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2015,10,27, Tuesday
パブリック・ 政府のエネル 大手メディア フクイチ作業員 一般住民の放射線防護 コメント結果 ギー・ミックス の報道 の被曝状況 (平時は1mSv以下で、「100mSv 以下なら健康への影響はない」 という科学的根拠はない) (1)東電福島第一原発事故(以下、“フクイチ”)後について *2-1のように、現在のフクイチは、「①周辺に“怪しい霧”が発生し、近くにいると異様な日焼けをする」「②港湾内外の海水から検出される放射性物質の濃度が上昇している」「③1~3号機から溶け落ちた大量の核燃料デブリが地中へメルトアウトして地下水流の汚染をより高めている可能性があり、プルトニウムは含まれていないため、3号機のデブリは格納容器の底に留まっているか、爆発時に外に放出してしまった可能性が高い」「④メルトアウトした核燃料デブリが、今も核分裂反応を起こしているらしい」などである。そして、いまだに「中のことはよくわかっていない」などと曖昧なことを言っているのは、「わかっているが、言えない」ということで、ここまで国民を粗末にする、技術的にもずさんでチェルノブイリより劣る対応が、現代の日本にあってよい筈がない。 そして、*1-1のように、フクイチ後の作業で被曝した後に白血病になった元作業員に、労災保険が認定された。これまで、白血病の労災が認められるには、年5ミリシーベルト以上を被曝し、作業開始から発症まで1年以上あることが基準だが、この男性の累積被曝線量は19.8ミリシーベルトであり、そのうち大半の15.7ミリシーベルトをフクイチでの作業が占めたため、福島県の富岡労働基準監督署がフクイチでの被曝が大きな原因と判断したそうだ。厚労省は「科学的に被曝と健康影響の因果関係を証明したわけではない」としているが、フクイチの収束作業で白血病も含む癌を発症したとする申請は既に8件も出ており、因果関係があると考える方が自然だ。 また、*1-2のように、放射能汚染されたガレキの撤去作業をしていたフクイチの元作業員(53歳、男性)が、4か月で56・41mSv被曝し、作業後11か月で転移ではない3つ癌(胃癌、結腸癌、膀胱癌)を同時に発症して、東京電力らを相手に損害賠償請求訴訟を起こしたそうだ。Aさんの被曝線量は年間上限の50mSvを少し超えただけだったとしても、線量計をはずして働いたり、放射線値の高いガレキを直接抱えたりしたのであれば、線量計に出た数値以上に被曝しており、転移ではない3つの癌はそれらの結果として発生したのだろう。 なお、*1-3のように、岡山大大学院の津田教授(生命環境学)が、国際環境疫学会の医学専門誌エピデミオロジー(疫学)に、「福島県が福島原発事故当時18歳以下だった県民を対象に実施した健康調査の結果を分析したところ、甲状腺がんの発生率が国内平均の20~50倍に達していた」という内容の論文を発表された。そして、都内の外国特派員協会の会見で「①福島県では小児や青少年の甲状腺がんの過剰発生がすでに検出されており、多発は避けがたい」「②チェルノブイリ原発事故の経験は生かされず」「③チェルノブイリ事故と比べて放射性物質の放出量は10分の1と公表されたが、もっと大きな放出・被曝があったと考えざるを得ず」「④今後、患者数が爆発的に増える可能性がある」と示唆されたそうだ。この発表を「時期尚早」として、癌と原発事故の因果関係を否定するのは、非科学的であるとともに、国民の命を大切にしない人権侵害である。 さらに、*1-4のように、外務省が1984年、国内の原発が戦争やテロ等で攻撃を受けた場合は急性被曝で最悪1万8千人が亡くなり、原発の約86キロ圏が居住不能になると試算していたにもかかわらず公表されなかったのだそうで、現在、再稼働し始めている原発周辺の住民は、そういう前提で考えるべきである。これまでは、「危険性を知らなかった」という理由で地元住民に責任はなかったが、これからは、「危険を承知で交付金目的の原発再稼働をさせたのだから、自己責任だ」と言われても仕方あるまい。 しかし、経産省が2030年の電源構成(エネルギーミックス)を決めるために国民から意見を募った「パブリックコメント(意見公募)」では、*1-5のように、原発への依存度をさらに引き下げるかゼロにするよう求める意見が約9割に上ったにもかかわらず、経産省は原発割合を「20~22%」として公募意見を「黙殺」し、意見公募を単なる儀式にして、あらかじめ予定していた電源構成に決めた。権力で自然現象を変えることはできず、自然の摂理を無視した法律や基準は、次第にその不遜さが表れるのに、である。 なお、*2-2のように、フクイチの避難者が「『避難の権利』を求める全国避難者の会」を結成したそうだが、これはフクイチを小さく見せ、地域振興するためには、住民(国民)の命を犠牲にしてもよいと考えている本末転倒の政治・行政に対抗する手段として重要だ。 (2)川内原発再稼働について 鹿児島県の川内原発2号機は、*3-1のように、2015年10月15日に4年1か月ぶり再稼働し、今年8月に再稼働した1号機に続いて2基目となったそうだ。川内原発1号機は1984年7月4日、2号機は1985年(昭和60年)11月28日に営業運転を開始して約30年経過しており、川内原発の蒸気発生器は中を通る細い管に傷が入るトラブルがたびたび見つかり、原発に反対するグループからは「このまま、再稼働させるのは安全性に問題がある」と指摘されている。 また、*3-2のように、九電川内原子力総合事務所の藤原伸彦所長は、2号機の稼働が約4年ぶりであることに触れ「何が起こるか分からないという緊張感を持ち、営業運転まで当たりたい」と述べたそうだが、川内原発前では、反原発派の100人が集会を開催して「再稼働のスイッチを押すな」と声を上げ、福岡市の九電本店前でも抗議する人たちの姿が見られたそうだ。 東京新聞も、*3-3のように、2011年3月のフクイチ事故後、新規制基準に基づく審査に適合した原発として川内原発の再稼働を取り上げ、夏の電力需要ピークも原発なしで乗り切った九州で、太陽光発電の買い取りを制限しながら、複数の原子炉を近くで稼働させるのは危険性だとしている。また、新規制基準に合格しても、火山の巨大噴火への備えはなく、鹿児島県の伊藤知事らは「広域に避難するような事態にはならないだろう(いわゆる想定外)」と楽観的に見て再稼働を認めているのだ。 そのため、南日本新聞も、*3-4のように、福島原発事故では放射性物質が立地自治体の外にまで拡散し、局地的に放射線量の高い「ホットスポット」も見つかり、当初は川内原発30キロ圏市町の多くが、立地自治体並みの協定を求め、それは住民の不安を踏まえれば当然だった筈で、少なくとも避難対象地域となる半径30キロ圏までは、同意が必要な「地元」と解すべきだとしている。私は、同意が必要な「地元」は、過酷事故時に被害を受ける80キロ圏もしくは250キロ圏だと考えている。 (3)玄海原発について フクイチで拡散した放射性物質は、当時の防災対策重点区域だった10キロ圏を超え、50キロ圏の福島県飯舘村を汚染して全村避難に追い込んだ。そのため、*4-1のように、佐賀新聞社の佐賀県民世論調査で、従来の手続きを適切とした県民は15%に満たず、80%以上の県民が地元の範囲を広げるべきだと回答したそうだ。玄海原発の半径30キロ圏内には、立地自治体の東松浦郡玄海町のほか、佐賀県唐津市、伊万里市、福岡県糸島市、長崎県佐世保市、平戸市、松浦市、壱岐市が含まれ、影響を受ける人口や産業が大きすぎるため、私は、いろいろな資源の多いこの地域でわざわざ原発を行うよりも、筑肥線を複線化して呼子・玄海町、伊万里、松浦、平戸などまで延長する方が、将来に役立つ投資になると考えている。 そのような中、半径30キロ圏内の同意や説明を省略して、*4-2のように、九電の黒字化のために原発再稼働をすることは許されず、このようなことを続ければ、単に価格だけの問題ではなく、環境という視点から国民の新電力への切り替えが進むだろう。 また、*4-3のように、「玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止める裁判の会」(石丸初美代表)は、佐賀市の中央大通りで抗議活動を行い、「①フクイチの犠牲を踏みにじる暴挙」「②フクイチは収束どころか、まだまだ続いている」「③(火山対策や避難計画の不備を挙げて)原発事故は起きる。原発事故は地球を滅ぼす。そんな原発はいらない」「④山口知事は、佐賀のことは佐賀で決めるといって当選した。知事は再稼働の同意権を持っており、住民説明会や地元の範囲など国任せではなく、県民の立場で判断すべき」と批判し、即時停止を訴えたとのことで、そのとおりだ。 (4)伊方原発再稼働について *5-1のように、佐田岬半島に位置する伊方町にある四国電力伊方原発3号機の再稼働をめぐる陳情の採択について、町議会の特別委員会の審議は非公開とされ、早期再稼働を求める陳情3件が全員一致で採択されたそうだ。そして、愛媛県議会も再稼働を認める決議案を本会議で可決し、中村知事は、*5-2のように、2015年10月26日、伊方再稼働に同意した。 中村知事は「非常に重い責任を伴う判断」「国の考え方、四国電力の取り組み姿勢、地元の議論を総合的に判断した」などとして再稼働に同意する意思を伝えているが、交付金目当てで再稼働に進んだ責任を、事故時にどう負えるのか、国の考え方、四国電力の取り組み姿勢が何故よいのかについては、説明がとんでいるため不明だ。瀬戸内海に面した原発で過酷事故が起きれば、その事故が瀬戸内海に与える影響は太平洋の比ではないのに・・。 <東電福島第一原発事故(“フクイチ”)の影響> *1-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201510/CK2015102102000134.html (東京新聞2015年10月21日)福島事故後被ばくで初の労災認定 白血病発症の元作業員 厚生労働省は二十日、東京電力福島第一原発事故後の作業で被ばくした後に白血病になった元作業員に、労災保険を認定した。事故収束作業に伴う白血病の発症で労災が認められたのは初めて。厚労省によると、労災が認められたのは発症時三十代後半だった男性。建設会社の社員として二〇一一年十一月~一三年十二月、複数の原発で作業した。一二年十月以降の一年一カ月間は福島第一を担当。原子炉建屋に覆いを造ったり、使用済みの防護服などを焼却する施設を建設した。男性は一三年十二月に福島第一を去った後に体の不調を感じ、白血病と診断され労災申請した。現在は通院治療している。白血病の労災が認められるには、年五ミリシーベルト以上を被ばくし、作業開始から発症まで一年以上あることが基準。男性の累積被ばく線量は一九・八ミリシーベルトで、福島第一での線量は大半の一五・七ミリシーベルトを占めた。福島県の富岡労働基準監督署は、厚労省の専門家による検討会の見解を聴いた上で、福島第一での被ばくが白血病の大きな原因になった可能性があると判断した。男性には医療費や休業補償が支払われる。厚労省は「労災認定は補償が欠けることがないよう配慮した行政上の判断で、科学的に被ばくと健康影響の因果関係を証明したわけではない」としている。事故前に全国の原発で白血病や悪性リンパ腫などの労災を認められた作業員は十三人。福島第一の収束作業で白血病も含むがんを発症したとする申請は八件。今回の男性を除く七件の内訳は三件が不支給、一件が取り下げ、三件が調査中。福島第一原発での作業をし、白血病となった男性が初めて労災認定されたことに、作業員からは「認められてよかった」との声が上がったが、収束作業の現場が被ばくとの闘いであることは変わりない。他のがんなどの労災認定には高いハードルが設けられていることなど、作業員を取り巻く環境は課題が山積している。白血病の認定条件の一つは「年五ミリシーベルト以上の被ばく」。東電のまとめによると、事故発生後、福島第一での作業に関わって累積で五ミリシーベルト以上被ばくした人は二万人強いる。二〇一一年度だけで一万人以上が五ミリシーベルト超被ばくしていることなどから、「累積五ミリシーベルト以上」の二万人強の多くが、「年五ミリシーベルト以上」という条件に当てはまるとみられる。仮に白血病になった場合、救済の道が開けたことは安心材料になる。ただ、胃がんなどでは明確な基準が定まっておらず、一〇〇ミリシーベルト以上の被ばくが認定の一つの目安とされるなど、白血病に比べ厳しい運用がされている。技術者の作業員は「がんになるのでは、と不安になることもある。どうすれば認定されるのか、決めてほしい」と話した。別の作業員も「福島第一で命をかけて働いている。(国は)家族のためにも救済側に立ってほしい」と訴えた。胃など三カ所のがんになった元作業員は、高線量の作業をしたが、記録上の線量が一〇〇ミリシーベルトに満たないなどとして労災が認められなかった。この男性を含め、線量計を低線量の場所に置いて作業していたと証言した作業員は少なくない。その場合、実際の被ばく線量は記録より高くなる。現場では、がれきが除去されるなどして当初よりは線量が下がった。現在はタンク増設や敷地内の舗装が中心のため、作業員の被ばく線量も全般的には低めで推移している。だが今後、廃炉作業は原子炉へと近づく。ベテラン作業員は「来年はもっと高線量の作業が増える。がんになる人が増えたら、福島第一に来なくなる人が出てくるかもしれない」と懸念した。 <東電の広報担当者の話> 作業員の労災申請や認定状況について当社はコメントする立場にない。今後も作業環境改善に取り組み、被ばく管理を徹底していく。 *1-2:http://news.livedoor.com/article/detail/10747967/ (週刊女性 2015年10月24日) 第一原発元作業員の53歳、作業11か月で3つのがんを同時発症 ○北海道に住む53歳男性は、膀胱がん、胃がん、結腸がんを発症した ○福島第一原発の元作業員で、放射能汚染されたガレキの撤去作業をしていた ○男性は9月、東京電力らを相手取り、損害賠償を求める訴訟を起こした わずか11か月間で膀胱がん、胃がん、結腸がんを発症。それも転移ではなく別々の発症だ。しかも、53歳という若年期での同時発症は極めてまれだ。汚染された樹木を高圧洗浄する作業員。除染による被ばくの影響も危惧されている。3つのがんに見舞われたのは北海道札幌市に住む男性(現在57)。仮にAさんとしておく。Aさんは長年“一人親方”として重機のオペレーターに従事していた。その腕と経験を買われ、知人から誘われたのが福島第一原発の収束作業だった。簡単に言えば、放射能汚染されたガレキ等の撤去作業だ。原発爆発事故からわずか数か月後に誘いを受けたとき、Aさんは「行きたくない」と思った。だが、どうしてもとの誘いを断れず、「いやいや行った」のだ。就労は2011年7月4日から10月31日までの4か月間。Aさんは今、働いたことを悔いている。一般人の年間被ばく量は1ミリシーベルト(以下、mSv)と規制されているが、原発労働者の場合は、年間最大で50mSv(5年間の累計で100mSvまで)。だが、Aさんは4か月で56・41mSvと年間の上限に達したため退職する。そして翌’12年6月、’13年3月、5月と冒頭の3つのがんに侵されたのだ。自分がこうなったのは、原発の労働環境以外に考えられない。Aさんは今年9月1日、東京電力、その元請けの大成建設、そして一次下請け業者の山粼建設の三者を相手取り約6500万円の損害賠償を求める訴訟を札幌地裁に起こした。「福島第一原発での収束作業と発がんの因果関係を争うことでは初めての裁判になります」。こう語るのは、9人の弁護士で構成するAさんの弁護団団長、高崎暢弁護士(たかさき法律事務所)だ。「本人には身体をボロボロにされた憤りはあります。でもそれ以上に、もう被ばく者を出してはいけないとの思いが強いんです」。だが、Aさんの被ばく量は年間上限の50mSvを少し超えただけだ。これで、3つのがんとの因果関係を争えるのか。この疑問を高崎弁護士にぶつけると、「56・41mSvはあくまでも表向きの数字。なぜなら、Aさんらは線量計をはずして働いたこともあるし、放射線値の高いガレキなどを直接、人力で抱える危ない労働もしていたからです」と、その労働環境こそが被ばく者を生み出すと強調した。じつは、体調を崩して労災申請をした福島第一原発の元労働者は、Aさんを含め8人いる。1人だけ申請を取り下げたが、Aさんを含む5人に不支給が決定し、2人が審査中だ。行政の壁は厚い。それを突き破るための今回の提訴だ。しかし「闘える」と高崎弁護士は読んでいる。高崎弁護士は、かつて『原爆症集団訴訟』を担当。原爆症と認定されない被爆者数百人が、2003年から全国各地で認定を求めて提訴したもので、31の裁判のうち29で原告が勝訴、原告の訴えがほぼ認められた。この裁判で明らかになったことがある。2号機と3号機の間にある通路に積まれたガレキ。作業員が重機で撤去した。「ここから上の線量が危険で、ここから下が安全という“しきい値”が存在しないことです。つまり、低線量でも危険というのは司法の場で決着ずみ。今回も、線量にこだわらないで裁いてほしい」(高崎弁護士)。だが厳しい闘いになるのは間違いない。日本の原発で働いた労働者は推定数十万人だが、自らの被ばくについて訴えた裁判となると敗訴続きだ。日本初の原発労働者による裁判は、放射線皮膚炎と二次性リンパ浮腫に罹患した岩佐嘉寿夫さんが1975年に起こした。しかし、「被ばくを記録した証拠がない」ことで地裁、高裁、最高裁で敗訴。岩佐さんはその後、亡くなる。市民団体『原子力情報資料室』によると、最近では1979年2月から6月まで島根原発と敦賀原発で働いた福岡市の梅田隆亮さんが、2000年に心筋梗塞を発症したのは被ばくが原因だと’12年、福岡地裁に国を相手取り提訴した事例がある。ところが国は、「100mSv以下の線量による影響の推定には、非がん疾患を含めない」「心疾患は生活習慣病のひとつ」として因果関係を認めない(原爆症認定訴訟では、心筋梗塞は認定されている)。梅田さんとAさんに共通するのは、「放射線の人体への害悪や危険性を教えられていなかった」ことだ。梅田さんは責任感から、作業中にブザーが鳴らないよう、床面にたまった強度に汚染された汚水のふき取りなどの危険な仕事を、線量計を人に預けて作業した。Aさんらも長時間にわたる屋外作業をなかば強いられ、ガレキを直接持ち運び線量計をはずしてきた。高線量のホコリも吸った。ここに、大成建設と山粼建設は、労働者への「安全配慮義務違反」を犯したと高崎弁護士は主張する。現在、Aさんは経過観察のため定期受診をしているが、もうフルタイムで働けない。体調のいいときに短時間労働をこなすだけだ。「被ばく者は被害者。だけど、その現状を訴えると逆に差別されたり、仕事を干されます。だから、Aさんの提訴は勇気ある行為なんです」(高崎弁護士)。11月5日、札幌地裁での初公判でAさんは意見陳述を行う。安全性が無視され誰もがお払い箱になる現場で、2度と原発被ばく者を出さないために。 *1-3:http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/165762 (日刊ゲンダイ 2015年10月9日) 福島の甲状腺がん発生率50倍…岡山大・津田教授が警告会見 岡山大大学院の津田敏秀教授(生命環境学)が6日付の国際環境疫学会の医学専門誌「エピデミオロジー(疫学)」に発表した論文に衝撃が広がっている。福島県が福島原発事故当時に18歳以下だった県民を対象に実施している健康調査の結果を分析したところ、甲状腺がんの発生率がナント! 国内平均の「50~20倍」に達していた――という内容だ。8日、都内の外国特派員協会で会見した津田教授は「福島県では小児や青少年の甲状腺がんの過剰発生がすでに検出されている。多発は避けがたい」と強調した。福島県で原発事故と子どもの甲状腺がんの因果関係を指摘する声は多いが、権威ある医学専門誌に論文が掲載された意味は重い。国際的な専門家も事態を深刻に受け止めた証しだからだ。津田教授は会見であらためて論文の詳細を説明。原発事故から2014年末までに県が調査した約37万人を分析した結果、「二本松市」「本宮市」「三春町」「大玉村」の「福島中通り中部」で甲状腺がんの発生率が国内平均と比較して50倍に達したほか、「郡山市」で39倍などとなった。津田教授は、86年のチェルノブイリ原発事故では5~6年後から甲状腺がんの患者数が増えたことや、WHO(世界保健機関)が13年にまとめた福島のがん発生予測をすでに上回っている――として、今後、患者数が爆発的に増える可能性を示唆した。その上で、「チェルノブイリ原発事故の経験が生かされなかった」「事故直後に安定ヨウ素剤を飲ませておけば、これから起きる発生は半分くらいに防げた」と言い、当時の政府・自治体の対応を批判。チェルノブイリ事故と比べて放射性物質の放出量が「10分の1」と公表されたことについても「もっと大きな放出、被曝があったと考えざるを得ない」と指摘した。一方、公表した論文について「時期尚早」や「過剰診断の結果」との指摘が出ていることに対しては「やりとりしている海外の研究者で時期尚早と言う人は誰もいない。むしろ早く論文にしろという声が圧倒的だ」「過剰診断で増える発生率はどの程度なのか。(証拠の)論文を示してほしい」と真っ向から反論。「日本では(論文が)理解されず、何の準備もされていない。対策を早く考えるべき」と訴えた。「原発事故と甲状腺がんの因果関係は不明」とトボケ続けている政府と福島県の責任は重い。 *1-4:http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/nucerror/list/CK2015040802100010.html (東京新聞 2015年4月8日) 【福島原発事故】被ばく死 最悪1.8万人 原発攻撃被害 84年に極秘研究 国内の原発が戦争やテロなどで攻撃を受けた場合の被害予測を、外務省が一九八四(昭和五十九)年、極秘に研究していたことが分かった。原子炉格納容器が破壊され、大量の放射性物質が漏れ出した場合、最悪のシナリオとして急性被ばくで一万八千人が亡くなり、原発の約八十六キロ圏が居住不能になると試算していた。研究では東京電力福島第一原発事故と同じ全電源喪失も想定していたが、反原発運動が広がることを懸念し公表されなかった。八一年にイスラエル軍がイラクの原子力施設を空爆したことを受け、外務省国際連合局軍縮課が外郭団体の日本国際問題研究所(東京)に研究委託。成果は「原子炉施設に対する攻撃の影響に関する一考察」と題した六十三ページの報告書にまとめられ、本紙が情報公開を通じてコピーを入手した。報告書は出力百万キロワット級の原発が攻撃されたと仮定。原発の場所は特定せず、(1)送電線や発電所内の非常用発電機がすべて破壊され、すべての電源を失う(2)原子炉格納容器が爆撃され、電気系統と冷却機能を失う(3)格納容器内部の原子炉が直接破壊され、高濃度な放射性物質を含む核燃料棒などが飛散する-の三つのシナリオで検証した。このうち、具体的な被害が示されたのは(2)の格納容器破壊のみ。当時、米国立研究所が米原子力規制委員会(NRC)に提出した最新の研究論文を参考に、日本の原発周辺人口を考慮して試算した。それによると、緊急避難しない場合、放射性物質が都市部など人口密集地に飛来する最悪のケースでは一万八千人が急性被ばくで死亡。ただ、被害は風向きや天候で大きく変わるとして、平均では三千六百人の死亡になると試算した。五時間以内に避難した場合は最悪八千二百人、平均八百三十人が亡くなるという。急性死亡が現れる範囲について、報告書は「十五~二十五キロを超えることはない」と記述している。長期的影響としては、放射性物質セシウムなどで土壌汚染が深刻化すると指摘。農業や居住など土地利用が制限される地域は原発から最大で八六・九キロ、平均で三〇・六キロにまで及ぶとしている。最も被害が大きい(3)の原子炉破壊については「さらに過酷な事態になる恐れは大きいが、詳しい分析は容易ではない」と紹介。福島原発事故と同じ(1)の全電源喪失では、実際に起きた水素爆発の可能性に触れ「被害が拡大する危険性がある」と指摘しており、報告書が公表されていれば、事故の未然防止や住民避難に役立った可能性がある。八〇年代は、七〇年代の二度にわたる石油危機を受け、国は原発建設を積極的に推進。国内の原発十六基が運転を始めた。軍事攻撃が想定とはいえ、原子炉に重大な損害が生じれば深刻な被害が及ぶとのシナリオは世論の不安を呼び、国の原子力政策に水を差す可能性があった。報告書にも「反原発運動などへの影響」などと、神経をとがらせていたことをうかがわせる記述がある。原子力資料情報室の伴英幸・共同代表は報告書の存在を「知らなかった」とした上で「反対運動を理由にした非公開ならとても納得できない。テロの脅威が高まる中、原発のリスクを国民にもっと知らせるべきだ」と話している。 ◆公表する理由がない 外務省軍備管理軍縮課の話 報告書は保存されているが、作成部数や配布先など詳しい経緯は分からない。今後、公表の予定はない。積極的に公表する理由がない。 ◆原発攻撃被害報告書 「福島」に生かされず 軍事攻撃による原発の放射能被害を予測していた外務省の報告書。水素爆発した福島第一原発事故は地震と津波が引き金とはいえ、報告書が指摘していた「全電源喪失」の危機がシナリオ通りに再現された。三十年も前から原発の潜在的な危険性を知りながら、反原発運動の広がりを恐れて公表を控えた外務省。原発推進を掲げた当時の国策の下で、都合の悪い情報をひた隠しにする官僚の隠蔽(いんぺい)体質が浮かび上がる。 「限定配布の部内資料(『取扱注意』なるも実質的に部外秘)」「外務省の公式見解でないことを念のため申し添える」…。高度な秘密性を裏付けるように、報告書には当時の国際連合局軍縮課長が書いた「ことわりがき」が添えてある。当時、同局の審議官だった元外交官の遠藤哲也氏(80)は本紙の取材に「記憶が確かではない」としながらも「ショッキングな内容なので(非公表に)せざるを得なかったでしょうね」と話した。同氏によると、一般的に部内資料は省外への持ち出しが禁止されており、報告書が官邸や原子力委員会などに配布されていなかった可能性が高い。作成された二年後の一九八六(昭和六十一)年には旧ソ連・チェルノブイリ原発事故が起きたが、その時ですら報告書の公表はなく、原発の安全対策に生かされることはなかった。当時は米ソが核兵器の開発を競う冷戦時代。科学技術史が専門の吉岡斉・九州大教授(61)は原発の軍事攻撃を想定した報告書が公表されれば「国民の間で核兵器と原発が一体的に連想されることを心配したのではないか」と推測する。「国家と秘密 隠される公文書」(集英社新書)の共著者で、歴史学者の久保亨・信州大教授(62)も「原子力は、軍事に転用できる技術の最たるもの」と指摘する。久保教授が懸念するのは昨年十二月に施行された特定秘密保護法。安全保障やテロ対策などを理由に原発に関する情報が一段と制限され「闇から闇へ葬られかねない」と懸念を示している。 *1-5:http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201510/CK2015102602000124.html(東京新聞2015年10月26日)公募意見の9割が「原発多すぎ」 電源構成で異論「黙殺」 経済産業省が2030年度に目指す電源構成(エネルギーミックス)のうち、原発の占める割合を「20~22%」とする報告書をまとめる際に国民から意見を募った「パブリックコメント(意見公募)」で、原発への依存度をさらに引き下げるかゼロにするよう求める意見が約9割に上っていたことが分かった。寄せられたすべての意見を本紙が情報公開請求して取得し、分析した。政府は国民から意見を募集しながら全体傾向や詳細は明らかにしなかった。構成目標の最終決定にも反映させておらず、一般の人々からの異論を「封殺」するかのような国民軽視の姿勢が浮き彫りになった。経産省は今年六月に電源構成の原案を示し、六月二日~七月一日まで意見公募を実施。メールやファクスなどで二千五十七件(本紙集計)が寄せられた。しかし、同省は意見の全容を示さず、七月十六日に原案通り構成を決定。その際、件数と意見を部分的に抜粋し公表したにとどまった。本紙は開示された三千三百八十六ページの文書すべてを分析、内訳を分類した。原発については千六百十七件の意見があり、うち依存度を引き下げるかゼロにするよう求める意見は千四百四十九件で、89・6%だった。原案の依存度を支持するか、さらなる拡大を求める「維持・推進」は三十八件で2・4%にとどまり、賛否の判断が困難な意見は百三十件で8%だった。原発比率引き下げを求める理由は「老朽原発の稼働を前提としていて事故が心配」「使用済み核燃料の処分方法が解決していない」などが多かった。政府原案が「22~24%」とした太陽光や風力など再生可能エネルギーに関する意見は延べ千六百六件(原発への意見と重複分含む)。うち91・7%の千四百七十二件が「もっと増やす」ことを要求。原案の支持か、比率引き下げを求める意見は十四件(0・9%)にとどまった。行政手続法は各省庁が重要な指針などを決める際は意見公募し結果を公表するよう定めているが、公表範囲は各省庁の裁量に委ねられている。民主党政権下の一二年、将来の原発比率を決める際は政府は公募意見約八万八千件を分析、87%が「原発ゼロ」を支持していることを公表していた。 <電源構成見通し(エネルギーミックス)> 中長期的に日本がどんな電源に発電を頼るかについての比率。この見通しに沿う形で、政府は規制や財政支出を行い、電力各社も原発の運営方針や、再生エネルギーの活用策を決めるため、日本のエネルギー政策の基本となる重要な数字。家庭の省エネ目標もあり、国民生活へのかかわりも深い。2030年度時点の見通しは、14年4月に安倍政権が閣議決定したエネルギー基本計画に基づき、経産省の審議会の報告も反映し今年7月に策定した。 <フクイチの後始末> *2-1:http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20151025-00055426-playboyz-soci (週プレNEWS 2015年10月25日) フクイチ周辺にだけ発生する“怪しい霧”に“異様な日焼け”が警告するものとは 福島第一原発事故から4年半――。『週刊プレイボーイ』本誌では当時の総理大臣・菅直人氏とともに、“フクイチ沖1.5km”の海上から見た事故現場の現状をリポートしたーー。フクイチで今も続いている危機は、前回記事(「元総理・菅直人が初めての“フクイチ”海上視察!」)で指摘したベント塔の老朽化だけではない。事故発生以来、港湾内外の海水から検出される放射性物質の濃度も上昇するばかりなのだ。これは構内の地面から流れた汚染水と、フクイチ施設の地下を流れる汚染地下水が海へ漏れ出ている影響としか考えられない。さらに、1~3号機から溶け落ちた大量の核燃料デブリが地中へメルトアウトして、地下水流の汚染をより高めている可能性もある。そこで本誌は、フクイチ沖1500mの「海水」1リットルと、海底(深さ15m)の「海砂」約3㎏を採取し、専門機関に測定を依頼した。その結果、事故当時に大量放出された「セシウム137」(半減期約30年)と「セシウム134」(同約2年)が検出され、やはりフクイチ事故の影響が続いていることがわかった。さらに重要なのが、セシウムと同じくウラン燃料が核分裂した直後に放出される「ヨウソ123」(同約13時間)が、何度か変化して生まれる同位体の放射性物質「テルル123」(同約13時間)も微量ながら検出されたことだ。この海水は、採取1日後から約47時間をかけて測定したので、微量ながら「テルル123」が検出されたことは「採取の数十時間前くらいにフクイチからメルトアウトした核燃料デブリが核分裂反応を起こした?」という見方もできるのだ。では「海砂」の測定結果はどうか。船上に引き上げた限りでは、泥を含んだ様子もなく、生きたハマグリの稚貝も交じるきれいな砂だった。しかし測定結果を見ると、海水よりも多くの放射性物質を含んでいた。まず注目されるのが、核燃料そのものといえる「ウラン235」(同約7億年)と「セシウム134」「セシウム137」。それ以外に「タリウム208」(同約3分)、「アクチニウム228」(同約6時間)、「ラジウム224」(同3・66日)、「ユーロピウム」(同4・76年)など、セシウムよりも半減期が短い放射性物質もいくつか検出された。採取に立ち会った、フクイチ事故の汚染拡大パターンを研究する長崎大学院工学研究科の小川進教授(工学、農学博士)は、こう分析する。「このウラン235は自然界にも存在しますが、やはり採取場所からみてフクイチ事故で放出されたと判断すべきでしょう。そして、これは放射線科学の教科書的内容ともいえる基礎知識ですが、ウラン燃料が原子炉内で核分裂すれば、今回この海砂から検出された、すべての〝短半減期核種〟が発生します。しかし、もうフクイチの原子炉は存在しないので、これらの短半減期核種とウラン235の発生源は、デブリの臨界反応とみるのが理にかなっています。もしデブリが建屋の地中へ抜けているなら、海の汚染を防ぐのは至難の業になるでしょう。ただ、ひとつ気になるのは、3号機だけで使われていたウラン+プルトニウム混合燃料(MOX燃料)のデブリから発生するはずのプルトニウムが、この砂から検出されていないことです。もしかしたら3号機のデブリだけは、まだ格納容器内の底にとどまった状態なのかもしれません」(小川進教授)。今年5月に1・2号機の格納容器内へ投入した探査ロボットの映像からは、今のところデブリの落下位置は突き止められていない。しかし、フクイチ付近の海で放射能汚染が急に高まった昨年前半あたりから、1・2・3号機それぞれのデブリの位置と反応に大きな変化が起き始めた可能性がある。かつてフクイチ構内を作業員として取材したジャーナリストの桐島瞬氏が、こう推理する。「事故後しばらくは、1・2・3号機から蒸気や煙状の気体が出ていたと現場の作業員が話していました。いまだに中のことはよくわかっていないので、3号機のデブリが1・2号機とは違った場所で発熱しているとも考えられます。もうひとつ気になるのは、一昨年から海際近くの汚染水くみ出し井戸などで、濃度の高い“トリチウム”が検出されるようになったことです。この放射性物質は“三重化水素”とも呼ばれ、急速に水と結びつき、その水を放射能を帯びた特殊な水に変えます。フクイチの原子炉周辺は濃い霧に包まれることが多いのですが、これも放出量が増えたトリチウムの影響ではないかという意見も聞かれます」。空気中の水(水蒸気)と三重化水素が結びつけば分子量が大きくなるので、当然、霧が発生しやすくなる。そういえば今回の海上取材でも、南側の4号機から北側の5・6号機にかけて、約1㎞幅、厚さ20mほどの霧の帯がフクイチ構内の地上から高さ30~40m、巨大な原子炉建屋の上部3分の1ほどの空中に浮いていた。6、7月頃の福島県沿岸には「やませ」と呼ばれる冷たい風が吹き寄せ、浜通りの海岸地帯では朝晩に霧が立つことが多い。実際、今回の船上取材でも朝9時に久之浜港を出て、しばらくは沿岸のあちこちに霧がかかり、福島第二原発にも薄霧の層がたなびいていた。しかしフクイチの霧は、どうも様子が違った。気温の上がった昼近くになっても、他の場所よりも濃い霧の層がしつこく居座り続けた。少し強く海風が吹くと一時的に薄れるが、しばらくするとまたモヤモヤと同じ場所に霧の塊が現れた。この海上取材から10日後の8月2日には、3号機燃料プール内に落下した大型瓦礫を撤去する作業が行なわれた。その際にも、3・4号機付近から濃霧が湧き出すように見えるニュース画像が話題になった。このフクイチ上空の“怪霧”について、船上取材に同行した放射線知識が豊富な「南相馬特定避難推奨地域の会」小澤洋一氏も、後日、あれは気になる現象だったと話してくれた。「私は昔から海へ出る機会が多いのですが、フクイチだけに濃い霧がかかる現象は記憶にありません。凍土遮水壁の影響で部分的に地上気温が下がっているとも考えられますが、トリチウムが出ているのは事実なので、その作用で霧が発生する可能性は大いにあると思います。だとすれば、あの船上で起きた“気になる出来事”にも関係しているかもしれません」。その出来事とは、取材班全員が短時間のうちにひどく“日焼け”したことだ。フクイチ沖を離れた後、我々は楢葉町の沖合20㎞で実験稼働している大型風力発電設備「ふくしま未来」の視察に向かった。この時は薄日は差したが、取材班数名は船酔いでずっとキャビンにこもっていたにもかかわらず、久之浜に帰港した時には、菅氏とK秘書、取材スタッフ全員の顔と腕は妙に赤黒く変わっていた。つまり、曇り状態のフクイチ沖にいた時間にも“日焼け”したとしか考えられないのだ。「トリチウムは崩壊する際にβ(ベータ)線を放射します。これは飛距離が1m以内と短い半面、強いエネルギーを帯びています。私たちが1時間ほどいたフクイチ沖1500mの空気にも濃度の高いトリチウムが含まれていたはずで、それが皮膚に作用したのではないでしょうか」(小澤氏)。だとすれば、我々は、トリチウムによるβ線外部被曝を体験したのか…。とにかく、今回訪れた福島県内では多くの新事実を知ることができた。まず実感したのは、福島復興政策の柱として進められている除染事業が、避難住民を帰還させるに十分な効果を発揮しているか非常に疑わしいことだ。また、フクイチ事故で行方知れずになった燃料デブリが地下水、海洋汚染のみならず今後もさらに想定外の危機を再発させる恐れもある。やはりこの事故は、まだまだ厳重な監視が必要なステージにあるとみるべきなのだ。今回の現地取材に同行した菅直人氏は、フクイチ事故当時の総理としての行動と判断が賛否両論の評価を受けてきたが、今後も政治生命のすべてを「脱原発」に注ぐと宣言している。また機会をあらためて、次はフクイチ構内への同行取材を成功させ、事故現場の現状を明らかにしたいものだ…。 *2-2:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201510/CK2015102502000113.html (東京新聞 2015年10月25日) 原発避難の権利確立を 全国組織、29日に設立集会 東京電力福島第一原発事故の避難者らが「『避難の権利』を求める全国避難者の会」を結成し、二十九日に東京で設立集会を開く。強制避難と自主避難の壁を越え、全国に散らばった避難者のネットワークをつくり、政府や自治体に、避難の権利を保障する立法や支援策を求めていく考えだ。「さまざまな避難者に呼び掛けが伝わる工夫を」「住宅支援問題の取り組みは外せない」。七日夜、札幌市のアパートで福島市から妻子と自主避難した介護サービス業中手聖一さん(54)が、インターネット電話「スカイプ」で設立準備会の会議に臨んでいた。準備会メンバーは、福島県やその近隣から避難し、十都道府県で暮らす約十五人で、今夏ごろから話し合いを重ねてきた。この夜も活動方針や入会方法など、会議は三時間を超えた。同会が求める避難の権利を、中手さんは「避難する人もとどまる人も、自分の意思で選択できるよう等しく支援を受けられること」と説明する。政府は住民が帰還できる環境が整ったとして、これまでに福島県楢葉町などの避難指示を解除。放射線量が高い帰還困難区域以外の他の地域も二〇一七年三月までに解除する方針だ。福島県も自主避難者に対する住宅無償提供を同じ時期に打ち切ることを決めている。こうした状況に中手さんらは「避難の権利が切り捨てられようとしている」と危機感を抱き、政府と交渉できる全国組織が必要と考えたという。会では、避難の支援や健康診断の充実を政府に求めていくとともに、避難者の実態把握などにも取り組む方針だ。強制避難、自主避難にかかわらず入会でき、被災当時、どこにいたかも問わない。経済的な理由などで帰還した人も参加可能だ。避難者が抱える課題は一人一人異なり、行政からの支援にも格差がある。避難指示の解除により、自主避難の立場に変わる人が増える可能性もある。福島市から京都府木津川市に家族で避難し、中手さんと共に共同代表に就任予定の宇野朗子(さえこ)さん(44)は「お互いに理解して支え合い、分断を乗り越えたい」と話している。問い合わせは、中手さん、電080(1678)5562。 <川内原発再稼働> *3-1:http://www3.nhk.or.jp/news/html/20151015/k10010270051000.html (NHK 2015年10月15日) 川内原発2号機 きょう再稼働 鹿児島県にある川内原子力発電所2号機は15日午前、原子炉を起動する操作が行われ、再稼働します。原発事故後に作られた新しい規制基準の下で国内の原発が再稼働するのは同じ川内原発の1号機に続き、2基目になります。川内原発は去年9月、東京電力福島第一原発の事故後に作られた新しい規制基準の審査に全国の原発で初めて合格し、1号機は、ことし8月に再稼働しました。これに続いて、2号機でも再稼働前に必要な検査を14日までに終え、九州電力は15日午前10時半から核分裂反応を抑える32本の制御棒を順次、引き抜いて2号機の原子炉を起動し、再稼働させることにしています。川内原発2号機は原発事故の半年後に定期検査に入って以降、運転を停止しており、稼働すれば4年1か月ぶりとなります。また、新しい規制基準の下、国内の原発が再稼働するのは同じ川内原発の1号機に続き、2基目になります。九州電力によりますと、再稼働後12時間程度で、核分裂反応が連続する「臨界」の状態になり、今月21日に発電と送電を開始するとしています。その後、運転の状態を確認しながら、徐々に原子炉の出力を高め、問題がなければ、来月中旬に営業運転を始める計画です。 .川内原発2号機とは川内原子力発電所2号機は昭和56年5月に建設工事が始まり、昭和60年11月に営業運転を開始しました。福島第一原発の事故の、およそ半年後から運転を停止した状態が続いています。その後、原発の新しい規制基準が作られ、これを踏まえて、九州電力は津波の被害を防ぐための海抜15メートルの防護壁を設置したり、移動式の大型発電機や非常用のポンプを整備したりしてきました。その結果、去年9月2号機は1号機とともに、全国の原発で初めて新しい規制基準に適合していると認められました。ことし6月からは再稼働に向けた設備や機器の検査、使用前検査が始まり、先月、原子炉に157体の燃料が入れられ、準備が最終段階に入っていました。一方、川内原発では原子炉の熱でタービンを回すための蒸気を作り出す蒸気発生器が、1号機は7年前に交換されましたが、2号機は昭和60年の営業運転開始以来、取り替えられていません。蒸気発生器では中を通る細い管に傷が入るトラブルがたびたび見つかっており、原発に反対するグループからは「このまま、再稼働させるのは安全性に問題がある」という指摘も出されています。これについて九州電力は、平成30年の定期検査に合わせて2号機の蒸気発生器を交換することにしており、「現段階でも、検査を通して安全性は十分確保されている」としています。この冬 自社のみで電力供給可能に九州電力が発表している、この冬の電力需給の見通しによりますと、最も多く見積もった需要は平成23年並みの厳しい寒さとなった場合で、1515万キロワットと予測しています。これに対し、川内原発1号機に続いて2号機も再稼働すれば、供給は最大で1648万キロワットとなり、8.8%の余力を確保できるとしています。九州電力は原発の運転停止によって需要の増える夏と、冬の時期にほかの電力会社から電力の融通を受けていましたが、今シーズンは冬としては平成22年以来5年ぶりに、自社のみで電力を供給できる見通しだとしています。避難計画 残る不安川内原子力発電所の周辺に住む住民からは1号機が再稼働したあとも、事故の際の避難計画などに不安の声が出ているとして、県や自治体は説明や対応を行っています。このうち、全域が川内原発の30キロ圏内に入る鹿児島県いちき串木野市では、原発事故の際、高齢者や入院患者などいわゆる災害弱者から不安の声が出ているとして、今月6日、市議会が県に対し、医療機関や福祉施設を対象にした説明会を行うことや、避難に必要な福祉車両の充実を図ることなどを求める意見書を提出しました。また、市には、住民から事故の際に避難する場所を事前に確認したいという要望が寄せられているため、市が用意したバスで避難所まで案内する取り組みも行っています。いちき串木野市まちづくり防災課の久木野親志課長は、「原発事故に対する住民の不安は根強いので、再稼働したあとも不安の声を丁寧に聞き取り、解消していく必要がある」と話しています。一方、鹿児島県の計画では、川内原発で事故が起きた際の住民の避難にバスも使うことになっており、県は、ことし6月、地元のバス協会やバス会社と協定を結びました。8月にはバス会社の担当者およそ70人を集め、初めての研修会を開きましたが、出席者の間には、「運転手や車体の除染に関して具体的な説明は聞けず、不安の残る内容だった」といった声があります。これについて県は、「研修会を繰り返し開き、理解を進めていきたい」としています。 *3-2:http://qbiz.jp/article/72800/1/ (西日本新聞 2015年10月15日) 九電、川内2号機再稼働 1号機に次ぎ全国2基目 九州電力は15日午前、川内原発2号機(鹿児島県薩摩川内市、出力89万キロワット)を再稼働させた。東京電力福島第1原発事故後に策定された新規制基準に基づく原発の再稼働は、8月の川内原発1号機(同)に次いで全国で2基目。午前10時半、中央制御室からの遠隔操作で、核分裂を抑える制御棒を引き抜いて原子炉を起動させた。約12時間後の午後11時ごろ、分裂反応が安定的に継続する「臨界」に達する見通し。工程が順調に進めば21日に発電と送電を開始。11月中旬の営業運転を目指す。九電川内原子力総合事務所の藤原伸彦所長は、2号機の稼働が約4年ぶりであることに触れ「何が起こるか分からないという緊張感を持ち、営業運転まで当たりたい」と述べた。川内原発前では、反原発派の100人が集会を開催。「再稼働のスイッチを押すな」などと声を上げた。11日から座り込み、抗議のハンガーストライキをしている同市の自営業川畑清明さん(59)は「原発は命より経済を優先する社会の象徴。廃炉まで反対し続ける」と訴えた。福岡市の九電本店前でも抗議する人たちの姿が見られた。 *3-3:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201510/CK2015101502000258.html (東京新聞 2015年10月15日) 川内2号機 再稼働 複数炉の危険、想定せず 九州電力は十五日、川内(せんだい)原発2号機(鹿児島県薩摩川内市)の原子炉を起動し再稼働させた。二十一日に発電と送電を開始する。二〇一一年三月の東京電力福島第一原発事故後、新規制基準に基づく審査に適合した原発の再稼働は、今年八月の川内1号機に続いて二基目。2号機は十五日午前十時半に再稼働した後、約十二時間後に核分裂反応が安定的に続く「臨界」に達する見通し。営業運転への移行は十一月中旬を予定している。川内原発前や福岡市の九電本店前では、再稼働に反対する住民らが抗議の声を上げた。1号機では再稼働後の出力上昇中に復水器のトラブルが発生し、作業が一時中断した。2号機でも問題が起きれば再稼働に厳しい目が向けられるのは必至で、九電は慎重に作業を進める。瓜生(うりう)道明社長は十五日、「緊張感を持って安全確保を最優先に今後の工程を進めていく」とのコメントを発表した。十五日午前十時半に九電の作業員が川内原発の中央制御室で、2号機の原子炉内の核分裂を抑えていた制御棒の引き抜き操作を始め、原子炉が起動した。再稼働の前提となる規制委の審査には、川内原発のほか関西電力高浜3、4号機(福井県高浜町)、四国電力伊方3号機(愛媛県伊方町)が合格している。 ◆福島事故の教訓どこへ 夏の電力需要ピークも原発なしで乗り切り、その後も安定的な電力供給が続いている九州で再稼働二基目となる川内原発2号機が動きだした。原発は目先のコストは安く、九電の経営にとっては好都合だが、原発の内外とも多くの課題を積み残したままだ。東京電力福島第一原発事故が見せつけたのは、複数の原子炉が近くで稼働する危険性だ。1号機の水素爆発で全作業の一時中断を迫られ、3号機の爆発では突貫工事で完成したばかりの2号機の注水ラインがずたずたにされた。複数炉が悪影響を与え合い、事態を深刻化させた。しかし、原子力規制委員会の審査は、複数炉の問題をあまり考慮していない。「新規制基準さえ満たしていれば、各号機で対処できる」(田中俊一委員長)ことが大前提となっている。がれきで資材を運べなかったり、十分な要員が集まらなかったり事前の事故収束シナリオを外れるような事態は想定していない。国内で火山活動が活発化しているが、桜島もその一つ。周辺の姶良(あいら)カルデラなどの巨大噴火への備えも必要だが、監視態勢は不十分で、核燃料の緊急移送もまだ検討中だ。住民の避難計画も形はできているが、県のトップらは「広域に避難するような事態にはならないだろう」と楽観的にみて再稼働を認めている。 <川内原発> 鹿児島県薩摩川内市にある九州電力の加圧水型軽水炉。1号機が1984年、2号機が85年に営業運転を開始した。出力はともに89万キロワット。定期検査で1号機が2011年5月、2号機が同9月に停止した。13年7月、新規制基準の施行日に原子力規制委員会に審査を申請し、14年9月に全国の原発で初めて審査に適合した。1号機は今年8月11日に再稼働し、同14日に発電と送電を始めた。 *3-4:http://373news.com/_column/syasetu.php?ym=201510&storyid=70609 (南日本新聞 2015.10.23)[2号機発送電] 「川内方式」には反対だ 九州電力は川内原発2号機の発電と送電を4年ぶりに始めた。これから出力を段階的に引き上げ、11月1日のフル稼働をめざす。すでに営業運転中の1号機は、出力上昇中に復水器の細管が破損し、計画に狂いが生じた。「1号機の経験を踏まえ、慎重にやっていく」と九電は述べた。根強い不安や反対を振り切っての運転再開である。スケジュールありきは許されない。営業運転30年を昨年迎えた1号機に続いて、2号機も来月には30年となる。そろそろ老朽化が懸念される。1号機は運転開始から24年後、「加圧水型炉のアキレスけん」と言われる蒸気発生器を交換した。しかし、2号機は東京電力福島第1原発事故の影響で、交換予定を2018年へ先送りしている。1号機の交換タイミングに比べるとほぼ10年遅れだ。安全上の問題はないのか。1号機以上に厳しい目が注がれていることを忘れてはならない。問題はまだある。原発再稼働の地元同意手続きで「川内方式」と呼ばれているものも、その一つである。川内原発では「鹿児島県と薩摩川内市で十分」と伊藤祐一郎知事が発言し、薩摩川内市議会の賛成陳情採択から2週間足らずで手続きを済ませた。安倍内閣も「川内原発の対応が基本的なことになる」(菅義偉官房長官)と、原発が立地する自治体に限定した川内方式を踏襲する姿勢だ。福島原発事故では放射性物質が立地自治体の外にまで拡散した。局地的に放射線量の高い「ホットスポット」も、半径20キロ圏外で見つかった。尻すぼみになったものの、当初は川内原発30キロ圏市町の多くが、立地自治体並みの協定を求めた。住民の不安を踏まえれば当然の判断だったはずだ。少なくとも避難対象地域となる半径30キロ圏までは、同意が必要な「地元」と解すべきだ。事故の教訓を忘れたような川内方式は同意できない。川内に続いて新規制基準に適合した関西電力高浜原発3、4号機でも、政府は福井県と高浜町の同意だけで十分との考えだ。5キロ圏の京都府舞鶴市などは、事故が起これば立地自治体並みの被害を受けるのは明らかである。川内方式をごり押しすべきではない。来年、電力自由化を控える九電にも聞きたい。「核のごみ」の処分、廃炉などの難題とどう向き合うか。誠実に答えてほしい。 <玄海原発> *4-1:http://www.saga-s.co.jp/column/genkai_pluthermal/20201/238628 (佐賀新聞 2015年10月12日) 原発再稼働「同意地域広げて」80%超、県民世論調査 被害が広域化した福島の原発事故後、再稼働の際に同意が必要な「地元」の範囲をどう定めるべきかが課題となっている。8月の川内原発の再稼働では鹿児島県と立地自治体の薩摩川内市に限られたが、佐賀新聞社の県民世論調査では、従来の手続きを適当とした県民は15%に満たず、80%以上が地元の範囲を広げるべきと回答した。玄海原発の半径30キロ圏内には、立地自治体の東松浦郡玄海町のほかに唐津市と伊万里市、福岡県糸島市、長崎県の佐世保、平戸、松浦、壱岐市が含まれる。世論調査では、川内原発のケースと同じ従来通りの立地自治体と県が地元範囲となる「玄海町と佐賀県」が14・7%にとどまった。これに対し、「福岡、長崎両県を含む30キロ圏内の自治体」が最も多い52・7%を占め、「佐賀県内の全自治体」も30・5%に上った。性別や年代、支持政党に関わらず、満遍なく同様の傾向となった。福島の事故で拡散した放射性物質は当時の防災対策重点区域だった10キロ圏を超え、50キロ圏の福島県飯舘村を汚染し、全村避難に追い込んだ。こうした実例から原発事故が起きれば立地自治体だけの問題ではなくなるとの思いが県民の中に根強くあることが浮き彫りとなった。地域別(16市郡)にみると、九電に立地自治体並みの権限拡大を求め、県内で唯一、安全協定を結んでいない伊万里市は、地元の範囲を「30キロ圏内の自治体」にすべきとの回答の割合が全市町で最も多い75%を占めた。ほかに玄海町と唐津市、有田町でも60%を超えた。政府は原発再稼働の手続きに関して「川内原発の対応が基本」(菅義偉官房長官)とし、半径30キロ圏内の自治体に避難計画の策定を求める一方、地元同意の範囲は「立地県の知事の判断を尊重する」と判断を丸投げしている。一方、山口祥義知事は8月の定例会見で、地元同意の範囲について「基本的には国が考えること」と述べた。これを受け、伊万里市の塚部芳和市長は「薩摩川内市の面積は玄海町に唐津市、伊万里市を合わせたぐらいの大きさ。位置関係が違うので、知事には国に働き掛けてほしい」と強調した。 *4-2:http://qbiz.jp/article/72889/1/ (西日本新聞 2015年10月16日) 九電、本格回復道半ば 電力自由化対策急務 川内原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)を相次いで再稼働させたことで、九州電力は2016年3月期の通期黒字が明確に見通せる状況になった。電力供給にも大きな余力が生まれる。ただ、16年4月には電力小売りの全面自由化が控え、業界の垣根を越えた大競争が始まる。玄海原発3、4号機(佐賀県玄海町)の再稼働に向けた手続きも道半ばで、直面する課題はなお尽きない。九電は川内原発2基の再稼働で月平均150億円の収支改善を見込む。2号機は21日から段階的に出力を上げ、機器トラブルなどがなければ、11月から再稼働による財務面への効果が本格的に出てくる見通し。16年3月期は5年ぶりに黒字化できる公算が大きくなった。電力供給面では、余力分を市場で販売できる。高負荷での稼働が続いた火力発電所の維持・補修作業にも順次、取り組む方針だ。だが、瓜生道明社長は株主への復配や社員の賞与復活など今後の利益配分については「さまざまな利害関係者がおり、バランスをとる。現時点でどうこうという答えは出さない」と慎重な構え。他の九電幹部からも、川内原発の再稼働による安堵(あんど)感はうかがえない。財務状況が好転するとはいえ「抜本的な改善には玄海原発2基の再稼働が不可欠」(幹部)だが、本年度内の再稼働は厳しい状況。引き続き経営効率化を図っていくという。原発が停止していた間に九電が失ったのは、それまで積み上げた利益だけではない。電気購入契約を新電力などに切り替え、九電から「離脱」した企業や自治体は、電気料金を抜本値上げする以前の3倍以上に増えた。電力小売り全面自由化は約5カ月後。なお自由度の限られた経営資源を使って、どれだけ魅力的な料金やサービスを提供できるか−。引き続き難しい対応を迫られる。 *4-3:http://www.saga-s.co.jp/column/genkai_pluthermal/20201/239751 (佐賀新聞 2015年10月15日) 川内2号機再稼働、佐賀市で抗議行動 九州電力が川内原発(鹿児島県薩摩川内市)2号機を15日に再稼働させたことを受け、反原発の市民団体「玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止める裁判の会」(石丸初美代表)は佐賀市の中央大通りで抗議活動を展開した。「福島第1原発事故の犠牲を踏みにじる暴挙」と批判し、即時停止を訴えた。石丸代表らメンバー約10人は抗議声明のビラを配り、「福島原発事故は収束どころか、まだまだ続いている」と指摘した。火山対策や避難計画の不備を挙げて「原発事故は起きる。原発事故は地球を滅ぼす。そんな原発はいらない」と呼び掛けた。さらに隣県を含む川内原発周辺の自治体住民が、説明会開催を求めているにも関わらず、九電が応じていない現状も批判した。近く原子力規制委員会の適合性審査が再開される玄海原発ついても「山口知事は、佐賀のことは佐賀で決めるといって当選した。知事は再稼働の同意権を持っており、住民説明会や地元の範囲など国任せではなく、県民の立場で判断すべき」と主張した。 <伊方原発> *5-1:http://digital.asahi.com/articles/ASHB84Q6RHB8PTIL00P.html?iref=comtop_list_pol_f01 (朝日新聞 2015年10月16日) 原発の町 閉じた審議なぜ(考 民主主義はいま) 愛媛県の佐田岬半島に位置する伊方町にある四国電力伊方原発3号機の再稼働をめぐる陳情の採択について、町議会の特別委員会の審議は非公開とされた。原発再稼働の行方は、住民にとって最大の関心事。議会制民主主義の下で選ばれた住民代表による議論は、公開を求める声があったにもかかわらず、なぜ閉ざされたのか――。早期再稼働を求める陳情3件が全員一致で採択された2日の伊方町議会原子力発電対策特別委員会は、現在手続きが進む「地元同意」の第一歩となった。6日に本会議でも採択し、9日に県議会も再稼働を認める決議案を本会議で可決した。中村時広知事と山下和彦町長は、同意の是非を近く判断するとしている。議会関係者によると、町議会では議会運営をリードする「主流派」10人と「非主流派」の6人に分かれる。運営方法を決める会議で非主流派議員から「再稼働の是非は住民の関心が高い。公開すべきだ」との意見が出たが、冒頭と最後の採決の公開だけになった。ふだん審議をめぐり、公開の是非が焦点となることはない。今回非公開とした判断の根拠は「議員のほか委員長の許可を得た者が傍聴することができる」という町の条例だ。必要と認める時は委員長の判断で傍聴人の退場を命じ、非公開にできる。委員長は非公開の理由を「忌憚(きたん)のない意見を聞きたいから」と説明した。主流派議員の一人は「非公開は全会一致を目指すためだった。議員を選んだ伊方町民の総意としても『よし、行け』なんだという結論を出したかった。立地自治体としてもめんように丸く収めたかった」と打ち明ける。もう一つ別の思惑もあったという。「賛成意見だけで議論が盛り上がらなかった場合、公開だと格好悪い。『反対意見も出ない伊方町ってどんな町なんや』と思われるのも嫌だった」。人口約1万人の町の今年度一般会計予算は約100億円。3割を原発による電源三法交付金や固定資産税が占める。町に落ちた「原発マネー」はこの40年間で約900億円。地元振興のための施設が各地に散らばる。非公開には反対したが、再稼働には賛成の立場を取った議員の一人は「原発なしの町政は考えられん。恩恵があまりにも大きすぎる」と漏らした。 ■「議会の意味ない」 議会は民意を代表しチェック機能を果たすべき存在だ。非公開の審議に60代の町民の男性は険しい表情で語った。「再稼働反対の町民はいるのに、議員は反対意見を言わない。しかも特別委は非公開。議員がどんな意見を持っているか、聞けるはずだったのに議会の意味がない」と、「政治」と「民意」の乖離(かいり)を嘆く。「町が長いものに巻かれようという考えだと、事故があったとき、町民が何か意見を言っても、国や県は聞く耳を持たないだろう」。一方、再稼働に賛成の住民は多い。別の男性は「様々な意見を表に出さないようにして、全会一致で賛成を表明した方が再稼働に向かいやすくなる」と話す。九州電力川内原発1、2号機が再稼働した鹿児島県薩摩川内市では「再稼働賛成」と「反対」の陳情が付託された市議会特別委員会の審議は公開だった。副委員長を務めた成川幸太郎市議は「非公開との声は全くなかった。よその議会のことをどうこう言えないが、非公開だと住民に変な疑念を持たれてしまうのでは」。原発の国の新規制基準作りに関わった勝田忠広・明治大准教授(原子力政策)は「町議の考えを知る大事な機会をなくし、町民が主体的に考えるきっかけも失わせた」と批判。「東京電力福島第一原発事故後、技術的な安全性は改善に向かっていると言えるが、地元の自治体が経済的に過度に原発に依存する体質について議論がない。そもそも原発はなぜ必要かという根源的な議論が必要だ」と指摘する。 ◇ 〈伊方原発〉 愛媛県伊方町の瀬戸内海側に1~3号機がある。再稼働に向けて準備が進む3号機は1994年に運転が始まった。東京電力福島第一原発と異なる加圧水型炉で、出力は89万キロワット。使用済み燃料から取り出したプルトニウムを混ぜた燃料を使うプルサーマル発電を計画している。 *5-2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12036328.html (朝日新聞 2015年10月26日) 伊方再稼働、県が同意 愛媛知事表明、地元手続き完了 愛媛県の中村時広知事は26日、四国電力伊方原発3号機(同県伊方町)の再稼働への同意を表明した。これで地元同意手続きは完了となり、今後は原子力規制委員会による認可手続きや設備の使用前検査を経て、早ければ今冬以降に再稼働する見通し。原発の新規制基準ができて以降、地元同意は九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)に次いで2例目。中村知事はこの日、松山市の愛媛県庁で、四電の佐伯勇人社長と面会。中村知事は「非常に重い責任を伴う判断だ」と述べ、「国の考え方、四国電力の取り組み姿勢、地元の議論を総合的に判断した」と、再稼働に同意する意思を伝えた。そのうえで、▽異常通報連絡の徹底や地元住民への真摯(しんし)な説明の継続▽県や市町が行う原子力防災対策への支援――など9項目を要請した。中村知事はその後、記者会見し、安全対策について県独自に四電に求めてきたことなどを解説。再稼働への同意を決断した理由に理解を求めた。22日には山下和彦町長が中村知事に同意の意思を伝えていた。中村知事は26日午後に上京し、林幹雄経済産業相に同意の意思を伝える。伊方原発の防災重点区域となる半径30キロ圏は、山口県上関(かみのせき)町の離島・八島(やしま)の一部も含まれるが、同意手続きには関わらなかった。30キロ圏で反対を表明する県内の自治体もなく、川内1、2号機のケースと同様、四電と安全協定を結ぶ原発立地自治体の伊方町と県のみの判断となった。1994年12月に営業運転を始めた伊方3号機は、2010年3月から原発の使用済み燃料から取り出したプルトニウムを混ぜた核燃料を使うプルサーマル発電をしていたが、11年4月に定期検査で停止した。今回の知事同意で、福島第一原発事故後、プルサーマル運転を地元自治体が初めて認めたことになる。 ◇ 菅義偉官房長官は26日午前の会見で、中村知事が伊方3号機の再稼働への同意を表明したことを受け、「知事の理解を得られたことは極めて重要だ。引き続き、法令上の手続きに基づき、四国電力が安全確保を最優先に対応することが極めて大事だ」と述べた。 PS(2015年10月27日追加):そもそも、*6-1のような空母・潜水艦は戦争で使うものであるため撃沈される確率が高く、それが原子力を動力にしているのは危なくて仕方がない上、事故時に乗組員が退避するのでは周囲の人はたまったものではない。そのため、空母や潜水艦は真っ先に燃料電池船にすべきだし、*6-2のように、洋上風力発電などの自然エネルギーを利用して燃料電池を充電する漁船があれば、離島でも燃料費高に悩まされることなく漁業をすることができるのに、と考えている。 *6-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201510/CK2015102302000149.html (東京新聞 2015年10月23日) 原子力艦事故の避難判断基準 防災相、原発並みに変更を検討 河野太郎防災担当相は二十二日、米軍空母など原子力艦で事故が起きた場合の避難判断基準の変更を検討する考えを示した。原発と同様、停泊地の周辺で放射線量が毎時五マイクロシーベルトを超えたら住民が避難や屋内退避を始めるよう、国の災害対策マニュアルを見直す。首相官邸で記者団に語った。現在の原子力艦事故の避難判断基準は、毎時一〇〇マイクロシーベルトで原発事故の二十倍。河野氏は「同じ放射性物質なのに(原発と)変える意味がない」と述べ、十一月に開く関係省庁や有識者の作業委員会で見直すとした。また河野氏は原子力艦事故の屋内退避の範囲が、空母の場合は半径三キロとされていると指摘。原発事故の原子力規制委員会の指針は半径三十キロ圏内となっており「原子力艦は、今のままでいいのか範囲を広げるのがいいのか(作業委で)議論してもらう」と述べた。内閣府によると、原子力空母や原子力潜水艦が入港する米海軍基地があるのは神奈川県横須賀市、長崎県佐世保市、沖縄県うるま市。 *6-2:http://qbiz.jp/article/73552/1/ (西日本新聞2015年10月27日) 洋上で風力発電を燃料電池に利用 エコ漁船へ研究会、長崎 国立研究開発法人水産総合研究センター(横浜市)や長崎県、五島市などは26日、水素を燃料とする燃料電池漁船の導入を目指す「五島市離島漁業振興策研究会」を発足させた=写真。2020年度以降の実用化に向け、漁船の設計に必要な条件を検証していく。環境省は既に同市沖で進める「浮体式洋上風力発電実証事業」の余剰電力から水素を製造し、燃料電池船(10トン級)の燃料にする実証事業を行っている。同事業から得られるデータを基に、漁具を積んで操業する際の安全性や、必要な電力量などを検証し、定置網の水揚げなど沿岸漁業に適した漁船の開発を目指す。研究会には、燃料電池車を市販するトヨタ自動車も技術アドバイザーとして加わる。同センターの宮原正典理事長は「再生可能エネルギーの地産地消で、五島の基幹産業である漁業の振興につなげたい」と話した。 PS(2015年9月28日追加):*7-1、*7-2のように、川内原発は、カリフォルニア州サンオノフレ原発と同じ三菱重工業製の加圧水型原子炉で、高い気圧の水を蒸気発生器に送るため配管破断のリスクがあり、サンオノフレ原発は2012年に起きた蒸気発生器配管の水漏れをきっかけに廃炉になったそうだ。そして、*8のように、2010年1月29日、九電川内原発でも7人が死傷する大事故があり、死者は靴しか残っていないほどのひどい火傷で、瞬時に超高熱火災が発生したとのことだが、これは高温・高圧の蒸気による事故だったのではないのか? 1)高温高圧に耐えなければならない加圧水型原子炉蒸気発生器の設計には無理がある *7-1:http://dot.asahi.com/wa/2015090900135.html (週刊朝日 2015年9月18日号) 再稼働 川内原発の“大事故”が危ぶまれる本当の理由 発端は、2012年1月。カリフォルニア州サンオノフレ原発3号機で、交換後の蒸気発生器の配管から放射性物質を含む水漏れ事故が起きたことだった。蒸気発生器とは加圧水型原子炉に備わる装置で、タービンを回して発電するための蒸気を作り出す重要なもの。それが新品に交換した後に故障したのだ。同原発を運営する南カリフォルニア・エジソン社は、装置内に張り巡らされた伝熱細管と呼ばれる管が異常摩耗していたことが原因だったと断定。定期点検中の2号機にも同様の摩耗が見つかった。米国でこの問題を取材していたジャーナリストの堀潤氏が解説する。「米原子力規制委員会(NRC)の調査では、問題となった三菱重工業製の蒸気発生器の1万5千カ所以上に異常な摩耗が見つかったと報告されました。しかもNRCによると、三菱重工は製造した蒸気発生器に欠陥部分があることを設置前に認知していて、それを認めた報告書を12年9月にNRC側に提出していたと言います」。そのとおりなら、三菱重工は欠陥品を売ったことになる。事態を重く見たNRCは、原因究明と安全確保がなされるまで再稼働を禁止。12年10月には、神戸にある三菱重工の事業所に抜き打ち検査を行った。「そのときNRCは、蒸気発生器の欠陥部品を改良した配管に対する安全検査の方法が、連邦法などが定める基準に沿っていないことを見つけたのです。具体的な問題点は、[1]住友金属工業(現・新日鉄住金)から購入したモックアップ用配管が検査要求を満たす仕様になっていたか確認しなかった[2]東京測器研究所による市販の測定サービスの精度が基準を満たすか確認していなかったことなどです」(堀氏)。 つまり、三菱重工側の品質保証が、NRCや顧客の求める基準を満たしていなかったということになる。トラブルを起こした蒸気発生器は「経済性重視」のため、設計上の無理があったとの指摘もある。原子炉停止に追い込まれたエジソン社は早期再稼働を目指すが、周辺住民が反発。NRCも安全性が確保できないとして再稼働許可を与えず、13年6月にサンオノフレ原発は廃炉の選択を余儀なくされる。その後、責任を巡ってエジソン社と三菱重工の泥仕合が始まる。エジソン社は検査や補修にかかった費用1億ドル(約97億円)を三菱側に請求したが、折り合いがつかず13年に国際仲裁裁判所(国際商業会議所)へ仲裁を申請。そして今年7月、「欠陥のある蒸気発生器を設計、製造した三菱重工には甚大な被害の責任がある」として75.7億ドル(約9300億円)を請求したのだ。問題は三菱重工製の蒸気発生器が、再稼働した川内原発の加圧水型の原子炉(同社製)にも採用されていることだ。三菱重工によると、同社がいままで納めた蒸気発生器は122基。「サンオノフレ原発と同一仕様の蒸気発生器は他の原発に納入されていない」という。だが、トラブルを起こすリスクはあると指摘するのは、川内原発再稼働の異議申し立てを原子力規制委員会に行った山崎久隆氏だ。九州電力が公表した資料によると、7年前に交換した川内原発1号機の蒸気発生器にはすでに35本の配管(伝熱細管)に穴が開きかけて施栓をしています。これが30年間使い続けている2号機の装置になると、栓をした本数は400カ所を超える。加えて古いタイプの装置は改良型に比べて配管に応力が集中しやすく、大きな地震が来たら耐えられない危険さえあるのです」。蒸気発生器は、熱交換効率を上げるために配管の厚みがわずか1.1ミリから1.3ミリほどしかない。常に加圧された熱水が管の中を流れているため、時間の経過によって摩耗し、穴が開くリスクも高まる。「常時どこかに穴が開いていて、定期点検で塞ぐ」(原発エンジニア)といわれるほどだ。摩耗した配管が裂けて高圧水が漏れだすと、重大事故につながりかねない。原発の危険性を訴え続ける作家の広瀬隆氏も「加圧水型の原子炉は高い気圧をかけた水を蒸気発生器に送るため、配管破断のリスクがある」と話す。「摩耗したどこかの配管が破れて水が噴き出すと鉄砲玉のように隣の配管を壊し、連鎖反応で一気に破壊される。1987年にイギリスの高速増殖炉で起きた事故では、10秒未満で40本の配管が連鎖破断しました。91年に起きた美浜原発2号機の事故は、蒸気発生器から噴き出した高圧水で配管がスパッと切れたギロチン破断だったのです」。蒸気発生器の配管が破損すると、1次冷却水が圧力の低い2次側へ急速に漏出する。つまり原子炉の冷却水が失われ、メルトダウンにつながる危険性をはらんでいる。事実、美浜原発の事故では20トン以上の冷却水が漏れ、炉が空焚き状態になりかけたと言われた。このように蒸気発生器のトラブルは深刻な事故につながるため、慎重な安全対策が必要。だが高価で大がかりな装置の上、取り換えにも時間を要するため、補修費用がかさむか、施栓が増えて定格出力ダウンにでもならない限り交換はしない。全部で1万本程度ある配管の18%程度が施栓で使えなくなると交換時期ともいわれる。その一方、再稼働を急ぐあまりか、耳を疑うような出来事もある。九電は400カ所以上に栓をした川内原発2号機の古い蒸気発生器を交換するため、新品を準備済み。だが、変えずに再稼働するという。九電はこう主張する。「信頼性向上の観点から14年度の取り換えを計画していたが、新規制基準適合への作業などがあり、ひとまず交換せずに再稼働を目指すことにした。現行の蒸気発生器は非破壊検査をして健全性を確認している」。だが、前出の山崎氏は「新しいものを発注したのは、九電が交換する必要があると判断したから。これでは安全軽視以外の何物でもありません」と批判する。川内原発1号機では再稼働直後の8月下旬、蒸気を海水で冷やして水に戻す復水器が海水混入事故を起こした。九電は混入の原因となった管など69本に施栓したが、同様の事故は今回が初めてではない。97年と99年にも玄海原発で同じ事故が起きていたのだ。広瀬氏が言う。「日本の原発は海岸線にあり、ただでさえ塩分で腐食しやすい。それが再稼働で高温環境になれば、ますます進む。4年以上動かしていない原子炉はすぐにトラブルを起こすのが当たり前で、いま現場の技術者は戦々恐々としているはず」。国民は大事故が起きないことを、祈るしかない。 *7-2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12036505.html?rm=150#Continuation (朝日新聞 2015年10月27日) 三菱重工への請求9160億円 米原発廃炉 三菱重工は7月、賠償請求額が75.7億ドルになる見通しを発表しており、今回、額が確定した。三菱重工は、契約上の賠償の上限は1億3700万ドル(約166億円)と主張しており、国際商業会議所(パリ)の国際仲裁裁判所が仲裁に入っている。問題になったのは、カリフォルニア州のサンオノフレ原発。2012年に起きた蒸気発生器の配管の水漏れがきっかけとなって、運営会社の南カリフォルニア・エジソン社が廃炉を決めていた。 2)本当はどういう事故だったのか? *8:http://www.data-max.co.jp/2010/04/post_9611.html (NetIBNews 2010年4月21日) 九電川内原発7人死傷事故―許されない談合決着 九州電力川内原子力発電所の現実を検証していくにあたり、まずは今年1月に同原発で起きた事故についての記事を再掲載する。1月29日、九州電力川内原発1号機で7人が死傷した。原発では「大事故」にも関わらず、メディアの続報がない。ひたすら「調査中」しか繰り返さない九電は、一体何をしているのか。電力会社とは持ちつ持たれつの連合がバックアップするのが、「小鳩政権」。その「政治とカネ」にメディアの注目が集まっているのを幸いに、ツジツマ合わせに苦慮している姿が思い浮かぶ摩訶不思議な事故だ。 <「事故は隠せ」 電力会社長年の悪癖> どうしてこんなことが起きるのか。テレビ、新聞の第一報に接しても理解不能だったのが、今回の事故だ。「原発は安全」を謳い文句に原発建設を推進してきたのは国と電力会社。チェリノブイリ級超巨大惨事になりかねない重大事故は当然ながら、小さな事故も原発のイメージを悪くするというので握りつぶすのを当たり前としてきた。そこには本社員であろうが末端の下請け作業員であろうが、一個人に対する尊厳のかけらもなく、ともかくその場を糊塗するのを旨としてきたのが電力会社だ。とくに原発は「放射能=被曝」のイメージが強いため、電力会社は放射線被曝事故や周辺への放射能漏洩にはことさら神経を尖らす。しかし、原発という巨大システムは、放射能に直接関わりはないところにも重要施設や機材がヤマほどあり、それらが一体に運用されている。そんな場所や機材での事故や故障が原発中枢の原子炉やタービンに影響をおよぼし、重大事故になることもあり得る。したがって、放射能漏洩や被曝とは直接関係なくても、とにかく「事故は隠せ」が電力会社のいわば習い性になっている。そんな電力会社の体質も近年はわずかながら改善され、情報公開の重要性を理解してきたように見受けられたが、長年の悪癖はそう簡単に直るものではなかったようだ。ましてや、今回のような大事故は隠せるものではないだけに、注視すべきは今回の事故への九電および国の今後の対応だ。事故は1月29日早朝の午前7時過ぎに起きた。原子炉の運転を止めて行なわれる定検は、原子炉をはじめとするあらゆる機器の保守・点検を行なう。原発の点検作業は事前に予定されたものと、事故、トラブルで緊急に行なわれるものがある。後者は当然のことながら、今回のように事前に予定されていたものも、早く終えて運転再開したいのが電力会社の性。企業として生産性を上げるのはもとより、コストは「原発が安い」をアピールする国策にも沿うからだ。その結果、現場は大変だが、原発では徹夜作業も早朝作業も当たり前に行なわれている。事故そのものは、九電と協力企業の西日本プラント工業、西日本技術開発の作業員7人で、配電室にある配電機器の保守・点検を行なう際に発生した。配電室は、タービン建屋という原子炉建屋とは別棟の放射線管理区域外に設置されている。したがって、彼らの着衣は放射線防護服ではなく、通常の作業衣である。そして、配電設備の分電盤を点検するため、1人の作業員が電気を地中に逃がすアースを取り付けようとしたときに火花が発生。本人を含む3人が重症、4人が軽傷を負い、救急車で病院へ搬送された。しかし、重傷者のうち、アースを取り付けようとした西日本プラントの作業員はその日のうちに死亡した。 <追加情報がない「大事故」> 原発での死傷事故は過去にたびたび起きているが、もっとも多い放射線被曝によるそれは、公式記録では極端に少ない。「原発は安全」を金科玉条とする国と電力会社は、被曝事故などあってはならないので、それらは握りつぶす。証拠の記録やデータの改ざんなどは電力会社の得意とするところで、それらの数値を盾に被曝との因果関係を否定するからだ。被曝以外の死傷は公式記録上もかなりあって、作業中の転落や熱水や火災による火傷、感電などさまざまだが、今回のように7人も同時に死傷するのは異例。原発内事故としては「大事故」である。しかも、発生したのは配電室という中枢施設だ。というのも原発は、心臓部の原子炉を中心に水系統や油圧など無数の配管、いわば血管が通っている。それらを正常に機能させるには、コンピュータ制御を含めた電気系統が不可欠。これまた血管類の一つとして、原発内各所に張りめぐらされている。その電気系統のいわば心臓部が、配電室だ。そんな中枢施設を保守・点検するのは、電気系統に通じたプロ集団であるべき。チームのトップは当然ながら九電社員で、ほかの6人も九電社員と同じ九電グループのしかるべき社員であり、「知識のない孫請け、ひ孫請けの作業員ではありません」(死亡者を出した西日本プラント)というのも当然だろう。それが大事故を起こす、あるいは起きてしまったのはなぜか。九電が発表した写真では、点検しようとした分電板がかなり焼けこげているが、死傷者について当初は「感電」としていたのも不可解。2月1日に、国の原子力安全委員会へ経産省原子力安全・保安院が報告したときも、「感電」である。火災と感電。一体何が起きたのか。事故当時の現場のイメージが湧かない。続報を注視していたが、九電からもメディアにもさらなる追加情報がない。 <地元軽視の電力会社 明かされない真相> 九電に問い合わせしたのが事故後2週間以上経ち、全体像が見えておかしくない頃だが、同社広報部門の回答は基本的に「調査中」の繰り返し。2月16日に九電と協議会を開いた薩摩川内市側の、「作業マニュアルを出して欲しい」との要請を九電は断っている。出して何か不都合があるのか。地元をバカにするのも電力会社の悪癖だ。県も同様、本来なら電力会社には国と同等の影響力をもつ立場ながら、九電の報告待ちの姿勢は同じだ。それは国も同じである。電力会社のすべてを管理するのが経産省であり、原発はそのなかの原子力安全・保安院が管理する。そこには、電力会社から真っ先に報告が行く。2月22日に問い合わせをすると「本日発表」と言うので、それを見ると想定通りである。詳細は省くが、よくできた報告文だ。一言でいえば結論はまだ出していない。作業員個人のミスやチームとしての意志疎通の不備などに言及し、あくまでも「推定」という逃げの余地を残したものである。それが最終的にどんな結論に至るのか。少なくとも事故は捜査中ながら、死因は「熱傷」(薩摩川内警察署)すなわち火傷であり、搬送されるときの死傷者のうち死者は「90%火傷。靴しか残っていない状態」(薩摩川内消防局)であり、感電ではない。つまり事故のイメージとしては、火花を機に周辺で瞬時に超高熱火災が発生したということだ。専門家も、「このようなケースはきわめて希な現象」(関東電気保安協会員)と見ている。それが作業員個人に帰せられるのか、チームの監督者責任なのか。そんな個人よりも市に作業マニュアルを出さない九電の定検とは何か。事故は常に複合的な要因で起こる。死傷した作業員の着衣が純綿なら死亡しなくても済んだのに、化繊系が災いした可能性もある。それはコスト削減のためか。さらに、過労によるミスもある。それらも念頭に、今回の定検のなかで配電施設点検がどう位置付けられていたのか。九電の姿勢を知りたいもの。これだけの大事故。作業者たちだけに目を奪われていては、真相を見誤る。機材そのものの経年劣化も影響した可能性もあり、メーカーと電力会社のパワーバランス、そして国とのそれで「真相」はいかようにもなるのがこれまでの原子力行政。それを覆すのが地元の県市や警察の責任。それができなければ3号機の増設など論外。鹿児島や九州はもとより、日本に住む人間にはハタ迷惑というものだ。 PS(2015年10月29日追加):*9-1、*9-2のように、東電がフクイチの汚染水海洋流出を抑える柱として建設を進めていた海側遮水壁が完成したそうだが、本当に壁で水をせき止められると考えている人はいないだろう。何故なら、壁で流れをせき止められた水は、壁のない横か、上に行くのであって、流れ込んだ400トンもの地下水を護岸近くの井戸でくみ上げて浄化するのが間に合う筈はなく、くみ上げればくみ上げた分だけ、さらに多くの水が流れ込むからである。また、海水に鋼管ではすぐ錆びるだろう。 なお、「浄化後の汚染水は、トリチウムだけは取り除けない」とも書かれているが、他の放射性物質がすべて取り除けているのなら上出来の方であり、本当に他の放射性物質が含まれていないかどうかについては、溜められた汚染水をぬきうちでサンプリング調査すべきだ。 さらに、「周囲の地盤を凍らせる凍土壁の建設が進んでいる」とも書かれているが、大量の地下水が流れ込み、核燃料デブリが崩壊熱を出している中で、凍らせ続けるためには、これまでフクイチが発電した電力と挙げた利益の全てを使っても足りないと思うが、これまでで凍った部分はあるのだろうか? *9-2より *9-1:http://www.minpo.jp/news/detail/2015102726281 (福島民報 2015/10/27) 海側遮水壁が完成 港湾内流出大幅減へ 第一原発 東京電力が福島第一原発で汚染された地下水の海洋流出を抑える柱として建設を進めていた海側遮水壁が完成した。東電が26日、発表した。港湾内への流出量は1日400トンから10トンと大幅に減る見通し。東日本大震災と原発事故から4年7カ月余。汚染水対策は大きな節目を迎え、今後は建屋内への地下水の流入を防ぐ凍土遮水壁の運用などが焦点となる。東電によると、海側遮水壁は総延長780メートルで、594本の円筒状の鋼材を壁のように並べて打ち込んだ。26日午前9時40分ごろ、鋼材の隙間にモルタルを注入する止水工事の完了を確認し、一連の作業を終えた。地下水の流れをせき止めることで、港湾内への地下水の流出量は1日400トンから10トンに減らせ、放射性セシウムやストロンチウムは40分の1、トリチウムは15分の1まで低減できると試算している。せき止められた地下水は建屋周辺の井戸「サブドレン」や護岸近くの井戸「地下水ドレン」でくみ上げ、浄化した上で海洋放出する。これにより地下水の上昇を防ぐ。今後1カ月程度かけ、港湾内の海水に含まれる放射性物質の濃度などを分析し、遮水壁の効果を確認する。東電は平成24年4月に遮水壁の建設を開始した。26年9月の完成を目指していたが、水位が上昇して地表にあふれ出る恐れがあったため、約10メートルを残して工事を中断していた。今年8月、県漁連が「サブドレン計画」の受け入れを決定したのを受け、9月から工事を再開していた。遮水壁の完成を受け、県原子力安全対策課は「汚染水の低減につながるだろうが、運用に当たっては地下水位のコントロールを徹底してほしい」と求めた。県漁連の野崎哲会長は「港湾内の放射性物質濃度が目に見えて改善されると期待している。引き続き、注意深く廃炉作業を進めてほしい」と注文した。 ◇ ◇ 今後は建屋内への地下水の流入をいかに防ぐかが課題になる。現在、1日約160トンの地下水が流入し、汚染水になっている。東電は、東京五輪・パラリンピックが開催される32(2020)年内に地下水の流入をなくし、建屋にたまっている汚染水をほぼゼロにする計画。当面は建屋内への地下水の流入を氷の壁で抑える凍土遮水壁を運用させるなどし、28年度中に流入量を1日当たり100トン未満に減らす方針。 *9-2:http://www.imart.co.jp/houshasen-level-jyouhou.html (福島第一原事故後の最新情報 27.10.26) 汚染水の海流出防ぐ遮水壁 きょう完成へ (要点のみ) 東京電力福島第一原子力発電所で3年越しで建設が進められてきた「遮水壁」と呼ばれる設備が、26日にも完成する見通しです。汚染された地下水が海に流れ出すのを抑えるため、護岸を鉄の壁で完全に囲うもので、事故から4年半余りたって汚染水対策は大きな節目を迎えることになります。「遮水壁」は、福島第一原発の護岸沿いの地中に深さ30メートル、全長780メートルにわたって鋼鉄製の壁を設け、海に流れ出している汚染された地下水をせき止めるもので、東京電力は、事故の翌年から建設を進めていました。鋼鉄の板を打ち込む作業はすでに終わっていて、26日午前中に鉄板の隙間をセメントで埋める最後の作業を行い、問題がなければ3年越しで進められてきたすべての建設作業が終わる見通しです。遮水壁でせき止めた地下水はポンプでくみ上げ、浄化して海に流す計画で、東京電力は今後、地下水の水位や海水中の放射性物質の濃度を監視するなどして効果を確かめるとしています。東京電力は、遮水壁が完成すれば海に流れ出す地下水の量がこれまでの1日400トンから10トンまで減り、放射性物質の流出も抑えられるとしていて、海への流出が大きな課題となってきた汚染水への対策は、事故から4年半余りたって大きな節目を迎えることになります。遮水壁の経緯と予想される効果 【遮水壁の経緯】 福島第一原発で遮水壁の建設が始まったのは、事故発生から1年余りたった平成24年5月でした。しかし、完成に向けては大きな課題がありました。何も対策を取らなければ、せき止められた地下水が地表などからあふれ出してしまうのです。このため東京電力はせき止めた地下水をポンプでくみ上げ、浄化したうえで海に排水する計画をたて、去年8月、地元の漁業関係者に了承を求めました。しかし、浄化するとはいえ1度は汚染された地下水を海に流すことへの不安に加え、汚染水対策を巡る東京電力への不信感もあり、地元からは強い反対の声が上がりました。長い交渉を経て地元が計画に同意したのは1年後のことし8月。その結果、中断していた遮水壁の建設作業が再開し、26日、ようやく完成にこぎ着ける見通しとなりました。 【海の汚染の現状は】 福島第一原発では、海の汚染は当初から深刻な問題として対策が求められてきました。事故発生直後、核燃料から放出された放射性物質に加え、原子炉に注がれた冷却水が高濃度の汚染水となって海に流れ出し、海水の放射性物質の濃度は、「セシウム137」の場合、原発に隣接する場所で1リットル当たり数百万ベクレルに上りました。その後、濃度は1年後までに大きく下がったあと、おおむね横ばいの状態が続いています。現在は、雨やトラブルの影響による変動はありますが、「セシウム137」で比較するといずれも高いところで、原発の港湾の内側で十ベクレル前後、外で数ベクレル程度となっています。こうしたなか、地下水の問題は、海を汚し続ける残された課題の一つとなっていました。 【遮水壁の効果は】 東京電力は、遮水壁が完成すれば地下水を通じて海に流れ出す放射性物質の量が、セシウムとストロンチウムはこれまでの40分の1に、トリチウムは15分の1に減ると試算していて、今後、海水に含まれる放射性物質の濃度の変化を調べ、効果を確かめることにしています。 ●汚染水対策の現状と残る課題 汚染水を巡っては、「遮水壁」の完成後も数多くの課題が残されています。 【課題1 海への流出対策】 福島第一原発では毎日400トンの地下水が海に流れ出していて、一部は原子炉建屋の周辺など汚染された場所を通るため、海を汚染する原因の一つと指摘されてきました。東京電力は、「遮水壁」が完成すれば海に流れ出す量は10トンまで減るとしていて、「海への流出」への対策は1つの区切りを迎えることになります。 【課題2 汚染水の増加対策】 一方、汚染水の増加を抑える対策も進められています。福島第1原発では地下水が建屋に流れ込んで内部の高濃度の汚染水と混ざり、毎日新たに400トンずつ汚染水が発生していました。東京電力は、建屋に流れ込む前の地下水をくみ上げて海に流す「地下水バイパス」と呼ばれる取り組みなどで、地下水の流入量を1日当たりおよそ100トン減らすことができたとしています。先月からは「サブドレン」と呼ばれる建屋の周辺の井戸から地下水をくみ上げて浄化して海に放出する対策を始めたほか、周囲の地盤を凍らせる「凍土壁」の建設も進んでいます。将来的には、建屋を補修して地下水を完全に止水したうえで汚染水をすべて取り除きたいとしていますが、具体的なめどは立っていません。しかも、事故で溶け落ちた核燃料を取り出さない限り、汚染水の発生を完全に無くすことは難しいのが実情です。 【課題3 汚染水管理と処分】 さらに、汚染水の管理や最終的な処分も課題として残されています。 おととし、建屋からつながる「トレンチ」と呼ばれる地下のトンネルにたまった高濃度の汚染水によって地下水が汚染され、海に流れ出していたことが明らかになりました。さらに、保管用のタンクから高濃度の汚染水およそ300トンが漏れ、一部が海に流れ出すトラブルも発生しました。このため東京電力は、「トレンチ」にたまった汚染水の抜き取りを進め、ことし7月までに作業を終えてセメントで埋め立てたほか、タンクで保管している汚染水から放射性物質を取り除く作業を進めています。しかし、「トリチウム」と呼ばれる放射性物質は取り除くことはできません。現在、タンクで保管している汚染水の量は70万トン余りに上っていますが、最終的な処分についてはめどさえ立たないのが現状です。 PS(2015年10月30日追加):*10-1、*10-2のように、大間原発建設差止訴訟を起こしている函館市の工藤市長を激励に、小泉純一郎、細川護熙両元首相が函館を訪れ、建設中の大間原発と函館の近さも確認して、「函館から意見は聞かずに避難計画を作れという法律は、矛盾している(小泉氏)」「(原発建設は)青森側だけの同意ではなく、函館やその他の沿岸地域の同意を受けるべきだ(小泉氏)」。「私たちも原発ゼロや自然エネルギー普及へ頑張りたい(細川氏)」等、述べられたそうだ。津軽海峡も替えのないよい漁場で日本国民の宝であるのに、何からでもできる発電のために豊かな生態系を破壊するなど、とても許されるものではない。 *10-1:http://www.asahi.com/articles/ASHBY4TP7HBYUTFK00D.html (朝日新聞 2015年10月29日) 小泉元首相「矛盾している」 原発訴訟の函館市長を支持 小泉純一郎、細川護熙両元首相が29日、北海道函館市を訪れ、大間原発(青森県大間町)の建設差し止めを求める訴訟を起こしている函館市の工藤寿樹市長と意見を交わした。函館市の一部は大間原発から30キロ圏にあり、福島第一原発事故後に避難計画の策定が義務づけられた。一方、工藤市長は原発の稼働に当たって函館市には同意権がないことを問題視し、提訴の理由としている。小泉氏は「函館から意見を聞かない。しかし、避難計画を作るという法律がある。矛盾している」と函館市の姿勢を支持した。原発事故後に工事がいったん中断していた大間原発について、工藤市長は「完成して稼働すれば、これからもドンドン新しい原発をつくっていくことにつながる」と指摘した。 *10-2:http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/area/donan/1-0196153.html (北海道新聞 2015年10月30日) 原発ゼロ、函館から訴え 小泉、細川両元首相が来函 電源開発大間原発(青森県大間町)の建設差し止め訴訟を起こしている函館市の工藤寿樹市長の激励を目的に、29日に函館を訪れた小泉純一郎、細川護熙両元首相は、市役所で工藤市長の説明を聞き、津軽海峡の対岸で建設中の同原発と函館の距離の近さも確認した。「(原発建設は)青森側だけの同意じゃいけない。函館やそのほかの沿岸地域の同意を受けるべきだ」(小泉氏)。「私たちも原発ゼロや自然エネルギー普及へ頑張りたい」(細川氏)。道内外から集まった大勢の報道陣に囲まれ、函館から「原発ゼロ」を訴えた。両元首相ら一般社団法人「自然エネルギー推進会議」(東京)のメンバーら7人は29日正午ごろ、函館空港から市役所に到着。正面玄関で出迎えた工藤市長と笑顔で握手を交わし、道内や東北、東京などから集まった報道陣が待つ市長会議室に入った。約20分間の非公開の会談で、小泉氏らは大間原発の建設状況などを質問。会談後の取材で、小泉氏は事故時の避難計画作成を求められながら建設同意権がない函館の状況に理解を示し、工藤市長は「短時間で他の原発との違いをよく分かってもらえた」と手応えを語った。下北半島を一望する庁舎8階では「あの白いのか」などと言いながら、ガラス越しにうっすら見える大間原発を肉眼や双眼鏡で確認。小泉氏は「距離が短いねえ。これじゃあ風が吹いたらもう…」と、原発事故時の函館での放射能汚染の恐れにも言及した。午後2時から市内のホテルで開かれた小泉氏の講演会には、実行委の想定を約200人上回る約800人が集まった。歯切れのいい「小泉節」に、実行委代表で大間原発訴訟の会の竹田とし子代表は「小泉さんは原発ゼロでも国内の電力が十分賄えることを明確に語ってくれた。今後も活動を続けて頑張らなければと思った」。講演を聴いた市内の無職菅原久美子さん(66)は「原発の温排水が海に与える影響に関する話は参考になった。周囲には大間原発の問題は考えないようにしているという人も多いが、講演会を聞き、やっぱり反対しないとダメだと感じた」と感想を語った。 PS(2015.10.31追加): *11-1のように、英国がいくつもの新原発建設を行うのは、英国の失敗の始まりで残念だと思うが、その受注額は1700億円前後などと桁違いに大きい。しかし、事実でないことを根拠にした首相のトップセールスで原発を売り込めば、*11-2のように、事故時には、信用をなくしたり、国民負担が生じたり、恨まれたりする可能性が高いのである。 *11-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20151031&ng=DGKKASDZ22HH1_Q5A031C1MM8000 (日経新聞 2015.10.31) 日揮、原発建設に参入 日立の英計画、1700億円で受注へ 日揮は原子力発電所の建設事業に参入する。日立製作所が計画する英国西部ウィルファの原発で建屋などの建設工事を請け負う見通しで、受注額は1700億円前後に達する見込み。海外でのプラント建設で培ったノウハウを生かす。国内の原発建設はこれまで総合建設会社(ゼネコン)が手掛けてきたが、国内の新規案件が止まるなか、大成建設などが海外での建設に乗り出す方針。プラント大手の日揮の参入で受注競争が激しくなりそうだ。英国では日立傘下の原発事業会社が原発4基の建設を計画。このうち2基を設置するウィルファの計画は2019年にも着工、24年の稼働を目指しており、1基目の建屋の発注に向けて日立が日揮と交渉に入った。原子炉などの中核機器を日立が手掛け、日揮は米エンジニアリング大手ベクテルと共同で建屋建設などを担う見通し。1基あたりの事業費は約50億ポンド(約9200億円)で、建設費は7~8割を占める。日揮の受注分は建設費のうち2~3割となるもようだ。日揮は日本で原発建設の実績はない。一方、アジアや中東でエネルギープラントの工事経験が豊富で、数千人に及ぶ外国人労働者の管理や建築資材の大量調達など、大型案件を得意としている。 *11-2:http://blogs.yahoo.co.jp/liliumnokai/9984591.html (毎日新聞 2013年8月3日) 原発輸出:国民負担に直結 国のリスク不十分な説明 日本が安全確認体制を整備しないまま、原発輸出を強力に推進し続ける背景には、原子力安全条約の存在がある。条約は原発事故の責任を「原発を規制する国(立地国)が負う」と規定しており、日本は免責されるという論法だ。茂木敏充経済産業相も5月28日の衆院本会議で「(海外で事故があっても)日本が賠償に関する財務負担を負うものではない」と強調している。果たして本当に「知らぬ顔」は通用するのか。推進役の経産省幹部でさえ「賠償でなくても援助などの形で実質的な責任を取らざるを得ない」と高いリスクの存在を認める。売り込み先の一部には別のリスクもある。インドには電気事業者だけでなく、製造元の原発メーカーにも賠償責任を負わせる法律があり、米国はこの法律を理由に輸出に消極的とされるが、日本は前のめりだ。そもそも、輸出国向けに実行される国際協力銀行の融資は税金が原資であり、何らかの原因で貸し倒れが起これば、国民負担に直結しかねない。国のリスクに関する説明は不十分だ。安倍晋三首相は原発輸出について「新規制基準(などによって)技術を発展させ、世界最高水準の安全性を実現できる。この技術を世界と共有していくことが我が国の責務」(5月8日、参院予算委)と正当化。公明党の山口那津男代表も6月、新規制基準を前提に輸出を容認する姿勢に転換した。しかし、この基準は国内の原発にしか適用されず、輸出前に原子力規制委員会が安全確認を行うシステムはないのだから牽強付会(けんきょうふかい)だ。「安全」を強調する一方、事故時の責任回避も主張する姿は、原発を推進しつつ賠償責任を電力会社に負わせる「国策民営」と呼ばれてきた原子力政策に重なる。原発事故から2年超を経てなお約15万人が避難する現状に照らせば、無責任な輸出は到底許されない。 PS(2015年11月3日追加):*12-1、*12-2のように、伊方3号機再稼働に愛媛県知事が同意したため、市民が同意撤回の請願書を知事に渡し、愛媛県松山市の城山公園で伊方原発再稼働反対の全国集会を開いた。そして、行動している人よりずっと多くの人が原発再稼働に反対しているのだ。 伊方原発の位置 2015.11.2愛媛新聞 2015.9.20東京新聞 *12-1:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2015110201001401.html (東京新聞 2015年11月2日) 伊方3号機の再稼働同意撤回を 市民ら愛媛県知事に請願書 愛媛県伊方町の四国電力伊方原発3号機の再稼働に反対する市民らは2日、中村時広知事が10月に再稼働に同意したことを受け、同意の撤回を求める知事宛ての請願書を県に提出した。請願書は、四国電がおおむね千ガルの地震の揺れに耐えられるとしている3号機の耐震性に関し、想定外の地震に耐えられず不十分だと訴えた。集まった約60人の市民らが、1人ずつ県の職員に向かって請願書を読み上げた上で提出した。提出を呼び掛けた松山市の市民団体「伊方原発をとめる会」の和田宰事務局次長は「知事は一度も批判的な立場の専門家から意見を聴取していない」などと批判した。 *12-2:http://www.ehime-np.co.jp/news/local/20151102/news20151102014.html (愛媛新聞 2015年11月2日) 4000人再稼働ノー 伊方原発再稼働反対全国集会 四国電力伊方原発の再稼働に反対する全国集会が1日、愛媛県松山市堀之内の城山公園であった。10月26日に中村時広知事が伊方3号機の再稼働に同意したことを受け、参加者は「断固許さない」との決意を胸に、市内をデモ行進した。主催の市民団体「伊方原発をとめる会」(松山市)によると、北海道、福島、鹿児島など全国から約4千人が参加した。集会でとめる会の草薙順一事務局長は、中村知事の同意に対して「理性も倫理も投げ捨てた行為」と批判。再稼働の阻止に全力を挙げると宣言した。会場の参加者は「原発再稼働ゆるさん」と書かれたメッセージを一斉に掲げてアピール。市内のデモ行進では「命を守れ」「再稼働反対」とシュプレヒコールを上げて、買い物客らに訴えた。 PS(2015年11月24日追加): このブログに何度も記載しているため理由を長くは書かないが、*13は、①30キロ圏の住民だけが避難すればよいという科学的根拠はない(チェルノブイリ、フクイチを参照) ②どれだけの期間、避難すればよいかという認識が甘い(チェルノブイリ、フクイチを参照) ③汚染水で(狭い)日本海が使い物にならなくなるという認識がない(フクイチを参照) ④フクイチの場合は、陸地に落ちた放射性物質は20%以下だったが、玄海原発の場合は80%以上が陸地に落ち、西日本の広域が汚染される という認識がなく、また安全神話によりかかっている。 *13:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/254265 (佐賀新聞 2015年11月28日) 玄海原発事故想定し合同訓練、30キロ圏の3県、6千人参加 佐賀、福岡、長崎の3県は28日、九州電力玄海原発(佐賀県玄海町)の重大事故を想定した合同防災訓練を実施した。原発から30キロ圏の住民、関係機関の担当者ら約6千人が参加。避難手順の確認に加え、被ばく者が出た際の搬送訓練も行い、万一の場合に備える。3県の合同訓練は今回で3回目。玄海原発4号機が運転中に電源を失い、炉心が冷却できなくなった事故を想定した。佐賀県では、通過するだけで車両に付着する放射性物質を検出できるゲート型の機器を初めて設置。原発内で被ばくした負傷者を、国の指定医療施設の長崎大病院にヘリコプターで搬送し、迅速に対応できるか確認する。 このような記事を女性が書くと、「感情論」「風評(根拠のない噂)」等の矮小化した解釈をされることが多く、これは先入観と偏見による女性に対する過小評価だ。そのため、私は、上の記事を書くにあたって、公衆衛生学、生物学、生態学、物理学、化学、経済学、法律、監査などの知識・経験を使っており、これらの知識・経験を一人で使って考えることのできる人は日本全体でもあまりいないということを記載しておく。しかし、こう書くと今度は、「謙虚でない」「女らしくない」などと言う人がおり、両方を合わせると「女性は全員、感情的で科学や論理に弱く知識もないため、風評をまき散らすだけだから、謙虚にして黙っていろ」ということになり、これは、女性蔑視そのものだ。そして、こういうことを書くと、「生意気だから嫌い」「あいつの政策は(正論でも)実現させない」と言う人も少なくないが、それこそ感情論である。
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2015,10,22, Thursday
2015.10.6 2014.7.3 従来の博多人形 西日本新聞 佐賀新聞 古代をモチーフにした最近の博多人形 劉備の博多人形 (*一番よいものを掲載したとは限りません) (1)伝統工芸の活路 私が衆議院議員だった時、上のグラフのように、佐賀県の有田焼は、それまでの料亭への販売が減り、売上が最盛期の20%程度まで落ちたという相談を受けたため、日本全体の伝統工芸の団体を集めて実情を聞いたところ、自民党の谷垣幹事長の地元の丹後ちりめんや伊吹文明元衆議院議長の地元の京都西陣織・友禅染なども含めて、他の伝統工芸も似たような状況であることがわかった。そのため、麻生財務大臣の地元、福岡の博多人形や博多織も似たような状況だと思われる。 伝統工芸品生産額は、*1-1に書かれているように、年々減少するという厳しい状況にあるが、それはライフスタイルの変化に対応して需要を取り込まなかったこと、あまりにも高価で日本の中流階級には買いにくいこと、和式や和装が急速に少なくなったこと等が理由だろう。そのため、それぞれの産地で新技術の開発・応用や輸出拡大・販路開拓などに活路を見いだそうとしているのは重要なことである。 そして、伝統工芸品には優れたものが多いため、それが消失するのはもったいなさすぎる。そのため、①織物なら過去の逸品を先端技術のコンピューター付織機で再現して品質を上げながら安価なものを生産するよう技術革新したり、②染色も著作権のなくなった過去の逸品をプリンターで印刷したり、③人形は3Dプリンターで注文主が要望する顔を作ったり、*1-3のようなロボットを組み込んだりすると、新しい付加価値がついてヒットすると思う。ちなみに、西安の兵馬俑は、素焼きの人形や馬に着色してあった点が博多人形と同じだが、その修理場に行った時、従来のモンゴル民族・漢民族の頭のほかに、オバマ米大統領の頭も置いてあったのが意外で興味深かった。 (2)人材 九州経済調査協会(福岡市)は、*1-2のように、九州・沖縄・山口の2014年の人口移動は、全293市町村のうち8割近くの228の自治体で55〜69歳のリタイア層が転入超過で、「すでに人口還流が起きている」としている。50歳以上で大都市から九州に還流する人には、これまで九州にはなかったような国際企業や輸出企業で経験を積んだ人も多いため、彼らの知識や経験を取り込んでまちづくりや地域産業の活性化に生かすのは有意義だ。 また、高齢者も、働いて支える側にいれば、本人には遣り甲斐があって健康寿命を延ばせるとともに、年金受給額が低くなるため、年金財政にもプラスである。 (3)金融とファンド 事業の見通しがたったら金融が必要になるが、西日本シティ銀行と地場企業は、*2-1のように、既に九州大の特定関連会社、産学連携機構九州と共同で、大学発ベンチャーの創出を目的としたファンドを組成し、バイオ・医療機器・ナノテクノロジー・情報通信・デジタルコンテンツ−などへの投資を想定しているそうで、頼もしい。 また、*2-2のように、佐賀県内に本店を置く全8金融機関と政府系ファンドの地域経済活性化支援機構は、「佐賀観光活性化ファンド」を設立し、2016年に創業400年を迎える有田焼産地である有田町の事業を最初の支援対象とし、地域活性化のモデルとして全県への展開を目指すそうだ。さらに、*2-4のように、九州の地方銀行は、地域経済の活性化を掲げた投資ファンドを相次いで設立している。 そして、*2-3のように、ゆうちょ銀行も、中小企業の経営支援をするための投資ファンドを各地の金融機関と設立する検討をしており、地域金融機関との連携を強化するとともに、資金運用の多様化を進めるそうだ。私は、民営化したゆうちょ銀行の事業に政府が制限を加えすぎるのは妥当ではなく、ゆうちょ銀行にとって慣れない仕事は、他の金融機関と協調融資しながら習熟していけばよいと考えている。 丹後縮緬 京友禅 加賀友禅 西陣織 博多織 佐賀錦 大島紬(奄美大島) 黄八丈(八丈島) 久留米絣 紅型(沖縄) (*一番よいものを掲載したとは限りません) *1-1:http://qbiz.jp/article/73077/1/ (西日本新聞 2015年10月6日) 九州の伝統的工芸品、活路探る 輸出や新技術に力点 陶磁器、織物、木工品…。九州にはさまざまな伝統産業がある。国指定の伝統的工芸品は、博多織や博多人形、伊万里・有田焼など20品目。各県指定の工芸品も多数ある。生産額が年々減少するなど厳しい状況にあるが、それぞれの産地で輸出拡大や販路開拓、新技術の開発・応用などに活路を見いだそうとしている。伝統的工芸品産業の振興に関する法律(伝産法)が1974年に施行され、産業振興の仕組みが整った。要件としては(1)主に日常生活で使われる(2)製造過程の主要部分が手工業的である(3)100年以上前から続く技術・技法で作られる(4)100年以上前から使われる原材料で製造される(5)産地が一定の規模を形成していること−など。国指定の産地は全国で222品目(今年6月現在)ある。全国組織の伝統的工芸品産業振興協会(東京)によると、国指定産地の12年の販売額は1039億円で、83年(5405億円)の5分の1に減少している。従事者数は約6万9千人で、79年に比べると4分の1。ライフスタイルの変化や、安い海外品の流入などで、苦戦を強いられているのが現状だという。国による支援では、産地ごとに製造事業者などで組合を結成。組合が振興計画を作った上で、後継者の育成や技術の伝承、需要開拓、事業の共同化などの取り組みに対して国が助成している。経済産業省の本年度予算は約12億6千万円。また、各都府県でも独自に、比較的小規模な工芸品産地を指定し、支援している。近年では、輸出拡大に向けた取り組みが活発だ。イタリア・ミラノで開催中のミラノ万博で伝統的工芸品を展示。訪日外国人観光客向けには、東京にある展示・販売施設「伝統工芸青山スクエア」などをPRしている。 *1-2:http://qbiz.jp/article/66364/1/ (西日本新聞 2015年7月9日) リタイア層、九州の8割で転入超過 九経調「すでに人口還流起きている」 九州経済調査協会(福岡市)は九州・沖縄・山口の2014年の人口移動を分析し、全293市町村のうち8割近くの228の自治体では、55〜69歳(リタイア層)の世代が転入超過だったとの調査結果をまとめた。有識者でつくる日本創成会議が6月上旬、東京圏の高齢者の地方への移住推進などを国や自治体に求める提言を発表したことを受け、九経調が総務省の住民基本台帳人口移動報告年報(14年)を基に分析した。内訳を見ると、総人口は転出超過であるにもかかわらず、リタイア層の転入超過が起こったのは、熊本市や鹿児島市など半数超の163自治体。総人口、リタイア層いずれも転入超過は、福岡市、鹿児島県姶良市など65自治体だった。九経調は「すでに九州では高齢世代の人口還流が起こっている」としている。また、50歳以上では特に三大都市圏から九州への人口流入が進んでいるという。この理由については「比較的温暖な気候や物価の安さなどによるのではないか」とみている。九経調は「リタイア層を受け入れる自治体は、彼らの知識や経験を取り込んで、まちづくりや地域産業の活性化に生かす方策を考えるべきだ」とする一方、「自治体にとってはリタイア層の流入に伴う医療や福祉の負担増が懸念材料で、国の支援などが必要だ」と指摘している。 *1-3:http://qbiz.jp/article/65968/1/ (西日本新聞 2015年7月3日) ロボット「ペッパー」が広報担当職員 鹿児島・肝付町 鹿児島県肝付町は2日、ソフトバンクが開発した人形ロボット「Pepper(ペッパー)」に職員の辞令を交付した。ペッパーは「肝付町でお仕事します」と元気に宣言した。町は高齢者の生活援助にITやロボットを使う事業を推進中。徳島県の企業の協力でペッパーを呼び、イメージキャラクターとして広報担当職員に任命した。介護施設にペッパーやIT機器を持ち込み、高齢者の反応を見て活用案を募る。CMなどで話題のロボットの訪問に町役場は大騒ぎ。見守ったお年寄りは「しゃべれるごたっが、かごっま弁はつじっとや?(通じるのか)」と興味津々。 <ファンド> *2-1:http://qbiz.jp/article/65846/1/ (西日本新聞 2015年7月1日) 西日本シティが九大発ベンチャー創出ファンド 地場9社も出資 西日本シティ銀行(福岡市)は1日、九州大の特定関連会社、産学連携機構九州(九大TLO、福岡市)と共同で、大学発ベンチャーの創出を目的としたファンドを組成すると発表した。総額は約30億円。このうち15億円を西シ銀、残りを地場企業などが出資し、7月末に設立する。ファンド名は「QB第一号ファンド」で、存続期間は10年。大学の研究成果や特許を活用するビジネスについて、事業化調査の段階から投資対象とするのが特徴で「こうしたファンドは全国で初めて」(西シ銀)としている。出資者には、西部ガス(福岡市)や福岡地所(同)、第一交通産業(北九州市)など9社のほか個人数人も名を連ねる。運営会社は設立済みで、九大TLOの坂本剛前社長、投資ファンド運営の本藤孝氏の2人が代表を務める。現時点では、バイオ▽医療機器▽ナノテクノロジー▽情報通信▽デジタルコンテンツ−などの分野の20社程度に投資することを想定している。創業前の事業化調査のために会社を設立したり、経営人材を探したりすることも手掛ける方針という。 *2-2:http://qbiz.jp/article/66183/1/ (西日本新聞 2015年7月7日) 佐賀 全8金融機関と政府系ファンドと連携 佐賀県内に本店を置く全8金融機関と政府系ファンドの地域経済活性化支援機構(東京)が6日、観光振興事業を支援する「佐賀観光活性化ファンド」を設立した=写真。最初の支援は2016年に創業400年を迎える有田焼の産地である有田町の事業を対象にし、地域活性化のモデルとして全県への展開を目指す。同機構は観光庁と連携し、資金提供や専門家の派遣を通して観光事業を支援している。佐賀銀行と有田商工会議所、機構が中心となり、ファンド設立の準備を進めた。同機構と金融機関が設立したファンドは六つ目で、九州では初めて。ファンドの規模は5億円で、事業期間は7年間。食、伝統工芸に関する事業者やまちづくり会社に対して投資や融資をするほか、会計や経営の専門家による指導、助言を行う。まずは有田商工会議所が4月に設立した有田まちづくり公社への支援を検討している。ファンドの参加団体は同日、佐賀市の佐賀銀行本店で「観光を軸とした地域活性化」の推進協定も締結。佐賀銀行の陣内芳博頭取は「地域の成長なくして地域金融機関の発展はない。一体となって魅力を発信し、交流人口増加を図りたい」と話した。 *2-3:http://qbiz.jp/article/71677/1/ (西日本新聞 2015年09月29日) 中小支援ファンド出資検討 ゆうちょ銀、地銀などと 日本郵政グループのゆうちょ銀行が、中小企業の経営を支援するための投資ファンドを、各地の金融機関と設立する検討をしていることが29日、分かった。地域金融機関との連携を強化するとともに、資金運用の多様化を進める狙いがある。金融庁も容認する方向だ。具体的には、ゆうちょ銀と地方銀行などが共同でファンドに出資して、中小企業に出資や融資をするほか、経営上の課題解決のために助言することなども想定している。ただ、国内の銀行は低金利で貸し出しの収益性が低下しているのが実態だ。このため金融庁は、「ゆうちょ銀の主力業務は投資信託運用・販売が望ましい」(幹部)としており、投資リスクのあるファンドへの出資額は預貯金残高約180兆円の1%未満に抑えられる方向だ。ファンドによる1件当たりの出資や融資の額も数百万〜数千万円にとどまる見通し。地域では特に中小企業の株主として投資する出資者が不足しているとされる。金融庁は、ゆうちょ銀の加わるファンドがこの役割を担うことを期待しているもようだ。 *2-4:http://qbiz.jp/article/73077/1/ (西日本新聞 2015年10月20日) 地銀系ファンド続々、地方創生支援に期待 成功例少なく乱立気味? 九州の地方銀行が、地域経済の活性化を掲げた投資ファンドを相次いで設立している。資金不足や後継者不在などの課題を抱える企業の成長や再建を後押しし、地方創生につなげる経営支援策として期待されるが、成功事例はまだ少ない。乱立気味にも見えるファンドの課題を探った。肥後、鹿児島両銀行が経営統合し、九州フィナンシャルグループ(FG)が発足した今月1日、九州に三つのファンドが誕生した。まず、九州FGが立ち上げた「KFG地域企業応援ファンド」。次いで、九州FGと営業エリアが重なる宮崎銀行の「みやぎん地方創生1号ファンド」。そして、ふくおかFG傘下の福岡、親和、熊本と大分、宮崎の5行が参加する「九州観光活性化ファンド」だ。大学発ベンチャーの創出、イスラム市場でのビジネス支援、再生可能エネルギー事業の育成…。他の地銀も、競うようにファンドの組成や参画を進めており、テーマが重複するファンドも少なくない。地銀再編がささやかれる中、複数の地銀が手を組むケースもあり、興味深い。 ◇ ◇ 投資ファンドは、運営者が金融機関などから集めた資金を、出資や社債などの形で企業に提供するのが一般的。企業の価値を中長期的に高め、株の上場や売却で収益を出すビジネスモデルだ。特に最近、地銀のグループ会社がファンドを運営し、銀行の取引先を支援するケースが目立つ。背景には、企業の設備投資意欲がなかなか上がらず、預金の貸出先が見つかりにくいことや、金融庁が、担保となる不動産よりも事業の将来性を重視する姿勢への転換を迫っていることがある。昨年、政府が打ち出した「地方創生」に向け、地域金融機関の役割に期待が高まっていることも大きい。出資を受ける企業にとっては、事業の計画段階から銀行の助言を得たり、人材の派遣を受けたりできる。一方で、銀行にとっては融資よりも高いリスクを抱えることになる。 ◇ ◇ 「一緒にやろうという雰囲気があり、信頼関係を築きやすい」。アメイズ(旧亀の井ホテル、大分市)の山本等総務部長は地銀系ファンドの増加を歓迎する。ホテル事業を手掛ける同社は、2013年に福岡証券取引所に上場した際、大分銀行グループのファンド運営会社から支援を受けていた。今も、運営会社の社長が社外監査役を務める。ただ、ファンドにとって理想とされる出資先の上場事例はまだ少ない。九州のあるファンド運営会社の広報担当者は「経営支援の結果、会社が筋肉質になっても、根本から変わるわけではない」と外部から事業を磨く難しさを語る。ある地銀の担当者は「支援先が見つからず、空箱のようなファンドも増えるのでは」と声を落とす。関西学院大大学院経営戦略研究科の岡田克彦教授(行動ファイナンス)は「銀行がリスクを取ってファンドを活用することは、日本経済の発展に不可欠。一度失敗した会社でも、将来性を見込んで支援するケースが増えれば、斬新な企業がもっと増えるはずだ」と期待を寄せている。 PS(2015年10月24日追加): 持株会社の形にして異なる業種を下につけていくのは経営合理性のある場合が多いが、*3の「九州では、西日本シティ銀行グループを抜き、ふくおかフィナンシャルグループ(福岡市)に次ぐ地域金融グループが誕生した」というように、資産規模や資本金の大きさで一位・二位を争う目的の合併は、合併後のシナジー効果が小さく、経営をややこしくするだけのケースが多い。つまり、経営体は大きければよいわけではなく、時代に対する洞察力をもつ組織が一丸となって何をできるかが大切なので、メディアや周囲も、大規模化しさえすればよいという方向にそそのかしてはいけない。 *3:http://qbiz.jp/article/73421/1/ (西日本新聞 2015年10月23日) 西日本シティ銀、持ち株会社設立へ 来年10月 西日本シティ銀行(福岡市)は23日、2016年10月をめどに、持ち株会社を設立する検討を始めた、と発表した。同日の取締役会で決議した。目的は「グループを挙げた総合金融力の向上」とし、他の金融機関との経営統合など地銀再編の受け皿とする意向については、「将来の可能性までは否定しないが、現時点では念頭にない」とした。同行によると、持ち株会社は株式を移転して設立する方針で、西日本シティ銀行が傘下にぶら下がる。詳細な日程や、具体的な方式については今後詰めるという。狙いは「グループ経営管理態勢の再構築を図り、グループ総合力を強化すること」という。同行には、長崎銀行や西日本シティTT証券、九州カードといった金融子会社があるが、どの企業を傘下に入れるかは、「これから検討する」とした。金融業界では、人口減や高齢化による国内市場の縮小や、グローバル化の加速など厳しい経営環境が続く中、地銀の再編が進む。10月1日には、肥後銀行(熊本市)と鹿児島銀行(鹿児島市)が経営統合し、九州フィナンシャルグループ(FG)が発足。総資産は6月末現在の単純合算で約8兆9千億円に上り、九州では、西日本シティ銀行グループを抜き、ふくおかフィナンシャルグループ(福岡市)に次ぐ地域金融グループが誕生したばかりだ。西日本シティ銀行も、九州を舞台にした地銀再編のプレーヤーとして注目されるだけに、今回の「持ち株会社設立」は、「さらなる経営統合の受け皿づくりではないか」(金融関係者)との見方も少なくない。同行は、2004年10月に西日本銀行と福岡シティ銀行が合併して発足。資本金は857億円。店舗数は194。従業員数は3834人。 *銀行持ち株会社:銀行を中核とした企業グループを統括する会社。銀行や証券会社などの株式を保有し傘下に置く。金融制度改革の一環として1998年に設立が解禁された。経営の健全性を確保する観点などから子会社も含め業務範囲は厳しく制限されている。大手行だけでなく「ふくおかフィナンシャルグループ」など地方の銀行にも活用事例が広がっている。 PS(2015年11月19日追加):意外な人が上手だったりするため、*4のように、「育成塾」を開いて広い裾野の人に人形師が指導するのはよいことだ。ただ、私は、顔が自分に似た博多人形を大切にしていたが、手が折れてがっかりしたことがあるため、①もっと壊れにくい材料にする ②3Dプリンターで家族写真、思い出の写真、特定の人物などをいい人形にする等を行うと、別の大きな需要ができると考える。 *4:http://qbiz.jp/article/75174/1/ (西日本新聞 2015年11月19日) 【伝統産業の挑戦】博多人形 若手育成で裾野拡大図る 「中をくりぬくときは、脇を締めて」と、講師の明るい声が飛ぶ。粘土の人形を手に持つ受講生のまなざしは真剣だ。細かい表情や衣服のしわを描いていく。福岡市博多区の福岡商工会議所ビルの一室で開かれる「育成塾」。約30人が集まり、博多人形師の指導を受けながら、約1年かけて作品を仕上げていく。博多人形商工業協同組合と福岡市が共同で続けている後継者育成事業。2001年に「体験講座」としてスタートし、12年から「育成塾」に衣替えした。受講生は計約300人で、2年目の講座に参加する人も多い。そのうち11人が人形作家になった。育成事業を始めたのは、博多人形を取り巻く環境の厳しさからだ。1977年度のピークに32億円あった生産金額は、00年度に約13億円に半減。その後も低迷は続き、14年度は約7億円だった。「若い人がこの業界に入ってこなければ、ますます先細りしてしまう」と、協同組合の武吉国明理事長は危機感を抱く。体験講座1期生の永野繁大さん(38)=福岡県大野城市=は、大学生のときに参加。「最初は形にならず、難しかった。だからこそ面白かった」と振り返る。受講後に師匠の下で5年間修業し、独立。スケート選手やアニメのフィギュアなどの作品も手掛けている。永野さんは今年3月、高度な技術を保持する「伝統工芸士」に認定された。「伝統的な手法を生かしつつ、博多人形の幅広い可能性に挑戦したい」と、あらためて決意する。博多人形の販売が落ち込んだのは、生活様式の変化も大きいという。床の間、げた箱、たんすなど家の中に人形を置ける空間が減少。祝い事で人形を贈るケースも減った。ただ若手育成の努力で、組合員数はここ10年以上、60人台を維持している。「今は、人形好きな人が自分のために買っている。時代のニーズに合った多様な作家が出てくれば、裾野が広がる。決して悲観はしていない」。武吉理事長は力を込めて語った。博多人形 福岡市。黒田長政が筑前国(現福岡県)に入った際に集めた職人の中から素焼き人形が生まれたとされる。明治時代には海外でも評判になった。素焼きの人形に彩色して繊細な表現を生み出すのが特徴。1976年、経済産業省の伝統的工芸品に指定された。
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2015,10,17, Saturday
下草刈り 林業女子 集められた材木 機械によるカット (牛・羊・山羊などの家畜では、駄目?) 国産材・外材価格 現在の林業 イギリスの家具 フランスの家具 ドイツの室内 TPP、安全保障法制、原発再稼働、辺野古の埋め立てなど、問題を指摘しなければならない話題は多いが、今日は、せっかく日本に大量にある資源を無駄にしている林業について、公認会計士として第二次・第三次産業を監査・税務で数多く見てきた私が、佐賀県の森林組合や材木店を廻って悩みを聞き、気がついたことを書く。その状況は、多少の違いがあっても他地域でも似ているだろう。 (1)林業の歴史 林業は、*1-1のように、1950~60年代は戦後復興と高度経済成長を支える花形産業だったが、伐採し過ぎて60年代後半には日本産木材の価格が高くなり、また高度成長で人件費も高騰したため、安価な外材輸入に押され、日本の林業は衰退産業となった。しかし、伐採後の森に針葉樹の植林を続けてきた成果が出て、現在では、日本には、60億立方メートルの森林蓄積があり、これは世界最大の林業国、ドイツの2倍だそうだ。 しかし、現在、日本の木材は外国産に比べてコスト競争力がないと言われて、あまり使われていない。一方で、森林の所有者は間伐などの手入れをするには収入よりもコストが高くなり、手入れもせずに放っておく人が多いため、森林環境税を徴収して、私有林の手入れに補助している地方自治体も多い。 そのような中、現在では、日本産スギ丸太の価格は米国産ツガの半値近くで、人材も、欧州の主要林業国オーストリアでは林業機械の作業員に支払われる人件費は3万円/日超で日本の2倍近いが、オーストリアの林業家は利益を確保しながら森を健全に維持しているので、日本でも、機械を使って生産性を上げたり、外国人労働者を雇用したりして、問題解決すべきである。 しかし、木材を燃やしてエネルギーを作るのは、最も付加価値の低い森林資源の使い方であるため、もっと木材の付加価値を高くする使い方を研究すべきだ。日本にとって、林業の衰退による森林の荒廃は二酸化炭素(CO2)の吸収量を下げ、治山・治水で災害に弱い山を作り、水産業の漁獲高を減らすため、健康な森林を維持しながら持続可能な伐採を行い、建築資材や家具などの付加価値の高い製品を、できるだけ機械化して作る6次産業化が最善の道だろう。 (2)森林復活と木材産業の振興 日本が行うべき林業は、*1-2のような「スマート林業」で、人材不足は女性やこれまで林業が盛んだったタイ、マレーシア、インドネシアなどからの外国人を使う方法がある。また、女性は最終製品の選択者でもあるため、女性を使うと、林業や植林に対して今までなかったような新しい発想が得られるのではないかと思う。また、ITで間伐、伐採、管理計画を立てて効率化するのはよい考えだが、何十年もかかって育てた木を燃やして発電するのは、余程の屑でない限りもったいない。 なお、佐賀銀行は、*1-3のように、緑化事業に取り組む公益財団法人「さが緑の基金」に120万円寄付し、佐賀県の里山づくりなどに貢献するそうだ。緑の基金は、来年、有田焼創業400年を迎える西松浦郡有田町でモミジなど400本を陶山神社に植えたり、唐津市厳木町笹原峠や佐賀市富士町中原地区で里山整備を進めたりするそうだが、このような企業の社会貢献は有価証券報告書に記載させたり、環境企業の認定マークを交付したりして、後押しするのがよいと考える。 さらに、現在は放置された竹林が拡大して森林の荒廃に繋がっているが、竹の間伐材を炭化させて商品化するだけではなく、竹も資源と考えて高級食材の包装や道具・家具に使う等の工夫が望まれる。 (3)21世紀の木材産業は、コストを下げて付加価値を上げるしかない 日本の家具 学校の机・椅子 こんな素敵な色も・・ 1)建物や家具の部品加工を機械化してコストを下げる 日本で林業を行う以上、高い技術を導入し、加工は機械化すべきだ。例えば、上の写真の学校で使う机や椅子の例では、現状の金属・プラスティックを使った机や椅子ではあまりにも可哀想なので、ぬくもりがあり、自然の香りがする木材に交換していけばよいと思う。 しかし、昔の形や白木に戻るのではなく、姿勢をよくするデザインの椅子やIT時代にあった便利な机を徹底して医学的・工学的にデザインし、そのデザインに合わせて木材を機械でカットし、素敵な色をつけて大量生産すればよい。この方法は、他の家具や建材でも、輸出品を大量に作るのに応用できる。 2)その他の技術開発 *2-1のように、産学連携で取り組んだ全国の大学5校による環境住宅の実証実験を兼ねたコンペティション「エネマネハウス」が開催され、各大学は新興国での水資源の再利用を可能にする住宅システムや、地方の林業活性化へ合板木材を外壁に使う施工方法などを競うそうだ。芝浦工大のテーマは国内の木材需要の押し上げだそうだが、今後は、建材だけでなく家具の設計・デザインもして欲しい。 なお、*2-2のように、諸富家具・建具が産地復活を懸けアジアへ進出しているが、私は、家具も、一度職人がデザインすれば、機械で作れるパーツも多く、それが多ければ多いほど、安価で大量に作って輸出することが可能だと考えている。また、*2-3の大川も、いつまでも近場の人だけを対象にしているのではなく、技術と地の利を活かして輸出という次のステージに進んだ方がよいだろう。 3)木材の品種改良 現在は、生物学が進んで、植物の品種改良も早くなっている。そのため、家具や建材に適した色、硬さ、木目の木を栽培することも、やろうと思えばできる。 <日本の林業> *1-1:http://www.nikkei.com/article/DGXNASDD010AA_R00C11A7000000/ (日経新聞 2011/7/4) 「今後40年間は有望」説も 持続可能な日本の“もうかる”林業 日本で林業が「もうからない産業」の代表格のように言われて久しい。1950~60年代は戦後復興と高度経済成長を支える花形産業だったが、60年代後半になると状況が一変。安い外材の輸入に押され、人件費の高騰とともに、きつい作業を嫌う若者の増加で就業人口が減り、もうからない衰退産業になった。こうしたストーリーが「常識」として定着していた感がある。だが、近年、こうした常識を覆すような研究や事例が相次いで浮上し、林業関係者や森林を守る非営利組織(NPO)などで議論の的となっている。その内容を精査すると、日本の林業は今「もうかる林業」へ生まれ変わる転換点にあるのかもしれない、と思わせるものが多い。そんな議論の最先端を垣間見たのが6月9日、「我が国の森林・林業再生をいかに進めるか」をテーマに東京で開かれた「震災復興支援フォーラム」だった。「現在の日本には60億立方メートルもの森林蓄積がある。世界最大の林業国、ドイツの2倍もの規模で、我々は宝の山の上にいるようなものだ」。基調講演をした内閣官房国家戦略室の梶山恵司・内閣審議官は、日本の山林の有望性をこう説明した。「日本林業はよみがえる」という著作もある梶山氏は、4月に公布された改正森林法で推進する「森林・林業再生プラン」の策定などに携わった森林・林業問題のスペシャリストだ。森林蓄積とは、木材用として使える立木がどれだけ山林に残存しているかを示す。日本は森林蓄積が20億立方メートルしかなかった高度経済成長期の60年代前半に、毎年6000万立方メートルを伐採し続けたことで「木材資源を、ほぼ刈り尽くしてしまった」(梶山氏)。当時の木材需要は年1億立方メートルもあったとされ、この不足分を補うため外材の輸入が自由化された。伐採後の森に針葉樹の植林を続けてきた日本だが、材木用途で伐採に堪えるようになるまで、長きにわたり利益の出ない「蓄積の時代」をさまよってきた。その間、戦後すぐには全国で45万人いた林業の担い手は、現在5万人を切るまでに激減。うち65歳以上の就業者が3割近くと高齢化も進んだ。だが、梶山氏は、安い外材や人件費高騰といった林業疲弊の原因とされる要因も、「従来の常識を冷静な目で見直せばチャンスがあると分かるはず」と強調する。例えば、日本の木材は外国産に比べ「コスト競争力がない」という指摘。国産材で最も一般的なスギ丸太材の1立方メートルあたりの価格は90年以降、流通量の多い米国産ツガ丸太材に比べて安く推移している。現状ではスギ丸太の価格はツガの半値近くの水準で低迷しており、コスト競争力がないとは言い難い。高い人件費についても同様だ。前述の梶山氏の著作によれば、欧州の主要林業国、オーストリアでは伐採などに使う林業機械の作業員に支払われる人件費は1時間あたり29ユーロ(約3400円)。1日では3万円超にもなり、日本に比べて2倍近いという。それでいてオーストリアの林業家はきちんと利益を確保しながら森を健全に維持している。日本でも、小規模な林業家が利益を出しながら山林を管理し健全に保っていく方式を編み出したグループがある。高知県中部を流れる仁淀川。四万十川に匹敵するきれいな流れにアユが豊かなこの川の流域で、「兼業型自伐林家」の有効性を証明したのが特定非営利活動法人(NPO法人)、土佐の森・救援隊だ。「山林所有者のほとんどが近くの農村部に住み、山を守りたがっている。かといって伐採を業者に頼めばコストがかかりすぎて赤字になる。自分で木を切って売れば、実はそんなにコストがかからず山の管理もできることが分かったんです」。土佐の森・救援隊の中嶋健造事務局長が説明する。山林や農地を持ちながら定職に就いている兼業農家が、週末などの空いている時間に自分の山林の樹木を切り出し、特に間伐材を売却することで「晩酌代や小遣い銭を得ながら、山を健全に保っていく」(中嶋氏)という取り組みだ。仁淀川流域で同NPO法人に登録する自伐林家は現在、40人余りいるという。所有する山で間引くべき木をチェーンソーで伐採し、これを2メートルほどの長さに切り、軽トラックで製材所などに運んで売る。スギなら1立方メートルあたり約1万円、ヒノキなら同2万円程度になり、所有する山林の規模が小さくても月に数十万円の収入を得ている林家もいるという。間伐や間伐材の搬出に補助金を出す自治体も多く、「兼業の農家・林家にとっては結構な副収入となっている」と中嶋氏は説明する。険しく奥深い山では何人かがグループで作業する。手ごわい搬出作業の手間を省くため、同NPOは20万円ほどで導入可能な「土佐の森方式・軽架線」というツールを開発した。山の上にある木と、下にある木にワイヤ使って架線を張り、林内作業車のウインチと滑車を使って伐採した丸太を運び出す。こうした「土佐の森方式」は全国に広がりつつあり、現時点で10市町村以上が導入済みだ。さらに30の自治体が導入を検討中とされる。特に木質系のバイオマス(生物資源)エネルギーを活用するシステムを導入した自治体では間伐材収集の有効な手段となっており、林家の安定した収入につながるケースが多いという。中嶋氏は「ドイツでは45万の林業事業体が存在し、その8割超が個人経営。うち6割が農家であり、民宿や酪農などと兼業している例が多い」と解説する。梶山氏らが策定した「森林・林業再生プラン」でも、その要諦は「いかに森林を健全に保ち、持続可能な林業を日本に定着させるか」だ。「規律のない、単なる資金を出すだけの補助金を見直す」ことも掲げている。林業事業者だけでなく、ドイツなど欧州に多い高度な知識と豊かな経験を持つ「フォレスター(森林経営専門家)」などの人材も育成して豊かで健全な森の実現をめざす。同プランでは、伐採などの作業を集約する「大規模化のメリット」にも触れているが、一方で土佐の森方式のように「個人として山林を管理する方式を面的に広めた方が、かえって効率がよい」(中嶋氏)という意見もある。国土の約7割が森林という日本にとって、林業の衰退による森林の荒廃は二酸化炭素(CO2)の吸収量を下げ、治山・治水の面でも災害に弱い山を生み出すなどの大きな問題につながる。梶山氏によると、現在の日本の森林を健全に保つには毎年5000万立方メートルの伐採が必要で、それだけ切っても年間1億立方メートル分ずつ森林蓄積は増えていくという。「人材とともに持続可能な森林を育成すれば、今後40~50年はまともな林業を日本に根付かせることができる」。仮に年間5000万立方メートルの木々を国内消費すれば、木材の国内自給率は50%になると試算されている。こんな豊かな資源を抱えた日本の山を見直す時期は、確かに今しかないかもしれない。 *1-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20151017&ng=DGKKASDJ30H0D_X11C15A0MM0000 (日経新聞 2015.10.17) スマート林業 伸び盛り、伐採計画や管理、ITで効率化 人手不足に対応 IT(情報技術)を活用した「スマート林業」が広がってきた。森林の測量データを解析してデータベースを構築したり、地理情報システム(GIS)で森林管理を効率化したりする取り組みだ。戦後の大規模な植林が伐採期に入っているが、人手不足の影響で未開発な部分も多い。ITを駆使して伐採を効率化し、林業活性化やコスト削減につなげる。住友林業は航空計測などを手掛ける中日本航空(愛知県豊山町)やデータ解析をする企業と組み、ITを使った林業経営コンサルティングを本格化する。ヘリコプターからレーザーを照射して木の本数や密度などを測り、測量データや写真を解析。データベースを構築して、自治体などが森林経営をするときの指針づくりに役立てる。データベースは常に更新して精度を高めていくという。7月から岡山県真庭市で伐採計画の指針づくりに向けた調査を始めた。まず5700ヘクタールの森林を対象とし、今後範囲を広げる。市ではバイオマス発電所や直交集成板(CLT)の工場が竣工し木材需要が高まっている。効率的な伐採で重要なのが調査や測量だ。伐採に適した木がどこにあり、どんな状態なのかを事前に知ることができれば、必要な人材や機材をピンポイントで投入できる。従来は調査や測量を人海戦術に頼ってきた。GISを使った取り組みも目立つ。GISはコンピューターで座標などの地理情報を作成して保管する仕組み。電子地図と組み合わせて使う。東京大学は測量システムのジツタ(松山市)などと組み、GISを使った測量を始めた。3D(3次元)スキャンシステムを活用して木の本数、形状などを測定する。従来の方法と比べると、作業効率は3倍以上になる。釜石地方森林組合(岩手県釜石市)は実際にこの仕組みを使って森林を調査した。データ量は現在の方法と比べて3~4倍になった。料金は1ヘクタール18万円程度と高い。だが「普及が進めば料金の下げも見込め、データ量の増加を考えれば調査コストの削減につながる」(同組合)という。戦後の植林材が伐採期に入り、出荷可能な蓄積量が増えているが伐採は進んでいない。林野庁によると、日本の森林面積は2500万ヘクタール。木の量に換算して49億立方メートルと10年前比で2割増えている。だが実際に伐採、利用されているのは約2500万立方メートルと1%未満にすぎないという。人手不足の影響が大きい。総務省の統計では木を伐採して運搬する林業従事者は2012年時点で7万人程度。1990年に比べて3割少ない。スマート林業はこうした人手不足を補い林業を活性化する狙いがある。運搬機械の機能も高まってきた。イワフジ工業(岩手県奥州市)は、森林にワイヤを張って伐採した木を運ぶ「タワーヤーダ」と呼ぶ機械を開発した。現在は1本のワイヤに木を1本ずつつるして運ぶ機械が多いが、枝分かれした複数のワイヤで複数の丸太を運べる。16年にも販売を始める予定だ。これまで運搬量は1日30立方メートルだったが、50立方メートルまで増やせる。国内の丸太需要は増加傾向にある。合板メーカーが国産スギを材料として使う比率を高めているほか、全国でバイオマス発電所の稼働も相次ぐ。14年の国内丸太生産量は1991万3000立方メートルと前年と比べて1.4%増えている。 *1-3:ttp://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/239955 (佐賀新聞 2015年10月16日) 佐銀、緑の基金に120万円を寄付、「エコ定期」で 佐賀銀行は15日、緑化事業に取り組む公益財団法人さが緑の基金に120万円を寄付した。公募で選定された佐賀県内3カ所の里山づくりなどに活用される。エコ定期預金額の0・025%相当額を寄付した。緑の基金は、有田焼創業400年を来年迎える西松浦郡有田町でモミジなど400本を陶山神社に植え、唐津市厳木町笹原峠や佐賀市富士町中原地区で里山整備も進める。県庁の贈呈式で村木利雄佐賀銀行会長が「預金者の思いがこもっているので有効に活用を」と目録を手渡し、基金の理事長を務める和泉惠之県土づくり本部長が謝辞を述べた。放置された竹林が拡大し、森林の荒廃につながっている現状に話題が及んだ。村木会長は、竹の間伐材を炭化させて商品化する産業の推進に期待を寄せた。佐賀銀行の基金への寄付は2009年から続き、総額は2029万円。福岡、長崎両県でも取り組み、3県での合計は3836万円に上る。 <技術開発> *2-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20151016&ng=DGKKZO92860600V11C15A0L83000 (日経新聞2015.10.16)環境住宅 5大学競う 産学連携、横浜であすから実験 横浜・みなとみらい(MM)21地区で17日から、全国の大学5校による環境住宅の実証実験を兼ねたコンペティション「エネマネハウス」が開催される。住建会社などが協力した産学連携の取り組み。各大学は新興国での水資源の再利用を可能にする住宅システムや、地方の林業活性化へ合板木材を外壁に使う施工方法などを競う。環境住宅への意識を高め、製品化や海外展開を促す。立命館大は将来的な国内の住宅市場の縮小を見込み、「水」を前面に押し出した住宅システムの輸出を目指す。使用済みの水を自宅に備えた浄化槽などでろ過、風呂水やトイレなどで再利用するのが目標だ。全体の再利用システムは約15年ごとに更新が必要だが、「浄化槽は半永久的に使える」(同大学)という。見据えるのはアジアなど新興国の水ビジネス市場だ。特に日本企業も多く進出するバングラデシュではヒ素による水質汚染が深刻な問題となっており、水資源の確保が課題となっている。新興国のインフラ未整備のエリアへの展開をにらむ。早稲田大学も新興国市場を視野に、熟練工でなくても高い精度で建築できる施工方法を開発した。東南アジアでは素人でも工程に参加する「ハーフビルド」と呼ばれる工法が主流なため、比較的容易に仕上げができるよう作った木造大型パネルを採用したという。地方の林業、建築業の活性化を目指す大学もある。芝浦工業大学のテーマは国内の木材需要の押し上げ。外壁に使用例の少ない「CLT」と呼ばれる木材を採用。住宅の外壁としてはセメントが一般的だが「外壁材として木材の利用を進めたい」との考えから、従来は廃棄処分となることの多かった建築資材の再利用を打ち出した。エネマネハウスは17日から11月1日まで開催する。 *2-2:http://qbiz.jp/article/72169/1/ (西日本新聞 2015年10月6日) 【伝統産業の挑戦】諸富家具・建具 産地復活懸けアジアへ 木の香りが漂う展示場。テーブルの感触を確かめながら「日本で丁寧に作った家具をアピールしたい」。諸富家具振興協同組合の理事長でレグナテック(佐賀市)の樺島雄大(たけひろ)社長(49)は言う。9月、台湾に店舗を出した。台北市の目抜き通りの約150平方メートル。テーブルやいす、木製の小物などを並べる。ターゲットはマンション住民や飲食店だ。最初の1年は来店客の声に耳を傾け、売れ筋を探る。樺島社長は「好調なアジア経済を見据え、早い段階で手を打ちたかった」と語る。親族が台湾で仕事をしていることもあり、進出を決めた。同社製品だけでなく、他の組合員の商品も置く予定だ。組合加盟の平田椅子製作所(佐賀市)も2014年2月、シンガポールに出展。ショールームの一角でいすを数点展示する。平田尚士社長(48)は「少しずつ注文が入っている」と声を弾ませる。諸富家具の各社がアジアに展開している背景には、産地全体の厳しい状況がある。組合によると、1993年度のピーク時に約210億円あった販売額は、04年度に3分の1の59億円に減少。少しずつ回復しているが、13年度は73億円にとどまる。かつて50社いた組合員も現在32社。輸入品との価格差や、大型家具を持たないライフスタイルの浸透で、苦戦が続く。大手家具店では8割が海外産の店もあり、樺島社長は「まさに(世界各国の家具が集う)オリンピック」と苦笑する。逆に言えば「海外から商品が来るなら、こちらが攻めてもいい」というわけだ。国内向けでも、組合の販促活動が活発になっている。5年前から、佐賀県内の道の駅で2週間ずつ商品を展示。佐賀市内の小学校には木製の机やいすを納入している。東京や大阪、福岡でも展示会を開く。「時代と生む良品」をブランドスローガンに「上質の木で作った、本物の家具を届けたい」と樺島社長は力を込めた。 ◇ ◇ 九州各地に根差した伝統産業。国指定や県指定の伝統的工芸品などの産地を訪ね、新たな挑戦を紹介する。九州経済面で随時掲載する。 *2-3:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10105/238444 (佐賀新聞 2015年10月11日) 大川木工まつり、独自の家具1万点ずらり 家具産地の大川市で10日、「第66回大川木工まつり」が始まった。メーン会場の大川産業会館では、メーカー200社が独自のデザインや素材による家具約1万点を直売。工場直送で普段より安く購入できるとあって、大勢の家族連れなどが詰めかけている。12日まで。県内メーカーでは、レグナテック(佐賀市諸富町)が本年度のグッドデザイン賞に選ばれたコートスタンドなどのシリーズ作を限定販売。平田椅子製作所(同)も食卓やリビングなどで使える新作のいすを発表、来年1月の本格出荷に向けてアピールした。同社の平田尚士社長は「作り手と消費者がダイレクトに結びつく数少ない機会」と来場に期待した。自宅を新築し、ダイニングセット目当てに来場した40代の夫婦は「長く使うものなので、素材や使い心地をじっくりとみて決めたい」と会場をくまなく回っていた。会場周辺では、屋台村やステージイベントのほか、アンケートに答え、総額300万円相当の家具が当たる抽選会、親子木工教室などの体験企画もある。問い合わせは同まつり実行委事務局(大川商工会議所内)、電話0944(86)2171。 PS(2015/10/18追加):*3-1のように、御嶽山麓などの森はもともと薬草の宝庫であるため、付近の耕作放棄地を活用して薬草を栽培すれば、高付加価値の生産物を作れそうだ。また、長野県の森はクマザサがどこにでもあるが、これも、下の写真や*3-2のように、付加価値がつけられそうである。 森の中のクマザサの群生 クマザサの殺菌効果を利用した包装 クマザサと綿混紡の 抗菌タオル *3-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=34949 (日本農業新聞 2015/10/9) 薬草で放棄地 再生 “新食材”育成プロジェクト始動 民宿の逸品料理に 長野県木曽町 御嶽山麓の長野県木曽町で、増える耕作放棄地を活用しようと、薬草の栽培が始まった。同町は今年から薬草を育てるプロジェクトを立ち上げ、町の試験農場で土地に合った薬草を探している。収穫した薬草をそのまま薬向けに販売するには、まだ十分な収量がない上、薬事法に対応した販売も求められるため、まずは新たな食材として栽培を進めていく考えだ。 ●農家の知識醸成 お試し栽培提案 プロジェクトのリーダーの都竹亜耶さん(36)は、2011年に地域おこし協力隊として東京から同町に移住した。御嶽山麓は古来から薬草の宝庫だったことに着目、「耕作放棄地の活用と、かつての薬草文化や知識を子どもたちに伝え食育につなげたい」と薬草栽培を思いついた。まずは5アールの畑で「カミツレ(カモミール)」などハーブ10種類の栽培から始め、5月には山から採取した薬草を追加。現在は合わせて約30種類を栽培する。月に1回、地元の農家を試験農場に招き、「薬草を試しに作ってみませんか」と栽培を勧めている。一方で毒性の強い薬草も多く、十分な知識がないと危険な場合もある。このため試験農場では黄色い花が特徴のキンポウゲ科の「キツネノボタン」など、間違って食べると死に至るような危険な薬草も栽培、農家に知識を伝えている。薬草栽培の指導に当たる特定非営利活動法人(NPO法人)自然科学研究所の小谷宗司代表は、胃腸を整える効果がある「センブリ」や、滋養強壮剤として市販される酒の原料になる「イカリソウ」などが土地に合うと提案、試験農場で栽培を始めた。都竹さんは「御嶽山噴火から1年が過ぎたが、もがきながらも、町に合った薬草栽培を通じて地域を元気にしたい。道の駅や地元の民宿で薬草を食材として使ってもらえば、町おこしにつながるのではないか」と構想を練る。 *3-2:http://sasaland.com/blog/150608/ 薬がなかった時代から「クマザサ」は大活躍の働き者だった!! 中国最古の薬物書「神農本草経」にも漢方薬として紹介されているほど、遠い昔から健康を支えてきたクマザサ。外界から離れ、霞を食べて生きてきたといわれる不老長寿の「仙人」は、実はクマザサを食べていたと伝えられてもいます。このほか、クマザサは李時珍の記した『本草網目』にも「じゃく」として収載されています。その中で、クマザサは次のように述べられています。 気 味……甘し、寒にして毒なし 主 治……男女の吐血、嘔血、下血、小便渋滞、喉痺、腫瘍を治す 日本でも昔からクマザサは生活の中で広く使われていました。その昔、山仕事や旅の途中で食べるおにぎりや餅を包んだのは、クマザサの葉です。また、笹団子、笹あめ、笹寿司、笹酒、チマキ……防腐作用や殺菌効果の高いクマザサを使った食べ物は、昔からこんなにたくさんあったのです。今ほどたくさんの薬がなかった昔、人々は民間治療薬で病気や怪我を治していました。そこで大活躍したのはクマザサでした。東北地方では胃腸病、高血圧、ぜんそく、風邪の時にクマザサのせんじ薬を飲んでいたと言います。また、やけどや切り傷、湿疹にあせも、虫さされ、はては口臭や体臭を消すことにまで、暮らしに深く浸透していたのです。 PS(2015/10/20追加):山の幸には、*4のように、植物だけでなく、現在は増えすぎた野生動物の肉(ジビエ)もある。ジビエは、脂肪が少なく蛋白質が豊富で美容と健康によいため、捕獲した野生動物を食肉利用する割合が低いのはもったいないことである。なお、下の写真の(長野県)木曽漆器も、食洗機対応、手入れの簡単化、絵柄、住まいとの調和、コストダウンなど、21世紀の生活にマッチするように改良すれば、輪島漆器ほど高すぎないため日本人が買い安く、輸出も可能だろう。そのため、2020年までに現代化を終え、*4-2の東京オリンピックで選手村の食器に採用されるようにして、選手が帰る時には、使っていた食器を記念に持ち帰らせれば、世界への宣伝にもなると考える。 木曽漆器 (*一番よいものを掲載したとは限りません) *4-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=35014 (日本農業新聞 2015/10/15) 捕獲獣の運搬ネック 関係団体を意見聴取 自民ジビエ議連 自民党の鳥獣食肉利活用推進議員連盟(ジビエ議連、会長=石破茂地方創生担当相)は14日、野生の鳥獣肉(ジビエ)の供給や販売を手掛ける関係団体から取り組み事例を聴き取った。北海道と長野県は、ジビエのブランド化に成果を挙げるものの、捕獲した野生動物を食肉利用している割合が低い実態を説明した。食肉処理施設への運搬に時間と労力がかかり、搬入が進んでいないのが課題とし、捕獲した個体の効率的な回収への支援を求めた。北海道はエゾシカ対策に力を入れ、2014年度の捕獲数は13万6000頭と、10年度より2割強増えたと報告。一方で、ジビエとしての活用は15%前後にとどまったままで、食肉での利用は進んでいないことを明らかにした。長野県もニホンジカの食肉利用率は5%未満にとどまるとした。その背景として、農水省は捕獲から1、2時間たった個体は食用に適さなくなり、運搬に時間がかかると食肉利用が困難になると説明。出席した議員からは「加工しながら移動できる手段も考えないと、施設への搬入が進まない」との意見が出た。石破会長はじめ議連メンバーは同日、東京都内で開かれたジビエ料理の試食会に参加し、鹿肉を使ったハンバーガーやカレーライスを試食した。同議連は11月に現地視察を予定しており、今回出た意見も踏まえてジビエの振興策をまとめる予定。課題を整理し、来年1月までに示す構えだ。 *4-2:http://qbiz.jp/article/73129/1/ (西日本新聞 2015年10月20日) 「五輪施設に国産木材活用を」 遠藤氏、積極検討要請 政府は20日、2020年東京五輪・パラリンピック関連施設での国産木材の活用策を検討するワーキングチームの初会合を東京都内で開いた。遠藤利明五輪相は「木の持つ柔らかさや、日本のおもてなしの文化を発信する機会だ。木材を最大限利用する方向で進めてほしい」と述べ、積極的な議論を求めた。国産木材の活用は林業の活性化につながるとして、自治体も期待を寄せる。木材の板を直角に重ね合わせ、耐震性や断熱性に優れる「直交集成板」などの建材利用が念頭にある。政府は8月にまとめた新国立競技場の整備計画で、仕様のうち「特に配慮すべき事項」として木材の活用を盛り込んだ。 PS(2016.9.10追加):*5のように、「森を守る」として子供に「皮むき間伐」の“面白さ(?)”を教えるなどというのは、ゆとり教育・アニメ世代・コンクリート街育ちの大人の限界だと思う。何故なら、植物も生き物であり、せっかく誰かが植えた財産でもあるにもかかわらず、残酷な殺し方を面白いと教えた上に、無駄をしているからである。森を守ることを子どもに教えるのなら、間伐した後に植林したり、森の生き物や食物連鎖を教えたりし、間伐は伐採させても危険でない年齢になって、もしくは大人がついて行い、有効利用する方法をこそ教えるべきだ。しかし、そもそも植林する時に同種の木を密集させすぎて植えているため、一本一本の木の成長が遅く、頻繁に間伐しなければ育たない森になっているのである。 *5より 間伐の必要性 子供の間伐 間伐材の利用 *5:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160909&ng=DGKKZO07055810Z00C16A9NZBP00 (日経新聞 2016.9.9) 森を守る 主役は子供、「皮むき間伐」で山林管理 林業体験、自然考える契機 子供たちが林業を体験するイベントが各地で盛んになっている。重機を使わず、誰でも簡単に取り組める間伐作業などを通じて、森を守ることの大切さを学ぶ。森林の荒廃は年々深刻になっており、イベントの主催者らは「楽しみながら、自然環境を考える機会にしてほしい」と期待する。台風一過の晴天が広がった8月23日、東京都八王子市西部の山林に子供たちの明るい声が響き渡った。「こっちのほうがうまくむけたよ」「もっとむきたい」。山林の整備や間伐イベントの企画を手掛ける「森と踊る」(同市)が主催した「きらめ樹体験会」には都内や神奈川県などから15人の親子が参加。同社が管理する区画で、スギやヒノキの「皮むき間伐」を体験した。 ●日当たりを改善 スギの表皮にナタや竹べらで切れ目を入れ、めくれた部分を力を合わせて引っ張る。「メリメリ」という音とともに表皮が一気にはがれた。つるつるの地肌が現れると、子供たちは思わず「おお」という歓声を上げた。スギやヒノキは水を吸い上げる春から夏に表皮をはがすと、1年ほどで枯れる。この性質を利用したのが皮むき間伐。一般的な間伐は、チェーンソーや重機を使って不要な木を切り倒すが、皮むき間伐は力のない子供でも簡単に取り組める。皮をむいて枯れた木は水分が抜けて軽くなり、切り倒した後、人力で簡単に運べるのも利点だ。間伐をしない森林は日光が届かず、地面には植物が育ちにくい。間伐後は日当たりが改善し、3年ほどたつと数十種類の植物が観察できるようになる。「森と踊る」取締役の村上右次さん(49)らが森林管理が持つこうした意味を分かりやすく説明していた。八王子市の浅野英子さん(44)は娘の杏樹マリさん(9)とともに参加。英子さんは「ふつうに生活していたら絶対できない貴重な体験。簡単で面白い作業で娘も喜んでいる」と声を弾ませた。英子さんはもともと林業に関心があり、子供と一緒に参加できるイベントを探していた。ただ、千葉県や静岡県など遠方での開催が多く、「東京にもこれだけ森があるのにもったいない」と感じていたところ、ネット上できらめ樹体験会の告知を発見したという。「森と踊る」はこれまで八王子市や奥多摩町などで約20回の体験会を開き、600本以上の木をむいてきた。多い回には160人ほどが参加し、親子連れを中心にリピーターも多い。 ●森林放置深刻に 国内の人工林は終戦前後に植えられたスギやヒノキが多く、伐採期を迎えている。ただ、安価な輸入木材に押され、価格が下落。採算が合わずに管理が行き届かなくなった放置林の増加が深刻化している。「森と踊る」の村上さんは「ほとんどの山が手入れができずに荒れ放題だ。そういう山の現状を知ってもらうきっかけにもしたい」と話す。代表の三木一弥さん(46)は機械メーカーに勤めていたが、水処理関係の仕事に携わって森林管理の仕事に関心を持ち、2年前に脱サラ。静岡県内のNPOのイベントで「皮むき間伐」を知った。「東京でも子供が参加できるこんな活動ができないか」と考え、「森と踊る」を立ち上げたという。三木さんは「林業の現状は厳しいが、イベントを通じて子供たちの意識が少しでも変わり、森の再生につなげられたらいい」と話している。 PS(2016年9月6日):最近は、木材カットをコンピューター制御で精密に行ったり、集成材にして強度を増したりすることもできるため、木造建築の強度を上げつつ、容易に大量生産できるようになった。そして、住宅は自動車と同じく波及効果が大きいため、耐震性が強くて省エネ・自家発電装備のゼロエミッション住宅なら、*6のように国内販売だけでなく輸出しても売れるだろう。 *6:http://qbiz.jp/article/93570/1/ (西日本新聞 2016年9月6日) 積水ハウス、ブランド材でマイホーム 飫肥杉など地元木材活用 積水ハウスが、飫肥(おび)杉(宮崎県)や秋田杉(秋田県)といったブランド材の産地と手を組んで国産材の活用を進めている。各地で地元の木材を使ったマイホームを提案し、木造住宅全体の年間売上高を2016年1月期の1454億円から中長期的に2千億円規模に引き上げる目標。地産地消を促して林業の活性化にも一役買う狙いだ。積水ハウスは「シャーウッド」のブランドで木造一戸建て住宅を1995年から展開。当初は北欧からの輸入材が大半だったが、国内の二酸化炭素(CO2)削減といった環境面に配慮して徐々に国産材の利用を拡大。今年4月に国内のブランド材を柱など主要部分に使用した新商品「グラヴィス リアン」を発売した。これまでに10県の木材産地や加工業者と連携し、供給体制を整えた。宮崎と秋田のほかは、岩手、埼玉、長野、岐阜、奈良、岡山、愛媛、高知の各県。柱の部材には産地を表示して、身近に感じてもらえるような工夫をした。北海道と静岡県の木材も使えるように調整を進めており、今後も順次広げる方針だ。林野庁の試算によると、国産材の半分以上が建築向けに使用されているとみられ、住宅への利用拡大が進めば林業の活性化にも弾みがつく。積水ハウスの担当者は「肌触りや匂いの良さを前面に押し出して販売を伸ばし、国産材の利用を増やしていきたい」と話している。 ☆この記述をするにあたって私が使った知識は、経済学、経営学、税制、栄養学、心理学、生物学、 生態学、日本史、世界史などです。
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2015,10,13, Tuesday
2015.10.13 辺野古の位置と地形 2015.5.31 沖縄タイムス 朝日新聞 (1)沖縄県の辺野古埋め立て承認取り消し 普天間基地の辺野古移設については、*2-1のように、2013年12月に仲井真前知事が政府による辺野古沿岸部埋め立て申請を承認し、2014年11月の沖縄県知事選では、辺野古移設反対を公約に掲げた翁長氏が仲井真氏を破って、新知事に当選した。 しかし、*1-1のように、仲井真前知事は、翁長新知事(前那覇市長)が知事に就任する直前に工法変更の承認まで行っていたため、翁長新知事が、*2-3のように、承認過程を検証する第三者委員会にかけた上で、「承認の手続きに瑕疵がある」として承認を取り消した。私は、2013年12月の仲井真前知事の誰かに脅されたかのような突然の翻意や2014年12月の知事交代直前の工法一部変更承認には疑問が多いため、仲井真知事の判断や承認手続きには、本質的な瑕疵が潜んでいそうだと考える。 そして、*1-2のように、①普天間基地の移設先が名護市辺野古である必要性は乏しい ②米軍基地が沖縄県に集中し、基地負担が固定化する ③周辺の自然環境に悪影響がある 等の理由を挙げて、翁長知事が埋め立て承認を取り消したのに対し、菅官房長官や中谷防衛大臣は、「承認に法的瑕疵はない」「辺野古が唯一の選択肢だ」「粛々と進める」等の思考停止したような観念的で短い返事を繰り返すのみである。そして、国交相に行政不服審査法に基づく不服審査と取り消し措置の効力の一時停止を申し立てる考えを示したそうだが、何が大切かについての考察がなく、誰かから言われたフレーズを繰り返し、権力を振りかざすだけでは、官房長官や防衛大臣として不足である。 (2)これまでの経緯 そのような中、*2-2のように、沖縄タイムスは、2015年4月6日付の「翁長・菅会談」における翁長知事の冒頭発言が、民意を過不足なく代弁し、ウチナンチュの心の琴線に触れる内容だったため、年配の読者が感動し興奮したと伝えている。確かに、有権者を馬鹿にし、大した根拠もないのに自分たちの判断が唯一無二だとする一部ヤマトンチュの態度は、同じヤマトンチュから見ても見苦しい。 そして、沖縄県の第三者委員会は、*2-3のように、①沖縄防衛局は普天間の危険性除去・早期移設を挙げたが、他の場所ではなく辺野古だけが適切だとする理由を説明しておらず、論理の飛躍がある ②普天間の早期閉鎖手法が辺野古移設であるべき根拠はない ③辺野古移設の不利益は、沖縄に米軍基地の固定化を招き、格差や過重負担を固定化することである ④こうした状態は法の下の平等を定めた憲法14条の精神に反する ⑤埋め立て地域の一部は県の「琉球諸島沿岸海岸保全基本計画」で開発行為に規制が掛かっているが、防衛局は必要な規制解除の手続きを取らなかったため承認に瑕疵があった などを指摘しており、もっともである。さらに、上の右端の図のように、日本各地の土砂を沖縄に運び込むなど、生態系を壊す可能性のあるとんでもない話だ。 しかし、*2-4のように、沖縄県の辺野古協議書取り下げ要求を、菅官房長官は拒否した。また、*2-5のように、2015年8月11日から辺野古移設工事を全面的に中断し、9月9日まで約1カ月の集中協議を行ったが、これは結論ありきの形式で、*2-6のように、9月13日には工事が再開された。これは、沖縄の民主主義で示された民意を踏みにじる行為にほかならない。 そのため、*2-7のように、2015年9月21日に、翁長知事がスイスで開かれた国連人権理事会で「沖縄の人々の人権はないがしろにされている」という演説をしなければならなくなった。私は2012年2月からこのブログで普天間基地問題に関しても注視して記述していたため知っているのだが、確かに最初、ヤマトンチュのメディアは、沖縄問題は他人ごとで放っておけばよいという態度だった。そのために、ヤマトンチュの政治家や国民の認識が遅れたので、私は、沖縄の基地問題は、安全保障の問題であるのみならず、民族差別や人権問題も含んでいると考える。 (3)島尻参議院議員(自民党、沖縄選出)の沖縄担当相就任について *3-1のように、朝日新聞が、2015年4月18日、19日に、全国世論調査と沖縄県民意識調査を電話で行ったところ、米軍普天間飛行場の辺野古移設については、全国で「評価しない(55%)」が「評価する(25%)」を上回り、沖縄では「評価しない(73%)」が「評価する(18%)」を圧倒したそうだ。また、翁長知事の「辺野古に基地をつくることに反対し、移設のための作業を停止するよう指示した」という対応に、全国では「評価する(54%)」が「評価しない(28%)」を上回り、沖縄では「評価する(70%)」が「評価しない(19%)」を引き離したとのことである。 さらに、*3-2のように、辺野古の埋め立て工事を阻止しようとする抗議市民と警官がもみ合いになる事態も起こっており、沖縄防衛局は移設に向けた準備作業を進め、市民らは関係車両がゲートに入るのを阻止しようと集まって、必死の抵抗をしているわけだ。 これに対し、*3-3、*3-4のように、自民党沖縄県連会長に就任した島尻参院議員は、2015年4月4日、自民党の県連大会挨拶で、「名護市辺野古の新基地建設をめぐる市民の反対運動は責任のない市民運動で、私たちは政治として対峙する」「反対運動の声の大きさに恐れおののかず、毅然と冷静に物事を進めないといけない」と発言したそうだ。これは、国会議員が国民によって選ばれ、国民に委託されて政治を行っていることを考えていない発言で、島尻氏が「その発言は市民運動を否定するものではない。運動と私たちの立場である政治は違うという意味だ。現実を見据えて物事を進めるのが政治の使命だ」と説明しているのは、その説明自体がおかしい。 このような島尻参議院議員が、*3-5のように、2015年10月7日に沖縄担当相として入閣した。安倍首相の女性枠だろうが、米軍普天間飛行場の返還問題では、2010年7月に「県外移設」を訴えて沖縄選挙区で再選を果たした参議院議員だ。その後、*3-3、*3-4のような発言をしていたため、どうするのか見ものである。 <沖縄県の辺野古埋め立て承認取り消し> *1-1:http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=136905 (沖縄タイムス 2015年10月13日) 【号外】辺野古埋め立て根拠失う 翁長知事が承認取り消し 翁長雄志知事は13日午前、県庁で記者会見し名護市辺野古沿岸部の埋め立て承認を取り消したと発表した。前県政の承認の手続きに「瑕疵(かし)がある」と判断した。翁長知事は「承認は取り消すべき瑕疵があると判断した。今後も辺野古に新基地は造らせないという公約実現に向け、全力で取り組む」と述べ、新基地建設を阻止すると強調した。承認取り消しで、沖縄防衛局は埋め立ての根拠を失い、辺野古沖での作業ができなくなる。県は、承認の過程を検証した第三者委員会の「瑕疵あり」の結論を踏まえ、埋め立て承認申請では普天間飛行場の代替施設を県内に建設する根拠が乏しく、環境保全策が不十分な点などを指摘。埋め立ての必要性を認めることができないと判断した。取り消しを受けて、防衛局は公有水面埋立法を所管する国土交通相に対し、県の取り消しの効力を止める執行停止と、無効化を求める審査請求をする見通し。翁長知事は知事就任前から「あらゆる手段で新基地建設を阻止する」と公約に掲げてきた。ことし7月に第三者委員会が承認に「瑕疵がある」と翁長知事に報告後、8月10日から1カ月かけた政府との集中協議が決裂。処分される防衛局側の意見を聞く「意見聴取」と「聴聞」の手続きを終えて、取り消しが決まった。防衛局は県に出した陳述書で「承認手続きに瑕疵はなく、取り消しは違法」と主張している。 *1-2:http://www.nikkei.com/article/DGXLASFK13H0P_T11C15A0I00000/ (日経新聞 2015/10/13) 沖縄知事、辺野古埋め立て承認取り消し発表 菅氏「瑕疵ない」 沖縄県の翁長雄志知事は13日午前、県庁で記者会見し、米軍普天間基地(同県宜野湾市)の移設先、名護市辺野古沿岸部の埋め立て承認に関し、正式に取り消したと発表した。防衛省沖縄防衛局は移設工事を進める法的権限を失う。中谷元・防衛相は工事を続けるため、直ちに承認取り消しの執行停止と無効を求める申し立てをする方針を示した。県によると、13日付で沖縄防衛局に文書を送付し、埋め立て承認を取り消したことを通知した。理由について(1)普天間基地の移設先が名護市辺野古である必要性が乏しい(2)沖縄に集中する米軍基地負担が固定化する(3)周辺の自然環境への影響――などをあげた。翁長氏は記者会見で、仲井真弘多前知事が埋め立てを承認したことについて「到底容認できない」と主張。政府と県による1カ月間の集中協議で「沖縄の考え方や思いが理解いただけなかった」と政府を批判した。政府が対抗措置をとれば「法律的にも政治的にもしっかり沖縄の主張をしていく」と強調した。菅義偉官房長官は13日の閣議後の記者会見で「承認に法的瑕疵(かし)はない」と強調。埋め立て工事を進める考えを示した。「公有水面埋立法を所管する国土交通相に、審査請求および執行停止の申し立てすることを含め、対応を検討する」と述べた。中谷氏も記者会見で、国土交通相に行政不服審査法に基づく不服審査と、取り消し措置の効力の一時停止を速やかに申し立てる考えを示した。取り消しの効力が一時的になくなれば、移設工事を再開できる。政府は今秋以降に本体工事に着手する方針だ。ただ、工事を再開すれば今度は県が工事を阻止するための対抗措置を取る方針で、最終的に法的闘争に発展する可能性が高い。普天間基地の移設問題を巡っては、2013年12月に仲井真前知事が政府による辺野古沿岸部の埋め立て申請を承認した。14年11月の知事選で翁長氏が辺野古移設反対を公約に掲げて仲井真氏を破った後、15年1月に承認過程を検証する第三者委員会を置いた。第三者委が手続きに関し「法的な瑕疵がある」との報告書をまとめたのを受け、翁長氏は9月に承認を取り消す方針を表明していた。 <これまでの経緯> *2-1:http://digital.asahi.com/articles/ASGD55RDCGD5TPOB002.html (朝日新聞 2014年12月5日) 沖縄・仲井真知事、辺野古の工法変更を承認 退任直前に 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設計画を巡り、仲井真弘多知事は5日、工法の一部を変更したいとする沖縄防衛局からの申請を承認した。移設阻止を掲げる翁長雄志(たけし)・前那覇市長の知事就任を10日に控え、任期切れ目前の仲井真氏が昨年末の辺野古の埋め立て承認に続き、国に「お墨付き」を与えたことに、県内では反発の声が上がった。沖縄防衛局は9月、仮設道路の設置や護岸の追加など4項目の変更を県に申請。うち2項目について県は5日までに審査を終え、仲井真氏が承認した。仲井真氏は「標準的な処理期間を大幅超過しており、判断すべき時期と考えた」とするコメントを発表。しかし、移設反対派の市民団体は同日、県土木建築部長を訪ね、「(承認の公印の)押し逃げだ」と批判した。新たに知事に就く翁長氏は変更申請について、「私に判断をお任せ願いたい」と述べていた。移設工事を巡る国の変更申請は今後も繰り返し出される見通しで、知事就任後の翁長氏の対応が焦点となる。 *2-2:http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=110598 (沖縄タイムス社説 2015年4月7日) [知事不退転の決意]支援の大きなうねりを 感動のあまり心が打ち震えることをウチナーグチで「ふとぅふとぅー」と表現する。6日付本紙に掲載された「翁長・菅会談」の翁長雄志知事の冒頭発言を読んで、年配の読者は「ふとぅふとぅーしてきた」と興奮気味に伝えてきた。このような感想が出てくるのは、翁長知事の発言が名護市長選、知事選、衆院選で示された民意を過不足なく代弁しているだけでなく、ウチナーンチュの心の琴線に触れる内容だったからだ。テレビで連日のように流れる菅義偉官房長官の「粛々と」という発言に対しては、復帰前、「自治は神話である」と言い放ったキャラウェー高等弁務官の金門クラブ演説(1963年)を持ち出し、「問答無用の姿勢が感じられる」と厳しく批判した。名護市長選で移設反対候補が再選されても「全く影響ない」と無視し、県知事選が近づくと「(移設問題は)争点にならない。過去の問題」だと言い放ち、知事選の結果についても、移設反対の民意が示されたことを否定し、都合のいいように解釈する。有権者を小ばかにしたような菅氏の態度が、公開の場で厳しい批判にさらされたのである。安倍政権の強権的な手法は、沖縄戦で戦場となり米軍支配の下で自治・人権を脅かされ続けた沖縄では、通用しない。それを浮き彫りにしたのが翁長・菅会談だった。「辺野古の新基地は絶対に建設できないと確信を持っている」という知事の不退転の言明は今後、大きな意味を持ってくるはずだ。 ■ ■ 翁長氏だけではない。大田昌秀、稲嶺恵一、仲井真弘多の3知事も在任中、辺野古移設は不可能という趣旨の見解を明らかにしてきた。「どの県の知事も安保は大事と言いながら、自分の所に基地が来ては困ると言い、自分が困ることを沖縄に押しつけ平然としている」と会見で語ったのは大田氏。稲嶺氏はラムズフェルド米国防長官と県庁で会った際、基地に対する県民感情をマグマにたとえ、「一度、穴が開くと大きく噴出する」と指摘した。仲井真氏だって2013年11月の会見では「固定化という言葉が出てくること自体、一種の堕落だ」と指摘しているのである。菅氏は、1999年、稲嶺知事と故岸本建男名護市長の受け入れ表明を受け、閣議決定がなされたことを強調するが、稲嶺県政が打ち出した構想を県の相談もなく廃棄し、閣議決定を一方的にほごにしたのは国である。稲嶺県政は現行案(V字案)には合意していない。 ■ ■ これら一連の経過の全体を菅氏は知っているのか。本紙が3日から5日まで実施したオートコール方式による緊急世論調査(サンプル数610)によると、約76%が新基地建設に反対し、翁長知事の姿勢を支持すると答えた人は83%に達した。民意を無視して建設を強行しようとすれば、むき出しの国家暴力が表面化し、辺野古移設の正当性は失われる。日米関係そのものが大きな痛手を受けるのだ。 *2-3:http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-246497-storytopic-3.html (琉球新報 2015年7月30日) 第三者委報告書、県が公開 辺野古の根拠示されず 沖縄県は29日、名護市辺野古の新基地建設計画に伴い前知事が行った埋め立て承認に「瑕疵があった」と翁長雄志知事に答申した第三者委員会の報告書と議事録を公開した。報告は米海兵隊が新基地に配備予定の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイについて、環境影響評価(アセスメント)手続きの最終段階に当たる評価書で初めて配備を記載したことに触れ「極めて重要な配備の情報は方法書および準備書段階で記載されるべき」だったと指摘した。辺野古に移設予定の普天間飛行場では、夜間飛行やオスプレイの飛行形態に関する日米合意違反が常態化し、県の審査担当者もこの状況を認識していたと聞き取りを基に断定した。埋め立ての必要性について沖縄防衛局が「普天間の危険性除去、早期移設」を挙げたことに対し、「他の場所ではなく、なぜ辺野古が適切なのか、何ら説明していない」とし、「論理の飛躍(審査の欠落)」があったと指摘した。報告書は埋め立ての利益と不利益を比較考量すべきだとした上で、利益について、普天間飛行場の早期閉鎖を挙げた。ただその手法が辺野古移設であることは「合理性が不明で、根拠も十分とは言えない」とした。一方、不利益について、沖縄の過重な基地負担に触れ、辺野古移設は「米軍基地の固定化を招く契機となり、格差や過重負担を固定化する」と指摘した。こうした状態は法の下の平等を定めた憲法14条の精神にも反するとも指摘した。報告書はジュゴンやウミガメなどの保護策、県外からの埋め立て土砂搬入に伴う外来種侵入防止策など各分野の環境対策も網羅した。埋め立て申請内容は、県自身が知事意見や環境生活部長意見で示した環境対策の問題点に「対応できていない」と結論付けた。埋め立て地域の一部は県の「琉球諸島沿岸海岸保全基本計画」で開発行為に規制が掛かっているが、防衛局は必要な規制解除の手続きを取らなかったとして、承認に瑕疵があったと指摘した。 *2-4:http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=126367 (沖縄タイムス 2015年7月30日) 沖縄県、辺野古協議書取り下げ要求 菅氏は拒否 米軍普天間飛行場返還に伴う名護市辺野古の新基地建設で、沖縄県は29日、埋め立て本体工事に向けた実施設計と環境保全対策に関する協議書を受理した上で、沖縄防衛局に対し、取り下げと再提出を求める文書を出した。翁長雄志知事は同日午前、那覇空港で記者団の質問に答え、「事前協議はボーリング調査終了後、全体の詳細設計に基づき、実施すべきだ」と述べ、全体の設計がまとまっていない段階での協議開始に否定的な考えを示した。菅義偉官房長官は同日の記者会見で、「政府として取り下げる考えはなく、県側と丁寧に協議していきたい」との考えを示した。県土木建築部の伊禮年男土木整備統括監らが嘉手納町の防衛局を訪れ、協議書を取り下げ、実施設計の終了後に再提出するよう要求する文書を提出。8月10日までの回答と、取り下げない場合にはその理由や一部の協議から始める理由などを質問している。伊禮統括監によると、防衛局調達部の福島邦彦次長が文書を受け取り、「内容を精査して答えたい」と語ったという。防衛局は24日に協議書を提出。「協議は始まった」との認識を示し、8月14日までに協議書に関する質問を出すよう、県に求めた。翁長知事は質問への回答について「取り下げるか、しないかという(防衛局の)判断を待って、こちらも判断したい」と話した。県は一方的に質問期限を設けた理由も防衛局に問い合わせている。防衛局は辺野古沿岸の海上ボーリング調査24地点のうち、深場の5地点で調査を終了していないが、調査を終えた地点の護岸などの実施設計と環境保全対策の協議書を、一部先行する形で提出していた。協議書の取り下げを求める県の文書では「工事中の環境保全対策は一部だけではなく、護岸全体の環境影響評価を連続的に検討すべきだ」と指摘している。菅官房長官は会見で、「工事は段階的に実施されるものであり、段階的に協議するのは問題ないと思っている」と話した。協議で県側の合意が得られない場合でも着工可能との認識を示した。 *2-5:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2015081001001228.html (東京新聞 2015年8月10日)辺野古移設工事を全面的に中断 政府と県11日から集中協議 政府と沖縄県は10日、米軍普天間飛行場(同県宜野湾市)の名護市辺野古移設をめぐり、9月9日まで1カ月の集中協議期間に入った。辺野古沿岸部の埋め立て関連工事は全面的に中断。政府は辺野古移設を推進する姿勢を崩していないが、県は移設計画の撤回を求める構えで、協議で一致点を見いだせるかどうかは不透明だ。菅義偉官房長官は11日に沖縄入りし、県庁で翁長雄志知事や安慶田光男副知事らと集中協議の初会合を開く。沖縄防衛局は期間入りに先立ち、9日までに海底ボーリング調査に使う台船など工事資機材の撤去を終え、資材を運ぶ車両の運行も停止した。 *2-6:http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-248816-storytopic-11.html (琉球新報社説 2015年9月13日) 辺野古工事再開 民主主義踏みにじる愚行 政府は、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に向け、県との集中協議のため1カ月中断していた新基地建設へ向けた関連工事を再開した。県が新基地建設の中止を求め続ける中、政府は工事再開を強行した。極めて遺憾だ。安倍政権は沖縄の民意を一貫して無視し、民主主義を踏みにじる愚行をいつまで重ねるのか。怒りを禁じ得ない。沖縄防衛局は「政府と県の集中協議期間が終了し、県の調査も終了したため、再開した」と説明しているが、工事を加速し、新基地建設の既成事実化を図るのが狙いだろう。来週にも埋め立て工事の前段となる海底ボーリング調査を再開する予定だ。新基地建設をめぐる県と安倍政権の集中協議は、完全な平行線をたどり、安倍晋三首相が出席した5回目で決裂した。政府側は、前知事による埋め立て承認に固執するばかりで、その後の名護市長選、同市議選、県知事選、衆院選で新基地建設拒否の候補者が圧勝し、沖縄の民意が何度も示されたことについて言及はなかった。本来なら政府は県と真摯(しんし)に向き合い、民意を直視すべきだったはずだ。協議は最初から結論ありきで、翁長雄志知事に理解を得る努力をした形跡を残すアリバイづくりだったと言われても仕方あるまい。翁長知事は、前知事による辺野古沿岸部の埋め立て承認の取り消しを14日にも表明、必要な手続きに着手する方針だ。弁護士や環境学者ら有識者の第三者委員会は既に、手続きに「瑕疵(かし)あり」との報告書を提出している。政府の強硬姿勢に対抗するため、翁長知事はそれに基づき、埋め立て承認の取り消しを速やかに行えばよい。妥協や取引することなく、普天間飛行場の即時無条件全面返還を政府に要求すべきだ。政府は「辺野古が唯一の選択肢」とかたくなな姿勢を取り続けている。だが新基地建設の反対運動は県内ばかりでなく、国内、海外でも草の根レベルで盛り上がっている。12日午後に行われた国会包囲行動には2万2千人(主催者発表)が参加し「辺野古新基地ノー」の声を上げた。世界の識者109人も新基地阻止に賛同している。翁長知事は21、22の両日に国連人権理事会で演説する。そこで沖縄の民主主義的正当性を強く訴え、民意を無視する日本政府の理不尽さを内外に示してほしい。 *2-7:http://www.huffingtonpost.jp/2015/09/21/takeshi-onaga-okinawa-un-human-rights-council_n_8173918.html (The Huffington Post 2015年9月22日) 翁長雄志知事が国連で演説「沖縄の人々は、人権をないがしろにされている」(日本語訳全文) 沖縄県の翁長雄志知事(64)は9月21日、スイスで開かれている国連人権理事会で約2分にわたって英語で演説し、アメリカ軍普天間基地の移設計画について、沖縄に米軍基地が集中する実態を紹介し「沖縄の人々は、自己決定権や人権をないがしろにされている」などと訴えた。翁長知事の国連演説は、国連人権理事会の場で発言機会を持つNGO「市民外交センター」が、持ち時間を提供して実現。国連での演説の意義について、同NGOの上村英明代表は琉球新報に、「沖縄の基地問題は安全保障、平和の問題ではなく、人権問題だということを国際社会にアピールする機会となる」と説明した。以下に、翁長知事による国連での演説の、日本語訳全文を掲載する。 −−−− ありがとうございます、議長。私は、日本の沖縄県の知事、翁長雄志です。私は世界中の皆さんに、辺野古への関心を持っていただきたいと思います。そこでは、沖縄の人々の自己決定権が、ないがしろにされています。第2次大戦のあと、アメリカ軍は私たちの土地を力によって接収し、そして、沖縄にアメリカ軍基地を作りました。私たちが自ら望んで、土地を提供したことは一切ありません。沖縄は、日本の国土の0.6%の面積しかありません。しかしながら、在日アメリカ軍専用施設の73.8%が、沖縄に存在しています。70年間で、アメリカ軍基地に関連する多くの事件・事故、環境問題が沖縄では起こってきました。私たちは自己決定権や人権を、ないがしろにされています。自国民の自由、平等、人権、民主主義すら守れない国が、どうして世界の国々とそれらの価値観を、共有することなどできるでしょうか。今、日本政府は、美しい海を埋め立てて、辺野古に新しい基地を建設しようと強行しています。彼らは、昨年沖縄で行われた選挙で示された民意を、無視しているのです。私は、あらゆる手段、合法的な手段を使って、新しい基地の建設を止める覚悟です。今日はこのようなスピーチの機会が頂けたことを感謝します。ありがとうございました。 −−-- なお、この日の国連人権理事会では、翁長知事の演説のあと、日本政府が答弁する機会もあった。日本政府側は翁長知事に反論。「日本政府は、沖縄の基地負担軽減に最大限取り組んでいる。普天間基地の辺野古への移設は、アメリカ軍の抑止力の維持と、危険性の除去を実現する、唯一の解決策だ。日本政府は、おととし、仲井真前知事から埋め立ての承認を得て、関係法令に基づき移設を進めている。沖縄県には、引き続き説明をしながら理解を得ていきたい」と述べた。 <島尻氏の沖縄担当相就任> *3-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11715605.html (朝日新聞 2015年4月21日) 辺野古めぐる政権対応、評価せず55%・評価25% 朝日新聞社世論調査 朝日新聞社は18、19の両日、全国定例世論調査(電話)と、沖縄県民意識調査(同)を同時に実施した。沖縄県宜野湾市にある米軍普天間飛行場の同県名護市辺野古への移設問題に対する安倍政権の対応については、全国で「評価しない」が55%と、「評価する」25%を上回った。沖縄でも「評価しない」73%が「評価する」18%を圧倒した。辺野古移設問題については、全国調査と沖縄県の調査でいくつか同じ質問をして、全国と沖縄県内との調査結果を比較した。沖縄県の翁長雄志知事は辺野古に基地をつくることに反対し、移設のための作業を停止するよう指示した。全国ではこの対応を「評価する」が54%で、「評価しない」28%を上回り、沖縄では「評価する」70%が「評価しない」19%を引き離した。辺野古移設の賛否では、全国では「賛成」は30%で、「反対」は41%。「その他・答えない」は29%だった。沖縄では「反対」が63%と、「賛成」22%の3倍近かった。普天間飛行場の移設問題をどのように解決するのが最も望ましいか3択で聞くと、全国、沖縄ともに「国外に移設する」が最も多く、全国では45%、沖縄では59%を占めた。「沖縄県内に移設する」は全国で27%、沖縄で15%。「本土に移設する」が全国で15%、沖縄で20%だった。移設問題をめぐり、安倍晋三首相と翁長知事が17日に初めて会談したことに関しては、全国、沖縄ともに7割が「評価する」と答えた。安倍内閣の全国の支持率は44%(前回3月全国調査46%)、不支持率は35%(同33%)だった。 *3-2:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/231807 (佐賀新聞 2015年9月21日) 辺野古で抗議市民と警官もみ合い、怒声飛び一時騒然 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設予定地である名護市辺野古近くの米軍キャンプ・シュワブ前で21日午前、移設に抗議する市民ら数十人が道路に横たわったり、工事用車両が出入りするゲート前で隊列を組んだりし、これを強制排除しようとした警察官約100人ともみ合いになった。怒声が飛び交うなど周辺は一時騒然とした。沖縄防衛局は移設に向けた準備作業を進めており、市民らは関係車両がゲートに入るのを阻止しようと集まっていた。名護市の高校生(18)は「警察官のやり方は強引」と批判。国連で演説予定の翁長雄志知事に「沖縄の現状を世界に伝えてほしい」と期待した。 *3-3:http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=110372&f=ap (沖縄タイムス 2015年4月5日) 「責任のない市民運動」辺野古行動に島尻議員 自民党沖縄県連の会長に就任した島尻安伊子参院議員は4日、那覇市内の自治会館で開かれた県連大会のあいさつで、名護市辺野古の新基地建設をめぐる市民の反対運動について「責任のない市民運動だと思っている。私たちは政治として対峙(たいじ)する」と発言した。さらに、米軍普天間飛行場の危険性除去のため辺野古移設を容認する立場から「反対運動の声の大きさに恐れおののかず、毅然(きぜん)と冷静に物事を進めないといけない。今日より明日がよくなるよう、真剣に議論し実行する」とも述べた。島尻氏は大会後、沖縄タイムスの取材に対し「発言は市民運動を否定するものではない。そういった(反対する)方々の声にも耳を傾けたいが、運動と私たちの立場である政治は違うという意味だ。現実を見据えて物事を進めるのが政治の使命だ」と説明した。 *3-4:http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-241545-storytopic-11.html (琉球新報社説 2015年4月8日) 島尻氏発言 移設反対の民意と向き合え 市民の側ではなく、権力側に立つ人なのだと再認識させられる。自民党県連の新会長に選出された島尻安伊子参院議員のことだ。県連大会での就任のあいさつで、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設に反対する市民運動に関し「反対運動は責任のない市民運動だと思っている。私たちは政治としてここに対峙(たいじ)していく」と言い放った。にわかに信じられない発言だ。移設に反対するのが無責任だというが、そもそも自身が2010年の参院選で、普天間飛行場の県外移設を公約して再選されたことを忘れたわけではあるまい。島尻氏は県外移設公約を翻し、13年4月に辺野古移設容認を表明した。全ての県関係自民党国会議員が辺野古容認に転じ、その後に仲井真弘多前知事が辺野古埋め立てを承認するよりも、半年以上早い公約の撤回だった。新基地を後世に残したくないと反対運動をする市民に対し、公約を破棄した政治家が「無責任」と批判するのは、筋違いも甚だしい。島尻氏は「移設に反対すれば普天間が固定化する」といった政権幹部同様の論理を振りかざしている。辺野古移設反対と普天間の危険性除去は二者択一のテーマではなく、また移設問題の解決策をめぐっては米国でも多様な意見があることは何度も指摘した通りだ。仮に島尻氏の立場に立ったとして、昨年の知事選や名護市長選、衆院選などで示された通り、移設反対が世論であることは紛れもない事実だ。政治家であるなら、その民意に耳を傾け、利害を調整するのが最低限の責務ではないのか。発言について島尻氏は「言論の自由はあり、反対運動を否定するものではない」と釈明した。だが過去の言動を見ると、今回も本音ではないのかと思わざるを得ない。島尻氏は昨年2月の国会質問で辺野古の市民運動に対し「危険な行為に先んじて対策を打つことが必要だ」と述べ、反対運動を弾圧するかのような「対策」を求めた。13年11月には辺野古移設について「待望の子どもが生まれた時にはみんなでお祝い」と述べ、物議を醸した。「台所から政治を変える」を掲げて国政進出した島尻氏だが、為政者に忠実であることが政治家だとはき違えてはいないか。民意を無視する政権と歩調を合わせて市民と「対峙」する態度を改め、移設反対の世論と向き合うべきだ。 *3-5:http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=136107 (沖縄タイムス 2015年10月7日) 島尻安伊子氏、沖縄担当相で入閣へ きょう内閣改造 安倍晋三首相は7日に行う内閣改造で、県選出で自民党県連会長の島尻安伊子参院議員(50)を沖縄担当相に据えることを固めた。県選出・出身国会議員の入閣は1991年に沖縄開発庁長官に就任した伊江朝雄氏、93年に同長官に就任した上原康助氏、2012年に郵政民営化担当相に就いた下地幹郎氏以来、4人目となる。女性では初めて。島尻氏は那覇市議などを経て、07年4月の参院補選で初当選し、現在2期目。第2次安倍内閣発足時に内閣兼復興政務官を務めた。自民党沖縄振興調査会事務局長として、米軍キャンプ瑞慶覧・西普天間住宅地区の返還や改正跡地法の成立などに尽力。4月から同党県連会長を務める。米軍普天間飛行場の返還問題では、10年7月の自らの選挙で「県外移設」を訴えて再選を果たしたが、政務官就任後の13年4月に「辺野古容認」を表明し、公約を破棄。ことし4月の県連会長就任時のあいさつでは、名護市辺野古の新基地建設に反対する市民運動を「責任のない市民運動」と発言し、物議を醸した。 PS(2015年10月14日追加): *4-1、*4-3のように、菅官房長官は、沖縄県の埋立承認取り消しについて「①承認に法的な瑕疵はない」「②承認取り消しは沖縄や政府が重ねてきた普天間飛行場の危険性除去の努力を無にするものだ「③(ジュネーブでの知事演説には)強い違和感を受ける。国際社会では理解されない」などとし、国交相に不服審査請求を行うそうだ。しかし、②は既に事件から20年も経過して何ら進展していない普天間の危険除去を辺野古の埋め立てと交換条件にしている点が不誠実で、③は鈍感かつ融通が効かない。が、*4-2のように、名護市長はじめ沖縄県民には知事を評価し支持する声が強く、*4-3のように、社説で「沖縄の苦悩を理解し、人権や自己決定権に十分配慮する姿勢で、まず計画を白紙に戻せ」とする大手メディアも出てきたため、日本国民全体の認識も進むだろう。 *4-1:http://mainichi.jp/select/news/20151013k0000e010074000c.html?fm=mnm (毎日新聞 2015年10月13日) 辺野古承認取り消し:菅官房長官「法的瑕疵ない」 菅義偉官房長官は13日午前の記者会見で、沖縄県が埋め立て承認を取り消したことについて「(前知事時代の)承認に法的な瑕疵はない。従来の判断に基づいて進めていくのは自然なことだ」と述べた。政府は14日以降に行政不服審査法に基づき国土交通相に不服審査請求を行う。県内移設を進める方針に変わりはないが、県との対話は継続する姿勢だ。菅氏は「承認取り消しは沖縄や政府が重ねてきた普天間飛行場の危険性除去の努力を無にするものだ。危険性をどうするか、現職の知事として極めて大事なことだ」と翁長雄志知事を批判した。 *4-2:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2015101301001367.html (東京新聞 2015年10月13日) 辺野古抱える名護市長、知事評価 「全面的に支持」 沖縄県名護市の稲嶺進市長は13日、翁長雄志県知事による同市辺野古沿岸部の埋め立て承認取り消しについて「県民が期待していた日がとうとうきた。全面的に知事の行動を支持していく」と述べ、評価した。市役所で記者団の取材に応じた。稲嶺市長は、県との連携を今後も密にすると強調。政府に対しては「取り消し手続きは大きな効力を持つ。法治国家というなら従うべきだ」とけん制した。さらに「本体工事に着手するのは地方自治を無視し、違法。そんなことが許される国ではないはずだ」とくぎを刺した。 *4-3:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12013757.html (朝日新聞社説 2015年10月14日) 辺野古移設 沖縄の苦悩に向き合え これに対し、政府は直ちに行政不服審査請求などを行う方針だ。政府と県が行政手続き上、司法上の対抗策を打ち合うなかで、民意に反した基地建設が進む。そんな異常事態は、何としても避けなければならない。政府は埋め立ての法的根拠を失った以上、計画は白紙に戻し改めて県と話し合うべきだ。前知事による承認から1年10カ月。翁長知事は取り消しに向けて周到に準備を重ねてきた。「承認手続きに瑕疵(かし)がある」との結論は、第三者委員会が半年かけて導き出した。第三者委は移設の必要性について「実質的な根拠が乏しい」と指摘。「米軍の沖縄配備の優位性」などの政府の主張にも具体的な説明がないとした。翁長知事は政府との集中協議でもこれらの点を問いただしたが、政府は「辺野古移設が唯一の解決策」と繰り返すばかり。説得力ある説明はなかった。翁長知事は先月、ジュネーブでの国連人権理事会の演説で、「沖縄の人々は自己決定権や人権がないがしろにされている」と訴えた。基地問題を人権問題ととらえての主張である。戦後、米軍に土地を強制接収され、次々と米軍基地が造られた歴史。戦後70年、米軍による犯罪や事故に巻き込まれる危険、航空機の騒音などの「基地被害」と隣り合わせの生活を余儀なくされてきた歴史。そして、いまなお全国の米軍専用施設面積の73・8%が、国土の0・6%にすぎない沖縄県に集中している現実。これはまさに、沖縄に対する「差別」ではないのか。日米安保条約を支持する政府も国民も、そうした沖縄の現実に無関心でいることによって、結果として「差別」に加担してこなかったか――。翁長知事による埋め立て承認取り消しは、政府に、国民に、そこを問いかけるメッセージだと受けとめるべきだ。残念なのは、ジュネーブでの知事の演説に対し、菅官房長官が「強い違和感を受ける。国際社会では理解されない」と冷淡な対応に終始したことだ。行政手続きや司法判断の結果がどうあれ、政府と沖縄の亀裂がこれ以上深まれば米軍基地の安定運用も危うくなるだろう。政府に求められるのは、沖縄の苦悩を理解し、人権や自己決定権に十分配慮する姿勢だ。まず計画を白紙に戻すことが、そのための第一歩になる。 PS(2015年9月15日追加):*5-1、*5-2のように、翁長沖縄県知事の辺野古埋め立て承認取り消しについて、政府(工事主体の防衛局)は行政不服審査法に基づき、審査請求と取り消し処分の効力停止を石井国土交通相に申し立てるそうだ。そして、同じ政府内であるため、国交相は政府寄りの判断をしそうだと懸念する人が多い。確かにそうかもしれないが、国交相は公明党である上、観光庁は国交省に所属しており、*5-3、*5-4で日弁連が会長声明や意見書で完璧に記載しているとおり、沖縄の自然や文化は価値が高く、日本の観光にとって有望な資産だ。そのため、国交相が沖縄側に立った適切な判断をしてくれればよいと願っている。 *5-1:http://www.ehime-np.co.jp/rensai/shasetsu/ren017201510148682.html (愛媛新聞 2015年10月14日) 辺野古承認取り消し 泥沼の闘争に政府は終止符打て ついに国と沖縄県の全面対決に至ってしまった。沖縄県の翁長雄志知事は、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の移設先、名護市辺野古沿岸部の埋め立て承認を取り消した。対して政府側は、工事主体の防衛局が行政不服審査法に基づき、審査請求と取り消し処分の効力停止を石井啓一国土交通相に申し立てると表明した。国交相が効力停止を認めれば防衛局は審査請求の審査期間中も移設作業を続け、本体工事に着手することができる、と政府は読む。そうなれば、県側は効力停止の取り消しや差し止めを求めて提訴する方針だ。泥沼の法廷闘争は避けねばならない。ここまで対立を先鋭化させたのは、基地問題に関して「辺野古移設が唯一の解決策」との一点張りで、民意を一顧だにしない政府の強権的な態度にほかならない。抗議する市民への警察官や海上保安官らによる取り締まりが厳しさを増す現在、さらに力ずくで本体工事に突入すれば、流血の事態さえ現実のものとなりかねない。暴挙は断じて許されない。政府には、事態を重く受け止め工事を中止するよう強く求める。県民の声を聞き、苦難の歴史と向き合い、基地負担軽減策を練り直して米国との協議のやり直しへかじを切るべきだ。普天間返還の合意を主導したジョセフ・ナイ元国防次官補は辺野古移設について「沖縄の人々の支持が得られないなら、米政府はおそらく再検討しなければならないだろう」と沖縄の地元紙に述べている。住民の反発下では米国側も基地の安定的持続が見通せないに違いない。ナイ氏は以前、沖縄が中国の弾道ミサイルの射程内にあることを踏まえ、沖縄への基地集中を変えるべきだとも指摘している。実際、米国はリスク軽減のためハワイやグアムなどへの兵力分散を加速させている。沖縄での最大の兵力である海兵隊については、機動力や抑止力、訓練の環境などの観点から沖縄での存在意義や戦略的価値を疑問視する声が米国内や日本の専門家らから上がっている。これらの状況を鑑みれば、辺野古移設が基地問題の唯一の解決策であると主張する根拠は揺らぐ。国民の強い懸念と反発を米国に伝え、別の解決策を探ることこそ政府が取るべき道だ。米国への協力をアピールするために、政府が主導して辺野古への新基地建設を強行することは決して認められない。国民より米国との約束を優先する姿勢は安全保障関連法の強行成立と共通しており、深く憂慮する。翁長知事は先月、国連人権理事会で「自国民の自由、平等、人権、民主主義を守れない国がどうして世界の国々と価値観を共有できるか」と訴えた。県民の怒りはもっともだ。本土からの賛同や支援も拡大している。民意を力で抑え続ければ国際的信頼を失うことを政府は肝に銘じ、計画見直しと対立解消へ力を尽くさなければならない。 *5-2:http://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-153618.html (琉球新報社説 2015年10月14日) 承認取り消し 民意実現の出発点に 政府は新基地断念すべきだ 米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古沿岸部への新基地建設をめぐり、翁長雄志知事が前知事の埋め立て承認を取り消した。沖縄の将来を見据え、新基地建設阻止への決意を示す意義ある一歩として高く評価したい。裁判などで問題解決までには長い道のりが予想される。だが、新基地建設反対の民意は圧倒的であり、土地を同意なく奪って建設した普天間飛行場の形成過程からしても、理は知事にある。阻止運動を県外、国外に広げ、新基地建設断念と普天間飛行場の閉鎖を勝ち取る新たな出発点に、承認取り消しを位置付けたい。 ●犯罪的な行為 知事は埋め立て承認取り消し後の会見で、普天間飛行場は戦後、県民が収容所に入れられている間に、強制接収されて建設されたことをあらためて強調した。その上で「辺野古に移すということは、土地を奪っておきながら代わりのものも沖縄に差し出せという理不尽な話」と批判した。普天間飛行場が国際法に反して建設されたことは明らかである。知事の批判は当然だ。ところが、菅義偉官房長官は知事の承認取り消しを「沖縄や政府が重ねてきた普天間飛行場の危険性除去の努力を無にするものだ」と批判した。「政治の堕落」を指摘されたことから何ら学んでいないと言わざるを得ない。車の窃盗犯が持ち主である被害者に「古くなった車を返すから新車をよこせ」と開き直るような姿勢は改めるべきである。政府はそんな犯罪的な行為を国民の面前で恥ずかしげもなく行っているのである。これで法治国家と言えるだろうか。官房長官が知事を批判するなど、筋違いも甚だしい。官房長官が言うように、政府はこれまで普天間飛行場の危険性の除去に努力してきただろうか。新基地は完成までに10年かかるとされる。危険性を除去し、固定化させないための辺野古移設としながら、10年間は固定化し、危険性もその間放置されるのである。政府が真剣に危険性除去を考えるならば、直ちに普天間飛行場を閉鎖すべきだ。そうしないのは県民軽視以外の何物でもない。普天間飛行場の危険性除去や固定化回避を持ち出せば、新基地建設に対する県民の理解が得やすいといった程度の認識しかないのではないか。前知事の埋め立て承認の条件ともいえる普天間飛行場の5年以内の運用停止の約束も、ほごにしている。政府の言う「努力」はこの程度のものでしかない。 ●普遍的な問題 本来ならば、知事の承認取り消しを政府は重く受け止め、新基地建設の作業を直ちに停止すべきである。しかしそのような常識が通用する政府ではないようだ。中谷元・防衛相は「知事による埋め立て承認の取り消しは違法」と述べ、国交相に知事の承認取り消しの効力取り消しを求める不服審査請求と執行停止申し立てを速やかに行うとしている。同じ政府機関が裁決して公正を保つことはできない。政府側に有利になる可能性は極めて高い。これが官房長官の言う「わが国は法治国家」の実態である。新基地建設は沖縄だけの問題ではない。普遍的な問題を包含している。新基地建設に反対する圧倒的な民意を、政府は踏みにじろうとしている。日本の民主主義が問われているのである。日米同盟を重視し、民意は一顧だにしない政府を認めていいのかが突き付けられているのである。優れて国民的問題だ。知事は「これから節目節目でいろんなことが起きると思う」と述べている。新基地建設問題の本質をしっかり見極めてほしいということだ。そのことを深く自覚し、声を上げ続けることが今を生きる私たちの将来世代に対する責任である。 *5-3:http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2015/151013.html (日本弁護士連合会会長 村越 進 2015年10月13日) 普天間飛行場代替施設建設事業に係る公有水面埋立ての承認の取消しに関する会長声明 本日、沖縄県知事は、前知事が2013年12月27日に行った普天間飛行場代替施設建設事業(以下「本事業」という。)に係る公有水面埋立ての承認(以下「本件承認」という。)を、公有水面埋立法第4条第1項の承認要件を充足していない瑕疵があるとともに、取消しの公益的必要性が高いことを理由として、取り消した。本事業で埋立ての対象となっていた辺野古崎・大浦湾は、環境省レッドリスト絶滅危惧ⅠA類かつ天然記念物であるジュゴンや絶滅危惧種を含む多数の貴重な水生生物や渡り鳥の生息地として、豊かな自然環境・生態系を保持してきた。当連合会は、2000年7月14日、「ジュゴン保護に関する要望書」を発表し、国などに対し、ジュゴンの絶滅の危機を回避するに足る有効適切な保護措置を早急に策定、実施するよう求めた。また、当連合会は、2013年11月21日に、「普天間飛行場代替施設建設事業に基づく公有水面埋立てに関する意見書」を発表し、国に対し「普天間飛行場代替施設建設事業」に係る公有水面埋立ての承認申請の撤回を、沖縄県知事に対し同申請に対して承認すべきでないことをそれぞれ求めるなどした。その理由は、この海域は沖縄県により策定された「自然環境の保全に関する指針」において自然環境を厳正に保全すべき場所に当たり、この海域を埋め立てることは国土利用上適正合理的とはいえず(公有水面埋立法第4条第1項第1号)、環境影響評価書で示された環境保全措置等では自然環境の保全を図ることは不可能であるなど(同第2号)、同法に定める要件を欠いているというものである。そして、沖縄県知事が2015年1月26日に設けた「普天間飛行場代替施設建設事業に係る公有水面埋立承認手続に関する第三者委員会」(以下「第三者委員会」という。)においても、本件承認について、公有水面埋立法第4条第1項第1号及び同条第2号の要件などを欠き、法律的な瑕疵があるとの報告が出されるに至った(2015年7月16日付け検証結果報告書)。以上のとおり、本件承認には、法律的な瑕疵が存在し、瑕疵の程度も重大であることから、瑕疵のない法的状態を回復する必要性が高く、他方、本件承認から本件承認の取消しまでの期間が2年足らずであり、国がいまだ本体工事に着手していない状況であることからすれば、本日の沖縄県知事による本件承認の取消しは、法的に許容されるものである。当連合会は、国に対し、沖縄県知事の承認取消しという判断を尊重するよう求める。 *5-4:http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/2013/opinion_131121.pdf (日本弁護士連合会意見書 2013年11月21日) 普天間飛行場代替施設建設事業に基づく公有水面埋立てに関する意見書 <意見の趣旨> 1 国は,沖縄県知事に対する「普天間飛行場代替施設建設事業」に基づく公有水面埋立ての承認申請を直ちに撤回すべきである。 2 国が上記承認申請を撤回しない場合,沖縄県知事は,本事業について公有水面埋立法に基づく承認をすべきではない。 3 国と沖縄県とは,協議の上,辺野古崎付近の海域及び大浦湾につき,自然公園法に基づく国立公園に指定する等の保全措置を講じ,ラムサール条約上の湿地登録手続を行うべきである。 <意見の理由> 第1 本意見書提出の経緯 1 事業計画の概要 沖縄県名護市東部に位置する辺野古崎周辺及び大浦湾の一部の海域の埋立計画は,国(沖縄防衛局)が,沖縄県宜野湾市に存する普天間飛行場の代替施設を建設する目的で進めている公有水面埋立法に基づく海水面の埋立計画である。1997年には90ヘクタールの埋立てが,2000年には184ヘクタールの埋立てが計画されるなど,これまでに2度の計画変更がなされ,現在は米軍キャンプ・シュワブ基地沿岸部205ヘクタールを埋め立てるという計画となっている(添付図面参照)。現在の計画について,国は,①2007年8月に環境影響評価の方法書の公告・縦覧,②2009年4月に同準備書の公告・縦覧,③2011年12月に環境影響評価書の提出という環境影響評価法に基づく手続を行った。沖縄県知事は,2012年3月に知事意見を述べた(後述のとおり,このままでは「生活環境及び自然環境の保全を図ることは不可能と考える」というもの)。これを受けて,国は2012年12月に補正後の環境影響評価書を提出し,2013年3月,上記環境影響評価書を添付の上,公有水面埋立承認申請を行った。現在までに,環境影響評価書の告示・縦覧の手続は既に完了している。今後は,沖縄県知事により地元市町村である名護市からの意見聴取が行われ,年内あるいは年明けにも沖縄県知事によって公有水面埋立ての承認の可否の判断が下される見込みである。 2 当連合会の湿地保全に対するこれまでの取組 当連合会は,1977年に大阪で開催された第20回人権擁護大会において,「海岸地帯保全法」の制定,「瀬戸内海環境保全法」の制定,両保全法の内容に沿うように公有水面埋立法を全面的に見直すこと等の提言を行った。この提言は,1978年の瀬戸内海環境保全特別措置法の改正につながった。また,2002年に福島県郡山市で開催された第45回人権擁護大会においては,湿地保全・再生法の制定や,重要湿地の開発計画中止の提言を行った。さらに,2012年に佐賀県佐賀市で開催された第55回人権擁護大会においては,①沿岸域環境を保全するために,現状の海岸線を保全し,原則的に開発・改変をしないこと,②生物多様性の保全・持続可能な漁業資源の利用などの基本原則を踏まえ,沿岸域を再生するための妨げとなる,開発を推進する方向となっている法制度を見直すなど,再生に向けたより実効的な法制度の整備を行うことなどを求める提言を行った。他方,沖縄県の希少な自然環境の保全についても,当連合会は,沖縄県の干潟の保全について,2001年6月に泡瀬干潟の現地調査を行って以降,調査や研究を積み重ねて,必要に応じて意見を述べてきた。例えば,泡瀬干潟に関しては,2002年3月15日に,「泡瀬干潟埋立事業に関する意見書」を公表して中城湾港(泡瀬地区)公有水面埋立事業の中止と泡瀬干潟のラムサール条約登録を求め,さらに同趣旨の意見書と会長談話をそれぞれ2回ずつ公表しているところである。また,ジュゴンの保護については,種の保全のため即時に実効性のある保護措置を求めて2000年7月14日に水産庁等に要望書を提出し,その中で辺野古崎周辺に基地移設計画を策定する場合はジュゴンの生息に関する影響を回避するために策定作業の初期の段階での環境影響評価手続の実施を求めている。 3 当連合会は,上述のとおり1977年以来,沿岸域の保護に取り組み,2012年には現状の海岸線を保全し原則的に開発・改変をしないこと,つまり新たな埋立てを禁止すべきことを提言している。とりわけ,辺野古崎周辺海域・大浦湾についてはジュゴンの餌場であることを含む貴重な生態系が残された自然環境であることから,意見の趣旨のとおり,①国に対し埋立ての承認申請の撤回を,②国の撤回がない場合には沖縄県知事に対し埋立てを承認しないこと 第2 辺野古崎・大浦湾の重要性 1 地理的特徴 辺野古崎・大浦湾は,沖縄県のうち沖縄本島名護市東海岸にあり,太平洋に面する地区に位置する。同地域は,サンゴ礁が広がる辺野古崎周辺と外洋的環境から内湾的環境の特徴を持つ大浦湾が一体となって存在するという極めてまれな地理的特徴を有する。そして,辺野古崎周辺のサンゴ礁には,準絶滅危惧種に指定されているリュウキュウスガモ,ベニアマモなど7種の海草の藻場が安定的に広がっている。辺野古崎に隣接する大浦湾は,全体的に水深が深くなっているが,湾奥は,海底が砂れきから泥へと移り変わり,水深が深くなるスロープラインに沿ってユビエダハマサンゴの大群集が分布する。2007年9月には,大浦湾の東部に高さ12m,幅30m,長さ50mの広範囲にわたる絶滅危惧種のアオサンゴ群落(チリビシの青サンゴ群集)が発見された。湾奥の大浦川や汀間川の河口付近には,オヒルギやメヒルギといった大規模なマングローブ林や干潟が広がっている。さらに,辺野古崎と大浦湾の接点である大浦湾西部の深部には,琉球列島では特異な砂泥地が広がっている。 2 生態系の特徴 辺野古崎・大浦湾は,環境省レッドリスト絶滅危惧IA類(CR)に指定されているジュゴンの生息域のほぼ中心に位置し,海草のみを餌とするジュゴンの生息には欠かせない餌場となっている。同地域のサンゴ礁には,沖縄に生息するカクレクマノミなど6種のクマノミ全てが観察されるなど魚類が豊富に生息し,絶滅危惧Ⅱ類(VU)のエリグロアジサシなど渡り鳥の生息地ともなっている。公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)が2009年に行った調査では,大浦湾においてわずか1週間の調査で36種の新種及び国内初記録の25種の十脚甲殻類(エビ・カニ類)などの生息が確認されるなど,生物学的にも貴重な地域である。河口部のマングローブ・干潟には,トカゲハゼなどの魚類のほか,ミナミコメツキガニといった甲殻類,シマカノコ,マングローブアマガイなどの底生生物などレッドリスト掲載の生物が多数生息している。さらに,大浦湾西深部の砂泥地は,詳細な生息地が知られていなかったオキナワハナムシロや新種の甲殻類など特異的な生物群と希少種が分布するなど,サンゴ礁の発達する琉球列島の中にあって極めて特異な生物相を有する。 3 辺野古崎・大浦湾が重要な自然環境として評価されてきたこと 豊かな自然環境を有する辺野古崎・大浦湾は,沖縄県の「自然環境の保全に関する指針(1998年)によ」り,沿岸地域の大部分が,評価ランクⅠとして,自然環境の厳格な保護を図る地域とされてきた。また,同地域は,レッドリスト掲載種を多数育むなど生物多様性の見地から保全上の配慮をすべき地域として2001年に環境省により「日本の重要湿地500」に選定されている(№449及び№453)。さらに,海洋生物多様性保全戦略(環境省;2011年)の「海域の特性を踏まえた対策の推進」の記述においては,「藻場,干潟,サンゴ礁などの浅海域の湿地は,規模にかかわらず貝類や甲殻類の幼生,仔稚魚などが移動分散する際に重要な役割を果たしている場合があり,科学的知見を踏まえ,このような湿地間の相互のつながりの仕組みや関係性を認識し,残された藻場,干潟やサンゴ礁の保全,相互のつながりを補強する生物の住み場所の再生・修復・創造を図っていくことが必要である」とされ,その重要性が強調されている。生物多様性国家戦略2012-2020においては,ジュゴンについて,「引き続き,生息環境・生態等の調査や漁業者との共生に向けた取組を進めるとともに,種の保存法の国内希少野生動植物種の指定も視野に入れ,情報の収集等に努めます」とされ,その保全が急務となっている。ジュゴンの保護は国際的な関心事となっており,国際自然保護連合(IUCN)においては,2000年,2004年に次いで2008年のバルセロナ総会でも「2010年国連国際生物多様性年におけるジュゴン保護の推進」が決議されている。 4 ラムサール条約登録湿地の要件を満たすこと ラムサール条約(「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」)は,干潟をはじめとする湿地保全の重要性が国際的に認識されたことから,1971年に採択され,以後,湿地の保全は国際的な課題となっている。日本は1980年にラムサール条約を批准し,現在の日本における同条約登録湿地の数は,46か所となっている。ラムサール条約は,その名が示すとおり,かつては水鳥の保護を中心とした条約であったが,現在では広く湿地の保護を目的とするものとなっている。登録湿地の基準については,現在は9の基準が示されており,そのいずれかに該当すれば登録湿地の要件を充たすものと評価される。我が国においては,「国際的に重要な湿地であること(国際的な基準のうちいずれかに該当すること)」,「国の法律(自然公園法,鳥獣保護法など)により,将来にわたって,自然環境の保全が図られること」,「地元住民などから登録への賛意が得られること」が登録基準とされており,「国際的に重要な湿地であること」の要件については,環境省が2001年12月に選定した「日本の重要湿地500」から登録湿地がほぼ選定されるという方法が採られている。辺野古崎・大浦湾については,上記のとおり重要湿地500選に含まれている。また,ラムサール条約登録湿地の国際的な基準に照らしても,環境省レッドリストにおいて絶滅危惧種IA類(CR)のジュゴンの生息地となっていること(基準1 ,アマモ類の大き) な群落による藻場が形成されていること(基準8),大浦湾についても,「日本の重要湿地500」への選定理由とされている,危急種である底生生物が多く生息することやマングローブ林の前後に存する水溜まりに止水性昆虫の種の多様性が高いこと(基準2,基準3)から,優に「国際的に重要な湿地」の要件は充たしていることとなる。なお,埋立予定地である大浦湾に注ぎ込む大浦川及び河口域は2010年9月30日時点で環境省によりラムサール条約湿地潜在候補地として選定されている。このように,辺野古崎周辺の海域は,ラムサール条約締結のための基準を優に充たしているものであり,国際的に重要な湿地であることは明らかである。 第3 辺野古崎周辺海域・大浦湾埋立ての問題点 1 はじめに 都道府県知事は,公有水面埋立法4条に限定列挙する一定の要件に適合する場合を除いて「埋立ノ免許ヲナスコトヲ得ズ」(同法4条1項柱書)とされる。なお,本件のように国が埋立免許の申請をする場合の都道府県知事の「承認」(同法42条)についても,同法4条は準用される。そして,本件埋立てについては,公有水面埋立法上の埋立承認の要件は次のとおり全く満たされていない。 2 国土利用の要件について (1) 公用水面埋立法4条1項1号の趣旨 公有水面埋立法上,埋立ての免許には「国土利用上適正且合理的ナルコト」という要件に適合することが必要である(同法4条1項1号)。この要件は,埋立ての可否の判断基準の基本である。 ちなみに,旧建設省河川局が監修した1995年発行の「公有水面埋立実務ハンドブック」においても,同条項については「よくいわれるのは,日本三景等の古来からの景勝地における埋立,環境保全上重要な地域等における埋立,良好な住宅地の前面の工業用地造成目的の埋立等である。こうした一般な基準からしても認め難いものは,本号により,免許拒否される。」(同ハンドブック41頁)としている。 (2) 本件における検討 埋立予定地である辺野古崎周辺・大浦湾は,既に述べたとおり,生物多様性に富んだ環境的価値が高く評価されている。すなわち,開発行為等に対する配慮を促すために2001年に環境省によって選定された「日本の重要湿地500」の2つのエリアに関係している。また,開発事業による生態系への影響や貴重な野生生物の減少を憂慮して環境を保全するために1998年に沖縄県により策定された「自然環境の保全に関する指針」でも,藻場,干潟,サンゴ層が発達するなど健全で多様な生態系が維持されている沿岸域で,厳正な保護を図る必要のある区域(評価ランクⅠ)とされている。さらに,国際的な観点からみても,上述のとおりラムサール条約登録湿地のクライテリアを優に充足しており,周辺の大浦川及び河口域は環境省により2010年にラムサール条約の潜在的候補地にまで選定されている。特筆すべきは,埋立予定地は,環境省レッドリストにおいても絶滅危惧種ⅠA類(CR)に指定されているジュゴンの餌場の藻場としてかけがえのない海域であることである。 したがって,埋立予定地は,国土の利用に関する様々な位置付けからも自然環境を厳正に保全すべき場所にあたり,この海域を埋め立てることは,そもそも「国土利用上適正合理的」とはいえない。 3 環境配慮要件について (1) 公用水面埋立法4条1項2号の趣旨 次に,公有水面埋立法上,埋立ての免許には「其ノ埋立ガ環境保全・・・ニ付十分配慮セラレタルモノナルコト」が要求される(同法4条1項2号)。これは,水面を変じて陸地となすという埋立行為は,環境に与える影響が多大で不可逆的であることから1973年改正により同法に特に付加されたものである。「十分配慮」とは,問題の状況及び影響を把握した上で,これに対する措置が適正に講じられていることであり,その程度において十分と認められることをいう。しかしながら,本埋立ては環境に十分配慮されたものとは到底いえない。 (2) ジュゴンについて まず,国の調査でもわずか3頭しか確認されていない絶滅危惧種(かつ,文化財保護法上の天然記念物)であるジュゴンに対する影響評価を大きく誤っている。埋立承認申請書添付の環境影響評価書では海草藻場でのジュゴンの食跡は「辺野古地区では確認されませんでした。」(同評価書要約書「6.16ジュゴンに係る環境影響評価の結果の概要(1)」)と記載されているが,申請書提出直後の2013年4月から6月にかけての調査で,埋立てにより消失する辺野古地区(大浦湾西部)において,合計12本の食跡が発見されており,このことは国も確認していた(2013年9月22日共同通信)。この新たな調査結果を踏まえなかったため,環境影響評価書はジュゴンの生息域に関して「施設等の存在に伴う海面消失によりジュゴンの生息域が減少することはほとんどないと考えられます。」(同評価書要約書「6.16ジュゴンに係る影響評価の結果の概要(2)」)と全く誤った予測をしており,訂正もされていない。なお,日本のNGOも関与して2003年に米国カリフォルニアの連邦地方裁判所に提起された訴訟(ジュゴンvsラムズフェルドケース)において,2008年1月24日の判決は,米国国防総省が本件海域の埋立てにあたり沖縄に生息するジュゴンへの影響等を評価・検討していないことは米国の国家史跡保存法(NHPA)に違反している状態にあると判示し,国防総省にジュゴンの保護手続の在り方を示すように指示をしている。今回,国(沖縄防衛局)が提出する環境影響評価書は,上記判決において指示されたアメリカ国家環境影響評価法(NEPA)で求められる評価・検討ともいえないことは明らかである。 (3) サンゴ・海藻草類について 埋立区域内のサンゴに対する環境影響については,施設の存在により大浦湾側のサンゴの生息域が一部消失することを認め,その消失面積(被度5%以上)は6.9ヘクタールと予測しながら,確立された技術とはいえないサンゴ類の移植をもって環境保全措置としている点は極めて不十分である。また,埋立区域内の海藻草類に対する環境影響について,施設の存在により辺野古前面海域及び大浦湾の西側海域における海草藻場の一部(約78ヘクタール)が消失すると予測しながらも,具体的な環境保全措置についての言及はない(同評価書要約書「6.15海藻草類に係る環境影響評価の結果の概要(2)」)。 (4) まとめ そもそも,沖縄県知事は,2012年3月27日に,環境影響評価書に対して,「当該事業は,環境の保全上重大な問題があると考える。また,当該評価書で示された環境保全措置等では,事業実施区域周辺域の生活環境及び自然環境の保全を図ることは不可能と考える」と,およそ環境配慮がなされていないとの意見を述べていた。今回の埋立承認申請に当たり添付された環境影響評価書は若干の補正はされているものの,上記の点も含めその補正は全く不十分であり,当連合会としても,沖縄県知事意見と同様,「埋立予定地の自然環境の保全を図ることは不可能」と評価する以外ない。 4 以上のとおり,本件事業は,公有水面埋立法の埋立「承認」の要件も満たしていない。 第4 結論 以上の検討結果に鑑み,本埋立ては公有水面埋立法により「承認」される要件が欠けているため,当連合会は,国に対し,本公有水面埋立ての承認申請を直ちに撤回することを求める。また,国が承認申請を撤回しない場合は,処分庁である沖縄県知事は,公有水面埋立法上の適正な解釈に従って本埋立ての承認申請を承認しないことを求める。むしろ,国と沖縄県は,協議の上,本沿岸域一体について自然公園法の国立公園に指定するなど,法律により自然環境を保護する手続を進め,次回に開催される締約国会議においてラムサール条約登録湿地に指定をされるように,積極的に保全手続をとるべきことを提言するものである。 以上 PS(2015年10月29日追加):知事に代わって取り消しを撤回する「代執行」の手続きをする強硬姿勢とは、環境についての意識の低さと沖縄県民の意志をないがしろにする態度が出ている。そして、気にしているのが来年夏の参院選のみで、どんな方法をとっても既成事実化してしまえば反対運動が沈静化するというのは、いくらなんでも考えが甘すぎるだろう。 *6:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/244128 (佐賀新聞 2015年10月28日) 辺野古、29日に本体着工、政府、移設に強硬姿勢 政府は米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設先、名護市辺野古沿岸部の本体工事に29日朝、着手する。翁長雄志知事による埋め立て承認取り消しの効力を石井啓一国土交通相が停止したのに続き、知事に代わって取り消しを撤回する「代執行」へ手続きを始めるなど強硬姿勢を鮮明にした。沖縄県側は、取り消しの撤回を求める政府の是正措置に応じない方針を固め、反発を強めた。政府は、市街地に囲まれた普天間飛行場の早期閉鎖を目指している。本体工事を急ぐのは、移設を既成事実化して反対運動の沈静化を図り、来年夏の参院選への影響を最小限に抑える思惑もあるとみられる。 PS(2015年11月1日追加):私は、*7-1、*7-2の意見に賛成だ。そして、国が名護市の久辺3区に直接振興費を出すことを約束し、3区長が公民館や道路建設で納得したことについては、地方自治や主権在民(民主主義)を無視しているとともに、これからの久辺3区の可能性の大きさと公民館・道路・防災備蓄倉庫の整備等は基地と引き換えにしなくてもまちづくりの一環として整備すべきものであることを考えると、久辺3区にとっても割に合わない取引であり、ここで沖縄が分断されるべきではないと思う。 また、*7-3のように、防衛省は、宮古島・与那国島・石垣島に陸上自衛隊の警備部隊を配備し、離島防衛を専門とする部隊や地対空ミサイル等を配備して、尖閣諸島を含む東シナ海の守りを固めるそうだが、尖閣諸島の守りを固めるのに「3つの島の自衛隊基地+辺野古米軍基地」の新設はやりすぎであり、予算の使い過ぎでもあるため、既に飛行場のあるどれか一つの島にすべく、配備する部隊の合目的性と費用対効果を検証して必要最小限にすべきだと考える。 <国のやり方> *7-1:http://www.y-mainichi.co.jp/news/28642/ (八重山毎日新聞社説 2015年10月31日) 許せぬ民意無視の暴挙、辺野古新基地、国が本体工事強行 ■国と県の対立極限に 辺野古新基地建設の埋め立て本体工事が強行され、国と県の対立が極限に達している。27日、石井国交相は翁長知事の埋め立て承認取り消しについて「書面を審査した結果承認取り消しの効力を停止する」と発表。さらに菅官房長官は「普天間飛行場の危険性の除去が困難となり、外交、防衛に重大な損害が生じ著しく公益を害するとの結論に至った」として、国は県に代わり代執行の手続きを開始すると述べた。安倍総理は閣議で翁長沖縄県知事による承認取り消しを「違法」だとの立場から政府内のみならず司法の判断を仰ぐ必要があると代執行について語った。国は翁長県知事への承認取り消しの是正を勧告、従わない場合は高等裁判所へ提訴となる。翁長知事は取り消しの執行停止を決めたことに強い憤りを表明し「国が地方自治法に基づく代執行の手続きを行うとの発表があった。国も司法判断を問うのであれば、第三者機関である裁判所の判決が出るまで辺野古基地建設作業は開始すべきでない」と述べた。 ■今後流血の事態も 県は国地方係争委員会に不服審査を申し出る予定だ。防衛局は翁長知事の意向や民意を全く無視し、29日から本格的な工事を開始した。早くも現場では混乱が続いている。今後、流血騒ぎが起きてもおかしくない緊迫した状況だ。国交相による県知事の承認取り消しを無効にした「行政不服審査法」は本来、公権力(国)に対し個人が不服審査を訴える制度であるはずだ。今回、沖縄防衛局も一般私人としての立場で処分を受ける場合国は申し立ての資格を有するとの判断を初めて示した。防衛局は国の機関である。国の機関が提訴し国の機関が判断すること自体、公平さに欠けることは言うまでもない。国の勝手な解釈だ。県の提出した資料を国はどれだけ精査したか疑問が残る。防衛局、政府側に立たなければこのような「即判断」などできるはずはない。審査を国は公表すべきだ。国のなりふり構わぬ「ムチとアメ」政策も問題だ。国が名護市の久辺3区に名護市を通さず直接、振興費を出すことは地方自治への露骨な介入である。さらに、辺野古の海周辺の環境影響を監視する国の「環境監視委員会」のメンバー3人が監視委員会の運営や移設関連事業を請け負った業者から寄付を受けていたことが判明した。委員会は仲井真前知事が辺野古承認を決定した際、承認条件の一つとして政府に設置させたものだ。委員は発言や判断に影響はないと述べ、菅官房長官は「法的にも運営上にも問題はない」との認識を示した。しかし、委員や監視委員会に疑惑と不信の目が向けられるのは当然だ。28日、沖縄防衛局は世論に押され、移設と運営を同一関連業者が受注していたのを見直し、業者を新たに選定し契約すると発表。問題ありと認めたのだ。 ■沖縄は重大な岐路に 市内では28日、「翁長知事の埋め立て承認取り消しを支援し辺野古新基地を許さない」八重山郡民総決起大会が開かれ、「自らが選んだ誇りある翁長知事を最後まで支え、辺野古には絶対に新基地を造らせない」と決議した。国は県民の分断、懐柔攻勢を強めるだろう。沖縄は重大な岐路に立たされている。5月の県民大会で翁長知事が「ウチナーンチュ、ウセーテーナイビランドー」(沖縄の人をなめてはいけませんよ)の発言をいま一度かみしめ、揺るぎない視座を再確認したい。 *7-2:http://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-164124.html (琉球新報社説 2015年11月1日) 久辺3区の振興費 新基地計画と絡めるな 新基地建設に向けた政府の姿勢は常軌を逸している。その強引な手法は地方自治をも破壊しかねないものであり、極めて問題だ。政府は米軍普天間飛行場の代替となる名護市辺野古の新基地建設をめぐり、同市の辺野古、豊原、久志の「久辺3区」が進める地域振興の事業費を直接交付する方針を3区の区長らに伝えた。建設予定地に隣接する3区は、名護市に計55ある行政区の一部だ。国が自治体を通さず、財政支援するのは異例であり、地方自治への介入にほかならない。札束で地域の分断を図るような手法に憤りを覚える。政府としては、新基地建設に反対している名護市の頭越しに3区を支援することで稲嶺進市長らをけん制するとともに、国民に普天間の移設事業が進展しているとアピールする狙いがあろう。防衛省は本年度予算から3区にそれぞれ1千万円ずつ支出する方向で調整している。基地所在市町村に支給する「特定防衛施設周辺整備調整交付金(9条交付金)」などをモデルに、交付対象を行政区に拡大する方向だが、その法的な根拠ははっきりしない。9条交付金に基づく事業は自治体を介して行うのが通例だ。交付対象の拡大には財政規律上、疑問が大きい。国会での審議もないまま、政府内の手続きだけで制度が見直されていいはずがなかろう。交付金の原資は国民の税金だ。そもそも国の施策に反対した自治体を無視して、地域住民への交付金を恣意(しい)的に動かせるような仕組みは地方自治の精神を否定するものだ。復帰前、米統治下で住民の懐柔策に利用された高等弁務官資金と何ら変わらない。これで「法治国家」(菅義偉官房長官)と言われても、噴飯ものだ。久辺3区から振興事業として要望が挙がったのは、防災備蓄倉庫の整備や放送設備の修繕、芝刈り機の購入などだった。いずれも通常の地域振興事業として支援すべきものではないのか。仮に3区だけ、移設の諾否でその実施が左右されるとしたら差別以外の何物でもない。政府は翁長雄志知事による埋め立て承認取り消しの効力を停止させ、新基地の本体工事に着手するなど強権色を鮮明にしている。振興策を盾にさらに地域を揺さぶるようなまねは許されない。基地と振興はリンクしないと繰り返してきたことの責任を負うべきだ。 <沖縄の他の新基地> *7-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150411&ng=DGKKASFS10H6V_Q5A410C1PP8000 (日経新聞 2015.4.11) 宮古島に陸自部隊 防衛省、18年度末までに 550人、ミサイル配備 防衛省は南西諸島の守りを固めるため、沖縄県の宮古島に陸上自衛隊の警備部隊を配備する方針だ。離島防衛などを専門とする550人規模の部隊のほか、航空機を撃ち落とす地対空ミサイル(SAM)を配備する。沖縄県・尖閣諸島を含む東シナ海への進出を拡大している中国をにらむ。左藤章副大臣を夏までに宮古島へ派遣し、下地敏彦宮古島市長らに配備計画を説明する。8月末に締め切る2016年度予算案の概算要求に用地取得費などを盛りこみ、18年度末までに配備することをめざす。新設するのは離島への上陸を阻んだり、大規模な災害に対処したりする警備部隊。航空機や艦船による武力侵攻に備え、SAMのほか、地対地ミサイル(SSM)などの配備も計画する。警備部隊は約350人、ミサイル部隊は約200人をそれぞれ想定している。現在、沖縄本島以南には陸上部隊がなく「力の空白」(陸自幹部)が生じている。中国の艦船や航空機が東シナ海で活動を活発にしていることを踏まえ、14~18年度の中期防衛力整備計画では南西地域の防衛強化を打ち出した。防衛省は15年度末までに日本最西端の沖縄県・与那国島に尖閣周辺の艦船や航空機の動きを監視する部隊を新設する。鹿児島県の奄美大島には18年度末までに警備部隊をつくる計画だ。宮古島に関しては昨年6月に当時の武田良太副大臣が下地市長と会い警備部隊配備先として「有力な候補地」と伝えていた。防衛省は沖縄県の石垣島も、警備部隊の配備先として検討している。 PS(2015年11月27日追加):米軍は、離島の自衛隊基地を利用すればよく、*8のように、第一級の食品生産を行っている海近くの民間空港を利用する必要はないだろう。防衛省が佐賀空港の米海兵隊利用の要請を取り下げたのに、あらためて確認するのは、まるで誘致しているかのようだが、このような産業間の矛盾や国費の無駄遣いはやめるべきである。また、玄海原発の再稼働については、伊方原発や国の対応を確認しなくても、佐賀は、汚染されていない高品質の食品を生産し、再生可能エネルギーほかクリーンな産業で勝負する決意をし、それと矛盾のない方針を出せば、他もついて来ると考える。 *8:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/253915 (佐賀新聞 2015年11月27日) 山口知事、米軍空港利用「確認する」、11月定例県議会開会 11月定例佐賀県議会は26日開会し、86億6300万円の一般会計補正予算案や知事ら特別職の期末手当(ボーナス)を引き上げる給与条例改正案など27議案を提出した。山口祥義知事は提案理由説明で、防衛省が佐賀空港の米海兵隊利用の要請を取り下げたことに対し、「あらためて確認する必要があり、説明内容を精査すると(防衛省に)申し上げた」と述べた。その上で「国防の重要性は十分認識しているつもりだが、今回の要請は本県の将来を左右する大きな課題で、慎重には慎重を重ねて対応していく」と強調した。環太平洋連携協定(TPP)については「農相や政府の担当政務官に万全の対策を講じるよう要請した。県内の関係団体の意見を聞きながら、適宜必要な対応をしていく」とした。玄海原発の再稼働では、3、4号機の規制基準の適合性審査が進んだ段階で、「伊方など先行事例の関係者の対応状況や国の考えを確認した上で、県としての考え方を整理する」と説明した。1号機の廃炉に関し安全協定で廃止措置を事前了解の対象に含める改定をしたことに触れ、「安全第一の姿勢で対応する」と語った。補正予算案は、知的障害のある児童生徒の教室不足解消を図るため、県立大和特別支援学校の校舎整備の基本設計に761万円などを計上した。議会改革検討委員会も開かれ、政務活動費の在り方について意見を交わした。再び各会派で持ち帰り、検討を続ける。会期は12月18日までの23日間で、一般質問は2~4日の3日間、常任委員会は9、10日の2日間。14日はさが創生対策、16日は佐賀空港問題等特別委員会を開く。
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2015,10,11, Sunday
ゼロエネ住宅 自立型水素エネルギー EV軽トラック ホンダ燃料電池車 供給システム 日産EV トヨタ燃料電池車 燃料電池船 IHIの燃料電池航空機 2015.10.29西日本新聞 *12-3より (1)原発事故の人体への影響 *1-1のように、外務省が、国内の原発が戦争やテロなどで攻撃を受けた場合の被害予測を、1984年に極秘で研究し、最悪の場合には急性被曝死が1.8万人で原発の約86キロ圏が居住不能になると試算していたが、反原発運動が広がることを懸念して公表しなかったのだそうである。そして、その研究では、東電福島第一原発事故と同じ全電源喪失も想定していたそうだ。 長期的影響としては、放射性セシウムなどで土壌汚染が深刻化し、農業や居住などの土地利用が制限される地域は原発から最大で86.9キロ、平均で30.6キロにまで及ぶとしているが、外務省は公表する理由がない(?)ため公表しないとしており、都合の悪い情報は国民に隠す隠蔽体質が浮かび上がっている。信州大の久保教授は、昨年12月に施行された特定秘密保護法により、安全保障やテロ対策などを口実に、原発に関する情報が一段と制限され、闇から闇に葬られかねないとしている。 そのような中、*1-2のように、東日本大震災で「トモダチ作戦」にあたった米原子力空母「ロナルド・レーガン」の元乗組員たちが、事故から1年9カ月後の2012年12月に、「東京電力福島第一原発事故で東電が正しい情報を示さなかったため、放射性プルームに包まれて被曝した」としてカリフォルニア州サンディエゴの連邦地裁に提訴したそうだ。提訴理由は、被曝の影響で「2011年末、車を運転中に突然気を失い、高熱が続き、リンパ節がはれ、足の筋力が衰え、髪の毛が抜け、体重も十数キロ激減した」「筋肉を切り裂くような痛みは腕や胸に広がり、全身のはれや囊胞、発汗、膀胱不全などを発症」「作戦に従事した元乗組員2人が亡くなり、ほかの仲間も深刻な健康被害を抱えている」などだ。これに対し、東電は「政治的問題なので裁判になじまない。日本で審理するべきだ」などとして却下を申し立てている。 また、*1-3のように、東電福島第1原発事故後、福島県で見つかった子どもの甲状腺癌の年間発症率は事故前の日本全体と比べて20~50倍で、その多くは被曝で発症したものだとする分析結果を岡山大の津田教授らのチームが国際環境疫学会誌電子版に発表した。しかし、ここまで他の要素を考えなくてすむわかりやすいケースでも「結論は時期尚早」と指摘する専門家もいるそうだ。実際には、大人にもロナルド・レーガンの元乗組員と似たような症状を出している人や甲状腺癌になった人はいるだろうし、セシウムやストロンチウムの影響によって、白血病その他の疾病も増えていくと考えるのが自然だ。 (2)原発事故に依る地域の汚染 *2のように、東電福島第1原発事故により年間積算放射線量が50ミリシーベルト超となり、帰還困難区域に指定されている福島県浪江町津島地区の住民32世帯117人が、国と東電を相手に、2020年3月までに、国際基準で平常時の追加被曝の限度とされる年1ミリシーベルトを下回るまで津島地区を除染するよう要求すると同時に、事故によって失ったものに対する慰謝料を求めており、もっともだ。しかし、除染しても到底国際基準(年1ミリシーベルト)以下にならない場合は、移住を選択した方が無難だろう。 また、国が事故直後に放射性物質の拡散予測を公表せず、避難が遅れて無用な被曝をしたとして1人300万円の慰謝料を求めているのは、避けられ得た被曝の強制であるため特に重要だ。他の原発地元も、拡散予測のためには、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)の使用を要求すべきである。 (3)原発再稼働と環境破壊 *3-1のように、川内原発は、1号機に続き2号機も再稼働の準備が最終段階に入っているそうだ。 しかし、*3-2のように、原発の原子炉が出した熱の2/3は電気にならず、温排水として海に捨てているため、原発の稼動によって海の環境破壊が進むことが、原発停止期間中に各地で原発周辺の海洋環境が著しく回復したことによって証明された。出力100万キロワットの原発の場合、1秒間に約70トンの温排水を出し、原発を冷やすために吸い込まれる海水には小さな生物が含まれているため、原発周辺の海域では、「海洋生物の死亡」「海藻の全滅」「漁獲の激減」などの環境破壊が生じている。また、原発温排水の影響は火力よりも大きいそうだ。 さらに、*3-3のように、東日本大震災前後から日本全国で火山活動が活発化する中、九州では阿蘇山ほか霧島山、口永良部島、桜島も活動を活発化させており、火山の噴火予測は難しく、原発建設時には火山噴火までは考慮していないのが実情だ。 (4)原発再稼働の根拠 大手電力会社は、「原発の再稼働がなければ、電力需給は厳しい」とし、政府やメディアにもこのフレーズを繰り返す人が多いが、実際には、*4-1のとおり、電力需給は今夏も余力があり、原発再稼働の根拠は揺らいでいた。それは、①太陽光発電が原発12基分に相当する1200キロワットの電力を生み出すようになった ②節電ツールが増えた ③企業や自治体が大手電力を解約して新電力へ切り替えた などが理由で、あるべき方向に進んでいるのである。 そのような中、*4-2のように、九電は、原油価格の下落や川内原発1号機の再稼働で2015年9月中間連結決算の純損益が450億円の黒字になる見通しとのことだ。しかし、このブログに何度も記載しているように、原発事故の補償は税金から多額の支出がなされ、原発の立地、再稼働、*4-3の使用済核燃料の貯蔵・廃棄についても税金が原資の多額の費用が支払われる。そのため、原発の総コストは、太陽光発電をはじめとする自然エネルギーをはるかに上回るのだ。 なお、*4-3のように、政府が原発の使用済核燃料の中間貯蔵施設を拡充するために、各電力会社に貯蔵能力を拡充する具体的な計画の策定を求め、容量増強を受け入れた自治体への交付金を増額するというのは、原発の地元をさらなるリスクに晒し、地域振興を阻害するため、とんでもないことである。新安保関連法の成立で、日本の軍隊がPKOであっても戦争の現場に出動したり、日本が武器輸出したりすれば、恨みを買うことは必定で、その時、原発関連施設はオウンゴール(Own goal)の強力な原爆となる可能性があることを忘れてはならない。 (5)日本の再生可能エネルギー技術の停滞 節電は、上図や*5-1のような太陽光発電によるゼロエネルギー住宅で徹底的に行うことができる。そのため、ミサワが全戸、パナホームが85%、積水ハウスも70%に標準仕様として設置するのは誠に頼もしく、ゼロエネ住宅は発電能力5キロワット程度の太陽電池をのせるため、20万戸で原発1基分の発電能力を有する。私は、このような家は、世界で受け入れられるに違いないと考える。 (私が提案して)日本で太陽光発電、電気自動車、蓄電池の開発が始まったのは、世界初である1995年前後であり、現在はそれから20年も経過しているのだが、日本国内では、「性急すぎる(?)のはいけないことで、時間がかかるのがいいことだ」などと言われ、本気で実用への道筋がつけられなかった。 そうこうしているうちに、*5-2のように、米ハーバード大学の研究チームが無害、非腐食性、不燃性の新しい素材を使った、安全安価で高性能なフロー電池の開発に成功し、畜電池が大きく前進した。そのため、名誉だけでなく、蓄電池の重要な特許もそちらにいく。何故、こうなるのかと言えば、日本では、意思決定する立場にいる人が殆ど文系の科学音痴で、開発や特許権の重要性に疎く、技術の選択眼もなく、外国がやっているのを見て初めて日本でもやらなければと焦るキャッチアップ型(新興国に多い)の政治・行政しか行えないからだ。 また、温室効果ガスの悪影響についても、(私が提案して)日本がイニシアティブをとり、京都議定書(京都市で1997年12月に採択された気候変動枠組条約に関する議定書)を決めたにもかかわらず、日本国内では「無理だ、理想だ、現実的でない、妥協こそ大事だ」「排出量取引でごまかそう」などとして何とか本物の排出削減目標を低くしようとしてきた。しかし、*5-3のように、現在の世界は、既に途上国も含めて、日本(2030年に2013年比26%減)より高い目標を出しており、ゼロエネルギー住宅や電気自動車・燃料電池車を標準とすれば、それは原発を使わなくても可能なのである。 <原発事故の人体への影響> *1-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/nucerror/list/CK2015040802100010.html (東京新聞 2015年4月8日) 【福島原発事故】被ばく死 最悪1.8万人 原発攻撃被害 84年に極秘研究 国内の原発が戦争やテロなどで攻撃を受けた場合の被害予測を、外務省が一九八四(昭和五十九)年、極秘に研究していたことが分かった。原子炉格納容器が破壊され、大量の放射性物質が漏れ出した場合、最悪のシナリオとして急性被ばくで一万八千人が亡くなり、原発の約八十六キロ圏が居住不能になると試算していた。研究では東京電力福島第一原発事故と同じ全電源喪失も想定していたが、反原発運動が広がることを懸念し公表されなかった。八一年にイスラエル軍がイラクの原子力施設を空爆したことを受け、外務省国際連合局軍縮課が外郭団体の日本国際問題研究所(東京)に研究委託。成果は「原子炉施設に対する攻撃の影響に関する一考察」と題した六十三ページの報告書にまとめられ、本紙が情報公開を通じてコピーを入手した。報告書は出力百万キロワット級の原発が攻撃されたと仮定。原発の場所は特定せず、(1)送電線や発電所内の非常用発電機がすべて破壊され、すべての電源を失う(2)原子炉格納容器が爆撃され、電気系統と冷却機能を失う(3)格納容器内部の原子炉が直接破壊され、高濃度な放射性物質を含む核燃料棒などが飛散する-の三つのシナリオで検証した。このうち、具体的な被害が示されたのは(2)の格納容器破壊のみ。当時、米国立研究所が米原子力規制委員会(NRC)に提出した最新の研究論文を参考に、日本の原発周辺人口を考慮して試算した。それによると、緊急避難しない場合、放射性物質が都市部など人口密集地に飛来する最悪のケースでは一万八千人が急性被ばくで死亡。ただ、被害は風向きや天候で大きく変わるとして、平均では三千六百人の死亡になると試算した。五時間以内に避難した場合は最悪八千二百人、平均八百三十人が亡くなるという。急性死亡が現れる範囲について、報告書は「十五~二十五キロを超えることはない」と記述している。長期的影響としては、放射性物質セシウムなどで土壌汚染が深刻化すると指摘。農業や居住など土地利用が制限される地域は原発から最大で八六・九キロ、平均で三〇・六キロにまで及ぶとしている。最も被害が大きい(3)の原子炉破壊については「さらに過酷な事態になる恐れは大きいが、詳しい分析は容易ではない」と紹介。福島原発事故と同じ(1)の全電源喪失では、実際に起きた水素爆発の可能性に触れ「被害が拡大する危険性がある」と指摘しており、報告書が公表されていれば、事故の未然防止や住民避難に役立った可能性がある。八〇年代は、七〇年代の二度にわたる石油危機を受け、国は原発建設を積極的に推進。国内の原発十六基が運転を始めた。軍事攻撃が想定とはいえ、原子炉に重大な損害が生じれば深刻な被害が及ぶとのシナリオは世論の不安を呼び、国の原子力政策に水を差す可能性があった。報告書にも「反原発運動などへの影響」などと、神経をとがらせていたことをうかがわせる記述がある。原子力資料情報室の伴英幸・共同代表は報告書の存在を「知らなかった」とした上で「反対運動を理由にした非公開ならとても納得できない。テロの脅威が高まる中、原発のリスクを国民にもっと知らせるべきだ」と話している。 ◆公表する理由がない 外務省軍備管理軍縮課の話 報告書は保存されているが、作成部数や配布先など詳しい経緯は分からない。今後、公表の予定はない。積極的に公表する理由がない。 ◆原発攻撃被害報告書 「福島」に生かされず 軍事攻撃による原発の放射能被害を予測していた外務省の報告書。水素爆発した福島第一原発事故は地震と津波が引き金とはいえ、報告書が指摘していた「全電源喪失」の危機がシナリオ通りに再現された。三十年も前から原発の潜在的な危険性を知りながら、反原発運動の広がりを恐れて公表を控えた外務省。原発推進を掲げた当時の国策の下で、都合の悪い情報をひた隠しにする官僚の隠蔽(いんぺい)体質が浮かび上がる。 「限定配布の部内資料(『取扱注意』なるも実質的に部外秘)」「外務省の公式見解でないことを念のため申し添える」…。高度な秘密性を裏付けるように、報告書には当時の国際連合局軍縮課長が書いた「ことわりがき」が添えてある。当時、同局の審議官だった元外交官の遠藤哲也氏(80)は本紙の取材に「記憶が確かではない」としながらも「ショッキングな内容なので(非公表に)せざるを得なかったでしょうね」と話した。同氏によると、一般的に部内資料は省外への持ち出しが禁止されており、報告書が官邸や原子力委員会などに配布されていなかった可能性が高い。作成された二年後の一九八六(昭和六十一)年には旧ソ連・チェルノブイリ原発事故が起きたが、その時ですら報告書の公表はなく、原発の安全対策に生かされることはなかった。当時は米ソが核兵器の開発を競う冷戦時代。科学技術史が専門の吉岡斉・九州大教授(61)は原発の軍事攻撃を想定した報告書が公表されれば「国民の間で核兵器と原発が一体的に連想されることを心配したのではないか」と推測する。「国家と秘密 隠される公文書」(集英社新書)の共著者で、歴史学者の久保亨・信州大教授(62)も「原子力は、軍事に転用できる技術の最たるもの」と指摘する。久保教授が懸念するのは昨年十二月に施行された特定秘密保護法。安全保障やテロ対策などを理由に原発に関する情報が一段と制限され「闇から闇へ葬られかねない」と懸念を示している。 *1-2:http://digital.asahi.com/articles/ASH9W4TZ7H9WPTIL008.html (朝日新聞 2015年10月1日) トモダチ作戦、称賛の陰で 元空母乗組員ら健康被害訴え 東日本大震災で「トモダチ作戦」にあたった米国の原子力空母「ロナルド・レーガン」が1日、米海軍横須賀基地(神奈川県横須賀市)に配備された。作戦から4年半。当時の乗組員たちは今、健康被害を訴えて米国で訴訟を続けている。称賛された支援活動の陰で何があったのか。 ■帰国後に体調悪化 トモダチ作戦に従事した元海軍大尉のスティーブ・シモンズさん(37)に会うため、記者は米国ユタ州ソルトレークシティーを訪ねた。ロナルド・レーガンの元乗組員たちは事故から約1年9カ月後の2012年12月、「東京電力福島第一原発事故で東電が正しい情報を示さず、被曝(ひばく)した」としてカリフォルニア州サンディエゴの連邦地裁に提訴。当時、艦載機部隊の管理官だったシモンズさんも訴訟に加わっている。「空母では当初、海水蒸留装置の水を飲んだり、その水で調理した食事をとったりしました。現場海域に着いてから3日後の2011年3月15日、艦長が『水を飲まないように』と命じました。だが、すでにシャワーを浴びたり、水を飲んだりしたあと。その後も、甲板の洗浄には汚染された海水を使っていました」。「乗組員は強い放射線にさらされ続けましたが、当時は健康へのリスクに無知でした。私たちは人道支援にあたったのであり、核惨事に対応できたわけではない。東電が正しい情報を出していれば、違った対応がとれたはずです」。シモンズさんは帰国後、体調が悪化。様々な症状に苦しんでいる。「11年末、車を運転中に突然気を失いました。高熱が続き、リンパ節がはれ、足の筋力が衰えました。髪の毛が抜け、体重も十数キロ激減。トモダチ作戦前は登山をするなど健康体でしたから、症状が現れたときには打ちのめされました」。「筋肉を切り裂くような痛みは腕や胸に広がり、全身のはれや囊胞(のうほう)、発汗、膀胱(ぼうこう)不全などを発症。通院するソルトレークシティーの退役軍人病院の医師は『放射能の影響だろう』としています」。米国防総省は昨年、連邦議会へ報告書を提出した。乗組員らが受けた放射線量は一般の米国人が自然界から受けるより低いとし、健康被害との因果関係は考えられないと主張している。「報告書は使い物にならない代物。乗組員全員の検査をせず、健康被害のリスクはなかったとしている。飲料水の汚染は検知器の誤作動だったとしているのも不可解です」。「作戦に従事した元乗組員2人が亡くなり、ほかの仲間も深刻な健康被害を抱えています。一方で(係争中の訴訟は)米国内で理解されていません。私自身は海軍に16年以上勤めたので医療費を受けられますが、20代の若い仲間は健康問題が生じると何の保障もなく海軍を追い出されている。見捨てられません」。横須賀に配備されたロナルド・レーガン。地元からは「事実上の母港化が続く」「原発再稼働に匹敵する問題」などとして反対の声が上がるほか、「完全に除染されたという客観的証拠を示すべきだ」との指摘もある。「(ロナルド・レーガンには)『トモダチ』としての顔と『放射能汚染にさらされた船』という両面があると思う。日米政府間の信頼醸成には資するが、地元側が安全性に疑問を抱くのも当然。原発事故後、日本人の放射能汚染への意識は高まっているでしょう。レーガンの除染について、米側に正しい情報を求める権利がある」 ■「放射性プルームに包まれた」 米情報公開法に基づき、訴訟の弁護団がロナルド・レーガンの航海日誌や米原子力規制委員会(NRC)の電話会議記録を入手していた。航海日誌によると、演習参加のためにハワイから韓国・釜山に向かっていたロナルド・レーガンは、大震災を受けて11年3月13日までに福島沖に到着。米第7艦隊や海上自衛隊と活動を始めた。そしてNRCの電話会議記録には、13日の米海軍高官の発言が残る。「東北近海の海自艦に立ち寄ってレーガンに戻ったヘリ搭乗員の靴などから放射性物質を検出した」「沖合約185キロにいたレーガンは放射性プルーム(雲)の下に入った。空気中の放射線量が通常の30倍の数値を示し、救援活動を一時停止した」。その後の状況も航海日誌に記されていた。「16日午後11時45分、福島第一原発東方沖約230キロの海域を航行中に放射性プルームに包まれた」「17日午前5時7分に抜け出すまでの5時間あまり強い放射線にさらされた」。ロナルド・レーガンは4月上旬まで日本近海で活動を続け、東南アジアや中東を経て9月にハワイへ。ワシントン州の海軍施設で除染されたという。横須賀への配備を前に外務省北米局は「我が国の周辺に米海軍の強固なプレゼンスが引き続き維持される。トモダチ作戦に従事した艦船でもあり、入港を歓迎する」と発表した。一方、米国で訴訟を起こした元乗組員側の原告は250人を超え、10億ドル(約1200億円)の救済基金の設立を要求。2人が骨膜肉腫や急性リンパ球白血病で亡くなっている。東電側は「政治的問題なので裁判になじまない。日本で審理するべきだ」として却下を申し立てている。 ◇ 〈米原子力空母「ロナルド・レーガン」〉 2003年に就役した「ニミッツ」級空母。全長約333メートル、幅約77メートル、満載排水量約9万7千トン。動力として原子炉2基を搭載する。戦闘機など60機以上を艦載し、航空要員を含めて5千人以上が乗り組む。これまでの母港サンディエゴから、前任の原子力空母「ジョージ・ワシントン」に代わって横須賀に配備される。 *1-3:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2015100601002207.html (東京新聞 2015年10月7日) 「被ばくで発症」と主張 福島事故後の甲状腺がん 東京電力福島第1原発事故後、福島県で見つかっている子どもの甲状腺がんの多くは被ばくで発症したものだと主張する分析結果を岡山大の津田敏秀教授(環境疫学)らのチームがまとめ、国際環境疫学会の6日付の学会誌電子版に発表した。別の疫学専門家からは「結論は時期尚早」との指摘がある。研究チームは、福島県が事故当時18歳以下だった約37万人を対象にした昨年末時点までの甲状腺検査の結果を分析。年間発症率は事故前の日本全体と比べ、20~50倍と算出した。さらに福島県内でも地域によって発症率が最大2・6倍の差があった。 <原発事故に依る地域の汚染> *2:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150929-00000126-mai-soci (YAHOO、毎日新聞 2015年9月29日) <福島原発事故>浪江町117人が集団提訴 原状回復求め 東京電力福島第1原発事故により帰還困難区域(年間積算放射線量50ミリシーベルト超)に指定された福島県浪江町津島地区の住民32世帯117人が29日、国と東電を相手取り、除染による古里の原状回復や慰謝料など約65億円の支払いを求め、福島地裁郡山支部に提訴した。弁護団によると、帰還困難区域の住民による集団提訴は初めて。住民らは、2020年3月までに国際基準で平常時の追加被ばくの限度とされる年1ミリシーベルトを下回るまで津島地区を除染するよう要求。期限に間に合わない場合は、地域コミュニティーの再生が困難になって古里を奪われるとして1人3000万円の慰謝料を求める。また、1人につき月10万円の精神的賠償を35万円に増額することや、国が事故直後に放射性物質の拡散予測を公表せず避難が遅れ無用な被ばくをしたとして1人300万円の慰謝料も求めた。津島地区の約170世帯約480人も今後追加提訴し、同地区の半数が訴訟に参加する見通し。 <川内原発再稼働> *3-1:http://www3.nhk.or.jp/lnews/kagoshima/5055226071.html (NHK 2015年9月28日)2号機は15日にも再稼働 1号機に続き再稼働に向けた準備が最終段階に入っている川内原子力発電所2号機について、九州電力は今後の検査や作業で問題がなければ来月15日に原子炉を起動し再稼働する計画であることがわかりました。 川内原子力発電所は福島第一原発の事故後につくられた新しい規制基準の審査に、去年、全国の原発で初めて合格し、1号機は先月11日に再稼働しました。2号機も今月13日までに原子炉に燃料が入れられ再稼働に向けた準備は最終段階に入っています。来月1日からは新しい規制基準に基づいて増設された非常用の設備や機器を使った事故対応の訓練が行われることになっており、九州電力は今後の検査や作業に問題がなければ来月15日に原子炉を起動し再稼働する計画であることがわかりました。再稼働後は12時間程度で核分裂反応が連続する「臨界」の状態に達し、その後、発電用のタービンを起動し2号機でも発電を開始することにしています。2号機が再稼働した場合、新しい規制基準のもとでは1号機に続き全国の原発で2例目ですが、福島第一原発の事故の影響で4年にわたって運転を停止した状態が続いているため検査や作業に時間がかかり再稼働の時期がずれ込む可能性もあります。 *3-2:http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150906-00058720-hbolz-soci (YAHOO:HARBOR BUSINESS Online 2015年9月6日) 川内原発再稼動で再び懸念される「海の環境破壊」 川内原発の温排水放出口がある寄田海岸には、2009年に29匹のサメが打ち上げられたという(川内原発「温廃水」訴訟訴状より)。九州電力川内原発1号機が今年8月11日、4年3か月ぶりに運転を始めた。原子炉が出した熱の実に3分の2は電気にならず、温排水として海に捨てられる。「海暖め装置」でもあるのが原発だ。一方、2年近く続いた原発ゼロ期間中、各地で原発周辺の海洋環境が劇的に改善したとの報道が相次いだ。 ◆温排水停止の4年間で徐々に海の環境が回復!? 「それまで浜辺に魚などの死体が打ち寄せられていたのが、川内原発が運転を止めてからピタリと止まりました。劇的な変化でした」と話すのは、市民団体「反原発・かごしまネット」の向原(むこはら)祥隆さんだ。川内原発の稼働中、近くの浜辺には毎日のようにサメやエイなどの大型魚類、クジラやイルカなどの海生哺乳類、ウミガメなどの死体が海岸に漂着していた。ところが2011年9月の運転停止以降はそれらが一切なくなったという。海水1度の温度上昇は、気温でいえば3~4度上がるのに相当する変化だとされる。原発が排出してよい温排水の温度は取水口の海水温度プラス7度まで。出力100万キロワットの原発の場合、1秒に約70トンもの温排水が出る。九電は温排水の影響を否定するが、向原さんらは温排水によって川内原発周辺海域で環境破壊が生じているとして、2010年10月に九電を相手取り「温廃水」訴訟を起こした。訴状で、温排水の影響として「海洋生物の死亡漂着」「原発南側での海藻の全滅」「原発南側に隣接する漁協での漁獲の激減」などを挙げている。鹿児島地裁は12年10月、訴えを退けた。 ◆火力より影響が大きい? 原子力の温排水 もっとも、温排水を出すのは原発に限らない。火力発電所からも温排水は出る。しかし熱効率で比べると、原子力が30%程度なのに対して、火力は40~60%だ。つまり火力発電所の温排水は原発よりも温度が低い。つまり原発の再稼働が進めば、火発を運転するよりもムダな熱が海に捨てられることになる。京都大学舞鶴水産実験所の益田玲爾(れいじ)准教授は若狭湾で潜水調査を続ける。若狭湾では関西電力高浜原発の停止後に周辺海域の海水温が下がり、地元特産のアカウニやムラサキウニ、マナマコなどが姿を見せるようになったという。海藻も茂ってきたそうだ。舞鶴湾には舞鶴石炭火力発電所があるが、こちらでは海洋生物への影響はみられないという。「火力発電所の周辺で変化が見られないのは、第一に、火力発電所の方が効率よく熱を使っているからです。しかも10年前に完成した舞鶴火力発電所は、舞鶴湾内から採水。冷却に使った(つまり加温された)海水を長い地下パイプを経て、湾外に放出しています。ですので、排水口に近い瀬崎沖で潜水中に測定しても、同所と舞鶴湾内の水温差はほとんどありません。一方、40年前に作られた高浜原発では、湾外の海水を冷却に利用し、7℃高い水を湾内に放出しています。このため、原発稼働中に高浜町の内浦湾は温排水による影響を強く受けていました」(益田氏)。川内原発の場合、現在のところ温排水を沖合に放出する地下パイプのような設備はない。向原さんは「原発が停止し、4年かけてようやく“海焼け”した海底にヒジキなどの海藻が付き始めたところ。再稼働で徐々に影響が広がるでしょうが、これでは元の木阿弥です」と話し、温排水の影響を懸念している。 *3-3:http://qbiz.jp/article/70870/1/ (西日本新聞 2015年9月15日) 火山活動、九州際立つ 噴火予測難しく 1年以上にわたり小規模な噴火を断続的に繰り返してきた阿蘇山が14日、2千メートルの噴煙を上げ、噴火警戒レベルも初めて3(入山規制)に引き上げられた。全国で火山活動が活発化する中、九州では阿蘇のほか霧島山、口永良部(くちのえらぶ)島、桜島も活動を活発化させており、動きは突出している。相次ぐ異変に関連はないのか。九州のほかの火山に影響はないのか−。専門家は十分な警戒を呼び掛けている。「活発化はしていたが、マグマがたまった様子や地殻変動は見て取れなかった。今回のような小規模な噴火は予測が難しい」。福岡管区気象台の米田隆明・火山防災情報調整官はこう語った。阿蘇山は昨年8月に噴火警戒レベル2(火口周辺規制)に引き上げられた後、同11月からは21年ぶりにマグマ噴火を繰り返すなど活動を活発化させていた。火山ガスの量はやや多い状態で推移。今年8月以降は火山活動の指標となる「孤立型微動」が増え、噴火直前の14日午前9時20分ごろには震動を示す数値が急に倍増していた。京都大火山研究センター(熊本県南阿蘇村)の大倉敬宏教授(火山物理学)は「いつ噴火してもおかしくない状況だった」。ただ、そのタイミングまでは分からなかった。これまでの立ち入り禁止区域は火口から半径1キロ。気象台によると、この日の噴火に伴う噴石は2キロ近くまで飛んだとみられる。当時、火口から1キロ余りの阿蘇山ロープウェー付近には観光客十数人が滞在していた。「けが人が出なかったのは幸運だった」。阿蘇市職員はこう振り返る。 ◇ ◇ 阿蘇山では1979年9月の噴火で観光客3人が犠牲となった。石原和弘京都大名誉教授(火山物理学)は「今回は79年の噴火と同規模とみられる。これまで静かだったのはマグマをため噴火能力を蓄えていたからで、それが一気に噴出したのでは」と分析する。気象庁によると、山体の膨張が小さいことからマグマの供給量は少ないとみられ、今回より規模の大きな噴火が起きる可能性は低いという。微動も減少傾向にあるといい、「(噴火の)サイクルが終わる可能性が高い。ただ、確実にこれで収まるとは言えない」。 ◇ ◇ 火山は全国で活動が活発化しており、専門家には東日本大震災と関連づける見方もある。火山噴火予知連絡会の藤井敏嗣会長(東京大名誉教授)は「海外でも巨大地震の後に火山噴火が起きた事例はあり、一つの遠因と言える。箱根山などだけでなく、鹿児島の諏訪之瀬島でも火山性微動が増えた」と指摘する。九州では近年、霧島山(宮崎、鹿児島)、口永良部島(鹿児島)、桜島(同)など、南部を中心に火山の動きが活発だ。雲仙岳(長崎)や九重山(大分)に目立った動きはないが、常時観測対象の活火山だ。日本列島には二つの火山密集帯があり、沖縄から九州を縦断して中国地方へつながる西日本の「火山フロント」は南海トラフに平行して形成。最近噴火した箱根山(神奈川)や御嶽山(長野、岐阜)は日本海溝に平行する東日本のフロント上にある。だが、マグマだまりは火山ごとに独立しており、気象庁は「隣接する火山の噴火が連動するという考え方はしていない」と説明する。地震と火山活動の関係や、火山活動の連動性は未解明の部分が多い。藤井名誉教授は「九州での相次ぐ火山活動に関連性はないと考えるが、活火山に近づく際には気象庁の情報に注意するよう心掛けてほしい」と話している。 ◆マグマ水蒸気噴火か 14日に中岳第1火口で発生した噴火は「マグマ水蒸気噴火」とみられ、今年5月の口永良部島(鹿児島県)噴火と同じだ。阿蘇山には多数の火口があるが、1934年以降、噴火が確認されているのは中岳第1火口のみ。気象庁によると、近年は数カ月から数年の周期で噴火を繰り返し、多くは赤熱した噴石を間欠的に飛ばすマグマ噴火の「ストロンボリ式噴火」で、昨年11月の噴火もストロンボリ式だった。阿蘇火山博物館の須藤靖明学術顧問によると、阿蘇山でマグマ水蒸気噴火を最後に確認したのは93年。須藤氏は「11日から小噴火が相次いでガスが抜け、噴火の威力は弱まったのではないか」と指摘し「火口に残る水蒸気がなくなった後にはストロンボリ式に移る可能性がある」との見方を示す。気象庁は「マグマ水蒸気噴火とマグマ噴火でどちらが危険度が高いかは一概には言えない」としている。 ◆観光客死傷、戦後相次ぐ 九州屈指の観光地・阿蘇山は、カルデラ内の活動中の火口に接近できることが特長だが、有史以降、数え切れないほどの噴火を繰り返しており、戦後も観光客らを巻き込む死亡事故が起きている。最も活動的なのは「中岳第1火口」。気象庁などによると、1953年の噴火では噴石などにより観光客6人が死亡、90人以上が負傷した。人間の頭大以上の噴石が火口から数百メートル飛んだという。58年には突然、爆発的噴火が発生。噴石が火口から約1・2キロに達し、ロープウエーの作業員ら12人が死亡、負傷者は28人に上った。79年にも噴石により観光客3人が犠牲になった。97年には、火口から放出された火山ガスの二酸化硫黄により観光客2人が死亡。人身事故以外にも、大量の火山灰により周辺の農作物に被害をもたらす噴火もたびたび発生している。 ◆気象庁が初の噴火速報 気象庁は14日、阿蘇山の噴火を受け、8月に運用を始めた「噴火速報」を初めて発表した。犠牲者が多数出た昨年9月の御嶽(おんたけ)山(さん)(長野、岐阜県)の噴火を踏まえ、登山者などがいち早く避難できるようスマートフォンでも即時に情報を得られるが、専用アプリが必要だ。噴火は午前9時43分。「噴火から5分以内」を目標とする噴火速報の発表は7分後の同50分だった。福岡管区気象台は「黒煙が出始めた同47分前後に速報が必要と判断した。最善を尽くした」と説明した。速報発表とほぼ同時に民間2社のアプリ登録者約400万人に情報が届いた。「いつもと違う通知音ですぐに気付いた」という熊本県南阿蘇村の旅館従業員の男性(45)は「噴火直後に知り、職場に駆け付けた。テレビをつけていなかったので役立った」と話した。一方、スマホを持っていない同県高森町のリンゴ園経営、後藤和弘さん(69)は「ラジオのニュースを聞くまで(噴火に)気付かなかった」という。特定地域のすべての携帯電話に情報を一斉送信できる自治体の緊急速報メールも使われたが、送信時刻は同県阿蘇市が午前10時23分、南阿蘇村が同40分ごろで噴火発生から40分〜1時間後だった。 <原発再稼働の根拠> *4-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/news/CK2015092802000134.html (東京新聞 2015年9月28日) 電力需給 今夏も余力 原発再稼働の根拠揺らぐ この夏の全国の電力需給を電力各社に取材したところ、需要が最も高まるピーク時の電力使用率が95%を超える「厳しい」日はゼロだったことが分かった。節電の定着や企業・自治体の大手電力離れで需要が減る一方、電力会社間の融通や太陽光発電の増加で供給力を確保し、電力の安定につながった。8月に川内(せんだい)原発1号機(鹿児島県)が再稼働した九州電力を除く地域は今夏も原発なしで乗り切った。本紙は、原発のない沖縄を除く電力九社に、今年七月~九月中旬までの月-金曜日のピーク時の電力使用率を取材した。使用率は、電力会社が気温などから需要を予測して事前に準備した供給力に対する実際の最大需要の割合で、どれだけ電力に余力があったかを知る目安となる。昨年の夏は中部電力と関西電力でそれぞれ一日「厳しい」日があった。今年は東京で過去最長の八日連続の猛暑日となるなど、全国的に八月上旬に暑さのピークを迎え、冷房などの使用により各地で今夏の最大需要を記録した。九電管内では八月十一日に川内原発1号機が再稼働。九電は「原発の再稼働がなければ、電力需給は厳しい」としていたが、再稼働前は中部、中国両電力から融通してもらい、余力を確保していた。原発が動いていない電力各社は既存の発電所の増強や、老朽火力も活用して供給力を確保。太陽光発電の導入が昨年に比べて倍増し、原発十二基分の出力に相当する計千二百万キロワットの電力を生み出したこともピーク時の供給を下支えした。東京電力管内では、最高気温が三七・七度となった八月七日に今夏最大の四千九百五十七万キロワットの需要を記録したが、使用率は92・3%と余力を残していた。原発依存度の高い関電管内は、原発稼働がゼロでも使用率が90%未満の「安定」した日がほとんど。同四日に今夏の需要がピークとなったが、中部、中国、北陸の電力三社から計百一万キロワットを融通してもらい、使用率は88・1%にとどまった。夏を乗り切れた理由について、電気事業連合会の八木誠会長は「節電が大きな要因」と説明。全国の最大需要は東日本大震災前の二〇一〇年と比べて、今夏は13・5%減少した。加えて、企業や自治体などが、料金値上げをした大手電力を解約して新電力へ切り替える動きが進んだことも需要減の一因となり、今夏の安定につながった。 *4-2:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/226295 (佐賀新聞 2015年9月5日) 9月中間で九電5年ぶり黒字 原発再稼働寄与 九州電力は4日、2015年9月中間連結決算の純損益が450億円の黒字になる見通しだと発表した。純損益の黒字は5年ぶり。原油価格の下落や川内原発1号機(鹿児島県薩摩川内市)の再稼働などが寄与して前年同期の359億円の赤字から大幅に改善した。瓜生道明社長はこの日、川内1号機の再稼働後、初めて記者会見し「東京電力福島第1原発のような事故を起こさないため、安全対策に万全を期してきた」と強調。川内1、2号機に加え、玄海原発3、4号機(東松浦郡玄海町)が再稼働した場合、料金の本格値下げについて「財務状況を勘案し、総合的に判断する必要がある」と述べた。ただ、玄海3、4号機の本年度中の再稼働は「現実的には少し難しい」と話した。川内1号機は8月11日に再稼働し、九電は月75億円の収益改善効果を見込んでいる。原油安で火力発電の燃料費が大幅に減少したことも黒字化に大きく貢献した。売上高は9300億円と予想。16年3月期の売上高は1兆8800億円を見込むとした。純損益は未定としたが、瓜生社長は黒字化に「川内2号機が予定通り10月中旬に再稼働し、効率化をもう少し進めれば可能ではないか」と述べた。また瓜生社長は、16年4月に始まる電力小売り自由化に向け「ライフスタイルに合わせた新しい料金メニューを検討している」と明らかにした。 *4-3:http://qbiz.jp/article/72271/1/ (西日本新聞 2015年10月7日) 使用済み核燃料の貯蔵拡充を要請 政府、九電など電力各社に 政府は6日、原子力に関する関係閣僚会議を開き、原発から出る使用済み核燃料の中間貯蔵施設を拡充するための行動計画をまとめた。各電力会社に、貯蔵能力を拡充する具体的な計画の策定を求めるほか、容量増強を受け入れた自治体への交付金増額などを盛り込んだ。使用済み燃料をめぐっては、日本原燃の再処理工場(青森県六ケ所村)がトラブル続きで稼働できず、各原発の貯蔵プールにたまり続けている。保管容量が限界に近づいている原発もあり、九州電力の玄海原発(佐賀県玄海町)は、再稼働から5〜6年で満杯になる見通し。満杯になれば運転できなくなるため、政府は原発の敷地内に限らず、貯蔵施設を拡充するよう各社に要請してきた。ただ地元の理解なども必要で、具体的な取り組みは進んでいない。行動計画では容量の拡大に向けて、特に使用済み燃料を金属製の容器に入れて保管する「乾式貯蔵」を推奨。維持管理や輸送が容易になるためで、導入を受け入れた自治体には交付金を手厚くする方針も示した。 <再生可能エネルギー> *5-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150920&ng=DGKKASDZ19H6A_Z10C15A9MM8000 (日経新聞 2015.9.20) 消費電力抑え太陽光発電 ゼロエネ住宅、一斉販売、ミサワ、全戸標準仕様 パナホームは85%に 住宅大手がエネルギー消費が実質ゼロとなる省エネ住宅「ゼロエネルギー住宅(総合・経済面きょうのことば)」の販売に乗り出す。屋根に設置する太陽光パネルによって、家庭内で消費するエネルギーよりも多く発電する。ミサワホームは2017年度に販売する全戸をゼロエネ住宅とし、パナホームも18年度に85%にする。環境負荷を減らせる一方、消費者にとっては家計の節約にもつながる。ゼロエネ住宅は電気やガスを使って消費するエネルギーから、太陽光発電で生み出したエネルギーを差し引くと、年間のエネルギー消費量が実質ゼロとなる。消費電力の低減が重要なため、断熱材のほか省エネタイプの給湯器や換気システムを標準装備する。このため通常の住宅と比べて250万~300万円の追加費用が必要だ。これとは別に太陽電池が工事費込みで150万~200万円かかる。光熱費の節約や売電収入によって、長期的に追加の費用を回収する。ミサワホームは17年度には販売する住宅のすべてでゼロエネタイプを標準とする。まずは今春から30代など比較的若い世代を対象とする価格が低めの住宅で、ガラス繊維の密度を高めた高性能の断熱材を使用して、太陽電池も標準で搭載した。同社は年間8千戸を販売している。14年度のゼロエネ住宅の受注数は66戸と1%に満たなかったが、省エネ住宅への引き合いが強いことから切り替えを進める。14年度はゼロエネ住宅がほぼゼロだったパナホームは、パナソニック製の太陽電池「HIT」や蓄電池を組み合わせた新たな住宅の販売を強化する。同社の試算では築20年の住宅を新タイプの住宅に建て直すと、年間の光熱費が約35万円から約7万円に減らせる。さらに太陽光でつくった余剰電力を電力会社に売れば年間13万円の収入が得られるという。戸建て大手は各社とも省エネの住宅を増やす方針だ。積水ハウスも16年度に受注棟数の70%をゼロエネ住宅にするほか、積水化学工業も20年度に過半にする目標を掲げている。昨年度の同住宅の販売戸数は住宅大手10社合計で1万~2万戸程度にとどまっている。今後、各社が一斉に販売の重点を置いていくことで、20年度までに10社で5万戸以上に増える見通しだ。ゼロエネ住宅は発電能力5キロワット程度の太陽電池を載せるため、20万戸で原発1基分の発電能力に相当する。工場やオフィスに比べて遅れているとされる家庭部門の省エネが進み、二酸化炭素(CO2)の削減につながる。 *5-2:http://www.nikkei.com/article/DGXMZO92371410S5A001C1000000/ (日経新聞 2015/10/10) ニュースフォローする 画期的な蓄電池を開発、住宅用にも 米ハーバード大 米ハーバード大学の研究チームがこのたび無害、非腐食性、不燃性の新しい素材を使った、安全安価で高性能なフロー電池の開発に成功した。太陽光発電のみで電力をまかなえる家に住みたいと願うなら、曇りの日用に電力を蓄えておけて、発火するおそれのない安全な電池が必要だ。米ハーバード大学の研究者が、そんな蓄電池を考案したと科学誌「サイエンス」2015年9月25日号で発表した。未来の電池を開発しようと世界中の研究者がしのぎを削るなか、今回開発されたのはフロー電池と呼ばれるタイプのものだ。安価で無害、非腐食性かつ不燃性の材料でできており、しかも高性能であるという。「誰でも使えるようになるという意味で、畜電池は大きく前進しました」。ハーバード大学の工学教授で、論文の共同執筆者であるマイケル・アジズ氏はこう説明する。腐食の心配がない安全な電池であれば、事業用にも家庭用にも適している。「自宅の地下室にも安心して置いておける化学物質が使われています」。気候変動問題が深刻化し、太陽光や風力などのクリーンな再生可能エネルギーへの期待が高まるにつれ、5年ほど前から電力貯蔵技術の研究がさかんになってきた。理由は簡単だ。太陽光発電や風力発電は出力の変動が大きく、太陽が出ていないときや風が吹いていないときに備えて電力を貯蔵する必要がある。蓄電池のなかでもよく知られているのはリチウムイオン電池だ。今から20年以上前に主に個人用電子機器向けに実用化されたものだが、特に大出力のものは高価で、発火の危険性がある。実際、電気自動車で発火事故が数件起きているほか、大量のリチウムイオン電池を輸送する貨物機で火災が発生したこともある。研究者たちは現在、リチウムイオン電池の改良に取り組むほか、まったく別の方式も模索している。今回のハーバード大学の研究チームのように米国エネルギー省から資金を得て、新しい材料の組み合わせや、ナノサイズの電極の開発に取り組む研究者もいる。アジズ氏のチームはフロー電池に注目した。フロー電池は、電気が発生する電池セルとは別のところにあるタンクの液体にエネルギーを貯蔵するため、タンクを大きくすればより多くのエネルギーを貯蔵できる。問題は、フロー電池のほとんどがバナジウムなどの高価で腐食する金属を使っていることだった。 ■すでに複数の企業がアプローチ ハーバード大学の科学者たちは2014年、バナジウムの代わりにキノンという有機分子を使ったフロー電池を試作した。この試作品はうまく機能し、欧州の企業に製造を許諾したが、材料に有害で揮発性のある臭素が含まれていた。研究チームは今回、臭素をフェロシアニドという無害な非腐食性イオンに置き換えることに成功した。「フェロシアニドは青酸と同じシアン化物なので、毒性があると思われるかもれませんが、そうではありません」と、ハーバード大学のポスドク時にこの新しい素材を考えつき、現在は米コロラド大学ボールダー校に所属するマイケル・マーシャク氏は説明する。「青酸は体内の鉄イオンと非常に強く結びついて呼吸を阻害し、致死的な作用を及ぼします。これに対して、フェロシアニドは最初から鉄と結びついているので安全なのです」。フェロシアニドは食品添加物や肥料にも広く用いられているという。米アルゴンヌ国立研究所エネルギー貯蔵共同研究センターのジョージ・クラブツリー所長は、「この研究は、有機分子を電池に活用する新しい分野を開拓するものです」と言う。彼はこの新分野を「画期的で有望」と評価し、さらに多くの成果を生むだろうと予想する。今回の研究には関与していないが、米ケース・ウェスタン・リザーブ大学の工学教授で蓄電池の専門家であるロバート・サヴィネル氏は、「大容量化が容易で危険性がなく、製造コストも抑えられるでしょう」と、この電池の優れた性能を認めている。サヴィネル氏は、10年以内に商品化も可能だろうと期待を寄せるが、まださらなる検証も必要だと述べている。アジズ氏自身も検証の必要性を認めている。研究チームは短時間の実験結果で寿命を推定しただけなので、「何千回、何万回の充放電サイクルを経ても劣化しないことを証明する必要があります」と言う。彼は1年以内にこのテストを始めるつもりだが、ハーバード大学はそれ以前に製造を許諾する可能性がある。アジズ氏は、すでに複数の企業からアプローチを受けていることを打ち明け、「そう遠くない時期に商品化が実現するかもしれません」と言う。具体的な時期は、製造を許諾される企業が新興企業か大きな電池メーカーかで変わるだろう。ほかにも、起業家イーロン・マスク氏のテスラ・ギガファクトリー(米国ネバダ州)などが、自動車用、家庭用、事業用に畜電池の大量生産をめざしている。太陽光や風力による発電能力が上がるにつれ、エネルギー貯蔵分野の競争がもっとさかんになることをアジズ氏は期待している。しかし今後の電力貯蔵用電池の市場の巨大さを考えると、「最も安価な電池でさえ、需要をすべて満たすにはおそらく相当な時間がかかるでしょう」 *5-3:http://mainichi.jp/feature/news/20151002k0000e030212000c.html (毎日新聞 2015年10月2日) 温室効果ガス:インド2030年に33〜35%削減を目標 インド政府は1日(日本時間2日未明)、温室効果ガスの排出量について、2030年に国内総生産(GDP)当たり05年比で33〜35%削減する目標を国連に提出した。インドは世界第3位の排出国だが、削減目標を国際的に公約するのは初めて。1日は国連への提出期限となっており、中国やブラジルなどの主要国も含め148カ国・地域の目標が出そろった。排出削減について、京都議定書は先進国が対象だったが、11月30日からパリで開かれる国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)では途上国も含め、すべての国が参加する温暖化対策の新枠組みを目指している。世界の排出量の9割近くを占める148カ国・地域の目標が出そろったことで、合意への動きが加速しそうだ。インドは、これまで20年までにGDP当たりの排出を05年比20〜25%減とする目標を掲げていた。新目標では、二酸化炭素(CO2)を排出しない非化石エネルギーの総発電量に占める割合を30年までに40%に増やすことや、CO2を吸収する森林量を追加することなど、達成に向けた具体策も挙げた。一方で、これらを実行するためには、先進国からの資金支援が欠かせないことも明記した。インドでは、大気汚染や温暖化に伴う熱波や洪水などの災害が深刻化し、対策を求める世論が高まっていた。ただし、経済発展が前提との姿勢は変えておらず、将来のGDPに基づく相対的な目標にとどめ、総排出量には上限を設けなかった。 ◇主要国の温室効果ガス削減目標 中国 2030年にGDP当たり05年比60〜65%減(遅くとも30年を排出のピークとする) 米国 25年に05年比26〜28%減 欧州連合 30年に1990年比40%以上減 インド 30年にGDP当たり05年比33〜35%減 ロシア 30年に90年比25〜30%減 日本 30年に13年比26%減 韓国 30年に対策を取らなかった場合に比べ37%減 カナダ 30年に05年比30%減 ブラジル 30年に05年比43%減 メキシコ 30年に対策を取らなかった場合に比べ25%減 インドネシア 30年に対策を取らなかった場合に比べ29%減 豪州 30年に05年比26〜28%減 南アフリカ 遅くとも25年を排出のピークとする PS(2015年10月12日追加):福島第1原発事故と関係した支出増や収益減について、東電に請求するのは当然であり、広範囲で長期に多額の費用がかかるのが原発事故の特質だ。しかし、「風評被害対策費」と書かれているのは、本当に噂だけで害がないのであれば、科学的根拠を明らかにしてそれを説明すれば受け入れられる筈で、「害があるかどうかわからないから、気をつける」というのは、正当な注意であって風評被害とは言わない。 *6:http://mainichi.jp/select/news/20151012k0000e040134000c.html (毎日新聞 2015年10月12日) 福島第1原発事故:東電と6県1市係争 損害賠償など 東京電力福島第1原発事故後、福島県を含む17都県と7政令市が放射線検査の経費など総額563億6000万円を損害賠償請求したところ、200億円余について東電が応じず、6県1市が原発ADR(裁判外紛争解決手続き)で係争中か近く申し立てる方針であることが分かった。住民や法人と比べて補償の枠組み作りが遅れているためで、自治体担当者は「国がもっと具体的に関与する必要がある」と指摘している。毎日新聞が全都道府県と政令市を対象に取材し、8月末時点の請求額や内容をまとめたところ、東北、関東地方は全ての都県と政令市が賠償請求、三重県や島根県も放射線測定の機器購入費などを請求していた。自治体関係者によると、東電は(1)水道、下水道など公営企業の減収(2)学校給食や農畜産物の放射線検査費(3)放射性物質を含む廃棄物の処理・保管費−−など計362億9000万円分について賠償の対象と認めた。だが、項目によっては期限を切っている上に、福島県の住民税等減収分▽秋田県の風評被害対策費▽群馬県の被害者支援費などは応じていないという。こうした東電の姿勢に不満で迅速な賠償が必要として、青森、秋田、山形、宮城、千葉の5県が原発ADRを申し立て、群馬県と仙台市も近く申し立てる。岩手県は既に2億5000万円の支払いで和解した。東日本大震災の被災3県(岩手、宮城、福島)によると、県とは別に大半の市町村が賠償請求しており、総額は628億8000万円。このうち東電が賠償に応じているのは86億5000万円分にすぎなかった。3県以外の市町村も請求しているケースがあり、自治体請求は全国で1200億円を超えるとみられる。東電は取材に対し「原子力損害賠償紛争審査会の中間指針などを踏まえ、必要かつ合理的な範囲を賠償している」とコメントした。 ◇例がない広がり 吉村良一・立命館大法科大学院教授(環境法)の話 自治体による企業への損害賠償請求としては金額、広がりともに過去に例がない規模で、原発事故の特質をよく表している。天災でも人災でも住民が困っていれば対応するのは自治体の本来業務だが、今回は長期に負担がかかり本来業務を超えている。 PS(2015年10月13日追加):薩摩川内市は、既に新幹線が開通しているので、原発再稼働はせず、豊かな自然や広い土地を活かした21世紀の街づくりをした方が将来のためになると、私も考える。 薩摩川内市の様子 *7:http://digital.asahi.com/articles/ASHBD5416HBDTLTB001.html (西日本新聞 2015年10月12日) 川内原発再稼働は「自殺行為」 鹿児島で1800人集会 九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)2号機の再稼働に反対する集会が12日、鹿児島市のJR鹿児島中央駅前であった。九州各地の脱原発団体メンバーら約1800人(主催者発表)が参加。九電が15日にも予定する2号機の再稼働中止や、8月から稼働している1号機の停止を訴え、中心街をデモ行進した。市民グループ「ストップ再稼働! 3・11鹿児島集会実行委員会」の主催。アイドル「制服向上委員会」のライブの後、参加者が口々に原発に反対する思いを述べた。川内原発建設反対連絡協議会の鳥原良子会長は、8月に川内1号機が再稼働した地元・薩摩川内市について「運転開始から30年が過ぎた川内原発と同じく、まちくりの発想が老朽化している。原発に頼り切って、発想の転換がなかなか図れません」と指摘した。 「原発いらない!宮崎連絡会」の小川渉さんは「川内原発で事故が起きれば、偏西風で自分が住む宮崎県綾町も被害を被る」と懸念を訴え、「九電の姿勢を変えさせるため、電力自由化されたら、原発を稼働する九電から買わないことを実践しよう」と呼びかけた。九州電力は、2009年に2号機の原子炉建屋内にある蒸気発生器を耐食性に優れたものに取り換えることを計画しながら、今回は実施せずに再稼働する。集会ではこれを「自殺行為」と断じて再稼働に反対するアピールを採択した。 PS(2015年10月14日追加): *8-1、*8-2のように、2013年11月に、世銀と国連は原発の援助はしないことを表明し、新エネルギーに舵を切っている。また米国では、*8-3のように、「シェールガスの普及で電力価格が下がり採算性が悪化した」として東部にある原発を4年後までに停止して廃炉にするそうで、原発はフェードアウトしつつある。そのような中、*8-4のように、2015年10月13日、日本の岸田外相がイランの原子力利用を支援することを約束したのは、時代を読めず、民主主義に対する理解も乏しく、当時のドイツ、イタリアと同盟を結んで第二次世界大戦に突っ走って行った構図と似ている。 *8-1:http://www.afpbb.com/articles/-/3004099 (AFP 2013年11月28日) 「原発は援助しない」、世銀と国連が表明 世銀のジム・ヨン・キム(Jim Yong Kim)総裁と国連の潘基文(パン・キムン、Ban Ki-moon)事務総長は、2030年までに世界中の全ての人が電力の供給を受けられるようにする取り組みについて記者団に説明した。その中でキム総裁は「われわれは原発は行わない」と明言した。キム総裁によると、世銀は来年6月までに42か国の発電計画をまとめる予定。電力網の整備やエネルギー効率の倍増、再生可能エネルギー比率の倍増などを掲げ、目標達成には年間およそ6000~8000億ドル(約61兆~82兆円)が必要になるとしている。しかしキム総裁は、集まった資金は新エネルギー開発にのみ使用すると報道陣に明言。「原子力をめぐる国家間協力は、非常に政治的な問題だ。世銀グループは、原発への支援には関与しない。原発は今後もあらゆる国で議論が続く、たいへん難しい問題だと考えている」と述べた。 *8-2:http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/158086 (日刊ゲンダイ 2015年3月14日) 「投資対象にしない」 世界銀行が突きつけた原発への“絶縁状” 国連防災世界会議に出席するため来日した世界銀行のキム総裁が13日、外国特派員協会で会見を開き、反原発の姿勢を鮮明にした。「難しい問題だが、原発はリスクが未知数なため、世銀は投資の対象にはしない。炭素税導入で、火力発電によるCO2排出量を抑えると同時に、地熱、水力などのクリーンエネルギーへの投資を拡大するべきと考えている」。キム総裁は9日にもワシントン市内で原発の危険性に関し、懸念を表明。福島原発事故について、「フクシマの技術は最先端ではなかった。新しい技術で本当に安全な原発ができるのか。核廃棄物の貯蔵や取り扱いを安全にできるのか。その証拠を示せなければ国民の納得を得るのは難しい」と語り、原発の安全性を強調し、再稼働に突き進もうとしている安倍政権を批判した。 ■原発向け融資は控えたまま 途上国が原発を建設する場合、先進国の企業がセールスをかけ、発注する国は受注した企業などからの資金を受けて建設する。その後、発電所の電気料金の収入で債務を返済していくケースが一般的だ。受注者の多くは米国、ロシア、中国、韓国などの企業だが、もちろん日本も名を連ねている。昨年4月にはトルコ、UAEへの原発輸出を可能にする原子力協定が参院本会議で承認され、安倍首相がセールスに意欲満々なのは周知の通りだ。ところが、世銀は1959年にイタリアの原発施設に4000万ドル貸し付けて以来、原発向けの融資は控えている。この日のキム総裁の発言は縁切り宣言みたいなものだ。今や反原発が世界の潮流であることを国民も知るべきだ。 *8-3:http://www3.nhk.or.jp/news/html/20151014/k10010269141000.html (NHK 2015年10月14日) 米東部の原発 採算性悪化などで廃炉へ アメリカ東部にある原発について、運営する電力会社は、シェールガスの普及で電力価格が下がり採算性が悪化したなどとして、4年後までに運転を停止して廃炉にすると発表しました。廃炉が決まったのはアメリカ東部マサチューセッツ州にあるピルグリム原発で、運営する電力会社、エンタジー社は、遅くとも2019年6月までに運転を停止して廃炉に向けた作業を始めるとしています。その理由について、エンタジー社は、シェールガスの生産量が増えたことによる電力価格の低下や、安全対策にかかる費用が増えたことで運転コストが上昇し、採算性が悪化したためだと説明しています。ピルグリム原発は、東京電力福島第一原子力発電所の1号機などと同じ型の原発で、1972年から営業運転を続けていますが、ことし1月、外部電源が失われて原子炉が自動停止するなどトラブルが相次いでいました。このため、アメリカのNRC=原子力規制委員会は、先月、この原発の安全性の評価を全米で最も低いランクに位置づけていて、地元からは、安全対策への懸念を指摘する声も上がっていました。エンタジー社は去年12月、アメリカ東部にある別の原発の運転も停止していて、アメリカでは、この数年で採算性の悪化を理由に5つの原発の廃炉が決まっています。 *8-4:http://digital.asahi.com/articles/ASHBF1TQPHBFUHBI004.html (朝日新聞 2015年10月13日) 日本、イランの原子力利用を支援へ 外相会談で合意 岸田文雄外相が12日、イランを訪問し、首都テヘランで同国のザリフ外相と会談した。両者はイランによる原子力の民生利用を日本が支援することで一致。東京電力福島第一原発事故などを教訓に、地震への備えや事故時の対処について知識を授ける。また、両国は投資協定を結ぶことでも合意した。米欧など6カ国とイランが7月に結んだ核合意は、イランに発電や医療のための小規模な核開発を認めるかわりに、「原子力安全センター」をつくって専門知識や技術を習得するように定めている。合意文書には「6カ国か他の国がセンター設立に協力する」とだけ書かれており、日本が名乗りを上げた形だ。外相会談後に発表された共同声明によると、日本はセンターに専門家を派遣。原子力事故が起きた場合の対応策や、耐震構造の重要性、核物質の計量や管理についてイラン側に研修する。核合意を履行する準備が整う来年以降に行われる見通しだ。岸田外相は「日本が知見を有する分野で貢献し、協力を続けたい」と述べた。また、日本とイランは投資協定を結ぶことで合意した。イラン進出を考える日本企業には追い風となる。イランとの投資協定はドイツやフランス、中国や韓国など52カ国が結んでおり、交渉開始から約1カ月のスピード合意となった。経済、環境など様々な分野で連携する「日・イラン協力協議会」の立ち上げでも一致。ザリフ外相は会見で「両国の関係は非常に明るい展望がある」と話した。 PS(2015/10/14追加):*9のように、「女性は感情的であって科学的でない」などとするのは、女性蔑視に基づく女性差別であって質が悪すぎる。これに対する私の回答は、「馬鹿も休み休み言え」だ。 *9:http://www.mutusinpou.co.jp/%e6%97%a5%e6%9b%9c%e9%9a%8f%e6%83%b3/2015/10/38423.html (陸奥新報 2015/10/11 ) 「女性と原子力問題」感情的ではなく科学的に 「原子力を国民の手に」をスローガンとして2年前に発足した原子力国民会議が主催する集会が東京であり、私も参加した。同会はわが国の経済・エネルギー、地球温暖化など、いわゆる「3E」(経済性、環境問題、エネルギー安全保障)を考えるとき、原子力は不可欠なものであり、安全性が確認された原発は早急に再稼働させ、本県に立地する核燃料サイクル事業の早期竣工も願って結成されたもので、原子力に関する知識や情報を発信するとともに、政府などへの提言を積極的に行ってきている。しかし約4年8カ月前の福島第1原発重大事故以来、原子力への不信を募らせ、原発再稼働にも反対だとする国民が多いのも確かだ。こうした状況を受け、集会のテーマは「原子力の誤解を考える」であり、原子力に反対する人は女性に多いこともあって、「女性の目線から考える」がサブテーマであった。内容は3人の女性講師による講演と、講師と女子学生3人とのディスカッションである。結論から言うと、3講師は「女性の目線」には違和感をもっておられ、客観的に考えなければならぬ時、「女性の目線」も「男性の目線」もないのだとした。免疫学が専門の宇野氏は福島原発事故を振り返り低線量放射線に怯えるあまりに強いストレスを感じ、免疫が低下した事実を上げ、感情に左右されることの恐ろしさを客観的に紹介した。原子力が専門の村上氏は、福島事故以後、世界的に原発開発が衰退したなどとする誤解を事実に即して批判した。ジャーナリストの細川氏はマスメディアが反原発を感情的にあおっていることの危険を批判した。講演の内容はいずれも「女性の目線」からではなく、事実を客観的に捉えようとする「目線」からのものであったが、それはさらにディスカッションにおいて明確に主張された。司会者の質問に答え、学生が「リスクがゼロでなければ自身が母親ならば避難する」としたが、村上氏は、研究者として、妊娠時にも原発の管理区域に入った経験から、「原子力・放射線に対しては女性も男性もない。命を大切にするのは母親だけではない、あるのは事実に基づく行動だけ」とし、細川氏は「女性に原子力反対が多いのは勉強不足に尽きる」と断言した。すなわち、科学的事実に基づいて行動することに女性も男性もなく、さらに言えば「女性の目線」とは事実を求めるのではなく、己の感情に基づく見方でしかなくなる危険性もあると主張されたのだ。私は、社会の様々な事象や場面において「女性の目線」が必要な時もあろうが、原子力を含め、科学的に考え行動することが求められる時には不必要であり、問題の解決を遅らせ、誤まらせる危険すらあると思っている。(青森地域社会研究所特別顧問 末永洋一) PS(2015.10.15追加):*10-1のように、トヨタ自動車が今から35年後の2050年までにエンジンだけで走る自動車の販売をほぼゼロにする目標を発表し、自動車革命を「天変地異」などと言っているようでは、2050年にはトヨタ自動車はなくなっているだろう。何故なら、日本では、今から20年も前に電気自動車に必要な技術開発を始めたため、そのつもりで準備していれば、今頃は技術者の再教育や更新も完了して準備が整っていた筈であり、それをやっていなかったのなら、経営者に洞察力がないということだからだ。なお、*10-2の本命については、HVは経過的妥協作にすぎず、環境車の本命はEV、FCVだ。また、大地震の中、都市で避難することなどを考えれば、FCVよりもEVの方が爆発せず安全であるため、自家用車はなるべくEVで、EVでは馬力の足りない大型のバス、トラック、航空機、大型船はFCVという選択になるだろう。つまり、これは、エンジンを電動系に変えてトップに立つチャンスでもあったのだ。 *10-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20151015&ng=DGKKASDZ14HYT_U5A011C1EA2000 (日経新聞 2015.10.15) トヨタ、50年にエンジン車ゼロ、燃料電池車などシフト 環境目標 トヨタ自動車は14日、2050年までにエンジンだけで走る自動車の販売をほぼゼロにする長期目標を発表した。ハイブリッド車(HV)や燃料電池車(FCV)の比率を高めて新車の走行時の二酸化炭素(CO2)排出量を10年比9割減らす。自動車の開発競争の中心がエンジンから電池や制御ソフトなど「電動化技術」に移り産業構造にも影響を与えそうだ。 ●「天変地異だ」 トヨタは5カ年の環境計画を設定し、HVの普及などに取り組んできた。14日は新たに21年3月期までの計画を公表するとともに、初めて50年までの長期目標「トヨタ環境チャレンジ2050」を発表した。「長年にわたってHVやFCVの開発に取り組んできたが地球環境は日々悪化している。20年、30年先を見据えたより高い水準の新たな挑戦が必要と考えた」。14日の説明会でトヨタの内山田竹志会長は強調した。長期目標では新車の走行時のCO2排出量を9割減らす方針だ。車両1台生産する際に排出するCO2の量も段階的に削減しゼロを目指す。工場で省エネを一段と進めると同時に、風力発電など自然エネルギーや水素の利用を進める。記者会見した伊勢清貴専務役員は「エンジンだけを搭載した自動車は生き残れない。エンジン車がなくなるのは(自動車メーカーにとって)天変地異だ」と述べた。トヨタは世界で販売するほぼすべての車を50年までにFCV、HV、家庭用電源で充電できるプラグインハイブリッド車(PHV)、電気自動車(EV)とする目標を示した。目標の達成に向け、FCVとHVの販売拡大を今後5年間の実行計画の柱に据えた。同社は14年12月に発売したFCV「ミライ」の生産体制を段階的に増強している。17年には年間3千台規模にする。さらに20年をメドに販売台数を一気にこの10倍に当たる3万台以上に引き上げる。国内では月1千台の水準にする。日産自動車のEV「リーフ」と同じ規模だ。 ●新興国でも拡販 HVの販売は20年までに14年実績より18%多い年間150万台に増やす。トヨタは1997年に世界初の量産型HV「プリウス」を発売した。HVの累計販売台数は今年7月に800万台を超えた。ただ大半を北米と日本で売っている。今後はコスト低減によって価格を抑えて、中国など新興国でも販売を増やしていく考えだ。トヨタはHVで培った制御ソフトなどの技術をFCVやEVなどに幅広く活用できるとみている。燃料電池で作った電気でモーターを動かすFCVは「HVと共有できる部品が多い」(トヨタ幹部)。現在、ミライの価格は700万円台と割高だが、HVの量産効果を取り込んで価格を引き下げていく。エコカーの動力源として電池やモーターなどの重要性が高まれば、自動車産業の構造にも影響を与えそうだ。電機メーカーやIT(情報技術)企業にとっては自動車関連事業を拡大するチャンスが広がる。エンジン部品メーカーなどは事業構造の見直しを迫られる。伊勢専務も「トヨタの体質を変えないといけない」と指摘。新環境目標はトヨタグループの構造改革につながっていく可能性がある。 *10-2:http://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20151015&c=DM1&d=0&nbm=DGKKASDZ14HYT_U5A011C1EA2000&ng=DGKKASDZ14HYZ_U5A011C1EA2000&ue=DEA2000 (日経新聞 2015.10.15) 次の本命まだ見えず 電池や制御ソフトといった電動化技術が世界の自動車業界で競争の焦点となってきた。トヨタ自動車はハイブリッド車(HV)で培った技術を燃料電池車(FCV)に応用する。ディーゼル車の排ガス不正問題に揺れる独フォルクスワーゲン(VW)は、電気自動車(EV)に開発の軸足を移すことを表明した。いずれの技術も本格的な普及には課題がある。「FCVは二酸化炭素(CO2)を排出せず、走行距離も長い。水素の充填にかかる時間もガソリン車並みだ」。14日の記者会見でトヨタの伊勢清貴専務役員はFCVがエコカーの本命になるとの見通しを示した。自動車大手ではホンダや米ゼネラル・モーターズ(GM)などもFCVの販売を計画している。水素ステーションの整備が本格的な普及のハードルとなっている。設置には1カ所当たりガソリンスタンドの約5倍に当たる5億円程度がかかる。日本国内の開設は2016年3月期までに100カ所程度にとどまる見通し。EVを手掛ける米テスラ・モーターズのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は「インフラ整備は難しい」と指摘する。EVはテスラや日産自動車が重点投資する。中国メーカーも開発に熱心だ。VWはイメージが悪化したディーゼル車に代わってエコカー開発の主軸に据えた。小型EV向けの新たな車台(プラットホーム)を開発し、複数のブランドで共用する。最上級セダン「フェートン」の新モデルはEVにする計画だ。そのEVにも課題はある。日産は12月「リーフ」の新モデルを発売する。1回の充電で従来より約2割長い280キロメートルを走行できる。それでも航続距離はガソリン車などに及ばないのが実情だ。販売地域も環境規制が厳しい米カリフォルニア州などに偏っている。各社は電池の性能向上に力を入れ一定の成果を上げているが、トヨタ幹部は「充電時間を短縮する技術のメドは立っていない」と指摘する。エンジンは約1世紀にわたり自動車の動力源の主役を担ってきた。しかし各地で強まる環境規制を乗り越えるには限界もみえてきた。各社はそれぞれの課題を解決するスピードが問われている。 PS(2015年10月23日追加):*11-1のように、自動運転技術開発が加速していることや、*11-2のように、レクサスなど燃料電池車の種類が増えるのはよいことだが、日本では、前者は提案してから5年、後者は20年以上経っており、「今頃、そんなことを言っているのか」と思われる。そして、電気自動車の方が仕組みが簡単であるにもかかわらず、*11-2に書かれているような「環境意識の高い消費者に高額の商品を売りつけ、環境に悪影響を与えているフリーライダーが低額の商品を使う」という考え方は、環境維持を必要条件とする21世紀において、あまりにも意識が低く、質が悪い。 また、*11-3のように、米電気自動車(EV)メーカー、テスラモーターズが革命的な家庭用蓄電池「パワーウォール」を開発したが、日本のメディアや展示会はこれを黙殺し、「日本の木造住宅だと壁をかなり補強しないと設置できない」などの欠点を挙げるだけで、工夫と改善でよりよいものにしていく気が感じられない。これでは、当然、駄目なのである。 *11-1:http://qbiz.jp/article/73004/1/ (西日本新聞 2015年10月18日) 自動運転車実用へ加速 走行安定、乗り心地も快適 異業種の開発参入続々 ハンドルやペダルを操作しなくても、車が勝手に目的地へ運んでくれる−。自動運転技術をめぐり、国内外の自動車メーカーや情報技術(IT)企業による技術開発競争が加速している。高速道路上の自動運転は数年内に実用化する見通しで、実現すれば人為ミス回避による安全性向上や渋滞緩和が期待される。完全自動運転の普及へ向け、法令の見直しなど官民による環境整備も本格化しそうだ。6日、トヨタ自動車が都内で開いた自動運転実験車の試乗会。「自動運転に入ります」。運転者がハンドルのスイッチを押す。両手をハンドルから離し、足をペダルから下ろした。それでも車は走り続け、首都高速道路の本線に合流。一般車も走行する約8キロのコースを、微妙な加減速を繰り返しながら走り切った。試乗した記者がひやりとさせられる場面は一度もなく、乗り心地は快適そのもの。車線変更まで自動でこなすことには驚かされた。高性能センサーなどを駆使して周囲の状況を把握し、人工知能がそれらのデータや高精度地図情報などを基に適切な操作を瞬時に判断するという。トヨタはこの日、東京五輪が開かれる2020年をめどに高速道路での自動運転技術を実用化すると表明した。いかなる状況でも正常な動作を保つ精度やコストに課題を残すというが、「手放し運転」が実現する日は遠くなさそうだ。 ●16年発売視野 自動運転をめぐっては、日産自動車が高速道路で利用可能な車の16年発売を目指しホンダも近い将来の商品化を視野に入れている。海外勢ではドイツ・アウディや米ゼネラル・モーターズなども開発に力を注ぐ。異業種からも参入が相次いでいる。ディー・エヌ・エー(DeNA)はロボット開発ベンチャーのZMP(東京)と合弁会社を設立、20年の自動運転タクシー実用化に向け、16年1月にも実証実験を始める。米IT大手のグーグルも、自社設計の自動運転車開発に本腰を入れる。「自動運転は、クルマの概念を根底から変える可能性がある重要な技術だ」(自動車メーカー幹部)。各社の開発競争は激しさを増している。 ●法整備は必要 自動運転技術は実用化済みの「運転支援機能」から「完全自動走行」まで四つのレベルに区分される。トヨタや日産が現在、高速道路で実用化を目指す技術は、運転者が必要に応じて操作するレベル2に相当。現行の道路交通法下でも導入できる見通しだ。民間調査会社の矢野経済研究所(東京)は、レベル2の車が20年に世界で360万台、30年には3155万台に増えると予測。緊急時以外は運転者が操作しないレベル3も実用化に向けた開発が進み、30年時点での普及台数は979万台に達するとみている。一方、道交法や国際条約では、自動車は「運転を制御できるドライバーが乗っている」ことが前提。レベル3以上では、この想定が根底から変わるため、事故の責任を負うのが運転者かメーカー側かなどについて法整備が必要。警察庁は月内にも、法律上の課題について検討作業を始める。さらに完全自動運転の普及には交通インフラの整備のほか、車同士の通信技術の高性能化や高精度地図の導入なども不可欠。関係企業が業態を超え、協調を求められる局面も出てくる見通しだ。自動運転車 IT技術を使ってハンドルやブレーキを自動で操作し、走行できるシステムを搭載した車。高性能センサーやレーダー、カメラなどで走行中の周辺状況をリアルタイムで把握し、人工知能システムが加減速や停止を判断し、操縦を担う。技術レベルが四つあり、最終的には運転者が運転に全く関与しない完全自動運転車の実用化が見込まれるが、センサーなどのさらなる技術開発が不可欠とされる。 *11-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20151023&ng=DGKKASDZ22HKZ_S5A021C1MM8000 (日経新聞2015.10.23)「レクサス」でも燃料電池車 トヨタ、20年メド販売へ トヨタ自動車は高級車ブランド「レクサス」で燃料電池車(FCV)を販売する検討に入った。東京五輪が開かれる2020年をめどに発売を目指す。レクサスは環境性能の高さが売り物で、最先端のFCVも用意しブランド価値を高める。トヨタは20年ごろにFCVの年間販売を3万台以上に増やすべく、次世代車は月産3千台に高める方針を部品各社に伝え始めた。現行のFCVは国内では1900店で扱っているがレクサス店でも扱い普及を加速する。トヨタは14年に発売した世界初の量産型FCV「ミライ」の後継車種開発に着手している。コストが低く造りやすい基幹部品を開発し同じものを両ブランド車に載せる。レクサスでは大型セダン「LS」にFCVを設定する案が有力だ。現行のミライは約720万円で、現行車種が約850万円からのLSでの価格は未定。レクサスは富裕層を顧客に抱え環境意識の高い消費者に訴える。次世代車では水素と酸素を反応させて電気を取り出す基幹部品「燃料電池スタック」に使う白金を減らし、水素漏れを防ぐ工程などを短縮し生産を増やす。 *11-3:http://diamond.jp/articles/-/78018 (週刊ダイヤモンド 2015年9月8日) テスラの家庭用蓄電池「価格破壊」の盲点 「革命的だ!」。突如、蓄電池市場に現れた黒船、米電気自動車(EV)メーカーのテスラモーターズの家庭用蓄電池「パワーウォール」(PW)に業界関係者たちは当初、拍手喝采した。破格的な安値で勝負してきたからだ。日本メーカーのそれは、1日の日中に使う電力を賄えるとされる容量5キロワット時なら100万円以上で、1キロワット時当たりおよそ20万円の計算だ。対してPWは7キロワット時で36万円。1キロワット時当たりわずか約5万円だ。テスラのイーロン・マスクCEOは5月にPWを発表。直後のドイツの太陽光関連展示会「インターソーラー・ヨーロッパ」では、実物大サンプルがお披露目された。7月の日本の展示会「PVJapan2015」でも披露が期待されたが、残念ながらEVだけ。担当者によれば、「日本では2016年以降の出荷予定だが、価格など詳細は未定」。日本市場への正式発表はまだ先となっている。それにしてもなぜこんなに安いのか。太陽光発電製品を扱う関係者の間では、「EV用に大量仕入れしたパナソニック製リチウムイオン電池のおかげ」との声が一般的。一方で、「シェア拡大のためのフラッグシップ製品で採算性を度外視」との見方もある。「設備投資の資金を金融機関や投資家から引き出すアドバルーン」だというのだ。もっとも、価格には、電力を直流から交流に変換するインバーターが含まれていない。これを含めると70万~80万円程度になるとみられる。EVとの併用ならカーポートへの設置が便利だが、「住宅に配線するなら電気工事費がさらにかさむ」(業界関係者)という。非常用電源や余剰電力の売電、省エネシステムとの組み合わせによる節電などで使える蓄電池。日本では国から導入補助金が出るが、蓄電池単体では導入費に対する金銭的メリットが小さい。太陽光パネルなどと一緒に導入するのが一般的で、なかなか普及していない。そこに革命児のごとくPWが現れるのだが、その安さは額面通りに受け止められそうにない。また、国内発売を心待ちにする業界関係者はある盲点に気付いてしまった。 ●木造住宅は補強が必要 従来の日本製は地面に基礎を打ち設置するが、PWは壁掛け式。故に簡易施工で場所も取らないというのが売り文句だ。製品仕様では、重量100キログラム、大きさは高さ130センチメートル、幅86センチメートル、奥行き18センチメートル。これほどのものを取り付けるとなると、「日本の木造住宅だと壁をかなり補強しないと設置できない」(前出の業界関係者)のである。このままでは補助金の対象にならないともされる。 *ドイツの展示会では実物大のサンプルが出展されたが、日本の展示会ではEVだけだった。 PS(2015年10月31日追加):上記や*12-1、*12-2のように、とっくに再生可能な自然エネルギーによる水素社会・電力社会という解を出して実現させているにもかかわらず、まだピンと来ず、ガソリンエンジンやロータリーエンジンを改良したり、火力か原発かという選択肢を振りかざしたりしている愚か者は、意思決定に関わらないのがBestだ。なお、*12-3の燃料電池船が市場投入されれば、①漁業者が燃油高騰で漁に出られないということがなくなる ②燃油に支払っていた金が地元で廻る ③港を油で汚さない など、地球環境以外にも多くの問題解決ができ、メリットが大きいのだ。 *12-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20151029&ng=DGKKASDZ28HUG_Y5A021C1TI1000 (日経新聞 2015.10.29) 未来のクルマ 楽・守・技、東京モーターショー、きょう開幕 トヨタ、燃料電池車を核に/ホンダ、欧米での展開視野 世界の自動車メーカーが出展する「第44回東京モーターショー2015」が29日、東京ビッグサイト(東京・江東)で開幕する。各社は燃料電池車(FCV)や自動運転など最新の技術を盛り込んだ車を披露し、環境性能や安全性を前面に打ち出す。「走る楽しさ」に軸足を置いた車も多く登場。先進国中心に車離れが進むなか、環境・安全を守る技術と楽しさを切り口に持続的な成長を目指す。28日の報道機関向けの事前公開ではFCVのお披露目が相次いだ。トヨタ自動車は高級車ブランド「レクサス」の旗艦モデルを想定したコンセプト車「LF―FC」を初公開。2014年末に発売した「ミライ」に続くFCVをレクサスでも20年以降に投入する考えを正式に表明した。今回のモーターショーには作った電気を他の自動車などに供給できるFCVのコンセプト車も出展。今後のエコカー戦略ではハイブリッド車(HV)に次ぐ柱として、FCVを推し進めていく立ち位置を明確にした。ホンダも初の量産型FCV「クラリティフューエルセル」を世界で初披露。16年3月から官公庁などへのリース販売を始め、増産体制が整った段階で市販する。水素と酸素を反応させる発電装置をホンダの従来のFCVより33%小さくし、大人5人が快適に座れるようにした。八郷隆弘社長はクラリティについて、「環境性能はもちろん、運転する楽しさや使う喜びも持つ」と述べ、欧米でも展開する考えを明らかにした。グーグルなどの異業種も加わり、新たな競争軸となった安全性能や自動運転の技術では日産自動車が20年以降の自動運転車をイメージしたコンセプト車「IDSコンセプト」を出展した。自動運転時にはハンドルを収納して車内スペースを広げるほか、人工知能(AI)を使って運転手の体調や気分を検知。最適なレストランを案内するといった機能も併せ持つ。富士重工業は独自の運転支援システム「アイサイト」を進化させた「スバル・ヴィジヴ・フューチャー・コンセプト」を出展した。高速道路での自動運転や自動駐車を可能とし、20年に量産車への搭載を目指す。吉永泰之社長は「スバルの自動運転はハンドルを無くすためのものではない。安心と楽しさを目的とする運転手のための運転支援技術だ」と述べた。20年をめどに高速道路での自動運転車の販売を目指すトヨタの豊田章男社長は「すべての人に運転の楽しさを提供するために必要な技術だ」と強調。そもそも運転が難しい高齢者や障害者でも自由に移動できるようにするため、従来より踏み込む開発姿勢を示した。クルマ本来の魅力である走りや運転する楽しさに焦点をあてた車の展示も目立つ。マツダは12年に生産を終了したロータリーエンジンを積むコンセプト車「RX―VISION(アールエックス・ビジョン)」を出展。ロータリーエンジンの力強い走りには中高年層を中心に根強いファンが多く、小飼雅道社長は「私たちの将来の夢を託した」と語った。ホンダは05年に生産を終えた「NSX」の新型車、トヨタも大きさが小型車「ヴィッツ」並みのスポーツカー「S―FR」を公開した。少子高齢化や若者の車離れを背景に国内の新車販売は1990年の777万台をピークに減少傾向にあり、14年は556万台まで落ち込んだ。各社とも最新の技術に磨きをかけると同時に感性に訴える車づくりで新たな需要の喚起を狙う。 *12-2:http://qbiz.jp/article/73925/1/ (西日本新聞 2015年10月31日) 【温室ガス削減】脱原発との両立に悩む日本 脱温暖化、脱原発 両立議論は不十分 11月末からパリで開かれる条約締約国会議(COP21)に向け、世界各国が既に公表した温室効果ガス削減目標を達成したとしても今世紀末の世界の平均気温は、国際目標の「2度未満」に抑えられないことが明らかになった。今後、先進国は一層の削減を発展途上国から求められる可能性が高い。ただ、日本の温暖化対策は福島第1原発事故の後、原発に対する是非論に議論が集中。脱原発と温暖化の防止をどう両立させるべきかについて議論が深まっているとは言えない。「(欧州連合に比べて見劣りする、日本の温室効果ガス削減目標に対し)強い批判が少ないのは、日本のエネルギーミックスの厳しい現状が理解されているからだ」。COP21のホスト国であるフランスの政府関係者はこう指摘する。「2030年までに13年度比で26%削減する」。この日本の削減目標については「不十分だ」と、国内外の非政府組織などから批判も出ている。ただ、やり玉に挙げられている、とまでは言えない。原発推進への国民批判が根強く、短期的には火力発電の依存を減らせないことへの世界からの「同情」とも取れる。電力業界の二酸化炭素(CO2)排出量は国内の約4割。九州電力によると、川内原発2基が1年間稼働すると、CO2を約900万トン削減できるという。原発ゼロ時の排出量から2割弱減らせる計算だ。政府も電力業界も、原発再稼働を削減の短期的な“切り札”と位置づけている。ただ、これには異論がある。東北大の明日香寿川教授(環境科学政策)によると、30年にエネルギー使用を10年比で3割減らし、再生可能エネルギーの電力比率を現状の10%余から35%に引き上げれば、原発なしでも欧州連合(EU)並みの排出削減は可能。原発比率25%を確保した場合と比べても、電気料金も大きく変わらないという。明日香教授は「中長期的に再生エネと省エネを進めれば、脱原発と温暖化防止は両立できる」と訴えている。 *12-3:http://www.asahi.com/articles/ASH874SV6H87ULBJ008.html (朝日新聞 2015年8月8日) 燃料電池船、走り出す 国内初、実証実験スタート 長崎県五島市沖で燃料電池船の実証実験が始まった。年内いっぱい、安全性や航行性能を確認し、実用化に向けた課題を洗い出す。燃料電池船は日本では初めてという。事業は環境省の委託で、戸田建設(東京都)が中心となって行う。漁船を想定した全長12・5メートルで12人乗りの小型船舶がモデル。450リットルの水素タンクを備え、燃料電池で発電した電気でモーターを動かす。速度は20ノット(時速約37キロ)で一般的な漁船並みだが、1回の水素燃料の補給で航行可能な時間は2時間とまだ短い。五島沖には環境省の委託で戸田建設が設置した浮体式洋上風力発電がある。ここで発電して余った電気を使い水素を作る実証実験も行われている。燃料電池船は、この水素を使っており、水素製造時も大気汚染物質や二酸化炭素(CO2)を出さない。戸田建設の担当者は「再生エネルギーで海を使わせてもらっている。燃料電池船を実用化して漁業者に喜んでもらいたい」と話している。
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2015,10,03, Saturday
世界大学ランキング 高校生事件 中一男女事件 2015.10.1 西日本新聞 (1)保育園・幼稚園・小学校教育について 唐津市は、*1-1のように、市町村合併後、幼稚園・保育園等の公立保育施設を統合・民営化し、認定こども園を開園するそうだ。民営化すると、保護者のニーズに素早く応えられたり、経営に長けていたりするが、経営のために保育士の待遇を悪くして幼児教育の質が落ちる場合もあるため、重要な時期に子どもに質の高い教育や保育を与えるためには、補助金でポイントを突いた配慮をする必要があろう。 なお、三養基郡上峰町の上峰小では、*1-2のように、インターネットを使って1対1の英会話教育を始めたそうで、その先進性は大変よいと思うが、①どうせ時間と費用を使うなら、将来のためには、上の世界の上位校に進学してもひけをとらない標準英語を教えるべきである ②言葉は3歳くらいまでが最もよく身につくため、認定こども園時代から始めるのがよい(早くから外国語を教えても、母国語に悪影響を及ぼすことはない) などが、私のアドバイスだ。 (2)全国学力テストの取り扱いと文科省の学力軽視の不思議 *2-1に、「全国学力テストにおける成績の扱いをめぐって混乱が続いている」と書かれているが、 国民の税金・時間・労力を使って全国学力テストを行う以上、学校毎の平均を公表して改善に繋げたり、生徒や保護者が学校を選択するための情報として活用させたりするのは重要なことである。 そのため、文科省の「学校間の過度な競争が起きるから市町村別や学校別の成績は公表しない」という指導はおかしく、生徒の学力向上を軽視しすぎであり、「あえて一部の生徒を欠席させるような不正が行われる可能性がある」というのは、「だから非公表にする」ではなく「そういうルール違反や不正を禁止する」という形で解決すべきだ。 しかし、佐賀県内市町の教育委員会は、*2-2のように、全国学力テストの結果について、武雄市、大町町、上峰町の3市町が学校別成績を公表し、学校に公表を指示する教委は8市町で、残る9市町は学校現場の判断に一任するそうだ。これは日本全国と比較するとよく取り組んでいる方だが、これでは、どこに住んでいても、また保護者の経済的状況が悪くても、公立校で十分に実態調査して改善された教育を受けられるという訳にはいかない。 もちろん、私も、「個人の学力は個人戦であり、団体戦ではない」と考えているが、学校としての努力や基礎水準は、被験者の平均や標準偏差を連続的に比較していればわかるため、統計に表れた数値から言えることと言えないことを正確に分析するという条件で、公表して比較すべきだと考える。 なお、武雄市は全国学力テストの学校別成績を公表しており、*2-3のように、市内の中学生が、こども会議で全中学校でいじめ追放に取り組むことを決めて6中学で「いじめ追放宣言」を作成するなど、自主性や積極性をもつまともな中学生が育っている。そして、よく言われる「“過度の学力競争(?)”は、性格を悪くする」などというのが虚偽であることを証明している。 (3)日本の大学教育について *3-1のように、各大学の教育環境、研究者間の評価、論文の引用数など5分野13項目の評価で決めた世界大学ランキングでは、上図のように、1位は米カリフォルニア工科大、英オックスフォード大、米スタンフォード大が続き、上位10校中9校を米英の大学が占めている。そして、日本の大学は、東大でもアジアで3位に留まるという結果になった。何故だろうか? 私は、これには、数年しか在籍しない大学のみではなく、幼児教育・初等教育・中等教育での勉学の積み重ねによって作られた基礎学力による人材の裾野の広さや理数系を嫌う最近の日本の“変な文化”が影響していると考える。つまり、日本でしか通用しないおかしな発想で安易な方向への教育改革を続けて来た文科省の責任が大きいと思うのだ。 そのような中、*3-2-1のように、佐賀大学は、芸術地域デザイン学部などの新学部を設置するとのことである。工学部を持つ大学が窯業を研究するからには、①より強い磁器 ②よりよい色を出せる釉薬 ③現代生活にあった機能 ④セラミック材料としての発展など、材料から用途までの再研究を期待する。 また、「幼小連携教育」「小中連携教育」「IC教育」などを行うと、前倒しで効率的に学べることが増えるため、その中で効果的な教育を行うための教科書再編成もしなければならない。さらに、佐賀県は農林漁業が盛んな地域であるため、これを近代化するための機械の開発、品種改良、養殖技術、冷凍・保存技術など、*3-2-2に述べられている新しい理工学部や農学部に期待されるものは大きい。 一方で、このようにして育てられた人材を雇用する企業集団である経団連は、*3-3のように、「文系と理系にまたがる『分野横断型の発想』で、様々な課題を解決できる人材が求められている」として、国立大学改革は国主導ではなく、学長のリーダーシップと大学の主体的な取り組みを最大限尊重するよう注文したそうで、その背景には、文科省の通知が「文系つぶし」と受けとられ、「経済界は文系はいらない、即戦力が欲しい」という報道もあったからだそうだ。しかし、即戦力か否かを問わず、論理性(主に数学・物理・近年は生物学によって養われる)や基礎知識のない人を選抜してマスプロ教育で次の知識を丸暗記させても、応用力が身につかず課題解決できる人材になれないため、私は、文系・理系を問わず、入試科目を増やし、特に文系は大学入学後の教育方法を見直すべきだと考えている。 (4)本当の人間性や希望を育まない教育は、何故、行われるのか? 私は、*4-1の事件について、殺す人はもちろん悪いが、中学生の星野さんと平田さんの年齢なら、勉強・スポーツ・規則正しい生活など、やるべきことが多い筈なのに、午前1時10分~5時10分頃、京阪寝屋川市駅前の商店街を往来しており、自分の身を守ったり、将来に向かって夢や目標を持って努力したりする意識がなく、とても変だと思った。学校・家庭・地域は、彼らにどういう教育を与えていたのだろうか? 叱ってでも、よい生活習慣を身につけさせる教育はなかったのだろうか? また、*4-2のように、深夜に中学生の男女が街をうろついていても、帰宅を促す人がいたり、巡回の警官が注意したりしないというのも変である。 また、これも驚いたのだが、*4-3では、高3の男子生徒が、前から自殺願望のあった高3の女子生徒(18歳)に頼まれて包丁で刺して殺害したそうだ。高3になっても、命の尊さをここまで勉強していないのだろうか? そして、その高3の女子生徒は「私は生きる価値のない人間だから死にたい」と日頃から言っていたそうだが、18歳で「生きる価値のない人間だ」と考えるとは、学校や家庭は、日頃から生徒に夢や希望やそれに基づく目標を持たせない誤った教育をしていたのではないのか? 表面的には優しそうに「気をつけて帰ってね」と声をかけても、生きる価値のない人間なら気をつけて帰る必要もなく、そう思わせるほど残酷なことはないのである。 <保育園・幼稚園・小学校教育> *1-1:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/229956 (佐賀新聞 2015年9月16日) 保育所民営化完了へ、唐津市・厳木3園統合 唐津市は15日の市議会全員協議会で、厳木町や肥前町の公立保育施設を民営化する方針を示した。北波多と八幡町の保育所は指定管理者制度に移行し、市町村合併以降進めてきた公立保育所の統合・民営化はほぼ完了する。厳木町では中島保育園、岩屋保育園、厳木幼稚園の3園(園児数計104人)を統合し、2018年4月に認定こども園を開園する。運営する民間事業者は本年度中に公募で決める。新園は既存3施設の中間点にある厳木幼稚園敷地内に設置する計画で、土地は市が無償貸与し、建物は事業者の負担で建て替える。肥前町では、切木保育所(30人)と高串保育所(26人)の既存施設を活用し、それぞれ17年4月に民営化。建物は市の負担で改修し、無償貸与する。北波多の若竹保育所(16人)と八幡町の若葉保育所(8人)は地元との協議で指定管理者制度に移す。鎮西町の加唐島保育所(2人)は離島対策で公立のまま存続、市教委所管の唐津幼稚園(47人)は検討中。唐津市では10年に相知町、11年に肥前町の入野、納所、星賀で統合・民営化を進めてきた。市立の保育施設や幼稚園は少子化で、定員に占める園児数が38%にとどまっていることも背景にある。香月隆司保健福祉部長は「行政改革の一環ではあるが、民間の経営ノウハウを生かすことで、子育て支援がよりきめ細やかになると考えている」と話す。 *1-2:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/227164 (佐賀新聞 2015年9月8日) 上峰小、ネットで英会話教育を開始、フィリピンの現地講師と 三養基郡上峰町の上峰小で7日、インターネットを使う1対1の英会話教育が始まった。6年生100人がパソコン画面を通じてフィリピンの現地講師から英会話を楽しく学んだ。外国語活動の授業で15分間を会話に充てる。パソコン室で児童はヘッドセットマイクを付け、音声映像通信サービス「スカイプ」を利用し、フィリピン・マニラにいる講師と画面上でやりとりした。互いに誕生日や好きなスポーツなど自己紹介した。英語が好きという川崎晴加さん(12)は「先生はすごく優しくて分かりやすかった。1対1で話すのが楽くて、もっとおしゃべりしたい」と笑顔で語った。矢動丸壽之教育長は「子どもたちの笑顔が何より。上々の滑り出しと思う。マンツーマンで会話量を増やすことで、英語でのコミュニケーションに自信を付け、学習意欲の向上につながれば」と期待を寄せた。英会話教育は、「教科・英語」が2020年に始まるのを前に、語学習得に不可欠な会話量を確保し、国際的に活躍する人材育成につなげる狙い。オンライン英会話サービス事業を展開する「レアジョブ」(東京)に委託し、外国語活動の計20コマで実施する。地方創生関連の国の交付金を活用し事業費は195万円。委託期間は来年3月まで。 <全国学力テストの取扱いと学力の軽視> *2-1:http://www.47news.jp/47topics/e/264590.php (47ニュース、共同通信 2015年4月21日) 成績扱いめぐり混乱続き 全国学力テスト 公表の在り方など、成績の扱いをめぐり、毎年のように混乱する全国学力テスト。今回も実施直前に、大阪府教育委員会が府立高入試への活用を決めるという、文部科学省にとって想定外の事態が発生し、同省は対応に苦慮している。1960年代に実施されていた学力テストは、学校間などの過度な競争が一因で中止になった。この教訓を踏まえ、文科省は2007年にテストを復活させた際、序列化を防ぐため、公表は都道府県別成績にとどめ、市町村別や学校別の成績は非公表とした。しかし、08年には大阪府の 橋下徹知事(当時)の要請で、府内の多くの市町が成績を明らかにした。その後も「学力向上には情報の開示が必要」「住民への説明責任を果たす」と、秋田県の 寺田典城知事(当時)や埼玉県教委、鳥取県教委、佐賀県武雄市教委などが市町村別、あるいは学校別の成績を相次いで公表してきた。結局、文科省は14年度調査から市町村教委が学校別成績を公表できるよう実施要領を改めたが、14年9月には静岡県の 川勝平太知事が、教委の同意を得ないまま市町別成績を明らかにした。文科省は実施要領にさらに手を加え、「結果の公表は教委の職務権限」とする、後手後手の対応を余儀なくされた。今回の実施に先立つ今月15日、大阪府教委は文科省を訪れ、成績の活用方針について説明した。「テスト本来の趣旨に反する恐れはない」と強調する府教委に、文科省は「あえて一部の生徒を欠席させるような不正が行われる可能性がある」と懸念を示している。 *2-2:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/222868 (佐賀新聞 2015年8月26日) 全国学テ学校別成績 武雄、大町、上峰が公表 25日に発表された全国学力テストの結果について、佐賀県内の市町教育委員会で学校別の成績を公表するのは昨年度と同じ、武雄市、大町町、上峰町の3市町になる見通し。学校に公表を指示する教委は8市町で、今回から小城市とみやき町が加わった。残る9市町は学校現場の判断に一任している。みやき町教委は昨年度まで、学校別の成績公表を指示せず、学校からの問い合わせに対し、どの程度の表現が許されるか助言していたが、結果的に町内全校が公表していた。今回はあらかじめ、「詳細な数字を出さず、県平均と比べてどうかなど言葉で説明するよう指示している」。同様に、今回から学校に公表を指示している小城市教委も、昨年度は校長会の決定を受けて市内全校が公表した経緯があり、実態に即した対応を取った。教委として学校別成績を公表する武雄市など3市町は「地域と一緒に教育施策を進めているので、地域にもデータを公表している」と説明する。一方、教委として公表を指示しない9市町は「学力テストは『個人戦』であり、『団体戦』ではないという見解だ。自治体や学校といった集団で比較すべきではない」(吉野ケ里町)、「1学年数人の小規模校もあり、公表は個人の学力開示につながりかねない」(伊万里市)などの理由を挙げた。市町別の平均正答率の公表についても、教委で対応が分かれている。 ■4月21日実施の2015年度全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の都道府県別結果や全問題と解答などの関連記事はウェブサイト「47NEWS」で公開しています。リンクはこちら。 *2-3:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/227161 (佐賀新聞 2015年9月8日) 武雄市6中学「いじめ追放宣言」作成 武雄市の中学生が市内6中学校で共有する「いじめ追放宣言」を作った。「心」「勇気」「絆」をキーワードに、思いやりや信頼でいじめに立ち向かう気持ちを表現した。6校の生徒会長が7日、小松政市長に宣言作成を報告した。市内の中学生は昨年夏のこども会議で、全中学校でいじめ追放に取り組むことを決め、1年間にわたって全校給食や集会での問題意識共有などの活動を続けてきた。 宣言はその集大成で、今夏のこども会議での活動報告を経て、6校の生徒会長で内容を練った。各校が持ち寄った文案からキーワードを決め、思いやりの「心」、立ち向かう「勇気」、友情を深める「絆」の思いで言葉をつないだ。この日は武雄中3年で生徒会長の古川陸さん(15)が宣言を読み上げ、「宣言を実践し、いじめのない学校を築きます」と宣誓した。小松市長と浦郷究教育長が「学校の枠を超えて宣言を作ったこと、具体的な行動を起こしていることに感動した。つらい思いをする人がいなくなるよう、一緒に頑張っていこう」と呼び掛けた。宣言は各校に伝え、いじめをなくす活動を支えていく。 ■いじめ追放宣言全文 一、「心」私たちは、相手の気持ちに寄り添い、思いやりのある行動をします。 一、「勇気」私たちは、正しい判断のもと見て見ぬふりをせず、いじめに立ち向かいます。 一、「絆」私たちは、お互いに認め合い友情を深め、信頼できる大切な仲間をつくります。 <大学> *3-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11994476.html (朝日新聞 2015年10月2日) 東大、アジア首位陥落 英誌、世界大学ランキング ランキングは各大学の教育環境、研究者間の評価、論文の引用数など5分野13項目の評価で決められた。ランキング1位は5年連続で米カリフォルニア工科大。英オックスフォード大、米スタンフォード大が続き、上位10校中9校を米英の大学が占めた。アジア2位は北京大(42位)、国内で東大に続いた京都大は昨年の59位から88位に沈み、アジア9位。日本から上位200校に入ったのは2校だけで、昨年入った東京工業大と大阪大、東北大は姿を消した。韓国トップのソウル大も昨年の50位から85位に後退した。同誌ランキング部門のフィル・ベイティ編集長は、「日本の苦戦と韓国の落胆が意味するところは、アジアの上位ランキングが流動的ということだ」と指摘した。(ロンドン=渡辺志帆) *3-2-1:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/223990 (佐賀新聞 2015年8月29日) 佐賀大、新学部設置で会見 ■芸術地域デザイン学部 「今後100年担う人材育成」 佐賀大学は28日、来年4月に新設する芸術地域デザイン学部と教育学部、教職大学院の概要と入試要項を発表した。会見で佛淵孝夫学長は、県立専修学校の有田窯業大学校(4年制課程)を統合した芸術地域デザイン学部について、「(来年の)有田焼創業400年にぜひとも合わせたかった。今後の100年を担う人材を育てる」と意欲を語った。ドイツ、オランダなどの芸術系大学との連携構想も持ち上がっており、留学生の派遣・受け入れを検討している。新学部は文化教育学部を改組して「芸術地域デザイン学部」と「教育学部」に再編する。窯業大学校の過程を4年制化として、「有田セラミック分野」に組み込んだほか、大学院も経済研究科と合わせて「地域デザイン研究科」を設置した。教育学部も教員養成機能を強化し、「幼小連携教育」と「小中連携教育」の2コースを設け、地域の教育課題解決に特化した人材育成を目指す。教職大学院開設は長崎大と福岡教育大が先行しているが、甲斐今日子文化教育学部長は「準備段階から県教委と連携し、学校経営に優れた手腕を発揮した校長経験者や現役で大学院の教壇に立つ先生など、実務家教員をそろえたのが特色」と強調した。会見に先立ち、佛淵学長は県庁に山口祥義知事を訪ね、新学部設置を報告した。山口知事は「地方創生への取り組みや、佐賀の素材を磨き上げるという県が目指す方向性を象徴するもので期待するところが大きい」と述べた。 *3-2-2:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/235826 (佐賀新聞 2015年10月3日) 学部改組、「教教分離」を促進 佐賀大学、宮崎学長が就任会見、地域貢献へ人材育成・研究 佐賀大学の宮崎耕治新学長(66)は2日の就任会見で、国が進める大学改革に呼応した理系人材の育成強化に向け、理工学部や農学部の理系学部改組をはじめ、教員組織と教育組織を分離することで学部の枠を超えて柔軟な研究・教育プログラムを可能にする「教教分離」などに取り組む考えを示した。文部科学省は国立大学の機能強化と改革促進策として、重点的に取り組む教育や研究内容によって大学を3類型に分類する方針。宮崎学長はそれを念頭に「佐賀大学は地域のニーズに応えて地域貢献や課題解決に取り組む方向性で運営する」と強調。学部改組や教教分離はその具体策で「学生に佐賀で学んだことに誇りを持ち、大きく変容していく社会に対応できる人材を育成していく」と意気込みを示した。来年4月に新設する芸術地域デザイン学部については「総合大学としての強みを生かし、芸術家育成だけでなく、デザインのセンスを持つ、デジタルアートを手がけることができる企業人を育てて学生の就職率アップにもつなげたい」とした。大学運営全体の方針としても「芸術的感性豊かな、多様性に富む、グローバルな視点を持った知の拠点を目指す」と抱負を語った。宮崎学長は佐賀市生まれ。九州大学医学部卒業後、95年に旧佐賀医科大学教授に就任。2008~14年に同大学附属病院長。09年から先月末まで副学長も務めた。 *3-3:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11956921.html (朝日新聞 2015年9月10日) 経団連、安易な文系見直し反対 国立大改革、文科省通知で声明 経団連は声明のなかで「大学・大学院では、留学など様々な体験活動を通じ、文化や社会の多様性を理解することが重要」と指摘。その上で、文系と理系にまたがる「分野横断型の発想」で、様々な課題を解決できる人材が求められていると主張した。また、国立大学の改革は国主導ではなく「学長の強力なリーダーシップ」で進めるべきだとも指摘し、政府は大学の主体的な取り組みを「最大限尊重」するよう注文した。経団連が声明を出した背景には、文科省の通知が「文系つぶし」と受け止められ、それが「経団連の意向」との批判が広がっていることがある。就職活動中の学生らに誤解を与えかねないとの懸念があった。榊原定征会長は9日、記者団に「『経済界は文系はいらない、即戦力が欲しい』という報道もあったが、そうじゃない。即戦力(だけ)を期待しているのではないということを改めて発信したかった」と説明した。文科省は6月、教員養成系や人文社会系の学部と大学院について廃止や転換を検討するよう全国の国立大学に通知した。文系を「ねらい撃ち」にした理由について、文科省の担当者は専門分野が細かく分かれた人文社会系学部の「たこつぼ化」を挙げる。社会で必要な課題解決力とコミュニケーション力を身につける教育や、地域の就職先など学生の将来を見据えた教育が不十分だという。ただ、2千人以上の科学者でつくる日本学術会議が7月に「人文・社会科学の軽視は大学教育全体を底の浅いものにしかねない」との反対声明を出すなど、現場の反発も強まっていた。そもそも「廃止という言葉が強すぎた」(大学関係者)との指摘もある。文科省は、通知は大学に改善を促すのが目的だとしており、「積極的に対応してほしいとのメッセージだ」と火消しに追われる。下村博文文科相も7月下旬の記者会見で「人文社会科学を軽んじているのでなく、すぐに役立つ実学のみを重視しているのでもない」と理解を求めた。 ◆キーワード <組織見直し通知> 文部科学省が6月、全86校の国立大に通知を出し、学部や大学院といった組織を見直すよう求めた。特に「教員養成系」や「人文社会科学系」の学部・大学院について、「見直し計画を策定し、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組む」とした。これが「文系軽視」と受け止められ、大学関係者らから反発された。国立大は6年ごとに「中期計画」を国に出す決まりで、通知は来年度から新計画となるのに合わせた措置だった。 <家庭・学校での指導> *4-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11927413.html (朝日新聞 2015年8月22日) 遺棄現場に容疑者の車 駐車場、遺体発見直前 大阪・中1殺害 行動を共にしていた2人に何が起きたのか。容疑者との接点は――。大阪府寝屋川市の中学1年、星野凌斗(りょうと)さん(12)とみられる遺体が見つかってから一夜明けた22日。同級生の平田奈津美さん(13)への死体遺棄容疑で逮捕された山田浩二容疑者(45)が否認しているとされる中、地元では悲しみと憤り、やりきれない思いが広がった。平田さんの遺体が見つかった13日、防犯カメラは平田さんと星野さんとみられる男女2人と山田容疑者や同容疑者の軽ワゴン車を各所で、断続的に捉えていた。被害者2人の姿と容疑者の車は、早朝の寝屋川市の駅前商店街の極めて狭い範囲でほぼ同時刻に映っており、その後2人の消息が途絶えた。星野さんは12日午後9時ごろ、母親に「平田さんのところに行く」と言って外出。約30分後、星野さんと平田さんとみられる男女2人が自宅近くのコンビニエンスストアで目撃された。翌13日午前1時10分~5時10分ごろ、京阪寝屋川市駅前の商店街を行き来する様子が断続的に防犯カメラに映っていた。カメラが最後に2人を映した直後、山田容疑者のシルバーの軽ワゴン車が商店街付近を行き来する様子が捉えられていた。午前6時半ごろ、平田さんの携帯電話から友人に携帯電話の無料通信アプリ「LINE(ライン)」で「今から星野君と京都に行く」というメッセージが送られた。府警は容疑者が平田さんをいつ連れ去ったのか不明としつつ、この通信が平田さんによるものか、別人の「なりすまし」によるものか、慎重に捜査を進めている。午後0時40分ごろ、山田容疑者の車は寝屋川市駅から約20キロ南の大阪府柏原市内のコンビニエンスストアに姿を現した。店内で粘着テープ2本を購入する山田容疑者自身の姿も捉えられていた。寝屋川市駅の駅前駐輪場に駐輪していた星野さんの自転車は、メーターの料金などから午後3時ごろに止められたとみられている。これは星野さん自身が止めたのか。高槻市の駐車場で遺体で見つかった平田さんの死亡推定時刻は午後7時ごろ。約3時間半後の午後10時25分ごろ、高槻市に接する枚方市の国道170号沿いのガソリンスタンドに軽ワゴン車が入り、山田容疑者に似た男が給油していた。その約10分後、高槻市の駐車場に不審な車が入り、午後11時10分ごろに駐車場から出る車も防犯カメラは捉えていた。後に不審車の所有者は山田容疑者と特定された。午後11時25分ごろ、寝屋川市の山田容疑者の自宅マンションのエレベーターに、同容疑者が乗り込んでいる姿も映っていた。高槻市の駐車場で平田さんの遺体が見つかったのは、その約5分後だった。 ■「容疑者、見たことない」 近所の人 山田容疑者は、平田さんや星野さんの自宅がある地域から北へ3キロほど、2人の足取りが途絶えた京阪寝屋川市駅前からも2キロほどの所に住んでいた。京阪香里園駅に近い12階建てマンションの最上階。だが、住人らには、ほとんどその存在が知られていなかった。同じ12階に住む女性は「おばあさんが手押し車を押して出てきたところを見たことはあるが、若い男は見たことがない」と話す。マンションの1階の集合ポストには同居する両親と見られる名前が書かれており、その横に「山田浩二」と手書きされた小さなシールが貼られている。だが、管理人の女性は、70代より上の年齢の夫婦だけが住んでいると思っていたという。「40代の男なんて見たことがない」と驚いていた。近所の女性によると、容疑者宅には20~30年くらい前から高齢の夫婦が住んでいたという。だが、同じ12階に2年前から住む70代の男性は、容疑者と見られる男の姿を見たのは一度だけだという。7月下旬から8月上旬のある朝、12階の廊下で、容疑者宅に住む高齢の女性といっしょにいる中肉中背の40代くらいの男と顔を合わせた。女性に「息子さんですか」と尋ねると、「はい、そうです」と答えた。男に「おはようございます」とあいさつすると、愛想良く「おはようございます」と返ってきた。そのままエレベーターでいっしょに1階まで降りてマンションの玄関で別れたという。 ■同級生「許せない」 平田さん葬儀 寝屋川市内の斎場では、午前11時から平田さんの葬儀が営まれた。平田さん、星野さんと同じ市立中木田(なかきだ)中に通う生徒や保護者ら百数十人が1時間近く前から訪れ、約80人が座れる2階の会場はいっぱいになった。平田さんと星野さんの同級生の男子生徒(13)は参列する前、「こんなことになって本当に残念です。許せない」と硬い表情で語った。2人の同級生の女子生徒は「とてもいい友達。今は悲しみでいっぱいです」と声を振り絞り、中学2年生の女子生徒(13)は「ひどい。でも、容疑者が逮捕されて少し安心しました」と話していた。午前11時40分ごろ、棺(ひつぎ)が霊柩(れいきゅう)車に納められた。すすり泣く声やおえつが斎場前に響き、ハンカチで顔を覆う生徒らの姿が見られた。正午前の出棺では、参列者が手を合わせ、平田さんに最後の別れを告げた。葬儀後、平田さんの同級生の女子生徒は「悲しすぎて、今は何も話せません」と涙をこらえていた。平田さんと星野さんが通っていた中木田中学校。容疑者の逮捕から一夜明けた朝は門が閉じられ、ほとんど人影はなかった。事件以降、クラブ活動の多くも休止しており、生徒の姿はなく学校関係者が時折出入りするだけだった。 ■柏原の遺棄現場、花手向ける人も 星野さんとみられる遺体が見つかった大阪府柏原市青谷の竹やぶには、22日朝も青いシートが張られていた。複数の捜査員が頻繁に出入りを続け、警察犬とともに現場を回ったり、草刈り機を使って遺留品の有無を調べたりしていた。竹やぶから数十メートル離れたところには一般人の立ち入りを規制するロープが張られた。その外側には近隣住民や報道陣が集まり、捜査員の動きを見つめた。午前10時半ごろ、近くに住む男性(55)が花を手向けに訪れた。男性は「二度とこんな事件が起こらないようにと思い、花を捧げました」と話し、手を合わせた。午前11時前には、遺体が発見された竹やぶ内の畑を所有する女性(76)が警察官に伴われ、現場の確認をしていた。 ■被害者と容疑者の足取り 【12日】 <午後6時ごろ>平田奈津美さんの在宅を家族が確認 <午後9時ごろ>星野凌斗さんが「平田さんのところに行く」と母親に言って外出 <午後9時半ごろ>2人とみられる男女が2人の自宅近くのコンビニエンスストア(大阪府寝屋川市)で目撃される 【13日】 <午前1時ごろ>平田さんの母親が帰宅。平田さんがいないことに気付く <午前1時10分~5時10分ごろ>京阪寝屋川市駅前の商店街に設置された防犯カメラに2人とみられる男女の姿が映る <午前5時すぎ>商店街付近の防犯カメラに山田浩二容疑者のワゴン車が行き来する様子が映る <午前6時半ごろ>平田さんの携帯電話から友人にLINEで「今から星野君と京都に行く」というメッセージが送られる <午後0時40分ごろ>山田容疑者が大阪府柏原市内のコンビニで粘着テープを購入 <午後3時ごろ>同駅前の駐輪場に星野さんの自転車が止められる <午後7時ごろ>平田さんの死亡推定時刻(死因は窒息死) <午後10時35分ごろ>大阪府高槻市内の駐車場にワゴン車が入る <午後11時10分ごろ>ワゴン車が駐車場を出る <午後11時25分ごろ>山田容疑者が自宅マンションに帰宅 <午後11時半ごろ>高槻市内の駐車場で平田さんの遺体が見つかる *4-2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11928841.html (朝日新聞社説 2015年8月24日) 中1男女殺害 防ぐ手立てなかったか 大阪府寝屋川市の中学1年の女子生徒(13)が殺された事件で、同市内の男(45)が死体遺棄容疑で逮捕された。一緒にいた男子生徒(12)も遺体で発見された。女子生徒は吹奏楽部でトロンボーンの練習に励んでいた。男子生徒は「人をたすける人になりたい」と小学校の卒業アルバムに書いていた。将来ある最愛の子を非道に奪われた家族の心痛は、察するに余りある。なぜ2人が狙われ、どんな手口で近づいたのか。同種の事件を繰り返さないためにも、警察は事件の解明に向け全力をあげてほしい。考えたいのは事件に巻きこまれる前に、被害に遭うのを防ぐ手立てはなかったかだ。防犯カメラには、事件前、2人が商店街を歩く姿が映っていた。深夜とはいえ、人通りも少しはあった。まだ幼さが残る男女だ。長時間、街をうろつく姿に、帰宅を促したり警察に連絡したりする大人がいなかったのか、悔やまれる。昔は面倒見のよい大人が地域にいた。人間関係が希薄になり、他人への干渉を避ける風潮が強まっていないだろうか。夏休みになると子どもは開放的になり、夜間の外出や、普段とは異なる行動パターンをとることも多くなる。学校の目も届きにくい。それだけ犯罪被害に遭う危険性が高まることを、大人がしっかり認識したい。身を守るすべを、子どもにも教えておくことが大切だ。昨年9月に小学校1年の女児が殺害された神戸市では、市教委が夏休み前、全小中学生に防犯チェックシートを配った。車の中から道を聞かれたら「車と距離を取る」「危険を感じたら車の進行方向と反対へ逃げる」など、具体事例ごとに家庭で話し合える内容だ。小学生向けの防犯対策はあっても、中学生になった途端、保護者も地域も油断しがちだ。警察庁によると、中学生の犯罪被害者数は昨年までの10年間、小学生を上回っている。最近は携帯電話を通じて犯罪に巻き込まれることも増えている。教育委員会や学校は、繰り返し注意を呼びかけてほしい。今回の捜査では、犯行時間の絞り込みや容疑車両の特定に、防犯カメラの映像が有力なツールとなった。一方、犯罪抑止の面では役割を果たせなかったともいえる。社会がどうカメラを使いこなすか、今後のカメラの設置のあり方を考える上でも、一つのきっかけになろう。 *4-3:http://digital.asahi.com/articles/ASH9Y6DVQH9YOIPE02W.html (朝日新聞 2015年9月29日) 高3男子「頼まれた」 三重女子高生殺害容疑で逮捕 三重県伊勢市の雑木林で、市内の高校に通う3年生の波田泉有(はだみう)さん(18)=同県松阪市=を包丁で刺して殺害したとして、県警は29日、同じ高校に通う3年生の男子生徒(18)=伊勢市=を殺人容疑で逮捕し、発表した。容疑を認め、「(被害者に殺害を)頼まれた。包丁は自宅から持ってきた」と説明しているといい、県警は証言や状況などから嘱託殺人の可能性もあるとみて当時の状況を調べている。県警によると、男子生徒は28日午後5時10分ごろ、伊勢市尾上町(おのえちょう)の「虎尾山(とらおやま)」の記念碑付近で、女子生徒の左胸を包丁のような刃物で刺して殺した疑いがある。午後9時45分ごろ、女子生徒の知人から119番通報があり、駆けつけた警察官が遺体を確認した。司法解剖の結果、死因は失血死だった。「(女子生徒に殺害を)頼まれた」。三重県警に殺人容疑で逮捕された高校3年の男子生徒(18)は、そう説明したという。自殺願望を口にしていたとされる高校3年の女子生徒と、男子生徒は28日も同じ同県伊勢市内の高校に通っていた。下校後の2人の足取りは分かっていない。女子生徒と同じ中学校の柔道部だったという少年は、高校に進んだ女子生徒が「自殺したい」と漏らしていると人づてに聞いた。別の少年によると、昨年、女子生徒は同級生の男子と川に飛び込もうとし、止められた。今年7月初めには同じ男子と行方が分からなくなり、5日後に見つかったこともあったという。 28日午後3時半、体育祭の練習が終わり、高校を出る女子生徒に、教頭が「気をつけて帰ってね」と声をかけると、にこっと笑ってこたえたという。殺害時刻は午後5時すぎとされる。「どこにいるの」。夜になり、女子生徒や、逮捕された男子生徒との連絡がとれないことを不安に思った友人らが、LINEを使って呼びかけた。県警によると、男子生徒がLINEに応じて居場所を伝え、同市内の現場に向かった友人らが、女子生徒が刺されているのを見つけた。同じ高校の生徒は、男子生徒が「殺してって言われたから殺した」と友人らに話したと聞いたという。女子生徒は、同県松阪市の住宅街に並ぶアパートの一室に暮らしていた。近くの住民は「近所のつながりはほとんどない」。女子生徒の姉は、取材に「私からお話しすることはできません」と涙声で話した。 PS(2015年10月4日):*5に書かれているとおり、将来、多くの仕事が自動化されるというのは本当だ。また、その時でも雇用されるためには、人間はロボットにはできないことができる必要がある。そして、変化に対応できる問題解決能力は“想像力”ではなく、広い知識と経験に裏付けられ、将来の見通しを持った創造力に依る。しかし、私が言うと「広い知識と経験に裏付けられ将来の見通しを持った創造力」ではなく、「空想に基づく想像力」と過小評価したがる人が少なからずおり、これはまさにジェンダー(社会的に作られた性差)に起因する女性蔑視で、私に対しては、的外れで失礼だ なお、「“生きる力”が大事」と言う人も多いが、この言葉を何回唱えても何の解決にもならず(問題解決できず)、 「“生きる力”を構成する要素は何で、それはどうやって育まれるのか」を分析して、教育や職場のオン・ザ・ジョブ・トレーニングでそれを育む必要があるのである(これは理系の発想か・・)。 *5:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/236085 (佐賀新聞 2015年10月4日) 子どもに問題解決力を 佐賀市で全国教育大会 全国教育大会佐賀大会が3日、佐賀市文化会館で開かれ、今後の教育の在り方を探った。人工知能とロボット工学の研究で仕事が変わる将来を見据え、子どもをどう育てるかを議論。変化に対応する想像力、問題解決能力などを身に付ける重要性を確認した。シンポジウムで佐賀大文化教育学部の上野景三教授は「10~20年後に47%の仕事が自動化される」とした教育再生実行会議の将来予測を紹介。弁護士や冠婚葬祭業など人が関わることで希少価値を生む仕事はなくならないとし、社会の流動化に耐える「想像的思考力」を育むよう提言した。多久市の中川正博教育長は読書離れが進み、想像力が低下傾向にあると指摘し、読書の習慣化を求めた。佐賀市PTA協議会元副会長の江頭和恵さんは、子どもを地域行事に参加させた体験を基に、「出番や役割を与えて認めると、自信につながる」とした。コーディネーターの富吉賢太郎佐賀新聞社編集主幹は「教師も知識を教えるだけでは、機械に取って代わられる。生きる力こそ大事で、栄養豊かな時代の空気をつくるのは大人の責任」とまとめた。大会は日本教育会が開き40回目。県内では初めての開催で、全国の学校関係者約880人が参加した。 PS(2015年10月6日追加):確かに、そのことが好きで上手な人から習うと、面白かったり興味がわいたりするので、服飾専門学校生が小学校や学童保育でミシンを使った縫物を教えるというのは、よいアイデアだ。自分や家族が使うアップリケ付の手提げ袋を作ったりすると、さらに面白いだろう。 *6:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10105/236443 (佐賀新聞 2015年10月5日) 専門学校生が先生役 うつぼ木小5年生、ミシン上手に 唐津市桜馬場の服飾専門学校「モードリゲル」の高等課程1年生5人が1日、同市厳木町のうつぼ木小を訪れ、本年度からミシンを習い始めたばかりの5年生児童15人の“先生役”を務めた。この日はクリスマスツリーをあしらった壁掛けづくりに挑戦した。児童たちは、緑と茶色のフェルトでかたどった「ツリー」と「植木鉢」をミシンで布に丁寧に縫いつけた後、色とりどりのデコレーションで飾りつけた。専門学校生は作業の様子を見守りながら、手本を見せたり、アドバイスした。小川珠雅君(10)は「角を縫う時にまち針で止めて外れないようにすることを教えてもらった。教え方が優しくて覚えやすかったし、上手にできて良かった」と話していた。専門学校生の小学校訪問は今回が初めてで、本年度中に6年生にもバッグや小物入れづくりを指導する予定。モードリゲルの前田洋子教諭は「子どもたちがものづくりに興味を持ってくれたら」と話していた。 PS(2015年10月7日追加):TPPによって大きな経済圏ができれば、大まかに言って、その経済圏の中では、これまで国内でやっていたのと同じ条件の競争を行わなければならない。そのため、その経済圏内での競争は激しくなり、これまでよりも比較優位の製品に特化した産業への産業の選別が行われることになるが、私は、国として、それではよくないと思っている。何故なら、環境、安全、食料自給率、産業構造、社会保障等の目的で、規制・税制・保険等によって国毎に行ってきた政策が禁止され、国が行うべき設計をTPP経済圏の市場に任せて放棄することになるからだ。さらに、日本の方が比較優位が高いとされる自動車も、20年以上前から現地生産が進んでいるため、さほど輸出増に繋がるとは考えられず、逆に環境規制の強化によって日本車の進歩を進めてきた規制は経済圏の規制に揃えられる。なお、伊万里焼・有田焼については、今まで関税が高いことが原因で輸出していなかったわけではないため、輸出拡大には、相手のニーズをとらえる製品を作って輸出するという意志を持って販売戦略を展開すればよいが(中国はじめTPP圏外でも売れそうだ)、農業については、比較優位がないため衰退する可能性があり、それで食料自給率や日本の基盤が保てるかどうかが重要な問題なのである。(*これを書くには、経済学、経営学、税制、環境、生物学、歴史などの知識と数学で培われた論理性を使っている) *7:http://qbiz.jp/article/72264/1/ (西日本新聞 2015年10月7日) 九州の産業界「海外展開に有利」 TPP、中小の利点は不透明 TPP大筋合意を受け、九州を含む産業界では、関税撤廃などを通じて海外展開の追い風になると歓迎ムードが広がった。影響は広範囲に及ぶが、政府が強調する「中小企業への利点」はまだ読みきれない。日本自動車工業会の池史彦会長(ホンダ会長)は「米国やカナダなど重要な市場との経済連携の枠組みが築かれる」と評価。九州でも、トヨタ自動車九州(福岡県宮若市)は海外向けが約9割で「トヨタ自動車本体を通じて米国などTPP参加国の大半に輸出している」としており、関税撤廃は好材料だ。海外向け生産台数が増えれば部品の需要も増えるため、トヨタ九州などと取引がある戸畑ターレット工作所(北九州市)は「どれだけ生産増になるかは読めないが、プラスには働くはず」と期待する。ただ完成車の関税撤廃は米国(2・5%)が25年後、カナダ(6・1%)が5年後などで、目先の効果は見込めない。即時撤廃となる部品の関税にしても「海外での現地生産が一般化しているので、輸出の増加にはつながりにくい」(部品メーカー)。どれだけ恩恵が広がるかは不透明だ。 ■ ■ 日本、九州の強みを伸ばせる分野は他にもある。安倍晋三首相は6日の記者会見で、日本の伝統工芸品の輸出例として九州の陶芸品を挙げた。伊万里焼の窯元、畑萬陶苑(佐賀県伊万里市)の畑石真嗣社長は現在、フランスに輸出しており、TPP参加国との取引はないが「今後関税なしで取引できるようになれば販路拡大につながるかもしれない」と期待を示した。日本食や映像といったコンテンツ産業などの輸出強化を掲げる九州経済連合会の麻生泰会長は「今回の合意は輸出拡大の好機。九経連としても輸出拡大に向けた環境づくりを最重要課題として取り組む」とした。TPPには、海外進出の際にトラブルとなることが多い知的財産の保護や外資規制の緩和も盛り込まれた。北部九州でアジア進出支援を手掛ける弁護士は「東南アジアなどは不透明な法の運用がまだ多く、TPP発効後に少しでも改善すれば中小企業の進出リスクが減る」と期待する。輸入牛肉などの関税が引き下げられるため、外食関連業界も注目。西日本を中心に業務用食材を卸販売するトーホー(神戸市)は「外食向けに販売している牛肉や豚肉の価格が下がる可能性はある」と話した。一方、国への注文も相次いだ。福岡商工会議所の礒山誠二会頭は合意を歓迎した上で「国には、中小企業の国際競争力強化やTPPがもたらす地域経済への影響を克服するための対策を求める」と要望。福岡市を訪れていた日本商工会議所の三村明夫会頭も6日の記者会見で「政府はこれまで交渉の詳細を明かさなかったが、今後は詳細を中小企業に周知徹底させることが重要だ」と指摘した。 PS(2015年10月9日追加):民主主義の日本国憲法下では、議員は主権者である国民が自らの代表として選んだ人であるため、選ばれた政治家の行動結果については国民が責任を持たなければならない。しかし、実際には、官僚(もともと天皇の官吏)が必ずしも国民のためにはならない発想で作った政策を、国会議員が「与党の責任」として決めている形式的民主主義になっていることが多く、それでも国民は、補助金等でカムフラージュされれば判断に迷ってしまう。なお、形式的民主主義の下では、国民を「依らしむべし、知らしむべからず」の状態にしておけば監視機能を発揮できないため、スポーツや仕事に没頭して政治のことは考えない国民が最も都合がよいのである。 そのため、主権者である国民は決してそうであってはならず、*8-1のように、主権者教育で自ら考える有権者を育てるのは大切なことだ。また、「政治的中立」については、身近なテーマ(例えば「保育」「医療・介護」「環境」「地域振興」など)について、事実関係やそれに関する与党と野党の見解を記載した資料を配った上で、考え方を教え、高校生自身がディスカッションしながら自分たちで考えるのがよいと思う。なお、選挙権が18歳以上に引き下げられるのであれば、多様な考え方の人がいるのを理解した上で、自分自身はどう判断するのかを自ら考える力も必要である。 しかし、*8-2のように、男性政治家のみが、ばりばり活躍する政治家であるかのように表現するのは、高校生にジェンダー(社会的に作られた性差別)に基づいた女性蔑視を擦りこむことになり、国会議事堂の4つ目の台座には本当に実績ある女性首相を立てたい時代の教科書として70年古いと思う。 *8-1:http://www.saga-s.co.jp/column/ronsetsu/237732 (佐賀新聞 2015年10月9日) 主権者教育、自ら考える有権者を 選挙権年齢が「18歳以上」に引き下げられたことを受け、総務省と文部科学省は高校生の主権者教育に活用する副教材を作成した。18歳選挙権は来年夏の参院選で初めて適用される見通しで、現在の高校3年生全員と2年生の一部が有権者になる。学校現場に負担はかかるが、政治、社会への関心を高める契機にしたい。主権者教育の一環として新たに作られた副教材「私たちが拓く日本の未来」は、12月までに全ての高校生に配布される。約100ページで、解説編、実践編、参考編の3部構成。「公民」などの授業での活用が想定されている。総務、文科両省のホームページでも公開されているが、全体としてはよく編集されていると感じた。解説編では、政治に参加する意義や選挙、政治の仕組みなど基本的な事項が分かりやすく説明されており、大人が読んでも役立つ内容になっている。あらためて確認する意味でも一度、目を通してはどうだろうか。昨年12月の衆院選の投票率は全体で52・66%。年代別(抽出)にみると、最も高い60代が68・28%に対し、20代は32・58%で、2倍以上の差がある。これを人口推計に基づいて試算すると、60代の投票数は1240万票、20代は420万票と3倍近い開きになる。副教材ではこうしたデータも示し、若者の投票率が低くなると、若者の声が政治に届きにくくなり、その結果、若者に向けた政策が実現しにくくなったり、実現するのに時間を要したりする可能性があると指摘している。政治に緊張感をもたらすのは有権者の「一票」であり、新たな有権者の誕生が若い世代の投票率アップのきっかけになればいい。副教材は、実践編が全体の6割を占め、話し合いや討論の手法から模擬選挙、請願書作成、模擬議会などまで盛り込まれている。通常の授業や就職活動、大学受験などもあり、学校現場で全てを実践するのは難しいだろうが、有権者となる下地づくりに向けて前向きな取り組みを期待したい。県内では、北陵高校が生徒会長選挙の機会を活用して、実際の選挙規定に沿った模擬投票を実施。鳥栖青年会議所も模擬選挙の体験会を企画した。こうした試みが広がれば、選挙や政治がより身近に感じられるようになるだろう。一方で、教員向けの指導資料では政治的中立の確保に留意するよう強調され、「学校現場が萎縮するのではないか」という声も聞かれる。ただ、常識を持って対応すればよく、過剰に意識する必要はないのではないか。「政治的中立」という立場も含めて学習の材料にすればいい。学校での学習を基に、日常的に新聞やテレビなどで情報を得て、自ら考える有権者を育てていきたい。 *8-2:http://hi.fnshr.info/2015/10/04/hiraku-mirai/ 高校生向けの有権者教育の副教材に載っている政治家は男性だけ ●概要 文部科学省が作成・公開した『私たちが拓く日本の未来』という高校生向けの有権者教育の副教材に載せられている挿絵で、政治家はすべて男性として描かれている。 <中略> ●描かれたのは男性政治家のみ この『私たちが拓く日本の未来』には、挿絵がいくつか載せられている。挿絵が載せられているのは、読者が読みやすくするためだろう。挿絵の中で、政治家を描いたものが4つある。この4つの挿絵のすべてで政治家は男性として描かれている。「議員の活動」という節に書かれたイラスト。このイラストの主役になっている国会議員は男性である。右上部分に書かれている政党の会議や国会の委員会のイラストには女性議員らしい人も描かれているが、あまり目立たない。日本は国際的に見て女性議員が少ない。このことを問題視している人もいる。そういった中で、政治家の挿絵として男性しか載せなかったのは、非難される可能性がある。たかが挿絵であると言えばそうなのだが、有権者教育ということを考えると、1つぐらい女性政治家をメインにした挿絵があった方がよかったかもしれない。せっかくの副教材なので、こういったことで画竜点睛を欠いたことは残念である。 PS(2015年10月11日追加): *9では、40代以上の関心は「医療・福祉」が1位であることまで含めて、主権者は自分と家族に関係のある身近な課題解決(政策)に関心が高いことがわかる。そのため、私は、まず関心を持つ人が集まって多面的に検討し、それを全体で議論して進めれば、それによって本当に必要とされている財やサービスが提供されることになり、本物の経済成長や行財政改革にも繋がると考える。にもかかわらず、これまで、保育・教育・介護等の分野が疎かにされてきたのは、それを担当しているのが家庭にいる女性で、為政者や意思決定権者は家庭のニーズを知らない男性だったため、本当のニーズを把握できなかった(もしくは把握しようとしなかった)からだろう。 2015.10.11佐賀新聞 2015.1.21日経新聞 2015.1.29西日本新聞 *9より *9:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/238406 (佐賀新聞 2015年10月11日) 力を入れてほしい分野 若い世代は「少子化」「教育」、2015県民世論調査 県政で力を入れてほしい分野(二つまで回答)は、「医療・福祉」が36・0%と4年連続で最も多かった。「企業誘致・産業」(28・0%)、「少子化対策」(25・8%)、「景気・雇用」(25・5%)の順に続く。年代別では、40代以上の世代がいずれも「医療・福祉」が1位を占めた。20代は「少子化対策」(40・5%)、30代は「教育」(36・9%)がトップと、若い世代は身近な課題解決を求める傾向が見られた。職業別では、主婦や公務員、団体職員で「医療・福祉」の優先順位が高く、学生と公務員では「教育」を求める声が強い。「企業誘致」は会社員や商工業・自営、学生で多かった。地域別では、第一次産業が盛んな藤津郡で「農林漁業」が71・4%、神埼郡は「景気・雇用」が63・6%と突出している。鳥栖市は「景気・雇用」が比較的低い代わりに、「行財政改革」が高率だった。 *下の「続き▽」をクリックすると、教育の目的や理念が記載された「教育基本法」が出てきます。 続き▽
| 教育・研究開発::2014.8~2016.11 | 04:10 PM | comments (x) | trackback (x) |
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