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2015.4.29 現在は、エネルギーの世代交代をするべき時である。 (2015年4月30日、5月1日、5月4日に追加あり)
      
    2014.11.11       2015.4.29  2015.4.29   2015.4.23
     朝日新聞          日経新聞   西日本新聞    佐賀新聞

(1)水素社会へのエネルギー革命と産業革命
 *1-1のように、家庭用燃料電池「エネファーム」を普及させ、自動車や航空機の燃料を電力もしくは水素に換えて水素ステーションの整備を進めれば、2013年、2014年に、輸入額が約27兆円にも達した天然ガス、石油、石炭などの鉱物性燃料の輸入をやめることができる。

 また、*1-2のように、CO2フリーで起こした電気で水素を作って貯蔵し、必要なときに再び電気に換えることができるため、各地域にあるエネルギー源から電気や水素を取り出し、これまで域外に流出していたエネルギー代金がその地域にとどまることで、地域の経済活性化に貢献できる。さらに、エネルギー自給率が上がり、エネルギーの安全保障にも貢献するのだ。

 その水素ガスは、製油所・製鉄所・ソーダ電解事業所の副産物としても発生し、*1-3のように下水処理場から取り出すこともできる。このように、国全体で考えると、燃料の輸入低減やCO2排出削減に大きく貢献できる水素社会への産業革命は、我が国にとって問題解決のKeyになるため、それこそ全力で進めなければならない。もちろん、「エネルギーの転換には時間がかかり、容易ではない」という主張もあるが、産業革命以降、人類は、短期間に「薪⇒石炭→石油」へとエネルギーの転換を行って来たのであり、「石油→再エネ電力、水素」だけが特に難しいわけはない。

(2)九電もインドネシアで地熱発電所建設
 *2-1のように、九電の子会社である西日本技術開発が、コロンビアで現地の電力会社、東芝などと協力して、地熱発電所建設計画に参画するそうだ。西日本技術開発は九電グループの中で地熱の技術開発の中枢を担う会社で、国内最大の地熱発電所である八丁原発電所(大分県)の建設などにも携わり、海外事業にも力を入れているとのことである。

 なお、この世界最大級の地熱発電所建設プロジェクトの融資には、*2-2のように、国際協力銀行、アジア開発銀行、みずほ銀行、三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行、ソシエテジェネラル銀行、アイエヌジーバンクエヌ・ヴィ、ナショナルオーストラリア銀行が加わっており、地熱資源が多いインドネシアで合計32万キロワットの大規模地熱発電所を建設して、同国の国有電力会社に売電する計画とのことである。

(3)フクシマ原発事故は、現在、どうなっているか
 *3-1のように、2台のロボットが調査して映像を撮影し、格納容器下部に水がたまっていることが確認できただけで、床面から立ち上る湯気を確認できたものの、核燃料がすべて溶け落ちて格納容器内に収まっているかどうかも保証の限りではないという程度だ。

 また、*3-2のように、フクシマ原発事故の汚染雨水が排水路を通じて外洋(港湾外)に流出していた問題では、排水路内に取り付けた水のくみ上げポンプ全8台が止まり、新たに汚染雨水が外洋に流出しているのが見つかったとのことで、ポンプが停止した原因や外洋への流出量、雨水に含まれる放射性物質濃度は不明というお粗末さである。

 さらに、*3-3のように、2015年4月6日から8日に、南相馬市のモニタリングポストで突如として高い線量を検出し、常磐自動車道の鹿島SAでは55μSvという通常の1000倍もの数値を記録し、福島県は計器故障と発表して線量測定を即中止した。2号機は、4月3日に格納容器の温度が約20℃から70℃に急上昇し、さらに2日後には88℃に達し、現在も70℃前後から下がっておらず、その熱源は4年前に圧力容器からメルトダウンした最大重量100tとも推定される核燃料で、その温度は事故当初は太陽の表面に近い4000℃前後、不純物が混じって核燃デブリ(ゴミ)と化した今でも塊の内部は1000℃以上を保ち、2号機内ではそのデブリが活発化して放熱量が高まっているのだそうだ。

 また、今年に入って何度か3号機の屋上から大量の蒸気が噴き出す様子がライブ配信映像で目撃され、2号機の温度上昇と連動するように4月6日から福島第一原発周辺の「放射線モニタリングポスト」が軒並み高い数値を示し始め、福島県は、この後すぐに40ヵ所ものモニターを“機器調整中”とし測定を止めたが、4月7日には東京都内でも港区・新宿区・渋谷区・世田谷区を中心にいつもの2~4倍に達する線量上昇を確認したのだそうだ。しかし、メディアでは、そのようなニュースは全く報道しなかった。

(4)原発に対する国民世論
 エネルギー基本計画設定時のパブリック・コメントを分析すると、上の左図のように、94.4%が原発に反対であるにもかかわらず、上の2番目、3番目の図のように、経産省は、現在0%の原発を20~22%まで引き上げなければコストと環境が両立しないなどと言っている。しかし、これは原発ありきの論理構成に過ぎないため、これをおかしいと思わないほど論理性や思考力に欠ける教育は、理系か文系かを問わず、すべきではないのだ。

 なお、*4-1のように、フクシマ原発事故で被害を受け、東電や国に損害賠償を求めている全国の団体が、訴訟の進み具合や課題に関する情報を共有して、①被害者への謝罪 ②完全賠償となりわいの回復 ③医療保障の実現・充実 などを統一要求する目的で、「原発事故被害者団体連絡会」を設立して共闘体制をとるそうだ。その参加対象は「原発事故でふるさとを失った」等として損害賠償を求める全国の原告団や裁判外紛争解決手続きを申し立てている集団で、東電担当者らの刑事責任を追及する福島原発告訴団などが中心となり、全国約30団体に加盟を呼び掛けている。みやぎ原発損害賠償弁護団(仙台市)によると、原発事故の被災者や避難者が東電や国に損害賠償を求める訴訟は全国で少なくとも28件に上るが、まだ判決は出ていないそうだ。

 また、*4-2のように、九電川内原発が立地する鹿児島県薩摩川内市の市民は、九州全体より脱原発派の割合が高いことが明らかになり、直近の再稼働については「反対」が他地域を下回る“ねじれ”が生じているものの、調査元の安全・安心研究センターは、「地元経済への影響から短期的には再稼働を受け入れざるを得ないと感じているが、決して積極的な容認ではない」と市民の胸の内を分析している。

(5)原発20%台の経産省の電源構成比率
 このような中、*5-1、*5-2のように、経産省は2015年4月28日、有識者会議に2030年時点の電源構成比率(エネルギーミックス)素案を示し、頑固に原発と再生可能エネルギー比率をいずれも20%台としたそうだ。これは、エネルギー基本計画で『原発は可能な限り低減する』とした“公約”を満たしておらず、40年超の老朽原発の稼働延長をも前提としている。

 また、*5-3は、原発をコスト低減と環境配慮の両立をはかれる電源としているが、これまで原発に対して行ってきた国民負担こそ膨大だったのであり、これは大嘘だ。私は、商業目的で稼働開始して40年も経過する原発には、これ以上の国民負担は行わず、コスト低減、環境配慮、エネルギー自給率100%を図るために、今後は、原発の割合を0にしたまま、水素社会へのエネルギー革命に全力で投資するのが賢明だと考えている。

<水素社会へ>
*1-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150420&ng=DGKKZO85860180Y5A410C1KE8000 (日経新聞 2015.4.20) 水素社会への展望と課題(上)、官民でインフラ構築必要 佐々木一成 九州大学主幹教授、長期的な開発体制を 省エネやCO2削減に貢献
 「水素社会」という言葉が広く使われるようになってきた。水素を自動車の燃料として本格的に使い始めた今年は水素元年ともいわれる。燃料電池車(FCV)が一般販売され、燃料の水素ガスを購入できる水素ステーションの整備が国のロードマップに沿って進められている。2009年から販売されている家庭用燃料電池「エネファーム」は累積販売台数が10万台を超え、電気もできる給湯器として30年には全世帯の1割に設置する国の目標も掲げられている。17年には家庭用より大型の燃料電池発電システムの市販も予定されている。なぜ今、水素なのか。水素社会とはどのような社会で、どのようなメリットや課題があるのだろうか。エネルギー資源を持たない我が国にとって、資源を安定的に入手し、電気や熱、車の燃料などをできるだけ安く確保することは、国の施策の根幹にかかわる。財務省の貿易統計によると、近年、貿易赤字が増大しており、その主たる要因はエネルギー輸入の増加といわれている。13、14年とも、天然ガス、石油、石炭などの鉱物性燃料の輸入額は約27兆円に達している。現在、生活や産業に欠かせない電力の約9割は火力発電でまかなわれている。当面、この状況は避けられない。燃料電池は、水素を含む燃料から電気を取り出す技術である。水の電気分解の逆の反応であり、燃料を燃やさずに直接、電気を取り出すことができる。この反応で使われる水素は、地球上に最も多く存在する元素であり、水素ガスはいろいろな方法で作ることができる。例えば、製油所や製鉄所、ソーダ電解事業所の副産物の水素ガスを活用して車の燃料として供給することが可能である。都市ガスやLPガスなどの既存のエネルギー供給ネットワークを活用して炭化水素燃料から水素ガスを取り出すこともできる。水素ガスが車の燃料として広く使用されるようになれば、自動車産業や日々の移動が石油という特定のエネルギー資源に依存しなくなり、エネルギーの安全保障に貢献できる。FCVの燃料は純水素ガスであるが、燃料電池発電には純水素ガスのみならず、都市ガスなど水素原子を多く含む炭化水素燃料も使える。エネルギー変換効率が高い燃料電池で発電することで、同じ電気を取り出すのに必要な化石燃料の量を減らせるため、省エネと二酸化炭素(CO2)排出削減になる。つまり、水素を介して発電する燃料電池の普及によって、「水素利用社会」がまず実現できる。高効率に電気を取り出せるメリットは家庭や車に限定されない。数キロワットから数百キロワットレベルの業務・産業用など、より規模の大きい発電用に展開できる。逆に小型の携帯機器用、宇宙航空用を想定した技術開発も進められている。将来、CO2排出の大幅減が国際的に求められる時代が来た時には、CO2フリーの純水素ガスをエネルギーとして本格的に使うことで、「純水素社会」に順次移行していくことになろう。下水処理場からのメタンガスや、電力系統に流せずに余剰になった再生可能電力、海外の未利用資源などから作ったCO2フリー水素などを活用することで、長期的にはCO2排出ゼロの車社会を実現することも夢ではなくなる。再生可能エネルギーは天候に左右され、変動が激しい。その余剰電力を使って水を電気分解して作った水素でエネルギーを蓄えるシステムの開発も進められている。水素をエネルギー貯蔵のために使いこなせるようになれば、蓄電池や揚水発電所と並ぶ、中規模の蓄エネルギー技術の柱となり、再エネを利活用する余地も広がる。各地域にあるエネルギー源から電気や水素を取り出すことが可能であるため、エネルギーの地産地消が実現できる。これまで域外に流出していたエネルギー代金がその地域にとどまることで地域の経済活性化や自立にも貢献できる。ただし、再エネを活用する際には、トータルでのコストや効率、CO2排出量の精査が必要である。このように燃料電池を核にした水素エネルギーのポテンシャルは極めて大きいが、エネルギー社会全体の根幹にかかわる変化でもあるため、当然、水素社会の実現には時間がかかる。多くの課題があるが、まず第一に官民を挙げた水素インフラの構築が重要である。FCVの本格普及には水素ステーションのネットワークの確立が必要である。国などの支援は当面欠かせない。従来のガソリンスタンド型の水素ステーションだけでなく、石油燃料や電気、熱も供給できるエネルギーのコンビニにしたり、再エネからの余剰電力で水素を製造・貯蔵して販売したり、下水処理や食品系・植物系廃棄物処理で発生するバイオガスから水素ガスを作って販売することなども検討に値する。水素ステーションの設置コストの低減も欠かせない。第二に、高効率発電という本質的な利点を持つ燃料電池は、電力・ガス自由化の流れの中で次世代型の発電システムとして期待される。火力発電の効率を上げていくことで国全体のエネルギー分野の無駄を減らし、CO2の排出を減らすことができる。燃料電池を核にして、天然ガスを使い、発電効率が70%を超える超高効率発電システムを構築することも原理的に可能である。資源的な制約が少ない石炭をガスに変え、燃料電池で高効率に発電することも可能である。本格普及には低コスト化を含めたさらなる技術革新が欠かせないが、国全体で考えると、燃料輸入低減やCO2排出削減に大きく貢献できる技術である。公的な導入補助制度はもちろん、高効率発電の技術開発や老朽火力発電所更新のコストを、将来の燃料費削減やCO2排出減で回収できるような仕組みを考えていくことも大事になろう。鉱物性燃料のごく一部を節約できるだけでも、メリットは兆円単位となる。国、自治体、エネルギー事業者や利用者、投資家が投資できるレベルにするためにも、システムコスト低減や発電効率のさらなる向上が求められる。水素社会がどのような社会なのか、安全性も含め、国民に広く示していくことも欠かせない。燃料電池や水素技術を多くの方々に安心して使ってもらうためには、普及啓発に向けた地道な活動が必要である。20年の東京オリンピック・パラリンピックは、日本がリードする水素技術を世界に発信する素晴らしい機会になる。各地で進められているスマートコミュニティー、再エネを使った水素技術、大型燃料電池の実証研究などで、経済性と環境優位性が示されることを期待したい。最後になるが、エネルギー分野の技術開発では開発期間が数十年にわたることが多い。逆に、数十年の間、メンテナンスも含めて事業が継続する分野であり、裾野も広い。製品開発しながらの次世代技術開発も欠かせず、技術を磨きながら次の世代を担う人材を育て続けていく必要がある。そのため、国の成長戦略の中に、それを支える若手人材の戦略的な養成を明確に位置付けることが重要である。特に今後の海外展開も見据えて、グローバルに活躍できる博士レベルの人材を、我が国が戦略的に育成していくことが国際競争力強化にもつながると考える。日本が世界をリードしている分野であるがゆえに、国際競争力を長期にわたって維持するためにも、オールジャパンでの戦略的・組織的な対応が切に望まれる。

*1-2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11715520.html
(朝日新聞 2015年4月21日) 「電気」を貯蔵、自立型システム 東芝、川崎で実証実験
 東芝は20日、太陽電池で起こした電気で水素を作って貯蔵し、必要なときに再び電気に換える国内初のシステムを川崎市の公共施設で稼働させた。災害時などは約300人分の電気とお湯を約1週間供給できる。充電池などを使う場合に比べ、大量の電気を効率よく保存できるという。太陽電池が使える日中に水を電気分解し、取り出した水素をタンクにためる。給水タンクもあるため、水道が止まっても日差しがあれば水素をつくり続けられる。この水素を使って燃料電池で電気を起こし、発電時に出る熱で、給水タンクの水をお湯にする。システム一式は長さ20フィート(約6メートル)のコンテナ三つと、長さ2メートルのコンテナ一つに入っており、他の場所で災害が起きたらトラックなどで運ぶこともできる。川崎の施設は実証実験という位置づけ。今年9月までに自治体や企業向けにシステムの販売を始め、輸出も検討するという。年50台の受注を目指す。

*1-3:http://qbiz.jp/article/59232/1/
(西日本新聞 2015年3月31日) エコカー燃料、下水で製造 福岡市で世界初の施設稼働
 下水の汚泥から水素を製造し、燃料電池自動車に供給する実証事業を行う施設が福岡市中央区荒津の市中部水処理センターに完成し、31日、現地で式典が開かれた。福岡市と九州大、民間企業2社でつくる共同研究体が、国土交通省の事業として建設。処理場に集まる汚泥の一部を発酵させてつくるバイオガスからメタンを取り出し、化学反応させて高純度の水素を製造する「世界初の施設」(同省)とされる。1日に燃料電池自動車65台分に相当する3300立方メートルを作り、併設した水素ステーションで自動車に充てんできる。市などは4月から1年かけ、施設の耐久性や水素発生の効率を検証する。月内には料金などを設定し、一般利用できるようにする方針。式典では九州大水素センター長の佐々木一成教授が「一日も早く全国や海外に展開していくことが使命だ」とあいさつした。

<九電のインドネシアにおける地熱開発>
*2-1:http://qbiz.jp/article/60500/1/ (西日本新聞 2015年4月18日) コロンビアで地熱開発 九電グループなど4社 発電所、20年運転開始へ
 九州電力子会社の西日本技術開発(福岡市)は、コロンビアで地熱発電所建設計画に参画する。現地電力会社や東芝など3社と開発に向けて協力することでこのほど合意。出力は5万キロワット級で、2020年の運転開始を予定している。実現すれば、コロンビアで初めての地熱発電所になる。建設予定地は、同国中部のカルダス県ビジャマリア市。現地電力会社は同国の公的電力会社イサヘン電力で、米資源開発技術のシュルンベルジェも協力に合意した。西日本技術開発は、建設・運営を実現するための技術やノウハウを提供し、2年程度かけて実現可能性を確かめる調査を実施。実現可能と確認されれば、東芝が蒸気タービンや発電機など主要設備機器を供給し発電所を建設。シュルンベルジェは、蒸気が出る井戸の掘削や蒸気輸送設備の供給を担当する。コロンビアの電力供給は水力を主力としているが、新たな再生可能エネルギーとして地熱が注目されているという。西日本技術開発は九電グループの中で、地熱の技術開発の中枢を担うコンサルタント会社。国内最大の地熱発電所である八丁原発電所(大分県九重町、11万キロワット)の建設などにも携わっている。海外事業にも力を入れており、インドネシアなどでも地熱開発事業を手掛けている。

*2-2:http://qbiz.jp/article/34688/1/
(西日本新聞 2014年3月31日) 九電の世界最大地熱計画、大手銀などが融資契約締結
 九州電力は31日、同社などがインドネシアで計画している世界最大級の地熱発電所建設プロジェクトで、国際協力銀行とアジア開発銀行、みずほ銀行など8行と融資契約を結んだと発表した。銀行団によると、融資総額は11億7000万ドル(約1200億円)。銀行団にはこのほか、三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行、ソシエテジェネラル銀行、アイエヌジーバンクエヌ・ヴィ、ナショナルオーストラリア銀行が加わっている。プロジェクトは、地熱資源が多いインドネシアで合計32万キロワットの大規模地熱発電所を建設し、同国の国有電力会社に売電する計画。九州域内などで地熱発電の経験が豊富な九電と、伊藤忠商事が25%ずつを出資し、インドネシアや米国企業も参画。4月に着工し、2016年から順次運転を始める予定。

<フクシマ>
*3-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2015041802000256.html (東京新聞 2015年4月18日) 格納容器下部の水確認 福島第一 ロボット調査
 東京電力は十七日、福島第一原発1号機の原子炉格納容器内で、ロボットが十五日に調査した際の映像を公開した。映像では格納容器下部に水がたまっている様子が確認できた。1号機では原子炉から溶け落ちた燃料を冷却するための注水を続けており、この水が格納容器下部にたまっているとみられる。東電は最終的に、格納容器下部の調査を目指している。公開されたのは十五日に格納容器一階部分をロボットで時計回りに調査した際の映像。カメラの向きを下に動かし、金網状の床面の隙間から格納容器下部を写すと、カメラのライトの光が水面に反射してゆらゆらと揺れた。また床面から立ち上る湯気も確認できた。時計回りの調査は十五、十六日の二日間行われ、調査範囲の空間放射線量は毎時四七〇〇~八三〇〇ミリシーベルト。容器内の温度は一九・四~二一・一度だった。東電は当初二台のロボットで格納容器内を調査する予定だったが、十日の反時計回りの調査で一台目が停止し、回収不能となった。時計回りで使ったロボットで十八日以降、もう一度、反時計回りに調査を進める予定。

*3-2:http://www.minyu-net.com/news/news/0421/news13.html
(福島民友 2015年4月21日)第1原発で新たに汚染水流出 水のくみ上げポンプ停止
 東京電力福島第1原発で汚染雨水が排水路を通じて外洋(港湾外)に流出していた問題で、東電は21日、この排水路内に取り付けた水のくみ上げポンプ全8台が止まり、新たに汚染雨水が外洋に流出しているのが見つかったと発表した。東電は、ポンプが停止した原因や外洋への流出量、雨水に含まれる放射性物質濃度を調べている。「K排水路」と呼ばれるこの排水路は、原子炉建屋周辺の雨水を流すため、事故前からあった。2月に発覚した汚染雨水の外洋流出問題を受け、17日から本格的に排水をポンプでくみ上げ、港湾内につながる別の排水路「C排水路」に移送し始めたばかりだった。東電によると、巡回中の作業員が21日午前8時45分ごろ、ポンプの停止に気付いた。現場のパトロールは1日3回。20日午後2時30分ごろ、最後に確認した際には異常はなかったという。

*3-3:http://news.nifty.com/cs/domestic/societydetail/playboy-20150427-46919/1.htm (niftyニュース 2015年4月27日) 周辺地域で線量が1000倍に急上昇! “フクイチ”で何かが起きている!?
 4月6日から8日に突如として高い線量を検出した南相馬市のモニタリングポスト。特に常磐自動車道の鹿島SAでは55μSvという通常の1000倍もの数値を記録、福島県は計器故障と発表し線量測定を即中止した…。このところ福島第一原発の様子が、どうもおかしい。特に気になるのが2号機で、4月3日に格納容器の温度が約20℃から70℃へ急上昇した。さらに2日後には88℃に達し、4月第3週現在も70℃前後から下がっていない。もちろん熱源は4年前に圧力容器からメルトダウンした最大重量100tとも推定される核燃料である。その温度は、事故当初は太陽の表面に近い4000℃前後で、不純物が混じって核燃デブリ(ゴミ)と化した今でも塊の内部は1000℃以上を保っているとみられる。つまり、2号機内ではデブリがなんらかの原因で活発化して放熱量が高まっているようなのだ。この点について琉球大学理学部の古川雅英教授(環境放射線学)は次のように説明する。「1~3号機ともに核燃デブリを冷やすために放水作業を続けていますが、その水量調整が実は大変に難しい。少ないと文字通り焼け石に水です。また、極めて稀(まれ)なケースですが、環境条件が整えば、水によって減速された核分裂中性子が連鎖的な核分裂を誘発する可能性もあります」。だから東電の事故処理対策では、今のところ1~3号機ひとつにつき、一般の水道蛇口ふたつを全開にしたほどの注水を続けている。これは巨大な原子炉格納容器と比べれば意外にわずかな水量といえる。にもかかわらず、なぜ2号機の温度は急上昇したのか?似た異変は3号機内部でも起きているようで、今年に入って何度か3号機の屋上から大量の蒸気が噴き出す様子がライブ配信映像で目撃された。そして、もっと見逃せないのが2号機の温度上昇と連動するように4月6日から福島第一原発周辺の「放射線モニタリングポスト」が軒並み高い数値を示し始めたことだ。中でも原発から北方向の南相馬市では、復旧したての常磐自動車道・南相馬鹿島SA(サービスエリア)ポストで通常線量の1000倍にあたる毎時55μSv(マイクロシーベルト)を最大に、市街地各所で数十倍の上昇が見られた。それぞれの線量上昇時には福島第一原発方向からの風が吹いていた。福島県内各地の放射能汚染を詳しく調べてきた「南相馬・避難勧奨地域の会」の小澤洋一さんはこう語る。「これら福島県が設置したモニターの高線量折れ線グラフは、異様に長い剣のように突き出た1、2本のピークが特徴的で、しかも短時間に限られた場所で現れたため、あいにく私の個人測定ではキャッチしていません。しかし福島県は、この後すぐに40ヵ所ものモニターを“機器調整中”とし測定を止めました。この対応はあまりにも不自然だと思います。もし本当に高額な精密モニター機器が何十台も同時故障したというなら、それ自体が行政上の大問題でしょう」。この福島第一原発2号機の温度急上昇と関係がありそうな異変は、実は福島県以外にも及んでいた。そのひとつが4月7日の東京都内だ。本誌は原発事故から4年間、都内43ヵ所の「定点」で月数回ペースの線量測定を実施してきた。そして北東・北方向から4、5mの風が吹き続けた7日正午から夕方にかけて、港区・新宿区・渋谷区・世田谷区を中心にいつもの2~4倍に達する線量上昇を確認した。また「原子力規制委員会」が公開した4月中旬までの全国線量グラフにも東北各県や神奈川県などで急激な上昇が見られた。原発事故以来、東日本地域では地表面に染み込んだ放射性セシウムが1~3月頃の乾燥期に空中へ舞い上がり、線量を高める「2次汚染現象」が続いてきた。ところが今年の春は、まるで様子が違う。今の福島第一原発から直接飛来した強い放射性物質が一部地域の線量をスポット的に引き上げているとしか思えないのだ。この新しい傾向は、何を意味するのか? 考えられるのは、原発内の核燃デブリが従来の注水冷却工程に対して異なった反応を示す状態に変化した可能性、例えば、デブリが格納容器下のコンクリートを突き抜けて地盤まで到達(メルトアウト)し、地下水と接触するなどだ。

<原発に対する世論>
*4-1:http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201504/20150417_73006.html
(河北新報 2015年4月17日) 原発賠償請求で共闘 被害者が初の全国組織
 東京電力福島第1原発事故で被害を受け、東電や国に損害賠償を求めている全国の団体などが「原発事故被害者団体連絡会」を設立することが16日、分かった。初の全国組織で、5月24日に二本松市で設立集会を開催する。訴訟の進み具合や課題といった情報を共有し、東電や国に対する共闘体制の構築を図る。参加対象は原発事故で古里を失ったなどとして損害賠償を求める全国の原告団や裁判外紛争解決手続き(ADR)を申し立てている集団など。東電担当者らの刑事責任を追及する福島原発告訴団(田村市)などが中心となり、全国約30団体に加盟を呼び掛ける。連絡会は(1)被害者への謝罪(2)完全賠償となりわいの回復(3)医療保障の実現・充実-などを東電と国に統一要求する方針。各団体が持つ情報は定期的な会合や研修会で共有。東電や国に対する要請活動は共同で展開する。みやぎ原発損害賠償弁護団(仙台市)によると、原発事故の被災者や避難者が東電や国に損害賠償を求める訴訟は全国で少なくとも28件に上り、いずれも判決は出ていない。追加提訴もあり、原告数は増える傾向にある。発起人の一人で原発事故時は福島県西郷村に住んでいた福島原発告訴団の地脇美和事務局長(44)は事故風化や団体間の情報格差を懸念。「課題は避難の長期化をはじめ多様化しており、個々の団体だけで対応するのは難しい。被害者がまとまって声を上げることで確実な要求実現につなげたい」と話す。

*4-2:http://qbiz.jp/article/60647/1/ (西日本新聞 2015年4月21日) 地元、実は脱原発傾向 「再稼働反対」「縮小」77%、薩摩川内市民調査
 九州電力川内原発が立地する鹿児島県薩摩川内市の市民は、九州全体より脱原発派の割合が高い−。民間の調査でそんな傾向が明らかになった。ただし、直近の再稼働については「反対」が他地域を下回る“ねじれ”が生じており、調査元は「地元経済への影響から短期的には再稼働を受け入れざるを得ないと感じているが、決して積極的な容認ではない」と市民の胸の内を分析している。調査したのは安全・安心研究センター(代表・広瀬弘忠東京女子大名誉教授)。昨年11〜12月、薩摩川内市180人、川内原発30キロ圏180人の計360人にアンケートを実施した。全国データは今年3月に1200人を対象に調査した分で、うち九州7県は120人だった。この中で「日本の原発をどう思うか」と聞いたところ、薩摩川内市では「再稼働を認めず直ちにやめるべきだ」が21・1%。「再稼働を認め段階的に縮小すべきだ」と合わせると77・2%に上り、九州全体(75・0%)を上回った。これとは別に、目前に迫る再稼働の賛否を尋ねた質問でも、薩摩川内市では「絶対反対」「やや反対」が計52・7%。昨年10月、市長と議会が再稼働に同意を表明したが、その後も市民レベルでは賛否が割れている実情が浮かび上がった。ただ、同じ質問で九州全体の反対派は65・8%。30キロ圏(62・8%)、全国(70・8%)とも差が出た。将来的には脱原発、直近は再稼働容認−。このねじれの背景に何があるのか。調査では原発の事故対策や避難計画についても聞いている。国の事故対策について、薩摩川内市の市民の計80・6%が「まったくできていない」「あまりできていない」と感じており、避難計画も「不十分」「やや不十分」が計78・3%に達した。いずれも全国データに迫る割合だった。一方、再稼働が家計にとって「非常にプラス」「ややプラス」と答えた市民は66・7%に及び、全国の58・7%を大きく上回った。広瀬名誉教授は「脱原発傾向は予想以上に強かった。立地自治体の原発事故に対する危機感を、経済的なメリットが薄めている」と指摘する。

<経産省の電源構成比率>
*5-1:http://qbiz.jp/article/61257/1/
(西日本新聞 2015年4月29日) 「20%台」老朽原発が頼み 経済優先、新増設も視野 
 経済産業省が28日の有識者会議に示した2030年時点の電源構成比率(エネルギーミックス)素案は、焦点の原子力発電と太陽光発電などの再生可能エネルギーの比率をいずれも20%台とし、わずかに再生エネが多い巧妙な配分になった。だが、再生エネが国民負担の増大を理由に抑制された一方、原発は新増設も視野に入るレベルを確保し、方向性は対照的。政府の「原発回帰」の姿勢がより鮮明になった格好だ。「これで(昨春の)エネルギー基本計画で『原発は可能な限り低減する』とした“公約”を満たしたといえるのか」。有識者会議の会合で東京理科大の橘川武郎教授は、経産省が示した原発比率に強く反発した。政府は福島第1原発事故を受け、原発の運転を「原則40年」に制限。このルールを厳守すると、30年の原発比率は15%程度に下がる見通しだったが、産業界から「電気料金の値下げ」を求める声が拡大。経産省は当初から、最長20年の運転延長を認める「特例」を活用し、原発を一定程度確保する方針だった。こだわったのは20%台という水準だ。安倍晋三首相周辺は国民の反発を和らげるため、原発比率を「19〜18%」に引き下げる案を検討したが、経産省は譲らなかった。橘川教授は「10%台だと、国民に『40年廃炉』を厳格に進めるというメッセージになると考えたのではないか」といぶかる。
   ◇    ◇
 エネ基で「約2割を上回る水準を目指す」とした再生エネは、目標をわずかに超える22〜24%になった。再生エネをめぐっては環境省が4月上旬に「最大35%供給可能」との試算を発表し、原発推進の姿勢をみせる経産省をけん制した。試算のうち、再生エネが33%超となる案は、全国の送電線網の整備などに4兆3千億円かかるが、年平均では約2300億円。試算に携わった千葉大大学院の倉阪秀史教授は「無理な水準ではない」と強調する。経産省は28日、13年度に3500億円だった固定価格買い取り制度に伴う電気料金への上乗せ額が、30年に最大4兆円に膨らむとの新たな試算も公表。「再生エネの拡大は国民負担が大きい」(幹部)とのメッセージを出し、最終的に20%前半まで抑えた格好だ。
   ◇    ◇
 電源比率の素案は与党での議論を経て正式決定するが、曲折も予想される。経産省が期待する老朽原発の運転延長は、巨額の安全対策費がかかるため、電力会社がどの程度、延長を申請するかが不透明。原子力規制委員会が運転延長を認める保証もない。このため、28日の会合では「原発比率の達成は難しい」「想定通りにいかなければ、火力発電に頼る今の状態に戻ってしまう」などと懸念の声が上がった。経産省が、コストを理由に再生エネ拡大に慎重なことについて、有識者会議メンバーでもある名古屋大大学院の高村ゆかり教授は「30年以降の姿をみていないからだ」と指摘する。再生エネの固定価格買い取り制度は20年で買い取り期間が終わるため、32年以降、電気料金への上乗せ額は徐々に減る。高村教授は訴える。「将来は、高い上乗せ額を負担しなくても、(太陽光などの)国産のエネルギーを活用できる。長期的な視野をもって政策議論をすべきだ」
◆九電、30年には原発2基に
 2030年時点の電源構成比率で原発を20〜22%とする政府の方向性は、九州電力管内の原発の存廃にも影響を与えそうだ。九電は原則40年の法定運転期間に従う形で27日に玄海原発1号機(佐賀県玄海町)を廃止にしたばかりで、残る原発は玄海2、3、4号機と川内原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)の計5基。40年ルールに従えば、30年時点で残るのは玄海3、4号機の2基のみとなる。玄海3、4号機の出力は計236万キロワット。設備利用率(稼働率)80%の前提だと年間発電量は約165億キロワット時で、14年度の九電の販売電力量(約812億キロワット時)の約20%に相当する計算。ただ、30年時点の電力需要は、電化が進むことなどで現在より増える可能性もあり、この2基のみで九州内の需要の20%以上を賄えるかは見通せない。状況次第で川内1、2号機の運転延長を目指す動きなども想定される。電力業界は16年4月に電力小売市場が全面自由化され、20年4月には大手電力会社の送配電部門が切り離される「発送電分離」も実施される予定。「地域独占」の壁が崩れる中、九電管内の原発の行方は他の大手電力会社の状況にも大きく左右されそうだ。

*5-2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11729660.html
(朝日新聞社説 2015年4月29日)原発の比率 40年超を前提にするな
 原発比率を「20~22%程度」とすることには、問題がある。というのも、「20~22%」は事実上、40年超の原発も運転し続けることを前提にした数字だからだ。この水準を維持するには、原発を新増設するか運転を延長するしかないが、政府は「新増設は考えていない」との姿勢を崩していない。福島第一原発の事故後、原子炉等規制法が見直され、原発は40年を寿命とする原則が決まった。この法律と整合しない数値を示すことに、正当性はあるのだろうか。国内で建設が始まった当初、原発は30~40年の寿命が前提とされてきた。だが、新規立地が難しくなり、主として経済的な要因から運転延長が認められてきた経緯がある。ただ、運転を長く続ければ原子炉圧力容器などが劣化し、安全性も下がる。事故後は「供給側の事情に配慮するような発想を切り離す」ことを目指して、運転を40年に制限することが改正法に盛り込まれた。法律には原子力規制委員会の特別な審査に合格すれば1回だけ最長20年の延長が認められる規定がある。ただ、これは法案をつくる時点で、電力不足に陥る懸念があったために「極めて例外的」なケースとして設けられたもので、規制委の田中俊一委員長も規制委発足時の会見で「(特別審査への合格は)相当困難」との認識を示している。国内の原発は運転開始から30年を超えるものが多く、40年規制を自動的に当てはめるだけで、30年時点での原発比率は15%程度に低下する。大地震の恐れや活断層などの問題があったり、十分な避難計画が策定できなかったりする原発については寿命をまたずに閉めることを踏まえれば、比率はさらに下がるはずだ。電力会社側は「40年には科学的根拠がない」として、関西電力が3基について運転延長を申請する準備に入っている。しかし、審査に通るかどうか、現時点では見通せず、40年超を前提にすることには無理がある。骨子案をもとに、政府は6月にも電源構成を決める。原発比率は再考するべきである。

*5-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150429&ng=DGKKASDF28H1R_Y5A420C1MM8000(日経新聞2015.4.29)原発、電源の20~22%に 経産省30年案再生エネ倍増
 経済産業省は28日、2030年時点の望ましい電源構成(ベストミックス)案を公表した。原子力の比率は20~22%と、東日本大震災前の28.6%より低くした。太陽光などの再生エネルギーは最大24%を掲げ、原子力を上回る普及をめざす。震災後に揺れ動いてきたエネルギー政策の見取り図を示し、コスト低減と環境への配慮の両立をはかる。28日に開いた「総合資源エネルギー調査会」(経産相の諮問機関)の専門委員会で大筋了承された。与党内の協議や国民の意見を聞いた上で6月までに決めるが、経産省案から大きく変わらない見通しだ。政府が望ましい電源構成を示すのは民主党政権時代の10年以来、5年ぶりとなる。経産省案では停止中の原子力発電所の再稼働を進め、30年時点で20%以上に戻す。政府は原発をコストが低く、昼夜を問わず安定的に発電できる基幹電源の一つと位置づけており、稼働から40年以上の老朽原発(総合2面きょうのことば)の運転延長も織り込んだ。ただ、安全性への国民の不安が根強いことを踏まえ、大震災前には及ばない。 再生エネは天候により発電量が変わる太陽光と風力を合計で9%弱にとどめる一方、安定して発電できる地熱や水力、バイオマスで最大15%程度を確保する。13年度時点で約11%の再生エネを30年までに主要な電源に育て、温暖化ガスの大幅削減につなげる。政府試算では発電コストが安いとされる原発の比率を20%以上にすることで再生エネの普及コストを吸収し、電気料金の上昇を抑えたい考えだ。代わりに火力発電の割合は減らす。石炭火力を13年度の30%から26%に、液化天然ガス(LNG)火力は43%から27%にし、化石燃料への依存度が9割近くとなっている現状にメスを入れる。政府は28日に示した電源構成案を基に、30日にも温暖化ガスの削減目標案を示す。30年までに排出量を13年比で26%、05年比で25%強減らす案を固めている。


PS(2015年4月30日追加):*3-3に、「2015年4月6日から8日に南相馬市のモニタリングポストや周辺地域で線量が1000倍に急上昇し、デブリが格納容器下のコンクリートを突き抜けて地盤まで到達し、地下水と接触したことが考えられる」と書かれている。これと符合するのが、*6の2015年4月10日に、茨城県鹿島灘に多数のイルカが打ち上げられた事件だ。イルカが打ち上げられた理由は、イルカが放射性物質を蓄積した魚を大量に食べたことで急性放射線障害による腸壁傷害の下痢を起こしたのかもしれないし、この付近の海水の放射性物質濃度が高くなっていた可能性も高い(http://www.antiatom.org/Gpress/?p=3038 参照)。ちなみに水俣病の時も、魚を中心に食べる猫がおかしな歩き方をし始めたのが最初の異変で、その時、日本政府は公害の影響を否定していた。そして、あれだけ多くのイルカのサンプルがありながら「原因がわからない」とされていること自体、原発事故が怪しいのだ。

*6:http://mainichi.jp/select/news/20150410k0000e040176000c.html
(毎日新聞 2015年4月10日) イルカ:150頭、砂浜に…10キロ点在 茨城・鹿島灘
 10日午前6時5分ごろ、茨城県鉾田市台濁沢(だいにごりさわ)の鹿島灘で、通行人の男性から「多数のイルカが打ち上げられている」と第3管区海上保安本部(横浜市)に通報があった。鹿島海上保安署員が駆け付けたところ、鉾田市汲上(くみあげ)から同市上幡木(かみはたき)間の海岸(約10キロ)で、約150頭のイルカが打ち上げられていた。大半が生きているとみられ、市などが救助活動を行っているが、救出は一部にとどまる見通しという。アクアワールド茨城県大洗水族館(同県大洗町)などによると、打ち上げられたイルカはカズハゴンドウで、体長は約2〜3メートル。鹿嶋市内にも打ち上げられており、被害頭数は拡大する可能性もある。現場では地元住民も協力し、イルカにブルーシートをかぶせたり、バケツで海水をかけたりして救助活動を行った。付近では毎年、数頭のイルカが打ち上げられており、2011年3月には鹿嶋市で、カズハゴンドウ54頭が見つかっている。原因ははっきりしていないという。


PS(2015年4月30日追加):*7のように、電気自動車の無料急速充電設備がスーパーの駐車場にあると、そのスーパーを選択する理由の一つになるため、スーパー側にもメリットがある。しかし、女性がスーパーに行くために使う車は300万円くらいまでの実用車か軽自動車であるため、テスラも女性好みの実用車のラインナップを増やした方がよいと思う。なお、駐車場に下の写真のような太陽光パネルの屋根を設置すると、自動車が熱くなり過ぎないなど、エコと駐車場のグレードアップの両方の効果がある。

   

*7:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150430&ng=DGKKASGM29H22_Z20C15A4FF2000 (日経新聞 2015.4.30)
米テスラCEO「EV充電拠点、日本で拡大」 年内に5倍30ヵ所
 米電気自動車(EV)メーカー、テスラモーターズのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は28日、日本経済新聞のインタビューに応じ、日本でEVに無料で急速充電できる設備を今年中に現状の5倍の30カ所程度まで増やす方針を明らかにした。本州全域をEVで縦断できるようになる。将来的に全国数百カ所まで増やす計画で、電池切れの不安を軽減しEV普及を促す。急速充電器の設置場所は商業施設の駐車場が中心。急速充電器の電気は太陽光で賄う。太陽光パネルを充電器に設置するか、太陽光で発電した電力を他社から購入する。マスク氏は「日本で長期的に投資を増やす」と語った。投資額には触れなかったが、充電器設置拡大に加え、現在は横浜に限られている修理などを担うサービス拠点を増やす考えも明らかにした。自社だけでなく他社のEVも使える充電機能付きのパーキングメーターの設置支援を「日本政府にも提言する」と述べた。テスラのセダンEVは家庭用電源も利用できるが、フル充電には一晩かかる。急速充電器を使えば20分で半分程度まで充電でき、商業施設の利用時間を活用して充電できる利点がある。現状は首都圏と阪神間の6カ所にとどまっている。テスラは現在、1000万円近い高級EVを販売するが、2017年後半をめどに420万円程度で発売する中価格帯EVの開発を進めている。蓄電池の価格が最大の課題だが、マスク氏は「3年以内に価格は確実に3割以上下がる」と商品化に自信を見せた。さらに価格を下げた大衆用EVも投入する予定で「認知度を上げるためブランドはテスラのまま変えない」とした。自動車向けサービスを開発している米アップルや米グーグルなどと連携する可能性については「顧客が求めるならありうるが、当面は独自のサービス開発を追求する」とし、短期的には可能性を否定した。アップルからの買収提案の噂についても笑いながら「特にない」と語った。13年春の経営危機時にグーグルに身売りしかけていたとの報道についても「非公式な議論止まりだった。現在そうした議論は全くない」と明言した。


PS(2015.5.1追加):温暖化ガスの削減は、私の提案で1995年頃から太陽光発電や電気自動車の開発を本格的に始めた日本が言いだし、1997年に京都議定書ができたものであるため、日本は世界のトップランナーだった。しかし、*8のように、政府は「①米国が05年比26~28%削減、欧州連合(EU)が1990年比で40%削減目標を打ち出した中、日本が低い目標では国際的に孤立する」「②諸外国の批判を招かないよう、国際的に遜色ない水準にする」「③経産省幹部が『これで15年後に原子力が20%を割ることはなくなった』とつぶやいた」そうである。このうち、①②は、バスに乗り遅れないようにのみあせる追随型三等国の政策であり、③は、発電のためのエネルギーに、火力か風力か原子力しか思いつかない物理音痴の発想で、考えるための基礎的知識が足りないものである。

     
   2015.5.1     2015.1.17  2015.1.3     太陽光発電
                日経新聞

*8:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150501&ng=DGKKASDF30H1I_Q5A430C1EA2000 (日経新聞 2015.5.1) 
欧米にらみ最後に上積み 温暖化ガス削減目標、経産・環境省が攻防
 政府が30日にまとめた2030年の温暖化ガス排出削減目標は、政府内の激しい綱引きの末、省エネや森林整備による吸収効果を積み上げ、13年比で26%を捻出した。最優先したのは「欧米に見劣りしない目標」だった。省エネには巨額の投資が必要となり、実現の可能性は未知数だ。「05年に比べて約3割削減する環境省サイドの案はどうやっても実現不可能だ」。水面下の調整が始まった4月上旬、経済産業省幹部は政府内の意見の隔たりの大きさを嘆いた。同時に検討していた30年の電源構成案を基にすると、削減目標は「十数%」というのが経産省の当時の見立てだった。経産省は環境・外務両省と調整を進め、「13年比で20%に乗せる水準」という折衷案が政府内で有力となった。だが、環境省は巻き返しに動いた。米国が05年比26~28%削減、欧州連合(EU)が1990年比で少なくとも40%削減の目標を既に打ち出した中で、低い目標では国際的に孤立すると恐れたためだ。環境省は国際エネルギー機関(IEA)の昨年の試算値をベースに「24%減」を最低ラインとして論陣を張った。4月18日東京・新宿の新宿御苑。安倍晋三首相が主催する「桜を見る会」で首相と同席した望月義夫環境相は「国際的に日本の努力が分かるようにする必要がある」と進言した。岸田文雄外相が訪独から帰国すると、外務省も大幅削減に傾き、「20%台半ば」の削減論が政府内で強まった。国際的に遜色ない水準を望んだのは、6月に主要7カ国(G7)首脳会議(サミット)を控えた首相も同じだった。政府関係者によると、首相は4月20日、官邸に入った経産省幹部に「諸外国の批判を招かないようにしてくれ」と指示した。大幅な削減目標を達成するため、経産省はほぼ大枠が固まりつつあった電源構成に手を加えた。排出量の多い石炭火力の比率を今の30%から、30年時点で26%に減らし、省エネの目標も2月時点の試算から1割上乗せした。電源構成の変更と省エネで、21.9%分を稼ぎ、将来の森林整備による吸収などの効果と合わせ、26%に乗せた。見せ方にもこだわった。05年比では日本は欧米に見劣りするが、13年比では上回る。だが、環境省は05年比という従来の基準をむやみに変えれば国際的な信用を失うと譲らず、国連に2つの削減目標を登録する異例の対応が決まった。高い削減目標の実現には今後15年間で37兆円の投資が必要となりハードルは高い。今回の削減目標を公約すれば結果的に温暖化ガスの排出が少ない原子力発電所の再稼働には追い風との思惑もちらつく。経産省幹部は「これで15年後に原子力が20%を割ることはなくなった」とつぶやいた。


PS(2015年5月4日追加):*9に書かれているとおり、原発を再稼働させて2030年の温室効果ガス排出量を2013年に比べてやっと26%減らすという政府案は姑息で、他国に比べて環境保護や省エネ・再エネ技術の開発意欲に欠けている。そして、馬鹿の一つ覚えのように、「それなら代替案を出せ」と言う人がいるが、代替案は既に20年前に出しており、理解力とやる気の問題だったのだ。

*9:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11738017.html
(朝日新聞社説 2015年5月4日)温室ガス目標 政府案は意欲に欠ける
 2030年のガス排出量を13年に比べて26%減らすという。気候変動枠組み条約や京都議定書の基準年1990年に比べれば、40年かけてわずか18%ほど減らす目標に過ぎない。すでに1人当たり排出量で日本より少ない欧州連合(EU)は、90年比で40%以上の削減を掲げている。それに比べて政府案のレベルは低すぎる。実質的に国際水準に劣るのに、基準年を最近の年へずらしたため、そう遜色がないようにも見える。そんな姑息(こそく)なやり方で近年の無策をごまかしては、国際社会の信頼を失うだけだ。真剣に考え直すべきである。最大の問題は、経済成長で当然のようにエネルギー消費が伸びるとしている点だ。原発回帰を進めようとするのも、つまりはエネルギー消費構造への切り込みが足りないからである。日本はEUなどと異なり、京都議定書で13~20年のガス削減に参加しなかった。このため、国全体の取り組みがゆるみ、政府が基準年とした13年の排出量は90年より約11%も増えた。それは原発事故の影響だけではない。この間、事務所など業務部門の排出量は2倍以上、家庭部門も1・5倍以上になった。政府案は両部門での省エネを特に強めるというが、それでも業務部門の30年の想定排出量は90年より多く、家庭部門もわずかに下回る程度だ。全体の約3割を排出している産業部門の削減幅が、13年比で約7%というのは、あまりにも低すぎる目標である。確かに産業部門は業界ごとに計画を立てて省エネを進め、90年比で約15%減らしてきた。だが、もっと余地があるはずだ。経済産業省系の省エネルギーセンターによると、製造業では保温断熱材の劣化だけでエネルギーを10%も損しているという。複数の工程や事業所を結んでの省エネも遅れている。欧米は経済成長とエネルギー消費の切り離しを積極的に進めている。例えば、電力会社などエネルギーの供給や小売りを担う事業者に一定の供給削減を義務づけることで、工場や事務所、家庭などの省エネ投資を促す政策が広がりつつある。その結果、省エネ策を提案・提供する新産業が育ってきた。省エネは世界の一大潮流である。国内で本気になって最新の経験を積まなければ、急速な成長が見込まれる途上国の省エネ需要も取り込めないだろう。

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2015.4.27 川内原発仮処分の却下と各メディアの論調について(2015年4月27、28日追加あり)
    
2015.4.23佐賀新聞 *1-1           GreenPeaceより

(1)鹿児島地裁の決定について
 *1-1のように、鹿児島地裁は九電川内原発1、2号機の再稼働差し止めを認めず、理由として「①新基準の合理性は専門的な知見を持った原子力規制委員会が審議を重ねて定め、フクシマ原発事故の経験も考慮した最新の科学的知見に照らして不合理ではない」「②新基準では、基準地震動を過去の地震の平均像を用いて策定しているが、過去10年で想定を超える地震が発生したケースは5回あるが、新基準はそうした地震が起きた地域の特性を考慮できるようになっており、不合理だとはいえない」とした。

 しかし、①については、*1-6のように、“専門的な知見を持つ”とされる原子力規制委員会は、原発事故の際に放射性物質の拡散を予測するSPEEDIの活用を中止し、半径30km圏内しか放射性物質が飛散しないかのような前提で避難範囲を定めているのであり、これは、御世辞にも、フクシマ原発事故の経験を考慮した最新の科学的知見や専門的知見に基づいた判断とは言えない。

 さらに、②についても、自然現象の予測には「不確かさ」があるからこそ、最悪の事態にもゆとりを持って安全と言えなければ万全な危機管理とは言えず、「想定外」ばかりだったフクシマ原発事故から学んでいない。また、*1-1では、「地震が原因となる事故による放射性物質放出をかなり防げる」としているが、冷やし続けるための配管も壊れないとはとても思えない上、「かなり防げる」程度では困るのだ。

 また、鹿児島地裁は、「九電は新基準に従って調査した上で川内原発が受ける火山活動の影響を評価しており、火山学の知見からも一定程度裏付けられている」としているが、多くの火山学者が、噴火予知は不可能であり、直前に予知できたところで対処の仕様がないだろうと言っている。

 このような中、*1-3のように、阿蘇山は噴煙1500メートルに達する噴火を起こして火口から1キロ以遠でも噴石の降る恐れがあり、*1-4のように、桜島も、今年の爆発的噴火回数が400回を超え、これは記録の残る1955年以降で3番目に早いペースで、噴煙は高さ5千メートルに達して鹿児島市街地に大量降灰をもたらした2013年8月の爆発的噴火と同規模かそれ以上の噴火が起きる可能性があり、404回目の爆発的噴火では噴煙が高さ3100メートルに達して鹿児島市街地で断続的に降灰を観測しているとのことである。

 *1-1では、「避難計画は、原発からの距離で区分された地域によって避難行動が具体的に定められ、放射性物質の拡散状況に応じて避難先を調整するほか、放射線防護資機材の備蓄や緊急時の放射線量の測定、安定ヨウ素剤の投与についても具体的に定めており、現時点での一応の合理性や実効性を備えている」としているが、再稼働ありきでこじつけられた“一応の合理性”程度で、原発を再稼働されては困るのである。

(2)福井地裁と鹿児島地裁の判断の違い
 上の図のように、高浜原発(福井県)の再稼働を否定した福井地裁と川内原発(鹿児島県)の再稼働を認めた鹿児島地裁の決定の相違点は、①新基準の合理性に関する判断 ②原発に絶対的な安全性を求めるべきかどうかについて福井地裁が「万が一にも事故が起こらない」ことを求めたのに対し、鹿児島地裁は「重大な事故が発生する確率が低ければよい」としたこと ③基準地震動について ④火山の噴火について である。

 そして、①については(1)で述べたとおり、新基準は再稼働ありきで緩やか過ぎる上、②については、*2-1、*2-2、*2-3、*2-4に書かれているように、原発事故が一度起きれば回復不能で甚大な被害をもたらすことを考えれば、「万が一にも事故が起こってはならない」という判断が正しい。

 何故なら、*3-1のような記事もあるが、自動車事故なら死亡事故が起きても3000万円程度の補償額で原因者負担であり、事故の片づけが終わればその道路は通行可能になり、近隣住民が事故後そこに居住できなくなるということもないのに対し、フクシマ原発事故の例では、現在判明している補償額だけでも10兆円に達し、人間が住めなくなった場所も多く、このような事故が1基あたり80年に1度起こるとすれば、10機稼働していれば8年に1度は起こって、1年当たり1.25兆円の補償を国が行わなければならず、そのたびに国土を狭めるからである。つまり、原発事故は、他の事故とは異なるのである。

 また、③の基準地震動については、(1)に記載したとおり、地震の最大予測値にゆとりを持たせておくべきであり、配線、配管、建物の構造を含むすべてが地震の最大予測値を超える強度でなければ安全とは言えない。

 なお、*1-2に書かれているとおり、福井地裁は火山噴火の危険性については言及していないが、川内原発の新規制基準への適合性をめぐる決定では、「原子力規制委員会が火山学の専門家の関与・協力を得ながら厳格かつ詳細に審査した」としている。しかし、その判断には火山学者から強い批判が出ており、東京大学火山噴火予知研究センターの中田節也教授は「火山学会の意見を聞いて再稼働が判断されたわけではなく、全くの事実誤認」「規制委にも破局的噴火が起こればみんな死ぬ、という乱暴な意見があるが、それは違う。原発の使用済み核燃料を放置していれば深刻な核汚染を招く」としている。

 また、静岡大の小山真人教授は「規制委の基準には、巨大噴火の発生する周期が原発立地をどう制限するかが定められていないなど、問題点が多く見直すべきだ。地裁は、決定の説得性を増すために火山学者の指摘を都合よく使っている」と語っている。

 自治体が策定する避難計画については規制委も審査対象にしておらず、公的機関の判断は今回が初となったが、決定は「一応の合理性、実効性を備えている」と結論づけた。人命がかかった避難計画に、“一応”がつくのは論外で、東京女子大の広瀬弘忠名誉教授(災害・リスク学)も「(地震と原発事故といった)複合災害への対応が不十分だ。福島事故の教訓を判断基準にすれば、全く違う結論になる」と指摘している。

(3)危機管理の常識は、最悪の事態に備えることである
 *1-5は、「川内の仮処分は専門的な知識を持つ人たちが十分に審議した過程を重視し、見過ごせない落ち度がない限り司法はあえて踏み込まないという考え方をとっているが、フクシマ原発事故は(狭い分野の)専門家に安全を委ねる中で起き、深刻な放射能漏れが起きて周辺住民の生活を直撃し収束のめどが立たない事態が続いているのであり、福井地裁判断に説得力がある」としており、これは本当だ。

 しかし、鹿児島地裁は「地震や火山活動等の自然現象も十分に解明されているものではない」としているが、これは、十分に解明されておらず予測不能であれば、最悪の事態に備えるという危機管理の常識に反している。

(4)原発は、事故時にメーカー責任がない
 *3-1では、「原発事故のリスクを考えるときに、リスクにさらされるのは原発が立地する地域社会で、この地域社会を、そこに住む『個人』という要素の単純合計と考えるのが要素還元論であり、科学界の主流がとる立場だ」としている。

 しかし、科学的にも、会計学的にも、原発事故で失われた土地で、原発事故がなければ将来に渡って生産できた筈の農林水産物や他の産業から生み出される価値は、機会費用として原発事故の損害に加算しなければならず、損害は個人の損失の単純合計ではない。そして、その総合損失と原発の価値を比較しなければならないのであり、*3-1で科学的とされている損害要素は、損害のうちのごく一部にすぎないため、この記事は誤りである。

 また、これらの損失について、交通事故であれば、事故の原因となった人が自動車保険を使って損害賠償するのであり、国が損害賠償することはない。また、自動車の方に欠陥があったのであれば、自動車会社が補償し、同機種の車をリコールして改善しなければならず、これを製造物責任と呼ぶ。

 しかし、*3-2に書かれているとおり、原子炉は製造物責任法の対象から除外されており、日立、東芝、三菱重工などの原子炉メーカーは原発事故の責任を問われない。もし、原子炉メーカーが今回の原発事故で製造物責任を負うことになっていれば、放射性物質の回収、除染、汚染水の処理等は、国ではなく原子炉メーカーの責任でやることになり、投資家に「さらなる原発ビジネスの拡大」などを説得することはできず、海外への原発輸出どころではなかった筈だ。そのため、まず普通の工業製品と同様、原賠法で原子炉メーカーに製造物責任を負わせるようにすべきである。

*1-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150423&ng=DGKKZO86032570T20C15A4CC1000 (日経新聞 2015.4.23) 川内原発を巡る決定要旨
 九州電力川内原発1、2号機の再稼働差し止めを認めなかった22日の鹿児島地裁の決定要旨は次の通り。
【新基準の合理性】
 原発の新規制基準は専門的な知見を持った原子力規制委員会が審議を重ねて定めた。東京電力福島第1原発事故の経験も考慮した最新の科学的知見に照らして不合理ではない。新基準では、基準地震動(耐震設計の目安となる揺れ)を過去の地震の平均像を用いて策定している。住民らはその点を問題視しているが、地域の地震の様式や規模、頻度といった特性を踏まえた上で、平均像を用いて基準地震動を検討することは相当だ。過去10年で日本の原発に想定を超える地震が発生したケースは5回あるが、新基準はそうした地震が起きた地域の特性を考慮できるようになっており、不合理だとはいえない。
【地震対策が十分か】
 九電は敷地周辺の地震や地質を詳細に調べた上で、自然現象の予測には避けられない「不確かさ」をかなり考慮に入れて基準地震動を決めている。川内原発が新基準に適合しているとの規制委の判断は妥当だ。九電は耐震設計などで安全上の余裕を確保するとともに、重大事故対策として、保安設備の追加配備などをしている。これらの取り組みで、地震が原因となる事故により放射性物質が放出されることをかなり防げる。住民らは、川内原発には「冷やす」と「閉じ込める」機能に重大な欠陥があると主張するが、事故の発生が避けられないとする証明はない。
【火山活動の影響】
 九電は新基準に従って調査した上で川内原発が受ける火山活動の影響を評価しており、火山学の知見からも一定程度裏付けられている。カルデラ火山の破局的な噴火の可能性が十分に小さいとはいえないと考える火山学者も一定数は存在するが、火山学会の多数を占めるとまではいえない。
【避難計画の実効性】
 避難計画は、原発からの距離で区分された地域によって避難行動が具体的に定められている。放射性物質の拡散状況に応じて避難先を調整する方策のほか、放射線防護資機材の備蓄や緊急時の放射線量の測定、安定ヨウ素剤の投与についても具体的に定めており、現時点での一応の合理性や実効性を備えている。

*1-2:http://qbiz.jp/article/60861/1/ (西日本新聞 2015年4月23日) 【川内原発仮処分】「絶対的安全」司法割れる 「重大事故の確率低い」
 川内原発(鹿児島県薩摩川内市)の再稼働を認めた22日の鹿児島地裁決定は、高浜原発(福井県)の再稼働を否定した14日の福井地裁決定とは、全く異質の司法判断となった。分岐点は「原発に絶対的な安全性を求めるべきかどうか」だった。福井地裁は「万が一にも事故が起こらない」ことを求めたのに対し、鹿児島地裁は「重大な事故が発生する確率はきわめて低い」として再稼働を容認した。一方で、初の司法判断となった火山の影響や避難計画の評価をめぐっては、早くも専門家から「事実誤認だ」と強い批判が出ている。「ぜひ最終ページを読んでほしい」。申立人弁護団の河合弘之弁護士は決定が出された後、鹿児島市での記者会見で強調した。決定文の結論にはこうあった。「さらに厳しい基準で原発の安全性を審査すべきだという考えも成り立ち得ないものではない」。福井地裁は新規制基準を「緩やかにすぎる」と真っ向から否定したが、鹿児島地裁の決定は、原発が安全かどうかについて「原発の重大事故の際は、放射性物質の放出が社会通念上無視できるほど小さいかどうか」で判断すべきだとし、新基準に適合した川内原発はそれを満たすと認定した。ただ、鹿児島地裁は結論で「絶対的安全性」を求めるのであれば、「社会的合意が形成された場合」とあえて明記もした。「再稼働を認めておきながらこんな言い訳を入れるのは、決定に自信がなかったのではないか」。全国の原発裁判に関わる海渡雄一弁護士はこう推察した。
   ◇    ◇
 周辺火山の噴火の影響をめぐる判断には、火山学者から強い批判が出ている。川内原発の新規制基準への適合性をめぐり決定は「原子力規制委員会が火山学の専門家の関与・協力を得ながら厳格かつ詳細に審査した」とした。これに対し、東京大火山噴火予知研究センターの中田節也教授は「学会の意見を聞いて再稼働が判断されたわけではなく、全くの事実誤認」と憤る。静岡大の小山真人教授は「規制委の基準には、巨大噴火の発生する周期が原発立地をどう制限するかが定められていないなど、問題点が多く見直すべきだ。地裁は、決定の説得性を増すために火山学者の指摘を都合よく使っている」と語る。さらに決定は「カルデラ火山の破局的噴火による住民への影響は甚大だが、それが原発によるものかどうかは不明」として申立人にさらなる説明を求めた。中田教授は「規制委にも破局的噴火が起こればみんな死ぬ、という乱暴な意見があるが、それは違う。原発の使用済み核燃料を放置していれば深刻な核汚染を招く」と批判した。
   ◇    ◇
 自治体が策定する避難計画については規制委も審査対象にしておらず、公的機関の判断は今回が初となった。決定は「一応の合理性、実効性を備えている」と結論づけた。東京女子大の広瀬弘忠名誉教授(災害・リスク学)は「(地震と原発事故といった)複合災害への対応などが不十分だ。福島事故の教訓を判断基準にすれば、全く違う結論になる」と指摘する。決定は「あらゆるトラブルの対処方法を詳細に策定すると、計画がきわめて膨大になる」と行政側に寛容な姿勢ものぞかせた。広瀬氏は「人命がかかった避難計画なのに軽視が甚だしい」と憤慨した。

*1-3:http://qbiz.jp/article/60998/1/
(西日本新聞 2015年4月24日) 阿蘇山で噴煙1300メートル
 24日午前9時55分、熊本県の阿蘇山の中岳第1火口で噴火があり、噴煙が1300メートルまで上がった。気象庁は火口から1キロ以遠でも小さな噴石が降るおそれがあるとして、注意を呼び掛けている。23日には上空1500メートルまでの噴煙を観測。阿蘇市や南阿蘇村では、やや多量の降灰が予測され、高森町などでも火山灰が積もる可能性がある。

*1-4:http://qbiz.jp/article/60937/1/
(西日本新聞 2015年4月24日) 桜島、今年の噴火400回 史上3番目のペース
 鹿児島地方気象台は23日、桜島の今年の爆発的噴火回数が400回を超えたと明らかにした。記録の残る1955年以降で3番目に早いペース。活発な状態が続いており、噴煙が高さ5千メートルに達し鹿児島市街地に大量降灰をもたらした2013年8月の爆発的噴火と同規模かそれ以上の噴火が起きる可能性があるとみて、大量降灰や噴石の飛散に警戒を呼び掛けている。気象台によると、桜島の昭和火口(標高800メートル)で23日午前0時42分、400回目の爆発的噴火を観測。その後も繰り返し発生し、同11時21分の404回目の爆発的噴火は噴煙が高さ3100メートルに達した。鹿児島市街地では断続的に降灰を観測した。桜島は1月から山体膨張が続き、3月27日には爆発的噴火の回数が、昭和火口が活動再開した2006年以降で1日当たり最多の31回に上った。

*1-5:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11719295.html
(朝日新聞社説 2015年4月23日) 川内の仮処分 専門知に委ねていいか
 きのう、九州電力川内原発1、2号機の再稼働をめぐって、運転差し止めの仮処分を求めた住民の申し立てを鹿児島地裁は退けた。14日には、福井地裁は関西電力高浜原発3、4号機の運転を差し止める仮処分を決めた。判断を分けたのは、規制基準を含む規制委の審査に対する見方である。福井地裁は、安全対策の柱となる「基準地震動」を超える地震が05年以降、四つの原発で5回起きた事実を重く見たうえで、規制基準について「これに適合しても原発の安全性は確保されない」と判断した。一方、鹿児島地裁は、地域的な特性を考慮して基準地震動を策定していることから「基準地震動超過地震の存在が規制基準の不合理性を直ちに基礎付けるものではない」とし、規制基準は「最新の科学的知見に照らしても、不合理な点は認められない」と結論づけた。鹿児島地裁の判断は、従来の最高裁判決を踏襲している。行政について、専門的な知識をもつ人たちが十分に審議した過程を重視し、見過ごせない落ち度がない限り、司法はあえて踏み込まない、という考え方だ。だが、福島での事故は、専門家に安全を委ねる中で起きた。ひとたび過酷事故が起きれば深刻な放射線漏れが起きて、周辺住民の生活を直撃し、収束のめどが立たない事態が続く。原発の運転は、二度と過酷事故を起こさないことが原点である。過去、基準地震動を超える地震が5回起きた事実は重い。「想定外」に備えるためにも、厳しい規制基準を構えるべきである。特に、原発の運転には、国民の理解が不可欠であることを考えれば、規制基準についても、国民の納得がいる。これらの点を踏まえれば、福井地裁判断に説得力がある。鹿児島地裁は「地震や火山活動等の自然現象も十分に解明されているものではない」「今後、原子炉施設について更に厳しい安全性を求めるという社会的合意が形成されたと認められる場合、そうした安全性のレベルを基に判断すべきことになる」とも述べている。世論調査では依然として原発再稼働に厳しい視線が注がれている。政府も電力会社も鹿児島地裁の決定を受けて「これでお墨付きを得た」と受けとめるべきではない。

*1-6:http://www.sankei.com/affairs/news/150419/afr1504190001-n1.html (産経新聞2015.4.19)「SPEEDI」削除決定へ 自治体反対押し切る 規制委、原子力災害対策指針改正
 原子力規制委員会が、原発事故の際に放射性物質の拡散を予測する「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム」(SPEEDI=スピーディ)の活用を明記していた原子力災害対策指針を今月中に改正し、SPEEDIの記述の削除を決めたことが18日、分かった。規制委には原発の立地自治体からSPEEDIを活用するよう意見書が寄せられていたが、それを押し切る形となり、自治体の反発が予想される。規制委によると、現行の指針は「SPEEDIのようなシミュレーションを活用した手法で、放射性物質の放出状況の推定を行う」と記載していたが、これらの文章を削除するという。代わりに、実際に測定された実測値を基準に避難を判断。重大事故が起きた場合、原発から半径5キロ圏は即時避難、5~30キロ圏は屋内退避後に、実測値に基づいて避難するとしている。東京電力福島第1原発事故では、政府中枢にSPEEDIの存在が知らされず、SPEEDI自体もデータがうまく収集できなかったため、初期避難に混乱を招いた。結果的に、原発周辺の住民の中には放射性物質が飛散した方向へ避難した人も多く、政府は強い批判を浴びた。このため、規制委は風向きなど天候次第で放射性物質が拡散する方向が変わり、予測が困難であることを重要視。昨年10月には、「SPEEDIで放射性物質の放出のタイミングやその影響の範囲が正確に予測されるとの前提に立って住民の避難を実施するとの考え方は危険」と判断した方針をまとめていた。しかし、新潟県は3月末、「実測値のみによる防護措置の判断では被(ひ)曝(ばく)が前提となるため、判断材料の一つとして予測的手法も活用し、早めに防護措置が実施できる仕組みとするように」と要望する意見書を規制委に提出。福島県も「安全で確実な避難をするためにはSPEEDIの予測精度を高めることも必要。使えるものは使っていくべきだ」と反発していた。規制委関係者は「自治体の反対意見は承知しているが、丁寧に理解を求めていきたい」と話している。

<フクシマの真実>
*2-1:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/180817
(佐賀新聞 2015年4月26日) 原発事故、起きれば佐賀でも悲劇  飯舘村の酪農家が講演
 福島第1原発事故による放射能汚染で離村を余儀なくされた福島県飯舘(いいだて)村の酪農家が25日、佐賀市で講演、被ばくの実態や残留放射能の現況を報告し、「玄海原発が一度でも事故を起こせば佐賀でも同じことが起きる」と警告した。講演したのは同県伊達市の仮設住宅で暮らす長谷川健一さん(61)。飯舘村は原発事故から1カ月遅れの2011年4月に計画的避難区域に指定された。長谷川さんは「速やかに避難指示が出された原発20キロ圏内より、30~45キロ圏内にある飯舘村の住民がはるかに多量の被ばくを強いられた」と訴えた。国が事故当時の放射能影響予測情報をなかなか開示せず、残留放射能の数値を低くするため、汚染土を除去した場所にモニタリングポストを設置するなど、隠ぺい体質が強いと指摘。「見せかけだけの除染。帰村を進めて賠償額を少なくしようとしている。被災地の回復状況をアピールすることで、原発再稼働の動きを加速しようとしている」と危機感を募らせた。講演は「原発なくそう!九州玄海訴訟」原告団・弁護団が主催し約100人が訪れた。

*2-2:http://mainichi.jp/select/news/20150423k0000m040086000c.html
(毎日新聞 2015年4月22日) 線量測定器:異常相次ぎ全77台運用中止 福島県
 福島県が設置した空間放射線量の簡易型測定器に異常が相次いだ問題で、県は22日、不具合が解消しないため、77台すべての運用を中止し、福島市の納入業者との契約を解除したと発表した。再設置する方針だが、時期は未定という。県によると、3月に設置し4月1日から試験運用を始めた77台。一部で測定値が通常値の約1000倍に上昇したり、測定データが伝送できなかったりする不具合が発生した。20日時点で33台が復旧していないという。3月30日に原子力規制庁から、13台が通信テストでデータ送信できないと県に連絡があったが、試験運用を開始した。県危機管理部の樵(きこり)隆男部長は記者会見で「連絡を受けた時点で異常に気づくべきだった。情報が内部で共有されず、不適切だった」と陳謝した。規制庁は福島県内に簡易型測定器3036台を設置しているが、東京電力福島第1原発事故の被災自治体の要望を受け、県が新たに77台を設置していた。

*2-3:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2015042401001662.html
(東京新聞 2015年4月24日) 北米沿岸に8百テラベクレル着へ 原発事故で海洋放出セシウム
 東京電力福島第1原発事故で海洋に放出された放射性セシウム137の約5%に当たる800テラベクレル(テラは1兆)が北米大陸の西海岸に到達するとの研究結果を福島大学環境放射能研究所の青山道夫教授がまとめ、24日までにウィーンの学会で発表した。約1年後にはほぼ全量がたどり着くという。日本の原子力規制委員会は、100テラベクレルを放出する大事故の発生確率を原子炉1基につき100万年に1回以下に抑える安全目標を決めているが、今回の数値はその8倍に相当する。

*2-4:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2015042501001598.html
(東京新聞 2015年4月25日) 小出氏「福島第1原発は石棺を」 元京都大助教
 原発の危うさに長年警鐘を鳴らしてきた元京都大原子炉実験所助教の小出裕章氏が25日、東京都内の日本外国特派員協会で記者会見した。事故発生から4年が経過した東京電力福島第1原発について「チェルノブイリのように石棺で(放射性物質を)封じ込めるしかない」と述べ、溶け落ちた核燃料の取り出しを目指す政府や東電の方針を否定した。小出氏は、第1原発の現状について「4年たっても現場に作業員が行けない事故は原発以外にない」と指摘。1~3号機では、溶け落ちた核燃料が原子炉格納容器内に散らばっているとみられることから「機器を使って取り出せる燃料の量は高が知れている」と話した。

<事故時の責任の所在>
*3-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150423&ng=DGKKZO86023170S5A420C1EN2000 (日経新聞 2015.4.23) 原発とホーリズム
 4月14日、福井地裁が関西電力高浜原子力発電所3、4号機の再稼働を差し止める仮処分を出した。原子力規制委員会は事故リスクは小さいとし、裁判所は大きいという。事実誤認はあるかもしれないが、ことの本質はそこにはない。リスクの確率計算で仮に規制委と合意したとしても、裁判所の判断は変わらないのではないか。規制委と裁判所の判断の違いは、科学を巡る議論で繰り返される「要素還元論」と「全体論(ホーリズム)」との対立の新バージョンだからだ。原発事故のリスクを考えるときに、リスクにさらされるのは原発が立地する地域社会だ。この地域社会を、そこに住む「個人」という要素の単純合計と考えるのが要素還元論だ。科学界の主流がとる立場である。一方のホーリズムは、要素(個人)が集まってできた全体(地域社会)は要素の合計を超えた価値(例えば文化や歴史)を持つとみる。非科学的とされがちだが、我々は社会についての意思決定に際しホーリズム的判断をすることが多い。交通事故で個人が死ぬのは取り返しのつかない悲劇だが、原発事故で地域社会が丸ごと居住不能になることは、なにかしら個人の死を超えた、もっと大きな損失だと感じる人も多いだろう。このホーリズム的感性からは、確率は小さくても原発事故の損害を巨大なものと見積もる判断が出てくる。原発事故で東京が壊滅するシミュレーション小説「東京ブラックアウト」では日本の国柄や国際社会での地位まで劣化していく様子が描かれるが、そこで失われるものは個人の損失の単純合計を超えたものだ。もっと極端な例を考えると論点がはっきりする。夢の新技術が実用化され、それを使えば電気代は永久にタダだが、10万年に1回の確率で地球が消滅するリスクを生むとする。そのような技術を使うべきだろうか。要素還元主義で判断すれば事故の確率は小さいから使うべきだとなる。だが事故=人類絶滅なら確率がいくら小さくても躊躇(ちゅうちょ)する人は多いのではないか。人類存続は個人の生死の合計を超えた価値を持つと我々は感じるからだ。結局、政治的な意思決定を要素還元論で考えるべきかホーリズムで考えるべきかという対立に、我々は直面しているのである。

*3-2:http://blogos.com/article/62029/
(BLOGOS 2013年5月10日 ) 原発輸出が許されてしまう理由
 安倍首相がトルコやアラブ首長国連邦(UAE)を訪れ原子力協定を結び、原発輸出を約束してきた。一方、福島第一原発事故の現場では、たまり続ける汚染水に悩まされるなど綱渡りの状態が続く。
海外では「原発は安全」と原発を売り込むが、国内では収束とは程遠い原発事故の脅威に市民がさらされ続けているわけだ。なぜ、こんなことが許されるのか。その大きな理由の一つは、日立、東芝、三菱重工などの原子炉メーカーは原発事故の責任を問われないという強固な仕組みがあるからだ。
●法律で守られる原子炉メーカー
 原子炉は、製造物責任法(PL法)の対象から除外されているのをご存じだろうか。「原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)」の第4条3項には「原子炉の運転等により生じた原子力損害については、(中略)製造物責任法の規定は、適用しない」と明言されている。製造物責任があれば、原発ビジネスは成り立たない?インドは、2010年に、事故の際に原子炉メーカーの責任を問える法律をつくっている。この法律について2月21日、原子炉メーカーであるGEインドの元CEOが以下のように述べている。「GEは(原子炉メーカーが事故責任を問われる)法律がある間は、インドで原発ビジネスを追求しないだろう。我々は民間企業で、そのようなリスクはとれない」(『Forbes India』誌)。どんなメーカーでも、製造物が引き起こすかもしれない事故の責任を問われるとなれば、事故を防止しようとするインセンティブが生まれる。また、起こりうる事故がメーカーでは責任の取りきれないものであれば、企業の存続リスクを考えてそのビジネスから撤退するだろう。
メーカーに責任を問うのは、社会がこのような自浄作用を期待するからだ。
●さらに儲けようとする原子炉メーカー
 一方で、つくった原子炉が大事故を起こしたにもかかわらず、日立は今後8年で原発ビジネスの売上高を2倍の3600億円に、東芝は今後5年で1兆円の売上達成をめざすと公式に発表している(注1)。原発輸出、福島第一原発での汚染水処理、燃料取出し技術の開発などを売り上げ拡大チャンスと期待しているわけだ。この事業計画をみてもわかるように、原子炉メーカーの責任意識は皆無で、自浄作用はまったく存在していない。だからこそ「原発は安全」などということが言えてしまう。「原発はメーカーにとって安全なビジネス」ということだろうか。
●もし日立や東芝が原発事故の賠償を引き受けていたら
 もし、東電だけではなく原子炉メーカーが今回の原発事故で責任を負うことになっていれば、除染や汚染水処理などは国ではなく原子炉メーカーの責任でやるべきものとなっていただろう。
そうであれば、今ごろ海外への原発輸出どころではなかったはずだ。少なくとも「原発ビジネスの拡大」など投資家には説明できなかっただろう。事故や、無謀な原発輸出を防ぐためにも、まずは普通の工業製品と同様に、原賠法で原子炉メーカーに責任を問えるようにすべきだ。責任が問われないビジネスほど、おいしい話はない。


PS(2015年4月27、28日追加):*4-1、*4-2の経産省の見積もりは原発再稼働ありきで作っているため、信用できない。また、太陽光発電は、「一定の角度をつけて設置しなければならない」などの変な規制があり、建材としての技術進歩を阻んでいる。そのため、このような状況でのコスト見積もりは無意味であり、技術進歩しやすくした上で、すべてのコストを含む実績によるコスト比較をすべきだ。

    
*4-1より      *4-2より                建物に設置する太陽光発電各種 
*4-1:http://digital.asahi.com/articles/ASH4W5Q55H4WULFA01W.html
(朝日新聞 2015年4月27日) 2030年の発電コスト「原発が最安」 経産省試算
 電源別の発電コストを見直している経済産業省は27日、新しい試算結果を公表した。原発は2030年時点で1キロワット時あたり10・1円以上で、下限で比べると、電源別で最も安くなった。11年の前回試算の8・9円以上は上回ったが、再生可能エネルギーや火力などの費用も上がったためだ。この日あった同省の「発電コスト検証ワーキンググループ(WG)」で示し、大筋で了承された。同省は30年の電源構成(エネルギーミックス)案に反映し、28日の有識者会合で原発の割合を20~22%とする案を示す見通しだ。原発の発電コスト試算では、前回試算と同じように原発事故後の損害賠償や、立地自治体への交付金などの費用を計上。11年に比べ、原発の安全対策費が増加したことも反映した。ただ、対策を強化した分、事故が起きる確率は半減したとみて、その分だけコストを低く見積もった。再生可能エネルギーは、前回試算で30年には下限のコストで原発を下回っていた「陸上風力」や「洋上風力」が、今回はともに原発を上回った。再生エネの国の研究開発費などを費用に含めたためだ。

*4-2:http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/news/CK2015042802000127.html (東京新聞 2015年4月28日) 発電費用 欧米を下回る 原発が最安 10・1円
 経済産業省は二十七日、原子力発電にかかる費用を二〇三〇年時点で一キロワット時当たり最低一〇・一円とする試算を大筋で固めた。一一年十二月に試算した八・九円に、追加の安全対策費を上積みするなどし13%の上昇となったが、一キロワット時当たり十六円台の欧米の試算を大きく下回った。再生可能エネルギーや火力の発電費用も引き上げたことで、相対的には原発が最も安いという試算になった。試算はこの日の有識者会合「発電コスト検証ワーキンググループ」に示され、おおむね了承された。経産省は今回の試算を三〇年時点の電源構成を決定する際の根拠にする方針。二十八日には、三〇年に必要な電力の20%程度を原発でまかなう発電比率の案を公表する。原発に関しては、廃炉に必要な費用の見積もりが一一年の試算に比べ増加。また実現のめどが立たない使用済み核燃料の再利用計画に必要な費用も増えた。一方、追加の安全対策をとったため事故が起きる確率が減ると想定。東京電力福島第一原発と同じような重大事故に備えた費用の積み立てを〇・二円減らした。英国政府は新しい原発をつくる場合の発電費用について一六・一円(一ポンド=一八〇円換算)、米国の民間調査会社は一六・七円(一ドル=一一九円換算)と試算している。東日本大震災後、原発建設にはさまざまな安全対策が必要になり建設費が跳ね上がることが要因。これに対し日本の経産省の試算は、中部電力浜岡原発5号機など、震災前につくられた原発と同じ条件で建設するという想定のため、建設費は安く算出された。

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2015.4.25 ドローンについて
   
 *2-1より      アマゾンの運搬用         自動空撮用         無人攻撃機 

(1)やはり「普通の人」「反原発」「テロ」を結びつけた
 *1-2のように、NHKは、総理大臣官邸の屋上で小型無人機「ドローン」が見つかった事件の犯人を、「反原発」「テロ」「普通の人」というように、「脱原発の声を上げている人は、一見普通の人に見えても、テロを起こしかねない危険な人物である」と印象付け、脱原発の声を抑えるようなニュースにした。

 しかし、福井県の高浜原発は既に再稼働差止の仮処分が出ているため、反原発派よりも原発再稼働推進派の方が暴れたい動機を持っているというのが本当のところだ。電力会社には、「書き子」をはじめいろいろな係の人がいるとのことで、「取り付けられた容器に放射性物質が含まれていた」「容器に福島の砂を入れた」「配線の高い技術を持っていた」というのであれば、むしろ電力会社の関係者の方が犯人の可能性が高い。

 なお、*1-1のように、東京スポーツも、2015年4月24日に「官邸飛来ドローン」「反原発のメッセージ」「反原発に反対する人の仕業」「テロの恐怖」と結びつけ、ドローンは「焼殺火炎ガス爆弾”になる」などとも書いているが、公安関係者が言っているように、「現在も定期的に官邸前では反原発デモが行われており、反原発に反対する人が、デモを禁止させる方向に持っていくために演出した」というのは重要な線だと、私は考えている。

(2)ドローンの本当のリスク
 しかし、*1-2のように、そもそも小型無人飛行機「ドローン」に対して、日本人は呑気すぎたし、危険があるのは何も首相官邸や永田町だけではない。それこそ、脱原発を主張している人の家に放射性物質を撒くことも簡単にできるため、ドローンは、テロだけではなく、嫌がらせ、ストーカー、殺人にも利用できるのである。

 また、無人飛行機ドローンは、ビンラディン暗殺作戦などでは無人攻撃機として使われ、最近ではイスラム過激派組織『イスラム国』の幹部を狙う“殺人ロボット飛行兵器”として使われ、誰にでも作れるヒート弾を使って特定の階の特定の部屋を狙って人を殺傷することもでき、外から中にいる人を無人で焼死させられるそうだ。さらに、意図的でなくても、人の上に墜落すれば、人を殺傷することになる。

(3)どういう法規制が必要か
 そのため、*2-1のように、ドローンを規制するのは産業の芽を摘む懸念が大きく、ディメリットがあるという記事もあるが、規制がなければ、市民も危なくて仕方がないことは明らかである。

 なお、集団的自衛権等と言っている日本政府のリスク管理は、首相官邸でさえ、このように赤子の手をひねる程度のものであることを忘れてはならない。これは、対策としてドローンの所持を免許制や登録制にしただけではすまず、ドローンを飛ばしてよい場所も、自分の敷地や落ちても他者に迷惑をかけない場所、他人の家を撮影できない特定の場所の上空など、狭く限定しなければならないということである。

 *2-2のように、菅官房長官は、運用ルールや法規制を見直すために、国交省、警察庁、経産省などによる関係省庁連絡会議を近く開催し、小型無人機「ドローン」の今国会中の法規制を検討する考えを明らかにし、与党からは法規制の早期実現や重要施設の警備強化など迅速な対応を求める意見が相次いだそうだ。しかし、重要施設の上空だけはでなく、一般市民が往来している道路や個人の住宅近くでのドローンの飛行は禁止してもらいたい。
  
<ドローンで起こりうるリスク>
*1-1:http://www.tokyo-sports.co.jp/nonsec/social/392847/
(東京スポーツ 2015年4月24日) 官邸飛来ドローン「犯人像」と「テロの恐怖」
 ドローンが“焼殺火炎ガス爆弾”になる!! 東京都千代田区永田町の首相官邸の屋上で、小型無人飛行機「ドローン」が見つかった問題は、日本政府のテロ対策に大きな衝撃を与えた。ドローンからは放射性セシウムが検出されており、関係者らは「反原発のメッセージか」「いや反原発に反対する人物の仕業じゃないか」などと不気味な“犯人”に戦々恐々。専門家は、ある兵器を取り付けるだけで「建造物や戦車の中の人も焼き殺すことができる。テロに利用できてしまう」と訴える。「いつ落ちてきたか不明」という体たらくの警視庁は捜査本部を設置し捜査を始めた。官邸屋上でドローンが見つかったのは22日午前10時20分ごろ。直径約50センチでプロペラは4枚。小型カメラやペットボトルのような容器が取り付けられ、容器には放射線を示すマークのシールと「RADIOACTIVE(放射性)」と書かれたシールが貼られていた。機体からはセシウム134と137が検出された。警視庁麹町署捜査本部は、東京電力福島第1原発事故で放出されたセシウムが含まれている可能性もあるとみている。安倍晋三首相(60)は外遊中で被害はないものの、放射性物質が検出されたことから、何らかの思想的背景を持った人物による犯行の可能性が高い。公安関係者は「国際テロでドローンが使われる可能性は考えていましたが、まさか日本で、しかも官邸でこういうことがあるとは思いませんでした」と口をあんぐり。
「ドローンは45年前、イスラエルで開発され、1990年代のボスニア戦争で使われた。2000年代に米国に渡り、アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディン暗殺作戦などで重要な役割を果たした無人攻撃飛行機として知られています。最近ではイスラム過激派組織『イスラム国』の幹部を狙う“殺人ロボット飛行兵器”というイメージが定着してきている」(軍事アナリスト)。どんな犯人像が考えられるのか。政府関係者は「墜落というより意図した着地ではないか。犯行声明がないことから、組織的な過激派の犯行ではない。また、放射線を示すマークがあるということは原発がらみの主張があるのでしょう」。安倍政権は原発推進なので、反原発思想があるようにみえる。「それだと安直な印象も受ける。現在も定期的に官邸前では反原発デモが行われています。反原発に反対する人が、デモを禁止させる方向に持っていくために演出した線も捨てきれません」(前出の公安関係者)。確かに当局の意識が反原発勢力に傾けば、官邸前のデモを規制しようと考えるかもしれない。軍事評論家の神浦元彰氏(65)は、さらに恐ろしいドローンテロの可能性をこう指摘する。「今回使われたドローンならば重さ2キロのものなら運べます。その条件に合う兵器がヒート弾です。特徴は爆発すると線のように1方向に向かって高熱高圧のガスが飛んでいくというもの。戦車の上部で爆発させれば中の人間を焼き殺すことができます」。仮に官邸の屋上でヒート弾が使われれば下の階の人間は死んでしまう。「屋上だけではありません。ドローンを窓に近づけ、ヒート弾を爆発させれば、特定の階の特定の部屋を狙えます。ヒート弾は古い技術なので、今なら誰でも作れてしまいます」(同)。官邸の外から中にいる者を焼死させられるということは、安倍首相の部屋を狙って…なんてことも不可能ではなくなってしまうのだ。しかもドローンは店で売っているため入手は簡単。今後は早期規制せねばならない。「現在は規制がないので、ドローンが官邸に侵入することは赤子の手をひねるようなものです。やる側から見れば日本という国は裸で歩いているといえるほど無防備。対策としてはドローン所持を免許制や登録制にすること。飛ばしていい場所の規制も必要で、皇居、国会、官邸などの上空は飛行禁止にするべきです」と神浦氏は語る。一方、青森中央学院大学の大泉光一教授(国際テロ研究)は「今年1月に米・ホワイトハウスにドローンが墜落した事例や、フランスでは昨年から各地の原発へのドローンの接近・侵入が相次いでいたのだから、対岸の火事ではなくて早急に航空法を整備すべきだった」と指摘する。前出の公安関係者も「2020年には東京五輪もあります。法規制は避けられないでしょう」と指摘。テロが起きてからでは遅い。

*1-2:http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150425/k10010060661000.html
(NHK 2015年4月25日) ドローン事件「反原発訴えるためにやった」
 今月22日、総理大臣官邸の屋上で小型の無人機の「ドローン」が見つかった事件で、24日夜、福井県の警察署に出頭した40歳の無職の男が威力業務妨害の疑いで逮捕されました。男は「今月9日の午前3時半頃にドローンを飛ばした。反原発を訴えるためにやった」と話しているということで、警視庁は身柄を東京に移し、詳しいいきさつなどを調べる方針です。逮捕されたのは、福井県小浜市の無職、山本泰雄容疑者(40)です。この事件は、今月22日、東京・千代田区の総理大臣官邸の屋上で、小型の無人機の「ドローン」が見つかったもので、警視庁は、取り付けられた容器の中に放射性物質が含まれていたことなどから、何者かが意図的にドローンを飛ばしたとみて捜査していました。その結果、24日夜8時すぎ、福井県の小浜警察署に山本容疑者が出頭し、「反原発を訴えるために官邸にドローンを飛ばした。容器には福島の砂を入れた」などと話し、砂やドローンのコントローラーの様な物を持っていたことなどから捜査を進めた結果、官邸に対する威力業務妨害の疑いで逮捕しました。警視庁によりますと、容疑を認めているということです。山本容疑者は、自分が書いたブログに、今月9日の午前3時半頃にドローンを飛ばしたなどとする詳しいいきさつや、事件に使われたとみられるドローンや容器などの画像を掲載しており、調べに対しても、同じ時間にドローンを飛ばしたことを認めているということです。警視庁はブログの内容を詳しく分析するとともに、山本容疑者を東京に移して本格的に取り調べ、事件の詳しいいきさつや動機を調べる方針です。 .「おとなしい人という印象」山本容疑者の自宅の近くに住む人などによりますと、山本容疑者は以前、福井県小浜市内の別の地区から引っ越してきて、現在は家族と暮らしているということです。近所の男性は「おとなしい人という印象で、会ったときにはあいさつもしてくれた。事件のことを聞いてまさかと思い、びっくりしています」と話していました

<規制について>
*2-1:http://qbiz.jp/article/61047/1/
(西日本新聞 2015年4月25日) ドローン規制、痛しかゆし 産業の芽摘まれる懸念
 首相官邸で発見された小型無人機「ドローン」の飛来は計画的だった疑いが強く、警視庁が捜査を進める一方、関係省庁も24日、無法状態のドローン対策に乗り出した。国家中枢の警護の死角を突いた“犯行”に政府の危機感は強く、規制の網をかけたい意向だが、発展途上のドローンは幅広い分野での活用も期待され、対策には多くの課題がある。
■怒号
 「いつ落ちたかも分からないとはどういうことだ」「官邸が無防備だと世界に発信された」。自民党本部で24日、開かれた会議。事件の説明に訪れた警察庁の担当者に議員の怒号が飛んだ。警視庁は日常的に官邸や国会議事堂が集中する一帯を重点的に警備。特に官邸周辺は24時間態勢で機動隊を配置、内部は官邸警備隊が警戒していたが、ドローンが見つかった屋上は巡回の対象外だった。事件後、警備はさらに強化されたが、実際に飛来するドローンを見つけた場合にどう対処するか。墜落させるにしても、危険物を搭載していれば被害が出る事態も考えられ、難しい判断を迫られることになる。来年にサミット、2020年に東京五輪を控え、警視庁幹部は「課題を解決する時間があるうちに起きて良かったと思うしかない」とこぼす。各省庁では、施設の屋上にレーダーや妨害電波の発信装置を設置するといった対策が検討され始めた。ただ、無線でインターネットに接続するWiFi(ワイファイ)に障害が起きる恐れがあり、不審な飛来物を発見した場合のみ、電波を出す方法が考えられている。
■急務
 国土交通省は昨年12月、ドローンのルール作りに向けた検討会を立ち上げ、今月6日に初会合を開いたばかりだった。操縦技量を確保するための免許制や、機体の整備・点検のルール化、事故に備えた保険加入の義務付けなどを議論している。だが、ドローンは数千円の玩具のようなタイプから、プロが空撮に使う大型の機種まで、性能や価格はさまざまだ。規制の線引きが難しく「購入者の登録を義務付けても、ネットで海外から買えばすり抜けられる恐れもある。重要施設周辺を飛べないようソフトを設定しても、詳しい人間なら解除してしまう」(同省幹部)。免許を導入するための体制づくりも困難が予想される。主に航空機の安全確保などを目的とした航空法の対象にドローンを加えることに、国交省内には否定的な意見もある。「ラジコンカーが官邸に突っ込んだら道交法を改正するのか。重要施設の警備態勢の見直しこそ急務だ」(別の幹部)。
■啓発
 「政府が飛行ロボットの産業を創出しようという中、規制したら元も子もなくなる面がある」。無人機に詳しい千葉大の野波健蔵特別教授は規制に一定の理解を示しつつも、将来性のある産業の芽が摘まれることを懸念する。用途として農業や物流などでの活用が見込まれている。規制の動きとは別に、民間レベルで安全啓発の取り組みも始まっている。4月に発足したばかりの日本ドローン協会(福岡市)は11日、佐賀県基山町で操縦を体験できるイベントを開催。子どもや高齢者を含め約350人が集まり、関心の高さをうかがわせた。主催者は「地方の自治体と提携し、自由に飛ばせる場所作りにも取り組みたい」としている。
◆官邸ドローン、GPS搭載
 東京都千代田区の首相官邸屋上で見つかった小型無人機「ドローン」は、衛星利用測位システム(GPS)が標準搭載されている機種だったことが24日、捜査関係者らへの取材で分かった。GPSが機能して移動記録が残っていれば、飛行ルート解明の重要な手掛かりになる。また、警視庁麹町署捜査本部によると、4月15日に首相官邸の屋上方面を撮影した写真に黒い物体が写っていたことも判明。捜査本部は、機体の鑑定を進めるとともに、シリアルナンバー(識別番号)も調べ、飛行の時期などの特定を急ぐ。このドローンは中国メーカー「DJI」が製造した「ファントム2」とみられる。DJIによると、安定してホバリングさせるため、GPSを搭載している。手動で入れたり切ったりできるが、切ると機体が非常に不安定になるという。シリアルナンバーは機体下部にある。捜査関係者によると、機体に装着されていた小型デジタルカメラは縦5センチ、横6センチで、外付けの「映像伝送装置」に接続されていた。撮影した映像を操縦者の手元のモニターに送信できるようになっていた。
 DJI日本法人はドローンの仕様を更新し、官邸と皇居周辺を飛行できなくすると告知している。
◆新型続々、市場が急成長
 首相官邸屋上で小型無人機「ドローン」が見つかり、日本で法規制への議論が急ピッチで進む一方、「本場」米国では新型の商用ドローンが次々と登場している。米家電協会(CEA)によると、商用ドローンの世界市場は2020年までに10億ドル(約1195億円)と現在の約12倍に拡大する見通しだ。21年に48億ドル規模に達するとの予測もある。米政府はテロ対策などで軍用ドローンを積極的に活用する一方、商用ドローン規制は強化する方針。だが、膨らむ世界市場をにらみ、各メーカーの売り込み合戦は激化しそうだ。「世界最先端の撮影が体験できる」。4月8日、ニューヨークの中心部マンハッタンで開かれた発表会。愛好家約150人の熱気であふれた会場で、業界最大手、中国DJIの幹部が官邸で見つかったものと同型の「ファントム」の最新型を紹介した。高画質の4Kカメラを搭載し、撮影中の動画をユーチューブに投稿して中継できる。衛星利用測位システム(GPS)やセンサーを利用して安定飛行が可能だ。空港や国立公園の一部、米国や中国の首都上空を自主的に飛行禁止区域に設定し、上空を飛べないプログラムも組み込み、規制を先取りする。米ベンチャーの3Dロボティクスは4月13日に新モデルを発表。スマートフォンと連動し操縦者を追跡して撮影する「自撮り」が可能で、地図上で指定した通りに飛行し、全自動で撮影することもできる。高性能ドローンは価格も約千ドルからと安くないが、スマホで手軽に操縦や空撮が楽しめることで、人気に火が付いた。

*2-2:http://qbiz.jp/article/60952/1/
(西日本新聞 2015年4月24日) ドローン、今国会中の法規制検討 官房長官が表明
 菅義偉官房長官は23日午前の記者会見で、首相官邸の屋上で小型無人機「ドローン」が見つかった事件を踏まえ、今国会中の法規制を検討する考えを示した。運用ルールや法規制を見直すため国土交通省、警察庁、経済産業省などによる関係省庁連絡会議を近く開催する方針も明らかにした。与党からは法規制の早期実現や重要施設の警備強化など迅速な対応を求める意見が相次いだ。菅氏は会見で、ドローンの法規制に関し「できるところがあれば早急に取り組んだ方がいい」と述べた。政府は官邸を含む重要施設上空の無人機飛行を制限する法規制を検討する方針だ。
   ◇   ◇
●欧米 日本より規制厳しく
 小型無人機の利用をめぐっては各国とも安全上の理由から法規制を強める傾向にある。米国や英国、フランスでは、空港周辺の使用には許可が必要。空港周辺でなくても目で見える範囲以外での使用を禁止したり、制限したりするなど、日本より厳しい規制を導入している。米連邦航空局(FAA)は趣味で利用する場合は高さ約122メートル以下に飛行を制限。商用利用は高さ約152メートル以下にする方向で検討している。空港周辺では管制機関の承認が必要だ。米首都ワシントンでは1月、政府職員が娯楽目的で飛ばしていた小型無人機が制御できなくなり、誤ってホワイトハウスの敷地内に墜落したことも。米メディアによると、この機体の製造会社は飛行禁止空域に入ることができなくなるプログラムの導入を発表した。フランスの航空当局は、空港周辺でなくても目視で確認できない場合は高さ約50メートル未満に利用を限定。小型無人機にも他の航空機と同様の規定を適用している。今年2月にはフランスの捜査当局がパリ上空に小型無人機を無許可で飛行させたとして、中東の衛星テレビ、アルジャジーラの記者ら3人を拘束した。昨年10月には、フランス9カ所の原発上空で無人機の飛行が目撃された。背景は分かっていないが、現地報道によると、原発の半径5キロ以内の飛行は禁止されており違反した場合は禁錮1年と7万5千ユーロ(約960万円)の罰金が科される。英当局は空港周辺以外でも目視の範囲を超える場合の使用を禁止し、目で見える範囲でも約122メートルより高い場所での利用を禁じている。

| 原発::2015.4~10 | 04:16 PM | comments (x) | trackback (x) |
2015.4.17 福井地裁の樋口裁判長は、権力におもねることなく、高浜原発再稼働を認めない仮処分を決定した。 (2015年4月18日、20日、22、23日に追加あり)
     
  福井地裁での   同規制委の主張   今後のスケジュール     他の審査中の原発
住民と関電の主張  2015.4.16日経    2015.4.15毎日      2015.4.15西日本 

(1)福井地裁の高浜原発再稼働を認めない仮処分判決は完璧である
 *1-1のように、福井地裁が高浜原発再稼働差止めの仮処分判決を出し、「新規制基準は緩やかにすぎ、これに適合しても本件原発の安全性は確保されていない」としたのは的を得ている。しかし、上級審に上がるにつれ行政や政権の影響が強くなるため、気を抜くのはまだ早い。政府は安全が確認された原発の再稼働を進める方針に変更はないとし、福井地裁が原発を理解していないなどとしているのだ。

 しかし、*1-1の高浜原発3、4号機運転差止仮処分命令の内容は完璧で、主文で「高浜原発3、4号機を運転してはならない」と結論づけ、その理由を「A①万が一にも事故を起こしてはならないため、原発の基準地震動を地震の平均で策定するのは不合理(つまり最大に見積もって策定すべき)」「A②原発の耐震安全性確保の基礎となる基準地震動の数値だけを引き上げるような対応は社会的に許容できず、安全設計思想とも相容れない」「A③各地の原発敷地に5回にわたり到来した基準地震動を超える地震が高浜原発には到来しないというのは根拠に乏しい」「A④基準地震動に満たない地震によっても冷却機能喪失による重大な事故が生じ得る」「B使用済核燃料は我が国の存続に関わるほどの被害を及ぼす可能性があるのに、格納容器のような堅固な施設によって閉じ込められておらず、堅固な設備を設けるためには膨大な費用を要する」「C国民の安全が何よりも優先されるべきとの見識に立つのではなく、深刻な事故はめったに起きないという楽観的な見通しの下にかような対応が成り立っている」「D新規制基準に求められるべき合理性は、原発の設備が基準に適合すれば深刻な災害を引き起こす恐れが万が一にもないといえる厳格な内容を備えていることであるのに、新規制基準は緩やかすぎ、これに適合しても本件原発の安全性は確保されていない」としており、私も全くそのとおりだと思う。

 そして、川内原発・玄海原発を地元に持つ西日本新聞も、*1-2で、「司法が反省なき原発政策を指弾して原発政策の根本的な見直しを迫った」「関電の地震動の想定は信頼に値する根拠が見いだせない」「使用済核燃料保管施設の在り方にまで踏み込んだため、高浜原発だけでなく他の原発にも当てはまる」「決定は原発事故が『取り返しがつかない損害』をもたらす恐れがあると厳しく指弾」「新規制基準が再び『安全神話』の土壌となってはならないと警告した」としており、最近ふらふらしていた西日本新聞にしてはよくできた記事である。

 また、*2-1、*2-2、*2-3、*2-4のような報道もある。

(2)福井地裁判決に対する再稼働推進派の評価とその論理
 *3-1は、高浜原発再稼働差し止めのポイントは安全思想の違いで、「福井地裁の判断は根本的な耐震工事などでリスクを事実上ゼロにすることを求めており、リスクを抑制すればよいのかゼロにしなければならないかの考え方の違い」「東京電力福島第1原発事故の反省を踏まえて刷新した原発への規制とは相いれない」「この判断に基づけば、国内の原発はどこも動かない」としている。そして、またもや「原発の再稼働が滞れば電気料金の上昇などを通じて経済への打撃が広がりかねない」と念仏のように同じことを言っている(こう書くと、「念仏は意味のあるものだ」と寺からクレームが来るかも知れないが・・)。

 しかし、規制委の田中委員長も「100%の安全はない」と述べているのであって、「絶対安全を求める樋口裁判長の論理では、事故を起こしかねない車や飛行機も使えない」などと言う人もいるが、原発が過酷事故を起こせば広い地域で長期間住めなくなり、自動車事故や航空機事故とは影響を受ける規模と期間が全く異なるため、原発は万が一にも過酷事故を起こしてはならないのである。さらに、自動車や航空機は事故の実験を繰り返して事故時の危険を小さくする機器を作っているが、原発はコンピューター上でのシミュレーションしかしておらず、配線や配管の弱さも考慮していないため、危機管理に驚くほど無頓着で、それに比べれば短期的に電気料金が上がるリスクなど取るに足りないのだ。

 そのような中、*3-2のように、経産省は、また事故の発生確率を「40年に1回」から半分の「80年に1回」として発電コストを検証し直したそうだが、このように鉛筆を嘗め嘗め目分量で机上の計算をすればよいと考えている人は、全く科学的ではなく原発の監督には適さない。また、*3-3 のように、地球温暖化問題と電気料金を口実にして、菅官房長官はここでも「粛々と」再稼働を進める方針だそうだが、思考停止も甚だしい。

 この福井地裁判決の素晴らしい点は、九州大学の吉岡教授が述べているとおり、原発事故の損害は他と比べて格段に大きいため危険性を0にできなければ再稼働すべきではなく、判決でそれを明確に述べていることである。北海道大学の奈良林教授は「『フクイチ原発事故の原因は津波だ』と原子力規制委員会が報告した」としているが、実際には地震での破壊も否定できず、原因不明とされている上、緊急時用の補助設備だけで、どれだけの期間冷却し続けられるかについても予測が楽観的すぎるのだ。

 しかし、*3-4のように、「原発再稼働できなければ電気料金を値上げする」と大手電力会社が言えるのは、これまで電力会社が地域独占して総括原価方式で電力料金を決めてきたからである。そのため、完全な電力自由化と電力消費者の選択権が必要なのだ。
  
 *3-4で、経済同友会の長谷川代表幹事は、「福井地裁の決定は最終判断ではない」「エネルギーの問題は国の経済の根幹に関わる」「こういうテーマが裁判所の判断にふさわしいかどうか疑問だ」としているが、これが日本の経済界代表がトップランナー国のリーダーに向かない理由である。

(3)鹿児島県知事の「争点回避」発言と国民
 *4-1のように、鹿児島県の伊藤知事は、鹿児島県自民党県議団の内情をつぶさに収集して、反対を抑えるには手続きを急ぐしかないと判断したのだそうだ。そして、「昨年11月に表明した川内原発再稼働への同意は、県議選で原発問題が争点化されることを避ける狙いがあり、わが国全体の経済活動などを考えれば全員が反対したとしても(原発を)やめるというわけにはいかない」「行政としてどうすれば国民の幸せにつながるか、総合的な判断が必要だ」としている。

 しかし、「国民全員が反対したとしても自分の選択の方が正しい」と考えるのは、(どういう根拠でそう思うのか定かではないが)行政官の時代遅れのうぬぼれだと考える。何故なら、現在の日本は、明治時代や終戦直後と異なり、諸外国の技術を後追いで追い駆けるのではなく、自ら新しい技術を開発しなければならない立場であり、正しく情報開示をしていれば、技術者や専門家の方が行政官よりも優れた解決策を考えることができるからだ。

 なお、*4-2に、フクシマ原発事故で放射線量が局所的に高い「ホットスポット」となった特定避難勧奨地点(避難指示区域外で年間被曝線量が20mSVを超える場所)の指定を解除したのは不当として、福島県南相馬市の住民約530人が、国に解除の取り消しと1人10万円の損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こしたと書かれており、もっともだ。何故なら、年間被曝線量が20mSVを超える場所というのは、原発作業員でも注意しながら入る場所であり、一般人が住むべき場所ではないからだ。

(4)国民や有識者の意見
 *5-1に書かれているように、災害リスクを専門とする学者と民間調査会社が、原発・エネルギーに関する世論調査を実施したところ、再稼働に対して反対が70.8%、賛成が27.9%という結果で、マスコミ調査よりも高い反対の数値が出たそうだ。避難計画については、9割近くの人が評価していないそうだが、①どういう方法で ②どの範囲の人が ③どこへ ④いつまで避難しておくのか が明確にされないままでは安心する人の方がおかしい。そして、②は「半径30~80km又は250km以内の人が」、①③は「本当はわからない」、④は「大部分の人が永久に」と言う答えになるため、一般国民の理解の方が正しいのである。そのため、段階的に縮小などという悠長なことは許されず、直ちに廃炉にすべきなのだ。

 従って、*5-2のように、原発周辺の滋賀県の三日月知事は高浜原発の福井地裁の再稼働差し止め決定を受けて、「人格権や原発の安全性に重きを置いた決定で、原子力行政にとって重大な問題提起だ」「立地自治体のみならず、影響が及ぶと想定される自治体とも協定を結ぶべきだ」と述べている。

 また、*5-3のように、全国最多の約9100人が提訴している玄海原発操業差し止め訴訟の原告団長を務める長谷川元佐賀大学長は、「司法が世論を反映してくれた」と声を弾ませ、「安全の根拠を覆した画期的な内容」と評価した。

 さらに、脱原発を目指す有識者の団体「原子力市民委員会」座長の九州大学の吉岡教授も、「他の産業施設と比べ原発事故の損害が格段に大きいことは、東電福島第1原発事故を見れば明らかだ。危険性を否定できない原発は運転すべきでなく、差し止めを認めた福井地裁の判断は適切だ。安全対策や新たな規制基準の不十分さを具体的に指摘しており、これは高浜原発だけの問題にとどまらない。電力会社や政府、原子力規制委員会は指摘を無視することなく、抜本的に基準や対策を見直す必要がある」としており、全くそのとおりだ。

<高浜原発再稼働差止仮処分福井地裁決定要旨全文>
*1-1:http://www.news-pj.net/diary/18984 (NPJ訟廷日誌 2015年4月14日)
【速報】高浜原発再稼働差止め仮処分福井地裁決定要旨全文 - 「新規制基準は緩やかにすぎ、これに適合しても本件原発の安全性は確保されていない」
平成26年(ヨ)第31号 高浜原発3、4号機運転差止仮処分命令申立事件 2015年4月14日
●主文
1 債務者(関西電力)は、福井県大飯郡高浜町田ノ浦1において、高浜発電所3号機及び4号機の原子炉を運転してはならない。
2 申立費用は債務者の負担とする。
●理由の要旨
1 基準地震動である700ガルを超える地震について
 基準地震動は原発に到来することが想定できる最大の地震動であり、基準地震動を適切に策定することは、原発の耐震安全性確保の基礎であり、基準地震動を超える地震はあってはならないはずである。しかし、全国で20箇所にも満たない原発のうち4つの原発に5回にわたり想定した地震動を超える地震が平成17年以後10年足らずの問に到来している。本件原発の地震想定が基本的には上記4つの原発におけるのと同様、過去における地震の記録と周辺の活断層の調査分析という手法に基づいてなされ、活断層の評価方法にも大きな違いがないにもかかわらず債務者の本件原発の地震想定だけが信頼に値するという根拠は見い出せない。加えて、活断層の状況から地震動の強さを推定する方式の提言者である入倉孝次郎教授は、新聞記者の取材に応じて、「基準地震動は計算で出た一番大きな揺れの値のように思われることがあるが、そうではない。」「私は科学的な式を使って計算方法を提案してきたが、平均からずれた地震はいくらでもあり、観測そのものが間違っていることもある。」と答えている。地震の平均像を基礎として万一の事故に備えなければならない原子力発電所の基準地震動を策定することに合理性は見い出し難いから、基準地震動はその実績のみならず理論面でも信頼性を失っていることになる。基準地震動を超える地震が到来すれば、施設が破損するおそれがあり、その場合、事態の把握の困難性や時間的な制約の下、収束を図るには多くの困難が伴い、炉心損傷に至る危険が認められる。
2 基準地震動である700ガル未満の地震について
 本件原発の運転開始時の基準地震動は370ガルであったところ、安全余裕があるとの理由で根本的な耐震補強工事がなされることがないまま、550ガルに引き上げられ、更に新規制基準の実施を機に700ガルにまで引き上げられた。原発の耐震安全性確保の基礎となるべき基準地震動の数値だけを引き上げるという対応は社会的に許容できることではないし、債務者のいう安全設計思想と相容れないものと思われる。基準地震動である700ガルを下回る地震によって外部電源が断たれ、かつ主給水ポンプが破損し主給水が断たれるおそれがあることは債務者においてこれを自認しているところである。外部電源と主給水によって冷却機能を維持するのが原子炉の本来の姿である。安全確保の上で不可欠な役割を第1次的に担う設備はこれを安全上重要な設備であるとして、その役割にふさわしい耐震性を求めるのが健全な社会通念であると考えられる。このような設備を安全上重要な設備でないとする債務者の主張は理解に苦しむ。債務者は本件原発の安全設備は多重防護の考えに基づき安全性を確保する設計となっていると主張しているところ、多重防護とは堅固な第1陣が突破されたとしてもなお第2陣、第3陣が控えているという備えの在り方を指すと解されるのであって、第1陣の備えが貧弱なため、いきなり背水の陣となるような備えの在り方は多重防護の意義からはずれるものと思われる。基準地震動である700ガル未満の地震によっても冷却機能喪失による炉心損傷に至る危険が認められる。
3 冷却機能の維持についての小括
 日本列島は4つのプレートの境目に位置しており、全世界の地震の1割が我が国の国土で発生し、日本国内に地震の空白地帯は存在しない。債務者は基準地震動を超える地震が到来してしまった他の原発敷地についての地域的特性や高浜原発との地域差を強調しているが、これらはそれ自体確たるものではないし、我が国全体が置かれている上記のような厳然たる事実の前では大きな意味を持つこともないと考えられる。各地の原発敷地外に幾たびか到来した激しい地震や各地の原発敷地に5回にわたり到来した基準地震動を超える地震が高浜原発には到来しないというのは根拠に乏しい楽観的見通しにしかすぎない上、基準地震動に満たない地震によっても冷却機能喪失による重大な事故が生じ得るというのであれば、そこでの危険は、万が一の危険という領域をはるかに超える現実的で切迫した危険である。
4 使用済み核燃料について
 使用済み核燃料は我が国の存続に関わるほどの被害を及ぼす可能性があるのに、格納容器のような堅固な施設によって閉じ込められていない。使用済み核燃料を閉じ込めておくための堅固な設備を設けるためには膨大な費用を要するということに加え、国民の安全が何よりも優先されるべきであるとの見識に立つのではなく、深刻な事故はめったに起きないだろうという見通しのもとにかような対応が成り立っているといわざるを得ない。また、使用済み核燃料プールの給水設備の耐震性もBクラスである。
5 被保全債権について
 本件原発の脆弱性は、①基準地震動の策定基準を見直し、基準地震動を大幅に引き上げ、それに応じた根本的な耐震工事を実施する、②外部電源と主給水の双方について基準地震動に耐えられるように耐震性をSクラスにする、③使用済み核燃料を堅固な施設で囲い込む、④使用済み核燃料プールの給水設備の耐震性をSクラスにするという各方策がとられることによってしか解消できない。また、地震の際の事態の把握の困難性は使用済み核燃料プールに係る計測装置がSクラスであることの必要性を基礎付けるものであるし、中央制御室へ放射性物質が及ぶ危険性は耐震性及び放射性物質に対する防御機能が高い免震重要棟の設置の必要性を裏付けるものといえるのに、原子力規制委員会が策定した新規制基準は上記のいずれの点についても規制の対象としていない。免震重要棟についてはその設置が予定されてはいるものの、猶予期間が設けられているところ、地震が人間の計画、意図とは全く無関係に起こるものである以上、かような規制方法に合理性がないことは自明である。原子力規制委員会が設置変更許可をするためには、申請に係る原子炉施設が新規制基準に適合するとの専門技術的な見地からする合理的な審査を経なければならないし、新規制基準自体も合理的なものでなければならないが、その趣旨は、当該原子炉施設の周辺住民の生命、身体に重大な危害を及ぼす等の深刻な災害が万が一にも起こらないようにするため、原発設備の安全性につき十分な審査を行わせることにある(最高裁判所平成4年10月29日第一小法廷判決、伊方最高裁判決)。そうすると、新規制基準に求められるべき合理性とは、原発の設備が基準に適合すれば深刻な災害を引き起こすおそれが万が一にもないといえるような厳格な内容を備えていることであると解すべきことになる。しかるに、新規制基準は上記のとおり、緩やかにすぎ、これに適合しても本件原発の安全性は確保されていない。新規制基準は合理性を欠くものである。そうである以上、その新規制基準に本件原発施設が適合するか否かについて判断するまでもなく債権者らが人格権を侵害される具体的危険性即ち被保全債権の存在が認められる。
6 保全の必要性について
 本件原発の事故によって債権者らは取り返しのつかない損害を被るおそれが生じることになり、本案訴訟の結論を待つ余裕がなく、また、原子力規制委員会の設置変更許可がなされた現時点においては、保全の必要性も認められる。

*1-2:http://qbiz.jp/article/60237/1/
(西日本新聞 2015年4月15日) 【高浜再稼働差し止め】《解説》反省なき原発政策を指弾
 福井地裁は14日の仮処分決定で、関西電力高浜原発3、4号機の再稼働を認めず、原子力規制委員会の新規制基準は、絶対に深刻な災害は起きないといえるだけの厳格さに欠くと断じた。東京電力福島第1原発後に施行され、政府が「世界一厳しい」と自負する安全性の基準を一蹴、原発政策の根本的な見直しを迫った。決定は、関電の地震動の想定は「信頼に値する根拠が見いだせない」とし、免震重要棟がまだ設置されていないなど、高浜原発が抱える脆弱性を列挙。さらに使用済み核燃料保管施設の在り方にまで踏み込んだ。高浜原発だけでなく、他の原発にも当てはまる指摘だ。決定は原発事故が「取り返しがつかない損害」をもたらす恐れがあると厳しく指弾、新規制基準が再び「安全神話」の土壌となってはならないと警告したとも言える。政府は安全が確認された原発の再稼働を進める方針に変更はないとする。しかし「3・11」から4年が過ぎても、福島原発事故の影響で今も多くの人が避難生活を余儀なくされている。今回の決定を受けて、脱原発論議が活発化することは避けられない。再稼働に対する国民の不安を払拭するため、政府は決定の指摘に真摯に向き合うべきだ。

<判決に関する報道>
*2-1:http://mainichi.jp/select/news/20150415k0000m040142000c.html
(毎日新聞 2015年4月14日) 高浜原発:支援者ら「最高の決定」 再稼働差し止め仮処分
 想定外の地震による原発事故を「現実的で切迫した危険」と断じ、関西電力高浜原発3、4号機の運転禁止を命じる仮処分を出した14日の福井地裁決定。「合格」とした原子力規制委員会の審査とは正反対の結果に、申し立てた住民らは「最高の決定だ」「歴史的な一歩」などと高く評価したが、国の原子力政策に従ってきた地元自治体などからは疑問や戸惑いの声も聞かれた。「考えられる最高の決定だ」。関電高浜原発3、4号機の再稼働を差し止める仮処分決定が出た14日、福井地裁前には申し立てをした住民や支援者約500人が集まり、小雨の中で歓喜に沸いた。午後2時過ぎ、今大地(こんだいじ)晴美代表らが「司法はやっぱり生きていた」「司法が再稼働を止める」と書いた垂れ幕を掲げると、「よくやった!」と歓声や拍手が起こった。決定は、東京電力福島第1原発事故後に作られた原発の新規制基準を「(基準に)適合しても原発の安全性は確保されない」と否定した。同様の仮処分申し立てや訴訟に波及する可能性があり、住民側は「日本中の原発を廃炉に追い込みたい」と意気込んだ。弁護団の海渡(かいど)雄一共同代表は「日本の脱原発を前進させる歴史的な一歩。住民の人格権、ひいては子どもの未来を守るという、司法の本懐を果たした輝かしい日」と笑顔で声明を読み上げた。その後、福井市内で開かれた記者会見では、内山成樹弁護士が原発の耐震設計の基本となる基準地震動の策定方法に疑問を呈した決定に触れ、「基準地震動が1桁上がるかもしれない。費用がかかって現実的には対策は無理だ」と指摘した。河合弘之・弁護団共同代表は「新規制基準を作り直すことから出直せ、と言うのが裁判所のメッセージだ」と強調した。また、内山弁護士は、原子力規制委員会の田中俊一委員長が「規制委がすることは規制。結果として安全が担保できればいい」などと発言したことを取り上げ、「安全基準と関係ない規制基準なんて、ばかを言ってはいけない」と批判した。原発3基が立地する福井県敦賀市の市議でもある今大地代表は「原発が集中立地する若狭地方の人たちは、思いを表に出せずに過ごしてきた」と慎重に言葉を選んで振り返り、「『原発は怖い』と声に出してもよいと今回の決定は伝えてくれた。多くの人が原発のことを声に出せるような若狭にしていきたい」と期待を寄せた。

*2-2:http://qbiz.jp/article/60182/1/ (西日本新聞 2015年4月14日) 高浜原発の再稼働認めない決定 福井地裁が仮処分 新規制基準の適合性審査は「合理性を欠く」
 関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)の安全対策は不十分として、周辺の住民らが再稼働差し止めを申し立てた仮処分で、福井地裁(樋口英明裁判長)は14日、再稼働を認めない決定をした。仮処分で原発の運転を禁止する決定は全国で初めて。決定はすぐに効力を持つ。関電は不服を申し立てるとみられ、主張が認められない限り再稼働できない。同地裁は仮処分決定で、原子力規制委員会による新規制基準の適合性審査は「合理性を欠く」と指摘した。2基は九州電力川内原発(鹿児島県)に続き、政府が「世界で最も厳しい」と強調する原子力規制委の審査に合格。しかし地裁はこれを事実上否定する判断をした。原発を「重要なベースロード電源」と位置付ける政府のエネルギー計画にも影響を与えそうだ。住民らは、関電が想定する基準地震動(耐震設計の目安となる揺れ)を超える地震により、放射性物質が飛散する過酷事故に陥る可能性があると主張し、人格権が侵害されると訴えていた。
■関電、速やかに不服申し立てへ
 関西電力は14日、福井地裁の仮処分決定について「到底承服できない」とするコメントを発表。速やかに不服申し立てをするとの方針を明らかにした。
■裁判長、昨年5月にも関電大飯原発3、4号機の差し止めを命じる判決
 樋口裁判長は昨年5月にも福井地裁で、関電大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の差し止めを命じる判決を言い渡しており、控訴審が係争中。住民らは12月、再稼働が迫っているとして、高浜と大飯計4基の差し止め仮処分を福井地裁に申し立てた。大飯の2基の審理は分離された。

*2-3:http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150414/k10010047951000.html
(NHK 2015年4月14日) 高浜原発 再稼働認めない仮処分決定
 福井県にある高浜原子力発電所の3号機と4号機について福井地方裁判所は「原発の安全性は確保されていない」として関西電力に再稼働を認めない仮処分の決定を出しました。異議申し立てなどによって改めて審理が行われ決定が覆らなければ、高浜原発は再稼働できなくなりました。関西電力は異議申し立てを検討するとしています。福井県高浜町にある関西電力の高浜原発3号機と4号機について、福井県などの住民9人は安全性に問題があるとして福井地方裁判所に仮処分を申し立て、再稼働させないよう求めました。これに対して、関西電力は福島の原発事故も踏まえて対策をとったと反論しました。福井地方裁判所の樋口英明裁判長は関西電力に対して、高浜原発3号機と4号機の再稼働を認めない仮処分の決定を出しました。決定では「10年足らずの間に各地の原発で5回にわたって想定を超える地震が起きたのに、高浜原発では起きないというのは楽観的な見通しに過ぎない」と指摘しました。そのうえで、原子力規制委員会の新しい規制基準について、「深刻な災害を引き起こすおそれが万が一にもないといえるような厳格な基準にすべきだが新しい規制基準は緩やか過ぎ、適合しても原発の安全性は確保されていない。規制基準は合理性を欠く」と指摘しました。今回の仮処分はすぐに効力が生じるもので、関西電力の異議申し立てなどによって改めて審理が行われ決定が覆らなければ、高浜原発は再稼働できなくなりました。異議申し立てなどによる審理は福井地裁で行われ、決定が覆れば仮処分の効力は失われます。関西電力側の弁護士は「会社の主張を裁判所に理解してもらえず誠に遺憾で、到底承服できない」と話し、異議申し立てを検討するとしています。
●弁護側「司法の判断厳粛に受け止めて」
決定が出されたあと、住民側の弁護士は裁判所の前で「今回の決定は脱原発を前進させる歴史的一歩であり、国や電力会社は司法の判断を厳粛に受け止めるべきだ」という声明を読み上げました。
●関電「速やかに異議申し立てを検討したい」
14日の決定について関西電力側の弁護士は「会社の主張を裁判所に理解してもらえず、まことに遺憾で、到底承服できない。決定内容を精査したうえ、準備ができ次第、速やかに異議の申し立てと執行停止の申し立ての検討をしたい」と述べました。そのうえで「会社としては十分な安全性を確保しているとして科学的・専門的・技術的な知見に基づいて十分な主張・立証をしているつもりなので、引き続き、裁判所に理解を求めたい」と話しました。 

*2-4:http://www.saga-s.co.jp/column/ronsetsu/177731
(佐賀新聞 2015年4月17日) 高浜原発差し止め
 関西電力高浜原発3、4号機(福井県)の再稼働差し止めを求めて周辺住民らが申し立てた仮処分で、福井地裁が再稼働を認めない決定をした。原子力規制委員会の新規制基準そのものについて安全性確保を担保するものではないと断じ、原発政策の根本見直しを迫る判断となった。政府は司法の指摘に真摯に向き合うべきだ。今回の決定では、政府が「世界一厳しい」と自負する新規制基準を「合理性を欠く」と一蹴。再稼働に向けた一連の手続き自体に疑問符を投げかけたという意味で非常に重い指摘といえる。全国の原発で過去10年間に想定を超える地震が5回発生した。それを踏まえて「国内に地震の空白地帯はない。想定を超える揺れの地震が起きないというのは、根拠に乏しい楽観的見通し」と関電の見通しの甘さを厳しく指弾した。さらに想定内の揺れでも外部電源が断たれ、ポンプ破損による冷却機能喪失の恐れがあることを指摘。炉心損傷に至る危険があるとした。これは昨年5月、同地裁が下した関電大飯原発3、4号機の運転差し止め訴訟と同じ判断を示した格好だ。また使用済み核燃料プールが堅固な施設で閉じこめられていない現状にも言及。「国の存続に関わる被害が出る可能性がある」との懸念も示した。「安全対策は十分」との関電の主張を全面的に退けた。新規制基準に適合するか否か判断するまでもなく「原発から250キロ圏内に住む住民は原発の運転によって人格権を侵害される具体的な危険がある」とも指摘。ここまで踏み込んだ表現は、再稼働を急ぐあまり、本来最優先すべき安全確保の議論が不十分ではないかという国民の不安を司法が代弁したといえる。原子力規制委員会の田中俊一委員長は、福井地裁の指摘について「重要なところの事実誤認がいくつかある」と反論。規制基準について見直す必要性がないとの認識を示した。法廷で多くの資料を交えながら審理した裁判官に対して「事実誤認がある」と主張するなら、国民に規制基準の安全レベルがしっかりと伝わっていないと考えるのが自然だろう。ならば、政府は国民に規制基準が求める安全レベルの妥当性を丁寧に説明すべきだ。その上で「再稼働ありき」ではない、原発の今後を考える議論を進めるのが筋だろう。政府は2030年の電源構成比率で、原発の割合を18~19%に引き下げる方向で検討している。2割を切ることで原発に批判的な世論に配慮しようという意図が透けて見える。東日本大震災前の2010年度が28・6%であることを考えれば、全国の原発を一定程度再稼働しなければ達成できない。22日には九州電力川内原発の再稼働差し止めの仮処分申請に対する決定が出る。各地で係争中の同様の訴訟に影響を与えるだけでなく、内容次第では政府のエネルギー政策にも大きな影響を及ぼす。東京電力福島第1原発事故で何を学んだのか。今回、司法が突きつけたのは根源的な問いかけだ。過酷事故が起きれば一国の経済に多大な影響を与え、その存続すら危うくしかねない。政府には、誰もが納得できる答えを示す責務がある。

<判決への反対>
*3-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150415&ng=DGKKASGG14H2A_U5A410C1EA2000 (日経新聞 2015.4.15) 
安全思想すれ違い 高浜原発再稼働差し止め、リスク、抑制かゼロか
 関西電力高浜原子力発電所3、4号機(福井県)の運転を認めないとする福井地裁の決定は、原発の再稼働をめぐるリスクについて政府や電力会社との立場の違いを浮き彫りにした。東京電力福島第1原発事故の反省を踏まえて刷新した原発への規制とは相いれない内容だ。原発の再稼働が滞れば、電気料金の上昇などを通じて経済への打撃が広がりかねない。政府は福島第1原発事故後に規制委を設置し、原発の運転に厳しい地震・津波対策や過酷事故への備えを求める新規制基準を2013年7月に施行した。電力供給や電気料金の安定のために原発を活用する方針を維持しつつ、高い安全性を求めて対応できない原発をふるいにかける狙いだ。実際に選別するのが事故対策や自然災害の専門家で構成する規制委の安全審査だ。高浜3、4号機は規制委から厳しい指摘を受けつつも九州電力の川内原発(鹿児島県)に続いて審査に合格し、再稼働に近づきつつあった。そこに待ったをかけたのが福井地裁の決定だ。新規制基準は万が一の事故を防ぐには甘いとして「合理性を欠く」と断じ、審査に合格しても「安全性は確保されていない」と指摘した。関電が最大規模の地震を考慮して見積もった揺れの想定も、ほかの原発で想定を上回る地震があったことを引き合いに「信頼に値しない」と否定した。福井地裁の判断は根本的な耐震工事などでリスクを事実上ゼロにすることを求めた。現時点では国内で最も安全対策が進む原発の一つである高浜3、4号機でさえ「運転してはならない」と結論づけた。「この判断に基づけば、国内の原発はどこも動かない」と政府関係者はもらす。現行の規制はリスクを減らすために何重もの対策を課すが、規制委の田中俊一委員長はかねて「100%の安全はない」と述べている。それでも政府が原発を動かそうとするのは、停止が続けば別のリスクが生じるからだ。福島原発の事故以降、全国で停止した原発の代わりに石油や液化天然ガス(LNG)などを海外で調達することが増え、家庭向け電気料金は震災前から2割、企業向けは3割ほど上昇した。北海道大学の奈良林直教授は「電気料金がさらに上がれば、中小企業や生活弱者には大きな打撃になる」と指摘する。司法が原発の再稼働を止める動きが続けば、政府が検討中の30年時点の望ましい電源構成(ベストミックス)などエネルギー政策の議論にも影響しそうだ。

*3-2:http://qbiz.jp/article/60433/1/
(西日本新聞 2015年4月17日) 経産省が原発発電コスト検証 事故発生確率を半減
 経済産業省は16日、電源別の発電コストを検証する有識者会議の会合で、検証の前提となる原発事故の発生確率を半減させる案を示した。東日本大震災後に設定した新規制基準に、九州電力など大手電力会社が対応した効果を反映させるためで、大筋で了承された。コスト試算は2011年末以来。原発のコストは建設や廃炉費用のほか、東京電力福島第1原発事故に伴う賠償費用などを基に、「事故リスク対応費用」や「追加安全対策費」などから算出している。11年時点では事故確率を「40年に1回」としたが、経産省は新たな安全対策に伴い、半分の「80年に1回」程度になると想定。事故リスク対応費用は、11年の1キロワット時当たり「0.5円以上」よりも低くなる見通しだ。一方、経産省の調査では、震災後に実施している追加安全対策の原発1基当たりの費用は約1000億円に達する見通し。11年試算の追加安全対策費は1基約200億円、1キロワット時当たりで「0.2円」だったので、今回の試算では大幅に増加する公算が大きい。差し引きでは、原発発電コスト総額の新たな試算は、11年時の1キロワット時当たり「8.9円以上」を上回ることになりそうだ。

*3-3:http://qbiz.jp/article/60245/1/
(西日本新聞 2015年4月15日) 【高浜再稼働差し止め】官房長官「粛々と」 規制委「事実誤認多い」
 再稼働までの道のりが見えてきた原発に、司法がストップをかけた。福井地裁が14日示した関西電力高浜原発3、4号機(福井県)の再稼働を認めない仮処分決定。政府は環境問題や高騰する電気料金などを勘案して原発活用を「粛々と」(菅義偉官房長官)進める方針だが、九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)とともに、再稼働の手続きが終盤に入っているタイミングでの厳しい司法判断は、国民の原発不信を再び増幅させる可能性がある。「世界最高水準の新規制基準に適合しているとする、規制委の判断を尊重し再稼働を進めていく」。菅官房長官は14日午後の記者会見で、従来の方針をあらためて強調した。東京電力福島第1原発事故の影響で、原発再稼働に対する国民の反対は今も根強い。それでも政府が「重要なベースロード電源」として原発回帰を進める背景には、電気料金を引き下げ、景気回復を全国に広げたいとの考えがあるからだ。原発の長期停止に伴い、液化天然ガス(LNG)などの火力発電所の燃料費は急増しており、2013年度の大手電力会社10社の燃料費は計7兆7千億円と震災前の2倍超まで拡大。関電や九電などが電気料金の値上げをした結果、電気料金は震災前に比べ、家庭向けで2割、産業向けで3割も上昇している。「電力料金は震災前の水準以下にすることが重要」(経団連)「中小企業のコスト負担は限界」(日本商工会議所)。こうした経済界の要請に応えるため、政府は電力会社に老朽原発の廃炉を促すなどして再稼働に向けた環境整備を進めてきた。
   ◇    ◇
 福井地裁の判断は、再稼働を認めないだけでなく、原発再稼働の根拠となる新規制基準も「合理性を欠く」と否定した。新基準は福島第1原発事故の教訓を踏まえ、規制委が約10カ月かけて策定し、13年7月に再稼働の前提となる審査が始まった。川内1、2号機に次いで審査が進む高浜3、4号機の基準地震動(最大規模の地震の揺れ)についても慎重に審査した。だが、福井地裁は「信頼に値する根拠が見いだせない」と一蹴した。規制委事務局に当たる原子力規制庁の米谷仁総務課長は14日の会見で「科学的技術的に適正に判断した」と反論。別の幹部も「(福井地裁の)判断には事実誤認も多い」と不満をあらわにした。関電は高浜3、4号機の工事計画の認可が出れば、再稼働の最終手続きとなる使用前検査を申請するとみられる。規制庁は今回の決定を受け、検査が進んでも関電が原子炉を起動できないと受け止める。22日に同様の司法判断が示される川内1、2号機でも理屈は同じだ。「国は(訴訟の)当事者ではない」。菅官房長官はこう繰り返したが、千葉大の新藤宗幸名誉教授(行政額)は「三権分立の意味を示す具体的な判決が出た。安倍政権はいつまでも司法の判断を無視することはできない」と批判している。
   ■   ■
●高浜にとどまらぬ問題
 脱原発を目指す有識者の団体「原子力市民委員会」座長の吉岡斉・九州大教授(科学技術史) 他の産業施設と比べ原発事故の損害が格段に大きいことは、東京電力福島第1原発事故を見れば明らかだ。危険性を否定できない原発は運転すべきでなく、差し止めを認めた福井地裁の判断は適切だ。安全対策や新たな規制基準の不十分さを具体的に指摘しており、これは高浜原発だけの問題にとどまらない。電力会社や政府、原子力規制委員会は指摘を無視することなく、抜本的に基準や対策を見直す必要がある。
●大飯に続き技術面誤認
 奈良林直・北海道大教授(原子炉工学) 関西電力大飯原発の運転を差し止めた昨年の判決と同様に、技術面で事実誤認がある。東京電力福島第1原発事故の原因は津波だと原子力規制委員会が報告しており、地震だけで危険性が切迫していると判断したのはおかしい。メーンの給水設備や外部電源が破損しても、緊急時用の補助設備があることも無視している。新たな規制基準にも合理性がないと言及しているが、法律と基準は福島事故を踏まえて改正されたもの。裁判所はあくまで法律に基づいて判断すべきだ。規制委は今後も、再稼働の審査や認可手続きを粛々と行えばよい。
■高浜原発3、4号機 関西電力が福井県高浜町に所有する原発。いずれも加圧水型軽水炉(PWR)で出力はともに87万キロワット。1985年に運転を開始した。原子力規制委員会は安全対策が新規制基準に適合するとする審査書を決定し、関電は今年11月の再稼働を想定していた。

*3-4:http://qbiz.jp/article/60246/1/ (西日本新聞 2015年4月15日) 【高浜再稼働差し止め】川内も22日司法判断 九電、差し止めなら値上げも
 関西電力高浜原発3、4号機の再稼働を差し止める仮処分決定について、九州電力は「当事者ではなく、コメントする立場にない」(報道グループ)としている。ただ、新規制基準下で初めて再稼働する見込みの川内原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)も同様の司法判断を受ける可能性があり、電気料金の再値上げも検討している。九電は原発停止で火力発電燃料費がかさみ、2015年3月期連結決算で4年連続の最終赤字が不可避。これまでは川内原発1、2号機の早期再稼働を期待して、市民生活や産業活動への影響が大きい電気料金再値上げを回避してきた。川内1、2号機は、再稼働の前提となる原子力規制委員会の審査が終盤を迎えており、設備の性能などを確認する「使用前検査」を経て7〜8月にも再稼働する見通しとなっている。だが一方で、鹿児島、熊本、宮崎県の住民が再稼働差し止めの仮処分を鹿児島地裁に申し立てており、地裁は今月22日にその可否についての決定を出す予定。再稼働が認められなければ、九電は直ちに異議申し立てをするとみられるが、再稼働時期が想定より大幅に遅れる可能性が大きい。再稼働を前提とした経営黒字化もめどが立たなくなるため、13年春に続く料金再値上げに踏み切る方向という。
   ◇   ◇
■電力大手 波及を懸念
 福井地裁が14日、原子力規制委員会の新規制基準は合理性を欠くと指摘し、関西電力高浜原発3、4号機の再稼働を認めない仮処分を決定した。大手電力関係者は「審査に合格しても再稼働できなくなる。ここまで踏み込むとは思わなかった」と驚きを隠さない。大手電力は原発の再稼働が業績改善に不可欠との立場で、経営への影響に懸念が広がっている。電気事業連合会は「安全性に関する関西電力の主張に理解が得られなかったことは誠に遺憾だ」とコメントした。業界では「ほかの原発の差し止め訴訟に影響が出なければいいが」(大手電力)との声も上がった。政府は規制委の審査に適合した原発は活用する方針を変えていない。ある電力関係者は「政府の方針がある以上、引き続き再稼働を目指す」と語った。一方、経済界にも波紋が広がった。経済同友会の長谷川閑史代表幹事は14日の記者会見で、福井地裁の決定に「最終的な判断ではない」と述べ、今後の司法手続きで再稼働が認められることに期待を示した。経済界には電力コストを抑えるため原発の活用を求める声が強い。長谷川氏は「エネルギーの問題は国の経済の根幹に関わる」とし、「こういうテーマが裁判所の判断にふさわしいかどうか、少し疑問だ」とも話した。

<鹿児島知事の「争点回避」発言と社会>
*4-1:http://qbiz.jp/article/60332/1/ (西日本新聞 2015年4月16日) 鹿児島知事の「争点回避」発言、地元はどう受け止めたか【会見詳報付き】
 「再稼働請負人」が本音を吐露した−。反原発派だけでなく、賛成派もそう受け止めた。伊藤祐一郎知事の原発争点化回避発言に対しては、鹿児島県内でも賛否両派に反発が広がった。「知事は『選挙が近づけば反対が増える』と焦っていた」。県関係者は昨年11月の再稼働地元同意の一部始終を振り返った。当時、県議会最大会派の自民県議団は揺れていた。再稼働は安倍政権の方針だが、避難計画の不備が次々と明らかになり、「県議選で戦えない」と造反をにおわせる声が続出。知事は自民県議団の内情をつぶさに収集し、反対を抑えるには手続きを急ぐしかないと判断したという。県議会の4常任委員会が予定していた県内視察を中止させ、同意を表明する2日前に臨時議会を招集。自民県議団は結局、再稼働に全員賛成し、知事のもくろみは奏功した。今回の知事発言について、自民県議団の吉留厚宏会長は「県議団として、知事に同意を急ぐように要請したことはない」と困惑。知事に「視察を無視して臨時議会を招集した必要性を示せ」と迫った成尾信春県議(公明)は「知事の本音だろうが、不快だ」と怒りを隠さなかった。反対した松崎真琴県議(共産)は「再稼働ありきの地元同意手続きだったことが明らかになった」として手続きの撤回を求めていくという。臨時議会を傍聴した同県姶良市の美術家松尾晴代さん(40)は「争点隠しを公然と認めた。県のリーダーとしての資質を疑う」と憤った。知事発言をフェイスブックで知った鹿児島市の医師青山浩一さん(53)は「知事が『再稼働請負人』だったことがはっきりした。県民の暮らしや命を守ると本気で思っているのなら、県議選で十分議論すべきだった」と強調した。
◆「全員反対でも再稼働やめない」−記者会見詳報
 15日の定例記者会見で鹿児島県の伊藤祐一郎知事は、昨年11月に自身が表明した川内原発(同県薩摩川内市)再稼働への同意をめぐり、県議選で原発問題が争点化されることを避ける狙いがあったことを明かした。福井地裁の高浜原発再稼働差し止め決定に対する考えも述べた。一問一答は次の通り。
−高浜原発再稼働差し止め仮処分の決定で、福井地裁は新規制基準を「緩すぎる」と指摘した。その新規制基準を知事は川内原発再稼働同意の根拠にしたが。
「原子力規制委員会は基準地震動を極めて高いレベルにするなどして新規制基準を決めた。素人の立場では言えないが、規制委は職務を全うしたと思う」
−世論調査では再稼働反対が過半数を占める。
 「わが国全体の経済活動などを考えたらエネルギーは根幹の要素。全員が反対したとしても(原発を)やめるというわけにはいかない。行政としてどうすれば国民の幸せにつながるか、総合的な判断が必要だ」
−県議選の結果に原発問題は反映されたか。
 「原発が投票結果に反映されたという見方はできない。ただ、(私は)昨年11月7日に(再稼働同意の)結論を出したが、それが遅れていたら争点化していただろう。統一選に大きな影響があるから、ぎりぎりのタイミングだった。さもないと原発がシングルイシューの争点になっていただろう。県政には地方創生や福祉などいろんな問題がある」
−民主主義の手続きとしてはどうだったか。
 「人によって考え方は違う。シングルイシューで争点化することが望ましくないとの判断はあったが、県議選だけを頭に置いていたわけではもちろんない。全体の流れの中であのタイミングしかなかった」
−原発が争点になると好ましくないのか。
 「好ましくないと言っているわけではない。県の仕事はいろいろある。(原発の争点化で)全部吹っ飛ぶのはおかしいという判断も当然ある」
−5月に実施を計画している原子力防災訓練は。
 「避難計画が出そろい、実効性を検証している段階だが、九電は使用前検査で精いっぱいで対応できない。訓練はできないと思う」
−再稼働の前には実施できないということか。
 「時間的に余裕がない」

*4-2:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/177908
(佐賀新聞 2015年4月17日) 避難勧奨地点解除は不当と提訴、福島・南相馬の住民
 東京電力福島第1原発事故で、放射線量が局所的に高い「ホットスポット」となった特定避難勧奨地点の指定を解除したのは不当として、福島県南相馬市の住民約530人が17日、国に解除の取り消しと、1人10万円の損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こした。特定避難勧奨地点は、避難指示区域外で、局所的に年間被ばく線量が20ミリシーベルトを超えると推定される場所。避難は強制されないが、医療費の自己負担免除などの生活支援があり、慰謝料も支払われていた。原告弁護団によると、原発事故に伴う国の避難措置解除の妥当性を争う訴訟は初めてという。

<国民及び再稼働反対派の意見>
*5-1:http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0MY0JX20150407
(ロイター 2015年 4月 7日) 原発再稼働に反対70.8%、事故の懸念73.8%=学者・民間機関調査
 原発再稼働を前に災害リスクを専門とする学者と民間調査会社が、原発・エネルギーに関する世論調査を実施したところ、再稼働に対して反対が70.8%、賛成が27.9%という結果が出た。また、現状での再稼働では、73.8%が東京電力福島第1原発事故と同規模の事故が発生すると懸念。新しい規制基準の下でも、国民の間に原発への不安感が根強く残っていることが鮮明になった。調査を企画・立案した東京女子大の広瀬弘忠・名誉教授が7日、ロイターに明らかにした。広瀬氏は災害リスクの専門家で、同氏が代表を務める防災・減災の研究会社が、市場・世論調査を手掛ける日本リサーチセンター(東京都)に調査を委託。今年3月4日から16日にかけて全国の15─79歳の男女1200人を対象に調査を実施し、全対象者から有効回答を得た。同リサーチセンターは、米世論調査ギャラップ社と提携。これまでも多様な調査を実施してきた。今回の調査では、全国から200地点を選び、各市町村の人口規模に比例して性別、年齢別に対象者を抽出。調査員が直接訪問して質問用紙を渡して後日回収する「個別訪問留置き調査」と呼ばれる手法で実施した。
<避難計画、9割近くが評価せず>
 再稼働への賛否に関する質問では、「大いに賛成」「まあ賛成」「やや反対」「絶対反対」の4つを選択肢として提示した。その結果、「やや反対」が44.8%と最も多く、次が「絶対反対」の26.0%だった。「まあ賛成」は24.4%、「大いに賛成」3.5%となった。反対との回答は合計70.8%、賛成との回答は27.9%だった。再稼働した場合、東京電力(9501.T: 株価, ニュース, レポート)福島第1原発と同程度の事故が起こる可能性について、「起こる」「たぶん起こる」「たぶん起こらない」「起こらない」の選択肢で回答を聞いた。結果は、「たぶん起こる」51.8%、「起こる」22.0%と再発を懸念する意見が合わせて73.8%。「たぶん起こらない」24.1%、「起こらない」1.3%と再発を想定せずとの回答は25.4%だった。原発再稼働の安全性では、「絶対安全だと思う」「やや安全だと思う」「やや危険だと思う」「非常に危険だと思う」の選択肢を提示したところ、「やや危険」52.3%、「非常に危険」29.0%と危険視する見方が81.3%に達した。これに対し、「やや安全だと思う」は16.2%、「絶対安全だと思う」は2.2%だった。事故が起きた場合の避難計画に関し、十分かとの質問には「やや不十分」50.5%、「全く不十分」37.2%と9割近くが否定的な評価となった。「やや十分」9.7%、「十分」1.5%と肯定的な評価は1割止まりだった。
<原発の将来、段階的縮小論が過半数>
 短期的な再稼働問題では否定的な回答が目立つ一方、原発の将来像に関する質問では、再稼働容認派が否定派を大きく上回る結果が出ている。「再稼働を認めず、直ちにやめるべき」「再稼働を認めて、段階的に縮小すべき」「再稼働を認めて、現状を維持すべき」「再稼働を認めて、段階的に増やすべき」「再稼働を認めて、全面的に原子力発電に依存すべき」「その他」の選択肢を設けたところ、「再稼働を認め段階的に縮小すべき」が最も多く52.6%、次いで「再稼働は認めずに直ちにやめるべき」が29.7%、「再稼働を認め現状維持すべき」は11.8%、「再稼働を認め段階的に増やすべき」が2.9%だった。広瀬氏は、この点について「いま再稼働することには躊躇(ちゅうちょ)するが、過半数は再稼働を認めて、段階的にやめていくという選択を採る」と指摘する。ただ、同氏は「福島第1原発事故と同程度の事故が起こる、たぶん起こるを合わせると7割を超えている。そうした状況で、(民意は、現状での)再稼働を認めることはないだろう」と述べた。太陽光、風力、地熱などの再生可能エネルギーの利用に関する質問に対し、大幅に増やしたほうがいい49.8%、少しずつ増やした方がいい45.3%と、回答者のほとんどは拡大に肯定的だった。だが、増やすペースでは意見が割れた。
<マスコミ調査よりも高い反対の数値>
 電話が主体の国内報道各社の世論調査では、再稼働に反対が概ね5割強から6割弱といった幅で推移しているが、今回の調査では国内報道各社の調査に比べ、反対意見が高く出た。こうした結果に対し、広瀬氏は「地域や国民を代表するよう対象者を選ぶ工夫をしている。代表性が高く、調査精度の高さが反映された結果だろう」と話している。3月実施の調査は、レジャーや花粉症、金融商品など他の調査項目と「相乗り」して行われた。「原発関連は調査全体の一部を構成しているだけなので、協力した人たちが原発問題に関して偏見があるということはない」(広瀬氏)としている。広瀬氏は2002年、東電による原発トラブル隠しの不祥事が発覚した時に同社が設置した「原子力安全・品質保証会議」の委員を務めた。2013年7月には内閣府原子力委員会で、原発世論に関して説明を行った。

*5-2:http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2015041400510 (時事ドットコム 2015年4月14日) 滋賀知事「重大な問題提起」=「安全性、説明を」京都知事-高浜原発再稼働差し止め
 関西電力高浜原発の半径30キロ圏内には、滋賀県と京都府の一部が含まれる。福井地裁の再稼働差し止め決定を受け、滋賀県の三日月大造知事は14日、記者団に「人格権や原発の安全性に重きを置いた決定で、原子力行政にとって重大な問題提起だ」と述べた。三日月知事は「今回の決定にも相通じるような形で、実効性ある多重防護体制の構築の必要性を訴えてきた」と強調。「立地自治体のみならず、影響が及ぶと想定される自治体とも協定を結ぶべきだという主張は変わらない」と述べ、引き続き関電に安全協定締結を求めていく考えを示した。一方、京都府の山田啓二知事は「詳細は承知していないが、国や事業者は安全性について、国民に丁寧かつ明確な説明を行う必要がある」とのコメントを出した。(2015/04/14-16:38)2015/04/14-16:38

*5-3:http://www.saga-s.co.jp/column/genkai_pluthermal/20201/177066
(佐賀新聞 2015年4月15日) 玄海原告団声弾む 玄海町や経済界、工程遅れ懸念
■重い判断、評価と動揺
 関西電力高浜原発の運転差し止めを命じた14日の福井地裁の決定。九州電力玄海原発(東松浦郡玄海町)の再稼働に向けた手続きが進む中、国と電力会社の安全対策の不備を指摘した司法判断に、玄海原発操業差し止め訴訟の原告団は「安全の根拠を覆した画期的な内容」と評価した。一方、早期再稼働を求めてきた玄海町や地元経済界などには「今後のスケジュールが大幅に遅れるのでは」と動揺が広がった。「司法が世論を反映してくれた」。全国最多の約9100人が提訴している玄海原発操業差し止め訴訟の原告団長を務める長谷川照・元佐賀大学長は声を弾ませた。原告弁護団も佐賀市内で会見し、「今回の決定は全国の原発に当てはまり、再稼働は許されない」と強調。玄海原発でも同様の仮処分申し立ての準備を進める意向を明らかにした。一方、玄海原発の早期再稼働を求めている佐賀県商工会議所連合会の井田出海会長は「原子力規制委員会の審査を覆すような決定が出たのは意外」と驚く。「仮処分とはいえ、こうした司法判断が続けば、再稼働は大幅に遅れてしまう」と懸念を示した。東京出張のため不在だった岸本英雄玄海町長に代わって取材に応じた鬼木茂信副町長は「玄海原発は歴史的に見ても地震や津波が少ない場所に立地し、安全な原発。規制委員会は粛々と審査してほしい」と求めた。佐賀県の山口祥義知事は「裁判所の一つの見解」と冷静に受け止めた上で「国と事業者は新規制基準の合理性について、しっかり説明してもらいたい」と規制基準の考え方などについて説明責任を果たすよう求めた。山口知事は規制委の適合性審査に合格し、住民理解が得られた場合は、再稼働を容認する考えを示している。玄海原発の再稼働判断への影響は「(最終的に)国の説明を聞いて決めるという考えは変わらない。玄海もいずれ国が説明する時期が来るが、今回の決定に対する見解もしっかり説明すべき」とした。また、伊万里市の塚部芳和市長は「原発周辺の住民が抱える不安を司法が認めたということではないか。再稼働を進める電力会社や国はこれを重く受け止め真摯(しんし)に向き合ってほしい」と望んだ。今回の決定に続き、22日には川内原発(鹿児島県薩摩川内市)の再稼働差し止め仮処分の判断が示される。唐津市の坂井俊之市長は「玄海原発への影響の大きさを考えれば、その結果を注視したい」と述べた。
=識者談話= 指摘無視するな
■脱原発を目指す有識者の団体「原子力市民委員会」座長の吉岡斉九州大教授(科学技術史)の話
 他の産業施設と比べ原発事故の損害が格段に大きいことは、東京電力福島第1原発事故を見れば明らかだ。危険性を否定できない原発は運転すべきでなく、差し止めを認めた福井地裁の判断は適切だ。安全対策や新たな規制基準の不十分さを具体的に指摘しており、これは高浜原発だけの問題にとどまらない。電力会社や政府、原子力規制委員会は指摘を無視することなく、抜本的に基準や対策を見直す必要がある。


PS(2015年4月18日追加):佐賀県の山口知事は、4月17日に反原発を訴える市民団体と就任後初めて県庁で面会し、市民団体は「再稼働反対と意見交換の継続開催の2点」を要望し、「原発の安全性に対する認識、現在の避難計画の実効性、使用済み核燃料の処理の考え方の3点」を文書で質問したそうだ。佐賀県の市民団体は、佐賀大学元学長で素粒子・原子核・宇宙線・宇宙物理の研究者である長谷川氏や実際の診療を通じて玄海原発の影響で発症する病気を意識しておられる佐賀大学元医学部長等も協力して理論構成しているため、「いろいろな意見が来ている」として同じ比重で考えるべきではない。

*6:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/178242
(佐賀新聞 2015年4月18日) 知事、反原発団体と面会 「県民の意見幅広く聞く」
 佐賀県の山口祥義知事は17日、反原発を訴える市民団体と就任後初めて県庁で面会した。玄海原発(東松浦郡玄海町)の再稼働を認めないよう求める市民団体に対し、賛成反対を含めた県民の幅広い意見を聞いた上で最終的に判断する考えを説明した。市民団体は、再稼働反対と意見交換の継続開催の2点の要望と、原発の安全性に対する認識や現在の避難計画の実効性、使用済み核燃料の処理の考え方の3点を文書で質問した。面会では、市民団体世話人の野中宏樹さんが「知事の第1の職務は県民の命や安全を守ること」とした上で、「今の規制基準や避難計画では安全は守れない。知事が安全というなら自ら説明責任を果たすべき。説明の前に再稼働は認めるべきでない」と指摘した。山口知事は「県民の意見を幅広く聞くのが私の政治姿勢。原発もいろいろな意見が来ている。判断する際はできる限り多くの情報を基に考えたい」と答えた。面会は、玄海原発の運転差し止めを求める団体など6団体が1月に合同で要望していた。市民団体によると、古川康前知事にも「直接対話」を求めていたが実現しなかった。原発の再稼働に関して山口知事は、原子力規制委員会が新規制基準に適合すると認め、住民理解が得られた場合は、容認する考えを示している。
■「初めの一歩」双方評価
 県民世論を二分する原発再稼働問題について、容認姿勢を打ち出す佐賀県の山口祥義知事と、反対を訴える六つの市民団体の17日の面会は、終始、冷静な口調で互いの考えを述べ合った。参加者は1団体2人、時間も15分限定。意見交換というレベルではなかったが、「考えを聞けて意義があった」「初めの一歩」と、両者とも面会実現を評価した。市民団体は古川康前知事にも再三、面会を要請していた。しかし、2007年の住民投票実施を求める署名提出の時に出席した限りで、その後、面会に応じることはなかったという。山口知事との面会を終えた市民団体世話人の野中宏樹さんは「選挙公約通りに県民の声を聞く姿勢は大変評価している」と話した。ただ、「意見が分かれる問題で15分はあまりにも短い。今日は初めの一歩で、今後も面会を続けてほしい」と求めた。参加した石丸初美さんは「まずは会うことが大切。顔を見て話すことから何事も始まる」と今後の面会に期待した。一方、山口知事は「かねて幅広く県民の声を聞きたいと思っていたので、意義があった」と述べ、市民団体の質問には文書で回答する意向を示した。再稼働問題では容認する考えをあらためて語った。今後の市民団体との面会は「タイミングもあるが、できる限り、場は設けたい」と応じる姿勢を見せた。


PS(2015.4.20):*7のような発言が原発推進派から出てくるが、上の(2)で述べた「原発が過酷事故を起こせば広い地域で長期間住めなくなり、自動車事故や航空機事故とは影響を受ける規模と期間が全く異なるため、原発は万が一にも過酷事故を起こしてはならない」というのが、これに対する答えだ。この違いが理解できない人は、生物学・物理学に弱すぎ、知識のバランスを欠いている。

*7:http://qbiz.jp/article/60599/1/ (西日本新聞 2015年4月20日) 「自動車も差し止めできるのか」 和歌山知事、高浜原発仮処分を批判
 和歌山県の仁坂吉伸知事は20日の記者会見で、関西電力高浜原発3、4号機の再稼働差し止めを命じた福井地裁の仮処分決定について「判断がおかしい」と批判した。仁坂氏は、今回の決定を出した樋口英明裁判長が昨年5月、大飯原発3、4号機の再稼働を認めないとの判決を出した際の根拠が生存権だったと指摘した上で「リスクのあるものは全部止めなければならないという考え方。それならば自動車(利用)の差し止め請求もできるのではないか」と述べた。さらに「なんで原発だけ絶対の神様みたいな話になるのか」と主張した。仁坂氏は樋口裁判長について「(原発の)技術について、そんなに知っているはずがない。裁判長はある意味で謙虚でなければならない」とも強調した。仁坂氏は元経済産業省の官僚で、2006年から和歌山県知事を務め、3期目。


PS(2015年4月22、23日追加):鹿児島県・宮崎県は農漁業が盛んであるため、原発で失うものが大きく、*8-1、*8-2の判決は残念だ。そして、この裁判の論点や決定内容の違いを見ると、原発事故の実態に関する見方やそれに対する新規制基準の評価が甘く、*8-3-1、*8-3-2のように、新規制基準をクリアしたから安全とは言えないのに再稼働を許すという新規制基準による新しい安全神話となっている。ただし、福井地裁の裁判官は飛ばされたそうなので、市民や約20年後には意思決定する立場になる志ある高校生、大学生は裁判を傍聴して注視するのがよいと考える。

  
 2015.4.18西日本新聞    2015.4.22日経新聞      2015.4.23西日本新聞

*8-1:http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150422/k10010056571000.html
(NHK 2015年4月22日) 川内原発 再稼働差し止め認めない決定
 鹿児島県にある川内原子力発電所の1号機と2号機について、鹿児島地方裁判所は、再稼働に反対する住民が行った仮処分の申し立てを退ける決定を出しました。先週には福井地方裁判所が高浜原発3号機と4号機の再稼働を認めない仮処分の決定を出していて、国の新しい基準の審査に合格した2か所の原発を巡って、裁判所の判断が分かれました。鹿児島県の川内原発1号機と2号機について、鹿児島県、熊本県、宮崎県の住民12人は、「地震や巨大な噴火で深刻な事故が起きるおそれがある」などとして、裁判所に仮処分を申し立て、再稼働させないよう求めました。これに対して九州電力は、「想定される地震に対して十分な安全性があり、巨大噴火の可能性も極めて低い」などと反論していました。22日、鹿児島地方裁判所は住民の申し立てを退ける決定を出しました。川内原発1号機と2号機は、原子力規制委員会から新しい規制基準に適合していると認められ、九州電力は全国の原発で最も早いことし7月の再稼働を目指しています。原発の再稼働についての仮処分では今月14日、福井地方裁判所が関西電力に対し高浜原発3号機と4号機の再稼働を認めない決定を出しています。新しい基準の審査に合格した川内原発と高浜原発を巡って、裁判所の判断が分かれました。

*8-2:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150422-00050022-yom-soci
(読売新聞 4月22日) 川内原発の再稼働、差し止め認めず…鹿児島地裁
 九州電力川内(せんだい)原子力発電所1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)を巡り、鹿児島、熊本、宮崎3県の12人が再稼働差し止めを求めた仮処分について、鹿児島地裁(前田郁勝裁判長)は22日、12人の申し立てを却下した。14日に福井地裁が出した関西電力高浜原発3、4号機(福井県)の運転差し止めを命じる決定と逆の判断が示された。鹿児島地裁では川内原発の運転差し止め訴訟が審理されており、原告団の一部が昨年5月、「訴訟の判決を待つのでは遅すぎる」と、決定後、すぐに効力が生じる仮処分を申し立てた。仮処分の審尋は4回開かれた。争点は、原発の耐震設計の基本になる基準地震動や、桜島を含む姶良(あいら)カルデラなどの火山対策、避難計画の妥当性など。九電側は「国の安全審査に合格しており、基準地震動の想定や火山対策に問題はない」と主張。申立人側は、「九電の想定は不十分だ」などと反論していた。川内原発は昨年9月、国の安全審査で「合格第1号」となった。地元同意手続きも完了し、今年3月から「使用前検査」が行われている。九電は同原発1号機について、7月の再稼働、8月の営業運転開始を目指している。

*8-3-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150422&ng=DGKKASDG22H4O_S5A420C1EAF000 (日経新聞2015.4.21)規制委の基準「不合理ない」 高浜とは対照的判断
 九州電力川内原子力発電所1、2号機の再稼働の是非が争われた仮処分申請で、鹿児島地裁が運転差し止めを認めなかったのは、原子力規制委員会による専門的な安全審査に「不合理な点はない」と判断したためだ。福井地裁が14日に出した関西電力高浜原発3、4号機の差し止め決定が、規制委の新規制基準を「合理性がない」と切り捨てたのと比べ、対照的な司法判断となった。高浜の差し止めを命じた14日の福井地裁決定は、関電が想定する最大の地震規模について、この10年だけでも他の原発で想定以上の地震が複数回起きていることなどを理由に「信頼性がない」と批判。地震列島の日本で原発が冷却機能を失う危険性は「万が一という領域をはるかに超える切迫した危険だ」として、規制委の新規制基準を「緩やかすぎて合理性がない」と断じた。これに対し、22日の鹿児島地裁決定は、新規制基準について福井地裁とはほぼ正反対の評価を下した。決定は「新規制基準は自然現象の不確実性を相当程度考慮しており、九電も多重防護の考え方に基づく事故対策をしている」と指摘。「原発の安全対策に欠陥があり、事故が避けられない」との原告側主張について「的確な立証はない」と判断した。原発周辺にある姶良カルデラなどの火山は、数万年前には巨大噴火を起こしており、原告側は「多くの学者が噴火時期の予測は困難と指摘しており危険だ」と主張したが、決定は「九電の(火山リスクについての)評価は、火山学の知見に一定程度裏付けられている」として退けた。他の原発では、四国電力の伊方3号機が審査を終え近く合格する見通しになっているほか、九電玄海3、4号機などもほぼ審査が終わっている。原告側は再稼働が近いとみられている原発を中心に、仮処分申請をしていく方針を示している。

*8-3-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150422&ng=DGKKASDG22H4S_S5A420C1EAF000 (日経新聞 2015.4.21) 鹿児島地裁仮処分の決定骨子
○運転差し止めを求める仮処分申請を却下する
○原子力規制委員会の原発の新規制基準に不合理な点はない
○原子炉施設の耐震安全性の評価に不合理な点はない
○九電が行った火山の影響の評価は、火山学の知見により一定程度裏付けられている
○周辺自治体の避難計画などの緊急時対応は一応の合理性、実効性を備えている

| 原発::2015.4~10 | 05:06 PM | comments (x) | trackback (x) |
2015.4.19 メディアが使う「言論の自由」「表現の自由」の方便とそれが民主主義に与える悪影響について ← 古賀氏の発言が非難され、産経新聞の朴槿惠韓国大統領に関する嘘記事が褒められる理由は何なのか? (2015年12月17、18、19日に追加あり)
     
 報道ステーション 菅官房長官見解   韓国での出来事        産経新聞記者

(1)報道ステーションでの古賀氏の発言
1)報道ステーションについて
 「報道ステーション」は、テレビ朝日系列で2004年から平日22時台に生放送されている報道番組で、政治的に内容のあることを、古舘キャスターが少し別の角度から報道するため、他局と比較して参考になっていた。そこで、私も少し前までは時間が許せば見ていたが、この1年くらいは、殺人などの刺激的事件やお天気が時間の大半を占め、また放送時間の1/3くらいが宣伝ではないかと思うくらいの不快な番組構成であるため、他のことを犠牲にして見るほどの番組ではなくなり、「ながら族」として他のこともやりながら見ている。そのため、古賀茂明氏の2015年3月27日の発言は、残念ながら聞いていなかった。

2)古賀茂明氏について
 元経産省キャリア官僚の古賀氏は、ポイントをついた正論の話を明快にされることが多いため、私はいつも面白く話を聞いていたが、*1-1のように、2015年3月27日に放送された「報道ステーション」での古賀氏の発言について、3月30日に古舘キャスターが「古賀さんがニュースと関係ない部分でコメントしたのは残念だ」「テレビ朝日としてはそれを防げなかったことに重ねてお詫びする」と述べた。しかし、実は、私にとっては、そちらの方が異様だった。

 古賀氏は、民主党政権時代、仙谷行政刷新大臣は行政改革を続けさせるつもりでいたが、古川内閣府副大臣や松井内閣官房副長官ら官僚出身議員の進言でこれを断念し、経産省の「経済産業省大臣官房付」に異動させられ、その後、海江田経産大臣と松永経産事務次官等から退職勧奨されて辞表を提出した人だ。そのため、古賀氏への政府からの圧力は、国家公務員制度改革を通じて、民主党政権時代から存在し、自民党政権になってからも同じ理由で存在していると考えるのが自然である。そして、このように、本当の改革をしようとする人は、大変な目に会うものだ。

3)「報道の自由」「表現の自由」から見て、事実に反しているから放送法違反とは言えない
 私は、古賀氏の発言は政治に関する古賀氏個人の見解であり、これまでの経緯から見て虚偽とは言えず、反対の見解があれば議論すればよいため、それこそ「表現の自由」「報道の自由」のジャンルに入るべきもので、*1-2のように、菅官房長官が「放送法がある以上、事実に反する放送をしちゃいけない」と言うのなら、どこが事実に反して違法なのかをきちんと指摘する必要がある(http://lite-ra.com/2015/03/post-986.html 参照)。

(2)産経新聞の朴槿恵大統領に関する嘘記事
1)産経新聞記者の韓国朴槿恵大統領に関する嘘記事
 *2-1のように、2014年8月3日付で「朴槿恵大統領が旅客船沈没当日、行方不明に…誰と会っていた?」と朝鮮日報コラムや証券街情報を引用して、女性大統領が不適切な男女関係に溺れて旅客船沈没当日連絡がつかなかったかのように、産経新聞がそのウェブサイトに載せた事件で、ソウル中央地検は、2014年10月8日、この記者を在宅起訴した。

2)大統領のプライバシーに関する嘘記事は、「表現の自由」の範囲内か
 これに対して、*2-1のように、ソウル駐在の「ソウル外信記者クラブ」が、加藤氏に対する捜査や起訴は「自由な取材の権利を著しく侵害する素地がある」「報道の自由を脅かす」として検事総長あてに公開書簡を発表したりしている。また、日本新聞協会や日本ペンクラブも懸念や憂慮を表明し、「国境なき記者団」(本部・パリ)も起訴しないよう求める見解を発表し、日韓外相会談でも取り上げたそうだ。

 しかし、この大統領のプライバシーに関する嘘記事は、韓国国民や日本人が知らなければならない根拠のある重要な記事ではなく、噂レベルの誹謗中傷にすぎない。このような女性リーダーの権威を失墜させるための質の悪いヘイトスピーチは、民主主義の下では有権者を惑わすだけで公益性もない。そして、その内容はまぎれもないセクハラなのである。そのため、萎縮ではなく、良心に照らして自粛すべきであり、まず記事を撤回すべきは産経新聞社の方だ。

3)帰国した産経新聞記者に、首相が「ご苦労さま」、官房長官が「韓国政府に対して適切に対応すべきだと求めていた」「記者証が発給されたのは当然のことだ」とは、日本政府の良識が疑われる
 *2-2のように、韓国政府が出国禁止措置を解除すると、その産経新聞記者は日本に帰国し、総理官邸で安倍首相が「ご苦労さまでした」と述べ、菅官房長官が記者会見で「加藤前支局長の公判は継続しているので、政府としては、引き続き、さまざまな機会やレベルで韓国側に適切な対応を求めていく」と述べたそうで、何故、セクハラ記事の執筆者にそこまでしなければならないのかわからない。

 また、*2-3では、菅官房長官は「韓国政府に対して適切に対応すべきだと求めていた。記者証が発給されたのは当然のことだ」と述べたとしているが、これは産経新聞記者に日本政府が「よくやった、政府も協力するから」と言っているにほかならない。

 それでは、この産経新聞ウェブサイトは、朴槿恵大統領の権威を失墜させ、大統領に再選されないようにするために、日本政府もつるんでしかけたセクハラ含みの情報戦ということになるのである。

(3)やはりそうだったか・・
 こうして比較して見ると、日本のメディアは、韓国の女性大統領に対するセクハラ表現には「表現の自由」「言論の自由」を叫び、政治に対する異論は封じるというおぞましい倫理観を持っている。これでは、太平洋戦争の反省もなく、レベルの低い情報戦を使って政府に協力しているだけであり、「表現の自由」「言論の自由」などを主張するに足る報道はしていないということだ。

 なお、女性の活躍を掲げている日本政府がセクハラ記事を奨励するようなことも、リーダーとなる女性がこのように不利益を蒙るため、厳に慎んでもらいたい。

<古賀氏発言の全貌>
*1-1:http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/geino/158513/1
(日刊ゲンダイ 2015年4月1日) 古賀氏発言に手をついて謝罪…古舘伊知郎に「報ステ」降板説
 前代未聞の“ナマ口論”は、これで幕引きというわけではなさそうだ。3月27日放送の「報道ステーション」(テレビ朝日)で、元経産省キャリアの古賀茂明氏が生出演中に突如、自身の降板理由について語り始め、キャスターの古舘伊知郎(60)が慌てふためき反論した一件。30日の同番組では古舘が「番組としては古賀さんがニュースと関係ない部分でコメントしたこと。これについては残念だと思っております」「テレビ朝日としてはそれを防げなかったことに、テレビをご覧の皆さまに重ねておわびをしなければならないと思っております」と手をついて頭を下げた。いつもの舌鋒の鋭さはどこへやら。番組では古賀氏が「官房長官はじめ官邸の皆さんからものすごいバッシングを受けた」などと語ったことに対して、菅官房長官が「事実無根」と反論した映像まで放送。古賀氏の発言を徹底的に押し潰した。
■出演料は年間4億円とも
 しかし、「古舘さんが古賀氏を切り捨てた刃は自分自身に向かう」と語るのはテレ朝関係者だ。「かつて反自民を標榜していたテレ朝もいまは完全に牙を抜かれ、安倍政権に屈服状態です。最近では安倍首相とテレビ朝日の早河洋会長は昵懇の間柄。そんな流れの中で何かと口うるさい古賀氏の降板が決まった。が、その前から実はずっと古舘の降板話も局内で議論されているのです。『報ステ』は平均視聴率10~12%台をキープ。大事件や政局が発生すると15%超えも珍しくなく、テレ朝躍進の礎とも評された優等生番組。その一方で指摘されているのが年間4億円ともいわれる古舘の出演料。古舘と一緒に『報ステ』を制作する古舘プロを切れば億単位の制作費を抑制できる。政権に物言う番組は今や局にとっても煙たい存在。テレ朝としては古舘切りは一石二鳥なのです」。古舘にとってはこんな不都合なデータも出回っている。「ある潜在視聴率データによると、『報ステ』は番組平均視聴率が常にフタ桁台を保っているのに古舘は4.3%しかなかった。ちなみに『NEWS ZERO』の村尾信尚は4.9%、『スッキリ!!』の加藤浩次は5.1%。驚いたのは『モーニングバード』の羽鳥慎一が5.9%と断然のトップだったこと。つまり、古舘は唯一無二の存在ではなく、もはや“オワコン”ということです」(編成関係者)。もし口論の場でひよらずに、古賀氏の肩を持っていたら……。古舘は「報ステ」をクビになったとしても歴史に残る名キャスターになっていたはずだが。

*1-2:http://news.livedoor.com/article/detail/9960852/
(日刊ゲンダイ  2015年4月2日) 古賀氏「報ステ」降板の全貌 テレ朝が震えた菅長官の“ひと言”
 官邸から圧力があった――。経産官僚出身の古賀茂明氏(59)から「報道ステーション」降板の舞台裏をバクロされたテレビ朝日が、慌てふためいている。古舘伊知郎(60)の降板説まで浮上。31日記者会見したテレビ朝日の早河洋会長は、「圧力めいたものは一切ない」と官邸からの圧力を否定したが、本当になかったのか。安倍官邸が古賀茂明氏に対して、最初に怒りを爆発させたのは、1月23日の「報道ステーション」だったという。ちょうど「イスラム国」に拘束された後藤健二さんの安否が心配されていた頃だ。コメンテーターとして出演していた古賀茂明氏が安倍政権の外交政策を批判し、「アイ・アム・ノット・安倍」と発言した。番組放送中に官邸サイドから報道局幹部に連絡が入り、その瞬間からテレビ朝日は大混乱に陥ったという。上層部が担当プロデューサーを強く叱責したとの情報が流れ、そのプロデューサーは結局、番組から外されている。テレ朝を震え上がらせたのは、菅義偉官房長官が「オフレコ懇談」で発した一言だったらしい。ネットメディア「リテラ」が、〈菅官房長官が古賀茂明を攻撃していた「オフレコメモ」を入手〉というタイトルで、オフレコ懇談でのやりとりを詳細に伝えている。
Q テレビ朝日ですか?
A どことは言わないけど。
Q 古賀茂明さんですか?
A いや、誰とは言わないけどね。ひどかったよね。放送法がある以上、事実に反する放送をしちゃいけない。本当に頭にきた。俺なら放送法に違反してるって言ってやるところだけど。
■番組プロデューサーも外された
 「テレ朝の上層部は、菅長官が放送法という単語を使ったことに真っ青になったはずです。圧力と受け取った人もいるでしょう」(民放関係者)。古賀茂明氏は3月5日、ツイッターに「4月以降は、篠塚報道局長が出すなと言ったので出られなくなりました」と書き込んでいる。恐らく2月中に、番組スタッフから降板を告げられたのだろう。古賀茂明氏から、「菅官房長官をはじめ官邸の皆さんからバッシングを受けた」と名指しで批判された菅長官は、「まったくの事実無根。放送法があるので、テレビ局がどのような対応を取るかしばらく見守りたい」と圧力を全面否定。菅長官が再び“放送法”を口にしたことで、テレビ朝日は真っ青になっているはずだ。「報道ステーション」では、安倍政権に批判的なコメントをしていたコメンテーターの恵村順一郎・朝日新聞論説委員も降板させられている。もともと安倍官邸は、何かと政権に対して批判的な「報道ステーション」を苦々しく思っていた。担当プロデューサーが番組から外され、安倍政権に批判的な2人のコメンテーターも降板した。これでは「テレビ朝日は官邸に全面降伏した」と視聴者に見られても仕方ない。政治評論家の山口朝雄氏がこう言う。「大手メディアは、安倍政権に対して弱腰過ぎます。昨年、総選挙前に“中立な報道をしろ”と圧力ペーパーを突き付けられた時も、反論ひとつしなかった。最悪なのは、大手メディア全体に“自主規制”が広がっていることです。政権から圧力を受ける前から、政権批判を控えている。民主主義を支えるのはジャーナリズムですよ。メディアが政権を批判しなくなったら終わりです」。古賀茂明氏の降板の裏に何があったのか、テレビ朝日はすべて明らかにすべきだ。

<朴槿恵大統領と産経新聞記事>
*2-1:http://www.huffingtonpost.jp/2014/10/08/sankei-korea_n_5955692.html
(Huffpost Japan 2015年4月18日) 産経前ソウル支局長を在宅起訴 「朴大統領の名誉毀損」
 ソウル中央地検は8日、ウェブサイトに書いた記事で韓国の朴槿恵(パククネ)大統領の名誉を毀損(きそん)したとして、産経新聞の加藤達也・前ソウル支局長(48)を情報通信網法違反の罪で在宅起訴し、発表した。報道をめぐって外国メディアの記者を起訴するのは極めて異例だ。問題となったのは、産経新聞のウェブサイトに8月3日付で掲載された「朴槿恵大統領が旅客船沈没当日、行方不明に…誰と会っていた?」との記事。大統領府秘書室長が国会質疑で、旅客船沈没事故が起きた4月16日の大統領の所在をはっきり答えなかったことを紹介し、韓国紙・朝鮮日報のコラムや証券街の情報を引用しながら、男性と会っていたといううわさがあることを伝えた。ソウル中央地検は、韓国の市民団体の告発を受けて捜査に着手。加藤氏を出国禁止処分にして、3回にわたって事情を聴いていた。同地検は発表で、朴大統領は沈没事故当日に大統領府の敷地内におり、記事は事実と異なっていたとし、根拠もなく女性大統領に不適切な男女関係があるかのように報じて名誉を傷つけたと指摘。加藤氏が当事者らに事実関係を確認せず、信頼できない資料を報道の根拠としており、被害者に謝罪や反省の意思を示していないことなどから、「可罰性が高い」と結論づけた。情報通信網法に基づく名誉毀損罪は最高刑が懲役7年。産経新聞によると、加藤氏は事情聴取に対し、「朴大統領を誹謗(ひぼう)する目的ではない」と主張。事故当日の朴大統領の動静は「日本の読者に対して必要な情報であり、公益性の高いテーマであると考えている」と述べたという。加藤氏の記事をめぐっては、韓国大統領府は産経新聞に対し、民事、刑事上の責任を問う考えを表明していた。
■「自由な取材を侵害」現地の外信記者会
 ソウル駐在の外国メディアの記者らでつくる「ソウル外信記者クラブ」は8日、加藤氏に対する捜査や起訴が「自由な取材の権利を著しく侵害する素地があるという点に深刻な憂慮を表明する」とした検事総長あての公開書簡を発表した。
■異例の記者訴追、韓国に国内外から懸念 産経記事巡り
 産経新聞の前ソウル支局長が8日、韓国の朴槿恵(パククネ)大統領に対する情報通信網法違反で在宅起訴された。同紙のウェブサイトに掲載した記事で朴氏に関する「うわさ」を伝えたとして名誉毀損(きそん)の罪に問うが、「報道の自由を脅かす」との懸念が国内外で出ており、公権力行使のあり方をめぐって批判が高まるのは必至だ。記事は、旅客船沈没事故が起きた4月16日に朴氏の所在が7時間にわたって確認できなくなり、その間に男性に会っていたとのうわさを、韓国紙のコラムや証券街の情報などを基に伝えたものだ。韓国の検察当局は罪に問えると判断したが、産経の記事自体には批判的な韓国メディアの中からも、記者を出頭させて事情聴取し、刑事罰に問うことは、国家権力に対する正当な監視活動を萎縮させる恐れがある、との指摘が出ていた。日本新聞協会や日本ペンクラブは、相次いで懸念や憂慮を表明。国際NGO「国境なき記者団」(本部・パリ)も起訴しないよう求める見解を発表した。ジャーナリズムを専門にする韓国の学者は、韓国の裁判所はこれまで公職者に関する報道について、名誉毀損を免責する範囲を広げる傾向だったと指摘。今回の起訴は「言論の自由を侵害する」として、流れに逆行するものだと批判した。今回の捜査は朴氏の要請ではなく、市民団体の告発に基づくものだ。ただ、韓国大統領府の高官が早い段階で民事、刑事上の責任を追及すると表明していた。法令上は被害者の意思に反しての起訴はできず、朴氏の意向しだいでは起訴されない可能性もあったが、関係者によると、大統領側から明確な意見はなかった。検察当局は大統領府の意向を忖度(そんたく)しながら「大統領のメンツを立てる政治的判断」(韓国の司法関係者)をせざるを得なかったとみられる。背景には、韓国政府に批判的な産経新聞の日ごろの報道への不満もあったとの見方がある。この問題は8月にミャンマーであった日韓外相会談でも取り上げられ、日本側は懸念を表明していた。改善への模索が始まっていた日韓関係にも影響を及ぼしそうだ。
■「報道が萎縮する可能性」
 今回の在宅起訴について、服部孝章・立教大教授(メディア法)は「韓国の政府当局が何を目指して踏み込んだのかが見えない」と疑問を呈し、報道の萎縮を懸念する。「産経側にも少し甘い部分はあったが、記事はネットのみで、名誉毀損(きそん)の実害も明確ではない」といい、影響は産経新聞にとどまらないとみる。日韓関係の溝が深くなっているいま、メディアは相互理解を進めるために、日韓問題について様々な記事を書き、市民に材料を提供して、議論を活性化させていく必要があると、服部教授は指摘する。「だが報道すると処罰される可能性がある状態では、記者が政府の顔色をうかがうなど、取材や報道が萎縮する可能性がある。両国民にとってプラスにはならない。特派員に限らず国内での取材でも同様のことがいえる」。小針進・静岡県立大教授(韓国社会論)は「韓国は民主化で言論の自由を勝ちとったのに、時計の針を戻してしまった。韓国の検察に非難を免れる余地はまったくない」と批判する。
在宅起訴にここまで時間がかかったことから、韓国の検察当局にも迷いはあったと小針教授はみる。「当然、外交問題になることも分かっていたはずだ」。大統領府が起訴を避けるように動かなかったり、韓国メディアが日本メディアを軽視し、本件を批判的に取り上げなかったりしたことも関係しているのではないかと、小針教授はいう。「韓国は韓流で培ってきた国際的なブランドイメージを大きく傷つけてしまった」
韓国内には、検察の判断はやむを得ないとの見方もある。日本での取材経験がある韓国人記者は、韓国の大統領の位置づけを「国家元首であり、日本における首相よりも大きな権力があると受け止められている」といい、「その権威を傷つける私生活の疑惑を報じた産経側に問題がある」とする。一方で、戸惑いも感じているという。「韓国では言論の自由が保障されているはず。裁判まで持っていく必要があったのか」
■産経新聞社「撤回求める」
 産経新聞社の熊坂隆光社長は「強く抗議し、速やかな処分の撤回を求める。民主主義国家が憲法で保障している言論の自由に対する重大かつ明白な侵害で、韓国の国際社会における信用を失墜させる行為だ」との声明を出した。
     ◇
■産経新聞前ソウル支局長のコラムをめぐる動き
7月18日 朝鮮日報が「大統領をめぐるうわさ」と題したコラムを掲載
8月3日 産経新聞がウェブサイトに、問題となったコラムを掲載
  7日 大統領府が「厳しく強力に対処する」と言明。地検は前支局長を出国禁止処分に。処分はその後10月15日まで延長
  8日 地検が前支局長に出頭を求める
  18日 前支局長が地検に出頭。その後も聴取が続く
  29日 日本新聞協会が「取材の自由が脅かされる」との談話
9月8日 国際NGO「国境なき記者団」が不起訴を求める見解
  16日 日本ペンクラブが「言論の自由を事実上制限」と韓国政府批判
  30日 前支局長側が出国禁止処分の解除を求める文書を地検に提出
10月1日 産経が前支局長を東京本社に異動させる人事を発令

*2-2:http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150415/k10010049051000.html
(NHK 2015年4月15日) 帰国の産経新聞前支局長が首相と面会
 韓国政府による出国禁止措置の解除を受けて、14日帰国した、産経新聞の加藤達也前ソウル支局長が、総理大臣官邸を訪れて安倍総理大臣と面会し、これまでの政府の対応に謝意を伝えました。韓国政府が、パク・クネ(朴槿恵)大統領の名誉を傷つけたとして、裁判が進められている、産経新聞の加藤達也前ソウル支局長は、出国を禁止する措置が解除されたことを受けて、14日帰国しました。加藤前支局長は15日午前、総理大臣官邸を訪れて安倍総理大臣と面会し、出国禁止措置を受けていた間の状況などを説明するとともに、これまでの政府の対応に謝意を伝えました。加藤前支局長によりますと、安倍総理大臣は、健康状態や家族の様子などを尋ねたうえで、「ご苦労さまでした。まだ裁判が続くようなので、これからも体に気をつけてください」と述べたということです。面会のあと、加藤前支局長は記者団に対し、「さまざまな発信を、韓国に対し、あるいは国際社会に対して行っていただき、私を励ましていただいたことにお礼を申し上げた」と述べました。また、菅官房長官は午前の記者会見で、「加藤前支局長の公判は継続しているので、政府としては、引き続き、さまざまな機会やレベルで韓国側に適切な対応を求めていきたい」と述べました。

*2-3:http://www.sankei.com/politics/news/150416/plt1504160011-n1.html
(産経新聞 2015.4.16) 菅官房長官「当然のことだ」 産経新聞ソウル支局長記者証発給に
 菅義偉(すが・よしひで)官房長官は16日午前の記者会見で、韓国在住の外国メディア記者の取材活動に必要な「外信(外国メディア)記者証」が産経新聞の藤本欣也ソウル支局長に、韓国政府への申請から約7カ月たって発給されたことに関し「韓国政府に対して適切に対応すべきだと求めていた。記者証が発給されたのは当然のことだ」と述べた。


PS(2015年12月17日追加):日本から言われたのか韓国外務省が「日韓関係に配慮すべき」と証言し、*3のように、産経新聞の加藤前ソウル支局長が無罪になったそうだが、人を貶めるようなプライバシーに関する記事を虚偽であるにもかかわらず書きたて、「誹謗中傷の目的はない」「言論の自由だ」などという主張が通るようでは、日本を含む東アジアは、やはり人権にも民主主義にも疎い国々だと考える。そして、これは、公人である大統領であれば、なおさら政治的意図があると考えられ、私は、虚偽の噂を確認もせずに拡大して流したのが故意でないとすれば正当な注意に欠けるし、慰安婦問題で意見の異なる朴大統領を誹謗中傷する政治的目的があったと考える方が全体から見て自然だと考える。なお、メディアなら何を書いても「言論の自由」「表現の自由」などと言うのは、レベルの低すぎる間違いだ。

*3:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/260688
(佐賀新聞 2015年12月17日) 産経前支局長に無罪、韓国地裁、「誹謗目的なし」と判断
 韓国の朴槿恵大統領の男女関係に絡むうわさを紹介した記事で、朴氏らの名誉を毀損したとして在宅起訴された産経新聞の加藤達也前ソウル支局長(49)に対し、ソウル中央地裁は17日、無罪判決を言い渡した。同地裁は「記事に(朴氏を)誹謗する目的は認められない」と判断した。検察側は「うわさを虚偽と認識して記事を書き、大統領を誹謗する目的だった」として懲役1年6月を求刑。加藤氏は「大統領の動静は日本でも関心事。うわさが流れた事実を伝えるべきだと考えた」と、名誉毀損の意図はないと無罪を主張していた。


PS(2015年12月18日追加):*4を含む全体像から見て、日本政府にとって都合の悪い朴政権のレームダック化を早めるため、産経新聞の記者が日本政府に協力して朴槿恵大統領の虚偽の噂を掲載したことは明らかで、「誹謗中傷の意図がない」とするのは真っ赤な嘘だろう。何故なら、そうでなければ日本政府が援護する理由がないからだ。また、このようなプライバシーに関する虚偽記事で政治家等の“公人”とされる人を叩くのは、民主主義を護る行動にはならないため、対象が“公人”なら虚偽記事で貶めても「言論の自由」「表現の自由」の範囲だとするメディアは、自らに都合よく規範を緩めている。
 なお、日本の裁判所は、私の週刊文春虚偽記事事件に関する民事訴訟で、対象が国会議員(“公人”)であっても一般人と同じく名誉棄損や侮辱罪を認め、「言論の自由」「表現の自由」は「人権侵害」に優先するものではないとした。また、このような違法行為に関して、相手が公人か私人かで判断を分けるのは、法の下の平等を定めた日本国憲法に反する。そして、私は、女性が不当に蔑まれることなく気持ちよく活躍できる社会を創るため、このような女性蔑視を利用した追い落としのための虚偽の噂の流布を決して許さないが、これは、小学生の頃(50年以上前)から持っている私の信念だ。

*4:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12122392.html
(朝日新聞 2015年12月18日) (時時刻刻)日韓、無罪の力学 産経前ソウル支局長無罪
 報道の自由か、名誉毀損(きそん)か――。朴槿恵(パククネ)大統領にまつわる「うわさ」を載せた産経新聞ウェブサイトの記事をめぐる裁判で、韓国の裁判所は無罪を言い渡した。判決直前、韓国外交省は裁判所に異例の「配慮」を求めた。停滞する日韓の外交交渉に弾みはつくのか。
■裁判長が外交省要請読み上げ、ざわつく法廷
 ソウル中央地裁の傍聴席は100人を超える報道関係者らで埋め尽くされた。韓国の法曹界の大方の見方は「有罪」だった。午後2時前、裁判長と裁判官2人が法廷に入った。裁判長は判決の言い渡しを始める前、外交省から検察側を通じて、裁判所に提出された文書を読み上げた。行政府である外交当局が司法府である裁判所に要請をするのは極めて異例だ。傍聴席がざわついた。加藤達也前ソウル支局長は立ったまま判決の読み上げを聞き続けた。「無罪」。傍聴席が再びざわついた。加藤氏が問題の記事を書いたのは昨年8月。その後、出国も禁じられ、昨年10月に起訴された。出国禁止は今年4月まで続いた。一方、「事件の被害者」になった朴大統領は問題の記事について公の場で語ることはなく、沈黙を守り続けた。韓国外交省は「司法の問題」とかわし続けたものの、「検察が起訴しなければ良かった」と漏らした政府関係者もいた。韓国外交省当局者は異例の要請について、文書は韓国法務省に出したことを明らかにした。法務省から検察当局、裁判所に渡ったことになる。当局者は「韓日関係を担当する機関として、日本側からの要請を法務省に伝えるのは業務の一部だ」と説明した。韓国メディアの聯合ニュースは「今回の判決は、両国関係改善を妨げる悪材料の一つを取り除いた」と指摘。中央日報電子版も「両国は関係改善のモメンタム(機運)に至ることができる」と評価した。一方、メディア専門紙「メディア・オヌル」は「加藤前支局長を『言論の自由の闘士』に作り上げ、喜劇に終わった」と批判。「韓国検察は無理な政治的起訴という批判を避けられないだろう」と指摘した。
■「虚偽と認識」認定
 今回の判決について、韓国のメディア専門家は「前支局長が報道で取り上げた疑惑は誤った事実ということを再確認する一方、言論の自由という憲法的価値は守る絶妙なバランスを取った」と述べた。記事を書いた加藤氏は情報通信網法違反(名誉毀損)の罪に問われた。判決は、記事全体をみると「うわさ」が事実かのように暗示しているとした。一方で、その内容は元側近の男性の証言や携帯電話の記録などから「虚偽」と判断し、それを加藤氏も認識していたとした。判決の焦点は朴大統領の名誉を傷つける目的があったのかだった。判決は「大統領」と「私人」という二つの立場を分け、大統領としての朴氏への名誉毀損の罪は認めず、「私人」について名誉を傷つけたことは認めた。ただ、記事は「朴政権のレームダック(死に体)化は、着実に進んでいるようだ」などとしていることから、韓国の政治状況を伝えるのが目的だと判断。「私人」としての朴氏の名誉を傷つけようとしたとみるのは難しいとした。韓国の法曹関係者は「起訴だけではなく、名誉を傷つける意図の立証に無理があった」と指摘した。判決は加藤氏が過去に書いた記事についても触れ、「韓国の国民としては簡単に受け入れるのが難しい」とした。また、元側近の男性を実名で書いたことについては「軽率」と指摘した。
■日本、関係改善に期待感 「慰安婦で譲歩要求」警戒も
 「無罪判決が出たことを評価する。日韓関係に前向きな影響が出てくることを期待したい」。無罪判決を受け、安倍晋三首相は17日夕、首相官邸で記者団にこう語った。岸田文雄外相も「慰安婦問題は協議を加速するよう指示が出ている。引き続き議論を行う」と述べ、交渉に弾みがつくことに期待感を示した。こうした評価が相次ぐ背景には、韓国外交省が日本側の主張に配慮するよう裁判所に求めたことで、今回の無罪判決が日韓関係改善に向けた韓国側からの政治的メッセージと受け止められていることがある。公明党の山口那津男代表は17日、朝日新聞の取材に「韓国側の外交的配慮もあり、妥当な結論になった」と評価。日韓議員連盟幹事長の河村建夫元官房長官も「いろんな角度から考えて判断されたと思う」と語った。韓国政府当局者も「(韓日関係にとって)無罪で良かったではないか」と語り、外交省の措置が、日韓関係改善を望む朴大統領の考えを受けたものだったことを示唆した。加藤氏の裁判の問題は、日韓関係にとって重荷になってきた。日韓両政府によれば、11月2日の日韓首脳会談の際の少人数会合でもこの問題が取り上げられた。安倍首相は強い懸念を表明。朴大統領は事件の背景も含めて刑事裁判の必要性を説明した。判決前、日本政府高官の一人は「無罪にしろと迫りたいが、内政干渉と受け取られかねない。良い判決を期待する、が精いっぱいだ」と漏らした。日本政府内には「有罪だったら日韓関係はしばらく相当冷え込んだはずだ」(閣僚の一人)と懸念する声も多かっただけに、日韓関係の改善の動きが加速することに期待感が高まる。一方、ボールが日本側に投げられたとする見方もある。日韓関係は現在、長く懸案となってきた慰安婦問題の「早期妥結」をめざし、両首脳の政治決断が重要な局面に入っている。日本政府内には「無罪判決を受け、韓国側が慰安婦問題でより踏み込んだ譲歩を求めてくる可能性がある」と警戒する声もある。別の韓国政府当局者は「この裁判結果で、産経新聞の報道内容が虚偽だという点が明白になった。この問題で生まれた負担が今回の判決で取り除かれ、韓日関係改善の契機になることを期待する」と語った。
■裁判所に敬意
 産経新聞社の熊坂隆光社長の声明要旨 韓国が憲法で保障する「言論の自由の保護内」と判断した裁判所に敬意を表する。内外報道機関や日本政府、日韓関係者らが強く懸念を表明していただいた。こうした支援の結果が無罪判決につながり、感謝申し上げる。裁判が長きにわたり、日韓の大きな外交問題となったことはわれわれの決して望むところではなく、誠に遺憾である。コラムに大統領を誹謗(ひぼう)中傷する意図はなく、国家的災難時の国家元首の行動をめぐる報道・論評は公益にかなう。
■無罪判決は当然
 日本新聞協会編集委員会の声明 報道機関の取材・報道の自由、表現の自由は民主主義社会の根幹をなす原則であり、無罪判決は当然である。われわれはこの問題について、自由な取材・報道活動が脅かされることのないよう引き続き注視していく。
■<考論>「司法へ政治介入」懸念残す
 上智大の田島泰彦教授(メディア法)の話 無罪としたのは妥当な判決。朴大統領を中傷する目的だったのかが争われ、検察側は男女のスキャンダルに重きを置いた報道と問題視した。しかし、コラム全体で指摘しているのは、沈没事故の当日の最高権力者の行動の不透明さで、コラムに公益性があることは判決でも認められた。権力側が刑罰を振りかざして、報道を抑圧するのは許されず、無罪としたのは評価できる。ただ、外交関係に配慮を求める韓国外交省の裁判所への要請は、「司法への政治介入」と受け取られかねず、問題ではないか。
■<考論>記者を起訴、異常だった
 元共同通信ソウル特派員でジャーナリストの青木理さんの話 韓国大統領は国家元首で、複雑な日韓関係を踏まえれば、日本側にもそれなりの礼節が求められる。そうした意味で加藤前支局長の記事は全く評価しない。だが、その点を差し引いても、「公人中の公人」の大統領は徹底的に論評される対象で、あの程度の記事で記者を起訴するのは異常だ。今回の起訴も朴大統領の意向をくんでなされたことだろう。無罪にはなったが、言論の自由に不安が残る国という印象は残った。裁判は韓国には全くメリットがなかった。
■<考論>表現の自由、反映の証拠
 韓国高麗大法学専門大学院の朴景信教授(法律論)の話 判決内容は、国際的な人権と表現の自由が、韓国の法律に十分反映されている証拠だと思う。多くの人々が関心を寄せる事件については、人々が抱いている疑惑を報道しても問題はないと認定した、意味のある判決だと言えそうだ。有罪になれば、歴史的な人権侵害の事例として取り上げられることは明白だ。国際的に見た場合、当然無罪になるべきで、法的にも妥当な論理だと思う。
◆キーワード
 <韓国情報通信網法> インターネットを使った不正行為を規制する。前支局長に適用された条文では、人を誹謗(ひぼう)する目的で公然と虚偽の事実を明らかにし、他人の名誉を傷つけた場合、7年以下の懲役または5千万ウォン(約510万円)以下の罰金などと定められている。
■問題となった記事
 ◇「朴槿恵大統領が旅客船沈没当日、行方不明に…誰と会っていた?」(要旨)
 旅客船事故当日の4月16日、朴大統領が7時間にわたって所在不明となっていたとする「ファクト」が飛び出し、政権の混迷ぶりが際立つ事態となっている。7月7日の国会運営委員会に、大統領府秘書室長の姿があった。政府が国会で大惨事当日の大統領の所在や行動を尋ねられて答えられないとは…。韓国の権力中枢とはかくも不透明なのか。こうしたことに対する不満は、あるウワサの拡散へとつながっていった。朝鮮日報の記者コラムである。「大統領をめぐるウワサ」と題され、7月18日に掲載された。証券街の関係筋によれば、それは朴大統領と男性の関係に関するものだ。ウワサの真偽の追及は現在途上だが、コラムは背景を分析している。「大統領個人への信頼が崩れ、あらゆるウワサが出てきているのである」。朴政権のレームダック(死に体)化は、着実に進んでいるようだ。
 (2014年8月3日に産経新聞ウェブサイトに掲載)
■これまでの経緯
【2014年】
 <4月16日> 旅客船セウォル号沈没事故が発生
 <8月3日> 産経新聞ウェブサイトに、問題となった加藤達也前ソウル支局長の記事が掲載される
 <7日> 大統領府広報首席秘書官が民事・刑事上の責任を問う方針を示す
 <〃> 加藤氏が出国禁止に
 <10月8日> ソウル中央地検が加藤氏を在宅起訴
 <15日> 日本新聞協会主催の新聞大会で「起訴は言論の自由を侵害」しているとして撤回を求める決議を採択
 <11月27日> 初公判。加藤氏が乗った車に韓国の保守団体メンバーが卵を投げる
【2015年】
 <4月7日> 産経新聞紙上で加藤氏が「『噂(うわさ)は虚偽』に異論はない」と題した手記を公表
 <14日> 出国禁止措置が解除される。翌日、加藤氏が安倍晋三首相と面会し、慰労される
 <10月19日> 検察側が懲役1年6カ月を求刑
 <11月2日> 日韓首脳会談で安倍首相が加藤氏の問題を取り上げる


PS(2015年12月19日追加):*5のように、朴大統領が旅客船沈没事故の当日、元側近の男性と会っていたという噂があるのは、噂をした人の女性蔑視に由来しており、朴大統領のせいではない可能性が高い(私も、「梨下に冠を正さず」にしていても、仕事で男性と協力する場合は多く、想像で変なことを言われることにより、仕事をやりにくくされたことも少なからずあった)。このような場合、相手とされた元側近の男性やその夫人も被害者であり、元側近は女性リーダーへの協力に懲りることとなる。その意味でも、朴大統領は被害者なのだ。それらのことを考慮できずに、このような低レベルの虚偽記事を書いて「言論の自由」などと主張していれば、メディアの人材の質が悪いという結論になる。そもそも、「言論の自由」とは、戦争に突っ走る権力に抵抗して「この戦争は間違いだ」と主張し、官憲に追いまわされるように、真実を言うのに命やクビをかけざるを得ない人のために、日本国憲法で保障されたものなのだ。

*5:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20151219&ng=DGKKZO95333970Z11C15A2EA1000 (日経新聞社説 2015.12.19) 韓国の言論の自由に疑念残る
 日韓の関係改善を妨げる障害がひとつ取り除かれたことは歓迎するが、韓国の言論の自由への疑念が払拭されたわけではない。朴槿恵(パク・クネ)大統領の名誉を傷つける記事を書いたとして在宅起訴された産経新聞の前ソウル支局長の判決公判で、ソウル中央地裁が無罪判決を言い渡した。問題となった記事は、朴大統領が昨春の旅客船沈没事故の当日、元側近の男性と会っていたとのうわさに言及したもの。昨年8月に同紙のウェブサイトに掲載され、韓国の市民団体が刑事告発した。検察当局は名誉毀損罪で前支局長を在宅起訴し、裁判では懲役1年6月を求刑していた。地裁は今回、無罪判決の理由として「公人である大統領を中傷する目的だったとみるのは難しい」「記事内容に不適切な面はあるものの、言論の自由の領域内に含まれる」などの点を挙げた。その判断はおおむね妥当だろう。日韓関係をぎくしゃくさせたこの問題は今回の無罪判決で決着するとみられるが、一連の経緯には苦言を呈さざるを得ない。まずは韓国検察の対応だ。確かに、さしたる根拠もなく風聞に基づいた記事に問題がないわけではないが、報道を対象に刑事責任を追及するやり方は度を越した。次に、朴大統領のイニシアチブの問題だ。「被害者」の大統領が当初から寛容な姿勢を明示していれば、前支局長は起訴されず、日韓を揺るがす問題に発展することもなかっただろう。さらに、司法の独立性の面でもいぶかしさが残った。地裁は公判の冒頭で、大局的に善処すべきだと主張する日本への配慮を求めた韓国外務省の要望書を読み上げる異例の一幕があったからだ。今回の騒動で、韓国が言論の自由を制限する国との疑心を生んだことは否定しがたい。同国では最近、旧日本軍の従軍慰安婦問題を論じた「帝国の慰安婦」の著者、朴裕河(パク・ユハ)世宗大学教授も名誉毀損罪で在宅起訴されている。改めて憂慮を禁じ得ない。

| 報道の問題点::2012.11~ | 04:57 PM | comments (x) | trackback (x) |
2015.4.14 農政について ← 「実現性がないから目標を下げる」「検証できない曖昧なことを目標にする」という発想は、科学的ではなく無責任である。 (2015.4.14に追加あり)
     
主な国の食料自給率推移 先進国の食料自給率比較      世界の人口推移

      
    日本の人口推移        カロリーベース    カロリーベースと生産額ベース
                       の食料自給率        の食料自給率
(1)農協改革の経過とその妥当性
1)農協監査について
①会計監査
 *1-1に書かれているように、農協監査は、これまでJA全中の監査部門であるJA全国監査機構が行っていたのを、会計監査に関しては公認会計士監査を義務付け、JA全国監査機構を外出しして新設される監査法人と、一般監査法人から農協が選ぶ「選択制」に変更するそうだ。そして、信用事業を行う貯金量200億円以上の農協等については、信金・信組等と同様、公認会計士による会計監査を義務付けることになったとのことである。

 ここまでの問題点は、貯金量200億円未満の地域農協は、監査を受けずに破綻して預金者に迷惑をかけるものが出やすくなり、その農協に預金している農業者や地域住民が保護されないということだ。そのため、信用事業を行う地域農協は、農協自体もしくは信用事業を合併して一定規模以上とし、必ず会計監査を受けるようにすべきだ。私は、気候や作物の似た農協が合併し、集めた預金はその地域で貸し付けを行うのが、営農方法や信用供与に関するノウハウが蓄積しやすいため、地域振興にもプラスになるのではないかと考えている。

 *1-1に、「外出しした監査法人は、会計監査チームと業務監査チームを分ければ、監査法人内で同一の農協に対し、会計監査と業務監査(コンサル)の両方を行うことが可能」とされているが、これは、監査法人では禁止されている。何故なら、業務監査をコンサルと解釈しているのであれば、コンサルティングチームと監査チームが同一組織に属していれば、コンサルの結果が監査意見に影響を与えるため、独立性のある監査ができないからである。しかし、そもそも業務監査はコンサルではなく業務に関する監査であるため、農協内部にいて毎回理事会に出席したり、いつでも内部統制をチェックできたりする立場にいなければできず、それを外部監査人が行うのは困難なのである。

 このように、監査は、組織の維持運営を公明正大かつ適切に行うためのツールであるため、「(監査を受けると損だから)現在の農協監査はイコールフッティングではない」といった消極的な批判は当たらず、(細かく理由は書ききれないが)優秀な監査や正確な会計に基づくコンサルティングを受けるのは、国内だけでなく海外展開するのにも有意義であり、この改正の良し悪しは使い方によるのである。

 例えば、ビッグ4などの監査を受けていれば、ビッグ4は、オーストラリア・ニュージーランド、南北アメリカ、ヨーロッパ、アジアなどでも長く監査を行い、豊富な事例と均質な横のネットワークを持っているため、世界のBest Practiceを集めて今後の改善に資するアドバイスを行うことができる。また、地域で開業している公認会計士の監査を受ければ、地域の事情に詳しく、地域愛がある上、ビッグ4と比較して安価であろう。そのため、農業所得や農家所得を向上させるためには、各種の監査法人やビッグ4系列のコンサルティング会社、マッキンゼー、ボストン、アクセンチュアなどのコンサルティング専門会社を、農協の負担が増えないというだけではなく、攻めの目的で使いこなすのがよい。

 上のような事情から、私は、農協以外の監査はできないが農協の業務監査に慣れている農協監査士やこれまでJA全国監査機構に所属していた公認会計士の一部は、農業協同組合中央会の中に内部監査部を作って残り、農協が正確で適法な経理や運営を行うことは担保した上で、その上のステップの外部監査やコンサルティングを安く受けられるようにするのがよいと考える。

②業務監査
 *1-1は、「業務監査はコンサルと看做す」としているが、上に記載した通り、業務監査は業務の妥当性や適法性を監査するものでコンサルではないため、業務監査は、業務監査担当理事を責任者として、内部監査部門が行うのが適切であり、それ自体が重要な役割を果たすものである。

 そして、農協の販売力の強化、6次産業化、輸出拡大などを図るためには、必要に応じてビッグ4系列のコンサルティング会社やマッキンゼー、ボストンなどのプロフェッショナル集団を、もちろん農協の自由意思で使いこなすことが望まれる。

2)中央会について
①全国中央会
 *1-2によれば、「全国中央会は、2019年3月31日までに一般社団法人に移行し、“農業協同組合中央会”と称し、会員の意思の代表、会員相互間の総合調整などを行う」とされているが、これまでも組合の主は組合員であるため、そういう組織だったのである。むしろ、株式会社にすれば、主は株主であるため、組合員はさておき株主利益のために行動する会社となるのだ。

②都道府県中央会
 i)新組織は、会員の要請を踏まえた経営相談・監査、会員の意思の代表、会員相互間の総合
  調整を行うとされているが、これは前からそれに近いため、改革の理由にはならない。
 ii)2019年3月31日までの間に農業協同組合連合会に移行し、移行した農業協同組合連合会
  は、「農業協同組合中央会」と称することができるので、これまでの全国中央会は、農業協同
  組合中央会の東京本部になればよいと考える。
 iii)都道府県中央会から移行した農業協同組合連合会が、会員の要請を踏まえた監査の事業
  を行う場合は、農水省令で定める資格を有する者を当該事業に従事させなければならない
  こととするというのは、意味不明だ。

3)准組合員の利用規制について
 組織の構成員を誰にするかは、その組織の都合で自由に決めるべきことである。そのため、銀行など他の組織のために農協の「准組合員の利用量規制」をするなど、成長を妨げる悪い規制の典型である。そのため、准組合員の利用量規制などはすべきではない。

4)その他
 このような状況であるため、*1-2のように、佐賀県内の農業関係者に、「全中は、なぜ妥協して農協改革案を容認したのか」という戸惑いが広がったのは理解できるが、監査に関しては、JA全国監査機構による監査が例外的な監査であり、監査導入初期に妥協して入れられたものであることから、監査法人監査に移行して、(1)1)のようにプロフェッショナルを活用すれば、農業が成長産業化して、農業所得や農家所得が増えると私も考える。

 しかし、(1)2)の中央会廃止や(1)3)の准組合員利用規制に関しては、私的組合の経営に口を出し、マイナスの効果の方が大きいため、上のような解決をするのがよいと思う。(申し訳ないが)東北や北陸は知らないが、私が衆議院議員をしていた佐賀県は、唐津・伊万里をはじめ全県を挙げて、農畜産物のブランド化や生産コストの削減に努めてきたため、周回遅れの“改革のための改革”を行ったり、農協を”改革イメージのためのスケープゴート”にされたりするのは迷惑なのである。また、農協の専門性・情報収集力・組織力があれば、国が意見を聞くのはよりよい方法であるため、国が農協の意見を聞くのは、どのような形であれ重要だ。

 従って、*1-3に書かれている“農協法改正案”に対する野党の修正は、「農業所得の増大だけでなく、農家所得の増大にも配慮しながら農業の成長産業化を行う」「これまでの中央会は都道府県中央会と合併して内部監査部門を持つ」「私的組合であるJAの理事構成に口を出させない」「どこであれ株式会社化を強制しない」「准組合員など私的組合の構成員に規制を設けない」などが必要である。

 なお、維新の党は株式会社しか知らないのか、農協の株式会社化にこだわっているが、農協を株式会社化すれば、農家の所得が増え、農業の成長産業化が進む理由は説明できない筈である。

(2)萬歳会長の辞任について
 このような中、*2-1のように、JA全中の萬歳章会長が4月9日、農協法改正案の閣議決定を節目に、今後のJAグループの自己改革や新しい全中づくりを新体制で進めるのが適切と判断して、全中会長を辞任したそうだ。萬歳会長はJA新潟みらい会長やJA新潟中央会会長などを務めた方で、環太平洋連携協定(TPP)交渉や米の生産調整の見直しなどの農政課題に当たってきた。

 そして、*2-2のように、農業所得の増大、組合員の所得向上、地域農業の活性化、地域活性化に向けて、10月に開かれるJA全国大会に向けた議案作りが始まっており、後任の会長に自己改革の実現を託したそうだ。上のグラフのように、グローバルでは急激な人口増加が進む中で、農業はますます重要な産業となっていくため、妥協することなく食料自給率や農産品輸出額を上げてもらいたい。

 一方、*2-3のように、日経新聞は、「圧力団体、農協の終焉」と報道している。そして、その理由を、「①全中の行動原理の根に、日本は食料難で規模の小さい農家がたくさんいるという終戦直後の農業構造を掲げている」「②食料供給を錦の御旗に掲げて組合員の数の力をバックに政治に圧力をかけてきた」「③最近ではTPPへの反対運動がその象徴だ」「④輸入農産物の増加も重なって食品価格が低迷した」「⑤経営環境の悪化を受け、意欲のある農家は規模を拡大し、法人化して農協から離れていった」「⑥古い圧力団体の体質を改め、真に農業に貢献できる組織になれるか。周囲の見方を変えるには全中自らの変革力が問われる」などとしている。

 しかし、1994年に食管法が廃止され、私が知っている農協はとうに①を卒業しているため、①は20年遅れの状況把握だ。また、②の食料供給はグローバルでは人口増加が進み、新興国も工業化している中、*4-2にも触れられているように大切なことである。さらに③は、私がこのブログの環太平洋連携協定(TPP)のカテゴリーでずっと述べてきたとおり、農業だけではなく日本の主権の問題であり、国民生活や農業をスケープゴートに差し出して拙い外交・防衛政策をカバーするのは、日本国憲法に照らしてもうやめるべき時だ。そして、④については、日本の農業は高品質化とブランド化で乗り切り、現在では(既に海外移転済の)製造業よりも輸出増が見込まれる。また、⑤についても、法人化して農協から離れてやれる人は既にやっており、食品会社で農業に参入している企業も多いため、20年遅れの現状認識だ。最後に、⑥に至っては、事実を踏まえない人が誹謗中傷するための念仏のような常套句で、これが今回の農協改革の本心であるため、強く対処しなければならない。

(3)TPPについて
 TPPがよいことであるかのように書いている新聞があるため、*3の「TPP交渉 何だったのか国会決議」という記事を紹介しておく。私も、余って困っている米を輸入拡大する必要はなく、国内産の米も転作すべきだと考える。これが、国民から選ばれた国会議員の多数派の意見であり、農業の崩壊は地方創生にも食料自給率にも逆行して、一般市民のためにも国益にもならない。「これを機会に何かが起こるだろう」などという超楽観論があるが、そのような無責任な態度で政策を作るべきではないのだ。

(4)食料自給率と食料自給力の違い及び目標変更の意味について
1)食料自給率とは
 食料自給率とは、国内で消費される食料のうち、国内産で賄われている割合で、以下の種類があるが(ウィキペディア Wikipediaより)、私は、太平洋戦争中ではあるまいし、栄養状態を良好に保てるイ)が必要だと考えている。
イ)品目別自給率:個別の品目毎の自給率で、品目の重量を使用
 国内の生産量(重量ベース)÷国内の消費量(重量ベース)
ロ)総合食料自給率:個別の品目毎ではなく、国の総合的な自給率で、2種類がある
 i)カロリーベースの食料自給率
   国民1人1日当たりの国内生産カロリー÷国民1人1日当たりの供給カロリー
   *供給カロリー=国産供給カロリー+輸入供給カロリー+ロス廃棄カロリー
 ii)生産額ベースの食料自給率
   国内の食料総生産額÷国内で消費する食料の総生産額
   *「生産額=価格×生産量」で品目毎の生産額を算出して合計し、一国の食料生産額を求める。

 しかし、これまでは、カロリーベースの食料自給率しか目標にしておらず、それでも疑問を感じなかったのは、為政者が栄養学について基礎知識もない男性ばかりで「腹いっぱいにさえなればいい」という発想だったからだ。また、「日本は生産額ベースの食料自給率は高い」とも言われるが、それは食料価格が高いからにすぎず、生産額ベースの食料自給率は、健康に生きていけるだけの食料生産を保障する指標ではない。

2)食料自給力とは
 *4-1、*4-2、*4-3に書かれている食料自給力は、「今ある農地などをすべて活用したときの潜在的な生産能力である」と新たに示す食料・農業・農村基本計画に定義するのだそうだ。

 しかし、生産要素は、農地だけではなく、労働力、種子、肥料、機械、資金など多岐にわたり、そのうちのボトルネックになるものが生産量を決めるため、普段から生産していないものを生産しようとしても予定(空想)どおりに生産することなどできない。そのため、食料自給力とは、生産の仕組みを考えない人が、机上で創造した空想上の生産力にすぎないのである。

3)食料自給率から食料自給力への目標変更の意味
 これらの農政変更を行う結果、*4-1、*4-2に書かれているように、農水省が、今後10年の長期指針である「食料・農業・農村基本計画」の見直しに向けた骨子案を示し、世界的な食料不足などの緊急事態に対応できるようにするために、国内農業の潜在的な生産能力を示す指標「食料自給力」を新たにつくる方針を明記しなければならないほど、日本の食料自給率は下がるのである。しかし、これは、(4)2)に記載したとおり、食料安全保障上、慰めにもならない空想上の生産力にすぎない。

 食料安全保障上は、まず国民が健康で豊かに過ごせる品目別自給率100%を目指し、輸出や生産の都合でそうならない場所を正確に把握して、どういう形で代替するのかを一つ一つ検討すべきなのである。本当の食料政策は、そういう具体的な過程を経てのみ作れる筈だ。

 なお、*4-3には、人口減少と高齢化で市場縮小と記載されているが、国民が必要とする食料は農地や生産基盤だけで作れるものではないため、日本及び地球の適正人口も考えなければならないことを、上のグラフを参考に重ねて述べておきたい。

<“農協改革”の経過>
*1-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=32008
(日本農業新聞 2015/2/10) 政府・自民党とJAグループ
 政府・自民党とJA全中は9日、通常国会に関連法案を提出する農協改革の骨格について合意した。公明党も大筋で了承した。単位JAへの監査について、公認会計士による会計監査を義務付け、JA全中の監査部門(JA全国監査機構)を分離して新設する監査法人と、一般の監査法人から選ぶ「選択制」に変更するのが柱。一方、分離後の全中は2019年3月末までに一般社団法人に移行するが、農協法上の付則で代表・総合調整機能などを担うと位置付ける。JAグループの大きな転換点となる。規制改革会議が求めていた准組合員の利用量規制は見送るなど、与党農林幹部による調整で急進的な改革案を一定程度押し戻し、JAグループ側とも歩み寄った。ただ組織変更が焦点となった改革が、政府が目的とする農家所得の向上にどう結びつくのか、農村社会にどのような影響をもたらすのかは不透明さも残す。具体的な法案の策定や国会審議の中で丁寧な説明が求められる。自民党農林幹部が8日に全中の萬歳章会長と会談するなど最終調整。9日に同党農協改革等法案検討プロジェクトチーム(PT、吉川貴盛座長)の会合を開き、改革の骨格を決めた。准組合員の利用量規制の見送りや監査法人への移行の際の配慮など、JAグループの要望が一部取り入れられたことを踏まえ、全中も同日、役員会を開いて受け入れを決めた。今後、自民党と公明党との協議を経て、政府は関連法案を3月中にも提出する見通しだ。改革の骨格では、信用金庫や信用組合などと同条件としてJA批判を避けるため、貯金量200億円以上のJAに公認会計士による会計監査を義務付ける。全中は全国監査機構を分離し、公認会計士法に基づく監査法人を新設。現在は全中の監査が義務付けられている単位JAが、この監査法人か一般の監査法人かを選ぶ「選択制」とする。業務監査はコンサルとみなし、JAが必要に応じて受けるかどうかを判断する。ただ新たな監査法人は、担当者を分けることなどで、同じJAに対して会計監査と業務監査を共に行えるようにする。農協監査士は(1)新たな監査法人で監査業務を行える(2)公認会計士試験に合格した場合は実務経験期間の免除など円滑に資格を取得できる――よう配慮を規定する。だが新たな監査法人をめぐっては、うまく移行できるかどうか事務的な協議が続いている。このため同法人の円滑な設立と業務運営を確保し、JAが負担を増やさずに確実に会計監査を受けられるよう政府が配慮すると規定。課題解決のため農水省や金融庁、全中、日本公認会計士協会による協議の場も設ける。また新制度が機能するかを確認するため、全中が一般社団法人に移行する19年3月末までは、JAが現行の全中監査か公認会計士監査を選べるようにする。政府・自民党は、この間に一部のJAが一般の監査法人の監査を受け、問題がないかを実証する考えだ。全中は19年3月31日までに、一般社団法人に移行する。ただ政府・自民党は、農協法の付則で、JAグループの代表機能や総合調整機能を担うよう位置付ける方針。都道府県の中央会は同日までに、農協法上の連合会に転換し、代表機能や総合調整機能、経営相談、貯金量200億円未満のJAの監査といった業務を行う。全中、都道府県中央会ともに「中央会」の名称は維持する。准組合員の利用量規制は、JAグループや与党内の強い反発を受け、今回は見送った。ただ法律の施行後5年間、正組合員と准組合員の利用実態や農協改革の実行状況を調査。その後規制の在り方をどうするか、あらためて慎重に決定する。吉川座長は同日のPTで「検討の結果、利用量規制が入らないこともあり得る」と語った。
●農協改革の骨格(全文)
 政府・自民党が、9日決定した農協改革の骨格(監査、中央会、准組合員関連)は次の通り。
1、会計監査については、
 農協が信用事業を、イコールフッティング(競争条件の同一化)でないといった批判を受けることなく、安定して継続できるようにするため、信用事業を行う農協(貯金量200億円以上の農協)等については、信金・信組等と同様、公認会計士による会計監査を義務付ける。
〇このため、全国中央会は、全国中央会の内部組織である全国監査機構を外出しして、公認会計士法に基づく監査法人を新設し、農協は当該監査法人または他の監査法人の監査を受けることとなる。
〇なお、当該監査法人は、同一の農協に対して、会計監査と業務監査の両方を行うこと(監査法人内で会計監査チームと業務監査チームを分けることを条件)が可能である。
〇政府は、全国監査機構の外出しによる監査法人の円滑な設立と業務運営が確保でき、農協が負担を増やさずに確実に会計監査を受けられるよう配慮する旨、規定する。
〇政府は、農協監査士について、当該監査法人等における農協に対する監査業務に従事できるように配慮するとともに、公認会計士試験に合格した場合に円滑に公認会計士資格を取得できるように運用上配慮する旨、規定する。
〇政府は、以上のような問題の迅速かつ適切な解決を図るため、関係省庁、日本公認会計士協会および全国中央会による協議の場を設ける旨、規定する。
〇全国中央会の新組織への移行等によりその監査業務が終了する時期までは、新しい会計監査制度への移行のための準備期間として、農協は全国中央会監査か公認会計士監査のいずれかを選べることとする。
2、業務監査(コンサル)については、
 農協の販売力の強化、6次産業化、輸出拡大等を図るために、必要なときに自由にコンサルを選ぶことができるようにするため、農協の任意とする。
3、都道府県中央会については、
(1)新組織は、会員の要請を踏まえた経営相談・監査、会員の意思の代表、会員相互間の総合調整という業務を行うこととする。
(2)2019年3月31日までの間に、農業協同組合連合会に移行する。
(3)移行した農業協同組合連合会は、「農業協同組合中央会」と称することができるように法的な手当てを行う。
(4)都道府県中央会から移行した農業協同組合連合会が、会員の要請を踏まえた監査の事業を行う場合は、農水省令で定める資格を有する者を当該事業に従事させなければならないこととする。
4、全国中央会については、
(1)19年3月31日までの間に、会員の意思の代表、会員相互間の総合調整などを行う一般社団法人に移行する。
(2)移行した一般社団法人は、「農業協同組合中央会」と称することができるように法的な手当てを行う。
5、准組合員の利用量規制のあり方については、直ちには決めず、5年間正組合員および准組合員の利用実態並びに農協改革の実行状況の調査を行い、慎重に決定する。

*1-2:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/154991
(佐賀新聞 2015年2月10日) 「全中なぜ妥協」県内関係者に戸惑い 農協改革案容認
 政府と自民党が9日に骨格を決めた農協改革について、県内の農業関係者に戸惑いが広がった。政府は全国農業協同組合中央会(JA全中)の組織改編による農業の成長産業化を主張するが、農協側は実効性を疑問視する。交渉がヤマ場を迎える環太平洋連携協定(TPP)の反対運動への影響を懸念する声も出ている。「JA全中はなぜ妥協したのだろう」。JA佐賀市中央の木塚公雄組合長は首をかしげ「全中の業務監査があったから農協がつぶれたり、職員が過ちを犯したりしなかった」。公認会計士による外部監査は数百万円負担が増える試算があり、不安も口にした。受け入れの背景に准組合員の事業利用制限の先送りがあるという指摘に、JA伊万里の岩永康則組合長は「全中もここが落としどころと考えたのだろう。ただ、こうした駆け引きをする政府のやり方はどうなのか」。当初は農協事業の分離案も検討されたことから「TPP交渉を控えており、農協の金融共済部門を外資に差し出す懸念がぬぐえた訳ではない」と警戒する。佐賀牛を含めて農畜産物のブランド化、生産コスト削減に努めてきたJAからつ。才田安俊組合長は「農家の所得向上のため、いろいろ取り組んできた。政府は実態を見ているのか」。JAさが組合長でJA佐賀中央会の金原壽秀副会長も「無味乾燥の改革のための改革」と批判。全中が国に意見する「建議」の権限を失う危険性を挙げ「結局、TPPへの異論を封じたいだけではないか。農政運動はこれまで通りできるが、今後の対策を検討したい」と述べた。生産者の受け止め方はさまざま。「今回の改革が農家にどんな影響をもたらすか分からない」と佐賀市のコメ農家(42)。神埼郡吉野ヶ里町の大規模農家(65)は「農協が大きくなり、生産者と距離ができたきらいはある。これを機に農家のための農協という原点に戻り、自ら改革を進めて」と注文した。

*1-3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=32852
(日本農業新聞 2015/4/4) 農協法 改正案を国会提出 野党は修正求める構え
 政府は3日、農協法改正案を閣議決定し、国会に提出した。JAの理事構成を見直し、JA事業運営の原則に「農業所得の増大に最大限の配慮をしなければならない」ことを明確化。農協法上の中央会制度は廃止し、JAに公認会計士監査を導入する。国会審議は統一地方選後の5月以降、本格化する見通し。改革の目的とした農業所得の増大につながるのか、監査制度をはじめJAに混乱をもたらさない仕組みにできるのかとの声もあり、国会審議では政府の丁寧な説明が求められそうだ。林芳正農相は同日の閣議後会見で「地域農協が農業者と力を合わせ、有利販売などに全力投球できるような環境を整備するのが目的だ」と述べ、農業の成長産業化につなげる考えを示した。改正案では2019年9月末までに全中は一般社団法人に、都道府県中央会は連合会にそれぞれ移行。JAの理事構成で例外を認めつつ原則、過半数を認定農業者や販売・経営のプロにすることや、全農の株式会社化を可能にする規定を盛り込んだ。一方、民主党は、准組合員を含めた地域社会を支える協同組合としての規定も置く必要があるなどとし政府案の修正を求める構え。維新の党も農協の株式会社化などを進める改革案を出している。中央会の組織変更に伴い、固定資産税などで課税が強化される恐れもある。政府は16年度の税制改正で対応を決める方針で、今後の議論に注視が必要だ。農業委員の公選制廃止など農業委員会法の改正案、農地を所有できる法人の要件緩和などを定める農地法の改正案もそれぞれ閣議決定した。 

<萬歳会長の辞任>
*2-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=32924
(日本農業新聞 2015/4/10) 萬歳会長が辞意 農協法改革案「区切り」に JA全中
 JA全中の萬歳章会長は9日、全中会長を辞任する考えを表明した。農協法改正案の閣議決定を節目に、今後のJAグループの自己改革や新しい全中づくりを新体制で進めるのが適切と判断した。8月の臨時総会で後任会長を決める運びだ。萬歳会長は同日の全中理事会で辞意を表明し、その後の定例会見で明らかにした。政府が農協法改正案を3日に閣議決定したことが退任を決断する「一つの区切り」になったと説明。「自己改革を実践していくため、新会長の下で流れをつくってほしい。前向きな姿勢で結論を出した」と述べた。任期は2017年8月まで残していた。萬歳会長は「一切相談はしていない」と、自らの判断で辞任を決めたことを強調。「この立場(全中会長)になった段階から、いろいろな区切りの中で決断することもあり得ると思っていた」と語った。農協改革や米政策の見直しなどの課題に対応するためにも「力を合わせることが原点だ」と組合員に結集を呼び掛けた。新会長の選出手続きは、5月の全中理事会で正式に決める。萬歳会長はJA新潟みらい会長やJA新潟中央会会長などを務め、11年8月に第13代の全中会長に就任。東日本大震災からの復興を最優先課題に挙げつつ、環太平洋連携協定(TPP)交渉や米の生産調整の見直しなど、農政課題に当たってきた。農協改革の議論が活発化する中で14年8月に会長に再任、JAグループの「自己改革」を取りまとめ、政府・与党との折衝に臨み、今年2月には全中の一般社団化など「経験したことのない組織の大転換」(萬歳会長)が求められる農協改革の骨子に合意した。会見では冨士重夫専務も健康上の理由で退任することを明らかにした。「激動の時代だったが、さまざまな方々に支えられた」と述べた。後任の学経理事候補にJA改革対策部の金井健総括部長を選んだことも報告。新たな執行部体制は5月の臨時総会、理事会で決める。
[解説] 自己改革 実践へ結束を 
 萬歳章会長は辞意の理由を記者から問われ、新たな体制でJA改革の実践に臨むためとの考えを強調、政府・与党による農協改革の結果を受けた引責辞任ではないと説明した。突然の表明はJA関係者を驚かせたが、農業所得増大や地域活性化という命題のため、JAグループは結束して自己改革に臨まなければならない。萬歳会長は、中央会が新たな組織に移行するに当たり、全中を新しい執行体制にすべきだと判断したという。当然のことながら後任の会長は、単位JAのための改革を着実に進める責務を負う。農政改革やTPP交渉といった課題も残っており、停滞は許されない。JAグループは、組合員や地域のための組織であり、その役割を発揮し続けることが重要だ。今年10月には3年に1度のJA全国大会を控え、議案づくりも本格化している。そのために揺らぐことなく、自らの改革に取り組まねばならない。

*2-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=32934
(日本農業新聞 2015/4/10) 全中会長辞意 組織結集し難局に臨め
 JA全中の萬歳章会長が辞意を表明した。農協法改正案が閣議決定され、法案審議に付されることを区切りとした。JAグループは課題山積の渦中にある。農業所得の増大と地域活性化に向けた自己改革に遅滞は許されない。既に10月のJA全国大会に向けた議案作りが始まっている。組合員の負託に応えるため、全中は執行体制を強固なものにし、組織一丸となって難局に臨むべきだ。9日の記者会見で萬歳会長は「組合員のため、新しい中央会の在り方を、新会長の下でつくってほしい」と述べ、後任の会長に自己改革の実現を託した。8月の臨時総会での交代で、任期を2年残しての退任となる。農業、農協の大変革期に、萬歳会長は常に組合員視点で難しいかじ取りをしてきただけに、その労を多としたい。だが、農協法改正の国会審議、大詰めを迎える環太平洋連携協定(TPP)交渉など、組織内外の課題は待ったなしだ。全中専務の5月退任も重なっているだけに、遅滞のない円滑な業務執行を求めたい。何より、緊張感とスピード感を持って、自己改革の実現に取り組んでいかなければならない。萬歳会長は7日に安倍晋三首相と会談した際、政府が改革の柱に掲げる農業所得の増大と地域の活性化を挙げ、これらの実現に向けて「自己改革を精いっぱい、組合員のために進めたい」と決意を示した。安倍首相も「目的は同じだ」と応じたが、問題はその実効性だ。農協法改正案の本格的な国会審議は統一地方選挙後になる見込みだ。組合員の所得向上、地域農業の活性化や地域振興につながる建設的な議論を求めたい。JA監査の公認会計士監査への変更、全中と都道府県中央会の新組織移行など組織改編を通じて、こうした目的が達成できるのかを注視したい。法改正論議と並行して、JAグループの自己改革の取り組みを加速させなければならない。萬歳会長は、次期執行部にも自己改革に果敢に挑戦するよう求めたが、まさにその実践こそが農協の将来を左右することになるだろう。農協改革をめぐっては急進的な改革論が、組合員やJAに混乱や不安を招いた。萬歳会長は、現場の実態を踏まえていない議論に対し、協同組合への理解不足を指摘してきた。JAグループの広報活動が足りなかった反省点もある。グローバル化が進む中で、協同組合セクターはますます重要となってくる。新たな中央会にはその役割と責任を果たしてもらいたい。JAグループが掲げる「食と農を基軸として地域に根差した協同組合」をどう実現していくか。総合事業を展開するJAは組織浮沈の正念場を迎える。全中の果たす役割、使命も重い。萬歳会長が、繰り返し訴えた組合員のための自己改革を組織一丸となって遂行していかなければ未来は開けない。

*2-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150410&ng=DGKKASGH09H2B_Z00C15A4EA2000 (日経新聞 2015.4.10) 「圧力団体」農協の終焉
 農協の幹部にとっても寝耳に水の辞任劇だった。東京・大手町のJAビル37階で9日午前、全中の理事会が開かれた。議題は環太平洋経済連携協定(TPP)や米価問題など。司会は万歳会長だ。開始から1時間余り。議題がつきたところで、万歳氏が突然立ち上がった。「農協法の改正案が閣議決定されたことを区切りに辞任します」。「いま辞任って言わなかったか」。会場が騒然とするなか、万歳氏は無言で部屋を後にした。区切りがついた――。この言葉は、たんに農協法の改正にとどまらない重い意味を持つ。戦後から最近までずっと続いてきた農業と農政の終焉(しゅうえん)だ。全中の行動原理の根っこにあるのが「日本は食料難で、規模の小さい農家がたくさんいる」という終戦直後の農業構造だ。食料供給を錦の御旗に掲げ、組合員の数の力をバックに政治に圧力をかけてきた。旧食糧管理制度時代は財政資金で農家を守るための米価闘争、最近ではTPPへの反対運動がその象徴だ。現実の農業はすでに大きく変質した。日本はまだ食べられるのに捨てられる食品ロスが年に数百万トン出る飽食の国になり、輸入農産物の増加も重なって食品価格が低迷。経営環境の悪化を受け、意欲のある農家は規模を拡大し、法人化して農協から離れていった。これに対応し、農政も「小さくて弱い農家」の保護からの脱皮を模索した。自民党が政権に復帰した後はその流れに拍車がかかった。将来性のある農家に田畑を集める農地バンクを創設し、コメの生産調整(減反)の廃止を決めるなどの手を打った。だが全中は行動パターンを変えられず、社団法人化という形で弱体化に追い込まれた。全中に存在意義がないわけではない。補助金を中心に農業制度は複雑で、変革期にあって今後も様々な見直しが予想される。それをきちんと理解し、約700の地域農協に伝えるなど果たすべき役割は十分にある。古い圧力団体の体質を改め、真に農業に貢献できる組織になれるか。周囲の見方を変えるには全中自らの変革力が問われる。

<TPPについて>
*3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=31867
(日本農業新聞 2015/1/31) TPP交渉 何だったのか国会決議
 「国会決議は何だったのか」「聖域を守るのは国民との約束だ」――。政府が環太平洋連携協定(TPP)交渉の日米協議で、ミニマムアクセス(最低輸入機会=MA)の枠外で米国産主食用米の特別輸入枠の新設を検討していることに対し、米価下落に苦しむ米産地からは怒りの声が続出した。さらに米国は牛肉関税の大幅引き下げも要求してきており、国会決議で「聖域」とした米や牛肉を守りきれるのか、現場の不安は募っている。
●米 輸入拡大許されない
 「聖域を守るという、国民との約束ではなかったのか。ばかにされている気持ち。政府にはがっかりだ」と憤るのは、栃木県那珂川町で水稲や稲発酵粗飼料用稲(WCS)など12ヘクタールを経営する古橋晃一さん(46)。2014年産米の価格下落で販売収入は、前年の6割ほどに落ち込んだ。再生産価格を大幅に下回り「生活すら厳しい」。米国のごり押しで輸入米が増えれば「一層の価格下落は間違いない。輸入拡大は許されない」。佐賀県白石町で水稲7ヘクタールを手掛ける田中秀範さん(65)も「妥協は約束違反だ」と怒り心頭だ。国会決議や公約に反するだけでなく、地方創生にも逆行するとして「統一地方選や参院選で反発が出ることになる」とくぎを刺す。輸入拡大の影響は大規模農家ほど大きい。北海道栗山町で水稲105ヘクタールを経営する農業法人・(有)粒里(つぶり)の大西勝博代表(61)は「国が本当に農業を守ろうとしているのか」と問う。低米価に加え円安による資材高も追い打ちをかけ、今でさえ経営は厳しい。「主食用米の輸入枠が拡大されれば、14年産米の価格さえ維持するのは危うい。営農継続はできなくなる」と主張する。岩手県花巻市で、米や小麦などを33ヘクタールで栽培する集落営農組織・鳥喰生産協業組合長の大和章利さん(66)も同様だ。14年産は資材代を払えるか心配になるほど低米価に苦しんだ。政府の農業改革に沿って農地集約や低コスト化などの強い農業づくりを進めても「経営は立ちゆかない」。国会決議の順守を強く求める。ブランド米産地にも激震が走った。新潟県魚沼市のJA北魚沼水稲部会部会長の佐藤清二さん(79)は「どこにこの怒りをぶつけていいのか分からないが、政府の対応はでたらめだ」と怒り心頭だ。生産調整で飼料用米生産を推進しつつも、米国産米の輸入を拡大するのは「明らかに矛盾している」と指摘する。島根県大田市で1集落1農場を実践する農事組合法人百姓天国の事務局長、三島賢三さん(63)は「次世代に稲作を引き継がなくてはいけない大事なときに、なぜ輸入米を増やすのか。所得倍増の政策とは相反する」と政府の姿勢に疑問を投げ掛ける。
●牛肉 米国に市場奪われる
 米国が牛肉関税の大幅引き下げを求めているという一報は、肉牛産地に衝撃をもたらした。「十勝若牛」として乳雄の肉を出荷する北海道清水町の吉田哲郎さん(37)は「JAと協力して切り開いた市場が、安い米国産に奪われかねない」と懸念。赤身肉のおいしさをアピールし、肉質を上げて対抗するしかないが「飼料などコストが上がる中、簡単なことじゃない。このままでは負けてしまう」と不安がる。宮崎県小林市で黒毛和種350頭を肥育する平野文宏さん(41)は「消費者が安価な米国産に走るのではないか」と不安視。現状では国産和牛は輸入牛肉と競合しないと考えるが「輸入拡大に伴い、国産和牛の値まで下がらないか、心配だ」と漏らす。

<食料自給率と食料自給力の違い>
*4-1:http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150223/k10015654951000.html
(NHK 2015年2月23日) 「食料自給力」を新たな指標に
 農林水産省は、来月をめどに閣議決定される今後10年の農業政策の方針を示す「基本計画」に、今ある農地などをすべて活用したときの潜在的な生産能力を示す「食料自給力」を新たな指標として設ける方針です。農林水産省は、今後10年の農業政策の方針を示す「食料・農業・農村基本計画」の策定を進めていて、来月をめどに閣議決定したいとしています。新たに示す基本計画には、今ある農地などをすべて活用したときの潜在的な生産能力を、「食料自給力」という新たな指標として設ける方針です。食料自給力は、食料の生産の割合を、栄養バランスを考慮した場合やいも類を中心に作付けした場合など4つのパターンに分けたうえで、それらの食料が最大限生産された場合の数値をカロリーに換算し、それぞれ毎年公表することにしています。農林水産省はこれまで、現状の国産の割合を「食料自給率」として毎年公表していますが、目標を下回る状況が続いています。このため、新年度から食料自給力も合わせて公表することで、食料の安定供給の確保に向けた国民的な議論を深めたいとしています。

*4-2:http://qbiz.jp/article/55884/1/
(西日本新聞 2015年2月13日) 食料自給力の新指標策定へ 農政の長期指針に明記
 農林水産省は13日、新たな農政を検討する審議会の会合を開き、今後10年の長期指針である「食料・農業・農村基本計画」の見直しに向けた骨子案を示した。世界的な食料不足などの緊急事態に対応できるようにするため、国内農業の潜在的な生産能力を示す指標「食料自給力」を新たにつくる方針を明記した。食料安全保障の議論で供給力の目安として新指標を活用する方針。その試算次第では、生産能力を維持するために必要な農地の確保策なども検討課題になりそうだ。2月下旬にも開く次回会合で新計画の原案を議論。政府は審議会の答申を受けて現行計画を5年ぶりに改定し、3月中に閣議決定する予定だ。食料自給力は、国内の農地面積や農業従事者数、農業技術に着目し、これらを最大限使った場合、どれくらいの生産能力があるかを表す指標。新計画では複数の指標を提示する見通しだ。骨子案では、国内で消費する食料を国内産でどの程度賄えているかを示す「食料自給率」に関しても2025年度に向けた目標を設定するとした。現行計画は20年度のカロリーベースの自給率目標を50%と設定したが、13年度で39%と目標との隔たりが大きい点を考慮し、今回は実現可能な目標を設定する方針だ。課題である農業再生に向けては、農地をまとめて意欲的な農家に貸し出す農地中間管理機構を活用し、担い手農家への農地集積を進める。海外需要を取り込むため、農林水産物・食品の輸出を拡大し、農業所得の増大を後押しする。新規就農や企業の参入も推進、農業を活性化していく。このほか、政府が今国会に農協改革の関連法案を提出することに歩調を合わせる形で、農協など農業団体の事業や組織見直しを進めるとした。

*4-3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=32207(日本農業新聞2015/2/24)人口減少・高齢化時代の基本計画 市場縮小へ対応が鍵 「自給力」指標を新設
 新たな食料・農業・農村基本計画の3月の決定に向け、議論が大詰めを迎えている。日本の人口が減少局面に入って策定される基本計画となり、生産基盤の弱体化、国内市場の縮小、農村集落の低下という重要課題にどう対応するかが大きな焦点になる。また、食料の潜在的な生産能力を示す「食料自給力」の指標も今回、新設する。基本計画は今後10年の中長期的な農政の方向性を位置付けるものだけに、慎重な議論が求められる。基本計画は5年に1度見直す。食料・農業・農村政策審議会企画部会で議論が続き、3月中に取りまとめる。民主党政権下で策定した現行計画から自公政権に移り、新たな基本計画では米政策改革の実施や担い手への農地集積をはじめとする農政改革を柱に位置付けた。次回の企画部会で原案が示される予定だ。
●担い手集積へ農地バンク
 人口減少と高齢化により担い手不足が深刻化する中、生産基盤の立て直しが急務になっている。このため、新規就農者の確保を進める。法人化を進め、就農だけでなく法人への就職というルートも重視する。ただ、担い手の育成は現実的には簡単でない。今回、構造展望では確保すべき担い手の人数以上に、担い手が農地をカバーしていく割合を高めていくことを重視する方針だ。今年度から動きだした農地中間管理機構(農地集積バンク)は、その大きな手段となる。バンクをフル活用し、担い手への農地集積割合を現状の6割から、今後10年間に8割に高める目標を設定した。農地集積を通じて農作業を効率化し、生産コストも削減していく。政府目標で担い手の米生産費は、現状の全国平均から4割減水準を10年後に実現すると掲げた。こうした取り組みで農家所得の倍増目標にも近づけていく。
●地域の維持に「基幹集落」
 農村では、人口減少・高齢化が都市に先駆けて進み、単独で農地や農業用施設などの資源の維持が困難になってきている。農村の振興には、いかに地域コミュニティーを維持し、農村の資源を守っていくのかが大きな鍵を握る。そこで同省が基本計画に盛り込む柱は大きく二つ。一つが地域コミュニティーを維持ししていくための「集落間のネットワーク化」だ。これは小学校区程度の範囲で、複数集落の中から「基幹集落」を定め、そこに農産物の出荷拠点や加工所などを整備する構想。この基幹集落に周辺集落の農家は通い、農産物を出荷したり6次産業化に取り組んだりする。15年度予算に必要額を計上し、事業に乗り出している。もう一つの柱が、農地や農業用施設といった農村の資源を守るための共同活動を支援する、多面的機能支払制度の着実な推進だ。担い手への農地集積を加速する半面、担い手の負荷も重くなるため、地域で担い手を支えていく重要性も増している。同制度は既に法案化されたが、基本計画の柱に位置付けることによって、予算的にもより安定的に制度運用ができる環境を整える狙いもある。
●需要の創出で輸出に活路
 日本全体の人口減少は、農産物を買ってくれる消費者が減少することも意味する。このため新たな需要の開拓も基本計画の大きな課題だ。経済成長が著しい新興国などへの農林水産物・食品の輸出促進に今まで以上に力を入れる。政府は現在の輸出額6000億円を2020年までに1兆円に増やす目標を掲げており、品目別の輸出拡大戦略を点検しながら達成を目指す。また、6次化による付加価値向上も進める。こうした取り組みで、新しい需要を生み出し、農家の所得向上にもつなげていく考えだ。国内需要の減少は、農政改革の柱である米政策改革の理由にもなった。主食用米の消費が減少する一方、生産が頭打ちの麦・大豆だけでは転作をこなしていくことが難しいと予想され、水田維持のために飼料用米の推進を打ち出した。基本計画には、飼料米、米粉用米、麦、大豆などの転作作物について、水田活用の直接支払交付金などを通じて生産努力目標の「確実な達成」を目指すことを盛り込む方向。財政当局が飼料用米の支援単価を引き下げたい意向を示したことから、基本計画に位置付けることで安定的な財政支援を確実にしたい狙いだ。
●生産基盤強化待ったなし
 新たな基本計画では「食料自給力」を初めて指標化する。「自給力」は、(1)農地・農業用水などの農業資源(2)農業技術(3)農業就業者――の3要素から構成されることから、国内生産基盤そのもののと言っていい。ただ、それぞれの要素とも弱体化が心配されている。農地面積は1960年に607万ヘクタールあったが、2013年には454万ヘクタールとなり25%も減った。荒廃農地も27万ヘクタール(12年)に達している。農業技術を示す生産性は、品目別の10アール当たり収量、畜種別の1頭当たり生産量とも増加傾向が頭打ち状態にある。そして農業者は、219万人のうち65歳以上の高齢者の割合は58%と過半を超え、10年後にはさらに労働力不足が顕在化しそうだ。生産基盤の立て直しは待ったなしで、今回「自給力」に焦点を当てたことは、生産者団体も賛同している。ただ、指標化に向けた議論に入ると、疑問が出始めた。農水省が「生産転換に要する期間は考慮しない」「生産に必要な労働力は確保されている」といった非現実的な前提条件を置くとし、何のための指標なのか分からなくなってきている。生産者団体からは「実際に作物を生産し、食料自給率を高めていくことの軽視につながらないか」との疑念も聞かれる。


PS(2015.4.14追加): *5のように、飼料用米増産を呼び掛けるために農水省幹部が単位JAの組合長を直接訪ねて意見交換するのは誤りだ。その理由は、飼料米への転作は、すでに水田や稲作機械を所有している農家に転作を促すためのものであり、Bestの転作ではないからだ。Bestの転作は、人間の食料向けには、本当に必要であるにもかかわらず足りていない大豆や小麦等への転作であり、家畜飼料の自給率向上が目的であれば、飼料としてBestな作物への転作である。つまり、飼料用米への転作は、それしかできない地域向けのSecond Bestの転作にすぎないため、どこにでもそれを押し付けるべく補助金をつけるのはよくないわけである。

*5:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=32983
(日本農業新聞 2015/4/14) 飼料米増産へ地方行脚 組合長ら直接訪問 農水省の部課長
 農水省は、飼料用米増産を呼び掛けようと、本省幹部が単位JAの組合長を直接訪ねて意見交換する異例の地方行脚を始めた。産地ごとに飼料用米を作った場合の所得試算を示し、メリットを分かりやすく伝える。6月末までの約3カ月間、米の主産地を重点的に回り、飼料用米の本作化に弾みを付けたい考えだ。2015年産の米価下落の懸念が強まる中、JAグループは主食用米の需給安定の切り札と位置付ける飼料用米を前年比3倍超の60万トンに増やす方針。10年後に10倍に増やす目標を掲げる政府にとって目標達成の成否を占う重要な年となる。同省が展開する地方行脚は「飼料用米推進キャラバン」。米を担当する同省農産部の部課長らが4班を編成、米の主産地や主食用米の過剰作付けが多い産地を中心に回る。より生産者に近いJA組合長から課題を吸い上げるとともに、飼料用米栽培のメリットを直接伝え、円滑な増産につなげる。キャラバンでは、地域ごとに複数JAの組合長に集まってもらい、約2時間意見交換する。14年産で主食用米と飼料用米をそれぞれ作った場合の所得試算を産地ごとに用意して説明。飼料用米の手厚い助成が長続きしないという生産現場の不安解消のため、その生産拡大が閣議決定され、政府全体の方針に格上げされたことも伝える。キャラバンは先週末の青森県を皮切りに始めた。現時点で意見交換を計画するのは17道県の約80JAに上り、さらに増える見通しだ。生産者が作付けを確定する「営農計画書」を国に提出する6月末まで続ける。飼料用米本作化に向けて同省は「とにかく足で稼ぐしかない。ぎりぎりまで徹底してやる」(穀物課)と意気込む。

| 農林漁業::2014.8~2015.10 | 11:48 AM | comments (x) | trackback (x) |
2015.4.9 大手電力会社の立場に立ち、温室効果ガスの削減を口実として、それより公害の多い原発維持の論理を展開するのは、もうやめるべきである。 (2015年4月10、11、12、24日に追加あり)
        
世界のCO2排出量  国別総排出量    日本の         日本の   
            一人当たり排出量  部門別排出量   部門別排出量推移

   
     *1-3より       *1-1より    *2-1より    再生エネ&水素社会  

(1)2030年に2013年比で温室効果ガス(CO2)20%削減は目標が小さすぎる
 世界のCO2排出量は上の段の一番左の図で、国別総排出量と国別一人当たり排出量は二番目の図である。アメリカは総排出量・一人当たり排出量ともに大きく、中国・インドは一人当たり排出量は小さいが人口が多いため総排出量が大きい。日本・ドイツは、先進国の中では総排出量が比較的小さい。

 しかし、日本の部門別排出量を見ると、①エネルギー転換部門39% ②産業部門26% ③運輸部門17% が大きい。そのため、2030年(今から15年後)までであれば、運輸部門をすべて自然エネルギー由来の水素燃料と電気自動車に変え、③からはCO2を排出しないようにすれば、まず17%のCO2削減が可能だ。また、①のうちの発電もLNG以外は全て自然エネルギーに変えれば、原発を再稼働しなくても10%くらい(39%X電力への使用割合X40%)は排出されなくなる。さらに、産業部門も半分を水素に変更すれば13%(26%X50%)の抑制ができるため、全部で約40%のCO2削減ができる筈だ。

 こう書くと、「責任政党は、そのような実行不可能なことは言わない」などと言う人がいるが、電気自動車や燃料電池車は、このために1995年頃から開発し始めて既に実用化済であり、自然エネルギーや水素燃料による発電システムも使用開始の目途がついているのだ。そのため、目標を立ててやるかやらないかが現在の政治責任であり、これを2段目の「再生エネ&水素社会」のイメージのように実行すれば、日本のエネルギー自給率は100%以上となって、海外に燃料費を支払わなくてもすむわけである。

 そのため、*1-3で、2009年9月に鳩山首相が「あらゆる政策を総動員して25%削減する」と言ったのが、目標として最も妥当だったと、私は、当時から思っていた。

(2)原発再稼働は不要である
 *1-1の「経済産業省と環境省が案を詰め、再生可能エネルギーのてこ入れや原子力発電所の再稼働を前提に、2030年までの温暖化ガス排出量を2013年比で20%前後削減する目標を打ち出す実現可能な目標として国際社会に示す」というのは、現状維持を前提としているため、全く話にならない。

 なお、原発再稼働論者は、*1-2のように、必ず「原発が稼働しなければ国民負担が大きい」という嘘を言うが、原発のコストは、何度も記載してきたとおり、原発立地自治体への交付金、防災費用、廃炉費用、最終処分費用、事故処理費用のすべてを含み、運転費用だけではないことを忘れてはならない。

(3)自民党の原子力政策とエネルギーミックスの非妥当性
 *2-1のように、自民党の原子力政策・需給問題等調査会が2030年の望ましい電源構成として、「原子力、石炭火力、水力などの“ベースロード電源”の比率を東日本大震災前の水準である約6割に引き上げるよう提言した」とのことだが、これは、何も考えずに経産省主導で従来のやり方を踏襲した姿だ。また、「安定的に発電できるのは、原子力、石炭火力、水力しかない」としているのも、フクシマ原発事故に正面から向き合って反省していない姿勢である。

 また、*2-2では、環境省が「2030年の再生エネ比率は、24~35%になると推定」し、宮沢経産相が「技術的な制約やコストの課題など実現可能性について十分考慮されていない」としているが、実際には、再生エネよりも原発の方が、技術、コスト、環境汚染などへの課題は解決していない。

 そのような中、*2-3のように、佐賀新聞社が佐賀県議選候補者に、玄海原発再稼働の地元同意範囲についてアンケート調査したところ、立地自治体だけでは「不十分」とした候補者が4割で、自民現職は明確な範囲を答えなかったそうだ。しかし、今後の原発の存廃と玄海原発の再稼働では、自民現職が「安全性確保を前提に、重要なベースロード電源と位置づけ、原子力規制委が新規制基準に適合すると認め、住民理解が得られた原発は再稼働を進める」という自民党及び政府の方針を踏まえた考えを示し、全体では6割が「廃止すべきでない」、7割が「再稼働を容認する」という情けない結果だったそうだ。

 一方、*2-4のように、憲法で原発建設を禁じるオーストリアが、英政府の原発補助金支出を欧州連合(EU)が認めた決定に対し、「市場競争を歪める」として5月にもEU司法裁判所に無効確認の訴訟を起こすそうだ。私も、「原発はコストが安く、安定電源だ」などとして再稼働しようとするのであれば、補助金は廃止して公正な市場競争を行うべきだと考える。

*1-1:http://www.nikkei.com/article/DGXLASDF08H1C_Y5A400C1MM8000/?dg=1
(日経新聞 2015/4/9) 温暖化ガス、20%削減 30年目標に政府調整、13年比で
 政府は2030年までの温暖化ガス排出量を、13年比で20%前後削減する新たな目標を打ち出す方向で調整に入った。6月上旬にドイツで開く主要7カ国(G7)の首脳会議(サミット)で表明する見通し。温暖化対策を巡る国際交渉での欧米の動向を踏まえ、再生可能エネルギーのてこ入れや原子力発電所の再稼働を前提に実現可能な目標として国際社会に示す。経済産業省と環境省が案を詰めている。外務省や首相官邸と調整し、今月下旬にも電源構成(ベストミックス)と温暖化ガスの削減目標に関する有識者会議にかけた上で、正式に政府案としてまとめる。温暖化の国際交渉では、各国が年末にパリで第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)を開く。そこでは、先進国に排出削減を義務付けた京都議定書に代わり、すべての国が参加する新たな枠組みで合意をめざす。国連は各国に20年以降の削減目標の提出を求めており、米国や欧州連合(EU)は今年3月に提出した。削減目標のベースとなる30年時点の望ましい電源構成について、経産省は二酸化炭素(CO2)を排出しない太陽光や風力などの再生可能エネルギーの割合を現状の10%程度から30年に23~25%前後に拡大。原子力の比率も停止中の原発の再稼働を前提に2割を確保する方向で調整している。CO2を大量に出す石炭、液化天然ガス(LNG)、石油の火力発電は5割半ばと、現状の約9割から大幅に減る見通しで、それだけで温暖化ガスの削減は13年比で10%台半ばとなる。これに省エネ対策の効果などを上乗せし、20%前後の削減をめざす。各国が提示している削減目標に、遜色ない水準にしたいと政府は考えている。当初は削減目標の基準年を米国と同じ05年で検討していた。東京電力福島第1原子力発電所事故に伴い、全国の原発が停止して温暖化ガスの排出が増えている13年を基準にすることで、20%前後の温暖化ガス削減が実現する面もある。米国の目標は05年比26~28%削減、EUは1990年比40%削減。政府関係者によると、これらを13年比に直すと米国は約2割減、EUは3割弱の減少となり、日本が示す20%前後の目標に近づく。温暖化問題は、過去に大量のCO2を排出してきた先進国の責任が重いとされ、新たな枠組みで合意するには日本も欧米並みの負担が必要とされる。日本は97年に京都議定書で、08~12年に90年比でCO2排出量を6%減らす目標を国際社会に示した。その後、09年に民主党の鳩山由紀夫首相(当時)が国連の気候変動サミットで20年までの目標として、90年比で25%削減すると表明。東京電力福島第1原発事故による原発停止を受け、13年に石原伸晃環境相(同)が05年比3.8%削減とする目標に実質的に引き下げた。関係各省は13年を軸に各国の目標を比較・検証する方向だが、14年とする案もある。ただ基準年は米国は05年、EUは90年と異なっており、大震災後の日本の環境変化について、国際社会の理解が得られるかが焦点だ。安倍晋三首相は第1次内閣の07年に「50年までに世界の排出量を半減する」との長期目標を示して国際的な議論を主導した。経済成長と国際交渉への貢献、地球環境への配慮という観点から削減目標でさらなる上積みが可能か、関係各省で詰める。

*1-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150319&ng=DGKKZO84541300Y5A310C1KE8000 (日経新聞 2015.3.19) 2030年の電源構成(下)過大な省エネは国民負担、原発比率20%以上に、成長維持へ電力価格抑制 野村浩二 慶応義塾大学准教授(1971年生まれ。慶大博士。専門は応用計量経済学、経済統計)
<ポイント>
○省エネと電力価格の上昇はコインの両面
○過大な省エネは電力需要の過小推計導く
○電力価格高騰は生産縮小、経済停滞を招く
 米国に比べて2倍以上の電力価格負担を強いられている日本の消費者が、さらに価格上昇を受け入れる余地はあるのだろうか。福島原発事故を受け、稼働を止めた原発を補うため化石燃料依存度は88%に達し、電力価格は現在までに35%上昇している。経済産業省は長期エネルギー需給見通し小委員会を設置し、2030年における電源構成について検討している。需給見通しには電力価格上昇の抑制は当然に織り込まれると思われるかもしれない。しかし、過去の政府試算では電力価格上昇はきわめて大きいものだった。12年、民主党政権下のエネルギー・環境会議では、国民に提示されたすべての選択肢で、30年における電力価格は60%から2倍以上の上昇となっていた。なぜこれほどの上昇となるのか。一般には再生可能エネルギーの増加の影響とみられがちだが、実際には省エネ拡大の影響の方が大きい。省エネ(省電力)と電力価格上昇はコインの両面である。省エネは、その多くが省エネ技術を体化した資本財の導入によって実現される。そして資本の更新時期を迎えたとき、追加的に大きな費用負担のないままに、新しい省エネ技術は緩やかに経済体系に組み込まれていく。市場経済において、省エネを加速するためには、企業や家計において合理的な投資機会となるよう、その背景に電力価格の上昇が必要となる。言い換えれば、将来の電力価格水準をターゲットとすれば、それに対応して実現可能な省エネ量の水準はおのずと定まる。政府は電力消費者の負担とせずに、補助金や直接規制により省エネを推進してきた。しかし、そうした安易な政策手段による隠れた費用も結局は国民の負担となる。省エネへの負担を余儀なくされた企業では、生産コストはトータルで上昇し、国際競争力を喪失していく。家計では教育や健康への投資が阻害される。一般的に資本財価格は相対的に低下する傾向にあり、将来の電力価格が安定的でも、市場経済においても省エネ技術は時間をかけて導入されていく性質のものである。政策によって得られるのは、少しばかりの「前倒し」効果にすぎない。非合理的な選択は、最終的にだれの負担になろうとも、一国経済の成長力をそぐことになる。政府はこの20年以上、コスト負担を顧みることなく、省エネ努力を数量的に積み上げることに腐心してきた。省エネの過大推計は、電力需要の過小推計を導く。そして二酸化炭素(CO2)排出量を小さく、電力構成における再エネ比率を大きく見せる。ゆえに理想的な政策目標に近づけるには、禁断の果実となる。図は日米両国における需要見通しについて、1990年代後半からの予測値と実績値の推移を示している。日本では少しの需要減少を契機に、その減少トレンドを引き継ぐように省エネが過大に推計されている。前政権の見通しを上回らないよう、過去の過大推計は将来の更なる過大推計の布石ともなる。そうした推計値は、リーマン・ショックや震災で生産が大打撃を受けた実績と皮肉にも近似した。その近似を根拠として、30年に向けて年率1.7%という高い経済成長率の想定のもとでも、省エネ努力の積算はきわめて大きなものとなっている。しかし震災後の生産縮小によらない電力需要の減少は、その多くが省エネの「前倒し」によるものであり、30年時点で残る省エネ効果はわずかであると考えられる。対照的に米国での見通しは合理的である。参照ケースは将来の予測値としての機能を果たしている。09年には大きく縮小しその後も停滞しているが、将来の需要は再び過去の成長率へと戻る見通しである。最良技術導入ケースでも増加が見込まれている。求められる需要見通しは、企業が中長期の事業計画を構築しやすいよう現実性の高いシナリオであり、経済合理性を度外視した積算ではノイズでしかない。電力需要の過小推計のもとに電力供給が計画され、もし将来に想定を上回る需要が現実化したとき、コインの表面(数量側)から見れば電気使用制限か停電、あるいは老朽火力の発電増加などでCO2排出量が膨らんで海外から排出枠を購入するという負担を余儀なくされる。コインの裏面(価格側)から見れば、需要を大幅に減少させるため、筆者の試算では電力価格の倍増が必要となる。その結果、日米の需給見通しに基づけば、日本の電力および炭素排出の価格は30年にはともに米国の5倍もの水準になってしまう。とても経済成長と両立するシナリオではない。電力価格の倍増への懸念は絵空事ではない。エネルギー政策で先行している欧州諸国では、21世紀に入り軒並み倍増した。イタリアは欧州連合(EU)の電力自由化指令が国内法化された99年を転機として急速な電力価格上昇に見舞われ、13年には3倍、消費者物価指数で除した実質価格でも2.3倍へと高騰した。産業ごとの成長率と生産コストに占める電力依存度はほぼ無相関だったが、高騰後は強い負の相関が見られる。窯業土石、ゴム製品、パルプ紙製造業など、一国平均よりも年率で3~4%ほど成長率が低い。電力価格倍増は、輸入財への代替や海外への生産移転などを通じて、国内の産業構造を大きく変えてしまう力をもっている。その結果、80%近く石炭火力に依存する中国や、過剰な再エネ負担なしに安定した電力価格を保つ米国へのシフトをもたらした。21世紀に入ってイタリアの経済成長率はほぼゼロで、先進諸国で最低となった。電力価格高騰による生産縮小は、一定の仮定に基づく積算でみれば年率0.15%ほどの成長率の低下要因と解される。これを日本経済の将来見通しに適用すれば、30年の断面では国内総生産(GDP)の約2.2%の下落となり、それまでに失う所得の総額は100兆円近い。日本が同じ轍(てつ)を踏んではならない。再エネは系統対策コストを含まずとも、経済性のある事業は限られ、ほとんどは政策支援なしに成り立たない。再エネの固定価格買い取り制度(FIT)による賦課金総額は15年度に1兆円を超えると言われるほど膨大となった。一部が期待した経済効果も無残なものである。導入前には30%程であった太陽電池の輸入シェアは、一気に80%近くまで上昇した。年率20%ほどで下落していた太陽電池の輸入価格は、導入後の13年初めには(外貨建てでも)プラスに転じ、過度な価格競争に陥っていた中国企業が大きく一息ついただけである。FITは買い取り価格を固定してしまうことで企業の競争を阻害し、価格低下を阻む引力にすらなる。価格上昇を抑制するためFITからの出口戦略の構築を急ぎ、再エネの目標値は20%ほどまでとして中長期的に整備していくことが現実的であろう。電源構成の見通し策定は、エネルギー政策における停滞を前進させる指針の役割も担う。エネルギー安全保障と低炭素、そして経済成長と両立する電力需要に対応できるベースロード電源として、原発の役割は依然として大きい。安全性と効率性の向上のため、原発のリプレースも将来の選択肢である。原子力は20%以上を目標とすべきである。残りは石炭と天然ガスの間の民間企業による選択である。原子力と再エネの適切なシェアの維持は、自由化による価格上昇リスクの抑制のためにも有益であろう。

*1-3:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%8C%E9%85%B8%E5%8C%96%E7%82%AD%E7%B4%A025%25%E5%89%8A%E6%B8%9B (Wikipedia)
●歴史
・2009年 民主党が衆議院選挙においてマニフェストに排出権取引・環境税の導入などによる25%削減を明記
・2009年9月7日 民主党の鳩山由紀夫代表が東京都内のシンポジウムにおいて「あらゆる政策を総動員して実現を目指していく」と発言、世界に注目される
・2009年9月22日 鳩山由紀夫首相がニューヨークの国連本部で開かれた国連気候変動サミットにおいて演説内で温室効果ガス25%削減を発言。日本メディアは注目するも、欧州メディアにはまったく注目されず。オバマ大統領の演説ではCO2削減についてブラジルや中国に言及するも日本には言及せず。
・2009年9月30日 鳩山由紀夫首相が関係閣僚へ温室効果ガスによる影響の試算のやり直しを指示
・2009年10月19日 国内総生産(GDP)が05年から20年に約21%成長することを前提とした場合、日本の2020年の温室効果ガス排出量を国内対策だけで1990年比25%減らし、光熱費の上昇を見込んでも、世帯当たりの可処分所得は経済成長などに伴い05年に比べて76万円増えるとの試算が、前政権(麻生政権)による削減中期目標の検討過程でまとめられていたことが中日新聞社によって報道された。
・2012年1月 温室効果ガス25%削減の撤回を表明
・2012年12月28日、再び政権与党となった自由民主党の茂木敏充経済産業大臣は、民主党政権が掲げた「2020年の温室効果ガス排出量を1990年比25%削減する」とした国際公約について、見直す方針とした[10]。2013年1月25日には安倍晋三首相が、温室効果ガス25%削減目標について、ゼロベースでの見直しを指示した。
・2013年10月 安倍首相と閣僚との協議で、2005年(Co2=129300万トン)比で日本のCo2の排出量をマイナス6%-7%を目標という考えを示した。
●対象となりうる業界
  製紙業界・出版業界
  石油業界・鉄鋼業界
  自動車業界
  発電業界

<エネルギーミックス>
*2-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150408&ng=DGKKZO85414030Y5A400C1EA1000 (日経新聞 2015.4.8) 
自民、原発比率 明示せず 安定電源引き上げを提言 党内に異論も
 自民党原子力政策・需給問題等調査会の額賀福志郎会長は7日、首相官邸で安倍晋三首相に2030年の望ましい電源構成案を提言した。安定的に発電できる原子力、石炭火力、水力などの「ベースロード電源」の比率を東日本大震災前の水準である約6割に引き上げるよう求めた。原発の稼働停止で電気料金は上がっており、家計や企業の負担軽減をめざすが、党内には異論もある。首相は「安全第一を基本原則に、安定供給が大切だ。国民生活や中小企業が成り立っていく上で電力料金の抑制は必要だ」と強調した。提言はベースロード電源に関して「欧米の多くの国で、漸減傾向にあるが現状6割以上となっている比率について、国際的に遜色のない水準を確保すること」とした。
■「6割」確保の表現消える 当初はベースロード電源の比率を「6割程度」確保すると明記する考えだった。比率の明示はないが、原発が2割程度、石炭が3割程度になるのが念頭にあるため、党内の一部から異論が出て、最終的に玉虫色の表現になった。11年の震災の後に原発が止まり、液化天然ガス(LNG)や石油といった燃料の調達コストが高い発電が増えた。震災前より家庭向けの電気料金は19%、企業向けは28%上がった。原発の立地自治体では、関連産業への波及も含めて再稼働を求める声がある。原発の再稼働が容易ではないなか、石炭の比率が増すことへの懸念も一部に広がった。「温暖化ガスの排出が増えれば国際舞台で恥をかくのは首相だ」と閣僚経験者の一人は語る。欧米各国は将来的にベースロード電源の比率を下げるとの指摘もあり、国際的な潮流に逆行するとの声も上がった。太陽光や風力など再生可能エネルギーの比率を上げるべきだとの意見もあるが、再生エネについては固定価格買い取り制度による家計や企業の電気料金の値上がりも懸念される。政府は再生エネの比率を原発よりも高くする方針で、今は全体の10%程度の割合が25%程度まで増えれば、電気代への上乗せ額は15年度の年5688円では済まなくなる見通しだ。
■排出削減目標の前提に 30年の電源構成は、今年末の第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)に向け、政府が温暖化ガスの排出削減目標を決める前提にもなる。首相は6月のドイツでの主要7カ国(G7)首脳会議(サミット)で日本の目標を説明する考えだ。菅義偉官房長官は7日の記者会見で「党の提言もふまえ、できるだけ速やかにエネルギーミックス(電源構成)をまとめたい」と語った。政府内ではすでに原子力を2割以上とし、ベースロード電源で全体の6割程度を確保する方向で議論が進んでいる。

*2-2:http://news.goo.ne.jp/article/mainichi/business/communications/mainichi-20150408k0000m020116000c.html (毎日新聞 2015年4月7日) <再生エネ比率>宮沢経産相、環境省試算を批判
 宮沢洋一経済産業相は7日の記者会見で、2030年の総発電量に占める電源ごとの割合(電源構成)をめぐり、再生可能エネルギー比率を最大35%まで拡大できるとする環境省の試算を「技術的な制約やコストの課題など実現可能性について十分考慮されていない」と批判した。環境省が三菱総合研究所に委託した試算は、30年の再生エネ比率が24~35%になると推定した。35%の場合、電力大手10社がそれぞれの地域で独自に行っている電力の過不足調整を、東日本と西日本の2地域(沖縄を除く)に統合し、地方で余った再生エネ電力を都市部に流すことや、蓄電池を最大限導入することを前提にしている。一方、経産省は再生エネ比率を20%台半ばとする方向だ。当初は3割程度まで拡大できるか検討したが、電力会社間の送電線の増強に数兆円規模のコストがかかり、過不足調整の地域を二つにするなどの対策は実現性が低いと判断した。宮沢氏は会見で、環境省の試算を「電源構成を決める議論で用いることはなかなかできない」と一蹴した。環境省は地球温暖化対策を推進するため、09年度から毎年、再生エネの導入可能量を試算している。今回の試算も「電源構成の策定を目的にしたものではない」と説明。望月義夫環境相は同日の記者会見で「環境省として技術やコストは試算できていない」と認めつつ、「CO2削減を考え、(経産省と)折り合いをつけなくてはいけない。最大限(比率を)増やす方向で頑張りたい」と述べた。

*2-3:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/175082
(佐賀新聞 2015年4月9日) 県議選候補者アンケート(下) 玄海原発再稼働の地元同意範囲
■立地自治体だけ「不十分」4割 ■自民現職、明確な範囲答えず
 玄海原発(東松浦郡玄海町)再稼働を判断する際の「地元同意の範囲」について、佐賀県議選立候補者48人へのアンケートで、隣接や30キロ圏内の自治体への配慮を求める意見を含め、約4割が立地自治体(玄海町と県)だけでは不十分と回答した。統一見解で回答した自民現職27人(無所属1人を含む)は、明確な範囲は答えず、国の動向を注視する考えを示した。地元同意の範囲をめぐっては、7月の再稼働を目指す川内原発の場合、鹿児島県と立地する薩摩川内市だけで「同意」とされた。ただ、全国の原発では、30キロ圏内の自治体などから同意の範囲に含めるよう求める声も上がっている。アンケートでは、無所属や共産、社民現職ら8人が「不十分」と回答した。さらに「どちらともいえない」と答えた12人のほとんどが、「立地自治体だけの問題ではない」(自民新人)「30キロ圏内の意見も聞くべき」(公明)「説明や配慮が必要」(民主)「幅広い理解を得る必要がある」(無所属)など、何らかの対応が必要としている。原発に関する県独自の専門家組織は、8人が「必要」と答えた。「どちらともいえない」の7人の中には、「同じ判断基準の組織は不要だが、地域性に着眼した議論ができるならあっていい」「周辺県と連携した専門チーム」(自民新人)などの意見もあった。30キロ圏内の自治体が策定している避難計画の実効性に関しても、「計画通りにいくとは思えない」「現実的ではない部分がある」などの指摘が多く、改善を求める意見が多かった。今後の原発の存廃と玄海原発の再稼働では、自民現職が「安全性確保を前提に、重要なベースロード電源と位置づけ、原子力規制委が新規制基準に適合すると認め、住民理解が得られた原発は再稼働を進める」と政府方針を踏まえて考えを示した。全体では6割が「廃止すべきでない」とし、7割が再稼働を「容認」するだった。

*2-4:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2015040401001563.html
(東京新聞 2015年4月4日) 英原発補助金めぐり提訴へ オーストリア、EU相手に
 【ウィーン共同】英政府の原発補助金支出を欧州連合(EU)が認めた決定に対し、憲法で原発建設を禁じるオーストリアが「市場競争をゆがめる」と反発、5月にもEU司法裁判所に無効確認の訴訟を起こす。英政府は「内政干渉」(キャメロン首相)と主張、対抗措置を警告したとも報じられ、両国の外交戦に発展しそうな気配だ。「われわれは誰の脅しにも屈しない。持続可能でも、再生可能でもない原発への補助金には明確に反対する」。オーストリア首相府の担当者は共同通信の取材にこう強調した。


PS(2015.4.10追加):*3のように、NHKは、「東電の福島第一廃炉責任者が、廃炉作業の見通しに関する悲観的な見通しを驚くほど率直に語った」とワールドニュースで海外には報道したが、国内ではそれを報道していない。そのため、NHKは海外向けには「報道した」というアリバイを作り、国民はその深刻でアホらしい内容を知らないのだ。これは、馬鹿者の悪知恵としか言いようがない。
       
        上              上           一方で2015.4.6日経新聞より
        上              上      2030年のエネルギーミックスで原発20%以上 
http://www3.nhk.or.jp/nhkworld/english/news/features/201503312108.html より

*3:http://financegreenwatch.org/jp/?p=50971 (Finance GreenWatch 2015年4月8日) 東電・廃炉責任者が悲観的な見通しを語るも、NHKは国内では報道せず
NHKが、東電・福島第一廃炉推進カンパニー社長・増田尚宏氏に、廃炉作業の見通しについて
インタビューしています。
「東電・廃炉推進トップが語る」 (NHKワールドニュース 2015/3/31)
http://www3.nhk.or.jp/nhkworld/english/news/features/201503312108.html
以下、増田氏の回答を引用します。
—–(引用ここから)——
(Masuda)
We have no idea about the debris. We don’t know its shape or strength.
We have to remove it remotely from 30 meters above, but we don’t have that kind of technology yet, it simply doesn’t exist.
溶融燃料についてはわからない。形状や強度は不明。30メータ上方から遠隔操作で取り除く必要があるが、そういった種類の技術は持っておらず、存在しない。
(Masuda)
We still don’t know whether it’s possible to fill the reactor containers with water.
We’ve found some cracks and holes in the three damaged container vessels,
but we don’t know if we found them all.
If it turns out there are other holes, we might have to look for some other way to remove the debris.
格納容器を水棺にするのが可能かどうかまだわからない。壊れた格納容器3基にヒビ割れや穴をいくつか見つけたが、それで全部かどうかわからない。ほかにもあれば、がれきを取り除く他の方法を見つけなければならない。
(NHK)
The government wants that work to begin in 2020.
I asked Masuda how confident he is that he hit the target. His answer was surprisingly candid.
政府は廃炉作業を2020年に始める意向だ。増田氏にそれについてどれだけ確信があるか尋ねた。彼の回答は驚くほど率直だった。
(Masuda)
It’s a very big challenge. Honestly speaking, I cannot say it’s possible.
But also I do not wish to say it’s impossible.
それは非常に大きなチャレンジだ。正直に言って、私はそれが可能だと言えない。でも不可能だとも言いたくない。
(NHK)
I also asked Masuda what he needs most for the operation to succeed.
増田氏に、成功させるためには何が一番必要かと聞いた。
(Masuda)
That’s hard to say. but probably experience.
How much radiation exposure can people tolerate?
What kind of information do the residents in the area need?There is no textbook to teach us what to do.
I have to make decisions every step of the way.
And I must be honest with you I cannot promise that I will always make the right decision.
言うのは難しいが、おそらく経験だろう。どのくらいの被ばく線量なら許容されるのか?周辺住民ににはどんな情報が必要なのか?どうすればよいか教えてくれる教科書はない。私は、ステップごとに決定を下さなければならない。正直に申し上げて、私が正しい決定をするということは約束できない。
—–(引用ここまで)——
増田氏は、極めて悲観的な見通しを語っています。NHKはこのインタビューを海外に報道したのに、国内では全く報道していません。国内の視聴者の受信料で番組を制作しているのに、都合の悪い情報は国内には一切報道しない。NHKは、東電の広報かと言いたい。極めて悪質な、ふざけた会社です。受信契約を解約する人が激増しているのは当たり前でしょう。


PS(2015.4.11追加):*4のとおり、電源別発電コストは、技術進歩や普及の程度で異なるため、名古屋大大学院教授、高村ゆかり氏の「原発など特定の電源を基幹電源と位置付ける考え方自体がなくなる」「ドイツでは安い再生エネが増えて電力の価格が下がっている」というのはそのとおりだと思う。また、環境省の試案根拠だけでなく、意図的な仮定と都合のよい不明事項が多すぎていかがわしい自民党、経産省、政府の試算根拠も明確に示すべきだ。

   
   2015.4.5NHKより     2015.4.8東京新聞より   2015.4.8    電気軽トラック 
                  原発がミサイル攻撃された場合  朝日新聞より   (実用化済)
*4:http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/news/CK2015041102000126.html
(佐賀新聞 2015年4月11日) 「原発比率2割」異論続々 有識者「事故なかったような議論だ」
 経済産業省は十日、二〇三〇年に目指す再生可能エネルギーや原発など、電源種類別の発電比率を検討する有識者会合を開いた。自民党と経産省が原発で二割程度を賄うことを念頭に水面下で比率案を調整していることに対し、出席者からは「福島(の原発)の事故がなかったかのような議論だ」などの異論が相次いだ。自民党の額賀福志郎元財務相は経産省と足並みをそろえて原発、石炭火力、水力、地熱の「ベースロード(基幹)電源」を、現在の四割から震災前の六割程度に戻す提言を七日に安倍晋三首相に渡した。これは原発で二割程度を積み増すことが念頭にある。太陽光など再生可能エネルギーは、20%台半ばに抑える方向だ。十日の会合では、この提言に対し、東京理科大の橘川武郎(きっかわたけお)教授が、あらためて「将来に向けて大きく考え方を変え、再生エネを30%まで高めて原発は15%に抑えるべきだ」と主張した。また名古屋大大学院の高村ゆかり教授は、欧米では再生エネの増加とともに基幹電源の比率が減少している傾向を解説。「原発など特定の電源を基幹電源と位置付ける考え方自体がなくなりつつある」と話し、基幹電源の名の下に原発を重視する自民党と経産省をけん制した。その上で「ドイツでは安い再生エネが増えて電力の価格が下がっている」とも指摘した。環境省は三〇年に再生エネの比率を最大35%まで高められると試算したが、自民党と経産省は実現性に否定的だ。これについて全国消費者団体連絡会の河野康子事務局長は環境省の出席者に「(試算の)根拠を示してほしい」と要望。経産省に対して電源種類別の発電比率を検討する際の検討材料から環境省の試算を安易に外さないよう、くぎを刺した。次回の会合で経産省は基幹電源についての考え方を整理し、環境省は試算の詳しい根拠を示す。


PS(2015年4月12日追加):*5のとおり、原子力、石炭、水力、地熱をベースロード電源とし、それを隠れ蓑にして原発比率を高めようという意図がありありだ。しかし、「発電コストが安い」という理由で原子力をベースロード電源に入れるのなら、今後、原発に税金で補助金を出したり、フクイチ以後の事故に国の責任で補償したりすることは無用であり、他の電源と同様、すべて原発企業の責任で行うべきである。また、「どの電源による電力を使うか」については、このブログの2011年6月21日に記載したとおり、ユーザーが正しく選択できるよう、電源毎に別会社にして正確に原価計算・利益計算を行うべきである。

*5:http://mainichi.jp/opinion/news/20150412k0000m070110000c.html
(毎日新聞社説 2015年4月12日) 電源構成 原発回帰が透けている
 あの原発過酷事故をなかったことにしたいのだろうか。経済産業省が2030年の日本の電源構成について、「ベースロード電源6割」を打ち出した。自民党の調査会も同様の提言をまとめている。政府によればベースロードは発電コストが安く安定して発電できる電源で、原子力、石炭、水力、地熱を指す。経産省は現時点で原発比率を明示していないが、水力・地熱が簡単には拡大できず、石炭は温暖化対策の観点から抑制が必要であることを考えると、引き算で「原発20%以上」となる可能性が高い。この数字が原発回帰を示していることは明らかだ。事故後に決まった「原則40年廃炉ルール」を守れば、国内の全原発を再稼働させたとしても30年の原発比率は15%程度。20%以上とするには、多くの老朽原発の稼働期間を60年まで延長するか、原発の建て替え・新増設が必要になる。統一地方選への影響を考慮し、ベースロードを隠れみのに原発比率を決めようとしているのだとしたら、姑息(こそく)な話だ。そもそも、「ベースロード6割」に特段の意味があるわけではない。欧米では今後、その割合が低下していくとの予測や、ベースロード電源という考え方自体が時代遅れとの指摘もある。欧米では、まず再生可能エネルギーを優先的に活用する流れができてきている。ひとたび事故が起きれば何年も動かせない原発を、「安定供給できる電源」と言えるのかという疑問もある。経産省は再生エネの比率についても20%台半ば(水力を含む)を検討しているというが、これも政府方針の「最大限の導入」からはほど遠い。太陽光や風力の拡大には送電網の増強などに高コストがかかるためというが、まずは、既存の送電網を再生エネのために有効活用できるよう制度を改善することが先決だ。将来に向けては、事実上破綻している核燃料サイクルや、温暖化対策に逆行する石炭火力への投資分を送電網の拡充にふり向けられる仕組みも考えるべきだ。負担が増えても再生エネを選びたい国民はいるはずで、それを可能にするためにも透明性のある議論が不可欠だ。環境省は30年の再生エネの割合を最大35%まで拡大できるとの委託研究の試算を公表している。この試算をめぐっては技術的制約やコストなどの検討が十分かについて見方がわかれているが、経産省は門前払いするのではなく、公の場で議論してほしい。原発にしても再生エネにしても、正面からの議論を避けているとすれば、政府が決める電源構成に国民の理解は得られない。


PS(2015年4月24日追加):このように、「発電時に二酸化炭素を出さない」という理由をつけて、温室効果ガス削減の名目で、原発の割合を2030年代に20~22%(東日本大震災前と大差なし)とするのは、「公害を出さず、国民の生命・財産を守る」という最も重要な意欲に欠けており、頭が休んでいる。

  
        *6より             経産省上       2015.4.23NHK  
                (LNGをベースロード電源に入れないのもおかしい)

*6:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11721337.html
(朝日新聞 2015年4月24日) 温室ガス削減「25%程度」 政府原案提示へ 2030年目標
 政府は23日、2030年の温室効果ガスの削減目標について、現状から25%程度の削減を目指して調整に入った。安倍晋三首相の指示も踏まえて、近く数値を定める。前提となる電源構成(エネルギーミックス)の割合は、原発を「20~22%」、太陽光など再生可能エネルギーを「22~24%」とする方針だ。
■電源構成、原発20~22%
 関係閣僚がこの日、首相官邸に入って協議した。首相の指示を経た後の週明けにも、環境省と経済産業省の専門家会合に政府原案として提示し、6月のG7サミット(主要7カ国首脳会議)までに決める。環境省と経産省で調整している目標案によると、前提となる30年の電源構成は、発電時に二酸化炭素を出さない原発と再生エネの合計で発電量の44%、排出量が少ない天然ガス火力が27%、石炭火力が26%、石油火力が3%。これらにより、エネルギー起源の二酸化炭素排出量は13年比で計算すると20%程度の削減になる見込みだ。ここから25%程度の削減を目指して、森林による二酸化炭素の吸収や代替フロン対策などを積み上げることなどで調整する。これまで、経済への影響を心配して当初10%台の削減としていた経産省と、国際社会で責任を果たすには30%近い削減が必要だとする環境省で主張に開きがあった。20%台半ばであれば、実現可能で意欲的な数字になると判断した模様だ。削減の基準となる年については従来の05年とする案と、原発停止後に排出量が増えた13年とする案があるが、削減率の差は0・6ポイント程度で、国際交渉への影響を見定めながら最終判断する。国際社会は、京都議定書にかわる、すべての国が参加する新しい枠組みを作るため、今年末にパリで開かれる国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)での合意を目指している。新しい枠組みでは、各国が温室効果ガス削減などの自主目標案を事務局に登録することになっている。すでに提出している主な国・地域のほとんどは30~50%の範囲にあり、この中では日本の目標は見劣りしかねない。

| 環境::2012.12~2015.4 | 03:55 PM | comments (x) | trackback (x) |
2015.4.7 それでは、何故、日本企業は利益率が低く、ゼロ金利にしても国内投資が少ないのか (2015.4.8に追加あり)
    
  各国の政策金利     日本の電源構成の推移    電気料金の国際比較 日本のベースロード
                                                    電源の推移

     
   日本の           オランダのソーラーロード          日本の直流・交流 
エネルギー自給率                                  併用システム

(1)各国の政策金利
 上の段の左のグラフで各国の政策金利を比較すると、日本円はいつも最低で、米ドル、スイスフラン、英ポンド、欧州ユーロが1%未満に続き、豪ドルが3%以上で最も高い。2015年現在は、欧州ユーロ(0.05%)が最低になり、日本円(0.1%)、米ドル(0.25%)、英ポンド(0.5%)、豪ドルが(2.25%)と続く。スイスフランは、最近の原油相場下落等を受けたスイスフランへの逃避買いを抑制するために、マイナス0.75%からプラス0.25%とマイナス金利部分を作ったのだそうで、永世中立国の信用できる金融はこのようなプレミアムがあるようだ。

 このように、日本円が世界で最低の金利をずっと続けてきたことは、日本全体として見れば、①大量にある国債や企業の借入金利払いが少なくて済む ②産業が低金利でしか営業できない利益構造になっている ③その結果、運用益で勝負しなければならない年金・保険の業績が低迷している ④個人も金融資産からの収入(預金利息、配当等)が殆どない ⑤実質賃金も下げなければ国際競争に勝てない という状況になっている。

 国としては国債の利払いが少なくて済むのは助かるものの、①②④は、日本全体としては、それだけ生産性の低い事業しかできていないということだ。特に、雇用対策・景気対策として国が支出する歳出には、辺野古の埋め立てや東北のいらない巨大堤防のように、環境を壊して水産資源を減少させるため他の代替案の方が安価で優れているものが多い。また、毎年のように同じ場所を掘り返しても以前と変わらない道路工事や、原発に対する膨大な歳出もある。そして、このように意味がなくむしろ害のある活動にヒト・モノ・カネをつぎ込めばつぎ込むほど、日本全体を平均した生産性は低くなり、それが産業の利益率の低さや平均実質賃金の低さになって国民に跳ねかえってくる。そして、その低金利、低配当の構造は、③のように、年金や保険資産の運用益の低さを招いているのだ。

(2)日本の生産性が低い理由(エネルギー政策を事例として)
1)燃料電池車、水素に対する日本政府の認識と対応
 *1-1のように、三菱自動車に続いてトヨタ自動車が燃料電池車(FCV)「MIRAI」を発売し、ホンダもこれに追随する予定だ。燃料電池車は、水素を燃料とするため排気ガスを出さず、*1-2の下水汚泥から製造した水素をはじめとして自然エネルギー由来の水素など、国産エネルギーで走れる文句なしの車だが、まだ福岡市と北九州市のタクシー会社5社が導入しただけで、いまだに水素ステーションの整備に戸惑っている状況だ。つまり、日本の経産省はじめ政府は、技術が外国に抜かれるまでやらない体質であるため、世界初の技術を開発しても創業者利得を得ることができず、付加価値が低くなるのである。

 なお、*1-3のように、世界では、日本企業のIHI(旧社名:石川島播磨重工業株式会社)とIHIエアロスペースが、航空機でも再生型燃料電池システムを搭載して飛行実証することに成功したそうだ。そのフライト試験では、航空機の離陸前から高度上昇中には燃料電池から電力供給を行い、巡航飛行時に航空機の電源を用いて充電を実施し、発電、充電、発電のサイクルを行うことに成功したそうである。

2)太陽光発電に対する日本政府の認識と対応
 *2-1、*2-2のように、オランダでは、世界初の「発電する道路(ソーラーロード)」の建設が始まり、100m当たり一般家庭3世帯分の電力が得られるそうだ。そのソーラーロードは、極小の結晶シリコン太陽電池をコンクリートにびっしりと埋め込み、その上を半透明の強化ガラスで被って作るそうである。この道路はオランダの全道路の最大5分の1に適応でき、信号や電気自動車への電力供給ができ、5年以内に商業的に実現可能な製品にするとのことである。

 道路は面積が広いので、場所を選んでソーラーロードを設置しても相当の発電量が見込める上、太陽光のうち電気エネルギーになる分は熱エネルギーにならないため、その分は道路の温度が上がらない。そのため、安価な太陽電池材料を開発すれば、道路は無公害で大量の国産エネルギーを生産することができ、国や地方自治体の税外収入になる。従って、オランダでの成功を待つまでもなく、日本でも全力をあげて開発すべきである。

 また、*2-3のように、有機薄膜太陽電池も次第に改良され、ペンキのように壁面に塗って発電することも可能になっている。現在の薄膜太陽電池の変換効率が10%未満でも、ガラスに塗って光の一部をエネルギーに変換する方が好ましい使い方もあるため、早急に建材への安価な利用を可能にすべきだ。

3)次世代の送配電について
 *3-1のように、太陽光発電した電気を家庭で使ったり長距離送電したりするには直流の方が低コストであるため、経産省とシャープが住宅に直流で電気を送って使う実験に成功したそうだ。この実証実験は「北九州スマートコミュニティ創造事業」の一つとして、2013~14年度に実施され、シャープと経産省は住宅1棟の実験で、約15%の省エネ効果を確認したとのことである。現在でも、太陽光発電、電気自動車、テレビ、パソコン、LED電球などは直流であり、その他の電気製品も直流仕様にすることが可能であるため、直流送電にすれば直交変換による電力ロスを防ぐことができる。

 そのような中、*3-2のように、自治体が電力小売りに次々と参入し、再生エネを高く買って安く販売するとのことでよいことである。上下水道と電力をスマートグリッドを使って自治体が安価に販売することにすれば、自治体の税外収入が増えるとともに、そこに立地する企業や移住する住民が増えると思うので、民間企業と協力して知恵を出しあい、推進してもらいたい。

4)次世代送配電に対する大手電力会社と政治の対応
 自然エネルギーで発電した電力を販売するに当たり、今は発送電分離が必要条件だが、*4-1のように、電事連の八木会長(関西電力社長)は発送電分離に懸念を示し、安定供給を維持する制度設計を注文したそうだ。そして、自民党の経済産業部会などが、分離前に電力の安定供給に支障がないかを検証する規定を盛り込み、電力システム改革の総仕上げとしての発送電分離を進める電気事業法改正案を了承したとのことである。

 つまり、上の段の2番目、3番目、4番目のグラフのように、原発は1980年に稼働を開始し、原発が稼働しても日本の電気料金は世界最高であったにもかかわらず、まだ「原発は環境によく、安定電源でコストが安い」として、現在は全く稼働していない原発の再稼働を主張し、“ベースロード電源”にしたのだ。

5)エネルギーに対する経産省と日本の産業界トップの行動
 *4-2のように、経団連は、2030年の電源構成比率に関して、太陽光などの再生可能エネルギーは総発電電力量の15%程度、原発は25%超、火力は60%程度にすることが妥当との提言を発表し、経済性、環境影響、エネルギー安定供給の観点からこの比率を算出したと主張している。

 経団連の榊原会長は、「①再生可能エネルギーは、高コストや発電効率の低さといったマイナス面がある」「②地球温暖化問題に対応するため、再生可能エネルギーや省エネルギーの技術開発に重点支援を行うべき」「③原発は、今後もベースロード電源として大きな役割が期待される」「④廃炉にした原発の敷地内に新たな原発を建設することや安全性が確認された老朽原発の運転延長が必要」とし、経産省の有識者委員会でも、ベースロード電源と位置付ける原発、水力、石炭火力による発電量を2030年に全体の6割程度にするとの見通しが示されている。

 しかし、①は再生可能エネルギーの技術進歩に理解がなさすぎ、②で再生可能エネルギー・省エネルギー技術の開発を言ってはいるものの、③④では原発のコスト高や放射性物質の環境への悪影響を無視しており、原発、水力、石炭火力をベースロード電源としている点で、物理・生物・化学に疎すぎる。そして、このような人たちが意思決定しているのが、技術で一番になっても制度で敗北して日本企業の利益率が低くなる理由なのである。

(3)その他の自動車及び燃料電池技術
 *5-1のように、(外国人社長である)日産自動車のゴーン氏は、2016年に市場投入する自動運転機能を搭載した自動車を同年に日本で売り出すと明らかにした。ゴーン社長は、「日本は大変重要な市場で、このような画期的な技術をできるだけ早く提供したい」と説明され、2016年の自動運転機能は高速道路限定だが、2018年に高速道路での車線変更に対応させ、2020年には市街地でも使えるようにすると表明されており、この技術は、安全性と生産性を同時に上げ、バリアフリーにも役立つだろう。

 また、*5-2のように、長崎大(長崎市)が東京大と共同で、希少元素のリチウムの代わりに豊富にあるナトリウムを使った「ナトリウムイオン電池」を開発し、これにより低コスト化が可能になり、電気自動車(EV)などへの活用も期待されるそうだ。開発者の一人で長崎大工学研究科の森口教授は「リチウムイオン電池と同じ性能で充放電できる。特定国への資源依存を解消できる次世代電池になる」「世界でリチウムの需要はさらに高まる。今後、ナトリウム電池の性能を強化し、企業と連携して実用化を目指したい」としており、原発にしがみついて生産性を下げている人々との対照が際立っている。

(4)人材に対する考え方と労働政策
 以上のように、最先端の研究をするにも、それを経営に反映させるにも、ジェネラリストでは役に立たず、その仕事に対する専門性と情熱が不可欠である。しかし、厚労省は、残業代を支払わない裁量労働制の対象を、デザイナー、コピーライター、研究職、弁護士、大学教授などの専門的な技術・知識を持つ職種と企画・調査分析などの事務職から、一定の専門知識を持って顧客の経営課題の解決につながる提案をする営業職、複雑な保険商品を組み合わせて奨める損保会社の社員、顧客企業に合った基幹システムを提案する営業担当者、企業年金の制度を指南する生保会社の担当者などに広げるのだそうだ。(しかし、企画は、現場をしっかり調査し、現場を知っていなければ役に立つものは出せないため、企画を短時間のひらめきだけでできるアイデア勝負だと考えている人は、よい企画ができない人である)

 つまり、日本の厚労省は、努力して専門性を持つと労働条件を悪くする提案をしており、この考え方が、我が国の生産性の低下や付加価値の低下に繋がっているのだ。これは、ジェネラリストと呼ばれる専門性を持たない人々が中心になって政策を作っているせいだろうが、工場における単純労働者を前提とした時間給中心の現行労働基準法が合わない職種は多いものの、専門性の高さや給料で適用を区分するのは当たっていない。

<燃料電池車と水素>
*1-1:http://qbiz.jp/article/58733/1/
(西日本新聞 2015年3月25日) 福岡で「MIRAIタクシー」全国初登場 5社が導入
 燃料電池車(FCV)の普及を目指す産学官組織「ふくおかFCVクラブ」は25日、FCVを導入した福岡県内のタクシー5社の合同出発式を、福岡市博多区の福岡県庁で開いた=写真。FCVをタクシーで使うのは全国初という。5社は、北九州第一交通(北九州市)、福岡昭和タクシー(福岡市)、福岡西鉄タクシー(同)、双葉交通(同)、姪浜タクシー(同)。国や県の補助金を活用し、トヨタ自動車の「MIRAI(ミライ)」を250万円程度のリース形式で導入した。出発式であいさつした同クラブ共同代表の小川洋福岡県知事は「FCVの普及に貢献してほしい。今後、水素ステーションを県内10カ所程度で整備したい」と述べた。

*1-2:http://qbiz.jp/article/59232/1/
(西日本新聞 2015年3月31日) エコカー燃料、下水で製造 福岡市で世界初の施設稼働
 下水の汚泥から水素を製造し、燃料電池自動車に供給する実証事業を行う施設が福岡市中央区荒津の市中部水処理センターに完成し、31日、現地で式典が開かれた。福岡市と九州大、民間企業2社でつくる共同研究体が、国土交通省の事業として建設。処理場に集まる汚泥の一部を発酵させてつくるバイオガスからメタンを取り出し、化学反応させて高純度の水素を製造する「世界初の施設」(同省)とされる。1日に燃料電池自動車65台分に相当する3300立方メートルを作り、併設した水素ステーションで自動車に充てんできる。市などは4月から1年かけ、施設の耐久性や水素発生の効率を検証する。月内には料金などを設定し、一般利用できるようにする方針。式典では九州大水素センター長の佐々木一成教授が「一日も早く全国や海外に展開していくことが使命だ」とあいさつした。

*1-3:http://www.ihi.co.jp/ihi/all_news/2012/press/2012-10-04/ (IHI 2012年10月4日) 世界初となる再生型燃料電池システムの民間航空機飛行実証に成功 -IHI/ボーイング共同研究によるフライト試験
 IHIとIHIエアロスペースは、米ボーイング社と共同で再生型燃料電池システムを民間航空機に搭載し、飛行実証することに成功しました。再生型燃料電池システムの飛行実証は、世界初の試みとなっています。再生型燃料電池は、充電可能な燃料電池であり、エンジンとは独立して電力を供給することが出来ます。また副産物は水のみであるため、省エネルギー化、二酸化炭素排出削減を可能とし、航空機の環境負荷を低減することができます。今回の飛行実証は、ボーイング社の環境対応技術実証を目的としたecoDemonstrator計画の一環として、米国シアトル近郊においてアメリカン・エアラインのボーイング737型機を用いて行われました。フライト試験では、航空機の離陸前から高度上昇中において、燃料電池からの発電による電力供給を行い、巡航飛行時に航空機の電源を用いて充電を実施、その後、再度、発電、充電、発電のサイクルを行うことに成功しています。再生型燃料電池の航空機適用技術は、経済産業省が公募した「航空機用先進システム基盤技術開発(航空機システム革新技術開発)」で採択されたプログラムを活用し、平成21年度より研究を行ってまいりました。 ここで得られた研究結果を、ボーイング社との共同研究でのフライト実証試験につなげることにより、今回の成功に至っています。航空機という閉鎖空間に、水素ガスを用いた燃料電池システムを搭載する必要があったため、飛行安全をどのように確保するかという部分が、一番重要な課題でした。水素ガスを民間航空機に搭載するための基準が現状は存在しないため、航空機の安全性確保のための安全設計基準を検討し、安全性解析、システム設計をボーイング社と共同で繰り返して行いました。 本システムにおいては、航空機を安全に飛行させるためのバックアップを含め、各種安全機能が備えられていることが特徴となっています。IHIは、ジェットエンジンでは国内最大のシェアを有し、航空機装備品メーカーとしての経験は豊富です。また、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)と地上発電用燃料電池の研究開発を行った経験があり、IHIエアロスペースにおいてもJAXA(宇宙航空研究開発機構)と成層圏プラットフォーム飛行船プロジェクトの電源系開発の一環として再生型燃料電池の研究を進めてきており、今回 実証した再生型燃料電池システムの基礎技術になっています。IHIは、今回得られた経験をもとに、再生型燃料電池の小型化、大出力化の改良を進め、航空機の低燃費及び環境負荷低減に寄与する将来の民間航空機用補助電源の製品化に向けた検討を実施していきます。

<ソーラー発電>
*2-1:http://toyokeizai.net/articles/-/53533
(東洋経済 2015.3.24) 世界初!「発電する道路」のインパクト
 ソーラーロードは通常の自転車専用道路ではない。これは、ソーラーパネルを埋め込んで作られる世界初の道路だ。オランダのヘンク・カンプ財務大臣は、アムステルダム市内で込み合う通勤道路に70メートルのソーラーロードを建設することにしました。「今は経済的な点で可能ではありませんが、それを可能にします。現在、懸命に努力しています」(カンプ大臣)。共同考案者であるステン・デ・ウィット氏によると、ソーラーロードは、極小の結晶シリコン太陽電池をコンクリートにびっしりと埋め込み、その上を半透明の強化ガラスで被うことで作られる。デ・ウィット氏は次のように言う。「一番上の層には様々な機能を組み合わせる必要があるため、ここがこの道路における最も革新的な部分です。日光は、この一番上の層を貫通してその下の太陽電池に辿りつかなければならないため、ここは透明でなければいけませんが、同時に十分な横滑り耐性、つまり、十分なざらつきも必要になるのですから」。太陽の位置に合わせて道路を調節することはできないので、ソーラーパネル製の屋根と比べ、ソーラーロードの発電量は30%下がる。だが、デ・ウィット氏によると、この道路はオランダの全道路の最大5分の1に適応でき、いずれは信号や電気自動車の電力としても使えるかもしれないという。「将来的に、この道路からその上を走る電気自動車へと電力供給できるようになれば、持続可能な移動システムに向けて非常に大きな進歩を見せることができます」。オランダ応用化学研究機関で働くデ・ウィット氏の同僚たちは、5年以内に商業的に実現可能な製品ができると言う。この最初の試験運用が軌道に乗れば、商業化へ向けたスタートを切ることになる。

*2-2:http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1411/14/news048.html
(スマートジャパン 2014年11月14日) オランダの夢「太陽光道路」、無線で車へ電力送る?
☆オランダで太陽電池を埋め込み、発電する世界初の道路「SolaRoad」が完成した。100m当たり一般家庭3世帯分の電力が得られるという。当初は道路の照明や家庭への電力供給を試みる。最終的な目標は自給自足可能な交通システムの基盤となることだ。2014年11月12日、オランダで世界初の道路「SolaRoad」が完成、開通式が開催された。太陽電池セルを組み込んだ部材を利用して作られたという意味で世界初である。アムステルダムの北西約15kmに位置し、長さは100m*1)。3年間の実証実験の形で運用されることになっている。実証実験の計画では、発電能力は道路の長さ100m当たり一般家庭3世帯分。実験開始時は発電した電力を系統にそのまま接続している。設置前の見積もりによれば、寿命(20年)以内に投資を回収できるという。現在は投資回収期間を15年以内に短縮することを目指している。オランダは大都市における交通システムに革命を起こそうとしている。首都アムステルダム市は2040年までに段階的に私有車を全て電気自動車化しようという計画を打ち出している(関連記事)。その電力を生み出すのに最も自然な方法は何か。車両の下に長く伸びる道路だ。道路を「無駄に」照らしている太陽光を利用する。オランダでの議論からは離れるものの、このようなシステムは系統との関係が希薄になる。日本で現在論じられているような、系統に悪影響を与えるという課題も同時に解決する。SolaRoadにつながるアイデアを2009年に打ち出したのは、オランダ応用科学研究機関(TNO)である。オランダの年間総消費電力は約1200億kWh。発電に適した建物の屋根全てに太陽電池を設置すると、総量だけを考えた議論ではあるものの、このうち4分の1を賄うことができる。さらに太陽電池を増やそうとすると、道路が適切であるという。オランダの道路総延長距離は約14万km。面積に換算すると450km2になる。これは屋根の総面積よりも広い。首都アムステルダムが位置する北ホラント州と、道路関連技術を得意とするオランダOoms Civiel、技術サービスプロバイダーである同Imtech Traffic&InfraがTNOのアイデアに賛同し、SolaRoadコンソーシアムを形成した。州政府が主に資金を提供した。5年間で350万ユーロを投じたという。Ooms Civielは道路に設置するパネル関連を扱う。同社は道路から熱や冷熱を取り出すソリューションを既に提供している。Imtech Traffic&Infraは用途開拓や技術の方向性の提案を担う。道路から取り出した電力を(無線で)電気自動車に送り込む。これはSolaRoadにとっての最終的な目標だ。そこに至る前の段階では、系統に接続する、道路照明に利用する、道路に隣接する家屋に供給するといったさまざまな用途があるのだという。実証実験では一般道路ではなく、自転車専用道路を対象とした。自転車専用道路は一般道路と比較して加重負荷が少ない他、路面を取り外して実証実験中に改良を加えやすいためだ。なお、オランダは自転車保有率が世界一(約110%)であり、自転車専用道路が約1万5000kmも延びている。一般道路に展開する前に、実証された技術を展開する場が広がっている。
●どのような部材が必要なのか
 SolaRoladの基本単位は3.5m×2.5mのコンクリートパネルだ。厚さははっきりと公表されていないものの、写真から20cm前後だと分かる(図2)。コンクリートパネルの表面は端面付近を除き、厚さ1cmの強化ガラスで覆われている。その内部に結晶シリコン太陽電池セルが配置されており、下面の強化ガラスとの間に挟まれている。つまり一般的な太陽電池モジュールをコンクリートとガラスで作り上げた形だ。SolaRoadによれば、現時点では道路用の特別な太陽電池セルを開発する必要はないのだという。図2を注意深く眺めると、中央の人物の前後で表面の様子が違う。SolaRoadでは「2車線」のうち、図手前の1車線のみに太陽電池を組み込んでいるからだ。同じ道路で従来と似た路面と、新しい路面の影響を比較しやすい。実証実験のコストも低くなる。
●道路に対する要求も満たす
 このような「モジュール」に求められる性能は何だろうか。SolaRoadによれば4つある。まずは光を通しやすいこと(光を反射しにくいこと)、次に可能な限り汚れをはじくことだ。残る2つは道路用の部材としての性質である。強度が高いことと、車両が横滑りを起こさないことだ。強度の高さとは、車両の重量はもちろん、落下物の衝撃に耐えること、寒暖の差に耐えること、塩害を受けないことだ。オランダは干拓で国土を広げてきた経緯があり、北ホラント州の面積の過半数は海面下だ。塩害に対する十分な対策が必要である。横滑りに対する対応策は、ガラス表面のコーティングだ。歩行者、車両ともグリップが効くようなコーティング材料を用いた(図3)。SolaRoadによれば一般的な自転車用道路と比較して、横滑り抵抗力は平均以上なのだという。この他、モジュールを組み合わせたときに要求される性質が1つある。走り心地だ。モジュール同士に高低差があると、わずかな差であっても車両内部に響く。そこで、モジュール同士が相互に連結して高低差が生じない構造を採った(図4)。下地の土壌が完全に平たんでなくてもよい。さらに温度変化による収縮・膨張の影響も受けにくいという。

*2-3:http://qbiz.jp/article/55947/1/ (西日本新聞 2015年2月15日) 薄膜太陽電池、普及へ一歩 変換効率の鍵は温度、九大研究院グループ解明
 九州大大学院工学研究院の田中敬二教授(高分子化学)の研究グループは、有機薄膜太陽電池に使われる高分子半導体(半導体プラスチック)で電気が流れやすくなるメカニズムを解明した。電気の変換効率を高め「より薄いディスプレーや、軽くて曲げることができる太陽電池の普及に役立つ」(田中教授)という。有機薄膜太陽電池は高分子や有機化合物の薄い膜でできた太陽電池。ペンキのように壁面に塗って発電することも可能だが、屋根などに設置する太陽光パネルなどシリコン系太陽電池に比べ、変換効率が低いことが課題だった。研究グループは、半導体プラスチックに光を当てた瞬間、正と負の電荷のペアが自由に分離することを突き止めた。さらに、温度が高くなると、プラスチック分子のねじれによって、電荷がプラスチックに閉じ込められ、電気が流れやすくなることも分かった。温度変化によって効率よく電気が流れる構造が解明されたのは初めてという。田中教授によると、電気の変換効率はシリコン系太陽電池の25%程度に比べ、現在の薄膜太陽電池は10%未満。今回、解明したメカニズムを材料設計に反映させると、変換効率の上昇が期待できる。論文は13日付の英科学誌ネイチャー姉妹紙の電子版に掲載された。

<送配電>
*3-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150331&ng=DGKKZO85068440Q5A330C1TJM000 (日経新聞 2015.3.31) 次世代送電、直流で 洋上風力や家庭内発電、効率よく、シャープ、住宅15%省エネ
 送電線で電気を送る際に、現在の交流ではなく直流を利用する試みが広がっている。太陽光で発電した電気を家庭でそのまま使ったり、長距離を送ったりするのは、直流の方がコストが安い。経済産業省が旗振り役で、シャープは住宅に直流で電気を送って使う実験に成功した。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は来年度から洋上風力発電の本格導入に向け直流送電設備の開発に乗り出す。次世代の送電インフラとして普及を目指す。シャープと経産省は直流給電ができる住宅1棟の実験で、全て交流で給電する一般の住宅より約15%の省エネ効果を確認した。住宅に取り付けた太陽電池で発電した直流の電気を、家庭内のコンセントに送る。この実証実験は「北九州スマートコミュニティ創造事業」の一つで、2013~14年度に実施した。350~400ボルトの電気で、専用に開発したテレビやエアコン、冷蔵庫、発光ダイオード(LED)照明などが問題なく作動した。家庭で使うテレビやパソコンなどは今でも直流で稼働している。現行の電気製品を改良する必要があるが、普及すれば製品内部で交流と直流を変換する手間が省ける。経産省の担当者は「太陽光で発電した電気の地産地消が実現できる」と商用化に期待する。発電所や変電所から工場や家庭などに電気を送る送電網の一部も直流に切り替える試みが進む。交流と併用して高効率の送電方式を探る。NEDOは企業と協力し15年度から、洋上風力発電所からの高効率直流送電システムを開発する。洋上風力発電はメガ(メガは100万)ワット級の発電能力を持つ風車を洋上に複数設置する。発電した電気は交流で、変電設備で直流に変えて陸上の変電所に送る。先進地の欧州では、個々の発電所と陸上変電所を1本の直流ケーブルでつなぐ方式が主流だ。日本で開発するのは複数の発電所を直流ケーブル1本で陸上変電所につなぐ方式だ。風車は陸地から数十キロメートル以上離れているため、直流で送れば交流より7~8%効率が上がるという。ケーブルの本数が少なく建設コストも抑えられる見通しだ。5年間で約45億円を投じて研究開発を進める。将来、スマートグリッド(次世代送電網)が普及し、各家庭の太陽電池や電気自動車(EV)のバッテリーにためた直流の電気を集合住宅や地域で共有して使うことも想定される。その場合、電力系統の負担を減らすために複数の電源をうまく制御する必要がある。工学院大学の荒井純一教授は、直流と交流を変換するインバーターを活用し制御する方法を提唱する。一つの電源に取り付けたインバーターを主電源として周波数や電圧が一定になるように設定する。他の電源を主電源の設定に合うように出力制御する。この工夫で、全体の出力を一定範囲に収め、系統への負担を抑えて直流電源の安定した運用が可能になるという。

*3-2:http://qbiz.jp/article/59661/1/
(西日本新聞 2015年4月7日) 自治体、電力参入次々 再生エネ 高く買い安く販売
 電力の小売りに参入する自治体が広がっている。電力を買い取って利用者に販売する「新電力」を設立し、太陽光などでつくった地域の電力を安く販売することで、エネルギーの自給自足の動きを支援している。2016年4月の電力小売りの全面自由化に合わせ、家庭への電力販売も視野に入れている。群馬県中之条町は13年、新電力の「中之条電力」を設立した。町内の大規模太陽光発電所(メガソーラー)の電力を、中之条町の庁舎や小学校に供給している。中之条町の公共施設が支払う電気料金は年約1千万円減った。大手電力は太陽光などの再生可能エネルギーを、政府が固定価格買い取り制度の下で決めた価格で買い取り、利益を上乗せして販売している。中之条電力は大手と比べて買い取り価格は高いが、上乗せする利益を圧縮し、販売料金を安くしている。中之条町はことし4月中に小水力発電所の建設も始める。地域の再生エネ発電を増やして、将来的には地元企業への販売や、小売りの全面自由化後に家庭に供給することも検討している。福岡県みやま市もことし3月、新電力を立ち上げた。当面は公共施設や企業に販売し、将来は家庭向けに電力会社よりも2〜3%程度安く電力を供給する計画だ。山形県も15年度中に新電力を設立する。再生エネによる電力を地域の事業者から買い取り、家庭に供給する考えだ。電力小売りの全面自由化で、大手電力による家庭への電力販売の独占がなくなり、家庭は電力会社を自由に選べるようになる。自治体の新電力から電力を購入する家庭も増えそうだ。一方、地域の再生エネ事業者を支援する自治体もある。長野県飯田市は公民館などの屋根を無料で太陽光発電事業者に提供。岩手県紫波町は小学校などの屋根を、市民から出資を募ったファンドに貸し出し、太陽光発電の運営を任せている。
*新電力 東京電力や九州電力など全国の大手電力10社の後で電力小売り事業に参入した会社。政府は電力市場を段階的に開放し、現在は契約電力が50キロワット以上の小売りを手掛けられるようになった。2016年4月の全面自由化で一般家庭への電力供給も可能になる。大手と比べて割安な電気料金が強みで、ガスや通信などさまざまな企業が設立している。

<経産省と産業界トップの意見>
*4-1:http://qbiz.jp/article/56385/1/
(西日本新聞 2015年2月21日) 電事連会長、発送電分離に懸念示す 「安定供給維持に検証を」
 電気事業連合会の八木誠会長(関西電力社長)は20日の記者会見で、大手電力会社の送配電部門を切り離す「発送電分離」を2020年4月から実施する方向になったことについて、「課題や懸念が残されている」と述べ、安定供給を維持する制度設計を注文した。自民党の経済産業部会などが19日、電力システム改革の仕上げとして発送電分離を進める電気事業法改正案を了承。改正案には、分離前に電力の安定供給に支障がないかを検証する規定が盛り込まれた。検証規定を要望してきた八木会長は「(法案に)記載するだけでなく、きちんとした検証が大事」と指摘。その上で「(何か問題があれば)延期を含め柔軟な改革を進めていただく」と強調した。原発停止が長期化し、電力の安定供給に不安が生じるような場合を想定しているとみられる。

*4-2:http://qbiz.jp/article/59651/1/
(西日本新聞 2015年4月6日) 再生エネ15%に、経団連が提言 原発は25%超
 経団連は6日、2030年の電源構成比率に関して、太陽光などの再生可能エネルギーは総発電電力量の15%程度、原発は25%超、火力は60%程度にすることが妥当との提言を発表した。それぞれの経済性や環境への影響、エネルギーの安定供給といった観点から比率を算出した。経団連の榊原定征会長は6日の記者会見で、再生可能エネルギーは普及が進んでいるものの、高コストや発電効率の低さといった「いろいろなマイナス面がある」との考えを示した。提言では、地球温暖化問題に対応するため、再生可能エネルギーや省エネルギーでの技術開発に「重点支援を行うべきだ」との見解も示した。原発は「今後もベースロード電源として大きな役割が期待される」とし、廃炉にした原発の敷地内に新たな原発を建設することや、安全性が確認された老朽原発の運転延長が必要とした。経済産業省の有識者委員会では3月、ベースロード電源と位置付ける原発、水力、石炭火力による発電量を30年に全体の6割程度にするとの見通しが示されている。

<人材に対する考え方と労働政策>
*5-1:http://qbiz.jp/article/59504/1/
(西日本新聞 2015年4月3日) 自動運転車、日本で16年販売 日産ゴーン社長が表明
 【ニューヨーク共同】日産自動車のカルロス・ゴーン社長は2日、2016年に市場に投入する自動運転機能を搭載した自動車に関して、日本で同年に売り出すと明らかにした。ゴーン社長はこれまで、どの国でこの機能を搭載した車を発売するか表明していなかった。ゴーン社長はニューヨーク国際自動車ショーの会場で、共同通信などのインタビューに「日本は大変重要な市場で、このような画期的な技術をできるだけ早く提供したい」と説明した。この自動運転機能は高速道路に限定する。走行中に道路の白線や前方を走る自動車を検知し、ハンドル操作や加速、減速を自動的に行う。ゴーン社長は18年に高速道路での車線変更にも対応させ、20年には市街地でも使えるようにする計画を進めるとあらためて表明。「ドライバーがハンドルから手を離し、道路から目線をそらすことができるような技術を徐々に実用化し、規制当局が認めるようにしたい」と語った。

*5-2:http://qbiz.jp/article/59477/1/
(西日本新聞 2015年4月3日) 長崎大が次世代電池開発 希少リチウム不要
 長崎大(長崎市)は2日、東京大と共同で、希少元素のリチウムの代わりに、豊富にあるナトリウムを使った「ナトリウムイオン電池」を開発したと発表した。低コスト化が可能になり、電気自動車(EV)などへの活用も期待される。開発者の一人で長崎大工学研究科の森口勇教授は記者会見で「リチウムイオン電池と同じ性能で充放電できる。特定国への資源依存を解消できる次世代電池になる」と話した。ナトリウムイオン電池の開発はさまざまな企業や大学が手掛けているが、マイナス極の材料選びが課題になっていた。森口教授は、多量のナトリウムイオンをスムーズに吸蔵、放出できるマイナス極の材料を研究。チタンと炭素、マグネシウムの粉末を1300度に熱し、フッ酸水溶液に漬けるなどして、シート状の化合物を開発した。既に東京大が完成させていた鉄と硫黄で作ったプラス極と合わせて、ナトリウムイオン電池を試作した。検査では、リチウムイオン電池と同様の出力で、急速充電と長時間放電も可能なほか、充放電を100回重ねても劣化はなかったという。現在、携帯電話やノートパソコンなどの電池に広く使われているリチウムの最大産出国はチリで、日本は輸入に頼っているが、ナトリウムは国内でも入手できる。森口教授は「世界でリチウムの需要はさらに高まる。今後、ナトリウム電池の性能を強化し、企業と連携して実用化を目指したい」と話している。

*5-3:http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS01H51_R00C15A4MM8000/
(日経新聞 2015/4/2) 裁量労働制の対象拡大 専門知識持つ法人営業職にも
 厚生労働省は働く時間を社員が柔軟に決められる裁量労働制の対象を広げる。一定の専門知識を持つ法人向け提案営業職にも適用する。金融機関やIT(情報技術)企業などで活用が進む見通しで、新たな対象者は数万人規模にのぼりそうだ。導入の手続きも簡単にする。多様な働き方を認め、効率的に仕事ができるようにする。政府が3日に閣議決定する労働基準法改正案に盛り込む。今国会で成立すれば2016年4月に施行する。裁量労働制はあらかじめ決めた時間だけ働いたとみなす制度。ただ深夜や休日に働くと手当がつく点で、同じ法案に盛り込まれた「脱時間給」制度(ホワイトカラー・エグゼンプション)とは異なる。今の裁量労働制の対象者は専門型で約50万人。デザイナーやコピーライター、研究職、弁護士、大学教授など専門的な技術や知識が求められる職種が対象だ。00年に解禁された企画型の裁量労働制は約10万人。企画や調査、分析といったアイデア勝負の事務職が対象だ。企画型は専門型に比べて普及が遅れているため、見直すことにした。第1に対象を広げる。一定の専門知識を持って顧客の経営課題の解決につながる提案をする営業職を新たな対象に加える。具体的には、高度な金融技術を使って企業の資金調達を支援する銀行員や、顧客の事業に対して複雑な保険商品を組み合わせてすすめる損害保険会社の社員、顧客企業に合った基幹システムを提案する営業担当者などを想定している。企業年金の制度を指南する生命保険会社の担当者なども対象になりそうだ。企業からは「法案が成立すれば適用するかどうか検討したい」(三井住友海上火災保険)、「協調融資や大型事業向け融資の担当者などが適用候補になる」(大手銀行)といった声があがる。裁量労働制を既に導入しているSCSKの古森明常務執行役員は「法人向けの提案営業が対象になれば、さらに500人弱を対象にできる可能性がある」と話す。厚労省は法案の成立後に指針を見直して、具体的な職種を例示する。既存の顧客を定期訪問する「ルートセールス」や店頭販売など一般的な営業職は対象に含めないことも明記する。裁量が乏しい営業職も対象にすると、働き過ぎを招く可能性があるためだ。産業界には営業職にも裁量労働制を導入すべきだとの声が根強い。現在は外回りの人向けの「事業場外みなし労働時間制」を適用する企業も多いが、外回りはみなし時間、内勤は実際に働いた時間で計算するため、労働時間の管理が煩雑になる。第2に手続きを簡単にする。これまで企画型の裁量労働制を導入するには、オフィスや工場ごとに労使が合意する必要があった。これからは本社で合意すれば、全国の事業所で適用できるようにする。裁量労働制の対象になると、職場にダラダラと残っても残業代はもらえない。短い時間で効率的に働く意識が高まりやすい。働く時間を柔軟に選べるので介護や育児との両立もしやすくなる。
▼裁量労働制 あらかじめ想定した労働時間に賃金を払う「みなし労働時間制度」の一種。労働時間規制を外す「脱時間給」制度とは異なり労働時間という概念が残るため、深夜や休日に働くと手当が出る。個人の仕事と生活の両立がしやすくなる一方、働き過ぎが増える懸念もある。


PS(2015.4.8追加):*6の記事もあり、排気ガスを出さない環境型のエネルギーを使うという意味で、水素で一貫体制を作ることは必要不可欠である。しかし、そもそも「現状では石油などから水素を取り出す時にCO2が出る」という水素の作り方をしたこと自体が、①高くつく ②エネルギー自給率に貢献しない ③環境にも悪い  など、燃料を水素に変える意味を理解していないのだ。この知識のなさ、見識の低さは、教育と社会の雰囲気のせいだろう。

   
    水素社会      *6より   IHIの水素燃料ジェット    *1-2より      

*6:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150407&ng=DGKKASDZ06I7X_W5A400C1MM8000 (日経新聞 2015.4.7)東芝、水素で一貫体制 開発拠点新設、製造から発電まで
 東芝は6日、二酸化炭素(CO2)の排出を減らせる水素エネルギー専用の研究開発拠点を開設したと発表した。2020年度にも水素の製造から発電まで手掛ける大規模システムを他社に先行して実用化する。水素関連の世界市場は50年に160兆円になるとの予測がある。米ゼネラル・エレクトリック(GE)など世界大手の間で主導権争いが始まりそうだ。東芝は府中事業所(東京都府中市)に研究開発拠点を設けた。現状では石油などから水素を取り出す時にCO2が出る。東芝は水素の製造過程でCO2を排出しないシステムを目指す。太陽光発電で水を分解して作った水素を、専用装置にためて大型の燃料電池で集中発電する。電力は送電網を通じて家庭に供給する。20年度までに1万世帯分の電力を発電できる大型システムを開発し新電力などに販売する。製造から発電まで一貫した水素エネルギーシステムは世界初。東芝は家庭用燃料電池など現在約200億円の水素関連売上高を20年度に1千億円にする。日本メーカーでは昨年末にトヨタ自動車が世界初の市販用燃料電池車(FCV)「ミライ」を発売した。三菱日立パワーシステムズは温暖化ガスの排出が少ない水素タービンを17年度にも実用化する。川崎重工業は同時期に海外の安価な水素を海上輸送する取り組みを始める。海外勢ではGEがイタリア電力最大手と3万世帯分の水素発電を実証実験中だ。

| 経済・雇用::2014.6~2015.10 | 03:26 PM | comments (x) | trackback (x) |
2015.4.4 年金受給額削減による年金制度維持は管理者の受託責任をうやむやにする詐欺であり、こういうことを許していれば同じことが何度も繰り返されること、また、政府の説明には虚構が多いこと (2015年4月6日、7日に追加あり)
    
  円ドル建て株価   日本の利子率(公定歩合)   実質賃金推移   名目賃金と実質賃金

      
*4より    家計収入と     国民会議   人口ピラミッド    年金の      *3-1より 
        消費支出の推移   報告書     の推移    マクロ経済スライド    

(1)資産からの所得について
 *4のように、①年間80兆円の大量資金を日銀が市場に流し続けることで、人々のデフレ心理を払拭し2%の物価上昇を目指す異次元の金融緩和3年目で、家計の株式・投資信託が50兆円増加し、株式・投資信託の保有残高は200兆円近くにまで膨らんだ ②しかし金融市場から離れると効果は弱まり、消費回復は株高の恩恵を得られる富裕層に偏り、昨年4月の消費増税を乗り越えられるほどには消費者心理が改善していない ③企業も設備投資になかなか本腰を入れられない ④2014年度の実質成長率はマイナスになったもようで、「金利低下が個人消費や設備投資を促す」という日銀のねらいは機能していない と今日の日経新聞に書かれていた。

 しかし、②は当然のことであり、ここで問題なのは、名目の円で計った株価しか見ずに、「株価が上がったから景気がよくなった筈だ」と騒いでいることだ。何故なら、需要と供給の構造や生産性が変わらないのに貨幣の供給量だけを増やしても、円の価値が下がって名目上の物価や株価が上がるだけであり、その上現在は、国民の年金資産を株式に移動させることにより、株価が上昇しているにすぎないからだ。

 その証拠に、上の段の左のグラフのように、円ドル為替レートは円安になり、円建ての日経平均株価の方がドル建ての日経平均株価より高くなっている。さらに、円安と左から2番目のグラフの金利低下で、国民の貯蓄の価値は2/3になったことにより株式価値の増加による資産増加は相殺され、さらに0金利政策により利子所得とそれに連動する配当所得がなくなったため、高齢者をはじめ貯蓄を持つ堅実な人の消費は増加しないどころか減少したのである。その結果が、③④になったわけだ。

 この悪政の理由は、①のように、「イ、年間80兆円の大量資金を日銀が市場に流し続けることで、人々のデフレ心理を払拭する」「ロ、2%の物価上昇を目指す」としたことにある。デフレが賃金低下の理由だとはずいぶん言われてきたが、上の段の3番目のグラフのように、実質賃金は2000年から殆ど変っておらず、4番目のグラフのように、脱デフレと称するインフレ政策をとり始めて半年後の2013年7月以降に実質賃金はみるみる下がっているのだ。そして、為政者がこれを知らずにやっていたわけはないため、政府とメディアは、国民に対し、協力して大きな虚構の説明をしてきたことになる。

(2)「財政健全化=年金減額+社会保障削減」というのも虚構である
 厚生年金、国民年金などの公的年金支給水準を物価に応じて変動させる「マクロ経済スライド」と呼ばれる仕組みが導入されたのは2004年の年金制度改革時で、当時は物価下落や賃金低下の局面では発動されないという制限があったのだそうだ。しかし、*1-1のように、「少子高齢化の下での財政健全化には痛みを伴う年金改革を行うことが重要で、支給額抑制を先送りしないように制度を見直すべき」「デフレでもマクロ経済スライドが発動できるようすべき」という意見が行政・メディアから相次いだ(下の段の左から2、3、4番目の図)。

 しかし、これは、一見もっともらしいが、実は高齢者のみに痛みをしわ寄せして年金資金の管理・運用のずさんさを改善しない政策であり、将来は、さらにずさんな管理・運用がより大きな規模で行われると予想される。そのため、それを防ぐには、退職給付会計の導入による年金資産の毎年の見直しと管理運用の反省及び積立不足分の計画的な積立が必要なのである。

 また、*1-2でも、「財政健全化の焦点は社会保障削減」と長い文章で書かれているが、ここで欠落している視点は、「必要十分な社会保障は行わなければならない」ということだ。にもかかわらず、社会保障を削減しさえすればよいという論調の学者が多く意見を書いている理由は、①そういう論調の人しかメディアに登場させない ②公共経済学を専門として社会保障削減を主張している人は、殆どが経済学部・法学部の出身で社会保障や社会福祉を勉強したことがないため、必要十分な社会保障とは何かという考察ができない ③そのため単純な収支計算でしかものを考えていない からだろう。

 例えば、「公費ベースで十数兆円増える社会保障費自然増のうち、支出を何兆円か抑制できれば、目指すべき社会保障の姿に近づけるとともに、財政健全化にも貢献する」というのは、社会保障の量は必ず増えるが効率よく必要十分なサービスを行うという視点ではなく、「社会保障を改悪しても制度さえ維持すればよい」というもので、国民の福利からは程遠く、これでは社会保障の役割を果たさないのである。

(3)年金について
 *2-1、*2-2のように、厚労省は、①現役世代の人口減や平均余命の伸びに応じて年金額を調整し、年金財政の安定化を図るため、デフレ経済でもマクロ経済スライドを適用 ②パートなど短時間労働者の厚生年金への加入を拡大 ③制度維持のため高齢者に給付減の「痛み」を求める ④2016年10月から従業員500人超の企業のみパートなどの短時間労働者への厚生年金適用拡大を義務化 ⑤高所得高齢者の基礎年金を減額 ⑥国民年金保険料の納付期間を現在の60歳から65歳に延長する などを盛り込み、報告書案を作って関連法案の取りまとめを目指すとのことである。

 しかし、①の公的年金が積立方式(自分用に積み立てる方式)から賦課課税方式(仕送り方式)になったのは1986年からで、この制度改正により、厚労省は積立金や収支差額(当時は収入超過)を大々的に無駄遣いしたが、その問題点は国民への退職給付債務を認識しない仕組みにしていることである。そうやって、年金資産をずさんに管理・運用してきた結果、*2-3の「年金が消えて詐欺だ」という結果になったのだ。また、②④は不完全であるため、あまり国民のためになっておらず、⑤⑥は、高齢者に十分な所得があれば年金を停止してもよいが、判定する所得レベルが低すぎるのが問題だろう。

(4)介護について
 *3-1のように、東京都は3月27日、今後10年で都内の「要介護認定者」が20万人増えて77万人に達し、65歳以上の介護保険料が約7割上がって月額平均8,436円となる見込みだと発表した。しかし、介護保険料は、受益者となる働く人全員が支払う仕組みとし、介護人材には外国人留学生を介護士として教育したり、労働者として外国人介護士も働かせることを前提としたりするのが筋である。

 そのような中、*3-2のように、政府は3月6日、外国人技能実習生の受け入れ期間を最長3年から5年に延長することを柱とした法律整備を閣議決定し、人手不足が深刻な介護分野などでの人材確保策として技能実習制度を活用する方針とし、制度の悪用による実習生の人権侵害等を防ぐ目的で新法を成立させるそうだ。しかし、働いている外国人を労働者として認めないのが最も大きな人権侵害であるため、小手先の対応ではなく正規の労働者として受け入れるべきであり、そういう方向への政策転換の方が、少子高齢化でグローバル化した時代の日本に適してもいる。

<「財政健全化=社会保障削減」としか言わない視点>
*1-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150129&ng=DGKKZO82521630Z20C15A1EA1000 (日経新聞社説 2015.1.29) 「痛み」を伴う年金改革から目をそらすな
 厚生労働省の審議会が公的年金制度の改革について報告書をまとめた。少子高齢化で年金財政が厳しくなる中、支給額の抑制を「極力先送りしない」ように制度を見直すべきだとした。「痛み」を伴う改革だが、早急に実現すべきだ。厚生年金や国民年金といった公的年金制度には「マクロ経済スライド」と呼ぶ年金支給水準を毎年小刻みに切り下げていく仕組みがある。2004年の制度改革で導入された。ただ、物価や賃金が低下するデフレ経済下では発動できないなどの制約が設けられた。このため、長らくデフレが続いた日本では年金水準を抑えることができなかった。15年度からやっと発動できる見通しだが、この先の経済状況によってはまた年金抑制が先送りされかねない。抑制が遅れれば、その分、将来世代の年金が先細りとなってしまう。そこで報告書は、デフレでもマクロ経済スライドが発動できるような見直しを求めた。ただ、医療や介護でも国民に負担となる制度改革が続くことから、政府・与党には今国会での見直しに慎重な意見も目立つ。日本は世界最速で高齢化が進む。これまで通りの制度では対応できないことは明らかだ。様々な分野で厳しい改革が相次ぐことはやむを得ない面がある。覚悟を持って改革を進める姿勢が必要だ。報告書は、年金財政安定のため、年金を受け取り始める年齢の引き上げや、パート労働者の厚生年金加入拡大についても触れた。しかし様々な反発も考慮し明確な方針は示していない。これらについても早期に議論を詰めるべきだ。現在原則65歳である年金受給開始年齢を66歳以上に引き上げるには、年齢にかかわらず働ける社会の実現も必要になる。大きな課題だけに早く具体的な検討を始めてほしい。将来の年金を増やすために、現在は原則40年である保険料の拠出期間を45年に延ばす案も出ているが、これも合わせて速やかに議論すべきだろう。パート労働者については、16年10月に第1弾の厚生年金加入拡大策が実施されることがすでに決まっている。ただしこの段階では、ごく一部のパートしか対象にならない。企業や本人の保険料負担にも配慮しながら、その先をどうしていくのか決める必要がある。年金課税強化や基礎年金のあり方の見直しなど課題はほかにもある。立ち止まってはいられない。

*1-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150309&ng=DGKKZO84099150X00C15A3KE8000 (日経新聞 2015.3.9) 財政健全化の焦点(上)、社会保障改革は不可避 土居丈朗 慶応義塾大学教授 (どい・たけろう 70年生まれ。大阪大経卒、東大博士(経済学)。専門は公共経済学。)
〈ポイント〉
 ○成長による税収増では健全化目標は未達
 ○病床削減・介護効率化通じ5.5兆円確保
 ○所得税は低所得層に有利な税額控除軸に
 安倍晋三内閣は、2020年度の財政健全化目標を達成するための具体策を今夏までに策定すべく議論を始めた。本稿では、具体策の検討に何が重要かを論じたい。内閣府が2月に示した「中長期の経済財政に関する試算」によると、20年度の基礎的財政収支は、17年度に消費税率を10%とし、今後の経済成長率を名目で3.5%前後と高く見積もった経済再生ケースでも、約9.4兆円の赤字となる見込みである。経済の実力に合った、より慎重なベースラインケースでは赤字はさらに約7兆円増える。政権には、厳しい歳出削減や増税の前にデフレ脱却・経済再生を図り、税収増によって収支を改善したいという思惑がある。成長による収支改善は前述の両ケースの赤字の差である約7兆円が期待される。しかし、3.5%超の名目成長が実現できなければ、それ以上の税収増はもはや期待できない。目標の達成には、歳出削減と増税を一体として改革し、9.4兆円の赤字を解消するしかない。中長期試算によると、債務残高の国内総生産(GDP)に対する比率は、何も努力しなくても14年度末をピークに低下するという。この数値だけを目標とすることは、歳出入面で何の改革もしなくてよいことと同義となる。グローバル化に対応した税制や、高齢化がさらに進む20年代によりよい社会保障を整えるためにも、それでよいはずはない。債務のGDP比を安定的に低下させるには、やはり基礎的収支の黒字化が欠かせない。歳出改革では、教育費や公共投資費など非社会保障支出の削減余地はかなり限られる。まず社会保障費の過剰な支出の抑制や効率化への追求に焦点を当てる必要がある。社会保障費の抑制というと、弱者切り捨てとか医療や介護の質の低下を連想したり、かつてとられたような毎年度一律削減策を想起したりするかもしれない。しかし本当の改革とは、社会保障の目指すべき姿を志向しながら、真に救うべき人を救えていなかったり、給付する必要のない人に給付を出していたりする現状を改めることである。とはいえ、社会保障のためならどんな負担増でも応じられる、というはずはない。国民が耐えられる負担には限度があり、それを超えた給付は出し続けられない。したがって、今後20年度までに公費ベースで十数兆円ほど増える見込みの社会保障費の自然増のうち、改めるべき支出を何兆円か抑制できれば、目指すべき社会保障の姿に近づけるとともに、財政健全化にも貢献すると考える。さらに、図にあるように、医療介護の過剰な給付を抑制したり、給付の重点化・効率化をさらに進めたりすることは、社会保険料の負担軽減や医療介護の業務の生産性向上にもつながる。給付抑制は直接的に税や保険料の負担軽減につながる。保険料負担を軽減することで、就業者の手取り賃金を増やすだけでなく、低所得者により重く課す逆進性の強い保険料負担の現状を改め、格差是正にも寄与する。さらに、事業主負担保険料の軽減につながり、企業の資金制約を緩和して活発な経済活動が促され、経済成長にも資する。これらの施策に民間活力を活用することにより、医療や介護の業務を、より短時間で高い付加価値を生み出せるものに変えることができる。こうした生産性向上は、経済成長を促すだけでなく、相対的に低いとされる介護従事者の賃金の増加を後押しし、格差も多少是正されよう。こうした利点を生かした社会保障費の抑制は、真の弱者に対する安全網は守りながら、社会保障の質を落とさないようにできる。では、どう改革するのか。筆者は慶応大学の鶴光太郎教授らとともに総合研究開発機構(NIRA)において共同提言をまとめた。医療、介護、年金の順に説明しよう。医療は、GDP比でみた医療費が欧米諸国より低いとか、医師不足、看護師不足、過疎部での病院閉鎖など、過剰というイメージが薄いが、必ずしもそうではない。我が国の年間受診回数や病床数、入院期間、設置されている高額医療機器数は、欧米諸国を大きく上回る。高齢者に飲みきれないほどの薬を処方しては飲み残すという過剰投薬も顕著である。欧米諸国より高い価格がつけられた薬も多い。過剰な病床の削減を含む病院・診療所の再編や入院・外来診療の標準化、後発医薬品の普及などの取り組みを徹底すれば、医療の質を確保しつつ医療費抑制につながる。同じ病気ならどの地域でも同じような治療が受けられる診療の標準化や、医療が施される場所を「施設から地域へ」と改めることができ、公費で1.9兆~4.0兆円程度の削減が見込まれる。介護給付は、今後、団塊世代の要支援・要介護者が急増すると見込まれる。さらなる負担増を国民に求める前に、給付の出し方を工夫して絞ることで、負担増の度合いを抑えなければならない。制度創設時に比べて軽度者向けサービスの給付費が膨らみ、それが負担増につながっている。重度化を防ぐことは重要ではあるが、その効果検証が不十分である。科学的根拠を蓄積し、重度化予防に真に効果のあるものに限定することがさらに必要である。そのうえで専門職でなくてもできるものはボランティアなどを活用すれば、必要なケアをしつつ給付は抑制できる。加えて、要介護認定の精度を高め、サービスの質を標準化することが求められる。こうすることで公費ベースで1.1兆円程度削減できる。年金については、5年程度で成果が出る施策は少ない。しかし、高齢世代内の所得格差是正のためにも、公的年金等控除を圧縮して、0.4兆円程度の捻出が可能である。こうした改革の具体策に取り組むことによって、基礎的財政収支赤字を3.4兆~5.5兆円程度、削減できる。財政を持続可能にするためには歳出改革だけでなく税制改革も不可欠である。わが国の税制は欧米諸国と比べて、税収に占める個人所得課税の割合が少なく、法人所得課税の割合が多く、消費課税の割合が付加価値税導入国のなかでは低いという特徴がある。今の税制は、わが国が抱える課題にうまく適合できていない。法人所得課税が多いことはグローバル化の進展にそぐわない。所得格差是正に対し、個人所得課税が効果を発揮できていない。景況にかかわらず社会保障費が増大するなかで税収が景況に影響を受けにくい消費課税は少ない。つまり、税制の重点を所得課税から消費課税へシフトさせることが課題を解決させる。個人所得課税で手厚い所得控除を縮小し、税額控除にシフトさせる必要がある。所得控除は、税率が高い高所得者ほど税負担の軽減額が大きい。税額控除は、税負担軽減額が皆同じである。税額控除に切り替えれば、低所得者には増税にならず、累進税率を上げずとも中高所得者により多く所得税を課すことができ、所得格差が是正できる。法人所得課税は、財源を確保した上で法人実効税率をさらに引き下げることが必要である。消費税は、今後増大する社会保障費の財源確保のためにも、黒字化目標達成のためにも増税が必要である。黒字化目標の達成に際し、社会保障支出削減や消費税率引き上げに反対するのであれば、他の具体的な支出削減や増税項目や規模を明示することが、責任ある議論である。政府は逃げてはいけない。

<年金>
*2-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2015012202000112.html
(東京新聞 2015年1月22日) 年金給付 さらに痛み 物価下落分以上に減額
 厚生労働省は二十一日、年金制度改革の方向性を示す報告書案を社会保障審議会部会に示し、了承された。物価上昇時にしか年金給付を抑制できないルールを、物価が下がるデフレ経済などでも実施できるようにする必要性を強調。パートなど短時間労働者の厚生年金への加入拡大を求めた。制度維持のため支え手を増やす一方、高齢者には給付減の「痛み」を求める内容になっている。年金の支給額は、物価の変動に合わせて毎年改定される。給付の自動抑制は、物価変動率より年金の改定率を1%程度低くする仕組み。例えば物価上昇率が2%なら年金は1%、物価上昇率が3%なら年金は2%程度上がる。低インフレで物価上昇率が0・5%なら年金は1%程度低くなるため、改定率はマイナス0・5%となる計算だが、現行では年金減額まで踏み込まず、0%に据え置く。一方、デフレ経済で物価が1%下がった場合は年金はさらに1%下げて計2%、物価が2%下がれば年金は計3%程度下がる計算。しかし、現行では年金の目減り額が大きいため、物価下落率と同率しか年金を減らさなかった。報告書案は、低インフレ時に年金の改定率をマイナスにしないルールや、デフレ経済で物価下落率以上に年金改定率を減らさないルールを撤廃するよう求めた。減らす分は将来世代の年金に回す。報告書案でも「将来世代の給付水準を確保する観点から、極力先送りされない工夫が重要」と指摘した。パートなどの短時間労働者への厚生年金適用拡大は一六年十月から、従業員五百人超の企業に一年以上勤め、週二十時間以上勤務し月収八万八千円以上の人が新たに対象となる。報告書案では、五百人以下の企業でも任意で加入を認めることを盛り込んだ。適用拡大で制度の支え手が増える。加入者は保険料負担が増えるが、厚生年金がもらえるようになる。高所得高齢者の基礎年金の減額などの必要性や、国民年金保険料の納付期間を現在の六十歳から六十五歳に延長することも盛り込んだ。ただし、国民年金は国の支出も増えるため、財源確保の問題から慎重な検討が必要と付け加えた。厚生労働省は報告書案を踏まえ、関連法案の取りまとめを目指すが、簡単ではない。物価下落時の給付の自動抑制は、高齢者の生活を直撃する。短時間労働者への厚生年金適用拡大は企業の保険料負担が増えるため、パートが多い流通・小売業界の反発が根強いからだ。
<公的年金> 20歳以上60歳未満の全国民が加入し、制度の土台部分になるのが国民年金(基礎年金)。これに上乗せする「2階部分」として、会社員を対象とした厚生年金、公務員や私立学校教職員が対象の共済年金がある。保険料は、国民年金で現在月額1万5250円。厚生年金の場合、国民年金分も含め、給料の17・474%を労使折半で負担する。

*2-2:http://qbiz.jp/article/59391/1/
(西日本新聞 2015年4月2日) マクロ経済スライド、初めて実施 年金額抑制で財政安定化図る
 新年度を迎えた今月から、年金支給額の伸びを抑える「マクロ経済スライド」が初めて実施される。制度を支える現役世代の人口減や、平均余命の伸びに応じて年金額を調整し、年金財政の安定化を図る狙いだ。
Q マクロ経済スライドとは。
A 年金給付の増額を自動的に抑制する仕組みだ。公的年金は、現役世代が払う保険料で現在の高齢者に給付する「仕送り方式」。少子高齢化で現役世代が減り、受給者は増えるため、現役の負担が重くなり過ぎる。そこで、給付を抑える目的で2004年に導入された。賃金や物価が下落するデフレ下では行わない決まりなので、これまで行われなかったが、「アベノミクス」で物価が上向いたので初めて実施される。
Q 年金額はどれくらい抑えられるの。
A 年金額は物価や賃金の上下に合わせて毎年4月に見直される。15年度改定では現役世代の名目賃金の伸び率2・3%分が増額されるはずだったが、マクロ経済スライドによる調整が行われる。調整率は平均余命の伸びなどから1%前後で算出され、今回は0・9%。さらに今年は、過去の不況期に払い過ぎた分を調整する目的で0・5%分を引く改定もあり、計1・4%分が引かれ、伸び率は0・9%分に抑えられる。
Q マクロ経済スライドは今後も続くの。
A 厚生労働省は、年金財政が安定するには43年ごろまで続ける必要があると試算している。マクロ経済スライドを続けると、現役世代の手取り賃金と比べてどれくらいの割合で年金を受給できるかを示す「所得代替率」が低下してくる。例えば今65歳の夫婦の所得代替率は62・7%だが、90歳時点で41・8%まで下がる。給付水準を抑えることで将来にわたって年金制度を維持可能にする狙いだ。
Q うまくいくのかな。
A マクロ経済スライドは賃金・物価が上昇していくことを前提にしている。賃金・物価の伸び率がスライド調整率より小さい場合、改定率は0が下限になる。また、賃金・物価の伸び率がマイナスの間は調整は行われない。調整が小幅だったり、行われなかったりすると調整期間が長引く。社会保障の専門家には、賃金・物価の上昇率が小さい年やデフレ下でも、確実に調整を実施するよう求める声もある。ただ、高齢者の生活に直結するため、与党は慎重だ。厚労省は、予定通り抑制できなかった分を翌年以降に繰り越す仕組みを導入する考えだ。

*2-3:http://digital.asahi.com/articles/ASH2V6W1DH2VULFA045.html?ref=nmail
(朝日新聞 2015年3月2日) 年金消え、穴埋め負担あと30年 64歳「詐欺みたい」
●シリーズ「報われぬ国」
 「何十年も掛けてきた企業年金がなくなったうえ、追加負担まであるなんて。詐欺みたいなもんだ」。栃木県で給油所を営んでいた男性(64)は憤る。この基金は栃木県内の給油所などが集まり、社員らの厚生年金の一部(代行部分)と企業年金(上乗せ部分)を出すためにつくった。だが、積み立て不足に陥り、今年1月、ついに解散に追いこまれた。厚生年金の代行部分は積み立て不足を加入企業が穴埋めしなければならず、男性のもとにはその負担額が通知されていた。最長30年かけて、月に1万円ほどずつ払っていくという。男性は、多いときで数人の社員を雇って給油所を経営してきたが、エコカーの普及などでガソリンの販売が低迷した。貯蔵タンクが古くなって改修が必要になったのを機に、数年前に給油所をたたんだ。60歳からは厚生年金と企業年金を合わせて月に約8万円(基礎年金を除く)を受けとってきた。だが、基金が解散したため、厚生年金は支給されるものの企業年金分の約1万円がなくなる。男性は「病気などに備え、年金をあてにしてきたのに」と肩を落とす。中小企業が集まってつくる厚生年金基金は、年金保険料を納める若い社員が減る一方、年金を受けとる退職者は増えてどこも厳しい。さらにこの男性が加入していた基金は、2012年2月に発覚したAIJ投資顧問の詐欺事件で、運用のために大手信託銀行を通じてAIJに預けていた約40億円を失い、積み立て不足が拡大してしまった。企業年金は退職時にまとめて一時金として受けとることもできるため、退職金の一部と位置づける中小企業もある。昨年2月に解散した京都府建設業厚生年金基金に加入していた資材会社でも、退職者の多くが一時金で受けとっていた。勤続年数などに応じて100万~200万円ほどだったが、解散後はもらえなくなった。この会社の担当者は「退職金代わりだったので痛い」ともらす。厚生労働省のまとめでは、昨年末時点で厚生年金基金483基金のうち290基金が解散を予定していた。その9割にあたる261基金は13年度末時点で企業年金の積み立て不足に陥っており、企業年金がなくなったり減額されたりするおそれがある。261基金の年金受給者と現役加入者は計約300万人に及ぶ。
■企業年金、中小企業は余裕なし
 厚生年金基金はかつて1900基金近くあり、会社員が入る代表的な年金だった。だが、この20年余りで、高齢化と経済低迷という日本社会の変化にほんろうされていく。「厚生年金基金をつくらないと損ですよ。余った金で大企業なみに保養所やプールもつくれます」。信託銀行の元行員は、1990年代初めにはこんな営業トークがあたり前だったという。「当時はまだまだ金利も株価も高かった。資金さえ集めて国債や株式に運用すれば、中小企業も銀行ももうかる。ウィンウィンだった」。入行したのはバブル経済の余韻が残る91年で、運用利回りで年6~7%を稼ぐ基金もあった。運用で大きくもうけた分で保養施設をつくることもできた。しかし、5年ほどで「おかしい」と感じ始めた。基金に加入する段ボール製造や繊維などの中小企業の社員が減っていったからだ。「100人の加入をみこんでいた基金に10人ほどしか入らない。業界が厳しくなって厚生年金の保険料を払う現役社員が減った」。97年、さらなる衝撃が襲う。アジア通貨危機が起きて世界的に株価が急落した。国内では不良債権を抱えた山一証券や北海道拓殖銀行などの経営破綻(はたん)が相次ぎ、金融不安が広がった。基金が買っている国債の金利や株価が下がって運用利回りが悪化し、積み立て不足が目立ち始めた。「ぎりぎりの基金はすぐに資金不足になった」という。厚労省は02年度、基金が厚生年金の一部を国から預かって運用する「代行部分」を国に返上することを認めた。大企業がつくる基金は負担を減らそうと代行返上し、支給額を減らすなどして企業年金だけの組織へ移行して生き残った。だが、中小企業の基金の多くは企業年金に移行するほどの余裕はない。同年度には代行部分の積み立て不足だけを穴埋めすれば、企業年金に移行せずに解散できる特例も認められた。「国は中小企業の企業年金を守る気はないと感じた。従来の基金のしくみは崩れたと思った」。元行員はそう振り返る。
■広がる老後の格差
 厚労省の厚生年金基金のモデル例では、支給月額は基礎年金が約6万5千円(夫婦で約13万円)、厚生年金(代行部分含む)が約10万円、企業年金が約7千~1万6千円になる。企業年金は受けとる期間が10~20年の人が多い。企業年金がなくなると数百万円の老後資金を失う人が出るおそれがある。基金に加入している人の多くはいま、中小企業の社員らだ。解散によって企業年金を失えば、企業年金が出る大企業と中小企業の老後の格差が広がる。厚労省の13年の調査では、退職金も企業年金もない企業の割合は従業員数が30~99人だと28・0%で、10年前より12・8ポイント上がった。一方、従業員が1千人以上だと6・4%で、3・5ポイント上がった。ただ、基金に入る人は企業年金がなくなっても、厚生年金は支給される。もっと支給額が低い国民年金に入る人もいる。国民年金は保険料を40年間納めた場合でも支給額は月に約6万5千円だ。保険料を納めない時期などがあると年金額は少なくなる。厚労省の11年の調査では、国民年金の加入者約1700万人のうち無職が約39%、臨時・パートの非正規労働者が約28%、自営業が約22%、厚生年金がない会社などで働く常用雇用が約8%だった。高齢になると、病気で医療費がかかったり介護施設に入ったりして療養費がかかる。年金が少なければ少ないほど、年をとったときの療養不安が増す。家計の相談に応じるファイナンシャルプランナーの藤川太さんは「公的な年金だけでは老後破産する。若いときから地道に貯蓄する習慣をつけたほうがいい」と話す。年金にくわしい慶応大非常勤講師の久保知行さんは、社会の変化に合わせた見直しを訴える。「非正規労働者も厚生年金に加入させる必要がある。また、厚生年金や国民年金は受給開始を遅らせるほど額が増えるので、企業は社員が定年後も仕事を続けられたり、退職金や企業年金だけで暮らせる期間を長くできたりするよう支援すべきだ」(座小田英史、生田大介、松浦新)
     ◇
 〈解散が相次ぐ厚生年金基金〉 厚生年金基金は会社員らが入る年金のひとつ。国から厚生年金の積立金の一部(代行部分)を預かり、企業が社員のためにお金を出して上乗せする企業年金とともに運用している。バブル崩壊後の不況で運用利回りが低くなったり、高齢化が進んで年金受給者が増える一方、現役社員の加入者が減ったりして、大企業の基金が代行部分を国に返上し、企業年金だけに移行していった。2012年にはAIJ投資顧問による年金積立金詐欺事件が起き、多くの基金が預けていた年金資金を失った。14年末時点で483基金まで減り、中小企業が業界や地域ごとに集まる基金が多い。このうち290基金が解散を予定し、その9割にあたる261基金が13年度末で企業年金の積み立て不足に陥っていた。

<介護について>
*3-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150328&ng=DGKKZO84965080X20C15A3L83000 (日経新聞 2015.3.28) 介護職員、3万6000人不足、都の今後10年推計 要介護認定者20万人増
 東京都は27日、今後10年で都内の「要介護認定者」が20万人増えて77万人に達するとの推計を発表した。これに伴って介護保険料は約7割上がり月額平均8436円となる見込み。介護需要の急増で介護職員は3万6千人不足する。介護の必要な高齢者を受け入れる施設の整備に加え、介護人材の育成が急務だ。10年後の2025年は団塊の世代が全員75歳以上の後期高齢者となる節目で、介護需給のミスマッチの拡大がかねて懸念されていた。都が具体的な中長期推計を示すのは初めて。舛添要一知事が27日の定例記者会見で、15~17年度の高齢者保健福祉計画と合わせて公表した。舛添知事は「きわめて恐るべき推計。総合的にあらゆる施策を動員したい」と話した。要介護認定者(要支援を含む)の急増は社会保障の重しとなる。介護保険料を負担する65歳以上の高齢者数は、15年時点では要介護認定者1人につき5人。これが25年には4人に減る。一方で介護保険の給付額は5割近く増えて1兆2千億円を突破。介護保険料も跳ね上がる。都は今後10年間で特別養護老人ホームを1万8千人分、介護老人保健施設を約9700人分、認知症高齢者グループホームを約1万600人分整備する目標を設定。受け皿の拡充を急ぐ。介護を担う人材の育成も重要になる。介護職員数は12年度に約15万人だったが、25年度には約25万人が必要とされる見込み。現在の新規採用などのペースでは需要の急膨張に供給の拡大が追いつかず、3万6千人もの職員不足が発生すると懸念される。都は介護人材の確保に向けて求人・求職情報を一元管理する「人材バンクシステム」を構築し、17年度から運用する。27日成立した15年度予算には介護職員の処遇改善を促す補助金を盛り込んでいる。

*3-2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11636612.html?ref=pcviewpage
(朝日新聞 2015年3月6日) 外国人実習、5年に延長 閣議決定 介護職などにも拡大
 政府は6日、外国人技能実習生の受け入れ期間を最長3年から5年に延長することを柱とした法律の整備を閣議決定した。安倍政権は、人手不足が深刻な介護分野などでの人材確保策として技能実習制度を活用する方針。同時に、制度の悪用による実習生の人権侵害などを防ぐ目的で新法を成立させる。新設する法律案と入管難民法の改正案を開会中の通常国会に提出する。今国会での成立と、2015年度中の施行を目指す。技能実習制度をめぐっては、実習生が低賃金や長時間労働などの劣悪な環境で働かされている問題が指摘されている。このため、制度全体を監視する認可法人「外国人技能実習機構」を新設する。実習生を受け入れる監理団体や企業の許認可を担うほか、実習生の人権侵害などの不正行為がないかチェックする。不正行為があった場合の罰則も設け、実習生を暴行・脅迫すると、1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金。パスポートを無理やり回収すると、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金となる。一方、人権侵害を受けた実習生が他の企業に移ることを支援する。これらを新法で定めると同時に、技能実習制度を拡充する。受け入れ期間を延長するほか、企業ごとの受け入れ人数の上限も緩和。対象職種も現在の69職種から追加し、介護のほか、林業、自動車整備、総菜製造、店舗運営管理などが検討されている。介護分野では、日本の養成施設で介護福祉士の資格を取った外国人の長期就労を認める。入管法改正案でも介護を新たな在留資格とする。同改正案では、外国人がうその申告で入国したり滞在したりした場合の罰則を新設し、それを手助けしたブローカーも処罰の対象とする。

<資産からの所得について>
*4:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150404&ng=DGKKASDF03H2G_T00C15A4MM8000 (日経新聞 2015.4.4)
異次元緩和3年目、家計の株・投信50兆円増 消費に波及、課題
 日銀が大量の国債や株式を購入して市場に資金を供給する異次元緩和が4日、3年目に入った。円安・株高の好循環が生まれ家計の資産や企業業績が急回復。デフレ脱却の動きは前進しつつある。一方で、個人消費や設備投資には慎重さが残る。市場には大量購入のひずみも見え始め、副作用を懸念する声もくすぶっている。
●200兆円に迫る
 「理論の上でも実践の上でもしっかり機能している」。3月20日、黒田東彦総裁は自らの政策の効果に自信を示した。年80兆円もの大量の資金を市場に流し続けることで、人々のデフレ心理を払拭し、2%の物価上昇を目指す異次元緩和。白川方明前総裁の政策よりも緩和のアクセルを強烈に踏み、2年間で円相場は1ドル=93円から120円へ下落。日経平均株価は約6割も上昇した。これだけ資産価格が動けば、効果も大きい。家計の株式と投資信託の保有額は2年間で約50兆円増えた。残高は200兆円近くまで膨らみ、戦後最長の好景気だった2007年6月やバブル末期をも上回った。第一生命経済研究所の試算では、この1年間の株高効果で個人消費を2.3兆円押し上げる。企業業績への恩恵も大きい。円安で製造業の採算が改善。融資も40兆円近く増え、企業は資金を楽に手当てできるようになった。14年の経常利益は65兆円と2年で33%増え、7年ぶりに過去最高を更新。稼いだ利益は雇用や賃上げを通じ、家計にしみ出している。ただ金融市場から離れると効果は弱まる。消費回復は株高の恩恵を得られる富裕層に偏り、昨年4月の消費増税を乗り越えられるほどには消費者心理が改善していない。企業も設備投資になかなか本腰を入れられない。14年度の実質成長率はマイナスになったもようで、「金利低下が個人消費や設備投資を促す」という日銀のねらいは十分機能していない。
●4分の1が日銀
 日銀が資産を買い続けられるか懸念も出始めた。日銀の国債保有額は、全発行額の4分の1を占める。市場に流通する国債が細り、金利が乱高下する場面が増えた。株価指数に連動する上場投資信託(ETF)の保有額も約7兆円と市場の過半に達した。BNPパリバ証券の河野龍太郎氏は「株価はバブルの色彩が濃く、緩和を弱めるときの反動は大きくなる」と指摘する。目標としてきた2%の物価上昇も想定外の原油安で遠のいた。黒田総裁は「15年度を中心とする期間に2%に達する」と断言するが、民間エコノミストの多くはそのシナリオを疑問視する。「いつまでも続けられる政策ではない」と日銀内から焦りの声が漏れ始めた。物価上昇が実現しないと、政策そのものの有効性が問われる。「壮大な実験」として世界が注目する異次元緩和。物価目標の期限を迎える3年目は、その成否が問われる試練の1年になる。


PS(2015.4.6追加):下の段の左から2番目の図のとおり、物価上昇による実質家計収入の低下と消費税増税により、消費税増税前の駆け込み需要を除き、2014年以降は消費支出と家計収入が急激に低下して、*5に書かれているとおりになっているが、その理由は、「脱デフレをして雇用増加と賃金上昇を図れば消費が増える」という前提が誤っているからである。
 本当は、①買いたいものが生涯収支と比較して適切な価格で存在しなければ消費は増えない ②消費者(顧客)がいなければ生産は不要 ③生産が不要であれば民間投資はない ④生産や投資が減れば雇用は減る ⑤さらに景気が悪くなり年金支給額も減る ①に戻る という循環になっているのだ。
 しかし、日本経済を語る人は、殆どが生産年齢人口の男性であり、女性がいても経済学的に理路整然と自らの意見を言えない人が多いため、①の考え方がいつも欠けており、これが日本でゼロ金利政策をとっても民間投資が増えない理由である。何故、こういうことになっているかについては、私がこれまで、教育、男女雇用機会均等、女性の登用、ジェンダー(男女の生物学的性差による社会的役割分担の強制)などで問題点を指摘してきたとおりだ。

*5:http://www.kochinews.co.jp/?&nwSrl=335921&nwIW=1&nwVt=knd
(高知新聞 2015年4月5日) 【消費増税1年】国民の負担に目を向けよ
 昨年4月に消費税率が5%から8%に引き上げられてから1年がたった。この間、毎月のように食品などが値上げされた。増税と物価上昇のダブルパンチで家計の負担は増すばかりだ。消費の低迷は景気回復に影響する。政府は国民の負担にもっと目を向ける必要がある。増税以降、消費者の節約志向は強い。少額商品なら負担を感じにくいが、高額の場合には何千円、何万円と出費が増える。増税の影響が収まらない中、物価上昇も続いている。アベノミクスが招いた円安などで原材料の輸入価格が上がったことが要因だ。原油相場が下がり、ガソリン価格はいっときより安くなった。だが、今月も乳製品や調味料などさまざまな商品が値上げされた。高齢者は介護保険料も上がる。家計には厳しい春で、財布のひもは当分緩みそうにない。消費の力が弱いのは物価上昇に賃金の伸びが追い付いていないからだ。物価を考慮した実質賃金は22カ月連続で減少している。どの企業でも賃金が上がれば、消費者はお金を使おうという気になるはずだ。本格的な景気回復には実質賃金を上げることが重要となる。確かに、円安や輸出の持ち直しにより、企業の生産や収益は改善している。春闘では大企業を中心に高額の賃上げ回答が相次いだ。だがその動きが波及するかどうかは不透明だ。中小・零細企業、そして家計に恩恵が行き渡ってこそ、政府が言う「経済の好循環」は実現する。増税と物価上昇の影響が特に大きい低所得者層への目配りも欠かせない。政府は負担軽減策として低所得者向けの給付金を支給した。しかし総務省の家計調査では、依然として低所得者の支出減少が目立つ。消費回復につながる効果は見えていない。もちろん一時的な支援策は大切だが、雇用の安定など抜本的な対策も必要だ。負担増のしわ寄せに苦しむ人たちへの配慮が求められる。政府は2年後に消費税率を10%に引き上げる方針だ。国民にとってはさらなる負担増となる。そもそも消費税増税は増大する社会保障費の財源を確保するためだった。新たな負担を求める以上、社会保障の充実や歳出削減など政治の責任を忘れてはならない。


PS(2015.4.7追加):*6のように、技術すら固まっておらず、国の多大な補助を必要としながら、次世代に放射性廃棄物の管理という大きな負債を残し、事故時には不可逆的な環境汚染を起こす原発を、「地球温暖化対策によい安価なエネルギー」として、経産省とその下部機関になっている経団連が推進するのは、前後左右を見ておらず、あまりにも視野が狭い。そして、意思決定する立場の人がこの状況なのが、日本の生産性が上がらず、ゼロ金利にしても投資が起こらない理由である。

*6:http://qbiz.jp/article/59669/1/
(西日本新聞 2015年4月7日) 「原発比率25%超に」 経団連、電源構成で提言
 経団連は6日、政府が検討している2030年時点の電源構成比率(エネルギーミックス)について、原発、石炭火力などを合わせたベースロード電源を62%超とする提言をまとめた。ベースロード電源を6割程度にする方針を示している自民党の調査会や経済産業省と足並みをそろえた格好だ。電源別の構成は、原発25%超、石炭火力27%、地熱・水力10%。太陽光などの再生可能エネルギーは「国民負担の急増などの問題がある」としつつ、「20%程度の実現を政策目標にし、革新的技術開発への重点的支援をすべきだ」とした。榊原定征会長は記者会見で「原子力を一定規模保有するのは温暖化対策のためにも必要」と強調。25%超を維持するためにリプレース(建て替え)を容認する考えも示した。

| 経済・雇用::2014.6~2015.10 | 03:22 PM | comments (x) | trackback (x) |

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