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2020.6.23~28 女性がリーダーになるための妨げは何か? (2020年6月29、30日、7月2、3、4、5日追加)

2019.12.18産経BZ   Goo                 2018.10.10朝日新聞

(図の説明:1番左の図のように、2019年の男女格差報告で、日本は同じ儒教国である中国《106位》・韓国《108位》より低い121位で、仏教国インド《112位》・イスラム教国のアラブ首長国連邦《120位》よりも下だった。また、左から2番目の図のように、他国は努力しているのに日本は形だけの対応をしているため、順位が毎年下がっている。それでは何が低いのかといえば、右から2番目の図のように、政治が世界の中でも低く、経済はまあ世界並の低さだ。教育は、世界の中でもよいとされるが、実際には1番右の図のように、女性は短大や大学でも職業に結び付きにくい文学・芸術への進学が多いため、政治・経済への参画が不利になる。しかし、これらは、現在の国民全体の平均的な意識である“常識”を現していると思う)

(1)国民に根付いている女性蔑視の偏見と
             女性蔑視発言をする人がよく使う“言論の自由”“表現の自由”
 テレビ番組での言動を巡り、SNS上で匿名の誹謗中傷をされていた女子プロレスラーが、*1-1・*1-2・*1-3のように自殺して亡くなった。亡くならなければクローズアップされないのも問題だが、SNS上の匿名での卑怯な発信は他人の人生や職業人生を狂わせたり終わらせたりする効果があるため、発信者が“言論の自由”や“表現の自由”として罪の意識もなく発信していたとしても、やはり人権侵害である。

 SNS上の匿名での発信については、プロバイダー責任制限法により、被害者が損害賠償を求める場合に発信者情報の開示を事業者に請求できるようにはなったが、「権利の侵害が明確でない(この判断にも女性蔑視や企業側の論理が多く存在する)」などとして開示されないことが多い上、裁判に訴えると費用や時間もかかりすぎるため被害者が泣き寝入りせざるを得ない局面が多い。さらに、弁護士や裁判官などの司法関係者も潜在的女性蔑視から自由ではないため、権利の侵害があってもそれを過小に評価したり、権利の侵害による逸失利益自体を過小評価したりして、女性に不利な判決が出やすいのである。ちなみに、交通事故で死亡した男児と女児の間でも、逸失利益とされる金額は女児の方が少ないそうだ。

 そのため、高市総務相が、スムーズな情報開示で悪意ある投稿を抑止するために発信者の特定を容易にする制度改正の検討を本格化させるのはよいことだ。また、私は、政治家として、“言論の自由” “表現の自由”と称する女性蔑視に満ちた嘘のキャンペーンを張られたことがあり、その被害は今でも続いているため、“正当な批判”と称する偏見に満ちた“表現”に対して、政治家も発信者の開示を求められるようにするのが公正だと考える。

 つまり、“言論の自由”とは、嘘でも何でもいいから言いがかりをつけて政治家を失脚させる権利ではなく、権力に抗することになるかもしれない本物の主張を言うことができる権利であるため、対象が政治家であっても言いがかりまで“言論の自由”として護ってはならない。また、メディアが使う“表現の自由”も“常識”と呼ばれる国民の心の底に潜む女性蔑視を含んでいたり、利用したりしており、人権侵害に繋がっていることが多い。そして、日本には、この“言論の自由” “表現の自由”をわざと誤って使う人も多いため、人権侵害や差別を横行させ、民主主義が正常に機能しない状態になっているのである。

(2)女性差別の多い日本の“常識”
1)女性の政治参画への遅れ
 ジェンダーギャップ(男女格差)の大きさを国別に順位付けした世界経済フォーラム(WEF)の2019年の報告書で、*2-1-1のように、日本は153カ国中121位で過去最低だったそうだ。日本は衆院議員は女性が10.1%で、閣僚は9月の内閣改造前まで19人中1人の5.3%で、女性の政治参画の停滞が順位を下げる要因になった。

 政治への女性進出が遅れているため、男女の候補者を均等にするよう政党に求める候補者男女均等法が施行されて初めての国政選挙となった2019年7月の参院選でも自民党の女性候補の割合は15%で、衆議院議員も女性候補を大幅に増やす具体策がないようだが、これは、現職を優先して候補者に立てるため、現在の男女比がなかなか変わらない上、有権者の意識がかわらなければ女性が候補者となっても当選しにくいからである。

 ただし、空白区の多かった野党は参院選で女性候補者の擁立を進め、立憲民主党候補者の女性比率は45%、国民民主党は36%、共産党は55%だった。確かにジェンダー平等は国際的な潮流なのだが、日本には根底に戦前からの男尊女卑思想があり、この女性差別と偏見が“常識”や“良識”という形で有権者の意識も支配しているために、何人の有権者が投票したかを競う民主主義では女性が当選しにくいわけである。

 日本と同じく東アジアに位置して儒教・仏教の男尊女卑思想が広がっている韓国は、2019年に108位となり、初めて121位の日本を抜いた。これには、政治分野(日本144位、韓国79位)でフェミニスト大統領を名乗る文在寅大統領が2017年の就任時に女性を一気に5人閣僚に起用し、任期終了(2022年)までに「男女半々」にすると約束していることが大きいそうだ。このように、諸外国は多様性を尊重して女性にチャンスを与えようと具体的なしくみを整えつつあるそうだが、同じ東アジアに位置する中国の全人代を見ると、一般議員にも女性が著しく少なく、舞台の上のお偉方は全部男性のようだった。

 列国議会同盟(IPU)とUNウィメンは、2020年3月10日、*2-1-2のように、「今年1月1日時点で閣僚ポストに女性が占める割合は21.3%で過去最高だったが、15.8%の日本は113位で、先進7カ国(G7)では最下位だった」という女性の政治参画に関する報告を発表した。また、国家元首または行政の長を女性が務める国は20カ国あり、そのうち4カ国はスウェーデンを除く北欧諸国で、議会で議長に女性が占める割合は20.5%あり、これは25年前と比較すれば倍増だそうだ。

2)経済分野における男女格差解消の遅れ
 世界経済フォーラムが2019年12月に発表した各国のジェンダーギャップ(男女格差)で、日本は153カ国中121位と過去最低であったことを、*2-2-1のように、共産党の大門氏が取り上げ、「男女格差の原因はどこにあるのか。日本は女性の閣僚と国会議員の比率があまりにも低い。経済でも男女の所得格差が大きい」と、安倍首相に見解を求められたそうだ。

 それに対し、安倍首相は「我が国の順位が低いのは、経済分野の女性管理職の割合が低いことなどが主な要因だ」と指摘し、女性活躍推進法の整備や女性の就業人口増などの格差解消に向けた安倍内閣の実績を強調されたが、質問にあった国会議員や閣僚の女性比率の低さには言及されなかったそうだ。安倍首相は、確かに女性活躍推進法の整備や女性の就業人口増などに尽力されたのだが、女性の就業人口の増加は、派遣やパートなどの補完的非正規労働者の増加が多かったように見える。

 派遣やパートなどの補完的非正規労働者は、男女雇用機会均等法で護られないため、男女の別なく採用・研修・配置・昇進させて女性管理職や女性役員にする義務がなく、企業は女性を補助的な立場のままで働かせることができる。この結果、*2-2-2のように、女性役員ゼロや女性管理職割合の少ない会社が多く存在するのだ。

 また、朝日新聞が国内主要企業のうち「女性役員ゼロ」の14社に取材したところ、「経営トップより女性本人の意識改革が必要だ」と考えている企業が多かったそうだが、日本企業のリーダー層に女性が少ない理由は、女性の能力を信じてリーダー候補として研修や配置を行わないため、昇進意欲のある女性はつぶされ、その結果として「管理職経験や役員適性のある役員候補の女性がいない」か「いても、いないということにされている」のだと思われる。

3)この無意識の差別や偏見が存在する理由は何か?
 21世紀職業財団が、2020年6月22日、*2-2-3のように、「『重要な仕事は男性が担当することが多い』と思っている人が総合職の正社員で男女とも過半数に上る」という調査結果を公表したそうだが、これは、「過半数の人が重要な仕事は男性が担当した方がよい」と思っているわけではなく、「現在、重要な仕事は男性が担当することが多い」と過半数の人が認識しているということではないかと思う。

 しかし、性別に基づく無意識の偏見が、仕事を割り振ったり能力評価をしたりする立場の経営者・管理職だけでなく、平社員や家庭に至るまで根強く残っており、これが職場における女性の活躍を妨げているのは事実だ。

 では、どうして女性に対し、無意識の偏見を持っているのかといえば、儒教国の女性たちは、*2-3-1のように、儒教によって“良妻”か“悪妻”かの二者択一の生を生きることを強制され、殆どの女性は男性が作り上げた“良妻”としての「婦道」を守ろうとし、その生き方に疑問を抱いて抵抗した人は“悪女”として厳しく罰せられ、“悪女”が“良妻”の価値を高めるために利用されてきたからだそうだ。言われてみれば、確かに日本にもそういうところがある。また、儒教の中の『礼記』は、女性に受動的に行動することを強要する「三従の道」などを示している。

 さらに仏教も、*2-3-2のように、「測り知れないほどの理知を持っていても、女性は完全な悟りの境地を得がたい」「女性は女性のままでは仏になれない」「女性のままでは救われない」などと説いており、ひどい女性蔑視の思想である。

 そのため、第二次世界大戦後、日本国憲法24条で男女平等が定められ、民法でおおかた男女を区別しなくなっても、(理由は多々あるものの)根底にある人々の意識が十分に変わっていないというのが現実のようだ。

(3)出生率の低下を女性の責任にした日本の愚行



(図の説明:左図のように、合計特殊出生率は1975年以降ずっと2.0以下である。しかし、中央の図のように、人口が減り始めたのは2008年からであり、この間は、人口置換水準が2.0以下だったことを意味する。しかし、右図のように、日本の人口ピラミッドは第二次世界大戦後のベビーブームと第二次ベビーブームで二ヵ所の突起があるため、これが次第になくなるのは必然である。また、長寿命化に伴って生産年齢人口の定義を変えなければ、短い労働期間で長い老後の分まで貯蓄しなければならず、これは無理である)

 「母親に育児を押し付け、保育園・学童保育・病児保育などの整備を怠ったため、仕事を大切にする女性ほどDINKSや独身を選ぶ人が増えて少子化した」と1995年頃に最初に言ったのは私で、それをきっかけに男女雇用機会均等法が改正され、雇用における女性差別禁止が義務になったと同時に、育児・介護休業制度も入った。

 しかし、これは、「少子化自体が悪いことだから、産めよ、増やせよ」とか「産まない女性は、怠慢だ」などと言ったのではなく、「仕事と子育てを両立できる環境がなければ、仕事を大切にする人ほど子育てはできない」と言ったのである。

 が、何故か、*3-1・*3-2などいろいろな場所で、「①昨年の合計特殊出生率は1.36で、前年より0.06ポイント下落した」「②人口置換水準(人口維持に必要とされる合計特殊出生率)は2.07だ」「③死亡数は戦後最多の138万人で、自然減が52万人の過去最大を記録した」「④政府は少子化社会対策大綱の見直しで、希望出生率1.8を2025年までの目標とした」など、少子化自体が問題であるかのように書かれている。

 しかし、①は、教育を受け、仕事をして稼ぐことができ、キャリアを積んで昇進したい女性が増える中で、安心して子育てを外部化できる状態になければ出生率が下がるのは当然だ。さらに、教育費も高いため、女性が子育てのために仕事を辞めることになれば、子育てはダブルパンチの経済負担となり、出産祝い金程度では到底カバーできない大きな損失になる。

 また、②も、日本では1975年以降の合計特殊出生率はずっと2以下であるにもかかわらず、日本の人口が減少し始めたのは2008年からで、これは寿命が延びて2世代ではなく3世代以上が同時に生きられるようになったことから当然であり、人口置換水準は2以下だったのだ。そして、「現在は、人口置換水準が2.07」という主張についても、Evidenceがあるわけではない。

 さらに、③のように、死亡数が最多になって自然減が出始めることは、第二次世界大戦後に出生率が急激に上がってできた団塊の世代が死亡し始める時期であることから当然だ。これからしばらくは、医学の進歩による乳児死亡率の低下・少子化・長寿命化によって高齢化率も上昇するが、その条件の下で年金制度や定年年齢を考えておくべきだったし、日本の国土における適正人口も考慮すべきなのである。

 しかし、*3-3のように、まだまだ不十分ではあるものの、最近は病児保育施設ができているのはよいことだ。これは必要なインフラであるため、黒字経営か赤字経営かにかかわらず、補助金を使っても維持しなければならない。何故なら、なければ子育てができないからである。

 私は、少子化を問題視しすぎて、子ができない人に1回15万円の支援金を出し、*3-4のような不妊治療を奨励することには賛成しない。何故なら、ダウン症の発生が増えるのは35歳からで、「43歳未満」や「44歳未満」など一応の年齢制限はあるものの母体によくないことは明らかだからだ。また、生まれてくる子も、自然受精なら何億もの精子の中から元気で幸運な1個が卵子と結びつくのでかなりの選別が行われるが、人工授精の場合はこの競争と選別がないのだ。

 つまり、子どもが欲しい人は35歳までか、少なくとも自然妊娠可能な時期までに出産するのが母子のためによく、そのためには出産・育児で休暇をとってもクビにならない程度には、出産までに仕事や生活を安定させておかなければならない。また、そうでなければ、子が生まれても育てることができないのである。

 そのため、④の希望出生率1.8を現実にしたければ、それができる環境を作らなければならないわけである。

(4)女性差別の結果
1)家計を考慮しない男性が作った消費動向を顧みない経済政策と消費税の導入
 私は、1989年の消費税導入の議論当初から、消費税は消費を抑制する税制だと感じていた。そして、国内の消費に支えられて新しい製品を開発しなければならない時代に国内消費を抑制すれば、国内供給も減り、輸出で稼がない限りは景気が悪くなるに違いないと思ったが、税制や経済に詳しいと自負する多くの男性たちは、自分は生産者であって消費者ではないから自動車と家以外は消費税がかかってもよいと思っていたらしく、無駄遣いはそのままにしつつ、社会保障を人質にして消費税を上げることに余念がなかった。

 ちなみに、消費税導入にあたって日本が手本にしたとされる欧州は、企業の売上に対して課税する売上税や企業がつけた付加価値に課税する付加価値税はあるが、消費者に転嫁する消費税はないし、社会保障は消費税で賄わなければならないとしている国もない。

 また、その後の東西冷戦終結・中国の市場開放などにより、賃金の安い国が次々と市場に参入して製品を作り始めたため、既に賃金が上昇した日本で作るよりも、それらの国で作って輸入した方が企業経営上合理的となり、日本企業も海外で生産するようになって現在に至っている。そして、現在のところ、日本で有望な産業は需要地でしか供給できない第三次産業しかなくなったと言わざるを得ないのだ。

 消費税の引き上げは、財務省が主導して行っており、メディアもそれに歩調を合わせているため、それに反対すれば国会議員でも「ポピュリズム」などと揶揄されるため、消費税を引き上げるしか方法がなくなっていたらしく、*4-1のように、教育無償化を目的として2019年10月1日から消費税が10%に引き上げられた。

 そして、当然のことながら、2019年10~12月期の国内総生産(GDP、季節調整値)は、物価変動を除いた実質で前期比1.8%減(年率換算:1.8x4=7.1%減)となった。新型コロナの影響以前でこれなのだが、消費税を増税すれば消費が減るため、企業の設備投資が減るのも当然だ。なお、財布の中身で買えるものが実質であるため、名目GDPの方が景気実感に近いという意見に、私は同意しない。

2)男女平等に機会を与えた方が、全体の福利を増やすこと
 2020年3月8日、*4-2のように、国連の「国際女性デー」記念行事が、ニューヨークの国連本部で行われ、フィンランドのマリン首相(34歳)ら世界の各分野で活躍する女性が「男女平等は女性のためだけでなく、全体の利益になる」と不平等を是正する社会的・経済的な意義を訴えられたそうだ。

 私もこれに賛成で、(4)1)のような「家計を考慮せず、消費動向も顧みず、国民を豊かにする意志のない経済政策」や「消費税導入や税率アップ」が行われるのは、家計を担当したことがなく、観念的に経済を論じることしかできない男性だけで政策を作っているからだと考える。しかし、経済学で男性の経済学者を公に論破できる女性経済学者は、いろいろな理由で、今のところ少ないのが現状だ。

 また、環境活動を引っ張っている人の多くが女性である理由は、女性の方が環境に敏感で、ガソリン車やガソリンエンジンへの郷愁で動くのではなく、クリーンで燃費の安い車を求める合理性があるからだと思う。

3)女性の生き方に中立で公正・公平な税制の必要性
 「少子高齢化で生産年齢人口の割合が減少するため、“高齢者”を支えられない」という論調が目立つが、現在は金融緩和や景気対策なしで雇用が十分にあるわけではなく、生産年齢人口の人でも実は養われている場合が多い。さらに、女性や高齢者にはまっとうな仕事が少ないため、まずは職につきたい人が国の補助なしで職につけるようにしてから少子化を論じるべきである。

 日本で、就職時の女性差別を厳しくして性的役割分担を特に強力に進めるようになったのは、団塊の世代が生産年齢人口に加わり始めた頃で、仕事の方が働き手の数より少なかったため、男性には下駄をはかせ、女性には言いがかりをつけて仕事を譲らせたという経緯がある。

 そのため、それを埋め合わせるかのように、*4-3の「①所得税の配偶者控除」「②年金の3号被保険者」「③企業の扶養手当」など、奥さんに仕事を辞めさせた男性と仕事を辞めた既婚女性を優遇する制度が設けられた。しかし、1982年から公認会計士として外資系Big8(働いているうちに合併してBig4までなった)で働いていた私は、この制度で恩恵を受けることがなかっただけでなく、働く女性に対する強い逆風の中で苦労して稼いで納税したり社会保険料を納めたりした金を原資として①②③の制度を支えさせられて、とても納得できなかった。

 また、パート勤務の女性は、夫の扶養控除や扶養手当の上限を超えないように時間調整して働いているため、所得税改革は必要だったものの、働きたくても男性に仕事を譲らされて職場で男女平等の採用・研修・配置・昇進がかなわなかった女性にも同じ論理を適用するのは酷である。

 そのため、男女雇用機会均等法が義務化されて以降に就職した世代から、イ)所得税は原則として個人単位とするが ロ)本人が望めばフランスと同じN分N乗方式(https://kotobank.jp/word/N%E5%88%86N%E4%B9%97%E6%96%B9%E5%BC%8F-183863 参照)を選択できるようにする(=世帯単位となる) のが、公正・中立・簡素の税の基本に沿った上で、個人を尊重しつつ子育てに必要な資金まで税や社会保険料として取り上げない仕組みだと思う。

 なお、「⑥働いて稼いでもらいたい人に光を当てる」「⑦豊かな人に負担させる」等の恣意的なことをすると、2019年分の所得税法のように複雑な計算をさせた上に、公正・中立・簡素という税の基本から外れるものとなる。

(5)人種や性別による差別をなくすには・・
  
    旭化成          東洋経済            Goo

(図の説明:日本の男女雇用機会均等関係法の歴史は、左図のようになっている。しかし、現在は、右図のように、子育て世代の女性を非正規労働者として女性の労働参加率を上げ安価に使っているため、そのような立場になりたくない女性が著しく少子化し、2005年の合計特殊出生率は1.25まで下がった。また、中央の図のように、日本には、社会保障の整ったスウェーデンにはない著しいM字カーブが存在し、それが少しづつ解消されている状況だ)

1)日本にける男女平等の歴史
 日本における女性差別は、戦後、日本国憲法で両性の平等や職業選択の自由が決められた後も、民間の隅々にまで張り巡らされた女性蔑視を前提とする仕組みによって維持されてきた(http://www.jicl.jp/old/now/jiji/backnumber/1986.html 参照)。

 そのため、1979年に国連で女子差別撤廃条約が成立した後、1985年に日本がこれに批准し、同年に最初の男女雇用機会均等法が制定されて1986年に発効したのが、最初の雇用における男女平等である。しかし、この男女雇用機会均等法は、採用・研修・配置・退職の機会均等などが努力義務とされていたため、発効後も女性を補助職として昇進させない日本企業が多かった。

 そこで、(1995年前後の私の提案で)1997年に男女雇用機会均等法が改正され、採用・研修・配置・退職の機会均等が義務化されたのだが、今度は多くの女性を非正規労働者や派遣労働者として男女雇用機会均等法の対象から外し、今に至っているのである。

 このようにして、女性差別の禁止や各種改革は、敗戦によって制定された日本国憲法や国連女子差別撤廃条約の批准に伴って行われた男女雇用機会均等法制定など、黒船を利用して法律を制定することにより行われたものが多い。しかし、内部の抵抗によって不完全に終わっているため、今後の改善が望まれるわけである。

2)米国における黒人への人種差別
 日本人男性は女性差別には鈍感だが、人種差別には敏感な人が多い。そのため、人種差別の例を出すと、*5-1・*5-2のように、アメリカでは、2020年5月25日に、ミシガン州ミネアポリス警察の警察官が暴行によって46歳の黒人男性ジョージ・フロイドさんを殺害した事件の映像が放映されたのち、Black Lives Matter(黒人の命も重要だ)という運動が起こっている。

 フロイドさんは偽札を使用したとされるが、それが事実か否か、故意か否かもわからないのに暴行を加えて殺害した警官の行動は、アメリカ合衆国の黒人が数百年間に渡って直面してきたリンチや黒人差別そのものだそうだ。また、フロイドさんが偽札を使用したとされる疑惑は、事実の検証や裁判もなく、警官が勝手に人を殺してもよい根拠にはならない。

 しかし、警察も含めたアメリカの司法システムは、軽犯罪から重犯罪まで、同じ罪を犯しても黒人には白人よりもはるかに重い刑罰を課しており、いずれも刑法に則った量刑だが全体の統計を見れば明らかに量刑に人種差別が現れており、人口当たりの受刑者の比率は、ラテン系男性は白人男性の2倍、アフリカ系男性はさらに5倍に上るそうだ。

 アメリカは、1950年代以降に国内で活発化した公民権運動により、1964年に合衆国連邦議会で公民権法成立させ、合衆国内において職場・公共施設・連邦から助成金を得る機関・選挙人登録における差別を禁じ、白人と黒人の分離教育を禁じてハードコアな人種差別は数十年前に撤廃しているが、人種差別自体は社会制度、行政制度などに染み付いた慣習として今も続いており、特に問題なのはSystemic racism, institutional racism (機関的、制度的人種差別)だそうだ。

3)日本にもある人種差別・外国人差別
 日本でも、*5-1のように、警察はじめ司法システムによる差別に基づく暴力は日常的に行われており、日本の場合は、「人種」ではなく「外国人」や「民族」というくくりの差別だ。確かに、入管は入所者の人権を無視した肉体的精神的暴力を日常的に振るっており、メディアも「外国人が増えて犯罪が増えた」などという偏見に満ちた報道を平気で行っている。

4)では、どうすればよいのか?
 日本における人種差別・外国人差別は、日本人男性を優遇する点で日本人女性に対する差別と同根だ。そのため、まず、国連で差別撤廃条約を作り、それに批准する国は、国内で公民権法を作って人権を護り、あらゆる差別を禁止するようにすればよいと思う。

(参考資料)
<女性蔑視発言は“言論の自由”“表現の自由”に入らないこと>
*1-1:https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20200527/KT200526ETI090005000.php (信濃毎日新聞 2020.5.27) ネット中傷 幅広い観点から抑止策を
 痛ましい出来事である。22歳の女子プロレスラーが亡くなった。出演したテレビ番組の言動を巡ってSNS上で誹謗(ひぼう)中傷の集中砲火を浴びていた。遺書のようなメモが見つかっており、自殺とみられる。死を前にした「愛されたかった人生でした」とのツイートに胸が痛む。心無い言葉を個人に浴びせかけるネットの暴力がなくならない。投稿している人は匿名をいいことに日頃の鬱憤(うっぷん)を晴らしているだけの気軽さかもしれない。それが一人に集中した時、有名人であれ、一般人であれ、痛みや疎外感は極めて大きい。特に若い世代は社会との「つながり」の相当部分をネットで築いている。命を絶つほどの苦しみを覚える危険がある。発信者には罪の意識はないのだろうか。誰も助けられなかったのだろうか。日本は海外に比べ、SNSの匿名利用が突出して多いとされている。匿名の投稿が言葉の暴力や人権侵害の温床となっている側面は否定できない。プロバイダー責任制限法では、被害者が損害賠償を求める上で発信者情報の開示を事業者に請求できるが、「権利侵害が明確でない」と開示されないことも多い。訴訟は被害者の負担も大きい。高市早苗総務相は悪意ある投稿を抑止するため、発信者の特定を容易にする制度改正の検討を本格化させる考えだ。確かにスムーズな情報開示は暴力の抑止を期待できる。半面、社会に与える副作用にも注意深く目を向けねばならない。例えば、政治家や利害関係者が正当な批判に対しても安易に発信者情報の開示を求め、圧力をかける心配はないか。言論全体を萎縮させる懸念も考えられる。表現の自由とのバランスが絡む。短兵急な対応でなく、幅広い観点から抑止策の検討を重ねたい。ネット事業者は人権侵害を放置してはならない。出演したのは、若い男女の共同生活を記録する「リアリティー番組」だった。「台本のないドラマ」として近年人気がある。視聴者は恋愛を中心とした人間関係の展開に一喜一憂し、知人の出来事のように共感する。番組内の言動から出演者のSNSが炎上することは過去にもあったはずだ。テレビ局側も、出演者の保護などについて省みるべき点があるのではないか。自由かつ安全で、責任ある発言が交わされるネット空間を実現したい。待ったなしの問題だ。

*1-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59930380T00C20A6SHF000/ (日経新聞社説 2020/6/3) ネット中傷の撲滅へまず民間が動こう
 SNS(交流サイト)で誹謗(ひぼう)中傷を受けていたプロレスラーの木村花さん(22)が亡くなった。ネットはいじめの道具ではない。同じ悲劇を繰り返さず、政府の過度の介入を避けるためにも、まず民間の企業や利用者が真剣に解決策を考えてほしい。テレビ番組での木村さんの言動を巡り、人格をおとしめるような匿名投稿が相次いでいた。姿が見えない無数の相手からの攻撃だ。木村さんの自宅には、遺書とみられるメモが残っていた。どんなにつらかっただろう。匿名を盾にした言葉の暴力は許されるものではない。番組を盛り上げるためにSNSを使うケースは多いが、出演者の保護は十分だったのか。制作側はこうした点を徹底的に検証すべきだ。日本ではプロバイダー責任制限法に基づき、事業者にネット中傷の削除や投稿者情報の開示を請求できる。だが裁判に訴えても費用や時間がかかり、泣き寝入りを迫られる個人被害者は多かった。悪意ある匿名の投稿を防ぐため、政府は開示の手続きを簡素化する法改正を進める考えだ。発信者を特定しやすくなれば、安易な匿名投稿の抑止力となろう。ネット中傷の相談件数は年々増えており、誰がいつ被害者になってもおかしくはない。SNS各社に厳しいヘイトスピーチ対策を課す欧州などに比べ、日本の対応はむしろ遅すぎたぐらいだ。だが過剰な規制が自由な言論を妨げるのでは困る。そうならぬよう民間がやるべきことは多い。SNS各社は実名登録を促したり、利用規約で他人への中傷を明確に禁じたりする手立てが欠かせない。SNSは現代社会を支えるインフラだ。重大な権利侵害には相応の対策を取る責任がある。すでに各社は悪質投稿者の利用停止などを始めたが、企業任せでもいけない。第三者による自主規制団体を立ち上げるのは一案だ。学界や法曹界、報道機関などから幅広く知恵を募り、ネット中傷を巡る権利侵害の指針をつくれば、事業者側も情報開示に応じやすくなる。政治家や公人への批判まで封じられていないかを確認する一方、弱者を救済する相談窓口を設けることも必要だろう。若年層も含め、誰もが情報の送り手になれる時代だ。家庭や学校の役割も増す。自由で安全なネット社会を育めるかは、使い手一人ひとりの行動にかかっている。

*1-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/33268 (東京新聞 2020年6月4日) 総務省、投稿者の電話番号開示へ 要件緩和検討、ネット中傷対策で
 総務省は4日、インターネット上で匿名による誹謗中傷を受けた際に、投稿者を特定しやすくするための制度改正に向けた有識者検討会を開いた。被害者がサイト運営者や接続業者(プロバイダー)に開示を求める情報の対象に、氏名などに加えて電話番号を含める方向でおおむね一致した。7月に改正の方向性を取りまとめる。論点の一つとして、発信者情報の開示を定めるプロバイダー責任制限法に基づき匿名の投稿者を特定する際の要件緩和も検討する方針を示した。投稿による権利侵害が明らかな場合とする要件はハードルが高く、被害者救済の壁となっている。

<女性差別の多い日本の“常識”>
*2-1-1:https://digital.asahi.com/articles/ASMDK4SHTMDKUHBI01J.html?iref=pc_rellink_02 (朝日新聞 2019年12月18日) ジェンダーギャップ、政治参画に遅れ 自民に薄い危機感
 ジェンダーギャップ(男女格差)の大きさを国別に順位付けした世界経済フォーラム(WEF)の2019年の報告書で、日本は153カ国中121位で過去最低だった。女性の政治参画の停滞が順位に影響した。日本は調査対象の衆院議員で女性が10・1%。閣僚は9月の内閣改造前まで19人中1人の5・3%で、順位を下げる要因になった。政治への女性進出があまりに遅れている状況が、浮き彫りになった。だが、6割の議席を持ちながら女性比率は7%という自民党に、危機感は薄い。二階俊博幹事長は17日、記者会見で、日本の低迷ぶりを示す結果について感想を聞かれ、「いまさら別に驚いているわけでも何でもない」としたうえで、「徐々に理想的な形に直すというか、取り組むことが大事だ」と述べるにとどめた。男女の候補者を均等にするよう政党に求める候補者男女均等法の施行後、初めての国政選挙となった7月の参院選。自民の女性候補割合は15%で、安倍晋三首相(自民党総裁)も当時、「努力不足だと言われても仕方がない」と反省を口にしていた。菅義偉官房長官は17日の記者会見で、「各政党への取り組みの検討要請も進める」と語ったが、衆院議員の任期満了まで2年足らず。女性候補を大幅に増やす具体策は、打ち出せていない。自民の世耕弘成・参院幹事長は会見で「地方議員を経たり、企業や社会のいろんな組織における経験を経たりして国会議員になる。そういったところで、(女性の)層が厚くなっていくことによって、最終的に国会でも女性の数が増えるということになるのではないか」として、ある程度の時間が必要との認識を示した。鈴木俊一総務会長は「議員は国民が投票によって選ぶ。政治だけの責任のみならず、国民がどういう意識で選挙に臨むのかもあると思う」と語り、有権者の意識にも要因があるとの見方を披露した。一方、野党は参院選で女性候補の擁立を進めた。立憲民主党の候補者の女性比率は45%、国民民主党は36%だった。55%を女性にした共産党の小池晃書記局長は、会見でこう踏み込んだ。「ジェンダー平等は国際的な潮流だ。日本はその流れに背を向けている。根底にあるのは戦前からの男尊女卑という古い政治的な思想。こういったものを克服する取り組みを強めたい」
●韓国の取り組み「フェミニスト大統領の閣僚起用」
 具体的な取り組みで男女格差を縮めた国もある。日本が昨年の110位から121位に順位を落とした一方、共に下位が定位置だった韓国は115位から108位に上がり、2006年の調査開始以来、初めて日本を抜き去った。差がついたのは政治分野(日本144位、韓国79位)。女性閣僚の割合が影響した。申琪栄(シンキヨン)・お茶の水女子大院准教授(比較政治学)によると、「フェミニスト大統領」を名乗る文在寅(ムンジェイン)大統領は17年の就任時、女性を一気に5人閣僚に起用した。文氏は、任期終了(2022年)までに「パリテ(男女半々)」にすると約束していて、実現できるか注目を集めているという。また、韓国は00年から、議員選挙で比例名簿の奇数順位を女性にするなどのクオータ(割り当て)制も導入。法改正を重ね、強制力を強めてきた。国会の女性議員の割合は16・7%で、日本の衆院の10・1%を上回る。申准教授は「日本でも首相の意思さえあれば、女性閣僚は増やせる。女性議員が少ないことを言い訳にせず、民間から登用しても良い。経済界に女性管理職を増やすよう言う前に、まず政治の世界で示すべきだ」と指摘する。日本は今回、女性管理職比率など評価がやや改善した項目もあったが、全体の順位が大きく後退した。上智大の三浦まり教授(政治学)は「平成の30年間、日本は男女格差を放置してきた。他方、諸外国は多様性を尊重し、女性にチャンスを与えようと、具体的なしくみを整えてきた。このままでは、日本は国際社会から取り残される一方だ」と指摘する。

*2-1-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/498406 (佐賀新聞 2020.3.10) 女性閣僚率、日本はG7で最低、世界は過去最高の21%
 列国議会同盟(IPU)とUNウィメンは10日、女性の政治参画に関する報告を発表し、今年1月1日時点で閣僚ポストに女性が占める割合は21・3%で、過去最高となったことが分かった。15・8%の日本は113位で、先進7カ国(G7)では最下位だった。66・7%のスペインが首位で、61・1%のフィンランド、58・8%のニカラグアが続く。女性閣僚率は、同報告が最初に出た2005年には14・2%だった。今回の調査で、女性閣僚がいない国はベトナムなど9カ国にとどまったが、閣僚の半数以上が女性の国もわずか14カ国だった。また女性の財務相は25人、国防相は22人にとどまる一方、若者や高齢者、社会問題や環境といった分野の閣僚は女性が占める率が高くなっている。調査は190カ国を対象に実施され、北朝鮮、リビア、ハイチなどは含まれていない。国家元首または行政の長を女性が務める国は20カ国に上り、うち4カ国はスウェーデンを除く北欧諸国。世界の議会で議長に女性が占める割合は20・5%で、25年前と比較すると倍増した。

*2-2-1:https://digital.asahi.com/articles/ASN366RWVN36UTFK02R.html?iref=comtop_list_pol_n01 (朝日新聞 2020年3月7日) 男女格差、経済分野に原因? 首相答弁「政治」はスルー
 男女格差解消の遅れは企業に主な原因がある――。そう受け取られかねない答弁を、安倍晋三首相が6日の参院本会議で繰り広げた。世界経済フォーラムが昨年12月に発表した各国のジェンダーギャップ(男女格差)では、日本は153カ国中121位と過去最低。共産党の大門実紀史氏がこの順位を取り上げ、「男女格差の原因はどこにあるのか。日本は女性の閣僚と国会議員の比率があまりにも低い。経済でも男女の所得格差が大きい」と見解を求めた。首相は「我が国の順位が低いのは、経済分野の女性管理職の割合が低いことなどが主な要因だ」と指摘。そのうえで、女性活躍推進法の整備や女性の就業人口増など、格差解消に向けた安倍内閣の実績を強調した。ただ、質問にあった国会議員や閣僚の女性比率の低さには直接言及しなかった。わずかに決意表明の部分で、「政治分野も含めて女性の活躍を促す政策を推し進める」と触れただけだった。世界経済フォーラムは毎年、政治、経済、教育、健康の4分野を調査し、順位を発表している。日本の順位を押し下げた大きな要因は政治分野。日本の衆院議員で女性が占める割合は10・1%。調査時点で女性閣僚は1人だったことも響き、前年の125位から144位に後退した。一方、前年117位だった経済分野は115位とほぼ横ばい。首相が言及した企業の女性管理職の割合に関する指数は、前年よりも上昇していた。
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第201回通常国会。国会や政党など政治の現場での様子を「政治ひとコマ」としてお届けします。

*2-2-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14394789.html (朝日新聞 2020年3月8日) (Dear Girls)女性役員ゼロ、自己責任? 全て男性の主要企業に聞く
 世界経済フォーラム(WEF)の男女格差(ジェンダーギャップ)の最新の報告書で日本は過去最低の世界121位に沈んだ。その大きな要因が、政治や経済のリーダー層における女性の少なさだ。8日の国際女性デーを前に、朝日新聞が国内主要企業のうち「女性役員ゼロ」の14社に取材したところ、経営トップよりも女性本人の意識改革が必要だと考えている企業が多かった。日本の経済分野でのジェンダーギャップ指数は世界115位。なかでも女性の管理職割合での順位は131位と低い。指数の対象ではないが、日本の上場企業の2019年の女性役員比率(内閣府まとめ)は5・2%にとどまる。なぜ日本企業のリーダー層に女性が少ないのか。朝日新聞社が国内主要100社に年2回行っているアンケート対象企業のうち、最新の有価証券報告書などで取締役・監査役に女性がゼロだった企業14社に質問状を送り、11社から回答を得た。どんな条件が整えば女性役員が誕生しやすくなるかを聞いた質問(複数回答)で、最も多かったのは「女性社員の昇進意欲の向上」と「女性採用者数の増加」で各5社。これに対し「経営層の意識改革」と答えたのは2社、「男性社員の意識改革」は1社だった。女性役員がいない理由(複数回答)は、「役員は適性で選ばれるべきでジェンダーは指標にならない」「役員候補の世代は女性が少なく、管理職経験や役員適性のある女性がいない」が共に最多で6社だった。100社アンケート対象企業全体でみると、各社の女性役員の合計は153人(全体の9・3%)。このうち131人は社外取締役か社外監査役で、日本の主要企業ではほとんど「生え抜き」の女性役員を生み出せていない。このため日本の経済団体の役員構成も圧倒的に男性に偏り、大企業でつくる経団連では、正副会長計19人が全員男性だ。世界では、経営陣の構成は性別や人種が多様性に富んでいる方が、投資家から高い評価を得る傾向が強まる。米フォーチュン誌500社にランキングされる大企業の女性取締役比率は17年で22・2%に達する。内閣府が18年、機関投資家を対象に行ったアンケートでは、投資判断に女性活躍情報を活用する理由として7割近くの機関投資家が「企業業績に影響がある情報と考えたため」と答えた。多様性の確保が働き方改革による生産性の向上やリスクの低減につながるとみている投資家が多いという。「身内の男性ばかり」という日本企業の経営陣の構成自体がリスクになりかねない状況といえる。
■「女性役員ゼロ」の14社
 ニトリHD、近鉄グループHD、サントリーHD、スズキ、キヤノン、大日本印刷、JR東海、シャープ、信越化学工業、東レ、TOTO、DMG森精機、ミズノ、セコム

*2-2-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14522465.html (朝日新聞 2020年6月23日) 「重要な仕事は男性」男女とも半数超 無意識の偏見根強く 21世紀職業財団調査
 「重要な仕事は男性が担当することが多い」と思っている人が、総合職の正社員では男女とも半数超に上るとの調査結果を、21世紀職業財団が22日公表した。性別などに基づく「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)」が、仕事を割り振る立場の経営者や管理職に根強く残っている可能性があるとしている。同財団が今年1月、女性活躍の実態を把握するため、男女計4500人を対象にウェブで調査した。「重要な仕事は男性が担当することが多い」と思っている割合は、総合職の正社員でみると、大企業(従業員300人以上)は男性50・7%、女性55・5%。中小企業(100~299人)は男性56・5%、女性58・1%だった。総合職以外も含めた大企業の女性正社員でみると、2018年の53・7%から60・3%に増えていた。調査を担当した山谷真名・主任研究員は「アンコンシャスバイアスの存在を管理職向けに研修し、仕事の与え方を変えようとしている企業は増えているが、全体ではまだ難しい面がある」と指摘している。

*2-3-1:https://uuair.lib.utsunomiya-u.ac.jp/dspace/bitstream/10241/9105/1/32-7-Women.pdf#search=%27%E5%84%92%E6%95%99%E3%81%AE%E4%B8%AD%E3%81%AE%E5%A5%B3%E6%80%A7%E8%A6%B3%27 (東アジアの近代と女性、そして「悪女」 :金 多希 より抜粋)
儒教理念の中の東アジアの女性たちは「良妻」か「悪妻」かの二者択一の生しか生きられず、殆どの女性は男性が作り上げた社会規範「婦道」を守ることによって「良妻」になろうとしたが、そのような生き方に疑問を抱き、抵抗した人も存在し「悪女 」として厳しく処罰された。つまり、「悪女」は「良妻」の価値を高めるために利用されたのである。また、『礼記』は、女性は本来他人に服従する者として定めており、女性には自主的に行動する本分がないことを提示し、受動的に行動することを強要している。そして、「三従の道」として広く知られているのは、女性は幼い頃は父兄に従い、結婚後は夫に従い、また、夫が亡くなったら息子に従うべきであり、それ以外の女性の人生は主張できないように示されている。

*2-3-2:http://www2.biglobe.ne.jp/~remnant/bukkyokirisuto08.htm (仏教の「女性」、キリスト教の「女性」より抜粋) 仏教では「女性は女性のままでは仏になれない」。キリスト教では?
仏教とキリスト教の大きな違いの一つは、女性に対する考え方でしょう。仏典に、「女性は女性のままでは仏になれない」と書いてあるのを、あなたは知っていますか。女性は救われない、というのではありません。女性は女性のままでは成仏できない、女性のままでは救われない、というのです。女性は女性のままでは仏になれない。「仏教の女性観は、いささかひどい女性蔑視だと思います」こう語るのは、仏教解説家として知られる、ひろさちや氏です。氏自身は仏教徒ですが、続けてこう言っています。「というのは、仏教においては、まず女性は、女性のままでは仏や菩薩(仏の候補生)になれない、とされているのです。仏や菩薩になるためには、女性は一度男子に生まれ変わらなければなりません。それを、『変成男子』(へんじょうなんし)と言います。……これは、どうにも言い逃れのしようのない女性差別です」。この「変成男子」とは、どういうことでしょうか。仏教には、もともと女性は修行をしても仏になれない、という考えがありました。仏典にはこう書かれています。「悟りに達しようと堅く決心して、ひるむことなく、たとえ測り知れないほどの理知を持っているとしても、女性は、完全な悟りの境地は得がたい。女性が、勤め励む心をくじくことなく、幾百劫(一劫は四三億二〇〇〇万年)・幾千劫の間、福徳のある修行を続け、六波羅蜜(修行の六ヶ条)を実現したとしても、今日までだれも仏になってはいない」(法華経・堤婆達多品)。さらに、「なぜかというと、女性には"五つの障り"があるからだ」と述べ、女性がなれないものを五つ列挙しています。それらは、①梵天王になることはできない ②帝釈天になることはできない ③魔王になることはできない ④転輪聖王になることはできない ⑤仏になることはできない です。1~4の「梵天王」「帝釈天」「魔王」「転輪聖王」は、いずれもインドの神々を仏教に取り入れたものですから、現実には問題ないでしょう。しかし最後の「女性は仏になることができない」は、女性信者にとって大問題であるはずです。この「女性は仏になれない」という考えは、仏教の創始期からありました。実際仏典には、あちこちに女性を劣等視した言葉が見受けられます。なかには露骨な表現で、「女は、大小便の満ちあふれた汚い容器である」というような、耳を覆いたくなるような表現さえ少なくありません(スッタ・ニバータ)。「汚い容器」であるのは男も同じなのですが、どういうわけか仏典には、男については決してそのような表現がないのです。女性が劣った者であり、仏になる能力のない者であるという考えは、仏教の創始者シャカ自身が持っていたようです。実際、シャカは従者アーナンダに対して、「女は愚かなのだ……」と語っています。仏教は、インド古来の階級制度である「カースト制」は否定しましたが、女性差別の考えは捨てきれなかったようです。

<出生率の低下を女性の責任にした日本の愚行>
*3-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14503438.html (朝日新聞 2020年6月6日) 昨年出生率1.36、大幅下落 出生数は最少86.5万人 人口動態統計
図:出生数と死亡数、合計特殊出生率の推移
 1人の女性が生涯に産むと見込まれる子どもの数を示す「合計特殊出生率」は、2019年が前年より0・06ポイント低い1・36と、8年ぶりに1・4を割り込んだ。低下は4年連続。厚生労働省が5日発表した人口動態統計で明らかになった。出生率はここ3年、毎年0・01ポイントずつ低下していたが、19年は大幅な下落となり、人口の維持に必要とされる2・07からさらに遠ざかった。都道府県別では沖縄県の1・82が最高で、東京都が1・15と最低だった。19年に国内で生まれた日本人の子どもの数(出生数)は86万5234人と、前年を5万3166人下回り、統計がある1899年以降で最少となった。死亡数は戦後最多の138万1098人にのぼり、出生数から死亡数を引いた自然減は51万5864人と、過去最大の減少幅を記録した。出生率が下がり続ける背景には、親になる世代の減少や晩婚化などが挙げられる。25~39歳の女性人口は1年で2・0%減った。平均初婚年齢は夫31・2歳、妻29・6歳と夫妻とも6年ぶりに上昇した。第1子の平均出産年齢は15年以降、30・7歳で推移する。厚労省はまた、18年の結婚件数が前年よりも2万471組(3・4%)減ったことが翌年の出生率に影響したとの見方を示す。19年の結婚件数は59万8965組と、7年ぶりに増加した。改元に合わせた「令和婚」が増えたためとしている。政府は少子化対策の指針となる「少子化社会対策大綱」で20年までの5年間を「集中取組期間」と位置づけるが、出生数の減少に歯止めがかからない。今年5月に5年ぶりに見直した大綱では、25年までの目標として子どもがほしい人の希望がかなった場合に見込める出生率「希望出生率1・8」の実現を掲げた。人口問題に詳しい鬼頭宏・静岡県立大学長は「子育て世帯への経済的支援は大事だが、時間がかかっても男女格差のない社会に作り直す覚悟で臨まなければ、出生数増加にはつながらない」と話す。

*3-2:https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/580749 (沖縄タイムス社説 2020年6月4日) [少子化対策大綱]拡充の道筋が見えない
 思い切った施策と、その施策を具体化する財源をセットで示さなければ、同じ轍(てつ)を踏むことになる。今後5年間の少子化施策の指針となる政府の「少子化社会対策大綱」が閣議決定された。昨年生まれた赤ちゃんの数が、統計開始以来初めて90万人を割る「86万ショック」という危機感を背景にまとまった指針である。大綱が目標とするのは安倍政権が掲げる「希望出生率1・8」。子どもの数や年齢に応じた児童手当の充実▽大学無償化制度の中間所得層への拡充▽育休中に支払われる給付金の在り方-などの支援策を提言する。子育てにお金がかかるため2人目、3人目を諦めたという夫婦は少なくない。多子世帯へ児童手当を手厚く配分するのは必要な支援だ。教育費に関しては、大学無償化の範囲を現在の低所得世帯から拡大するよう求めている。コロナ禍で学業継続への不安を訴える声が示すように、大学進学にかかる費用は中間層にも重くのしかかっている。育休中に雇用保険から支払われる給付金の充実は、男性の育休を取りやすくするための政策である。いずれも実現すれば一歩踏み込んだ対策といえる。しかし児童手当の充実も、大学無償化の拡充も、財源の裏付けはなく「検討」段階でしかない。目玉の育休給付金の引き上げは、当初、休業前の手取りと変わらない水準を目指す考えだったというが、大綱に具体的文言は盛り込まれなかった。
■    ■
 合計特殊出生率が戦後最低となった1990年の「1・57ショック」を契機に、少子化は社会問題化した。政府はエンゼルプランに始まる支援策を次々と打ち出したが、対策は失敗続きで、少子化に歯止めをかけることはできなかった。安倍晋三首相はことあるごとに少子高齢化を「国難」と強調する。大綱も冒頭に「国民共通の困難に真正面から立ち向かう時期に来ている」と記す。にもかかわらず財源については「社会全体で費用負担の在り方を含め、幅広く検討」とぴりっとしない。国難という認識に立つのなら、施策を具体化する道筋を示すべきである。日本の「家族関係社会支出」がGDPに占める比率は低水準で欧州諸国に比べ見劣りしている。もう小手先の対応では、どうにもならないところまで来ているのだ。
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 出生率全国一の沖縄でも少子高齢化は着実に進行している。80年代半ばまで2万人前後で推移してきた出生数が、今は1万5千人台。2012年には老年人口が年少人口を上回った。結婚や出産は個人の自由な意思に基づくものだ。ただ非正規で働く男性の未婚率が顕著に高いなど、経済的理由が少子化に影響を与えている側面は見過ごせない。県内男性の未婚率と県の非正規雇用率が全国一高いことは無関係ではない。若い世代の雇用の安定を図ることも必要不可欠な対策だ。

*3-3:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/614803/ (西日本新聞 2020/6/7) 病児保育、コロナ直撃で経営危機 働く親「なくなると困る」
●3密回避で受け入れ制限
 急な風邪や発熱で保育園や学校に行けない子どもたちを一時的に預かる「病児保育」の施設が、新型コロナウイルスの影響で利用が激減し、経営危機に直面している。全国病児保育協議会(東京)によると、病児保育施設は元々約6割が赤字経営だが、コロナ禍が追い打ちを掛けた形。一方、仕事を休めない親にとって「駆け込み寺」のような存在なだけに、存続を求める切実な声が上がっている。病児保育施設は、病気になった子どもたちを保育士や看護師が一時的に保育する施設。厚生労働省によると、病児保育施設は全国に1068カ所(2018年度)あり、多くが医療機関に併設されている。福岡市の施設を利用している保育士(40)は、インフルエンザが流行する冬に病気がちな息子(2)を預けることが多く、3日連続で利用することもあるという。「仕事をどうしても休めないときに心強い存在。病児保育がないと、仕事を辞めざるを得ない」と必要性を強調する。
●「コロナかも」
 全国病児保育協議会によると、新型コロナの感染拡大に伴い、インフルエンザや溶連菌といったコロナ以外の疾患だと確定できる場合のみ受け入れる施設や、呼吸器疾患以外を預かるといった基準を設ける施設が増加。休業した施設もある。福岡県内の企業主導型保育園に併設する病児保育施設では「インフルエンザだとしても、コロナがひも付いているかもしれない」(園長)として、3月から受け入れを事実上ストップした。6月に各種自粛が緩和されたため、基準を厳しくして徐々に受け入れ始める予定だ。小児科に併設した「ベビートットセンター」(福岡市)は三つある個室に最大計6人までを受け入れていたが、感染防止の観点から3月以降は1室につき1人の計3人に縮小。3月下旬から利用者は激減し、4月は前年同期の82人から21人と4分の1。5月は4人のみと厳しい状況が続く。預け先での感染を恐れ、利用を躊躇(ちゅうちょ)する保護者もいるという。
●実績基に補助
 施設にとっては利用者が減っても保育士などは確保しなければならず、人件費が経営を圧迫する。頼みの綱の補助金の一部も年間の延べ利用人数に応じて交付されるため、本年度は落ち込みが予想される。ベビートットセンターを運営する小児科医の米倉順孝さん(45)は「病児保育はセーフティーネット」と施設を続ける決意だが、経営の先行きは見通せないのが現状だ。緊急事態宣言は解除されたが、全国病児保育協議会に加盟する約750施設の多くで、利用者は定員を大きく下回っている。大川洋二会長は「本年度の実績にとらわれず、十分な交付金をお願いしたい」と訴える。

*3-4:https://www.jiji.com/jc/article?k=2020040900569&g=soc (時事 2020年4月9日) 不妊治療助成、1歳緩和 コロナ影響で時限的に―厚労省
 厚生労働省は9日、不妊治療に臨む夫婦が新型コロナウイルスの影響で治療を延期するケースに対応するため、治療費の助成対象となる妻の年齢要件を時限的に緩和する方針を決めた。今年度に限り、現在の「43歳未満」を「44歳未満」にする。同省は近く通知を出す。日本生殖医学会は1日付の声明で、妊婦が新型コロナに感染すると重症化する恐れがあることなどを挙げ、産婦人科などに不妊治療の延期を選択肢として提示するよう求めた。医療物資や医療従事者が不足し、延期を余儀なくされる夫婦が増えることも懸念されている。体外受精や顕微授精を行う不妊治療は高額なことから、厚労省は患者の経済的負担を減らすため、助成制度を設けている。現行では一定の所得以下の夫婦に対し、治療開始時の妻の年齢が▽40歳未満なら通算6回まで▽40歳以上43歳未満なら同3回まで、原則1回15万円を支援している。今回の要件緩和は、新型コロナ感染防止を理由に、今年度は治療を見合わせる夫婦が対象。今年3月31日時点で妻の年齢が42歳である場合、延期後44歳になる前日までを助成対象とする。同じ時点で妻が39歳の場合は、従来40歳未満としていた通算6回の助成対象を1歳緩和し「41歳になる前日まで」にする。

<女性差別の結果>
*4-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/497750 (佐賀新聞 2020.3.9) GDP、年7・1%減に改定、10~12月期、下方修正
 内閣府が9日発表した2019年10~12月期の国内総生産(GDP、季節調整値)改定値は、物価変動を除いた実質で前期比1・8%減、このペースが1年続くと仮定した年率換算は7・1%減となり、速報値の年率6・3%減から下方修正した。企業の設備投資が落ち込んだことが要因。マイナス成長は5四半期(1年3カ月)ぶり。新型コロナウイルス感染症の拡大で、20年1~3月期も2四半期連続のマイナス成長となる可能性が高まっており、日本経済は長期停滞入りの瀬戸際に立っている。年率の減少幅は前回消費税増税時の14年4~6月期(7・4%減)以来、5年半ぶりの大きさだった。増税に伴う駆け込み消費の反動減や世界経済の減速、台風19号など経済を押し下げる要因が重なった。改定値は最新の法人企業統計などを反映して2月に公表した速報値を見直した。設備投資は前期比4・6%減と、速報値の3・7%減から下方修正した。減少幅は09年1~3月期(6・0%減)以来の大きさ。消費税増税対応の投資が一時的に増えた反動も影響した。個人消費は速報値の2・9%減から2・8%減に上方修正した。住宅投資は2・5%減、公共投資は0・7%増だった。輸出は速報値と変わらず0・1%減、輸入は2・6%減から2・7%減に小幅に下方修正した。景気実感に近いとされる名目GDPは1・5%減、年率換算で5・8%減だった。速報値の年率4・9%減から下方修正した。

*4-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/202003/CK2020030702000255.html (東京新聞 2020年3月7日) <女性に力を>「男女平等は世界全体の利益に」 国連「国際女性デー」記念行事
 国連が定める「国際女性デー」(八日)の記念行事が六日、ニューヨークの国連本部であった。フィンランドのサンナ・マリン首相(34)ら世界の各分野で活躍する女性が「男女平等は女性のためだけでなく、全体の利益になる」などと不平等を是正する社会的、経済的な意義を訴えた。一九〇六年に世界で初めて女性の完全参政権を認め、男女平等の先進国として知られるフィンランド。マリン氏は国連加盟百九十三カ国中、女性の大統領や首相が計二十人(一月時点)にとどまる現状を指摘し、「この国連総会議場は世界各国が意見を聞いてもらう場だが、大抵の場合、それは男性の意見だ」と切り出した。フィンランドが女性政治家らの提案で四〇年代に無償の学校給食を導入し、共働きを支えて発展を遂げた実績などを例に「男女平等の実現には、政治的な意思決定をする立場に一層多くの女性を置くのが最良だ」と主張。「女性や女の子の権利を前進させてきた強い女性指導者らの努力と模範がなければ、きょう私が皆さんの前に立つこともなかったでしょう」と話した。一方、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさん(17)らに感化されて国連本部前でデモを続ける米国のアレクサンドリア・ビラセナーさん(14)は「世界の仲間と出会い、面白いことに気付いた。みんな女性。女性が環境活動を引っ張っている」と強調。その半面、読み書きできない人の三分の二を女性が占める実態に触れ、「地球を救うために変えなければならない」と女性が教育を受ける機会の重要性を説いた。

*4-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160930&ng=DGKKZO07810310Z20C16A9EE8000 (日経新聞 2016.9.30) 中里税調会長「所得税改革、複数案を提示」
 政府税制調査会の会長の中里実東大教授は日本経済新聞のインタビューで、所得税改革の方向性について、複数案を提示し与党の判断をあおぐ可能性があると語った。
―配偶者控除の見直しが焦点です。
 「(改正前後の税収が同じになる)税収中立が条件のため、改革すると得する人と損する人がでてくる。損する人の声が大きくなれば民主主義では改革は実行に移しづらい」「働き方への中立性を阻害しないようにするには税制だけでは無理だ。一番は社会保険料の問題だ。年収が130万円を超えると社会保険料の負担が突然、生じる。また多くの企業が扶養手当を103万円や130万円を基準に支払っている。今回の議論をきっかけに社会保険料や手当のあり方を見直すきっかけになれば意義がある」
―なぜ所得税改革が必要なのでしょうか。
 「昨年、長い時間をかけて政府税調が実施した経済・社会の実態調査で、所得税制が現在の経済・社会の実態に合わなくなっていることがわかった。負担軽減のターゲットは若い低所得者だ。働いて稼いでもらいたい人達に光を当てる。女性が働きたいのに家に閉じこもるのもよくない」「増税じゃないかと疑う人がいるが、そうではない。豊かな人に負担をお願いするという方向は考えている。どの程度の所得以上かとなると調整は難しい」「税は利害調整だから、今回のような改革はソフトランディングもありえる。改革案を松竹梅と用意して、徐々に梅から竹という方向でもいいかもしれない。様々な改革メニューをだすのが政府税調の仕事だ。(政治が)必要な改革なら必要な時期に対応をとるのではないか」

<人種や性別による差別をなくすには・・>
*5-1:https://news.yahoo.co.jp/byline/furuyayukiko/20200614-00183211/ (Yahoo 2020.6.14) ブラックライブスマター運動から考える警察の暴力と人種差別 (社会学博士 古谷有希子)
 この数週間、アメリカではコロナウイルス以上にBlack Lives Matter(黒人の命も重要だ)運動がトップニュースを占めている。日本でも報道されているようだが、かなり偏った伝え方をしているように思う。たとえばNHKはアフリカ系の人々に対する偏見に満ちた動画を配信してしまい、各国のニュースで批判され、更には駐日米大使も苦言を呈すという事態に陥った。また、ワシントン州シアトル市で抗議運動の一環として警察が立ち入らない「自治区」が立ち上がった経緯についても不正確な報道がなされているように思う。元々、シアトルの抗議活動は許可を得たものと得ていないものが混ざっていた(いずれも平和的デモ)。だが警察が暴力的、強制的に無許可デモを排除しようとしたことで、抵抗したデモ参加者たちにパトカーを燃やされ、更には混乱に乗じた略奪などが起こった。平和的デモ参加者まで逮捕し、催涙ガスを使用し、暴力的に対応し、街のあちこちを封鎖したからだ。結果として警察の暴力に対する市民の批判が更に強まり、警察はそのエリアからの撤退を決定した。警察が撤退した後、そのエリアをアーティストやアクティビストが「自治区」として掲げ、人種差別問題や警察の暴力の問題を壁画や音楽で訴える平和的抗議運動の中心地となっているのが現状だ。トランプ大統領は一連の活動を「テロリスト」と呼んで非難し武力行使を示唆しているが、シアトル市長は「政府の権威、権力に挑むのは市民の権利だ」として「自治区」や一連の抗議活動を擁護している。
●抗議活動の発端となった警察による黒人男性殺害事件
 そもそも、こうした抗議活動の発端となったのは5月25日にミシガン州のミネアポリス警察の警察官が暴行により46歳の黒人男性ジョージ・フロイドさんを殺害した事件である。フロイドさんがコンビニで偽札を使ったとして店員が通報し、駆け付けた警官によって殺害された。警官に首を後ろから押さえつけられたフロイドさんが「息ができないんです…」「ママ、ママ…」とうめき声を上げながらと死亡していく映像がSNSに流れ、多くの人がショックを受けた。8分46秒に渡りフロイドさんに暴行を加え窒息死させた警官の行動は、まさにアメリカの黒人が数百年間に渡り直面してきたリンチ、黒人差別そのものであり、人を人とも思わない白人警察の暴力性まざまざと見せつけた。フロイドさんが実際に偽札を使用したのか、もし使っていた場合それが故意だったのかどうかはわかっていない。仮に彼が偽札を故意に使用してたことが事実だったとしても、その程度の軽犯罪を犯した人を警官が不法かつ不当に殺害してよい根拠にはならない。殺害に関与した四人の警察官は全員懲戒免職となり、主犯のデレク・ショウビン元警察官は第二級殺人罪、第三級殺人罪、第二級過失致死罪で起訴されている。
●警察の黒人差別
 これまでもアメリカの警察はアフリカ系の人々を不当に扱ってきた。そのうちの殺害ケースの多くは射殺だが、警官が殺人罪で起訴されることは稀で、せいぜいが過失致死、多くの場合は何の罪にも問われずそのまま警官として働き続けている。アメリカの警察は「黒人は犯罪者が多い」「黒人は乱暴」といった人種的偏見に基づいた対応(racial profilingという)をしていると批判されている。黒人であるというだけで頻繁に職質を受けたり、車を止められたりすることは当たり前で、ひどい場合にはいきなり銃を向けられる、いきなり発砲されるということがずっと続いてきたからだ。近年も、おもちゃの銃で遊んでいた黒人の子どもが警官に射殺された事件、看護師志望の二十代の黒人女性が自宅で警官に射殺された事件など、警官による黒人の不当な暴行や殺害は枚挙に暇がない。それ以外にもトレイボン・マーチン殺害事件、アフムード・オーブリー殺害事件など、「自警」「自衛」と称して何の罪もないアフリカ系の人をリンチ殺害する事件も後を絶たない。そのため、アフリカ系の家庭では子どもがまだ小さいうちから「警官に呼び止められたら両手を挙げて動きを止めること」「必ずサーの敬称をつけて丁寧に話すこと」などを教える。特に男の子の場合にはこれを徹底して身につけさせなければ、その子の命に関わる。
●今も残る人種差別
 警察も含めアメリカの司法システムは、軽犯罪から重犯罪まで、同じ罪を犯しても黒人には白人よりもはるかに重い刑罰を課してきた。いずれも刑法に則った量刑であり、個々の逮捕や裁判の不当性は見えにくいが、全体の統計を見たときに明らかに量刑に人種差別が現れている。そもそも歩いているだけ、車で走っているだけで黒人だからと目をつけられて職質されるのだから、どんなささいな不法行為でも黒人の方が白人よりも捕まりやすいのは当然だ。たとえばアメリカではマリファナは州によっては娯楽使用も合法で、誰でも一度は吸ったことがあるような気軽なものだ。場合によってはたばこよりありふれているくらいなので、使用率は黒人も白人も変わらない。だが黒人は白人の四倍近くも「ただ持っているだけ」で逮捕されている。人口当たりの受刑者の比率は、ラテン系男性は白人男性の二倍、アフリカ系男性はさらに五倍にも上る。連邦刑務所の受刑者の八割、州刑務所の受刑者の六割はアフリカ系かラテン系である。運良く不起訴となっても、逮捕歴が残るので就職、住居、銀行ローンなどで生涯にわたる差別を受けることになる。黒人を完全に分離し、同じ学校に通うことを禁じたり、白人との結婚を禁じるようなハードコアな人種差別は公民権運動を通じて数十年前に撤廃された。しかし人種差別は社会制度、行政制度などに染み付いた慣習として今日も続いている。特に問題なのはSystemic racism, institutional racism (機関的、制度的人種差別)だ。
●制度的人種差別
 社会制度(法律、警察、役所や学校などの行政機関、行政・社会制度、教育機関、社会慣習まで様々なものを含む)には人種差別がこびりついている。「黒人だから」という理由で頻繁に職質をされたり、いきなり銃を向けられたり、重い量刑を課されるのは、司法や行政を担う担当者が人種的偏見に基づいた行動や決定を意識的、無意識的に行なっているからだ。こうした個人レベルの人種差別的行動や偏見が積み重なって社会や行政の様々なレベルでの白人と黒人との膨大な格差や差別となる。個人レベルで「黒人は凶暴だ」とヘイトスピーチをする人の数は減ったかもしれないが、社会全体での制度的人種差別は根強い。そして、個人レベルで差別行為を行わなくとも、差別を内包した社会で生活しているだけで、こうした制度的差別に加担することになる。アメリカには長きにわたる人種隔離政策の影響が色濃く残っており、その最たるものが居住区域と学区分けである。まず、アメリカの公立学校の財源は学区ごとの固定資産税に大きく依拠しているので、貧困層が多い学区は常に財政難に直面しており、教師や教材も揃えられないということもままある。そして、学区と居住区域が連動しているので白人中流家庭の多い区域は黒人貧困家庭の多い区域と学区が重なることを決して許さず、そのような状況になると猛抗議を行い阻止しようとする。白人中流層の多い区域でアフリカ系の人が家を購入しようとすると不動産屋や大家は白人相手よりも高い値段を提示する。黒人が流入するとその区域の白人が流出して地価が下がるため、それを避けようとするのだ。つまりジム・クロウ法(人種隔離法)が行なっていたことと同じことが、白人中流層居住地域では現在も事実上続いているのである。また、エボニーやジャマルなど「黒人に多い名前」で求人に応募すると面接に呼ばれにくいが、全く同じ履歴書を送っても名前が白人的だと面接に呼ばれやすいという研究もある。こうした差別や偏見、不当な暴力に立ち向かっているのが、今起こっている Black Lives Matter 運動なのである。コロナ渦にあって大規模な抗議運動などしてはコロナウイルスをさらに拡大させるという懸念もあるが、黒人を取り巻く人種差別の恐怖はコロナウイルスの恐怖を凌ぐ。黒人であるというだけで暴力を受ける社会で、アフリカ系の人々は安心してマスクも付けられない。顔を隠した強盗と間違われて即射殺などということになりかねないからだ。アフリカ系の人々が日常的に直面している不当な差別、暴力、偏見はコロナウイルス以上に多くのアフリカ系の人々を精神的に肉体的に傷つけ命を奪っている。
●抗議活動の「暴徒化」は本当か?
 抗議活動の一部が暴徒化しているという報道もあるが、前述したように「混乱に乗じて略奪などが起こっている」のであり、抗議活動が過激化して暴徒化するというのは必ずしも正確な表現ではない。そもそも、警察が暴力的な対応をしている結果として混乱が生じているのである。また、略奪や放火などの過激な行動を取っているのもアフリカ系の人々に限ったことではない。そもそも略奪などが起こる背景には、必要なものも手に入らない苦しい生活と厳しい経済格差がある。収入、雇用、財産、教育、ありとあらゆる面で、制度的人種差別を背景とした白人と黒人の歴然とした格差があり、その差は1960年代からほとんど変わっていない。暴動だと非難するだけではなく、異常なまでの富の不均衡、機会の不平等、人種差別の問題にこそ目を向ける必要がある。そもそも今日のアメリカの富の礎は奴隷制の上に築かれたものだ。アフリカ系の人々が何百年も耐え忍んできた暴力、差別、圧政、搾取に比べれば、暴動でほんの一部を取り返したとしても何の足しにもならない。社会運動において平和的抗議運動と暴力は容易に分離できるものではない。歴史を見ても、世界中で人権や独立などを求める平和的抗議運動はあったが、それだけで社会は動かなかった。インドでもフランスでもアメリカでも、非暴力運動と前後あるいは並行して暴力を否定しない社会運動があったことを忘れてはならない。今回の抗議運動も平和的デモだけではなかったからこそ、ネガティブな反応も含めて、より大きな注目を集めたという側面もある。注目を集めれば、当事者だけではなく問題意識を持つ多くの人が参加して、社会を動かす大きなうねりを生み出すことにつながる。たとえば今回の抗議活動にはアフリカ系以外にも多くの人が老若男女問わずに幅広く参加している。筆者の知人にも「自分は白人だからこの抗議運動に参加する社会的義務がある」と言って、参加している人がいる。抗議に参加していた白人女性や白人高齢男性が、デモを抑えようとする警察に暴行を加えられて重傷を負っている映像なども流れており、一連の抗議活動の発端となった警察の暴力性を更に強調する結果となっており、抗議活動はまだまだ収束する気配が無い。
●日本にもある人種差別
 黒人人口が非常に少ない日本で Black Lives Matter 運動や現在の警察に対するの抗議運動に対する関心が低いのは仕方のない面もあるだろう。しかし、同様の差別や警察をはじめとする司法システムによる暴力は日本でも日常的に起きている。日本では「人種」という括りよりも「外国人」「民族」のくくりで差別が行われることが多い。最近では渋谷警察がクルド人の男性に不当な暴力を振るっている映像がSNSに流れ、渋谷警察署前に200人が集まる抗議活動があった。そして、入管は入所者の人権を無視した肉体的精神的暴力を日常的に振るっている。日本でよく聞く「外国人が増えて犯罪が増えた」などというのも全く根拠の無い偏見だが、こうした差別的思考を持つ人は警官も含めて多い。外国人であるというだけで頻繁に職質されるのは、警察が外国人に対する強い偏見を持っているからだ。司法システム以外でも日本の外国人差別は根深い。たとえば「外国人お断り」を平然と掲げている賃貸物件は多いが、外国人だからお断りというのは差別以外の何ものでもない。また、高校無償化制度からの朝鮮学校除外、朝鮮学校に対する街宣、公然と繰り広げられるヘイトスピーチなど、在日コリアンに対する差別も深刻だ。そして、日本にも黒人差別はある。数年前には、新宿でナイジェリア人男性に対して「黒人は怖いからな」などと言いながら警察が暴行を加え、膝を複雑骨折させ重篤な傷害を負わせる事件があった。昨年は、大坂なおみ選手の肌の色を白くした日清のCMや「黒すぎる」などと揶揄する漫才が問題となった。いずれも「良かれと思って」「面白いと思って」行ったことだろうが、その背後にあるのは「黒い肌は醜い」という侮蔑的心情だろう。意識的であろうと無意識的であろうと、肌の白さこそ美しさの象徴であるとばかりに、異なる人種の人の肌を白く見せようとしたり、肌の色を嘲笑したり蔑むのは人種差別にほかならない。また、近年日本で台頭してきている「黒人ハーフ」アスリートについて、ポジティブな論調で彼らの成功を筋肉やバネなどの「人種的特徴」と結びつける評価を目にするが、それが生物学やスポーツ科学の皮を被った人種的偏見でないか批判的に考えるべきだ。大阪なおみ選手やサニブラウン選手を見て、彼らの成功を「黒人だから」と考えているとすれば、それは彼らの努力や個人の資質を無視する、人種的偏見以外の何物でもない。そもそも「人種」というのは科学的、生物的分類ではなく社会的分類である。アフリカ大陸は多種多様な人種・民族を抱える地域であり、いわゆる「黒人」とされる人たちの中にも、背の低い人もいれば高い人もいるし、太った人も痩せた人も、農耕民族も狩猟民族も牧羊民族もいる。アフリカ系の人々の肌の色もいわゆる白人のような色からチョコレート色まで多種多様だ。このように多様性に富んだ地域に住む人々を「アフリカ系」「黒人」と一括りにして、共通の「資質」「特徴」を論じること自体が非科学的である。また、アフリカの人々以上にアメリカの「黒人」は民族的にも、いわゆる人種的にも混血している(白人奴隷所有者は日常的に奴隷女性をレイプしていたから)。スポーツにせよ、社会、文化、経済面での成功にせよ、或いは失敗にせよ、それを安易に「人種」と結びつけることは人種的偏見に他ならない。スポーツが「黒人だから」成功できる程度のものならば、世界のアスリートは黒人だけで占拠されていなければおかしいが、現実にはそうではない。むしろ「運動に素質がある黒人の子ども」がいた場合、「黒人だからバネがいい」などという安易な人種的偏見がその子を特定のスポーツに誘導することになっていないか、その子から勉強や芸術など、他の分野のことを学ぶ機会を奪っていないか、親や教師は考慮する必要がある。たとえばアメリカではアメフト、バスケットボール、陸上競技はアフリカ系の選手が非常に多い一方で、ウィンタースポーツや水泳は極端に少ない。個々人の資質以上に、スポーツがレッスン費用や周辺のスポーツ施設の有無など「始めやすさ」「アクセスのしやすさ」、あるいは人種的偏見に基づいた周囲の期待などに大きく影響されるものだからだ。一見すると黒人差別とは無縁に見えるかの日本社会にも、アフリカ系の人々に対する偏見や差別は存在する。アメリカの抗議活動を「人ごと」「対岸の火事」と傍観するのではなく、警察の暴力と人種差別の問題を考えるきっかけとして捉えるべきである。

*5-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14526552.html (朝日新聞 2020年6月26日) 黒人の兄と白人の弟、同じ国、違う世界 米ミネアポリスルポ
■兄は職を転々、警官からの尋問絶えず 弟は博士号「差別で恩恵、責任感じた」
 黒人男性のジョージ・フロイドさん(46)が亡くなった米ミネアポリスの現場に6月14日、ある兄弟が並んで立った。「人種を超え、共に祈りを捧げられ、うれしかった」と話した兄のチャド・リンダマンさん(52)は、褐色の肌。「黒人の声に耳を傾けたかった。差別の仕組みから恩恵を受ける立場として、責任を感じた」と語った弟のデイナ・リンダマンさん(49)は白人だ。黒人の父と白人の母の間に生まれたチャドさんは1歳のとき、ミネアポリス郊外の白人家庭に養子として迎えられた。2年後、デイナさんが生まれ、兄弟として同じ家庭で育った。チャドさんが小学校に上がると、学年120人で黒人は1人。同級生から「ニグロ」(黒人)と呼ばれ、好きな女子とダンスをすることもかなわなかった。先生は「勉強には向いていないから、スポーツをがんばりなさい」と言った。デイナさんは運動神経抜群の兄を「ヒーロー」と慕った。だが、11歳のとき、兄をイメージしてつくったのは肌が黒く、囚人服のような白黒の服を着た人形。無意識の差別の表れだと気づいたのは、大学で人種について学んだ後だった。兄弟は次第に、別々の道を歩んだ。野球の投手として頭角を現したチャドさんはマイナーリーグでプレーしたが、肩を壊し、3年で引退。貸金業などで働いた。一方、幼い頃から成績優秀だったデイナさんはハーバード大学院で仏文学の博士号を取得し、研究者となった。「黒人と、白人の子どもがなりたい職業のステレオタイプをなぞるようだった」と振り返る。チャドさんの人生に影を落とし続けたのは、警察との関係だった。白人が多いミネアポリスで警官に車を止められて尋問されることに嫌気がさし、黒人が多い南部アトランタに移ったが、そこでも尋問は絶えなかった。バーで運転免許証の提示を求められて断り、警官からスタンガンで撃たれて留置所に入れられたことや、スピード違反を理由に、拳銃を頭に突きつけられたこともあった。11年前にミネアポリスへ戻ってからは、奨学金ローンの取り立てや造園業など時給制の仕事を転々としてきたが、昨年に建設現場で大けがし、ホームレスになった。5月からは、市が提供する施設に身を寄せる。入居者の半数が黒人だ。5月25日、そこからわずか5キロ先で、白人警官がフロイドさんの首を約8分間押さえつけ、死亡させた。食料品店でたばこを買うために払った20ドルが偽札だったとして、店員が通報したことがきっかけだった。無言のまま、フロイドさんをひざで押さえ続ける警官の動画を見て、チャドさんは体が震えた。「黒人というだけで警官に疑いの目を向けられる。自分の経験がよみがえった」。米国では、黒人の方が警察から暴力を受けやすい傾向が顕著だ。米メディアの統計によると、年間で約1千人が警察に射殺されているが、黒人が射殺される率は白人の約2・5倍だ。ミネアポリスでは、黒人が人口の約2割にとどまるが、市警が押さえつけたり、たたいたりする「有形力の行使」の件数は、約6割が黒人を対象としていた。ミネソタ大准教授になったデイナさんは、「フロイドさんに起きたことは、兄に起きても不思議はなかった」と話す。自身は警官に職務質問されたことも、交通切符を切られたこともない。事件をきっかけに、久しぶりに兄と連絡を取り、現場を訪れた。白いメッセージボードに追悼の言葉を書き込むと、2人の影が映った。そこには、肌の色が映らない。「その瞬間、黒人と白人ではなく、ただの兄弟だと実感できた」と、デイナさんはシャッターを切った。
■「白人、もはや国の代表でない」 デモ、人種・世代超え
 米メディアによると、フロイドさんの事件に端を発した抗議デモは、全米の2千カ所以上で行われてきた。公民権運動を率いたキング牧師が1968年に暗殺されて以来の規模ともいわれる。警察による黒人の殺害を抗議するデモは、これまでもあった。ただ、今回は白人の若い世代が多く加わっているのが特徴だ。6月上旬にニューヨーク、ワシントン、ロサンゼルスで行われた調査では、参加者の6割以上が白人で、4分の3が34歳以下だった。フロイドさんの事件にかかわった4人の元警官がすぐに起訴されたのは、デモのうねりが影響しているとみられる。また、人種差別や奴隷制度に関連した人物の像が撤去されたり、企業が「差別的」とされた商品を見直したりするなどの動きも出ている。最後まで拘束されていた奴隷に、制度の廃止が告げられたことから「奴隷解放記念日」とされる19日は、デモの人数が特に膨れあがった。ニューヨークで加わったエリザベス・チャパさん(20)は、インスタグラムでデモを知ったという。「選挙で存在感を発揮してきた白人、富裕層、年配の人たちはもはや、この国を代表しているわけではない。フロイドさんの事件は、政治が我々の生活の一部なのだと、気づかせてくれた」。このエネルギーが11月に行われる大統領や議会の選挙にどうつながるのかも、注目される。上院選に向け、23日にケンタッキー州であった民主党の予備選では、差別の解消を訴えた35歳の黒人男性が予想以上の健闘を見せるなど、影響は既に出始めている。

<農業・製造業における男女共同参画>
PS(2020年6月29、30日、7月2日追加):日本農業新聞が、*6-1のように、「①新型コロナ対策では世界で女性リーダーの手腕が際立った」「②性別に拘らず個性と能力を十分に発揮できる社会を目指して1999年に施行された男女共同参画社会基本法の施行から20年たっても、日本は男女格差が根強く残っている」「③誰もが働きやすく暮らしやすい農業・農村を作りたい」「④2019年度の『農業白書』は、『輝きを増す女性農業者』を特集した」「⑤生産者と生活者・消費者の視点を併せ持つ女性農業者が農業経営に関与しているほど利益増加率が高い」「⑥ 2019年までの20年間に農業系は女性の割合が10%増えて半数になった」「⑦農村地域の女性の人口は子育て世代の25~44歳で特に減少率が大きい」「⑧仕事に家事・育児を加えた労働時間は農林漁業者では女性が長く負担が大きい」「⑨収入を含め魅力的な職場を増やしていかなければならない」「⑩ライフステージに合わせて勤務時間や業務などを選べるようにする」等を記載している。①②は紛れもない事実だが、農業分野における③④⑤の認識があれば、農業に従事する女性の地位向上に大いに資するだろう。しかし、⑥にもかかわらず、⑦になる理由は、⑧のように農村では特に女性の地位が低く、女性にとっては住む魅力に欠けるからである。しかし、⑨を実現させれば、⑩のようにライフステージに合わせて勤務時間や業務を選ぶには、職住が接近し家族労働を中心とする農業の方が他の業種より優位だ。
 また、*6-2のように、日本政府が「食料安全保障強化」を打ち出し、外国産から国産への原料切り替え等による国内生産基盤の強化や国民の理解醸成を進めるようにしたことは、国内農業に追い風になる。そして、農林水産物や食品の輸出も含めて加工食品や外食・中食向けの原料を国産に切り替えれば、国内での加工が増えて女性や外国人労働者の必要性はさらに高まる。
 そのような中、外国人労働者の子どもは、教育すれば両国の文化を理解し日本をふるさととする貴重な人材になるにもかかわらず、日本には外国人労働者の子どもを邪魔者のように扱ったり、無視したりする見方がある。そのため、*6-3のように、国際人権規約や子どもの権利条約に従って外国籍を含めた子どもの「学ぶ権利」を保障する必要があり、これは不就学児を作らないために、早急にやるべきだ。
 なお、*6-4のように、日産自動車(以下“日産”)は、①新型コロナによる販売不振 ②巨額の構造改革費用 で純損益が6,712億円の赤字に転落し、内田社長が6月29日の定時株主総会で「必ず成長軌道に戻す」と述べられたそうだが、①の販売不振は新型コロナ以前から起こっており、日産はEVや自動運転の強みを活かしてその中心顧客である女性や高齢者が気に入るデザインの車にそれらを組み込めばよかったのに、そうしなかったため不振に陥っているのであり、これは、日産が比較的若い男性を中心とする会社であることに原因があるだろう。また、②の構造改革は、グローバルな視野を持った外国人経営者ゴーン氏に対する反発にすぎず、経営の正攻法ではないため、そのまま進めば業績回復は難しいと思われる。
 また、*6-5のように、2008年に開発を始めた三菱航空機の国産ジェット(MRJ)が航空会社への納入を6度も延期したのは、日本の技術力の低さを露呈した深刻な事態だ。先進国より遅れて開発し始めたジェット機なら、既存のものより何かで優れているか、今までにない航空機(例えば、燃料電池を動力とするとか)で代替品がないか、価格が安いかでなければ買う理由がないのに、三菱重工は価格が安いわけではない日本製品の技術力が劣っていることを世界中に見せつけてしまったのだ。従って、新型コロナは言い訳にすぎず、2番手なのに納入延期ばかりしている従来型航空機には期待できない。これは、少子化した日本で日本人男性に下駄をはかせて雇用した結果、創造力や技術力などの能力が落ちているということではないのか?

   

(図の説明:1番左の図のように、農林水産地帯は自然エネルギーの宝庫であるため、発電は半農半Xの強力なXになりうる。また、左から2番目の図のように、農地は集積され担い手に集まってきているため、大規模農業も可能になりつつある。しかし、女性は、担い手の妻ではなく担い手になれるのかと言えば、右から2番目の図のように、2019年でもJAの正組員に占める女性の割合は23%程度で、担い手に占める女性の割合はもっと低い。さらに、JAの役員に占める女性の割合も10%以下だ。なお、1番右の図のように、外国人労働者は増加し続け、2018年には260万人を超えて重要な労働力になっているが、まだ外国人差別は多い)

*6-1:https://www.agrinews.co.jp/p51148.html (日本農業新聞論説 2020年6月23日) 男女共同参画週間 多様性で魅力ある農を
 今日から男女共同参画週間。新型コロナウイルス対策では世界で女性リーダーの手腕が際立ったが、男女共同参画社会基本法の施行から20年たっても日本では男女格差は根強く残る。コロナ禍で、働き方の多様性への意識が高まった。この風に乗って、誰もが働きやすく暮らしやすい農業・農村をつくりたい。同基本法は、性別にかかわらず個性と能力を十分に発揮できる社会を目指し1999年に施行された。同年施行の食料・農業・農村基本法も男女共同参画を規定。女性の社会参画を後押しする法が整備された。2019年度の「農業白書」は、両基本法施行から20年の節目として「輝きを増す女性農業者」を特集した。そこで紹介している調査結果が、女性の活躍の進展と、依然として参画を阻む要因を浮き彫りにしている。農業経営に女性が関与しているほど経常利益の増加率が高い。また、学科別高校生の男女比では、19年までの20年間に農業系は女性の割合が10ポイントほど増え半数になった。加工・販売など幅広い科目設定が奏功した。一方で、農村地域の女性の人口は、子育て世代の25~44歳で特に減少率が大きい。また「医療・福祉分野での需要増加で、女性労働力確保に関する競合が強まっている」(白書)。学ぶ段階で農業分野に意欲的な女性を得ながら、就職の過程で都市や他分野へ流出している。収入を含めて、魅力的な職場を増やしていかなければならない。女性の社会参画を阻む要因の一つは、今も家事・育児・教育・介護の負担だ。仕事に家事と育児を加えた労働時間は、農林漁業者では女性が長く、負担が大きい。女性活躍の指標として役員や管理職の数と割合を話題にしがちだが、労働を男女で分かち合うことが女性の参画の土台である。大事な視点は二つ。一つは、家庭内の役割分担の割合を可視化すること。家庭も組織である。特定の人の労働が過重なら全体が回らない。まずは家族会議から始めよう。もう一つは、ライフステージや能力に合わせて勤務時間や業務などを選べるようにすること。柔軟な勤務体系で従業員が定着している農業経営がある。また、得意分野で業務を分担し、妻が経営・販売を、夫が生産部門を担い収益を上げている事例もある。多様な働き方を可能にすることで、男女ともに働きやすくなる。全てをこなす女性のロールモデル(模範となる人物像)には無理がある。仕事と家事や育児などの役割全てを女性に求めるのはやめよう。頑張り過ぎて心身に不調を来たしたり、寿命を縮めたりする女性は多い。コロナ禍で国民が気付いたのは、農業や医療・福祉といった「生命産業」の大切さだ。これらを重視する経済・社会に変えていかなくてはならない。それには、生産者と生活者・消費者の視点を併せ持つ女性農業者の能力発揮は欠かせない。

*6-2:https://www.agrinews.co.jp/p51190.html (日本農業新聞 2020年6月27日) [新型コロナ] 政府、食料安保を強化 コロナ対応 国産切り替え推進
 政府は26日、農林水産業・地域の活力創造本部(議長=安倍晋三首相)を開き、新型コロナウイルスによる食料供給リスクの高まりを踏まえ、農林水産政策の展開方向として「食料安全保障の強化」を打ち出した。外国産から国産品への原料切り替えなどによる国内生産基盤の強化、国民理解の醸成を進める。各施策で検討を進め「農林水産業・地域の活力創造プラン」や2021年度予算概算要求に反映する。安倍首相は「食料の安定供給は政府が果たすべき最も重要な責務。国内の生産基盤を強化し、食料自給率や自給力の向上を図ることが必要」だとし、関連政策の見直しを関係閣僚に指示した。同省は、新型コロナ発生後、中国産野菜の輸入が一時的に滞ったことなどを受け、日本にも影響が及んだと指摘。欧米では労働力不足で収穫などが停滞し、物流が混乱する恐れもあるとした。アフリカ豚熱や中東などで猛威を振るうサバクトビバッタなども挙げ、「食料供給を脅かす新たなリスクが発生」と分析。半面、国民の食料供給への関心が高くなっているとし、食料安保を今後の政策の柱に据えた。食料・農業・農村基本計画に盛り込んだ内容などを踏まえて取りまとめた検討事項のうち、「国内生産基盤の強化」では、加工食品や外食・中食向け原料の国産への切り替えを重視する。生産現場を支える取り組みとして、スマート技術の開発・普及や農業支援サービスの育成を挙げた。さらに、食料安保や農林水産業の役割への理解を促す国民運動を展開するとした。今後の政策課題のうち「農産物検査規格の高度化」は、穀粒判別機の導入拡大などを念頭に置く。一方、規制改革推進会議も農産物検査の見直しを検討事項に挙げており、近く政府への答申を取りまとめる。「セーフティーネットの見直し」では、収入保険について、野菜価格安定制度など関連制度全体を検証し、総合的な対策の在り方を検討する。農林水産物・食品の輸出額を30年に5兆円とする政府目標の実現に向け、中国向けの輸出などを強化することも盛り込んだ。

*6-3:https://www.kochinews.co.jp/article/377797/ (高知新聞 2020.6.29) 【外国人の就学】「学ぶ権利」を保障したい
 日本も批准している国際人権規約や子どもの権利条約では、外国籍を含めた子どもの「学ぶ権利」を保障している。にもかかわらず、日本にいる外国籍の子どもは、その恩恵を十分受けることができなかった。やっとというべきだろう。政府が閣議決定した日本語教育推進の基本方針に、外国籍の子ども全ての就学機会確保を目指して状況把握を進めたり、日本語教育の水準向上を図ったりすることが明記された。さらに、外国人への日本語教育は国や自治体の責務とも記された。基本方針は、昨年施行された日本語教育推進法に基づいた指針だが、まだまだ第一歩にすぎない。就学していない子どもの詳しい状況確認を国は急ぐとともに、「学ぶ権利」が保障されるよう予算措置を含めた体制整備を進めるべきだ。文部科学省の昨年の調査で、本来なら小中学校に通っている年齢にもかかわらず外国人学校などを含めて不就学の可能性がある子どもは全国に約1万9千人いた。調査自体が初めてで、対象となる子ども全体の16%近くを占めたという。文科省によると、外国籍の子どもが公立小中学校への就学を希望すれば、国際人権規約などにより無償で教育が受けられる。しかし、日本人と違って外国人には就学義務がなく、それが不就学が増える理由の一つとされる。また、保護者や子どもが日本語を十分理解できなかったり、住んでいる自治体のサポートが整っていなかったりすると学校に行かないケースがあるという。在留外国人は、30年前の約108万人と比べて3倍近くの約290万人に増えている。昨年4月には外国人材を受け入れる新たな制度も始まり、家族を含めて外国人がさらに増加することが見込まれる。就学していない児童生徒を増やさないためには実態把握に加えて、自治体などによるきめ細かい日本語教育が大事になる。基本方針では、状況把握のために自治体の関連部署の連携を促した。例えば住民基本台帳や福祉、国際交流を担当する部署などが連携して就学状況を調べ、保護者に学校の情報を提供するよう求めている。日本語がよく分からない子どもや保護者らには、レベルに応じた語学教育が大切になる。基本方針では、日本語教育に関わる全ての人が参照できる学習や教育、評価の指標を作る計画も確認した。さまざまな施策に対して日本語教育推進法は国による財政措置を求めている。外国人のニーズにあった日本語教育が円滑に進むよう自治体への支援を急いでほしい。先進地の例を共有することも大切だ。外国人の働く工場が多い岐阜県可児市では、NPO法人と行政が連携した就学支援を長年続けている。「子どもは環境を選べない」。そんな思いで関係者は活動しているという。共生社会を支えていくには地域の協力が大切だ。

*6-4:https://www.chugoku-np.co.jp/news/article/article.php?comment_id=656964&comment_sub_id=0&category_id=1206 (中国新聞 2020/6/29) 日産社長「必ず成長軌道に戻す」 株主総会、巨額赤字を謝罪
 日産自動車は29日、横浜市の本社で定時株主総会を開いた。2020年3月期連結決算は、新型コロナウイルスの影響による販売不振や、巨額の構造改革費用で純損益が6712億円の赤字に転落。内田誠社長兼CEOは業績悪化を謝罪し「必ず成長軌道に戻す。この危機を乗り越えたい」と述べ、株主の理解を求めた。赤字額は前会長カルロス・ゴーン被告が大規模リストラを実施した00年3月期(6843億円)に迫る。内田氏は「株主の皆さまには大変申し訳ない」と陳謝した。業績悪化に伴う株価低迷に関する株主の質問に対し「株価を健全なレベルに戻すことは経営層の使命だ」と強調した。

*6-5:https://digital.asahi.com/articles/ASN6H5RP6N6HOIPE01D.html (朝日新聞 2020年6月15日) 国産ジェット、開発態勢を大幅に縮小 コロナが追い打ち
 三菱重工業傘下の三菱航空機は15日、国産初のジェット旅客機「スペースジェット(旧MRJ)」の開発態勢を大幅に縮小すると明らかにした。開発に向けた作業は一部中断され、いっそうの遅れは避けられない。これまで航空会社への納入を6度も延期したことで三菱重工本体の経営を圧迫。そこへ新型コロナウイルスが追い打ちをかけた。三菱重工は、新型コロナによる収益悪化を背景に、今年度のスペースジェットの開発費を約600億円と前年から半減させた。そのため三菱航空機は現在約1600人いる国内の従業員を段階的に半分ほどまで減らす。米国とカナダにある開発拠点3カ所のうち、米ワシントン州にある飛行試験拠点を除く2カ所を閉鎖することも決めた。実用化の大前提となる「型式証明(TC)」を取得するために昨年始めた米国での飛行試験も中断。新型コロナの影響で最新の試験機を日本から持ち込めないことなどを踏まえ、当面試験はせず、今年度中は過去の試験データの検証などにあてる。人員削減は近年積極的に採用してきた外国人技術者にも及ぶ。海外航空機メーカーでの経験が豊富なアレックス・ベラミー最高開発責任者は6月30日付で退任。後任は置かず、技術トップのチーフエンジニアに川口泰彦氏を据える。スペースジェットをめぐっては、2008年に始めた開発作業が難航し、航空会社への納入開始は度々延期されてきた。今年2月にはそれまでの「20年半ば」から「21年度以降」へ6度目となる延期を発表。現在開発する「M90」の後発機となる、より小型の「M100」の計画をいったん凍結することも決めている。新型コロナはスペースジェットを購入する立場の航空会社も直撃している。すでに約300機を受注済みだがキャンセルが発生する可能性もある。積極的な営業活動も見あわせている。コロナの沈静化まで開発も「足踏み」状態となる。

<変だった専門家会議と厚労省の論調>
PS(2020年7月2、3日追加):PCR検査を抑制し、人との接触を避けて国民に我慢を強いることばかりを推奨した専門家会議と厚労省は、科学的にも人道的にもおかしかった。そのため、*7-1のように、厚労省と専門家会議が「①感染症予防の観点から、すべての人にPCR検査をすることはウイルス対策としては有効でない」「②設備や人員の制約のため、限られたPCR検査の資源を重症化の恐れのある方に集中させる」「③相談や受診の基準(目安)は37.5度以上の発熱が4日以上続いた場合」として、それを何カ月も改善しなかったことは、「④誰が、どういう目的で、そうしたのか」を専門家会議の議事録から明らかにすることが最も重要だと思う。この間、「⑤帰国者・接触者相談センターに電話しても基準にあわない」などとして患者が検査を受けられず、感染者を隔離しないことで感染が広がり、感染者自身も重症化して自宅で亡くなり、先進国とは思えない医療となっていた。さらに、トップが専門家会議のメンバーである日本感染症学会と日本環境感染学会は、「⑥PCR検査は早期に検査しても精度の点で頼りにならない」「⑦軽症例にはPCR検査を奨励しない」とPCR検査抑制を打ち出し、理由として「⑧患者が殺到して医療体制が混乱するのを防ぐ」とした。しかし、日本は多数の検査可能な施設があり、技術開発もできるため、PCR検査を増やそうと思えば増やせたのだ。
 この専門家会議は、「⑨人と人との接触8割減」「⑩新しい生活様式」など医学的evidenceの示されないことを次々に発表していたため、6月24日に「十分な説明ができない政府に代わって前面に出ざるを得なかった」「コミュニケーションの専門家が必要」などと東京都内で会見していたのを見た時、私は専門家として責任逃れをしているように感じた。わかりやすい説明やコミュニケーションとは、根拠を示して明確に行う説明であるため、*7-2の西村経済再生担当相の会議廃止表明にもあまり違和感は感じなかった。にもかかわらず、メディアが途中経過の検証もせず、政治家のみを批判して専門家会議や厚労省の方針にメスを入れないのは、本当の批判機能を果たしていない。
 なお、最近、換気が必要とも言われているが、窓を開けられないビルも多く、関東は放射性物質が飛んでいるため窓を開けるのも必ずしもよくない。そのため、私は、従来のエアコンの空気取り入れ口に換気扇のフィルターを張っているが、これでかなりの埃がとれる。本当は、*7-3の「空気清浄機付きエアコン」に変えるのがよいが、エアコンの中でプラズマや紫外線を発生させて殺菌した空気を出すようにすればさらによい。そして、これはすぐ製品化できて、食品工場・病院・学校・オフィス・家庭などで空気の流れを考慮して設置すれば効果的だろう。
 結局、日本の新型コロナ死亡率は5.1%(死者数977人/感染者数19153人、7月2日現在)で、世界の新型コロナ死亡率は4.79%(死者数521,298人/感染者数10,869,739人、2020年7月3日現在)であり、統計の取り方に違いがあるので単純比較はできないものの、日本の死亡率は世界より高く、日本が低いとは決して言えなくなった。

*7-1:https://webronza.asahi.com/business/articles/2020061600003.html (論座 2020.6.16) PCR検査抑制論者たちの責任を問う、国民に我慢を強いた政府、専門家会議、医学会の役割と責任を検証する、木代泰之 経済・科学ジャーナリスト
 新型コロナの第1波は、東京都で依然くすぶっているものの、2~5月に比べれば全国的に落ち着きを見せている。こういう時期にこそ第1波における課題を検証し、第2波、第3波に備えるべきだと考えるが、「それは収束後でよい」というのが、安倍首相の見解である。そこで筆者なりに、第1波でもっとも問題となった「PCR検査抑制論」について、政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議、日本感染症学会、日本環境感染学会などの資料をもとに、検証してみたい。
●専門家会議は「すべての人にPCR検査はできない」
 PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)検査法とは、ウイルス遺伝子の特徴的な一部を切り取り、特殊な液体の中で増幅させる検査法である。2月24日の専門家会議の見解は「PCR検査は新型コロナウイルスを検出できる唯一の検査法であり、必要とされる場合には適切に実施する必要がある」とし、PCR検査実施の意義を強調している。ところが、それに続けて「感染症予防の観点からは、すべての人にPCR検査をすることはウイルス対策としては有効ではない。産官学で努力しているが、設備や人員の制約のため、すべての人にPCR検査をすることはできない。限られたPCR検査の資源を、重症化の恐れのある方に集中させる必要がある」と述べている。つまり、コロナ感染を検出するにはPCR検査しかないが、PCR検査の能力が足りないので、重症化しそうな人以外は検査するなとブレーキをかけている。厚労省は2月17日に、相談や受診の基準(目安)を「37.5度以上の発熱が4日以上続く」と公表しており、24日の専門家会議はその方針を裏打ちした。このPCR検査抑制論が噴き出してきた2月は、冒頭のグラフのように検査体制が機能しなかった時期に当たる。
●帰国者・接触者相談センターに電話しても相手にされず
 この頃、医療の現場では混乱が始まっていた。千葉県のある開業医はこう振り返る。「千葉で最初の感染者が出たのは1月31日。2月に入ると、コロナを心配する発熱患者が訪れ始めた。肺炎患者では喀痰検査、採血、画像診断などの結果を見て総合的に診断するが、コロナでは早期発見のためにPCR検査が必須。火事と同じで初期消火が一番大事なのです」。患者は窓口の帰国者・接触者相談センターに検査を依頼したが、症状が基準に達していないとして相手にしてもらえない。「そこで自分が直接電話したら、センターは『依頼が多すぎて対応できない』と断ってきた。第一線にいる医師として、なぜ診断=PCR検査ができないのか、憤慨にたえなかった」。一刻も早いPCR検査を望む患者や医師と、できるだけ検査をさせまいとする厚労省や専門家会議。そのギャップはあまりにも大きかった。
●2009年に掲げた「PCR検査体制の強化」は実現されず
 PCR検査の必要性は、2009年の新型インフルエンザ(パンデミック2009)の流行時から強く認識されていた。厚労省が翌10年にまとめた報告書は、PCR検査体制の強化、危機管理の専門体制強化などを反省点として挙げている。しかし、それは文章に書いただけであって、PCR検査体制の強化は10年後の今年に至っても実現していなかった。台湾や韓国との違いはそこにあった。
●「PCR検査は限界があり万能ではない」と抑制に動いた2つの学会
 今回の緊急事態に、医学会はどのように対応していたのだろうか。日本環境感染学会は2月13日、PCR検査に関する最初のコメントを出した。検査の対象者を「37.5度以上の発熱や呼吸器症状があり、湖北省への渡航歴がある人、その濃厚接触者など」に絞っており、その後の感染急拡大について、今から言えば「甘く見ていた」ことは否定できない。2月21日には、日本環境感染学会と日本感染症学会が連名で声明を出した。「ウイルス検出のための検査(PCR法)には限界があります」という見出しの下、「新型コロナはインフルエンザに比べてウイルスが1/100~1/1000と少なく、検査結果の判定を難しくしています。特に早い段階でのPCR検査は決して万能ではないことをご理解下さい」と述べている。つまりPCR検査法は、早期に検査しても精度の点で頼りにならないとして、はっきりPCR検査抑制論を打ち出している。
●更に「軽症例にはPCR検査を奨励しない」と踏み込む
 更に4月2日、両学会は連名で臨床対応についての声明を出した。「PCR検査の対象者は原則、入院治療の必要な肺炎患者でウイルス性肺炎を強く疑う症例とする。軽症例にはPCR検査を奨励しない」と述べ、一段とPCR検査の抑制に踏み込んだ。「患者が殺到して医療体制が混乱するのを防ぐ」というのが理由だが、この10年間、厚労省がPCR検査の体制整備を怠り、そのしわ寄せが国民に来ていることへの言及はない。感染症の2学会が患者の殺到を抑える方向で政府と足並みをそろえたことで、大学や医療機関の研究者は委縮し、一部の人を除いて異論を述べる勇気を失ってしまった。この両学会のトップ(理事長)は専門家会議のメンバーでもある。
●PCR検査が広く行えるよう政府に働きかけるのが学会の役目
 先の千葉県の開業医は、第一線の医療現場の声として、「両学会は、政府のやり方を補完するのではなく、早期段階でもPCR検査が広く行えるよう、政府に対して人員や物資の動員、体制整備、予算確保などに全力を尽くすよう強く求めるべきだった」と、疑問を投げかける。加藤厚労大臣は5月8日、「37.5度以上の発熱が4日以上」という相談・受診の基準について、「目安だったのに基準のように誤解されていた」と述べ、勝手に「誤解」した国民や保健所に責任があるとした。上記の基準は、検査を望む国民や医師に抑制の圧力をかけ、PCR検査体制の不備という厚労省の失態を隠すことに本当の狙いがあったのだろうと、今にして納得がいく。
●PCR検査が広く行えるよう政府に働きかけるのが学会の役目
 先の千葉県の開業医は、第一線の医療現場の声として、「両学会は、政府のやり方を補完するのではなく、早期段階でもPCR検査が広く行えるよう、政府に対して人員や物資の動員、体制整備、予算確保などに全力を尽くすよう強く求めるべきだった」と、疑問を投げかける。加藤厚労大臣は5月8日、「37.5度以上の発熱が4日以上」という相談・受診の基準について、「目安だったのに基準のように誤解されていた」と述べ、勝手に「誤解」した国民や保健所に責任があるとした。上記の基準は、検査を望む国民や医師に抑制の圧力をかけ、PCR検査体制の不備という厚労省の失態を隠すことに本当の狙いがあったのだろうと、今にして納得がいく。
●委員の発言記録がない専門家会議の議事録
 今、PCR検査は従来の保健所、地方衛生研究所、国立感染症研究所という行政ルートの他に、地元医師会や自治体が民間検査会社と組んで独自に検査体制を整えつつあり、ようやく改善の方向に向かっている。もっと早い段階でそう動くべきだった。政府の専門家会議については、委員発言の議事録がなかったことが最近明らかになった。内部でどんな議論があったのか、PCR検査抑制には誰がどんな意見を言ったのか、不透明なままだ。政府に助言する専門家会議の議事録は、後日、政府の対応を検証するための重要な資料である。議事録が政府や官僚に都合よく作文されないためにも、委員発言は正確に残しておかなくてはならない。

*7-2:https://www.jiji.com/jc/article?k=2020062700143&g=pol (時事 2020年6月27日) 専門家会議、唐突に幕 政権批判封じ?政府発表前倒し―新型コロナ
 新型コロナウイルス対策の方向性を主導してきた政府の専門家会議が突如、廃止されることとなった。政府が廃止を発表したのは、折しも会議メンバーが位置付けの見直しを主張して記者会見していたさなか。あっけない幕切れには、政権批判と受け取られかねないその提言を打ち消す思惑がにじむ。一連の経緯を検証した。
◇苦い経験
 「え?もう1回言って」。24日夕、東京都内で会見していた専門家会議の尾身茂副座長は、記者から西村康稔経済再生担当相が会議廃止を表明したことを問われ、戸惑いをあらわにした。専門家会議の見直し自体は、5月の緊急事態宣言解除前後から尾身氏らが政府に打診していたこと。この日の会見では、政府の政策決定と会議の関係を明確にする必要性を訴えていた。背景には「十分な説明ができない政府に代わって前面に出ざるを得なかった」(会議メンバー)ことによる苦い経験がある。会議は国内で流行が広がった2月、感染症専門家を中心に置かれ、「人と人の接触8割減」「新しい生活様式」などを次々と発表。政府は提言を「錦の御旗」とし、国民に大きな影響を及ぼす対策を実行に移した。その結果、専門家会議が政府のコロナ対応を決めているように映り、メンバーは批判の矢面にも立つことに。5月4日の安倍晋三首相の会見では、同席した尾身氏がPCR検査の少なさについて説明に追われた。会議の存在感が高まるにつれ、経済・社会の混乱を避けたい政府と事前に擦り合わせる機会が拡大。5月1日の提言では緊急事態宣言の長期化も念頭に「今後1年以上、何らかの持続的対策が必要」とした原案の文言が削られた。関係者は「会議の方向性をめぐりメンバー間でもぎくしゃくしていった」と明かす。
◇高まる相互不信
 揺れる専門家を政府は「どうしても見直すなら政府の外でやってもらう」(内閣官房幹部)と突き放していた。亀裂を表面化させない思惑が働いたことで最近になってから調整が進み、(1)会議の廃止(2)法的な位置付けを持つ新型コロナ対策分科会への衣替え(3)自治体代表らの参加―が固まった。当初は尾身氏らの提言を受け、25日に発表する段取りだった。それが覆ったのは24日の尾身氏らの会見直前。「きょう発表する」。西村再生相の一声で関係職員が準備に追われた。ある政府高官は西村氏の狙いを「専門家の会見で、政府が後手に回った印象を与える事態を回避しようとした」と断言する。専門家会議の脇田隆字座長や尾身氏には連絡を試みたが、急だったため電話はつながらないまま。「分科会とは一言も聞いてない」とこぼす専門家らに、内閣官房から24日夜、おわびのメールが送られた。後味の悪さが残る最後のボタンの掛け違い。会議メンバーの一人は「政治とはそういうもの。分科会で専門家が表に立つことはない」と静かに語った。

*7-3:https://www.bcnretail.com/news/detail/20191126_146567.html (BCNOR 2019/11/26) シャープ、業界唯一の「空気清浄機」付きエアコン 従来比99%ホコリ侵入抑制
 シャープは11月26日、業界で唯一、空気清浄機を搭載したプラズマクラスターエアコンの新シリーズ「Airest(エアレスト)」4機種を12月19日に発売すると発表した。「室内の空気清浄」と「本体内部の清潔性」を徹底的に追求し、空気清浄機の業界基準をクリア。従来比99%ホコリの侵入を抑制するなど、業界No.1の空気清浄力を持つ独特な今回の製品は、年末商戦の目玉になるかもしれない。Airestシリーズは、従来のエアコンの本体構造を抜本的に見直し、空気の吸い込み口全てを集じんフィルターで覆った新構造を採用。これにより、空気清浄機の業界基準をエアコンで唯一クリアした。税別の実勢価格は22万円前後からとしている。室内の空気だけでなく、集じんフィルターがカビ発生の原因となるホコリや菌を除去するので、本体内部を清潔に保つことができる。フィルターで除去できない、付着したにおいやカビ菌にも効果を発揮する「プラズマクラスターNEXT」も搭載し、最適な空気環境を実現する。掃除をする際は、引き出して手入れできる。吹き出し口には、シャープ独自の上下両開きロングパネルで気流を制御。大きなパネルで、風を感じにくい快適な気流を遠くまで届ける。暖房時はパネルを下から開き、風を抑え込んで足もとに暖かい風を送る。冷房時はパネルを上から開き、天井方向へ風を持ち上げて、風が直接体に当たらないように制御する。Smart Appliances&Solutions事業本部の中島光雄副本部長は、「『空気の浄化』がエアコンの基本機能として求められている。ただ、従来の構造では、空気清浄機を搭載するとそれが抵抗になり、風量が低下してしまう。しかし、新製品は当社の空気清浄機に搭載されている機構を採用したことで、フィルターを搭載しても風量を低下させないようにした。空気清浄機と呼ばれる唯一のエアコン」と紹介した。このほか、気象予報を活用したクラウドAIによる運転制御により、日中から睡眠時まで快適さを保つ機能などを搭載。気象予報で得られたデータを基に、花粉やPM2.5への対策として風量/センサーの感度を最適化する。また、COCORO AIRアプリと連携すれば、フィルターなど消耗品の状況や部屋の汚れ度合を確認することができる。

<電通への委託の意味は・・>
PS(2020年7月3日追加):新型コロナによる自粛で収入が減った中小企業に最大200万円支払う持続化給付金は、対象事業者が約200万もあるので、総額2兆円超の巨大事業だ。しかし、これは、経済波及効果のある前向きの投資ではなく、大損した人々にちょっと補填する程度の補助金で、そんなことをするよりも、ダイヤモンドプリンセス号への対応や検疫でしっかり防御し、技術力で検査数を増やして自粛に至らせなかった方が、よほど安上がりで今後の新製品開発に資したことは言うまでもない。
 そういう持続化給付金だが、*8-1のように、経産省は業務を(社)サービスデザイン推進協議会(以下“協議会”)という電通関連のトンネル会社を通じて丸ごと電通に委託した。その委託費は、協議会が経産省から769億円で受注し、97%にあたる749億円で電通に再委託し、電通は業務の大部分をその子会社5社に外注し、子会社のうち電通ライブはさらに協議会設立に関わったパソナやトランスコスモス等に外注した。つまり、協議会から再委託された費用749億円は、電通とその子会社及び協議会設立に協力した会社が入手したことになる。検査数を増やして陽性者だけ隔離すれば一斉自粛などする必要がなかった上、市役所や税務署を使うなど持続化給付金を支払う他の効率的な方法もあるのに、経産省は電通関係に749億円も支払ったわけだ。
 何故、こういう不合理な無駄遣いが起こるのかが最も重要で、それを解決しなければ国が破綻するまでこの無駄遣いは続くと思うが、経産省は多額の金を払って電通を味方につけておく必要があったようだ。その理由は、*8-2のように、新型コロナ騒動の間に原子力規制委員会が、2020年6月13日、日本原燃の使用済み核燃料再処理工場の事故対策が新規制基準に適合しているとする「審査書案」をひっそり了承し、本格稼働の前提となる新基準に事実上適合しているというお墨付きを与えたことだ。この間、メディアは電通の広告を通じた圧力が効いていたらしく、新型コロナに関する非科学的な報道を繰り返し、政治家の確定でもない買収疑惑に時間をさいたりしながら、原発には全く触れなかったが、このようなことは他にも多々あるのである。

   
 2020.4.15毎日新聞                        2020.6.4朝日新聞

(図の説明:1番左の図のように、日本は能力があったのにPCR検査を増やさず、左から2番目の図のように、感染者が増えて緊急事態宣言を出すことになった。そのため、営業自粛によって固定費を賄えない企業が続出し、企業が、右から2番目の図のような雇い止めや倒産に至るのを防ぐため、持続化給付金等が支払われることになった。しかし、コロナ関係支出は、1番右の図のように、第1次・第2次補正予算で総額約57.6兆円、持続化給付金だけで約4.3兆円にもなった)

*8-1:https://digital.asahi.com/articles/ASN6X5597N6XULFA008.html (朝日新聞 2020年6月29日) 問題だらけの持続化給付金 経産省と電通へ疑念止まらず
●経済インサイド
 新型コロナウイルスの問題で収入が減った中小企業などに最大200万円を払う持続化給付金。対象の事業者は約200万、予算総額は1次補正予算で2兆円超の巨大事業だ。新型コロナによるダメージが深刻になった3月末から、ばたばたと準備が進んだ。経済産業省は事業の手続き業務を民間に丸ごと委託することにした。事業者の公募を前に、経産省の担当者が複数回接触していたのが一般社団法人サービスデザイン推進協議会や電通の関係者だ。協議会は2016年に電通が中心となり立ち上げた。設立から経産省の事業を10件以上受注していた。経産省はコンサルティング会社「デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー」などとも接触しており、協議会や電通側だけ優遇したものではないと説明する。だが、経産省の担当者が面会した回数や時間などを比較すると、協議会がデロイトなどより上回っていた。公募には協議会とデロイトが参加した。締め切り直前の4月13日、両者は企画提案書を経産省に提出。分量は合計400ページ近い。経産省はその翌日の午後2時に、協議会を落札予定者と決めた。持続化給付金をめぐる疑問が強まっている。経産省が事業を民間委託するやり方や、電通への再委託などについて多くの問題点が浮上した。経産省は改善するとアピールしているが、情報開示は不十分で、多くの疑問は解けないままだ。入札における評価指標でもある「等級」は、落札できなかったデロイトは最高の「A」、協議会は「C」。経産省中小企業庁の職員5人で提案内容を採点し、協議会を選んだという。外部の専門家らに意見は求めていなかった。
●電通のための「トンネル団体」?
 経産省は採点結果など、選んだ理由について詳しく説明していない。入札予定価格やデロイトの入札価格も非公表だ。経産省が選んだ協議会は、東京・築地のビルに拠をかまえる。この事務所の電話番号は非公開で、事務所の入り口にあったインターホンは取り外された。野党の国会議員らが訪れても職員らの応答はなかった。設立以来、法で義務づけられている「決算公告」もしていなかった。協議会は経産省から769億円で事業を受注した。委託費の97%分にあたる749億円で、業務の大半を電通に再委託した。電通は業務の大部分を子会社5社にそれぞれ外注。子会社の電通ライブはさらに業務を、大手人材サービス会社のパソナやITサービス大手トランスコスモスなどに外注していた。協議会設立に関わった企業だ。実態のない団体が利益を抜いて仕事を丸投げしたのではないか――。こんな疑問が広がった。国会では野党側が、協議会は電通が公的事業を担うための「トンネル団体」だと追及を続ける。経産省は民間委託にあたって、なぜこんなやり方をしたのか。電通に直接発注しなかった理由について経産省は「どのような態勢で事業を受託するかは事業者側の判断」との立場だ。その上で、梶山弘志経産相は会見などで、支給対象者に電通が給付していると勘違いされかねないこと、電通の経理上好ましくないことなどを挙げてきた。こうした説明は、野党側や識者から反論された。支給対象者への振り込み名義は電通ではなく、勘違いされる恐れは少ない。経理上好ましくないといっても、企業の会計処理上の問題であり、直接発注できない理由にはならないとの見方がある。電通側は直接受注しなかったことについて、6月8日の会見で「協議会が給付金事業の経験を持っていた」などと説明している。経産省や電通の説明は説得力に乏しい。協議会を挟むことで、電通が業務を担っていることや利益や経費の内訳を見えにくくする狙いがあったのではないか――。こんな疑念が生じている。野党側は経産省へのヒアリングを重ねた。協議会や電通の担当者を出席させることも求めたが、経産省は拒否した。
●電通はいくらもうかったのか
 大きな「なぞ」は、電通がいくらもうかっているのかだ。電通は749億円で協議会から再委託された業務を、子会社5社へ645億円で外注していた。電通本体の主な利益になるのが「一般管理費」だ。経産省の規定により、まず外注費645億円の10%の64・5億円が計上できる。そこに、電通本体が担う広報費や人件費計36億円の10%にあたる3・6億円も加算できる。合わせると約68億円に上る。ここから家賃や光熱費などの支出、消費税分などを引いて余ったお金が電通本体のもうけになる。広報など実際の業務でも、手数料などとして利益が出ている可能性がある。外注先の子会社5社の利益も考えられるため、電通グループ全体でいくらもうかるのか具体的な金額はわからない。電通の榑谷(くれたに)典洋・取締役副社長執行役員は6月8日の会見で、最終的な利益を見通すのは難しいとしながら、「我々が通常実施する業務と比較すると、低い営業利益になる。不当な利益を狙うのはルール上、不可能な構造だ」などと主張した。経産省が事業をきちんと把握できていないのではないかといった懸念もある。経産省と協議会が結んだ契約では、再委託先などを含む事業の実施体制を記した「履行体制図」を出すルールがある。実施体制が変わればすぐに届け出なければならない。契約当初の体制図には協議会を含め、経産省から見て3次下請け相当までの11事業者が記されている。実際にはコールセンター業務などで何段階にもわたって、委託・外注が重ねられていた。協議会は経産省に体制図の変更をすぐに届け出ないといけないのに、していなかった。5次下請けくらいまでの60以上の事業者を記した体制図が出されたのは、事業開始から1カ月半以上経った6月23日夜。関わる事業者はさらに増える可能性もあるという。契約では、個人情報や情報セキュリティーについて、委託・外注先を含めて責任者名や管理体制を届けることになっている。これも、きちんと行われていなかった。
●税金の無駄遣い、チェックできず
 経産省が事業の全体像を把握しておかないと、税金が無駄なく使われているのか、業務が適切に行われているのかチェックできない。給付が一部で遅れたが、多重下請け構造もあって経産省の監視は十分には機能せず、責任の所在もあいまいになっている。経産省は事業について「中間検査」をする方針だ。事業終了後には精算をして「無駄なお金が出ていれば返還要求をしていく」(梶山氏)という。だが、末端の下請け企業の業務内容まで見るのは難しい。支出した金額が、適正な水準なのかどうか判断するのも困難だ。全国の中小企業などにいち早く給付金を届けなければいけないこの事業。経産省には民間に頼らざるを得ない事情がある。経産省は地方に経済産業局があるものの、拠点数は比較的少ない。ハローワークがある厚生労働省や、税務署がある財務省など他の省庁に比べ、対応能力に余裕はない。民間への業務委託先として、経産省が頼りにしてきたのが電通だった。ある広告業界関係者は、電通の企画力の高さや仕事の速さは「図抜けている」とし、こう話す。「いざとなれば電通に頼めばいいという考えがあるのではないか」
●「前田ハウス」でパーティー
 民間委託そのものが悪いわけではない。ほかの省庁や自治体などでも取り入れられているし、行政の効率化につながるとの見方もある。委託する場合は公平に業者を選び、税金を適切に使って、国民から理解されることが大前提だ。ところが、今回の事業では、国民が疑問を持つようなことが次々に発覚している。事業の責任者である前田泰宏・中小企業庁長官が、2017年に米国でのイベントを視察した際に、会場近くに借りたアパートを「前田ハウス」と称して連日パーティーを開いた。そこには、電通出身で、当時は協議会理事だった平川健司氏も同席していた。前田長官は国会で平川氏との関係を聞かれ、このパーティーとは別に2回ぐらい食事をしたことがあることも明らかにしている。野党側は経産省と電通の「蜜月ぶり」を示すものだと追及している。持続化給付金とは別の経済対策「家賃支援給付金」をめぐっては、電通の圧力問題が波紋を広げる。電通の管理職で持続化給付金の事業を担当していた社員が、イベント会社テー・オー・ダブリュー(TOW)の社員に、ライバルの広告大手博報堂に協力しないよう発言していた。持続化給付金で電通から仕事を請け負うTOWの社員は、発言をまとめ下請け企業の担当者に対話アプリで送っていた。「事業に協力をした場合、給付金、補助金のノウハウ流出ととらえ、言葉を選ばないと出禁レベルの対応をする」「すいませんが、強制的にお願いしたい次第です」などの内容だ。家賃支援事業の公募には博報堂も参加したが、経産省が選んだのはリクルート。博報堂は落選した。
    ◇
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*8-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/16839 (東京新聞 2020年5月13日) 青森・六ケ所村 核燃再処理 新基準「適合」 規制委了承 稼働は見通せず
 原子力規制委員会は十三日の定例会合で、日本原燃の使用済み核燃料再処理工場(青森県六ケ所村)の事故対策が新規制基準に適合しているとする「審査書案」を了承した。本格稼働の前提となる新基準に事実上適合した。今後、一般からの意見公募や経済産業相への意見照会などを経て、正式適合となる。再処理工場では、原発の使用済み燃料から、再利用できるプルトニウムやウランを取り出す。燃料を繰り返し使う国の「核燃料サイクル政策」の中核施設とされ、適合は稼働に向けた一歩となる。ただ、適合後も設備の工事計画の審査が続くため、稼働時期は見通せない。核兵器に転用可能なプルトニウムの大量保有は国際社会から懸念を招きかねず、工場が完成しても、どれほど稼働できるかは不透明だ。原燃は二〇一四年一月に審査を申請した。耐震設計の目安となる揺れ(基準地震動)を最大加速度七〇〇ガルと想定。海抜五十五メートルにあり、津波の影響は受けないとした。再処理の工程で発生する溶液や廃液が蒸発し、放射性物質が拡散する事故などに備え、冷却設備や電源を強化したとしている。十三日の会合では、規制委事務局の担当者が審査内容を説明し、五人の委員がそれぞれ重大事故対策などについて問いただした。最後に更田豊志(ふけたとよし)委員長が「審査結果に異存はないと考えてよいか」と問い掛け、委員から異論は出なかった。
◆「核燃サイクル」必要性に疑問
 建設費は当初計画の四倍の約三兆円、完成延期は二十四回、着工して二十七年でも未完成-。原発の使用済み核燃料の再処理工場(青森県六ケ所村)。民間企業ならば断念していたはずの施設が、稼働の条件である原子力規制委員会の審査を事実上通過した。繰り返し核燃料を再利用できるかのように宣伝してきた「核燃料サイクル」という夢のような政策を実現する要の施設は、稼働の必要性に大いに疑問がある。東京電力福島第一原発事故後、五十四基稼働していた原発は廃炉が相次ぎ、規制委の審査で再稼働したのは九基。今後再稼働する原発が増えたとしても、再処理で取り出したプルトニウムとウランを混ぜて作るMOX燃料を使える原発は限られ、消費量が少ない。また、MOX燃料のみを使うはずだった高速増殖原型炉もんじゅ(福井県)は廃炉。再生可能エネルギーが台頭する中、政府は原発の新増設を打ち出しておらず、高コストのMOX燃料を使う経済性に欠ける。消費者が支払う電気代が元となった約十四兆円という巨費が投じられてきた核燃料サイクルは、実現困難で破綻が明らかだ。ただ、再処理撤退も簡単ではない。最大の壁は、六ケ所村内に貯蔵されている大量の使用済み核燃料が「核のごみ」になること。青森県との取り決めで県外に運ぶ必要があるものの、各原発に置き場がなく、最終処分場は確保の見通しすらない。夢に固執したツケが重くのしかかる。
<核燃料サイクル政策> 原発の使用済み核燃料からプルトニウムやウランを化学処理(再処理)で抽出し、混合酸化物(MOX)燃料として再利用する政策。燃料の有効利用が目的で高レベル放射性廃棄物の量も少なくなるとされるが、中核となる再処理工場の完成が遅れ、各地の原発で使用済み燃料がたまり続けている。政府、電力業界は普通の原発でMOX燃料を使うプルサーマル発電を進めるが、東日本大震災以降、実施したのは4基にとどまる。

<ふるさと納税訴訟の最高裁判決は当然だった>
PS(2020年7月4日追加):*9-1のように、(私が提案してできた)ふるさと納税制度から除外した総務省の決定は違法として、泉佐野市が決定取り消しを求めていた訴訟の上告審判決で、最高裁第3小法廷(宮崎裕子裁判長)が、6月30日、国側勝訴とした大阪高裁判決を破棄して総務省の決定を取り消すよう命じた。宮崎裕子裁判長の判決は法治国家なら当然のことであり、これまで国側勝訴としていた大阪高裁の男性裁判長は法律に遡及効がないことを知らなかったのかといぶかしく思い、いくつもの行政訴訟でまともな判決を出された宮崎裕子裁判長には敬意を表する。この訴訟の内容は、*9-2のように、「①総務省が『寄付額の30%以下の地場産品』」を返礼品の基準とする地方税法を2019年6月から開始し」「②法施行前に遡って、基準外の返礼品で寄付を集めていた泉佐野市などをふるさと納税制度から締めだした」ことが妥当か否かであり、法律に遡及効はないため、宮崎裕子裁判長が「総務省の決定を違法として取り消す」としたのは筋の通った、しかし勇気のいる判決なのだ。
 泉佐野市は、*9-3にも書かれているように、i)地元関西空港に拠点を置く格安航空会社(LCC)の航空券購入に使えるポイント ii)アマゾンのギフト券 などを返礼品とすることによって寄付額を伸ばし、2017年度から2年連続で全国一の寄付を集めたことが問題視されたが、私は、i)については地場産品と見做してよいと考える。
 それよりも、工夫して寄付金を集めると「③返礼品競争の過熱がいけない」「④高所得者ほど得をする仕組みがいけない」「⑤ランキング形式で返礼品を紹介する仲介サイトの存在がいけない」「⑥制度を廃止せよ」など、無駄遣いが多くて工夫のない都市部から苦情が起こり、そちらが優先されたことの方がよほど大きな問題だ。何故なら、③の返礼品については、それぞれの自治体が自慢できるものを出して地場産を磨いた方が国全体のGDPが上がる上、その中には、農水産物だけでなく、LCC航空券や音楽会への入場券等があっても不思議ではないからだ。また、④の高所得者ほど得をするというのも変で、高所得者を大人になってから受け入れた自治体の方がずっと得しており、高所得者になるまで育てたふるさとが、個人住民税所得割額の約20%(https://furusatoplus.com/info/003/ 参照)を上限としてふるさと納税を受けても全くおかしくなく、その高所得者の老親もふるさとでケアされているのに、何と利己主義なことを言っているのか。さらに、⑤の競争がいけないというのは共産主義経済が破綻した理由そのものであり、⑥の制度廃止を唱える人やメディアがあるのは、逆切れとしか言いようがない。なお、「返礼品を廃止せよ」という声もあったが、そう言った本人は九州豪雨などに返礼品なしでいくら寄付するのか、また全体でいくら寄付が集まるのか見ものだ。

*9-1:https://www.sankeibiz.jp/workstyle/news/200630/cpd2006301615002-n1.htm (産経BZ 2020.6.30) 泉佐野市の除外決定を取り消し ふるさと納税訴訟の最高裁判決
ふるさと納税制度から除外した総務省の決定は違法だとして、大阪府泉佐野市が決定取り消しを求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第3小法廷(宮崎裕子裁判長)は30日、除外に違法性はないとして国側勝訴とした大阪高裁判決を破棄し、総務省の決定を取り消すよう命じた。泉佐野市の逆転勝訴が確定した。高裁判決などによると、泉佐野市は地場産品以外の返礼品に加えアマゾンのギフト券を贈る手法で寄付を募り、平成30年度に全国の寄付総額の約1割にあたる約497億円を集めた。総務省は昨年6月の改正地方税法施行に伴い「返礼品は寄付額の3割以下」などの基準を設定した新制度をスタート。法改正前に高額な返礼品で多額の寄付を集めた泉佐野市など4市町の参加を認めなかった。

*9-2:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1148085.html (琉球新報社説 2020年7月2日) ふるさと納税国敗訴 後出しルール許されない
 ふるさと納税の新制度から大阪府泉佐野市を除外した総務省の決定を巡る裁判で、最高裁は6月30日、国勝訴とした大阪高裁判決を破棄し、総務省の決定を違法として取り消した。泉佐野市の逆転勝訴が確定した。特定の地方自治体を排除しようとした国の強権的な手法を厳しく批判した内容であり、妥当な判決だ。法廷闘争の原因は、ふるさと納税を巡る自治体間の寄付獲得競争の過熱だ。豪華な返礼品を呼び水に寄付を集める自治体が相次ぎ、制度の本来の趣旨とは違う運用のゆがみが目立っていた。こうした過度な競争を防ぐ目的で、国は2019年3月に地方税法を改正する。総務省は「寄付額の30%以下の地場産品」を返礼品の基準とする新制度を同年6月から開始し、それまでに基準外の返礼品で寄付を集めていた泉佐野市などをふるさと納税の制度から締めだした。国の方針に従わなかった自治体に対し、新たな法制度を作り、施行前にさかのぼって責を負わせることが許されるのかが裁判の焦点になった。最高裁の示した判決は明確だ。「新制度移行前の募集実態を参加可否の判断材料にするといった趣旨はない」と改正地方税法の解釈を示し、過去の多額な寄付金集めを理由とした総務省の除外決定は違法と結論付けた。新しく作ったルールを過去にさかのぼって適用することを認めてしまえば、国の意に沿わない自治体を「後出しじゃんけん」でいくらでも狙い撃ちできることになる。2000年施行の地方分権一括法で、国と地方の関係は「上下・主従」から「対等・協力」へと改められている。国の技術的助言に従わないからといって、地方自治体に不利益な取り扱いをすることは許されない。寄付集めをエスカレートさせた泉佐野市に眉をひそめる部分があるとはいえ、自治体に対する国の関与は法的な根拠が厳格でなければならない。今回の判決は、地方自治や分権改革の成果を保持したという観点で評価できる。ふるさと納税制度も本来は、東京一極集中の税収格差を是正する地方自治の仕組みとして導入された。だが、自治体同士で税を奪い合い、地方間で新たな格差や分断を生むという矛盾を来している。泉佐野市はインターネット通販大手アマゾンのギフト券などを贈り、18年度に全国一の498億円の寄付を集めている。地域外の特産品や高額な返礼品でなりふり構わず寄付を集める手法に、最高裁も「社会通念上、節度を欠いていたと評価されてもやむを得ない」と苦言を呈している。制度導入時から想定されていた弊害を放置し、制度を進めてきた国の責任は大きい。ふるさと納税制度の見直しとともに、地方自治を保障する税制の在り方について本質的な議論を進めたい。

*9-3:https://kumanichi.com/column/syasetsu/1510003/ (熊本日日新聞 2020年7月2日) ふるさと納税判決 国と地方の関係再確認を
 ふるさと納税の新制度から除外された大阪府泉佐野市が起こした訴訟の上告審判決で、最高裁は請求を棄却した大阪高裁判決を破棄し、国の除外決定を取り消した。返礼品を巡る法規制が始まる昨年6月より前に、市が国の基準に従わず多額の寄付を集めてきた点を国が除外の理由としたことが争点となった。国側は過去の実績を判断材料とすることには合理性があると主張したが、最高裁は新制度が始まる以前の寄付金の集め方を問題にしたのは違法とし、除外決定は無効と判断した。確かに、寄付を“荒稼ぎ”する市の手法は、生まれ故郷などを応援するというふるさと納税制度の趣旨から外れている。とはいえ、意に沿わない自治体を狙い撃ちするかのように排除した国の姿勢は、地方分権の方向性を自ら打ち消すようなもので、あまりに強権的だった。国と地方は「対等・協力」の関係である。最高裁の判断を、そのことを再確認する機会としたい。ただ、市の寄付集めを巡っては、国が懲罰的に実施した特別交付税減額の取り消しを求める訴訟もあり、対立はなおも続く。制裁と反発を繰り返す実りなき対立は速やかに終わらせ、制度の立て直しを図るべきだ。2008年創設のふるさと納税制度で、泉佐野市は地元の関西空港に拠点を置く格安航空会社(LCC)の航空券購入に使えるポイントや、ネット通販大手のギフト券を返礼品とすることで寄付額を伸ばし、17年度から2年連続で全国一となった。こうした動きを問題視した総務省は返礼品の規制を本格化。17年4月には「調達費は寄付額の3割以下」、18年4月には「地場産品に限る」とする基準を設け、自治体に通知した。市は「一方的な押し付け」と反発。地場産品に限定すると自治体間に格差が生じるとして「自治体や有識者らを交えて議論すべきだ」と訴えた。だが総務省は耳を貸さず市への交付税を減額。基準に従う自治体だけを参加させる新制度から市を除外した。市も返礼品にギフト券を上乗せし、駆け込みで多額の寄付を集めて対抗した。その後、国地方係争処理委員会が除外決定の再検討を勧告したが、総務省は応じなかった。税収の奪い合いをここまで過熱させた責任の一端は国にもある。15年に減税対象となる寄付の上限を2倍にしたが、返礼品競争への対応では後手に回った。制度設計が甘かったと言わざるを得まい。税収の東京一極集中を是正し、高齢化や財政難にあえぐ地方の自治体を支援するという制度の趣旨に異論はない。ただ、返礼品に限らず、高所得者ほど得をする仕組みや、ランキング形式で返礼品を紹介する仲介サイトの存在など、現行の制度が多くの課題を抱えていることも事実だ。国は一方的に地方を従わせるのではなく、独自性を尊重し、不満の声にも耳を傾けながら最良の道を探るやり方で制度を立て直してもらいたい。

<人口分散と高速鉄道の必要性>
PS(2020年7月5日追加):関東はじめ都市に人口が集中し、混雑・地価の高騰・水不足・保育所不足などの問題が起こっている理由は、日本政府が多額の資本を投下してこれらの地域を整備し、工場や企業がこの地域に立地して雇用吸収力が高くなったため、生産年齢人口がここに流入したからである。一方、地方は育てた子どもを都市に送り出し、生産年齢人口が減少して平均年齢が上がったのであるため、地方で税収が伸びない理由は、その地方の努力不足というより政府の資本投下の結果なのだ。そのため、私は、既に人口が集中して混雑し、地価高騰・水不足等が起こっている地域に追加投資するよりは、ゆとりのある地方に資本投下した方が、日本全体としては資本効率がよいと考える。
 そのような中、*10-1のように、新型コロナ禍を契機に、中国山地への移住者を増やして都市への一極集中を是正しようというウェブ会議がインターネット上で開かれ、「①小規模分散型の社会を中国山地から構想する」「②住民の繋がりが強いのが地域の魅力」「③里山の恵みや自然に囲まれて子育てできることも魅力」とアピールしているのは面白い。
 地方の産業には、農業・漁業のほか、最近は森林管理や林業も加わっているが、それに加えて、*10-2の北フランスのように、日本企業や海外企業の進出を促すのもよいと思う。北フランス地方は、地理的優位性・豊かな生活・「TGV」を使ったアクセス・(フランスで最上級の病院を含む)あらゆるインフラの整備・コストの安さが強みだそうだ。日本の地方にも、これに似た地域は多く、バイオ・健康産業・栄養関連・デジタル産業や最先端の研究施設も、豊かで雑音が少なく環境の美しい田舎にあった方が働きやすそうだ。
 また、いつもウェブ会議やリモートワークばかりでは足りないものがあるため、高速鉄道によるアクセスの良さも重要だ。しかし、*10-3のリニア中央新幹線は、工事に伴う大井川の流量減少のみならず、陸上を走るのに地下ばかりで魅力に乏しい上、地震や噴火の際に危険だ。なお、リニアは地下しか走れない乗り物ではないため、「富士山を見つつ」「大井川を渡りつつ」など、高架を走って東海道の美しい景色を見せた方が、大井川の流量減少も起こらず、楽しみながら移動できると思われる。

  
     リニア中央新幹線(予定)     ゆりかもめ   上海のリニアモーターカー

(図の説明:1番左の図のように、リニア中央新幹線は東海道新幹線に似たルートの地下を走る予定なので、大井川の流量減少問題が出た上、左から2番目の図のように、窓が少なくて速いだけの乗り物となっており、地下を走ることによる危険性もある。しかし、リニアは、右から2番目の図の「ゆりかもめ」のように高架を走ることもでき、1番右の図のドイツの技術を採用した上海のリニアモーターカーは、「浦東国際空港⇔上海の地下鉄2号線『龍陽路駅』」間の陸上30kmを約8分で結んでおり、私も乗ったことがあるが快適だった)

*10-1:https://www.agrinews.co.jp/p51262.html (日本農業新聞 2020年7月5日) 中国山地移住者増へ 「魅力発信」ネットで議論
 新型コロナウイルス禍を契機に、都市への一極集中を是正し、中国山地への移住者を増やしていこうというシンポジウムが4日、インターネット上で開かれた。中国地方各地で活動するパネリストが、地域の魅力をどう発信するかなどについて議論した。中国山地に関する雑誌を製作する中国山地編集舎が主催した。ビデオ会議アプリを使い、約200人が参加した。持続可能な地域社会総合研究所の藤山浩所長は基調報告で、コロナ禍で都市に一極集中した大規模経済のもろさが露呈したと指摘。地域の魅力である「地元の力」を見直し、「小規模分散型の持続可能な社会を中国山地から構想していこう」と呼び掛けた。「地元から暮らしと世界をつなぎ直す」をテーマにした座談会では、鳥取県智頭町で森の中で園児を育てる幼稚園職員や山口市で小さな拠点づくりに取り組むNPOの事務局長ら7人が議論。都市住民がコロナの影響が少ない地方への移住に関心を寄せているとして、住民のつながりが強い地域の魅力をどんどん発信すべきだといった声が出た。アピールする中国山地の魅力として、里山の恵みや自然に囲まれながら子育てできることなどの意見が挙がった。

*10-2:https://toyokeizai.net/articles/-/9341 (東洋経済 2012/6/8) 年間3000人の雇用創出目指し海外企業誘致に傾注、北フランス地方投資促進開発局CEOに聞く
 北フランス(ノール・パ・ドゥ・カレ)地方には多くの海外企業が進出。トヨタ自動車がヴァランシエンヌに工場を構えるなど、日系企業の拠点立ち上げも目立つ。来日した北フランス地方投資促進開発局のヤン・ピトレ最高経営責任者(CEO)に直接投資誘致の現状などを聞いた。
●北フランス地方の最大の強みはなんですか。
 地理的な優位性でしょう。欧州でも非常に生活が豊かであり、経済発展を遂げた地域の中心に位置しています。アクセスの面でも恵まれており、仏の新幹線「TGV」を使えば、中心都市のリールからロンドンまで80分。ベルギーのブリュッセルまで35分。ドイツのケルンまでは2時間35分で行くことができます。リール~シャルル・ド・ゴール空港間は50分。「成田エクスプレス」に乗車すると、JR東京駅から成田空港までの所要時間は59分でしょう。それよりも短い。とても便利ですよ。日系企業が北フランスへ進出を考えているのであれば、パリ、ロンドン、ドイツのフランクフルトなどの代替地としても最適です。生活の質は高く、しかも、あらゆるインフラが整備されている。フランスで最上級の病院もあります。にもかかわらず、コストは欧州の他の主要都市に比べて低い。北フランスが「欧州の玄関口」と称されるゆえんです。
●北フランス地方の従業員の給与水準や賃料はパリよりも低いようですが、フランス国立統計経済研究所(INSEE)のデータによると、北フランス(ノール・パ・ドゥ・カレ)の失業率は10%を超えています。2011年10~12月期は12.7%に達し、フランス全国の平均や(パリのある)イル・ド・フランス地方、(フランス第2の都市リヨンがある)ローヌ・アルプ地方の水準を上回っています。これらの地域に比べて給料が安いのは、失業率が高いからではないですか。
 北フランス地方の失業率が高いのは若い人たちが多く住んでいるためです。人口の34%が25歳以下。仏国内では1位です。全国平均だと、25歳以下の人たちは31%にとどまっています。フランスでは若者の職探しが難しくなっています。だから、どうしても北フランスの失業率は高くなる。フランスでも南の地域へ行けば、退職者が多く暮らしているでしょう。失業者は少ないから問題ない。数字はそうした状況を反映しているにすぎません。パリで暮らせば賃料はリールの2倍。オフィスを借りると4倍です。生活費などが高い分、雇っている人には余計に給料を払わなければならない。イル・ド・フランス地方にはさまざまな企業が本社を構えている。リールもそう。でも、パリに比べて従業員の質が劣っているわけではありません。それなのに、給与水準は低い。失業率と給与水準はパラレルな関係ではないと思います。マクロ経済の観点からすれば、失業率が高ければ給料は下がるかもしれません。しかし、現実は違う。ベルギー南部の(フランス語圏の)ワロニー地域の給料は北フランスよりも20%程度高い。でも、失業率もそんなには低くないのです。雇用環境の厳しさは北フランスよりもはるかに深刻。失業率と給与水準に相関関係はないと見ています。
●北フランス地方への直接投資の現状は。
 海外からの投資誘致ではずっと追い風が吹いています。直接投資の受け入れではフランスで(イル・ド・フランス、ローヌアルプに次ぐ)第3の地域。北フランスは欧州随一の購買力を備えています。テクノロジーの面でも大きな可能性があります。研究開発には積極的です。今日では直接投資の中身も徐々に多様化が進んできました。この地域は伝統的に多くの産業の投資を受け入れてきました。自動車、鉄道などの分野です。そうした領域の投資は今も続いています。一方、最近は第3次産業、特にサービスセクターの投資も増えてきました。最先端のセクターでの投資もあります。(製薬会社の)英国グラクソ・スミスクラインの研究施設もつい最近、オープンしました。
●北フランスの産業には栄枯盛衰があったと聞きました。
 歴史を話そうとしたら1日経ってしまうかもしれません(笑)。19世紀には炭鉱がありました。製鉄や繊維産業の中心としても栄えていました。「繊維」といっても、生地製造というクラシックな分野です。今日では忘れられてしまいましたが、実はフランスで最初に航空機製造を手掛けたのもこの地域なのです。だが、1914年から4年にわたって続いた第1次世界大戦では戦場と化してしまいました。ベルギーとの国境に位置し、侵略を受けた地域でした。これを受けてフランス政府は第1次大戦後、軍需、航空機、機械など戦略的産業を南へ移転させました。トゥールーズが航空機産業の中心都市になったのもそのときからです。第2次大戦後は旧ソビエト連邦の脅威にさらされました。1970年代に入ると、大きな経済構造の変化に直面しました。炭鉱の閉山や繊維産業の移転。そして、鉄鋼業の斜陽化に伴う大規模なリストラの実施。このため、別の成長のタネを探し出さなければならなかったのです。目を向けたのは新しい産業。ただ、伝統的な領域でも大きな雇用吸収力を有する産業が残っています。鉄道がその一つ。自動車産業も工場の進出が加速するなど賑わいをみせています。鉄道産業では現在、フランス第1の地域。自動車では2番目の地域です。ロジスティクスやバイオテクノロジーでは3番目。農産物加工品では第4の地域です。一方で、新興型の産業も台頭しました。バイオテクノロジー、健康産業、栄養関連…。ただ、その歴史は古く、19世紀末にはパスツール研究所が設立されました。フランスの偉大な研究者パスツールの研究所です。今は健康関連のクラスターや大規模な大学病院のコンプレックスが存在しています。リールには「ユーロ・リール」と呼ばれるオフィス街もあります。パリの「デファンス」に次いで開発が行われた2番目のオフィス街です。フランスの第3次産業にとっては極めて重要な場所です。さまざまな企業の地方統括機能が集中しているうえ、保険会社や銀行もあります。繊維産業は進化し、先端製品を製造する会社が増えています。ただ、伝統的なテクノロジーに依存した会社が消えてしまったわけではありません。英国のウィリアム王子と結婚したキャサリン妃のウェディングドレスを作った「ダンテル・ドゥ・カレー」の生産拠点もありますよ。彼女は英国ではなく、北フランスで注文を出したんですよ(笑)。
●テレビゲームや3D技術などデジタル関連の企業も多いですね。
 トヨタの工場があるヴァランシエンヌには、「スプインフォコム」というデジタル産業で世界中に名の知られた学校があります。ヴァランシエンヌの商工会議所は「デジタル作品やビデオゲームの領域で世界ナンバーワンの学校を作った」と言っています。「スプインフォゲーム」という名の学校もあります。ピクサー、ドリームワークス、ソニー、イルミネーション・スタジオなど米国を代表するスタジオが学校の卒業生を採用しています。オンラインゲームの運営などを手掛ける「アンカマ」は4人の社員で立ち上げましたが、今では500人規模の会社に成長しました。リールに程近いところに「プレーヌ・イマージュ」というデジタル産業の集積するクラスターがあります。赤レンガ造りの建物で、「アンカマ」の本社もそこにあります。かつて工場があった場所で、敷地は2万5000平方メートル。リール市が誘致を決めました。「レイルニウム」という鉄道インフラを研究するための機関もあります。これも行政がイニシアチブを発揮。未来の鉄道インフラ作りを考えようという野心的なプロジェクトで、2017年の利用開始を目指しています。予算は5億ユーロ超。政府や地方自治体が資金を拠出。仏アルストム、カナダのボンバルディエ、独シーメンスなど鉄道関連の企業がこのプロジェクトに着目、拠点を設けています。
●海外企業の誘致で数値目標はありますか。
 日系企業は現在、49社が進出しています。これを何社にするといった目標を掲げるのは難しい。海外企業誘致の面でフランス第3の地域の座を維持するのが目標です。雇用面では日系を含めた海外企業を迎え入れることで、年間3000人に新たな職場を提供したいと考えています。
●オランド氏が大統領に就任しましたが、海外企業の誘致政策になんらかの変化は。
 それを語るのは早過ぎます。就任してからまだ、数週間です。選挙戦でも直接投資の受け入れ方針をめぐって何らかの発言があったとは聞いて言いません。

*10-3:https://www.at-s.com/news/article/topics/shizuoka/781771.html (静岡孫文 2020/7/2) トップ会談後ネットに相次ぐ静岡県批判 「駅ないからごねてる」、リニア不要論も 大井川水問題
 リニア中央新幹線工事に伴う大井川の流量減少問題を巡って26日に行われた川勝平太静岡県知事とJR東海の金子慎社長による初のトップ会談の後、インターネット上で「静岡県がごねている」と批判するコメントの書き込みが相次いでいる。県や流域市町はJRの対応が着工を遅らせているとの立場だが、ネット上では県側が着工を妨げているとの論調が目立ち、水問題を巡る地元の認識との隔たりが浮き彫りになっている。「ごねている」と書き込んだ人の多くが「静岡県にはリニアの駅がない」ことを理由に挙げる。中には県内に駅が造られないため、JRへの報復で水問題を使っているという趣旨の書き込みも。全国の注目を集めたトップ会談で、2027年のリニア開業延期が不可避となったため「静岡県のせいでリニア開業が遅れた」との主張も多数あった。一方「JR自身が着工を遅らせているように見える」などJRへの批判も以前より目立つ。新型コロナウイルスの影響でテレワークやテレビ会議が普及する中、「リニア自体が不要」の声も少なくない。「自然破壊するリニアは今や時代遅れ。リモートはリニアより速い」とのコメントは多くの支持を集めた。トップ会談でも川勝知事が「静岡県が27年開業の足を引っ張っているかのごとき発言を繰り返されている」と金子社長を非難する場面があった。金子社長は「静岡県のせいと言っているのではない」としながらも「最初に(静岡工区の工事の)締め切りが来てしまう」と静岡工区の着工遅れが開業遅れに直結する点を指摘した。

| 男女平等::2019.3~ | 10:28 PM | comments (x) | trackback (x) |
2020.6.9~15 日本の医療・社会保障と消費税 (2020年6月16、18、21、22日追加)
    

(図の説明:左と中央の図のように、米国とフランスでは、新型コロナの流行期に超過死亡率が発生している。これは、検査数が足りず、患者の把握が不十分であれば当然生じるものだが、日本では、右図のように、3月以降の超過死亡率は公表されていない)

(1)医療崩壊を加速させた消費税制 ← 医療費を消費税非課税取引とした失政
 健康保険等の保険が適用される医療費・薬代は非課税取引とされているため、患者が医療機関で保険を使って診療を受けた場合に支払う医療費には消費税が加算されない。しかし、病院が購入した財・サービスの仕入れには普通に消費税がかかり、非課税売上に対する仕入税額控除はできないため消費税を転嫁できず、消費税分をすべて医療機関が負担することになっている。(https://www.nta.go.jp/m/taxanswer/6205.htm 参照)

 これは他産業と比較して著しく不公平・不公正であるため、「保険が適用される診療だから消費税を課さない」ということを貫徹するのなら、非課税取引ではなく0税率の課税取引か免税取引として医療機関が支払った消費税は医療機関に還付すべきだ。この不公平・不公正税制により、コロナ禍以前から病院経営は圧迫され、医療機関の弱体化や危機は起こっていたが、これが続くと、既にある医療システムが崩壊するとともに、医療従事者の質が落ち、国民の命がさらなる危険に晒される。

 この点について、*1-1のように、日本病院会が、「(現場を知らない素人の思い付きで部分的に行われる)診療報酬への上乗せでは不公平・不公正を解消できないため、課税化への転換などの抜本的措置を2020年度の税制改正で行うべきだ」と2019年8月7日に、2020年度税制改正要望を根本匠厚生労働大臣に宛てて提出したが、今のところ無視されている。

 なお、一つの医療法人が、「医療福祉」と「その他の産業」の双方を事業として行っている場合は、他の産業と同様、仕入れを売り上げに紐づけしたり、案分したりして計算するのが適切だと考える。そのほか、(何故か)著しく高価な医療器械の購入や個室・陰圧を標準とした病室への設備投資を促進する税制を拡充し、特別償却や加速償却を可能にすることも重要だ。
 
 さらに、基幹病院として公的運営が担保された医療法人は、赤字になっても維持しなければならない診療科や病床があるため、国もしくは地方自治体からの補助金や寄付制度が必要である。

 このように、不公平・不公正な消費税制のため、*1-2のように、全国の国立大病院42カ所で、高度な医療機器やベッド等の購入時に支払った消費税を診療費に転嫁できず、2014~18年の5年間に計969億円を病院側が負担していることがわかったそうだ。このほか、診察に使う機器やガーゼなどの消耗品は病院が購入時に消費税も支払うが、病院の負担になっている。私大の付属病院はじめその他の病院でも同じことが起こっている。そのため、病院側はコスト削減の工夫を重ねているそうだが、医療器具は日本とは思えない粗末なものが多く、衛生器具を節約するのは危険であるため、まずは消費税制の不公平・不公正を解消すべきだ。

 JA厚生連の病院も、*1-3のように、経営状況が厳しいそうだが、消費税10%への増税で医業収益が減っていたことに加えて、新型コロナの影響で予定した手術や入院の延期、一般外来診療の縮小などで医業収益が減収になっているのだ。基幹病院は、いつでも満床では困るのであって、普段から空床確保分も含めた診療報酬を支払っておくべきだ。そのため、新型コロナで初めて思ついたように、減収支援・医療従事者への危険手当・医療物資や機器の配給体制・病院が赤字続きで地域医療が崩壊しないようにしなければならない等々と言っているのは、近年の厚生行政の失敗にほかならない。

(2)新型コロナの検査抑制による医療崩壊
1)人命よりも行政の組織防衛優先の考え方
 確かに、安倍首相や官邸は「しっかりやります」と繰り返したが、*2-1のように、厚生労働省の動きは一貫して鈍く、PCR検査は1日2万件に届かなかった。その背景にあったのが国立感染症研究所が感染症法15条に基づいて2020年1月17日に出した新型コロナの「積極的疫学調査実施要領」で、「患者(確定例)」と「濃厚接触者」のみが検査対象とされた。

 検査体制への不満が広がると、2月6日に出した要領の改訂版で初めて対象者に「疑似症患者」が加わったが、「確定例となる蓋然性が高い場合には積極的疫学調査の対象としてもよい」という限定付きで、その姿勢は2020年5月29日の最新版でも変わらないそうで、非科学的この上ない。しかし、厚労省が実質的に所管する各地の保健所などもこの要領に従い、濃厚接触者に検査の重点を置いたため大都市中心に経路不明の患者を増やし、日本全国で外出を自粛しなければならない羽目になった。

 厚労省は、自らが適当に作ったルールにこだわり、現実との齟齬を無視するような感染症対策の失敗は今回が初めてではなく、2009年の新型インフルエンザ流行時も疫学調査を優先してPCR検査を感染地域からの帰国・入国者に集中して、いつの間にか国内で感染が広がり、神戸で渡航歴のない感染者が見つかって関西の病院を中心に人々が殺到し、2010年にまとめた報告書で反省点を記した。

 その内容は、「保健所の体制強化」と「PCR強化」だそうだが、保健所を通したことがPCR検査が目詰まりになった原因だ。官邸で「大学病院も検査に使えば」との声が出ても、厚労省は文科省が絡む大学病院での検査拡充に及び腰で、首相が「使えるものは何でも使えばいいじゃないか」と語っても組織防衛の方が優先する意識では、厚労省は命を託すに足りない組織なのである。さいたま市の保健所長は、「病院があふれるのが嫌でPCR検査は厳しめにやっていた」と話したが、これは事実だろう。

 19世紀に始まった日本の官僚機構は、日本が後進国で先進国の欧米諸国を目標にして駆け抜ければよかった時期には強力に機能したが、日本が先進国となり自らがモデルを作らなければならなくなってから機能しなくなった。その理由は、官僚機構は、前例や既存のルールにしがみつきがちで、目の前の現実を把握し、それに対応しながら工夫して新しいものを作りだすことが苦手な組織だからである。

 政府が有効な対策を打たなかったため、コロナ第2波に備えて必要なのは「日本モデル」の解体だと、*2-2は主張している。ただし、原因は、安倍首相ではなく、厚労省はじめ行政であり、わずか1か月半で今回の流行をほぼ収束させることができたのは、検査すら十分に行わないため国民が危機感を感じて自粛したという「日本ならではのやり方」だったのだ(!)。

 こうなった理由は、COVID-19が指定感染症に指定されたためで、これにより「①感染者は無症状でも強制入院となり」「②厚労省はこの時COVID-19の無症状感染者の存在を想定しておらず」「③厚労省が指定感染症に指定する4日前の1月24日には、『ランセット』が無症状の感染者の存在を報告する香港大学の研究者たちの論考を掲載していた」のだそうだ。さらに、「④無症状者も入院させなければならないため早くから病院体制の崩壊が心配され」「⑤これがPCR検査の大幅抑制に繋がり」「⑥厚労省担当課の勉強不足と不作為が国家的悲劇を生み、国立感染症研究所・保健所・地方衛生研究所が束になって行ったのが『日本モデル』」なのである。

 また、「⑦新型コロナ襲来に、国立感染研と保健所、地方衛生研究所の体制は殆ど歯が立たず、多くの『超過死亡』を出したが根拠となる数字の説明がなく」「⑧PCR検査による新規感染者数はCOVID-19の感染の勢いを正確に映していない恐れがあるため、『ランセット』が単純な超過死亡数をリアルタイムで活用することを求めており」「⑨体制としての保健所の限界は、PCR検査体制についても、発熱してからPCR検査を受けるまでに10日間を要し、指定された保健所に電話しても何日間も繋がらないという状況だった」のだ。従って、保健所の人員を増やすのではなく、検査に保健所の仲介をなくすことが必要不可欠なのである。

2)検査抑制による医療機関の外来診療拒否と重症化は、医療崩壊そのものである
 PCR検査が抑制されたことによって、*2-3にも、「⑩留学先のカナダから帰国して間もない女性が39度近い熱を出したが、医療機関4カ所から外来受診を断られ、保健所の相談電話も繋がらず、内臓疾患だったことが判明した」「⑪日本は諸外国と比べて検査数が少ないと批判が高まり」「⑫政府は検査能力を増強したが、目標の『1日2万件』を達成したが、実際の検査数は半数にも満たなかった」「⑬同様の事例が各地で相次ぎ、相談してもPCR検査まで至らないケースも多かった」という状況になった。

 重症化リスクのない人にはPCR検査は不要だと何度も聞かされたが、*2-4のように、新型コロナの感染者が心臓・脳・足などの肺以外で重い合併症を患う症例が世界で相次ぎ報告されており、回復した人も治療が長期化したり後遺症が残ったりするリスクが指摘されている。しかし、ウイルスは診療科に分かれて感染するわけではないため、重症化するにつれて身体全体に症状が出るのは当然なのである。

 また、検査しなかったために新型コロナと判定されずに亡くなった方は、*2-5のように、「超過死亡」に入るが、今年は偶然では起こり得ないほど肺炎の死者が多く、毎週20〜30人の超過死亡が起きていたのに、データを発表した感染研は「原因病原体が何かまでは分からない」としている(??)。

(3)新型コロナの病院への一撃
 日経新聞は、*3-1のように、「①不要不急な診療は控えて、医療費を節約せよ」「②軽い風邪や腹痛、花粉症は通院を控え、薬局で薬剤師や登録販売者に相談し処方箋がなくても買える一般用医薬品で凌ぐことができたのだから、風邪なら自力で治そう」「③高度医療を提供する大学病院や専門病院は、高額な医療費がかかる治療をさほど減らさなかった結果、件数の急減に対し医療費はさほど減らなかった」などの呆れる医療政策を書くことが多い。

 そのうち、①については、先延ばしが可能だということと不要であるということは違う上、②については、軽い風邪や腹痛なのか重い病の前兆なのかを自分で勝手に判断することほど危ういものはないため、まずあらゆる検査のできる基幹病院で診断を確定してから、そこで治療を受け続けるか、近くの医院に紹介してもらうか、売薬ですませるかを決めなければ、病を重症化させてしまってあらゆる方面で被害甚大になる確率が高くなる。そのため、国民皆保険を自慢している日本で何を言っているのかと、私は常日頃から思っている。

 さらに、③についても、高度医療を提供する大学病院や専門病院も、PCR検査を自由にできなかったばかりに、新型コロナの院内感染を恐れて患者が減ったり、手術を先延ばしせざるを得なくなったりして損失を蒙っているのである。

 なお、病院経営に悪影響を与えているのは、新型コロナの流行以前からの消費税の満額負担と現場の真実をチェックしない観念的な医療改悪政策によるものであるため、コロナ対応病院への資金援助も必要だが、その後は改悪ではない地域医療の再構築を進めるべきである。無医村ではあるまいし、セルフメディケーションしなければならないようでは困る。

 また、馬鹿の一つ覚えのようにオンライン初診・再診とも言っているが、オンラインでは得られる情報量が少ないため、補助的にしか使えないことも何度も書いた。さらに、“軽症”の定義もおかしく、“軽症のコロナ感染者”とはどの程度の人を言うのか。定義を曖昧にしたまま、どこで治療するかや医療資源を最適配分するにはどうするかなどは語れないのである。そして、医療保険の加入者や納税者としては、受診や検査を小さくケチって命を危険に晒された上、何十兆円もの補助金を使われる羽目になったようなことこそ、やめてもらいたいのである。

 自民党医師議員団本部長の冨岡氏は、*3-2のように、「④日本は米欧や中韓に比べ検査体制の整備が遅れたので、第2波に備えて体制の拡充が急務だ」「⑤これまで検査せずに医療費を抑えた面はあったが、かえって医療費が増える」「⑥政府は民間の検査機関が参入しやすくなる支援策を講じてほしい」「⑦最短2~3時間で終わるLAMP法も導入すべきだ」「⑧抗原検査や抗体検査は学会で診断の評価が十分に定まっていないため、明確な症状がある人らに対象を限るのが望ましい」と述べておられる。

 このうち、④⑤はやはりそうだったかと思われ、⑥⑦はそのとおりだが、⑧は妊婦・医療従事者・教員・その他の必要な人には行うべきだ。そうして検査数を重ねるうちに、特徴がわかり評価が確定するものだ。

 また、*3-3のように、「37.5度以上の発熱が4日以上続く」などとした他に類を見ない受診目安を作り、小さくケチってPCR検査が遅れた結果、重症化したり死亡したりした人が出て大きな損害になったことについては、その妥当性について十分な検証が必要である。

 従って、*3-4のように、厚労省が再編統合の必要性を打ち出した全国の公立・公的病院については、病気の基本である感染症を考慮するのは当然のことであるため、感染症病床の有無を考慮しないような人が医療再編や医療制度について語ること自体が間違いなのである。

 なお、*3-5のように、新型コロナ対策でコストがかさんだり、一般患者が感染を恐れて受診を控えたりして病院経営が揺らいでおり、医療従事者へのボーナスなどの一時金をカットせざるを得ない病院や施設が相次いでいるそうだ。つまり、感染拡大前から病院にぎりぎりの経営を強いて経営を脆弱にし、すでにあった医療制度という重要なインフラを壊しかけていたのが、厚労省・財務省の病院いじりであり、その結果、国民に重大な損失を蒙らせているのである。

(4)新型コロナの経済対策
1)新型コロナを利用した無駄遣い
 加藤厚労大臣は、5月22日、*4-1のように、新型コロナ関連の解雇や雇い止めが5月21日時点で10,835人に上り、雇用情勢が日を追うごとに悪化していることを明らかにした。しかし、業績が悪化した企業が従業員を休ませた場合に支給される筈の雇用調整助成金も、なかなか振り込まれず困っている事業者が多いそうだ。

 持続化給付金も、民間委託して目的外の経費を多く使った上に守秘義務も危うい方法を取るよりも、税務署か地方自治体に一括委託すれば、税の支払いは普段から自動振替にしている人が多いため、預金口座の問題が生じず、還付金や給付金の支払いにも慣れている。そのため、退職者を臨時雇用して仕事をこなせば、正確で早く、年金も節約できるだろう。

 なお、*4-2の観光割引予算1兆6,794億円とその約2割を占める外部委託の事務費3,000億円も無駄が多すぎる。そのため、PCR検査・抗体検査・治療薬・ワクチンなどを充実して早く正常な状態に戻すことが重要なのだ。

2)政府による布マスクの全戸配布
 安倍首相が全戸配布された布マスクは、6月になってうちにも届いた。しかし、*4-3のように、「質か量か」という選択をさせられ、検品もしていなかったため、質の悪すぎるものが散見されたようだ。

 私は、マスクと言えば、使い捨ての不織布マスクしか知らない世代が、布マスクでは防御できないなどと言っていた中で、10枚重ねのガーゼマスクは、私の子どもの頃には標準的だったし、洗って繰り返し使える製品でもあるため、親近感を感じた。また、その後、よい布マスクが出てくるきっかけにもなったが、支出金額は多いのに品質が悪すぎたのはよくない。

 しかし、この布マスクを作るにあたっては、「①生地は中国・ベトナム・スリランカなどのアジア各国で探して集めた」「②タイとインドネシアで生地を加工した」「③縫製は中国の加工業者に依頼した」「④検品も中国」「⑤興和の国内検品は1ミリ程度の縫い目のずれすら不良品として取り除くもので、それでは期日までに調達できない恐れがあるので政府側が断った」「⑥介護施設など向けの布マスク21.5億円分の契約書には不具合が見つかっても興和の責任を追及しない条項が入った」「⑦配布計画を担う政府のマスクチーム担当者は、緊急を要する発注だったのでこのような契約を結んだ」と書かれている。

 このうち、①②③④については、マスク一つを作るのに、生地も加工も検品も外国で行い、それも運賃をかけて数か国を渡り歩いている点で無駄が多い。この頃、日本国内では休業や自粛で人が余っていた筈なのに、国民の税金が海外で使われたことは情けない。また、⑤のような縫い目のずれはどうでもよいが、マスクは徹底的に清潔に作られたか否かが最も重要なのに、そこが危うい。さらに、⑥⑦のように、緊急を要するから不具合が見つかっても興和の責任を追及しないという契約は、一見優しそうだが、国民を愚弄している。そのため、このような国になっては、日本製は終わりだと思う。

(5)新型コロナだけが原因ではない介護崩壊
 特別養護老人ホーム・老人保健施設・有料老人ホーム・グループホームなど入所系の高齢者施設で、*5のように、4月末までに利用者380人余り、職員170人の合計550人余りが感染し、このうち約10%の60人が死亡したそうだ。欧米では死者の多くを高齢者施設の入所者が占めており、専門家は「日本でも感染者や死者がさらに増えていくおそれがある」と指摘しているとのことである。

 富山市の老人保健施設の例では、介助が必要だったり認知機能が衰えていたりする入所者が多く、深刻な人手不足で最低限の食事や水分をとらせるだけで着替えをしたり体を拭いたりすることが殆どなく、入所者の間で発熱などの症状が相次いだ後も適切な対応を取らず、多くの入所者が相部屋を利用するなど感染が広がりやすい構造だったそうだ。個室ですらない高齢者施設は設備が悪くてプライバシーにも欠けるため、高齢者施設を全室個室にし、身体の清潔を保ち、栄養をとれる食事を出すくらいの福祉は、憲法第25条に基づいて行うべきである。

(6)(じわじわ続く)年金崩壊
     
                      2020.5.21朝日新聞 2019.12.25毎日新聞

(図の説明:現在の年金制度は、左図のようになっている。これについて、高齢化社会と健康寿命の延びを踏まえて、中央及び右図のように、年金改革が行われた)

 年金改革関連法が、*6のように成立したが、その主な内容は「①非正規雇用労働者への厚生年金の適用」で、「②現在は週20時間以上30時間未満働く労働者は従業員数501人以上の企業のみで厚生年金への加入が義務づけられているが、2022年10月からは101人以上、2024年10月からは51人以上に改める」というものだ。

 ①②により、新たに約65万人が厚生年金に加入すると見込まれるが、「小規模企業で働く労働者は老後の生活保障がなくてもよい」ということになる理由は、年金保険料支払者の増加のみを目的にして厚生年金への加入要件を決めているからだ。これは、国民の立場から社会保障の必要性を定めている日本国憲法第25条の「1項 すべて国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」「2項 国は,すべての生活部面について,社会福祉,社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」に反する。従って、憲法は変更する前に守るべきだ。

 また、「③年金制度は、少子高齢化の進行に合わせて給付を抑える仕組みで収支を均衡させることになっている」「④今は物価などに連動して給付が伸びるのを抑えるやり方のため、デフレが続くとこの機能が働かない」「⑤しわ寄せを受けるのは、将来年金を受け取る世代だ」「⑥全ての世代で痛みを分かち合いながら、どのような経済環境になっても年金制度が揺るがないようにするには、この仕組みの見直しが避けられない」「⑦国民年金の加入期間を40年から45年に延長すると、基礎年金の底上げ効果が大きいという試算も示された」「⑧基礎年金の半分を賄う国庫負担分の財源確保の議論が進まない」については、年金資産管理で失敗した省庁の説明を鵜呑みにして書いているだけであり、メディアとしてレベルが低い。

 具体的には、③は途中から賦課課税方式に変更した政策の失敗によるもので、年金保険料を支払ったのに受給する段階になって反故にされる世代が出ていることこそ年金崩壊である。また、④によって実質年金が減らされ、これまで日本を支えてきた高齢者が生活できなくなる事態を生んでおり、これこそ憲法25条違反だ。⑤⑧については、現役世代への(買収すれすれの)膨大な補助金や無駄遣いをやめて自ら稼がせることを考えるべきで、日本で実質GDPが増えないのは、⑥のような「痛みの分かち合い」ばかりを主張する価値観によるところが大きいのだ。なお、⑦はよいことだが、定年延長や定年廃止とセットでなければ議論できない。

(7)日本における経済分析の問題点


(図の説明:左図のように、2000年に導入された介護はニーズの高いサービスだったため、2020年には12兆円市場に伸びたが、政府は供給を抑制し続けている。また、中央の図は、「年代別1人当たり所得は、70歳以上で20代・30代より高く、高齢者は金持ちだ」という主張に資するものだが、年金だけで年間192万円/人の所得のある高齢者は滅多にいないため、このグラフの下になった数字の出所が重要だ。また、保育サービス不足は1970年代から言われているが、今でも充実しておらず、右図のように、教育費の高騰とあいまって少子化の原因となっている)

 豊かな高齢化社会で共働きが主流になった日本では、医療・介護・保育・家事支援サービスやその関連製品が必要不可欠で付加価値も高い。しかし、政府(厚労省・財務省)は一貫してこれを抑え、従来型の加工貿易(特にガソリン車の輸出)に固執した(経産省)。そのため、日本は経済成長率も出生率も上がらなかったが、それでもこういう政策を維持してきた。何故か?

1)経済分析と呼ぶに値しない“経済分析”
 内閣府が、*7-1のように、2020年5月18日に発表した2020年1~3月期の国内総生産(GDP、季節調整値)は、物価変動の影響を除いた実質成長率は前期比0.9%減、このペースが1年続くと仮定した年率換算は3.4%減だったそうで、これには2019年10月からの消費税増税・新型コロナに対応した外出自粛による個人消費の低迷・訪日外国人客の減少等の影響がある。

 しかし、現在の日本は、安い賃金を活かして国内で製造し輸出して、国民は貧しい生活を耐え忍ぶ人件費の安い開発途上国を卒業した。そして、国内の個人消費がGDPの6割近くを占め、世界に先駆けて高齢化して人口に占める65歳以上の高齢者割合が30%を超える国なのである。そのため、実質年金額を減らし、消費税増税を行って高齢化社会で必要とされる財・サービスへの消費を抑えたのは、国民の福利を削ったと同時に、高齢化社会で求められる財・サービスの開発にもマイナスになったのである。

 この現状を直視せずに、100年1日の如く、従来型の自動車輸出や住宅投資に依存しようとし、原油や天然ガスの輸入を景気のバロメーターにしていることが経済分析を意味の薄いものにし、とるべき政策を誤らせている。こうなる理由は、日本の経済学者が統計学(数学の中の微分・積分を使う)・社会学(実地調査をする)・人間行動学(行動を決める要素を調べる)に弱く、欧米で作られた公式を丸暗記しているだけで現在のミクロの実態を反映した新しいマクロ経済学の公式を作ることができず、現在の日本及び世界の現実に合った経済分析ができないため、「従来どおり」を繰り返して誤った政策に導くからである。

 そのため、このまま進めば、新型コロナで外食や宿泊に関連した消費が落ち込んだのは一時的であるものの、長期的にも日本経済は下降するだろう。

2)政府が進めるインフレ政策
 *7-2には、「①生鮮食品を除く全国消費者物価指数は、前年同月より0.2%下がり101.6だった」「②新型コロナの感染拡大による原油価格の急落や個人消費の低迷が押し下げ要因となった」「③市場では指数が前年実績に比べマイナス圏で推移するとの見方が多い」「④物価が持続的に下がるデフレに再び陥る懸念が高まった」「⑤品薄が続いたマスクは5.4%上昇した」「⑥増税の影響で外食が2.7%上がった」「⑦外出自粛による需要の高まりを背景に生鮮野菜は11.2%上がり、キャベツは48.2%上昇した」「⑧損害保険各社が値上げした火災・地震保険料は9.3%上昇した」「⑨増税に伴う無償化で私立の幼稚園保育料は94.0%下がった」などが記載されている。

 この記事は、インフレがよいことでデフレが悪いことであるかのような論調で書かれているが、本来の中央銀行の仕事は、貨幣価値を安定させて国民の財産を守ることであり、意図的にインフレを起こして国民の財産を目減りさせることではない。

 さらに、物価は、⑤⑦⑧のように需要が多ければ上がり、①②③のように消費者の財力やニーズの低下があれば下がるという現象であるため、④のように、デフレだから金融緩和して物価を上げようとすると、国民の財力がますます低下して節約を強いられるので、やはり物価は上がらない。そして、こうした国では、企業の投資も起こりにくい。なお、需要が増えないのに原油価格の上昇などのコスト要因で物価が上がるのをスタグフレーションと呼び、悪いインフレである。また、⑥⑨のように、政府の政策によって物価が著しく変動することもあるわけだ。

3)“新自由主義”は悪いとする歪んだ論理
 個人の諸自由を尊重して封建的共同体の束縛から解放しようとする価値観に反対する人は現在の日本にはいないと思うが、その理由は、*7-4のように、自由を至上の価値とする近代西欧社会で育まれた自由主義が、現在では日本国憲法の中で「人が生まれながらに持っている人権」「人間がかけがえのない個人として尊重され、平等に扱われ、自らの意思に従って自由に生きるために必要不可欠な権利」として明記されているからだ。それには、私も120%賛成である。

 日本国憲法第12条は「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ」と明記し、具体的には「精神的自由権:思想・良心の自由(19条)、信教の自由(20条1項前段)、集会・結社、表現の自由(21条)、学問の自由(23条)」「経済的自由権:居住・移転、職業選択の自由(22条)、財産権の不可侵(29条)」「身体的自由権:奴隷的拘束や苦役からの自由(18条)、法定手続の保障(31条)、住居の不可侵(35条) 被疑者・被告人の権利保障(33条、36~39条)」等の条文がある。

 これに対し、*7-5は、新自由主義とは20世紀の小さな政府論のことで、「①政府の規制を緩和・撤廃して民間の自由な活力に任せ成長を促そうとする経済政策」「②緊縮財政や外資導入、国営企業の民営化、リストラのほか、公共料金の値上げや補助金カットなどを進めるため、貧困層の生活を直撃し国民の反発が強い」「③アダム・スミスは、経済は個人や企業の自由に任せることによって繁栄すると主張し、政府の役割を治安維持や防衛などに限定する必要性を説いた」「④20世紀に大恐慌や戦時動員体制の経験を経て、政府が完全雇用を目指して需要を管理するケインズ主義政策が一般的となった」「⑤1980年代に入って政府における財政赤字の深刻な累積、官僚主義的な非能率が大きな問題となり、小さな政府への改革が広まった」「⑥日本も80年代の第2次臨時行政調査会による行政改革以来、新自由主義的な政策転換が進められてきた」「⑦日本では公共事業や規制に関して既得権を持つ官僚組織、利益団体、族議員が、小さな政府の徹底に反対している」「⑧小泉政権は新自由主義改革を推進し、郵政民営化・社会保障費の抑制などが遺産となっている」としている。

 しかし、1995年前後以降は私が関与しているので知っているのだが、このうち①は、現場を知らない省庁が自らの権力を維持するために細かい規制を作って意地悪く運用すれば、民間も新しいことができなくなり経済発展を阻害するため、重要なことなのだ。また、国が破綻しないためには、膨大な無駄遣いを排除する必要があり、②の緊縮財政・外資導入・国営企業の民営化・適切な補助金カットなどは進めたが、そのために必要なリストラならともかく、公共料金の値上げや本当に必要なセーフティーネットの削減を意図したことはない。まして夜警国家になるなど前近代的で、これらは将来大きな政府に戻したい官僚が企んだことだろう。

 また、③のアダム・スミスが言う「神の見えざる手」とは、「市場における需要と供給が生産調整をすすめ、市場の自由を徹底することが経済発展を進める」と説いているもので、これは共産主義・社会主義経済が失敗し、市場主義に移行してから復活したことで歴史的に検証済だ。ただし、市場の失敗もあるため、補足的に④のケインズ主義政策が行われたのであり、ケインズ主義政策ばかりでは国家財政が破綻するのは時間の問題で、社会保障もできなくなる。

 日本では、1980年代に、⑥の第2次臨時行政調査会による行政改革が行われ、⑦のように、無駄遣いが多く効率の悪い官僚的性格を廃し始め、小泉政権は⑧のように郵政民営化を進めた。しかし、私が自民党内でいくら反対しても社会保障費抑制を進めたのは、財務省と厚労省である。

 つまり、私は、ここでいう“新自由主義改革”を推進してきたので知っているのだが、社会保障はもともとは保険で行われており、管理の杜撰・給付の不合理以外は主張したことがない。また、政府の役割を治安維持や防衛に限定することは、歴史的教訓を踏まえない愚行だと思う。

 しかし、*7-3のように、新自由主義という言葉が、ニュースや論説で批判のためによく登場するのは事実で、その内容については「国民の多数が実際に怒り、抗議しているのは増税や金融機関救済という大きな政府路線なのに、一部のメディアや知識人がそれを新自由主義のせいにしたがっている」「物事を正しく理解し、議論するには明確な言葉を使うことが必要不可欠である」「新自由主義などという定義と正反対の使用がまかり通る言葉を使っていては、経済問題の本質について考えることはできない」というのは、全くそのとおりだと思う。

 なお、マクロン政権が環境政策の一環としてガソリンと軽油を増税したように、環境問題を税制で解決することは大きな政府とは関係なく、私は“アリ”だと考えている。何故なら、政府が放っておけば外部不経済として環境を汚した者が得する場合に、政府が介入して無料のものを有料にし、望ましい方向への切り替えを促すことができるからだ。しかし、これが適切に行われるためには、政府の見識の高さが必要なのである。

(8)資源の使い方と財源
1)国有林の民間による伐採
 2019年5月16日に、全国の国有林で最長50年間、大規模に伐採・販売する権利を民間業者に与える国有林野管理経営法改正案が、*8-1のように、衆院農林水産委員会で可決され、6月5日に参議院も通過した。

 しかし、国有林・民有林の両方とも先祖が大切に育てた木材資源であり、特に全国の森林の3割を占める国有林は国民の財産だ。そのため、「低迷する林業の成長を促す」という建前の下、特定の民間に大きく開放することは、対価として徴収する権利設定料や樹木料の安さから、せっかくある国民の財産を叩き売りすることとなり、「森林を守る」「資源を活かす」などの発想がないことも明らかである。

 さらに、伐採後の植え直し(再造林)は別の入札で委託して国民の血税を使って行うとのことであり、金を使うことしか考えない政治と行政では、国の財政破綻による緊急事態で、イタリア・ギリシャのように社会保障が削減されるのは時間の問題となるわけだ。

2)放牧の中止
 山の多い日本では、山を賢く使って放牧すれば、家畜を畜舎に閉じ込め、外国から餌のトウモロコシを輸入して、脂肪の多すぎる肉を作る必要はない上、食料自給率も上がる。

 しかし、*8-2のように、農水省は、豚や牛などの放牧制限をしようとしており、何をしているのかと思う。豚熱でもワクチン接種すれば放牧して問題ない上、それ以外の地域まで畜舎の整備を義務化する科学的根拠もないだろう。

 オーストラリア・アメリカ・カナダ・ヨーロッパでは当然の如く放牧している。そして、その方が家畜のストレスが少なく、家畜の免疫力が向上して病気にも強いため、薬の使用減少や耕作放棄地の解消、飼養コストの低減などに繋がるのである(まさか、これが困るのではないでしょうね)。そのため、雨風に備えて一定の畜舎はあった方がよいものの、舎外飼養の中止要請は非科学的だ。つまり、農水省は科学的根拠もなく、農家への影響調査もしていないようなことを、改正案に盛り込むべきではない。

3)地方創成
 新型コロナ以前から、*8-3のように、東京圏在住者は地方暮らしに関心があると答えており、コロナ後は、さらに都市住民の田園回帰志向が強くなっている。

 「やりたい仕事」は、「農業・林業(15.4%)」が最多で、「宿泊・飲食(14.9%)」「サービス業(13.3%)」「医療・福祉(12.5%)」が続き、若い世代ほど移住の意向が強い傾向も分かったそうだ。これらは、今後のニーズを考えれば自然であるとともに、東京一極集中を解消するためにも有効である。

 しかし、地方圏暮らしへのネガティブイメージに「公共交通の利便性が悪い(55.5%)」「収入の減少(50.2%)」、「日常生活の利便性が悪い(41.3%)」などが挙がっているのも当たっており、農林漁業等々で稼げなければ夢破れて二度と田園回帰志向は起こらないだろう。さらに、教育・医療・公共交通の充実による生活の利便性は、人口が増えればある程度はよくなるものの、意識的な充実が不可欠だ。

4)公立病院などの基幹病院を中心とした医療圏の構築
 厚労省は、*8-4のように、新型コロナで入院病床が逼迫したのを受け、感染症対応の視点が欠如していた約440の公立・公的病院の再編・統合について都道府県から検討結果報告を受ける期限を当初の9月から先延ばしするそうだ。

 しかし、地域で重複している診療機能を役割分担して効率化したり、社会的入院をなくして高齢者施設を充実しながら、医療提供体制の無駄をなくしたりすることは重要だが、団塊世代が75歳以上となり医療費が急増するから、2018年に全国で124万6千床あった病床を119万1千床まで減らすというような単純な医療費・病床数削減を目的とした病院統合なら1人当たりの福祉が小さくなるだけであるため賛成しない。

 また、近隣に競合病院があっても、セカンド・オピニオンを得るために重複して受診することもあるため、新型コロナの検査基準のように「非科学的でも、ともかく病院には行かないで欲しい」などという価値観を持って医療体制の再構築をしようとしている厚労省は、命を託せる省庁ではないことが明らかになったのだ。

 さらに、少子高齢化で、急病・大けがで入院する「高度急性期」「急性期」病床の必要性が低くなるというのもおかしく、高齢になると多発する脳血管疾患や心疾患は「高度急性期」「急性期」そのものであり、そこで命が助からなければリハビリといった「回復期」病床に行くこともないため、結論ありきの非科学的な議論はやめるべきだ。

 最後に、病院は重要なインフラであり、病院がなくなれば、都会から移住するどころか、現在住んでいる人もその地域に住めなくなる。そのため、厚労省が狭くて短い視野で考えた無茶な病院再編や効率化を実現させないために、公立病院などの基幹病院を中心とした医療圏の構築に関わる意思決定は地域が行うべきだ。そして、その財源は、資源を安くたたき売ったり投げ捨てたりせずに、有効に使うことによって出る。

(9)研究と特許の意義
 経済学の公式が「与件」として「一定で変わらない」と仮定している要素に、「技術進歩」がある。1953年にワトソン・クリックがDNAのらせん構造を発見して以来、目覚ましい進歩を遂げている生命科学の進歩も無視されており、今回の新型コロナ騒動に際して100年前のスペイン風邪と同じ公式を使っていたというのは、聞いて呆れた。

 そして、日本では、政府もメディアも、生命科学者が瞬く間にウイルスの遺伝情報を読み、その弱点を突いたワクチンや治療薬を作れることを無視していたため、人材はいるのに技術開発で先んじて特許権を得ることを放棄させた。また、国内外の経済封鎖を続けることによって経済に大きなダメージを与え、それをカバーするために血税から多大な支出をしている。どうして、こういうことが起こるのかといえば、そういうことの全体を瞬時に考慮できる専門家をリーダーにしていないからである。

1)新型コロナのワクチン・治療薬に対する他国と日本の対応
 米国は、*9-2のように、米国民の生命を守るため治療薬やワクチンの開発・生産を支援し、自国での供給・備蓄を目的に1千億円超を投じて欧米医薬企業の実用化を後押ししている。中国や欧州も国を挙げて開発を強化している。

 日本の政府及びメディアは、ワクチンや治療薬の開発と実用化に消極的で、「ワクチンができるには数年かかる」「国民は我慢して自粛せよ」「安全性が・・」と繰り返した。そして、「ワクチンができたら国際協調で、分けてね」という態度だが、そんな先進国に優先的に分けてやる国などない。このようにして、世界は「Japan Passing」になりつつある。

2)癌の免疫薬に対する日本の情けない態度
 日本人の死因トップになった癌の治療は、今でも外科的手術・放射線治療・化学療法が標準療法と定められているが、*9-1-2のように、本庶京都大学特別教授が最初に癌免疫治療薬「オプジーボ」を開発・実用化しようとした時は、日本では製薬大手も消極的で、米国のブリストル・マイヤーズが先に実用化に手を貸してくれたと聞いている。

 そして、日本で癌免疫治療薬「オプジーボ」が有名になったのは、本庶教授がノーベル賞を受賞した後だった。さらに、オプジーボはじめ免疫薬は革命的な薬で副作用が小さく、さまざまな癌に効き始めているのに、日本では厚労省が頑なに癌の標準治療を「外科手術」「抗癌剤による化学療法」「放射線療法」として免疫療法を厳しく制限している。これによって、日本国民は免疫薬による治療を著しく受けにくいと同時に、免疫薬の開発者も年間数百億円にのぼるロイヤルティーを逸した。厚労省のこの非科学的態度は、国民の命よりも既に抗癌剤を売っている製薬大手の利益を重視するものではないのか?

 このような環境の中では、免疫療法を開発してきた研究者も厳しい環境に耐えなければならなかったし、開発後もロイヤルティーで被害を受けている。つまり、リスクをとったのは製薬会社だけでなく、一生をかけたリスクをとって先頭に立っている研究者もであるため、本庶教授が「オプジーボ」の特許収入として小野薬品工業に約226億円の支払いを求めて大阪地裁に提訴された気持ちはよくわかる。この場合、組織を重視して個人の貢献を軽視する日本の風土もまた、日本の研究開発人材を生きにくくしているのである。

 なお、*9-3のように、日本農業新聞が2020年6月8日の論説で、「コロナ危機と文明、生命産業へかじを切れ」と題して記事を書いているのは、生命産業に従事する多くの労働者が関心を持って読むのでよいと思うが、ここでも「消費をあおり、資源を乱費する欲望の新自由主義」と記載しているのは、新自由主義の定義を誤っている。もう少し勉強してから記事を書かないと、国民を誤った方向に誘導することになるが、日本農業新聞は自由主義から封建制・官僚制に戻したいのだろうか?

3)自動運転車及びサポカー開発の遅れ
  

(図の説明:左図のように、近年は交通事故による死者数が減少傾向で、よいことだ。右図の年齢階級別の「死亡事故件数/免許人口10万人」では、確かに75歳以上で死亡事故が多いように見えるが、①85歳~100歳をひとくくりにしているため、この階級は他の3倍の年齢層が入っている ②高齢者は地方に多く都市部の生産年齢人口より運転時間が長いため、運転免許を持つ人を分母にするのではなく運転時間を分母にしなければならないのではないか と思う)

 近年、誰か一人が重大な事故を起こしたとして、そのグループに属する人全員に運転免許を返納させることが流行しているが、特定のグループの人に運転免許を持たせないことは、外出の機会や就職の機会を奪うため人権侵害になる。

 東京都池袋で高齢運転者の運転する車が暴走したケースでは、松永真菜さんと長女の莉子ちゃんが死亡した事故を受けて、*9-4-1のように、夫の拓也さんが事故5日後に「運転に不安がある人は運転しないでほしい」と訴え、その結果、*9-4-2のように、家族などから年齢を理由に運転しないことを強制される高齢者が増えた。しかし、これは年齢による差別であり、自分の家族が身体の不自由な高齢者の運転で交通事故に遭ったからといって、全高齢者の運転を禁止する資格にはならない。

 高齢者の運転では他にも事故が起こっているが、その割合が若者より高いかといえばそうでもないし、コロナ自粛で誰もがわかったように、外出できないことは高齢者にとってもストレスであり、不便にしたり身体を悪くさせたりする。そのため、私は、高齢者のみに限定免許創設するよりも、さっさと安全運転サポートを進歩させ、それを標準装備にすればよかったと思う。

 なお、自動運転車や安全運転サポカーについても、技術開発の遅さ・国民への我慢の強制・国の対応の遅さは、新型コロナのワクチン・治療薬や癌の免疫療法と同じで、これは、国民の福利を押し下げながら、今後は世界でニーズが見込まれる日本の技術を収益に結び付けることを不可能にしているので賢くない。

4)EV活用の遅れ
 EVもまた、日産自動車が世界で初めて市場投入したにもかかわらず、*9-5-1のように、2020年6月3日現在、日本は重要市場になっておらず、重要市場になっているのは中国で、日本電産は中国東北部の遼寧省大連市で約1千億円を投じて建設中の工場内に駆動モーターの開発拠点を新設し、成長の柱と位置づけるEVの開発を2021年には稼働させるそうだ。

 独コンチネンタルも2021年に天津市に開発センターを設置する予定で、独ボッシュもまた現地企業と合弁を組んでEV用駆動モーターの供給を目指すそうなので、環境とエネルギーの両面からEVが主役になった時には中国が自動車先進国になるだろう。

 また、日本電産は、5月27日、*9-5-2のように、同社のEV用駆動モーターシステム「E-Axle」が中国の吉利汽車の新型EVに採用されたことを喜んで発表しているが、当然だ。

・・参考資料・・
<医療崩壊を加速させた消費税制>
*1-1:https://gemmed.ghc-j.com/?p=27985 (Gem Med 2019.8.15) 病院の消費税問題、課税化転換などの抜本的解決を2020年度に行うべき―日病
 病院の消費税問題について、診療報酬の上乗せでは不公平等を解消することはできない。課税化転換などの抜本的措置を2020年度の税制改正で行うべきである。日本病院会は8月7日に、こうした内容を盛り込んだ2020年度税制改正要望を根本匠厚生労働大臣に宛てて提出しました。
●診療報酬プラス改定では、個別病院の消費税負担の不公平等を解消できない
 日病の税制改正要望は次の8項目(国税5項目、地方税2項目、災害医療拠点としての役割と税制1項目)で、このうち▼消費税関連(国税の(1))▼診療報酬の事業税非課税(地方税の(1))▼固定資産関連(地方税の(2))の3点を「優先」的に措置すべき項目として強調しています。
【国税】
 (1)控除対象外消費税について、個別病院ごとの解消状況に不公平や不足などが
   生じないよう、税制上の措置を含めた抜本的措置を講じる
 (2)医療法人の出資評価で「類似業種比準方式」を採用する場合の参照株価は、
   「医療福祉」と「その他の産業」のいずれか低いほうとする
 (3)医療機関の設備投資を促進するための税制を拡充する
 (4)資産に係る控除対象外消費税を「発生時の損金」とすることを認める
 (5)公的運営が担保された医療法人に対する寄附税制を整備する
【地方税】
 (1)医療機関における社会保障診療報酬に係る事業税非課税措置を存続する
 (2)病院運営に直接・間接に必要な固定資産について、▼固定資産税▼都市計画税
   ▼不動産取得税▼登録免許税―を非課税あるいは減税とする
【ほか】
 激甚災害に相当するような地震・台風・噴火などの大規模災害が発生した場合に、地域医療の重要な拠点としての役割を果たす医療機関・介護施設に関しては、その機能復旧を支援するための税制上の特段の配慮を行う。
 要望内容を少し詳しく見てみましょう。まず国税(1)の「消費税」については、現在、保険診療(言わば診療報酬)については「非課税」となっています。したがって、医療機関等が物品購入等の際に支払った消費税は、患者・保険者負担に転嫁することはできず、医療機関等が最終負担しています(いわゆる控除対象外消費税)。この医療機関等負担を補填するために、特別の診療報酬プラス改定(消費税対応改定)が行われていますが、当然、「医療機関等ごとに診療報酬の算定内容は異なる」ことから、どうしても補填の過不足が生じます。2019年10月に予定される消費税対応改定では、病院の種類別に補填を行うなどの「精緻な対応」が図られますが、「病院の種類による不公平」是正にとどまり、個別病院の補填過不足を完全に解消することはできません。このため、昨年(2018年)夏には四病院団体協議会(日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会)と三師会(日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会)とが合同で、▼消費税非課税・消費税対応改定による補填は維持する▼個別の医療機関ごとに、補填の過不足に対応する(不足の場合には還付)―という仕組みの創設を要望しました(関連記事はこちらとこちら)。「消費税非課税制度の中で個別医療機関等への還付を認めよ」との要望ですが、与党の税制調査会は「税理論上、非課税制度を維持したまま税の還付を行うことはできない」とし、事実上のゼロ回答を突きつけました(関連記事はこちら)。日本医師会は、このゼロ回答に対し、なぜか「消費税対応改定の精緻化により、消費税問題は解消した」としています。しかし病院では▼物品購入量が多く(特に急性期病院)、補填不足が生じやすい▼クリニックと異なり、いわゆる四段階制(社会保険診療報酬の所得計算の特例措置で、概算経費率を診療報酬収入が2500万円以下の医療機関では72%、2500万円超3000万円以下では70%、3000万円超4000万円以下では62%、4000万円超5000万円以下では57%の4段階とする)などの優遇措置もない―という事情があることから、四病院団体協議会では「補填の解消に向けた更なる対応が必要」と判断(関連記事はこちら)。今般、日病では、この四病協判断に則り、さらに「診療報酬での対応は、最終的に消費税負担を患者・保険者に求めることとイコールである」点も考慮し、「病院」について、消費税問題の抜本的措置(課税化転換や、保険診療設備・材料の仕入れを非課税とするなど)を講じるべきと強く要望しているのです。また国税(3)では、地域医療構想の実現や地域包括ケアシステムの構築に向けた設備投資を国全体で促す必要があるとし、具体的に▼病院用建物・医療機器・医療情報システム等に関する法定耐用年数の短縮▼地域医療構想や医療計画に沿った病院の機能分化を行うための設備投資に対する税制負担軽減制度の充実―などを行うよう求めています。一方、国税(5)では、社会医療法人や特定医療法人などの「公的運営が担保された医療法人」について、「寄附」を▼所得税法上の寄付金控除の対象▼法人税法上の損金―とすべきと要望。あわせて、公的医療法人へ不動産を贈与する場合、「贈与税」という障害をなくすため、租税特別措置法第40条の「譲渡所得税非課税申請」を当然に受けられるようにすべきとも求めています。また優先項目にも盛り込まれた地方税(2)では、一般の医療法人においても、国公立・公的病院や社会医療法人と同様に、病院運営に直接関係する不動産について「固定資産税・都市計画税を非課税」とすることを提案。あわせて看護職員等の職員寮などの病院経営に間接的に必要な不動産について、固定資産税などの非課税・減税措置を設け、病院経営の安定等を図るべきと切望しています。

*1-2:https://digital.asahi.com/articles/ASM8L4G3QM8LULBJ003.html (朝日新聞 2019年8月19日) 消費税分969億円、国立大病院が負担 経営を圧迫
 全国の国立大病院42カ所で、高度な医療機器やベッドなどの購入時に支払った消費税を診療費に十分転嫁できず、2014~18年の5年間に計969億円を病院側が負担していることがわかった。診療報酬制度の仕組みによるもので、病院の経営を圧迫しているという。診察に使う機器やベッド、ガーゼなどの消耗品は、病院が購入時に消費税も支払う。一方、公的保険の医療は非課税のため、患者が支払う初診料や再診料などの診療報酬点数に消費税の相当分も含めることで、病院側に補塡(ほてん)する仕組みになっている。だが、初診料や再診料はすべての医療機関でほぼ同額で、高額化が進む手術ロボットなどの先進機器を購入することが多い大学病院などでは消費税分の「持ち出し」が大きいという。全国の国立大病院でつくる「国立大学病院長会議」の試算によると、1病院あたりの補塡不足は平均で年約1・3億円(17年度)。税率が8%になった14~18年の5年間で計969億円に上った。私大の付属病院などでも同様の傾向と見られるという。医療の進歩にともない、高精度な放射線装置、全身のがんなどを一度に調べることができるCT、内視鏡手術支援ロボットなど、1台数億円する医療機器が登場した側面もある。ある大学病院の医師は「医療機器の更新ができなくなると、患者さんにしわ寄せがいく」と嘆く。厚生労働省は「おおむね補塡されている」としてきたが、16年度のデータを調べたところ、補塡率は病院全体で85%にとどまり、国立大病院を含む68カ所の特定機能病院では平均62%だった。同省は、税率が10%になる際は、病院の規模を考慮して、入院基本料などの点数を上げることで対応することにしている。同会議の山本修一・常置委員長は「厚労省に検証を要請するとともに、補塡が十分にされるか注視していきたい」と話している。
●増税分は節約で対応
 病院側はコスト削減の工夫を重ねている。米国製の手術支援ロボット「ダヴィンチ」は、難しい手術にも対応できるが、価格は約3億円。がん治療用の高精度な放射線装置は1台3億~5億円など、このような機器を導入すると、消費税分だけで数千万円かかる。国立大学病院長会議の小西竹生・事務局長は「こうした高度な医療を提供する大学病院ほど赤字幅が大きくなる」と話す。コスト削減の一環として東大病院(東京都文京区)など39カ所が取り組んでいるのが、入院用ベッドのリサイクルだ。病院の地下の一室には、予備のベッドや乳幼児用のベッドなど、数多くのベッドが保管されている。その片隅にはリモコンや手すりなど、一部が故障したものもある。ベッドは1台数十万円するため、更新が滞っている。同会議が大学病院にある2万8千床を調べたところ、耐用年数の8年を超えて使われていたベッドは約7割にのぼった。15年以上使われていたものも3割弱あった。大学病院は平均700床以上あり、消費税の補塡(ほてん)不足などで経営は苦しく、手術や検査に使う医療機器と比べて更新は後回しにされがちだ。ただ、病院関係者は「整備が不十分だと転倒事故などにつながるおそれもある」と話す。従来は一部が壊れると廃棄していたが、部品を修理したり、まだ使える部品を専門業者がメンテナンスしたりした後、別の病院に融通する仕組みだ。新品は1台数十万円だが、部品なら数万円で済む。病院で使うガーゼや手袋などを複数の病院で共同調達する試みも始めた。カテーテルやアルコール綿など多くの製品について、現場の看護師がサンプルを比べて品質を確認。品目を絞ったり大量購入したりすることで、価格を下げてもらっている。2016年度に始め、導入前と比べて数億円の削減につながったという。東大病院の塩崎英司・事務部長は「消費税の補塡(ほてん)不足で経営が苦しい中、今後も知恵を絞って取り組みたい」と話す。

*1-3:https://www.agrinews.co.jp/p50985.html (日本農業新聞 2020年6月5日) [新型コロナ] 厚生連病院支援を 自民議連で要望相次ぐ
 自民党の議員連盟「農民の健康を創る会」(宮腰光寛会長)は4日、東京・永田町で幹事会を開き、新型コロナウイルス対策について議論した。新型コロナによる影響でJA厚生連の経営状況が厳しいことを受け、出席した議員からは、地域医療を守る厚生連の一層の経営支援を訴える声が相次いだ。JA全中やJA全厚連の役員らが出席。厚生連病院は、新型コロナの影響で予定した手術や入院の延期、一般外来診療の縮小などで医業収益が減収となっていることを全厚連が報告。医業収益が前年同期比で、半分になった病院もある。病院への財政的な支援を早急に確立することや、空床確保分の減収に対する支援拡充、医療従事者などへの危険手当の支給、医療物資や機器を国が責任を持って供給体制を整備することなどを求めた。宮腰会長は「地域医療崩壊は何としても避けなくてはならない。第2波、第3波に耐えられる医療提供体制を整えていく必要がある」とあいさつ。三ツ林裕巳衆院議員は一層の経営支援を求め「新型コロナ対策を一生懸命整えた厚生連の経営が滞ることは避けなければならない」と、訴えた。永岡桂子衆院議員は厚生連が感染者数を抑える役割を果たしてきたとし「赤字続きで倒れることはあってはならない」と支援を求めた。野村哲郎参院議員は新型コロナ患者を受け入れていない病院も経営は厳しいと見解を示し「地域医療を守るため、全ての厚生連の経営状況のチェックをするべきだ」と呼び掛けた。

<検査抑制による医療崩壊>
*2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200609&ng=DGKKZO60128210Y0A600C2MM8000 () 検証コロナ 危うい統治(1)11年前の教訓放置 、組織防衛優先、危機対応阻む
 新型コロナウイルスの猛威に世界は持てる力を総動員して立ち向かう。だが、日本の対応はもたつき、ぎこちない。バブル崩壊、リーマン危機、東日本大震災。いくつもの危機を経ても変わらなかった縦割りの論理、既得権益にしがみつく姿が今回もあらわになった。このひずみをたださなければ、日本は新たな危機に立ち向かえない。日本でコロナ対応が始まったのは1月。官邸では「しっかりやります」と繰り返した厚生労働省の動きは一貫して鈍かった。「どうしてできないんだ」。とりわけ安倍晋三首相をいらだたせたのが自ら打ち出した1日2万件の目標に一向に届かないPCR検査だった。その背景にあったのが感染症法15条に基づく「積極的疫学調査」だ。病気の特徴や感染の広がりを調べるのが疫学調査。「積極的」とは患者が病院に来るのを待たず、保健所を使い感染経路やクラスター(感染者集団)を追うとの意味がある。厚労省傘下の国立感染症研究所が今年1月17日に出した新型コロナの「積極的疫学調査実施要領」では「患者(確定例)」と「濃厚接触者」のみが検査対象とされた。検査体制への不満が広がると、2月6日に出した要領の改訂版で初めて対象者に「疑似症患者」が加わった。とはいえ「確定例となる蓋然性が高い場合には積極的疫学調査の対象としてもよい」の限定付き。その姿勢は5月29日の最新版の要領でも変わらない。厚労省が実質的に所管する各地の保健所などもこの要領に従い、濃厚接触者に検査の重点を置いた。それが大都市中心に経路不明の患者が増える一因となった。疫学調査以外にも検査を受けにくいケースがあり、目詰まりがようやく緩和され出したのは4月から。保健所ルートだけで対応しきれないと危機感を募らせた自治体が地元の医療機関などと「PCRセンター」を設置し始めてからだ。
●疫学調査を優先
 自らのルールにこだわり現実を見ない。そんな感染症対策での失敗は今回が初めてではない。2009年の新型インフルエンザ流行時も厚労省は疫学調査を優先し、PCR検査を感染地域からの帰国・入国者に集中した。いつの間にか国内で感染が広がり、神戸で渡航歴のない感染者が見つかると、関西の病院を中心に人々が殺到した。厚労省は10年にまとめた報告書で反省点を記した。「保健所の体制強化」「PCR強化」。今に至る問題の核心に迫り「死亡率が低い水準にとどまったことに満足することなく、今後の対策に役立てていくことが重要だ」とした。実際は満足するだけに終わった。変わらない行動の背景には内向きな組織の姿が浮かぶ。厚労省で対策を仕切るのは結核感染症課だ。結核やはしか、エイズなどを所管する。新たな病原体には感染研や保健所などと対応し、患者の隔離や差別・偏見といった難問に向き合う。課を支えるのは理系出身で医師資格を持つ医系技官。その仕事ぶりは政策を調整する官僚より研究者に近い。専門家集団だけに組織を守る意識が先行する。官邸で「大学病院も検査に使えば」との声が出ても、厚労省は文部科学省が絡む大学病院での検査拡充に及び腰だった。首相は周囲に「危機なんだから使えるものはなんでも使えばいいじゃないか」と語った。誰でもそう思う理屈を組織防衛優先の意識がはね返す。
●「善戦」誇る技官
 「日本の感染者や死亡者は欧米より桁違いに少ない」。技官はコロナ危機での善戦ぶりを強調するが、医療現場を混乱させたのは間違いない。「病院があふれるのが嫌でPCR検査は厳しめにやっていた」。4月10日、さいたま市保健所長がこう話し市長に注意された。この所長も厚労省技官OB。独特の論理が行動を縛る。02年の重症急性呼吸器症候群(SARS)、12年の中東呼吸器症候群(MERS)を経て、韓国や台湾は備えを厚くした。対照的に日本は足踏みを続けた。厚労省に限らない。世界から一目置かれた日本の官僚機構は右肩上がりの成長が終わり、新たな危機に見舞われるたびにその機能不全をさらけ出してきた。バブル崩壊後の金融危機では不良債権の全容を過小評価し続け、金融システムの傷口を広げた。東日本大震災後は再開が困難になった原発をエネルギー政策の中心に据え続けた。結果として火力発電に頼り、温暖化ガス削減も進まない。共通するのは失敗を認めれば自らに責任が及びかねないという組織としての強烈な防衛本能だ。前例や既存のルールにしがみつき、目の前の現実に対処しない。グローバル化とデジタル化の進展で変化のスピードが格段にあがった21世紀。20世紀型の官僚機構を引きずったままでは日本は世界から置き去りにされる。

*2-2:https://webronza.asahi.com/politics/articles/2020060700001.html?page=1 (論座 2020年6月7日) 何一つ有効な対策を打たなかった安倍首相が言う「日本モデルの力」とは?、コロナ第2波に備え必要なのは「日本モデル」の解体だ!、佐藤章 ジャーナリスト 元朝日新聞記者 五月書房新社編集委員会委員長
 未曽有のパンデミック状況を呈するコロナウイルスがこの秋から冬にも大きい第2波となって襲い来る予測が広まる中、対策を立てるべきはずの安倍内閣からは危機感がまったく伝わってこない。この原稿を書いている6月6日の首相動静は以下の通りだった。<午前8時現在、東京・富ケ谷の私邸。朝の来客なし。午前中は来客なく、私邸で過ごす。午後4時9分、私邸発。午後4時20分、官邸着。同30分から同50分まで、加藤勝信厚生労働相、菅義偉官房長官、西村康稔経済再生担当相、西村明宏、岡田直樹、杉田和博各官房副長官、北村滋国家安全保障局長、和泉洋人、長谷川栄一、今井尚哉各首相補佐官、樽見英樹新型コロナウイルス感染症対策推進室長、森健良外務審議官、鈴木康裕厚労省医務技監。午後5時10分、官邸発。午後5時27分、私邸着。《時事通信より》>土曜日だから夕方に職場に着くこともあるが、午後4時30分から始まった会議の顔ぶれから推して、政府のコロナ対策会議であることは間違いないだろう。だが、職責上これだけのメンバーを集めておいてわずか20分しか情報を交換しなかったということは、どう考えればいいのだろうか。まず、現在の仕事環境の常識を考えれば、わずか20分の会議はオンラインで済ませるべきものだ。しかし、20分という時間をよく考えてみれば、本当はメール連絡だけで済む話かもしれない。司会役が発言し、数人の事務連絡、報告があって終わりだ。対策などについて議論し合うことなどはこの短い時間では不可能だ。
●緊急事態宣言は「緊急手段」であって「対策」ではない
 「日本ならではのやり方で、わずか1か月半で、今回の流行をほぼ収束させることができました。正に、日本モデルの力を示したと思います」。安倍首相は5月25日、緊急事態宣言解除の記者会見の冒頭、こう発言した。「今回の流行をほぼ収束させること」など本当にできたのか。安倍首相のこの発言に関しては様々な疑念が湧いてくるが、最も驚くべき発言は「日本モデルの力を示した」という言葉だろう。時事通信の6月6日の世論調査では、コロナウイルスに対する安倍政権の対応について60%の人が「評価しない」と答えている。この世論調査通り、安倍政権はコロナウイルス対策については何一つ有効な対策を打ち出せなかったと言っていいだろう。もちろん、緊急事態宣言を対策と呼ぶ人はいないだろう。あらゆるレベルの経済を痛めつける緊急事態宣言は対策と呼べるようなものではなく、感染の波及を食い止める最後に残された緊急手段に過ぎない。何一つ有効な対策が打てなかった安倍首相が発言した「日本モデルの力」とは一体、どういうものなのだろうか。コロナウイルスに対して安倍政権が最初に打った「日本モデル」の対策を振り返ってみよう。
●COVID-19を指定感染症に指定した愚策
 1月28日に厚労省はCOVID-19を感染症法に基づく指定感染症に政令指定。この指定のために、感染者はたとえ無症状であっても強制入院させられることになった。厚労省はこの時、COVID-19の無症状感染者の存在を想定していなかった。無症状者や軽症者は病院以外の企業療養所などで静養隔離するという韓国が取った賢明な政策への道は、これによって閉ざされてしまった。無症状者でも入院しなければならないために早くから病院体制の崩壊が心配され、PCR検査の大幅抑制につながった。ところが、厚労省がCOVID-19を指定感染症に指定する4日前の1月24日、世界の医学界で注目されているイギリスの「ランセット」誌は、無症状の感染者の存在を報告する香港大学の研究者たちの論考を掲載していた。指定感染症担当の結核感染症課の担当者たちがこの論考をいち早く読んで対応を考えていれば、COVID-19の無症状者の存在を重視し、指定感染症には指定しなかっただろう。厚労省担当課の勉強不足と不作為が生んだひとつの国家的悲劇だ。そして、この感染症法に基づく指定感染症に政令指定したために、基本的な「日本モデルの力」が働くことになった。国立感染症研究所と保健所、地方衛生研究所が束になった「日本モデルの力」である。
●「日本モデル」への大きな思い違い
 コロナウイルス第2波の襲来を前に私が訴えたいのは、この「日本モデルの力」の解体である。恐ろしいことだが、安倍首相は本当に心から「日本モデルの力を示した」と思っているのかもしれない。しかし、これは大変な思い違いである。コロナウイルスの襲来の前に、国立感染研と保健所、地方衛生研究所の体制はほとんど歯が立たなかったのである。このままの体制で第2波の襲来を迎えれば惨憺たる結果を招くだろう。それを示すにあたって、まず5月27日の佐藤章ノート『「超過死亡グラフ改竄」疑惑に、国立感染研は誠実に答えよ!』で指摘した国立感染研公表の「超過死亡」グラフ問題の再取材結果を報告しよう。この問題は、有効なコロナウイルス対策を進める上で国際的に注目されている「超過死亡」統計のグラフが大きく変化していた疑惑で、公表している国立感染研と並んで統計を担当している厚生労働省の健康局結核感染症課が取材に応じた。まさに指定感染症を担当する課だ。この問題を簡単に復習しておくと、国立感染研のHPに5月7日に公表されていた「超過死亡」のグラフが、緊急事態宣言が解除された日の前日の5月24日、まったく違う形のグラフに変わっていたという問題だ。この変化によって、5月7日公表グラフでは2月中旬から3月終わりにかけて大きい「超過死亡」が見られたのに、5月24日公表グラフではその「超過死亡」分がそっくり消えていた。あまりに大きく変動していたために、「超過死亡」記事を紹介した私のツイートに対して、私のフォロワーの方々から「改竄されたのではないか」との声が多く寄せられたが、統計数値を直接取りまとめている国立感染研は、私の問い合わせに素っ気ない回答しか与えなかった。この国立感染研に代わって直接取材に答えたのは、感染研とともに「超過死亡」統計を担当する厚労省結核感染症課に所属する梅田浩史・感染症情報管理室長と、同室の井上大地・情報管理係長。6月2日、取材に応じた。
●厚労省結核感染症課の主張
 取材の結論をまず示しておくと、梅田、井上両氏は「超過死亡」統計グラフの作り方を懇切丁寧に説明したが、最終的に誤解を解くデータについては最後まで明らかにしなかった。梅田、井上両氏の説明を噛み砕いてシンプルに示しておこう。二つのグラフの間で大きく変化していたのは2月17日から3月29日にかけての死亡数。厚労省は東京都23特別区の保健所に対して、死亡小票を作った時点から2週間以内に死亡者や死因などを報告するように通知しているが、今年の場合、コロナウイルスへの対応に忙しく、「週によっては三つか二つの保健所からしか報告が来ない時もあった」(梅田感染症情報管理室長)という。23特別区からの報告がそろわない時には、仕方なく「報告保健所数の割合の逆数を乗じて」(国立感染研HP)いる。つまり、例えば23区のうちひとつの保健所からしか報告がなく、その報告が死亡者数5人であれば、「報告保健所数の割合」23分の1の「逆数」である1分の23に5人を乗じて、死亡数を115人と推定する、という計算法だ。これが厚労省の通知通り2週間以内に報告が出そろえば大した問題は生じないが、今回のように、1か月以上過ぎても報告がほとんど来ない事態ともなれば大変な問題となる。グラフのあまりの大きな違いに「改竄ではないか」という疑念まで生んでしまう。グラフが大きく変化していた論理はわかった。では、この厚労省結核感染症課の説明は正しいのだろうか。
●根拠の数字は頑なに示さず
 理由を述べたこの論理については、私はもちろん説明を受ける以前から知っていたが、その根拠となる数字については最後まで「公表していない」という返事しか聞けなかった。何月何日にどの保健所が何人の死亡者数を報告という数字をすべて明らかにすれば、先ほど紹介した計算をしてすぐに結果が出るのだが、なぜか明らかにされなかった。「新型コロナに対する超過死亡の数字が重要だということは我々も理解しています」。こう語った梅田感染症情報管理室長は、COVID-19対策が注目されている現在、第2波の襲来が予想されている今年秋までにCOVID-19対策専用の「超過死亡」統計を作ることを私に明言した。しかし、1か月以上経っても、東京都23特別区内にある保健所から死亡者数の報告さえ上がってこない現状で、そのようなCOVID-19対策専用の「超過死亡」統計など作って運用できるのだろうか。井上情報管理係長によれば、保健所は、報告書の死因欄に「肝臓癌」や「肺炎」などと手書きで書き、OCR(光学的文字認識)機械にかけるという。だが、OCRにかけようとパソコンに直接入力しようと、まず「2週間以内」という時間は遅すぎる。「ランセット」はCOVID-19対策のためにリアルタイムでの「超過死亡」数値の活用を訴えている。「ランセット」は、PCR検査による新規感染者数がCOVID-19の感染の勢いを正確に映していない恐れがあるために、単純な「超過死亡」数をリアルタイムで活用することを求めているのだ。PCR検査数が極端に少ない日本にこそ求められるリアルタイム統計だが、「2週間以内」ではあまりに遅すぎるし、コロナ対応に忙殺されていたとはいえ、1か月経っても死亡者数さえ報告されない現行の保健所体制ではまったく意味をなさない。未知のウイルス襲来に忙殺奮闘された保健所職員の方々の努力を軽視しているわけではない。COVID-19のようなパンデミック・ウイルスを迎え撃つ体制としては、保健所には限界があると言っているのだ。
●保健所の仲介をなくせ!
 体制としての保健所の限界は、「超過死亡」統計の問題だけではない。基本的なPCR検査体制については、さらに明確に指摘できる。私自身、発熱してからPCR検査を受けるまでに10日間を要し、指定された保健所に電話しても何日間も繋がらなかった(佐藤章ノート『私はこうしてコロナの抗体を獲得した《前編》保健所は私に言った。「いくら言っても無駄ですよ」』参照)。私のような事例は特別なものではなく、社会的には「検査難民」という言葉まで生まれた。これは文字通り保健所のキャパを超えていることを表している。しかし、例えば、ここで発想を変えて、保健所の仲介をまったくなくしてみたらどうだろう。何か困るようなことはあるだろうか。毎年のインフルエンザの検査は保健所などは通さない。かかりつけの開業医から民間検査会社にまっすぐ検査依頼が行くだけだ。だが、そうなるとPCR検査依頼が殺到して医療崩壊を招きかねないという心配の声が出てくる。その問題の対策には二つの方法が考えられる。まず、COVID-19を感染症法に基づく指定感染症から外して、無症状者や軽症者は医療機関以外の施設に大量に入所できるようにする。次に、韓国が全国69の既存病院をコロナ専用病院に転換させたように、COVIDー19を迎え撃つ医療体制の再構築を進めることだ。
●医系技官の天下り問題
 このような政策転換は努力すれば可能だが、実は問題は簡単ではない。保健所体制の問題には、厚労省や国立感染研などを含む医系技官の人事問題、つまり天下りの問題が絡んでいるからだ。この問題に関しては、医系技官問題を細大漏らさず知り尽くす上昌広・医療ガバナンス研究所理事長が懇切丁寧に解説してくれた。その説明に耳を傾けよう。戦前にできた保健所は元来、徴兵制度のサポートシステムだった。強兵養成のために栄養失調などを事前にチェックする役目を負い、戦後はGHQの下で、性病検査やチフス、コレラ、結核対策に活用された。GHQは保健所長に医師を充てる政策を採り、食中毒取り締まりなどの「衛生警察」の役割も担わせた。このため、保健所は戦後に特殊な権限を持つ役所に生まれ変わり、同時に厚労省の前身である厚生省もGHQの指揮下で、高等文官試験(現在の国家公務員試験)を通らなくても同省の官僚となれる医系技官制度を採用する。この医系技官官僚が独特の人脈を形成し、厚労省と国立感染研、そして保健所や地方衛生研究所との間で独自の人事交流、つまり天下りのネットワークを形作っていく。ところが、保健所そのものは中曽根康弘政権時代以来、行財政改革の主要な標的とされ、その存廃問題が常に医系技官たちのトラウマとなってきた。1990年代のエイズウイルスやO157、あるいは2000年代に入ってからのSARSや新型インフルエンザなどはそのような心配から医系技官たちを解放してくれた。しかし、COVIDー19の場合はPCR検査のキャパがあまりに大きく、放っておくと保健所体制をはるかに超えるPCR検査の流れができてしまう。そうなると、保健所不要論の声がまた大きくなり、再び悪夢の行財政改革の標的とされてしまう。保健所がPCR検査仲介の権限をしぶとく手放さない深い理由はそこにある。
●第2波に備えてPCR検査拡充を!
 中国は5月14日から6月1日の19日間で、武漢市民の「全員検査」を実施し、約990万人にPCR検査を受けさせた。1日あたり約52万人の計算だ。これにはかなり劣るがニューヨーク市は1日あたり4万件のPCR検査が可能になった。翻って日本の場合は、全国で1日あたり2万2000件のPCR検査が可能になったと厚労省が5月15日に発表している。この差は、アイロニカルに表現すれば、まさに安倍首相の言う「日本モデル」から来ている。つまり、日本独特の保健所体制に絡む医系技官の人事問題に由来しているのだ。PCR検査自体は難しい検査ではない。民間検査会社や大学の研究室ではまだまだキャパが余っている。人の手を介さない全自動機械も日本のメーカーが開発製造している。しかし、保健所が検査仲介の権能を手放して検査会社に検査の自由を認めない限り、検査会社も全自動機械などは導入しない。安倍首相は現在のところ、PCR検査拡充を阻むこのような問題に取り組む姿勢を微塵も見せていない。医療体制の再構築なども念頭にはないようだ。このままでは第1波と何ら変わらない体制のまま大きい第2波を迎えることになるだろう。安倍首相は本来、中曽根元首相や小泉純一郎元首相の流れを汲み、積極的な行財政改革に取り組むのではないかと見られていた。トラウマを抱える医系技官人脈にとっては警戒すべき政権だった。ところが、当の安倍首相にはそのような問題意識はまるでないことがまもなく明らかになり、天下りを夢見る医系技官にとっては夢を紡ぐ安全安心の政権と転じることになった。COVIDー19第2波の危機的な状況を前にしても、そのような問題に気が付いている節は安倍首相にはまるで見えない。「第2波の危機を前に、基本的なPCR検査の拡充などはまったく絶望的ですね」。私の問いかけに上昌広・医療ガバナンス研究所理事長は深く頷いた。この記事の筆者であるジャーナリストの佐藤章さん、記事に登場する医療ガバナンス研究所理事長の上昌広さん、東京都世田谷区長の保坂展人さんをオンラインでつないだ論座主催の公開イベント『「私はコロナから生還した」~感染したジャーナリストが語る検査の実態。医師は、行政はどうする?』を無料で公開しています。新型コロナウイルスに感染した佐藤さんの体験をもとに、医師である上さん、首長である保坂さんがコロナ対策の課題について語り合う内容です。ぜひご覧下さい。

*2-3:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/610611/ (西日本新聞 2020/5/23) 帰国後に39度の熱…PCRなぜ受けられない? 検査なおハードル高く
 新型コロナウイルス感染が急速に広がった際、自らの症状に不安を感じて行動しながらも、感染の有無を調べるPCR検査を「受けられなかった」という不満がくすぶった。日本は諸外国と比べて検査数が少ないと批判が高まり、政府は検査能力を増強。目標の「1日2万件」を達成したとするが、依然として実際の検査数は半数にも満たない。「次女が急に高熱を出した。もしかしてコロナかもと不安になりました」。福岡県北部に住む男性(61)は5月上旬、留学先のカナダから帰国して間もない次女(23)が39度近い熱を出したと明かす。医療機関4カ所から外来受診を断られ、保健所の相談電話もつながらない。やむなく自宅療養を続けたという。発熱5日目、クリニックの医師が保健所に連絡し、次女はようやくPCR検査を受けた。結果は陰性だったが、男性は「家族は不安で仕方なかった」と話す。次女は内臓疾患と判明した。同様の事例は各地で相次ぎ、相談してもPCR検査まで至らないケースもある。厚生労働省によると、国内のPCR検査能力は3月上旬の1日約4200件から2万3139件(5月17日現在)に伸びた。ただ、実際の検査数は平日で1日5千~8千件ほどで推移する。感染者の減少傾向を踏まえても、検査能力と検査数に大きな隔たりがあるのはなぜか。改めて検証した。 

*2-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200606&ng=DGKKZO60063940V00C20A6EA1000 (日経新聞 2020.6.6) コロナに後遺症リスク 重篤な合併症 治療長期化も 「肺以外に影響」報告相次ぐ
 新型コロナウイルスの感染者が重い合併症を患う症例が、世界で相次ぎ報告されている。心臓や脳、足など肺以外で重篤化するケースが目立つ。世界では300万人近くが新型コロナから回復したが、一部で治療が長期化したり後遺症が残ったりするリスクも指摘され始めた。各国の研究機関は血栓や免疫システムの異変など、合併症のメカニズム解明を急ぐ。
●俳優が右足切断
「きょう右足が切断されます」。米演劇界最高の栄誉とされるトニー賞にノミネートされたブロードウェー俳優、ニック・コーデロさん。新型コロナに感染して4月上旬、集中治療室(ICU)で治療を受けていた。重い肺炎症状に加えて表れたのが、右足の異変だ。血液の塊である血栓が生じ、つま先まで血液が行き渡らなくなった。血栓を防ぐため抗凝血剤が投与されたが、血圧に影響を及ぼし腸の内出血を併発、切断を迫られた。妻はインスタグラムで「ニックは41歳で持病もなかった。どうかみなさん、新型コロナを甘くみないで」と訴えた。新型コロナが肺以外に影響を及ぼす合併症の症例は、欧米をはじめ世界各国で報告されている。原因の一つとみられるのが、ウイルスが血管に侵入して形成する血栓だ。英医学誌ランセットに掲載された研究で、ウイルスが血管の内膜を覆っている内皮細胞を攻撃する証拠を発見。著者の一人、米ブリガム・アンド・ウィメンズ病院のマンディープ・メウラ医師は日本経済新聞の取材に「(攻撃が)心臓や脳、腎臓など複数の臓器で起きている」と指摘する。オランダの医師らの研究によると、新型コロナに感染してICUに入った患者184人のうち、31%で血栓を伴う合併症がみられた。多くが血栓が肺動脈を塞ぐ「肺塞栓症」で、一部の患者は「脳梗塞」も併発した。本来はウイルスの侵入から体を守る免疫システムが、正常な細胞まで攻撃してしまう現象も合併症を引き起こす一因とみられている。この過剰な免疫反応は「免疫暴走」とも呼ばれ、何らかの理由で過剰に反応し臓器や血管を傷つける。乳幼児が発熱や発疹など「川崎病」に似た症状を引き起こすケースも、米国だけで5月中旬までに約200の症例が報告された。
●正常機能戻らず
 重い合併症の広がりは治療の長期化や後遺症リスクを高める。中国・武漢の医者団が新型コロナを克服した25人の血液サンプルを調べたところ、ほとんどが重症度合いにかかわらず正常な機能を完全に取り戻していなかった。国際血栓止血学会は、回復した患者に退院後も抗凝血剤の服用を勧めるガイドラインを発表した。イタリアの呼吸器学会は新型コロナから回復した人のうち、3割に呼吸器疾患などの後遺症が生じる可能性があると指摘。地元メディアによると、少なくとも6カ月は肺にリスクがある状態が続く懸念があるという。「最初の症状から69日が経過したが、倦怠(けんたい)感が残る。目が痛くて断続的な頭痛がある」(カナダの男性)。重症化は免れても後遺症や長期化に悩む人は多い。米ボディー・ポリティックが感染者640人を対象に4月下旬から5月上旬に行った調査によると、9割が完全に回復しておらず、症状は平均して40日間続いていると回答した。もっとも、ウイルスが血栓の形成や過剰な免疫反応を引き起こすメカニズムは解明されていない。メウラ医師は「内皮細胞にどのように侵入するのか、抗凝血剤の投与が役立つのかまだはっきりしていない」と話す。コーデロさんのように抗凝血剤が機能しない場合もあり、医療現場では手探りの治療が続く。米ジョンズ・ホプキンス大によると、650万人を超えた新型コロナの感染者のうち約280万人がすでに回復した。だが治療の長期化や重症化に悩む患者は多く、医療保険など各国のセーフティーネットや医療インフラへの負担も深刻だ。治療薬やワクチンの開発と並び、重症化に至る仕組みの解明や対策が不可欠になる。

*2-5:https://gendai.ismedia.jp/articles/-/72582 (現代 2020.5.17) 東京の3月のコロナ死者、発表の10倍以上?「超過死亡」を検証する、国立感染研のデータから 長谷川学
●「少なすぎる」疑いの目
 5月11日、小池百合子東京都知事は、都の新型コロナ陽性者数公表に関して、過去に111人の報告漏れと35人の重複があったことを明らかにした。保健所の業務量の増大に伴う報告ミスが原因だという。同じ日の参院予算委員会。政府の「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」の尾身茂副座長は、「確認された感染者数より実際の感染者数がどれくらい多いか」と聞かれ、「10倍か、15倍か、20倍かというのは今の段階では誰も分からない」と “正直” に答弁した。先進各国に比べ、PCR検査件数が格段に少ないのだから、感染者数を掴めないのは当たり前のことだ。小池、尾身両氏の発言は、いずれも新型コロナの「感染者数」に関するものだ。だが実は、東京都が発表した今年3月の新型コロナによる「死亡者数」についても、以前から「あまりに少なすぎる。本当はもっと多いのではないか」と、疑惑の目が向けられてきた。東京都が初の新型コロナによる死亡を発表したのは2月26日。その後、3月中に8人の死亡が発表されている。この頃、東京都ではまだPCR検査を積極的に行っておらず、2月24日までの検査数はわずか500人余りにとどまっていた。このため「実際は新型コロナによる肺炎で死亡した人が、コロナとは無関係な死亡として処理されていたのではないか」という疑いが、以前から指摘されていたのだ。
●「超過死亡」とは何か
 これに関連して、国立感染症研究所(以下「感染研」)が興味深いデータを公表している。「インフルエンザ関連死亡迅速把握システム」(以下「迅速把握システム」)のデータである。この迅速把握システムは、約20年前に導入された。少し前置きが長くなるが、概要について述べよう。東京(23区のみで都下は対象外)など全国の21大都市における「インフルエンザ」による死者と「肺炎」による死者の数を合計し、毎週、各地の保健所から集計する。この2つの死者数の変化を追うことを通じて、全国のインフルエンザの流行状況を素早く把握しようという狙いだ。なぜ「インフルエンザ」だけでなく「肺炎」による死者もあわせて集計しているのか。例えば、お年寄りがインフルエンザ感染をきっかけに入院しても、そのまま亡くなってしまうケースは少なく、実際にはさまざまな治療の結果、最終的に「肺炎」で亡くなることも多い。そうした死者も漏らさず追跡し、インフルエンザ流行の影響を総合的に捉えようという考え方だからだ。専門的には、このような考え方を「インフルエンザ流行による超過死亡の増加」という。今回注目すべきは、迅速把握システムの東京都のデータ(次ページの図「東京19/20シーズン」)である(注・19/20とは19年から20年のシーズンという意味)。
●インフルは例年より下火だったのに
 図の「-◆-」で示された折れ線は、保健所から報告されたインフルエンザと肺炎による死者数を示している。ご覧のように、今年の第9週(2月24日〜)から第13週(〜3月29日)にかけて、それまでに比べて急増していることが分かる。この急増の原因は、いったい何なのか。この時期、東京ではインフルエンザは流行していなかった。1月、2月のインフルエンザ推定患者数は、前年同時期の4分の1程度。今年は暖冬で、雨も多かったこと、そして国民が新型コロナを恐れて手洗いを良くしていたことも影響したと考えられている。インフルエンザが流行っていなかったのに、なぜ、この時期に肺炎による死者が急に増えたのか。医師でジャーナリストの富家孝氏はこう推測する。「まず考えられるのは、新型コロナによる肺炎死でしょう。警察が変死などとして扱った遺体のうち、10人以上が新型コロナに感染していたという報道もありました。2月、3月は、まだ東京都はPCR検査をあまり行っていませんでした。検査が行われなかったら、当然、新型コロナの死者数にはカウントされません。実際にはコロナによる重症肺炎で亡くなっていた人が、コロナとは無関係な死亡と扱われていた疑いがあります」
●偶然とは思えない多さ
 金沢大学医学部の小川和宏准教授もこう話す。「今年はインフルエンザの感染者数が少なかった上に、2月末から3月末はインフルエンザのピーク(毎年1月末から2月初めの時期)も過ぎている。この超過死亡は、新型コロナによる死亡を反映している可能性が高いと思います」。では、「隠れた死者」は何人いたのだろう。再び図をご覧いただきたい。「超過死亡」とされるのは、図の赤線(閾値)を超えた部分だ。江戸川大学の隈本邦彦教授が解説する。「東京23区内で過去のデータから予測される死者数がベースライン(緑線)です。どうしても年によってバラツキがありますから、そのベースラインに統計誤差を加えた閾値(赤線)を設定し、それを超えた分を “超過死亡” と判定しています。つまり今年は、偶然では起こり得ないほど肺炎の死者が多かったということです。それが5週連続、しかも毎週20人以上というのは異常だといえます」。図のように、超過死亡は今年第9週(2月24日〜)に約20人にのぼった。その後も、第13週(〜3月29日)まで毎週20〜30人の超過死亡が起きていた。合計すると、およそ1ヵ月の間に100人以上。東京都が発表した3月中の新型コロナによる死亡数8人の10倍を超える。
●「原因病原体はわからない」
 データを発表した感染研は、この超過死亡をどう捉えているのだろうか。感染研に質問したところ、「このシステムは超過死亡の発生の有無をみるものですが、病原体の情報は持っておりませんので、その原因病原体が何かまでは分かりません」と、木で鼻をくくったような回答だった。なお感染研発表の過去の東京都のデータを調べると、前シーズン(18-19年)と前々シーズン(17-18年)にも超過死亡はあったが、これについて感染研は「インフルエンザの流行が非常に大きかった」と回答した。なぜ去年の出来事はインフルエンザとわかるのに、今年は不明という回答になるのだろう。とはいえ、この超過死亡が新型コロナによるものかどうかは、遺体がPCR検査もされずに荼毘に付されてしまったいまとなっては、実証する手立てがない。一方、感染研発表の東京都のデータからは、死者数とは別の大きな問題も浮かび上がる。図のように2月24日以降、東京23区で超過死亡が急増していた。新型コロナウイルス発生を中国政府が正式に発表したのは、今年1月9日。同23日には武漢市が都市封鎖された。日本でも1月下旬以降、徐々に感染者が確認され、2月13日には国内初の死者が出て、人口が密集する東京での感染爆発は不可避とみられていた。そうした状況下で、2月24日以降5週間にわたって、人知れず週20〜30人もの超過死亡が確認されていたのである。なぜ、この重大なサインに当局は目を留めず、活かそうとしなかったのか。「原因病原体が何かまでは分かりません」で片づけられる話ではない。
●今にして思えば…
 前出の隈本氏が首を傾げる。「インフルエンザが流行していないのに、2月下旬に東京23区で週に約20人の超過死亡が発生していた事実は、通常なら2週間後の3月上旬には感染研の迅速把握システムに届いていたはずです。その時点で、感染研の担当者や厚労省の専門家会議のメンバーの誰かが気付いて、“東京が大変なことになっているかもしれない” と警鐘を鳴らしていたら、PCR検査態勢の拡充を含め、より早期の対応が可能だったはずです」。だが実際には、小池東京都知事が新型コロナ対策で本格的に動き始めたのは、3月24日に東京オリンピックの延期が正式に決まってからだった。そして東京都の新型コロナ感染者数は、先に感染が広がった北海道に比べてずっと少なかったのに、東京オリンピック延期が決まった後から、急激に右肩上がりで増えていった。「もし2月下旬に発生し始めた週20人以上の超過死亡が新型コロナのためだとなると、その時点でオリンピックどころではなくなったでしょう。しかし、もしそうした “忖度” のために、税金を使って集めている迅速把握システムが捉えたデータが生かされなかったとしたら、何のためのシステムなのか。東京都や国の責任は重いと思います」(隈本氏)。なぜこの貴重なデータが早期に検証され、コロナ対策に生かされなかったのか。今後、経緯を厳しく検証していく必要があるだろう。

<病院への新型コロナの一撃>
*3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200522&ng=DGKKZO59429720S0A520C2EA1000 (日経新聞 2020.5.22) コロナ禍で通院激減 「不要不急」が問う医療、医療資源、最適配分に一石
 新型コロナウイルスが猛威をふるい始めてこの方、私たちは「不要不急」という言葉を幾度となく聞かされてきた。この四字熟語は医療にもあてはまるのだろうか。企業の健康保険組合と協会けんぽ、公務員などの共済組合や船員保険を合わせた被用者保険の3月の医療費動向が判明した。総額は1兆1257億円、患者が医療機関にかかった件数は9415万件。前年同月と比べると、医療費の1.3%減に対し、件数は11.5%減と大きく落ち込んだ。何が読み取れるか。
●風邪なら自力で
 3月は初旬こそ外出を自粛する空気は強くなかったが、半ば以降はイベントや会合の中止が相次いだ。通院の見合わせや先送りをする患者が目立ちはじめたのは、この頃だ。こんな仮説は成り立たないだろうか。軽い風邪や腹痛、花粉症などにかかった人は通院を控え、薬局で薬剤師や登録販売者に相談し処方箋がなくても買える一般用医薬品(OTC医薬品)でしのいだ。従来は地域の診療所や病院の外来診療に頼っていた軽い病の治療が、自分で手当てをするセルフメディケーションに取って代わった。感染症の専門家は軽い風邪症状の人には自宅療養を呼びかけていた。手洗いや消毒の徹底による予防効果もあろう。一方、高度医療を提供する大学病院や専門病院は、高額な医療費がかかる治療をさほど減らさなかった。この結果、件数の急減に対し医療費はさほど減らなかった―。医療関係者の多くは、医療に不要不急はあり得ないという。慢性疾患を抱えた高齢者には、待合室で長時間すごすのを避けようと、通院を見合わせた人もいる。それが原因で病状が重くなることがあってはなるまい。半面、自らの体調を知り、調子が悪ければ自己判断・自己負担で薬をのんで治すのも医療のひとつのかたちだ。「不要」ではなくとも受診が「不急」であるケースはあろう。健康保険証があれば医療機関へのアクセスが原則自由な日本は、主要国で最も医師にかかりやすい国のひとつだ。早期治療を促す利点があるが、そのぶんコロナ禍による受診抑制を招きやすいのではないか。英国営医療制度(NHS)が採用した人工知能(AI)診断アプリのようなしくみを日本でも保険適用すれば、受診抑制による治療の遅れをくい止める効果が期待できよう。むろん同国とは医療費の負担構造が違うので、一概には比べられないが。
●病院経営に影響
 注目すべきは緊急事態宣言下の4月の動向だ。厚生労働省は重篤・重症のコロナ感染者を受け入れ専門治療にあたっている大学病院などに対し、特例としてICU(集中治療室)の入院料を2倍に上げた。だが採算は改善せず、コロナ対応病院の経営はおしなべて苦しい。隔離用の陰圧病室を新設したり空き病床を確保したりするコストがかさむからだ。政府・与党が編成に着手した2020年度第2次補正予算案は、コロナ対応病院への資金援助が欠かせまい。地域の診療所などはどうするか。日本医師会は2次補正に資金援助を計上すべく厚労省への働きかけを強めている。省内には初診・再診料の加算を模索する動きがある。セルフメディケーションへの移行や予防の徹底が効いているとすれば、医療機関の減収分をほかの患者や健康保険が負担する診療報酬で補填するのは筋が通るまい。診療報酬を上げるなら、オンラインの初診・再診料を増やし、コロナ後も見すえた新しい医療態勢に誘導するのが望ましい。4月に入り、規模の大きな総合病院にも、外来患者が急減したり不急の手術を先送りしたりし、収入の落ち込みが目立つようになったところがある。コロナ禍という特異な状況のもとで、専門性や診療科の違いによる繁閑の差が広がっている。軽症のコロナ感染者は感染予防を徹底させた地域の診療所で治療する選択肢もあろう。そのための設備や資材を国費で援助するのは、納税者の納得を得やすい。人材配置を含め、医療資源を最適配分するにはどんな資金援助が効くか。データをつぶさに読み取り、根拠に基づく政策立案を徹底するときである。

*3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200606&ng=DGKKZO60069950V00C20A6EA3000 (日経新聞 2020.6.6) 新型コロナ 政策を聞く〈検査体制〉民間機関、参入しやすく 自民・医師議員団本部長 冨岡勉氏(長崎大院修了。医学博士。衆院厚労委員長など歴任。党政調副会長。石原派。衆院比例九州、71歳)
 日本は米欧や中韓に比べ検査体制の整備が遅れた。第2波が起こりかけた時に正確に把握できるよう体制の拡充が急務だ。再流行の予兆を感知したらすぐにクラスター(感染者集団)対策を強化し、小さな流行に抑えるためだ。これまで過剰に検査せず医療費を抑えた面はあったが、再流行の兆しをつかめずに大規模な感染拡大につながればかえって医療費は増える。PCR検査の体制を強化するには米国や韓国で普及するドライブスルー方式の検査センターを増やす必要がある。短時間で検体を採取できるため効率がよい。病院で医師や患者が集団で感染するリスクを減らせる。ドライブスルー方式は日本の医師会や自治体で導入が増え始めている。政府は民間の検査機関が参入しやすくなる支援策を講じてほしい。PCR検査に類似し最短2~3時間で終わる簡易な「LAMP法」もドライブスルー方式で導入すべきだ。無症状者らを対象にコロナの感染の有無を一定の精度で早く判定できると期待する。抗原検査や抗体検査は学会で診断の評価が十分に定まっていないため、明確な症状がある人らに対象を限るのが望ましい。無症状者らが診断後にPCR検査も受けたら二度手間になる。

*3-3:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20200606&c=DM1&d=0&nbm=・・ (日経新聞 2020.6.6) PCR遅れ 国会検証を 立民・幹事長 福山哲郎氏(京大院修了。民主党政権で外務副大臣や官房副長官など歴任。参院京都選挙区、58歳)
 感染の実態を十分把握しているとは言いがたい。検査のために保健所などに設置した帰国者・接触者相談センターは電話がつながらないケースが相次いだ。「37.5度以上の発熱が4日以上続く」とした受診目安も壁となった。軽症、無症状者を含めた感染者数の全体像を把握しなければ必要な対策は打てない。PCR検査を増やすべきだ。ドライブスルー方式は院内感染を防ぎ、検査数を増やせるメリットがある。韓国やドイツなどではドライブスルー方式を2~3月に導入した。感染者を早期に発見し隔離することで感染防止につなげようとしたのだろう。日本も自治体が積極的に導入したのは評価できる。国が経費を負担するのが不可欠だ。第2波に備え、抗体検査も組み合わせ検査数を増やしていくのが欠かせない。妊婦や医療従事者、教員などに優先的に受けさせるべきだ。屋外拠点や電話ボックス型の検査ブースの活用も有効だろう。医療機関とは空間を別にして数多く検査ができるシステムを開発せねばならない。PCR検査がなぜ進まなかったのか十分な検証が必要だ。国会にコロナ問題検証委員会を設け、要因を分析すれば今後の検査拡充につながる可能性がある。(随時掲載)

*3-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14502069.html (朝日新聞 2020年6月5日) 病院再編、感染症考慮
 厚生労働省が再編統合の必要性を打ち出した全国の公立・公的病院について、安倍晋三首相は4日の参院厚生労働委員会で「感染症病床を担い、感染症対策において重要な役割を果たしていることは認識している」と述べ、今後は感染症対策も考慮して議論を進める方針を示した。厚労省は昨年9月、再編統合の必要があるとして424の公立・公的医療機関を名指ししたが、感染症病床の有無などは考慮していなかった。しかし、新型コロナウイルスの患者を多く受け入れている感染症指定医療機関の多くは公立・公的病院で、病院団体などから見直しを求める意見が示されていた。

*3-5:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14496109.html (朝日新聞 2020年5月31日) 医療担い手、待遇悪化 ボーナス3分の1に/給料10%減… コロナ恐れ受診減
 新型コロナウイルスで、医療や介護の働き手の待遇が悪化している。感染対策のコストがかさみ、患者や利用者が減って、経営が揺らいでいるためだ。一時金をカットせざるを得ない病院や施設も相次ぐ。国は医療・介護従事者へ最大20万円を配る予定だが、減収分を補うのは難しい。一部では雇い止めや、休みを指示する一時帰休などもみられ、雇用をどう守るかも課題だ。医療機関のコンサルティングを手がけるメディヴァによると、一般の患者が感染を恐れて受診を控える動きがめだつ。同社が全国約100の医療機関に感染拡大の前後で患者数の変化を聞いたところ、外来患者は2割強、入院患者は1~2割減った。首都圏では外来は4割、入院は2割減。とくにオフィス街の診療所では、在宅勤務の定着で会社員らの患者が落ち込む。メディヴァの小松大介取締役は「非常勤医師の雇い止めも出ている。夏のボーナス支給見送りを検討している施設も散見される」と話す。実際、看護師らの給料や一時金が下がるケースが続出している。日本医療労働組合連合会(医労連)が28日にまとめた調査では、愛知県の病院が医師を除く職員の夏の一時金を、前年実績の2カ月分から半減させることを検討。神奈川県の病院では夏の一時金カットに加え、定期昇給の見送りや来年3月までの役職手当の2割カットなどを検討しているという。医労連の森田進書記長は「職員の一時金1カ月分はだいたい30万円。コロナ患者を受け入れている医療機関の勤務者には最大20万円が支給されることになったが、賃下げ幅が上回る可能性がある」と話す。職員の夏の一時金を、当初想定していた額の3分の1に引き下げる病院もある。埼玉県済生会栗橋病院(同県久喜市、329床)は、新型コロナの入院患者も受け入れている。4月の病院収入は前年同月より15%減で1億2千万円減った。院長は経営環境について「つぶれるんですか、というレベルだ」と打ち明ける。看護師や臨床検査技師ら職員の夏のボーナスについて、感染拡大前に想定した額の3分の1にまで減らさざるを得ないという。全国医師ユニオンが都内で16日に開いたシンポジウムでも、懸念の声があがった。千葉県内の民間病院に勤める研修医は「すでに給料が10%カットされた病院もある。現場でのストレスが強くなるなかで給料まで下がったら、もうやっていられないという人も出てくる」と訴えた。大病院のなかには、業務が減っている一部の職員について、一時帰休を検討するところも出てきた。今後予想される「第2波」に向け、医療従事者の雇用の安定が求められる。
■経営、もともと脆弱
 背景には、感染拡大前から病院がぎりぎりの経営を強いられ、脆弱(ぜいじゃく)だったことがある。病院の収入は診療報酬制度に基づく。手術や入院などの診療行為ごとに値段(点数)が決められている。国は医療費が膨らみすぎないように点数を抑制してきた。厚労省の医療経済実態調査によると、精神科を除く病院の2018年度の損益率(収入に対する利益の割合)は、マイナス2・7%の赤字。利益を出しにくい構造で、患者が少しでも減れば経営が揺らぐ。介護の分野でも構造は同じ。国が定める介護報酬も抑制されていて、事業者には余裕が少ない。感染対策の費用がかさむ一方で、サービスの利用者が減り経営を圧迫している。国は診療報酬の上乗せやデイサービスの条件緩和など対策をとろうとしているが、実態の把握は十分ではない。厚労省の医療経営支援課は「病院団体が調べたデータなどを踏まえて経営支援に何ができるか考えていく」という。
■病院や介護施設における待遇悪化の主な事例
【病院】
 <愛知> 医師以外の固定給職員の夏の一時金が前年から半減の1.0カ月分
 <沖縄> 正規、臨時職員の夏の一時金が前年の約3割減の0.8カ月分
 <神奈川> 定期昇給見送り。正規職員の夏の一時金が前年の約3割減の
       1.0カ月分+3万円。6月から来年3月まで役職手当2割カット、
       管理職手当1割カット
 <東京> 一部の職員に一時帰休を実施
【介護施設】
 <和歌山> 夏の一時金が前年の約2割減の1.5カ月分
 <神奈川> 基本給を平均約2割減らし、定昇は見送り。年間一時金が前年から
       半減の2.0カ月分
 (日本医療労働組合連合会調べ。労使交渉は継続中で支給内容は変わる可能性がある)

<新型コロナの経済対策>
*4-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/526293 (佐賀新聞 2020.5.23) コロナ解雇1万人超
加藤勝信厚生労働相は22日の記者会見で、新型コロナウイルス関連の解雇や雇い止めが21日時点で1万835人に上ったと明らかにした。政府が緊急事態宣言を発令した4月から急増し、5月だけで全体の7割近い7064人を占める。雇用情勢が急速に悪化している実態が浮き彫りになった。厚労省は2月から、解雇や雇い止めについて見込み分も含めて都道府県労働局の報告を集計している。月ごとに見ると、2月が282人、3月が835人、4月が2654人。5月は20日時点で5798人だったが、21日には7064人となり、千人以上増えた。加藤氏は「日を追うごとに増加している」と懸念を示した。業績が悪化した企業が従業員を休ませた場合に支給する雇用調整助成金などを利用して、雇用維持に努めてほしいと強調。大規模な解雇や雇い止めの情報を把握した場合は「ハローワークの職員が企業に出向き、雇用調整助成金の活用を働き掛ける」と述べた。厚労省は解雇や雇い止めの集計に関し、現在は正社員と非正規労働者を区別しておらず、加藤氏は「(今後は)正社員と非正規労働者の動向が分かるよう事務方に指示している」と語った。パートら非正規労働者は正社員に比べて解雇されやすく、労働組合関係者の間では派遣社員の大量雇い止めなどへの懸念が広がっている。

*4-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/528535 (佐賀新聞 2020.5.29) 観光割引、事務費が3000億円、「高すぎる」と野党が問題視
 新型コロナウイルス感染拡大で打撃を受けた観光・飲食業を支援する政府のキャンペーンを巡り、外部への事務委託費が最大約3千億円と見込まれることが分かった。予算総額1兆6794億円の約2割を占める可能性があり、立憲民主、国民民主などの野党会派が29日開いた合同部会では「事業者に恩恵が行き届かない恐れがある」と問題視する声が出た。政府は新型コロナの収束を見据え、本年度第1次補正予算にキャンペーン費用を計上。旅行商品を購入した人に半額相当を補助したり、飲食店のインターネット予約などにポイントを付与したりする。事務作業は外部に委託するが、費用の上限は3095億円に設定。人件費、広報費に充てることを想定している。事務局の公募を既に開始、6月中に選定する。赤羽一嘉国土交通相は29日の衆院国交委員会で、関係業界が多岐にわたるため、事務局の作業は「時間とコスト、手間が相当かかる」と指摘。上限額の設定は適正との認識を示した。その上で、最終的な委託費用は「絞られる」とも述べた。野党の会合では「事務局への費用がかかりすぎると、本当に必要な事業者の支援が不十分になる」「地域の消費を喚起できるような仕組みにしてほしい」といった意見が出た。

*4-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14496375.html (朝日新聞 2020年6月1日) 布マスク「質より量」、迷走 政府、早さ重視 国内検品断る
 4月1日の安倍晋三首相の全戸配布の表明から2カ月。いまだ大半の世帯に届いていない「布マスク」は、安倍政権の迷走の象徴となっている。マスク不足の中、調達の現場ではなにが起きていたのか。「3月中に1500万枚、4月中に5千万枚ほしい」。2月後半、最大の受注企業となる「興和」(名古屋市)の三輪芳弘社長は政府からの依頼に驚いた、と振り返る。枚数の桁が違った。「量ですか、質ですか」。納期を考えて優先事項を尋ねる三輪氏に政府の担当者は言った。「量だ。とにかく早くほしい」。医薬品や衛生品などをつくる同社が生産するマスクは不織布の使い捨てが主流だったが、布マスクも少数ながら取り扱っている。政府は生地の調達を含めて一貫した生産ができるとみて依頼した。だが、この時点で、政府の担当者も同社も、のちに「アベノマスク」とも言われる全戸配布の布マスクになるとは想像していなかった。課題は山積みだった。ガーゼの生地は中国やベトナム、スリランカなどアジア各国で探し、かき集めた。ただ、その時点では政府の発注書もない、いわば「口約束」だった。つくった布マスクを政府が買い取るという確約もない中で作業は始まった。生地はタイとインドネシアで加工。縫製は中国の加工業者に依頼し、約20カ所を確保した。2週間で急きょ集めた作業員は計1万人以上。日本人社員は感染を避けるため赴任先から帰国させており、日本語が分かる現地スタッフを通じて加工業者らとやりとりした。これとは別に検品場所も中国で約20カ所探し、ピーク時には数千人が作業にあたった。同社は当初、品質を担保するため国内での検品を強く希望。しかし、同社の国内検品は1ミリ程度の縫い目のずれすら不良品として取り除くというもので、「それでは期日までに目標の半分も調達できないおそれがあるということで、政府側が断った」(政府関係者)という。同社は日本から検品の担当者を現地に行かせ、監督させようとしたが、出入国制限などのため断念した。こうした経緯は異例の契約にもつながった。3月17日に結ばれた介護施設など向けの布マスク、21・5億円分の契約書には、隠れた不具合が見つかっても興和の責任を追及しないとの条項が入った。配布計画を担う政府のマスクチーム担当者は「緊急を要する発注だったためにこのような契約を結んだ」と話す。縫製作業が始まったのは3月21日ごろ。同月26日、三輪氏は首相官邸で開かれた会議に出席。最初につくったサンプルを持参した。首相が全世帯に2枚ずつ布マスクを配ると表明したのは、その6日後だった。布マスク計画に関わった政府関係者は言う。「マスクが国民に行き渡るようにしろ、というのが官邸の意向だったが、これほどの量を短期間で確保するなんて元々厳しい目標だった」。前例のない計画に、やがてほころびが出た。

<介護崩壊>
*5:ttps://www3.nhk.or.jp/news/html/20200508/k10012422701000.html (NHK 2020年5月8日) 新型コロナで“介護崩壊”の危機? 高齢者施設で いま何が
 老人ホームなどの入所系の高齢者施設で、4月末までに少なくとも550人余りが新型コロナウイルスに感染し、このうち10%にあたる60人が死亡したことが全国の自治体への取材でわかりました。欧米では死者の多くを高齢者施設の入所者などが占めていて、専門家は「日本でも感染者や死者がさらに増えていくおそれがあ

(図の説明:左の図は米国、中央の図はフランスの超過死亡数のグラフで、このような事態の中で、山形の超過死亡数が出るのは極めて自然なのだが、右図のように、日本はこれまでカウントしていた超過死亡数の公表を3月以降、中止している)

(1)医療崩壊を加速させた消費税制 ← 医療費を消費税非課税取引とした失政
る」と指摘しています。
●高齢者施設関連 国内死者の15%
 新型コロナウイルスの感染が先に深刻化した欧米では、死亡した人の多くを高齢者施設の入所者などが占める事態となっていて、NHKは全国の自治体に4月末時点での高齢者施設での感染状況を取材しました。その結果、特別養護老人ホームや老人保健施設、それに有料老人ホームやグループホームなど入所系の高齢者施設では、少なくとも利用者380人余り、職員およそ170人の合わせて550人余りが感染し、このうち10%にあたる利用者60人が死亡していたことがわかりました。このほか、デイサービスなどの通所系施設やショートステイなどの短期入所系施設でも利用者と職員合わせておよそ190人が感染し、このうち利用者6人が死亡していたほか、訪問介護事業所でも利用者と職員だけで合わせて30人余りが感染していました。さらに愛知県では、デイサービスに関連して2つのクラスターが発生し、利用者と職員、それに利用者の家族や接触者などを含めて合わせて90人余りの感染が確認され、このうち20人が死亡しています。これらをすべて合わせた高齢者施設関連の死者は少なくとも86人で、国内で感染が確認され死亡した人のおよそ15%を占めています。
●感染拡大が続く高齢者施設
 各地の高齢者施設では5月に入ってからも利用者や職員の間で感染が広がり続けています。
▽札幌市の介護老人保健施設
  集団感染が発生。新たに利用者と職員合わせて30人の感染が明らかに。
▽京都市内2つの有料老人ホーム
  利用者と職員、合わせて12人の感染が確認。
▽千葉県市川市の介護老人保健施設
  集団感染が発生。新たに利用者と職員合わせて3人の感染が明らかに。(いずれも7日
  までの1週間)。感染者が出たことを受けて休業を余儀なくされている施設も出ています。
  福島県古殿町の介護施設では、5月3日にデイサービスを利用している90代の女性の
  感染が確認されたため、14日まで休業する措置をとり、消毒作業を行いました。
●なぜ消毒難しい? 特有の事情とは
 新型コロナウイルスの感染者が出た高齢者施設の消毒作業を手がけている団体が、認知症の高齢者が入居するグループホームで行った消毒作業の動画を公開し、入居者の一部が部屋にとどまったまま作業をせざるをえない高齢者施設特有の難しさを証言しました。消毒作業を手がける全国の24の企業で作る団体「コロナウィルス消毒センター」は、依頼者の許可を得て、4月13日に北海道千歳市にある認知症のある高齢者が入居するグループホームで行った消毒作業の動画をインターネットの動画投稿サイトで公開しました。3階建ての建物の中にあるこのグループホームは、1階の入居者と職員の合わせて10人が感染し、このうち入居者1人が死亡しました。センターによりますと、感染していない入居者は避難できる場所がないため部屋にとどまっていました。このため、まず感染者が出た1階の消毒作業を行い、次に2階の入居者を消毒が済んだ1階に移して2階の消毒を行うといった形で、各階ごと順番に作業を進めなければならなかったということです。消毒作業は、次亜塩素系薬剤、アルコール製剤、それに抗菌剤をそれぞれ噴霧するなどして拭く三段階の方式で行い、共有スペースや入居者の個室のほか、布団などを含め部屋に置かれているすべての物を念入りに消毒したということです。コロナウィルス消毒センター事務局の春日富士さんは「グループホームの運営会社の代表は、消毒を依頼する電話をかけてきた際、開口一番『助けてください』と話し、非常に切迫した様子だった。高齢者施設の場合、感染していない入居者はその場所に残るという選択肢しかなく、入居者も職員も不安を感じている。特に職員は非常に疲弊している印象を受けた」と話していました。
●対策も防ぎきれぬ
 集団感染が発生した高齢者施設の中には、感染者が全員入院し再発防止策が取られて事態が収束に向かったと見られていたのに、再び感染者が出たケースもあります。東京 大田区の特別養護老人ホーム「たまがわ」では、4月1日に職員の感染が明らかになり、入所者79人と職員52人がPCR検査を受けました。その結果、職員は全員陰性でしたが、入所者12人の感染が確認されました。しかし、入院先はすぐに確保できず、数十キロ離れた武蔵野市や立川市などまで範囲を広げて病院を探し、ようやく1週間後に感染した入所者全員が入院できました。それまでの間は、感染した入所者を一部の部屋に集め、医療機関で使うような防護服がない中で、簡易的な予防衣を着てゴーグルと手袋をつけて食事や排泄の介助などを続けました。感染者が出たため、作業を委託していた清掃や給食、それに警備の会社が従業員を派遣できなくなり、施設内の清掃なども職員がやらざるを得ない状況になったということです。施設を運営する社会福祉法人「池上長寿園」の杉坂克彦常務理事は、「感染した入所者が入院するまで1週間もかかるとは思わなかった。感染に気をつけながら1日中入所者の介助をして、職員は精神的にも肉体的にも、かなり疲弊していた」と話しました。保健所からは、調査の結果、現段階で感染経路はわかっていないと連絡があったということです。その後、施設内の消毒を行うとともに、食堂でとっていた食事を居室でとるように変更するなど、感染防止策を徹底しましたが、感染した入所者が全員入院してから1週間余りたち事態が収束すると思われた4月18日、新たに職員1人の感染が確認されました。さらに12日後の先月30日、今度は入所者1人の感染が確認されました。この入所者の濃厚接触者と判断された入所者3人は、症状が出ていないとしていまだにPCR検査を受けられず、施設内で隔離する対応を続けているということです。杉坂常務理事は、「通常の体制に戻そうかと考えていた矢先に、職員と入所者の感染が新たに判明し、まだ続くのかと感じました。感染防止策をさらに徹底していくが、これ以上施設内で感染を広げないためにも、防護服の確保やPCR検査の拡充を進めてもらいたい」と話していました。
●欧州 死者の半数近くが介護施設で暮らす人
 日本よりも先に新型コロナウイルスの感染が深刻化した欧米では、死亡した人の多くを高齢者施設の入所者などが占める事態となりました。感染者や死者が最も多いアメリカでは、ジョンズ・ホプキンス大学のまとめで、これまでに7万3000人余りが死亡しています。高齢者施設での死者をまとめている民間の財団によりますと、情報が公開されている23の州の高齢者施設だけで、合わせて1万人以上が死亡したということです。このうちおよそ半数が、死者数が最多のニューヨーク州に集中していて、今月4日までに5000人近くが高齢者施設で死亡したとみられています。こうした状況はヨーロッパも同じで、死者3万人余りとアメリカに次いで死亡した人が多いイギリスでは、当初集計が困難だとして統計に含めていなかった高齢者施設など病院以外の場所で死亡した人を含めるよう変更した結果、死者数が4400人余り増えました。フランスではおよそ7000ある高齢者施設の半分近くで感染者が確認されていて、2万5000人を超える死者のおよそ4割、9600人余りが高齢者施設で死亡しています。ドイツでも7000人を超える死者のうち少なくとも2500人が高齢者向けなどの福祉施設で死亡していました。WHO=世界保健機関のヨーロッパ担当の専門家は4月23日の会見で「各国の推計によると、ヨーロッパで亡くなった人の半数近くが長期滞在型の介護施設で暮らしていた人たちだと見られる」と指摘しています。
●専門家「日本でも感染者や死者 さらに増えるおそれ」
 国内の高齢者施設での感染状況について、高齢者の介護や施設に詳しい東洋大学の早坂聡久准教授は「現段階でも大変高い死亡率になっていると受け止めているが、欧米では死者に占める高齢者施設の入所者の割合が高いことを考えると、日本でも感染者や死者がさらに増えていくおそれがある」と指摘しました。そのうえで今後の対策について「今は医療崩壊を招かないよう病院については大変多くの対策がとられているが、介護施設はどうしても二の次になっていて、感染が広がっている中でも具体的な支援策が十分講じられていないのが現状だ。国や自治体は最低限、マスクや消毒液、防護服の確保など、感染を拡大させないための手当てをしたうえで、職員や入所者が早い段階でPCR検査を受けられるようにするとともに、施設内で集団感染が発生しても介護の質が落ちないよう職員のバックアップ体制を作る方策を早急に考えていく必要がある」と述べました。そして「介護崩壊を起こさないよう、長期的に新型コロナウイルスがある生活の中で介護サービスを維持していく仕組みを検討していくべきだ」と話しました。
●老人保健施設でクラスター いったい何が 富山
 人口10万人当たりの新型コロナウイルスの感染者が全国で3番目に多い富山県。富山市の老人保健施設で発生したクラスターが、220人近くいる感染者の4分の1以上を占めています。この施設では入所者だけでなく施設の職員の感染も相次ぎ、“介護崩壊”直前の状況になっていました。富山市の老人保健施設「富山リハビリテーションホーム」では、4月17日に入所者の感染が初めて確認されて以降感染が広がり、これまでに入所者と職員合わせて58人が感染、このうち入所者8人が死亡しています。施設には県から、診療や感染拡大の防止にあたる医療チームが派遣されていて、このうちの1人、富山大学附属病院の山城清二教授がNHKの電話インタビューに応じました。山城教授は4月23日と24日に施設内を視察したあと、25日から診療にあたり、入所者の健康状態を確認したうえで重症者を搬送するなどの対応をとったということです。施設で勤務している介護士や看護師にも感染が広がったため、5人程度の職員で40人余りの入所者のケアに当たっていたということで、山城教授は「非常に少ない人数で対応していてケアが行き届いていなかった。“介護崩壊”直前のぎりぎりのところでやっていて、あと1人職員が感染すれば完全に崩壊していた」と指摘しました。施設には介助が必要だったり認知機能が衰えていたりする入所者も多くいますが、深刻な人手不足のため、最低限の食事や水分をとらせるだけで、着替えをしたり体を拭いたりすることはほとんどできていなかったということです。“介護崩壊”を防ぐため、富山市などが富山県内の老人介護施設でつくる協議会に対して介護士の派遣を要請した結果、今月2日以降介護士と看護師合わせて6人が応援に入り、体を拭くなどのケアをカバーできるようになって、状況は徐々に改善されているということです。
●症状相次いでも 適切な対応とらず…
 一方、この施設では、入所者の間で発熱などの症状が相次いだ後も適切な対応を取らなかったことや、多くの入所者が相部屋を利用するなど感染が広がりやすい構造がクラスターを引き起こしたとみられることが市の関係者への取材で分かりました。市の関係者によりますと、この施設では入所者の間で発熱などの症状が相次いだあとも感染を疑わず、保健所に相談してPCR検査を受けさせるなどの適切な対応を取っていませんでした。施設で最初に感染が確認された80代の女性のケースでは、4月7日に熱が出て、10日にはしゃがれ声、13日にはせきやたんといった症状も出ていましたが、症状が悪化して救急搬送された指定医療機関でPCR検査を行ったのは、発熱の9日後の16日でした。女性と同室だった90代以上の入所者は、4月9日に熱が出て、14日にはせきやたん、しゃがれ声の症状も出ていましたが、指定医療機関に搬送されて検査を受けたのは16日でした。この女性は翌日に死亡し、その後、感染が確認されました。さらにこの施設では、入所者の多くが相部屋で、部屋や風呂を共同で利用するなど、感染が広がりやすい構造になっていることがクラスターを引き起こしたとみられることも分かりました。
●高齢者施設は どうすればいいのか?
 感染症が専門の厚生連高岡病院の狩野惠彦医師は、高齢者が入所する施設の中で感染が広がるリスクについて「人と人との距離が近く接触度の高い生活をしているので、一度ウイルスが持ち込まれるとクラスターが発生しやすくなる。感染が収束に向かうような流れがあっても、最後の最後まで気が抜けない環境であることに変わりはない」と指摘しています。そして、施設内で感染者や疑わしい人が出た場合は、個室に移動させて隔離し対応する介護職員を限定することや、入所者や職員が食事する際、換気のいいところでなるべく離れて食べるといった対応を速やかにとることが大切だとしています。一方で、人手や施設の構造など施設ごとの事情があるとしたうえで「個室が難しければ、カーテンで仕切ってそこから出ないようするなど、感染リスクを下げるために与えられた環境で可能な対応を考えていく必要がある」と話しています。そのうえで、今後高齢者が入所する施設の中でクラスターを防ぐために必要なこととして「クラスターの発生には1つのことが理由になっていることもあれば、いくつかの事情が重なっていることもある。海外や国内で起きた事例から学んで、対策の見直しを行うことが求められる」と話しています。

<年金崩壊>
*6:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14494753.html?iref=comtop_shasetsu_01 (朝日新聞社説 2020年5月30日) 年金改革 残る課題の検討を急げ
 年金改革関連法が成立した。非正規雇用で働く人たちに厚生年金の適用を広げることなどが柱だ。適用拡大は長年の懸案で、今回の見直しは半歩前進だ。ただ、積み残しとなった課題も多い。制度の安定と将来不安解消のため、次の改革に向けた議論を急がねばならない。雇われて給料をもらう人は厚生年金に入るのが原則だ。しかしパートなどで週の労働時間が20時間以上30時間未満の短時間労働者は、「従業員数501人以上」の企業で働く人にだけ加入を義務づけている。この要件を22年10月に「101人以上」、24年10月に「51人以上」に改める。約65万人が新たに厚生年金に加入すると見込まれる。本人の年金が充実するのに加え、厚生年金の支え手が増え、年金財政の改善にもつながる。新たに保険料の負担が生じる中小企業への支援、当事者への丁寧な説明を通じて理解を得つつ、着実に進めたい。そもそも厚生年金に加入するかどうかが、勤め先の規模で異なるのは不合理だ。野党は24年10月に企業規模要件をなくす修正案を提出し、安倍首相も「撤廃を目指すべきだ」と述べた。にもかかわらず今回、廃止時期を示せなかったのは遺憾だ。いつまでにこの要件を撤廃し、それを実現できる環境をどのように整えるのか。議論を深める必要がある。コロナ禍で経済が打撃を受け、今後の景気の動向は見通しにくい。年金制度は、少子高齢化の進行に合わせて給付を抑える仕組みで収支を均衡させることになっている。ただ、今は物価などに連動して給付が伸びるのを抑えるやり方のため、デフレが続くとこの機能が働かない。しわ寄せを受けるのは、将来年金を受け取る世代だ。全ての世代で痛みを分かち合いながら、どのような経済環境になっても年金制度が揺るがないようにするには、この仕組みの見直しが避けられない。参院では、コロナ後の経済・社会の動向も踏まえた年金財政の検証を求める付帯決議がつけられた。作業の前倒しも含め、検討を急ぐべきだ。昨年の財政検証では、国民年金の加入期間を40年から45年に延長すると、基礎年金の底上げ効果が大きいという試算も示されたが、これも付帯決議で、今後の課題として先送りされた。政府・与党内で、基礎年金の半分を賄う国庫負担分の財源確保の議論が進まないためだ。今は65歳まで働くことも一般的になっており、見直しは待ったなしだ。財源の議論も含め、これ以上の先送りはできない。

<日本における経済分析の問題点>
*7-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/202005/CK2020051802000225.html (東京新聞 2020年5月18日) <新型コロナ>GDP年3.4%減 2期連続マイナス 1~3月期
 内閣府が十八日に発表した二〇二〇年一~三月期の国内総生産(GDP、季節調整値)速報値は、物価変動の影響を除いた実質成長率が前期比0・9%減、このペースが一年続くと仮定した年率換算では3・4%減だった。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府が緊急事態宣言を発令する前だが、外出自粛で個人消費が低迷。訪日外国人客の減少も響き、約四年ぶりに二・四半期連続のマイナス成長となった。項目別に見ると、GDPの六割近くを占める個人消費が前期比0・7%減。政府による二月末のイベント自粛要請で「自粛ムード」が広がったため、外食や宿泊に関連した消費が落ち込んだほか、自動車や衣服の消費も振るわなかった。外食や宿泊などのサービス消費額は今回、外出自粛の影響をより正確に反映させるため、業界統計を基に推計する異例の手法を採った。従来は一~二月の実績から三月分を推計していたが、これではサービス消費が急減した状況を織り込めず、実態と懸け離れると判断した。輸出は6%減で一一年四~六月期以来のマイナス幅。統計上は輸出にカウントされる訪日客の消費が減り、世界経済の減速で半導体製造装置の出荷が滞ったことも響いた。一方、輸入も国内消費の弱さを背景に原油や天然ガスの減少などで4・9%減となった。企業の設備投資は0・5%減。新型コロナ感染拡大の収束が見通せない中、先行きの不透明感から投資を先送りする企業が増えたとみられる。住宅投資も4・5%減った。この他、物価の変動を反映し、生活実感に近いとされる名目GDPの成長率は0・8%減。年率で3・1%の減少となり、実質と同じく二・四半期連続のマイナスだった。一九年度のGDPは、実質が前年度比0・1%減と五年ぶりにマイナス。名目は同0・7%増と八年連続のプラスだった。

*7-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/525813 (佐賀新聞 2020年5月22日) 消費者物価が3年4カ月ぶり下落、4月0・2%、コロナで原油安
 総務省が22日発表した4月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く)は、前年同月より0・2%下がり101・6だった。下落は2016年12月以来、3年4カ月ぶり。新型コロナウイルスの感染拡大による原油価格の急落や個人消費の低迷が押し下げ要因となった。市場では当面、指数が前年実績に比べマイナス圏で推移するとの見方が多い。物価が持続的に下がるデフレに再び陥る懸念が高まってきた。3月は0・4%の上昇だった。昨年10月の消費税増税の影響を除いた4月の下落率は0・6%となった。品目別ではガソリンが9・6%、灯油が9・1%それぞれ下落した。いずれも原油価格がすぐに反映されやすい。ホテルなどの宿泊料は訪日外国人の激減で7・7%下がった。新型コロナでイベント中止や冠婚葬祭の縮小の動きが出て、切り花は1・9%下落した。総務省の担当者は「電気代やガス代は(原油安の影響が)少し遅れて数カ月後に出てくる」と、ガソリンなどを含めたエネルギー価格が一段と下がる可能性を指摘した。一方、品薄が続いたマスクは5・4%上昇し、上げ幅は3月よりも1・3ポイント拡大した。増税影響で外食が2・7%上がった。生鮮食品を除いた指数には含まれないものの、外出自粛による需要の高まりを背景に、生鮮野菜は11・2%上がり、キャベツは48・2%も上昇した。新型コロナと関係なく価格変動が大きかった品目では、損害保険各社が値上げした火災・地震保険料は9・3%上昇。増税に伴う無償化で私立の幼稚園保育料は94・0%下がった。生鮮食品とエネルギーを除いた4月の指数は0・2%の上昇で、伸び率は0・4ポイント縮小した。

*7-3:https://bizgate.nikkei.co.jp/article/DGXMZO4170568025022019000000/ (日経BizGate 2019/3/6) 「新自由主義」という謎の言葉~「小さな政府」という意味ではないの?~
 「新自由主義(ネオリベラリズム)」という言葉がニュースや論説によく登場します。最近では、フランスで反政府運動「黄色いベスト」の抗議デモにさらされるマクロン政権の政策路線が新自由主義的だと言われます。けれどもこの新自由主義という言葉、なんとも正体不明です。いちおうの定義はあるものの、実際には、どう考えても定義と正反対の意味で使われることが少なくありません。たとえるなら、赤は「血のような色」と説明された後で、青空を指差して「ほら、赤いでしょう」と言われるようなものです。これでは頭が混乱します。たとえだけではわからないでしょうから、新自由主義がどのように正体不明で、人を混乱させるのか、具体的に見ていきましょう。まず、新自由主義の定義を確認しましょう。辞典では「政府などによる規制の最小化と、自由競争を重んじる考え方」(デジタル大辞泉)、「20世紀の小さな政府論」(知恵蔵)などと説明されています。これらの定義は明確です。言い換えれば、経済に対する政府の介入を否定する考えです。ところが実際には、この定義に当てはまらない政策や考えを新自由主義と呼び、批判するケースをしばしば目にします。
●「小さな政府」をめざしているのに増税や金融機関救済
 たとえば、冒頭で触れたマクロン仏政権です。マクロン大統領は、企業活動の活性化のため雇用・解雇をしやすくしたり、財政赤字の削減のため公務員を減らしたりする策を打ち出しています。なるほど、これらの政策は「小さな政府」をめざすという新自由主義の説明に素直に当てはまります。しかし、マクロン政権に抗議する「黄色いベスト」運動が広がったきっかけは、これらの新自由主義的な政策ではありません。政府が環境政策の一環として今年1月から実施する予定(抗議を受け今年は見送り)だった、ガソリンと軽油の増税です。増税は、政府が経済への介入を控え、小さな政府をめざす新自由主義の定義には当てはまりません。予算規模の拡大につながりますから、むしろ正反対の「大きな政府」の政策です。最近では燃料増税だけでなく、雇用・解雇の規制緩和や公務員削減といった新自由主義的な政策に対しても抗議が広がっているのは事実です。けれども、そもそも増税という大きな政府路線への反対からデモが始まったのに、それが小さな政府をめざす新自由主義に対する抗議だと報じられてしまうと、読者や視聴者は混乱しますし、事実の本質をゆがめかねません。似た例は、米国でもあります。2008年にリーマン・ショックと呼ばれる金融危機が起こったときのことです。当時はブッシュ(子)政権で、英国のブレア政権や日本の小泉政権と並び、新自由主義の権化のように言われていました。しかしリーマン・ショックで米国経済への不安が広がると、ブッシュ大統領は総額7000億ドル(約70兆円)の総額不良資産救済プログラム(TARP)法案に署名し、金融機関の救済に乗り出します。もちろん、政府が経済への介入を控える新自由主義の定義とは正反対です。税金を投入したこの救済策に対しては、米国内で強い批判が巻き起こりました。けれどもなぜか、今でもブッシュ政権は新自由主義だと言われます。オンライン百科事典のウィキペディアでは、ブッシュ大統領の政策について、新自由主義、小さな政府の方針と重なるところが多いと記しています。同じ政権の政策に、新自由主義的なものとそうでないものが混在することはあるでしょう。けれどもリーマン・ショックのような重大な出来事に対し、明らかに新自由主義の定義に反する対応をしたにもかかわらず、その政権の性格を新自由主義という言葉で表現するのは、適切とは言えません。青空を「赤い」と言うようなものです。ブッシュ政権は自由貿易を信奉すると言いながら、国内の鉄鋼業を保護するため、鉄鋼輸入に対し関税や数量制限をかけたりしました。この点からも新自由主義というレッテルは疑問です。
●都合が悪くなると放棄されるか、ねじ曲がる程度の「原理」に基づく?
 マクロン、ブッシュ両政権の例から気づく点があります。国民の多数が実際に怒り、抗議しているのは増税や金融機関救済という大きな政府路線であるにもかかわらず、一部のメディアや知識人はそれを新自由主義のせいにしたがることです。そうした解説は現実と食い違うので、無理が目立ちます。たとえば、新自由主義批判の代表的な論客であるデヴィッド・ハーヴェイ氏は著書『新自由主義』(作品社)で、新自由主義は市場への国家の介入を最低限に保つ理論だと述べる一方で、現実には「新自由主義的原理がエリート権力の回復・維持という要求と衝突する場合には、それらの原理は放棄されるか、見分けがつかないほどねじ曲げられる」と言います。苦しい説明です。都合が悪くなると放棄されたり、ねじ曲げられたりする程度の「原理」は、そもそも原理と呼ぶに値しません。「建前」とでも呼ぶのが適切です。経済への介入を控えるというのはあくまで建前にすぎず、本音では増税や企業救済、輸入制限といった大きな政府路線をためらわない。こう説明するほうが、はるかにすっきりします。そう言われても、新自由主義を批判する知識人は、すんなり従うわけにはいかないでしょう。ハーヴェイ氏を含め、彼らの多くはマルクス主義を信奉する左翼やそれに賛同する人々で、大きな政府を支持するからです。政治的な敵として攻撃する相手は、たとえ現実と食い違っても、小さな政府をめざす新自由主義者でなければ都合が悪いのです。明治学院大教授(社会学)の稲葉振一郎氏は、新自由主義といわれる経済学の諸学派には、ひとくくりにできるような一貫性のある立場は見出せないと述べます。そのうえで、あたかも実体のある新自由主義というイメージの「でっち上げの主犯」は、批判すべきわかりやすい対象を見出したい、マルクス主義者たちなのではないかと厳しく問います(『「新自由主義」の妖怪』、亜紀書房)。以上の説明で、新自由主義とは表面上の定義と実際の意味が食い違う、謎の言葉である理由がわかったのではないでしょうか。物事を正しく理解し、議論するには、明確な言葉を使うことが欠かせません。新自由主義という、定義と正反対の使用がまかり通るような言葉を使っていては、経済問題の本質について考えることはおぼつかないでしょう。

*7-4:https://kotobank.jp/word/%E8%87%AA%E7%94%B1%E4%B8%BB%E7%BE%A9-77046 (自由主義)
 個人の諸自由を尊重し,封建的共同体の束縛から解放しようとした思想や運動をいう。本格的に開始されたのはルネサンスと宗教改革によって幕をあけた近代生産社会においてであり,宗教改革にみられるように,個人の内面的自由 (信教の自由,良心の自由,思想の自由) を,国家,政府,カトリック,共同体などの自己以外の外在的権威の束縛,圧迫,強制などの侵害から守ろうとしたことから起った。この内面的諸自由は,必然的に外面的自由,すなわち市民的自由として総称される参政権に象徴される政治的自由や,ギルド的諸特権や独占に反対し通商自由の拡大を求め,財産や資本の所有や運用を自由になしうる経済的自由への要求へと広がっていった。これらの諸自由の実現を求め苦闘した集団や階級が新興ブルジョアジーであったため,自由主義はしばしばそのイデオロギーであるとみられた。しかし各個人の諸自由を中核とした社会構造は,その国家形態からみれば,いわゆる消極国家,中性国家,夜警国家などに表象されるように,自由放任を生み,当然弱肉強食の現象を現出させることになり,社会的経済的に実質的な平等を求める広義の社会主義に挑戦されることになった。しかし,20世紀に出現した左右の独裁政治の実態は,自由主義が至上の価値としてきた内面的自由,政治的社会的諸自由などが,政治体制のいかんにかかわらず,普遍的価値があることを容認せしめ,近代西欧社会に主としてはぐくまれてきた自由主義は再評価されている。

*7-5:https://kotobank.jp/word/%E6%96%B0%E8%87%AA%E7%94%B1%E4%B8%BB%E7%BE%A9-298677 (新自由主義)
 政府の規制を緩和・撤廃して民間の自由な活力に任せ成長を促そうとする経済政策。債務危機の解決をめぐって国際通貨基金(IMF)など国際金融機関が融資の条件として債務国に採用を求めたこともあって、急速に中南米各国に広まった。緊縮財政や外資導入、国営企業の民営化、リストラのほか、公共料金の値上げや補助金カットなどを進めるため、貧困層の生活を直撃し国民の反発が強い。ベネズエラ大統領選でのチャベス政権誕生やエクアドル政変、アルゼンチン、ボリビアでの暴動など、新自由主義への反対を掲げた市民の動きが目立ち、南米の左派政権誕生の原因となった。 20世紀の小さな政府論を新自由主義と呼ぶ。18世紀イギリスの思想家、アダム・スミスは『国富論』で、経済は個人や企業の自由に任せることによって繁栄すると主張し、政府の役割を治安維持や防衛などに限定する必要を説いた。その後20世紀に入ると、大恐慌や戦時動員体制の経験を経て、政府が完全雇用を目指して需要を管理するケインズ主義政策が一般的となった。しかし、1980年代に入って政府における財政赤字の深刻な累積、官僚主義的な非能率などが大きな問題となり、イギリスのサッチャー政権、アメリカのレーガン政権を皮切りに、減税、規制緩和、民営化を軸とする小さな政府への改革が広まった。日本でも80年代の第2次臨時行政調査会による行政改革以来、新自由主義的な政策転換が進められてきた。ただ、日本では公共事業や規制に関して既得権を持つ官僚組織、利益団体、族議員が、小さな政府の徹底に反対してきた。つまり、日本の場合、保守の自民党の中に小さな政府と大きな政府という相対立する思想が同居しており、政策が円滑に決定されない。「官から民へ」というスローガンを唱えて登場した小泉政権も、新自由主義改革を推進するために、党内の抵抗勢力との間で複雑な駆け引きを繰り返してきた。結果的には、郵政民営化や社会保障費の抑制など新自由主義的政策が小泉政権の遺産となった。

<資源の使い方と財源>
*8-1:https://mainichi.jp/articles/20190516/k00/00m/040/193000c (毎日新聞 2019年5月16日) 国有林、過剰伐採の恐れ 民間開放拡大 法改正案衆院委可決
 全国の国有林で最長50年間、大規模に伐採・販売する権利を民間業者に与える国有林野管理経営法改正案が、16日の衆院農林水産委員会で自民、公明両党と国民民主党、日本維新の会の賛成多数で可決された。21日の衆院本会議で可決されて参院へ送られる見通し。全国の森林の3割を占める国有林の伐採を民間へ大きく開放し、低迷する林業の成長を促すとしているが、伐採後の植え直し(再造林)が進まなければ国土の荒廃につながりかねないなどの懸念も浮上している。現行の国有林伐採は農林水産省が数ヘクタール程度について1~数年単位で入札。再造林は別の入札で委託している。同案はこれに加え、数百ヘクタール規模の「樹木採取区」で公募した業者に「樹木採取権」を付与。大規模集約化による効率化を図り、対価として一定の権利設定料と樹木料を徴収する。

*8-2:https://www.agrinews.co.jp/p51016.html (日本農業新聞 2020年6月8日) 放牧経営どうなる 中止、畜舎義務化 懸念広がる 農水省基準案に「唐突」「根拠は」
 農水省が7月決定を目指す家畜の「飼養衛生管理基準」の改正案に、豚や牛などの放牧制限につながる事項が盛り込まれたことで、放牧で豚を飼育する農家に波紋が広がっている。豚熱のワクチン接種地域の24都府県で豚の放牧が実質できなくなり、それ以外の地域でも豚や牛は畜舎の整備などを義務化する。長年の経営を抜本的に見直さなければならない農家もいる中、科学的根拠を示さず案を示した同省の姿勢に疑問の声が相次ぐ。全国で放牧に取り組む養豚農家は140戸。自然に近い形で育て、薬の使用減少や耕作放棄地の解消、飼養コストの低減などにつなげてきた。一方、基準案は「放牧の停止又は制限があった場合に備え、家畜を使用できる畜舎の確保又は出荷もしくは移動のための準備措置を講じること」「大臣指定地域に指定された場合の放牧場、パドック等における舎外飼養の中止」などと明記。11日まで国民からの意見を募集しており、7月までの決定を目指す。放牧中止を余儀なくされる養豚農家らは「根拠を示してほしい」「国は放牧を推進してきたのに矛盾する」などと基準案の内容を疑問視する。長野県安曇野市で40年前から放牧豚を飼育してきた藤原喜代子さん(59)は「根本的に経営が変わる。理由を教えてほしい」と話す。畜産試験場で豚熱が発生しても、放牧で150頭を飼育する藤原さんは防疫と放牧を両立させて発生を防いできただけに、放牧を危険視する根拠の提示を求める。同省は5月13日に改正案をホームページなどで周知したが、理由は明記していない。事実上の放牧中止にまで踏み込んだ内容にもかかわらず、農家への影響調査はしていないという。同省の対応に静岡県富士宮市の「朝霧高原放牧豚」代表、関谷哲さん(45)は放牧豚ができなくなれば経営が成り立たなくなるだけに「どういう状況を放牧というのか、屋外に豚を出してはいけないのかなど、全く説明がない」と困惑する。大臣指定地域の豚熱のワクチンを接種する24都府県以外にも波紋は広がる。熊本県山都町で120頭を飼養する坂本幸誠さん(62)は、豚熱対策として4月に700万円かけて放牧場に550メートルのフェンスを設置した。「放牧でストレスのない環境で免疫力が向上し、病気にも強い。10年かけて、やっとここまできた」と坂本さん。顧客は放牧で飼育する希少種だから取引しているという。簡易畜舎はあるが、放牧中止の準備を求める同省の基準案に「寝耳に水。防疫と放牧は両立できるはず」と訴える。鹿児島県伊佐市で黒豚1000頭を飼育している沖田健治さん(61)も「豚熱はいつどこで発生してもおかしくなく、ワクチン接種地域以外にも影響は大きい」と指摘する。熊本県天草市で50頭の豚を飼育する大橋範子さん(46)は「放牧する養豚農家は、誰もが伝染病対策の大切さを考えている。突然案を示すのではなく、どんな対策ができるのか農家と考えてほしい」と要望する。

*8-3:https://www.agrinews.co.jp/p50881.html (日本農業新聞 2020年5月24日) 東京圏在住 半数「移住に関心」 農業人気 田園回帰志向強く
 内閣官房まち・ひと・しごと創生本部は、東京・埼玉・千葉・神奈川の1都3県在住者を対象に行ったアンケートの結果を公表した。東京圏在住者の半数が地方暮らしに関心があると答え、都市住民の田園回帰志向が浮き彫りになった。「やりたい仕事」の最多は「農業・林業」だった。j調査は、東京一極集中の解消に向けて移住を促進するために、同本部が今年1月、東京圏在住の20~59歳の男女1万人を対象にインターネットで実施した。東京圏在住者全体の49・8%が、1都3県以外の地方圏暮らしに関心があると回答した。出身別では東京圏出身者は45・9%、地方圏出身者では61・7%に上った。「やりたい仕事」では「農業・林業」が15・4%で最多。「宿泊・飲食サービス」(14・9%)、「サービス業」(13・3%)「医療・福祉」(12・5%)が続いた。また、若い世代ほど移住の意向が強い傾向も分かった。一方、地方圏暮らしへのネガティブイメージは、「公共交通の利便性が悪い」(55・5%)が最も多く、「収入の減少」(50・2%)、「日常生活の利便性が悪い」(41・3%)などが挙がった。同本部は「新型コロナウイルスの影響が及ぶ前の調査だが、コロナ禍で地方への関心層は一層、高まる可能性もある。新型コロナウイルスが収束し、都道府県をまたいで行き来ができるようになれば、地方暮らしをPRしていく」と説明する。

*8-4:https://www.yamagata-np.jp/shasetsu/index.php?par1=20200612.inc (山形新聞社説 2020.6.12) コロナと公立病院再編 危機に強い医療構築を
 厚生労働省は新型コロナウイルス流行で入院病床が逼迫(ひっぱく)したのを受け、約440の公立・公的病院の再編・統合について都道府県から検討結果報告を受ける期限を当初の9月から先延ばしする。同省が主導した従来の検討では、感染症対応の視点欠如が明らかだ。経済合理性を優先して病床削減を進めれば国民の生命を守れない。コロナの教訓を生かし、効率的かつ危機に強い病院再編に向けて仕切り直しをすべきだ。病院再編は、団塊世代が75歳以上となり医療費が急増する2025年を見据え病院の統合や診療機能の役割分担、病床数削減も含めて医療提供体制を見直す。厚労省は再編に向けた議論を促すため昨年秋、診療実績が乏しいか、近隣に競合病院があり、再編・統合が必要と判断した約440の公立・公的病院を都道府県に伝え、地域で結論を出すよう求めた。本県では県立河北、天童市民、朝日町立、寒河江市立、町立真室川、公立高畠の各病院が該当し、県は四つの2次医療圏に設置した地域医療構想調整会議で議論を促している。寒河江市は来月、市立病院と県立河北病院の統合を軸とした検討を進めるよう県に要望する。病院再編の検討は少子高齢化に伴うものだ。急病や大けがで入院する「高度急性期」「急性期」病床の必要性は低くなる一方、高齢者のリハビリといった「回復期」病床のニーズが高まる。厚労省はこれらを調整し、18年に全国で124万6千床あった病床を119万1千床まで減らす方針だ。だが地方側は、赤字が深刻な公立病院改革の必要性は認めつつ、病院名を挙げての再編要請には「地域医療の最後の砦(とりで)だ。個別事情を評価していない」と反発し、議論が難航していた。そのさなかに新型コロナの感染拡大が起きた。2月時点で全国の感染症指定医療機関の病床は約2千床。政府は当初、5千床の緊急確保を表明したが、とても足りず、5月末で1万8千床をようやく確保できた。一時は東京、石川で用意した病床の約9割が埋まり、感染症への危機対応の弱さが浮き彫りになった。しかも公立病院は感染症病床の約6割を担っている。再編が必要とされた公立・公的病院約440の中には感染症指定医療機関53病院が含まれ、コロナ対応の拠点となっており、それを考慮しない病床削減は地域の理解を得られない。厚労省の有識者会議で有事対応への余力維持を求める意見が出ているのも当然だろう。公立・公的病院は過疎地での医療や、救急、小児医療など採算が取りにくい部門を引き受けている。だが少子高齢化で医療や病床のニーズが変わるのに合わせ病院、病床の機能を効率化していかなければ将来の医療費負担は重くなる一方だ。同時に、コロナの教訓を踏まえ、感染症流行拡大に即応できる体制を強化しなければならない。ただし未知のウイルスに備え常時多くの空きベッドを抱えれば人件費など医療機関の経営コストが過重になりかねない。しかもコロナ患者を受け入れた公立病院の9割以上が通常の診療ができず減収に苦しむ問題も起きた。複雑な連立方程式であり最適の解を見いだすのは容易ではないが、官民とりわけ地域の英知を結集し展望を開きたい。

<研究と特許>
*9-1-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/531307 (佐賀新聞 2020.6.5) ノーベル賞本庶佑氏が法廷闘争へ、がん免疫薬の特許巡り小野薬品と
 本庶佑京都大特別教授は5日、自身の研究チームの発見を基に開発され、ノーベル医学生理学賞の受賞にもつながったがん免疫治療薬「オプジーボ」の特許収入として、小野薬品工業に約226億円の支払いを求め、今月中旬にも大阪地裁に提訴すると発表した。新たながん治療薬の種を見つけた研究者と、リスクを取って実用化に結びつけた製薬企業の収入配分を巡る対立は法廷に持ち込まれる。本庶氏は収入を若手研究者の支援のため設立された京大の基金に充てる考え。本庶氏は記者会見し「話し合いで解決したかったが誠意ある回答が得られず、やむなく訴訟を決意した」と説明。「アカデミアの成果を社会がきちっと評価することが必要だ」と訴えた。小野薬品の広報担当者は「内容を正確に把握できておらず、コメントは差し控える」と話した。本庶氏は2006年、小野薬品と収入配分に関する契約を締結。だが「金額が著しく低く不当だ」として11年以降、見直しを求め交渉していた。本庶氏は、14年に小野薬品から「特許を巡る米国の製薬会社との訴訟に協力すれば条件を見直し、その会社から得られる特許使用料の40%を配分する」と提案され、協力。しかし裁判終了後にほごにされたと主張する。一方の小野薬品は、この提案内容で両者が合意したとは認めていない。今回求める約226億円は、17~19年に米国の製薬会社から小野薬品に入った特許使用料の約39%。本庶氏によると、小野薬品は40%ではなく「1%分を支払う」と通知してきており、その差額に当たる。小野薬品は19年、本庶氏が求めてきた料率の引き上げではなく、京大への最大300億円の寄付を提案。だが本庶氏は受け入れず、協議を続けていた。オプジーボは体内の免疫細胞に作用し、がんへの攻撃を継続させる薬。14年に国内で発売され、皮膚のがんから肺、腎臓などへと用途が拡大してきた。

*9-1-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO78790300T21C14A0X11000/ (日経新聞 2014/10/24) 15年間諦めなかった小野薬品 がん消滅、新免疫薬
 日本人の死因のトップであるがん治療には、外科的手術や放射線治療、最後の手段として化学療法があるが、今この構図が大きく変わる可能性が出てきた。免疫を使ってがん細胞を攻撃する新たな免疫治療薬「抗PD-1抗体」が実用化されたからだ。世界に先駆けて実用化したのが関西の中堅製薬、小野薬品工業だ。画期的な免疫薬とは――。
■「オプジーボは革命的なクスリ」と高評価
 「がん研究、治療を変える革命的なクスリだ」。慶応義塾大学先端医科学研究所所長の河上裕教授は9月から日本で発売が始まった小野薬の抗PD-1抗体「オプジーボ」(一般名ニボルマブ)をそう評価する。ニボルマブは難治性がんの1つ悪性黒色腫(メラノーマ)の治療薬として小野薬と米ブリストル・マイヤーズスクイブ(BMS)が共同開発した新薬だ。がんは体内の免疫に攻撃されないように免疫機能を抑制する特殊な能力を持つ。ニボルマブはこの抑制能力を解除する仕組みで、覚醒した免疫細胞によってがん細胞を攻撃させる。世界的な革命技術として、米科学誌サイエンスの2013年の「ブレークスルー・オブ・ザ・イヤー」のトップを飾った。今や米メルク、スイスのロシュなど世界の製薬大手がこぞってこの仕組みを使った免疫薬の開発を加速させている。悪性度が高いメラノーマは5年後の生存率は1割前後という極めて危険ながんだが、米国、日本での臨床試験(治験)では「増殖を抑えるだけでなく、がん細胞がほぼ消えてしまう患者も出た」(河上教授)。米国での他の抗がん剤と比較する治験では既存の抗がん剤を取りやめ、ニボルマブに切り替える勧告も出たほどだ。肺がんや胃がん、食道がんなど他のがん種に対する治験も進んでいる。世界の製薬大手が画期的な新薬開発に行き詰まるなか、なぜ小野薬が生み出せたのか。1つは関西の1人の研究者の存在がある。「PD-1」という分子を京都大学の本庶佑名誉教授らの研究チームが発見したのは1992年だ。小野薬もこの分子に目をつけ、共同研究を進めた。PD-1が免疫抑制に関わっている仕組みが分かったのは99年で、創薬の研究開発が本格的に始まるまでにおよそ7年。実際の治療薬候補が完成し治験が始まったのは2006年で、開発から実用化までにおよそ15年かかったことになる。当時は「免疫療法は効果が弱い」「切った(手術)方が早い」など免疫療法に対する医療業界の反応は冷ややかだった。医師や学会だけでなく、数々の抗がん剤を実用化した製薬大手も開発に消極的だった。そんな中で小野薬だけが"しぶとく"開発を続けてきた背景には「機能が分からなくても、珍しい機能を持つ分子を見つけ、何らかの治療薬につなげるという企業文化があった」(粟田浩開発本部長兼取締役)という。もともと小野薬は極めて研究開発志向の強い会社だ。売上高(14年3月期は1432億円)に対する研究開発比率は国内製薬メーカーでは断トツの30%台だ。しかもがん治療薬は初めて参入する分野で、「かならず成果を出す」という研究者の意欲も高かった。小野薬は血流改善薬「オパルモン」とアレルギー性疾患治療薬「オノン」の2つの主要薬で高収益を維持した。だが、特許切れや後発薬の攻勢で陰りが出てきたところでもあった。免疫療法に対する風向きが変わり始めたのは米国で抗PD-1抗体の治験が始まった06年からだ。一般的な抗がん剤はがんの増殖を抑える仕組みのため数年で耐性ができ、結局は延命効果しかない。しかし抗PD-1抗体で「がんを根治できる可能性も出てきた」(河上教授)。
■年間数百億円のロイヤルティー効果
 副作用が少ないうえ、がんの増殖を止める、小さくする、消滅させる――。そうした治験結果が出始めたことで、国内外の研究者、製薬企業の免疫療法に対する見方が大きく変わった。ただ、効果が出ていない人も一定の割合で存在する。その場合は「他の抗がん剤や免疫療法と組み合わせれば、効果が上がる可能性がある」(粟田本部長)という。足元の業績が低迷するなか、ニボルマブ効果で小野薬の市場評価は高まっている。昨年10月時点で6000円前後だった株価は今年に入って急騰。23日の終値は9340円とわずか1年足らずで3000円以上伸びた。アナリストも「今後数年でロイヤルティーだけで年数百億円は堅い」と分析する。小野薬の相良暁社長も「10年先を支える薬になるだろう」と自信をみせる。ただメルク、ロシュなどが同じ仕組みの抗PD-1抗体の治験を拡大しており、国際競争に巻き込まれる可能性も高い。一方で他の製薬大手から小野薬がM&Aの標的となる懸念もある。その意味で同社が置かれている環境は必ずしも楽観視できない。がんの新たな治療法の扉を開けた小野薬。日本発の免疫薬に世界の目が注がれている。

*9-2:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?R_FLG=1&b=20200523&be・・ (日経新聞 2020.5.23) ワクチン量産 設備が壁 特殊な技術 欧米勢が先行 日本、資金支援を検討、 ワクチン、国家の争い激化 国際協調に課題 、 米、コロナ関連に1300億円/中国、年内に実用化めざす
 新型コロナウイルスのワクチン開発を巡り各国が激しい主導権争いを演じている。先行する米国は自国での供給・備蓄を目的に1千億円超を投じて、欧米医薬企業の実用化を後押しする。中国も国を挙げて開発を強化しており、欧州勢も世界競争に割って入る。国際協調でワクチン開発を支援する動きもあるが、国主導の開発スピードが加速している。米国で新型コロナワクチン開発を支えるのが、米生物医学先端研究開発局(BARDA)だ。BARDAはバイオテロなどに対応するために2006年に設立。米保健福祉省(HHS)の傘下組織で国の予算で運営されている。米国民の生命を守るため治療薬やワクチンの開発・生産を支援する。BARDAは米でコロナ感染が深刻化した3月初旬以降、新型コロナ案件に集中している。投じた金額は12億ドル(1300億円)を超える。BARDAは開発を支援するだけでなく、開発を終えてすぐに供給できるように生産体制の構築まで視野に入れ巨額資金を投じる。すでにジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)と設備投資費用10億ドル(約1千億円)を折半して、10億回分の新型コロナワクチン供給契約も締結した。BARDAは米バイオ企業モデルナにも約4億3000万ドル(約460億円)を投じる。ワクチンの有効性を確認する前から投資を決断し、同時に大量に買い取る契約も結んだとされる。4月30日、国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長は21年1月までにワクチンを数億本供給する計画の存在を明らかにした。「有効かどうか答えが出る前に、リスクをおかして生産増強を進める」(ファウチ所長)。詳細は明らかになっていないがBARDAの存在が見え隠れする。米国は自国への供給を最優先としているが同様の動きは広がっている。中国では政府と関係の深いバイオ企業や研究所で3つのワクチン治験が進む。開発費用や治験の設計、製造体制まで政府の支援を受けていると言われる。安全性重視の欧米と違い有効性確認を優先するため実用化スピードは速い。支援を受けるカンシノ・バイオロジクスが手掛けるワクチンは世界で初めて有効性を確認する治験まで進んでおり、年内実用化を目指す。中国は自国だけでなく、途上国にも供給することで外交的な影響力拡大も狙う。ワクチン開発を急ぐのは米中だけではない。英国でワクチン治験を始めたオックスフォード大学は4月30日、製薬大手の英アストラゼネカ(AZ)との提携を発表した。英国政府も同大に2000万ポンド(27億円)を助成。年内に1億回分のワクチン製造体制を構築し英国民への供給を急ぐ。欧州連合(EU)もドイツの有力ワクチンメーカーに8千万ユーロ(約94億円)の研究助成を決めたのも、優先供給を狙う米国から同メーカーを防衛するためとされる。ただ、仏製薬大手サノフィのポール・ハドソン最高経営責任者(CEO)は「(ワクチン開発支援で)欧州委員会がBARDAレベルに達していない」と指摘し、開発スピードなどで遅れかねないと懸念する。国際的な官民連携組織である感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)は「平等なアクセス」を理念とする。支援を受けた企業は手ごろな価格で分け隔てなく供給することが求められる。ただ、CEPIの支援は研究開発が中心で、BARDAのように供給体制構築まで踏み込まない。日本もCEPIに資金拠出している。国内では内閣府などが所管する日本医療研究開発機構(AMED)がワクチン開発を支援する。支援規模は小さく、治験などの助成に限る。世界がワクチン開発で覇権争いを繰り広げるなか、海外製ワクチンが日本に速やかに輸入されるという保証はない。国産ワクチン開発を急ぐためにも、制度、資金だけでなく生産体制にそそぐ必要がある。

*9-3-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/613631/ (西日本新聞 2020/6/3) 高齢運転対策「終わりはない」池袋暴走の遺族訴え 改正道交法成立
 高齢者運転対策を盛り込んだ改正道交法が2日、衆院本会議で可決、成立した。契機となったのは昨年4月、東京・池袋で高齢運転者の車が暴走し、松永真菜さん=当時(31)=と長女莉子ちゃん=当時(3)=が死亡した事故だった。悲しみの淵にありながら事故防止を訴え続けた夫拓也さん(33)は、法改正を「大きな一歩だけど、終わりではない」と語る。都市と地方の格差、免許返納者の生活支援など課題は残されている。インターネットのビデオ会議アプリ「Zoom(ズーム)」で思いを聞いた。事故の5日後、拓也さんは会見で涙ながらに訴えた。「運転に不安がある人は運転しない選択を考えてほしい」。犠牲者を減らしたい一心だった。6月には福岡市早良区で80代男性の車が逆走し、10人が死傷する事故も発生。「また起きた。もっと伝えられることがあったのでは」と自分を責めた。妻子が事故に遭った時間に手が震え、見ていない事故の瞬間の光景が目に浮かんだ。同様の経験をした遺族たちと出会い、交通政策の勉強を始めた。東京生まれ、東京育ちの拓也さん。車でないと買い物や病院さえ行けないという地方の窮状を知った。免許が自尊心そのものという人もいる。「『運転しない選択』を迫った発言は短絡的だった」と省み、今はこう考える。「高齢者を切り離して事故は防げるが、今生きてる命を見放すことになる。事故で奪われる命も、車を手放すことで脅かされる日常も望まない」。高齢化に伴い、75歳以上の運転免許保有者数は昨年までの10年間で140万人も増えた。改正道交法は、一定の違反歴がある75歳以上への実車試験の義務付けや安全運転サポート車(サポカー)の限定免許創設を定める。「従来の免許更新は足が不自由など体の機能を調べていなかった。一定の効果は出る」と期待する。一方、サポカーへの過信が事故につながらないか懸念する。自動ブレーキの作動には多くの条件があり、池袋の事故もサポカーで防げなかった。「技術を過信しないよう正確な情報発信が必要」と求める。拓也さんの活動は世の中を動かした。運転免許の返納件数は昨年、過去最多の約60万件に上った。「高齢の親の説得などそれぞれの家庭の頑張りに支えられた結果」と受け止める。事故は高齢者だけが起こすものではない。誰もが加害者にも被害者にもなる。高齢者運転対策が「若年者と高齢者の対立構造になってほしくない」と願う。「1人でも命が守られれば、2人の命を無駄にしないことにつながる」と一周忌を機に実名を公表し、会員制交流サイト(SNS)などでも発信を始めた。「僕の寿命が尽きたとき、2人に『生ききったよ』と言えるようにしたい」。事故のない社会のために、前を向く。

*9-3-2:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/613906/ (西日本新聞 2020/6/4) 高齢運転者の免許返納急増 10人死傷の多重事故から1年
 福岡市早良区で高齢ドライバーの車が逆走して10人が死傷した多重事故から4日で1年。事故を機に高齢者を中心に運転免許証の自主返納が急増していることが西日本新聞の調べで分かった。昨年、九州7県の返納件数は5万6578件と2018年の1・3倍。今年も新型コロナウイルスの影響が本格化した4月以外は高止まりが続いている。警察庁によると、昨年は75歳以上のドライバーによる死亡事故件数は401件。免許人口10万人当たりの件数は6・9件で、75歳未満の2・2倍だった。九州7県の昨年1月以降の月別返納件数(西日本新聞調べ)は、東京・池袋で男性=事故当時(87)=の車が暴走して母子2人を死亡させた事故が同4月に起き、同5月は全県で増加。福岡市の逆走事故があった同6月は、福岡(2381件)▽佐賀(418件)▽熊本(786件)▽鹿児島(804件)の4県で最多になった。今年1月には大分(628件)▽宮崎(520件)の両県で最も多くなり、免許返納に対する意識が浸透していることをうかがわせる。年齢別では75歳以上が6~7割を占めた。各県警もあの手この手で高齢運転者の対策を進めている。福岡県警は3月に交通安全を啓発する専用車を導入。認知機能や体力が低下した高齢者の運転を疑似体験し、身体能力を測定できる機器を備える。公共施設などを巡回し、運転を見つめ直すきっかけにしてもらう狙いだ。佐賀県警は、運転寿命を延ばす一方、免許証を返納しやすい環境づくりを進める。昨年4月に「シルバードライバーズサポート室」を設置し、70歳以上を対象にした無料の運転技能教習には昨年5~12月に87人(平均年齢78・6歳)が参加。今年4月からは基山町役場でも返納ができるようにした。久浦厚室長は「知恵を出しながら高齢運転者に寄り添った対応を進めたい」と話した。 

*9-4-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59924040T00C20A6MM8000/?n_cid=NMAIL006_20200603_Y (日経新聞 2020/6/3) 日本電産、中国にEVモーター開発拠点 日本級の規模
 日本電産は中国に駆動モーターの開発拠点を新設する。成長の柱と位置づける電気自動車(EV)用が中心で、2021年に稼働させる計画。人員規模は約1千人と日本の中核拠点と同規模になる見通し。米国との政治対立や新型コロナウイルスの感染問題で中国展開に慎重な企業も増えるなか、日本電産は中国を重要市場と位置づけている。米国も含めた複数の拠点整備で、現地の需要を取り込む。中国東北部の遼寧省大連市で約1千億円を投じて建設中の工場内に設ける。EV用の駆動モーターに加え、家電製品などに使うモーターの開発にあたる。人員規模は滋賀県の開発センターと同程度になる。このうち、300~400人程度がEV用駆動モーター専任となる予定。中国に設置済みの2拠点でも増員し、EV関連の技術者は現状の約100人から数年後に650人に増やす。競合も中国での拠点開設を急いでいる。独コンチネンタルが21年に天津市に開発センターを設置する予定。独ボッシュも現地企業と合弁を組み、EV用駆動モーターの供給を目指す。日本電産はシェア拡大とコスト競争力を高めるうえで、現地で開発強化が欠かせないと判断した。米中が貿易問題で対立を深めており、米国が中国製品への制裁を強めるとの懸念から、外資企業が中国の拠点を他国に移す動きが広がるとの見方も出ている。ただ、日本電産は米国でもエンジン冷却用などの車載用モーター拠点を抱えるほか、米中西部のセントルイスには家電や産業用モーターの事業拠点を持つ。米中は世界の二大消費国でもあるだけに、両国に拠点を構えることで、さらなる成長につなげる。

*9-4-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59635330X20C20A5000000/?n_cid=DSREA001 (日経新聞 2020/5/27) 日本電産のEV用モーター、吉利汽車が採用
 日本電産は27日、同社が手掛ける電気自動車(EV)用駆動モーターシステム「E-Axle」が中国の吉利汽車の新型EVに採用されたと発表した。2019年4月に量産を始めた最大出力150キロワット型を吉利汽車向けに改良し、新型のインバーターを採用するなどして走行性能を高めた。E-Axleは内燃自動車のエンジンにあたる駆動用モーターにインバーターやギアなどを組み合わせた基幹部品。吉利汽車のハイエンド新型EV「Geometry C」に採用された。既に量産している150キロワット型のE-Axleを、吉利汽車向けに改良し供給する。同社のEV用駆動モーターの受注見込みはE-Axleやモーター単体を合わせて4月時点で26年3月期までに1600万台と、中国や欧州を中心に採用が増えている。日本電産はEV用駆動モーターを今後の成長を担う中核製品と位置づけており、30年に世界シェア35%の獲得を目指す。

<日本の教育について>
PS(2020年6月16日追加):米国は世界から留学生を受け入れ、比較的差別なく要職にもつけており、中国人も同様に扱ったため、*10-1-1のように、「①テキサス州にある世界有数の癌研究機関が、疫学・分子生物学の研究を手掛ける3人の中国系研究者(教授も含む)を追放した」「②ジョージア州のエモリー大学が、2人の中国系米国人の神経科学の研究者夫妻(教授を含む)を解雇した」「③ナノ化学の世界的研究者でノーベル賞候補でもあったハーバード大学のチャールズ・リーバー教授が、中国政府が進める『千人計画』に協力して年間15万ドルに加えて毎月5万ドルの報酬を受け、中国の大学でも研究室を主宰する予定だったにもかかわらず、NIHと米国防総省に虚偽の説明をしていたため逮捕された」等のことが起きている。米国は、これまで世界の優秀な頭脳が米国内で働き、研究して特許を得ることによって利益を得てきたのだが、中国が「千人計画」で優秀な中国人研究者を呼び戻して飛躍的に研究開発力を高め始め、世界の新技術の覇権争いに負ける可能性すら出てきたことから、これらの行動に踏み切ったものだ。中国人の方は、母集団の多さや勤勉さもあって、世界のどの国に行っても活躍しているため、市場主義に変革した中国に帰っても活躍できるだろう。
 一方、日本は、優れた人材が新市場を作りだして富を生みだすにもかかわらず、*10-1-2・*10-2のように、研究者等の育成を疎かにしている。研究者だけでなくビジネスパースン(businessperson)も、少ない母集団から選ばれた人材よりも留学生も加えた多くの人材から選ばれた方が優秀になるのは当然である上、留学生は2つの文化を理解して擦り合わせることができるため、気付くことが多いのである。にもかかわらず、日本が今の段階で、学生給付金等々で留学生差別を行うのは、人材確保・国際戦略の両面で誤っている。
 さらに、日本では、いつまでたってもできない理由を並べて解決せず、*10-3-1のような保育士不足や、*10-3-2のような教員不足・学童保育施設不足が言われるが、子どもは生まれた時から周囲の環境を感じながら1人の人間としての美意識や価値観などの感性を形づくっていくものであるため、教育投資を疎かにすべきではない。従って、私は、コロナ危機を境に、*10-3-3のように、9月入学制度を採用するか否かにかかわらず、義務教育開始を5歳か3歳からにするのがよいと思う。何故なら、できるだけ前倒しして教育することによって無駄な時間を過ごさせず、無理なく楽しく必要な知識や理解力・判断力などを身に着けさせるのが、日本に住む子どものためだからだ。


    2017.3.28毎日新聞    アフリカ諸国の人口ピラミッド 2020.5.5佐賀新聞

(図の説明:左図のように、日本の1950年の人口ピラミッドは、中央の現在のアフリカの人口ピラミッドと似た二等辺三角形の多産多死型だったが、現在は少産少死化が進んで人口構造が変わった。そして、日本では、生産年齢人口や教育期間人口の割合が減ったため、学校にはゆとりがあり、留学生や移民を受け入れる余地は大きくなった筈である)

*10-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60224600R10C20A6000000/?n_cid=DSREA001 (日経バイオテクオンライン 2020年6月10日) ワクチン開発競争 実力増す中国、いらだつ米国
 新型コロナウイルス感染症を契機に、米国と中国の対立が深まっている。その主戦場の1つがワクチン開発だ。製薬業界で新しい医療用医薬品(先発医薬品、いわゆる新薬)を生み出した経験を持つのは、これまで欧州や米国、日本ばかりだった。しかし中国は近年、新薬の研究開発力を飛躍的に高めている。中国が米国に先んじてワクチン開発に成功する可能性も否定できない。「最初にワクチン開発に成功した国が世界に先駆けて、その国の経済と世界的な影響力を回復するだろう」――。4月末、米国で医薬品の審査・承認を担当する米食品医薬品局(FDA)の元長官であるスコット・ゴットリーブ氏は、新型コロナウイルス感染症に対するワクチン開発の重要性について、こう見解を述べた。米国がワクチン開発に血眼になるのは、世界で最も感染者数の多い自国民を救うのにとどまらず、ゴットリーブ氏が言及したように、世界の覇権争いの行方を左右すると考えるからとみられる。とりわけ意識するのが中国だろう。トランプ米大統領が「中国ウイルス」と連呼するほどに「敵視」するのが中国だ。一昔前であれば、創薬大国の米国に中国がワクチン開発で先着する可能性はゼロだった。これまで中国が得意としてきたのは、生薬や後発医薬品(特許切れした先発医薬品と同等の医薬品)の開発・製造であり、新薬の研究開発経験はほとんど無かった。しかし、「過去10年で、中国の新薬の研究開発力は飛躍的に高まっている」と製薬業界の関係者は口をそろえる。世界に先駆けて、中国が新型コロナウイルス感染症のワクチン開発に成功する可能性もある。
■中国、新薬・ワクチン開発に軸足
 これまで中国は海外留学から帰国した研究者などに多額の研究費を投じ、大学・研究機関のレベルの底上げを図ってきた。近年は最先端のiPS細胞や間葉系幹細胞、胚性幹細胞(ES細胞)などを用いた細胞医薬や遺伝子治療などを含め、新薬の研究開発を手掛ける中国のスタートアップが続々誕生。中国政府が、医薬品の規制をグローバルの規制に近づけたり、医薬品の臨床試験の環境を整えたりしたこともあり、中国企業は、「中国での後発医薬品の開発」から、「世界での先発医薬品の開発」へと軸足を移している。2019年11月には、スタートアップの中国ベイジーンが米国で悪性リンパ腫というがんの治療薬「BRUKINSA」(一般名ザヌブルチニブ)の承認を獲得。先端的な創薬技術や開発力が求められるがん領域の新薬を、中国企業が生み出せることを世界に印象付けた。同様に中国は感染症領域のワクチンの研究開発にも力を入れてきた。一般的にワクチンは健常者に打つため高い安全性が求められ、種類によっては製造が難しく、開発・製造するのは簡単ではない。ただ、中国企業がワクチンを開発・供給できれば、自国のためだけでなく、公衆衛生上、感染症が大きな課題であるアジアやアフリカなどで存在感を増すことにもつながるという、中国政府の戦略もあるのだろう。13年10月には、中国生物技術集団傘下の成都生物制品研究所が開発・製造した日本脳炎ワクチンが、世界保健機関(WHO)の事前認定基準に準拠していると認められた。同基準はWHOが途上国などへ医薬品を供給するに当たって、医薬品の品質、安全性、有効性などを事前に確認するためのもの。中国製のワクチンがWHOの認定を受けるのは初めてのことだった。最近では、アフリカで問題になっていたエボラ出血熱に対して、欧米企業に並んで、中国スタートアップのカンシノ・バイオロジクスが独自技術を活用したワクチンを開発し、中国政府から緊急時と国家備蓄向けの承認を獲得。同ワクチンは国連の下、アフリカに派遣された中国の平和維持軍や中国の医療専門家などに投与されている他、アフリカでの臨床試験が計画されていた。今回、新型コロナウイルス感染症に対しては、世界で100品目超のワクチンの開発が進められている。その中で、スタートアップである米モデルナ、英オックスフォード大学と英製薬大手アストラゼネカと並び、先頭を走っているのがカンシノだ。同社はエボラ出血熱に対するワクチンと同じ基盤技術を活用。ウイルスのたんぱく質(具体的にはスパイクたんぱく質)の遺伝子を、風邪の原因の1つであるアデノウイルスからつくった、人に害のないアデノウイルスベクター5型というウイルスの運び屋に搭載し、体内でウイルスのたんぱく質をつくらせるワクチンを開発した。このワクチンに関しては、「もともとアデノウイルスベクター5型に免疫のあるヒトには効きにくいのでは」といった懸念が挙がっているものの、カンシノは着々と開発を進めている。既に少数の被験者を対象に安全性を確認する第1相臨床試験を終え、最適な投与量を決める第2相臨床試験を500人を対象に進めているところだ。さらに今後カナダで同ワクチンの臨床試験や製造を行うことも計画している。ワクチンが実用化されるまでには、新型コロナウイルス感染症が流行している地域で数多くの被験者を対象に第3相臨床試験を実施して、安全性、有効性の確認が必要となる。いずれにせよ、現状では中国のスタートアップが新型コロナウイルス感染症のワクチン開発の先頭集団にいることは間違いない。もっとも、新型コロナウイルス感染症に対しては相当数のワクチンが開発されていることから、複数のワクチンが実用化される可能性が高く、「ワクチンの製造能力や特徴に応じて、高齢者向け、小児向けなど、使い分けが進むのではないか」と業界関係者はみている。そのため、カンシノのワクチンも、(仮に臨床試験がうまく行ったとして)製造能力がどの程度あるか、副反応など安全性がどの程度か、どの国で承認を得られるかなどによって、世界で使い分けられるワクチンの1つになるだろうと考えられる。
■FBI、中国を名指しで異例の警告
 中国が新型コロナウイルス感染症のワクチン開発で存在感を増していることについて、いら立っているのが米国だ。20年秋に大統領選を控えるトランプ大統領が、対中強硬姿勢を先鋭化させている影響もあるにせよ、米国政府が以前にも増して、中国の動きに神経を尖らせていることは間違いない。米連邦捜査局(FBI)と米国土安全保障省傘下のサイバーセキュリティー専門機関(CISA)は5月13日、新型コロナウイルス感染症の研究を手がける米国の大学・研究機関や企業に対して共同で警告を発出した。警告では、中国を名指しした上で「中国政府とつながりのあるハッカーが、米国の研究機関から新型コロナウイルス感染症のワクチン、治療薬、検査に関するデータを不正に取得しようとしているケースが、複数回確認されている」と指摘。疑わしい活動があれば、積極的に報告するように呼びかけた。米国は以前から、中国によるサイバースパイ活動を批判してきたが、FBIとCISAが共同で警告を出すのは異例のことだという。なお中国政府は今回の警告について、「米国による中傷だ」として反論している。もっとも、バイオ・医学分野での米中対立は最近始まった話ではない。米国では数年前から公的資金で実施されたバイオ・医学分野の研究成果が、中国に不当に利用されているのではないかという懸念が強まっていた。それを印象付けたのは18年夏、著名な研究者でもある米国立衛生研究所(NIH)のフランシス・コリンズ所長が、全米の大学や研究機関へ送付した1枚の書簡だ。NIHは米保健福祉省(HHS)傘下で様々な医学研究を手掛ける研究所の集合体であるとともに、年間300億ドル(約3兆2000億円)以上という莫大な研究費をバイオ・医学分野の研究者に配分している政府機関である。米国でバイオ・医学分野の主要な研究を手がけるアカデミアの研究者で、NIHからの研究費を得ていないものはほとんどいない。コリンズ所長は公表した書簡の中で、「残念ながら、米国のバイオ・医学分野の研究の清廉性を脅かす存在がある」と明らかにしたのだ。清廉性を脅かす存在が誰なのか、書簡では具体的な国名などには言及しなかったが、「NIHが支援した研究に基づく知的財産を、一部の研究者が他国政府など外部組織へ盗用している」「NIHが支援した研究者が、他国政府など外部組織から相当な研究費を得ているにもかかわらず、情報を開示していない」といった違反行為の具体例を挙げ、他国政府が関与している可能性を示唆。違反行為を減らすため、NIHとして政府機関や研究コミュニティと協力して取り組みを進める方針を示した。
■米で相次ぐ中国系研究者の追放
 さらに19年春、NIHは米国の大学や研究機関に対し、他国政府など外部組織とのつながりを開示していない研究者について、情報提供するよう要請したとされる。これまでの事態の推移をみると、研究の清廉性を脅かす存在として、NIHの念頭にあったのは、やはり中国ということになるだろう。19年春以降、米国では、「中国と関わりがあるにもかかわらず、その事実を開示していなかった」などとして、バイオ・医学分野の研究者が何人も大学から解雇されたり追放されたりしている。19年4月、テキサス州にある世界有数のがん研究機関MDアンダーソンがんセンターが、疫学や分子生物学の研究を手掛ける3人の研究者を追放した。3人はいずれも中国系で、中には教授も含まれていた。また、19年5月には、ジョージア州にあるエモリー大学で、神経科学の研究を手掛けていた、教授を含む2人の中国系米国人の研究者夫妻が突然解雇された。研究室はその日のうちに閉鎖され、研究室のウェブサイトにもつながらなくなった。20年1月には、ハーバード大学のチャールズ・リーバー教授が逮捕された。逮捕の理由は、中国政府が進める「千人計画」に協力し年間15万ドルに加えて毎月5万ドルという莫大な報酬を受け、中国の大学でも研究室を主宰する予定だったにもかかわらず、NIHと米国防総省に対し虚偽の説明をしていたため。これまで数々の受賞歴を持つ、ナノ化学の世界的な研究者であり、ノーベル賞の受賞者候補の1人でもあったことから、全米で大きく報道された。バイオ・医学分野ではこれまで、直接的なスパイ活動をしたというよりも、「中国との関係を開示していなかった」ことを理由に研究者が追放・解雇されたり逮捕されたりするケースが相次いでいるのが実態だ。しかし今回、FBIとCISAが警告を出したことで、今後、中国絡みのバイオ・医学分野のサイバースパイ活動に関しても、具体的なケースが出てくる可能性がありそう。新型コロナウイルス感染症のワクチン開発競争が決着しても、バイオ・医学分野での米中対立は続くことになりそうだ。

*10-1-2:https://digital.asahi.com/articles/ASN6F7F61N69PLZB01M.html (朝日新聞 2020年6月14日) 京大総長、学生給付金を批判 「留学生差別、おかしい」
 新型コロナウイルスの影響で困窮する学生を対象にした国の「学生支援緊急給付金」が、外国人留学生だけ成績の良さを申請要件にしている問題で、京都大の山極寿一(じゅいち)総長(68)が9日、朝日新聞のインタビューに応じた。要件を「差別的だ」と批判した上で、留学生を排除しない姿勢を取ることが「日本が国際社会をリードしていく一番大きな力になる」と訴えた。同給付金を外国人留学生が申請する場合、「成績が優秀」「出席率が8割以上」といった日本人学生にはない要件を満たす必要がある。批判の声が出ており、山極氏はネット上の反対署名運動の呼びかけ人の一人にもなった。インタビューで山極氏は「(同給付金は)生活困窮者への支援だ。成績を重んじる奨学金とは目的が違う」と述べ、成績要件を批判。「日本人学生の要件は基本的に経済的な事情だけ。留学生も、経済事情が逼迫(ひっぱく)している人に支給するのが本筋だ」と指摘した。留学生に対する日本政府の方針について、「日本も少子高齢化でだんだん労働者人口が減っていく。外国の優秀な学生を頼らなければいけなくなる時代が目の前に来ている」「優秀な留学生を集めるには、日本の学生と留学生を差別しないという態度が一番、魅力的だ」と述べ、「差別するのはおかしい」と批判した。留学生の自主性を尊重することの重要さも強調。「(在学中の数年間に)どう教育を得るかは、学生が自分でスケジュールを立てるべきだ」とし、文部科学省が前年度の成績を申請要件にしたことに疑問を呈した。国立大の総長が国の仕組みに反対する運動に加わった理由については、「だいたいいつも、教員の立場に立っている」として、「現場の教員が『留学生と日本人を、我々は差別したくない』という声を上げることが大事だ。直接留学生と向き合う現場の教員が出すメッセージは強い」と話した。山極氏は、野生ゴリラ研究の第一人者として知られる。「私は、アフリカ赤道直下の『ゴリラの学校』に留学した」と自らの経験を紹介。「(ゴリラは)決して排除することなく私に接してくれた。それはゴリラの社会を知る上で大変に役立った。現場に行って、いろんな人と付き合って、様々な知識を学ぶのが留学の良さだから」とも述べ、留学生を排除せず、多くの人を受け入れる姿勢が大事だと訴えた。京都市立芸術大も同様の方針を示していることについても触れ、「個性を開花させる芸術家養成の大学であることを考えれば、そういう認識を持ったのはごく当然と思う」とも発言。「京都は文化や芸術に特化する大学が多い。留学生も多く、国際感覚を持った大学や教員も多いのではないか」との考えを示した。この問題をめぐり、要件に反対する大学教員らがネット上で賛同署名を呼びかけたところ、10日午前0時の締め切りまでに1701筆が集まった。うち大学教員は1100人を超えた。署名は5月26日から集め、呼びかけ人には京都大の山極氏ら約40人が名を連ねた。15日にも文部科学省に結果を届ける。
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 学生支援緊急給付金 新型コロナウイルスの影響でアルバイト収入が減るなど、困窮した学生に対する国の給付金。大学が学生から申請を受け付けて推薦者リストを作り、リストに基づいて日本学生支援機構(JASSO)が最大20万円を支給する。外国人留学生にだけ「成績優秀」の申請要件が設けられた。
●山極総長への単独インタビュー
 山極寿一・京都大総長との主なやりとりは以下の通り。
―京都大は留学生に成績要件を付けないことにしましたね
 「今回は生活困窮者への支援だ。日本人学生にも(給付金の支給)条件が六つあるが、基本的に経済的な事情だけだ。だから、留学生も、成績のいい人だけというのでなく、生活困窮者、経済事情が逼迫(ひっぱく)している留学生に支給するのが本筋だと思う。奨学金とは目的が違う」「英国のオックスフォード大では、自国民の学生の年間授業料は130万円なのに、アジアの学生は390万円と3倍を要求している。日本は決して高いお金を払ってもらうことを目的に『大学ビジネス』として留学生を集めているわけではない。その意味では、日本は他の国に比べて、留学生と日本人とを差別していない」「このコロナ騒ぎで国境を越えた移動が制限され、オンラインの遠隔授業が組み合わされる形式になり、さらに激しい留学生獲得競争にさらされている。日本に来てくれる優秀な学生、日本を好きになり日本で働いてくれる、あるいは自国に帰っても日本のために尽くしてくれる留学生を育てるためには、またとないチャンス。この好機をとらえて国際的に発信しなければ、英語圏になかなか太刀打ちできない。大学ランキングは英語圏(の大学)が強いわけですから」「英語を母国語としない国として、優秀な留学生を集めるためには、日本人の学生と留学生を差別しないという態度が一番、魅力的だと思う。(政府は)なぜそれをやらないのか」
―大学教員による署名の呼びかけ人の一人になりましたね
 「文部科学省と話をしても、『各大学に最終的な判断をお任せしている』と言われて終わり。やっぱり現場の教員が声を上げていくことが大事なんです。留学生と向き合う教員が、『日本人学生と留学生を一緒に教育しようとしてるんだ』という態度を出す。このメッセージが強い。文科省の態度がひっくり返らなかったとしても、そういうメッセージが伝わればいいと思っている」「成績が良い悪いに関係なく、みんな一生懸命に生活を成り立たせ、学問に励んでいる。そのバランスのとり方によって成績が良くなったり悪くなったりするわけじゃないですか。そこで各大学がその成績上位を選ぶ(給付金)というのは、やっぱりおかしいわけでね。だって、4年間、あるいは2年間、学生が大学に在籍する中で、どういうふうに教育を得ていくかは、学生が自分自身でスケジュールを立てるわけだから。そこまで我々が介入するものではない。我々が今するべきは、本当に今、学業を続けられなくなって困っている学生をきちんと選別して、支給してあげられるようにすることだ」「(大学としての方針を決める前に署名を呼びかけたのは)僕はだいたいいつも、教員の立場に立っているからです」
―自身の留学体験は
 「私は『ゴリラの学校』に留学したからね。アフリカの赤道直下の」「今はインターネットを使えば、既存の知識は何でも手に入る。現場に行って、いろんな人と付き合って、伝統知など様々な文字になっていない知識を学ぶっていうのが留学の良さだから。私はゴリラの知識まで学ばせていただいた。それはもうすごく、私の中では貴重な体験です」
―そういう体験をより多くの人にしてほしいと
 「学生個人が金太郎あめみたいになってもらっては困るわけです。我々は工業製品を作っているわけじゃない。それぞれが個性を持った、違う育ち方をする学生を相手にしている。違う目標を持ち、個性を持った学生に育ってほしいと思っているわけですよ。だから、日本人は日本人だけでいてはいけないし、いろんな国の学生と入り交じってほしい。その時に、彼らが対等に付き合うことが重要。我々が対等な扱い方をしなければ、そういう環境は生まれません」
―ゴリラは対等に扱ってくれましたか
 「まあねえ、出来の悪いゴリラとしてなあ、扱ってくれたと思うよ。もちろん、ゴリラとして認めてくれたわけじゃなくて、やっぱり外部者なんだけど、決して排除することなく、ゴリラの流儀で、私に接してくれた。それはゴリラの社会を知るうえで、大変役に立ったね」
―日本も留学生に対してそういう社会であるべきだと
 「それが日本が国際社会をリードしていく一番大きな力になると思う。日本は軍事力もなければ、いまは経済力も弱っている。日本が今、示すべき大きな力は、学術と教育力だと思う」「日本政府にとって、お金をかけずに国際戦略として一番有効なのは、大学や教育を通じてアフリカやアジアの国と手を結ぶこと。日本の大学で学んだ人たちが日本のファンになってくれるネットワークを作るべきなんですよ。留学生をこれまでも大事にしてきたんだから、同じように大事にしてよ、ということです。今度だけ差別するっていうのはおかしいじゃない、ってことです」(聞き手・小林正典)
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〈やまぎわ・じゅいち〉 1952年生まれ。京都大の大学院理学研究科長・理学部長などを経て、2014年から総長。日本学術会議会長も務める。専門は人類学・霊長類学。著書に「ゴリラ」「暴力はどこからきたか」など。

*10-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54653250R20C20A1MM0000/ (日経新聞 2020/1/22) 「ポスドク」支援へ奨学金拡充・採用増 政府が総合対策
 政府がまとめる若手研究者支援の総合対策案が明らかになった。博士課程の大学院生を対象に、希望すれば奨学金などで生活費相当額を支給して研究に集中できるようにする。企業に協力を求め、理工系の博士号取得者の採用者数を2025年度までに16年度比で1千人増やす。若手研究者ら「ポスドク」を取り巻く環境を改善し、研究力の強化につなげる。23日に開く総合科学技術・イノベーション会議(議長・安倍晋三首相)で決める。日本で若手研究者を取り巻く環境は厳しい。博士号の取得後、大学の教員になれず企業にも就職できない「ポスドク」問題が指摘されている。企業でも博士号取得者は他国に比べて少なく、100万人あたりの人数は米国やドイツ、英国、韓国の半分以下とされる。優秀な研究者が日本での研究を見切って海外留学をめざす人材流出の問題もある。政府は今後の目標として、修士課程から博士課程に進学した大学院生のうち約5割が、学内奨学金などで月15万~20万円の生活費相当額を受給できる状況の実現を盛り込んだ。博士課程の大学院生は18年度は約7万4000人で、このうち修士課程からの進学者は約3万2000人に上る。博士号取得者の企業への橋渡しも支援する。博士号取得者の採用者数は16年度は産業界全体で約1400人だった。これを25年度までに65%増やす目標を明記した。企業には博士課程の大学院生を対象とする長期有給インターンシップの設置を促し、官民連携による若手研究者の発掘にもつなげる。政府も博士号を持つ国家公務員の待遇改善を検討する。若手研究者向けに大学教員の採用の間口も広げる。今回まとめた支援策では40歳未満の大学教員の割合を3割以上に高める目標を盛り込んだ。16年度は23.5%だった。若手研究者を巡っては大学内の事務作業に煩わされ、十分な研究時間を確保できないとの声もある。25年度までに学内事務の半減を求め、政府側も関連する手続きの簡素化に取り組むとした。

*10-3-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/524492 (佐賀新聞 2020.5.19) 保育士1万7000人不足 9月入学で政府試算
 政府は、新型コロナウイルス感染拡大を受け、9月入学制を来年導入した場合、未就学児が一時的に増えるため保育士が約1万7千人不足するとの試算をまとめた。都市部を中心に保育施設の確保が困難になることも指摘した。関係者が18日、明らかにした。安倍晋三首相が学校休校の長期化を踏まえ、各府省に課題の洗い出しを指示していた。政府はこれを基に、6月上旬にも論点整理をまとめる。試算では、来年9月の小学校新入生は4月入学の場合より約40万人増える。この学年は17カ月の年齢差が生じるため「発達段階の差が大きい」として指導の工夫や学校、教員への支援も必要とした。夏場の入試の熱中症対策も課題に挙げた。

*10-3-2:https://digital.asahi.com/articles/ASN5J5W43N5GUTIL052.html (朝日新聞 2020年5月17日) 9月入学で教員2.8万人不足の推計 待機児童も急増
 新型コロナウイルスの感染拡大で政府が検討している「9月入学」を来秋から実施した場合、学校教育や保育などにひずみを生みかねないことが、苅谷剛彦・英オックスフォード大教授の研究チームの推計でわかった。新1年生を4月生まれから翌年9月生まれまでの17カ月に再編し、特に施策を取らなければ、初年度は、教員は約2万8千人が不足し、保育所の待機児童も26万人超に上り、地方財政で3千億円近くの支出増が見込まれると試算した。
●教員不足、大都市で深刻に 9月入学「教育の質低下も」
 研究チームは、教育社会学の研究者やシンクタンク代表ら計7人。地方教育費調査や学校基本調査、社会福祉施設等調査などをもとに推計した。9月入学は、緊急事態宣言の対象が全国に広がり、休校が長期化するなか、学習の遅れを取り戻す時間を確保するために一部の高校生や東京都、大阪府などの知事が導入を求めた。安倍晋三首相も14日の記者会見で「有力な選択肢の一つだ」と言及している。政府は6月上旬をめどに来秋からの9月入学について論点や課題を整理する方針で、自民党が設置した「秋季入学制度検討ワーキングチーム(WT)」は5月末~6月初旬に政府への提言をまとめるという。文部科学省が主に検討しているのは、小学校開始年齢の遅れを解消するために、2021年9月の新入生を14年4月2日生まれから15年9月1日生まれまでと5カ月分増やす案だ。研究チームの推計では、この場合、新入生は例年より42万5千人増え、1・4倍になる。14年4月2日生まれから15年4月1日生まれの児童は保育所に5カ月長くいることになるため、初年度、地方財政支出は2640億円、教員は2万8100人が追加で必要になり、保育所は新たに26万5千人、学童保育は16万7千人の待機児童が生まれる。一方、文科省は、現行の学年の区切り(4月2日生まれから翌年4月1日生まれまで)を変えずに、新学年を9月1日から始める案も検討する。ただ、この場合、児童全体の教育が5カ月後ろ倒しになり、小学校の開始が遅い児童で7歳5カ月からとなる。欧米は6歳が主流で、韓国や中国も6歳。日本の児童はそれよりさらに1年以上遅れることになる。推計では、学校教育の支出や教員、学童保育の待機児童の大きな増加は見られないものの、保育所の待機児童26万5千人は初年度だけでなく毎年生まれ続ける。苅谷教授は推計をふまえ、来秋からの9月入学について「学校教育だけでなく保育などのシステムを崩壊させ、子育て世代の働き方に大きな影響を与える。エビデンスに基づいた冷静な議論が必要だ」と話す。

*10-3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200603&ng=DGKKZO59886200S0A600C2EA2000 (日経新聞 2020.6.3) 9月入学、「義務教育5歳から」軸 政府・自民検討 首相「来年度は難しい」
 始業や入学の時期を9月に変える「9月入学」を巡り、政府は2022年度以降の課題として検討を始める。義務教育の開始年齢をいまの6歳から半年ほど前倒しして国際標準に合わせる案が軸だ。幼稚園の入園時期を早める構想もある。20~21年度の導入は見送り、中期的に検討する。9月入学を議論する自民党のワーキングチーム(WT)は2日、安倍晋三首相に21年度までの導入は見送るべきだと提言した。首相は「法律を伴う形で改正するのは難しい」と述べた。WTの柴山昌彦座長は記者団に「国民に理解をいただける形でじっくり検討するのがふさわしい」と語り、9月入学は中期的に議論する意向を表明した。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う休校を受け、提言では「学びの保障は一刻の猶予も許さない喫緊の課題」と明記した。9月入学に関しては「国民的合意や実施に一定の期間を要する」と指摘し「今年度・来年度のような直近の導入は困難」と結論づけた。9月入学の検討は続ける。提言は「秋季入学制度の導入の方式について」と題した文書を添付した。小学校の入学年齢を前倒しするか遅らせるかなどの違いで5案を示した。政府・自民党では、6歳0カ月からの就学年齢を5歳5カ月に前倒しする案を軸に検討する。同案では現行制度と同様に4月2日から翌年4月1日生まれを一学年にするものの入学は9月にする。4月2日以降に6歳になる児童は前年9月に小学校に入学するため、就学年齢は最年少で5歳5カ月になり、現行制度より7カ月早まる。「前倒し」をすれば義務教育が早まり、現在より若い年齢で学力が上がる期待がある。米国の一部の州や英仏独、オーストラリアは5歳で小学生になる子どもがいる。新型コロナに伴う休校で今年の4月入学を9月に遅らせる案があがった際も、政府・自民党内では「義務教育の開始が遅れる。国際競争を考えれば米欧にあわせて『前倒し』にすべきだ」との声が根強かった。提言では幼稚園の入園を前倒しする案も示した。課題もある。移行期の年は小学1年生が大幅に増え、教員や教室を増やす必要がある。移行期の1年生は数が多いまま進級する。受験や就職で他の世代より激しい競争を強いられる懸念がある。前倒し案への賛成論は多い。経団連の井上隆常務理事は「義務教育の開始年齢や入学時期を欧米とそろえれば、大学の国際化に直結して産業界の人材獲得にプラスとなる」と語る。9月入学に反対する声明を5月に出した日本教育学会の広田照幸会長(日大教授)も「国際的にも幼児教育の開始時期は早まっている。選択肢の一つとして議論する価値はある」と話す。新型コロナで当初浮上した9月入学論は、4月の入学を同じ年の9月に遅らせて休校による授業不足を補うものだった。海外の秋入学に足並みをそろえれば留学生の派遣や受け入れが進み、国際化につながるとの意見があった。最年少の入学者は6歳5カ月になり、義務教育の開始が米欧主要国より大幅に遅れる。提言は「影響が大きいため、就学年齢を後ろ倒ししないことを基本に考えるべき」と記した。提言に示した5案には文部科学省の案も含めた。(1)1年で移行するために最初の1学年だけ対象を広げる(2)対象を段階的に変えて5年かけて移行する――の2つだ。提言は「首相の下の会議体で各省庁一体となって、専門家の意見や広く国民各界各層の声を丁寧に聴きつつ、検討すべき」と促した。提言を参考に政府は今夏までに今後の方針を示す見通しだ。

<地方では、“高齢者”の就労は普通であること>
PS(2020年6月18日):*11-1のように、農業分野では新型コロナの影響で日本酒の消費が落ち込み、原料の酒造好適米「山田錦」の産地に影響が表れているそうだが、「酒は百薬の長(適量の酒はどんな良薬よりも効果がある)」と言われているように、麹菌は他の菌を殺して自身が生き残るためにアルコールを作っているのだと思われるため、新型コロナウイルスの抗体を作らせることもできそうだ。そして、これは甘酒・味噌・醤油・酢・ワイン・ヨーグルト・納豆・チーズ等でも起こり得るため、近くの大学と共同研究して新型コロナはじめ各種ウイルスへの抗体を持つ発酵食品を作れば世界で売れると思う。そうすると、*11-3のように、減少するばかりだった地方の生産年齢人口も増加に転じるのではないか?
 なお、生命科学は、現在のところ、漁業で、*11-2のように、1匹の雄の幹細胞から卵や精子を作り、1700匹のニジマスをふ化させるところまで進歩している。
 さらに、*11-4のように、70歳まで働く機会の確保を企業の努力義務とする改正高年齢者雇用安定法などの関連法が2020年3月31日に参院本会議で成立し、政府は将来的な義務化も視野に入れている。しかし、70歳まで働く機会を確保できるようにするのはよいが、働き手の保護に欠けるのはよくない。では、65歳以上の高齢者は働く能力が低いのかといえば、*11-3のように、基幹的農業従事者の平均年齢は2019年には66.8歳となり、農業は「生産年齢人口」「高齢者」の定義を変えなければならないくらい高齢者に支えられている。もちろん、次世代の人材確保や若者の地方移住は喜ばしいことだが、主たる生産者としての女性や“高齢者”の存在にも気がついてもらいたい。

   

(図の説明:左図は、実った稲で、中央は、農業就業人口とその平均年齢の推移だ。また、右図は、林業の従事者数と林業及び全産業の高齢化率・若年者率の推移だ)

*11-1:https://www.agrinews.co.jp/p51077.html (日本農業新聞 2020年6月14日) [新型コロナ] 日本酒低迷、米産地を直撃 契約3割見直しか 需要回復いつ… 兵庫
 型コロナウイルスの影響で日本酒の消費が落ち込む中、原料の酒造好適米の産地に影響が表れている。酒造好適米の生産量日本一の兵庫県では需要が3割落ち込むとの想定もあり、契約予定数量の見直しを迫られている。来年産以降の生産計画に影響する可能性があり、生産者に不安が広がる。
●来年産計画に影響も
 酒造好適米「山田錦」の作付面積が、地域の水田面積の8割を占める兵庫県三木市吉川町。県内の主力品種「コシヒカリ」から遅れること約1カ月後の5月30日、「山田錦」の田植えが本格的に始まった。生産者の表情は険しく「収穫する頃、世間はどうなっているのか」。苗を見つめながら同町冨岡地区で水稲15ヘクタールを手掛ける冨岡営農組合の西原雅晴組合長は出来秋を不安視する。産地関係者の「悩みの種」は、新型コロナ禍に伴う日本酒の消費減だ。日本酒造組合中央会によると、出荷量は2月が前年同月比9%減、3月が同12%減、4月が同21%減と月を追うごとに落ち込む。5月は集計中だが、4月と同水準とみられる。同中央会は「流通在庫が積み上がっているところもあり、事態は数字以上に深刻」と分析する。産地にも影響が出始めている。JA全農兵庫では4月中旬以降、今秋収穫される2020年産の契約数量の見直しを求める問い合わせが、取引先から相次いだ。「当初の契約予定数量(約1万5000トン)の3割の見直しを迫られるとの想定もあり、現在協議を進めている」(全農兵庫の土田恭弘米麦部長)。深刻な事態を受け、全農兵庫は4月下旬、県内のJAみのり、JA兵庫みらい、JA兵庫六甲と共同で、県内生産者に緊急通知を発出。酒造好適米から主食用品種などへの転換を呼び掛けた。ただ、多くの農家が苗作りを始め「変更できない農家が大半。問題が表面化した時点で手遅れだった」(JA関係者)。当初の生産計画から減産できたのは「数%」(同)だった。冨岡営農組合は緊急通知を受け、酒造好適米の作付面積を1割減らし、主食用品種に切り替えた。「山田錦」に比べ10アール当たり収入は半減する見込みだが、西原組合長は「産地と酒造メーカーは一蓮托生(いちれんたくしょう)。酒造メーカーが苦しむ中、産地も減産に協力したい」と覚悟を決める。兵庫県も独自支援に動く。20年度6月補正予算案に酒造好適米の産地支援を盛り込んだ。余剰在庫の解消に向け、米粉など日本酒以外の用途向けに19年産の酒造好適米を販売する際、販売価格の下落補填(ほてん)に60キロ1万800円を支給。20年産の作付け転換や消費喚起にも取り組む。ただ、影響の長期化は避けられない見通しだ。「自粛ムードが続き、日本酒の需要はすぐに回復しない」(同中央会)とみられるためだ。土田部長は「来年産以降の生産計画の見直しも避けられない」と肩を落とす。西原組合長は「日本酒を飲んで、産地を応援してほしい」と呼び掛ける。

*11-2:https://www.chunichi.co.jp/article/73300 (中日新聞 2020年6月15日) ニジマス、試験管で大量増殖 東京海洋大が世界初、養殖に貢献
 ニジマスの卵や精子のもとになる生殖幹細胞を、試験管で大量に増殖させることに世界で初めて成功したと、東京海洋大の吉崎悟朗教授(魚類養殖学)のチームが15日付の国際的な科学誌の電子版に発表した。たった1匹の雄の幹細胞から卵や精子を作り、1700匹がふ化した。順調に成魚に成長しており、貴重な水産資源の魚を保護しつつ、大量生産を可能にする技術として期待される。吉崎教授は、養殖生産や絶滅危惧種の保全に貢献したいと説明し「ニジマスに近いサケやマスの仲間ならば、数年で保全事業に活用できる。クロマグロへの応用も5年程度で実現化を目指したい」と話した。

*11-3:https://www.agrinews.co.jp/p51096.html (日本農業新聞 2020年6月17日) 担い手さらに減少 60代以下100万人割れ続く
 担い手を含め農業に携わる人材の減少と高齢化に歯止めがかからない。販売農家の世帯員のうち主な仕事を農業とする「基幹的農業従事者」は2019年時点で140万人と5年間で27万人減った上、60代以下は100万人を割り込んだ状態が続いていることが農水省のまとめで分かった。一層の減少・高齢化が見込まれる中、生産基盤を維持するには、60代以下の人材をどう確保していくかが喫緊の課題となる。基幹的農業従事者は、1995年に256万人いたが、05年に224万人、15年に175万人、19年に140万人と大幅な減少が続いている。若年層の減少が止まっておらず、60代以下は95年の205万人から05年には135万人に減少。その後、15年は93万人と100万人を割り、19年はさらに81万人にまで落ち込んだ。高齢化も進展。平均年齢は95年に59・6歳だったが、05年に64・2歳に跳ね上がった。15年は67歳、19年は66・8歳と依然として高い水準で推移する。同省は、農地の維持、活用策などを検討するため5月に新設した「長期的な土地利用の在り方に関する検討会」で、基幹的農業従事者は「今後一層の減少が見込まれる」との見方を示した。農業生産を支える層の減少に伴い、「農業の持続可能性が確保できない地域が増加する可能性がある」と指摘する。人材確保に向けて、同省は、新規就農や第三者も含めた経営継承を引き続き推進する方針だ。新型コロナウイルス感染拡大の中で「食の大切さに改めて気付いたり、地方への移住を希望したりといった動きもある」(就農・女性課)とし、若年層の参入・定着に一層力を入れる方針。農業の働き方改革や地域の受け入れ態勢の整備も重視する。新たな食料・農業・農村基本計画は、基幹的農業従事者数と農業法人の従業員・役員らを合わせた「農業就業者数」を30年に140万人確保する方針を掲げる。同省は、現状の傾向が続けば30年に131万人に減ると見込む。人材確保に結び付く実効性のある対策を講じることができるかが問われる。

*11-4:https://digital.asahi.com/articles/ASN306GWKN30ULFA010.html (朝日新聞 2020年3月31日) 70歳まで働けるよう、改正法が成立 企業に努力義務
 70歳まで働く機会の確保を企業の努力義務とする改正高年齢者雇用安定法などの関連法が31日、参院本会議で可決、成立した。来年4月から適用され、政府は将来的な義務化も視野に入れる。健康な高齢者の働き手を増やし、人手不足に対応するとともに、年金などの社会保障の担い手を厚くする狙いがある。いまの法律は企業に対し、定年廃止、定年延長、再雇用などの継続雇用といった対応をとることで従業員が65歳まで働ける機会をつくることを義務づけている。改正法はこれを70歳まで延長し、現在の三つの対応に加え、別の会社への再就職、フリーランス契約への資金提供、起業の後押し、社会貢献活動への参加支援の四つも選択肢として認める。企業には七つのうちのいずれかの選択肢を設けるよう努力義務を課し、どれを選ぶかは企業と労働組合が話しあって決める。起業の後押しといった雇用契約を結ばない選択肢をとる場合、従業員の収入が不安定になるおそれがあるため、改正法は企業に従業員や勤め先と業務委託契約を継続的に結ぶよう求める。厚生労働省は今後つくる指針の中に働き手の保護策を盛り込む方針だ。新型コロナウイルスの感染拡大が企業業績を急激に悪化させるなか、今回の見直しは企業の人件費負担を増やす要因になりうる。現在は約8割の企業がいったん退職してから賃金水準が低い契約社員などで再雇用する方法をとっているが、70歳に延長した場合も、多くの企業は同じように契約社員などでの再雇用を選ぶとの見方がある。この日成立した関連法には、兼業や副業をする人の労働災害を認定するしくみを見直す改正労災保険法や、定年後に再雇用されて賃金が大きく下がった人に65歳まで支払われる「高年齢雇用継続給付」を縮小する改正雇用保険法なども含まれる。

<遺伝子から人類の進化を辿る>
PS(2020年6月21日):*12-1のように、 中国公安当局が“犯罪捜査を名目に”、全国で血液を採取してDNAをデータベース化し、中国人男性約7億人の「遺伝子地図」作成を進めているそうだ。もちろん、①遺伝子を調べて犯罪を起こしやすい人をあらかじめ逮捕するのは人権侵害である ②遺伝子による判定は、第三者の検証が入りにくいため日本の捜査でも冤罪を生んでいる などの理由で、国民統制や犯罪捜査に使われれば悪である。
 しかし、純粋に科学的に調査すれば、中国のようなユーラシア大陸の人類の交差点で男性7億人分の「遺伝子地図」を作成すれば、人類の進化の過程を辿ることができるため興味深い。また、*12-2のウイルスが、③どの民族に ④いつ感染して ⑤どういう理由で優位性を持って人類の進化を演出したか を解明することができ、東アジア人が新型コロナウイルスに強い理由も人間側の遺伝的要素からわかるかもしれない。また、日本でも地域ごとに調査すれば、⑥どういう民族が ⑦いつ ⑧どこから ⑨どのくらいの人数 ⑩日本列島に移住してきたか がわかると思う。
 このように、新型コロナ致死率・その他の死亡率等を比較すればいろいろな調査に役立つため、*12-3・*12-4の原因別死亡数は、WHOで統一した基準を作って国際比較できる形で正確に出した方がよいと思われる。

   
    2020.5.11毎日新聞     *12-4より    2020.6.12西日本新聞
    
(図の説明:左図は、2020年5月4日現在の各国の新型コロナによる「死亡率/人口100万人」の推移で、欧米が高い。中央の図は、2020年5月16日現在の各国の新型コロナによる致死率「死亡者数/感染者数」「死亡者/人口10万人で、検査数や死亡原因の特定に違いはあるが、やはり欧米で高い。右図は、2020年6月11日現在の日本の死亡率だが、日本全体では中央の図の4.4%より高い5.2%《938/18,008X100》で、中国の5.5%に近い)

*12-1:https://www.sankei.com/world/news/200618/wor2006180033-n1.html (産経新聞 2020.6.18) 中国、男性7億人分の「遺伝子地図」作成 国民統制を強化
 中国公安当局が犯罪捜査を名目に全国で血液を採取してDNAをデータベース化し、中国人男性約7億人の「遺伝子地図」作成を進めていると、米紙ニューヨーク・タイムズが17日、オーストラリアの研究機関の調査を基に報じた。国民統制が一層強まる恐れがあり、外国の人権団体だけでなく中国内でも一部当局者が反対しているという。中国では既に人工知能(AI)による顔認識技術などを駆使した捜査による人権侵害が指摘されているが、DNAのデータベースの一部も既に犯罪捜査に利用され始めているという。公安当局は2017年、小学生男児を含めた全国の男性を対象に血液採取を開始。3500万~7千万人のサンプルを採取し、それを基に全男性の遺伝子地図作成を目指している。データベースを使えば男性1人の遺伝子情報で、その親族も特定が可能。対象を男性に絞っているのは犯罪率が高いためとしている。犯罪と無関係の親族らの人権が損なわれる恐れや当局が情報を乱用する懸念もあり、人権活動家らは遺伝子地図により公安当局が「空前の権力」を手にすると批判している。

*12-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59746430Z20C20A5MY1000/?n_cid=SPTMG053 (日経新聞 2020/5/30) 人類に宿るウイルス遺伝子、太古に感染 進化を演出、驚異のウイルスたち(2)
 地球上にはいろいろなウイルスがいる。人類の進化にもウイルスが深くかかわってきた。太古のウイルスが人類の祖先の細胞に入り込み、互いの遺伝子はいつしか一体化した。ウイルスの遺伝子は今も私たちに宿り、生命を育む胎盤や脳の働きを支えている。新型コロナウイルスは病原体の怖さを見せつけた。過酷な現実を前に、誰もが「やっかいな病原体」を嫌っているに違いない。ウイルスが「進化の伴走者」といわれたら、悪い印象は変わるだろうか。母親のおなかの中で、赤ちゃんを守る胎盤。栄養や酸素を届け、母親の「異物」であるはずの赤ちゃんを育む。一部の種を除く哺乳類だけが持つ、子どもを育てるしくみだ。「哺乳類の進化はすごい」というのは早まった考えだ。この奇跡のしくみを演出したのはウイルスだからだ。レトロウイルスと呼ぶ幾つかの種類は、感染した生物のDNAへ自らの遺伝情報を組み込む。よそ者の遺伝子は追い出されるのが常だが、ごくたまに居座る。生物のゲノム(全遺伝情報)の一部と化し、「内在性ウイルス」という存在になる。内在性ウイルスなどは、ヒトのゲノムの約8%を占める。ヒトのゲノムで生命活動などにかかわるのは1~2%程度とされ、ウイルスが受け渡した遺伝情報の影響は大きい。見方によっては、進化の行方をウイルスの手に委ねたといっていい。哺乳類のゲノムに潜むウイルスは注目の的だ。東京医科歯科大学の石野史敏教授は、ヒトなど多くの哺乳類にある遺伝子「PEG10」に目をつけた。マウスの実験でPEG10の機能を止めると胎盤ができずに胎児が死んだ。PEG10は、哺乳類でも卵を産むカモノハシには無く、どことなくウイルスの遺伝子に似る。状況証拠から「約1億6000万年前に哺乳類の祖先にウイルスが感染し、PEG10を持ち込んだ。これがきっかけで胎盤ができた」とみる。胎盤のおかげで赤ちゃんの生存率は大幅に高まった。ウイルスが進化のかじ取りをしていた証拠は続々と見つかっている。哺乳類の別の遺伝子「PEG11」は、胎盤の細かい血管ができるのに欠かせない。約1億5000万年前に感染したウイルスがPEG11を運び、胎盤の機能を拡張したようだ。ウイルスがDNAに潜むのには訳がある。「生物の免疫細胞の攻撃を避け、縄張りも作れる」(石野教授)。ウイルスは生きた細胞でしか増えない。感染した生物の進化も促し、自らの「安住の地」を築きたいのかもしれない。東海大学の今川和彦教授は「過去5000万年の間に、10種類以上のウイルスが様々な動物のゲノムに入り、それぞれの胎盤ができた」と話す。ヒトや他の霊長類の胎盤は母親と胎児の血管を隔てる組織が少ない。サルの仲間で見つかる遺伝子「シンシチン2」は、約4000万年前に感染したウイルスが原因だ。さらにヒトやゴリラへ進化する道をたどった一部の祖先には、3000万年前に感染したウイルスが遺伝子「シンシチン1」を送り込んだ。初期の哺乳類はPEG10が原始的な胎盤を生み出した。ヒトなどではシンシチン遺伝子が細胞融合の力を発揮し、胎盤の完成度を高めた。本来のシンシチン遺伝子はウイルスの体となるたんぱく質を作っていたが、哺乳類と一体化すると役割を変えた。父親の遺伝物質を引き継ぐ赤ちゃんを母親の免疫拒絶から守る役目を担っているとみられる。石野教授は「哺乳類は脳機能の発達でもウイルスが進化を助けた」と指摘する。「複雑になった脳の働きを、ウイルスがもたらす新たな遺伝子が制御しているのだろう」。ウイルスが「進化の伴走者」と言われるゆえんだ。ウイルスの影響がよくわかる植物の研究がある。東京農工大学や東北大学などのチームはウイルスがペチュニアの花の模様を変える様子をとらえた。花びらの白い部分が、ゲノムに眠るパラレトロウイルスが動き出すと色づく。ダリアやリンドウでも似た現象がある。東京農工大の福原敏行教授は「一部はウイルスの仕業かもしれない」と語る。哺乳類のように進化の一時期に10種類以上の遺伝子がウイルスから入った例は見つかっていない。哺乳類も、形や機能の進化にウイルスを利用してきたのだろう。進化の歴史を隣人として歩んできたウイルスと生物の共存関係は今後も続く。

*12-3:https://www.yomiuri.co.jp/national/20200614-OYT1T50084/ (読売新聞 2020/6/14) 「コロナ死」定義、自治体に差…感染者でも別の死因判断で除外も
新型コロナウイルス感染症の「死者」の定義が、自治体ごとに異なることが、読売新聞の全国調査で分かった。感染者が亡くなった場合、多くの自治体がそのまま「死者」として集計しているが、一部では死因が別にあると判断したケースを除外。埼玉県では10人以上を除外したほか、県と市で判断が分かれた地域もある。専門家は「定義がバラバラでは比較や分析ができない。国が統一基準を示すべきだ」と指摘している。
■全員精査 厳しく
 読売新聞は5月下旬~6月上旬、47都道府県と、県などとは別に独自に感染者集計を発表している66市の計113自治体に対し、集計方法などを取材した。これまでに感染者の死亡を発表したのは62自治体。このうち44自治体は、死因に関係なくすべて「死者」として集計していた。その理由として、「高齢者は基礎疾患のある人が多く、ウイルスが直接の死因になったのかどうか行政として判断するのは難しい」(東京都)、「全員の死因を精査できるとは限らない」(千葉県)――などが挙がった。感染者1人が亡くなった青森県は「医師は死因を老衰などと判断した。感染が直接の死因ではないが、県としては陽性者の死亡を『死者』として発表している」と説明している。
■「区別は必要」
 一方、13自治体は、「医師らが新型コロナ以外の原因で亡くなったと判断すれば、感染者であっても死者には含めない」という考え方で、埼玉県と横浜市、福岡県ではすでに除外事例があった。埼玉県は12日時点で13人の感染者について、「死因はウイルスとは別にある」として新型コロナの死者から除外。13人はがんなどの死因が考えられるといい、県の担当者は「ウイルスの致死率にもかかわるので、コロナなのか、そうでないのかを医学的に区別するのは当然だ」と話す。横浜市でも、これまでに死亡した感染者1人について、医師の診断により死因が別にあるとして、死者から除外したという。
■県と市でズレ
 福岡県では、県と北九州市で死者の定義が異なる事態となっている。北九州市では、感染者が亡くなればすべて「死者」として計上している。これに対し、県は、医師の資格を持つ県職員らが、主治医らへの聞き取り内容を精査して「コロナか否か」を判断。この結果、これまでに4人の感染者について、北九州市は「死者」として計上し、県は除外するというズレが生じている。また、62自治体のうち残る5自治体は「定義は決めていないが、今のところコロナ以外の死因は考えられず、死者に含めた」などとしている。厚生労働省国際課によると、世界保健機関(WHO)から死者の定義は示されていないといい、同省も定義を示していない。だが、複数の自治体からは「国が統一的な定義を示してほしい」との声が上がっている。
●国「速報値と捉えて」
 厚労省は12日現在、「新型コロナウイルス感染症の死亡者」を922人と発表している。都道府県のホームページ上の公表数を積み上げたといい、この死者数をWHOに報告している。一方で同省は、新型コロナによる死者だけでなく国内のすべての死亡例を取りまとめる「人口動態統計」を毎年公表している。同統計は医師による死亡診断書を精査して死因が分類されるため、新型コロナの死者は現在の公表数よりも少なくなるとみられる。国として二つの「死者数」を示すことになるが、同省結核感染症課の担当者は「現在の公表数についての判断は自治体に任せており、定義が異なっていることは承知している。現在の数字は速報値、目安として捉えてもらいたい。統一された基準でのウイルスによる死者数は、人口動態統計で示される」と話している。
●識者「統一すべきだ」
 大阪市立大の新谷歩教授(医療統計)は「死者数は世界的な関心事項で、『自治体によって異なる』では、他国に説明がつかない。国際間や都道府県間での感染状況を比較するためにも、死者の定義を国が統一し、明示すべきだ」と指摘する。患者の治療に当たっている国立国際医療研究センター(東京)の大曲貴夫・国際感染症センター長も「医療従事者にとって、死者数は医療が適切に行われているかどうかを見定める指標の一つ。第2波に備える意味でも、ぜひ定義を統一してほしい」と求めた上で、「迅速性が重要なので、『陽性判明から4週間以内に死亡したケース』など、人の判断を挟まない方法が良いのではないか」と提案している。

*12-4:https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=14724 (Web医事新報No.5014 2020年5月30日発行) [緊急寄稿]日本の新型コロナ対策は成功したと言えるのか─日本の死亡者数はアジアで2番目に多い(菅谷憲夫) 、菅谷憲夫 (慶應義塾大学医学部客員教授,WHO重症インフルエンザガイドライン委員) 、登録日:2020-05-20、最終更新日: 2020-05-20
1.SARS-Coronavirus-2(SARS-CoV-2)の日本の流行
 世界保健機関(WHO)は,本年3月11日に新型コロナウイルス〔SARS-Coronavirus-2(SARS-CoV-2)〕のパンデミックを宣言し,日本国内でも,2020年3月から流行が本格化した。4月7日に,東京,神奈川,千葉など7都府県に緊急事態宣言が出て,4月16日には,宣言が全国に拡大された。5月に入り,日本の流行も終息傾向が見られるようになった。Social Distancingや休校の効果が出てきたものと思われる。
2.緊急事態宣言解除の影響
 これからの問題は,休校,外出やイベントの自粛,飲食店の休業,テレワークなどの対策が解除されると,流行が再燃する可能性が大きいことである。今,欧米諸国では,ロックダウンの解除,reopeningが課題となっている。国によって差はあるものの,5月中旬から徐々に厳しい外出禁止措置が解除されつつある。これがどのような影響をもたらすかは注目されるところである。ロックダウン期間中に人々が免疫を獲得したわけではなく,またSARS-CoV-2が完全に消失するとは考えられず,単に厳しい外出制限により人と人の接触が減ったので,患者数が一時的に減少したに過ぎない。夏になると,気候により流行が下火になると期待する向きもあるが,インドやフィリピンの流行状況を見ると,インフルエンザほどの季節性は望めないのではないかという意見もある。
3.日本のSARS-CoV-2対策は優れていたか
 政府を中心に,日本の死亡者の絶対数が欧米に比べて少ないから,日本のSARS-CoV-2対策は優れていたとか,成功したという論調が,最近多く聞かれる。ところが,アジア諸国は欧米諸国に比べて,感染者数も死亡者数も圧倒的に少ない事実がある。そして,アジア諸国間で,人口10万人当たりに換算した死亡者数を比較すると,日本は,フィリピンに次いで2番目に多く,日本の対策が優れていたとは言い難い(表1)。欧米諸国での人口10万人当たりのSARS-CoV-2感染者数は,アジア諸国に比べて10倍から100倍以上も多い。スペイン,イタリア,フランス,英国での感染者数は,10万人当たり275〜492人にもなるが,インド,中国,日本,韓国,台湾では,10万人当たり1.9〜21.5人に過ぎない。日本は,10万人当たり感染者数では,シンガポール,韓国,パキスタン等に次いで,5番目に位置する。シンガポールでは,最近,外国人労働者の宿舎で集団発生が起きたために,例外的に感染者数が488人と急増した。現時点での日本の感染者数は1万6203人,死亡者数は713人である(5月16日)。致死率を計算すると,4.4%(713/1万6203)と,かなり高率である。日本の例年の季節性インフルエンザの致死率は,1000万人のインフルエンザ患者数で,5000人の死亡者が出ていると仮定すると,0.05%(5000/1000万人)程度であるから,その約100倍の致死率となる。いずれにしろ,日本の感染者数は,国際的にも批判されたが,RT-PCR検査数が異常に少ないことが影響し,信頼できる数値とは言えない。
4.世界各国のSARS-CoV-2致死率
 世界各国の致死率(死亡者数/感染者数)は,欧米諸国では極めて高く,英国,フランス,イタリア,スペインなどでは,12〜15%となる(表1)。これは,1918年のスペインかぜの欧米の致死率1〜2%をはるかに超えて,驚くべき高値である。不明の点も多いが,欧米での高い致死率は,長期療養施設での流行により,多数の高齢者が死亡したためとも報道されている。アジア諸国の致死率は,インドネシアとフィリピンは6%台と高いが,中国が5.5%,日本は4.4%である。韓国が2.4%,台湾が1.6%と低い。表1を見ても,アジア諸国の致死率は,欧米諸国よりも明らかに低い。欧米よりもアジア諸国の死亡者数が少ないという現象は,スペインかぜの経験とは真逆であり,説明が困難である。例えば,スペインかぜの死亡者数は,アジア全体で1900万から3300万人で,欧州全体で230万人と報告されている(表2)。1918年当時は,アジアに比べて欧州諸国が社会経済的に圧倒的に優位だった影響と説明されてきた。社会経済的な格差は大幅に改善されたとはいえ,現在も欧州諸国が優位であると考えられるにもかかわらず,アジア諸国の死亡者数が少ない理由は説明がつかない。
5.人口10万人当たりSARS-CoV-2の死亡者数
 欧米諸国とアジア諸国での,SARS-CoV-2流行のインパクトの違いは,10万人当たりの死亡者数で比較すると,一段と明確となる(表1)。スペイン,イタリア,フランス,英国での死亡者数は,10万人当たり40〜60人にもなる。欧米諸国の中で,流行を徹底的に抑え込んだと高く評価されるドイツでも,10万人当たり死亡者数は9.5人であるが,対照的に,アジアで最も死亡者数の多いフィリピンでも,10万人当たり0.77人に過ぎない。インド,中国,日本,韓国,台湾などでは,10万人当たり0.03〜0.56人となる。欧米諸国とアジア諸国との差は明らかである。日本とドイツの人口10万人当たりの死亡者数を比べると,0.56人対9.47人で17倍差があり,特に多くの死亡者が出ているスペインと比べると,0.56人対58.75人で,実に105倍となる。まさに,欧米諸国ではSARS-CoV-2流行のインパクトは桁違いに大きい。欧米とアジアとの死亡者数には,100倍の違いがあるが,原因は不明である。可能性として考えられるのが,①人種の差,②年齢構成の違い,すなわちアジア諸国では若年層が多い,③BCG接種の影響,④欧米諸国では,高い感染力を持ち病毒性の強い,アジアとは別のSARS-CoV-2流行株が出現した─等が考えられる。
6.日本の死亡者数はアジアでワースト2
 欧米諸国と比べて死亡者数が少ないというだけで,日本のSARS-CoV-2対策が成功したという報道は誤りである。人口10万人当たりの死亡者数をアジア諸国で比べると,1位はフィリピン,2位が日本であり,日本は最も多くの死亡者が発生した国の一つである。注目されるのは,医療崩壊した武漢など,SARS-CoV-2の発生源とされた中国を上回っている点である(表1)。最も死亡者が少ない国・地域は台湾で,感染者数440人で死亡例はわずかに7人である。台湾の人口は2370万人なので,この割合を日本に当てはめると,患者数2350人,死亡者数は37人と驚異的な低値となる。日本では700人以上の死亡者が出たが,対策によっては,まだまだ多くの命を救えた可能性がある。
7.今季は大規模なインフルエンザ流行が予測される
 2019/20年シーズンの日本のインフルエンザ流行は,例年よりも数週早く,11月中に各地で注意報が出て大流行が懸念されたが,結局,A/H1N1pdm09による流行のみで,A/香港型(H3N2)の流行はなく,2020年1月には終息した。また,2018/19年シーズンに流行がなかったB型インフルエンザも出現せず,2年連続して流行がなかった。約700万人程度の患者数と言われ,小規模の流行に終わった。したがって,2020/21年シーズンは,A/香港型(H3N2)とB型による,大規模な混合流行の可能性が高い。
8.おわりに
 日本では,欧米と比較してSARS-CoV-2死亡者数は少ないことは事実である。しかし,それは日本の対策が成功したとか,優れていたわけではない。アジア諸国の感染者数,死亡者数は,欧米に比べて,圧倒的に少ないのであり,その中では,最大級の被害を受けているのが日本である。今,第2波の問題が世界のトピックとなっているが,日本を含めたアジア諸国では,第2波は,欧米諸国と同じような激甚な流行となる危険性もある。そのため,日本の第2波対策は,欧米の被害状況を詳しく分析して,慎重に立案,準備する必要がある。特に今季は,A/香港型とB型の大規模なインフルエンザ混合流行が予測され,インフルエンザとSARS-CoV-2の同時流行にも備える必要がある。

<地方住まいの長所と短所>
PS(2020年6月22日):*13-1のように、2019年度の「森林・林業白書」は、2015年の国連サミットで採択され①気候変動対策 ②森林の持続可能な管理等の17目標を掲げた国連の持続可能な開発目標(SDGs)達成への貢献を特集したそうだ。森林は、地球温暖化防止・水源涵養、国土保全、教育など幅広い機能があり、日本は国土の2/3を森林が占め収穫期でもあるため、大切に使えば大きな資源になる。しかし、そのためには、「スマート林業」「3Kからの脱却」「若者に魅力ある産業への脱皮」を急いで山村を再生する必要があり、国民は一部の企業を潤わせるために森林環境税を支払うのではないため、山から得られる「富」を地元に還元して魅力ある山村造りに役立てることが重要だ。また、せっかく育てた国有林を、民間企業に皆伐させ、造林は国が環境税を使って責任を持って行うなどという呆れた政策を作らない国民を育てるためには、子どもをコンクリートで作られた都市ではなく、自然の近くで育てて自然の美しさ・素晴らしさ・すごさ・貴重さを肌身で感じさせる必要がある。そこで、地方の学校では、*13-2のように、近くの森林や農園に児童の手で巣箱を設置し、森や農園や巣箱の中の変化の様子をカメラで撮影し、ITを使って学校のパソコンに映し出せる仕掛けをしたらどうかと思う。なお、現在の科学は、*13-3のように、太陽系外に地球に似た公転軌道をもつ第2の地球をすばる望遠鏡が発見し、太陽系内でも火星や月には人間が住めそうとのことだ。
 しかし、地方に住むにあたって不便なのは、*13-4・*13-5のような公共交通機関における赤字路線の存在と廃止の危機だ。私は、工夫すればいろいろなやり方があると思うが、人口減少や運転手不足に悩む地方の交通網を守る改正地域公共交通活性化再生法が5月27日に成立し、国交省は、路線維持への自治体の関与を強めることで影響を最小限にとどめたい考えだそうだ。路線廃止だけでなく、多様な利用をして黒字化したり、自治体の総合戦略とあわせて駅ビル・駅前の街づくり・産業・住宅地などとセットで考える必要があるため、確かに自治体主導にするのがよいだろう。

 

(図の説明:1番左は十勝千年の森、左から2番目は人間がかけた巣箱で子育て中のフクロウの雛だ。また、右から2番目は、手入れされた森林で、1番右は、庭にかけた巣箱で子育てしているシジュウカラだ)


  EV電車      燃料電池電車       貨客混載     超電導電線敷設

(図の説明:電車だけ考えても、1番左のEV電車、左から2番目の燃料電池電車などに変更して電力を自ら作る方法がある。また、右から2番目のように、宅急便などと組んで貨客混載したり、1番右のように、線路に超電導電線を敷設し、地方から都市への送電を担って稼ぐ方法もある。なお、電車は自動運転にすれば、人件費が節約できるだろう)

*13-1:https://www.agrinews.co.jp/p51121.html (日本農業新聞論説 2020年6月20日) 林業白書 成長と循環で再生促せ
 政府が閣議決定した2019年度の「森林・林業白書」は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)達成への貢献を特集した。時代の要請に沿った役割発揮への期待を込めたが、成否の鍵は山村の再生が握る。SDGsは、2015年の国連サミットで採択された。持続可能な世界を実現するため、貧困や飢餓の撲滅、気候変動対策、森林の持続可能な管理など17の目標を掲げた。2030年までの実現に向けて、世界的な取り組みが始まっている。森林は、地球温暖化防止や水源のかん養、国土保全、教育など幅広い公益的機能がある。日本の森林は、国土面積の3分の2を占め、公益機能の発揮に期待が高まっている。白書は「伐(き)って、使って、植える」という循環利用を基本にした管理が、SDGsの実現に貢献することを示した。特集で取り上げたのは、政府が掲げる森林・林業の成長産業化と、SDGsに沿った管理の両立を目指す決意表明とも言えよう。ただ森林・林業の現状は楽観できるものではない。木材の自由化政策と木材価格の低迷で、山村は廃れ、所有者や境界が分からない森林、手入れの届かない森林が目立つ。担い手不足と高齢化も深刻で、このままでは、成長産業化どころか、森林を維持することも危うくなる。林野庁は、所有者が放置している森林を林業経営者の管理に委ねる森林経営管理制度や森林環境税の導入で、循環利用にてこ入れをする。白書は、そうした政策の背景と狙いを詳しく示した。国民理解には必要なことだろう。難問は山村の再生である。若者が定住できるように魅力ある山村の創造が必要だ。機械化による「スマート林業」を進め、「きつい、汚い、危険」の「3K」イメージを払拭(ふっしょく)し、男女を問わず若者に魅力ある産業への脱皮も急ぐ必要がある。「担い手」である森林組合の活性化を促し、林家や林業従事者の経営と生活を安定させる環境がなければ、成長産業化と循環利用との両立は困難だろう。日本の森林は、戦後に植えた人工林を中心に主伐期を迎えている。いわゆる収穫期だ。国産材の利用も増えている。SDGsへの貢献と併せて、森林・林業に追い風が吹いていると言える。これを、山村再生につなげる必要がある。宝の持ち腐れにせず、計画的で適切な伐採と活用を進めるべきだ。その際に、山から得られた「富」をきちんと地元に還元し、魅力ある山村づくりに役立てることが肝心だ。一部の木材企業だけが潤って、森林を守る人たちが暮らす山村が衰退するようでは、循環利用の森林・林業を展開することはできない。白書は、「山村の活性化」を巡って地元に利益を還元する必要性を示した。しかし、山村社会のインフラ整備や就業機会の創出などに関する記述は厚みに欠ける。今後の課題である

*13-2:https://www.agrinews.co.jp/p51141.html (日本農業新聞 2020年6月22日) 絶滅危惧「ブッポウソウ」 ブドウ園に巣箱 害虫駆除で一石二鳥 広島県世羅町のワイナリー
 絶滅危惧種の渡り鳥「ブッポウソウ」を利用してブドウの害虫を駆除するプロジェクトが広島県世羅町で始まった。ワインブドウを栽培する園地に巣箱を設置して繁殖を促し、葉を食害するコガネムシ類を捕食してもらう。薬剤防除を減らすことで、生産者の負担を減らしながら、鳥の生育数の増大、良質なブドウで地域の特色を打ち出したワイン作りを目指す。ブッポウソウは、羽が青色でハトより小さい夏鳥。越冬場所の東南アジアから4月末~5月上旬に、本州や四国、九州に飛来する。昆虫を食べ、コガネムシなど甲虫類を好む。ただ、営巣場所が減り、急激な生息数の減少で、近い将来絶滅の可能性が高いとされる環境省のレッドリストでIB類に指定される。電柱などにも営巣することから、生息数の回復に巣箱の設置が有効という。プロジェクトは町産ブドウでワインを造る「せらワイナリー」を経営するセラアグリパークが始めた。三原野鳥の会の指導を受け、同社にブドウを出荷する世羅ブドウ生産組合と連携する。せらワイナリーと隣接するせら夢公園自然観察園では、野鳥の会が昨年初めて巣箱を設置し、ひなが巣立ったことを確認した。今年は組合員19戸が、園内や周辺の柱に巣箱30個を設置した。セラアグリパークは、巣箱を設置した園のブドウで造った商品をブランド化する計画だ。 

*13-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200531&ng=DGKKZO59745590Z20C20A5MY1000 (日経新聞 2020.5.31) 「第2の地球」公転軌道 地球に似る 太陽系外惑星 すばる観測
 太陽系外で生命が存在できる領域にあり「第2の地球」の候補とされる惑星が、地球と似た公転軌道をもつことが、国立天文台のすばる望遠鏡による観測でわかった。この領域にある惑星の軌道が詳しくわかったのは初めてで、生命の生息条件を探る一歩になるという。東京工業大学や自然科学研究機構アストロバイオロジーセンターなどのチームが、みずがめ座の方向、約40光年の距離にある赤色わい星「トラピスト1」を観測した。周囲には少なくとも7つの惑星が公転し、うち3つは生命がすめる領域「ハビタブルゾーン」にあり岩石でできている。このゾーンは恒星から適度に離れていて熱すぎたり冷たすぎたりせず、液体の水が存在できる。研究チームは、米ハワイ島にあるすばる望遠鏡に搭載した観測装置でトラピスト1を調べた。観測中にハビタブルゾーンにある2つの惑星を含む3つの惑星が、トラピスト1の前面を横切るように通過した。トラピスト1が放つ光の変化を詳細に調べたところ、自転軸の傾きが判明。惑星の公転軌道面に対してほぼ垂直であることがわかった。太陽系の惑星は太陽の自転軸に対しほぼ垂直の軌道で回っているが、太陽系外では軌道が傾いた惑星もある。軌道の傾きは、恒星から受ける放射線や紫外線の変化を通じて環境を左右している可能性がある。成果は軌道の傾きと環境を探る研究の出発点になるという。

*13-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/527823 (佐賀新聞 2020.5.28) 伊万里-唐津、1億9300万円赤字 JR九州、線区別収支公表
 JR九州は27日、1日1キロ当たりの平均通過人員が2千人未満だったのは2018年度に17線区あり、営業損益が全て赤字だったと発表した。佐賀県内の線区の赤字額は筑肥線(伊万里―唐津)が1億9300万円、唐津線(唐津―西唐津)は2億2900万円で、ローカル線の厳しい現状が改めて浮き彫りになった。同社が線区別の収支を幅広く公表したのは初めて。沿線の自治体や住民に利用促進の手だてを考えてもらいたいとして、青柳俊彦社長が福岡市での会見で説明した。「将来的な鉄道網の維持可能性を高めるために知恵を出し合いたい」とし、複数の線区で立ち上げた自治体との検討会で対策を講じる考えを示した。運賃などの営業収益から、運行にかかる人件費や燃料代などを営業費として差し引いた金額を公表した。伊万里―唐津では営業収益3900万円に対し、営業費は2億3200万円、唐津―西唐津は営業収益3300万円、営業費2億6200万円だった。筑肥線の唐津―筑前前原(福岡県)と筑前前原―姪浜(同)、唐津線の久保田―唐津は2千人以上で、公表の対象外としている。JR九州管内には全59線区があるが、公表対象を限定した点について青柳社長は「ローカル線では30年前と比べて平均通過人員が7割以上減っているところもある。まずスポットを当て、一企業だけで維持するのは大変だということを理解いただく」と述べた。17線区を廃止したり、バスなど別の交通形態に転換したりする可能性に関しては「結果としてあるかもしれないが、今の段階でそれらを前提に議論することは考えていない」と話した。赤字額が最大だったのは日豊線の佐伯(大分県)―延岡(宮崎県)間の6億7400万円。災害の影響があった日田彦山線などは公表していない。

*13-5:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/527934 (佐賀新聞 2020.5.28) 地域の足、自治体主導で、改正地域公共交通活性化再生法が成立
人口減少や運転手不足に悩む地方の交通網を守る改正地域公共交通活性化再生法が27日、参院本会議で可決、成立した。過疎地域などでバス路線の存続が難しくなる前に、自治体が後継事業者を公募するなど、対策を早期に検討する制度を創設。住民の足が途切れないようにする。バス事業は、新型コロナウイルス感染拡大に伴う外出自粛で乗客が大幅に減少しており、路線撤退が増える恐れもある。国土交通省は、路線維持に対する自治体の関与を強めることで、影響を最小限にとどめたい考えだ。新制度では、採算割れなどを理由にバス事業者が路線廃止を想定し始めた段階で、自治体が対策に着手する。人口や住民の年齢層など地域の実態に応じて(1)コミュニティーバス(2)乗り合いタクシー(3)マイカーを使う自家用有償旅客運送―といった存続の選択肢を検討。事業者を公募するか、自治体が直接運営する。一方、地方都市を念頭に、路線バスの参入審査に地元自治体の意見を反映させる仕組みも設ける。新規参入により、客を奪い合って経営が悪化したり、通勤・通学など利用客が見込める時間帯だけに運行が集中して不便になったりする恐れがあるためで、国は自治体の意見を参考に、認可するかどうか決める。

| 年金・社会保障::2019.7~ | 04:14 PM | comments (x) | trackback (x) |

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