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2023.2.4~17 女性リーダーを阻む女性差別と女性蔑視 (2024年2月19、21、22《図》、26、27《図》、29日、3月4日に追加あり)
   
     2024.1.30TBS         2023.1.12佐賀新聞  2023.2.5佐賀新聞 
 
(図の説明:左図のように、麻生副総裁が上川外務相を褒めたつもりが、名前を間違ったり、『女性外務相は初』と誤ったり、『美しくないおばさん』と言ったりして物議を醸している。しかし、根本的には、日本全体に蔓延する女性蔑視や高齢者に対する年齢揶揄の習慣がある。そして、この発言の土壌として、1年前のデータだが、中央の図のように、国会議員・地方議員・首長などの政治リーダーに占める女性の割合が著しく低く、女性リーダーはアウトサイダーであるという古ーい“常識”がある。そのため、生活関連の政策が多く、女性議員の存在が重要だと思われる地方議会でさえも、右図のように、女性ゼロ議会が少なくなく、ゼロでなくても女性議員の割合が50%どころか30%を超える議会も希な状況なのだ)

(1)女性初の首相は、巧妙に隠された差別にも気づいて闘った人であって欲しいこと
 *1-1-1・*1-1-2・*1-1-3は、①自民党の麻生副総裁が講演で「そんなに美しい方とは言わんけど、英語できちんと話をし、外交官の手を借りずに自分でどんどん会うべき人に予約を取っちゃう。俺たちから見ても、このおばさんやるねえと思った」と語った ②立憲の田島氏は、参院本会議で同調圧力の強い日本社会で上川氏と同じ対応をしなければならないリスクを上川氏にただした ③上川氏の「どのような声もありがたく受け止めている」という答弁にも波紋が広がった ④ライターの望月さんは「『俺たち』が女性たちを評価するという構図が前提になっており、女性の登用をうたいながら、実際に誰を引き上げるかを決める権力はいまだ麻生氏ら男性たちが握り続けている現実を映している」とみる ⑤東大の瀬地山教授は「上川氏を評価しているのは分かるが、男性の外相なら容姿に言及することはなく、女性だけ美醜の評価を加えられる」「政治の世界で女性はアウトサイダーという認識があるから、男性政治家から『俺たちから見て』『女性ならではの』といった発言が出る」とした ⑥次の首相候補との声も上がり始め、20人の推薦人を集めて総裁選に出ようと思えば、麻生氏に反論するのは性別を問わず難しい ⑦共産党の田村委員長も、上川氏の答弁について「ジェンダー平等を進めようという立場なら、きちんと批判すべき」と語った ⑧麻生氏は上川外相の容姿を揶揄した発言を撤回し、「女性や若者が活躍できる環境を整えていくことが政治の責務」とも触れた としている。

 麻生副総裁の発言の①のうち、「英語できちんと話をし、外交官の手を借りずに自分でどんどん会うべき人に予約を取る」については、私は、できない人よりはできる人の方が良いが、それは政治家の仕事というよりセクレタリーの仕事で、政治家の実力を評価したことにはならないと思う。しかし、「女性」と言えば「語学力」「コミュニケーション能力」で評価したり、「おしゃべり」と悪口を言ったりするのは、まさに女性の実力を内容で評価しない女性蔑視の第1だ。

 また、「そんなに美しい方とは言わんけど」という発言について、⑤のように、東大の瀬地山教授が「男性の外相なら容姿に言及することはなく女性だけ美醜の評価を加えられる」とされているのは本当だが、より根本的には、「能力のある女性は美しくなく、美しい女性は能力が無い」という一般社会の女性蔑視に、麻生氏も同調しているか、おもねたところがあると思う。

 さらに、「俺たちから見ても、このおばさんやるねえと思った」という言葉には、④のように、「(現在、リーダーの多くを男性が占めているため)男性の方が能力が上で、男性が評価する立場だ」という女性蔑視が確かに感じられるが、現在、リーダーの多くを男性が占めている理由は、日本では、*3-1のように、教育段階から女性差別して男性に下駄を履かせているからで、*3-2のように、同性の中にも大きな個人差がある。それでも、日本の一般社会は、*3-2の「執筆した論文数が男性より多い有能な女性の中に美人はいない」と言うのだろうか?

 なお、「おばさん」という言葉には、「おじさん」という言葉と同様、年齢に対する揶揄が感じられ、敬意は感じられない。

 しかし、②のように、立憲の田島参議院議員が同調圧力の強い日本社会で上川氏と同じ対応をしなければならないリスクを上川氏にただしたり、⑦のように、共産党の田村委員長が上川氏の答弁について「ジェンダー平等を進めようという立場なら、きちんと批判すべき」と語ったりしたのは、確かに、国会議員の中に女性が増えた効果である。しかし、田島氏の質問に対し、③のように、上川氏が「どのような声もありがたく受け止めている」と答弁されたことについては、上川氏はわかっていないか、もしくは、わざと焦点をずらしてごまかしたと思う。 

 もちろん、上川氏が、⑥のように、次の首相候補との声も上がり始め、麻生氏に限らず、男女の議員の中に敵を作れば誰もが一票の投票権を持つ民主主義社会で首相になることはできないというジレンマを抱えていることは理解する。

 が、国会議事堂の中央広間には4つの台座があり、既に板垣退助(自由民権運動を起こし、日本で最初の政党である自由党党首)、大隈重信(日本で最初の政党内閣の総理大臣)、伊藤博文(日本で最初の内閣総理大臣)の3つの銅像が立っており、4つ目の台座には、日本で女性初の首相が銅像として立ってもらいたいと、私は思っている。そして、その功績は、日本であらゆる女性差別をなくし、最初の女性内閣総理大臣になったというくらいであって欲しく(https://www.sangiin.go.jp/japanese/taiken/gijidou/3.html 参照)、そうでなければ他の銅像と釣り合いがとれない。

(2)女性の実力が公正に評価されない巧妙な差別の事例
 *1-2は、①保利耕輔氏は謹厳実直が服を着たような人だった ②群れたがる同僚議員を尻目に夕方は自宅に直行して本や資料を読みふけった ③「予算獲得の陳情団に、普通の国会議員は本題もそこそこに地元の新しい噂話を聞きたがるが、保利さんは書類から目を離さず、事業の中身について質問した」というのが古川衆院議員の佐賀県知事の時の思い出 ④2003年に農相を打診されると教育基本法改正を巡る与党調整に注力したいとして固辞 ⑤党憲法改正推進本部長の時には「自主憲法制定は党是」という声が党内で勢いを増したが、結党時の資料を探し出して「わが党は結党以来、『憲法の自主的改正』を『党の使命』に掲げてきました」と書き改めさせた ⑥目立つことを嫌い、手柄を誇らず、常に筋を通す と記載している。

 このうち⑤の「(結党時の資料を示して)全否定ではなかった」とまで言えたのはよかったが、国民の意識や時代の変化にもかかわらず、結党時と同じことを言うのではまだ弱いと思う。

 また、③については、同じ選挙区から出ていたので意義があるわけだが、“本題もそこそこに地元の噂話を聞きたがる普通の国会議員”とは誰のことか?他の地元国会議員に失礼だと思うが、本題は自分発のテーマだったり、毎年似たようなものだったりするため、内容を根掘り葉掘り聞かなくてもわかる議員も多いだろう。

 なお、*1-2は追悼文であるため褒めるのが当然ではあるが、①については反対しないものの、②は家で本や資料を読んでおられたとは限らないため、私は「どうしてそれがわかるのか?」と思った。さらに、④の「農相を打診されたが、教育基本法改正を巡る与党調整に注力したいとして固辞」については、保利氏は教育勅語を諳んじていて、よくその話をしておられたため、教育基本法改正は戦後世代に任せた方がよいと私は思ったし、地元には「農相になればいいのに・・」と言う人が多かったのである。

 しかし、私が*1-2で最も問題だと思ったのは、⑥の「目立つことを嫌い、手柄を誇らず・・」という褒め方(≒価値観)である。何故なら、世襲ではない一般の人が目立つことを嫌えば、そもそも国会議員になろうとは思わないし、当然のことながら当選もしないからだ。また、実績(=手柄)を言わなければ内容で評価することができないため、性別・年齢・学歴等の情報からステレオタイプで常識的・観念的な評価をするしかない。

 そして、特に女性には謙虚さのみを押しつけ、いかにも女性はくだらない噂話が好きであるかのように言う日本独特の女性蔑視の価値観こそが、政治の世界でも、*3-1と同様に、ジェンダーギャップを大きなままにし、*3-2のように、本当は少数精鋭で生き残っている女性研究者の執筆論文数は男性を上回るのに、それを隠して表に出させず、しばしば手柄を横取りして、女性差別を維持する仕組みにしているのである。

(3)地方議会の担い手不足と女性差別
 *2-1は、①議員の担い手不足で、地方議会の空洞化が止まらない ②首長が議会ぬきで補正予算等を決める専決処分が多発 ③災害時等の非常時に限る仕組みのタガが緩み、住民が行政を監視する地方自治の根幹が揺らぐ ④4年毎の統一地方選で議員が無投票で決まる割合が右肩上がり ⑤議員は多様な住民の声を取り込む役割を担う ⑥専決処分多発のきっかけはコロナ禍だったが、コロナが落ち着いても「物価高対策のため」等として減らない ⑦議会が機能を十分果たすための改善策は通年制 としている。

 また、*2-2は、⑧2018年施行の候補者男女均等法効果で女性議員が増えた地域もあったが、まだ十分ではない ⑨200以上の地方議会で女性0、2割前後で伸び悩む議会も ⑩女性が影響力を持つには議会の3~5割程度を占める必要 ⑪達成には選挙制度の抜本的改革が不可欠 ⑫1人区は無投票が多く現職有利になるため都道府県議選では止めるべき ⑬定数が多いと、党派も多様で女性や若い世代も立候補しやすい ⑭市町村議選では「制限連記制」が選択肢の一つ ⑮「クオータ制」も導入した方がよく、女性候補の多い政党には政党助成金を優遇するなどの方法も ⑯少子化進行は女性議員が少なかったことが大きな要因で、女性が増えれば政策が刷新される ⑰保護者に持ち帰らせていた使用済おむつを保育所で処分するよう求める動きも、女性議員らの議会質問で始まった ⑱生活に身近な議題を扱う市町村の議会に女性や若い世代は不可欠 ⑲海外には地方議会で女性が増えてから国政に波及した例も多く、日本も地方議員を増やせば国会に繋がる可能性 等としている。

 このうち②は事実だろうし、③⑥の「災害時等の非常時に限る仕組みが、議会の監視をすりぬける手段となる」のは国の緊急事態条項も同じなので、⑦のように、議会の開催を短く制限しないようにするのは、国の場合も同様である。

 また、⑤の「議員には多様な住民の声を取り込む役割がある」というのも事実で賛成だが、①の「議員の担い手不足で地方議会の空洞化が止まらない」は、⑧⑨⑩のように、人口の半数以上を占め生活系の知識が豊富な女性議員が地方議会に著しく少ないことを解決すべきだと思う。

 しかし、④のように、4年毎の統一地方選では現職(男性)議員が無投票で再選される割合が右肩上がりに増えているそうで、そこに気の利いた女性が立候補しても、古い価値観で誹謗中傷されたり、家族も含めて妨害されたりして、著しく当選しにくい実情がある。そのため、⑪⑫⑬⑭⑮のいずれかの方法又はその組み合わせで、女性が立候補するのは当たり前、議会に女性が30~50%いるのも当たり前という状況を作るべきだ。

 なお、⑰の「保護者に使用済おむつを持ち帰らせていた」というのには、「タイパ(時間あたりの成果)の高さが必要不可欠な共働き女性に何をさせているのか!」と私も思ったが、確かに⑯のとおり、これでは2人目を産む人は少なくなり、少子化が著しく進行するのは当然だろう。そのため、これに対し、女性議員の議会質問で保育所での処分が始まったのは期待通りであり、⑱のとおり、生活に身近な議題を扱う市町村議会に女性議員は不可欠なのである。

 最後に、⑲のように、「地方議員を増やせば国会に繋がる可能性がある」という点については、国会議員選挙での公認獲得や選挙応援にあたって地方議員の役割は大きい上に、国民も女性議員の能力を具体的に見ることができるため、地方議員に女性が増えれば国会議員にも女性が増えるだろう。

(4)学術会におけるジェンダー不均衡の発生理由
 *3-1は、日米の研究チームが、論文の著者名から性別を推定する方法を開発し、日本・韓国・中国・その他(主に欧米)で1950~2020年に発表された約1億本の論文データを解析したところ、①どの国でも研究者数は男性が女性より多いが、男女比の不均衡は日中韓が欧米より大きい ②個々の研究者がキャリアを通じて発表した論文数は、日本は女性が男性より42・6%少なく、中国は9・3%、韓国は20・2%、その他は31・2%少ないため、日本の性差が最も大きい ③女性の方が研究職としてのキャリア年数が短い(日本では男性より39・6%短い)のが原因の1つ ④研究論文の共同著者となっている場合も少ない ⑤論文が引用された回数は、日本は女性が男性より19・9%低く、中国・韓国では逆に女性が高い ⑥男性研究者主導論文を過多に引用し、女性研究者主導論文を過少に引用する傾向が日中韓でみられる ⑦女性研究者主導論文の過少引用は日本が最も強い ⑧この問題は国際的な社会課題であり、論文の査読や研究者の雇用などでも起こる としている。

 このうち①は、日中韓が儒教国で女性差別が根強いことから尤もだ。しかし、②は、1975年に第1回世界女性会議で女性の地位向上のための「世界行動計画」が採択され、1979年に国連総会で女子差別撤廃条約が採択されて1981年に発効し、1995年に北京で世界女性会議が開催されたりしたのに対応して、中国・韓国はまじめに改善してきたのに対し、日本は政治的・公的活動、経済的・社会的活動における差別撤廃のため、まともに対応しなかったのが原因であることを、私は現場で比較しながら見ていたためよく知っている。

 また、③のように、「女性はキャリア年数が短い」とよく言われるが、この統計方法は、結婚で女性が姓を変更すると別人としてカウントするのも理由の1つではないかと思われた。

 しかし、④のように、共同著者となる機会が少なく、⑤⑥⑦⑧のように、日本の女性研究者は論文の引用回数が男性研究者より少ないのなら、実力で研究者として昇進する道が閉ざされるため退職せざるを得なくなることも、女性のキャリア年数が短くなる原因の1つだ。そして、多くの男性に思い当たるふしがあると思うが、これが隠された巧妙な差別の結果なのである。

 *3-2は、⑨日本の研究者が直近5年間に執筆した論文数は男性より女性の方が多く世界の傾向と逆 ⑩日本の研究者全体に占める女性割合は約2割(総務省2016年調査では15.3%)で米国やEU28カ国の約4割と比較して低い ⑪2011~2015年の研究者1人当たり論文数は、日本の女性が1.8本で男性の1.3本よりもやや多く、他国・地域と異なる ⑫1996~2000年では、より男女差が大きいのが日本の特徴 ⑬エルゼビアは「日本では女性研究者のキャリア構築が他国より難しいため、生き残っている多くの人が有能なのではないか」とみている としている。

 ⑩の日本の研究者全体に占める女性割合は約2割で、米国やEU28カ国の約4割と比較して半分というのは、優秀な人の割合が同じであれば、女性は他国と比較して2倍の狭き門をくぐらされて生き残っていることになる。ということは、退職させられた女性研究者の多くが、本来なら新しい付加価値を作れる人だったため、日本社会はもったいないことをしたということだ。

 従って、そのような狭き門でも生き残っている女性研究者が、⑨のように、世界とは逆に、直近5年間に執筆した論文数は男性研究者より多く、⑪⑫のように、最近はやや多い程度だが、四半世紀前はさらに狭き門だったため執筆論文数の男女差がより大きかったというのは頷ける。そのため、⑬のエルゼビアの原因分析は、事実に基づいており、公正中立だと思う。

(5)治る病気は治すべき ← 日本で再生医療による治療が遅れる理由
 *4-1は、①1型糖尿病(インスリンを分泌する膵臓のβ細胞が壊れて高血糖状態になる病気)の患者は、生涯インスリン補充が必要 ②20歳以降は行政による医療費助成が終わり、自己負担が重くなる ③20歳以上の患者は月1万~3万円程度の自己負担が発生する ④佐賀市の認定NPO法人「日本IDDMネットワークが、佐賀県に住む25歳までの患者を対象に4月から月額最大3万円の医療費支援を始める ⑤国内の1型糖尿病患者は10~14万人 としている。

 しかし、*4-2は、⑥成熟した膵島細胞は自己複製能を持たず、その機能低下が糖尿病の原因 ⑦出生前後に増殖する膵島細胞ではMYCL遺伝子が発現し、MYCLを働かせると成熟した膵島β細胞に活発な自己増殖を誘発できる ⑧体内でMYCLを発現誘導したり、MYCLによって試験管内で増幅させた膵島細胞を移植してモデルマウスの糖尿病を治療した ⑨これにより、糖尿病の根治を目指した新たな再生治療法となりうる としている。

 1型糖尿病は、①のように、現在は治らない病気であるため、生涯にわたってインスリンの補充が必要だが、これでは患者のQOL(Quality of life)が低すぎ、人生における選択が制限される。さらに、治療には健康保険と高額医療費制度が適用されて当然なのに、②③のように、20歳以降は行政による医療費助成が終わり、月1万~3万円程度の自己負担が生じるというのが、そもそもおかしいのである。

 そして、④のように、佐賀市の認定NPO法人が佐賀県在住の25歳までの患者に月額最大3万円の医療費支援を始めるというのは、(何もしないよりは良いが)部分的援助にしかならないため、まず治療に健康保険と高額医療費制度を適用するのが当然と言える。

 次に、⑥のように、成熟した膵島細胞は自己複製能を持たないが、⑦のように、出生前後にはMYCL遺伝子が発現して膵島β細胞が活発な自己増殖するため、⑧のように、体内でMYCLの発現を誘導したり、MYCLによって試験管内で増幅させた膵島細胞を移植したりすれば、1型糖尿病を治療でき、これは糖尿病のモデルマウスで既に証明されているのだ。従って、⑨のように、糖尿病を根治する人間の治療法にもなり得るため、これらを素早く実用化すべきである。

 MYCL使用法は糖尿病を根治できるため、生涯にわたってインスリンを補充する必要が無く、根治後の患者は普通の生活ができるためQOLが高い。それと同時に、医療保険の視点からは、患者に生涯に渡ってインスリンを補充するよりもずっと安くつき、ビジネスとしても、⑤のように、国内だけで10~14万人の1型糖尿病患者がおり、世界では著しく多くの患者がいるため、市場は十分大きく、トップランナーと2番手以下では利益率の差も大きいのだ。

 そのため、再生医療の基礎研究ではトップランナーの日本で再生医療による治療法が普及しない理由は、「政治・行政・経営・メディアの無知と不作為によって、優れた種を発見して速やかに育てることができないから」と言わざるを得ない。ぷん

(6)日本でEVと再エネが遅れた理由
 日本は、1997年に京都で開かれた地球温暖化防止京都会議(COP3)で「地球環境京都宣言」をとりまとめ、それが「京都議定書」として採択された。京都議定書は、CO₂(二酸化炭素)やCH₄(メタン)等6種類の温室効果ガスを先進国が排出削減することを定めており、その有力なツールがEVや再エネなのである。

 しかし、日本は、1990年代に、世界に先駆けてEVや太陽光発電機を実用化したにもかかわらず、「EVは音がしないから危ない(!!)」「充電設備が少ない(!)」「発電を化石燃料でするため、EVも地球温暖化に資さない(!!)」「再エネは出力が安定しないから使えない(!)」「太陽光発電は撤去が困難(!!)」等々、考えれば解決策はあるのに、工夫のない変なケチをつけてEVや再エネを普及させなかった経緯がある。

 その結果として、*5-1のように、①JAIAが発表した2024年1月のEV輸入販売台数は2カ月連続で増加 ②そのうち2割が中国EV大手のBYD ③独メルセデス・ベンツ等の欧州勢もEV車種を揃えて顧客の選択肢を増やし、輸入EVは販売贈 ④BYDは2023年1月に日本の乗用車市場に参入し、2車種のEVを展開して販売台数は前年同月比約6倍 ⑤BYDの最先端安全装置等が人気で高級車からの乗り換えや60代以上の顧客も多い ⑥BYDは、2024年春もセダンEV「シール」を日本に投入 ⑦2025年末までに国内販売拠点を100カ所まで増やして拡販方針 ⑧輸入車全体では17ブランドが118モデルのEVを日本で展開 ⑨輸入EVは独VWの「ID.4」や独アウディの「Q4 e―tron」など欧州メーカーを中心に売れている ということになった。

 このうち①②④⑥は、前年との比較で増加してシェアを増やしたということなので絶対数は多くないが、BYDのEVはスマートで安価であるため、私も好きだ。その上、⑤のように、最先端の安全装置等がついている等の工夫があれば、高級車からの乗り換えや60代以上の高齢者も多くなるのは理解できる。そのため、⑦のように、日本国内の販売拠点を100カ所まで増やして拡販してもよさそうである。

 ③⑨の欧州勢のEVは自動車として安心感があるだけでなくスマートでもあるが、値段も高いため、普通の人は買換時期にでもならなければ乗り換えないだろう。しかし、⑧のように、輸入車全体で17ブランドが118モデルのEVを日本で展開するというのは、選択肢が増えて楽しみだ。

 一方、日本メーカーは、「京都議定書」から30年近くも経過したのに、PHEVを含めなければ日産3車種、三菱・トヨタ・ホンダ・マツダ各1車種のEVしかない。地球環境に貢献しつつエネルギー自給率を上げるための技術開発をする時間的余裕は十分にあったため、遅れをとって利益機会を逃したのは、もったいなかったわけである。充電設備や水素ステーションは、スーパー・コンビニ・職場・マンション等の駐車場やガソリンスタンドに設置すれば便利だろう。

 さらに、*5-2は、⑩太陽光パネル撤去積立金が災害リスクのある斜面に立地する全国1600施設(500kw以上)で不足の恐れ ⑪放置や不法投棄に繋がらないよう適正処理の仕組み作りが不可欠 ⑫2012年開始の固定価格買い取り制度による買い取り期間は10kw以上・20年間で、2032年に買い取り期間が終了し始めて売電価格が大幅下落 ⑬パネル寿命も25~30年程度 ⑭政府は事業者に毎月売電収入の4~7%程度を10年にわたって強制的に積み立てさせる制度を2022年に開始したが、算出根拠が平地での撤去・廃棄費で、割高になる傾斜地は考慮外 ⑮小野田早稲田大学教授:「短期間の検討で立地条件までは議論が及ばず、一部で撤去費が十分でない可能性はある」 ⑯松浦京都大学名誉教授:「排水路等が管理されず、表面侵食や土砂崩れが起きやすい状況を生む可能性もあるため、撤去だけでなく植林等が不可欠」 ⑰神戸市:2020年に5万㎡以上の設備新設時に廃棄費の積み立てを義務付け、長野県木曽町:条例で原状回復を制定 ⑱環境省:リサイクル設備を導入する事業者に費用の半分を上限に補助金を出して処理能力を向上させる ⑲丸紅と浜田(大阪府高槻市)は共同出資で新会社を設立して中古パネルの買い取り販売を始めた としている。

 このうち⑩⑪⑫⑬⑭⑮⑯⑰については、「固定価格買い取り制度による買い取り期間が終了して売電価格が下がったり、パネルの寿命が尽きたりすれば、太陽光パネルは廃棄」という前提であるため不足だし、「傾斜地に立地すると撤去積立金が不足し、放置や不法投棄に繋がる」というのも不道徳で、かつ工夫がなく、もったいない話である。

 何故なら、⑱⑲のように、中古パネルはリサイクルやアップサイクルすることができ、傾斜地は風力発電を設置しつつ放牧するなどのより有効な跡地利用もでき、そうしなければせっかく金をかけて整備した傾斜地や太陽光パネルがあまりにもったいないからである。

(7)付加価値向上・生産性向上と賃金の関係
1)GDP4位転落が改革加速の呼び水か


 2022.7.25東洋経済     Wedge Online      2022.1.22 Financial Star

(図の説明:左図のように、名目GDPで日本は世界4位に転落しているが、経済規模や順位は為替レートによって大きく変化するのでさほど問題ではなく、日本は他国と異なり30年間も横這いだったのが問題なのである。しかし、国民の豊かさは、中央の図の「1人当たり実質購買力平価GDP」が最もよく表し、これも日本は横這いでアジアの中でも4位に落ちた。また、右図のように、世界の「名目1人当たりGDP《名目しか出ていなかったため使用》」の順位は、1995年の9位から2000年の2位を最高に、その後は次第に下がって2020年には24位に落ちている)

 *6-1-1は、①日本の2023年名目GDPが世界4位に転落する見通しで、米国に次ぐ2位を2010年に中国に譲り、3位もドイツに明け渡す ②米欧との金利差拡大で2023年末141円/$台と大幅に円安が進み、GDP規模が目減りした要因が大 ③ドイツ経済はマイナス成長に喘いで「欧州の病人」と指摘されており、GDPだけで一喜一憂の必要はない ④日本の成長力底上げも進まない ⑤購買力平価で計算した日本の名目GDPはまだドイツを上回る ⑥今回の事態は怠った経済改革の加速を促す警鐘と受け止めるべき ⑦為替相場次第で順位が変わるため、順位より潜在成長力の低さや生産性の伸び悩みに注目すべき ⑧2000年にドイツの2.5倍だった日本の名目GDPは四半世紀近くで同等に近い水準に ⑨日本のGDP/人は世界で30位程度と低迷 ⑩全体の規模では経済大国の一角に見えても、実力では見劣りすることを真剣にとらえるべき ⑪対日経済審査後の声明でIMFは「所得税減税等の経済対策は的が絞られていない」等の理由で「妥当でなかった」と評し、痛み止めに終始して中長期の改革に及び腰な岸田政権には厳しい指摘だった ⑫OECDも、人手不足等を展望して、定年制廃止による高齢者就労拡大、女性・外国人の雇用促進を日本に提唱 ⑬労働市場の流動性を高め、成長する分野や企業に人材が移動する仕組みを整えることがなにより重要 ⑭環境が変化する中で政府も民間部門も日本経済が抱える構造問題を直視すべき ⑮成長促進の方策を的確に練り、迅速に行動に移す必要 としている。

 私は、⑥のように、「転落して初めて改革を加速しよう(転落するまでは、さぼっていてよい)」と考える日本人の発想自体が、④のように、日本の成長力が低く、⑧のように、2000年にドイツ(現在の人口約84百万人)の2.5倍だった日本の名目GDPが四半世紀で同等まで落ち、⑨⑩のように、日本のGDP/人が世界で30位程度と低迷し続けている原因だと考える。

 何故なら、時代の変化によって人々のニーズは刻々と変化するので、時代のニーズに適応したり、新しいニーズを提案型で示したりして、高い付加価値のある財・サービスを提供していくためには、政府も民間も日頃から改革し続けている必要があるからだ。

 また、①②③⑦のように、名目GDPは為替相場次第で順位が変わるため、⑤のように、購買力平価で計算したGDPを見るのが、為替相場の変動による揺れを廃した本当の豊かさの比較になるが、⑨⑩のように、日本のGDP/人は購買力平価で計算しても世界30位程度と低迷しており、全体のGDPでは経済大国の一角でも、「国民1人当たりGDP」という実力では見劣りするのだ。

 そして、*6-1-2のように、一国の経済水準は「GDP総額」ではなく、「国民1人当たりGDP」で比較するのが世界の常識で、日本は2000年の世界第2位から下落を続けて現在は先進国の下の方になっているのだが、経済の話となると株価・景況感指数・物価上昇率・失業率・平均賃金等の数字が取り上げられ、国民にとっては最も重要で日本政府にとっては都合の悪い「購買力平価による国民1人当たりGDP」が取り上げられることはないのだ。

 さらに、「国民1人当たりGDP(名目ベース)」を主要国と比較して日本の立ち位置を確認すると、バブル期最後の1990年が8位(1990年末のドル円相場:160円/$)で、2000年に過去最高の2位(2000年末のドル円相場:115円/$)となっているため、ドル円相場で割ったドルベースによる国際比較では、2000年が日本経済のピークになっている。

 そして、2000年以降の日本経済の低迷は、(理由を詳しくは書かないが)「どの政権も日本経済の凋落を止めることができなかったから」と総括するのが適切で、再度バブルを到来させた政策は、国民にとっては誤りの繰り返しにすぎない。

 なお、*6-1-1の⑪⑫⑬⑭⑮については、日本の現状に関してよく分析しており、日本人が頼んで言ってもらったのではないかと思うほど的確な分析であるため、私もそのとおりだと思うし、日本政府はそのようにして欲しいと考えている。

2)再度バブルを起こした金融緩和政策の弊害 ← バブルでは実質賃金は上がらないこと

  
     2024.1.19北海道新聞           2023.10.1日経新聞

(図の説明:左図のように、前年比・年平均の生鮮食品を除く全国消費者物価指数は、高度成長期・バブル期の1980年代に著しく高く、その後は消費税の導入時や税率引き上げ時以外は0%近傍を推移していたが、2021~2023年にかけてコストプッシュ・インフレにより著しく上がった。また、右図のように、物価上昇率は、生鮮食品やエネルギーなどの頻繁に購入する財・サービスを含む体感と生鮮食品を含まない統計との差が大きいと言われているが、これは事実だ)


    2024.2.6日経新聞      2024.1.10中日BIZ  2023.7.21Daily Tohoku

(図の説明:中央の図のように、実質賃金《名目賃金/物価水準》が前年同月比0以下の実質賃金減少局面では、左図のように、実質消費が落ち込む。そのため、右図のように、消費者物価指数が高くなると、実質GDP成長率は低くなるのである)

 「金融緩和して円の価値を下げる」というのは、財・サービスの価値を計る尺度の価値を下げるということだ。わかりやすく例えれば、「これまで80cmとしていた長さを今後は1mと呼ぶ」と変更すれば、3,776mの富士山の高さは、実際は全く変わらないのに4,720m(3,776m/0.8)と言われるようになる。それと同様に、価値を変更しなかったドルと円の関係である為替相場は円安になり、価値の変わらない財・サービスの値段と株価は相対的に上がったのだ。

 ただし、この大きな流れの中で変わらないものがあり、それは名目価値で示された借金や預金の金額だ。そのため、物価が上昇すれば借金や預金の価値が目減りし、それによって借金をしていた人は得をし、預金をしていた人は同じだけ損をするという所得移転がある。そして、借金には、国債・社債・借入金・住宅ローンなどの負債、預金には銀行預金や貸付金などがあるのだ。

 そのような中、円の価値を下げると借金のある人が得をして預金のある人が損をし、それらの人の間でこっそり所得移転が行なわれているのだが、それでは通貨の信用がなくなるため、中央銀行の役割には「通貨価値の安定」があり、他国の中央銀行はそれをやっているのである。

 一方、日本の中央銀行である日本銀行は、「通貨の安定」ではなく「2%のインフレ目標」を掲げて金融緩和をし続けてきたため、為替相場では円安が進んで輸入品の価格が上がり、ロシアのウクライナ侵攻に対する制裁返しで資源価格自体も上がったため、日本の消費者物価はコストプッシュ・インフレで著しく上がったわけである。

 そして、これらの政策の結果はやってみなくても経済学の理論からわかる筈だが、日本政府と日本銀行がやってみた結果、やはり、*6-2-1・*6-2-2のように、実証されたのだ。

 つまり、*6-2-1は、①2023年分の毎月勤労統計調査速報で働き手1人あたり実質賃金は前年比2.5%減 ②名目賃金は物価の伸びに追いつかず ③1990年以降で減少幅は、消費増税のあった2014年(2.8%減)に次ぐ大きさ ④昨年の正社員の賃上げ率は名目賃金にあたる現金給与総額が1.2%増 ⑤消費者物価指数は3.8%増 ⑥40代男性は「給料は上がったが、値上げに追いつかず家計は楽にならない。食費を削り暖房器具の利用を控えるなどでやりくりしている」と語る ⑦50代主婦は「みんな高くて、今日はトマトまで買うのはあきらめました」と話す ⑧家計が圧迫されている状況が顕著 ⑨春闘に含まれない中小・零細企業の賃上げ率が低めだったため基本給等の「所定内給与」が1.2%増でかなり低い ⑩現実的には物価上昇率が下がらないと実質賃金はプラスにならず、今年中に実質賃金をプラスにすることは無理 等としており、名目賃金の伸びが物価上昇に追いつかず、実質賃金が下がり続けていることを示している。

 このうち②④⑤⑨は、主として円の価値低下と制裁返しによる輸入品の価格高騰によって物価が上がって消費者物価指数が3.8%増になっているのであるため、消費者が支払う金額の多くが海外に流出して国内に残らず、名目賃金を物価上昇分まで引き上げることができず、企業の中でも輸出が少ないため円安の恩恵を受けにくく、価格転嫁もしにくい中小・零細企業の賃上げ率が低いため、賃上げ率が1.2%増に留まっているのである。

 その結果、①③のように、名目賃金は決して物価の伸びに追いつかず、働き手1人あたり実質賃金が「前年比2.5%減」など、大きく減少し続けるのだ。

 その上、日本は、退職して年金暮らしの人口割合も高いため、⑥⑦⑧のように、家計が圧迫され、食費を削ったり、暖房器具の利用を控えたりなど、必需品の購入さえ抑えなくてはならない状況になった家計が多く、(7)1)で述べた「購買力平価(≒実質)による1人当たりGDP」は確実に下がって、国民は貧しくなったのである。

 そして、国民を貧しくして移転された所得は、日本政府や企業を負債(国債・社債等)の目減りを通じてひっそり潤しているため、⑩はわかっていても、日本銀行と政府は、金融緩和をし続けるのだ。解決策は他にあるのに、無駄使いの限りを尽くしながら、こういうことをする政府を、国民は信用してよいのだろうか?

 また、*6-2-2は、⑪総務省の2023年家計調査で、2人以上の世帯が使った金は実質で前年より2.6%減 ⑫物価高が家計に打撃を与え ⑬支出の3割を占める食料は前年より2.2%減り、特に魚介類・乳製品の落ち込みが大きかった ⑭家具・医薬品・小遣い・仕送りも減 ⑮外食は10.3%、宿泊料は9.3%増 ⑯物価の影響を含めた名目支出は1.1%増 ⑰財布から出てゆく金は増えたが、実際に買えるモノやサービスの量は減ったことになる ⑱2023年12月の支出は、実質前年同月より2.5%減 ⑲名目では0.4%増えたが、家賃等の住居費をのぞけば前年同月より0.5%減 ⑳家計が節約志向を高めている様子がわかる 等としている。

 実質所得が2.5%減少しているのだから、⑪⑫⑱のように、実質消費も前年より2.6%減少し、物価高が家計に打撃を与えたことは明らかだ。そして、⑯のように、物価の影響を含めた名目支出は1.1%増えたのに、⑬のように、食料でさえ前年より2.2%減り、特に価格の高い魚介類・乳製品の落ち込みが大きく、⑰⑲⑳のように、まさに財布から出てゆく金は増えたが、実際に買えるモノやサービスは減り、家計は節約志向を高めざるを得ないわけだが、これは体感と一致している。

 従って、当然、⑭のように、家具・医薬品・小遣い・仕送りも減少しているが、⑮の外食や宿泊料が10%前後増加しているのは、外国人観光客の増加に依るところが大きいのではないか?

3)国民を豊かにする持続的賃上げは、どうすれば実現できるか
 これまでよりも賃金を上げて国民を豊かにするには、民間企業の場合は、「売上高(A)ー売上原価(B)ー販売費・一般管理費(C)ー金融費用(D)ー税金(E)=純利益(F)」のうちの純利益(F)が黒字であることが必要だ。そのため、(A)~(D)のそれぞれに関して、(F)を増やす方法を記載する。

(A) 売上高を増やす方法
 売上高は、「販売単価x販売数量」であるため、i)付加価値を上げて販売単価を上げる ii)価値は変わらないが値上げする iii)販売数量を増やす の3つの方法がある。

 i)の事例は、(5)で述べた再生医療で副作用をなくしながらこれまで治せなかった病気を治すようなもので、付加価値が高く、最初に開発すれば販売単価が高くても世界で売れるため、販売数量も伸びる。(6)のEVも、再エネ電力は国内自給でき、燃料代を安くすることも可能で、静かで乗り心地が良く、環境負荷を下げるため、ガソリン車より高くても売れる。これが、消費者も納得する単価のつけ方で、それによる増益分は持続的賃金アップに回すことができる。

 ii)の「価値は変わらなくても値上げする」事例は、政府が盛んに提唱している方法だが、これでは全体として次々と物価が上がるだけで、すでに実証されたとおり賃金を物価以上に上げることはできないため、実質賃金が下がって販売数量が減り、1人1人の国民は貧しくなる。

 iii)の販売数量は、日本だけでなく世界も見据えた現在と将来のニーズに合った製品を提供すれば、世界でシェアを上げて販売数量を増やすことができ、日本は先進国として有利な立場にある。国内だけを見ても、人口が増える年齢層のニーズは高い。

 具体例を挙げれば、*6-4-1の介護や訪問介護のニーズは、現在でも高く、人手不足で、近未来には世界各国でニーズが増すことが人口構造や生活様式の変化を見れば明らかである。そのため、「介護は無駄遣い」と言わんばかりに、政府が工夫もなくサービスの対価としての介護報酬を他産業よりも低く抑え、介護サービスの提供体制そのものの維持を危うくさせているのは、再生医療やEVと同様、有望産業の芽を摘んでいることにほかならない。ちなみに、施設で過ごすよりも、ホームヘルパーの手を借りながら自宅で過ごす方が、QOL(Quality of life)が高いのは言うまでもない。

 また、*6-4-2のように、客が理不尽な要求をする「カスハラの防止」を条例化する意見が出ているが、客のクレームには合理的なものと不合理なものがあり、不合理なものを前面に出して合理的なクレームまでシャットアウトすると、製品やサービスを改善して付加価値を上げる有効な手段を失う。タクシーやバス運転手の名札義務化は、人手不足で客を無視する対応が増えたバブル期に始まったもので、それなりの効果を出していた。

 さらに、最近、うちの富士通製の新しいデスクトップPCがキーボードの上に倒れて画面が割れたので、富士通に電話で修理の依頼をしようとしたところ、電話は全く繋がらず、そのPCを買ったコジマを介して富士通にPCの修理をしてもらったら、画面を取り換えただけで新品を買うのと同じくらいの金額を請求されて呆れた。

 呆れた理由は、「新品を買え」と言わんばかりの態度で修理に消極的だったことで、「日本の製造業はここまできてしまったのかー」と思っていたところ、富士通の英子会社が開発し、イギリス全土の郵便局に導入された会計システムで、残高より実際の窓口の現金が少なかったため、イギリス各地の郵便局長らが2000年以降15年にわたり、横領等の罪に問われて収監されたり多額の弁償を強いられたりする冤罪事件が起こっていた。

 PCが計算した理論値と窓口の現金額の違いの理由は、(英国発の厳しい監査法人PWCが)監査すればすぐに特定でき、このような冤罪事件を起こす必要はなかった筈だが、日本にとっては、日本企業がこのようなお粗末な製品を作るようになった理由が大きな問題なのである。それは、過度に企業と労働者を守って顧客を疎かにする文化の発生で、この状況は1990年代の共産主義経済が市場主義経済と比較してよい製品を作れなかった時代とよく似ているのだ。

(B) 売上原価を減らす方法
 会社には、モノを仕入れて売る事業と、モノを生産して売る事業の二通りがある。

 モノを仕入れて売る事業の場合は、「売上原価」は仕入単価が低いほど減少するため、自社の従業員の賃金を上げるためには、仕入単価を下げる方法がある。しかし、輸入品が多く、円安で海外からの仕入単価が上がっている場合はそれができないし、下請けいじめもよくない。

 モノを生産して売る事業の場合は、「製造原価」の引き下げを通して「売上原価」を下げることになる。(6)のEVの事例では、部品点数がガソリン車の1/3であるため、組み立て工数が少なく、人手を減らすことができるので、従業員1人当たりの生産性を上げて「製造原価」を下げることができる。そのため、従業員1人当たりの賃金を持続的に上げることができるのだ。

 しかし、迅速に1人当たりの生産性を上げて持続的賃上げができるためには、過去の技術にしがみつく必要性をなくすことが重要だ。それには、イ)国民の教育を充実して技術やニーズをキャッチする力を養う ロ)研究力・普及力を上げる ハ)労働の流動性を高めて将来性のある部門に移動し易くするなど、我が国の教育・研究や労働慣行を見直す必要がある。

(C) 販売費・一般管理費を減らす方法
 「販売費・一般管理費」は、事業活動費用のうち原価に入らないもので、「販売費」は営業スタッフの給与や交通費・広告宣伝費・配送料・出荷手数料など、「一般管理費」は総務・経理等間接部門の人件費・通信費・消耗品費・原価に含まれない事務所の家賃や水光熱費などである。

 そのため、「売上原価」「製造原価」だけでなく「販売費・一般管理費」も人件費を含んでおり、賃金を上げるには「販売費・一般管理費」のうち人件費以外の部分を減らす方法と従業員1人当たりの生産性を上げる方法がある。

(D)金融費用を減らす方法
 「金融収益」は預金や有価証券等の受取利息・配当金など財務活動から得られる収益、「金融費用」は支払利息など資金調達にかかった費用で、(D)はそれをnet(純額)で示している。

 財務体質の良い企業は金融収益の方が金融費用より多くなるが、借入金等の負債の多い企業は金融費用の方が多くなる。そのため、財務体質を良くして運用を工夫すれば、金融収益が多くなってnetの金融費用が減り、賃上げにプラスになるが、生産性を上げるための投資をすれば一時的に財務体質が悪化し、本当に生産性が上がるのでなければ賃上げすることはできない。

(E)税金を減らす方法
 日本国憲法が第30条で「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ」と定めているため、企業は「売上高(A)‐売上原価(B)-販売費・一般管理費(C)-金融費用(D)」の「税引前純利益」に税法を適用して計算された法人税(国税)・住民税(市町村民税と都道府県民税)・事業税(都道府県民税)などを支払う。

 税引前に利益が出ず、法人税法による税務上の赤字である欠損金が発生している企業の場合は、法人税額が0になるだけでなく、その欠損金を翌期以降に10年間繰り越し、翌期以降の利益と相殺することができる。また、資本金の額もしくは出資金の額が1億円以下の中小企業に限り、前事業年度に繰戻し還付を請求することも可能だ。

 住民税には全企業に均等割があり、事業税には資本金1億円超の企業に「資本割」「付加価値割」の「外形標準課税」があるため、欠損金があっても一定の税金は支払わなければならない。また、住民税・事業税には欠損金の繰り越しや繰り戻し還付制度はない。

 そのため、税引前に利益が出ている企業も含め、税金の計算を誤って、本来なら支払う必要の無い税金を支払ってしまう羽目にならないよう、(税務署は払いすぎは指摘してくれないため)税額の計算時には税理士に相談することが推奨される。

 なお、個人も同様に、所得税法・住民税法・事業税法等に従って、年間所得に対する所得税(国税)・住民税(市町村民税と都道府県民税)・事業税(都道府県民税)などを支払っている。しかし、現在の日本は、国も地方自治体も会計すら正確にできず、無駄が多くて生産性の低い税金の使われ方が多いため、常により生産性の高い使い方にシフトさせる努力が必要で、それを可能にするためには国際基準の複式簿記による公会計制度の導入が不可欠である。

4)日本の賃金と労働市場の流動姓
 *6-3は、①日本の賃金は四半世紀にわたって伸び悩んだ ②労働市場が流動的な経済ほど賃金は高い ③転職に中立な社会保障・税制の整備を急ぐべき 等と記載している。

 このうち、①については、事実なので賛成だが、②については、例えば欧米のような雇用流動姓の高い社会は、日本の年功序列型終身雇用のように「能力があってもなくても一定の年齢までは少ないながらも一定の昇給があり、低くはあるが所得が補償される」ということはない。

 さらに、欧米先進国で4半世紀の間に賃金が2~4割上昇した理由は、不景気の業種では簡単にレイオフを行なって仕事のある業種や成長業種に労働移動させるため、各個人の生涯所得が増えるとは限らない。一方、日本はできるだけ正規社員のレイオフは行なわず、社内失業もないように従来の事業に固執するため、これが経済成長を妨げ、全体の賃金を低迷させることとなった。

 労働市場が流動的になると、能力のある人は所得の高い仕事に転職する機会も多いが、そうでない人は失業の可能性がある個人差の大きな社会となる。そのため、③の転職に中立な社会保障(失業・年金・医療・介護)や税制の整備は必要不可欠だ。

 また、*6-3は、④日本経済の行方を左右するのは賃金 ⑤日本で真に求められているのは経済の衰退を止めて成長軌道に乗せること ⑥その方法はデフレからの完全脱却で、賃金と物価の好循環を作ること とも記載している。

 しかし、これまで書いてきたとおり、賃金上昇の源泉は、付加価値をつけて稼ぐ力と労働生産性を上げて生産コストを下げる力である。つまり、付加価値を高め、労働生産性を上げれば、企業は利益を増やし、投資をして生産性を高め、従業員の賃金も上げられるのである。

 これに対し、④⑤⑥は、物価と賃金を短絡的に結びつけ、物価を上げれば賃金が上がって経済が成長軌道に乗るかのような主張を行なっており、実際の経済はそういう順番で進むわけではないため、ミスリードである。

 さらに、*6-3は、⑦問われるのは賃上げの持続性 ⑧賃金の決定要因は労働需給バランスで人手不足なら賃金は上がる ⑨物価と賃金の間には正の相関関係があるが、日本は長期にわたって物価上昇に賃金が無反応だった ⑩賃金は労働生産性に依存するが、日本の労働生産性は長期にわたって低迷し、賃金を停滞させている ⑪労働市場構造は、「非正規雇用/雇用全体」が1984年の約15%から2023年の約4割に上昇し、非正規社員の賃金は正規社員の7割程度のため、経済全体の賃金が低下した としている。

 このうち⑦の持続的賃上げは、国の一時的な補助金や号令で達成できるのではなく、各企業が付加価値を上げ、生産コストを下げて、本当に経済が軌道に乗らなければできないものである。

 また、⑨の物価と賃金の正の相関関係は、鎖国状態の国で無理やり賃金を上げれば、物価も少しは上がるかもしれないが、現代は鎖国状態にはなく、世界市場で自由競争が行なわれている時代だ。その中で、⑩のように、日本の賃金が1990年代から長期にわたって低く抑えられた理由は、i)共産主義諸国や開発途上国が安い賃金で世界市場に参入して製品を輸出し始めたこと ii)日本でも働く女性の割合が増えて労働力供給が増えたこと iii)団塊ジュニア世代が就職時期を迎えて労働力供給が増えたこと iv) 日本企業は、世界市場での競争に勝つために、販売市場が近くてコストの安い地域を世界中で探して製造業を移転させたこと などに依るのである。

 それに加えて、⑧の賃金の決定要因は、労働流動性の高い社会であれば労働需給バランスだけなので、人手不足になれば賃金が上がり、人手が余れば賃金は低く抑えられるが、日本は雇用流動姓の低い社会であるため、賃金が労働生産性と比較して高くなると、日本企業も海外の労働者を使って海外で生産することを選び、日本の製造業が空洞化した面も大きい。

 なお、⑪の日本の労働市場構造のうち、「非正規雇用/雇用全体」が1984年の約15%から2023年の約4割に上昇し、非正規社員の賃金は正規社員の7割程度で、経済全体の賃金が低下したのは、やはり不健全な労働市場の状態だと言わざるを得ない。

 日本企業が非正規雇用を増やした理由は、1990年代の不景気の時に新規の正規採用を抑え、1997年の男女共同参画基本法改正で性別による差別が禁止された時に女性を非正規社員として、労働者に対する差別をなくさなかったことが原因である。

 そのため、私は“非正規(労働法で守られない被差別労働者)”という雇用形態は、(本人が希望する場合を除いて)法律で禁止すべきであり、それが、日本国憲法27条1項の「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う」や同14条の「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」にも合致する方法だと思う。

・・参考資料・・
<女性初の首相は、隠された女性差別とも闘って変える人であるべき>
*1-1-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15854885.html?iref=pc_photo_gallery_bottom (朝日新聞 2024年2月3日) 容姿発言、上川氏対応に波紋 「毅然と対応して欲しかった」「女性のサバイブ、難しい現実」
 自民党の麻生太郎副総裁(83)が2日、上川陽子外相(70)の容姿を揶揄(やゆ)するなどした発言を撤回した。この問題をめぐっては、「どのような声もありがたく受け止めている」という上川氏の反応にも波紋が広がっている。「毅然(きぜん)と対応して欲しかった」との指摘があがる一方で、「責めるべきは麻生氏の側だ」と擁護する声もある。どう考えればいいのか。麻生氏は1月28日の講演で「俺たちから見てても、このおばさんやるねえと思った」「そんなに美しい方とは言わんけれども」と語った。上川氏は30日の会見で「様々なご意見があると承知しているが、どのような声もありがたく受け止めている」と述べ、麻生氏の発言への論評を避けた。これにSNSなどで様々な議論がわき起こった。「この同調圧力の強い日本社会で、同じ境遇にある女性たちも、大臣と同じような対応をしなければならないと感じてしまうリスクはないか」。2日の参院本会議で、立憲民主党の田島麻衣子氏が上川氏にただした。上川氏は「ありがたく」の表現はやめたうえで、「使命感を持って一意専心、努力を重ねていく」と述べ、正面から答えなかった。「外相として世界に間違ったメッセージを発信した」(立憲の蓮舫参院議員のX)との批判もあがっている。「百合子とたか子 女性政治リーダーの運命」の著書がある政治学者の岩本美砂子・三重大学名誉教授(67)は「女性が政界でサバイブする(生き残る)のは、まだまだ難しいという現実の表れ。女性の割合がせめて3割になれば」と言う。衆院の女性比率は10%、参院は27%。世界経済フォーラム(WEF)が昨年発表したジェンダーギャップ指数で、日本は146カ国中、過去最低の125位。政治分野では138位に沈む。一方で「次の首相候補にとの声も上がり始めた。政界での立ち位置の影響もある」とも指摘する。麻生氏は政権の中核で、昨年9月の内閣改造で上川氏の登用を推した経緯もある。今秋には自民党総裁選も迫る。「20人の推薦人を集め総裁選に出ようと思えば、麻生氏に反論するのは性別を問わず難しい」とみる。国際人権法の学者で、SNS上のグループ「全日本おばちゃん党」を立ち上げたこともある谷口真由美さん(48)は、社会における女性の立場をおもんぱかる。「女性たちは、セクハラ発言などを受け流すのが度量だとたたき込まれてきた。麻生氏のような発言にさらされ続けると、感覚がまひしてしまう」。谷口さんは2021年、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の会長だった森喜朗氏(86)が「女性がたくさん入っている会議は時間がかかる」と述べた問題で、当事者側に立った経験もある。森氏が名指しした日本ラグビー協会で、理事を務めていたからだ。「渦中にある当人は自分の思いを言語化しにくい。周りの自民党議員が、代わりに批判して支えて欲しい」と願う。そのうえで上川氏に注文をつける。「首相候補の女性として、一挙手一投足が注目される存在になった。今後は、前にも後ろにもたくさんの女性たちがいることを意識して発言して欲しい」。元自民党衆院議員の金子恵美(めぐみ)さん(45)は「若手の男性議員は、今回の麻生氏のような発言のおかしさに気づき、同調して笑わなくなりつつある。『麻生節』で済まされる時間はもう長くない」と語った。麻生氏は2日、上川氏に関する発言を撤回したコメントの中で、「女性や若者が活躍できる環境を整えていくことが政治の責務」とも触れた。

*1-1-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/307000 (東京新聞 2024年2月2日) 「なぜ抗議しないのか?」 麻生太郎氏に「おばさん」と呼ばれた上川陽子外相の答弁で議事が紛糾
 上川陽子外相は2日の参院代表質問で、自民党の麻生太郎副総裁から「おばさん」と呼ばれたことに抗議しないのかを問われ、「世の中にはさまざまな意見や考えがあることは承知している」と述べるにとどめた。質問に正面から答えていない上川氏の答弁に対し、野党側が抗議し、議事は一時中断した。麻生氏は同日夜「表現に不適切な点があったことは否めず、指摘を真摯に受け止め、発言を撤回したい」とのコメントを発表した。麻生太郎氏へのルッキズム批判に当の本人、上川陽子外相が発言「どの声もありがたく」
◆「信念に基づき、政治家としての職責を果たす」
 立憲民主党の田島麻衣子氏は代表質問で、麻生氏の発言を問題視しなかった上川氏の対応について「同じ境遇にある女性たちも同じように対応しなければならないと感じるリスクはないか」「問題があるとすれば何か」「なぜ大臣は抗議をしないのか」と質問を重ねた。上川氏はこれらの問いに直接答えず「初当選以来、信念に基づき、政治家としての職責を果たす活動にまい進してきた」と説明。現在は紛争解決や平和構築の分野で女性参画を進める「女性・平和・安全保障(WPS)」の定着に向け、力を注いでいるとも語った。その上で「使命感をもって一意専心、(日本人初の国連難民高等弁務官を務めた)緒方貞子さんのように脇目もふらず、着実に努力を重ねていく考えだ」と強調し、「田島議員、ぜひWPS、一緒に頑張りましょう」と締めくくった。
◆「慎むべきなのは当然」岸田首相の「一般論」
 岸田文雄首相は一般論として「性別や立場を問わず、年齢や容姿を揶揄(やゆ)し、相手を不快にさせるような発言を慎むべきなのは当然のことだ」と述べた。上川氏の答弁に対し、立民の議院運営委員会理事が「質問に答えていない」と抗議。与野党の理事が議場内で協議した結果、自民理事が上川氏側に複数回にわたって再答弁を求めたが、上川氏は応じず、約10分間議事が中断した。田島氏は本紙の取材に「上川氏から十分な答弁がなく、がっかりした。たとえ外相でも、女性は抗議できないという自民党の限界が示された」と語った。共産党の田村智子委員長も記者会見で上川氏の答弁について「ジェンダー平等を進めようという立場なら、きちんと批判すべきではないか」と語った。

*1-1-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15851259.html (朝日新聞 2024年1月30日) 容姿言及、麻生氏に批判 女性差別/「評価する側」前提
 自民党の麻生太郎副総裁が、上川陽子外相について「そんなに美しい方とは言わんけれども」などと述べた。上川氏の外交手腕を評価する文脈だったが、「女性差別の姿勢が見て取れる」「今までの暴言の中でも最悪」と批判が広がっている。今回の発言は28日、福岡県芦屋町での講演の中であった。「俺たちから見てても、このおばさんやるねえと思った」としたうえで、「そんなに美しい方とは言わんけれども、英語できちんと話をし、外交官の手を借りずに自分でどんどん会うべき人に予約を取っちゃう」などと語った。上川氏の名前も「カミムラ」と誤った。ライターの望月優大(ひろき)さんは取材に「上川氏を褒める文脈であっても、外相としての手腕を語るうえであえて容姿に触れるのは、不必要かつ不適切。女性への差別的な姿勢が見て取れる」と話す。さらに望月さんは「俺たちから見てても、このおばさんやるねえと思った」という部分に着目し、「『俺たち』が女性たちを評価するという構図が、当然の前提になっている」とみる。「女性の登用をうたいながらも、実際に誰を引き上げるかを決める権力はいまだに麻生氏ら男性たちが握り続けている現実も映している」。東京大学の瀬地山角教授(ジェンダー論)は「上川氏を評価しているのは分かるが、男性の外相についてであれば、容姿に言及することはない。女性だけ美醜の評価を付け加えられる。女性が社会で生きていくうえでのしんどさがうかがえる発言だ」と話す。瀬地山氏は、昨年9月に上川氏ら5人の女性が閣僚に就いた際、岸田文雄首相が「女性ならではの感性や共感力も十分発揮していただくことを期待したい」と述べた問題との共通性を指摘する。「政治の世界で、女性は周縁にいるアウトサイダーだという認識があるから、男性政治家から『俺たちから見て』『女性ならではの』といった発言が出てくる」。麻生氏は問題発言を繰り返しながら、要職にとどまり続けている。副総理兼財務相だった2018年5月には、財務省の前事務次官のセクハラ問題をめぐり、「(女性に)はめられた可能性は否定できない」と答弁して撤回。「セクハラ罪っていう罪はない」との発言も問題になった。共産党の小池晃書記局長は29日の会見で「麻生さんは暴言を繰り返しているが、今までの中でも最悪じゃないか」として撤回・謝罪を求めた。

*1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240202&ng=DGKKZO78174220S4A200C2EAC000 (日経新聞 2024.2.2) 保利耕輔さん(元自民党政調会長) 筋を通す「まっとうな保守」
 謹厳実直が服を着たような人だった。ほとんど酒を飲まない甘党ということもあり、群れたがる同僚議員を尻目に夕方には自宅に直行し、本や資料を読みふけった。文相時代には高校野球の始球式の練習をしすぎて腕が上がらなくなり、痛みをこらえて投げた。予算獲得の陳情団が上京すると、ふつうの国会議員は本題もそこそこに地元の新しい噂話を聞きたがるものだ。「保利さんは書類から目を離さず、事業の中身について質問してきた」というのが、古川康衆院議員の佐賀県知事のときの思い出だ。役職を断ることでも知られた。2003年に農相を打診されると、教育基本法改正を巡る与党調整に注力したいとして固辞した。08年には自民党政調会長に指名されたが、「あれもこれもの政策なんかわからん」と難色を示した。仲のよい園田博之氏を会長代理にすることを条件にようやく引き受けた。当選同期だった麻生太郎自民党副総裁の弁を借りると「まっとうな保守」。そうした人柄がよく発揮されたのが、党憲法改正推進本部長のときだ。民主党政権に対抗しようと「自主憲法制定は党是」という声が党内で勢いを増していた。いまの憲法は米国の押し付けだ、と全否定する考え方だ。本当に自主憲法が党是なのか。党本部の薄暗い倉庫に自ら足を運ぶと、結党時の資料を探し出した。書いてあったのは「現行憲法の自主的改正」。全否定ではなかったとして、党のホームページの憲法に関する記述を「わが党は結党以来、『憲法の自主的改正』を『党の使命』に掲げてきました」と書き改めさせた。14年に政界を退く際、後継指名はしなかった。衆院議長を務めた父・茂氏と合わせて「70年も保利と投票用紙に書いてもらった。この先も、とは言えない」と語っていたそうだ。目立つことを嫌い、手柄を誇らない。常に筋を通す。大島理森元衆院議長は「ポピュリズムとはいちばん遠いところにいる政治家だった」と惜しんだ。 =2023年11月4日没、89歳

<地方議会の担い手不足と女性>
*2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240204&ng=DGKKZO78220590U4A200C2MM8000 (日経新聞 2024.2.4) 地方議会、止まらぬ空洞化、首長「専決」数、10年前水準 担い手不足も顕著
 地方議会の空洞化がとまらない。審議を担う議員のなり手不足は深刻になる一方だ。首長が議会ぬきで補正予算などを決める専決処分(総合2面きょうのことば)の多発も目につく。2012年の法改正で一定の歯止めをかけたはずが、コロナ禍で急増し、その後の戻りも鈍い。非常時に限るはずの仕組みのタガが緩んだままになれば、住民が行政を監視する地方自治の根幹が揺らぐ。
空洞化を端的に示すのは担い手不足だ。4年ごとの統一地方選で議員が無投票で決まる割合は右肩上がり。23年は改選定数1万4844人の14%(2080人)に達した。財政難や人口減少で定数は減っているにもかかわらずだ。地方自治は首長、議員それぞれを有権者が直接選ぶ二元代表制で成り立っている。とりわけ議員は地域に住んでいることが要件で、多様な住民の声を取り込む役割を担う。議会の力が弱まれば、首長のブレーキがききにくくなる。過去には例えば鹿児島県阿久根市で10年に市長が職員の賞与半減などの政策を次々と独断で進める騒ぎがあった。災害などの緊急時に限り、議会を通さずに予算や条例などを決められる「専決処分」の仕組みが抜け穴になった。当時の片山善博総務相は違法と断じ、歯止めに動いた。12年に改正した地方自治法は専決処分を議会が事後的に承認しない場合、首長が「必要な措置」をとって議会に報告するよう定めた。副知事や副市町村長の選任は専決できないようにした。抑制効果はすぐ表れた。10~12年に市町村合計で年平均1万件を超えていたのが、13年以降は8千件から9千件台半ばに落ち着いた。そのタガが再び緩んでいる懸念がある。きっかけはコロナ禍だった。感染が広がった20年は19年から5割以上増えて1万3千件を超えた。休業する飲食店への協力金などの補正予算が目立った。流行当初の混乱を考えればやむを得ない面はある。18、19年とゼロ件だった千葉県は5件になった。「命にかかわるのでその場で必要なことのみ専決していった」という。問題はその後だ。コロナが比較的落ち着いた22年もデータがそろう都道府県と市で計4500件超と19年より16%多い。22、23年の件数がコロナ前より多いある県は「物価高対策のため」と説明する。近年は疑問符がつくケースも散見される。21年は兵庫県明石市長が全市民への金券配布を専決し、翌年に問責決議を受けた。23年4月には広島県の安芸高田市長が良品計画の出店計画に関する費用を専決で計上した。議会は承認せず、6月に議員提出の修正案を可決した。自治体議会研究所の高沖秀宣代表は「緊急でない例もある。閉会中なら臨時会を開くなどすべきだ」と指摘する。コロナ禍で緊急事態宣言などを繰り返した首都圏でも神奈川県は件数が減った。議会局の担当者は「議会軽視ととられないよう、なるべく臨時会を開いて議決してもらった」と話す。どうすれば議会が機能を十分果たせるのか。ひとつの改善策として広がるのが通年制だ。予算編成などの時期だけ定例会を開くのと異なり、首長の招集を待たずに必要な議案を随時、議論できる。似た仕組みとして定例会年1回制もある。三重県が13年に採用し、翌14年以降は選挙期間を除いて専決処分はゼロだ。通年制などの導入例は全国で100を超えて徐々に増えている。もちろん計約1800の自治体の数に照らせばまだ少ない。地方自治は「民主主義の学校」と称される。それも首長と議会の健全な緊張関係があってこそだ。改革のネジを改めて巻き直す必要がある。

*2-2:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?R_FLG=1&b=2024・・=DMM8000 (日経新聞 2023/11/2) 女性増、国会に波及も 駒沢大学教授 大山礼子氏
 4月の統一地方選で女性議員が増えた地域もあったが、まだ十分とは言えない。2018年施行の候補者男女均等法の効果が徐々に出て増えたのだと思うが、いまだ200以上の議会で女性がゼロだ。2割前後で伸び悩む議会もある。女性が影響力を持つには議会の3~5割程度を占める必要がある。達成には選挙制度の抜本的な改革が不可欠と考える。都道府県議選では1人区をやめるべきだ。無投票が多く現職に有利になる。定数が多いと党派も多様になり、女性や若い世代も立候補しやすくなる。市町村議選では(複数の候補者に投票できる)「制限連記制」が選択肢の一つだ。「クオータ制」も導入した方がいい。女性候補が多い政党に対して政党助成金を優遇するなどの方法が考えられる。首長や議会が自ら動き、女性の立候補につなげた地域もある。女性議員が半数近い兵庫県小野市では役員に女性を登用した自治会に補助金を出す取り組みなどが功を奏した。女性管理職を増やした県もある。こうした動きの積み重ねも一定の効果は期待できる。そもそも少子化の進行は女性議員が少なかったことが大きな要因だ。子育て中の女性への支援などが手薄だった。女性が増えれば政策が刷新される。保護者が持ち帰っていた使用済みおむつを保育所で処分するよう求める動きも、始まりは女性議員らの議会質問だ。生活に身近な議題を扱う市町村などの議会に女性や若い世代は不可欠だ。女性が増えると若い世代なども増え、多様性のある議会につながる効果もある。議会運営もオンライン化や定例日開催など変化が生まれている。投票率も伸びる。東京都武蔵野市では特に20~30代の投票率が飛躍的に上がった。女性がいることで政策面の期待が高まり、政治への関心が上がったのだろう。有権者が地方議員を自分たちの代表と思えるようになったのではないか。海外では地方議会でまず女性が増え、国政に波及した例も多い。日本も地方議員を増やせば国会にもつながる可能性はある。

<学術会のジェンダー不均衡>
*3-1:https://digital.asahi.com/articles/ASS1D55X1S1DPLBJ003.html (朝日新聞 2024年1月16日) 学術界のジェンダー不均衡、日本が最も大きく 約1億本の論文を解析
 日本は、研究者のキャリアの長さや研究論文の引用などで学術界のジェンダーギャップ(性差)が大きく、中国と韓国に比べても後れをとっていることが浮かび上がった。日米の研究チームが1950~2020年に出版された約1億本の論文データを解析した。研究チームの米ニューヨーク州立大バファロー校の増田直紀教授(ネットワーク科学)は「日本の学術界のジェンダーギャップを改善するには、研究職を長く続けられるようにすることが重要。子育てで女性が研究を中断しなくてすむような取り組みや、大学で女性教員を増やすなど、様々な試みをさらに進めてほしい」と指摘している。同校や神戸大、東京工業大、京都大でつくる研究チームは、論文の著者名から性別を高い精度(90%以上)で推定する方法を開発。日本と韓国、中国、「その他(主に欧米)」で、研究者のキャリアと論文の引用・被引用回数などについて性差がないかを調べた。その結果、いずれの国でも研究者数は男性が女性より多いが、男女比の不均衡は日中韓が欧米などより大きかった。個々の研究者がキャリアを通じて発表した論文数をみると、日本では女性が男性より42・6%少なかった。中国は9・3%、韓国は20・2%、その他は31・2%少なく、日本の性差が最も大きく出た。女性の方が研究職としてのキャリア年数が短い(日本では男性より39・6%短い)ことが原因の一つと推測されるほか、研究論文の共同著者となっている場合が少ないことも背景にあるとみられる。年平均でみると、発表論文数はいずれの国でも性差はほとんど見られなかった。論文が引用された回数の指標をみると、日本では女性が男性より19・9%低かったが、中国と韓国では逆に女性の方が高かった。さらに詳しく分析すると、男性研究者が主導する論文(筆頭著者と最終著者が男性)を過多に引用し、女性研究者が主導する論文(筆頭著者と最終著者が女性)を過少に引用する傾向が日中韓でみられ、とりわけ女性主導論文の過少引用は日本が最も強かった。研究チームの中嶋一貴・東京都立大助教(計算社会科学)は「学術界のジェンダー不均衡をビッグデータから定量的に分析する社会的意義がある研究をできた。この問題は国際的な社会課題で、論文の査読や研究者の雇用などでも起こりうる。今後も、様々な角度からデータ分析し、世に問う研究に取り組みたい」と話している。研究成果が国際専門誌(https://doi.org/10.1016/j.joi.2023.101460別ウインドウで開きます)に掲載された。

*3-2:https://newswitch.jp/p/8732 (NewSwitch、日刊工業新聞 2017年4月20日) 日本の女性研究者は少数精鋭!日本の研究論文数、女性が男性上回る、直近5年に執筆した論文数、エルゼビア調べ
 日本の研究者が直近5年間に執筆した論文数は、男性より女性の方が多く、世界的な傾向と逆転している―。こんなデータをオランダの学術論文出版社、エルゼビアが明らかにした。人文社会系を含む同社の論文データベース(DB)による分析だが、日本の女性研究者の“少数精鋭ぶり”がうかがえるといえそうだ。これは同社の調査報告「世界の研究環境におけるジェンダー」で明らかになった。それによると、日本の研究者全体のうち女性の占める割合は約2割(総務省2016年調査では15・3%)。米国や欧州連合(EU)28カ国の約4割と比べて、女性の活躍度はかなり低い。しかし2011―15年の研究者1人当たりの論文数は、日本の女性が1・8本で男性の1・3本よりもやや多く、他国・地域と異なる傾向だった。論文数は96―2000年ではより男女差が大きく、日本の特徴として挙げられる。エルゼビアではこの結果を「日本では女性研究者のキャリア構築が他国より難しいだけに、生き残っている多くの人が有能なのではないか」とみている。調査は同社の論文DB「スコーパス」を活用。著者ファーストネームを基に、ソーシャルメディアの記載などから性別を導き、国別の傾向を分析した。

<再生医療:治る病気は治せばよいのに>
*4-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1189121 (佐賀新聞 2024/2/5) インスリン補充、生涯必要 1型糖尿病の佐賀県内患者支援 佐賀市のNPO、20~25歳対象、月3万円、ふるさと納税活用
 幼少期をはじめ幅広い年代で突然発症し、生涯にわたってインスリン補充が必要となる1型糖尿病の患者は、行政による医療費助成が終わる20歳以降は自己負担が重くなる。佐賀市の認定NPO法人「日本IDDMネットワーク」は若者を切れ目なくサポートしようと、佐賀県に住む25歳までの患者を対象に、4月から月額最大3万円の医療費支援を始める。全国で初めての取り組み。1型糖尿病はインスリンを分泌するすい臓の細胞が壊される病気で、主に注射によるインスリン補充が1日に4~5回必要になる。「小児慢性特定疾病」の一つで、18歳未満で発症した人は20歳までは医療費の助成が受けられる。20歳以上の患者は月1万~3万円程度の自己負担が発生し、出費を抑えるために治療の質を落とすケースも少なくないという。同法人はこうした現状から、20歳以上の患者や、18歳過ぎの発症で「小慢」の対象にならなかった患者について、25歳まで支援する体制を整えた。自己負担から所得に応じた一定額を差し引いたうち、月3万円を上限に助成する。財源は、佐賀県の企業版ふるさと納税を通じた寄付で賄う。昨年7月から昨年末までに1千万円を超える金額が集まり、支援の開始時期を今春に決めた。対象となる県内の患者は30人ほどを見込む。国内の1型糖尿病患者は10万~14万人とされる。同法人の岩永幸三理事長(61)は「治らない病気でありながら国の難病に指定されず、経済的な事情で望む治療を受けられない患者がいる。われわれだけでは人手や資金に限りがあり、取り組みが全国に広がることを期待したい」と話す。
*制度や寄付の問い合わせは日本IDDMネットワーク、電話0952(20)2062。

*4-2:https://www.amed.go.jp/news/release_20220214-01.html (東京大学日本医療研究開発機構 2023年2月14日) 成熟膵島細胞を増やすことに成功―糖尿病の根治に向け、新たな再生治療法の可能性を発表―
●発表者
 山田 泰広(東京大学医科学研究所 附属システム疾患モデル研究センター 先進病態モデル研究分野 教授)
 平野 利忠(東京大学医科学研究所 先進病態モデル研究分野 大学院生)
●発表のポイント
 ・成熟した膵島細胞(注1)は自己複製能を持たず、その機能低下が糖尿病の原因となっています。本研究は、出生前後に増殖する膵島細胞でMYCL遺伝子(注2)が発現し、MYCLを働かせると成熟した膵島β細胞(注3)に活発な自己増殖が誘発できることを見出しました。
 ・体内でMYCLを発現誘導する、あるいはMYCLにより試験管内で増幅させた膵島細胞を移植することで、モデルマウスの糖尿病を治療できることを示しました。
 ・本研究成果による試験管内での膵島細胞の増幅や、遺伝子治療(注4)による生体内での膵島細胞の増殖誘導は、糖尿病の根治を目指した新たな再生治療法となることが期待されます。
●発表概要
 ・平野利忠大学院生(東京大学医科学研究所 先進病態モデル研究分野)、山田泰広教授(同分野)、京都大学、愛知医科大学らの研究グループは、出生前後に増殖する膵島細胞で高発現するMYCLに着目し、MYCLを働かせることで生体内外の成熟膵島細胞に活発な自己増殖を誘発できることを明らかにしました。また、MYCLによる自己増殖の誘導には、遺伝子発現状態の若返りが関与することを示しました(図1)。さらにMYCLの発現により増殖した膵島β細胞は糖に応答してインスリン(注5)を分泌し、モデルマウスの糖尿病を治療できることを示しました。
 ・本研究は、MYCL遺伝子により体外で増幅させた膵島細胞を再び体の中に戻す細胞移植療法や、MYCL遺伝子治療による体内での膵島細胞増幅技術の開発といった、膵島細胞の再生医療開発への応用が期待されます。本研究成果は2022年2月10日(英国時間)、英国医学誌「Nature Metabolism」(オンライン版)に掲載されました。(以下略)

<SDGS:EVと再エネの遅れは何故起こったのか>
*5-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240207&ng=DGKKZO78288850W4A200C2TB1000 (日経新聞 2024.2.7) 輸入EV販売、1月11%増 BYDシェア2割
 日本自動車輸入組合(JAIA)が6日発表した1月の電気自動車(EV)の輸入販売台数(日本メーカー車除く)は、前年同月比11%増の1186台となり2カ月連続で増加した。そのうち約2割を中国のEV大手、比亜迪(BYD)が占めて存在感を高めた。独メルセデス・ベンツなど欧州勢もEV車種をそろえており、顧客の選択肢が増えたことで輸入EVの販売が伸びている。BYDの販売台数は前年同月比約6倍の217台だった。同社は2023年1月に日本の乗用車市場に参入し2車種のEVを展開している。主力車種は多目的スポーツ車(SUV)「ATTO3(アットスリー)」だ。最先端の安全装置などが人気で、高級車からの乗り換えや60代以上の顧客も多い。ただ、同社の担当者は「輸入EV全体をみると販売台数はかなり少ない。BYDの認知度もまだまだ低いので高めていく必要がある」と語った。同社は24年春にもセダンEV「シール」を日本に投入し、25年末までに国内の販売拠点を100カ所まで増やして拡販する方針だ。輸入車全体では17ブランドが118モデルのEVを日本で展開している。JAIAは各メーカーのEV販売台数を公表していないが、輸入EVでは独フォルクスワーゲン(VW)の「ID.4(アイディー4)」や同アウディの「Q4 e―tron(キュー4イートロン)」など欧州メーカーを中心に売れている。JAIAの担当者は「欧州メーカーなどが多様なグレードのEVを揃えたことで販売が安定してきた」とした。

*5-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240207&ng=DGKKZO78285620W4A200C2CM0000 (日経新聞 2024.2.7) 太陽光パネル、撤去難題、30年代以降、相次ぎ「引退」へ 傾斜地作業は費用割高に
 事業終了後の太陽光パネルの撤去積立金が少なくとも災害リスクがある斜面に立地する全国1600施設(500キロワット以上)で不足する恐れが浮上している。放置や不法投棄につながる可能性もあり、適正処理へ向けた仕組み作りが不可欠だ。2012年に始まった固定価格買い取り制度(FIT)による買い取り期間は10キロワット以上で20年間。32年には各地の施設で買い取り期間が終了し始め、売電価格が大幅に下落する見通し。パネル寿命も25~30年程度とされ、各自治体は発電所の維持管理や更新を怠る事業者の増加を懸念する。高まる不安を払拭しようと政府は再エネ特措法を改正し、事業者に毎月売電収入の4~7%程度を10年にわたって強制的に積み立てさせる制度を22年に開始した。しかし、水準の算出根拠は解体事業者らへのアンケートを基とした平地での撤去・廃棄費。作業難易度が上がるため割高になるケースが多い傾斜地は考慮されていない。制度設計時の議論に参加した早稲田大学の小野田弘士教授は「データが限られる中、短期間での検討であったため立地条件までは議論が及ばなかった。一部で撤去費が十分でない可能性は否定できない」と指摘する。日本経済新聞の調べでは傾斜地に立地する施設は土砂災害(特別)警戒区域など、災害リスクが高いエリアだけでも全体の18%に上る。急な傾斜地での作業は公共事業の予定価格算出に使う賃金水準でみると平地に比べ3割高い(山林砂防工と普通作業員の全国平均を比較)。太陽光開発大手リニューアブル・ジャパンの撤去工事費の試算でも3割程度上振れする。資源エネルギー庁新エネルギー課は「傾斜地では発電効率が高くなることで売電収入も上がり平地より積立額が多くなる場合もある」とするものの、日経が傾斜地の発電効率の高さについて尋ねたところ「データはなく検証はしていない」と回答した。費用不足で放置された場合、災害も誘発しかねない。京都大学の松浦純生名誉教授は「排水路などが管理されず、表面侵食や土砂崩れが起きやすい状況を生む可能性がある。撤去に加え、植林などが不可欠」と話す。第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)では、30年に再生可能エネルギーを3倍に拡大することに130カ国が賛同した。日本でその中核を担う太陽光の持続可能性を高めることは社会的責務といえる。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の試算では使用済みパネル排出量は36年に年17万~28万トン。大量廃棄に備え、撤去や事業終了後の対応を促す狙いを盛り込んだ条例を制定する自治体も出始めた。神戸市は「多額の費用がかかる撤去や災害時のパネル飛散などに対応する」(環境保全課)ため、20年、5万平方メートル以上の設備新設時に、廃棄費の積み立てを義務付けた。長野県木曽町も原状回復を条例で定めた。適正処理を促すには規制だけでなく、事業終了後のコスト低減や再利用などを促す取り組みも必要となる。環境省はリサイクル設備を導入する事業者に対し費用の半分を上限に補助金を出し、処理能力を向上させる。丸紅と浜田(大阪府高槻市)は共同出資で新会社を設立し、中古パネルの買い取り販売を始めた。環境エネルギー政策研究所の山下紀明主任研究員は「太陽光は今後も重要な電源のひとつ。FIT後を見据えた『備え』に力を入れ、将来の懸念を払拭する努力が欠かせない」と指摘する。

<付加価値向上・生産性向上と賃金の関係>
*6-1ー1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK097RF0Z00C24A2000000/ (日経新聞社説 2024年2月10日) GDP4位転落を改革加速の呼び水に
2023年の日本の名目国内総生産(GDP)がドイツに抜かれ世界4位に転落する見通しになった。米国に次ぐ2位を10年に中国に譲り、こんどは3位も明け渡すことになる。米欧との金利差の拡大などを背景に大幅な円安が進み、GDPの規模が目減りした。ドイツ経済は目下マイナス成長にあえぎ「欧州の病人」とも指摘される。逆転は為替変動の要因が大きく、それだけで一喜一憂する必要はない。とはいえ日本の成長力の底上げは進んでいない。今回の事態は怠った経済改革の加速を促す警鐘と受け止めるべきだ。ドイツ連邦統計庁が公表した23年の名目GDPを同年の平均為替相場で換算すると約4兆4500億ドル。日本の統計は同年9月までしか出ていないが、ドイツに並ぶには15日発表の10〜12月期のGDPが前年同期より3割増える必要がある。可能性は極めて低い。円相場は23年末に1ドル=141円台と年初より10円ほど下落した。逆にユーロは対ドルでやや強含み、日独逆転を生んだ。だが購買力平価で計算した日本の名目GDPはなおドイツを上回る。為替相場次第では再逆転も起きうる。順位自体より、潜在成長力の低さや生産性の伸び悩みに注目すべきだ。00年にドイツの2.5倍だった日本の名目GDPは四半世紀近くで同等に近い水準になった。日本の1人当たりGDPは世界で30位程度と低迷する。全体の規模では経済大国の一角にみえても、実力では見劣りすることを真剣にとらえねばならない。国際通貨基金(IMF)は年1回の対日経済審査後の声明で、昨年秋に決めた所得税減税などの経済対策について、的が絞られていないなどの理由で「妥当ではなかった」と評した。痛み止めに終始して中長期の改革に及び腰な岸田文雄政権には厳しい指摘だ。経済協力開発機構(OECD)も人手不足などを展望して定年制廃止による高齢者就労の拡大、女性や外国人の雇用促進を日本に提唱した。労働市場の流動性を高め、成長する分野や企業に人材が移動する仕組みを整えることがなにより重要だ。物価や賃金の上昇が始まり、日銀も超金融緩和策の正常化に動き出している。環境が変化するなかで政府も民間部門も日本経済が抱える構造問題を直視すべきだ。成長促進の方策を的確に練り、迅速に行動に移す必要がある。

*6-1ー2:https://toyokeizai.net/articles/-/605668?display=b (東洋経済 2022/7/25) 「仲良く貧乏」を選んだ日本は世界に見放される、1人当たりGDPは約20年前の2位から28位へ後退
 日本は、アメリカ・中国に次ぐ「世界3位の経済大国」とよく言われます(2008年までは世界2位)。ここでの3位は、GDPの「総額」の順位です。しかし、一国の経済水準は、GDPの「総額」ではなく、「国民1人当たり」で比較するのが、世界の常識です。日本の2021年の1人当たりGDPは3万9340ドルで、世界28位です(IMF調査)。2000年には世界2位でしたが、そこから下落を続け、世界3位どころか、先進国の中では下のほうになっています。経済の話題になると、景況感指数・物価上昇率・失業率・平均賃金といった数字がよく取り上げられますが、これらは経済の一部分に光を当てているに過ぎません。総合評価としてもっとも大切なのに日本ではあまり注目されていないのが、1人当たりGDPです。日本や主要国の1人当たりGDPはどのように推移してきたのでしょうか。そこから日本にはどういう課題が見えてくるでしょうか。今回は1人当たりGDPを分析します。なお文中のGDPデータは、IMFの統計によるものです。
●日本はもはや「アジアの盟主」ではない
 まず、1人当たりGDPを主要国と比較し、日本の立ち位置を確認します。グラフは、日本・アメリカ・中国・ドイツ・シンガポール・韓国の1990年から2021年の1人当たりGDP(名目ベース)の推移です。よく「バブル期が日本経済のピークだった」「バブル崩壊後の失われた30年」と言われますが、1990年は8位で、2000年に過去最高の2位でした。国際比較では、2000年が日本経済のピークだったと見ることができます。2000年以降の日本経済の低迷については、「小泉・竹中改革が日本を壊した」「民主党政権は期待外れだった」「アベノミクスが日本を復活させた」といった議論があります。ただ、この20年間、日本の順位はどんどん下がっており、「どの政権も日本経済の凋落を食い止めることはできなかった」と総括するのが適切でしょう。

*6-2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15857909.html (朝日新聞 2024年2月7日) (ニッポンの給料)上昇すれど、物価に追いつかず 昨年実質賃金2.5%減、2番目の減少幅
 厚生労働省は6日、2023年分の毎月勤労統計調査(速報)を発表し、物価を考慮した働き手1人あたりの「実質賃金」は前年比2・5%減だった。名目賃金が物価の大幅な伸びに追いつかず、減少は2年連続。減少幅は比較可能な1990年以降では、消費増税のあった14年(2・8%減)に次ぐ大きさだった。昨年の春闘では、正社員の賃上げ率(連合集計)が30年ぶりの高水準だったことなどもあり、名目賃金にあたる現金給与総額は、1・2%増(月額32万9859円)と3年連続で増加。しかし、実質賃金の計算に使う消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)は3・8%増と、上昇率が大きかった。厚労省の担当者は「今年の春闘でベースアップの水準がどれくらい上がるかを注目したい」と語る。また、昨年12月分(速報)の実質賃金は、前年同月比1・9%減だった。前年割れは21カ月連続だ。武見敬三厚労相は同日の会見で「経済の好循環によって国民生活を豊かにしていくためにも実質賃金の上昇が必要だ」と強調。賃上げしやすい環境整備や三位一体の労働市場改革の推進に取り組む考えを示した。
■食費削減・暖房も…
 買い物客でにぎわう東京都練馬区にあるスーパー「アキダイ」。昨年は食品メーカーからの仕入れ価格の上昇や光熱費の高騰の影響で、1年間で約1千品目を値上げした。鉄道会社に勤める40代の男性は「給料は上がったものの、全く値上げに追いつかず家計は楽になっていない」と語る。昨年は定期昇給で月給が約5千円上がったが、コロナ禍での業績悪化によって抑えられた賞与は元の水準には回復していない。食費を削るほか暖房器具の利用を控えるなど、「何とかやりくりしている」と苦笑した。50代の主婦は「みんな高くて、今日はトマトまで買うのはあきらめました」と話す。夫はシステムエンジニアで、昨年給料は上がっていない。数年前に2人いる子どものうち1人が離れて暮らすようになり、いまは3人暮らし。だが、「家計簿を見ると、4人暮らしのころより、今の方が食費が高い」と肩を落とした。連合総合生活開発研究所が昨年12月に公表した報告書によると、首都・関西圏の企業に勤める2千人へのアンケートで、1年前と比べて賃金の増加が物価上昇より「小さい」と回答したのは約6割に上り、家計が圧迫されている状況が顕著になっている。
■プラス化は物価減速後
 野村総合研究所の木内登英(たかひで)エグゼクティブ・エコノミストの話 基本給などの「所定内給与」が、1・2%増とはかなり低い印象だ。春闘に含まれない中小・零細企業の賃上げ率は低めだったためとみられる。今春闘の賃上げ率は、昨年より若干高めになると思うが、それでも今年中に実質賃金をプラスにすることは明らかに無理だ。現実的には物価上昇率が下がらないと実質賃金はプラスにはならず、そうなるのは2025年の後半だと思う。物価上昇率が賃金上昇率より高いので国民の生活は圧迫されている。働き手が賃上げが不十分だと判断すれば、消費が落ち込み、物価上昇率の低下が進む。そうなれば、実質賃金がプラスになるのが少し早まるだろう。

*6-2-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15857906.html (朝日新聞 2024年2月7日) 消費支出、3年ぶり減 前年比実質マイナス2.6% 家計調査
 総務省が6日発表した2023年の家計調査によると、2人以上の世帯が使ったお金は月平均29万3997円だった。物価変動の影響をのぞいた実質で、前年より2・6%減った。物価高が家計に打撃を与え、3年ぶりに減少に転じた。支出の3割を占める食料は、前年より2・2%減った。大半の品目で消費が減り、とくに魚介類や乳製品の落ち込みが大きかった。ほかに家具や医薬品、小遣いや仕送り金も減った。一方、外食は10・3%、宿泊料は9・3%増えた。コロナ禍の行動制限が解けて、外出する機会が増えたためだ。理美容サービスも2・2%伸びた。物価の影響をふくめた名目の支出は1・1%増えた。財布から出てゆくお金は増えたが、実際に買えるモノやサービスの量は減ったことになる。足元の消費も厳しい。23年12月の支出は、実質ベースで前年同月より2・5%減った。10カ月連続で前年水準を下回った。名目では0・4%増えたが、家賃などの住居費をのぞけば前年同月より0・5%減り、6カ月ぶりのマイナスになった。家計が節約志向を高めているようすがわかる。
■ギョーザ購入、浜松首位奪還
 総務省はこの日、都道府県庁所在地と政令指定市の品目別購入額も公表した。宮崎、宇都宮、浜松の3市で毎年、激しい争いを繰り広げるギョーザの年間購入額1位は、3年ぶりに浜松市に軍配が上がった。2位は宮崎市(前年1位)、3位は宇都宮市(同2位)だった。

*6-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240205&ng=DGKKZO78180240S4A200C2KE8000 (日経新聞 2024.2.5) 経済教室:賃上げの持続性(下) 労働市場の流動化こそ王道 宮本弘曉・東京都立大学教授(1977年生まれ。ウィスコンシン大博士。専門は労働経済学。IMFなどを経て現職)
<ポイント>
○日本の賃金は四半世紀にわたり伸び悩み
○労働市場が流動的な経済ほど賃金は高い
○転職に中立な社会保障・税制の整備急げ
 日本経済の行方を左右するのは賃金だ。日本では2022年春から物価が上昇し、約40年ぶりのインフレとなっている。生活必需品やサービスの価格が上昇するなか、賃金が伸び悩むと、国民生活は厳しさを増す。日本は過去30年間にわたり、低物価、低賃金、低成長、そして高債務の「日本病」に苦しんできた。日本で真に求められているのは経済の衰退を止め、再び成長軌道に乗せることだ。デフレから完全に脱却し、日本経済を新しいステージに移行させるには、賃金と物価の好循環が欠かせない。変化の兆しはある。厚生労働省によると、23年の春季労使交渉では賃上げ率が平均3.6%と1994年以来の3%台を記録した。日本経済新聞社によれば、冬のボーナスも75年の調査開始以来最高だった。24年も賃上げが期待される。しかし問われるのは賃上げの持続性だ。国民の間では「賃上げは一時的」との見方もある。果たして持続的な賃上げは可能なのか。賃上げの持続性を考える際には、そもそも賃金がどのように決まるのかを理解する必要がある。賃金の決定要因としては、主に労働需給のバランス、物価、労働生産性、労働市場の構造の4つが挙げられる。
 第1に賃金は労働サービスの価格であり、その需要と供給のバランスにより決定される。労働への需要が供給を上回れば、すなわち人手不足であれば賃金は上がり、逆であれば賃金は下がる。日銀短観の雇用人員判断DIによると、人手不足感は歴史的な高水準にあり、賃金上昇が期待できる。ただし労働需給のバランスが賃金に与える影響は、90年代後半から弱まっていることが指摘されており、今後、労働需給と賃金の関連性が強まるかどうかが注目される。また人口減少に伴う人手不足が賃金に与える影響も注視が必要だ。
 第2に賃金と物価は相互に連関するが、両者の間には正の関係がある。日本では長期にわたり、物価が上昇しても賃金が有意には反応しない状況が続いていたが、足元では物価上昇が賃金に影響を与えるように状況が変わりつつある。
 第3に経済学では賃金は労働生産性に応じて決まると考えられている。労働生産性が上がれば賃金も上昇するが、日本の労働生産性の伸び率は長期にわたり低迷しており、これが賃金の停滞につながっている。
 第4に雇用者の構成の変化も重要だ。日本では過去30年で雇用形態が大きく変化した。非正規雇用者が雇用者全体に占める割合は84年には約15%だったが、今は4割近くまで上昇した。非正社員の賃金は正社員の7割程度であり、相対的に賃金が低い非正社員の割合が高まることで、経済全体の賃金が低下している。
 これらの要因は、異なる時間軸で賃金に影響を与える。前者の2つはどちらかといえば短期的な影響を及ぼし、後者の2つは中長期的に賃金に影響する。日本の賃金の推移を振り返ると、97年をピークに減少が続いている。月給はピーク時と比べて1割低く、時給は近年上昇に転じているが、ピーク時とほぼ変わらない水準にある。これは25年に及ぶ日本の賃金低迷が長期的かつ構造的な理由によるところが大きいことを意味する。なお、四半世紀の間に、米国や英国など他の先進国では賃金は2~4割上昇している。本来、賃金は上がるものなのだ。持続的な賃上げのためには、人件費の増加分を価格に転嫁できる環境整備や最低賃金引き上げが重要だ。だが王道は、労働生産性を向上させるとともに、労働市場の二極化などの構造問題に対応することだ。これらを同時に達成できるのが労働市場の流動化である。経済全体の生産性を向上させるには、個々の企業や労働者が生産性を高めるとともに、経済全体の新陳代謝を促進することが欠かせない。労働市場の流動化は、適材適所とスムーズな労働の再配分を通じて、これらを実現できる。実際に、データは労働市場が流動的な経済ほど生産性が高く、その結果、賃金が高い傾向を示している(図参照)。また労働市場が流動的であれば、同一労働同一賃金がマーケットメカニズムにより達成されうる。労働市場の流動性を高めるには、労働移動を妨げる制度や政策の見直しが必要だ。社会保障や税制の改革により転職に中立な環境をつくることが求められる。政府が23年の「骨太の方針」で転職に不利な退職金優遇税制の是正を盛り込んだことは評価に値する。また一定の所得を超えると税や社会保障負担が発生する「年収の壁」は撤廃すべきだ。流動的な労働市場では、人的投資の軸は企業から労働者へとシフトする。労働者の自己啓発投資を促すため、個人の人的投資にかかる費用を課税対象所得から控除する「自己啓発優遇税制」の導入を検討すべきだ。また解雇ルールを明確化して、意欲と能力をもつ若者が活躍できるよう環境を整える必要がある。解雇の金銭補償の実現も重要だ。さらに、労働市場の流動性を妨げている日本的雇用慣行からの脱却を急ぐべきだ。終身雇用や年功賃金などの日本的雇用慣行は、経済・社会構造の変化に伴い時代遅れとなっている。古い体質の雇用慣行の維持や雇用の硬直化は生産性を下げる要因だ。特に賃金体系は働きに見合う報酬を受け取れる仕組みに変えるべきだ。「賃金=生産性」となれば、あらゆる世代が雇用機会に恵まれるし、若年層の所得向上も期待できる。生産性の向上には中長期の成長戦略が欠かせない。多くの企業が画期的な構想で成果を上げつつある。政府は、こうした民間蓄積の成果を最大限に活用するための方策を考えるべきだ。日本経済には変化の兆しがみられる。長年のデフレからの脱却も視野に入ってきた。重要なのは、デフレという穴から出た世界が、単にインフレの世界ではなく新しいステージだと認識することだ。日本経済は人口構造の変化、技術進歩、グリーン化といったメガトレンドの変化に直面しており、インフレだけでなく、これらの変化に適応できる経済を構築することが欠かせない。これは今後数十年の日本のグランドデザインが求められているということだ。包括的かつ大胆な改革パッケージが必須だ。とりわけ、人口が減少し急速に高齢化していく日本では、こうした状況でも国民が安心できる環境をつくることが求められている。高齢化を伴う人口減少下でも強い経済を構築することは可能だ。高齢者が様々な形で社会活動に参加し、生産的に貢献する構造に組み直すことができれば、経済社会のバランスシートは大きく改善する。長寿雇用戦略や健康増進産業の推進、給付と負担のバランスのとれた全世代型社会保障などやれることはまだたくさんある。また将来悲観の払拭のためにも、成長に配慮した財政健全化が欠かせない。人々が「明日は今日より素晴らしい」と感じる社会にしていくことが、持続的な賃上げにもつながると考えられる。

*6-4-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1191990 (佐賀新聞 2024/2/10) 介護報酬改定、訪問サービス減額は疑問だ
 2024年度から3年間の介護報酬の改定内容が決まった。介護現場の深刻な人手不足に対応するため、職員の賃金底上げを重点課題としたのが特徴だ。サービスの対価として介護事業者に支払う報酬を増やし、24年度に2・5%、25年度に2・0%の職員のベースアップ(ベア)を目指す。
介護職員の平均賃金は全産業平均より月約7万円低い。22年には介護の仕事を辞める人が働き始める人を上回る「離職超過」に陥り、多くの事業者が人材確保に頭を痛めている。改定では介護報酬全体で1・59%増額するうち、0・98%分を賃上げに充てる。職員の処遇改善を優先するのは妥当な措置だろう。もっとも、今年の春闘では連合が5%以上の賃上げを目標に掲げており、介護職員のベアが想定通りに実現したとしても、他産業との格差が広がる懸念はある。人材流出に歯止めをかける効果を上げられたかどうか、現場の実態を調べて検証することが欠かせない。事業者への報酬を増やすと、利用者の自己負担や保険料も上がることになる。しかし職員の離職が続くと、介護サービスの提供体制そのものの維持が危うくなりかねない。政府は国民に対し、処遇改善の重要性を丁寧に説明する必要がある。今回の改定で気がかりなのは、特別養護老人ホームなど施設系サービスの基本報酬が軒並み引き上げられるのと対照的に、訪問介護サービスでは引き下げられる点だ。訪問介護は、自宅で暮らす要介護の高齢者の日常生活を支える基本的なサービスで、年100万人以上が利用する。家族にとっても、訪問介護を使うことで仕事との両立が実現できているケースは少なくない。訪問介護の担い手となるホームヘルパーは人手不足が続き、有効求人倍率は約15倍に上る。平均年齢は50代半ばと高齢化。ヘルパー不足による倒産や事業の休廃止も増えている。基本報酬を引き下げると、こうした状況が加速しないか。厚生労働省は報酬減額の理由として、事業者の経営実態を調査したところ、訪問介護分野全体の収益が大幅な黒字だったことを挙げている。処遇改善に取り組む事業者に報酬を上乗せする加算を拡充するので、加算を取得すれば経営にダメージはないと説明する。だが介護現場では、この調査は実情を反映していないとの指摘がある。集合住宅に併設され、その入居者を中心に訪問する事業者の場合、同じ建物内で多数の利用者にサービスを提供して効率よく収益を上げている。訪問介護の収益率は、こうした事業者の存在により高めの結果が出ている可能性があるという。一方で中山間地を含む郡部など、広い範囲に点在する利用者宅をカバーするような、地域に密着した小規模事業者の経営状態は厳しい。ひとくくりに基本報酬を引き下げるのは乱暴ではないか。同一建物を中心にサービスを展開する事業者に対しては、報酬を減額算定する仕組みを強化して対応すべきだ。高齢化は急速に進み、重度の要介護高齢者の増加が見込まれている。在宅介護や在宅医療の役割がより重要になるが、訪問介護による日常生活支援はその基盤でもある。基本報酬引き下げでサービス提供が手薄になり、「介護難民」が増えることにならないか心配だ。

*6-4-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15857944.html (朝日新聞 2024年2月7日) 「カスハラ」防止条例検討へ サービス業、労組など要望 東京都
 客が理不尽な要求をするカスタマーハラスメント(カスハラ)対策を検討している東京都の検討部会が6日、「条例化が望ましい」との意見を示した。これを受け、都が条例化へ検討を進めることになる。都によると、カスハラ防止を目的にした条例は全国的に例がないという。部会は商工団体や労働組合の代表者、大学教授、都幹部らがメンバーで昨秋から検討を続けている。条例化については、カスハラ防止の周知啓発を進める法的根拠として施行を望む意見が出た。業界ごとに異なる事情も勘案し、罰則付きではなく機運醸成や啓発が中心の「理念型」を推す意見も出された。こうした声を軸に今後、業界ごとのガイドラインなどの対策と合わせて、条例の中身が検討されることになる。カスハラは接客業界で広く問題化しており、タクシーやバス運転手が名札義務化をやめるなどの動きがある。サービス業従事者の多い東京で対策強化を望む声が労働組合の連合東京などから上がっていた。

<日本における避難民・移民の受入れについて>
PS(2024年2月19日追加):*7-1は、①ウクライナから日本への避難民2098人のうち日本での定住を望む人が39・0%(818人)に急増 ②うち1799人が日本国内で1年働ける「特定活動」の在留資格あり ③最新の国別受入数は、ドイツ113万人・ポーランド95万人・チェコ38万人・英国25万人・ロシア121万人 ④日本財団は延べ約2千人に最長3年間・年100万円の生活費を支援 ⑤首都キーウで美容サロンを営んでいたポジダイエバ・アンナさん(50)は2022年秋に10代の娘2人と来日し、目の不自由な夫も呼び寄せて日本で人生の新しいチャプターを始めると決めた ⑥就労には日本語が欠かせない場合が多いが、殆ど話せない人が3割、簡単な日本語のみが4割 ⑦日本政府は紛争から逃れた人らを難民に準じて保護する制度を始め、対象者には定住資格が与えられ、日本語習得や生活支援が始まる 等としている。
 また、*7-2は、⑧イスラエル軍はパレスチナ自治区ガザ南端のラファを激しく空爆 ⑨エジプトとの境界にあるラファにガザの全人口230万人の半数以上がひしめく ⑩避難民の多くはシェルターやテントの劣悪な環境で暮らし、安全な飲み水や食料が殆どない ⑪イスラエルのネタニヤフ首相は軍の地上作戦を拡大する準備を整えるよう命じた ⑫アメリカのバイデン大統領は「民間人の安全を確保する信頼できる計画なしに進めるべきでない」と発言 ⑬人々はどこに行けばいいのかと困っている ⑭米政府は「最短でも6週間」の休戦合意の実現に向けて取り組んでいる ⑮検問所に近いのにラファでは支援物資が不十分 等としており、2月19日のNHKの報道は、⑯イスラエル軍が南部のナセル病院で2月15日~18日に作戦を続けた結果、WHOが「ナセル病院は1週間の包囲と作戦で既に病院として機能しておらず、約200人の患者の少なくとも20人は緊急転院して治療を受ける必要がある」と訴えた としている。
 ウクライナもガザも大変な状況だが、日本のメディアは悲惨さを情緒的に伝えるだけであり、これでは良い解決策は出て来ない。さらに、NHKはチャンネルや時間帯が余っているのに、「政治とカネ」以外の国会中継をまともに行わず、「政治は金まみれで汚い」という悪いイメージを国民に植え付けて民主主義を後退させている上、国民が本質的な問題点を深く考える機会を奪っている。民放は、これに加えて放送時間の1/3が広告であるため、「これが、記者や番組制作者の限界なのか?」と思う次第である。
 そのような中、日本では人手不足が叫ばれているのに、上の③のように、最新のウクライナからの受入人数は、ドイツ113万人・ポーランド95万人・チェコ38万人・英国25万人・ロシア121万人と10~100万人単位であるにもかかわらず、日本は、①のように、現在、避難民が2098人おり、そのうち日本での定住を望む人が818人に“急増”し、②のように、1799人にのみ日本国内で1年間だけ働ける「特定活動」の在留資格を与えているとのことである。つまり、日本は、避難民や移民の受入れが極めて少なく、かつ期間限定・就業限定なのである。もちろん、日本に来たばかりの時期は就業困難な人もいるため、④のような生活費支援も必要で、支援額はむしろ少なすぎると思うが、⑥の日本語力については、大部分の日本人が英語でコミュニケーションでき、日本語を話さなくてもできる仕事で日本語は不要であるため、日本語を就労要件にするのは発想が旧すぎると思う。例えば、⑤の美容師のケースでは、日本のやり方を研修した上で外国の美容師資格を持つ者にも日本における就労資格を与えれば十分稼げる。ちなみに、私は、フランス語は全く話せないが、旅行中にパリの美容室に入って英語で必要事項を話した後、黙って座っていたら日本より素敵な髪型にしてもらえたし、ODAでキルギス(旧ソビエト連邦)に行った時に見つけたスカートは、(裏地はついていなかったが)スタイルが抜群で気に入ったため、25年以上も大切に身につけていた。そのため、欧米における洋風スタイルの伝統の重さを実感しており、⑦のように、紛争から逃れた人に難民・移民として定住資格を与えるのは必要不可欠であると同時に、日本にとっても有益だと考えているのだ。
 そして、私が疑問に思うのは、パレスチナ自治区のガザ地区は面積365 km²(福岡市よりやや広い)、人口約222万人(福岡市は164万人)と過密な状態で、1947年に国連がパレスチナをアラブ国家とユダヤ国家に分ける決議を採択し、イスラエルが1948年に独立を宣言して以降、火薬庫になっているのに(https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/plo/data.html 参照)、どの国も自国への避難民・移民の受入れは表明せず、⑧⑨⑩のように、イスラエルのみを批判し、狭い場所で共存し続けることを強要している点である。疑問に思う理由は、広い国・人手不足の国でさえパレスチナ難民を受入れないのに、狭い土地で「共存せよ」と言うのはイスラエルとってもパレスチナにとっても無理だと思うからだ。そのため、⑪⑫⑭のように、イスラエルのネタニヤフ首相は軍の地上作戦拡大を命令し、バイデン米大統領は「民間人の安全を確保する信頼できる計画なしに進めるべきでない(最短でも6週間)」と発言しておられるが、“民間人の安全を確保する計画”は迅速に作る必要がある。何故なら、⑬⑮のように、検問所に近いのにラファで支援物資が不十分で、避難民はどこに行けばいいのかわからず、⑯のように、2月15日~18日にはナセル病院が既に病院として機能しなくなっている状態だからだ。そのような中、日本は人手不足の国であり、農林水産業・建設業・運送業・介護・観光業・軽工業等で特に労働力が足りないため、人口が減少している地域でガザの住民を入植させればよいと思う。大陸で揉まれながら4大文明の近くで生活し、アラビア語ができ、小麦・オリーブ・家畜の生産に慣れており、我慢強い人々の能力やスキルは、使い方によっては日本人以上なのだから。

*7-1:https://digital.asahi.com/articles/ASS2L6GN3S28ULLI001.html?iref=comtop_7_02 (朝日新聞 2024年2月19日) ウクライナ避難者、日本への定住希望が急増 「できるだけ長く」4割
 ウクライナから日本に避難している人のうち、日本での定住を望む人が、この1年で24・7%から39・0%に急増したことが、日本財団が定期的に実施しているアンケートからわかった。反転攻勢がうまくいかずに戦争が長期化するのを目の当たりにし、「状況が落ち着くまでは、しばらく日本に滞在したい」と答えていた人の多くが帰国を諦めたとみられる。日本に住むウクライナからの避難者は2月14日現在で約2100人。日本財団はこれまで、延べ約2千人に年100万円の生活費を支援。18歳以上を対象に、生活状況や意識を計5回アンケートしてきた。朝日新聞は、日本財団と契約を結び、日本財団からアンケート結果のデータ提供を受けて内容を分析した。第5回アンケート(1022人回答、昨年11~12月実施)で、「できるだけ長く日本に滞在したい」と答えた人が急増し、その1年前の第2回アンケートで24・7%だったのが、39・0%と1・6倍になった。これまで40%前後で最も多かった「状況が落ち着くまで」様子を見ようという人を初めて上回った。
●「日本で人生の新しいチャプター始める」
 首都キーウで美容サロンを営んでいたポジダイエバ・アンナさん(50)は2022年秋、10代の娘2人と来日した。「ミサイルが自宅近くに落ちるのを経験した娘は日本に慣れ、もう戻りたくないと言った。目が不自由な夫も呼び寄せ、日本で人生の新しいチャプター(章)を始めると決めました」
ただ、定住への課題は大きい。アンケートでは、働いていない人は52・8%と半数を超え、働いている人でも4分の3はパートタイムだった。就労には、日本語が欠かせない場合が多いが、ほとんど話せない人が3割、簡単な日本語のみという人が4割だった。
●専門家「経済的な自立策を話し合える場が必要」
 財団による生活費支援は原則として最長3年間で、来年には期限という人が出始める。日本政府は昨年12月、紛争から逃れた人らを難民に準じて保護する「補完的保護対象者」制度を始めた。対象者は定住資格が与えられ、日本語の習得や生活支援が新年度から始まる。明治学院大教養教育センターの可部州彦(くにひこ)研究員(難民の就労支援)は「戦争が長びくなか、日本での生活を設計する人が増えている。子どもが教育を受けるには資金がどれくらい必要で、就労するにはどんな技能や資格がいるのか。それぞれのライフステージに合わせた経済的な自立策を具体的に話し合える場が必要だ」と話した。

*7-2:https://www.bbc.com/japanese/articles/ceqjw22lv7go (BBC 2024年2月13日) ラファの避難者ら、イスラエルの地上作戦におびえる 国際社会は攻撃の抑制求める
 パレスチナ自治区ガザ地区ラファで、人々がパレスチナ人がイスラエル軍の地上作戦におびえている。同軍は12日未明にかけ、ガザ南端のこの都市を激しく空爆した。国連やアメリカなどはイスラエルに対し、多くの民間人を殺傷する地上作戦は実施しないよう警告している。エジプトとの境界にあるラファには、ガザの全人口230万人の半数以上がひしめている。イスラエルとイスラム組織ハマスの戦争が始まる前はラファの人口は25万人程度だったが、ガザ各地から避難者が押し寄せている。避難住民の多くは、にわか作りのシェルターやテントの劣悪な環境で暮らしている。安全な飲み水や食料はほとんどない。そのラファをめぐり、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は先週、軍の地上作戦を拡大する準備を整えるよう命じたと明らかにした。11日夜から12日未明にかけては、イスラエル軍がラファを空爆した。ハマスが運営するガザ保健当局によると、イスラエル軍の空爆とラファでの人質救出作戦により、一晩で少なくとも67人が殺害されたという。現地にいる医師のアフメド・アブイバイドさんは、イスラエル軍の空爆が絶え間なく至る所で続いていると、BBCに電話でメッセージを送った。人々は「どこに行けばいいのかと困っている」状態だとした。こうした状況を受け、国連のフォルカー・トゥルク人権高等弁務官は12日、ラファへの攻撃は「子どもや女性を大半とする非常に多くの民間人が死傷する恐れがあり、恐ろしいことだ」と警告。ガザへの「わずかな」人道支援は現在、エジプトが管理するラファ検問所を通過して運び込まれており、それが停止する恐れもあるとした。昨年10月7日のハマスによるイスラエル南部の襲撃では1200人以上が殺害され、250人以上が人質として連れ去られた。一方、ハマスが運営するガザ保健当局によると、イスラエルとの戦闘が始まってから、2万8100人を超えるパレスチナ人が殺害されている。
●「立ち止まって考えるべき」
 アメリカのジョー・バイデン大統領も12日、イスラエルのラファでの作戦について、民間人の「安全を確保する信頼できる計画なしに進めるべきではない」と発言した。バイデン氏は先週、イスラエルによるガザへの報復作戦を「度を越している」と異例の厳しい言葉で批判していた。バイデン氏はこの日、ヨルダンのアブドラ国王と会談。終了後、米政府は「最短でも6週間」の休戦合意の実現に向けて取り組んでいると述べた。イギリスのデイヴィッド・キャメロン外相も、ラファでのさらなる行動の前に、イスラエルは「立ち止まって真剣に考える」べきだと主張。欧州連合(EU)の外交を取り仕切るジョゼップ・ボレル外交安全保障上級代表は12日、ガザで「あまりに多くの人々」が殺されているとし、イスラエルへの武器の提供をやめるよう同国の友好国などに求めた。BBCにメッセージを送った前出の医師アブイバイドさんは、ガザ南部ハンユニスのナセル病院で勤務していた。しかし、イスラエル軍の空爆で自宅が破壊され、父親は脊髄を損傷。ラファへの避難を余儀なくされたという。ところが現在、ラファからも移動しなければならない可能性に直面している。アブイバイドさんは、どこに行けば安全なのか分からない状態だと話した。「軍の地上作戦が市内でまもなく始まるかもしれず、人々はとてもおびえている」。アブイバイドさんはまた、ラファでは人々の間で多くの病気が見られ、「投薬や治療を受けられる可能性が著しく低下」していることで状況は悪化しているとした。ラファにいる別の医療関係者は、「友人など会う人すべてが、インフルエンザ、コレラ、下痢、疥癬(かいせん)、そして新たにA型肝炎などにかかっていて、どんどん悪くなっている」とBBCに述べた。ラファで避難生活を送っているアボ・モハメド・アティヤさんは、12日未明にかけて空爆があったとき、テントの中で家族と寝ていたとBBCに説明した。「突然(中略)ミサイルがあちこちに撃ち込まれ、発砲があり、飛行機もあちこちに飛んできた。路上のテントと人々の頭上でこうしたことが起きた」。ガザ中部ヌセイラット難民キャンプから避難してきたというアティヤさんは、ヌセイラットではイスラエル軍からの退避指示があったが、この夜のラファでは事前の警告はなかったと非難した。「言ってくれればラファからどこへでも避難していた」。「もう安全な場所はない。どこも安全ではなく、病院さえも安全ではない。人々は死にたいと思っている」
●支援物資が不十分
 検問所に近いにもかかわらず、ラファには十分な支援が届いていない。現地の男性はBBCに、人々は何日も支援を待っており、届いても水の供給は不十分だと話した。ラファの女性は、「水が見当たらず、十分な量を手に入れることができない。水不足で喉がカラカラだ」と述べた。ガザ最大の人道支援組織の国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)のトップは12日、現地の秩序が崩壊しつつあると述べた。ハマスが運営する地元警察のメンバーらが殺害されたり、身の危険を感じて支援物資輸送車の警護に消極的になったりしているという。「地元警察がいなかったため、トラックや輸送車列が略奪に遭い、トラックは何百人の若者らに破壊された」。避難者の中には、飲食物の確保をめぐる不安より、次に何が起こるかわからない恐怖の方が大きいという人もいる。イブラヒム・イスバイタさんは、「以前は食べ物や水や電気の不足について考えていた。でも今は、この先どうなるのか、どこに行けばいいのかが分からずトラウマになっている。これが現在の私たちの日常だ」とBBCに話した。ラファから移動しなければならなくなったら、彼の家族はどこへ行こうと考えているのか。そう問われると、イスバイタさんは「実際のところ、まったく分からない」と答えた。

<GX移行債の支出対象について>
PS(2024年2月21,22《図》日):*8-1-1・*8-1-2は、①財務省が新国債「GX経済移行債」の初回入札を実施 ②初年度2023年度に1.6兆円、10年間で20兆円規模を発行予定 ③2050年の温暖化ガス排出実質0に向け産業構造転換を後押しする資金調達 ④海外で広く発行されている再エネ投資に使途を限った「環境債」より資金使途が広い ⑤初年度に製鉄工程の水素活用に2,564億円割り当て ⑥消費電力を抑える次世代半導体開発・工業炉の脱炭素・次世代原子力発電の開発も支援対象 ⑦次世代太陽電池・洋上風力発電・水素発電・次世代航空機・次世代船舶の技術開発も後押し ⑧EV等に使う蓄電池とパワー半導体の国内生産拡大に計4,800億円程度補助 ⑨省エネ性能の高い住宅機器導入・EVを含む低燃費車の購入補助事業に2000億円強充当 ⑩2023年度の1.6兆円からは「燃料アンモニア事業」は除外 ⑪資金使途が多岐で海外投資家から「グリーンウオッシュ」を懸念する声 ⑫政府は20兆円を呼び水に10年間で官民合わせて150兆円超の投資に繋げる ⑬環境への貢献度の高さを重視し、通常の国債より利回りが低い『グリーニアム』の水準が注目された ⑭応募者利回りは0・740%で直近の償還期間10年国債と比べグリーニアムによる利回り差は殆どなかった ⑮償還には2028年度から導入する化石燃料輸入企業への賦課金等を充てる としている。
 これらの記述の中には、「環境保護は経済活動には邪魔なものであるため、環境保護に追加コストがかかるのは当然である」「環境保護目的なら利回りの低い債権でも売れる筈である」という、日本が開発途上国時代に振りかざしていた前提が色濃く残っている。
 しかし、現代は、環境を悪化させる経済活動は許されず、環境を保護しながら高い利回りを上げることが求められる時代であり、その視点から見ると、⑩のアンモニア混焼は、環境保護が中途半端な上に、コストを上げるため、広く普及することのない技術だ。また、⑨のEV以外の低燃費車も、エンジンとモーターの両方を使うため、環境保護が中途半端なだけでなく、部品点数が多くて労働生産性は上がらずコストダウンも進まず、国内で産出しない化石燃料を使い続けるため貿易収支の改善にもエネルギー自給率の向上にも役立たない。さらに、⑥の中の次世代原発は、地震・火山国で面積の狭い日本に置く場所などなく、使用済核燃料の保管場所も限られるため普及できず、無駄な支出となる。このように、政府も民間も、将来の稼ぐ力を高める技術に投資しなければ、労働生産性は上がらず、貿易収支も改善せず、国民をより豊かにすることのできない、単なる無駄使いになるのである。
 そのため、①②③のように、財務省が産業構造転換を後押しする資金調達のため「GX経済移行債」を発行し、⑮のように、化石燃料輸入企業への賦課金等を償還に充てることとしたのは良いが、⑬のように、「環境への貢献度が高いから通常の国債より利回りが低い『グリーニアム』が生じる」と考えたのは甘すぎるため、結果として、⑭のように、グリーニアムによる利回り差がなかったのは当然なのだ。
 しかし、日本で遅れている⑨の省エネ性能の高い住宅機器の導入補助金や、⑦の次世代太陽電池・洋上風力発電・水素発電・次世代航空機・次世代船舶技術など、普及すれば環境保護・生産性向上・貿易収支改善・エネルギー自給率向上に役立つ技術への補助金や投資は、国民をより豊かにすると同時に税収も増やすため、無駄使いにはならない。
 なお、⑤の製鉄工程の水素活用2,564億円、⑥の消費電力を抑える次世代半導体開発・工業炉の脱炭素、⑧のEV等に使う蓄電池とパワー半導体の国内生産拡大4,800億円の補助は、1990年代末~2000年代始めならスタート段階で必要だったが、現在なら遅れた企業の甘やかしすぎである。今は企業の実質借入金額が年々減っていく時代であるため、国民に負担をかけず自らやればよい。従って、⑫の政府の20兆円の呼び水は10年でもその半額でよく、ましてや病気や要介護状態で働けない高齢者の預金を目減りさせながら負担増まで押しつけるのは論外である。
 そして、これが、④⑪のように、海外で広く発行されている再エネ投資に使途を限った「環境債」より資金使途が広すぎて、海外投資家から「グリーンウオッシュ」を懸念する声がある理由であり、私もその批判は正しいと思う。
 このような中、太陽光発電は、*8-2-1のように、窓ガラスやビルの壁面などで使える建材一体型の太陽光発電パネルが普及段階に入っており、都市が発電所となって、82.8ギガワット発電できる可能性が高い。そのため、これもまた「高すぎて普及できず、他国に後れをとった」などという事態にならないようにすべきで、まずはビル・マンションの新築や改装工事で義務化したり補助金をつけたりすればよいと思う。
 また、*8-2-2のように、フランスは、太陽光発電の適地を増やすため、80台以上の駐車場に太陽電池と一体化した屋根(ソーラーカーポート)の設置を義務付け、駐車場・農地等に設置する太陽光発電を再エネ拡大の突破口にするそうだ。さらに、*8-2-3のように、青森県つがる市は、再エネ発電促進と農林漁業の土地利用の調和を図るため2014年に施行された「農山漁村再生可能エネルギー法」に基づいて、農地で国内最大規模の風力発電所「ウィンドファームつがる」を稼働させて一般家庭約9万世帯分の電力を供給しているそうだが、風力発電機は田畑に陰を作らずに発電できるため、農地に適している。そのため、農地で再エネ発電をする場合には、「農業の戸別所得補償」のかわりに再エネ発電機設置補助金をつければ、発電能力を著しく大きくできると考える。

  
   2019.12.9HATCH     2022.10.29政治ドットコム 2022.7.29日経新聞

(図の説明:左図のように、都市への人口流入により、過疎地では全国平均より高齢者比率が高く若年者比率は低くなっている。また、中央の図のように、高齢者比率が高くなるほど、空き家比率も高くなる。その結果、このままでは、過疎地は、鉄道・バス・水道等が赤字となり、インフラの維持も難しくなっていく)

  
 2023.2.9政治ドットコム    白書・審議会データベース  2021.11.6日経新聞

(図の説明:左図のように、過疎地で頑張っていた高齢者がついに農業を辞めると、次世代のいない農家で耕作放棄地が増え、中央の図のように、農業総産出額は名目値でも漸減している。また、右図のように、燃油代・餌代の高騰で良質な蛋白源である漁業の産出額も著しく減少しているが、日本は製造業も振るわないため、「食料は輸入に頼ればよい」という考えは甘い)

*8-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240211&ng=DGKKZO78400190Q4A210C2EA4000 (日経新聞 2024.2.11) 14日 財務省、「GX移行債」初入札、脱炭素加速、市場どう評価
 財務省は14日、新たな国債「GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債」の初回入札を実施する。同日は10年債を、27日には5年債をそれぞれ8000億円予定する。脱炭素社会への移行(トランジション)を目的とした国債の発行は世界初の試みで、10年間で20兆円規模を計画する。正式名称は「クライメート・トランジション利付国債」。2050年の温暖化ガス排出の実質ゼロに向けた産業構造転換を後押しする資金を調達する。初年度の23年度は1.6兆円を発行する。海外では太陽光のような再生可能エネルギーの発電などに資金の使い道を絞る「グリーンボンド」が普及する。今回は化石燃料を主体とした経済・社会構造からの「トランジションボンド」と区別し、幅広い使途とする。初年度1.6兆円について、政府は製鉄工程の水素活用に2564億円を割り当てる。既存の製鉄は石炭を大量に使い二酸化炭素(CO2)を多く排出する。代わりに水素を使う製鉄技術の確立をめざし、日本製鉄やJFEスチールなどの取り組みを後押しする。消費電力を抑える「光電融合」といった次世代半導体の開発、金属部品などの熱処理に用いる工業炉の脱炭素、次世代原子力発電の開発も支援対象となる。具体的な支援先は未定だが、次世代の太陽電池や洋上風力発電、水素発電、次世代航空機・船舶といった技術開発も後押しする。電気自動車(EV)などに使う蓄電池と、パワー半導体の国内生産の拡大には計4800億円程度を補助する。省エネ性能の高い住宅機器の導入や、EVを含む低燃費車の購入補助といった事業には2000億円強をあてる。資金使途が多岐にわたり、海外投資家からは見せかけの環境対応にすぎない「グリーンウオッシュ」を懸念する声も聞かれる。日本のGX戦略は火力発電の燃料をアンモニアに転換するプロジェクトが含み、「石炭火力の延命」との見方がつきまとう。このため23年度発行の1.6兆円の使途から「燃料アンモニア事業」を除外した。財務省と経済産業省は1月中旬から投資家向け広報(IR)のため欧米各国を回った。財務省幹部は関心の高さを感じたという。SMBC日興証券の浅野達シニアESGアナリストは「グリーンウオッシュへの心配の声は小さくなった。むしろ初物としてのご祝儀相場に乗り遅れまいと需要が高まり、通常の国債より利回りが低くなる『グリーニアム』の水準が注目される」と話す。グリーニアムはグリーンとプレミアムの造語で、環境への貢献度の高さを重視して利回りが低く(債券価格は高く)なることを指す。政府にとっては通常より低いコストで資金調達できる。初回のプレミアムが高くても油断はできない。続く24年度は1.4兆円、その後に残る最大17兆円の発行を控える。「市場から日本のGX政策への信認としての適切なプレミアムを維持できるかが焦点となる」(浅野氏)。政府は20兆円を呼び水に10年間で官民合わせ150兆円超の投資につなげる。脱炭素技術はどれが普及するか見通せず、企業が予見可能性をもって投資に踏み切る環境づくりは欠かせない。資金の使い道や脱炭素の効果を広く開示し、安定的な資金調達をめざす。償還には企業のCO2排出に課金する「カーボンプライシング」の2つの手法を用いる。まず化石燃料の輸入企業に燃料のCO2排出量に応じて賦課金を28年度に導入する。もうひとつは排出量取引で政府が電力会社に排出枠を有償で割り当てる仕組みを33年度に始める。

*8-1-2:https://digital.asahi.com/articles/ASS2G62BQS2GULFA00N.html (朝日新聞 2024年2月14日) GX経済移行債8000億円を初入札 幅広い使途、環境債とは別物
 財務省は14日、脱炭素化と経済成長をうたう政策の財源にする「GX(グリーン・トランスフォーメーション)経済移行債」の入札を初めて実施した。募集額は8千億円で、償還期間は10年。27日にも償還期間5年のGX債の入札を実施し、年度内に計1・6兆円の移行債を発行する。欧州で幅広く発行されている、再生可能エネルギーなどへの投資に使途を限定した「環境(グリーン)債」とは異なる。脱炭素社会への移行(トランジション)を目的としており、使い道は幅広い。調達したお金は、二酸化炭素(CO2)を排出しない水素を製鉄に使う技術や、電力消費の少ない次世代半導体などの、研究開発の補助金などに使われる。さらに、次世代原子炉の開発やCO2排出を抑えた火力発電などへの投資、経済安全保障上の重要物資と位置づける半導体や蓄電池の供給を安定させるための補助金にも使われる。政府は今後10年間でGX債を20兆円発行し、これを呼び水に150兆円超の官民投資につなげるねらいがある。償還には、化石燃料を輸入する企業に対する賦課金などを充てる。課金制度は28年度から導入する。環境への配慮や社会貢献を使い道とする国債は、同じ発行条件の国債と比べて利率が低く、価格が割高になる「グリーニアム」がつくことがある。ただ、この日の入札でついた応募者利回りは0・740%で、直近の償還期間10年の国債と比べ、利回りの差はほとんどなかった。SMBC日興証券の小路薫・金利ストラテジストは、「事前の予想と比べ、軟調な結果だった」と指摘。業者間の入札前取引の際にグリーニアムが大きく出た反動で、需要が抑えられた可能性があるとして、「投資家が利回りの低さをどの程度まで許容できるかは、まだ流動的だ」と述べた。

*8-2-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC21C8P0R21C23A2000000/ (日経新聞 2024年1月10日) カネカ、壁面用発電パネル生産3倍 ビルが都市発電所に
 カネカはビル壁面などで使える建材と一体にした太陽光発電パネルの年間生産量を2030年までに現在の約3倍に増やす。都心部ではパネル設置場所が限られており、窓ガラスやビル壁面に潜在需要がある。建材一体型の普及により、現在の国内の太陽光発電能力に匹敵するとの試算もある。ビル群が都市発電所として電源の一翼を担う可能性がある。カネカは窓ガラスなどに使える建材一体型発電パネルを大成建設と共同開発した。自社開発した高性能の太陽電池をガラスの間に挟んで窓ガラスや外壁材として使える。兵庫県豊岡市の既存工場の生産能力を段階的に高める。新工場建設も視野に入れる。30年に現状の3倍となる年産30万平方メートル(東京ドーム6.4個に相当)に増やす。同社の太陽光パネルは住宅向けが中心で現状の売上高は100億円前後だ。カネカは大成建設との共同開発品以外にも複数の商品発売を計画しており、30年に建材一体型のパネルだけで現在のパネル全体と同等の100億円まで増やす考えだ。インドの調査会社IMARCによると世界の建材一体型太陽光の市場規模は、28年までに22年比3倍近い548億米ドル(約8兆円)に達する見通しだ。太陽光パネルは中国メーカーが世界供給の7割を占める。国内勢はカネカや長州産業、シャープなどに限られているが、建材一体型のような付加価値商品で先行する。太陽光発電協会(東京・港)によると今後、建材一体型太陽光発電が導入可能な立地の総数を発電能力に換算すると82.8ギガワット(設備容量ベース)ある。日本国内で稼働している太陽光発電の導入実績(87ギガワット、22年度末)の95%に相当する規模が見込まれる。建材一体型パネルは単体の太陽光パネルと比べて数倍以上コストがかかるが、脱炭素を進めたい企業が持つビルの壁面などに商機がある。環境省が24年度から建材一体型の太陽光発電設備の設置費用について、最大5分の3を補助する制度を導入する予定で今後の普及への期待は高い。AGCも自社開発品の増産検討に入った。同社は2000年から発電ガラスを提供しており、これまでに約250件の施工事例を持つ。24年上期までの工場の稼働率は100%に近い水準だという。30年に向けて生産能力が不足する可能性があり、AGCは工場新設を視野に生産体制の見直しを進めている。ビル用では現在は新築向け商品が中心だが、今後は既存の建物に後付けできる商品の発売も検討する。建材一体型太陽光パネルを巡っては、カネカや積水化学工業などが開発中の「ペロブスカイト」型太陽電池も普及を後押しする技術として注目されている。軽くて曲げられるといった特徴があり、建材を使って発電する場合のコストが下がる可能性もある。政府も補助金を出し官民あげて実用化を急いでいる。

*8-2-2:https://www.nikkei.com/prime/gx/article/DGXZQOUC097NM0Z00C24A2000000 (NIKKEIGX 2024年2月19日) 太陽光適地不足、「併設」で打開 フランスは駐車場義務化
 再生可能エネルギーの拡大に向け、太陽光発電の適地が不足していることが世界各地で課題となっている。フランスは80台以上の駐車場に太陽電池と一体化した屋根(ソーラーカーポート)の設置を義務付けた。駐車場や農地、水上などに設置する「デュアルユース太陽光発電」が再生エネ拡大の突破口になりそうだ。

*8-2-3:https://mainichi.jp/articles/20210515/k00/00m/040/064000c (毎日新聞 2021/5/15) 青森の農地に国内最大の風力発電所 風車38基、9万世帯分の出力
1年を通して強い風が吹き抜ける青森県つがる市の農地に、2020年4月から国内最大規模の風力発電所「ウィンドファームつがる」が稼働している。高さ約100メートルになる風車38基の総出力は一般家庭約9万世帯分の12万1600キロワット。年間約18万トンの二酸化炭素(CO2)削減効果が見込まれる。同発電所の建設は、再生可能エネルギー発電の促進と農林漁業の土地利用の調和を図るため14年に施行された「農山漁村再生可能エネルギー法」に基づき、農地を大半の用地として17年に着工。作付けの繁忙期を避けながら、約2年半かけて完成した。同法による市への協力金はメロンの栽培など農業振興に活用され、「エコな作物」として付加価値も期待される。風車6基が建つ菰槌(こもづち)地区で農業を営む長谷川藤行さん(77)は「ここは夏の寒暖差もあり、メロンなどの作付けにはとてもいい。農業の適地でエネルギーも日々作られ、うれしい」という。市では、政府が昨年末の「グリーン成長戦略」で導入拡大の方針を示した洋上風力発電の計画も進む。運営する「グリーンパワーインベストメント」(東京都港区)事業開発本部の力石晴子・対外連携推進グループ長(36)は「再生エネルギーは地域を強くする。より良い環境を地元の方々と作っていきたい」と話す。

<古代人の親子関係でもわかる時代の現代民法嫡出推定>
PS(2024年2月26、27《図》日追加):*9-1のように、人のDNAも全部読めるようになり、最近は遺跡に埋葬された古い人骨に含まれるDNAからでも埋葬された人の血縁関係がわかるようになって、人類の移動経路や文化がより科学的に証明されつつある。それ自体が素晴らしいことだが、ここで強調したいのは、*9-2のように、それでも民法772条は「嫡出の推定」という規定を置き、「妻が婚姻中に懐胎した子は原則として夫の子と推定」「婚姻成立の日から200日を経過後or婚姻解消・取消しから300日以内に生まれた子は、婚姻中の懐胎と推定」など、婚姻関係と妊娠期間を前提とする推定をしており、DNA分析での事実認定はしないことにしている。そのため、実際の親子関係と異なる推定をされた場合に関係者全員が納得できず不幸な思いをしているため、民法722条1項の推定はそのまま、その推定に異議がある場合は関係者の誰からでも要求してDNA解析を実施し、親子関係を明らかにできるよう変更すべきだ。

  
               すべて、*9-1より
(図の説明:左の図は、岡山県津山市にある小規模集団の首長の墓《古墳時代》の血縁関係で、父親とその子である異母姉妹が葬られており、母親は実家の墓に入るため葬られていない。また、中央と右の図は、和歌山県田辺湾岸の磯間岩陰遺跡《古墳時代》にある漁民の墓地で、三浦半島の男性との婚姻関係が明らかになっている)

*9-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240225&ng=DGKKZO78735340U4A220C2TYC000 (日経新聞 2024.2.25) DNAが導く考古学、古墳時代の血縁解き明かす
遺跡を発掘して歴史を解き明かす考古学で墓は有力な手がかりだ。近年、埋葬人骨に含まれる微量のDNAを解析して埋葬された人々の血縁関係を突き止めることが可能になり、注目を集める。収められた土器や装身具から分かるその人の社会的地位などと合わせて分析すると、権力の継承や人の移動が見えてくる。岡山県津山市に三成四号墳という前方後方墳がある。前方部の石棺には30~40代の男性と20~30代の女性が埋葬され、古墳時代の小規模集団の首長の墓とみられる。このほど、国立科学博物館の神澤秀明研究主幹らが2体の人骨の奥歯から細胞の核に含まれるDNAを抽出し、配列を詳しく調べると、この2人は夫婦ではなく親子だとわかった。後方部の石棺には高齢女性と女児が埋葬されていたが、女児は前方部の石棺の男性の子だった。先の女性とは姉妹ということになるが、2人は母が異なっていた。つまりこの古墳には父と腹違いの娘2人が埋葬されており、母たちは埋葬されていないということだ。古墳時代の埋葬人骨の関係を「ここまで詳しく特定できたのは初めて」と、古墳時代の社会構造を研究している岡山大学の清家章教授は話す。古墳時代や平安時代には、同じ墓に入るのは基本的に血族のみだった。結婚後も実家との結びつきが強く、夫婦も死後はそれぞれ実家の墓に入った。また当時は多産多死社会で、死別や再婚も多かったようだ。DNAの解析結果はこうした見方と符合する。庶民の墓についてはどうだろうか。和歌山県の田辺湾岸にある磯間岩陰遺跡は古墳時代の漁民の墓地で、8つの石棺に12体の人骨が埋葬されている。山梨大学の安達登教授らがこれらのミトコンドリアDNAを解析したところ、ほぼ全ての石棺に母方の血縁者同士が埋葬されていたが、一人だけ誰とも母方の血縁関係がない中年男性がいた。この男性の石棺には15歳の少年が先に葬られていたが、彼はほかの石棺の女性たちと母方の血縁関係にあった。男性が女性の誰かの夫で、少年が二人の間の息子だと考えるとつじつまが合う。なぜこの男性は実家の墓に戻らず、配偶者の実家の墓に葬られたのだろう。ヒントは彼らの埋葬方法にある。ほかの遺骨がまっすぐ足を伸ばしているのに対し、2人は膝を曲げ足を開いた形で置かれている。石室の底には貝殻とサンゴが敷かれ、海岸によくある穴だらけの磯石が置かれていた。いずれもこの地域の墓にはみられない特徴だ。実はこれらの特徴を備えた墓が、遠く神奈川県の三浦半島にある。田辺湾岸で作られた鹿の角の釣り針が三浦半島に伝わっており、当時から人の交流があったことがわかっている。男性はおそらく三浦半島から田辺湾岸にやってきて、ここで結婚して息子をもうけたが先立たれ、出身地の方法で埋葬したのだろう。自身が死んだときは実家は遠すぎて戻せず、同じ墓に埋葬されたのではないか。そんな仮説が浮かび上がり、調査が続いている。古墳時代より前の弥生時代の人骨も解析されている。鳥取県東部にある青谷上寺地遺跡からは100体分以上の人骨が出土しており、このうち13体について神澤研究主幹らが核のゲノムを解析した。その結果、現代の本州に住む日本人よりも縄文人寄りの人から、逆に渡来人寄りの人まで幅広く含まれていることがわかった。弥生時代の青谷上寺地には、現代の東京よりもっと多様な人々が暮らしていたらしい。「おそらく広い地域におよぶ交流が頻繁にあったのだろう」(神澤氏)。青谷上寺地は北陸や四国で産出する様々な素材を使って弥生時代の装身具「管玉」を作る職人の町だった。作った管玉は九州北部でも見つかっている。DNAの多様さは交易のハブだった当時の姿を反映しているのかもしれない。考古学に核DNAの解析が用いられるようになったのはここ5年ほどだ。血縁関係という重要な情報を明らかにするDNA解析は「今後、研究における基本的な手段になるだろう」と清家教授は話している。

*9-2:https://xn--ace-yc4g407bukbg65emna7a.com/index.php?%E6%B0%91%E6%B3%95772#:~:text=・・・%80%82 (弁護士法人エースより) 民法772条
(嫡出の推定)
第七百七十二条 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2 婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
注1:婚姻関係にある男女から生まれた子を「嫡出子」といいます。婚姻中に懐胎した子は、嫡出子と推定されます。「婚姻成立から200日経過後に生まれた子」又は「婚姻の解消から300日以内に生まれた子」は嫡出子と推定されます。
注2:民法772条に該当する「推定される嫡出子」の場合、認知届は不要です。
・推定される嫡出子(推定が及ぶ場合)とは、772条に該当する子供のことをいいます。
・推定が及ばない場合とは、772条には該当するが、その期間中、妻が夫の子を妊娠することが事実上不可能な場合を言います。例えば、夫が海外滞在中で、肉体関係がないにも拘わらず、妻が妊娠をした場合などがこれにあたります。
・推定されない嫡出子とは、772条に該当しない嫡出子のことをいいます。例えば「授かり婚」のように、婚姻成立前に妊娠し、婚姻成立から200日以内に産まれた子供は、婚姻関係にある男女から産まれたので嫡出子には該当しますが、772条における「推定」の適用はないので、推定されない嫡出となります。
・二重の推定が及ぶ嫡出子とは、前婚の父性推定と後婚の父性推定とが重複する場合の嫡出子、つまり前夫との婚姻解消300日以内かつ現夫と婚姻成立200日経過後に産まれた子ということになります。この場合、773条の父を定めることを目的とする訴えによって父子関係を決めます。

<赤松良子さんの死去を悼む>
PS(2024年2月29日、3月4日追加):*10-1-1のように、女子学生が極めて少なかった時代の東大卒で、1961年にさつき会(東大女子同窓会)を設立され、1963~67年にさつき会の代表理事を務められ、1979年には国連総会で採択された女子差別撤廃条約に国連公使として賛成票を投じられ、それが1981年に発効した翌年の1982年に担当の局長に就任して男女雇用機会均等法の成立に尽力された赤松良子さんが、2月6日に94歳で死去されて1つの時代が過ぎたことを感じざるを得なかった。ただ、1985年制定の第一次男女雇用機会均等法は差別の禁止が努力義務にされたため、女性を「補助職」という結婚退職を前提とする単純労働に就かせることによる女性差別が残り、これが(私が中心となって)1997年に採用・昇進・教育訓練等で禁止規定にするまで続いた。その第一次男女雇用機会均等法の理念に反して行なわれたことの1つ目は、*10-1-2の1986年の年金制度改革であり、「サラリーマンの専業主婦は保険料負担をせず、国民年金をもらえる」という第3号被保険者の創設である。これは、フルタイムで働く女性を不利に扱い、パートの非正規社員として働く主婦の年収が130万円以上になると夫の扶養から外れて年金や国民健康保険の保険料が発生し手取りが減ることによって女性が働かないことを奨励する現象を、現在でも生んでいる。また、第一次男女雇用機会均等法の理念に反して行なわれたことの2つ目は、1980年に三浦友和と結構して山口百恵が引退し、1986年に森進一と結婚して森昌子が引退して2つの才能が消えたことを著しく褒めて報道し、神田正輝と結婚しても歌手を続けた松田聖子は叩かれ続けたようなアホなメディアによる世論の誘導だった。これらの結果、未だに日本では女性蔑視がなくならず、*10-1-3のように、2024年2月にあった日本弁護士連合会の次期会長選挙で東京弁護士会所属の渕上玲子氏が当選し、法曹三者で初めて女性がトップに就いたのだそうだ。確かに、司法には「男性優位」の価値観が残っており、それは裁判結果にも出ている。ちなみに、公認会計士協会は、2016年に関根愛子氏を初の女性会長にしている。
 そして、現在でさえ、*10-2-1のように、公的学童保育は待機児童が多い上に利用時間や利用学年に制限が多く、これが共働き世帯の「小1の壁」になっているそうだ。これに対し、企業などが運営する民間学童には、預かり時間が柔軟で学習塾・習い事などのプラスアルファ機能を併せ持ち、親世代からの支持を伸ばしているところもあるそうだが、その一方で、*10-2-2のように、民間保育園を運営する企業が習い事サービスに力を入れ、保育料とは別に料金を徴収して「付加的保育」と呼ばれる様々なサービスを提供しようとすると、「福祉的観点から“平等”でない」として保育料以外のサービス料を認めない自治体が多いとのことである。しかし、“平等”として最低の保育サービスしか受けられなければ、母親が退職して子のケアに専念するか、子を諦めるかの二者択一にしかならないため、いくら児童手当をもらっても、保育料が無償化されても、少子化は進むだろう。このように、日本は、未だに「子持ちの女性は専業主婦かパートの非正規労働者であるべき(⁇)」という前提を維持し続けているのだ。さらに、*10-2-3のように、岸田首相は「物価高に負けない賃上げに必要な報酬の改定率を決定した」と強調されるが、新年度の介護報酬改定で訪問介護の基本報酬は引き下げられた。そして、「働く女性は家族の介護はできない」ということを考慮すれば、介護保険制度は必要不可欠であり、特に住み慣れた家で介護を受けられるためQOLの高い訪問介護は重要なのだが、女性が多い介護職の報酬は2021年8月の月給制の月額平均で26万5,216円であり、これは2020年の全産業平均賃金30万7,700円より約4万円も低く、3Kになりがちで責任の重い介護職の労働対価として見合わないのである。そのため、介護人材の不足で介護保険制度の維持にかかわるわけだが、それでも介護職の報酬を全産業平均より高くしない理由は、介護職に女性が多く、「女性のケア労働は、無償か男性の労働以下である」という女性蔑視の固定観念が残っているからだ。
 *10-3は、①全国漁協の役員に占める女性割合は2021年度で約0.5%(非常勤の監事や理事が大半で常勤理事は1人)に留まる ②19都道府県で女性役員は0 ③理由は「力仕事で長時間にわたる漁に出るのは圧倒的に男性が多く、女性の漁業者は少ないから」 ④「海の神様は女性で、女性が船に乗ると神様が嫉妬する」という言い伝えがある ⑤船や漁協に女性用トイレがない ⑥女性に適した漁具の開発がない ⑦女性・若者・外国人などの新しい力を入れなければ立ちゆかなくなる ⑧世界が持続可能な漁業を目指す中、資源管理や限られた漁獲物の価値向上のためのマーケティング・商品開発など活躍する余白はある ⑨これまでのやり方に固執せず、機械化・マニュアル化・データ活用党で誰もが参加しやすい漁業の方策を探るべき としている。
 しかし、①②の状況であるため、女性が全漁連会長になったことはなく、③については、沿岸漁業・養殖漁業は夫婦で従事しているケースが多いのに、女性が表に出ないだけである。また、④は、いい加減にやめるべき迷信であり、⑤は、小さな船なら個室トイレがあれば女性用と男性用を分ける必要も無い。さらに、⑥は、女性に適した漁具というより、魚群探知機(https://sea-style.yamaha-motor.co.jp/tips/gps/001/ 参照)の機能を上げ、力仕事の部分を自動化すれば、誰にとっても容易で生産性の高い漁業になるのだ。しかし、それができるためには、それらの機器を備えた漁船が漁業収入で購入できる価格であることが必要なのだが、日本は先進機器や新しい漁船が高価すぎて普及できないのである。その結果、⑦⑧⑨のように、多様性があった方が漁業の付加価値も上げられるにもかかわらず、多様な人が参加しにくく、生産性も低いため持続可能性さえ危ぶまれる漁業になっているのだ。そして、これは漁業だけの問題ではなく、国民全体の食料の問題なのである。

*10-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK072ER0X00C24A2000000/ (日経新聞 2024年2月7日) 赤松良子さん死去、女性活躍の道開く 均等法の立役者
 7日死去したことが分かった赤松良子さんは、男女雇用機会均等法の成立に尽力し、「均等法の母」と呼ばれる。小さな体にあふれるエネルギーで、女性の社会進出の道を開いた。大阪の画家の家に生まれ、津田塾と東大で学んだ。大卒の女性を採用するところがほとんどないなか、「婦人少年局」のある労働省に進んだ。男女平等に働きたいと思っても、壁の多かった時代。強みとなったのは、役所の外にも活躍の場を求めたことだ。多くの論文を執筆し、さまざまな人脈を広げた。国際感覚にも優れ、海外研修で欧米の働く女性の状況を見て回った。年齢や分野を問わず、国内外に多くの友人を持つ人だった。緻密で論理的、それでいて明るくユーモアもある。1960年代、女性の「結婚退職制」による解雇を無効とした判決が出ると、赤松良子ならぬ「青杉優子」のペンネームで、雑誌に喜びの評論を書いた。本領を発揮したのが、均等法だ。日本は国連の女子差別撤廃条約への批准を目指しており、そのための国内法整備が必要だった。国連公使として条約に賛成票を投じた赤松さんが82年、担当の局長に就任。経済界の根強い反対に対し、国際社会の流れを説き、根回ししてまわった。一方で、条文の多くが努力義務にとどまり、労働側の反発も強かった。妥協した法律とすることは、本人にとっても重い決断だったろう。「小さく産んで大きく育てる」「ゼロと1は違う」との思いは、その後の改正で結実した。退官後も、非政府組織(NGO)などの立場から活動を続け、生涯現役を貫いた。とりわけ、経済分野よりさらに遅れる政治分野の女性参画に力を入れてきた。「100までやる」と周囲に公言していた。原点には、かつて小学校も卒業できなかったという母親への思いがあっただろう。春には母親の郷里である高知に行く計画も温めていたという。好きな言葉に「長い列に加わる」をあげる。婦人参政権などを求めて戦前から活動してきた市川房枝・元参院議員や藤田たき・元津田塾大学長ら先人の努力に自らも加わり、後輩たちが後に続くのを励ましながら、笑顔で歩き抜けて行った。

*10-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240226&ng=DGKKZO78690640S4A220C2TCS000 (日経新聞 2024.2.26) 年金の主婦優遇は女性差別
 多くの若い女性が会社員の夫に養われる専業主婦に憧れを抱く時代は確かにあった。高度成長ただ中の昭和37年(1962年)。大映映画「サラリーマンどんと節 気楽な稼業と来たもんだ」に、こんな場面がある。田舎のしょうゆ問屋のひとり娘が商社の支社に勤める若手社員と見合いをし、女友達にこう自慢するのだ。「あたしはサラリーマンの生活に憧れちゃうな。ホワイトカラーは現代のチャンピオンよ!」。折しもその前年、すべての国内居住者が公の年金制度に入る皆年金体制が整えられ、昭和61年(86年)の制度改革で「サラリーマン世帯の専業主婦も国民年金の強制加入対象とし、健康保険の被扶養配偶者が保険料を負担せずに医療給付を受けているのと同様に、独自の保険料負担は求めない」(厚生労働省年金局の資料から抜粋)ことにした。保険料を払わなくとも国民年金をもらえる第3号被保険者の誕生である。3号という呼び方がいかにも昭和的ではないか。ちなみに自営業、農業、学生、無職の人など勤め人以外の人(1号)が月々払う年金保険料は1万6520円(免除・猶予制度あり)。専業主婦も夫が1号なら3号には分類されず、この額を払わねばならない。いま3号でも離婚して無職のままならやはり1号になり、保険料の支払い義務が生ずる。事ほどさように奇っ怪な制度だ。3号は制度開始当初の1093万人から721万人(2022年度末)に減ったが、その98%、709万人が女性だ。主婦の年金問題といわれるゆえんである。問題の核心は、パート社員として働き、年収が130万円以上になると夫の扶養から外れて年金や国民健保の保険料を払わねばならなくなり、手取りがかえって減る「年収の壁」だ。一定規模の企業で働く非正規社員が雇い主と常用的使用関係にあれば厚生年金に入る「106万円の壁」もある。これらの問題を浮かび上がらせたのがコロナ後に顕著になったサービス業の人手不足。3年あまりの鎖国状態を解きインバウンドをどっと招き入れたのだから当然である。飲食、宿泊、交通などを支える働き手がコロナ前の水準には戻ってこず、サービスが滞った。客室が空いていても清掃が間に合わず、泣く泣く予約を断ったホテルがある。経営者がパート・アルバイトの採用を増やそうと時給を上げると、年収の壁に当たるまでの「距離」が近くなり、従業員がさらに就労時間を減らす矛盾にも直面した。いわば厚労官僚の不作為が生んだ人手不足であろう。何とかできないか、という岸田官邸の意を受けて同省が23年10月、苦し紛れに始めたのが「年収の壁・支援強化パッケージ」だ。パート社員が繁忙期に残業するなどして年収130万円以上になっても、一定条件をみたせば夫の扶養にとどまれるようにした。だがサービス業の経営者から歓迎する声はさほど聞かれない。むしろ「問題の実態と複雑な背景をかんがみれば、実効性が十分に発揮されるか不透明だ」(経済同友会「年収の壁タスクフォース」座長の菊地唯夫ロイヤルホールディングス会長)などと、取り繕いを喝破する声が目立つ。従業員側も「政府の支援があっても年収を増やさない」と答えた女性が37%いた(23年12月の本紙ネット調査の結果から)。政権が閣議決定した「女性版骨太の方針2023」は支援パッケージが当座の策であるのを認め、3号制度を見直すよう厚労省に求めている。ところが厚労相の諮問機関、社会保障審議会・年金部会の議論はまことに低調だ。専業主婦に保険料支払いを求めたり消費税の増税論議に火がついたりと、新たな負担論が俎上(そじょう)に載るのを官邸が封印したためでは、といぶかる声が政府内にはある。3号問題は主婦優遇の是正という観点から語られることがもっぱらだが、角度を変えると700万人もの女性を、自立を阻む制度に押し込めて「差別を助長している面がある」(西沢和彦日本総合研究所理事)実態がみえてくる。彼女たちの就労意欲は旺盛だ。内閣府の分析によると、6歳未満の子供をもつ母親の就業率はこの20年間に倍増した。にもかかわらず夫に扶養される立場にとどめ置かれれば、家庭内でおのずと従属的になり、外で働く意欲が弱められ、企業に雇われても低い収入に甘んぜざるを得ない。少なからぬ主婦が差別的な扱いを受け入れているのだ。海外を見わたしても同様の制度をもつ国はない。厚労省退官後にスウェーデン大使としてストックホルムに駐在した渡邉芳樹氏は「日本には3号という難しい問題がある」と、同国の年金改革をリードしたヘドボリ社会相に打ち明けたらこう言われた。「夫婦でも互いに依存せぬよう自立を重視して税制を個人単位にするのが基本。わが国は社会保障も個人単位にした」。英エコノミスト誌は日本の年収の壁を紹介し、主婦の職場復帰が思うに任せない要因を探った特集記事を載せた。3号の廃止を求めているのは連合だ。そのために、所得比例と最低保障の機能を組み合わせた新しい年金制度への衣替えを提唱している。この改革案を真面目に議論する責務が社会保障審にはある。夫への依存を前提にした昭和の年金をいつまでも引きずるのは、みっともない。女性が真に自立するカギは、令和の年金改革である。

*10-1-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15871849.html (朝日新聞社説 2024年2月25日) 女性初トップ 法曹の景色 変えるとき
 法律家が性別に関係なく、のびやかに活動する環境づくりのきっかけにしてほしい。今月あった日本弁護士連合会の次期会長選挙で、東京弁護士会所属の渕上玲子(ふちがみれいこ)氏が当選した。女性の会長は初めてで、裁判所、検察庁を合わせた「法曹三者」でも、これまで女性がトップに就いたことはなかったという。「女性が日弁連のトップになることで景色を変えることが私の責任だ」と述べた。法律家には、法と正義に根ざして社会の課題や紛争を解決し、少数者の人権を守る役割がある。内なる多様性が求められるのは当然のことだ。ところが、女性が法曹になる道は、他の多くの専門職と同様、阻まれてきた歴史がある。初の女性の弁護士誕生は1940年、女性の裁判官、検察官が生まれたのは終戦後の49年になってからだ。今はどうか。「弁護士白書23年版」によると、裁判官と検察官(それぞれ簡裁判事、副検事を除く)、弁護士の女性の割合は、28%、27%、19%。着実に増えてきたとはいえ、半数には遠く及ばない。特に弁護士は、国家公務員である裁判官や検察官に比べて、育児休業など仕事と生活の両立のための制度を使いにくい壁がある。ただ近年、企業や官庁・自治体が弁護士の採用に積極的になり、働き方の選択肢は増えた。企業内弁護士でみると、女性は4割を超えている。日弁連は性別を問わず育児中の会費の免除などを制度化してきた。働きやすくする工夫をさらに考えてほしい。責任の特に重い立場に就く女性の割合は法曹三者とも少ない。最高裁裁判官は現在、15人中3人。しかも、これまでいずれも弁護士や行政官などの出身で、地裁、高裁の裁判官からは出せていない。1970年代には、司法研修所の教官らが女性の司法修習生に「女性は裁判に向いていない」などと差別的な発言をし、裁判官訴追委員会にかかったことさえあった。「男性優位」の価値観が残っていることはないか、裁判所は折に触れて自問すべきだ。近年の最高裁の重要判例をみても、婚外子の国籍や相続、女性の再婚禁止期間、性同一性障害の当事者の権利など、家族や性のあり方をめぐる問題が少なくない。さまざまな属性、背景の人が意思決定に関わることが望ましい。司法試験という門はだれにも開かれていると、若い世代に知ってもらうことも重要だ。法教育の一環で中学、高校などに出向き、法曹の活動を地道に伝え続けている人もいる。広がってほしい。

*10-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240229&ng=DGKKZO78825040Y4A220C2L83000 (日経新聞 2024.2.29) 共働き世帯「小1の壁」崩せ 首都圏、学童待機児童の対策急務、墨田区、3クラブ新設 定員3000人に増
 首都圏で小学生を預かる放課後児童クラブ(学童保育)に希望しても入れない児童が増えている。2023年度の待機児童数は東京都、埼玉・千葉の両県で全国の4割を占めた。保育施設での待機児童解消が進む中、今度は小学校に上がると子どもの預け先がなくなる「小1の壁」が深刻になっている。こども家庭庁の調査によると、23年5月時点で全国の学童の待機児童は約1万6300人。東京都が約3500人と最多で、埼玉県の約1900人が続いた。共働き世帯が比較的多い首都圏で対策が急務だ。東京都墨田区は24年度予算案に学童クラブ関連経費を約1億5600万円計上した。25年4月ごろまでに3つの公立学童クラブを新設し、区内全体の定員を約3000人にまで増やす。同区では毎年全体の6割の児童が学童クラブの利用を希望。立地などで希望施設の偏りがあり、実際に入れなかった児童は23年度当初時点で約120人に上った。さいたま市は西区の栄小学校など4校で24年度から「さいたま市放課後子ども居場所事業」を始める。保護者の就労などの要件を必要とせず、午後5時まで遊べる利用区分を設けた。保護者が就労や求職活動をしている場合は午後7時まで利用できる。さいたま市の幼児・放課後児童課の担当者は「パート勤務をしている保護者などからは、夏休みをはじめとした長期休業期間のみ放課後児童クラブを利用したいという声も多く、様々な家庭のニーズに対応できる仕組みが必要だ」と話す。公立学童は経済的な負担が少ない一方、利用時間や学年などに制限があり、保護者の就労状況によっては利用できない場合もある。そこで自治体が注目するのが企業などが運営する民間学童だ。預かる時間は柔軟に対応し、独自のサービスを提供する学童が増えてきた。ネクスファ(千葉県柏市)が運営する学童は学習塾の機能も併せ持つ。塾を利用する場合は夕方から算数や国語、英語などを学ぶ。社会課題について調べたり発表したりといった場も設ける。4月には新たに流山市に教室を設け、多くの共働きの子育て世帯が流入している地域で事業の拡大をめざす。工作やプログラミングなどプラスアルファの体験を盛り込み、親世代からの支持を伸ばしているのは習い事一体型の学童保育だ。ウィズダムアカデミー横浜上大岡校(横浜市)にはランドセルを背負った子どもたちが笑顔で集まってくる。ただ見守るだけでなく、子どもたちが自宅で過ごすようにほっとできる環境をつくり出すため挨拶にも工夫をこらす。性別や学年、家庭環境も異なる子どもたちが楽しく過ごすために、力を入れているのが月ごとに選べるアクティビティーだ。ピアノや書道など定番の習い事からプログラミングや理科実験教室まで、保育時間中に様々な体験ができる。習い事や教室をこれまでどおり続けたいという場合は習い事の付き添いにも対応する。平日は送迎ができないという理由で習い事を諦めている家庭も多い。同校は「家庭では家族の会話をゆっくり楽しむ時間にしてほしい」とし、子どもの成長をともに見守る二人三脚のパートナーとなりつつある。全国の学童への登録児童数は23年度、過去最高を更新した。需要が高まる中、学童は子どもが家庭の代わりに過ごす居場所であるだけでなく、学びや成長ができる場所としての役割も求められている。

*10-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240225&ng=DGKKZO78736650U4A220C2EA5000 (日経新聞 2024.2.25) 民間保育園「学び」競う、待機児童減で定員割れに 学研HD・JPHDが体操や英会話
 民間保育園を運営する企業が習い事サービスに力を入れている。保育の受け皿の拡大や就学前の子どもの数の減少で保育園に入れない「待機児童」が減少。地域によっては保育園が入園希望者を取り合う構図も出てきた。運営各社は体操教室や英語教育などで魅力を高め、収益的に経営が成り立つ子供の数を確保する「持久戦」を迫られている。こども家庭庁は毎年1度、待機児童数を調査している。最新の2023年4月時点のデータによると、待機児童の数は2680人と17年の2万6081人をピークに9割ほど減少した。こども園を含む保育所などの数は22年比345カ所増の3万9589カ所。定員に対する充足率は89%と全体としては「定員割れ」の状態だ。待機児童問題が深刻だった時代は、施設を開けば定員が埋まった。現在はサービスの質を上げなければ入園希望者を集められなくなっている。保育各社は保育料とは別に料金を徴収して様々な保育サービスを提供し始めた。学研ホールディングス(HD)は一部の園で22年度から体操教室を始めたほか、23年度には英会話プログラムも始めた。43施設中、埼玉や神奈川県内など26施設で提供している。週1回1時間のレッスンで、月6300円。外国人講師のビデオ通話で保育所とつなぎ、保育士が子どもたちの様子を見ながらサポートする。最大手のJPホールディングスは、英語や体操、ダンス、音楽などが習えるサービスを用意。ポピンズも、英語やアートなどの習い事プログラムのほか、アフリカの国立公園や水族館とオンラインでつなぎ、陸や海の動物の生態系を学べるプログラムを導入した。AIAIグループは、22年4月から運動プログラムと算数講座をセットにしたカリキュラムを提供している。運動は映像に映った講師のマネをして10分ほど体を動かす。運動後に机に座って、図形や引き算などの問題をプリント中心に解いていく。保育士が見回り、ヒントを出したり、丸付けしたりする。「付加的保育」と呼ばれるこうしたサービスは、保育園が立地する自治体によっては提供しにくいケースがある。認可保育所は、法律上で児童福祉施設とされる上、主に自治体からの補助金で運営されている。福祉的な観点から「平等」が重視され、保育料とは別にサービス料金をとる付加的保育を認めない自治体が多いからだ。こうした事情から、学研HDの英会話プログラムは保育時間外に実施し、講師などの派遣は外部に依頼。希望する保護者が直接、講師を派遣する事業者と契約する形をとっている。認可保育所と異なり、幼稚園や認可外保育所は比較的に自由に教育サービスを提供でき、預かり時間後も英会話やサッカーなどの課外授業を充実させている施設が多い。横浜市や川崎市のように認可保育所で付加的保育を認める自治体もある。JPHDなど保育各社は付加的保育が認められている自治体でのみ提供している。認めていない自治体では保護者が希望していても認可保育所での習い事は受けられない。保育大手の幹部によると、付加的保育を認めていない自治体から「保育所は福祉施設であり教育を施す場所ではない」「家庭の経済状況によって保育内容に差が出るため容認できない」と言われたこともあるという。日本経済新聞社が23年10月に実施した「サービス業調査」を通じて大手保育事業者に聞き取ったところ、同5月1日時点で「定員割れしている施設がある」と回答した企業は全体の52.8%(19社)にのぼった。定員割れしている施設数が「100施設以上」と答えた企業も2社あった。AIAIグループの貞松成社長兼最高経営責任者(CEO)は「待機児童の減少を受け、保護者が保育所を選ぶ時代になっている。魅力向上のために付加的保育が必要だ」と話す。収益的に経営が成り立たない場合、民間企業が事業撤退し、結果として子供の受け皿が不足する逆戻りの事態も懸念される。子どもの政策に詳しい日本総研の池本美香上席主任研究員は「これまでの政策が待機児童解消に重点が置かれており、保育内容の議論が置き去りにされた。習い事の質のチェックや、経済的な背景による教育格差などこども家庭庁が率先して実態調査し議論すべきだ」と話す。

*10-2-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15 (朝日新聞 2024年2月26日) 訪問介護報酬、実態に見合う改定か 新年度から基本報酬引き下げ、「加算」は手厚く
 「物価高に負けない賃上げに必要な報酬の改定率を決定した」。岸田文雄首相がこう強調する新年度の介護報酬改定で、訪問介護の基本報酬が引き下げられたことに反発が広がっている。現場からは「在宅介護は崩壊する」との声も。
■「セットで考えて」国は強調
 訪問介護の基本報酬はなぜ引き下げられたのか。厚生労働省は二つの理由をあげる。一つは、訪問介護で介護職員の賃上げにあてる「加算」を手厚く配分したことだ。今回の改定では賃上げのため報酬全体を1・59%増という、例年を大きく上回る水準で引き上げた。このうち介護職員の賃上げに0・98%分、残る0・61%分は「介護職員以外」の処遇改善に配分。介護職員の賃上げは報酬への「加算」で対応すると決めた。加算は、職場環境の改善や研修の実施などの要件を満たせば基本報酬に上乗せできる制度。今回、職員のうち介護職員の割合が高い訪問介護では、全サービスで最も高い加算率(最大24・5%)を設定。一方、基本報酬の増減を左右する0・61%分は、事務職など介護職以外が多いサービスに手厚く配分された。もう一つが訪問介護の収支差率(利益率)の高さだ。基礎データとなる「経営実態調査」で訪問介護は2022年度決算が7・8%と、全サービス平均の2・4%を大きく上回った。特別養護老人ホームがマイナス1・0%、介護老人保健施設が同1・1%で赤字となる中、訪問介護は「かなり良かった」と同省はみる。訪問介護サービスは総費用も大きいため、「収支差率の全体を眺め、調整した」(同省担当者)結果、訪問介護の基本報酬は引き下げることになったと説明する。ただ厚労省は、加算を取得していない事業所が新たに取得できれば、基本報酬が下がっても報酬全体では11・8%増になるモデルケースも例示。みとりや認知症関連の加算も充実したとし、「改定は基本報酬だけでなく、全てをセットで考えてほしい」と強調する。加算がとれなければ報酬は減る。同省によると、従来の処遇改善加算を取得できていない訪問介護事業所は約1割、約3千事業所。同省は、3種類あり複雑化した処遇改善加算を統合し、手続きも簡素化して取得を促す。取得が難しい小規模事業者には「伴走型で相談できる仕組みをつくりたい」としている。
■「高い利益率」根拠に疑義
 しかし、厚労省の説明には反論が出ている。引き下げの根拠とした利益率の高さ(7・8%)について、元になった厚労省の経営実態調査のデータに疑問の声があがる。現場関係者の団体などは、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)といった集合住宅に併設され、効率よく訪問ができるタイプの訪問介護事業者の利益率が高いため、全体の数字が押し上げられていると指摘。地域を一軒一軒まわる事業者とは経営状況がまったく異なるとし、カテゴリーをわけて検討すべきものだ、と国を批判する。さらに、経営が厳しい小規模事業者はこの種の調査に応じる余裕がないとし、結果は実態を反映していないとする。経営実態調査では、延べ訪問回数別の分析がある。それによると、訪問回数が月「2001回以上」の事業所は利益率が13%台なのに対し、「201~400回」では1%台と、大きな開きがある。全体として、集合住宅併設型や都市部の大手事業所といった訪問回数が多い大規模な事業所の利益率が高く、小規模事業所が苦しい傾向をうかがわせるデータだ。処遇改善加算を含む全体で考えればプラスだという説明にも異論が相次ぐ。そもそも取得には様々な要件があり、小規模事業所にとって事務負担の重さも指摘される。厚労省は事務負担を軽くして取得を促すとしているが、どの程度効果があるかは未知数だ。さらに、改定後に最も高い区分の加算を取得しても、基本報酬の減額と相殺され、収入が減ってしまう場合がある。NPO法人「グレースケア機構」代表の柳本文貴さんは、事業所の訪問介護事業の23年分の実績をもとに現行と改定後の報酬を試算。処遇改善加算分では年間約144万円の増収だったが、基本報酬引き下げで年間約222万円のマイナスに。全体では年約78万円の減収となった。柳本さんは「厚生労働省が『処遇改善を含めるとプラス』と強弁するのはおかしい。頑張って処遇改善に取り組み、すでに上位の加算を取っている事業所は収入減になるだけだ」と話す。
■現場は反発「終わりのはじまり」
 「基本報酬引き下げは暴挙」。認定NPO法人「ウィメンズアクションネットワーク」(上野千鶴子理事長)、NPO法人「高齢社会をよくする女性の会」(樋口恵子理事長)など5団体は2月初め、引き下げに抗議し、撤回を求める緊急声明を公表した。2400を超す個人・団体から賛同を得た、としている。呼びかけ団体となった「ケア社会をつくる会」世話人の小島美里さんは記者会見で、「在宅介護の終わりのはじまり」と強い危機感を表明した。事業者や介護家族などからも抗議は相次ぐ。NPO法人「サポートハウス年輪」理事長の安岡厚子さんは、ヘルパー不足が原因で昨年春、訪問介護事業所の休止を余儀なくされた。「(介護職員の)地位向上に国が本気で取り組んでいればこんなことにはならなかった」と語り、引き下げは「言語道断」だとする。公益社団法人「認知症の人と家族の会」前代表理事の鈴木森夫さんは、介護を担う家族の介護離職防止のために訪問介護は不可欠で、「(引き下げは)介護のある暮らしを崩壊させる」と訴える。訪問介護員(ホームヘルパー)は介護が必要な高齢者宅で調理などの生活援助や身体介護を担う。介護福祉士や、所定の研修を修了した人らが務める。人材が不足し、有効求人倍率は15・53倍(2022年度)。若い世代が入らず、60代以上が約4割。年収は施設などの介護職員より約17万円少ない(介護労働安定センターの介護労働実態調査、22年度)。東京商工リサーチによると、23年の訪問介護事業者の倒産は67件。調査開始以降で最多だった。(編集委員・清川卓史)
■「基本給」増額すべきだった
 川口啓子・大阪健康福祉短大特任教授(医療福祉政策)の話 ヘルパーの介護を受け、最期を自宅で迎えたいと考える人は多く、国も在宅介護を進めようとしている。だが報酬は不十分で、介護業界の中でも特に人手不足が深刻だ。事務手続きが煩雑で負担が大きい「手当」にあたる処遇改善加算ではなく、「基本給」の基本報酬を増額するべきだった。担い手は高齢化が進み、利用者や家族からのハラスメントも後を絶たない。事業者は人材紹介会社に多額の紹介料を払って人材を確保している。経営基盤となる基本報酬の減額が誤ったメッセージとなり、人手不足に拍車が掛かる懸念がある。

*10-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1202912 (佐賀新聞 2024/3/2) 漁協役員に占める女性0・5%、19都道府県はゼロ、農水省調査
 全国の漁協役員に占める女性の割合が2021年度は約0・5%にとどまったことが2日、農林水産省の調査で分かった。19都道府県では女性役員が1人もいない。力仕事で長時間にわたる漁に出るのは圧倒的に男性が多く、女性の漁業者は少ないのが現状だが、後継者不足が深刻となる中、識者は「漁業や地域の活性化のため、若い世代や女性など多様な担い手が必要だ」と指摘する。調査は、海沿いの39都道府県と琵琶湖がある滋賀県の計40都道府県で、知事が認可した沿海地区の漁協が対象。848漁協の21年度の業務報告書を基に集計した。それによると、848漁協の役員計8346人のうち、女性は21県に計41人。非常勤の監事や理事が大半で常勤理事は1人だった。都道府県別で人数が最も多いのは広島と熊本の5人。続く福井、徳島、鹿児島が4人、岩手など3県が2人、残る13県は1人だった。熊本県は県の男女共同参画計画に基づき、県内の漁協に対し女性リーダーの育成や積極的な女性登用を働きかけている。アサリを専門とする広島県廿日市市の浜毛保漁協では、役員6人のうち2人が女性だ。福井県の雄島漁協(坂井市)は組合員の約半数が海女で役員10人中4人が女性。全5地区のうち4地区から女性を1人ずつ選んでいるという。徳島県で女性役員がいたのは比較的小規模な漁協で、正組合員の女性の割合も2割以上だった。鹿児島県では、水産会社の女性役員が監事に就いている漁協があった。農水省によると、漁業就業者はこの20年ほどで半減し、22年は約12万3千人。このうち女性は約1割に過ぎない。漁業とジェンダーに詳しい東海大の李銀姫准教授は女性の少なさについて、重労働であることに加え「海の神様は女性で、女性が船に乗ると神様が嫉妬する」という言い伝えが各地にあるといった文化的背景を説明。船や漁協に女性用トイレがない、女性に適した漁具の開発がないなど、環境が整っていないところもあるという。しかし高齢化や過疎化は深刻で、李准教授は「漁村の景観や食文化などの資源も活用して新たななりわい『海業』をつくり、地域を活性化させる必要がある」と指摘。そのためにも多様な視点は重要で「女性や若い人たちが入りやすくすることは、漁業の持続性につながる」と話している。元水産庁審議官で大日本水産会の高瀬美和子専務の話 漁業者は高齢化し、後継者や人手不足にも悩まされている。女性だけでなく若者や外国人など新しい力を取り入れなければ、いずれ立ちゆかなくなる。世界が持続可能な漁業を目指す中、資源管理や、限られた漁獲物の価値を高めるためのマーケティングや商品開発など、活躍する余白はまだまだあるはず。これまでのやり方に固執せず、機械化やマニュアル化、データ活用などで、誰もが参加しやすい漁業の方策を探っていくべきだ。

| 男女平等::2019.3~ | 04:15 PM | comments (x) | trackback (x) |

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