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2016,08,31, Wednesday
ドクターヘリ(埼玉県) ドクターヘリ(神奈川県) ドクターヘリ(宮崎県) ドクターヘリ(沖縄県) 電線が危険 ドクターヘリの ドクターヘリの関東での広域連携 パイロット不足 熊本地震での 出動状況(群馬県) 2015.7.22公明新聞 高速道路通行止め *1-3より (*パイロットは、自衛隊をリタイアした 経験者に研修すればいいのでは?) (1)ドクターヘリについて 私が衆議院議員をしていた2005年~2009年の間に地元佐賀三区で有権者の意見を聞いて廻ったところ、特に離島の人に医療へのアクセスに関する心配が多かったことや、いざという時には誰でも短時間で先端医療にアクセスできるようにしたかったことから、前半の2006~2007年に、*1-1のドクターヘリによる救急医療体制を作った。 しかし、*1-2のように、福岡、長崎両県のヘリを共同運航してきて、佐賀県独自のヘリが導入されたのが2014年1月というのは、佐賀県が他県に一方的に頼っており情けない。 また、*1-2によれば、ドクターヘリが要請を受けたにもかかわらず出動できなかったケースが49件あり、その理由は、①要請の重複14件 ②時間外11件(運航時間:午前8時半~日没30分前まで) ③天候不良10件だったそうだ。 このうち①はヘリ不足で仕方がないとはいうものの、*1-4で国立病院機構長崎医療センター救命救急センター長の髙山氏が提言されているとおり、北関東のように、まず他県と広域連携してこのようなことが少なくなるようにするのがよいと考える。 ②③については、晴れの日の昼間以外は危険だから飛べないということで、それはヘリの操縦が人の視界のみに頼っているからだろうが、航空機だけでなく自動車でさえ自動運転できる時代に遅れている。また、フライトドクターやフライトナースはヘリに乗っている時間に比例して墜落に遭遇するリスクも高くなり、ドクターヘリに乗る重篤な患者はじめ乗る時間が長くなるドクターやナースにもヘリの振動や騒音は身体に悪いため、ヘリの性能を向上させるべきである。 さらに、*1-3のように、ドクターヘリは災害時に「隠れた医療ニーズがあった」と、熊本地震の道路状況が悪くなった地域で災害医療派遣チーム(DMAT)の一員として活動し、患者の受け入れやその後の支援活動で指揮を執った久留米大病院高度救命救急センター教授の山下氏が証言しておられる。 このように、ドクターヘリを使った医療システムは、比較的少ない拠点病院と少ない医師で広域をカバーできるため、ドクターヘリを使う広域医療ネットワークを構築すれば、最も安あがりで高品質の医療システムをつくることができるだろう。そして、それは、日本国内だけでなく、アジア・アフリカのように離島や山間部が多く医師の数が少ない地域で必須アイテムになると思われる。 (2)再生医療について 2014.10.24日経新聞(癌治療) 毛髪の再生医療 皮膚の再生医療 私は、1995年前後にJETROが開いた会合で、ヨーロッパのDNAに関する研究成果に触れる機会があり、遅れていた日本での再生医療の可能性について通産省(当時)に言って進めた経緯がある。そして、衆議院議員をしていた2005年~2009年の間に、日本は、文科省・厚労省・経産省が協力して再生医療の研究と産業化を進める体制になった。しかし、その後、日本では、iPS細胞以外は再生医療と認めないようなところがあったため、iPS細胞以外では外国に抜かれたように思う。 つまり、新しい研究をしている時には何が成果を上げるかわからないため、既にノーベル賞をもらったか否かにかかわらず、あらゆる可能性を排除せずに筋の良いものは残してバックアップしていくべきで、国内で邪魔されながら世界で勝つことなどは到底できないということを、政治家も官僚もメディアも肝に銘じておくべきなのだ。 1)免疫療法 小野薬品は、*2-1のように、免疫を使って癌細胞を攻撃する新たな治療薬「抗PD―1抗体」を実用化したが、仕組みがわかってから治療薬候補が完成し治験が始まったのは、米国で抗PD―1抗体の治験が始まった2006年からで、開発から実用化までに15年もかかっており、その間に亡くなった方は多い。また、メルク、ロシュなども、既に同じ仕組みの抗PD―1抗体の治験を拡大している。 しかし、厚労省は、今でも公的医療保険が適用される標準治療は、外科療法(手術)・放射線療法・化学療法(抗癌剤)として免疫療法(http://camiku.kyushu-u.ac.jp/about/clinic/immune-cell-therapy 参照)は公的医療保険外というスタンスをとっている。この鈍さも、チャレンジして研究開発した先端企業にロイヤルティー収入を得にくくして、日本を研究開発に向かない国にしているのだ。 2)幹細胞を利用した再生医療 再生医療に利用できる細胞には幹細胞もあり、加工していない本人の細胞であれば、自らの免疫で攻撃されることがなく癌化もしないという意味で、他人の細胞やiPS細胞を使うより優れている。 そのような中、*2-2のように、「外傷性脳損傷」の患者に加工した他人の骨髄由来の幹細胞(細胞医薬品)を脳に直接注入して機能回復を試みる治験を東京大病院が近く始め、これは米国では先行して進められて脳梗塞患者の治験で運動機能や言語機能の向上が既に報告されており、回復が難しい脳損傷の新たな治療法になるそうだ。 この幹細胞は、健康な他人の骨髄から採取した間葉系幹細胞を加工・培養したもので、移植した細胞は、約1カ月で脳内から消えるそうだ。米スタンフォード大などの研究チームが、この医薬品の安全性確認のために脳梗塞患18人に実施した治験結果を米医学誌に発表したが、それによると、ほぼ全員の運動機能が回復して目立った副作用はなかったとのことである(すごい!)。 そのほか、外国では自分の脂肪由来の幹細胞で脊髄損傷を治したという報告もあったが、*2-3のように、日本では札幌医大が幹細胞で脊髄損傷を治療する国内初の治験をしており、これを適用すると自民党の谷垣元幹事長の頸髄損傷も治すことができそうだ。 つまり、何にでも分化できる幹細胞はKeyであり、保険適用にして治せば患者の福利が増すのはもちろんのこと、介護がいらなくなり社会復帰できるため、社会全体では医療・介護のコストが節減できる。 3)毛髪・皮膚・心臓の再生医療 i)毛髪の再生 命にかかわる病気ではないが、*2-4のように、京セラが理研と組み、患者から採取した健康な毛髪細胞を加工・増殖して患者に移植し、毛髪再生装置の試作機を開発するそうだ。事業化には細胞の精密加工技術や大量に培養する量産技術が必要で、これは日本のお家芸だ。毛髪の再生医療も公的保険が適用されない自由診療での実用化になるそうだが、この需要は多いと思われる。 ii)肌の若返り *2-5のように、自分自身の肌細胞を採取し、抽出して培養したものをシワやたるみなどが気になる部位に注射器で移植する「肌の再生医療」もあるそうで、実用化されれば需要は多いだろう。 iii)ハートシート 実用化された再生医療製品では、テルモの心不全治療に使う「ハートシート」の標準治療価格が1400万円強と高かったところ、保険適用となって患者の自己負担は治療費の1~3割で済み、高額療養費制度の対象にもなるそうだ。そして、これも数を多く生産すればコストが下がることは間違いない。 4)iPS細胞を利用した再生医療 iPS細胞は、*2-6のように、皮膚や血液の細胞から作れる万能細胞で無限に増え、体の様々な種類の細胞に変化できるが、移植した細胞が狙った細胞に変化し損なって腫瘍(=癌)になる危険がある。日本眼科学会総会は、「安全性に関するエンドポイント(評価項目)は達成した」としており、国もiPS細胞を全面的に支援しているが、心臓シートや角膜シートは自分自身の他の細胞からすでにできているため、リスクとコストをかけてiPS細胞から作成しなければならないかについて、私は疑問に思う。 (3)ワクチン *3のように、「第4のがん治療法」とされる癌ワクチンによる治療の実用化を目指す研究・診療拠点「久留米大癌ワクチンセンター」が開設から1年を迎え来院する患者も増加傾向で、中国等の海外からも患者が来ているそうだ。ワクチンは、それぞれの患者に適した四つのワクチンを選んで投与する「テーラーメード」や進行癌の患者に20種類のワクチンを混ぜて早期に打つ方法も進んでいるとのことである。 私は、虫歯や歯周病も口内の雑菌に対する抵抗力を高めればよいため、ワクチンで予防できるのではないかと考える。 (4)予防の重要性 *4-1のように、クボタやヤンマーが農業用のドローンに参入するという記事がある。私は、技術革新、省力化、コスト削減を同時に可能にするドローンに反対するつもりはないが、ドローンが墜落してプロペラが人に当たれば、身体がばっさりと切れてしまうことは間違いなく、それからでは再生医療を使っても回復できないケースが多くなる。そのため、通りがかった人や農業者の事故を防ぐように、ドローンはプロペラが人に当たらない徹底した安全設計にすべきだ。 また、*4-2のように、自動車が公道で無人運転できたり、ドローンで設備点検したりするとのことだが、事故時の自動車の壊れ方も乗っている人を護れるものではない。さらに、ドローンでの設備点検時には労災が起こりそうである上、第三者も巻き込まれることがあるため、事故が起こって犠牲者が出てから「想定外でした」と言うのではなく、事前に安全第一の設計にすべきである。 <ドクターヘリ> *1-1:http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H19/H19HO103.html 救急医療用ヘリコプターを用いた救急医療の確保に関する特別措置法 (平成十九年六月二十七日法律第百三号、最終改正:平成二三年八月三〇日法律第一〇五号) (目的) 第一条 この法律は、救急医療用ヘリコプターを用いた救急医療が傷病者の救命、後遺症の軽減等に果たす役割の重要性にかんがみ、救急医療用ヘリコプターを用いた救急医療の全国的な確保を図るための特別の措置を講ずることにより、良質かつ適切な救急医療を効率的に提供する体制の確保に寄与し、もって国民の健康の保持及び安心して暮らすことのできる社会の実現に資することを目的とする。 (定義) 第二条 この法律において「救急医療用ヘリコプター」とは、次の各号のいずれにも該当するヘリコプターをいう。 一 救急医療に必要な機器を装備し、及び医薬品を搭載していること。 二 救急医療に係る高度の医療を提供している病院の施設として、その敷地内その他の当該病院の医師が直ちに搭乗することのできる場所に配備されていること。 (救急医療用ヘリコプターを用いた救急医療の確保に関する施策の目標等) 第三条 救急医療用ヘリコプターを用いた救急医療の確保に関する施策は、医師が救急医療用ヘリコプターに搭乗して速やかに傷病者の現在する場所に行き、当該救急医療用ヘリコプターに装備した機器又は搭載した医薬品を用いて当該傷病者に対し当該場所又は当該救急医療用ヘリコプターの機内において必要な治療を行いつつ、当該傷病者を速やかに医療機関その他の場所に搬送することのできる態勢を、地域の実情を踏まえつつ全国的に整備することを目標とするものとする。 2 前項の施策は、地域の実情に応じ次に掲げる事項に留意して行われるものとする。 一 傷病者の医療機関その他の場所への搬送に関し、必要に応じて消防機関、海上保安庁その他の関係機関との連携及び協力が適切に図られること。 二 へき地における救急医療の確保に寄与すること。 三 都道府県の区域を超えた連携及び協力の体制が整備されること。 (以下略) *1-2:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/242909 (佐賀新聞 2015年10月25日) 県ドクターヘリ出動322件 隣県依頼時から倍増、導入1年目 佐賀県のドクターヘリは昨年1月の導入開始から1年間で322件出動した。導入前の福岡、長崎両県のヘリに出動依頼していたころに比べ、2倍近くに増えている。基地病院の佐賀大学医学部附属病院は「ヘリでなければ救えなかったケースもあり、県内の救急医療レベルが向上した」としている。佐賀県独自のドクターヘリは昨年1月17日に運航を開始した。佐賀大病院だけでなく、連携病院として県医療センター好生館からも週2日離着陸している。佐賀大病院救命救急センターによると、現場で対応したうち、ただちに医療介入しなければ危ない重篤患者は10%、生命に関わる可能性がある重症が37%、中等症43%、軽症10%だった。センターは「厳しく見積もっても、ヘリだからこそ助けられたケースが10%はあった」とみている。唐津市七山で発生したバイクの単独事故で運転していた男性は多発外傷で大量に出血していた。佐賀大病院から救急車では片道50分ほどかかり、ヘリでなければ助からなかったとみられるケース。ヘリは要請から5分程度で近くの休耕田に着陸し、救命措置を施しながら搬送した。男性は歩けるほどに回復したという。出動要請のあった消防別にみると、杵藤地区が最も多く116件、次いで佐賀地区が92件、唐津地区73件、伊万里有田地区37件、鳥栖地区20件となり、県西部への出動が多かった。出動の内訳は現場出動が236件(73・3%)、病院間の転院搬送が62件(19・3%)、出動後のキャンセルも24件(7・5%)あった。要請を受けたものの出動できなかったケースも49件あり、その主な理由は要請の重複が14件、時間外11件、天候不良10件などだった。通報から要請、出動までの時間は全国平均とほぼ変わらなかった。定期的にドクターヘリの症例検討会を開き、医師や看護師、消防、行政、運航事業者らと協議している。センター長の阪本雄一郎教授は「ヘリを通して医療機関や消防、行政による地域救急医療のチームワークが強固になった。今後は福岡、長崎と北部九州のより良い救急体制の構築を目指していきたい」と手応えを語る。 ■佐賀県のドクターヘリの運航 福岡、長崎両県のヘリを共同運航し、佐賀県内への出動件数に応じて費用負担してきたが、2014年1月に県独自のドクターヘリを導入した。年間経費は2億1000万円で半額は国の補助金。現在、県内は3県のヘリが飛ぶ珍しい地域となっている。臨時に離着陸するランデブーポイント(離着陸指定地)は公園や学校の運動場など162カ所あり、ケースによっては指定以外の広い場所に離着陸する。県内全域を15分以内でカバー。運航時間は午前8時半から日没30分前となっている。 *1-3:http://qbiz.jp/article/87753/1/ (西日本新聞 2016年6月6日) 「隠れた医療ニーズがあった」、災害派遣医師が証言 熊本地震では被災地から地理的に近く、医師数や施設が充実する筑後地区から、医療支援が実施された。久留米大病院高度救命救急センター教授の山下典雄医師(55)は、同大病院の災害医療派遣チーム(DMAT)の一員として熊本県で活動し、患者受け入れやその後の支援活動でも指揮を執った。被災地の現状や災害時医療の課題を聞いた。 −被災地での活動は。 「前震が起きた4月14日の翌15日未明、DMAT1次隊として久留米を出発した。益城町で活動し、避難所では打撲や擦り傷などけが人を搬送した。道路状況が悪く、移動に30分ほど余計にかかった。16日未明の本震以降は、DMATを2次隊まで組織し、現地で活動した。その後、急性期、救命期の医療支援から慢性期医療に移行し災害医療チーム(JMAT)を組み、今月6日まで9次隊にわたって派遣した」 −久留米大病院としての医療支援は。 「大学病院では、被災地から広域搬送される患者受け入れのため、災害対策本部を立ち上げ、100人超の医師を招集して態勢を取った。被災地からは要請のあった透析患者や新生児ら三十数人を受け入れた。ドクターヘリも熊本県の指揮下に入り、広域搬送を支援した」 −被災地の現状をどう見ているか。 「熊本市内の医療態勢は回復に向かい、今後は避難所や車中泊をしている人のエコノミークラス症候群予防、高齢者の口腔ケア、感染症予防のための生活指導が重要になっている。梅雨が近づくので、食中毒など衛生面でも注意する必要がある」「一方、阿蘇地域では電力や水道などライフラインの復旧が遅れ、医療機関も厳しい状況が続いている。南阿蘇村では唯一の救急指定病院が使用できなくなり、仮設の救護所で診療を受ける人も依然としていた。土砂崩れによる阿蘇大橋の崩落や、国道57号が通れなくなり、村内も分断され、交通状況も良くない。車が使えなくなり、移動手段がなくなった住民も少なくないと聞く。村内の巡回診療など今後も、医療支援が必要になると思う」「久留米大病院のチームは村内の介護施設を回った。道路が寸断された上、高齢などで移動が難しい入所者を抱えており、飲まず食わずの対応に追われた職員の疲弊も色濃かった。支援する側は、避難所などに集まってくる人たちに注意が行き、外側まで手が回っておらず、隠れた医療ニーズがあった」 −患者受け入れなど支援に当たって感じた課題は。 「現場には混乱が起きた。被災地の病院から直接、患者受け入れ要請があり、熊本県に調整を依頼したが、なかなか連絡が来ない。しびれを切らした病院が、自ら患者を搬送してきた。こちらは受け入れ可能と伝えたが、勝手には動けずもどかしい思いをした」 −今後、筑後地区で大規模災害が起こる可能性もある。備えは。 「災害医療は、日ごろの救急医療の延長線上にある。混乱を避けるには、地域医療機関同士の横のつながりと、行政、消防との連携が不可欠だ。NPO法人筑後地域救急医療研究会を中心に、救急に携わる人たちの間で顔の見える関係を築いてきた。救急指定病院ならベッドの空き具合や、医師の氏名から対応できる疾患まである程度、頭に浮かぶ。今回、被災地の患者受け入れで、聖マリア病院(久留米市)や他の医療機関と密に連絡が取り合えたのは成果だと思う」「筑後地区が被災地になった時、県外の医療機関やDMATにどう支援してもらい、受け入れるのかを想定した訓練は今後、より充実させていく必要がある。被災地ではコーディネーター役の地元の医師がリーダーシップを取り、続々と到着する支援組織を割り振っていた。人材育成も急務だ」「災害時には病床を空けるため状態の良い入院患者に同意を得て転院、退院、手術延期をお願いすることもある。理解を求めたい」 *1-4:http://www.qsr.mlit.go.jp/suishin/cgi/070516/08takayama.pdf#search='%E4%B9%9D%E5%B7%9E%E3%81%AE%E3%83%89%E3%82%AF%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%98%E3%83%AA+%E9%81%8B%E7%94%A8' 広域救急医療体制(救急ヘリコプターの共同利用)と高速交通網に関する提言 独立行政法人国立病院機構長崎医療センター 救命救急センター長 髙山 隼人 (1)広域救急医療体制への提言(救急ヘリコプターの共同利用) 1.はじめに 慢性的な疾患に関しては、国民は希望する医療機関まで行くことによって受診することができるが、救急疾患や急病、外傷に関しては、近くの救急医療機関に搬送され治療を受けることになる。九州は、山間部や半島、離島など多く、三次救急医療機関まで60 分以上かかる地域が多く存在しており、医療に関しても地域格差を生じている。急性疾患の発症時間や外傷の発生時間より、60 分以内に適切な治療を受けることにより救命率を向上させることができることやドクターヘリにより交通事故による死亡を39%削減し重度後遺症を13%削減できることを踏まえ、広域救急医療体制を整備する。 2.提言 九州圏内に住む国民の救命率を向上させることを目標として、救急ヘリコプター(ドクターヘリ)にて30 分以内に救急医よる治療を開始し適切な医療機関へ搬送して、60 分以内に適切な治療を受けることができるようすることを提言する。 3.方法 ①救急用ヘリコプター(ドクターヘリ)を九州本土内に、県境を区別せず半径70km ごとに展開する。 根拠:ヘリコプターは、巡航速度200-240km/hr であり、覚知から要請・離陸の時間を考慮して飛行時間20 分以内であれば、受傷・発症から30 分以内に治療が開始できる。 ②外海離島においては、小型固定翼や自衛隊救難ヘリコプターなども共同して運航する。 根拠:固定翼がヘリコプターより巡航速度が速く、離島からの遠距離搬送に適している。外界離島の場合は、離島医療機関で初期治療を行い高次搬送ができる体制を整えることにより対応する。 ③基地病院形式もしくは、複数医療機関連携した基地形式にて医療を提供する。 ④複数県が実施主体となり、共同運航する。 ⑤着陸ポイントとして、道の駅など道路付属施設や公園・広場、居住地域に点在する小学校のグ ランドなどを積極的に活用する。 ⑥夜間の運航は、安全運航を確認するため、夜間照明のある場外離着陸場を旧町村ごとに設置して、受入病院近くの夜間照明付のヘリポートに搬送することで、搬送時間の短縮を図る。 4.現状の問題点 ①ドクターヘリの県を越えた運用 運用にあたり協定等の困難感があるが、救急医療用ヘリコプターを用いた救急医療の確保に関する特別措置法案(平成19 年6 月19 日)3)もふまえて、隣県での調整が可能になってきた。 ②フライトドクターの確保困難 基地病院で、フライトドクターを確保することが一番良いが、九州圏内の救命救急センターは、現在の救急医療活動を提供するのにぎりぎりの人数のところが大半である。しかし、救急医療やフライトドクターなどに興味を持つ若手医師も少しずつ増えてきているので、段階的に養成していくことが可能と思われる。代案として、複数の医療機関が連携してフライトドクターを提供して基地に待機して365 日出動態勢を整える方法もある。 5.その他 新臨床研修制度により、医局からの派遣体制の崩壊が起こり、専門医から総合医の養成に方向転換がなされてきた。離島や中山間地域のみならず地方都市の医師不足が顕著になってきている。派遣体制整備は今後の国の施策に期待するが、離島・中山間・地方都市の医療体制のバックアップのため、重症患者の搬送などに救急ヘリコプターを活用することも支援となりうる。このため、昼夜を問わず搬送できるハード面の充実も必要である。 <参考文献> 1)Cowley RA, その他. J Trauma 1973; 13: 1029-1038 2)益子邦洋、その他.ドクターヘリによる交通事故死/重度後遺症の削減効果.平成17 年度厚生労働科学、研究費補助金「新たな救急医療施設のあり方と病院前救護体制の評価に関する研究 ドクターヘリの実態と評価に関する研究」 3)参議院議事情報http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/gian/16607166003.htm (2)高速交通網に関する提言 1.はじめに 九州内各県の主要な高度医療施設への救急車搬入の実態調査(日本救急医学会九州地方会2007 年プロジェクト「救急車搬送患者の搬送時間と転帰に関する検討」)より、急性心筋梗塞や急性大動脈解離、重症多発外傷などで、40 分以内での搬送時間と生存率や自宅退院率などの相関が認められている。長時間すなわち長距離搬送により、状態の悪化が予後を左右することがわかる。九州圏には3次医療機関まで、60分以上かかる地域が多数ある。 2.現状と問題点 ・ 搬送時間の延長 ・ 道路線形の不良 ・ 交通量の増加 ・ 救急医療機関の減少 ・ 高速道路の未整備 3.課題 ・ 消防署と救急医療機関の配置 ・ 道路整備 ・ 救急ヘリコプターが着陸できる道路整備 4.課題 ・ 居住人口に合わせた救急車両の配置 ・ 消防本部の統廃合により本部機能の一元化による人員を分署の再配置 ・ 医療機関の統廃合(救急医療も担う地域の基幹病院とかかりつけ医の役割分担) ・ 国道整備:カーブなどの改善(ゆれや振動の低減) ・ 高速道路整備により3 次医療機関までの搬送時間の短縮 ・ 電柱の地中化、中央分離帯の構造変更(救急車の走行できる車線とするなど) 5.まとめ 物流対策のみではなく、救急医療への支援も考慮にいれ、高速道路や国道整備を検討する。道路 整備による搬送時間の短縮に伴う死亡率の改善は、社会的損失の軽減として経済効果は十分に大き いと考える。 <再生医療> *2-1:http://www.nikkei.com/article/DGXMZO78790300T21C14A0X11000/ (日経新聞 2014/10/24) 15年間諦めなかった小野薬品 がん消滅、新免疫薬 日本人の死因のトップであるがん治療には、外科的手術や放射線治療、最後の手段として化学療法があるが、今この構図が大きく変わる可能性が出てきた。免疫を使ってがん細胞を攻撃する新たな免疫治療薬「抗PD―1抗体」が実用化されたからだ。世界に先駆けて実用化したのが関西の中堅製薬、小野薬品工業だ。画期的な免疫薬とは――。 ■「オプジーボは革命的なクスリ」と高評価 「がん研究、治療を変える革命的なクスリだ」。慶応義塾大学先端医科学研究所所長の河上裕教授は9月から日本で発売が始まった小野薬の抗PD―1抗体「オプジーボ」(一般名ニボルマブ)をそう評価する。ニボルマブは難治性がんの1つ悪性黒色腫(メラノーマ)の治療薬として小野薬と米ブリストル・マイヤーズスクイブ(BMS)が共同開発した新薬だ。がんは体内の免疫に攻撃されないように免疫機能を抑制する特殊な能力を持つ。ニボルマブはこの抑制能力を解除する仕組みで、覚醒した免疫細胞によってがん細胞を攻撃させる。世界的な革命技術として、米科学誌サイエンスの2013年の「ブレークスルー・オブ・ザ・イヤー」のトップを飾った。今や米メルク、スイスのロシュなど世界の製薬大手がこぞってこの仕組みを使った免疫薬の開発を加速させている。悪性度が高いメラノーマは5年後の生存率は1割前後という極めて危険ながんだが、米国、日本での臨床試験(治験)では「増殖を抑えるだけでなく、がん細胞がほぼ消えてしまう患者も出た」(河上教授)。米国での他の抗がん剤と比較する治験では既存の抗がん剤を取りやめ、ニボルマブに切り替える勧告も出たほどだ。肺がんや胃がん、食道がんなど他のがん種に対する治験も進んでいる。世界の製薬大手が画期的な新薬開発に行き詰まるなか、なぜ小野薬が生み出せたのか。1つは関西の1人の研究者の存在がある。「PD―1」という分子を京都大学の本庶佑名誉教授らの研究チームが発見したのは1992年だ。小野薬もこの分子に目をつけ、共同研究を進めた。PD―1が免疫抑制に関わっている仕組みが分かったのは99年で、創薬の研究開発が本格的に始まるまでにおよそ7年。実際の治療薬候補が完成し治験が始まったのは2006年で、開発から実用化までにおよそ15年かかったことになる。当時は「免疫療法は効果が弱い」「切った(手術)方が早い」など免疫療法に対する医療業界の反応は冷ややかだった。医師や学会だけでなく、数々の抗がん剤を実用化した製薬大手も開発に消極的だった。そんな中で小野薬だけが“しぶとく”開発を続けてきた背景には「機能が分からなくても、珍しい機能を持つ分子を見つけ、何らかの治療薬につなげるという企業文化があった」(粟田浩開発本部長兼取締役)という。もともと小野薬は極めて研究開発志向の強い会社だ。売上高(14年3月期は1432億円)に対する研究開発比率は国内製薬メーカーでは断トツの30%台だ。しかもがん治療薬は初めて参入する分野で、「かならず成果を出す」という研究者の意欲も高かった。小野薬は血流改善薬「オパルモン」とアレルギー性疾患治療薬「オノン」の2つの主要薬で高収益を維持した。だが、特許切れや後発薬の攻勢で陰りが出てきたところでもあった。免疫療法に対する風向きが変わり始めたのは米国で抗PD―1抗体の治験が始まった06年からだ。一般的な抗がん剤はがんの増殖を抑える仕組みのため数年で耐性ができ、結局は延命効果しかない。しかし抗PD―1抗体で「がんを根治できる可能性も出てきた」。 ■年間数百億円のロイヤルティー効果 副作用が少ないうえ、がんの増殖を止める、小さくする、消滅させる――。そうした治験結果が出始めたことで、国内外の研究者、製薬企業の免疫療法に対する見方が大きく変わった。ただ、効果が出ていない人も一定の割合で存在する。その場合は「他の抗がん剤や免疫療法と組み合わせれば、効果が上がる可能性がある」(粟田本部長)という。足元の業績が低迷するなか、ニボルマブ効果で小野薬の市場評価は高まっている。昨年10月時点で6000円前後だった株価は今年に入って急騰。23日の終値は9340円とわずか1年足らずで3000円以上伸びた。アナリストも「今後数年でロイヤルティーだけで年数百億円は堅い」と分析する。小野薬の相良暁社長も「10年先を支える薬になるだろう」と自信をみせる。ただメルク、ロシュなどが同じ仕組みの抗PD―1抗体の治験を拡大しており、国際競争に巻き込まれる可能性も高い。一方で他の製薬大手から小野薬がM&Aの標的となる懸念もある。その意味で同社が置かれている環境は必ずしも楽観視できない。がんの新たな治療法の扉を開けた小野薬。日本発の免疫薬に世界の目が注がれている。 *2-2:http://mainichi.jp/articles/20160814/k00/00m/040/129000c (毎日新聞 2016年8月14日) 治験へ 幹細胞注入、米で成果 頭のけがなどで脳の神経細胞が死んだり傷ついたりし、体のまひや言語障害などが出た「外傷性脳損傷」の患者を対象に、加工した骨髄由来の幹細胞(細胞医薬品)を脳に直接注入して機能回復を試みる治験を東京大病院が近く始める。米国で先行して進められている脳梗塞(こうそく)患者での治験では運動機能や言語機能の向上が報告されており、回復が難しい脳損傷の新たな治療法になる可能性がある。この細胞医薬品は、健康な人の骨髄から採取した間葉系幹細胞を加工・培養したもので、再生医療ベンチャー「サンバイオ」(東京都中央区)が開発した。免疫反応を抑える働きもあり、他人の細胞を移植するにもかかわらず、免疫抑制剤を使う必要がない。移植した細胞は、約1カ月で脳内から消えるという。米スタンフォード大などの研究チームは6月、この医薬品の安全性確認のために脳梗塞患者18人に実施した治験結果を米医学誌に発表した。これによると、ほぼ全員の運動機能が回復し、目立った副作用はなかった。サンバイオによると、治験前は動かなかった腕が頭まで上げられるようになったり、車いすが必要だった患者が少し歩けるようになったりしたという。機能が回復する詳しいメカニズムは不明だが、東大病院での治験を担当する今井英明特任講師(脳外科)によると、傷ついた脳の神経細胞の修復を促す栄養分が移植した幹細胞から分泌されると考えられるという。東大病院の治験の対象は、脳に損傷を受けてから1〜5年が経過し、現在の医療では回復が見込まれない患者。移植する細胞の数を変えて四つのグループに分け、運動機能の回復状態を1年間、追跡調査する。 *2-3:http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK1000G_Q4A110C1000000/ (日経新聞 2014/1/10) 脊髄損傷、幹細胞で治療 札幌医大が国内初の治験 札幌医科大は10日、脊髄損傷患者の骨髄から取り出した幹細胞を培養し、患者の静脈に投与して脊髄の神経細胞を再生させる治療法の効果や安全性を確かめる臨床試験(治験)を始めると発表した。10日から被験者の募集を始める。発症してから時間が経過していても治療効果が期待でき、患者自身の細胞を使うため拒絶反応の心配が少なく、安全性が高いとされる。神経となる「間葉系幹細胞」を使い、静脈に投与する薬剤として認可を目指す試験は、国内初という。チームを率いる山下敏彦教授は「脊髄損傷は事実上、有効な治療法がないが、この方法は多くの患者への効果が期待できる」と話している。チームによると、患者の腰の骨から骨髄液を採取し、間葉系幹細胞を分離。約2週間で約1万倍に培養し、約1億個の細胞が入った40ミリリットルの薬剤を静脈に点滴する。投与された細胞は脊髄の損傷部位に移動し、神経細胞に分化したり、タンパク質を分泌して傷ついた神経細胞を再生させたりする。神経が再生されると、手足が動かせるようになると見込まれるという。試験は損傷から14日以内で、脊髄のうち主に首の部分を損傷した20歳以上65歳未満の患者が対象。希望者は主治医を通じて大学に連絡する。2016年10月までに30人を目標に実施する。 *2-4:http://www.nikkei.com/article/DGXLZO04775060S6A710C1TJC000/ (日経新聞 2016/7/13) 京セラ、理研と毛髪再生医療 20年実用化目指す 京セラは理化学研究所などと組み、脱毛症を再生医療技術で治療する共同研究に乗り出す。患者から採取した健康な毛髪の細胞を加工、増殖した後に患者に移植する手法で、理研がすでに動物実験で実証している。京セラは電子部品で培った微細加工技術を生かして細胞の自動培養装置を開発し、2020年に細胞の受託製造事業への参入をめざす。脱毛症に悩む人は国内で男女あわせて1800万人以上いるという。将来の臓器再生につながるとされる毛髪再生での手法確立をめざす。12日、理研のほか、再生医療ノウハウを持つベンチャーのオーガンテクノロジーズ(東京・港)と組み、18年3月までに装置の試作機を開発すると発表した。20年までにヒトを対象とした臨床研究をする計画だ。理研は毛がないマウスに加工・増殖したヒトの細胞を移植し、発毛させる実験に世界で初めて成功している。皮膚内で毛髪を生む「毛包」と呼ぶ部分の2種類の幹細胞を分離し、加工して作った再生毛包を移植する手法をヒトに応用する。現在も後頭部など正常な毛包を脱毛部に移植する手術はある。だが頭皮の切除面積が大きくなる課題があった。理研の手法は毛髪細胞を100~1千倍に増やせるため切除部が小さくて済む。自らの細胞を使うので、人体への危険性は実用化済みの皮膚や軟骨の再生医療製品と同程度に抑えられるという。事業化には細胞の精密加工技術や大量に培養する量産技術が必要だ。京セラは精密部品の加工技術のほか、人工関節などの医療事業も手掛ける。業務用インクジェットプリンターでインクを精密に射出する技術も生かす。医療機関から患者の頭皮組織を預かり、約3週間かけて加工・培養したうえで医療機関に出荷する製造受託事業を20年をめどに始める計画だ。ただ今回の毛髪の再生医療は保険が適用されない自由診療での実用化をにらむ。実用化された再生医療製品でみると、テルモの心不全治療に使う「ハートシート」は標準治療の価格が1400万円強と高い。だが保険適用となったため患者の自己負担は治療費の1~3割で済み、高額療養費制度の対象にもなる。量産効果が効かない初期段階では、毛髪の再生医療の自己負担は高額になる可能性がある。 *2-5:http://wpb.shueisha.co.jp/2016/06/29/67245/ (週プレニュース 2016年6月29日) ヤケドの治療から始まった! 肌の再生医療の第一人者が手がける最新アンチエイジング 最近、老けてきた気がして。特にこのほうれい線、すごい深いよね…?」とため息をつくのは「週プレNEWS」の貝山弘一編集長。実年齢49歳とは思えぬ若いルックスに見えるが、本人は老化をひしひしと感じているらしい。そんな悩めるアラフィフのもとに気になるニュースが。なんと自分の細胞を培養して移植することで、肌が若返るという画期的なアンチエイジング治療法があるという。 従来の美容外科とは異なるアプローチで、安全かつ自然に若返りを可能とする手法とは? 最新医療レポート第1弾! ■薬も糸も使わない、若返りの最先端治療 老けたな~…と誰しも感じるのは、ふと鏡を見た自分の顔に白髪や顔のシワが増えたのを目の当たりにした時。気になり出すと、ますます老化が進みそう…。シワやたるみ、ほうれい線など男性は毎日のひげ剃りでも目について仕方ないハズだ。本格的にケアするにはヒアルロン酸やボトックス注射を打つか、金の糸を入れてリフトアップするなど美容外科手術に頼るしか解決方法はなかった。ところが、これまでとは全く異なるアプローチで若返りを実現させる革新的技術が開発されているという。それが「RDクリニック」で手がける「肌の再生医療」。そもそも米国FDA(日本の厚労省にあたる)が認可したれっきとした医療である。それを医学博士・北條元治(ほうじょう・もとはる)先生がわが国でいち早く始めた、最先端医療だ。北條先生「簡単にいうと『肌の再生医療』は臓器のパーツのコピーと同じです。皮膚が必要であれば、皮膚の細胞そのものをコピーする。コピーした元気な細胞を本人に移植すれば、その細胞が組織を修復するということです」 ■自身の細胞で肌を若返らせる! 「肌の再生医療」は【自分自身の肌細胞を採取し、抽出して培養したものをシワやたるみなどが気になる部位へ注射器を使い移植】する治療方法。自分の細胞で肌の若返りを促すということだが、どういう仕組みなのか?表皮と真皮の2層構造になっている肌だが、シワやたるみは真皮にある肌細胞が減少することで起こる。「肌の再生医療」は自分の皮膚から肌細胞を抽出・培養して気になる部位に移植することで、減少した肌細胞を増やして肌のハリを取り戻す。 *2-6:http://digital.asahi.com/articles/ASJ5D24XMJ5DUBQU005.html (朝日新聞 2016年5月12日) iPS細胞10年 進む再生医療・創薬研究、ハードルも 皮膚や血液の細胞から作れる万能細胞、iPS細胞が開発されて今年で10年。無限に増え、体の様々な種類の細胞に変化できる性質を生かし、再生医療や創薬に向けた研究が急速に進んでいる。一方、複雑な組織ほど体外で作り出すことは難しく、越えなければならないハードルも見えてきた。 ■心筋、網膜…再生医療への研究進む 大阪府吹田市にある大阪大の実験室。直径約2センチの培養皿に入った、人のiPS細胞から作ったシート状の心筋細胞を見せてもらった。シートには心筋のほか、血管をつくる細胞などが含まれている。容器に収められた半透明のシートを顕微鏡で拡大すると、全体が連動してリズムを刻む様子がはっきり見える。まさに「拍動」だ。心臓に貼れば、一体となって動くと見込まれている。澤芳樹教授(心臓血管外科)らは、このシートを虚血性心筋症など、現在は心臓移植が必要になる心臓病の患者らに使う研究を進めている。「人に使うために安全性を確認する最終段階まで来ている」。京都大iPS細胞研究所(CiRA)の山中伸弥教授が作り出したiPS細胞は、ES細胞のように受精卵を使う必要がないため、倫理的な問題がなく、作りやすいことから、再生医療への利用が期待されてきた。先頭を行くのは理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダーのグループだ。加齢黄斑変性という目の病気で臨床研究を始め、14年には患者のiPS細胞から作った網膜の色素上皮細胞のシートを患者の目に移植した。移植した細胞は約12万6400個。ねらった細胞に変化し損なったiPS細胞が体に入ると腫瘍(しゅよう)になる危険があるが、今のところ異常はないという。手術を担った栗本康夫・先端医療センター病院眼科統括部長は先月、日本眼科学会総会で「安全性に関するエンドポイント(評価項目)は達成した」と強調した。国も全面的に支援する。iPS細胞を含む再生医療関連の今年度予算は文部科学、厚生労働、経済産業の3省合わせて約148億円。文科省は昨年、iPS細胞研究のロードマップ(工程表)を改訂し、計19の細胞や器官で、実際に患者で研究を始める目標時期を掲げた。京大が進めるパーキンソン病患者への神経細胞の移植や血小板の輸血、阪大の角膜の移植は、早ければ今年度の開始とされている。 ■費用が課題、自家移植は準備に1億円 ただ、細胞の培養や品質のチェックに膨大なコストと時間がかかる。高橋さんの1例目では、細胞の準備から移植までに1年近く、約1億円を費やしたとされ、山中さんも「(患者自身の細胞を使う)自家移植は考えていた以上に大変だ」と口にする。腫瘍化などの危険性を懸念する研究者の声も依然として強い。このため、CiRAではあらかじめ品質を確認したiPS細胞を備蓄し、配るプロジェクトを開始。細胞は、多くの日本人に移植しても拒絶反応が起きにくいタイプの健康な人から提供してもらう。高橋さんらは2例目以降の移植にこの細胞を使う研究を準備している。高橋さんは「色素上皮なら一つの皿で何十人分も作れ、コストを減らせる。将来は普通の治療としていけるぐらいになる」と話す。一方、iPS細胞が国外で再生医療に広く使われるかは不透明だ。すでに欧米ではES細胞を使った研究が根付いており、加齢黄斑変性など、数十人の患者にES細胞から作った細胞による臨床応用も進んでいる。iPS細胞の研究に詳しい黒木登志夫・東京大名誉教授は「再生医療は競争が激しい。ES細胞が世界の標準になる可能性がある」と指摘する。 ■創薬研究、技術確立に課題も 再生医療への応用のほかに近年、注目を集めているのが創薬の研究だ。理研の六車恵子・専門職研究員らのグループはCiRAと共同で、ES細胞の研究で培ってきた大脳や小脳の組織を体外で作る技術を応用する。アルツハイマー病や筋萎縮性側索硬化症、小脳変性症などの患者の細胞からiPS細胞を作り、脳神経に変える。培養皿でこの神経を調べると、患者ごとに薬に対する反応が違ったり、特定の細胞がストレスに弱かったりすることがわかった。「患者自身の脳組織を研究で使えるのは、iPS細胞ならではの手法」と六車さんは話す。CiRAの妻木範行教授らのグループは、遺伝子変異が原因の軟骨の難病で薬の候補を見つけた。患者のiPS細胞から作った軟骨は正常な組織に培養できなかったが、高脂血症治療薬のスタチンを加えると正常になった。こうした手法を使えば、薬の開発にかかる時間やコストを大幅に削れると期待される。ただ、複雑な組織になるほど体外での培養は難しく、細胞に酸素や栄養を供給し続けて成長させる仕組みも必要になる。さらに、現状では培養できた細胞や組織の多くが未熟な状態で、成熟させる方法も未確立だ。腎臓の組織づくりに取り組む熊本大の西中村隆一教授は「病気を調べるためには、まず正常な組織を作る必要がある。ただ、できたものがどこまで体内の状態を再現しているか確認が難しい」と指摘。マウスのiPS細胞を使い、毛包や皮脂腺など皮膚の器官をまとめて再生することに成功した理研の辻孝チームリーダーも「立体的な組織を作るには、培養技術の革新が必要だ。iPS細胞の潜在力をまだ引き出しきれていない」と話している。 《iPS細胞(人工多能性幹細胞)》 無限に増やせ、体の様々な細胞に変化できる能力を持った細胞。同様に万能性を持ち、受精卵を壊して作るES細胞(胚(はい)性幹細胞)と異なり、体の細胞から作ることができる。山中伸弥・京大教授が2006年、マウスの皮膚の細胞に四つの遺伝子を働かせて作製に成功した。特定の種類に変化し終えた細胞でも受精卵に近い状態に「リセット」できることを初めて示し、07年には人でも成功した。12年にノーベル医学生理学賞に選ばれた。 <ワクチン> *3:http://qbiz.jp/article/43196/1/ (西日本新聞 2014年8月3日) 久留米大がんワクチンセンター、海外からも患者来院 「第4のがん治療法」とされるがんワクチン治療の実用化を目指す研究・診療拠点「久留米大がんワクチンセンター」(福岡県久留米市国分町)が7月、開設から1年を迎えた。医師などスタッフは約60人と、開設当初の態勢から倍に増え、来院する患者も増加傾向という。「がんペプチドワクチンの医薬品承認に向けた申請時期のめどを付けたい」と話す伊東恭悟センター長に、活動の進展と2年目の目標を聞いた。 −診療態勢を一本化したセンターができて、患者の動きに変化はあったか。 「患者は増えている。開設前は1日10〜20人だったが、今は平均30人前後来院する。55人だった日もあり、一時期は重症度の高い人だけに診療を制限しなければならないこともあった」「患者は全国各地だけでなく中国からも来ている。これまでは福岡市内のホテルに泊まる人が多かったが、最近は半数以上が久留米に泊まっているようだ」 −患者が増えた要因は。 「若手の医師などスタッフが増えて受け入れ態勢が充実できた。センター開設後、メディアで多く取り上げられた影響も大きい」 −診療の成果は。 「診療も研究も順調だ。それぞれの患者に適した四つのワクチンを選んで投与する「テーラーメード」型だけでなく、進行がんの患者に20種類のワクチンを混ぜて、早期に打つ方法も順調に進んでいる」「抗がん剤治療を受けている患者に対して、いったん抗がん剤をやめてワクチン投与だけにして、その後抗がん剤を再開した結果、長生きできたという症例については論文化した」 −センター開設時、前立腺がんと悪性脳腫瘍である膠芽腫(こうがしゅ)の治療に使うワクチンは3〜5年内の実用化を目指すと話していたが。 「最後の検証段階にあるいくつかの試験も、一つずつ着実に進んでいる。特に抗がん剤が使えない高齢の前立腺患者向けのワクチンについては、医薬品として承認申請する時期のめどを2年目のうちにつけたい」 −強化したいことは。 「ワクチンの効果を上げて、より長生きできるようになるため、副作用のない漢方薬を活用する臨床試験にも力を入れていきたい」「がんワクチンの発展と実用化をにらんで8月に初の研究会を開く。全国の医師たちと交流する場として今後も年1回、開きたい」 <予防> *4-1:http://qbiz.jp/article/93139/1/ (西日本新聞 2016年8月29日) クボタが農業ドローン参入 農薬散布のコスト軽減 クボタは29日、空中から農薬を散布する農業用ドローン事業に参入すると発表した。2017年中ごろに販売を開始する。手間やコストの軽減メリットを大規模農家に売り込み、20年度には売上高20億円規模の事業に育てる。大規模農家の農薬散布は、大型機器に乗って陸上から散布したり、産業用の無人ヘリコプターを使って空中から散布したりする方法がある。クボタはドローンを200万円程度で販売する方針で、無人ヘリコプターの1千万円規模に比べ割安で済む。記者会見した飯田聡専務執行役員は「超省力で農作業するニーズが高まっている」と指摘。ドローンメーカーのプロドローン(名古屋市)と農業機器メーカーの丸山製作所(東京)と共同開発する。将来的にはインターネットを使った管理システムと連動させるほか、農薬散布以外の用途にも対応させる。農業でのドローンの参入は増えており、ヤンマー(大阪市)もコニカミノルタなどと共同で、カメラを搭載したドローンで田んぼの状況を監視するシステムを開発中だ。 *4-2:http://qbiz.jp/article/91781/1/ (西日本新聞 2016年8月3日) 北九州市、戦略特区に4案 公道無人運転、ドローンで設備点検… 地域限定で規制を緩和する国家戦略特区の指定を受けている北九州市は1日、新たな規制改革案として、公道での無人運転を可能にする案や、ドローン(小型無人機)を使って橋などの点検ができるようにする案など4案を内閣府に提案したと発表した。政府は今後、各特区などからの提案を取りまとめ、実現の可否を検討する。市によると、公道での自動車の無人運転は、運転者の操作を義務付けている道交法により現在、認められていない。一方、同市では自動運転の研究開発に向けた産学官の連携が進んでおり、公道を使った実験を可能にすることで、実用化へ弾みをつけたい考え。目視による確認が求められているトンネルなどの交通インフラの点検に関し、カメラやセンサーを搭載したドローンで代替する案も提出。国際的なスポーツ大会や会議で、人材確保が難しいタイ語やインドネシア語などの通訳を留学生が担えるよう、就労時間の緩和も求めた。また、海外のアマチュアスポーツ選手のチーム加入に際し設けられている大会実績の条件を緩める案も盛り込んだ。市は1月に戦略特区に指定。現在、50代以上の就労を支援するシニア・ハローワークの設置や介護ロボットの実証実験などが進められている。 PS(2016年9月2日追加):*5のように、救急医療の視点からオスプレイを利用する実験を速やかに行ったのは評価できるが、ヘリもオスプレイも、これまで救急医療用には使ってこなかったため、安全性、乗り心地、離着陸時の騒音・風圧など改善すべき点が多い。しかし、日本人は改善(海外でも「カイゼン」という日本語が通用する)は得意なので、本気でやればよいものが作れるだろう。 かなり改良すれば使えそうなヘリ 現在のドクターヘリ (*5より) (滋賀県) (奈良県) *5:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/351493 (佐賀新聞 2016年9月2日) オスプレイ運用に思い交錯 医師評価、実効性疑問の声、佐世保市防災訓練 佐世保市の防災訓練に米海兵隊オスプレイが参加した1日、訓練参加者や見学者からは、災害時の運用に期待する声と、訓練そのものの実効性を疑問視する声が交錯した。2機の米オスプレイは、訓練で想定した地震発生から15分後に佐世保市の陸上自衛隊相浦駐屯地に姿を現した。プロペラで航空する「ヘリモード」で駐屯地に近づき、風圧で草や土ぼこりを巻き上げながらゆっくりと着陸した。医師らを乗せた機体は宇久島へ飛び、約45分でけが人役を乗せて再び駐屯地に姿を見せた。「スピードがあり、航続距離も長い。広域になればなるほど有力な搬送手段と言える」。医師として同乗した佐世保市総合医療センターの澄川耕二院長(69)は、救急医療の視点からオスプレイを評価する。患者を運ぶ簡易ベッドで5人ほど搬送できると見ており、「結構揺れるので、物資の輸送には適しているが、救助の場合はベッドの固定など工夫が必要」と感じた。米海軍佐世保基地のマシュー・オヴィアス司令官は「災害時に互いに連携することが大切で、今回の訓練で協力関係を示すことができた」と米軍参加の意義を強調した。駐屯地内で訓練を見学した市民団体リムピース佐世保の篠崎正人さん(69)は「災害時に偶然、佐世保近くに米オスプレイがいた設定など合理性に欠ける」と指摘する。「日米政府の協議を経て運用されるはずだが、どのような手続きで運用に至るのか想定が曖昧だ。市民には情報も不足している」と今回の訓練を批判した。 PS(2016年9月6日追加):腎臓病で透析しなければならない状態になると、生涯、その状態から抜け出せない人が多いが、透析は時間がかかって患者に不便である上、医療費もかかる。そのため、透析しなくてよい状態まで治せると、患者さんの福利が増す上に医療費負担が下がるのだが、現在、その方法は他者からの腎臓移植しかない。しかし、今後、3Dプリンターを使って自分の細胞で腎臓の補修部品を作ったり、「腎臓細胞シート」を貼って治すことができるようになったりすると、回復できる。 *6:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10105/352611 (佐賀新聞 2016年9月5日) 在宅医療の市民講座に300人 理解深めて ■多職種メンバー事例発表 医師、ケアマネージャーら多職種のメンバー約300人でつくる「在宅ネット・さが」(満岡聰代表)の第9回市民公開講座が3日、佐賀市兵庫北のメートプラザであった。市民ら300人が事例発表や創作劇などを通し、在宅でのケアや医療について理解を深めた。南里泌尿器科医院(佐賀市)の南里正之副院長は現在、国内には32万人の透析患者がおり、高齢化が進んでいると指摘。治療の一つに自宅で行える腹膜透析を紹介した。介護が必要となった場合、血液透析では施設への受け入れが困難になる場合もあり、通院医療よりも在宅医療での腹膜透析が適していると説いた。また、矢ケ部医院(同)の矢ケ部伸也院長は「がん末期の自宅ケア」について40代男性の在宅医療を紹介。医師、看護師らのチームであたった医療や心理面のサポートなどを挙げ、佐賀でも在宅ケア・医療を支える施設が増えていると説明した。また、同ネットのメンバーによる「劇団くまくま」が創作劇を上演。在宅医療をテーマに佐賀弁で熱演、会場をわかせた。
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2016,08,22, Monday
憲法と皇室典範 皇位継承順位 天皇の国事行為例 現在の皇居 2016.8.9日経新聞 (1)高齢になられた象徴天皇の生前退位について *1のように、天皇陛下が2016年8月8日、「日本国憲法で象徴と位置づけられた天皇の望ましい在り方を模索しながら過ごして来た」「天皇が象徴であると同時に国民統合の象徴としての役割を果たすには、遠隔地や島々への旅も大切で、80歳を越えて身体の衰えを考慮する時、象徴の務めを果たしていくことが困難」「象徴としての行為を限りなく縮小していくことは無理がある」「天皇の行為を代行する摂政を置いても天皇が務めを果たせぬまま生涯を終えるまで天皇であり続けることに変わりはない」「天皇の終焉に当たっては重い殯(もがり)の行事が2ケ月にわたって続き、その後に喪儀に関連する行事が1年続き、新時代に関わる諸行事も同時に進行するため、行事に関わる人々は非常に厳しい状況に置かれる」などを、象徴天皇が高齢となった場合の生前退位の意向にじませながら、国民に語りかけられた。 しかし、*2-1、*2-3のように、「①一般論として生前退位の是非を論じることと、今回の天皇のメッセージを受けて議論することとは異なる」「②これが発端となって制度改正の議論が動き出せば、天皇の意思が政治に介在したと指摘せざるを得ない」「③退位を希望する理由が年齢による公務負担の重さなら減らせばよい」「④天皇は極端に言えば国事行為だけしていれば問題ない」「⑤天皇の意思による退位を認めると前天皇の残像が消えずに新天皇の存在がかすんでしまう」「⑥今回のメッセージを受けて中長期的な視点で象徴天皇制のあり方を議論すべきだ」という真正面からの反対論もあった。 私は、①については、議論が始まらなかったから天皇がメッセージを出されたのであるため不可能な要求であり、②については「天皇は国政に関する権能を有しない」という日本国憲法4条の規定は、天皇が太平洋戦争のような戦争開始に利用されたり(大日本帝国憲法は「天皇は陸海軍を統帥す」と規定しており、統帥権が天皇の権能であったため首相や政府は軍の決定に反対できなかったと言われている)、どういう政策を行うかを天皇が承認したりすることを禁止しているのであって、今回のように単に皇室のあり方について象徴天皇として自らやってきて合理的と思うことを話されたものまで憲法違反だとするのは「羮(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」論理だと考える。そのため、*2-2のように、国民の86%が天皇の生前退位を素直に認め、恒久的な制度を求める意見が大半を占めたのだ。 さらに、③④についても、天皇自身が話されているとおり、十分に活動できない天皇がそのまま天皇でいるよりも、皇嗣に譲位して皇嗣も35~45歳くらいまでに天皇に即位した方が何かと都合がよいのだ。そのためには皇室典範4条を「天皇が崩じた時もしくは75歳を超えて自ら退位を決意した時は、皇嗣が直ちに卽位する」と変えれば、政治的介入で天皇が譲位を余儀なくされることはなく、⑤の前天皇の残像が消えずに新天皇の存在がかすむこともないだろう。また、奈良時代や平安時代と違って天皇に政治的権力がない現在、政治的介入を行って天皇に譲位を迫る理由もないと思われる。 (2)女性天皇・女系天皇について *3-1、*3-2に、生前退位を認める際には、天皇の退位後の身分や皇太子に代わる新たな規定の創設などが論点に浮上したと書かれているが、活動が容易ならざる高齢になって生前退位された天皇は、「上皇」「太上天皇」などとして権威の存在を紛らわしくするより、「前天皇」の方がよいと考える。そして、新年祝賀の儀や新年の皇居一般参賀には、高齢で思うように活動できないため退位するのだから、前天皇・皇后は出席しなくてもよいし、出席しても現天皇よりは端に並ぶべきだろう。そして、前天皇・皇后の公務は完全になくし、やりたいことだけをやればよいと考える。 また、天皇のお住まいは、歴史的経緯から現在は旧江戸城だが、旧江戸城は博物館・美術館として復元・整備し、江戸・明治・大正・昭和・平成時代の価値ある物を展示して、地下には大駐車場を作るのがよいと考える。そのため、京都御所、赤坂御所、その他の御所を、住居、執務室、迎賓館などとしてリニューアルしてはどうだろうか。 なお、*3-1、*3-3に、皇室典範第8条に「皇嗣たる皇子を皇太子という」という定めがあり、皇嗣となるのは現行制度では直系男子に限られており、皇位継承順位の2位は秋篠宮さまであるため、「皇太弟」といった地位を新設する必要が言われている。 しかし、私は、皇室典範第8条の「皇位は皇統に属する男系の男子が、これを継承する」を変更し、英国と同様、「皇位は皇統に属する長子が、これを継承する」として、男子優先ではなく女性・女系天皇を認めるのが現代の象徴としてあるべき姿だと考える。何故なら、現代の医学では、女性・女系天皇でも遺伝子の存続には全く問題のないことがわかっており、それでもなお天皇は男子のみと規定するのは女性差別にすぎず、*3-4のように、国連女性差別撤廃委員会も皇室典範の見直しを要求しているからだ。 (3)女性宮家について *3-3に、女性皇族が結婚後も皇室に留まる女性宮家の創設を検討した経緯があるそうだが、女性宮家として国家予算を割く以上、誰と結婚しても、どこに嫁に行っても女性宮家と認めるわけにはいかないだろう。そのため、私は、民法の規定を応用して、婿養子形式で結婚し、自らも公務をこなし、いざという時には子が天皇になりうる場合にのみ、女性宮家として遇すればよいと考える。 <天皇のお言葉> *1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12502982.html (朝日新聞 2016年8月9日) 象徴としてのお務めについての天皇陛下お言葉 (8月8日宮内庁発表全文) 戦後七十年という大きな節目を過ぎ、二年後には、平成三十年を迎えます。私も八十を越え、体力の面などから様々な制約を覚えることもあり、ここ数年、天皇としての自らの歩みを振り返るとともに、この先の自分の在り方や務めにつき、思いを致すようになりました。本日は、社会の高齢化が進む中、天皇もまた高齢となった場合、どのような在り方が望ましいか、天皇という立場上、現行の皇室制度に具体的に触れることは控えながら、私が個人として、これまでに考えて来たことを話したいと思います。即位以来、私は国事行為を行うと共に、日本国憲法下で象徴と位置づけられた天皇の望ましい在り方を、日々模索しつつ過ごして来ました。伝統の継承者として、これを守り続ける責任に深く思いを致し、更に日々新たになる日本と世界の中にあって、日本の皇室が、いかに伝統を現代に生かし、いきいきとして社会に内在し、人々の期待に応えていくかを考えつつ、今日に至っています。そのような中、何年か前のことになりますが、二度の外科手術を受け、加えて高齢による体力の低下を覚えるようになった頃から、これから先、従来のように重い務めを果たすことが困難になった場合、どのように身を処していくことが、国にとり、国民にとり、また、私のあとを歩む皇族にとり良いことであるかにつき、考えるようになりました。既に八十を越え、幸いに健康であるとは申せ、次第に進む身体の衰えを考慮する時、これまでのように、全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが、難しくなるのではないかと案じています。私が天皇の位についてから、ほぼ二十八年、この間(かん)私は、我が国における多くの喜びの時、また悲しみの時を、人々と共に過ごして来ました。私はこれまで天皇の務めとして、何よりもまず国民の安寧と幸せを祈ることを大切に考えて来ましたが、同時に事にあたっては、時として人々の傍らに立ち、その声に耳を傾け、思いに寄り添うことも大切なことと考えて来ました。天皇が象徴であると共に、国民統合の象徴としての役割を果たすためには、天皇が国民に、天皇という象徴の立場への理解を求めると共に、天皇もまた、自らのありように深く心し、国民に対する理解を深め、常に国民と共にある自覚を自らの内に育てる必要を感じて来ました。こうした意味において、日本の各地、とりわけ遠隔の地や島々への旅も、私は天皇の象徴的行為として、大切なものと感じて来ました。皇太子の時代も含め、これまで私が皇后と共に行(おこな)って来たほぼ全国に及ぶ旅は、国内のどこにおいても、その地域を愛し、その共同体を地道に支える市井(しせい)の人々のあることを私に認識させ、私がこの認識をもって、天皇として大切な、国民を思い、国民のために祈るという務めを、人々への深い信頼と敬愛をもってなし得たことは、幸せなことでした。天皇の高齢化に伴う対処の仕方が、国事行為や、その象徴としての行為を限りなく縮小していくことには、無理があろうと思われます。また、天皇が未成年であったり、重病などによりその機能を果たし得なくなった場合には、天皇の行為を代行する摂政を置くことも考えられます。しかし、この場合も、天皇が十分にその立場に求められる務めを果たせぬまま、生涯の終わりに至るまで天皇であり続けることに変わりはありません。天皇が健康を損ない、深刻な状態に立ち至った場合、これまでにも見られたように、社会が停滞し、国民の暮らしにも様々な影響が及ぶことが懸念されます。更にこれまでの皇室のしきたりとして、天皇の終焉に当たっては、重い殯(もがり)の行事が連日ほぼ二ケ月にわたって続き、その後喪儀(そうぎ)に関連する行事が、一年間続きます。その様々な行事と、新時代に関わる諸行事が同時に進行することから、行事に関わる人々、とりわけ残される家族は、非常に厳しい状況下に置かれざるを得ません。こうした事態を避けることは出来ないものだろうかとの思いが、胸に去来することもあります。始めにも述べましたように、憲法の下(もと)、天皇は国政に関する権能を有しません。そうした中で、このたび我が国の長い天皇の歴史を改めて振り返りつつ、これからも皇室がどのような時にも国民と共にあり、相たずさえてこの国の未来を築いていけるよう、そして象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に続いていくことをひとえに念じ、ここに私の気持ちをお話しいたしました。国民の理解を得られることを、切に願っています。 <生前退位について> *2-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160809&ng=DGKKASDG04HDE_Y6A800C1EA1000 (日経新聞 2016.8.9) 憲法制約「個人として」 宮内庁、思いを尊重 宮内庁が8日公表したビデオメッセージで天皇陛下が強く示唆した「生前退位」の意向は、以前から陛下が周囲に漏らされていた。だが、天皇の言動は憲法で厳しく制限されており、同庁によると首相官邸も慎重姿勢をとり続けたとされる。陛下がお気持ちを広く国民に語りかける異例の形式に踏み切った背景には、自身の強い意志があった。「議論を前に進めるには、陛下にお気持ちを公に示していただくしかなかった」。ある宮内庁関係者は明かす。陛下は5年ほど前から「象徴天皇として公務を全うできないのなら、皇位を譲るべきだ」との考えを周囲に示されていたとされる。昨年12月の誕生日の記者会見では「年齢というものを感じることも多くなり、行事の時に間違えることもありました」と吐露。この時点で陛下は生前退位に関する自らの考えを表明すべきだとする意向を宮内庁幹部に伝えられていた。同庁関係者によると、陛下の考えは水面下で官邸に伝えられていたとされる。だが皇室典範に退位に関する規定はなく、実現には法整備が必要。象徴天皇のあり方や、かつて世論が割れた女性・女系天皇問題にも拡散しかねず官邸も簡単には動けなかったとみられる。最大の関門は「天皇は国政に関する権能を有しない」とする憲法4条の規定だった。陛下の意向表明が制度改正に直結すれば抵触しかねない。時間だけが過ぎる中で、陛下は自らの思いを強められたとみられる。局面が変わったのは7月13日。報道各社が一斉に「天皇、生前退位の意向」と報じた。宮内庁は公式には報道を否定したが、同庁関係者によると、水面下で官邸側と調整を本格化させた。「政治が動かないから陛下が動くしかない」「『こういう制度にしてくれ』ではなく、陛下が考えておられることの表明だけなら違憲にはならない」。宮内庁関係者の口からは、覚悟をにじませる言葉が出始めた。この間の陛下のご様子について、関係者は「公務がつらいから早期の退位を望まれているのではない。ただ、すぐに退位するとの誤解も少なくなく、国民の反応を気にされていた」と振り返る。宮内庁は風岡典之長官らが陛下のお気持ちを代弁したり、文書だけを配布したりする方法も検討した。だが最終的には「国民に正確に気持ちを伝えたいという陛下の思いに反対する幹部はいなかった」(同庁幹部)。自身の肉声を発信するビデオメッセージ形式が決まった。陛下は1週間以上前からお言葉を準備し、ギリギリまで推敲(すいこう)を重ねられた。ある宮内庁幹部は「お気持ちが強くにじみ出た内容になった。あとは国民がどう考えるかだ」と話した。 *2-2:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/342862 (佐賀新聞 2016年8月9日) 天皇の生前退位、86%容認、世論調査、法整備「慎重に」4割 天皇陛下が8日のビデオメッセージで生前退位の実現に強い思いを示されたことを受け、共同通信は緊急の電話世論調査を実施し、86・6%が天皇の生前退位を「できるようにした方がよい」と容認していることが9日、明らかになった。退位を可能とするには皇室典範の改正など法整備が必要だが、今後の議論の進め方については慎重派が4割を超え、現天皇一代に限らず、恒久的な制度設計を求める意見が大半を占めた。調査は8、9両日、全国の有権者を対象に、コンピューターで無作為に発生させた番号に電話するRDD(ランダム・デジット・ダイヤリング)法で実施した。 *2-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160809&ng=DGKKZO05843320Z00C16A8EA1000 (日経新聞 2016.8.9) 政治に介在、懸念残る 九州大名誉教授(憲法) 横田耕一氏 一般論として生前退位の是非を論じることと、今回の天皇のメッセージを受けて議論することは異なる。前者なら賛成だが、後者は天皇への同情が前提にあり、冷静な議論にならない。今回「生前退位」という言葉こそ出ていないが、既にその流れで世論が形成されてしまっている。宮内庁は、天皇の「お気持ち」が憲法で禁じている政治的行為とならないよう文言に細心の注意を払ったと思う。だが結局、これが発端となり制度改正の議論が動き出せば、天皇の意思が政治に介在したと指摘せざるを得ない。今回はあくまで私的な意見と受け止め、制度をどう考えるかは白紙の状態から考える必要がある。もし退位を希望する理由が年齢による公務負担の重さなのであれば、減らせばよい。メッセージからは、天皇は憲法が定めた国事行為以外にも積極的に何かをしなければと考えているように受け止められるが、極端に言えば、国事行為だけをしていれば問題ない。今の天皇なら国民の理解は得られるはずだ。また天皇の意思による退位を認めると、象徴としての前天皇の残像が消えずに新天皇の存在がかすんでしまい、天皇の地位が揺らぎかねない。今回のメッセージを受けて、中長期的な視点で象徴天皇制のあり方を議論すべきだ。 <女性天皇について> *3-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160809&ng=DGKKZO05843410Z00C16A8PP8000 (日経新聞 2016.8.9) 生前退位 論点は多く、政治利用防止や前天皇の身分、「皇太弟」新設… 天皇陛下が強く示唆された「生前退位」を実現するには皇室典範改正か、新法の制定が必要となる。過去の国会審議などで、生前退位を認める際の具体的な要件や天皇の退位後の身分、さらに「皇太子」に代わる新たな規定の創設などが論点に浮上している。政府は従来、天皇自らの退位を想定しておらず、すべての問題を克服するには国民的な議論が必要となる。最も大きな課題となりそうなのは、どのような場合に生前退位が認められるかという点だ。憲法に抵触しない範囲での天皇の意思表示のあり方や、天皇の自由意思に基づかない「退位の強制」を防ぐ手立てが不可欠となる。譲位による皇位継承が多かった奈良時代や平安時代には「現天皇」と「前天皇」の2つの権威が存立し、政争になった歴史がある。退位時期を誰が決めるかも問題だ。皇室典範第28条で規定する「皇室会議」で決める方法も考えられるが、メンバーに首相ら政治家を含むため、生前退位が政治利用される恐れが出てくる。一方、天皇が恣意的に退位できるようになれば天皇の地位の安定性を損なうとの指摘もあり、議論は難航が予想される。生前退位した天皇陛下の身分や称号はどう規定するか。歴史上存在した「上皇」のような立場を設ければ、現役の天皇と並行して権威を持ち続ける懸念がある。陛下は8日のビデオメッセージで「天皇の終焉(しゅうえん)」に際しての行事に言及したが、退位後の天皇が逝去された場合の祭礼の取り扱いなども検討する必要がある。皇太子の規定にも見直しの余地が出てくる。皇室典範第8条は「皇嗣(こうし)たる皇子を皇太子という」と定めており、皇嗣となるのは現行制度では直系の男子に限られているからだ。皇太子さまが即位された場合、皇位継承順位1位は弟の秋篠宮さまになる。皇太子ご夫妻には男子がいないため次の皇太子が不在となる。皇太子さまが担われてきた公務などを秋篠宮さまが果たす場合、「皇太弟」といった地位を新設することも想定される。皇室典範改正により、天皇陛下が生前退位された場合、元号も変わる。1979年に制定した元号法で「元号は皇位継承があった場合に限り改める」と一世一元制を定めているためだ。同法は元号を政令で定めるとしているが、具体的な方法は決まっていない。昭和から平成への改元の際は、昭和天皇の在位中に歴史学者や国学者らが原案を考案したことが明らかになっている。政府が「元号に関する懇談会」を開き、衆参両院の正副議長、閣議などを経て新元号を正式に決めた。生前退位の実現に向けた議論が進展するにつれ、新元号に関する検討も進む可能性がある。 *3-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160809&ng=DGKKZO05829760Y6A800C1M13700 (日経新聞 2016.8.9) 「退位後」制度は白紙、皇室内での序列は 元号はいつ変わる 公務どうすみ分け 天皇陛下が8日、国民に向け、象徴天皇のあり方についての「お気持ち」を述べられた。象徴としての活動あっての天皇であり、それができなくなったときは、その地位にあるべきではないとの思いがにじみ出ていた。天皇の退位は国会で何度も論じられてきたが、政府は「できない」との姿勢を示してきた。それゆえ、退位後の制度準備などは白紙で、実現した場合は想定外の事案が続出するとみられる。 ●「天皇の父」の呼称は? 歴史上、退位した天皇は太上天皇(だいじょうてんのう)と呼ばれた。697年に持統天皇が称したのが始まりとされている。その後、譲位した天皇は上皇、仏門に入った場合は法皇と呼ばれた。皇室典範には天皇の母の皇太后、祖母の太皇太后の規定はあるが、退位を想定していないため、天皇の父や祖父の呼称が記載されていない。過去に問題になったのは上下関係。形式的には天皇が最高位であり、前天皇といえどもその下になるが、尊属である上皇が実権を握り、天皇の権力が空洞化した院政時代もあった。天皇に政治的権力のない現憲法下では院政のような弊害は考えられないが、新天皇よりも国民から長年敬愛されてきた前天皇に親しみの情が集まる「象徴の院政化」もありえる。また、新年祝賀の儀のような儀式、国民になじみのある天皇誕生日、新年の皇居一般参賀に前天皇・皇后がどのような序列で並ぶのかという問題もある。 ●元号と退位の時期は? 元号法は「元号は、皇位の継承があつた場合に限り改める」とだけ定めている。皇位の継承があった場合なので、退位・譲位があった時点で元号が変わることになる。戦前と現在の皇室典範ともに天皇の死去とともに皇位継承が行われることになっているため、元号もその日に変わった。大正天皇は12月25日に亡くなったので、昭和元年は1週間足らずしかなかった。このような混乱を避けるため、一世一元制だった中国では皇帝死去後、翌年初めから改元する「踰年(ゆねん)改元」が行われ、日本でも古代にはそれに倣った例もあった。退位・譲位が可能になれば、切りのいい1月1日に実施ということになるかもしれない。 ●公務は完全になくなるのか? 天皇陛下は81歳の1年間で憲法に定められた国事行為として内閣総理大臣の親任式や国務大臣など136人の認証官任命式、新任外国大使26人の信任状捧呈式、大綬章・文化勲章の親授式に臨まれた。また、内閣から上奏のあった1060件の書類に署名・押印。これらの国事行為はすべて次の天皇に引き継がれる。ただ、公務には憲法に明記されていない「公的行為」もある。地方・外国訪問や外国要人との会見、歌会始、園遊会などの行事参加、音楽、演劇、美術鑑賞も含まれる。これらは前天皇が引き続き行うことが可能で、天皇との「すみ分け」が必要になる。 ●住まいは? 天皇陛下は1989年の即位後、現在の御所が完成するまで約5年間、かつての東宮御所だった赤坂御所から皇居に「通勤」されていた。退位した後の住居が現在のままだと、次の天皇の皇太子さまも同様のことになるが、新たな御所を建設するのは経済的に非効率との批判を受けかねない。皇居外といっても、警備上の問題もあり、前天皇にふさわしい場所や既成の建物があるかどうか。皇居の御所と赤坂の東宮御所に入れ替わって住むという「奇策」も考えられる。 ●皇室関係予算は? 皇室費は天皇のほか皇后、皇太子家の日常の費用などの「内廷費」と天皇、皇族の公的活動などにあてられる「宮廷費」、皇族のための「皇族費」に分けられる。2016年度の内廷費は3億2400万円。皇太后は内廷皇族に含まれるため、退位した天皇も同様に内廷皇族となり、諸費用は内廷費でまかなわれることになるのか。しかし、天皇は特別の存在として皇族ではないとされているため、前天皇には別枠の名目の予算が組まれることも考えられる。また、現在の皇太子さまが天皇になると、皇太子が不在となり、内廷費の皇太子家の費用が不用となる。次の皇位継承者の秋篠宮さまを「皇太弟」として内廷皇族とし、経費を内廷費から支出するという可能性もある。 ●葬儀はどうなる? 宮内庁は2013年、天皇、皇后両陛下の意向を受けて、火葬や陵の縮小など葬儀の見直しと簡素化を発表した。とはいえ、天皇としての葬儀は明治以降の前例を踏襲した大規模なものだ。退位して天皇ではなくなった場合、同様の葬儀でよいのかという議論が出てくるかもしれない。古代の皇室には薄葬の思想があり、近世までほとんどの天皇の葬儀は質素なものだった。これは譲位が常態化し、「現役」の天皇の葬儀ではなかったためでもある。 *3-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160809&ng=DGKKZO05843750Z00C16A8EA2000 (日経新聞 2016.8.9)皇室制度、議論どこまで 政府、女性・女系天皇も論点に 天皇陛下が「生前退位」の意向を強く示唆されたビデオメッセージ公表を受け、政府は世論の動向を慎重に見極めながら検討に着手する。有識者会議での検討が有力だが、女性・女系天皇の容認など過去に議論された皇室制度全般に議論を広げるかどうかも焦点となる。憲法が定める象徴天皇制のあり方とも絡む問題で、秋の臨時国会から想定される憲法改正論議に影響する可能性もある。政府は報道各社の調査などで世論の動向を把握しつつ、有識者の意見を踏まえて具体的な論点を詰める方針だ。有識者の人選に加え、どのような方法で議論を進めていくかがカギを握る。小泉内閣では学識経験者ら10人による有識者会議を設け、約10カ月かけて報告書をまとめた。今回も会議を設置する案が有力だが、野田内閣のように会議体とせず、有識者から個別に意見を聴く方式も考えられる。いずれの方式も人選が重要で、政府は「方向性ありきの議論にならないよう」(首相周辺)、幅広い分野から適任者を探す方針だ。有識者会議での議論の対象を生前退位に絞るかどうかも焦点だ。かねて課題となってきた皇位継承問題とも深く関わるためだ。過去には皇位を継ぐ「男系男子」が細る現状を踏まえ、2005年の小泉内閣で女性・女系天皇の容認を、12年の野田内閣では女性皇族が結婚後も皇室にとどまる女性宮家の創設を検討した経緯がある。安倍晋三首相も男系男子の皇族による安定的な皇位継承を実現するため、旧宮家の皇籍復帰や旧皇族男子による宮家の継承には積極的とされる。いずれも実現には至っておらず、生前退位の検討をきっかけにこうした皇室制度に関する過去の議論が再燃する可能性もある。政府内には論点を絞り込みたいとの声もあるが、政府高官は「色々な論点が複雑に絡み合う問題で一筋縄ではいかない」と指摘する。検討のスケジュールも焦点となる。陛下が国民に直接お気持ちを表明するという異例の展開に、与党内からは「政府が対応を急ぐべきだ」との声が上がった。ただ陛下のお気持ちを受けて政府がすぐに具体的な対応に着手すれば、天皇の政治的言動を禁じた憲法に抵触する恐れがある。政府高官は8日夜「この件は時間をかける」と語った。現行の皇室典範には生前退位の規定がなく、実現には皇室典範の改正か新法で対応するしかない。最も大きな課題となるのは「天皇は日本国民統合の象徴」と定めた憲法との関係だ。天皇の地位を「日本国民の総意に基づく」と規定しており、専門家からは「自発的な退位は憲法になじまない」との声も上がる。政府関係者は「突き詰めると憲法論議に発展しかねない」と指摘する。 *3-4:http://www.hazardlab.jp/know/topics/detail/1/3/13005.html (ハザードラボ 2016年3月9日) 「天皇は男子のみ」は“女性差別” 国連委が皇室典範の見直しを要求 「男系男子による皇位継承」を定めた日本の皇室典範について、国連の女性差別撤廃委員会が先週末、「女性差別にあたる」として見直しを求めていたことが明らかになった。菅義偉官房長官は9日の会見で「国連日本代表部の反論によって最終報告書で記述が削除された」と述べた。菅官房長官によると、国連女性差別撤廃委員会は4日、スイス・ジュネーブの国連事務局で、日本政府への審査を実施した際、皇室典範が女性天皇を認めていないことに懸念を示し、見直すよう要請した。政府はジュネーブの日本政府代表部を通じて、▽これまでの審査過程で一切取り上げることなく、最終見解案で唐突に盛り込まれるのは手続き上の問題がある、▽皇室制度や諸外国の王室制度にはそれぞれの国の歴史や伝統が背景にあり、国民の支持を得ているなどと説明し、「そもそも皇位継承のあり方は女性に対する差別を目的にしていないことは明らかだ」と反論し、記述の削除を求めた。菅官房長官は9日の会見で「国家の基本的事項に関わる皇位継承について政府は、男系男子が継承する歴史の重みを受け止めながら、国民のさまざまな議論を踏まえながら、将来的には“女性天皇”についても検討する必要がある」ことを認めた。 PS(2016年8月23日追加):*4のように、天皇が自ら「天皇は元首ではなく、国民に寄り添う象徴である」と明言されたことは、天皇を元首にしたいとする自民党憲法改正草案への「お諫め」になってよかったと、私も思う。 *4:http://mainichi.jp/sunday/articles/20160822/org/00m/070/009000d (サンデー毎日 2016年8月23日) 日本会議と戦う!?「度胸の天皇陛下」がついに決意された 畏れ多いことながら“ある事件”以来、「今上天皇は度胸で誰にも負けない!」と思うようになった。「ある事件」とは……2004年の園遊会の席上、東京都教育委員を務める棋士の米長邦雄さんが「日本中の学校で国旗を掲げ、国歌を斉唱させることが私の仕事でございます」と話した時のことだ。これを聞いた天皇は(いつもと同じように和やかではあったが)、「やはり、強制になるということではないことが望ましい」と述べられた。米長さんは「もちろん、そう、本当に素晴らしいお言葉をいただき、ありがとうございました」と答えるしかなかった。天皇が国旗・国歌問題に言及するとは意外だった。宮内庁次長は園遊会後、発言の趣旨を確認したとした上で「陛下の趣旨は自発的に掲げる、あるいは歌うということが好ましいと言われたのだと思います」と説明した。しかし、「日の丸・君が代」を巡っては長い間、教育現場で対立が続いていた。とすれば、この天皇発言は「政治」に踏み込んだ、と見なされても仕方ない。それを十分認識されていながら天皇はサラリと「国旗観・国歌観」を披露された。畏れ多いことだが「天皇は度胸がある!」と舌を巻いた。 × × × ビデオメッセージ「生前退位のお気持ち」を聞いた時、多くの人が「第2の人間宣言」と思ったのではないか。昭和天皇は1946年1月1日の詔書で「天皇の神格」を否定された。天皇を現人神(あらひとがみ)とし、それを根拠に日本民族が他民族より優越すると説く観念を否定する!と宣言した。「人間天皇」である。今回のメッセージは「個人として」「常に国民と共にある自覚」「残される家族」―との文言が並ぶ。私的な側面、換言すれば「個人」の思いを前面に出された。だから「第2の人間宣言」と見る向きも多い。しかし、それだけではない。天皇は(政治家も、学者も、国民も避けて通って来た)「象徴天皇とは」に言及された。これはびっくりするほど「度胸ある論陣」だった。 × × × 「その地域を愛し、その共同体を地道に支える市井(しせい)の人々のあることを私に認識させ、私がこの認識をもって、天皇として大切な、国民を思い、国民のために祈るという務めを、人々への深い信頼と敬愛をもってなし得たことは、幸せなことでした」。「日本の各地、とりわけ遠隔の地や島々への旅も、私は天皇の象徴的行為として、大切なものと感じて来ました」。「象徴天皇」とは「国民に寄り添うこと」である。全身全霊で「日本国憲法」に従い、国民を守ってきたという自負。天皇は「護憲の立場」を度胸よく明確にされた。 × × × ところが、世の中は「天皇の護憲意思」と逆の方向に動いている。2012年4月に発表された「自民党憲法草案」は第1条に「天皇は、日本国の元首」と明記。現行憲法第99条には「天皇又は摂政」は憲法尊重擁護の義務を負う旨の言葉はあるが、自民党憲法草案第102条は「全て国民は、この憲法を尊重しなければならない」と書いてある。「天皇又は摂政」の文字はない。憲法が国民を守るのではなく、国民が憲法に従う。天皇は違和感を持たれたのでは……。先の大戦への反省の上、現憲法が大事にする「国民主権・平和主義・基本的人権の尊重」の柱がいつの間にか消えている。 × × × 与党が参院選で圧勝した3日後、憲法改正論議が始まろうとした矢先の7月13日、「天皇に生前退位の意向がある」とNHKニュースが報じた。このタイミングに「天皇の度胸」を感じる。天皇の「本当の狙い」を推測することをお許し願いたい。天皇は国民に対して「天皇は元首ではない。国民に寄り添う象徴である!」と明言された。安倍首相は困惑した。「国民に向けご発言されたことを重く受け止める」と1分にも満たない原稿を棒読みすると、記者団の前からそそくさと去って行ってしまった。この素っ気ない対応の裏には、このメッセージが安倍内閣に対するものと、政権を支える「日本会議」への「お諫(いさ)め」であることを知っているからではないか。大日本帝国憲法を復活させ天皇を元首にしたい日本会議からすれば、生前退位は絶対に認められないはずだ。“万世一系の天皇”という神話的な「地位」から、加齢などを理由に退職できる「職位」になってしまうからだ。天皇と日本会議の緊張関係。我々は時が経(た)つと、天皇の「お気持ち」が日本会議への「お諫め」であったことに気づくはずだ。
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2016,08,16, Tuesday
放射能汚染 2015.3.25月刊宝島4月号より 2016.3.10時事ドットコム 2013.9.13現在 放射性セシウム 食品基準 農産物の汚染 農地の除染法 体内残存量 (暫定基準と2012年4月以降の基準) (これで農産物の汚染がなくなるか疑問) (1)雑誌が奮闘して書いた原発事故の影響 月刊宝島が、2015年4月号で、*1-1のように、「汚染17市町村で小児甲状腺ガン、急性心筋梗塞が同時多発していること」「周産期死亡率も汚染17市町村で高いこと」「高止まりしているのは2012年からであること」を国の人口動態統計の死亡率から突き留め、フクイチ原発事故による被曝の健康被害として公表した。 この記事を書くにあたり東電に取材依頼書を送ったところ、東電から「(記事を)読む方の不安を煽るような内容になったりするのではないんでしょうか」と質問された上、「人口動態統計での各死亡率等についての数値の変化については、さまざまな要因が複合的に関係していると思われ、それら変化と福島原子力事故との関係については、当社として分かりかねます」という“回答”がFaxで送られてきたそうだ。 そして、死亡統計や被曝に詳しい筈の厚労省は、「環境省に聞いていただきたい」とし、環境省は「昨年12月22 日に公表した『東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議』の中間取りまとめが、①放射線被曝により遺伝性影響の増加が識別されるとは予想されないと判断した ②今般の事故による住民の被曝線量から、不妊、胎児への影響のほか、心血管疾患、白内障を含む確定的影響(組織反応)が今後増加することも予想されない としているため、周産期死亡率や急性心筋梗塞年齢調整死亡率が増加したとしても、それは原発事故の影響ではない」と原発事故で現実に起こった事象から目を逸らしてごまかしているそうである。 これらは、官の責任回避のためのチームプレイであり、原発事故の被害者にとっては決して許せることではなく、他の国民にも今後の原発利用への判断を歪めて迷惑がかかるものだ。 (2)食品放射能基準は、蓄積・呼吸による内部被曝・外部被曝を考慮していないため、甘すぎること 原子力規制委員会の田中委員長は、2016年8月3日、*1-2のように、「(食品の放射性物質濃度基準値が放射性セシウムで1キロ当たり100ベクレル以下などと規制されていることについて)私の知る限りでは科学的根拠があるとは思えない」と述べた。 しかし、食品・飲料水の放射性物質濃度基準値は原発事故直後の暫定基準から2012年4月に厳格化されたとは言え、一日10ベクレルでも長期間摂取すると体に蓄積するので、食品に人工の核種は含まないにこしたことはない。にもかかわらず、厚労省や食品安全委員会が「国際的指標を踏まえ、食品からの被曝線量上限を年1ミリシーベルトにした場合の値(つまり、食品以外からの被曝は考慮していない)で、長期的な健康への影響も含めて専門家が科学的見地から判断している」としており、さらに原子力規制委員会の田中委員長は医療の専門家ではないにもかかわらず、「厳格化された基準になったことで風評被害や出荷制限で大変な思いをしている」と述べた。しかし、福島県の農漁業生産者へは、安全な産物を生産できなくなったことに対して損害賠償や補償をすべきなのであり、国民に汚染食品を食べて協力させるのは間違いである。 このような中、*1-3のように、今村復興相が産業再生を重点施策に据え、福島の産物に対する風評被害対策として消費運動を促す仕掛けづくりに意欲を示されたそうだが、放射性物質が含まれていても基準以下なら安全だと吹聴することこそ、国民に対する科学的根拠なき風評による加害である。 (3)危険な伊方・川内原発の再稼働 中央構造線と川内原発・伊方原発 事故時の放射性物質拡散予測 広島での反対 2016.8.8佐賀新聞 2016.8.16高知新聞 2016.8.12東京新聞 女性自身の原発関連記事は、2016年8月2日、*2-1のように、「事故が起きたら死ぬ伊方と川内原発のお粗末すぎる避難計画」という記事を掲載している。伊方原発は、そばを国内最大級の中央構造線断層帯(活断層)が通っており、2016年4月に起きた熊本地震に誘発されて付近の断層が動く可能性が指摘されている。また、最大43万人以上の死者になるという南海トラフで地震が起きると複合災害となって避難は不可能だそうだ。さらに、原発事故で放射能漏れしている時に、その場所にバスやフェリーを出せる民間会社もないだろう。 また、現在稼働中の鹿児島県川内原発から50kmに桜島があり、桜島は姶良カルデラという巨大火山帯の一部で、多くの火山学者は火山噴火の予知は不可能としているにもかかわらず、九電は「敷地周辺のカルデラが、巨大噴火する可能性は十分に小さい」とし、薩摩川内市の担当者は「風向きによって避難する方角が変わるので事前に避難先を決めても意味がない。避難の必要性が生じたら鹿児島県が予め整備した原子力防災・避難施設等調整システムによって、その都度、避難先を選定する」としている。しかし、アメリカでは、現実的な避難経路が確立されていない原発は即廃炉であり、日本では避難計画は新規制基準の対象外だそうだ。 そして、どちらも避難することしか話題にしていないが、原発が事故を起こした場合には周辺の土壌や近くの瀬戸内海・日本海・太平洋が汚染され、その被害はフクイチどころでなく、広い地域が避難したまま使えなくなることについては指摘されていない。 そのため、*2-2、*2-5のように、無理してまで原発を動かす大義が見当たらない中、伊方原発の再稼働について豊後水道を挟んだ大分県内18市町村のうち半数の9市町議会が再稼働に反対や見直し、慎重対応を求める意見書案を可決した。また、*2-4のように、広島の原爆慰霊碑前でも座り込みが行われ、周辺自治体には、政治的立場の左右を問わず懸念や反対が広がっている。 さらに、*2-3のように、伊方町民を対象にした原発意識調査の結果、再稼働に反対は55%で、賛成の24%を上回り、賛成住民のうちの67%も大地震発生時の原発に不安を感じているそうだ。 (4)国民負担になる原発のコスト 福島原発事故5年で、*3-1のように、賠償・除染などの国民負担が3兆4千億円超になっており、今後も増え続ける見通しだそうだ。そのほか電源開発促進税が入るエネルギー特別会計から約1兆1000億円が中間貯蔵施設の建設費等に充てられ、政府の直接財政支出は2014年度までに廃炉支援や食べ物の放射能検査、研究開発の拠点整備など計1兆2144億円が使われ、確定していない2015年度分の除染費や直接支出を含めれば、国民負担はさらに膨らむそうだ。 また、*3-2のように、最近になってフクイチの2号機内部を透視したところ、溶融核燃料が原子炉の圧力容器の底に残っている可能性が高いことがわかったと発表されたが、3号機については爆発時に核燃料を外に吹き出してしまって内部に残っていないらしく、全く言及されていない。そして、これまで強い放射線で作業員が近づけないため溶融燃料を確認できなかったなどと言い訳されているが、人体はずっと前からレントゲン、CTスキャン、MRIなどで直接見ることのできない場所を透視しているため、その気があれば応用は容易だった筈である。 なお、*3-3のように、廃炉費用についても当初の見込みを大幅に超過するという話で、東電は国に支援要請をしている。フクイチの被災者への賠償費用も国が無利子で立て替えており、既に6兆円を超えているそうだ。 (5)他の原発の安全性 北電は、*4-1のように、「加圧水型軽水炉のタービンを回すために使う2次冷却水や蒸気に放射性物質を含まない」と説明をしていたが、1次冷却水に含まれるトリチウムは金属配管を透過して2次冷却水に漏れ出しているため事実と異なり、北海道新聞が「事実と違う」と指摘したところ、「(2次冷却水には)蒸気発生器の伝熱管を透過したトリチウムが含まれている」と説明内容を修正したそうだ。 私も玄海原発について九電から同じ説明を受け、混じりあわなくても近くで接すれば放射能を帯びることがあるかもしれないと思って何度も問い返したことがあるが、2次冷却水や蒸気には放射性物質を含まないという同じ説明だったので、他の原発も検証すべきである。 また、*4-2のように、原子力規制委が新規制基準の合格証となる「審査書案」を了承して40年以上の老朽原発を延命していくのは、原発事故のない社会を作りたいという多くの国民の声を無視しており、原発の過酷事故を経験した国が進めるべきことは、金をかけて老朽原発を延命することではなく、廃炉にすることだ。 (6)世界の潮流と日本政府のギャップ 世界銀行(World Bank)と国連(UN)は、*5-1のように、2013年11月27日、最貧国に電力網を整備するため数十億ドル規模の資金援助が必要だと訴え、いずれの国でも原子力発電への投資は行わない考えを表明している。現在は分散発電が可能になったため、①地下に電力網の整備すること ②エネルギー効率を倍増すること ③再生可能エネルギー比率を倍増すること ④新エネルギーを開発することは、開発途上国だけでなく日本でも行うべき重要な政策である。 さらに、*5-2のように、第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)、2015年12月12日、「途上国を含む196カ国が参加する2020年以降の新たな温暖化対策「パリ協定」を採択し、「産業革命前からの気温上昇を2度より十分に低く抑える目標を掲げたうえ、さらに1.5度以内とより厳しい水準へ努力する」とした。そして、この ブログの2015年12月8日に記載しているとおり、「パリ協定」の温暖化対策は原発を意図しているのではなく、100%自然エネルギーを意図しているのだ。 それにもかかわらず、*5-3のように、日本の山本環境相は2016年8月3日の就任記者会見で、温室ガス削減目標達成は原発抜きでは「極めて困難」と述べ、著しい放射線公害を引き起こす原発の再稼働を進めており、大量の温室効果ガスを排出する石炭火力発電の新設計画も条件付きで容認する意向であるため、既に再生可能エネルギー技術が進み、さらにこれを伸ばして税収を増やすべき日本の環境相として失格だ。 また、*5-4のように、原発事故を受けて企業や家庭の節電が進み、エアコンの利用が増える猛暑でも夏の電力需給は安定し、原油安で電力大手の業績も改善し、新電力への切り替えで大手に対する電力需要が減っている現在、原発再稼働の大義はない。 初期投資の大きい原発は長く使うほど利益が出るため、九電は玄海3、4号機を早く再稼働させたいそうだが、それなら、被災者への賠償費用(約5・4兆円)、廃炉費用(約2兆円)、使用済核燃料の最終処分費用等、これまで国民が負担してきた費用も電力会社が負担するよう制度変更してから、意思決定すべきである。 (7)再生可能エネルギーの発展 九州電力の子会社で再生可能エネルギー事業を手掛ける九電みらいエナジーは、*6-1のように、長崎県の五島列島沖で潮流を利用した発電の実証実験を始めるそうだ。まだ出力が小さく、運転開始も2019年度だが、日本には五島列島沖はじめ狭い海峡になっていて潮流の速い場所が多いため、本気でやれば潮流発電も力を発揮できると考える。 また、*6-2のように、農家の経営安定と地域の災害時安全保障のため、再生可能エネルギーが農村の電源になりつつあるそうだ。原発を遠慮なく使っていた時代でも電気料金は高すぎたため、農家は輸入した燃油を使っていたが、太陽光・水力・風力などの自然エネルギーを動力として使えるようになれば、農家の所得が上がって地域を活性化できると同時に、日本のエネルギー輸入額が減少するため、より重要なものに支出を振り向けることができる。 なお、埼玉県は、*6-3のように、下水処理施設で下水汚泥から発生するメタンガス等を使った発電を2019年4月に開始し、事業者へのガス売却代金や土地賃貸料など年間6000万円の収入を見込むことができた上、汚泥の減量化にも繋がるとのことである。事業者は施設内に発電機を設置し、1キロワット時あたり39円(税抜き)で20年間、電力会社に売電するそうだが、このように邪魔者をエネルギーに換えるのはアッパレだ。他の自治体も、この“資源”は豊富に持っているのではないだろうか。 *1-1:http://blog.takarajima.tkj.jp/archives/1957240.html (月刊宝島2015年4月号) 福島県の汚染地帯で新たな異変発覚!「胎児」「赤ちゃん」の死亡がなぜ多発するのか? ~誰も書けなかった福島原発事故の健康被害 【第6回 後編】~最新2013年の「人口動態統計」データを入手した取材班は、高い放射能汚染に晒されている「17の市町村」で、周産期死亡率が急上昇している事実に辿り着いた。ジャーナリストが自力で行なう「原発事故による健康への影響調査」最終回! ■小児甲状腺ガン、急性心筋梗塞「汚染17市町村」で同時多発 福島第一原発事故発生当時、18歳以下だった福島県民の人口は36万7707人。そのうち、14年12月末時点で甲状腺ガン、またはその疑いがある子どもの合計は117人である。この数字をもとに、福島県全体の小児甲状腺ガン発症率を計算してみると、10万人当たり31.8人となる。これでも相当な発症率であり、十分「多発」といえる。14年度の検査で新たに「甲状腺ガン、またはその疑いがある」と判定されたのは8人だが、そのうちの6人が「汚染17市町村」の子どもたちである。「汚染17市町村」における小児甲状腺ガン発症率を計算してみると、同33.0人と県平均を上回り、より多発していることがわかった。汚染17市町村」では、急性心筋梗塞も多発している。【図5】は、同地域における過去5年間の「急性心筋梗塞」年齢調整死亡率を求めたものだ。 最新13年の年齢調整死亡率は、福島県全体(同27.54人)を上回る同29.14人。おまけにこの数値は、12年(同29.97人)から“高止まり”している。つまり「汚染17市町村」が、福島県全体の同死亡率を押し上げていた。周産期死亡率、小児甲状腺ガン発症率、さらには急性心筋梗塞年齢調整死亡率のいずれもが、「汚染17市町村」で高くなる──。これは、福島第一原発事故による「健康被害」そのものではないのか。それとも、偶然の一致なのか。本誌取材班は、東京電力を取材した。同社への質問は、 (1)原発事故発生後の「福島県における周産期死亡率の上昇」は、原発事故の影響によるものと考えるか。 (2)原発事故発生後の「汚染17市町村における周産期死亡率の上昇」は、原発事故の影響によるものと考えるか。 (3)「汚染17市町村」で周産期死亡率と急性心筋梗塞年齢調整死亡率がともに上昇していることは、この中に、被曝による「健康被害」が内包されている可能性を強く示唆している。これに対する見解をお聞きしたい。 という3点である。取材依頼書を送ったところ、東京電力広報部から電話がかかってきた。 * 「(記事を)読む方が、心配になったりするような内容ではないんでしょうかね?」 ──「心配になる内容」とは? 「質問書をいただいた限りだと、『震災以降、率が上がっている』といったところで、特に不安を煽るような内容になったりするのかなと、個人的に思ったものですから」 ──「不安を煽る」とはどういうことでしょうか?質問した内容はすべて、国が公表したデータなど、事実(ファクト)に基づくものです。 「ファクトですか」 ──はい。 「国等(とう)にも当社と同様にお聞きになった上で、記事にされるんでしょうかね?」 ──はい。そうです。 * その後、同社広報部からファクスで次のような“回答”が送られてきた。 「人口動態統計での各死亡率等についての数値の変化については、さまざまな要因が複合的に関係していると思われ、それら変化と福島原子力事故との関係については、当社として分かりかねます」。しかし、「分かりかねる」で済む話ではない。そもそも、日本国民の「不安を煽る」不始末を仕出かしたのは東京電力なのである。それを棚に上げ、事実を指摘されただけで「不安を煽る」などという感情的かつ非科学的あるいは非論理的な言葉で因縁をつけてくるとは、不見識も甚だしい。自分の会社の不始末が「国民の不安を煽っている」という自覚と反省が不十分なようだ。猛省を促したい。 ■環境省「放射線健康管理」の正体を暴く 続いて、国民の健康問題を所管する厚生労働省に尋ねた。 * 「それは、環境省のほうに聞いていただく話かと思います」 ──原発事故による住民の健康問題は、環境省に一本化されていると? 「そうですね」 * ご指名に基づき、環境省を取材する。面談での取材は「国会対応のため、担当者の時間が取れない」との理由で頑なに拒まれ、質問への回答は、同省総合環境政策局環境保健部放射線健康管理担当参事官室よりメールで寄せられた。回答は以下のとおり。「昨年12月22 日に公表された、『東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議』の中間取りまとめによれば、 ●放射線被ばくにより遺伝性影響の増加が識別されるとは予想されないと判断する。 ●さらに、今般の事故による住民の被ばく線量に鑑みると、不妊、胎児への影響のほか、心血管疾患、白内障を含む確定的影響(組織反応)が今後増加することも予想されない。 とされています」 環境省は、たとえ周産期死亡率や急性心筋梗塞年齢調整死亡率が増加したとしても、それは原発事故の影響ではない──とした。その根拠は「専門家会議の中間取りまとめ」が、原発事故の影響でそうした疾患が増加することを予想していないからなのだという。ちなみに、「専門家会議」を所管しているのは、この回答の発信元である同省の「放射線健康管理担当参事官室」である。科学の権威たちが揃って予想だにしないことが起きたのが福島第一原発事故だったはずだが、あくまで「予想」に固執する環境省は同じ轍(てつ)を踏みそうだ。もちろん、科学が重視すべきは「予想」より「現実」である。環境省の説が正しいとすれば、原因は別のところにあることになり、それを明らかにするのが科学であり、それは環境省が拠りどころとする「専門家会議」の仕事のはずだ。だが、その原因を特定しないまま、環境省は端から全否定しようとするのである。なぜ、環境省は現実から目を逸らし、真正面から向き合おうとしないのか。身も蓋もない言い方だが、環境省が現実に目を向けることができないのは、昨年12月に出したばかりの「中間取りまとめ」を、環境省自身が否定することになりかねないからなのである。つまり、本誌取材班の検証で明らかになった「汚染17市町村」での周産期死亡率や急性心筋梗塞年齢調整死亡率の増加の事実は、「専門家会議の中間取りまとめ」の「予想」結果を根底から覆しつつ「権威」を失墜させ、その贋物性を白日の下に曝け出してしまうものだった。中間取りまとめ」が予想していない疾患の増加はすべて「原発事故の健康被害ではない」として、頭ごなしに否定する環境省の姿勢は、かつて「日本の原発は事故を起こさない」と盛んに喧伝してきた電力御用学者たちの姿を彷彿とさせる。12年7月に出された国会事故調(東京電力福島原子力発電所事故調査委員会)の報告書は、「歴代の規制当局と東電との関係においては、規制する立場とされる立場の『逆転関係』が起き、規制当局は電力事業者の『虜』となっていた。その結果、原子力安全についての監視・監督機能が崩壊していた」としていた。環境省もまた、電気事業者の「虜」となっているようだ。そう言われて悔しければ、「現実に向き合う」ほかに名誉挽回の道はない。このように不甲斐なく、頼りにならない環境省のおかげで、このままでは「汚染17市町村」での“健康異変”は十把一絡(じっぱひとから)げにされ、かつて「水俣病」が発覚当初に奇病扱いされたように、原因不明の奇病「福島病」とされてしまいそうである。メチル水銀中毒である「水俣病」に地域の名前が付けられたのは、加害企業の責任をごまかすべく御用学者が暗躍し、「砒素(ひそ)中毒説」などを唱えたことにより、原因究明が遅れたことが原因だった。これにより、病気に地域名が付けられ、被害者救済も大幅に遅れることになったのである。従って、「汚染17市町村」で多発する病気に「福島」の名が冠されるようになった時の原因と責任は、すべて環境省にある。 *1-2:http://www.jiji.com/jc/article?k=2016080300780&g=soc (時事ドットコム 2016.8.3) 食品放射能基準「根拠ない」=田中委員長が批判-規制委 原子力規制委員会の田中俊一委員長は3日の定例記者会見で、食品の放射性物質濃度基準値が放射性セシウムで1キロ当たり100ベクレル以下などと規制されていることについて、「私の知る限りでは科学的根拠があるとは思えない」と述べた。食品や飲料水の基準値は東京電力福島第1原発事故を受け、2012年4月に厳格化された。それまでは野菜や穀類、肉などは同500ベクレル以下などとされていた。田中委員長は「あの基準になったことで、風評被害や出荷制限で大変な思いをしている」と述べ、福島県の農業生産者らの苦労を強調した。チェルノブイリ原発事故後の欧州の食品基準にも言及し、「コントロールできるようになったから(基準値を)低くしている。そういうのが本来の姿だ」と指摘。「私のような人たちから見ると日本は変な国だ」と批判した。厚生労働省は現行基準について「国際的な指標を踏まえ、食品からの被ばく線量上限を年1ミリシーベルトにした場合の値。長期的な健康への影響も含めて判断している」と説明。食品安全委員会事務局も「専門家が科学的見地から取りまとめた」としている。 *1-3:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/344681 (佐賀新聞 2016年8月15日) 編集局長インタビュー 今村雅弘復興相に聞く 風評被害対策に意欲 第3次安倍再改造内閣で初入閣した今村雅弘復興相(69)=衆院比例九州、鹿島市出身=は、佐賀新聞社のインタビューに応じた。5年が経過した東日本大震災の復興・復旧について、産業再生を重点施策に据える考えを示すとともに、根強く残る福島の産物に対する風評被害対策として、消費運動を促す仕掛けづくりに意欲を示した。今村復興相は就任直後に改めて被災地3県を回った。現状について「5年前に比べると、基盤整備などで着々と姿を現してきており、復興・復旧が進んできた」と評価した。その上で「基盤が整備されても、なりわいの再生が進まなければ人は戻らない」として、産業再生へ支援策を重点的に打ち出す考えを示した。原発事故の影響で福島を中心に農産物や海産物の風評被害が残っていることに関しては「危ないものではないということをもっとアピールして、福島の食材を買おうという運動を常に起こしていくことが重要」と指摘した。「福島農産物ファンクラブのようなものや、ふるさと納税に似た仕組みで消費拡大を促してもいい」と私案も披露した。原発の再稼働問題では「日本のエネルギー事情を考えると、原発は最小限必要」と容認の立場を鮮明にした。ただ、条件として「二重、三重の安全対策を講じ、さらに万一、事故が起きた場合に備えた多重防護策を施すべき」と福島第1原発事故を教訓にした対策の徹底を挙げた。 <伊方・川内原発の再稼働> *2-1:http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160802-00010000-jisin-soci (女性自身 2016年8月2日) 「事故起きたら死ぬ」伊方&川内原発のお粗末すぎる避難計画 「ここでの暮らしは、つねに不安がつきまとう。原発で事故が起きたら、逃げ場がありませんから」と話すのは、佐多岬半島(愛媛県伊方町)の先端近くに住む平岡綾子さん(仮名・43)。伊方原発は、すぐそばを国内最大級の中央構造線断層帯(活断層)が通っている。4月に起きた熊本地震に誘発されて、伊方付近の断層が動く可能性も指摘されている。また南にある南海トラフで地震が起きると、最大で43万人以上の死者数になる可能性も……(内閣府試算)。「伊方原発は、佐多岬半島という日本一細長い半島の付け根にあるんです。だから、伊方原発から西に住む半島の住民(4,906人)は、原発事故が起きたら原発の前を通って東に避難するしかありません。でも放射能漏れしている原発の前を通って逃げるなんて不可能です」と平岡さん。しかし避難経路になっているのは片側一車線の道が多く、なかにはがけ崩れが修復されず、そのままになっているところもあった。政府は、放射能漏れがひどく原発の前を通って逃げられない場合は、佐多岬半島の港からフェリーで大分県に避難する計画も立てている。「訓練のときは、迎えのバスが来て港まで連れて行ってくれました。でも地震でガケくずれが起きたら、すぐに道がふさがれてしまう。第一、放射能漏れしているのにバスやフェリーを出してくれる民間会社なんてあるんでしょうか」(平岡さん)。避難訓練にも参加した国道九四フェリーの広報担当者にも尋ねた。「放射能漏れがなければフェリーは出せますけどね。当社も、船員の人命を守らねばなりませんから、(放射能漏れが)あった場合は対応できるかむずかしいですね」。昨年の避難訓練では、ヘリを導入することも予定されていたが、天候不良で中止になるというお粗末さ。事故がおきれば、逃げ道をふさがれた住民の命は切り捨てられる。現在、日本で唯一稼働している鹿児島県の川内原発。そこから50kmには桜島がある。桜島は姶良カルデラという巨大火山帯の一部で、これが巨大噴火を起こせば川内原発も破壊的なダメージを受ける可能性がある。九電は「敷地周辺のカルデラが、巨大噴火する可能性は十分に小さい。原発の運用期間中は、火山活動のモニタリングを続ける」と説明する。多くの火山学者は「火山噴火の予知は不可能」と批判している。しかし、原子力規制庁も九電の言い分を認めて再稼働に至っている。避難計画も穴だらけだ。介護が必要な高齢者や障害者の避難計画はないに等しい。「県や市は、避難計画を各施設に丸投げです。原発事故が起きたら、施設に通う高齢者は自宅に帰せと言うが、ひとり暮らしで認知症がある高齢者も少なくないのに、帰せるわけがありません」。そう話すのは、川内原発から約17kmにある、いちき串木野市で「デイサービス蓮華」を営む江藤卓郎さん。原発から5~30km圏内の要介護者は“屋内退避”が原則だが、避難が必要になった場合に施設の利用者を受け入れてくれる先は決まっていない。市の担当者は「風向きによって避難する方角が変わるので、事前に避難先を決めておいてもあまり意味がない。避難の必要性が生じたら、鹿児島県が予め整備した原子力防災・避難施設等調整システムによって都度、避難先を選定する」と話す。「風向きを読むことは、もちろん大事です。でも、事故が起きてから高齢者をいきなり知らない施設に避難させることは不可能です」と江藤さん。事前に利用者の家族にアンケート調査を実施し、避難の意向を確認。独自に原発から30km離れた知人の介護施設に受け入れてもらえるよう手はずを整えた。施設に通う80代の女性は、ポツリとこうもらした。「原発事故が起きたら、逃げられやせん。もう、ここで死ぬだけよ」前出の後藤さんもこう語る。「アメリカでは、現実的な避難経路が確立されていない原発は即廃炉です。でも日本の場合、避難計画は原子力規制委員会が原発再稼働を進めるために新たにつくった新規制基準の対象外なんです。だったらなおさら、安全がきっちり確認できない原発は再稼働を認めない、という厳しい姿勢で臨まなければ」。今回の取材で出会った、福島県南相馬市から京都府綾部市に避難中の女性も、次のように訴える。「福島では、事故のときに逃げ遅れたり、放射能の方向に避難してしまったりして被ばくした人がたくさんいます。その教訓がまるで活かされていない。事故が起きたら、国の言うことを信じずに、逃げられる人はすぐに逃げてほしい。国の指示を待っていたら被ばくするだけです」 *2-2:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201608/CK2016081202000241.html (東京新聞 2016年8月12日)伊方、不安置き去り再稼働 周辺自治体に広がる懸念・反対 四国電力は十二日午前、伊方原発3号機(愛媛県伊方町)を再稼働させた。東京電力福島第一原発事故を踏まえ策定された原子力規制委員会の新規制基準に適合した原発では九州電力川内1、2号機(鹿児島県)、関西電力高浜3、4号機(福井県)に次ぎ五基目。川内1号機の再稼働から一年たち政府は原発活用を加速させたい考えだが、伊方原発近くには長大な活断層「中央構造線断層帯」が通り、熊本地震を機に活発化する懸念や、事故時の避難計画の実効性に不安も根強い。日本一細長い半島に位置し、事故時には住民避難も収束作業も支援も困難が予想される四国電力伊方原発3号機(愛媛県)が再稼働した。九州から四国を通って本州に至る活断層「中央構造線断層帯」に沿って発生した四月の熊本地震後、豊後水道を挟んだ大分県各地の議会で、再稼働への懸念や反対を表明する動きが広がっている。その一方、暑い日が続く中でも四国の電力需給は安定。無理をしてまで原発を動かす大義は見当たらない。いくら地震や津波の対策をしても、原発のリスクはなくならない。一般的な工業施設なら、事故の影響は限定的。広範囲かつ長期にわたる影響が出る点で、原発はやはり別格と言える。何度、伊方の地を訪れても、雄大な美しい光景に圧倒される。その半面、尾根筋を走る一本の国道を除けば、道は細く険しく、岩肌ももろい。事故に備えて進めている道路拡幅は未完成のまま。住民避難計画では海を渡って大分などに避難するというが、現実的と受け止めている住民には出会ったことがない。地震が起きたら道は寸断される可能性があるためだ。「港に行く前に、閉じ込められる」と多くの人が語った。険しい半島の岩場を切り崩し、埋め立てて造った原発。敷地に余裕はない。事故時の対策拠点も必要最低限の施設で、休むスペースはなく、トイレも仮設が一つあるだけ。福島のような高濃度汚染水問題が起きても、保管するためのタンクの置き場も見当たらない。「新規制基準を満たせば、事故はある程度で止まる」。そんな危うい仮定の上で、伊方原発の「安全」は成り立っている。 *2-3:http://www.ehime-np.co.jp/news/local/20160812/news20160812018.html (愛媛新聞 2016年8月12日) 町民反対55% 伊方原発再稼働 四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の再稼働を前に、県内外の8人でつくる「瀬戸内海を守ろう会」は11日、伊方町民を対象にした原発への意識調査結果を発表した。再稼働に反対は55%で、賛成の24%を上回り、賛成住民でも67%は大地震発生時の原発には不安を感じているとしている。調査は、7月11日~8月10日に県内外のボランティアが戸別訪問し、伊方町民294人から回答を得た。大地震発生時の伊方原発には「とても不安」が全体の56%で、「少し不安」は29%、「大丈夫だと思う」は10%。再稼働に賛成の住民は「少し不安」が42%で「とても不安」は25%。「大丈夫だと思う」は31%だった。再稼働反対の住民は「とても不安」が73%を占め、「事故が起きれば逃げ場がなく、避難計画に不安がある」などの意見があった。 *2-4:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2016081201001778.html (東京新聞 2016年8月12日) 「再稼働強行に抗議」で座り込み 広島の原爆慰霊碑前 四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)が再稼働した12日、広島市中区の平和記念公園にある原爆慰霊碑前では、反原発派の市民団体メンバーら約30人が「再稼働の強行に抗議する」と訴え、座り込みをした。原水爆禁止広島県協議会(広島県原水禁)が呼び掛けて実施。金子哲夫代表委員(68)は「絶対的に安全だとは言えない。放射能被害に遭った広島と同じ思いをさせないためにも、直ちに停止させるべきだ」と批判し、参加者らは「原発再稼働をゆるさん」と書かれたプラカードを掲げた。 *2-5:http://qbiz.jp/article/92331/1/ (西日本新聞 2016年8月13日) 伊方原発再稼働 大分のシイタケ農家、対岸60キロ圏から抗議 天気が良い日は、豊後水道を挟んだ対岸に伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の原子炉格納容器のドームが見える。原発から約60キロの大分県杵築市大田でシイタケ栽培を営む中山田さつきさん(62)は再稼働に不安を募らせる。「過酷事故が起きれば、海を越えて放射性物質が飛来する。そんなことになったら、生活を根こそぎ奪われてしまう」。12日、四国電力は3号機を再稼働させた。中山田さんの住む国東半島は、江戸時代からため池やクヌギ林を活用したシイタケ栽培が盛ん。その循環型農業が評価され、地域は2013年、国連食糧農業機関(FAO)の世界農業遺産に認定された。中山田さん方も代々続くシイタケ農家。自宅で乾燥させ、大分名産の干ししいたけとして出荷する。今春は菌が入った「種コマ」をクヌギの原木に約9万5千個打ち、生育を待っている。東京電力福島第1原発の事故後、福島県産の露地栽培シイタケから基準を上回る放射性物質が検出され、出荷停止になった。生産量日本一を誇る大分県産の干ししいたけも、産地を問わずに敬遠される風評被害で価格が急落した。12年、中山田さんは同業者の声を聞こうと福島県二本松市の農家を訪ねた。汚染されたシイタケは行き場がなく、倉庫に積まれたまま。「同じことが大分で起きるかもしれないと思うとぞっとする。シイタケもクヌギ林も全部汚染され、生活が立ちゆかなくなる」。今年3月、関西電力高浜原発(福井県)の運転差し止めを求める仮処分申し立てを大津地裁が認めた。「隣県の住民でも止められるんだ」と勇気をもらった。7月上旬、大分地裁に伊方原発の再稼働差し止めを求めて仮処分を申し立てた。「今まで立地県の人に、原発と戦うことを押しつけてきた。申し訳なかった」。原発はとんでもない怪物だと思う。「過酷事故を想定して、30キロ圏内の自治体には避難計画を義務づけ、何十万という人を避難させるかもしれない前提で、動かす。そんな工場や発電所がほかにありますか?」。再稼働を前に開かれた今月10日の仮処分申し立ての審尋で、四国電力は「安全性に問題はない」と主張した。「事故はいつ起きるか分からない。一日も早く止めなければ」。伊方原発が再稼働した12日、居ても立ってもいられず、発電所周辺で開かれた抗議集会に駆け付けた。 ◇ ◇ ●反対意見書の可決次々 大分9市町議会、全体の半数 愛媛県の中村時広知事が昨年10月に伊方原発3号機の再稼働に同意して以降、大分県内18市町村のうち半数の9市町議会が再稼働に反対や見直し、慎重対応を求める意見書案を可決した。経済的利益は受けず、事故の際には被害だけを受けることになる大分県では、不信感が高まっている。意見書案を可決したのは杵築、竹田、由布、別府、中津、国東、豊後高田、臼杵の市議会と日出町議会。このうち、全会一致で可決した杵築市議会は、再稼働にあたり、周辺自治体の同意や実効性ある避難計画が必要だと求めた。内陸部の竹田市議会は「放射性物質が飛来すれば、農林畜産業など主要産業が壊滅する」としている。杵築市議の一人は「原発の安全性確保に関しては、保守も革新もない。事故が起きれば市民は誰だって被害者になってしまう」と話す。臼杵市の中野五郎市長は今年1月、伊方原発を視察した際に「絶対に安全ということはありえない」と訴え、四国電力に大分県内での説明会開催を求めたが、四電は応じていない。大分県は、愛媛県からの避難者を受け入れる方針を示し、再稼働自体には反対していない。 <国民負担の原発事故コスト> *3-1:http://www.jiji.com/jc/article?k=2016031100118&g=soc (時事ドットコム 2016/3/11) 国民負担3兆4千億円超=賠償・除染など、事故5年で-総額見えず拡大へ・福島原発 東京電力福島第1原発事故の発生から5年間に損害賠償や除染、汚染水対策などで国民が負担した額が、確定分だけで3兆4613億円を超えることが分かった。日本の人口で割ると1人2万7000円余りに上る。今後も増え続ける見通しで、総額が見通せない状況だ。時事通信は復興特別会計などの原子力災害関連予算の執行額と、東電など電力7社が電気料金の値上げ分に含め賠償に充てる一般負担金などを集計した。国民負担は、電気料金への上乗せ▽事実上の国民資産である東電株の売却益やエネルギー特別会計(エネ特)からの支出▽政府の直接財政支出-に大別される。電力7社は事故後の電気料金値上げで、一般負担金を2015年度までに少なくとも3270億円上乗せした。東電は汚染水処理装置の保守管理費や賠償相談のコールセンター運営費など、2193億円以上も値上げ分に含めている。一般負担金は原子力損害賠償・廃炉等支援機構を通じ、賠償費用を立て替えている政府に納付されるが、その際に機構の運営費が差し引かれる。14年度までの運営費は117億円だった。東電株の売却益やエネ特の支出は、除染や汚染廃棄物の処理費、中間貯蔵施設関連費に充当される。これらの費用は14年度までに計1兆6889億円発生し、政府が立て替えている。東電株の購入に際し、機構が金融機関から受けた融資には政府保証が付き、焦げ付いた場合は税金で穴埋めされる。機構は東電株が大幅に値上がりすれば約2兆5000億円の売却益が生じ、除染などの費用を賄えると見込む。電源開発促進税が入るエネ特からは、約1兆1000億円が中間貯蔵施設の建設費などに充てられる。直接財政支出は14年度までに、廃炉支援や食べ物の放射能検査、研究開発の拠点整備などで計1兆2144億円が使われた。確定していない15年度分の除染費などや直接支出を含めれば、国民負担はさらに膨らむ。 *3-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160729&ng=DGKKASGG28H1J_Y6A720C1MM8000 (日経新聞 2016.7.29) 溶けた核燃料、圧力容器内に 福島第1の2号機 内部を透視 東京電力と政府は28日、福島第1原子力発電所2号機の内部を透視する最先端の技術を使って調べたところ、溶け落ちた核燃料が原子炉の圧力容器の底に残っている可能性が高いと発表した。強い放射線に阻まれて作業員が近づけない溶融燃料を確認したのは初めて。具体的な取り出し方法を決める手がかりになるとみており、今後より詳しい調査を進める。2011年3月の福島第1原発事故で、1~3号機は炉心溶融(メルトダウン)が起きた。原子炉内部の調査には、宇宙線から生じる「ミュー粒子」と呼ぶ素粒子を使う。この粒子は人体などたいていの物質を通り抜けるが、ウランなど密度が高い物質に当たると進路が折れ曲がり、レントゲン撮影のような透視画像を得られる。今回の観測では、圧力容器の底に大きな影が映っていた。影の大部分は溶融燃料とみられる高い密度の物質で、その量は160トンほどと推定した。この数字から、原子炉中心部付近にあった核燃料はほとんどが溶け落ちたとみられる。2号機については、核燃料が集まった炉心を覆う鋼鉄製の圧力容器の中に溶融燃料が多く残っていると推定されてきた。しかし、建屋周辺の除染や調査の準備などに時間がかかっていた。溶融燃料の位置や量が把握できたことで、今後の取り出し方法の選定に向けて前進したことになる。東電と政府は今年度中にも、ロボットを使って格納容器の内部を調べる計画だ。 *3-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160729&ng=DGKKZO05400790Z20C16A7MM8000 (日経新聞 2016.7.29) 廃炉費用 東電が国に支援要請 当初見込みを大幅超過 東京電力ホールディングス(HD)の数土文夫会長は28日の記者会見で、福島第1原子力発電所の廃炉に関して政府に支援を求める考えを明らかにした。作業工程の遅れなどで、廃炉費用が当初見込んだ約2兆円を大幅に上回る可能性が高くなったため。原発事故の賠償費用が当初見込みを上回っている問題でも政府と対応を協議する。数土会長は福島第1原発の廃炉費用について「経営に多大なインパクトを与える」と強調。そのうえで「これまで以上に国や原子力損害賠償・廃炉等支援機構と連携を密にする」と述べた。具体的な廃炉費用の見通しや支援要請の内容は明らかにしなかった。福島第1原発事故の被災者への賠償費用は国が無利子で立て替えている。従来の再建計画では5兆4000億円を見込んでいたが、すでに6兆円を超えた。想定を上回る分をどう負担するかについて政府と協議する。東電HDは経営改革を加速することで国の支援を取り付けたい考えだ。数土会長は電力小売りの全面自由化などで「環境が大きく変化している」とし、「過去の習慣にとらわれず非連続の改革に取り組む」と語った。政府は東電HDからの支援要請を受け、廃炉が着実に実施できるような支援措置の検討に入る。費用が膨らんだ場合でも作業が滞らないようにする考えだ。 <原発の安全性> *4-1:http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/society/society/1-0301450.html (北海道新聞 2016/8/6) 北電が泊原発資料修正 地元首長「信頼揺らぐ」と批判の声 北海道電力が4月から後志管内で行っている泊原発(後志管内泊村)に関する地域説明会で「原発の2次冷却水には放射性物質が一切含まれない」と事実と異なる説明をしていたことが分かり、北電は5日から説明会の資料や説明内容の修正を始めた。後志管内の首長からは「説明の信頼が揺らぐ」との批判の声が出ている。北電によると、地域説明会の資料に、泊原発が採用する加圧水型軽水炉について「タービンを回すために使う2次冷却水や蒸気に放射性物質を含みません」などと記載し、口頭でも同様の説明をしていた。しかし、1次冷却水に含まれるトリチウムは金属配管を透過して、2次冷却水に漏れ出している。北海道新聞が「事実と違う」と指摘したところ、内容の修正を決めた。北電は「資料は沸騰水型原発との構造の違いの説明を主眼にしたもの。故意に誤った説明をした訳ではないが、誤解を招く表現なので修正した」としている。北電は5日夜の留寿都村での説明会では「(2次冷却水には)蒸気発生器の伝熱管を透過したトリチウムが含まれている」と説明を変え、修正した資料を配った。誤った内容による説明会は18市町村で計61回行われたが、「説明会のやり直しはしない」という。これに対し、泊村の牧野浩臣村長は「当初の説明内容が軽率だった。説明会をやり直す必要はないが、機会を見て住民への説明責任をしっかり果たしてほしい」と指摘。仁木町の佐藤聖一郎町長は「(トリチウムが)入っていないと説明したのに、入っていたとなると不信感が募るだけ。北電は悪いことも含め事実をしっかり伝えてほしい」と話している。 *4-2:http://mainichi.jp/articles/20160808/ddm/005/070/002000c (毎日新聞社説 2016年8月8日) 老朽原発の延命 「40年廃炉」の骨抜きだ 老朽原発の運転延長が、立て続けに認められようとしていることに、大きな危惧を抱かざるを得ない。あくまでも「例外」とされた措置が、普通のことになってしまった。福島第1原発事故を教訓に見直された原子力安全規制は事実上、大きく方向転換したことになる。関西電力が40年を超えた運転を目指す美浜原発3号機(福井県)について、原子力規制委員会は新規制基準への合格証となる「審査書案」を了承した。11月末までに追加の審査に合格すれば、最長で2036年まで運転が延長できる。 ●「例外」が普通のことに 老朽原発の運転延長は、今年6月に認可を得た関電高浜原発1、2号機(同)に続き3基目となる。福島第1原発事故後、原発の運転期間を原則40年とする法改正がなされた。老朽化による原発のリスクを低減するためだ。福島第1原発で炉心溶融した1〜3号機は運転開始から約35〜40年が過ぎていた。導入当時の民主党(現民進党)政権は、40年の根拠を「圧力容器が中性子の照射を受けて劣化する時期の目安」と説明し、法改正には野党だった自民、公明両党も賛成した。規制委が認めれば1度限り、最長で20年間の延長を認める規定が盛り込まれたが、あくまで「例外的」な措置のはずだった。日本は地震と火山の国だ。原発に依存し続けるリスクは大きい。多くの国民も、40年原則を当然だと受け止めたはずだ。原発の安全性を向上させるためにも、脱原発依存を進めるためにも、政府と電力会社は40年廃炉の原則を厳守すべきだ。老朽原発の部品は新品に交換できても、施設の配置などは古い設計を変えづらく、安全性向上には限界があるとされる。古い技術をどうやって継承していくのかも、大きな課題となっている。こうした老朽原発のリスクを重く見るのなら、運転延長の審査は、通常の原発に比べても、格段に厳しいものであるべきだ。ところが、高浜、美浜両原発の運転延長に関する規制委の一連の審査では、むしろ、関電を手助けしているようにすら見える。高浜原発は今年7月が認可の期限だった。美浜原発は運転開始40年の前日となる11月末が期限となる。審査期間が限られる中、規制委は担当者を両原発に集中させ、安全審査を申請済みの他の原発よりも優先して審査してきた。しかも、審査が時間切れになるのを避けるため、重要な機器を実際に揺らして耐震性を確認する試験を、運転延長の認可後に先送りした。認可後の試験で耐震性に問題ありと判定された場合でも、認可は取り消さず、追加対策をして確認をやり直せばよいという。この問題については、規制委の一部委員からも「確認のやり直しは社会の理解を失う」との批判が出たほどだ。老朽原発では、燃えやすいケーブルを使っていることが問題視されていた。新規制基準は全ケーブルの難燃化を求めているが、すべて難燃性ケーブルに交換するには膨大な費用と時間がかかる。規制委は、交換が難しい箇所を防火シートで覆うという関電の代替策を認めた。難燃性ケーブルを使う場合と同等の安全性が保てるのか、疑問が残る。 ●疑問募る委員長の発言 規制委の田中俊一委員長は就任当初、原発の40年超運転について「延長は相当に困難」と述べていた。しかし、最近では「費用をかければ技術的な点は克服できる」という言い方に変わった。電力会社の代弁者のように聞こえはしまいか。福島第1原発事故後に廃炉が決まった老朽原発は、東電分を除くと6基ある。ただ、出力は30万〜50万キロワット級と小規模なものばかりだ。一方で、美浜3号機や高浜1、2号機は出力が80万キロワット級と、廃炉が決まった原発に比べれば大きい。関電は安全対策費として、高浜1、2号機で2000億円超、美浜3号機で1650億円を見込む。それでも延長に踏み切るのは、火力発電の燃料費削減など収益改善効果があるからだ。高浜1、2号機の場合、1カ月当たり約90億円に上るという。国内では今後10年間で、美浜3号機を含めて15基の原発が運転開始から40年を超える。関電の原発がお手本となり、安全対策費をかけても採算が見込める一定規模以上の原発の運転延長申請が続くだろう。廃炉の選択は、経済原理に基づく電力会社の判断に託され、例外規定の形骸化が更に進む。40年廃炉原則には、こうした電力会社の経済原理よりも、安全性を重視する意味があったはずだ。しかし、安倍政権は30年度の電力供給における原発比率を20〜22%とする計画を掲げる。これも、老朽原発の延命を後押しする。40年原則を徹底すれば、既存と建設中の原発がすべて稼働したとしても、比率は15%程度にとどまるからだ。これでは、原発に依存しない社会をできる限り早く作りたいという多くの国民の声には応えられない。原発の過酷事故を経験した国として、進めるべきは、老朽原発の延命ではなく淘汰(とうた)のはずだ。 <世界の潮流と日本のギャップ> *5-1:http://www.afpbb.com/articles/-/3004099?ctm_campaign=topstory (朝日新聞 2013年11月28日) 「原発は援助しない」、世銀と国連が表明 世界銀行(World Bank)と国連(UN)は27日、最貧国に電力網を整備するため数十億ドル規模の資金援助が必要だと訴えるとともに、いずれの国においても原子力発電への投資は行わない考えを表明した。世銀のジム・ヨン・キム(Jim Yong Kim)総裁と国連の潘基文(パン・キムン、Ban Ki-moon)事務総長は、2030年までに世界中の全ての人が電力の供給を受けられるようにする取り組みについて記者団に説明した。その中でキム総裁は「われわれは原発は行わない」と明言した。キム総裁によると、世銀は来年6月までに42か国の発電計画をまとめる予定。電力網の整備やエネルギー効率の倍増、再生可能エネルギー比率の倍増などを掲げ、目標達成には年間およそ6000~8000億ドル(約61兆~82兆円)が必要になるとしている。しかしキム総裁は、集まった資金は新エネルギー開発にのみ使用すると報道陣に明言。「原子力をめぐる国家間協力は、非常に政治的な問題だ。世銀グループは、原発への支援には関与しない。原発は今後もあらゆる国で議論が続く、たいへん難しい問題だと考えている」と述べた。 *5-2:http://www.nikkei.com/article/DGXLASGG12H37_S5A211C1000000/ (日経新聞 2015/12/13) COP21、パリ協定採択 196カ国・地域が参加、18年ぶり 温暖化1.5度以内へ努力 第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)は12日午後7時26分(日本時間13日午前3時26分)、途上国を含むすべての国が参加する2020年以降の新たな温暖化対策「パリ協定」を採択した。産業革命後の気温上昇を抑える目標を掲げたうえ、できるだけ早期に温暖化ガス排出を減少に転じると明記した。各国の自主性に委ねられる面は大きいが、196カ国・地域が史上初めて温暖化防止にともに努めると約束した。地球温暖化の阻止へ歴史的な一歩を踏み出した。12日夜、パリ郊外に設置された特設会場に設けられた大会議場にケリー米国務長官や中国の解振華・国家発展改革委員会特別代表、丸川珠代環境相など各国の閣僚が集まった。議長を務めるファビウス仏外相が「パリ協定を採択した」と述べ、木づちを振り下ろすと会場は長い間、拍手や歓声で包まれた。世界の温暖化対策がまとまるのは、1997年採択の京都議定書以来、18年ぶり。パリ協定は産業革命前からの気温上昇を2度より十分に低く抑える目標を掲げたうえ、さらに1.5度以内とより厳しい水準へ努力するとした。2度を超えると、異常気象といった様々な影響が現れると指摘されている。すでに地球の気温は1度程度上昇している。このため、温暖化ガスの排出量を早期に頭打ちにし、今世紀後半には人為的な排出量を森林などによる吸収量と均衡する状態まで減らす。米国や、中国などの途上国を含むすべての国が温暖化ガス削減の自主目標を作成し、国連に提出し、国内対策を実施する義務を負う。各国の削減目標を引き上げるため、2023年から5年ごとに目標を見直し、世界全体で進捗を検証する仕組みも導入する。温暖化に伴う被害を軽減する世界全体の目標を定めることも決めた。パリ協定の採択に向けて最大の焦点となった途上国の資金支援を巡っては、「温暖化は先進国の責任」とする途上国と、将来の支援額を明示できないうえ新興国にも拠出側に回ることを望む先進国で意見が激しく対立。途上国への資金支援は義務づける一方、具体的な拠出額は協定とは切り離す形とし、25年までに、最低でも年間1000億ドルとする新たな拠出額の目標を決めることで決着した。地球温暖化を巡っては、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が14年に第5次評価報告書を公表し、「人間活動が20世紀半ば以降に観測された温暖化の支配的な要因であった可能性が極めて高い」と結論づけた。世界各地で温暖化の影響とみられる豪雨や洪水、干ばつなどの被害の報告も相次いでいる。国際社会が地球環境問題に危機感を感じ、1992年には気候変動枠組み条約が採択された。97年の同条約第3回締約国会議(COP3)で京都議定書がまとまった。だが京都議定書の採択後、中国やインドなど経済成長を遂げた途上国を中心に温暖化ガスの排出量が急増。さらに米国が2001年に離脱し、日本などが参加を見送るなど、参加国が大幅に縮小し、13~20年に削減義務を課された国々の排出量は世界全体の1割強にとどまっている。こうした状況を打開すべく、09年のデンマークでのCOP15で新たな枠組みの合意を目指し、首脳級による交渉が行われたが先進国と途上国の意見の隔たりが大きく失敗。その後6年間かけて各国の温暖化対策の機運を徐々に高めていき、ようやくパリ協定の採択に至った。 *5-3:http://www.jiji.com/jc/article?k=2016080400011&g=pol (時事ドットコム 2016.8.4) 原発抜きでは「極めて困難」=温室ガス削減目標達成-山本環境相 山本公一環境相は3日の就任記者会見で、地球温暖化対策を進める上での電源構成(ベストミックス)について「原子力発電抜きで、2030年までに(13年比で)温室効果ガスを26%削減する目標を達成するのは極めて困難」と述べ、原発の再稼働などを進める政府方針を堅持する考えを示した。環境相はまた、大量の温室ガス排出を伴う石炭火力発電の新設計画の条件付き容認方針も基本的に踏襲する意向も表明。一方で「(環境影響評価法に基づき)石炭火力への抑制的な思いをにじませたい」とも述べた。政府は30年のベストミックスとして、原発の比率を20~22%、石炭火力を26%、再生可能エネルギー22~24%とすることを決めている。 *5-4:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12509511.html (朝日新聞 2016年8月13日) 「原発必要」揺らぐ根拠 電力大手、需給に余力・業績も回復 伊方再稼働 四国電力の伊方原発3号機(愛媛県)が再稼働した。電力業界は需給や経営を安定させるのに「原発は欠かせない」として、審査中の原発の再稼働を進める方針だ。だが、原発事故を受けて企業や家庭の節電が進んだ結果、エアコン利用が増える猛暑でも夏の電力は安定。原油安で業績は改善しており、再稼働の根拠は逆に揺らいでいる。2011年3月の東京電力福島第一原発事故をきっかけに、大手に対する電力需要は減っている。節電が定着したことに加え、新電力への切り替えが進んだためだ。15年度の需要は5年前より約13%減。ピーク時でも電気を十分に供給できることから、政府はこの夏、震災後で初めて「節電要請」を見送った。四電は、伊方3号機の再稼働で、原発1基分にあたる98万キロワットが余る計算になり、首都圏や関西圏向けに電気を売る方針だ。1年前に川内原発(鹿児島県)が再稼働した九州電力は「余る電力を売ることが必要」(幹部)と、自粛していたオール電化の営業を7月から再開した。「再稼働しないと電力不足になる」状況にはない。業績も回復している。事故後、原発の代わりに動かす火力の燃料費が増え、原発頼みだった各社の業績は悪化した。だが、原発を持つ9社の16年3月期決算は、震災後初めて全社が経常黒字になった。WTI原油の先物価格は11年以降、1バレル=80~100ドル台で推移したが、今年2月には一時20ドル台に下落した。原油安の影響で火力の燃料費負担が減り「燃料価格の安さなど外部環境がプラスに働いた」(瓜生道明・九電社長)。それでも「収益力の本格回復には至っていない」として、玄海3、4号機(佐賀県)の再稼働を急ぐ考えだ。初期投資の大きい原発は長く使うほど利益が出るため、今ある原発は早く再稼働させたい。電気事業連合会の勝野哲会長(中部電力社長)は7月の記者会見で「需給と電力の事業収支の面で厳しい状況が続いている。早期の再稼働に向かって進めていく」と改めて強調した。 ■かさむ事故対策費 経産省は昨年5月、30年時点の原発の発電コストは1キロワット時あたり10・3円以上と試算し、太陽光や火力など他の電源と比べて「最安」と位置づけた。ところが、政府は今年4月からの「電力自由化」で競争が激しくなり、原発を持つ大手の経営環境は厳しくなると見て、原発事業を維持する制度づくりを進める。例えば、使用済み核燃料の再処理事業では、電力が撤退や破綻(はたん)することも想定し、国の関与を強めた。原発事故時の損害賠償制度をめぐっては、電力側の責任の範囲を小さくすることも含めて議論を始めた。こうした見直しに国の有識者会議の委員からは「原発コストは安いという試算があるのに、なぜ自由化で『原発はやっていけない』という議論が出るのか」と、矛盾を指摘する意見も出た。実際、事故対応のコストは当初の想定より膨らんでいる。被災者への賠償費用(約5・4兆円)や廃炉費用(約2兆円)は、東電の想定を大幅に上回る見通しだ。電力各社が見込む原発の安全対策費も年を追うごとに増えている。原発の実際の発電コストは試算を上回っている可能性が高い。再稼働を進めるにあたっては「原発は安い」との試算を前面に出し、実際には「高コスト」を前提に政府内の議論が進む。都留文科大の高橋洋(ひろし)教授(エネルギー政策)は「すでに電気は十分に足りているし、コストが安いという神話は崩壊している。政府は、原発が安くないことを認めたうえで、それでも推進する根拠を説明する必要がある」と指摘する。 <再生可能エネ> *6-1:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/337842 (佐賀新聞 2016年7月26日) 国内最大の潮流発電設置、長崎、五島列島沖で実証実験 九州電力の子会社で再生可能エネルギー事業を手掛ける九電みらいエナジー(福岡市)は26日、長崎県・五島列島沖で潮の流れを利用した発電の実証実験を始めると発表した。新日鉄住金エンジニアリング(東京)などと共同で実施。出力は2千キロワットを想定しており、潮流発電としては国内で最大規模になる。本年度から準備を進め、2019年度の運転を目指す。潮流発電は再生エネの中でも天候に左右される太陽光や風力と違い、年間を通じて安定した発電ができるとされ、政府も導入に力を入れている。実験は環境省の委託事業として選ばれ、総事業費は本年度からの4年間で30億円以上を見込む。 *6-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=37920 (日本農業新聞 2016/6/17) 再生エネルギー 収益で地域活性化 災害時 農村の電源に 地域ぐるみで再生可能エネルギー発電を行い、大規模な災害に備えて蓄電する取り組みが、農山村で広がっている。固定価格買取制度による売電収入で地域活動の財源が見込めるだけでなく、停電した場合の一定期間、非常用電源にも活用できる。自然災害で集落が孤立した場合などへの備えになり、「農家の経営安定と地域の災害時の安全保障につながる」と効果を実感する声が上がる。兵庫県朝来市の10集落の住民でつくる「与布土地域自治協議会」は、児童数の減少で閉校になった小学校体育館の屋上に太陽光パネルを設置し、昨年3月から固定価格買取制度を利用して売電を始めた。パネルと同時に蓄電池も設置。体育館は災害時に地域の避難所となり、その場合に使える非常用電源を確保した格好だ。山に囲まれた与布土地域。閉校を契機に、協議会では過疎高齢化が進む地域の存続問題について話し合いを重ね、再エネ発電に挑戦した。太陽光パネルと蓄電池設置の総費用は2200万円。うち蓄電池は500万円程度で、体育館の数日間の電源が確保できる見通しだ。県の助成500万円を活用し、残りの1700万円は無利子融資を受けた。年間180万円の売電収入のうち、年間50万円は協議会の活動費に充てる。同協議会の西山俊介さん(73)は「地域活性化のために自由に使える活動費は貴重。自然災害が発生しライフラインが途絶えた時に、自分たちの生活を地域で守ることもできる」と笑顔だ。兵庫県では再エネを活用した非常用電源を整備した集落を「エネルギー自立のむら」と認定し、補助や無利子貸し付けを行う。現在、県内の中山間地域などで12集落を認定。同県は「エネルギーの地産地消により災害時の自給自足が実現できる」(水エネルギー対策課)と説明する。地元農家や地域づくり団体などでつくる福島県いわき市の「いわきおてんとSUN企業組合」も太陽光発電と蓄電に取り組む。売電する他、蓄電池を整備することで災害時の電源対応ができる。島村守彦事務局長は「再エネは、売電による経済効果も大きいが、自分たちでエネルギーを作って自分たちで使い、いざという時の生活を守ることができる」と感じる。熊本県南阿蘇村の「里山エナジー」は、農家が再エネに参入する支援をする。代表者の農家、大津愛梨さん(41)の家では、再エネ発電をしていたことから熊本地震の本震が発生した4月16日もすぐに電気が使えた。大津さんは「再エネの力は災害時に改めて証明された」と強調。地域の資源を生かした発電について「農村は食べ物もエネルギーも作れることを示し、農業の経営安定にも災害時の安全保障にもつながる」と指摘する。 *6-3:http://www.nikkei.com/article/DGXLZO05236320V20C16A7L72000/ (日経新聞 2016/7/26) 下水汚泥発電の準備着手・県、桶川で19年に開始 埼玉県は25日、下水処理施設で下水汚泥から発生するメタンガスなどを使った発電事業の準備に着手したと発表した。元荒川水循環センター(桶川市)に設備を設け、2019年4月に発電を開始する。県は事業者へのガスの売却代や土地の賃貸料で年間6000万円の収入が見込め、汚泥の減量化にもつながるという。事業者は公募型プロポーザル方式で大原鉄工所(新潟県長岡市)の東京支店(東京・文京)を選定。県は同センターに汚泥消化槽を建設し、年間に発生するメタンガスを主成分とする消化ガスのうち6割に相当する146万立方メートルを同社に売る。同社は同センター内に発電機を設置し、1キロワット時あたり39円(税抜き)で20年間、電力会社に売電する。年間発電量は270万キロワット時で、一般家庭500世帯分に相当するという。国が定めた再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)を活用する。ガスの残り4割は汚泥焼却炉の燃料として活用。県は汚泥消化槽の建設や焼却炉の改造などに約40億円を投じる。同センターは熊谷、行田、鴻巣、桶川、北本の5市の33万人分の下水を処理している。県は中川水循環センター(三郷市)でも発電事業を予定している。 PS(2016/8/17追加):*7-1のように、7月の鹿児島県知事選では三反園氏が当選し、川内原発の一時停止を要請しているため、停止後は再稼働しない可能性も出てきた。しかし、愛媛県は2014年11月に2度目の当選を果たした中村氏が、四国電の再稼働に関し、「安全確保を最優先に慎重に取り組んでいただきたい」と述べただけだったため、愛媛県の伊方原発は、*7-2のように、司法で止めるか、知事を換えて止めるかしかなさそうだ。 *7-1:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/342354 (佐賀新聞 2016年8月8日) 地震で原発立地知事に差 ■川内原発 一時停止の要請を表明 ■伊方原発 再稼働に追加策求めず 連続して震度7を記録し大きな被害が出た4月の熊本地震を巡り、原発を抱える周辺自治体首長の対応に差が目立っている。鹿児島県の三反園訓知事が九州電力川内原発(同県薩摩川内市)の一時停止を求める意向を示す中、12日にも再稼働する四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の再稼働に同意した同県の中村時広知事に特段の動きは見られない。市民団体は「熊本地震を受け安全対策を再検証すべきだ」と批判している。 ▼対決姿勢 7月に初当選した三反園氏は、熊本地震の影響を調べるため、稼働中の川内1、2号機の一時停止を九電に要請することを表明。「地震後に安全性は確認した」とする九電との対決姿勢を鮮明にしている。一方、伊方3号機の近くには長大な中央構造線断層帯が通っており、熊本地震をきっかけに活発化することを危ぶんだ住民らは松山地裁や大分地裁に運転差し止めを求める仮処分を申し立てた。一部の市民団体は、再稼働同意を撤回するよう中村氏に要請した。だが、原子力規制委員会は「審査で十分検討した」との立場で、中村氏もこれをほぼ踏襲する形で、再稼働までに四国電や国に追加の安全対策を要求しない考えを示してきた。 ▼影潜める 中村氏は昨年10月の再稼働同意に際し、国の基準以上に施設を耐震化するよう四国電に求めるなどの県独自の安全対策を取るとともに「過酷事故が起きたときの国の責任が曖昧」と繰り返し批判。“物言う知事”としての存在感をアピールしたが、熊本地震後は影を潜めたようにも見える。今年7月下旬の定例会見。中村氏は県の取り組みを改めて紹介した上で「立地条件などが違い、鹿児島県と同じ土俵で(対応を)比較できない」と理解を求めた。今月5日、四国電が再稼働の日を12日と発表した際も、中村氏は「安全確保を最優先に、慎重に取り組んでいただきたい」などとコメントを出しただけだった。 *7-2:http://www.oita-press.co.jp/1010000000/2016/08/16/000804532 (大分合同新聞 2016/8/16) 対岸の原発 伊方再稼働㊦ ― 「一私企業の経営安定のために、どうして多数の住民がリスクを負わなければならないのか」(井戸謙一 1954年生まれ。大阪府出身。東京大学教育学部卒。75年司法試験合格。金沢地裁、京都地裁で民事部の裁判長を務めた。2011年3月に退官し、現在は弁護士。滋賀県彦根市在住) 関西電力高浜原発3、4号機(福井県)に隣接する滋賀県の住民の申し立てを認め、運転を差し止めた3月の大津地裁決定は、重大事故が起きた場合に放射能被害が及ぶ可能性のある周辺自治体の住民を勇気づけた。滋賀住民の弁護団長を務め、四国電力伊方原発(愛媛県)の運転禁止を求める「大分裁判」の弁護団にも加わった井戸謙一弁護士(滋賀弁護士会)に、大津決定の意義などを聞いた。 ●大津決定の意義は。 現実に動いている原発を、隣接県の住民の申し立てで隣接県の裁判所が止めたことだ。(立地県でない住民の主張を認めたのは)東京電力福島第1原発事故の被害が広範に広がったことの裏返しだ。 ●追随する司法判断は出るか。 これまで裁判所は、電力会社側に原発が安全基準に適合していることを、原告側には原発の危険性の立証を求め、原告側のハードルが高かった。大津決定は従来の枠組みを踏襲しながらも、関電に対し「福島事故後の規制がどう強化され、関電がどう応えたか」の立証責任を強く求めた。(他の裁判所が)同調しやすい判断枠組みだ。 ●決定は政府が「世界最高水準」と自負する新規制基準を不十分と指摘した。 国際基準である国際原子力機関(IAEA)の「深層防護」の考え方を取り入れなければならないのに、新基準は避難計画を審査の対象としていない。それだけで原子力基本法、原子力規制委員会設置法に違反する。「世界一厳しい」というのは大うそだ。 ●井戸さんは元裁判官で、金沢地裁の裁判長だった2006年に北陸電力志(し)賀(か)原発の差し止め判決を言い渡した。 もともとは原発廃止論者ではなかった。原発なしでは日本のエネルギーが立ち行かないと思っていた。しかし、審理の中で、北陸電力がコスト削減のためにあえて不利な部分に目をつぶっていると感じた。原発自体は反対しないが、やるなら安全性を高めて、との思いを込めた。「3・11」直後も原発をすぐゼロにとは言えなかった。だが、2年間、原発が1基も動かず、日本社会には原発がいらないことが分かった。今夏は節電要請もしていない。一私企業の利益のために周辺住民がリスクを負う理由はない。 ●伊方原発をどう見る。 最も大きいのは耐震性の問題。中央構造線が動いたときの地震の加速度予測は、四国電の計算にごまかしがあるとしか思えない。合理的な避難計画もできず、立地不適だ。 ●「大分裁判」の弁護団に参加した。 大分、松山、広島と3地裁に伊方原発差し止めの仮処分が申し立てられている。最低でも一つ勝ち、何としても止めたい。鹿児島県では九州電力川内原発の一時停止を掲げた知事が当選した。川内は政治で、伊方は司法で止めることができる。もう時代は変わった。動き始めた原発を一つ一つ止めていき、原発ゼロを実現したい。 PS(2016年8月18日追加):朝日新聞編集委員の上田氏が伊方原発近くの集落生まれだそうで、*8に、「『なんか声をあげんといかん』。道は、その先に開かれる」と書いておられるが、役に立つ有力な地元出身者だろう。そして、その先の道は、原発がなければ瀬戸内海は釣り堀のように魚が多くて美しい内海にでき、豊予海峡は海峡幅が約14kmで流れが速いため関アジ・関サバのような筋肉質の高級魚が獲れる上、潮流発電の適地にもなりうる。従って、その先は栽培漁業を含む漁業や九州・四国間海底トンネルをつくって四国・瀬戸内海をめぐる観光拠点にするなど、いろいろな可能性が考えられる。 *8:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12516729.html (朝日新聞 2016年8月18日) ザ・コラム 伊方原発再稼働 声をあげる、その先に (編集委員 上田俊英) 朝のうちから夏の日差しが照りつけていた。11日、愛媛県伊方町。穏やかな瀬戸内の海が眼前に広がる四国電力伊方原発のゲート前に、斉間淳子さん(72)はいた。3号機の再稼働反対を訴えるためだ。伊方の隣の八幡浜市で生まれ育ち、夫で地域紙を発行する満さん(2006年死去)と原発反対運動を続けてきた。兄が四電にいて運動と距離を置いた時期もあったが、1981年に伊方沖で魚の大量死が発生。県の調査グループは放射能の影響を否定したものの、淳子さんは恐怖を感じた。「海に浮いている魚を見て、わが子のように思ったんよ。どこかで必ず事故が起こる。そうなったら、子どもや孫が帰るところがなくなってしまう」。11年3月11日、不安は福島で現実になる。東京電力福島第一原発事故からほどなく、淳子さんは東日本大震災の「月命日」の毎月11日に、ゲート前で座り込むようになった。「反対の声をあげんといかん。そうすれば四電もむちゃくちゃを、ようせんようになる」という思いからだ。最初の座り込みは、みずからが88年につくった「八幡浜・原発から子どもを守る女の会」のメンバーと2人。それが3号機の再稼働を翌日に控えたこの日、全国から集まった人たちは80人ほどはいただろう。その輪の中で淳子さんは訴えた。「子どもの命を、だれが守ってくれるんですか」 ◇ 伊方で原発の建設計画が表面化したのは69年。激しい反対運動のなか、8年後の77年に最初の1号機が運転を始める。そして94年までに3基の原発が並んだ。淳子さんの夫の満さんは新聞記者として、当初から取材にあたった。満さんは著書「原発の来た町/原発はこうして建てられた/伊方原発の30年」に記す。「原発は決して伊方を豊かにはしなかった。道路や建物は立派になったが、人々の心は傷つき、人間の信頼は失われた」。それは、まさにいまの福島の被災地の姿だ。第一原発周辺の広大な避難指示区域。人々は分断され、心は傷ついたままだ。伊方の反対運動は73年、原発の安全性を争う日本で最初の裁判へ発展する。住民が1号機について国の設置許可の取り消しを求めて最高裁まで争い、92年に敗訴が確定した。しかし、この裁判は、反対運動に、いまにつながる道を切り開いていた。伊方の最高裁判決は次のように述べた。原発の設置許可の判断に不合理な点があるという主張や立証の責任は「本来、原告(住民)が負うべき」だが、原発の安全審査に関する資料をすべて国側が持っている点などを考えると、国側に「判断に不合理な点のないことを相当の根拠、資料に基づき主張、立証する責任があり」、それを尽くさなければ「判断に不合理な点があることが事実上推認される」。関西電力高浜原発3、4号機(福井県)をめぐり滋賀県の住民が大津地裁に再稼働の差し止めの仮処分を求めた裁判で、地裁が今年3月に出した運転停止の決定も、この最高裁判決を引用した。被告が電力会社の場合も原発の安全を立証する責任は電力会社側にあり、関電がそれを尽くしていないなどとして、住民の申し立てを認めた。伊方3号機は12日、予定通りに再稼働した。反対する住民は広島、松山、大分の3地裁にそれぞれ運転停止の仮処分を申請。いま、司法の力での運転停止を目指す。 ◇ 伊方原発は愛媛の西に針のように突き出た佐田岬半島のつけ根にある。事故の際、避難の「命綱」となる幹線道は、半島を貫く国道197号と、そこから分かれて瀬戸内海沿いを通る378号だけである。原発を離れて378号を東に向かうと、ほどなく私が生まれた集落に着く。人口450余。避難路はこの国道1本だ。道は片側が海、反対側は崖。かつては幅が狭く、ガードレールもまばらで「酷道(こくどう)」と呼ばれた。集落の2キロほど東には60年前に路線バスが海に転落し、9人が亡くなったことを伝える「慰霊碑」も立つ。集落で知人を見かけた。「事故があったらどう逃げる」と尋ねたら、「みんな、あきらめとる」。現実かもしれないが、それでは困るので、言った。「なんか声をあげんといかん」。道は、その先に開かれる。 PS(2016年8月19日追加):*9-1のように、鹿児島県の三反園知事は九電川内原発周辺を視察し、「道路・避難訓練など、事故時の避難計画を含めて見直す必要がある」と述べている。これにより、道路整備のために原発が必要だということにならないことを望みたい。一方、電力供給については、*9-2のように、北九州市や地場企業が出資する地域エネルギー会社「北九州パワー」が、供給可能なすべての市施設への電力供給を達成し、供給先を民間企業にも拡大する方針を決めた。また、*9-3のように、九電管内の揚水発電所は太陽光発電接続量が約600万キロワット(原発6基分)に達し、日中に水をくみ上げる日が増加して揚水発電所が太陽光発電の余剰電力を調整する「蓄電池」の役割を果たしているそうだ。さらに、北九州市は、*9-4のように、響灘沖の洋上風力発電に向けて事業者の公募を開始しており、*9-5のように、地中熱の利用で省エネ・創エネもできるため、強烈な公害を伴う原発は、既に過去のエネルギーとなっている。 *9-1より *9-3より 2016.8.18 北九州市響灘 東京新聞 風力発電ゾーン *9-1:http://qbiz.jp/article/92651/1/ (西日本新聞 2016年8月19日) 九州の原発:事故時の「避難計画を見直す」 鹿児島知事が明言、川内原発周辺視察で 鹿児島県の三反園訓知事は19日、九州電力川内原発(薩摩川内市)周辺を視察した。前知事時代に作成された原発事故時の避難計画が適切かどうかを判断するため、避難道路の状況を確認。住民からも意見を聞き「道路や避難訓練の問題など、早急に対応が必要なことが分かった。避難計画を含めて見直す必要がある」と述べた。記者団の質問に答えた。今回の視察は、7月の知事選で川内原発の一時停止を公約として掲げて当選した三反園知事にとっては、実現に向けた初めての具体的な行動。三反園知事はこの日、薩摩川内市や原発30キロ圏内のいちき串木野市を視察した。 *9-2:http://qbiz.jp/article/92556/1/ (西日本新聞 2016年8月18日) 「北九州パワー」が中小企業に売電 来年1月から 北九州市は17日、市や地場企業が出資する地域エネルギー会社「北九州パワー」(戸畑区)が2017年1月から市内の事務系中小企業への売電を始めることを市議会環境建設委員会に報告した。18年1月をめどに工場系の中小企業にも売電を始める。企業側は電気料金の削減が期待できるという。同社は4月から市内2カ所のごみ焼却施設で発電する電力を買い取り、市施設の約3割に当たる122施設に他の事業者より安く売電。残りは売っても採算割れする施設などで、同社は「供給可能なすべての市施設への電力供給を達成した」と判断し、1日の取締役会で供給先を民間企業に拡大する方針を決めた。同社は昨年12月に設立。4〜6月の売上高は約1億9600万円で営業利益は約1600万円。購入した122施設では3カ月間で計1111万円の電気料金削減効果があったという。 *9-3:http://qbiz.jp/article/92610/1/ (西日本新聞 2016年8月19日) 電力新時代:揚水発電所「昼夜逆転」 余剰太陽光の受け皿に 九州電力管内で、くみ上げた水を使って発電する「揚水発電所」の役割が変化している。従来は夜間に原子力や火力などの電力を使って貯水し、需要が増える時間帯に発電していたが、近年は日中に水をくみ上げる日数が増加。太陽光設備の余剰発電量を調整する「蓄電池」の役割を果たしている。揚水発電所は、電気を使って低所ダムの水を高所ダムに移し、必要に応じて水車を回して発電する仕組み。九電は天山(佐賀県唐津市、出力60万キロワット)、大平(熊本県八代市、出力50万キロワット)、小丸川(宮崎県木城町、出力120万キロワット)の3発電所を持つ。離島を除く九州の太陽光発電の接続量は、国の再生可能エネルギー固定価格買い取り制度が始まった2012年以降に急増。今年6月末現在の接続量は615万キロワットで、11年度末の約8・3倍に増えた。このため、春や秋の需要が少ない時期には、日中の発電量が想定を上回る状況が発生。供給過多だと停電の恐れもあることから、九電は需給調整のため揚水発電所を活用している。水をくみ上げた延べ日数の合計を昼夜別にみると、11年度以降、昼間の稼働は年々増加。15年度には昼夜が逆転した。九電によると、昼間のくみ上げ日数は、15年度の3倍程度まで増やせる余地がある。現在も増加を続ける太陽光発電の受け皿として、重要性がさらに高まりそうだ。 *9-4:http://qbiz.jp/article/92596/1/ (西日本新聞 2016年8月19日) 北九州市、事業者の公募開始 響灘沖の洋上風力発電 北九州市若松区沖での洋上風力産業集積を目指す北九州市は19日から、響灘の港湾区域2700ヘクタールに発電施設を設置・運営する事業者の公募を始める。市は投資金額1千億〜1500億円、関連産業を合わせて将来的に千人超の雇用を見込む。公募は10月18日まで。外部の有識者からなる「評価・選定委員会」の意見を参考に市が事業者を選び、来年1月ごろに結果を公表する。事業者は環境アセスメントを経て2021年度以降に発電を始める予定。評価項目には、風力発電産業の総合拠点化に向けた産業集積、拠点形成に役立つ具体的提案も含まれている。市港湾空港局は「洋上風力の風車には2万点程度の部品が必要とされ、裾野が広い産業。単に発電所を設置するだけでなく、北九州市をけん引する新たな産業集積を図りたい」としている。 *9-5:http://www.saga-s.co.jp/column/economy/22901/346157 (佐賀新聞 2016年8月19日) 「地中熱の利用促進を」九州研究会、最新事例など発表 再生可能エネルギーとして注目されている地中熱を研究している「九州地中熱利用促進研究会」(野田豊秋会長、8社)の結成1年を記念した講演会が佐賀市であり、地中熱を導入したモデルルームの事例などが報告された。地中熱は浅い地盤にある低温の熱エネルギーで、地上の外気温と地中の温度差を利用して冷暖房に役立てる。地盤改良機製造のワイビーエム(唐津市)は、地中熱の利用により夏期の電力消費を50%以上削減できたという。講演会では、研究会が建設した小城市のモデルルームでの実験結果を報告。太陽光発電と地中熱を利用することで、外気がマイナス3度でも20度以上の室温を実現した事例が示された。同社の大久保博晃主査は「海外からの視察もあり、地中熱が次世代のエネルギーの主役になる可能性がある」と力を込めた。講演会には約50人が参加。佐賀大の宮良明男教授が地中熱利用技術の最新研究を発表した。 PS(2016年8月20日追加):東電福島第一原発事故による避難区域のうち、放射線量が年間50ミリシーベルト超の帰還困難区域を、どうすれば年間1ミリシーベルト以下の居住可能区域にできるのか不明であり、際限なく国家予算をつぎ込めば年間1ミリシーベルト以下の居住可能区域になるわけでもない。そのような中、最終的には数兆円にもなる可能性のある除染を国費で負担しつつ、原発のコストは安いと強弁し、社会保障は消費税率を上げなければ財源がないなどとして、特定の省庁のメンツや趣味のために国民の生命・財産・生活をないがしろにするのは程がある。 *10:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201608/CK2016082002000130.html (東京新聞 2016年8月20日) 帰還困難区域の除染に国費 事実上の東電救済策 東京電力福島第一原発事故に伴う避難区域のうち、最も放射線量が高く、立ち入りが制限されている福島県の「帰還困難区域」の除染について、政府が国費を投入する方針を固めたことが政府関係者への取材で分かった。帰還困難区域では本格的な除染作業は行われておらず、方針が決まるのは初めて。政府は区域内に、五年後をめどに避難指示の解除を目指す「復興拠点」を設ける方針で、この拠点や関連するインフラの整備を公共事業として行うことで、通常の除染作業と同様、線量を下げる。洗浄や表土はぎ取りといった従来の除染は、東電が費用を負担する仕組み。国費の投入は「国が前面に出る姿勢のアピール」(政府関係者)で、帰還困難区域の除染がスムーズに進むとの期待がある一方、東電の事実上の救済に当たるため、反発も出そうだ。政府関係者によると、復興拠点の整備事業として、対象地域内の建物の解体・撤去や土壌の入れ替え、道路の基礎整備・舗装などを実施することで、除染と同様に大幅な線量低下が見込めるという。インフラ整備と一体化して行うことにより、除染が迅速化すると同時に、東電の負担軽減につながる。こうした除染費用の方針について、政府は近く与党の提言を受け、今月末にも正式決定する。拠点外の除染については、整備の進展に応じて今後、検討する。一方、既存の利用可能な設備やインフラなどの除染費用は、政府が従来通り、東電に請求する。政府は二〇一三年、東電が負担する除染費用を二・五兆円と試算したが、範囲の拡大や経費の高騰などで大幅に超過する見込みで、本年度当初予算までに二・九兆円が計上されている。帰還困難区域を含めると最終的には数兆円程度に増える可能性もあり、このうち、国費で負担する復興拠点の除染費用は見通しが立っていない。 <帰還困難区域> 東京電力福島第一原発事故による避難区域のうち、放射線量が年間50ミリシーベルトを超え、原則立ち入り制限がされている区域。第一原発のある大熊町、双葉町をはじめ、浪江町、富岡町、飯舘村、葛尾村、南相馬市のそれぞれ一部が対象で、事故前の区域内人口は約2万4000人、面積は約337平方キロ。 PS(2016年8月21日追加):送電網がなくても電気を使えるのが太陽光発電などによる自家発電だ。パナソニックは、*11-1のように、「①ブランドイメージは最初に手にする商品で創られる」「②日本製は機能や品質は高いが価格も高いと言われてきた」としているが、最近の日本製は、他国製と比較して機能差より価格差が大きすぎ、これがブランドイメージになっている。ではどうすればよいかと言えば、生産を現地化してインドでよく教育された優秀な技術者やインド商人として有名なインド人営業マンを使って、市場のニーズに合う製品を作って販売することだ。これは、グローバリズムの中のローカリズムと言われ、現地に雇用を生み出して購入資金を提供するとともに、会社としてのパナソニックのファンを増やし、市場がインド人の視野の内にあるユーラシア大陸に広がるという効果を持たらす。これは、左ハンドルの大型アメ車を輸入して日本で売ろうとしても売れないのと同じグローバル化の原則だ。 さらに、アフリカもインドと同様に太陽光発電の適地である上、これから生産適地にもなるため、現地で生産・販売することを視野にビジネスを行った方が、地域を豊かにして販売も進むと考えられる。 このような中、*11-2のように、経済同友会副代表幹事「原発の運転延長をしないと原子力比率20%は達成しえない」と述べたり、*11-3のように、内閣府原子力委員会が原子力白書を復活して原発回帰したりしていれば、せっかく日本で発明された太陽光発電の普及や生産が妨害され、10年後にはインドよりも、15年後にはアフリカよりも遅れて、またバスに乗り遅れまいと必死で追い駆け、(逆転できたとしても)逆転できたことを喜ばなければならない立場になっているだろう。何故なら、生産技術は販売され生産する場所で改良され定着するものだからだ。 *11-1:http://digital.asahi.com/articles/ASJ8D64VXJ8DULZU00F.html?ref=nmail (朝日新聞 2016年8月21日) 日本品質を途上国価格で 「エネルギーのはしご」見据え 南アジアやアフリカの送電網がほとんど整備されていない地域で、電気のある暮らしが急速に広がっている。かぎを握るのは、太陽光パネルを使った簡素な機器と、低所得者層の実情にあった販売手法の組み合わせだ。貧困問題の解決はビジネスチャンスにもつながる。日本企業も本腰を入れ始めた。レンガ造りの家の中で、子どもたちが本を読んでいた。インド・ニューデリーの東約200キロにあるゴート村。明かりは、小さな太陽光パネルとリチウムイオン電池、LED照明を組み合わせたソーラーランタンだ。「ケロシン(灯油)の明かりは、暗くて煙で目が痛かった。これで夜も勉強できるようになった」。大学生のポージャ・チャンドラさん(18)と中学生のアカシュ君(12)のきょうだいは口をそろえた。家の外では母親のマヤさん(45)がもう1台で夕食の準備をしていた。送電線はあるが、電気がつくのは日に2~3時間。昨年末に2台買ってから、市場で野菜などを売って暮らす一家の生活は明らかに上向いた。夜も商売ができるようになり、収入が2割増えたという。約900世帯の集落では、ランタンの明かりの下で店を開いたり、工芸品を加工したりする人たちも目につく。この村で一番売れているのはパナソニック製だ。機能を絞って、価格を1500~2500円に抑えた。インド全体ではこれまでに約5万台売れた。ソーラーランタンはインドで年間約300万台が売れている。大半は欧米のベンチャー企業製。日本製はこれまで「機能や品質は高いが価格も高い」と敬遠され、もっぱら社会貢献として寄贈されてきた。そこにあえて参入したのが、パナソニック・インド事業開発センターの柿本敦さん(39)たちだ。電気が使えると、教育や健康も改善され、貧困から抜け出す足がかりになる。自然エネルギーの電気なら地球温暖化防止にも役立つ。安くて信頼できるエネルギーへのアクセスは、国連が2030年までに解決をめざす「持続可能な開発目標(SDGs)」の重要なテーマでもある。寄贈や援助でなく、ビジネスを通じて社会課題を解決するのが世界の流れだ。パナソニックは14年11月、価格をこれまでの半分以下に抑えた低所得者層向け製品を発売した。販売面では現地の社会的企業と連携し、「なぜ健康や家計にプラスなのか」という啓発や代金回収、アフターサービスの窓口などを委託した。もうけは薄い。ただ、インドの無電化人口は2億4千万人もいる。潜在的な市場は巨大だ。電気のない生活から、安定した電気が使える生活へと発展していく道筋は「エネルギーのはしご」と呼ばれる。ソーラーランタンは「はしご」の1段目にあたる。柿本さんは、その先を見据える。「ブランドイメージは、最初に手にする商品でつくられる」。パナソニックは家電のラインアップが豊富だ。無電化地域の人たちはこれから「はしご」を登り、家電を増やしていく。目先の利益は難しくても、将来的には大きな利益が見込めるはずだ。「うちも元は二股ソケットで大きくなった。大きな可能性があると思う」。電気のない生活をしている人は世界に約12億人、不安定な電気しか使えない人は約10億人いる。多くは年間3千ドル(約30万円)未満で暮らす低所得者層だ。この人たちが灯油やロウソクなどのエネルギーに使うお金は、年間約270億ドルにのぼる。送電網につなげないソーラーランタンなどの「オフグリッド(独立電源)」の市場は、まだ世界で7億ドルだが、20年には31億ドルに拡大し、約1億世帯に普及するとみられている。 ■南アジアだけでなくアフリカでも 世界には、インドを含む南アジアのほかにもう一つ、広大な無電化地域がある。アフリカだ。人口約1億人とアフリカで2番目に多いエチオピアでは、日本の中小企業連合がエネルギービジネスに挑む。「東京電力の顧客の2倍にあたる1億人に電気を届けましょう」。8月上旬、東京・新宿のスナックに中小企業の社長ら10人が集まって気勢をあげた。町工場の技術を結集した「ソーラー・ホーム・システム(SHS)」が完成したのだ。SHSは「はしご」の2段目にあたる機器。ランタンよりひと回り大きい10~100ワット程度の太陽光パネルを屋根に置いて蓄電池にためる。複数の照明やテレビ、扇風機などを動かせる。きっかけは、LEDや蓄電池製品を製造・販売するアイガジェット(東京都千代田区)の川口辰彦社長(62)が、途上国の低炭素化事業を企画する会社を経営する松尾直樹さん(55)と出会ったことだ。2年前、松尾さんが国内の大企業と開発していたSHSの試作品をたまたま見かけ、川口さんはダメ出しをした。松尾さんが「あなたはできるの」と聞くと、「できますよ」と答えた。製品化を考えたことはなかったが、勝算はあった。太陽光パネルや蓄電池を世界各地から安く調達できる人脈と、核となる制御装置に日本の高い技術を投入できる人脈を両方持っていたからだ。松尾さんとエチオピアを訪ね、社会的な意義も実感した。1年後にできた試作品は、大企業のものよりはるかに能力が高かった。コストもぎりぎりまで抑え、1万円程度で量産できる見込みだ。6~12カ月のローンなら現地の人にも手が届く。年内に1千台のテスト販売を予定している。川口さんを突き動かしたのは「技術ではどこにも負けない」という中小企業の意地と、「短期的な利益は薄くても将来性は十分ある」という確信だ。「日本品質の製品を途上国価格で提供することは十分可能。日本の生きる道はここだと示したい」と川口さん。アフリカの無電化人口は6億3千万人で世界の半分以上を占める。27、28日にケニア・ナイロビで開かれる第6回アフリカ開発会議(TICAD)でもエネルギーアクセスの向上が議論される。 ■コストダウンとマイクロクレジットの広がり 太陽光パネルと蓄電池を組み合わせて電気を自前でまかなう動きは、送電網が整備された先進国にもある。だが、いま世界で先頭を走っているのは途上国の人たちだ。いくつかの無電化地域を歩いて、その勢いを感じた。後押ししているのは、最近6年間で80%も下がった太陽光パネルの急激なコストダウンと、貧困層への無担保少額融資(マイクロクレジット)の広がりだ。実は、SHSが世界で最も普及している国はバングラデシュだ。グラミン銀行の創設者でノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏は、マイクロクレジットの手法で、1996年から販売に取り組んだ。初めは月に2、3セットだったが、いまでは1日に1千セット。通算で160万セットも売れた。他社分も合わせ400万世帯に普及した。SHSは1万~5万円。3年ローンを組めば、毎月の返済は明かりの灯油代とほぼ同じになる。マイクロクレジットは、インドやアフリカでも広がる。最近は各国で携帯電話による決済も可能になっている。お金と時間をかけて発電所や送電網を整備する前に、電気のある暮らしが広がる。電話回線を引く前に携帯電話が普及したのと同じ「カエル跳び」現象だ。自然エネルギーの技術と新しいビジネスモデルが融合し、世界のエネルギーの構図を変えつつある。 *11-2:http://jp.reuters.com/article/asada-nuclear-plant-idJPKCN10213Z?feedType=RSS&feedName=topNews&utm_source=twitterfeed&utm_medium=twitter (ロイター 2016年7月 22日) インタビュー:電源構成、原発比率10%達成も危うい=同友会副代表幹事 7月22日、経済同友会の朝田照男副代表幹事(丸紅会長)はロイターとのインタビューで、政府が2030年度の望ましい電源構成(ベストミックス)で20─22%と想定している原子力発電の比率について、現状を踏まえると10%の達成も危ういと指摘した。写真は川内原発、2015年8月撮影(2016年 ロイター/Issei Kato)[東京 22日 ロイター] - 経済同友会の朝田照男副代表幹事(丸紅(8002.T)会長)はロイターとのインタビューで、政府が2030年度の望ましい電源構成(ベストミックス)で20─22%と想定している原子力発電の比率について、現状を踏まえると10%の達成も危ういと指摘した。太陽光などの再生可能エネルギー拡大に向けた民間投資を促すよう、政府の積極的な支援を求めた。同友会は6月28日に「ゼロ・エミッション社会」実現への提言を発表。その中で、原子力について、「40年廃炉ルール」を厳格に適用した場合、原発全基が再稼動しても政府目標の達成は難しく、「その発電割合は15%程度になる」との見通しを示している。朝田氏は昨年、同友会の環境・資源エネルギー委員会委員長として同提言のとりまとめにあたった。インタビューの中で、朝田氏は福井県にある関西電力の高浜原子力発電所の1号機と2号機が40年超の運転を認められたことに触れ、「あのような運転延長を入れていかないと、原子力比率20%は達成しえない」と指摘。しかし、原子力規制委員会による新規制基準への適合可能性や司法判断による運転見合わせのリスクなどを考慮すると、「残念ながら、10%も行くかどうかという状況」と述べた。一方、再生エネルギー開発については、日本のエネルギー産業で最大の成長分野でありながら、促進するには「障害が多すぎる」と指摘。具体的には、地熱、水力、風力発電に長期の環境アセスメントが必要になるという実態のほか、最大の問題として送電線の不備を挙げた。朝田氏は、再生エネルギーを推進しなければ、「日本が世界の笑いものになってしまうという危機感を持っている」としたうえで、民間企業による投資への促進措置や送電線整備への政府や政府系ファンドからの資金支援を強く求めた。 *11-3:http://mainichi.jp/articles/20160725/k00/00m/040/102000c (毎日新聞 2016年7月25日) 原子力白書、7年ぶり復活 「原発回帰」の伏線か 内閣府原子力委員会(岡芳明委員長)は、東京電力福島第1原発事故以来、発表を中止していた「原子力白書」を来春に復活することを決めた。2010年以来、7年ぶりとなる。原子力委はかつては「原発推進の司令塔」と位置付けられており、「原発回帰」の伏線との臆測を呼びそうだ。白書は、11年春に10年版が発表される予定だったが、福島事故を受けて急きょ中止され、09年版以降、発表がストップしていた。今年度になって「編集作業に必要な人員を確保できた」(内閣府幹部)として復活を決めた。来春発表される16年版は、事故後の原子力政策の動きや、今後の展望を紹介する内容になりそうだ。原子力委は、国の原子力政策を推進するために56年設置された。78年には旧原子力安全委員会と分離され、福島事故後も業務や体制を縮小されたが、自民党内には「『原発推進のとりで』として復権させるべきだ」といった意見が根強くある。 <アフリカについて> 世界の開発段階別 アフリカ諸国の アフリカ諸国の 世界人口の推移 一人当たりGDP成長率 現在の産出物 人口ピラミッド (飢餓や戦争の原因になる人口爆発も 教育で抑制することができる) PS(2016年8月28日追加):*12-1のように、①安倍首相は、今後3年間で総額300億ドル(約3兆円)規模をアフリカに投資し ②インフラ整備に3年間で約100億ドル(約1兆円)を拠出する方針を表明し ③産業の基礎を支える人材や感染症専門家の育成はじめ約1000万人の人づくりに取り組み ④アジア・アフリカをつなぐ二つの大洋(太平洋、インド洋)を平和なルールの支配する海にし ⑤民主主義、法の支配、市場経済のもとでのアフリカの成長に貢献する考えをTICAD6で示された。このうち②は、決して原発や電柱を建てるのではなく、自然エネルギーによる分散発電を行い、上下水道・ガス管・電線を同時に埋設し、発電できるゴミ処理施設を建設したりするのが最も安上がりで迅速だと考える。その時は、日本の自治体は既にノウハウを持っているので、JICAと組んで熟練した人をアフリカ各地に派遣し、自治体事務を効率化すると同時に定年延長や若い世代の研修を果たせると考える。また、③については、米国は、米国が奨学金を出してアフリカのリーダーとなる人を米国の大学で勉強させるシステムを持っており、これは日本でアジア・アフリカ系の留学生がアパートや下宿探しでさえ苦労させられたのとは対照的で展望の大きさに違いを感じる。そして、それらのインフラ(人材も含む)ができれば廻り出すため、積極的に男女の留学生を受け入れて教育するべきだ。 なお、*12-2のように、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン副皇太子(石油依存からの脱却を目指す経済改革を主導)が日本を訪問し、日中両国に民間投資の拡大を促し、改革「ビジョン2030」への協力を強く求められるそうで、今後は資源の産出国も加工する時代になるため、日本がコストをかけて遠くから原油を運んできて加工し、輸出するというスキームは成り立たなくなることを忘れてはならない。 *12-1:http://mainichi.jp/articles/20160827/dde/001/010/054000c (毎日新聞 2016年8月27日) アフリカに3兆円投資 安倍首相、午後表明 官民・3年で 安倍晋三首相は27日午前(日本時間27日午後)、ケニアの首都ナイロビで開幕する第6回アフリカ開発会議(TICAD6)で基調演説し、今後3年間で民間資金を含めて総額300億ドル(約3兆円)規模でアフリカに投資する方針を表明する。産業の基礎を支える人材や感染症専門家の育成をはじめ約1000万人の人づくりに取り組む考えも打ち出す。首相はアフリカで初めて開催するTICAD6を「日本とアフリカ諸国の関係の新たな幕開け」と位置付け、資源価格の低迷やエボラ出血熱、平和と安定などアフリカが直面する課題をともに解決していく姿勢を強調する。2013年のTICADで、日本は5年間で約3兆2000億円の支援を表明した。今回の300億ドルについて首相は演説で「3年前のプランを充実、発展させる日本の新たな約束」と説明する。インフラ整備には3年間で約100億ドル(約1兆円)を拠出する。首相は、日本とアフリカの経済関係を強化するため「日アフリカ官民経済フォーラム」を常設することにも言及。フォーラムは、日本の閣僚や経済団体、企業のトップが3年に1回、アフリカを訪れ、投資環境改善などを協議する場になる。3年間の人づくりに関しては、将来の職長、工場長など現場指導者を1500人、感染症の専門家らを2万人育成するほか、基礎的保健サービスを受けられる人口を200万人増やす。一方、豊富な資金力でアフリカに進出する中国を念頭に、首相は「日本は太平洋とインド洋、アジアとアフリカの交わりを、力や威圧と無縁で、自由と法の支配、市場経済を重んじる場として育てる責任を担う」と述べ、民主主義、法の支配、市場経済のもとでのアフリカの成長に貢献する考えを示す。 ●安倍晋三首相の基調演説 骨子 ・アフリカの国連安全保障理事会常任理事国入りを支持 ・日アフリカ官民経済フォーラムを設立 ・感染症対策を強化 ・今後3年間で約1000万人の人づくりを実施。官民で総額300億ドル規模を投資 ・アジアとアフリカをつなぐ二つの大洋(太平洋、インド洋)を平和な、ルールの支配する海に *12-2:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/348056 (佐賀新聞 2016年8月23日) サウジ副皇太子が31日初訪日へ、安倍首相と会談 サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン副皇太子(30)が、就任後初めて31日から日本を訪問し、安倍晋三首相らと会談することが23日分かった。複数の外交筋が明らかにした。ムハンマド副皇太子はサルマン国王の息子で、異例の若さで国防相と国家経済評議会議長を兼務。最高実力者の一人として、石油依存からの脱却を目指す経済改革を主導している。副皇太子は今回、日本と中国を歴訪。日中両国に民間投資の拡大を促す狙いがあり、副皇太子が進める改革「ビジョン2030」への協力を強く求める。日本側は、国家元首級として厚遇する。 PS(2016.8.29追加):*13のうち「世界的な1次産品の価格下落」は、6次産業化によって付加価値を上げれば解決するが、それには人材育成や衛生環境が不可欠だ。また、「地熱や水力発電などのエネルギーインフラや電子通信網の整備」は、九電みらいエナジーなど、アフリカの自然を壊さず活かしながら行える技術を持つ日本企業も多く、貢献できるだろう。 *13:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160829&ng=DGKKASFS28H1Q_Y6A820C1PE8000 (日経新聞 2016.8.29) 「教育・雇用を支援」 アフリカ開発会議ナイロビ宣言 第6回アフリカ開発会議(TICAD)は合意文書「ナイロビ宣言」で、アフリカの経済成長には、社会を安定させ、テロや紛争の抑制につながる若者への教育や雇用での支援が重要だとの方針を打ち出した。安倍晋三首相は全体会合で「日本企業の高い技術力はアフリカの課題解決に資する」と強調した。TICADは27~28日の2日間、日本とアフリカ諸国の首脳らが経済発展のあり方を話し合った。ナイロビ宣言はテロや紛争に加え「世界的な1次産品の価格下落」「エボラ出血熱の流行」をアフリカの新たな課題だと指摘。これに対応するため「質の高いインフラ整備」などを通じた経済の多角化・産業化や人材育成、保健システムの強化が必要だとした。ナイロビ宣言とともにまとめた各国・機関向けの実施計画は、港湾や空港、鉄道、幹線道路などの建設を加速する方針を明記。地熱や水力発電などエネルギーインフラや電子通信網をさらに開発するとした。経済特区の推進も盛り込まれており、政府は日本企業の受注増につなげたい考えだ。首相は28日の共同記者会見で「海で法の支配が尊重されることは、地域の平和と安定、繁栄の基礎になる」と指摘。「日本とアフリカが経済的な関係を深め、貿易を通じて繁栄していくには海が自由で開かれていなければならない。それを担保するのが法の支配だ」と強調した。中国が念頭にあるとみられる。 PS(2016.9.15追加):*14のように、経産省はフクイチの教訓から学ぶことなく、一定規模の原発を維持するために、まだ原発で創った電気が安い(?!)などとして電力自由化で参入した新電力に原発で創った電気を供給させ、同時に原発の廃炉費用の負担も新電力に求めるとしている。しかし、新電力の売りは、①原発や化石燃料で創った環境に悪い電力を使わないこと ②原発や化石燃料による発電をしないため料金を安くできること の2つであるため、この経産省の方針によれば、新電力は差別化できなくなって電力自由化は失敗する。このように、国が「ベースロード電源」などとして一定規模の原発を維持するという原発ありきの市場原理を無視した恣意的な政策をとると、よりよい製品(この場合は電気)を選択していく市場経済を失敗させるのであり、これがまさに共産主義経済の失敗の原因なのである。そのため、経産省のこの経済運営は、既に失敗が証明された共産主義の経済運営と同じであり、このようなことを続けていれば、日本はアフリカよりも遅れるだろう。 *14:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160915&ng=DGKKASFS14H3F_U6A910C1PP8000 (日経新聞 2016.9.15) 原発の電気、公開市場に 経産省検討 大手に義務付け 経済産業省は原子力発電でつくった電気を公開市場に供給するよう電力大手に義務づける検討に入った。4月の小売り自由化で参入した新電力が調達できるようにして、安い電気を家庭や企業に売りやすくする。一方、原発の廃炉費用などの負担を新電力に求める。一定規模の原発を維持するため、大手と新電力の利用者が受益と負担を分け合うしくみを整える。学識経験者らで構成する審議会を近く立ち上げ、来年の通常国会に電気事業法の改正案を出す。数年内の実施をめざす。原子力や石炭火力などコストが低く発電量が天候や時間帯に左右されない「ベースロード」と呼ばれる電気を日本卸電力取引所に供給することを義務づける。いま大手が取引所に出しているのは石油火力などコストの高い電気が中心で、割安な電気は自社の小売部門に優先的に流している。原発で作った安い電気が市場に出回れば、自前の発電所の少ない新電力が大手と価格競争しやすくなる。義務づける電気の供給量は今後詰める。一方、原発の廃炉費用などは新電力にも負担を求める。通常の原発を廃止するには数百億円のコストがかかり、これまでは原発を持つ大手が家庭や企業が支払う電気料金で回収してきた。今後は新電力も支払う送電線利用料に上乗せして回収する。家庭や企業は契約先が大手か新電力かにかかわらず原発のコストを負担することになる。反原発の消費者などからの反発も予想されるため、経産省は慎重に制度設計をする考えだ。 PS(2016年10月20日追加):九州の原発30キロ圏内21自治体を調査したところ、*15-1のように、屋内退避に課題があると答えたのが5割に上るそうだが、万が一にも原発事故が起これば、フクイチの例のとおり、短期間の屋内退避だけではすまず、その後、その地域を棄てるか、莫大な費用をかけて完全に除染するかしなければならない。しかし、現在では、そのようなリスクとコストをかけて原発で発電しなければならない理由はないため、早急に脱原発し、オーストラリアやニュージーランドのように、原発のない国として安全な農水産物を生産し、徹底して「安全な食品」というブランドを高めるべきである。 なお、*15-2のように、原発政策を進めるには、原発建設費・地元補助金を除く関連処理費として、フクイチの事故処理・廃炉・最終処分場建設・核燃サイクルなど最低でもこれまでの処理に総額30兆円かかり、既に国民が14兆円負担しているそうだが、これらは発電時に原発のコストとして電力会社が引き当てていなければならなかったもので、本来、一般国民が負担する理由のないものである。 *15-1:http://qbiz.jp/article/96303/1/ (西日本新聞 2016年10月20日) 屋内退避に「課題」5割 九州の原発30キロ圏21自治体調査 九州電力の玄海原発と川内原発の30キロ圏内にある佐賀、長崎、福岡、鹿児島の4県と17市町のうち、半数に当たる11県市町が、重大事故の発生時に5〜30キロ圏の住民に原則屋内退避を指示する現在の避難計画について、「課題がある」と考えていることが西日本新聞のアンケートで分かった。震度7が2度発生し、家屋倒壊で多くの犠牲者が出た熊本地震を背景に、複合災害への対応を不安視している実態が明らかになった。熊本地震後に避難計画の見直しを着手・検討しているのも12県市町に上った。5キロ圏の住民は屋外、5〜30キロ圏は屋内とする2段階避難について、「十分に対応できる」としたのは佐賀県玄海町のみ。11県市町が「対応できるが、課題もある」と回答し、理由として「パニックが予想され、指示に従わない住民が出る恐れがある」(鹿児島県さつま町)「老朽化している避難施設もある」(佐賀県伊万里市)などを挙げた。「対応できない」と答えた自治体はなかったが、4市町は「分からない」とし、この中で鹿児島県姶良市は「複合災害では避難経路の安全確保などさまざまな問題が発生し、予測できない」と答えた。残り5県市は「状況に応じて柔軟に対応する」「現時点では問題ない」などとした。熊本地震後、避難計画の見直しに着手したのは佐賀県唐津市と長崎県、鹿児島県。9県市町は「検討中」とした。見直しが必要な項目は「避難車両の確保」(9県市町)「避難道路の確保」(8市町)「要支援者のスムーズな避難」(7県市)が多く挙がった。熊本地震では道路が寸断されたが、交通混乱の想定については、複数の避難経路を確保するなどして「想定している」としたのが13県市町、「想定していない」は6市町だった。自治体間の避難連携に基づく広域避難は18県市町が「仕組みが整っている」とし、16県市町は訓練も実施していたが、鹿児島県さつま町と同県長島町は「実際に訓練したことはない」と答えた。「仕組みが整っていない」と回答したのは同県日置市のみで、長崎県と同県壱岐市は「整備中」とした。アンケートは原発事故発生時の避難計画の策定が義務づけられている21県市町を対象に9、10月に実施し、全自治体が回答した。 *15-2:http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201610/CK2016102002000131.html (東京新聞 2016年10月20日) 原発処理に総額30兆円 既に国民負担14兆円 本紙調べ 原発政策を進めるには原発建設費、地元補助金を除き、関連処理費用として東京電力福島第一原発の事故処理、廃炉、最終処分場建設、核燃サイクルに最低でも約三十兆円かかることが本紙の調べで分かった。十九日には、経済産業省が有識者会合の作業部会を開き、規制変更によって廃炉が決まった原発の廃炉費用を電気料金に上乗せする方針を固めた。高速増殖炉もんじゅの行き詰まりなど原発政策の矛盾が拡大する中、政府が国民負担を増やそうとする論議が本格化する。すでに国民は電気料金や税金で十四兆円を負担しており、今後、さらに十六兆円以上の負担を迫られる可能性がある。新潟県や鹿児島県知事選で原発慎重派の候補が当選するなど原発への厳しい民意が強まる中で、政府が国民負担を増やしながら原発を推進するかが問われそうだ。福島第一原発の処理に必要なお金は、二〇一三年時点の見積もりを超過。二・五兆円を見込んでいた除染費が来年度予算の概算要求では三・三兆円に、被災者への賠償金がすでに六・三兆円にのぼっている。廃炉費用の見込み額も二兆円となっており、総額で十二兆円以上かかりそう。東電は自力で払うのは困難とみて政府に支援を求めた。経産省が財界人らとつくった「東京電力改革・1F(福島第一原発)問題委員会」で検討しているが、東電の経営努力で賄えない分は、電気代などを通じ国民に負担を求める方針だ。東電を除く原発の廃炉費用問題では、福島第一原発の事故後、原発の規制基準が変わったため関西電力美浜原発1号機など六基が廃炉を決定。予定より早い廃炉決定などで計三百二十八億円の積み立て不足(一三年三月末時点)が生じている。経産省は原発による電力を販売していない新電力の契約者も含めすべての利用者の電気料金に上乗せし、回収する意向だ。他の原発も合わせると合計二・九兆円(福島第一などを除く)の廃炉費用が必要だ。また、使用済み核燃料をリサイクルする計画の柱だった高速増殖炉「もんじゅ」の廃炉方針に伴い、経産省は代わりの高速炉を開発する。政府はすでに核燃サイクルに十一兆円(最終処分場を除く)を費やし、電気代や税金で国民が負担している。もんじゅの後継が決まれば、さらに国民負担は膨らみそうだ。核のごみの最終処分場は場所が決まっていないが、政府試算では最低三・七兆円かかる。このうち積み立て済みは国民が支払った電気代をもとにした一兆円だけ。政府は年末にかけ候補地選定作業を急ぐ予定で具体化すればさらに国民負担が増える可能性がある。政府は福島第一原発の処理問題やもんじゅの後継問題でも、年末までに方針を決める意向だ。
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2016,08,11, Thursday
2016.7.12 メイ首相 メルケル首相とメイ首相 ヒラリー候補 小池都知事 日経新聞 国会議員の 地方議員の女性割合 管理職・役員 女性の労働力率 女性割合 の女性割合 (1)英独の女性首相と米の大統領候補 1)メイ英首相とメルケル独首相 英国ではテリーザ・メイ氏が首相となってドイツのメルケル首相と会談した。そして、ドイツのメルケル首相は、*1-1のように、「①英国とドイツは友好関係にあり価値観を共有している」「②両国の二国間関係や貿易は、英国がEUを離脱した後も続く」とし、メイ首相も「両国とも2国間のできるだけ密接な経済関係を維持したい意向だ」として、英国にとって好ましい展開となった。 英国のメイ氏は、上の段の左図のように、オックスフォード大学出身であり、イングランド銀行勤務を経て1997年に政治家になった人であり、ドイツのメルケル首相は、ライプツィヒ大学出身の理論物理学博士で、1989年のベルリンの壁崩壊後に政治家になり、第4次コール政権の女性・青少年問題相に抜擢された人だ。そして、どちらも、首相として納得できる一流の女性であり、結婚しているが子どもはいない。 2)米国ではクリントン氏が女性大統領候補へ 米国では、やっと「ガラスの天井」が打破されそうになっていることには遅さを感じるが、*1-2のように、ヒラリー・クリントン氏が米民主党の大統領候補に指名された。ヒラリー氏は、ウェルズリー大卒業後、エール大ロースクールを経て弁護士となり、1993年に夫のクリントン氏が大統領に就任した後には、抵抗が多い中、ファーストレディーとして医療保険改革に取り組んでおり、相応の人である。 (2)小池百合子氏、都知事に大差で当選 日本では、自民党都連が都知事候補に擁立したのは、*2のように、増田寛也氏だったが、小池百合子氏(独身)が大差で当選した。しかし、その後の内閣改造で、丸川珠代前環境相を、小池都知事と接触の多い五輪担当相に就任させたのは、いかがなものかと考える。 何故なら、丸川氏は、環境相時代、長野県松本市で行った講演で「東電福島第1原発事故後に国が除染の長期目標に掲げた年間1ミリシーベルト以下は、何の科学的根拠もなく時の環境相が決めた」などという無知な暴言を吐き、「発言が誤解を招いたとすれば、特に福島をはじめ被災者の皆様に誠に申し訳ない」などと、福島以外の人や直接被災した人以外には関係がないかのような詫び方しかしておらず、これは丸川氏なりのチームプレーだったのかもしれないが、それでは環境相として失格なのである。 そして、その丸川氏は、都知事選では、小池百合子氏を「スタンドプレーはできるが、チームプレーはできない人」と批判していた。しかし、小池氏の世代の女性はチームプレーだけしていれば組織の推薦が得られるわけではなく、(数は少ないが)強力に引っ張ってくれる人がいて、スタンドプレーも行い、勝たなければ上昇できなかったのだ。この点が1番手の女性の実績を見て組織が推薦してくれる2番手以降の女性とは全く異なり、1番手の女性と2番手以降の女性の間には、組織内での障壁の高さに雲泥の差があるのだが、丸川氏はそれがわかっていないため、このような生意気なことを言っているのだ。 そのため、小池氏の対応は、東京都知事としてはそう言わざるを得ない大人の対応ではあるものの、私も東京都の幹部と同様、丸川氏の五輪相起用については疑問に思った。 (3)日本における女性副大臣・政務官・議員について 今回の改造内閣では、*3-1のように、副大臣・政務官のうち女性は4人に留まり、女性の登用は進まなかった。それだけではなく、*3-2のように、都道府県議会の女性議員を対象に共同通信が行った全国アンケートによれば、女性議員の約6割がセクシュアルハラスメントなど女性蔑視の言動を受けて不快な思いをした経験があるそうだ。 東京都議会でさえセクハラやじのような同僚議員からの被害が多く、「触らせないと票をあげない」というような有権者の言動も多いそうなので、有権者も含めた意識改革が不可欠である。 (4)日本の“伝統”と“文化”に潜む女性蔑視の考え方 2016年8月8日、*4-1のように、天皇が「象徴天皇の役割」「生前退位」という自らの意思を表明された。天皇制については項を改めて書くが、このほかに女性天皇・女系天皇の課題があり、小泉内閣時に率先して女性天皇・女系天皇を認めるべきだと主張していた人の一人は私である。 何故なら、女系であるからといって遺伝が途切れるわけでもないのに、女性天皇や女系天皇を認めないのはそれこそ非科学的であるとともに、天皇家の歴史上重要な地位を占める天照皇大神(アマテラスオオミカミ)は女性であるにもかかわらず女性天皇・女系天皇を認めないと主張するのは、近世の女性蔑視にすぎず、象徴として国民の半数を占める女性から支持を得られない「旧来の陋習」に当たるからだ。 しかし、*4-2のように、自民党憲法改正草案では、「(第24条:婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない)が行き過ぎた個人主義を作る」とされ、「女性にとって最も大切なことは子どもを2人以上産むことで、これは仕事でキャリアを積むこと以上に価値がある」などという発言に繋がっている。そして、菅官房長官が「ママさんたちが一緒に子どもを産みたいとか、そういう形で国家に貢献してくれたら」と発言しているが、1億総活躍を、女性は産んで増やすことによって活躍するものと考えているとすれば、先進国からは70年遅れているのだ。 さらに、*4-3のように、HKT48が新曲で、「女の子は頭からっぽでいい」「どんなに勉強できても 愛されなきゃ意味がない」「内面は見えない 可愛いは正義よ チヤホヤされたい」と歌うそうだが、勉強ができると愛されないというのは事実ではない(実際には、勉強ができてステップアップすれば、住む世界が同じである場合が多い恋愛相手もステップアップする)。そして、日本の“アイドル”は、本当に上手で相手を感動させる人ではなく、かわいぶっているだけの人ばかりであるため、価値が低くて魅力がないのだ。 そのほか、*4-4のように、日本のメディアは、「歴史ファンというと中高年男性が主だったが、ゲームやアニメをきっかけに戦国武将や歴史に興味を持つ若者、女性が増えた」というように、女性は、ゲームやアニメにしか興味がないかのように、さりげなく女性蔑視を記事に織り込ませている場合が多い。しかし、実際には、歴史学科のある文学部は女性の学部と言っても過言ではないほどなのである。 しかしながら、こうして女性蔑視が“常識化”されていくため、今後は表現にも厳しく対処すべきだ。英語圏では、女性差別を禁じた時から文章中の「chairman」を「chairman/woman」や「chairperson」という表記に変更するなどの徹底ぶりである。 <英独の女性首相と米の大統領候補> *1-1:http://www.cnn.co.jp/world/35086185.html (CNN 2016.7.21) メイ英首相、メルケル独首相と会談 「秩序あるEU離脱を」 ロンドン(CNN) 英国のテリーザ・メイ首相が就任後初の外遊でドイツを訪問し、20日にベルリンでメルケル首相と会談した。今回の外遊を通じ、欧州連合(EU)離脱に向けた交渉を円滑に進めることを目指す。メルケル首相は夕食会を前にメイ首相との共同記者会見に臨み、英国とドイツは友好関係にあって価値観も共有していると指摘。両国の二国間関係や貿易は、英国がEUを離脱した後も続くと明言した。ただしメルケル首相は、EU離脱の手続きを定めたリスボン条約50条が発動されるまで、公式交渉も非公式交渉も開始できないと強調した。続いて発言したメイ首相は、両国とも2国間のできるだけ密接な経済関係を維持したい意向だと述べ、ドイツと英国の企業もそれを望んでいるとした。メイ首相は「メルケル首相や欧州理事会の首脳と建設的な精神で連携し、合理的かつ秩序ある離脱を果たしたい」「我々全員がそうした交渉のための準備時間を必要とする。英国は我々の目標がはっきりするまで50条を発動しない。既に表明した通り、年内に発動することはない」と言明した。発動の先延ばしについては「誰もが喜ぶとは限らない」としながらも、「今それをはっきりさせておくことが大切だと考える」としている。メイ首相は21日にはパリでフランスのオランド大統領と会談し、50条の発動について同様の意向を伝える方針。 *1-2:http://digital.asahi.com/articles/ASJ7Y2PGTJ7YUHBI009.html (朝日新聞 2016年7月29日) クリントン氏「愛は憎悪に打ち勝つ」 指名受諾演説 米民主党の大統領候補に指名されたクリントン前国務長官(68)が28日夜(日本時間29日午前)、ペンシルベニア州で開かれている党全国大会で指名受諾演説をした。共和党のトランプ氏(70)が排外主義的な主張をしていると指摘。国内外での世論の分断に憂慮を示し、「愛は憎悪に打ち勝つ」と、団結して課題に取り組む必要性を強調した。大会最終日のこの日、クリントン氏は指名受諾を宣言して「我々はより完全な合衆国になるための一里塚に到達した。主要政党で初の女性大統領候補が生まれた」と述べ、初の女性大統領となって女性の社会進出を阻む「ガラスの天井」を打破する意気込みを語った。演説では「米国は再び岐路に立たされている。信頼と尊敬の絆がほころんでいる」と指摘。トランプ氏が経済格差や国内外で多発するテロで国内にくすぶる不満や怒りを背景に、孤立主義や排外主義的主張をしているとして、「彼は世界や我々を分断しようとしている」と批判した。そのうえで「米国民は世界で最も力強く、多様な国民で、最も強力な軍を保有している」と語り、「より自由で公平、強い国にするため団結しなければならない。我々は団結した時に強くなれる」と強調した。また、「愛は憎悪に打ち勝つ」とも述べ、危機感に訴えるトランプ氏とは対照的に、前向きな未来への道筋を示すことで、有権者の支持を集める狙いがあるとみられる。また、「すべての米国民がよりよい生活を送れるよう力づける」とし、「賃金を上げ、仕事の機会と質を向上させる」ことを政権の優先課題に掲げた。大企業や富裕層に増税し、税額控除を受けながら海外移転した企業から国内に雇用を取り戻すと主張。「不公正な貿易協定にはノーと言わなければならない。中国に立ち向かわなければならない」と述べたものの、環太平洋経済連携協定(TPP)には言及しなかった。外交・安全保障では「米国は世界の同盟国と協力した時により強くなる」と述べ、国際協調主義のもと紛争回避のため、外交的手段を積極的に活用し、同盟国との関係深化を目指す方針を打ち出した。トランプ氏の主張については「彼は解決方法を何も示していない」とし、「トランプ氏は大統領選の乱闘騒ぎすら対応できていない」と批判した。 <女性都知事> *2:http://news.livedoor.com/article/detail/11846290/ (産経新聞 2016年8月4日) 【内閣改造】丸川珠代五輪相vs小池百合子都知事 東京五輪は大丈夫か? 都知事選で「チームプレーができない」と毒舌批判 「一騒動ある」とヒヤヒヤ 3日に発足した第3次安倍再改造内閣で、自民党の丸川珠代前環境相(45)が、五輪担当相に就任した。同じく就任したばかりの小池百合子東京都知事(64)とともに、2020年東京五輪・パラリンピックの準備を担う。だが、保守分裂した都知事選で、丸川氏は「チームプレーができない」などと、小池氏を痛烈に批判しており、東京五輪の大会経費見直し協議の行方を不安視する声もある。民主党政権が子ども手当法案の採決を強行した際、「愚か者めが!」と罵倒したのを機に「女ヤジ将軍」の異名も持つ丸川氏。分裂選挙を戦った都知事選では、自民党都連が擁立した増田寛也氏(64)の応援演説でも“毒舌”がさえた。「スタンドプレーはできるけども、チームプレーはできない。こういう人は都知事にしなくていいんじゃないかと思っています」(7月26日、自民党本部の総決起大会)。「これから都議会と一戦ことを構えよう。そんな人を都知事にしたら、あっという間に1年、2年を無駄にしてしまいます」(7月29日、同本部の「増田ひろや頑張れ!女性の会」)。組織の引き締めに向け、選挙戦終盤にリードする対抗馬の小池氏を“口撃”する狙いがあったとみられるが、都幹部は「普通はあまりいい気はしない。互いに連係プレーが必要なときで、禍根を残さなければいいが…」と、丸川氏の五輪相起用を不安視する。「一騒動ありそうだ」との声も。小池氏と丸川氏、大会組織委員会の森喜朗会長は今後、約2800億円に膨らんだとされる仮設競技場の整備費など、大会経費の負担見直しの協議に入る予定だ。丸川氏と文部科学相の松野博一氏はこれまでスポーツや五輪になじみが薄く、小池氏とともに五輪開催準備に関わる重要ポストが一気に入れ替わった。小池氏は3日、報道陣の取材に応じ、丸川氏の起用について「とても聡明(そうめい)な方で、大変信頼している。互いに国民、都民にとって良い大会になるように連携したい」とし、選挙戦で批判を受けたことについては、「よく存じておりません。それぞれお立場もあるんでしょうから」と述べた。 <女性副大臣・政務官・女性議員> *3-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160806&ng=DGKKZO05762670W6A800C1PP8000 (日経新聞 2016.8.6) 副大臣・政務官人事 女性4人にとどまる 政府は5日、内閣改造に伴う副大臣25人、政務官27人の人事を決めた。財務副大臣には大塚拓氏、木原稔氏を起用した。副大臣の留任は義家弘介文部科学副大臣ら5人だった。派閥に属していない無派閥議員の起用を減らして派閥出身者に割り振った。安倍晋三首相は5日、人事決定後初めてとなる副大臣会議で「官僚との適切な信頼関係を築き、各省の力を存分に発揮できる環境をつくってほしい」と話した。女性は厚生労働副大臣に古屋範子氏を充てるなど副大臣、政務官を合わせて4人にとどまり、昨年10月の改造時の5人から減った。前々回の2014年9月の改造では7人を起用しており、首相がめざす女性登用は足踏み気味だ。派閥別でみると、首相の出身派閥でもある細田派は政務官を1人減らしたものの派閥の中で最も多くの副大臣、政務官を出した。閣僚も4人抱える。額賀派は副大臣、政務官を1人ずつ増やした。岸田派は閣僚ポストを1人増やしていることから副大臣、政務官は増えていない。無派閥は副大臣、政務官が1人ずつ減った。厚遇が目立つのが二階派だ。閣僚が2人に増えたうえ、政務官を1人増やした。首相支持を明確にしており「二階氏に配慮している」(他派閥議員)との見方が多い。菅義偉官房長官は5日の記者会見で派閥からの推薦を考慮しているかを問われて、「全くしていない」と述べた。 *3-2:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/316870 (佐賀新聞 2016年5月29日) 女性議員の6割セクハラ経験、同僚男性、有権者から多く 都道府県議会の女性議員を対象に共同通信が行った全国アンケートで、回答者の約6割がセクシュアルハラスメントなど女性蔑視の言動を受けて不快な思いをした経験があることが29日、分かった。東京都議会で問題化したセクハラやじのような議会内の同僚議員からの被害が最も多く、「触らせないと票をあげない」といった有権者の言動が続いた。女性が参政権を行使して今年で70年。都道府県議会に占める女性の割合は9・8%(昨年末時点、総務省調べ)といまだに低く、性差別的な意識が残っている。男女が共に政治に参画するには、有権者も含めた議会内外の意識改革が不可欠だ。 <日本社会の女性差別> *4-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12502961.html (朝日新聞社説 2016年8月9日)天皇陛下お気持ち表明 「総意」へ議論を深めよう メッセージを貫くのは、日本国および国民統合の象徴として責務を全うすることへの、強い責任感だ。国民との信頼関係をどう築くかに心を砕いてきた即位以来28年の歩みを、思いおこさせる内容である。憲法は、天皇の行為が政治の動向に影響を及ぼすことがあってはならないと定めている。このためお言葉には、退位という文言をふくめ、現行制度の見直しについての言及はない。しかし、代行者として摂政をおく案にあえて触れたうえで、天皇の務めを果たせないまま地位にとどまることへの疑念を強くにじませた。さらに、健康を損ない「深刻な状態」になったときの社会の停滞や国民生活への影響にも言及するなど、相当踏みこんだお言葉になった。 ■政治の怠慢の責任 改めて思うのは、政治の側が重ねてきた不作為と怠慢だ。高齢の陛下に公務が重い負担になっていること、その陛下を支える皇族の数が減り、皇室活動の今後に不安があることは、かねて指摘されてきた。小泉内閣は2005年に有識者会議を設けて女性・女系天皇に関する報告書をまとめ、12年には野田内閣が、皇族の女性が結婚後も皇室にとどまる女性宮家構想の論点を整理した。この間、秋篠宮さまの会見で「定年制」導入が話題になり、昨年末は、陛下が「行事の時に間違えることもあった」と、加齢による衰えを口にした。だが安倍内閣は、これらの課題に積極的に向きあってこなかった。議論は深まらないまま、先月になって突然、退位の意向が報道で明らかになった。陛下が先をゆき、政治があわてふためきながら後を追いかけている。そんな印象を多くの人が抱いたのではないか。皇室を支える宮内庁と内閣の意思疎通は十分にはかられてきたのか。象徴天皇制のあり方の根幹にかかわる今回の事態を、政権はしっかり掌握し、遺漏のないように進めていけるのか。そんな疑念を残した。首相は自らの責任を自覚したうえで、この問題に正面からとり組む必要がある。 ■決めるのは国民 お気持ちの表明をうけて、どう対応するべきか。 戦後70年にわたり、国会や憲法学界で交わされてきた象徴天皇制をめぐる議論と、これまでの歩みが土台になるのは言うまでもない。あわせて、陛下も生身の人間であり、体力気力の限界があるという当然の事実に目をむける必要がある。高齢化が進み、だれもが自分自身や近しい人の「老い」、そして人生のしめくくり方を、切実に感じるようになった。お言葉からあふれ出る陛下の悩みや懸念は、多くの人に素直に受けいれられたに違いない。明治憲法がつくりだした、それ以前の天皇の姿とは相いれぬ神権天皇制に郷愁を抱き、「終身在位」に固執することは、国民の意識に沿うとは思えない。天皇に人権は認められず自由意思ももてないとしてお気持ちを封じ込めるのも、人々の理解を得ることはできまい。天皇の地位は、主権者である国民の総意に基づく。陛下の思いを受けとめつつ、判断するのは国民だ。この基本原則を確認したうえで、解決すべき課題とその方策を考えるために必要な材料を提示する。それが政府の使命である。 ■皇室活動の再定義を 平成の時代になってから、憲法が定める天皇の国事行為の範囲をこえて、式典への参列や、さまざまな人との面会、被災地訪問など、「公的行為」と呼ばれる活動が大幅に増えた。負担減のための見直しはされているものの、公平を重んじる陛下自身が公務に積極的で、国民の多くも歓迎していることから、十分には進んでいない。朝日新聞の社説は、これからの皇室のあり方をさぐる前提として、広がりすぎた感のあるこれらの活動をいったん整理し、両陛下や皇族方に、何をどう担ってもらうのが適切か、検討する必要があると主張してきた。お気持ちの表明を、この問題を考える良い機会としたい。象徴天皇制の下の皇室の存在と役割をどう位置づけるかによって、退位問題だけでなく、皇族の数はどの程度を維持すべきか、宙に浮いたままの女性宮家構想にどうとり組むかなどの問いへの答えも変わってくる。拙速は慎むべきだが、さりとて時間をかけすぎると、皇室が直面する危機は深まるばかりだ。一連の事態は、象徴天皇制という仕組みを、自然人である陛下とそのご一家が背負っていくことに伴う矛盾や困難を浮かびあがらせた。どうやってそれを解きほぐし、将来の皇室像を描くか。落ち着いた環境の下で冷静に議論を進め、「国民の総意」をつくりあげていきたい。 *4-2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12320411.html (朝日新聞 2016年4月21日) (憲法を考える)自民改憲草案・家族:下 女性の地位向上は個人主義? 2004年、衆院憲法調査会で自民党議員が発言していた。「(24条が)行き過ぎた個人主義という風潮を生んでいる側面も、私は否定できないと思う」。 どういう意味だろう。自民党が作った憲法改正PR漫画「ほのぼの一家の憲法改正ってなあに?」を読んでみる。ひいおじいちゃん(92)が、「現行憲法では男女平等が大きく謳(うた)われて 事実この70年で女性の地位は向上した」と語る横で、おじいちゃん(64)がつぶやく。「でも、個人の自由が強調されすぎて なんだか家族の絆とか地域の連帯が希薄になった70年かもしれませんねぇ」。憲法を「家訓みたいなものかしら」とするこの漫画、女性の地位が向上したから家族の絆が薄れたと言いたいのだろうか。「女性にとって最も大切なことは、子どもを2人以上産むことです。これは仕事でキャリアを積むこと以上に価値があります」。大阪市の中学校長の発言を思い出す。2月29日の全校集会でのこと。高校入試を控えた女子生徒もいただろう。どんな思いで聞いたのだろう。私は、長崎県の離島で生まれ育った。母は20歳で結婚。父方の祖父を介護し、その間の家事は、私が担った。「女は勉強せんでもいい」という風土が、息苦しかった。法事のときは、地域の女性みんなで炊事をする。親戚付き合いは、何より優先されていた。「家族の絆」という美しい言葉では表せない、たくさんの葛藤があった。小学校高学年のとき、憲法に男女平等が書かれていることを知った。自分の生き方は自分で決められるんだ――。心の支えにしてきた。それでも、新聞記者になって地元に帰ったとき、中学時代の担任は開口一番、こう言った。「仕事もいいけど、子育てもちゃんとせんとね」。1970年代は「日本型福祉」が称揚され、私の母のような専業主婦は、介護や育児の担い手として期待されていた。その後、経済が停滞し、97年には共働き世帯数が専業主婦世帯数を本格的に上回り、差は広がり続けている。それに伴い、保育所整備は進んだが、予算は圧倒的に不足している。一方で、少子化も進行した。安倍政権は「希望出生率1・8」を国の目標として掲げる。昨年9月には菅義偉官房長官が芸能人カップルの結婚に「ママさんたちが一緒に子どもを産みたいとか、そういう形で国家に貢献してくれたら」と発言。「1億総活躍」の号令が響く。産んで、働き、活躍して、家族の絆も守って。一つでもできないと「行き過ぎた個人主義」と言われてしまうのだろうか。 *4-3:http://digital.asahi.com/articles/ASJ5M3PM6J5MUTIL00M.html?iref=comtop_8_02 (朝日新聞 2016年6月8日) HKT48の新曲が物議 女の子「頭からっぽでいい」? 女の子は頭からっぽでいい――。アイドルグループ「HKT48」の曲が、「女性軽視では」と指摘されている。どんな歌なのか。曲は「アインシュタインよりディアナ・アグロン」。AKB48の総合プロデューサー秋元康氏の作詞で、「難しいことは何も考えない 頭からっぽでいい」「どんなに勉強できても 愛されなきゃ意味がない」「内面は見えない 可愛いは正義よ チヤホヤされたい」などと歌う。4月発売のシングルCD「74億分の1の君へ」に収められた1曲。通常カップリング曲が話題になることは少ないが、発売後、ツイッターには「馬鹿にしてる」「昭和の曲みたい」といった書き込みが相次いだ。「ディアナ・アグロン」は、高校の合唱部を舞台にした米国の人気ドラマ「glee(グリー)」に出演する女優。歌詞では「スカートをひらひらとさせて グリーのように」と表現される。実際のドラマでは、美人で成績優秀なチアリーダー。望まない妊娠など苦い経験を糧に名門大学に進学する。ドラマ自体、同性愛者や民族的マイノリティー、障害者が活躍する設定だ。コラムニストの山崎まどかさんは「多様性の大切さを訴えた作品。歌の人物像とはまるで違う。本当にドラマを見たのか」と話す。HKTと同世代の大学生は、どう受けとめたのか。ツイッターで話題を知ったという慶応大4年の新居日南恵さん(21)は「可愛くて頭からっぽの女の子を求める層がいる、ということが衝撃でした」と話す。「見た目が気になるという気持ちは分かる。中学時代、容姿を気にして摂食障害になった友人もいた。でも『頭からっぽの美人』じゃ、どこにも就職できない」と苦笑いする。ある女子大では、学生たちが替え歌を考えたという。「女の子は恋も仕事もして 楽しく自由に」。ブログで紹介され、「この方がいい」と支持が相次いだ。秋元氏にも取材を申し込んだが、回答はなかった。秋元氏は1980年代、「おニャン子クラブ」向けに、「セーラー服を脱がさないで」や「およしになってねTEACHER」など、過激な歌詞も書いた。今回はなぜ批判が広がったのか。舌津(ぜっつ)智之・立教大教授(日米大衆文化)は、「秋元氏の影響力の大きさに加え、政治の場で女性活躍が叫ばれる時代も関係しているのでは」とみる。舌津教授によると、流行歌に描かれる「か弱く、受け身な女」のステレオタイプが変わり始めたのは70年代。特に作詞家の阿久悠は、山本リンダ「狙いうち」では漫画的な強い女性を、尾崎紀世彦「また逢う日まで」では別れの際に女性が泣くのではなく、2人でドアを閉める姿を描くなど、実験的に時代の先を行く女性像を打ち出した。憧れと共に受け入れられたイメージは、90年代には現実となった。おニャン子クラブの歌には、過激ながら性の解放という側面も感じられたが、「今回の歌は、理想をいっても女性の自立は難しいというメッセージしか読み取れない」という。「先行きが見えない時代に、生産的未来を考えるより若い時だけ可愛くて楽しければいいという内容は、不吉な現実味を感じさせてしまう」。一方、ネットでは「何でもすぐ差別と炎上してしまう時代、アイドルの歌くらい、自由でいいのでは」という声も。アイドルに詳しい社会学者の濱野智史さんは「AKBグループにはいろんな子がいて、いろんな世界観を歌っている。その一つだけを取り上げて批判しなくても」と話す。「『STAP細胞』を巡る騒動で見えるように、理系女子が本来の業績より、可愛いという理由で脚光を浴びるのが現実。問われるべきはそんな社会の方では」 *4-4:http://www.saga-s.co.jp/column/ronsetsu/343383 (佐賀新聞 2016年8月11日) 唐津城と城ブーム、天守閣50年機に磨き上げを 昨今、城がブームという。歴史ファンというと中高年男性が主だったが、ゲームやアニメをきっかけに戦国武将や歴史に興味を持つ若者、女性が増え、私たちが欧州の古城に引かれるように、訪日外国人客が日本の城に足を運ぶ。戦国期の築城ラッシュから400年前後の時期にあたり、姫路城をはじめ各地で修復や記念行事が行われ、さらには社会を覆う閉塞(へいそく)感が懐古的な歴史ブームを招いているという分析もある。県内でも唐津城の入場者が増えている。2012年度は10万7千人台だったが、14年度は13万人に増えた。昨年度は耐震工事のため11月以降、無料開放したこともあって約16万人となった。インバウンド効果も顕著だ。入場者のうち外国人が占める割合は14年度後半は3・8%だったが、昨年度は7・8%に増え、本年度は7月までで14%を超えた。唐津城の天守閣は1966(昭和41)年10月に完成した。もともと天守閣はなかったが、天守台跡に「観光施設」として慶長様式の5層5階の天守閣を建設した。当時、唐津市は財政再建団体から脱却したばかりで、年間予算の1割を超える1億5千万円の総工費をめぐって反対運動が起き、歴史家からも「史実に反する」と疑問の声が上がった。曲折を経て天守閣が完成し、今年で50年。今では観光唐津を象徴するランドマークとなった。北部九州には天守閣がそびえる城は少ない。小倉城も周辺はビルが建ち並ぶ。博多港に寄港したクルーズ船客や外国人旅行者は城下町のたたずまいを求めて唐津を訪れる。国内クルーズ船受け入れ体制が整った唐津東港は、唐津城を臨む眺望がセールスポイントだ。そうした追い風の中で開館50周年事業として10月1日、記念式典を行い、天守閣の改修工事に入る。老朽化した展示ケースを改修し、デジタル機器を活用した案内設備を整える。併せて可搬型の階段昇降機の導入など高齢者や身障者も見学しやすいようにする。天守閣は資料館を兼ねるが、唐津焼中堅作家が「展示内容は高校時代から変わらない」と言うように、古めかしく、代わり映えしない。駐車場とエレベーターを使うと、入館料と合わせ3回、料金を払うことになる。観光においてホスピタリティー(もてなし)が重視される今、磨き上げが必要だ。熊本では地震で被災した熊本城の再建が復興の象徴となっている。古来、為政者は権威と力を見せつけるため高い建物を建てたが、それがいつしか、人々の心のよりどころとなり、まちづくりのシンボルとなった。唐津の旧城下にそびえる天守閣が日常の風景となって半世紀。伝統に立った創意を観光諸施策に受け継いでいきたい。 PS(2016年8月13日追加):先進7カ国(G7)農相会合は、*5-1のように、①女性・若者の活躍 ②薬剤耐性・高病原性鳥インフルエンザなど越境性動物疾病への対処 ③地球温暖化に関する農業研究の共有 などで「新潟宣言」を採択した。そして、*5-2のように、佐賀県内ではJA女性組織のリーダーを対象にした研修会も開かれている。農業は、食品分野であるにもかかわらず、これまで男性中心だったが、女性が担い手になって意思決定すれば、「手軽で、栄養バランスが良くて、美味しい食卓」を考慮した農産物やその加工品を作りだすことができる。また、*5-3のように、ジビエへの関心から女性ハンターが増えているのも納得だ。そのため、栄養・食品・調理・包装・食器などの専門家が多い女性が農林水産分野の意思決定に加われば、この分野の成長に大きく寄与すると考える。 *5-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=37189 (日本農業新聞 2016/4/25) 女性活躍、薬剤耐性、温暖化・・・ 食料安保へ共同行動 G7農相会合「新潟宣言」を採択 新潟市で開かれていた先進7カ国(G7)農相会合は24日、食料安全保障の強化に向けた「新潟宣言」を採択し、閉幕した。女性・若手農業者の活躍推進に向けた政策共有や、薬剤耐性に関する獣医当局間の関係強化など四つの共同行動を盛り込んだ。食料安全保障の確立に向けた中長期的な課題の解決に向けて、各国が共同歩調を取れるか今後の取り組みが鍵になる。議長国の日本は①女性・若者の活躍②薬剤耐性や高病原性鳥インフルエンザなどの越境性動物疾病への対処③地球温暖化に関する農業研究の共有――で国際会合を開くことを提案。欧州連合(EU)が提案した農業分野の投資を含む四つの国際会合の開催が決まった。日本は、こうした共同行動を5月の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)での議論につなげたい考え。農相会合では、農業を魅力あるものにし女性と若者の参加を促すため、農村地域の活性化と農業者の所得向上の双方を進めていく必要があるとの認識で一致。新潟宣言では、女性と若者の活躍が「農村地域を変革しあまねく広がる発展を促す」との共通認識に立ち、農地の所有や農業経営、マーケティング分野で女性・若者の活躍を進めるとした。政策担当者らの国際会合は今秋に東京で開く。人間や家畜の治療に必要な抗菌剤が効かなくなる薬剤耐性については、抗菌剤を慎重に使うことを改めて確認。薬剤耐性や越境性動物疾病でG7として初めて、各国の獣医当局者が情報を共有する枠組みを打ち出した。初回会合は今年中に開く。森山裕農相は閉幕後の共同記者会見で「農業政策について包括的に議論し、一定の共通認識を得た。課題解決に向けてG7が連携して取り組むことで世界の食料安全保障に貢献できる」と語った。新潟宣言では、東京電力福島第1原子力発電所事故を受けた日本産食品の輸入規制を巡り、「輸入規制は科学的知見と根拠に基づくWTO(世界貿易機関)ルールと調和的であるべきだ」と強調した。熊本地震の被災地に対し、連帯の意も示した。 *5-2:http://www.saga-s.co.jp/column/economy/22901/344131 (佐賀新聞 2016年8月13日) 組織活動の活性化討議 JA女性リーダー研修会 県内のJA女性組織のリーダーを対象にした研修会が9日、杵島郡大町町のJAさがみどり地区中央支所であった。女性部員や職員ら約80人が、組織活動の活性化や地域組織と連帯した仲間づくりについて討議した。JA佐賀県女性組織協議会とJA佐賀中央会が開催。同協議会の家永美子会長は「食と農を軸とした活動を通じて地元農産物の良さを広め、仲間の輪も広げていきましょう」とあいさつした。研修会では、米大統領選の動向も絡み始めたTPP(環太平洋連携協定)などの農政問題について学習。福岡市の女性組織が直売所の運営や化粧品開発、田んぼアートへの参加など、多彩な取り組み事例を報告した。仲間づくりをテーマにしたグループ討議も行われ、参加者は活発に論議した。 *5-3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=37767(日本農業新聞2016/6/4)大日本猟友会会員 37年ぶり増加 法制定、支援策が奏功 若者、女性 関心高く 大日本猟友会の会員数が2015年度に10万5384人に回復し、1978年度以来37年ぶりに前年度を上回ったことが分かった。専門家や大日本猟友会によると、鳥獣被害防止特措法を中心とした総合的な捕獲の施策が奏功した。官民連携による担い手づくりやジビエ(野生鳥獣肉)の広がり、若者の狩猟や里山への関心の高まりが背景にある。狩猟者の減少と高齢化に歯止めがかからない状況が続いていたが、狩猟者確保へ明るい兆しが見えてきた。15年度は14年度(10万4242人)に比べて1142人増加した。1978年の42万4820人をピークに、会員数は毎年、前年度を大きく下回っていたため、大日本猟友会は「非常に画期的な兆候」とする。銃猟に比べて網やわな猟の免許を取得する会員数が急増している。30都道府県で前年度の会員数を上回った。石川県(前年度比222人増)、兵庫県(同128人増)、岡山県(同131人増)、広島県(同112人増)、香川県(同130人増)の増加が目立つ。大日本猟友会によると、戦後は趣味でカモなどの鳥を狩猟する会員が大半だったが、近年は森林や田畑を荒らすイノシシや鹿の捕獲依頼が急増。各現場では、農家が集団で自ら狩猟免許を取得し田畑を守るケースが目立っているという。鳥獣被害防止特措法が増加を後押しした。2007年に成立し、市町村の被害防止計画に基づいて鳥獣捕獲などに従事する狩猟者に、猟銃所持許可の更新に必要な技能講習を免除する特例や、「鳥獣被害防止緊急捕獲等対策」の交付金などで狩猟者を支援する。この他、若手や女性ハンターの座談会(高知県猟友会)など独自の講習会の企画、試験回数や会場の増加など各地で工夫。政府や猟友会、都道府県、自治体は若者や女性向けの情報発信、広報を強化してきた。都会から地方への移住者や女性らの狩猟免許取得も増え、各地で猟友会青年部が立ち上がっている。さらに処分に困っていた鳥獣が、ジビエの広がりで需要と結び付いた。大日本猟友会は「一つの対策の効果ではなく、総合的な捕獲増への取り組みと若者の里山への関心が狩猟者が増えた要因」と見る。大日本猟友会の佐々木洋平会長は「若い狩猟者の技術を高めていくことがこれからの猟友会の使命」と見据える。岐阜大学鳥獣対策研究部門の森部絢嗣特任助教は「免許を取っただけでなく、現場で実際に狩猟で活躍できるよう、支援体制の充実が必要だ」と指摘する。 <日本の芸能プロダクション> PS(2016/8/14追加):*6のように、「ナンバーワンではなくオンリーワン」を主題とする「世界に一つだけの花(2003年リリース)」を歌っていたSMAPが解散するのは残念だ。オンリーワンであれば当然ナンバーワンであり、オンリーワンであり続けるのは既存の土俵で競ってナンバーワンになるよりもセンスが必要で難しいかもしれないが、持っている遺伝子と育つ環境が全員異なるため、もともと誰もがオンリーワンの個性を持っている。しかし、日本では個性を障害であるかのように解釈して個性をよいものと看做さない風潮があるため、この歌のメッセージは心に残った。なお、現在、日本のプロダクションや芸能界は世の中の進歩と比較してレベルが低いせいか、本当に才能のある人や人々に感動をもたらすメッセージを含んだ芸術を発掘して発信していない。その状況は、開発途上国にも劣る。 *6:http://news.yahoo.co.jp/pickup/6211022 (デイリースポーツ 2016/8/14) SMAPのグループとソロでの現在の活動、 ジャニーズ事務所 SMAP解散経緯全文 「休養」をメンバー数名受け入れず 今年デビュー25周年を迎える国民的グループ・SMAPが12月31日をもって解散することが14日未明、分かった。所属するジャニーズ事務所がFAXで発表した。5人はジャニーズ事務所に残留。17年以降はソロ活動を続けていく。事務所側はメンバーに休養も提案したが、「メンバー数名」がこれを受け入れることができなかった。解散を説明する事務所からの全文を掲載する。(以下略)
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2016,08,02, Tuesday
2016.7.5佐賀新聞 2016.6.15西日本新聞 2016.7.29佐賀新聞 (1)金融緩和・物価上昇と国民生活について 与野党が参院選の経済論争で挙げたデータでは、*1-1のように、自民党は「2013~2015年の国内総生産(GDP)の名目成長率を年平均1.6%に押し上げた」とし、民進党は「同期間の実質成長率は0.6%に留まる」としていた。 では、名目と実質のどちらが生活者にとって意味のある数字かと言えば、物価変動による貨幣価値の変化を修正した実質の方である。また、貨幣価値(購買力)が下がったのは、大規模な金融緩和で通貨をジャブジャブにしたからで、これによって雇用環境が改善した理由は、2010年を100とすれば、2015年は94.6というように実質賃金が下がったからだ。つまり、日本では、付加価値の低い仕事をして低い実質賃金を受け取ることにより雇用を増やしているため、働いている人も消費を増やせないのだ。 なお、*1-2、*1-4のように、「デフレ脱却の目安となる2%のインフレ目標の達成が重要だ」とする論調は多いが、それは、インフレにすれば、①国・企業の債務を目減りさせることができる(逆に債権を持っている人は実質債権額が目減りする) ②額面(名目)の賃金カットをせずに実質賃金を下げることができる という理不尽な目的によるものであるため、生活者は騙されてはいけない。 さらに、*1-3のように、G20は「構造改革の重要な役割を強調しつつ、財政政策が同様に重要である」とし、財務省同行筋は「まさに日本のやろうとしていることと軌を一にしている」と自信を示したそうだが、G20は構造改革の方を重視しているのに対し、日本は構造改革をせずに選挙協力の報償のような生産性を上げない財政支出をしたがるため、国民が付加価値の高い仕事をできるようにはならず、国の借金だけが積み増されるという悪循環に陥っていることも忘れてはならない。 (2)経済対策としての財政出動について 安倍首相は、*2-1、*2-2のように、「①財政措置の規模で13兆円、事業規模で28兆円を上回る総合的かつ大胆な経済対策を来週に取りまとめたい」「②しっかりと内需を下支えし、景気の回復軌道を一層確かなものにしなければならない」と表明しておられる。 しかし、①については、1年間の消費税5.2%分の金額を、何のために、どう使い、それによってどういう効果があるのか についての根拠を明らかにしなければ、従来同様、ここにひそかに潜り込ませた不要な支出を否定できず、②からは、本物の投資や需要ではない景気対策のように思われる。 (3)グローバル化と一体化は異なること 主権を放棄したいかのようにTPPを進めている日本は、*3のように、「英国の欧州連合(EU)からの離脱は世界経済混乱の原因になる」と主張しているが、英国を批判しているその日本は難民を殆ど受け入れていない上、開発途上国からの正規の労働移動にも消極的だ。しかし、私は、難民の受け入れや労働移動は、国によって状況が異なるため、人権を護りながらも、その国独自の判断をしたい場合は当然あると考える。 では、英国が欧州連合から離脱すればグローバル化に逆行するのかと言えば、グローバル化は、一体化しなくても独立国の政策決定で決められるため、先進国なら他国と一体化しない方が、より進んだ政策を採ることも可能だ。そして、英国は、日本が鎖国していた17世紀から、東インド会社を通じてグローバルに商取引を行っていた国なのである。 (4)年金について 上場企業の年金債務・資産・未積立額 株価の推移(名目) 非正規社員数の推移 2016.7.26日経新聞 2015.4.10西日本新聞 上場企業の年金債務は、*4-1のように、2015年度末で91兆円と過去最大に膨らみ、マイナス金利で積立不足が26兆円になったそうだ。その理由は、年金債務要積立額は支払い時までプラス金利で運用する前提で現在価値に割り引いてきたが、利率が低いほど要積立額が多くなり、マイナス金利では将来支払う金額よりも大きな金額を現在積み立てておかなければならないからである。 そのわけは、金利が高くて運用環境がよければ年金積立額は年金支払い時までに運用益でかなり増えるが、金利が低かったりマイナス金利になったりすれば、あまり増えないので企業は割引率を下げてより多く積み立てなければならないからだ。同じことは、公的年金、保険、個人資産などでも起こっているため、付加価値の低い生産しかできず、金融緩和で経済を持たせるのは、多方面に迷惑をかけている。 さらに、*4-2のように、国民年金の納付率は90~100%ではなく、たった63.4%である。この割合では、日本年金機構の管理に甘さがあると言わざるを得ない。また、非正規労働者の増加も、年金保険料を支払えない人を増やしている。さらに、男女の性的役割分担に固執して女性が働きにくい社会を作った結果、専業主婦として三号被保険者となり、保険料の納付を免除されている人も多い。 その上、*4-3のように、年金資産の運用を行っている年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の2015年度の運用損失は約5兆3千億円で、GPIFは2014年10月に株式(リスク資産)での運用割合を50%に増やし、昨夏や年明けからの株価下落で赤字を出したそうだ。これについて、政府とGPIFは、「累積では約45兆円の運用益を確保しているので問題ない」としているが、年金資産は短期の売り買いが不要であるため、株式などのリスク資産による運用は50%ではなく20%以下にして80%以上は債権で元本を保証しながら、株式などのリスク資産は高くなって利益が出る時に売却し、安くなった時に購入するという方法で、元本割れさせずに利益を出し続けることも可能なのである。 従って、年金資産の50%という高い割合で、どういう銘柄の株式を買い、本当に年金資産にプラスになる運用をしたのかどうかも検証が必要だ。 このようにして、年金生活者にも大きな実質収入減があるため、(泥棒でもしない限り)消費を控えざるをえず、いつまでも本物の需要で市場が満たされないわけである。 <金融緩和・物価上昇と国民生活> *1-1:http://www.saga-s.co.jp/column/economy/22901/330380 (佐賀新聞 2016年7月5日) 成長率、雇用など経済論争 際立つデータの違い、参院選で与野党、共に実績を強調 与野党が参院選の経済論争で挙げるデータの違いが際立っている。自民党は安倍政権3年半の成果として、2013~15年の国内総生産(GDP)の名目成長率を年平均1・6に%押し上げたと強調する。民進党は、同期間の実質成長率は同0・6%にとどまり、民主党政権3年3カ月より低いと反論。両者は共に実績を強調し、アベノミクスの評価は正面からぶつかる。2種類の成長率は、物価変動要素を含めた名目値と、除外した実質値の違いだ。名目値は、給料や物・サービスの値段など見掛けの状態を表すため国民の実感に近く、実質値は真の実力を示すとされる。与党が重視するのは名目値だ。民主党政権時の10~12年の名目成長率は年平均0・3%で、安倍政権になり上がったと胸を張る。名目値が高いのは、物価が上がったため。アベノミクス「三本の矢」による大規模な金融緩和を進めた結果と言えそうだ。民進党は実質値に寄った立場だ。10~12年は東日本大震災の発生もあった上で実質成長率が年平均2・0%あったが、13~15年は半分以下に落ち込んだと指摘。アベノミクスが失敗した証拠だと突き付ける。雇用統計でも与野党は対立する。自民党は参院選公約に(1)就業者数が12年から15年に106万人増加(2)有効求人倍率が24年ぶり高水準で47都道府県全て1を超えた-などと明記。雇用環境が改善したと訴える。野党が問題視するのは、雇用形態だ。こちらも公約に、非正規雇用は03年の34・6%から14年に40・5%へ増加したと明示。12年と15年の比較でも、非正規が167万人増え「雇用が不安定になる一方だ」と指摘する。賃金を巡っても、両者の主張は食い違う。与党は、3年連続2%水準で引き上げを実現したと成果を誇る。企業収益が過去最高の70兆8千億円(15年)に達し「政権から経済団体へ賃上げを働き掛けた。労組のお株を奪う実績だ」と自負する。野党は、物価要素を除いた実質賃金で見れば、安倍政権で連続して減少したと切り捨てる。10年を100とすれば15年は94・6と低迷しているのが実態だと示し「格差が広がり、消費も伸びない」と疑問視した。 *1-2:http://www.kyoto-np.co.jp/info/syasetsu/20160430_3.html (京都新聞社説 2016年4月30日) 物価目標先送り 戦略立て直しが必要だ 強弁を重ねても手詰まり感は誰の目にも明らかだろう。日銀は、デフレ脱却の目安となる2%の物価上昇目標の達成時期をさらに先送りする一方、金融政策は現状維持を決めた。追加金融緩和を予想していた金融市場では失望売りが広がり、日経平均株価が600円以上急落し、大幅に円高も進んだ。黒田東彦総裁は、追加緩和見送りの理由を2月導入のマイナス金利政策の「効果を見極めるため」としつつ、「2%目標は十分達成できる」と繰り返した。だが足元では景気や物価の低迷が浮き彫りで、家庭や企業、市場とも認識のずれは広がる一方ではないか。目標達成時期の先送りは1年間で実に4回目だ。1月に見直した「2017年度前半」を早くも「17年度中」へ最大で半年延ばした。黒田総裁は「2年で達成」を確約して13年4月に大規模緩和を始めた。任期5年内の達成の瀬戸際に追い込まれた形だが、実現は極めて困難との見方が大勢だ。それでも日銀は追加緩和に動けなかった。「奥の手」のマイナス金利導入でも企業、個人向け融資拡大の効果がいまだ見えず、収益悪化を懸念する金融機関や国民からも反発が根強いからだ。さらに短期間での追加緩和は通貨安誘導だと国際的批判を受けかねない。5月下旬の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)を前に、経済政策での国際協調に水を差すとの政治的配慮もあっただろう。黒田総裁はなお、経済の「前向きな循環は持続している」とするが、説得力を欠く。3月の消費者物価は前年同月比0・3%減と約3年ぶりの下げ幅、家計の実質消費支出も同5・3%の大幅減だ。これまで原油安が目標後退の要因としてきたが、「成長率や賃金改定が下振れした」と景気停滞を認めざるを得なくなっている。必要と判断すれば追加緩和すると強調するが、金融政策だけで景気や物価を上げるのに限界があるのは明白だ。日銀には柔軟に戦略を立て直すことが求められよう。実体経済に即して市場との「対話」がより重要だ。予想外の「サプライズ」で政策効果の最大化を図ってきた手法に陰りが出ている。表向きは強気一辺倒で手の内を明かさぬ姿勢が不信を招き、動揺を広げている面は否めない。政策の狙いと効果を系統的かつ丁寧に説明していく必要がある。政府も金融政策頼みから脱し、景気の鍵を握る内需の底上げや新産業の育成を強めねばならない。 *1-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160725&ng=DGKKZO05206710V20C16A7NN1000 (日経新聞 2016.7.25) 財政・金融 相乗効果探る、政府、経済対策決定へ 日銀にじわり圧力 20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議を終え、政府・日銀は来月初めにかけて政策決定の大詰めを迎える。安倍政権の経済政策アベノミクスの再点火へ、財政出動と金融緩和の相乗効果をどう高めるかが焦点だ。G20会議が打ち出した政策総動員を早速試されることになり、国際社会の注目を集める。「構造改革の重要な役割を強調しつつ、財政政策が同様に重要である」。24日採択した共同声明はそう強調した。麻生太郎財務相は財政出動について「政府内で検討しているところ」と発言。財務省同行筋は「まさに日本のやろうとしていることと軌を一にしている」と自信を示した。7月10日の参院選勝利を受けて安倍晋三首相は経済対策の策定を指示。政府は来月初めの決定へ調整を進めている。財務省幹部は首相が休暇中の先週も首相官邸や与党に頻繁に足を運んだ。「最大限にふかす」という首相の意向をふまえて、事業規模は総額20兆~30兆円に膨らむとの見方が足元で強まっている。日銀は政府の経済対策と相前後する7月28~29日に金融政策決定会合を開く。黒田東彦総裁は成都で「経済は緩やかな回復過程にある」「賃金・物価が緩やかに上昇していくメカニズムは続いている」と指摘。その上で「必要ならば追加的な金融緩和措置を講じる」と選択の余地を残した。最近の金融市場は政府・日銀の政策の先行きに敏感な展開。先週も黒田総裁の発言で円高が進む場面があった。第2次安倍政権は発足当初に財政出動を膨らませ、黒田日銀による異次元金融緩和を引き出した。「その当時の手法や雰囲気を連想させる」(ある財務省OB)との認識が市場の期待を高めている。財務省や日銀にとって4月の金融政策決定会合が苦い記憶になっている。直前の観測報道で追加緩和の期待が盛り上がったぶん、政策現状維持で市場の失望を誘い円高が加速した。麻生氏の円高をけん制する“口先介入”が米国の反感を買い、日米通貨当局の応酬につながった。4月との大きな違いは財務省の日銀への視線にある。最近は「日銀は今回は何かやるだろう」と観測めかして日銀の追加緩和を促す財務省幹部が複数いる。日銀は市場と財務省からの期待や圧力を背負って決定会合に臨むことになる。 *1-4:http://qbiz.jp/article/91536/1/ (西日本新聞 2016年7月29日) 日銀、追加金融緩和 脱デフレへ政府と協調 日銀は29日、金融政策決定会合を開き、追加金融緩和を賛成多数で決めた。上場投資信託(ETF)の購入額を現行の年3・3兆円から6兆円に増やす。円高や消費低迷で物価の上昇基調が揺らぎ、デフレ脱却には政策強化が必要と判断した。黒田東彦総裁は、次回の金融政策決定会合で経済・物価動向や政策効果について、総括的な検証を行う準備をするよう日銀執行部に指示した。日銀は会合後、政府の経済対策と「相乗的な効果を発揮する」との認識も示した。決定を受けて金融市場では緩和が小規模だとして失望感が広がり、円相場は一時1ドル=102円台に上昇、日経平均株価も乱高下した。「2年程度で2%の物価上昇目標を達成」を宣言した黒田総裁の就任から3年余りで3回目の追加緩和となる。緩和策の効果を疑問視する見方が広がっており、実際に景気を押し上げて脱デフレを達成する効果があるかは未知数だ。ETF買い入れ増額には、9人の政策委員のうち7人が賛成、2人が反対した。英国の欧州連合(EU)離脱問題などで、金融市場で不安が高まっていることからドル資金供給を120億ドルから240億ドルに拡大することを決めた。民間銀行が日銀に預ける資金の一部に手数料を課すマイナス金利政策は、金融機関の収益悪化につながるとして反発が依然として根強い。このためマイナス金利の一段の引き下げは見送り、年0・1%で据え置いた。この日発表された6月の消費者物価指数(生鮮食品を除く)は前年同月比0・5%下落と4カ月連続のマイナスで、目標から大きくかけ離れている。英離脱問題で、消費者や企業の心理が慎重になることへの危機感も日銀内で強まった。国内景気の現状判断は「基調としては緩やかな回復を続けている」と据え置いた。2016年度の物価見通しは引き下げた。 <財政出動> *2-1:http://qbiz.jp/article/91413/1/ (西日本新聞 2016年7月28日) 経済対策 事業規模28兆円超 首相表明、財政措置は13兆円 安倍晋三首相は27日、福岡市で講演し、近く策定する経済対策について「財政措置の規模で13兆円、事業規模で28兆円を上回る、総合的かつ大胆な経済対策を来週取りまとめたい」と表明した。8月2日にも閣議決定する。一部はその後に編成する本年度第2次補正予算案に盛り込み、秋の臨時国会で成立を目指す。首相はこの日、同市で始まった「一億総活躍・地方創生 全国大会in九州」に出席した。経済対策に関しては「しっかりと内需を下支えし、景気の回復軌道を一層確かなものにするものでなければならない」と指摘。外国クルーズ船が着岸する港湾の整備や農水産物の輸出促進、子育てや介護と仕事の両立などを列挙し、「経済対策のキーワードは未来への投資。力強いスタートを切る」と意欲を語った。熊本地震の復興をめぐっては、参院選の公示日に熊本城前で第一声を上げたことに触れた上で「熊本城が威風堂々たる姿を取り戻す日まで復興に全力を尽くす。その決意を新たにした」と強調。「今後、住まいの復興、なりわいの復興を一層加速させる必要がある」との考えを示した。 *2-2:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/338816 (佐賀新聞 2016年7月29日) 低所得者に1万5000円 対象2200万人、国債増発で公共事業 政府経済対策 政府、与党は28日、経済対策を大筋で取りまとめ、低所得者に1万5千円を給付する方針を固めた。対象は2200万人。対策全体の追加歳出は地方自治体分を含めて7兆円程度とし、うち2016年度第2次補正予算案への計上額は2兆円台後半で調整する。財源が不足するため借金(建設国債)を積み増して公共事業を行い「アベノミクス」を加速する。金融政策決定会合を29日まで2日間開く日銀と一体で経済の底上げを目指す。年度途中での国債増発は4年ぶり。民間支出や融資をかき集めて事業費を28兆円超に膨らませる苦肉の策となる。財政、金融政策とも限界論が指摘される中、効果に見合わない財政リスクが蓄積されるとの懸念が現実味を増してきた。政府は28日、自民、公明両党に対策案を示し、大筋で了承を得た。この日の提示には事業の規模や予算額を含んでいない。細部を詰めた上で8月2日に閣議決定し、9月召集の臨時国会に補正予算案を提出する。低所得者への現金給付は最低賃金引き上げなどと合わせて家計を支え、消費を底上げするのが狙い。消費税増税の負担軽減策として16年度末までの予定で年6千円を給付した「簡素な給付措置」を引き継ぐ。消費税率10%への増税を2年半延期するのに伴い、2年半分に当たる1万5千円を一括給付する形に改めて消費を喚起する。現行制度と同様、住民税非課税の人を対象とする方針だ。政府は給付額を1万円に抑えることも検討したが、現行水準を下回ることに公明党が反発、1万5千円で決着した。対策案では1億総活躍社会の実現を目指し、保育士や介護人材の処遇を改善。労使が負担する雇用保険料も軽減する。無年金者救済策として、年金受給資格を得られる加入期間を現行の25年から10年へと短縮する。防災対策などの公共事業を行うほか、財政投融資を活用してリニア中央新幹線の大阪延伸を最大8年前倒しし、整備新幹線の建設を加速する。日銀は金融政策決定会合で追加金融緩和の是非を検討し、29日に決定内容を公表する。政府、与党内には経済対策との相乗効果を求め、追加緩和を期待する声がある。 <グローバル化と一体化は異なる> *3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160725&ng=DGKKASDF24H0T_U6A720C1MM8000 (日経新聞 2016.7.25) EU離脱の混乱回避へ連携 G20財務相会議 政策総動員を確認 日米欧に新興国を加えた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は24日、英国の欧州連合(EU)からの離脱で世界経済が混乱しないように連携していく方針を打ち出した。世界経済の不確実性が高まっており、各国は政策を総動員すると再確認した。為替問題では「通貨の競争的な切り下げを回避する」と改めて指摘した。G20財務相会議は、英国が6月23日の国民投票でEUからの離脱を決めてから初めて。同問題で金融市場も不安定な動きをしており、今回の会議で最大の議題となった。24日公表した共同声明では世界経済について「回復は続いているが、期待していたほどではない。下振れリスクが残る」と分析。その原因として英国のEU離脱のほか、テロ・難民・紛争といった地政学上の問題を挙げた。英国のEU離脱については「G20は積極的に対処する態勢を整えている」と連携を強調。当事者の英国とEUには「緊密なパートナーである姿を望んでいる」と注文を付けた。共同声明の作成には英国も積極的に関わった。会議の主役となった新任のハモンド英財務相は日本、ドイツ、EUなどとの2者会談を重ね、経済の下振れを最小限にとどめたいと説明した。さらに英メディアを通じて秋にも財政政策を景気配慮型に「見直す」と対外発信した。今年2月、同じ中国の上海で開いたG20財務相会議でも景気の不透明感が指摘され、各国が政策を総動員すると表明。今回も持続的な成長に向けて「金融、財政、構造政策を総動員する」と確認したが、世界経済の状況は様変わりした。当時は中国の景気減速に対する懸念が強かったが、いまは政治・地政学リスクに焦点があたっている。財務相らは「テロ資金供与のすべての資金源、技術と戦っていく」と強調。難民問題では米国のルー財務長官が「あらゆるところで難民問題が大きなインパクトを与えている」と懸念を示した。米欧諸国は議長国の中国に対し、鉄鋼の過剰生産能力問題に対応するように迫り、共同声明には「世界的課題」と盛り込まれた。 <年金> *4-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160726&ng=DGKKASGD25H4W_V20C16A7MM8000 (日経新聞 2016.7.26) 金債務最大 上場3600社で91兆円、昨年度末、マイナス金利で膨張 積み立て不足26兆円、重荷に 上場企業の年金債務(総合2面きょうのことば)が2015年度末で91兆円と過去最大に膨らんだ。年金債務は企業が年金・退職金を支払うために現時点でどれだけ蓄えておくべきかを示す。日銀のマイナス金利政策の影響で金利水準が全般に下がって運用環境が悪化し、年金債務を厳しく見積もらないといけなくなった。この結果、企業年金の未積立額は26兆円に拡大し、業績の重荷になるのが避けられない情勢だ。このほど出そろった有価証券報告書をもとに、3642社(金融含む)を集計した。年金債務は前の年度末比で5.1%増え、91兆2151億円に達した。年金債務を算出する際は金利水準に応じて調整を加える。運用環境の変化を織り込む会計処理だ。金利が高ければ運用で資産を増やしやすいので、将来の年金などの支払額に比べて現時点で用意すべき額は小さく見積もる。反対に金利低下が進むと多めに準備しておく必要があると見なし、年金債務は増加する。年金債務を調整するための利率を「割引率」と呼ぶ。上場企業の割引率は15年度に平均で0.863%と過去最低になった。マイナス金利政策を受けて10年物国債の利回りがマイナス圏まで落ち込み、企業は割引率を下げざるを得なかった。トヨタ自動車は国内年金で割引率を0.5%に下げ、年金債務は1兆9121億円と1909億円増えた。東武ストアなど31社はマイナスまで引き下げた。割引率がマイナスだと年金債務は将来の年金などの支払額よりも大きくなる。年金の運用資産は株安・円高が響いて65兆2380億円と7年ぶりに減った。この結果、年金債務と運用資産との差額である未積立額は25兆9770億円と4年ぶりに増加。日本では未積立額のうち割引率低下や運用悪化による部分は一定期間内に年金費用として計上する必要がある。年金債務の増加は会計上の処理だが、企業業績には実際に悪影響が及ぶ。ヤマトホールディングスは割引率引き下げに伴って30億円費用が増え、17年3月期の営業利益は7%減となる想定だ。東京ガスも割引率を下げたことで240億円の費用を今期に計上する。未積み立て分は負債としても計上する必要があるため、自己資本比率の低い企業などでは年金債務の負担で財務悪化が加速する恐れもある。野村証券の西山賢吾氏は「マイナス金利の長期化で、未積立額は16年度以降も拡大する可能性がある」と分析している。 *4-2:http://mainichi.jp/articles/20160701/k00/00m/040/069000c (毎日新聞 2016年6月30日) 国民年金、.納付63.4%…15年度 情報流出で伸び鈍化 厚生労働省は30日、2015年度の国民年金保険料納付率が63.4%となり、前年度より0.3ポイント改善したと発表した。納付率の上昇は4年連続だが、昨年6月に日本年金機構の加入者情報の流出問題が起き、滞納者対策が遅れたため、改善の幅は前年度(2.2ポイント)に比べて鈍化した。年金機構は保険料の収納業務を担い、納付率向上を目指して特別催告状の送付や戸別訪問などによって納付を促している。しかし、情報流出後はこれらの督促業務が一時中断していた。20〜59歳の年代別納付率をみると、20〜24歳は前年度比0.33ポイント減の58.94%、50〜54歳は同0.1ポイント減の67.27%だった。その他の年代は同0.3〜0.9ポイント改善した。また、保険料を滞納した場合、過去2年分の追納ができ、追納分を含めた13年度の最終納付率が70.1%になった。70%台を回復するのは7年ぶり。13年度末時点からは9.2ポイント上昇し、最終納付率の統計を取り始めた02年度以降、過去最高の伸び幅だった。 *4-3:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/338942 (佐賀新聞 2016年7月29日) 年金運用損失5.3兆円 2015年度 公的年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の2015年度の運用損失が約5兆3千億円だったことが28日、分かった。GPIFは14年10月に株式の運用割合を増やしており、昨夏や年明けからの株価下落が響き、5年ぶりの赤字となった。損失額はリーマン・ショックを受けた08年度より後では最大。GPIFが29日に発表する。政府とGPIFは、市場運用を始めた01年度から累積では約45兆円の運用益を確保していることを強調。「年金積立金は長期的な視点で運用しており、短期的な変動にとらわれるべきではない」としている。GPIFは14年10月、積立金を株価浮揚に活用したい政府の意向も踏まえて運用資産の構成割合を変更した。国内外の株式の目安を計50%に引き上げたため、15年度は株安の影響を大きく受けて損失が膨らんだ。株式市場は本年度に入ってからも、株価が乱高下するなど不安定な状況。国内債券でも利益を得ることが難しくなっており運用環境は厳しい。今回の運用実績の発表は例年より3週間ほど遅く、野党は「参院選前に損失を明らかにしたくなかった政権の情報隠しだ」と批判している。 ■年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF) 国民年金や厚生年金の保険料収入の余剰分を積立金として管理し、市場に投資して運用する。厚生労働省の所管で2006年に設立された。前身は年金資金運用基金。債券や株式などにどうお金を振り分けるかという資産構成割合は、外部の専門家らで組織する運用委員会で協議して理事長が決める。政府は理事長に権限が集中する体制を改め、重要事項は合議制で決めることなどを盛り込んだ年金関連法案を先の通常国会に提出したが、継続審議となっている。 PS(2016年8月5日追加):これは、低金利と金融緩和が国民資産に悪影響を与えている事例だが、現在、退職給付会計を使って比較的正確に退職給付債務を計算しているのは上場企業だけで、その他の企業や公的年金は不足額の把握すらできていないため、全年金の積立不足額が25兆円超だと考えたら甘い。そのため、まず、その他の企業や公的年金についても退職給付会計を使って退職給付債務を正確に把握すべきだ。 *5:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/341503 (佐賀新聞 2016年8月5日) 年金積み立て不足、25兆円超、マイナス金利響き、15年度末 年金や退職金を支払うために用意しておくべき「退職給付債務」の上場企業の積み立て不足額が15年度末時点で約25兆6千億円に上り、不足額が前年度末から約7兆7千億円増えたことが、野村証券の集計で5日分かった。日銀が導入したマイナス金利政策の影響で長期金利が下がったり、株価が下落したりして期待できる運用利回りが低くなったことが響いた。積み立て不足が深刻化すれば、企業収益を圧迫し財務体質の悪化につながる。企業が給付水準を保障する確定給付型の年金制度の維持が難しくなり、確定拠出年金など、従業員がより運用リスクを負う方向に企業年金の制度見直しが進む可能性もある。 PS(2016年8月6日追加):佐賀県のJAは、*6のようにアクションが速いのはよいが、年金は、老後確実にもらえるのが最もよいサービスであるため、これを実現するには、(例えば「九州農業者年金」のように)合併などで年金の規模を大きくして上場企業と同じ会計処理や管理を行うのがお薦めだ。それには、農協を担当している監査法人もやり方を熟知しているため相談すればよい。また、「農業に従事すれば、年金も含めて一生困らない」という環境を作れば、質の良い後継者候補が増えることは間違いない。 *6:http://www.saga-s.co.jp/column/economy/22901/341702 (佐賀新聞 2016年8月6日) JA年金友の会 会員3%増目標、佐賀市で県大会 年金をJAバンク口座で受給する利用者でつくる「JA年金友の会」の県大会が、佐賀市文化会館であった。2015年度末の会員数は前年同期比1183人増の6万6294人、振込額は同17億4500万円増の639億3千万円で、本年度中に会員を3%増やす目標や会員同士の親睦事業の活発化を確認した。年金受給者が増える中、JAバンク佐賀は地方銀行やゆうちょ銀行などとの競争激化を念頭に、会員増強運動を展開している。大会で中野吉實会長は「会員同士の交流を図るカラオケ大会など、会員になってよかったと言ってもらえるように顧客サービスを充実したい」とあいさつした。会員増加率が高かった支部の表彰もあり、最優秀賞に輝いたJA佐賀市中央・神野支部の会員代表らが表彰状と副賞を受け取った。 PS(2016年8月7日追加):*7に、「①年金を受け取るのに必要な受給資格期間が、現在の25年から10年に短縮される」「②無年金者の救済策として、政権が来年度中に実施する方針を示した」「③年に約650億円が必要になるが、安定した財源が確保できているとは言えない」「④受給資格期間の短縮は社会保障の充実策」「⑤10%への消費増税に合わせて実施予定だったが、増税先送りで実現が不透明」等と記載されている。 しかし、①については、25年も保険料を支払わなければ受給資格をもらえないのがおかしなルールなのであり、このルールによって被害を受けたのは子育てで退職せざるをえなかった女性や転職を余儀なくされて他の年金制度に移り、一つの年金制度への加入期間が25年や10年に満たない人である。つまり、25年から10年に受給資格取得期間を縮めるだけで、③のように、年に約650億円も必要になるというのは、日本の年金制度が今まで弱者からこれだけの金額を搾取してきたということだ。しかし、本当は、年金保険料を1年しか支払わなくても、それに見合った年金は受け取れるようにするのが公平であるため、この前提で計算すれば国の不当利得は年間1000億円にも達するだろう。 また、②については、働いている時には少なからぬ年金保険料を納めているため、受給時に「救済」などと言われるのは不本意であり、支払った年金保険料に見合う年金を受け取るのは当然の権利であって、②の救済や④の社会保障と言う言葉を、(生活保護ではなく)年金に使うのは無理がある。 そして、⑤のように、いつもの消費増税先送りで実現が不透明などと消費税財源論が書かれているが、税金は消費税だけではない上、景気対策と称するヘリコプターマネーの無駄遣いが多く、年金は国民が税金とは別に年金保険料を支払って加入しているものであるため、国民が支払った年金資産を杜撰にではなく的確に管理・運用して増やし、本来の目的である公平・公正な年金を支払うのが年金保険機構(前は社会保険庁)と厚労省の責任なのである。 *7:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12500401.html (朝日新聞社説 2016年8月7日) 無年金救済 多様な取り組みで 年金を受け取るのに必要な受給資格期間が、今の25年から10年に短縮されそうだ。無年金者の救済策として、政権が来年度中に実施する方針を示した。今は保険料を納めた期間が25年に満たないと年金を受け取れないが、そうした人のうち約64万人が新たに年金をもらえるようになると見込まれている。高齢になっても働き続ける必要に迫られるなど、厳しい生活を送る無年金の人には朗報だ。ただ、年に約650億円が必要になる。安定した財源が確保できているとは言いがたい。受給資格期間の短縮は税・社会保障一体改革に盛り込まれた社会保障の充実策で、10%への消費増税に合わせてもともとは昨年10月に実施予定だった。増税先送りで実現が不透明になるなか、先の参院選で自民、公明両党が早期の実施を約束していた。いわば見切り発車である。政権は、消費税率を10%にするまでの当面の財源をやりくりすれば乗り切れると考えているようだが、19年10月に消費増税が必ず実施されると本当に言えるのか。増税から逃げ腰のまま財源が続かなくなり、他の社会保障予算を削って捻出するようなことになれば本末転倒だ。関連法案の審議が予定される秋の臨時国会でしっかり議論してほしい。忘れてならないのは、受給資格期間の短縮は、すべての問題を解決してくれる「特効薬」ではないということだ。例えば年金額の問題がある。国民年金は20歳から60歳まで保険料を納めると毎月6万5千円程度の年金がもらえるが、納付期間が10年にとどまれば年金額もその4分の1になる。「10年間保険料を納めれば年金がもらえる」ことばかりが強調され、10年で保険料納付をやめてしまう人が相次ぐようでは、低年金で生活保護に頼らざるを得なくなる人がむしろ増えかねない。受給資格期間が短くなっても、老後に十分な年金をもらうには長期的に保険料を納める必要があることを周知する。未納者には納付をはたらきかける。そんな取り組みも重要だ。生活が苦しく保険料を納められない人には保険料を免除・猶予する制度の利用を促したい。免除や猶予の期間は受給資格期間に数えられる。一定の条件はあるが、経済的に余裕ができてから免除・猶予期間の保険料を納めて年金額を増やすこともできる。さまざまな制度をフルに活用し、重層的な取り組みを通じて老後の安心を守りたい。 PS(2016年8月8日追加):*8のように、日本では資源は高値で輸入しなければならず、外国への資源投資が不可欠だと考えるのは、経産省の暗愚な思考停止だ。何故なら、①日本にはLNGが多く存在し ②LNGは化学工業にも使え ③輸送コストが小さく ④資源を産出する企業も日本に税金を納め ⑤環境にもよく ⑥乗り物も電動か水素燃料に変えれば化石燃料を輸入する必要がないからである。 *8:http://www.saga-s.co.jp/column/economy/22901/312897 (佐賀新聞 2016年5月18日) 原油安、将来の供給に懸念 エネ白書 政府は17日、2015年度版のエネルギー白書を閣議決定した。原油価格の低迷で資源開発への投資が減り、将来の安定供給に懸念が強まっていると指摘し、投資促進の必要性を強調した。液化天然ガス(LNG)の市場改革や、省エネにつながるインフラ輸出や制度作りで国際協力を進め、原油依存からの脱却を世界規模で実現するとした。15年の世界の石油や天然ガス開発投資は約65兆円で、14年と比べて約15兆円減少した。16年も落ち込みが続く見通しだ。生産量を維持するためには年約70兆円の投資が必要だが、資源開発を手掛ける企業の財務基盤は弱っている。企業が必要な資源開発に取り組めるよう、政府が投資資金を安定して供給する必要があると分析した。LNGを巡っては、東京電力福島第1原発事故後に原発が停止し、火力発電の燃料に使うため輸入が急増した。一方、余ったLNGを他国に転売できないなどの商慣行があり、調達費の引き下げを難しくしている。日本はLNGの最大の輸入国という立場を生かし、柔軟で透明な取引市場を構築すべきだとした。 PS(2016年8月10日追加):既に国民は、原発は高リスク・高コストで金食い虫であることを認識しており、現に100%安全どころか公害を出し放題であるのに、*9のように、「再稼働はゴールでなく、スタートだ」などとしているのは、当事者の利益中心で周囲の迷惑を考えない利己的な判断だ。なお、日本の電気料金は、原発が自由に稼働していた頃から世界の中で高い方であった上、電力会社が負担する原発のコストは全体のごく一部であることを忘れてはならない。 電気料金国際比較(産業用・家庭用) 太陽光発電のコスト *9:http://digital.asahi.com/articles/ASJ852S5NJ85TIPE003.html (朝日新聞 2016年8月9日) 川内原発再稼働、11日で1年 九電の対応が焦点に 九州電力川内原発(鹿児島県)が再稼働してから11日で1年になる。九電の経営への貢献は大きく、業績は黒字に転換、余った電力の販売攻勢に乗り出した。ただ、原発停止を求める三反園訓・鹿児島県知事の就任で風向きは変化しつつあり、九電の対応が焦点になっている。川内原発は昨年8月、東日本大震災後の新しい規制基準のもとで、全国に先駆けて再稼働した。「再稼働はゴールでなく、スタートだ。今後も安全管理の向上に努めていく」。瓜生道明社長は7月29日の会見で淡々と語った。再稼働は九電の経営改善のスタートにもなった。九電によると、火力発電の燃料代が減り、収益改善効果は毎月100億~130億円。純損益は2015年3月期の1146億円の赤字から、16年3月期は734億円の黒字になった。ボーナスや株主への配当を復活し、役員報酬も増やした。一方で、「本格的な収益力回復は途上」(瓜生社長)として電気料金の値下げは見送っている。九電がホームページで公表する「でんき予報」。当日や1週間の電力需給の見通しを示す。最高気温が35度を超える猛暑日もあるなかで電力需給は連日、「安定」のマークが並ぶ。家庭や企業で節電が定着し、他社からの融通などもあるため再稼働前でも供給に大きな支障はなかった。再稼働後の九電の供給力は全国でも高水準の余力を抱え、余るほどの電気をどう売るかが課題だ。東日本大震災後に節電を呼びかけるなかで自粛した「オール電化」の営業を7月に再開した。4月に電力小売りが自由化されたが、原発がつくる電気の比重が高まる夜間に割安で使えるプランは、新電力に対抗する強力な武器になっている。 ■新知事誕生、変わる風向き 一方、今年4月には熊本地震が起き、7月には鹿児島県知事に三反園氏が就いた。熊本地震後には、川内原発の停止を求めるメールや電話が九電に殺到。安全性への不安の高まりは三反園知事への支持と無縁ではない。「誰も予想していなかった事態だ」と九電首脳は言う。昨年の再稼働に同意した伊藤祐一郎前知事には、九電首脳も「恩義を感じている」という。一転して三反園知事は8月下旬から9月上旬をめどに、九電に一時停止を申し入れる考えだ。今後は九電がどう動くかが焦点。「知事としっかり話をしながら適切に対応したい」(世耕弘成経済産業相)とする政府とともに稼働に理解を求める方針で、「知事の考えが知りたい」と水面下で情報収集を進める。川内原発は、もともと1、2号機とも年内に定期検査で止まる予定だが、知事の同意が得られないと再稼働も長くずれこむ可能性がある。川内に続いては玄海原発(佐賀県)を再稼働させ、「原発効果」をさらに高めることが九電の思惑だ。幹部は警戒する。「川内原発が知事の意向で稼働できない事態になれば、全国のほかの原発にも影響が及びかねない」 ■川内原発の再稼働後の主な動き ●2015年 ・8月 川内原発1号機が再稼働 ・10月 2号機が再稼働 ・12月 重大事故時の拠点施設を「免震構造」にする方針を撤回 ●2016年 ・3月 重大事故時の拠点施設を「耐震構造」にする方針を表明。安全は確保と主張 ・4月 熊本地震から1週間で停止を求める電話などが約5千件に ・7月 三反園訓氏が鹿児島県知事に就任 ・8月下旬~9月上旬? 三反園知事が九電に停止申し入れ ・10月 1号機が定期検査入りの予定 ・12月 2号機が定期検査入りの予定
| 経済・雇用::2015.11~2016.8 | 11:14 PM | comments (x) | trackback (x) |
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