C15A5FFB000/
(日経新聞 2015/5/5) 4期連続最終赤字のアレバ、仏政府が救済へ 原発専業岐路
 原子力大手の仏アレバが経営不振にあえいでいる。鳴り物入りで登場した最新鋭の原子炉に相次ぎ問題が発生し、引当金の計上などで2014年まで4期連続の最終赤字に落ち込んだ。日本の原子力発電所の再稼働も遅れ、事業機会は大きく縮小している。仏政府はアレバの救済に乗り出す方針で、原発専業の事業モデルは岐路を迎えている。北欧ボスニア湾にのぞむフィンランド南西部のオルキルオト島。強い海風が吹く4月下旬、ドーム屋根のオルキルオト原発3号機の周りは、建設資材が積み上げられていた。「以前はもっと作業員がいて活気があったのだが……」。現場を知る関係者はこう話すが、今は人影もまばらだ。同原発はアレバが開発した欧州加圧水型炉(EPR)の初号機だ。出力160万キロワットの大型炉で、民間航空機の衝突にも耐えられる強固さと、事故で電源が失われても原子炉が自動停止する安全性を売りに05年に建設が始まった。だが設計ミスや部品の強度不足など相次ぐトラブルで完成時期は遅れ、当初計画の09年が18年にずれ込んだ。建設費は当初の3倍近くの90億ユーロに膨れあがった。運営主体の現地電力会社TVOのサルパランタ・シニアアドバイザーは「18年に稼働すると信じているが、見通せない部分もある」と自信なさげだ。工期の遅れやコストの膨らみの責任を巡ってアレバと、タービンを受注したシーメンス連合と、TVOの訴訟合戦になっているからだ。2番目に建設が始まったEPRの仏北西部フラマンビル原発3号機にも問題が浮上した。4月半ば、仏原子力安全局(ASN)がEPRの圧力容器の強度に「重大な懸念がある」との見解を表明したのだ。同機はただでさえ部品の落下や死亡事故などのトラブルが続き、完成予定が12年から17年にずれ込んでいた。アレバは専門家らによる調査団をつくり、真相究明に乗り出したが、圧力容器を交換すれば数億ユーロの負担が生じる恐れがあり、完成時期がさらに後ずれする可能性がある。同じ圧力容器を使いEPRを建設中の中国は安全上の問題が解決するまで台山原発1、2号機への燃料搬入を延期するようアレバに求めたという。建設中のEPR4基が問題を抱え、アレバは頭を抱える。受注が固まった英国のヒンクリーポイントC原発への悪影響が出る懸念があるほか、インドなど原発建設に関心を示す新興国へのEPR離れが起きかねないからだ。アレバの14年の最終損益は48億ユーロの赤字で過去最大。4期連続の最終赤字だ。潮目が変わったのは、11年の東京電力福島第1原発の事故だ。ドイツなど欧州の一部の国が脱原発を決め、日本の原発の再稼働が大幅に遅れ、アレバはビジネス機会を失った。アレバのフィリップ・クノル最高経営責任者(CEO)は「中長期的に原発市場は回復する」と訴える。アジアや中東などの新興国は、自国の経済成長に見合う電力をまかなうため原発導入意欲が旺盛だからだ。三菱重工業とはトルコで中型炉「アトメア1」の受注に成功した。だが受注には激しい競争を勝ち抜く必要がある。問題続きのアレバの先行きは明るくない。


PS(2015年9月15日追加): 原発事故後、食品・環境規制基準は強化されたどころか大幅に緩和され、4年後の今でも元に戻っていない。また、原発の新規制基準には避難計画などの緊急時の備えはないため、「内容を真摯に受け止める」などという行動を伴わない空念仏はもはや信用できず、「国際社会への積極的な情報発信に努める」というのも、国民に情報を隠しながら何をアピールしているのかと思う。世界は、その様子も見ているのだ。

   
    2015.9.1NHK     食物からの内部被曝(現在)   除染土の保管(現在)

*5:http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150915/k10010234901000.html
(NHK 2015年9月15日) IAEAで日本原発再稼働に理解求める
 IAEA=国際原子力機関の総会で、日本は、事故の経験を踏まえて強化された新しい規制基準のもとで原子力発電所を再稼働させたことを説明し、今後、順次、原発を再稼働させる方針に理解を求めました。IAEAの総会は、14日、オーストリアのウィーンで始まり、日本政府を代表して、原子力委員会の岡芳明委員長が演説しました。冒頭で、岡委員長は、IAEAが日本の緊急時の備えが不十分だったと指摘した東京電力福島第一原子力発電所の事故を総括する報告書について、「内容を真摯に受け止めている」と述べました。そのうえで、廃炉作業や汚染水の対策については、「国際社会への積極的な情報発信に努め、開かれた形で進めていく」と強調しました。さらに、岡委員長は、鹿児島県にある川内原子力発電所が再稼働したことを説明し、再稼働にあたっては、「事故の経験と教訓を踏まえて強化された規制基準のもとで2年以上にわたる厳格な審査を経ている」と述べました。そして、今後、順次、原発を再稼働させる方針に理解を求めました。また、これに先立ち、日本政府は、福島第一原発の現状などを紹介する会合を開き、被災地の日本酒や特産品をふるまうなどして、復興をアピールしました。IAEAの総会は5日間にわたって開かれる予定で、17日には、福島第一原発の報告書について詳しい説明が行われることになっています。


PS(2015年9月16日追加):*6の事件で、NHKは、「放火の動機は大量に電力を消費するJRが許せなかったから」とし、「原発再稼動に反対している人は、このように無知で短絡的な人だ」と表現している。しかし、①動機も容疑者本人から直接聞いたものではなく警視庁からのまた聞きにすぎず ②容疑者の段階であるため公開の場で双方の言い分を言い合って裁判で結審したわけでもない などの理由で、私は、この報道には疑問を感じた。つまり、(本当かどうかわからない)反原発派の一人が放火したからといって、脱原発を主張している人全員が無知で短絡的であるかのように表現するのは、それこそ短絡的で意図的であり、私は、最初にこの事件の報道を見た時、辺野古移設、TPP、労働者派遣法、安全保障法案等より優先して報道する程の事件ではなく、むしろその目隠しだろうと思った。しかし、JRも、外部の人が容易に放火できる場所に電線を設置しておくのは、危機管理や安全保障の問題が大きいため、この際、高架化や次世代の送電線・電車について、国土交通省も交えて検討した方がよいと考える。

     
    2015.9.16NHK     2015.9.13中日新聞  2015.1.24日経新聞

*6:http://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20150916/4978843.html
(NHK 2015年9月16日) 「大量電力消費のJR許せず」
 東京都内のJRの施設などで相次いだ放火事件で、品川区の変電所の事件に関わったとして逮捕された42歳の男が、動機について「大量に電力を消費するJRが許せなかった」などと供述していることが、警視庁への取材でわかりました。警視庁はさらに動機を調べるとともに、男が一連の放火事件に関わったとみて捜査しています。東京都内のJRでは、品川区のJR東日本の変電所で敷地の一部が焦げたほか、渋谷区や目黒区、それに中野区などでケーブルや架線の一部などが焼けるなど、8月以降にわかったものだけで放火事件が8件相次ぎました。警視庁は、防犯カメラの捜査などから、東京・武蔵野市に住む自称、ミュージシャンの野田伊佐也容疑者(42)が、品川区の変電所の事件に関わった疑いが強まったとして15日夜、威力業務妨害の疑いで逮捕しました。警視庁によりますと、これまでの調べに対し、野田容疑者は「やったことはやった。業務妨害とは思っていない」と供述しているということですが、その後の調べに対し、動機について「大量の電力を消費するJRが許せなかった」などと供述していることが、警視庁への取材でわかりました。また、変電所以外にも複数の放火に関わったという趣旨の供述をしているということです。警視庁は、さらに詳しい動機を調べるとともに、野田容疑者が一連の放火事件に関わったとみて裏付けを進めています。逮捕された野田容疑者の父親が、千葉県内の自宅で取材に応じ「きのうの夜、息子が逮捕されたと報道で知りました。信じられないことで大変申し訳なく思っています。最後に会ったのは1年くらい前で、原発の再稼動に反対していると聞きましたが、JRや鉄道に関する話は聞いたことがありません」と話していました。そのうえで野田容疑者について「高校を卒業したあたりから20年ぐらい音楽をやっていて大学も中退していました。音楽をやっているのだから、作詞や文章で表現してほしかったです。事件を起こすような人間ではなかったと思いますが、42歳にもなっているので大人としての自覚をもってほしかったと思います」と話していました。


PS(2015年9月21日追加):*7のように、放射線量分布を調査するのはよいが、上空300メートルで放射線量を測定しても、生活環境よりかなり低い値が出るため、役に立たない。その理由は、原発由来の放射性物質は地面に落ち、風で舞い上がってはまた落ちて拡散し、雨で水路に流れ込むため、放射線量は地面や水路の底土で高く、空中は地面からの距離の二乗に反比例して弱くなるからだ。そのため、市民が計測器を持ち、庭やベランダ、建物内の床や机の上、壁や天井や本棚などを測定するのが最も効果的で、掃除をして再度測ると掃除のやり残しもわかるくらいだ。なお、私の経験では、計測器によって計測値が少し異なるため(日本製は低く出た)、生産国の異なる複数の計測器で測るのがよいと思う。

*7:http://qbiz.jp/article/70942/1/
(西日本新聞 2015年9月16日) 川内原発80キロ圏の線量調査へ
 再稼働した九州電力川内原発(鹿児島県)の80キロ圏を対象に、原子力規制委員会が放射線測定器を載せた航空機で11月から来年1月に放射線量分布を調査することが15日、分かった。過酷事故に備えて事前に通常時の線量分布を把握するほか、地形の特徴を確認し事故時の測定を円滑に行うのが狙い。規制委によると、海域を除き川内原発の半径80キロ圏の上空約300メートルでヘリコプターで放射線量を測定する。総飛行距離は熊本県や宮崎県の上空も含めて約1870キロに上る予定。


PS(2015年9月27日追加):電力会社は、*8-2のように、大きな自然災害について、楽観的展望により対策を敬遠しがちだ。そのため、*8-1のように、全国世論調査を行うと、「原発再稼働反対」の人が58%であり、「事故時に避難できない」と考えている人も74%おり、「再生可能エネルギーの目標をもっと上げるべきだ」と考えている人は55%にのぼる。そのような中、*8-3のように、原発立地4県の議長が、県商工会議所連合会の要望に答えて国に原発再稼働の積極関与を要請し、「国が再稼働を前提に政策を進める以上、国に再稼働に関する責任の所在も明確に求める」とするのは、多くの国民が反対している原発再稼働を国に進めさせた上で、国民が納めた電気料金や税金から原発立地交付金、事故対策費、核のごみ処理費用を出させるということだ。そのため、これは原発立地地域のエゴであると同時に、責任の押し付けであり、日本経済や地元の将来の両方のためにならない。

*8-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/news/CK2015092002000124.html(東京新聞 2015年9月20日) 全国世論調査 原発再稼働 反対が58% 74%「避難できない」
 東京電力福島第一原発事故を踏まえた新しい規制基準を満たした原発について政府が進める再稼働に反対の人が58%で、賛成の37%を上回ったことが、本社加盟の日本世論調査会が十二、十三日に実施した全国面接世論調査で分かった。再稼働した原発で事故が起きた場合、住民が計画通りに避難できるかどうかについて「できるとは思わない」「あまりできるとは思わない」が計74%に上り、「ある程度」を含め「できる」とした計25%を大きく上回った。八月に九州電力川内原発1号機(鹿児島県)が再稼働したが、事故への備えに懸念が強いことが浮き彫りになった。再稼働に反対の理由は「原発の安全対策、事故時の住民避難などの防災対策が不十分」(39%)が最も多く、「原発から出る核のごみの処分方法が決まっていない」「福島第一原発事故が収束していない」が続いた。賛成の理由は「電力不足が心配」(34%)が最多。若年層(二十~三十代)で賛成の割合が高く、地域別では近畿と四国で賛成が反対を若干上回った。福島第一原発の廃炉に向けた作業に関しては、「どちらかといえば」を含めて計87%が「順調でない」とした。二〇三〇年時点で総発電量に占める原発の比率を20~22%にするとした政府目標について、41%が「もっと下げるべきだ」、22%が「ゼロにするべきだ」としたのに対し、「もっと上げるべきだ」は5%にとどまった。一方、太陽光や風力などの再生可能エネルギーが占める比率を22~24%にするとの目標については、55%が「もっと上げるべきだ」と答えた。電源構成比率を考える上で最も重視することは「再生可能エネルギーの普及」が34%と最多。「電気料金」は最も少なく6%だった。
◆避難対策軽視に不信感
 政府が進める原発再稼働に58%が反対し、事故時に周辺住民が計画通りに避難できないと考える人が74%に上った。再稼働への反対理由でも住民避難の問題を挙げた人が多く、避難対策を軽視した再稼働に対する不信感がうかがえる。東京電力福島第一原発事故で住民避難が大混乱した教訓を踏まえ、国は防災対策の重点区域を原発の十キロ圏から三十キロ圏に拡大し、圏内の自治体に避難計画の策定を義務づけた。事故時にはまず五キロ圏の住民が避難し、五キロ圏外では測定される放射線量に応じて避難の判断をするとしている。こうした避難手順の実効性や、福島事故で死者を出してしまった入院患者らの避難対策に対する懸念は根強いが、八月の九州電力川内原発1号機(鹿児島県)再稼働前に県などが定めて国が了承した避難計画に基づく訓練は行われなかった。再稼働が見込まれる四国電力伊方原発(愛媛県)をめぐっては、原発と海に挟まれた半島に住む約五千人の避難などに不安の声が上がっている。再稼働の前提となる審査をした原子力規制委員会も「絶対安全とは言わない」としている以上、避難対策の充実は欠かせない。安易な再稼働は許されず、政府は住民らの声に真摯(しんし)に耳を傾けるべきだ。 

*8-2:http://www.sankei.com/affairs/news/150925/afr1509250036-n1.html
(産経新聞 2015.9.25) 東電、津波対応を拒否 福島第1原発事故の2年前、事故調書で判明
 東京電力福島第1原発事故をめぐり、事故発生の2年前に原子力安全・保安院(当時)の審査官が、東電に津波対応の検討を求めたが、東電側が「(原子)炉を(保安院が)止めることができるのか」などと拒否していたことが25日、政府が公開した事故調査・検証委員会の「聴取結果書(調書)」で分かった。調書によると、保安院は平成18年9月に原発の耐震性の調査を全国の事業者に指示。審査官が21年に2回、東電の担当者を呼んで津波対策の検討状況を聞いたところ、担当者は「土木学会の検討を待つ」と返答した。審査官は「それでは少し遅い」と感じ、重要設備を建屋内に入れ、設備に水が入らないように防水化を提案したが、担当者は「会社として判断できない」「炉を止めることができるのか」と反発したという。原発事故では、想定を上回る津波が押し寄せ、非常用発電機などが水没。燃料を冷却できなくなり、放射性物質を周囲にまき散らす重大事故に陥った。東電広報室は「ヒアリング記録の個別の内容については、コメントを差し控える。当社は関係者への聞き取りなどを総合的に評価し事故報告書として公表している」とした。

*8-3:http://www.saga-s.co.jp/column/genkai_pluthermal/20201/233080
(佐賀新聞 2015年9月25日) 佐賀など原発立地4県議長、国に積極関与要請へ
 佐賀県議会の中倉政義議長は25日、原発再稼働をめぐる地元同意の範囲や手続きに関し、国が積極的に関与するよう、原発が立地する4県の県議会議長と共同で菅義偉官房長官に要請する考えを明らかにした。玄海原発(東松浦郡玄海町)の早期再稼働に関する県商工会議所連合会(井田出海会長)の要望に答えた。菅官房長官との面会に向けて調整しており、近く上京し、原発立地県の福井、愛媛、鹿児島の県議会議長と共に地元の不安や懸念を伝える。4県の原発はいずれも、新規制基準の適合に向けた原子力規制委員会の審査が先行している。中倉議長は「国が再稼働を前提に政策を進める以上、積極的に責任ある対応を求める必要がある」と述べ、再稼働に関する責任の所在も明確に求めていく考えを示した。


PS(2015年10月2日):このブログに何度も記載したが、私も、汚染水の取扱いは、*9に書かれているとおり、真剣さに欠け、ひどすぎると思う。また、凍結は(する筈がないと思うが)、したのだろうか?

*9:http://mainichi.jp/select/news/20151002k0000e040236000c.html
(毎日新聞 2015年10月2日) 汚染水流出:公害犯罪処罰法で東電社長ら32人書類送検へ
 東京電力福島第1原発事故の収束作業に伴い高濃度の放射性物質を含んだ汚染水が外洋に流出した問題で、福島県警は近く東電の社長ら幹部32人と同社を公害犯罪処罰法違反容疑で福島地検に書類送検する方針を固めた。捜査関係者によると、書類送検するのは、広瀬直己社長や勝俣恒久元会長、清水正孝元社長ら。東電幹部らは業務上の必要な注意を怠ったため汚染水を外洋に放出させた疑いが持たれている。この問題を巡っては、東電の幹部らを業務上過失致死傷容疑などで検察当局に告訴・告発した団体の代表らが2013年9月、公害犯罪処罰法違反容疑で福島県警に刑事告発。告発状によると、地下水に関して政府は事故後に東電に対して地下遮蔽(しゃへい)壁の構築の検討を指示していたが、東電は費用などを理由に11年6月に中長期対策とする方針を表明し、対策を先送りした。さらに強度の弱いタンクを使用し約300トンの汚染水が漏れ、監視体制の不備による発見の遅れが漏水量の増大を招いたとしている。

PS(2015年11月24日、25日追加):*10-1の「汚染した地下水が護岸から海に流出するのを防ぐための海側遮水壁が完成して1カ月になるが、海水に含まれる放射性セシウムの濃度は、護岸付近は下がったものの、それ以外は完成前とほとんど変わらない」というのは、「汚染地下水が護岸から海に流出するのを防ぐためだけの遮水壁だから当然だ」という言い訳もできるが、それなら金を使って遮水壁(そもそも水は壁では止まらない)を作った意味がないため、国から東電に予算が入っている以上、①どういう意図で ②いくら使って遮水壁を作り ③効果はどうだったか について、決算行政監視委員会で追求すべきだ。答えは、「ただ金をばら撒くために作っただけ」と推測されるが、原発はこういうことが多すぎる。
 また、丸川環境大臣は埃を通さない重装備でフクイチを視察されたそうだが、これでも放射線は衣服や身体を貫通する(だからレントゲンは骨を写すことができる)ため、これから妊娠する可能性のある女性がこのような場所に行くのは(理由を長くは書かないが)避けた方が良い。ましてや、上記(2)のように、年間20ミリシーベルト以下の地域を避難解除して、本来なら放射線管理区域にすべき場所に一般国民を居住させるなどの放射線安全神話は論外だが、環境大臣や環境省にその程度の思考や判断ができないのが日本の現状なのである。何故、こうなったのだろうか。
 なお、11月25日、*10-2のように、「環境省のリスクコミュニケーション(リスコミ)関連三事業は、電力会社や原発事業者幹部らが役員を務める公益財団法人『原子力安全研究協会』が高額で請け負っている」という情報があった。多分、ここは環境省からも天下りを受けており、環境省も独立性はなく、原発や放射線のリスクが低いことを国民にアピールする機関になっていると推測される。

  
   2015.11.22        2015.11.24          国会前の脱原発デモ
    東京新聞           報道局      (国会前は、人が集まり易い広場にしたらどうか?)

*10-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201511/CK2015112202000132.html (東京新聞 2015年11月22日) 福島第一 海側遮水壁1カ月 外洋流出に効果見えず
 東京電力福島第一原発で汚染した地下水が護岸から海に流出するのを防ぐための「海側遮水壁」が完成して間もなく1カ月になる。海水に含まれる放射性セシウムの濃度は、護岸付近は下がったものの、それ以外は完成前とほとんど変わらない状態が続いている。二〇一二年四月に工事がスタートした遮水壁は、1~4号機の海側に、約六百本の太い鋼管を打ち込んで造られた。鋼管は長い金具で連結され、すき間はモルタルでふさぎ、十月二十六日に完成した。東電の試算では、壁により地下水の流出量は一日四百トンから十トンにまで減り、セシウムの流出量も約四十分の一になる-とされた。東電が公表している海水の分析データを、本紙がグラフ化したところ、最後に残っていた開口部を閉じる工事が始まった九月十日以降、セシウム濃度の振れ幅は小さくなり、特に水中幕で仕切られた内側の1~4号機取水口近辺の濃度はがくんと下がった。港内の海水は二日で入れ替わり、海底にたまった放射性物質が巻き上がらないよう砂などで覆う作業も終わっている。壁が完成すれば、港内全体の値はさらに下がるはず-。こう期待されたが、推移を見る限り、東電が調査している十二地点のいずれも濃度は下げ止まりの状況。外洋に出て行く港湾口の一年間のデータを追ってみても、海にすむ魚に影響を与える可能性がある一リットル当たり一ベクレル前後が続いている。昨年十月、本紙が港湾口で調査した際も約一ベクレルを検出している。現状では、福島第一から外洋への影響は、壁ができる前と後ではあまり変わらない、といえる。遮水壁に残ったすき間から流出している可能性や、原発敷地内から排水溝によって流れ込む汚れた雨水の影響などが考えられるが、はっきりしない。東電の担当者は「効果の検証には時間がかかる。様子をみたい」と話している。

*10-2:http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201511/CK2015112502000121.html (東京新聞 2015年11月25日) 福島事故の健康不安対策 原発関連財団請け負い
 東京電力福島第一原発事故による住民の健康不安に対応し、悩みの軽減や解消を目指す環境省の「リスクコミュニケーション(リスコミ)」関連三事業を、電力会社や原発事業者幹部らが役員を務める公益財団法人「原子力安全研究協会」が二〇一四年度に、総額四億一千三百万円で請け負っていたことが分かった。同協会は本年度も同種事業を継続。原発を推進する側が幹部を務める法人が税金を使って、原発を不安視する住民の相談事業を担う状況が続いている。本紙は昨年四月、三事業のうち、住民に被ばく対策を説明する「相談員」の支援事業を環境省が同協会に七千四百万円で発注したことを報じた。今回、国の事業の無駄や執行状況を政府自身が点検する「行政事業レビュー」の資料で、より多くの事業を協会に発注していたことが判明した。環境省を含む十一省庁・委員会が一四年度、避難住民の早期帰還に向けて放射線による健康不安に対応することを主な目的に、リスコミ事業を本格化させた。このうち環境省の三事業は入札で事業者を募集し、協会が落札した。協会が請け負った事業は、相談員の支援のほか、住民の放射線による健康不安に対応する資料の改訂や、住民向け集会の運営など。環境省は、一五年度も同協会が同種の事業を落札したと認めているが、金額など詳細を公表していない。協会は、原子力の安全性を中心に研究する組織。理事に関西電力や日本原子力発電の現役幹部が就いている。事業が原発推進側の論理に立った内容になる可能性について、環境省は「契約内容に沿って事業を遂行してもらっている」(放射線健康管理担当参事官室)と否定。協会の担当者は「環境省に聞いてほしい」と述べるにとどめた。福島原発事故に伴う損害賠償を求める団体などでつくる「原発事故被害者団体連絡会」共同代表の武藤類子さん(62)は「放射線の健康被害は、大丈夫と言う人もいれば、危ないと言う人もいる。双方の意見を聞いて判断したい。原発推進側に近いとみられる組織がリスコミを担うのは住民として不安だ」と話す。福島県で講演した経験のある京都大原子炉実験所の今中哲二助教は「年間二〇ミリシーベルトという避難基準以下でも、被ばくによる健康影響の危険性があると住民に話したら、行政側からリスコミの邪魔になると言われたことがある。多様な意見を出し合いながら一定の方向性を出す体制で進めるべきではないか」と指摘した。リスコミ事業をめぐっては、文部科学省は、被災地住民の問い合わせや相談に対応する事業を、原子力行政を担ってきた旧科学技術庁出身者が役員を務める国立研究開発法人「日本原子力研究開発機構」と同法人「放射線医学総合研究所」に発注している。文科省は両法人に発注した事業の額を明らかにしていない。

| 原発::2015.4~10 | 03:29 PM | comments (x) | trackback (x) |
2015.8.30 いつまでも原発にこだわっている時代ではない (2015年8月31日、9月1日、9月3日、9月11日に追加あり)
    
     電力システム改革の流れ        東京電力の分社化    エコカー市場の拡大
2015.3.17                                       2015.8.23 
西日本新聞                                        日経新聞

(1)電力自由化、発送電分離に対する電力会社の対応不足について
 上の左の2つの図及び*1-1のように、2016年4月に電力小売りの全面自由化と電力会社の地域独占廃止が行われ、2020年には「発送電分離」が実施されるため、九電は、2015年度中に電力事業を「発電」「送配電」「小売り」に分ける組織改正に踏み切る方針を固め、送配電部門を切り離すそうだ。

 しかし、「発電部門」は大きく変えないとしている点については、私は、発電部門も電源由来別に分けて独立採算とし、「社内カンパニー制」ではなく「分社化」して正確に電源由来別の原価を把握し、独立採算にしてディスクローズした方が、誰にとってもわかりやすく、連結納税制度を活用すれば税務上の損失もあまりないため、メリットが大きいと考えている。

 何故なら、「社内カンパニー」は、一つの会社の中で事業部に分けているにすぎないため、①顧客が電源由来別に正確なコストを支払って電力を選択することができない ②火力発電、原子力発電、新エネルギー、スマートシティーの構築など、異なる性格の技術者を同一の就業規則や給与体系で処遇しなければならないため、不合理な人事管理になって必要な人材を繋ぎとめられない ③規模が大きくなるため、組織階層が多すぎて現場のニーズがトップに正確に伝わらず、有効な経営管理がやりにくい ④それらすべての分野に精通した社長を置くことは不可能である などの不都合があるからだ。

 そのため、上中央の図のように、東電も2016年度に発電事業会社、送配電事業会社、小売事業会社を子会社化して持ち株会社の下につけるが、私は、発電事業会社をさらに細かく、「火力発電会社」「原子力発電会社」「自然エネルギー発電会社」などに分け、電源由来別に選択できるようにした方が、顧客獲得と資金調達の両方に有利だと考える。その理由は、これからは、顧客も株主も、環境やエネルギー自給率に資する電源を選択するようになるからだ。

 なお、*1-2のように、九電が「『日本一のエネルギーサービス』を提供する企業グループになる」と言うのを西日本新聞は驚きを持って報道しているが、本来、日本企業に「日本一」は普通に存在し、分野によっては「世界一」も珍しくない。これまで、電力産業でそういうことがなかったのは、古い意識の役所(経産省)と甘え合って、規制で保護され先進的なことも止められていたからであり、自由化するとこういうことが可能になるのである。

(2)太陽光はじめ自然エネルギー由来の電力買い取りについて
 九州で太陽光発電が普及し、九電は買い取り制限を始めたが、*2-1のように、電力小売り事業に参入する福岡県みやま市が主体となって設立した電力売買会社「みやまスマートエネルギー」が、2015年10月15日から市内の公共施設向けに売電を始め、2016年4月からは家庭向けにも電力供給するそうだ。そして、メガソーラーや家庭用太陽光発電機の電力を九電より高い価格で買って安く販売するそうなので、他の市町村も頑張ってもらいたい。

 なお、*2-2で東京新聞が記載しているように、今夏は太陽光発電が原発十二基分に当たる計一千万キロワット超(川内原発の出力八十九万キロワットの約十二倍)の電力を生み出し、二年前の供給の1%から6%台に急伸したそうだ。太陽光発電が千百万キロワット弱(6・5%)の電力を生み出したのは、政府の事前予測五百万キロワットの2倍であり、これは、再生可能エネルギー固定価格買い取り制度がスタートして、たった三年後の成果なのである。

(3)電気自動車、燃料電池車について
 「太陽光発電は不安定な電力」と言われることが多いが、これは、*3-3のような研究開発で蓄電池が大容量かつ安価になったり、電力を水素燃料に変えて保存できるようになったりすれば解決することだ。しかし、*3-2のように、日本は電気自動車に取り組み始めて20年にもなり先行していた筈なのに、*3-1のように、エコカーはまだハイブリッド車が主流であり、本気で電気自動車や燃料電池車に変えようとしているようには見えない。日産自動車の電気自動車「リーフ」の走行可能距離がやっと300キロメートルになるそうだが、「電気で走ればいいんだろ」と言わんばかりのワンパターンのデザインであるため、魅力に乏しく、BMWやテスラのように本気で開発した電気自動車には見えないのである。

 また、ホンダも2016年3月末までに発売する燃料電池車の走行可能距離を700キロメートル以上とトヨタのFCV「ミライ」(約650キロメートル)を上回る水準にするそうだが、水を電気分解すれば100%国内産の水素燃料を作ることが簡単である。しかし、水素燃料の進捗が遅く、外国から輸入する化石燃料から水素を作る案もあり、これは筋が悪すぎる。何故なら、そのような水素と酸素を化学反応させてエネルギーを作れば、我が国のエネルギー自給率は上がらない上、燃料電池車の普及後には空気が酸素不足になるからだ。そのため、水素は水から作るのを原則とし、同時にできる酸素も供給すべきである。

(4)原発は公害が深刻すぎるため、過去のエネルギーにすべき
 *4-1のように、全国知事会原子力発電対策特別委員会の西川委員長(福井県知事)が、原子力規制委員会の田中委員長と会談して、「現場を重視した実効性のある安全対策を進めてほしい」と要望し、避難に緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)などを活用する仕組みづくりを求めたそうだが、当然のことである。

 また、*4-2のように、暮らしを一変させた東電福島第1原発過酷事故から4年5カ月で、九電は鹿児島県の川内原発1号機を再稼働させたが、このやり方はモデルケースにはできない。また、廃炉や最終処分場などについても、原発ゼロへの道筋があり、これ以上核廃棄物を出さない確約があって初めて相談に乗れるものだ。そして、このことは、川内原発再稼働に「反対」との回答が57%を占めている世論調査からも明らかである。

 さらに、「原発はコストが安い」ともよく言われるが、これはまず、電源由来別に別会社にして正確にコストを集計してから、同じ次元で比較すべきなのである。その上で、*4-3のようなコストも加えれば、原発は金食い虫であり、維持してプラスになるものではないことが、いっそう明らかになる。

 なお、*4-4のように、川内1号機は、2次冷却水に海水が混入して出力上昇を延期したそうだが、これと似たようなことが同じ型の米サンオノフレ原発の蒸気発生器で起こり、*4-5のように、NRC(米原子力規制委員会)が三菱重工の製造工場に抜き打ちで調査に入った後、サンオノフレ原発の廃炉が決定的となり、現在、三菱重工は9300億円の訴訟を起こされているそうである。

<電力自由化と発送電分離>
*1-1:http://qbiz.jp/article/58025/1/
(西日本新聞 2015年3月17日) 九電、7月めどに配電部門を再編 「発送電分離」へ備え
 九州電力は、2015年度中に電力事業を「発電」「送配電」「小売り」に分ける組織改正に踏み切る方針を固めた。7月をめどに、営業と配電業務を担う現在の「お客さま本部」から配電部門を切り離し、「電力輸送本部」と統合する方向で調整している。国の電力システム改革の一環として16年4月に導入される新たな制度をにらんだ対応。大手電力会社の送配電部門が切り離される「発送電分離」に備えた動きが本格化しそうだ。九電は労働組合に組織改正の意向を伝えた。今後、具体的な協議に入る。組織改正は、国が電力小売りが全面自由化される16年4月に導入する新たな制度によって、大手電力も発電事業が届け出制、送配電事業が許可制、小売り事業が登録制となるのに対応するのが目的。本店組織から着手し、段階的に出先の拠点の機能整理も進める。具体的には、電力輸送本部に配電部門を統合することで送配電を一元的に担える体制とし、お客さま本部は小売りの営業に特化させる方向。発電部門は、現在の「発電本部」から当面は大きく変えない。今回の組織改正に応じて、部署名を変更する可能性がある。政府は、発送電分離を20年4月に実施する電気事業法改正案を既に閣議決定している。九電は今回の組織改正をベースに、各部門を独立採算とする「社内カンパニー制」の導入や分社化の検討も進めるとみられる。各部門の独立性を高めながら、業務の効率化や全面自由化後の競争力強化にもつなげたい考えだ。国の電力システム改革をめぐっては、東京電力が他の電力大手に先んじる形で13年4月に社内カンパニー制を導入しており、16年度にも持ち株会社を設立して事業の分社化に踏み切る方針を示している。
   ◇   ◇
◆改革への対応「第一歩」
 九州電力が2015年度に乗り出す組織改正は、電力システム改革に対応する社内体制構築の第一歩となる。20年4月に予定される発送電分離による送配電部門の分社化が避けられない中、九電は経営環境の激変をにらんだ体制整備を迫られている。電力システム改革の一環として、16年4月の電力小売り全面自由化と同時に導入されるのは「ライセンス制」と呼ばれる制度。大手電力会社の「一般電気事業者」という事業類型を廃止し、「発電事業者」「送配電事業者」「小売り事業者」に再分類し、従来の一貫体制を前提としない制度に移行する。国は、これを円滑な発送電分離につなげたい考えだ。発送電分離は、持ち株会社に発電、小売り、送配電の3社をぶら下げる方式のほか、発電と小売りの一体会社が送配電の子会社を傘下に置く形態も認められる方向。ただ、親会社には送配電会社の中立性を確保するための規制が課せられ、今年4月に設立される「電力広域的運営推進機関」の送配電会社への関与が強まることも想定される。九電を含む大手電力は今後、市場の全面自由化に伴う競争環境の変化に対応しながら、将来の組織体制の検討も進めることになる。原発の再稼働が進んで収支状況が好転したとしても、会社経営の在り方は大きく変容する見通しで、九電幹部も「会社が東日本大震災前の状況に戻ることはもうない」と断言する。

*1-2:http://qbiz.jp/article/69448/1/
(西日本新聞 2015年8月26日) ついに「日本一」を掲げた九電
 その瞬間は耳に引っかからなかったのに、後から意味ありげに響くことがある。九州電力が今年4月に発表した「九州電力グループ中期経営方針」に明記された言葉がそうだ。「『日本一のエネルギーサービス』を提供する企業グループ」。競争が日常となっている一般のビジネスにあって、企業が「日本一」を目標に掲げることは、むしろ普通だ。でも、地域ごとに独占を認められ、完全かつ激しい自由競争にさらされてこなかった大手電力会社が「日本で1番」という目標を、ここまでど真ん中直球で掲げたことはなかったと思う。関西電力や中部電力は「NO.1」という言葉を使っているが、「どこの1番」かは明確じゃない。これまで何度か電力業界を取材してきたが、いつも「横並び」とか「序列」といったキーワードがつきまとっていた。いまも基本的な印象は変わらない。でも、九電の「日本一宣言」はその壁を破ろうとする意志を感じる。言うまでもなく、背景にあるのは、来春に迫った電力小売りの全面自由化だ。企業向けは自由化されていたが、「一般家庭が電気を買う企業を自由に選べる時代」に入る危機感は、これまでの比ではないだろう。だからこそ、なのか。九電関係者は言う。「日本一と言う文言は、若手・中堅から原案が上がってきたようだ。先が読めない中だからこそ、攻めの目標を掲げようということだろう」。別の幹部はこうも語った。「国や電事連(電気事業連合会)の中で、ある意味優等生として頑張ってきたが、もうルールが変わると言うのなら、九電として一丸となって生き残っていくしかない」。新規制基準下では全国初の原発再稼働。復水器の不具合。そして25日には台風の影響という、まさかの火力発電所連続停止。九電にとっては試練が続く。「日本一」は、厳しい自由化時代の壮大な目標か、悲壮な覚悟か−。いずれにしても、長年培ってきたと自負する九電ブランドの全てが問われることになる。その答えは、そう遠くない将来出る。

<太陽光発電>
*2-1:http://qbiz.jp/article/69178/1/
(西日本新聞 2015年8月20日) みやま市が10月15日から売電
 全面自由化される電力小売り事業に参入する福岡県みやま市が主体となって設立した電力売買会社「みやまスマートエネルギー」(同市)が、10月15日から市内の公共施設向けに売電を始めることが19日、分かった。2016年4月からの家庭向け電力供給をにらみ、売電事業を本格化させる。売電先は、市役所本庁を皮切りに、市内の学校や公民館など計38カ所を予定している。病院や工場など民間施設への供給も順次開始し、市外にも売電エリアを広げる方針。電気料金は、基本料金を安く設定することを検討している。新会社が、大規模太陽光発電所(メガソーラー)や家庭用太陽光発電機の電力を九州電力よりも高い価格で買い取り、安く販売する。売り上げは15年度に1億5千万円を目指す。家庭向けに売電を始める16年度は12億円を見込む。

*2-2:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2015083090071134.html
(東京新聞 2015年8月30日) 太陽光発電 今夏シェア6%台に ピーク時に原発12基分
 今夏に電力需要がピークを迎えた時間帯にどう電力が確保されたか電力各社に取材したところ、太陽光発電が原発十二基分に当たる計一千万キロワット超の電力を生み出し、供給を支えていたことが分かった。二年前は供給力の1%にすぎなかった太陽光は、6%台に急伸。九州電力川内(せんだい)原発(鹿児島県)が今月再稼働するまで約一年十一カ月にわたり国内の「原発ゼロ」が続いた間に、太陽光が欠かせない電源に成長したことが明確になった。本紙は、原発のない沖縄電力を除く全国の九電力会社に、今年七~八月の電力需要ピークの時間帯に、電源構成がどうなっていたのかデータ提供を求めた。四国電力は提供を拒否したが、八社が回答した。地域によってピークの日や時間帯は若干異なるが、八社が需要を見越して準備した供給力の合計は約一億六千六百万キロワット。首位は火力発電で、約一億二千六百万キロワット(75・4%)と圧倒的に多い。二位は、くみ上げておいた水を需要に応じて放水する揚水発電で約千八百万キロワット(10・9%)、三位は水力発電の約千二百万キロワット(6・9%)。太陽光発電は僅差で続き、千百万キロワット弱(6・5%)。川内原発の出力は一基八十九万キロワット。約十二倍の電力を生み出していたことになる。政府の事前予測は五百万キロワット前後だったが、大きく外れた。再生エネルギーの固定価格買い取り制度がスタートしてからの三年で、中心的な存在になった。需要が高まる日中、軌を一にするように発電するのが太陽光の特質で、割高な石油火力の稼働を最小限にできる効果もあった。地域別では、太陽光の発電量は東京電力管内が四百万キロワットと最も多かったが、発電割合では九州電力管内が9・5%と最も高かった。九州では今夏、ピークが通常とは異なり、日射量が減り始める午後四時だった。もしピークが一般的な昼前後であれば、発電量は二~三倍だった可能性が高い。九電は八月十一日に川内原発1号機を再稼働させたが、その前から電力の需給バランスは余裕のある状態が続いていた。中部電力などから電力融通を受けていたこともあるが、九州では太陽光の導入量が非常に多く、そのサポートで安定が保たれていたともいえる。
<固定価格買い取り制度> 太陽光や風力、地熱、バイオマスなど再生可能エネルギーでつくられた電気を、国が設定した価格で一定期間、電力会社が全量買い取るよう定めた制度で、2012年7月にスタートした。買い取り費用は電気料金に上乗せされるが、太陽光パネルの価格低下などに伴い、買い取り価格は段階的に下げられている。導入量は、設置が容易な太陽光に集中しており、家畜のふんや木材チップなどを活用し、出力調整が容易なバイオマスがあまり伸びないなどの問題もある。

<電気自動車と燃料電池車>
*3-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150823&ng=DGKKASDZ07HN2_S5A820C1MM8000 (日経新聞 2015.8.23) エコカー 走行距離長く、日産、フル充電で300キロ トヨタ・ホンダも海外で攻勢
 自動車メーカー各社が環境対応車を刷新し走行可能距離を伸ばす。日産自動車は年末にも電気自動車(EV)「リーフ」を改良し、フル充電での走行可能距離を3割増の300キロメートルとする。トヨタ自動車は12月、ガソリン1リットルあたり40キロメートル超と現行モデルより約2割長く走るハイブリッド車(HV)「プリウス」の新型車を発売する。クルマの電動化を軸にエコカーの使い勝手を高め、グローバル市場での普及を促す。日産はこのほどリーフで使うリチウムイオン電池にためられる電気の量を増やす技術を開発した。EVは一度の充電で走れる距離がガソリン車より短いことが課題だったが、300キロメートルまで伸びる。電池の大きさは変わらず現行の製造ラインを使える。原価の大幅増にはならない見通しで、販売価格を大きく変えることなく商品力を上げる。現行リーフを部分改良し年末にも発売する。日産では400キロメートルの実現を目指し研究開発を続けている。「電池の技術レベルが急激に上がっており、長期では通常のエンジン車と同水準の走行可能距離も不可能ではない」(幹部)という。トヨタはHVの旗艦車、プリウスを6年ぶりに全面改良する。従来のニッケル水素電池だけでなくリチウムイオン電池も採用し、小型化しながらも出力性能を高める。モーターやインバーター(変換装置)や制御システムなども刷新する。衝突安全性を高める部品の採用で車体重量は増える方向だが、エンジンの燃焼効率も高めるなどしてガソリン1リットルあたりの走行距離を現状の32.6キロメートルから伸ばす。ホンダも2016年3月末までに発売する燃料電池車(FCV)の走行可能距離を700キロメートル以上とトヨタのFCV「ミライ」(約650キロメートル)を上回る水準にする。HVやEVといったエコカーは日本が技術開発で先駆けたが、世界での販売はまだ限られている。トヨタのHVは日本では14年で10%強のシェアを持つが、全世界では2%弱にとどまる。10年に発売した日産のリーフも、6月末までの世界累計販売は18万台強。仏ルノーと合わせて16年度までに150万台というEVの販売計画を大幅に下回っているのが現状だ。ただ、欧米などで燃費規制が強化されるためエコカー市場は拡大する見通し。調査会社マークラインズは、14年に200万台だったHVの世界市場は25年に2000万台を突破すると予測する。ドイツ勢ではフォルクスワーゲン(VW)がより廉価なHVの開発を進めているほか、BMWが家庭で充電できるプラグインハイブリッド車の扱いを増やしている。米テスラモーターズがEVの車種を拡大するなど、エコカー市場の競争は激しくなる。日本勢はより燃費を改善したり、走行可能距離を伸ばしたりすることで優位性をアピールし、欧米や中国など海外で販売を加速させたい考えだ。

*3-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150823&ng=DGKKZO90864450T20C15A8NN1000 (日経新聞 2015.8.23) クルマの電動化 日本が先行、追う欧州勢
▽…自動車の駆動装置をエンジンから電気モーターに置き換えたり、モーターを併用したりすること。化石燃料の使用をゼロまたは大幅に減らすことができ、環境負荷を和らげる目的で開発された。車載電池から電気を取り出して走る電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)に加えて、水素と酸素を反応させて生み出した電気で走る燃料電池車(FCV)などがある。
▽…トヨタ自動車のHV「プリウス」や日産自動車のEV「リーフ」などクルマの電動化では日本メーカーが先行してきた。ただ米カリフォルニア州の「ZEV規制」や欧州の「ユーロ6」など厳しい環境規制を見据え、クリーンディーゼル車やエンジンの小型化で規制に対応してきた欧州メーカーも電動化に本腰を入れはじめた。
▽…クルマの電動化普及の壁となってきた充電インフラも整いつつある。国内の急速充電器の数は現在約5400基と2014年9月に比べ約3倍に増えた。独BMWと独フォルクスワーゲン(VW)も米国で100カ所に急速充電器を整備することを合意している。

*3-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150824&ng=DGKKZO90871610T20C15A8TJM000 (日経新聞 2015.8.24) 電極に硫黄使い、リチウムイオン電池容量を4~5倍に、産総研や関大、3~5年後に実用化へ
 幅広く使われるリチウムイオン電池の電極に硫黄を採用することで電池の容量を4~5倍に増やす技術の開発が相次いでいる。硫黄は電解液に溶け出しやすいが、産業技術総合研究所は電極の金属と強く結合させることで克服した。関西大学は電極の構造を工夫し、問題を解決した。スマートフォン(スマホ)などの携帯機器を充電する頻度を大幅に減らせる見込み。電池メーカーなどと組み3~5年後の実用化を目指す。リチウムイオン電池はリチウムイオンが電解液を通じて正極と負極の間を行き来することで充放電を繰り返す。正極にレアメタル(希少金属)を含むコバルト酸リチウムなどを使っている。硫黄は電気を多く蓄える性質があり、電極材料に向く。希少資源でもない。硫黄を微粒子状に加工し、表面積を増やしたうえで正極に活用する研究などが進んでいる。ただ充放電を繰り返すと電解液に溶け、電池の性能を落とす課題があった。産総研の栄部比夏里上級主任研究員らは、正極に使う金属と硫黄の微粒子を強く結合させる技術を開発した。鉄やチタンなどの金属と硫黄を粉にし、セラミックスでできた小さな球と一緒にかき混ぜる。球がぶつかる際の衝撃で、金属原子と硫黄が強く結びつく。1つの金属原子に硫黄の微粒子が4~6個結合する。この材料を正極に使い電池を試作した。電池の容量は従来のリチウムイオン電池の3~5倍になった。電圧は半分になるが、回路構成などを工夫することで電圧を引き上げられるという。電池メーカーと協力して今年度中にも携帯電話に使う大きさの電池を試作し、実用性を確かめる。関西大の石川正司教授らの技術は、電極に使う炭素に開いた直径数ナノ(ナノは10億分の1)メートルの穴に硫黄の微粒子を染み込ませる。微粒子が固定しやすい大きさの穴を均一に作り込むとともに、硫黄を穴に効率よく充填する技術を開発した。電極の重さのほぼ3割が硫黄になり、電池の容量が従来の4倍になった。正極を作り電池で試した。数百回充放電を繰り返しても性能を保った。充電に要する時間は従来のリチウムイオン電池の20分の1に短縮できた。今後は炭素に染み込ませる硫黄の量を増やし、5年後の実用化を目指す。

<原発について>
*4-1:http://qbiz.jp/article/69273/1/
(西日本新聞 2015年8月21日) 「現場重視の安全対策を」 全国知事会が規制委に要望
 全国知事会原子力発電対策特別委員会の西川一誠委員長(福井県知事)は20日、原子力規制委員会の田中俊一委員長と会談し、「東京中心に物事が考えられがちだ。現場を重視した実効性のある安全対策を進めてほしい」と要望した。西川委員長は、東京電力福島第1原発事故の早期収拾や原子力防災体制の強化などを盛り込んだ提言書を提出。原子力災害対策指針に明確な規定がない原発から30キロ圏外の自治体でも事前対策が必要だと指摘し、避難ルートの検討に緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)などを活用する仕組みづくりも求めた。田中委員長は避難計画策定向けに「発電所ごとに気象条件や風向きを考慮してシミュレーションした基礎データを出せるようにしたい」と応じ、規制の判断基準について丁寧に説明する考えを示した。提言は宮沢洋一経済産業相にも提出した。

*4-2:http://mainichi.jp/shimen/news/20150812ddm005070045000c.html?fm=mnm (毎日新聞社説 2015年8月12日) 川内再稼働 原発依存社会に戻すな
 人々の暮らしを一変させた東京電力福島第1原発の過酷事故から4年5カ月。九州電力が鹿児島県の川内原発1号機を再稼働させた。事故後に策定した新規制基準のもとでの初の稼働である。政府も電力会社もこれをモデルケースに既存の原発を順次再稼働していく心づもりだろう。しかし、あれだけの事故を経てなお原発と向き合う政府の本質的な姿勢は変わらず、事故の教訓を生かし切っていない。この再稼働を3・11前の安全神話に逆戻りする第一歩にしてはならない。
◇ゼロへの道筋が先決だ
 3・11の教訓は、「対策をとっても原発事故は起きうる」「原発事故が人、環境、社会に与える被害は質も範囲も他の事故と大きく異なる」ということだった。しかも、日本は世界有数の地震・火山国である。日本で原発を動かし続ける危険性はあまりに大きい。核のゴミの処分問題を考えても原発は持続可能なエネルギーとは言いがたい。だからこそ、できるだけ早く原発をやめようと私たちは主張してきた。一方で、原発即ゼロがもたらす経済的、社会的リスクを考えれば、一定の条件を満たした上で最小限の稼働を認めざるをえない場合もあるだろう。そんな考えも示してきた。しかし、この再稼働は条件を満たさず、認めることはできない。まず、原発を減らしていく過程での再稼働との位置付けが欠けている。政府が昨年閣議決定したエネルギー基本計画には、「原発依存度を可能な限り低減させる」との方針が盛り込まれた。これに従えば、確実に原発を減らしていくための工程表を描くことが政府の責務だ。ところが、7月に経済産業省が決定した2030年の電源構成は原発比率を20〜22%とした。これを実現するには40年廃炉の原則を超えた老朽原発の延命、建て替え・新増設が必要となる。ここに見え隠れするのは、なし崩しに原発依存社会に戻そうとする政権の意図だ。事故が起きた場合に住民への被害を最小限にとどめる、という必須条件も満たされていない。確かに新規制基準では以前は想定していなかった過酷事故も考慮し、求められる安全対策は厳しくなった。基準適合を審査する原子力規制委員会も独立性を高めハードルは高くなった。しかし、ハード面の対策強化は再稼働の必要条件であっても、十分条件ではない。福島の事故では指揮命令系統の混乱が事態を悪化させた。拡散する放射能の情報が住民に届かず、線量の高い場所へ逃げた人もいる。入院患者や介護施設の入所者の避難は大混乱し、避難途中や避難先で亡くなった人も多い。事故後、避難計画が必要な自治体は原発から30キロ圏に拡大され、川内原発の周辺でも計画自体は策定された。ところが、その計画の実効性を担保する住民の避難訓練が実施されていない。政府もそれを容認している。住民の安全確保に十分な備えがないまま再稼働を急ぐ姿勢は、「事故は起きない」と高をくくってきたかつての安全神話と根が同じではないか。住民の安全を守るためにもただちに避難訓練を行って問題点を抽出し、場合によっては原発再停止も考えるべきだ。
◇国民の意思反映させよ
 誰の責任で再稼働するのかが明確でない点も3・11前と変わらない。原発は民間ビジネスである以上、一義的には再稼働も安全確保も電力会社の責任だ。ただし、原発は政府の国策でもある。その政府は、「規制基準への適合」を再稼働の唯一のよりどころとし、一方の規制委は「基準への適合=安全」ではないとの認識を示している。これでは、福島の事故と同様、再び事故が起きた時に誰も責任を問われない不条理がまかり通ってしまう。さらに根本的な問題もある。原発・エネルギー政策を国民の納得のもとに進めようとする意思が政府にみられないことだ。各種の世論調査によれば、事故以降、ほぼ一貫して原発再稼働への反対が賛成を上回っている。毎日新聞が8、9日に実施した世論調査でも川内原発再稼働に「反対」との回答が57%を占めた。しかし、住民にこれほどの影響を与えた事故を経ても、国のエネルギー政策に国民の強い意思を反映させる手段は用意されていない。経産省の審議会を使って政策の方向性を決める手法は事故前のままだ。民主党政権時代には討論型世論調査など、曲がりなりにも国民の意思を反映させようとする努力はあった。現政権にはその姿勢すらない。原発を動かし続ける限り核のゴミがたまり続けるという問題も大きい。10万年後まで見越して最終処分する必要性があるのに、日本ではまったくめどが立っていない。たとえ事故が起きなくてもこの問題に解決の糸口がない以上、原発を長期的に維持するわけにはいかない。政府はまず原発ゼロに向けた具体的道筋を描くべきだ。避難計画や訓練を規制委が事前評価する体制作りも早急に進める必要がある。川内原発再稼働を原発回帰の踏み台にしてはならない。

*4-3:http://www.shinmai.co.jp/news/20150819/KT150818ETI090005000.php
(信濃毎日新聞 2015年8月19日) 原発維持費 国民の理解得られない
 やはり金食い虫である。昨年度に1基も稼働しなかった原発の維持、管理のために、電力9社が計1兆4260億円を使っていたことが明らかになった。内訳は人件費や修繕費、使用済み核燃料の再処理費などだ。停止していても熱を出す核燃料を常に冷やすことが必要で、専門的な技術を持つ多数の人員による日常的な点検も不可欠なためだ。多くは電気料金に転嫁され、消費者が負担した。維持、管理費の合計は、中堅電力会社1社の年間売上高に相当する。あまりに巨額ではないか。大手電力会社は、停止中の原発の維持費は「再稼働に向け必要な経費」とする。ただ、維持されている原発には、原子炉建屋直下に活断層が走る疑いがあるため再稼働が困難とみられる北陸電力志賀原発(石川県志賀町)や、運転開始から40年近い原発も含まれる。安全なエネルギーを求める国民の意向は明確だ。危険性を排除できない原発や老朽原発の維持費を、いつまで国民が負担するのか。電力会社は廃炉を増やす検討を始めるべきだ。一方で巨額の維持費は、電力会社が再稼働を進める動機にもなっている。運転時に必要となるコストと停止中のコストが大きく変わらないためだ。九州電力の場合、昨年度にかかった原発維持費は1363億円。自社発電の46%を原発が占めていた2010年度は2157億円で、37%しか減っていない。原発停止で火力発電の経費が2倍以上に膨らみ、原発の維持費も負担となった。電気料金の値上げでもコストを回収できず、決算は4期連続で最終赤字だった。九電が川内(せんだい)原発(鹿児島県薩摩川内市)の再稼働を急いだ理由はここにある。1、2号機が再稼働すれば今期は黒字に回復する見込みだという。原発は稼働させればさせるほど利益を生み出す一方、停止しても莫大(ばくだい)なコストがかかる。原発から抜け出しにくい構造といえる。ただ、来春の電力小売りの全面自由化後には、燃料費や人件費、維持費などを電気料金に組み込める「総括原価方式」が廃止される方向になっている。新規参入が相次ぎ、競争も激化するだろう。原発の追加安全対策や廃棄物の最終処理費なども増えることが想定される。原発は電力会社の重荷になる可能性がある。電力新時代に消費者に選んでもらえるよう、電力会社も将来を見据えた戦略を考えるべきだ。

*4-4:http://www.jiji.com/jc/zc?k=201508/2015082100245&g=soc
(時事ドットコム 2015/8/21) 川内1号機、出力上昇を延期=2次冷却水に海水混入か-九電
 九州電力は21日、再稼働した川内原発1号機(鹿児島県薩摩川内市)について、2次冷却水に海水が混入した恐れがあるため、予定していた出力上昇を延期すると発表した。25日に予定している出力100%到達も遅れる見通し。九電によると、2次冷却水を循環させる復水ポンプの出口で、水質を監視する「電気伝導率」の数値が上昇した。電気伝導率は2次冷却水に海水などの塩分が混入した場合に上昇するといい、九電は発電タービンを回した後に2次冷却水を海水で冷やす「復水器」の中に海水が混入した可能性があるとみて調べている。川内1号機は11日、新規制基準に基づき全国の原発で初めて再稼働した。出力は16日に50%、19日に75%に到達し、21日に95%に上昇させる予定だった。

*4-5:http://diamond.jp/articles/-/77425 (ダイヤモンド 2015年8月29日) 9300億円の訴訟を起こされた三菱重工!! 日米原発報道での一番の違いとは?
―広瀬隆×堀潤対談<中篇>
  『原子炉時限爆弾』で、福島第一原発事故を半年前に予言した、ノンフィクション作家の広瀬隆氏。壮大な史実とデータで暴かれる戦後70年の不都合な真実を描いた『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』が第4刷となった。本連載シリーズ記事も累計145万ページビューを突破し、大きな話題となっている。このたび、新著で「タイムリミットはあと1年しかない」とおそるべき予言をした著者が、「8bitNews」主宰者で元NHKアナウンサーの堀潤氏と初対談。放射能漏れ事故を起こし、9300億円の訴訟を起こされた三菱重工事件を米国現地で見た堀潤氏は、どう感じ、どんな行動に出たのか?アメリカと比較し、日本の原発報道はなにが問題なのか。川内原発再稼働で揺れる日本人の有益なモデルケースとなるかもしれない。
●放射能漏れを起こした三菱重工製の蒸気発生器
(広瀬)2012年1月に運転中だった3号機で、交換したばかりの蒸気発生器の配管に異常な摩耗が起きて、放射性物質を含む水が漏れた。その後、定期点検中だった2号機でも同様の摩耗が見つかった。サンオノフレ原発の蒸気発生器は三菱重工製でした。川内原発の再稼働で、私が最もこわいと思っているプラントで、川内原発も同じ三菱重工製ですからね。川内原発は再稼働した途端に、復水器で細管が破損しましたが、蒸気発生器の細管破損は、もっとこわいことです。くわしく聞かせてください。
(堀)ぼくがカリフォルニアに行った2012年6月頃、夏場の電力需給を考えると再稼働が必要ということになりましたが、地元住民を中心に反対の声が上がりました。「津波対策も不十分、情報公開もされていない」と。
(広瀬)アメリカでは、西部が地震と津波地帯ですからね。
(堀)アメリカの底力を感じたのは、パブリック・ミーティングを見てからです。さまざまなステークホルダー(利害関係者)、市民、原発の労働者、電力会社、米原子力規制委員会(NRC)、地元自治体、有識者、メディアなどが集まって、「サンオノフレ原発をどうするか」という話し合いが、いろいろなところで開かれていました。しかもそれがインターネットですべて公開されています。日本にはパブリック・ミーティングのような話し合いの場はなく、一方的な官製の説明会でごまかすので、市民側は裁判にいかざるを得ない。ここが大きく違います。
(広瀬)昔からアメリカのパブリック・ミーティングは制限時間がないので、いつも感心して見ていました。
(堀)たしかにヒアリングが長いです。
(広瀬)アメリカ人のよさはそこにある。怒鳴り合いもするけど、とにかく時間制限なしで徹底的に言い合う。これはアメリカだけではなくドイツもそうです。
(堀)そう、それぞれが持っている情報を出し合いながら、合意点を探す作業を丁寧に行います。これが本当のディスカッションだと思います。成熟した民主主義社会は、丁寧な議論ができる市民社会であるべきだし、情報を持っている機関は、公開することに心血を注いでいただきたい。
(広瀬)日本にはパブリック・ミーティングのような話し合いの場がないし、事実は隠蔽されたままです。成熟した民主主義社会には程遠いのが現状です。
(堀)私が2012年にアメリカに留学していた当時、米カリフォルニア州の電力会社サザン・カリフォルニア・エジソン(SCE)が運営しているサンオノフレ原発が再稼働問題に揺れていました。ディスカッションは意見ベースではなく、事実ベースで進みます。電力会社やメーカーはもちろん、環境団体や市民も、自分の感情や意見を排除して、事実と事実を突き合わせて、落としどころを探っていました。
●報道されなかった三菱重工への「抜き打ち調査」
(堀)2012年の事故発生後、エジソン社(電力会社SCE)と三菱重工は蒸気発生器の設計変更を発表しました。設計変更し、安全検査をクリアして、NRCが承認したら再稼働という流れでしたから、設計変更が完了した時点で、反対側の住民もいよいよ再稼働なのかと注視していました。そんなときNRC(米原子力規制委員会)が突然、神戸にある三菱重工の製造工場に抜き打ちで調査に入ったのです。その結果、定められた手順で安全検査を行っていないことを突き止めました。
(広瀬)日本でNRCの動きはまったく報道されていません。本当ですか?
(堀)三菱重工は、「確かに手順を飛ばした部分はあるが、安全管理上はまったく問題はない」と主張しました。それでもNRCはこれを問題視して、三菱重工の担当者とのすべてのやりとりをネットで公開しました。これによってサンオノフレ原発の廃炉が決定的になりました。SCEの親会社であるエジソン・インターナショナルは三菱重工に対し、検査や補修費用としてそれまでに1億ドル(当時のレートで約97億円)以上を請求していましたが、さらに廃炉に伴う損害賠償(約9300億円)を三菱重工に求めました。
(広瀬)最終的に、廃炉という決断を誰が下したのですか?
(堀)SCE(電力会社)です。修理して運転するより廃炉にしたほうが安いという判断でした。そういう判断を自分でできる電力会社はすごいと思います。
(広瀬)日本で報道されたのは事故が起きたことと、廃炉になったことだけです。でも、いちばん重要な部分は、NRCが三菱重工に査察に入ったことですね。そんな経緯があったなんて全然知らなかった。
(堀)これはビッグニュースですよね。しかし、日本では報道されていません。米国ではNRCが会見を開き、三菱重工とのやりとりをほとんどの局が報道していました。それなのに、日本では報道されない。でも今の私は、こうして事実を伝えられる自由な立場にいます。
●世界中から不信感を持たれる日本の原子力業界
(堀)最近、日本の電力会社の取材をしています。電力会社のある幹部は「社内や資源エネルギー庁から、堀さんの取材を受けて大丈夫なのか、と言われましたが、情報公開するにはどうすればいいか迷っている部分もあるし、こうやって話をするところから始めたい」という人もいました。他の電力会社の幹部も「どうやったら市民社会と接続できるのかを考えたい」と言っていました。
(広瀬)それはいつ頃の話ですか?
(堀)今年の7月終わりくらいです。その理由は、諸外国の原子力業界から声があがっている、日本の原子力業界への不信感です。日本の原子力業界は、事故後の対応や情報公開のやり方を世界中から批判されています。今年4月、第48回原産(日本原子力産業協会)年次大会が東京で開催されました。ブラジル、中国、フランス、インドなどの原子力部門の代表から「日本は情報公開ができていない」「あらゆるステークホルダー(利害関係者)を集めた場をつくるべき」という声があがりました。中国の代表からは「内陸部に原発をつくりたいけれど黄河を汚してしまったらとんでもないことになる。住民の声を受けて沿岸部にしかつくっていない。住民の声を聞くのが大事なんだ」と。OECD(経済協力開発機構)の原子力部門のトップからは「福島の事故は人的な側面が大きい。いくらテクノロジーを向上させても人間がエラーを起こしたらうまくいかない。そこで“心理学的側面から安全を担保する専門部署”を新たに立ち上げた」などの発表がありました。日本は事故から4年経っても業界の体質は大きく変わっていないのが現状です。
(広瀬)変わっていないどころか、原子力規制委員会は大事故が起こることを前提に川内原発を再稼動させたんですよ。地元民は「100%事故は起こらない」というから原発を誘致し運転を認めてきたのに、いまや「事故は起こる」といって動かしているのです。それが8月11日の川内原発再稼働という出来事です。だからトンデモナイことが始まったのです。
●なぜ、『東京が壊滅する日』を緊急出版したのか――広瀬隆からのメッセージ
 このたび、『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』を緊急出版した。現在、福島県内の子どもの甲状腺ガン発生率は平常時の70倍超。2011年3~6月の放射性セシウムの月間降下物総量は「新宿が盛岡の6倍」、甲状腺癌を起こす放射性ヨウ素の月間降下物総量は「新宿が盛岡の100倍超」(文部科学省2011年11月25日公表値)という驚くべき数値になっている。東京を含む東日本地域住民の内部被曝は極めて深刻だ。映画俳優ジョン・ウェインの死を招いたアメリカのネバダ核実験(1951~57年で計97回)や、チェルノブイリ事故でも「事故後5年」から癌患者が急増。フクシマ原発事故から4年余りが経過した今、『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』で描いたおそるべき史実とデータに向き合っておかねばならない。1951~57年に計97回行われたアメリカのネバダ大気中核実験では、核実験場から220キロ離れたセント・ジョージで大規模な癌発生事件が続出した。220キロといえば、福島第一原発~東京駅、福島第一原発~釜石と同じ距離だ。核実験と原発事故は違うのでは?と思われがちだが、中身は同じ200種以上の放射性物質。福島第一原発の場合、3号機から猛毒物プルトニウムを含む放射性ガスが放出されている。これがセシウムよりはるかに危険度が高い。3.11で地上に降った放射能総量は、ネバダ核実験場で大気中に放出されたそれより「2割」多いからだ。不気味な火山活動&地震発生の今、「残された時間」が本当にない。子どもたちを見殺しにしたまま、大人たちはこの事態を静観していいはずがない。最大の汚染となった阿武隈川の河口は宮城県にあり、大量の汚染物が流れこんできた河川の終点の1つが、東京オリンピックで「トライアスロン」を予定する東京湾。世界人口の2割を占める中国も、東京を含む10都県の全食品を輸入停止し、数々の身体異常と白血病を含む癌の大量発生が日本人の体内で進んでいる今、オリンピックは本当に開けるのか?同時に、日本の原発から出るプルトニウムで核兵器がつくられている現実をイラン、イラク、トルコ、イスラエル、パキスタン、印中台韓、北朝鮮の最新事情にはじめて触れた。51の【系図・図表と写真のリスト】をはじめとする壮大な史実とデータをぜひご覧いただきたい。「世界中の地下人脈」「驚くべき史実と科学的データ」がおしみないタッチで迫ってくる戦後70年の不都合な真実!よろしければご一読いただけると幸いです。
*広瀬 隆*1943年生まれ。早稲田大学理工学部卒。公刊された数々の資料、図書館データをもとに、世界中の地下人脈を紡ぎ、系図的で衝撃な事実を提供し続ける。メーカーの技術者、医学書の翻訳者を経てノンフィクション作家に。『東京に原発を!』『ジョン・ウェインはなぜ死んだか』『クラウゼヴィッツの暗号文』『億万長者はハリウッドを殺す』『危険な話』『赤い楯――ロスチャイルドの謎』『私物国家』『アメリカの経済支配者たち』『アメリカの巨大軍需産業』『世界石油戦争』『世界金融戦争』『アメリカの保守本流』『資本主義崩壊の首謀者たち』『原子炉時限爆弾』『福島原発メルトダウン』などベストセラー多数。
*堀潤*元NHKアナウンサー、1977年生まれ。 2001年NHK入局。「ニュースウォッチ9」リポーターとして、おもに事件・事故・災害現場を取材し独自取材で他局を圧倒。2010年、経済ニュース番組「Bizスポ」キャスター。2012年、米国ロサンゼルスのUCLAで客員研究員、日米の原発メルトダウン事故を追ったドキュメンタリー映画「変身 Metamorphosis」を制作。2013年、NHKを退局しNPO法人「8bitNews」代表に。現在、TOKYO MX「モーニングCROSS」キャスター、J-WAVE「JAM THE WORLD」ナビゲーター、毎日新聞、「anan」などで連載中。2014年4月より淑徳大学客員教授。


PS(2015.8.31追加):スズキは自らの小型車開発技術を武器に、VWが次世代の環境技術や高級車を持ち寄って収益を拡大させる狙いでVWと資本提携していたが、*5のように、お互いに満足いく結果が得られず、提携関係を解消したそうだ。しかし、日本の自動車メーカーが次世代の環境技術をドイツのメーカーに頼るというのは、日本の方が環境技術先進国だっただけに、先見の明がなかったと言わざるを得ない。一方で、スズキは軽自動車に強く、女性がよく使用しているため、日産とジョイントベンチャーを作って、自動運転機能付で素敵なデザインの電気軽自動車を、次々と世に出したらどうだろうか。女性は、操作が簡単で使いやすく、環境意識の高いおしゃれなデザインの便利な車が好きなのであって、匂いや排気ガスを出すガソリンエンジンに価値を見出しているのではないことを忘れてはならない。

*5:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150831&ng=DGKKASDZ30H6A_Q5A830C1MM8000 (日経新聞 2015.8.31) スズキ、VWと提携解消、国際仲裁決着、全株買い戻し 5000億円規模
 スズキは30日、独フォルクスワーゲン(VW)との資本提携を解消すると発表した。2009年の提携後、経営の独立性などを巡って対立し、英ロンドンの国際仲裁裁判所(総合・経済面きょうのことば)を通して4年弱にわたり争っていた。VWが保有する全てのスズキ株式、19.9%分を買い戻す。買い戻し金額は5千億円規模になる見通し。今後のスズキの新たな生き残り策は、世界自動車メーカー再編の引き金となりそうだ。29日、国際仲裁裁判所が両社に仲裁判断を通知した。主な内容は「包括提携の解除を認める」「VWに保有するスズキ株の売却を命じる」「VWが主張していたスズキの技術関連の契約違反について一部認め、損害賠償も含め引き続き審議する」の3つ。損害賠償が発生した場合の金額などが焦点となる。現在のスズキの時価総額で計算すると株式買い取り額は約4600億円となり、株価次第では増加する可能性がある。VWは約2200億円で取得していた。スズキは15年3月期末時点で約1兆1千億円に上る手元資金のほか、持ち合いで保有する1.5%分のVW株(時価で約1千億円)も売却し、自社株買いの原資とする見通しだ。30日、スズキの鈴木修会長は記者会見で「最大の目的を達成した。結果に満足している」と話した。VWはスズキ株売却により「利益と流動性の面でよい影響がある」との声明を出した。スズキは米ゼネラル・モーターズ(GM)との提携を通じて成長してきた。だが、GMの経営不振で提携解消となったことを機に、09年にVWと資本・業務提携を発表した。スズキが小型車開発技術、VWは次世代の環境技術や高級車を持ち寄ることで、収益を拡大させる狙いだった。当初、両社は「対等関係」を強調していた。VWの19.9%という出資比率は、持ち分法適用会社化を避けるといった意味合いがあった。しかし、VWは年次報告書で持ち分法適用会社と表記し、事実上の傘下企業と位置づけた。スズキはVWの環境技術の開示が十分でないとも主張していた。一方、VWはスズキがフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)からディーゼルエンジンを調達したことを提携合意違反だと表明。溝が生じていった。スズキは11年9月、提携解消を申し入れたが、提携の証しだった株の買い戻しにVWは応じなかった。このため同11月に国際仲裁裁判所に提訴していた。4年弱にわたる係争はスズキの海外戦略や次世代技術開発などに影響を及ぼしていた。世界販売では約280万台で10位にとどまり、持続的成長には新たな提携先を模索する可能性が高い。


PS(2015.9.1追加):IAEAが東電福島第一原発事故最終報告書を公表し、「日本では原発が安全という思い込みが浸透していたが、いかなる国も原子力安全について自己満足に浸る理由はない」としているのは、全くそのとおりだ。しかし、*6-2-1のように、福島県の検討委員会が、福島県の小児甲状腺癌の割合が通常より非常に高いにもかかわらず、「チェルノブイリ原発事故の過去の知見を踏まえると、現時点では原発事故の影響とは考えにくい」としているのは、チェルノブイリとフクシマにおける被曝状況や検査体制が全く同じではないため合理性がなく、「原発事故の影響とは考えにくい」と言うのなら、疫学の専門家も納得できるような科学的根拠を示すべきである。さらに、*6-2-2のように、甲状腺癌を「悪性ないし悪性の疑い」というマイルドな言葉を使って不明確化しているのも意図的だ。そのため、*6-3のように、静岡県の保険医協会が九電川内原発の再稼働に抗議して、エネルギー政策の転換を求める理事会声明を発表したのはもっともだ。

*6-1:http://www.asahi.com/articles/ASH9131SRH91ULBJ001.html
(朝日新聞 2015年9月1日) 「原発は安全と思い込み」が要因 IAEAが事故報告書
 2011年3月の東日本大震災で起きた東京電力福島第一原発の事故について、国際原子力機関(IAEA)は8月31日、最終報告書を公表した。事故の主な要因として「日本では原発が安全という思い込みが浸透していた」としたうえで、事故対応の設備や手順などの備えが不十分だったと指摘している。14日からはじまる総会に提出される。報告書は約200ページ。事故の原因や影響を評価し、教訓を共有するために作成された。42カ国の約180人が参加し、5冊の技術解説書(計約千ページ)もまとめた。IAEAのホームページで読むことができる。巻頭で天野之弥・IAEA事務局長は日本の原発は非常に安全だという前提で運転されていたことを踏まえ、「いかなる国も原子力安全について自己満足に浸る理由はない」と述べた。報告書では、原発の設計や緊急時対応で弱点があったことに加え、外部電源が長時間失われる事態や複数の原子炉が事故を起こす想定がされていなかったことなどを指摘している。

*6-2-1:http://www.asahi.com/articles/ASH805SMGH80UGTB00M.html
(朝日新聞 2015年8月31日) 甲状腺がん新たに1人 福島の子ども、計104人に
 福島県は31日、東京電力福島第一原発事故による健康影響を調べる甲状腺検査で、今年4月から6月末までに新たに1人が甲状腺がんと診断されたと発表した。検査対象となる事故当時18歳以下だった約38万5千人のうち甲状腺がんと確定したのは合計104人になった。2011年から昨年3月末までの1巡目の検査結果を基準に、2巡目以降の検査結果と比べ、がんが増えるかどうかをみる。これまで1巡目検査で98人、今年度末まで続く2巡目検査で計6人ががんと診断された。県検討委員会は「チェルノブイリ原発事故で甲状腺がんになった子どもの被曝(ひばく)線量や年齢といった過去の知見を踏まえると、現時点では福島で見つかった甲状腺がんは原発事故の影響とは考えにくい」としている。

*6-2-2:http://www.sting-wl.com/fukushima-children6.html (福島原発事故後の日本を生きる 2015年8月31日) 【最新】福島の甲状腺がん急増→子供達の身にいったい何が起きた?
 2015年8月31日に公表された最新の福島県民調査報告書によると、福島県の小児甲状腺がん及び疑いの子供達は、3か月前…前回の126人から11人増えて合計137人になりました。福島県の発表は甲状腺がんを、悪性…悪性とはがんのことですが『悪性ないし悪性の疑い』という言葉を使い、あたかも甲状腺がんでない子ども達もこの中に含まれているように書くことで、焦点をぼかしチェルノブイリ原発事故との比較を困難にしています。しかし137人のうち手術を終えた105人の中で、良性結節だったのはたった1人にすぎず、101人が乳頭癌、3人低分化癌との診断です。つまり『悪性ないし悪性の疑い』のうち99%は、小児甲状腺癌でした。ですので疑いという言葉を過大評価して安心するのは危険です。

*6-3:http://mainichi.jp/area/shizuoka/news/20150828ddlk22040097000c.html (毎日新聞 2015年8月28日) 鹿児島・川内原発:再稼働 抗議の声明発表 静岡県保険医協会
 静岡県内で開業している医師、歯科医師2320人で組織する県保険医協会(聞間元・理事長)は27日、九州電力川内原発(鹿児島県)の再稼働に抗議し、エネルギー政策の転換を求める理事会声明を発表した。声明では「九州電力管内でも電力需要は安定しており、電力不足を理由とした再稼働の根拠は崩れている」と指摘。御前崎市の中部電力浜岡原発についても「中部電幹部からは『手続きを進めやすくなる』との歓迎の声が上がっており、なし崩し的に再稼働が進むことを危惧する」と主張した。


PS(2015年9月3日追加):*7のように、労基署は、タイムカードによる出退勤記録を金科玉条の如く重視して労基法違反としているが、タイムカードによる拘束時間が仕事量と比例するのは、流れ作業で組み立てを行い、会社の拘束時間と成果が比例する製造業など一部の産業に限られるため、全業種でタイムカードのみを金科玉条の基準として運用するのは問題がある。例えば、営業は、普段からタイムカードでは集計されない多方面での付き合いで人脈を作っている人は成果が上がりやすく、タイムカード上、長く会社に拘束されていても成果は上がらない。また、組織再編などのコンサルティングも、長時間考えても答えを出せない人もいれば、少し調べれば適切な答えを出せる人もおり、これは記者も同じだろう。つまり、知識の集積、経験の積み重ね、人脈などはタイムカードでは測れず、タイムカード偏重は働き方の問題にも繋がるのである。また、直属の上司の時間管理や指導は、公正な業績評価のみならず、要領を得た働き方を教えるオン・ザ・ジョブ・トレーニングとしても重要だ。

*7:http://qbiz.jp/article/70138/1/
(西日本新聞 2015年9月3日) 福岡大同青果、残業不払い 労基署是正勧告、勤務時間短く算定
 市場での卸売業で九州最大の福岡大同青果(福岡市博多区)が、残業代の一部を社員に支払っていなかったことが分かり、福岡中央労働基準監督署が労働基準法違反で是正勧告していたことが分かった。労基署は、タイムカードによる出退勤記録よりも意図的に残業時間を少なくしていたと認定。同社は事実関係を認めた上で「勤務体系を変え、既に改善した」と説明している。同社は、福岡市が開設する中央卸売市場の中核企業。かつては、競り時間に合わせて早朝出勤し、夕方前に退社する勤務体系が主流だった。ただ、ここ10年ほどで特定のスーパーと産地を同社が仲介する「相対取引」が増えるに従い、長時間の過重労働が慢性化。この過程で、残業代の不払いが増えてきたとみられる。労基署は、(1)多くの従業員でタイムカードより少なく勤務時間を算定していた(2)営業担当の部長らに労働時間を管理させていた−ことから、「意図的」と判断した。西日本新聞の取材に、社員の一人は「多いときは月150時間を超える残業があった。だが、上司が経費を抑えるため、残業時間の半分程度しか認められなかった」と証言した。月80時間を超える残業は過労死の恐れが強まるとされる。同社は取材に、一部で残業が100時間を超える過重労働や休日のサービス残業があったことも認めた。同社への是正勧告は昨年12月16日付。これを受け「違法と指摘された点は3月までに改善した」としている。ただ、同社の物流子会社も同様の是正勧告を受けたが、関係者は「改善が遅れている」と明かす。福岡市は今回の件について「青果物の取引と関係ない」として調査しない方針。大同青果に業務認可を出している農林水産省は「再び発生しないように注意を払いたい」としている。同社の売上高は約630億円で、社員数は約180人。来年2月、福岡市東区のアイランドシティ(人工島)で建設中の新市場に移転する予定。


PS(2015年9月4日追加): *8の小水力発電は、農業用水などの小さな流れでもかなりの電力を発電できるため、農業用ハウスの無料のエネルギー源として使うと、安いコストでハウス栽培ができそうだ。この際に、地中熱(一年中、摂氏16度前後)で空気を適温に近くしてからエアコンを使うと、さらに節電できるとのことである。

*8:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/225948
(佐賀新聞 2015年9月4日) 県、小水力発電普及へ助成 事業者を募集
 佐賀県が小水力発電の普及を目指している。再生可能エネルギー分野の裾野を広げ、新たな産業につなげる狙いで、技術開発や実証事業に取り組む県内事業者を募集している。小水力発電は河川や水路の水をためることなく、そのまま利用する発電方式。昼夜や年間を通して安定した発電が可能で、太陽光に比べて設備利用率が高い点などが長所とされる。出力は大きくないものの、独立した電源として多目的に使え、売電収入も見込める。募集は県内の民間企業や団体、大学・研究機関などを対象にしている。小水力発電の開発や普及につながる新規事業に対して経費を助成する。補助率は総事業費の2分の1以内で、250万円を上限とする。事業期間は来年3月10日まで。県内16カ所の水力発電のうち、出力が1千キロワット以下の小水力発電は5カ所にとどまる。水利権に加え、落差と流量が見込める設置場所の確保がネックになっているが、新エネルギー課は「唐津や脊振、太良の山あいなどには適した環境がある」とみている。県内に小水力発電メーカーは2社あり、県は2018年度までに4社に増やす目標を新総合計画に掲げている。応募は9月25日まで受け付け、審査で1、2件を採択する。問い合わせは新エネルギー課、電話0952(25)7522。


PS(2015年9月11日追加):原発に余分なコストを払わずにすむ新電力の方が電気料金を安くすることができるため新電力に移行が進むのは自然だが、電力自由化後は、一般家庭もこういう選択ができるようになる。そのため、大手電力会社も電源別に別会社にして、それをアピールする子会社の名称にし、正確にコスト管理を行って電力の価格を決めなければ、顧客が離れるということだ。

*9:http://qbiz.jp/article/70589/1/
(西日本新聞 2015年9月10日) 自治体の大手電力離れ進む 新電力購入額が震災前の1.8倍に
 全国の都道府県と政令市、中核市の計112自治体が2014年度、特定規模電気事業者(新電力)から電力を購入した総額は488億円に上り、東日本大震災前の10年度(269億円)と比べ1・8倍に増えたことが、全国市民オンブズマン連絡会議の調査で分かった。大手電力会社から購入する場合と比べた節減額について、連絡会議は17億6千万円と試算とした上で「震災後の電気代の値上げで、自治体の電力へのコスト意識が高まった」と分析している。調査によると新電力から購入した自治体数は68で、10年度と比べ17増加。国が自治体に電力の調達方法を随意契約から一般競争入札に替えるよう促していることも背景にあるとみられる。九州15自治体の購入額は64億円で、震災前の1・6倍に増えた。節減額は5億円。福岡県(14億8千万円)や宮崎県(8億7千万円)の購入額が大きく、両県とも新電力の購入割合が5割を超えた。一方で長崎、大分、宮崎の3市は、新電力からの購入はゼロ。全て九州電力から随意契約で調達していた。購入額に占める新電力の割合は、都道府県と中核市で約1割、政令市で約2割。今後も新電力が伸びる余地は大きい。福岡県は本年度、本庁舎の電力について、大手電力と新電力を組み合わせる「部分供給」という方式を九州7県で初めて導入した。九電1社から購入した場合より、3400万円を節減できたという。来春の電力小売りの全面自由化を前に、福岡県みやま市など、自治体が新電力事業に参入する動きも全国で広がっている。連絡会議事務局の内田隆さん(40)は「自治体の大手電力離れはさらに進むだろう。今後は安価な電力を求めるだけでなく、再生可能エネルギーの比率を高める視点も必要ではないか」と話した。


PS(2015年9月11日追加):スズキは軽自動車を作っているのに自動運転や電気自動車の技術が遅れているため、*10のような提携をすればよいと考える。何故なら、軽自動車を使っているのは女性(特に主婦)が多く、①子どもの送り迎え ②郊外のスーパーへの買い物 ③通勤 などが目的であるため、自動運転に切り替えられる車は便利だし、かつ、安全性への要求、コスト意識、環境意識が高いからだ。つまり、どの企業も、時代をリードできなければ、せめて時代の変化にはついていかなければならない。

*10:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150911&ng=DGKKASDZ10HPY_Q5A910C1TJC000 (日経新聞 2015.9.11) 自動運転車で日本車メーカーと提携交渉、グーグルの研究部門、生産委託など協力仰ぐ
 米グーグルの研究開発部門「グーグルX」のトップを務めるアストロ・テラー氏は10日、日本経済新聞の取材に対し、開発中の自動運転車について「日本でも様々な企業と話し合いを続けている」と述べ、複数の日本企業と提携に向けた交渉に入っていることを明らかにした。さらに「自前の工場は持たない」と語り、事業化の段階では生産委託などの形で自動車メーカーの協力を仰ぐ方針を表明した。グーグルは運転手なしで安全に走る自動車を次世代の中核事業のひとつに位置づける。トヨタ自動車の「レクサス」など既存の車両を改造して、米カリフォルニア州のマウンテンビュー市などで公道を使った走行実験に取り組んでおり、関係者の間では「17~20年には実用化しそうだ」との期待が高まっている。テラー氏は自動運転車の最終目標を「事故による死亡者をゼロにし、渋滞の間に失う1年間で1兆ドル相当の経済価値を取り戻すこと」とし、この目標を共有できる提携相手を日本でも探しているとした。さらに「よく誤解されるが、我々がメーカーになって車の販売台数を増やすことが目標ではない」と述べ、既存の自動車メーカーとは競合関係にないことを強調。グーグルはセンサーやソフトウエアなどの開発に専念し、最終的な自動運転車の販売・普及の段階では自動車メーカーと組むとの方針を示し、一部の自動車メーカーが懸念する「グーグル脅威論」を否定した。グーグルは既に自動車部品大手の独ボッシュや韓国LG電子などと提携している。日本企業との関係については「我々はオープン。具体的な社名を明かすことはできないが、部品メーカーと完成車メーカーの双方と話し合いを続けている」と語った。グーグルXが中心となって開発を進め、プライバシー保護の観点から計画が滞っているとされる眼鏡型ウエアラブル端末「グーグルグラス」については「私の部門を『卒業』し他の部門に移った。得られた知見は多くの場面で生かされている」と述べた。
*アストロ・テラー氏:1992年米スタンフォード大卒。98年に米カーネギーメロン大学で人工知能(AI)の研究で博士号取得。投資管理会社などの最高経営責任者(CEO)を経て、2010年からグーグルXの統括責任者である「キャプテン・オブ・ムーンショット」(前代未聞な船の艦長)を務める。AIをテーマに近未来SFを執筆するなど、小説家としての顔も持つ。

| 原発::2015.4~10 | 09:53 PM | comments (x) | trackback (x) |
2015.8.14 川内原発はじめ他の原発の再稼働について (2015年8月15、16、17、26、27、28日に追加あり)
       
  2015.8.?   2015.8.11 2015.8.12    2015.8.12     
  東京新聞    佐賀新聞   佐賀新聞      朝日新聞
 
      
   2015.8.1~7     2015.8.12   九州の     2015.8.12  
  最大電力使用率      朝日新聞    火山分布     産経新聞

(1)原発のコストは安くなく、川内を再稼働の雛型にしてはならないこと
 *1-1のように、九電が川内原発1号機を再稼働させて8月14日に発送電を開始し、「原発ゼロ」の状態が終わってエネルギー政策が原発に回帰し、佐賀新聞はこれを祝うように号外で報じた。しかし、「電力が足りない」という再稼働の根拠は、上の東京新聞や*1-4のように、代替電源や広域融通で既に解決されており、原発自体は課題が山積している。しかし、電力業界と経済界は「大きな一歩が踏み出された(経団連の榊原定征会長)」と歓迎しており、ここが原発再稼働のメリットを最も大きく受けるようだ。

 しかし、「原発はコストが安い」と言われてきたことについては、*1-2のように、「核のごみ処分」の目途も立っておらず、「国が責任を持って立地自治体以外に最終処分場を造れ」と言う人もおり、強引に川内原発再稼働を進めた鹿児島県の伊藤知事も最終処分場の鹿児島県への建設には反対している。

 そもそも電力会社は、核のごみ処分費用については見積もりを作って引当金を計上し、引当金繰入額と原子力由来の電力販売収益を毎期対応させてコスト比較を行うべきだったのだ。つまり、他の電源を使いたいと主張している再稼働反対派や受益者ではない将来世代に、今後発生する核のごみ処分費用を税の形で負担させるのは、受益者と負担者が一致しないため不公正なのである。

 また、行き場のない大量の核のごみが原発内の貯蔵プールに溜まっているのは今でも危険であり、その原発を再稼働してメリットがあるのは九電と一部の企業にすぎない。そのため、私も、*1-3のように、川内原発を雛型にして、次々と原発を再稼働してはならないと考える。なお、原子力規制委員会の新規制基準は、火山の大規模噴火を想定しておらず、避難計画も不備であり、*4-3のように、長期避難は想定外であるため、欠陥品である。さらに、放射性物質が拡散して線量も十分に下がっていない場所に住民を帰還させるのは、非人道的としか言いようがない。

 「原発がなければ安定的な電力が不足する(これこそ10年1日の如く言われる科学的でない観念論である)」として、政府(経産省)は2030年の電源構成目標で原発をベースロード電源として原発比率を20~22%と決めたが、*1-3のように、先進国ではベースロードという概念は消え、再エネを含めた多様な電源やサービスを公正な条件のもとで消費者が選ぶ時代になっている。それにもかかわらず、太陽光発電などの技術を最初に作った日本が、古い観念に縛られて割に合わない原発に回帰するのは愚かであり、さらに、電源構成を決めるというのは計画経済であって市場経済ではない。

(2)原発再稼働の受益者は誰か
 *2-1のように、九電は原発再稼働を業績回復の「切り札」として再稼働による収支改善に期待を寄せ、他の電力会社からねぎらいの連絡もあったそうで、再稼働の最大の受益者は電力会社である。しかし、「原発ゼロ」でも、値上げにより電力会社の黒字化は進んでいたし、電力会社の赤字解消が原発再稼働の目的であれば、原発がらみのコストはすべて電力会社が負担した上で他の電源と比較すべきだ。

 さらに、*2-2のように、大口需要先として優遇を受けている経済界からも「大きな一歩」と再稼働に歓迎の声が上がったそうだが、立地地域の商工会トップは原発の増設は「非現実的」として、原発だけに頼らない地域経済を模索する必要性を強調しており、原発立地地域も次の時代の産業に進むべき時だ。

(3)原発事故の責任者は誰か
 *3-1のように、業界は無責任体質で、立地自治体がそこまで「振興のため必要だ」と言うのなら、東京でかつての脱原発のうねりが消えるのも尤もではあるが、*4-4のように、立地自治体や周辺地域の住民も脱原発派の方が多い上、関東も鹿児島県で原発が過酷事故を起こせば汚染が広がって九州の安全な農水産物を食べられなくなるため、本当は深い関係を持っている。

 そのような中、電力会社と立地自治体の利益のために原発を再稼働させながら、*3-2の「政府は原子力の必要性とエネルギー政策の転換を改めて国民に説明し、原子力利用に伴う最終責任を国が引き受けることを明確にすべきだ」という主張には呆れるほかない。

 そのため、2016年に自由化される電力市場では、電力需要者に好みの電源由来の電力を使う選択権を与えるべきである。そうすれば公正な市場競争と消費者の見識によって原発は消え、それを無理やり残そうとすれば国民の福利を最大にしないことが明らかになるからだ(経済学の基本)。

(4)過酷事故時の汚染範囲と汚染期間
 *4-1のように、約2年間の「原発ゼロ」が終わり、「新基準は世界でも最も厳しいレベルだから、新基準に合格しさえすれば安全だ」という新たな安全神話ができた。そして、これまで規制委に審査を申請したのは、川内を含めて15原発の計25基あり、高浜原発は福井地裁が運転を認めない仮処分の決定を出したが、川内原発は鹿児島地裁が仮処分の決定を出さなかった。

 しかし、川内原発の周辺では、高齢者の多い医療施設や福祉施設で住民の避難計画が十分に整っていない上、*4-2のように、放射性物質の放出量や気象条件、地形などのデータを基に放射性物質の拡散範囲や量を予測する「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)」は住民の避難に活用しないことが決められ、被曝前に避難することが不可能になった。さらに、*4-3のように、長期避難は、今も想定外になっている。

 川内原発再稼働は、*4-4のように、鹿児島県の伊藤知事が主導権を握って強引に進めたが、蚊帳の外にされた自治体も安全だというわけではない上、周辺の大切な農林水産業もダメージを受ける可能性が高い。そのため、私は、鹿児島県知事をリコールして、正確に次のステップに進める知事に選び直すしかないと考える。

 また、*4-5のように、過酷事故時は高線量の下で誰が突入するかも深刻な問題だ。過酷事故はテロ以外にも、*4-6の火山噴火やミサイル攻撃等でも起こり、作業員の被曝線量限度を100ミリシーベルトから250ミリシーベルトに引き上げたからといって人の手に負えるものではない。そのため、他のクリーンな発電方法も多い中、私は、発電のために国の存続や命を懸けなければならないとは思わない。

<原発再稼働の責任者について>
*1-1:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/218064
(佐賀新聞 2015年8月11日) 川内1号機が臨界、エネルギー政策、原発回帰
 九州電力は11日、川内原発1号機(鹿児島県薩摩川内市)の原子炉を起動し再稼働させた。核分裂反応が安定的に持続する「臨界」に同日深夜に達し、14日に発電と送電を開始する。国内の全ての原発が停止した「原発ゼロ」状態は終わり、日本のエネルギー政策は原発に回帰。「核のごみ」問題など課題が山積し、世論の反対も根強い中、安倍政権は新規制基準に適合した原発の再稼働を進める方針だ。電力業界や経済界は「大きな一歩が踏み出された」(経団連の榊原定征会長)と歓迎。一方、国会前や川内原発前では市民団体が「福島の事故を忘れるな」などと訴える抗議集会を開いた。

*1-2:http://qbiz.jp/article/68867/1/
(西日本新聞 2015年8月14日) 【原発が動いた日〜川内1号機再稼動】(下)核のごみ
●限界迫る“行き場”探し
 九州電力川内原発1号機(鹿児島県薩摩川内市)の原子炉が起動し、3時間後の同市役所。記者会見の席で、原発から出る「核のごみ」の処分にめどが立っていないことを問われた岩切秀雄市長(73)は予防線を張った。「(原発の)リスクは全国で公平に負うべきだ」。国が責任を持ち、立地自治体以外に最終処分場を造れとの意思表示だ。原発関係者は「処分場」と聞くと、フィンランドを思い浮かべる。世界で最も核のごみへの準備が進む同国では、経済的利益がある原発新設と引き換えに、地元が処分場を受け入れた。同県では、伊藤祐一郎知事(67)も地元建設には一貫して反対。九電玄海原発がある佐賀県玄海町の岸本英雄町長(62)も引き受ける考えがない。処分場の用地選定は、福島第1原発事故の前でさえ進まなかった難事業。原発への拒否反応が広まる中、予定地を探すことは可能なのか。
   ◇    ◇
 京都教育大(京都市)で9日まであった日本エネルギー環境教育学会で、経済産業省名のペーパーが参加者に配られた。「処分地の選定調査にも着手できていない状況」を反省しつつ、最終処分問題を授業で扱ってくれる学校には、教材提供や講師派遣で支援するとの文面だ。処分事業は立地調査から埋め終えるまで100年以上かかり、推進には将来世代の理解が不可欠。一部小中学校で試験的に取り入れられるようになったのはここ1、2年にすぎず、政府が原発回帰へとかじを切った今、将来世代教育は待ったなしの課題だ。同大には核のごみの処分計画を紹介する、経産省認可法人の展示車が乗り入れていた。見学を終えた和歌山市の高校3年中井仁さん(17)が首をかしげる。「処分場がないのに、再稼働で核のごみが増えるのはどうなんでしょう。結局、僕ら世代の負担になる」
   ◇    ◇
 お盆に入った13日、再稼働当日に反対派であふれていた川内原発のゲート前は静まりかえっていた。
 川内2号機も動けば、九電は本年度決算の黒字化が見える。原子力規制委員会で審査が進む玄海原発3、4号機も再稼働すれば、経営のV字回復は確実。ただ、使用済み核燃料を再処理してウランなどを再利用する核燃料サイクル政策は、再処理工場(青森県六ケ所村)稼働にめどがつかない。行き場のない核のごみは原発敷地内にたまり続け、川内で10年、玄海だと4年の運転で貯蔵プールは限界に達し、原発は動かせなくなる。川内1号機は14日、発送電を開始する予定。核のごみ問題の解決なしに10年後の安定運転は見込めない。

*1-3:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11911199.html
(朝日新聞社説 2015年8月12日) 原発再稼働 川内をひな型にするな
 福島第一原発事故を契機に改められた原子力規制委員会の新しい規制基準に合格した第1号でもある。政府は川内を皮切りに、規制委の審査をパスした原発はすべて動かす方針だ。しかし、今回の再稼働の決定過程には問題が多い。火山の大規模噴火について規制委の審査には疑問が投げかけられたままだ。避難計画も不備が指摘され、鹿児島県民の半数以上が再稼働に反対とする世論調査もある。誰の判断と責任で再稼働が決まったのか、あいまいだ。こうした疑問や問題、さらには民意を置き去りにした見切り発車の再稼働は認められない。川内の決め方をひな型として今後も再稼働を決めていくこと、なし崩しで原発依存に戻すことには反対である。
■消えるベースロード
 今回の再稼働に先立って、政府は2030年時点の電源構成目標を決定し、原発の比率を20~22%という水準においた。新たに原発をつくるか、相当数の老朽原発の寿命を延ばさないと達成できない数字だ。関西電力の八木誠社長(電気事業連合会会長)は先月末の会見で「(建設中の3基を含む)46基の原発を相当数稼働していく必要がある数字だと理解している」と語った。国と電力会社は原発回帰を既定路線にしようとしている。原発の位置づけは「ベースロード電源」だ。「発電コストが安く、出力が安定しているので昼夜を問わず運転を続ける電源」だという。しかし、先進国ではベースロードという概念自体が消えつつある。風力や太陽光などの再生可能エネルギーをできるだけ受け入れ、原発や火力発電は、再エネによる発電が少ないときの調整弁へと役割を変えている。こうした運用を可能にしているのが、電力改革だ。欧州では送電部門を発電部門から分離・独立させ、一元的に管理・運用している。天候に左右されがちな再エネも、精緻(せいち)な天気予報に基づいて広域的に融通させることで、需要に見合うようにしている。今後は、変動する電力需要にあわせて柔軟に供給をコントロールする技術が世界の電力ビジネスのカギになると見られている。日本も、遅まきながら電力改革に着手した。今国会で仕上げとなる法律も成立した。2020年までに3段階で改革を進める。再エネを含めた多様な電源やサービスが公正な条件のもとで競い合い、消費者が選んでいく。そんなエネルギー社会に変わることが期待されている。
■割に合わない電源に
 原発を支えてきた地域独占や、経費をそのまま消費者に転嫁する料金制度もなくなる。「安い」とされてきた原発だが近年、建設や運営にかかるコストは世界的に上昇の一途だ。世界有数の原発メーカーであるフランスのアレバは新設原発のコストが膨らんで経営が行き詰まり、政府が救済に入った。不正会計に揺れる東芝も、強化してきた原子力部門が経営の重荷になりつつある。国内の電力各社は追加の安全対策に2・4兆円を見込む。今後も新しい対策が出るたびに追加投資を迫られるだろう。廃棄物の処理や立地のための交付金制度、事故時の賠償金などを積み上げていくと、原発は「割に合わない」電源であり、新しい電力システムの中では成り立たない事業であることが見えてくる。何より、国民の過半数が「原発を使わなくてすむ社会」を望んでいる。
■再エネ築く覚悟を
 政府がいま取り組むべきは、再稼働を重ねて原発を主軸に戻していくことではない。一時的に原発に頼るとしても、老朽原発や安全面に疑問符がつく原発から優先的に廃炉にすると同時に、再エネを育てていくことである。自然環境から見て、九州は最適地の一つだ。この間、再エネの固定価格での買い取り制度が始まり、地域の特性を生かした「ご当地電力」が各地に誕生した。太陽光発電に偏っている問題や、買い取り価格を見直す課題はあるが、自給できて温暖化防止にも役立つ電源を伸ばそうという機運は、着実に育っている。当面は支援が必要だが、送電網への接続といったインフラが整って普及すれば、今より安くて持続的な電源となる可能性が高い。もちろん、再エネを主軸とした分散型エネルギー社会を築くには、時間もかかるし、曲折もあるだろう。国民の覚悟もいる。高い電気料金を受け入れなければならない時期があるかもしれない。それでも、福島での事故で、私たちは原発の怖さを知った。新しいエネルギー社会に向かう原点はそこにある。

*1-4:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/218184
(佐賀新聞 2015年8月12日) [解説]川内原発再稼働 電力代替進み必要揺らぐ
 九州電力川内原発1号機が再稼働し、東京電力福島第1原発事故から4年5カ月で日本は原発活用路線に戻った。政府と電力業界は、電力の安定供給や燃料コストの観点から原発の再稼働が必要だと主張するが、その背景説明は説得力を失いつつある。東日本大震災後、東電管内で計画停電が実施されるなど電力供給体制のもろさが露呈し、国民の間に電力不足への不安が広がった。しかし原発が長期停止する間に火力発電や、太陽光を中心とした再生可能エネルギーによる代替が進んだことに加え省エネの定着もあり供給力は着実に回復。電力需要が急増する夏を震災後4回乗り越え、記録的な猛暑が続く今年も需給は逼迫(ひっぱく)していない。昨年夏ごろまで1バレル=100ドル程度と高値で推移していた原油価格も50ドルを下回る水準にまで下落し、電力各社の収支は大幅に改善した。多くの国民の反対を振り切り再稼働を急ぐ切迫した事情は見あたらない。政府が再稼働の可否判断の根拠とする新規制基準は、厳格化されたとはいえ最低限の安全確保策を求めているにすぎず、事故のリスクが消えたわけではない。

<原発再稼働の受益者について>
*2-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11911218.html
(朝日新聞 2015年8月12日) 九電、赤字脱却図る 再値上げ見送りへ 川内再稼働
 九州電力川内原発1号機が再稼働した。九電は再稼働を業績回復の「切り札」と期待する。これまでは、原発停止でコストが高い火力発電の割合が増え、4年連続の赤字。再稼働が順調に進んで黒字が視野に入れば、九電は電気料金の再値上げは見送る方向だ。九電幹部は11日夜、「これまで崖っぷちだったが、新たなスタートラインに立てた」と再稼働による収支改善に期待を寄せた。他の電力会社からはねぎらいの連絡があったという。2011年の東日本大震災まで、九電の発電量の4割は原発が占めた。比較的コストが安いとされる原発を推進したためだが、震災後状況は一変した。11年12月までに管内の全原発6基が停止。代わりに火力発電を多く稼働し、燃料費がふくらんだ。11~14年度の経常損失の累計は7千億円超。10年度に1・1兆円あった純資産は、14年度は半分以下の約4500億円に減った。13年春に電気料金の抜本値上げに踏み切ったが、川内、玄海の各原発の早期稼働を前提にしていた。しかし再稼働が遅れ、コスト増を値上げでカバーできずに赤字が続いた。九電は川内原発の再稼働が今夏から遅れれば、電気料金の再値上げが必要とみていた。しかし、川内1号機が再稼働し、2号機も10月中旬の再稼働が視野に入りつつある。九電によると、川内1、2号機が動けば、月に計150億円の収支改善効果があるという。再稼働が順調に進めば、今後の赤字縮小は確実視される。「再稼働したのに値上げ、というのは理解されない」(幹部)として、再値上げは見送られる公算が大きい。経営改善のための再稼働を強調する九電だが、「原発ゼロ」でも値上げやコスト削減で他電力は黒字化が進む。14年度決算では、10電力のうち九電と関西電力、北海道電力を除く7電力が経常黒字を確保した。九電も、今年の4~6月期決算は211億円の経常黒字だった。4~6月期としては5年ぶりの黒字だ。原油価格の下落で燃料コストが下がったことが大きい。
■収益改善、他社も期待
 再稼働を収支改善につなげたいという思いは他の電力も同じだ。震災後の赤字続きで失われた「体力」を取り戻す狙いがある。東京電力は、再稼働に向けた審査が進む柏崎刈羽原発6、7号機(新潟県)が両方動くと、利益が月に160億~280億円アップすると見込んでいる。再稼働すれば1年間で利益を数千億円上積みできる計算だ。足元では黒字を確保しているものの、福島第一原発事故の賠償や廃炉などに巨額の費用がかかる。国の支援を受けながら経営を続けている状況で、こうした事故対応の支払いを、原発再稼働によって埋め合わせたいという本音もある。九電と並んで原発への依存度が高かった関西電力。高浜原発3、4号機(福井県)と大飯原発3、4号機(同)が再稼働すると、月に計約300億円の収支改善効果があるという。電気事業連合会の八木誠会長(関電社長)は11日に出した談話で、川内原発の再稼働は「大きな節目の一つ」とし、他の原発も「一日も早い再稼働を目指す」との考えを示した。

*2-2:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/218225 (佐賀新聞 2015年08月12日) 佐賀県内経済界「現実的選択」と歓迎 地元は脱原発依存模索 川内原発再稼働
 原発停止に伴う電気料金の値上げに苦しむ佐賀県内の経済界からは「大きな一歩」と再稼働に歓迎の声が上がった。玄海3、4号機の再稼働にも期待を寄せる一方、立地地域の商工会トップは原発の増設は「非現実的」として、原発だけに頼らない地域経済を模索する必要性を強調した。「やっとこぎ着けることができた」。2年前から早期再稼働を県に要請してきた県商工会議所連合会の井田出海会長は安堵(あんど)の表情を浮かべた。反対世論は根強いが、「万が一にも備えた基準をクリアしたと考えている。感情論ではなく、現実的な選択が日本の経済を支える」と強調した。再稼働による電気料金の値下げ効果について、「大いに期待したいが、川内だけでは不十分」と玄海原発の早期再稼働に期待した。一方、玄海1号機は廃炉が決まり、九電も巨額の累積赤字を抱える。玄海町や隣接地域の事業者でつくる唐津上場商工会の古賀和裕会長は「原発が地元経済を支えてきた側面はある」と再稼働に理解を示しながらも、「今後は原発作業員や国の交付金が減り、九電も経費抑制に動く。停止前の状況には戻らない」と原発依存からの脱却を訴えた。

<原発事故の責任>
*3-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11911308.html (朝日新聞 2015年8月12日) 業界の無責任体質、指摘し続ける 福島原発事故で避難の原電元幹部 川内再稼働
 11日に再稼働した九州電力川内原発の前には、全国から反対する市民が集まった。一方、電力大消費地の東京ではかつての脱原発のうねりは消えつつある。事故の記憶は、もう遠のいたのか。福島で避難を続けるかつての原発推進者は、なし崩しでの原発回帰に危機感を募らせる。「事故の想定も避難計画も不十分。こんな状態でよくも再稼働できるものだ」。日本原子力発電元理事の北村俊郎さん(70)は、ため息をついた。今回の再稼働は、東京電力が15・7メートルの津波を試算しながら福島第一原発の対策を怠った態度と重なる。「政権も根拠なく『世界一の規制基準』と説明している。安全神話にすがっている証拠だ」。国内で初めて原発を動かした原電で人事部長や社長室長を歴任。退職後は業界団体の日本原子力産業協会の参事を務めた。原子力業界の中枢に40年。その体質も問題点も知り尽くす。推進してきたその原発が起こした大事故で、家を追われた15万人の1人になった。15年前、福島県富岡町をついのすみかに選んだ。温暖で電源三法交付金で行政サービスが充実しているのが魅力だった。震災翌日に避難した。車に積み込んだのは位牌(いはい)と数枚の衣類。「どのくらい避難するの」と妻に問われ「せいぜい2、3日だよ」と答えた。県内の避難所を転々とし、現在は須賀川市の借り上げ住宅に暮らす。帰還困難区域にある自宅に戻れるのか。先月末、一時帰宅すると、雑草だらけの庭の所々に、イノシシが掘り返した穴が開いていた。富岡町にある福島第二原発は、県議会や地元市町村が廃炉を求めているが、東電は再稼働の可能性を否定しない。世論調査で反対が多数でも、政権は再稼働を推し進める。「安保法案の進め方と同じ。国民を甘く見ている」。一方、かつての推進者として、自責の念が消えることはない。事故前、住民説明会で重大事故の可能性を聞かれ、「1万年に1回」と答えていた。「もし明日起きたら」。そう返されると、「あくまで確率論。大丈夫」とごまかした。事故後、業界誌などに投稿を続けている。安全を危うくする下請け・孫請けの発注構造を「無責任体質が変わっていない」と指摘。「原発は経済的にも割に合わない」と切り込む。原産協会は震災翌年に辞めた。「批判を受け付けない業界の閉鎖性が、福島の事故につながった。内部にいた者として、問題を指摘し続ける。そうすることで私は責任を取るしかない」。事故からわずか4年余りで国民の関心が薄れていることに焦燥感を抱く。政権も復興や事故の収束より東京五輪に重点を移しているように映る。安倍首相は招致の演説で「状況は制御できている」と言い切り、福島を方便にした。「浜は祭りの/ようだけど/海のなかでは/何万の/鰮(いわし)のとむらい/するだろう」。金子みすゞの詩が、東京と福島の対比の風景として頭から離れない。
■「命を軽視」「福島を忘れるな」 川内原発前で抗議
 「九電は命を軽んじている」「福島を忘れるな」。川内原発の正門前には、11日、約200人が集まった。再稼働した午前10時半、抗議の声はひときわ大きくなった。周辺では200人以上の警察官や警備員が警戒。緊張感に包まれた。鹿児島県姶良(あいら)市の公務員女性(48)は高校生と中学生の娘と一緒に参加した。「放射能が漏れれば命が脅かされる。私たちの声が無視されるなんて不合理だ」。埼玉県富士見市の大学生梶原康生さん(20)は、原発事故があった福島、米軍基地問題で揺れる沖縄を訪ね歩き、住民の声を聞いてきた。初めて川内原発を訪れ、「基地問題も原発も根っこは同じ。国家権力の横暴を感じる」。海外メディアも注目した。台湾のテレビ局記者、胡慕情さん(32)は「欧米では再生可能エネルギーへの転換が進んでいるのに、日本はその逆を行こうとしている」と話した。
■立地自治体「振興のため必要」 大都市デモはかつての熱気欠く
 原発の足元からは、早くも歓迎ムードが漂う。川内原発の地元、鹿児島県薩摩川内市内で宿泊施設を経営する40代の男性は「見学客も全国から来る。期待します」。同市の岩切秀雄市長は「安全であれば原発は地域振興のために必要だと思う」と語った。全国各地の原発立地自治体でも、再稼働に弾みがつくとの期待の声が続いた。関西電力高浜原発がある福井県高浜町の野瀬豊町長は「原発の一つが現実に動いたことを評価したい」、Jパワー大間原発の建設が進む青森県大間町の金沢満春町長も「うれしく思います」とコメントした。一方、脱原発を目指す市民らは、電力消費地の関心が薄れていると危機感を抱く。国会の周辺では11日、反対デモがあったが、参加者は午前中に数十人、夜も数百人。沿道が埋め尽くされた3年前の熱気はない。3カ月ぶりに参加した東京都板橋区の主婦(62)は「最近は安保関連法案の反対運動が忙しく、原発まで手が回らない」。同足立区の星野芳久さん(65)は「のど元過ぎれば熱さ忘れる、という無責任さがあるのかも」と話す。2012年に都内で原発の是非を問う住民投票実施の署名集めをしたジャーナリストの今井一さん(61)は「巨額の交付金で原発を地方に押しつけ、大都市が電力を消費する構図が変わらない限り、国民の多くは問題を我がこととして考えられない」と指摘する。当時は約32万人の署名を集めたが、「今やったら5万人くらいでは」と今井さん。ただ、再稼働反対が多数である状況は以前から変わらない。「その意思を政策に映す回路さえ作れば、脱原発は実現できる」

*3-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150812&ng=DGKKZO90440820S5A810C1MM8000 (日経新聞 2015.8.12) 国は責任とる覚悟示せ
 福島第1原子力発電所の事故から川内原発の再稼働まで約4年半。何が変わったのか。原子力はかつてエネルギー安全保障や安価な電力供給、温暖化対策のどの面でも他の電源に比べ優位だと考えられていた。2010年のエネルギー基本計画が電力の半分以上を原子力で賄うとしたのはその表れだ。福島原発の事故で原子力は「特等席」から滑り落ちた。7月に政府が決めたエネルギー長期需給見通しは30年時点の原子力比率を20~22%と見込んだ。再生可能エネルギーや火力と並び、電源の一選択肢にとどまる。原発は安全規制の厳格化でいつ、幾つが稼働するのか見通せなくなった。関西電力などが古い原発5基の廃止を決めたが、新増設に関しては政府は「脱原発」を求める世論を前に、議論すら封じている。自由化される電力市場で、原発の初期投資の巨大さは大きな経営リスクとなる。原子力が切り札の時代は終わり、多様な電源の組み合わせで日本のエネルギー戦略を考える時代になった。大きな転換といえる。ただ原発への依存度の低下とは逆に、原発への政府の関与は高まる。重大事故時の賠償や使用済み核燃料の処分などは民間企業や市場だけに委ねられないことがはっきりしてきた。原子力は「国策民営」といわれてきたが、国策の度合いが強まる。核物質を扱う点で再生エネや火力と本質的な違いがあるからだ。そこに原子力特有のしがらみがあり、わかりにくさがある。国策強化を福島原発事故以前への回帰の兆しだとみる人も多いだろう。再稼働の節目にあたり、政府は原子力の必要性とエネルギー政策の転換を改めて国民に説明すると同時に、原子力利用に伴う最終責任を国が引き受けることを明確にすべきだろう。放射性廃棄物の処分など山積する課題解決への道筋を早期に示す必要もある。そこを欠いては再稼働しても原子力は長続きしない。

<過酷事故時の汚染範囲と汚染期間>
*4-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11911328.html (朝日新聞 2015年8月12日) リスク抱え原発回帰 川内再稼働、新基準で初 避難計画、実効性課題
 九州電力川内(せんだい)原発1号機(鹿児島県薩摩川内市)が11日午前、再稼働した。東日本大震災後にできた新規制基準を満たす初の再稼働となり、約2年間の「原発ゼロ」は終わった。安倍政権はこの審査手続きを「ひな型」に原発の再稼働を進める方針だ。避難計画の実効性などに課題を残したまま「原発回帰」が本格化する。
■1号機、「臨界」に
 東京電力福島第一原発事故を受け、政府は独立性がより高い原子力規制委員会を設け、地震や津波対策を強化した新規制基準を2013年7月に施行した。新基準は「安全神話」の反省から、事故は起きることを前提にしている。再稼働に向けた審査でも、規制委は一定規模の事故が起こりうると想定して新基準に適合すると判断した。「絶対の安全」はなく、事故のリスクをゼロにすることはできない。再稼働を進めるということは、事故が起こりうるリスクを抱えた社会に戻ることを意味する。川内1号機の再稼働は約4年ぶり。午前10時半に原子炉内で核分裂を抑えていた制御棒32本を引き抜く作業が始まり、原子炉が起動。午後11時に核分裂反応が連続的に起こる「臨界」状態となった。九電は14日から発送電を始め、9月上旬にも営業運転に移る。2号機は10月中旬に再稼働させる方針だ。瓜生(うりう)道明社長は「安全確保を最優先に今後の工程を進める」とコメントした。菅義偉官房長官は11日の記者会見で「原子力規制委員会によって、世界でも最も厳しいレベルの新規制基準に適合すると認められた場合は、原発の再稼働を進める」と、安倍政権の方針を改めて示した。これまで規制委に審査を申請したのは、川内を含めて15原発の計25基。関西電力の高浜原発3、4号機(福井県)と四国電力の伊方原発3号機(愛媛県)が主な審査を終えている。高浜原発は福井地裁が運転を認めない仮処分を出しているが、川内の審査や検査手続きは他の原発のモデルとなり、今後の再稼働手続きは加速する可能性がある。しかし周辺地域では、高齢者などが多い医療施設や福祉施設で住民の避難計画が十分に整っていない。防災対策などに対する原発周辺の住民の不安は解消されていない。

*4-2:http://mainichi.jp/select/news/20150812k0000e040221000c.html
(毎日新聞 2015年8月12日) 緊急時放射能予測:政府「不確実」防災基本計画から外す
 原発事故の際に放射性物質の放出量や気象条件、地形などのデータを基に放射性物質の拡散範囲や量を予測する「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム」(SPEEDI)について、政府は7月、国や自治体の災害対応の基礎となる防災基本計画で住民の避難に活用しないことを決めた。「予測が不確実なため」としているが、住民避難で予測を参考にするとしてきた自治体や住民は反発している。SPEEDIは原発事故時の避難に活用すると位置づけられていたが、東京電力福島第1原発事故では予測の公表が遅れ、住民に無用の被ばくを強いたとして国が批判された。原子力規制委員会は2012年に新たな原子力防災指針を策定。原発から5キロ圏は即避難とする一方、5〜30キロ圏は屋内退避を基本とし、空間放射線量の実測値が毎時500マイクロシーベルトに達したら避難すると定めた。この時点で指針はSPEEDIを「参考にする」とし、同時期、防災基本計画も予測結果を「公開する」とした。だが、今年4月に指針からSPEEDIの記述が消え、7月には防災基本計画からも除外された。原子力規制庁幹部は「放射性物質の流れた方向が予測と異なることもあり不確実だ。実測値の基準では被ばくを完全には防げないが、世界でもスタンダードな方法だ」と説明する。国の「SPEEDI外し」に、新潟県の泉田裕彦知事は7月の中央防災会議で「被ばくが前提の避難基準では住民の理解は得られない」と訴えた。また、11日に再稼働した九州電力川内(せんだい)原発の地元、鹿児島県薩摩川内市などで開かれてきた避難計画の説明会でも、自治体はSPEEDI活用の考えを伝えていた。市内で子供3人を育てる大中美子さん(48)は「被ばくありきの避難計画では引っ越さないと子供は守れない」と国の姿勢に憤る。
◇SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)
 事故を起こした原発から送られてくる放射性物質の放出量や気象条件、地形などのデータを基に、放射性物質の拡散範囲や量、大気中の濃度などを予測するシステム。現在は原子力規制委員会が運用し、予測結果は原発の立地する周辺自治体などに送信される。1979年の米スリーマイル島原発事故をきっかけに120億円以上かけて開発され、東京電力福島第1原発事故当時は文部科学省所管の原子力安全技術センターが運用していた。

*4-3:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11914937.html (朝日新聞 2015年8月14日) (再稼働を問う 教訓どこへ:下)長期避難、今も想定外 福島の現実反映せず
 7日昼過ぎ、客のいないプレハブ造りの仮設商店にはテレビの音だけが響く。福島県田村市の都路地区で、地元商店主らが経営する「ど~も古道店」。東京電力福島第一原発の事故後、避難先から自宅に戻った人たちのためにつくられ、食料品や雑貨を扱う。開業から1年半近くですでに経営が行き詰まっている。原発事故の復興は国の責任で行う、と進められた目玉施策の一つだった。
■進まぬ住民帰還
 都路地区は昨年4月、原発事故に伴う避難指示を国が初めて解除した。人口約2600人の地区に戻ってきたのは5~6割。今年1月、近くに大手コンビニエンスストアができ、売り上げは6割減った。ど~もの売り上げを支えた除染作業員らを奪われ、地元客の少なさに直面している。共同経営者で古道店長の吉田光一さん(56)は中学2年の長男らと車で約50分離れた仮設住宅に避難している。店が順調なら帰還するつもりだったが「当てが外れた」と気落ちする。昨年10月、一部を除き避難指示が解除された川内村も住民が戻らない。人口約2700人のうち、帰還したのは6割。野菜工場などを誘致したが、働き手が足りない。井出茂・村商工会長(60)は「国の復興策に役場は踊らされている」と言う。7月、都路地区と川内村に、追い打ちをかけるような出来事が起きた。環境省は、汚染稲わらの焼却施設を2地域の境界に造ると決めた。都路の行政区長連合会長の吉田修一さん(60)は「避難指示が解除されても、なぜ苦労し続けなければならないのか」と嘆く。「地域を築くには何十年もかかるが、失うのは一瞬だ」。田村市の冨塚宥けい(ゆうけい)市長は2011年、朝日新聞のアンケートで答えた。アンケートでは、原発周辺自治体の首長15人に地域を維持するために住民がふるさとに戻らなければならない期限を聞いた。10人が「1年以内」と回答した。事故から4年半近く。福島では今も11万人が避難を続ける。避難者数のピークは、事故のあった11年ではなく12年(16万4千人)。避難指示区域の外でも、放射線量が下がらずに不安を募らせた母親らが、新年度にあわせて子どもを連れ自主的に避難したからだ。九州電力川内原発の再稼働を翌日に控えた10日、日本学術会議による復興シンポジウムが福島市であった。事故で悲観し自殺した人など震災関連死の認定に携わってきた今野順夫(としお)・福島大元学長は講演で言った。「原因究明もなく福島をないがしろにしたままの再稼働は、被災者の心を逆なでするものだ」
■計画「体裁だけ」
 原発が重大事故を起こせば一時避難では済まない。福島の教訓だ。しかし、国と自治体は何万人もが何年間も避難先で生活する事態を、今なお想定していない。内閣府によると、全国の原発の30キロ圏にある135市町村のうち、避難計画を作り終えたのは65%の88市町村。100万人近い人口を抱える中部電力浜岡原発(静岡県)、日本原子力発電東海第二原発(茨城県)では、策定済みの市町村はゼロ。避難先を確保するめどが立たないからだ。南海トラフ巨大地震が想定される静岡県は、県外避難先を12都県に打診中だが、協議は難航している。打診された群馬県の担当者は「数万人がいつまでいるか分からないのに、避難先を決められない」という。静岡県が想定する避難期間は約1カ月。「更に延びるようなら国と協議する」(原子力安全対策課)。それ以上のことは未定だ。茨城県でも、避難対象の96万人のうち52万人が向かう県外の避難場所は、決まっていない。東海第二原発がある東海村の村上達也前村長は「真面目に検討すればするほど、避難計画など作れるはずがないとわかる。体裁を整えるだけの計画は不誠実だ」と語る。そもそも国の防災基本計画は、体育館などでの一時避難が長びいた場合の記載しかない。策定済みの市町村の避難計画も、多くは期間の記述はなく、あっても1~2週間がほとんどだ。11日に再稼働した川内原発がある鹿児島県は、国が30キロ圏の病院などに避難計画を求めているのは現実的でないとして、対象を10キロ圏に絞った。長期避難については「必要な情報や支援・サービスを提供する」などとしか定めていない。福島第一原発事故の避難行動を研究する関谷直也・東大特任准教授(災害情報学)は、各地の計画に危惧を抱く。「もう事故は起こらない。そう思っているのではないか」

*4-4:http://qbiz.jp/article/68806/1/
(西日本新聞 2015年8月13) 【原発が動いた日〜川内1号機再稼動】(中)線引き
●“地元”で差渦巻く不満
 九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)から南へ5キロ余り。周辺自治体として最も近い、同県いちき串木野市は11日の再稼働をどう受け止めたのか。市役所で取材に応じた田畑誠一市長(75)は「エネルギー政策は国策。国が再稼働の地元同意の範囲を決めるべきだ」と語気を強めた。政府が再稼働を認める条件「地元同意」は、電力会社と立地自治体が結ぶ安全協定に基づく。法的ルールではなく、“地元”の線引きがポイントとなる。川内原発の場合、伊藤祐一郎知事(67)が主導権を握った。総務省出身で「行政のプロ」を自認する手腕を発揮し、九電が同意を得るべき自治体を県と薩摩川内市に限定した。蚊帳の外となった、いちき串木野市は過酷事故が起きた場合に最優先で避難すべき「5キロ圏」からわずかに外れるが、風向き次第で放射能被害を受ける。昨年11月、知事が再稼働に同意する直前、田畑市長は鹿児島県を訪れた宮沢洋一経済産業相を空港まで追いかけ、国主導の同意形成を求めた。だが、国は「各地で決めること」と突っぱねている。
   ◇    ◇
 原子力防災の枠組みから外れた自治体もある。川内原発から北へ38キロの熊本県水俣市。「ホームページをご活用ください」。昨年11月、原子力規制委員会からのつれない回答が、市担当者にメールで届いた。同市は30キロ圏の緊急防護措置区域(UPZ)の外だが、事故時に南隣の鹿児島県出水市から6600人の避難者を受け入れる計画に組み込まれた。そこで昨年9月、物資確保への支援などに関する要望書を近隣自治体と共同で規制委に提出。届いた回答はA4サイズの紙1枚だけ。具体的な説明がまったく書かれていなかった。西田弘志市長(56)は憤る。「国は30キロ圏の外には関心がないようだ。大事故になれば、われわれも被害者となるのに…」
   ◇    ◇
 目に見えない放射能への備えに、歴然と横たわる行政の線引き。関西電力高浜原発(福井県)の5キロ圏に入る京都府は3月、川内原発の再稼働に際し、立地自治体の意見だけが反映された理由を明確にするよう政府に要望した。「周辺の意見も聞いた上で政府が判断すべきだ」との不満の表れで、九電玄海原発から12キロの佐賀県伊万里市も立地自治体並みの安全協定の締結を求め続けている。法的ルールなき地元同意と、30キロ圏外に目を向けない原子力防災−。全国的には“地元”の定義拡大を求める声は強まっている。原発の再稼働にこぎつけながら、多くの関係者に不満と不安を残した鹿児島の「川内方式」は全国モデルになりそうにない。

*4-5:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11913190.html (西日本新聞 2015年8月13日) (再稼働を問う 教訓どこへ:上)高線量下、突入誰が 過酷事故訓練、飛ぶ怒号
 事故を起こした原発を止める高い放射線量下の作業をだれが担うのか。福島第一原発事故で日本が直面した難題が、再稼働によって、現実の問題として突きつけられている。「行きたくない。家族がいるんだ。電力の社員が先に行くべきだ」。今年1月、東京都三鷹市にある会議室で怒号が飛び交った。原発の安全対策のため電力会社などがつくった民間団体、原子力安全推進協会が今年から採り入れた過酷事故対策の訓練だ。原発でテロが起き、全電源を喪失。高い放射線量の現場にけが人が取り残されたという想定。救出を命じられた孫請けの若手社員が反発する。どう判断し、命令し、行動するか、参加者が自ら考える。全国の原発から集まった所長の補佐クラス20人ほどが、電力会社、下請け、孫請けの社員役になる。部屋は真っ暗。煙をたいて視界を悪くするなど事故時の混乱と緊張を再現した。一定時間を超えると線量計のアラームが鳴る。どう振る舞うかのシナリオはない。時間が迫る中、ある参加者は思わず「行ってくれ」と部下役に土下座した。
■「福島の検証を」
 福島の事故では、高い放射線量に阻まれて十分に作業できない場面が多かった。国は作業員の被曝(ひばく)線量限度を100ミリシーベルトから250ミリに特例で引き上げたが、事故の進展を食い止められなかった。反省を踏まえ、原子力規制委員会は今月5日、緊急時の被曝限度を250ミリとする法令改正を決めた。事前にルール化しておけば必要な作業が迅速にできる、との考えからだ。原発は、暴走すると手に負えなくなる核物質という脅威を内包した発電技術だ。福島第一の故吉田昌郎所長が「決死隊」と呼んだ高線量下への突入作業は、1986年4月のチェルノブイリ原発事故で現実のものになっていた。炉心の爆発や一帯での火災が起き、消火活動などで消防士ら28人が急性放射線障害などで死亡。軍が出動し、鎮火後も続いた放射性物質の大量放出を止めるのに10日かかった。極限状態の作業がなければ、世界の汚染はさらに広がっていた。日本はこの問題を深く議論してこなかった。「日本の原発では大事故は起きないから」が理由だった。福島の事故から4年余り。ようやく被曝限度引き上げという一つの答えを出した。だが、福島第一の作業員の一人は疑問を持つ。「事故のときは100ミリを超えてしまいそうだから近づけなかった。何もできなかった、ということ。250ミリで本当に事故を止められるのか。だれも福島の検証をしていない」
■限度どう判断
 7月23日の放射線審議会でも委員から質問が出た。「仮に250ミリでは事故が収束できそうもない場合はどういう判断になるのか。諦めて退避するのか」。規制委は、国際機関が勧告する「正当化原則」を使う考えだ。作業員の健康リスクと作業で得られるメリットを比べ、人命救助や広大な国土の汚染の阻止など必要性が明らかに上回るなら、被曝限度を超えてやってもらう、ということだ。田中俊一委員長は会見でこう話した。「事業者としての一つの責任とか、そういう問題になってくる」。原子力災害対策特別措置法は、事故の拡大防止は電力会社の責務と定める。だが、民間企業にどこまでやれるのか。福島の事故では自衛隊や警察、消防も現場に入り、米軍は専門部隊を日本の基地に派遣した。今も福島の検証を独自に続ける新潟県。泉田裕彦知事は昨年11月、高線量下での作業に関する国への要請の中で、外国の事例も参考に、自衛隊の任務に事故対応を追加するなど国が指揮する部隊の設置を求めた。一方、福島第一に放水した部隊を現地で指揮した元東京消防庁警防部長の佐藤康雄さんは「福島の現場に入ったのは特別だった。本来、事故収束は事業者の責任。電力業界が事故時に助け合う組織をつくるべきだ」。
■「覚悟はあるか」
 過酷事故対策の訓練に取り組む原子力安全推進協会は、原発の所長を集め、こんなテーマで討論した。「部下の命を左右する命令を出す覚悟はあるか」。協会の久郷(くごう)明秀理事は言う。「高線量下の作業はある意味、弾が飛んでくる戦争と一緒。自分の犠牲でみんなを守ろうという人も、そこまではできない人もいる。家族や上官のことを思う中で個人で決断せざるを得ない」。九州電力川内原発の再稼働で、日本は再び事故が起きうるリスクを抱えた。次に起きたとき、最後に事故を止めるのはだれか。答えはまだはっきりしない。

*4-6:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11911275.html (朝日新聞 2015年8月12日) 安全の確保、どこまで 火山対策に専門家異論・複数の設備未完成 川内原発再稼働
 新規制基準に適合するとして再稼働した九州電力川内原発(鹿児島県)。過酷事故や自然災害への対策は厳しくなったが、火山対策では専門家から異論が出た。設置が義務づけられたものの、猶予期間中でまだできていない設備もある。川内原発の160キロ圏には、活発な活動を繰り返す桜島や阿蘇など39の火山がある。地質調査から、過去に巨大噴火の火砕流が原発近くまで届いていたことも分かった。火砕流は、原発の設計で対応することができない災害にあたる。九電は、稼働期間中に巨大噴火が起こる可能性は十分低く、巨大噴火につながりそうな変化を観測すれば運転を止めて核燃料を運び出すとしている。しかし、火山学者からは「前兆が捉えられるとは限らない」と異論が相次いだ。核燃料の搬出先も未定だ。地震対策で九電は、揺れの想定を引き上げ、規制委も重要施設の直下に活断層がないと認めた。だが、福井地裁は関西電力高浜原発3、4号機の運転を認めない仮処分で、新基準の厳しさそのものを疑問視した。設置が猶予され、未完成のまま再稼働した設備は複数ある。その一つが「フィルター付きベント」だ。東京電力福島第一原発事故では、格納容器が圧力で壊れるのを防ぐため、内部の気体を放出するベントが実施された。フィルターを通すことで、排気に含まれる放射性物質を減らす。福島第一原発と同じ沸騰水型炉では再稼働に必須だが、川内原発などの加圧水型炉は、格納容器が大きいとして猶予されている。九電は来年度に設置する予定だ。事故対策の拠点となる緊急時対策所は当面、別施設で代替する。航空機テロなどへの対策として、電源やポンプを別に備えておく特定重大事故等対処施設も2018年まで猶予されている。


PS(2015/8/15追加): *5-1のように、経産省が原発地元の自治体に渡す交付金も、国民が税金で支払っている原発のコストだ。しかし、原発地元の自治体は、このような後ろ向きの交付金よりも、次のステップに進んで将来は交付金なしでもやっていける準備をするための脱原発促進交付金による支援と各省庁の知恵に依るサポートの方が有り難い。 
 また、*5-2のように、「原発ゼロ」でも電力の需給は安定していたため、原発を再稼働させる意味はなかった。電力各社が老朽化した火力発電所を使用して供給力を高めていたのなら、それを地熱発電や分散型の太陽光発電などに変更すればよく、その方が地球と日本の両方のためになるのだ。

*5-1:http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS14H36_U5A810C1EE8000/
(日経新聞 2015/8/15) 原発再稼働、交付金手厚く 送電開始の川内が第1号
 経済産業省は原発が再稼働した自治体への交付金を手厚くする。九州電力川内原発1号機(鹿児島県)が14日に発送電を開始した薩摩川内市などを第1号とし、稼働実績に基づく交付金に加え、再稼働に伴う新たな交付金を上乗せする。一方、原発停止が続く立地自治体は今より減らす方向で検討している。川内1号機は14日から家庭や企業に電気を送り始めた。九電は今月下旬にフル出力とし、9月上旬から本格的な営業運転を始める方針だ。九電は今夏、中国電力などから電気の融通を受けて供給余力を示す予備率を3.0%確保する計画だった。再稼働で5.1%に改善し、他社から融通を受ける必要も無くなる。川内1号機の再稼働に伴い、立地地域に配る交付金には差をつける。政府は「電源立地地域対策交付金」を稼働実績に応じて配っているが、東京電力福島第1原発事故以降は、原発の停止中も稼働率を一律81%とみなして支給していた。16年度以降は算定方法を見直し、再稼働した自治体は稼働実績に応じて配り、原発が稼働しない場合、稼働率の想定を70%前後に減らす方向で検討している。経産省は15年度予算で、原発を再稼働したときなどに立地自治体に配る15億円の交付金を新設した。再稼働後の支援を手厚くすることで地元自治体の理解を得やすくする狙いがある。川内原発がある薩摩川内市の地域対策交付金は15年度で14億6653万円。16年度は8月に再稼働した川内1号機の稼働実績を考慮して決めるが、新たな交付金を加えれば、当面は交付金の総額が増えることになる。一方、原発が稼働しない自治体は稼働率の想定が減る影響で、交付金が減ることになる。交付金への依存が強い自治体からは懸念の声が出ている。

*5-2:http://qbiz.jp/article/68916/1/
(西日本新聞 2015年8月15日) 【川内原発再稼働】「原発ゼロ」でも需給安定、再稼働の意味は
 九州電力川内原発1号機(鹿児島県薩摩川内市、出力89万キロワット)で14日に発電と送電が始まったことで、西日本と中日本の電力需給状況は大きく改善に向かう。ただ「原発ゼロ」だったこれまでも全国的に需給は逼迫(ひっぱく)していない。供給余力がさらに増すことで、原発再稼働への疑問の声が高まりそうだ。九電や関西電力、中部電力など西日本と中日本の電力6社は、周波数が同じ60ヘルツ。今夏は九電と関電が、中部電や中国電力などから電力の融通を受けており、6社間でやりくりして電力の安定供給に努めている。西日本、中日本全体でみると、電力需給の余力を示す「予備率」の想定は、川内1号機が稼働する前で4・5%。安定供給に最低限必要とされる3%を上回っていたが、川内1号機がフル出力になれば、5・5%程度まで高まる。川内1号機の出力が高まるにつれて、九電への融通は不要になる。中部電や中国電などは、予備率が3%と低い関電への融通を手厚くすることができ、電力不足の危機は遠ざかる。そもそも「原発ゼロ」でも需給は安定していた。6社とも8月3〜7日にかけて今夏の最大電力需要を記録しているが、省エネへの取り組みや太陽光発電が普及したこともあり、最大供給力に対して10〜20%程度の余力がある状況だ。周波数が50ヘルツの東日本(東京、東北、北海道電力管内)でも、全体の予備率は9・7%。原発がなくても十分な余力を確保しているといえる。ただ電力各社は、老朽化した火力発電所の補修を先送りするなどして供給力を高めており「需給は予断を許さない状況で、安定供給へ原発の再稼働が必要なことに変わりはない」(中国電力)などと主張している。


PS(2015年8月16日追加): 桜島が全島避難になっても、川内原発に火砕流が達する可能性は小さいと思うが、桜島は、*6-1のように、怒りを溜めて爆発することで警告を発しているように見える。また、*6-2のように、原発再稼働への反対は全体で55%だが、女性の方が反対割合が高いのは、①自分も健康被害を男性より早く受けること ②食品の安全性を考えること ③子どもはじめ家族の健康を考えていること 等が理由だ。そのため、ここは、男性よりも反対割合の高い女性の意見を重視すべきだ。

    
2015.5.15東京新聞           2015.8.16西日本新聞

*6-1:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/219474
(佐賀新聞 2015年8月16日) 桜島の噴火切迫、厳戒続く、鹿児島市が対応協議
 鹿児島市では16日、桜島の噴火警戒レベルが4(避難準備)に引き上げられたのを受け、厳戒態勢が続いた。市は午前、警戒本部会議を開き、火山活動や避難所の現状、今後の対応などを協議した。16日は午前8時までに有感地震が発生していないことや、「爆発的噴火が切迫している状況は変わらない」との京都大防災研究所の報告が伝えられた。市は島の有村町の全域、古里町と黒神町の一部の計51世帯77人に出した避難勧告を維持。山腹の噴火や大きな火砕流の恐れがある場合、全島避難に切り替える方針だ。避難対象の住民は島内に開設された避難所で不安な一夜を過ごした。

*6-2:http://qbiz.jp/article/68949/1/
(西日本新聞 2015年8月16日) 原発再稼働、反対は55% 世論調査
 共同通信社の世論調査では、停止中の原発再稼働への反対が55.3%で、賛成の36.9%を上回った。反対は7月の前回調査に比べ1.4ポイントの微減。政府は、原子力規制委員会の新規制基準に基づく審査に合格した原発を再稼働させる方針だが、九州電力川内原発(鹿児島県)1号機の再稼働後も、依然として根強い慎重姿勢が浮き彫りになった。政党別では、自民党支持層の57.1%が賛成と答え、反対は35.4%だった。これに対し、民主党支持層では反対70.0%、賛成24.1%。与党の公明党支持層でも反対が54.8%で、賛成の41.4%を上回った。反対は維新の党支持層で59.2%、共産党支持層では91.2%に達した。男女別では、女性は反対が62.0%で、賛成は27.9%。男性は反対48.1%、賛成46.6%で意見が二分した。地域別に見ると、反対が最も多いのは四国の60.1%。賛成が反対より多かったのは近畿のみだった。川内原発がある九州は反対が52.2%で、賛成は39.9%だった。


PS(2015年8月17日追加):国民主権の民主主義社会では、国民の意志決定で政策が決まるため、メディアが正確な情報を流すことは必要不可欠であり、メディアの情報の流し方一つで政策も左右される。そのため、①国民がフクイチ事故後に散々被曝させられ ②政府が2030年時点の電源構成で原発をベースロード電源として原発比率20~22%と決め ③川内原発が再稼働した 後で真相を伝えても、(伝えないよりは良いが)遅すぎる。それではメディアの情報が信用できず、これが「メディアの自殺」と言われる理由だ。つまり、適時に真相を伝えることが、本来のメディアの使命であり社会的責任なのだ。
 また、現行憲法下で大本営発表をそのまま書くのは意気地がなさすぎ、外国の報道や放射能測定値を参考にしたり、いろいろな所に取材に行って線量を測ったり話を聞いたりすれば真相はわかる筈で、それが記者の実力と勇気であって言論の自由や表現の自由で守られる価値のある報道だ。私は取材に行けなくても自分が不利になっても、2011年7月25日、27日くらいから、このブログに原発事故に関して真実だと思うことを記載している。

*7:http://qbiz.jp/article/68782/1/
(西日本新聞 2015年8月17日) 原発再稼働、今度こそ「真相」を
 会見の合間を見計らって、記者たちは、航空機のチケットをパソコンで予約していた。2011年3月。東京で日銀を担当していた私は、東京電力福島第1原発事故の取材に加わった。霞ケ関の「原子力安全・保安院」(現在は原子力規制委員会)の会見は、昼夜を問わず、断続的に行われ、その度に、100人近い報道陣が集まった。記者たちの「予約」は、いわば保険のようなもの。東京から避難しなければならなくなったときに備え、「退路」を確保した。当時、ネット上では「福島原発はメルトダウン(炉心溶融)した」「放射性物質をまき散らしている」とさんざん書き込まれ、羽田空港は、自主避難の人たちであふれ返った。会見で質問は「メルトダウン」に集中した。保安院の審議官は「燃料棒の損傷の疑い」と繰り返すばかり。当時の枝野幸男官房長官も「メルトダウンはしていない」「直ちに健康への影響はない」と強調し、新聞やテレビはそのまま「発表」を垂れ流した。しかし、実際は、福島第1原発の1〜3号機すべてでメルトダウンが起きていた。最も早い1号機では地震から約5時間後、原子炉圧力容器が破損していたという。15年8月11日。東日本大震災からちょうど4年5カ月後、九州電力川内原発1号機(鹿児島県薩摩川内市)が再稼働した。震災後に作った新しい規制基準を満たす、初の再稼働だ。「安全神話」の反省から、新基準は事故が起きることを前提にした。菅義偉官房長官は11日の会見で「原子力規制委員会によって、世界でも最も厳しいレベルの新規制基準に適合すると認められた場合は、原発の再稼働を進める」と、原発回帰を鮮明にした。だが、安全に「絶対」はない。規制委の田中俊一委員長は「絶対安全とは申し上げない」と断言。再稼働後、私たちは、事故が起きるかも知れない危険性と隣り合わせとなる。福島第1原発事故では、報道機関は、原発政策を進めてきた国の「発表」を伝えてきた。それでも記者たちが、航空機のチケットを予約していたのは、事故の真相をつかめず、不安に襲われたためだ。私もその1人だった。今も、じくじたる思いがある。「震災前」に戻った日本のエネルギー政策。国や電力会社の「発表」は本当なのか―。今度こそ、真相を伝えていきたい。


PS(2015年8月26日追加): *8-1のように、佐賀県、玄海町、九電間で40年前に結ばれた協定では、原発地元は立地自治体のみとなっているが、過酷事故時には、*8-2のように、近隣住民に被害があるのみならず農林水産業の生産物も汚染されて輸出に影響が出る(実際には、韓国だけでなく多くの国が輸入禁止や制限を行っており、ここで韓国だけをWTOに提訴するのはおかしい)。さらに後で書くように、本当は日本国民が食べている食品の安全性も疑問であり、今では「日本産」は安全ブランドではなくなったのである。つまり、原発事故の被害を受けるのは多くの国民であるため、エネルギーへの原発使用には、それだけをテーマとした全国民の国民投票が必要だ。

*8-1:http://www.saga-s.co.jp/column/genkai_pluthermal/20201/222871
(佐賀新聞 2015年8月26日) 唐津市長、現協定で「原発の地元権利」遂行と強調
 唐津市の坂井俊之市長は25日の定例会見で、玄海原発(東松浦郡玄海町)の「地元」の定義について、「準立地自治体と言ってはいるが、われわれは地元という認識を持っている。九電と締結した安全協定で実質的な権利は得ており、その権利を遂行するだけ」と述べた。今後の再稼働や廃炉に対して現在の協定の枠組みで対応していくことをあらためて強調した。唐津市は福島第1原発事故後の2012年10月、九電と1対1で安全協定を結んでいる。坂井市長は「県と玄海町、九電の間で40年前に結ばれた協定に入ろうと努力したが、なかなか難しかった」と振り返った上で、九電と2年議論して作った協定に関し「事前了解という言葉はないが、九電から説明を受け、こちらから意見を述べるという実質的な権利は取っている」と語った。原発をめぐっては「立地」と「隣接地」の差は大きく、鹿児島県の川内原発再稼働の際は「地元同意」の対象は県と立地の薩摩川内市に限定された。市のほぼ全域が玄海原発の30キロ圏に入る伊万里市の塚部芳和市長は福島第1原発事故後、「立地自治体並みの安全協定」を主張し続けている。

*8-2:http://qbiz.jp/article/69276/1/
(西日本新聞 2015年8月21日) 政府、WTOに韓国提訴 原発事故で水産物輸入規制
 政府は20日、韓国が東京電力福島第1原発事故を理由に、日本からの水産物輸入を規制しているのは不当な差別だとして、世界貿易機関(WTO)に提訴した。福島第1原発事故を受けた輸入規制で政府が他国を提訴するのは初めて。2国間の協議で解決できなかったため、紛争を処理する小委員会(パネル)の設置を要請した。9月までに開かれるWTOの紛争解決機関の定例会合でパネルの設置が認められる見通し。政府は提訴後も、韓国側に規制を撤廃するよう働き掛けを続ける方針。菅義偉官房長官は20日の記者会見で「WTOの結論を待つことなく、規制を早く撤廃すべきだ」と指摘した。韓国は2011年3月の原発事故を受けて、青森、岩手、宮城、福島、茨城、栃木、群馬、千葉の8県のヤマメやスズキといった一部水産物の輸入を禁止した。13年9月には汚染水漏れを理由に、禁止対象を8県の全水産物に拡大するなど規制を強化した。日本政府はことし5月にWTO協定に基づき、2国間協議の開催を要請した。6月の協議では、日本が「科学的根拠がなく、WTO協定に違反している」として規制撤廃を求めたが、韓国政府が反論し、対立が続いていた。協議開催の要請から60日以内に決着しなければ、パネル設置を要請できる仕組みだ。


PS(2015年8月27日追加):写真のように、原発の温排水により瀬戸内海の海水温を上げて漁獲高を減少させ、本来は恵まれている海の価値を減じながら、政府・自治体が資源管理のみを強調しているのは適切でなく、もったいないことである。さらに、*9のように、原発で過酷事故が起きて陸路が使えない場合には、佐田岬半島の住民約5千人は対岸の大分県内18市町村に海路で避難する予定などとしているが、どのくらいの期間、陸海の汚染が続いて漁ができず、平常の生活に戻れないかの考察がない。

    
瀬戸内海の漁獲高推移  資源管理         漁          海中の様子
  
*9:http://qbiz.jp/article/69642/1/
(西日本新聞 2015年8月27日) 大分県に5千人避難も 伊方原発の事故時、国など対応策
 原子力規制委員会が新規制基準に適合していると判断した四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の再稼働を控え、関係省庁と愛媛、山口、大分の3県でつくる伊方地域原子力防災協議会は26日、原発事故に備えた広域避難計画を含む緊急時対応をまとめた。原発から約30キロ圏内の住民約12万4千人の避難経路や受け入れ先、放射性物質の拡散状況を測定するモニタリング体制などを盛り込んだ。原子力災害対策指針に基づき、愛媛、山口両県の5市3町にまたがる約30キロ圏内を重点区域に指定。原発西側の佐田岬半島は5キロ圏内に準じた防護措置を取る「予防避難エリア」とした。原発で電源喪失など深刻な事態が発生した場合、5キロ圏内と佐田岬半島では要支援者を優先して車やバスで避難。5〜30キロ圏内の住民は屋内に退避する。複合災害で陸路が使えない場合、佐田岬半島の住民約5千人は対岸の大分県内18市町村に海路で避難する。ただ予防避難エリアに放射線防護施設が4カ所しかないなど課題も多い。内閣府は「訓練を通じて問題点を把握、対策を講じるのが重要」と継続した見直しを行う姿勢を示したが、再稼働前の訓練実施については明言しなかった。今後、原子力防災会議(議長・安倍晋三首相)を開き、了承を得る方針。


PS(2015年8月28日追加): *10-1で、「女子に三角関数教えて何になるのか」と伊藤鹿児島県知事が言ったのは教育における女性差別だし、「自分自身も使ったことがないから勉強不要」と言うのなら、そのような人だから論理的思考ができないのだろう。また、「サイン、コサイン、タンジェントを社会で使ったことがあるか女性に問うと、10分の9は使ったことがないと答えるから教えなくてよい」のであれば男性にも教えなくてよいことになる。つまり、女性にも数学者や理系の職業人は多いにもかかわらず、鹿児島県知事は、このように女性蔑視が甚だしく、こういう人が総務省出身で知事だから問題なのである。
 ちなみに、国は、*10-2のように、まさにこの日に「女性活躍推進法」を成立させたので、鹿児島県も率先して女性登用の推進に向けた行動計画の策定と公表を行うべきだ。

*10-1:http://mainichi.jp/select/news/20150828k0000e040234000c.html?fm=mnm (毎日新聞 2015年8月28日) 鹿児島知事:「女子に三角関数教えて何になるのか」
 鹿児島県の伊藤祐一郎知事は、県教育委員らが参加した会議で「高校教育で女子に(三角関数の)サイン、コサイン、タンジェントを教えて何になるのか」と発言したことが分かった。28日の定例記者会見で、発言について「自分自身も使ったことがないよねという意味。口が滑った」と述べ、訂正した。発言は、全国学力・学習状況調査の結果が25日に公表されたことを受け、27日の県総合教育会議で知事としての目標設定について問われた際にあった。伊藤知事は「サイン、コサイン、タンジェントを社会で使ったことがあるか女性に問うと、10分の9は使ったことがないと答える」とも述べた。

*10-2:http://mainichi.jp/select/news/20150828k0000e010182000c.html?fm=mnm (毎日新聞 2015年8月28日) 女性活躍推進法:成立 管理職の数値目標設定の公表など
 女性管理職の割合に数値目標の設定などを義務付ける「女性活躍推進法」は28日午前、参院本会議で自民、民主、公明各党などの賛成多数で可決され、成立した。従業員301人以上の企業と、雇用主としての国や自治体は、女性登用の推進に向けた「行動計画」の策定と公表を求められる。数値目標の水準は各企業などに委ね、罰則規定もないが、計画策定と公表の義務付けによって女性登用を進める効果を狙っている。行動計画策定は2016年4月1日に、その他は公布と同時に施行する。集中的に対応するよう施行から10年間の時限立法とした。安倍政権は「女性活躍」を成長戦略の中核の一つに掲げ、「20年までに指導的地位に女性が占める割合を30%にする」との目標を掲げている。人口減少が進む中、女性に活躍してもらい、労働力不足による社会の活力低下を防ぐ狙いもある。行動計画は、(1)採用者に占める女性の割合(2)勤続年数の男女差(3)労働時間の男女差(4)管理職に占める女性の割合−−の各項目の現状把握と分析を必須とした。その上で、改善点や取り組み期間、数値目標などを盛り込むよう求めている。この他、企業側が選択する項目が省令で示される見通しで、育児と仕事の両立支援制度や利用状況、非正規雇用から正規雇用への転換制度の利用状況などが想定される。従業員300人以下の中小企業にも努力義務として課す。施行に合わせ、国は「女性活躍の推進に関する基本方針」を閣議決定する。各企業などの計画策定を支援するためのガイドラインも作る。また、行動計画の内容や達成度などに応じて優良な企業を認定し、国や自治体の公共事業や備品購入などで優遇できるようにもする。法案は昨年秋の臨時国会で提出されたが、衆院解散で廃案となり、今国会に再提出された。衆参両院で、賃金の男女格差の把握と是正、非正規労働者の待遇改善のためのガイドライン策定などを求める付帯決議を行った。14年の日本の女性管理職の割合は11.3%で、米国の43.7%、フランスの39.4%、ドイツの28.6%(いずれも12年)などの主要国の水準を大幅に下回っている。

| 原発::2015.4~10 | 05:40 PM | comments (x) | trackback (x) |
2015.7.31 原発再稼働と環境意識の低い日本のリーダーの判断ミス (2015年8月1日、2日、3日、5日、8日、10日に追加あり)
      
   フクイチ汚染地図      宝島より      川内原発事故時の汚染地図 
            
       
      川内原発を囲む市町村       原発立地交付金   川内原発付近の火山

(1)論理的・総合的にモノを考えられず、臨機応変な意思決定ができない日本のリーダー
 *1-1に書かれているように、4年前の福島第一原発事故(以下、フクイチ)は、国家存亡の危機(まさに存立危機事態)を招いて今でも収束できておらず、汚染範囲は東北から関東まで及ぶ広い範囲であるため、世論調査では半数以上の人が再稼働に反対しているが、経産省は新たな交付金を作ってまで原発再稼働に回帰しようとしており、いずれは日本の電源の2割以上を原発でまかなう目標を立てている。

 しかし、日本が目指すべきは、国内に存在する豊富な再生可能エネルギーを使うクリーンな社会であり、そのツールは既に出揃っているため、安定した投資環境を作って機器を洗練させることが重要なのだ。具体的には、分散型の新しい電力システムに切り替える方向(新送電網の設置、原発は廃炉して核廃棄物は最終処分)に投資を集中させ、収益源だった原発を失う立地自治体には普通の自治体になるための支援を行い、予定外の原発廃止で生ずる電力会社の特別損失には補償が必要である。

 「原発依存度を可能な限り低減する」としながら政権に復帰した自民党は、「原子力規制委員会がOKした原発はすべて動かす」と変化し、規制委は発電所内に限った物理的安全性を見ているにすぎず、立地自治体は国に責任を転嫁しているが、本当はどちらも責任を持っておらず、フクイチの後、栃木県、茨城県、埼玉県、東京都、神奈川県、千葉県は、全く除染されていない。

 それにもかかわらず、経産省は、*1-2のように、自民党の原子力政策・需給問題等調査会で原発立地地域への新しい交付金案を示し、再稼働した原発がある自治体に交付金を重点配分して原発の再稼働を促している。そして、これは、首相を安倍首相から他の人に変えたら変わるというものではない。

(2)原発に依る健康被害の例
 東京電力福島第1原発事故と甲状腺がんの因果関係について、*1-3のように、福島県の検討委は「現時点で事故の影響は考えにくい」とし国も追認しているが、その根拠は科学的ではないため、原爆被爆者の治療に長年携わってきた東神戸診療所の郷地所長が、「不都合な5つの事実」と題した論考を7月25日に、福岡県久留米市で開かれる日本社会医学会で発表して反論するとのことである。

 郷地所長は、「事故の影響は考えにくい」とする福島県と国の根拠を、①甲状腺がんの発生率は、県が比較した「避難区域」「浜通り」「中通り」「会津地方」の4地域から市町村別に変えると、福島県の西側3分の1では発生がないなど明らかな差がある ②国の測定方法は、本来個人のリスク評価には使わない方法を採用しており不確実性が高い等々、国の根拠のすべてを否定しているそうだ。つまり、福島県と国は何を護ろうとしているのかと言えば、それは国民・県民ではなく国体・県体なのだ。

(3)再稼働ありきで猪突猛進する薩摩川内原発 (ダッシュ
 このような中、*2-1のように、九電は7月24日、薩摩川内原子力発電所1号機(鹿児島県)の再稼働に向けた最終検査を原子力規制委員会に申請し、順調に手続きが進めば、8月10日に再稼働させるそうで、「九電は7月27日から重大事故を想定した大規模な訓練も計画している」とも書かれているが、これは慰め程度にしかならない。そして、日経新聞はこれを、「国内の原発がすべて止まっている状況が約2年ぶりに解消する」と喜んでいるのだ。

 一方、*2-2のように、鹿児島、熊本、宮崎の3県10市町議会は、再稼働前に九電主催の住民説明会を開くよう求める陳情や請願、決議を採択・可決しているが、九電は、これに応じない方針だそうだ。例えば、原発事故時に鹿児島県出水市の避難者約6600人の受け入れ先となっている熊本県水俣市では、「住民への十分な説明がないまま再稼働に踏み切ることは電力事業者として責任ある態度と思えない」などとする決議を全会一致で可決し、市が九電に要望書を提出している。西日本新聞は、東京電機大の寿楽助教(科学技術社会学:文系)の「再稼働は公共性が高い。もっと積極的に説明すべきだ」という言葉で閉めているが、実際の公共性は大きなマイナスだ。

 同じ西日本新聞は、*2-3のように、「どんなに訴えても、再稼働は止まらないのか」「避難計画の不備が相次ぎ指摘され反対世論も根強い中、国や九電は原発再稼働へ進んでいる」「いまだに尾を引く水俣病もフクイチも、国も企業も責任を取らないという意味で同じ構造」「再稼働は住民の命を無視することにつながり、もはや非人道的行為としか言いようがない」などの住民の声を載せながら、薩摩川内市議が原発視察して「安全対策は十分取られていたが、免震重要棟を完成させるべき」という原発へのさらなる投資を導いている。資源を集中して無駄遣いを排除しなければならない時に、情けない話だ。

(4)ドイツ・フランスの原発削減
 ロビンス博士が、*3-1のように、日本とドイツのエネルギー政策について「日本は自らを小エネルギー国と思い込んでいるが、この考えは言葉の意味の混乱によって生まれたものだ」「日本は(天然ガスを除く)化石燃料には乏しいが、太陽・風力・地熱といった自然エネルギーは主要工業国の中で最も豊富」「日本は、ドイツの9倍もの自然エネルギー資源を有しているが、自然エネルギー電力の導入量はドイツの9分の1に過ぎない」「これは、政界との結びつきが強い地域独占の電力会社が競争を拒んで自分たちの利益を守る構造を日本政府が認めてきた結果だ」などと直言しているが、全くそのとおりだ。

 ドイツ政府は、フクイチ後4カ月のうちに、2001年から2002年にかけて産業界と合意した脱原発スケジュールを復活させ、さらに1年早めて実行することを決め、ドイツの原発17基のうち、発電容量の41%にあたる8基を直ちに停止し、残りの9基の原発は、2015年から2022年の間に停止される予定とのことだ。恣意的な数値を示してドイツのこの政策を間違っていたとする日本の報道記事は多いが、私は、このブログに書かれていることが正しいと考える。

 また、原発依存度の高いフランスも、*3-2のように、2025年までに原発依存度を75%から50%に下げることを柱とするエネルギー移行法案を可決し、原発削減に踏み切るそうだ。今回可決した法案は、代替エネルギーとして風力や太陽光などの再生可能エネルギーや廃棄物のリサイクルなどを進め、3年間で10万の雇用創出も盛り込まれており、原発削減と再生可能エネルギーへの転換は正しい。

(5)嫌われる核廃棄物
 再稼働に積極的な薩摩川内市は、*4-1のように、「使用済核燃料で施設内に貯蔵できるのは再稼働10年間で、国は10年の間に最終処分場を建設すべきだ」「薩摩川内市内に最終処分場を受け入れる考えはない」としている。

 福井県知事も、*4-2のように、「福井県は、発電は引き受けたが、処分まで引き受ける義務はなく、県外で処分すべきだ」としている。敦賀市の渕上市長も、最終処分について「原発に協力してきた自治体に最終処分場まで求めるのはいかがなものか」と否定的な考えを示した。

 北海道では、*4-3のように、放射性廃棄物を持ち込まない「核抜き」条例を設けていることから、経産省の資源エネルギー庁が札幌市内で道内市町村を対象とする処分場選定に関する説明会を開催すること自体に反発が出ている。

 長野市でも最終処分地に関する自治体説明会が開かれ、*4-4のように、出席した自治体職員は「(説明会を)非公開にする内容とは思えなかったし、そうするべきだとも思わない」と述べ、別の自治体職員は「説明会に出席するかどうか悩んだ」「具体的な処分候補地の名前などが挙がると困ると思った」「(説明会に)来たくなかったというのが、どの自治体も本音ではないか」とした職員もいたそうだ。

(6)経営を危うくする企業トップの経営判断ミス
 *5-1のように、東芝の不正会計は社長の独断と組織が原因とされているが、もっと奥深い問題は、①リーマン・ショックで利益が順調に伸びなくなり ②フクイチで原発部門が打撃を受け ③米WHの買収のために米企業の出資で買収資金不足をカバーしていた東芝が、その出資株の買い戻しで隠していた損失が明るみに出そうになって ④それらを正直に財務諸表に反映せず、粉飾してカムフラージュしていたこと が根本的な原因だろう。しかし、①②は、東芝だけに起こった問題ではないため、事実を財務諸表に反映して理由を説明すれば済んだ話だ。しかし、東芝は、原発事業については、この上さらに、フィンランドでの原発交渉権も獲得しており、この事業の筆頭出資社である独イーオン社は、既に撤退を表明しているそうで、トップの経営判断にミスがある。

 しかし、原発事業に関する経営判断ミスは東芝だけにあるわけではなく、*5-2のように、日立も英国の原発事業会社ホライズンを買収して海外展開を強化させようとした。これらは、経産省の原発推進の方が世界に通用すると信じた日本企業のトップが、日本国内では原発新設が難しいから海外で事業拡大しようと海外の原発企業を買収し、機を見て原発から撤退しようと原発事業部の売却先を探していた海外企業から高値で原発事業部をつかまされたということであり、いずれも自国でフクイチのような過酷事故を経験した我が国の経営者の環境意識の低さと洞察力に欠ける不明に依る。

 一方、これから利用価値が高くなるため中国が行っているガス田の開発については、日本政府には、*5-3のように、「中国側が一方的な開発を進めていることに対して、我が国から繰り返し抗議をすると同時に、作業の中止を求めている」と言っているだけで、国境線を明確にすることも、共同開発の合意を解消することも、自ら採掘することも、何もしていないという不作為がある。そして、中国がガス田の天然ガス掘削施設を完成させたことを、「一方的だ」として非難しているだけなのだ。

 ここまで政府や経営者が愚鈍で、技術者が、1ミリ、1ミリ進めて必死で稼いでいるものを、バックアップするどころか何メートルも後退させて罪悪感を感じない国はないだろう。そして、これ以上の無駄は許されないため、この愚鈍の根源は徹底して追求し、二度と起こらないようにしなければならない。

<時流を見誤る日本>
*1-1:http://www.asahi.com/paper/editorial.html
(朝日新聞社説 2015年7月30日) 原発再稼働を考える―稼働ゼロの実績を土台に
 東日本大震災後、すべての原発が止まって、まもなく2年がたつ。冷暖房に電気を多く使う夏も冬も、大規模な停電を引き起こすことなく乗り切った。4年前の福島第一原発事故は国家存亡の危機を招き、今も収束していない。原発の怖さを知ったからこそ、不便はあっても原発は止まったままにしたい。各種の世論調査で、半数以上が再稼働に反対しているのは、そんな思いの表れだろう。だが、安倍政権は原発に回帰しようとしている。8月には九州電力川内原発(鹿児島県)を再稼働させて、いずれは日本の電源の2割以上を原発でまかなうことを目指している。なし崩しの原発回帰に、反対する。国民生活に負担がかかりすぎないよう配慮しつつ、再稼働しない努力を最大限、するべきだ。目指すべきエネルギー社会は、再生可能エネルギーが主軸であり、原発が基本的な電源となる社会ではない。
■避けられた電力不足
 朝日新聞は11年7月に社説で「原発ゼロ社会」を提言した。
◆古い原発や危険度の高い原発から閉め、20~30年後をめどにすべてを廃炉にする。稼働させる原発は安全第一で選び、需給からみて必要なものに限る
◆節電・省エネ対策を進めつつ、再エネの開発・普及に全力をあげる。当面は火力発電を強化しても、長期的には脱原発と温暖化防止を両立させる
◆多様な事業者の新規参入を促す電力改革を進め、消費者側の知恵や選択が生きる分権型のエネルギー社会に転換する
 基本的な考え方は、今も変わらない。しかし、この4年間で状況は変わった。最も劇的だったのは、原発による発電がゼロになったことだ。4年前は、全国で原発が動いていた。その後、定期点検のため次々に休止し、一時的に関西電力大飯原発(福井県)が動いたものの、13年9月以降、一つの原発も稼働していない。この間、心配された電力不足は起きなかった。緊急電源をかき集めてしのぐ局面もあったが、節電の定着をはじめ、火力の能力を高めたり電力会社の垣根を越えて電力を融通しあったりすることで、まかなえた。ただし、原発稼働をゼロのまま定着させる環境が盤石になったとは、まだ言えない。大規模発電所から遠方の大消費地に電気を送る集中立地型の供給態勢は、原発事故後もそのまま残る。システムの脆弱(ぜいじゃく)さは克服されていない。電力使用量のピーク時に大きな火力発電所が故障すれば、不測の事態が起きる可能性も消えてはいない。
■システムはなお脆弱
 電力の9割を火力に頼っている現状が持続可能とも言えないだろう。エネルギー源を輸入に頼る以上、為替や価格の変動リスクに常にさらされる。電気料金にしても、国民や日本経済が値上げをどの程度まで許容できるのか。詳細な調査もないままに、値上げが生活や経済活動に深刻な影響を与えることは避けなければならない。国民生活に深刻な影響を与えるリスクはゼロとなっていない。そう考えれば、最後の手段としての再稼働という選択肢を完全に否定するのは難しい。それでも、個々の原発に対する判断は、きわめて慎重でなければならない。「この原発を動かすことで、どんな不利益を回避できるのか」「電力を広域的に融通して電力需要に応えてもなお、再稼働は必要なのか」といった観点から納得のいく説明ができなければならない。原発の安全性が立地条件から見ても十分に確保されていることや、周辺の住民が避難できる手段が整っていることは、当然の前提になる。稼働ゼロの実績は、それだけ再稼働へのハードルを高くしている。こうした状況のもとで、できるだけ早く再エネを育て、分散型の電力システムへと切り替えていく。そのためには、新たな方向へと誘導する政策努力が欠かせない。政府は改革の道筋を立て、送電網の充実、原発のゴミ処分などに資源を集中させる。廃炉を進める態勢づくりや、収益源だった原発を失う立地自治体への支援、原発関連の事業者への経過措置も必要になる。
■原点は福島第一原発
 ところが、安倍政権は逆を行こうとしている。「原発依存度を可能な限り低減する」としながら、原発を維持する方向へ転じて「原子力規制委員会がOKした原発はすべて動かす」と判断を丸投げした。規制委は、発電所に限って物理的な安全性を見るにすぎず、政策全体に責任を負うものではない。立地自治体には「国が責任を持つ」といいながら、具体的な中身はない。川内原発の場合でも住民の安全確保や、火山噴火の問題は積み残したままだ。原発を考える原点は、福島第一原発の事故にある。今、原発は動いていない。この実績を生かすことを考えるべきである。

*1-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150731&ng=DGKKASFS30H8T_Q5A730C1PP8000 (日経新聞 2015.7.31) 
再稼働自治体を交付金で優遇 経産省、立地地域の配分見直し
 経済産業省は30日の自民党の原子力政策・需給問題等調査会で、原発立地地域への支援策の案を示した。九州電力川内原発1号機(鹿児島県)の再稼働を控え、原発がある自治体に一律に配っている今の交付金の配分方式を見直す。再稼働した原発がある自治体に重点配分し稼働停止が続く場合は交付金を減らす。新方式では、老朽化で原発が廃炉となる自治体は交付金が無くなる見通しだ。経産省はこの日、「エネルギー構造転換に向けた地域の取り組みに一定の支援を行う」として交付金に代わる財政支援を継続する方針を示した。ただ、金額自体は減る可能性が高いとみられる。政府は、原発がある立地自治体に「電源立地地域対策交付金」を原発の発電量に応じて支払っていた。東京電力福島第1原発事故以降は、原発の停止中も発電量を最大供給力の81%とみなして、自治体に一律で交付金を支払ってきた。使用済み核燃料を保管する中間貯蔵施設の立地自治体も支援する。経産省は同日、日本原子力発電と東京電力が青森県むつ市に建設した中間貯蔵施設について「環境変化が立地地域に与える影響を緩和する」として、財政支援策などを検討していると明らかにした。さらに、関西電力などが中間貯蔵施設建設の検討を進めていることを念頭に「使用済み燃料を安全に保管するため、使用済み燃料の貯蔵能力拡大のインセンティブとなる措置を講じる」との方針を示した。貯蔵施設の建設などを予算措置などで後押しするとみられる。

*1-3:http://www.kobe-np.co.jp/news/iryou/201507/0008241533.shtml
(神戸新聞 2015.7.26) 福島原発事故「がん無関係」に反論 神戸の医師が論考発表
 地域別甲状腺がんの発生数と市町村別甲状腺がんの発生数  原爆被爆者の治療に長年携わる東神戸診療所(神戸市中央区)の郷地(ごうち)秀夫所長が、東京電力福島第1原発事故と甲状腺がんの因果関係は「現時点では考えにくい」とする国の姿勢に対し、「不都合な5つの事実」と題した論考を25日、福岡県久留米市で開かれる日本社会医学会で発表する。福島県民健康調査によると、検査対象となる事故当時18歳以下の約38万5千人のうち、今年3月までに103人の甲状腺がんが確定している。福島県の検討委は「現時点で事故の影響は考えにくい」とし、国も追認している。郷地所長は、事故の影響は考えにくいとする国側の根拠を(1)放射線汚染度の異なる福島県内の4地域で甲状腺がんの発生率が変わらない(2)チェルノブイリの甲状腺がんは4歳以下に多発したが、福島で5歳以下はいない(3)福島の子どもの等価被ばく線量は10~30ミリシーベルトと低い-など五つに整理した。その上で、国側の主張と矛盾する複数の研究報告を検討。その結果、(1)甲状腺がんの発生率を、県が比較した「避難区域」「浜通り」「中通り」「会津地方」の4地域から市町村別に変えると、福島県の西側3分の1では発生がないなど、明らかに差異がある(図)(2)国連科学委員会の報告では、チェルノブイリ事故で4歳以下の甲状腺がんが多発したのは5年目以降(3)国の測定方法は、本来個人のリスク評価には使わない方法を採用しており、不確実性が高い-など五つの根拠すべてに疑問を投げ掛けている。郷地所長は「福島原発事故は日本人初の経験。先入観や政治的影響を受けず、白紙から研究していくのが科学的姿勢だ」と指摘している。

<川内原発>
*2-1:http://www.nikkei.com/article/DGXLASFB24HBS_U5A720C1MM8000/
(日経新聞 2015/7/25) 川内原発、8月10日にも再稼働 九電が最終検査申請
 九州電力は24日、川内原子力発電所1号機(鹿児島県)の再稼働に向けた最終検査を原子力規制委員会に申請した。順調に手続きが進めば、8月10日にも再稼働させる。東京電力福島第1原発事故を教訓とする新規制基準が導入されて以降、初めての原発再稼働になる。国内の原発がすべて止まっている状況が約2年ぶりに解消する。申請したのは、原子炉を起動させるための最終段階となる保安検査で、8月3日に開始する。原子炉周辺の温度と圧力を運転時に近い状態にし、安全機器に異常がないことなどを、1週間程度かけて確認する。九電は7月27日から重大事故を想定した大規模な訓練も計画。最終検査と合わせて問題がなければ、予定通り再稼働が可能になる。川内原発は昨秋に新規制基準に基づく規制委の安全審査に全国の原発で初めて合格している。

*2-2:http://qbiz.jp/article/67522/1/
(西日本新聞 2015年7月27日) 川内再稼働の説明会要求、3県10市町議会に 九電応じない方針
 九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)の再稼働を来月に控え、鹿児島、熊本、宮崎3県の10市町の議会が、再稼働前に九電主催の住民説明会を開くよう求める陳情や請願、決議を採択、可決していることが、西日本新聞のまとめで分かった。こうした動きは3月議会時点では鹿児島県内の5市町だけだったのに対し、6月議会で県外にも拡大。背景には再稼働に対する住民の根強い不安感があるが、九電は応じない方針だ。川内原発30キロ圏では昨年10月、計6回の住民説明会が鹿児島県と各市町の主催で開かれた。当初、説明者が県と原子力規制庁の担当者に限られたことに住民側から批判も出て、追加開催となった最後の日置市だけ九電幹部が出席、説明した。九電が主催する説明会は開かれていない。原発事故時の避難計画で鹿児島県出水市の避難者約6600人の受け入れ先となっている熊本県水俣市では、6月議会で「住民への十分な説明がないままに再稼働に踏み切ることは電力事業者として責任ある態度と思えない」などとする決議を全会一致で可決した。これを受けて、市は九電に要望書を提出している。川内原発から約130キロ離れた熊本県荒尾市議会は全会一致で陳情を採択した。陳情を提出した「原発の再稼働を考える荒尾市民の会」共同代表の浦田修行さん(71)は「放射線に距離や県境は関係ない。川内の次は玄海(の再稼働)もある。九電は誠意を持って対応してほしい」と訴える。これらの要望に対し、九電は「以前から原発の周辺地域に限らず、社員ができる限り対面で説明する活動を続けている。現時点で、当社主催の大規模な説明会を開く考えはない」としている。社員による説明は、公民館などで数人から数十人規模で行い、2014年度は約12万8千人を対象に行ったという。東京電機大の寿楽浩太助教(科学技術社会学)は「九電は反対派と討論する形になる説明会は得策でないと考えたのだろう」と指摘。「再稼働は公共性が高い。再稼働後を含め、もっと積極的に説明すべきだ」と求めた。

*2-3:http://qbiz.jp/article/66269/1/
(西日本新聞 2015年7月8日) 川内原発「再稼働、止まらないのか」 反対住民に漂う悲愴感
 どんなに訴えても、再稼働は止まらないのか−。九州電力が全国の原発のトップを切って始めた川内原発の核燃料装填(そうてん)に抗議しようと7日朝、鹿児島県内の反原発団体が原発前で抗議集会を開いた。避難計画の不備が相次ぎ指摘され、反対の世論も根強い中で、国や九電は原発再稼働へ着々と駒を進めている。住民の訴えには、悲愴感さえ漂った。集会では、参加者が次々にマイクを握った。いちき串木野市でデイサービス施設を運営する江藤卓朗さん(58)は「うちの通所者は事故が起きても逃げられない。再稼働はやめて」と声を張り上げた。施設は原発から15キロ。通所者が長時間の避難や避難所生活に耐えられるとは思えない。排せつの世話やボンベによる酸素吸入が必要な人もいる。「施設の70〜90代の通所者22人はほとんどが認知症だ。事故が起こった場合、どう避難させればいいのか」と日々悩んでいるという。熊本県水俣市の「原発避難計画を考える水俣の会」の永野隆文代表(60)は「いまだに尾を引く水俣病も福島第1原発事故も、国も企業も責任を取らないという意味で構造は同じだ」と述べ、「公害の原点」といわれる水俣病と福島事故の共通点を強調した。120人の参加者からも反対のさまざまな思いが聞かれた。薩摩川内市の自営業川畑清明さん(59)は「再稼働は住民の命を無視することにつながる。もはや非人道的行為としか言いようがない」と語気を強めた。九電鹿児島支社前で毎週金曜日、脱原発の街頭アピールをしている鹿児島市のフィットネスインストラクター白澤葉月さん(50)は七夕にちなみ「原発やめて」などと書いた短冊を結んだササで抗議の意思を表現した。「避難計画は穴だらけで、使用済み核燃料の処分方法も確立していない。たくさんの市民が反対しているのに、何で止められないの」と声を詰まらせた。
◆「安全性は十分確保」薩摩川内市議が原発視察
 九州電力川内原発に核燃料が装填(そうてん)された7日、地元の鹿児島県薩摩川内市議16人が使用前検査を受けている川内原発の安全対策状況を視察した。市議の多くは「安全対策が十分取られていた」として、再稼働に肯定的な感想を述べた。市議会の川内原発対策調査特別委員会による視察で、昨年7月以来、福島第1原発事故後は7回目になる。この日は委員9人に希望する市議7人が加わり、6月末までにほぼ完了した安全対策工事の完工状況などを見て回った。昨年7月時点では未完成だった海水ポンプを津波から守る防護壁や、今年6月に設置した電源車やポンプ車を竜巻で飛ばされないように電動チェーンで固定する装置などを約2時間かけて見学した。16人中13人は昨年10月の臨時議会で早期再稼働を求める陳情に賛成、2人は反対、1人は退席した経緯がある。賛成した森満晃市議は「津波や竜巻などに対し過剰ともいえる安全対策を取っており、一安心した」と評価。川添公貴市議は「何度も原発内を見てきたが、安全性は十分確保されており、当然、再稼働すべきだ。そうした中、核燃料装填までこぎ着けたことは喜ばしい」と歓迎した。一方、再稼働に反対する井上勝博市議は「福島の事故を教訓にするなら、事故時の指揮所になる免震重要棟が未完成なのは決定的な問題だ」と批判した。

<ドイツ・フランスの原発削減>
*3-1:http://jref.or.jp/column/column_20140904.php (自然エネルギー財団 2014年9月4日) 連載コラム 自然エネルギー・アップデート、日本とドイツのエネルギー政策:福島原発事故後の明暗を分けた正反対の対応
<この記事は、ロッキーマウンテン研究所のウェブサイトに2014年7月8日に掲載されたエイモリー・ロビンス博士による“How Opposite Energy Policies Turned The Fukushima Disaster Into A Loss For Japan And A Win For Germany”の日本語訳である>
日本は自らを小エネルギー国だと思い込んでいるが、この国民的な考えは、言葉の意味の混濁によって生まれたものである。日本は、化石「燃料」には乏しいが、太陽、風力、地熱といった自然「エネルギー」については、主要工業国のなかでも最も豊富な国である。たとえば、日本は、ドイツの9倍もの自然エネルギー資源を有している。しかし、自然エネルギー電力の導入量はドイツの9分の1(大型水力発電を除く)に過ぎない。これは、日本の技術力が劣悪だったり、産業界が脆弱だったりするせいではない。政界との結びつきが強い地域独占の電力会社が、競争を拒んで自分たちの利益を守るという構造を、日本政府が認めてきたからだ。日本では、強制的な卸電力市場がないため、約1%の電力しか取引されていない。電力会社はほぼすべての送電線と発電所を所有しているので、自分たちの資産の競争相手となる事業者を、好きなように決めることができる。そのせいで、本当の競争市場なら市場の大半を占めるだろう活力ある新しい電力事業者たちのシェアも、2.3%に留まっている。こうした状況が、日本とドイツの電力事情に大きな違いをもたらしている。2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所の事故の前は、ドイツも日本も、電力の3割近くを原発で発電していた。事故後4カ月のうちに、ドイツ政府は、2001年から2002年にかけて産業界と合意した脱原発スケジュールを復活させ、さらに1年早めて実行することを決めた。全政党の賛成を得て、ドイツの原発17基のうち、発電容量の41%にあたる8基を直ちに停止した(そのうち5基が福島原発と同タイプのもので、7基が1970年代から稼働していた)。残りの9基の原発は、2015年から2022年の間に停止される予定だ。2010年、この8基の原子炉による発電量は、ドイツの電力の22.8%を占めていたが、ドイツ政府は、同時に、エネルギー効率化や自然エネルギーやその他の包括的7つの法案を成立させて、脱原発への移行中も完了後も、安定的な、低炭素なエネルギー供給を確実なものとした。ドイツの原発停止は決然と行われたが、これは長年にわたって熟慮された政策展開に基づくもので、福島原発事故の前や後に、周辺7カ国で決められた原発の建設中止や段階的な稼働停止とも整合性を持つものだ。さらに、1980年より前に「エナギーヴェンデ(エネルギー大転換)」という言葉と概念が使われ始めたドイツでは、福島原発事故の20年も前の1991年に自然エネルギーへの移行が正式に始まり、2000年の固定価格買取制度でその動きに拍車がかかった。今では、自然エネルギーの導入量は7000万キロワットをはるかに上回る。この買取制度は、補助金ではなく、自然エネルギーという社会資産に対して、利用者が購入し、事業者が出資・開発するための手段であり、売り手は投資額に応じた相応の利益を期待できる。自然エネルギーのコスト低下とともに固定価格が下落している今は、自然エネルギー事業者が固定価格より高い市場価格から利益を得るのが一般的となっている。こうした統合的な政策枠組みとそれを裏づける確実な分析によって、2011年に原子炉8基が停止し失われた発電量は、その年のうちに、59%の成長率をみせた自然エネルギー、6%のエネルギー使用の効率化、36%の電力輸出の一時的な削減によって完全に補うことができた。2010年と比べた原発発電量の減少分は、2012年までには94%、2013年までには108%が、自然エネルギーの増加で補われている。この調子で自然エネルギーが成長していけば、2016年までに、福島原発事故以前のドイツの全原発発電量を置き換えることができるだろう。間違った報道が拡がっているのとは正反対に、8基の原子炉が停止しても、化石燃料の燃焼量は増加していない。ドイツで自然エネルギー資源が利用される場合は、法的にも経済的にも、常にそれよりコストの高いエネルギー源に取って代わることが求められているため、自然エネルギーによる発電の増加は、常に火力発電の稼働を減少させることになるが、実際のパターンはもっと複雑である。データによれば、2010年から2013年の間に、ドイツの原発による発電量は43.3 TWh(433億kWh)減少し、自然エネルギーによる発電量は46.9 TWh(469億kWh)増加した。その間、発電部門では石炭と亜炭の燃焼量が増加した分だけ、よりコストの高いガスや石油の燃焼量が減少した。エネルギー転換に否定的だったドイツの電力会社の戦略は失敗に終わった。今になって、彼らは、自分たちが長年投資を怠ってきた自然エネルギーのせいで、火力発電所の採算性が悪化し、稼働できなくなったと不平を言っている。大手電力会社が自ら招いたこうした苦難をよそに、ドイツは、効率化・自然エネルギー化を推進し、完全に公正な競争を保障するために、首尾一貫した効果的な戦略をとった。一方日本では、大幅に失われた原発の発電量のほぼすべてを、高価な化石燃料の輸入増加により補った。こうした正反対の政策が、正反対の結果をもたらした。2011年の夏、日本人は見事な団結力で電力不足を乗り切った。うだるような暑さの中、多くの人々が個人的な犠牲を払った。そして、東京では、都の政策により、最大電力需要が1070万キロワット、なんと18%も削減され(大企業では異例の30%減を達成)、東京電力の最大電力需要における原発発電の減少分をほぼ補った。都市部では、東京電力の販売電力量は11%減少した。しかし、ここまでの事例が日本全体で起こったわけではなく、結果として発電所の燃料使用量は増加している。対照的に、電力供給に余裕があるドイツは、電力輸出が輸入を上回る電力輸出国の立場を保ち、原子力が発電の多くを占めるフランスにも輸出を続けている。ドイツによる電力の純輸出は、ここ2年連続して過去最高を記録している。経済においても、日本が低迷するなか、ドイツは活気づいた。エネルギー転換によるマクロ経済的効果の一環として、数十万もの自然エネルギー関連の雇用が生まれた。日本では電気料金が上昇したが、ドイツでは卸電力価格が60%以上下落した。2013年だけでも13%下がり、年間予測価格は8年ぶりの最安値となった。そのために、フランスのエネルギー多消費型企業は、電力価格が4分の1も安いドイツの競合企業には勝てないと文句を言っている。最近流布している「ドイツの産業空洞化」という捏造神話は、まったく皮肉たっぷりの内容だ。というのも、ドイツの大企業が支払っているのは下がり続ける安い卸電力価格であって、その安い卸電力価格を生み出している自然エネルギーへの支払いや、送電網料金の支払いは免除されているからだ。その分の負担は一般家庭にのしかかっているが(電気料金の半分が税金)、供給業者の古い契約が更新されるにつれて、卸電力価格の低下も反映されるようになり、今では一般家庭向けの電力価格も安定してきた。日本による温室効果ガスの排出量は増えたが、ドイツの発電所や産業では、温室効果ガスの増加を抑制している(ドイツでは2013年の発電部門の排出量がわずかに減少した。固形燃料の燃焼量は増えたが、エネルギー効率化が進んだため、発電量の上昇分と比べてわずかに排出を抑制できた)。ただし、正確を期すならば、2012年のドイツ全体の温室効果ガス排出量は厳冬のためにわずかに上昇し、2013年も、ガス価格の急騰、米国市場の縮小による安価な石炭の流入、欧州の温室効果ガス排出取引市場における過当な割り当てという3つの要因によって、石炭火力による電力の輸出が記録的に増加したため、わずかに上昇した。しかし、2014年の第1四半期には、ドイツにおける石炭の燃焼量と温室効果ガスの排出量は再び縮小に転じ、今後もこの傾向が続く見込みである。ドイツの温室効果ガス削減の取り組みは、京都議定書で定められた目標をはるかに超えるレベルで進められており、欧州のなかでもひときわ厳しい条件を達成している。つまり、ドイツの政策は、自然エネルギーに対して公平な送電網へのアクセスを保証し、競争を促し、独占状態を排し、自然エネルギー容量の半分を市民や地域社会が所有できるように支えてきたのだ。2013年、ドイツの原発発電量はこの30年で最小となる一方で、自然エネルギーによる発電量は56%増加し過去最大となった。2014年の第1四半期には自然エネルギーの国内での電力消費に占める割合が平均27%に達し、5月11日には過去最高となる74%の発電を記録した。日本はドイツと比べて、国土が5%広く、人口は68%多く、GDPは74%高く、太陽も風もはるかに優れた資源量がある。しかし、2014年2月に導入された太陽光発電量はドイツの約5分の1に留まり、風力発電に至ってはほとんど導入されていない。2012年、日本の電力のうち、こうした自然エネルギーによる発電が占めた割合は、わずか0.97%(インドの3分の1、世界では29位)で、2013年は1.5%だった。受注パイプラインにあるおよそ4100万kWの電力(その95%が太陽光発電)の大半は、電力会社の形式主義と非協力的な態度によって、合法的に放置されているのだ。日本の政治家は、その日の丸の国旗に示された神聖な太陽以上に、世界市場を支配しつつあるエネルギー源の普及を阻害する旧態依然とした政策を尊重しているようだ。2008年以降、世界で新しく導入された発電容量の半分は自然エネルギーだ。主に風力と太陽光からなる水力以外の自然エネルギーには、2500億ドル(約25兆円)の民間投資が行われ、その導入量は過去3年間で毎年8000万kW以上増加した。世界の4大経済大国のうちの3カ国、中国、日本、ドイツに加え、インドにおいては、今では原発より水力以外の自然エネルギーによる電力量が多くなっている。ここに日本が含まれているのは原発の発電量がほぼゼロだからであり、自然エネルギーに出遅れた先進国であることに変わりはない。ただ、2014年5月に行われた大飯原発の再稼働をめぐる裁判で、安全性を理由に再稼働を禁止する判決が下されたのは意外だった。電力会社の利益より市民の安全が優先された初めての判決である。もしかしたら、これをきっかけに新しい動きが起こり、行政および立法部門によるうわべだけの改革――2016年に実施予定の名ばかりの「自由化」――をしのぐ変化が生まれるかもしれない。世界で最も積極的な原発計画を打ち出している中国でさえ、2012年から2013年にかけて、すでに風力の発電量が原発を上回るものとなった。中国が2013年に導入した太陽光発電量は、太陽光発電の開発国である米国がこれまでに導入してきた全容量よりも多い。しかし、日本は逆の方向へ進んでいる。2012年7月に自然エネルギーの固定価格買取制度が導入され、その後わずか20カ月間で8 GW(800万kW)の自然エネルギーが運転を開始したが、そのうち太陽光が97.5%を占め、風力はわずか1%という状況だ。風力発電、特に最もコストが安い陸上のものは、昔は承認手続きが面倒で時間のかかる独特なものであったために、今では自分たちの地域の送電網に競合企業を入れたくない独占的な電力会社に徹底的に反対されているために、普及が進んでいないのだ。日本風力発電協会は、2050年における陸上風力の市場シェアの目標値として、スペインが3年前に達成したものと同じ数値を掲げている(※2014年6月に新しい目標が発表され、2500万kWから3500万kWへと若干上方修正されている)。こうした事態を生み出した原因を理解するのは難しくない。太陽光発電は、発電コストの高い日中のピーク電力を補うことができるが、その固定価格買取制度の仕組みは、電力会社が得をするようになっている。一方、夜間にも稼働する安価な風力発電が石炭や原子力の代わりに使われるのは、電力会社にとって損となる。電力会社が旧来の「ベースロード」発電所に置き換わるような自然エネルギーの電力を拒否できる権利は、日本の最新の規則でも繰り返し述べられている。電力会社がコストの高い火力発電を使い、運転コストがほぼゼロの風力発電を拒絶しているせいで、世界のなかでも高い日本の電気代がさらに高くなっている。このことを日本の産業界のリーダーたちが知ったら、憤慨するのではないだろうか。2013年後半(ドイツの改革開始から23年後)に日本の衆議院を通過した電力システム改革法案でも、電力会社が安価な自然エネルギーによる電力を拒否することが、理由を問わず認められている。自然エネルギーは送電網の安定性を阻害する可能性があるという人も多い。それでは、2013年の自然エネルギーのシェアが25%を占めるドイツや、47%以上を占めるデンマークの電力が、欧州で最も信頼性が高く、米国と比べても約10倍の信頼性を誇るのはなぜだろうか?この2カ国に加え、2013年の電力の約半分を自然エネルギーで発電したスペイン(45%)、スコットランド(46%)、ポルトガル(58%)の欧州3カ国(どの国も水力発電は多くない)で求められているのは、公平な送電網へのアクセスと公平な競争だけだ。これを必要としていないのは、主要工業国のなかで日本だけである。ドイツではエネルギー利用の効率化も進んでいる。過去3年間、ドイツではGDPが伸びる一方で電力消費量は減少している。1991年から2013年の間、つまり東西ドイツ統一後、ドイツの実質GDPは33%成長したが、一次エネルギーは4%、電力使用量は2%減少し、温室効果ガス排出量も21%減少した。今後、さらに野心的な省エネ計画も用意されている。一方、日本のエネルギー効率化は1970年代には世界トップレベルだったが、その後停滞してしまった。日本の産業は改善を続け、今も11の主要工業国のなかで最も高い効率性を誇る。しかし、産業用コージェネレーション(熱電併給)の導入や商業ビルのエネルギー効率化では10位、トラック輸送分野では8位、自動車では最後から2番目(米国と同位)に甘んじている。実は、日本ではエネルギー価格が非常に高いため、効率化はとても収益性があり、とりわけ、ほとんどの建築物で大きな効果がある。たとえば、京都駅前にある半導体企業「ローム」の本社ビルでは、エネルギー消費量を46%削減、コストは2年で回収した。しかし、東京都の効率化への取り組みなど、いくつかの例外はあるものの、長い間日本の産業を特徴づけてきた「カイゼン」(継続的な改善)が行われている日本のビルはほとんどない。日本の経済と政治の復興には、古い体制を保護するかわりに、新しいエネルギー経済を生み出す自然エネルギー導入とエネルギー効率化への新たな飛躍が必要だ。松尾芭蕉の有名な俳句「古池やかわず飛び込む水の音」に詠まれているように、日本の蛙も飛躍することはできる。だが、いまだ水の音は聞こえてこない。

*3-2:http://www.yomiuri.co.jp/world/20150723-OYT1T50031.html
(読売新聞 2015.7.23) 原発削減法案、仏で可決…依存度50%に
 フランス議会下院は22日、2025年までに原発依存度を75%から50%に下げることを柱とするエネルギー移行法案を可決した。上院は既に通過しており、これで約1年間の審議は終結。世界有数の原発大国は、原発の削減に踏み切ることになる。原発依存度の引き下げは、オランド大統領が12年大統領選で選挙公約として打ち出していた。今回、可決した法案には、代替エネルギーとして、風力や太陽光の再生可能エネルギーや廃棄物のリサイクルなどを進め、3年間で10万の雇用を創出することも盛り込まれた。

<原発地元と核のゴミ処分>
*4-1:http://qbiz.jp/article/65122/1/
(西日本新聞 2015年6月23日)薩摩川内市長、核のごみ「施設内貯蔵は10年間だ」
 再稼働が近づく川内原発が立地する鹿児島県薩摩川内市の岩切秀雄市長は23日の市議会で、川内原発1、2号機の使用済み核燃料の処分をめぐり、「施設内に貯蔵できるのは再稼働後10年間だ。(国内にまだゼロの)最終処分場を国は10年の間に建設すべきだ」と早期建設を促した。市内に最終処分場を受け入れることについては「その考えはない」と明確に否定した。原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場について、政府は5月、従来の公募方式から国主導で「科学的有望地」を示すように方針を転換した。川内原発の使用済み核燃料の貯蔵率は現在60・4%。岩切市長は処分場の建設は「国が前面に立って取り組むべき国策だ」と強調し、中間貯蔵施設の建設も促す考えを示した。鹿児島県の伊藤祐一郎知事も11日の県議会で「県内に(最終処分場を)立地する意思はない」との考えを示している。

*4-2:http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/politics/74558.html
(福井新聞 2015年7月3日) 「核のごみ処分、受ける義務ない」 知事「福井県は発電」と考え強調
 原発から出る核のごみ(高レベル放射性廃棄物)の最終処分に関し、福井県の西川一誠知事は2日の県議会一般質問で「福井県は発電は引き受けてきたが、処分まで引き受ける義務はない」と述べ、県外で処分すべきだとの考えを強調した。国主導で処分場を選定する政府の新方針については一定の評価をしつつも「政府が道筋を明確に示す姿勢は見えない」と苦言を呈した。山本正雄議員(民主・みらい)の質問に対する答弁。処分場選定はこれまで自治体からの応募に頼っていたが進まず、政府は5月、国主導で「科学的有望地」を提示するなどの新たな基本方針を決定した。知事は昨年4月まで、処分場選定のあり方を検討する経済産業省の作業部会の委員を務め、基本方針のたたき台の議論にかかわった。知事は答弁で、新方針を決めた後の国の動きに関し「全国9都市での公開シンポジウムや自治体向けの説明会を開いているが、内容は今回の改定の経緯や趣旨の説明にとどまっている」と指摘。「政府が実行体制を強化し、いつまでに何を行うのか、道筋をはっきり示すなどの積極的な姿勢が見えない」と批判した。最終処分に関しては、敦賀市の渕上隆信市長も6月の定例会見で「原発に協力してきた自治体に最終処分場まで求めるのはいかがなものか」と述べ、否定的な考えを示している。経産省は処分事業を担う原子力発電環境整備機構(NUMO)と共同で5月下旬から、自治体向けの説明会を各都道府県で開いている。経産省は開催日程や出席自治体などは公表していない。福井県では6月26日に福井市の県自治会館であり、12市町の担当者が参加した。福井市、小浜市、永平寺町、池田町、若狭町の5市町は、議会開会中であることなどを理由に参加を見送った。

*4-3:http://mainichi.jp/select/news/20150527k0000m040157000c.html
(毎日新聞 2015年5月27日) 核のごみ最終処分場:持ち込まない北海道条例 国に反発
 原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場を巡り、経済産業省資源エネルギー庁が6月1、2の両日、札幌市内で道内市町村を対象とする説明会を開催することが26日、同庁などへの取材で分かった。政府は22日、国主導で処分場選定を行う新しい基本方針を閣議決定しており、説明会でこの方針を説明する。道は、放射性廃棄物を持ち込まない「核抜き」条例を設けていることから、説明会の開催自体に反発の声も出ている。自治体向け説明会は日時や会場、出席自治体名などがいずれも非公表のまま開かれる。既に大阪や神奈川など全国で始まっている。同庁は22日付で参加を呼び掛ける依頼文を道内の市町村に送付した。非公表の理由について、同庁放射性廃棄物等対策室は「出席したり、発言したりしただけで、処分場立地に関心があると誤解される恐れがある」と説明している。国内で唯一、処分技術を研究開発している日本原子力研究開発機構幌延深地層研究センターがある北海道幌延町は、情報収集のため職員を派遣する方針。同町は道条例と同じ「核抜き」条例を定めており、町幹部は「立地に動くことはありえない」と話している。同じく出席予定の道環境・エネルギー室も「情報収集のためであり、条例の方針は変わらない」と説明する。これに対し、処分場建設に反対する同町の鷲見悟町議は「条例で処分場が建設できない道内で説明会を開く必要があるのか。道や町の情報収集も必要ない」と国などの動きを批判している。最終処分場を巡っては、政府は従来、地方自治体が受け入れを表明する「公募方式」を取っていたが、選定方式に変更した。

*4-4:http://www.shinmai.co.jp/news/20150630/KT150629ATI090019000.php
(信濃毎日新聞 2015年6月30日) 核のごみの最終処分地 長野で自治体説明会
 経済産業省資源エネルギー庁は29日、原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分地選定についての県内自治体向け説明会を長野市内で開いた。会合は非公開。出席した自治体によると、処分地を地中深くに設ける「地層処分」を予定していることなどの説明があった。自治体側からは説明の内容の確認以外に目立った質問や意見は出なかったという。政府は5月、最終処分地について、自治体の応募を基に選ぶ従来方針を転換し、「科学的有望地」を国主導で示すことを閣議決定。同庁は同月から、処分事業を担う原子力発電環境整備機構と共同で各地で説明会を開いている。詳しい日程などは非公表。この日も出席した自治体名は「処分地の受け入れに前向きだとの誤解を与えかねない」などとして明らかにしなかった。主催者側によると、県内77市町村の半数ほどが出席した。説明会に出席した同庁放射性廃棄物等対策室の渡辺琢也室長補佐は取材に、「放射性廃棄物の処分の必要性や、最終処分の方向性などを説明した」と述べた。科学的有望地については現在、審議会で基準を検討中で、具体的な地域などは固まっていないとしている。出席したある自治体職員は「(説明会を)非公開にする内容とは思えなかったし、そうするべきだとも思わない」と述べた。別の自治体職員は説明会に出席するかどうか悩んだとし、「具体的な処分候補地の名前などが挙がると困ると思った。(説明会に)来たくなかったというのが、どの自治体も本音ではないか」と話していた。

<企業トップの判断ミス>
*5-1:http://blog.goo.ne.jp/thinklive/e/20d7243b72342850a1310991646be684 (THINKING LIVE シンキングライブ 2013年2月27日)東芝の社長交代の異常、赤字業態を黒字にした社長が退任、会長は残る?
 ボクは今回の東芝の人事は、オカシイナーと思っていたが、世間も可笑しいと思っていることが分かった、特に西田会長の交代原因の説明には、ムリがある。この記事は、PC部門が赤字で減収であり、原発事故が原発部門の打撃となったことに触れていない。この記事そのものも、逃げている感じ。原発買収の際に、米企業の出資で買収資金の不足をカバ-、昨年その出資株の買い戻しに応じたことなど、東芝のWH買収にともなう、大ムリの資金繰りの推移についても記者は詳細をご存知のはず、今朝の、日経は東芝がフィンランドの原発交渉権獲得と報じているが、この事業の筆頭出資社の独、イーオン社は既に撤退を表明、160万kwの大型炉から、中型炉に変更も報じられている、さも原発が決定しそうに報道されているが、5000億円が3~4000億円に縮小しても、この資金調達は今のEUでは出来そうもない?
*東洋経済、13/2/27、
 東芝は2月26日、佐々木則夫(63)社長が新設する副会長に就き、後任に田中久雄副社長(62)が昇格する人事を発表した。6月下旬に開催する定時株主総会を経て就任する。西田厚聰(69)会長は留任する。東芝は4年サイクルでの社長交代が恒例となっており、佐々木社長も「自分の社長就任会見の時、4年間で結果を出せるようにしたいと答えた覚えがある」とコメントしたほど。今回の社長交代は既定路線だが、意外な点が2つある。1つ目は、新社長となる田中氏の経歴だ。パソコンの資材調達や生産を担当し、英国、米国、フィリピンと、海外駐在経験は延べ14年と歴代社長の中でもっとも長い。従業員20万人のうち半分が外国で働いている東芝にとって、田中氏の豊富な海外経験が高く評価されたことは納得できる。副社長に就任後は、戦略企画を担当しグループ全体を見てきた経験もある。一方で、花形部門であるPC畑?の西田会長や原発畑?を歩んできた佐々木社長など歴代社長に比べると、田中氏は資材部出身。西田会長は「東芝は34の事業を抱えており、このうち1事業しか経験していない人が経営するのは大変。経営は総合力なので、様々な分野の経験を持つ田中さんを社長に選んだ」とベタ褒めだが、地味な印象がある。西田会長発言、「利益が出ていても売上高が落ちてはダメ」。
*人事についての質問に、答えるのは全て会長、
 しかし、東芝は、09年3月期に3435億円という過去最悪の最終赤字を計上して最大の苦難に直面していた。火中の栗を拾う形となった佐々木社長は、大規模なコスト構造改革で4300億円の固定費を削って事業立て直しに奔走。11年3月期には過去最高益を計上し、黒字体質を定着させている。減収となった背景には、携帯電話や中小型液晶の事業売却や円高も影響している。それでも会見後、記者団に囲まれた西田会長は「利益が出ていても売上高が落ちていてはダメだ。企業は成長しないといけない」と漏らした。副会長の仕事内容は「会長からの特命事項を担当する」であり、具体的なイメージが湧いてこない。*これは全くオカシナ話だ、副会長は会長の、お傍用人?西田会長は1年後、会長を退いて相談役に就くと明言している。東芝には70歳で役員を退くという不文律があり、これに沿う意向だ。副会長ポストはあくまで過渡的なポジションであることを認めた格好だが、西田氏が会長職にとどまる必要性は最後まで判然としなかった。西田会長は経団連の副会長退任後について、「財界活動が減る分、現場を回って社長をサポートしたい」と意欲を語ったが、財界活動を続ける可能性も十分に考えられる。来年5月には、経団連の米倉弘昌会長(住友化学会長、75)が任期満了となる。3年前に西田会長は経団連会長の候補の1人だったが、東芝の岡村正相談役が日本商工会議所の会長を務めていたことから、2つの経済団体のトップを東芝が努めることにトヨタ自動車が異議を唱えたことで見送られた経緯がある。ただし西田氏は経団連の副会長を退任後、佐々木社長へバトンタッチすることで経団連会長就任の芽がなくなったという見方もある。今回の東芝のトップ人事には、さまざまな思惑が絡み合っているようだ

*5-2:http://jp.reuters.com/article/2012/10/30/tk0541891-hitachi-aquisition-idJPTJE89T00B20121030 (ロイター 2012/10/30) 
日立が英の原発事業会社ホライズン買収、海外展開強化
10月30日、日立製作所は、英国で原子力発電所建設を計画している事業会社ホライズン・ニュークリア・パワーを買収すると正式に発表した。写真は日立のロゴマーク。都内で2009年2月撮影(2012年 ロイター/Yuriko Nakao)[東京/ベルリン 30日 ロイター] 日立製作所(6501.T)は30日、英国で原子力発電所建設を計画している事業会社ホライズン・ニュークリア・パワーを買収すると正式に発表した。買収額は6億7000万ポンド(約854億円)。東京電力(9501.T)福島第一原発事故の影響で国内での原発新設が難しいなか、日立は買収により海外での事業拡大を図る。日立は、ホライズンの株式を保有する独電力・エネルギー大手RWE(RWEG.DE)と同業エーオン(EONGn.DE)から全株式を取得し、11月中に買収を完了する予定。RWEとエーオンは買収額を6億9600万ポンドと発表したが、日立の羽生正治執行役常務によると、その金額にはホライズンが保有する現金が含まれており、現金が両社に戻されるため、日立が拠出する買収費用は2600万ポンド下回る。都内で会見した羽生常務は、買収目的について「発電所を建設する場が欲しかった」と説明。また、当初は出資比率が100%となるが、5年ほどかかると想定している許認可取得後の原発建設時には出資パートナーを募る予定で、最終的には過半数の株式を売却したい意向を示した。高額になる原発建設費用を抑えるとともに、日立が現状では事業として関われない電力会社などのパートナーを探す予定。日立は今後、ホライズンの事業計画を引き継ぎ、英国の2カ所での130万キロワット級の改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)を計4―6基建設する。このうち最初の1基は2020年代前半の運転開始を目指す。日立は原発建設と稼働後の保守・管理を請け負う方針。原発建設費用は精査中として公表しなかった。原発の建設費は1基5000億円前後とされており、資金調達の具体的な手段については、財務アドバイザー(FA)のみずほフィナンシャルグループ(8411.T)と米投資銀行エバコア・パートナーズと相談中で、政府系金融機関からの調達も検討する。羽生常務は、投資回収には18年程度かかる見通しで、出資と融資の割合は3対7を想定していると語った。ホライズンはRWEとエーオン2社が出資し、英国で原発事業を展開するため2009年に設立した。しかしドイツ政府が脱原発政策に転じたのを受け、今年3月に売却する方針を表明、買い手を探していた。日立は20年度の原子力事業の売上高を1600億円だった11年度に比べ、約2.3倍となる3600億円に増やす目標を掲げている。日立の受注が内定していたリトアニアでの原発建設計画が10月の国民投票で反対多数となるなど、海外での事業環境も先行き不透明感が強まっており、今回のホライズン買収で海外開拓に弾みをつけたい考えだ。

*5-3:http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/jnn?a=20150722-00000017-jnn-pol
(JNN 2015年7月22日) 政府、中国のガス田開発で新たな証拠写真公開へ
 日本と中国が共同で開発することで合意している東シナ海のガス田開発を巡り、日本政府は、中国が合意に反し、一方的に開発を進めているとして、その証拠を示す航空写真を22日に公開することにしています。「一方的な開発には抗議してきているので、そうしたことも含めて最終調整をして、現状を明らかにしていきたい」(菅 義偉 官房長官)。東シナ海のガス田開発を巡っては、2008年に当時の福田総理と中国の胡錦濤国家主席との首脳会談を受けて、共同開発を行うことで合意しました。しかし、2010年の沖縄県・尖閣諸島沖の中国漁船衝突事故などで交渉がストップし、その間に中国側が「白樺」ガス田の天然ガス掘削施設を完成させたことなどが判明しています。外務省幹部は「日中関係改善の流れがある中で、一方で、逆の動きがあることは遺憾だ」と中国側に不快感を示しているほか、別の幹部は、写真を公開する理由について「中国側をけん制する狙いがある」と説明しています。中国のガス田開発については21日、閣議報告された「防衛白書」の中で「中国側が一方的な開発を進めていることに対して、我が国から繰り返し抗議をすると同時に、作業の中止を求めている」と説明されています。


PS(2015年8月1日追加): 資源エネルギー庁は、長期の全体見通しを立てて判断をすべきだったにもかかわらず、それをせずに日本のエネルギー自給率を下げ続けてOECD諸国最低にし、うなぎ上りに値段の上がっている原油と高い原発に頼って、単価を下げることが可能な太陽光発電を妨害し、日本のエネルギー価格を高止まりさせた戦犯である。そのため、*6のように、資源エネルギー庁の幹部に、「皆さんの持っている知識を知らしめてください」と言うのは、よほどの東大コンプレックスだろう。しかし、世の中にはいろいろな専門家がおり、「東大法学部卒→官僚」は足元にも及ばない知識を持っている人も多いため、「真実の情報を伝えること」や「言うこと」が勇気のいる大切なことであり、そのようなことにこそ「言論の自由」や「表現の自由」が保障されなければならないのだ。

    
   日本のエネルギー自給率推移と       原油輸入単価と太陽光発電単価の推移
    OECD諸国における位置

*6:http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2015073002000254.html
(東京新聞 2015年7月30日) 反原発コメンテーターを「個別撃破」 大西議員、エネ庁幹部に要求
 自民党の大西英男衆院議員(写真、東京16区)は三十日午前、党本部で開かれた原子力政策に関する会合で、原発に批判的なテレビのコメンテーター(解説者)らに関し「個別にどんどん正確な知識を知らせていくべきだ。各個撃破でいいからぜひ行って、皆さんの持っている知識を知らしめてください」と資源エネルギー庁の幹部らに求めた。大西氏は六月、党の勉強会などで安全保障関連法案をめぐり「誤った報道をするマスコミには広告は自粛すべきだ」などと、報道機関に圧力をかける発言を繰り返し、谷垣禎一幹事長から二度にわたり厳重注意を受けたばかり。昨年は国会で女性蔑視のやじを飛ばして謝罪している。大西氏は会合で「安保法制が一段落つけば、九州電力川内(せんだい)原発がようやく再稼働になるが、こういった(再稼働)問題にマスコミの攻勢が行われる」と指摘。解説者らの発言を「ことさら原発再稼働反対の意思を表示している。一般の人たちが聞くと、あたかも日本のエネルギー政策は間違っているというとらえ方をしかねない」と述べた。


PS(2015年8月2日追加):考えたくないことは考えずに“想定外”と説明してきた東京電力福島第一原発事故だが、*7のように、「高さ15.7メートルの津波が襲う可能性があるという試算は、2009年6月までに報告されたにもかかわらず必要な措置を怠って重大な事故を発生させた」という理由で、東電の元3幹部が強制起訴された。検察審査会は、議決で「原発事業者は『万が一にも』発生する津波、災害にも備えなければならない高度な注意義務を負う」と指摘しており、過酷事故の存立危機事態を招く程の大きさを考えれば、私もそう思う。そして、川内原発も、周囲に活火山が多いため、万が一を考えるべきだ。

*7:http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/nucerror/list/CK2015080102100004.html (東京新聞 2015年8月1日) 東電元3幹部 強制起訴へ 「原発 万が一に備える義務」
 東京電力福島第一原発事故の刑事責任をめぐり、東京地検が二度不起訴とした東電の勝俣恒久元会長(75)ら旧経営陣三人について、東京第五検察審査会は三十一日、業務上過失致死傷罪で起訴すべきとする二回目の議決を公表した。三人は今後、裁判所が指定した検察官役の弁護士が強制的に起訴する。市民の判断により、原発事故の刑事責任が初めて裁判で問われる。選挙権のある国民から選ばれた審査員十一人による議決で、七月十七日付。他に起訴議決が出たのは、武藤栄(さかえ)元副社長(65)と、武黒(たけくろ)一郎元副社長(69)。検審は議決で、「原発事業者は『万が一にも』発生する津波、災害にも備えなければならない高度な注意義務を負う」と指摘。勝俣元会長らを「福島第一原発に高さ一五・七メートルの津波が襲う可能性があるとの試算結果の報告を、遅くとも〇九年六月までに受けたが、必要な措置を怠り、津波による浸水で重大な事故を発生させた」とした。東電は〇七年七月に柏崎刈羽原発事故などを経験し、原発が浸水すれば電源を失って重大事故が起きる危険性を把握していたとも指摘。勝俣元会長らは福島第一原発でも地震と津波による事故発生を予測でき、運転停止や防潮堤の建設などの対策を取れば、事故を避けられたと結論づけた。事故では、近隣病院の入院患者が避難を余儀なくされ、衰弱死するなどした。検審は、原発の建物が爆発した際に負傷した東電関係者や自衛官ら計十三人と、死亡した患者計四十四人を被害者と判断した。被災者らでつくる「福島原発告訴団」は一二年六月、勝俣元会長らを告訴・告発。東京地検は一三年九月、津波は予測できなかったとして、捜査対象の四十二人全員を不起訴にした。検審は昨年七月、元会長ら三人を「起訴相当」と議決。地検は今年一月に再び不起訴とし、別メンバーによる検審が再審査していた。


PS(2015年8月3日追加):*8に書かれているとおり、原発過酷事故の際の被害地元は広大な地域であるため、その地域の人は、その時の対処方法を確認しておく必要がある。しかし、原発の過酷事故は、一時的に避難すればよいというような甘いものではなく、熊本県、宮崎県、鹿児島県に住めなくなったり、農水産物が食べられなくなったり、高天原(@宮崎県高原町)に行けなくなったりするのだということを忘れてはならない。にもかかわらず、鹿児島県と薩摩川内市以外の同意はいらないとするのは、再稼働のための便宜でしかない。

       
    2015.8.3、7.7      2015.7.8  過酷事故時の汚染地図 
      東京新聞        西日本新聞    (フクイチ、大飯)
*8:http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/news/CK2015080302000117.html
(東京新聞 2015年8月3日) 川内原発 迫る再稼働 鹿児島県外から説明会の要請続々
 九州電力川内(せんだい)原発1、2号機(鹿児島県)の再稼働が迫るなか、九電に公開の説明会を求める声が、鹿児島県外にまで広がっている。宮崎、熊本両県では、四つの市町議会が決議などの形で意志を表明した。だが、九電は求めに応じていない。原発から七十八キロ東の宮崎県高原(たかはる)町。川内原発がある西からの風が吹くことも多く、市民グループが原発近くから風船を飛ばした実験では、三時間後に町内で拾われたこともある。議会は「事故時に原発の風下になれば、町は壊滅的被害を受ける。まさに『被害地元』そのもの」と主張。説明会を求める文書を九電に送った。中村昇町議(63)は「放射能は県境に関係なく飛んでくる。このままの再稼働は許されない」と焦りをにじませる。隣り合う鹿児島県出水(いずみ)市から避難住民を受け入れる計画の熊本県水俣市では、同議会が「(福島では)いまだ十二万人が故郷を奪われたままなのに、原因の究明は中途半端。市民が不安なまま再稼働に踏み切るのは無責任だ」と安易な再稼働を批判するとともに、説明会を求める決議をした。原発まで百三十キロほど離れた熊本県荒尾市と大津(おおづ)町の議会はいずれも、福島の事故当時、政府が二百五十キロ圏まで避難が必要になる最悪のケースを想定していたことを指摘。「川内原発にあてはめれば九州全域がすっぽり入り、全県が避難の対象になる。説明会は当然」などと訴えた。鹿児島県内では三月以降、原発から約百七十キロ離れた屋久島町議会など六市町議会が九電に説明会を求めてきたが、九電は「個別の要請に応じて話はしている」と、公の場での開催を避けている。


PS(2015年8月5日追加): 8月6日のヒロシマ原爆の日直前の8月5日に原子力規制委が川内原発再稼働の認可を行い、8月9日のナガサキ原爆の日翌日の8月10日に九州の川内原発を再稼働するというのは、唯一の被爆国として皮肉なことだ。また、国の存立をも脅かす規模になるため、決して過酷事故を起こしてはならないリスク機器の運転延長を認めるというのも常識はずれだ。さらに、このような場合に「原発事故の確率は0ではない」などと小賢しげに居直るのは、総合的判断力のない馬鹿である。 ぷん

*9:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/215629
(佐賀新聞 2015年8月5日) 川内再稼働「法令違反だ」 脱原発団体、国会内で集会
 脱原発を掲げる各地の市民団体の代表らが九州電力川内原発1号機(鹿児島県)の再稼働反対を訴える集会が4日、国会内で開かれた。参加者は「運転開始30年を超えて稼働する際に必要な認可手続きに不備があり、法令違反だ」と主張し、説明に訪れた原子力規制庁の担当者に、再稼働延期を申し入れた。九電は、早ければ今月10日に原子炉を起動させ再稼働する方針。集会に参加した各団体は5日、原子力規制委員会前で抗議集会を開く。川内1号機は7月で運転開始から31年。集会に参加した「原子力規制を監視する市民の会」の阪上武代表は「30年を過ぎる前に認可を得る必要があるが、まだ認可がなく、法的に問題がある」と指摘。「規制委は再稼働の日程に間に合わせるため、慌てて5日に認可しようとしている。率先して電力会社を手助けしているとしか思えない」と批判した。


PS(2015年8月8日追加):*10-1のように、特定の理論物理の専門家が、「再生可能エネルギーは蓄電技術が不十分なため、千年先を考えると原子力に代わるエネルギー源があるとは思えず、最終的には核融合発電しかない」などとしているのは、畜電技術は水素燃料や蓄電池の改良などが着々と進んでいる中で、お手盛りの論理の飛躍が過ぎる。また、「一般市民は、発作的に脱原発を訴えている」などとしているのも増長し過ぎで、一般市民は素粒子馬鹿ばかりではないため多面的に検討しているのだ。なお、*10-2のように、既に太陽光発電の普及や節電技術の進歩で猛暑でも電力にゆとりが出ており、日本は自然エネルギーの豊富な国であるためドイツよりも条件が良く、数十年単位や千年単位ではなく数年単位で実現可能なのである。

       
     8月5日の各社       2015.8.8朝日新聞  川内原発周辺の  審査中の原発
     電力使用状況         (*10-2)      医療・福祉施設  

*10-1:http://qbiz.jp/article/68518/1/ (西日本新聞 2015年8月8日) 【再考〜原発再稼動 識者インタビュー】(終)京都産業大教授・益川敏英氏
◆現実的視点が不可欠
−原発についてどう考えているか。
 「化石燃料は、あと300年ほどで枯渇する。シェールガスやシェールオイルの開発が進んでも、枯渇時期が100年ほど延びるだけで、いずれ化石燃料に代わるエネルギー源が必要になる。最終的には核融合発電だろうが、技術的問題が残っている。再生可能エネルギーも蓄電技術が不十分なため、安定的に利用できない。千年先を考えると、原子力に代わるエネルギー源があるとは思えない」
−川内原発(鹿児島県薩摩川内市)が再稼働に向け最終段階に入った。原発再稼働についての考えは。
 「福島第1原発事故が起きたように、原発はまだ安心して使える電源ではない。使用済み核燃料をどう処分するか、という難題も抱えている。国内に既にたまっているプルトニウムで大量の核爆弾が製造できてしまうのは、怖いことだ。火山と地震が多い日本で、核のごみを地中に埋める処分方法が適切とは思えない。原発は非常に難しい問題を抱えている」 「それでも、背に腹は代えられないというべきか、原発を再稼働するよりほかに方法がないと思う。ドイツは脱原発にかじを切ったと言われるが、リスクや責任を周辺国に転嫁しているだけだ。最も怖いのは、将来的に原子力の人材がいなくなる事態だ。原子力研究はかつて花形だったが、学生の人気が落ちつつあるようだ。一流の技術者が育たなくなれば、原子力は余計に危なくなってしまう」
−国民世論の多くは脱原発を望んでいる。
 「福島の事故を受け、一般市民が不安を覚えるのは当然の反応だが、多くの人が発作的に脱原発を訴えているのは問題だろう。エネルギーは誰もが使わざるを得ない。長期的な視点とリアリズム(現実主義)が不可欠だ」
−長期的には、再生エネの普及拡大が期待できるのではないか。
 「基本的に電気はためられないことが、ネックになっている。大量かつ安価にためられる電池技術が確立され、太陽光や風力を増やせれば、ある程度の問題は解決できる。だが、エネルギー問題は一筋縄にいかない。民間主導、商業ベースでの技術開発には限界がある。原発にしろ再生エネにしろ、300年後を見据えて課題を抽出し、国家プロジェクトとして継続的な研究に取り組む必要がある」

*10-2:http://digital.asahi.com/articles/ASH875HWYH87ULFA01Y.html?iref=comtop_6_02 (朝日新聞 2015年8月8日) 太陽光発電の普及・節電定着…猛暑でも電力にゆとり
 東京都心で7日、最高気温35度以上の「猛暑日」が過去最長の8日連続となるなど、各地で記録的な猛暑が続くなかで、大手電力各社は比較的余裕のある電力供給を続けている。すべての原発は止まったままだが、太陽光発電の普及や節電の定着で、真夏の電力不足の心配は遠のいている。電力供給にどれだけ余裕があるかは、その日の電気の供給力と、一日で最も電力の需要が多いピーク時を比べた「最大電力使用率」でわかる。東京電力や関西電力の場合、これが90%以上だと電力の余裕が「やや厳しい」、95%以上だと「厳しい」とされる。100%に近づくと、必要な電力に供給が追いつかず、停電の恐れがでてくる。7日までの1週間で、東京、中部、関西、九州各電力の最大使用率をみると、95%以上になったのは1日の中部電だけだった。東電では90%以上が4日あり、あとは90%未満の「安定的」だった。関電と九電は震災前に原発依存度が高く、今夏も綱渡りの供給が心配されたが、この1週間、関電で90%以上となったのは8月3日の1日だけ。九電はゼロだ。やはり猛暑だった2013年、関電は7~8月の2カ月間で90%以上が22日間あり、最大使用率が96%に達した日もあった。余裕ができた背景には、電力供給の変化がある。東日本大震災後、安定した電力の供給源だった原発が止まったことで、電力各社は老朽化で止めていた火力発電所もフル稼働するなどして供給力を維持したが、夏場の電力需要のピーク時の供給には不安があった。だが、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)のもと、太陽光発電の導入量がこの5年間で10倍近くに急増。晴れた日に発電量が多くなる太陽光が夏のピークに対応し、電力供給の安定につながっている。一方で、夏のピーク時の電力需要も、震災前と比べて十数%ほど少ない。LED照明への切り替えなど、企業や家庭で節電の取り組みが広がっているためだ。九電は11日にも、川内原発1号機(鹿児島県)の再稼働をめざしている。猛暑続きでも電力供給にゆとりがある日々が続いていることは、再稼働の是非をめぐる議論にも影響しそうだ。


PS(2015年8月10日追加):*11-1には、「安全か振興か」として、地域の安全と経済や振興が二者択一であるかのように書かれているが、他産業の誘致や移住促進を行うためには安全が前提であるため、地域振興は安全の上にしか成り立たない。それに対し、「原発が停止して、受注減で原発関連会社の経営が悪化した(原発関連業者)」「怖いけど『安全』という九電や国を信じて受け入れるしかない(原発作業員向け民宿の女性)」など地元の原発関係者の再稼働賛成意見が掲載されているが、このように一部の人が自分の利益にしがみつくと、地域全体が先進的な新しい事業を始めたり、次のステップに進んだりするチャンスを逃すのである。
 さらに、*11-2のように、長期間の原発停止で、原発の温排水による生態系の破壊が、磯焼けや漁獲高の減少によって水産業に著しく迷惑をかけていたことが明らかになった。このほか、原発が平時から一定量の放射性物質を排出している公害源であることは、前にこのブログに記載したとおりだ。

    
     *11-1より    2014.3.11東京新聞    2014.12.20そもそも総研

*11-1:http://qbiz.jp/article/68551/1/ (西日本新聞 2015年8月10日) 安全か振興か葛藤なお 再稼働目前川内原発の街 「手放しで喜べない」
 福島第1原発のような事故が、いつか起きるかもしれない。でも原発が止まったままでは、この街の生活は成り立たない−。九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)の地元では、11日の再稼働が目の前に迫った今もなお、住民たちが「安全」と「経済」のはざまで揺れている。「手放しで喜ぶ雰囲気はない」。川内原発の安全対策工事を請け負う地元企業の作業員男性(59)は、職場の様子を打ち明けた。原発が停止して4年。受注減で会社の経営は悪化し、ボーナスは減少した。リストラの計画もあった。再稼働は待ち望んでいたはずだった。
 なぜ喜べないのか。男性は「福島事故で、原発の現場でも『事故は起こり得る』と考えるようになったから」と話す。手掛けた工事に自信はあるが、想定外の何があるか分からない。就職して32年。原発のおかげで家を建て、子どもも育てた。安全に疑念を抱いたのは初めてだ。原発の南6キロにある自宅には、父親(91)と母親(88)が同居する。ともに足腰が弱く、事故が起きても迅速な避難は難しい。「原発は絶対の技術ではない。早く自然エネルギーにバトンタッチしないと」。原発の東11キロ。旅館やホテルが軒を連ねる薩摩川内市の中心街で、民宿の女性(83)は「怖いけど『安全』という九電や国を信じて受け入れるしかない」とうなずいた。13カ月おきにある原発の定期検査で全国から来る作業員を見込み、27年前に開業した。検査で1カ月半の間は50人収容の宿が満室になった。運転停止後は1日10人前後。4人のパートを半減させ、貯金も取り崩した。ひとたび原発事故が起これば、福島のように地域は崩壊するだろう。「結局、九電さまさまなんよ。川内は『原発の街』だから」。経営を考えると再稼働に期待するしかない。原発を望む海岸では9日、再稼働反対を唱える集会があり、全国から集まった2千人(主催者発表)が「国民の大半は再稼働に不同意だ」とデモ行進した。参加者で、原発の南東8キロに住む主婦馬場園征子さん(74)は憤る。「地元でも、もろ手を挙げて賛成する住民は少ない。一部の権力者の意向だけで進む再稼働に納得できない」

*11-2:http://d.hatena.ne.jp/TAKAO100000/20140414/1397493520
(元高槻市議会議員 和田たかお 2014-4-14) 原発停止で海の生態系に劇的変化が起こっている
 今、日本国中の原発がすべて止まっている。2014年4月12日のMBS「報道特集」は、原発の長期間停止で、その周辺の海に大きな変化が起こっていることを特集していた。その場所の一つは、6月末にも原子力規制委員会の審査が終わり、8月にも再稼働と「産経」が報じている川内原発の南部、いちき串木野市北西部の海だ。川内原発が出来てから、この地区の羽島漁協定置網漁の水揚げは20年で数分の1になったという。これは海藻がなくなったからだという。ところが、原発が2年半稼働停止になっている間に、海藻が生育できる状況に少しずつ変化が生じ、磯辺でもひじきが生育し始めているという。海水温が原発からの温排水で暖められていたのがなくなったのが原因と推定されている。佐賀県の玄海原発周辺でも事情は同じ。2006年に調査したときは全く海藻が生えていなかったのに、現在では海底に少し海藻が生えてきているという。海藻は暖かい海では生育できないのだ。魚も変化している。原発稼働中は南の海の魚が生き残れることで、色鮮やかな魚やキビナゴなど暖かい海に生息する魚が多かったが、それがいなくなっている。若狭湾の原発でも事情は同じ。ここでは京都大学の益田玲爾准教授が。高浜原発近くの海で10年間潜水調査を継続されていた。益田先生によると、高浜原発稼働停止から数日間で、寒さで息絶えている魚を見たと言われる。また、ここでも現在海藻の一種ホンダワラなどが生い茂り始めている。サザエやムラサキウニなどの原発稼働前に生息していた生物が復活、稼働中に見られたガンガゼ(ウニの一種)も稼働停止後2週間で死に、1ヶ月後には長いとげしか残っていなかったという。原発周辺の海は水温が2度高くなっていたのだ。人間にとって空気中の2度はどうにでも調整できるが、魚にとっては生死を分けてしまう水温なのだという。益田先生は火力発電所でも同じ研究をなさっているが、海に変化は起きていなかった。これらの事実から考えても、如何に原発が自然環境を破壊するものなのかよくわかる。原発を「エネルギー基本計画」の中で、ベースロード電源として位置づけ、再稼働に向けてまっしぐらに進む安倍政権の危険性が示されていると言うべきだろう。

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2015.7.16 安いと主張されている原発コストの嘘と、原発事故の処理費用、廃炉費用、核のごみ処理費用について (2015年7月17、22日追加あり)
    
2015.5.27 2015.7.2   経産省原発コスト     エネルギー構成  2030年 
朝日新聞   朝日新聞                                コスト予測

    
 2015.7.3   2015.7.7        2015.7.3         2015.7.8
 河北新報    西日本新聞       西日本新聞         西日本新聞

(1)脱原発の方が合理性があること
 上図及び*1-1のように、経産省は2030年の電源構成を、発電量に占める原発の割合が、現在でも0であるにもかかわらず、「①コストが安い」「②CO2を出さない」などの理由で、20~22%と設定した。しかし、太陽光発電は、九電が買取制限をかけるまで等比級数的に伸び、九州だけで現在でも原発5基分に達しており、大量に生産すればするほどコストが安くなる性格のものである。

 しかし、経産省は、「電気料金の値上がりで家庭や企業の負担がさらに増えれば、経済成長にマイナス」とし、原発の発電コストは1キロワット時で10.3円以上とした。これは、i)過酷事故への対応費を過小に見積もり ii)過酷事故が起きる確率を過小に仮定し iii) 建設中のフランスやフィンランドの原発と比較して、原発の建設費を過小に見積もり iv)自然エネルギーの普及を止めて次のステップへの技術進歩を妨害し v)その結果、本当の経済成長を妨害している。つまり、経産省の理由づけは、原発ありきの電源構成を導くためのものなのだ。

(2)川内原発再稼働最終段階 !?
 そのような中、*1-2のように、九電は7月7日、原子力規制委員会の審査に適合すると認められた川内原発1号機(鹿児島県薩摩川内市)の原子炉に核燃料を装填する作業を始め、8月10日頃に原子炉を起動して、8月13日前後に発送電を開始して再稼働する予定で、2号機についても10月中旬の再稼働を目指し、これは電力不足を理由とした政治判断とのことだが、この発想が極めて古いのである。

 しかし、*1-3のように、九電内部では原発再稼働で大幅な収支改善効果が期待できるという安堵感が広がったということであるため、今後(二度目の過酷事故以降)は、過酷事故の損害賠償もすべて電力会社の負担にすべきである。そうしなければ、国民負担で有害な古い技術の補助をして先進的な技術の足を引っ張り、原発再稼働は収益力を強化するという誤ったメッセージが株主や国民に蔓延して公正な競争にもならず、次々と原発の再稼働が進むことになるからだ。

 さらに、*1-4のように、川内原発1号機が昨年7月に運転開始から30年を迎えたが、原子炉等規制法は30年を超えて運転する場合も原発再稼働認可の条件にはしていない。これに対し、市民団体や野党国会議員から認可なしの再稼働に批判が相次いだそうだが、危機管理に対する人の対応の甘さも含めて、日本は原発を使うべき国ではないのである。それでも、政治・行政は迅速で的確な意思決定ができないため、*1-5のような運転停止の可能性もある司法判断が期待される。

 なお、*1-6に、「原発は倫理的存在か」という記事があり、i)使用済核燃料が原発の高い場所に大量に保管されている ii) 使用済核燃料の処理・処分技術すら確立されていない iii)自分で処理・処分できないものを「他人任せ」にして成立している技術だ などが挙げられ、面倒なことは他人に任せで自分だけが利得を得る態度が倫理的問題だとしている。私は、使用済核燃料の問題も非常に大きいが、核燃料は作る時も、運送する時も、使用する時も人間に被曝を強いるため、使わないのがBestだと考える。

 また、*1-7のように、原発の運転開始から30年以上経過しながら、これまで廃炉などの後始末に道筋をつけずに原発を推進し、今になって廃炉のため克服しなければならない課題が山積しているなどというのは、他の技術ではあり得ないことだ。経産省は、*3-4のように、核のごみの最終処分場に追加財政支援の意向を示しているが、そもそも交付金は、電力会社や原発由来の電力を使用する者が負担するのではなく、税金によって将来も長く賄われる原発のコストだという認識を明確にすべきである。
 
 それにもかかわらず、「原発はコストが安いから、再稼働が必要」などと言う人がいるのは勝手極まりなく道徳に反するし、福島第一原発事故による帰還困難区域、遠くの無人島、深海など、問題の少ない候補地は多いにもかかわらず、発電もしない核のゴミを分散して処理し、膨大な税金を投入しようとしているのも、倫理観に欠ける。

(3)原発事故の賠償
 *2-1のように、東電福島第一原発事故を機に、富山県内の主婦らでつくる市民団体「とやま原子力教育を考える会」が、放射線の危険性や事故の歴史を盛り込んだ中高生向けの冊子「私たちの放射線副読本」をまとめたそうだが、*2-2のように、一般には現在でも放射線の人体への影響を過小評価する教育や政策が行われているのは愚かなことである。

 フクシマの場合は、初めての過酷事故だったため国が責任を持つのも仕方がないが、まさに*2-3のように、東電は賠償額を計7・1兆円と見積もり、これは従来の見通しより1兆円程度増額した。しかし、私も、*2-4のように、住民の健康を守るためには予防しかないため、避難指示解除は、年間の追加被ばく線量が1ミリシーベルト以下であることが確認された地域から慎重に行うべきであると考える。そのため、本当に被害がこれですべてであるとは思っていない。

(4)核廃棄物の処理と最終処分場について
 *3-1のように、スウェーデンでは、エストハンマル自治体のフォルスマルク森の地下450メートルに、原発から出た使用済核燃料を埋め立てる最終処分場ができるそうだ。それは、地層処分で、安全なレベルになるまでの約10万年間、地下深くで保管する手法である。また、*3-2のように、原子力大国のフランスでも、人類の難題「核のごみ」を巡る議論が続いており、未解決である。

 そして、*3-3のように、日本でも原発での使用済核燃料の保管は危険であり、既に余裕もないが、処分場の選定は難航している。私は、日本でも地層処分が最も安全だと思っていたが、国土が狭く温暖で地下水が豊富な日本では適地が少ないため、これでは収益を生まないごみの処分にカネがかかり過ぎ、陸上で候補地を探すのも困難であるため、これ以上の核廃棄物を決して出さないという条件付きで、核廃棄物が絶対に外に漏れない厳重な容器に入れ、8000メートル以上の深海の水が殆ど動かない場所に沈める方法もありではないかと考えている。

(5)九電川内原発と地震・火山
 東電福島第一原発は、津波に関する専門家の意見を無視したため、過酷事故を起こし、取り返しのつかない損害を与えた。しかし、*4-1の九電川内原発(鹿児島県薩摩川内市)は、*4-2のように、「地震・火山対策が不十分だ」と、地震・火山学者が懸念を表明しているにもかかわらず、無視している。 

 鹿児島市から12日間かけて歩いてきたリレーデモ隊も、九電側と小競り合いになり、警察が出動してデモ隊を抑制することになっている。原発の再稼働を心待ちにする事業者というのは、どういう事業者かわからないが、地震・火山など50の学会・協会で組織する「日本地球惑星科学連合」が多くの問題を指摘しているのをどう受け止めているのだろうか。

 そのような中、*4-3のように、同じ火山帯に属する鹿児島県口永良部島新岳が噴火し、これは、マグマ噴火だそうだ。マグニチュード9クラスの地震が起きた周辺で火山噴火が多くなるのは世界的な傾向で、東日本大震災で列島の地殻に加わる力が変わったためとすれば、今後も規模の大きいマグマ噴火が起こりうると考えねばならず、九州とその南の沖合では過去、破滅的なカルデラ噴火が繰り返され、7300年前の薩摩硫黄島噴火では、火砕流が九州内陸や屋久島にまで達したとのことである。

(6)地元の範囲と国民の意見
 *5-1のように、宮台真司首都大学東京教授と杉田敦法政大教授を代表として、「原発の是非で国民投票をしよう」と呼びかける署名が16万筆集まり、また、*5-2のように、玄海原発の地元である佐賀県でも、元佐賀大学学長の長谷川照氏を団長として県内外の市民が、国と九州電力に玄海原発全4基の操業停止を求めて訴訟しており、新たに270人が追加提訴して原告数が9396人になったそうだ。

 *5-3のように、ナガサキでも、「さようなら原発1000万人アクション・ナガサキ」などが主催して、「さようなら原発ナガサキ集会」が、長崎市平野町の長崎原爆資料館ホールで開かれ、約300人が再稼働反対の思いを一つにし、「一体何度『ノーモア』を繰り返せばいいのか」と脱原発を呼び掛けたそうだ。

 なお、*5-4のように、伊万里市の塚部芳和市長は、玄海原発の再稼働を同意する際の「地元範囲」に伊万里市など玄海原発から30キロ圏内を含めるよう要望することを明らかにしているが、30キロ圏内のみならず、原発事故で被害を受ける地域に同意権があるのは当然のことである。

 *5-5のように、四国電力伊方原発3号機が新規制基準に適合しているとした原子力規制委員会の決定に、原発から海を挟んで約45キロに位置する大分県で漁業関係者らが不安を募らせているが、魚は「風評被害」ではなく実際に放射性物質を含み、人体に被害をもたらずだろう。原発のために瀬戸内海の海産物や四国・九州の農産物を台無しにしては、食料自給率や輸出どころの話ではなくなるため、日本の大半の食品に核廃棄物のマークがつく前に、考え直すべきである。

<脱原発の合理性>
*1-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11836647.html
(朝日新聞 2015年7月2日) (教えて!電源構成:1)原発コスト、本当に最安?
 15年後の2030年、私たちが使う電気をどのように賄うのか。政府がまとめた電源構成(エネルギーミックス)案は、発電量に占める原発の割合を約2割とし、太陽光や風力は期待されたより抑える内容でした。そんな政府案の課題を8回にわけて読み解きます。初回は原発の発電コストは本当に安いのか―。
■事故頻度、半減見立て
 電源構成とは、全体の発電量に占める最適な電源の組み合わせをまとめたもので、政府は3~5年ごとに見直している。日本は火力に使う燃料の大半を輸入に頼っており、長期の資源調達や設備投資計画を考えておく必要があるからだ。政府は30年度の電源構成を決めるにあたり、「負担増をできるだけ抑える」方針でのぞんだ。電気料金の値上がりと並んで消費増税などの負担増が本格化しており、家庭や企業の負担がさらに増えれば「経済成長にマイナス」と考えた。経済産業省が電源ごとの発電コストを試算したところ、原発は1キロワット時で10・3円以上となり、主要電源のなかでは石炭火力の12・9円、水力の11・0円より安くなった。ここから、負担増を抑えるには「最安」の電源に頼るしかないという理屈で原発は2割必要と結論付けた。「原発比率を高くすれば、すべてが解決する」。宮沢洋一経産相は6月の会見で強調した。東京電力の福島第一原発事故は、いったん原発で過酷事故が起きれば、取り返しのつかない被害が生じることを世界中に知らしめた。それでも原発が最安とされたのはなぜなのか。からくりのひとつは、大きな事故に備えた「事故リスク対応費」にある。ここに含まれる廃炉や損害賠償、除染などの損害費用は、前回の11年時に試算した5・8兆円から9・1兆円に増えはした。ただ、これは経産省も認める「下限」の金額。事故を収束させる見通しが立たないなかで、実際の損害費用は大きく膨らむ可能性が高い。さらに、震災後の新規制基準に基づいて安全対策などが実施された結果、炉心損傷などの過酷事故が起きる回数は対策前より「ほぼ半減した」と見立てた。前回は、50基の原発をベースに「40年に1回」の頻度で事故が起きるとしていたが、「80年に1回程度」に減る計算だ。経産省が「半減」の根拠にしたのは、原子力規制委員会の審査で扱われた事故の「リスク評価」。震災前からの対策などを除いた状態の原発で、どんな原因で心臓部の炉心が損傷し、どのぐらいの頻度で起きるかを分析。安全対策によって事故の可能性がどれだけ減るかを試算したものだ。九州電力は規制委の審査で、再稼働を目指す川内原発(鹿児島県)の事故を起こす頻度が、一つの安全対策で「6割以上減る」との試算を示していた。経産省はこうした電力会社の試算などから、事故頻度はほぼ半減すると追認した。事故対応費は、損害費用を80年に1回程度という事故頻度で割り、それをさらに年間発電量で割って1キロワット時のコストを計算する。その結果、対応費は前回の0・54円から、ほぼ半減の0・3円になった。だが、事故頻度の試算結果を対応費と直接結びつけることには、規制委内でも「違和感がある」との声がある。専門家の一人は「損害費用がどんなに膨らんでも、半減した事故頻度で割れば、たいした被害ではないと言うに等しい結論になる」と指摘する。
■建設費、甘い見積もり
 建設費などの「資本費」にもからくりがある。経産省が試算した建設費は1基あたり4400億円。東北電力東通原発など国内で比較的新しい原発をベースにしたとはいえ、事故前の仕様だ。海外では、原発の建設費は右肩上がりで、日本原子力産業協会によると、建設中のフランスやフィンランドの原発は1基あたりの見積もりが、当初の2・5倍の1兆円超になっているという。原発に詳しい立命館大学の大島堅一教授は、海外の原発は安全性をより高めた最新型で建設費が高くなったとみる。「少なくとも、海外で原発の建設コストが上がっていることの検証が欠かせない」と指摘する。

*1-2:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2015070702000273.html (東京新聞 2015年7月7日) 川内原発、7日午後に核燃料装填 検証不十分 最終段階に
 九州電力は七日午後、原子力規制委員会の審査に適合すると認められた川内(せんだい)原発1号機(鹿児島県薩摩川内市)の原子炉に核燃料を装填(そうてん)する作業を始める。その後の検査で問題がなければ八月十日ごろに原子炉を起動し、同十三日前後に発電と送電を開始して再稼働する予定。2号機についても十月中旬の再稼働を目指す。燃料装填により再稼働に向けたプロセスは大詰めを迎える。今後の作業が順調に進めば、東京電力福島第一原発事故を受けて二〇一三年七月に施行された新規制基準に適合した原発として初の運転再開となる。宮沢洋一経済産業相は七日の閣議後の記者会見で「やっとここまで来たかとの思いだ」と述べた。九電によると、川内1号機に入れる核燃料は計百五十七体で、原子炉建屋に隣接する使用済み核燃料プールからクレーンで移動させて原子炉容器に装填する。作業は全て水中で行い、終了までに四日程度かかる見通し。規制委は昨年九月、川内1、2号機が新規制基準に適合していることを認める「審査書」を決定。作業が先行する1号機では今年三月に使用前検査が始まり、今月三日に核燃料の装填に必要な検査が終わった。規制委は燃料装填後も検査を継続し、冷却系配管などの設備に不具合があれば九電に対策を求めるため、再稼働時期がずれ込む可能性もある。九電は今後、重大事故を想定した訓練を実施し、問題がなければ原子炉の起動試験に移る。東日本大震災以降、電力不足を理由とした政治判断で一二年七月、関西電力大飯(おおい)原発3、4号機(福井県おおい町)が再稼働したが、一三年九月の定期検査入り後、国内の全原発が停止している。
◆九電、自治体に説明せず
<解説> 火山の巨大噴火リスクや周辺住民の避難計画の不十分さなどいくつも重要な問題が山積したまま、九州電力川内原発1号機(鹿児島県)が、再稼働に向けた最終段階に入った。川内原発は、桜島を中心とした姶良(あいら)カルデラをはじめ、数多くの火山に囲まれている。九電は何十年も前に巨大噴火の予兆をつかむことができるため対応は可能だとし、原子力規制委員会もその主張を妥当と判断している。しかし、五月に同県の口永良部島(くちのえらぶじま)新岳の噴火が示したように、ただでさえ噴火予知は非常に難しい。巨大噴火の場合は、現代の科学による観測データがなく、どんな過程を経て噴火に至るかよく分かっていない。火山の専門家からはさらに難しいとの指摘が相次いでいる。使った核燃料は自らが高熱を発するため、二年間はプールの水で冷やしてからでないと外部に運べない。にもかかわらず九電は、核燃料をどこにどう緊急搬出するか、いまだ十分に検討していない。鹿児島県や薩摩川内市は既に再稼働に同意したが、屋久島や種子島などで九電に説明を求める動きが広がっている。だが、九電は公の場で反対意見が出るのを避けるため、説明会を開こうとしない。避難計画は、国際原子力機関(IAEA)が定める国際基準の中で、五つ目の最後のとりでとなる。鹿児島県や周辺自治体の計画はできたが、避難住民の受け入れ態勢の協議などはほとんどされていない。計画に実効性があるのか、規制委も含めどこも検証しない。

*1-3:http://qbiz.jp/article/66278/1/ (西日本新聞 2015年7月8日) 【川内原発燃料装填】社長「動かしてみないと…」 九電「4年ぶり」に安堵と不安
 川内原発1号機は7日、核燃料装填に着手したことで再稼働に向けた最終段階に入った。2011年12月に九州電力が保有する原発が全て停止して3年7カ月。大幅な収支改善効果が期待できる再稼働がほぼ確実となったことで、社内には安堵(あんど)感も広がった。「ここまで長かった。ようやくといった感がある」。九電関係者は大きく息を吐き出した。新規制基準に基づく原子力規制委員会による川内1、2号機の審査が始まったのは13年7月。当初は半年程度で終わるとみられていた。だが、新基準下では全国初の審査とあって、九電、規制委ともに手探りの作業だったことに加え、九電が必要書類の準備に手間取るなどしたことで大幅に長期化。審査終了まで2年弱を要した。原発停止は財務に大打撃を与えた。九電が13年春に値上げした電気料金は、同年7月に川内1、2号機、翌年1月までには玄海原発3、4号機(佐賀県玄海町)も再稼働していることを前提に算出。ところが、長期停止に伴い火力発電の燃料費がかさんだ。15年3月期連結決算で純損益が約1147億円の赤字となり、4年連続の最終赤字を計上。東日本大震災前に6千億円以上あった過去の利益の蓄積も底を突いた。川内1号機は工程が順調に進めば8月中旬にも再稼働し、夏の高需要期に間に合う可能性がある。他電力や市場からの調達は大幅に減らせる。2号機も稼働すれば年平均で月間150億円の収支改善効果があるため、料金の再値上げは当面、回避できる見通しだ。4年以上停止している川内1号機。再稼働までの工程が想定通りに進むかは予断を許さない。瓜生道明社長は「止まっている間に総点検を3回やり、不良箇所は直している。ただ、動かしてみないと分からないという若干の不安はある」と打ち明ける。川内1、2号機が再稼働すれば本年度の黒字化が視野に入る九電。だが、16年4月に始まる電力の小売り全面自由化などの変化に対応していくには、強固な財務基盤が欠かせない。収益力強化のため、川内に続き玄海3、4号機の再稼働も急ぐ構えだ。

*1-4:http://mainichi.jp/select/news/20150711k0000m040056000c.html
(毎日新聞 2015年7月10日) 川内原発1号機:30年超の運転 29日にも認可 規制委
 1号機は昨年7月に運転開始から30年を迎えた。原子炉等規制法は、30年を超えて運転する原発に対し、機器の劣化の評価や管理方針を定めることを電力会社に義務付けているが、再稼働の条件には含まれていない。市民団体や野党の国会議員からは認可なしの再稼働に批判が相次いでおり、規制委の田中俊一委員長は6月の記者会見で「法律上の枠組みが一般的感覚としては理解しがたいことはよく分かる」と述べていた。

*1-5:http://qbiz.jp/article/66283/1/
(西日本新聞 2015年7月8日) 【川内原発燃料装填】注目される司法判断、運転停止の可能性も
 原子力規制委員会の審査基準に適合しているとされた九州電力川内原発で核燃料の装填(そうてん)作業が7日に始まり、原発は再稼働の最終準備に入った。今後、稼働の「壁」として立ちはだかる可能性もあるのが司法の判断だ。周辺住民らが再稼働差し止めを求めた仮処分申し立ての即時抗告審で、福岡高裁宮崎支部の判断が早ければ年内にも下される。最大の争点は、原発耐震化の基準となる「基準地震動」の妥当性。再稼働したとしても「想定する揺れは小さすぎる」との判断になれば、再び運転停止となることもあり得る。再稼働が近づく原発の差し止め仮処分をめぐっては4月、差し止め決定が出された関西電力高浜原発3、4号機と、却下された川内原発1、2号機で司法判断が割れた。川内原発については先月末、福岡高裁宮崎支部に審判の場が移った。基準地震動は、周辺の活断層が動いた際に想定される揺れのことだ。この数値が「小さすぎる」となると、原発設備はさらなる耐震化工事と、それに伴う費用負担が求められ、運転は続けられなくなる。住民側弁護団の内山成樹弁護士は、九電の地震動が「地域で過去発生した地震の平均値にとどまっており、最大レベルを想定できていない」と批判した。高浜原発の決定を出した福井地裁も、地震動の推定について「実績のみならず理論面でも信頼性を失っている」と再稼働を認めなかった。内山弁護士によると、抗告審で争点となりそうなのが、地震動を導き出す過程で広く使われている「松田式」(断層の長さから地震の規模を推定する式)。「松田式を使った地震動はあくまでも平均像。安全を重視すれば、基準地震動は今より4倍以上必要になるのは明らか」と訴える。松田式を1970年代に提唱した東京大の松田時彦名誉教授(84)も「式自体に妥当性はあると考えている。問題はその使い方だ。原発は十分な安全性が求められる施設であり、基準地震動を平均値にとどめるなら、安全想定としては低いと思う」と指摘している。原発の規制基準の妥当性そのものが問われているとも言えるが、原子力規制庁は「裁判関連は答えられない」と取材に応じていない。九電は「原発の安全性が確保されているという主張が高裁でも認められるよう対応したい」(事業法務グループ)。巨大噴火への対応や避難計画の妥当性についても争点となっており、あらためて司法判断が注目される。

*1-6:http://digital.asahi.com/articles/ASH775W3CH77UEHF018.html?iref=comtop_list_pol_f01 (朝日新聞 2015年7月7日) 原発は倫理的存在か
東浩紀(あずま・ひろき) 作家・思想家 1971年生。ゲンロン代表取締役。専門は現代思想、情報社会論、表象文化論。メディア出演多数。主著に『存在論的、郵便的』(1998、サントリー学芸賞受賞)『動物化するポストモダン』(2001)『クォンタム・ファミリーズ』(2009、三島由紀夫賞受賞)『一般意志2.0』(2011)。編著に『福島第一原発観光地化計画』(2013)など
■原発は倫理的存在か
 原発をめぐる議論で「倫理」がなぜ問われるかといえば、それは使用済み核燃料の処理技術が確立されていないからである。「トイレのないマンション」とも揶揄(やゆ)されるように、現在の原発は、使用済み燃料の処理を、長期間保管しその危険性が自然に減衰するのを待つか、あるいは後世の技術開発の可能性に委ねることで成立している。いずれにせよ、いまここで処理できないものを、いつかだれかがなんとかしてくれるという「他人任せ」の態度のうえで成立しているのは疑問の余地がない。面倒なことは他人に任せ、自分だけが利得を得る。そのような態度が「よい」ことであるかどうか。原発の倫理的問題は結局はそこに集約される。日本では福島第一原発事故を機にはじめて関心を向けたひとが多いが(筆者自身もそのひとりだが)、この問題は本質的に事故の可能性とは関係ない。経済性とも関係がない。事故がなくても、いくら経済効率がよくても、使用済み核燃料は蓄積する一方であり、後世の自然環境と人間社会の負担は増える一方だからである。そしてそう考えると、上記の問いに肯定で答えることはきわめてむずかしい。面倒なことを他人に任せ、自分だけが利得を得る。そのような態度が、無責任で責められるべきものであることは、文化的な多様性とは無関係に、多くのひとが同意する価値観だと思われる。そうでなければ、そもそも人間社会は成立しない。つまり、原発は(少なくとも現在の技術水準での原発は)、そもそもが倫理に反する存在なのである。わたしたちは、原発を建設し、運用し、その果実を享受することで、日々倫理に反する行動を行っている。しかし、これは必ずしも原発の即時停止や全廃を意味しない。また、わたしたちすべてが深く反省し、罪の意識に沈殿すべきだということも意味しない。なぜなら、人間の行動は倫理のみで測られるわけではないからである。倫理に反する決定が、別の論理に基づいて支持されることはある。たとえば戦争時の殺人のように。あるいは、地球の裏側で何百万人もの飢えた子どもたちがおり、少額の寄付でその多くの命が救われることがわかっているにもかかわらず、ジャンクフードで日々膨大な食料と資金を浪費しているわたしたちの日常のように。それゆえ、わたしたちが考えるべきなのは、原理的には倫理に反するはずの原発が、それでもいまこの時代に存在が許される、そのときの「条件」とはなにかということである。それは便利だから許されているのか。儲(もう)かるから許されているのか。ほかに手段がないから許されるのか。議論はここから具体論に入り、哲学の手を離れる。最終的な結論はさまざまな要素に依存し、不安定な未来予測にも左右される。たとえば、もし近い将来に画期的な技術革新が生じ、使用済み燃料の危険性が安全かつすみやかに除去できるようになるとするならば、たとえいま原発が倫理に反するように見えたとしても、むしろ建設を推進し、革新の到来を早めたほうが倫理的だということになる。あるいは、多くの人文的問題と同じく、その議論もまた再帰的な構造をもつ。たとえば、もし仮に、ある国で原発が倫理に反するものであることを確認したうえで、それでも慎重な議論を経て稼働が不可避だと判断されたのだとしても、その事実そのものがほかの国で安易な建設を促進するのだとすれば、その副作用は議論の最初の前提を掘り崩してしまうことになる。原発そのものが素直に肯定できる存在ではない以上、わたしたちは、その是非について、未来や他者の視線も考慮しながら総合的に判断しなければならない。以上、原発と倫理の関係について私見を述べた。ではそんなふうに言うおまえは具体的にどう考えているのかと問われれば、筆者は、深刻な福島第一原発事故を経験した日本は、ほかの国とは異なる条件を自覚し、原発の管理について特別の倫理的な役割を果たすべきだと考えている。それゆえ、原発の再稼働はしても新設はせず(リプレース含む)、自然全廃を受け入れるとともに、他方で原子力の研究にはいっそうの力を入れ、新設なしでの研究者と技術者の養成を試みるべきだと思う。しかし、その根拠について記すのは、また別の機会に譲りたい。いずれにせよ、わたしたちが忘れてはならないのは、原発というのは、21世紀初頭の現時点での技術水準においては、そもそも倫理に反する存在、つまり「存在しないほうがいい存在」であり、それゆえ稼働や新設をめぐっては慎重な議論が求められるということである。わたしたちは、すべての議論を、まずこの認識から始めなければならない。さきほども記したように、わたしたちはつねに倫理を守る必要はない。しかし、倫理を破るには、つねにそれなりの「言い訳」が必要になる。そして、その言い訳をどれだけ精緻(せいち)に、説得力あるかたちで、そして普遍的な論理に基づいて作ることができるか、そこでこそ人間の知性は試される。その点で言えば、立地自治体と経済界が望むので新設します、というのは、知性のかけらもない判断である。

*1-7:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11655467.html?_requesturl=articles%2FDA3S11655467.html&iref=comkiji_txt_end_s_kjid_DA3S11655467 (朝日新聞社説 2015年3月18日) 廃炉の決定 「脱原発」を見すえてこそ
 関西電力と日本原子力発電(原電)が、運転開始から40年を超えた原発3基の廃炉を決めた。中国、九州の2社も計2基の廃炉を18日に決める予定だ。運転期間を原則40年とする、福島第一原発の事故後に設けられた規制が初めて適用される。日本の発電所に48基ある原子炉(商業炉)のうち、20基近くが運転開始から30年以上経過している。延長は1回だけ認められるが、特別な審査に合格しなければならず、追加投資の必要も生じる。今後は毎年のように、廃炉にするのか決断を迫られるようになる。 1963年に原子力発電に成功して以来、日本は後始末に道筋をつけないまま原発を推進してきた。このため、廃炉を進めるために解決しなければならない課題が山積している。これらを克服し「廃炉できる国」にしていくことは、脱原発を着実に進める前提にもなるはずだ。
■未解決のゴミ問題
 廃炉事業で最も深刻なのが、ゴミの問題だ。解体にともなって出る使用済み核燃料と放射性廃棄物の置き場所が決まっていない。使用済み燃料については、全量を再処理する「核燃サイクル」を掲げることで直視を避けてきた。しかし、事業は事実上破綻している。使用済み燃料は原発の冷却プールや乾式キャスクに入れて敷地内に保管せざるをえないのが実情だ。特に関西電力は、福井県と「使用済み燃料の保管・処分は県外で」と約束してきた経緯がある。今回、美浜2基の廃炉を決めたことで、この約束とも直面することになる。放射性廃棄物の取り扱いもやっかいだ。線量の多寡によって分別され、それぞれ地中で管理する方針は決まっている。だが、高レベル廃棄物はもとより、低レベル廃棄物も処分地が決まっていない。埋設にあたっての管理基準もこれからだ。処分のめどが立たなければ廃炉作業自体が滞る。実際、国内の商業炉で初めて廃炉を決めた原電の東海原発(茨城県)では低レベル廃棄物の処分法が確立できないため、一度3年延期した原子炉の解体作業の着工をさらに5年先送りしている。政府は高レベル廃棄物の最終処分場について、立候補を待つ方式を改めて、自ら候補地の選定に乗り出す。どこにも決まらなかった経緯を考えれば、選定は難航が予想される。一方的な押しつけにならないよう手続きの透明性とともに、対話する機会を確保することが何より大切になる。
■必要になる地元支援
 原発が立地する地域にも配慮する必要がある。立地自治体には現在、電気料金に含まれる税金を財源とした電源三法交付金が配られているが、廃炉が決まれば対象外となる。経済的な自立の難しい過疎地域で、自治体財政を原発マネーに依存しているところが多いだけに影響は少なくない。お金を理由に立地自治体が原発の維持や建て替えを望む悪循環は断ち切らなければならない。ただ、いきなり住民生活に支障が出ることは避けるべきだ。当面、何らかの財政支援が必要になるだろう。人口も資源も少ない地域の振興は容易ではない。それでも、事故で大きな被害を受けた福島県は、再生可能エネルギーによる再生にかじを切った。福井県でも地域の資源を見つめ直す動きはある。国は、電力消費地との連携をとりもつなど、原発からの自立を積極的に支えることに注力してほしい。
■自由化に沿うものに
 政府は、電力の自由化を進めている。16年度には電力大手の地域独占を廃し、20年度には発送電を分離する計画だ。電気の利用者は、自由に電源を選べるようになる。一方、廃炉は20~30年かかる長丁場の事業になる。そのコストは一体、誰が負担するのか。今回の廃炉にあたっては会計処理のルールが見直され、必要額を電気料金から回収できるようにしている。廃炉費用の負担が電力会社にとって過大であれば、廃炉自体にブレーキがかかるとの考えからだ。今後についても送電網の使用料の一部として広く国民に負担を求める案が浮上している。だが、政策上増やしていく電源ならともかく、配慮が過剰になれば減らしていくべき原発の温存につながる恐れがある。競争上の公平さからも疑問は残る。詰めの論議が必要だ。廃炉の道筋を整えることは一面で、原発を更新しやすい環境をつくることにもなる。しかし、福島第一原発の事故を思えば、脱原発につなげることにこそ、廃炉を進める意味がある。関西電力は同じ17日、40年前後の原発3基の運転延長を求めて、原子力規制委員会に審査を申請している。脱原発依存を着実に進めるのか。政府はエネルギーの将来絵図を明確に示すべきである。

<原発事故と賠償>
*2-1:http://www.chunichi.co.jp/article/toyama/20150706/CK2015070602000029.html (中日新聞 2015.7.6) 放射線の真実記す 県内主婦ら 中高生向け冊子作製
●危険性、原発事故の歴史…
 東京電力福島第一原発事故を機に、県内の主婦らでつくる市民団体「とやま原子力教育を考える会」が、放射線の危険性や事故の歴史を盛り込んだ中高生向けの冊子「私たちの放射線副読本」をまとめた。県内の全教育施設に無償配布する予定で、代表の道永麻由美さん(62)は「同じ過ちを犯さないよう、真実を正しく伝える手助けになれば」と話す。副読本は、A4判全九十一ページカラー刷り。米国・スリーマイル島やウクライナ・チェルノブイリなど、世界で起きた原発事故の年表や放射線による人体への影響、身の守り方を図や表、写真で紹介している。福島原発事故後の二〇一一年九月、文部科学省が発行した副読本の内容が、「福島原発事故についての記載がなく、責任や原因にも触れていない」(道永さん)として、不満を抱いたメンバーらが集まって独自の副読本作製を企画。放射線の恐ろしさを正しく伝えようと、市民からの協力金など五十万円を集め、一二年四月から三年がかりで今年五月に二千部を完成させた。五日は富山市新富町のCiCビルで、メンバー六人が県内の教育施設五百六十九カ所や図書館六十八カ所への発送作業に追われた。副読本は、一冊五百円(税込み)と郵送料で購入できる。問い合わせは道永さん=電090(7083)8190=へ。

*2-2:http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201507/20150704_13015.html
(河北新報 2015年7月4日) <女川原発>事故時「仙台など高線量の恐れ」
 原発の重大事故に備える避難計画をめぐり、前提となる放射性物質の拡散想定の在り方が問われている。民間のシミュレーションでは、東北電力女川原発(宮城県女川町、石巻市)が東京電力福島第1原発並みの事故に陥った場合、空間放射線量は県内の広範囲で高くなる恐れがあると判明。ただ原発から30キロ以上離れた仙台市などが避難対象に含まれる事態は想定されていないのが実態だ。「放射性物質は『見えない津波』。汚染の広がり方には地形や風向、風速などが大きく影響する」。民間シンクタンクの環境総合研究所(東京)顧問の青山貞一東京都市大名誉教授(環境政策)はこう強調する。研究所のシミュレーションによると、女川原発の事故想定では、風向きなどによっては、仙台市でも1時間当たりの空間放射線量が数十マイクロシーベルトに達する可能性があるという。地形を考慮した結果は図・上の通り。女川町周辺では西よりの風が多いが、陸地への影響が懸念される「東北東」の風を想定し、風速2メートルの場合の空間放射線量を色分けした。原発から数キロ圏は数百マイクロシーベルトと非常に高く、30キロ圏外の仙台市や七ケ浜町なども20~50マイクロシーベルトに上った。100キロ近く離れた白石市や蔵王町などは10~20マイクロシーベルトなどとなり、地形を考慮しない場合(図・下)より、高線量地域が広かった。原子力規制委員会の新たな基準では、毎時500マイクロシーベルトは即時避難、20マイクロシーベルトは1週間程度以内の避難に該当する。一方、規制委が2012年10月に公表した拡散予測では、避難が必要となるのは女川原発から最大18.3キロと試算されていた。女川原発の事故に備える広域避難計画については、立地自治体を含む周辺7市町が策定中だが、宮城県がガイドラインで示した対象はあくまで原発の半径30キロの区域にとどまる。しかも、国は実際の避難は放射線量の実測値を基に判断し、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)は活用しない方針。ただ、30キロ圏で区切ったり、予測を避けたりする傾向には反発の声も出ている。女川原発30キロ圏の登米市の布施孝尚市長はSPEEDIの有用性を指摘し「予測は避難する上で必要な情報だ」と述べている。環境総合研究所のシミュレーションのシステム開発に関わった青山氏は「シミュレーション結果を避難計画の策定などにどう活用するかが重要だ」と訴える。研究所の予測結果について宮城県原子力安全対策課の担当者は「詳細が分からないのでコメントできない」と話している。
[環境総合研究所のシミュレーション]2011年11月~13年4月に開発したシステムで実施。大気汚染研究用などの計算モデルを福島第1原発事故に適用。国土地理院の地形データや気象庁の気象データも活用した。事故の規模、風向、風速などの違いに応じて放射性物質拡散状況を試算、1時間当たりの空間線量を色分けして表示する。約1000パターンをデータベース化。影響が及ぶ人口や事故後に同じ場所に住み続けた場合の積算外部被ばく線量も推計できるという。

*2-3:http://qbiz.jp/article/65547/1/
(西日本新聞 2015年6月28日) 東電賠償、計7・1兆円 時期確定で1兆円増額
 東京電力は、福島第1原発事故による損害賠償の総額を約7兆1千億円と見積もっていることが28日、分かった。近く改定する再建計画(新総合特別事業計画)に盛り込む。政府が避難者への慰謝料支払いなどの終了時期を示したことで、東電が想定する賠償額の全体像がほぼ固まった。従来の見通しより1兆円程度増額した。東電は既に原子力損害賠償・廃炉等支援機構と調整に入っている。両者は週内にも経済産業相に申請し、7月上旬にも認定を受ける見通しだ。政府は12日に決めた福島復興指針の改定版で、避難者への慰謝料に加え、商工業者の営業損害の終了時期を決めた。東電はこれに基づいて、追加の賠償額を計算した。2016年度分で終了する商工業者に対する営業損害や、17年度分で終わる避難者への慰謝料の支払いなどを含めたとみられる。ただ、賠償期間の終了後も営業損害が出たり、政府の目標通りに避難指示が解除できなかったりすれば、賠償総額がさらに膨らむ可能性がある。東電は4月に一部改定した再建計画では、損害賠償の総額を6兆1252億円と見込んでいた。一方、収支見通しに関しては、5月に金融機関に提示した、柏崎刈羽原発(新潟県)が10月から順次再稼働することを前提にした数字を盛り込むもよう。しかし原子力規制委員会による審査の先行きは見通せず、地元の了解が得られるめども立っていない。東電はことし秋から12月にかけて再稼働の時期を本格的に見直し、再建計画を再度改定する方針。

*2-4:http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2015/150703_2.html (2015年7月3日 日本弁護士連合会会長声明 会長 村越 進) 避難指示の解除、慰謝料支払の打切りに反対する会長声明
 政府は、2015年6月12日、福島復興加速化指針を改訂し、福島県の居住制限区域と避難指示解除準備区域について、避難指示を遅くとも2017年3月までに解除するとの目標を定めた。両区域の原発事故前の人口は約54、800人であり、避難指示区域全体の7割を占める。また、上記時期までに両区域の避難指示を解除することを前提に、避難指示区域からの避難者に東京電力が支払っている慰謝料について、解除の時期にかかわらず2018年3月分まで支払うよう東京電力を指導することを決めた。しかし、避難指示をいつ解除するかについては、避難指示区域とされている各市町村の実情に応じて判断していくべき事柄であり、上記解除の目標が当該地域の実情を無視して、一律に期限を区切るものであるとすれば、相当でない。当連合会は、住民の健康を守るためには、予防原則を貫徹し、避難指示解除は、年間の追加被ばく線量が1ミリシーベルト以下であることが確認された地域から慎重に行うべきであるとの意見を述べてきた(2013年10月4日付け「福島第一原子力発電所事故被害の完全救済及び脱原発を求める決議」)。政府の原子力災害対策本部が2011年12月26日付けで示した「ステップ2の完了を受けた警戒区域及び避難指示区域の見直しに関する基本的考え方及び今後の検討課題について」においても、避難指示の解除については、①年間積算線量が20ミリシーベルト以下となること、②日常生活に必須なインフラや、医療・介護などの生活関連サービスがおおむね復旧し、除染作業が十分に進捗すること、③県、市町村、住民との十分な協議を踏まえること、の3点を要件として挙げていた。また、解除に当たっては、地域の実情を十分に考慮する必要があることから、一律の取扱いとはせずに、関係市町村が最も適当と考える時期に解除することも可能とするとしていた。両区域の実情を見るに、①除染が未だ進捗していない、②除染後も高い放射線量が測定されている、③インフラや生活関連サービスの復旧の見通しが立っていない、④建築業者の人手不足のため、元の自宅の改修や建て替えをしようにも着工の見通しが立たないなど、あと2年弱で避難指示の解除や帰還の前提が整うとは考え難い地域が多く見られる。避難指示が解除されたからといって、わずか1年間で被害者が元の生活に戻れるものではない。よって、当連合会は、政府に対し、避難指示の解除については、各地域の実情を十分踏まえ、地元や対象住民との協議も十分行った上で、個別に慎重に判断すること、一律に2017年3月までに解除すると期限を区切らないことを求める。また、政府及び東京電力に対し、被害者の被害の実情を十分に踏まえ、避難指示区域からの避難者に対する慰謝料の支払を一律に2018年3月分までで打ち切ることのないよう求める。

<核廃棄物の処理と最終処分場>
*3-1:http://qbiz.jp/article/61427/1/
(西日本新聞 2015年5月5日) 【欧州の脱原発】スウェーデン 核のごみ、共存への覚悟
 日本記者クラブ欧州取材団に参加し、2月、ヨーロッパを訪ねた。使用済み核燃料(核のごみ)の最終処分場の建設計画が進むスウェーデン、脱原発が進むドイツと、再生可能エネルギーでほぼ全ての電力をまかなうアイスランドを紹介する。雪をかぶった針葉樹から木漏れ日が差し、絵本のような銀世界がまぶしく光る。森には希少種のカエルが生息するという。2月、スウェーデンの首都ストックホルムから北約140キロにあるエストハンマル自治体のフォルスマルク。この森の地下450メートルに、原発から出た使用済み核燃料(核のごみ)を埋め立てる最終処分場ができる。着工は2019年で、10年後には国内の原発から出た全ての核のごみが順に運び込まれる計画だ。「心配はしていませんよ。よく調査された結果ですから」。マルガレータ・バイレグレン副市長はさらりと言った。地層処分−。近づけば死に至る強烈な放射線を出し続ける核のごみを、地下深くで保管する手法だ。安全なレベルになるまでに要する時間は、およそ10万年。地域住民は途方もない年月を共存していく。核のごみの処分は、原発を抱える各国の共通課題だ。日本を含む多くの国が地層処分を目指す。ただ、具体的な予定地が決まっているのは2カ国にすぎない。小泉純一郎元首相が視察して話題になった「オンカロ」を建設中のフィンランドと、スウェーデンだけだ。米国とドイツは一度は決めた候補地で住民から反対を受け白紙撤回した。日本は、候補地選定のスタートラインで足踏みを続ける。「私たちは一番安全な場所で処分すべきだと考えている。それがここならば、やるしかない」。副市長は受け入れる理由を話した。事業主体は、国内の電力会社が出資する廃棄物管理会社「SKB」だ。1970年代から適地を探してきた。地層処分に耐えうる地質を持つ地域を選び、地元住民に理解を得るため説明会を重ねてきた。2カ所の最終候補地からフォルスマルクが選ばれた09年には、住民の8割が賛成意見を持つようになっていた。SKBが規制当局に最終処分場の建設許可を申請したのは11年3月だった。福島第1原発事故があった時期と重なる。SKBのクリストファー・エッケルベーグ社長は「事故直後には原子力に否定的な国民が増えたが1、2年で元に戻った」といい、こう付け加えた。「福島の事故が示したのは、核のごみを発電所内のプールに長い間置いておくべきではないということ。ちゃんとした処分場が必要だ」。スウェーデンの首都ストックホルムから南に約340キロのオスカーシャムには、最終処分場の技術を開発してきた「エスポ岩盤研究所」がある。処分場の適地の一つとして1990年に掘削が始まった。最終的に予定地から漏れたが、現在は地層処分の理解を促すため見学を受け付けている。雪で覆われた地上からバスでトンネルに入った。らせん状に約5分下っていくと、地下420メートルに着いた。むき出しの岩盤に水がじわりとしみ出している。「花こう岩に似たもので、18億年前の地層です。最終処分場の建設予定地の地質とよく似ています」。薄暗いトンネルの中で、研究所を運営するSKB社の担当者が説明を始めた。担当者によると地層処分の手順はこうだ。銅製の専用容器に核のごみを収容する。1本ずつトンネル内の穴に入れ、周囲を緩衝材の粘土(ベントナイト)で埋める。国内で出た全量(現在は約6千トン)を60〜80年かけて運び込み、最終的にベントナイトでトンネルを埋め、二度と掘り起こせなくする−。専用容器、粘土、周囲の岩盤という3重のバリアーを施された核のごみは地下で眠り続ける。「人間の環境から孤立させて保管します。ざっと4千世代先まで」
     ◆    ◆
 10万年という遠い将来まで負の遺産を引き継ぐことに不安はないのか。予定地フォルスマルクを抱えるエストハンマル自治体のマルガレータ・バイレグレン副市長は「情報は開かれている。私たちは安心している」と強調した。見返りとして、SKB社は最終候補地になったエストハンマルとオスカーシャムに計250億円を支払う。だが、日本が原発立地地域に出す交付金のような公的な経済支援はスウェーデンにはなく、固定資産税などの税収もない。「金で釣る」といった批判は当てはまらないという。近くの大工ラシュ・イエントさん(56)は「雇用が生まれていいのでは。心配はしていませんよ」と、屈託がない。処分場の最終候補に残った2都市には「原子力に慣れた町」だという共通点がある。ともに原発3基があり、フォルスマルクには中低レベル放射性廃棄物処分場が、オスカーシャムには国内の原発から出る放射性廃棄物の全てを一時的に預かる中間貯蔵施設がある。「放射線への理解や知識が豊かな地域。対話しやすい人たちです」。SKB社のクリストファー・エッケルベーグ社長は、原発がある地域に関連施設が集中する背景にそんな理由があると説明した。
     ◆    ◆
 東京電力福島第1原発事故を経験し、原発政策をめぐる産官学「原子力ムラ」の癒着構造を目の当たりにした日本人には、スウェーデンの人々が楽観的すぎるように思えてしまう。だが日本とスウェーデンには決定的に違う点がある。原発政策に対する国民の信頼の度合いだ。スウェーデンでは原発10基が稼働しているが、これまで大事故は発生したことがない。その延長線上で核のごみ処分場の議論が交わされてきた。さらに、目標達成時期は定めていないが、将来は電源を再生エネ100%にすることを目指すと決めている。79年の米スリーマイルアイランド原発事故後には、規制当局が電力会社に安全対策強化を指示し、事故時に原子炉格納容器の圧力を逃がす「フィルター付きベント」を全原発が取り付けた。日本ではフィルター付きベントは、福島第1原発と同じ沸騰水型の原発での取り付けが広がり始めたばかりだ。九州電力の川内、玄海両原発のような加圧水型では当面取り付けが猶予された。日本は30年遅れている部分がある。日本も原発を稼働させた以上、核のごみの処分から逃れられない。「トイレなきマンション」に例えられる原発の現状の放置は未来の世代に難題を先送りしていることになる。核のごみの処理に道筋をつけるには原発行政への信頼回復が先決だが、福島の事故も収束していない。日本の原発行政の信頼を回復させる取り組みは十分だろうか。
●イブラヒム・バイラン・エネルギー担当相 省エネ 将来100%に
 スウェーデンには原発10基があり、発電量の約40%を支えている。再生エネルギーは現在51%。2020年までに55%まで上がる予測だ。原発は老朽化しており、代替電力を考えなければいけない。将来は再生エネルギーで100%にすることを目指す。スウェーデンでは1980年の国民投票で2010年までの原発廃止が決まったが、前政権が政策を変更して原発の新設が可能になった。だが原発が造られた頃と違い、現在は国が原発事業者への補助を一切しないことで各政党が合意している。経済的な理由から新しい原発を造る事業者は当面出てこないだろう。短期間で原発を廃止すると電気料金が急上昇するため、ドイツと違って原発をゼロにする目標達成時期は定めていない。事業者が安全面や経済面を考慮して廃止していくのがいいと思う。主力の再生エネはバイオマスだ。海岸線が長い国土では洋上風力発電も期待できる。国会に全政党でつくる調査会を設け、将来のエネルギー政策について合意したい。

*3-2:http://mainichi.jp/feature/news/20150507mog00m030009000c.html
(毎日新聞 2015年5月8日) 核のごみ:最終処分場計画で苦悩するフランスに重なる明日の日本
 原子力大国のフランスで、人類の難題「核のごみ」を巡る議論が続いている。北東部ビュールに計画中の放射性廃棄物最終処分場は、1991年以来の長い議論の末、10年後に試験運用を始める予定だが、反対派の運動もあり、操業開始時期は依然、不透明だ。一方、最終処分場の操業まで放射性廃棄物を保管している北西部のラアーグ核燃料再処理工場では、貯蔵施設が満杯となるため拡張計画がスタートした。山積する課題に苦悩するフランスの姿は、明日の日本と重なる。仏ナンテールの裁判所は今年3月末、ビュールの処分場建設計画に反対する6団体が、計画を進めるANDRA(放射性廃棄物管理機関)を相手に起こした訴訟で、訴えを却下する決定を出した。6団体は、ANDRAがビュールの地下水脈の存在を過小評価し、処分場候補地選定に向けて誤った情報を提供したとして違法行為に該当すると主張していた。最終処分場を巡る反対派とANDRAの対立は続いている。24年前の91年、仏政府は最終処分場の建設地に適した場所を決めるため、地下試験施設の建設計画を策定し、地質条件からビュールなど国内3カ所の候補地を選んだ。ビュールは鉄道駅から車で1時間以上離れた小さな農村。一帯は、フランスで最も所得水準の低い地域の一つだ。地下に放射線を遮断する厚さ120メートルの粘土層があることなどから、98年に地下試験施設の建設が決まり、2000年に掘削工事が始まった。現在は地下480メートルに全長1290メートル以上の坑道を張り巡らせている。私は13年6月に地下試験施設内に入ったが、まるでSF映画の宇宙基地のような景観だった。直径約5メートルの坑道をフォークリフトが行き交い、粘土質の岩壁には3200基のセンサーが設置され、地盤の動きを測定していた。職員によると、この場所に最終処分場を建設する場合、岩盤の動きを少なくとも100〜150年間抑えるだけのコンクリートが必要という。放射性廃棄物を貯蔵する空洞は歳月とともに次第に埋まり、コンテナも風化する。放射性物質が岩に染み出すが、粘土層に閉ざされ、外に漏れるまでに10万年以上かかる計算という。政府はビュールの最終処分場をまだ認可していない。地下試験施設と最終処分場は本来、別の計画だ。しかし、地元住民を取材すると、両者を混同し、処分場の建設が既に決定されたと勘違いしている人が多かった。実際、06年に最終処分場の建設基本計画が策定された時も、住民への説明会などが遠隔地で開かれ、民意が計画に十分反映されなかったとの不満が出た。13年には、建設認可申請の条件である住民討論会が、反対運動による妨害を理由に中止された。住民討論会の代替策として、インターネットを使った討論会などが実施され、さらに地元住民代表が専門家と意見交換する「市民会議」がパリで開かれた。この結果などを受け、ANDRAは14年5月、新たな建設基本計画を公表した。当初は25年に操業開始予定だったが、市民会議で性急だとの批判が出たため変更された。新計画によると、17年に認可申請を終え、20年に認可を得られれば、同年中に建設に着手。25年に試験運転を開始する。試験運転の期間は5〜10年と想定している。だが、不測の事態が起きない保証はなく、反対派の動向も不透明だ。市民会議を傍聴する住民の姿は少なく、計画の周知がどこまで進んだのか疑問視されている。政府やANDRAがどこまで真剣に地元住民に必要な情報を伝え、民意を吸い上げようとしたのかは分からない。だが、地元住民の理解や民意を置いてきぼりに計画が進んでいる印象を受ける。中央のエリートたちが時には強引に事を進めるのがこの国の特徴でもある。反対運動の背景には、不十分な住民参加への不満がある。最終処分場計画は、ラアーグ核燃料再処理工場の運営にも影響を及ぼす。運営する仏原子力大手アレバ社は4月、工場内にある高レベル放射性廃棄物の貯蔵施設の拡張計画を発表した。同工場では国内外から受け入れた使用済み核燃料を再処理し、ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料の原料となるプルトニウムを抽出している。再処理の際に残る高レベル放射性廃棄物はガラス固化体にして、国外分は発注国に返還し、国内分は最終処分場が稼働するまでの間、施設内に貯蔵している。アレバ社によると、現在の貯蔵施設は既に満杯になりつつある。今後7年間に2億3000万ユーロ(約297億円)を投入し、約6割増の収容数に拡張する計画だ。現在、地元県などが周辺11市町村の住民に環境への影響などの情報を開示し、意見を求める公共調査を行っている。同社は拡張計画について「最終処分場を待つ間の安全な解決策」としているが、ビュールの動向次第で保管期間が長期化する可能性もある。このように、紆余(うよ)曲折を経てようやく最終処分場の認可申請までたどり着きそうなのが、現在のフランスの状況だ。91年に試験施設の計画が生まれてから既に24年が経過し、この先、反対派の動向にもよるが、操業まで少なくとも15年以上かかる見通しだ。フランスの原発事情を取材して感じるのは、東京電力福島第1原発事故を機に日本で崩れ去った原子力の安全神話が、フランスにはまだ残っているということだ。また、農村部には政府権力に対する無力感が強く、政府の政策を受け入れやすい土壌がある。日本はどうか。ANDRAの職員が、フランスは日本と比べて地震のリスクが低いことを強調すればするほど、私は日本で最終処分場が実現するのか不安になった。青森県・六ケ所村にある高レベル放射性廃棄物をどうするのか。また、各地の原発施設のプールで保管されている使用済み核燃料をどうするか。経済産業省ではようやく、最終処分場の候補地選定調査の準備に取り掛かっている段階だ。だが、悠然と構えている時間はない。原発が稼働する限り、「核のごみ」は刻一刻と増えていくからだ。まずは本格的な議論を早急に始めなければならない。

*3-3:http://qbiz.jp/article/61428/1/
(西日本新聞 2015年5月5日) 日本の最終処分場 選定難航、保管余力なく
 日本は使用済み核燃料(核のごみ)の地層処分を念頭に1970年代から研究を開始した。北海道と岐阜県に研究施設がある。スウェーデンと異なり地震が多い地理的条件もあり、候補地選びは難航している。日本原子力研究開発機構によると、前身の動力炉・核燃料開発事業団(動燃)が80年代に実施した調査で、活断層や火山などを考慮して全国の88カ所が「適地」に選ばれた。このうち10カ所は鹿児島県にあった。最も多かったのは福島県だった。スウェーデンと同様に原発立地地域と重なった。現在、地層処分を推進するのは、電力会社でつくる原子力発電環境整備機構(NUMO)。2002年に処分場を受け入れる意思のある自治体の公募を始め、過去の地震や火山の影響を調べる「文献調査」に応じれば10億円、その次の概要調査に応じれば20億円と、国は交付金をふんだんに準備した。07年に高知県東洋町が手を挙げたが住民の猛反発を受けて撤回に追い込まれた。そのほかに応じた自治体はない。今年2月、経済産業省は、市町村の公募方式を見直し、科学的な適地を国側から提示していく方針を明らかにしたが、福島の事故で放射性物質の怖さを目の当たりにした今、「地元の理解を得るのは簡単な作業ではない」(NUMO)。だが核のごみの処分は待ったなしの課題だ。そもそも日本は、核のごみを再処理して燃料として再び利用する計画だが、青森県六ケ所村の再処理工場はトラブルが続いて機能していない。九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)など全国で再稼働に向けた動きが進むが、各原発の敷地にある核のごみの保管プールはどこも空き容量は乏しい。最も余裕が少ない玄海原発(佐賀県玄海町)では再稼働して約3年で満杯になる見込みだ。科学者でつくる日本学術会議は再稼働の条件として、明確な核のごみ対策を求めている。既に国内の各原発には計1万4千トン以上の核のごみがある。原発の再稼働に反対であろうとなかろうと、見て見ぬふりはできない。

*3-4:http://qbiz.jp/article/62297/1/
(西日本新聞 2015年5月16日) 核のごみ最終処分場 経産省、追加財政支援の意向
 経済産業省は15日、原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分に関する有識者会議で、処分場の建設を受け入れる自治体に対し、原発関連の研究拠点整備など新たな財政支援策を設ける方針を示した。選定に必要な調査は3段階あり、第1段階の文献調査で最大20億円、第2段階のボーリング調査などの概要調査時に最大70億円を電源立地地域対策交付金から支給する支援策が既にある。経産省は新たに、第3段階の実証実験や処分場建設決定後について追加の財政支援策を設け、計画を推進させたい意向。難航する処分場建設をめぐっては、政府が2013年末に従来の自治体の公募方式を転換。政府が「科学的有望地」を示した上で、処分場の建設に向けた調査を要請する方向で準備を進めている。

<九電川内原発と火山>
*4-1:http://digital.asahi.com/articles/ASH6M7QH4H6MTIPE054.html
(朝日新聞 2015年6月20日) 川内原発に核燃料搬入、7月7日から 九電が工程見直し
 スクラップ メール 印刷  再稼働を控えた九州電力川内原発1号機(鹿児島県薩摩川内市)で、原子炉への核燃料の搬入作業が7月7日に始まる見通しとなったことが、19日わかった。九電が原子力規制委員会に伝えた。4日に始める予定だったが、よりスケジュールに余裕を持たせるため工程を見直す。1号機の再稼働は、これまで通り8月中旬を目指している。川内原発1、2号機は再稼働前の最終段階となる規制委の設備検査を受けている。1号機では19日、核燃料を原子炉に入れるために必要な検査を終えた。今週以降に始まる2号機との共用設備の検査は7月3日に終わる見通し。これまでは、4日から約150本の核燃料の搬入作業を始める計画を立てていた。しかし、作業には下請け企業も含めて数百人が関わり、準備に時間がかかることなどから、3日ほど遅らせることになった。搬入は7日から4日ほどで終わり、その後約1カ月の規制委の設備検査を経て再稼働する。ただ、九電はこれまで検査への対応に手間取るなどして再稼働の時期を何度も遅らせており、想定通りに進むかは不透明だ。

*4-2:http://qbiz.jp/article/63167/1/
(西日本新聞 2015年5月28日) 科学者、川内再稼働に懸念表明 地震、火山対策「不十分」
 原子力規制委員会が27日、九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)の再稼働に必要な全ての審査手続きを終了した。規制委は「世界最高水準」の審査基準と強調するが、地震や火山を研究する学者からはなお「不十分」との評価が相次ぐ。福岡市の九電本店では再稼働反対を訴えて鹿児島市から12日間かけて歩いてきたリレーデモ隊が九電側と小競り合いになり、警察が出動する騒ぎになった。一方、原発が立地する薩摩川内市では、再稼働を心待ちにする事業者らの切実な声が上がった。地震や火山など50の学会・協会で組織する「日本地球惑星科学連合」は24〜28日、千葉市で学会を開催中。27日は「地球科学の限界と原発」をテーマに研究発表があった。約150の席は全て埋まり、立ったままの傍聴者もいた。九電は川内原発に関し、日本列島の太平洋側で発生するマグニチュード9クラスの南海トラフ巨大地震を厳密に検討していない。除外理由を「敷地から遠く、発生しても震度5弱以上とならないため」という。だが、神戸大の石橋克彦名誉教授(地震学)は「検討対象から除いたのは間違っている」と訴えた。会場からも「震度5強を上回る可能性は十分ある」との指摘があった。同地震を考慮するなら、川内原発の耐震強化の目安となる基準地震動の変更が迫られかねないという。「九電の過誤を見過ごした規制委の審査は、重大な間違いを犯している」(石橋氏)。東京大の纐纈(こうけつ)一起教授(同)は、福井地裁が関西電力大飯原発の再稼働を差し止めた昨年5月の判決で、規制委が外部電源や給水設備に高い耐震性を求めておらず、一定の揺れでその機能が失われる可能性を指摘したことを「正しい」と支持。重大事故時に冷却機能が失われる恐れがあるため、再稼働を認めなかったのは「妥当な判断」との見解を示した。一方、鹿児島地裁が川内原発の運転差し止め仮処分に絡み、再稼働を容認する判断を出したことには「行政判断を尊重する福島の事故前の司法スタンスに戻った」と批判した。火山学者も続いた。静岡大防災総合センターの小山真人教授は、九電が約1万3千年前の桜島薩摩噴火を基に、巨大噴火による敷地内の降灰想定を15センチとしている点を問題視。鹿児島湾内の姶良(あいら)カルデラの噴火データを踏まえれば、風向きによっては1メートルほどになる懸念も十分あるとした。1メートルに及ぶと事故があっても原発に近づくことは難しい。「九電はそのことを意図的に考慮していない」と批判した。火山噴火の監視を専門とする京都大の石原和弘名誉教授も、九電が巨大噴火の前兆が数十年前から始まり、十分に事前準備できると主張していることに「数年前、数カ月前に始まる前例があり、信じられない評価だ」などと述べた。

*4-3:http://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/201505/0008074957.shtml
(神戸新聞 2015/5/30) 口永良部噴火/原発の再稼働に不安残す
 怒髪天を突く。そんな形容がぴったりの爆発的噴火だった。鹿児島県口永良部島(くちのえらぶじま)の新岳(しんだけ)噴火である。きのう午前、山頂付近から突如、黒煙を噴き上げ、直後の火砕流は数キロ先の海岸まで達した。緑の山が火山灰でたちまち白くなる。風景を一変させる圧倒的な自然の底力。気象庁は噴火警報を発表し、噴火警戒レベルを3(入山規制)から最も高い5(避難)に引き上げた。2007年の運用開始以来、5へ引き上げたのは初めてだ。島民や一時滞在者ら約140人が安全な場所に待避した後、船などで全員、屋久島に避難した。1人が軽いやけどを負っているという。気象庁は、地下のマグマだまりが押し上げられて起きるマグマ噴火とみている。活発な火山活動が続けば島民の避難は長期化する可能性がある。ほとんどが着の身着のままだ。高齢者や病弱の人もいる。住まいや健康対策など、避難生活の長期化に備え、政府は万全を期さねばならない。00年の三宅島噴火では全島避難による島外生活が4年以上続き、生活基盤を島外に移す例も多かった。そうした事例からも学びたい。気になるのは、日本列島の火山活動が活発になったことだ。昨年9月に噴火した御嶽(おんたけ)山(長野県)をはじめ、桜島(鹿児島県)や蔵王山(宮城県)、箱根山(神奈川県)など各地で不気味な現象が続いている。マグニチュード9クラスの地震が起きた周辺で火山噴火が多くなるのは世界的な傾向とされる。東日本大震災で列島の地殻に加わる力が変わったためだとすれば、今後も規模の大きいマグマ噴火が起こりうると考えておかねばならない。九州とその南の沖合では過去、破滅的なカルデラ噴火が繰り返された。地層に痕跡が残る。7300年前の薩摩硫黄島の噴火は、火砕流が九州内陸や屋久島にまで達した。その九州でこの夏、川内(せんだい)原発の再稼働が始まろうとしている。火砕流が防災上の課題であることは九州電力も認める。だが、「問題ない」とする。その理由は火山学者の常識から著しく外れる。噴火の時期や規模を予測するのは現在の科学では難しいが、その限界が理解されていないのだ。これでは備えにならない。口永良部噴火の動向と、及ぼす影響を注意深く見守る必要がある。

<国民の意見>
*5-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2015052902000141.html (東京新聞 2015年5月29日) 「原発是非で国民投票を」 署名16万筆集まる
 市民グループ「みんなで決めよう『原発』国民投票」は二十八日、東京・永田町で記者会見し、原発稼働の是非を国民投票で決めるよう求める署名が計十六万五千筆になったと発表した。引き続き署名を集め、国民投票の手続きを定める法律の制定を超党派の国会議員に働き掛ける。グループの代表は宮台真司(みやだいしんじ)首都大学東京教授と杉田敦法政大教授で、署名集めは三十~四十代が中心となり福島原発事故後から全国で実施。二〇一二年六月に十万四千筆を衆参両院議長らに提出した。この日の会見ではさらに五万二千筆を集めたとして請願法に基づき衆参の五党十二議員を通し国会に提出すると説明。ほかにもネットなどで九千筆を集めた。運営委員長の鹿野隆行さん(42)は「グループとしては原発の是非に賛否を表明しない。国民投票という、国民の声が反映される土台を作りたい」と説明。東京都町田市の整体師石崎大望(ひろみ)さん(42)は「選挙以外に自分の意思を政治の場に届けることに希望を感じている」と話した。署名活動の詳細はホームページ=http://kokumintohyo.com/=で。

*5-2:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10102/196705
(佐賀新聞 2015年6月12日) 玄海原発停止、270人追加提訴
 原発の再稼働に反対する佐賀県内外の市民が国と九州電力に玄海原発全4基の操業停止を求めている訴訟で、新たに270人が11日、佐賀地裁に追加提訴した。14回目の提訴で、原告数は9396人になった。提訴後、原告団は鹿児島地裁が4月に川内原発(鹿児島県)の再稼働を禁じる仮処分申し立てを却下したことに対し、「福島第1原発事故を真正面から見据えず、事故前と変わらない司法判断」などと批判する声明を出した。長谷川照団長は「川内原発の再稼働に反対する人たちの心の支えにもなるよう原告1万人を達成したい」と話した。

*5-3:http://www.nagasaki-np.co.jp/news/kennaitopix/2015/03/15090603016802.shtml (長崎新聞 2015年3月15日) ナガサキ集会300人訴え
 脱原発を訴える「さようなら原発ナガサキ集会」が14日、長崎市平野町の長崎原爆資料館ホールであり、約300人が再稼働反対の思いを一つにした。県平和運動センターなどでつくる「さようなら原発1000万人アクション・ナガサキ」などが主催。原子力の安全問題に詳しい元慶応大助教授(物理学)の藤田祐幸さん(72)=西海市大瀬戸町=が講演し、「一体何度『ノーモア』を繰り返せばいいのか」と脱原発を呼び掛けた。藤田さんは原発停止分の電力を補ってなお火力発電所の稼働率が低い点を指摘。「原発をすべて火力発電に置き換えることはすでに成功している。全原発を廃炉準備段階にし、金や人員を他に移す方が効率的だ」と強調した。このほか、福島の住民のビデオメッセージの紹介や、再稼働の動きが進む九州電力川内原発(鹿児島県)について地元住民による反対宣言もあった。参加者は集会後、JR長崎駅近くまで「原発いらない」「再稼働反対」と訴えデモ行進した。

*5-4:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/162077
(佐賀新聞 2015年3月3日) 30キロ圏内も地元範囲に 伊万里市長 知事と会談
 伊万里市の塚部芳和市長は2日の定例記者会見で、17日に予定している山口祥義知事との会談で、玄海原発の再稼働を同意する際の「地元範囲」に伊万里市など玄海原発から30キロ圏内を含めるよう要望することを明らかにした。会談では市長と市議会議長、市区長会連合会長との連名で要望書を提出する予定。地元範囲に関する要望のほか、九電と伊万里市との原子力安全協定締結に県が関与することや、原発交付金を30キロ圏内の避難道路整備や防災行政無線設置にも充当することを求める。山口知事は2月の県議会一般質問で、協定のあり方について「事業者と各自治体が結ぶもので、基本的には当事者間で協議して定めるべき」と答弁している。塚部市長は「答弁を聞く限りはわれわれの要望とは、程遠い状況かもしれないが、伊万里市長の意見も聞いて判断するという答弁もあったので期待したい」と話した。

*5-5:http://qbiz.jp/article/66870/1/
(西日本新聞 2015年7月16) 伊方原発の“対岸”大分、漁業者「事故あれば風評被害」
 四国電力伊方原発3号機が新規制基準に適合しているとした原子力規制委員会の決定に、原発から海を挟んで約45キロに位置する大分県では、漁業関係者らが不安を募らせた。「事故があれば漁師の命にかかわるし、大分の魚の風評被害がずっと続く」。大分県漁業協同組合の職員(55)は懸念を深める。「関あじ」「関さば」など高級魚の漁場である大分近海は、原発のある愛媛県の佐田岬半島と目と鼻の先。四国電からは、事故時の補償の話までは出ていないといい、職員は「放射性物質が海に流れれば風評被害が広がり、ますます後継者が減る」と語った。四国電に運転差し止めを求める訴訟を松山地裁に起こしている原告団の一人で、NPO法人「九州・自然エネルギー推進ネットワーク」の小坂正則代表も「近く南海トラフ地震が起こるのは間違いなく、去年と今年は伊予灘と大分で大きな地震もあった。再稼働は理解できない」と批判した。一方、事故が発生した場合に対応に当たる大分県は「(原発については)国と事業者の責任で安全性を確保し、住民に十分理解してもらうことが大事と申し上げてきた。これからもしっかり見守っていく」とする広瀬勝貞知事のコメントを出し、冷静に受け止めた。大分県は、秋に予定される愛媛県の防災訓練に参加し、大分県民向けの屋内退避訓練も実施する予定。


PS(2015年7月17日追加):パブリックコメントには、短い期間で多くの原発再稼働への批判意見が寄せられ、「可能な限り低減」としたのであれば、既に原発割合は0であるため再稼働する必要はない。そして、化石燃料の使用を抑えるためには、自然エネルギーへの変換に資金を集中するのが賢い。

*6:http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/news/CK2015071702000137.html
(東京新聞 2015年7月17日) 30年電源、原発回帰 最大22%活用決定
 経済産業省の有識者委員会は十六日、二〇三〇年の電源構成比率で、原発の割合を「20~22%」とする報告書をまとめた。意見公募(パブリックコメント)を踏まえ、原案の文言を一部修正した。報告書の決定を受け、政府は実現に向けた施策づくりに乗り出す。パブリックコメントは六月二日から約一カ月実施され、二千六十件の意見が寄せられた。原発の再稼働に批判的な意見が寄せられたことを考え、原発の割合に関して「可能な限り低減」との文言を加えた。委員会ではパブリックコメントで集まった、原発や再生可能エネルギーに対する意見が紹介された。しかし、賛成や反対の詳細な割合は公表しなかった。坂根正弘委員長(コマツ相談役)は「意見を言いたい人が言うだけでバランスを考えた発言がない」と説明した。委員から「原発のリプレース(敷地内の建て替え)がなければ、(20~22%の)目標は達成できない」といった反対意見が出るなど議論は完全には一致しなかった。報告書では、太陽光や水力、風力といった再生可能エネルギーは「22~24%」とし、現在の約二倍に増やす方針も明記した。石炭や液化天然ガス(LNG)などを使う火力は56%とした。


PS(2015年7月22日追加):経産省が安くもない原発のコストを安いと偽り、地方自治体は交付金目当てで大半の国民が反対している原発再稼働を主張しながら、「『重大事故などに国が責任を持つ』と首相に意思表示させよ」とは、エゴが過ぎる。そもそも豊予海峡は海流の流れが早く、潮流発電の適地であるにもかかわらず地の利を活かした先進的な工夫がなく、そのようなところが加圧水型の廃炉研究をしても環境への配慮について信用できない。

*7:http://www.ehime-np.co.jp/news/local/20150722/news20150722493.html
(愛媛新聞 2015年7月22日) 「責任、首相が表明を」 再稼働問題で知事要望
 国の原子力規制委員会が四国電力伊方原発3号機(伊方町)の原子炉設置変更を許可し、政府が再稼働方針を愛媛県に伝えたのを受け、中村時広知事は21日、経済産業省で宮沢洋一経産相と面会した。国として重大事故などに最終的な責任を持つという首相の意思表示など、8項目の要望を口頭で申し入れた。中村知事は「県民は最高責任者の言葉を非常に重く受け止める」と指摘し、再稼働に関する議論の過程で「最終責任について首相の声を直接聞く機会をつくってほしい」と求めた。沸騰水型軽水炉の東京電力福島第1原発で廃炉作業が行われる中、伊方原発が採用している加圧水型軽水炉の廃炉も研究する必要があると主張。「伊方1号機が(1977年の運転開始から40年を超えて)運転を延長するか今の段階では分からないが、いずれ廃炉となる。ぜひ加圧水型の廃炉研究を伊方で行うよう検討してほしい」と訴えた。宮沢経産相は安倍晋三首相に伝えるとし、加圧水型の廃炉研究に力を入れる必要があるとの認識を示した。

| 原発::2015.4~10 | 12:44 PM | comments (x) | trackback (x) |
2015.5.7 経産省の電源構成比率、川内原発における鹿児島地裁の判断について – 国は、本当に国民の生命・財産を守り、基本的人権を大切にしていますか? (2015年5月8日、9日に追加あり)
    
2011.3.16福島第一原発 汚染範囲 2015.5.5東京新聞 2015.4.17佐賀新聞
                             *1-4
(1)経産省の2030年電源構成比率目標における恣意性と環境意識の低さ
 *1-1のように、東京新聞が、5月4日の社説で、経産省が2030年の電源構成目標を液化天然ガス(LNG)27%、石炭26%、再生可能エネルギー22~24%、原子力20~22%と公表したことについて、「再生可能エネルギーを抑え、原発利用を最大限に見込んで原発再稼働に頼るのでは、日本の未来は見えない」としているが、全くそのとおりだ。

 何故なら、これは、再生可能エネルギーという日本がトップランナーの先端技術を抑え、著しい公害をもたらす古い技術に逆戻りする政策だからだ。さらに、温室ガス削減目標を2030年までに2013年比で26%としたのも、クリーンでスマートなエネルギーを発展させる意欲に欠ける低い環境意識である。

 また、*1-2のように、毎日新聞は4月29日に、「原発ホワイトアウト」を書いた若杉冽氏に、2030年の原発割合を20〜22%とする政府案について聞き、「①原発事故前に戻ったようでびっくり」「②事故前に低く見積もられてきた原発のコストをきちんと見直さず、有識者委も作られたシナリオを追認するだけで茶番」「③『原発やむなし』の空気は電力会社が巨額の資金で政治家を動かす仕組みの下でできており、献金者等の名前の透明化が必要」としている。

 その様な中、*1-3のように、フランスでさえ、エコロジー省管轄の環境エネルギー管理機関(ADEME)が、「2050年に原発ゼロは実現可能」とする報告書をまとめたそうだ。報告書は、「2050年の電力供給を再生エネで全て賄った場合と原子力5割・再生エネ4割で賄った場合の費用は同水準になる」と結論づけており、再エネも普及・進歩して大量生産されればコストが下がるため、それが当たり前である。

(2)鹿児島地裁の結論ありきの再稼働差止却下について
 *1-4のように、九電川内原発1、2号機(鹿児島県)の再稼働差し止めを却下した鹿児島地裁の決定内容は、上図のように、主な論点とされた避難計画や巨大噴火リスクに関する事実認定に大きな問題のあることが浮かび上がったそうだが、全くそのとおりだ。

 鹿児島地裁は、①原発の新規制基準に不合理な点はない ②避難計画の具体化や物資の備蓄も進んでいる ③多数の専門家が巨大噴火の可能性は小さいとしている などとした。しかし、②について、鹿児島地裁は鹿児島県が調整システムを整備して迅速な避難先の変更に備えていると認定したものの、地区ごとに避難先が指定されている30キロ圏内の住民でさえ、風向きによっては避難先施設が放射能汚染で使えなくなる可能性があり、その場合の対応は殆どなされていなかった。

 また、③の巨大噴火について、鹿児島地裁は、「九電の火山監視の手法や能力に、専門家から異論はなかったため問題ない」としたが、その専門家とされる当の東大地震研究所の中田節也教授らは、「曲解された」「事実誤認だ」としているのである。

 そのような中、*1-5のように、桜島の爆発的噴火は、今年の4カ月余りで昨年1年間の450回を超え、気象台は活動が活発化しているとしている。2013年8月18日には、桜島の昭和火口で噴煙の高さが5千メートルに達する噴火が発生し、鹿児島市などに大量の灰が降って交通機関に影響が出ている。

(3)日本のメディアは、まだフクシマの真実を語っていない
 *2-1のように、西日本新聞が「全電源喪失の記憶 証言・1F汚染」という特集で、2011年3月15~16日にフクシマ原発事故で起こったことを記載している。それによると、2011年3月16日、陸上自衛隊の中型ヘリで、東電社員が1〜4号機上空から状況を確認したところ、1号機は原子炉建屋上部が骨組みを残して天井が崩れ落ち、3号機は爆発でめちゃめちゃに壊れて原子炉の真上あたりから大量の白い煙がもうもうと上がり線量は毎時247ミリシーベルトを記録したそうだ。そして、これは1~3号機の使用済核燃料プールは水で満たされておらず、3号機は水素爆発ではなく原子炉爆発だったことを示す。

 しかし、こうなってしまってから原発に水をかけても焼け石に水なのだが、*2-2のように、ヘリは上空90メートルより下がると毎時200ミリシーベルトを超えるため、高度300フィート(約91メートル)を20ノット(時速約37キロメートル)で飛びながら3号機に水をかけた。しかし、原発にはあまりかからず、やはり効果はなかった。

 ビデオニュース・ドットコムでは、*2-3のように、元京都大学原子炉実験所助教は「東電が計画している格納容器を補修して水を張り、メルトダウンした核燃料を上からつまみ出す方法は放射線量が高くて不可能で、格納容器のどこに穴があいているかを調べることさえ困難な状態」「そのため、福島第一原発はチェルノブイリ原発のように石棺で封じ込める以外に収束させる方法はない」としている。

 しかし、上の写真や*2-1、*2-2の1~3号機に関する記述から、「石棺を作成する前提として1~3号機の使用済核燃料プールに残る1,393体以上の使用済核燃料を安全な場所に移す必要がある」というのは、まず使用済核燃料プールにどれだけの使用済核燃料がどういう形で残っているかに関する正確な情報が必要なのである。

(4)原発による公害について ← 憲法に環境権など作らなくても、現行憲法で「基本的人権(11条)」「個人の尊重と幸福追求権(13条)」「生存権(25条)」「財産権(29条)」などが規定されており、政府がこれを守る意志があるのか否かがポイントなのである
 *3-1のように、2011年の東電福島第1原発事故以降、北関東でオオタカの繁殖成功率が低下しており、その要因は空間線量の高まりと分析されているが、オオタカの餌は地面に住む野生動物が多いため、土壌の放射能汚染により餌となる動物が汚染され、食物からの内部被曝や巣の材料の汚染で繁殖成功率が下がった可能性が高い。

 また、*3-2のように、避難指示区域からの避難者や区域外の自主避難者、住民らの訴訟を支える「原発事故被害者支援・全国弁護団連絡会」は、原告数が2015年4月末現在で計9992人に達したと発表した。殆どの訴訟が国家賠償法に基づいて国も訴えている。これまでの公害裁判では、沖縄県の米軍嘉手納基地の周辺住民が2011年に騒音被害などを訴えた第3次訴訟の原告数が2万人を超えており、福島の原発事故も異例の大規模な集団訴訟となるそうだ。

(5)日本の世論
 *4-1のように、南日本新聞社が、九電川内原発1、2号機(薩摩川内市)の再稼働をテーマに、鹿児島県内で実施した電話世論調査によると、再稼働に「反対」「どちらかといえば反対」と答えた人が計59.9%、「賛成」「どちらかといえば賛成」と回答した人が37.3%だった。

 また、*4-2のように、大間原発(青森県大間町)建設差止訴訟が争点となった北海道函館市長選でも、現職の工藤氏(65)が再選を果たし、市民は訴訟による原発差し止めを選択している。

<経産省・裁判所の恣意性>
*1-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2015050402000137.html (東京新聞社説 2015年5月4日) 15年後の電源 まだ原発に頼るのか
 経済産業省が二〇三〇年に目指す電源の種類別の発電比率案を公表した。再生可能エネルギーは抑え、原発利用を最大限に見込んだ。原発再稼働に頼るのでは、日本の未来は見えない。公表された目標は、液化天然ガス(LNG)が27%、石炭が26%、再生可能エネルギーが22~24%、原子力が20~22%などとなっている。省エネと再生可能エネルギーで、二酸化炭素(CO2)の排出を減らすのが狙いだ。この案を基に、先月三十日、温室ガス削減目標が三〇年までに一三年比で26%と決まった。発電比率案はその二日前の有識者会合で了承された。再生可能エネルギーの割合が低いとの意見もあったが、事務方が「現実的な数字」と説明しただけで、議論されることはなかった。分厚いパブリックコメントの資料は無視され、坂根正弘委員長の「時間になりました」という言葉で終了。原案は一字一句変わることはなかった。「原発は稼働から四十年で廃炉」の原則を守れば、三〇年には発電比率が14~15%まで下がる。ある委員は「時間がたてば新増設の話もできる」と言った。実際には、原発は建設を計画してから運転開始まで長い年月がかかる。新増設は「現実的な話」ではない。20%超の目標は、老朽原発を四十年を超えて稼働させる余地を残すための感が否めない。再生可能エネルギーを導入すると電力料金が高くなるので、原発を使うという方針だが、これも疑問だ。計算には実際の原発ではなく、モデルプラントを使った。発電コストは三〇年で「一〇・一円以上」。各電源の中でもっとも安いが、「以上」と付くのは原発だけだ。「青天井ではないのか」と疑問を呈した委員もいたが、上限が示されることはなかった。再稼働に際しては、個々の原発の発電コストの公開を求めたい。リスクがゼロではなく、被害は電力会社だけでは負いきれないのだから、当然の要求だと考える。福島第一原発事故調査委員会(国会事故調)の黒川清委員長は「事故は『変われなかったこと』で起きた」と指摘した。有識者会合を見ていると、3・11後も政府は変わっていない。ただ、希望もある。同案は需要を過大に見込んでいるといわれる。原発の20%超は、需要の下振れと、家庭と職場での省エネで大幅に減らせるかもしれないのだ。国に頼ってもダメ、というのも3・11の教訓だ。

*1-2:http://mainichi.jp/select/news/20150429k0000m040155000c.html
(毎日新聞 2015年4月29日) 電源構成政府案:若杉冽氏はこう見る
 2030年の総発電量に占める原発割合を20〜22%とする政府案について、政官と電力会社の癒着を小説「原発ホワイトアウト」(講談社)などで描いた現役キャリア官僚、若杉冽(れつ)氏(ペンネーム)に聞いた。
−20〜22%とするには原発の増設か40年廃炉ルールを超えた運転延長が必要になる。
◆今も十数万人が避難している福島の現状と本気で向き合っているなら、そんな数字にはならない。民主党政権時の「2030年代原発稼働ゼロ」は討論型世論調査で国民の声を聞いて決まった。その決定をひっくり返すなら、同じ手順を踏むべきなのに、結論を先に設定し、やらずに済ませようとしている。
−将来の電源構成を巡る経済産業省の有識者委員会の議論をどう見たか。
◆原発事故前に戻ったようで、びっくりする。原発事故前に低く見積もられてきた原発のコストがきちんと見直されていない。経産省は「安い、安い」と言い続け、有識者委も作られたシナリオを追認するだけの場になっており、茶番だ。
−原発の再稼働に反対する声は多い。
◆官僚や電力会社社員でも原発に懐疑的な人はいる。ただ、「原発やむなし」という空気は、電力会社が巨額の資金で政治家らを動かす仕組みの下でできており、個々の力では変えられない。献金者やパーティー券購入者の名前を少額でも公表する仕組みに変えるなど、透明化を図ることが必要だ。

*1-3:http://mainichi.jp/select/news/20150417k0000m030066000c.html
(毎日新聞 2015年4月16日) フランス:「50年に原発ゼロ可能」公的機関が報告書
 【パリ宮川裕章】フランス政府所管の公的機関が「2050年に原発ゼロは実現可能」とする報告書をまとめ、波紋を広げている。仏議会は25年までに電力の原子力依存率を現在の75%から50%に削減する「エネルギー移行法案」の最終審議中で、報告書は影響を与えかねない内容だからだ。この機関の14日のシンポジウムで議論される予定が中止となり、「政府からの圧力では」と仏メディアで臆測を呼んでいる。報告書は「2050年、再生可能エネルギー100%に向けて」と題し、仏エコロジー省管轄の環境エネルギー管理機関(ADEME)が作成。複数の仏メディアが報告書の全文を入手して報じた。50年の電力供給を再生エネで全て賄った場合と、移行法案が想定する原子力5割、再生エネ4割の電力構成の場合を比べて試算し、「費用は同水準になる」と結論づけている。試算は、11年の東京電力福島第1原発の事故後、仏国内で厳格化された原発の安全基準を根拠としている。58基の原子炉は19年以降、半数近くが40年の耐用年数を過ぎるが、運転期間延長のための保守・改修費が上昇。新型炉建設でも、主力として期待される「欧州加圧水型炉」(EPR)は建設中の北西部フラマンビルで度重なる事故を起こしており、建設費が当初見通しを大きく上回っている。一方、報告書は風力や太陽光などの再生エネの発電量を今後、約5割増加させることを前提とし、気象条件による不安定さなど再生エネの不利な点も考慮した上での試算結果と説明している。報告書はADEMEが14日からパリで開催中のシンポジウムで取り上げる予定だったが、プログラムが中止されたことで、政府内からの圧力の可能性を示唆する報道が相次いでいる。ルモンド紙の取材にロワイヤル・エコロジー相は「もし政府側がADEMEに政府の政策と矛盾がないよう求めたとしても、それは正しい判断だ」と答えた。同紙は「報告書によって政府の方針や、原発ゼロに反対のロワイヤル氏の態度が変わることはないだろう」と予想している。

*1-4:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2015050502000123.html (東京新聞 2015年5月5日) 地裁差し止め却下 「川内」事実認定に問題
 九州電力川内(せんだい)原発1、2号機(鹿児島県)の再稼働差し止めを却下した鹿児島地裁の決定内容を、本紙が検証したところ、主な論点とされた避難計画や巨大噴火リスクに関する事実認定に大きな問題のあることが浮かび上がった。先月二十二日の地裁決定は、原発の新規制基準に不合理な点はなく、避難計画の具体化や物資の備蓄も進み、多数の専門家が巨大噴火の可能性は小さいとしているなどとして、住民らの訴えを退けた。しかし、地裁決定には、いくつもの疑問点がある。三十キロ圏の住民は、地区ごとに避難先が指定されているが、風向きによっては放射能汚染で使えなくなる可能性がある。地裁は、県が調整システムを整備し、迅速な避難先の変更に備えていると認定した。県に取材すると、風向きの入力で避難先施設の候補がリスト化される程度のもの。必要な人数を収容できるかや、汚染状況は一件一件、現地とやりとりする必要がある。入院患者らの避難先についても、病院の空きベッド数データがないため地道な確認が必要だ。半年前、避難者受け入れに向けた計画ができていなかった鹿児島県霧島市など十二市町に取材すると、指定先の学校や公民館などへの説明や、避難所の運営方法などの協議はいずれもされていなかった。一方、巨大噴火への備えについて地裁は、九電の火山監視の手法や能力に「専門家から異論はなかった」と問題ないと評価した。しかし、専門家とされた当の東大地震研究所の中田節也教授らからは「曲解された」「事実誤認だ」との声が上がっている。住民側は近く福岡高裁宮崎支部に抗告する予定だ。

*1-5:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/183228
(佐賀新聞 2015年5月3日) 桜島の噴火回数、はや昨年超え、気象台が注意呼び掛け
 鹿児島地方気象台は3日、活発な火山活動が続く桜島(鹿児島市)の爆発的噴火が、ことし4カ月余りで昨年1年間の450回を超えたと明らかにした。気象台は「活動が活発化している」として、降灰や噴石に注意するよう呼び掛けている。気象台によると、爆発は4月23日、400回に達し、5月2日午後11時50分ごろに451回目を観測した。桜島の爆発的噴火の最多記録は2011年の996回。桜島の昭和火口では13年8月18日、噴煙の高さが5千メートルに達する噴火が発生、鹿児島市などに大量の灰が降り、交通機関に影響が出た。

<フクシマ>
*2-1:http://qbiz.jp/article/61204/1/
(西日本新聞 2015年5月6日) 【全電源喪失の記憶 証言・1F汚染】第1章(8) 水は、あった
 3月16日午後4時半ごろ、東京電力福島第1原発上空に北側から進入した陸上自衛隊のUH60中型ヘリコプターは5、6号機を通り過ぎ、1〜4号機の東側に差し掛かっていた。少し前まで降っていた雪はやみ、空は晴れていた。第1原発第1保全部の山下理道(43)は変わり果てた構内の様子に言葉を失った。東電社員が上空から原発の状況を確認したのは事故後、これが初めてだった。水素爆発した1号機原子炉建屋上部は骨組みを残して天井が崩れ落ち、建屋の周囲には無数のがれきが散乱していた。ヘリはゆっくりと進む。3号機は爆発でめちゃめちゃに壊れ、がれきが積もった建屋上部に、使用済み核燃料プールがある5階部分が見えた。ビデオカメラを片手に窓からのぞき込むと、原子炉の真上あたりから大量の白い煙がもうもうと上がっていた。なんだ、これは…。原子炉の構造に詳しい山下は背筋が寒くなった。炉内から何かが出てきているのではないか…。「この時は嫌でしたね。すごく気持ち悪い光景ですから」。ヘリは3号機上空で線量を測定するため、しばらくホバリング(空中静止)した。線量は毎時247ミリシーベルト。山下は生きた心地がしなかった。こんなところで止まんないでくれよ―。3号機だけではない。隣の2号機だって、いつ爆発するか分からないじゃないか、と山下は考えていた。ヘリは再びゆっくりと空中を移動する。4号機建屋からは灰色の煙が上がっていた。4号機ではこの日早朝に火災が確認されていた。煙は何かの油が燃えたのではないかと、山下は推測した。3号機に比べれば、恐怖を感じることはなかった。その時、山下の目が建屋の崩れた壁の合間の一点にくぎ付けとなった。風に揺れる水面に西日が当たりキラキラと反射していた。プールだ。水が、あった!米政府が強い懸念を抱いていた4号機プールは水で満たされていた。

*2-2:http://qbiz.jp/article/61207/1/ (西日本新聞 2015年5月7日) 【全電源喪失の記憶 証言・1F汚染】第1章(9) 「原発は最悪の状況」
 3月16日午後4時ごろ、JR仙台駅の南東約4キロ、仙台市若林区にある陸上自衛隊霞目駐屯地で、第1輸送ヘリコプター群(千葉県)の群長、大西正浩(49)の目の前を、機体の前後に大きなローター(回転翼)を付けたCH47大型輸送ヘリ2機が相次いで飛び立っていった。2機はつり下げたバケットと呼ばれる大きな容器に海水をくみ、東京電力福島第1原発の原子炉建屋に投下することになっていた。既に原発上空ではUH60中型ヘリが空間放射線量の測定を始めていた。東日本大震災と原発事故発生を受けて大西は12日、ヘリ部隊とともに霞目駐屯地に派遣された。以来、ほとんど寝ずに被災地での負傷者や孤立者の救助、緊急物資の空輸を指揮してきた。特に前日15日からは一睡もしていない。「原発に水かホウ酸、もしくはホウ酸溶液を投下するための実施要領の検討を始めてくれ」。大西にそう命令が下ったのは15日朝のことだった。ホウ酸が中性子を吸収し臨界を抑制する効果がある物質だということを、大西はこの時、初めて知った。予想外の任務だった。「原発は相当最悪な状況になっているんだなと感じました。起きていることに対応するのがわれわれの務めです。どうしたらいいか、必死で考えました」。UH60は15日にも3号機上空600メートルから下方へと高度を変えながら放射線量を測定していた。大西はデータを入手し、夜を徹して分析した。線量は高度を下げるほど高くなり、上空90メートルより下がると毎時200ミリシーベルトを超えることが分かった。大西が実施要領をまとめ終えた時には東の空がうっすらと明るくなっていた。大西の結論では高度300フィート(約91メートル)を20ノット(時速約37キロメートル)で飛ぶことが、乗員の被ばくを抑えつつ、一定の効果を上げられるぎりぎりのラインだった。これ以上遅い速度ではヘリは安定して飛ぶことができない。作戦決行か否か。間もなく現場上空から連絡が入るはずだった。

*2-3:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150429-00010000-videonewsv-soci
(ビデオニュース・ドットコム 2015年4月29日) 福島第一原発は石棺で封じ込めるしかない 小出裕章・元京都大学原子炉実験所助教が会見
 原子力の研究者でありながら原発の危険性を一貫して訴え、この3月に京都大学を定年で退官した元京都大学原子炉実験所助教の小出裕章氏が4月25日、外国特派員協会で会見し、福島第一原発はチェルノブイリ原発のように石棺で封じ込める以外に、これを収束させる方法はないとの考えを示した。小出氏は、東京電力が計画している、格納容器を補修して水を張り、メルトダウンした核燃料を上からつまみ出す方法について、放射線量が高くてそのような作業を行うことは不可能だと指摘。東電は溶け落ちた炉心の一部は圧力容器の底に残り、残りは格納容器の底にたい積していると主張しているが、実際は格納容器内に広く散乱している可能性が高いため、取り出すことが難しい。しかも、格納容器のどこに穴があいているかを調べることさえ困難な状態で、そのような方法ではいつまでたっても廃炉にすることはできないと語った。その上で小出氏は、溶け落ちた燃料の取り出しは出来ない以上、チェルノブイリ原発のように石棺で封じ込めるしかないとして、まずは汚染水を大量に生み出している現在の水冷方式を諦め、金属冷却か空冷を採用し、上からカバーをすることで放射能の飛散を防ぐ必要があるとの見方を示した。また、その際に地下水の流れを止めるために、地下ダムが必要になるとも指摘した。ただし、石棺を作成する前提として、まずは1~3号機の使用済み燃料プールに残る1,393体にのぼる使用済み核燃料を安全な場所に移す必要があるが、その作業に何年かかるのかさえ見通しが立っていないとして、福島原発が「アンダーコントロール」と考えるのはまったくの間違いだと語った。

<原発公害>
*3-1:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2015042201001899.html
(東京新聞 2015年4月22日) 「原発事故でオオタカ繁殖低下」 高線量影響か
 11年の東電福島第1原発事故以降、栃木県など北関東で国内希少野生動植物種オオタカの繁殖成功率が低下していることが、名古屋市立大とNPO法人「オオタカ保護基金」(宇都宮市)の研究で判明。要因を統計解析し、空間線量の高まりが大きく影響したと推計している。餌の変化など他の要因の影響は小さかった。事故前の推計繁殖成功率78%が、事故後は50%近くに低下。時間経過に伴い空間線量は下がり成功率も回復すると予想されたが、12、13年とますます悪化した。市立大の村瀬准教授は「放射線の外部被ばくだけでなく、餌を通じて内部被ばくの影響を受けた可能性もある」と指摘する。

*3-2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11739289.html?_requesturl=articles%2FDA3S11739289.html&iref=comkiji_txt_end_s_kjid_DA3S11739289 (朝日新聞 2015年5月5日) 原発賠償原告、1万人規模に 福島第一事故
 訴訟を支える「原発事故被害者支援・全国弁護団連絡会」によると、原告数は4月末現在で計9992人に達した。今年に入っても約900人増えており、1万人超えは確実だ。ほとんどの訴訟が国家賠償法に基づいて国も訴えている。これまでの公害裁判では、沖縄県の米軍嘉手納基地の周辺住民が2011年に騒音被害などを訴えた第3次訴訟の原告数が2万人を超える。福島の原発事故をめぐっても異例の大規模な集団訴訟となる。原告は避難指示区域からの避難者や区域外の自主避難者、住民ら。福島県双葉郡などからの避難者が2012年12月に起こしたのを皮切りに、札幌から福岡まで20地裁・支部で25件の裁判が起こされている。原発事故の賠償をめぐっては、政府の原子力損害賠償紛争審査会が賠償の指針をまとめ、それに沿って東電は、避難生活への慰謝料や営業損害などの賠償金を支払ってきた。しかし、原告らは、これに納得せず、放射線量率が下がるまでの慰謝料や、「ふるさと喪失」への慰謝料などを求めている。

<日本の世論>
*4-1:http://373news.com/modules/pickup/index.php?storyid=66018
(南日本新聞 2015年5月1日) 川内再稼働、59%が反対 南日本新聞世論調査
 南日本新聞社が、九州電力川内原発1、2号機(薩摩川内市)の再稼働をテーマに鹿児島県内で実施した電話世論調査によると、再稼働に「反対」「どちらかといえば反対」と答えた人は、前年の調査に比べ0.4ポイント増の計59.9%に上った。「賛成」「どちらかといえば賛成」と回答した人は、0.5ポイント増の計37.3%だった。

*4-2: http://mainichi.jp/select/news/20150427k0000m010056000c.html
(毎日新聞 2015年4月26日) 統一地方選:「大間差し止め」現職が再選…函館市長選
 国とJパワー(電源開発)を相手取った大間原発(青森県大間町)の建設差し止め訴訟が争点となった北海道函館市長選は、現職の工藤寿樹氏(65)=無所属=が、訴訟の取り下げを掲げた新人で元衆院議員秘書の広田知朗氏(54)=同=を破り再選を果たした。地方自治体が国を訴える異例の訴訟への民意を問う初の選挙だったが、市民は訴訟による原発差し止めを選択した。広田氏は大間原発建設反対を掲げながらも、訴訟で市が国と対立していることについて、「国とコミュニケーションが取れなくなっている」と批判。保守層の一部有権者からは「補助金が減らされないか」などの懸念も出ていた。工藤氏は「私は『反原発』『脱原発』の立場で発言したことはない。大間原発の建設を凍結しろと言っている」と、原発再稼働を進める自民党の支持層に配慮。広田氏の主張については「訴訟の取り下げは、建設を容認することと同じだ」とけん制し幅広い有権者に浸透した。


PS(2015.5.8追加):*5-1のように、太陽光発電は、「太陽光の発電量が増えて電力の需給バランスが崩れると停電が起きる可能性がある」として何の工夫もなく出力抑制され、*5-2のように、サニックス(福岡市)は主力の太陽光発電関連部門の不振で希望退職を約600人募ることになった。これは、*1-1のように、経産省が電源構成比率を決めたために起こったことで、太陽光発電の普及には妨害となるが、種子島にはJAXAの宇宙センターもあり、科学技術先進地域であるため、離島のスマートグリッドを完結させたり、それでも余った電気で水素を作ったり、やれることは多いと考える。また、種子島では電気自動車か燃料電池車しか走らせないことにすると、鉄砲のように、それが全国に広がるかもしれない。

*5-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11741708.html
(朝日新聞 2015年5月8日) 再生エネ、送電停止を要請 九電、種子島の業者に 全国初
 九電によると、500キロワット以上の発電設備をもつ島内の事業者8社のうち1社に対して4日に出力制御を指示し、5日午前9時から午後4時まで発電を停止させた。種子島は九州本土と送電網で結ばれておらず、好天で太陽光の発電量が増えて電力の需給バランスが崩れると、停電が起きる可能性があるという。FITをめぐっては、電力の買い取り条件を厳しくした新ルールが1月に施行されたが、今回は補償なしで年間30日まで出力抑制を求められる旧ルールに基づいて九電が停止を求めた。今後も天候や需要予測をもとに、8社に順番に送電を止めてもらう計画だ。九電は先月28日、天候次第で種子島の発電事業者に送電停止を求める、と発表していた。他の離島でも太陽光発電設備の建設が増えており、送電停止の対象地域が広がる可能性がある。

*5-2:http://qbiz.jp/article/61627/1/
(西日本新聞 2015年5月7日) サニックス、600人希望退職募集 太陽光不振、拠点も削減
 サニックス(福岡市)は7日、主力の太陽光発電関連部門の不振を受け、希望退職を約600人募ると発表した。6月までにグループ従業員3625人(3月末時点)の2割近くに相当する人員を減らし、西日本地区の営業所の削減にも踏み切る計画。2015年3月期連結決算の純損益の赤字額が従来予想の1・8倍の49億9千万円に膨らむとの見通しも公表した。同社によると、希望退職は6月22日付で、5月14〜29日に募集する。対象者には特別退職金約50万円を加算支給し、再就職も支援する。九州など西日本地区(中部地方を含む)の太陽光関連部門の営業所も統廃合を進め、現在より20カ所少ない45カ所に減らすことで、年間約26億円の経費削減を見込んでいるという。15年3月期の連結業績予想も下方修正。売上高は従来予想比1・4%減の956億3千万円となり、経常損益の赤字額は従来予想の2・4倍の34億4千万円に膨らむとしている。同社は、再生可能エネルギー固定価格買い取り制度が12年7月に始まったのを受け、太陽光発電設備の販売・施工業で業績を拡大した。しかし九州電力などが昨秋以降、急増した太陽光の新規契約を一時中断するなどしたことで事業環境が一変、事業の整理を余儀なくされている。


PS(2015.5.9追加):日本政府がくだらないことに時間を費やしている間に、中国は、*6のように、米国で電気バスと動力電池を本格的に製造し始めた。誰も待ってはいない。これも、“バスに乗り遅れないように”、あわてて追随する?

   

*6:http://qbiz.jp/article/61701/1/
(西日本新聞 2015年5月8日) BYDの電気バスが日本市場に続いて米国市場へ進出
 4月30日、米国ロサンゼルス市でロサンゼルス郡都市圏輸送当局( LACMTA)に大型電気バスK9を引き渡す比亜迪(BYD)の董事長兼総裁の王伝福氏(中央)。中国の独自ブランドである比亜迪は2011年10月、ロサンゼルスに北米本社を設立し、2013年にはロサンゼルス北部ランカスターに中国企業としては初めて独資で完全電気路線バス工場と動力電池工場を建設した。2014年には初めての米国現地生産の大型電気バスを生産、また米国運輸省の安全テストを通過し、2015年には米国で世界初の完全電気長距離観光バスを生産した。現在、比亜迪は多くの米国の顧客と大型電気バスk9、電気SUVのe6といった一連の新エネルギー自動車の生産と販売の契約を結んでおり、米国という伝統的な自動車王国に中国が作った自動車が進出するという夢を実現した。新華網が伝えた。


PS(2015.5.9追加):*7のように、川内再稼働反対デモは、鹿児島市の照国神社前を出発して、熊本市、熊本県水俣市、福岡県久留米市、太宰府市を通り、九電本店のある福岡市までの311キロを市民が歩くリレーにするそうで、深刻さの中にも、どこか歴史の重みと楽しさがありますね。 

*7:http://qbiz.jp/article/61723/1/ (西日本新聞 2015年5月9日) 川内再稼働反対 311キロリレーデモ 16日、鹿児島から福岡へ向け出発
 九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)の再稼働に反対する鹿児島市の市民団体「ストップ再稼働! 3・11鹿児島実行委員会」は8日、鹿児島市から九電本店のある福岡市までの311キロを市民が歩いて、再稼働反対を唱える「リレーデモ」を実施すると発表した。「川内原発で事故が起きれば九州全域に関わる問題になる。反対の機運を九州各地で盛り上げて、その意思を九電に示したい」としている。デモは16日に鹿児島市の照国神社前を出発し、27日まで12日間の日程。日替わりで20人規模が参加し、再稼働反対を唱えながら国道3号を徒歩で北上する。熊本市、熊本県水俣市、福岡県久留米市、太宰府市など11カ所に宿泊し、地域住民と意見交換もする。27日午後に九電本店に到着し、原発30キロ圏での住民説明会を九電が主催するよう求める10万人分の署名を提出する計画だ。県庁で記者会見した実行委の向原祥隆事務局長は「311キロを歩き通し、再稼働の不当性を訴えたい」と決意を語った。

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2015.4.27 川内原発仮処分の却下と各メディアの論調について(2015年4月27、28日追加あり)
    
2015.4.23佐賀新聞 *1-1           GreenPeaceより

(1)鹿児島地裁の決定について
 *1-1のように、鹿児島地裁は九電川内原発1、2号機の再稼働差し止めを認めず、理由として「①新基準の合理性は専門的な知見を持った原子力規制委員会が審議を重ねて定め、フクシマ原発事故の経験も考慮した最新の科学的知見に照らして不合理ではない」「②新基準では、基準地震動を過去の地震の平均像を用いて策定しているが、過去10年で想定を超える地震が発生したケースは5回あるが、新基準はそうした地震が起きた地域の特性を考慮できるようになっており、不合理だとはいえない」とした。

 しかし、①については、*1-6のように、“専門的な知見を持つ”とされる原子力規制委員会は、原発事故の際に放射性物質の拡散を予測するSPEEDIの活用を中止し、半径30km圏内しか放射性物質が飛散しないかのような前提で避難範囲を定めているのであり、これは、御世辞にも、フクシマ原発事故の経験を考慮した最新の科学的知見や専門的知見に基づいた判断とは言えない。

 さらに、②についても、自然現象の予測には「不確かさ」があるからこそ、最悪の事態にもゆとりを持って安全と言えなければ万全な危機管理とは言えず、「想定外」ばかりだったフクシマ原発事故から学んでいない。また、*1-1では、「地震が原因となる事故による放射性物質放出をかなり防げる」としているが、冷やし続けるための配管も壊れないとはとても思えない上、「かなり防げる」程度では困るのだ。

 また、鹿児島地裁は、「九電は新基準に従って調査した上で川内原発が受ける火山活動の影響を評価しており、火山学の知見からも一定程度裏付けられている」としているが、多くの火山学者が、噴火予知は不可能であり、直前に予知できたところで対処の仕様がないだろうと言っている。

 このような中、*1-3のように、阿蘇山は噴煙1500メートルに達する噴火を起こして火口から1キロ以遠でも噴石の降る恐れがあり、*1-4のように、桜島も、今年の爆発的噴火回数が400回を超え、これは記録の残る1955年以降で3番目に早いペースで、噴煙は高さ5千メートルに達して鹿児島市街地に大量降灰をもたらした2013年8月の爆発的噴火と同規模かそれ以上の噴火が起きる可能性があり、404回目の爆発的噴火では噴煙が高さ3100メートルに達して鹿児島市街地で断続的に降灰を観測しているとのことである。

 *1-1では、「避難計画は、原発からの距離で区分された地域によって避難行動が具体的に定められ、放射性物質の拡散状況に応じて避難先を調整するほか、放射線防護資機材の備蓄や緊急時の放射線量の測定、安定ヨウ素剤の投与についても具体的に定めており、現時点での一応の合理性や実効性を備えている」としているが、再稼働ありきでこじつけられた“一応の合理性”程度で、原発を再稼働されては困るのである。

(2)福井地裁と鹿児島地裁の判断の違い
 上の図のように、高浜原発(福井県)の再稼働を否定した福井地裁と川内原発(鹿児島県)の再稼働を認めた鹿児島地裁の決定の相違点は、①新基準の合理性に関する判断 ②原発に絶対的な安全性を求めるべきかどうかについて福井地裁が「万が一にも事故が起こらない」ことを求めたのに対し、鹿児島地裁は「重大な事故が発生する確率が低ければよい」としたこと ③基準地震動について ④火山の噴火について である。

 そして、①については(1)で述べたとおり、新基準は再稼働ありきで緩やか過ぎる上、②については、*2-1、*2-2、*2-3、*2-4に書かれているように、原発事故が一度起きれば回復不能で甚大な被害をもたらすことを考えれば、「万が一にも事故が起こってはならない」という判断が正しい。

 何故なら、*3-1のような記事もあるが、自動車事故なら死亡事故が起きても3000万円程度の補償額で原因者負担であり、事故の片づけが終わればその道路は通行可能になり、近隣住民が事故後そこに居住できなくなるということもないのに対し、フクシマ原発事故の例では、現在判明している補償額だけでも10兆円に達し、人間が住めなくなった場所も多く、このような事故が1基あたり80年に1度起こるとすれば、10機稼働していれば8年に1度は起こって、1年当たり1.25兆円の補償を国が行わなければならず、そのたびに国土を狭めるからである。つまり、原発事故は、他の事故とは異なるのである。

 また、③の基準地震動については、(1)に記載したとおり、地震の最大予測値にゆとりを持たせておくべきであり、配線、配管、建物の構造を含むすべてが地震の最大予測値を超える強度でなければ安全とは言えない。

 なお、*1-2に書かれているとおり、福井地裁は火山噴火の危険性については言及していないが、川内原発の新規制基準への適合性をめぐる決定では、「原子力規制委員会が火山学の専門家の関与・協力を得ながら厳格かつ詳細に審査した」としている。しかし、その判断には火山学者から強い批判が出ており、東京大学火山噴火予知研究センターの中田節也教授は「火山学会の意見を聞いて再稼働が判断されたわけではなく、全くの事実誤認」「規制委にも破局的噴火が起こればみんな死ぬ、という乱暴な意見があるが、それは違う。原発の使用済み核燃料を放置していれば深刻な核汚染を招く」としている。

 また、静岡大の小山真人教授は「規制委の基準には、巨大噴火の発生する周期が原発立地をどう制限するかが定められていないなど、問題点が多く見直すべきだ。地裁は、決定の説得性を増すために火山学者の指摘を都合よく使っている」と語っている。

 自治体が策定する避難計画については規制委も審査対象にしておらず、公的機関の判断は今回が初となったが、決定は「一応の合理性、実効性を備えている」と結論づけた。人命がかかった避難計画に、“一応”がつくのは論外で、東京女子大の広瀬弘忠名誉教授(災害・リスク学)も「(地震と原発事故といった)複合災害への対応が不十分だ。福島事故の教訓を判断基準にすれば、全く違う結論になる」と指摘している。

(3)危機管理の常識は、最悪の事態に備えることである
 *1-5は、「川内の仮処分は専門的な知識を持つ人たちが十分に審議した過程を重視し、見過ごせない落ち度がない限り司法はあえて踏み込まないという考え方をとっているが、フクシマ原発事故は(狭い分野の)専門家に安全を委ねる中で起き、深刻な放射能漏れが起きて周辺住民の生活を直撃し収束のめどが立たない事態が続いているのであり、福井地裁判断に説得力がある」としており、これは本当だ。

 しかし、鹿児島地裁は「地震や火山活動等の自然現象も十分に解明されているものではない」としているが、これは、十分に解明されておらず予測不能であれば、最悪の事態に備えるという危機管理の常識に反している。

(4)原発は、事故時にメーカー責任がない
 *3-1では、「原発事故のリスクを考えるときに、リスクにさらされるのは原発が立地する地域社会で、この地域社会を、そこに住む『個人』という要素の単純合計と考えるのが要素還元論であり、科学界の主流がとる立場だ」としている。

 しかし、科学的にも、会計学的にも、原発事故で失われた土地で、原発事故がなければ将来に渡って生産できた筈の農林水産物や他の産業から生み出される価値は、機会費用として原発事故の損害に加算しなければならず、損害は個人の損失の単純合計ではない。そして、その総合損失と原発の価値を比較しなければならないのであり、*3-1で科学的とされている損害要素は、損害のうちのごく一部にすぎないため、この記事は誤りである。

 また、これらの損失について、交通事故であれば、事故の原因となった人が自動車保険を使って損害賠償するのであり、国が損害賠償することはない。また、自動車の方に欠陥があったのであれば、自動車会社が補償し、同機種の車をリコールして改善しなければならず、これを製造物責任と呼ぶ。

 しかし、*3-2に書かれているとおり、原子炉は製造物責任法の対象から除外されており、日立、東芝、三菱重工などの原子炉メーカーは原発事故の責任を問われない。もし、原子炉メーカーが今回の原発事故で製造物責任を負うことになっていれば、放射性物質の回収、除染、汚染水の処理等は、国ではなく原子炉メーカーの責任でやることになり、投資家に「さらなる原発ビジネスの拡大」などを説得することはできず、海外への原発輸出どころではなかった筈だ。そのため、まず普通の工業製品と同様、原賠法で原子炉メーカーに製造物責任を負わせるようにすべきである。

*1-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150423&ng=DGKKZO86032570T20C15A4CC1000 (日経新聞 2015.4.23) 川内原発を巡る決定要旨
 九州電力川内原発1、2号機の再稼働差し止めを認めなかった22日の鹿児島地裁の決定要旨は次の通り。
【新基準の合理性】
 原発の新規制基準は専門的な知見を持った原子力規制委員会が審議を重ねて定めた。東京電力福島第1原発事故の経験も考慮した最新の科学的知見に照らして不合理ではない。新基準では、基準地震動(耐震設計の目安となる揺れ)を過去の地震の平均像を用いて策定している。住民らはその点を問題視しているが、地域の地震の様式や規模、頻度といった特性を踏まえた上で、平均像を用いて基準地震動を検討することは相当だ。過去10年で日本の原発に想定を超える地震が発生したケースは5回あるが、新基準はそうした地震が起きた地域の特性を考慮できるようになっており、不合理だとはいえない。
【地震対策が十分か】
 九電は敷地周辺の地震や地質を詳細に調べた上で、自然現象の予測には避けられない「不確かさ」をかなり考慮に入れて基準地震動を決めている。川内原発が新基準に適合しているとの規制委の判断は妥当だ。九電は耐震設計などで安全上の余裕を確保するとともに、重大事故対策として、保安設備の追加配備などをしている。これらの取り組みで、地震が原因となる事故により放射性物質が放出されることをかなり防げる。住民らは、川内原発には「冷やす」と「閉じ込める」機能に重大な欠陥があると主張するが、事故の発生が避けられないとする証明はない。
【火山活動の影響】
 九電は新基準に従って調査した上で川内原発が受ける火山活動の影響を評価しており、火山学の知見からも一定程度裏付けられている。カルデラ火山の破局的な噴火の可能性が十分に小さいとはいえないと考える火山学者も一定数は存在するが、火山学会の多数を占めるとまではいえない。
【避難計画の実効性】
 避難計画は、原発からの距離で区分された地域によって避難行動が具体的に定められている。放射性物質の拡散状況に応じて避難先を調整する方策のほか、放射線防護資機材の備蓄や緊急時の放射線量の測定、安定ヨウ素剤の投与についても具体的に定めており、現時点での一応の合理性や実効性を備えている。

*1-2:http://qbiz.jp/article/60861/1/ (西日本新聞 2015年4月23日) 【川内原発仮処分】「絶対的安全」司法割れる 「重大事故の確率低い」
 川内原発(鹿児島県薩摩川内市)の再稼働を認めた22日の鹿児島地裁決定は、高浜原発(福井県)の再稼働を否定した14日の福井地裁決定とは、全く異質の司法判断となった。分岐点は「原発に絶対的な安全性を求めるべきかどうか」だった。福井地裁は「万が一にも事故が起こらない」ことを求めたのに対し、鹿児島地裁は「重大な事故が発生する確率はきわめて低い」として再稼働を容認した。一方で、初の司法判断となった火山の影響や避難計画の評価をめぐっては、早くも専門家から「事実誤認だ」と強い批判が出ている。「ぜひ最終ページを読んでほしい」。申立人弁護団の河合弘之弁護士は決定が出された後、鹿児島市での記者会見で強調した。決定文の結論にはこうあった。「さらに厳しい基準で原発の安全性を審査すべきだという考えも成り立ち得ないものではない」。福井地裁は新規制基準を「緩やかにすぎる」と真っ向から否定したが、鹿児島地裁の決定は、原発が安全かどうかについて「原発の重大事故の際は、放射性物質の放出が社会通念上無視できるほど小さいかどうか」で判断すべきだとし、新基準に適合した川内原発はそれを満たすと認定した。ただ、鹿児島地裁は結論で「絶対的安全性」を求めるのであれば、「社会的合意が形成された場合」とあえて明記もした。「再稼働を認めておきながらこんな言い訳を入れるのは、決定に自信がなかったのではないか」。全国の原発裁判に関わる海渡雄一弁護士はこう推察した。
   ◇    ◇
 周辺火山の噴火の影響をめぐる判断には、火山学者から強い批判が出ている。川内原発の新規制基準への適合性をめぐり決定は「原子力規制委員会が火山学の専門家の関与・協力を得ながら厳格かつ詳細に審査した」とした。これに対し、東京大火山噴火予知研究センターの中田節也教授は「学会の意見を聞いて再稼働が判断されたわけではなく、全くの事実誤認」と憤る。静岡大の小山真人教授は「規制委の基準には、巨大噴火の発生する周期が原発立地をどう制限するかが定められていないなど、問題点が多く見直すべきだ。地裁は、決定の説得性を増すために火山学者の指摘を都合よく使っている」と語る。さらに決定は「カルデラ火山の破局的噴火による住民への影響は甚大だが、それが原発によるものかどうかは不明」として申立人にさらなる説明を求めた。中田教授は「規制委にも破局的噴火が起こればみんな死ぬ、という乱暴な意見があるが、それは違う。原発の使用済み核燃料を放置していれば深刻な核汚染を招く」と批判した。
   ◇    ◇
 自治体が策定する避難計画については規制委も審査対象にしておらず、公的機関の判断は今回が初となった。決定は「一応の合理性、実効性を備えている」と結論づけた。東京女子大の広瀬弘忠名誉教授(災害・リスク学)は「(地震と原発事故といった)複合災害への対応などが不十分だ。福島事故の教訓を判断基準にすれば、全く違う結論になる」と指摘する。決定は「あらゆるトラブルの対処方法を詳細に策定すると、計画がきわめて膨大になる」と行政側に寛容な姿勢ものぞかせた。広瀬氏は「人命がかかった避難計画なのに軽視が甚だしい」と憤慨した。

*1-3:http://qbiz.jp/article/60998/1/
(西日本新聞 2015年4月24日) 阿蘇山で噴煙1300メートル
 24日午前9時55分、熊本県の阿蘇山の中岳第1火口で噴火があり、噴煙が1300メートルまで上がった。気象庁は火口から1キロ以遠でも小さな噴石が降るおそれがあるとして、注意を呼び掛けている。23日には上空1500メートルまでの噴煙を観測。阿蘇市や南阿蘇村では、やや多量の降灰が予測され、高森町などでも火山灰が積もる可能性がある。

*1-4:http://qbiz.jp/article/60937/1/
(西日本新聞 2015年4月24日) 桜島、今年の噴火400回 史上3番目のペース
 鹿児島地方気象台は23日、桜島の今年の爆発的噴火回数が400回を超えたと明らかにした。記録の残る1955年以降で3番目に早いペース。活発な状態が続いており、噴煙が高さ5千メートルに達し鹿児島市街地に大量降灰をもたらした2013年8月の爆発的噴火と同規模かそれ以上の噴火が起きる可能性があるとみて、大量降灰や噴石の飛散に警戒を呼び掛けている。気象台によると、桜島の昭和火口(標高800メートル)で23日午前0時42分、400回目の爆発的噴火を観測。その後も繰り返し発生し、同11時21分の404回目の爆発的噴火は噴煙が高さ3100メートルに達した。鹿児島市街地では断続的に降灰を観測した。桜島は1月から山体膨張が続き、3月27日には爆発的噴火の回数が、昭和火口が活動再開した2006年以降で1日当たり最多の31回に上った。

*1-5:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11719295.html
(朝日新聞社説 2015年4月23日) 川内の仮処分 専門知に委ねていいか
 きのう、九州電力川内原発1、2号機の再稼働をめぐって、運転差し止めの仮処分を求めた住民の申し立てを鹿児島地裁は退けた。14日には、福井地裁は関西電力高浜原発3、4号機の運転を差し止める仮処分を決めた。判断を分けたのは、規制基準を含む規制委の審査に対する見方である。福井地裁は、安全対策の柱となる「基準地震動」を超える地震が05年以降、四つの原発で5回起きた事実を重く見たうえで、規制基準について「これに適合しても原発の安全性は確保されない」と判断した。一方、鹿児島地裁は、地域的な特性を考慮して基準地震動を策定していることから「基準地震動超過地震の存在が規制基準の不合理性を直ちに基礎付けるものではない」とし、規制基準は「最新の科学的知見に照らしても、不合理な点は認められない」と結論づけた。鹿児島地裁の判断は、従来の最高裁判決を踏襲している。行政について、専門的な知識をもつ人たちが十分に審議した過程を重視し、見過ごせない落ち度がない限り、司法はあえて踏み込まない、という考え方だ。だが、福島での事故は、専門家に安全を委ねる中で起きた。ひとたび過酷事故が起きれば深刻な放射線漏れが起きて、周辺住民の生活を直撃し、収束のめどが立たない事態が続く。原発の運転は、二度と過酷事故を起こさないことが原点である。過去、基準地震動を超える地震が5回起きた事実は重い。「想定外」に備えるためにも、厳しい規制基準を構えるべきである。特に、原発の運転には、国民の理解が不可欠であることを考えれば、規制基準についても、国民の納得がいる。これらの点を踏まえれば、福井地裁判断に説得力がある。鹿児島地裁は「地震や火山活動等の自然現象も十分に解明されているものではない」「今後、原子炉施設について更に厳しい安全性を求めるという社会的合意が形成されたと認められる場合、そうした安全性のレベルを基に判断すべきことになる」とも述べている。世論調査では依然として原発再稼働に厳しい視線が注がれている。政府も電力会社も鹿児島地裁の決定を受けて「これでお墨付きを得た」と受けとめるべきではない。

*1-6:http://www.sankei.com/affairs/news/150419/afr1504190001-n1.html (産経新聞2015.4.19)「SPEEDI」削除決定へ 自治体反対押し切る 規制委、原子力災害対策指針改正
 原子力規制委員会が、原発事故の際に放射性物質の拡散を予測する「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム」(SPEEDI=スピーディ)の活用を明記していた原子力災害対策指針を今月中に改正し、SPEEDIの記述の削除を決めたことが18日、分かった。規制委には原発の立地自治体からSPEEDIを活用するよう意見書が寄せられていたが、それを押し切る形となり、自治体の反発が予想される。規制委によると、現行の指針は「SPEEDIのようなシミュレーションを活用した手法で、放射性物質の放出状況の推定を行う」と記載していたが、これらの文章を削除するという。代わりに、実際に測定された実測値を基準に避難を判断。重大事故が起きた場合、原発から半径5キロ圏は即時避難、5~30キロ圏は屋内退避後に、実測値に基づいて避難するとしている。東京電力福島第1原発事故では、政府中枢にSPEEDIの存在が知らされず、SPEEDI自体もデータがうまく収集できなかったため、初期避難に混乱を招いた。結果的に、原発周辺の住民の中には放射性物質が飛散した方向へ避難した人も多く、政府は強い批判を浴びた。このため、規制委は風向きなど天候次第で放射性物質が拡散する方向が変わり、予測が困難であることを重要視。昨年10月には、「SPEEDIで放射性物質の放出のタイミングやその影響の範囲が正確に予測されるとの前提に立って住民の避難を実施するとの考え方は危険」と判断した方針をまとめていた。しかし、新潟県は3月末、「実測値のみによる防護措置の判断では被(ひ)曝(ばく)が前提となるため、判断材料の一つとして予測的手法も活用し、早めに防護措置が実施できる仕組みとするように」と要望する意見書を規制委に提出。福島県も「安全で確実な避難をするためにはSPEEDIの予測精度を高めることも必要。使えるものは使っていくべきだ」と反発していた。規制委関係者は「自治体の反対意見は承知しているが、丁寧に理解を求めていきたい」と話している。

<フクシマの真実>
*2-1:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/180817
(佐賀新聞 2015年4月26日) 原発事故、起きれば佐賀でも悲劇  飯舘村の酪農家が講演
 福島第1原発事故による放射能汚染で離村を余儀なくされた福島県飯舘(いいだて)村の酪農家が25日、佐賀市で講演、被ばくの実態や残留放射能の現況を報告し、「玄海原発が一度でも事故を起こせば佐賀でも同じことが起きる」と警告した。講演したのは同県伊達市の仮設住宅で暮らす長谷川健一さん(61)。飯舘村は原発事故から1カ月遅れの2011年4月に計画的避難区域に指定された。長谷川さんは「速やかに避難指示が出された原発20キロ圏内より、30~45キロ圏内にある飯舘村の住民がはるかに多量の被ばくを強いられた」と訴えた。国が事故当時の放射能影響予測情報をなかなか開示せず、残留放射能の数値を低くするため、汚染土を除去した場所にモニタリングポストを設置するなど、隠ぺい体質が強いと指摘。「見せかけだけの除染。帰村を進めて賠償額を少なくしようとしている。被災地の回復状況をアピールすることで、原発再稼働の動きを加速しようとしている」と危機感を募らせた。講演は「原発なくそう!九州玄海訴訟」原告団・弁護団が主催し約100人が訪れた。

*2-2:http://mainichi.jp/select/news/20150423k0000m040086000c.html
(毎日新聞 2015年4月22日) 線量測定器:異常相次ぎ全77台運用中止 福島県
 福島県が設置した空間放射線量の簡易型測定器に異常が相次いだ問題で、県は22日、不具合が解消しないため、77台すべての運用を中止し、福島市の納入業者との契約を解除したと発表した。再設置する方針だが、時期は未定という。県によると、3月に設置し4月1日から試験運用を始めた77台。一部で測定値が通常値の約1000倍に上昇したり、測定データが伝送できなかったりする不具合が発生した。20日時点で33台が復旧していないという。3月30日に原子力規制庁から、13台が通信テストでデータ送信できないと県に連絡があったが、試験運用を開始した。県危機管理部の樵(きこり)隆男部長は記者会見で「連絡を受けた時点で異常に気づくべきだった。情報が内部で共有されず、不適切だった」と陳謝した。規制庁は福島県内に簡易型測定器3036台を設置しているが、東京電力福島第1原発事故の被災自治体の要望を受け、県が新たに77台を設置していた。

*2-3:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2015042401001662.html
(東京新聞 2015年4月24日) 北米沿岸に8百テラベクレル着へ 原発事故で海洋放出セシウム
 東京電力福島第1原発事故で海洋に放出された放射性セシウム137の約5%に当たる800テラベクレル(テラは1兆)が北米大陸の西海岸に到達するとの研究結果を福島大学環境放射能研究所の青山道夫教授がまとめ、24日までにウィーンの学会で発表した。約1年後にはほぼ全量がたどり着くという。日本の原子力規制委員会は、100テラベクレルを放出する大事故の発生確率を原子炉1基につき100万年に1回以下に抑える安全目標を決めているが、今回の数値はその8倍に相当する。

*2-4:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2015042501001598.html
(東京新聞 2015年4月25日) 小出氏「福島第1原発は石棺を」 元京都大助教
 原発の危うさに長年警鐘を鳴らしてきた元京都大原子炉実験所助教の小出裕章氏が25日、東京都内の日本外国特派員協会で記者会見した。事故発生から4年が経過した東京電力福島第1原発について「チェルノブイリのように石棺で(放射性物質を)封じ込めるしかない」と述べ、溶け落ちた核燃料の取り出しを目指す政府や東電の方針を否定した。小出氏は、第1原発の現状について「4年たっても現場に作業員が行けない事故は原発以外にない」と指摘。1~3号機では、溶け落ちた核燃料が原子炉格納容器内に散らばっているとみられることから「機器を使って取り出せる燃料の量は高が知れている」と話した。

<事故時の責任の所在>
*3-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150423&ng=DGKKZO86023170S5A420C1EN2000 (日経新聞 2015.4.23) 原発とホーリズム
 4月14日、福井地裁が関西電力高浜原子力発電所3、4号機の再稼働を差し止める仮処分を出した。原子力規制委員会は事故リスクは小さいとし、裁判所は大きいという。事実誤認はあるかもしれないが、ことの本質はそこにはない。リスクの確率計算で仮に規制委と合意したとしても、裁判所の判断は変わらないのではないか。規制委と裁判所の判断の違いは、科学を巡る議論で繰り返される「要素還元論」と「全体論(ホーリズム)」との対立の新バージョンだからだ。原発事故のリスクを考えるときに、リスクにさらされるのは原発が立地する地域社会だ。この地域社会を、そこに住む「個人」という要素の単純合計と考えるのが要素還元論だ。科学界の主流がとる立場である。一方のホーリズムは、要素(個人)が集まってできた全体(地域社会)は要素の合計を超えた価値(例えば文化や歴史)を持つとみる。非科学的とされがちだが、我々は社会についての意思決定に際しホーリズム的判断をすることが多い。交通事故で個人が死ぬのは取り返しのつかない悲劇だが、原発事故で地域社会が丸ごと居住不能になることは、なにかしら個人の死を超えた、もっと大きな損失だと感じる人も多いだろう。このホーリズム的感性からは、確率は小さくても原発事故の損害を巨大なものと見積もる判断が出てくる。原発事故で東京が壊滅するシミュレーション小説「東京ブラックアウト」では日本の国柄や国際社会での地位まで劣化していく様子が描かれるが、そこで失われるものは個人の損失の単純合計を超えたものだ。もっと極端な例を考えると論点がはっきりする。夢の新技術が実用化され、それを使えば電気代は永久にタダだが、10万年に1回の確率で地球が消滅するリスクを生むとする。そのような技術を使うべきだろうか。要素還元主義で判断すれば事故の確率は小さいから使うべきだとなる。だが事故=人類絶滅なら確率がいくら小さくても躊躇(ちゅうちょ)する人は多いのではないか。人類存続は個人の生死の合計を超えた価値を持つと我々は感じるからだ。結局、政治的な意思決定を要素還元論で考えるべきかホーリズムで考えるべきかという対立に、我々は直面しているのである。

*3-2:http://blogos.com/article/62029/
(BLOGOS 2013年5月10日 ) 原発輸出が許されてしまう理由
 安倍首相がトルコやアラブ首長国連邦(UAE)を訪れ原子力協定を結び、原発輸出を約束してきた。一方、福島第一原発事故の現場では、たまり続ける汚染水に悩まされるなど綱渡りの状態が続く。
海外では「原発は安全」と原発を売り込むが、国内では収束とは程遠い原発事故の脅威に市民がさらされ続けているわけだ。なぜ、こんなことが許されるのか。その大きな理由の一つは、日立、東芝、三菱重工などの原子炉メーカーは原発事故の責任を問われないという強固な仕組みがあるからだ。
●法律で守られる原子炉メーカー
 原子炉は、製造物責任法(PL法)の対象から除外されているのをご存じだろうか。「原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)」の第4条3項には「原子炉の運転等により生じた原子力損害については、(中略)製造物責任法の規定は、適用しない」と明言されている。製造物責任があれば、原発ビジネスは成り立たない?インドは、2010年に、事故の際に原子炉メーカーの責任を問える法律をつくっている。この法律について2月21日、原子炉メーカーであるGEインドの元CEOが以下のように述べている。「GEは(原子炉メーカーが事故責任を問われる)法律がある間は、インドで原発ビジネスを追求しないだろう。我々は民間企業で、そのようなリスクはとれない」(『Forbes India』誌)。どんなメーカーでも、製造物が引き起こすかもしれない事故の責任を問われるとなれば、事故を防止しようとするインセンティブが生まれる。また、起こりうる事故がメーカーでは責任の取りきれないものであれば、企業の存続リスクを考えてそのビジネスから撤退するだろう。
メーカーに責任を問うのは、社会がこのような自浄作用を期待するからだ。
●さらに儲けようとする原子炉メーカー
 一方で、つくった原子炉が大事故を起こしたにもかかわらず、日立は今後8年で原発ビジネスの売上高を2倍の3600億円に、東芝は今後5年で1兆円の売上達成をめざすと公式に発表している(注1)。原発輸出、福島第一原発での汚染水処理、燃料取出し技術の開発などを売り上げ拡大チャンスと期待しているわけだ。この事業計画をみてもわかるように、原子炉メーカーの責任意識は皆無で、自浄作用はまったく存在していない。だからこそ「原発は安全」などということが言えてしまう。「原発はメーカーにとって安全なビジネス」ということだろうか。
●もし日立や東芝が原発事故の賠償を引き受けていたら
 もし、東電だけではなく原子炉メーカーが今回の原発事故で責任を負うことになっていれば、除染や汚染水処理などは国ではなく原子炉メーカーの責任でやるべきものとなっていただろう。
そうであれば、今ごろ海外への原発輸出どころではなかったはずだ。少なくとも「原発ビジネスの拡大」など投資家には説明できなかっただろう。事故や、無謀な原発輸出を防ぐためにも、まずは普通の工業製品と同様に、原賠法で原子炉メーカーに責任を問えるようにすべきだ。責任が問われないビジネスほど、おいしい話はない。


PS(2015年4月27、28日追加):*4-1、*4-2の経産省の見積もりは原発再稼働ありきで作っているため、信用できない。また、太陽光発電は、「一定の角度をつけて設置しなければならない」などの変な規制があり、建材としての技術進歩を阻んでいる。そのため、このような状況でのコスト見積もりは無意味であり、技術進歩しやすくした上で、すべてのコストを含む実績によるコスト比較をすべきだ。

    
*4-1より      *4-2より                建物に設置する太陽光発電各種 
*4-1:http://digital.asahi.com/articles/ASH4W5Q55H4WULFA01W.html
(朝日新聞 2015年4月27日) 2030年の発電コスト「原発が最安」 経産省試算
 電源別の発電コストを見直している経済産業省は27日、新しい試算結果を公表した。原発は2030年時点で1キロワット時あたり10・1円以上で、下限で比べると、電源別で最も安くなった。11年の前回試算の8・9円以上は上回ったが、再生可能エネルギーや火力などの費用も上がったためだ。この日あった同省の「発電コスト検証ワーキンググループ(WG)」で示し、大筋で了承された。同省は30年の電源構成(エネルギーミックス)案に反映し、28日の有識者会合で原発の割合を20~22%とする案を示す見通しだ。原発の発電コスト試算では、前回試算と同じように原発事故後の損害賠償や、立地自治体への交付金などの費用を計上。11年に比べ、原発の安全対策費が増加したことも反映した。ただ、対策を強化した分、事故が起きる確率は半減したとみて、その分だけコストを低く見積もった。再生可能エネルギーは、前回試算で30年には下限のコストで原発を下回っていた「陸上風力」や「洋上風力」が、今回はともに原発を上回った。再生エネの国の研究開発費などを費用に含めたためだ。

*4-2:http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/news/CK2015042802000127.html (東京新聞 2015年4月28日) 発電費用 欧米を下回る 原発が最安 10・1円
 経済産業省は二十七日、原子力発電にかかる費用を二〇三〇年時点で一キロワット時当たり最低一〇・一円とする試算を大筋で固めた。一一年十二月に試算した八・九円に、追加の安全対策費を上積みするなどし13%の上昇となったが、一キロワット時当たり十六円台の欧米の試算を大きく下回った。再生可能エネルギーや火力の発電費用も引き上げたことで、相対的には原発が最も安いという試算になった。試算はこの日の有識者会合「発電コスト検証ワーキンググループ」に示され、おおむね了承された。経産省は今回の試算を三〇年時点の電源構成を決定する際の根拠にする方針。二十八日には、三〇年に必要な電力の20%程度を原発でまかなう発電比率の案を公表する。原発に関しては、廃炉に必要な費用の見積もりが一一年の試算に比べ増加。また実現のめどが立たない使用済み核燃料の再利用計画に必要な費用も増えた。一方、追加の安全対策をとったため事故が起きる確率が減ると想定。東京電力福島第一原発と同じような重大事故に備えた費用の積み立てを〇・二円減らした。英国政府は新しい原発をつくる場合の発電費用について一六・一円(一ポンド=一八〇円換算)、米国の民間調査会社は一六・七円(一ドル=一一九円換算)と試算している。東日本大震災後、原発建設にはさまざまな安全対策が必要になり建設費が跳ね上がることが要因。これに対し日本の経産省の試算は、中部電力浜岡原発5号機など、震災前につくられた原発と同じ条件で建設するという想定のため、建設費は安く算出された。

| 原発::2015.4~10 | 04:51 PM | comments (x) | trackback (x) |
2015.4.25 ドローンについて
   
 *2-1より      アマゾンの運搬用         自動空撮用         無人攻撃機 

(1)やはり「普通の人」「反原発」「テロ」を結びつけた
 *1-2のように、NHKは、総理大臣官邸の屋上で小型無人機「ドローン」が見つかった事件の犯人を、「反原発」「テロ」「普通の人」というように、「脱原発の声を上げている人は、一見普通の人に見えても、テロを起こしかねない危険な人物である」と印象付け、脱原発の声を抑えるようなニュースにした。

 しかし、福井県の高浜原発は既に再稼働差止の仮処分が出ているため、反原発派よりも原発再稼働推進派の方が暴れたい動機を持っているというのが本当のところだ。電力会社には、「書き子」をはじめいろいろな係の人がいるとのことで、「取り付けられた容器に放射性物質が含まれていた」「容器に福島の砂を入れた」「配線の高い技術を持っていた」というのであれば、むしろ電力会社の関係者の方が犯人の可能性が高い。

 なお、*1-1のように、東京スポーツも、2015年4月24日に「官邸飛来ドローン」「反原発のメッセージ」「反原発に反対する人の仕業」「テロの恐怖」と結びつけ、ドローンは「焼殺火炎ガス爆弾”になる」などとも書いているが、公安関係者が言っているように、「現在も定期的に官邸前では反原発デモが行われており、反原発に反対する人が、デモを禁止させる方向に持っていくために演出した」というのは重要な線だと、私は考えている。

(2)ドローンの本当のリスク
 しかし、*1-2のように、そもそも小型無人飛行機「ドローン」に対して、日本人は呑気すぎたし、危険があるのは何も首相官邸や永田町だけではない。それこそ、脱原発を主張している人の家に放射性物質を撒くことも簡単にできるため、ドローンは、テロだけではなく、嫌がらせ、ストーカー、殺人にも利用できるのである。

 また、無人飛行機ドローンは、ビンラディン暗殺作戦などでは無人攻撃機として使われ、最近ではイスラム過激派組織『イスラム国』の幹部を狙う“殺人ロボット飛行兵器”として使われ、誰にでも作れるヒート弾を使って特定の階の特定の部屋を狙って人を殺傷することもでき、外から中にいる人を無人で焼死させられるそうだ。さらに、意図的でなくても、人の上に墜落すれば、人を殺傷することになる。

(3)どういう法規制が必要か
 そのため、*2-1のように、ドローンを規制するのは産業の芽を摘む懸念が大きく、ディメリットがあるという記事もあるが、規制がなければ、市民も危なくて仕方がないことは明らかである。

 なお、集団的自衛権等と言っている日本政府のリスク管理は、首相官邸でさえ、このように赤子の手をひねる程度のものであることを忘れてはならない。これは、対策としてドローンの所持を免許制や登録制にしただけではすまず、ドローンを飛ばしてよい場所も、自分の敷地や落ちても他者に迷惑をかけない場所、他人の家を撮影できない特定の場所の上空など、狭く限定しなければならないということである。

 *2-2のように、菅官房長官は、運用ルールや法規制を見直すために、国交省、警察庁、経産省などによる関係省庁連絡会議を近く開催し、小型無人機「ドローン」の今国会中の法規制を検討する考えを明らかにし、与党からは法規制の早期実現や重要施設の警備強化など迅速な対応を求める意見が相次いだそうだ。しかし、重要施設の上空だけはでなく、一般市民が往来している道路や個人の住宅近くでのドローンの飛行は禁止してもらいたい。
  
<ドローンで起こりうるリスク>
*1-1:http://www.tokyo-sports.co.jp/nonsec/social/392847/
(東京スポーツ 2015年4月24日) 官邸飛来ドローン「犯人像」と「テロの恐怖」
 ドローンが“焼殺火炎ガス爆弾”になる!! 東京都千代田区永田町の首相官邸の屋上で、小型無人飛行機「ドローン」が見つかった問題は、日本政府のテロ対策に大きな衝撃を与えた。ドローンからは放射性セシウムが検出されており、関係者らは「反原発のメッセージか」「いや反原発に反対する人物の仕業じゃないか」などと不気味な“犯人”に戦々恐々。専門家は、ある兵器を取り付けるだけで「建造物や戦車の中の人も焼き殺すことができる。テロに利用できてしまう」と訴える。「いつ落ちてきたか不明」という体たらくの警視庁は捜査本部を設置し捜査を始めた。官邸屋上でドローンが見つかったのは22日午前10時20分ごろ。直径約50センチでプロペラは4枚。小型カメラやペットボトルのような容器が取り付けられ、容器には放射線を示すマークのシールと「RADIOACTIVE(放射性)」と書かれたシールが貼られていた。機体からはセシウム134と137が検出された。警視庁麹町署捜査本部は、東京電力福島第1原発事故で放出されたセシウムが含まれている可能性もあるとみている。安倍晋三首相(60)は外遊中で被害はないものの、放射性物質が検出されたことから、何らかの思想的背景を持った人物による犯行の可能性が高い。公安関係者は「国際テロでドローンが使われる可能性は考えていましたが、まさか日本で、しかも官邸でこういうことがあるとは思いませんでした」と口をあんぐり。
「ドローンは45年前、イスラエルで開発され、1990年代のボスニア戦争で使われた。2000年代に米国に渡り、アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディン暗殺作戦などで重要な役割を果たした無人攻撃飛行機として知られています。最近ではイスラム過激派組織『イスラム国』の幹部を狙う“殺人ロボット飛行兵器”というイメージが定着してきている」(軍事アナリスト)。どんな犯人像が考えられるのか。政府関係者は「墜落というより意図した着地ではないか。犯行声明がないことから、組織的な過激派の犯行ではない。また、放射線を示すマークがあるということは原発がらみの主張があるのでしょう」。安倍政権は原発推進なので、反原発思想があるようにみえる。「それだと安直な印象も受ける。現在も定期的に官邸前では反原発デモが行われています。反原発に反対する人が、デモを禁止させる方向に持っていくために演出した線も捨てきれません」(前出の公安関係者)。確かに当局の意識が反原発勢力に傾けば、官邸前のデモを規制しようと考えるかもしれない。軍事評論家の神浦元彰氏(65)は、さらに恐ろしいドローンテロの可能性をこう指摘する。「今回使われたドローンならば重さ2キロのものなら運べます。その条件に合う兵器がヒート弾です。特徴は爆発すると線のように1方向に向かって高熱高圧のガスが飛んでいくというもの。戦車の上部で爆発させれば中の人間を焼き殺すことができます」。仮に官邸の屋上でヒート弾が使われれば下の階の人間は死んでしまう。「屋上だけではありません。ドローンを窓に近づけ、ヒート弾を爆発させれば、特定の階の特定の部屋を狙えます。ヒート弾は古い技術なので、今なら誰でも作れてしまいます」(同)。官邸の外から中にいる者を焼死させられるということは、安倍首相の部屋を狙って…なんてことも不可能ではなくなってしまうのだ。しかもドローンは店で売っているため入手は簡単。今後は早期規制せねばならない。「現在は規制がないので、ドローンが官邸に侵入することは赤子の手をひねるようなものです。やる側から見れば日本という国は裸で歩いているといえるほど無防備。対策としてはドローン所持を免許制や登録制にすること。飛ばしていい場所の規制も必要で、皇居、国会、官邸などの上空は飛行禁止にするべきです」と神浦氏は語る。一方、青森中央学院大学の大泉光一教授(国際テロ研究)は「今年1月に米・ホワイトハウスにドローンが墜落した事例や、フランスでは昨年から各地の原発へのドローンの接近・侵入が相次いでいたのだから、対岸の火事ではなくて早急に航空法を整備すべきだった」と指摘する。前出の公安関係者も「2020年には東京五輪もあります。法規制は避けられないでしょう」と指摘。テロが起きてからでは遅い。

*1-2:http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150425/k10010060661000.html
(NHK 2015年4月25日) ドローン事件「反原発訴えるためにやった」
 今月22日、総理大臣官邸の屋上で小型の無人機の「ドローン」が見つかった事件で、24日夜、福井県の警察署に出頭した40歳の無職の男が威力業務妨害の疑いで逮捕されました。男は「今月9日の午前3時半頃にドローンを飛ばした。反原発を訴えるためにやった」と話しているということで、警視庁は身柄を東京に移し、詳しいいきさつなどを調べる方針です。逮捕されたのは、福井県小浜市の無職、山本泰雄容疑者(40)です。この事件は、今月22日、東京・千代田区の総理大臣官邸の屋上で、小型の無人機の「ドローン」が見つかったもので、警視庁は、取り付けられた容器の中に放射性物質が含まれていたことなどから、何者かが意図的にドローンを飛ばしたとみて捜査していました。その結果、24日夜8時すぎ、福井県の小浜警察署に山本容疑者が出頭し、「反原発を訴えるために官邸にドローンを飛ばした。容器には福島の砂を入れた」などと話し、砂やドローンのコントローラーの様な物を持っていたことなどから捜査を進めた結果、官邸に対する威力業務妨害の疑いで逮捕しました。警視庁によりますと、容疑を認めているということです。山本容疑者は、自分が書いたブログに、今月9日の午前3時半頃にドローンを飛ばしたなどとする詳しいいきさつや、事件に使われたとみられるドローンや容器などの画像を掲載しており、調べに対しても、同じ時間にドローンを飛ばしたことを認めているということです。警視庁はブログの内容を詳しく分析するとともに、山本容疑者を東京に移して本格的に取り調べ、事件の詳しいいきさつや動機を調べる方針です。 .「おとなしい人という印象」山本容疑者の自宅の近くに住む人などによりますと、山本容疑者は以前、福井県小浜市内の別の地区から引っ越してきて、現在は家族と暮らしているということです。近所の男性は「おとなしい人という印象で、会ったときにはあいさつもしてくれた。事件のことを聞いてまさかと思い、びっくりしています」と話していました

<規制について>
*2-1:http://qbiz.jp/article/61047/1/
(西日本新聞 2015年4月25日) ドローン規制、痛しかゆし 産業の芽摘まれる懸念
 首相官邸で発見された小型無人機「ドローン」の飛来は計画的だった疑いが強く、警視庁が捜査を進める一方、関係省庁も24日、無法状態のドローン対策に乗り出した。国家中枢の警護の死角を突いた“犯行”に政府の危機感は強く、規制の網をかけたい意向だが、発展途上のドローンは幅広い分野での活用も期待され、対策には多くの課題がある。
■怒号
 「いつ落ちたかも分からないとはどういうことだ」「官邸が無防備だと世界に発信された」。自民党本部で24日、開かれた会議。事件の説明に訪れた警察庁の担当者に議員の怒号が飛んだ。警視庁は日常的に官邸や国会議事堂が集中する一帯を重点的に警備。特に官邸周辺は24時間態勢で機動隊を配置、内部は官邸警備隊が警戒していたが、ドローンが見つかった屋上は巡回の対象外だった。事件後、警備はさらに強化されたが、実際に飛来するドローンを見つけた場合にどう対処するか。墜落させるにしても、危険物を搭載していれば被害が出る事態も考えられ、難しい判断を迫られることになる。来年にサミット、2020年に東京五輪を控え、警視庁幹部は「課題を解決する時間があるうちに起きて良かったと思うしかない」とこぼす。各省庁では、施設の屋上にレーダーや妨害電波の発信装置を設置するといった対策が検討され始めた。ただ、無線でインターネットに接続するWiFi(ワイファイ)に障害が起きる恐れがあり、不審な飛来物を発見した場合のみ、電波を出す方法が考えられている。
■急務
 国土交通省は昨年12月、ドローンのルール作りに向けた検討会を立ち上げ、今月6日に初会合を開いたばかりだった。操縦技量を確保するための免許制や、機体の整備・点検のルール化、事故に備えた保険加入の義務付けなどを議論している。だが、ドローンは数千円の玩具のようなタイプから、プロが空撮に使う大型の機種まで、性能や価格はさまざまだ。規制の線引きが難しく「購入者の登録を義務付けても、ネットで海外から買えばすり抜けられる恐れもある。重要施設周辺を飛べないようソフトを設定しても、詳しい人間なら解除してしまう」(同省幹部)。免許を導入するための体制づくりも困難が予想される。主に航空機の安全確保などを目的とした航空法の対象にドローンを加えることに、国交省内には否定的な意見もある。「ラジコンカーが官邸に突っ込んだら道交法を改正するのか。重要施設の警備態勢の見直しこそ急務だ」(別の幹部)。
■啓発
 「政府が飛行ロボットの産業を創出しようという中、規制したら元も子もなくなる面がある」。無人機に詳しい千葉大の野波健蔵特別教授は規制に一定の理解を示しつつも、将来性のある産業の芽が摘まれることを懸念する。用途として農業や物流などでの活用が見込まれている。規制の動きとは別に、民間レベルで安全啓発の取り組みも始まっている。4月に発足したばかりの日本ドローン協会(福岡市)は11日、佐賀県基山町で操縦を体験できるイベントを開催。子どもや高齢者を含め約350人が集まり、関心の高さをうかがわせた。主催者は「地方の自治体と提携し、自由に飛ばせる場所作りにも取り組みたい」としている。
◆官邸ドローン、GPS搭載
 東京都千代田区の首相官邸屋上で見つかった小型無人機「ドローン」は、衛星利用測位システム(GPS)が標準搭載されている機種だったことが24日、捜査関係者らへの取材で分かった。GPSが機能して移動記録が残っていれば、飛行ルート解明の重要な手掛かりになる。また、警視庁麹町署捜査本部によると、4月15日に首相官邸の屋上方面を撮影した写真に黒い物体が写っていたことも判明。捜査本部は、機体の鑑定を進めるとともに、シリアルナンバー(識別番号)も調べ、飛行の時期などの特定を急ぐ。このドローンは中国メーカー「DJI」が製造した「ファントム2」とみられる。DJIによると、安定してホバリングさせるため、GPSを搭載している。手動で入れたり切ったりできるが、切ると機体が非常に不安定になるという。シリアルナンバーは機体下部にある。捜査関係者によると、機体に装着されていた小型デジタルカメラは縦5センチ、横6センチで、外付けの「映像伝送装置」に接続されていた。撮影した映像を操縦者の手元のモニターに送信できるようになっていた。
 DJI日本法人はドローンの仕様を更新し、官邸と皇居周辺を飛行できなくすると告知している。
◆新型続々、市場が急成長
 首相官邸屋上で小型無人機「ドローン」が見つかり、日本で法規制への議論が急ピッチで進む一方、「本場」米国では新型の商用ドローンが次々と登場している。米家電協会(CEA)によると、商用ドローンの世界市場は2020年までに10億ドル(約1195億円)と現在の約12倍に拡大する見通しだ。21年に48億ドル規模に達するとの予測もある。米政府はテロ対策などで軍用ドローンを積極的に活用する一方、商用ドローン規制は強化する方針。だが、膨らむ世界市場をにらみ、各メーカーの売り込み合戦は激化しそうだ。「世界最先端の撮影が体験できる」。4月8日、ニューヨークの中心部マンハッタンで開かれた発表会。愛好家約150人の熱気であふれた会場で、業界最大手、中国DJIの幹部が官邸で見つかったものと同型の「ファントム」の最新型を紹介した。高画質の4Kカメラを搭載し、撮影中の動画をユーチューブに投稿して中継できる。衛星利用測位システム(GPS)やセンサーを利用して安定飛行が可能だ。空港や国立公園の一部、米国や中国の首都上空を自主的に飛行禁止区域に設定し、上空を飛べないプログラムも組み込み、規制を先取りする。米ベンチャーの3Dロボティクスは4月13日に新モデルを発表。スマートフォンと連動し操縦者を追跡して撮影する「自撮り」が可能で、地図上で指定した通りに飛行し、全自動で撮影することもできる。高性能ドローンは価格も約千ドルからと安くないが、スマホで手軽に操縦や空撮が楽しめることで、人気に火が付いた。

*2-2:http://qbiz.jp/article/60952/1/
(西日本新聞 2015年4月24日) ドローン、今国会中の法規制検討 官房長官が表明
 菅義偉官房長官は23日午前の記者会見で、首相官邸の屋上で小型無人機「ドローン」が見つかった事件を踏まえ、今国会中の法規制を検討する考えを示した。運用ルールや法規制を見直すため国土交通省、警察庁、経済産業省などによる関係省庁連絡会議を近く開催する方針も明らかにした。与党からは法規制の早期実現や重要施設の警備強化など迅速な対応を求める意見が相次いだ。菅氏は会見で、ドローンの法規制に関し「できるところがあれば早急に取り組んだ方がいい」と述べた。政府は官邸を含む重要施設上空の無人機飛行を制限する法規制を検討する方針だ。
   ◇   ◇
●欧米 日本より規制厳しく
 小型無人機の利用をめぐっては各国とも安全上の理由から法規制を強める傾向にある。米国や英国、フランスでは、空港周辺の使用には許可が必要。空港周辺でなくても目で見える範囲以外での使用を禁止したり、制限したりするなど、日本より厳しい規制を導入している。米連邦航空局(FAA)は趣味で利用する場合は高さ約122メートル以下に飛行を制限。商用利用は高さ約152メートル以下にする方向で検討している。空港周辺では管制機関の承認が必要だ。米首都ワシントンでは1月、政府職員が娯楽目的で飛ばしていた小型無人機が制御できなくなり、誤ってホワイトハウスの敷地内に墜落したことも。米メディアによると、この機体の製造会社は飛行禁止空域に入ることができなくなるプログラムの導入を発表した。フランスの航空当局は、空港周辺でなくても目視で確認できない場合は高さ約50メートル未満に利用を限定。小型無人機にも他の航空機と同様の規定を適用している。今年2月にはフランスの捜査当局がパリ上空に小型無人機を無許可で飛行させたとして、中東の衛星テレビ、アルジャジーラの記者ら3人を拘束した。昨年10月には、フランス9カ所の原発上空で無人機の飛行が目撃された。背景は分かっていないが、現地報道によると、原発の半径5キロ以内の飛行は禁止されており違反した場合は禁錮1年と7万5千ユーロ(約960万円)の罰金が科される。英当局は空港周辺以外でも目視の範囲を超える場合の使用を禁止し、目で見える範囲でも約122メートルより高い場所での利用を禁じている。

| 原発::2015.4~10 | 04:16 PM | comments (x) | trackback (x) |
2015.4.17 福井地裁の樋口裁判長は、権力におもねることなく、高浜原発再稼働を認めない仮処分を決定した。 (2015年4月18日、20日、22、23日に追加あり)
     
  福井地裁での   同規制委の主張   今後のスケジュール     他の審査中の原発
住民と関電の主張  2015.4.16日経    2015.4.15毎日      2015.4.15西日本 

(1)福井地裁の高浜原発再稼働を認めない仮処分判決は完璧である
 *1-1のように、福井地裁が高浜原発再稼働差止めの仮処分判決を出し、「新規制基準は緩やかにすぎ、これに適合しても本件原発の安全性は確保されていない」としたのは的を得ている。しかし、上級審に上がるにつれ行政や政権の影響が強くなるため、気を抜くのはまだ早い。政府は安全が確認された原発の再稼働を進める方針に変更はないとし、福井地裁が原発を理解していないなどとしているのだ。

 しかし、*1-1の高浜原発3、4号機運転差止仮処分命令の内容は完璧で、主文で「高浜原発3、4号機を運転してはならない」と結論づけ、その理由を「A①万が一にも事故を起こしてはならないため、原発の基準地震動を地震の平均で策定するのは不合理(つまり最大に見積もって策定すべき)」「A②原発の耐震安全性確保の基礎となる基準地震動の数値だけを引き上げるような対応は社会的に許容できず、安全設計思想とも相容れない」「A③各地の原発敷地に5回にわたり到来した基準地震動を超える地震が高浜原発には到来しないというのは根拠に乏しい」「A④基準地震動に満たない地震によっても冷却機能喪失による重大な事故が生じ得る」「B使用済核燃料は我が国の存続に関わるほどの被害を及ぼす可能性があるのに、格納容器のような堅固な施設によって閉じ込められておらず、堅固な設備を設けるためには膨大な費用を要する」「C国民の安全が何よりも優先されるべきとの見識に立つのではなく、深刻な事故はめったに起きないという楽観的な見通しの下にかような対応が成り立っている」「D新規制基準に求められるべき合理性は、原発の設備が基準に適合すれば深刻な災害を引き起こす恐れが万が一にもないといえる厳格な内容を備えていることであるのに、新規制基準は緩やかすぎ、これに適合しても本件原発の安全性は確保されていない」としており、私も全くそのとおりだと思う。

 そして、川内原発・玄海原発を地元に持つ西日本新聞も、*1-2で、「司法が反省なき原発政策を指弾して原発政策の根本的な見直しを迫った」「関電の地震動の想定は信頼に値する根拠が見いだせない」「使用済核燃料保管施設の在り方にまで踏み込んだため、高浜原発だけでなく他の原発にも当てはまる」「決定は原発事故が『取り返しがつかない損害』をもたらす恐れがあると厳しく指弾」「新規制基準が再び『安全神話』の土壌となってはならないと警告した」としており、最近ふらふらしていた西日本新聞にしてはよくできた記事である。

 また、*2-1、*2-2、*2-3、*2-4のような報道もある。

(2)福井地裁判決に対する再稼働推進派の評価とその論理
 *3-1は、高浜原発再稼働差し止めのポイントは安全思想の違いで、「福井地裁の判断は根本的な耐震工事などでリスクを事実上ゼロにすることを求めており、リスクを抑制すればよいのかゼロにしなければならないかの考え方の違い」「東京電力福島第1原発事故の反省を踏まえて刷新した原発への規制とは相いれない」「この判断に基づけば、国内の原発はどこも動かない」としている。そして、またもや「原発の再稼働が滞れば電気料金の上昇などを通じて経済への打撃が広がりかねない」と念仏のように同じことを言っている(こう書くと、「念仏は意味のあるものだ」と寺からクレームが来るかも知れないが・・)。

 しかし、規制委の田中委員長も「100%の安全はない」と述べているのであって、「絶対安全を求める樋口裁判長の論理では、事故を起こしかねない車や飛行機も使えない」などと言う人もいるが、原発が過酷事故を起こせば広い地域で長期間住めなくなり、自動車事故や航空機事故とは影響を受ける規模と期間が全く異なるため、原発は万が一にも過酷事故を起こしてはならないのである。さらに、自動車や航空機は事故の実験を繰り返して事故時の危険を小さくする機器を作っているが、原発はコンピューター上でのシミュレーションしかしておらず、配線や配管の弱さも考慮していないため、危機管理に驚くほど無頓着で、それに比べれば短期的に電気料金が上がるリスクなど取るに足りないのだ。

 そのような中、*3-2のように、経産省は、また事故の発生確率を「40年に1回」から半分の「80年に1回」として発電コストを検証し直したそうだが、このように鉛筆を嘗め嘗め目分量で机上の計算をすればよいと考えている人は、全く科学的ではなく原発の監督には適さない。また、*3-3 のように、地球温暖化問題と電気料金を口実にして、菅官房長官はここでも「粛々と」再稼働を進める方針だそうだが、思考停止も甚だしい。

 この福井地裁判決の素晴らしい点は、九州大学の吉岡教授が述べているとおり、原発事故の損害は他と比べて格段に大きいため危険性を0にできなければ再稼働すべきではなく、判決でそれを明確に述べていることである。北海道大学の奈良林教授は「『フクイチ原発事故の原因は津波だ』と原子力規制委員会が報告した」としているが、実際には地震での破壊も否定できず、原因不明とされている上、緊急時用の補助設備だけで、どれだけの期間冷却し続けられるかについても予測が楽観的すぎるのだ。

 しかし、*3-4のように、「原発再稼働できなければ電気料金を値上げする」と大手電力会社が言えるのは、これまで電力会社が地域独占して総括原価方式で電力料金を決めてきたからである。そのため、完全な電力自由化と電力消費者の選択権が必要なのだ。
  
 *3-4で、経済同友会の長谷川代表幹事は、「福井地裁の決定は最終判断ではない」「エネルギーの問題は国の経済の根幹に関わる」「こういうテーマが裁判所の判断にふさわしいかどうか疑問だ」としているが、これが日本の経済界代表がトップランナー国のリーダーに向かない理由である。

(3)鹿児島県知事の「争点回避」発言と国民
 *4-1のように、鹿児島県の伊藤知事は、鹿児島県自民党県議団の内情をつぶさに収集して、反対を抑えるには手続きを急ぐしかないと判断したのだそうだ。そして、「昨年11月に表明した川内原発再稼働への同意は、県議選で原発問題が争点化されることを避ける狙いがあり、わが国全体の経済活動などを考えれば全員が反対したとしても(原発を)やめるというわけにはいかない」「行政としてどうすれば国民の幸せにつながるか、総合的な判断が必要だ」としている。

 しかし、「国民全員が反対したとしても自分の選択の方が正しい」と考えるのは、(どういう根拠でそう思うのか定かではないが)行政官の時代遅れのうぬぼれだと考える。何故なら、現在の日本は、明治時代や終戦直後と異なり、諸外国の技術を後追いで追い駆けるのではなく、自ら新しい技術を開発しなければならない立場であり、正しく情報開示をしていれば、技術者や専門家の方が行政官よりも優れた解決策を考えることができるからだ。

 なお、*4-2に、フクシマ原発事故で放射線量が局所的に高い「ホットスポット」となった特定避難勧奨地点(避難指示区域外で年間被曝線量が20mSVを超える場所)の指定を解除したのは不当として、福島県南相馬市の住民約530人が、国に解除の取り消しと1人10万円の損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こしたと書かれており、もっともだ。何故なら、年間被曝線量が20mSVを超える場所というのは、原発作業員でも注意しながら入る場所であり、一般人が住むべき場所ではないからだ。

(4)国民や有識者の意見
 *5-1に書かれているように、災害リスクを専門とする学者と民間調査会社が、原発・エネルギーに関する世論調査を実施したところ、再稼働に対して反対が70.8%、賛成が27.9%という結果で、マスコミ調査よりも高い反対の数値が出たそうだ。避難計画については、9割近くの人が評価していないそうだが、①どういう方法で ②どの範囲の人が ③どこへ ④いつまで避難しておくのか が明確にされないままでは安心する人の方がおかしい。そして、②は「半径30~80km又は250km以内の人が」、①③は「本当はわからない」、④は「大部分の人が永久に」と言う答えになるため、一般国民の理解の方が正しいのである。そのため、段階的に縮小などという悠長なことは許されず、直ちに廃炉にすべきなのだ。

 従って、*5-2のように、原発周辺の滋賀県の三日月知事は高浜原発の福井地裁の再稼働差し止め決定を受けて、「人格権や原発の安全性に重きを置いた決定で、原子力行政にとって重大な問題提起だ」「立地自治体のみならず、影響が及ぶと想定される自治体とも協定を結ぶべきだ」と述べている。

 また、*5-3のように、全国最多の約9100人が提訴している玄海原発操業差し止め訴訟の原告団長を務める長谷川元佐賀大学長は、「司法が世論を反映してくれた」と声を弾ませ、「安全の根拠を覆した画期的な内容」と評価した。

 さらに、脱原発を目指す有識者の団体「原子力市民委員会」座長の九州大学の吉岡教授も、「他の産業施設と比べ原発事故の損害が格段に大きいことは、東電福島第1原発事故を見れば明らかだ。危険性を否定できない原発は運転すべきでなく、差し止めを認めた福井地裁の判断は適切だ。安全対策や新たな規制基準の不十分さを具体的に指摘しており、これは高浜原発だけの問題にとどまらない。電力会社や政府、原子力規制委員会は指摘を無視することなく、抜本的に基準や対策を見直す必要がある」としており、全くそのとおりだ。

<高浜原発再稼働差止仮処分福井地裁決定要旨全文>
*1-1:http://www.news-pj.net/diary/18984 (NPJ訟廷日誌 2015年4月14日)
【速報】高浜原発再稼働差止め仮処分福井地裁決定要旨全文 - 「新規制基準は緩やかにすぎ、これに適合しても本件原発の安全性は確保されていない」
平成26年(ヨ)第31号 高浜原発3、4号機運転差止仮処分命令申立事件 2015年4月14日
●主文
1 債務者(関西電力)は、福井県大飯郡高浜町田ノ浦1において、高浜発電所3号機及び4号機の原子炉を運転してはならない。
2 申立費用は債務者の負担とする。
●理由の要旨
1 基準地震動である700ガルを超える地震について
 基準地震動は原発に到来することが想定できる最大の地震動であり、基準地震動を適切に策定することは、原発の耐震安全性確保の基礎であり、基準地震動を超える地震はあってはならないはずである。しかし、全国で20箇所にも満たない原発のうち4つの原発に5回にわたり想定した地震動を超える地震が平成17年以後10年足らずの問に到来している。本件原発の地震想定が基本的には上記4つの原発におけるのと同様、過去における地震の記録と周辺の活断層の調査分析という手法に基づいてなされ、活断層の評価方法にも大きな違いがないにもかかわらず債務者の本件原発の地震想定だけが信頼に値するという根拠は見い出せない。加えて、活断層の状況から地震動の強さを推定する方式の提言者である入倉孝次郎教授は、新聞記者の取材に応じて、「基準地震動は計算で出た一番大きな揺れの値のように思われることがあるが、そうではない。」「私は科学的な式を使って計算方法を提案してきたが、平均からずれた地震はいくらでもあり、観測そのものが間違っていることもある。」と答えている。地震の平均像を基礎として万一の事故に備えなければならない原子力発電所の基準地震動を策定することに合理性は見い出し難いから、基準地震動はその実績のみならず理論面でも信頼性を失っていることになる。基準地震動を超える地震が到来すれば、施設が破損するおそれがあり、その場合、事態の把握の困難性や時間的な制約の下、収束を図るには多くの困難が伴い、炉心損傷に至る危険が認められる。
2 基準地震動である700ガル未満の地震について
 本件原発の運転開始時の基準地震動は370ガルであったところ、安全余裕があるとの理由で根本的な耐震補強工事がなされることがないまま、550ガルに引き上げられ、更に新規制基準の実施を機に700ガルにまで引き上げられた。原発の耐震安全性確保の基礎となるべき基準地震動の数値だけを引き上げるという対応は社会的に許容できることではないし、債務者のいう安全設計思想と相容れないものと思われる。基準地震動である700ガルを下回る地震によって外部電源が断たれ、かつ主給水ポンプが破損し主給水が断たれるおそれがあることは債務者においてこれを自認しているところである。外部電源と主給水によって冷却機能を維持するのが原子炉の本来の姿である。安全確保の上で不可欠な役割を第1次的に担う設備はこれを安全上重要な設備であるとして、その役割にふさわしい耐震性を求めるのが健全な社会通念であると考えられる。このような設備を安全上重要な設備でないとする債務者の主張は理解に苦しむ。債務者は本件原発の安全設備は多重防護の考えに基づき安全性を確保する設計となっていると主張しているところ、多重防護とは堅固な第1陣が突破されたとしてもなお第2陣、第3陣が控えているという備えの在り方を指すと解されるのであって、第1陣の備えが貧弱なため、いきなり背水の陣となるような備えの在り方は多重防護の意義からはずれるものと思われる。基準地震動である700ガル未満の地震によっても冷却機能喪失による炉心損傷に至る危険が認められる。
3 冷却機能の維持についての小括
 日本列島は4つのプレートの境目に位置しており、全世界の地震の1割が我が国の国土で発生し、日本国内に地震の空白地帯は存在しない。債務者は基準地震動を超える地震が到来してしまった他の原発敷地についての地域的特性や高浜原発との地域差を強調しているが、これらはそれ自体確たるものではないし、我が国全体が置かれている上記のような厳然たる事実の前では大きな意味を持つこともないと考えられる。各地の原発敷地外に幾たびか到来した激しい地震や各地の原発敷地に5回にわたり到来した基準地震動を超える地震が高浜原発には到来しないというのは根拠に乏しい楽観的見通しにしかすぎない上、基準地震動に満たない地震によっても冷却機能喪失による重大な事故が生じ得るというのであれば、そこでの危険は、万が一の危険という領域をはるかに超える現実的で切迫した危険である。
4 使用済み核燃料について
 使用済み核燃料は我が国の存続に関わるほどの被害を及ぼす可能性があるのに、格納容器のような堅固な施設によって閉じ込められていない。使用済み核燃料を閉じ込めておくための堅固な設備を設けるためには膨大な費用を要するということに加え、国民の安全が何よりも優先されるべきであるとの見識に立つのではなく、深刻な事故はめったに起きないだろうという見通しのもとにかような対応が成り立っているといわざるを得ない。また、使用済み核燃料プールの給水設備の耐震性もBクラスである。
5 被保全債権について
 本件原発の脆弱性は、①基準地震動の策定基準を見直し、基準地震動を大幅に引き上げ、それに応じた根本的な耐震工事を実施する、②外部電源と主給水の双方について基準地震動に耐えられるように耐震性をSクラスにする、③使用済み核燃料を堅固な施設で囲い込む、④使用済み核燃料プールの給水設備の耐震性をSクラスにするという各方策がとられることによってしか解消できない。また、地震の際の事態の把握の困難性は使用済み核燃料プールに係る計測装置がSクラスであることの必要性を基礎付けるものであるし、中央制御室へ放射性物質が及ぶ危険性は耐震性及び放射性物質に対する防御機能が高い免震重要棟の設置の必要性を裏付けるものといえるのに、原子力規制委員会が策定した新規制基準は上記のいずれの点についても規制の対象としていない。免震重要棟についてはその設置が予定されてはいるものの、猶予期間が設けられているところ、地震が人間の計画、意図とは全く無関係に起こるものである以上、かような規制方法に合理性がないことは自明である。原子力規制委員会が設置変更許可をするためには、申請に係る原子炉施設が新規制基準に適合するとの専門技術的な見地からする合理的な審査を経なければならないし、新規制基準自体も合理的なものでなければならないが、その趣旨は、当該原子炉施設の周辺住民の生命、身体に重大な危害を及ぼす等の深刻な災害が万が一にも起こらないようにするため、原発設備の安全性につき十分な審査を行わせることにある(最高裁判所平成4年10月29日第一小法廷判決、伊方最高裁判決)。そうすると、新規制基準に求められるべき合理性とは、原発の設備が基準に適合すれば深刻な災害を引き起こすおそれが万が一にもないといえるような厳格な内容を備えていることであると解すべきことになる。しかるに、新規制基準は上記のとおり、緩やかにすぎ、これに適合しても本件原発の安全性は確保されていない。新規制基準は合理性を欠くものである。そうである以上、その新規制基準に本件原発施設が適合するか否かについて判断するまでもなく債権者らが人格権を侵害される具体的危険性即ち被保全債権の存在が認められる。
6 保全の必要性について
 本件原発の事故によって債権者らは取り返しのつかない損害を被るおそれが生じることになり、本案訴訟の結論を待つ余裕がなく、また、原子力規制委員会の設置変更許可がなされた現時点においては、保全の必要性も認められる。

*1-2:http://qbiz.jp/article/60237/1/
(西日本新聞 2015年4月15日) 【高浜再稼働差し止め】《解説》反省なき原発政策を指弾
 福井地裁は14日の仮処分決定で、関西電力高浜原発3、4号機の再稼働を認めず、原子力規制委員会の新規制基準は、絶対に深刻な災害は起きないといえるだけの厳格さに欠くと断じた。東京電力福島第1原発後に施行され、政府が「世界一厳しい」と自負する安全性の基準を一蹴、原発政策の根本的な見直しを迫った。決定は、関電の地震動の想定は「信頼に値する根拠が見いだせない」とし、免震重要棟がまだ設置されていないなど、高浜原発が抱える脆弱性を列挙。さらに使用済み核燃料保管施設の在り方にまで踏み込んだ。高浜原発だけでなく、他の原発にも当てはまる指摘だ。決定は原発事故が「取り返しがつかない損害」をもたらす恐れがあると厳しく指弾、新規制基準が再び「安全神話」の土壌となってはならないと警告したとも言える。政府は安全が確認された原発の再稼働を進める方針に変更はないとする。しかし「3・11」から4年が過ぎても、福島原発事故の影響で今も多くの人が避難生活を余儀なくされている。今回の決定を受けて、脱原発論議が活発化することは避けられない。再稼働に対する国民の不安を払拭するため、政府は決定の指摘に真摯に向き合うべきだ。

<判決に関する報道>
*2-1:http://mainichi.jp/select/news/20150415k0000m040142000c.html
(毎日新聞 2015年4月14日) 高浜原発:支援者ら「最高の決定」 再稼働差し止め仮処分
 想定外の地震による原発事故を「現実的で切迫した危険」と断じ、関西電力高浜原発3、4号機の運転禁止を命じる仮処分を出した14日の福井地裁決定。「合格」とした原子力規制委員会の審査とは正反対の結果に、申し立てた住民らは「最高の決定だ」「歴史的な一歩」などと高く評価したが、国の原子力政策に従ってきた地元自治体などからは疑問や戸惑いの声も聞かれた。「考えられる最高の決定だ」。関電高浜原発3、4号機の再稼働を差し止める仮処分決定が出た14日、福井地裁前には申し立てをした住民や支援者約500人が集まり、小雨の中で歓喜に沸いた。午後2時過ぎ、今大地(こんだいじ)晴美代表らが「司法はやっぱり生きていた」「司法が再稼働を止める」と書いた垂れ幕を掲げると、「よくやった!」と歓声や拍手が起こった。決定は、東京電力福島第1原発事故後に作られた原発の新規制基準を「(基準に)適合しても原発の安全性は確保されない」と否定した。同様の仮処分申し立てや訴訟に波及する可能性があり、住民側は「日本中の原発を廃炉に追い込みたい」と意気込んだ。弁護団の海渡(かいど)雄一共同代表は「日本の脱原発を前進させる歴史的な一歩。住民の人格権、ひいては子どもの未来を守るという、司法の本懐を果たした輝かしい日」と笑顔で声明を読み上げた。その後、福井市内で開かれた記者会見では、内山成樹弁護士が原発の耐震設計の基本となる基準地震動の策定方法に疑問を呈した決定に触れ、「基準地震動が1桁上がるかもしれない。費用がかかって現実的には対策は無理だ」と指摘した。河合弘之・弁護団共同代表は「新規制基準を作り直すことから出直せ、と言うのが裁判所のメッセージだ」と強調した。また、内山弁護士は、原子力規制委員会の田中俊一委員長が「規制委がすることは規制。結果として安全が担保できればいい」などと発言したことを取り上げ、「安全基準と関係ない規制基準なんて、ばかを言ってはいけない」と批判した。原発3基が立地する福井県敦賀市の市議でもある今大地代表は「原発が集中立地する若狭地方の人たちは、思いを表に出せずに過ごしてきた」と慎重に言葉を選んで振り返り、「『原発は怖い』と声に出してもよいと今回の決定は伝えてくれた。多くの人が原発のことを声に出せるような若狭にしていきたい」と期待を寄せた。

*2-2:http://qbiz.jp/article/60182/1/ (西日本新聞 2015年4月14日) 高浜原発の再稼働認めない決定 福井地裁が仮処分 新規制基準の適合性審査は「合理性を欠く」
 関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)の安全対策は不十分として、周辺の住民らが再稼働差し止めを申し立てた仮処分で、福井地裁(樋口英明裁判長)は14日、再稼働を認めない決定をした。仮処分で原発の運転を禁止する決定は全国で初めて。決定はすぐに効力を持つ。関電は不服を申し立てるとみられ、主張が認められない限り再稼働できない。同地裁は仮処分決定で、原子力規制委員会による新規制基準の適合性審査は「合理性を欠く」と指摘した。2基は九州電力川内原発(鹿児島県)に続き、政府が「世界で最も厳しい」と強調する原子力規制委の審査に合格。しかし地裁はこれを事実上否定する判断をした。原発を「重要なベースロード電源」と位置付ける政府のエネルギー計画にも影響を与えそうだ。住民らは、関電が想定する基準地震動(耐震設計の目安となる揺れ)を超える地震により、放射性物質が飛散する過酷事故に陥る可能性があると主張し、人格権が侵害されると訴えていた。
■関電、速やかに不服申し立てへ
 関西電力は14日、福井地裁の仮処分決定について「到底承服できない」とするコメントを発表。速やかに不服申し立てをするとの方針を明らかにした。
■裁判長、昨年5月にも関電大飯原発3、4号機の差し止めを命じる判決
 樋口裁判長は昨年5月にも福井地裁で、関電大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の差し止めを命じる判決を言い渡しており、控訴審が係争中。住民らは12月、再稼働が迫っているとして、高浜と大飯計4基の差し止め仮処分を福井地裁に申し立てた。大飯の2基の審理は分離された。

*2-3:http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150414/k10010047951000.html
(NHK 2015年4月14日) 高浜原発 再稼働認めない仮処分決定
 福井県にある高浜原子力発電所の3号機と4号機について福井地方裁判所は「原発の安全性は確保されていない」として関西電力に再稼働を認めない仮処分の決定を出しました。異議申し立てなどによって改めて審理が行われ決定が覆らなければ、高浜原発は再稼働できなくなりました。関西電力は異議申し立てを検討するとしています。福井県高浜町にある関西電力の高浜原発3号機と4号機について、福井県などの住民9人は安全性に問題があるとして福井地方裁判所に仮処分を申し立て、再稼働させないよう求めました。これに対して、関西電力は福島の原発事故も踏まえて対策をとったと反論しました。福井地方裁判所の樋口英明裁判長は関西電力に対して、高浜原発3号機と4号機の再稼働を認めない仮処分の決定を出しました。決定では「10年足らずの間に各地の原発で5回にわたって想定を超える地震が起きたのに、高浜原発では起きないというのは楽観的な見通しに過ぎない」と指摘しました。そのうえで、原子力規制委員会の新しい規制基準について、「深刻な災害を引き起こすおそれが万が一にもないといえるような厳格な基準にすべきだが新しい規制基準は緩やか過ぎ、適合しても原発の安全性は確保されていない。規制基準は合理性を欠く」と指摘しました。今回の仮処分はすぐに効力が生じるもので、関西電力の異議申し立てなどによって改めて審理が行われ決定が覆らなければ、高浜原発は再稼働できなくなりました。異議申し立てなどによる審理は福井地裁で行われ、決定が覆れば仮処分の効力は失われます。関西電力側の弁護士は「会社の主張を裁判所に理解してもらえず誠に遺憾で、到底承服できない」と話し、異議申し立てを検討するとしています。
●弁護側「司法の判断厳粛に受け止めて」
決定が出されたあと、住民側の弁護士は裁判所の前で「今回の決定は脱原発を前進させる歴史的一歩であり、国や電力会社は司法の判断を厳粛に受け止めるべきだ」という声明を読み上げました。
●関電「速やかに異議申し立てを検討したい」
14日の決定について関西電力側の弁護士は「会社の主張を裁判所に理解してもらえず、まことに遺憾で、到底承服できない。決定内容を精査したうえ、準備ができ次第、速やかに異議の申し立てと執行停止の申し立ての検討をしたい」と述べました。そのうえで「会社としては十分な安全性を確保しているとして科学的・専門的・技術的な知見に基づいて十分な主張・立証をしているつもりなので、引き続き、裁判所に理解を求めたい」と話しました。 

*2-4:http://www.saga-s.co.jp/column/ronsetsu/177731
(佐賀新聞 2015年4月17日) 高浜原発差し止め
 関西電力高浜原発3、4号機(福井県)の再稼働差し止めを求めて周辺住民らが申し立てた仮処分で、福井地裁が再稼働を認めない決定をした。原子力規制委員会の新規制基準そのものについて安全性確保を担保するものではないと断じ、原発政策の根本見直しを迫る判断となった。政府は司法の指摘に真摯に向き合うべきだ。今回の決定では、政府が「世界一厳しい」と自負する新規制基準を「合理性を欠く」と一蹴。再稼働に向けた一連の手続き自体に疑問符を投げかけたという意味で非常に重い指摘といえる。全国の原発で過去10年間に想定を超える地震が5回発生した。それを踏まえて「国内に地震の空白地帯はない。想定を超える揺れの地震が起きないというのは、根拠に乏しい楽観的見通し」と関電の見通しの甘さを厳しく指弾した。さらに想定内の揺れでも外部電源が断たれ、ポンプ破損による冷却機能喪失の恐れがあることを指摘。炉心損傷に至る危険があるとした。これは昨年5月、同地裁が下した関電大飯原発3、4号機の運転差し止め訴訟と同じ判断を示した格好だ。また使用済み核燃料プールが堅固な施設で閉じこめられていない現状にも言及。「国の存続に関わる被害が出る可能性がある」との懸念も示した。「安全対策は十分」との関電の主張を全面的に退けた。新規制基準に適合するか否か判断するまでもなく「原発から250キロ圏内に住む住民は原発の運転によって人格権を侵害される具体的な危険がある」とも指摘。ここまで踏み込んだ表現は、再稼働を急ぐあまり、本来最優先すべき安全確保の議論が不十分ではないかという国民の不安を司法が代弁したといえる。原子力規制委員会の田中俊一委員長は、福井地裁の指摘について「重要なところの事実誤認がいくつかある」と反論。規制基準について見直す必要性がないとの認識を示した。法廷で多くの資料を交えながら審理した裁判官に対して「事実誤認がある」と主張するなら、国民に規制基準の安全レベルがしっかりと伝わっていないと考えるのが自然だろう。ならば、政府は国民に規制基準が求める安全レベルの妥当性を丁寧に説明すべきだ。その上で「再稼働ありき」ではない、原発の今後を考える議論を進めるのが筋だろう。政府は2030年の電源構成比率で、原発の割合を18~19%に引き下げる方向で検討している。2割を切ることで原発に批判的な世論に配慮しようという意図が透けて見える。東日本大震災前の2010年度が28・6%であることを考えれば、全国の原発を一定程度再稼働しなければ達成できない。22日には九州電力川内原発の再稼働差し止めの仮処分申請に対する決定が出る。各地で係争中の同様の訴訟に影響を与えるだけでなく、内容次第では政府のエネルギー政策にも大きな影響を及ぼす。東京電力福島第1原発事故で何を学んだのか。今回、司法が突きつけたのは根源的な問いかけだ。過酷事故が起きれば一国の経済に多大な影響を与え、その存続すら危うくしかねない。政府には、誰もが納得できる答えを示す責務がある。

<判決への反対>
*3-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150415&ng=DGKKASGG14H2A_U5A410C1EA2000 (日経新聞 2015.4.15) 
安全思想すれ違い 高浜原発再稼働差し止め、リスク、抑制かゼロか
 関西電力高浜原子力発電所3、4号機(福井県)の運転を認めないとする福井地裁の決定は、原発の再稼働をめぐるリスクについて政府や電力会社との立場の違いを浮き彫りにした。東京電力福島第1原発事故の反省を踏まえて刷新した原発への規制とは相いれない内容だ。原発の再稼働が滞れば、電気料金の上昇などを通じて経済への打撃が広がりかねない。政府は福島第1原発事故後に規制委を設置し、原発の運転に厳しい地震・津波対策や過酷事故への備えを求める新規制基準を2013年7月に施行した。電力供給や電気料金の安定のために原発を活用する方針を維持しつつ、高い安全性を求めて対応できない原発をふるいにかける狙いだ。実際に選別するのが事故対策や自然災害の専門家で構成する規制委の安全審査だ。高浜3、4号機は規制委から厳しい指摘を受けつつも九州電力の川内原発(鹿児島県)に続いて審査に合格し、再稼働に近づきつつあった。そこに待ったをかけたのが福井地裁の決定だ。新規制基準は万が一の事故を防ぐには甘いとして「合理性を欠く」と断じ、審査に合格しても「安全性は確保されていない」と指摘した。関電が最大規模の地震を考慮して見積もった揺れの想定も、ほかの原発で想定を上回る地震があったことを引き合いに「信頼に値しない」と否定した。福井地裁の判断は根本的な耐震工事などでリスクを事実上ゼロにすることを求めた。現時点では国内で最も安全対策が進む原発の一つである高浜3、4号機でさえ「運転してはならない」と結論づけた。「この判断に基づけば、国内の原発はどこも動かない」と政府関係者はもらす。現行の規制はリスクを減らすために何重もの対策を課すが、規制委の田中俊一委員長はかねて「100%の安全はない」と述べている。それでも政府が原発を動かそうとするのは、停止が続けば別のリスクが生じるからだ。福島原発の事故以降、全国で停止した原発の代わりに石油や液化天然ガス(LNG)などを海外で調達することが増え、家庭向け電気料金は震災前から2割、企業向けは3割ほど上昇した。北海道大学の奈良林直教授は「電気料金がさらに上がれば、中小企業や生活弱者には大きな打撃になる」と指摘する。司法が原発の再稼働を止める動きが続けば、政府が検討中の30年時点の望ましい電源構成(ベストミックス)などエネルギー政策の議論にも影響しそうだ。

*3-2:http://qbiz.jp/article/60433/1/
(西日本新聞 2015年4月17日) 経産省が原発発電コスト検証 事故発生確率を半減
 経済産業省は16日、電源別の発電コストを検証する有識者会議の会合で、検証の前提となる原発事故の発生確率を半減させる案を示した。東日本大震災後に設定した新規制基準に、九州電力など大手電力会社が対応した効果を反映させるためで、大筋で了承された。コスト試算は2011年末以来。原発のコストは建設や廃炉費用のほか、東京電力福島第1原発事故に伴う賠償費用などを基に、「事故リスク対応費用」や「追加安全対策費」などから算出している。11年時点では事故確率を「40年に1回」としたが、経産省は新たな安全対策に伴い、半分の「80年に1回」程度になると想定。事故リスク対応費用は、11年の1キロワット時当たり「0.5円以上」よりも低くなる見通しだ。一方、経産省の調査では、震災後に実施している追加安全対策の原発1基当たりの費用は約1000億円に達する見通し。11年試算の追加安全対策費は1基約200億円、1キロワット時当たりで「0.2円」だったので、今回の試算では大幅に増加する公算が大きい。差し引きでは、原発発電コスト総額の新たな試算は、11年時の1キロワット時当たり「8.9円以上」を上回ることになりそうだ。

*3-3:http://qbiz.jp/article/60245/1/
(西日本新聞 2015年4月15日) 【高浜再稼働差し止め】官房長官「粛々と」 規制委「事実誤認多い」
 再稼働までの道のりが見えてきた原発に、司法がストップをかけた。福井地裁が14日示した関西電力高浜原発3、4号機(福井県)の再稼働を認めない仮処分決定。政府は環境問題や高騰する電気料金などを勘案して原発活用を「粛々と」(菅義偉官房長官)進める方針だが、九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)とともに、再稼働の手続きが終盤に入っているタイミングでの厳しい司法判断は、国民の原発不信を再び増幅させる可能性がある。「世界最高水準の新規制基準に適合しているとする、規制委の判断を尊重し再稼働を進めていく」。菅官房長官は14日午後の記者会見で、従来の方針をあらためて強調した。東京電力福島第1原発事故の影響で、原発再稼働に対する国民の反対は今も根強い。それでも政府が「重要なベースロード電源」として原発回帰を進める背景には、電気料金を引き下げ、景気回復を全国に広げたいとの考えがあるからだ。原発の長期停止に伴い、液化天然ガス(LNG)などの火力発電所の燃料費は急増しており、2013年度の大手電力会社10社の燃料費は計7兆7千億円と震災前の2倍超まで拡大。関電や九電などが電気料金の値上げをした結果、電気料金は震災前に比べ、家庭向けで2割、産業向けで3割も上昇している。「電力料金は震災前の水準以下にすることが重要」(経団連)「中小企業のコスト負担は限界」(日本商工会議所)。こうした経済界の要請に応えるため、政府は電力会社に老朽原発の廃炉を促すなどして再稼働に向けた環境整備を進めてきた。
   ◇    ◇
 福井地裁の判断は、再稼働を認めないだけでなく、原発再稼働の根拠となる新規制基準も「合理性を欠く」と否定した。新基準は福島第1原発事故の教訓を踏まえ、規制委が約10カ月かけて策定し、13年7月に再稼働の前提となる審査が始まった。川内1、2号機に次いで審査が進む高浜3、4号機の基準地震動(最大規模の地震の揺れ)についても慎重に審査した。だが、福井地裁は「信頼に値する根拠が見いだせない」と一蹴した。規制委事務局に当たる原子力規制庁の米谷仁総務課長は14日の会見で「科学的技術的に適正に判断した」と反論。別の幹部も「(福井地裁の)判断には事実誤認も多い」と不満をあらわにした。関電は高浜3、4号機の工事計画の認可が出れば、再稼働の最終手続きとなる使用前検査を申請するとみられる。規制庁は今回の決定を受け、検査が進んでも関電が原子炉を起動できないと受け止める。22日に同様の司法判断が示される川内1、2号機でも理屈は同じだ。「国は(訴訟の)当事者ではない」。菅官房長官はこう繰り返したが、千葉大の新藤宗幸名誉教授(行政額)は「三権分立の意味を示す具体的な判決が出た。安倍政権はいつまでも司法の判断を無視することはできない」と批判している。
   ■   ■
●高浜にとどまらぬ問題
 脱原発を目指す有識者の団体「原子力市民委員会」座長の吉岡斉・九州大教授(科学技術史) 他の産業施設と比べ原発事故の損害が格段に大きいことは、東京電力福島第1原発事故を見れば明らかだ。危険性を否定できない原発は運転すべきでなく、差し止めを認めた福井地裁の判断は適切だ。安全対策や新たな規制基準の不十分さを具体的に指摘しており、これは高浜原発だけの問題にとどまらない。電力会社や政府、原子力規制委員会は指摘を無視することなく、抜本的に基準や対策を見直す必要がある。
●大飯に続き技術面誤認
 奈良林直・北海道大教授(原子炉工学) 関西電力大飯原発の運転を差し止めた昨年の判決と同様に、技術面で事実誤認がある。東京電力福島第1原発事故の原因は津波だと原子力規制委員会が報告しており、地震だけで危険性が切迫していると判断したのはおかしい。メーンの給水設備や外部電源が破損しても、緊急時用の補助設備があることも無視している。新たな規制基準にも合理性がないと言及しているが、法律と基準は福島事故を踏まえて改正されたもの。裁判所はあくまで法律に基づいて判断すべきだ。規制委は今後も、再稼働の審査や認可手続きを粛々と行えばよい。
■高浜原発3、4号機 関西電力が福井県高浜町に所有する原発。いずれも加圧水型軽水炉(PWR)で出力はともに87万キロワット。1985年に運転を開始した。原子力規制委員会は安全対策が新規制基準に適合するとする審査書を決定し、関電は今年11月の再稼働を想定していた。

*3-4:http://qbiz.jp/article/60246/1/ (西日本新聞 2015年4月15日) 【高浜再稼働差し止め】川内も22日司法判断 九電、差し止めなら値上げも
 関西電力高浜原発3、4号機の再稼働を差し止める仮処分決定について、九州電力は「当事者ではなく、コメントする立場にない」(報道グループ)としている。ただ、新規制基準下で初めて再稼働する見込みの川内原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)も同様の司法判断を受ける可能性があり、電気料金の再値上げも検討している。九電は原発停止で火力発電燃料費がかさみ、2015年3月期連結決算で4年連続の最終赤字が不可避。これまでは川内原発1、2号機の早期再稼働を期待して、市民生活や産業活動への影響が大きい電気料金再値上げを回避してきた。川内1、2号機は、再稼働の前提となる原子力規制委員会の審査が終盤を迎えており、設備の性能などを確認する「使用前検査」を経て7〜8月にも再稼働する見通しとなっている。だが一方で、鹿児島、熊本、宮崎県の住民が再稼働差し止めの仮処分を鹿児島地裁に申し立てており、地裁は今月22日にその可否についての決定を出す予定。再稼働が認められなければ、九電は直ちに異議申し立てをするとみられるが、再稼働時期が想定より大幅に遅れる可能性が大きい。再稼働を前提とした経営黒字化もめどが立たなくなるため、13年春に続く料金再値上げに踏み切る方向という。
   ◇   ◇
■電力大手 波及を懸念
 福井地裁が14日、原子力規制委員会の新規制基準は合理性を欠くと指摘し、関西電力高浜原発3、4号機の再稼働を認めない仮処分を決定した。大手電力関係者は「審査に合格しても再稼働できなくなる。ここまで踏み込むとは思わなかった」と驚きを隠さない。大手電力は原発の再稼働が業績改善に不可欠との立場で、経営への影響に懸念が広がっている。電気事業連合会は「安全性に関する関西電力の主張に理解が得られなかったことは誠に遺憾だ」とコメントした。業界では「ほかの原発の差し止め訴訟に影響が出なければいいが」(大手電力)との声も上がった。政府は規制委の審査に適合した原発は活用する方針を変えていない。ある電力関係者は「政府の方針がある以上、引き続き再稼働を目指す」と語った。一方、経済界にも波紋が広がった。経済同友会の長谷川閑史代表幹事は14日の記者会見で、福井地裁の決定に「最終的な判断ではない」と述べ、今後の司法手続きで再稼働が認められることに期待を示した。経済界には電力コストを抑えるため原発の活用を求める声が強い。長谷川氏は「エネルギーの問題は国の経済の根幹に関わる」とし、「こういうテーマが裁判所の判断にふさわしいかどうか、少し疑問だ」とも話した。

<鹿児島知事の「争点回避」発言と社会>
*4-1:http://qbiz.jp/article/60332/1/ (西日本新聞 2015年4月16日) 鹿児島知事の「争点回避」発言、地元はどう受け止めたか【会見詳報付き】
 「再稼働請負人」が本音を吐露した−。反原発派だけでなく、賛成派もそう受け止めた。伊藤祐一郎知事の原発争点化回避発言に対しては、鹿児島県内でも賛否両派に反発が広がった。「知事は『選挙が近づけば反対が増える』と焦っていた」。県関係者は昨年11月の再稼働地元同意の一部始終を振り返った。当時、県議会最大会派の自民県議団は揺れていた。再稼働は安倍政権の方針だが、避難計画の不備が次々と明らかになり、「県議選で戦えない」と造反をにおわせる声が続出。知事は自民県議団の内情をつぶさに収集し、反対を抑えるには手続きを急ぐしかないと判断したという。県議会の4常任委員会が予定していた県内視察を中止させ、同意を表明する2日前に臨時議会を招集。自民県議団は結局、再稼働に全員賛成し、知事のもくろみは奏功した。今回の知事発言について、自民県議団の吉留厚宏会長は「県議団として、知事に同意を急ぐように要請したことはない」と困惑。知事に「視察を無視して臨時議会を招集した必要性を示せ」と迫った成尾信春県議(公明)は「知事の本音だろうが、不快だ」と怒りを隠さなかった。反対した松崎真琴県議(共産)は「再稼働ありきの地元同意手続きだったことが明らかになった」として手続きの撤回を求めていくという。臨時議会を傍聴した同県姶良市の美術家松尾晴代さん(40)は「争点隠しを公然と認めた。県のリーダーとしての資質を疑う」と憤った。知事発言をフェイスブックで知った鹿児島市の医師青山浩一さん(53)は「知事が『再稼働請負人』だったことがはっきりした。県民の暮らしや命を守ると本気で思っているのなら、県議選で十分議論すべきだった」と強調した。
◆「全員反対でも再稼働やめない」−記者会見詳報
 15日の定例記者会見で鹿児島県の伊藤祐一郎知事は、昨年11月に自身が表明した川内原発(同県薩摩川内市)再稼働への同意をめぐり、県議選で原発問題が争点化されることを避ける狙いがあったことを明かした。福井地裁の高浜原発再稼働差し止め決定に対する考えも述べた。一問一答は次の通り。
−高浜原発再稼働差し止め仮処分の決定で、福井地裁は新規制基準を「緩すぎる」と指摘した。その新規制基準を知事は川内原発再稼働同意の根拠にしたが。
「原子力規制委員会は基準地震動を極めて高いレベルにするなどして新規制基準を決めた。素人の立場では言えないが、規制委は職務を全うしたと思う」
−世論調査では再稼働反対が過半数を占める。
 「わが国全体の経済活動などを考えたらエネルギーは根幹の要素。全員が反対したとしても(原発を)やめるというわけにはいかない。行政としてどうすれば国民の幸せにつながるか、総合的な判断が必要だ」
−県議選の結果に原発問題は反映されたか。
 「原発が投票結果に反映されたという見方はできない。ただ、(私は)昨年11月7日に(再稼働同意の)結論を出したが、それが遅れていたら争点化していただろう。統一選に大きな影響があるから、ぎりぎりのタイミングだった。さもないと原発がシングルイシューの争点になっていただろう。県政には地方創生や福祉などいろんな問題がある」
−民主主義の手続きとしてはどうだったか。
 「人によって考え方は違う。シングルイシューで争点化することが望ましくないとの判断はあったが、県議選だけを頭に置いていたわけではもちろんない。全体の流れの中であのタイミングしかなかった」
−原発が争点になると好ましくないのか。
 「好ましくないと言っているわけではない。県の仕事はいろいろある。(原発の争点化で)全部吹っ飛ぶのはおかしいという判断も当然ある」
−5月に実施を計画している原子力防災訓練は。
 「避難計画が出そろい、実効性を検証している段階だが、九電は使用前検査で精いっぱいで対応できない。訓練はできないと思う」
−再稼働の前には実施できないということか。
 「時間的に余裕がない」

*4-2:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/177908
(佐賀新聞 2015年4月17日) 避難勧奨地点解除は不当と提訴、福島・南相馬の住民
 東京電力福島第1原発事故で、放射線量が局所的に高い「ホットスポット」となった特定避難勧奨地点の指定を解除したのは不当として、福島県南相馬市の住民約530人が17日、国に解除の取り消しと、1人10万円の損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こした。特定避難勧奨地点は、避難指示区域外で、局所的に年間被ばく線量が20ミリシーベルトを超えると推定される場所。避難は強制されないが、医療費の自己負担免除などの生活支援があり、慰謝料も支払われていた。原告弁護団によると、原発事故に伴う国の避難措置解除の妥当性を争う訴訟は初めてという。

<国民及び再稼働反対派の意見>
*5-1:http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0MY0JX20150407
(ロイター 2015年 4月 7日) 原発再稼働に反対70.8%、事故の懸念73.8%=学者・民間機関調査
 原発再稼働を前に災害リスクを専門とする学者と民間調査会社が、原発・エネルギーに関する世論調査を実施したところ、再稼働に対して反対が70.8%、賛成が27.9%という結果が出た。また、現状での再稼働では、73.8%が東京電力福島第1原発事故と同規模の事故が発生すると懸念。新しい規制基準の下でも、国民の間に原発への不安感が根強く残っていることが鮮明になった。調査を企画・立案した東京女子大の広瀬弘忠・名誉教授が7日、ロイターに明らかにした。広瀬氏は災害リスクの専門家で、同氏が代表を務める防災・減災の研究会社が、市場・世論調査を手掛ける日本リサーチセンター(東京都)に調査を委託。今年3月4日から16日にかけて全国の15─79歳の男女1200人を対象に調査を実施し、全対象者から有効回答を得た。同リサーチセンターは、米世論調査ギャラップ社と提携。これまでも多様な調査を実施してきた。今回の調査では、全国から200地点を選び、各市町村の人口規模に比例して性別、年齢別に対象者を抽出。調査員が直接訪問して質問用紙を渡して後日回収する「個別訪問留置き調査」と呼ばれる手法で実施した。
<避難計画、9割近くが評価せず>
 再稼働への賛否に関する質問では、「大いに賛成」「まあ賛成」「やや反対」「絶対反対」の4つを選択肢として提示した。その結果、「やや反対」が44.8%と最も多く、次が「絶対反対」の26.0%だった。「まあ賛成」は24.4%、「大いに賛成」3.5%となった。反対との回答は合計70.8%、賛成との回答は27.9%だった。再稼働した場合、東京電力(9501.T: 株価, ニュース, レポート)福島第1原発と同程度の事故が起こる可能性について、「起こる」「たぶん起こる」「たぶん起こらない」「起こらない」の選択肢で回答を聞いた。結果は、「たぶん起こる」51.8%、「起こる」22.0%と再発を懸念する意見が合わせて73.8%。「たぶん起こらない」24.1%、「起こらない」1.3%と再発を想定せずとの回答は25.4%だった。原発再稼働の安全性では、「絶対安全だと思う」「やや安全だと思う」「やや危険だと思う」「非常に危険だと思う」の選択肢を提示したところ、「やや危険」52.3%、「非常に危険」29.0%と危険視する見方が81.3%に達した。これに対し、「やや安全だと思う」は16.2%、「絶対安全だと思う」は2.2%だった。事故が起きた場合の避難計画に関し、十分かとの質問には「やや不十分」50.5%、「全く不十分」37.2%と9割近くが否定的な評価となった。「やや十分」9.7%、「十分」1.5%と肯定的な評価は1割止まりだった。
<原発の将来、段階的縮小論が過半数>
 短期的な再稼働問題では否定的な回答が目立つ一方、原発の将来像に関する質問では、再稼働容認派が否定派を大きく上回る結果が出ている。「再稼働を認めず、直ちにやめるべき」「再稼働を認めて、段階的に縮小すべき」「再稼働を認めて、現状を維持すべき」「再稼働を認めて、段階的に増やすべき」「再稼働を認めて、全面的に原子力発電に依存すべき」「その他」の選択肢を設けたところ、「再稼働を認め段階的に縮小すべき」が最も多く52.6%、次いで「再稼働は認めずに直ちにやめるべき」が29.7%、「再稼働を認め現状維持すべき」は11.8%、「再稼働を認め段階的に増やすべき」が2.9%だった。広瀬氏は、この点について「いま再稼働することには躊躇(ちゅうちょ)するが、過半数は再稼働を認めて、段階的にやめていくという選択を採る」と指摘する。ただ、同氏は「福島第1原発事故と同程度の事故が起こる、たぶん起こるを合わせると7割を超えている。そうした状況で、(民意は、現状での)再稼働を認めることはないだろう」と述べた。太陽光、風力、地熱などの再生可能エネルギーの利用に関する質問に対し、大幅に増やしたほうがいい49.8%、少しずつ増やした方がいい45.3%と、回答者のほとんどは拡大に肯定的だった。だが、増やすペースでは意見が割れた。
<マスコミ調査よりも高い反対の数値>
 電話が主体の国内報道各社の世論調査では、再稼働に反対が概ね5割強から6割弱といった幅で推移しているが、今回の調査では国内報道各社の調査に比べ、反対意見が高く出た。こうした結果に対し、広瀬氏は「地域や国民を代表するよう対象者を選ぶ工夫をしている。代表性が高く、調査精度の高さが反映された結果だろう」と話している。3月実施の調査は、レジャーや花粉症、金融商品など他の調査項目と「相乗り」して行われた。「原発関連は調査全体の一部を構成しているだけなので、協力した人たちが原発問題に関して偏見があるということはない」(広瀬氏)としている。広瀬氏は2002年、東電による原発トラブル隠しの不祥事が発覚した時に同社が設置した「原子力安全・品質保証会議」の委員を務めた。2013年7月には内閣府原子力委員会で、原発世論に関して説明を行った。

*5-2:http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2015041400510 (時事ドットコム 2015年4月14日) 滋賀知事「重大な問題提起」=「安全性、説明を」京都知事-高浜原発再稼働差し止め
 関西電力高浜原発の半径30キロ圏内には、滋賀県と京都府の一部が含まれる。福井地裁の再稼働差し止め決定を受け、滋賀県の三日月大造知事は14日、記者団に「人格権や原発の安全性に重きを置いた決定で、原子力行政にとって重大な問題提起だ」と述べた。三日月知事は「今回の決定にも相通じるような形で、実効性ある多重防護体制の構築の必要性を訴えてきた」と強調。「立地自治体のみならず、影響が及ぶと想定される自治体とも協定を結ぶべきだという主張は変わらない」と述べ、引き続き関電に安全協定締結を求めていく考えを示した。一方、京都府の山田啓二知事は「詳細は承知していないが、国や事業者は安全性について、国民に丁寧かつ明確な説明を行う必要がある」とのコメントを出した。(2015/04/14-16:38)2015/04/14-16:38

*5-3:http://www.saga-s.co.jp/column/genkai_pluthermal/20201/177066
(佐賀新聞 2015年4月15日) 玄海原告団声弾む 玄海町や経済界、工程遅れ懸念
■重い判断、評価と動揺
 関西電力高浜原発の運転差し止めを命じた14日の福井地裁の決定。九州電力玄海原発(東松浦郡玄海町)の再稼働に向けた手続きが進む中、国と電力会社の安全対策の不備を指摘した司法判断に、玄海原発操業差し止め訴訟の原告団は「安全の根拠を覆した画期的な内容」と評価した。一方、早期再稼働を求めてきた玄海町や地元経済界などには「今後のスケジュールが大幅に遅れるのでは」と動揺が広がった。「司法が世論を反映してくれた」。全国最多の約9100人が提訴している玄海原発操業差し止め訴訟の原告団長を務める長谷川照・元佐賀大学長は声を弾ませた。原告弁護団も佐賀市内で会見し、「今回の決定は全国の原発に当てはまり、再稼働は許されない」と強調。玄海原発でも同様の仮処分申し立ての準備を進める意向を明らかにした。一方、玄海原発の早期再稼働を求めている佐賀県商工会議所連合会の井田出海会長は「原子力規制委員会の審査を覆すような決定が出たのは意外」と驚く。「仮処分とはいえ、こうした司法判断が続けば、再稼働は大幅に遅れてしまう」と懸念を示した。東京出張のため不在だった岸本英雄玄海町長に代わって取材に応じた鬼木茂信副町長は「玄海原発は歴史的に見ても地震や津波が少ない場所に立地し、安全な原発。規制委員会は粛々と審査してほしい」と求めた。佐賀県の山口祥義知事は「裁判所の一つの見解」と冷静に受け止めた上で「国と事業者は新規制基準の合理性について、しっかり説明してもらいたい」と規制基準の考え方などについて説明責任を果たすよう求めた。山口知事は規制委の適合性審査に合格し、住民理解が得られた場合は、再稼働を容認する考えを示している。玄海原発の再稼働判断への影響は「(最終的に)国の説明を聞いて決めるという考えは変わらない。玄海もいずれ国が説明する時期が来るが、今回の決定に対する見解もしっかり説明すべき」とした。また、伊万里市の塚部芳和市長は「原発周辺の住民が抱える不安を司法が認めたということではないか。再稼働を進める電力会社や国はこれを重く受け止め真摯(しんし)に向き合ってほしい」と望んだ。今回の決定に続き、22日には川内原発(鹿児島県薩摩川内市)の再稼働差し止め仮処分の判断が示される。唐津市の坂井俊之市長は「玄海原発への影響の大きさを考えれば、その結果を注視したい」と述べた。
=識者談話= 指摘無視するな
■脱原発を目指す有識者の団体「原子力市民委員会」座長の吉岡斉九州大教授(科学技術史)の話
 他の産業施設と比べ原発事故の損害が格段に大きいことは、東京電力福島第1原発事故を見れば明らかだ。危険性を否定できない原発は運転すべきでなく、差し止めを認めた福井地裁の判断は適切だ。安全対策や新たな規制基準の不十分さを具体的に指摘しており、これは高浜原発だけの問題にとどまらない。電力会社や政府、原子力規制委員会は指摘を無視することなく、抜本的に基準や対策を見直す必要がある。


PS(2015年4月18日追加):佐賀県の山口知事は、4月17日に反原発を訴える市民団体と就任後初めて県庁で面会し、市民団体は「再稼働反対と意見交換の継続開催の2点」を要望し、「原発の安全性に対する認識、現在の避難計画の実効性、使用済み核燃料の処理の考え方の3点」を文書で質問したそうだ。佐賀県の市民団体は、佐賀大学元学長で素粒子・原子核・宇宙線・宇宙物理の研究者である長谷川氏や実際の診療を通じて玄海原発の影響で発症する病気を意識しておられる佐賀大学元医学部長等も協力して理論構成しているため、「いろいろな意見が来ている」として同じ比重で考えるべきではない。

*6:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/178242
(佐賀新聞 2015年4月18日) 知事、反原発団体と面会 「県民の意見幅広く聞く」
 佐賀県の山口祥義知事は17日、反原発を訴える市民団体と就任後初めて県庁で面会した。玄海原発(東松浦郡玄海町)の再稼働を認めないよう求める市民団体に対し、賛成反対を含めた県民の幅広い意見を聞いた上で最終的に判断する考えを説明した。市民団体は、再稼働反対と意見交換の継続開催の2点の要望と、原発の安全性に対する認識や現在の避難計画の実効性、使用済み核燃料の処理の考え方の3点を文書で質問した。面会では、市民団体世話人の野中宏樹さんが「知事の第1の職務は県民の命や安全を守ること」とした上で、「今の規制基準や避難計画では安全は守れない。知事が安全というなら自ら説明責任を果たすべき。説明の前に再稼働は認めるべきでない」と指摘した。山口知事は「県民の意見を幅広く聞くのが私の政治姿勢。原発もいろいろな意見が来ている。判断する際はできる限り多くの情報を基に考えたい」と答えた。面会は、玄海原発の運転差し止めを求める団体など6団体が1月に合同で要望していた。市民団体によると、古川康前知事にも「直接対話」を求めていたが実現しなかった。原発の再稼働に関して山口知事は、原子力規制委員会が新規制基準に適合すると認め、住民理解が得られた場合は、容認する考えを示している。
■「初めの一歩」双方評価
 県民世論を二分する原発再稼働問題について、容認姿勢を打ち出す佐賀県の山口祥義知事と、反対を訴える六つの市民団体の17日の面会は、終始、冷静な口調で互いの考えを述べ合った。参加者は1団体2人、時間も15分限定。意見交換というレベルではなかったが、「考えを聞けて意義があった」「初めの一歩」と、両者とも面会実現を評価した。市民団体は古川康前知事にも再三、面会を要請していた。しかし、2007年の住民投票実施を求める署名提出の時に出席した限りで、その後、面会に応じることはなかったという。山口知事との面会を終えた市民団体世話人の野中宏樹さんは「選挙公約通りに県民の声を聞く姿勢は大変評価している」と話した。ただ、「意見が分かれる問題で15分はあまりにも短い。今日は初めの一歩で、今後も面会を続けてほしい」と求めた。参加した石丸初美さんは「まずは会うことが大切。顔を見て話すことから何事も始まる」と今後の面会に期待した。一方、山口知事は「かねて幅広く県民の声を聞きたいと思っていたので、意義があった」と述べ、市民団体の質問には文書で回答する意向を示した。再稼働問題では容認する考えをあらためて語った。今後の市民団体との面会は「タイミングもあるが、できる限り、場は設けたい」と応じる姿勢を見せた。


PS(2015.4.20):*7のような発言が原発推進派から出てくるが、上の(2)で述べた「原発が過酷事故を起こせば広い地域で長期間住めなくなり、自動車事故や航空機事故とは影響を受ける規模と期間が全く異なるため、原発は万が一にも過酷事故を起こしてはならない」というのが、これに対する答えだ。この違いが理解できない人は、生物学・物理学に弱すぎ、知識のバランスを欠いている。

*7:http://qbiz.jp/article/60599/1/ (西日本新聞 2015年4月20日) 「自動車も差し止めできるのか」 和歌山知事、高浜原発仮処分を批判
 和歌山県の仁坂吉伸知事は20日の記者会見で、関西電力高浜原発3、4号機の再稼働差し止めを命じた福井地裁の仮処分決定について「判断がおかしい」と批判した。仁坂氏は、今回の決定を出した樋口英明裁判長が昨年5月、大飯原発3、4号機の再稼働を認めないとの判決を出した際の根拠が生存権だったと指摘した上で「リスクのあるものは全部止めなければならないという考え方。それならば自動車(利用)の差し止め請求もできるのではないか」と述べた。さらに「なんで原発だけ絶対の神様みたいな話になるのか」と主張した。仁坂氏は樋口裁判長について「(原発の)技術について、そんなに知っているはずがない。裁判長はある意味で謙虚でなければならない」とも強調した。仁坂氏は元経済産業省の官僚で、2006年から和歌山県知事を務め、3期目。


PS(2015年4月22、23日追加):鹿児島県・宮崎県は農漁業が盛んであるため、原発で失うものが大きく、*8-1、*8-2の判決は残念だ。そして、この裁判の論点や決定内容の違いを見ると、原発事故の実態に関する見方やそれに対する新規制基準の評価が甘く、*8-3-1、*8-3-2のように、新規制基準をクリアしたから安全とは言えないのに再稼働を許すという新規制基準による新しい安全神話となっている。ただし、福井地裁の裁判官は飛ばされたそうなので、市民や約20年後には意思決定する立場になる志ある高校生、大学生は裁判を傍聴して注視するのがよいと考える。

  
 2015.4.18西日本新聞    2015.4.22日経新聞      2015.4.23西日本新聞

*8-1:http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150422/k10010056571000.html
(NHK 2015年4月22日) 川内原発 再稼働差し止め認めない決定
 鹿児島県にある川内原子力発電所の1号機と2号機について、鹿児島地方裁判所は、再稼働に反対する住民が行った仮処分の申し立てを退ける決定を出しました。先週には福井地方裁判所が高浜原発3号機と4号機の再稼働を認めない仮処分の決定を出していて、国の新しい基準の審査に合格した2か所の原発を巡って、裁判所の判断が分かれました。鹿児島県の川内原発1号機と2号機について、鹿児島県、熊本県、宮崎県の住民12人は、「地震や巨大な噴火で深刻な事故が起きるおそれがある」などとして、裁判所に仮処分を申し立て、再稼働させないよう求めました。これに対して九州電力は、「想定される地震に対して十分な安全性があり、巨大噴火の可能性も極めて低い」などと反論していました。22日、鹿児島地方裁判所は住民の申し立てを退ける決定を出しました。川内原発1号機と2号機は、原子力規制委員会から新しい規制基準に適合していると認められ、九州電力は全国の原発で最も早いことし7月の再稼働を目指しています。原発の再稼働についての仮処分では今月14日、福井地方裁判所が関西電力に対し高浜原発3号機と4号機の再稼働を認めない決定を出しています。新しい基準の審査に合格した川内原発と高浜原発を巡って、裁判所の判断が分かれました。

*8-2:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150422-00050022-yom-soci
(読売新聞 4月22日) 川内原発の再稼働、差し止め認めず…鹿児島地裁
 九州電力川内(せんだい)原子力発電所1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)を巡り、鹿児島、熊本、宮崎3県の12人が再稼働差し止めを求めた仮処分について、鹿児島地裁(前田郁勝裁判長)は22日、12人の申し立てを却下した。14日に福井地裁が出した関西電力高浜原発3、4号機(福井県)の運転差し止めを命じる決定と逆の判断が示された。鹿児島地裁では川内原発の運転差し止め訴訟が審理されており、原告団の一部が昨年5月、「訴訟の判決を待つのでは遅すぎる」と、決定後、すぐに効力が生じる仮処分を申し立てた。仮処分の審尋は4回開かれた。争点は、原発の耐震設計の基本になる基準地震動や、桜島を含む姶良(あいら)カルデラなどの火山対策、避難計画の妥当性など。九電側は「国の安全審査に合格しており、基準地震動の想定や火山対策に問題はない」と主張。申立人側は、「九電の想定は不十分だ」などと反論していた。川内原発は昨年9月、国の安全審査で「合格第1号」となった。地元同意手続きも完了し、今年3月から「使用前検査」が行われている。九電は同原発1号機について、7月の再稼働、8月の営業運転開始を目指している。

*8-3-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150422&ng=DGKKASDG22H4O_S5A420C1EAF000 (日経新聞2015.4.21)規制委の基準「不合理ない」 高浜とは対照的判断
 九州電力川内原子力発電所1、2号機の再稼働の是非が争われた仮処分申請で、鹿児島地裁が運転差し止めを認めなかったのは、原子力規制委員会による専門的な安全審査に「不合理な点はない」と判断したためだ。福井地裁が14日に出した関西電力高浜原発3、4号機の差し止め決定が、規制委の新規制基準を「合理性がない」と切り捨てたのと比べ、対照的な司法判断となった。高浜の差し止めを命じた14日の福井地裁決定は、関電が想定する最大の地震規模について、この10年だけでも他の原発で想定以上の地震が複数回起きていることなどを理由に「信頼性がない」と批判。地震列島の日本で原発が冷却機能を失う危険性は「万が一という領域をはるかに超える切迫した危険だ」として、規制委の新規制基準を「緩やかすぎて合理性がない」と断じた。これに対し、22日の鹿児島地裁決定は、新規制基準について福井地裁とはほぼ正反対の評価を下した。決定は「新規制基準は自然現象の不確実性を相当程度考慮しており、九電も多重防護の考え方に基づく事故対策をしている」と指摘。「原発の安全対策に欠陥があり、事故が避けられない」との原告側主張について「的確な立証はない」と判断した。原発周辺にある姶良カルデラなどの火山は、数万年前には巨大噴火を起こしており、原告側は「多くの学者が噴火時期の予測は困難と指摘しており危険だ」と主張したが、決定は「九電の(火山リスクについての)評価は、火山学の知見に一定程度裏付けられている」として退けた。他の原発では、四国電力の伊方3号機が審査を終え近く合格する見通しになっているほか、九電玄海3、4号機などもほぼ審査が終わっている。原告側は再稼働が近いとみられている原発を中心に、仮処分申請をしていく方針を示している。

*8-3-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150422&ng=DGKKASDG22H4S_S5A420C1EAF000 (日経新聞 2015.4.21) 鹿児島地裁仮処分の決定骨子
○運転差し止めを求める仮処分申請を却下する
○原子力規制委員会の原発の新規制基準に不合理な点はない
○原子炉施設の耐震安全性の評価に不合理な点はない
○九電が行った火山の影響の評価は、火山学の知見により一定程度裏付けられている
○周辺自治体の避難計画などの緊急時対応は一応の合理性、実効性を備えている

| 原発::2015.4~10 | 05:06 PM | comments (x) | trackback (x) |

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