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2022.7.4~13 憲法の変更と防衛・社会保障・財源 (2022年7月20、23、24、27日追加)
 
2022.1.24東京新聞  2022.6.20日経新聞      2022.7.4日経新聞

(図の説明:1番左の図は、憲法に関する主な政党の主張で、左から2番目の図が、今回の参議院議員選挙における憲法に関する各党の公約だ。また、右から2番目と1番右の図が現在の予想獲得議席で改憲派《改憲項目は異なる》が優勢だそうである)


    2022.5.28沖縄タイムス      2022.6.18時事   2022.6.30時事 

(図の説明:左図が、今回の参院選における防衛関連の自民党公約、中央の図が、主要政党の物価高・経済対策、安全保障、憲法に関する公約で、右図が、財政政策に関する各党の公約だ)

(1)参院選の争点となっている憲法の変更について
1)各党の公約
イ)与党の公約
 憲法の変更(「改正」「改悪」は言葉の中に是非を含むため、私は使用しない)に関する各党の公約は、*1-1と上図のように、自民党は、①9条に自衛隊の明記 ②緊急事態条項の新設 ③参院の合区解消 ④教育の充実 である。また、与党である公明党は、⑤デジタル社会での個人情報保護や環境保全の責務など憲法施行時に想定されなかった新理念や憲法改正でしか解決できない課題があれば加憲 ⑥憲法9条は堅持して自衛隊の憲法明記については引き続き検討 ⑦緊急事態発生時の議員任期延長は議論 としている。

 しかし、①は、明記されていなくても国際法で自衛権の行使は認められ、「どこまでが自衛か」という論点の方が重要で、「どこまで行っても、何をやっても、自衛だ」と解釈する方が日本にとってマイナス面が大きいと思う。

 また、②は、「(政府の放漫経営で)日本が破綻して社会保障が続かなくなり、それが緊急事態とされて、私権の制限に至る」ということも大いにあり得る上、日本国憲法第25条「①すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。② 国はすべての生活部面について社会福祉・社会保障及び公衆衛生の向上・増進に努めなければならない」は常に疎かにされてきたため、国の利益のために国民の私権制限を正当化させるような憲法に変えてはならないのだ。

 ③は、憲法を変更しなくても公職選挙法を改正すれば済み、④は憲法だけでなく教育基本法にも定められているため、これまで実行しなかった部分があれば、その理由を明確にして、全力で実行することが必要なのであって、改憲すべき事項ではない。

 さらに、⑤の個人情報保護は、(デジタル社会か否かを問わず)憲法第21条で「1項:集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由を保障する」「2項:検閲をしてはならない。通信の秘密を侵してはならない」と定められているため、既に個人情報は保護されている筈だ。そのため、具体的な不足事項があれば個人情報保護法を改正すればよく、環境保全も既に環境基本法があるため守ればよく、法律に不足があれば改正して罰則もつければよいのである。

ロ)日本維新の会と国民民主党など改憲推進政党の公約
 日本維新の会は、⑧教育無償化 ⑨統治機構改革 ⑩憲法裁判所の設置 ⑪9条改正 ⑫緊急事態条項制定 とし、国民民主党は、⑬緊急事態条項の創設 ⑭議員任期の特例延長規定創設 ⑮憲法9条については自衛権範囲や戦力不保持などを規定した9条2項との関係などの論点から具体的な議論 とする。

 このうち、⑧は④と同様で、⑨は具体的に「何が、どう不便なので、統治機構をどう改革して、憲法にどう記載するか」を説明しなければ議論にならないし、必要性もわからない。さらに、⑩は、憲法裁判所という特殊な裁判所を作らなくても現在の裁判所で判定すればよく、それが公正にできないようなら憲法裁判所を設置しても同じかそれ以下であろう。

 また、⑬は②と、⑮は①と同様であるし、⑭は両院があるため、一緒に解散してしまって議員が誰もいないという場面はなく、政府もあるため不要だと思う。

ハ)立憲民主党・日本共産党・れいわ新選組など改憲反対政党の公約
 立憲民主党は、⑯憲法9条に自衛隊を明記する自民党の案は、交戦権の否認などを定めた9条2項の法的拘束力が失われるので反対 ⑰内閣による衆議院解散の制約、臨時国会召集の期限明記、各議院の国政調査権強化、政府の情報公開義務、地方自治の充実について議論 とする。

 私は、⑯⑰には賛成だが、臨時国会がなかなか召集されなかった際は、政策に関する建設的な議論ではなく、個人の誹謗中傷を予算委員会でしつこく言いたてていた時期であったため、「そういうゲスな質問ばかり繰り返して時間の無駄をしない」というマナーも重要だと思った。

 日本共産党は、⑱前文を含む全条項を護り、特に平和的・民主的諸条項の完全実施 ⑲自衛隊は憲法9条との矛盾を自衛隊の解消を段階的に行うことで解決 とする。また、社民党も、⑳日本国憲法は徹底した平和主義を貫き「世界でも先進的」なので改悪に反対で、社会に行き詰まりが目立つのは憲法の理念を活用しない政府の責任なので、憲法理念を暮らしや政治に活かして国民生活を再建 とする。

 私も、⑱⑳のように、現行憲法を護って平和的・民主的諸条項を完全に実施した後に、「やはり不足がある」というのなら改憲の議論をしてもよいと思うが、現行憲法が施行された当初から自主憲法の制定を党是として改憲のチャンスを伺い、「改憲勢力の数さえそろえば、改憲のポイントが違っても、ゆるい協力で言われたことを全部を改憲する」などという政党は、現行憲法のよさを理解していないため改憲の発議をする資格がないと思う。

 しかし、⑲については、明記されていなくても自衛権の行使は国際的に認められているため、「どこまでが自衛か」という論議の方が重要だろう。

 れいわ新選組は、自民党の改憲4項目は憲法改正を要するものではなく、第25条などの完全に実現できていないものを実現する としているが、確かにまだ実現できていないものを実現する方が先だと思う。

2)自民党の方針について
 現在の政権党である自民党は、*1-2-1のように、①憲法9条1項、2項を維持したまま自衛隊を憲法に明記するか、9条2項を削除して自衛隊の目的・性格を明確化するかの2案があり ②選挙できない事態に備えて国会議員の任期延長・選挙期日の特例を設けるか、政府への権限集中・私権制限を含めた緊急事態条項を憲法に規定するかの2案もあり ③47条を改正して両院議員の選挙区及び定数配分は人口を基本としながら、行政区画や地勢などを総合的に勘案して、都道府県をまたがる合区を解消し、参院選は改選毎に各都道府県から1人以上選出可能となるよう規定し ④教育の重要性を憲法上明らかにするため、26条3項を新設して国が教育環境の整備を不断に推進すべき旨を規定する という状況だそうだ。

 そして、*1-2-2のように、自民党の茂木幹事長は、6月20日、「参院選後、できるだけ早いタイミングで改憲原案を国会に提案し、発議を目指したい」「(自民、公明、日本維新の会、国民民主などの改憲勢力が参院選で改憲発議に必要な3分の2以上の議席を獲得するのが前提で)主要政党間でスケジュール感を共有し、早期に改憲を実現したい」と述べられたそうだ。

 しかし、参院選で改憲発議に必要な3分の2以上の議席を獲得したとしても、それぞれの政党は改憲したいポイントが異なるため、協力をとりつけるためにそれらの全部をともかく改憲項目にするようなら、憲法を愚弄すること甚だしいのである。

3)各メディアの意見
 メディアは、*1-2-3・*1-2-4のように、参院選の主要争点の一つに憲法改正が挙げられ、ロシアによるウクライナ侵攻が憲法論議に影響しているが、①改憲を主張する政党は憲法を変えないことによる不具合は何かを具体的に説明し ②改憲でしか問題が解決しない理由を明確にしなければならず ③選挙期間中に議論を深めて欲しい ④選挙結果によっては日本国憲法の重大な岐路になる可能性があるため、どんな国を目指すのか、危機を煽るのではなく熟議や歴史に耐えうる憲法論議を各党に望む としており、賛成だ。

 また、合区解消・教育無償化は、教育基本法や公職選挙法で対応可能なので改憲の必要性はなく、緊急事態条項は、大規模災害や武力攻撃発生時を例に挙げて政府の権限を強めることと説明されているが、いざとなったら私権を制限して個人の権利尊重や立憲主義の理念を根本から変える運用もできるため要注意なのである。

4)参議院議員選挙における改憲情勢
 7月10日投開票の参院選は、*1-3-1・*1-3-2・*1-3-3のように、自民・公明両党が改選124に欠員補充1を加えた125議席の過半数63議席を超える勢いで、立憲民主党は伸び悩み、日本維新の会は伸長する見通しだそうだ。自民党が1人区で強いのは、長期にわたって政権政党であるため、予算配分で支持を得たり、個人的に集票力があったり優秀だったりする人を候補者にし易いからで、有権者に政策に賛成する人が多いからではない。

 共同通信社の参院選トレンド調査でも、*1-2-3のように、投票先未定の有権者に何を最も重視して投票するかを聞くと、「物価高対策・財政政策」が46.1%の最多で、「憲法改正」は1.8%に留まり、「改憲に賛成だから、自民党に投票する」という人が多いわけではないことが明らかになっている。

 今回の参院選では、改憲論議に前向きな自民・維新・国民民主・公明の4党が非改選で84議席を持ち、この4党の無所属・諸派を含めて82議席以上となって、改憲の国会発議に必要な総議員の3分の2(166議席)維持が視野に入るそうだ。ただし、政党毎に改憲したいポイントは異なるのに、これらをまとめて改憲の国会発議ができるのかという疑問は残る。

 自民党は憲法9条への自衛隊明記と緊急事態条項の創設を中心として4項目の条文イメージを掲げ、茂木幹事長は報道各社のインタビューで「参院選後できるだけ早いタイミングで憲法改正原案の国会提出と発議を目指したい」と述べられた。

 しかし、緊急事態条項の創設について、私自身は(1)1)に記載したとおり、立憲民主党の「緊急事態条項の創設は、国民の権利保障や立憲主義に逆行する」というのに賛成で、国民の生存権を保障する社会保障は疎かにしながら、外交や経済での事前準備もなく、防衛費だけをGDPの2%まで増やして戦争の準備をされては困るため、9条の改憲もやめた方がよいと思う。

 いずれにしても、*1-3-4のように、有権者は国の形や改憲発議の可能性まで考慮して投票先を決めなければならないことになっているのだ。

(2)改憲に関する憲法学者と法律家団体の見解
1)憲法学者、東京大学石川教授の見解
 東京大学の石川教授は、*2-1のように、①ウクライナへの軍事支援で兵器ビジネスが活性化している現在、9条2項の存在意義は大きい ②9条は国防の手段を定めた条文ではなく、軍事力を統制して自由を確保する立憲主義の統治機構を構築するための条文 ③国家は、9条があっても安全供給義務を免れるわけではなく、憲法の許容範囲で政治的・経済的・社会的安全を確保しなければならない ④9条が立憲主義を挫折させた帝国主義・軍国主義を吹き飛ばしたので、それを不用意に動かすと不可逆的改正になりかねない ⑤自衛隊明記の名の下に9条の中身を変えるのは、自由のシステムを壊すだけに終わる可能性がある ⑥政治家には、条文の改正によって既存の制度の何が損なわれるのか、新しい制度が機能するのかを見定める責任がある ⑦国防国家に逆戻りして軍拡競争に巻き込まれていくことを恐れる ⑧公職選挙法の改正で足りる規定を、自縄自縛を解く突破口として利用しようというのは姑息 ⑨問われているのは、異質なものと共存する世の中を選ぶのか、異質なものを排除して仲間内だけで気持ちよく生きるか、という文明的な選択 ⑩上滑りの改憲論ではなく、尊皇攘夷の排外主義を立憲主義に切り替えた伊藤のような文明観を持ってまっとうな憲法論議を深めることが大切 としておられる。

 石川教授の説明は、確かに、⑩のように上滑りではなく、⑨のように、異質なものを排除することもなく文明的であり、深く考えた跡が見られるので気持ち良い。また、①②③はなるほどと思わされ、④⑤⑥⑦⑧は、私が何となく恐れていたことを具体的な言葉にしておられる。

 従って、上滑りの改憲論議が議員・候補者・メディア等を通して頻繁に行われ、学生や生徒が深い憲法観を持てなくなりつつある現在、石川教授が「50分、10コマ」くらいの日本国憲法に関する講義を動画配信したらよいと思われる。そして、中学・高校では、公民の時間に、石川教授などの動画による憲法の講義を視聴し、憲法のテキストも読んでディスカッションしながら、現代政治の仕組みとそれを支える制度について考えを深めるようにすればよいと思う。そして、このような動画の使い方は、他の教科にも応用できることである。

2)憲法に基づく政治を求める法律家団体の見解
 改憲を阻止する法律家団体は、*2-2のように、①岸田首相は在任中の改憲に強い意欲を見せ、憲法 9条への自衛隊明記への執念を表明した ②7月10日の参院選は重大な選択を主権者である市民に求めている ③自衛隊が憲法に明記されれば、憲法9条は死文化して歯止めなき軍拡と武力行使が可能になる ④国民主権と基本的人権の尊重という憲法の体系を破壊して軍事の論理が人権や民主主義に優先する国となる危険がある ⑤敵基攻撃論は先制攻撃と紙一重である ⑥安倍元首相や維新の会は「核共有」の議論を始めるべきとして核兵器禁止条約に背を向け、日本が堅持してきた非核三原則も捨て去ろうとしている ⑦5月23日の日米首脳会談でウクライナ危機を口実に力には力で対抗することが宣言され、これは憲法 9条が掲げる「外交による平和の実現」をかなぐり捨てるものである 等と記載している。

 また、自民党は、i)敵地攻撃能力を保有し、攻撃対象を敵国中枢に拡大する ii)防衛予算を 5年以内にGDP比2%に増やす iii)日米軍事同盟のさらなる強化と核抑止力を強化する iv)核持ち込み禁止を見直す などの専守防衛政策転換を求める提言を岸田首相に提出し、日本維新の会も安倍元首相が民放番組で核共有の議論を促すとすぐに賛成して、v) GDP比2%への防衛費増額 vi)中距離ミサイル等の装備拡充 vii)核共有等の拡大抑止議論の開始 viii)専守防衛の見直しなどを打ち出した とのことである。

 しかし、日本が敵基地攻撃能力保有や核共有を実施すれば他国も軍事力を増強して果てしない軍拡の応酬と相互不信を生み、日本の軍事力増強はむしろ安全保障環境を危機に陥れそうである。そのため、地域のすべての国を包み込む安全保障と非軍事的支援の枠組みを作るのが唯一の平和への道で、憲法 9条はそれを指し示す役割を担っているというのは正しそうだ。

 さらに、軍事費を増大させれば、次は、生活に必要な福祉を削って社会保険料や消費税を上げるという話が出てくるが、防衛費倍増分の 5兆円があれば、大学授業料の無償化・児童手当の高校までの延長と所得制限撤廃・小中学校の給食無償化 (合計約 3.2兆円) をしても余り、年金受給者に対して一律年12万円受給額を増加させる (約 5兆円) ことも可能である。そして、コロナ禍や物価高騰でさらに苦しくなっている国民は、こういう財政支出の方を望んでいるのだ。

(3)社会保障と国民生活

  
   2022.6.30時事      2022.6.27産経新聞     2022.6.28時事

(図の説明:左図は、財政政策に関する各党の主な公約で、中央と右の図が、社会保障関連の公約である)

1)各党の公約
 *3-1のように、各党の公約は、自民党は、①全ての世代が安心できる持続可能な年金・医療・介護等の全世代型社会保障構築に向けて計画的な取組み ②出産育児一時金の引上げなど出産育児支援を進めて仕事と子育てを両立できる環境をさらに整備 ③健康長寿・年齢に関わらない就業、多様な社会参加等で長生きが幸せと実感できる「幸齢社会」を実現 とし、公明党は、④社会保障を支える人を増やし、全世代型社会保障の構築 ⑤公的価格引き上げによる医療・介護・障がい福祉の人材確保策強化 ⑥高齢者の所得保障充実に向け、高齢者が働きやすい環境整備と基礎年金の再配分機能強化を検討 としている。

 このうち、①の「安心」できるためには、生活できる年金と頼りになる医療・介護が確実に支給されることが必要であるため、「持続可能性」を口実に負担増・給付減ばかりしていれば逆になる。また、全ての世代が安心できる全世代型社会保障構築は重要だが、そのために高齢者と働く世代を対立させ、計画的に高齢者への支給を減らすのは、現在でも不十分な社会保障がさらに不十分になるため、工夫が足りず賛成できない。

 また、②の「出産育児一時金の引上げ」については、出産を保険適用にすれば済む上、一時金を少々もらっても出産で正規雇用の仕事を失い子育て後には非正規の仕事しかなければ全くPayしないため、出産しても正規雇用の仕事を失わないように仕事と子育てを両立できる環境を整備するか、子育て後に正規雇用の仕事に不利なく復職できるようにすべきである。

 しかし、*3-3-3のように、1990年代には共働き世帯と専業主婦世帯数が逆転したにもかかわらず、「M字カーブ」が続き、現在は「L字カーブ(女性の正規雇用率は20代後半に5割を超えてピークに達し、その後は正規雇用率が一貫して下がること)」が問題になっている。その理由は、出産後の女性に事実上非正規雇用の選択肢しかないからで、これは、女性の経済的自立、社会での活躍、労働力確保、社会保険料の徴収などの観点からよくない。

 そのため、「非正規雇用」という労働基準法でも男女雇用均等法でも護られない低賃金での不安定な働き方の許容をやめるべきである。また、③の健康長寿・年齢に関わらない就業はよいが、「多様な社会参加」という名目で高齢者や女性に低賃金労働や無償労働を強いるのは不公正で、長生きが幸せと実感できる社会にもならないため、内容をよく吟味すべきだ。

 なお、公明党は、④社会保障を支える人を増やし、全世代型社会保障の構築 ⑤公的価格引き上げによる医療・介護・障がい福祉の人材確保策強化 ⑥高齢者の所得保障充実に向け、高齢者が働きやすい環境整備と基礎年金の再配分機能強化を検討 としている。

 このうち④は①と同じであり、⑤は公的価格引き上げを負担増・給付減で賄えば、高齢者に負担が偏るため、全世代が所得に応じて薄く広く負担する必要がある。また、国有資源からの収益を充てることも考えるべきだ。さらに、⑥については、定年制の廃止や定年年齢の延長と年金給付年齢の引き上げをセットで行えば、高齢者の所得保障と社会保障充実の両立が可能だろう。

 一方、立憲民主党は、⑦年金切り下げに対抗して低所得の年金生活者向けの手厚い年金生活者支援給付金 ⑧政府がコロナ禍で行う後期高齢者医療費窓口負担割合の1割から2割への引き上げ撤回 ⑨公立・公的病院の統廃合や病床削減に繋がる「地域医療構想」の抜本的見直し とし、日本共産党は、⑩物価高騰下での公的年金の支給額の引き下げ中止 ⑪年金削減の仕組み廃止と物価に応じて増える年金 ⑫75歳以上の医療費2倍化を中止・撤回 としている。

 また、社民党とれいわ新選組は、⑬75歳以上の医療費窓口負担の引き上げ中止と後期高齢者医療制度の抜本的見直し ⑭非正規労働拡大に歯止めをかけて正規労働への転換と雇用の安定実現 ⑮労働者派遣法の抜本改正と派遣労働の制限 ⑯社会保険料の国負担を増やして国民負担軽減 ⑰年金支給は減らさず、保険料の応能負担も含めた制度改革 ⑱介護・保育従事者の月給10万円アップして全産業平均との差を埋める とする。
 
 このうち⑦は、現在の高齢者については、老齢年金給付額の引き上げが必要で、将来の高齢者については、正規雇用への転換による厚生年金等への加入が重要だと思う。そのため、⑭⑮⑰の非正規から正規への転換がKeyになる。また、⑧⑫⑬の後期高齢者医療費窓口負担割合の1割から2割への引き上げについては、高齢者であっても3割負担してよいが、1カ月あたりの医療費割合を年金手取り額の5%以内に抑える等の上限を設ければ、生活できなくなるほどの医療費をとられることはなく、大病をしても負担に上限があるため安心できるだろう。

 また、⑩⑪⑰は、今でも暮らせない人が多い年金であるため、当たり前のことだ。さらに、⑨は、コロナ禍であろうとなかろうと、公立・公的病院の機能はあるため、数合わせでギリギリの病床数になるまで統廃合や病床削減をしてよいわけがなく、そのような計画は「地域医療構想」の名にも値しない。

 日本維新の会は、⑲現在の年金に代わって、すべての国民に無条件で一定額を支給する「ベーシックインカム」を導入して持続可能なセーフティーネット構築 とし、国民民主党は、⑳「給付付き税額控除」を導入し、マイナンバーと銀行口座を紐付けて「プッシュ型支援」を実現して「日本型ベーシックインカム」創設 としている。

 しかし、⑲⑳のように、「ベーシックインカム」「日本型ベーシックインカム」と名付けてマイナンバーと銀行口座を紐付け、すべての国民に無条件で一定額を支給するというのは、すべての国民に無条件で一定額を支給する必要はない上、「ベーシックインカム」とマイナンバー・銀行口座を紐付けて国民の管理を行うのも、自由主義の国の倫理に反すると思う。

2)物価上昇は実質賃金や実質年金給付の減額であること
 *3-2-1は、「総務省が6月24日に発表した5月の消費者物価指数(2020年=100)は、生鮮食品を除く総合指数が101.6で前年同月比2.1%上昇し、生鮮食品も含む総合指数では2.5%上昇したが、生鮮食品とエネルギーをともに除いた総合指数では0.8%上昇した」と記載している。しかし、消費者にとっては、食品とエネルギーが最も節約しにくい支出であるため、これらを除いた物価指数を示されても意味がない。

 さらに、ロシアに対する金融制裁等の制裁によって飛躍的に上がった食料やエネルギー代は、必需品を供給している国の方が制裁に強く、制裁・制裁と大騒ぎした国の方が実際には大きな制裁を受けたという結果を示しているが、この物価上昇を緩めるためにガソリン補助金等を拡大するなど生産性が低くて気候危機や自給率向上に逆行する補助金を出すのは、投資と違って戻らない歳出増加になるのである。

 また、食料やエネルギー価格の上昇が貧しい人にほど大きな打撃を与える理由は、*3-2-2のように、高齢層はじめ収入が限られる人ほど、食費や光熱費などの節約できない支出の支出全体に占める割合が大きいからである。そのため、「4月の消費者物価指数が前年同月比2.5%上がって30年ぶりの伸びになった」などと「伸びた」という言葉を使うのは無神経にも程があり、物価上昇が国民生活や需給バランスに与える影響もわかっていない。

 そのため、*3-2-3のように、参院選の一番の争点に「物価高」が浮上しているのは自然なことだが、改憲に前向きな4党で2/3の議席を得れば改正の発議が可能になることから、「憲法改正」も主要なテーマとして考えなければならないわけである。


3)社会保障の負担と給付
 書き終わらないうちに参議院議員選挙が終わってしまったが、朝日新聞社説は、*3-3-1に、①各政党は公約の柱に、子ども・子育て支援策の充実を掲げるが、国民負担のあり方に関する言及が殆どない ②2040年代まで現役世代は減り続け、2025年に「団塊の世代」が全て75歳以上になる ③現在は約130兆円の社会保障給付費が、2040年度には190兆円に達すると推計される ④給付抑制や利用者負担増で支出を抑えるか ⑤税金や社会保険料の負担を引き上げて収入を増やすか と記載した。

 また、⑥与野党とも言及するのは余力ある高齢者に応分の負担を求め、元気なうちは働ける環境を整えて制度の担い手になってもらうこと ⑦高齢者の負担を増やし過ぎれば、必要な医療や介護サービスを受けられなくなったり、家族介護や仕送りなどの形で現役世代の負担になったりする可能性もある ⑧高齢者に負担を求めれば解決するような言説は楽観的すぎる とも記載している。

 さらに、⑨振り返れば、政府・与党は経済成長をあてにして本格的な給付と負担の議論を避けてきたが、社会保障給付の伸びと税収の開きは大きくなるばかり ⑩野党の多くは富裕層への課税強化を訴え、消費税の減税や廃止を主張するが、それで増え続ける社会保障費を賄えるか ⑪手厚い保障と高負担の国もあれば自助を中心に据えた国もあり、日本がそのどちらともつかない状況にある と記載している。

 このうち①②は本当だろうが、③はどの項目の支出がどれだけの額になるのかを詳細に調べる必要がある。そして、調べた結果として、④の負担増・給付減ではなく、(いくらでもある)無駄を排することが必要なのだが、それもやらずに、⑤の税金や社会保険料の負担増を行っても、これまでと同様、無駄遣いが増えるだけで社会保障利用者の便宜は図られないのである。

 また、⑥の元気なうちは働ける環境を整えて制度の担い手になってもらうのはよいが、「余力ある」高齢者といっても何を基準にどの範囲を「余力」と考えるのかは厳密な議論が必要で、⑦のように、高齢者の負担を増やし過ぎれば必要な医療・介護が受けられなくなって、一世代前のように、家族が介護や仕送りをしなければならなくなる。そのため、⑧のとおり、高齢者と若者を対立させて高齢者に負担増を行えば解決するかのような言説は思考停止である。

 政府・与党の⑨の経済成長が上手くいかなかっ理由は、i)大胆な金融緩和で日本経済を底上げしている間に、ii)機動的な財政政策とiii)民間投資を喚起する成長戦略を行う筈だったアベノミクス「3本の矢」が、ii)は本質的な投資に至らずに著しい無駄遣いが多く、iii)は岩盤にドリルで穴をあける改革は中途半端で積極的な民間投資を喚起できなかったため、経済成長に至らなかったことである。

 なお、高齢者に対する医療・介護等の社会保障は比較的新しい市場で、今後とも伸びる市場なのだが、この必要なサービスを無駄遣い扱いして抑えてきたことも、日本が経済成長できなかった理由の1つだ。にもかかわらず、社会保障の中での奪い合いが目立ち、「本格的な給付と負担の議論」と言えば、⑪のように、イ)手厚い保障と高負担の国 ロ)自助を中心に据えた国 もあり、日本がそのどちらともつかない状況とする点が誤りなのである。

 本当は、イ)ロ)のどちらでもない第三の方法が存在し、それはサウジアラビアやロシアのような国有資源を持つ国である。しかし、日本は、国の管轄下である海底に資源が多く存在し、自然エネルギーも豊富で国有地で発電することも可能であるのに、政府は「資源のない国」として国富を海外に流出させることしか考えず、真剣に資源開発もしてこなかったのである。

 そのような考え方の政府の下では、給付の伸びと税収の開きは大きくなるばかりで、所得税との二重課税になるにもかかわらず、⑩の消費税は減税・廃止どころかさらなる増税しかできず、高齢者関連のサービス市場も育たないわけである。

 佐賀新聞は、*3-3-2のように、⑫日本が抱える多くの困難は人口減少・少子高齢化が原因 ⑬土台の揺らぐ社会保障制度の安定化は焦眉の急 ⑭財源の手当て抜きに給付拡大ばかりを与野党が競い合って重要な論点まで行き着かず ⑮安全網として不可欠な社会保障は、給付と負担のバランスで成り立ち、給付を増やせば全体として負担が増す ⑯負担は分かち合いで、高齢者も含む今の大人が痛みを避ければツケが確実に子や孫に回る ⑰2040年に高齢者人口がピークの約3900万人に増え、年金・医療・介護の社会保障費がかさむが、働いて保険料を払う現役世代は約7500万人から1500万人減る ⑱これに備えるのが政府の「全世代型社会保障」 ⑲高齢者に偏る社会保障からの恩恵を若者・子育て世代に回し、少子化を止める ⑳元気な高齢者や女性にもなるべく働いてもらい、社会保障の支え手を増やす と記載した。

 この中での課題の捉え方の問題は、⑫の人口減少と少子高齢化は日本が抱える困難の原因で、⑯の高齢者も含む今の大人が痛みを避ければツケが確実に子や孫に回るから、⑬の社会保障制度の安定化のために、⑲の高齢者に偏る社会保障からの恩恵を若者・子育て世代に回して少子化を止めることが必要 ということだ。

 何故なら、「親孝行」という言葉はあるが「子孝行」という言葉がない理由は、子が生まれると大多数の人は本能が働いて「自分が護らなければならない」と強く感じるのだが、親に対してはそういう本能が働かないため、人類は、文明の力で親や老人を大切にする習慣を作ってきたからである。そして、年金・介護の役割を家族で行うと、それを担当する家族の負担が大きすぎるから、年金制度・介護保険制度として社会化したのであって、⑯⑲はおかど違いの指摘も甚だしいのである。もしくは、家族が老人の世話をしていた昔に戻したいのか?

 また、⑫⑰は「日本が抱える多くの困難は人口減少・少子高齢化が原因で、2040年には高齢者人口がピークになり、現役世代は1500万人減る」としているが、今でも失業者の吸収のために景気対策に汲々とし、金融緩和で失業者の発生を防ぎ、それでも非正規雇用という条件の悪い労働を強いられている人が多いのであるため、景気対策をしなくても失業者や劣悪な労働条件下で働かされる人がいなくなるようにする方が先なのである。

 その上、(日本人労働者を護るために行っているのだが)外国人労働者や難民への人権侵害や差別的待遇は文明国とは言い難い状況であるため、まともな待遇をする方が先であろう。

 なお、⑭の「財源の手当て抜きに給付拡大ばかりを与野党が競い合って重要な論点まで行き着かない」のは困ったことだが、⑮の「安全網として不可欠な社会保障は、国民への給付を増やせば国民負担が増す」というのは、目的外の無駄遣いがあることを無視し、第三の方法も考えていないため、狭い範囲の算術だけで思考停止が過ぎる。

 私も、⑱の「全世代型社会保障」は必要で、例えば65歳以下でも遠慮なく介護サービスを受けられ、そのかわり介護保険料も所得のある全世代が所得に応じて広く薄く負担する制度にすべきだし、そうすれば第二子以下の出産もしやすくもなると思う。しかし、⑳の元気な高齢者や女性にも働いてもらうのはよいが、半人前の非正規労働者として使って搾取することは許されないし、それでは、社会保障の支え手も増えないのである。

4)医療保険制度について


      国立癌研究センター      厚労省      日本腎臓学会

(図の説明:左図は、年齢階層別人口10万人当たりの癌の罹患率で、50才を過ぎる頃から等比級数的に増える。また、中央の図は、年齢階層別の糖尿病有病率と予備軍の割合で、癌と比較すれば増え方は滑らかだが、年齢が上がるにつれやはり有病者が増えている。さらに、右図は、年齢階層別のCKD《慢性腎臓病》患者の割合で、これも年齢が上がるにつれて有病者が等比級数的に増える。そして、これらの現象が起こる理由は、人間には死がセットされており、年齢が上がるにつれて健康を維持する機能が衰えるからだと言われている)

 日経新聞は、*3-4-1で、①日本医療が少子高齢化を乗り越えるには、負担と給付の発想転換が必要 ②「団塊の世代」全員が75歳以上になる2025年以降は医療費の膨張が加速 ③現役世代の負荷を緩和するため、マイナンバーを活用して金融資産等の保有状況を考慮した負担を検討 ④資産のある高齢者にもっと負担してもらう ⑤高齢者の医療費窓口負担は70~74歳は2割、75歳以上は1割が原則だが、今後は現役世代と同様に3割負担を原則とすることも課題 ⑥会社員らの健康保険組合は加入者の賃金水準が新型コロナ前に戻らない中、高齢者医療を支えるため毎年3兆円超拠出 ⑦府推計では2040年の医療給付費は68.5兆円と2020年度の約1.7倍に増え、20~64歳の現役人口は2割近く減少 と記載している。

 このうち、②は事実だが、⑦のように、現役人口を未だに20~64歳と決めつけているのは思考停止だ。何故なら、上の図のように、50才を超える頃から癌・糖尿病・腎臓病をはじめとする成人病の罹患率が上がり始めるが、80歳超でもどの病気でもない健康な人が3/4~2/3はおり、個人差が大きいからである。さらに、働き続けて頭や身体を使っている人の方が健康でいられる確率は高い。しかし、病気への罹患率が高齢になるほど上がるのは事実で、若い頃は誰しも保険料を払ってもあまり病院に行く必要がなかったわけである。

 そのため、本来はリスクの高い人とリスクの低い人が同じ医療保険に加入していることにより、保険制度は成立する。しかしながら、(私は現職だったので反対したが)2008年の制度変更で病気になるリスクの低い若い人が多い被用者保険は65歳の定年退職時に脱退させ、退職後の65~74歳の間は前期高齢者として国民健康保険に加入させ、75歳以上になると後期高齢者として後期高齢者医療保険に入れる仕組みにして、入る医療保険を年齢で分けたから、国民健康保険と後期高齢者医療保険は、(当然のことながら)大きな赤字になったのである。

 そのため、令和4年度のケースでは、赤字補填のために被用者保険と公費から前期高齢者が入る国民健康保険に6.7兆円、後期高齢者が入る後期高齢者医療保険に17兆円拠出している。そして、③の「現役世代の負荷」、⑥の「会社員らの健康保険組合が高齢者医療を支えるため毎年3兆円超拠出」などというのはこのことを言っているわけだが、本来は、若い頃に入っていた保険に生涯入り続ける方が、えいやっと決めた意図的な金額を被用者保険や公費から拠出するよりも保険の理論に合っているわけである(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/iryouhoken01/index.html 参照)。

 従って、①③④の「マイナンバーを活用して金融資産等の資産のある高齢者にもっと負担してもらう」というのは、若い頃は病院にも行かず多額の医療保険料を支払ってきた高齢者に対して二重三重の負担を強いるものであり、公正性に欠ける。そして、そのような意図があるから、「マイナンバーを活用して金融資産等の保有状況を考慮」することによって保険料を何重にも負担させられてはたまったものではないし、*3-4-2のように、個人情報が漏れたり悪用されたりする可能性もあるため、マイナンバーカードは作らない方がよいことになる。

 なお、⑤の「高齢者の医療費窓口負担」については、私は現役世代と同じ3割負担を原則としてよいと思うが、上の図の通り、高齢になると病気になる確率が上がり、同時に介護も必要になったり、収入が年金に限られていたりするため、年齢にかかわらず医療費の上限を収入の5%として医療費・介護費が生活費を圧迫しないようにすべきだ。そして、このような事態は誰にでも起こり得るため、不公平でも不公正でもなく、それこそが保険の役割である。

 また、*3-4-1は、⑧フランスでは医薬品について有効性や安全性だけでなく、疾病の重篤度、治療の特性、公衆衛生への影響などの医療上の有用性の観点で評価し、(一般患者なら一律70%給付の日本と異なり)給付率は5段階あって、抗がん剤など他で代替できない薬は100%給付、重要度が下がるにつれ65%、30%、15%、0%と給付率が下がり、有用性が低い薬ほど患者負担が重い ⑨治療法の評価も見直しが必要で、例えば内視鏡手術が開腹手術より早期退院できるなら、病気治療だけでなく「日常生活により早く戻る」という便益も提供される ⑩特別な治療法を選択した患者に追加的な自己負担を求める考え方も検討すべき ⑪こうした改革を進める前提として保険診療と保険外診療を併用する「混合診療」を禁止するルールは見直し、柔軟に併用できるようにしたほうがよい とも記載している。

 このうち、⑧⑨⑩については、フランスの場合は、政府の選択が正しいと信頼できるのかもしれないが、日本の場合は、「抗がん剤」のような副作用の大きな薬剤の方が免疫療法よりもよく、「抗がん剤」は他で代替できない薬だとしていたり、内視鏡手術が開腹手術に及ばない場合もあるのに「日常生活により早く戻れる便益がある」等々としているように、政府(厚労省)の選択に信頼が置けないのである。そのため、まず、⑪のように、保険診療と保険外診療を併用する「混合診療」を可能にし、医師と患者が合意して行われた保険外診療で成果を出したものは、原則としてその価格で次々と保険診療化するというのが最も変な恣意性の入らない方法だろう。

・・参考資料・・
<憲法>
*1-1:https://www.nhk.or.jp/senkyo/database/sangiin/pledge/policy/07/ (NHK 2022年6月16日) 各党の公約「憲法」
●自由民主党
 みんなで憲法について議論し、必要な改正を行うことによって、国民自身の手で新しい“ 国のかたち” を創る。改正の条文イメージとして、自衛隊の明記などの4項目を提示しており、国民の幅広い理解を得るため、改正の必要性を丁寧に説明していく。衆参両院の憲法審査会で提案・発議を行い、国民が主体的に意思表示する国民投票を実施し、改正を早期に実現する。
●立憲民主党
 憲法9条に自衛隊を明記する自民党の案は、交戦権の否認などを定めた9条2項の法的拘束力が失われるので反対する。内閣による衆議院解散の制約、臨時国会召集の期限明記、各議院の国政調査権の強化、政府の情報公開義務、地方自治の充実について議論を深める。
●公明党
 憲法施行時には想定されなかった新しい理念や、憲法改正でしか解決できない課題が明らかになれば、必要な規定を付け加えることは検討されるべき。憲法9条は今後とも堅持する。自衛隊の憲法への明記は引き続き検討を進めていく。緊急事態の国会の機能維持のため、議員任期の延長についてはさらに論議を積み重ねる。
●日本維新の会
 2016年に公表した憲法改正原案「教育の無償化」「統治機構改革」「憲法裁判所の設置」の3項目に加えて、平和主義・戦争放棄を堅持しつつ自衛のための実力組織として自衛隊を憲法に位置づける「憲法9条」の改正、他国による武力攻撃や大災害、テロ・内乱、感染症まん延などの緊急事態に対応するための「緊急事態条項」の制定に取り組む。
●国民民主党
 緊急時における行政府の権限を統制するための緊急事態条項を創設し、いかなる場合であっても立法府の機能を維持できるよう、選挙ができなくなった場合に、議員任期の特例延長を認める規定を創設する。憲法9条については、自衛権の範囲や戦力の不保持などを規定した9条2項との関係などの論点から具体的な議論を進める。
●日本共産党
 日本国憲法の前文を含む全条項をまもり、とくに平和的民主的諸条項の完全実施を目指す。憲法9条改憲に反対をつらぬく。自衛隊については、憲法9条との矛盾を、9条の完全実施(自衛隊の解消)に向かって段階的に解決していく。「自衛隊=違憲」論の立場を貫くが、党が参加する民主的政権の対応としては、自衛隊と共存する時期は、「自衛隊=合憲」の立場をとる。
●れいわ新選組
 いま、憲法を変える必要はない。自民党の改憲4項目はいずれも憲法改正を必要とするものではない。憲法は、最高法規であり、権力者を縛る鎖であり現行憲法の条文のうち25条などまだ完全に実現できていると言えないものの実現をまずは行う。緊急事態条項を加える憲法改正は有事に政府への権限集中を認めるという危険があり、行うべきではない。
●社会民主党
 徹底した平和主義を貫くなど「世界でも先進的」と言われており、改悪には反対。いま憲法を変える必要はなく、社会にさまざまな行き詰まりが目立つのは、憲法が原因ではなく、憲法の理念を活用しようとしない政府の責任だ。憲法理念を暮らしや政治に活かして、国民の生活を再建することに全力をあげる。
●NHK党
 憲法改正の発議を行い、国民投票を実施することは国民にとって貴重な政治参加の機会。そのため国会においては憲法審査会の開催など、憲法改正に関する議論をするよう積極的に促していく。国会閉会中の国会召集の要求に対して国会が開かれない問題への対策として、憲法 53 条などの改正を提案していく。

*1-2-1:https://www.sankei.com/article/20171221-IV26S36DVFJPXEZHVVBN62COYY/ (産経新聞 2017/12/21) 自民の改憲4項目「論点取りまとめ」要旨
【自衛隊】自衛隊が日本の独立、平和と安全、国民の生命と財産を守る上で必要不可欠な存在だとの見解に異論はなかった。改正の方向性として(1)9条1項、2項を維持し、自衛隊を憲法に明記するにとどめるべき(2)9条2項を削除し、自衛隊の目的・性格をより明確化する改正を行うべき-の2通りが述べられた。「シビリアンコントロール(文民統制)」も明記すべきだとの意見もあった。
【緊急事態】(1)選挙ができない事態に備え、国会議員の任期延長や選挙期日の特例を憲法に規定(2)政府への権限集中や私権制限を含めた緊急事態条項を憲法に規定-の2通りがあった。現行憲法で対応できない事項について憲法改正の是非を問う発想が必要と考えられる。
【合区解消・地方公共団体】47条を改正し(1)両院議員の選挙区および定数配分は人口を基本としながら、行政区画や地勢などを総合的に勘案(2)都道府県をまたがる合区を解消し、参院選は改選ごとに各広域地方公共団体(都道府県)から少なくとも1人が選出可能-となるよう規定する方向でおおむね一致。その基盤となる市町村と都道府県を92条に明記する方向で検討している。
【教育充実】教育の重要性を理念として憲法上明らかにするため、26条3項を新設し、国が教育環境の整備を不断に推進すべき旨を規定する方向でおおむね一致。89条は私学助成禁止と読めるため、条文改正を求める意見もあった。

*1-2-2:https://ryukyushimpo.jp/kyodo/entry-1536457.html (琉球新報 2022年6月20日) 参院選後、早期に改憲発議 「早いタイミングで」と茂木氏
 自民党の茂木敏充幹事長は20日、報道各社のインタビューで、参院選後の早期に憲法改正の国会発議を目指す考えを表明した。「選挙後できるだけ早いタイミングで改憲原案を国会に提案し、発議を目指したい」と述べた。自民、公明、日本維新の会、国民民主の各党などの改憲勢力が参院選で、改憲発議に必要な3分の2以上の議席を獲得するのを前提にした発言だ。先の通常国会で改憲論議に前向きだった政党を念頭に「主要政党間でスケジュール感を共有し、早期に改憲を実現したい」とも主張した。早期改憲を目指す理由については、安全保障環境などが大きく変化していると指摘した。

*1-2-3:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1541904.html (琉球新報社説 2022年7月1日) 参院選・憲法 論点示し議論を深めよ
 6月22日に公示された参院選の主要な争点の一つに憲法改正が挙げられる。戦争放棄の第9条を掲げ平和主義を基本原則とする憲法の重みが今ほど増している時はない。ロシアによるウクライナ侵攻は憲法論議にも影響しているとみられる。改憲を主張する政党は、憲法を変えないことによる不具合は何かを具体的に説明し、憲法を改めることでしか問題は解決しない理由を明確にしなければならない。選挙期間中に議論を深めてほしい。共同通信社の参院選トレンド調査で、投票先未定の有権者に何を最も重視して投票するか聞くと「物価高対策・財政政策」が46・1%で最多だったのに対し、「憲法改正」は1・8%にとどまった。暮らしの問題が切実なのと同様に、憲法問題も日本の針路に関わる重要な議論だ。自民党の茂木敏充幹事長は「選挙後早いタイミングで改憲発議を目指す」と明言し、今回の参院選が大きな節目となる可能性がある。各党は論点を示し、有権者の関心を引き上げなければならない。自民党は憲法9条への自衛隊明記や緊急事態条項の新設、参院選「合区」解消、教育無償化・充実強化―の党改憲4項目をまとめている。だが、合区解消と教育無償化は、教育や選挙制度に関する法律で対応が可能だ。憲法を変えなければならないという説明が足りていない。緊急事態条項は、大規模災害や武力攻撃発生時などの有事の際に政府の権限を強める内容だ。私権制限を伴うため個人の権利尊重や、法によって国家権力を縛る「立憲主義」といった、憲法の理念を根本から変えることになる。岸田文雄首相は4項目を「喫緊の課題」として早期実現を目指す。ただ、トレンド調査では岸田首相の下での憲法改正に「賛成」44・8%、「反対」44・7%と賛否が拮抗(きっこう)した。「喫緊」とは言えず、徹底した論議が必要だ。公明は自衛隊明記について「検討を進める」と従来より踏み込んだ。野党は、日本維新の会が武力攻撃を受けた際の緊急事態条項創設などを掲げる。国民民主党は9条改正の議論を進めるべきだと主張する。これに対し、立憲民主党の泉健太代表は改憲の優先度が低いとして、慎重な憲法論議を訴えた。共産党と社民党は9条改正反対の立場だ。沖縄選挙区で事実上の一騎打ちとなる伊波洋一氏と古謝玄太氏でも賛否は分かれる。伊波氏は「基本的人権や地方自治、平和主義など現行憲法の理念の実現が先だ」として改憲に反対の立場をとる。古謝氏は「自衛隊をきちんと憲法に位置付け『自衛隊違憲論』を解消すべきだ」として9条改正が必要だとする。改憲発議に必要な3分の2以上の議席獲得という数の論理ありきでなく、冷静な議論が必要である。

*1-2-4:https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/828084 (京都新聞社説 2022年7月3日) <7・10参院選> 憲法の改正 重大な岐路関心寄せねば
 参院選の投開票日まで1週間。身近な物価高の対策に目が向きがちだが、結果によっては、施行から75年を迎えた日本国憲法の重大な岐路になる可能性がある。昨秋の衆院選に続き、参院でも憲法改正に積極的な勢力が国会の発議に必要な「3分の2以上」を超えれば、改憲の動きは加速するとみられるからだ。戦後、平和と繁栄を築いてきた日本の土台たる最高法規の書き換えは、国の行く末を大きく左右する。有権者は選択材料として、各党の憲法への主張を十分に吟味してほしい。公約などから自民、公明の与党に加え、日本維新の会、国民民主党が改憲勢力とされる。自民は公約に、安倍晋三政権下でまとめた9条への自衛隊の明記や緊急事態条項の新設など4項目を掲げる。日本維新の会も従来の改憲項目(教育無償化など)に加え、自衛隊明記と緊急事態条項設置を追加し、実質的に歩調をそろえた。一方、立憲民主党は「論憲」を標榜(ひょうぼう)し、衆院解散権の制約などは検討項目とするが、自衛隊の明記には反対する。共産党と社民党は護憲の立場で、れいわ新選組は憲法順守を訴える。新型コロナウイルス禍やロシアのウクライナ侵略など国内外の情勢変化に加え、衆院選で改憲勢力が議席を増やしたことも受け、先の通常国会では衆院憲法審査会の開催が過去最多の16回を数えた。自民内からは「ソフトな印象の岸田文雄首相の誕生もあり、改憲環境は整ってきた」との声が聞かれる。岸田氏は「改憲の党是を成し遂げる」とし、茂木敏充幹事長は「選挙後できるだけ早いタイミングで改憲原案を国会に提案したい」と公言する。選挙序盤の世論調査では与党が改選議席の過半数を上回り、維新も議席倍増以上の勢いがあるという。茂木氏の言葉は現実味を増しているようにみえる。それだけに、いま一度、憲法の意義を見つめ直し、改憲の必要性や優先度を考えたい。自民公約の緊急事態条項は、災害や感染症など不測の事態時に、内閣が国会抜きで法と同等の「緊急政令」を制定できるようにする内容だ。国民の私権制限や、選挙を行えない時の議員任期延長も可能にする。事実上、憲法を停止して内閣に白紙委任する形になる。既に緊急事態発生時の法整備が進む中、本当に必要なのか。憲法には、衆院解散後に非常事態があれば、参院が緊急集会で予算や議案を可決できる規定もある。自衛隊が国民に定着する中、憲法への明記は各種世論調査で賛否が半ばしている。9条改正の先に、専守防衛を転換し、自民が「反撃能力」と言い換えた敵基地攻撃能力の保有を目指すなら一層慎重な議論が欠かせない。国内外に多大の犠牲を強いた無謀な戦争の反省に立ち、強大な政府権力に制限をかけて国民を守るのが憲法の本質だ。それを変え、どんな国を目指すのか。力の縛りを解き放つマイナスは考えたか。危機をあおるのではなく、熟議や歴史に耐えうる憲法論議を各党に望む。

*1-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220704&ng=DGKKZO62285940U2A700C2MM8000 (日経新聞 2022.7.4) 自公、改選過半数の勢い 参院選情勢、立民伸び悩み、維新は伸長 改憲勢力3分の2視野
 日本経済新聞社は1~3日、7月10日投開票の参院選について世論調査した。取材を加味して情勢を探ると、自民、公明両党は改選124に欠員補充1を加えた125議席の過半数63を超える勢いだ。立憲民主党は伸び悩み、日本維新の会は伸長する見通しとなった。参院は3年ごとに半数ずつ改選し、今回から総定数が248となる。自公は非改選で70議席を持つため、参院の過半数(総合・経済面きょうのことば)は55議席で届く。調査は選挙区と比例代表でそれぞれ回答した人の1割前後が投票先を決めておらず、情勢は投票日まで流動的な要素が残る。自民、維新、国民民主党に公明を加えた4党は非改選で84議席を持つ。この4党の改憲論議に前向きな「改憲勢力」が無所属・諸派を含めて82議席以上とりうる。国会発議に必要な総議員の3分の2(166議席)維持が視野に入りつつある。自民は全体の勝敗に影響する32の1人区(改選定数1)のうち6割で当選が有力となっている。宮城や新潟、山梨など4割は立民など野党と競り合う状況だ。改選定数2~6の複数区は大半の選挙区で1議席を確保する公算が大きい。唯一接戦の京都も自民がやや上回る。千葉や東京、神奈川の各選挙区で2人目の当選も狙える情勢になっている。自民の比例は前回2019年参院選の獲得議席への上積みがみえてきた。選挙区と比例代表の合計で19年の57議席から伸びしろがある。60以上になれば非拘束名簿式の現行制度で01年と13年に続く3回目となる。立民は先行する1人区が接戦区を含めて青森や長野などにとどまる。今回の選挙で野党が候補者を一本化した1人区は11選挙区。16年と19年は全選挙区で統一候補をたて、野党系がそれぞれ11勝、10勝した。共闘体制が限定的になり、政権批判票が分散したことで情勢が厳しくなった。立民は複数区の東京や千葉、福岡では各1議席の獲得を見込む。北海道は自民と立民が3議席目を競り合う。比例代表と合わせて改選23を維持できるか微妙な情勢にある。公明は擁立した7選挙区全てでの議席確保が濃厚だ。比例代表とあわせ14議席前後となりそうだ。維新は改選6議席から2桁台への勢力拡大が見えつつある。選挙区は大阪で議席を確保するほか神奈川、兵庫に加え、京都でも当選圏内入りをめざす。比例代表も改選議席3からの積み増しをうかがう。国民民主は接戦の山形や愛知で現職がややリードするものの大分は追う展開となっている。共産党は比例を中心に議席獲得をめざす。選挙区は改選定数4の埼玉や同6の東京で議席獲得を争う。れいわ新選組も東京で1議席をかけて維新などと接戦を展開する。社民党やNHK党は比例代表で議席獲得の可能性がある。

*1-3-2:https://mainichi.jp/articles/20220622/k00/00m/010/292000c?cx_fm=mailasa&cx_ml=article&cx_mdate=20220623 (毎日新聞 2022/6/22) 参院選、憲法改正の行方は 前向きな4党 「83議席」の攻防
 与野党は選挙戦で、岸田文雄首相が意欲を見せる憲法改正を巡っても、論戦を交わす。自民党は憲法9条への自衛隊明記や緊急事態条項の創設を含む4項目の条文イメージを掲げる。改憲に前向きな自民、公明、日本維新の会、国民民主の「改憲4党」が憲法改正の発議に必要な3分の2の議席(166議席)を得られるかが焦点で、4党が3分の2以上の議席を獲得するには計83議席を得る必要がある。首相は4項目に関し「極めて現代的な課題だ」と強調。自民の茂木敏充幹事長も20日、報道各社のインタビューで、憲法改正に関し「参院選後できるだけ早いタイミングで改正原案の国会提出と発議を目指したい」と述べた。改憲4党は緊急事態条項のうち国会議員の任期を延長する改憲について、必要性があるとの認識で一致している。一方、立憲民主党は緊急事態条項の創設について「国民の権利保障や立憲主義に逆行する」(泉健太代表)と反対。首相の衆院解散権制約や臨時国会の召集期限の設定を例に挙げ、「論憲」を主張する。共産、社民両党は9条改憲に反対する。れいわ新選組は、改憲の優先度は低いとしており、NHK党は改憲論議に前向きだ。また、自民総裁の岸田氏は勝敗ラインを「非改選議員も含めて与党で過半数」と設定している。自民、公明両党の非改選は計69議席で、今回の選挙で過半数(125議席)維持に必要な数は計56議席になる。自民は単独で2016年参院選で56議席、19年参院選は57議席を獲得しており、自公両党で56議席確保は高い壁ではない。自民党内には「自民単独で過半数を目指すべきだ」(麻生太郎副総裁)など、目標の上方修正を促す声がある。茂木氏も20日のインタビューで「与党で改選議席の過半数(63議席)獲得も含めて一議席でも多く積み重ねていきたい」と語った。

*1-3-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15337269.html?iref=comtop_Opinion_03 (朝日新聞社説 2022年6月28日) 参院選 憲法 数集めでなく熟議を
 憲法は、国のあり方を定める最高法規である。幅広い国民の理解のうえに、与野党をこえた丁寧な合意形成が不可欠だ。発議に必要な数を集め、期限を切って結論を急ぐようなら、議論の土台を崩すことになる。今回の参院選の結果は、日本の針路を大きく左右する可能性をはらんでいる。安全保障をめぐっては、戦後の抑制的な政策を維持するのか、敵基地攻撃能力を含む防衛力の抜本的な強化にかじを切るのかが、問われている。憲法に対する各党の姿勢も、重要な論点のひとつだ。自民党は自衛隊の明記、緊急事態対応など4項目を引き続き公約に掲げ、「早期の実現」をうたう。統治機構改革などを優先していた日本維新の会が、自衛隊を明確に位置づける9条改正と緊急事態条項の創設を加えたことで、共通点が広がった。国民民主党も緊急事態に議員の任期を特例で延長する規定の創設など、憲法論議に積極的だ。一方、公明党は与党だが、違憲論解消のための自衛隊明記は検討事項にとどめ、賛否を明らかにしていない。野党第1党の立憲民主党は「論憲」の立場から、衆院の解散権の制約などの議論は深めるとしながら、自民の9条改正案には、戦力不保持・交戦権否認を定めた2項の法的拘束力が失われるとして、反対を明確にする。共産党は9条だけでなく、「前文を含む全条項」を守るとした。各党の議論が集約されつつあるとは、とてもいえないのが現状だ。そもそも自民の4項目は4年前、任期中の改憲に意欲を示し続けた安倍元首相の下でとりまとめられた。その後、進展がみられないのは、中身よりも、憲法を変えること自体を目的とするような態度が、野党の不信や警戒を招き、国民の支持も得られなかったためだ。岸田首相は日本記者クラブでの党首討論会で、維新が求めたスケジュールの明示には応じなかったが、「中身において、(改憲発議ができる)3分の2が結集できる議論を進めていきたい」と語った。「安倍改憲」の頓挫を直視し、「改憲ありき」を繰り返してはならない。コロナ禍やロシアのウクライナ侵略が、改憲の追い風になるとの見方もあるかもしれない。確かに、パンデミックへの備えや日本の安全保障のために何が必要かの議論は重要だ。ただ、法改正では対応できないのか。改憲が求められるなら、どの条文をどうするのか。そうした具体論を欠いたままでは、国民の理解が広がることはあるまい。熟慮と議論を重ねて共通認識を導く。憲法論議こそ、とりわけ熟議が求められることを忘れてはならない。

*1-3-4:https://www.tokyo-np.co.jp/article/186958 (東京新聞 2022年7月1日) 改憲勢力、9条改正に踏みこむか 有権者は投票で意思を示そう
 「真正面から9条改正でやってくるんじゃないですか」。参院選の最中に会った護憲の立場の野党関係者が警戒感を持って語った言葉が気になった。岸田文雄首相も「(改憲勢力が)内容で結集できるよう議論を進めていく」と訴える。参院選後、改憲論議はどうなるのだろうか。戦後日本の平和主義の大枠を定めてきた9条の扱いが、ヤマ場を迎つつある。
▽ウクライナ侵攻で風向き変化
 今回の参院選(10日投開票)は「憲法改正の是非」が主要な争点に挙げられている。衆院は「改憲勢力」に位置付けられる自民党と日本維新の会、公明党、国民民主党の4党が、国会での改憲発議に必要な3分の2以上の議席を占めている。参院も6月22日の公示前勢力でぎりぎり3分の2を超えていた。今回の選挙でこのラインを確かなものにすれば、改憲を政治日程に乗せる動きが具体化しそうだ。与野党ともに憲法を巡る訴えを強めるのは、こうした背景がある。岸田政権では通常国会の会期中、衆院でほぼ毎週、憲法審査会が開かれた。選挙情勢を踏まえると、参院選後は当面、落ち着いた政治環境にもなるとみられる。改憲勢力が好機と受け止めるとは当然だ。こうした中、自民党はどのような改憲原案を検討してくるのだろうか。自民党は安倍政権下で、緊急事態条項の創設などと並んで、9条への自衛隊明記を盛り込んだ「改憲4項目」をまとめた。だが党内では、9条改正はハードルが高いとして、緊急事態条項の中の「国会議員の任期延長ならやりやすいのでは」(党幹部)と、9条回避を唱える議員も少なくなかった。風向きが変わったのは、今年2月からのロシアによるウクライナ侵攻からだ。「防衛力の抜本的強化」(首相)が喫緊の課題となる中で、9条改正に再び焦点が当たってきた。
▽足並みそろえる自・維・公
 首相は5月3日、改憲推進派の大会で、9条改正について自民党改憲案4項目に関し「早期実現が求められる」とビデオメッセージを寄せた。維新は5月18日、戦争放棄を定めた9条1項、戦力不保持と国の交戦権否定をうたった2項を残したまま「9条の2」を新設し自衛隊を明記する点で、自民党案と共通する「条文イメージ」を発表した。あまり注目されなかったが、公明党も踏み込んだ。5月の衆院憲法審で北側一雄副代表が、首相や内閣の職務を規定した72、73条に自衛隊を明記するという、これまでにない具体的な案を示したのだ。公明党は参院選公約でも、従来の「慎重に議論」から「検討を進める」へと表現を進めた。9条明記で自民と維新、公明は足並みをそろえつつあると言っていい。
▽憲法の理念実現が先
 こうした動きに、主要野党は反対の論陣を張る。立憲民主党の西村智奈美幹事長と、共産党の小池晃書記局長は、6月26日のNHK討論番組で、生活や暮らしで実現されていない憲法の理念があるとして、その実現こそが求められると歩調を合わせた。社民党の福島瑞穂党首は護憲を訴えて声をからす。筆者は先日、「立憲デモクラシーの会」に加わる杉田敦法政大教授(政治理論)に話を聞く機会があった。改憲は国論を二分するため、相当な政治的エネルギーが必要となり、政治の空白を招いてしまう。内外の重要課題が山積している中で、そのような無責任なことをするべきではない、という話だった。だが、改憲への動きは参院選後を見据え、強まりつつあるように見える。自民党の茂木敏充幹事長は同じNHK番組で「できるだけ早いタイミングで改憲原案を国会で可決したい」と述べ、選挙後に主要政党間で改憲への日程感の共有を進める考えを示した。維新の藤田文武幹事長も、21年衆院選で議席を伸ばしたことが、改憲論議を進めるきっかけになったとして、早期改憲への意欲を強調した。ここから浮かぶのは、秋の臨時国会以降、自民、維新両党が中心となって改憲原案の作成を進め、来年の通常国会で衆参両院の憲法審査会に提出し、議論を進める日程感だ。自民党幹部は「最速で通常国会の会期末には発議もあり得る」と話す。このような展開になった時に、われわれはどのように受け止めればいいのか。ウクライナでの戦争は続いており、防衛力を確かなものにするためにも、自衛隊の明記は必要だと考えるのか。それとも、社会保障や教育の充実など、もっとやるべきことはあるとして、憲法理念の実現を求めていくのか。日本の未来を決めるのは一人一人の有権者だ。どのような未来がいいのか、しっかりと頭に描いて10日の投票で意思を示そう。

<憲法学者と法律家団体の見解>
*2-1::https://digital.asahi.com/articles/DA3S15283962.html?iref=pc_shimenDigest_opinion_01 (朝日新聞 2022年5月3日) (インタビュー)これからの立憲主義 東京大学教授・石川健治さん(いしかわけんじ 1962年生まれ。東京大学教授。著書に「自由と特権の距離(増補版)」、編著に「学問/政治/憲法 連環と緊張」など)
 明治憲法下でスタートした立憲主義のプロジェクトは一度挫折を味わうが、敗戦を経て日本国憲法の下で再開して75年を迎えた。ロシアがウクライナを侵攻し、国際秩序を揺さぶる中、国内では改憲論が勢いづく。日本の立憲主義の現状をどう見るか。憲法学者の石川健治・東大教授は、読み解くかぎは「文明」だという。
―今年は明治憲法の施行(1890年)から132年でもあります。明治憲法下の立憲主義をどう評価されますか。
 「明治時代の首脳たちは、文明国になるためには、権力分立と権利保障を備えた立憲主義の体制が必要だという認識を持っていました。当時の日本は、西洋列強の圧力の中で国家としての生き残りを懸けており、富国強兵・殖産興業(軍部主導の軍国主義と官僚主導の開発主義)に注力していましたが、国防目的だけではない観点を、彼らはもちあわせていました」「伊藤博文が特にそうです。文明国であることを認めさせて不平等条約の改正を促進するもくろみは、もちろんありました。しかし、憲法というのは、ヨコのものをタテに翻訳すれば済むような、簡単な話ではありません。社会に定着するかどうかが勝負です。伊藤は、広大な新世界に連邦制かつ共和制の憲法体制を実現したアメリカ人の実験精神に触発されつつ、立憲主義を日本という古い土壌に定着させるよりどころを求めてヨーロッパをめぐりました。伊藤の文明へのコミットメントは本物です。彼が中心になって起草した憲法には、天皇制をてこにした文明化の実験という側面があったわけです」
―伊藤が目指したようなかたちで立憲主義は定着していくのでしょうか。
 「残念ながら、近代日本の国のかたちは、立憲主義だけでなく、君主主義、軍国主義、開発主義、植民地主義の合成物として、伊藤の死後1910年ごろに固まることになり、その後はそれらの間で綱引きが行われることになります。大正デモクラシーと呼ばれたのは、立憲主義が他に比べて相対的に優勢だった時期で、それを支えていたのが東京帝大教授の美濃部達吉の憲法学でした。政界官界のみならず宮中をも支配し、昭和天皇自身もその考え方を支持していました。その理屈の力で、公権力の分立・均衡と、私人の権利保障とを支えていたわけです」
     ■     ■
―35年、美濃部の天皇機関説は「国体に反する」と右翼や軍部の激しい攻撃を受け、美濃部は公職を追われ、著書は発禁処分となります。
 「満州事変が、軍国主義が優勢に転ずる決定打となりました。これを契機に、大正デモクラシーは終わり、最後の防波堤だった美濃部学説が社会的に抹殺されると、歯止めがなくなってしまったのです。翌36年に起きた2・26事件は天皇機関説事件の論理的帰結です。国体の本義と呼ばれた国家イデオロギーが私生活にも入り込み、異論を言うことを許さない社会になっていきます」
―天皇機関説事件について、明治憲法の実質的な改正だったとみる見解もあります。
 「憲法は条文のかたまりではなく制度のかたまりです。条文の字面ではなく、それが演出している制度の実体をみなくてはなりません。やがて近衛文麿首相を総裁とする大政翼賛会が結成され、国民総動員体制が確立されますが、その実体は、立憲主義を捨て、国防目的の国家に切り替えた憲法革命です。ワイマール憲法の条文を改正しないで立憲主義を否定した、いわゆるナチスの手口も、判例変更によって修正資本主義を決定づけたニューディール期のアメリカもまた、同様ですね」
―軍国主義の下で破滅の道を歩んだ日本は再び、日本国憲法の下で立憲主義のプロジェクトをスタートさせました。特徴はどこにあったのでしょうか。
 「敗戦と日本国憲法の制定によって、かつて立憲主義の足を引っ張った植民地主義や軍国主義が切り離されました。君主主義も象徴天皇制に後退し、国民主権にかわりました。75年間もの長きにわたって立憲主義の体制が維持された秘訣(ひけつ)は、そこでしょう」「例えば、改憲論議の焦点となっている9条2項には、『陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない』とあります。ここでいう『その他の戦力』の禁止とは、かつて富国強兵・殖産興業という形で、軍国主義と開発主義が癒着して形成された、軍産複合体の禁止を意味しているのです。ウクライナへの軍事支援によって、兵器ビジネスが活性化している現在、その今日的意義は依然として大きいというべきでしょう」
     ■     ■
―9条について、理想主義に過ぎ、「お花畑」と揶揄(やゆ)する言説があります。どうお考えですか。
 「議論の次元が間違っていると思います。9条は、国防の手段を定めた条文ではありません。軍事力を統制し自由を確保する、立憲主義の統治機構を構築するための条文です。しかし、国家は国民の税金で運営されている以上、国民に安全を供給する義務があります。9条があるからといって、国家が安全供給義務を免れるわけではありません」「憲法によって許容される範囲内で、あの手この手を使って、政治的・経済的・社会的な安全を確保しなくてはなりません。もし仮に、放射能の脅威なしに生存する権利の主張が強まって、反原発の条文を憲法におくことになったとしても、それによって、国家がエネルギー政策そのものを免除されるわけではないのと同じです」
―自衛隊を9条に明記するという改憲案をどう見ますか。
 「戦後、国内では9条が自由のシステムを作ってきました。日本の立憲主義を挫折に追い込んだ帝国主義・軍国主義が、すべて9条によって吹き飛ばされたのです。その意味で9条の統制はよく効いてきた。それを不用意に動かすのは不可逆的な改正となりかねません。問われているのは戦後築いてきた自由のシステムをどう考えるかという問題です。自衛隊明記という名の下に9条の中身を変えることは、自由のシステムを壊すだけに終わる可能性があります。条文だけでなく制度のメカニズムをみて欲しいと思います」「憲法を機能させるのは、『権力への意志』を押し返す、『憲法への意志』です。平和主義へのコミットメントが、戦後一貫して、憲法を支える国民的地盤であったことを軽視すべきではありません。9条に代わる制度を支える『意志』がこの社会になければ、改憲論議は空理空論に過ぎず、せっかく作った新しい条文も、絵に描いた餅に終わってしまいます。政治家には、条文の改正によって既存の制度の何が損なわれるのか、新しい制度が本当に機能するのかを見定める責任があります」
―ウクライナ侵攻に乗じるかのように、敵基地攻撃能力や核共有、防衛費の対GDP(国内総生産)比2%以上の拡大などを主張する議論が生まれています。「国防国家に逆戻りし、軍拡競争に巻き込まれていくことを恐れています。しかも、軍事面だけでなく、軍拡競争を可能にする財政の仕組みがすでに生まれていることに注意すべきです。アベノミクスです。これは、かつて高橋是清蔵相が戦費調達システムとして編み出した、新規国債の日銀引き受けと大胆な財政支出に、機能が酷似しています。財政と戦争は常につながってきたということは記憶にとどめておく必要があります。しかも、国防国家が国民の命を救うかといえば、必ずしもそうではなかったことを歴史が示しています」
     ■     ■
―永田町では、憲法改正それ自体が自己目的化した政治家たちの議論が繰り返されています。その一つが大災害時などの緊急事態に衆院議員の任期を延長できるようにすべきだという主張です。必要性がよくわかりませんが、どのように見ていますか。
 「その時々の権力にとっては、むしろ都合が悪い、自縄自縛の仕組みを作る文明的な営みが、憲法の制定や改正の作業です。公職選挙法の改正で足りる規定を、自縄自縛を解く突破口として利用しようというのは、姑息(こそく)です」
―立憲主義のプロジェクトを進めるうえで何が肝心ですか。
「問われているのは、異質なものと共存する世の中を選ぶのか、異質なものを排除して仲間内だけで気持ちよく生きるか、という文明的な選択ではないでしょうか。例えば、国内では性的な少数者の権利を認めて一人ひとりが生きやすい社会にするのか。国外では体制の異なる国と外交でうまくやりながら平和な秩序を作る努力を重ねていくのか。国内外ともに、すべての論点がこの一点につながっており、その選択こそが喫緊の課題です。上滑りの改憲論ではなく、尊皇攘夷(じょうい)の排外主義を、立憲主義に切り替えた伊藤のような文明観を持ちながら、まっとうな憲法論議を深めることが大切ではないでしょうか」

*2-2:http://www.news-pj.net/topics/136758 (NPJ 2022年6月20日) 改憲を阻止し、命と平和を守る憲法に基づく政治への転換を求める法律家団体のアピール
 改憲問題対策法律家 6団体連絡会
  社会文化法律センター 共同代表理事 海渡 雄一
  自由法曹団 団長 吉田 健一
  青年法律家協会弁護士学者合同部会 議長 上野  格
  日本国際法律家協会 会長 大熊 政一
  日本反核法律家協会 会長 大久保賢一
  日本民主法律家協会 理事長 新倉  修
はじめに
 7月10日に投開票を迎える参議院選挙は、専守防衛政策を転換し、軍備を増強し、憲法 9条を「改正」して戦争をする国に日本を変えるのか、それとも専守防衛政策を徹底し、憲法 9条を活かして日本が非軍事的に平和を創造するあらゆる努力を続ける平和主義の立場を堅持するのかという重大な選択が主権者である市民に求められています。私たち改憲問題対策法律家 6団体連絡会 (法律家 6団体) は、改憲にNO ! 憲法蹂躙の政治に終止符を ! の審判を下すことを広く市民に呼びかけます。
1 9条改憲に NO !
 岸田文雄首相は、在任中の改憲に強い意欲を見せており、施政方針演説でもその方針を明言するとともに、憲法記念日にも憲法 9条への自衛隊明記への執念を表明しました。こうした岸田首相の方針に呼応するかのように、衆議院憲法審査会で改憲ありきの異常な審議が続きました。国民生活の福利のために注力すべき予算審議の時期にあえて憲法審査会を開催しました。また、改憲を望む国民世論は極めて低いにもかかわらず衆議院の憲法審査会の毎週開催を強行しました。自民党、公明党、維新の会、国民民主党などは、積極的に改憲論議を展開してきました。特に、ウクライナ侵攻を契機として自民党、維新の会は「憲法9条では国を守ることはできない」と述べ、憲法 9条を「改正」し自衛隊を明記する必要性を強調しました。自衛隊が憲法に明記されれば、憲法9条は死文化し、歯止めのない軍拡と武力行使が可能となります。平和主義の理念が葬られることは、国民主権と基本的人権の尊重という憲法の体系そのものも破壊し、軍事の論理が人権や民主主義に優先する国となる危険があります。
2 国民 (市民) の命と生活を犠牲にする戦争する国にNO !
 憲法 9条違反の政治が自公政権のもとで進んでいます。岸田首相は、敵基地攻撃能力を保有と軍事力の抜本的強化を繰り返し宣言しています。敵基攻撃論は、国際法上違法とされる先制攻撃と紙一重であり、攻撃対象を「指揮統制機能」に拡大すれば、国際人道法違反にも問われかねないものです。 5月23日の日米首脳会談では、ウクライナ危機を口実に「力に対して力で対抗する」ことが宣言されていますが、これは憲法 9条が掲げる「外交による平和の実現」をかなぐり捨てるものです。また、安倍晋三元首相や維新の会は「核共有」の議論を始めるべきと述べ、核兵器禁止条約に背を向け、日本が堅持し続けてきた非核三原則まで捨て去ろうとしています。自民党は、① 敵地攻撃能力の保有並びに攻撃対象を敵国中枢に拡大 ② 防衛予算を 5年以内にGDP比 2% ③ 日米軍事同盟のさらなる強化と核抑止力の強化 ④ 核持ち込み禁止の見直しなど、専守防衛政策の転換を求める提言を岸田首相に提出しました。日本維新の会も、安倍元首相が民放番組で核共有の議論を促すとすぐさま賛成し、① 防衛費増額GDP 2% ② 中距離ミサイル等の装備拡充 ③ 核共有等の拡大抑止の議論開始 ④ 専守防衛の「必要最小限」の見直しなどを打ち出しています。しかし、専守防衛政策を捨ててこれ以上軍事力を増大させることは、日本や近隣諸国の安全保障環境を危機に陥れかねません。日本が敵基地攻撃能力を保有し、核共有を実施し軍事力を倍増させることは、必然的に周辺国の疑心暗鬼を招き他国も軍事力を増強することにつながります。軍事力に頼る抑止論は、果てしない軍拡の応酬と相互不信を生むだけであり、近隣諸国の緊張関係を亢進し軍事衝突の危険を逆に増すことになります。むしろ地域のすべての国を包み込む安全保障と非軍事的支援の枠組みを作ることこそ唯一の平和への道であり、憲法 9条はそれを指し示す役割を担っています。さらに、軍事費を増大させることは、私たちの生活のために必要な福祉予算を削る、あるいは消費税を大増税するということを意味します。防衛費倍増 5兆円があれば、大学授業料の無償化、児童手当の高校までの延長と所得制限の撤廃、小中学校の給食無償化 (合計約 3.2兆円) をしてさらに余りがでます。また、年金受給者に対してその受給額を一律年12万円増加させる (約 5兆円) こともできます ( 6月 3日東京新聞調べ) 。ただでさえコロナ禍や近時の物価高騰で悩まされている市民は、こうした財政支出こそ望んでいるはずです。 私たちは、軍事力に依存した政策にきっぱりとNOを突きつけなければなりません。
3 「政策要望書」を一致点とした野党共闘こそ求められている
 安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合 (市民連合) は、 5月 9日、平和・暮らし・気候変動・平等と人権保障の 4つの柱からなる「政策要望書」を発表し、立憲民主党、共産党、社民党、沖縄の風、碧水会の 3党 2会派はこの要望書を口頭にて確認しました。この確認された「政策要望書」には、「憲法が指し示す平和主義、立憲主義、民主主義を守り、育む」という理念が記されるとともに、「非核三原則を堅持し、憲法 9条の改悪、集団的自衛権の行使を許さない、辺野古新基地建設は中止する」という目標が掲げられており、私たちの主張と一致しています。さらに「政策要望書」は、「すべての生活者や労働者が性別、雇用形態、家庭環境にかかわらず、尊厳ある暮らしを送れるようにする」、「原発にも化石燃料にも頼らないエネルギーへの転換を進め (る)」「すべての人の尊厳が守られ、すべての人が自らの意志によって学び、働き、生活を営めるように人権保障を徹底する」としています。これらは、いずれもコロナ禍の中で苦しめられてきた市民の命と暮らしを第一に据えた政策であり、私たち法律家 6団体が求めてきたことと一致します。 私たちは、立憲野党がこの「政策要望書」を共有し、参議院選挙を共同して闘うよう決意したことを大いに歓迎するともに、この政策に基づき自公政権の下で破壊された憲法秩序と人権保障を回復する政治を実現し明文改憲を阻止することを強く期待します。
4 参議院選挙で勝利し改憲を阻止し、平和を創造する政治への転換を
 7月10日の参議院選挙を終えると、その後 3年間は国政選挙はなされないと言われています。改憲勢力は、これまで選挙直前には「改憲」の主張を一時的に隠しますが、選挙直後には再び改憲を声高に叫んできました。仮に改憲勢力へ改憲に必要な 3分の 2の議席を与えてしまうと、この 3年のうちに改憲発議がなされる危険も決して杞憂とは言えません。 その意味で、この参議院選挙は、軍事優先の国家づくりにストップをかけることができるか否か、東アジアの平和構築を図ることができるか否かの重大な選挙であると言えます。いうまでもなく、平和なくして命や人間の尊厳は守れません。きたる参議院選挙では、改憲勢力である自民、公明、維新にNO ! の審判を下すよう呼びかけます。そして、参議院選挙が、命を守り平和を創造する政治への転換となるよう、私たち法律家もみなさまとともに行動することを宣言します。

<社会保障と国民生活>
*3-1:https://www.nhk.or.jp/senkyo/database/sangiin/pledge/policy/02/ (NHK 2022年6月16日) 各党の公約「社会保障」
●自由民主党
 全ての世代が安心できる持続可能な年金・医療・介護などの全世代型社会保障の構築に向け、計画的に取組みを進める。出産育児一時金の引上げなど、出産育児支援を推し進め、仕事と子育てを両立できる環境をさらに整備する。健康長寿、年齢にかかわらない就業や多様な社会参加などによって長生きが幸せと実感できる「幸齢社会」を実現する。
●立憲民主党
 年金の切り下げに対抗し、当面、低所得の年金生活者向けの年金生活者支援給付金を手厚くする。政府がコロナ禍で行う後期高齢者の医療費窓口負担割合の1割から2割への引き上げを撤回する。公立・公的病院の統廃合や病床削減につながる「地域医療構想」を抜本的に見直す。
●公明党
 社会保障を支える人を増やし、全世代型社会保障の構築を進める。公的価格の引き上げなどにより、医療・介護・障がい福祉等の人材確保策を強化する。高齢者の所得保障の充実に向けて、高齢者が働きやすい環境整備とともに基礎年金の再配分機能の強化に向けた検討を進める。
●日本維新の会
 現在の年金に代わって、すべての国民に無条件で一定額を支給する「ベーシックインカム」などを導入し、持続可能なセーフティーネットを構築する。医療費の自己負担割合は、年齢ではなく、所得に応じて負担割合に差を設ける仕組みに変更する。
●国民民主党
 給付と所得税の還付を組み合わせた新制度「給付付き税額控除」を導入し、尊厳ある生活を支える基礎的所得を保障する。マイナンバーと銀行口座を紐付けて必要な手当や給付金が申請不要で自動的に振り込まれる「プッシュ型支援」を実現する。これらの組み合わせで「日本型ベーシックインカム」を創設する。
●日本共産党
 物価高騰下での公的年金の支給額の引き下げを中止する。年金削減の仕組みを廃止して、物価に応じて増える年金にする。〝頼れる年金〟への抜本的な改革として、基礎年金満額の国庫負担分にあたる月3.3万円をすべての年金受給者に支給し、低年金の底上げを行う。75歳以上の医療費2倍化を中止・撤回させる。
●れいわ新選組
 社会保険料の国負担を増やして、国民の負担を軽減する。年金支給は減らさない。保険料の応能負担も含めた制度の改革を提案していく。介護・保育従事者の月給について、全産業平均との差を埋めるため、月給10万円アップが必要。
●社会民主党
 75歳以上の医療費窓口負担の引き上げを中止し、後期高齢者医療制度を抜本的に見直す。非正規労働の拡大に歯止めをかけ、正規労働への転換を進め、雇用の安定を実現する。労働者派遣法を抜本改正し、派遣労働は一時的・臨時的な業務に厳しく制限する。
●NHK党
 持続可能な社会保障制度のためには、社会保障費の削減を目指すべきであると考える。高齢者の医療費の自己負担を3 割に引き上げることをタブー視しない。年金の支給開始年齢の引き上げの検討をすべき。

*3-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220624&ng=DGKKZO62009960U2A620C2MM0000 (日経新聞 2022.6.24)消費者物価2.1%上昇 2カ月連続2%超
 総務省が24日発表した5月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が101.6となり、前年同月比2.1%上昇した。上昇率は2カ月連続で2%を超えた。資源高により電気代やガソリン価格などエネルギー関連が大きく上昇し、原材料高で食料品の上昇も目立った。家庭用の耐久消費財にも上昇が波及した。4月は携帯電話の料金値下げの影響が薄まったことで、7年1カ月ぶりに2%を超えて2.1%の上昇となっていた。5月の生鮮食品も含む総合指数は2.5%上がった。生鮮食品とエネルギーをともに除いた総合指数は0.8%の上昇となった。それぞれ上昇率は4月と変わらなかった。品目別に見ると、エネルギー関連が17.1%上昇した。4月(19.1%上昇)に続いて高水準の伸びとなった。ガソリン補助金拡大の影響で上昇率は鈍化した。エネルギーだけで総合指数は1.26ポイント高まった。電気代は18.6%、ガソリンは13.1%上がった。生鮮食品以外の食料は2.7%上がり、上げ幅は4月(2.6%)をやや上回った。上げ幅は7年2カ月ぶりの大きさ。原材料価格の高騰で、食パン(9.4%)やハンバーガー(7.6%)が上がった。調理カレー(11.4%)、ポテトチップス(9.0%)などの上昇も目立った。食用油は36.2%の大幅な上昇になった。生鮮食品は12.3%上がり、4月(12.2%)から伸びがやや加速した。たまねぎは2.3倍となり、キャベツ(40.6%)なども大きく上昇した。生鮮魚介(12.2%)も上昇が続いており、まぐろは16.6%上がった。家庭用耐久財にも上昇が波及してきた。5月の上昇率は7.4%で前月(5.0%)より伸びが大きくなった。中国の都市封鎖で物流が滞ったことや半導体不足により、ルームエアコン(11.0%)が上昇した。電気冷蔵庫(15.8%)やソファ(8.8%)も上がった。天然ゴム価格上昇の影響で、自動車タイヤ(3.2%)も上がった。インフレは、年内は続く公算が大きい。日本経済研究センターがまとめた民間エコノミスト37人の経済見通し「ESPフォーキャスト調査」によると、物価上昇率は4~6月期が前年同期比2.08%、7~9月期が2.11%、10~12月期が2.17%となっている。電気代や食品価格は、燃料高や小麦の国際価格上昇が時間をかけて反映される。他の主要先進国に比べると物価上昇はまだ鈍い。米国は5月に8.6%と3カ月連続で8%を超えた。ユーロ圏は8.1%、英国は9.1%と高水準だった。政府は電気などエネルギーや食料品の価格上昇を抑える政策を実施する。事業者が節電した場合には電力会社が実質的に電気代を下げる制度を導入する。食料価格抑制のため、飼料や肥料の価格高騰対策もとる。

*3-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220624&ng=DGKKZO62004470U2A620C2EA2000 (日経新聞 2022.6.24) 〈指標で読む参院選争点〉物価高「2.5%」高齢層ほど痛み、食費・光熱費割合大きく
 国民生活を揺さぶる物価高が参院選で論戦の争点になっている。4月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比2.5%上がり、消費増税の影響があった時期を除くと1991年12月以来30年ぶりの伸びになった。インフレへの警戒感は高齢層で際立ち、参院選では各党が対策を競う。CPIは変動の大きい生鮮食品を除く総合指数でも前年同月比2.1%上昇し、消費増税の影響があった2015年3月(2.2%)以来、7年1カ月ぶりに2%を超えた。日本経済研究センターがまとめた民間予測の平均では、22年中は2%台で推移する。各党とも物価高対策を訴えるのは、多くの人が選挙に足を運ぶ高齢層でインフレの「痛み」が強まっているからだ。総務省がまとめた前回19年参院選の投票率は48.80%。年代別では60歳代が63.58%、70歳代以上が56.31%と平均を上回る。30歳代の38.78%、40歳代の45.99%と対照的だ。高齢層はインフレに強い警戒感を抱く。内閣府がまとめる消費動向調査によると、5月の消費者態度指数(原数値)は1年前に比べて1.1ポイント下がった。年齢別では30歳代や40歳代が1ポイント超改善したのに対し、60歳代は2.2ポイント、70歳代以上は2.8ポイント下がった。高齢層は収入が限られるうえに、支出に占める食費や光熱費の割合が大きい。そのため、高齢者ほど近い将来にさらに物価高が進むと感じている。同調査によると60歳代の61%、70歳代以上の57%が「1年後も5%以上の物価上昇」と回答する。30歳代(40%)や40歳代(49%)を上回る。各党の公約をみると、具体的な対策で違いがある。自民党は激変緩和措置として、ガソリンなどの燃油価格を補助金で抑えると訴える。公明党は新たな政労使合意で賃上げを目指すとした。野党はほぼそろって消費税の軽減を打ち出した。立憲民主党は時限的に税率を5%に下げるとするほか、日本維新の会も食品などに適用されている8%の軽減税率を3%に下げると主張する。国民民主党は消費減税とともに、ガソリン税の一部を減税する「トリガー条項」の凍結解除による負担減を訴える。共産党は減税とともに、後期高齢者の医療費負担増の中止を主張する。れいわ新選組、社民党、NHK党も税率引き下げや廃止を公約に盛る。物価高は欧米でも政治情勢に影響している。5月の消費者物価は米国が8.6%の上昇で、約40年ぶりの高さとなった。上昇率はユーロ圏が8.1%、英国も9.1%と日本を大きく上回る。暮らしの負担感は政治への不満につながりやすい。19日投開票されたフランス国民議会決選投票では、マクロン大統領が率いる与党連合が議席を大きく減らし、過半数を下回った。インフレ対策を掲げる野党に票が集まった。米国も11月の中間選挙に向けて、インフレ対策が最大の争点だ。このため各国政府も悪影響の緩和に躍起だ。フランスはガソリン1リットル当たり15ユーロセントを割り引き、ドイツもガソリン販売価格を抑える措置を打ち出す。バイデン米大統領もガソリンへの一時的な課税停止を議会に要請した。経済協力開発機構(OECD)によると、独、仏、イタリアでの資源高対策にかかる政策コストは国内総生産(GDP)比で1%に達する見込みだ。OECDは「対象を絞らない支援策は財政コストが高く、省エネルギーの推進や脱炭素への投資を損なう恐れがある。数カ月以上継続すべきではない」と強調する。英国は低所得の800万世帯に照準を絞り1200ポンド(約20万円)の支援策を公表し、効率の高い施策にしようとしている。

*3-2-3: https://mainichi.jp/articles/20220623/k00/00m/010/251000c (毎日新聞 2022/6/23) 「改憲」影潜め…参院選のメイン争点に「物価高」 有権者の関心高く
 22日に公示された参院選の一番の争点に、「物価高」が浮上してきた。公示前日の与野党9党の党首討論会でも、ほとんどの党首が「最も訴えたいこと」として触れた。一方、改憲に前向きな4党で3分の2の議席を得れば改正の発議が可能になることから「憲法改正」も主要なテーマと言われてきたが、街頭演説で触れられる機会は少ない。主婦ら有権者からも「物価高への対応を投票先選びの参考にしたい」と声が上がるなど、今の生活に密着する課題への関心は高まっている。専門家は「政治は物価高を克服する対策を具体的に示し、有権者もその内容を比較して」と語る。「物価高やインフレ、政権が何も手を打たないから物の値段が上がってみんなが大変な思いをしている。『(ウクライナの)戦争のせいだから我慢をしてください』って。人ごとですよ」(東京選挙区の野党候補者)。「何もしなければ(ガソリン1リットル当たり)210円くらいまで上がっているものを(政府の対策で)170円になんとか抑え、小麦の価格にしても(上昇を)2割3割でなんとか抑えている」(自民党の首相経験者)。公示日の22日に東京都内であった各党の街頭演説。与野党問わず、多くの候補者や応援で訪れた党幹部が物価高や上がらない賃金を俎上(そじょう)に載せ、有権者に訴え掛けた。物価高は深刻だ。商品やサービスの価格がどのくらい変動したかを示す4月の全国消費者物価指数(2020年=100、天候不良などで変動の大きい生鮮食品を除く)は、去年の同じ月に比べ2・1%上昇し、101・4だった。上昇率が前年を上回るのは8カ月連続で、消費増税の影響を除けば08年9月の2・3%以来、約13年半ぶりの高い水準だ。品目別では、食料(生鮮食品を除く)2・6%▽電気代21%▽ガス代17・5%――など、軒並み前年の同じ月よりも高くなった。東京・上野のアメ横商店街の食料品店主は「3月ごろから物価高を実感し始めた。最初は輸入品で、4月以降は国産品にも広がった」と振り返る。帝国データバンクが6月、約1700社を対象にインターネットで調査したところ、4月以降に値上げを「実施済み」「今後する予定」と回答した企業は約7割に上った。飲食料品企業では、その割合が9割に達した。有権者の関心も高い。夫と年金生活を送る東京都杉並区の女性(70)は「野菜も肉もほとんど全てが値上がり。日銀の偉い人が『家計が値上げを許容している』と言っていたが、許容なんてしていない。すでに食費は切り詰めていて、買い控えもできない。どうにかしてほしい」と訴える。大阪府吹田市の男性会社員(42)は「生きていくのに必要な食材費や光熱費は上がっているのに、給料は上がらない」と嘆き、「資本家のためではなく、まじめに働く人が苦しまない資本主義を実現してくれる政治家に1票を投じたい」と、物価高への対応を投票先選びの材料とするつもりだ。こうした関心に、各党も敏感に反応している。公示前日の21日、与野党9党首の討論会。冒頭に「一番訴えたいこと」を聞かれ、9党首中7党首が物価という単語を使って「物価高騰から暮らしを守る」などと訴えた。憲法改正は、1党が「9条を変えさせない」と述べるにとどまった。その後、各党首がそれぞれ1人を指名してテーマを決めて討論する場面でも、1巡目では6党首が物価を選び、憲法改正で議論した党首はいなかった。フランスでは、19日にあった国民議会(下院)総選挙の決選投票で与党連合が過半数を大きく割り込んだ。その背景には物価高騰への有権者の不満があったとされる。日本でも物価高がメインの争点に浮上した背景について、政治ジャーナリストの角谷浩一さんは「国民の目の前にある分かりやすい不安だからだろう。物価を下げるという話に反対する有権者はほとんどおらず、各党がテーマに掲げやすい」と分析。改憲は「有権者それぞれで考えが分かれ、党の主張が全ての有権者に届くわけではない」と違いを指摘した。そのうえで「大切なのは、物価高でも困らない程度までサラリーマンの給料を引き上げたり、セーフティーネットを充実させたりするなどの具体的な政策に踏み込んで議論を深められるか。参院選は3週間近くあるので、各党が物価高の先に描くビジョンを明確に示してほしい」と注文した。

*3-3-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15348104.html (朝日新聞社説 2022年7月8日) 参院選 社会保障改革 「負担」の合意形成急げ
 人口減少と高齢化が進む日本で、年々膨らむ社会保障の費用をどう賄い、制度を維持するか。選挙の時こそ、国民の負担のあり方について語るべきなのに、各政党の公約に具体的な言及はほとんどない。大事なテーマを素通りする姿勢が、いつまで続くのだろうか。参院選では各党とも、子どもや子育て支援のための施策の充実を公約の柱に掲げる。「手厚い少子化対策・子育て支援を実現」(自民党)、「チルドレン・ファースト」(立憲民主党)――。少子化に歯止めがかからないなかで、重要な施策であることは間違いない。ただ、そうした政策が効果を上げても、2040年代まで現役世代は減り続ける。一方、25年には「団塊の世代」が全て75歳以上になり、高齢化は加速する。現在、約130兆円の社会保障給付費は40年度に190兆円に達するとも推計される。給付の抑制や利用者の負担増で支出を抑えるのか。それとも、税金や社会保険料の負担を引き上げて収入を増やすのか。与野党ともに言及するのが、余力のある高齢者に応分の負担を求めることと、元気なうちは働ける環境を整えて制度の担い手になってもらうことだ。大事な取り組みだが、それで生み出せる財源には限りがある。高齢者の負担を増やし過ぎれば、必要な医療や介護サービスを受けられなくなったり、家族介護や仕送りなどの形で現役世代の負担になったりする可能性もある。実際、10月から、75歳以上でも一定以上の所得がある人の医療費窓口負担の割合を2割に増やすにあたって、限られた年金での生活に配慮し対象者を絞り込まざるをえなかった。高齢者に負担を求めれば解決するかのような言説は楽観的すぎる。振り返れば、この間、政府・与党は経済成長をあてにして、本格的な給付と負担の議論を避けてきた。しかし、社会保障給付費の伸びと税収の開きは大きくなるばかりだ。これ以上の先送りは許されない。にもかかわらず、与党は具体策を示していない。政権党として無責任としかいいようがない。野党の多くは富裕層への課税強化などを訴えるが、一方で消費税の減税や廃止を主張する。それで増え続ける社会保障費を賄えるのだろうか。給付と負担のバランスをどこでとるか。答えは一つではない。手厚い保障と高負担の国もあれば、自助を中心に据えた国もある。問題は、日本がそのどちらともつかない状況にあることだ。めざす方向と選択肢を示して、合意形成をはかる。それが政治の役割だ。

*3-3-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/880949 (佐賀新聞 2022/7/6) 参院選―社会保障 未来に責任感はあるか
 参院選の論戦は終盤に入ったが、社会保障の議論が一向に深まらない。日本が抱える多くの困難は、人口減少・少子高齢化が原因だ。土台の揺らぐ社会保障制度の安定化は焦眉の急と誰もが感じる。にもかかわらず、子ども・子育て支援を含め、財源の手当て抜きに給付拡大ばかりを与野党が競い合い、重要な論点まで行き着いていない。人の一生につきまとう「生老病死」の苦悩を和らげる安全網として不可欠な社会保障は、給付と負担のバランスで成り立つ。給付を増やせば必ず全体として負担が増す。そして負担は分かち合いだ。高齢者も含む今の大人が痛みを避ければ、そのツケが確実に回り、子や孫が給付削減や負担増で苦しむことになる。有権者の耳に優しい「ばらまき」で目の前の選挙を有利に戦えたとしても問題解決は遠のくばかりだ。この国の未来に最も責任感があるのはどの政党、候補者か。残りの論戦で目を凝らしたい。2040年には高齢者人口がほぼピークの約3900万人に増え、年金、医療、介護の社会保障費がかさむ。一方、働いて保険料を払う現役世代は今の約7500万人から1500万人も減る。これに備えるのが政府の「全世代型社会保障」だ。眼目は二つ。高齢者に偏る社会保障からの恩恵を若者・子育て世代にも回し、少子化を止める。元気な高齢者や女性にもなるべく働いてもらい、社会保障の支え手を増やす―。現実的な対策の方向として妥当だろう。これに対し、各党はどんな公約を掲げたか。自民党は、出産育児一時金引き上げ、児童手当拡充などを表明した。立憲民主党は、4月から公的年金が0・4%引き下げられた年金生活者への支援金給付などを主張。野党各党と与党の公明党は教育無償化で声をそろえる。日本維新の会と国民民主党は最低所得を保障する「ベーシックインカム」導入も唱えた。これらの実現には多額の予算が必要だ。現状でも40年の社会保障給付費は18年度比1・6倍の190兆円に達する予想だが、財源はどうするのか。消費税は社会保障や少子化対策に使うと法律で決まっているが、立民など野党はその減税や廃止を主張。与党は減税こそ否定はするが、岸田文雄首相は「10年程度は上げることは考えない」と言う。消費税に依拠して40年問題へ対処することをためらう点では、与野党に実は大差はない。選挙中に増税派と受け止められたくないからだろう。所得税なども含め税収が不足なら、必要な政策は国債発行による借金に頼るほかない。しかし新型コロナウイルス禍で20年度の新規国債発行は空前の100兆円超となり、21年度の国の長期債務は1千兆円を超えた。子ども政策充実を巡り野党側は「未来への投資は国債を発行してもいい」と言うが、どうだろうか。子どものための借金と言っても、将来返済するのは当の子どもたちだろう。これでは、社会人になっても多額の奨学金返済で困窮する元苦学生と同様にならないか。50年の日本は現役世代1・2人で高齢者1人を支える「肩車型社会」だ。今の若者たちは自分の年金が目減りする上、お年寄りの医療や介護を支え、さらに親世代の借金返済も担う未来が待つ。若者こそ自らと、まだ選挙権もない弟妹たちのため投票所へ行ってほしい。

*3-3-3:https://news.yahoo.co.jp/articles/de21721f6097b93e91d659e258084a62ee75dccc (Yahoo 2022/7/6) 女性の働き方が「極めて特殊」と指摘される日本…課題だった「M」は消え、浮かび上がる「L」が意味する深刻な格差とは?
 共働き世帯と専業主婦世帯の数が逆転したのは1990年代のことです。社会に出て働く女性が増えてきました。ただし、就業の「中身」についてはもっと検討が必要だという声を労働関係の専門家から聞くことがあります。どういうことでしょうか。女性の働き方についてよく聞く言葉に「M字カーブ」があります。出産や育児を機に一度仕事をやめて、再び働き始める――。そんな女性の働き方を表す用語として広く知られています。20代に上昇した労働力率が出産・育児期にあたる30代に落ち込み、再び上がる様子が「M」の字に似ていることから、M字カーブと呼ばれてきました。長年、女性の継続就業を阻む壁の解消が課題とされてきましたが、働く女性の増加などでM字の谷が浅くなってきました。近年、M字カーブは徐々に解消されつつあります(図表参照)。
●新たに登場した「L字カーブ」とは?
 代わって最近、登場したのが「L字カーブ」という言葉です。2020年に、政府の文書(政府の有識者懇談会「選択する未来2.0」中間報告)に初めて登場しました。女性の正規雇用率が20代後半に5割を超えてピークに達した後、一貫して下がり続ける様子を指した言葉です(図表参照)。内閣府の担当者は「保育の受け皿の拡大などで『M字』は解消されつつあるが、出産後、非正規雇用の選択肢しか事実上残されていないのは問題だ」とした上で、「こうした状況をわかりやすく伝えたいと、担当大臣と相談して『L字』と名付けた」といいます。ちなみに、この時の担当大臣は西村康稔経済再生担当大臣です。このL字、正直、M字のようにわかりやすくありません。年齢別の正規雇用率を線で結ぶと、への字形のカーブが表れます。への字の頂点にくるのが20代後半で、以降、正規雇用率は年齢とともに下降します。この「へ」の字形のカーブを左に90度回転させた形が「L」の字に似ていることから「L字カーブ」と名付けたようです。しかし、個人的には「への字カーブ」と言った方がピンときます。女性の経済的自立や社会での活躍、人口減社会における労働力確保の点などから、女性の就業率が各年齢層で上がり、M字カーブが解消の方向にあるのを歓迎する声は強いのですが、「M字が解消されたからといって問題解決というわけではない」という声を聞きます。就業率が上昇したといっても、その中身は「非正規雇用」が中心で、低賃金で不安定な働き方となりやすいからです。

*3-4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220624&ng=DGKKZO62003870U2A620C2MM8000 (日経新聞 2022.6.24) 医療再建(下) 迫られる負担の「脱・年齢」 給付のメリハリ欠かせず
 日本の医療が少子高齢化を乗り越えるには負担と給付の発想を転換する必要がある。だが改革の動きはあまりに鈍い。「マイナンバーを活用すること等により、金融資産等の保有状況を考慮に入れた負担を求める仕組みを検討する」。政府が経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に記した文言だ。といっても今年の骨太方針ではない。安倍晋三政権が2015年に閣議決定したものだ。「団塊の世代」の全員が75歳以上になる25年以降は医療費の膨張が加速する。現役世代の負荷を緩和するため、資産のある高齢者にはもっと負担してもらう。こんな問題意識があった。ところが25年が迫ってきても実現する気配はない。厚生労働省の社会保障審議会が16年末に「金融資産を正確に把握する仕組みがない現状では尚早」と課題を指摘しただけ。政府がその後、マイナンバーを活用した資産把握の実装を急いでいるようにもみえない。閣議で「検討する」と決まった改革が実際には「検討しただけ」で尻すぼみになる。霞が関文学の典型だ。高齢者の医療費の窓口負担は70~74歳は2割、75歳以上は1割が原則だが、今後は現役世代と同様に3割負担を原則とすることも課題だ。そのうえで年齢に関係なく、所得や資産の状況から支援が要る人だけ負担割合を1~2割に下げる。こんな負担の全世代型改革を進める必要がある。会社員らの健康保険組合は加入者の賃金水準が新型コロナウイルス前に戻らない中で、高齢者医療を支えるために毎年3兆円超を拠出している。22年度は全体の7割にあたる963組合が赤字予算を組んでいる。現役世代の苦境は今後さらに深刻になる。政府の推計では40年の医療給付費は68.5兆円と20年度の約1.7倍に増える一方、20~64歳の現役人口は2割近くも減ってしまうためだ。荷を軽くするには給付の取捨選択も避けられない。今は有効性と安全性が確認された治療法や医薬品はすべて公的保険でカバーしている。今後は医療上の有用性などの視点で保険適用の可否を判断すべきだ。例えばフランスでは医薬品について有効性や安全性だけでなく、疾病の重篤度、治療の特性、公衆衛生への影響など医療上の有用性の観点で評価している。一般患者なら一律で70%給付の日本と異なり、給付率は5段階ある。抗がん剤など他で代替できない薬は100%給付だが、重要度が下がるにつれて65%、30%、15%、0%と給付率が下がる。有用性が低い薬ほど患者負担が重くなる。治療法の評価も見直しが要る。例えば、同じ病気の治療で内視鏡手術の患者が開腹手術の患者よりも早期に退院できるなら、それは病気の治療だけでなく「日常生活により早く戻る」という便益も提供されていることになる。特別な治療法を選択した患者には、追加的な自己負担を求める考え方も検討すべきだ。こうした改革を進める前提として、保険診療と保険外診療を併用する「混合診療」を禁止するルールは見直し、柔軟に併用できるようにしたほうがよい。国民皆保険を守るためにも聖域を廃した改革が必要だ。

*3-4-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15354299.html?iref=comtop_Opinion_04 (朝日新聞社説 2022年7月13日) マイナンバー 地方交付税ゆがめるな
 ものごとが進まないときに必要なのは、真の原因に向き合うことだ。政府がそれを怠り、筋違いの促進策に熱を上げる。あきれざるをえない光景だ。政府が、自治体ごとのマイナンバーカードの交付率を、地方交付税の額に反映させる方針を打ち出した。住民がカードを取得した率が高い自治体には、交付税の配分を増やす。先月閣議決定した「デジタル田園都市国家構想」の基本方針に盛り込まれた。この方針には「交付率を普通交付税における地域のデジタル化に係る財政需要の算定に反映することについて検討」と書かれている。カードを使ったデジタル施策の費用に充てるために配分を増やすという理屈のようだが、到底納得できない。そもそも政府はマイナンバー制度の目的の一つに、「様々な情報の照合、転記、入力などに要している時間や労力が大幅に削減される」ことをあげてきたはずだ。カード普及でコストが増えるのであれば、「行政の効率化」との説明はウソだったことになる。システムや関連機器などの初期投資が一時的にかさむことは考えられる。その経費の支援ならば補助金を出すべきで、交付税に差をつけるのは筋違いだ。交付税は、すべての自治体が一定の行政サービスを行う財源を保障するために、国が自治体の代わりに徴収し、財源の不均衡を調整するものだ。この「地方固有の財源」を、国策の推進に用いるのは、明らかに交付税の精神に反する。なぜここまで理の通らないことをしようとするのか。政府は今年度末までにほぼ全国民にマイナンバーカードを交付する目標を掲げる。だが、6月末の交付率は約45%に過ぎない。総務省は5月分から、全市区町村の交付率を高い順に並べた表を公表し始めた。今回の方針について、政府は表向き「政策誘導ではない」(金子総務相)という。だが、交付税をてこに、自治体に圧力をかける目的があるとみられても仕方がないだろう。マイナンバーカードの普及を図るため、政府は多額のポイントを配布している。健康保険証を将来的に原則廃止し、このカードに一元化するという。行政のデジタル化の基盤としてカードを広めたいとの意図は分かる。ただ、取得が進まないのは、国民がカードの利点を実感できず、個人情報が漏れたり悪用されたりするのではという不安も払拭(ふっしょく)されていないからではないか。根本的な問題の解決こそが求められていることを、政府は心すべきである。

<私も変だと思った安倍元首相の警護>
PS(2022年7月20日追加): 安倍元首相が、*4-1のように、 2022年7月8日、奈良市で参院選の街頭応援演説中に銃撃された事件に私は衝撃を受けたが、その警備の問題点について、テロ対策・要人警護・施設警備の専門家が、*4-3のように、①警察の警護体制の甘さが各方面から厳しく指摘され ②安倍氏が演説していた場所は、ガードレールに囲まれた場所で逃げ場がなく、このような場所に安倍元総理を立たせたのが誰か、警察は調べるべき ③SPが1人として安倍氏のすぐ後ろに「ボディーガード」として立たず、腕の届く位置にもいなかった ④安倍氏の周囲にはSPが7人ほど配置されていたが、誰一人背後まで警戒をしている様子はなく、背後から銃を持った犯人に対象者から約3mの距離まで入り込まれたのは、VIPを警護するプロの世界では考えられないレベルの失策 ⑤警護要員はみな内向きに配置され、安倍氏と同じ方向を見て背後に注意を払っていない ⑥安倍氏は背後から至近距離で発砲され、犯人は初弾を外して2発目を発射するまでに2.5秒ほどの間隔があったが、SPがまともに反応し始めたのは2発目が発射された後 ⑦プロの警護要員なら次弾発射まで1~2秒も時間があればいろいろなことができた筈 ⑧警護対象者を護らず、何人もの警官が犯人に飛びかかったのは疑問 ⑨今回の失敗は、日本警察の警護能力の低さの証明と世界中の警察や軍で「絶対にやってはならない失敗の手本」になる と書いておられた。
 私も安倍元首相殺害現場の映像を見た時から、どこか不自然なものを感じていたが、それはまず、③のように背後が空いていた上、④⑤のように、SPらしき人が申し合わせたように皆同じ方向を見て誰も背後を見ていなかったからである。さらに、⑥のように、犯人が初弾を外した音がした時も、背後を振り向いたのは安倍元首相だけだった。②については、私は「背後に街宣車を置くか、建物内で応援演説すればよかったのに」と思っていたが、プロの警護要員から見れば、このような場所に安倍元総理を立たせること自体が高リスクだったようだ。また、①⑦⑧⑨についても、全くそのとおりだ。
 そのため、*4-2のように、警察庁がこの事件が起こった背景についての「検証・見直しチーム」を発足させたそうだが、警察庁もまた責任を問われるべき立場にあるため、独立した第三者の手で問題点を洗い出して責任の所在を明確にすべきだろう。これは要人の殺害事件であり、⑧のように、事件勃発後に何人もの警官が犯人に飛びかかって、一生懸命に警備していたふりをしても意味がないのだから。
 そのような中、*4-4のように、安倍元首相銃撃事件の奈良市消防局による無線記録の全容が判明したところ、11月8日午前11時32分に出動命令が出て、⑨(銃撃から約3分後の8日午前11時35分)「高齢男性、拳銃で撃たれ、心肺停止状態」 と言っているが、通報した人は安倍元総理と言わずに高齢男性と言ったのか、これが第一の疑問である。また、⑩(銃撃から約8分後の同40分)隊員が安倍元首相の心肺蘇生を試み、「ドクターヘリ出動させます」 ⑪(銃撃から約11分後の同43分)現場から「救急車内に収容しました」 ⑫(銃撃から約21分後の午前11時53分頃)ドクターヘリが合流地点に到着し、救急車も銃撃から約25分後の同57分に着いて、受け渡しが完了した後に搬送先が決まり、「ヘリにあっては橿原の医大、橿原の医大となりました」(銃撃から約40分後の午後0時12分) としているのは、銃撃直後に被害者の名前と場所を明確にして直ちに現場にドクターヘリ(そのために作ったのだから)を呼び、同時に搬送先病院を決めて迅速に運ぶこともなく、⑬(銃撃から約43分後の午後0時15分)にやっとドクターヘリが離陸して奈良県立医大病院(奈良県橿原市)に搬送した というのだから、要人救命の意思がなかったように見えるし、これなら亡くなるのが当たり前だと思われた。
 そして、*4-5のように、山上容疑者(41)が事件直前に出した手紙には、安倍氏襲撃を決意したかのような文章が記されていたそうだが、母親が寄付した団体への不満を晴らすには安倍元首相の殺害は的外れすぎるし、安倍氏を護る体制は申し合わせたように抜け穴だらけだったため、山上容疑者はケネディ米元大統領狙撃事件のオズワルドのような利用のされ方をしたのではないかと、私には思われた。

  
2022.7.14日経新聞      2022.7.20時事        2022.7.20時事

(図の説明:左図は、安倍元首相銃撃事件後の消防のやり取り、中央の図は、事件現場の様子、右図は、安倍元首相の警備の問題点だ)

*4-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/885000 (佐賀新聞論説 2022/7/14) 安倍元首相警護 失態の原因、徹底究明を
 安倍晋三元首相が奈良市で参院選の街頭演説中に銃撃され死亡した事件で、逮捕された無職の山上徹也容疑者は演説が始まって間もなく歩道から車道に出て、安倍氏の背後に近づいた。警視庁のSP(警護官)や奈良県警の警察官が配置されていたが、交流サイト(SNS)の動画などを見ると、誰も声をかけたり、制止したりしていない。山上容疑者はショルダーバッグから手製の銃を取り出して発砲。さらに距離を詰め、安倍氏が振り向きかけた時、再び発砲した。最初の発砲音で警護要員が動き出し、安倍氏を守ろうとして防弾仕様のケースを掲げたが、間に合わなかった。2発目の銃撃が致命傷を与えたとみられている。制服警察官を目立つように配置する「見せる警備」もなく、今なお国政に影響力を持つ首相経験者の警護としては後方ががら空き状態になるなど、いくつも「穴」が指摘されている。警察庁は「検証・見直しチーム」を設置し、警視庁や奈良県警から当時の状況を詳細に聞き取り、8月に検証結果と要人警護の見直し案をまとめるとした。選挙は民主主義の基盤であり、政治家が有権者と触れ合い、交流する重要な機会だ。事件は、その安全をいかに守るかという重い課題を社会に突き付けた。山上容疑者の動機や背景など全容解明を急ぐ一方で、失態の原因を徹底究明し、国民に説明する必要がある。山上容疑者は、母親が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に入信し、多額の寄付をして家庭が崩壊したことに恨みを募らせ、旧統一教会と安倍氏がつながっていると思ったから狙ったなどと供述。「昨年春ごろから手製の銃を作り始めた」「当初は教祖を殺そうとした」とも話している。先祖供養などを名目に高額の美術品や宝石を売りつける「霊感商法」が社会問題化したこともある旧統一教会は記者会見し、母親は信者で家庭が経済的に破綻したことも把握していると説明した。ただ今のところ、安倍氏と教会側のつながりははっきりしていない。容疑者は自宅で手製銃の試作を繰り返して殺傷力を高めるなど、強い殺意と計画性がうかがわれるが、今回の警護で最大のミスは、警護要員の誰一人として、安倍氏に近づく容疑者に気付かなかったことだ。さらに1発目から2発目の発砲までに3秒ほどあったが、この間に安倍氏に覆いかぶさったり、伏せさせたりすることもなかった。警察庁の検証・見直しでは、こうした現場の対処がポイントになるだろう。また首相経験者の警護計画は特段の事情がない限り、都道府県警から警察庁に報告しない。今回も奈良県警から報告はなかったが、事前に警察庁の担当部署がチェックすることも検討する。要人警護の中でも、選挙時のそれは特に難しいといわれる。街頭演説の場所に不審者がいないか、不審物がないかなどをあらかじめ警察が確認するが、演説は次々に場所を移して行われるため、全ての地点で十分下見をしている余裕はない。加えて、警察は警護対象者を見ず知らずの人から引き離したいが、できるだけ多くの人と接したい対象者はそれを嫌うとされる。だが今回のような取り返しのつかない事件を二度と起こしてはならず、守る側と守られる側が意見を交わす場を設けることも考えたい。

*4-2:https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2022071400018 (信濃毎日新聞社説 2022/7/14) 安倍氏の警備 第三者による検証が要る
 選挙で街頭演説をする政治家に暴力が向けられる事態は、民主主義の根幹を脅かす。命を奪う凶行をなぜ防げなかったのか。徹底した検証が必要だ。安倍晋三元首相が銃撃されて死亡した事件で、警察庁が警備の問題点を調査する「検証・見直しチーム」を発足させた。現場の警備態勢のほか、警察庁の関与のあり方についても検証する。奈良市の現場は四方を車道に囲まれ、遮る物がない場所だった。逮捕された男は、街頭演説に立った安倍氏の背後から車道に歩み出て近づき、およそ7メートルの地点で1発目を、さらに2メートルほど近寄って2発目を撃っている。警視庁の警護官(SP)1人と奈良県警の複数の警察官が警護にあたっていたという。しかし、がら空きに近い背後から男が接近するのを許し、最初の銃撃後ただちに安倍氏の身の安全を確保する行動も取っていない。銃声がしたら瞬時に警護対象者を伏せさせ、覆いかぶさったり、周りを囲んだりして守るのが要人警護の基本とされる。2発目までに3秒ほど間隔があり、対処できて当然だと警視庁警備部の元幹部は指摘している。警察庁次長を筆頭とする検証チームは奈良県警や警視庁から聞き取りをして調査を進めるという。けれども、警察庁もまた重大な失態の責任を問われるべき立場にある。身内の警察組織内部で調べれば済む問題ではない。現場の警備態勢の詳細を警察は明らかにしていない。警備の手の内をさらせない事情はあるとしても、透明性を欠くやり方では公正さを担保できない。独立した第三者の手で問題点を洗い出し、責任の所在を明確にすべきだ。もう一つ、注意深く見ていかなくてはならないことがある。暴力を防ぐことを理由にした警備の強化が、批判の声を上げる人の排除につながらないかだ。2019年の参院選では、首相だった安倍氏の街頭演説にやじを飛ばした人たちが警察に排除された。表現の自由の侵害と断じる判決を札幌地裁が出している。この判決が今回の事件に影響したという見方があるが、的外れだ。言葉による批判と暴力は明確に区別されなければならない。政権当時からの安倍氏への激しい批判が事件を誘発したかのような見方にも同じ危うさがある。政治的な思惑で事件が利用され、言論を封じる公権力の行使が正当化されていかないか。警戒を怠らないようにしたい。

*4-3:https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/70984 (JBpress 2022.7.17)要人警護の歴史に残る大失態、プロが指摘する安倍氏銃撃現場の問題点、あり得ない場所で演説、SPたちの鈍い反応(丸谷 元人:日本戦略研究フォーラム政策提言委員・危機管理コンサルタント)
 2022年7月8日、安倍晋三元総理が奈良・西大寺での選挙応援演説中に凶弾を受け、命を落とした。この事件は、多くの日本国民に衝撃を与えたのみならず海外のマスコミにも大きく取り上げられたが、同時にその直後から、警察の警護体制の甘さが各方面から厳しく指摘されている。本稿では、米国の民間軍事会社で対人警護や対テロ戦等の訓練を受け、海外のハイリスク地帯における石油施設の警備や大手企業エグゼクティブらの要人警護オペレーションを実際に担当してきた者として、また、各国の軍・警察出身の警護要員や米シークレットサービス出身者を含むプロたちと現場で共に汗をかいた者として、2022年7月10日の段階までに得られた事件発生時の映像等の情報を元に、今回の襲撃事件を許してしまった警察の警護体制を考察してみたい。
●逃げ場のない場所とボディーガードの不在
 事件の映像を見て最初に驚いたのが、安倍氏が演説していた場所だ。安倍氏は当時、ガードレールに囲まれた中洲のような場所で演説をしていた。これはつまり、警護対象者(以下、対象者)に対する攻撃があった場合、SPたちが対象者の肩を掴んでその場所から脱出させる際の大きな障害となる。また、爆発物を投げ込まれた場合でも、対象者は自分を囲むガードレールという障害物のせいで、容易にその爆発物から逃れることすらできなくなる。このような「逃げ場のない場所」に対象者を絶対に配置してはならないわけだが、安倍元総理をこんな場所に立たせたのが誰なのかは、警察でも調べるべきであろう。次に挙げるべき問題点は、SPらの配置である。特に、SPが一人として安倍氏のすぐ後ろに「ボディーガード」として立っていなかったことは大きな問題だ。通常、ボディーガードは対象者の右か左のすぐ後方に立つものであり、その位置は「手を伸ばせば対象者を掴める距離」でなければならない。なぜなら、襲撃があった際には対象者の体を素早く押さえ込んで倒したり、あるいはその肩を掴みつつ、より安全な方向に向けて脱出させねばならない。場合によっては対象者と犯人の間に自分の身を割り込ませ、身代わりとなって刃物や銃弾を受けなければならないからだ。しかし今回、SPは誰も安倍氏から腕の届く位置に立っていなかった。つまり、担当SPはボディーガードとしての基本的な役割を果たしていなかったのである。もし右か左の背後にSPが立っていれば、犯人は安倍氏を直接狙えなかったであろうし、弾丸の何発かは安倍氏の代わりに、防弾チョッキを着ていた(はずの)SPに当たっていたであろう。
●SPたちの鈍い反応
 もう1つの大きな問題は、安倍氏の周囲にいたSPたちの反応の鈍さである。いくつかの動画からは、背後から至近距離で発砲されたのに、銃声に驚いたSPたちはその方向に振り向いただけで、即座に対象者を守るための行動に移らなかった様子が見てとれる。しかもこの時、犯人はその初弾を外してくれており、2発目を発射するまでに2.5秒ほどの間隔があったが、SPたちがまともに反応し始めたのは安倍氏を死に至らしめた2発目が発射されたのとほぼ同時であった。プロの警護要員であれば、次弾発射まで1~2秒も時間があればいろいろなことができたはずだ。大声を上げて犯人に飛びかかったり、その射線を遮るだけでも犯人の手元を狂わせるだけの心理的効果はあるからだ。しかし彼らは全く動かなかった。この反応の鈍さは、弁護の余地がないくらいにひどいものである。SPたちは安倍氏に対する群衆からの野次に加え、鈍器・刃物程度の攻撃は想定していたであろうが、まさか銃で撃たれるとまでは想像していなかったのかもしれない。しかしこれはまさに「平和ボケ」が取り返しのつかない事態を招くのだという良い例である。グローバル化した今の時代、日本だけが安全だとか、犯人は銃や爆弾を使うまい、などと勝手に想定してはならない。セキュリティの世界においては「脅威は常に自分の想定の数歩先を行っている」と考えるべきなのだ。
●十分な周辺警戒をしていなかったSP
 ちなみに当時、安倍氏の周囲にはSPが7人ほど配置されていたというが、誰一人背後まで警戒をしている様子はない。その結果、まさにその背後から銃を持った犯人に対象者から約3メートルの距離まで入り込まれている。奈良県警は、犯人の姿を確認したのは一発目が発射された後だったと言っているが、つまり犯人が約3メートルの距離に接近するまで、警察官らは誰一人その脅威に気づかなかったというわけだが、こんなことは普通、VIPを警護するプロの世界では考えられないレベルの失策である。そもそも、殺傷力のある武器を持った犯人を対象者の位置から10メートル以内に入れた段階で、警護任務はほとんど失敗である。その武器が刃物であっても状況は同じだ。例えば、刃物を隠して群衆に紛れていた犯人が、10メートル先で周辺警戒するSPの隙をつく形で、その背後にいる対象者に向かって走り始めたとしよう。SPは恐らく、犯人が駆け寄る靴の音や群衆から上がる小さな悲鳴などによって最初に異変を察知するであろうが、その段階ですでに1秒ないし2秒は経過しており、その時点で犯人との距離は5~6メートルにまで縮まっている。そこでSPは初めて犯人の姿を確認し、武器の種類を見て素手で対応するか、或いは拳銃を抜くかの判断をしつつ、同時に対象者と犯人の間に体を割り込ませ、スーツをめくって腰のホルスターから拳銃を抜くわけだが、その頃には犯人は既にSPの目と鼻の先まで来ているであろう。そうなるとSPは、向かってくる犯人に対して自ら体当たりでもする必要があるが、それでも10メートルという距離がSPにより多くの時間を与えるため、対象者を守る確率は大きくなるだろう。こうして犯人との距離をとることは、銃犯罪に対抗する上でも極めて有効だ。仮に犯人が拳銃を持っている場合でも、10メートルも離れれば命中精度がかなり落ちることが予測できるし、今回の事件で使われたような銃身の短い散弾銃であれば、発射直後に弾丸がバラけるため、10メートルという距離があればやはりターゲットへの命中はかなり困難になる。事実、今回の犯人は安倍氏から約5メートルの位置で初弾を発射したようだがそれは命中しておらず、そこからさらに数歩進んだ約3メートルの距離で放った2発目で初めて安倍氏に致命傷を与えている。つまり、今回もしSPたちが背後までしっかりと警戒し、この犯人の挙動が怪しいと感知することができていれば、そしてそこでしっかりと犯人に声掛けをして距離を取っていさえすれば、安倍氏は命を落とさずに済んだ可能性は極めて高い。
●海外の要人警護のプロによる指摘
 元英国ロンドン警視庁刑事部長として長年北アイルランドや海外において数多くのテロ事案や誘拐事案を担当し、現在は筆者が経営するリスクコンサルティング会社の顧問を務めるピーター・ガルブレイス氏も、「今回の警護チームによる最大の失敗は、犯人を安倍氏のすぐ背後まで簡単に侵入させたことだ」と指摘する。「映像を見る限り、警護要員はみな内向きに配置され、群衆に向かって語りかける安倍氏と同じ方向を見ており、安倍氏の背後にある潜在的な脅威に対して注意を払っていたようには見えません。今回警護チームには、脅威を早期に特定して無力化するための機会が十分にあったはずですが、残念ながらそれらは見過ごされました。犯人はそんな彼らの隙を突く形で安倍氏に接近し、致命的な攻撃を行うことができたのです」。ガルブレイス氏は、2013年に10人の日本人がイスラム過激派に殺害されたアルジェリア事件の際には現場での対テロ作戦を担当し、また極めて優れた功績を残した警察官にのみ授与される英国女王警察勲章(QPM)に加え、凶悪な国際テロリストの逮捕・引き渡しの功により「スペイン国家憲兵功労十字章」をも授与された人物だ。現在は欧州や中東諸国の軍・警察機関に誘拐人質交渉や犯罪予防、テロ対策の指導をも行うなど、英国でも指折りのセキュリティ専門家であるが、「犯人と安倍氏の間にもっと距離さえあれば、今回の悲劇は起きなかっただろう」と語る。「一般的に、手製の銃器は工場で製造されたものと比べて遠距離での精度が劣ります。しかし、犯人が安倍氏の数メートル背後にまで接近できたこと、そして銃自体が2発発射可能な構造であったため、1発目を外した後にさらに続けて2発目を発射できたことが犯人の成功に繋がったのでしょう」(ガルブレイス氏)
●丸裸になってしまった安倍氏
 さらに、当社のパートナー企業である米民間軍事会社「トロジャン・セキュリティ・インターナショナル社」の代表で、英海兵隊特殊部隊「特殊舟艇隊(SBS)」出身のスティーブン・マスタレルズ氏は、安倍氏が倒れた後の犯人の身柄確保についても首を傾げる。「2発目の射撃で安倍氏が被弾した後、何人ものSPが犯人に向かって走り出すのが見えましたが、あれは間違いです。SPの本来の仕事は対象者を守ることです。犯人の押さえ込みは1人か2人で十分であり、その他のSPは全員が安倍氏を取り囲んで、さらなる襲撃の可能性に備えつつ、同時に周囲のより安全な脱出路の確保を行い、また必要に応じて救命救急に対応するために動かねばなりません」。この点は筆者も全く同感で、映像を見た瞬間、なぜ犯人に何人もの警官が飛びかかる必要があるのだろうという疑問を持った。そんなことをすれば、その間に安倍氏はほとんど丸裸になってしまうわけで、実際に安倍氏の警護はこの時かなり手薄になっていたようだ。倒れる安倍氏の周囲は、心配する支持者や自民党関係者らが囲んでいたが、もしその中にもう1人の「バックアップ」としての刺客が紛れ込んでいたら、安倍氏はそこでも確実にやられていたであろう。因みにこのマスタレルズ代表もまた、現在も麻薬カルテルの凄まじい殺し合いが横行する中南米や、テロと紛争が多発するアフリカといった危険地帯でVIP警護を行う現役のプロであり、筆者に最新の要人警護技術や対テロ戦闘、さらに市街戦の訓練を叩き込んでくれた恩師でもある。そんな氏の経営する会社は、グリーンベレーやネイビー・シールズといった米軍特殊部隊や、英豪仏独蘭といった欧州諸国の陸海軍特殊作戦部隊に加え、連邦捜査局(FBI)、麻薬取締局(DEA)のような法執行機関に対して高度な対人警護や対テロ戦の訓練を提供し、さらに実際にイラクやアフガニスタンでも数々のオペレーションを行った実績を有している。マスタレルズ氏は、過去数十年のキャリアの中で、自身のクライアントからは1人の犠牲者も出さなかったことを誇りとしているが、それらの警護任務中にチームの仲間を失った経験もあるようだ。そんな修羅場を抜けてきたプロの指摘は重い。他にも、安倍氏が倒れた後、天理市長が周辺の人たちに向かってAEDを探してくれと叫んでいるシーンがあったが、もしSPがAEDや救命救急装備の準備さえしていなかったとしたら、これはこれで大問題だ。海外の警護チームであれば、対象者が負傷した場合に備えて、こういう救命救急装備の一式は必ず用意しているし、訓練も受けている。さらに、対象者の持病なども把握し、発作等が起きた場合には最寄りの専門医のところに救急搬送を行える体制を整えてから警護を開始するのが普通だ。今回の警護チームが危機にうまく連携できなかったのには、それなりの理由もあるだろう。例えば、安倍元総理の奈良入りは事件前日に急遽決まったそうであるが、これではあまりに準備期間が短すぎる。幹部の中には、人数を配置していれば大丈夫だと考える人もいるかもしれないが、現場はそう簡単にはいかないものだ。いくら毎日警護の訓練や実任務についているようなベテランの警護チームであっても、日によっては当直明けや休暇中のメンバーもいるだろう。その穴を埋めようとするあまり、かつて一緒に仕事をしたことのない同僚や、ベテランSPと新人SPを不適切な割合で混ぜた急ごしらえのチームを作った結果として、普段なら絶対に考えられないような連携ミスが生じてしまう可能性は十分にある。前出のガルブレイス氏も「英国には『自己満足は敵である』という言葉がありますが、いくら警察官を多く配置したところで、そこに適切な警護チームが配置されていなければほとんど無意味です」と指摘する。いずれにせよ、SPたちは全てが後手に回り、とてもではないがプロの警護要員らしからぬ対応しか見せられなかった。
●某県警SPの技量レベル
 一方で、筆者は今回の彼らの対応については、それほど驚かなかったし、寧ろ正直なところ「なるべくしてこうなった」といった感想を持った。なぜなら筆者はかつて、ある地方の県警SPたちと同じ場所で警護の仕事をしたことがあったからだ。数年前のことであるが、筆者が所属していた企業の地方オフィスを大臣クラスが視察するという話が持ち上がった。当時、同社のセキュリティ・マネージャーであった筆者は念のためということで、警備対策要員として受け入れ側チームの一員に加えてもらい、現地入りしたことがあった。大臣の訪問は夕方ということになっていたため、筆者自身は半日前に現場入りし、午前中から数時間かけてオフィスの建物周辺を歩き回り、フェンスの状況や周辺の茂み、近隣住宅の状況を入念にチェックした。また隣接する駐車場も定期的に巡回し、停車車両のナンバーや中にいる人物、助手席や後部座席に置かれている荷物の様子をも徹底的に確認し、さらに自社オフィスがある建物内でも、使われていない部屋や倉庫、階段の裏、裏口などに加えてボイラー室の中まで何度も入念にチェックをし、同時に海外にある監視センターから現場をCCTVで遠隔監視しているチームに対しても、不審な人影があれば直ちに連絡をもらえるように依頼をしていた。さらに、その地方オフィスは南側が全面ガラス張りであったので、万が一の狙撃に備えて、どこからなら角度的にもっとも狙いやすいかという確認を行ったが、これは犯罪者やテロリストからの狙撃のみばかりではなく、逆にVIPやその一行、あるいは社員らが猟銃などを所持したまま立て籠った犯人に人質にとられた場合、警察の狙撃チームに情報を共有することにもつながる。その一方、大臣警護を担当する県警SPの担当者らが到着したのは、大臣が来る30分ほど前であった。彼らは建物の中をちらっと見回しただけで、セキュリティ・マネージャーである旨を告げて自己紹介した筆者に対して、警備上の質問は一切せず、その後はそのまま入口付近に立って大臣一行の到着を待ち始めたため、筆者は拍子抜けをしてしまった。彼ら県警SPの動きは、確かに何らかのマニュアルに沿ったもののようには見えたので、ある程度の訓練はされていることは間違いないと思ったが、しかし動きに柔軟性や注意深さが足りないと感じた。警護オペレーションとは、対象者の性別や年齢、体格や性格、性質、人数、持病の有無、使用する車両の種類や道路状況、季節や気温、天候、時間帯、建物の構造など様々な条件によって変化するのであり、それらに対して柔軟に対応することが求められるわけだが、この時のSPたちが周囲の環境にそこまで配慮しているようには思えなかった。もちろん、全てのSPがこのようなレベルにあると言いたいのでは決してない。筆者の個人的な知り合いの中にも、高い技能や豊富な経験を持たれた極めて有能なSP出身の民間警護要員は確かにおられる。しかし、筆者が目撃した地方の県警SPや、今回の事件現場のSPらの動きを見る限り、警察SPの全体的な底上げと体制強化が喫緊の課題であることに疑いの余地はない。また以前あるテレビ番組で、そこに出演していた元SPという人が、「我々SPは1年に1回、米海兵隊でイヤというほど射撃をするんです」と話していたので、興味を持って見ていたところ、その弾数がわずか「300発」だと聞いてびっくりしたことがある。筆者自身は、海外のハイリスク地域に住んでいた際、いつどこで誰に襲われるかもしれないという環境であったせいもあり、最低でも毎週500発(つまり毎月2000発以上)は射撃をしていたため、1年に1回程度の射撃では、いざという時には決して役に立たないだろうと感覚的に感じたものであった。銃器というのは、自分の体の一部になるまで触れてドリルを行い、また射撃を繰り返すことで初めて上手に使えるようになるものだ。特に、どこからともなく突然向かってくる脅威に対して、わずか数秒のうちに状況判断をして、そこから拳銃を抜き、正確な射撃まで行うという厳しい対応が求められるSPにとって、年にたった数回、わずか数百発の射撃しかさせてもらえないというのはあまりに少なすぎて気の毒なくらいだ。(以下略)
[筆者プロフィール] 丸谷 元人(まるたに・はじめ)
 1974(昭和49)年、奈良県生れ。オーストラリア国立大学卒業、同大学院修士課程中退(東アジア安全保障)。オーストラリア戦争記念館の通訳翻訳者を皮切りに、パプアニューギニアでの戦跡調査や、輸送工業事業及び飲料生産工場の設立経営、さらにそれに伴う各種リスク対策(治安情報分析、要人警護等)を行った後、西アフリカの石油関連施設におけるテロ対策や対人警護/施設警備、地元マフィア・労働組合等との交渉や治安情報の収集分析等を実施。また、米海兵隊や米民間軍事会社での各種訓練のほか、ロンドンで身代金目的の誘拐対処訓練等を受ける。さらに防衛省におけるテロ等の最新動向に関する講演や、一般企業に対するリスク管理・危機管理に関するコンサルティングに加え、複数のグローバルIT企業における地域統括セキュリティ・マネージャー(極東・オセアニア地区担当)やリスク/危機管理部門長等を歴任。現在、日本戦略研究フォーラムの政策提言委員として、『週刊プレジデント』や月刊誌『VOICE』『正論』などへの執筆をも行う。著書に『The Path of Infinite Sorrow: The Japanese on the Kokoda Track』(豪Allen & Unwin社)、『ココダ 遥かなる戦いの道』『日本の南洋戦略』『日本軍は本当に「残虐」だったのか』『学校が教えてくれない戦争の真実』(ハート出版)、『なぜ「イスラム国」は日本人を殺したのか』(PHP研究所)等がある。

*4-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220714&ng=DGKKZO62596540U2A710C2CE0000 (日経新聞 2022.7.14) 安倍氏銃撃後、緊迫50分 奈良市消防局の無線全容、11時35分「男性、心肺停止状態」 11時48分「頸部に銃創。心静止」
 安倍晋三元首相が参院選の街頭演説中に銃撃され死亡した事件で、現場で救命活動に当たった奈良市消防局の無線記録の全容が判明した。「高齢男性、拳銃で撃たれ、現在CPA(心肺停止)状態と思われます」(銃撃から約3分後の8日午前11時35分)――。出動命令から救急車に収容、ドクターヘリへの搬送までの生々しいやりとり、約50分にわたる緊迫した救命の実態が浮かび上がった。事件は8日午前11時32分に発生。花火を打ち上げたような大きな銃声が響き渡り、奈良市の近鉄大和西大寺駅前で演説していた安倍元首相が路上に崩れ落ちた。その直後に「救急指令、加害事故、出動せよ」と消防本部が命令。「西大寺東町2丁目において発砲事件」(同34分)、「CPA状態と思われます」(同35分)と追加情報を出すと、最初の隊が現場に着き「自民党の参議院候補の演説会場です」(同37分)と報告した。すぐに隊員が安倍元首相の心肺蘇生を試みた。「ドクターヘリ出動させます。ドクターヘリ出動させます」(同40分)。救急車からヘリに受け渡す地点は、現場から南東に直線で約700メートルの平城宮跡歴史公園に。同43分に現場から「救急車内に収容しました」。約2分後に救急車が合流地点に向けて出発した。この後、消防本部が数回にわたり、救急車に呼びかけ。同48分、救急車から「頸部(けいぶ)、頸部に銃創あり。初期波形にあっては、心静止。挿管・ルートの方、実施したいと思います」と報告があった。安倍元首相の首、左上腕部の計2カ所に銃弾が命中した傷があり、救急車内で気道を確保し酸素を送る処置が取られた。現場の情報が入り乱れ「加害者にあっては警察と捜査していますが行方不明です」(同51分)、「犯人、犯人確保済み、逮捕済みです」(同)とのやりとりもあった。午前11時53分ごろにドクターヘリが合流地点に到着。救急車も同57分に着き、受け渡しが完了した後、搬送先が決まった。「ヘリにあっては橿原の医大、橿原の医大となりました」(午後0時12分)。午後0時13分に飛び立ち、奈良県立医大病院(奈良県橿原市)に搬送された。同20分に到着し、胸部の止血や大量の輸血の処置が行われたが、安倍元首相は午後5時3分、死亡が確認された。

*4-5:https://mainichi.jp/articles/20220719/k00/00m/040/417000c (毎日新聞 2022.7.19) 銃撃前日「決意表明」の手紙か 旧統一教会批判の男性宛てに書き残し
 安倍晋三元首相(67)が奈良市で街頭演説中に銃撃され死亡した事件で、山上徹也容疑者(41)=殺人容疑で送検=が事件直前に出した手紙には安倍氏襲撃を決意したかのような文章が記されていた。10代の頃から母(69)が入信した宗教団体を恨み、団体の活動を安倍氏が支援したと解釈した容疑者。ツイッターや第三者のブログ、手紙に書き連ねた積年の団体への思いから、安倍氏殺害という凶行に駆り立てたものが浮かび上がる。「あの時からこれまで、銃の入手に費やして参りました」。山上容疑者が、団体の活動に批判的なブログの男性管理人(71)=松江市=に宛てた手紙には、こんな一文がある。さかのぼること約1年7カ月。男性のブログには2020年12月16日、ある書き込みがなされていた。「復讐(ふくしゅう)は己でやってこそ意味がある。不思議な事に私も喉から手が出るほど銃が欲しいのだ。何故だろうな?」。山上容疑者が記したとみられる。手紙はブログの言葉を引用し、母の入信した世界平和統一家庭連合(旧統一教会)が家庭崩壊をもたらした経緯に言及。「安倍(元首相)の死がもたらす政治的意味、結果、最早(もはや)それを考える余裕は私にはありません」と本文を結び、安倍氏銃撃を決意したことを示唆していた。山上容疑者は21年春ごろから手製銃の密造を始め、22年2月ごろまでに完成させたとされる。奈良県内の山中で試射を繰り返し、殺傷能力などを高めたとみられる。計画の着手は7月7日だった可能性がある。夜、岡山市で安倍氏が登壇予定の演説会を狙った。手紙は会場に向かう直前、近くのコンビニエンスストアにあるポストに投函(とうかん)された。この時は、警備体制などで断念、翌8日に奈良市で事件を起こした。手紙の文面を見た国際医療福祉大の橋本和明教授(犯罪心理学)は、強固な政治的思想よりも団体への不満を晴らしたいとの思いが見て取れると指摘する。「本人も本当に襲撃を実行できるのか、不安があったと思う。自分自身の背中を押す『決意表明』という意味で書いたのではないか」。奈良県警は、山上容疑者が安倍氏の岡山訪問を3日に把握したとみている。6日にはJR奈良駅で岡山行きの片道切符を購入。手紙は印字されたもので、県警が自宅から押収したパソコンからは、手紙と同じ文面の文書データが見つかり、6日深夜に最後の保存がされていた。安倍氏を銃撃の対象に据えたのはなぜなのか。山上容疑者は「母が団体にのめり込んで破産した。団体が家族をめちゃくちゃにした」と供述しており、19年10月には来日した団体最高幹部、韓鶴子(ハンハクチャ)総裁を愛知県内で火炎瓶で襲撃しようとしたと説明。この頃始まった山上容疑者のものとみられるツイッターにも「憎むのは統一教会だけだ」と投稿していた。手紙には「(安倍氏は)本来の敵ではないのです。あくまでも現実世界で最も影響力のある統一教会シンパの一人に過ぎません」とあった。ジャーナリストの大谷昭宏さんは「韓総裁襲撃は難しいと悟った容疑者が、団体の悪質性を世に知らしめるターゲットとして安倍氏を選んだに過ぎない」と事件の構図を描く。銃撃前に手紙を投函したことについては「逮捕されてしまえば、自分の主張が世に伝わるかは分からない。背景には団体の問題があると社会に書き残したかったのではないか」と指摘する。ツイッターには団体への強い恨みの他に、母についての複雑な心境もつづられていた。親族によると、父は山上容疑者が4歳の頃に自殺し、一つ違いの兄は幼い頃に小児がんを患って右目を失明している。投稿では、家庭環境に触れた上で、母が大病を患う兄を気にかける様子を記し「オレは努力した。母の為(ため)に」と書かれていた。「オレは母を信じたかった」とも投稿され、母を慕う子の心情が吐露されていた。一方、「こんな人間に愛情を期待しても惨めになるだけ」と見限るような記述もあり、愛憎が交錯していた。甲南大の園田寿名誉教授(刑法)は「家族全体が団体にズタズタにされてしまったと考える中で、母も自分と同じ被害者なのだと山上容疑者は考えていたのでは」と心境を推察する。その上で母を含めた家庭環境についての投稿を重ねていたことについて「文章を書くことで自身を客観的に見て、抱える心の苦しみを昇華しようとしたのではないか。周囲に相談できる人がおらず孤独だったからこそ、思いの丈を書きとどめたと考えられる」と語った。

<日本のセキュリティーと原発・経済安保>
PS(2022年7月23日追加):福島民報が論説で、*5-1-1のように、「フクイチ事故を巡る株主代表訴訟の東京地裁判決は旧経営陣の賠償責任を認め、これは国内の原発事業者に重い意味を持つ」とし、その判決理由を、①政府の地震調査研究推進本部が2002年に公表した長期評価に基づいて、東電子会社は福島第一原発に最大15.7mの津波が到達すると試算して上層部に報告したが ②旧経営陣側は一貫して地震予測の「長期評価」は信頼性を欠くとし ③判決は「長期評価は専門家によって真摯に検討され、相応の科学的信頼性がある」と認定して注意義務を怠り津波対策を講じなかった不作為を旧経営陣側に認め ④廃炉・除染・避難者への支払い等に巨費を投じる東電に対して13兆3210億円の賠償を旧経営陣側の個人に科し、⑤これは事故の結果責任を厳しく見積もる覚悟を経営陣に迫るもので ⑥「事故が起きれば国土の広範な地域と国民全体に甚大な被害を及ぼし、わが国の崩壊に繋がる」と示した懸念は、仮定でも想定でもなく実際に起きた災禍だ ⑦エネルギー危機に直面して原発回帰への動きが強まっているが、窮状を打開する現実的な選択肢なら、安全管理への信頼性が司法の場で今なお問われている現実も踏まえた議論を求めたい と記載している。
 太平洋側で大津波が来ることは古くから記録に残っているため、①のように、地震調査研究推進本部が長期評価を2002年に公表したのが遅すぎるくらいで、②③のとおり、それを無視するのは考えたくないことを想定外にする不作為そのものである。そして、その不作為の結果として、④の高額のコストを株主だけでなく、(恩着せがましく)電力需要者にも課し、⑥のように、国土の広範な地域を汚染して国民に甚大な被害を与えてきたのだから、汚染された地域の国民や電力需要者も提訴してよいくらいだ。そして、使用済核燃料の最終処分や事故の後始末も終わらないうちに、⑦のように、エネルギー危機と称して原発回帰を急ぐのは、どさくさに紛れさせてセキュリティーを無視することそのものである。
 北海道新聞も社説で、*5-1-2のように、⑦東京地裁は旧経営陣が当時の知見を踏まえて巨大津波の発生があり得ると認識し、津波対策を取っていれば原発事故は防げたと判断し ⑧対策の先送りに終始した旧経営陣の怠慢を厳しく指弾しており妥当な内容で ⑨安全性への疑問により札幌地裁から運転差し止め判決を受けた北海道電力を含め、全国の原発事業者は判決を重い警鐘として受け止めるべきで ⑩判決は「原子力事業者は最新の知見に基づき過酷事故を万が一にも防ぐ社会的責務がある」と指摘しており ⑪国も無関係ではなく、住民らが集団で国を訴えた別の訴訟では先月、最高裁が津波の規模は想定外で防ぎようがなかったと国の責任を免じる判断をしたが、東電幹部の責任感を欠く姿勢の背景には、安全をうたい原発を推進してきた国の存在がある 等と記載しており、私も、⑪のとおり、(科学ではない)安全神話を唱えて原発を推進してきた国も決して無関係ではないと思っている。
 さらに、原発燃料も輸入品であるため、*5-2のように、日本の排他的経済水域内に存在するエネルギー資源や海洋鉱物を採取して使う海洋科学技術を開発推進することが、経済安全保障の観点から極めて重要な施策である。にもかかわらず、経産省が資源・エネルギーは輸出するどころか自国に存在するものも採取せず、輸入さえすればよいと考えているのは著しい思考停止状態であり、何故、こうなるのかが重要なKeyである。


  2022.7.11産経新聞     2022.7.14神戸新聞     2013.8.26エネ百科

(図の説明:左図は、フクイチ事故を巡る株主代表訴訟の東京地裁における原告・被告の主張、中央の図は、同事故を巡る3つの判決の比較で、右の列が株主代表訴訟の東京地裁判決である。また、右図が、全量輸入している日本のウラン購入先で、現在もあまり変化していない)

*5-1-1:https://www.minpo.jp/news/moredetail/2022071498726 (福島民報論説 2022/7/14) 【東電株主代表訴訟】安全意識厳しく問う
 東京電力福島第一原発事故を巡る株主代表訴訟で、旧経営陣の賠償責任を認めた十三日の東京地裁判決は、国内の原子力事業者にとっても重い意味を持つ。「安全意識や責任感が根本的に欠如していた」といった指摘は東電の現経営陣のみならず、自戒として安全意識を問い直す姿勢を広く共有する必要がある。大きな争点でもあった地震予測の「長期評価」について、旧経営陣側は一貫して信頼性を欠くとしてきた。当時は原発の安全神話があったとはいえ、国策下、国と一体で原子力政策を進めてきた旧経営陣におごりはなかったか。長期評価を、地裁がどう判断するかが注目された。政府の地震調査研究推進本部が二〇〇二(平成十四)年に公表した長期評価に基づき、東電子会社は福島第一原発に最大一五・七メートルの津波が到達すると試算し、上層部に報告した。旧経営陣側は、長期評価は信頼性を欠くと反論した上、試算を対策に取り入れるべきかの検討を土木学会に依頼中の段階で事故が発生したため、結果を待たずに対策を取る合理性はなかったと訴えた。判決は主張を退け、「長期評価は専門家によって真[しん]摯[し]に検討され、相応の科学的信頼性がある」と認定し、注意義務を怠り、津波対策を講じなかった不作為を厳に認めた。廃炉や除染、避難者への支払いなどに巨費を投じる会社としての東電に対し、十三兆三千二百十億円もの賠償を個人に科したのは、安全で健全な稼働に果たす責任の重大さと、事故が起きた場合の結果責任を自ら厳しく見積もる自覚や覚悟を経営陣に迫るものだ。東電の旧経営陣側の多くの主張が退けられた結果に対し、公共的事業を担う他の経営陣に萎縮が生まれる、といった見方も司法関係者にあるようだ。ただ、「ひとたび事故が起きれば、国土の広範な地域と国民全体に甚大な被害を及ぼし、わが国そのものの崩壊につながりかねない」と判決で示した懸念は、仮定でも、想定される危険でもない。福島第一原発事故で実際に起きた災禍であり、現実問題として肝に銘じるべき教訓だ。経営陣側が控訴した場合、判断は維持されるのか、変わるのかは見通せないが、高い危機管理意識が要求される事実は動かない。エネルギー危機に直面し、原発回帰への動きが強まっている。窮状を打開する現実的な選択肢というのであれば、安全管理への信頼性が司法の場で今なお問われている、もう一方の現実を踏まえた議論を求めたい。

*5-1-2:https://www.hokkaido-np.co.jp/article/705372 (北海道新聞社説 2022/7/14) 東電株主訴訟 原発事業者に重い警鐘
 2011年3月の東京電力福島第1原発事故を巡る株主代表訴訟で、東京地裁が東電旧経営陣の責任を認め13兆円余を東電に賠償するよう命じる判決を言い渡した。旧経営陣が当時の知見を踏まえて巨大津波の発生はあり得ると認識し、津波対策を取っていれば原発事故は防げたと判断した。対策の先送りに終始した旧経営陣の怠慢を厳しく指弾しており、妥当な内容である。原発事故で旧経営陣の民事上の責任を認めた司法判断は初だ。原発事業体を率いる経営トップらの責任の大きさを示したと言える。原発事故がひとたび起きれば国民と国土に深刻な被害を及ぼす。安全性に疑問があるとして先に札幌地裁から泊原発の運転差し止め判決を受けた北海道電力を含め、全国の原発事業者は判決を重い警鐘として受け止めるべきだ。旧経営陣が巨大津波の到来を予見できたか、対策を取れば事故は防げたか―が争点だった。原告側は政府機関が02年に公表した地震の「長期評価」に基づけば巨大津波は予測でき、取締役の注意義務を果たして対策を取れば事故は回避できたと主張した。旧経営陣側は長期評価には十分な予見性がなく、対策を取らなかったのは合理的だと反論した。これに対し判決はまず、「原子力事業者は最新の知見に基づき過酷事故を万が一にも防ぐ社会的責務がある」と指摘した。その上で、多くの専門家の議論を経た長期評価は「相応の科学的信頼性がある」と認め、にもかかわらず津波対策を取らなかった旧経営陣を「安全意識や責任感が根本的に欠如していた」と断じた。注目すべきは、08年に対策先送りの判断を下した武藤栄元副社長を「著しく不合理で許されない」と特に厳しく批判した点だ。提訴から約10年、多くの証拠が調べられ、裁判長は原発の視察も行った。丁寧な審理が説得力ある判決を導いたと言えるだろう。国も無関係ではない。住民らが集団で国を訴えた別の訴訟では先月、最高裁が津波の規模は想定外で防ぎようがなかったと国の責任を免じる判断をした。だが東電幹部の責任感を欠く姿勢の背景には、安全をうたい原発を推進してきた国の存在がある。政府には原発再稼働に積極的な姿勢が目立つ。しかし今回の判決は原発事故の代償が廃炉や除染、被災者への賠償など広範で巨額になることを改めて示した。脱原発こそ国の取るべき道である。

*5-2:https://ryukyushimpo.jp/kyodo/entry-1552892.html (琉球新報 2022年7月20日) 首相に経済安保強化を提言 次期海洋計画へ有識者
 政府の「総合海洋政策本部参与会議」の田中明彦座長=国際協力機構(JICA)理事長=は20日、岸田文雄首相を官邸に訪ね、経済安全保障の観点から海洋鉱物やエネルギー資源、海洋科学技術の開発推進に重点的に取り組むよう求める意見書を提出した。首相は「意見を踏まえ(来年に策定する)次期海洋基本計画の具体化を進める」と応じた。意見書は、次期基本計画も引き続き「総合的な海洋の安全保障」が主要テーマだと強調。中国海警局の船が繰り返す領海侵入などを念頭に「わが国周辺海域を取り巻く情勢は緊迫化している」と指摘した。海洋基本計画は5年ごとに策定、次期改定は来年の予定だ。

<日本のセキュリティーとコロナ・経済安保>
PS(2022年7月24日追加):*6-1-1は、①新型コロナの国内感染者が7月21日午後8時現在で、新たに18万6246人が確認された として、厚労省専門家組織の専門家から、②今後も多くの地域で感染者の増加が続く ③これまで新規感染者の急増から遅れて重症者・死亡者が増加する傾向にある ④既に強い行動制限を検討する時期にあるのではないか」との意見が出たそうだ。また、他県に先行して6月下旬から感染拡大が始まった鳥取県では、⑤家庭を介して職場から学校保育施設、高齢者施設や医療機関へと感染が広がり、高齢者施設などで今後さらに増加の恐れがある と記載している。また、*6-1-2は、⑥病床が逼迫する沖縄県は医療非常事態宣言を発令して県民に会食人数の制限も要請し ⑦軽症の場合や検査目的での救急病院の受診を控えるよう県民に要請し ⑧認証を受けた飲食店でも会食は「4人以下・2時間以内」としてアルコールを伴うイベントの開催延期も求めた ⑨熊本県は保健所業務や災害対応、窓口業務などを除いて、職員の半数をテレワークにする目標を掲げ ⑩千葉県や東京都は、自宅待機となる子どもの保護者が仕事に出られなくなることを防ぐために、保育所や小学校で濃厚接触者の特定をやめた としている。
 このうち①は事実だろうが、ワクチン接種しても新型コロナ感染者と接触すれば感染はするため、感染者のみを公表するのは意味がない。何故なら、ワクチン接種すれば過去に新型コロナに感染したのと似た効果があり、身体がその異物を記憶して獲得免疫(細胞性免疫と液性免疫)になるため、*6-1-3のように、新たに入ってきたウイルスに対し、すぐ抗体を作ったり、免疫細胞がそのウイルスを食べて破壊したりすることが容易になり、治癒が速くて重症にならないからである。そのため、「感染者が増えた」と言って行動制限を含むワクチン接種前と同じ対策をとる必要はなく、また、「抗体価が下がった」と言って同じワクチンを何度も打つ必要はない筈だ。そのため、厚労省専門家組織の専門家が、②で大騒ぎして、④の行動制限を求めるのはむしろ変であり、③で述べられているように感染者がこれまでと同じ比率で重症化するわけではない。しかし、子どもはワクチン接種しておらず、若い人も接種率が低いため、⑤は起こるだろう。このような中、沖縄県は⑥⑦⑧の対応をとったそうだが、ワクチンの接種率を低くしたまま何度も飲食店に制限をかけて支援金を払うのは、国の財政を考えれば控えるべきだ(ワクチン接種率を上げるには、「10月以降は検査やワクチン接種を有料にする」という方法もある)。また、⑨のテレワーク推進は、コロナにかこつけなくてもやればよく、既にコロナの治療薬もあるため、コロナは保健所で対応するのではなく、病院に行って治療し、速やかに治す病気にすべきだ。さらに、⑩は、便宜上のなし崩し的措置にすぎないため、科学的な思考と説明が必要だ。
 従って、最も情けないのは、高い給料をもらいながら、免疫の基礎も知らず、ワクチンの国内生産も進めず、高い金を払って何度もワクチンを外国から購入することしか思いつかない厚労省関係者で、厚労省専門家組織の専門家とされる人のアドバイスや説明にも呆れた。
 さらに、*6-2のように、2022年7月20日、塩野義製薬が開発した新型コロナウイルス向け飲み薬「ゾコーバ」の緊急承認の結論が見送られ、その理由を、⑪臨床試験(治験)では服用後にウイルス量が大きく減ることが判明し ⑫陰性になるまでの期間も短くなり ⑬安全性においても目立った問題はなかったが ⑭有効性をみるための審査データが十分でなく ⑮疲労感や熱っぽさといった症状の改善効果がどの程度あるかがわからないため ⑯緊急承認制度を初適用せず、最終段階の治験データを待って判断する としている。
 しかし、⑪⑫なら、効き目があって治療期間が短くなることは明らかであり、⑬なら使用しても問題ない。それでも⑮を主張するのはむしろ変であり、⑭は緊急性を理解せず、⑯は日本向けの高い価格をつけた外国製を輸入すればよいと考えている点で国産の開発意欲を削ぐことになるため経済安保にもマイナスだ。そのため、塩野義製薬にアドバイスするとすれば、「開発に協力的で承認を受けやすい国で開発を行い(特許権はその国でできるが)、治験しやすい国で治験して製品化するのがよい」ということになり、医薬品の分野でも日本の出る幕はなくなるのだ。

 
    2022.2.7NHK            2022.7.24NHK

               すべて2022.7.24NHK
(図の説明:上の段の左図は、2022年2月7日のワクチン接種率で、高齢者は高いが、若くなるほど低く、11歳以下は接種していない。ここに、下の段の左図のように、一部しかコロナの検疫をしていない外国人が入ったため、若い世代を中心としてコロナが蔓延し、家庭を介して中高年にも広がったと思われる。上の段の中央の図は、日本全体のワクチン接種率の推移で、2022年2月時点で、2回目まで接種した人が約80%いる。上の段の右図が、国内の感染者数推移だが、ワクチン接種が進み、マスクの着用や手洗いも徹底しているため、感染者数と比較して、下の段の中央の重症者数、下の段の右の死者数は著しく低く、インフルエンザ以下になっている)

*6-1-1:https://digital.asahi.com/articles/ASQ7P6QL7Q7PUTFL002.html?iref=comtop_7_02 (朝日新聞 2022年7月21日) 感染爆発、厚労省の専門家組織「今後も増加」 行動制限求める意見も
 新型コロナウイルスの国内の感染者は21日午後8時現在で、新たに18万6246人が確認され、前日に続いて1日あたりの最多を更新した。厚生労働省に新型コロナ対策を助言する専門家組織(アドバイザリーボード)は、「全国的に過去最高を更新していくことも予測される。最大限の警戒感で注視していく」との分析を示した。専門家組織の会合で、後藤茂之厚労相は「現時点で新たな行動制限は考えていない」と述べ、病床の稼働や臨時医療施設の開設を進め、医療関係者や高齢者施設職員へのワクチンの4回目接種を急ぐ考えを示した。ただ、複数の専門家から、現在の感染状況や想定される被害を踏まえ、「すでに強い行動制限を検討する時期にあるのではないか」との意見が出たという。
●病床使用率、15県が40%以上に
 朝日新聞のまとめでは、35都府県で新規感染者が過去最多を更新した。専門家組織によると、20日までの1週間で、全国の新規感染者は前週の1・72倍。すべての都道府県で前週に比べて増加した。秋田県で2・34倍、栃木県で2・23倍、茨城県と山口県で2・10倍となるなど、8県で2倍以上となった。ほか30都道府県でも1・5倍以上となり、「第7波」の感染の広がりは急激だ。1人が何人に感染させるかを示す実効再生産数は1・23で、専門家組織は「今後も多くの地域で感染者の増加が続く」との見方を示した。地域差があるものの、病床使用率も総じて上昇傾向で、20都府県が40%以上に達した。専門家組織は「これまでも新規感染者の急増から遅れて、重症者・死亡者が増加する傾向にある」と危機感を示した。高齢者の感染が増えることが懸念されるという。救急搬送困難事案も増えており、重症化しやすい人の搬送を優先するため、軽症者が救急車を呼ぶ際の目安を示すべきだとも訴えた。感染爆発の要因の一つは、感染力が強いオミクロン株の変異系統「BA.5」の広がりだ。会合で国立感染症研究所は、BA.5の検出割合が今週時点で96%に達したとの推計を示した。大阪府では、17日までの1週間で、BA.5などの疑いがある変異株の検出率が6割を超えた。急速な感染拡大とともに医療機関と高齢者施設に関連するクラスター(感染者集団)も急増。13日までの1週間の発生施設は計51カ所で、前週の3倍を超えたことが報告された。他県に先行して6月下旬から感染拡大が始まった鳥取県でも、家庭を介して職場から学校保育施設、高齢者施設や医療機関へと感染が広がっている現状を報告。高齢者施設などで「今後さらに増加の恐れがある」との見方を示した。

*6-1-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/7ce2430cb983b45ded9fc11cfcd38f1a7a7a9d18 (Yahoo 2022/7/24) 会食制限、県職員5割在宅 保育所の濃厚接触特定せず コロナ感染最多で対応急ぐ・自治体
 新型コロナウイルスの新規感染者が多くの都道府県で過去最多を更新する中、各自治体は対応を迫られている。病床が逼迫(ひっぱく)する沖縄県は「医療非常事態宣言」を発令。県民に会食人数の制限も要請した。熊本県は接触を避けるため、職員の半数をテレワークにする目標を掲げた。千葉県や東京都は保育所などで濃厚接触者の特定をやめるなど、実情に即した運用もみられる。28日に奈良市で行われる全国知事会議では、オミクロン株の派生型「BA.5」への置き換わりを踏まえた国への提言について議論する。沖縄県の玉城デニー知事は21日、医療非常事態宣言を出し、軽症の場合や検査目的での救急病院の受診を控えるよう県民に要請。また、認証を受けた飲食店でも会食は「4人以下・2時間以内」とし、アルコールを伴うイベントの開催延期も求めた。23日の病床使用率は77.1%。熊本県の蒲島郁夫知事は22日の記者会見で、保健所業務や災害対応、窓口業務などを除き「各職場の出勤者数を5割減らすことに取り組む」と表明した。県幹部は「全ての年代で感染が爆発的に増えている。家庭や高齢者施設に特化した対策には限界がある」と語る。25日以降、テレワークの体制を整えつつ、保健所などには応援職員を派遣してコロナ対応に万全を期す。千葉県は21日、クラスター(感染者集団)が発生した場合を除き、保育所や幼稚園などで濃厚接触者を特定しないことを決めた。自宅待機となる子どもの保護者が仕事に出られなくなることを防ぐためで、熊谷俊人知事は「感染者が出た時点で感染拡大が進んでいることが想定され、自宅待機の有効性は低下している」と説明。東京都は小学校も含め、特定をやめる。家庭や職場など飲食店以外での感染が急増し、重症者が比較的少ないというBA.5の特性を踏まえ、国による「まん延防止等重点措置」の発令や、飲食店の営業時間短縮措置には、否定的な見方も強い。沖縄の玉城知事は「感染状況に即して地方創生臨時交付金を機動的かつ柔軟に支援できる制度に改めてほしい」と主張する。一方、東京都の小池百合子知事は22日の会見で、国がコロナワクチンの4回目接種対象を医療従事者らに拡大したことについて「2カ月間遅れた。しわ寄せが医療現場にいっている」と苦言を呈した。 

*6-1-3:https://www.macrophi.co.jp/special/1564/ (やさしいLPS編集部 2020/11/22) 獲得免疫における細胞性免疫とは?液性免疫との違いも詳しく解説! 免疫とは
 免疫とは、外部から侵入する異物のほか、死んだ細胞や老廃物、がん細胞などといった体内で発生する異物やゴミの除去を行うシステムです。免疫が対応しなくてはならない異物は数限りないため、どんな異物が来ても対抗できるよう、自然免疫と獲得免疫という2段構えで体を守っています。自然免疫とは、生まれたときから体に備わっている免疫です。マクロファージや好中球、樹状細胞といった、異物を食べて破壊する免疫細胞(食細胞)がメインで働いており、体内に異物が侵入したときに1番に反応して異物を排除します。また、抗体を作るために、体内に侵入した異物の情報を、獲得免疫で働く免疫細胞に伝える役割も担っています。一方、獲得免疫とは、体内に侵入した異物に対する抗体を作り、次に同じ異物が侵入した場合に効率的に排除する仕組みを作る免疫です。自然免疫をすり抜けた異物が入り込んだ感染細胞や、がん細胞などを排除する役割もあります。獲得免疫でメインとなるのは、抗体を作るよう指令を出すT細胞や、抗体を作るB細胞といったリンパ球です。真っ先に異物に対処する自然免疫、抗体を作って次に備え、自然免疫で対処しきれなかった異物に対処する獲得免疫と、それぞれが補いあって体を守っています。
●獲得免疫は「細胞性免疫」と「液性免疫」に分けられる
 獲得免疫には、抗体を作る、感染細胞やがん細胞を排除するなどいろいろな役割がありますが、役割によって「細胞性免疫」と「液性免疫」の2種類に分けられます。それぞれの特徴や違いについて、くわしく見ていきましょう。
●細胞性免疫とは
 細胞性免疫は、T細胞という免疫細胞が主体となって働いている免疫です。抗体を産生するのではなく、免疫細胞自体が異物を攻撃するという特徴があります。免疫細胞の一種であるT細胞は、「ヘルパーT細胞」「キラーT細胞(CTL)」「制御性T細胞」の3種類に分けられます。
○ヘルパーT細胞:マクロファージなどの免疫細胞から異物の情報を受け取り、B細胞とともに異物が危険なものか判断し、サイトカイン(免疫細胞が作り出すタンパク質)を産生して、CTLやNK細胞(ナチュラルキラー細胞)などを活性化させる、司令塔のような役割を持つ免疫細胞
○キラーT細胞(細胞傷害性T細胞):感染細胞やがん細胞を攻撃、排除する免疫細胞
○制御性T細胞:キラーT細胞が正常な細胞まで攻撃しないように制御したり、免疫反応を終了させる免疫細胞
 体内に異物が侵入すると、まずマクロファージや樹状細胞といった食細胞が異物を食べて分解し、その情報をヘルパーT細胞へと伝えます(抗原掲示)。次にヘルパーT細胞の一種である「Th1細胞」が食細胞から届いた情報をキャッチして、サイトカインを産生し、キラーT細胞やNK細胞を活性化させます。すると、活性化されたキラーT細胞やNK細胞が、感染細胞やがん細胞に対して攻撃を始めるのです。また、キラーT細胞やNK細胞が正常な細胞を攻撃するのを防ぎ、適切な時期に免疫反応が止まるよう、制御性T細胞も働きます。その後、ヘルパーT細胞によって活性化されたキラーT細胞の一部は、今回キャッチした異物の情報を記憶した「メモリーT細胞」となり、次に同じ異物が入ってきたときに効率的に攻撃できるように備えます。
●液性免疫とは
 液性免疫は、B細胞が主体となって、抗体を作ることで異物に対抗する免疫です。まずマクロファージや樹状細胞が発した異物の情報を、ヘルパーT細胞の一種である「Th2細胞」がキャッチして、サイトカインを産生します。すると、そのサイトカインによってB細胞が活性化され、形質細胞へと分化して抗体を産生し始めます。産生された抗体は体液を介して全身に広がり、食細胞を活性化したり、異物の毒性や感染力を失わせたりするのです。その後、活性化されたB細胞の一部は「メモリーB細胞」となり、次に同じ異物が入ってきたときに効率的に抗体を産生できるように備えます。(以下略)

*6-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK214EF0R20C22A7000000/ (日経新聞社説 2022年7月21日) 何のための薬の「緊急承認制度」なのか
 塩野義製薬が開発した新型コロナウイルス向け飲み薬の緊急承認の結論がまた見送られた。新規感染者数が過去最多を更新し「第7波」が猛威をふるう。緊急承認という新制度は何のためにあるのか。今回の判断はふに落ちない。塩野義の抗ウイルス薬「ゾコーバ」(販売名)は軽症のコロナ患者に対し、1日1回、5日間経口投与して使う。臨床試験(治験)では服用後にウイルス量が大きく減ることが判明。陰性になるまでの期間も短くなった。安全性においても目立った問題はなかった。厚生労働省の専門家分科会は20日、承認の可否を決める2度目の会合を開いた。有効性をみるための審査データが十分でなく、疲労感や熱っぽさといった症状の改善効果がどの程度あるかがわからないとし、現在進行中の最終段階の治験データを待って判断する「継続審議」とした。可否の結論は秋以降になる見通しだ。平時における医薬品承認の審議であれば妥当かもしれない。しかし、今回はこの春にできた緊急承認制度を初適用したものだ。感染症のまん延による健康被害を防ぐため治療薬やワクチンの有効性を限られたデータから「推定」すればいいはずではなかったか。もし、その判断がつかないのなら「承認せず」とするのが筋だろう。「継続審議」という玉虫色の結論は理解できない。制度自体の問題が顕在化したといえる。緊急承認制度は米国の緊急使用許可(EUA)を手本にした。感染者の急増や医療の逼迫といった緊急度合いも考慮し、効果が科学的に「確定」しなくても、有効性の解釈を広げて承認できる。要は「仮免許」のような位置づけだ。しかし、その有効性とは何かが明確に示されておらず、審議は従来の科学的知見にこだわったものになった。安全性に問題がないのであれば、緊急承認し、使うかどうかの判断は現場の医師や患者に委ねることもできただろう。国産品で安定供給される飲み薬をうまく活用すれば、自宅療養の拡充などで医療や保健の現場を逼迫させずにすむかもしれない。今回、塩野義は承認されると100万人分を供給するよう国と合意しており、いつでもすぐに出荷できる体制にある。名ばかりの「緊急承認制度」は製薬会社の開発意欲をそぐことにもなる。国内発のコロナ医薬品はまだ登場していない。実現がまた遠のいた。

<物価上昇に対するセキュリティー>
PS(2022年7月27日):*7-1-1は、①IMFは世界経済の成長率を下方修正し、世界経済成長率が2022年に2.6%、23年に2.0%まで下がる「リスクシナリオ」は十分に現実味があるとし ②ロシア産天然ガスに依存する欧州経済は大きな打撃を受け、経済制裁の報復措置でロシアがパイプラインによる欧州への天然ガス供給を2022年末までに完全にストップすれば、ガス価格は約200%上昇する ③G7が景気後退に陥る可能性は平時の4倍の約15%でドイツは約25% ④IMFが経済見通しを下方修正した最大の要因は4月時点の見通しを大きく上回るインフレで、「スタグフレーション」になる可能性もある ⑤消費者物価指数上昇率(前年同月比)は米国9.1%、欧州が8.6%で ⑥エネルギー・食料をはじめ幅広い商品が値上がりして経済成長の柱である個人消費を鈍らせている ⑦欧米の中央銀行は、インフレ退治のためIMFの予想を上回るペースで金融を引き締めいるが ⑧IMFは安価な石炭など温室効果ガスの排出が多い化石燃料へ回帰する動きを一時しのぎでしかなく、再エネへの投資を促進すべきだとしている としている。
 ②のように、経済制裁すればロシアが報復措置として天然ガス供給を止めるのは当然予測されることであるため、必需品を頼っている国と戦争するのは、何があっても不可能である。しかし、G7は甘かったため、①③④⑤⑥のように、エネルギー・食料をはじめ幅広い商品が値上がりしてスタグフレーションを起こして、経済成長の柱である個人消費を鈍らせ、世界経済成長率が下がることになった。しかし、日本と異なるのは、⑦のように、欧米の中央銀行がインフレ退治のためIMFの予想を上回るペースで金融を引き締め、⑧のように、IMFが再エネへの投資を促していることで、どちらも欧米の方が正しい。
 一方、日本は、*7-1-2のように、総務省が6月24日に発表した5月の物価上昇率が前年同月比2.5%で、資源高等によって2カ月連続2%超になったが、よく買うものほど価格高騰したため体感物価上昇率は5.0%と全体の倍になった。これは米国(8.6%)や英国(9.1%)などに比べれば低いが、日本は賃金が上がらず年金は減っているため、購買力は欧米以上に落ちている可能性が高く、これは私の体感とも一致する。にもかかわらず、*7-1-3のように、日銀は(何故か、生鮮食品を除く)2022年度消費者物価指数の上昇率見通しを前年度比2.3%に引き上げ、大規模金融緩和策の維持を決めたが、この日銀の思考にないものは、上記⑥の「個人消費が経済成長の柱である」という視点であり、この視点の欠如が、金融緩和して物価を上昇させ、個人消費を抑えることによって最終消費者が買えない状況を作り、経済成長も経済発展もさせなかった一因である。このブログに前にも書いたとおり、“安定”と称するイノベーションの阻害など、もちろんその他の要因もあるが・・。
 なお、*7-2に、佐賀県牛乳普及協会は、牛乳や乳製品を使った料理コンクールの作品を募集していると記載されているが、私は、「小麦粉の値段が上がった、上がった」と言われ、外食のラーメンの価格が2倍近くになったので小麦粉の値段を調べてみたところ、それほど高くなってはいなかった。そのため、うちにはオーブンやみじん切り機もあったことを思い出し、ふるさと納税でもらった薄力粉や蜂蜜とココナツオイル・スキムミルク・ベーキングパウダー・卵、人参・ピーマン・ベーコンのみじん切りなどを混ぜ合わせてケーキを作ったところ、コンクールに出るほどではないが、オールインワンの朝食ができ、パンを食べなくなったため、物価上昇へのささやかな抵抗となった。しかし、電気代は確実に上がっただろう。

*7-1-1:https://mainichi.jp/articles/20220726/k00/00m/020/356000c (毎日新聞 2022/7/26) インフレ進行、予想を上回る勢い 先進国経済が景気後退の懸念
 国際通貨基金(IMF)は26日、世界経済の成長率を下方修正し、予想を上回るインフレ加速と急ピッチの金融引き締めによって先進国経済が景気後退(リセッション)に陥る可能性を指摘した。ロシア産天然ガスに依存するドイツなど欧州経済は大きな打撃を受けているが、ガス供給の完全ストップなどで経済の落ち込みがさらに深刻になる可能性があると分析している。「経済の不透明感やリセッションへの懸念がここ数カ月で強まっている」。IMFは26日に公表した最新の世界経済見通しでこう指摘。資産価格や株価変動を基に、米欧日など主要7カ国(G7)が景気後退に陥る可能性は平時の4倍の約15%、ドイツは約25%との試算を示した。IMFが経済見通しを下方修正した最大の要因は、4月時点の見通しを大きく上回る勢いで進行するインフレだ。6月の消費者物価指数の上昇率(前年同月比)は米国が9・1%、欧州が8・6%。新興・途上国の4~6月期のインフレ率も推計9・8%と10%に迫る水準だった。エネルギーや食料をはじめ幅広い商品が値上がりし、経済成長の柱の個人消費を鈍らせている。インフレ退治のため、欧米の中央銀行はIMFの予想を上回るペースで金融を引き締めている。米連邦準備制度理事会(FRB)は3会合連続で利上げを実施。欧州中央銀行(ECB)も11年ぶりの利上げに踏み切った。過熱した経済を冷やし物価を押し下げる効果を狙っているが、住宅ローン金利の上昇や企業の借り入れコスト増などで景気を過度に失速させる懸念が強まっている。新型コロナウイルスを封じ込めるための中国政府の厳格な都市封鎖(ロックダウン)や、部品供給網の途絶が長引いていることも下方修正の要因となった。IMFは「経済の先行きリスクと不確実性の高まりを考慮し、代替シナリオに大きな重点を置いている」と指摘。世界経済の成長率が2022年に2・6%、23年に2・0%にまで下がる「リスクシナリオ」は十分に現実味があるというわけだ。IMFが特に懸念するのは、経済制裁への報復措置などでロシアがパイプラインを通じた欧州への天然ガス供給を途絶させるリスクだ。供給量は通常の2割程度まで急減することになり、22年末までに完全にストップすれば、他に供給手段がないため、ガス価格は約200%上昇すると指摘。原油価格もロシアからの輸出が減少すれば約30%上昇すると試算した。インフレが収まらない一方、経済はリセッションに陥る「スタグフレーション」の可能性もあると分析している。一方、IMFは、最近のエネルギー価格高騰を受け、安価な石炭など温室効果ガスの排出が多い化石燃料へ回帰する動きがあると指摘。「そのような対策は一時しのぎでしかない。再生可能エネルギーへの投資を促進すべきだ」とクギを刺した。

*7-1-2:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO62056720V20C22A6EA2000/ (日経新聞 2022年6月25日) 物価上昇、体感は2倍、食品など「よく買うもの」5%高 家計負担が数字以上に
 消費者が体感するインフレが加速している。総務省が24日発表した5月の物価上昇率は前年同月比2.5%だった。資源高などで2カ月連続で2%を超えた。内訳を分析すると、よく買うものほど価格高騰が鮮明だ。ガソリンや食品など月1回以上は買う品目は上昇率が5.0%と全体の倍に達する。物価高は統計の見た目以上に家計の重荷となっている可能性がある。物価上昇率は4月に全体で2.5%、変動の激しい生鮮食品を除いて2.1%といずれも7年1カ月ぶりに2%台に乗った。ウクライナ危機下のエネルギー価格の高騰に加え、携帯値下げの影響が一巡したのが大きかった。同じ幅の伸びが5月も続いた。国内の物価上昇は全体としては米国(8.6%)や英国(9.1%)などに比べればまだ鈍い。内実はまだら模様といえる。足元では消費者がよく買うものほど値上がりが目立つ。物価算定のもとになる計582品目のうち、購入回数が平均年15回以上と「頻繁」な食パンやガソリンなど44品目のインフレ率は2021年秋に4%を突破した。22年3~4月は5%を超え、5月も4.9%と高水準が続いた。日常の買い物で直面する物価高が物価全体の表向きの数字以上に重いことを示す。頻繁に買うのは生鮮食品も多い。5月にタマネギは2.25倍になり、キャベツは40.6%上がった。産地での天候不順のほか、輸送費の高騰などが響いている。買うのが1カ月に1回程度のものも急騰し、5.1%上がった。食品各社が相次ぎ値上げに踏み切った食用油(36.2%上昇)、電気代(18.6%上昇)などを含む。生活に欠かせないため値段が上がっても買わずに済ませるのが難しく、インフレが進みやすいとみられる。これらの「よく買うもの」は物価全体を押し上げる寄与度も大きい。ガソリン、電気代などエネルギー関連は1.26ポイント分、食料は1.06ポイント分のインフレ要因となった。裏腹に、あまり買わないものほどインフレ率は低い傾向がある。ロールケーキや殺虫剤など購入が半年に1回程度の品目は2.3%で全体と同水準だ。ソファ、パソコンなど買うのが年0.5回未満と「まれ」な品目は1.7%にとどまった。体感インフレの加速は家計の物価見通しにも表れる。内閣府の5月の消費動向調査によると、二人以上の世帯で1年後に5%以上の物価上昇を見込む割合は55.1%と、過半になった。回答の選択肢はほかに「2%未満」「2%以上~5%未満」がある。21年の前半は「2%未満」、21年後半は「2%以上~5%未満」が最多だった。2月以降は「5%以上」が最も多くなり、割合も2月の39.7%から高まっている。この調査の物価見通しはエコノミストの予測に比べ高めに出やすい。それを差し引いても、物価上昇圧力の高まりを鮮明に映し出している。日本経済は米欧に比べて回復が遅く、国内総生産(GDP)は1~3月期時点で新型コロナウイルス禍以前の水準に届いていない。潜在的な供給力に対して需要が足りない状態も解消していない。現状のインフレはエネルギーや食料など海外発のコスト高や円安による部分が大きい。企業収益の拡大や賃上げが物価を安定的に押し上げる望ましいかたちにはなっていない。資源高による海外への所得流出で日本の購買力が全体として低下する構図も定着しつつある。大和総研の瀬戸佑基氏は「家計が実感するインフレ率はかなり高い状況が当面続き、物価上昇が消費マインドなどに及ぼす悪影響は注意が必要だ」と指摘する。

*7-1-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB2170Y0R20C22A7000000/ (日経新聞 2022年7月21日) 日銀総裁、利上げ「全くない」 物価見通し2.3%に
 日銀は20~21日の金融政策決定会合で、大規模な金融緩和策の維持を決めた。2022年度の消費者物価指数(生鮮食品を除く)の上昇率見通しを前年度比2.3%に引き上げた。海外で利上げが進むなか、緩和継続による急速な円安で企業や家計に与える影響が大きくなっている。黒田東彦総裁は利上げについて「全くない」と言い切った。日銀は4月の会合で22年度の物価上昇率見通しを1.9%としていたが2.3%に上方修正した。日銀が直近年度で2%超の物価見通しを示すのは、消費増税が影響した14年度を除き比較可能な03年度以降で初となる。政府・日銀が定める2%の物価安定目標に達するが、黒田氏は「物価目標の持続的、安定的な実現には至っていない」と述べた。23年度は1.4%、24年度は1.3%と徐々に物価上昇が落ち着く見通しを示した。黒田総裁は「年明け以降はエネルギーの押し上げ寄与が減衰しコスト転嫁も一巡していく」として、金融緩和策の必要性を訴えた。日銀は物価の上昇に賃金の伸びが追いついておらず、景気の腰折れを招く懸念が残るとの見方を崩していない。黒田総裁は「一段の賃金上昇と物価目標の実現のために緩和を続ける」と強調した。追加緩和についても「必要があればちゅうちょなく講じる」と従来の主張を繰り返した。22年度の実質成長率見通しは前回の2.9%から2.4%に下げた。世界的なインフレ率の上昇や、それに伴う急速な金融引き締めで、世界経済に減速懸念が出ている。

*7-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/886344 (佐賀新聞 2022/7/16) 牛乳使った料理募集中 高校生以上対象 佐賀県牛乳普及協会がコンクール
 佐賀県牛乳普及協会は、牛乳や乳製品を使った料理コンクールの作品を募集している。未発表のオリジナル料理で、4人分で200ミリリットル以上の牛乳を使うことなどが条件。書類選考を通過した10人が10月2日に佐賀市のアバンセで調理を実演し、最優秀賞を決める。料理とデザートの2部門があり、バターや生クリームなどの乳製品を組み合わせて使用できる。材料費は4人分で2400円以内とし、1時間以内で調理できるものとする。参加対象は高校生以上で、現職の調理師は参加できない。前年は1103点の応募があった。手軽さ、独創性、おいしさ、栄養バランスなどを審査する。最優秀賞には2万円の商品券などを贈る。JAさがのホームページから応募用紙をダウンロードして郵送またはファクスで申し込む。締め切りは8月31日。問い合わせは同協会事務局(JAさが酪農課)、電話0952(71)9644。

| 日本国憲法::2019.3~ | 01:46 PM | comments (x) | trackback (x) |
2021.5.5~15 日本は人を大切にしない(人権侵害の多い)国だが、正しい意思決定には知識に基づいた判断力が必要なのである (2021年5月17、20、22、25、26、27、28、30、31日、6月2、3、4《図》、5、6、7、8、9、10、11日に追加あり)
(1)日本国憲法変更の危険性

  
 2021.5.7中日新聞   2018.5.3産経新聞          IWJ

(図の説明:左図のように、2021年5月6日に国民投票法改正案が衆議院憲法審査会で可決して今国会で成立する予定となった。その後の『改憲4項目』として自民党が示しているのが中央の図で、このうち、右図の緊急事態条項は、国会決議を通さずに基本的人権を制限したり、法律と同じ効果を持つ政令指定を可能にしたりできるようにするもので、問題が多い。)

1)憲法記念日における与党幹部のメッセージから
 憲法記念日の5月3日、菅首相は、*1-1のように、ビデオメッセージで「①憲法9条への自衛隊明記」「②新型コロナ感染拡大や大災害時に内閣が国民の権利を一時的に制限する『緊急事態条項の創設』は極めて大切」「③参院選の合区解消」「④教育無償化」など、「⑤現行憲法も制定から70年余り経過し、時代にそぐわない部分、不足している部分は改正していくべき」等を語られたそうだ。

 このうち、①は、前にこのブログで詳しく記載したため省略するが、②も、このような厚労省の故意又は重過失による感染症の蔓延を国民のせいにし、それを理由として「国民の権利を制限する緊急事態条項の創設が重要」と結論づける政府であるからこそ、決して緊急事態条項を創設してはならないし、③は、憲法を変更しなくても下位の法律を改正すればできるのである。

 さらに、④は、憲法第26条に「第1項:すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」「第2項:すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。 義務教育は、これを無償とする(http://law.main.jp/kenpou/k0026.html 参照)」と定められているため、既に憲法で義務教育は無償化されており、義務教育以外についても給付型奨学金を支払ってはいけないなどとは憲法に記載されていないため、憲法変更は不要なのである。

 それにもかかわらず、「仕方がない」として緊急事態条項の創設を許せば、政府の放漫経営によって財政破綻するにもかかわらず、さらなる年金カットや医療・介護サービスの削減など国民との契約で政府が保険料を徴収した社会保障の受給権(私権)を制限することも、政府が憲法に基づいて行うだろう。日本政府が前から熱心な「税と社会保障の一体改革」や「マイナンバーカードの創設」はその準備作業だが、それに感染症の蔓延を利用するなどもってのほかである。

 これを裏付けるように、与党系の幹部が、*1-2のように、「この憲法で国家の危機を乗り越えられるのか!-感染症・大地震・尖閣-」と述べているが、感染症・大地震・尖閣を乗り越えられないのは、日本国憲法に「緊急事態条項」がないからではなく、感染症に対する基本的理解の不足、都合の悪いことを想定外にする危機意識の低さ、領土保全の努力のなさという運用上の問題である。そのため、憲法9条に自衛隊を明記し、緊急事態条項を創設したからといって、これらの問題が解決するわけではない。

 また、⑤のように、憲法制定から70年余り経過して時代にそぐわない部分・不足している部分があると言うのも、それなら、イ)どこが ロ)どうして改正によってしか解決できないのか を論理的に説明すべきで、憲法変更という結論ありきで、とってつけたような理由を並べるのは国民を馬鹿にしすぎている。

2)憲法学者と弁護士会の見解
 *1-3の憲法学者で東京都立大学教授木村草太氏が、①現行憲法下でも規制の目的が自由の制限を正当化できるほど重要で ②規制の方法が合理的かつ必要不可欠なら法律に根拠のある規制は合憲だが ③感染症対策だからどんな制約でも我慢しろという論理は通用せず ④その感染症の抑制が社会にとって重要性があり、科学的・法的根拠に照らして手段が適切であれば重要だが ⑤目標がないままの場当たり的規制が多かったし ⑥自由を制約する政策は法律の正しい解釈に基づく細かな検討こそ必要だが、この1年以上にわたるコロナ禍で政府にはこうした意識が決定的に欠けていることが明らかになり ⑦政府が法の解釈や整合性を気にしなくなったことのマイナス面がわかりやすく示された 等と述べておられ、私も全く賛成だ。

 また、*1-4のように、日本弁護士連合会会長の荒中氏も、2021年5月3日、憲法記念日を迎えるに当たっての会長談話として、⑧緊急事態宣言等の下で市民や企業等には外出・移動の自粛や休業・時短等が要請されているが、そのような感染拡大防止策を講ずる場合であっても個人の権利は最大限尊重される必要がある ⑨新型コロナの感染拡大を受けて憲法を改正して緊急事態条項の新設を求める声も与野党の一部にあるが、感染拡大防止は市民の協力を得ての法律上の対応で十分可能で ⑩憲法に緊急事態条項を新設することは、立法事実を欠くだけでなく、個人の権利の侵害に繋がる恐れがある ⑪新型コロナ感染拡大の下でも、立憲主義を堅持し、国民主権に基づく政治を実現することにより個人の人権を守る立場から、引き続き、人権擁護のための活動を積極的に行っていく と書かれており、法律家としての論理性が感じられて納得できた。 

(2)新型コロナのワクチン・検査・治療薬について

   
 2020.6.19毎日新聞   2021.4.17時事

(図の説明:1番左の図のように、G7やAPECの中では日本の人口100万人当たり新型コロナウイルスによる死亡率は低いが、東南アジア・東アジアの中では最も高い。これを見て、先進国は新型コロナウイルスによる死亡率が高いのだと理解した人は愚かであり、実際には地理的所在地によって人間側の遺伝的形質や免疫履歴が異なるのである。そのため、日本の成績は悪い方に属する。また、左から2番目の図のように、日本国内で確認された新型コロナ変異ウイルスの中に『由来不明』があるが、これは非科学的であると同時に日本由来ではないかと思う。右から2番目の図は、日本国内で新型コロナに使われる主な薬だが、承認済みは2つだけで厚労省の能力のなさがあらわれている。そして、1番右の図のように、日本は科学技術にかける予算が少なく、今後の産業構造に悪影響を与えそうだ)

1)新型コロナワクチンの開発と普及について
 河野規制改革相が、*2-1-1のように、5月10日からの2週間で自治体に届ける高齢者向けの新型コロナワクチンの供給量が自治体の要望量に約400万回分足りないと陳謝したそうだが、まず、誰かが陳謝すれば喜ぶというメディアをはじめとする日本人全般の感じ方はおかしい。何故なら、陳謝されても亡くなった人の人生は戻ってこないため、陳謝などしなくてよい政策を採ることの方がずっと重要だからである。

 そして、65歳以上の高齢者向けワクチン接種が4月に始まったそうだが、新型コロナウイルスに暴露される機会が多く、決して患者にうつしてはならない医療・介護従事者に高齢者より先にワクチンを接種するのは当然だ。その後に、高齢者・基礎疾患のある人・不特定多数の客に接せざるを得ない勤労者への接種となる筈だが、そもそも製造業が得意な世界第三位の経済大国と豪語しながら、必要な時に間に合わせてワクチンすら作れず、米ファイザー社からの輸入に頼りながら、公正な判断もできずにロシア製や中国製を馬鹿にしているのは滑稽ですらある。

 なお、*2-1-2のように、米製薬大手ファイザーは、2021年の新型コロナウイルスワクチン売上高が260億ドル(約2兆8千億円)、モデルナも、2021年のコロナワクチンの売上高が184億ドル(約2兆円)になる見込みだそうだ。このように、ワクチンも、感染症が蔓延し必要とされる時に1番・2番で完成することが重要なのであり、日本でよく言われるように「時間をかけたからよい」というものでは決してない。そのため、厚労省の非科学的な承認遅れや治験妨害は、経済的にもチャンスを逃す重大な原因になっているのである。

 このような中、*2-4-1のように、ワクチンの足りない途上国のWTOへの要請として、バイデン米政権が新型コロナワクチンの国際的な供給を増やすために、特許権の一時放棄を支持すると表明したそうだ。しかし、*2-4-2のように、製薬会社は強く反発しており、ドイツのメルケル政権は「知的財産の保護はイノベーションの源泉で、将来もそうでなければならない」と反対している。リスクが大きく金がかかる研究開発を行う動機づけを失わせないためには、メルケル政権の見解の方が正しい。そのため、新型コロナワクチンを途上国に供給する目的なら、開発した製薬会社の負担ではなく、国が製薬会社から特許権を購入して開発途上国の製薬会社に供与する方法を採るべきだ。メダルその他の報酬がなければ、いろいろなことを犠牲にしてオリンピック等のスポーツで頑張る人はいないのと同じ理屈である。

2)治療薬の治験と承認
イ)アビガンのケース
 細胞に入ったウイルスの増殖を抑える薬であるアビガンは、*2-1-3のように、2014年に新型インフルエンザ薬として承認され、製造元の富士フイルム富山化学が2020年3月に新型コロナ向けの治験を始め、2020年9月23日に治験の結果を発表して2020年10月16日に厚労省に製造販売の承認申請をしたが、2020年12月21日の厚労省専門部会で審査を担うPMDAが「エビデンス(科学的根拠)がない」「解析計画やデータの取り扱いに信頼性がない」「新型コロナへの有効性を現時点で明確に判断することは困難」と判断したそうだ。

 その科学的根拠がないという理由の1つは、20~74歳の重症でない新型コロナの患者156人が参加し、偽薬とアビガンをのんだ患者の経過を比べ、アビガンをのんだ患者はPCR検査で陰性になるまでの期間の中央値が偽薬をのんだ患者より2.8日短かったが、医師が知っている「単盲検」だったからだそうだが、陰性になるまでの期間が2.8日短かければ、それだけ入院日数が減り、患者や病院の負担も減るのである。

 さらに、単盲検だから本当に科学的根拠がないかと言えば、国民への移動の自粛要請や飲食店の時短営業要請よりはずっと明確な科学的根拠があり、「動物実験で胎児に奇形が出る恐れがわかり、副作用の懸念」というのも使う対象を絞ればよいため、厚労省は新型コロナの蔓延を防ぎたくない理由でもあるのかと思うのである。

ロ)イベルメクチンのケース
 北里大学の大村智特別栄誉教授が発見し、2015年にノーベル医学・生理学賞を受賞した微生物が生産する天然有機化合物アベルメクチン由来のイベルメクチンを、*2-1-5のように、北里大学大村智記念研究所感染制御研究センターが、新型コロナウイルス感染症の治療薬として、2021年3月に臨床試験を終了して製造元の米製薬大手MSDに試験結果を提供し、MSDは効果を検証しながら承認申請を検討する見通しだそうだった。

 米ブロワードヘルスメディカルセンターの研究では、イベルメクチン投与で新型コロナ重症患者の致死率は80.7%から38.8%に改善し、イベルメクチンは駆虫薬として2019年には世界で4億人以上に投与されているが、大きな副作用は確認されていないそうだ。ちなみに、ペニシリンはじめ抗生物質は、生物が他の微生物を排して自らを守るために合成する化合物由来が多い。

 その治験結果がどうなったかは不明だが、*2-1-4のように、東京都医師会会長の尾崎治夫氏が「海外で重症化を防ぐ効果が示されているため、抗寄生虫薬イベルメクチンも自宅療養中のコロナ感染者に重症化を防ぐ狙いで投与すべき」「副作用が少ないので、かかりつけ医が治療ができるよう国に検討してほしい」と言っておられ、軽症から重症まで効果があると思われるので、厚労省は新型コロナの治療をしたければ治験を助けて早々に承認すればよかったのだ。

3)変異型について
 変異は、生物が遺伝子をコピーする際のコピーミスで起きるため、ランダムに起き、生存により適した変異のみが選択されて残っていく仕組みになっている。そして、地球上に広がった人間が、住む地域に適応して異なる進化を遂げ、さまざまな人種が存在するのと同様、ウイルスも住む地域に適応して異なる進化を遂げ、さまざまな変異が存在するのは当たり前だ。また、人種間の違いも小さなものはあるが、大きくなると生物としての種が変わるわけである。

 一方、新型コロナウイルスにとっての住む地域は、宿主である人間の体の中であるため、人間の体の中で早く増殖して次々と感染する能力の高いウイルスほど生き残る確率が高い。従って、日本のように、検査数を絞って原型となる新型コロナウイルスを大量に残したのは、変異を生み出す確率も増え、大失敗だったのである。しかし、治療薬やワクチンに対する新型コロナウイルスの抵抗力は、変異で小さな差は出るだろうが、大きな差は出ないと思う。

 そのため、変異型が首都圏で急拡大して5月前半に8~9割を占めるようになるのなら、その理由こそが重要なのだが、*2-2-1は、「①国内の変異型は、英国・南アフリカ型・ブラジル型・由来不明型の4種類がある」「②英国型はウイルスが細胞に侵入する際に用いるスパイクタンパクに細胞と結び付く力を強めるN501Y変異がある」「③由来不明型は関東・東北で拡大し、ワクチンの効果低減が懸念されるE484K変異がある」「④南ア型とブラジル型は両方の変異を併せ持つ」「⑤東京でもN501Y変異に置き換わってきているが、プラスアルファの変異が出る恐れもある」と記載しているだけだ。

 しかし、ウイルスがいる限り変異型は発生し、それは国名に意味があるのではなく、宿主である人間側の免疫履歴や生活様式・インフラの違いが変異型ウイルスの生存確率の違いになる。ここで、由来不明型としているのは“日本型”ではないのか?それらの変異型について、厚労省専門家組織のメンバーは、「ゲノム解析を通じて変異型を追い掛けることが重要だ」と話しているそうだが、国民に自粛を促して人の流れを止めるのではなく、数多く検査やゲノム解析を行い、感染経路を分析して、科学的に対処法を考えるのが厚労省の仕事の筈である。

 なお、*2-2-2のように、厚労省の助言機関の集計によると、国内で4月に発生した新型コロナのクラスターは463件に上り、場所別では学校・高齢者施設を含む職場(96件)が最多で、会議で使うデスク・電話機・コピー機などの共用備品を通して感染が拡大した可能性があるとされている。私は、共用トイレもそうで、トイレを清潔に保つための改修は経済の停滞している今がやりどきだと思う。

 そして、第4波は日常生活全般で感染が懸念される事態となり、対応策として国立感染症研究所の脇田所長は、「大型連休に向けて1人1人が不要不急の外出を減らし、マスク着用などの感染防止対策を徹底してほしい」と話されているそうだが、ウイルスがものを介して感染する理由はマスクの着用を怠ったからではなく、石鹸をつけて流水でよく手を洗うのではなく、アルコールを吹きかけたり擦り込んだりすればよいという指導をしたからだろう。日本で生き残るウイルスは、そういう日本の弱点を突いたものになると思う。

4)新型コロナとオリンピック
 「感染拡大が続いているのに五輪中止を決定できないのは、戦時中に無謀な作戦を強行して多くの犠牲者を出したのに責任回避した旧日本軍のようだ」と、*2-3のように、菅首相に批判が殺到しているが、先進国ではワクチン接種が進み移動制限が解除されつつあるのに、厚労省が対応を誤った日本は未だ制限解除もできない状況なので、旧日本軍と同じなのは厚労省である。

 そもそも、世界第三位の経済大国になっているのに、「国家の威信のため」などとして1965年当時と同じスローガンを振りかざし、東京という同じ場所にオリンピックを誘致し、大金を使って新国立競技場を建て替えたのには、私は全く賛成できなかったが、誘致した以上は万難を排して完全な形で遂行するのが先進国のやることである。

 また、オリンピック選手はオリンピックに出場するために多くを犠牲にして努力してきたのに、4年に1度の機会を逃せば年齢が進んで次のチャンスはない人が多い。そのため、IOCが東京五輪を開催すると各国のオリンピック委員会とともに決めたのなら、オリンピックの開催判断に政治が介入することは控え、誘致した責任として完全な形で開催できるようにあらゆる努力をするのが当たり前である。私には、東京五輪中止派の人の方が、オリンピックを政治利用しているのではないかと思われるので、オリンピックを中止した場合の損害や影響を明確にすべきだ。

 なお、「①五輪開催の最も大きな障害は医療陣の確保」「②五輪組織委員会は五輪期間中に1日に医師300人、看護士400人ずつの医療陣が必要と予想」「③医療界は『テレビで五輪を見る時間もない』として難色」「④新型コロナ感染再拡大で昼夜なく働いているのに、5月からはワクチンの大規模接種も始まり、人材派遣は不可能」「⑤日本政府の感染症対策分科会を率いる尾身会長は、組織委員会など関係者が感染レベルや医療の逼迫状況を踏まえて五輪開催の議論をしっかりやるべきとした」などと言って、五輪を開催できない理由を医療に押し付けるのは妥当ではない。その理由は、新型コロナの治療をする医師とオリンピックで働くスポーツドクターは別の診療科であり、医療関係者全員が新型コロナの治療に専念しているわけではないからだ。

 さらに、「⑥五輪に参加する選手と大会関係者は出国時点を基準として96時間以内に2回の新型コロナウイルス検査を受けて陰性証明書を提出」「⑦入国時に日本の空港の検査で陰性判定を受ければ14日間の隔離が免除され、入国初日から練習できる」「⑧入国後は毎日1回ずつ新型コロナウイルス検査を受ける」「⑨活動範囲は宿泊施設、練習会場、競技場に制限される」「⑩ここまで制限しながら五輪をやるべきか」とも書かれている。

 このうち⑥⑦で十分であり、⑧は、観客を入れて大会を行うなら必要だが、無観客なら毎日1回ずつ検査を受ける必要はないかもしれないが、検査しても毒にはならない。また、⑨⑩は、オリンピックに出場するために多くを犠牲にして努力してきたオリンピック選手は、日本に遊びに来るわけではなく競技で勝つためにくるのであるため、万難を排して参加したいだろう。それは、当然のことである。

(3)環境軽視は生存権の侵害である

 
 2021.4.22東京新聞               JCCCA

(図の説明:1番左の図のように、政府はCO₂排出量を2030年までに2013年度比で46%削減するように目標を変更したが、これでも甘いという声が大きい。世界のCO₂排出量に占める日本の割合は、左から2番目の図のように3.4%で小さいという主張があるが、右から2番目の図のように、1人当たりCO₂排出量は、米国・韓国・ロシアに続いて日本は4番目と大きい。日本の部門別CO₂排出量は、1番右の図のように、産業部門と運輸部門が著しく大きい)

1)日本国憲法から見た環境の重要性
 日本国憲法は、生存権及び国民生活の社会的進歩向上に努める国の義務として、第25条「1項:すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。2項:国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と規定している。

 この25条の意味は、国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有するので、国は生活面のすべてで、社会福祉・社会保障・公衆衛生の増進に努めなければならないということだ。そのため、今回の新型コロナのように、他国の1/100程度の感染者数・重症者数で医療崩壊を起こしたり、原発による放射能汚染リスクを国民に甘受させたりする政策は採ってはならないということで、この条文は多くの事柄に適用できるので覚えておくべきだ。

 このうち、温室効果ガス削減については、*3-1のように、菅首相が2030年度の排出量を13年度より46%削減する目標を掲げて50%の高みを目指すと表明されたのはよかったが、2015年のパリ協定から5年、1997年の京都議定書からは23年も経過しているため、遅いと言わざるを得ない。この間に世界の先進国は、脱炭素に向けて産業構造の転換や技術開発の加速を進める政策を行い、日本は遅れれば競争力を損なう状況となっているのである。

2)日本人の歪んだ心
 日経新聞は、*3-2のように、「①グリーン成長の野心と下心」というように、グリーン戦略は悪いことででもあるかのように書く点で歪んでいるが、これは少なからぬ日本人が持っている感性だ。ここで言う「野心」とは、「aggressive」の翻訳のつもりかもしれないが、欧米人が使う「aggressive」は「積極的」という意味で、素直な「positive」に近い。逆に、グリーン戦略を下心があるなどとして否定する人こそ、環境改善に「negative」な下心を持つ歪んだ人であり、本当はグリーン戦略で大規模に雇用創出できれば一石二鳥で言うことがない筈だ。

 また、「②最も野心的な目標を掲げたのは英国で、グリーン産業革命を表明して総額120億ポンド(約1.8兆円)の政府投資で25万人の雇用創出を狙い、切り札は北海の強い風と遠浅の海を武器とする洋上風力」などと書いているが、得意分野を探して伸ばすのは当然であり、それは野心でも下心でもない。それより、「日本は再エネに有利な条件を欠き、日本には資源もエネルギーもない」などという虚偽を書き、「資源・エネルギーは外国から高い価格で買えばよい」などとして国民や産業に迷惑をかけるのを「馬鹿の一つ覚え」と言う。

 さらに、「③EUはいち早くグリーンディールを打ち出し10年間で1兆ユーロ(約130兆円)の投資に踏み切り、民間からも1兆9500億ユーロのグリーン投資を促して雇用を創った」というのは立派なことであり、私も、こういう国がリードして欲しいと思う。それにもかかわらず、「④それだけでなく国際的な環境基準づくりで主導権をとろうとする意図を隠さない」とまたまた歪んだ意見を披露しているが、本当によいものは日本発でも国際基準になるし、歪んだものを無理に押し込もうとしても国際基準にはならず、筋の通った正論が主導権をとるというのが私の経験だ。また、「⑤EUは環境規制が手ぬるい国々からの輸入に関税を上乗せする国境炭素税を導入予定」というのは尤もなことであり、「やはりEUがリードして欲しい」と感じざるを得ない。

 このように、それこそ下心ある歪んだ主張を重ねて、「小型モジュール炉は、原子炉をプールのなかに沈めることで緊急時にも外部電源に頼らずに済む」などとして原発の推奨を結論づけているが、冷やした熱は水中に発散されることを無視している上、放射能汚染の問題も解決しておらず、憲法25条違反の政策を国民に押し付けているのである。

3)水素エネルギーで動く都市とEV・FCV
 水素を作ったり運んだりするのに原発や化石燃料を使うのは論外だが、*3-3のように、中国や韓国が水素エネルギーを中核として都市を作り始め、交通機関をEVやFCVにするのは歓迎だ。今後は、日本はじめインド・インドネシア・フィリピンなどの人口の多い国は特に続いて欲しいが、人口が少なくてもエベレストなどの自然を観光資源にする国は、まずその付近を水素エネルギーで動く都市にすると観光との相乗効果が図れると思う。

 しかし、「生態系」という言葉は、食物連鎖を中心とした生物システムに対して使う言葉であるため、*3-3のように人間の文化や工業に使うのは誤りだ。また、「DNA」も生物の遺伝子を表す言葉であり、インターネットやAI関係 の会社が「DeNA(発音が同じ)」という社名にしているのは、国民(特に子ども)を混乱させ、正確な理解を困難にする。そのため、冗談のつもりでも、社会に悪影響を与える。

 運送手段である路面電車・バス・トラックがFCVで静かに走るのは、環境にも景観にも配慮しておりスマートだが、製造業の副産物である水素を使うのは賢いし、再エネ由来の水素にも手を打ち、まずインフラを整えやすい商用車や鉄道に投資を集中して国家主導で需要を作り出しているのは偉い。

 これを「強引にも映る市場創出」と感じる記者は、エネルギーイノベーションに「negative」なようだが、これらは「日本の文系人(エリートまで含む)が、生物・物理・化学・数学に著しく弱く、丸暗記の勉強しかしていないのが原因」というのが、理由を長くは書かないが私の結論だ。そして、この文系の暗愚さこそが、水素大国を目指して技術で先頭を走っても、市場の育成をすることすらできずに、日本だけが置いてきぼりになる原因なのである。

 なお、*3-4に、「①水素(元素記号H)の普及を阻むのはコストや技術だけではなく、規制も高いハードル」「②ガソリン車やEVは通常の車検のみで利用できるが、FCVは水素貯蔵タンクが車検対象外であるため、国交省とは別に経産省所管の検査が必要で空白期間が生まれる」「③日本では、水素は危険物扱いでガソリンより危険というイメージがある」「④海外では安全に配慮しつつ水素を利用する動きが広がる」と書かれている。

 このうち①については、水素は、元素記号で書くならHでは存在しないのでH₂と書く方が正しく、②のように、車検という規制でFCVを使いにくくしているのなら論外だ。③については、ロケットが燃料の水素とそれを燃やすための酸素の両方を積んで地球の重力から抜け出して行くように、水素のエネルギーは大きく、使い方に注意すれば安全だ。そして、今後は、航空機・船・作業機械にも水素燃料を応用して燃料電池の関連産業を育てることが必要であるため、航海を始める前に座礁していたのでは話にならない。

 また、英国はじめEUのように、既存のガス管を活用して、ガスへの水素混入を広げるのもよいと思う。なお、日本人には「技術で勝って普及で負ける」などと言う人が多いが、製品として普及していく過程で開発される技術が多いため、普及で負ければ技術でも負けるのである。

(4)医療・介護について

  

(図の説明:左図のように、日本の人口1000人あたり病床数は13.1で、他の先進国と比較して著しく高い。また、中央の図のように、急性期病床数も人口1000人あたり7.79で、他の先進国と比較して著しく高いが、右図のように、精神科病床数が多く、精神科の入院日数も他国と比べて長いため、急性期や感染症に当てることのできる病床数が他国と比べて多いとは言えない)

  

(図の説明:左図のように、公立病院の71%、公的病院の83%が新型コロナ患者を受け入れたが、民間病院は21%しか受け入れておらず、これは、院内感染を起こすと診療と病院経営に支障が出るからだろう。また、中央の図のように、日本の人口1000人あたり医師数・看護師数・病院数・病床数・CT台数・MRI台数の国際比較があるが、病院数・病床数が多い割には医師数・看護師数が少なく、急性期に対応できる病院は少ないと推測できる。なお、右図のように、医療施設に勤務する人口10万対医師数は、東京及び関西以西で多い)

1)医療制度について
イ)“非効率な医療供給体制”とは何か?
 日経新聞は、*4-1-1のように、「①団塊の世代が75歳以上になり医療費が急膨張する2022年の壁を乗り越えるには非効率な医療供給体制の改革が必要」「②都道府県別1人当たり医療費は、病床数が全国最多の高知県は病床数最少の神奈川県の3倍」「③1人当たりの医療費は人口当たりの病床数と関係が強く、供給が需要を作り出しており、病床数が危機時の力を左右するとは限らない」「④神奈川県はコロナ患者を症状ごとに重点医療機関やホテル療養で柔軟に対応する神奈川モデルを導入して、病床数最少でも県主導で効率的な体制を作り、その手法は全国に広がった」と記載している。

 医療制度改革は、①のように、団塊の世代が75歳以上になって医療費が急膨張するのを止めるという財政的見地のみで主張する人が多く、これが重大な問題を引き起こしている。何故なら、75歳以上になった人が医療のお世話になる機会が増えるのは当然であり、医療費が増えるのも当たり前であるため、これを抑えれば日本国憲法第25条「1項:すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。2項:国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」に反するからである。

 また、②については、高知県と神奈川県は人口の年齢構成が異なるため、高知県の方が病床数が多く、医療費が高くなるのは理解できる。その年齢構成の違い以上に高知県の病床数が多いとすれば、介護制度が整っていないため高齢者を社会的入院させ、Quality of Life(生活の質、以下QOL)の低い生活を強いている状態ではないかと思われ、このままなら、その状態は次第に全国に広がるだろう。

 さらに、③は、「医療従事者が儲けのために病床数を増やして不要な供給を作り出し、危機時には役立たない」と言っているのだが、慢性期の高齢者が多く入院している病床を感染症病床に併用することはできないため、急性期の感染症に対応できる病院を効率化と称して減らした政策ミスが問題なので、それを医療従事者の強欲のせいとして責任転嫁することは許されない。

 なお、④の神奈川県の対応は、重点医療機関ですべてのコロナ患者を最後までケアできる医療体制になっていなかったため、移動制限によって空室が増えたホテルを療養病棟のように使ったもので、それが全国に広がったのは同じ理由からだ。しかし、数週間程度の療養期間しかない患者のケアを症状毎に異なる病院で行えば、転院先の病院では患者の病態を把握しにくく、短期間で転院させられる患者も落ち着いて療養できない。

 その上、*4-1-1は、「⑤日本の千人あたり病床数は先進国最高水準で英国・米国の約5倍だが、感染爆発時は小さな医療機関を中心にコロナ患者をたらい回しにし、医療供給体制に無駄のあることがコロナで浮き彫りになった」「⑥自民党財政再建推進本部小委員会は、地域に応じた医療体制構築と医療費適正化の計画作りで都道府県のガバナンス強化を求めたが、都道府県は民間病院に病床機能の転換を促すことをためらっている」「⑦現行制度で医療体制整備の権限は都道府県にあり、国は都道府県毎に『地域医療構想』を作るよう求めて過剰な急性期病床の削減等を進め在宅医療への転換を促してきた」「⑧全国知事会は医療提供体制の議論について、地域医療の混乱を理由にコロナ収束後に先送りしたい意向」「⑨医療行政は責任を負いたくない地方自治体と、本音では権限を失いたくない厚労省の利害がもつれあう」と記載している。

 ⑤の「日本の千人あたり病床数は先進国最高水準で英国・米国の約5倍」というのは間違っていないが、日本の病床数の内訳は精神科病床や慢性期病床が多いため、感染症に対応できる病院か否かを正確に把握しなければ比較しても意味がない。また、小さな医療機関が感染症患者を受け入れるのは、院内感染のリスクから困難であるため、総合的な医療計画が妥当であったか否かを検証すべきなのだ。

 さらに、⑥⑦のように、政治・行政は、地域に応じた医療体制構築と医療費適正化と称して都道府県に民間病院への病床機能転換を促し、急性期病床の削減を進めて在宅医療への転換を促してきたが、民間病院は収支の合わない診療科に長期に医療資源を割くことはできない上、急性期病床で対応すべき病気を在宅医療で対応することも不可能であるため、*4-1-3のように、感染症の中等症・重症には公的病院や大規模基幹病院の役割が大きかったのである。

 そのため、⑧のように、全国知事会が医療提供体制の議論を先送りしたのは正解で、これを⑨のように、利害関係のみに結び付けるのは質の悪い議論だ。

ロ)日本の医療の弱点は、コロナで浮き彫りになったのか?
 日経新聞は、*4-1-2で「①感染者を受け入れる病床が足りなくなる事態を医療崩壊と呼ぶなら、日本では2020年9月13日時点で医療崩壊は起きていない」「②OECDの調査で、人口千人当たり病床数は日本が13.1と突出して多く、OECD加盟国平均の4.7を大きく上回る」「③その病床は、一般病床・療養病床・感染症病床・結核病床・精神病床のうち感染症病床は1886で、152万を超える病床全体に占める割合は0.1%程度」「④厚労省は緊急時には感染症病床以外の病床に入院が可能との見解を示したが、それでも病床数に入院者数が近づいている地方がある」「⑤厚労省は地域医療構想の下で、病床数を削減する方向を打ち出していたが、コロナ対応で病床不足が問題となった」「⑥慶応大学の土居教授は『地域医療構想で打ち出したのは一般病床と療養病床の再編で、新型コロナの病床不足は、病床が足りないのではなく機能分化と連携が進んでいなかったことが問題』と強調」「⑦みずほ情報総研の村井チーフコンサルタントは『病床をとにかく増やすというのは現実的でなく、どんな機能の病床を増やすのかを明確にすることが必要で、これは地域医療構想の考え方とも一致する』と述べた」と記載している。

 2021年5月10日現在では、①の感染者を受け入れる病床が足りなくなる医療崩壊が大阪府で起こっているそうだが、検疫はザルである上に、他県との医療における広域連携ができていないため、やはり人災だ。②③については、イ)で述べたとおり、病床数ではなく全体を総合的に考えて、地域に少なくとも1つは頼れる基幹病院を持っておく必要があるということだ。④の緊急時に感染症病床以外の病床に感染症患者を受け入れるのは、今回は仕方がなかったとしても、今後は感染症も軽視しないゆとりある医療計画を立てておくべきである。

 ⑤については、医療費削減目的ありきのケチな医療制度改革が、経済を止めて大出費を招いた事例であり、⑥の土居教授の発言は言い訳がましいが、⑦の村井チーフコンサルタントの「どんな機能の病床を増やすかを明確にする医療計画が必要」というのは、そこまで考えた地域医療計画を立てなければならないという意味で正しい。

ハ)本当に必要な医療体制は何か?



(図の説明:日本における新型コロナによる死者数は、左図のように、欧米の1/50~1/100だが、医療崩壊・医療崩壊と騒がれている。一方、世界の専門医の平均年収を比較すると、日本は欧米の1/2~1/3であり、先進国の中では著しく低い。さらに、右図のように、米国の専門医は診療科で年収が2倍以上の開きがあり、3Kで重労働になりやすいため人材が集まりにくいと思われる科ほど高給となっており、これは合理的だと思う)

 結論から言って、どの地域にも当てはまる最適解はないが、日本国憲法第25条の「1項:すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。2項:国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」という規定は、国民のために護られなければならない。

 具体的には、どの地域に住んでいても、人種・年齢・性別・社会的身分等にかかわらず、必要な場合は最新の医療を受けられ、平時も気軽に受診でき、健康管理しやすい医療・介護システムが必要で、これは国や地方自治体が普段から心がけて作っておくべきインフラの一つである。

 また、日本国憲法は14条で、「すべて国民は法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において差別されない」と規定しており、ここに年齢による差別が記載されていないのは、憲法制定当時は当然のこととして高齢者を大切にしていたため、わざわざ書く必要がなかったからである。

 このような中、*4-1-3は「①日本の医療機関は自由開業制で、政府・都道府県は民間病院に患者の受け入れを命令する権限はない」「②税金で医療を運営する国には、感染症等の緊急時に医療機関や医療従事者を国や地方政府が動員する仕組みもあるので、社会保険方式の日本も医療機関や医師には医療体制を確保する責務がある」「③菅首相は緊急事態の際の病床確保に関する特別措置が必要とした」「④非常時に医療機関の経営の自由を制限し、強制力を持って医療機関に病床を確保させることができる仕組みを早急に整えるべき」としている。

 この①②③④をまとめると、「非常時(緊急事態)には、医療機関の経営の自由を制限して病床を確保させることができるよう、政府や都道府県が民間病院に患者の受け入れを命令する権限を有するようにすべきで、その根拠は医療は社会保険方式だから」ということだが、これまで述べてきたように、政府や一部都道府県は自らの不作為や失政によって生じた事態を「緊急事態だ」「非常時だ」「変異種だ」と主張しているのであり、新型コロナ以外の病気は眼中にない状況であるため、政治・行政に強い強制力を持たせれば状況が改善するとは思えない。

 それどころか、政府や都道府県が民間医療機関の経営の自由度を下げて医療機関への強制を増やせば、短期的には通常の医療に弊害を及ぼし、長期的には医師の志望者が減って優秀な人材を医療に送り込めなくなることにより、むしろ国民の命を危険に晒しそうである。

 また、*4-1-3は「⑤小規模医療の源流は1961年の国民皆保険制度の創設で公的病院に病床規制が導入され、診療所の一部が規模拡大して入院機能を持つ病院に衣替えした」「⑥民間開業医を中心とする医療体制はこうして形成され、経営の自由が確保された病院が増加の一途をたどった」「⑦世界一とされる医療へのアクセスの良さは日本が誇る長寿社会を実現する大きな支えになったが、非常事態に対応できない致命的な欠陥が露呈したので、改革をためらうべきではない」「⑧医療機関の徹底した役割分担の必要性はコロナ前から指摘されており、軽い病気なのに大病院で受診する人が多く、患者に追われて数十時間も寝ずに手術をする外科医がいる一方、急性期病床を名乗りながら重篤ではない患者で病床を埋める病院がある」「⑨これでは医療人材の確保が年々難しくなる今後の人口減少社会で医療の質を維持できないため、改革は喫緊の課題だ」とも記載している。

 このうち⑤については、普段は収支の合わない診療科や病床を持つには公的病院が最適であるため、数合わせで公的病院の病床規制を行ったのは失敗だった。⑥については、経営の自由度が大きい民間病院の方が、最新の医療設備や快適な闘病空間を備えていることも多いため、診療所の一部が規模拡大して入院機能を持つ病院になったのも時代の流れとして必要だった。⑦については、「緊急」「非常事態」とさえ言えば何でもありではなく、その定義を限定すべきであり、本当に非常事態なら公的病院だけでなく自衛隊病院を使うのも選択肢の一つである。

 ⑧の医療機関の徹底した役割分担については、軽い病気か重い病気かを患者が判定することはできないため、まず大病院でしっかり検査して病名を明らかにしてから、その後の対応を決めるべきである。そのため、「紹介状のない人は大病院で受診するな」とか「37.5°C以上の熱が4日以上続かなければ病院には行くな」等の誤った強制が多く、PCR検査までケチったことが問題なのであり、これは、政府が⑦の医療へのアクセスを阻害した重大な事例である。

 なお、⑧の「患者に追われて数十時間も寝ずに手術をする外科医がいる」というのは、技術・設備・スタッフ等の揃った病院で手術するのが合理的だからで、そういう病院の医師はじめスタッフ不足の方が問題なのだ。また、⑨の「医療人材確保が年々難しくなり、今後の医療の質を維持できない」というのは、政府や都道府県が医療スタッフに不合理な強制や負担を押しつけず、医師などの医療スタッフの年収を先進国並みに引き上げ、女性差別をやめて働く人の母集団を2倍にすれば、解決すると思う。

 また、*4-1-4の家庭医は、*4-1-3で悪いかのように書いた民間開業医が主として担うため、病床を持たない民間開業医も一定数は必要で、初期診療や慢性期対応を任せられることが重要なのである。家庭医がおり、介護体制が充実していれば、自宅療養をしやすくなるため、QOLを下げてまで社会的入院をする必要はなくなる。

 しかし、病院の機能を低下させ、介護制度を充実するどころかその逆にしてきたため、「世界に冠たる国民皆保険は幻想にすぎず」「介護制度も未だに充実していない」ということとなった。また、薬やワクチンの開発にも行政のネックが浮き彫りになった。

 そのため、私は、総合診療を担える家庭医がいることには賛成だが、医療の主役である患者第一を貫けば、どの病院・診療所にもかかれる「フリーアクセス」の原則は保つべきであり、総合診療を担える家庭医の実力が認められれば、強制しなくてもその重要性は自然と高まると思う。日本の行政は、財政削減と効率性だけを求めて、国民の権利を制限し、強制しさえすればうまくいくなどと考えているため、かつての共産主義の失敗と同じことを繰り返し、「世界に冠たる」という名を返上する結果となってしまったのだ。

二)ザルになっている検疫と厚労省の言い訳について
 日本の水際対策について、*4-1-5のように、自民党の佐藤外交部会長が政府の対策の甘さを指摘し、自民党外交部会が入国者の管理を強化するよう政府に要求したところ、田村厚労相は「①憲法の制約上、移動の自由がある」「②我が国は私権の制限に対しての法律がないため、強制するのは難しい」と述べ、「③厚労省は、過去にハンセン病患者を強制隔離し批判を浴びた歴史がある」としている。

 しかし、①②については、日本国憲法22条は「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」と定めており、ワクチン接種証明や陰性証明を持たない人に対する原則14日間のホテル待機が本人に与えるディメリットは、「公共の福祉」のメリットと比較して著しく小さいため、憲法違反にならない。

 また、③のハンセン病患者の強制隔離は、1947年に特効薬ができて「公共の福祉」のメリットがなくなった後まで続き、それから約50年後の1996年にやっと「らい予防法」が廃止されたが、それまで無意味にハンセン病患者に対して人権侵害や家族まで含む差別を続けて人生を台無しにしてきたので、深刻さの質が全く異なる。にもかかわらず、厚労省がこの事例を引き合いに出すとすれば、その違いもわからないほどの馬鹿でなければ意図的であり、こういうことをする人は厚生労働担当にふさわしくないと言わざるを得ない。

2)介護制度について
 *4-1-4には、「①高齢コロナ患者が回復期も病院にとどまり、医療職が介護を提供する例がみられる」「②都道府県が域内の医療機関に、コロナ患者の重症度に応じて機能分担・連携してもらうのは難しいので、医療の公定価格である診療報酬の一定範囲を県独自に設定できるようにすれば、病床誘導がしやすく医療費抑制への動機づけになる」「③地域ごとに医療機関と介護施設が円滑な連携策を探ってほしい」とも書かれている。

 しかし、①③については、脳卒中等の患者が急性期を終えて慢性期に入った時に自宅療養するのに介護は不可欠だが、感染症は慢性疾患ではない上、患者を自宅に帰せば家族に感染する。その上、介護士は感染症防護を徹底しているわけではないため、介護士や介護用器具から感染する可能性もあり、介護を通じて別の患者に感染する可能性が高くなる。さらに、感染症は比較的短期間で治癒するため、重症度に応じて病室を変更することはあっても同じ病院で完治するまで治療するのが、患者の安心感に繋がる。

 このように慢性疾患と感染症の違いすら理解していない人が、②のように、医療の診療報酬に踏み込んで変な病床誘導を推進し医療費抑制に繋げようとすることが、感染拡大を助長してより大きな惨事を引き起こしていることを忘れてはならない。まさか、「高齢者はコロナで早く死んでもらった方が、年金給付や医療・介護サービスが不要になって助かる」などと思っているのではないだろうが、仮にそうだとすれば日本国憲法25条違反だ。

 このような中、*4-2-1に、「④介護保険料が4月から改定され、65歳以上の高齢者が支払う介護保険料は、2000年の介護保険制度開始時の2倍の月額6,000円程度になる」「⑤年金で暮らす高齢者の負担は限界に近づいた」「⑥介護保険サービスの費用は、利用者が払う自己負担分を除いて加入者の保険料と税から半分ずつ賄う」「⑦介護保険料は40~64歳については毎年改定され、加入する公的医療保険を通じて納付する」「⑧65歳以上の保険料は市区町村や広域連合毎に3年に1度見直され公的年金からの天引きが原則」と書かれている。

 この④⑤⑥⑦⑧は事実だが、介護保険制度創設に尽力した私は、年金生活の高齢者に集中して重い介護保険料負担を課している点で全く不本意だ。また、65歳以上の人は、要介護状態や要支援状態である場合はすべて介護保険適用の対象となるのに、40~64歳の人は、受けられる介護サービスに「老化に起因する指定の16疾病で介護認定を受けた場合に限る」という限定があるのも非科学的で不合理だと思っている。

 さらに、「⑨高齢化で介護が必要なお年寄りが増え、人手不足の介護職員の処遇改善のために、介護報酬が4月から全体で0.7%引き上げられた」「⑩保険料アップに繋がったが、公的年金給付額は賃金水準下落を受けて4月分から0.1%引き下げられた」「⑪保険料は高齢化率や要介護認定率が高い自治体ほど高く、大阪市は8,094円まで上がった」「⑫このままでは高齢者の生活費が圧迫され、介護サービス利用時の原則1割負担が払えず、介護保険に加入しながら利用できない」というのも事実だが、このうち⑩⑪⑫は、明らかに邪魔者ででもあるかのように高齢者いじめをしており、憲法25条違反だ。

 また、⑨については、介護保険制度はサービスの担い手の仕事を確保するために作った制度ではなく、介護サービスを受けるべきユーザーのために作った制度であるため、日本人の潜在看護師や看護師資格を持つ外国人労働者など比較的安価で介護に志を持つ質の高い労働力の導入を検討したり、車椅子などの介護用品に高すぎる価格をつけたり不要な人に支給したりしていないかなど、支出の妥当性も検証すべきだ。

 最後に、「⑬日本の高齢化は2040年頃にピークを迎え、そこに向けて介護人材を確保してサービスを充実させることは避けて通れない」「⑭それを抜本改革抜きに実現しようとすれば、財源捻出のため保険料は天井知らずになり『介護を社会全体で担う』という介護保険制度の理念は破綻しかねない」「⑮介護保険料は40歳以上が支払っているが、支え手を増やすために20歳以上に広げる案も検討せざるを得ない」というのも事実だ。

 しかし、私は、介護サービスの提供に関する負担と給付の不公平是正のため、働く人すべてが介護保険制度に加入して保険料を引き下げ、出産・療養などの老化に起因しない介護ニーズにも応えられるよう単純明快にするのが第一だと考える。介護サービスが充実すれば自宅療養しやすくなるため、社会的入院の必要性が低くなって医療費は下がるだろう。

 なお、*4-2-2は、「⑯一定の収入がある75歳以上の医療費窓口負担を1割から2割に引き上げる医療制度改革関連法案が衆院厚生労働委員会の賛成多数で可決し」「⑰単身なら年金を含み年収200万円以上、夫婦世帯なら合計年収320万円以上の収入ある高齢者を2割負担として現役世代の負担増を抑える」としているが、年収限度が著しく低いため、月額医療費に上限を設けることが必要不可欠だ。この時、どうせ戻ってくる医療費なら、窓口負担は避けた方がよい。

(5)日本は、本当に領土・領海・排他的経済水域を保全する意志があるのか?


       朝日新聞                       海上保安庁

(図の説明:尖閣諸島に対する日中の領有権の主張は左図のようになっている。また、尖閣諸島は、中央の図のように、日本の石垣島と台湾からともに170kmの距離にあるが、李登輝総統は「尖閣諸島が台湾領だったことはない」と言っておられた。そして、中国が尖閣諸島の領有権を主張し始めたのは、右図のように、排他的経済水域境界付近の海底で原油が発見されて以降のことであるため、中国の方に恣意性があるだろう)

   
    ameblo            canpan            goo

(図の説明:日本は四方を海に囲まれた島国であるため、左図のように、排他的経済水域が世界で6番目に広い。さらに、中央の図のように、日中中間線付近に石油・ガス田があり、そのほかレアアース・コバルトリッチクラフト・メタンハイドレート等も多く埋蔵されているため、現在では「資源のない国」ではなく、単なる「掘る気のない国」になっている。さらに、右図のように、メタンハイドレートは領海内にも多く存在し、交通機関に使わなくても化学製品の原料として使えるため、今後は資源を買う国ではなく資源を売って税外収入を得る国になるべきだ)

 中国全人代が、2021年4月29日、「①海上交通安全法を改正して外国船が領海に入った場合は中国の判断で退去を命じたり罰金を科したりできるようにし」「②中国は尖閣を『固有の領土』と主張しており」「③海警局に武器使用を認めた海警法も2021年2月に施行していたため」「④尖閣周辺で操業する日本漁船にとってはさらなる脅威となり」「⑤領海や接続水域より広い『管轄海域』で中国の実効支配が進む懸念がある」と*5-1に書かれている。

 これに対し、日本政府は、前から「⑥尖閣に領土問題はない」「⑦一方的な現状変更に反対する」「⑧自由で開かれたインド太平洋の航行の自由」という対応をしてきたため、現状に意義はないから変更せずに誰でも自由に航行できるようにしようと主張して中国の行動を容認していることになる。これが世界の率直な受け取り方であり、メディアでよく言っている「大人の対応」というよりは、不作為に近い対応だ。

 また、*5-2のように、中国が2021年4月に空母を沖縄本島・宮古島間の海域に航行させ、尖閣諸島周辺で中国海警局の船が領海侵入を繰り返している中で、同年4月の日米首脳会談を受けて、4月30日に日米制服組トップ会談が行われ、台湾海峡の平和と安定の重要性を確認し、日本と米国は共同で抑止力と対処力を強化すると申し合わせたそうだ。

 日本は米国と日米安全保障条約5条に基づく「米国の揺るぎないコミットメント」を再確認し、多国間協力を進めていく方針でも合意して、これに基づいて英国は空母「クイーン・エリザベス」を日本に派遣すると決め、フランスも日米と離島防衛訓練を実施するそうだが、尖閣諸島の領有権と中国海警局の船の領海侵入については、どう話し合われたのだろうか?

 しかし、このような時に、「米中対立に巻き込まれないよう・・」「中国とは経済で切っても切れないから・・」と言ったり、聞く方がくだらないような同盟国首長の批判のための批判をしたりしているのは、どこの国のためにこういうことをしているのかを忘れているようで、日本のメディアに眉をひそめさせられた。

 また、台湾の独立性について無関心で「寄らば大樹の陰」を決め込んでいるのも、節操がない上に日本国憲法前文の中の「いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は普遍的なものであり、この法則に従うことは自国の主権を維持し他国と対等関係に立とうとする各国の責務であると信ずる。日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓う(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=321CONSTITUTION 日本国憲法 参照)」に反している。

(6)知識と判断力を得られる教育にするには・・

 

(図の説明:左図のように、英国は、4歳から初等教育を始め、15歳までの11年間が義務教育である。日本は、右図のように、3歳時点で90%近くが幼稚園か保育園に通っており、せっかく預かるのならいろいろ教えた方がよいし、教育格差はこの時代から始まっているため、3歳から義務教育を始めてはどうかというのが、私の意見だ)

 

(図の説明:左図のように、高校進学率は全世帯では既に99%に達しているが、生活保護世帯は93%であり、大学進学率はさらに大きな差があるため、保護者の所得格差は次世代の教育に影響している。また、関東以北では公立高校でも男女別学の地域があり、中央の図のように、私立進学校は多くが男女別学であるため、ジェンダーは初等教育から始まっている。国立大学では文理融合型の学部ができているが、大学教養程度の基礎知識は、文系・理系を問わずすべての人が持っていた方がよいと思われる)

 日本では、*6-2のように、「課題解決力」を育成するとして文系・理系の枠組みを超えた文理融合型学部の創設が国立大学で広がり、高校で文系のクラスにいた東京都内私立高校の女子生徒が「文理融合型」の学部に勧められたそうだ。しかし、率直に言って文系・理系のどちらに進むか決めかねている場合は、理系クラスにいなければ理系には進めない。

 その理由は、日本の高校では、理系クラスは数IIIまで教えるが、文系クラスは数IIまでしか教えないため、文系クラスから大学の理系学部に進学するのは困難だからで、逆に理系クラスが文系に比べて文系科目の勉強量が少ないわけではないため、理系クラスからは大学のどの学部に進学することも可能だからである。

 しかし、東京周辺やそれより北の地域は、公立高校でも未だ男女別学で、女子高には理系コースのないところもあるそうで、さらに、私立の進学校は男女別学ばかりと言っても過言ではないため、ジェンダーは初等・中等教育から始まっているのである。

 なお、九大が文理融合型の「共創学部」を設けたのは、異なる視点や学問的知見を持つ人が連携して新たなものを創造する課題解決力の獲得をめざすことが目的だそうだが、これは現在の初等・中等教育を前提として大学内でできることをしたのだろう。私は、大学の教養くらいまでの基礎知識は、共通言語として理系・文系にかかわらず誰でも身に着けておくことが必要で、そうでなければ仕事等で他の専門分野の人と話をした時に、お互いの話を理解して次のアクションに結び付けることができないと思う。

 それでは、大学の教養くらいまでの知識を、現在は95%の人が進学している高校の卒業時までに習得させる方法があるかと言えば、幼稚園と小中高の就学年齢を3年前倒しすればできる。

 *6-1の私立玉川学園のケースでは、秋入学を導入して小学校教育の開始を半年繰り上げ、高校まで学ぶ「初等中等一貫教育学校」を作り、幼稚園年長児(5歳)の9月から小1の学習を始めて翌年6月で1学年を修了することを構想しており、こうすると、高校までの教育課程全体を半年前倒しして、海外の大学に進学したり、ゆとりを持って国内の大学に進学したりできる。

 しかし、諸外国には、4~5歳児から小学校に就学させる国も少なくないため、学校教育法の義務教育開始時期を「満6歳に達した日の翌日以降の最初の学年の初め」ではなく、「(今では90%以上の子が幼稚園か保育園に通う)満3歳に達した日の翌日以降の最初の学年の初め」に変更して小学校教育を始め、義務養育期間を12年か15年に伸ばせばよいと、私は思う。

 何故なら、義務教育期間を中学校までとすれば3年伸びて12年となり、高校までとすれば15年となって、現在の大学の教養くらいの知識までを、高校でゆとりを持って教えることができ、大学教育はもっと専門性の高いものにできるからだ。そして、中等学校以上は、義務教育であっても受験して、合格すればその学校に入学できる制度にすればよいだろう。

・・参考資料・・
<改憲の危険性>
*1-1:https://digital.asahi.com/articles/ASP535S6SP53UTFK009.html (朝日新聞 2021年5月3日) 緊急事態条項や「改憲4項目」実現を 首相がメッセージ
 菅義偉首相は憲法記念日の3日、改憲派の集会に自民党総裁としてビデオメッセージを寄せた。新型コロナウイルスの感染拡大に触れ、大災害などの時に内閣が国民の権利を一時的に制限する「緊急事態条項」に関し、「極めて重く大切な課題」と語った。その上で、同条項や、憲法9条への自衛隊明記を含む自民党「改憲4項目」の実現をめざす考えを示した。この集会には安倍晋三氏も首相当時にメッセージを寄せており、菅首相も同じ形をとった。首相は「現行憲法も制定から70年余り経過し、時代にそぐわない部分、不足している部分は改正していくべきではないか」と述べた。続けて「新型コロナ対応で緊急事態への備えに関心が高まっている」とし、「大地震等の緊急時に国民の命と安全を守るため、国家や国民がどのような役割を果たすか、憲法にどう位置づけるかは極めて重く、大切な課題だ」と訴えた。さらに「自衛隊は大規模災害や新型コロナへの対応で国民の多くから感謝されているが、自衛隊を違憲とする声がある」とも主張。その上で、自民党が掲げる「自衛隊明記」「緊急事態条項創設」「参院選の合区解消」「教育無償化」の「改憲4項目」について、「自民党は、(国会の)憲法審査会で活発に議論を行っていただくため、憲法改正のたたき台を取りまとめている」と強調した。また、与党が6日にも衆院憲法審査会で採決をめざす、憲法改正の手続き法である国民投票法改正案に関し、「憲法改正議論を進める最初の一歩として、成立を目指さなければならない」と意欲を示した。菅首相は改憲について、昨年9月の就任以来、国会演説やメディアのインタビューなどで、国会での議論への期待を述べるにとどめてきた。「先頭に立って責任を果たしていく」と訴えた安倍氏に比べ、改憲への意欲は低いとされる。先月の訪米時にも、米誌ニューズウィークのインタビューで、首相は「(改憲は)現状では非常に難しいと認めなければならない」と話している。ただ、今秋までに衆院選や自民党総裁選が予定されることから、自民党の支持基盤である保守層に向けてアピールする狙いがあるとみられる。一方、立憲民主党の枝野幸男代表は3日、護憲派の市民団体が開いたイベントにオンラインで参加。コロナ対策を理由に「緊急事態条項」創設のための改憲を自民党などが訴えている点について、「公共の福祉にかなう私権制限は現行憲法でも許されている」とした上で、「必要な対策が打てていないのは、根拠なく楽観論に基づき、命や暮らしを守ることを最優先しない政策判断にある。まったく関係ない憲法のせいにしている」と批判した。ただ、枝野氏は、国民投票法改正案については触れなかった。同じイベントに参加した、共産党の志位和夫委員長は同法案について「憲法改定に向けた地ならしが狙いだ。採決を断固として止めよう」と訴えた。

*1-2:https://www.sankei.com/politics/news/210503/plt2105030026-n1.html (産経新聞 2021.5.3) 改憲派集会に参加した与野党幹部・有識者らの主な発言
 3日にオンライン形式で行われた憲法改正を訴える公開憲法フォーラム「この憲法で国家の危機を乗り越えられるのか!-感染症・大地震・尖閣-」(民間憲法臨調、美しい日本の憲法をつくる国民の会共催)では、与野党幹部や有識者らが講演などを行った。主な発言は次の通り。
■自民党・下村博文政調会長
 南海トラフ巨大地震のような大災害がこれから30年以内に70~80%の確率で発生する。そのときに感染症などがもし重なっていたとしたらこの国はどうなるのか。そのときの対応として世界では常識の緊急事態条項を入れなければならない。
■日本維新の会・足立康史氏
 憲法改正の中身の議論を進めるためにも、国民投票法改正案についてはただちに採決し、速やかに可決・成立を図るべきだ。立憲民主党が改正案に対する修正案を提示してきた。付則に3年の期限を切り、CM規制や資金規正に関する検討規定を設けるというもので、常識的な範囲だが、立民や共産党に常識は通用しない。3年間は手続きに関する議論を優先し、憲法改正を拒むカードにさえしかねないと危惧している。
■国民民主党・山尾志桜里氏
 (国の交戦権を否定した)憲法9条にしっかり自衛権を位置付け、それを戦力であることをきちんと認めた上で、国民の意志で枠づけをしていくことをこれからも皆さんの知恵を借りながら訴えたい。国家が危機を乗り越えるために必要不可欠な力を、憲法で無視し続けることでその力を抑制しようというのは、日本の「法の支配」にとっては有害だ。
■日本経団連・井上隆常務理事
 緊急事態条項を持たない憲法は世界でもまれだ。「オールハザード型」の危機対応にはなっていないことは気がかりで、複合型の災害や国家の危機を乗り越えられるのか、法治国家としての制度的な備えは十分なのか、今こそ再考する必要がある。わが国最高法規である憲法も社会の変化や時代に即し、国民的な議論が行われることは当然であり、決して不磨の大典ではない。国民一人一人が議論をし、次の世代に引き継いでいく作業が必要だ。
■日本青年会議所・佐藤友哉副会頭
 今の憲法には住民自治を明確に示す言葉がない。新型コロナウイルス禍では感染対策は地域によってさまざまだ。地域の実情にあった対策が打てるように国と自治体の権限のあり方を考えるべきだ。これからの地域発展を考える上でも、地方自治に関する憲法のあり方が今後大いに議論されることを心から期待する。
■国士舘大・百地章特任教授
 国家的な緊急時においても、国会の機能を維持し、国民の生活を守る必要がある。例えば、感染症の拡大によって全国から国会議員が集まれず、定足数が満たせない場合、どうするのか。来週に国会で感染症が発生し、定足数を満たせなかったら、すぐに起きる問題だ。国会の機能を維持するためにも憲法に根拠規定を置く必要がある。

*1-3:https://digital.asahi.com/articles/ASP515JTYP4XUPQJ008.html?iref=comtop_7_01 (朝日新聞 2021年5月3日) 制限と補償の前に、問いたい法解釈と統治 木村草太さん
 いま、日本の統治機構の憲法原則が脅かされている――。憲法学者の木村草太さん(東京都立大学教授)は言う。長引くコロナ禍で、移動や営業の自由が制限される生活が続き、十分な補償がない「制約」には、反発の声が繰り返し上がる。そんななか、統治のあり方にこそ、日本社会の危機の本質がある、という指摘だ。どういう意味なのかを聞いた。
●必要なのは正しい解釈に基づく検討
――東京や大阪、京都、兵庫で緊急事態宣言が出されています。「感染拡大を抑えるため」「人の流れを止めるため」という理由です。結果、移動や営業の自由に制約がかかっている。そもそもこの状況は、日本国憲法が保障する自由の侵害には当たらないのでしょうか。
 「結論からいうと、二つの条件が満たされれば、私権の制限は可能です。①規制の目的が自由の制限を正当化できるほど重要で、②規制の方法が合理的かつ、必要不可欠であれば、法律に根拠のある規制は合憲とされます。コロナ禍に当てはめれば、毒性の強い感染症のまん延を防ぐという『目的』の重要度は高い。感染症の専門家が合理的で必要だと考え、かつ法律に即した『手段』であれば、自由の制約は正当化され得るということになります。日本に限らず、欧米など立憲的憲法を持つ国々では、このような論理でコロナ禍における自由の制約がなされてきました」
――意外にハードルが低いように聞こえます。
 「いや、違います。むしろ『感染症対策なのだから、どんな制約でも我慢しろ』という論理は通用しないことを意味しています。その感染症を抑制することが社会にとってどれほどの重要性を持つのか、そして制約の内容、すなわち手段が科学的・法的根拠に照らして適切なのかという視点が重要です。そして法的根拠も伴わなければなりません。米国では、制約の度合いが適切な範囲を超えているから違憲だ、という判決も出ています」
――「やりすぎ」はいけない、ということですね。
 「感染症の拡大を止めるという目的に対して、その対策は役に立っているといえるのか。もっと緩やかな制約で効果的なものはないのか。こうした細やかな検討が不可欠です。具体的にいえば、人が集まってもほとんど会話しない映画館や、個人が黙々と打つパチンコ店の営業を制約する必要があるのか。営業自粛を要請するとして、それに従わない場合の罰則はどの程度にするのか」
●ユカちゃん店主、首相答弁に衝撃 コロナ禍の自由とは?
 「言い換えれば、自由を制約する政策には、こうした法律の正しい解釈に基づいた細かな検討こそが必要です。ですが、この1年以上にわたるコロナ禍でこうした意識が今の政府には決定的に欠けていることが明らかになりました」「自由と補償をめぐる議論が繰り返されてきましたが、憲法上の問題という意味では、法の支配や政府の国民への説明責任といった、日本の統治機構の憲法原則が危機にさらされていることがより深刻だと考えています」
[記事後半で木村さんは、コロナ対策に関する国の目標設定のあいまいさや、不十分な説明について論じます。そのうえで、近年の政権の憲法や法解釈に対する向き合い方についても鋭い指摘をします。]
●目標ないまま場当たり規制
――どういうことですか。
 「まず、先ほど示した条件の一つ目、『規制の目的』について考えてみましょう。政府は、これを具体的に設定できていないし、国民に十分な説明もしていない。今回のウイルスをどの程度封じ込めるべきかという問題です。例えば、完全な『ゼロコロナ』を目標にするなら、行動抑制は広範で強いものになります。一方、1日千人くらいの陽性者は許容するということにするなら抑制の程度は弱まります」「感染拡大から1年以上が経った現在も、目的・目標を明確に示せずにいる。これがないと、第2の条件に当たる規制の正当性は評価できません。規制の方法が合理的かつ必要不可欠かは、目標によります。それがなければ国民からすれば場当たり的にしか映らない規制がまかり通ることになります」
――他国も感染は拡大しました。
 「もちろん日本と同じように当初混乱しました。ただヨーロッパの多くの国では、感染者数・死者数の規模が大きかった。そのため、コロナの毒性への評価や恐怖について、社会的に合意形成がしやすかった。日本では、人によってウイルスの毒性に対する評価が違うので、必要だと考える規制の範囲や強度にも食い違いが顕著に生じたように見えます。新型コロナウイルスは、より致死性の高いエボラ出血熱などと比較すると、社会的な意思決定がしにくい特徴を持っているともいえます。しかしここは、政治が率先してリーダーシップを取るべきでした」
――「営業自粛を求めるならば、その分の補償を」という議論が繰り返されてきました。十分な額とはいくらかという議論はあるとしても、一部の業種にだけ制約が偏るならば憲法14条が定める法の下の平等、あるいは29条の営業の自由の侵害にならないのですか。補償がない、あるいは十分ではない、というのは憲法違反と言えませんか。
 「それは難しい。憲法29条3項は『私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる』と定めていますが、公平性の観点からの議論です。つまり、ある人だけが不公平に財産権を制約されてはいけない。でも制約される人に理由があれば別なのです。例えば、食中毒を出した店への営業停止命令が出た際に、補償はされませんよね。その店に『内在するリスク』があるからです」「コロナ禍のスタート時点では、憲法の観点からすると、飲食店には社会を脅かすウイルスの感染を拡大させるリスクが内在するから補償はできない、という論理だった。ただ、私は今は状況が変わったと考えています」
――どういうことでしょう。
 「緊急対応を余儀なくされた当初と比較すれば、ウイルスについてわかってきた情報も多く、各飲食店もさまざまな対策を講じている。一方で、営業自粛要請は非常に長期間に及んでいる。感染症対策をしていようがいまいが一律に規制する手法が、『内在するリスク』への対応として正当なのかどうか、疑問が生まれます。映画館や書店に関しても同様です」
●揺らぐ立憲主義の根幹
――リスクの評価の基準はどうすれば?
 「このリスクの評価は、政府が掲げる目標との関係で決まります。コロナ・ゼロを目標にするならば、もちろん制約は広範囲に強く、そして長くなります。その場合は『3密』産業には業種転換支援を政策として打たないといけません。『人の流れを止めるため』という漠然とした理由で、ある業種だけが狙い撃ちになるのは正当化できません」
――政府が目標を設定し、説明責任を果たせていないのが問題だということですね。 「明確な目標を設定し、それを法令に明記して国民に説明し、理解を得ようとする。それをしないまま政策を打ち続けるということは、『法律による行政』を軽んじていることになる。立憲主義の根幹を揺るがしかねない問題です」「思い返すと、昨年2月に当時の安倍晋三首相が法的根拠もないまま、全国一斉休校宣言をしました。当時は新型コロナウイルスには新型インフルエンザ特別措置法は適用できませんでしたから、法の外からの『要請』でした」「翌月にはこの特措法を適用できるよう法改正をしました。少しテクニカルな話ですが、新型インフルエンザ対策であるこの法律では、市中感染が広がっている状況では、緊急事態宣言は継続する、となっていた。これだと新型コロナの場合、宣言は解除できない。ですがそうなりませんでした。そして昨年4月の緊急事態宣言の理由として、医療体制の崩壊が語られました。これも法律に書かれていない。何となく数字が下がってきたので解除し、増えると宣言を出す。一貫して法的根拠という視点が軽視されてきました」
――当初は想定されていなくて対応が遅れた、ということではありませんか。
 「今も変わっていないと思います。まん延防止等重点措置をめぐる混乱がその一例です。この措置とは、法律で定められた内容をみると、『医療崩壊寸前に行われる強力な措置』です。でも、『まん延防止』と表現してしまうと、一般的には医療崩壊寸前というより『まだまん延していない』というニュアンスで受け取られます」「官僚がこういう名称を提案してきても、政治家は、果たしてこの名称で、自分が日頃から付き合っている地元の支援者たちに法律の内容が伝わるだろうかと考えないといけない。政治家が政府と国民をつなぐ仕事ができていない。政治家が想像力を働かせて主張するべきところでしたが、機能しませんでした」
●問われる統治のあり方
――こうした事例から言えることは何でしょうか。
 「政府が法の解釈や整合性などを気にしなくなってしまったことのマイナス面がわかりやすく示されてしまった。コロナ禍によってと言うよりも、もう少し長いタイムスパンで起きてきました。2015年の安保法制時の憲法解釈の変更、そして最近では日本学術会議の問題でも従来の法解釈をないがしろにしてきた」「法文言の正しい解釈を尊重しながら、必要な目標設定をしてそれを国民に向けて説明する。こうした統治や民主主義の根幹を揺るがすことに慣れてしまっているように見える。国民の命や暮らしをおびやかす形で、露呈したのがコロナ禍といえます」
――行政に権力が集中していなかったから感染症対策で後手に回って、東京などでは3度の緊急事態宣言を出さないといけなくなった、ではなくて……。
 「その反対でしたね。法の支配や説明責任を軽んじてきたから、様々な法改正や宣言の意味を国民と共有できていない。権力があるだけでは、統治機構はきちんと機能しない。実際に法を超えて、権力行使して実現したのが、首相による『一斉休校』とマスクの配布だったことを思い出すと、いかに憲法に基づいた法の支配が重要かがわかります」「自由と補償の前提、統治のあり方の問題です。自由と補償の議論は重要なんですが、むしろそうした議論ばかりになってしまうと、それが今の危機を見失うごまかしの手段になってしまうことを懸念しています」(聞き手・高久潤)
     ◇
1980年生まれ。専門は憲法。著書に「憲法学者の思考法」「平等なき平等条項論」など。
 
*1-4:https://www.nichibenren.or.jp/document/statement/year/2021/210503.html (日本弁護士連合会会長 荒 中 2021年5月3日) 憲法記念日を迎えるに当たっての会長談話
 本日は、日本国憲法が施行されてから74年目の憲法記念日です。昨年から続く、新型コロナウイルスの感染拡大については、引き続き予断を許さない状況にあり、本年も新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言やまん延防止等重点措置(以下「緊急事態宣言等」といいます。)の下で憲法記念日を迎えることになりました。緊急事態宣言等の下で、市民や企業等には、外出・移動の自粛や休業・時短等が要請されている状況にあります。しかし、そのような感染拡大防止策を講ずる場合であっても、個人の権利は最大限尊重される必要があります。規制により生活が脅かされたり、事業活動が著しく制約されたりする場合には、速やかに適切な措置を講ずる必要があるとともに、その補償も課題となります。また、感染者やその家族、医療従事者等への偏見や差別は決して許されないことに留意する必要があります。加えて、ワクチン接種に伴い発生する様々な問題についても、きめ細やかに対応していく必要があります。報道によると、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、憲法を改正して緊急事態条項の新設を求める声も、与野党の一部にあるようです。しかしながら、感染拡大防止は市民の協力を得ての法律上の対応で十分可能です。憲法に緊急事態条項を新設することは、立法事実を欠くだけでなく、これにより個人の権利の侵害につながるおそれがあります。また、現在、衆議院の憲法審査会では、日本国憲法の改正手続に関する法律(以下「憲法改正手続法」といいます。)の一部を改正する法律案の審議が行われており、本年5月6日に開催予定の同審査会において採決される可能性も報道されています。当連合会の2018年6月27日付け「憲法改正手続法改正案の国会提出に当たり、憲法改正手続法の抜本的な改正を求める会長声明」で指摘しているとおり、現在審議されている改正法案で取り上げられている事項以外にも、テレビ・ラジオの有料意見広告規制や最低投票率制度等、検討や見直しを行うべき重要な課題があります。当連合会は、今後もこれらの重要な課題の検討や見直しを含む憲法改正手続法の抜本的な改正を求めていきます。さらに、昨年は、検察官の定年後勤務延長問題や日本学術会議会員の任命拒否問題が発生しましたが、当連合会は各問題について意見表明を重ね、憲法の基本原則を脅かすような問題があることを指摘しました。当連合会は、新型コロナウイルスの感染拡大という状況の下においても、立憲主義を堅持し、国民主権に基づく政治を実現することにより個人の人権を守る立場から、引き続き、人権擁護のための活動を積極的に行ってまいります。

<コロナのワクチン・検査・治療>
*2-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA2291I0S1A420C2000000/ (日経新聞 2021年4月22日) ワクチン、自治体要望に400万回分不足 GW後の供給分
 河野太郎規制改革相は22日の記者会見で、5月10日からの2週間で自治体に届ける高齢者向けの新型コロナウイルスのワクチンを巡り都道府県別の配分量を発表した。自治体の要望する量に供給が約400万回分足りないといい、河野氏は「申し訳ない」と陳謝した。政府は2週間で1万6千箱(約1900万回分)を配送する計画にしている。自治体に希望量を聞いたところ1万9571箱(約2300万回分)で、供給量を約400万回分超えた。そのため希望量に応じて傾斜配分し、供給量を決めた。東京都が2064箱(約240万回分)と最も多く、埼玉県1095箱(約130万回分)、大阪府1058箱(約120万回分)と続いた。河野氏は「最初だからまだ手元に在庫がなく、予約を取るときに若干の不安があるということも入った数字だと思う」と述べ、自治体が在庫分も含めて発注した可能性を指摘した。その後の供給については、各自治体の希望と接種実績を踏まえて決めていくという。65歳以上の高齢者向けワクチン接種は4月12日に始まった。当初は供給量が限られ、大型連休前後から米ファイザーからの輸入量が増加する。政府は6月末までに高齢者全員が2回分の接種を受けられる量を供給できるとしている。

*2-1-2:https://digital.asahi.com/articles/ASP546WW5P54ULFA009.html?iref=comtop_7_05 (朝日新聞 2021年5月4日) ファイザーワクチン、売上高2兆8千億円の見込み
 米製薬大手ファイザーは4日、今年の新型コロナウイルスワクチンの売上高が260億ドル(約2兆8千億円)になる見込みだと発表した。年内に供給する予定の16億回分の売上高にあたる。2月時点の予想(150億ドル)から大幅に増えており、今後契約数が増えればさらに金額が増えるという。ワクチンの売上高が上積みされ、会社全体の売上高は705億~725億ドルと、前年の419億ドルから大幅に増える見込みだ。4日発表した1~3月期決算で明らかにした。1~3月期のコロナワクチンの売上高は34・6億ドル(約3800億円)。会社全体の売上高は、前年同期比45%増の145・8億ドル、純利益も同45%増の48・7億ドルで、ともにワクチンの販売が大きく貢献した。ワクチンは、ファイザーとドイツのバイオ企業ビオンテックが共同で開発した。日本政府が契約しているモデルナも2月、今年のコロナワクチンの売上高が184億ドル(約2兆円)になる見込みだと明らかにしている。

*2-1-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14894139.html (朝日新聞 2021年5月5日) コロナ薬にアビガン、実現は 安倍前首相「承認めざす」発言、1年
 新型コロナウイルス治療薬の候補として、注目を集めた抗インフルエンザ薬「アビガン」について、安倍晋三・前首相が「今月中の承認をめざしたい」と異例の発言をして1年が経つ。承認申請はされたが継続審議となり、新たな臨床試験(治験)が始まった。この間に何がわかったのか。今後どうなるのか。
■申請→有効性「判断困難」→再治験
 アビガンは2014年、従来の薬が効かない新型インフルエンザ向けに承認された。細胞に入ったウイルスの増殖を抑える薬だ。製造元の富士フイルム富山化学が20年3月に新型コロナ向けの治験を始めた。有効性を示すデータがまだ出ていない昨年5月4日、安倍氏は会見で、「一般の企業治験とは違う形の承認の道もある」などと述べ、月内の承認をめざすとした。この直後に厚生労働省は、「治験データは後でも可」と早期承認が可能となる特例を設けた。だが患者が減り参加者が集まらず、治験と別の特定臨床研究では、統計的な有効性は示せなかった。同社は9月23日、治験の結果を発表。特例は使われず、10月16日に厚労省に製造販売の承認申請をした。12月21日、厚労省専門部会での審議は荒れた。審査を担う医薬品医療機器総合機構(PMDA)側は新型コロナへの有効性について、「現時点で明確に判断することは困難」としながら、流行が広がる緊急的な状況に備えるため、「使用可能な状況にすることも検討は可能」と説明した。朝日新聞が入手した議事録によると、委員からは厳しい意見が相次いだ。「ちゃんとしたエビデンス(科学的根拠)がない」「解析計画とかデータの取り扱いに信頼性がない」「有事だからこそ正当な科学的手続きは通すべきだ」。論点の一つは治験の手法だ。20~74歳の重症ではない新型コロナの患者156人が参加し、偽薬とアビガンをのんだ患者の経過を比べた。どの患者がアビガンをのんだか、医師が知っている「単盲検」という手法だった。アビガンをのんだ患者は、PCR検査で陰性になるまでの中央値が11・9日。偽薬をのんだ患者より2・8日短かった。客観的な効果の評価には、薬か偽薬かを医師も患者も知らない「二重盲検」という手法が通常は使われる。単盲検にした理由は、急変時の患者の安全の確保のためなどという。どの患者が薬をのんだか医師が知っていると、薬が効いたのだろうとの思いこみが生じうる。PCR検査や肺のCT画像撮影のタイミングに客観性がない可能性も指摘された。結果の解析方法の不備も指摘され、承認は先送りとなった。同社は審議結果について「治験のプロトコル(実施計画書)は適正プロセスにのっとって、PMDAに提示し、合意を得た」とのコメントを出した。
■専門家「治験、根本的見直しを」
 継続審議となったアビガンは今も、患者の希望と医師の判断による「観察研究」の枠組みで使われている。クウェートや米国での二重盲検の治験の結果が待たれていた。クウェートでは1月に治験を終え、結果を発表。中等症と重症の計353人の患者では、アビガンをのんだ方が、偽薬よりも回復期間が1日早かったが、有意差はなかった。ただ、軽症者ら181人ではアビガンの方が3日早く退院できた。米国では昨年から軽症、中等症の826人での治験を続ける。そんな中、富士フイルム富山化学は4月21日、国内で二重盲検による治験を新たに始めたと発表した。対象は50歳以上の男女316人。発熱などの症状が出たばかりの軽症者で、基礎疾患があるなど重症化リスクがある患者に絞り、薬の効果が出やすいようにした。10月末まで有効性や安全性を調べる。データを基に、部会で再審議される。ただし予定通り終わるかや、審査にかかる期間は見通せない。アビガンはのみ薬で使いやすいが、動物実験で胎児に奇形が出る恐れがわかり、副作用も懸念されている。承認前の薬だが、備蓄のための追加購入もあった。元々新型インフルのために約70万人分を備蓄していたが、厚労省は昨年度、新型コロナ治療のため、約134万人分を購入した。予算案では139億円を計上した。臨床現場からは「ハイリスクの患者がのみ、重症化が防げるならばブレークスルー(突破口)になりうる」という声が上がる。一方、「効かないという前提をつくりたくないだけではないか。ほかの感染症が次に流行した時にアビガンを使いにくくなるから」との声も漏れる。臨床試験に詳しい日本医科大学武蔵小杉病院の勝俣範之教授(腫瘍〈しゅよう〉内科)は言う。「科学的に有効性が示されて初めて薬は承認される。これが基本。ヒトを対象にした試験が成功する可能性は低く、結果が出る前に承認への言及があることそのものがおかしい」。日本では製薬企業主導の試験が多く、米国のように研究者によるものが少ないことも問題視する。「コロナ禍を機に、臨床試験を推進し、正しい情報発信をする機関を作るなど根本的な見直しをすべきだ。政治から独立した機関を設け、質の高い臨床試験ができる環境を整えてほしい」と話す。

*2-1-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFB25AAL0V20C21A1000000/ (日経新聞 2021年2月9日) 東京都医師会、イベルメクチン投与を提言 重症化予防で
 東京都医師会の尾崎治夫会長は9日の記者会見で、新型コロナウイルスの感染拡大に対応するため、主に自宅療養者の重症化を防ぐ狙いで薬剤の緊急使用を提言した。海外で重症化を防ぐ効果が示されているとして、抗寄生虫薬「イベルメクチン」などをコロナ感染者らに投与すべきだと強調した。イベルメクチンのほか、ステロイド系の抗炎症薬「デキサメタゾン」の使用を国が承認するよう求めた。尾崎氏は「(いずれも)副作用が少ない。かかりつけ医のレベルで治療ができるよう、国に検討してほしい」と述べた。イベルメクチンもデキサメタゾンも国内で処方されている。ただ、コロナの治療薬としては承認されていない。8日時点で都内には自宅療養者が約1600人、入院先などが決まらず「調整中」になっている感染者も約1600人いる。軽症や無症状の多い自宅療養者の容体急変にどう対応するかも課題になっている。尾崎氏は都内の1日当たり新規感染者数について「100人ぐらいまでに抑えることが4~6月の状況を良くする道だ」と強調した。都内では9日、412人の新規感染者が確認された。

*2-1-5:https://newswitch.jp/p/25238 (Newswitch 2020年12月27日) 来年3月に臨床試験終了へ、抗寄生虫薬「イベルメクチン」はコロナに効くか
 北里大学大村智記念研究所感染制御研究センターは、抗寄生虫薬「イベルメクチン」について、新型コロナウイルス感染症の治療薬としての臨床試験を2021年3月にも終了し、製造元の米製薬大手MSDに試験結果を提供する。MSDは効果を検証しながら、承認申請を検討する見通しで、新型コロナの治療薬として認められれば、抗ウイルス薬「レムデシビル」とステロイド薬「デキソメタゾン」に続き、3例目となる。臨床試験を取りまとめている花木秀明センター長が方針を明らかにした。イベルメクチンは寄生虫感染症の治療薬だが、エイズウイルス(HIV)やデングウイルスへの効果が報告されている。ウイルスの遺伝子であるリボ核酸(RNA)の複製やたんぱく質生成を阻害するほか、サイトカインストーム(免疫暴走)を抑制する作用が期待される。米ブロワードヘルスメディカルセンターの研究では、イベルメクチンの投与により、新型コロナ重症患者の致死率が80・7%から38・8%に改善した。イベルメクチンは駆虫薬として、19年には世界で4億人以上に投与され、大きな副作用は確認されていない。新型コロナへの治療薬としては、インドやペルーなど29カ国で研究が続けられている。花木センター長は「日本ではイベルメクチンの知名度が低いが世界では駆虫薬として知られ、新型コロナの治療効果の検証が進んでいる」と説明。「日本でも新型コロナ治療薬としての可能性を広く知ってもらい、試験を進めたい」と述べた。イベルメクチンは、寄生虫によって引き起こされる「オンコセルカ症」の治療に使われる。オンコセルカ症は目のかゆみや発疹などが生じ、失明に至ることもある。イベルメクチンのもととなる化合物アベルメクチンの発見により、北里大学の大村智特別栄誉教授は15年、ノーベル生理学・医学賞を受賞した。

*2-2-1:https://www.jiji.com/jc/article?k=2021041700411&g=soc (時事 2021.4.17) 変異型、首都圏で急拡大 「5月前半に8~9割」―全国は1カ月で4倍
 新型コロナウイルス感染拡大の「第4波」が鮮明になる中、関西圏で急拡大する変異ウイルスが首都圏でも猛威を振るう恐れが強まっている。国立感染症研究所は、首都圏での新規感染者に占める変異型の割合が5月前半に8~9割に達する恐れもあるとみて、警戒を強める。厚生労働省によると、全遺伝情報(ゲノム)解析で確定した変異型の国内感染者は、3月9日時点では21都府県の271人だった。今月13日時点で42都道府県の1141人となり、1カ月で4倍超に激増した。国内の変異型は大きく分けて、英国型、南アフリカ型、ブラジル型、由来不明型の4種類。国内感染者の94%超を占める英国型は、ウイルスが細胞に侵入する際に用いるスパイクタンパクに細胞と結び付く力を強める「N501Y」変異がある。厚労省の集計に含まれない由来不明型は関東や東北で拡大し、ワクチンの効果低減が懸念される「E484K」変異が特徴。南ア型とブラジル型は両方の変異を併せ持つ。フィリピン、米国に由来する変異型も確認されたが広がりはない。変異は、ウイルスが細胞に入り込み、遺伝物質RNAをコピーして増殖する際のコピーミスで起きる。N501Yは、スパイクタンパクの501番目のアミノ酸がN(アスパラギン)からY(チロシン)に変わったことを意味する。E484Kは484番目のアミノ酸がE(グルタミン酸)からK(リシン)に変化している。特に急拡大が懸念されるのが、感染力が強いN501Y変異だ。東京で拡大した由来不明型は、英国型に取って代わられつつある。感染研によると、首都圏(東京、神奈川、千葉、埼玉)での感染者に占めるN501Y変異の割合は、現在の約5割から、5月前半には8~9割になると推定される。東海圏(静岡、愛知、岐阜、三重)、関西圏(大阪、京都、兵庫)、沖縄では5月前半までに9割台後半になる見通しだ。厚労省専門家組織のメンバーは「東京でもN501Y変異に置き換わってきているが、プラスアルファの変異が出る恐れもある。ゲノム解析を通じ変異型を追い掛けることが重要だ」と話す。

*2-2-2:https://www.yomiuri.co.jp/national/20210428-OYT1T50275/ (読売新聞 2021/4/28) 変異ウイルス猛威の「第4波」、クラスター発生場所が多様化
 国内で4月に発生した新型コロナウイルスのクラスター(感染集団)が463件に上り、場所別では初めて職場(96件)が最多となったことが、厚生労働省の助言機関の集計でわかった。昨年末以降の第3波では飲食店を「急所」とみて対策が強化されたが、変異ウイルスが猛威をふるう今の「第4波」では、学校や高齢者施設なども含めて、発生場所が多様化している。助言機関によると、把握が難しい家庭内を除いて、昨年1月以降に発生した5人以上のクラスターは計4631件。昨年春の第1波では医療機関で、続く夏の第2波では接待を伴う飲食店を中心とした「夜の街」での感染事例が目立った。年末から年始にかけて感染者が急増した第3波では、会食のリスクが注目され、各地で飲食店への営業時間短縮要請などが行われた。だが現在の第4波では、日常生活全般で感染が懸念される事態となっている。今年4月1日~23日の暫定値463件の内訳をみると、最多の職場(96件)に続いて、学校・児童福祉施設(90件)、高齢者施設(86件)、飲食店・会食(82件)などが多かった。職場感染は2月は49件だったが、4月に入り拡大した。厚労省の職員らが3月下旬、深夜まで23人が参加する送別会を開催したケースでは、参加者12人を含む同じ部局の29人の感染が判明。送別会との因果関係は不明のままだが、会議で使うデスクや電話機、コピー機など共用の備品を通して感染が拡大した可能性があるという。一方、助言機関は小中学校や大学、学習塾などで昨年1月以降に起きた489件のクラスターも分析。その結果、部活やサークル活動が要因とみられる事例が2割(100件)に上り、大学では4割(58件)を占めた。横浜市では、慶応大ラグビー部員ら78人(28日現在)の感染が確認された。寮生活などが原因の可能性があるという。政府は、こうした部活やサークル活動の自粛を呼びかけている。東京、大阪など4都府県への緊急事態宣言による飲食店の休業などで、「路上飲み」による集団感染も新たな課題となっている。国立感染症研究所の脇田隆字所長は「大型連休に向けて一人一人が不要不急の外出を減らし、マスク着用など感染防止対策を徹底してほしい」と話している。

*2-3:https://news.yahoo.co.jp/articles/23b1e6bf4c3850bde326210845eca8900e01a7b3 (Yahoo 2021/4/29) 「戦時中に責任回避した旧日本軍のようだ」…五輪中止決定できないという菅首相に批判殺到
 「感染拡大が続いているのに自ら五輪中止を決定できないとは、戦時中に無謀な作戦を強行し多くの犠牲者を出した旧日本軍と全く同じだ」。日本の医療関係者がある日本メディアで新型コロナウイルスの感染が拡大する中でも「五輪開催決定は国際オリンピック委員会(IOC)がすること」としながら責任を転嫁した日本の菅義偉首相をこのように批判した。東京五輪開幕を85日後に控え、日本政府は「五輪強行」を叫んでいるが、責任者の間では内紛が起きる雰囲気だ。五輪開催と進行案をめぐり日本の首相はIOCに、担当大臣は主催都市である東京都に、互いに決定と責任を転嫁しようとする。こうした中、日本政府の新型コロナウイルス分科会会長は28日、五輪開催の是非について「そろそろしっかり議論すべき時期にきている」と警告した。
◇「安倍首相は『五輪延期』を直接決定」
 菅首相は23日、東京都や大阪府など4都府県に3度目の緊急事態宣言を発令する席で、五輪中止の可能性と関連した質問を受け「五輪の開催権限はIOCにある」と話した。感染者がさらに増加しても、緊急事態宣言が続いても、自身には五輪中止を決める権限がないという「責任回避」だ。菅首相は続けて「IOCがすでに東京五輪を開催するということを各国のオリンピック委員会とともに決めた」とも述べた。現在日本の新型コロナウイルスの状況は深刻だ。緊急事態宣言にもかかわらず、28日の1日だけで日本全国で5791人の感染者が確認された。五輪開催都市である東京では29日に1027人の感染者が確認され、3カ月ぶりに1日の感染者数が1000人を超えた。楽観を難しくするのは変異ウイルスだ。28日に開かれた東京都のモニタリング会議では現在の東京都内の感染者の59.6%が感染力の高い「N501Y」型の変異ウイルス感染者とされ、「こうした状況が続く場合、2週後には東京都の1日の新規感染者は2000人になるだろう」という予測も出てきた。だが、緊急事態宣言が延長される場合に五輪はどのようにするのかなどに対してはだれもが明言を避けている。特に菅首相の無責任な態度に対する批判が激しい。東京新聞は、五輪で感染が全世界に広がっても(IOC委員長の)バッハさんがやれと言ったとして責任を転嫁するのだろうかと皮肉った。昨年安倍晋三首相(当時)は五輪を1年延期することを直接決め、こうした意向をIOCに伝えた。
◇医療陣確保問題、政府と都知事、互いに「相手のせい」
 現在五輪開催の最も大きな障害に挙げられるのは医療陣の確保だ。五輪組織委員会は五輪期間中に1日に医師300人、看護士400人ずつ、大会期間中に延べ1万人以上の医療陣が必要なものと予想している。だが、医療界は「テレビで五輪を見る時間もない」として難色を示している。新型コロナウイルスの感染再拡大でそうでなくとも昼夜なく働いているところに、5月からはワクチンの大規模接種も始まるだけに、人材派遣は不可能だという立場だ。丸川珠代五輪担当相は27日の記者会見で、これを確認する質問に「(責任を持っている)東京都がどのように取り組んでいくのか、具体的なことがまだ示されていない」としながら東京都に苦言を呈した。これを受け東京都の小池百合子知事は「実務的には詰めている。コミュニケーションをしっかりとっていく必要がある」と受け返した。日本政府と東京都が医療陣の確保をめぐり舌戦を行った格好だ。こうした中、日本政府の感染症対策分科会を率いる尾身茂会長は28日の国会で「組織委員会など関係者が感染のレベルや医療の逼迫状況を踏まえて(五輪開催の)議論をしっかりやるべき時期に来ている」と話した。政策決定に深く関与してきた尾身会長が五輪中止の可能性に公式に言及したのは今回が初めてだ。彼は五輪開催の可否判断には、感染の状況と医療の逼迫状況が最も重要な要素だと説明した。
◇五輪参加選手は毎日コロナ検査
 一方、五輪組織委員会が28日に公開した東京五輪の感染防止に必要なルールをまとめた「プレーブック」の内容についても論議が起きている。このルールによると、五輪に参加する選手とすべての大会関係者は各国から出国する時点を基準として96時間(4日)以内に2回の新型コロナウイルス検査を受けた後に陰性証明書を提出することを明記した。入国時に日本の空港での検査で陰性判定を受けた選手は14日間の隔離が免除され、入国初日から練習できる。だが、入国後は毎日1回ずつ新型コロナウイルス検査を受けなければならず、活動範囲は宿泊施設、練習会場、競技場に制限される。また、選手を含むすべての関係者は原則的に一般市民とは接触できず、公共交通機関も利用できない。五輪による感染拡大を防ごうとする措置だが、行き過ぎた制限という反発も出てくる可能性が大きい。ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などには「ここまでしながら五輪をやるべきなのか」という懐疑的な反応が続いている。上智大学の中野晃一教授は東京新聞に、さまざまな国の選手たちと観衆の交流という五輪の意義そのものがすでに失われた状況で、海外から不参加通知が続いてやむを得ず五輪中止に追い込まれる前に日本の政治家が責任を持って決定を下さなければならないと話した。

*2-4-1:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?R_FLG=1&b=20210507&be=NDSKDBDK・・ (日経新聞 2021.5.6) 米、ワクチン特許放棄を支持 途上国の供給後押し
 バイデン米政権は5日、新型コロナウイルスワクチンの国際的な供給を増やすため、特許権の一時放棄を支持すると表明した。ワクチンが足りない途上国が世界貿易機関(WTO)で要請していた。製薬会社は反対しており、交渉の先行きは不透明だ。米通商代表部(USTR)のタイ代表は声明で、WTO加盟国がワクチンの特許権を保護する規定を適用除外とする案を支持すると表明した。「コロナのパンデミック(世界的な大流行)という特別な状況では特別な政策が必要だ」と指摘した。各種特許はWTOの「知的財産権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)」で保護が定められている。インドや南アフリカは自国でワクチンの生産を増やすため、ワクチンを同協定から一時的に適用除外とするよう求めていた。ワクチンを開発した製薬会社を抱える米国のほか、欧州連合(EU)など先進国は特許権の放棄に反対してきた。米国が支持に回ったことで、WTOで具体的な条件を詰める。USTRは問題が複雑で「交渉には時間がかかる」と指摘した。バイデン政権は自国民へのワクチン接種を優先するため、他国への供給に消極的な姿勢を貫いてきた。国内外から「ワクチンを独り占めにしている」との批判が高まっていた。世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は5日、「新型コロナとの闘いで、記念すべき瞬間だ。特許の放棄の支持は、世界の健康問題に取り組む米国のリーダーシップの強力な例だ」との声明を出し、米国の決定を称賛した。

*2-4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210507&ng=DGKKZO71628670X00C21A5MM0000 (日経新聞 2021.5.7) 独、ワクチン特許放棄に反対の構え EU首脳が議論へ
 欧州連合(EU)は7日から始まる首脳会議で、新型コロナウイルスのワクチン供給拡大に向けて、特許権を一時的に放棄する考え方を支持するかどうかを討議する。バイデン米政権が前向きな姿勢を示したためだが、ドイツのメルケル政権は反対する構えだ。特許権を持つ製薬会社が本拠地を置く国・地域での議論が本格化する。EUは7~8日、ポルトガルのポルトで首脳会議を開く。フォンデアライエン欧州委員長は6日の講演で、ワクチンの供給増という目的の達成に向けて「バイデン米大統領の提案を議論する用意がある」と語り、27カ国の首脳間で話し合う考えを表明した。ドイツメディアによると、独政府の報道官は「知的財産の保護はイノベーションの源泉で、将来もそうでなければならない」などと述べ、特許権の一時放棄に否定的な考えを示した。ワクチンの普及を妨げているのは生産能力や品質管理の問題であって、知的財産の保護が原因ではないというのがドイツ政府の主張だ。ドイツにはワクチン開発にいち早く成功したビオンテックが本拠を置く。急浮上した特許の一時放棄という考え方への反発を強めている。ただ、欧州内でも考え方は分かれている。フランスのマクロン大統領は6日、「完全に賛成する」との考えを示した。首脳会議で結論が出るかどうかは見通せない。バイデン米政権は5日、ワクチンの特許権の一時放棄について、従来の慎重姿勢を一転させ、支持する姿勢を打ち出した。ワクチンの供給が遅れている途上国向けの生産を増やすためだ。だが製薬会社は強く反発している。

<環境軽視は生存権の侵害>
*3-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14883435.html?iref=comtop_Opinion_04 (朝日新聞社説 2021年4月25日) 温室ガス削減 具体策示して変革促せ
 菅首相が、米国主催の気候変動サミットで、2030年度の温室効果ガスの排出量を13年度より46%削減する目標を掲げ、「さらに50%の高みに向けて挑戦を続けていく」と表明した。従来を大幅に上回る目標を世界に約束したことは評価できる。しかし実現へのハードルは高い。乗り越える道筋を早期に描く責務が、首相にはある。地球温暖化対策の枠組みであるパリ協定からトランプ政権の際に離脱した米国は、バイデン大統領になって復帰すると、サミット開催を呼びかけた。すでに昨年新たな目標を掲げた欧州連合に続いて今回、米国や英国も野心的な目標を提示。中国も参加し、気候変動では協調する姿勢を示した。世界で脱炭素の動きが強まるなか、日本は昨春、30年度の削減目標を13年度比で26%と、5年前のまま据え置いて国連に提出し、国際的に批判された。その後の昨年10月、菅首相が、森林などの吸収量を差し引いた実質的な排出量を「50年までにゼロにする」と表明したことから、30年度目標の引き上げ幅が注目されていた。首相が掲げた「50年実質ゼロ」は、気候変動の影響を減らすため、パリ協定が努力目標とする「産業革命前からの世界の平均気温の上昇を1・5度までに抑える」のに必要とされる。達成には、50年までの段階での二酸化炭素(CO2)排出削減も欠かせない。排出量1位の中国などの動きを促すためにも、5位の日本のさらなる目標上乗せを期待したい。今回の目標は議論を積み上げた結果ではなく、首相主導の政治判断で示された。世界は脱炭素に向けた産業構造の転換や技術開発を加速させており、取り残されれば日本経済の競争力を損なう。政府も産業界も対策を怠ってきた末、追い詰められて決断したともいえる。首相が強調する再生可能エネルギーの活用拡大を始め、CO2排出削減に向けた産業の構造変革を考えると、残された時間は短い。本気で「1・5度」を目指すなら、分野別の目標を示し、社会の理解を得る必要がある。そのうえで排出規制や税制改正、補助金などの誘導策を練り上げることが求められる。ただ、発電時にCO2を出さないことを理由に原発に頼るべきではない。日本社会は事故による甚大な被害を経験した。原発はリスクが極めて大きく、「ゼロ」を目指すべきだ。新目標の達成には、産業界も国民の生活も大きな変化を迫られる。それでも進めるべき意義を、政府は真摯(しんし)に説明し、新しい社会構造をつくる変革を促さなければならない。

*3-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD271T10X20C21A4000000/ (日経新聞 2021年5月2日) 「グリーン成長」の野心と下心 各国の覇権争いの舞台に
 削減率は米国が50~52%、欧州連合(EU)は55%、英国は78%、日本も46%へ。4月22~23日に開いた気候変動サミット。各国首脳は温暖化ガス削減の目標を競い合った。その舞台裏では「グリーンの土俵」の囲い込みを狙う各国の下心がのぞく。まず主催国である米国。「何百万もの高給な、中間層の、労働組合員の雇用を創出する」。バイデン政権は温暖化対策の訴えを、大規模な雇用創出と結びつけている。3月31日にはインフラ投資が柱の総額2兆2510億ドル(約240兆円)の「米国雇用計画」を発表済み。電気自動車(EV)支援の1740億ドルや電力網整備の1000億ドルが、環境対策の目玉だ。 2030年までに50万カ所にEV充電施設を設け、35年までに発電による温暖化ガスをなくす。今回のサミットは雇用計画の売り込みの場だ。最も野心的な目標を掲げたのは英国。昨年11月に「グリーン産業革命」を表明している。政府による総額120億ポンド(約1.8兆円)の投資で、25万人の雇用創出を狙う。なかでも切り札とする洋上風力は、30年までに発電量を4000万キロワットと現在の4倍に増やす。北海の強い風と遠浅の海を大きな武器とする。英国は今年6月に主要7カ国首脳会議(G7サミット)、11月に第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)を議長国として開催する。EU離脱による孤立から抜け出し、温暖化対策の晴れ舞台で世界の主導権を握ろうとする意図は明らかだろう。そしてEU。いち早く19年12月に「グリーンディール」を打ち出した。その投資計画では、EU自身が30年までの10年間に1兆ユーロ(約130兆円)の投資に踏み切るとともに、民間から1兆9500億ユーロのグリーン投資を促す。産業の方向を示し、雇用を創るばかりでない。国際的な環境基準づくりで主導権をとろうとする意図を隠さない。例えば、環境にかなった「グリーン投資」とは何なのかの線引き。タクソノミー(分類)と呼ばれるが、EUは自らの基準を国際基準にしようと狙う。グリーンボンド(環境債)の発行額は年4000億ドルに達するとみられるが、そうした環境投資がEU基準となれば、投資家のマネーを吸い寄せることができる。環境規制によるコスト増で域外との競争で不利にならないためにも、EUは周到な用意をしている。「国境炭素税」だ。21年に原案を提示し、23年には導入の予定である。環境規制が手ぬるい国々からの輸入に関税を上乗せし、税収は欧州復興基金に充てる。輸入相手国に「最高レベルの環境基準」を求め、輸入品の製品価格を引き上げることでEUの産業競争力を維持する。しかも環境基準を満たすためにEUの脱炭素技術を導入したら、と売り込みを図る。あわよくば日本などから生産拠点をEU域内に移させようとも企てる。世界の温暖化ガスの4分の1を排出する中国はどうか。気候変動サミットでは、より高い目標は見事にやり過ごした。温暖化ガスの排出ピークの時期は従来の30年を変更せず、排出ゼロの目標年も60年と先進国より10年先のまま。これだと先進国が50年の排出ゼロの目標達成に失敗した場合にも、自国の経済活動が制約を被らずに済む。中国は20年にも原子力発電所30基に相当する3000万キロワットの石炭火力発電所の建設を続けた。その傍らで世界のEV市場を低価格車で席巻しようとする。今回のサミットは中国の参加を最優先したためか、そんないいとこ取りに目をつむる結果となった。翻って日本。議論を主導する米欧が投資や雇用、市場拡大を目指すのと同様、菅義偉首相はグリーン成長を掲げる。政府は脱炭素の研究開発を支援する2兆円の基金を用意したが、実際にどれだけの投資と雇用を創出できるのか。内外の市場は広がるのか。知りたいのはこの点である。広大な米国、平地主体のEU、風と浅瀬が強みの英国。再生可能エネルギーに有利なこれらの条件を日本は欠く。もともと高い電力料金が温暖化対策で一段と上昇すれば、グリーン成長どころか産業空洞化を加速させかねない。菅政権が活路を探るのは、米国との提携かもしれない。4月16日の日米首脳会談の後で発表された共同声明には「日米気候パートナーシップ」と題した付属文書がある。温暖化対策の枠組み(パリ協定)の「未決定要素の策定」で日米が協力する。付属文書はそう記す。温暖化対策の勝負は基準づくりだが、そこで「日米が連携しEUに対抗する」と経済財政諮問会議の新浪剛史氏は明言する。付属文書のもうひとつの注目点は、環境技術での日米協力。再エネ、蓄電池、次世代送電網と並び「革新原子力」なる耳慣れない言葉に言及している。米、英、カナダをはじめ各国が開発を競う「小型モジュール炉」のことだ。大規模な原子力施設を建てる代わりに、小型原子炉をコンパクトな格納容器に納め、設計の複雑さを解消したのが特徴。原子炉をプールのなかに沈めることで、緊急時にも外部電源に頼らずに済む、次世代の原発とされる。実用化は20年代末とみられる。福島の原発事故を経験した日本では役割を終えたように見られる原発。その間にも世界では急速な技術革新が進んでいる。温暖化対策で高い目標を掲げるには、エネルギー源の問題は避けて通れない。

*3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210504&ng=DGKKZO71577370U1A500C2MM8000 (日経新聞 2021.5.4) Hを制する(2)水素都市へ走る中韓 見えてきた新・生態系
 中国南部の広東省仏山市高明区。経済発展に伴って立ち並ぶ高層マンションの間を縫うように路面電車が静かに走る。よく見ると給電に必要な架線がない。燃料電池を載せて水素(元素記号H)で走る「高明有軌電車」だ。
15分間の水素充填で100キロメートル走り料金は路線バス並みの2元(30円強)。地元に住む徐さんは「子どもと公園に行くのに使う。音が静かで快適だよ」と話す。2019年11月から運行を始め、20年の1日当たりの乗客数は1千人を超えた。
●国家主導で需要
 仏山市では水素で走るバスやトラックが約1500台運行し、中国全土の普及台数の約2割を占める。広東省には製造業が集積し材料となる樹脂製品工場も多く、副産物で水素が出る。市は18年から本格的に関連産業を振興し、数十の燃料電池関連企業が集まる。世界最大の水素生産国である中国。現状は工業用が大勢を占める。そこでいくつかの都市を仏山のような「水素都市」に選定。インフラを整えやすい商用車や鉄道に投資を集中し、国家主導で需要を作り出す。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によると、19年9月時点で中国を走る水素燃料車の99%超が商用車だった。現在は生成過程で二酸化炭素(CO2)が出る「グレー水素」が主流だが、再生可能エネルギー由来の「グリーン水素」でも手を打つ。北京市に隣接する河北省張家口市の農村地帯。小高い山に数百メートルの間隔で風車が幾重にも並ぶ、風力発電が盛んな場所だ。同省の国有企業は、この電力を使って水を分解し水素を生成する世界最大級の装置をつくった。欧州で固体水素の貯蔵技術を誇るマクフィーなどの技術協力を得て、設備やパイプラインの整備を進め、年間約1500トンの水素生産を見込む。調査会社の米ブルームバーグNEF(BNEF)のアナリスト、テングレル・マルティン氏は「水素を生成する水電解装置は半分以上が中国市場で売れる」と指摘する。強引にも映る市場創出で水素大国をめざすのは中国だけではない。韓国南東部の蔚山(ウルサン)。現代自動車が旗艦工場を置く人口115万人の工業都市を、韓国国土交通省は19年12月「水素モデル都市」に指定した。石油精製の過程で年間82万トン出る水素を使い、生産から消費までの生態系を整える。蔚山市の燃料電池車(FCV)の登録数は2000台と韓国全体の約2割を占める。購入時に半額が補助され、現代自のネッソ(NEXO)なら3400万ウォン(約330万円)で買うことができる。水素ステーションの設備費に至っては全額を公的補助。市によると一部では黒字化した。翻って日本はどうか。09年、世界に先駆けて家庭用燃料電池(エネファーム)を実用化し、14年にはトヨタ自動車が世界初の量産型FCV「ミライ」を発売した。水素大国を目指し技術では先頭を走っていたのに、市場の育成で中韓の後じんを拝す。
●供給網生かせず
 官営八幡製鉄所が整備され日本の近代産業発祥の地である福岡県北九州市の八幡東区。街中を長さ1.2キロメートルの水素パイプラインが走る。日本製鉄が製鉄過程で生まれる水素を供給し、岩谷産業が世界でも珍しい「街中パイプライン」を管理。実証住宅などに置かれた燃料電池に供給する。このプロジェクト、世界に先駆け10年度にパイプラインによる水素供給実験を始めたが、5年で一度打ち切った。18年度に再開したが来春にまた一部実験が終わる。官民一体で中韓のような「水素生態系」をつくり上げているとは言いがたい。せっかくの供給網を生かさなければ、日本だけ置いてきぼりだ。

*3-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210505&ng=DGKKZO71582530V00C21A5MM8000 (日経新聞 2021.5.5) Hを制する(3)新ルールで市場創造 水素阻む縦割り規制
 水素(元素記号H)の普及を阻むのはコストや技術だけではない。規制も高いハードルとなる。「車検を通ったのに水素を充填できない」。奇妙な出来事が日本の燃料電池車(FCV)で起きている。ガソリン車や電気自動車(EV)は通常の車検のみで利用できる。FCVの水素を貯蔵するタンクは車検の対象外だ。国土交通省とは別に経済産業省所管の検査が要る。車検との間隔があわない場合があり、空白期間が生まれる。「タンクの横に貼ったシールで検査の期限が分かる。期限切れの場合はお客様に説明して帰ってもらう」と水素ステーションの運営者は話す。
●FCV活用に影
 全国に約100台あるFCバスは大型の燃料電池を載せ、地震や台風による停電時の非常用電源としても期待される。もっとも、学校などの防災拠点にFCバスから電気を送るには20日前までに自治体に届けておく必要がある。いつ起こるかわからない停電の備えとしては使いにくい。日本で水素は危険物扱い。たしかに水素は滞留すると爆発しやすく、漏れれば空気中に逃がす必要がある。2012~13年のアンケート調査では2割強が「水素はガソリンより危険」と答えた。水素の製造装置を開発する英ITMパワーのグラハム・クーリー最高経営責任者(CEO)は「水素はとても軽く、もし漏れても数秒で消える。ガスや燃料よりも危険度が低い」と話す。海外では安全に配慮しつつ水素を利用する動きが広がる。韓国政府は19年、南東部の工業都市、蔚山(ウルサン)を水素特区に指定した。韓国では動力源としての燃料電池は乗用車とバスに限るが、特区の蔚山はフォークリフト、船、ドローンにも応用できる。燃料電池の関連産業を育てる思惑だ。同年には国会敷地内に水素ステーションも開いた。規制の特例を活用したもので「水素は危ない」という不安を払拭する宣伝効果を期待する。FCVに力を入れる現代自動車は日本市場もねらう。英国北東部では今春、ガス管に20%の水素を混ぜる実験が本格化する。水素の混入分だけ温暖化ガスを減らせる。19年にキール大学で始まった実験の第1段階は成功し、規模を広げる。実験に参加するITMパワーによると、英国では1969年までガス管に60%の水素が混ざっており、北海ガス田の発見後にガス100%になった。クーリーCEOは「50年までにガス管を通る水素を100%にしたい」と話す。英国では水素はガス管に0.1%しか混ぜられないが、特別に規制を緩めて実験する。欧州のエネルギー企業など90社超も3月、欧州連合(EU)の欧州委員会にガス管への水素混入を広げるように求める要望書を出した。既存インフラを使えるガス管混入は、短距離では水素の最も安い輸送手段とされ、需要を押し上げる効果も大きい。
●韓国は専用の法
 日本は混合規制そのものがなく、ガス事業者に対応が委ねられる。日本ガス協会の広瀬道明会長(当時)は3月に「既存のガス管を活用する発想が大事」と語っており、統一のルール作りを急ぐ必要がある。日本で水素は化学プラントなどを対象にした高圧ガス保安法で主に規制される。韓国は水素の活用や安全規制をまとめた「水素経済法」を制定した。日本の企業関係者は「水素を推進したいならば、水素専用の法律が必要だ」と指摘する。国が安全性を担保するのは当然としても、水素利用を想定しない古い枠組みで縛れば規制もちぐはぐになる。水素社会という新市場を創造するには新しい枠組みを用意するのが近道だ。このままでは他の脱炭素技術と同様、水素も技術で勝って普及で負けかねない。

<医療・介護>
*4-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66372040Y0A111C2EE8000/ (日経新聞 2020年11月20日) 地域医療、浮かぶ非効率 改革の重責に自治体及び腰、コロナ禍に迫る2022年の壁(下)
 団塊の世代が75歳以上になり始め、医療費が急膨張する2022年の壁を乗り越えるには、非効率な医療供給体制の改革も必要だ。新型コロナウイルス危機は地域の医療体制の権限を持つ都道府県の力量を試した。都道府県別の1人当たりの医療費は最大4割近くの差が出る。千人当たりの病床数で全国最多の高知県は1人当たりの医療費が66万5294円と2位。病床数は最少の神奈川県の3倍だ。大和総研の鈴木準執行役員は「1人当たり医療費は人口当たり病床数と関係が強く、供給が需要を作り出している」と指摘する。病床数が危機時の力を左右するとは限らない。3月、神奈川県はコロナ患者を症状ごとに重点医療機関やホテル療養で柔軟に対応する「神奈川モデル」を導入した。病床数は最少でも県主導で効率的な体制を作り、その手法は全国に広がった。日本の千人あたりの病床数は先進国で最高水準で英国や米国の約5倍になる。それでも春先の感染爆発時は小さな医療機関を中心にコロナ患者をたらい回しした。「医療供給体制に無駄があることがコロナで浮き彫りになった」(鈴木氏)。「新型コロナとの戦いで都道府県の体制整備の責任に焦点が当たっている」。自民党の財政再建推進本部の小委員会は10月末、都道府県の医療体制へのガバナンス強化を求めた。地域に応じた医療体制の構築と医療費適正化の計画作りに関し、都道府県の責任を法律で明確にする内容だ。現行制度で医療体制整備の権限は都道府県にある。国は都道府県ごとに「地域医療構想」を作るよう求め、過剰な急性期病床の削減などを進め在宅医療への転換を促してきた。だが都道府県は民間病院に病床機能の転換を促すことをためらう。独自策を探る都道府県もある。「収入増には地域別の診療報酬が活用できる」。7月、奈良県の荒井正吾知事は新型コロナによる受診控えで収入減に悩む医療機関を支援するアイデアを示した。診療報酬は全国一律がこれまでの通例。高齢者医療確保法は都道府県が地域別の報酬を決めることを可能としているが、適用例はない。奈良県は医療機関の動向に影響を与えるには収入である診療報酬を使うのが効果的とみる。今夏に厚生労働省に提言したが、奈良県の医師会や厚労省は反対の方針だ。全国知事会は医療提供体制の議論について、地域医療の混乱を理由にコロナ収束後に先送りしたい意向を示す。医療行政は責任を負いたくない地方自治体と、本音では権限を失いたくない厚労省の利害がもつれあう。コロナ禍で医療制度に迫る22年の壁は高く厚い。

*4-1-2:https://style.nikkei.com/article/DGXMZO63622860Z00C20A9EAC000 (日経新聞 2020/9/13) 日本の医療、コロナで弱点浮き彫り 回復期病床少なく
 新型コロナウイルスの感染拡大で、日本の医療が崩壊するのではないか、との懸念が広がっています。感染者を受け入れる病床が足りなくなる事態を医療崩壊と呼ぶなら、日本では現時点では医療崩壊は起きていません。経済協力開発機構(OECD)の調査によると(各国のデータはおおむね2017年時点)、人口千人当たりの病床数が日本は13.1と突出して多く、OECD加盟国平均の4.7を大きく上回っています。入院後の治療も含め、日本の医療体制を評価する声は少なくありません。しかし、病床を種類別にみると、決して十分とはいえません。日本の医療法では、病床を一般病床、療養病床、感染症病床、結核病床、精神病床の5種類に分類しています。厚生労働省の調べでは、3月末の病院全体の感染症病床は1886で、152万を超える病床全体に占める割合は0.1%あまりにとどまっています。そこで同省は2月、緊急時には感染症病床以外の病床への入院が可能であるとの見解を示しました。一般病床を転用する動きが広がり、コロナの入院患者受け入れが可能な病床数は全国で2万を超えています。ただ、受け入れ可能な病床数と、現在の入院者数の比率には都道府県によって大きな差があり、病床数に入院者数が近づいている地方は特に注意が必要です。同省はこれまで「地域医療構想」のもとで、病床の総数を削減する方向性を打ち出していました。しかし、コロナ対応で病床不足が問題になり、構想を批判する声も聞かれます。これに対し慶応大学の土居丈朗教授は「地域医療構想で打ち出したのは、一般病床と療養病床の再編であり批判は的外れ。コロナの病床不足は、病床そのものが足りないのではなく、機能分化と連携が進んでいなかったことが問題だ」と強調します。みずほ情報総研の村井昂志チーフコンサルタントは「病床をとにかく増やすというのは現実的ではない。どんな機能の病床を増やすのかを明確にすることが必要であり、これは地域医療構想の考え方とも一致する」と指摘します。

*4-1-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210504&ng=DGKKZO71577210U1A500C2PE8000 (日経新聞社説 2021.5.4) 医療体制を問い直す(上) 非常時の病床確保に強力な措置を
 新型コロナウイルスの感染拡大は、日本の医療提供体制のもろさを浮き彫りにした。人口あたり患者数が米英の10分の1でも病床が足りなくなり、緊急事態宣言を三たび出す事態に追い込まれた。パンデミック(感染大流行)という非常時の対応力を高めるためだけでなく、今後の人口減少社会で医療の質を維持するためにも、日本の医療体制に早急にメスを入れる必要がある。
●小規模分散で余力なく
 日本に急性期病床は約88万9千床ある。人口千人あたりでは7.8床と、経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で最も多い。しかし、重症患者に対応するはずの急性期病床でコロナ患者を受け入れたのは、わずか3%にすぎない。それも公立・公的病院が大半だ。全病院の8割を占める民間病院の受け入れは少ない。コロナ患者に対応するには、院内感染を防ぐために、感染リスクがある場所と安全な場所を施設改修で分ける必要がある。そのうえで感染症に対応できる専門医を確保し、一般病床の何倍もの看護師を配置しなければならない。患者を数人受け入れるだけで、他の入院患者を数十人規模で転院させたりすることも必要になる。ところが民間病院の7割強は200床未満と規模が小さく、人材も手薄で余力が乏しい。小規模に分散した医療資源でコロナ病床を増やすには、医療機関の役割分担を徹底するしかない。1月末時点で全国自治体病院協議会が実施した調査では、400床以上の公立病院に入院するコロナ患者の3分の1が軽症で、重症者は1割に満たなかった。大規模な公立病院や大学病院は、重症者を中心とした受け入れに特化した方がいい。集中治療室(ICU)や体外式膜型人工肺(ECMO、エクモ)など重症者向けの治療設備や、これを使いこなす人材を集中的に配置すべきだ。重症者に対応できない中規模以下の病院は、中等症を中心にコロナ患者を受け入れてほしい。患者が重症化したら速やかに重症者向け病院に転院させるなど、地域の医療機関が密接に連携して一体的な医療を提供する。回復期の患者は療養型病院や高齢者施設に受け渡す。こうした階層型にして医療資源を有効に使えば、受け入れ能力は増えるはずだ。問題はこうした医療体制をどうやって構築するかだ。日本の医療機関は自由開業制で、政府や都道府県には民間病院に患者の受け入れを命令する権限はない。税金で医療を運営する国々には、感染症などの緊急時に医療機関や医療従事者を国や地方政府が動員する仕組みもある。社会保険方式の日本でも医療従事者の育成には公費が投じられ、病院の収入は保険料と税金で支えられている。医療機関や医師には医療体制を確保する責務があるはずだ。菅義偉首相は4月23日の記者会見で病床確保に関して「緊急事態の際の特別措置をつくらなければならない」と述べた。非常時には医療機関の「経営の自由」を制限し、強制力を持って医療機関に病床を確保させることができる仕組みを早急に整えるべきだ。
●病院の自由経営に限界
 小規模医療の源流は、1961年の国民皆保険制度の創設にさかのぼる。皆保険で急増した医療ニーズを引き受ける形で民間の診療所が増えた。公的病院に病床規制が導入される一方、診療所の一部は規模を拡大し、入院機能を持つ病院に衣替えしていった。民間開業医を中心とする医療体制はこうして形成され、結果として「経営の自由」が確保された病院が増加の一途をたどった。世界一とされる医療へのアクセスの良さは、日本が誇る長寿社会を実現する大きな支えになった。しかし、非常事態に対応できない致命的な欠陥が露呈した今、改革をためらうべきではない。医療機関の徹底した役割分担の必要性は、コロナ前から指摘されていた。軽い病気なのに大病院で受診する人が多く、患者に追われて数十時間も寝ずに手術をする外科医がいる。一方で急性期病床を名乗りながら、重篤ではない患者で病床を埋める病院がある。これでは医療人材の確保が年々難しくなる今後の人口減少社会で、医療の質を維持できない。勤務医の働き方改革の観点からも、改革は喫緊の課題だ。

*4-1-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210505&ng=DGKKZO71583880V00C21A5PE8000 (日経新聞社説 2021.5.5) 医療体制を問い直す(下)初期診療をこなす家庭医を増やせ
「世界に冠たる」は、国民皆保険に代表される日本の医療制度の枕ことばとして医師会や与野党の関係議員、厚生労働官僚、また一部の学者らが多用してきた。それが幻想にすぎなかった現実をあぶり出したのがコロナ禍である。欧州主要国や米国より感染者が桁違いに少ない一方、人口あたりの病床数は格段に多いにもかかわらず、治療体制のゆき詰まりが露見した。特効薬とワクチンの開発にも大きく後れをとった。
●医師の働き方改革も
 ワクチン接種は遅々として進んでおらず、当面はコロナとの共存を覚悟せざるを得ない。その間にも将来をにらんで医療体制を根本的に再構築する必要性は、論を俟(ま)たない。医療の主役である患者第一を貫きつつ、効果が高くコストが低い医療体制に向けた再構築のカギを握るのは、欧州などで一般化している家庭医制度の普及である。さまざまな病をひと通り診る力を備えた医師だ。総合診療医などとも呼ばれる。健康保険証があれば、どの病院・診療所にもかかれる「フリーアクセス」が日本の医療制度の特徴だ。これは患者の安心につながる面があるが、体調を少々崩しただけでも建物や設備が整った病院に行けばいいという思い込みを生む要因にもなっていた。そこで、患者はまず家庭医にかかるのを原則とし、診断・治療・処方を受ける。複数の診療科をこなし初期診療に責任をもつ家庭医は、慢性期の持病をいくつか抱えた高齢患者の診察にも適任だ。ただし、その過程で専門的な治療や手術が必要と判断すれば、遅滞なく病院の専門医につなぐのが家庭医の重要な役割になる。「まず家庭医へ」が浸透すれば、病院の勤務医や看護職に過重な負担がかかる事態は緩和されよう。家庭医制度が浸透している国のひとつが英国だ。税財源で運営する同国の医療制度NHSは、原則として患者に医療費の負担を求めない。その代わりに患者はGPと呼ばれる資格を持つ家庭医に登録し、病院ではなく登録GPにかかるのを基本とする。GPは担当患者の健康管理にも携わる。病院での専門治療や手術が必要な患者にとっては一定期間、待たされるリスクがある。半面、コスト意識が強いGPが初期診療をこなすので必要度が低い検査や処方を省き医療費を抑えやすくなる。日本は一般に、開業医に比べ勤務医の労働環境が過酷だ。最近は減ったが、夜勤明けの外科医がメスを握ることもある。働き方改革を推し進めるためにも大学医学部は家庭医養成を急いでほしい。家庭医制度は患者の医療機関へのアクセス制限につながるので医療界に根強い反対論があるが、風向きは変わりつつある。慢性期治療の専門病院で組織する日本慢性期医療協会は、医師の卒後臨床研修を見直し、後期研修のうち2年を総合診療機能の習得に充てるよう求める要望書を4月に出した。医師不足の懸念に対し、政府・医療界はこれまで医学部の定員増などで対応してきたが、人口高齢化に即した研修強化をはじめ、医学教育の質拡充へカジを切るときだ。次の感染症パンデミックへの備えとしてもそれは有用である。
●介護との連携必要
 患者の特性や高齢化の度合いにみられる地域差への対応も、課題に浮上している。とくにコロナ禍で浮き彫りになったのは、患者の重症度に応じて都道府県当局が域内の医療機関に機能分担・連携してもらう難しさだ。
医療の公定価格である診療報酬は全国一律だが、一定範囲で県独自に設定できるようにすれば、病床誘導がしやすくなろう。医療費抑制への動機づけにもなる。医療サービス価格に大きな地域差がつくのは好ましくないが、一定の裁量を認める手法は検討に値する。不可欠なのが介護サービスとの連携だ。高齢コロナ患者が回復期も病院にとどまり、医療職が介護を提供する例がみられる。地域ごとに医療機関と介護施設が円滑な連携策を探ってほしい。団塊世代の後期高齢化が迫り介護需給は逼迫の度を増す。海外人材の受け入れ拡大やロボット介護の保険適用なども急ぐべきだ。コロナによって日本の医療の弱みが誰の目にもみえてきた。「世界に冠たる」の復活へ向け、多面的改革を推し進めるときである。

*4-1-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210513&ng=DGKKZO71815760S1A510C2EA1000 (日経新聞 2021.5.13) 入国後待機「管理強化を」 自民要求、要請の実効性低く、厚労省慎重「憲法の制約」
 変異型の新型コロナウイルスを巡る日本の水際対策が課題に浮上してきた。自民党の外交部会は12日、入国者の管理を強化するよう政府に要求した。自宅での待機要請などに従わない人は1日300人に及ぶ。厚生労働省は「移動の自由」を記す憲法の制約を理由に厳しい措置に慎重だ。「(水際対策が)強化されていないのはゆゆしき問題だ。菅義偉首相に恥をかかせたと言わざるを得ない」。佐藤正久外交部会長は会合で政府の対策の甘さを指摘した。「入国した300人と連絡がつかない状況は水漏れだけでなく水道管が破裂して水浸しとの批判も出かねない」と語った。感染者数が減らないのは入国者を完全に捕捉できていないのも一因になっているとの危機感だ。田村憲久厚生労働相は10日の衆院予算委員会で「憲法の制約上、移動の自由がある。判例でも出ている」と言及した。「我が国は私権の制限に対しての法律がない」とも述べ、強制するのは難しいとの認識を示した。憲法22条は「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」と定める。過去に厚労省が「公共の福祉」を理由にハンセン病患者を強制隔離し批判を浴びた歴史がある。私権制限の措置に消極的になる背景だ。政府は入国者に国籍を問わず、原則14日間の自宅・ホテル待機と健康状態の報告を促す。厚労省によると1日2万人超いる報告が必要な入国者のうち報告がない人が200~300人いる。位置情報を把握できなかったり指定した場所などから離れたところにいたりするケースも多い。政府の「要請」に従う義務がないのが要因だ。政府は入国後の居場所や健康状態を把握するため警告メールや自宅訪問による本人確認などの対策を講じているが、義務化は私権制限になりかねないと懸念する。憲法学者の中には入国した邦人や外国人に一時的な待機を義務づける措置は憲法上、認められると指摘する声がある。慶大教授の横大道聡氏は「邦人と外国人を問わず、合理的な根拠と明確な法律に基づく条件を満たせば移動の自由を制約できる」と話す。「待機期間が科学的に必要かどうか検証がいる。そのうえで期間や要件などを定めた法律を整備すれば憲法上許される余地がある」とも唱える。元三重中京大教授の浜谷英博氏は「違憲とは考えないが、移動を制約した法律に対する違憲訴訟になる恐れはある。憲法に緊急事態条項の創設が必要だ」と訴える。日本は海外に比べ外国人の入国規制が緩いとの批判もある。150を超える国・地域からの入国を原則拒否しているものの、希望する外国人に「特段の事情」があると認めた場合は許可する。例えば、重篤な状態の家族への見舞いや、死亡した家族の葬儀のためといったケースだ。4月は1万7557人の外国人が入国した。変異ウイルスが広がるインドだけで1900人ほどいた。米国や台湾などはインドからの自国民以外の入国を禁止している。

*4-2-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/662531 (佐賀新聞 2021年4月17日) 65歳以上の介護保険料、高齢者負担は限界に近い
 介護保険料が4月から改定された。65歳以上の高齢者が払う保険料は多くの市区町村で引き上げられ全国平均は月額6千円程度になりそうだ。2000年の介護保険制度開始時の2倍であり、年金で暮らす高齢者の負担は限界に近づいている。介護保険のサービス費用は、利用者が払う自己負担分を除き、加入者の保険料と税からの公費で半分ずつ賄う。介護保険料は、40~64歳については毎年改定されて、加入する公的医療保険を通じて納付。65歳以上の保険料は、市区町村や広域連合ごとに3年に1度見直されて、原則的に公的年金から天引きされる。高齢化の進行で介護が必要なお年寄りが増える一方、人手不足が深刻な介護職員の処遇改善などのため、介護サービス事業者に支払う介護報酬は4月から全体で0・7%引き上げられた。これらが保険料アップにつながった一方、公的年金給付額は賃金水準下落を受け4月分から0・1%引き下げられた。高齢者の暮らしには厳しい逆風の春だと言わざるを得ない。共同通信の調査では、65歳以上の介護保険料は、都道府県庁所在地と政令指定都市の計52市区の60%で引き上げられ、81%が6千円以上となった。かつて「5千円が負担の限界」とも言われたが、高齢化が加速する25年度には20超の市区が7千円を上回るとの推計もあり、負担増への歯止めは待ったなしの課題だ。保険料は高齢化率や要介護認定率が高い自治体ほど高くなる。家族のケアがない単身高齢者の割合が高く、1人当たりの介護費用がかさむ大阪市は8094円まで上がった。このままでは高齢者の生活費が圧迫され、介護サービス利用時の原則1割負担が払えず、介護保険に加入しながら、利用したくてもできないという矛盾が現実化する。介護保険料滞納で18年度に資産差し押さえ処分を受けた高齢者は、全国で1万9221人と前年度より3千人超増えて過去最多を更新している。65歳以上で働いて賃金を得ている人は約900万人、うち約400万人はパートなど非正規雇用だ。新型コロナウイルス流行拡大による景気低迷が重なって収入減になり、高齢者の家計はさらに苦しくなるとみるべきだ。日本の高齢化は、団塊の世代が全員75歳以上となる25年を経て40年ごろピークを迎える。そこへ向け介護人材を確保し、サービスを充実させることは避けて通れない課題だ。だがそれを抜本改革抜きに実現しようとすれば、財源捻出のため保険料は天井知らずになり「介護を社会全体で担う」という介護保険制度の理念が破綻しかねない。改革は「給付と負担」の見直し以外にない。介護保険料は40歳以上が払っているが、支え手を増やすため「20歳以上」に対象年齢を広げる案も検討せざるを得ない段階に来ている。一定所得がある高齢者が介護サービス利用時に払う2割負担の対象拡大も焦点だろう。給付の伸びを抑えるため、要介護度が低い人の掃除、洗濯など生活援助を介護保険から外し市区町村事業に移すことなども課題になる。介護保険料引き上げが限界となれば、残る財源の柱は税しかない。そして社会保障に充てる税とされるのは消費税だ。菅義偉首相は消費税10%超への引き上げを「10年は考えない」とするが、いずれ議論は避けられまい。

*4-2-2:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1318009.html (琉球新報社説 2021年5月9日) 75歳以上2割負担 窓口負担増避ける議論を
 一定の収入がある75歳以上の医療費窓口負担を1割から2割に引き上げる医療制度改革関連法案について衆院厚生労働委員会が賛成多数で可決した。自民、公明両党と日本維新の会、国民民主党が賛成し、立憲民主、共産両党は、高齢者が受診を控え体調を損ねるとの理由で反対した。医療制度改革は、収入のある高齢者に窓口負担を求めることで、医療費を保険料で支える現役世代の負担増を抑える狙いがある。団塊世代が2022年から75歳以上になり始め、医療費が膨張することが背景にある。法案は今週にも衆院を通過し参院に送られる見通しだ。今国会で成立する可能性が高まっているが、国会で審議入りしてまだわずか1カ月。議論は不十分だ。高齢者の経済的事情にどれだけ配慮しても、受診控えを招かないという保証はない。この点を十分に認識し、窓口負担増を避ける方策を探るべきである。75歳以上の高齢者の窓口負担は現在、原則1割で、現役並みの収入がある場合は3割だ。それ以外の財源は、5割が公費、4割が現役世代の保険料で賄われている。法案は、この現役世代の負担を抑えるため、単身だと年金を含む年収200万円以上、夫婦世帯では計年収320万円以上を対象に2割負担にする内容だ。22年度からの実施を目指す。厚生労働省によると、全国で後期高齢者医療制度に加入する75歳以上の人約1815万人のうち、2割負担の対象は約370万人に上る。自己負担の増加幅が月最大3千円とする上限額があるものの、窓口負担が2倍になる人もいる。このため立民、共産両党は「経済的な理由から受診を控え、病気が重症化する可能性がある」と懸念する。立民は75歳以上の高所得者の保険料上限を引き上げて財源を捻出する対案を出した。共産は高齢者医療の国庫負担を35%から、少なくとも従来の45%に戻し国が公的役割を果たすことで若い世代の負担軽減を図るべきだと主張する。誰でも高齢になれば体が弱る。受診する機会が増えるのはやむを得ない。しかし受診を控えると、命や健康を損ねるリスクが高まる。政府の試算では、負担引き上げに伴い、75歳以上の外来受診回数は1人当たり年平均で33回から32・2回に減るとの見通しだ。さらに収束が見通せないコロナ禍にある。ただでさえ受診を控えている高齢者に拍車を掛けて受診をためらわせないか。そのリスクに配慮すべきだ。受診控えを招く窓口負担増以外に財源を捻出する方策を、あらゆる観点から探る必要がある。高齢者は長期にわたり社会に貢献した敬うべき存在である。なおかつ現在は社会的弱者だ。憲法25条が国に義務付けている生存権の保障にも関わる。これらの点を重視し、高齢者に負担を強いることは極力避ける方向で議論を進めるべきだ。

<領土保全の意志>
*5-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210430&ng=DGKKZO71487210Z20C21A4FF8000 (日経新聞 2021.4.30) 中国、外国船「領海侵入」に罰金 関連法を改正
 中国の全国人民代表大会(全人代)常務委員会は29日、改正海上交通安全法を可決した。外国船が中国の「領海」に入った場合、中国当局の判断で退去を命じたり罰金を科したりできるようになる。沖縄県・尖閣諸島の周辺海域で緊張が高まる懸念がある。9月1日に施行する。中国国営の新華社通信は改正法の狙いを「海上の交通条件を向上させて、安全保障の水準を高める」と解説した。交通運輸省の傘下の海事局の権限を強める。中国が主張する領海で「海上交通の安全に危害を及ぼす恐れ」のある外国籍の船舶に事前報告を義務づけた。違反すれば退去を命じたり、船舶の管理者に5万元(約83万円)以上50万元以下の罰金を科したりできる。中国は尖閣を「固有の領土」と主張しており、周辺海域も領海とみなしている。中国当局が危害を及ぼす恐れのある船舶について幅広い解釈権を持つとみられる。尖閣周辺で操業する日本漁船にとって脅威になる。中国は海上警備を担う海警局に武器使用を認めた海警法を2月に施行した。海警局が管理する中国公船と海事局の巡視船が連携し、尖閣周辺の海域での監視活動を増やす可能性がある。領海やその周辺の接続水域より広い「管轄海域」にも海事局の監督権限が及ぶとしている。管轄海域で海事局が任意に「航行禁止区域」を設定できる権限も盛り込んだ。中国の民間船への管理も強める。中国版全地球測位システム(GPS)「北斗」の設置や航行データの保全の徹底を求めた。益尾知佐子・九州大准教授は「管轄海域で中国の実効支配が進む懸念がある」と指摘する。海事局は大型の巡視船の建造を進めている。中国メディアは年内に初の1万トン級の巡視船「海巡09」が広東省広州で就役すると伝えた。中国共産党の機関紙、人民日報は「世界中で巡視、救援が可能」と強調している。

*5-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA021DY0S1A500C2000000/ (日経新聞 2021年5月2日) 東シナ海の現状変更反対 日米制服トップ会談、中国念頭
 防衛省は2日までに、山崎幸二統合幕僚長が米ハワイで米軍のミリー統合参謀本部議長と会談したと発表した。中国が海洋進出を強める東シナ海に関し、一方的な現状変更の試みに「断固として反対する」と一致した。日米制服組トップの会談は2019年11月以来、1年半ぶり。4月30日(日本時間5月1日)に実施した。台湾海峡の平和と安定の重要性を確認した4月の日米首脳会談を受け、自衛隊と米軍の連携策について意見を交わした。中国は4月に空母「遼寧」を沖縄本島と宮古島の間の海域に航行させるなど、緊張を高める行動を続ける。沖縄県尖閣諸島周辺では海警局の船が領海侵入を繰り返す。両氏はこうした状況を念頭に、日本と米国が共同で抑止力と対処力を一層強化すると申し合わせた。米国の日本防衛義務を定める日米安全保障条約5条に基づき「米国の揺るぎないコミットメント」を再確認した。「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、多国間協力を進めていく方針でも合意した。英国は空母「クイーン・エリザベス」を日本に派遣すると決め、フランスも今月、日米と離島防衛訓練を実施する。軍備を増強する中国に対峙するため、欧州各国との協調をめざす。山崎氏は米インド太平洋軍司令官の交代式に出席するためハワイを訪れた。アキリーノ新司令官とも会い、日本やインド太平洋地域の情勢について認識をすり合わせた。日米の会談に先立ち、韓国軍の元仁哲(ウォン・インチョル)合同参謀本部議長を交えて日米韓3カ国の会談も実施した。北朝鮮の核・弾道ミサイル計画に対する懸念を共有した。山崎氏から国連安全保障理事会決議の完全な履行が重要だと伝えた。

<教育>
*6-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGH308QR0Q1A430C2000000/ (日経新聞 2021年5月2日) 幼小中高一貫校で初の秋入学 玉川学園、23年度にも
 私立学校の玉川学園(東京都町田市、小原芳明理事長)が秋入学(9月始業)を導入する方向で文部科学省と協議していることが分かった。小学校教育の開始を半年繰り上げ、高校まで学ぶ「初等中等一貫教育学校」構想だ。国際標準の9月始業・6月終業とし、高校は6月卒業とする。2023年度にも発足させたい意向だ。構想が実現すれば日本初となり、秋入学や早期就学を巡る国の議論にも影響を与える。「K-12」と呼ぶ構想では、幼稚園年長児(5歳)は9月から小1の学習を始め、翌年6月で1学年を修了する。9月から2学年に上がり、高校までの教育課程全体を半年前倒しする。高校卒業が6月だと夏休み明けに海外大学に進め、国内大学に入る場合は入学前の時間をギャップタームとして多様な活動に使える。幼稚園以降の学費総額も軽減できる。秋入学・9月始業の国や、4歳児、5歳児から小学校に就学させる国は少なくない。日本でも東京大学が秋入学の導入を模索した。20年には新型コロナウイルスの感染拡大への対応策として首長らから秋入学と就学年齢見直しを求める声が上がったが、課題が多いとして議論は棚上げとなった。学校教育法は義務教育の開始を「満6歳に達した日の翌日以降の最初の学年の初め」とし、同法施行規則は小学校の学年の始業は4月1日とする。構想実現には同法との兼ね合いが課題になる。文科省幹部は「運用上の対応なら問題ない。秋入学を制度的に認めるには法改正が必要」と指摘するが、「研究開発校などの既存制度をうまく使えば実現可能ではないか。私学が秋入学などに実験的に取り組むのは意義がある」という声もある。小原理事長は「戦後間もなくできた学校制度を守り続ける必要があるのか。文科省と相談しながら実験的な取り組みに挑戦したい」と話している。1929年創立の同学園は幼稚園から大学院まで擁し、幼小中高の総定員は2480人に上る。

*6-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63028960V20C20A8TCN000/ (日経新聞 2020年8月26日) 文理融合学部、国立大で広がる 「課題解決力」を育成
 文系と理系の枠組みを超えた文理融合型学部の創設が国立大で広がっている。幅広い分野を学べる環境をつくり、社会での活躍に必要な「課題解決力」を育てる狙いがある。受験生の人気も高いが、就職などを見据えて専門分野も学びやすい仕組みを合わせて整えられるかなど課題もある。「文系と理系のどちらの学部を志望するのか聞かれ、すぐに答えられなかった」。東京都内の私立高校3年の女子生徒が振り返る。高校は文系クラスだが、文系学部に進むのは迷いがあった。7月の進路相談で教員に「興味ある分野を探しながら学びを深めたい」と伝えると、勧められたのが「文理融合型」の学部だった。文理融合型の学部新設の代表例は2018年4月、「共創学部」を設けた九州大だ。共創を「異なる観点や学問的な知見の融合を図り、ともに構想し、連携して新たなものを創造すること」と定義。課題構想力や国際コミュニケーション力などを育て、「共創的課題解決力」の獲得をめざすという。所属する学生は「データサイエンス基礎」「共創デザイン思考発想法」「フィールド調査法」など必修7科目に加え、生命科学や歴史などの分野から好きな科目が選べる。文理どちらかだけの科目を選ぶことはできない。英語力の育成にも力を入れる。1年生から、他学部よりも英語に触れる機会を多くし、3年生の討論、4年生の卒業研究発表は全て英語で行う。鏑木政彦学部長は「社会の課題をベースに学問の切り口を考えるために、文系・理系の枠を超え自由に学んでいこうという考えが核心にある」と語る。初年度の志望倍率は4倍以上。19、20年度も3倍超で、予備校関係者は「新設学部としては異例の人気」と話す。従来、国立大の多くが学部を文理に分けてきた。だが、社会のグローバル化やデジタル化が急速に進むなか、幅広い視野を持った人材を輩出できるようにすべきだとの認識が高等教育の専門家らの間で広がった。文部科学省も15年に国立大の組織見直しに関する通知を出した。教育・研究の質の向上には学問分野を超えた総合性や融合性、国際性などが必要とし、人文社会科学系学部などには廃止を含めて組織改編を迫る内容だった。通知には批判も集まったが、結果的に文理融合型の学部やカリキュラムをつくる動きが活発になった。九州大の鏑木学部長は「色々な立場の感覚を持ち、世界でも司令塔としての役割を果たせる人材が必要だという社会の要請に国立大として応える責任がある」と語る。地域社会の課題解決を目指す文理融合型の学部も増えている。新潟大は17年に「創生学部」を創設した。地元の企業や自治体に出向き、課題を見つけて議論する実践型の授業を実施。他学部の22科目から関心がある分野を学べる。宮崎大の地域資源創成学部も地域資源を生かす経営学・マネジメントを身につける実習などに加え、生物学や食品学などを選べるようにしている。ただ、法学部や工学部などに比べると、文理融合型の学部は卒業後のキャリアを明確に示しにくい面がある。広島大高等教育研究開発センターの大膳司副センター長は「視野の広い人材が求められているのは事実だが、最終的には大学院などで専門性を身につけた方が将来有利になる可能性は高い」と指摘。「専門分野を少しでも深く学べるプログラムを組み、学生がこだわって勉強した経験をつくれる環境が必要だ」と語る。
*情報系学部が人気、専門性獲得に期待か
 文系と理系の垣根が低い学部への志願者数は増加傾向にある。2020年度入試を巡る河合塾の調査によると、国公立大の13学部系統のうち、志願者数が19年度より増えたのは文理両方から入れる「総合・環境・情報・人間」のみだった。特に人気があるのが情報系学部だ。河合塾担当者は「全てのものがインターネットでつながる『IoT』や人工知能(AI)などの情報技術の発展に伴い、専門分野を学べる期待感がある」と指摘する。滋賀大データサイエンス学部は情報や統計関連の理系科目に加え、データを生かすための経済や経営などを開講する。一橋大は「ソーシャル・データサイエンス学部」の設立準備委員会を設置。両大学を含めた6校は20日に「データサイエンス系大学教育組織連絡会」を立ち上げた。今後は規模を拡大し人材育成や研究などで連携を進める。

<その他の憲法違反と人権侵害>
PS(2021年5月17日追加):*7-1のように、アイルランドの高等裁判所は、米国には連邦政府レベルのプライバシー保護法がないため、欧州から米国への個人データ移管を禁じた仮命令に対してフェイスブックが申し立てた異議を棄却した。また、欧州司法裁判所は2020年にプライバシー・シールドも無効と判断している。これに対し、日経新聞は、「①個人データの移管禁止が確定すれば、他の米国企業も欧州の個人データを米国に送れず、ターゲティング広告やマーケティング分析などが制約を受ける」「②そのため、ネット企業の国際展開の足かせになり、迅速に対応できない中小が大手との競争で不利になる可能性がある」などと記載している。
 しかし、①は、個人のプライバシー保護よりもターゲティング広告やマーケティング分析の方が重要だという本末転倒の考え方を明示している。また、②は、個人のプライバシー保護のために割くことができる人材や資金が大企業より限られる中小企業が競争で不利になることを問題にしているのである。これが、個人情報を勝手に使うことを許し、それが漏れた時には人権侵害になる可能性もあることを気にかけない日本ではなく、欧州が国際基準づくりのリーダーになって欲しい理由の1つだ。
 なお、日本における個人のプライバシー保護は、*7-2のように、「③日本政府と与党が自己情報のコントロール権を保障せずに個人情報保護を後退させるデジタル改革関連6法を可決・成立させ」「④国民の利便性向上のみを強調して、現行制度を抜本的に変更するのに法案を60本以上束ねて提出して国会の熟議なしで成立させ」「⑤行政手続きのオンライン化を進めてマイナンバーの利用拡大等を行っており」「⑥民間・行政機関・独立行政法人に分かれていた個人情報保護法を一本化して最も規制の緩い国のルールに合わせさせ」「⑧中央省庁が持つ個人情報を匿名加工して民間に提供する現行制度を自治体にも広げて、目的外使用や漏洩の可能性を拡大させ」「⑨個人情報保護に関する監視体制は不適切な個人情報の取り扱いに対して命令ができない」という状況なのである。
 このうち③④は、新型コロナ騒動で国民の目から隠しながら、議会で情報を開示した議論をしなかった点で、日本国憲法(https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/shiryo/dl-constitution.htm 参照)前文の「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、ここに主権が国民に存することを宣言する」等の主権在民に反している。また、⑥⑦⑧のように、このような粗雑な議論をした結果、国民にとって不利益な法案を可決し、決して国民の福利を増加させる変更にはなっていない。
 さらに、⑤⑨は、個人情報を使った国による国民への監視体制強化の意図を含んでおり、「19条:思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」「21条1項:集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」「21条2項:検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない」に次第に反していく可能性があるのだが、この法案の内容や問題点を報道しなかった日本のメディアは、日頃から主張している「言論の自由」「表現の自由」が本物ではないことを露呈させた。また、日本国憲法は「12条:この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない」と定めているが、報道もされずにこそこそと遂行され蚊帳の外に置かれて事実を知らされなかったことがあれば、(いくら選挙をしても)国民は主権者としての権利行使ができないのである。

*7-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210516&ng=DGKKZO71936610V10C21A5EA2000 (日経新聞 2021.5.16) フェイスブックの異議棄却、欧米間データ移管に逆風、ネット事業拡大に制約も
 欧州から米国への個人データ移管に対する逆風が強まっている。米フェイスブックが欧州統括拠点を置くアイルランドの高等裁判所は14日、データ移管を禁じた仮命令に対する同社の異議を棄却した。プライバシー保護の観点から歓迎の声が上がる一方、ネット企業の国際展開の足かせになる恐れもある。「フェイスブックの完敗だ」。オーストリアの弁護士でプライバシー保護活動家のマックス・シュレムス氏は14日、コメントを出した。2013年にフェイスブックによる欧州から米国へのデータ移管が違法だとアイルランドのデータ保護当局に申し立てた人物だ。米国には連邦政府レベルのプライバシー保護法がない。さらに13年に発覚したスノーデン事件で米国家安全保障局(NSA)による情報収集が明るみに出て、欧州は米国のデータ保護体制に懸念を強めた。欧州連合(EU)は18年、一般データ保護規則(GDPR)を施行し個人データの域外移管を厳しく制限。一方で例外を残し、欧米間では「プライバシー・シールド」という独自のデータ移転の枠組みや、「標準契約条項(SCC)」というデータ移転契約のひな型が利用されていた。ただEUの最高裁判所にあたる欧州司法裁判所は20年、プライバシー・シールドを「無効」と判断。SCCについては有効としたが、米当局が企業の持つ個人データを監視しかねないという問題意識が強く示された。この判断などを受けてアイルランドのデータ保護当局はフェイスブックへの調査を始め、20年8月にデータ移管を禁止する仮命令を出した。同社は「壊滅的な結果をもたらす」などと異議を申し立てたが、高裁は今回、同社の主張を退けた。フェイスブックは14日の声明で「仮命令は当社だけでなく利用者やほかの企業に損害を与える可能性がある」と指摘。移管禁止が確定すれば売上高の約4分の1を占める欧州向けサービスが一時中断を余儀なくされるとの見方もある。ほかの米国企業も欧州の個人データを米国に送れなくなり、ターゲティング広告やマーケティング分析などデータを活用した事業展開が制約を受けかねない。アイルランド当局によるフェイスブックへの個人データ移転の禁止については他のEU加盟国当局も精査する。異議がなかったり、異議が退けられたりすれば事実上、EU全体でアイルランドを支持したことになる。フェイスブック側が追加の法的手段に訴えるとの観測もあり、判断が確定するまでには時間がかかるとの見方も多い。米国では20年に当時のトランプ大統領が中国発の動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の運営会社に米国の利用者の個人データを国内に保管するように求めた。各地でデータの国内・域内保管を求める動きが強まっている。EUがGDPRを施行した際、フェイスブックのような資金や技術者が豊富な大手は迅速に対応し、影響を軽微にとどめた。一方、中堅・中小企業の一部は欧州向けサービスの一時中断に追い込まれた。データ移管を巡っても、結果として中小が大手との競争で不利になる可能性もある。

*7-2:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1320217.html (琉球新報社説 2021年5月13日) デジタル法成立 個人情報保護 後退させた
 デジタル庁設置を柱とするデジタル改革関連6法が参院本会議で与党などの賛成多数で可決、成立した。
国民の利便性向上を強調するが、実態は自己情報コントロール権を保障せず個人情報保護を後退させる内容だ。現行制度を抜本的に変更するにもかかわらず、法案を60本以上束ねて提出した政府の国会軽視と、熟議せず成立させた国会の責任は重大だ。デジタル改革関連法成立によって、改革の司令塔で首相をトップとするデジタル庁を9月1日に発足させる。デジタル庁に権限を集中させ他省庁に業務見直しなどを勧告する。行政手続きのオンライン化を進め、マイナンバーの利用拡大や押印を求める手続きの削減などデジタル社会に向けた環境を整備する。関連法の柱の一つが個人情報保護制度の見直しだ。民間、行政機関、独立行政法人の三つに分かれている個人情報保護法を一本化し、共通のルールを導入する。内実は規制が緩い国のルールに合わせるということだ。その上で中央省庁が持つ個人情報を匿名加工して民間に提供する現行制度を、自治体にも広げる。これまで個人情報の保護は、住民に近い自治体がそれぞれ条例を制定し、思想信条や病歴・犯歴などの要配慮情報の収集は禁じるなど慎重に運用してきた。住民本人の合意を得た上で、個人情報を取り扱うことが自治体では原則となっている。制度の見直しで個人情報保護の原則はなし崩しになり、目的外に使われ、漏えいする恐れがある。実際に現行制度でも、防衛省が米軍横田基地の夜間飛行差し止め訴訟や、航空自衛隊小松基地の騒音訴訟の原告名簿などを民間への提供対象にしていたことが発覚した。関連6法の中で基本理念を定めた「デジタル社会形成基本法」に、個人の権利を担保する自己情報コントロール権が明記されていない。専修大学の山田健太教授(言論法)は「情報を有する側の縛りを一貫して緩めてきたのが日本の法制度であって、一方で自己情報コントロール権も含め、個人の権利化は進捗(しんちょく)がない。その結果、両者のバランスはますます崩れる一方」と警鐘を鳴らす。個人情報の保護について監視する仕組みにも問題がある。全体の監督は個人情報保護委員会に委ねられる。しかし、捜査情報は個人情報保護委員会の監視対象から外されている。不適切な個人情報の取り扱いに対して勧告はできるが、命令はできない。権限が不十分だ。日本弁護士連合会は、官民で管理する個人情報全般の取り扱いを監視・監督する独立した第三者機関を創設し、専門的な能力を備えた職員をそろえるための定員と予算を担保するよう求めている。政府は日弁連の提言を真摯(しんし)に受け止め、デジタル庁設置までに、監視・監督の権限を強化する手立てを講じるべきだ。

<生物的性差と社会的性差>
PS(2021年5月20、27日追加):*8-1のように、山谷えり子氏が「①LGBTの問題で大きな議論が必要」と言われたそうで、*8-2には「②就活で『らしさ』を押しつけないで」という声が性的少数者を中心に上がっている」「③就活で身につける衣類や振舞方が男女で分けられ、LGBTの存在が取り残されている気になった」「④服装やマナーでつまずいて、どんな仕事がしたいのかまでたどり着けない」「⑤極端に二元化した男女別スタイルやマナーの押しつけをやめ多様性のある装いのスタイルを提案すべき」等が書かれている。
 まず①については、「多様性・ダイバーシティー=LGBT」という記事が多すぎるのには、私も辟易している。何故なら、“多様性”はLGBTだけでなくすべてに存在し、日本国憲法は75年も前の公布時から「14条:すべて国民は法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において差別されない」と規定して属性による差別を認めておらず、LGBTはそのごく一部にすぎないからだ。また、日本はLGBTの割合が高いと言われているが、その理由は、男女共学校なら中学・高校・大学の同窓生・同級生間で恋愛結婚して一般的ケースになるものが、男女別学校の場合はLGBTとなり、男女別学校が多いからだと思われる。そのため、LGBTにも生物的違いのあるものだけではなく、社会的に作られたものが多いのではないか?
 次に、②③④⑤については、求められる人柄や服装は職種によって異なり、就活指導として一律に男らしさ・女らしさを押し付けるのは不適切だが、求人する会社が求める人柄は一律ではないため、求職者は会社が求める人材を知った上で就活した方がよいと思う。そうすれば、就活時に不合理な条件を出す会社は、有用な人材を採用できなくなって次第に変わらざるを得なくなる。つまり、就活する人は、会社に選ばれる人材であるための何かを身に着けた上で、実績を示して変な慣習をなくしていくのが正攻法であり、門前払いされて実績を示すことすら妨げられたり、実績を示しても不合理が改善されない場合に差別に当たるのだと考える。
 なお、*8-2に、「⑥大手アパレルは、女性用のリクルートスーツの紹介で『女性らしさを引き立たせて、第一印象から美しく』の言葉が目立つ」「⑦別のアパレル企業のサイトでは、ファンデーションで肌を明るく均一に整え、ポイントメイクはいつもよりもしっかりめに」等を書いているそうだが、⑥は士業・研究者・学校の先生・記者・看護師などの実務型職種の採用試験ならむしろマイナスで、⑦は肌のきれいな若者なら濃くファンデーションを塗るより薄化粧で素肌を見せた方が長所を強調できる。つまり、自分の長所は強調し短所はカバーしつつ、採用側が求める人材像が合理的なら合わせ、不合理なら次第に変えるようにした方がよいと思う。
 性同一性障害の原告が、*8-3のように、経産省トイレ制限訴訟で逆転敗訴されたのは気の毒だが、経産省も性別不問の障害者用トイレくらいは各階に複数作ったらどうか?私は、狭い公共女子トイレでコートやかばんがばさっと下に落ちて不潔な思いをしたのに懲りて障害者用トイレを使うようにしているが、「障害者優先」と書いてあるので罪悪感を感じなければならないのにも参っている。公共トイレも、使いやすくて手洗いの水くらいはふんだんに出る清潔なものであって欲しい。

*8-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14909980.html (朝日新聞 2021年5月20日) 「ばかげたこと起きている」 性自認めぐり自民・山谷氏
 自民党の山谷えり子元拉致問題担当相は19日、党内の会議で、自分の性別をどのように認識しているかを意味する「性自認」をめぐり、「体は男だけど自分は女だから女子トイレに入れろとか、アメリカなんかでは女子陸上競技に参加してしまってダーッとメダルを取るとか、ばかげたことはいろいろ起きている」と発言した。性自認をめぐっては、戸籍上は男性だが女性として生きる性同一性障害の経済産業省職員が、女性トイレの使用を制限される差別を受けたなどとして国を訴えた。2019年12月の東京地裁では、経産省の対応は違法として国に132万円の賠償を命じた。判決は「トランスジェンダーが働きやすい職場環境を整える重要性が日本でも強く意識されるようになっている」と指摘した。その後、敗訴した国と勝訴した職員の双方が東京高裁に控訴している。LGBTなど性的少数者に関し、超党派の議員連盟が、「理解増進」法案の今国会での成立を目指しており、20日に自民党内で法案審査を予定している。これに対し、山谷氏は、法案の目的と基本理念で「性自認を理由とする差別は許されない」とされている点を問題視。「このまま自民党として認めるにはやっぱり大きな議論が必要。しっかりと議論することが保守政党としての責任だ」と語った。

*8-2:https://digital.asahi.com/articles/ASP5F5Q8BP56ULFA00N.html (朝日新聞 2021年5月16日) 就活で「らしさ」を押しつけないで 性的少数者たちの声
 「女性らしさ」が強調されたリクルートスーツ、面接時には必須とする「ちょうどいい化粧」――。就職活動する学生に対して、こうした押しつけをやめてほしいという声が性的少数者を中心に上がっています。履歴書の性別欄のあり方にも変化が起きるなど、就活におけるジェンダーのあり方を問う動きが広がっています。
●「おかしいと思われる」
 フリーで翻訳の仕事をする水野優望(ゆみ)さん(31)は大学生だった10年前、就職活動に臨んだ。ゆったりめのパンツスーツにネクタイを締め、面接会場に向かった。その途中で怖くなった。「面接担当者におかしいと思われる」
駅のトイレに駆け込んだ。ネクタイをはずし、化粧をした。ヒールのある靴に履き替え、靴下はストッキングに。それでも、かばんが男性用だと気づかれたらどうしよう、と不安は消えなかった。戸籍上は女性だが、性自認は、女性にも男性にも当てはまらないと考える「Xジェンダー」。就職活動で身につける衣類や振る舞い方は、どれも「男性用」か「女性用」に分けられていると感じ、自身の存在が取り残されている気持ちになった。「服装やマナーでつまずき、どんな仕事がしたいのかまでたどり着けなかった」。就職活動を断念。体調を崩し、大学卒業前後の3カ月ほど自宅から出ることができなくなった。職場でパンプスを強制することに疑問の声を上げる「#KuToo」運動を立ち上げた俳優の石川優実さんに数年前に出会い、就職活動での「らしさ」の押しつけも抑圧や差別だと気がついた。昨年11月、インターネット上で「#就活セクシズムをやめて就職活動のスタイルに多様性を保証してください!」という署名活動を立ち上げた。メンバーは会社員や就職活動中の学生、マナー講師ら約10人だ。「極端に二元化した男女別スタイルやマナーの押しつけをやめて、多様性のある装いのスタイルを提案して」「女性はこうすべき、男性はこうすべきという偏った表現は差別や抑圧につながるため見直しを」と求める。集まった1万5千筆強を、マイナビやリクルートキャリアといった就職支援企業や、青山商事やAOKIなどの大手アパレル企業、大学などに提出する予定だ。
●体の曲線美を強調する表現
 どういった表現が「ジェンダーの押しつけ」に当たる恐れがあるのか。署名活動のメンバーに聞いた。例えば大手アパレルのホームページでは、女性用のリクルートスーツの紹介で「女性らしさを引き立たせて、第一印象から美しく」の言葉が目立つ。「女性らしい美しさと清潔感を引き立たせる、カービーシルエットを採用」と体の曲線美を強調する表現もある。化粧をすることを「マナー」として求める記述も。「オンライン就活での好印象の与え方」を助言する別のアパレル企業などのサイトでは、ノーメイクの女性のイラストを提示し、「ファンデーションで肌を明るく均一に整え、ポイントメイクはいつもよりもしっかりめに」と求める。メンバーの調べでは、合同企業説明会の情報を掲載するサイトで「オジサマ受けの良いシンプルでさわやかなスーツで身を包み、清楚(せいそ)な子を演じればいい」との表現も一時期見られた。書籍では、「一次面接こそスカートで勝負を」「女性は面接官の息子の嫁にしたいタイプがベスト」などと記載されたものもあった。こうした表現について、水野さんは「就職活動で学生にリスクをとらせないために生み出されたものだろうが、『美しさ』『清楚さ』など仕事の能力とは無関係の要素を女性に求めるのはセクハラにあたる」と指摘。「就活関連企業は、学生が自分らしく働くための第一歩となるよう多様なスタイルを提案してほしい。そして学生を採用する企業は、その人らしい服装や振る舞いを受け入れると積極的にアナウンスして」と求める。
●「困難感じる」 トランスジェンダーの8割以上
 性的少数者たちは就職活動中に、どのようなことに難しさを感じているのか。NPO法人「ReBit(リビット)」によるLGBTを対象にした調査(2018年、有効回答241人)では、生まれた時の体の性と異なる性で生きるトランスジェンダーの当事者(95人)のうち、性のあり方で困難やハラスメントを経験した人は87・4%にのぼった。具体的な困りごとでは、半数弱が「エントリーシートや履歴書に性別記載が必須だった」と回答。「男女別のスーツやバッグなどの購入」「人事や面接官から、性的マイノリティでないことを前提とした質問や発言」などが続いた。「性自認と異なるスーツ・服装、髪型、化粧をしなくてはならなかった」も3割いた。事務局長の中島潤さんは「服装をきっかけに、企業側に対して本人が望まないカミングアウトにつながる恐れもある」と懸念する。困難を感じる当事者は多いとみられるのに、支援機関などに相談できていない現状もあるようだ。別の調査で、性的指向や性自認からくる悩みを学校の就職課やハローワークなどの就労支援窓口に相談したかどうかを聞いたところ、「していない」が95・9%にのぼった。理由は「どこに相談していいかわからなかった」「相談しても解決してもらえない」がそれぞれ3割強だった。ReBitではこうした状況を受け、キャリアコンサルタントらを対象に、LGBT当事者への支援方法を伝える研修プログラムを20年に始めた。知識を学ぶ講義や、ロールプレイング、当事者へのカウンセリングなどが中心だ。

*8-3:https://mainichi.jp/articles/20210527/k00/00m/040/127000c?cx_fm=mailsokuho&cx_ml=article (2021.5.27) 経産省トイレ制限訴訟 性同一性障害の原告が逆転敗訴 東京高裁
 戸籍上は男性で、女性として生きる性同一性障害の経済産業省の50代職員が、女性トイレの利用を不当に制限されたとして、国に処遇改善などを求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁(北沢純一裁判長)は27日、利用制限を違法とした1審・東京地裁判決(2019年12月)を変更し、制限の撤廃を求めた原告側の請求を棄却した。北沢裁判長は「国の対応は不合理とは言えない」と述べた。原告側の逆転敗訴となった。

<ワクチン頼みで、どうしていけないのか?>
PS(2021年5月22日追加):*9-1のように、コーツ副会長が「①(五輪)選手村に居住予定の75%が既にワクチンを接種もしくは確保し、大会時には80%を超える」「②選手と接触が多い人についても協力する用意がある」「③できるだけ多くの大会参加者がワクチンを接種したうえで来日することになるよう、IOCは努力する」と言っておられるため、開催国の日本は選手村に居住予定の残り20%とボランティアや来日する関係者にワクチンを接種する方法を考えればよいのである。にもかかわらず、「④ボランティア8万人への優先接種は想定していない」「⑤来日する約8万人の関係者やメディアの行動をどう制限し、感染拡大を防ぐのか」などと言っているのは愚かにも程があり、「⑥IOCと米製薬大手ファイザー社が、各国・地域の選手団向けに無償提供を受けることで合意してから、ワクチン頼みの姿勢が強まっている」などと、協力してくれているIOCやファイザー社に感謝もせずに、ワクチンに依存することを批判しているのだから、その無責任さ・無礼さに世界が呆れ、IOCが怒ったとしても文句は言えまい。
 さらに、「⑦欧米ではワクチン接種が進み、新型コロナに対する状況が明らかに変わった」そうだが、ワクチン接種が進めば集団免疫を獲得するため欧米に限らず普通に暮らせるようになるのが当然で、行動ルールをまとめたプレーブックが「⑧大会関係者やメディアはワクチン接種の有無に関わらず、原則3日間の待機を経る必要がある」「⑨14日間、外出先は競技会場などだけで移動は専用車。食事も会場内やホテル内か宅配に原則限られる」などと決めていることが非科学的なのである。また、「⑩入国から14日間が過ぎれば公共交通機関を使えるようになり、活動の範囲を広げることができる」というのも、(PCR検査ができないわけではないのに)検査に基づいた判断をしないのは非科学的で、ワクチンを打った人と打っていない人、PCR検査で陰性の人とそうでない人を同じ扱いにしなければならない理由は全くない。そのため、「⑪1万5千人の選手のほか、7万8千人の大会関係者が世界中から来日予定と明らかになり、選手村などで徹底隔離される選手と違って条件を満たせば市中に出られる大会関係者やメディアの感染対策が課題」というのは、航空機に搭乗する前にワクチン接種証明書か陰性証明書を提示してもらい、ワクチン接種証明書を提示できなかった関係者には、日本政府が成田空港でワクチン接種することを申し出てもよいくらいだ。そのため、「⑫メディアはコロナ下の東京を取材したいのではないか。行動管理が本当にできるのか」については、非科学的な行動管理を続けていれば、それが世界に報道され、呆れられて、日本の医療への信頼が地に落ちるということである。
 また、*9-2のように、迅速にワクチンを接種して行動制限を無くすのが経済回復への道であるのに、非常に狭い了見で医療費やPCR検査をケチり、ワクチンや治療薬の開発・承認を遅らせた結果、この分野において日本は先進国ではなく後進国になっていることを心に銘記すべきだ。そして、日本のワクチン接種の遅れは先進国の中で際立っており、行動制限により所得が減って個人消費は回復せず、1~3月期のGDPはマイナス成長となって、経済は感染を抑えた国への外需頼みになっているのである。

  
         President               2021.5.19日経新聞

(図の説明:左図は、各国の新型コロナ感染者数と死者数の推移だが、日本以外の国は頭打ちになっているのに対し、日本だけが不名誉な右肩上がりだ。そして、その理由は、専門家会議を含む厚労省はじめ行政・政治の誤った政策である。中央の図は、PCR検査を徹底して感染を抑え、新しい検査法・ワクチン・治療薬の開発や承認を行う正攻法をとった国の経済回復状況で、その効果は、右図の2021年3月期経済成長率に明確に現れている。日本は、医薬品や医療機器の開発・普及がやりにくい国で、①治験のやりにくさ ②厚労省の承認遅れ ③メディアの誤った批判 などが、その理由になっているため、よい結果を出している国のやり方を研究すべきだ)

*9-1:https://digital.asahi.com/articles/ASP5P73Z8P5PUTQP00N.html?iref=comtop_7_03 (朝日新聞 2021年5月21日)東京五輪、強まるワクチン頼み 大会関係者へ接種も
 海外で新型コロナウイルスのワクチン接種が広がるなか、東京五輪に参加する選手や関係者にも接種を促す動きが加速している。開幕まで約2カ月。来日する約8万人の関係者やメディアの行動をどう制限し、感染拡大を防ぐのか。議論は大詰めを迎えている。国際オリンピック委員会(IOC)で東京大会の準備状況を監督する責任者のジョン・コーツ副会長がこの日、「緊急事態宣言下でも大会を開ける」との認識を示したことについて、大会組織委員会の幹部は「本当に宣言中にできるのかは、国民も疑問に思うし、慎重にやっていかないといけないが、宣言下でもテスト大会はやっていたので、安全性を担保していくということだろう」と話した。コーツ副会長はこの日、「ワクチンに関する議論もできた」とも述べた。新型コロナウイルスへの対策をめぐっては、IOCと日本側はともに「ワクチン接種を前提とせずに、安全で安心な大会を開く」と繰り返してきた。だが、IOCと米製薬大手ファイザー社などが今月6日、各国・地域の選手団向けに無償提供を受けることで合意してからは、ワクチン頼みの姿勢が強まっている。コーツ副会長はこの日の総括会見で「選手村(ベッド数は五輪で1万8千台)に居住予定の75%がすでにワクチン接種をしているか、ワクチンを確保している。大会時には80%を超えるだろう」と述べた。また、「選手との接触が多い人についても協力する用意がある」と述べ、日本の大会関係者に対するワクチン確保の可能性に言及した。IOCのトーマス・バッハ会長は19日、中止や延期を求める日本国内の世論を意識し「日本人を守ることが重要」と強調。「できるだけ多くの大会参加者がワクチンを接種したうえで来日することになるよう、IOCは努力する」とした。国内では高齢者のワクチン接種を7月末までに終わらせるという政府目標がある。五輪関係者について、丸川珠代五輪相は6日時点ではボランティア8万人への優先接種は想定していなかったが「打たないとIOCも心配するだろう」と話す官邸幹部もいる。さらに丸川五輪相は21日の閣議後会見で、報道関係者についても「調整委での議論を踏まえ、どう対応すべきかは話を詰めたい」と言及した。ある大会関係者は「欧米ではワクチン接種が進んでおり、新型コロナに対する状況が明らかに変わっている」と話す。6月に最終版を発行する大会時の選手や関係者の行動に関するルールブック(プレーブック)について「ワクチンを打っている人と、打っていない人が同じ扱いでいいのか議論がある」と明かす。この日の調整委員会では1万5千人の選手のほか、7万8千人の大会関係者が世界中から来日予定と明らかになった。選手村などで徹底隔離される選手と違い、条件を満たせば市中に出られる大会関係者やメディアの感染対策が課題だ。五輪に向けた飛び込みのテスト大会があった今月、東京イーストサイドホテル櫂会(かいえ)(東京都江東区)には、約30カ国から審判や国際水泳連盟役員らがピーク時は80人滞在した。一般客と接触しないよう全9階のうち6、7階を専用フロアとし、食事は各部屋で。出入りも警備員常駐の業者用を使ってもらった。関係者は競技会場へ行く以外、部屋にこもっていたという。本番も関係者を受け入れる予定で、多田敬一営業部長は「大会関係者は毎日の検査で陰性を確認し、行動管理も徹底していた。ホテルも従業員の健康をしっかり管理して臨みたい」と話す。行動ルールをまとめたプレーブックによると、大会関係者やメディアはワクチン接種の有無に関わらず、原則3日間の待機を経て活動可能になる。ただ14日間、外出先は競技会場などだけで移動は専用車。食事も会場内やホテル内、宅配に原則限られる。違反すれば大会に関わる権利が失われたり、14日間の隔離や強制退去の対象になったりする可能性がある。だが、入国から14日間が過ぎれば公共交通機関を使えるようになり、活動の範囲を広げることができる。選手村や多くのホテルがある東京都中央区の保健所の担当者は、特に村外に宿泊する人たちの行動に気をもむ。「メディアはコロナ下の東京を取材したいのではないか。行動の管理が本当にできるのか」と話す。来日15日目以降に規制が緩むことに複雑な思いを抱く海外メディアもいる。南ドイツ新聞からは記者4人が来日予定。東京特派員のトーマス・ハーンさんは自宅から通っての取材となる。「私は一般の人と一緒に電車に乗るわけで、市中感染し、プレスセンターにウイルスを持ち込むリスクは消えない」と話す。来日する各国や団体に違反がないよう管理・監督する責任者が各団体に置かれるが、専門家は「プレーブックは性善説に基づいており、実効性をどう担保するのか」と不安視する。

*9-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK184780Y1A510C2000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞社説 2021年5月18日) 迅速なワクチン接種が経済回復の前提だ
 1~3月期の実質国内総生産(GDP)が3四半期ぶりのマイナス成長となり、年明け以降の日本経済の足踏みが鮮明になった。新型コロナウイルスの感染拡大で緊急事態宣言が再発令され個人消費が大きく減ったのが響いた。先進国で際立つ日本のワクチン接種の遅れは、経済の正常化をさらに後ずれさせかねない。景気の一段の下押しを避けるためにも、迅速な接種を進めたい。内閣府が18日発表した1~3月期の実質GDPは前期比1.3%、年率換算で5.1%減った。20年度の実質GDPは前年度比4.6%減と2年連続で減り、マイナス幅も戦後最大となった。直近で目立つのは内需の不振だ。年初から3月下旬にかけての2度目の緊急事態宣言で外食や宿泊の消費が低迷し個人消費は3四半期ぶりに減った。企業の売り上げ不振を背景に設備投資も2四半期ぶりのマイナスとなった。中国などへの輸出が回復し、経済の下振れをある程度は食い止めた。足元の経済は外需頼みだ。先行きは予断を許さない。変異型も含めた感染の再拡大で主要都市では4月下旬に3度目の緊急事態宣言が発動された。対象地域は広がり、4~6月期のマイナス成長を予想する声も多い。再び正念場を迎えた経済に政府・日銀は抜かりなく対応してほしい。気になるのは内外経済の回復度合いの違いだ。米国では1~3月期の実質GDPが前期比年率で6.4%増え、GDPの規模もコロナ危機前をほぼ回復した。ユーロ圏の同期間の実質GDPは2.5%減だったが、ここへきて21年の成長率見通しを大幅に引き上げるなど明るさを増す。ワクチンの接種が進み経済正常化への動きが加速しているためだ。この点、日本では厳しい状況が続く。少なくとも1度目のワクチン接種を終えた人の割合は3%未満。全人口の半数が1度目の接種を終えた英米、3割前後のドイツやフランスに大きく遅れる。菅義偉首相は7月末までに高齢者への接種を終えると述べたが、予約などの手続きをめぐり混乱が続く。問題を一つずつ解消し、円滑な接種につなげてほしい。今後も外出規制が繰り返されるような事態になれば経済の正常化はさらに遠のく。人びとが安心して生活できる環境を取り戻すことが経済回復の前提になることをあらためて認識すべきだ。

<日本は役に立つ新産業の育成・普及が遅れる国である(その1)>
PS(2021年5月25日追加):*10-1のように、IEAが2050年までに世界で温暖化ガス排出量を実質0にするための工程表を公表し、①化石燃料への新規投資を即時停止 ②2035年までにガソリン車の新車販売停止 ③2050年にエネルギー供給に占める再エネ割合を約7割に引き上げる必要 ④原子力割合を11%に増やし、石炭は2050年までに2020年比で9割減らす そうだ。
 しかし、①②はよいが、「パリ協定」は化石燃料だけではなく、原発の使用も禁止している。具体的には、③④は、原発は放射性物質だけでなく温排水も出しており、「産業革命からの気温上昇を1.5度以内に抑える」という目標には合致しないため、再エネ100%にするしかない。日本は、最初に脱化石燃料を言いはじめた再エネに恵まれた国であるのに、EVも再エネも遅れた原因は、このように従来型の高コストエネルギーを残そうとしてきたことである。また、2035年までに全車をEV・FCVにすることも、人口の多い他の国がモータリゼーション化する時代には必要不可欠であり、1997年に京都議定書が決められる頃からそのつもりだった。そのため、ハイブリッド車に時間とカネをかけすぎたのは無駄遣いで、従来型の雇用が減っても代替分野で新規雇用が発生するのは歴史を見れば明白なのである。
 また、*10-2のように、発電所を新設した場合に一番安い電源を国・地域ごとに調べれば、再エネが最も安い国が多数だったのは当然である。その理由は、電力は装置産業であり、原価の殆どが「(i)発電装置の建設費(固定費)+(ii)燃料代(変動費)+(iii)公害対策費(変動費)」だからだ。従って、(i)は、発電所を新設する場合なら原子力・火力より仕組みが簡単な再エネの方が安いに決まっており、(ii)の燃料代は、原子力・火力ともに高いが再エネは無料であるため、これほど安いものはない。また、(iii)の公害対策費も再エネが最も安いため、「日本で最も安い電源は石炭火力で、太陽光・風力の方が高い」というのがおかしいのである。なお、送電網の問題は人為的で、総括原価方式で作った既存の装置を使いたい大手電力会社の要請で経産省が故意に行ったものであり、電力市場を歪めているものでもある。
 このように、「再エネ電力は高コスト」などとできない理由を並べている間に、*10-3のように、車載電池では日本のチャレンジャーメーカーがはじき出されて脱落し、米国は韓国メーカー等と連携を深めている。一方、従来型に固執して既得権益を守るメーカーと新規事業にチャレンジするメーカーのどちらが次の時代に必要であるかは明白であるのに、政府が誤った選択をする日本は、新規のベンチャー企業などが育ちにくい。他国がやったのを見てあわてて追随するのは、文明開化時代の後進国ならともかく、既に経済発展をしてリーダーの立場になっていた日本としてはあまりにお粗末で、これでは今までの取引を失ってもやむを得まい。
 その上、*10-4のように、経産省が40年以上経過しても原発の使用済核燃料の貯蔵や処分、プルサーマル発電の推進のために自治体に支援策として血税を大量投入し、市場に誤った勝敗をもたらしているのは、国民にとっては「百害あって一利なし」であり、税と高額な電気料金の二重負担になっているのである。

*10-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?ng=DGKKZO72030850Z10C21A5MM8000 (日経新聞 2021.5.19) 化石燃料へ新規投資停止 50年脱炭素、IEAが工程表
 国際エネルギー機関(IEA)は18日、2050年までに世界で温暖化ガス排出量を実質ゼロにするための工程表を公表した。化石燃料への新規投資をすぐに停止し、35年までにガソリン車の新車販売をやめる。50年にはエネルギー供給に占める再生可能エネルギーの割合を約7割に引き上げる必要があり、脱炭素へ具体的な取り組みが求められる。50年までに温暖化ガス排出量を実質ゼロにするのは、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」が定める「産業革命からの気温上昇を1.5度以内に抑える」目標と合致する。主要国が相次ぎ「排出量ゼロ」を表明したことを踏まえ、11月に英国で開かれる第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)を前にIEAが具体的な道筋を示した。代表的な温暖化ガスである二酸化炭素(CO2)でみると、燃料燃焼や産業工程からの排出量は20年で340億トンだった。50年の温暖化ガス排出実質ゼロを宣言した日米EU(欧州連合)や、60年のCO2排出実質ゼロを宣言した中国など各国・地域の目標を集計すると、CO2排出量は30年に300億トンになる。50年に温暖化ガス排出量を実質ゼロにするには、30年にCO2排出量を20年比で約4割減の210億トンにする必要がある。IEAのビロル事務局長は「(実質排出ゼロは)難しいが、達成可能だ」との声明を発表。各国政府が強力な対策をとるよう求めた。化石燃料への新規投資を即時にやめ、エネルギー供給に占める再生可能エネルギーの比率を30年時点で3割、50年時点で約7割にする必要も指摘した。原子力の割合を11%に増やす一方、石炭は50年までに20年比で9割減らす。電気自動車(EV)への移行や新興国の成長で発電量は50年までに2倍強に増える。先進国は35年、世界全体も40年までに再生エネ導入などで電力部門の排出を実質ゼロにする必要がある。輸送部門ではEV普及がカギだ。新車販売でEVとプラグインハイブリッド車(PHV)などの割合は足元で4.6%だが、30年に6割、35年までにほぼ全車がEVと燃料電池車(FCV)になることが必要だ。ハイブリッド車は含まれない。スウェーデンのボルボは30年、米ゼネラル・モーターズ(GM)は35年に新車をすべてEVにすると決めた。ホンダは40年までに全ての新車をEVかFCVに切り替える。30年以降の排出減には新技術の活用が不可欠だ。代表例が水素活用や、CO2を地中に埋めたり再利用したりするCCUSと呼ばれる技術だ。IEAの50年排出量実質ゼロの筋書きではCCUSを使い76億トンのCO2を取り込むと試算する。エネルギー投資は20年までの5年間は年平均2.3兆ドル(約250兆円)で推移しているが、30年までに年5兆ドルに引き上げる必要がある。脱炭素の取り組みで化石燃料部門で500万人の雇用が減る一方、30年に向けて1400万人の新規雇用が生まれ、世界の経済成長率を0.4ポイント押し上げるとみている。

*10-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFK282N90Y1A220C2000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2021年3月1日) 日本の再生エネ発電費用が高い理由は?
 2021年3月1日の日本経済新聞朝刊1面に「緑の世界と黒い日本(カーボンゼロ)」という記事がありました。1000㌔㍗時の電気をつくる場合、日本の太陽光発電にかかる費用は中国の約4倍になります。なぜ日本は再生可能エネルギーの発電にかかる費用が高いのでしょうか。
●ここが気になる
 発電所を新設した場合どの電源が一番安いかを国・地域ごとに調べたところ、再生エネが最も安い国が多数でした。1世帯が4カ月間に使う1000㌔㍗時の電気をつくる場合、中国は太陽光(33㌦)、米国は風力(36㌦)が最安でした。一方、日本で最も安い電源は石炭火力(74㌦)で、太陽光は124㌦、風力は113㌦かかります。日本で再生エネの発電費用が高止まりしている背景には不十分な送電網があります。地域をまたいで送電できる量が限られているうえ、送電網の運用は電力会社から独立しておらず、電力会社の自前の火力発電所や原子力発電所でつくった電力を優先的に接続します。この仕組みが再生エネの大量導入を阻み、コスト削減につながりにくい一因となっています。英国では送電線の利用に新たなルールを導入したことで再生エネが送電線を使いやすくなり、普及率が高まりました。日本も似た制度を21年に導入するものの、再生エネ事業者にとって不利な状況は変わりません。現在ほとんどない洋上風力が再生エネ拡大の切り札とされていますが、送電網の強化に加え、発電した電気を貯めておく蓄電池の整備も必要で、課題は山積しています。

*10-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210522&ng=DGKKZO72162700R20C21A5TB0000 (日経新聞 2021.5.22) EV電池、相次ぐ米韓連合 供給網で中国に対抗
 車載電池で米韓メーカーの連携が広がっている。米フォード・モーターは20日、韓国のSKイノベーションと米国に電気自動車(EV)電池の合弁工場を建設すると発表した。EVの基幹部品である電池で韓国メーカーの存在感が増せば、日本の部品や素材メーカーがサプライチェーン(供給網)からはじき出される可能性がある。フォードとSKは約6000億円を投じて米国に新工場を建設する。建設地は未定だが、2020年代半ばをめどにピックアップトラックのEV60万台分に相当する60ギガワット時の生産能力を確保し、能力増強も視野に入れる。フォードは19日に主力ピックアップトラックのEVモデル「F-150ライトニング」を公開した。「F-150」は米国で最も売れている人気車で、新型コロナウイルス危機下の20年も78万台を売り上げ、フォードの米国販売の4割を占めた。SKとの合弁で電池の調達にめどをつけ、看板車種のEV化で量産に弾みをつける。米ゼネラル・モーターズ(GM)は19年に韓国のLG化学と提携。22~23年にオハイオ州とテネシー州に合弁の電池工場を完成させ、合計70ギガワット時の電池を生産する。米自動車2強のEVシフトを、韓国の電池大手が支える構図だ。米韓2陣営の投資計画はバイデン米大統領の意向とも合致する。バイデン氏は2月に「半導体」「医薬品」「レアアース(希土類)」とともに「EV電池」を主要4品目と位置づけ、中国に依存しない調達体制の構築を指示した。車載電池は中国の寧徳時代新能源科技(CATL)や比亜迪(BYD)が大手だが、両社は米国への輸出や投資が難しい。18日にフォードのEV工場を見学したバイデン氏は「EVの競争で中国に勝たせるわけにはいかない」と強調した。韓国勢は米中の緊張関係が続く状況を米国開拓の好機ととらえ、投資を加速する。SKの金俊(キム・ジュン)社長は20日、「フォードとの合弁事業は米政府が推進するEV産業のバリューチェーンの構築と育成において核心的な役割を担う」と米国への貢献をアピールした。SKとLGはEV専業の米テスラとの契約こそパナソニックに譲ったものの、米2大メーカーを押さえて一気にシェア拡大を狙う。フォードとGMはEV事業で独フォルクスワーゲン(VW)、ホンダとそれぞれ提携しており、合弁事業を通じて提携先への供給拡大にも道筋がつく。同じ韓国のサムスンSDIも、旧クライスラーを引き継いだ欧州ステランティスに電池を供給している。一方、日本企業では日産自動車と組んでいたNECが車載電池事業から撤退。ジーエス・ユアサコーポレーションも独ボッシュとの電池の合弁事業を解消した。本格的な電池供給を手掛けるのはテスラやトヨタ自動車と組むパナソニックのみだ。完成車メーカーも日産が米テネシー州でEV「リーフ」を生産しているものの、年間1万~2万台と規模は小さい。バイデン大統領は電池だけでなくEVそのものも米国内で生産するよう求めており、生産設備をもたない日本や欧州メーカーは追加投資の判断を迫られる。EVシフトが進むにつれ、自動車のサプライチェーンは電池とモーターを中心としたかたちへと組み替えが進む。基幹部品である電池を中国や韓国メーカーに押さえられれば、日本の部品や素材メーカーは従来の取引を失いかねない。

*10-4:https://this.kiji.is/769847994391150592 (共同通信 2021/5/25) プルサーマル発電で支援策、自治体向けに検討、経産相
 原発の使用済み核燃料の貯蔵や処分に関する対策推進協議会が25日、経済産業省で開かれ、梶山弘志経産相が、プルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料を通常の原発で使うプルサーマル発電の推進に向け、自治体の支援策を検討する考えを表明した。原発を持つ電力各社はオンラインで会合に参加した。梶山氏は、プルサーマル発電を拡大するため事業者間の連携強化を要望し、自治体支援にも触れ「地元の理解確保に向けて、事業者と一体となって取り組む」と述べた。電気事業連合会の池辺和弘会長(九州電力社長)は「支援は大変ありがたい」と答えた。

<日本は役に立つ新産業の育成・普及が遅れる国である(その2)>
PS(2021年5月26日追加): 新型コロナワクチンについては、*11-1のように、「①複数のワクチンを仕分けして適正配分する仕組みが欲しい」「②自衛隊のセンターについては、自治体接種との『二重予約』が防げない等の問題点も判明した」「③打ち手確保のため医師・看護師・歯科医師だけでなく、薬剤師・救急救命士に広げたい」「④大学病院や産業医がいる事業所の診療所などの活用も進めたい」等々、打つ段階になっても問題の指摘が多い。
 しかし、①については、持病のある高齢者など高リスクの人は、かかりつけ医と相談した上で、かかりつけ医か紹介された大病院で安全にワクチンを接種した方がよいため、市区町村が日本で実績を積んだファイザー製を使うのは理にかなっている。また、大規模接種センターは、高齢者や一般人の中でも比較的低リスクの人が素早く接種するために行くので、承認されたばかりのモデルナ製を使ってよいだろう。さらに、②の二重予約は、二重にワクチンを打つ必要はないため遅い方をキャンセルすればよく、どれも普通の大人が考えてわかることである。
 また、③については、日本は人口当たりの医療従事者数が少ないわけではなく、注射するにもリスクがあるため、「緊急だから何でもあり」では困る。従って、④のように、大学病院・産業医のいる事業所・校医のいる学校・大規模スーパーなどで適切なワクチンを選んで接種すれば素早く終了できるだろう。また、ワクチンを打てずに旅行しようとする人等のためには、一度の接種ですむJ&Jのワクチンを、航空会社が空港で有料接種すれば良いと思う。
 なお、日本は新型コロナウイルスのワクチン開発や承認が遅れており、*11-2のように、「⑤科学的エビデンスに基づいて実用化するための国内治験に壁がある」「⑥実用化されたワクチンが既に存在するのに、国産ワクチン候補の治験に参加者を集めるのは難しい」「⑦比較のための『偽薬』を接種する通常の手法が倫理的に許されない」などの課題がある。しかし、⑤⑥については、ワクチンや治療薬の開発を行うには、最初は必ず希望者を募って治験しなければ科学的エビデンスはできないのに、日本では希望者を募っての治験すらやりにくいのが問題なのである。また、⑦については、新型コロナのような重篤にもなりうる感染症で偽薬を使われた人はたまったものではないため、iPS細胞を使った臨床試験など他の方法を開発すべきだ。さらに、いくら難病になってもいい加減に承認された薬剤を使われては困るが、患者が希望しても日本の厚労省が承認していない薬は使えないのも、治験が進まず新薬を世に出せない理由となっている。そして、メディアも、批判のための批判が多すぎて、「君子危うきに近寄らず」という環境を作ってしまっているのは改めるべきだ。

*11-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/681276 (佐賀新聞 2021.5.25) 国、地方は連携強化を
 米モデルナ製と英アストラゼネカ製の新型コロナウイルスワクチン承認に続き、東京と大阪で自衛隊運営の大規模接種センターが始動した。都道府県や政令指定都市による独自の大規模会場設置も拡大する見通しだ。10都道府県で緊急事態宣言が発令される中、東京五輪開幕まで2カ月を切った。菅政権は7月末を目標とする高齢者への接種完了に向け大規模接種で局面転換を狙う。ただ複数のワクチンをきちんと仕分けして適正配分する仕組みや、打ち手確保など効率的な接種態勢整備にはなお課題がある。国と地方自治体は連携を最大限に強化しこの難局を乗り切ってほしい。自衛隊運営のセンターは首都圏1都3県と関西3府県の高齢者それぞれ900万人、470万人が対象だ。最大で1日当たり東京1万人、大阪5千人に接種する想定だが、3カ月間フル稼働したとしても対象者の1割程度にしか接種できない。全国の高齢者3600万人に対応するには市区町村が実施する集団、個別接種がフル回転してもなお不足だ。政府の要請で宮城、群馬、愛知各県が開設し、今後は計約30自治体に広がる見通しの自治体独自の大規模会場を早く軌道に乗せたい。それには医師、看護師、歯科医師で注射の打ち手が十分確保できるのか、薬剤師などに広げることが可能なのか、政府は早急に検討し対処すべきだ。自衛隊のセンターについては、自治体接種との「二重予約」が防げないなどの問題点も判明した。予約の際に高齢者に注意喚起するほかない現状であり、政府と自治体の情報共有、連携が従来になく重要とみるべきだ。一方、都道府県と政令市は、7月末完了を目指す政府から尻をたたかれ、市区町村の力不足を補う大規模接種に乗り出す形だ。会場確保・設営、接種や問診に当たる要員確保などの準備は突貫作業を迫られている。自治体同士の人材争奪を避けるためにも大学病院や産業医がいる事業所の診療所などの活用も進めたい。政府が主導して地方への支援を強めてほしい。政府は複数のワクチン活用で接種加速化を図る方針だ。いずれのワクチンも2回接種が必要だが、自衛隊や自治体独自の大規模接種ではモデルナ製、市区町村が先に開始した接種はファイザー製を使う。1回目と2回目で別のワクチンを打つと短期的な副反応が多いとされるため、配送経路も含めてすみ分けを明確にし、現場の混乱を防ぐ。ただ大規模会場がある地域では、どこに予約するかで高齢者が二つのワクチンを選択できてしまう実態がある。別ワクチンを打つことがないよう防止策徹底を求めたい。アストラゼネカ製は、まれに接種後に血栓が生じる例が海外で報告されているため、政府は当面公費接種の対象から外す方針だ。ただ英国などで接種実績があって効果も確認されている上、6千万人分の供給契約が済んでいる同社製を完全に排除するのもどうか。リスクと利益の兼ね合いで接種年齢を絞るなど対策を講じた上で使用する道も探るべきではないか。内閣支持率がジリ貧の菅義偉首相は「ゲームチェンジャー」と位置付けるワクチン接種に起死回生を懸ける。だが集団免疫の獲得には国民8~9割の接種が必要ともされ、すぐに以前の日常が戻るわけではない。過度な期待もまた禁物だ。

*11-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14916621.html (朝日新聞 2021年5月25日) 国内治験に壁、政府が承認過程見直し議論 国産ワクチン、科学的検証は必須 野口憲太
 「有効性と安全性について、みんなが納得できる科学的なエビデンスがなければならない」。新型コロナウイルスのワクチンについて取材したときの専門家の言葉だ。「周回遅れ」とされ、実用化が待望される国産ワクチンだが、スピードありきではない、科学に基づいた実用化を求めたい。国内企業による「後発」のワクチン開発は大きな壁に直面している。十分な有効性と安全性があるかをみる、最終段階の臨床試験(治験)を国内でやることが難しいのだ。ファイザー製など実用化されているワクチンがすでに存在するなかで、国産ワクチン候補の治験のために未接種の参加者を大勢集めるのは難しい。比較のための「偽薬」を接種する通常の手法が倫理的に許容されるのか、という論点もある。ワクチン候補を使って体内の免疫反応を確認し、有効性を評価する方法もある。だが、「どんな免疫反応が起きれば、感染や発症を防げるのか?」の知見は確立していない。海外での治験も模索されるが、世界でワクチン分配がすすめば、同じ壁にぶつかる。政府は今後、承認過程の見直しの議論をすすめる。難病の治療薬開発で使われる「条件付き早期承認制度」の適用を求める声があるが、大勢の健康な人が接種するワクチンへの適用は慎重になるべきだ、という意見は重い。さまざまな制約を克服するためには、厚生労働省など規制をかける側にもある程度の柔軟さが必要だろう。ただ、壁を乗り越えることや迅速さが目的となって、科学的な検証がないがしろにされてはならない。そもそもなぜ治験をするのか? ワクチン候補の有効性と安全性を確かめるための、科学的な証拠を得るためだ。柔軟さが必要でも、それは科学に基づいた検証に耐えうるものでなければならず、世論の期待感や政治的な思惑とは距離を置く必要がある。たとえ「後発」でも、使えるワクチンが増えることは望ましい。使われる技術は次の危機への備えにもなる。「みんなが納得できる」ワクチンを、この国がしっかり生み出すことができるのか、これからも注目したい。

<日本は役に立つ新産業の育成・普及が遅れる国である(その3)>
PA(2021年5月28、31、6月4《図》日追加):*12-1のとおり、自宅療養に必要な介護サービスを支える介護保険料は、現在は主として65歳以上の高齢者に支払わせている。そのため、所得の少ない年金生活者に月額6千円を超える負担を強い、現在の制度のままでは高齢者人口がピークの2040年度には高齢者の介護保険料負担が8千円を超えるという試算もある。その上、年収200万円(月収16.7万円)以上の高齢者は医療費の窓口負担が1割から2割に引き上げられ、収入源である年金の方は減らされて、高齢者の暮らしが成り立たなくなった。これら一連の政府(特に厚労省)の政策は、「高齢者はお荷物だから、早く死んでくれ」と言わんばかりだ。
 しかし、戦後の働き手は、制度ができて以降は制度に従って社会保険料を支払ってきたため、受給段階になって積立金が足りないのなら、それは100%管理者の責任だ。さらに、日本は高齢化先進国であるため、高齢者の需要を満たす製品は今後の世界の売れ筋商品になり、これは政治や行政が勝手に決めた供給政策よりずっと利益獲得機会が確実なのである。
 その一例として、*12-2のセコムのセンサー技術等を使った見守りサービスがあり、今後、サービス内容を充実させたり、1人あたりの生産性を高めたりすれば、便利でニーズの高い第三次産業になる。また、*12-3の食事の準備が難しくなった高齢者の自宅に美味しくて栄養バランスのよい食事を届ける配食サービスも、自活や自宅療養をやりやすくして社会的入院を減らすことに貢献する。そのため、医療や介護と連携して自治体が協働するのもアリだが、実需なので民間の工夫で第一次産業・第二次産業・第三次産業を包含しながら発展することも可能なのだ。それにもかかわらず、政府は高齢者の可処分所得を減らすことに専念して、高齢者がそのニーズにあった消費を選択できないようにしているのである。
 なお、*12-4のように、公表されているだけで全国の介護施設で9,490人が感染して486人が死亡し、46自治体で入院が必要なのに施設にとめおかれた高齢者がおり、介護現場はコロナ療養まで担って負担が激増するというあってはならない事態が起こった。しかし、介護施設に入所している高齢者は出歩かないため、介護担当者や出入業者などの関係者から感染したことは明らかで、検疫をザルにし、介護関係者のPCR検査やワクチン接種をケチった厚労省(含:専門家会議)の責任は重い。

   
    2021hitoshia          2021njg        2021nliresearch
 
(図の説明:左図が介護保険制度の仕組みだが、主として65歳以上の高齢者しか対象にしていないため、負担に無理があると同時に給付内容に不足がある。また、中央の図のように、負担に上限が設けられているのは良いが、介護は医療と同時に行われ、長期に渡るため、医療費と合計した上限にすべきだ。なお、右図のように、介護保険制度は、2003年から2019年まで改正を重ねてきたが、その度に介護保険料が上がり、高齢者の保険料負担が上限を超えている)

   
2021.5.30琉球新報   2021nliresearchi

(図の説明:左図は、2020年5月と2021年5月で介護施設の新型コロナ感染者数と死者数を比較したものだが、病態がわかってきたのに感染者数が20倍にもなっているのは自然でない。また、中央の図は、厚労省の介護保険部会で論じられている検討事項だが、介護予防や健康作りのために介護保険料を支払っているのではないため、これは目的外支出だろう。さらに、自宅療養を可能にするためには、右図の地域包括ケアの充実が必要不可欠だが、現在は介護としての生活支援が不足しており、ケアマネジメントやケアプランは最低コストで最大効果を出して患者を護るための介護計画であるため、介護費用に含まれるべきであって有料にするのはおかしい)

*12-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/743038/ (西日本新聞社説 2021/5/23) 介護保険料上昇 制度改革へ国民的議論を
 生活がだんだん苦しくなる。そんな実感から不安を募らせる高齢者も少なくないだろう。65歳以上の高齢者が支払う介護保険料が全国平均で初めて月額6千円を超え、6014円となった。制度が始まった2000年度から2倍に膨らんだ。高齢者の保険料は市区町村や広域連合が3年に1度見直す仕組みで、今年4月の改定ではおおよそ半数が引き上げた。九州でも高齢化が進む市町村などの多くで保険料が上昇した。高齢化が進むと、要介護や要支援と認定される人は増え続ける。高齢者が払う保険料は、団塊の世代がすべて75歳以上になる25年度には7千円に迫り、高齢者人口がほぼピークに達する40年度は8千円を超えるという推計もある。このままでは、負担の増大は避けられない。一定の収入がある高齢者は医療費の窓口負担を1割から2割へ引き上げる法案が今国会で成立の見通しだ。その一方で高齢者の主な収入である年金は減っている。介護保険料を滞納し、資産を差し押さえられる人も増え、18年度は全国で約2万人に達した。困窮する高齢世帯の支援は待ったなしの課題だ。介護保険制度はこれまで保険料の引き上げと利用時の自己負担増、サービスの縮小で維持されてきた。その結果、高齢者全体の暮らしは徐々に厳しさを増している。介護報酬体系の複雑化を問題視する声もある。日本の高齢化率は40年以降も上昇するだろう。慢性的な介護人材不足の解消には待遇改善は不可避だ。介護保険制度の持続には「負担と給付」の在り方を抜本的に見直す必要がある。現役世代の過度な負担増には配慮が欠かせないとはいえ、保険料を支払う年齢を現行の40歳以上から引き下げることも検討対象とすべきだ。サービス利用時に2割、3割を自己負担する高齢者の範囲を広げることについても議論の余地があろう。介護保険の財源の半分は国や自治体の公費で賄われている。保険料や自己負担の引き上げだけでなく、税制全体に踏み込んだ議論も避けるべきではない。必要なサービスが過不足なく提供されているか。無駄なサービスがないか。チェックが欠かせない。自治体による介護予防の効果も検証を急ぎたい。高齢になった子が老いた親を介護する老老介護や介護離職に続き、介護などの負担にあえぐ若年層を意味する「ヤングケアラー」が社会問題化している。このまま手をこまねいていては、介護保険制度の柱である「介護を社会全体で担う」との理念が損なわれてしまう。政府は早急に制度の見直しに着手し、国民的議論を喚起すべきだ。

*12-2:https://digital.asahi.com/articles/ASNCW5DBQNCTULFA02G.html (朝日新聞 2020年12月2日) 会えない、だけど見守りたい セコム社長語るコロナ需要
 コロナ禍の猛威が続くなか、企業に広がったテレワークや時短営業。その影響は警備業にも及んでいるという。どんな状況なのか、セコムの尾関一郎社長に聞いた。私たちの売上高(連結)の5割以上はセキュリティーサービス事業で、主力はオンラインによる機械警備です。会社に出勤する人がいなくなったり、店が24時間営業を取りやめたりすれば、無人の時間帯が発生し、警備の需要が発生します。4、5月の緊急事態宣言期間は経済活動が止まった一方、サービス解約の動きはあまり出ませんでした。国内のグループ合計のセキュリティー契約件数(事業所や家庭など)は9月時点で約250万件で、3月時点から約3万件増えました。コロナ対応でオフィスが集約されると、需要が減る面はありますが、世の中の動きとしてはあまり出ていないと思います。今後の感染状況にも左右される外食やアパレル業界などの店舗の統廃合は心配ですが、現状は新規の契約でカバーしています。一方、コロナ禍で家庭向けのサービスでは、当初の想定とは違う形でニーズが出てきました。離れて暮らす高齢の家族に「会いたいけど会えない」状況でも、健康状態を見守りたいというニーズです。当社は以前から見守りのサービスに力を入れてきましたが、センサー技術を使った新たなサービス導入に向けて準備しています。事業者向け、家庭向けともに需要が高まると、異状があれば現場に急行する警備員にとっては、担当件数も増えます。1人あたりの生産性を高める必要があります。コロナの影響で雇用が流動化して比較的人材が採りやすい環境になり、いっそう中途採用に力を入れています。とはいえ、ただでさえ夜勤があるような厳しい職場。社員の負担を軽くすることは取り組むべき課題です。

*12-3:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO63735200R10C20A9KNTP00/ (日経新聞 2020年9月14日) 高齢者に配食サービス、自治体が支援、安否確認も
 食事の準備が難しくなった高齢者の自宅に弁当を運んでくれる配食サービスが広がっている。住む地域によっては、ひとり暮らしやお年寄りだけの世帯向けに自治体が料金を一部負担したり、安否確認を兼ねたりするサービスもある。栄養バランスのとれた食事の活用も考えてみてはどうだろう。東京都東村山市に住む80代のひとり暮らしの男性は、夕方に弁当が届くたびに配達員との会話を楽しみにしているという。玄関で弁当を手渡すと男性は事前に購入した複数枚つづりの配食チケットを1枚(550円)を切り取って交換。その日にあった出来事などを軽く雑談するという。「栄養バランスもあり、季節ごとのメニューも良い」と満足した様子だ。東村山市の助成は、原則65歳以上のひとり暮らしか70歳以上の高齢者のみの世帯が対象。心身の障害や傷病などで調理が困難だと認められる場合、月曜から金曜日に夕食の配食サービスを利用できる。1食あたりの料金の一部を市が負担する。7月末時点で約120人が利用している。配食時に見守りサービスを組み合わせる自治体は多い。京都府長岡京市は配食事業者へ安否確認を委託。見守り費用として1日につき1回320円を助成、市が事業者に支払う。事業者は高齢者に食事を手渡し「今日もお変わりないですか?」といった声かけもする。利用者から毎回、サインやなつ印をもらう。玄関の呼び鈴を押しても反応がないなど異変を発見した場合は市役所や家族、介護などの窓口になる地域包括支援センターなど事前に登録してもらった場所に速やかに連絡する。「孤独死防止や生活不安の解消が狙いだ」(同市)。現在、市内で約280人の高齢者が利用している。愛知県西尾市は2018年から昼食か夕食かを選択できるようにした。19年度の利用者は375人になった。市は1日1食あたり250円を負担する。「利用者も増え、高齢者の安否確認を充実させることにつながっている」(同市)。福岡県直方市では高血圧や糖尿病の高齢者向けに減塩食のメニューが選択できる。1食の塩分使用量が2.3グラム以下の弁当を用意し、市が1食209円を支援する。減塩食の利用者負担は520円と普通食の370円より高いが「配食利用者約220人のうち39人が頼んでいる」(直方市)。東京都台東区では社会福祉協議会が業者に依頼し、普通食のほか糖尿病や腎臓病などで食事制限がある人向けにカロリーやたんぱく質を調整する特別食(600円から730円)を昼と夕食のメニューに加えている。健康管理に役立てている。配食支援は各地の自治体などが手がけているが意外と知らない人も多い。申し込む場合は高齢者の居住地によって心身の衰えや疾病の状況、家族の支援の有無の条件などが異なる。高齢者と離れた場所で暮らす親族が敬老の日を前に、自治体の公式ウェブサイトや役所に電話で確認してみるのもいいかもしれない。

*12-4:https://ryukyushimpo.jp/kyodo/entry-1330404.html (琉球新報 2021年5月30日) 全国の介護施設で感染9490人 486人死亡、共同通信調査
 高齢者が入所する介護施設で、新型コロナウイルスに感染した入所者が全国で少なくとも累計9490人おり、このうち486人が亡くなっていたことが30日、共同通信の調査で分かった。46自治体が、入院が必要にもかかわらず施設にとどまった高齢者がいたと回答した。昨年5月に共同通信が実施した同様の調査では、感染した入所者は474人、死者79人。感染者は1年で約20倍となった。非公表とする自治体もあり、実際の数はさらに多いとみられる。介護現場では本来の業務に加え、感染防止策、コロナ療養も担うなど負担が激増。感染弱者の高齢者に病床逼迫のしわ寄せが及んでいる恐れもある。

<日本は役に立つ新産業の育成・普及が遅れる国である(その4)>
PA(2021年5月30日追加): 日本政府は、*13-1のように、2021年版「ものづくり白書」で、経済安保の観点から国内の製造業にサプライチェーンを強化し、リスクを把握するよう求めたそうだ。私も、*13-2のように、尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件の後にレアアースが輸出制限されたこともあり、日本も国内供給網を充実させておくことは必要不可欠で、自由貿易だからといって「石油は中東」「レアアースは中国」「家電も中国」「食料も中国ほか外国」「繊維製品も中国ほか外国」など何でも輸入に頼っているようでは、そのうち売る物がなくなり、言うべきことも言えなくなると思う。さらに、レアアース・メタンハードレート・原油などが、上の(5)で述べたとおり、日本の排他的経済水域に大量に埋蔵されていることは既に発見されており、現在は日本が資源国になっていることに外国は気付いているのに、日本の行政・政治・メディア・国民だけがそれに気付いていないという情けない状況なのだ。
 資源があれば、それを巡っての争いも起きやすくなる。そのため、日本は、論理的に筋を通した上で自衛する必要もあり、*13-3のように、米軍が国外兵員配置を欧州・中東から東アジア・太平洋に移しているのも必然だ。しかし、日本では「石油供給の9割を中東に依存するため、米国が中東から手を引く影響を最も受ける」などと馬鹿なことを言っているのであり、資源所在の変化に気付いていないのである。また、*13-4のように、英空母群もインド太平洋に出航し、米国やオランダの艦船も加わって日本での共同訓練を調整しているのは頼もしいが、ジョンソン首相が外交安保の新戦略で「経済、地政学上の中心」としてインド太平洋地域への「傾斜」を表明したのは、香港・台湾の自由と民主主義のためだけではない筈だ。

*13-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210528&ng=DGKKZO72359120Y1A520C2EAF000 (日経新聞 2021.5.28) 「供給網リスク把握を」 ものづくり白書、経済安保を重視
 政府は28日、2021年版の「ものづくり白書」を閣議決定した。経済安全保障の観点で米国や中国、欧州が輸出入の管理を強めていることを踏まえ、国内製造業に自社のサプライチェーン(供給網)を強化し、リスクを精緻に把握するよう求めた。脱炭素化とデジタル化の推進も不可欠とした。新型コロナウイルスの感染拡大や米中の貿易摩擦を背景に国際的な供給網の再構築が課題となっている。デジタル化や脱炭素化が加速するなか、半導体や蓄電池といった重要部品で強固な供給網をつくることが国際競争力の向上に直結すると強調した。コロナ禍で物資供給に支障が出たことを受け、「世界で同時多発的に発生する寸断リスクへの対応に取り組まねばならない」と指摘し、事業継続計画(BCP)では自社被害だけでなく供給網全体で備えることを求めた。

*13-2:https://news.yahoo.co.jp/byline/nishiokashoji/20210223-00224079/ (Yahoo 2021/2/23) アメリカに「レアアース輸出制限」をちらつかせながらも踏み切れない――中国に根深い “対日トラウマ”
 レアアース(希土類)の主要産出国である中国が「仮に輸出制限に踏み切れば、米欧の防衛産業にどれだけの打撃を与えられるか」という値踏みを始めた――と、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が最近報じた。米国に対するレアアース規制という中国の“報復”措置はたびたび俎上に載せられるが、いつの間にか、立ち消えになっている。中国側が踏み切れない事情とは……。
◇「輸出制限で米防衛産業にどれぐらいの影響?」
 FTは今月16日、「米中対立の際、中国がレアアースの輸出を制限した場合、防衛請負業者を含む米国や欧州の企業にどのぐらい影響が及ぶかと、中国政府当局者が業界幹部に質問した」と伝えた。中国がレアアースの輸出規制というカードで米側に揺さぶりをかけるというポーズをちらつかせた形だ。レアアース規制は2019年に米中関係が悪化した時にも注目された。当時のトランプ政権が中国通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)に対し、米製品輸出や米国由来の技術移転を規制するなど強硬姿勢を見せた。この際にも、中国側が報復措置としてレアアース輸出規制に踏み切るかどうか、国際社会の関心を集めていた。中国共産党機関紙・人民日報系「環球時報」の胡錫進編集長は中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」で、FT報道を「米中対立の機運をさらに盛り上げて、これを喜んでいる」と批判しつつも「中国が米国に『レアアース戦争』を仕掛けなければならないほどの対立には至っていない」と火消しに回った。同時にバイデン現政権に向けて「理性を取り戻し、米中を深刻な関係断絶の方向に推し進めないよう願う」と求めた。
◇「中東に石油、中国にレアアース」
 レアアースとは、希少金属(レアメタル)の一種。磁力を強めるネオジムや、高温でも磁力が落ちないジスプロシウムなど、17種の元素の総称だ。スマートフォン、パソコン、省エネ家電、ハイブリッド車、電気自動車(EV)、最新鋭ステルス戦闘機F35、対戦車ミサイル「ジャベリン」、レーザーなど、幅広い分野で不可欠な材料であり、「産業のビタミン」などとも呼ばれる。そのレアアースの埋蔵量は中国が世界の30%以上を占める。中国では1950年代から周恩来首相(当時)らがレアアース産業に注目し、発展計画を立ててきた。92年には当時の最高指導者、鄧小平氏が南方視察の際、「中東に石油あり、中国にレアアースあり。どうあろうとも、レアアースの仕事をうまく処理していくべきだ」と積極展開を指示してきた。中国は安い採掘コストを背景に生産を急拡大させ、それに押された米国などは産業を縮小せざるを得なくなった。その結果、中国は2007年、世界の生産量の96.8%を握る「一人勝ち」状態になった。一方で、中国のレアアース産業には多様な問題点が浮き彫りになった。需要が高まる中で生産統制が甘くなり、不法採掘や密輸が横行▽生産過程で土壌・地下水・大気の汚染が深刻化▽中国の急速な経済成長に伴いレアアースの国内需要の大幅増――などから、そもそも輸出に慎重にならざるを得ない状況にはある。
◇尖閣事件のダメージ
 中国は「一人勝ち」を背景に、外交関係が悪化した国に対し、輸出規制というカードをちらつかせてきた。それがはっきり示されたのが、2010年9月7日に起きた沖縄県・尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件だった。日本領海内で違法操業した中国漁船が海上保安庁の巡視船に体当たりしたため、海保が船長を逮捕。すると中国側が反発し、日本向けのレアアース輸出の通関手続きを滞らせる事実上の「禁輸」措置に打って出て、日本側に動揺が広がった。ただ、レアアースの戦略的活用が相手国に打撃を与える一方で、多くの「副作用」も露呈した。日本は事件後、「中国に頼らない供給の仕組みをつくるべきだ」として新たな供給網の構築を進めるとともに、代替技術の開発も促進した。このため輸入全体に占める中国の割合は09年の85%から18年には58%にまで引き下げられた。さらに、中国産レアアースの相対的な価値が低下した▽中国が国際的な信頼を失い、海外で別の資源を採掘するのが困難になった▽不法採掘や密輸が一段と深刻化した――などの逆風が吹き、中国のレアアース産業もダメージを受ける形となった。対米規制が実施された場合にも、同様の事態が予想される。中国にとってレアアース規制は「もろ刃の剣」でもあるようだ。

*13-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210523&ng=DGKKZO72176310T20C21A5MM8000 (日経新聞 2021.5.23) 軍事の重心、西から東へ、対中シフト、在外米兵5割がアジア
 世界の軍事力の重心が西から東へ移ってきた。米軍の国外の兵員配置は20年間で、欧州や中東に代わり東アジア・太平洋が最も多くなった。世界全体の兵力もアジア太平洋の比重が高まる。冷戦期の東西対立から対テロ戦争を経て、中国が安全保障上の脅威になった変化を映す。米国の対外戦略が転換点を迎えている。バイデン米大統領はアフガニスタンの駐留軍を9月までに撤収する方針を打ち出した。4月には日米首脳の共同声明で台湾海峡に触れた。中国抑止を重視する姿勢が前面に出る。米国防総省のデータから米軍の在外兵力の配置の変遷をみた。2000年の駐留先は6.9万人のドイツが最多だった。01年の米同時テロ以降は中東に軸足を移し、ピーク時はアフガニスタン、イラクに各10万人超を投じた。13年に当時のオバマ米大統領は「もはや世界の警察官ではない」と語った。20年までの10年間で在外兵力は全体で5割程度減った。一方で東アジアの同盟国の日本や韓国では規模を保っている。米国以外の動向はどうか。英国のシンクタンク、国際戦略研究所(IISS)が発行する「ミリタリー・バランス」のデータで世界の兵力分布や装備の変化を調べた。世界全体の兵力は縮小が進む。冷戦期に東西対立の前線だった欧州・旧ソ連諸国は30年間で半分以下に減らした。対照的に中国周辺の新興国などが増加した。インドネシアは30年間で4割、フィリピンは3割、国境紛争を抱えるインドは15%伸びた。アジアの比重が顕著に高まった。中国は兵員数を減らしたものの装備の充実が目覚ましい。1990年にゼロだった中国の近代型戦闘機の保有数は30年間で米国に次ぐ規模に膨らみ、自衛隊や在日米軍を上回る。日韓台も新型装備の導入に力を注ぐ。中国が競争を招く構図が浮かび上がる。中国はミサイルや潜水艦も大幅に増強した。米国防総省などの分析によると、台湾を射程に収める短距離弾道ミサイルは95年の50発から19年時点で750~1500発に増えた。中距離弾道ミサイルも950発以上と推計される。「多くの人が考えるよりもずっと近いと思う」。4月末に就任したアキリーノ米インド太平洋軍司令官は3月、上院の公聴会で中国の台湾侵攻への危機感を訴えた。オースティン米国防長官は3月の来日時、記者会見で「中国などへの競争優位性を持つ必要がある」と強調した。同氏は中東を管轄する米中央軍司令官だった。いまは「この20年、我々は中東に関心を払ってきた。その間に中国は軍の近代化を進め、威圧的な行動をとるようになった」と警鐘を鳴らす。防衛研究所の塚本勝也社会・経済研究室長は「米国にとって地域の軍事バランス回復は急務だ」と話す。「前方展開能力を高め、中国のさらなる台頭を抑え込もうとしている」と分析する。米国のプレゼンスだけで中国に対峙するのは難しく、同盟国の責任も増す。日米首脳の共同声明は日本の防衛力強化の決意を盛り込んだ。岸信夫防衛相は国内総生産(GDP)比1%の枠にこだわらず防衛費を増やす方針を示す。変化の影響は中東にも及ぶ。三菱総合研究所の中川浩一主席研究員は最近のイスラエルとパレスチナの衝突激化を「バイデン政権の脱中東、対中国シフトの外交戦略による面が大きい」とみる。日本は石油供給の9割を中東に依存する。中川氏は「米国が中東から手を引く影響を最も受ける」と警戒する。世界の軍事バランスの変動は日本に新たな安保上の難題をもたらしている。

*13-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/680768 (佐賀新聞 2021年5月23日) 英空母群、インド太平洋へ出航、日本で共同訓練調整
 英軍の最新鋭空母「クイーン・エリザベス」を中核とする空母打撃群が22日、初のインド太平洋地域への展開に向けて英国を出航した。英メディアが23日報じた。同地域を重視するジョンソン政権の安全保障戦略の象徴として、日本やインドなど約40カ国に寄港。台頭する中国をけん制する狙いもあるとみられる。艦隊は7カ月をかけて地中海やインド洋、太平洋に展開。日本では自衛隊との共同訓練も調整されている。シンガポールや韓国にも寄港する。クイーン・エリザベスは2017年に就役した英最大級の艦艇で、排水量6万5千トン、全長280メートル。英政府によると、今回の派遣では駆逐艦やフリゲート艦、潜水艦を従え、最新鋭ステルス戦闘機F35Bなども配備する。米国やオランダの艦船も加わる。出航前の22日にはエリザベス女王が司令官らの激励に訪れた。ジョンソン首相は「インド太平洋地域の平和と安全への関与を行動で示し、われわれの影響力を示す」と意義を強調している。ジョンソン政権は3月に公表した外交安保の新戦略で「経済、地政学上の中心」としてインド太平洋地域への「傾斜」を表明した。

<日本は役に立つ新産業の育成・普及が遅れる国である(その5)>
PS(2021年5月31日追加): 医療が逼迫してパルスオキシメーターも足りなくなり、自宅療養中に死亡者が出たという沖縄県で、*14-1のように、治療が必要な自宅療養者を対象として訪問看護が開始されたそうだ。訪問看護も介護と同時期に始まった自宅療養に必要な制度であるため、これまで表に出なかったのが不思議なくらいだ。しかし、沖縄は島なのに、新型コロナ感染者が増えた理由は、空港での検査がザルだったからではないのか?理由を明らかにしてそれを止めなければ、現象のみに対応しても「焼石に水」である。また、家族がいるのに感染者が自宅療養すれば、マスクを着けたり消毒したりしても家庭内感染を止めることはできないため、軽症ならホテル療養することになっていたではないか?
 また、*14-2には、「①診療所には内科でも発熱患者を拒むところが多い」「②発熱・体調不良の患者が最初に相談する窓口は住民に身近な診療所であるべき」「③日本ではその役割を保健所が引き受け、業務逼迫でパンクした」「④通常の診察を大きく減らして地域の高齢者に幅広く接種する開業医は少数」「⑤コロナ禍は診療所の存在意義も問いかけている」「⑥小規模な民間病院の再編・統合を促す政策を打ち出すことが必要」と書かれている。
 しかし、①②は、一般の患者と動線を分けられない診療所は、新型コロナの疑いのある患者を避けて院内感染を防ぐ必要があるので仕方がない。また、④は、病気は新型コロナだけではないため、通常の診察を大きく減らすわけにもいかない。しかし、③のように、保健所が間に入ったことで、医師以外の慣れない人に相談して埒があかなかったり、無駄な時間を費やしたりするケースが多かったのだ。従って、⑤については、自宅療養するためには適切な数の診療所は必要であり、⑥のように、小規模な民間病院を再編・統合すればうまくいくとは限らない。
 それでは何が必要かと言えば、*14-3のように、都道府県が地域の事情に合わせて「地域医療構想」を作り、病院間の役割分担・訪問看護・介護の計画や広域医療計画を立てることが必要なのだ。ただし、重症者や救急患者に対応する急性期を治療するのが病院なので、病院の急性期病床を減らすのは誤りだ。それ以外にリハビリ病床は必要だが、生活習慣病などの慢性期は病床を増やすよりも自宅療養を可能にする方が重要だろう。つまり、「急性期病床を減らせ」「症状が軽くなったら主治医を変えよ」などという誤った指示をするから話が進まないのであり、それらの総合的結果として「新型コロナ患者受入拒否」や「医療崩壊」に繋がったのだと思う。

*14-1:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1330606.html (琉球新報 2021年5月31日) 自宅療養1000人超す これまで2人死亡 沖縄県は訪問看護開始
 沖縄県の糸数公医療技監は30日、これまでに県内で自宅療養中に亡くなったのは、今月15日に発表した那覇市の70代女性と、4月30日に発表した那覇市の40代男性も新たに含まれることを明らかにした。新規感染者の急増で医療がひっ迫し、病床占有率は30日現在、95・7%に上る。自宅療養者は1088人となり、高齢者や持病がある人も自宅療養せざるを得ない状況となっている。血中の酸素飽和度を測るパルスオキシメーターも全ての自宅療養者に配布されておらず、県の配布対象は高齢者や基礎疾患がある人などに限られている。急増する自宅療養者への対応強化は必至だ。県によると、自宅療養者にはパルスオキシメーター300個を高齢者と基礎疾患がある人に優先的に配布した。500個を追加で購入する予定だが、不足が想定されるため、全員に行き届いていない。療養期間が終了した人は返却するよう返信用封筒も渡しているものの、返却状況が好ましくないという。糸数技監は「感染者が増える中で、パルスオキシメーターは貴重な医療機材だ。返却の協力をお願いしたい」と訴えた。県は投薬などの治療が必要な自宅療養者を選定し、県看護協会に委託して訪問看護を始めている。30日現在、これまでに実施したのは6件。今後、投薬が必要な自宅療養者の増加が想定され、調整を進めている。酸素投与や薬の投与などの医療行為は訪問看護がなければ受けることはできず、解熱剤のアセトアミノフェンなど一般の市販薬を常備し、自身で服用するしかないのが現状だ。糸数技監は「体調が変化したときは近くにいる人に速やかに伝え、県に連絡をいただきたい。家庭ではマスクの着用、触ったところの消毒など家庭内の感染対策にも注意が必要だ」と述べた。

*14-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210531&ng=DGKKZO72396640Y1A520C2TL5000 (日経新聞 2021/5/31) 開業医、問われる役割
日本の医学部定員は9330人と過去最多の水準にある。2016年には37年ぶりに医学部を新設した。厚労省は医師数が現在の33万人弱から36万人台まで増える29~32年ごろに需給が均衡するとしている。だが政府が医師数を増やす方針に転じたのは08年から。1980年代から医療の質を高める改革を始めたことを考えると、後手に回ったのは明らかだ。80年代前半に8280人だった医学部定員はその後縮小され、90年代以降は7600人程度に据え置かれた。医師が増えると医療機関の開業も増え、既存の診療所や病院に患者が集まらなくなる。こう懸念した日本医師会が医師を増やすことに反対したためだ。小規模な民間病院の再編・統合を促す政策も打ち出せず、病院勤務医の業務が増えるにつれて日本の医療は機動力を失っていった。医師会が守ってきた診療所には、内科でも今なお発熱患者を拒むところが少なくない。コロナとの闘いの「外側」にいる医師がかなりいる。ワクチン接種には多くの診療所が手を挙げたが、接種対象者を日ごろの患者に限っている例が多い。通常の診察を大きく減らし、地域の高齢者に幅広く接種するという開業医は少数だ。発熱や体調不良の患者が最初に相談する窓口は本来、住民に身近な診療所であるべきだ。日本ではその役割を保健所が引き受け、そして業務逼迫でパンクした。コロナ禍は診療所の存在意義も問いかけている。

*14-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210531&ng=DGKKZO72385760Y1A520C2TCS000 (日経新聞 2021/5/31) 病状・緊急性で役割分担 全日本病院協会会長 猪口雄二氏
 国は都道府県に「地域医療構想」を策定させ、2025年に向けて病院の再編・統合や病床の転換を促してきた。団塊の世代がすべて75歳以上になって長期療養の病床が必要になるとともに、人口減少で医療需要が大きく変わるためだ。国は全国の病院に対し、病床を(1)高度急性期(2)急性期(3)回復期(4)慢性期――の4つに分類して現状と25年の見通しを報告させた。急性期病床を少なくし、リハビリを中心とする回復期病床や生活習慣病などに対応する慢性期病床を増やす推計を基本とした。18年から都道府県ごとの調整会議で検討してきたが、25年の推計病床数を達成できないのはほぼ間違いない。調整会議で病院団体や地元医師会の代表が議論しても、個々の病院が経営判断として急性期病床の転換に踏み切れなかった。日本は重症者や救急患者に対応する急性期だけでなく、回復期や慢性期病床を併せ持つケアミックス(混合型)病院が多い。こうした病院は高齢者が多く、職員配置も薄いため、院内感染のリスクが高いコロナ患者を受け入れにくい。国内に一般病床は90万床近くあるが、人手を要するコロナ患者に対応できる急性期病床は40万床程度ではないか。ただ、人口が減少する地域では急性期の需要が減ることは変わりがない。地域に最適な機能分化が必要だろう。欧米の病院では急性期の入院患者に特化している。日本では東京都でさえ、医療スタッフが分散し、夜間に心筋梗塞などの救急患者に緊急手術できる病院は限られる。病院単位で機能分化して再構築を進める必要があるだろう。難易度が高い緊急手術のような高度急性期の患者は大学病院など大病院に集約する。通常の救急患者は地域医療支援病院など中核病院が対応する。急性期に至らない「亜急性期」の患者を受け入れる地域に密着した病院も必要だ。外来は地域密着型病院や診療所で総合診療医などが担当する。このような再構築の実現には身近な地域単位で病院自身が加わって議論する必要がある。

<日本は役に立つ新産業の育成・普及が遅れる国である(その6)>
PS(2021年6月2日追加):*15-1のように、2020年度森林・林業白書は、2050年にCO₂排出量を実質ゼロに減らす政府目標に向け、温暖化ガス吸収源の森林整備が重要だと明記したそうだ。林業の経営強化には、省力化に繋がる技術開発も重要だが、林業地域は住居費が安く自然環境もよいため、343万円という年間平均給与は、再造林の意欲をしぼませて造林面積を伐採面積の3~4割程度に留まらせるほど低くはない。つまり、「環境として、資源として、森林を護る」という意識の欠如が問題なのだと思う。
 このような中、*15-4のように、日本は、在留資格のない外国人を大した罪もないのに入管施設に収容して送還し、難民認定率は僅か0.4%などと難民保護に消極的な国だが、これをやめて条件を明示し、日本で働きたい外国人(難民を含む)を募れば、人件費で物価を高騰させて国際競争力を失うことなく、多くの産業を再開できる。
 しかし、*15-3のように、日本で働く外国人が172万人にも達するという労働力の実需があり、移民の子に日本で教育を行えば生産年齢人口減少時代に良質な労働力となり、多言語・多文化の背景を持って日本社会の多様性を支えていく存在になって社会的コスト以上の見返りがあるにもかかわらず、「技能実習」「特定技能」の外国人労働者に家族帯同を認めないことで、日本政府は人権侵害と日本国憲法違反を犯しているわけである。
 また、農業白書も、*15-2のように、食料供給リスクの高まりを指摘する内容だが、日本の食料自給率は4割以下となり、多くを海外依存したまま具体的解決策が示されていないそうだ。人口が減るなら輸入どころか輸出できてもおかしくないが、国内の農業生産は高めず輸出規制回避のため国際協調を進めるなど外国依存を増やそうという呑気な政策のままなのである。今では、興味を抱いて都市部から就農を目指す若者が増え、生産現場を支えている外国人も多いため、外国人労働者に「技能実習」等の劣悪な労働条件を押し付けるのではなく、労働法に沿った安定した人材確保を行うべきである。

*15-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA288S60Y1A520C2000000/ (日経新聞 2021年6月1日) 脱炭素へ林業経営の支援強化 20年度林業白書
 政府は1日、2020年度の森林・林業白書(森林・林業の動向)を閣議決定した。50年に二酸化炭素(CO2)の排出量を実質ゼロに減らす政府目標に向け、温暖化ガスの吸収源である森林の整備が重要だと明記した。林業経営の支援強化策として省力化につながる技術開発などを盛り込んだ。白書は伐採面積に比べて人工造林された面積が3~4割程度にとどまり、林業に適した場所でも再造林が進まないとの事例を示した。林業従事者の所得水準が低く、再造林の意欲がわかないことが一因だと指摘した。17年の林業従事者の年間平均給与が343万円と4年前から38万円増えたものの、全産業平均(432万円、17年)に比べると低いことに触れた。人材の定着も長期的な課題として挙げた。再造林の担い手である林業従事者数は15年時点で10年前から1割強減ったとの調査結果をもとに、定着率を高めるために林業の収益性向上が重要だと強調した。経営改善に向けた具体策として、自動化を進める機械の導入や成長速度が早い品種の投入などを例示した。

*15-2:https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2021053100121 (信濃毎日新聞社説 2021/5/31) 農業白書 見通せぬリスクへの備え
 政府が先日閣議決定した農業白書は、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を踏まえ食料供給のリスクの高まりを指摘する内容となった。日本の食料自給率は4割を切っており、多くを海外からの調達に依存する。途絶えるようなことがあれば大きな混乱が生じる。供給不足には至らなかったものの、ロシアやウクライナなど19カ国が昨年、小麦やソバの一時的な輸出規制に踏み切った。都市部を中心に不足への懸念が広がり、長期保存できるパスタや冷凍食品がスーパーで品薄になる事態も昨年、一部で発生した。白書は、自然災害や家畜伝染病の多発に加え、感染症の拡大も食料供給に影響を及ぼすリスクになるとし、不測の事態に備えていく必要があると強調した。もっともな指摘である。では具体的にどう備えを進めていくかとなると、説得力は乏しい。安定供給への道筋が見えてこない。輸出規制回避などのため、国際協調を進める、とある。当該国が深刻な不足に陥った場合にも輸入を継続できるだろうか。小麦やトウモロコシの備蓄を挙げている。リスクを踏まえ備蓄水準を見直していく必要はある。だが対応には限界がある。国際市場で食料が逼迫(ひっぱく)する恐れが中長期的に増すのが避けられない以上、重要度が高まるのは国内の農業生産だろう。何をどれだけ維持・拡大していくか。腰を据えた議論が必要ではないか。農業の生産基盤は長期間、弱体化が止まっていない。担い手が減り、高齢化している。農地の減少と荒廃も進んでいる。白書によると、2020年の基幹的農業従事者数は136万3千人。10年前から34%減少した。平均年齢は67・8歳で、この10年で2歳ほど高齢化している。一方、興味を抱いて都市部から就農を目指す若者も少なくない。農協や自治体による就農支援の強化など、長い目で人材育成の取り組みに力を入れたい。コロナ下では、農業の外国人材に関する問題も顕在化した。農繁期の労働力を東南アジアなどから来る技能実習生に頼る構造が定着し、コロナの影響で来日できなくなった途端、人手不足に陥った。県内では高原野菜産地が深刻な状況になっている。厳しい労働環境に失踪する技能実習生もいる。生産現場を外国人が支えている現実に改めて目を向けつつ、安定的な人材確保策を考えていく必要がある。

*15-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14905817.html (朝日新聞 2021年5月17日) 子どもと来日、閉ざす日本 「家族分離生む政策」批判も
 日本で働く外国人は昨年172万人に達し、5年でほぼ倍増した。その一方で、政府から家族の帯同を認められず、母国に子どもを残してくる外国人労働者も多い。日本の政策が、家族の分離を生み出していると批判の声があがる。二国間の経済連携協定(EPA)に基づく介護福祉士の候補者は、インドネシア(2008年~)、フィリピン(09年~)、ベトナム(14年~)から受け入れ、これまでに約5500人が来日した。原則として来日4年目に介護福祉士試験に合格すれば、その後も日本で働き、配偶者や子どもを呼び寄せることもできるが、合格率は約5割にとどまる。日本で働く外国人のうち、在留資格別で最多の40万人を占める「技能実習」では、家族の帯同が認められていない。人手不足の14業種で外国人労働者を受け入れるため、19年に新設された「特定技能」(約7千人)でも、家族帯同の道は、ほぼ閉ざされている。フィリピンからの移民労働者を研究する小ケ谷(おがや)千穂・フェリス女学院大教授(国際社会学)は「家族が分離されることなく一緒に暮らすことは基本的な権利。それを国が認めないのは大きな問題だ」と言う。特定技能の新設をめぐる18年の国会審議でも、野党側から「深刻な権利侵害に問われる」との批判があった。しかし、安倍晋三前首相は国会答弁で「受け入れれば、家族に対する支援も検討する必要があり、幅広い観点から国民的なコンセンサスを得る必要がある」と、家族の生活支援にかかる社会的コストを理由に、否定的な認識を示した。出入国在留管理庁の担当者は取材に、技能実習や特定技能について「制度上、日本で一定期間、働いた後は帰国することになっている。家族帯同を認める必要性は低い」と説明する。働き手自身が日本語や生活上の支援を必要としていることや、家族と一緒に暮らすために十分な賃金を得られないケースが多いことも、帯同を認めない理由に挙げた。小ケ谷教授はこうした日本の外国人労働者政策について「政府は短期的な労働力だけを求め、家族にかかるコストの負担を拒否している」と指摘する。「移民の子どもは多言語や多文化の背景をもち、日本社会の多様性を支えていく存在にもなり得る。長期的視野をもって、受け入れていくべきだ」と話す。
■残された子、精神面に課題
 フィリピンの人材を日本企業に紹介するN.T.グループ(大阪市)は06年以降、約2千人を日本へ送り出した。家族や親戚に子どもを預けて来日する人も多く、高橋信行会長(72)は「国際電話しかなかった十数年前に比べ、スマートフォンの普及で親子の連絡が簡単になり、出稼ぎへの心理的な壁は低くなった」と話す。送金が重要な外貨収入であるフィリピンでは、政府が移民労働者の子ども向けに奨学金を設け、出稼ぎを後押しする。親が海外に働きに出ることの子どもへの影響は、評価が割れている。フィリピンなどの移民送り出し国での調査でも、子の精神面や学習面に悪影響が「ある」「ない」という両方の結果が出ている。ユニセフは昨年9月に出した「残された子どもたち」に関する報告書で、「親からの送金によって子が学校に長く通えるようになる」一方、「親と長期間離れることでうつ病や不安症といった精神面のリスクを高めかねない」と指摘した。「健全な発達のために、コミュニティーの支援や親子の頻繁な連絡が必要」としている。

*15-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210528&ng=DGKKZO72356160Y1A520C2EAC000 (日経新聞 2021.5.28) 難民保護、政策手薄の10年、日本の認定率わずか0.4%
 オーバーステイ(超過滞在)などの理由で在留資格のない外国人の保護のあり方が注目を集める。政府・与党は入管施設での長期収容を防ごうと出入国管理法の改正を目指したが野党が反発し今国会での成立を見送った。難民認定をはじめ入管行政は効果的な政策が打たれないままだ。「きょう食べるものにも困っている」。NPO法人の難民支援協会(東京・千代田)には、生活や就労などの支援を求める外国人からの連絡が年間4000件近く寄せられる。最近は新型コロナウイルス禍で困窮した人からの相談が急増しているという。紛争や人権侵害のため母国に住めず日本に難民申請する人は増加傾向にある。申請者数はピークの2017年に1万9629人となり10年に比べ16倍に達した。協会は「難民は仲介人らを通じ国を探す。入国できそうな国の航空券を取り入管などで保護を求めることが多い」と指摘する。難民が日本を訪れるのは多くの場合「偶然、査証(ビザ)が発給された」ためだ。日本に来る難民はもともと、ベトナム、ラオス、カンボジア人が中心だった。ベトナム戦争の「ボート・ピープル」が典型例として知られる。02年に中国の日本総領事館に北朝鮮の脱北者が駆け込む事件が発生。それを機に、難民の申請要件を緩和し、認定前の仮滞在を可能にした改正入管法が04年に成立し申請がしやすくなった。政府は10年、申請者の就労も一律で認めた。年間1000人程度だった申請者数は14年には5000人に。入管の人手不足もあり「就労目的で申請を悪用したとみられる事例が増え審査期間も長くなった」(出入国在留管理庁)。10年代には紛争の激化で世界の難民の数も増えた。日本は観光客の誘致へビザの発給要件を緩和したこともあり難民が来日する事例も増えた。法務省は申請増に歯止めをかけようと、18年、明らかに難民に当てはまらない申請者の在留や就労の制限を強化した。支援団体は日本の認定率を問題視する。19年は1万375人の申請に対し認定は44人と、0.4%にとどまった。56%のカナダ、46%の英国に比べ低水準が際立つ。認定されず在留期限が切れて日本に残る不法残留者は今年1月時点で17年に比べ3割多い8万2868人に達する。そうした人は摘発され帰国するまで原則として入管施設にとどまる。3月に名古屋出入国在留管理局で死亡したスリランカ人女性は半年以上施設に収容されていた。仮放免を求めハンガーストライキを起こし体調を崩す収容者も多い。難民申請を繰り返す人が多く入管施設は逼迫する。「送還忌避者」は20年12月時点で3100人にのぼる。「入管法改正の背景には送還忌避があとをたたない状況がある。迅速な送還の実施に支障が出て収容が長期になることの要因となっていた」(上川陽子法相)。法務省は入管法改正案で長期収容の問題解決を目指した。3回目以降の申請は強制送還の対象になるとの規定を設けた。現在は認定申請すると回数や理由に関係なく送還できない。強制送還が可能になると収容者は減るが帰国先で迫害を受けかねない。野党は「人権侵害のスリーアウトルール」と呼び反対の論拠にした。法務省は外国人の受け入れを広げるため難民に準じた新資格「補完的保護対象者」を提案した。母国が紛争中の人を念頭に難民と同じように定住者の資格で在留を認める。筑波大の明石純一准教授は法改正の必要を強調する。それだけでは長期収容の問題は解決せず「難民認定などを審査する入管の体制強化が必要だ」と話す。支援団体などは難民認定を入管当局ではなく専門性の高い独立機関がすべきだと主張する。日本の入管行政はこの10年間、申請の急増に対応する政策が手薄だった。改正案の成立は見送りになったが長期収容の問題は残る。

<日本は役に立つ新産業の育成・普及が遅れる国である(その7)―生物由来の薬>
PS(2021年6月3日追加): *16-1のように、ヘルペスウイルスの遺伝子を組み換えて癌細胞だけで増殖するようにした「癌治療薬」が初めて実用化され、5年生存率10%の難病患者の1年後の生存率が92.3%で、これは他の抗癌剤治験で示された34.5%より高いそうだ。また、*16-2のように、新型コロナウイルスは武漢研究所で遺伝子操作によって造られたという法医学的学術論文が、英国とノルウェーの学者によって発表された。最初の状況から見て中国政府が意図的にばら撒いたとは考えにくいが、遺伝子操作が容易にできるようになり、構造の単純な人工ウイルスを作り出すのは簡単だというのが現在の常識になっている。
 また、「ウイルスには免疫とワクチン」というのが私が学生の頃から常識であるため、*16-3のように、厚労省新型コロナ感染症対策分科会の尾身会長が、徹底的な検査をしたり、ワクチン・治療薬の開発・承認を急がせたりすることなく、検疫もザルにしたまま「人の流れを止めよ」と言って緊急事態宣言を出させて経済に大損失を与えた上、ワクチン接種が始まっても「五輪開催は普通はない」「規模をできるだけ小さくして管理体制を強化するのが主催する人の義務」などと言っているのは、とても医学の専門家とは思えない。さらに、「オリンピックを開く際は、何のためにやるのか、しっかり明言することが重要」などと指摘するのは、行政にいた人とは思えない無知であるため、これらの必要な対応をしなかった日本の厚労省の方に、新型コロナ感染症を広げる意図があったように、私には見える。
 なお、*16-4のミドリムシ(藻類)は、動物と植物に分化する前の生物なので、動物が持つ栄養素と植物が持つ栄養素の両方を持っており、それを食べると野菜と肉を同時に食べたのと同じ効果があるのだそうだ。、佐賀市は、そのミドリムシを下水の廃液やごみ処理場のCO2を活用して増やし、鶏の餌や肥料にして賢く効果を出している。私は、ミドリムシもウイルスに対する抗体を作れる筈なので、抗体薬を作るのに使えそうだと思っている。

*16-1:https://www.yomiuri.co.jp/medical/20210525-OYT1T50156/ (読売新聞 2021/5/25) ウイルス使った「がん治療薬」初の実用化へ…5年生存率10%の難病患者、1年後で92・3%生存
 厚生労働省の薬事・食品衛生審議会の部会は、がん細胞だけで増殖する特殊なウイルスを使った悪性脳腫瘍の治療薬「テセルパツレブ」の条件付き承認を了承した。近く厚労省が承認し、第一三共が製造販売する。ウイルスを使ったがん治療薬の実用化は初めて。この薬は東京大医科学研究所と同社が共同開発した。ヘルペスウイルスの遺伝子を組み換え、がん細胞だけで増えるように加工。増殖の過程でがん細胞の破壊を狙う。治療の対象は、脳腫瘍の中でも特に悪性度が高い膠芽腫こうがしゅ。年間の新規患者数は約2400人で、5年生存率は10%程度と治療が難しい。東大医科研の治験では、手術、放射線治療、抗がん剤の標準治療を行った後の患者13人に投与したところ、1年後の生存率は92・3%だった。同じ状況で投与された他の抗がん剤の治験で示された34・5%より高い。ただし、治験対象者が少数のため、7年かけて有効性と安全性を確認する条件が付いた。

*16-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/8b36470ee15dcbe2899f76571ee3d820aa9bb39c (Yahoo 、FNNプライムオンライン 2021/5/31) 「コロナウイルスは武漢研究所で人工的に変造された」英研究者らが法医学的学術論文発表へ 
●「ウイルスは中国研究所で人工的に変造された」
 新型コロナウイルスの武漢研究所流出説が再燃する中、英国の研究者らがウイルスが中国の同研究所で人工的に変造されたことを法医学的に突き止めたと、近刊の学術誌で論文を発表する。英国の日刊紙デイリー・メイル電子版28日の特種報道で、近く発行される生物物理学の季刊誌Quarterly Review of Biophysics Discoveryに掲載される学術論文を事前に入手し「中国がコロナウイルスを造った」と伝えた。論文の筆者は、ロンドンのセント・ジョージ大学で腫瘍学専科のアンガス・ダルグライシュ教授とノルウェーの製薬会社イミュノール社の会長で生物学者でもあるビルゲール・ソレンセン博士の二人で、研究の発端はイミュノール社で新型コロナウイルスのワクチンを開発するために、ウイルスを調べ始めたところ、ウイルスが人工的に改ざんされた痕跡(フィンガープリント)を発見したことだったという。そこで二人は、武漢ウイルス研究所を疑って2002年から2019まで同研究所で行われた実験にかかわる研究論文やデータから、その根源を探る「レトロ・エンジニアリング」という手法で分析した。その結果二人は、中国の研究者が、その中には米国の大学と協調して研究していた者もいたが、コロナウイルスを「製造する術」を手にしたらしいことが分かった。彼らの研究のほとんどは、米国では禁止されている遺伝子操作で性質の異なるウイルスを作り出すことだった。
●コウモリのウイルスを遺伝子操作で変造
 二人は、中国の研究者が中国の洞窟で捕らえたコウモリからそのウイルスの「バックボーン」と呼ばれる部分を別のスパイクに接着させ、より致死性が高く感染力の強いウイルスを造ったと考える。そのウイルスのスパイクからは4種のアミノ酸の列が見つかったが、こうした構造は自然界のウイルスには見られないことで、人工的なウイルスであることを裏付けるものだとソレンセン博士は言う。コロナウイルスの発生源については、世界保健機関 (WHO)の調査団が中国で調査した結果「コウモリから別の生物を介してヒトに感染した可能性が高い」と報告し、中国のキャンペーンもあって自然界での変異説が有力視されてきた。
●「軍事利用」が目的だったのか?
 しかし、ここへきて武漢ウイルス研究所の研究員3人が2019年秋にコロナと似た症状で入院していたという米情報当局の情報がマスコミに流されたり、英国の情報部もウイルスが武漢研究所から流出したものと判断したと伝えられ「研究所流出原説」が再燃。バイデン米大統領も26日コロナウイルスの発生源再調査を命じ、90日以内に報告するよう求めた。そうしたタイミングで出てきた今回の研究論文は、単なる噂話ではなくウイルスを法医学的に分析した学術研究なので説得力があり、今後このウイルス変造が「軍事利用」を目的としていたのかどうかなどの論議に火をつけることになりそうだ。

*16-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210603&ng=DGKKZO72534310T00C21A6PD0000 (日経新聞 2021.6.3) 尾身会長、五輪開催「普通はない」 規模最小化訴え
 政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は2日の衆院厚生労働委員会で東京五輪・パラリンピックに言及した。開催に関し「いまの状況でやるというのは普通はない」と述べた。「規模をできるだけ小さくして管理体制を強化するのは、主催する人の義務だ」とも強調した。五輪実施が人流の増加などにつながらないよう政府や大会組織委員会などが一体となった取り組みを促した。大会を開く際は「いったい何のためにやるのか、しっかりと明言するのが重要だ」と指摘した。十分な説明がなければ「なかなか一般の人は協力しようと思わない」との考えを示した。加藤勝信官房長官は11~13日の主要7カ国首脳会議(G7サミット)で菅義偉首相から各国首脳に開催への理解を求める方針を示した。2日の記者会見で「感染対策を徹底し、安全・安心な大会を実現すると各国に説明する」と話した。

*16-4:https://news.yahoo.co.jp/articles/b3c6863a0c84d9cee87cacd0c6f7d741f126111b (Yahoo 2021/5/29) 藻・ミドリムシ循環担う 下水の廃液・CO2活用 鶏の餌や肥料に 佐賀で実証
ミドリムシなど藻類を野菜の肥料や鶏の餌にする試みが、佐賀市で加速している。藻類は下水や、ごみ処理場の二酸化炭素(CO2)で培養可能だ。未利用資源の有効活用となる。藻類を原料とした餌を食べた鶏の卵は、黄身が濃く機能性も増す。市は企業と連携して藻類の利用を促進。低炭素社会の実現を後押しする。養鶏業やパン製造販売を手掛ける「むーらん・るーじゅ」は、卵かけご飯専門店を市内にオープンした。使う卵は藻類「ヘマトコッカス」を混ぜた餌を与えた鶏が産んだものだ。卵は免疫力を高める効果がある赤い色素「アスタキサンチン」を含み、抗酸化成分は通常の250倍とされる。石井利英社長は「黄身が熟した柿のような濃い色でお客さんが驚く」と話す。原料のヘマトコッカスはCO2を吸収して光合成して増える。市のごみ焼却場から排出されるCO2を買い取り、(株)アルビータが培養を担う。市と同社が2014年に結んだバイオマス(生物由来資源)資源利活用協定に基づく。市は「一般社団法人さが藻類バイオマス協議会」の事務局を務める。資源活用の旗振り役だ。賛同する(株)ユーグレナは4月、市内に試験農場を開設した。藻類・ミドリムシを肥料に混ぜてホウレンソウなどを栽培。肥料効果を実証する。ミドリムシは、市下水浄化センターの汚泥処理で出る廃液とCO2で培養する。同社によると、年間130トンのCO2で75トンのミドリムシを生産できるという。廃液には窒素やリンなどが多く、ミドリムシの栄養源となる。ただこれまで悪臭などの問題で、廃液のままでは農業利用が難しかった。廃液の成分をミドリムシが吸収し、下水処理場の負荷軽減にもつながる。ミドリムシの肥料で育てた作物は収穫後の鮮度を保てるとされる。小松菜を収穫後に低温保管したところ、1週間後に失われる水分が慣行の肥料のものより3割少なかった。市バイオマス産業推進課は「廃棄物を安価に資源化でき、無理のない形で資源循環が実現できる」と説明する。
<ことば> 藻類
主に水中に生息し、光合成を行う生物のこと。ミドリムシなど微細なものから、コンブなど大型の海藻も含む。バイオマス利用には微細藻類が中心に使われている。

<「できない」「できない」ではなく、やる方法を考えるべき(その1)>
PS(2021年6月5日追加):*17-1は「①47都道府県庁所在地のある市区のうち、51%に当たる24市で64歳以下のワクチン接種開始時期が決まっていない」「②自治体は高齢者接種の7月末完了に追われている」としているが、ワクチンが足りないわけではなく接種するか否かの問題であるため、「できない、できない」と言うのではなく、やる方法を考えたらどうかと思う。私が住んでいる埼玉県の場合は、市町村以外に埼玉県浦和合同庁舎に集団接種会場を設けてモデルナのワクチンを接種しており、市町村よりそちらの方が予約しやすかった。沖縄県の場合は、市町村が接種券さえ発効すれば、国際通りの前の県庁近くに会場を設けて感染確率の高い人たちに大量に接種することが可能だろう。
 また、*17-2のように、小規模離島の首長から「③できるだけ一斉接種ができる体制が作れないか」という要望があったのなら、沖縄県の場合は自衛隊の病院船に離島を廻って集団接種してもらってもよいくらいだ。基礎疾患のある人は、あらかじめかかりつけ医に相談しておいたり、かかりつけ医で接種したりすればよい。
 なお、*17-3のように、遅くとも6月21日から職場・大学でモデルナのワクチン接種を始めるため、一般向けの接種券も早く配布した方がよい。また、*17-4のように、トヨタ・日航・住友生命・楽天などは職場での接種を検討しているそうだが、タクシー業界や宅配など不特定多数の人に接する職種も会社や組合で早く接種した方がよいと思う。農業者は、家族まで含めてJA全厚連がやればよいだろう。
 しかし、*17-5のように、「④沖縄県は出発地で検査と陰性確認を求めてきたが、事情があって出発地で検査を受けられない場合は県内で到着時に検査を受けるよう呼び掛けている」「⑤宮古空港と下地島空港(ともに宮古島市)、石垣空港(石垣市)でのPCR検査は有料で義務ではない」という水際は、やはりザルだ。何故なら、陰性証明でもワクチン接種証明でもよいが、要求するからには完全に要求しなければ漏れが生じ、⑤のように希望者だけがPCR検査をして検査結果の通知は翌日しか来ないのであれば、その漏れも完全には捕まらないからだ。これでは「感染を予防する気があるのか!?」と言いたいわけである。

*17-1:https://ryukyushimpo.jp/kyodo/entry-1333949.html (琉球新報 2021年6月5日) 一般接種、51%時期未定 高齢者対応で追い付かず
 新型コロナウイルスワクチンを巡り、47都道府県庁所在地のある市区のうち、51%に当たる24市は64歳以下の一般接種の開始時期が決まっていないことが5日、共同通信の調査で分かった。接種券を国の方針通り6月発送としたのは28%(13市区)にとどまった。政府は自治体に対し、高齢者接種に一定のめどが立てば、基礎疾患のある人を含めた64歳以下にも広げるよう要請した。しかし、自治体は高齢者接種の7月末完了に追われており、政府の思惑通りに自治体の事業が加速するかどうかは不透明だ。調査は5月31日~6月4日、47都道府県庁所在地の市区(東京は新宿)に実施した。

*17-2:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1333571.html?utm_source=ryukyushinpo&utm_medium=referral&utm_campaign=top_kennai (琉球新報 2021年6月5日) 「一斉接種体制を作って」離島首長ら要望 沖縄コロナ意見交換会
 県は4日、新型コロナウイルス感染症対策に向けて、県内41市町村の首長らとインターネットのビデオ会議システムを通じて意見交換会を開催した。県内で感染が急拡大した5月は、医療提供体制が脆弱(ぜいじゃく)な小規模離島でも感染が相次いで報告されている。小規模離島の首長からは「できるだけ一斉接種ができる体制が作れないか。役場職員が急患対応するため非常にリスクが高い」(座間味村)などの要望が上がった。また県が7日から県立学校の休校を決めたことで、「学校が休校になると本島から学生が島に帰ってくる可能性がある」(伊平屋村)として、事前のPCR検査の徹底などを求めた。(以下略)

*17-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODE010PD0R00C21A6000000/ (日経新聞 2021年6月1日) ワクチン接種、職場・大学で21日から 一般接種券も送付
 加藤勝信官房長官は1日の閣議後の記者会見で、新型コロナウイルスワクチンの職場や大学での接種を21日から始めると発表した。準備が整えば21日より前に始める。米モデルナ製を使う。6月中旬には一般向け接種券の配布を始めるよう自治体に要請した。職場での接種は社員、大学は学生と職員が対象になる。企業や大学、地方自治体の判断で、対象者の家族や周辺の住民への接種も認める。職場の接種は産業医や委託機関が企業内の診療所や会議室で実施する。提携先の医療機関で受けることもできる。中小企業には商工会議所を通じた共同接種を呼びかける。従業員の住所と職場がある市区町村が異なる場合が多いため、自治体が発行する接種券がなくても受けられる仕組みを検討する。いまは自治体からの接種券が届き次第、接種の予約ができる。新たに導入するのは後日、自治体の接種券が届けば接種が済んだと登録できる仕組みだ。加藤氏は企業や大学へのワクチン供給について「かなりモデルナのワクチンを持っている。峻別しなくても、要望があればそれに応じて発送していくことは十分可能だ」と述べた。供給先の順位付けはしない意向を示した。政府は65歳以上の高齢者の次に基礎疾患を持つ人や一般の人への接種を認める。加藤氏は「6月中旬をめどに一般接種の対象者全体に接種券を送付できるよう、各自治体で準備を進めてほしい」と強調した。政府はこれまで医療従事者と高齢者の接種を優先してきた。7月末に高齢者への2回目の接種を終える目標を掲げる。職場での接種はモデルナ製を使い、ファイザー製を用いる高齢者接種に支障がでないよう配慮する。首相は5月31日の自民党役員会で「高齢者接種にめどをつけたい。6月中には基礎疾患のある人を含め一般の接種を開始する」と述べた。政府発表によると5月30日時点での総接種回数は1234万回に達した。

*17-4:ttps://ryukyushimpo.jp/kyodo/entry-1331423.html (琉球新報 2021年6月1日) トヨタ、職場での接種を検討 日航や住友生命、楽天も
 トヨタ自動車は1日、新型コロナのワクチンの職場接種を検討していると明らかにした。21日から企業での接種を可能にするとの政府方針に対応した。日本航空や住友生命保険、楽天グループなども実施方針を表明。時期や対象者が未定の企業は多いが、コロナ収束に協力する動きが早速出てきている。トヨタはワクチン接種を巡り、地域支援の一環として本社がある愛知県豊田市などに産業医を派遣している。この取り組みと並行し、職場接種の方法を詰める。日本最大のメーカーで、子会社を含む従業員が約36万人(2020年3月末時点)に上るトヨタが実施に踏み切れば、追随する企業も出てきそうだ。

*17-5:ttps://ryukyushimpo.jp/news/entry-1331157.html (琉球新報 2021年6月1日) 沖縄・宮古島と石垣島の空港でPCR検査 3日から開始、専用サイトで予約受付も
 沖縄県は31日、新型コロナウイルス感染症対策として、宮古空港と下地島空港(ともに宮古島市)、石垣空港(石垣市)でのPCR検査の予約受け付けを専用サイトで開始した。6月3日から実際の検査が始まる。離島での水際対策として整備を求める声が上がっていた。検査は義務ではなく、対象空港の発着便利用者のうち、希望者が有料で検査を受けられる。検査料金は県内在住者は3千円、県外在住者は5千円。利用できる時間は午前9時から午後8時(下地島のみ同6時)まで。空港で提出した唾液を那覇の検査場に送るため、結果の通知は原則翌日。航空便の都合によっては翌々日以降になる可能性もある。県は1日当たりの検査数を宮古と新石垣で100件程度、下地島で50件程度と想定している。検査事業者は、那覇市松山で沖縄PCR検査センターを運営するミタカトレード沖縄支社。県は基本的に出発地での検査と陰性確認を求めてきたが、事情があって出発地で検査を受けられない場合は県内で到着時に検査を受けるよう呼び掛けている。離島空港PCR検査プロジェクトに関する問い合わせは沖縄PCR検査センター(電話)050(8880)2391。

<「できない」「できない」ではなく、やる方法を考えるべき(その2)>
PS(2021年6月6、7日追加):*18-1のように、東京五輪組織委員会・政府・東京都・IOC・IPCの代表が選手向け新型コロナ対策をまとめたプレーブックの変異株に対応した改訂版を確認し、その内容は、「①入国時に陰性証明を求め、空港でも検査する」「②全ての大会関係者は、出発前に2回検査する」「③出場するアスリートとチーム役員は、原則毎日検査する」「④滞在中は、公共交通機関の使用禁止」「⑤行動計画に反した場合は、資格剥奪も検討」だそうだ。
 しかし、①②の陰性証明書かワクチンの接種証明書を提示させれば、その人が新型コロナの感染者である確率は、どちらもない日本人よりずっと低いため、③④は、日本人よりアスリートとチームの役員を護るための対策だ。従って、⑤は「自分をリスクに晒さないため」という説明をすればよく、資格剥奪までは不要だろう。このような中、「ワクチンを接種した人と接種していない人の間に差別が生まれる」などと言う人がいるのは、“差別”の意味すらわかっていない。また、大会期間中に医療スタッフとして看護師500人を確保しても、地域医療に影響がないようにすることは可能であるため、証拠に基づかない感情的な反対は止めるべきである。
 さらに、*18-2のように、「⑥何百、何千の命と天秤にかける『平和の祭典』などあり得ない」等として五輪の中止を求める声が大きいが、「五輪を開催すると感染拡大して何百・何千の命が失われる」という科学的根拠はないため、あると言う人はその根拠を明示すべきだ。さらに、今から五輪の開催を中止しても既に費やした金とエネルギーは埋没原価となっていて戻らず、新たに多くの損害や信用棄損が生じるため、⑦徹底した検疫 ⑧ワクチン接種による国民の集団免疫形成 ⑨出入りする観客や関係者への陰性証明書かワクチン接種証明書の提示義務化 などで、無観客や時間短縮はせずに感染の制御と五輪を両立させた方が合理的である。
 このような中、*18-3のように、「⑩息子は運動会を楽しみにしていて、徒競走で『1等賞を取る』と張り切っていたけど中止が決まって家で泣いていた」という親がいたそうだが、運動会を断念する必要はなく、緊急事態宣言中になったのなら雨天と同じく順延にするか、文科相が言うように秋にすればよいだろう。にもかかわらず、小学生の息子に「運動会はやらないのに、なんで五輪はやるの?」と聞かれて答えに窮するのは、(答え方は沢山あるため)保護者の教育力に欠ける。また、「⑪死人が出てまで行われることではないから、1人もコロナの患者が出ない時に五輪はやるべき」「⑫コロナ禍で国民が様々な我慢を強いられる中、東京五輪だけが開催されることに違和感を持つ」というのも、必要な予防を徹底すれば五輪開催と新型コロナによる死者数の相関関係はなくなるため、感情論にすぎない。
 さらに、*18-4は、「⑬日本では9都道府県に発令中の緊急事態宣言が6月20日まで延長され、酒類を提供する飲食店、カラオケを使用する飲食店、遊興施設に引き続き休業を要請している」「⑭東京五輪に出場する選手らが宿泊する選手村に、アルコール類の持ち込みが許可される」として「アスリートだけ特別扱い」という不公平論が囁かれるのもおかしい。何故なら、①~⑤のように、アスリートには必要以上の感染防止策を講じているので規制は不要だからで、批判すべきは、厚労省が「⑮国民へのPCR検と検疫をいい加減にして新型コロナを国内で蔓延させ」「⑯酒や外食をターゲットにして休業・時短を要請し」「⑰ワクチン・治療薬の開発・承認をせずに国民に迷惑をかけたこと」だからである。それにもかかわらず、これらを不公平やモヤモヤとしか表現できないのは、スポーツ偏重にして勉強を疎かにした教育の結果だろう。
 *18-5のように、移動解禁に向けて7月から運用を始めるEUはじめ世界で新型コロナワクチンの接種証明書を発行し活用する動きが広がり、遅すぎるものの日本政府もEUの「デジタルCOVID証明書」をモデルとしてワクチン接種者とコロナからの回復者を対象に発行することにしたのはよいことだ。これについて、「接種は任意なのに、証明書の導入で未接種者への差別を招く」とする意見もあるようだが、任意で行う自由な意思決定がメリットとディメリットを受容することになるのは当然であるため、これと病気にかかった人への差別とを混同するのは、あまりに見識が低いと言わざるを得ない。

*18-1:https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-04-28/QS7MWWT0AFB501 (Bloomberg 2021年4月28日) アスリートは原則毎日検査、出発前に検査2回を要請-東京五輪
 東京五輪・パラリンピック組織委員会と政府、東京都、国際オリンピック委員会(IOC)、国際パラリンピック委員会(IPC)の代表者は28日、選手向けの新型コロナウイルス対策をまとめた「プレーブック」の改訂版について確認した。発表資料によると、東京五輪・パラリンピック大会に出場するアスリートとチーム役員は原則毎日検査するほか、全ての大会関係者には出発前に2回の検査を求める。滞在中の公共交通機関の使用は禁止する。また、組織委の武藤敏郎事務総長は記者会見で、行動計画に反した場合には資格のはく奪も検討すると述べた。五者協議後に発表された改訂版では、入国時に陰性証明が必要とした上で、空港でも検査をすることを明記。到着後の3日間は自室で隔離が必要としながらも、アスリートとチーム役員については、期間内の検査が陰性であれば、組織委の監督下で活動はできる。組織委はIOC、IPCと共に医療専門家らの助言を受けながら選手や大会関係者らの感染対策をまとめたプレーブックの第1版を今年2月に公表。大会参加者に日本到着時にコロナ検査の陰性証明を提示することや、少なくとも4日ごとに検査を受けることとしていた。その後、変異株の感染拡大など状況の変化に対応するため大幅に更新をした第2版を策定した。開催都市である東京都では、3度目となる緊急事態宣言が出され感染収束のめどが立っていない。組織委の武藤敏郎総長は26日の会見で、日本看護協会に大会期間中の医療スタッフとして看護師500人の確保を要請したことを認めた上で、「地域医療に影響がないよう勤務時間やシフトで対応して折り合う」と述べた。一方で、28日に開かれた政府の新型コロナ感染症対策調整会議では、組織委の感染症対策センターや大会保健衛生支援東京拠点を6月に開設する方針が示された。大会開催中は選手村に設置する診療所発熱外来などを24時間態勢で運営する。大会期間中にアスリートらへの医療提供を行う大会指定病院には、組織委員会が協力金を支払う予定としている。7月に予定されている大会は海外からの一般客の受け入れを断念して行われることになったが、アスリートやコーチ、競技団体の関係者やメディアなどが200カ国余りから東京に集まる。組織委は入国する大会関係者の削減についても精査している。

*18-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/90e6e4f42e5c603cea15ea5a06f7b75f7b785221 (Yahoo 2021/5/10) 東京五輪「無観客開催」にさえ消極的なIOCと政府 小池知事は四面楚歌
 何百、何千の命と天秤にかける「平和の祭典」などあり得ない。5月5日に札幌で行なわれたマラソンの五輪テスト大会では、沿道に「五輪ムリ 現実見よ」とプラカードを掲げる市民が見られ、「オリンピック反対!」と叫ぶ声が中継にも流れた。日本政府、組織委員会、そしてIOC(国際オリンピック委員会)も強行開催に突っ走っているが、いよいよ病床確保が怪しくなってきた東京都の小池百合子知事は、1300万都民の命とオリンピックの板挟みに苦悩している。都庁幹部の1人は、「小池知事は四面楚歌の状態」と指摘する。「都民の命を預かる小池さんは五輪開催と感染拡大の危険との板挟みになっている。IOCも政府も組織委員会も五輪強行すれば都民にどれだけの犠牲を強いることになるかを考慮せずに開催に走っており、都民の安全は小池知事の判断にかかっているが、IOC側からは“もし、ここまで来て東京が中止を言い出すなら、全損害を負担できるのか”という強いプレッシャーを感じる」。五輪が1年延期されて以来、「簡素な大会」への見直しを掲げた小池氏はカネの問題でIOCの意向に振り回されてきた。その1つが世界で高い視聴率が期待される開会式の見直しだ。各国の選手団1万人以上が入場行進することから数時間の待ち時間に「3密」が発生し、感染リスクが懸念されている。東京都や組織委員会は規模や時間短縮を検討してきたが、IOCから“待った”がかかったのだという。組織委の森喜朗・前会長が交渉の舞台裏をこう明かしている。「(開会式は)個人的には半分の2時間で良いと思っている。しかしIOCが反対。テレビ局が枠を買っている。時間を短縮すると契約違反で違約金が発生する。それを日本が払ってくれとなる恐れがある。それ以上の議論をすると深みにはまるから、私はそこは引っ込めて、他の案を考えようと言った」(日刊スポーツ1月1日付インタビュー)。五輪の放映権は米国3大ネットワークのNBCが取得しており、五十音順の選手団入場の順番も、先頭に近いアメリカを米国内での視聴率を考慮するIOCの意向で最後尾近くに登場する順番にしたと報じられている。IOCは放映権の収入を守るためにそこまで口を出している。五輪中止となれば、IOCは放映権料だけで約1300億円の損失が出る。さらに組織委員会が集めた公式スポンサー料が約3700億円にのぼる。合わせて5000億円だ。そんな巨額の賠償金を「東京が払え」と言われれば、小池氏もよほどの覚悟がなければ中止を言い出しにくい。

*18-3:https://news.yahoo.co.jp/articles/d6c0c7628dbfbd0c3f9ddb24b1f72dc56e892426 (Yahoo 2021/5/18) 「運動会はやらないのに、なんで五輪はやるの?」 小3の息子が泣きながら口にした一言
 新型コロナウイルスの感染拡大が収束しない中、感染のリスクを抑えるため、全国各地の小・中学校が運動会の中止、延期を決めている。「息子は運動会を楽しみにしていました。徒競走で『1等賞を取る』と張り切っていたけど中止が決まり、家で泣いていました」――。こう複雑な胸中を口にしたのは、北海道在住で小3の男児を持つ父親だ。
■「子供でも不思議に思うことなのに」
 政府は東京、大阪、兵庫、京都の4都府県に発令している緊急事態宣言の期限を2021年5月31日まで延長。愛知、福岡を新たに対象地域に加えた。「まん延防止等重点措置」の対象地域だった北海道、岐阜県、三重県も感染拡大の勢いが止まらないため、政府は方針変更して14日に3道県に緊急事態宣言を出した。宣言地域を中心に、運動会を断念する小・中学校は少なくない。先述した北海道在住の父親は、運動会中止に泣いた息子の話について、こう続ける。「東京五輪は開催すると政府が発言しているニュースを見て、息子に『運動会はやらないのに、なんで五輪はやるの?』と聞かれて...。答えに窮しましたがその通りですよね。海外の何十カ国から選手たちが日本に集まる五輪の方が運動会よりもコロナの感染リスクがはるかに高い。子供でも不思議に思うことなのに、政府は矛盾を感じないのでしょうか」
●萩生田文科相も「運動会問題」にコメント
 海外のトップアスリートが東京五輪の出場辞退を発表する中、男子テニスの日本のエース・錦織圭も5月10日に開催されたイタリア国際1回戦の試合後の会見で、「死人が出てまでも行われることではないと思うので。究極的には1人もコロナの患者が出ない時にやるべきかなとは思います」と五輪の開催を疑問視。この発言は海外メディアでも大きく取り上げられた。「コロナ禍で国民が様々な我慢を強いられる中、東京五輪だけが開催されることに違和感を持つ人たちは多い。アスリートも今は五輪での目標を言えない状況になっている。気になるのは政府の対応です。菅首相は『安全、安心の大会実現は可能』と発言していますが、その根拠を何も示していない。これでは国民が不信感を抱くのは当然です」(一般紙の政治部記者)。運動会が中止になり、東京五輪は開催される。この現実に違和感を抱くのは決して不思議ではないだろう。なお、萩生田光一文部科学相は5月18日の閣議後会見で、緊急事態宣言下における小中学校などの運動会について、中止するのではなく、感染対策などを工夫して実施する可能性を探ってほしい、と話している。

*18-4:https://news.yahoo.co.jp/articles/1f32624898ede99e09fbe5697c20d91622b7e85c (Yahoo 2021/5/29) 選手村での飲酒はOK 国民の不満爆発「アスリートだけ特別扱い」
 東京五輪の開幕まで残り2か月を切ったが、国民の怒りが噴火間近となっている。米国などでは新型コロナウイルスのワクチン接種が進み、一部地域では規制が緩和がされつつある。一方で、日本では9都道府県に発令中の緊急事態宣言が6月20日まで延長。東京都の小池百合子知事(68)は、酒類を提供する飲食店、カラオケを使用する飲食店、遊興施設に引き続き休業を要請しており「居酒屋に行きたい」との声が多方面から聞かれる。そんな中、関係者によると、東京五輪に出場する選手らが宿泊する「選手村」に、アルコール類の持ち込みが許可される見込みだという。この判断にネット上では「国は五輪のことしか考えてない」「居酒屋でも節度をもって飲酒すればOKですよね!」「アスリートだけ特別扱いはおかしいな?」などのコメントがあふれている。東京五輪の開催を巡ってさまざまな声が上がっているが、国際オリンピック委員会(IOC)のジョン・コーツ副会長(71)による「緊急事態宣言下での開催? 答えはイエスだ」との爆弾発言や、今回の選手村でのアルコール解禁などで、国民の不満は日に日に上昇。ある組織委関係者は「街の飲食店がこんなに苦しんでいるからね…」と頭を抱えた。先の見えないコロナ禍の現状。国民の行き場のないモヤモヤはたまる一方だ。

*18-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210607&ng=DGKKZO72641020X00C21A6MM8000 (日経新聞 2021.6.7) 「ワクチン証明」今夏に 渡航者用、経済正常化後押し EUは来月から
 新型コロナウイルスワクチンの接種証明書を発行・活用する動きが世界で広がってきた。感染のリスクを抑えながら経済活動を正常化する狙いがあり、企業からも期待の声が上がっている。日本はまず海外渡航者用に今夏にも発行し、ビジネス往来などを後押しする。欧州連合(EU)は域内の移動解禁に向けて7月から運用を始める。既に一部の政府高官らは非公式の証明書を作成し、海外に持参している。欧米などで接種履歴を聞かれるケースが増えているためだという。一般のビジネス利用も想定した公的な制度は、加藤勝信官房長官をトップとする省庁横断のチームで検討を急いでいる。まずは紙の公式証明書を今夏に利用できるようにする想定だ。年内にはスマートフォンのアプリなどでデジタル化する段取りを描く。国内でもファイザー製やモデルナ製の調達・供給量が増えていることが背景にある。21日には企業の職場での接種も始まる。接種を証明することで渡航者と受け入れ国側の双方のリスクが低減すれば、海外での商談などのハードルが下がる。証明書は住民情報を持ち、接種の実務を担う自治体が出す。氏名やワクチンメーカー、打った時期などを記載する。接種履歴を一元的に管理する国の「ワクチン接種記録システム(VRS)」と連動させ、内容を国が保証する仕組みとする方針だ。飛行機への搭乗時や海外での入国審査時などに提示する。ビジネスや留学で渡航する日本人、日本に滞在中で母国に戻る外国人らの利用を見込む。日本貿易会の小林健会長(三菱商事会長)は「経済人の立場からいえばワクチンパスポート(証明書)で自由に行き来できるようになるのが理想だ」と話す。エイチ・アイ・エス(HIS)は「帰国後の14日間の隔離期間が海外旅行の最大のハードル。ワクチンパスポート制度により措置が緩和されると風向きは変わる」と期待を寄せる。政府がモデルとするのはEUが7月から運用する「デジタルCOVID証明書」だ。接種経験者やコロナからの回復者が対象で、自主隔離や検査を免除する。ドイツなど7カ国は6月から先行運用している。レインデルス欧州委員(司法担当)は「自由で安全な移動を取り戻す」と力説する。欧州委員会は5月31日、証明書の活用を念頭に、加盟国に移動制限を緩和するよう提言した。米国や日本など域外からも、EUが認めるワクチンを打った人は入域できるようにする方向だ。接種は任意なのに、証明書の導入で未接種者への差別を招くとの懸念もある。米国は州によって対応が割れる。東部ニューヨーク州は3月、接種歴を示すスマホアプリ「エクセルシオール・パス」を導入した。発行数は既に100万を超える。一方、南部ジョージア州は公的機関による証明書要求を禁止している。「接種は個人的な決定」(ケンプ知事)との考えからだ。州が保有する接種データは民間企業などに提供しない。住民への接種は引き続き奨励する。米メディアによると、少なくとも10州が禁止・制限している。日本も国内向けの導入は慎重に検討している。経済再開を急ぐ自治体や企業の独自ルールが乱立する恐れもあるため、政府が統一指針をつくることも視野に入れる。ワクチン証明書は国際協調も必要になる。主要7カ国(G7)は3~4日、英南部オックスフォードで開いた保健相会合で連携の必要性を確認した。世界保健機関(WHO)を中心に相互承認の仕組みづくりを進める。

<ワクチン接種で、五輪の観客も数や行動の制限が不要になる>
PS(2021年6月8、9、10日追加):*19-1のように、米ファイザー製の新型コロナウイルスワクチンの対象年齢は12~15歳に広げることができ、日本政府が無料で打つ対象に追加したそうだ。しかし、京都府伊根町が12~15歳に新型コロナワクチンの接種を始めたところ、*19-2のように、「①人殺しに加担している」「②殺すぞ」「③子どもへの接種はリスクがある」「④若い女性が接種すると不妊につながる」などという町職員を問い詰める電話が相次いだそうである。が、③④は科学的根拠がなく(科学的根拠があると主張する人はそれを明示すべき)、①②は脅迫であるため、相手を特定して警察に届けるべきである。
 なお、日本政府は、*19-3のように、新型コロナワクチン接種済を証明する「ワクチンパスポート」を今夏にも発行するそうだが、各国の水際対策に対応するだけでなく、国内での感染対策にも使うべきである。具体的には、「⑤新型コロナワクチン接種済証を持つ外国人は通常の検疫のみで入国させる」「⑥オリンピックはじめ多くの観客が集うイベントの入場にあたっては、ワクチン接種済証を提示させる」などだ。
 こうすると、*19-4のように、東京五輪の観客もワクチン接種済証があれば陰性証明を求める必要はなく、会場や入り口での健康チェック・マスクの常時着用・応援禁止・分散退場なども不要になる。また、ワクチン接種が間に合わなかったがチケットを持っている人は、「⑦観戦日の前1週間以内の陰性証明書を提示する」という緩い規制では感染が広がるため、会場の入り口で10分で結果が出る抗原検査・抗体検査をして陰性を証明するか、ワクチン接種済証を提示できる人に譲るかの2者択一にすべきだ。それによって空席になる観客席があるようなら、スポンサー企業の社員や学校でその競技を練習している生徒のうちワクチン接種済の人に譲れば、観客席が寂しくないだけでなく、プラスの効果も出るだろう。
 新型コロナ感染症対策分科会の尾身会長が、*20-1のように、「⑧観戦に行かず感染対策を求められる人に不公平感や不満が生じない対応が必要」「⑨(そのためには)スタジアムの中の景色が大事」「⑩やるのであればかなり注意してやる必要がある」と言われたそうだが、⑧⑨は、「幸福な人がいると(それを見て)不幸を感じる人が多いため、国民全員を不幸にすれば文句が出ない」という中央省庁がよくやる狭くて国民を馬鹿にした発想である。現在は、国内外の情報が自由に手に入るため、国民全員を不幸にすれば外国政府と比較して日本政府の能力不足を見定める。また、⑩については、何をすれば注意したことになるのか列挙されればよいが、医療・介護の不備、治療の遅れ、ザルの検疫、積極的疫学調査と称する疫学の名に値しない消極的検査と陽性者に対する不当な差別、ワクチン・治療薬の開発・承認の消極性など厚労省の失敗ばかりが多く、それによって無駄遣いした血税が数十兆円にも昇るのである。その上、無観客のオリンピックで大きな損失を出して血税を投入しようというのか。国民はそれらに不満を持っているのであって、観戦に行く人がいるのに自分が行かないから不満を持っているのではない。つまり、考えることの視野が狭くて次元が低いのである。
 私は、党首討論を全て見たが、*20-2のうち、「⑪感染ルートの徹底的遮断」「⑫ワクチンが切り札」というのは正しいと思う。また、1964年の東京五輪の時、私は小学5年生でオリンピックのために両親が買ったカラーテレビで、開会式から閉会式まで殆どを見て感動したため、菅首相が語られたことは重要だと思う。“東洋の魔女”と呼ばれた日本女子バレーは日本女性の頑張りを見せ、マラソンのアベベ選手は裸足で走ってマラソンが終わってから体操をするゆとりがあり、体操のチャスラフスカは優美でキレがあり、世界は広いことを実感させた。また、オランダのへーシング選手が柔道で日本選手を破って金メダルをとった時は心から拍手を送った。そのため、菅首相が東京五輪を「⑬子どもたちに見てほしい」と言われたのはよくわかるのだが、立憲民主党の枝野代表はじめ現役のメディア記者など1964年の東京オリンピックを見ていない世代には無駄話に聞こえたようで、これだから若い人だけで意思決定をすると偏るのである。なお、新型コロナについては、緊急事態宣言等で人流を止めて一時的に下火になったとしても、集団免疫ができていなければ人が動き始めれば何度でもリバウンドする。それだからこそ、ワクチンと治療薬が重要なのであり、厚労省のやり方は100年前のスペイン風邪の時代から進歩していないばかりか、ワクチンを軽視している点で私が子どもの頃より遅れているのだ。

  
 2021.5.1日経新聞      2021.6.1琉球新報      2021.5.13日経新聞 

(図の説明:左図がメッセンジャーRNAを使ったワクチンの仕組みだ。中央の図は、職場接種の方針を示している企業で、これが増えるとワクチンの接種が飛躍的に進む。右図が日本の水際対策だが、ワクチン接種済証を持つ人は通常の検疫だけで通してよいと思う)

*19-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/107205 (東京新聞 2021年5月28日) 12~15歳にも接種拡大 ファイザー製ワクチン 厚労省部会が了承
 厚生労働省の専門部会は28日、現在16歳以上となっている米ファイザー製の新型コロナウイルスワクチンの対象年齢について、12~15歳にも広げることを了承した。31日に別の専門分科会で12~15歳を予防接種法に基づき無料で打てる対象に追加することを決める。2~8度の冷蔵庫での保存期間を5日間から最長1カ月間とすることも認めた。管理がさらに容易になると期待される。ファイザーは、対象年齢の拡大や保存期間の延長に向けて、国の審査機関「医薬品医療機器総合機構(PMDA)」に添付文書の改訂を相談していた。米国では既に認められている。同社が12~15歳の2260人を対象に実施した臨床研究(治験)の結果によると、ワクチンを投与したグループでは100%の発症予防効果が確認された。政府はファイザー社との間で、9700万人分の供給を受ける契約を交わしている。米モデルナも、18歳以上が対象となっている同社製ワクチンについて、12~17歳も有効とする臨床研究結果を発表しており、各国で接種年齢拡大に向けて準備を進めている。

*19-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/109215 (東京新聞 2021年6月7日) 子どもへのワクチン接種やめろ 抗議の電話殺到 「殺すぞ」と脅迫も
 京都府伊根町が6日から始めた12~15歳への新型コロナウイルスワクチン接種を巡り、町へ抗議の電話が殺到していたことが7日、分かった。「人殺しに加担している」「殺すぞ」と脅迫するような内容もあり、町は問い合わせ窓口のコールセンターを停止。京都府警に相談した。町によると、7日朝から「子どもへの接種はリスクがある」「若い女性が接種すると不妊につながる」などと職員を問い詰める電話が相次いだ。センターは回線がパンクし、午前9時の開始から約30分で停止した。その後は代表番号にかかってくるようになり、午後5時までに計約100件に及んだ。全て町外で、異なる番号が多かったという。抗議文はメールで20件以上、ファクスでも8件あった。

*19-3:https://news.yahoo.co.jp/articles/b06fa652a4d0a40a0f8cb4eb228a3b2304006566 (Yahoo 2021/6/7) ワクチン接種証明、今夏にも発行 渡航者向け、往来円滑化図る 政府
 政府は、新型コロナウイルスワクチンの接種歴を証明する「ワクチンパスポート」を今夏にも発行する方向で調整に入った。複数の政府関係者が7日、明らかにした。各国の水際対策で接種履歴の確認を行う動きが広がっていることを受けた対応。海外渡航者向けに発行し、主にビジネス往来の円滑化を図る。ワクチンパスポートに関しては、加藤勝信官房長官をトップに、外務省や厚生労働省でつくるチームで検討を進めている。接種時期やワクチンのメーカーを明記する方向で、まずは紙の証明書を発行。将来的にスマートフォンのアプリで管理することを視野に入れる。日本がワクチンパスポートを交付した場合、入国後の待機免除などの措置を相手国で受けられるかや、相手国のワクチンパスポート保持者をどのような条件で受け入れるかについて、今後、各国と交渉を行う。ただ、一部の国では「未接種者への差別につながる」との懸念も出ている。加藤氏は7日の記者会見で「海外の動きにしっかりと対応できるように検討を進めていきたい」と語った。

*19-4:https://www.yomiuri.co.jp/olympic/2020/20210530-OYT1T50102/ (読売新聞 2021/5/31) 【独自】東京五輪観客に「陰性証明」求める、1週間以内の取得条件…政府原案
 夏の東京五輪・パラリンピックの観客の新型コロナウイルス対策について、政府が検討している原案が判明した。入場時にPCR検査などの陰性証明書提示を求めることや、会場内での食事や飲酒の禁止などが柱となっている。厳しい対策により、大会期間中の感染拡大防止を図る。複数の政府関係者が明らかにした。政府と東京都、大会組織委員会は会場の観客数上限を6月中に判断する方針だ。一定の観客を入れる場合を想定し、原案を基に3者で感染対策の具体化を急ぐ。原案によると、観客全員に事前にPCR検査などを求め、入り口で観戦日の前1週間以内の陰性証明書を提示することを条件に入場を認める。ワクチンを接種した人は接種証明書があれば陰性証明書は求めない。検査費は自己負担で、政府は検査数は1日最大約40万件と試算しており、今後、検査態勢の拡充も図る。会場では、入り口での健康チェックやマスクの常時着用、分散退場などを徹底する。観戦中の食事や飲酒、大声での応援、ハイタッチは禁止の方向だ。警備員を配置し、違反に対しては入場拒否や退場などの措置も想定している。

*20-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/109698 (東京新聞 2021年6月9日) 尾身会長、五輪開催の場合は「観客以外の納得感が大事」
 政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は9日、衆院厚生労働委員会で、東京五輪・パラリンピック期間中の感染対策に関し「大事なのは人々の納得感だ」と指摘し、開催する場合も、観戦に行かずに感染対策を求められる人たちに不公平感や不満が生じないような対応を求めた。尾身氏は「ほとんどの人は観戦に行かない。そういう人たちに一定の感染対策をお願いすると思うので、そういう人たちに納得してもらえるようなスタジアムの中の景色が大事だ」と語った。競技場内の観客と、観戦に行かない住民の双方への感染対策が「矛盾しない形での五輪の在り方が求められる」とも話した。五輪開催による感染拡大への影響については「さらに感染の機会が増加するということなので、本当にやるのであればかなり注意をしてやる必要がある」と重ねて慎重な検討を求めた。尾身氏ら専門家は近く、五輪開催に伴う感染拡大リスクの評価をまとめ、独自に提言する方針。

*20-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/109592 (東京新聞 2021年6月9日) 初の党首討論 菅首相、東京五輪「子どもたちに見てほしい」6分45秒とうとうと…
 菅義偉首相と立憲民主など野党4党の代表が1対1で論戦を交わす党首討論が9日午後4時から開かれた。菅政権発足後初めて。持ち時間は立民の枝野幸男代表が30分、日本維新の会の片山虎之助共同代表と国民民主党の玉木雄一郎代表、共産党の志位和夫委員長が各5分で東京五輪・パラリンピック開催の是非や新型コロナウイルス対策などをテーマに論戦を繰り広げた。
◆討論開始「ワクチンは切り札」
 菅義偉首相と枝野幸男代表の党首討論が始まった。枝野氏は、政府のコロナ対策から口火を切った。今年1月から2度の緊急事態宣言の発令があり、法令に基づく自粛などがなかったのは3週間だと指摘。「リバウンドを防ぐためには十分な補償がセットでないといけない。第5波を防ぐためにも、3月の解除が早すぎたという反省を明確にした上で、私たちのような厳しい基準を明確にすべきだ」と問いただした。菅首相は「緊急事態宣言やまん延防止等重点措置は専門家の委員にかけて決定している。世界どこでもロックダウンをした国でも簡単におさまっていない」と答えた。ワクチン接種が始まり1日100万回に達成していることを挙げ、「国民のみなさんの接種に必要なワクチンは既に確保している。ワクチン接種こそが切り札だと思っている」と成果を強調した。さらに枝野氏は、ニュージーランドやオーストラリア、台湾が感染防止に成功したことを例に挙げ「感染者を1日50人に抑えるために感染ルートを徹底的に遮断することが必要だ」と強調。また、首相が東京五輪開催をめぐって「国民の命と健康を守る」と発言していることについて、「開催を契機に国内で感染が広がるといった、国民の命と健康を脅かす事態を招かないことも意味するのか」と迫った。首相は「私権制限の強い国などと比較するのはいかがなものか」と反論。大会関係者の訪日数を半分以下に抑え、参加選手の8割以上にワクチン接種を行う方針をアピールした。
◆菅氏独演「子どもに見てほしい」
 続けて、菅首相は「57年前の東京五輪の時、私は高校生だったが、『東洋の魔女』の回転レシーブ、マラソンのアベベ選手、敗者に敬意を払ったオランダ柔道のへーシング選手など今も鮮明に覚えている。こうしたことを子どもたちにも見てほしい」と力説。さらに、前回の東京大会で初めてパラリンピックと名付けられたことを挙げ、「パラリンピックの開催が共生社会の1つの契機になった。素晴らしい大会をぜひ、今の子どもや若者に希望や勇気を伝えたい。さらに心のバリアフリーこうしたものもしっかり、大きな学習にもなるのではないか。世界の人たちに東日本大震災からの復興もみてもらいたい」と訴えた。菅首相は五輪の質問に対して、約6分45秒にわたって、とうとうと述べ続けた。枝野氏は「2年ぶりの党首討論。後半はここにはふさわしくない話だった」と話した。

<新型コロナワクチンに関する優先順位の不合理と接種予約のやりにくさ>
PS(2021年6月11日追加):*21-1のように、新型コロナワクチンの接種加速のために国・地方自治体が大規模会場の利用促進を急いでおり、自衛隊の大規模会場は予約を受け付ける高齢者の居住地を全国に拡大するそうだが、ワクチンを接種するためにリスクの高い高齢者がわざわざ感染多発地帯に公共交通機関を使って出ていくのは不合理だ。そのため、年齢制限を廃してオリンピック関係者や東京・大阪・周辺地域の人に接種した方が効果的に集団免疫を獲得できる。また、対象者の設定が悪く、高齢者施設のスタッフで未だにワクチン接種していない人がいるというのには呆れるが、厚労省の専門家会議はどういう目的で何をアドバイスしたのか?
 なお、*21-2のように、「①ワクチンの職場接種を着実に進めたい」としながらも、「②冷凍庫の関係で1000人以上に実施する場合に限る」「③1000人規模の接種を進めるだけの医療従事者を抱える企業は少ない」などと言い、「④職域接種では65歳未満で市区町村から接種券が届いていない人も対象になるため、後日届いた接種券を国の記録システムに登録する必要がある」「⑤政府は職域接種の対象を取引先企業の社員や地域住民にも広げるよう企業に呼びかけているが、対象を広げると事務は複雑になる」「⑥ワクチンを接種するかどうかは本人の意思に委ねなければならず、接種を強制したり、働き手に強制と受け止められたりすることはあってはならない」と記載している。
 しかし、②③は、冷凍庫を有料のレンタルにすれば国の無料配給を待つ必要はなく、ネックの出ない規模で接種を行うことができる。また、④⑤は、年齢制限を廃して市区町村の接種券を速やかに送付すれば解決する。さらに、⑥は、若い人でも免疫をつけて他人に感染させない必要があるため、多くの集客をする場所の入り口で、また人と接する職業の人には、免疫パスポートか頻繁な陰性証明書の提示を求めればよいのだ。
 このような中、*21-3のように、加藤官房長官が新型コロナ感染拡大を踏まえ、「⑦未曽有の事態を全国民が経験して緊急事態の備えに関心が高まっているので、今が緊急事態条項の創設を進める絶好の契機だ」と言われたそうだが、まさに⑦が、厚労省が新型コロナ感染拡大にあたっていい加減な対策を繰り返して全力を尽くさなかった理由だろう。しかし、自民党内の少なからぬ人が緊急事態条項創設の必要性を主張しているため、野党のように、その時点の首相を貶めて責任追及ばかりしても何も変わらない。そのため、国民は国政選挙の時には、「誰が緊急事態条項の創設に賛成しているか」を確認した上で、政党にかかわらず投票するのがよい。

*21-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210611&ng=DGKKZO72793360R10C21A6EA2000 (日経新聞 2021.6.11) 接種加速へ対象拡大 国・自治体の大規模接種、予約の空き活用 国は10日から全国予約
 新型コロナウイルスワクチンの接種加速を目指し、国や自治体は大規模会場の利用促進を急ぐ。自衛隊の大規模会場は予約を受け付ける高齢者の居住地を10日から全国に拡大。自治体の会場も対象年齢・地域を広げる。空きの目立つ予約枠を埋め、大規模会場の接種能力を最大限生かす。防衛省は10日、自衛隊が東京と大阪で運営する大規模接種センターについて、同日以降は全国の高齢者から予約を受け付けると発表した。従来は首都圏と関西の7都府県としてきた居住地の制限をなくした。防衛省によると、14~27日の枠は東阪合計で10日午後5時時点で76%が埋まっていない。東京会場は14万人の枠のうち11万2000人、大阪会場も7万人のうち4万7000人の空きがある。インターネットに加え、12日午前7時から電話での予約受け付けを新たに始める。ネットに不慣れな高齢者の利用を促す。対象地域拡大と合わせて予約率アップにつなげ、接種を加速する。当面は65歳以上の高齢者が対象だが、64歳以下で基礎疾患を持つ人や高齢者施設のスタッフへの拡大も検討する。各自治体による接種券の発行状況をみて、拡大時期を判断する。28日以降は1回目を終えた人の2回目接種が始まり、予約枠の空きは少なくなる見通しだ。中山泰秀防衛副大臣は10日の記者会見で「1回目の接種を希望する人は27日までの枠を確保するよう、早めの予約をお願いする」と呼びかけた。地方でも予約が伸び悩むケースが出ている。広島県は福山市内の会場で7日に接種を始めたが、17日までの枠は9日午前の時点で3%しか埋まらなかった。アクセスの不便さや周知不足に加え、対象年齢の設定が影響したもようだ。福山市内の高齢者について80歳以上を受け付け対象としたところ、遠方の会場を敬遠し、近くのかかりつけ医での個別接種を選ぶ人が多かったという。県は10日から対象を65歳以上に拡大し、予約率は同日午後3時時点で32%に上がった。徳島県は徳島市内の大規模会場で予約率が5割程度にとどまっているのを受け、同市以外からの予約を受け付ける。1回目の接種期間である5~24日のうち、22.23日に阿南市、24日は小松島市の高齢者にも開放する。大規模会場の空いた予約枠を活用し、64歳以下への接種を検討しているのが大阪市だ。14日以降の枠に空きがあった場合は市立学校の教職員や消防局職員らに接種するほか、接種券が届いた市民の予約も受ける。市の大規模会場は14~20日の予約枠の7割が空いている。64歳以下にも16日から接種券を順次発送し、早い人は18日にも届く見通し。その時点で空きがあれば、64歳以下の予約を認める考えだ。松井一郎市長は「例えば月~木曜は高齢者だけ、金土日は64歳以下も予約できるような方式を考えている」と話す。高齢者の予約伸び悩みは個別接種が進んだ裏返しとの見方もある。札幌市は個別接種が集団接種の2~3倍の規模で進んでいるという。集団接種の予約枠は3割近く残っているが「個別接種を補完する位置づけであり、あるべき姿に落ち着いてきた」(ワクチン接種担当部)とみる。

*21-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210611&ng=DGKKZO72792160Q1A610C2EA1000 (日経新聞社説 2021.6.11)ワクチンの職場接種を着実に進めたい
 新型コロナウイルスのワクチン接種が、職場や大学で21日から始まる。すでに多くの企業が申請しており、接種のスピードアップが期待できる。こうした職域接種は65歳未満の人も対象となり、1000人以上に実施する場合に認められる。大企業による単独実施だけでなく、商工会議所などを通じた中小企業の共同実施も可能だ。労働安全衛生法は企業に産業医の選任を求めている。1000人以上が働く事業所で1人、3000人超なら2人以上の専属医を置く必要があり、オフィスや工場に診療所を持つ企業も多い。日ごろから健康を管理している企業内診療所でワクチンを打てるのなら、労働者は安心だ。業務の性質上、在宅では仕事ができない人たちが早く接種できれば、感染防止と企業活動の安定の両面で大きなメリットがある。ただ1000人規模の接種を速やかに進めるだけの医療従事者を抱える企業は少なく、外部の医療機関の助けが必要だ。政府は企業や大学に自力で医療従事者を確保することを求めている。医療機関はぜひ協力してほしい。事務負担も気がかりだ。職域接種では65歳未満で市区町村から接種券が届いていない人なども対象になる。企業や医療機関は接種記録を管理しつつ、後日届いた接種券を本人から回収し、国の記録システムに登録する必要がある。さらに予診票や接種券の写しを5年間保管しなければならない。政府は職域接種の対象を取引先企業の社員や地域住民などにも広げるよう企業に呼びかけている。しかし、対象を広げると事務は一段と複雑になる。対象者の範囲は企業の判断に任せるべきだ。ワクチンを接種するかどうかは本人の意思に委ねなければならない。職域接種ではこの点を特に注意すべきだ。接種を強制したり、働き手に強制と受け止められたりすることはあってはならない。会社員は職場、学生は大学など生活スタイルに合った接種拠点はワクチンの浸透に有効だろう。一方、自衛隊が東京と大阪で運営する大規模接種会場で予約が埋まらなくなったのは、都心オフィス街という立地が高齢者の日常生活から遠いのが一因だ。高齢者に身近な診療所での接種を強化し、大規模会場は勤め人を主な対象にするなど、立地の特性にあった運用を考えたい。

*21-3:https://www.jiji.com/jc/article?k=2021061101031&g=pol (時事 2021年6月11日) コロナ禍は改憲の好機 加藤官房長官
 加藤勝信官房長官は11日の記者会見で、自民党が憲法改正案に盛り込んだ緊急事態条項の創設について、新型コロナウイルス感染拡大を踏まえ「未曽有の事態を全国民が経験し、緊急事態の備えに関心が高まっている。議論を提起し、進めるには絶好の契機だ」と発言した。国難と言える状況を「絶好」と形容した真意を問われると、加藤氏は「この状況が良い状況だとは全く思っていない。申し上げたいのは、緊急事態というものに大変高い関心を持っているということだ」と釈明した。

| 日本国憲法::2019.3~ | 11:04 AM | comments (x) | trackback (x) |
2020.3.28~31 予防と治療の重要性、病人を差別する国民性、法律に基づく差別について (2020年4月1、2、3、4、6、8、9、10、11、12、13、15、16、17日追加)

 2020.3.27   2020.3.16     2020.3.12       2020.3.21
 東京新聞     毎日新聞      中日新聞        毎日新聞

(図の説明:1番左の図は、2020年3月の世界における新型コロナウイルス感染者数推移で、左から2番目の図のように、中国では感染者数が頭打ちになったのに対し、中国以外では感染者数が等比級数的に増えている段階だ。右から2番目の図は、3月11日の世界の感染者が多い10ヶ国だが、検査数も影響しているようだ。1番右の図は、3月21日時点の日本国内の県別感染者数で、人口密集地帯に多いことがわかる)

   
2020.2.28   2020.3.23     2020.3.25      2020.3.8西日本新聞
東京新聞    朝日新聞       四国新聞       *1-2-5より

(図の説明:1番左の図は、2020年3月27日時点の新型コロナウイルス感染者が多い国・地域の感染者数と死者数だ。日本では、左から2番目の基準で学校を再開するが、右から2番目のチェックリストに従ってチェックすることになった。このように、連日、新型コロナウイルスの予防策が報道され浸透した結果、1番右の図のように、インフルエンザ患者数も前年より6割減少するという効果があったそうだ)

(1)新型コロナの感染・予防・治療について
1)欧米の感染者とその対応
 新型コロナは、*1-1-4のように、中国で始まって多数の死者を出したため、世界でアジア人やマスク姿の人が差別されていたが、現在は、*1-1-1・*1-1-2のように、欧米で蔓延している。日本でも、武漢ウイルスと呼んで中国人を差別する論調が多かったが、人種差別だけでなく病気にかかった人(感染源という加害者である以前に感染させられた被害者)を差別するのも、知識と教養の欠如による人権侵害だ。

 世界では、*1-1-1のように、3月26日20時現在、感染者47万人超、死者2万人超(イタリア7,500人超、スペイン3,600人超、米国1,000人超、フランス1300人超、英国460人超、オランダ350人超)であり、さらに、米国は、*1-1-2のように、3月下旬から感染者が急増して3月27日までに感染者が85,000人超となり、*1-1-3のように、全米の感染者数の3割がニューヨーク市に集中して病床や人工呼吸器が不足し、医療崩壊が懸念されているそうだ。

 米国でマスクが普及しなかったのはドレスコードになかったからだそうだが、欧米は難民や外国人労働者の流入も多く、貧しくて栄養が十分でなかったり、予防の知識・意識・ツールが乏しかったり、医療へのアクセスが悪かったりする人も多いと思われる。そのため、今後は、年齢や持病の有無だけでなく、感染して亡くなった方の背景も調査した方が良いだろう。

 このような中、日本では、花粉症を起こす杉花粉やフクイチ由来の放射性物質から防護する目的でマスクを常用している人が多く、栄養状態も全体としては悪くなく、予防の知識やツールもあるため、新型コロナやインフルエンザが流行しても、よほど意識の低い人でなければ一定の抵抗力はあると考える。

2)新興国(開発途上国)での感染と強制的対応
 インドネシアのジャカルタでは、*1-1-5のように、3月20日までに369人が感染して32人が死亡し、感染者の6割が首都ジャカルタに集中しているため、州知事が3月20日に非常事態宣言を出して州内の全企業にオフィス利用の停止を強く求めたほか、娯楽施設の営業を禁止し、非常事態宣言中は州内に軍や警察が展開して住民の外出を事実上制限するそうだ。

 また、インドでも、*1-1-6のように、3月24日、首相が国民向けにテレビ演説して、新型コロナの感染防止策として、3月25日から21日間、全土を封鎖すると表明している。インドやインドネシア等の新興国は、人口当たりの医師数や医療資源が乏しく、一般の衛生環境や教育・意識にもバラツキが大きいため、家にいる以外に予防手段がないというのは本当だろう。

3)日本での感染と対応
 日本の感染症のわかりやすい歴史は、1822年に世界的大流行が九州(長崎?)から日本に及んで初めてコレラが日本で発生し、1858年や1862年にも大流行が発生し、1879年と1886年に死者が10万人の大台を超えたものだ。コレラの予防には、衛生の改善と清潔な水へのアクセスが必要なのだが、江戸(東京)や大阪に人口が集中し、上下水道等の衛生関係インフラが整っていなかった時代に、免疫のないところに外国からコレラ菌が入ってきて大流行になったのである。

 現在の日本は、上下水道・衛生意識・医療などのインフラが整ってきている上、東大医科研のチームがコメに遺伝子組換技術を用いてコレラ毒素B鎖を発現させたコレラワクチン米を開発して常温保存可能な経口ワクチンを作っており、まだ臨床に応用されていないのが残念ではあるものの、よい技術を見つけているので、他の感染症にも応用が利きそうである。

 つまり、人口が密集して衛生環境の良くない大都市で、開国やグローバル化により一般人が免疫を持っていない菌が入った場合に感染症が大流行しているのであり、新型コロナも似ているため、開発途上国や先進国大都市の衛生弱者にリスクが高いと思われる。

 従って、外国で非常事態宣言を出したり、都市封鎖をしたりしたから、日本でも同様にしなければならないというわけではなく、*1-2-3のように、日本国内の感染者が3月25日午後10時までに1,269人に上り、東京都の感染者数が210人になって都道府県で初めて200人を超えたと書かれているものの、東京都の人口が13,935,645人(2019年9月1日現在)であることを考えると、感染者割合は(あまり検査していないせいかもしれないが)0%に近いのである。

 また、*1-2-4のように、「新型コロナの感染拡大が、重大局面を迎えつつある」「爆発的な急増を防ぐ措置として、東京都と関東近県が週末の往来を自粛するよう住民に求めたのはやむを得ない」「緊急事態宣言を出す」「首都封鎖」などと言うのは、騒ぎ過ぎだろう。ただし、東京都は下水道が古くて容量が足りず、上水道も節水しすぎて不潔なくらいであり、通勤・通学で近県から満員電車という密閉空間で1日300万人近くが往来するため、日本国内では感染リスクが高い方にあたる。 そのため、東京や大阪などの大都市で新型コロナが蔓延しているからといって、全国一斉に休校や自粛をする必要はないと思う。

 その新型コロナの感染が広がる一方で、*1-2-5のように、インフルエンザの患者数は前年と比較して6割減少しているそうだ。これは、新型コロナの感染予防で、手洗い・マスク着用・せきエチケットなどの取り組みが全国に浸透していったことが奏功しているそうで、これは、新型コロナの感染拡大防止にも繋がるものである。 

 なお、東京慈恵会医科大学の浦島教授が、*1-2-6のように、日本で新型コロナが感染爆発しない理由を挙げておられる。私は、これに加えて、ウイルスの弱毒化への変異があると思うが、その理由は、宿主を殺してしまえばウイルスは増殖できず、宿主を殺さない方向に変異したウイルスだけが次に感染する機会を得て増殖するからである。つまり、油断や楽観視は禁物だが、人権侵害になるほど騒ぎ過ぎる必要はないと思われるウイルスだ。

4)感染源特定と病人差別
 *1-2-1のように、医師の新型コロナ感染が判明した和歌山県有田病院の病棟内をドローンで撮影しようとしたり、ふるさと納税に対する有田町の返礼品を拒んで“地元いじめ”をしたり、感染者が悪いことをした犯人であるかのように追跡したり、感染者を見下すような報道をしたり、患者の住所を教えてほしいという要求をしたりして、新型コロナ感染者いじめをしたのは、(自分は“普通”だから上だと思っている)日本人の知識や教養に欠ける病人差別だ。

5)治療差別
 政府が、*1-2-2のように、(どのような病気であれ、病室に複数の人を収容するのは治療環境が悪すぎるが)感染症指定医療機関などに個室管理可能なベッドを1万2千床確保するのはよいことだ。ただ、厚労省は「爆発的感染拡大が起きれば、最悪で東京だけで1日4万5千人の感染者が出る」としているが、そもそも無症状や軽症者を病院に入院させておくことは他の病気ではありえない。感染防止のためなら、自宅やホテルなどの借り切りで、徹底して衛生管理すればよいと考える。

 しかし、重症化した人には治療するのが医療先進国であり、ここで“トリアージ”と呼んで年齢による治療差別を行うのはよくない。さらに、コロナ感染については、その重症化しやすさについて、必要以上に年齢差別して報道しているように見える。

(2)ハンセン病差別

   

(図の説明:左図のように、ハンセン病は1947年に治療薬ができた後も隔離政策が続き、本人だけでなく家族も著しい差別を受けた。国の隔離政策の根拠となった「らい予防法」は1996年にやっと廃止されたが、その後も元患者や家族に対する差別は続いている。中央の図は、ハンセン病への対処の歴史であり、人権よりも国家の対面を重んじるために隔離政策をとったことがわかる。そして、右図のように、その判断には科学的根拠がなく、それこそ国家の恥である)

 完治する病となり科学的根拠がなくなっても長く続いた隔離政策で、ハンセン病の元患者は、*2-2のように、社会からだけでなく家族からの偏見・差別・人権無視にも苦しんだ。例えば、元患者は家族に迷惑がかかるからと療養所内で偽名を使わせられ、隔離政策の誤りを国が認めた2001年の熊本地裁判決を機に実名に戻って故郷に帰ろうとしても家族が受け入れず、死んでも実家の墓に骨を引き取ってもらえないという状況があった。

 しかし、これは、家族が率先して社会復帰の壁になったわけではなく、長く引き離された上に日本社会から受けたすさまじい家族差別もあったため起こったことである。そのため、国の責任が認められ、元患者に補償がなされ、差別されながら顧みられかった元患者の家族に対しても、2019年11月22日に「ハンセン病元患者家族に対する補償金の支給等に関する法律」が公布・施行され、名誉回復にも言及されたのは遅すぎたとしてもないよりはずっとましだったのである。

 ハンセン病の元患者と家族は国の誤った政策により、*2-1のように、熊本地裁が指摘したとおり、人格形成や自己実現の機会が失われ、家族関係の形成を阻害されるという人生を台無しにされて取り返しのつかない「人生被害」を受けたのだから、国が賠償をするのは当然である。さらに、らい予防法廃止後も偏見や差別を除去しなかったことは驚きであると同時に憲法違反でもあるのに、この当たり前の判決が“画期的”なのである。

(3)「犯罪者≒精神障害者」とする精神障害者差別
1)責任能力の有無は本当の争点だったのか? ← 犯罪者を精神障害者に仕立て上げる日本の刑法の非科学性と精神障害者差別
 相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者45人を殺傷して殺人罪などに問われた植松被告の裁判員裁判が横浜地裁で開かれた。日本では、殺人が明白な場合の弁護側の方針は、*3-1のように、「精神病で判断力がなかった」という精神鑑定結果を出すことが多いが、ここで言われた大麻精神病などという精神病を私は聞いたことがない。

 それにもかかわらず、弁護士がこういう弁護方針を採用する理由は、*3-5のように、刑法第39条に「心神喪失者の行為は、罰しない。心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する」と規定されているからで、その前提として、違法行為を行った者の責任を問うためには、責任能力(①事理弁識能力:物事の善し悪しが判断できる能力) ②行動抑制能力:自身の行動を律することができる能力)が必要とされているからだ。

 そして、“心神喪失者”とは「精神障害者の中でも行為の善悪の判断が全くつかない人」、“心神耗弱者”とは「精神障害者の中で判断能力が著しくつきにくい状態の人」とされているが、現在の精神病に“心神喪失”や“心神耗弱”という医学的症状はない。つまり、刑法第39条は、1907年に施行された刑法の枠組みのまま使われており、そこには現在の精神病医学の概念は入っておらず、医学的に正しくないのである。

 その上、刑法第39条は、「精神病者を、“平均人ならざる”ものであるため、“反社会的”で“危険な個人”である」と、精神医学とは全く関係なく位置付けており、法律で精神病患者を差別することになっている。そのため、“心神喪失”“心神耗弱”という言葉は正確に定義しなおし、そこに入れるべき人も検討し直すべきだ。さらに、「泥酔していたから」「薬物中毒だったから」というのは、「判断能力がなかった」等として責任を問わない理由にはならないと考える。

 植松被告の弁護側は、*3-1のように、「植松被告は2015年頃から大麻を乱用するようになって問題行動が増え、『障害者は不幸をつくるから殺す』という考えに至ったのは大麻乱用による飛躍や病的高揚感があったからだ」と指摘しているが、横浜地裁判決は、差別的な主張を繰り返した植松被告の事件当時の刑事責任能力を認めて、求刑通りの死刑判決を言い渡した。

 しかし、その裁判の進行中、検察側・弁護側・裁判所・メディアの報道は、「被告の障害者に対する差別的な考えが犯行を引き起こした」としていたが、その基になっている考え方が、非科学的な精神障害者差別そのものであることには、全く気を止めていなかった。

 一方、*3-3の埼玉県熊谷市の強盗殺人事件では、罪に問われたペルー国籍のナカダ・ルデナ・バイロン・ジョナタン被告に対して、東京高裁が「統合失調症の影響で心神耗弱状態だった」と判断して一審の死刑判決を破棄したが、「統合失調症による被害妄想→心神耗弱→強盗殺人」という論理にはそれこそ飛躍がある。そのため、東京高裁が被告の供述を持ち出して行動制御能力がないと結論づけたのは、真犯人ではないと気付いたからではないかと思うが、それなら真犯人を捕まえて罰すべきであり、刑法39条をこのように使えば、統合失調症患者にとってはいわれなき差別を助長されることになるわけだ。

 そして、このような裁判や報道が繰り返された結果、*3-4のように、全国には首長部局に知的・精神障害者を1人も雇用していない自治体が少なくとも41%あり、全体の13%は一般職員(短時間を含む)の募集条件からも知的・精神障害者を除外するという雇用差別を行うことになり、知的障害者や精神障害者に雇用の機会が与えられないという実害が生じているのである。

2)本当の論点は、家族や社会のためではなく、本人が主体として差別されず尊厳を持って幸福に生きられるか否かである
 裁判で「意思疎通のとれない人は社会の迷惑」「重度障害者がお金と時間を奪っている」等と語った「津久井やまゆり園」事件の本当の論点が、植松被告の責任能力でないことは確かだ。しかし、本当の論点を語るのは難しい上に、いわれなき非難を浴びる可能性も高い。そのため、「気の毒だが、距離を置こう」と考えるのが普通の人だが、それでは何も解決せず、誰も今より幸福にすることができない。

 そのような中、*3-4のように、重度身体障害があって18歳までの大半を施設で暮らした、れいわ新選組の木村参院議員が、障害者本人の立場から「津久井やまゆり園」事件について述べられたのは、参考になる。木村議員が、「①彼が言っていることは皆さんにとっては耳慣れなくて衝撃的でしょうが、同じような意味のことを、私は子どもの頃、施設の職員に言われ続けました」「②19歳で地域に出ていなければ、津久井やまゆり園に入所していたかもしれず、殺されていたのは私かもしれません」「③親が頼れるのは施設だけでしたが、私にとっては牢獄のような場所でした」「④食事を食べさせてもらえないこともありました」「⑤自由もプライバシーも制限され、希望すら失って決まった日常を過ごす利用者を見た人に偏見や差別の意識が生まれても不思議ではありません」と語っておられるのは、施設で人間としての尊厳を失って過ごすことを余儀なくされた経験のある本人にしか言えないことだろう。

 また、「⑥私は、被告だから事件を起こしたとは思えません」「⑦私は親から施設に捨てられた歓迎されない命だという思いを抱いて生きてきました」「⑧公園デビューをした時、息子と子どもたちが砂場で遊んでいて、車いすに乗った私が息子に声をかけ、私が母親だとわかった瞬間、周りのお母さん方が自分の子どもを抱き上げて帰ってしまいました」「⑨小学校の授業参観で教室が狭くて他のお母さんたちが入れないので『詰めていいですよ』と言っても、半径1メートル以内には近寄ってきません」「⑩社会から排除することそのものが差別です」というのは、「津久井やまゆり園」事件で如何にも人道主義者であるかのように植松被告を批判している多くの人が無意識に行っている行為だ。

 そして、「⑪福祉サービスは増えたが、重度訪問介護が就労中などに公的負担の対象外」「⑫移動支援が自治体により差がある」「⑬重度障害を理由に普通学校への入学が認められない例もある」については、高齢者のみに偏らない訪問介護が必要であり、尊厳を失わずに生きられるための普通教育も重要で、こうした課題を解決できた時に、「津久井やまゆり園」事件は意味を持てるのである。

 なお、重度障害者を家族や社会の都合ではなく、本人の幸福のためにどこまで治療して助けられるか、どこから本当の安楽死を認めるべきかという難しい論点も見逃されているが、これは、森鴎外の「高瀬舟」以来、日本では解決できていない重たすぎる課題である。

(4)後見制度について
 税理士は、事業承継が困難な中小企業や相続が発生しそうな事業主に普段から接し、税務に関する代理・税務書類の作成・アドバイスなどをしているため、成年後見や任意後見のニーズを知る機会の多い専門職だ。また、税理士法の1条、2条に基づき、独立・公正な立場で税務代理や税務書類の作成を行い、顧客の求めに応じて財務書類の作成や記帳代行も行うため、税理士が蓄積してきた知識・経験は成年後見人や成年後見監督人にも役立つものである。そのため、関東信越税理士会が、2019年11月、「成年後見人等養成研修」を行い、私もそれに参加したが、内容や資料が充実して気合いの入ったものだった。

 このような中、西日本新聞が、2019年11月26日、*4のように、「適正な類型をどう判断するか」「後見偏重の修正はこれからだ」と記載しており、私もそれに賛成だ。また、90代の父親から金を搾り取っている息子には呆れるが、そのように育てた父親にも責任の一部はあるし、他の兄弟とは異なる事情があるのかもしれないため、父親の本心をよく聞いた上で、遺産分割についての遺言を作っておいたらどうかと思う。

 なお、私は、本人の意思を尊重する指針が出て、法定後見が本人の意向が尊重される方向に改正されたのは、日本国憲法も「第11条:国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない」「第13条:すべて国民は個人として尊重され、生命・自由及び幸福追求に対する権利は、公共の福祉に反しない限り、最大の尊重をする」と定めていることから、よかったと考えている。

 従来の禁治産・準禁治産制度は、1898年に明治憲法下の明治民法で定められたもので、禁治産者・準禁治産者になると、その事実が公示され戸籍に記載されてプライバシーが侵害され、呼称が偏見や差別を生み、障害者本人の権利や利益の擁護はしておらず、障害者と取引を行った相手の取引の安全性も図られていなかったため、2000年の民法改正で本人の意思や自己決定権の尊重、ノーマライゼーションを理念として民法の成年後見制度が施行されたことはよかったのだ。しかし、これまで後見に慣れてきた専門家は、「後見にしておけば間違いない」という意識が強く、制度の利用が後見に偏りがちという欠点があるそうだ。
    
 関東信越税理士会の「成年後見人等養成研修」の研修の終わりに課せられ、研修内容を基にして私が書いたレポートの一部が下のとおりだが、ここでも「精神障害」を一括して後見の必要な人と定義しているため、医学的症状と整合性がとれ人権に配慮した用語への修正が必要だ。

1)現在の後見制度の種類
(イ)法定後見制度(民法838条~876条の10)
 従来の禁治産・準禁治産制度を、各人の判断能力や保護の必要性の程度に応じて、補助(新設)、保佐(準禁治産の改正)、後見(禁治産の改正)に改めたもので、被補助人・被保佐人・成年被後見人を支援するために、家庭裁判所が適当と認める者(補助人・保佐人・成年後見人)を選任して権限を付与するもので、開始時には裁判所が監督人を選任する。

①補助(民法876条の6~876条の10)
 「補助」は、比較的軽度な精神障害(認知症・知的障害・精神障害)がある人のための制度で、本人の重要な財産に影響を与える行為について、状況に応じて補助人に同意権や代理権を付与して保護を図るもので、本人・配偶者・四親等内の親族・後見人・後見監督人・保佐人・保佐監督人又は検察官が、裁判所に「補助開始の審判」を申立てることにより開始される。本人以外の者の申立てによって「補助開始の審判」を行う場合は、本人の同意を要する。申立により、家庭裁判所は、補助人を選任したり、当事者が選択した特定の法律行為に関して代理権や同意権を付与したり、代理権の追加・取消をしたり、補助の終了を行ったりする。

②保佐(民法876条~876条の5)
 「保佐」は、精神障害(認知症・知的障害・精神障害)により「事理を弁識する能力が著しく不十分な者」を対象とする制度で、一定の「重要な行為」について保佐人の同意を必要とすることで、本人が不利益を受けるのを防ごうとするものだ。保佐の開始も、本人・配偶者・四親等内の親族・後見人・後見監督人・補助人、補助監督人又は検察官・任意後見受任者・任意後見人・任意後見監督人・市町村長が、裁判所に「保佐開始の審判」を申立てることによって行われ、補助とは異なり本人の同意は不要で精神鑑定が必要である。

 これにより、家庭裁判所は本人のために保佐人を選任し、「重要な行為」を行うには保佐人の同意が必要となり、「重要な行為」でなくとも同意権付与の審判を経れば保佐人に同意権を付与することができ、特定の法律行為については、当事者が選択したものについて保佐人に代理権を付与することができる。本人の判断能力の回復により保佐開始の原因が止んだ時は、家庭裁判所は本人・配偶者・四親等内の親族・保佐人・保佐監督人等の請求により、保佐開始の審判を取り消さなければならない。また、判断能力の減退又は回復により、後見開始又は補助開始の審判に移行する時は、審判の重複を避けるため、家庭裁判所は職権で保佐開始の審判を取り消す。

③後見(民法843条~875条)
「後見」は、精神障害(認知症・知的障害・精神障害)により「事理を弁識する能力を欠く状況にある者」を対象とする制度で、自分の行動の意味や結果を理解できないため、単独で契約などを行った場合に不利益を被る恐れがある場合に、成年後見人が代わって契約等を行い、本人を保護する制度だ。後見の開始は、本人・配偶者・四親等内の親族・後見人・後見監督人・補助人、補助監督人又は検察官・任意後見受任者・任意後見人・任意後見監督人・市町村長が、裁判所に「後見開始の審判 」を申立てることによって行われ、本人の同意は不要だが、精神鑑定が必要である。

 家庭裁判所は後見開始の審判において、本人(成年被後見人)のために成年後見人を選任し、成年後見人には幅広い権限が付与される。本人の判断能力回復により後見開始の原因が止んだ時は、家庭裁判所は本人・配偶者・四親等内の親族・成年後見人・後見監督人等の請求により、後見開始の審判を取り消さなければならない。また、判断能力の回復により、保佐開始又は補助開始の審判に移行する時も、審判の重複を避けるため、家庭裁判所は職権で後見開始の審判を取り消す。成年後見人は、本人の財産に関する法律行為について代理権、同意権又は取消権を付与され、本人のためにその職務を行うとともに、善管注意義務を負う。具体的には、その職務を行うにあたり、「意思尊重義務」「身上配慮義務」が求められる。

④成年後見監督人等
 2000年の改正により、成年後見人・保佐人・補助人の権限乱用に配慮し、成年後見制度の信頼性や安全性をより確実なものにするため、法定後見制度で家庭裁判所が必要と認めた場合は、成年後見人の職務を監督する者(個人・法人とも可)を選任できる旨の規定が設けられた。そのため、成年後見監督人等の職務は、i)成年後見人等の事務を監督する ii) 成年後見人等が死亡で欠けた場合に、遅滞なく後任者の選任を家庭裁判所に請求する iii)急迫な事情がある場合は、成年後見人等に代わって必要な処置をする iv) 成年後見人等と本人の利益が相反する場合は本人を代理する などだ。そのほか、成年後見監督人等は、いつでも成年後見人等の事務に関する報告を求めて成年後見人等の事務や本人の財産状況を調査することができ、本人の財産の管理、その他後見等の事務について必要な処分を命ずることを家庭裁判所に請求したり、監督過程で不正行為を知った場合には、成年後見人等の解任を家庭裁判所に請求したりすることができる。

(ロ)現在の任意後見制度(任意後見契約に関する法律)
 任意後見制度は、2000年に施行された「任意後見契約に関する法律」で新設された制度で、本人が契約締結に必要な判断能力を有しているうちに、将来の判断能力低下に備えて任意後見人や支援の範囲等に関して公正証書により契約を行い、実際に判断能力が低下した時に、家庭裁判所による任意後見監督人の選任によってその契約の効力が生じる制度である。

①任意後見制度の特徴
 任意後見制度の特徴は、自らの意思で決める自己決定権の尊重と任意後見監督人の選任による信頼性の確保だ。

②任意後見契約の締結
 任意後見契約は、法務省令で定める公正証書によって代理権の有無・範囲を明確にして作成し、公証人が直接関与することによって委任者の真意による適法で有効な契約締結が担保することが意図され、登記所へは公証人が遺漏なく登記する。

③任意後見契約の開始と任意後見監督人の選任
 任意後見契約の締結後、本人の事務弁識能力が不十分な状態になった時は、本人の住所地を所管する家庭裁判所に対して、任意後見監督人の候補がいる場合にはその旨を記載し、通常は書面で審判の申立を行い、家庭裁判所が任意後見監督人を選任して任意後見契約が開始される。この申立ができるのは、本人・配偶者・四親等内の親族・任意後見受任者のみである。

④法定後見と任意後見契約の関係
 任意後見契約が登記されている場合には、本人の自己決定権を尊重する観点から、法定後見の開始の申立がなされた時は、任意後見を優先して裁判所は原則として法定後見開始の申立を却下する。ただし、任意後見に与えられている代理権の範囲が狭すぎ、悪質な訪問販売による被害の恐れが強い場合など、本人の利益のために特に必要があると認められる場合には、例外的に法定後見開始の審判をすることができる。

⑤任意後見制度の利用形態
 任意後見制度の利用形態には、i) 本来型(任意後見契約を単独で結び、本人の判断能力が低下してから任意後見を開始するもの) ii) 移行型(任意後見契約と民法の委任契約・代理権授与契約による財産管理等に関する契約を同時に締結し、本人の判断能力が低下してから任意後見を開始するもの) iii) 即効型(判断能力が多少不十分だが契約締結時に意思能力はある者が、任意後見契約の締結と同時に任意後見監督人の選任を申立て、直ちに契約を発効させるもの) がある。

(ハ)後見登記制度
 成年後見登記制度は、法定後見(補助・保佐・後見)及び任意後見に関する事柄を公示するための制度で、従来の禁治産宣告・準禁治産宣告の戸籍記載に代わる新たな方法として「後見登記に関する法律(平成11年法律152号)」に基づいて創設されたものだ。これは、後見に関する情報を「登記」という方法によって管理・証明し、この登記情報の開示を求めることができる者を限定することによって、取引の安全性と本人のプライバシー保護の両立を図ったものである。登記は、原則として裁判所書記官又は公証人の嘱託に基づいて行われ、申請に基づいて行われる登記は、変更又は終了の登記等の一部に限られる。

(二)2016年(平成28年)度の改正による影響
 ①成年後見人が、家庭裁判所の審判を得て、成年被後見人宛の郵便物の転送を受けることが
  できるようになった(郵便転送。民法第860条の2,第860条の3)
 ②成年後見人が、成年被後見人の死亡後にも行うことができる事務(死後事務)の内容と
  その手続が明確化された(民法第873条の2)

・・参考資料・・
*1-1-1:https://digital.asahi.com/articles/ASN3V6SR3N3VUHBI01J.html (朝日新聞 2020年3月26日) 新型コロナ、死者2万人超 イタリアとスペインで半数に
 世界で感染拡大する新型コロナウイルスによる死者数が26日、2万人を超えた。世界保健機関(WHO)や各国政府の発表をもとに集計している米ジョンズ・ホプキンス大学システム科学工学センターによると、イタリアが7500人超、スペインが3600人超で全体の半数以上を占めた。感染が急増している米国でも1千人を突破。世界の感染者数は同日午後8時現在で47万人を超えている。欧州での感染の中心となっているイタリア政府は25日、死者数が前日比で683人増え、7503人になったと発表した。感染者も7万4386人に達し、8万1千人超の中国に迫る勢いだ。イタリアでは移動の制限や公園の閉鎖などの措置が全土に広がっている。14日に政府が警戒事態を宣言したスペインでは死者数が前日より738人増えた。感染者数も4万9千人超となった。首都のあるマドリード州で被害が集中している。そのほかの死者数はフランスが1300人超、英国が460人超、オランダが350人超で、イタリア、スペインを含む欧州5カ国で計1万3千人超となり世界の死者数の6割を占める状況だ。

*1-1-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/202003/CK2020032702000301.html (東京新聞 2020年3月27日) <新型コロナ>世界感染50万人超 米が中国抜き最多
 米ジョンズ・ホプキンズ大の集計によると、新型コロナウイルスの感染者が二十六日、世界全体で五十万人を超えた。二十四日に四十万人に達したばかりで、二十日の二十五万人から一週間足らずで倍増。米国が初めて中国、イタリアを上回って世界最多となり、流行の拡大は新たな局面に入った。勢いは衰えず、終息の気配は見えない状態が続いている。三月は欧州で感染拡大が続いてきたが、下旬からは米国での感染者が急増し、二十七日までに八万五千人を超えた。中国は横ばいで推移、欧州ではイタリアで被害が最も大きい。世界全体の死者は二十五日に二万人を超え、二十六日時点で二万三千人に上っている。世界保健機関(WHO)の二十六日付状況報告によると、感染者の54%、死者の67%は欧州地域事務所管内(旧ソ連諸国を含む)に集中しており、三月に入り「パンデミック(世界的大流行)の中心地」(テドロスWHO事務局長)となったことを如実に反映している。同報告によると、前日からの新規感染者についても、欧州は世界全体の61%と多いが、単独で24%に上っているのが米国で、ここ数日は一日当たり一万人前後の増加が続いている。三億六千六百万人の人口を抱える米国での感染拡大防止策が効果を上げるか否かが、今後の世界的流行の情勢を左右することになる。二十一世紀に入ってからのコロナウイルスによる新たな感染症では、重症急性呼吸器症候群(SARS)が感染者約八千人で死者約八百人、中東呼吸器症候群(MERS)が感染者約二千五百人で死者約八百六十人の被害が出ている。

*1-1-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14418428.html (朝日新聞 2020年3月27日)  感染集中、NYの医療窮地 病床、14万床必要なのに5万床 新型コロナ
 全米最大の都市、ニューヨーク(NY)市で新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。全米の感染者数の3割が集中。病床や人工呼吸器の数が不足しており、医療崩壊が懸念されている。25日昼、NY市のジョン・F・ケネディ空港の出発ロビーには、感染を避けようと防護服に身を包んだり、大型ゴーグルを着けたりする乗客たちの姿があった。「NYで暮らすリスクはあまりにも高すぎる」。市内の金融機関勤務のアジア系男性がマスクを押さえながら語った。「NYからの逃避」という言葉が、たびたび報じられている。
市内で感染者が最初に確認されたのは今月1日だが、3週間あまりで約2万人まで増え、死者も280人に達した。デブラシオ市長は25日夕、会見で「NY市はこの危機の中心地だ」と危機感をあらわにし、「4月は、3月より厳しい状況になる」と語った。感染者が次々と確認される中、医療態勢の不備が懸念されている。NY市によると、最も多くの感染者が出ているクイーンズ地区の公立病院「エルムハースト・ホスピタル・センター」(545床)では24時間のうちに感染患者13人が死亡した。集中治療室がいっぱいになり他の病気の患者を別の医療機関に移し始めた。NY州のクオモ知事によると、州内では今後2~3週間で感染者数がピークを迎え、最大で推計14万床必要だが、州内には約5万3千床。NY市内の大型会議場を含む4カ所に仮設病院を作っているが、まだ足りない。人工呼吸器も、NY市だけで1万5千個必要だが、その6分の1しかないという。NY市当局の初期対応にも注目が集まる。デブラシオ氏は今月2日時点で「1200床のベッドを確保している」と強調し、「我々には対処する能力がある」と封じ込めに自信を見せていた。12日に緊急事態宣言。その後も、1866校ある市内の公立校は「給食に頼っている子どもも多い」と続けており、保護者や教員の要請を受け、16日に休校した。ニューヨーク・タイムズ紙は「デブラシオ氏は、日常生活を送るよう市民を促し続けた」と批判し、保健当局の複数の担当者が「市長が態度を改めない限り、辞任する」としていると伝えた。市の対応が後手に回った感は否めない。

*1-1-4:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO55420100Y0A200C2000000/ (日経新聞 2020/2/8) 新型肺炎、各地で広がるアジア人差別 NYで暴行被害
 中国で多数の死者を出している新型コロナウイルスの拡大を受けて、世界各地でアジア人への差別が問題となっている。米ニューヨークの地下鉄の駅では男がマスクをつけたアジア系の女性に暴行を加える事件が発生した。SNS(交流サイト)の普及で差別的な発言やヘイトスピーチ(憎悪表現)が拡散しやすくなっており、冷静な対応が求められている。「マスクの中国人女性が暴行された」。ニューヨーク在住のトニー・ホー氏は4日、ツイッターに事件の様子をとらえた動画を投稿した。マンハッタンの地下鉄の駅内を走る女性の前に突然、男が立ちはだかり「俺に触るな」などと罵りながら傘や手でたたく様子が映っていた。ホー氏は「多くのアジア人は新型ウイルスが流行する前からマスクをつけているのに、急に脅威と感じるようになった」と嘆く。「アジア人が事件に巻き込まれても、その情報は広まらない。アジア人は従順で気が弱いと思っている」とも書き込んだ。移民に寛容なイメージの強い隣国カナダも例外ではない。トロント近郊の中国系住民が多く住む地区では、最近中国を訪れた家族のいる子どもをしばらく通学させないよう学校に求める署名運動が起きた。インターネット上で約1万人の署名が集まったが、学校側は「安全の確保という善意に基づいていたとしても、隔離を求めるのは人種差別だ」として要求を却下した。中国料理店のサイトへの人種差別的な書き込みや学校でのいじめなども報告されているという。欧州で初の感染者が確認されたフランスでも「アジア人には近づかないほうがいいと露骨に避けられた」などの声が上がっている。ジャーナリストのリンラン・ダオ氏はツイッターで「アジア人だからと侮辱され、公共交通機関から蹴り出される。これは冗談やネット上のヘイトではなく、現実に起こっていることだ」と訴えた。差別の対象となっているのは中国系住民だけではない。仏高級ブランド「ルイ・ヴィトン」の公式アカウントがSNSに掲載した日本人女優の広告には「コロナウイルスか?」といった差別的なコメントが多数寄せられた。問題のコメントは現在は削除されているが、ルイ・ヴィトン側が1週間近く対応を怠ったとしてネット上では非難の声が上がっている。仏紙パリジャンは「中国人か韓国人かなんて分からないから、アジア人の横には座らない。差別ではなく予防だ」という市民の意見も紹介した。米紙ニューヨーク・タイムズは、日本でもツイッターで「中国人は日本に来るな」がトレンド入りしたことを取り上げた。同紙は「中国の経済・軍事力の成長がアジアの隣国や西欧諸国を不安にさせる中で、新型コロナウイルスが中国本土の人に対する潜在的な偏見をあおっている」と分析している。フランスでは「私はウイルスではない(#JeNeSuisPasUnVirus)」として、ツイッターで人種差別をやめるよう訴える投稿が相次いでいる。仏国立人口学研究所のヤーハン・チャン氏は地元メディアの取材に対し「学校や公共機関での教育活動が必要だ。アジア人への人種差別を止めるため、やるべきことがたくさんある」と述べた。国連のグテレス事務総長は4日に新型肺炎を巡り「人種を理由にした差別や人権侵害を懸念している」と発言した。

*1-1-5:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57057480R20C20A3I00000/ (日経新聞 2020/3/21) ジャカルタ、新型コロナで非常事態宣言 オフィス利用中止を要請
 インドネシアの首都ジャカルタのアニス州知事は20日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて非常事態宣言を出した。州内の全企業にオフィス利用の停止を強く求めたほか、娯楽施設の営業を禁止した。人の移動を制限して感染拡大を食い止める狙いだが、ジャカルタには企業が集中していて、ビジネスに大きな影響が出ることは避けられない。当面、4月2日までの2週間を「災害非常事態」として、州内の全企業に原則としてオフィスを利用しないよう要請するほか、市内の映画館やバー、カラオケ店などの営業を禁止する。公共交通機関の運行も減らす。アニス氏は「責任のある態度とは、外での活動をすべてやめることだ」と述べ、住民に対して、仕事以外でも外出をしないよう求めた。インドネシアでは20日までに369人が感染し、32人が死亡した。感染者の6割がジャカルタに集中する。州政府は14日、全住民に対して外出しないように要請したが、強制力を伴わず、出勤を続ける住民も多かった。感染拡大が続くため、より強い対応が必要と判断した。非常事態宣言中は州内に軍や警察が展開して、住民の外出を事実上制限するという。周辺自治体も含めたジャカルタ首都圏には約3000万人が住む。ジャカルタ特別州だけでも個人企業もあわせて120万の企業が集まるインドネシアの経済の中心だ。首都の人の移動が大きく制限されることで、経済に大きな影響が出そうだ。

*1-1-6:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57193700V20C20A3000000/ (日経新聞 2020/3/25) インド、新型コロナで全土封鎖 25日から21日間
 インドのモディ首相は24日、国民向けにテレビ演説し、新型コロナウイルスへの感染防止策として全土を25日から21日間、封鎖すると表明した。モディ氏は「ウイルスと戦うには社会的な距離を保つしかない。人々は外出が禁じられ、安全のため家で過ごしてほしい」と述べ、国民に外出を控えるよう呼びかけた。インドは22日に全土で外出禁止を命じ、その後は感染者が確認されていたデリーなどの75地区を31日まで封鎖する方針を示していた。モディ氏は「医療サービスが世界最高級とされたイタリアや米国でも感染拡大が防げていない。家にいる以外は手段がない」と強調し、一段と厳しい措置に踏み込むことを決めた。病院や検査機器などの医療インフラに対し、1500億ルピー(約2200億円)を拠出する考えも表明した。インドでは既に工場や航空便などが停止している。モディ氏は「経済的なコストが伴うが、ウイルスと戦うには断固とした措置が欠かせない」と言及。シタラマン財務相を中心に景気対策を検討しており、近く公表するとしている。


*1-2-1:https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2020021601001755.html (東京新聞 2020年2月16日) “地元いじめ”に和歌山知事怒り ドローン撮影、返礼品拒否
 外科医らの新型コロナウイルス感染が判明した和歌山県湯浅町の済生会有田病院の病棟内をドローンで撮影しようとしたり、ふるさと納税に対する町の返礼品を拒んだりするなどの“地元いじめ”が相次ぎ、仁坂吉伸知事が16日の記者会見で怒りをあらわにした。県によると、感染した外科医の担当病棟がある3階付近を飛ぶドローンが14日から連日確認されているほか、「ふるさと納税の返礼品の受け取りは拒否できるか」との問い合わせが町にあった。本来は健康上の不安を相談するための県の電話窓口に「病院の患者の住所を教えてほしい」との要求まで来たという。仁坂知事は「怒りを感じる」と訴えた。

*1-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200326&ng=DGKKZO57239130V20C20A3EA2000 (日経新聞 2020.3.26) 入院 患者の選別カギに
 世界の感染者数は3日間で10万人増えるなどペースが加速している。東京都も25日、41人の新規感染を確認し、今週末の不要不急の外出自粛を求めた。患者が急増した場合、数が限られる病床を重症者に優先的に振り向ける対応が求められる。政府は感染症指定医療機関などで個室管理可能なベッドを1万2千床確保する。ただ爆発的な感染拡大が起きれば、厚生労働省の最悪の想定では東京だけで1日4万5千人の感染者が出ると推計される。そうした場合、政府は病床は重症者などに使い、無症状や軽症者には自宅療養を求める方針。もっとも、こうした「トリアージ」が円滑にいくかは不透明だ。都内の新型ウイルス専門外来の医師は「レントゲンでは明らかに肺炎なのに、本人は元気なことがある。見極めは簡単ではない」と話す。都の担当者も「入院している軽症者に『帰ってください』と説得できるのか。都で宿泊施設を確保するなど対応が必要になるかもしれない」と悩む。愛知県は24日、医療機関外で無症状や軽症の約100人を受け入れられる施設を月内にも開設すると発表した。相模原市も重症者に向けた病床を確保しておくため、一部の軽症患者らに自宅待機を要請しているという。
  ◇
 国内で25日に新型コロナウイルスの新規感染が確認されたのは午後9時現在78人で、感染者は41都道府県の1256人となった。東京都と北海道、愛知県でそれぞれ高齢者1人が死亡した。

*1-2-3:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO55811680Z10C20A2I00000/ (日経新聞 2020.3.25) 新型コロナ、41都道府県で1269人感染 都で新規41人 (3月25日午後10時現在)
 新型コロナウイルスの感染が国内で広がっている。各自治体などによると、国内での感染者は25日午後10時までに1日の感染確認として最多の91人の感染が新たに確認されて計1269人に上っている。東京都の感染者数は210人で、都道府県で初めて200人を超えた。感染確認は計41都道府県。このほか海外から入国して空港検疫で確認されたのは23人(25日正午現在)。手洗いの徹底など一人ひとりの感染症対策が重要となる。なお、前日午後10時より後に明らかになるなどした感染者や退院患者、死者は当日の新規分には含めていない。

*1-2-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200327&ng=DGKKZO57276430W0A320C2EA1000 (日経新聞 2020.3.27) 「首都封鎖」を防ぐために行動を見直そう
 新型コロナウイルスの感染拡大が「重大局面」を迎えつつあるのは間違いない。感染者が急増している東京都と関東近県が週末の往来を自粛するよう住民に求めた。感染者の爆発的な急増(オーバーシュート)を防ぐ措置として、やむを得ない。今週に入り、東京都内の新たな感染者の報告数は24日から25日にかけて、2倍以上に急増した。海外渡航者を起点にした感染者集団(クラスター)が、すでにいくつも形成されている恐れがある。外務省は全世界を対象に不要不急の渡航中止を求めた。北海道は外出自粛の効果もあり爆発的な増加を免れた。首都圏もこれをモデルに感染者集団を抑え込む努力が不可欠だ。しかし、東京は通勤・通学で近県から1日300万人近くが行き来する。感染経路の特定が難しく、封じ込めは容易ではない。政府は26日、改正新型インフルエンザ対策特別措置法に基づく対策本部を設置し、いつでも緊急事態宣言を出せるようにした。緊急事態宣言の目的は医療の機能不全を防ぐことだ。感染者の増加を遅らせ、その間に医療態勢を整えて死者を増やさないようにする。そのための措置が、厳しい外出制限だ。緊急事態を宣言すれば各国の「都市封鎖」に近い状態になり、社会や経済の活動が一段と制約される。今はその一歩手前だ。「首都封鎖」という最悪の事態を招かないためにも、一人ひとりが今の状況を自覚し、外出や飲食を伴う集まりを自粛するなど行動を見直すことが重要だ。住民に協力を求めるには、国や自治体が情報開示を徹底して信頼を得る必要がある。最悪の場合、感染はどこまで広がりうるのか、行動制限や外出自粛でどの程度抑制できるのか、どんな条件を満たせば普段の生活に戻れるのか。明確でわかりやすい説明が信頼を育み、対策の効果を上げる。政府の専門家会議は19日に大都市圏で感染者の爆発的な急増が起こる可能性が高いと指摘していたが、そのメッセージが浸透していたとは言い難い。政府が学校の休校を解除すると決めたのも、誤った安心感を与えた可能性がある。特に若い世代に危機感が薄い傾向があり、伝え方に工夫が必要だ。危機対応では専門家の知見を踏まえて国民に行動を促すのが、政治家の役割だということを改めて肝に銘じてほしい。

*1-2-5:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/590238/ (西日本新聞 2020/3/8) インフル患者、前年から6割減 新型コロナで予防浸透
 新型コロナウイルスの感染が広がる一方で、インフルエンザの患者数が急減している。医療機関の報告を基にした厚生労働省の推計によると、2020年の全国の累計患者数(3月1日時点)は、前年同期(約1024万人)の4割を切る約397万人で、600万人以上減少した。新型コロナウイルスの感染予防で手洗いやマスク着用などが徹底されたことが奏功しているようだ。厚労省がまとめた約5千の定点医療機関からの報告によると、20年の患者数のピークは1月6~12日の週で1医療機関当たり平均18・33人。前年ピークの週(1月21~27日)の57・09人を7割近く下回った。九州各県も同様の傾向で、今年ピークとなった週の患者数は、熊本県が15・99人で前年ピークより約7割減少。福岡(23・55人)や大分(26・59人)なども約6割減った。厚労省は昨年11月15日、例年並みだった前年より1カ月ほど早く全国的な流行が始まったと発表した。昨年9月~12月末までの患者数は約315万人で、前年同期の約106万人を大きく上回る勢いだった。だが、昨年12月以降、中国・武漢市で新型コロナウイルスの感染が急拡大。1月15日には国内初の感染者が確認され、マスク着用やせきエチケットなどの感染予防の取り組みが全国に浸透していったとみられる。厚労省感染症情報管理室の梅田浩史室長は「一人一人の感染予防意識が高まったことが要因で予防対策の効果が示された。新型コロナウイルスの感染拡大防止にもつながるだろう」と分析した。 

*1-2-6:https://forbesjapan.com/articles/detail/33158 (Forbs JAPAN 2020/03/19) 日本で新型コロナが「感染爆発」しない理由 浦島充佳:東京慈恵会医科大学教授
 3月11日、ドイツのメルケル首相は、「ドイツ国民の60%から70%が新型コロナウイルスに感染する可能性がある」と警戒を呼びかけた。こんなことが本当に起こりえるのだろうか?これが現実になった場合、感染者のうち1~2割が重症化し、入院治療が必要になること考えると、医療崩壊は免れないだろう。しかし、私はそうはならないと考える。その理由は新型コロナの感染拡大パターンにある。
●新しい感染症が入ってくるとどうなる?
 メルケル首相の言葉は、新しい感染症に対する基本モデルに基づいている。ある感染者がその感染症に対する免疫を持たない集団に入ってきた場合、かなりの勢いで広がっていく。しかし、集団免疫という考え方がある。感染から回復し免疫を得た人々が「免疫の壁」として立ちはだかるようになり、未感染者が感染者から感染するのを阻止する形となるのだ。すると、一定の未感染者を残しながらも、感染拡大は停止する。ウイルスの感染力が弱まって感染拡大が止まるわけではない。
●60%から70%が感染のカラクリ
 ある感染者がその感染症に免疫を全く持たない集団に入ったとき、感染性期間に直接感染させる平均の人数を「基本再生産数」と呼ぶ。これが1より大きければ感染は拡大し、1であれば感染は定常状態となり、1未満になれば感染は終息に向かう。新型コロナ、インフルエンザ、SARS の基本再生産数はだいたい2~3といわれている。計算式に当てはめると、基本再生産数が3のとき、集団免疫による感染拡大停止までに67%が感染することになる。メルケル首相が、「国民の60%から70%が新型コロナウイルスに感染可能性」を示唆した背景には、この計算があるのだろう。しかし、これは集団が新型コロナに対して全く免疫を持っていないという仮定に基づいている。
●私たちは新型コロナウイルスへの免疫を持っている?
 2009年にパンデミック化した新型インフルエンザを思い出してほしい。基本再生産数が3だったとしても国民の6~7割が感染するようなことはなかった。季節性インフルエンザに対する免疫が、新型インフルエンザにもある程度有効だったと私は考える。そもそも「新型」ではない「コロナウイルス」は、主に子供の風邪のウイルスとしてありふれたものである。これは「新型コロナウイルス」とは別物であり、多くの人が年に1,2回は感染している。そのため、子ども、子育て世代、小児科医などは新型コロナに対しても免疫を持っているかもしれない。また、新型コロナは8割が軽症である。無症状で経過する人も相当数いる。日本には春節前から多くの中国人が訪れていた。あくまで推測の域をでないが、既に日本人の多くが自分でも知らない間に感染しているかもしれない。そうであれば、先に示した集団免疫の作用で感染爆発は起こり難い。またメルケル首相の発言には「仮に政府が何も対策をとらなかったら」という仮定も入っている。しかし、日本も含め多くの国が既に強い対策に打って出ており、また人々は行動変容を起こし、大勢の人が集まるところに出かけることを控えている。よって、無防備に感染が拡大するとは考えにくい。新型コロナの感染拡大パターンは、次のようなものである。
●新型コロナの感染パターン
 3月9日夜、新型コロナ対策専門家会議の記者会見があり、新型コロナ対策専門家会議・尾身茂副座長が疫学的知見を発表している。感染症が進行中の集団の、ある時点における、1人の感染者から発生した二次感染の平均の数である、「実効再生産数」について述べている部分を引用する。「現時点において、感染者の数は増加傾向にあります。また、一定条件を満たす場所において、一人の感染者が複数人に感染させた事例が、全国各地で相次いで報告されています。しかし、全体で見れば、これまでに国内で感染が確認された方のうち重症・軽症に関わらず約80%の方は、他の人に感染させていません。また、実効再生産数は日によって変動はあるものの概ね1程度で推移しています」。新型コロナの基本再生産数は2〜3である。対して、実効再生産数は1。要するに、日本国内で感染が広がっている速さを示す実効再生産数は、現在、ウイルスの持つ感染力を示す基本再生産数を下回っているということだ。
●新型コロナの感染状況をビジュアル化
 実効再生産数が1ということは、10人の患者から新たに10人の二次感染患者が再生産されることになる。しかし、専門家会議は「80%が誰にも感染させていない」としている。例えば、新型コロナウイルス感染患者が10人いたとする。そのうち8人は誰にも感染させず、2人が感染させる。一旦感染すると2週間など長期にわたって咽にウイルスをもち感染力を保ったまま活動できてしまうので感染が拡大する。そのため実効再生産数が1であっても、患者数は増加し得る。では、感染を終息に向かわせるにはどうするべきか?図3のように、例えば2つのライブハウスでの感染をブロックできれば、10人から3人の患者しか発生しないので、やがて患者数は減っていく。だれがウイルスをもっているか判らなく、感染力も強く、致死率が高い。このような場合で、かつ感染拡大パターンを最初に示した基本モデルで考えると、感染拡大を止めるにはどうしても外出自粛、休校、移動制限、地域封鎖となってしまう。新型コロナの場合、確かにだれがウイルスをもっているか判らないことが、人々に大きな恐怖心を植え付けている。しかし、私達は今までの経験からクラスター(集団感染)を形成しやすい条件を知っている。それは、換気の悪い室内で、不特定多数と長時間会話したり、食事をしたときだ。
●エアロゾル感染のリスクは「換気」で減らす
 3月9日の専門家会議の記者会見で「みなさまにお願いしたいこと」として以下の点が指摘された。1. 換気の悪い密閉空間、2. 多くの人が密集、3. 近距離(互いに手を伸ばせば届く距離)での会話や発声 という3つの条件が同時に揃う場所や場面を予測し、避ける行動をとってください。これを多くの市民が実施できれば、クラスター発生を予防でき、国が強権を発動せずとも感染は終息に向かうであろう。実際、諸外国と比べて日々の感染者数は数十人で収まっている。ただ、人は同じ説明を聞いても、何も気にせず日常生活を送れる人もいれば、家から一歩も出られない、仕事にも行けない人まで様々であろう。レストランで外食したり、会社で仕事をしたりというのは上記1・2・3にあてはまるからだ。そこで、人々の不安を少しでも解消し、対策の一助になればと思い、感染のメカニズムを解説したい。会話やくしゃみで飛沫が飛び散る。大きな飛沫は放物線を描いて地面に落ちる。しかし、目に見えないくらいの小さな飛沫粒子、いわゆるエアロゾルは数時間室内を空気のように浮遊する。大きな飛沫による感染は(3)の近距離での会話や発声に対応する。これは、お互いにマスクをしていれば予防できるし、マスクがない場合には1~2メートルなど距離を開ければ解消できる。エアロゾルによる感染は(1)の換気の悪い密閉空間に対応する。新型コロナウイルスは1時間で半減するものの、数時間は感染性を保ったままエアロゾルとして空中を浮遊することが最近アメリカの研究チームにより報告された。これは窓を開けて空気を入れ替えれば、解消される。外であれば、まず問題にならない。人数が数十人、数百人と多くなればなるほど、その中にウイルスをもった人がいる確率があがる。(2)の多くの人が密集というのは、このことを指している。しかし、新型コロナの発生がほとんどない地域では気にしなくてもよいかもしれない。「3つの条件が同時に揃う場所」を言い換えれば「1つの条件が解消されていれば避ける必要はない」ということである。例えば十分な換気をはかれればよいことになる。また十分な換気ができなければ、マスクをするか、距離をとればよいことになる。
●今後の日本は如何に?
 2月後半、1日の報告件数が10人、20人と増えだした。これに対して、日本政府は在宅勤務の推奨、大型のイベント自粛、休校を要請した。患者数の推移を海外と比較すると、日本は地域を封鎖したり、移動制限や外出自粛を強要したりすることもなく、何とかよく持ちこたえていると思う。これは政治決断の効果でもあり、日本人1人1人ができることをやっている成果であるとも思う。今後は、患者数の推移を慎重にみながら、屋外や換気を十分するといった条件で、社会活動を少しずつ再開してもよいのではないだろうか。とはいえ、大規模イベントや、今までクラスターのあった場所での活動の再開は慎重にするべきである。危機管理の基本は、初動において厳しい対応をして、様子を観ながら徐々に緩めるのが鉄則だ。

*1-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200315&ng=DGKKZO56809510U0A310C2MM8000 (日経新聞 2020.3.15) 米欧、新型コロナ対策総動員 検査拡充や企業支援、米、非常事態で5兆円
 新型コロナウイルスの感染が拡大する米国や欧州で、各国政府が緊急対策に動いている。トランプ米大統領は13日に国家非常事態を宣言し、最大5兆円超を投じてウイルス検査などを拡充することを決めた。欧州各国では医療体制の強化や企業の資金繰りの支援が広がる。感染拡大による社会の混乱や景気の失速を防ぐために、政策を総動員して対応にあたる。トランプ氏は13日、非常事態宣言によって「連邦政府の力を最大限に引き出す」と力説した。災害対策基金など最大500億ドル(約5兆4千億円)を地方政府に振り向ける。最大の柱はウイルス検査の見直しだ。米政権は規制を一時的に緩和し、スイス製薬大手ロシュが開発した24時間以内に4千件超を検査できるシステムを緊急で承認した。スーパーや薬局の駐車場での「ドライブスルー検査」も全米に広げる。米ジョンズ・ホプキンス大の集計では米の感染者は2100人を超え、死者は47人に達した。感染者は46州と首都ワシントンで確認し、ほぼ全米に広がっている。新型コロナで打撃を受けた企業や個人の支援も強化する。非常事態宣言により、新たに中小企業の支援に70億ドルのローンを提供できるようにした。戦略石油備蓄を積み増すため大量の原油を購入し、エネルギー会社も支援する。個人には学生ローンの利息支払いを免除する。14日には議会下院が野党・民主党の経済支援策も可決した。新型コロナの無償検査、有給の病気休暇、失業保険の拡充、低所得者向け食糧支援などを盛り込んだ。トランプ氏も法案に署名する考えで、近く成立する公算が大きい。感染者の広がりでは、欧州の置かれた状況はより深刻だ。感染者はイタリアが1万7千人超と中国に次いで多い。同国政府は最大250億ユーロ(約3兆円)程度の経済支援策を用意する計画だ。売り上げが大きく減った企業の支援、医療体制の拡充などに充てる。スペインでも感染者が5千人を超え、サンチェス首相は13日に非常事態を宣言した。政府が強制力を持って人の往来を制限したり、一定の物資を管理下に置いたりすることができるようになる。ドイツ政府は13日、新型コロナの感染拡大の影響を受けた企業の資金繰りを支援するため、総額に上限を設けない無制限の信用供与を実施すると発表。メルケル首相は同日「必要なことは何でもやるつもりだ」と語った。フランスは休校中の子供の世話などで欠勤せざるをえない従業員への給与補償、企業の納税の延期・一部免除などを順次実施する。こうした措置で数百億ユーロ(数兆円)の予算が必要になるとみられる。英国は2020年度の政府予算で300億ポンド(約4兆円)規模の経済対策を講じる方針だ。医療体制の強化や休業補償などにあてる。米国を中心に人の移動制限に加えて、財政政策も打ち出すことで、感染拡大と景気の落ち込みを食い止める狙いがある。

*1-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200326&ng=DGKKZO57209430V20C20A3MM8000 (日経新聞 2020.3.26) 現金給付、所得減世帯に 5月にも実施、経済対策50兆円超 GDPの1割
 政府は新型コロナウイルスの感染拡大を受けた緊急経済対策で、5月にも所得が大幅に減少した世帯に現金を給付する検討に入った。条件が当てはまる1世帯に20万~30万円程度とする案がある。売り上げの急減が予想される飲食業や観光業は割引券や商品券を発行して支える。経済対策の事業規模(総合2面きょうのことば)は名目国内総生産(GDP)の1割にあたる56兆円超をめざす。海外でも米国やオーストラリアなどは新型コロナを巡る経済対策でGDPの1割近い財政出動に踏み切る構えで、日本も足並みをそろえる。リーマン・ショック後の事業規模56兆8000億円を上回る過去最大とする方針だ。海外では事業規模を先に表明することが多いが、日本が目標値を先行させるのは異例となる。日本は個別の政策を積み上げ、積算した規模を公表してきたためだ。新型コロナに伴う株安をにらみ、市場の動揺を抑える狙いがある。安倍晋三首相は2020年度予算案が成立する27日にも経済対策の編成を指示する。裏付けとなる補正予算案を4月上旬にも閣議決定し、下旬の成立を見込む。5月にも給付を始める。事業規模は国による直接支出に加え、融資に伴う金融機関の貸し出し分などを含めた額だ。給付の仕組みは今後詰める。新型コロナの感染拡大を理由とした所得減かを見極めるのは簡単ではない。所得をどの程度減らした世帯を対象にするかや所得制限をかけるかが制度設計の論点だ。フリーランスといった所得の把握が難しい人への対応も課題となる。日本の世帯数は約5300万あり、一定の所得水準を設けて約1000万世帯に絞り込むことも検討する。給付の手法は緊急小口資金の制度を参考にする。同制度は自治体の社会福祉協議会に申請書を出せば、個人の口座に現金が振り込まれる。全国民に配った定額給付金は総額2兆円規模に膨らんだ。多くが貯金に回り消費下支えの効果は乏しかったとの反省がある。雇用確保に向けては従業員を休ませるなどして雇用を維持する企業に支給する「雇用調整助成金」を拡充する。中小企業の場合、賃金相当額の3分の2の助成率を5分の4に引き上げる案が軸となる。従業員を解雇しなかった例では9割の助成も考える。新卒で入社する社員など雇用期間が短いケースでも助成の対象になるよう要件を緩め、内定取り消しが広がらないよう目配りする。飲食業や観光業の支援は消費者が外食や旅行などに支払う料金の一部を国が助成する制度を設ける。日本政府が19年末にまとめた26兆円規模の経済対策は公共事業を中心に執行が進んでいない。緊急的な対応として未執行分の一部も新型コロナ対策に活用する。これに今後編成する30兆円超の対策費を上乗せする。海外では米国はGDP比9.3%にあたる2兆ドル(約220兆円)規模の対策をとりまとめる。

*1-3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200322&ng=DGKKZO57075100R20C20A3MM8000 (日経新聞 2020.3.22) 外食・旅行消費に助成 売り上げ急減で重点支援 緊急経済対策
 政府は4月にまとめる新型コロナウイルスの感染拡大を受けた緊急経済対策で、売り上げが急減している飲食業や観光業などを重点的に支える。消費者が外食や旅行に支払う料金の一部を国が助成する制度を検討する。この個人消費への助成策(総合2面きょうのことば)の関連予算は1兆円規模になる可能性がある。新型コロナが直撃している産業に的を絞って強力な支援を実施し、関連業界の雇用を維持する。訪日外国人の減少に加え、政府が要請している大規模イベントの自粛でスポーツ行事やコンサートなどを中止・延期する措置が相次ぐ。旅行や外食を控える動きも広がっており、関連業界は大きな打撃を受けている。政府は観光や飲食のほか、イベント関連支出なども助成の対象にする方向で検討する。飛行機や新幹線など公共交通機関も対象に含める可能性もある。利用者の国籍は問わない。焦点となる国の助成率は今後詰める。たとえば20%を助成することになった場合、飲食店で一定の条件を満たして1000円の食事をしたら800円を消費者が負担し、残りを国が助成することを想定する。助成の仕組みは、政府が各店舗や宿泊施設などで割引となるクーポンを発行したり、インターネット上のホテルや飲食店などの予約サービスを使って支払いをした際に、一部をポイントで還元したりする案がある。高齢者はお金と時間に余裕がある人も多く、高齢者に限って通常より高い補助率を設定して、消費を一段と促すことも想定している。実施期間などは新型コロナの状況をみて判断する。飲食業や観光業などでは、赤字に転落する中小企業が続出することが予想される。そうした中小企業は赤字の規模に応じ、前年度までに支払った法人税の一部を還付してもらうことができるようにもする。「繰り戻し還付」と呼ばれる制度で、災害時には還付対象の企業を広げる規定もある。国税庁は大規模感染症も災害に該当しうると判断している。

*1-3-4:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57269620W0A320C2MM8000/?n_cid=NMAIL006_20200326_Y (日経新聞 2020/3/26) G7、新型コロナワクチン開発支援へ 研究機関に拠出
 日米欧の主要7カ国(G7)の各政府は、新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)を受け、ワクチン開発支援で実績のある国際研究機関に数十億ドル規模を拠出する方向で調整に入った。民間では巨額の資金を出しにくいため、公的な資金を国際協調で集中させて早期の開発・実用化をめざす。中国やインドなど20カ国・地域(G20)に加盟する新興国にも参加を呼びかける。資金拠出の対象として検討しているのは、ノルウェーに拠点を置く官民連携でワクチン開発を推進する国際機関、感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)。日欧などの政府の拠出で2017年に発足した。エボラ出血熱のような世界規模の流行が生じる恐れのある新興感染症に対するワクチン開発推進を主な活動目的としている。今週実施したG20財務相・中央銀行総裁やG7財務相の電話やテレビの会議では、ワクチン開発を効率的に進めるため、先進国を中心に共同で財政支出する必要性で合意していた。日本政府も数百億円を軸に拠出を検討する。中国やインドなどG20加盟国にも協力を求めていく。CEPIは少なくとも20億ドルが必要と試算している。今回のような未知の感染症は流行が続くのか短期で終息するのか判断がつきにくいため、民間企業はワクチンの開発に巨額の資金を投じにくい。このため各国の政府が出し合ったお金をもとに、CEPIが企業や研究所、大学の開発を援助し、治験を加速する考えだ。コロナウイルスが原因の中東呼吸器症候群(MERS)のワクチン開発を支援した実績があり、技術転用も期待できる。ワクチンは有効性を確認するための期間が治療薬よりも長く、開発に時間を要する。年単位の時間がかかることが一般的だ。CEPIが主体となって開発に成功した場合でも、日本で使うためには厚生労働省から承認を得ることが必要になるが、弾力的な運用も可能となりそうだ。厚労省は新型インフルエンザが流行した10年、輸入ワクチンについて手続きを簡略化する特例を承認した。

<ハンセン病差別>
*2-1:https://digital.asahi.com/articles/ASM6X56YGM6XUTIL02G.html (朝日新聞 2019年6月29日) らい予防法違憲判決から18年、家族の被害にようやく光
 ハンセン病の元患者の家族らが起こした訴訟で、熊本地裁はその苦しみを「人生被害」と指摘し、国に賠償を命じた。原告弁護団は高く評価し、今も消えない差別や偏見をなくす契機になればと期待する。一方、国側は今後の対応について明言を避けた。「画期的な判決だ。らい予防法廃止後も偏見と差別を除去しなかったことについて違法性を認めた」。判決後の記者会見で、弁護団の八尋光秀共同代表の表情は硬いままだったが、言葉は力強かった。就学拒否、結婚差別、就労拒否……。判決は、ハンセン病患者の家族について「人格形成や自己実現の機会が失われ、家族関係の形成が阻害された」と指摘した。国が患者の隔離政策を続けたことによって、家族までもが平穏に生活をする権利を侵害されたとして、明確に国の責任を認めた。ハンセン病は、らい菌による感染症。感染力は極めて弱いが、進行すると手足や顔に変形が起きうる。国は1931年に癩(らい)予防法を成立させ、患者の強制隔離政策を推進。戦後「らい予防法」と名を変えた法が廃止されたのは、半世紀以上が経った後の96年だった。元患者が起こした訴訟で熊本地裁は2001年、「予防法の違憲性は明らか」と断じたうえで、「60年以降、96年の法廃止まで、隔離の必要性が失われたことに伴う政策の抜本的な変換を怠った」と厚生相(当時)や国会の責任を認めた。28日の判決はこの判断を踏襲しつつ、96年以降も「偏見差別を取り除くため、正しい知識を普及する活動を行うべき義務を尽くさなかった」と、国の新しい責任を認定した。28日の判決は、人権啓発を担う法務相と、教育を担う文部相・文部科学相の責任に踏み込んだ点でも、01年の判決と異なる。予防法の廃止後も、法務相は「住戸や職場などへの働きかけがなく、活動として不十分だった」と判断。文部相は「教員に対し、誤った教育をしないよう適切な指導」や「差別の是正を含む人権啓発教育」が必要だったのに、怠ったと述べた。判決は一方で、02年以降は「不十分ながら、国などの人権啓発活動の効果が一定程度生じた」として、国の責任を認めなかった。01年の判決や政府の控訴断念、国会謝罪決議などの動きがあったことで、「02年以降は差別被害があっても、隔離政策が原因だったとはいえない」とした。今回の訴訟では、「不法行為を知ってから3年以内に提訴したか」という時効の起算点も争点だった。判決は、元患者の家族が鳥取地裁に起こした訴訟の判決が言い渡された15年を起算点とすることで、原告側の訴えを有効と認めた。鳥取地裁判決は請求を棄却しつつ、差別への対策を怠った国の過失に言及しており、熊本地裁への集団提訴のきっかけとなっていた。
●救済への課題これから
 元患者について国の責任を認めた、01年の判決確定から20年近く。なぜ、家族たちの苦しみに光が当たらなかったのか。「元患者に対する差別や偏見をどうなくしていくかが、あまりにも大きな課題だった。家族の問題までたどり着けなかった」。01年当時に厚生労働相で、控訴断念を決めた協議にも加わった坂口力さん(85)はこう振り返る。28日の判決の後には「家族に被害があったのは事実。裁判の結果にかかわらず、どう解決するかは、我々の大きな課題だ」と話した。家族訴訟弁護団共同代表の徳田靖之弁護士も、「差別と偏見に包まれ生きてきたから、元患者の家族であるという声を非常に上げづらかった」と説明する。元患者の訴訟に加わった遺族はわずかで、実名を公表できた人はほとんどいなかった。元患者の中には、「家族が悲惨な目に遭った。だからこの裁判をするんだ」と訴えた人がおり、弁護団も家族の被害は認識していたが、徳田弁護士は「自分たちが正面から採り上げ、提訴することを怠った」と悔やむ。ハンセン病に対する差別や偏見は根強く残る。13年には誤った認識を持った教員の授業を受けた小学生らが、「骨が溶ける病気」などと感想文を書き、教育委員会が翌年に謝罪したこともあった。28日の判決もこのことに触れ、「正確な知識に基づいた指導がなければ、社会から差別を除去することは困難だ」と指摘した。徳田弁護士は判決後の記者会見で、「国が総力を挙げて差別と偏見の解消に取り組まなければならないと認めたことは大きな前進」と述べ、こう強調した。「国に控訴させないという、大きなうねりを起こすことで、家族が置かれている状況を本質的に変えることが可能になるのでは」
●求められる政治判断
 ハンセン病について正しい情報を発信し、患者の家族への差別や偏見をなくすための義務を怠ったと認定された3省には、動揺が広がった。根本匠厚生労働相は記者団の取材に応じ、「国の主張が認められなかったと聞いている。今後の対応については、判決内容の詳細を確認した上で、各省庁と協議していきたい」と述べた。さらに質問を受けても「関係省庁と協議していきたい」と繰り返し、明言を避けた。厚労省内でも判決直後、担当部署の職員が慌ただしく出入りした。控訴するかどうかについて、ある職員は「判決は法務省や文科省の違法性にも触れている。我々だけでは決められないだろう」と話した。山下貴司法相は判決後、「判決内容を十分精査し、関係省庁と協議した上で、適切に対応する。ハンセン病をめぐる偏見・差別をなくし、理解を深めるための啓発活動を適切に実施する」とコメントした。一方、ある法務省幹部は「ここまで踏み込んで来るとは予想していなかった」と驚きを隠さない。「あまたある差別の中からハンセン病に的を絞った人権啓発を求めるのは、要求が高すぎる」と話した。文部科学省によると、人権教育を担う教師を対象とした研修会でハンセン病について説明するなどしてきた。担当者は「取り組みは裁判で示しているが、その上での判決。判決文をよく読んでみないと何とも言えない」と語る。元患者の裁判では原告の勝訴後、小泉純一郎首相(当時)が政治判断で控訴を断念し、判決を元に被害者の補償立法がなされた。元患者の家族についてはどうか。首相官邸関係者の一人は「まだ政治判断の段階ではない」と語る。菅義偉官房長官は28日午後の記者会見で「国の主張が認められなかったと報告を受けている。関係省庁で判決内容を精査した上で対応する」と述べるにとどめた。

*2-2:https://digital.asahi.com/articles/ASMCB6GNCMCBUTIL1MP.html (朝日新聞 2019年11月16日) 加害者でなく被害者だった家族 ハンセン病差別の根深さ
 長年にわたる国の隔離政策で、ハンセン病の元患者は社会からの偏見や差別に苦しんできた。裁判で国の責任が認められて元患者に補償がされた一方、差別にさらされながら顧みられてこなかったのが、元患者の家族たちだ。家族たちが起こした訴訟で、国に賠償を命じた熊本地裁の判決をきっかけに、家族への補償金支給を定めた補償法が15日に成立し、名誉回復に取り組むための法改正が実現した。元患者たちの取材を長く続けてきた北野隆一編集委員は、家族が起こした訴訟に当初、ある違和感を持っていた。それが「認識の浅さ」だったと思い知らされた経緯を振り返った。
●「家族が社会復帰の壁」という思い違い
ハンセン病の隔離を定めた「らい予防法」が1996年に廃止される前から、元患者への取材を続けてきたが、2016年に提訴された家族訴訟の取材は、初めは気が進まなかった。複数の元患者から「家族が社会復帰の壁になっている」と聞いていたからだ。元患者らは家族に迷惑がかかるからと療養所内で偽名を使っていたが、隔離政策を誤りとして国の責任を認めた01年の熊本地裁判決を機に実名に戻り、故郷に帰ろうとした。だが家族が受け入れず、死んでも実家の墓に骨を引き取ってもらえない――。そんな話だった。だが家族訴訟が結審した後の今年3月、東京で開かれた集会で原告らの話を聞き、私は自分の認識の浅さを思い知った。家族らがときに元患者に冷たく接したのは、日本社会から受けてきたすさまじい差別から身を守るためだった。家族は加害者というより、被害者だったということだ。社会の片隅で息を潜め、沈黙を続けていた家族の心を解きほぐすきっかけは、家族らが定期的に集まる「れんげ草の会」を、熊本で国宗直子弁護士が続けてきたことだった。その会で10年以上かけて家族らの話を聞いた福岡安則・埼玉大名誉教授と黒坂愛衣・東北学院大准教授が聞き書きを本にまとめたことで被害が可視化され、家族らの提訴に結びついた。成立したハンセン病家族補償法は前文で、家族が強いられた「苦痛や苦難」の重大性が認識されず、取り組みがされなかったことについて国会と政府が「深くおわびする」と明記した。知らなかったから許されるわけではないが、家族らが自ら差別の被害を語り始めた今は、もう見ぬふりはできない。補償法にうたわれた日本社会の偏見・差別を「根絶する決意」が問われているのは、国だけではない。

<「犯罪者≒精神障害者」とする精神障害者差別>
*3-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/202002/CK2020021102000137.html (東京新聞 2020年2月11日) 相模原殺傷公判 「大麻精神病が影響」弁護側の医師、鑑定否定
 相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者ら四十五人が殺傷された事件で、殺人罪などに問われた元施設職員植松聖(さとし)被告(30)の裁判員裁判の第十三回公判が十日、横浜地裁(青沼潔裁判長)で開かれた。被告の精神状態を調べた工藤行夫医師が弁護側証人として出廷し「被告は大麻乱用による大麻精神病で、判断力が著しく低下していた」と述べ、大麻の影響はないとした精神鑑定結果を否定する考えを示した。工藤医師は、関係者の供述調書や植松被告との面接などを踏まえ、事件一年前の二〇一五年ごろ、被告が大麻を乱用するようになり、信号無視や速度違反、けんかなどの問題行動が増えた点に注目。「障害者は不幸をつくる」との思考から「殺す」という考えに至った点には大麻乱用による「飛躍や病的な高揚感」があったと指摘。短時間に四十三人の入所者を殺傷した犯行そのものが「並外れたエネルギーと驚異的な行動力がなくてはできない。全ての行程に異常な精神状態が認められる」と話した。前回七日の公判での尋問で「大麻による行動への影響はなかったか、あっても小さかった」とした大沢達哉医師の鑑定結果について、工藤医師は「大麻による影響を著しく低く評価している」と否定した。公判の争点は刑事責任能力の有無や程度。検察側は「大麻の使用は犯行の決意が強まったり時期が早まったりしたにすぎず、完全な責任能力がある」と主張。弁護側は無罪を主張している。 

*3-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/500533 (佐賀新聞 2020.3.16) 相模原殺傷、植松被告に死刑判決、責任能力認定、横浜地裁
 相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で2016年7月、入所者ら45人が殺傷された事件の裁判員裁判で、横浜地裁(青沼潔裁判長)は16日、殺人罪などに問われた元職員植松聖被告(30)に求刑通り死刑判決を言い渡した。障害者が狙われ、19人もの死者を出した事件。判決は、差別的な主張を繰り返した植松被告の事件当時の刑事責任能力を認めた。被告は初公判で起訴内容を認めたが、弁護側は、心神喪失状態で責任能力がなかったとして無罪を主張していた。争点となった責任能力について、検察側は「パーソナリティー障害」と判断した精神鑑定結果を引用し、特異な考えは人格の偏りにすぎず、正常心理の範囲内と述べた。大麻の影響も少なく、完全責任能力があったとして死刑を求刑していた。弁護側は、大麻による精神障害と反論。乱用によって人格が急変したと強調し、差別的な考えが事件にまで発展したのは「病的な飛躍」で、大麻の高揚感で引き起こしたと訴えていた。公判で被害者は1人を除き匿名で審理。傍聴席内に設けた遺族らの席はついたてで遮蔽する異例の措置を取った。起訴状によると、16年7月26日未明、入所者の男女を刃物で突き刺すなどして19人を殺害、24人に重軽傷を負わせたとされる。また職員5人を結束バンドで廊下の手すりに縛り付け、2人を負傷させたとしている。 

*3-3:https://digital.asahi.com/articles/ASMD54FDFMD5UTIL013.html?iref=comtop_8_03 (朝日新聞 2019年12月5日) 「生きる気力なくなった」遺族落胆 熊谷6人強殺の判決
 埼玉県熊谷市で2015年、7~84歳の6人を相次いで殺害したなどとして、強盗殺人罪などに問われたペルー国籍のナカダ・ルデナ・バイロン・ジョナタン被告(34)に対し、東京高裁は5日、統合失調症の影響で心神耗弱状態だったと判断し、一審の死刑判決を破棄。改めて無期懲役の判決を言い渡した。判決後、殺害された加藤美和子さん(当時41)ら妻子3人をなくした男性(46)らが都内で会見を開いた。「死刑がひっくり返ることはないと思っていた。裁判官は都合のいいところだけを見て判断した。やりきれないし、納得がいかない」と憤りをあらわにした。法廷で判決を聞いた瞬間、「何も言葉が出なかった」という。男性は「家族を失ってから、どうにか生きていこうと踏ん張ってきた。家族にどう報告したらいいのか……生きる気力がなくなったというのが今の気持ちです」と話した。会見に同席した遺族側代理人の高橋正人弁護士は「一審判決は被害妄想への影響を認めつつも、被告の行動は合理的で説明がつくと判断した。高裁は、被告の供述をことさらに持ち出し、行動制御能力がないと結論づけている。明らかに見誤っている」と批判。検察側に上告するよう求めたことを明らかにした。

*3-4:https://digital.asahi.com/articles/ASN3B5WR9N32UTFL01G.html?ref=weekly_mail_top (朝日新聞 2020年3月15日) 障害ある子生まれ「おめでとう」と言えますか 木村議員
 相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で利用者19人の命が奪われるなどした事件の判決が、16日に予定されている。元職員である被告の言葉をどうみるか。事件が繰り返されないためには――。重い身体障害があり、18歳までの大半を施設で暮らした、れいわ新選組の木村英子参院議員(54)は、障害のある子の誕生に「おめでとう」と言える社会かどうかを問う。どういうことなのか。
●殺されていたのは私かも
 彼の言葉は心の傷に触れるので、集中して公判の報道を見ることができませんでした。施設にいたころの傷ついた自分の気持ちに戻っていくのです。
(裁判で被告は「意思疎通のとれない人は社会の迷惑」「重度障害者がお金と時間を奪っている」などと語った)
彼が言っていることはみなさんにとっては耳慣れなくて衝撃的なのでしょうが、同じような意味のことを私は子どものころ、施設の職員に言われ続けました。生きているだけでありがたいと思えとか、社会に出ても意味はないとか。事件は決してひとごとではありません。19歳で地域に出ていなければ、津久井やまゆり園に入所していたかもしれない。殺されていたのは私かもしれないという恐怖が今も私を苦しめます。私は横浜市で生まれ、生後8カ月のときに歩行器ごと玄関から落ち、首の骨が曲がる大けがをして重い身体障害を負いました。小学5年から中学3年の5年間を除き、18歳までの大半を施設で暮らしました。入所は親が決めました。重い障害のある私に医療や介護を受けさせたいという責任感と、施設に預けなければ家族が崩壊しかねなかった現実からです。私には24時間の介護が必要です。親は疲弊し、一家心中をしようとしたことも何度かあった。親が頼れるのは施設でした。やさしい職員もいましたが、私にとっては牢獄のような場所でした。施設が決めた時間に食事をしてお風呂に入って、自分の暮らしを主体的に決めることがない。食事を食べさせてもらえないことも。一番嫌だったのは「どうせ子どもを産まないのに生理があるの?」という言葉です。全ての施設がそうだとは思いませんが、私がいたのはそういう施設でした。時代が変わっても施設とはそういうものだと私は思っています。プライバシーも制限され、自由のない環境で希望すら失い決まった日常を過ごす利用者を見た人たちが、「ともに生きよう」と思えるでしょうか。偏見や差別の意識が生まれたとしても不思議ではありません。私は、被告だから事件を起こしたとは思えない。
●公園で浴びた排除の視線
(裁判では、新たな事実が明るみに出たものの、事件に及んだ動機や真相は十分には解明されなかった。同じような事件を繰り返さないためにどうすればいいのか)
 被告を罰しただけでは社会は変わらない。第2、第3の被告を生まないためには、子どものころから障害者とそうでない人が分け隔てなく、地域で暮らせる環境をつくることが必要です。私が望むのは、障害のある子どもが生まれたとき、「おめでとう」と言える社会。私は親から施設に捨てられた、歓迎されない命だという思いを抱いて生きてきました。うしろめたい存在だと思うことも、絶望感のなかで仕方のないことだとあきらめていた。歓迎されない命などない、と気づいたのは19歳で地域に出てからです。23歳で結婚し、息子を出産しました。不安だったのは、子どもをかわいいと思えるかでした。母に抱かれた記憶があまりない私は、母に対する愛情が持てなかった。でも出産した時は、子どもへのいとおしさがこみあげました。公園デビューをしたときのことです。息子と子どもたちが砂場で遊んでいるのを、車いすに乗った私が近くで見ていました。だれも私が母親だとは思っていない。私が息子に声をかけ、私が母親だとわかった瞬間、周りのお母さん方が自分の子どもを抱き上げて帰ってしまった。自分の子どもが私に近づくと「そっち行っちゃダメ」。小学校の授業参観でも教室が狭くて、他のお母さんたちが入れないので「詰めていいですよ」と言っても、半径1メートル以内には近寄ってこない。私と関わると厄介なことになる、巻き込まれたくない、といった意識が働くのでしょう。本人たちは差別とは思っていませんが、あからさまな差別です。障害のある人とそうでない人を分けることによってお互いが知り合う機会を奪われることから差別は生まれます。社会から排除することそのものが差別なのです。地域で暮らして35年。福祉サービスは増えましたが、重度訪問介護が就労中などに公的負担の対象外だったり、移動支援が自治体により差があったり。普通学校への入学が重度障害を理由に認められない例もある。こうした課題をみんなで解決できたとき、障害のある子が生まれて「おめでとう」と言える社会になる。それが事件を乗り越えることになるのではないでしょうか。

*3-4:https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2020032201001730.html (東京新聞 2020年3月22日) 知的・精神障害者は雇わず41% 自治体調査、13%は募集除外
 全国の自治体(1788)を対象とした共同通信アンケートで、首長部局に知的、精神障害者を一人も雇用していないと回答した自治体が少なくとも41%の731自治体に上ることが22日、分かった。全体の13%に当たる230自治体は、一般職員(短時間を含む)の募集条件から知的、精神障害者を除外していた。障害者雇用を巡っては、中央省庁で2018年夏に採用人数の水増しが発覚。厚生労働省は同年12月、特定の障害種別によって応募を制限しないよう自治体に通知した。しかし知的、精神障害については、体調管理や仕事の創出が難しいことを理由に、障壁が解消されていない実態が浮かんだ。

*3-5:https://keiji-pro.com/columns/164/ (弁護士法人プラム綜合法律事務所、梅澤康二弁護士より抜粋) 刑法第39条の概要|責任能力有無の判断基準と39条が適用される対象
 刑法第39条には『刑事責任能力のない人は処罰の対象外とする、または、処罰を軽減する』という記述がされています。法律に違反したなら処罰されるのが当然に思えますが、なぜこうした犯罪者をかばうような法律があるのでしょうか。それは、違法な行為を行った者に対して責任を問うために、事理弁識能力(物事の善し悪しが判断できる能力)と行動抑制能力(自身の行動を律することができる能力)が必要とされているからです。例えば、事情のわからない赤ん坊が誤って機械のスイッチを押してしまい、それによって被害者を負傷させたとします。この場合、赤ん坊を罪に問えません。しかし、責任能力がなかったとしても罪を犯したことには変わらないので、納得がいかない人も多いかと思います。この記事では、刑法第39条についてみていきましょう。
●刑法第39条とは
 以下が刑法39条です。
(心神喪失及び心神耗弱)
第三九条 心神喪失者の行為は、罰しない。
2 心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。(引用元:刑法第39条)
●刑法第39条の対象になる人
 刑法第39条が適用されるのは、次のような人たちです。
●精神障害者
 精神障害者の中でも、行為の善悪の判断がまったくつかない人は“心神喪失者”として、判断能力が著しくつきにくい状態の人は“心神耗弱者”として扱われます。
●泥酔状態者・薬物乱用者
 精神障害を持っていなくても、上と同様に、行為の善悪の判断がまったくつかない人や判断能力が低い人ならば、刑法39条の適用対象になります。しかし、自らの意思で泥酔状態に陥ったような場合は、完全な刑事責任を問われる可能性もあるでしょう。
●刑法第39条が適用された事例
心神喪失が認められ、無罪・不起訴となった事例
 睦沢町で2014年2月、井戸掘削会社社長の男性=当時(61)=が自宅に侵入してきた男に刺殺された事件で、殺人などの罪に問われた無職の男(64)に対し、心神喪失として無罪を言い渡した千葉地裁判決について、千葉地検は30日、控訴を断念したことを明らかにした。控訴の期限の同日が過ぎれば、男の無罪が確定する。地検は「判決の内容を精査、検討したが、原判決を覆すことは困難と判断した」とコメント。今後、心神喪失者等医療観察法に基づく措置を地裁に申し立てる。千葉地裁は16日、男の殺害行為を認めたうえで、「統合失調症の影響を強く受けており、行動を制御することが困難だった。心神喪失状態だったとの合理的な疑いが残る」と述べ、男を無罪とした。検察側は「男は心神耗弱の限度で責任能力はある」と主張し、懲役10年を求刑していた。(引用元:睦沢男性刺殺事件 検察側が控訴断念 心神喪失で無罪判決 | 千葉日報オンライン)
●心神耗弱が認められ、減軽された事例
 東京都世田谷区の自宅で今年1月、生後3カ月の長女を浴槽に沈めて殺害したとして、殺人罪に問われた無職、鈴木由美子被告(39)に対し、東京地裁の裁判員裁判は30日、懲役3年、執行猶予5年(求刑・懲役4年)の有罪判決を言い渡した。島田一裁判長は「子を守るべき立場にありながら、水に沈めるなど犯行態様は悪い」と非難する一方、事件当時は心神耗弱状態だったと認め「治療の必要性が高い」として執行猶予を付けた。(引用元:東京地裁:乳児殺害 母に猶予判決 心神耗弱認める - 毎日新聞)

<法定後見制度>
*4:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/562768/ (西日本新聞 2019/11/26) 適正な類型、どう判断 「後見偏重」修正これから
 【成年後見はいま・3】90代の男性が、質問によどみなく答えていく。「息子さんは来ます?」「全く。来ませんね」。福岡県内の高齢者施設。面会に訪れた50代の男性司法書士に「でも、そろそろ来るんじゃないかな。プレゼントをあげたから」。数年前の出来事を口にした。男性は成年後見制度を利用する。法定後見にある三つの類型のうち、判断能力の低下が中間程度の「保佐」とされた。この司法書士が保佐人として生活支援や財産管理に当たる。制度の助けを借りたのは、息子にたびたびお金を渡していたため。施設に来た息子と銀行に向かい、多い日は80万円ほど。渡した額が計400万円近くになった時、施設側が専門家に相談した。司法書士が保佐人になっても要求は続く。1回20万~30万円。男性本人に伝えると「あげてください」。数日空けて「この前の件、本当に振り込んでいいんですか」と尋ねると、理解できていないことがある。貯金は減っている。息子に一度、「お金は親族の体調不良のため」と言われ、親族に確認してみた。返ってきた言葉は「連絡は取っていません」だった。
     ∞∞
 法定後見は、判断能力が低い順に「後見」「保佐」「補助」の3類型がある。後見になると最も広い範囲で法的な手助けを受ける。保佐はこれが後見より狭くなり、逆に本人の意向がより尊重される。司法書士は、この本人の意思の尊重と、保佐人に課せられた財産管理の間で悩む。もし息子のきょうだいに「なぜ1人にだけ財産を渡すのか」と問われたら、責任を取れないとも思う。歯止めをかける方法はある。「類型を後見に変更する」「息子に一定額を送金する際は保佐人の同意を必要とする」ことを家庭裁判所に認めてもらえばいい。しかし、本人は一定の認知機能があり、息子のことを悪くは思っていない。自己決定権の尊重という制度の理念に、それは反しないか-。家裁に相談したが、納得いく答えはなかった。国は今、制度を普及させるため保佐と補助を増やす考えを示す。利用者の約8割を後見が占めている現状は、保佐や補助相当の人が手を挙げていないと見ているためだ。今月は、後見人らが勝手に判断せず、本人の意思を尊重する指針案を公表した。利用者に合った類型を当てはめ、意思も重視するという基本があらためて注目されている。ただ、司法書士は思う。「単に保佐や補助を増やすだけでいいのか疑問だし、意思を尊重するにも男性のような例がある。そんな時の対応も考えるべきだ」。後見に慣れた現場を変えるのも容易ではない。後見人は保佐人や補助人より強い権限で、本人を手厚く守ることができる。家裁や専門家、どの類型が適当か診断する医師の間には「後見にしておけば間違いはない」という意識が強い。九州のある司法書士は「保佐や補助は本人ができることと、できないことの見極めが難しい。ほぼ全てを任される後見の方が正直、仕事は楽」と打ち明けた。
     ∞∞
 その類型を巡り現場で意見が食い違うこともある。福岡県の女性(69)は頭の病気で倒れ、保佐を申し立てることにした。しかし、医師の診断書は「後見相当」。担当した40代の男性司法書士は「本人の状態に合わない」と、そのまま保佐を申し立てた。家裁が鑑定を行い、出した結論は保佐。鑑定費用約7万円は女性の負担になった。司法書士は「後見になると、本人ができることでも後見人が代わりにしてしまう。本人の能力を生かす類型は何か、もっと考える仕組みが必要」と語る。こうしたこともあり、国は今年4月、類型が記憶力や理解力を反映したものになるよう診断書の様式を改めた。福祉関係者が生活状況などを書く「本人情報シート」も作り、判断する材料を増やした。個人に合う類型を選び、意思を尊重する理念に立ち返ろうとする国と、後見偏重が染み付いた現場。理念とかみ合わぬ運用の修正はこれからになる。
    ×      ×
【ワードBOX】法定後見の3類型
 法定後見は、判断能力がほとんどない人は「後見」▽著しく不十分な人は「保佐」▽不十分な人は「補助」-の3類型がある。支援するのは後見人、保佐人、補助人。本人に代わって契約を結ぶ「代理権」、本人が結んだ不当な契約を取り消す「取り消し権」、本人が契約をする際、同意できる「同意権」があり、類型ごとに与えられる権限は異なる。後見人は代理権と取り消し権があり、日常生活に関する行為を除いて幅広い法的権限が与えられる。

<緊急事態宣言から緊急事態条項にならないために・・>
PS(2020年4月1、2、4、6、9、11日):メディアには「緊急事態宣言を出して欲しい」という論調のものが多いが、その原因は、*5-1のように、諮問委員会メンバーの釜萢日本医師会常任理事による「緊急事態宣言を出す時期だ」という発言や指示待ち族が多い国民性だろう。しかし、東京・大阪で患者数が増加しても、院内感染による多数の患者発生もあり、他の地域に患者の急増はないため、新型コロナにかこつけた「何でもあり」は危なすぎる。むしろ過度の外出自粛要請・指示は経済をストップさせ、消費税増税による消費減退に加えて経済活動をストップさせ、企業の倒産や雇用の消滅により別の意味で生命の危険に遭遇する人を増やしそうだ。
 WHOは、*5-3のように、世界各地で導入が進む移動制限について、「都市封鎖などの措置は、移動の自由を侵害するため慎重にやらなければならない」と指摘し、安易な運用を戒めている。実際に、*5-4・*5-5のように、新型コロナによる制限が実体経済に与えた影響は大きく、観光業界やイベント業界だけでなく、美容業界はじめ不特定多数の客を扱う店舗へのマイナスの影響が大きい。そのため、*5-6の治療薬アビガンなどはとっくに治療に使っているべきなのに、今から治験とは驚きだし、治療の前提となる検査も十分に行われていないので、「本当に治療する気があるのか?」と思うくらいだ。
 また、政府は、*5-2のように、新型コロナをきっかけとして携帯電話会社やIT大手に利用者の位置情報や検索ワード履歴を集めた統計情報の提供を要請したそうだが、これも新型コロナにかこつけたプライバシーの侵害であり、これは興味本位や営業目的にも使えるものだ。
 さらに、「医療崩壊・・」という言葉も何度も聞いたが、*5-5のように、観光客の急減で破綻しそうなほど客が減っているホテルなどを軽症者の隔離に利用し、きちんと管理して入院施設の不足を防げばよいだろう。
 安倍首相が、*5-7のように、新型コロナ感染拡大防止のため布マスクを全世帯に2枚ずつ配る方針を示されたことについて、私は賛成だ。50年前の日本は、ガーゼを重ねたマスクが普通で、洗って何度も使うのが常識だった。現在は、中国製の紙マスクを使い捨てにするのが普通であるため、それしか知らない人は「布マスクは防護機能が低い」と言って品不足になっているが、布マスクも生地の選び方や重ね方で機能は変わり、紙マスクのように隙間ができないため防護機能をより高くできるかもしれない。また、*5-8のように、高級ファッションブランドのバレンシアガとサンローランが、同ブランドでマスクの生産を開始すると発表し製造に向けて準備中で、グッチもトスカーナ地方のファッション企業から要請を受けて数週間以内に110万枚のサージカルマスクと5万5000着の医療用オーバーオールを寄付する予定だそうだ。そのため、せっかくなら機能的でおしゃれなマスクや医療用オーバーオールができればよいと思う。さらに、*5-9のように、政府が自動車メーカーに人工呼吸器の部品を生産するよう求める動きが相次いでおり、米国はGMに生産を指示し、英国はマクラーレンが生産を計画しているそうだ。また、重症患者には「体外式膜型人工肺」が使われるが、数が少ないためニプロが増産準備を進めているとのことである。一般に、医療機器は、自動車や家電と比較して構造が簡単であるにもかかわらず、(顧みられることが少なかったためか)ちゃちな製品が多い。そのため、外国メーカーの臨機応変の対応に感心するとともに、改良に期待するわけだ。このような中、感染防止のために常時マスクをつけている医師が、メディアで「マスクは感染防止効果がない」などと言っているのは、自己矛盾であるとともに知識と見識が疑われる。
 厚労省が、*5-10のように、病院は重症者の治療に専念できるよう、軽症者や無症状の感染者は自治体の用意する施設・ホテル・自宅での療養を検討するよう、4月2日付で都道府県などに通知したことを受けて、東京・大阪だけでなく福岡でもホテル等の確保に向けた動きが出ているそうだ。私は、自宅療養すれば家族や周囲に感染させそうであるため、14日間くらいならホテル等できちんと管理しながら療養できる体制にした方が、皆にとって負担が少ないと考える。
 なお、*5-11のように、埼玉県では病床不足でホテル等での療養も検討しているが、そのホテルがまだ決まらないそうだ。しかし、自宅待機している間に重症化しては困るので、これは一刻を争うことで、診断がついて軽症の人を移すホテルを早々に決めるべきだ。そして、オリンピックが延期になり、ビジネスや観光もストップしているため、これは比較的容易な筈で、他の都道府県でも同じだろう。
 2020年4月11日、佐賀新聞が、*5-12のように、イリノイ大の研究者が「布マスクはウイルスの拡散や取り込みを防ぐには不十分で、感染防止効果が低い」という調査結果を発表し、厚労省は軽症者らが自宅療養する場合は感染対策として「サージカルマスク等の着用」を挙げたと記載している。しかし、サージカルマスクが手に入らなければ布マスクを使うしかない上、布マスクも下の図のように工夫次第であるため、厚労省は、PCR検査を待っている間に軽症者を重傷者にすることなく、速やかに検査を行って治療を開始できるよう、検査が必要な人に過度に待機させる帰国者・接触者相談センターや保健所を通させるのをやめるべきである。
 帰国者・接触者相談センターや保健所が検査のネックになっていることは、*5-13のように、さいたま市の西田保健所長が、「病院があふれるのが嫌で(検査対象の選定を)厳しめにやっていた」と言っていることから明らかだ。そして、これは、さいたま市だけの問題ではなく、厚労省の考え方そのものであり、軽症者を重傷化させたり、感染者を増やしたりすることに大きく“貢献”しているため、本末転倒も甚だしいわけである。



(図の説明:1番左は、広島県の下着メーカーが伸縮性のある生地で作ったマスク、左から2番目は、今治産タオルのマスクだ。また、右の2つは、手作りマスクで、特に子供用にはかわいい柄付きや動物の鼻付きマスクも面白く、喜んで使ってもらえそうだ。なお、下のように工夫された生地もあるので、三密になりがちな国会議員は、気の利いたマスクをして議論したらどうか?)

   

(図の説明:1番左は、丹後ちりめんに鳥インフルエンザの抗ウイルス加工を施したマスク用生地で、左から2番目は、抗ウイルス加工を施した材料を使う事例だ。そのため、鳥インフルエンザに限らない抗ウイルス加工した資材を、特に駅・病院・ホテル・バス・列車などの公共空間に使ったらどうかと思う。右から2番目は、抗ウイルス加工した丹後ちりめんの説明で、一番右は、綿布に同じ加工を施した説明で、織物はじめ資材も進歩させることができるわけだ)

*5-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/202003/CK2020033102000172.html (東京新聞 2020年3月31日) <新型コロナ>「緊急事態宣言 出す時期」 政府諮問委の日医幹部
 新型コロナウイルス感染症の急拡大で緊急事態宣言を出す際に政府が判断を仰ぐ諮問委員会のメンバーを務める釜萢敏(かまやちさとし)日本医師会常任理事は三十日の記者会見で、宣言について「個人的には発出し、それに基づき対応する時期ではないかと思う」と話した。政府は、東京都を中心とした感染拡大の現状を踏まえ、発令の要件に適合するかどうか本格的な検討に入った。釜萢氏は、新型コロナウイルスの流行状況などの分析を行い、見解を示す政府の専門家会議と、緊急事態宣言に関する諮問委のメンバーを兼務している。釜萢氏によると、この日の専門家会議メンバーらによる非公式の電話会議でも「もう宣言をした方が良いのではないか」という意見がほとんどだったという。患者が急増する東京では、感染経路が不明の症例が相次ぎ、封じ込め対策が難航。医療機関では防護服やマスクといった必要な物資が不足し、病床(ベッド)が足りなくなる恐れも高まっている。菅義偉(すがよしひで)官房長官は会見で、「ぎりぎりの状態にある。各方面の専門的な知見に基づき、慎重に判断することが必要だ」と強調した。政府は宣言を出した際の経済的な悪影響を懸念してきた。だが、専門家から発令を求める意見が出始めてきたこともあり「そんなことを気にしている場合じゃない」(高官)と急速に危機感を強めている。立憲民主党の枝野幸男代表も「フェーズが変わりつつある。補償とセットになった緊急事態宣言を真剣に検討しなければならない段階に入った」と指摘した。特措法は「国民の生命、健康に重大な被害を与える恐れがある」「全国的かつ急速なまん延により国民生活と経済に甚大な影響を及ぼす恐れがある」の二つの要件を満たせば、首相が宣言を出せる。政府は既に「生命、健康に重大な被害」は該当するとしている。発令されれば、対象となった都道府県の知事が外出自粛の要請や、百貨店など大人数が集まる施設の使用制限、学校の使用制限を要請・指示することなどができる。

*5-2:https://mainichi.jp/articles/20200331/k00/00m/010/347000c (毎日新聞 2020年3月31日) 政府、通信事業者に任意で位置情報提供を要請 「クラスター」早期発見狙う プライバシー侵害懸念も
 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府は31日、携帯電話会社やIT大手に対し、利用者の位置情報や検索ワードの履歴などを集めた統計情報の任意での提供を要請した。人の流れをビッグデータで把握することにより、クラスター(感染者集団)の早期発見につなげる狙いがある。要請先には、NTTドコモなど携帯電話大手3社のほか、ヤフーや楽天、「GAFA」と呼ばれる米IT大手4社も含まれる。これらの企業の統計データを使い、人が密集しやすい地域を早期に把握して注意を喚起したり、特定の検索語の増加と感染者の増加との関連性を見いだすことで、早期に医療体制を整えたりするといった活用法が期待されている。情報は企業側で匿名化するため「プライバシーの問題はない」(総務省総合通信基盤局)としている。同局は「単にデータだけもらっても政府で分析するのは難しい。データをどう使うか企業に提案してもらい、有効となれば施策に生かしたい」としている。ただ、要請に法的な根拠はなく、強制力はない。ヤフーは取材に対し、「顧客のプライバシー保護が大前提。ビッグデータの力で新型コロナの感染拡大防止に貢献できる方法が無いか検討したい」とコメント。携帯電話大手のKDDI(au)は「個人情報保護法などの法律の範囲内で対応したい」としており、アプリを通じて得られる位置情報の提供などを想定しているという。ITを使った感染防止策を巡っては、欧州各国で外出禁止措置の順守状況を確認するため、政府が通信会社と携帯電話の位置情報を共有する動きが出ている。シンガポールでは、一定の距離で接触した人の履歴を記録し、感染者が出た場合に濃厚接触者を割り出すスマートフォンアプリも開発され、感染源や感染先の特定に使われている。個人情報保護に詳しい日本情報経済社会推進協会の坂下哲也常務理事は「感染拡大防止のためにデータ活用するという方向性は理解できる。企業が政府の要請に応じる場合は、集めたデータをどのように匿名化するかを公表しプライバシー侵害の懸念の払拭(ふっしょく)に努めるべきだ」と話す。

*5-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/202003/CK2020033102000276.html (東京新聞 2020年3月31日) <新型コロナ>「移動制限」丁寧な説明が必須 WHO、安易な運用警鐘
 世界保健機関(WHO)で緊急事態対応を統括するライアン氏は三十日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて世界各地で導入が進む移動制限措置について「各国政府は国民に対し、なぜ必要なのかを隠し立てせず、分かりやすく伝えることが肝要だ」と述べ、安易な運用を戒め、丁寧な説明が必須と強調した。ライアン氏は、都市封鎖などの措置は「移動の自由を侵害するので、非常に慎重にやらなければならない」と指摘。また「都市封鎖だけではウイルスを撲滅できない」と述べ、感染疑い例へのウイルス検査や感染経路の特定、隔離といった対策を決して怠らないようくぎを刺した。またテドロス事務局長も、都市封鎖などは感染拡大を遅らせ、医療体制崩壊を防ぐ「時間稼ぎ」には使えるとしながらも「社会保障制度が整っていない国もある」と指摘。「日々の糧を得るために、毎日働かなければならない人がいることを忘れてはならない」と強調し、移動制限や営業停止措置に伴って収入源を失う人々に配慮した対策を取るよう各国に求めた。ライアン氏は「社会が受け入れられるものであるかどうかを、各国政府は最重視しなければならない」と言明。移動制限を導入する場合、人々が順守して実効性のあるものにするためにも「影響を受ける国民の人権や尊厳が尊重されなければならない」と訴えた。

*5-4:https://www.jiji.com/jc/article?k=2020032401260&g=eco (時事 2020年3月24日) 自粛による損害、助成を イベント業界、政府に要望―経済対策・新型コロナ
 政府は24日、新型コロナウイルス感染症の実体経済への影響に関する集中ヒアリングを首相官邸で開いた。同日はイベント業界の代表者らが出席。中止や延期で影響を受けているイベント主催者らから、自粛で生じた損害への助成や、再開時に必要となる消毒液やマスクなどの費用負担の要望が相次いだ。チケット販売大手「ぴあ」の矢内広社長は感染拡大の影響でコンサートやスポーツなどの国内イベントが中止・延期となった結果、既に1750億円の損失が生じていると指摘。矢内社長は終了後、報道陣に対し、「自粛要請を受けて自らの判断で中止・延期した人たちへの補助をきちんとしてほしい」と訴えた。

*5-5:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/596774/ (西日本新聞 2020/3/31) 九州初、福岡と佐賀の宿泊施設が経営破綻 新型コロナで観光客急減 
 新型コロナウイルスの感染拡大による観光客の急減などを受け、九州の2宿泊施設の経営破綻が31日、相次ぎ明らかになった。福岡県うきは市の旅館「原鶴温泉咸生閣(かんせいかく)」は福岡地裁久留米支部に破産を申請。佐賀県武雄市の「武雄センチュリーホテル」の運営会社も破産申請の準備に入り、営業を停止した。東京商工リサーチ福岡支社によると、咸生閣の負債総額は約2億円。新型コロナ感染拡大でキャンセルが相次ぎ、3月中旬から休業していた。創業50年を超える老舗で1998年5月期は売上高約2億5千万円を計上したが施設の老朽化などで集客力が低下。2019年5月期は売上高約7500万円と低迷していた。武雄センチュリーホテルによると、昨夏の記録的大雨や韓国人客の減少で売り上げが減少。新型コロナの感染拡大が追い打ちをかけた。運営会社は瑞穂商事(島根県)で、ホテル従業員約70人は3月31日付で解雇。ホテルを所有する静岡県の宗教法人は「新たな運営会社を早く見つけ、存続させたい」としている。帝国データバンクによると、瑞穂商事などグループ3社はスキー場やリゾートホテルも運営。負債は計約30億円が見込まれる。

*5-6:https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2020033001002562.html (東京新聞 2020年3月30日) 富士フ、アビガン治験開始へ 新型コロナで、増産も
 富士フイルムホールディングス(HD)が、新型インフルエンザ治療薬「アビガン」について、新型コロナウイルス治療のための臨床試験(治験)を近く始めることが30日、分かった。増産も進める。アビガンについては、安倍晋三首相が28日の記者会見で、正式承認に向けた手続きを始める考えを示していた。アビガンを開発した富士フイルムHD傘下の製薬会社、富士フイルム富山化学(東京)が病院と連携して行う。感染拡大が深刻化している状況を踏まえ、治験後は早期に承認される可能性がある。生産能力拡大のため他社への生産委託も検討している。

*5-7:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14426289.html (朝日新聞 2020年4月2日) 1世帯2枚ずつ、政府が布マスク 新型コロナ
 安倍晋三首相は1日、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために、洗濯して繰り返し使える布マスクを5千万余りある全世帯に2枚配る方針を示した。再来週以降、感染者数の多い都道府県から順次配る。首相官邸で開かれた政府対策本部の会合で明らかにした。

*5-8:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200323-00010002-ampreview-bus_all (AMP 2020/3/23)バレンシアガとサンローラン、マスク生産 グッチは医療用衣類寄付
 高級ファッションブランドのバレンシアガとサンローランの親会社であるフランスのケリングが、同ブランドでマスクの生産を開始することを発表した。現在フランスに本拠地を置く同ブランドは、従業員に対して新型コロナウイルスへの十分な対策を行いながら、マスクの製造に向けて準備をしているという。生産工程と原料について正式に認可され次第、すぐに生産を開始するとのことだ。また同社は今回の新型コロナウイルスのパンデミックを受け、中国やイタリアに寄付を実施。さらに同社が運営するファッションブランド・グッチはトスカーナ地方のファッション企業からの要請を受け、今後数週間以内に110万枚のサージカルマスクと5万5,000着の医療用オーバーオールを寄付する予定だという。

*5-9:https://www.nikkei.com/article/DGXKZO57384230Z20C20A3NN1000/ (日経新聞 2020/3/30) 人工呼吸器とは 新型コロナで自動車メーカーも生産
 海外では、政府などが自動車メーカーに人工呼吸器の部品を生産するよう求める動きが相次いでいる。米国がゼネラル・モーターズ(GM)に生産を指示したのは、非常時に企業活動を指示できる「国防生産法」に基づく措置。英国ではマクラーレンが生産を計画しているという。重症の患者には「体外式膜型人工肺」と呼ばれる装置が使われる。血液をいったん患者の体外に取り出し、酸素を供給し二酸化炭素を排出してから体内に戻す。日本呼吸療法医学会などが調べた1558施設の設置台数は約1400台で、ほかのタイプより少ない。このためニプロが増産準備を進めている。取り扱いに高度な技量が必要で、扱える医療従事者の不足も懸念されている。
▼人工呼吸器 自力で呼吸できなくなったとき、肺への空気の出入りを補助する。息を吸う時は装置で圧力を高めて空気を肺に送り込む。吐く時は、圧力を低くして空気を排出しやすくする。気管にチューブを挿し込む一般的なタイプのほかに、口や鼻を覆うマスクタイプがある。使われていない装置が多かったが、新型コロナウイルスの感染拡大で不足する懸念が出てきた。

*5-10:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/597841/ (西日本新聞 2020/4/4) ホテルや自宅療養、福岡も 軽症者対象 厚労省通知受け施設確保急ぐ
 厚生労働省は3日、新型コロナウイルスの感染拡大状況に応じて、軽症者や症状がない感染者については自治体の用意する施設やホテル、自宅での療養を検討するよう都道府県などに通知したと発表した。大都市圏では感染が急拡大し、入院患者を受け入れる病床が逼迫(ひっぱく)しつつある。重症者に対する治療を優先し、医療崩壊が起きるのを防ぐ狙い。通知は2日付。これを受けて、病床数不足が懸念されている福岡県内では施設確保に向けて個別のホテルなどと調整する動きが出ている。福岡市の高島宗一郎市長は3日の会見で「ホテルを借り切って軽症者に入ってもらったり、自宅で療養してもらったりする準備を進めている」と述べた。既に、宿泊施設側に意向や予約状況などの聞き取りを進めており、状況が整い次第、重症者以外は原則、病院外で療養させる医療体制に移行する考えを明かした。同県内では、同市や北九州市でクラスター(感染者集団)が相次いで発生。県や福岡市によると、2日現在、同市内の感染症病床8床は満床で、県内の66床も3分の2が埋まっている。感染者を受け入れられる一般病床の確保数は「数十床」で、感染が判明しても入院先がすぐに決まらず自宅待機を余儀なくされているケースが頻発している。新小文字病院の医療スタッフ19人が院内感染した北九州市では、21人の自宅待機が続く。入院先を調整していたさなかの厚労省の通知に担当者は「急激な感染者の増え方を見ると自宅療養など次の準備をしなければならない」と話した。同県の小川洋知事は3日の会見で、「今までも民間宿泊施設の活用ができないかという話はしていて、既に検討している。作業を加速させたい」と述べた。現時点で、感染者を受け入れられる病床に余裕がある大分県も医療体制の移行について検討を始める方針だ。3日までの感染者は31人だが、感染症病床と一般病床を合わせた118床を確保。県の担当者は「病床は重症者を優先しなければならない」と感染拡大期に向けた備えを万全にする構えを示した。

*5-11:https://headlines.yahoo.co.jp/videonews/fnn?a=20200409-00130247-fnn-soci (FNN 2020.4.9) 埼玉の軽症者ら78人入院できず 病床不足でホテルなどでの療養も検討
 埼玉県で、新型コロナウイルスの感染者のおよそ3割が、入院できずに自宅などで待機していることがわかった。埼玉県では、これまでに253人の感染者が出ているが、8日の時点で、78人が入院できずに自宅などで待機していて、さらに増える見通し。埼玉県・大野知事「当初から感染者病棟と一般病棟、さらに難しいときは、ホテルだけでなく、病院以外の施設や自宅待機と段階的にやっていく計画を当初から立てていた。正直、受け入れ表明した病院が入れられない状況がある」。埼玉県によると、自宅で待機している感染者は、主に無症状や軽症者で、地元の保健所が1日2回程度健康状態を確認しているという。埼玉県は、今後、ホテルなどでの療養も選択肢として検討するとしている。

*5-12:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/511015 (佐賀新聞 2020.4.11) 米専門家、布マスクの防御力低い、限界指摘「理解し使用を」
 布マスクはフィルターとしての機能が弱く、新型コロナウイルス感染を防ぐ効果は低いとする見解を、感染防御などが専門の米イリノイ大の研究者らが11日までに公表した。日本では安倍晋三首相が全世帯に2枚配布する方針を表明。今後、無症状の感染者や軽症者らの自宅療養も想定され、専門家は「布マスクで感染を完全には予防できないことを理解して使ってほしい」と呼び掛ける。見解は過去の複数の研究成果に基づく。その一つが、ウイルスのような微粒子に対し、マスクや布製品がどの程度フィルター効果を発揮するかを調べた米国立労働安全衛生研究所の実験だ。医療現場などで使うN95マスクが最も効果が高く、微粒子の95%以上を捉えた。タオルが40%前後、スカーフが10~20%程度、Tシャツが10%前後、布マスクは10~30%程度だった。ベトナムの医療現場で働く人を対象にした別の研究では、不織布のサージカルマスクに比べ、布マスクを着けた医療関係者の方が感染してしまう割合が高かった。こうした結果からイリノイ大の研究者は、布マスクはウイルスの拡散や取り込みを防ぐには不十分で「感染防止には効果がないだろう」とした。厚生労働省は軽症者らが自宅療養する場合の考え方の中で、家族ら周囲の人の感染対策として「サージカルマスク等の着用」を挙げた。不織布のマスクを入手できない場合に布マスクを代用で使うよう呼び掛ける。布マスクでも、くしゃみやせきでしぶきが飛ぶのをある程度は抑えられる。ウイルスが付いた自分の手が口や鼻に触れるのも防ぐため、政府は「感染拡大防止に一定の効果がある」とする。全世帯配布の経費は466億円と見積もる。聖マリアンナ医大の国島広之教授は、不織布のマスクの方が有効だとした上で、入手困難なら布マスクでしのぐのが妥当だと指摘。「自宅療養などの際は、換気や消毒と併せて予防効果を高めてほしい」と話した。

*5-13:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200410-00000195-kyodonews-soci (共同通信 2020/4/10)保健所長「病院あふれるのが嫌」、さいたま市の検査数少ない理由
 新型コロナウイルス感染の有無を調べるPCR検査が、さいたま市では2カ月で171件にとどまったことについて、市の西田道弘保健所長は10日、記者団の取材に「病院があふれるのが嫌で(検査対象の選定を)厳しめにやっていた」と明らかにした。さいたま市は2月に検査を開始し、今月9日までに171件。同市より人口、感染者ともに少ない千葉市は同日時点で4倍以上の700件を超えた。西田氏は、軽症や無症状の患者で病床が埋まるのを懸念したと説明。「検査を広げるだけでは、必要がないのに入院せざるを得ない人を増やすことになる」と述べ、滞在先施設の確保が必要だと強調した。

<感染症も考慮に入れた病院再編のあるべき方向性は?>
PS(2020年4月3日追加):*6-1のように、日本医師会が「①一部地域で病床不足になりつつある」として医療危機的状況宣言を発表したが、①については、*6-3の東京都内で97人の感染が確認されたという一部地域の問題で多くの院内感染を含むため、医師会はホテル借り上げなどの意思決定はできないことを考慮して、政治は国民に犠牲を強いない政策を考えるべきだ。
 また、医師会常任理事の釜萢氏は、*6-2に「②比較的症状が軽い患者を受け入れる“コロナ専門病院”を決めておくことを各地の医師会や行政に求めたい」としておられるが、②については、病名のわからない患者がコロナ専門病院を自ら選んで受診することは不可能であるため、地域の基幹病院が検査して振り分ける必要がある。
 そして、横浜市立市民病院感染症内科部長の立川氏は、「③新型コロナはいきなり呼吸不全に陥るのではなく、症状の軽い時期が数日続くため、この間に感染がわかれば重症化を防げる。疑わしきは検査し、重症度を判定して早めに治療すれば、入院患者も人工呼吸器の使用も減らせ、十分ウイルスと戦える。治療薬は別の病気の薬で新型コロナに効きそうなものが4種類はあり、当院でもこれらを組み合わせて効果が出ており、早期の検査と治療がカギだ」「④現在は、PCR検査で陽性なら入院となるため感染しても元気な人が入院し、その分、治療が必要ながん患者が入れないのでは本末転倒だ」「⑤軽症者は別の施設で経過を見て、病院には重症者だけを残す形に早く移行するのがよい」「⑥退院には2度のPCR検査で陰性になることが必要だが、これも見直すべきだ」としておられ、③⑤が治す気がある場合の正攻法である。
 一方、日経新聞は、*6-4のように、「⑦新型コロナの院内感染を防ぐため、ビデオ通話によるオンライン診療の活用を広げる規制緩和が、限定的な範囲に留まる恐れが出ている」「⑧これは、オンライン診療の拡大を恐れる日本医師会への配慮だ」などと記載している。しかし、医師は初診の患者が入ってきた時は、その愁訴を聞くだけではなく、服装・歩き方・顔色・匂い・触診・愁訴内容などのすべての情報から検査項目を決め、検査の結果によって病名を特定しているため、「⑨初診からオンライン診療では、対面に比べて診察時に得られる情報が限られる」という医師会の主張や「⑩受診歴のある慢性疾患の患者であれば可能」という厚労省の主張は正しい。そのため、⑦⑧のように、新型コロナにかこつけてオンライン診療を解禁させようとするのは、日本の医療水準を落として国民のためにならず、大きな問題である。
 さらに、厚労省は、公的病院のうち「急性期」「高度急性期」の病床を持つ1455施設に、2017年時点の手術実績で手術数の少ない病院に再編・縮小に向けた検討を求めて、*6-5のように、2019年9月にリストを発表したが、これには感染症が考慮されていなかったのだそうだ。しかし、インフルエンザ・肝炎・肺炎・結核・風疹・はしかなどの感染症は最も多い基礎的疾患であるため、これを考慮しないというのはあり得ず、金銭に関する稚拙な算術だけで医療を考えることの危うさをあらためて浮き彫りにした。


     死因別死亡率        人口10万対病床数   2019.10.3 2019.11.12 
                               朝日新聞  毎日新聞

(図の説明:1番左の図のように、日本の人口10万対死亡率は2011年から肺炎が3位に浮上している。しかし、左から2番目の図のように、日本は一般病床・精神病床が多すぎる割に感染症病床が殆どない。にもかかわらず、右の2つの図のように、厚労省は手術実績のみを基準として手術数の少ない病院に再編・縮小に向けた検討を求めており、改悪の方向になっている)

*6-1:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200401/k10012362941000.html (NHK 2020年4月1日) 日本医師会が「医療危機的状況宣言」 病床不足の地域も
 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、日本医師会は、一部の地域では病床が不足しつつあるとして、「医療危機的状況宣言」を独自に発表し、国民に感染を広げない対策や適切な受診行動を呼びかけました。新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づく「緊急事態宣言」をめぐって、安倍総理大臣は1日の参議院決算委員会で「今、この時点で、出す状況ではない」と述べていて、政府は今後の感染者数の推移や経済への影響などを見極めながら、引き続き慎重に判断していく方針です。こうした中、日本医師会の横倉会長は記者会見で、「国の宣言は国民の生活や経済の影響を踏まえて発令をされるのだろうが、一部の地域では病床が不足しつつあり、感染爆発が起こってからでは遅い。今のうちに対策を講じるべきだ。現場は『医療危機的状況宣言』と言える状況だ」と述べました。そして医療提供体制を維持するために、国民に対し、みずからの健康管理や、感染を広げない対策、そして適切な受診行動をとるよう呼びかけました。一方で横倉会長は政府の新型コロナウイルス対応について、「今、物資の不足とか、体制が十分にとれていないという現実からみれば、もっと対応を加速してほしい」と述べました。

*6-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200402&ng=DGKKZO57515920R00C20A4TCS000 (日経新聞 2020.4.2 より抜粋) 「感染爆発」 社会をどう守る
 新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が止まらない。国内でも東京都の小池百合子知事が「感染爆発の重大局面にある」と述べ、外出の自粛を呼びかけるなど、危機感が広がっている。救える命を救い、社会を守るために今何が必要なのか。専門家に聞いた。
   ◇  ◇
■地域ごとに「専門病院」を 日本医師会常任理事 釜萢敏氏
 体調を崩した人が真っ先に受診するかかりつけ医は感染症対応でも最前線に立つ。日ごろからインフルエンザや溶連菌などの検査を行っている所も多く、試料を採取する際に思いがけず新型コロナウイルスにさらされるリスクをはらむ。医療の現場を守りながら新型コロナに対応するためには、かかりつけ医はなるべく日常通り稼働してもらうことがよいと考えている。かかりつけ医の現状は厳しい。全国の診療所では目下、マスクが足りない。日本医師会は国に要望して計1700万枚ほどを配布したが、交換する頻度を減らすなどして何とかしのいでもらっている。新型コロナウイルスの検査に必要なだけの性能の防護服が十分にそろわない診療所もあるだろう。北海道の診療所で受診者のなかに感染者がいたため、内科医が感染した例もある。最大の問題は日本ではこれ以上、医師や病床などの医療資源を拡充するのが難しいことだ。イタリアは医療費削減のために医師の定年制を敷いてきたが、結果的に多くの医師経験者が再雇用された。ドイツでは医療資源が十分に確保できており死者が少ない。日本は高齢の医師が現役で働いているほど日ごろから医師が不足しており、急に増員する余裕はない。人工呼吸器や体外式膜型人工肺(ECMO)を増産しても使いこなせる人材がすぐには出てこない。オーバーシュート(爆発的な感染拡大)が起こり、患者を選ばなければならない事態になりかねない。医療の現場を守りながらコロナに対応するには、現存する医療資源をフル活用する方策を考えるしかない。具体策として、比較的症状が軽い患者を受け入れる「コロナ専門病院」を決めておくことを各地の医師会や行政に求めたい。かかりつけ医が疑わしい患者から電話相談をあらかじめ受けるようにし、必要に応じて「専門病院」を案内する。患者の動きを分けることで、かかりつけ医が感染したり長期の休診に陥るのを防ぎ、透析などで日常的に通院が必要な患者の受け皿を維持したい。「専門病院」には、たとえば夜間や休日に診療できる施設や、都道府県の公立病院などの施設になってもらうのが理想だ。人工呼吸器が必要かどうかという程度の患者まで診てもらい、さらに重度の患者は国立国際医療研究センターなどの病院で受ける。数段構えのイメージだ。都市ごとに各地の医師会と話し合い全国の整備状況を把握しようとしている。それでも病床は足りそうにない。まん延期を見据え、入院中だけれども症状が重くはない人に退院してもらい、なるべく病床を空けることが喫緊の課題だ。基本的には自宅にとどまってもらい、ハイリスクな家族への家庭内感染のおそれがある患者には滞在施設を設けて入ってもらう。宿泊施設などと調整を急ぐ。必要な情報が各診療所にすぐに届くような仕組みも必要だ。「感染者情報が遅い」「発症日ベースで感染者情報を出してほしい」という要望を受けているので、改善すべきだ。かまやち・さとし 78年日本医科大学卒。88年から群馬県の小泉小児科医院院長。高崎市医師会会長などを経て14年から現職。地域医療や感染症危機管理対策などを担当。66歳
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■早期の検査・治療カギ 横浜市立市民病院・感染症内科部長 立川夏夫氏
 これまで計30人近くの新型コロナ感染症患者を受け入れた。半数はクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」に乗船していた人たちだ。3人は集中治療室で処置した。現在も数人が入院している。第一種感染症指定医療機関として、エボラ出血熱など1類感染症の患者を受け入れられる態勢がある。それでも、クルーズ船の患者が数日の間に10人以上搬送されてきたのは想定外だった。感染症病床は一時すべて埋まり、それ以上は連携先の別の病院で受け入れてもらった。恐怖心がなかったわけではないが、中国のデータでは若い人の重症化例は少ない。当院の若手スタッフに万が一うつっても即、致死的とはならないのは救いだと感じた。一番の問題は、看護師の負担が増えたことだ。学会の推奨を上回る水準まで感染防護を強化しており、防護服で普段通りのケアをするのは大変だ。脱ぐときに接触感染が起きやすいため、別の人に見てもらう必要もある。他の診療科からも応援を頼み、その場で教えながら対応した。人工呼吸器を使った例はあるが、体外式膜型人工肺(ECMO)は患者の年齢、基礎疾患、家族の希望などを踏まえ使用していない。急に多数の患者が来れば機器が不足する心配はある。近隣病院ではマスクが悲劇的に不足している。市が優先的に回してくれる当院でも、できるだけ1日1枚の使用にとどめている。政府は国内感染者発生のピークを遅らせることに、ある程度成功してきた。受け入れ可能な病床数から逆算してPCR検査をしている結果、感染判明者が少ないのだろう。増加ペースが今くらいで、人材や機器の準備期間がとれれば対応はできる。だが、今後どうなるかはわからない。入退院に関しては課題がある。現状ではPCR検査で陽性なら入院となる。感染していても元気な人が入院し、その分、たとえば治療が必要ながん患者が入れないのでは本末転倒だ。政府は新型コロナのまん延期には、軽症者は自宅や別の施設で経過をみて、病院には重症者を残す形に移行するとしているが、まだその時期ではないという。早く移行すべきだ。また、退院するには2度のPCR検査で陰性になり、ウイルスがいなくなったのを確認できなければならない。これも状況に応じて柔軟に見直すべきだ。入退院の判断は医療者がするのがよい。新型コロナはいきなり呼吸不全に陥るわけではなく症状が軽い時期が数日続くので、この間に感染がわかれば重症化を防げる可能性がある。疑わしきはまず検査し、重症度を判定して早めに治療する。こうすれば入院患者も人工呼吸器の使用も減らせ、十分ウイルスと戦える。治療薬は別の病気の薬で新型コロナに効きそうなものが4種類はあり、当院でもこれらを組み合わせて効果が出ている。検査で感染の有無を確定させ、必要に応じて有望な薬を使う症例を積み重ねて、一刻も早くよい治療法にたどり着きたい。それが医療者の安心にもつながる。たちかわ・なつお 1990年佐賀医科大(現・佐賀大医学部)卒。国立国際医療センター(現・同研究センター)などで感染症治療にあたってきた。2008年から現職。60歳

*6-3:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200402/k10012364551000.html (NHK 2020年4月2日) 東京都内で97人の感染確認 これまでで最多に
 東京都の関係者によりますと、2日都内で新たに97人が新型コロナウイルスに感染していることが確認されたということです。都が、1日に発表する数としては、3月31日の78人を上回ってこれまでで最も多くなりました。97人のうち、患者や医療従事者などすでに100人以上の院内感染が疑われている東京 台東区の永寿総合病院の関係者が21人いるほか、新宿区の慶応義塾大学病院の関係者も15人いるということです。これで都内で感染が確認されたのは合わせて684人になります。

*6-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200403&ng=DGKKZO57597170S0A400C2EA2000 (日経新聞 2020.4.3) オンライン診療、壁は厚労省、「初診解禁」かかりつけ医の紹介条件 医師会へ配慮にじむ
 新型コロナウイルスの病院内での感染を防ぐため、ビデオ通話などによるオンライン診療の活用を広げる規制緩和が限定的な範囲にとどまる恐れが出ている。焦点は受診歴のない患者でも初診からオンライン診療を認めるかどうか。厚生労働省は対面で得る情報の重要さを理由に、かかりつけ医から情報提供を受けた別の医療機関などに絞る方針だ。拡大を恐れる日本医師会への配慮がにじむ。「人類が経験したことのないようなことが起きている。あまりに生ぬるいというのが私の感覚だ」。2日、政府の規制改革推進会議の小林喜光議長(三菱ケミカルホールディングス会長)は落胆を隠さなかった。作業部会が提案した「受診歴のない患者にも初診からオンライン診療を可能とすべきではないか」との意見に対し、厚労省からの回答は「非常に距離があるものだった」(小林議長)。オンライン診療は、風邪や発熱といった軽症の人が自宅にいながら診断してもらえるようにするなど医療の利便性を高める力を持つ。新型コロナの感染が拡大してからは、通院先での感染を防ぐ手段としても期待が高まっている。3月31日の経済財政諮問会議で、安倍晋三首相は「現状の危機感を踏まえた緊急の対応措置を規制改革推進会議で至急取りまとめてほしい」と指示を出していた。規制改革推進会議の主張は、受診歴のない患者でも初診からオンライン診療を認めれば、通院を省け、患者も医療従事者も院内感染から守れるというものだ。一方、厚労省は受診歴のある患者で高血圧などの慢性疾患であれば可能だが「受診歴のない患者は認められない」と説明したという。厚労省がオンライン診療の拡大を阻もうとする背景には日本医師会の存在がある。オンライン診療は「対面に比べ診察時に得られる情報が限られる」というのが医師会の主張だ。通院にかかる時間をあまり気にしなくて済むため、評判のよい病院に人気が集中し、淘汰が進むのを恐れていることも抵抗の裏側にある。オンライン診療はあくまで対面診療を補完するものと位置づけられ、生活習慣病など慢性疾患に限られてきた。医療サービスの対価として受け取る「診療報酬」も対面より少なく、対面の場合と比較して半分以下となることもある。加藤勝信厚労相は3月31日、オンライン診療の初診解禁を検討すると表明した。だが、厚労省が4月2日に開いたオンライン診療の指針を議論する有識者検討会は、限定的な範囲にとどめる方向性で一致した。言葉のイメージ通り、受診歴のない患者に対して、初診でオンライン診療を認めるのは重症化の徴候を見逃すリスクなどがあるため難しいと判断した。患者が急増し、外来医療が危機的な状況にあるなど極めて限定された場合だけに認める方向で、具体的な条件を引き続き検討する。かかりつけ医から情報提供を受けた別の医療機関で、風邪などの症状をオンラインで診てもらうことは認めることになった。ただこれも、かかりつけの医療機関で院内感染が起き、普段と異なる医療機関を受診しなければならないケースを想定したものだ。オンライン診療は18年度に保険適用されたが、18年7月時点でオンライン診療を実施する医療機関は1000カ所程度で全国の医療機関の1%に満たない。オンライン診療に積極的な医師もいるが、規制の厳しさが利用拡大を阻む。オンライン診療に移行するには原則、事前に3カ月以上の対面診療が必要だ。新型コロナ感染症の広がりをうけ、厚労省はオンライン診療のルールを特例・臨時的に2度緩和してきたが、その範囲は限られている。

*6-5:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54489680W0A110C2EE8000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2020/1/16) 公立病院の再編リストを修正へ 厚労省
 厚生労働省は再編や縮小を促す目的で昨年9月に実名公表した全国424の公立・公的病院のリストを一部修正する。データを精査した結果、新たに対象に加わったり、今のリストから外れたりする病院が出てくるためで、全体では増える見通しだ。17日に公表する方向で調整している。今回の修正でリストから外れる場合、病院の希望に応じて病院名を公表する。一方、新たにリストに加わる病院名は公表しない方針だ。厚労省は、自治体が運営する公立病院と、日本赤十字社などが運営する公的病院のうち、病気が発症した直後の「急性期」や「高度急性期」の病床を持つ1455施設に対し、2017年時点での手術実績などを分析。実績が乏しい病院もあり、再編や縮小に向けた検討を求める狙いで19年9月にリストを発表した。当時は「資料は暫定版で、今後精査した後に都道府県に確定版を通知する」としていた。近く公立・公的病院との競合状況を示す民間病院のデータも各都道府県に提供し、議論を促す考えだ。

<これを機会にステップアップしたら?>
PS(2020年4月4、8、12日追加):*7-1のように、新型コロナ感染拡大の影響で非正規を中心として職を失っており、会社の寮にいるため仕事を失えば住居もなくなる人もいる。そのため、政府は、企業の従業員解雇防止のために雇用調整助成金を拡充し、休業手当を払って従業員を休ませた企業には助成金を出すことにしたが、休業手当は一定割合を企業が負担するため、企業はコスト負担を敬遠して非正規の雇い止めを優先させる恐れがあるのだそうだ。一方、米国では、*7-2のように、新型コロナの感染拡大で経済活動が大きく制限され、ホテル・飲食店・小売店等が営業を大幅に縮小して従業員をレイオフ(解雇・一時帰休)した結果、失業保険の申請が664万件に上ったそうだ。日本では、(企業から見れば)終身雇用・年功序列制度の下で解雇が難しいため、従業員を正規と非正規に分けて非正規を雇用の調整弁として使っているが、米国は、正規と非正規の差別がないかわりに正規でも簡単にレイオフされて失業給付を受け取る。米国の方が、平等で雇用調整も速やかだが、これができるためには、労働市場が流動的で中途採用でも不利にならないことが要件になる。
 しかし、新型コロナの感染拡大はすべての業種で人手を余らせたわけではなく、*7-3のように、外国人技能実習生の入国見通しが立たないため、労働力確保の支援を求めている業種もある。そのため、企業は雇用調整助成金をもらった上で従業員を人手が足りない職種に派遣すれば、従業員が感染リスクの小さな農業地帯で農業に従事することによって、今まで見ていなかったICTやロボット技術のニーズを見て新製品を作ったり、*7-4のようなスマート農業が本格化する中、非正規という雇用の調整弁に甘んじるよりはスマート農業の担い手になったりなど、企業・従業員・地域のすべてに新しい閃きが生まれてプラスになると思う。現在、農業への転職については、*7-5のように、全国の農地情報がデジタル地図に集約されつつあり、*7-6のように、後継者のいない多くの集落営農組織が集落外から若者を受け入れて、地域全体で若い農業者を育てて経営刷新するという雰囲気になっている。
 さらに、国を挙げての再エネへのエネルギー変換には、*7-7のような徹底した発送電分離が必要で、それには21世紀型送電線の敷設が不可欠であり、農業地帯は副産物として電力を産出することが可能であるため、農業はやり方によっては21世紀の先端産業になり得るのだ。
 なお、非正規で最初に雇用を打ち切られる人がステップアップするには、*7-8のような農林業経営のプロと地域のリーダーを育てる農林環境専門職大学に入学する方法もあるし、地域の農協で募集する農業の仕事に応募する方法もある。ただ、*7-9のように、都市部の新型コロナ感染者が地方に移動すると感染を広げるリスクも大きいため、移動して14日間は外出を控え、寮などで仕事内容や地域に関する研修を受けられる仕組みにするのがよいと考える。
 新型コロナの影響で営業を縮小せざるを得ない観光業・飲食サービス業等から、*7-10のように、JAや行政が人材を仲介して農業に労働力を回す取り組みが始まっているそうだが、これは、人材の融通に留まらず、お互いの理解と関係を深める上でも良いと思う。



(図の説明:1番左は、スマート農業の説明、左から2番目は、無人田植機を使った田植えの様子、中央は、ドローンを使った消毒作業《あらかじめ害虫の多い場所を把握して効率化している》、右の2つは、収穫ロボットを使ったトマトとブドウの収穫作業だ。収穫ロボットは、色・糖度・大きさ等を測って収穫し《人間より確実かも》、分類してパック詰めする)

*7-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/202003/CK2020033102100017.html (東京新聞 2020年3月31日) <新型コロナ>非正規の雇い止め増加 雇用構造のもろさ露呈 現金給付で救済急務
 新型コロナウイルスの感染拡大で、非正規を中心に多くの人たちが職を失う危機に直面している。有効求人倍率の高さなど雇用をアベノミクス成功の証拠とアピールしてきた安倍晋三首相だが、労働市場の中身は、非正規割合が高まり景気悪化のショックには極めてもろい構造が露呈している。人々の仕事と暮らしをどう守るかは重い課題だ。
◆突然の契約終了通告
 「もう雇い止めも覚悟している」。日産自動車の栃木工場(上三川町)で、期間工として働く男性(47)が言う。コロナの影響による世界的販売不振と中国などからの部品供給の減少のダブルパンチの自動車業界。トヨタ、日産など大手各社は工場の一時停止による減産を発表。男性の働く栃木工場も四月六日から二十二日までの長期間、操業が止まる。昨春から三カ月ごとの契約で一年働いてきたが、「今の契約が切れる五月末で終わりになるだろう」。会社の寮にいるため、「仕事を失えば住まいもなくなる」と不安にさいなまれる。大阪府内の不動産会社で、住宅の設計をしていた二十代の派遣社員の女性は先週、四月末で契約終了と告げられた。昨年末にマンションを購入、ローンは夫と二人で払う。「いま仕事を失うとローンも返せない。この時期、職がすぐみつかるとも思えない」。働く人々の生活が揺らいでいる。
◆収入途絶えれば即生活危機に
 二〇〇八年の年末。東京・日比谷公園にはリーマン・ショックで雇い止めや派遣切りにあった人々があふれ、支援団体の提供する炊き出しやテントで暖をとった。この「年越し派遣村」の出現を機に、非正規労働の多さは問題化。民主党政権では製造業への労働者派遣を禁止する議論もあったが、企業の立場を重視する自民党の安倍政権は非正規を一段と増やす政策を推進した。一五年の派遣法改正では、それまで企業が派遣社員を使える上限が三年だったのを、働き手を代えればずっと派遣に任せられるようにし、正社員を派遣に置き換える流れを助長した。雇用されないフリーランスや個人事業主としての働き方も奨励。企業を人件費コストから解放する半面で安全網のない不安定な働き手が増加した。一方、非正規の低賃金労働は「貯蓄ゼロ」世帯を増加させた。昨年時点で23%と、二十年間でほぼ倍増。非正規切りで収入が途絶えれば、生活危機に直結する。
◆「正社員だけ守る差別やめて」
 政府は、企業が従業員を解雇するのを防ぐため、雇用調整助成金を拡充、休業手当を払って従業員を休ませた企業に助成金を出す。だが、雇用助成金は、あくまでも企業が自分から申請しないと支給されず、休業手当の一定割合は企業が負担するルール。このため企業がコストを敬遠し、非正規は雇い止めを優先させる恐れがある。労働問題に詳しい宮里邦雄弁護士は「正社員だけを守るような差別はしないよう企業に指導し、助成金支出にもそのような条件を付けるべきだ」と指摘する。
◆モノ言えない非正規への対策を
 働く人々に直接渡る現金給付など、所得補償も不可欠となりそうだ。リーマン時は金融危機が消費不振を招くまで一定の時間があったのに対し今回は需要が短期間で蒸発、所得の大幅低下などで人々の暮らしをすでに脅かしている。関根秀一郎派遣ユニオン書記長は「非正規は企業にモノを言えない弱い立場。現金給付や減税など直接生活を助ける対策が急務だ」という。

*7-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57597950S0A400C2MM8000/ (日経新聞 2020/4/2) 米の失業保険申請、最大の664万件 解雇・一時帰休で
 米労働省が2日発表した失業保険の新規申請件数(季節調整済み)は、3月28日までの1週間で664万8千件となり、過去最大だった前週(330万件)からさらに2倍に膨らんだ。新型コロナウイルスで経済活動が大幅に制限され、飲食店や小売店などでは従業員の解雇や一時帰休が急増している。トランプ政権は給与補填などの経済対策を決めたが、迅速な執行が求められる。失業保険の申請数は市場予測(260万件)を大幅に上回った。新型コロナが発生する前は1982年10月の69万件が最大で、リーマン・ショック後でも2009年3月の66万件が最多だった。米経済は長く好況が続いていたが、ホテルや飲食店、小売店などは一気に営業を大幅に縮小。飲食業界では、3カ月で500万~700万人が失業する可能性があるとの試算もあった。米国の労働力人口は1億6500万人。2月時点の失業者数は580万人で、失業率も3.5%と50年ぶりの低水準にあった。失業保険の申請数は2週間で1000万件弱に膨らみ、失業率は6月には10%を超えるとの予測も浮かんでいる。米国の急激な雇用悪化は、従業員を一時的に解雇したり帰休させたりする「レイオフ」制度の影響もある。宿泊業などは3カ月などと期限を区切って従業員の一時解雇・帰休を決め、労働者の多くは失業給付を受け取って職場復帰を待つ。日欧は給与カットなどで労働者の維持を優先するが、米経済は雇用そのものの調整幅が大きくなる。ただ、経済活動が再開すれば職場復帰も加速するため、失業率は20年後半には低下軌道に戻ると分析される。トランプ政権も雇用維持を狙い、中小企業の給与支払いを事実上肩代わりする資金支援策を発表した。中小企業の半数は手元の運転資金が15日分以下しかないとされ、迅速な資金供給が不可欠だ。

*7-3:https://www.agrinews.co.jp/p50436.html (日本農業新聞 2020年4月1日) [新型コロナ]消費喚起、人手対策を 農家らが窮状訴え
 農水省は31日、新型コロナウイルス感染拡大を受けた緊急経済対策の策定に向け、農家らから意見を聴取した。需要減退で価格が下落している和牛や果実、野菜の生産者らが窮状を訴えた。外国人技能実習生の入国見通しが立たない問題を受け、労働力確保に向けた支援を求める声も出た。江藤拓農相は、生産現場の支援へ「強大な対策」を講じる考えを示した。感染拡大の情勢を踏まえ、テレビ会議方式で意見聴取した。江藤農相の他、伊東良孝、加藤寛治両副大臣、河野義博、藤木眞也両政務官ら同省幹部が同席。江藤農相は「現場の意見をしっかり聞いた上で経済対策案をまとめなければならない」と強調。安倍晋三首相の指示を踏まえ「前例にとらわれず強大な対策をやる」と述べた。農家らは、インバウンド(訪日外国人)やイベント自粛などの需要減退で打撃を受けている実態を報告。消費喚起策を求める意見が相次いだ。宮崎県高千穂町で和牛を一貫経営する興梠哲法氏は、地元家畜市場の3月の子牛相場が「前回比15万円の値下がりになった」と説明した。枝肉価格の下落で肥育経営が悪化、それに伴い子牛価格も下落し繁殖経営も「危機的状況」と訴えた。過剰の国産牛肉在庫の対策に向け「国の支援で消費者に求めやすい形で流通」するよう要望。ふるさと納税制度の活用やインターネット販売の運賃・手数料の支援などを求めた。温室メロン専門農協、静岡県温室農業協同組合の鈴木和雄組合長は、同組合が出荷したメロン価格が2月は前年比71%、3月は同67%に落ち込んだと説明。「原価を割っている」と訴え「前例のない対応」を求めた。長野県佐久市で野菜を栽培する小松園芸の小松真知子氏は、中国人実習生が「入国できなくなっている」と報告した。「どれだけ作付けられるのか悩み、苦労している」と明かした。今季に実習生が入国できなければ生産量と売り上げが「30%減になる」と説明。「いくらかでも労働力を送ってもらえるような方策をお願いしたい」と訴えた。

*7-4:https://www.sankei.com/economy/news/191223/ecn1912230002-n1.html (産経新聞 2019.12.23) いきなり特等米を獲得 スマート農業の実力は…
 担い手の高齢化や労働力不足に悩む日本の農業の課題解決に向け、ICT(情報通信技術)やロボット技術を使ったスマート農業の導入が加速している。リモコン一つで農機を遠隔操作、熟練農家の経験と勘を目に見えるデータに落とし込む-。誰もが高品質な作物を生産できる農業の時代はすぐそこまできているのかもしれない。兵庫県北部の養父市、山間部に急斜面の棚田が広がる能座地区は、65歳以上人口が57・65%と高齢化、過疎化が急速に進む集落だ。日本の農業の課題を抱え込んだようなこの土地で、先進技術を活用した農業を目指して農林水産省が採択した「スマート農業実証プロジェクト」が4月から進んでいる。「ハンドル操作の難しいぬかるんだ所も驚くほど真っすぐ進む」。同地区で酒米を作る「アムナック」の社員、大内良平さん(45)が驚くのはクボタが開発した無人運転のロボットトラクター。準天頂衛星「みちびき」による高精度の位置情報を活かして誤差数センチ以内でルートを正確に耕していく。また、人力で行えば半日以上かかる草刈りも、ラジコン操作によってわずか44分で済ませている。作業データはクラウド上で一括管理、手間取った作業とその解決法を“見える化”することで誰もがどこでもその経験を次に生かすことができるという。
●全国モデルに
 アムナックは兵庫県三木市に本社を置く建設会社の農業事業を行う子会社として平成27年に設立。今年4月からは京都大学やクボタ子会社、ソフトバンクなどと作る共同事業体で、スマート農業の技術開発のために角度30度超の、全国有数のきつい傾斜を持つ養父市能座地区の棚田11ヘクタールで稲作に挑んでいる。

*7-5:https://www.agrinews.co.jp/p50428.html (日本農業新聞 2020年3月31日) 全国の農地情報 デジタル地図へ集約 農水省22年度から一部運用
 農水省は、全国の農地情報のインターネット上での一元管理に乗り出す。行政機関や農業団体がばらばらに管理してきた農地情報を集約し、同省の地図データと組み合わせて「デジタル地図」を作成。2022年度から一部機能の運用を始める。生産者は補助金などの申請にかかる労力が大幅に減る他、将来的には農業機械の自動運転の活用などにもつなげる。「デジタル地図」は、各機関が持つ情報をひも付けして一元管理する。21年度から運用する「農林水産省共通申請サービス(eMAFF)」と組み合わせ、申請の窓口を一本化。農業者が申請した基本情報は保存され、再入力が省略でき、事務作業が軽減される。オンラインで自宅から申請でき、パソコンやスマートフォンの画面上の地図を見ながら作業が可能になるという。行政機関は、紙の申請書の打ち直しなど事務負担が省力できる。将来的には「デジタル地図」の情報と、人工衛星による位置予測を組み合わせ、トラクターやドローン(小型無人飛行機)の自動運転に活用できる可能性もある。衛星画像と人工知能の画像解析技術を組み合わせ、台風などの災害時に速やかな被災地域特定につなげることも期待される。20年度は、既存のデジタル区画情報と各機関の情報をひも付けすることや、農地関連データの標準化を検討する。農地情報は現状、各機関が農地情報を紙の地図で管理し、手続きに多くの労力がかかっている。例えば、農業委員会に農地の権利設定を申請する場合、農業者は土地の地番や面積などを記載した10枚程度の書類を提出する必要がある。同じ土地でも農業委員会、地域農業再生協議会、農業共済組合が別々に情報をまとめており、重複する情報提出に負担が掛かる。情報を管理する機関も、データ入力や現地調査に多大な労力を費やしている。

*7-6:https://www.agrinews.co.jp/p50404.html (日本農業新聞 2020年3月28日) [ゆらぐ基 問われる実効性](3) 農山村の再生 “よそ者” 継承に活路
 福井県あわら市。集落営農組織「グリーンファーム角屋」の代表、坪田清孝さん(69)が、誇らしげに胸を張る。集落外から若者を組織の代表候補として迎え入れ、米だけでなく、タマネギやイチゴの栽培に乗り出す新しい組織に、生まれ変わろうとしているためだ。「全国に水田農業に夢を描く若者はたくさんいる。継承がうまくいけば担い手不足に困る各地の集落営農組織の希望になる」と坪田さん。同組織には3年後、集落とは縁がなかった斎藤貴さん(43)に経営をバトンタッチする予定だ。今は継承に向かう並走期間。集落の住民らと斎藤さんが共同作業を積み重ね、信頼関係を紡いでいる。後継者がいない、高齢化、もうかりにくい米経営……。多くの集落営農組織が抱える課題に、同法人は集落外から若者を受け入れ、経営を刷新することで立ち向かう。
●人手の確保組織で議論
 農水省の調査によると、離農する小規模経営体の農地の受け皿で地域を支える集落営農組織数は、2019年2月時点で1万4949。2年連続で減少した。次期食料・農業・農村基本計画案では30年の農業者数は15年比33%減の140万人と見通しており、生産基盤の要である人材の育成・確保は、農業の最重要課題だ。グリーンファーム角屋は1999年、集落の兼業農家が共同で農業を守ろうと発足。設立から20年を前に後継者不在で組織の継続が危ぶまれた。坪田さんらは16年、全戸に意向調査。88%で「後継者がいない」「割り当てられた農作業が将来的に難しい」など課題が鮮明になった。合意形成に2年かけ、集落外から若者を呼び込むことにした。知人のつてや就農フェアに参加するなどして探し、知り合ったのが斎藤さんだ。埼玉県生まれの斎藤さん。農業に興味を持ち、石川県の農業法人に長年勤めていた。独立して稲作を模索する中、後継者を探す同組織の存在を知った。斎藤さんを迎え入れるため、18ヘクタールの米が中心だった経営にイチゴやダイコン、タマネギなど園芸作物を加え、農閑期の仕事を確保。継承を踏まえ株式会社化した。斎藤さんは「決算書も見て、信頼できると思った。地域の人と一緒に経営を発展させたい」と意気込む。集落の女性らに手伝ってもらって冬は加工にも取り組む考えだ。坪田さんは「代表が代わっても農業を地域から分断させるのではなく、地域と発展する集落営農の基本理念は変わらない。高齢者ばかりの集落に若い人が来たと歓迎されている」と笑顔だ。
●多様な主体活性化の鍵
 信州大学の小林みずき助教は「水田農業の若者の継承は、農村や農業の持続性を左右する」と強調する。預ける農地の選定も含め、地域全体が若い農業者を育てる意識を持つことが重要という。次期食料・農業・農村基本計画でも「多様な主体」を農業の持続的発展のポイントの一つに挙げる。小林助教は「米の消費が減り水田活用の方法が課題となる中、高齢者に比べ、母数が少ない農村の若い力を生かすことが課題解決の鍵を握る。そのための仕組みが必要だ」と指摘する。

*7-7:https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2020040202000168.html (東京新聞社説 2020年4月2日) 発送電分離 電力改革はまだ途上だ
 昨日スタートした発送電分離。発電と送配電事業を切り分けて、大手電力による独占の壁を取り払う-。電力システム改革の“総仕上げ”とされているのだが、現状では劇的効果は期待できない。日本の電力供給は長らく、大手十社がそれぞれの“縄張り”で、発電と送配電、小売りを一手に担う「地域独占」だった。原発のような大規模集中型電源で大量の電気を一気につくり、決められた地域へ送り込むというやり方を続けてきた。福島第一原発事故で、その弱点があらわになった。他地域からの電力融通が思うように進まず、大消費地の首都圏は、計画停電を余儀なくされた。そんな地域独占の壁に風穴を開けるべく、政府による電力システム改革が加速した。大手電力会社を発電、送配電、小売りなどに分社化、つまり解体し、「新電力」と呼ばれる中小事業者の参入を図り、大規模集中から小規模分散に移行させる狙いがあった。二〇一六年、家庭向けも含めた電力小売りが自由化された。改革の「総仕上げ」とされるのが、発送電分離である。しかし、分離と言っても、送配電網の所有権を大手から切り離す「所有権分離」には踏み込めず、小売り同様、既存の大手が送配電会社を設立し、それぞれ子会社にするだけの「法的分離」にとどまった。送配電は従来通り、大手の支配下に残された。これまでも、大手が持つ原発の電力が優先的に接続されてきたように、「新電力」からの接続が、理由を付けて抑制される懸念はぬぐえない。分離による効果は恐らく限定的だ。「新電力」には、風力や太陽光を扱う事業者が多い。政府がエネルギー基本計画にうたう、再生可能エネルギーの主力電源化にも支障を来す恐れは強い。地域ごとに送配電子会社が残るのも非効率。欧米では、送配電網の運用そのものを電力会社から切り離し、「独立系統運用機関」(ISO)に委ねるシステムが主流という。そうなれば、全国規模での電力融通もスムーズになるだろう。接続の公平性が保たれて、再生エネの普及にとっても、強い追い風になるはずだ。発電量が天候に左右されやすいという再生エネの弱点を、例えば日照が豊富な九州と、風力の適地が多い東北・北海道などが、補完し合えるようにもなるだろう。送配電網の中立性が保証されるまで、電力改革は終われない。

*7-8:https://www.agrinews.co.jp/p50496.html (日本農業新聞 2020年4月8日) 農林専門職大が始動 コロナ禍でビデオ入学式 静岡
 農林業経営のプロと地域社会のリーダーを育てる静岡県立農林環境専門職大学・短期大学部(愛称・アグリフォーレ)が同県磐田市に1日開校し、7日に入学式を行った。同校は全国に11ある専門職大学の中で初めての農林系で、大学と短大合わせて104人が入学。学生生活のスタートを切った。専門職大学は2019年4月に始まった新しい大学の制度。特定の職業に必要な講義と、豊富な実習で実践的な技能を学ぶ。静岡では県立農林大学校に替わり開校した。入学生の内訳は、4年制の大学生産環境経営学部が県内外の27人、2年制の短期大学部が77人。入学式は新型コロナウイルスの感染拡大を受け、保護者と来賓は招かず、入学生と教職員だけが出席。講義室に分かれて学内放送とビデオで行う異例の式となった。鈴木滋彦学長は「農は生活に不可欠で、しかもエネルギーを生み出す。自信と誇りを持ち、プロフェッショナルを目指してほしい」と期待した。川勝平太知事は「実学の日本のモデルにし、みなさんを日本の宝として育てたい」と祝いの言葉をビデオで寄せた。入学した同県富士宮市出身の山本琢寛さん(18)は「静岡県の良い環境を生かした仕事に将来就きたいと考え入学した」と話した。来年完成予定の新校舎には学外からも利用できるレストランを併設。再来年には新寄宿舎が完成する。

*7-9:https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20200407/KT200406ETI090007000.php (信濃毎日新聞 2020年4月7日) コロナ「疎開」 排除や対立招かぬように
 都市部で新型コロナウイルス感染者が急増する中、帰省したり別荘に移ったりして地方に生活の拠点を替える人が目立つ。長野県内の別荘地への「疎開」も進んでいる。政府が東京や大阪に緊急事態宣言を出すことで、不安や不便を感じる人の地方への移動がさらに活発になる可能性が出ている。若い世代は感染していても無症状か軽症が多い。移動先で、気づかないうちに人にうつしてしまう恐れがある。地方での感染拡大につながらないよう、各自治体は移動する人も意識した呼び掛けを強めたい。県内では、都内から帰省中の20代男性に感染が判明した。一緒に外出した県内の20代男性も陽性が確認されている。高齢者が感染すると重症化するリスクが高い。一方、地方では新型コロナへの医療体制が整っていない地域も少なくない。感染が広がると、病床が足りなくなる事態が想定される。都市部から地方への移動は危険を伴っていることを、当事者も周辺も自覚してほしい。移動した後も一定期間は健康観察が不可欠だ。症状がある場合は、人との接触を避けるなど一層の注意を払う責任がある。約1万6千戸の別荘がある軽井沢町の藤巻進町長は、町のホームページで「東京の危機感を共有して」と訴え、別荘住民らにも不要不急の外出自粛を求めた。茅野市も、市内の別荘約7千戸に同様の自粛要請を記したチラシを配布。今井敦市長は「開放的な気分にならず、できるだけ別荘にいて」と呼び掛けている。佐久市の柳田清二市長が「できれば首都圏の皆さんも自宅で過ごしてもらいたいと思います」と書き込んだツイッターは、賛否両論を呼んだ。不要不急の来訪が、県内での感染拡大につながってしまうとの危機感から発信したという。重要な注意喚起ではある。「怖さを感じる」と賛同する住民の気持ちも分かる。一方で、命を守る選択として来訪する人たちの事情も大切にするべきだろう。個人の移動の自由は尊重しなければならない。その上で、地域の安全や安心をどう守っていくかを考えたい。自治体は、地域の実情を詳しく知らせ、守るべきことをきちんと分かってもらう努力が必要だ。住民も移動してくる人たちを排除せず、感情的な対立を招かないように心掛けたい。

*7-10:https://www.agrinews.co.jp/p50535.html (日本農業新聞 2020年4月12日) コロナ禍の観光・飲食業 農家が人材受け入れ JAや行政が就労を仲介
 農業の人手不足が深刻化する中、新型コロナウイルスの影響で営業を縮小する観光業や飲食サービス業などから農業分野に労働力を回す取り組みが始まっている。観光業などは訪日外国人の減少に外出自粛も加わって経営が厳しく、従業員の雇用継続が難しい。そこでJAや行政が人材を仲介し、互いの労働力の課題解決につなげようとしている。(高内杏奈、藤川千尋)
●長野・JA佐久浅間 旅館組合と協力
 長野県のJA佐久浅間は、地元の軽井沢旅館組合と協力し人材のマッチングを始める。宿泊施設は、各従業員に農家での就労希望の意向を尋ね、希望する場合は出勤可能日などの情報をJAに提出。JAは農家にその情報を示し、条件が合えば面接などを経て農家が雇用する仕組みだ。今回の人材マッチングをJAに提案、相談したのは、JA軽井沢事務所野菜部会の前部会長でJA野菜専門委員会常任委員の片山修さん(48)。片山さんは人材不足に悩み、今季は収穫の手間がかかるレタスの一部をキャベツに転換した。片山さんは「労働力として来てもらえればありがたい。これを機に軽井沢の野菜のおいしさを再認識し、宿泊施設で利用が広がればいい」と期待する。旅館組合の鈴木健夫組合長も「軽井沢の観光客は野菜のおいしさに感動する。感染終息後の集客につなげたい」と話す。JAは全国にリゾートホテルを展開する星野リゾートとの連携も検討する。同社も仕事量が減少する見込みで、従業員の雇用確保が課題。JAは農家や選果場などの仕事を紹介する。JAと同社は、雇用条件面や希望人数などを協議中だ。JAでは新型コロナウイルスの影響で、94人の中国人技能実習生が来日できていない。実習生は5月以降にピークを迎えるレタスやキャベツなどの収穫作業を担う。JA営農経済部の内藤浩部長は「産地には安全で安心できる、おいしい農産物を届ける使命がある。生産基盤を守ることにつなげたい」と強調する。
●マッチング支援 青森県が窓口設置
 青森県は10日、営業自粛する観光業や飲食サービス業から労働力を農業分野に回す人材マッチング事業を始めた。青森市の無料職業紹介事業・あおもり農林業支援センターに窓口を設置。JAグループやハローワークと連携して、農業法人などの求人情報を集約する。センター職員が観光業、飲食サービス業、運送業を巡回し声掛けして、短期労働力のマッチングを後押しする。県農林水産部は「労働力不足は加速する。利用者を増やしたい」と説明する。同県はナガイモや露地野菜の出荷最盛期を迎えるが、中国を中心とする技能実習生が来日できず、人手不足が深刻化している。東北町でナガイモを3・5ヘクタール栽培する甲地武彦さん(64)さんは「人手不足で作付け縮小を検討する農家も出てきた。短期でも労働力が増えるのはありがたい」と期待する。

<新型コロナは、社会保障を節約するのに都合のよいウイルスだが、まさか・・>
PS(2020年4月4日追加):*8-1・*8-2のように、安全保障や感染症の研究で知られる米ジョンズ・ホプキンス大学が、2018年にまとめた報告書で新型コロナの登場を予見するような分析をし、中でも最大の脅威は呼吸器系に悪さするRNAウイルスで、潜伏期間中・軽い症状の間でも感染してしまうタイプが特に危ないとしていた。そして、これは、新型コロナの性格と一致しており、現在は遺伝子操作したウイルスを使ったバイオテロもできる時代であるため、主たる被害者が高齢者と基礎疾患保有者であれば、新型コロナは社会保障を節約するのに都合よく作られたウイルスのように見える。そう考えると、*8-3のように、コロナ治療薬の有望候補が4つもあるのに、非科学的なことを言って検査も治療も行わず(犯人は政治ではないだろう)、保健所の人員増強等を主張していることと整合性があるわけだ。
 そのような中、国民を犠牲にすることしか考えつかない行政はあてにならないため、*8-4のように、国民が手洗いを徹底し、人混みを避け、マスクをつけて予防した結果、インフルエンザ患者数も昨シーズンに比べて4割減ったそうだ。そのため、予防方法が同じ新型コロナも、同じ効果が出ていると思われる。

  

(図の説明:左図のように、日本は新型コロナの検査数が著しく少ないため患者数も少なく出ているが、これは実態を反映していない。また、治療薬はあるのに、できない理由を並べて使っていないが、検査しなければ使うこともできない。そのため、日本で新型コロナの致命率が低く出ているのは、単なる肺炎に入れられているケースが多いからだと思われる)
 
   
    2020.3.30東京新聞

(図の説明:何の治療もしないうちから、メディアが医療崩壊・医療崩壊と1カ月以上も騒いでいるため、「政府も医療もあてにならない」と感じて国民が予防を徹底した結果、左図のように、インフルエンザが昨年より4割減った。そのため、予防方法が同じ新型コロナも本来より4割減ったと考えるのが妥当だ。このまま、医療崩壊・医療崩壊と叫んで検査も治療もせず、対症療法も年齢でトリアージすれば、右図の日本の人口のうち団塊の世代より上の致死率が上がり、年金・医療・介護等の社会保障費が節約されるが、このやり方はあまりにあくどい)

*8-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57636680T00C20A4I00000/ (日経新聞 2020/4/4) 新型コロナを予見 示唆に富む米大報告書
 地球規模の脅威となる感染症を引き起こす病原体とは、どんなものか。安全保障や感染症の研究で知られる米ジョンズ・ホプキンス大学が2018年にまとめた報告書は示唆に富む。いま世界を苦しめている、新型コロナウイルスの登場を予見するような分析がみられるからだ。今後の感染症対策にも役立つはずだ。報告書は同大の健康安全保障センターが120人以上の専門家への聞き取りをもとに作成した。様々な病原体の特徴、感染が引き起こす症状、病気の広がり方などに関する科学的知見を踏まえ、注意点や対策にあたっての勧告をまとめた。このなかで、最大の脅威に挙げたのが呼吸器系に悪さをするRNAウイルスだ。インフルエンザウイルスに比べ、コロナウイルスなどには十分な注意が向けられていないと警鐘を鳴らした。潜伏期間中や、軽い症状しかないときでも感染してしまうタイプが特に危ないと指摘しており、まさに新型コロナウイルスの場合と一致する。勧告は8項目ある。まず、呼吸器系に感染するRNAウイルスに焦点を当てつつも、幅広い種類の微生物に目配りする必要性を説いた。過去に経験し、要注意ウイルスなどとして記録されているものにとらわれすぎるべきではないという。コロナウイルスに関しては疫学的調査が重要だとした。抗ウイルス薬が極めて少ない現状に懸念を示し、治療薬やワクチン開発の加速を促している。製薬企業、政府、医療機器メーカーが資金を出し合い臨床試験を円滑に進める工夫をすべきだとした。さらに、新たなパンデミック(世界的大流行)の兆候をいち早くつかむため、全世界で診断に力を入れるよう提案。コストの問題はあっても、それに見合う効果が得られるはずだと指摘した。今となれば、どれももっともな内容だ。国境を越えたヒト、モノの移動が増えパンデミックが起きやすい状況なのは世界の共通認識だった。にもかかわらず、勧告は十分に生かされず備えは進まなかった。将来、より致死率の高い病原体が広がるかもしれない。新型コロナ対策の一つ一つの経験を確実に「次」への戦略づくりに生かしたい。ジョンズ・ホプキンス大学の報告書で指摘した8つの「勧告」の要約は以下の通り。
(1)脅威となるウイルスへの備えに投資を
 パンデミック(世界的大流行)を引き起こす可能性が最も高い病原体はRNAウイルス(注1)で、特に鼻やのど、肺などの呼吸器系に感染するタイプだ。この種のRNAウイルスは地球規模で壊滅的な被害をもたらす危険性が高く、調査・監視、科学研究、対策の開発に資源や資金を大規模に投じるべきだ。だが、インフルエンザと一部のコロナウイルスを除けば、ほとんど対策は講じられていない。あらゆる病原体の専門的な知識を育成・維持するとともに、動物から人間に感染する病気の情報を集めることで、パンデミックへの備えや研究につながる。
(2)過去の経験に基づく対策では不足
 過去の感染症の事例とバイオテロ対策にもとづき、米国や世界はパンデミックに備えてきた。しかし、取り上げられていない病原体への備えは早々に打ち切られてしまい、対策が硬直的になりがちだ。こうした従来型のやり方から決別し、病原体の性質に基づいてパンデミックのリスクを評価する必要がある。また評価については、綿密な医科学的分析の結果にもとづくべきだ。こうした改善に取り組むことで、パンデミックへの備えや病原体による地球規模のリスクに対する考え方を根づかせる。
(3)呼吸器系に感染するRNAウイルスを優先
 呼吸器系に感染するタイプのRNAウイルスはパンデミックを引き起こす可能性が高い。現時点で優先度が高いのは、インフルエンザと一部のコロナウイルスだ。重症急性呼吸器症候群(SARS)と中東呼吸器症候群(MERS)の流行をきっかけに、コロナウイルスへの理解を深める動きは出ているが、実験室で体系的に調べる取り組みは進んでいない。肺炎や気管支炎の原因となるライノウイルスやパラインフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSウイルス)、メタニューモウイルスなどでも同様に動きはない。この種のウイルスは将来、パンデミックを引き起こす危険性が高く、インフルエンザと同様の調査・監視体制を確立すべきだ。
(4)効果がある抗ウイルス薬の開発に重点
 呼吸器系に感染するRNAウイルスの治療薬として、現時点で米食品医薬品局(FDA)の承認を受けているのは、抗インフルエンザ薬としては「アマンタジン」や「リマンタジン」、「ザナミビル」、「オセルタミビル」、「ペラミビル」の5種類がある。いずれもインフルエンザウイルスだけに作用し、他のウイルスには効果がない。抗インフルエンザ薬以外では、C型肺炎などの治療に使われる「リバビリン」しかない。RSウイルスの治療で承認を受けているが、効果が弱く、強い副作用が懸念される。特定のウイルスに効く治療薬が開発できれば、パンデミックを抑えられる可能性は高まる。
(5)RNAウイルスのワクチン開発を優先
 呼吸器系RNAウイルス向けのワクチンも優先すべき課題だ。インフルエンザ向けはあるが、呼吸器系RNAウイルスのワクチンは存在しない。いくつかの重要な取り組みが存在する。例えば、官民連携でワクチン開発に取り組む感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)はMERSを引き起こすコロナウイルスとパラミクソウイルス(ニパ)向けワクチンの開発を支援している。米国立衛生研究所(NIH)は、どんな型のインフルエンザにも効く汎用ワクチンの開発に資源を振り向けるようになった。最も怖いのが鳥インフルエンザウイルスの一種だ(注2)。汎用的なインフルエンザワクチンは、こうした地球規模で脅威となるウイルスに対して大きな予防策となりうる。
(6)科学的根拠にもとづいた治療法を官民医の連携で
 インフルエンザを除くと、呼吸器系ウイルスに対する治療は科学的根拠に乏しい。どのような治療が有効なのか、合併症で気をつける必要のある感染は何か、どの段階で人工呼吸器を使うのが適切なのか、といった疑問がある。こうした疑問への答えを見つけることで、パンデミックが起きたときに医師の対応力を高められるだろう。インフルエンザについて、抗ウイルス薬と炎症を抑える抗炎症薬、抗生物質を併用する治療法の報告が増えている。明確な治療指針を作るために、これらの治療効果がはっきりとわかれば、地球規模の脅威となるウイルスへの対応力につながる。
(7)RNAウイルスの研究には特別な注意を
 パンデミックを引き起こすウイルスに関する研究には特別な注意を払う必要がある。多くは低リスクだが、例えば抗ウイルス薬への耐性、ワクチンに対する抵抗性、感染力の増強といった実験は、国際的な基準である「バイオセーフティー」上の違反が起これば重大な問題を引き起こす。1977年に出現した「N1H1型」インフルエンザ(ソ連かぜ)は、なんらかのミスで研究所から漏れ出た可能性が指摘されている。こうしたウイルスを扱う実験については、リスクに見合った形で承認するプロセスが必要になる(注3)。
(8)診断法や診断装置の実用化を世界で
 診断技術と診断装置は適用できる病気の対象、診断速度、使いやすさで改良が進んでいる。普及が進めば、感染症に対する状況認識を高めるきっかけになるはずだ。呼吸器系に感染するRNAウイルスへの調査の強化と組み合わせることで、パンデミックを引き起こす病原体の初期のシグナルを捉える能力は大幅に高まる。コストや治療効果のほか、隔離病床など病院の資源の制約によって、こうした診断装置の採用が制限されている。しかし、パンデミックへの備えという観点から、費用対効果の見積もりも変わるはずだ。人工呼吸器やワクチン、抗ウイルス薬、抗生物質と同じように考えるべきだ。
(注1)ウイルスには、遺伝子がDNAだけのタイプとRNAだけのタイプがあり、RNAウイルスの方が突然変異しやすいため危険性が高いとされる。危険性の高いRNAウイルスには、コロナウイルスの一部のほか、インフルエンザやエボラ出血熱、デング熱などがある。
(注2)鳥インフルエンザの中で毒性が高い「H5N1型」が最も危険性が高いとされる。
(注3)バイオセーフティーは病原体を扱う施設の基準で、世界保健機関(WHO)が定めている。危険度に合わせて4段階ある。最も高いレベル4については、病原体が外に漏れ出ないような対策を講じている。例えば、施設内の気圧を低くし、空気が外に漏れないようになっている。

*8-2:https://iwj.co.jp/wj/open/archives/469833 (IWJ 2020.3.13より抜粋) IWJ調査レポート!新型コロナは「地球規模の破滅的な生物学的リスク(GCBR=Global Catastrophic Biological Risk)」!? ジョンズ・ホプキンス大学の『パンデミック報告書』が、2年前にコロナの出現を予見し、警告!
 2020年3月12日、WHOが正式に新型コロナウイルスの感染拡大を「パンデミック」であると発表した。こうした事態に至る約2年前、2018年5月10日に、世界最古の公衆衛生大学院と世界屈指の医学部を有する米国ジョンズ・ホプキンス大学の公衆衛生大学院、健康安全保障センターが、『パンデミック病原体の諸特徴』と題する報告書(以下『パンデミック報告書』)を発表した。この報告書の中で「地球規模の破滅的な生物学的リスク(GCBR=Global Catastrophic Biological Risk)という新しい概念を提示して、ウイルス、細菌などの病原体が近い将来、人間社会に破滅的な影響を及ぼす可能性を予見し、警告している。GCBRを引き起こす病原体の特徴として、高い感染力、低い致死率、呼吸器系疾患を引き起こすなど、7つの特徴を列挙している。これらの特徴は、ほとんど、現在流行中の新型コロナウイルスの特徴と一致するものである。さらに、驚くべきことは、GCBRを定義する中で、『パンデミック報告書』は、GCBRを引き起こす病原体が、自然由来ばかりでなく、人為的な操作によって生み出され、広がるリスクをも想定していたことである。『パンデミック報告書』からわかるのは、陽性ながら無自覚・無症状のまま日常生活を送り、周囲を感染させてゆく「ステルス・キラー」の対策と、その主な被害者になる高齢者と基礎疾患者への対策が、今後、非常に重要になる、ということである。

*8-3:https://toyokeizai.net/articles/-/340641?page=4 (東洋経済 2020/03/29より抜粋) コロナ治療薬「世界の救世主」探る臨床の最前線、有望候補薬は4つ、東大で感染阻止の研究も進む
 クロロキンは、アメリカのトランプ大統領が、「新型コロナウイルス感染症の治療に有効」と発言して注目を集めたものの、その後は服用者の中毒例や体調悪化が報道され混乱気味。日本でも過去、クロロキンによる網膜症が問題で訴訟になった経緯があり、効くとしても扱い方には注意が必要になりそうだ。また、治療薬の開発には大学、企業も乗り出している。東京大学医科学研究所は3月18日、急性膵炎治療薬「ナファモスタット」が新型コロナウイルスの感染を阻止する可能性を突き止めたと発表した。ナファモスタットは30年近く国内で使われている薬剤で、安全性のデータが十分あるなどメリットは大きい。日本では日医工が「フサン」の製品名で販売しているのをはじめ、各社が後発品を出している。安倍首相は3月28日の会見で、「観察研究として、患者の同意を得て投与を開始する予定」と述べた。このほかに、C型肝炎治療薬である「リバビリン」や「インターフェロン」も候補薬になると見られている。
●国は早期承認制度の適用も検討
 さらに日本の製薬会社も、続々と開発に乗り出している。武田薬品は3月4日に、感染し回復した人の血液成分を使用した新薬(高免疫グロブリン製剤)をつくる。早ければ9カ月程度で実用化するという。また、スイス・ロシュグループ傘下の中外製薬は、関節リウマチ治療薬「アクテムラ」で、新型コロナウイルスを対象とした臨床試験を検討中だ。さらに、塩野義製薬やエーザイも、それぞれ開発を表明している。ただ、医薬品の開発は通常、人に対する安全性、有効性を確認する検証的な臨床試験だけで3~7年かかる。承認申請に必要な臨床試験がすべて終わるのを待っていては、今回の流行に間に合わない。このため加藤勝信厚生労働大臣は、製薬会社からの承認申請があれば、新たに導入した「医薬品の条件付き早期承認制度」を適用し、「可及的速やかに審査を行っていきたい」(3月26日・参議院予算員会)と答弁している。この制度を使えば、致死的な疾患で検証的な臨床試験に時間がかかる疾患であっても、一定の有効性、安全性が示されれば承認でき、早く国民に治療薬を届けることが可能となる。大曲氏は、臨床試験に関しても効果が見えそうなデータが揃った段階で、「(終わるのを)待たずに知見が出る可能性はある」と見る。開発に数年かかると見られる新型コロナウイルスの治療薬だが、臨床試験の状況によっては早期承認もありそうだ。

*8-4:https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/202003/CK2020033002000209.html (東京新聞 2020年3月30日) 手洗い効果? インフル最少 昨季比4割減、流行ほぼ収束
 新型コロナウイルスの感染が広がる一方で、インフルエンザの患者数が昨シーズンに比べて激減している。医療機関の報告を基にした厚生労働省の推計で、今年第十二週(三月十六~二十二日)までの累計患者数は前年同期(千百六十四万人)より約四割少ない七百二十七万人。同省担当者は「一人一人が新型コロナ対策にもなる手洗いの徹底などに努めた結果」と受け止めている。厚労省は全国約五千カ所の定点医療機関からの報告を基にインフルエンザ患者数の推計値を毎週発表している。二十七日発表の第十二週までの累計は、比較可能な二〇一一~一二年シーズン以降で最少となった。今後も流行が続く可能性があることを示す「注意報」は全保健所管内で解除され、流行はほぼ収束したとみられる。ただ、過去には五月の大型連休前後に再流行した地域の例もあり、同省は「決して油断はしないで」と呼び掛ける。今シーズンの特徴は、昨年十二月まで例年を上回るペースで増加していた患者数が、ピーク時期になることが多い一月下旬~二月上旬にほとんど増えなかったことだ。一方、新型コロナウイルスは一月十五日に国内で初めて感染者が確認され、一月下旬以降、各地で感染が広がった。このため、例年以上に手洗いを徹底したり、人混みを避けたりして感染症の予防を心掛ける人が増えたとみられる。今シーズンは子どものインフルエンザ患者も少なかった。厚労省が自治体の報告を基にまとめた学校や保育所などの休校や学年・学級閉鎖の状況では、第十二週までの累計は昨シーズンに比べて全国で約二割少なかった。

<病院やオフィスの設備・休業補償など>
PS(2020年4月10日追加):新型コロナの感染拡大で緊急事態宣言が出された福岡県では、*9-1のように、感染症指定医療機関でない一般病院も患者の受入を増やす必要があり、院内感染を起こさないための準備をしているそうだ。この病院は、140床全てが個室で陰圧装置を備え、陰圧を強化した部屋もあるので比較的恵まれているが、本来はどの病院も全室個室で陰圧装置を備えてもらいたい。その理由は、複数の人が入る病室は不自由な団体生活になる上、感染症が広がる可能性もあり、他の病気の人と同じ部屋では気分がさらに落ち込むからである。そのため、コロナ後のV字回復には、病院設備の充実(原則として、全室個室で陰圧室)と感染症を受け入れる基幹病院が感染症病棟を備えるための補助金を出すのがよいと思う。
 また、*9-2のように、北九州市は、新型コロナ感染拡大を受けて、福岡県の無症状者・軽症者を受け入れる療養施設として「東横イン北九州空港」をホテルごと借り上げ、約200床用意するそうだ。空港近接のホテルも航空機の客室乗務員も今は空いているので、現在のニーズに合ったサービスをするのはよい考えだ。また、通常は航空機の食事を作っている会社も療養食を提供すれば業務を続けられ、新型コロナが収まった後には病院食・介護食という新しい分野に進出することが可能になるため、臨機応変に事業を行うべきである。
 さらに、日田市役所は、*9-3のように、飛沫感染防止のため、住民課と税務課の窓口に下部に隙間のある透明シートを使った間仕切りを設置したそうだ。確かに、日本の役所や会社のオフィスは、間仕切りもなく、机をつけて仕事をしており、人ばかり多くて集中できないだろうと前から思っていた。そのため、これを機会に、透明でもよいので適切な高さの間仕切りを付け、人と人との間にはパソコンや書類棚を設置して、一定の距離を確保したオフィスを作ったらどうかと思う。ちなみに、外資系会社のオフィスは、1980年代からそうだ。
 最後に、*9-4のように、新型コロナ特措法に基づく緊急事態宣言に関して、西村経済再生担当相は対象地域となった知事とのテレビ会議で、「外出自粛の効果を見極めてから」として休業要請を2週間程度見送るよう打診し、地方は休業要請の損失補償を求めているそうだ。私は、休業要請の判断は地域毎に知事の責任で行うべきだと思うが、「行政から営業自粛を求める以上、補償は表裏一体だ」「補償とセットでなければ理解いただけない」というのは賛成できない。何故なら、新型コロナ感染者を出せば大変なことになる中で、休業は自分や事業の生命を護るために行うものであり、行政から求められて仕方なくやるものではないからだ。さらに、休業によって収入が減少した事業者には、簡素な手続きで速やかに給付金を出せばよいからである。

*9-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/599382/ (西日本新聞 2020/4/10) 感染者受け入れへ一般病院「逃げられない」 対策徹底、風評の懸念も
 新型コロナウイルスの感染拡大で緊急事態宣言が出された福岡県では、感染症指定医療機関ではない一般病院に入院する患者が増えている。一般病院での指定感染症の受け入れは異例の事態。各病院は感染対策の徹底に腐心し、風評被害の懸念も募る。県の受け入れ要請に備える同県広川町の姫野病院を9日に訪ねた。病院が感染者の受け入れに備えて用意した個室は3部屋。ベッドが一つ置かれ、冷蔵庫やトイレもあり見た目は普通の病室と同じだが、重症化した際に人工呼吸器を置くためのスペースを確保しておくなど細部に気を使う。「室内には陰圧装置を備えており、廊下に空気が漏れる心配はありません」。病院で感染対策室長を務める感染管理認定看護師の中西穂波さんが説明してくれた。陰圧とは室内の気圧を下げ空気を室外に漏らさない機能。フロアの一部は扉で仕切られ、ほかの入院患者とは動線が交わらないように工夫している。病院は全140床が個室。指定医療機関ほどの機能ではないが、全室に陰圧装置を備える。当面は陰圧を強化した3部屋の使用を想定し、県からの要請次第では、最大35人が入院できる1フロア全てを感染者専用にする方針だ。受け入れ態勢の検討を具体化させたのは1週間ほど前。約500人いる職員には院内感染や風評被害の懸念も根強いが、姫野亜紀裕院長が「医療機関としての使命。ウイルスから逃げてばかりはいられない」と決断した。感染者に対応するスタッフは、使い捨ての医療用長袖ガウンにキャップ、マスク、ゴーグルなどを着ける。着脱は急きょ設けた隔離エリア内に限定し、その都度、アルコール消毒するなどマニュアルも策定。スタッフが帰宅する際はシャワーを浴びることも厳守させる。看護師などを対象に研修を繰り返すという。ただ、十分な対策を講じても病院スタッフの不安は尽きない。感染患者に対応する人員の選定も課題で、中西さんは「精神的なケアも必要になるだろう」と話す。感染者の受け入れによる風評被害も拭えない。電話やインターネットでの診療も実施しているが、姫野院長は「外来診療の患者は減るだろう」と覚悟する。福岡県内の感染者数は累計で250人。県内12の指定医療機関にある感染症病床は66床しかなく、自宅待機を余儀なくされる軽症者や無症状者もいる。重症者らのために感染症病床を空けておく必要があり、県は受け入れ先を一般病院にも拡大し、週内に300床を確保する方針だ。姫野病院では9日、医師や看護師向けの訓練を実施した。中西さんは「いざ感染者が来た時に慌ててミスをしないよう事前にやれることはやっておく」と表情を引き締めた。

*9-2:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/599334/ (西日本新聞 2020/4/9) 福岡県が軽症者を週明け移送へ 新型コロナ、北九州のホテル200床確保
 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、福岡県が無症状者や軽症者を受け入れる療養施設として、ホテル「東横イン北九州空港」(北九州市小倉南区)を確保したことが分かった。ホテルごと借り上げ、約200床を用意できる見通し。13日にも感染者の移送を始める。厚生労働省は感染拡大状況に応じ、軽症者や無症状者について、高齢者や基礎疾患がある人、妊婦などを除き、自治体が用意した民間宿泊施設や自宅での療養を検討するよう都道府県などに通知。県内では感染者が急増して病床が逼ひっ迫ぱくしており、厚労省と協議して医療機関以外での療養に移行を決めた。関係者によると、ホテルには医療機関に入院中や自宅待機中の感染者を移送するほか、新たな感染者にも入ってもらう。1人1室での療養が原則で、感染防護の訓練を受けた看護師や保健師が常駐して健康観察し、医師も適時対応する。ホテル内での感染拡大を防ぐため、清潔な区域と、ウイルスによる汚染区域を明確に分けるゾーニングを徹底。搬送は感染予防を施した公用車などを使い、保健所職員らが対応することを検討している。ホテル従業員は一切関与しない。厚労省によると、滞在中のPCR検査で2回陰性となることが退所基準だ。福岡県内の感染者数は累計で250人。県内12の感染症指定医療機関にある感染症病床は66床しかなく、自宅待機を余儀なくされる軽症者や無症状者もいる。重症者らのために感染症病床を空けておく必要があり、県は受け入れ先を一般病院にも拡大し、週内に300床を確保する方針。

*9-3:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/599375/ (西日本新聞 2020/4/10) 飛沫感染防止へ手作り間仕切り 日田市役所の窓口、下部に隙間も
 新型コロナウイルスの飛沫(ひまつ)感染を防ぐため、大分県日田市役所の住民課と税務課窓口に9日、透明シートなどを使った職員手作りの間仕切りが設置された。間仕切りは、財政課職員が製作。ホームセンターで農業用のマルチシートなど材料を購入し、縦横90センチの15個を完成させた。窓口担当職員の意見も聞き、下部には書類のやりとりができる15センチの隙間を作った。設置した両課は、市民との接触が最も多い部署。出生届を提出しに訪れた同市日ノ隈町の河津大輔さん(25)は「ウイルスは目に見えないのでこういう対策は安心する」と話していた。隣接する福岡県が緊急事態宣言の対象地域となった7日に同市で初めての感染が確認され、市民の危機感も高まっている。財政課の担当者は「業務が滞ることなく感染防止に役立てれば」と話し、今後は他の部署用も検討するという。

*9-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/510015 (佐賀新聞 2020.4.8) 休業要請2週間見送り打診、西村担当相、7都府県に
 新型コロナウイルスの感染拡大に備える改正特別措置法(新型コロナ特措法)に基づく緊急事態宣言を巡り、西村康稔経済再生担当相が対象地域となった7都府県知事とのテレビ会議で、休業要請を2週間程度見送るよう打診したことが8日、関係者への取材で分かった。感染者数の多い東京都の小池百合子知事は異論を唱えた。地方が休業要請を受けた損失補償を求めるのに対し国は拒否。双方の足並みの乱れが表面化しており、終息に向けて宣言が期待通りの効果を上げられるかどうか問われそうだ。関係者によると、特措法を担当する西村氏は8日昼、東京、大阪、千葉、神奈川、福岡など7都府県知事とテレビ会議で会談。休業要請に関し「外出自粛を第1段階として、その効果を見極めてから」として2週間程度の見送りを求めた。安倍晋三首相が7日の緊急事態宣言に伴い「2週間後には感染者の増加をピークアウト(これ以上は上昇しないという段階に)させ、減少に転じさせることができる」と述べたのを受けた対応とみられる。これに対し、小池氏は「東京は感染のスピードが速く、待てる状態ではない。統一的にではなく地域の実情に沿う対応ができるようにしてほしい」と反論。休業要請の判断を地域ごとに知事の責任で行うべきだとの意見は別の知事からも出たという。政府は7日に改正したコロナ対策の「基本的対処方針」で、宣言対象地域の知事に対し、まず住民に外出自粛を要請し、その効果を見極めた上で休業要請などを行うよう求めた。対象7都府県のうち、東京都が独自に休業要請に踏み切る考えを示す一方、6府県は「外出自粛の効果を見たい」(小川洋福岡県知事)などと当面、休業要請しない方針を示している。ただ8日の全国知事会会合で、吉村洋文大阪府知事は「行政から営業自粛を求める以上、補償は表裏一体だ」と強調。小池氏も含め賛同の声が相次いだ。背景には、地域経済や住民生活に大きく影響する休業要請を知事が出すには「補償とセットでなければ理解いただけない」(黒岩祐治神奈川県知事)との事情がある。知事会は同日、国に損失補償を強く求める緊急提言をまとめた。政府は、休業要請の対象となっていない分野でも影響があることを理由に個別補償を否定し、収入が大幅に減少した事業者に給付金を出すとの立場を崩していない。

PS(2020年4月13日追加):*10-1のように、新型コロナの感染防止対策で一斉休校していた全国の小中高校が4月6日以降は新学期をスタートさせているが、「3密」の回避には限界があるとされている。しかし、「3密の回避」や「ドアノブ・手すりの消毒」は、新型コロナ以外の感染症防止にも必要なことなので、これを機会に30人学級にして座る間隔を空けたらどうか。パソコンを置いても不自由のない大きさの机にして間隔を空けることも、子どもの数が減っており、新学期の現在なら可能だろう。
 また、「新型コロナの治療薬はない」といつまでも言われているが、実際には、*10-2のように、インフルエンザ治療薬の「アビガン」が効くことが明らかになり、日本には200万人分の備蓄があるそうだ。そのため、(他国に無償供与する前に)国内の患者に速やかに投与して治せばよいと思われる。「アビガン」は、RNAウイルス全般に効くと見られており、動物実験で催奇形性が確認されたため妊婦への使用を禁じているとしているが、それは、全員に使ってならない理由にはならない上、軽いうちに使わなければ効果が薄くなるからだ。
 そして、検査して治療することを選ばず、緊急事態宣言による外出禁止に頼った結果、*10-3のように、観光業界が「コロナで死ぬか、経済で死ぬか」という事態になっている。観光バス駐車場の利用は、前年同月と比べて99.5%減で、観光バスで働く人は職を失って再起不能になりそうなのだ。私は、動いていない観光バスを借り上げて内装を変え、駐車場に止めておけば、発熱外来や検査室として使え、テントより余程居心地が良く、一石二鳥になると思う。
 なお、ネットカフェが宿泊施設とはとうてい思えないが、*11-1のように、緊急事態宣言によるネットカフェの営業自粛で多くの人が行き場を失うので、埼玉県は県内にある73か所のネットカフェに寝泊まりしている300人ほどに上尾市のスポーツ総合センターを一時的滞在場所として開放するそうだ。しかし、ITやネットとつけば先端という時代は1990~2000年代始めに終わっているため、住居にゆとりのある地方で、*11-2のようなアルバイトをしながら、今後の生き方を考えたらいかがかと思う。

  

(図の説明:左は、現在の典型的な教室で、中央は机の間を離して配置した写真だ。どちらも、机が粗末すぎて荷物を置く場所もなく、パソコンを置けば書く場所がないという状況だ。そのため、右の写真のように、(色は白でなくてもよいが)机の幅を120cmくらいにしてパソコンを標準装備とし、生徒同士が間隔をあけて座れるよう、30人学級にすればよいと思う)

*10-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/599942/ (西日本新聞 2020/4/12) 手探りの教室「3密」回避限界も 学校再開、リスク拭えず「悩ましい」
 新型コロナウイルスの感染防止対策で一斉休校していた全国の小中高校が6日以降、続々と新学期をスタートさせている。国内では都市部を中心に感染が収まらず、今後も予測不能な中での学校再開。文部科学省は再開に際して留意点の大枠を示すが、再休校の判断など対応の多くを委ねられた教育現場は難しいかじ取りを迫られている。「今は教室内で大声を出さない方が良い、となっていますので普通の声であいさつをしましょう」。始業式を各教室で迎えた子どもたちは、校内放送で流れる教師の呼び掛けに少しくぐもった声で応じた。6日、佐賀県伊万里市の伊万里小。マスク姿の子どもたちは家庭で検温して登校、結果を記入した健康観察カードを学校に提出した。長谷川晃三郎校長は「子どもたちの心身安定のためにも始業式があって良かった」とまずは安堵(あんど)した。3月下旬に学校再開の指針を示した文科省は、毎朝の検温、マスクの全員着用を原則とし、ドアノブや手すりなどの小まめな消毒を学校に要請。特に(1)換気の悪い密閉空間(2)多くの人が密集(3)近距離での会話や発声(密接)-の3条件が重なることを徹底して回避するよう求めた。伊万里小では教室の机の間隔を空け、授業でのグループ討論は行わない。音楽では当面、歌う時間を減らし、鑑賞を中心とする。体育館で行う体育のマット運動や跳び箱も先送りし、1学期は運動場で接触の少ない授業を優先するという。長谷川校長は「学校再開のメリットデメリットはあるが、今後もどうなるか分からない」と、できる範囲での対応を強調した。それでも、同じ6日に始業式のあった同県唐津市の小学校の女性教諭(26)は「3密(密閉、密集、密接)を避けたいが、児童はくっついて遊ぶことも多く悩ましい」と困惑顔だった。
      ◇        ◇
 「3密」対策の必要性は浸透するが実際のハードルは高い。給食の時間、飛沫が飛ばないよう机を向かい合わせにせず、会話を控えるようにしても配膳などの段階で接触はある。40人近い学級であれば確保できる机の間隔はわずかだ。休校が続く福岡市の中学校に勤務する40代の女性教諭は「どんなに工夫しても問題は残る。今、学校が再開されずにむしろほっとしている」と打ち明けた。文科省も指針の中で「多くの学校においては人の密度を下げることには限界がある」とし、学校教育活動上、近距離での会話や発声が必要な場面も生じることを認める。では、どうすべきか。学校によっては、学級を二つに分けて授業をしたり、登校日を分散させたりするといった案もあるが「授業時間数や教育の質を十分に確保できるのかという課題はある」(福岡県の中学校長)。現実的にはマスクの着用と換気の徹底で乗り切るしかないのが実情だ。
      ◇        ◇
 こうした学校の状況に、大分県では「勉強の遅れは取り返せても、命は取り返せない」と、県立高校生2人が休校の延長を求め、インターネットで集めた約1600件の署名を添えた要望書を県教育委員会に提出した。しかし県教委は「意見は受け止めたが、県内の感染状況は落ち着いている」として、予定通り県立学校を8日に再開している。一方、政府の緊急事態宣言を受けて対象の福岡県内をはじめ九州の一部自治体は再休校を決めたり、学校再開の方針を転換したりしている。実は新型コロナウイルスを巡る対応で安倍晋三首相の唐突な一斉休校要請も、文科省の学校再開の指針も、科学的根拠や効果は今なお示されていない。その中で選択を迫られる教育現場からすれば「地域事情を踏まえて総合的に判断するとしか言いようがない」(宮崎県教委)と歯切れも悪くなる。過去に例のない事態と向き合う現状では、学校を休校するか、再開するか、また再開した場合に感染をどう防ぐのか、完璧な答えは見えない。教育研究家の妹尾昌俊さんは「学校は本来、安全に楽しく学べる子どもたちの居場所。しかし大勢が教室に密集する日本の学校で感染リスクを大きく低下させるのは限界がある。感染が続く地域では子どもや保護者の意思を尊重できる選択肢があってもいい。いずれにせよ全ての子に学習の遅れが生じない手だては不可欠だ」と話した。

*10-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/202004/CK2020041302100024.html (東京新聞 2020年4月13日) 「命救う薬に」コロナへの効果期待 アビガン開発者に聞く
 新型コロナウイルス感染症の緊急事態宣言を発令した七日、安倍晋三首相は治療候補薬として、インフルエンザ治療薬「アビガン」を増産する方針を表明した。開発に携わった富山大名誉教授の白木公康さん(67)は「命を救う薬として貢献できればうれしい」と語る。
◆世界も注目 30カ国が提供申し込み
 「すでに百二十例を超える投与が行われ、症状改善につながったという報告も受けている」。首相は会見でアビガンへの期待を前面に押し出し、開発企業と協力して臨床研究を進めることを表明。世界三十カ国から提供の申し入れがあり、政府は無償供与も始める。アビガンはインフルエンザ治療薬として白木さんと富山化学工業(現富士フイルム富山化学)が開発。二〇一四年に治療薬として承認され、現在は政府が新型インフルエンザ対策として二百万人分を備蓄する。
◆ウイルスに効くと直感
 岐阜市出身の白木さんは一九九一年に富山大のウイルス学研究室教授に就任。当初は帯状疱疹などを起こすヘルペスウイルスの治療薬を研究したが、既存の薬より効くものはできなかった。違うテーマでの再出発を目指していた九八年、富山化学の研究者が、同社が持つ三万個の化合物の中から試験管での実験でインフルエンザに効きそうな結果が出た物質として、アビガンを持ってきた。「構造の化学式をみた瞬間、インフルエンザなどのRNAウイルスに効くなと思った」と、白木さんは振り返る。インフルエンザや新型コロナウイルスは、遺伝子としてDNAではなくRNAを持つ。アビガンは、細胞内に侵入したウイルスが、RNAをコピーして増殖するのに必要な部品によく似た構造をしていた。ウイルスが部品と間違えてアビガンを取り込めば、RNAのコピーができなくなり増殖が止まると白木さんはみた。長年研究したヘルペスの場合、DNAで同じような働きをする薬が特効薬になっている。アビガンにはこの薬と共通点があると見抜いた。失敗経験が生きた。
◆3月に臨床試験開始
 動物実験を始めると、マウスでもインフルエンザに効くことを示せた。しかし、富山化学の経営状況が悪化したことや、既にインフルエンザ治療薬があったことなどから治験は停滞。それでも、既存の薬が効かない新型インフルエンザが出現した場合の切り札として一四年に承認された。アビガンはRNAのコピーという、ウイルス増殖の基本的な仕組みを妨げるため、白木さんは「インフルエンザ以外のRNAウイルス全般に効く」とみていた。実際、一四年からアフリカで猛威を振るったエボラ出血熱にも使用された。標準的な治療薬には選ばれなかったが、ギニアでは死亡率を低下させたとの研究成果もある。コロナウイルスでも同様の効果を期待して、藤田医科大(愛知県豊明市)が三月に臨床研究を開始。首相はこうした研究成果を念頭に「効果が出ている」と発言したとみられる。富士フイルム富山化学も今月三日にアビガンの治験を始め、六月末までに結果をまとめる。既に増産にも乗り出した。
◆「緊急事態に使う薬に」
 ただ、アビガンは動物の試験で、胎児に奇形を生じる催奇形性が確認された。人での治験では大きな副作用は確認されなかったが、インフル治療薬として妊婦への使用を禁じている。日本医師会の横倉義武会長もアビガンの治験への協力を表明する一方で「生殖期への影響が強い。注意しながら使うことが重要だ」と強調する。白木さん自身、コロナウイルスへの有効性が確認されたとしても「いつでも広く使うのではなく、現在のような緊急事態に命を救う薬という位置付けになる」とみる。一方で「肺の炎症は、高齢になってから後遺症が出ることもある。肺で炎症のある患者には早い時期から投与する必要がある」と指摘する。

*10-3:https://digital.asahi.com/articles/ASN475T44N47IIPE01F.html (朝日新聞 2020年4月9日) 「コロナで死ぬか、経済で死ぬか」北海道・小樽のいま
 新型コロナウイルスの影響が長期化し、観光業界が苦境に立たされている。政府は7日に緊急事態宣言を出し、新たな経済対策をまとめたが、事態の収束は見通せない。国内有数の観光地、北海道小樽市では「もう限界に近い」との声が上がる。
●観光バス99.5%減の衝撃
 今月初旬、小樽市が集計した数値が地元関係者に衝撃を与えた。2月まで多くの人が行き交っていた小樽運河近くの観光バス駐車場の利用が、3月は6台にとどまった。前年同月(1343台)と比べると99・5%減。「観光客が消えた」と市の担当者は表現する。緊急事態宣言の対象は東京や大阪、福岡など7都府県で、北海道は含まれなかったが、観光需要の回復は当面見込めない。約100店舗が軒を連ねる小樽堺町通り商店街では、厳しい現状を訴える声があふれる。「コロナで死ぬか、経済で死ぬか」。昆布専門店「利尻屋みのや」の社長、簑谷和臣さん(50)はそう話す。3月の売り上げは前年の24%。例年、観光客が増える夏に向けて売り上げが伸びるため、このままでは4月の売り上げは前年の10%、5月は5%になる恐れがあるという。31人の従業員の雇用は最後まで維持する考えだが、「あと何カ月、給料を払えるだろうか」と苦しい胸の内を明かす。政府の経済対策、とりわけ即効性がある現金給付に期待を寄せるが、事態が長期化すれば焼け石に水になってしまう。「収束が最大の経済対策だ」と簑谷さんは話す。
●海鮮丼専門店、アルバイトは全員休み
 海鮮丼の専門店「どんぶり茶屋」では、3月の売り上げが前年の2~3割という。十数人のアルバイトは全員休んでもらい、他に仕事が見つかればそちらを優先してほしいと伝えたという。運営会社の外食部門の責任者、大野大輔さん(43)は「先が見えないのが一番不安。打つ手がない。今は耐えるしかない」と話す。アクセサリー店「3Ring(サンリング)」では、3月の売り上げが半減した。運営会社の副社長、淡路祐介さん(39)は「他のお店と比べれば、うちはまだマシかもしれない」。それでも、運転資金を確保するために数百万円の融資を受ける検討をしている。当初は5月までの収束を期待していたが、緊急事態宣言であきらめざるを得ない状況だ。「このままでは、また融資、また融資となりかねない。夏までに収束しないと、商店街でも事業を縮小するお店が増えてくるかもしれない」と淡路さんは言う。

*11-1:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200412/k10012383281000.html (NHK 2020年4月12日) ネットカフェ営業自粛で行き場失う人に県施設を無料開放 埼玉
 新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言を受けて、埼玉県は人が集まりやすい施設などに13日からの休業を要請していますが、インターネットカフェの営業自粛で多くの人が行き場を失うおそれがあるため、一時的な滞在場所として、県の施設を12日夜から開放することを決めました。緊急事態宣言を受け、埼玉県は人が集まりやすい施設などに13日午前0時からの休業を要請していて、対象の施設には24時間営業のインターネットカフェも含まれています。しかし、県によりますと、県内にある73か所のインターネットカフェには、300人ほどが寝泊まりを続けているとみられるということで、こうした人たちが行き場を失うおそれがあるため、上尾市にある県のスポーツ総合センターを一時的な滞在場所として、12日夜から開放することを決めました。和室と洋室合わせて30部屋におよそ200人が宿泊でき、県内のインターネットカフェを利用していた人は、原則、無料で1週間、滞在できるということです。施設の開放は12日午後8時から来月6日まで行われ、利用する場合は午前9時から午後6時までは「048-830-8141」、午後6時以降は「048-774-5551」まで連絡が必要だということです。

*11-2:https://www.jomo-news.co.jp/news/gunma/politics/206266 (上毛新聞 2020/4/13) 嬬恋キャベツに人手を 新型コロナで宿泊や飲食の余剰人材へ募集
 新型コロナウイルス拡大防止の水際対策強化に伴う入国制限などの影響で、外国人技能実習生らが来日できず深刻な人手不足が懸念される中、群馬県嬬恋村のキャベツ農家でつくる嬬恋キャベツ振興事業協同組合(干川秀一理事長)は12日までに、客数の落ち込みで人手余剰感がある宿泊施設や飲食店の従業員を一時的に雇い入れる農家を紹介しようと募集を始めた。村内の農家に必要な計約220人の確保を目指す。新型コロナ問題による労働者の不足と余剰を結び付け、非常時を乗り切りたい考えだ。
◎収穫終える10月まで 繁忙期などは配慮
 政府は中国やベトナムなど73カ国・地域からの入国制限をしており、同組合は実習生の入国遅れが長期化すると判断し、対応を協議してきた。キャベツの栽培管理や収穫作業は人手が必要のため実習生に頼っている。それぞれの農家は当初、今月20日ごろから栽培作業を実習生に始めてもらう段取りを取っていたという。入国制限が解除された場合でも、入国手続きには1カ月以上かかる見込み。このため今年の入国調整を見送り、収穫を終える10月ごろまでを他業種に従事する日本人や在日外国人らの一時的な雇い入れで補いたい方針だ。農家で人手不足が深刻となる一方、宿泊や飲食といった業界では外出自粛などのあおりで来客数が大幅に減少し稼働率が低下しているほか、製造業などでも海外からの部品調達が滞るなどして工場が停止し、従業員が自宅待機となるケースもあるという。同組合は、一時的に余剰感が生じたこうした業界で働く人を、キャベツ栽培農家が雇えるよう橋渡しをする。村内の観光業者や商工業者にチラシを配り、雇い止めや一時休業を考えている経営者に対して従業員の雇用確保策としても呼び掛ける。同組合はJA系統外の農家などでつくる団体だが、JA嬬恋村に支援を求める農家に対しても応募者をつなぎ、村全体のキャベツ農家に人材を提供していく考え。村内では約120戸が計約220人の人員を求めているという。新型コロナウイルスの状況次第だが、同組合事務局は「夏休みなどに繁忙期となるホテル従業員には配慮したい。短時間でもいいので村内外から一緒に頑張りたい人に来てほしい」としている。問い合わせは同組合の電子メール(fhashi18@gmail.com)へ。

<検査・治療に帰国者・接触者相談センターや保健所を通すのが誤りだ>
PS(2020年4月15、16、17日追加):*12-1のように、「新型コロナの感染が拡大し、クラスター追跡が遅れて保健所がパンクしているのが危機だ」と記載されているが、“積極的疫学調査”と称するクラスターの追跡は、(原爆症の調査を思い出すが)疫学調査のための調査であって、治療のための迅速な検査になっていない。さらに、東京都の感染者の約7~8割が感染経路不明というのも、公共交通機関・職場・歓楽街などで接した不特定多数の人の全てを報告することなどできるわけがないため当然で、有用な疫学調査にもなっていない。現在は、クラスターを追跡して無症状の人を隔離するよりも、症状の出た人を素早く検査して治療し、重症化する前に治すことが必要な段階なのである。
 京都大付属病院と京都府立医科大付属病院が、*12-2のように、新型コロナの院内感染を防ぐために、手術や救急医療を受ける患者に対して症状がなくてもPCR検査を公費で行うか保険適用するよう求める共同声明を発表し、対策が遅れれば医療崩壊に繋がると訴えている。他の病気で病院を訪れる人でも新型コロナに感染していないという保証はないため、手術や救急医療などの治療を受ける患者に検査を行うのは当然だ。そのため、治療の一環として検査を保険適用にすればよく、*12-4のような15分で判定できる高価すぎない検査キットをクラボウの中国の提携先が開発し、4月16日以降、1日1万テスト分を供給するそうだ。
 さらに、*12-3のように、北海道新聞も社説で「新型コロナの検査態勢拡充に手を尽くしたい」と記載しているが、検査方法はPCR検査だけではないため要注意だ。確かに、医師が感染を疑って検査を求めても保健所などが拒否するケースが多すぎ、まだ「感染者や渡航歴がある人などとの濃厚接触」を条件にしているのは現実に合っていない。そのため、先行事例や提言を参考にして工夫すべきだが、専門技師が不足しているからといって、「感染したら重症化するリスクが高いのは高齢者」などと年齢差別的な報道を繰り返しながら、停年退職者に検査を担わせようと考えるのは筋が違うため、リスクが低いと言わている人が対応すべきだ。
 新型コロナの国内感染者数は、*12-5のように、「ダイヤモンド・プリンセス」の乗客乗員分を合わせて1万2人となり、三重県四日市市では発熱して自宅療養中だった50代男性が死亡し、感染していたことが判明したそうだ。これは、東京在住の私のいとこ(40代男性)が、①微熱が続くのでかかりつけ医に行ったら「保健所に相談して」と言われ ②保健所は「軽症だから検査しない」と言い ③最初は37.5 度だった熱が4日後には40度になって ④苦しいので保健所に電話したら電話が通じず ⑤やっとPCA検査を受けたら結果が出るまで3日かかると言われ ⑥状態が著しく悪化したためPCA検査の結果を待たずに救急車で病院に行ったら ⑦「軽症だから公共交通機関で帰ってくれ」と言われ ⑧救急車の中で6時間も待たされた後にやっと入院できて酸素吸入を受け ⑨後でPCA検査の結果が陽性だったことがわかった というのと同じケースだと思うが、私のいとこも救急車で病院に行かなかったら「発熱して自宅療養中だった40代の男性が死亡し、死亡後に陽性だったことが確認された」などというくだらない報告になっていたところだった。つまり、日本は、とんでもない医療放棄国になってしまったのだが、①の段階で直ちに検査し、③になる前にアビガンを投与していれば、とっくに治って救急車や救急救命室を占有する必要もなかったのである。また、⑤については、結果が早く出る検査方法を使った方がよく、新型コロナの症状を出している人が⑦のように公共交通機関を使えば、東京で新型コロナが蔓延するのは当然で、どこかおかしい。
 なお、新型コロナの治療効果が期待されるアビガン(対症療法ではなく根本的治療薬である)は、*12-6のように、⑩政府は備蓄を3倍の200万人分へ増やす計画を掲げているが ⑪通常であれば中国に依存していた原料の国内生産切り替えには時間がかかる(何でも時間がかかるが、時間をかければ勝負は終わっている) ⑫緊急事態の対応で規制緩和など官民を挙げた取り組みを加速する必要がある そうだ。しかし、日本で開発された付加価値の高い医薬品でも国内で生産すればコストが高いため中国に依存していたのは情けないし、政府は今が必要な時なのだから備蓄を迅速に提供すべきだ。そして、政府が短期間で承認したいのに、厚労省が「条件付き承認でも審査に数カ月がかかる」等と言っているのは、厚労省の怠慢である。

     
 2020.4.6東京新聞   2020.4.10Yahoo  2020.3.6東京新聞

(図の説明:1番左と左から2番目のグラフのように、東京始め日本で新型コロナ感染者が等比級数的に増え、いくつかの都府県で緊急事態宣言が出された。しかし、右から2番目の図のように、37.5度以上の発熱が4日以上続き、患者が崩壊しそうになって初めて保健所や帰国者・接触者相談センターに電話相談することができ、そこの電話は繋がりにくい上に繋がっても事務的な説明をして検査を断られるケースが多く、新型コロナ感染者がやむなく自宅待機してさらに感染者を増やしている状況だ。が、1番右の図のように、迅速に検査して治療しなければアビガン等の治療薬は効かないため、保健所や帰国者・接触者相談センターへの事前相談はやめて迅速な検査と投薬で治す体制に変えるべきだ。そして、そのための準備は、ダイヤモンド・プリンセス号の経験以来、2月~3月中旬までの時間稼ぎをしている期間にやっておくべきだったのに、いつまで同じことを言って経済を停滞させ、無駄遣いばかりしているのか)

*12-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58024420U0A410C2EA1000/ (日経新聞 2020.4.15) クラスター追跡に遅れ 感染拡大、駅な保健所パンクの危機
 新型コロナウイルスの感染が拡大する中、感染経路の調査を担う保健所の負担が急激に重くなっている。感染者や濃厚接触者が加速度的に増え続け、調査に非協力的な人も多い。保健所がパンクすると、クラスター(小規模な感染者集団)の発見が困難になり、感染が一段と拡大しかねない。態勢増強や業務分散が急務だ。「保健所は今、新型コロナとの闘いの主戦場だ。現場は疲弊しており、何とかしなければならない」。政府の専門家会議の尾身茂副座長は窮状を訴える。保健所は都道府県や政令市、中核市などが設置主体で、医師や看護師、保健師らが配置されている。聞き取りなどを通じ濃厚接触者を捜し出したり、体調を確認したりする「積極的疫学調査」を担う。全国に472カ所(2019年度)ある。国は感染拡大防止のため、クラスター追跡を重要施策に掲げる。尾身氏が危機感を隠さないのううは、感染者や濃厚接触者の急増で、保健所によるクラスター追跡に遅れが生じているためだ。このところ東京都で見つかる感染者のうち、約7~8割は感染経路が不明だ。都の担当者は「保健所からの情報がほとんどなく、背景がよく分からない。受診者が増えて聞き取り調査が十分できていない可能性がある」と明かす。厚生労働省によると、感染者1人あたりの濃厚接触者数はゼロから100人近くと大きな幅がある。自宅で安静にしていたか、外出していたかで大きく異なる。保健所は感染者の行動履歴から濃厚接触者を割り出すが、行動範囲の広い若者や中高年の感染者が増え、追い切れなくなっているという。歓楽街でのクラスターの関係者は聞き取りにも非協力的なことが少なくない。

*12-2:https://www.jiji.com/jc/article?k=2020041501037&g=soc (時事 2020年4月15日) 無症状でもPCR検査を 京大病院など共同声明―新型コロナ
 京都大付属病院と京都府立医科大付属病院は15日、新型コロナウイルスの院内感染を防ぐため、手術や救急医療を受ける患者に対し、症状がなくてもPCR検査を公費で行うか保険適用するよう求める共同声明を発表した。対策が遅れれば医療崩壊につながると訴えた。声明は無症状であっても感染者に手術や分娩(ぶんべん)、内視鏡検査をすれば、医師や周囲の患者らに感染させる可能性があると指摘。現在は症状がある患者だけに保険が適用され、無症状のケースで実施した場合に病院側が費用を負担すれば経営を逼迫(ひっぱく)させるとした。また、PCR検査に必要な試薬や、感染を防ぐ防護具の確保も求め、厚生労働省に要望書を提出するという。京大病院の宮本享病院長は記者会見で、「臨床現場の悲鳴でもあり、この危機感は日本中の医療関係者が共有している」と話し、他の医療団体に賛同を求めた。

*12-3:https://www.hokkaido-np.co.jp/article/412751 (北海道新聞社説 2020.4.16) コロナ検査態勢 拡充に手を尽くしたい
 新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐには、PCR検査の拡充が不可欠だ。なのに、遅々として進まない現実がある。道内の帰国者・接触者相談センターの健康相談は2、3月で1万8544件に上ったが、検査に至ったのは1・8%の349件で全国3番目の低さだった。検査ができないと、感染に不安を感じる人たちが医療機関を受診して、ウイルスをうつしたり、うつされたりする恐れがある。安倍晋三首相は今月6日、検査の可能数を1日2万件にすると述べたが、実施は8千件を下回っており、目標にはほど遠い。国は地方任せにせず、財政措置を講じて検査態勢を整え、加速させるよう手を尽くすべきだ。北海道保険医会の調査では、会員の医師が感染を疑い検査を求め、保健所などに拒否されたケースが111例あった。「感染者や渡航歴がある人などとの濃厚接触がない」などが理由である。国は感染経路から濃厚接触者を追って検査し、感染爆発を抑える手法を取ってきた。検査数の少なさは国の方針に従ったためだ。だが、感染経路が不明な人が増え、段階は変わった。検査の拡充に重点を移す必要がある。検査数という分母が感染の実態を反映していないと、科学的な統計と知見に基づいた対策を打つこともできない。感染の有無が分かれば、重症者に対して感染症指定医療機関で優先的に治療を行い、軽症者は自宅や宿泊施設で療養してもらうトリアージもしやすくなろう。それにしても日本の検査数は驚くほど少ない。ドイツの検査数は日本の約30倍に上るという調査結果もある。大量検査で早期発見に努め、重症化を阻止している。ドライブスルー方式や訪問型の検査などで院内感染を防ぎ、民間の協力を得て24時間態勢でスピードアップを図っているという。韓国で普及しているウオーキングスルー方式も有効だ。野外にブースを設けて検体を採取するため、車を持たない人でも検査ができ、飛沫(ひまつ)感染のリスクも低い。日本医師会は採血で行う抗体検査を要請している。医療従事者の感染リスクが減り、免疫獲得の確認などに適しているそうだ。こうした先行事例や提言を参考に工夫を凝らしてほしい。検査数が伸びないのは専門技師らが不足していることもある。退職者ら検査を担える人に応援を求めることも必要だろう。

*12-4:https://www.chemicaldaily.co.jp/%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%9C%E3%82%A6%E3%80%80%EF%BC%91%EF%・・ (化学工業日報 2020年3月13日) クラボウ 15分で判定 新型コロナ検査キット
 クラボウは12日、新型コロナウイルスの検査キットを16日に発売すると発表した。イムノクロマト法を用い、15分で感染の有無を目視で判定できる。衛生研究所や臨床検査会社などに、1日当たり1万テスト分を供給する計画。イムノクロマト法による新型コロナの迅速検査キットは国内初とみられる。保険適用を視野に入れている。検査キットはクラボウの中国提携先が開発。これまでに1000例以上の臨床データがあり、同国では4日に標準診断法のガイドラインに採用された。10マイクロリットルの血液をキットに滴下するだけで診断でき、PCR法と比較して時間、コストなどを削減できる。血液検査のため、検査作業者への2次感染のリスクも軽減できる。キットは感染時に体内で生成される特定の抗体を検出する。PCR法で検出が難しいとされている感染初期でも判定できる。PCR法は検体中のウイルス量の影響を受けやすいが、同キットは血液中に抗体が存在すれば判定可能。サンプル採取の方法や部位による偽陰性も出にくい。感染の初期段階で生成される抗体「IgM」用と感染後長期間にわたり最も多く生成される抗体「IgG」用の2種類を用意し、正診率はそれぞれ95・72%、94・24%。陰性判定率については、ともに100%。併用することで検査精度は高まる。2種ともに価格は税別で2万5000円。同社環境メカトロニクス事業部バイオメディカル部は、イムノクロマト法などを用いた食品中の成分や食中毒菌などのDNAを判定する試薬キットを開発・販売している。今回、新型コロナの感染拡大を受けて、中国の提携先が開発したキットの輸入、販売に踏み切った。

*12-5:https://mainichi.jp/articles/20200416/k00/00m/040/248000c?cx_fm=mailsokuho&cx_ml=article (毎日新聞 2020年4月16日) 国内感染者1万人超え、クルーズ船含め 死者203人に
 新型コロナウイルスは16日、東京都の149人など新たに576人の感染が判明した。クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の乗客乗員を合わせた国内の感染者数は計1万2人になった。13人が亡くなり、死者は計203人になった。三重、大分、沖縄の3県での死亡は初めて。大阪府では52人の感染が確認され、感染者数は1000人を超えた。和歌山県では両親の感染が既に判明していた0歳女児の陽性が新たに確認された。三重県四日市市では発熱して自宅で療養中だった50代男性が死亡し、感染していたことが判明した。

*12-6:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200417&ng=DGKKZO58155130W0A410C2EA1000 (日経新聞 2020.4.17) アビガン原料、中国頼み、政府、備蓄3倍の200万人分めざすが…国内生産移行へ総力戦
 新型コロナウイルスに対する治療効果が期待される富士フイルムホールディングスの抗インフルエンザ薬「アビガン」。政府は備蓄を3倍の200万人分へ増やす計画を掲げるが、通常であれば中国に依存していた原料の国内生産切り替えには時間がかかる。緊急事態の対応で規制緩和など官民を挙げた取り組みを加速する必要がある。
●特許切れ後発薬
 アビガンはウイルスが体内で増殖するのを防ぐ仕組みで、コロナ治療に効果があったという報告がある。政府はパンデミック(世界的な大流行)に備えてアビガンを備蓄していたが、1人の治療にインフルの3倍量が必要ということが分かり、現在の200万人分は70万人分にしかならず、富士フイルムに増産を指示した。アビガンは海外で基本特許が切れており、原料を製造する中国では同じ成分の後発薬の生産も始まった。国内への原料輸入が難しい状況となり、富士フイルムは国内で原料を製造する能力があるデンカに委託し、国内生産にシフト。7月から本格的な増産を始める計画を公表した。本来、医薬品の原材料を変更するには時間がかかる。原料の調達先変更を申請する場合「通常なら品質の確認や登録手続きに1年程度かかる」(国内の中堅製薬)という。今回は特例的な措置で、こうした手続きが1~2カ月程度に短縮されたようだ。ただ本格的な増産は7月以降とみられ、3カ月程度を要する。コストもかさむ。製薬会社が海外から原料を調達するのは製造原価を下げるためだ。錠剤など一般的な医薬品は化学合成でつくられ、化学物質に溶媒や材料を加えて化学反応を起こす。有毒なガスや排水が発生するため処理コストもかかる。種類や濃度にもよるが日本の医薬品の排水処理費用は1キログラムあたり数十円から数百円とされ、中国やインドなど海外の10倍ともいわれる。国内で原料から製造すると薬価50円の薬に、100円以上のコストが発生することも考えられる。原料生産を内製化できれば、200万人分の目標は達成できる。ただ国内製造だと製造原価も高くなる。製造コストに見合う薬価を設定し、その価格を維持していく支援も必要だ。インフルエンザの代表的な治療薬タミフルは1日2回、5日間の服用で2700円程度かかる。仮にアビガンがタミフルと同価格で3倍量が必要とすると、1人分の薬剤費は8100円。200万人分なら162億円となる計算だ。原薬の海外依存は日本の構造的な問題だ。厚生労働省が2013年に実施した後発薬の調達状況に関する調査によると、原薬をすべて国内で調達しているものは金額ベースで3割にとどまっている。残る7割は原薬の全部もしくは一部を海外から輸入。調達先を金額で比較するとインド(30%)、韓国(26%)、中国(24%)となっていた。薬価の引き下げ圧力は強まっており、現在は海外調達の比率はさらに高まっているとみられる。
●審査には数カ月
 アビガンについては実用化の時期も注目される。政府は短期間でアビガンを承認したい考えだが、厚労省は慎重な姿勢を崩さない。一般的に医薬品は申請から承認まで半年以上。アビガンの臨床試験(治験)は6月末に終了する見通しだ。「副作用などデータの評価、専門家の意見といったプロセスは必須。条件付きの承認でも審査に数カ月がかかるだろう」(元厚労省の薬事担当者)。今回は日本の製薬会社が開発した薬であっても、原料の多くを中国に依存していたため、機動的に増産することができない現実が露呈した。デンカは原料となるマロン酸の製造から17年に撤退していたが、製造設備を残しており、人員の手当てで再生産できることが分かった。デンカが生産できるのは幸運にすぎず、原料を海外に頼る日本の医薬品製造に対する構造的な問題は依然として残ったままだ。新型コロナで浮かび上がった日本の医薬品の供給体制の危うさを解消するためにも、国内生産に対する価格評価や緊急時の審査の仕組みなど柔軟な制度を今こそ再構築する必要があるだろう。

| 日本国憲法::2019.3~ | 02:39 PM | comments (x) | trackback (x) |
2019.11.25 自民党の改憲案と護憲論について ← 護憲が保守で改憲が革新の筈だが・・ (2019年11月27、28、29日、12月1、2、3、5、6、9、10、12日に追加あり)
 
                大日本帝国憲法との比較 2018.3.22朝日新聞

(図の説明:1番左は、日本国憲法成立時の原本で、左から2番目は、大日本帝国憲法との要点の比較である。また、右から2番目は、2018年の自民党改憲案で、1番右は、日本国憲法が成立から72年間改憲していないとする図だが、「長く改憲していないから」というのは「連合国から押し付けられた憲法だから」というのと同様、改憲する理由にはならない)

 私が表題に、「護憲が保守で憲法変更勢力が革新の筈だが・・」というコメントをつけたのは、現在、「保守」を標榜する人々が改憲を主張し、現行憲法を護ろうとする人々を「革新」と呼ぶ逆の事態になっているからで、これは、現在では、「保守」「革新」という言葉で国民を色分けすることが無意味になっていることを意味すると同時に、現行憲法が少なからず無視されてきたことを意味している。

(1)自民党改憲案について
1)憲法9条(戦争放棄)に、9条の2を創設する案
 *1-1の自民党改憲案は、9条全体を維持した上で、次に9条の2を追加して、「①1項:前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する」「②2項:自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する」としている。

 しかし、①は9条と比較して冗長で、目的と行動に論理的整合性があるとは言えない。また、②は、内閣総理大臣が戦争を始めてしまった後では、戦争反対や自衛隊の行動制限は国益に反するため国会も言い出しにくくなり、追認せざるを得ないだろう。

 太平洋戦争の時は、戦争に反対する内閣総理大臣は殺されたり、失脚させられたりして、戦争に反対しない人が内閣総理大臣になるまで交替させられた。外務省の重要ポストも、戦争推進派が占めるまで人事異動が続いたそうだ。つまり、それらの反省の上に立っている現行憲法の方が、より平和を担保している上に、文章としてもずっとスマートなのである。

 そのため、「時代とともに状況が変わったから」「現行憲法は外国の押し付けだから」などとして改憲を主張するだけでなく、*1-2-1・*1-2-2・*1-2-3・*1-2-4・*1-2-5等の根源的な問いに論理的に答えた上に、現行憲法よりも改憲案の方が優れている理由を明快に説明できなければ、改憲の提案はできないと考える。

2)73条(内閣の職権)に、73条の2・第64条の2の緊急事態条項を新設する案
 *1-1の自民党改憲案は、内閣の事務を定める第73条の次に第73条の2「①1項:大地震その他の異常かつ大規模な災害により、国会による法律の制定を待ついとまがないと認める特別の事情があるときは、内閣は、法律で定めるところにより、国民の生命、身体及び財産を保護するため、政令を制定することができる」「②2項:内閣は、前項の政令を制定したときは、法律で定めるところにより、速やかに国会の承認を求めなければならない」を追加している。

 しかし、①は、「特別の事情がある時は、内閣は国会による法律の制定によらずに、政令を制定することができる」としているのであり、自然災害によるものだけに限定される保証はない。これは、*1-3-1のように、緊急事態条項が、大規模災害や戦争など国家そのものの存立が脅かされる可能性がある場合に、全体の利益のために個人の権利を抑制する考え方である「国家緊急権」の思想に基づいていることから明らかだ。

 緊急時とは、2012年の自民党改憲案では「外部からの武力攻撃」「内乱」なども入っていたため、次第に拡大解釈されたり、強制になったりすることが想定内だ。これは、*1-3-2のマイナンバーカードが、最初は個人情報保護の観点から「取得は自由だ」と言って導入されながら、今では国民監視の目的を現し始めて次第に取得を強要しだしており、同じような流れであるため要注意なのである。

 さらに、*1-1の自民党改憲案は、国会の章の末尾に、特例規定として64条の2「③大地震その他の異常かつ大規模な災害に議員より、衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の適正な実施が困難であると認めるときは、国会は、法律で定めるところにより、各議院の出席議員の3分の2以上の多数で、その任期の特例を定めることができる」を追加している。

 しかし、*1-3-1のように、2011年の東日本大震災では被災地の地方選を延期した経緯があり、改憲しなくても災害時には臨機応変に対応できる。それよりもむしろ、国会の審議を経ない緊急の政令により、国民の権利が堂々と損なわれる状況を作る方が危いのである。

3)参院選「合区」解消のために、47条を変更する案
 *1-1の自民党改憲案は、「参院選における合区を解消するため」として、47条を「①1項:両議院の議員の選挙について、選挙区を設けるときは、人口を基本とし、行政区画、地域的な一体性、地勢等を総合的に勘案して、選挙区及び各選挙区において選挙すべき議員の数を定めるものとする。参議院議員の全部又は一部の選挙について、広域の地方公共団体のそれぞれの区域を選挙区とする場合には、改選ごとに各選挙区において少なくとも1人を選挙すべきものとすることができる」「②2項:前項に定めるもののほか、選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める」と変更しようとしている。

 しかしながら、現行憲法の47条は、「選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める」としか書かれておらず、詳細は公職選挙法で定められているため、改憲ではなく公職選挙法を変更すれば済む上、憲法としては現行憲法の方が簡潔で読みやすく、スマートでもある。また、選挙制度の変更なら、民主主義を実効あるものにするために、参議院議員の合区解消だけでなく、衆参両議院の選び方を総合的に考慮する必要があると考える。

4)地方自治の基本原理である第92条を変更する案
 *1-1の自民党改憲案では、92条を「地方公共団体は、基礎的な地方公共団体及びこれを包括する広域の地方公共団体とすることを基本とし、その種類並びに組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律でこれを定める」と変更することになっているが、この文章にも憲法にそぐわない稚拙さがある。

 現行憲法の92条は「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律でこれを定める」とだけ書いてあり、その法律が地方自治法であるため、変更した方がよい点があるのなら地方自治法を変更すればよい。そして、現在では、重要なことは、既に定められている憲法や地方自治法を護っているかどうかになっているのだ。

5)教育の充実のためとして、26条3項、89条を変更する案
 *1-1の自民党改憲案は、教育の充実のため、26条1、2項は現行のまま、3項を加えて「①3項:国は、教育が国民一人一人の人格の完成を目指し、その幸福の追求に欠くことのできないものであり、かつ、国の未来を切り拓く上で極めて重要な役割を担うものであることに鑑み、各個人の経済的理由にかかわらず教育を受ける機会を確保することを含め、教育環境の整備に努めなければならない」と変更し、さらに89条を「②公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の監督が及ばない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない」となっている。

 しかし、①は、憲法には書かれていないが、教育基本法には既に書かれていることであり、それでも足りない部分があれば教育基本法を変更すればよいため、改憲する必要はない。さらに、②は、現行憲法では「公の支配に属しない」とされている文言を「公の監督が及ばない」としてむしろ支出の制限を甘くしており、これは私立学校や私立の幼稚園・保育所に補助するための変更だろうが、その意図とそれによって生じる結果をしっかり議論して明確にすべきだ。

(2)主権在民を徹底するために、やるべき改憲はこれである
 *2の日本国憲法の第7章の財政を見ればわかるとおり、予算に関しては、第83条~第89条まであるが、決算に関しては、90条の「①国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。会計検査院の組織及び権限は、法律でこれを定める」と91条の「②内閣は、国会及び国民に対し、定期に、少くとも毎年一回、国の財政状況について報告しなければならない」しかない。

 そして、①によれば、毎年会計検査院が検査し、内閣が次年度に検査報告とともに国会に提出しなければならないのは国の収支だけで、国の財政状況については提出する必要がなく、国民への報告も義務付けられていない。また、②によれば、内閣は、国会や国民に対して少なくとも年に1回、国の財政状況について報告しなければならないが、会計検査院の検査は義務付けられておらず、収支の報告はしなくてよい。つまり、これは、条文数の問題ではなく、内容の不十分さの問題であり、政府の非効率な支出(無駄遣い)と国民負担増の温床となっているものだ。

 そのため、90条は「1項:国の財政状態及び収支の状況は、複式簿記で記帳した上で、毎年決算を行って財務諸表を作成し、会計検査院が検査するとともに、監査法人がこれを監査しなければならない。」「2項:会計検査院の組織及び権限は、法律でこれを定める。」と変更し、91条は「内閣は、国の財政状態及び収支の状況を示す財務諸表を、その検査報告書、監査報告書とともに、次年度には国会及び国民に提出しなければならない。」と変更すべきだ。これに伴って、*2-2の財政法も、当然、現金主義・単年度主義から発生主義に変更しなければならない。

 これを一般企業に例えれば、会計検査院は内閣総理大臣の支配下にあるため内部監査人の位置づけで、監査法人が外部監査人の役割を果たすことになり、国の会計情報に本物のチェックが働いた後に、毎年、納税者である国民に開示されることになる。そして、予算は、前年度の決算書を見ながら議論すべきであり、それは可能だ。

・・参考資料・・
<自民党改憲案>
*1-1:http://www.sankei.com/politics/news/180325/plt1803250054-n1.html (産経新聞 2018.3.25) 【自民党大会】「改憲4項目」条文素案全文
【9条改正】
第9条の2
(第1項)前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。
(第2項)自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。
(※第9条全体を維持した上で、その次に追加)
【緊急事態条項】
第73条の2
(第1項)大地震その他の異常かつ大規模な災害により、国会による法律の制定を待ついとまがないと認める特別の事情があるときは、内閣は、法律で定めるところにより、国民の生命、身体及び財産を保護するため、政令を制定することができる。
(第2項)内閣は、前項の政令を制定したときは、法律で定めるところにより、速やかに国会の承認を求めなければならない。
(※内閣の事務を定める第73条の次に追加)
第64条の2
 大地震その他の異常かつ大規模な災害により、衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の適正な実施が困難であると認めるときは、国会は、法律で定めるところにより、各議院の出席議員の3分の2以上の多数で、その任期の特例を定めることができる。
(※国会の章の末尾に特例規定として追加)
【参院選「合区」解消】
第47条
 両議院の議員の選挙について、選挙区を設けるときは、人口を基本とし、行政区画、地域的な一体性、地勢等を総合的に勘案して、選挙区及び各選挙区において選挙すべき議員の数を定めるものとする。参議院議員の全部又は一部の選挙について、広域の地方公共団体のそれぞれの区域を選挙区とする場合には、改選ごとに各選挙区において少なくとも1人を選挙すべきものとすることができる。
 前項に定めるもののほか、選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。
第92条
 地方公共団体は、基礎的な地方公共団体及びこれを包括する広域の地方公共団体とすることを基本とし、その種類並びに組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律でこれを定める。
【教育の充実】
第26条
(第1、2項は現行のまま)
(第3項)国は、教育が国民一人一人の人格の完成を目指し、その幸福の追求に欠くことのできないものであり、かつ、国の未来を切り拓く上で極めて重要な役割を担うものであることに鑑み、各個人の経済的理由にかかわらず教育を受ける機会を確保することを含め、教育環境の整備に努めなければならない。
第89条
 公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の監督が及ばない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。

*1-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180503&ng=DGKKZO30115360S8A500C1M10900 (日経新聞 2018年5月3日) 自衛隊明記、与野党で対立、自民改憲案、衆参憲法審へ
 与野党による今後の憲法改正論議は、自民党が3月にまとめた改憲案がたたき台になる。柱は(1)自衛隊の明記(2)緊急事態条項(3)参院選の「合区」解消(4)教育充実――の4項目。自民党は衆参両院の憲法審査会で説明し、各党と議論する。自衛隊の明記などで与野党が対立する構図だ。自民党案のポイントを読み解いた。自民党憲法改正推進本部がまとめた9条の改正条文案は、現在の9条を維持して、「9条の2」を新設する内容だ。新たな条文を追加する「加憲」とすることで、公明党の理解を得たい考えだ。自民党にとっての最大のポイントは「自衛隊」の保持を明記することだ。憲法に「自衛隊」を明確に位置付けて、自衛隊違憲論を解消する狙いがある。政府はこれまで、自衛隊は国の自衛に必要な必要最小限度の実力組織であり、2項で保持を禁じる「戦力」には当たらないと解釈してきた。しかし、一部の憲法学者はこの解釈を疑問視し、安倍晋三首相は「ほとんどの教科書に自衛隊は違憲の疑いがあるという記述がある」と指摘する。自衛隊については「我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織」と定義した。首相が自衛隊の「最高の指揮監督者」と明記。自衛隊の行動は「国会の承認その他の統制に服する」とも記し、自衛隊の任務や予算が国会の管理の下にあることも盛り込んだ。自衛隊法の規定を引用する形で、文民統制(シビリアンコントロール)の考え方を明示した。今後の与野党協議では、自衛隊の任務と活動範囲が論点になりそうだ。首相は自衛隊を明記しても、これまでの自衛隊活動に関する憲法解釈を変える考えはないと説明する。野党は自民案にある「自衛の措置」との表現が曖昧であり「集団的自衛権の行使拡大につながる」と懸念する。「後法は前法に優越する」という法解釈の基本原則を念頭に、戦争放棄や戦力不保持の今の規定が「空文化する可能性は排除できない」(立憲民主党の福山哲郎幹事長)との批判もある。そもそも自民党改憲推進本部が当初示した条文案は「必要最小限度の実力組織」として「自衛隊を保持する」と表現していた。党内から「誰が『必要最小限度』を判断するのか」などと異論が相次ぎ、最終案では「必要最小限度」の文言を削った経緯がある。これまでの政府解釈を踏襲した表現を削除したことで「公明党が乗りづらい案になった」(党幹部)との見方も出ている。

*1-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180503&ng=DGKKZO30115480S8A500C1M10900 (日経新聞 2018年5月3日)9条の扱い焦点 問われる専守防衛
 自民党がまとめた4項目の憲法改正案のうち焦点となるのが9条だ。条文の書きぶり次第で、自衛隊に認められる武力行使の範囲や保有できる防衛装備品が際限なく広がりかねないからだ。日本が掲げる「専守防衛」との整合性が問われる。政府は現行の9条に基づく専守防衛のもと、防衛力を自衛のための必要最小限度に限っていた。自衛権は、日本が直接攻撃を受ける「個別的自衛権」だけを認めてきた。2015年成立の安全保障関連法で、日本が直接攻撃を受けていない場合の「集団的自衛権」も使えるようにした。年末に改定する防衛大綱の議論も絡む。自民党案は「必要な自衛の措置をとることを妨げず」と明記する。これまで保有していなかった空母や爆撃機といった攻撃型兵器も「必要な自衛の措置」とみなして解禁する可能性を野党は警戒する。政府は護衛艦を事実上の空母として使えるよう改修する案を検討する。防衛省幹部は「防御目的の空母なら専守防衛の範囲内。現行の9条のままでも保有は認められる」と語る。

*1-2-3:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/561422/ (西日本新聞 2019/11/21) 憲法と安保法  司法は逃げずに判断示せ
 安全保障法制の大転換、それも違憲性を帯びた政策の是非を問う訴訟である。裁判所が内閣や国会の立場を忖度(そんたく)して及び腰になる必要はなかろう。正面から憲法判断に踏み込み、司法の独立性を示してこそ、国民の信頼が得られるのではないか。集団的自衛権の行使を認めた安全保障関連法は違憲として、市民約1500人が国家賠償を求めた訴訟で東京地裁は請求を全面的に棄却した。原告側はきのう、これを不服として東京高裁に控訴した。九州を含め全国22地裁・支部で提起された同種訴訟では、今春に札幌地裁で初の判決(原告敗訴)が示され、原告側が同じく控訴している。残念なのは東京、札幌両地裁が肝心の憲法判断を避けたことだ。原告側は3年前に施行された安保関連法により(1)憲法の前文や9条に基づく平和的生存権が侵害された(2)自衛隊の活動領域の拡大でテロや戦争に巻き込まれる危険も増した‐ことで精神的苦痛を受けたとして、1人10万円の賠償を求めていた。判決は、平和について「抽象的概念で個人の思想や信条で多様な捉え方が可能」「手段も国際情勢に応じて多岐多様にわたる」とし、平和的生存権は国民に保障された法的権利とは言えないと断じた。また「戦争やテロの切迫した危険は認め難い」「原告の苦痛は受忍限度内で義憤ないし公憤とみるほかない」と述べ、安保関連法の違憲性に関する判断は示さなかった。日本の司法は違憲審査について消極的といわれる。一般に具体的な権利の侵害がない場合や外交・防衛などの統治行為に関しては判断を避ける例が多い。国民の代表で構成する立法府の決定は民意の反映でもあり、極力介入しないという立場だ。しかし、今回の訴えをこの論理で退けるのは疑問だ。安保関連法は一内閣の独断による憲法解釈の変更に端を発し、国会では与党が憲法学者らの違憲の指摘を半ば無視するように成立させた。その結果、専守防衛の理念は揺らぎ、国の行く末に不安を抱く人は原告だけにとどまらない。であれば、司法がここで厳しいチェック機能を果たしてこそ、三権分立は成り立つ。判決は、戦争やテロの恐れを否定したが、仮に危険が切迫した段階で司法が機能しても、もはや手遅れになりかねない。全国の訴訟原告7千人余りの中には多くの戦争体験者や自衛官を家族に持つ人も含まれている。憲法前文は「政府の行為で再び戦争の惨禍が起こることがないよう決意し、主権が国民に存することを宣言する」としている。司法はこの重みを踏まえ、今後も続く審理や判決で、真摯(しんし)に役割を果たしてほしい。

*1-2-4:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/562371/ (西日本新聞 2019/11/25) ローマ教皇、長崎で核廃絶訴え 「核なき世界は実現可能」
 ローマ・カトリック教会の頂点に立つ教皇(法王)フランシスコが24日、被爆地・長崎市を訪れた。教皇として初めて爆心地に立ったフランシスコは原爆落下中心地碑を背に演説し「核兵器のない世界は実現可能であり、必要不可欠であると確信している」と発言。各国の指導者に対し「核は安全保障への脅威から守ってくれるものではないと心に刻んでください」と訴え、長崎を最後の被爆地にするため、核廃絶に向けて動くよう求めた。教皇の長崎訪問は38年前の故ヨハネ・パウロ2世以来2度目。24日午前、教皇は爆心地公園に到着し、被爆者から受け取った花輪を碑にささげた。演説では長崎を「核が破滅的な結末をもたらすことの証人である町」と表現。核兵器の製造や改良を「テロ行為」と非難し、大量破壊兵器によって実現させようとする平和や安全を「恐怖と相互不信を土台とした偽り」と言い表した。元首を務めるバチカンが批准した核兵器禁止条約を挙げて「国際法の原則にのっとって迅速に行動し、訴えていく」と宣言、米国の「核の傘」に依存し条約に参加しない日本などをけん制した。歴代教皇と同様に、フランシスコも核について繰り返し発言してきた。これまでにも広島と長崎の被爆の歴史から「人類は何も学んでいない」と述べ、2017年末には被爆後の長崎での撮影とされる写真「焼き場に立つ少年」を広めるよう教会関係者に指示。この日も教皇のそばにはこの写真のパネルが置かれた。激しく雨が降る中、参列者約千人は雨がっぱ姿で教皇の声に耳を傾けた。爆心地に続き、国内でキリスト教信仰が禁じられた時期に宣教師や信者が処刑された日本二十六聖人殉教地に足を運び、午後は長崎県営野球場で3万人規模のミサを執り行った。夕方からは、もう一つの被爆地・広島市に移動し、平和記念公園で集いに出席。原爆ドームの前で、戦争を目的とした原子力の利用を「犯罪以外の何ものでもない」と指弾した。教皇は26日までの滞在中、東京都内で東日本大震災被災者との交流を行い、天皇陛下との会見や安倍晋三首相との会談を予定している。

*1-2-5:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14269133.html?iref=comtop_shasetsu_01 (朝日新聞社説 2019年11月25日) ローマ教皇 被爆地からの重い訴え
 平和の実現にはすべての人の参加が必要。核兵器の脅威に対し一致団結を――。核軍縮の国際的な枠組みが危機にある中、被爆地から発せられた呼びかけをしっかりと受け止めたい。13億人の信者を抱えるローマ・カトリック教会のトップ、フランシスコ教皇が長崎と広島を訪れ、核兵器廃絶を訴えた。教皇は2年前、原爆投下後の長崎で撮られたとされる写真「焼き場に立つ少年」をカードにして教会関係者に配った。今回、長崎の爆心地に立って「核兵器が人道的にも環境にも悲劇的な結末をもたらすと証言している町だ」と語り、「記憶にとどめるこの場所はわたしたちをハッとさせ、無関心でいることを許さない」と力を込めた。ローマ教皇の来日は1981年以来、38年ぶり2度目だ。前回来日したヨハネ・パウロ2世が平和外交を展開して東西冷戦の終結に影響を与えるなど、教会は核廃絶を含む平和への取り組みを重ねてきた。フランシスコ教皇も米国とキューバの国交回復で仲介役を務める一方、自らが国家元首であるバチカンは、核兵器の製造や実験、使用を禁じる核兵器禁止条約が2年前に国連で採択された後、いち早く条約に署名・批准した。ただ、国際協調より自国第一主義が優先される現実のなかで、核軍縮への取り組みは後退している。米ロの中距離核戦力(INF)全廃条約は8月に失効。2021年に期限を迎える両国間の新戦略兵器削減条約(新START)も存続が危ぶまれる。来年には核不拡散条約(NPT)再検討会議が開かれるが、核保有国と非保有国の溝は深まる一方だ。「わたしたちの世界は、手に負えない分裂の中にある」「相互不信の流れを壊さなければ」。そう危機感を訴え、世界の指導者に向かって「核兵器は安全保障への脅威から私たちを守ってくれるものではない」と説いた教皇の思いにどう応えるか。唯一の戦争被爆国である日本の責任と役割は大きい。安倍政権は、日本が米国の「核の傘」に守られていることを理由に核禁条約に背を向け続けているが、それでよいのか。核保有国と非保有国の橋渡し役を掲げるが、成果は見えない。政府の有識者会議は10月、日本がとりうる行動を記した議長レポートをまとめたが、非保有国が多数賛同した核禁条約を拒否するだけでは実践は望めまい。教皇は広島でのスピーチで「戦争のために原子力を使用することは犯罪」「核戦争の脅威で威嚇することに頼りながら、どうして平和を提案できようか」と述べた。この根源的な指摘を無駄にしてはならない。

*1-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180503&ng=DGKKZO30115540S8A500C1M10900 (日経新聞 2018年5月3日)緊急事態条項 災害時、内閣が政令
 緊急事態条項は「国家緊急権」の思想に基づく。大規模災害や戦争など国家そのものの存立が脅かされる可能性がある場合に、全体の利益のために個人の権利を抑制できるとする考え方だ。緊急時とは「大地震その他の異常かつ大規模な災害」を想定する。2012年の自民党改憲案に盛った「外部からの武力攻撃」「内乱」などは外し、対象を絞った。64条の2で国会議員の任期延長、73条の2で政府の緊急政令を規定する。国会議員の任期延長は、選挙の「適正な実施が困難であると認めるとき」が対象。11年の東日本大震災では被災地の地方選を延期した経緯があり、国政選挙でも同様の事態を想定したものだ。緊急政令の制定は供給が不足する生活物資の買い占めを禁じて配給制にしたり、災害復旧に必要な物資の価格を統制したりすることを想定する。野党からは憲法改正をしなくても緊急時に対応できるとの指摘が出ている。緊急政令で国民の権利が損なわれる可能性を懸念する。

*1-3-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14269201.html (朝日新聞 2019年11月25日) マイナンバーカード「取得強要だ」 省庁全職員の家族まで調査
 国家公務員らによるマイナンバーカードの取得を進めるため、各省庁が全職員に対し、取得の有無や申請しない理由を家族(被扶養者)も含めて尋ねる調査をしている。内閣官房と財務省の依頼を受け、氏名を記入して上司に提出するよう求めている。職員からは、法律上の義務でないカード取得を事実上強要されたと感じるとの声が出ている。政府はカードを2021年3月から健康保険証として使えるようにする計画で、6月に閣議決定した「骨太の方針」に、公務員らによる今年度中のカード取得の推進を盛り込んだ。22年度末までに国内のほとんどの住民が保有するとも想定し、「普及を強力に推進する」としている。朝日新聞は各省庁などに送られた7月30日付の依頼文を入手した。内閣官房内閣参事官と国家公務員共済組合(健康保険証の発行者)を所管する財務省給与共済課長の役職名で、各省庁などの部局長から全職員に、家族も含めてカード取得を勧めるよう依頼。10月末時点の取得状況の調査と集計・報告、12月末と来年3月末時点の集計・報告を求めている。調査用紙には個人名の記入欄、家族を含む取得の有無や交付申請の状況、申請しない場合は理由を記す欄があり、「部局長に提出してください」ともある。財務省給与共済課によると、調査対象は国家公務員ら共済組合員約80万人と被扶養者約80万人。同課は「回答に理由を記載するかは自由で、決して強制ではない。人事の査定に影響はない」と話している。調査は取得に向けた課題を洗い出すためで、今後は各省庁などを通じて取得率の低い部局に取得を促すという。マイナンバー法で、カードを取得するかは任意だ。経済産業省の関係者は「公務員は政府の方針に従い、カードを持つべきだというのは分かるが、記名式で家族の取得しない理由まで聞かれ、強要と感じた」。財務省の関係者は「取得を迫るようなやり方に違和感を覚える。ほぼ全住民が保有すると閣議で風呂敷を広げたせいで、普及に必死になっている」と漏らす。マイナンバーカードは16年1月に交付が始まった。利便性の低さや個人情報の漏洩(ろうえい)への懸念などから、交付枚数は約1823万枚、取得率は14・3%にとどまる。総務省所管の団体は7月、普及が進むとの政府の想定に基づいて5500万枚分の製造を発注している。

*1-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180503&ng=DGKKZO30115600S8A500C1M10900 (日経新聞 2018年5月3日) 「合区」解消 参院、都道府県単位で
 参院選の「合区」は、隣接県を1つの選挙区にすることだ。「1票の格差」を是正するため、2016年から「鳥取・島根」と「徳島・高知」で導入した。地元出身者を送り出せない県ができ地方の声が国政に届きにくくなったとして改憲による解消をめざす。衆参両院議員の選挙の選挙区や投票の方法の根拠となっている47条に新たな規定を追加した。参院の選挙区は改選ごとに各都道府県から少なくとも1人を選出できるように改める。参院議員を「都道府県代表」と位置づければ国会議員を「全国民の代表」と定めた43条と矛盾しかねないという指摘もある。公明党は「参院の大幅な権限見直しにつながる」と慎重だ。

*1-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180503&ng=DGKKZO30115660S8A500C1M10900 (日経新聞 2018年5月3日) 教育充実 環境整備に努力義務
 自民党の改憲案は「教育充実」について、教育を受ける権利を定めた憲法26条に3項を設け「国は教育環境の整備に努めなければならない」とする努力義務を明記した。「各個人の経済的理由にかかわらず教育を受ける機会を確保する」と書き込み、家計負担の軽減を打ち出した。かねて憲法への「教育無償化」明記を目指してきた日本維新の会への配慮がにじむ。同党の改憲原案の一部を取り込むことで改憲に賛同を得たい考えがある。ただ、財源確保が難しいことなどから自民党案は「無償化」の明記は見送った。幼児教育から大学までの教育無償化を訴える維新の協力が得られるかは不透明な状況だ。私立学校に補助金を出す「私学助成」が合憲であることも明確にする。憲法89条が公の財産の支出を禁じる「慈善、教育、博愛の事業」の対象について「公の監督が及ばない」事業とする。

<財政>
*2-1:http://www.japaneselawtranslation.go.jp/law/detail_main?id=174 (日本国憲法 昭和21年11月3日 抜粋)
第七章 財政
第八十三条 国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければ
      ならない。
第八十四条 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の
      定める条件によることを必要とする。
第八十五条 国費を支出し、又は国が債務を負担するには、国会の議決に基くことを
      必要とする。
第八十六条 内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け
      議決を経なければならない。
第八十七条 予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基いて予備費を設け、
      内閣の責任でこれを支出することができる。すべて予備費の支出については、
      内閣は、事後に国会の承諾を得なければならない。
第八十八条 すべて皇室財産は、国に属する。すべて皇室の費用は、予算に計上して
      国会の議決を経なければならない。
第八十九条 公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益
      若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の
      事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。
第九十条  国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、
      次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。
      会計検査院の組織及び権限は、法律でこれを定める。
第九十一条 内閣は、国会及び国民に対し、定期に、少くとも毎年一回、国の財政
      状況について報告しなければならない。

*2-2:https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=322AC0000000034 (財政法  昭和二十二年法律第三十四号)
第一章 財政総則
第一条 国の予算その他財政の基本に関しては、この法律の定めるところによる。
第二条 収入とは、国の各般の需要を充たすための支払の財源となるべき現金の収納をいい、
    支出とは、国の各般の需要を充たすための現金の支払をいう。
○2 前項の現金の収納には、他の財産の処分又は新らたな債務の負担に因り生ずるものをも
   含み、同項の現金の支払には、他の財産の取得又は債務の減少を生ずるものをも含む。
○3 なお第一項の収入及び支出には、会計間の繰入その他国庫内において行う移換による
   ものを含む。
○4 歳入とは、一会計年度における一切の収入をいい、歳出とは、一会計年度における一切の
   支出をいう。
第三条 租税を除く外、国が国権に基いて収納する課徴金及び法律上又は事実上国の独占に
   属する事業における専売価格若しくは事業料金については、すべて法律又は国会の議決に
   基いて定めなければならない。
第四条 国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。
   但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内
   で、公債を発行し又は借入金をなすことができる。
○2 前項但書の規定により公債を発行し又は借入金をなす場合においては、その償還の計画を
   国会に提出しなければならない。
○3 第一項に規定する公共事業費の範囲については、毎会計年度、国会の議決を経なければ
   ならない。
第五条 すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入に
   ついては、日本銀行からこれを借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合に
   おいて、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない。
第六条 各会計年度において歳入歳出の決算上剰余を生じた場合においては、当該剰余金の
   うち、二分の一を下らない金額は、他の法律によるものの外、これを剰余金を生じた
   年度の翌翌年度までに、公債又は借入金の償還財源に充てなければならない。
○2 前項の剰余金の計算については、政令でこれを定める。
第七条 国は、国庫金の出納上必要があるときは、財務省証券を発行し又は日本銀行から一時
   借入金をなすことができる。
○2 前項に規定する財務省証券及び一時借入金は、当該年度の歳入を以て、これを償還しな
   ければならない。
○3 財務省証券の発行及び一時借入金の借入の最高額については、毎会計年度、国会の議決を
   経なければならない。
第八条 国の債権の全部若しくは一部を免除し又はその効力を変更するには、法律に基く
   ことを要する。
第九条 国の財産は、法律に基く場合を除く外、これを交換しその他支払手段として使用し、
   又は適正な対価なくしてこれを譲渡し若しくは貸し付けてはならない。
○2 国の財産は、常に良好の状態においてこれを管理し、その所有の目的に応じて、最も
   効率的に、これを運用しなければならない。
第二章 会計区分
第十一条 国の会計年度は、毎年四月一日に始まり、翌年三月三十一日に終るものとする。
第十二条 各会計年度における経費は、その年度の歳入を以て、これを支弁しなければ
   ならない。
第十三条 国の会計を分つて一般会計及び特別会計とする。
○2 国が特定の事業を行う場合、特定の資金を保有してその運用を行う場合その他特定の
   歳入を以て特定の歳出に充て一般の歳入歳出と区分して経理する必要がある場合に
   限り、法律を以て、特別会計を設置するものとする。
第三章 予算
第一節 総則
第十四条 歳入歳出は、すべて、これを予算に編入しなければならない。
第十四条の二 国は、工事、製造その他の事業で、その完成に数年度を要するものについて、
   特に必要がある場合においては、経費の総額及び年割額を定め、予め国会の議決を経て、
   その議決するところに従い、数年度にわたつて支出することができる。
○2 前項の規定により国が支出することができる年限は、当該会計年度以降五箇年度以内と
   する。但し、予算を以て、国会の議決を経て更にその年限を延長することができる。
○3 前二項の規定により支出することができる経費は、これを継続費という。
○4 前三項の規定は、国会が、継続費成立後の会計年度の予算の審議において、当該継続
   費につき重ねて審議することを妨げるものではない。
第十四条の三 歳出予算の経費のうち、その性質上又は予算成立後の事由に基き年度内に
   その支出を終らない見込のあるものについては、予め国会の議決を経て、翌年度に繰り
   越して使用することができる。
○2 前項の規定により翌年度に繰り越して使用することができる経費は、これを繰越明許費
   という。
第十五条 法律に基くもの又は歳出予算の金額(第四十三条の三に規定する承認があつた金額を
   含む。)若しくは継続費の総額の範囲内におけるものの外、国が債務を負担する行為を
   なすには、予め予算を以て、国会の議決を経なければならない。
○2 前項に規定するものの外、災害復旧その他緊急の必要がある場合においては、国は毎会計
   年度、国会の議決を経た金額の範囲内において債務を負担する行為をなすことができる。
○3 前二項の規定により国が債務を負担する行為に因り支出すべき年限は、当該会計年度以降
   五箇年度以内とする。但し、国会の議決により更にその年限を延長するもの並びに外国人
   に支給する給料及び恩給、地方公共団体の債務の保証又は債務の元利若しくは利子の補
   給、土地、建物の借料及び国際条約に基く分担金に関するもの、その他法律で定めるもの
   は、この限りでない。
○4 第二項の規定により国が債務を負担した行為については、次の常会において国会に報告
   しなければならない。
○5 第一項又は第二項の規定により国が債務を負担する行為は、これを国庫債務負担行為
   という。
第二節 予算の作成
第十六条 予算は、予算総則、歳入歳出予算、継続費、繰越明許費及び国庫債務負担行為
   とする。
第十七条 衆議院議長、参議院議長、最高裁判所長官及び会計検査院長は、毎会計年度、その
   所掌に係る歳入、歳出、継続費、繰越明許費及び国庫債務負担行為の見積に関する書類を
   作製し、これを内閣における予算の統合調整に供するため、内閣に送付しなければなら
   ない。
○2 内閣総理大臣及び各省大臣は、毎会計年度、その所掌に係る歳入、歳出、継続費、繰越
   明許費及び国庫債務負担行為の見積に関する書類を作製し、これを財務大臣に送付しな
   ければならない。
第十八条 財務大臣は、前条の見積を検討して必要な調整を行い、歳入、歳出、継続費、繰越
   明許費及び国庫債務負担行為の概算を作製し、閣議の決定を経なければならない。
○2 内閣は、前項の決定をしようとするときは、国会、裁判所及び会計検査院に係る歳出の
   概算については、予め衆議院議長、参議院議長、最高裁判所長官及び会計検査院長に
   対しその決定に関し意見を求めなければならない。
第十九条 内閣は、国会、裁判所及び会計検査院の歳出見積を減額した場合においては、国
   会、裁判所又は会計検査院の送付に係る歳出見積について、その詳細を歳入歳出予算
   に附記するとともに、国会が、国会、裁判所又は会計検査院に係る歳出額を修正する場合
   における必要な財源についても明記しなければならない。
第二十条 財務大臣は、毎会計年度、第十八条の閣議決定に基いて、歳入予算明細書を作製
   しなければならない。
○2 衆議院議長、参議院議長、最高裁判所長官、会計検査院長並びに内閣総理大臣及び
   各省大臣(以下各省各庁の長という。)は、毎会計年度、第十八条の閣議決定のあつた
   概算の範囲内で予定経費要求書、継続費要求書、繰越明許費要求書及び国庫債務
   負担行為要求書(以下予定経費要求書等という。)を作製し、これを財務大臣に送付しな
   ければならない。
第二十一条 財務大臣は、歳入予算明細書、衆議院、参議院、裁判所、会計検査院並びに
   内閣(内閣府を除く。)、内閣府及び各省(以下「各省各庁」という。)の予定経費
   要求書等に基づいて予算を作成し、閣議の決定を経なければならない。
第二十二条 予算総則には、歳入歳出予算、継続費、繰越明許費及び国庫債務負担行為に
   関する総括的規定を設ける外、左の事項に関する規定を設けるものとする。
一 第四条第一項但書の規定による公債又は借入金の限度額
二 第四条第三項の規定による公共事業費の範囲
三 第五条但書の規定による日本銀行の公債の引受及び借入金の借入の限度額
四 第七条第三項の規定による財務省証券の発行及び一時借入金の借入の最高額
五 第十五条第二項の規定による国庫債務負担行為の限度額
六 前各号に掲げるものの外、予算の執行に関し必要な事項
七 その他政令で定める事項
第二十三条 歳入歳出予算は、その収入又は支出に関係のある部局等の組織の別に区分し、
   その部局等内においては、更に歳入にあつては、その性質に従つて部に大別し、且つ、
   各部中においてはこれを款項に区分し、歳出にあつては、その目的に従つてこれを項に
   区分しなければならない。
第二十四条 予見し難い予算の不足に充てるため、内閣は、予備費として相当と認める金額を、
   歳入歳出予算に計上することができる。
第二十五条 継続費は、その支出に関係のある部局等の組織の別に区分し、その部局等内に
   おいては、項に区分し、更に各項ごとにその総額及び年割額を示し、且つ、その必要の
   理由を明らかにしなければならない。
第二十六条 国庫債務負担行為は、事項ごとに、その必要の理由を明らかにし、且つ、行為を
   なす年度及び債務負担の限度額を明らかにし、又、必要に応じて行為に基いて支出を
   なすべき年度、年限又は年割額を示さなければならない。
第二十七条 内閣は、毎会計年度の予算を、前年度の一月中に、国会に提出するのを常例
   とする。
第二十八条 国会に提出する予算には、参考のために左の書類を添附しなければならない。
一 歳入予算明細書
二 各省各庁の予定経費要求書等
三 前前年度歳入歳出決算の総計表及び純計表、前年度歳入歳出決算見込の総計表及び
   純計表並びに当該年度歳入歳出予算の総計表及び純計表
四 国庫の状況に関する前前年度末における実績並びに前年度末及び当該年度末における
   見込に関する調書
五 国債及び借入金の状況に関する前前年度末における実績並びに前年度末及び当該年度
   末における現在高の見込及びその償還年次表に関する調書
六 国有財産の前前年度末における現在高並びに前年度末及び当該年度末における現在高
   の見込に関する調書
七 国が、出資している主要な法人の資産、負債、損益その他についての前前年度、前年度
   及び当該年度の状況に関する調書
八 国庫債務負担行為で翌年度以降に亘るものについての前年度末までの支出額及び支出
   額の見込、当該年度以降の支出予定額並びに数会計年度に亘る事業に伴うものについ
   てはその全体の計画その他事業等の進行状況等に関する調書
九 継続費についての前前年度末までの支出額、前年度末までの支出額及び支出額の見込、
   当該年度以降の支出予定額並びに事業の全体の計画及びその進行状況等に関する調書
十 その他財政の状況及び予算の内容を明らかにするため必要な書類
第二十九条 内閣は、次に掲げる場合に限り、予算作成の手続に準じ、補正予算を作成し、
   これを国会に提出することができる。
一 法律上又は契約上国の義務に属する経費の不足を補うほか、予算作成後に生じた事由に
   基づき特に緊要となつた経費の支出(当該年度において国庫内の移換えにとどまるものを
   含む。)又は債務の負担を行なうため必要な予算の追加を行なう場合
二 予算作成後に生じた事由に基づいて、予算に追加以外の変更を加える場合
第三十条 内閣は、必要に応じて、一会計年度のうちの一定期間に係る暫定予算を作成し、
   これを国会に提出することができる。
○2 暫定予算は、当該年度の予算が成立したときは、失効するものとし、暫定予算に基く
   支出又はこれに基く債務の負担があるときは、これを当該年度の予算に基いてなした
   ものとみなす。
第三節 予算の執行
第三十一条 予算が成立したときは、内閣は、国会の議決したところに従い、各省各庁の長に
   対し、その執行の責に任ずべき歳入歳出予算、継続費及び国庫債務負担行為を配賦する。
○2 前項の規定により歳入歳出予算及び継続費を配賦する場合においては、項を目に区分
   しなければならない。
○3 財務大臣は、第一項の規定による配賦のあつたときは、会計検査院に通知しなければ
   ならない。
第三十二条 各省各庁の長は、歳出予算及び継続費については、各項に定める目的の外に
   これを使用することができない。
第三十三条 各省各庁の長は、歳出予算又は継続費の定める各部局等の経費の金額又は
   部局等内の各項の経費の金額については、各部局等の間又は各項の間において彼此
   移用することができない。但し、予算の執行上の必要に基き、あらかじめ予算をもつて
   国会の議決を経た場合に限り、財務大臣の承認を経て移用することができる。
○2 各省各庁の長は、各目の経費の金額については、財務大臣の承認を経なければ、目の
   間において、彼此流用することができない。
○3 財務大臣は、第一項但書又は前項の規定に基く移用又は流用について承認をしたときは、
   その旨を当該各省各庁の長及び会計検査院に通知しなければならない。
○4 第一項但書又は第二項の規定により移用又は流用した経費の金額については、歳入
   歳出の決算報告書において、これを明らかにするとともに、その理由を記載しなければ
   ならない。
第三十四条 各省各庁の長は、第三十一条第一項の規定により配賦された予算に基いて、
   政令の定めるところにより、支出担当事務職員ごとに支出の所要額を定め、支払の計画に
   関する書類を作製して、これを財務大臣に送付し、その承認を経なければならない。
○2 財務大臣は、国庫金、歳入及び金融の状況並びに経費の支出状況等を勘案して、適時に、
   支払の計画の承認に関する方針を作製し、閣議の決定を経なければならない。
○3 財務大臣は、第一項の支払の計画について承認をしたときは、各省各庁の長に通知する
   とともに、財務大臣が定める場合を除き、これを日本銀行に通知しなければならない。
第三十四条の二 各省各庁の長は、第三十一条第一項の規定により配賦された歳出予算、
   継続費及び国庫債務負担行為のうち、公共事業費その他財務大臣の指定する経費に
   係るものについては、政令の定めるところにより、当該歳出予算、継続費又は国庫債務
   負担行為に基いてなす支出負担行為(国の支出の原因となる契約その他の行為をいう。
   以下同じ。)の実施計画に関する書類を作製して、これを財務大臣に送付し、その承認を
   経なければならない。
○2 財務大臣は、前項の支出負担行為の実施計画を承認したときは、これを各省各庁の長
   及び会計検査院に通知しなければならない。
第三十五条 予備費は、財務大臣が、これを管理する。
○2 各省各庁の長は、予備費の使用を必要と認めるときは、理由、金額及び積算の基礎を
   明らかにした調書を作製し、これを財務大臣に送付しなければならない。
○3 財務大臣は、前項の要求を調査し、これに所要の調整を加えて予備費使用書を作製し、
   閣議の決定を求めなければならない。但し、予め閣議の決定を経て財務大臣の指定する
   経費については、閣議を経ることを必要とせず、財務大臣が予備費使用書を決定すること
   ができる。
○4 予備費使用書が決定したときは、当該使用書に掲げる経費については、第三十一条
   第一項の規定により、予算の配賦があつたものとみなす。
○5 第一項の規定は、第十五条第二項の規定による国庫債務負担行為に、第二項、第三項
   本文及び前項の規定は、各省各庁の長が第十五条第二項の規定により国庫債務負担
   行為をなす場合に、これを準用する。
第三十六条 予備費を以て支弁した金額については、各省各庁の長は、その調書を作製して、
   次の国会の常会の開会後直ちに、これを財務大臣に送付しなければならない。
○2 財務大臣は、前項の調書に基いて予備費を以て支弁した金額の総調書を作製しなけれ
   ばならない。
○3 内閣は、予備費を以て支弁した総調書及び各省各庁の調書を次の常会において国会に
   提出して、その承諾を求めなければならない。
○4 財務大臣は、前項の総調書及び調書を会計検査院に送付しなければならない。
第四章 決算
第三十七条 各省各庁の長は、毎会計年度、財務大臣の定めるところにより、その所掌に係る
   歳入及び歳出の決算報告書並びに国の債務に関する計算書を作製し、これを財務大臣に
   送付しなければならない。
○2 財務大臣は、前項の歳入決算報告書に基いて、歳入予算明細書と同一の区分により、
   歳入決算明細書を作製しなければならない。
○3 各省各庁の長は、その所掌の継続費に係る事業が完成した場合においては、財務大臣
   の定めるところにより、継続費決算報告書を作製し、これを財務大臣に送付しなければ
   ならない。
第三十八条 財務大臣は、歳入決算明細書及び歳出の決算報告書に基いて、歳入歳出の
   決算を作成しなければならない。
○2 歳入歳出の決算は、歳入歳出予算と同一の区分により、これを作製し、且つ、これに
   左の事項を明らかにしなければならない。
(一) 歳入
一 歳入予算額
二 徴収決定済額(徴収決定のない歳入については収納後に徴収済として整理した額)
三 収納済歳入額
四 不納欠損額
五 収納未済歳入額
(二) 歳出
一 歳出予算額
二 前年度繰越額
三 予備費使用額
四 流用等増減額
五 支出済歳出額
六 翌年度繰越額
七 不用額
第三十九条 内閣は、歳入歳出決算に、歳入決算明細書、各省各庁の歳出決算報告書及び
   継続費決算報告書並びに国の債務に関する計算書を添附して、これを翌年度の十一月
   三十日までに会計検査院に送付しなければならない。
第四十条 内閣は、会計検査院の検査を経た歳入歳出決算を、翌年度開会の常会において
   国会に提出するのを常例とする。
○2 前項の歳入歳出決算には、会計検査院の検査報告の外、歳入決算明細書、各省各庁
   の歳出決算報告書及び継続費決算報告書並びに国の債務に関する計算書を添附する。
第四十一条 毎会計年度において、歳入歳出の決算上剰余を生じたときは、これをその翌年
   度の歳入に繰り入れるものとする。
第五章 雑則
第四十二条 繰越明許費の金額を除く外、毎会計年度の歳出予算の経費の金額は、これを
   翌年度において使用することができない。但し、歳出予算の経費の金額のうち、年度内に
   支出負担行為をなし避け難い事故のため年度内に支出を終らなかつたもの(当該支出
   負担行為に係る工事その他の事業の遂行上の必要に基きこれに関連して支出を要する
   経費の金額を含む。)は、これを翌年度に繰り越して使用することができる。
第四十三条 各省各庁の長は、第十四条の三第一項又は前条但書の規定による繰越を必要
   とするときは、繰越計算書を作製し、事項ごとに、その事由及び金額を明らかにして、
   財務大臣の承認を経なければならない。
○2 前項の承認があつたときは、当該経費に係る歳出予算は、その承認があつた金額の
   範囲内において、これを翌年度に繰り越して使用することができる。
○3 各省各庁の長は、前項の規定による繰越をしたときは、事項ごとに、その金額を明らか
   にして、財務大臣及び会計検査院に通知しなければならない。
○4 第二項の規定により繰越をしたときは、当該経費については、第三十一条第一項の規定
   による予算の配賦があつたものとみなす。この場合においては、同条第三項の規定に
   よる通知は、これを必要としない。
第四十三条の二 継続費の毎会計年度の年割額に係る歳出予算の経費の金額のうち、その
   年度内に支出を終らなかつたものは、第四十二条の規定にかかわらず、継続費に係る
   事業の完成年度まで、逓次繰り越して使用することができる。
○2 前条第三項及び第四項の規定は、前項の規定により繰越をした場合に、これを準用する。
第四十三条の三 各省各庁の長は、繰越明許費の金額について、予算の執行上やむを得ない
   事由がある場合においては、事項ごとに、その事由及び金額を明らかにし、財務大臣の
   承認を経て、その承認があつた金額の範囲内において、翌年度にわたつて支出すべき
   債務を負担することができる。
第四十四条 国は、法律を以て定める場合に限り、特別の資金を保有することができる。
第四十五条 各特別会計において必要がある場合には、この法律の規定と異なる定めを
   なすことができる。
第四十六条 内閣は、予算が成立したときは、直ちに予算、前前年度の歳入歳出決算並びに
   公債、借入金及び国有財産の現在高その他財政に関する一般の事項について、印刷物、
   講演その他適当な方法で国民に報告しなければならない。
○2 前項に規定するものの外、内閣は、少くとも毎四半期ごとに、予算使用の状況、国庫の
   状況その他財政の状況について、国会及び国民に報告しなければならない。
第四十六条の二 この法律又はこの法律に基づく命令の規定による手続については、行政
   手続等における情報通信の技術の利用に関する法律(平成十四年法律第百五十一号)
   第三条及び第四条の規定は、適用しない。
第四十六条の三 この法律又はこの法律に基づく命令の規定により作成することとされている
   書類等(書類、調書その他文字、図形等人の知覚によつて認識することができる情報が
   記載された紙その他の有体物をいう。次条において同じ。)については、当該書類等に
   記載すべき事項を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚に
   よつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報
   処理の用に供されるものとして財務大臣が定めるものをいう。次条第一項において
   同じ。)の作成をもつて、当該書類等の作成に代えることができる。この場合において、
   当該電磁的記録は、当該書類等とみなす。
第四十六条の四 この法律又はこの法律に基づく命令の規定による書類等の提出については、
   当該書類等が電磁的記録で作成されている場合には、電磁的方法(電子情報処理組織を
   使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて財務大臣が定めるものを
   いう。次項において同じ。)をもつて行うことができる。
○2 前項の規定により書類等の提出が電磁的方法によつて行われたときは、当該書類等の
   提出を受けるべき者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルへの記録がされた時に
   当該提出を受けるべき者に到達したものとみなす。
第四十七条 この法律の施行に関し必要な事項は、政令で、これを定める。
附 則 抄
第一条 この法律は、昭和二十二年四月一日から、これを施行する。但し、第十七条第一項、
   第十八条第二項、第十九条、第三十条、第三十一条、第三十五条並びに第三十六条の
   規定は、日本国憲法施行の日から、これを施行し、第三条、第十条及び第三十四条の
   規定の施行の日は、政令でこれを定める。
○2 第四条及び第五条の規定は、昭和二十三年度以後の会計年度の予算に計上される
   公債又は借入金について、第七条、第三章の規定(第十七条第一項、第十八条第二項、
   第十九条、第二十八条、第三十条、第三十一条並びに第三十四条乃至第三十六条の
   規定を除く。)及び第四章の規定は、昭和二十二年度以後の会計年度の予算及び決算
   について、これを適用する。
第一条の二 内閣は、当分の間、第三十一条第一項の規定により歳入歳出予算を配賦する
   場合において、当該配賦の際、目に区分し難い項があるときは、同条第二項の規定に
   かかわらず、当該項に限り、目の区分をしないで配賦することができる。
○2 前項の規定により目の区分をしないで配賦した場合においては、各省各庁の長は、
   当該項に係る歳出予算の執行の時までに、財務大臣の承認を経て、目の区分をしな
   ければならない。
○3 財務大臣は、前項の規定により目の区分について承認をしたときは、その旨を会計
   検査院に通知しなければならない。
第三条 この法律施行前になした予備費の支出並びに昭和二十年度及び同二十一年度の
   決算に関しては、なお従前の例による。
第四条 従来予算外国庫の負担となるべき契約に関する件として帝国議会の協賛を経た
   事項は、日本国憲法施行後においては、国庫債務負担行為となるものとする。
   但し、この場合においては、改正後の第十五条第三項の規定は、これを適用しない。
第五条 左に掲げる法令は、これを廃止する。
明治四十四年法律第二号(公共団体に対する工事補助費繰越使用に関する法律)
明治五年太政官布告第十七号(政府に対する寄附に関する件)
附 則 (昭和二四年四月一日法律第二三号) 抄
1 この法律は、昭和二十四年四月一日から施行する。但し、第二十三条及び附則第一条の
   二の改正規定は、昭和二十四年度の予算から適用する。
附 則 (昭和二四年五月三一日法律第一四五号) 抄
1 この法律は、昭和二十四年六月一日から施行する。
附 則 (昭和二五年三月三一日法律第六〇号) 抄
1 この法律は、公布の日から施行し、昭和二十五年度の予算から適用する。
附 則 (昭和二五年五月四日法律第一四一号) 抄
1 この法律は、公布の日から施行する。
附 則 (昭和二六年六月一日法律第一七三号) 抄
1 この法律は、公布の日から施行する。
附 則 (昭和二七年三月五日法律第四号) 抄
1 この法律中継続費、歳出予算及び支出予算の区分並びに繰越に係る部分は、公布の日
   から、その他の部分は、昭和二十七年四月一日から施行する。但し、改正後の財政法、
   会計法等の規定中継続費、歳出予算及び支出予算の区分並びに支出負担行為の
   実施計画に係る部分は、昭和二十七年度分の予算から適用する。
附 則 (昭和二七年七月三一日法律第二六八号) 抄
1 この法律は、昭和二十七年八月一日から施行する。
附 則 (昭和二九年五月八日法律第九〇号) 抄
1 この法律は、公布の日から施行する。
2 改正後の財政法の規定は、昭和二十九年度分の予算から適用する。
附 則 (昭和三七年五月八日法律第一〇八号) 抄
1 この法律は、公布の日から施行する。
附 則 (昭和四〇年四月一二日法律第四六号)
   この法律は、公布の日から施行し、改正後の附則第七条の規定は、昭和四十年度分の
   予算から適用する。
附 則 (昭和五三年五月二三日法律第五五号) 抄
(施行期日等)
1 この法律は、公布の日から施行する。
附 則 (平成三年九月一九日法律第八六号) 抄
(施行期日)
1 この法律は、公布の日から施行する。
附 則 (平成九年一二月五日法律第一〇九号) 抄
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から施行する。
附 則 (平成一一年七月一六日法律第一〇二号) 抄
(施行期日)
第一条 この法律は、内閣法の一部を改正する法律(平成十一年法律第八十八号)の施行の
   日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
一 略
二 附則第十条第一項及び第五項、第十四条第三項、第二十三条、第二十八条並びに
   第三十条の規定 公布の日
(委員等の任期に関する経過措置)
第二十八条 この法律の施行の日の前日において次に掲げる従前の審議会その他の機関の
   会長、委員その他の職員である者(任期の定めのない者を除く。)の任期は、当該会長、
   委員その他の職員の任期を定めたそれぞれの法律の規定にかかわらず、その日に
   満了する。
一から十三まで 略
十四 財政制度審議会
(別に定める経過措置)
第三十条 第二条から前条までに規定するもののほか、この法律の施行に伴い必要となる
   経過措置は、別に法律で定める。
附 則 (平成一一年一二月二二日法律第一六〇号) 抄
(施行期日)
第一条 この法律(第二条及び第三条を除く。)は、平成十三年一月六日から施行する。
   ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
一 第九百九十五条(核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律の一部を
   改正する法律附則の改正規定に係る部分に限る。)、第千三百五条、第千三百六条、
   第千三百二十四条第二項、第千三百二十六条第二項及び第千三百四十四条の規定 
   公布の日
附 則 (平成一四年一二月一三日法律第一五二号) 抄
(施行期日)
第一条 この法律は、行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律(平成
   十四年法律第百五十一号)の施行の日から施行する。
(その他の経過措置の政令への委任)
第五条 前三条に定めるもののほか、この法律の施行に関し必要な経過措置は、政令で
   定める。
附 則 (平成一八年六月七日法律第五三号) 抄
(施行期日)
第一条 この法律は、平成十九年四月一日から施行する。

<主権在民を侵害する報道とその理由>
PS(2019年11月27、28、29日、12月1日追加):これだけ多くの政治的事象が起こっているのに、TVは全局で、*3-1の「桜を見る会」を政治家のスキャンダルに仕立てあげ、*3-2の沢尻エリカさんの「大麻中毒」もまた、全局でしつこく報道している。しかし、「桜を見る会」の予算は、過去5年間は約1766万円、来年度予算の概算要求も約5700万円と、他の無駄遣いに比べると重箱の隅をつついたような数字で重要性が低い。野党は、国会議員70人余りからなる追及本部を立ち上げ、不法行為にはならないことについて「安倍首相や昭恵夫の推薦だった」と追求しようとしているが、「お友達だけを大切にしている」と言うのは、生徒が「先生がえこひいきする」と言っているのと同じレベルで情けない。それとも、政策に関する議論もしているのだが、TVがスキャンダルしか取り上げないのだろうか?さらに、沢尻エリカさんたちの薬物中毒のしつこい報道も「国民がいかにくだらないか」を国民に印象付けている。
 しかし、それらは、「国民が選挙で選んだ政治家はろくなことをせず、国民も愚かなので、民主主義(主権在民)はやめて天皇を元首とし、官が主導するのがよい」という結論を導き出す前哨戦となるため、メディアが真に民主主義の媒体として機能しなかった代償は大きい。だから、メディアは真実かつ倫理的でまともな報道をすることが求められるのである。
 また、*3-3のように、週刊文春が「安倍首相の事務所スタッフが『桜を見る会』のツアーに参加する地元支援者らに同行して上京する旅費を政治資金で支払った疑いがあり、事実なら事務所や後援会に『収支が発生していない』と説明した首相の説明と矛盾する可能性がある」などと報じているが、事務所スタッフが後援会の人に付き添って同行するのは仕事による出張であるため、これらのスタッフに政治資金から出張旅費を支払うのは何の問題もなく、むしろ必要なことで、いちゃもんが過ぎるのである。なお、事務所スタッフが後援会の人に付き添っても、後援会の人は旅行会社やホテルに旅費等の支払いをしているため、何ら問題はない。
 このような中、*3-4のように、佐賀新聞が「10兆円規模の経済対策は過剰だ」と指摘しているが、私は、これらの中身を精査して災害対策や景気対策名目のその場限りの支出を排除したり、より低コストで将来性の高いものに変更したりする必要があると考える。何故なら、これらは、結局は、さまざまな形で国民負担に繋がるからである。
 さらに、東京新聞はじめメディアが、*3-5のように、内閣府が共産党の宮本衆議院議員による関連資料要求の後に安倍首相主催の「桜を見る会」の招待者名簿を廃棄したと書いているが、①どこに行ったか ②選挙で誰を応援したか については個人情報であるため、名簿を廃棄していなかったとしても本人の同意なく開示すれば個人情報保護法(https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=415AC0000000057)違反になる。にもかかわらず、しつこく廃棄の時間を調べたり、「デジタルデータを復元せよ」「情報開示は・・」などと言っているのは、与野党・メディアとも個人情報保護の意味がわかっていない。さらに、招待者の中に“反社会的勢力(定義が疑問)”が入っていたそうだが、首相が招待者の1人1人をチェックするわけもなく、首相はもっと大きな仕事をするものだ。
 なお、*3-6に、佐賀新聞が既に私が上記で答えたこと以外に、「①後ろめたいことがないのなら、なおさら国会に出て可能な限り関係書類を示して野党の質問に答えるべき」「②安倍首相が、各界において功績・功労のあった方々という招待基準を無視し、後援会関係者というだけで招いていたとすれば公費を使って後援会関係者をもてなしたことになる」「③できるはずの潔白の証明をしようとしないのは、自ら潔白ではないと認めたことになる」などを記載しているが、このうち①③については、安倍首相を辞めさせるために野党が追及しているため、いろいろ説明して合理的であったとしても、別の事案を探して汚いかのように言うと思われる。また、②についても、叙勲(これにはおかしな基準が多いと思うが)ではあるまいし、「(どこにでも咲いている)桜を見る会」に、それほど厳格な招待基準が必要とは思われず、招待客に会を主催するホストの好みが入るのは自然だろう。また、価格はホテル側と合意していれば問題なく、立食パーティーなら人数分の食事を準備しているケースの方がむしろ少ない上、価格交渉するのも普通だ。つまり、国の正確な財務諸表やその明細書がないため、金額や性格の重要性に応じて予算委員会・決算委員会で質問時間を割り当てることができず、重箱の隅をつついて政権闘争するのが野党ということになっているのが国民にとって最大の不幸なのである。

*3-1:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191125/k10012190551000.html (NHK 2019年11月25日) 「桜を見る会」野党側が追及本部立ち上げ 山口県訪問し調査へ
 総理大臣主催の「桜を見る会」をめぐり、野党側が追及本部を立ち上げ、ことしの招待者のうち1000人程度が安倍総理大臣からの推薦だったことなどについて、地元の山口県下関市を訪れるなどして調査を進めることになりました。立憲民主党、国民民主党、共産党など野党側は25日、「桜を見る会」の追及チームの体制を強化して国会議員70人余りからなる「追及本部」を立ち上げ、初会合を開きました。本部長に就任した立憲民主党の福山幹事長は、「真相究明を進め、倒閣に向けた運動を進めていく。安倍政権は、自分たちのお友達だけを大切にして、国民生活はほったらかしだ。追及の手を緩めず一致結束して頑張りたい」と述べました。
そして、ことしの招待者のうち1000人程度が安倍総理大臣からの推薦だったことや、昭恵夫人からの推薦もあったこと、それに招待者名簿が野党議員が資料請求したのと同じ日に廃棄されたことなどについて、8つの班に分かれて調査を進めることを決めました。今後は、安倍総理大臣の地元の山口県下関市などを訪れて関係者から話を聞きたいとしているほか、引き続き安倍総理大臣に国会で説明責任を果たすよう求めていくことにしています。

*3-2:https://www.chunichi.co.jp/chuspo/article/entertainment/news/CK2019111602100052.html (中日新聞 2019年11月16日) 過去に「大麻中毒」など薬物使用疑惑報道 逮捕された“エリカ様“沢尻エリカ容疑者の横顔
 東京都内の自宅で合成麻薬MDMAを所持したとして、警視庁は16日、麻薬取締法違反容疑で女優の沢尻エリカ容疑者(33)を逮捕した。沢尻容疑者は、2005年に出演した映画「パッチギ!」で日本アカデミー新人賞をはじめ、映画賞に多数輝き、フジテレビ系ドラマ「1リットルの涙」での演技も高く評価され、一躍人気女優の座に上り詰めた。だが、07年9月、自身が主演した映画「クローズド・ノート」の舞台あいさつで、「別に…」と答え、自由奔放な振る舞いが批判されるなど話題になり、“エリカさま”と呼ばれた時期もあった。小学6年でモデルとして芸能界デビュー、少女ファッション誌「ニコラ」のモデルも務めた。03年、TBS系「ホットマン」で連続ドラマに初出演し、04年に「問題のない私たち」で映画初出演を果たした。演技力が買われ、以降映画出演が続き、「シュガー&スパイス 風味絶佳」(06年)「手紙」(同)、「新宿スワン」(15年)、「不能犯」(18年)などで主演した。12年の主演作「ヘルタースケルター」ではヌードを披露。転落していく女優を演じ話題になった。「億男」(18年)、「人間失格 太宰治と3人の女たち」(19年)でも存在感のある役を演じたばかりだった。プライベートでは、09年にはクリエイター高城剛さんと結婚したが、その後、夫婦関係をめぐり、迷走の末、13年に離婚した。女優としてのキャリアを重ねていく一方、薬物との接点もこれまで指摘され、「大麻中毒」など薬物使用疑惑が週刊誌などで報じられていた。

*3-3:https://www.hokkaido-np.co.jp/article/369062 (北海道新聞 2019/11/27) 首相事務所、桜見る会旅費を政治資金から支出か 週刊文春報道
 2015年の「桜を見る会」を巡り、安倍晋三首相の事務所スタッフがツアーに参加する地元支援者らに同行して上京する旅費を、政治資金で支払った疑いがあると、週刊文春が27日、ウェブサイトで報じた。事実なら事務所や後援会に「収支が発生していない」とする首相の説明と矛盾する可能性があり、野党が追及を強めそうだ。ウェブサイトなどによると、ツアーには地元事務所のスタッフが多数同行しており、約89万円はスタッフの旅費だった疑いがあるとしている。首相はこれまで、旅費や宿泊費などは参加者が直接旅行代理店に支払ったと説明。違法ではないとの考えを示している。

*3-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/458775 (佐賀新聞 2019年11月27日) 経済対策:10兆円規模は過剰だ
 政府は来週にも経済対策を取りまとめ、2019年度補正予算、20年度当初予算にその経費を計上する。20年早々から切れ目なく執行する「15カ月予算」として、自然災害からの復旧・復興を加速させ、海外経済の下振れリスクへ備える方針だ。与党幹部らの要請も背景に、総額は10兆円規模に膨らむ見通しとなっている。堤防の強化や被災者の生活再建に向けたケアなど台風などによって大規模な被害を受けた地域への迅速な支援は必要だ。日米貿易協定による米国産牛肉の輸入増に直面する畜産農家への補助なども、一定程度は考えなければならないだろう。米中貿易摩擦による企業業績への圧力も高まってきた。英国の欧州連合(EU)離脱問題も企業活動を萎縮させている。こうした情勢に対する警戒は強めなければならない。しかし、広範囲に景気を喚起する大型対策が急務となっている局面ではない。実際、政府の景気認識も「緩やかに回復している」との判断を維持している。そんな中で、経済対策に10兆円を費やすのは過剰と言うしかない。むしろ、景気の安定を利用して、後退を続けてきた財政再建に向けた取り組みを立て直す方が、政策の方向性としては合理性があるだろう。消費税増税の負担軽減に向けた追加対策は既定路線だが、そのほかの対策は、対策名目の「間口」の広さに乗じて、詰め込んでいる感さえある。自動ブレーキなどの先端的な安全機能を備えた「安全運転サポート車(サポカー)」普及に向けた助成、小学5年生から中学3年生がパソコンを1人1台使える環境の整備、ドローンなど先端技術を使ったスマート農業の促進など、政府が盛り込もうとしている対策は、政策自体としては今の経済社会情勢に合致したものだろう。反対する理由はない。しかし、経済対策として直ちに予算計上して迅速に実施していく必要性については首をかしげざるを得ない。この間、幹事長ら自民党幹部らが相次いで補正予算を巡り10兆円規模を求めて発言、不要不急と思える事業が次々と対策に紛れ込んでいった。2閣僚辞任や「桜を見る会」問題で政権に対する逆風が強まっていることが背景にあると見るのは、うがちすぎだろうか。政府は対策に盛り込む予定の全ての政策について、早急な予算計上が必要かどうか改めて点検し、必要性が薄ければ採用を見送り、規模を絞り込むべきだろう。経済対策を盛り込む19年度補正、20年度当初予算は国会で審議に付される。政府が説明責任を果たすのは当然だが、政府を追及する野党の責任も重いことは指摘しておきたい。今回の対策では、財政投融資も活用される。成田空港の新滑走路や新名神高速道路の6車線化などに少なくとも3兆円を投じるという。財投は一般会計予算と違い、政府が財投債を発行して市場から資金を調達、それを長期間、低利で貸し付ける制度だ。国債のように税収で償還する仕組みではなく、国の借金には含めないため、対策規模を拡大する手段としては使い勝手がいいのかもしれない。だが、資金が計画通りに返済されなければ、国民負担につながることは言うまでもない。

*3-5:https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201911/CK2019112702000148.html (東京新聞 2019年11月27日) 桜を見る会 名簿廃棄、資料要求後 「別の担当課、知らず」
 安倍晋三首相が主催した「桜を見る会」の今年の招待者名簿を巡り、内閣府は二十六日、野党の追及本部が国会内で開いた会合で、五月九日に名簿を廃棄した時間帯が、共産党の宮本徹衆院議員による関連資料要求よりも後だったことを明らかにした。廃棄と資料要求を担当した課が別だったため「廃棄の時点で、資料要求は知らなかった」と説明した。野党は「証拠隠滅だ」と改めて批判した。内閣府によると、名簿の廃棄は大臣官房人事課が担当し、五月九日午後の早い時間帯に行った。一方、宮本氏の資料要求は同日正午すぎに大臣官房総務課が把握した。総務課は資料要求について速やかに人事課に伝えず、人事課の担当者が要求を知らないまま名簿を廃棄したという。今年の招待者名簿については、内閣府が宮本氏から資料要求があった五月九日に廃棄したことを明らかにしていたが、廃棄の時間帯が資料要求よりも前か後かには言及していなかった。自民党の二階俊博幹事長は二十六日の記者会見で招待者名簿について「後々の記録、来年の参考にもなるから、いちいち廃棄する必要はない」と苦言を呈した。菅義偉(すがよしひで)官房長官は記者会見で、桜を見る会の招待客を巡り、首相や官房長官らの推薦が二〇一四年の約三千四百人から今年は約二千人に減っているのは過少説明との野党の指摘に対し「招待者名簿を既に廃棄しており、確認できていない」と釈明した。菅氏は、首相や官房長官らの推薦について「自民党関係者からの推薦も多く入っていたのではないか」との見方も示した。 

*3-6:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/460110 (佐賀新聞 2019年11月30日) 桜を見る会、首相は国会で説明を
 安倍晋三首相主催の「桜を見る会」を巡る問題がなかなか収束しない。新たな疑問点が次々と指摘される一方、政府側の説明は納得できるものではなく、公的行事を私物化していたのではないかという疑いは深まる一方だ。特に、真相解明に必要な招待者名簿が、共産党議員から提出を求められると、開催から1カ月もたっていないのにもかかわらず、大型シュレッダーで細断、破棄された事実は、公的行事私物化の事実を隠そうとしたのではないかとの深刻な疑念を生んでいる。招待者推薦の内訳から後援会が「桜を見る会」の前日に開いた前夜祭の収支、そして名簿破棄に至るまでの詳細を把握でき、また説明する責任があるのは当事者でもある安倍首相以外にいない。後ろめたいことがないのであれば、なおさら国会に出て、可能な限り、関係書類を示して野党の質問に答えるべきだ。次から次に疑わしい新事実が出てきて、「桜を見る会」を巡る問題は拡散気味だが、大きく三つに分類することができる。まず焦点になったのは安倍首相が「各界において功績、功労のあった方々」という招待基準を無視して、後援会関係者を招いていたのではないかという問題だ。桜を見る会は公費で賄われ、酒食も振る舞われる。仮に後援会関係者というだけで招いていたのだとすれば公費を使って後援会関係者をおもてなししていたことになり、まさに私物化に当たる。次が、桜を見る会前日に後援会関係者向けに開いた「前夜祭」の夕食会とその会費の金額だ。会場が東京都内の高級ホテルだったにもかかわらず会費が相場より安い5千円だったことから、安倍首相の議員事務所が実費不足分を補った公選法違反の可能性や政治資金収支報告書への不記載の疑いが指摘されている。桜を見る会を私物化したとの批判に対して安倍首相は11月20日の参院本会議での答弁で、「招待者の基準が曖昧で、結果として招待者の数が膨れあがった」と主張したが、厳格に解釈すべき基準を曖昧に解釈していたのが実態で、答弁は論点をすり替えている。また、前夜祭については「夕食会を含め、旅費、宿泊費など全ての費用は参加者の自己負担で支払われている。安倍事務所や後援会としての収入、支出は一切ないことを確認した」と強調。金額に関しては「(参加者の)大多数がホテルの宿泊者という事情を踏まえ、ホテル側が設定した価格との報告を受けている。毎年使っているとか、規模であるとか、宿泊をしているかをホテル側が総合的に勘案して決めることだ」と述べたが、根拠となる資料は示されなかった。さらに深刻で、説明に説得力がないのは招待者名簿を破棄してしまったことだ。共産党議員の提出要求の1時間後に大型シュレッダーで細断されており、名簿に安倍首相にとって都合の悪い部分があり、国会に提出されないよう「証拠隠滅」したのではないかとみられている。通常は可能なはずの電子データの復元についても菅義偉官房長官は「事務方からできないと聞いている」と説明にならない答弁を繰り返すだけだ。できるはずの潔白の証明をしようとしないのでは自ら潔白ではないと認めていることになる。

<憲法が守られていない事例(その1)-健康で文化的な生活>
PS(2019年11月28日追加): *4-1・*4-2のように、パートなど非正規で働く人たちの厚生年金の加入要件は、現在は「従業員501人以上の企業に勤務し、週20時間以上働いて、月給8万8千円以上」に限られているが、2022年10月に「101人以上の企業」、2024年10月に「51人以上の企業」に順次引き下げる案が有力だそうだ。対象拡大を目指す背景には、国民年金だけの人が低年金に陥らないようすることと、現在の年金保険料収入を増やす狙いがあるが、労働時間や賃金要件は現状を維持し、50人以下の企業も対象から外れ、政府は「中小企業の負担感や生産性向上に配慮し、助成金等の支援策も検討する」としている。
 しかし、*4-3のように、日本国憲法では「25条:すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」「27条:すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める」と規定されており、要件に満たない労働者は不十分な社会保障でよいとしてきたのが誤りである上、いつまでも専業主婦世帯をモデルとするのも、憲法27条及び男女雇用機会均等法違反だ。
 さらに、中小企業(定義不明)の生産性が低いとは限らず、むしろ厚労省始め役所の生産性の方が低そうで、社会保険料くらいは負担できるシステムにするのが筋であるし、その方が誰にとっても福利が増すわけである。

*4-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/458871 (佐賀新聞 2019年11月27日) 厚生年金加入要件、2段階で拡大、22年に101人以上の企業
 パートなど非正規で働く人たちの厚生年金で、政府、与党が加入対象となる企業要件を2段階で拡大する検討を始めたことが27日、分かった。現在、加入が義務付けられている企業の規模は「従業員501人以上」。これを2022年10月に「101人以上」、24年10月に「51人以上」に順次引き下げる案が有力だ。厚生年金の保険料は労使折半。51人以上に引き下げれば新たに65万人が加入対象となる一方、企業の保険料負担は1590億円増える見通し。政府は将来的な企業要件の撤廃を目指しているが、中小企業の経営面への配慮などから、今回の制度改正では撤廃の時期は明記しない方向。これまで一度に51人以上に引き下げる方向で検討してきたが、経営への打撃を最小限に抑えたい中小企業が慎重な対応を求めていた。来年の通常国会に関連法案を提出する。対象拡大を目指す背景には、国民年金だけの人が将来、低年金に陥らないよう年金額を手厚くする狙いがある。パートやアルバイトで働く人は現在、(1)従業員501人以上の企業に勤務(2)労働が週20時間以上(3)月給8万8千円以上―などの要件を満たせば、厚生年金の加入対象となる。今回の制度改正では企業要件を引き下げる一方、労働時間や賃金の要件は現状を維持する。26日に開かれた政府の全世代型社会保障検討会議では、議長を務める安倍晋三首相が「中小企業の負担感や生産性向上に配慮しつつ、厚生年金の適用範囲を考える」と述べていた。

*4-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14274047.html (朝日新聞 2019年11月28日) パート厚生年金、2段階拡大 従業員51人以上に 厚労省調整
 厚生労働省は、厚生年金が適用されるパートらの範囲を2段階で広げる方向で調整に入った。今は勤め先の企業規模が「従業員501人以上」であることが条件だが、2022年10月に「101人以上」、24年10月から「51人以上」に引き下げる。新たな保険料負担が生じる中小企業に配慮し、一定の準備期間を設けて理解を得たい考えだ。厚生年金には、正社員などフルタイムで働く人のほか、「501人以上の企業で週20時間以上働き、月収8万8千円以上」などの条件を満たすパートらも加入できる。今は約40万人だが、厚労省の試算では、適用対象の企業規模を51人以上にすると約65万人増える。政府は、厚生年金の方が国民年金よりも年金額が高いため、適用拡大によって低年金・無年金になる人を減らせるとしている。保険料収入が増え、年金財政が改善する効果も見込む。厚労省によると、企業規模を51人以上にした場合、モデル世帯の将来の年金水準は0・3ポイント上がる。一方、厚生年金の保険料は労使折半で払う。パートの加入者が1人増えると、一緒に生じる健康保険料とあわせて、年約25万円の負担増になるとの厚労省の試算もある。中小企業側は、最低賃金の引き上げなども課題になる中、保険料負担まで増えれば「経営に大きなインパクトを及ぼしかねない」などと慎重論を展開。また、パート自身が保険料負担を避けようと働き方を調整すれば、人手不足が加速する恐れもあると指摘している。ただ、政府は来年の通常国会に適用拡大の法案を提出する方針。中小企業側の理解を得るため、助成金などの支援策も検討している。

*4-3:http://www.japaneselawtranslation.go.jp/law/detail_main?id=174
(日本国憲法より抜粋)
第25条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
     国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上
     及び増進に努めなければならない。
第27条 すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。
     賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。

<憲法が守られていない事例(その2)-違憲立法審査権>
PS(2019年11月29日、12月5日追加):日本国憲法は、「81条:最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である」と定めており、これは最高裁判所が違憲法令審査権を有する終審裁判所であることを規定したものであるため、違憲立法か否かを判断するには、(よく必要と言われる)憲法裁判所は不要だ。
 さらに、民事訴訟・行政訴訟など下部の法律で要求される当事者適格(特に原告適格)や訴えの利益などの訴訟要件を満たした訴訟でなければ違憲立法を提訴する資格がないとし、訴えの利益を狭く解釈しているのも、実質的に国民が違憲立法審査権を行使するのを困難にしている。
 そのような中、*5-1のように、戦後の憲法裁判記録が多数廃棄され、自衛隊や基地問題に関する当初の議論が検証不可能になったのは、大きな問題だ。
 また、日本政府は、*5-2のように、米国主導の「有志連合」には参加しないが、国会承認がいらず防衛大臣の判断のみで派遣可能な「調査・研究」という名目で、もともとは日本と友好関係を持っていた中東イランに自衛隊を派遣するそうだ。しかし、危機の迫った日本の船舶を護衛するわけでもないのに、単なる情報収集態勢強化のために自衛隊を遠方に派遣するのは、違憲の可能性が高い安全保障関係法令からもはみ出している。そのため、敵を増やす結果しか招かなそうなこの自衛隊派遣について、国会はその理由・目的・結果をよく検討すべきだが、この件に関しては「桜を見る会」ほどにも議論できないのが、我が国の深刻な問題なのである。

*5-1:https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2019080401001662.html (東京新聞 2019年8月4日) 戦後憲法裁判の記録を多数廃棄 自衛隊や基地問題、検証不能に
 自衛隊に一審札幌地裁で違憲判決が出た長沼ナイキ訴訟や、沖縄の米軍用地の強制使用を巡る代理署名訴訟をはじめ、戦後の重要な民事憲法裁判の記録多数を全国の裁判所が既に廃棄処分していたことが4日分かった。代表的な憲法判例集に掲載された137件について共同通信が調査した結果、廃棄は118件(86%)、保存は18件(13%)、不明1件だった。判決文など結論文書はおおむね残されていたが、歴史的裁判の審理過程の文書が失われ検証が不可能になった。裁判所の規定は重要裁判記録の保存を義務づけ、専門家は違反の疑いを指摘する。著名裁判記録の廃棄は東京地裁で一部判明していた。

*5-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14281400.html (朝日新聞社説 2019年12月4日) 中東へ自衛隊 国会素通りは許されぬ
 緊張が高まり、不測の事態も想定される中東に自衛隊を派遣することの重みを、安倍政権はどう考えているのか。政府・与党だけの手続きで拙速に決めることは許されない。国会の場で、派遣の是非から徹底的に議論すべきだ。中東海域への自衛隊派遣について、政府が年内の閣議決定をめざしている。早ければ年明けにも、護衛艦1隻を向かわせるほか、海賊対処のためソマリア沖で活動中のP3C哨戒機1機の任務を切り替える。米国のトランプ政権が核合意から一方的に離脱し、米国とイランの対立は深まるばかりだ。政府は米国が主導する「有志連合」への参加を見送り、独自派遣を強調することで、イランを刺激しまいとしている。だが、有志連合とは緊密に情報共有を進める方針であり、状況次第で、米国に加担したと見られても仕方あるまい。朝日新聞の社説は、関係国の対話と外交努力によって緊張緩和を図るべきだと、繰り返し主張してきた。米国の同盟国であり、イランとも友好関係を保つ日本が、積極的に仲介役を果たすことも求めてきた。こうした取り組みに逆行しかねない自衛隊派遣には賛同できない。法的根拠にも重大な疑義がある。日本関係の船舶を護衛するわけではなく、情報収集態勢の強化が目的として、防衛省設置法の「調査・研究」に基づく派遣だという。国会承認がいらないだけでなく、防衛相の判断のみで実施可能だ。自衛隊の活動へのチェックを骨抜きにする拡大解釈というほかない。政府が今回、閣議決定という手続きをとることにしたのは、公明党などにある懸念に応え、政府・与党全体の意思統一を図る狙いがあるのだろう。しかし、先に派遣ありきの議論で、数々の問題が解消されるとは思えない。政府は現地の情勢について、船舶の護衛がただちに必要な状況ではないと説明している。それなのに、派遣の決定を急ぐのはなぜか。活動を始めた有志連合と足並みをそろえ、米国への協力姿勢をアピールする狙いがあると見ざるをえない。だが、いったん派遣すれば、撤収の判断は難しくなる。立ち止まる機会は、今しかない。この節目に、国会論議を素通りすることは許されない。9日に会期末を迎える今国会では、いまだ中東派遣を巡る突っ込んだ質疑が行われていない。だとすれば、国会の会期を延長し、日本が採るべき選択肢を議論すべきではないか。そのことこそ、政治に課せられた国民への責任である。

<無駄のない安価で本質的な公共事業をすべき>
PS(2019年12月1、2、3日追加):*6-1のように、気候変動による海面上昇で、ガンジス川下流のインド・バングラデシュ国境地帯にある汽水域のマングローブが浸食され、この地域の鹿が減ってベンガルトラも姿を消す恐れがあるそうだ。また、人間も海面上昇で海辺の自宅に海水が入ってくるようになり、人間を含む生態系全体が内陸に移動せざるを得なくなった。しかし、*6-2のように、日本の標高は東京湾の平均海面が基準となっており、日本水準原点の高さは明治6年6月(1931年)から明治12年12月(1937年) までの東京湾の平均海面を見て決められたままだそうで、標高は海面上昇とともに一律に下がった筈なので、“歴史”“伝統”“前例”と称して惰性で同じことをやり続けるのは、日本の非科学的な点である。
 なお、近年は、*6-3のように、気候変動によって豪雨が増加し、水位超過が年を追うごとに増えて「氾濫危険水位」を超える事例が、2018年に日本全国で474件に達するそうだ。この原因には、海面上昇・気温の上昇による頻繁で強い豪雨・長期にわたる河川管理の不適切・住宅適地選定の誤りなどが考えられ、さんざん無駄遣いをしてきた上げ挙句の予算不足は言い訳にならない。そのような中、日頃からの治水対策はもちろん重要だが、人口減にもかかわらず海に面した大都市に人口を密集させ、土地価格の高騰から地下鉄・地下街さらには地下貯水池などの地下施設を作り、浸水すれば莫大な被害が生ずるという都市計画自体を考え直す必要がある。
 では、どういう土地の使い方をするのが合理的かと言えば、*6-4及び東日本大震災の津波被害を参考にすれば、「①人は高台に住む」「②工場もゆとりを持つ高台に移動する」「③農地を低い土地に作って遊水地の働きを持たせ、遊水地部分には水害にあっても1年で回復できる作物を植え、水害復旧には国から補助をする。トラクター・コンバイン・大型乾燥機などの農機具は十分な高さのある場所に保管する」などが考えられる。そのため、以前どおりに復旧したり、むやみに仮設住宅を立てたりするのは、無駄遣いの中に入るわけだ。
 ただ、*6-4に書かれている大町町の灰塚さんの場合は、順天堂病院周辺の農地約6haであるため、県・町・順天堂病院・その他の適切な会社が買い取って介護等のサービスを受けやすいマンションや公営住宅を建て、高齢者や病院のスタッフはじめそのような住宅に住みたい人を住まわせるのが便利だと思う。そのため、灰塚さんは、この土地を耕作者のいなくなった他のよい土地と交換すればよいのではないか?
 佐賀県には、*6-5のように、九州新幹線長崎ルートが開業すると並行在来線が不便になるという問題があるが、これはJR九州に依存しすぎているからかもしれない。何故なら、埼玉県ふじみ野市(私の自宅)は、東武東上線・有楽町線(地下鉄)・東急東横線・みなとみらい線が相互乗り入れして直通運転になったため、池袋・永田町・有楽町がもともと直通だったのに加えて新宿・渋谷・横浜・元町中華街などが直通で繋がり、便利になった。*6-5のケースなら、並行在来線の運行を他の鉄道会社に移管してJR九州と相互乗り入れさせたり、ディーゼル車両ではなく蓄電池電車や燃料電池電車にしたりなど、もっと希望が持てる前向きな案が考えられる筈で、私鉄は九州にこだわらず東急など沿線の街づくりが得意な会社の方がよいかもしれない。

*6-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14274014.html (朝日新聞 2019年11月28日) (世界発2019)気候変動、ベンガルトラ窮地 200頭生息のガンジス川下流、海面上昇
 絶滅が心配されるベンガルトラの最大の生息地の一つで、インドとバングラデシュの国境地帯にあるマングローブが、気候変動による海面上昇の打撃を受けている。50年後にはベンガルトラが姿を消してしまう恐れがあるという。
■飲み水・えさピンチ、絶滅危惧に追い打ち
 野生生物の宝庫と言われ、ベンガル語で「美しい森」を意味するシュンドルボン。青森県とほぼ同じ総面積、約1万平方キロメートルのマングローブは世界最大級で、ガンジス川下流のデルタ地帯にある。数千の川や入り江が複雑に入り組む。海水の混じった汽水がマングローブの生育に適し、ベンガルトラのほか、ワニや鹿、カワイルカなど様々な生物が生息する。主要部分は国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界自然遺産に登録されている。だが、約100の島からなる現地を小型船でめぐると、豊かだったはずの自然環境は変わり果てていた。岸辺の木々は消え、泥が積み上がっている。高さ2メートルほどの急ごしらえの堤防も、少しずつ浸食されている。海面上昇が進んでいるのだ。「年間約550ヘクタールの土地が失われている。海面上昇で土中に海水が混じり降雨量の減少も加わって、土中の塩分の濃度が上がっている。ベンガルトラの飲む淡水が少なくなってしまう」。ベンガルトラの保護活動に取り組んでいる地元NGOのアニル・ミストリ代表はそう心配する。すでに二つの島が沈んだ。えさとなる鹿にも影響が出ている。世界自然保護基金(WWF)によると、世界で生存するトラは1900年からの100年間で密猟の影響などで95%減り、4千頭を切った。インドやバングラデシュ、中国などに生息するベンガルトラは、昨年時点でシュンドルボンに202頭いることが確認されている。バングラデシュ・インディペンデント大学のシャリフ・ムクル氏は、環境変化で「2070年までにベンガルトラはシュンドルボンから完全に姿を消してしまう可能性がある」と予測している。
■家・田畑に海水、1万人移住/トラ襲撃被害
 シュンドルボンには人が住む集落が50カ所ほどあるが、海面上昇で生活も脅かされている。農家のブロゲン・マンダルさん(44)は「米の収量は昨年の600キロから180キロも減った」と嘆いた。海水が森林や田畑に入り込み、土壌を変えてしまったためだ。一帯の水も海水が混じる量が増え、取れる魚の量が減っている。モハン・マンダルさん(56)一家は、海辺の自宅に海水が入ってくるようになったため、地元政府がつくった堤防の内側に移住した。「5年後には堤防が壊れてしまうかもしれない。そうなったらどこに住めばいいのか」。この数年、暑い夏が長くなり、冬が来るのが遅く短くなったと感じる。「夏は暑すぎて、太陽が地上にあるようだ」。地元報道によると、一帯では海面上昇などですでに約1万人が移住を余儀なくされている。シュンドルボン一帯は雨期になるとベンガル湾の方角からサイクロンが直撃する。島の一つで、約4万人が暮らすバリ島にはサイクロンによって大量の海水が流入することもしばしばで、土壌の塩分が多くなってしまった。住民は生活や農業のため地下30メートルほどから水をくみ上げ続け、すでに枯渇してしまった地域が相次いでいる。シュンドルボンの巨大マングローブは、04年のインド洋大津波で大きな被害を防いだこともあり、自然災害から人間を守る天然のフェンスだった。マングローブが失われれば、植物や野生動物だけでなく、人間の生活も危うい。地元NGOのミストリ氏は「人間もこの自然の一部だという認識で生態系を守らなければならない」と話す。トラが人間を襲う事故も頻発する。生息域が狭まり、えさが減っているのが原因とみられている。インド・西ベンガル州政府はトラの生息地にネットを張り巡らせ、トラの封じ込めに努めている。それでも事故は起きてしまう。蜂蜜を採集していた夫をベンガルトラに殺されたというコイシャラさん(60)は「トラは私たちにとって恐ろしい存在だったが、安全を願って共に生きてきた。その調和が壊れてしまった」と話す。

*6-2:https://www.jk-tokyo.tv/zatsugaku/107/ (東京さんぽ) 日本の標高を決める水準原点
 日本の標高は東京湾の平均海面が基準となり、それが標高ゼロメートルと決まっているそうです。その正確な高さを定めた水準原点は東京湾にあるのではなく、湾岸より地盤のよい国会議事堂前の憲政記念館(東京都千代田区永田町1-1)の庭にあります。この日本水準原点の高さは、明治6年6月(1931年)から明治12年12月(1937年) までの東京湾霊岸島で測定した東京湾の平均海面を見て決められました。水準原点は小豆島産の花崗岩でつくられた原点標石に水晶板が埋め込んであり 、この水晶板の目盛ゼロの線(法令では零分画線の中点)が基準となります。
○標高は24.4140m。
 明治24年(1891年)この場所に日本水準原点が初めて設置されたときの標高は 24.5mでしが、1923年の関東大震災によって日本水準原点の地盤が86.0mm沈下したため、その標高が24.4140mと改められました。水準原点を保存している建物は工部大学校(東京大学工学部前身)。第1期生佐立七次郎(さたち・1856~1922)さんの設計で、建物は石造りで平屋建になります。建築面積は14.93㎡で軒高4.3mローマ風神殿建築にならい、トスカーナ式 オーダー(古典建築の構成原理)をもつ本格的な模範建築で、明治期の数少ない近代洋風建築として貴重なものだそうです。また、建物正面には「大日本帝国」「水準原点」の凝った文字が右から横書きで書かれてあり、「大日本帝国」の文字が残っている建物としても貴重であり 、現在は東京都指定有形文化財(建造物)に指定されています。

*6-3:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/563324/ (西日本新聞 2019/11/28) 「氾濫危険水位」超過河川4年で5.7倍 18年474事例、28%が九州
 河川の水位がいつ氾濫してもおかしくない「氾濫危険水位」を超える事例が2018年に全国で474件に達し、うち3割近い136件を九州7県が占めたことが、国土交通省への取材で分かった。水位超過はこの数年で顕著に増加しており、都道府県が管理する河川での発生が大半を占めた。台風の強大化や豪雨の頻発が背景にあるとみられ、国交省は気候変動を見据えた治水対策の検討に乗り出した。国交省によると、水位超過は年を追うごとに増えており、全国の件数は14年(83件=うち九州8件)の5・7倍に増え、九州7県が28%を占めた。国交省は「気候変動による豪雨の増加で、河川の安全度が相対的に低下している恐れがある」と分析。九州は他地域より豪雨が多かったため、全国に占める割合が高まった可能性が高い。河川の管理主体別では、都道府県が全国で86%(412件)、九州7県で82%(112件)を占めた。九州の県別の内訳は、福岡29件▽佐賀14件▽長崎4件▽熊本16件▽大分25件▽宮崎18件▽鹿児島6件。都道府県管理は、洪水時などに甚大な被害が想定されている国管理と比べ、氾濫対策が遅れているとみられる。関東や東北で甚大な被害が出た今秋の台風19号でも、堤防が決壊した71河川140カ所のうち64河川128カ所が都道府県管理だった。群馬大大学院の清水義彦教授(土木工学)は「都道府県管理河川は予算不足などで対策が遅れがちで、(降雨時間や範囲の)規模が小さい豪雨であふれる河川もある」と指摘。水位低下につながる遊水池の設置や河道の掘削といった対策について「早急に進める必要がある」と訴える。気象庁によると、1時間に50ミリ以上80ミリ未満の降雨量を示す「非常に激しい雨」の回数は、約30年前の約1・4倍に増えた。気候変動が豪雨増加の要因と指摘され、国交省の有識者検討会は気温が2度上昇すれば洪水頻度が2倍になるとの試算をまとめ、7月末に対策強化を提言した。国交省は、社会資本整備審議会(国交相の諮問機関)の小委員会で気候変動を踏まえた治水対策の見直しの検討に入っており、国管理河川の治水計画を改定する方針。自治体にも温暖化の影響を考慮するよう促しており、都道府県管理河川の計画見直しにつながる可能性がある。

*6-4:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/563318/ (西日本新聞 2019/11/28) 「つらい」臭う田畑、油に奪われた実り…農家の無念 九州大雨3カ月
 九州北部を襲った8月の記録的大雨から28日で3カ月。鉄工所から流れ出た油混じりの水に田畑が漬かった佐賀県大町町の農家灰塚晃幸さん(64)は今季、収穫と作付けを断念した。県は土壌調査を終えて来春の営農再開を目指す方針を打ち出したが、灰塚さんの田畑には油の臭いが残り、農機具修復の見通しも立たない。「精魂込めて長年向き合った農業を奪われた」と無念さを募らせる。「今ごろは田んぼを耕して、麦をまく時期やったのに」。灰塚さんは、稲の切り株が残る田んぼを見つめた。近くのブロッコリー畑には雑草が生い茂る。4トンの収量を見込んでいた大豆は立ち枯れしたままだ。会社勤めから専業農家になって約35年。亡くなった父、安清さんが広げた順天堂病院周辺の農地約6ヘクタールを耕してきた。この夏、病院周辺の田畑の大半が大雨で冠水し、油が作物と土に付着した。自宅も床上1・3メートルまで浸水。大雨から1カ月間、避難所に暮らしながら、いても立ってもいられずに田畑を回った。10月、茶色に変色した稲穂を廃棄するために刈り取った。トラクターとコンバイン、大型乾燥機など農機具は全て修復不能に。「米に触れる部分は油が付着したらだめ。使ったら風評被害を生む」と諦めた。今月25日、大町町役場で開かれた被災農家の説明会。県と町の土壌調査では、農地153カ所のうち4カ所で水稲の生育に影響を及ぼすレベルの油を検出したと報告を受けた。灰塚さんの農地15カ所は、自然分解や石灰散布で営農再開できるレベルだった。それでも不安は消えない。「油はゼロではなく今も臭いがする。来年6月に田植えができるかどうか」。農機具の損失は4千万円相当に上る。国などの補償を受けても4割程度は自己負担になる。自宅の再建も見通しは立っていない。「全壊」判定の母屋には住めず、隣の農業小屋2階に家族3人で寝泊まりしている。いつもなら年末が近づくと自家栽培のもち米を蒸して、餅をつき、親戚に配っていた。今年のもち米は、捨てるしかなかった。正月には親戚一同が自宅に集まってカラオケ大会でにぎやかに過ごしてきたが、すでに断りを入れた。「3カ月たっても、状況は何も変わらん。何の作業もできんのがつらい」。農家の営みを失った重さが日々のしかかる。
   ◇    ◇
●罹災証明受け付け2300件
 8月の記録的大雨で被災した佐賀県。全20市町にあった避難所は10月20日までに全て閉鎖されたものの、自宅の浸水被害で戻れない人々が公営住宅67戸で仮住まいを続け、民間物件を借り上げて公費負担する「みなし仮設住宅」14戸の入居も決まっている。罹災(りさい)証明書の申請受け付けは13市町で2302件に上る。県によると、県内6市町に設置された災害廃棄物の仮置き場のうち、大町町と白石町は廃棄物を全て搬出。福岡、長崎両県の施設などと連携して広域処理が進んでいる。今月26日時点で住宅被害は全壊87棟、大規模半壊106棟など。農林水産関係や商工業など被害総額は約355億円に上る。

*6-5:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/461153 (佐賀新聞 2019年12月3日) 並行在来線ディーゼル化、速度遅く長崎線に乗り入れできず? <新幹線長崎ルート>肥前山口で乗り換えか
 九州新幹線長崎ルートの2022年度暫定開業に伴い、並行在来線となる肥前山口-諫早間を走る普通列車が、佐賀方面の長崎線に乗り入れできない可能性があることが分かった。並行在来線の一部区間は経費削減で非電化となり、速度が遅いディーゼル車両で運行するため、肥前山口駅での乗り換えが必要になる見通し。佐賀県は利便性が損なわれるとして、JR九州との協議で現行の乗り入れ本数の維持を求めている。肥前山口-諫早間は、佐賀、長崎両県が鉄道施設を維持管理し、JR九州が運行を担う「上下分離」方式を採用する。2016年の6者合意で、長崎ルートの暫定開業から23年間は普通列車を「現行水準維持」することが決まった。ただ、特急が走る肥前鹿島までは電車で運行できるが、肥前鹿島-諫早は経費を抑えるため、非電化区間となる。普通列車はディーゼル車両になり、肥前山口-諫早間で運行する。県によると、JR九州は速度が遅いディーゼル車両の長崎線への乗り入れはダイヤ編成上、困難との見方を示しているという。現行で1日に上下約30本程度の普通列車が運行し、半数以上が乗り換えを必要とせずに佐賀駅や鳥栖駅まで走っている。沿線住民の通勤通学の足として重要な役割を果たしているが、暫定開業後は一切乗り入れできなくなる可能性が出てきた。佐賀県は、JR九州や長崎県と進めている並行在来線の協議の中で、普通列車の在り方について問題提起している。JR九州が試験走行しているスピードが出る新型ディーゼル車両の導入を提案するなどしている。県交通政策課は「6者合意の『現行水準維持』は本数だけでなく、利便性も含まれる。通勤通学の時間帯の乗り入れを実現できるよう申し入れていきたい」と話す。JR九州は取材に対し、「ダイヤは需要や経営資源を考慮し、可能な限り利便性を確保するよう開業直前に決めるもので、現時点のコメントは差し控える」と回答した。

<発生主義会計採用の必要性を示す重大な事例(その1)-年金>
PS(2019/12/6追加): 政府は、公的年金制度に関し、消費税を引き上げ、金利を下げてマネーサプライを増やすというインフレ政策をとりつつ、物価スライド制を導入して、公的年金の実質受給額を減らすことに熱心だった。長寿命化により、*7-1のような中小企業で働く非正規労働者の厚生年金加入や高齢者の就業促進のための改革は必要だが、メディアや日本総研の西沢氏が、「①将来世代に目配りする改革が不十分」「②高齢者から反発が出るような制度改革がなければ、若年層からの信任は得られない」「③マクロ経済スライドの強化策を見送ったので、世代間の格差縮小という点で課題が多い」などとしているのは不適切だ。
 何故なら、③は、年金や介護保険制度が不十分だった時代に親の生活の世話や介護を行った現在の高齢者とそれを社会に任せることのできる若者との世代間格差の方がずっと大きいことを無視しており、①②は、現在の日本を造ってきた高齢者に感謝するどころか高齢者を馬鹿にする発言で、このような良識のない発言が「オレオレ詐欺」のような高齢者にたかる若者を作る温床となっているからだ。そして、現在の高齢者に対するこのような扱いが続けば、将来の年金制度は、制度が持続しても価値の小さなものになるだろう。なお、介護保険制度も介護保険料の支払者・受給者とも、全世代の働く人にすべきだ。
 それでは、「年金については、どうすればよかったのか」と言えば、厚生省(当時)が積立方式だった年金制度を1985年に賦課課税方式とし、単年度主義にしてその年の収支しか気にしなくなったため、*7-2のように、公的年金の給付水準が現役世代の負担に依存することとなり、散々、無駄遣いした上で「積み立てられた厚生年金の運用資産総額が200兆円に達している」などと呑気なことを言うようになったのが問題なのである。従って、積立方式を変更する必要はなかったのだが、今からなら発生主義に基づいた積立金を準備する必要があり、その金額の計算方法は民間企業が使っている退職給付会計と同じだ。現在の積立金と発生主義に基づいて計算された積立金の差額については、国民には全く責任がないため痛み分けする必要はなく、国債を発行して長期間で返済するしかない。

*7-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO52982720V01C19A2EA1000/ (日経新聞 2019/12/5) 75歳から受給も可能 政府の改革案まとまる
 政府が検討を進めてきた公的年金制度の改革案が5日、固まった。中小企業で働くパート労働者も厚生年金への加入を義務づけるほか、75歳から受け取り始めると月あたりの年金額を最大で84%増やせる仕組みに変える。制度の支え手拡大や高齢者の就業促進に重点を置く。ただ現在の高齢者への給付を抑え、将来世代に目配りする改革はなお不十分だ。自民党が5日開いた社会保障制度調査会を受け、まとめた。2020年1月から始まる通常国会への改正法案の提出をめざす。公的年金改革は5年に1度実施する将来見通し(財政検証)を受け、19年夏から本格的な議論が始まった。議論の土台になる財政検証で示されたのは経済が順調に推移しても、将来の給付水準は今より2割弱下がるという先細りの将来像だ。政府は厚生年金の支え手拡大で、年金制度の持続性を高めることを重視した。高齢になるとパートや嘱託など短時間勤務に切り替える人も多く、働き方が変わっても厚生年金に加入できるようにする。現状は(1)従業員501人以上の企業に勤務(2)週20時間以上働く(3)賃金が月8.8万円以上――などの条件を満たす短時間労働者が対象。政府案では企業規模の要件を見直し、まず22年10月に従業員101人以上の企業に対象を拡大。24年10月には51人以上まで基準を下げる。厚生年金には18年度末で4440万人が加入するが、厚生労働省の試算では新たに65万人が加入する見通しだ。企業規模の要件を101人以上に見直すと、将来世代の所得代替率(現役会社員の手取りに対する高齢夫婦世帯の年金額の割合)は約0.2%改善する。対象を51人まで拡大すると改善幅は約0.3%まで広がる。将来不安に備えるには65歳を過ぎても健康な間はできるだけ長く働いて、公的年金はいざという時まで取っておけるようにもする。その中核になるのが年金の受け取り開始年齢の引き上げだ。今は原則65歳が受給開始年齢で、60~70歳の間で時期を選べる。これを75歳まで延ばす。受取時期を1カ月遅らせるごとに月あたりの年金額は65歳で受け取るより0.7%増える。75歳まで遅らせると84%増だ。19年度の厚生年金は夫婦2人のモデル世帯で月22万円。賃金や物価などの変動を考慮しなければ、75歳まで繰り下げた際の年金額は40万円強に増える。海外では平均寿命の延びに合わせて支給開始年齢を遅らせる国もあるが、選択肢の拡大で対応する。働く高齢者の年金を減らす「在職老齢年金」も見直す。今は60~64歳の場合、厚生年金と賃金の合計が月28万円を超えると年金の一部が支給停止になる。働いても収入が変わらず、就労意欲をそぐとの批判があった。この基準額を47万円に上げる。19年度末の試算では、新たに46万人に対して約3000億円の財源が必要だ。公的年金の支給額を抑えて制度の持続性を高める「マクロ経済スライド」の強化策は見送った。物価や賃金が低迷している時は機能せず、04年の導入から発動したのは2回のみ。調整が機能しなければ、高齢者の年金は維持されるが将来世代の給付水準は下がる。日本総合研究所の西沢和彦氏は「高齢者から反発が出るような制度改革をしなければ、若年層からの信任は得られない」と指摘する。世代間の格差縮小という面でみると課題は多い。

*7-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191204&ng=DGKKZO52929710T01C19A2EN2000 (日経新聞 2019.12.4) 厚生年金のあるべき資産構成
公的年金について、5年に1度の財政検証が行われた。これに伴い、厚生年金の運用資産構成の見直し、すなわちモデルポートフォリオの新たな検討が進んでいる。現在、厚生年金の運用資産総額は200兆円に達しつつある。公的年金の給付水準維持が現役世代の負担に依存するとはいえ、現時点で積み立てられた膨大な資産とその運用収益がクッションとなる。この意味で、資産運用の枠組みとしてのモデルポートフォリオは重要である。それにもかかわらず、モデルポートフォリオに関する議論が密室で行われているようだ。専門家にしか理解できない議論なのか。そうだとしても、素人からも意見がある。第1に、各資産の収益率に関して。今後の国内債の利率がほぼゼロであり、当面その上昇は期待薄だ。だとすれば、ポートフォリオでの国内債割合を低くし、その分を他の資産に移すべきだろう。第2に、資産を移管する先としての株式について。ひとつに、株式を国内と海外に分ける意味である。国内で元気な企業は、海外でも元気であり、利益の相当部分を外で稼いでいる。これは国内企業の海外化であり、株式を内外に分ける合理性を消滅させている。さらに、海外株の投資パフォーマンスが国内株を上回って久しい。海外経済の成長率が日本を上回っているためである。以上からすれば、内外の株式の区分をなくし、株式全体としての資産配分を考えるのが正しい。第3に、株式投資のベンチマークとしてのインデックスの再考である。国内株式について、上場区分とともに、インデックスの構成企業を見直そうとの議論が本格化する。これまで公的年金が信奉してきた東証株価指数(TOPIX)が絶対ではなくなった。第4に、50年、100年に一度のリスクへの対応である。公的年金のそもそもの目的は国民の安定的な老後生活にある。このことから、経済的な変動だけではなく、自然災害への目配りが必須となる。とくに、間近に迫っていると政府が注意喚起している南海トラフ大地震である。ポートフォリオの基本は分散投資である。大地震のリスクにさらされた日本に置くべき資産を調整するのは当然だろう。密室であってもいいが、以上に留意した議論を期待したいものだ。

<発生主義会計採用の必要性を示す重大な事例(その2)-固定資産>
PS(2019/12/9追加):*8-1・*8-2のように、国や地方公共団体のインフラ老朽化が進んだとして、事故が起きてからあわてて維持・管理を議論し、予算の獲得合戦をし、原因を専門スタッフの不足・無駄な公共事業の削減・人口減などに結び付けて誤った“解決策”に導かないためには、固定資産台帳を整備して存在する固定資産は網羅的に取得価額・耐用年数・減価償却・修繕等の状況を把握し、物理的・金額的に管理しておく必要があった。しかし、地方公会計の統一基準が採用された地方公共団体の固定資産台帳でさえ、現在は整備済17.9%、整備中35.9%、未整備46.2%であり(新地方公会計統一基準の完全解説P51~93など参照)、国はもちろん未整備である。そして、漏れなく重複なく金額の重要性に応じて必要な維持管理を行うには、複式簿記による会計を行って資産・負債・引当金などを正確に把握していることが必要であり、民間企業は、皆そうしているのだ。そして、それらの正確な資料を基に、例えば上下水道・ごみ処理・道路・橋などのインフラの維持管理をどう効率化するか、広域化して地方公共団体が所有するか、民営化するか、どのくらい国の助成を求めるかなどを議論する必要があるわけだ。
 なお、中央自動車道笹子トンネルで、ずさんな点検により老朽化を見落とし、天井板が崩落して9人が死亡した事故は、目視や音で老朽化の診断をしていたというので驚いた。医療に例えれば、年齢も考えず、顔色を見て聴診器で音を聞いただけで、検査はしなかったのと同じで、21世紀の維持管理や検査からはほど遠い。つまり、固定資産のメンテナンスは、鉄道会社や工場と同様、それを獲得した瞬間から効率的に行っておくべきものなのである。


  地方公会計の導入経緯     地方公会計の完成度       国の会計

(図の説明:左図のように、2020年3月末までに、統一基準による地方公会計が全国の地方公共団体で適用されるが、中央の図のように、複式簿記による発生主義会計は、単式簿記による現金主義会計の補完という位置づけだ。その理由は、日本国憲法及び財政法が、単式簿記による現金主義会計を前提としているからだそうで、これが計画性のない無駄遣いの原因になっている。しかし、膨大な資産・負債や収支を伴う国の会計基準は、右図のように、未だ単式簿記による現金主義会計のみであり、税金と保険料や収入と借入金などをごっちゃにしている状況だ)

*8-1:https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20190718-OYT1T50341/ (読売新聞 2019/7/19) 地方のインフラ 進む老朽化への対策急ぎたい
 老朽化が進む地方のインフラ(社会基盤)をどのように維持・管理していくか。重い課題の克服へ有効策を探りたい。全国の道路や橋、トンネル、水道管などは高度成長期に集中的に整備された。このため、多くが一斉に耐用年数を迎えつつある。地方自治体は人口減などで財政が厳しく、更新や補修に十分対応できていない。自民党は参院選の公約で、防災や減災のための「国土強靱きょうじん化」を掲げる。ただ、老朽化への対応策は具体性を欠く。立憲民主党や国民民主党は、地方インフラの維持に言及していない。喫緊の問題で論戦が低調なのは残念だ。2012年に起きた中央自動車道・笹子トンネルの天井板崩落事故を受け、国と自治体はインフラの点検を強化している。読売新聞が今年、国と自治体に行った調査では、点検で損傷度合いが最も深刻だと判定された580か所のうち、4割近くで修繕や撤去の見通しが立っていない。大きな事故が起きてからでは遅い。優先順位を付け、効率的に改修したい。損傷前にこまめに補修する「予防保全」が有効となる。ドローンなどの先端技術による点検の省力化も進めるべきだ。水道管は、総延長の約15%が40年の耐用年数を過ぎている。多額の更新費用が重荷となる。現状でも、水道事業の経営は危機的だ。全国の公営上水道事業は、約3割が赤字である。さらに人口が減れば収益は先細りとなる。水道法改正で、今秋から運営権を民間に売却する「コンセッション方式」が導入しやすくなる。民間ノウハウを活用して効率化を図る狙いだが、安全面の不安などを理由に自治体は消極的だ。利用者の理解なしには実施できまい。事態を打開する方策として、公営事業の広域連携がある。給水人口の少ない公営事業者が、施設の共有や工事の一括発注などを進めれば、経費を削減できる。積極的に取り組んでもらいたい。すでにゴミ処理や消防、公立病院の再編などで広域化の動きが広がっている。利害を調整しつつ、共助の動きを広げるには、都道府県の役割が重要になる。人口減少への対策では、中心部に都市機能を集約する「コンパクトシティー」の推進も有力な選択肢といえる。住居や商業施設などに加え、公共施設などのインフラも集中させることで、行政のコストを抑えることができる。各地方の実情に合わせ、具体策を練り上げる必要がある。

*8-2:https://www.sankei.com/west/news/170710/wst1707100006-n1.html (産経新聞 2017.7.10) 迫りくる崩壊(1)老朽化「いずれ橋は落ちる」20年後、7割が建設50年超
 高度経済成長期に整備が進んだインフラが老朽化している。人命に関わるこの危機に国や自治体などがどう立ち向かおうとしているのか、その現状を探る。1967(昭和42)年12月、米国のウェストバージニア州とオハイオ州を結ぶ吊り橋「シルバー橋」が突然崩壊し、46人が犠牲となった。約40年前に建設されたこの橋は補修や点検が十分に行われず、老朽化に伴う金属疲労が進んだことが原因だった。日本より30年早く1920~30年代に急速に道路や橋の整備が進んだ米国。しかし、十分な維持管理費が投入されなかった結果、耐用年数の目安とされる50年が経過した80年代には道路や橋の老朽化によって事故が相次ぐようになる。「荒廃するアメリカ」といわれ、社会問題になった。「米国再興のためインフラ整備に1兆ドル(約113兆円)を投じる」。昨年の大統領選では、そんな公約を掲げたドナルド・トランプ氏が当選を果たした。
■   ■   ■
 日本でも平成24(2012)年12月、恐れていた事故が起きた。山梨県の中央自動車道笹子(ささご)トンネルで、ずさんな点検によって老朽化を見落とした結果、約140メートルにわたって天井板が崩落。車3台が下敷きとなり、9人が死亡した。米国での事故と日本での惨事。国土交通省の徳山日出男・道路局長(26年当時)は部下にこう檄を飛ばした。「いずれ必ず橋も落ちる。住民が巻き込まれて自分が刑事被告人になったつもりで書け」。26年4月、国交省の社会資本整備審議会道路分科会で「道路の老朽化対策の本格実施に関する提言」がとりまとめられた。「最後の警告-今すぐ本格的なメンテナンスに舵(かじ)を切れ」との副題がついたこの提言の前文にはこうある。「今や、危機のレベルは高進し、危険水域に達している。ある日突然、橋が落ち、犠牲者が発生し、経済社会が大きな打撃を受ける…そのような事態はいつ起こっても不思議ではない」。戦後から高度成長期にかけて多くの整備が進んだ道路や橋、トンネル、上下水道。それらのインフラが耐用年数の目安である50年を経過しつつある今、かつて米国で起きた落橋事故も現実味を帯びる。もし、同様の重大事故が発生すれば一体誰が責任を負うのか。
■   ■   ■
 笹子トンネルの事故では、責任追及の矛先は道路を管理する中日本高速道路と子会社に向けられた。犠牲者9人のうち20代の男女5人の遺族らが原告となった訴訟では、横浜地裁が「目視だけの点検を選択した過失があった」として会社側の過失を認め、総額4億4千万円余りの賠償を命じる判決を言い渡した。この事故では高速道路会社が責任を負ったが、国道や都道府県道、市町村道などの道路や、それらにかかる橋の場合、管理者の国や自治体が責任を負うことになる。
■   ■   ■
 危機感を募らせた国交省は、26年から自治体などに対し5年に1度の定期点検を義務づけた。その結果、28年3月までに点検を終えたもののうちトンネルの46%、橋の12%で修繕が必要と判断された。建設50年を超える割合は、今から20年後にはトンネルが57%、橋が71%にまで達する。昭和45年の大阪万博前後にインフラ整備が進んだ近畿地方でも今から20年後には橋の約7割(約4万4千橋)が建設50年を超えるが、全国の橋の7割以上を管理する市町村では慢性的な財政難に陥っている。同省が平成28年、全国の自治体に現在の予算規模で修繕が可能か尋ねたところ、約6割の市町村が「不可能」と答えた。さらに、人口減に伴う技術者不足が追い打ちをかける。同省の調査では、市町村の土木部門の職員数は8年度から25年度までに約3割減少。特に道路の維持・管理業務を担当する職員が「5人以下」の市は全体の約2割、村では9割以上にも及んでいる。「このままでは対応しきれない」。衝撃的な数字に同省幹部らは頭を抱えた。

<発生主義会計採用の必要性を示す重大な事例(その3)-原発>
PS(2019/12/10、12追加):*9-1のように、原発の本当のコストは、電力会社が支払う建設費のほかに、フクイチ事故後の損害賠償・廃炉・除染等の費用を国が支えて国民負担になっているが、一般企業の場合は、汚染物質は外に出さず、外に出したらその企業が回収するのが原則だ。さらに、汚染土の放射能濃度が8千ベクレル/kg以下なら公共事業の盛り土などに使えるようにするというのも、該当する地域の住民を犠牲にする行為だ。また、原発立地地域には、電源三法交付金制度(1974年制定:電源開発促進税法・電源開発促進対策特別会計法・発電用施設周辺地域整備法、https://www.fepc.or.jp/nuclear/chiiki/nuclear/seido/index.html)により、国民から集められた資金が政府から約3500億円(2015年のケース)配賦されており、使用済核燃料の保管場所も未だ決まっていないが、いずれも国民負担になるものだ。なお、これらは、本来は発生主義で費用を認識し、負債性引当金を積んでおかなければならないものである。
 一方、*9-2のように、2020年に「パリ協定」の本格始動を控える中、日本はCO₂を排出する石炭火力発電所の建設計画が10基以上あり、開発途上国に石炭火力発電所の輸出も行っているため、「化石賞」を贈られる事態となっている。しかし、「化石燃料を燃やす代わりに原発にする」というのは、海水温の上昇を促進させる上、原発事故による深刻な環境汚染とも隣り合わせであるため、薦められないわけだ。
 そのため、環境問題解決のためのエネルギー革命期を迎えている現在、*9-4のノーベル化学賞受賞者の吉野さんが記念講演で述べられたとおり、再生可能エネルギーと電池がエネルギー革命の中心になることは明らかだ。日本は、化石燃料もウランも乏しい国だが、再生可能エネルギーは豊富で、これに電気自動車を組み合わせれば、環境・経済・利便性・エネルギー自給率の向上という要件をすべて満たして発展することが可能で、いずれも日本発の技術なのである。
 なお、水素はロケット燃料として使われているエネルギーで、再生可能エネルギー由来の電力で水を電気分解すればCO₂を出さずにいくらでもできるので、*9-3のように、「①川崎重工が世界初の液化水素運搬船の進水式を実施し」「②オーストラリアで採った安価な石炭から水素をつくって日本に輸入する予定で」「③JXTGホールディングスはLPGを原料に水素を生産してFCV向けに水素を供給している」「④水素で発電するよりLNGや石炭で発電した方がコストが安い」などと言っているのには呆れる。何故なら、日本は水と再生可能エネルギーは豊富な国で、海の水を電気分解すれば水素・酸素・塩が同時にでき、その時にCO₂その他の排気ガスは全く出さず、液化水素運搬船は水素の輸出用に使った方がよいくらいだからだ。なお、水素による燃料電池も、自動車だけでなく航空機・船舶・列車等々に応用可能な日本発の技術である。

  

(図の説明:左図のように、2017年の日本のエネルギー自給率は7.4%で、他の先進国と比較して著しく低い。また、中央の図のように、世界の発電コストは、2018年には原子力が最も高く、風力・太陽光が安くなっている。このほか、日本は、右図のような地熱も豊富だ)

*9-1:https://digital.asahi.com/articles/ASM1L4W0PM1LULFA013.html (朝日新聞 2019年1月23日) 原発の本当のコストは? 経産省の「安い」試算に異論
●エネルギーを語ろう
 日立製作所が英国での原発計画を凍結したことは、原発がもはや安い電源と言えなくなった現実を私たちに突きつけました。原発や事故処理のコストをどう考えたらいいのでしょうか。電力のコスト分析に詳しい大島堅一・龍谷大教授に聞きました。
●経産省のコスト試算「甘すぎ」
―経済産業省が2015年に示した2030年時点の発電コスト(1キロワット時)で、原発は10・3円となっていて、天然ガス火力(13・4円)や石炭火力(12・9円)より安く試算されていました。
 「原発の建設費の想定が甘すぎます。福島の事故以前に建設されたような原発を建てるという想定で建設費を1基4400億円とし、そこに600億円の追加的安全対策を加算するというものです。設計段階で安全性の高い原発を想定しないという非常に奇妙な試算です」
―試算に使われた事故の発生確率にも疑問を呈していますね。
 「経産省の試算では、追加的な安全対策を施すので、(福島第一原発のような)『過酷事故』が起きる発生確率は半分になるとしています。素朴な疑問ですが、なぜ、半分になるのでしょうか?」
●原発建設費 2基で3・5兆円も
―原発の建設費は世界的にみても高騰しています。
 「英国で計画中の『ヒンクリーポイントC原発』(160万キロワット級×2基)の建設費245億ポンド(欧州委員会の14年の想定。直近の為替レートで日本円に換算すると約3・5兆円)です。それが大事なファクトです。メルトダウンした核燃料を受け止めるための『コアキャッチャー』や、大型航空機の衝突に耐える二重構造の格納容器など、安全性能を高めたためです。経産省の試算のように安くできるはずがありません」
―こうした状況を踏まえた場合、原発の発電コストはいくらになるのですか?
 「私は、原発の1キロワット時あたりの発電コストは17・6円になると試算しています。米電力大手エクセロンの経営幹部は昨年4月、『新しい原発は米国内では高くてもう建てられない』と発言しています。日立製作所も想定した収益が見込めないとして、英原発輸出計画を凍結しました。そんな現実からしても17・6円は外れていないと思います。もはや原発にコスト競争力はありません。斜陽産業として、いかに『たたむか』を考える時です」
●重い国民負担 東電の責任は
―福島第一原発事故後、当時の民主党政権は東京電力を潰さずに国有化し、損害賠償の支払いなどを国が支える枠組みをつくりました。この枠組みをどうみますか?
 「残念なのは、東電の責任について議論を尽くさず、あいまいにしてしまったことです。それで国がずるずると事故費用を出す形になり、結果的に国民負担を大きくしています。環境汚染の費用は汚染者が負担する『汚染者負担原則』がありますが、それから逸脱しており、大問題だと思います」
―損害賠償に加え、廃炉や除染などの費用が膨らんだ結果、事故費用の総額が21・5兆円に倍増したとして、経産省は16年に新たな負担の割り振り策をまとめました。
 「これも大問題です。経産省は賠償費用の新たな増大分についても電気料金から払うことにしました。福島の事故以前に電気料金の中にその費用を組み込んでいなかったので、国民にはそのツケがある、という理屈ですが、それは違います。東電のツケですよ。もしJRが事故を起こしたら、国民にツケがあるといって運賃から事故費用を徴収しますか?」
―廃炉費用は東電の送電部門の合理化益を充てる、除染費用は東電株の将来の売却益を充てる、ということになりました。
 「これもおかしな仕組みです。(電力会社がコストを電気料金に上乗せする)『総括原価方式』の理念からすれば、仮に送電部門で合理化益が出たら、料金を下げるべきです。除染費用でアテにする東電株の売却益も、元々は国費を使っているので、売却益が出たら国庫に戻すべきです」
―では、どのように事故費用を捻出すればいいのでしょうか。
 「『汚染者負担』が原則ですが、もしそれでは対応できないということなら、国会で東電の責任問題をしっかり議論し、『国にも責任があった』と見える形にして、税金でまかなうという判断はあってもいいと私は考えます。しかし今の負担の割り振り策では、事故費用を電気料金から、『こっそり』取るようなやり方だと言わざるを得ません」
●実態に合ってない「復興」
―一方、政府は放射能濃度が1キロあたり8千ベクレル以下となった汚染土を公共事業の盛り土などに使えるようにしました。
 「汚染土の最終処分の量を減らしたいからでしょう。それは、ひいては東電の費用負担を減らすことになります。さらに新たな除染を国の公共事業とみなす措置もできました。これも東電が支払うべき費用を軽くしているのです」
―政府が進めている避難者の帰還政策をどう見ていますか。
 「避難指示の解除を受けて避難者が帰ったかというと、実際には様々な理由で帰れない方が多いのです。でも解除したので賠償は打ち切ります、と。実態に合っていないのです。復興の実態が伴っていないのに『問題はもうなくなりました』とされてしまうことを私は恐れています」
     ◇
大島 堅一(おおしま・けんいち)龍谷大学教授(環境経済学)。1967年福井県生まれ。一橋大大学院経済学研究科博士課程単位取得。著書に「原発のコスト」(岩波新書)、共著に『原発事故の被害と補償』(大月書店)など。脱原発社会に向けた政策提案を続けるシンクタンク「原子力市民委員会」の座長も務める。

*9-2:https://www.fnn.jp/posts/00049284HDK/202001311454_reporter_HDK (FNN PRIME 2019年12月6日) 「地球は大幅に温暖化」の衝撃報告書!日本は“批判の的”…小泉大臣は何を語る?COP25開幕 
・「パリ協定」の本格始動を2020年に控える中、「COP25」開幕
・各国の削減目標では大幅な気温上昇は不可避
・石炭火力推進の日本は批判の的…積極的な発信ができるか
●「大幅な気温上昇不可避」報告書 国連事務総長は危機感あらわ
 地球温暖化対策を話し合う国連の会議「COP25」が12月2日からスペイン・マドリードで開幕した。
△国連 グテーレス事務総長;今のままの努力では不十分なのは明らかだ
 国連の事務総長は、開幕を前にした記者会見で各国に対し、温室効果ガスの削減目標を引き上げるなど対策の強化を表明するよう求めた。この発言のもととなったのは、COP25開幕前に公表された、国連環境計画(UNEP)の衝撃的な報告書。各国が、パリ協定で目標として現在提出している温室効果ガスの排出削減量を達成したとしても、『世界の気温は産業革命前から3.2度上昇する』というのだ。つまり現在の各国の削減目標では、大幅な気温上昇は避けられない危機的な事態だという。仮に、気温を1.5度上昇に抑えるためには、現在年1.5%ほど増えている排出量を、毎年7.6%減らす必要があると分析している。パリ協定では各国に対し、2020年2月までに、現在提出している削減目標を引き上げたうえでの再提出、もしくは更新することを求めている。一方で、数値目標の引き上げも再提出も義務ではなく、求められているだけという状況がある。そのためグテーレス事務総長は、COP25の会合のなかで、各国が温室効果ガスの削減目標の引き上げを表明することで、気候変動問題の機運を世界全体で高めていくことを求めているのである。
●”日本は温暖化対策に消極的”国際的な批判も・・・
では、日本はどうなのか。国連環境計画の報告書では、各国の取り組みに対しても言及していて、日本についての記述もある。「石炭火力発電所の建設を中止するほか、再生可能エネルギーを利用することで石油の利用を段階的にやめていくこと」。日本では、二酸化炭素を排出する石炭火力発電所の建設計画が現在も10基以上ある。そのうえ、途上国へ石炭火力発電所の輸出を行っていることで、国際的な批判を受けている。しかし、梶山経済産業大臣はCOP25が開幕した後の12月3日の会見でこう述べた。
△梶山経済産業大臣;石炭火力発電など、化石燃料の発電所は選択肢として残していきたい
 国際的な環境NGOのグループは、温暖化対策に消極的だと判断した国や地域に、皮肉をこめて「化石賞」を贈っている。梶山大臣の発言を受けて、早速 日本は12月3日、COPの会場内で「化石賞」を贈られる事態となってしまった。
●日本の発信に世界が注目 ギリギリの調整続く
 日本は、国際的な批判をどのように巻き返せるのか。「気候変動問題は、クールでセクシーに取り組むべきだ」と発言して、国内外から注目された小泉進次郎環境大臣もCOP25に出席する。そして、11日には閣僚級会合でスピーチを行う予定だ。ここで日本の石炭火力発電所に対する姿勢、そして数値を引き上げたうえでの削減目標の再提出について言及があるのか、世界は注目している。小泉大臣はこれまで、会見で「数値目標の引き上げは検討していきたい」としながらも、「関係機関の調整があるので、数値の引き上げ以外の方法も考えたい」とも話している。11日のスピーチについても、石炭火力発電についても言及する方向で調整しているが、どこまで発言できるのか。政府内の調整がギリギリまで行われているのが現状だ。2020年からパリ協定が本格的に始まるのを前に、アメリカは正式に離脱を通告。世界的な機運に水を差しかねない状況の中、気候変動問題で日本が孤立しないためにも、今回のCOP25で積極的な発信・行動力を求めたい。

*9-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191212&ng=DGKKZO53243570R11C19A2TJ2000 (日経新聞 2019.12.12) 川重、世界初の水素運搬船 進水 来秋に完成 豪で液化し日本に
 川崎重工業は11日、世界初となる液化水素運搬船の進水式を実施した。2020年秋に完成させる。同社は丸紅やJパワー、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルなどと組み、オーストラリアで採った安価な石炭から水素をつくり、日本に輸出するプロジェクトに取り組んでいる。今回の運搬船を使い、オーストラリアで生産した水素を日本に運ぶ実証を20年度に始める。11日、川重の神戸工場(神戸市)で行われた進水式にはリチャード・コート駐日オーストラリア大使や、トヨタの内山田竹志会長らの関係者を含め計4千人程度が出席。「すいそ ふろんてぃあ」号と名付けられた全長116メートルの運搬船は今後、水素を格納するタンクなどをつける。水素はセ氏マイナス253度まで冷して液化すれば体積を800分の1に圧縮でき、大量に輸送できる。水素はこれまでロケットの推進燃料などとして使われてきたが、用途は広がっている。トヨタ自動車は10月に水素を使う燃料電池車(FCV)「ミライ」の新モデルを公開。国内石油元売り最大手のJXTGホールディングスは横浜市の拠点で液化石油ガス(LPG)を原料に水素を生産。全国41カ所のステーションでFCV向けに水素を供給している。調査会社の富士経済は、30年度の水素関連市場は18年度比50倍以上の4085億円に膨らむと試算。燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出しない水素は、低炭素社会を実現する切り札として期待が高まっている。中東情勢が緊迫化する中、化石燃料に依存するリスクが浮き彫りになっていることも背景にある。課題はコストだ。現状では水素で発電するよりも、液化天然ガス(LNG)や石炭で発電した方が大幅に安い。LNGと同じくらいのコスト競争力を実現するには、国際的な供給網(サプライチェーン)の確立と大量輸送の実現がカギを握る。川重は30年ごろの商用化を目指し、大型船の開発も進める方針だ。

*9-4:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53100260Y9A201C1I00000/ (‪日経新聞 2019/12/8) ノーベル賞吉野彰さん講演 「電池がエネ革命の中心に」
 ノーベル化学賞を受賞する吉野彰・旭化成名誉フェローは8日午前(日本時間8日夜)、ストックホルム大学で記念講演した。授賞理由となったリチウムイオン電池の開発経緯や展望を紹介。環境問題解決のためのエネルギー革命の時代を迎えていると説明し、「リチウムイオン電池がその中心になる」と話した。記念講演は「ノーベルレクチャー」と呼び、10日夕に開く授賞式の関連行事になっている。吉野氏は「リチウムイオン電池の開発経緯とこれから」というタイトルで、化学賞を同時に受賞する3氏の中で最後に講演した。吉野氏は、過去の発火の危険を調べる実験の映像などを映し出しながら、「電極に炭素を使う実験がうまくいき、安全な電池として市場に出せると確信した」と語った。リチウムイオン電池は環境問題の解決に重要な役割を果たすとし「特に電気自動車が世界の市場を大きく変えていく」と力を込めた。「環境、経済、利便性が同じように発展していくことが重要だ」と訴え、電気自動車や人工知能(AI)が人々の生活を支える未来社会の映像を流した。「これからのエネルギー革命にリチウムイオン電池が中心的な役割を果たす」という言葉で講演を締めくくると、会場からは大きな拍手が起こった。終了後にはノーベル化学賞を受賞する3氏が壇上に並び、会場からの祝福に応えた。

| 日本国憲法::2019.3~ | 09:45 PM | comments (x) | trackback (x) |
2019.3.12 日本は人権を大切にしない国である ← 災害後は速やかな復興と災害前以上の生活水準にすることが必要なのに、時間ばかりかけて「心のケア(心の問題)」としていることから (2019年3月14、15、16、18、25日に追加あり)
 

(図の説明:左図のように、東日本大震災の津波遡上高は地形が狭くなるところで高くなるので、地域によって異なる。中央は宮城県女川町、右は岩手県陸前高田市を襲った津波の様子だ)

 

(図の説明:左の2つは、東日本大震災被災地の地形と被災状況、右の2つは、南三陸町と宮古市の津波後の状況である)

(1)東日本大震災と原発事故から8年後の復興状況
 2011年3月11日2時46分、私が埼玉県の自宅マンション倉庫にあるゴミ置き場でゴミの分別をしていたところ、激しい揺れが来てそれが長く続いたため、倉庫にいては危ないと思って駐車場に出て座り込み、このような激しい地震の中で10階建てのマンション全体がどう揺れるかを、しっかり見ることとなった。その結果、当たり前だが、中央部はあまり揺れず端が激しく揺れて、その揺れは上階に行くほど著しかった。

 揺れが収まってからマンションの自室に戻ってTVをつけると、津波の恐れはあるが6m程度だと言っていた。これが、津波を過小評価して避難を遅らせた原因だろう。くぎ付けになってTVを見ていると、津波は15時過ぎから到達し始め、地形によって遡上高が変わり、居住地の最大遡上高は宮古市の40.5mというすごいものだったことを、決して忘れてはならない(https://news.yahoo.co.jp/byline/nyomurayo/20170311-00068495/参照)。

 復興庁は、このブログで私が提案してできた省庁だが、①1カ所で総合的復興計画を立てて速やかに復興を進めること ②復興にかかった費用をすべて集計すること がその目的だった。そのうち、①については、*1-1-1・*1-1-2のように、東日本大震災から8年経ってもまだ復興途上で避難生活を強いられ、仮設住宅で暮らす人が現在でも岩手県2,156人、宮城県453人、福島県809人もおり、他県も含めると全体で5万2千人に上るというので、決して速やかとは言えない。原発事故で戻れない人には、帰還を無理強いするのではなく、1~2年以内に「できないことは、できない」と明らかにして移住してもらうべきだったのだ。また、②については、本来は毎年集計して費用対効果を開示すべきだったが、今からでもやってもらたい。

 もし復興庁を作らず各省庁が別々に関与していれば、復興がもっと速かったとは思わないが、仮設住宅で我慢させるのはせいぜい1~3年にしなければ、健康を害したり気力を失ったりするのは当然だ。そして、これは誰かが話を聞いたり、心のケアをしたりすればすむ心の問題ではなく、解決すべき実在する問題なのである。

 さらに、「福島県の農水産物の風評被害・・」などと書かれているが、風評被害と強弁して無理に食べさせようとしたり、除染土が置きっぱなしになっていたりする限り、安全を第一に考える人は福島県に寄り付けないだろう。つまり、災害後の誤った意思決定の一つ一つが、すべて人災となって加わっているのである。

 なお、*1-1-2には、「津波被害を受けた3県の沿岸部を中心に人口減少が加速し、地域コミュニティーの再生どころか、存続の危機を迎えているところも少なくない」と書かれているが、津波被害を受けた同じ場所に前と同じ街を造って地域コミュニティーを復活すればよいわけではなく、安全性を考えて産業を含めた再配置を行うのが当たり前である。

 また、*1-1-3に、「i)被災者の生活再建にめどが立ったわけではない」「ii)原発事故に見舞われた福島県で、政府は一通りの除染で帰還を促すが殆どの避難者が被曝の不安、医療・介護、商業施設再開見通しのないことで帰れない」「iii) 福島県沿岸部でイノベーション・コースト構想があり、帰還者でも避難者でもない新たに来る人たちを対象に年700億〜900億円が投じられている」などが書かれているが、どの地域であっても働く場所や収入がなければやりがいを持って生きられないため、いつまでも「可哀想の論理」で被災者を支援するだけでは、被災者も救われないし、国の財政も破綻するわけである。

 なお、*1-1-4に、「復興住宅で高齢者の孤独死が急増した」と書かれているが、これは災害公営住宅(復興住宅)に、誰でも来やすいレストランやショートステイ・診療所・訪問介護などを付設する方が、ボランティアが時々訪問するより効果的だろう。そして、現在50~70代くらいの男性が「復興期弱者」になっているのは、いつまでも生活の目途が立たず、仕事がないから(つまり、復興が遅すぎるから)ではないかと考える。

(2)原発事故のあった福島の復興状況
 *1-2-2のように、東日本大震災から8年経っても避難者が5万人超もいるのは、事故を起こしたフクイチの立地自治体付近が、避難指示区域だったり、帰還困難区域だったりするという理由も大きい。

 そのフクイチは、8年経ってもまだ原子炉内の燃料デブリが取りだされていないばかりか、取り出す目途もたっておらず、100万トンを超える汚染水処理もまた見通しが立たない。*1-2-1によれば、原発事故対応費は総額81~35兆円になるとの試算を「日本経済研究センター」がまとめており、これは経産省の約22兆円という試算を大きく上回っているが、経産省との違いは、汚染水の浄化処理費用を約40兆円と大きく見積もり、除染で発生する土壌などの最終処分費用を算入したことなどだそうだ。

 そもそも、「水で冷やしさえすればよい」というのは平時の発想で甘すぎると、私は事故当時から思っており、ロシアのように最初から石棺方式を採用すれば汚染水も出なかった筈だが、本当に「復興やふるさとへの帰還をあきらめることに繋がる」という声だけで40兆円の国民負担をさせることになったとすれば誤った意思決定も甚だしい。むしろ、空いた農地も多い中、移住すべき人たちにはその費用を出した方がずっと賢く、この誤った意思決定による損失は、本当に全国民が負担すべきものなのか疑問に思う。

 そして、このように国民負担を増やすが生産性は増さない変な意思決定を続けている人たちの予測は全く当てにならないため、*1-2-3のとおり、史上最悪の原発事故を起こした日本は、原発をベースロード電源などにするのではなく、早々にゼロにすべきである。これは、単なる不安ではなく、正当なリスク管理だ。

(3)戦中・戦後の日本
 女学校の前半まで満州で育ち、戦争中に佐賀市に引き上げてきて女学校(佐高女)の後半は飛行機の尾翼を作らされていた私の母が、「長崎に原爆が落ちた時は、佐賀からもキノコ雲が見えて新型爆弾だと言われていた」「飛行機の尾翼を作っていた工場に低空飛行の米軍戦闘機から機銃掃射を受け、逃げ回りながら見上げたら米軍機のパイロットが笑いながら撃っていた」と語っていた。現在は、パイロットも乗らないミサイルのボタンを押すだけで攻撃できるため、攻撃して人を殺すことに対する抵抗はもっと小さい(攻撃:ローレンツ《行動学者》著 参照)。

 そして、日本では、太平洋戦争中に、*2-1・*2-2のように、無差別爆撃が行われ、1945年3月10日未明の東京大空襲では、約300機のB29が33万発の焼夷弾を投下して10万人近くが犠牲になったと言われるが、既に70年以上も前のことなので、身内からこういう体験談を聞ける人は私たちの世代が最後なのかもしれない。そのため、早くそれぞれの学校で同窓会HPを立ち上げ、戦中・戦後に生徒だった人のエッセイを掲載すると、生きた資料になると思う。

 東日本大震災の後、その母が「私たちは、焼け出されても誰も何もしてくれないから自分たちで立ち上がったのに、ふるさとを失ったって贅沢ね。大災害の後、あれだけやってもらえばいいでしょう」と言っていた。私も「災害で失ったものは仕方がないので、(復興に国の力は借りても)故郷やコミュニティーは新しく作るしかないじゃない」と思う次第だ。

 なお、第二次世界大戦では、*2-3のように、国策として満州開拓に出ていた人たちも多くが棄民され、日本に帰りついた人はむしろ幸運な方だったそうだ。私の祖母は、叔母を妊娠していた昭和7年(1932年)に上海事変が起こり、鉄砲の玉が家の中に飛び込んでこないように窓に布団をぶら下げていたという壮絶な経験をしており、(それと比べる必要はないが)生きていくのに心配のない現在の日本の礎を作った人々を、決して疎かにしてはならないと思っている。

・・参考資料・・
<東日本大震災と原発事故から8年後の復興進捗状況>
*1-1-1:https://www.kahoku.co.jp/editorial/20190311_01.html (河北新報 2019年3月11日) 東日本大震災8年/歳月を経ても復興は途上だ
 突如としてあの日、私たちはすさまじい揺れに突き動かされた。異常なほど長くそれは続き、やがて、真っ黒な巨大津波が沿岸を覆い尽くすように襲った。濁流が家々をきしませ、押し流し、瞬く間にがれきに変えていく。陸では打ち上げられた大小の船が転覆し、数え切れない車が横転し、自販機や家電品が散らばっている。ささくれ立った無数の家屋の柱、引きちぎられた防潮林の木々。見渡す限り、どれもが汚泥にまみれていた。破壊の限りを尽くした津波が引いた直後の惨憺(さんたん)たる光景-。かけがえのない生命を救い得なかった悔恨、あるいは不条理な自然災害への痛憤。家族や友人を亡くした人たちはもろもろの思いにさいなまれながら、感情を覆い隠すようにして生きてきた。そうした日々を重ね、被災地は東日本大震災から8年を迎える。ひと頃に比べると先細りした支援の中で、孤立感に耐えながらプレハブの応急仮設住宅で暮らす人は、今でも岩手県が2156人、宮城県453人、福島県809人。借り上げ住宅など、みなし仮設住宅に住む人を加えると、3県で1万人を超える。応急仮設住宅で生活しなければならない被災者がこれほど多いという事実だけで、震災がまだ進行中なのは明らかである。震災からの復興は文字通り道半ばである。8年という歳月を数えてなお、復興は途上である。次の数字も忘れてはならないだろう。他県への避難者数は47都道府県に広がり、約5万2000人に迫る。最多は福島県から他県への避難者で3万2631人、さらに福島では、県内避難者が9322人。避難先不明者も含め、福島は計4万人以上が震災時の居住地を離れたままだ。それを余儀なくさせている東京電力福島第1原発の廃炉作業は、最難関とされる溶融核燃料(デブリ)の取り出しにようやく一歩を踏み出したばかり。廃炉完了までに要する時間はどれほどなのか、予測はつかない。震災から8年の歳月を経るこれが被災地の惨たる現状である。被災3県、特に福島の農水産物の風評被害は依然として残る。かつて年間70万人の子どもたちが修学旅行などで宿泊した福島は、震災で激減し、徐々に回復してはいるが、まだ7割にすぎない。冒頭に書いたような震災直後の風景は、じかに体験した人々にとっては、忘れようにも忘れられない。あの被災体験は生々しく記憶に突き刺さったまま、心に深く負った痛みとして残り続ける。この震災は言語に絶する被害を受けた災厄であり、いずれ自力で歩み続けなければならないとしても、まだ被災地は病んだ状態にある。時の経過とともに各種の支援が途絶え、厳しい現実が忘れられるような事態だけは、どうしても避けなければならない。

*1-1-2:https://kumanichi.com/column/syasetsu/898828/ (熊本日日新聞 2019年3月11日) 東日本大震災8年 地域再生はまだ道半ばだ
 東北地方を中心に死者1万5897人、行方不明者2533人、関連死3701人という甚大な被害を出した東日本大震災はきょう、発生から8年を迎えた。国が想定している復興期間の終了が2年後に迫る中、インフラの整備などは進んだが、被災地の人口減少は止まらず、最大の課題である地域コミュニティーの再生はまだ道半ばだ。津波や東京電力福島第1原発の事故により避難生活を余儀なくされている人は、ピーク時の約47万人から減ったもののなお約5万2千人に上る。被害が大きかった岩手、宮城、福島3県での、プレハブ仮設住宅への入居世帯も1573戸を数える。一方で、災害公営住宅は約3万戸の計画戸数のうち95%以上が完成した。道路、港湾、鉄道といった交通インフラの復旧もほぼ完了。農地の92%、水産加工施設の96%で、営農・業務の再開が可能となった。
●加速する人口減少
 しかし、3県では津波被害を受けた沿岸部を中心に人口減少が加速し、地域コミュニティーの再生どころか、存続の危機を迎えているところも少なくない。3県のまとめなどによると、42市町村のうち25市町村で震災前から10%以上人口が減少。仙台市周辺などの一部を除き高齢化率も30%超となっている。人口減少は学校、病院など住民の生活基盤にも影響を及ぼし、今後の復興の行方を左右する大きな課題だ。産業面では、3県の製造品出荷額はおおむね震災前の水準まで回復した。しかし、グループ補助金を受けて事業再開した企業を対象に、東北経済産業局が行ったアンケート(2018年6月)によると、売り上げが震災直前の水準以上にまで回復していると回答したのは46・4%にすぎない。人口減少は地元での売り上げや人手確保の面でも影を落としている。
●福島はさらに深刻
 原発事故に見舞われた福島県の状況はさらに深刻だ。県全体で人口は震災前から1割近く減少。避難者数は約4万2千人と全体の約8割を占める。農地の復旧もまだ67%にとどまる。福島第1原発から北西方面に広がる帰還困難区域では、今も立ち入りが原則禁止のまま。このうち同区域面積の約8%の地区を再び人が住めるようにする「特定復興再生拠点区域」(復興拠点)として整備しているが、復興拠点の避難解除は早くても22年春。古里に戻れる日は遠い。さらに、原発に近い双葉、浪江、富岡3町では、40代以下の住民の半数以上が帰還しない意向を示していることが、昨年の復興庁などの調査で判明した。避難生活が長引き、原発事故の収束も見通せず、若い世代が帰還に見切りをつけた状況が読み取れる。政府は8日、復興期間が終了する21年度以降も復興庁の後継組織を置くことを盛り込んだ復興基本方針の見直しを閣議決定した。残り2年の復興期間内で、津波被災地の「復興の総仕上げ」に取り組みながら、21年度以降に必要な支援事業についても詳細な検討を進めるという。原発事故の対応も中長期的に国が責任を持つとした。
●意見踏まえ方針を
 地域再生がなお見通せない現状からいって、後継組織設置は当然の判断だろう。共同通信が2月に実施した被災3県の市町村長アンケートでも9割が後継組織が必要と答え、中でも人口減少対策を求める声が多かった。期限付きの増税などで賄っている財源確保策が課題となるが、被災地の意見を十分に踏まえた上で、後継組織の在り方など復興基本方針の見直しを急ぎ、詳細を示してもらいたい。同時に10年間で総額約32兆円を費やす復興関連事業効果の検証も求めておきたい。

*1-1-3:https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190312/KT190311ETI090010000.php (信濃毎日新聞 2019年3月12日) 復興基本方針 形よりも大切なことが
 形にとらわれて国が先走る構造こそ変えなくてはならない。安倍晋三政権が、東日本大震災被災地の復興基本方針を改めた。2020年度で廃止となる復興庁の後継組織の設置を明記。21年度からは、被災者の心のケアといったソフト事業を中心に展開するという。震災からの8年で防潮堤や災害公営住宅の整備は進んだものの、被災者の生活再建にめどが立ったわけではない。国は当事者の声をしっかりくみ取り、事業の中身を固めるべきだ。首相直属の復興庁の後継組織は形態が定まっていない。内閣府に移管する案、金融庁や消費者庁のような外局とする案、「防災省」への改編を求める声が政府・与党内で上がっている。検討が遅れていたのに方針に盛ったのは、統一地方選や参院選を意識してのことだろう。政府は11〜15年度を「集中復興期間」、16〜20年度を「復興・創生期間」とし、10年間で32兆円の予算を確保した。道路や鉄道、住宅、堤防などの復興工事はほぼ終える見通しとなっている。半面、なお5万2千人が避難生活を強いられている。この4月以降もプレハブの仮設住宅に残る被災者がいる。賠償も住宅支援も仮設の提供さえも打ち切られ、生活保護を受けざるを得ない人たちも増えている。原発事故に見舞われた福島県の状況は特に深刻だ。政府は一通りの除染で帰還を促すものの、ほとんどの避難者が「帰れない」。被ばくの不安に加え、医療や介護、商業施設に再開の見通しのないことが妨げになっている。心のケアは大切だけれど、未解決の問題は山積している。それなのに基本方針は、21年度からの財源に言及さえしていない。被災地の懸念をよそに、国は一方的な「復興策」を続ける。象徴的なのが、福島県沿岸部での「イノベーション・コースト構想」だろう。ロボットや自然エネルギーの開発、廃炉研究の拠点化を図っている。帰還者でも避難者でもない、新たに来る人たちを対象にした構想に年700億〜900億円が投じられている。人口が流出し、高齢化が速まっている被災自治体の多くが、合併や広域連携の強化を模索し始めている。国がなすべきは、多様な状況に置かれた被災者個々を支援しながら、地域の立て直しに取り組む自治体の下支えだ。復興のあり方を決めるのは地元であることを忘れてはならない。

*1-1-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13929196.html (朝日新聞 2019年3月12日) 復興住宅、孤独死が急増 昨年68人、仮設の最多年の倍以上 東日本大震災
 東日本大震災で被災した岩手と宮城両県で、災害公営住宅(復興住宅)での孤独死が仮設住宅と比べて大幅に増えている。2018年は前年の47人から68人となり、仮設住宅での孤独死が最多だった13年(29人)の倍以上に。復興住宅は被災地の住宅政策のゴールとされてきたが、新たな課題に直面している。朝日新聞が、復興住宅の独居世帯でみとられず亡くなった人数を集計していた両県を取材し、分析した。復興住宅は年度内にほぼ完成予定で、孤独死対策の強化が求められそうだ。復興住宅(計画戸数2万1677戸)での孤独死(岩手は自殺を除く)の数は13~18年の6年間で、宮城120人、岩手34人の計154人。16年19人、17年47人、18年68人と急速に増えている。仮設住宅の孤独死は11~18年の8年間で、宮城109人、岩手46人の計155人。仮設入居戸数が3万940戸と多かった13年は29人で、18年(1385戸)は6人だった。孤独死は全国的に懸念されている。例えば宮城県内全体の18年の孤独死数は982人で、前年比で1割増だった。ただ県内の復興住宅では18年に50人で前年と比べ、2割増えている。また男女別でみると、岩手、宮城両県では昨年までの6年で男性の孤独死が113人と女性の41人の3倍近い。特に50代以上の男性が全体の7割。一部の専門家はこうした層を「復興期弱者」と呼び、支援の必要性を訴えている。

*1-2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13926965.html (朝日新聞 2019年3月10日) 原発事故の費用「最大81兆円」 経産省公表は22兆円 民間シンクタンク試算
 東京電力福島第一原発事故の対応費用が総額81兆~35兆円になるとの試算を民間シンクタンク「日本経済研究センター」(東京都千代田区)がまとめた。経済産業省が2016年に公表した試算の約22兆円を大きく上回った。81兆円の内訳は、廃炉・汚染水処理で51兆円(経産省試算は8兆円)、賠償で10兆円(同8兆円)、除染で20兆円(同6兆円)。経産省試算との大きな違いは、汚染水の浄化処理費用を約40兆円と大きく見積もったことや、除染で発生する土壌などの最終処分費用を算入したことなど。また、この汚染水を、水で薄めたうえで海洋放出する場合は、廃炉・汚染水処理の費用が11兆円になり、総額も41兆円になるとした。これに加えて事故で溶け落ちた核燃料(デブリ)を取り出さずにコンクリートで封じ込める、いわゆる「石棺」方式を採用した場合は、廃炉・汚染水の費用が4・3兆円になり、総額も35兆円になるとした。ただ、「石棺」方式は、かつて「復興やふるさとへの帰還をあきらめることにつながる」などと問題になったことがある。同センターは2年前、総額70兆~50兆円に膨らむとの試算を出したが、その後の汚染水処理や除染などの状況を踏まえ、再試算した。試算を示したリポートはこの費用の増加を踏まえ、「中長期のエネルギー計画の中で原発の存否について早急に議論、対応を決めるときではないか」と指摘した。

*1-2-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13928097.html (朝日新聞 2019年3月11日) 東日本大震災8年 避難なお5万人超、原発廃炉難題
 死者、行方不明者、関連死を含め、2万2131人が犠牲になった東日本大震災から11日で8年になる。今も約3100人がプレハブ仮設住宅で過ごし、約5万2千人が避難生活を続ける。東京電力福島第一原発事故が起きた福島県では今春、原発立地自治体の避難指示が一部の地域で初めて解除される。復興庁によると、新たな宅地を造る「高台移転」は93%、災害公営住宅は98%が完成した。住宅再建が進み、最大47万人いた避難者は5万2千人まで減った。ただ津波被害が甚大だった地域は遅れており、今も仮設住宅が残る。震災前から進んでいた人口減も歯止めがかからず、岩手、宮城、福島3県の人口は8年で計30万人減少した。福島県ではこれまで、10市町村で避難指示が解除され、原発が立地する大熊町の一部で4月にも解除される見通し。住民の帰還や定住を促す施策が進められることになる。原発の廃炉作業は、100万トンを超える汚染水や原子炉内の燃料デブリ処理など、難しい工程が控える。東日本大震災の復興期間は10年と定められ、復興庁は21年3月末に廃止されるが、原子力災害への対応や産業の再生といった課題が残る。政府は8日、復興庁の後も新たな組織を設置する方針を示した。平成の30年余、列島は阪神・淡路大震災、東日本大震災という峻烈(しゅんれつ)な災害に見舞われた。次世代に向け、教訓をいかす取り組みが求められている。

*1-2-3:https://www.nishinippon.co.jp/nnp/syasetu/article/493257/ (西日本新聞 2019年3月11日) 原子力政策 国民的議論から逃げるな
 東日本大震災の発生から8年の節目を迎えた。避難者はなお5万人を超える中、東京電力福島第1原発事故の後始末が被災地復興の足かせとなっている。史上最悪レベルとされる原発事故の反省と教訓は、国の原子力政策に十分に生かされているのか。国民の間では、原発を減らして将来的にはゼロを目指すべきだとの意見が多い。なし崩しの「原発回帰」は許されない。安倍晋三政権は、原子力規制委員会が新規制基準に適合したと判断した原発は再稼働させる方針を堅持している。原発への不安がぬぐえない中で、これまでに九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)1、2号機、玄海原発(佐賀県玄海町)3、4号機など9基が再稼働した。新規制基準は、「安全神話」に陥り過酷事故を防げなかった反省から、地震や津波、テロなどに備え安全対策の強化を求めている。九電の場合、再稼働した原発4基に投じる安全対策費は九千数百億円に達する見通しだ。「想定外」の事故を再び起こさないための費用が膨らむ。
●「玉虫色」の基本計画
 政府は既存原発の活用には積極的なのに、原子力政策を正面から語りたがらない。昨年7月に閣議決定したエネルギー基本計画も、原発については「玉虫色」の取り扱いとなった。同計画はエネルギー政策の基本的な方向性を示している。風力や太陽光など再生可能エネルギーの主力電源化を打ち出した。原発については「可能な限り原発依存度を低減する」としつつも、安定性や地球温暖化対策の視点から「重要なベースロード電源」と位置付けた。2030年度の電源構成は再生エネ22~24%に対し、原発は20~22%とした。この実現には30基程度の再稼働が必要とされる。運転期間が原則40年と定められた原発を延命して再稼働させなければ達成できない。ベースロード電源として活用するなら新増設が必要なのに、政府は中長期的な議論を避けてきた。新増設問題が選挙の争点になるのを嫌って課題を先送りしているのなら、この国の将来に責任ある姿勢とは言い難い。原発について政府が幅広く国民の声を聴いたことがある。原発事故でエネルギー政策の仕切り直しを迫られた当時の民主党政権は、12年に討論型世論調査や意見聴取会を実施した。30年の原発比率について0%、15%、20~25%の3案を示し意見を求めたところ、0%支持が最多だった。これを受けて政府は「2030年代に原発稼働ゼロを可能とする」とする、革新的エネルギー・環境戦略を打ち出した。安全確認を得た原発は重要電源として活用しつつ、新増設は認めないとの原則を明示して、「脱原発」にかじを切った。それを見直し「脱原発依存」に転換したのが、その年の12月に誕生した安倍政権だ。以来、「可能な限り低減する」との曖昧な態度を貫いている。官民一体で進めた原発輸出も行き詰まっている。安全対策費がかさんだこともあり、ベトナムや英国への輸出計画が頓挫した。しかし、政府は原発技術輸出の旗を振り続けている。国内と海外で態度を使い分けるようでは、国民の信頼は得られない。
●経済界もメッセージ
 原発について幅広い議論を求める声は、経済界からも上がっている。経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)は1月の記者会見で、エネルギー全体に対する国民的議論が必要との認識を示した。なかなか再稼働が進まない現状への危機感が背景にあるが、原発の将来像を語らない政府へのメッセージとも受け取れる。産業界には、エネルギー安全保障や地球温暖化対策の観点から原発活用を求める声もある。確かに原発は二酸化炭素(CO2)は出さないが、廃炉や使用済み核燃料の再処理で放射能を帯びた核のごみが出る。危険物は地下に埋めて隔離しなければならないが、そうした処分場所の選定は手付かずだ。安全対策費や廃炉費用を考えれば、原発は低コストとの説明には疑問が生じている。私たちは、再生エネの開発と導入をもっと積極的に進め、「脱原発」への道筋を具体的に描くべきではないかと主張してきた。ここで改めて、原発事故で古里を奪われた人たちのことを心に刻み、必要十分な判断材料を示した上で国民的議論を始めるよう、政府に求めたい。

<戦後復興期の日本>
*2-1:https://digital.asahi.com/articles/ASM2W7292M2WUEHF00S.html (朝日新聞 2019年3月8日) 「負の連鎖」エスカレートした無差別爆撃 空襲とは何か
太平洋戦争末期、日本全土が標的となり、大規模な無差別爆撃が繰り返された。空襲による民間人の死者は少なくとも40万人以上、米軍が本土に投下した爆弾は約16万トンとされる。
●じゅうたん爆撃、東京大空襲を皮切りに
 広島、長崎と並ぶ大きな被害となったのが、1945(昭和20)年3月10日未明の東京大空襲だ。約300機のB29爆撃機が33万発の焼夷(しょうい)弾を投下。人口密集地帯だった東部の下町は火の海となり、10万人近くが犠牲になった。被害家屋は約27万戸、推計100万人が焼け出されるなどした。編隊を組んだB29が低空から隙間なく焼夷弾を落として街全体を焼き払う「じゅうたん爆撃」の始まりだった。3月12日には名古屋、13日には大阪、17日は神戸と、大都市が軒並み空襲を受けて壊滅状態に。次第に地方都市も標的となり、空襲は全土へと広がっていった。
●真珠湾攻撃から4カ月、初の本土空襲
 米軍による初めての日本本土空襲は、日米が開戦した真珠湾攻撃からわずか4カ月後の1942年4月18日にあった「ドーリットル空襲」だ。空母から飛び立ったB25爆撃機16機が東京、横須賀、川崎、名古屋、神戸などを襲った。その後、米軍は「超空の要塞(ようさい)」と呼ばれた、当時としては最大級の爆撃機B29を完成させ、1944年に実戦投入。6月16日、中国・成都の基地を飛び立ったB29が初めて日本本土を爆撃した。北九州の八幡製鉄所を狙って高高度から爆弾を落とし、300人以上が犠牲になった。米軍は7月、マリアナ諸島のサイパン島を日本から奪い、周辺の各島に飛行場の建設を進めた。B29の航続距離は6千キロ。成都からだと九州北部までが限界だったが、東京から約2400キロのサイパンを拠点にすれば、日本全域を攻撃目標にできた。11月から、本土空襲が本格化していった。
●精密爆撃から無差別爆撃へ
 当初の空襲は、軍需工場や港などの軍事拠点を狙った「精密爆撃」。昼間に、高射砲を避けて1万メートルの高高度から爆弾を落としたが、風で流されるなどして攻撃目標を外れることが多く、目立った戦果は挙げられなかった。45年1月、欧州戦線でドイツの都市への爆撃を指揮したカーチス・ルメイ少将がマリアナ諸島を基地とする第21爆撃機軍団の司令官になる。早期終戦を目的に、日本の厭戦(えんせん)気分を高めるため都市への焼夷弾攻撃を求める軍上層部の意向を受けて着々と準備を進めていった。そして、3月10日の東京大空襲をきっかけに、民間人を巻き込む「無差別爆撃」が繰り返されるようになった。硫黄島や沖縄の占領後は戦闘機による銃爆撃も始まり、空襲は、北海道を含む全土が対象になっていった。このうち、広島と長崎の原爆を除く通常爆弾や焼夷弾、銃撃による空襲の死者は20万人を超えるという。ただ、正確な数字を把握している自治体は少なく、国による実態調査も不十分なため、全容はいまだ明らかになっていない。
●日本の対中戦術「米が進化させた」
 軍事評論家の前田哲男さん(80)は6歳の頃、現在の北九州市戸畑区に住み、空襲を体験した。夜に警戒警報が鳴り、家族と庭に掘った防空壕(ごう)に飛び込んだ。外を見ると、八幡製鉄所が狙われているのだろうか、探照灯の光が夜空を切り裂き、高射砲の音が聞こえた。「B29だ」。防空壕の湿った土の臭いとともに記憶に残る。長崎の民放記者を経て、核問題への関心を深めた。フリーとなり、マーシャル諸島の核実験場を取材。その後、著した「戦略爆撃の思想」では、空からの無差別大量殺戮(さつりく)という視点にこだわった。スペイン内戦に介入したナチス・ドイツによる1937年のゲルニカ爆撃、そして38年から日本軍が始めた中国・国民党政府の臨時首都・重慶を狙った爆撃を、東京大空襲につながる都市への無差別爆撃の先例と位置づけた。特に、重慶爆撃は43年まで続き、200回以上の空襲で約1万2千人が犠牲になったとされる。「都市そのものを爆撃対象とみなし、戦闘員と非戦闘員の境界を取り払った戦略爆撃の思想を確固たるものにしたのが日本軍で、その戦術を進化させたのが米軍だった」。ボタン一つで爆弾を落とせる空からの攻撃は、肉体と肉体のぶつかり合いを伴わない分、人を殺したという実感がわきにくい。爆弾を落とされた側への想像力の欠如が、行為をエスカレートさせたとみる。
●ドローン爆撃、戦争はより無機質に
 焼夷弾によるじゅうたん爆撃は、やがて原子力爆弾の投下へとつながる。そして今、ドローン(無人機)の登場によって兵士は画面越しに爆弾を落とすようになり、戦争はより無機質なものへと変容した。無差別爆撃の負の連鎖は、戦後70年余を経ても止まらずにいる。
【キーワード】「超空の要塞」B29爆撃機
 太平洋戦争末期、日本上空に飛来し、多くの焼夷(しょうい)弾や爆弾を投下した米軍の大型戦略爆撃機。全長約30メートル、幅約43メートルあり、エンジン4基を備え、「超空の要塞(ようさい)」と呼ばれた。高度1万メートル以上を飛行でき、航続距離は6000キロ以上で、最大約10トンの爆弾を搭載。広島に原爆を落としたエノラ・ゲイ、長崎に原爆投下したボックス・カーも同じB29だった。

*2-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201903/CK2019031102000119.html (東京新聞 2019年3月11日) 東京大空襲74年 命の尊さ語り継ぐ
 一九四五年三月の東京大空襲から七十四年となった十日、犠牲者の遺骨が納められている東京都墨田区の都慰霊堂で法要が営まれた。秋篠宮ご夫妻も参列され、遺族ら約六百人が犠牲者の冥福と平和を祈った。遺族らは慰霊堂の前で献花し、手を合わせて犠牲者を追悼。参列した練馬区の鈴木美津恵さん(77)は、空襲で造船所に勤めていた父親を亡くした。当時の記憶はほとんどないが「空襲後、吾妻橋も隅田川も死体の山だったと聞く。母が父を捜したが結局見つからなかった」と振り返り、「父の顔も全然覚えていないのに、今でも突然帰ってくる夢を見る。もう七十年以上も前のことなのにね」と言葉を詰まらせた。小池百合子知事は「戦後生まれの世代が大半を占めるようになった今、私たちには戦争の悲惨さを風化させず、命の尊さや平和の大切さを語り継いでいく使命がある」と誓った。東京大空襲は太平洋戦争末期の四五年三月十日未明、米軍のB29爆撃機三百機以上が現在の東京都江東区、台東区、墨田区などに大量の焼夷(しょうい)弾を無差別に投下。十万人以上が犠牲になったとされる。

*2-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13844038.html (朝日新聞社説 2019年1月11日) 引き揚げの苦悩は消えぬ 中野晃
 昭和の戦争は敗戦で終わったわけではない。戦争の取材を続けるなか、植民地朝鮮や旧満州(中国東北部)など海外からの引き揚げ者や遺族の話を聞くたびにそう思う。「私の心の中で、それまでの人生がまるでがれきのように音を立てて崩れました」。富山市の杉山とみさん(97)は釜山(プサン)港で引き揚げ船に乗った時の心情をこう話す。朝鮮半島の全羅南道で生まれ、1941年、大邱(テグ)の国民学校の教師になった。新入生の胸に創氏改名した日本名の名札をつけ、朝鮮語を禁じ、「皇国臣民ノ誓詞(せいし)」を復唱させた。給与は朝鮮人の先輩より高く、町の中心街は自宅をはじめ日本人家屋が占めた。45年夏。「植民地という幻」は砕け境遇は一変する。杉山さんが停留所でバスを待っていると、「もうここは日本じゃない」と列から追い出された。路上で会った教え子と話していると、朝鮮語で怒声を浴びた。「日本語を使うな」という意味だった。両親の郷里の富山に引き揚げ、教員生活を送った杉山さん。何度も訪韓して教え子と再会し、恩師を慕う手紙も届くが、子どもたちへの申し訳なさが今も心をさいなむ。明治期以来、日本はアジアで戦争を重ねて支配域を広げた。「内鮮一体」「五族協和」など融和を掲げる国策の内実は日本人優遇だった。収奪に苦しんだ地元の人々の憤怒は戦後、取り残されて逃げ惑う非力な民衆に向かう。岐阜県の山あい、旧黒川村(現白川町)に「乙女の碑」という石像が立つ。82年に建立されたが、由来を記すものが長年なかった。昨年、旧満州に渡った開拓団での「犠牲」を伝える碑文ができた。吉林省陶頼昭に入植した黒川開拓団。現地住民の蜂起におびえ、集団自決の声もあがるなか、生きのびるために団幹部はソ連軍に警護を依頼。見返りとして、数えで18歳以上の未婚女性15人が差し出され、将校の「性接待」を数カ月間強いられた。うち4人は性病などで命を落とし、日本に生きて帰った女性たちも誹謗(ひぼう)中傷に苦しんだ。黒川分村遺族会長の藤井宏之さん(66)は「つらい歴史を埋もれさせず、その上に私たちの今の暮らしがあるとの思いを共有し、二度と繰り返してはならない戦争の悲劇を後世にも伝えたい」と話す。満蒙開拓団をはじめ大勢の弱き民が戦後に死んだ。国策がうんだ「棄民」の惨禍を記録に刻む取り組みは続く。

<土地利用の変更や浚渫で解決すべき災害>
PS(2019.3.14追加): *3-1の岡山県倉敷市真備町で発生した水害も、天井川に近い小田川を浚渫し、高さのゆとりを持って水が住宅地より下を流れるようにするか、より高い場所を住宅地にしておくかするのが当たり前で、川底の方が高いのに堤防だけで住宅地を護れると考えていた点が甘すぎるという意味で重大なミスである。
 さらに、大量の水が流れれば、川が合流する地点で水が氾濫するのも当たり前であるため、今回の住宅地の水没は起こるべくして起こったと言わざるを得ない。そのため、高架鉄道が被害を受けなくて済んだのはよかったが、吉備真備を由来とする真備町にふさわしい先進的な減災型の街づくりに変更すべきで、復旧で終わらせるべきではない。
 また、浚渫が必要な川やダムは、実は日本全国に存在し、人口減するのなら考え直せる街づくりも多いため、無駄遣いなどせずに本当に必要なことに使って欲しいわけである。なお、*3-2のように、積水ハウスが、屋上に設置した太陽光パネルや家庭用燃料電池で発電し、断熱効果の高いサッシなどを使って、各戸のエネルギー消費と発電量が均衡した全戸ゼロエネのマンションを作ったそうだが、どうせ新しい街づくりをするのならゼロエネを標準にしたい。


   2018.7.14毎日新聞     2018.7.9朝日新聞    2018.7.10News24

(図の説明:左図のように、今回浸水に遭った場所は、ハザードマップで浸水想定エリアとされていた地域だが、それに対して根本的対処をしていなかったというのは、江戸時代以下ではないか? そして、中央と右図のように、想定どおり浸水したわけである)

*3-1:https://blog.goo.ne.jp/kokakuyuzo/e/6d60d424cafc3d7c30baf921ec457bd7 (Goo 2018.7.7) 水害に襲われている岡山県倉敷市真備町について
 広大な地域が水没した真備町です。WIKIをお読みください。真備町がこのような規模の災害に見舞われたことは記憶にありません。テレビの映像に出てくる高架線路は、井原鉄道井原線です。国鉄が建設を進めていたのですが中断したため、第3セクターとして建設しました。総社駅〜神辺駅(広島県)間を、今回決壊した小田川沿いに走っています。高架のため大きな被害を受けなくて済みそうです。真備町の町名の由来は、遣唐使の吉備真備です。小説家の横溝正史も滞在していました。岡山県の三大河川は、東から吉井川、旭川、高梁川です。北の中国山地に源流がある三川です。ただ、小田川は西から東に流れ高梁川に合流する県下では珍しい流れを持つ川です。その合流地点が今回の水没地域となります。小田川は天井川に近かったのだと思います。そのため水が掃けにくい土地ですが、近年開発が進んで、ロードサイドショップも増えました。それが被害を大きくしてしまったと思います。隣接する総社市の経済圏です。なぜ倉敷市と合併したのか理解できないところがあります。簡単に紹介させていただいた真備町、住民の皆様の無事をお祈りいたします。

*3-2:http://qbiz.jp/article/150297/1/ (西日本新聞 2019年3月14日) 全戸ゼロエネのマンション公開 積水ハウス、全国で初めて
 積水ハウスは14日、太陽光発電や省エネなどを組み合わせ、各戸のエネルギー消費と発電量が均衡した「ゼロエネルギー」の分譲マンション「グランドメゾン覚王山菊坂町」(名古屋市)を報道陣に公開した。全戸で国のゼロエネルギー基準を満たす全国初のマンションとなる。屋上に設置した太陽光パネルや、家庭用燃料電池(エネファーム)で発電し、断熱効果の高いサッシなどでエネルギー消費を約3割減らす。余剰電力は中部電力に販売する。光熱費は平均的な使い方で年間約6万円と通常の約3分の1になる見通し。地下1階地上3階建てで全12戸。全戸売約済みで、価格は約7千万〜1億8千万円。4月に入居が始まる。電気やガスなどのエネルギー収支が実質ゼロになる住宅は「ゼロエネルギーハウス(ZEH)」と呼ばれる。積水ハウスはZEHの一戸建てや賃貸アパートを手掛けてきた。マンションは戸数に対し太陽光パネルを置ける屋根面積が小さく、国の基準を満たすことが困難とされていた。発電効率を高めるなどして実現した。

<本質を見失うのは何故か?>
PS(2019/3/14追加):*4-1のように、東日本大震災後8年が過ぎても仮設住宅で約5千人が暮らしているそうだが、阪神・淡路大震災でも仮設は復興住宅の整備等により約5年で役割を終えた。それから16年後に起こった東日本大震災は、震災にも慣れた後の出来事であるため、3年以内に仮設を出られるようにすべきだったと思う。なお、原発事故後に帰還困難になるのは仕方ないが、移住できる土地も多いため、なるべく早く終の棲家を見つけて正常な生活に入るのが、身体的・精神的健康のためである。
 また、*4-2のフクイチ事故を東電の経営者が本当に予見できなかったかについては、元原子力規制委員の島崎東大名誉教授(地震学)が証人として出廷し、「①長期評価は福島県を含む太平洋岸に大津波の危険があるとしていた」「②長期評価を受けて東電が津波対策をしていれば、原発事故は起きなかった」等を明言しておられる。そして、歴史上も、大地震や大津波が一定周期でこの地域を襲っているという記録が残っており、東電の経営者は「予見できたが、リスクを甘く見て不都合なことには目をつぶっていた」というのが本当のところだろう。実際には、*4-3のように、福島第1原発を襲った津波は高さ14~15メートルで、5.7メートルという設計当初の想定の3倍だった。仮に直ちに原発を移転したり、防潮堤を高くしたりする余裕がなかったとしても、非常時の電源は濡れない高い場所に置き、使用済核燃料はよそにもっていくくらいの工夫があってよかったと思われる。

*4-1:https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/201903/0012144851.shtml (神戸新聞 2019/3/14) 住まいの再建/誰も取り残さない支援を
 丸8年が過ぎても、東日本大震災の被災地では、プレハブ仮設住宅で約5千人が暮らす。自治体は早期の解消を目指すが、4月以降も597世帯、1300人が残る見通しだ。阪神・淡路大震災では、仮設に約4万7千世帯が入居し、復興住宅(災害公営住宅)の整備などに伴い5年で役割を終えた。原発災害にも見舞われた東日本はより多くの困難を抱える。住まい再建も同様だ。時間がたてば、はさみを開いたように被災者間でさまざまな格差が開く。阪神・淡路でも指摘された教訓を踏まえ、一人一人に寄り添った支援を今後も息長く続ける必要がある。とはいえ支援制度にも隙間がある。枠組みから漏れる人がいないよう、目を凝らし、絶えず見直しを進めねばならない。東日本では、計画された災害公営住宅約3万戸の9割以上が完成した。ハード面の事業は「完了」に近づいている。にもかかわらず仮設に残る人がいるのは、失った家に代わる「ついのすみか」がいまだに見つからないからだろう。津波被害の地域では、土地かさ上げや区画整理などで住宅再建が遅れがちだ。仮設入居者の3割は高齢者で、その間の生活に窮する人もいる。希望を失わないよう、きめ細かなサポートや見守りが欠かせない。一方、損壊した自宅に住み続ける「在宅被災者」も、支援制度の隙間に置かれた存在だ。今もガスや水道が止まった状態で生活している人がいる。だが「一部損壊」の判定では、住宅再建に公費を支給する被災者生活再建支援法の対象とされず、改修もままならない。年金暮らしの高齢世帯などは自力での対応が困難だが、損壊しても自宅があるので災害公営住宅には入れない。そうした状況を放置すれば、復興の流れに取り残される恐れがある。兵庫県は、災害の規模などに応じて一部損壊に支援金を支給している。東日本でも独自で支援制度を導入する動きが見られたが、自治体間で対応にばらつきがある。国レベルの法制度見直しは大災害のたびに課題とされてきた。国会で真剣に議論すべきだ。

*4-2:https://www.kahoku.co.jp/editorial/20190314_01.html (河北新報 2019年3月14日) 東電公判が結審/本当に予見できなかったか
 東京電力福島第1原発事故を巡って、業務上過失致死傷罪で強制起訴された東京電力の旧経営陣3人の刑事裁判が、東日本大震災から8年を経た12日、東京地裁で結審した。判決公判は9月19日に開かれる。最終弁論で弁護側は「事故の予見可能性はなかった」として、被告の勝俣恒久元会長(78)、武黒一郎元副社長(72)、武藤栄元副社長(68)の無罪を主張した。検察官役の指定弁護士は3人に禁錮5年を求刑している。弁護側が主張してきたように、果たして東日本大震災の巨大津波を東電は予見できなかったのだろうか。37回を数えた公判を通じて、最大の争点となったのはこの点だ。検察の不起訴、検察審査会の議決、再議決を経て2017年6月、この裁判は始まった。公判には東電社員や学者ら計21人が出廷。指定弁護士側、弁護側が事故の予見可能性などを巡って激しく対立した。その過程でさまざまな事実が明らかになっている。18年5月に開かれた第12回公判には、元原子力規制委員の島崎邦彦東大名誉教授(地震学)が証人として出廷。02年、国の地震調査研究推進本部(地震本部)が公表した長期評価と、その後の研究成果を反映させた改定作業について詳細に述べた。長期評価は福島県を含む太平洋岸に大津波の危険があるとし、島崎氏は「長期評価を受けて東電が津波対策をしていれば、原発事故は起きなかった」「長期評価は当然津波に備える必要があると示している」と明言した。1年8カ月余り続いた公判で証言などから浮き彫りになったのは、電力事業者として東電が安全に細心の注意を払っていれば、やはり事故は防ぎ得たという当然すぎる事実だろう。では、なぜ津波対策は先送りされたのか。地震や津波に対応する部門を担当していた東電関係者が病気のため公判で証言できなかったのが惜しまれる。第24回公判で検察側が読み上げたこの関係者の調書には、経営を優先させ津波対策を先送りさせたと受け取れる記述があったからだ。もちろん、こうした証言の数々が被告3人の刑事責任に直ちに結びつくとは容易には言えない。巨大津波や原発事故の予見可能性、結果の回避可能性の有無などを含め今回の裁判の行方に関しては、法律の専門家でも評価は大きく分かれる。東日本大震災で福島県は他県より格段に多い2250人の震災関連死を数えた。同県内、県外への避難者は今も4万1000人を超える。福島第1原発事故は豊かな海と県土を汚染し、住民にこれほど悲惨な犠牲を強いている。裁判の結果はともかく、最終意見陳述で被告3人のいずれからも真摯(しんし)な謝罪や反省が聞かれなかったのは、極めて残念だと言っておきたい。

*4-3:https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG0904K_Z00C11A4000000/ (日経新聞 2011/4/9) 福島第1原発を襲った津波、高さ14~15メートル 想定の3倍
 東京電力は9日午後、東日本大震災で福島第1原子力発電所を14~15メートルの津波が襲ったことを明らかにした。高台に設置された1号機から4号機までの原子炉建屋やタービン建屋を含む主要建物エリアのほぼ全域で高さ4~5メートルまで浸水しており、その状況などから判断したという。同社は、土木学会の津波の評価指針に基づいて津波の高さを想定。福島第1原発に到達する波の高さを5.7メートルとして原発を設計していたが、震災に伴う津波は約3倍の高さに到達していたことになる。一方、福島第2原発には6.5~7メートルの津波が到達したが、第1原発よりも敷地自体の高さが約2メートル高く、主要建物エリアの浸水高は最大でも2~3メートルにとどまった。第1原発の5、6号機も1~4号機の主要建物エリアに比べ、約3メートル高台にあり、比較的被害は少なかった。同日、記者会見した同社の武藤栄副社長は「土木学会の評価に基づいて津波の高さを想定したが、結果として想定以上の津波が来た」と説明。「今回の経験を踏まえ、津波の評価を再度検証する必要がある」と述べた。

<現場からの多くの記録の重み ← リケジョは感傷に終わらない>
PS(2019年3月15日追加):*5-1のように、沖縄では、沖縄戦で亡くなった沖縄県内の旧制師範学校・中等学校21校の学徒の人数を記した説明板が摩文仁の平和祈念公園内に完成したとのことだ。沖縄県では、*5-2のように、1945年3月に沖縄師範女子部と沖縄県立第一高等女学校の生徒222人、教員18人の計240人が陸軍病院に動員されて負傷兵の看護に当たり、3カ月間で136人が犠牲になったことを、1989年に両校の同窓会が「ひめゆり平和祈念資料館」を設立し、2004年からは元学徒の証言映像も加えて説明している。私は、他地域でも、亡くなった理由とその背景をできるだけ正確に記載することによって、単なる慰霊ではなく統計データとして政策や意思決定過程の欠陥に関する分析を可能にすると考える。

*5-1:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-888960.html (琉球新報 2019年3月15日) 戦没全学徒 人数説明板除幕 1984人の実相 次世代へ
 沖縄戦で犠牲になった県内旧制師範学校・中等学校21校の学徒の人数を記した説明板が糸満市摩文仁の平和祈念公園内に完成し、14日に除幕された。10代の学徒が戦場に駆り出され、多くが犠牲となった事実を伝える「全学徒隊の碑」の横に設置した。21校の元生徒らでつくる「元全学徒の会」のメンバーらは、亡き学友をしのび「戦争の実相を伝える指標になる」と次世代への継承に思いを新たにした。説明板には同会の調査によって各校の戦没者数がそれぞれ記されており、21校で計1984人に上る。縦約90センチ、横約120センチで、約2メートルの2本の柱に支えられている。「学徒の戦没者数を記し、恒久平和を祈念する」などと記した。除幕式には約100人が参加した。平和宣言で同会共同代表の與座章健さん(90)は「(説明板は)沖縄戦の実相を如実に伝える効果的な指標となり、恒久平和のとりでとなるだろう」と完成を喜び「戦争の惨劇を二度と繰り返してはならない」と述べた。県子ども生活福祉部の大城玲子部長は「多くの方々の目に留まり、平和を希求する沖縄の心を深く理解する契機となることを切に願う」とする玉城デニー知事のあいさつを代読した。県は2017年3月14日に平和祈念公園内に「全学徒隊の碑」を建てた。石碑には21校の名前などが刻まれているが、犠牲者数には触れていない。21校の元生徒が18年4月に「元全学徒の会」を結成し、犠牲者数も記すよう県に求めていた。

*5-2:https://kotobank.jp/word/%E3%81%B2%E3%82%81%E3%82%86%E3%82%8A%E5%AD%A6%E5%BE%92%E9%9A%8A-612562 (朝日新聞 2016.5.3) ひめゆり学徒隊
 1945年3月、沖縄師範学校女子部と県立第一高等女学校の生徒222人、教員18人の計240人が陸軍病院に動員され、負傷兵の看護に当たった。米軍の攻撃を受け、本島南部に撤退。約3カ月間で136人が犠牲になった。両校の同窓会は89年、ひめゆり平和祈念資料館を糸満市に設立。2004年に展示内容を一新し、元学徒の証言映像の上映が加わった。

<高齢者の見守りついて>
PS(2019年3月16、18日追加):*6-1の集合住宅が高齢化するのは、災害公営住宅が先を行っているかもしれないが、そこに限らず日本中どこにでもあることだ。その中で高齢者の閉じこもりや孤立を防ぐためには、共同食堂で安くて充実した朝・昼食を出し、出て来ない人にだけ連絡する方が効率的で、身体的・精神的に来ることができなくなった人は「要支援」になるだろう。しかし、洗濯機を皆で使うと免疫力が低下している高齢者は特に感染が起こったり、それを防ぐためのマナーが大変だったりするため、洗濯機を共有するのに私は反対で、江戸時代の長屋でもたらいは共有ではない。そのため、いろいろな背景の高齢者が楽しめるよう、国会中継から映画・芸能まで幅広く受信できる複数のテレビや新聞・雑誌を置くなど、人が行きたくなる交流スペースを作るのがよいと考える。そして、これらを「○○社寄贈」「○○社協賛」等と書いて企業の寄付で行えば、その企業は社会的貢献をする企業だというイメージを作れるわけだ。
 なお、いろいろなことを実現するには労働力が必要だが、*6-2のように、外国人労働者の健康や報酬などの条件が決まり、受入準備はできつつある。
 さらに、信濃毎日新聞が、*6-3のように、「①人手不足に対処するため、外国人労働者の新たな在留資格が設けられ、運用の詳細を定めた政省令が公布された」「②各地の説明会で詳細について『検討中』とする場面が目立った」「③新制度では業務内容に共通性がある場合は転職を認めているので、賃金の高い都市部に集中する可能性がある」「④外国人労働者受入は、現状の検証と改善が先だ」等を記載している。このうち④については、1995年前後に私が経産省に外国人労働者受入を提案したが、高度専門職以外は技能実習生か留学生か日系人という中途半端な形でしか受入が実現しなかったため、今回の労働者としての受入拡大は一歩前進だと考える。そして、2005~2009年の衆議院議員をしていた期間に、私は佐賀県を廻って人手不足について陳情を受けたり、実際に見て納得したりしていたため、新たな在留資格を作る前に立法事実があるのだ。また、長野県も農業等に多くの外国人労働者を雇用していると聞いている。③については、外国人といえども過度の拘束をするのは人権侵害である上、母国に送金することが目的であれば所得から生活費を差し引いた残額が重要で、求められている場所にしか仕事がないため、平均賃金が高いからといって都市部に集中するとは限らず、地域の本気度によるところが大きい。そして、②については、何でも最初から唯一の完全な解があるわけではなく、地域の実情に応じた工夫もあるため、使い勝手の悪い点は次第に改善していけばよいと思われる。


   2018.11.14      2018.7.23      2019.1.24    2019.3.15
    朝日新聞       東洋経済       朝日新聞     ロイター

(図の説明:現在は、左図のような資格で、2017年に128万人の外国人労働者が就労していた。しかし、人手不足のため、左から2番目の図のように「特定技能」という資格を作って5年間で35万人まで新たに受け入れることとなり、詳細を定めた法務省令・政令が右図のように公布された。なお、右から2番目の図のように、外国人労働者が大都市に集中することを懸念する声が多いが、仕事や住居がなければ外国人も生きていけないため、大都市が受け入れを自粛しなくても、外国人労働者はよい仕事や住居のある地域に住むことになると思われる)

*6-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190316&ng=DGKKZO42556560W9A310C1CC1000 (日経新聞 2019年3月16日) 復興の実像(2)介助・共助、需要高まる 東北3県、復興住宅の高齢化率42.9%
 2月中旬、宮城県南三陸町。災害公営住宅「志津川東復興住宅」に隣接する施設「結の里」にはひきたてのコーヒーの香りが漂い、恒例のパン販売に人々が集まっていた。「ここで皆とおしゃべりするのが日課。楽しいね」。同住宅で一人暮らしをする女性(84)は笑う。結の里と同住宅はウッドデッキで結ばれ、住民が毎日気軽に立ち寄る。同住宅は住民の6割近くが65歳以上。孤立を防ごうと2018年4月、町の社会福祉協議会が結の里を開いた。デイサービス施設、交流スペースや芝生広場を併設し、周辺の復興住宅の住民や親子連れも集まる。一般に若い世代は自宅を再建できるため、復興住宅の住民は高齢者が多い。岩手、宮城、福島3県で500戸以上の復興住宅を整備した自治体を対象に入居者に占める65歳以上の人の割合(高齢化率)を調べた。18年10月~今年3月時点で岩手46.2%、宮城42.2%、福島42.6%。3県の平均は42.9%だった。18年版「高齢社会白書」によると、日本の総人口の高齢化率は27.7%。3県も人口全体では27.2~31.9%だ。復興住宅は県全体より10ポイント以上高い。高齢者が多いほどきめ細かなケアが必要になる。だが、志津川東復興住宅の自治会役員、佐竹一義さん(70)は「イベントがあっても全員が出てくるわけではない。高齢化がさらに進めば自治会活動もどこまでできるか不安だ」と語る。同住宅では平日の昼間、社協の生活援助員(LSA)4人が見回りをする。入居開始当時は6人常駐していたが、18年から2人減った。郵便物はたまっていないか、定期的に外出しているかなどに気を配る。「私たちがいなくなっても住民にバトンを渡し、支え合えるようにしたい」とLSAの三浦美江さん(53)。宮城県がまとめた17年度の調査では、復興住宅に入居する要介護・要支援認定者に占める介護サービス利用者の割合は72%。2年前から10ポイント上昇し、生活介助のニーズも高まっている。福島県では高齢化率の高さを逆手にとった試みが軌道に乗る。相馬市が市内4カ所に建設した「相馬井戸端長屋」の入居者平均年齢は78歳。「助け合って暮らせるように」と入居対象をあえて60歳以上とした。各棟の12世帯それぞれにトイレと風呂、台所があるが、洗濯機を置くスペースはない。昔の長屋の井戸のように洗濯機を皆で使うようにし、畳や共同食堂も備えた。毎日昼時には地元NPOが配達する弁当を食堂で食べる。NPOスタッフの反畑正博さん(68)は住民が体調を崩した人のため病院を手配する姿を見た。「日々コミュニケーションを取り、励まし合って暮らしている」と説明する。復興住宅で孤立死が相次いだ阪神大震災などの教訓を踏まえ、東日本大震災の復興住宅では様々な工夫がこらされた。それでも安心な暮らしには住民の共助が欠かせない。国立研究開発法人・建築研究所の上席研究員で、復興住宅に詳しい米野史健さんは「復興予算でLSAなどが手助けできるうちに、住民同士で支える仕組みの下地を作ってほしい」と話す。

*6-2:http://qbiz.jp/article/150394/1/ (西日本新聞 2019年3月16日) 外国人就労、報酬は日本人と同等以上 政令・省令公布
 政府は15日、特定技能の在留資格を創設し、外国人労働者受け入れを拡大する新制度の運用の詳細を定めた法務省令や政令を公布した。健康であることを資格取得の要件とし、受け入れ先に日本人と同等以上の報酬とする雇用契約を結ばせることなどを定めた。施行は新制度を盛り込んだ改正入管難民法と同じ4月1日。新制度に関する全ての法規定が整備された形となった。新制度は一定技能が必要な特定技能1号、熟練技能が必要な同2号の在留資格を創設。1号は介護など14業種、2号は建設と造船・舶用工業の2業種で受け入れる。新設の特定技能基準の省令では、報酬は日本人と同等以上の額とし、不正を防ぐために預貯金口座に振り込むと規定。法務省によると、報酬額は受け入れ先の賃金規定に基づく。規定がない場合、受け入れ先で同じ業務に就いている日本人の報酬額を証明する資料を使ったり、似たような業務をしている日本人と比較したりして、報酬額の妥当性を判断する。上陸基準の省令を改め、特定技能の外国人は18歳以上で、健康状態が良好であることを基準とした。母国で血液や胸部エックス線などの検査を受けてもらい、安定的に働けると医師が診断したかどうかを確認する。

*6-3:https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190318/KT190315ETI090002000.php (信濃毎日新聞 2019年3月18日) 外国人受け入れ 現状の検証と改善が先だ
 円滑に始められるのか、不安が残る。外国人労働者の受け入れを拡大する新制度は、運用の詳細を定めた政省令がようやく公布された。4月の施行まで半月を切っている。準備の遅れは明らかだ。人手不足に対処するため、新たな在留資格を設けた。高度な専門人材に限ってきた受け入れを単純労働分野にも広げる。建設や介護など14業種を対象に5年間で最大約34万5千人を想定する。政省令では、報酬を日本人と同等以上の額とし、不正を防ぐため預貯金口座に振り込むことなどを定めている。各地での説明会では詳細について「検討中」などとする場面が目立った。県内でも、新たな資格で従事できる宿泊業の業務に「客室清掃は含まれるのか」との質問に国土交通省の担当者が「関係省庁で取り扱いを協議している」と述べるにとどまった。心配な点は多い。一つには、賃金の高い都市部に集中する可能性がある。新制度では、同一業務や業務内容に共通性がある場合は転職を認めているからだ。政府は1月の国会の閉会中審査で、受け入れの少ない地域があれば原因を調べ、要因に応じて調整を図るとした。今国会で山下貴司法相は安価な生活費や職場環境など地方のメリットを周知していくと述べている。どこまで効果があるか、心もとない対応である。適正な処遇も課題だ。現行の技能実習制度では劣悪な労働環境が問題になっている。政府は事業所向けの「外国人雇用管理指針」を改定するものの、差別的待遇の禁止など現在の法令に合わせて適切な対応を求める内容である。共同通信が全国の自治体を対象に行ったアンケートでは、市区町村の半数近くが懸念を示した。報酬水準の確保について「受け入れ企業の経営が厳しい」など否定的な見方が多い。生活支援も欠かせない。政府は外国人への情報提供や相談を一元的に行う窓口を全国100カ所に設けることにしている。これで十分か。国からの交付金は、英語や中国語など原則として11言語以上での対応を条件とする。通訳の確保にも懸念が残る。新たな資格への移行を見込む技能実習生についての調査結果もまとまっていない。日本で働く外国人は昨年10月時点で146万人に達し、過去最多を更新した。受け入れ拡大を急ぐより、現状をつかんだ上で必要な対策を検討、実施していくことが先決である。

<河道掘削などで出た土砂の活用>
PS(2019年3月25日追加):*7のように、福岡県を流れる遠賀川で過去最大規模の河道掘削が行われて約400万m₃の掘削土が出るそうだが、このような非汚染の土砂を船舶で運び、原発事故被害を受けた地域で土地を造成をした上に、徹底して1~2mかぶせれば、農地として使ったり、居住したりすることもできるようになると思われる。そして、このような工事を必要とする河川やダムは多く、工事中に水辺の環境は一時的に壊されるが、全体を同時に掘削するわけではないため、完成時の生態系を考えて仕上げをすれば植生・コイ・ナマズ・メダカ・フナ等の生物は次第に戻ってくると思う。なお、現在は無思慮に作っている河川内の堤をなくし、サケやウナギのように河川と海を往来する生物が住みやすくすることも、水産業と環境のために必要だ。

*7:http://qbiz.jp/article/150430/1/ (西日本新聞 2019年3月25日) 東京ドーム3・2杯分の土砂どうする 遠賀川で防災対策、全長18キロ 採石場跡などに搬入、河川の環境保全にも配慮
 福岡県直方市の国土交通省遠賀川河川事務所が、遠賀川で過去最大規模の「河道掘削」を進めている。川岸を削り、大雨が降っても水位が上がりにくくする防災対策の一環だ。範囲は直方市や小竹町、飯塚市などにまたがる計約18キロに及び、工事により東京ドーム3・2杯分の掘削土が出る見通しという。その大量の土砂をどう処分し、水辺の環境をどのようにして守るのだろう。河道掘削は昨年4月、遠賀川下流の中間堰(中間市)付近から上流に向かって始まった。飯塚市鯰田地区までの約17キロと、支流・彦山川の一部約1キロが対象。昨年7月の西日本豪雨で、堤防決壊の恐れがあるところまで水位が上昇した観測所が複数あったことから、工事を前倒しで進めようと、中間地点の日の出橋(直方市)からも掘削に着手した。事業は2028年度ごろまで続く予定という。遠賀川河川事務所は、工事で発生する約400万立方メートルもの掘削土を有効活用する方針で、受け入れ候補の一つになっているのが宮若市龍徳地区の採石場跡だ。土地を所有する宮若市が跡地を山林に戻す考えだったことから、打診した。河川事務所は、この採石場跡に約170万立方メートルの土砂の搬入を検討している。大雨の時などに土砂の崩落は起きないのだろうか−。担当者によると、土砂を積み上げてできるのり面は崩落を防ぐため、段々畑のように段差を設け、植林する。斜面下部にも擁壁を設けるなど安全対策を講じる。有吉哲信市長は、開会中の市議会3月定例会で「市の方針に合致しており、受け入れを前提に協議を進めたい」と報告。近くに住む70代男性も「特に心配はしていない」と話す。河川事務所は残りの土砂の活用方法について、直方市とも協議に入る予定という。
    ◆ ◆ ◆
 河道掘削により、水辺の環境がどう変わるのかも気になる。遠賀川の中流域にはコイやナマズなどが生息しており、下流域の水辺ではメダカなどの小魚やフナの稚魚が確認されている。魚の産卵場にもなっている水辺では、市民団体が子どもたちに生物や環境を教える活動も行っている。河川事務所は、工事後も多くの生物が生息できるよう、河道掘削を実施した後は、川岸に自然石を置いて凹凸をつくる「寄せ石」工法を用いる計画という。西日本豪雨では、遠賀川流域10カ所の観測所で史上最高水位となり、うち5カ所で堤防が耐えられる限界の「計画高水位」を超えた。堤防の決壊は起きなかったが、支流の水が本流に流れにくくなり、内水氾濫が起きて各地で浸水した。遠賀川河川事務所工務課の川辺英明課長は「河道掘削で豪雨時の河川の水位を下げられ、住宅側に降った雨水も川に長時間流すことができるようになり、浸水被害が軽減できる」と説明。その上で「土砂を安全に処理し、河川の生態系に影響が出ないよう十分な対策を取っていく」と話している。

| 日本国憲法::2019.3~ | 12:34 PM | comments (x) | trackback (x) |
2019.3.8 日本は人権を大切にしない国である ← ゴーン氏の逮捕と長期勾留から (2019年3月9、10、11、12、13日に追加あり)

    2018.11.19逮捕       2018.12.7朝日新聞    2019.3.6朝日新聞

(図の説明:左図のように、2018年11月19日、ゴーン氏とケリー氏が突然逮捕され、日産は速やかにゴーン氏を会長からケリー氏を代表取締役から解任し、中央の図のように、西川社長が記者会見した。この後、右図のように、108日後にゴーン氏は保釈されたが、保釈条件はまるで殺人犯・性犯罪者・テロリストのようなものだった)

(1)ゴーン氏が殺人犯やテロリストのような扱いを受ける理由はないこと
1)ゴーン氏の報酬は巨額過ぎ、巨額報酬は犯罪になるか? ← 報酬は雇用者と被用者の合意に基づけばよいのであり、金額が多すぎるからといって犯罪にはならない

 報酬が多額であることを理由に刑事犯として裁かれた経営者はいないだろう。株主・投資家にとって重要なのは、実績と比較して報酬が多きすぎるか否かであり、仮に株主の賛成が得られなかったとしても株主総会の決議によって否決されるだけの民事上の問題で、利害関係のない人には無関係のことである。そして、株主・投資家の判断根拠となる開示方法が、有価証券取引法で定められているわけだ。

 そのような中、*1-1のように、日産自動車元会長のゴーン氏が逮捕され、西川広人社長兼CEOが「①不正の背景としてゴーン元会長に会社全体が依存していた」「②経営手腕への期待が先行し、個人に権限が集中する企業統治の議論が不十分だった」「③昨年10月に社内調査の結果が来て、トップとして守るべきことから完全に逸脱しており、ゴーン元会長の不正自体が問題だ」「④最初うまくいっていたという見方は幻想だ」と話したそうだ。

 しかし、①②については、*1-2に「西川社長ら現経営陣の責任を問わない」と書かれており、他の人は何もしなくてよいほど権限を集中させた上で、日産・ルノー組を世界第二位の自動車会社に押し上げたのなら、ゴーン氏の報酬は20億円でも足りないくらいで、取締役はじめ他の役員は1千万円でも高すぎるだろう。また、本当に不正があったのなら、八田名誉教授の意見のとおり、上場会社である日産の経営陣はゴーン氏の不正を長年見過ごしてきたのだから、社外取締役を中心とする特別委は当事者の一部であって独立性がなく、不正の真因を突き止める役割を果たすことはできない。しかし、それなら、上場会社である日産は、内部統制に関する外部監査も通らなかった筈で、形だけの監査をしていたのでなければ、①②は成立しないのである。

 また、③については、*1-5のように、2019年1月下旬に日産のCFOが社内調査に追われていたそうだが、このような調査は外部監査法人に依頼するのが世界標準だ。その外部監査法人は、これまで監査意見を書いてきたEYではなく、PWCやトーマツのような他のBig4である。私は、PWCで外資系企業の不正の監査に携わったことがあるが、それほど難しいものではなく、このように会社が協力的である場合はなおさら容易だ。

 そして、監査(調査)結果は、不正があったとすれば「いつ」「どのようにして」「いくら」あったのかを明らかにしなければならず、「不正はない」という結論が出ることもあり、これらは利害関係のない第三者だから信じてもらえるのである。また、日本人記者の目に、「日本の大企業とは思えないずさんな資金の流れ」に見えたとしても、その国の文化に従いつつマーケティング目的を果たすために使われたのかも知れないため、直ちに不正と決めつけることはできない。そのため、正確を期すには、その国にある系列監査法人の意見を聞く必要もあるのである。

 さらに、④のゴーン氏の経営能力に関する評価は、監査手続きの一つとして外資・内資系企業の経営者と話し慣れている私には過小評価に思える。何故なら、ゴーン氏は最新技術の導入にあたって経営意思決定を誤らなかったが、ゴーン氏逮捕事件の後は、*1-2のように、日産・ルノーの売上高は、北米・中国で新車販売が大きく落ち込み、その理由は、このような司法の使い方をしたり、ガソリン車(e-Power搭載のIMQも同様)に昔返りしたりしている日産に対する失望の気持ちが加わっているからである。つまり、日産が、今になってe-Power搭載のIMQなどを作るのは、人材・資本など経営資源の無駄遣いにすぎず、企業利益率を落とすものでしかない。

 従って、*1-3の「ゴーン前会長の巨額報酬を問いたい」とする記事については、20億円/年が正当だったが、日本メディアの不合理でしつこい追及を避けるため、退職後に退職慰労金として受け取るスキームを法律・会計・税務の専門家が頭を絞って合法になるよう検討したのだろうと、私は推測する。

2)長く経営者をしているのは、逮捕されるべきことか? ← 普通は褒められることである
 *1-4には、「①ゴーン退場、長く居すぎたカリスマ、迷走する日産・ルノー」「②V字回復後に「独裁」の土壌」「③2018年12月、インドネシア日産自動車のトップが古巣の三菱自動車に戻された」「④日産が2010年に発売したEVリーフは、6年後にルノーと共同で累計150万台のEV販売目標を掲げたが、3年目で7万台と苦戦」「⑤長く居すぎたカリスマ経営者の末路」などと書かれている。
 
 しかし、②のV字回復に独裁が必要だったのなら、ゴーン氏は恨まれるリスクを犯して日産をV次回復させた英雄である。が、ゴーン氏が行った人事は、③や中国事業担当幹部のムニョス氏などの外国人幹部が主要業務から外れ、この100日間にEV系が後退したように見える。しかし、①⑤の「長く居過ぎた」というのは意味不明で、フィットした人なら長く居てもらった方がよく、実際、長くやっている経営者は多い。

 私は、③のリーフがあまり売れなかった背景は、i)電池が永く持つ改良をしなかったこと ii)リーフの名のとおり、環境に優しいことのみを前面に出して、EVの低燃費・運転支援のすごさ・(例えばélégance《エレガンス:優雅》、joie《ジュア:喜び》などの名称で)車の優雅さなどを主張しなかったこと iii)最初に出したEVだったためか、メディアをはじめとして的外れたEV批判が多かったこと などだと考える。そのため、世界にEVの潮流を作り、その流れに乗る選択と集中を行って、EVのラインアップを増やすのが正解だっただろう。

(2)これまでの日産・ルノーの実績は、誰でもできたことか? 
1)世界初のEV市場投入は、日本人経営者にはできなかった
 日産は、ゴーン氏がトップであった時代にEVに手を付け、*2-1のように、現在、中国の環境規制を追い風として中国ではEV戦略を加速している。私は、シルフィEVなら関心があるが、*2-2のジュネーブモーターショーで初披露されたというガソリン発電で動くIMQには全く興味がなく、これはどの国なら売れるのだろうかと疑問に思うくらいで、この車の制作は無駄遣いだったと思う。つまり、ゴーン氏なき日産は、このように既に目的もなく漂流し始めているのであり、これまでの日産・ルノーの実績は、誰にでもできたことではないのだ。

2)メディアの悪質な報道ぶり
 日本のメディアは、*2-3のように、ゴーン氏は光と影をもたらした(=優秀な人には必ず悪いところがあり、普通の私たちこそ模範だ)と決めつけて、ワンマン経営者の没落ぶりを報道したくて集まっていた。そこに、作業着姿で青い帽子にオレンジ色の反射ベストを身につけ、マスクをしたゴーン氏が出てきて、スズキの軽ワゴン車に乗り込んだため、「変装か」「後ろめたいところがないなら、変装などせずに堂々と出てきてほしかった」などと書いているが、このような目的で集まった報道陣の前で何を話しても悪くしか報道しないため、準備してから記者会見を開くのが正解だ(ただし、それでも主観的な感想を書かれるので危ないのである)。

 そのため、この日にはメディアの前で語ることなく、無罪の証拠を揃えるのが賢明である。弁護人の弘中氏は、*2-4のように、「ゴーン氏の変装をテレビ見てびっくりした」としているが、ゴーン氏も入社した当時は作業服を着て現場で働きつつ、厳しい競争に勝ち抜いて社長になったのだから、作業服も似合っていたし、背筋を伸ばして堂々ともしていた。この点が、現場と経営者は入社当時から異なる道を歩いていると考える日本人のおかしさなのである。

 ゴーン氏が乗車したスズキの社長は長く社長を務めた創業者だが、ガソリン車に固執しすぎたため、スズキは先が見えなくなっている。また、スズキ(https://www.suzuki.co.jp/corporate/producingbase/abroad.html 参照)は静岡県に生産拠点が多く、インドでも販売を伸ばしているが、今後は鉄道車両も蓄電池電車や燃料電池電車に行く方向であるため、ゴーン氏の保釈姿は、今後のゴーン氏の役割を示しているように、私には思われた。

 さらに、日産は、*1-6-1・*1-6-2のように、ゴーン氏の報酬約92億円分を確定報酬分としてあわてて決算計上し、有価証券報告書に記載していなかった報酬の支払いは確定していたと主張しやすくしたと同時に、報酬の支払いを凍結した。これは、ゴーン氏に対して司法判断で敵対しつつ、日産がゴーン氏に損害賠償請求しようとするものだが、まさに、このように理由をつけて凍結されたり、支払いを拒否されたりする可能性があるから、報酬は受領日まで確定しておらず、受領日の属する期に認識するのである。

 また、ルノーも、*1-6-3のように、ゴーン氏が退任に伴って受け取る金銭の約3千万ユーロ(約38億円)相当の支払いを認めないことを決め、退任時に報酬として受け取る権利のあったルノー株約46万株(約33億円相当)の支給もとりやめ、ライバル会社に退任後2年間転職しないことを条件に支給する補償金400万~500万ユーロ(約5億~6億3千万円)も支払わないそうだ。

 そのため、ゴーン氏はライバル会社に転職することも自由であり、それはスズキでもよいし、*1-6-4のテスラでもよいだろう。何故なら、米EV大手、テスラ社のイーロン・マスクCEOは、イノベーションには優れた人だが、関心が自動車だけでなく宇宙にも広がっているため、ゴーン氏が自動車部門のリーダーを引き受けて世界展開に導くのが合理的だと思われるからだ。しかし、この時ネックになるのが日本の司法は審理にも時間がかかることで、日本の司法は、*3-1のブラジル弁護士会によるゴーン元会長への「人権侵害」の指摘や*3-2・*3-5の「人質司法」だけでなく、時間を引き延ばすことによる人権侵害も重ねているのである。

(3)逮捕と懲罰用監房での勾留について
 日本は、憲法で罪刑法定主義「第31条:何人も法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない」「第39条:何人も実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない」と定めている。

 そして、刑罰でもないのに、身体の自由を拘束したり、抑留や拘禁したりすることを禁止し、拷問や自白の強要を禁止している。当然、新しく法律を作って、過去に遡及して処罰することも禁止されている。

 にもかかわらず、ゴーン氏は、*3-6のように、有罪が確定したわけでもないのに、証拠隠滅の恐れがあるとして懲罰用の監房で108日間も勾留された。そして、①居住地の日本国内への制限 ②海外渡航の禁止 ③関係者との接触を疑われないよう住居の出入口に監視カメラを設置し、録画映像を定期的に地裁に提出する ④携帯電話の通信制限 など、まるで殺人犯か性犯罪者かテロリストのような条件で保釈されたが、その上、*3-3のように、保釈金10億円も支払わされている。そのため、ゴーン氏は、*3-4のように、この保釈条件に「嫌そうな顔」をしたそうだが尤もであり、これら一連のやり方は日本国憲法に違反している。

 そして、ゴーン氏を108日も勾留し、日産も会社として地検に協力しているのに、地検がまだ金融商品取引法違反や特別背任罪の証拠を得ていないのなら、そのような罪はないことが明らかだ。何故なら、本当に何かあれば、1~2カ月で報告書までできるからだ。さらに、日産の西川社長がゴーン氏の保釈について「経営や仕事への影響はない」と言っているように、元会長のゴーン氏は、社長を退いて以降(特に現在)は、日産に影響力を駆使して証拠を捏造することは不可能であるため、③の関係者と接触させない理由は、ゴーン氏が無実である証拠を作成して提出するのを邪魔する目的にすぎないと思われる。

・・参考資料・・
<ゴーン氏が殺人犯やテロリストのような扱いを受ける理由はないこと>
*1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190228&ng=DGKKZO41846630Y9A220C1MM8000 (日経新聞 2019年2月28日) 日産・西川社長「あの時、議論すべきだった」、ゴーン元会長に全権 2005年が転機
 日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告が逮捕され、27日で100日を迎えた。西川広人社長兼最高経営責任者(CEO)は日本経済新聞の取材に応じ、不正の背景として、ゴーン元会長に会社全体が依存していたと指摘した。経営手腕への期待が先行し、個人に権限が集中するガバナンス(企業統治)十分だったと認めた。同時に「(ゴーン元会長が仏ルノーのトップを兼務した)2005年ごろに自分たちで問いかけるべきだった」と語った。ゴーン元会長は1月30日、日本経済新聞の取材に対し、自らを巡る日産社内の不正調査を「策略であり、反逆だ」と主張した。西川社長は「昨年10月頭に私に社内調査の結果が来た」としたうえで「刑事事件になるかどうかにかかわらず、トップとして守るべきことから完全に逸脱していた」と、ゴーン元会長の不正自体が問題だと反論した。ゴーン元会長は1999年、ルノーから最高執行責任者(COO)として経営危機の日産に乗り込み、V字回復をさせた。西川社長は不正が起きた背景を「99年の記憶が生々しく、トップをやってもらえると日産が成長し将来的に安定していけるという気持ちが強かった」と説明した。西川社長はCEOだったゴーン元会長がルノーCEOも兼務した05年が「大きな変化点」になったと振り返った。05年はゴーン元会長が事実上両社のトップを兼ね、日仏連合の権限の集中が始まった年になる。西川社長も「ゴーン元会長がルノーの責任者にもなってくれるなら日産の自立性を担保してくれる」と受け止めたという。同時に社内外が「祭り上げすぎたというのは正直ある」と述べ、「ガバナンスが非常に難しくなるという議論が十分でなかった」とも認めた。経営破綻の危機から脱するには権限集中がプラスに働いた面もある。ただ西川社長は「企業連合は1本のリポートラインで個人に情報がいくことを中心に考えられていた」と指摘した。企業連合を築いた先代経営者と比べ「剛腕だけでは駄目だ」と、独裁的な運営手法を批判。「当時うまくいっていたとの見方は幻想だ」と話した。日産では17年秋、完成車検査の不正が発覚し、社内で不正を申告しやすい雰囲気になっていたという。ワンマン体制を築いたゴーン元会長だが、18年春ごろから不正を巡る社内調査が始まっていた。18年11月、ゴーン元会長は東京地検特捜部に逮捕されたが、社内調査には気づかなかった。西川社長はこの理由を「本人が現場から遠くなり、幹部も含めた掌握力が弱くなっていった」と述べた。近年のゴーン元会長は1カ月に数日しか日産に出社していない。西川社長は部品などの調達畑が長く、ゴーン改革を裏側から支え、17年に社長兼CEOに就いた。実際のトップはゴーン元会長であり続けたことに対し「徐々に実力と実績ではね返していくしかないと思った」という。一方、日産の取締役会が長くゴーン元会長の不正を見抜けず、日産は有価証券報告書への虚偽記載の罪で法人としても起訴されている。西川社長は不正を見抜けなかった理由について「非常に頭が良い人」として「プロや自分の側近を使って実行し、なかなか分からない」と説明した。取締役会は「気がつかないというか、分からない」と釈明した。側近は、ゴーン元会長と同時に逮捕された元代表取締役のグレッグ・ケリー被告らを念頭においているとみられる。西川社長は自らの経営責任に関しては「トップの責任を果たしていく。社内の動揺を元に戻してまとめ、ルノーとの提携関係を前に進めることなどは自分がやるしかない」と、6月の定時株主総会以降も社長を続投する考えを示した。今後の焦点は日仏連合の運営体制だ。空席の日産会長職をルノーが指名する意向を伝え、日産は拒否してきた。ルノーでは1月下旬にジャンドミニク・スナール氏が会長に就き、2月中旬に来日し西川社長と会談した。西川社長はルノーとの関係について「普通の状態に戻りつつある。(両社の問題は)解消していく」と話した。「会長は日産内部で決めていく。スナール氏も十分理解している」と述べ、日産が会長を指名できる展開に自信を見せた。もっとも両社の資本関係は、ルノーが43%の日産株を持つ一方、日産はルノーへの15%出資にとどまる。ルノーの筆頭株主である仏政府の出方を含め流動的な面は残る。

*1-2:http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201902/CK2019022302000150.html (東京新聞 2019年2月23日) 日産経営陣の責任問わず 特別委方針「議論の対象外」 ゴーン被告不正
 前会長カルロス・ゴーン被告の不正を許してきた日産自動車の企業統治(ガバナンス)の見直しについて有識者らが議論する「ガバナンス改善特別委員会」が、西川広人社長ら現経営陣の責任を問わない見通しであることが分かった。専門家からは、責任の所在を明確にしないままでは、実効性のある改善案にはならない、との指摘が出ている。特別委関係者は取材に「委員会の主要議題はガバナンス改革。責任を問うのは仕事ではない」と述べた。これまでの議論で、役員の人事や報酬などを社外取締役が中心となって決める「指名委員会等設置会社」への移行などを検討している。人事や報酬を決める権限がゴーン被告に集中した反省などからだ。だが、不正を見逃してきた経営陣の責任の検証については議論の対象になっていないという。特別委は昨年十二月に設置。三月末までに提言案をまとめる計画だ。委員は、弁護士ら外部有識者四人と日産の社外取締役三人の計七人。社外取締役は経営陣の一角を占め、責任検証の対象となりうるため、特別委はそもそも経営陣の責任を問いづらい体制になっている。社外取締役を委員に選んだ理由を日産は「会社の状況を把握しており、提言を速やかに行うため」としている。ガバナンスの問題に詳しい青山学院大の八田進二名誉教授は「日産の経営陣はゴーン被告の不正を長年見過ごしてきた。なぜ不正が起きたのか真因を突き止めようとすれば必然的にその責任を検証しなければならない。特別委は役割を果たしていない」と指摘している。

*1-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2019030702000191.html (東京新聞社説 2019年3月7日) ゴーン前会長 巨額報酬を問いたい
 ゴーン被告については昨日、いわゆる人質司法の問題を指摘したが、一般的に巨額すぎるような報酬についても改めて考えてみたい。富を偏らせる政治や経済の仕組みに、ゆがみはないのかと。著しい収入格差は世界に広まっている。格差を研究する国際非政府組織(NGO)、オックスファムは二〇一八年、世界の富豪上位二十六人の資産約百五十兆円と、世界人口の半分にあたる三十八億人の貧困層の資産がほぼ同額だと報告した。数字を見て資本主義の暴走を感じはしまいか。国内に目を向ければ、企業が収入を人件費に回す労働分配率は約66%で、石油ショックに苦しんだ一九七〇年代中頃の水準まで落ち込んでいる。富裕層は富を増やし続け、勤労世帯の所得が減る流れが国内外で定着している。保釈されたゴーン被告は日産会長として一時、年十億円を超す報酬をもらっていた。これに対し、株主総会で批判が出ていた。九九年以降、経営危機に陥っていた日産の立て直しに尽力したのは事実だ。彼なしに今の日産はないだろう。しかし、経営再建に際し多くの系列会社が取引を停止され、社員も大量に去らざるを得なかった。多大な犠牲を払った上での再建だ。ルノーも再三困難に直面した。雇用不安を抱える従業員や株主らが、突出した報酬を批判するのは理解できる。もちろん巨額報酬をもらっている経営者は、ゴーン被告だけではない。突出した巨額な報酬が目立ち始めたのは、九〇年代以降の米国の金融界だった。自社株による報酬支払いを巧みに使いこなし、多くの経営者が天文学的な額の報酬をもらい続けた。生産性の高い人間が高い報酬を得るのは資本主義の原則だろう。だが一握りの経営者があまりにも巨額な報酬をもらい、一般労働者は残りを分け合うという構図は、社会のあり方としてどうか。不公平は、社会全体の不安定を招きはしないだろうか。フランスの経済学者、トマ・ピケティは一三年、著書「21世紀の資本」で資産課税強化による格差の是正を唱えている。しかし、政策に反映されてはいない。ゴーン被告の巨額報酬は、格差の現実を改めて可視化し人々に提示した。それが資本主義のゆがみであるなら、たださねばならないだろう。 

*1-4:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO39977060S9A110C1EA2000/ (日経新聞 2019/1/13) ゴーン退場 長く居すぎたカリスマ、迷走する日産・ルノー(中)V字回復後に「独裁」の土壌
 「また詰め腹を切らされたか」。2018年12月、インドネシア日産自動車のトップが古巣の三菱自動車に戻された。16年10月に日産が三菱自を実質的に傘下に収めたのを機に、両社のトップを務めていたカルロス・ゴーン元会長(64)が打ち出した交流人事の目玉だったが、就任からわずか1年半で職を解かれた。ゴーン元会長は日産の第2ブランドとして「ダットサン」ブランドを14年に復活させた。新興国向けの低価格車を投入してトヨタ自動車グループの牙城切り崩しを狙ったが、18年1~11月の販売台数は1万202台、シェアは1%(マークラインズ調べ)。多目的車が主流となるなか、小型車投入があだとなった。「リーマン・ショック後の10年以降、明らかに彼は変わった」。多くの日産幹部は口をそろえる。同じく日産が世界に先駆けて10年に発売した電気自動車(EV)「リーフ」。6年後にルノーと共同で累計150万台のEV販売目標を掲げたが、発売から3年目で7万台と苦戦していた。元会長は腹心の志賀俊之・最高執行責任者(COO、当時)をEVの責任者に据えてこ入れを託したが、7カ月後の13年11月にCOOを解任する。北米戦略の失敗も重なり、2期連続で業績見通しの下方修正を迫られた。一世を風靡した「コミットメント経営」は封印、古参の日本人幹部も一斉に入れ替えた。「再建」から「成長」モードに入ったゴーン元会長は、トップダウンでロシアのプーチン大統領の要請に応じ同国最大手のアフトワズを買収。経営者同士の友好関係を生かし独ダイムラーとの提携も決めた。しかし、側近を相次いで排除していった結果、実務が滞りゴーン元会長の思った通りの成果を上げられなかった。それがまた焦りを生み、意にそぐわない幹部を次々と入れ替える「独裁」につながっていった。ゴーン元会長をはじめ、企業の危機などを乗り越え、V字復活を遂げた経営者は「カリスマ化」されることが多い。しかし、「経営が軌道にのった後の成長や新機軸を打ち出すのに苦労するケースが多い」と、ローランドベルガーの貝瀬斉パートナーは指摘する。この点で、米ゼネラル・エレクトリック(GE)のジェフ・イメルト元最高経営責任者(CEO、62)も似ている。イメルト氏は米同時多発テロやリーマン・ショックの2度の危機を放送や金融などの事業売却で乗り切り、「選択と集中」の経営手腕は高く評価された。復活を遂げたあと、さらなる成長に向け目をつけたのが電力事業だった。仏アルストムの電力事業の買収合戦で三菱重工業を制し傘下に収めたが、再生可能エネルギーの台頭を読み切れず主力のガスタービンが不振に陥った。17年の退任直前の株価は在任中最高値の半分の水準に下落した。後継CEOに再生を託したが、アルストムの事業買収で2兆円近い減損処理を迫られ、後継者は志半ばで退任する事態を招いた。20年以上、独フォルクスワーゲン(VW)の実権を握ったオーナー家出身のフェルディナント・ピエヒ氏(81)。世界一を目指す中で、ピエヒ氏にシェアの低い米国市場の攻略を求められた幹部らは、不正なソフトウエアを使い排ガスデータを改ざん。全世界で1100万台が不正の対象となる不祥事の元凶となった。ピエヒ氏は社長に引き上げたマルティン・ヴィンターコーン氏(71)の解任を画策したが、逆に辞任に追い込まれた。いずれも「長く居すぎた」カリスマ経営者の末路だ。

*1-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190301&ng=DGKKZO41853860Y9A220C1EA1000 (日経新聞 2019年3月1日) ゴーン退場100日(4) 「特注銘柄は避けたい」
 1月下旬、日産自動車の最高財務責任者(CFO)、軽部博(62)は社内調査に追われていた。元会長、カルロス・ゴーン(64)の役員報酬は本当はいくらだったのか。ほかに財務諸表への記載漏れはないのかも確認が必要だ。調査チームからは「事実がなかったと証明するのは至難の業。まるで悪魔の証明だ」と嘆きの声。事件の影響をできる限り示さないと市場の信頼を失ってしまう。帳簿を遡る作業は終わりが見えなかった。金融市場が日産への不信感を強めている。役員報酬の虚偽記載や親族を含む元会長周辺の不明瞭な資金の流れ。国内有数の大企業とは思えないずさんな実態が次々と明るみに出てくる。昨年11月、ゴーンが逮捕されると日本取引所グループ(JPX)は即座に動いた。内部管理に問題があると注意を促す「特設注意市場(特注)銘柄」に指定する必要があるかの調査だ。2月22日の定例会見。JPXの最高経営責任者(CEO)、清田瞭(73)は「全容が分からず情報収集の段階」と言葉を選んだ。だがJPXの幹部は「虚偽記載は投資家の判断を誤らせる重大な不正」と厳しい。「東芝にはなりたくない」と日産幹部は漏らす。トップの暴走で不適切会計に手を染めた東芝は2015年に特注銘柄に指定され2年にわたり苦しんだ。実質的に市場から資金調達できず、多くの機関投資家は内部規定に従い株を売る。50万人近い株主がいる日産にとって「何としても避けたい」シナリオだ。株主には不満が蓄積する。個人株主の石上晶敏(62)は「これほどの不正に気づかないのは会社としておかしい」と口にする。機関投資家に影響力がある米議決権行使助言会社、インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズの日本法人代表、石田猛行(50)は「企業統治の仕組みが脆弱だ」と指摘する。このままなら株主総会で取締役の選任議案に反対が相次ぐ事態になりかねない。「もはやコスト削減では補えない」。2月初旬、軽部は営業報告を見てうなった。北米や中国で新車販売が大きく落ち込み、19年3月期の営業利益は900億円の下方修正を余儀なくされた。事件の影響ばかりではない。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の杉本浩一(48)は「魅力のある新型車を増やさないと厳しい」と話す。ゆがんだ企業統治、低下する収益力。経営危機だった20年前の記憶は今も色濃く残る。ゴーン退場で日産は再び瀬戸際に追い込まれた。

*1-6-1:http://qbiz.jp/article/148306/1/ (西日本新聞 2019年2月5日) 日産、ゴーン被告の報酬凍結へ 90億円を決算計上
 日産自動車が、前会長のカルロス・ゴーン被告=会社法違反(特別背任)などの罪で起訴=に関し、有価証券報告書に記載していなかった報酬の支払いを凍結する方針を固めたことが5日、分かった。約90億円分を確定報酬分として近く決算に計上するが、ゴーン被告の報酬過少申告の事件を巡る司法判断や、日産が検討しているゴーン被告への損害賠償請求をにらみ実際の支給は見送る。関係者は「ゴーン被告が絡んだ不正の総額は、確定報酬額を上回る可能性がある」との見方を示した。報酬額が賠償額と事実上相殺され、ゴーン被告が最終的に受け取れないケースも考えられる。東京地検特捜部は、ゴーン被告の役員報酬が、2015年3月期までの5年間に計約50億円、16年3月期〜18年3月期に計約40億円それぞれ有価証券報告書に過少記載されたとして、ゴーン被告らを起訴した。法人としての日産も起訴された。日産は起訴内容を認めているが、ゴーン被告側は先送り分の報酬は金額が確定していないとして否認していることを踏まえ、裁判所がどのように認定するかを見極めたい考えだ。このほか、日産の社内調査でゴーン被告が多額の高級住宅の購入や改装費などを日産側から支出させていたことなどが判明。ゴーン被告に損害賠償請求訴訟を起こすことも検討している。ゴーン被告は1999年6月、日産の最高執行責任者(COO)として就任。業績回復に経営手腕を発揮し、2001年6月に社長兼最高経営責任者(CEO)、17年4月に会長となった。

*1-6-2:http://qbiz.jp/article/148648/1/ (西日本新聞 2019年2月12日) 日産、通期純利益半減へ ゴーン被告報酬92億円計上
 日産自動車は12日、2019年3月期の連結純利益予想を従来の5千億円から4100億円に下方修正した。前期の実績に比べ45・1%減と約半分になる。主力市場の米国での販売不振と貿易摩擦による中国の景気減速が響く。同時に発表した18年4〜12月期決算には、会社法違反(特別背任)などの罪で起訴された前会長カルロス・ゴーン被告の確定報酬分として92億3200万円を追加費用計上した。ゴーン被告が昨年11月に逮捕されて以来、初めての決算発表だった。トヨタ自動車なども通期業績予想を下方修正しており、国内基幹産業の自動車大手に影響が本格的に顕在化し始めた。フランス自動車大手ルノーなどと組む企業連合の世界販売台数2位の地位が揺らぎかねない。西川広人社長は横浜市の本社で記者会見し、ゴーン被告の確定報酬の計上に関して「大きな責任を感じている。(会社に多額の損害を与えた被告に)支払いをするという結論に至るとは思っていない」と述べた。ルノーとの連合については「われわれの大きな強みであり財産。将来的にも磨きを掛けたい」と話し、互いに自立性を尊重しながら成長を進めるとの認識を示した。業績に関しては、競争が激化する米国でセダンを中心に販売台数が減少した。値引きの原資となる販売奨励金を抑えるなど立て直しに取り組む。中国は「踊り場に来ている」(西川氏)との認識で、市場の減速により販売台数が従来の予想に届かなかったという。19年3月期予想は、売上高も4千億円少ない11兆6千億円に下方修正した。相次いで発覚した検査不正などの影響は計200億円の利益の圧縮要因となる。18年4〜12月期の売上高は前年同期比0・6%増の8兆5784億円だったが、純利益は45・2%減の3166億円だった。

*1-6-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13891827.html (朝日新聞 2019年2月14日) ルノー「退職金」払わず ゴーン前会長への38億円相当
 仏ルノーは13日、同社の会長兼CEO(最高経営責任者)職を退いたカルロス・ゴーン被告が退任に伴って受け取る金銭をめぐり、約3千万ユーロ(約38億円)相当の支払いを認めないことを決めたと発表した。同日開いた取締役会で決めた。ゴーン被告は退任時にルノー株約46万株(約33億円相当)を報酬として受け取る権利があったが、ルノーは支給をとりやめる。ライバル会社に退任後2年間転職しないことを条件に支給する補償金も支払わない。仏メディアによると、400万~500万ユーロ(約5億~6億3千万円)を受け取れる規定だった。パリ郊外のベルサイユ宮殿で2016年に開かれたゴーン被告の結婚式にルノーの資金が流用されていたことなどが報じられており、世間の理解が得られないと判断したとみられる。

*1-6-4:https://www.asahi.com/articles/ASM2V36F1M2VUHBI00L.html?iref=comtop_8_04 (朝日新聞 2019年2月26日) テスラCEO、またまた舌禍ツイート 株価は急落
 米証券取引委員会(SEC)が、米電気自動車(EV)大手、テスラ社のイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が和解条項に違反したとして、米連邦地裁に申し立てていたことが26日、わかった。テスラ株は26日の時間外取引で、4%程度急落している。マスク氏は19日夜、テスラ社の年の生産台数について「2019年は約50万台になる」とツイート。その約4時間後のツイートで、「19年末段階での生産台数ペースが年換算で50万台になるという意味だった。今年の引き渡しベースの台数は依然として約40万台だ」と修正した。マスク氏は1月末の四半期決算発表の際の説明では「19年には、36万~40万台の引き渡しを見込んでいる」としていた。マスク氏は昨年8月、テスラ社を非上場化するとツイートして株価を乱高下させた。その後、投資家から非上場化する正式な提案がなかったことも表面化して、非上場化の「断念」を表明した経緯がある。SECはこの一連の動きで、市場を混乱させたとして、マスク氏を提訴。昨年秋に多額の制裁金のほか、マスク氏が兼務していた会長職から離れることや、ツイートを含めたマスク氏の対外的なコミュニケーションを監視する態勢をつくることでマスク氏側と和解していた。

<これまでの日産・ルノーの実績と今後>
*2-1:http://qbiz.jp/article/147920/1/ (西日本新聞 2019年1月30日) 日産が中国でEV戦略加速 現地生産、販売網拡大 環境規制が追い風
 日産自動車が中国市場への電気自動車(EV)投入・販売策を進めている。中国政府が新たな環境規制を導入し、EVなどエコカー普及を促す動きに合わせたものだ。EV戦略は今後、同社が中国市場で覇権を握れるかどうかの試金石となる。現地の生産・販売現場を訪ねた。「都是奮斗出来的、加油(全ては奮闘した結果だ、頑張れ)」−。中国語の看板が掲げられた工場内で、ヘルメット姿の作業員たちがきびきびと動き回る。広東省広州市にある東風日産花都工場。これまでガソリン車のみを生産してきた組み立てラインに、12〜13台に1台の割合でエンジンの代わりにモーター、そして燃料タンク部分にバッテリーを搭載するEVが流れる。昨年9月から販売を開始した「シルフィ ゼロ・エミッション」だ。中国で人気のセダン「シルフィ」に、EV「リーフ」のシステムを応用した。同工場で1日に90台生産する。2003年に中国へ進出した日産は、地元メーカー「東風汽車集団」との合弁で事業展開。今年末までにEV5車種を市場に投入予定で、シルフィEVが先陣を切った。
■連 動
 広州市の東風日産販売店。シルフィEVが店舗入り口の“一等地”に展示され、EV売り込みへの意欲が伝わる。同店では月間販売数約200台のうち10台前後がEV。昨年末までに販売網約800店のうち約2割でEV販売を始め、さらに増やす方針という。EV普及の鍵を握るのが広州、北京、上海など主要7都市でのナンバープレート規制だ。渋滞緩和や環境対応のため、マイカー保有には抽選などによるナンバー取得が必要だが、EVなら比較的容易に入手可能。東風汽車の泉田金太郎経営企画本部長は「規制都市がEV市場を創出する。対象都市が倍以上に増える可能性もある」とみる。中国は今年から自動車メーカーに対し、一定割合でEVなど新エネルギー車(NEV)の生産を義務付ける制度を導入。こうした動きを受け、日産はEVをけん引役に22年の中国での販売台数を17年比7割増の260万台に引き上げる青写真を描く。
■懸 念
 ただ、EV戦略に動くのは日産だけではない。昨年11月に広州市で開かれた広州国際モーターショーでは、国内外のメーカーがEVを並べた。中国専用の量産EVを初公開したのはホンダ。現地法人、広汽ホンダの佐藤利彦総経理は「18年は電動車元年。今回のEVはその第1弾だ」と強調する。トヨタ自動車も来年、EV生産を開始する方針を明らかにしている。一方で中国経済は減速。中国自動車工業協会によると、18年の年間販売数は28年ぶりに前年を割った。米中貿易戦争、さらには日産固有の問題として前会長カルロス・ゴーン被告の事件も影を落とす。日産では中国事業の担当幹部だったホセ・ムニョス氏が退任するなど、ゴーン被告の信任が厚かった外国人幹部が主要業務から外れるケースも起きている。こうした内外の変化が今後のEV戦略にどう影響するかも注目される。

*2-2:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190306-00010005-kurumans-bus_all (Yahoo 2019.3.6) 「e-POWER」搭載のコンセプトカー日産「IMQ」を発表 欧州へ「e-POWER」投入も宣言
●クロスオーバーSUVタイプのコンセプトカー「IMQ」
 日産はジュネーブモーターショー2019において、全輪駆動タイプの電動パワートレイン「e-POWER」を搭載したクロスオーバーSUVのコンセプトカー「IMQ」を世界で初めて公開。また「e-POWER」技術の欧州市場への投入も発表しました。電動パワートレインの「e-POWER」は、コンパクトカー「ノート」に搭載されて、2018年国内登録車販売で1位を獲得しています。100%電動モーター駆動システムと、モーターを駆動するための電気を発電するガソリンエンジンを組み合わせた「e-POWER」は、素早く滑らかな加速と優れた燃費性能を提供。欧州では、日産「リーフ」が販売台数トップの電気自動車となっていますが、日産は「e-POWER」を投入することで、同地域における電動車両のリーダーシップを更に強化するとしています。2022年までに「e-POWER」を欧州の量販モデルに搭載することで、欧州における日産の電動車両の販売は現在の約5倍となり、2022年度末には市場平均の2倍の規模となる見込みです。日産の常務執行役員であるルードゥ・ブリースは次のように述べています。「日産は量販EV技術におけるグローバルリーダーシップの上に、欧州における全面的な電動化を見据えています。今後2年のうちに「e-POWER」を欧州市場に投入することで、“ニッサン インテリジェント モビリティ”の提供する価値をさらに多くのお客さまにお届けしていきます」
  ※ ※ ※
 ジュネーブモーターショーで初披露された「IMQ」は、先進の技術とデザインを搭載した全輪駆動の「e-POWER」搭載車です。欧州の小型クロスオーバーの概念を超えた外観や技術が、日産のクロスオーバーセグメントにおけるリーダーシップを反映します。具体的には「e-POWER」システムは、発電専用のガソリンエンジンに加え、発電機、インバーター、バッテリー、電動モーターが搭載されます。ガソリンエンジンは発電にのみ使用され、常に最適な回転数で作動し、従来型の内燃エンジンと比べより優れた燃費と低排出ガス性能を実現。日本では「ノート」と「セレナ」に「e-POWER」が搭載されています。「ノート」は購入者の70%以上が、「セレナ」は約半数が「e-POWER」搭載車を選んでいます。なお、100%電気自動車「日産リーフ」の累計グローバル販売台数が40万台を突破し、世界販売台数No.1の地位を確固たるものにしたことも、車両の電動化における日産のリーダーシップを明確に示しています。

*2-3:https://digital.asahi.com/articles/ASM366WFCM36UTIL07Z.html?iref=pc_rellink (朝日新聞 2019年3月6日) 車はスズキ、関係ない社名が次々 ゴーン前会長保釈
 東京拘置所では200人を超える報道陣が、ゴーン前会長の保釈を待っていた。午後4時17分、保釈手続きを担当していた弁護人の高野隆弁護士らが黒塗りのワゴン車を拘置所の正面玄関前に止め、建物内に。約12分後、布団やキャリーケースなどの荷物を持って外に出て、ワゴン車に積み込み始めた。
●カルロス・ゴーン もたらした光と影
 その2分後、玄関から10人ほどの拘置所職員が出てきた。職員らに挟まれるように、青い帽子にオレンジ色の反射ベストを身につけ、マスクをした男性がいた。背筋を伸ばし、ゆっくりとした歩み。黒塗りワゴン車の前を素通りし、前方に止めてあったスズキ製の軽ワゴン車に乗り込んだ。埼玉県内の塗装会社の社名が書かれ、塗装道具が積まれた軽ワゴン車は、静かに走り出した。黒塗りワゴン車は停車したまま。弁護人も玄関付近に残っていた。だが、軽ワゴン車の後部座席に座った男性の帽子とマスクの間には、特徴的な太い眉毛と鋭い目つきが見て取れた。「えっ、ゴーン被告?」。中継中のテレビ局の記者は声を裏返し、言葉に詰まった。他の報道陣も「変装か」とざわつき始めた。軽ワゴン車が拘置所敷地内をぐるりと回って車道に出ようとすると、カメラマンたちが一斉にシャッターを切った。拘置所を出発した軽ワゴン車が行き着いたのは、東京都千代田区の弁護士事務所。車から出てきたのは、作業員風の服装から、濃いグレーのコートに着替えたゴーン前会長だった。事務所に入った後も、メディアの前で語ることはなかった。法務省関係者によると、ゴーン前会長が着ていた衣服と移動用の軽ワゴン車は弁護人が用意したという。同省幹部は「変装して保釈なんて聞いたことない」。塗装会社の関係者は「車の塗装はやっていない」と語り、ゴーン前会長との関係は「全然わからないし聞いたことがない。もしかしたら、お客さんのつてでつながりがあったのかも」と語った。青い帽子には、埼玉県内の鉄道車両整備会社の社名が書いてあった。この会社の担当者は「日産とは取引がないし、今回の件も関係がない」と戸惑った様子だった。なぜ、変装までする必要があったのか。関係者は「マスコミに追われないようにする意図があったが、確実にだますのは難しいと思っていた」と語る。日産の40代の女性社員は、「後ろめたいところがないなら、変装などせずに堂々と出てきてほしかった」と残念がった。別の30代の男性社員は「ゴーンさんは人の目を気にするタイプだから、変装してマスコミに追われないようにしたのでは」と推測した。
●妻と娘? にこやかな表情で車に
 東京拘置所には朝から、ゴーン前会長の弁護人や家族とみられる人たちが頻繁に出入りした。報道陣も朝から100人以上が詰めかけ、周囲には10段ほどの大型脚立がずらりと並んだ。午前10時40分ごろには、ゴーン前会長の妻と娘とみられる2人がフランス大使館の車で到着。約1時間半ほど、拘置所内で過ごしてからいったん離れた。報道陣は増え続け、昼過ぎには200人超に。フランスのほか、米、英、ロシア、ブラジルなどの海外メディアも並んだ。午後1時40分過ぎ、「保釈保証金の納付が完了した」と速報が流れると、カメラマンたちは地面に置いていたテレビカメラを担ぎ上げ、脚立に上って構え始めた。妻と娘とみられる2人は午後3時過ぎ、再びフランス大使館の車で姿を現した。変装したゴーン前会長が軽ワゴン車に乗って走り去ってから約10分後、にこやかな表情で車に乗り込んだ。

*2-4:https://digital.asahi.com/articles/ASM373HH2M37UTIL005.html (朝日新聞 2019年3月7日) ゴーン氏の変装、弁護人の弘中氏「テレビ見てびっくり」
 会社法違反(特別背任)などの罪で起訴された日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告(64)が保釈されたことについて、弁護人の弘中惇一郎弁護士が7日、記者団の取材に応じ、「人質司法がなくなるきっかけになれば」と改めて語った。前会長の記者会見については、休養や打ち合わせの必要があるため同日中はないとし、引き続き検討するという。昨年11月の逮捕後、ゴーン前会長の身柄拘束は108日間に及んだ。弘中氏は「長期勾留の状態で裁判をするのはアンフェアだ。制限付きだが、裁判所が保釈を認めたことは非常によかった」と話した。保釈の際、前会長が作業着姿に変装していたことについて、弘中氏は「ゴーンさんと現場にいた弁護士のアイデアだったと思う」と話し、「テレビを見てびっくりした」という。「無罪を訴えるならもっと堂々との意見もあるが、ユーモラスでいいという考え方もある」と語った。ゴーン前会長は保釈後、事前に定められた都内の住居で、来日した家族と過ごしているとみられる。弁護団は今後、会見の時期や内容、弁護方針などを協議する。

<日本の司法の違憲性>
*3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190217&ng=DGKKZO41377720W9A210C1CC1000 (日経新聞 2019年2月17日) ゴーン元会長への「人権侵害」懸念 ブラジル弁護士会
 日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告(64)が会社法違反罪などで起訴されたことに絡み、ブラジル主要紙フォリャ・ジ・サンパウロ(電子版)は16日までに、ブラジル弁護士会が日弁連にゴーン被告への「人権侵害」への懸念を表明する文書を送ったと伝えた。クラウディオ・ラマシア会長名の文書は、ゴーン被告が「拷問による自白を得る明確な目的により、肉体と精神の状態を害する状況で不当に勾留されている」と非難し、日弁連に対処を求めた。文書はゴーン被告の家族の弁護士が要請し作成されたという。

*3-2:http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/201902/CK2019022302000263.html (東京新聞 2019年2月23日) NYタイムズ、社説で「人質司法」批判 ゴーン被告勾留巡り
 日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告(64)が金融商品取引法違反と会社法違反(特別背任)の罪で起訴された事件で、米紙ニューヨーク・タイムズは二十二日付の社説で、自白偏重型とされる日本の司法制度を批判した。社説は「ゴーン氏は日本の“正義”と相対している」と題し、ゴーン被告が問われている罪を「深刻」としながらも「保釈を拒むべき理由にはならない」と述べ、逮捕から三カ月過ぎても拘置所に勾留されている現状を疑問視。日本では「保釈は一般的に、公判で罪を認める用意がある被告のためのものだ」と指摘し、保釈請求が繰り返し却下されているのはゴーン被告側の無罪主張が理由との見方を示した。「公判はいつになるか分からないが、裁かれるのは伝説の経営者だけではない。日本の司法制度もそうだ」と締めくくっている。

*3-3:https://digital.asahi.com/articles/ASM3544RQM35UTIL00Y.html?iref=comtop_8_01 (朝日新聞 2019年3月5日) ゴーン被告の保釈認める決定 東京地裁、保釈金10億円
 日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告(64)が会社法違反(特別背任)などの罪で起訴された事件で、東京地裁は5日、前会長の保釈を認める決定を出した。保釈保証金は10億円。前会長の保釈請求はこれまで2回退けられていたが、弁護人が一新した後、2月28日に3回目の請求が出されていた。検察側は決定を不服として準抗告するとみられるが、これが退けられ、前会長が保証金を納付すれば、東京拘置所から保釈される見通しだ。前会長は一貫して起訴内容を否認しており、身柄拘束は昨年11月19日に逮捕されてから100日以上に及んでいる。東京地検特捜部の事件で否認のまま、裁判の争点や証拠を絞り込む公判前整理手続き前に保釈されるのは極めて異例だ。特捜部は今年1月11日、ゴーン前会長を特別背任と金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の罪で追起訴した。弁護人は同日、保釈を請求したが、地裁が却下。保釈後にフランスに住むなどの条件を提示したが、地裁は証拠隠滅や逃亡の恐れがあると判断したとみられる。弁護人は1月18日、再び保釈を請求し、保釈後の住居を日本国内に変更するなどしたが、これも却下された。前会長の弁護人は11月の逮捕後、元東京地検特捜部長の大鶴基成弁護士が務めていたが、2月13日付で辞任。弘中惇一郎弁護士らが新たに就任し、3度目の保釈請求をしていた。起訴状によると、ゴーン前会長は2008年10月、約18億5千万円の評価損が生じた私的な投資契約を日産に付け替えたほか、信用保証に協力したサウジアラビアの実業家に日産の子会社から09年6月~12年3月、計1470万ドル(当時のレートで約13億円)を不正に送金したとされる。また、10~17年度の役員報酬計約91億円を有価証券報告書に記載しなかったとされる。

*3-4:https://digital.asahi.com/articles/ASM355T49M35UTIL03M.html?iref=comtop_8_03 (朝日新聞 2019年3月5日) ゴーン前会長、保釈条件に「嫌そうな顔」 弁護人明かす
 「手続きをスムーズに進めたい」。東京地裁が、ゴーン前会長の保釈を認める決定をしたと速報が流れてから約4時間半後。ゴーン前会長の弁護人の弘中惇一郎弁護士は、東京都千代田区の事務所に集まった報道陣の質問に答えた。保釈決定の主な要因については「証拠隠滅、逃亡の恐れを防止できる極めて具体的な手立てを、こちらが提示したこと」と強調。ゴーン前会長の住まいに監視カメラを設置したり、携帯電話に通信制限を設けたりするほか、事件関係者との連絡も一切禁止する内容になった。こうした条件には、保釈決定の知らせ自体には喜んだゴーン前会長も「びっくりして、嫌そうな顔はした」。弁護人が条件の必要性を説得したという。横浜市西区の日産自動車グローバル本社で、帰路につく社員たちの口は重かった。30代の男性社員は「話さないように言われているので」とうつむいた。別の社員は「逮捕から3カ月以上たち、もはや過去の人という印象。資金の私的流用などの不正があったことは事実だと思うので、経営の邪魔はせず反省してほしい」と思いを明かした。東京拘置所(東京都葛飾区)には数百人の報道陣が駆けつけた。ロイター通信のティム・ケリー記者(50)は「欧米の基準からすれば、保釈までの期間が長すぎる」と日本の司法制度を批判する一方、「保釈されれば、ゴーン氏は検察や日産への批判が自由にできる。検察、日産との戦いがこれから本格化する」と注目する。さらに、「長い拘束でどれくらいやせたか、白髪が増えたのか容姿の変化も気になる」と語った。

*3-5:https://www.kyoto-np.co.jp/info/syasetsu/20190307_4.html (京都新聞 2019年3月7日) ゴーン被告保釈  「人質司法」から脱却を
 昨年11月の電撃的な逮捕以降、108日に及ぶ身柄拘束が続いていた日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告が保釈された。起訴内容を全て否認する被告の保釈決定は異例であり、画期的だ。冤罪(えんざい)の温床とも指摘される「人質司法」の不当性を考えれば当然といえる。会社法違反(特別背任)などの罪で起訴されていたゴーン被告はきのう、保証金10億円を納付して保釈された。保釈請求に対し、東京地裁は証拠隠滅や逃亡の恐れが大きくないと判断した。保釈決定を不服とした検察側の準抗告も棄却した。ゴーン被告は無罪を主張し、法廷で全面的に争う姿勢をみせる。米国の代理人を通じ、「私は無実であり、公正な裁判を通じ強く抗弁する」と強調した。請求は3回目で認められた。公判に向けた争点整理が進んでいない段階で、否認している被告が保釈されるケースはまれだ。事件関係者との口裏合わせなど、証拠隠滅の不安が拭えないためだ。とりわけ検察の特捜部が手掛ける複雑な事件では、保釈は珍しい。2度も請求を退けた地裁が、なぜ許可へかじを切ったのか。「人質司法」との批判が強まる中、むやみに勾留を続けたくないというのが本音ではなかろうか。「検察と一体」とみられては裁判自体の公正を損ない、国民の信頼を失いかねない。証拠隠滅の恐れなどを綿密に審査し、身柄の拘束がもたらす不利益をも考慮して問題がなければ否認でも弾力的に保釈を認めるべきであろう。新たに就任した弁護団は住居の出入り口への監視カメラ設置や携帯電話の使用制限といった厳しい行動制限を提起し、地裁も応じた。刑事弁護にたけた弁護団の手段が奏功したとみられる。ただ証拠隠滅や逃亡の防止を担保するとはいえ、過剰な保釈条件は人権侵害につながりかねない。前例として定着する懸念が残る。否認すれば罪証隠滅の恐れがあるなどとして長期にわたり勾留される「人質司法」への批判は強い。長期の拘束は日産事件で海外からも厳しい目が向けられている。日本も批准した国連の自由権規約には、無罪推定の原則とともに妥当な期間内に裁判を受ける権利や釈放される権利、起訴後の勾留原則禁止が定められ、勾留を短期間にとどめる国は多い。最近、勾留請求却下率や保釈率は上がっているが、裁判所の責任は重い。「人質司法」から脱却する契機としたい。

*3-6:https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2019030690135519.html (東京新聞 2019年3月6日) 一貫否認、ゴーン前会長保釈へ 108日間拘束、何語る
 日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告(64)=会社法違反(特別背任)罪などで起訴=の弁護人は六日午前、東京地裁に保釈保証金の十億円を納付しなかった。地裁は五日夜、保釈決定に対する東京地検の準抗告も棄却しており、保釈金を納めればいつでも保釈される状況になっていた。ゴーン被告の保釈は早くても六日午後以降になる。ゴーン被告は昨年十一月十九日の逮捕後、一貫して否認。百八日間にわたる身柄拘束が解かれれば、記者会見を開く可能性があり、何を語るか注目される。地裁は五日、弁護人の保釈請求に対し、保釈を決定。居住地を日本国内に制限し、海外渡航を禁止する条件を付けたことを明らかにしていた。弁護人によると、関係者との接触を疑われないよう住居の出入り口に監視カメラを設置する案を示したところ、地裁は保釈条件に組み入れた。録画映像は定期的に地裁に提出する。東京地検は決定を不服として準抗告したが、地裁の別の部が棄却していた。ゴーン被告は、有価証券報告書に自身の役員報酬の一部を記載しなかったとする金融商品取引法違反容疑で二度逮捕され、日産に損害を与えたとする特別背任容疑でも再逮捕された。ゴーン被告の当初の弁護人は今年一月、二度にわたり保釈請求。いずれも却下され、勾留が続いていた。その後の一月二十四日、ルノーの会長と最高経営責任者(CEO)を辞任。新たに弁護人に選任された弘中惇一郎弁護士らが二月二十八日、三回目の保釈を請求していた。
   ◇ 
 ゴーン被告が勾留されている東京・小菅の東京拘置所には、六日早朝から保釈の瞬間を捉えようと、二百人以上の記者やカメラマンが詰め掛けた。現場には足の高い脚立や三脚などがずらりと並び、拘置所職員や警察官が警戒に当たった。午前中からテレビ中継が断続的にあり、上空をマスコミのヘリコプターが旋回するなど、ものものしい雰囲気となった。最初の逮捕から百八日にわたる長期間の勾留は、国際社会から「人質司法」と批判されてきた。日産自動車の経営を立て直した世界的な「カリスマ経営者」の動向をいち早く報じようと、仏国をはじめとする海外メディアの記者も多く集まった。
◆日産社長「仕事影響ない」
 日産自動車の西川広人社長は六日朝、都内で記者団にカルロス・ゴーン被告の保釈について問われ「司法手続きなので、そういうこともある」と平静を強調した。ゴーン被告は一貫して無罪を主張しているが、経営に与える影響についても「仕事への影響はない」と明言した。

<航空機や船舶にも電力を使う時代に・・>
PS(2019年3月9、11日追加): *4-1のハイブリッド内航船は、現在なら、それほど大きな期待を持てない船出だ。何故なら、太平洋等を航行する時はディーゼルエンジンを使い、港湾内では洋上充電したリチウムイオン電池をエネルギーとして使うからだ。日本人は、空気や海を汚す化石燃料を高い金を出して外国から買うのがよほど好きなのかも知れないが、私は、再生可能エネルギー由来の水素燃料を使った方が液体燃料より軽く、公害も出ないのでずっとよいと考える。また、船舶の場合は、風とのハイブリッドにもできるそうだ。さらに、船舶は自動車よりも自動運転にしやすいため、自動運転の導入が人手不足解消に繋がるだろう。
 そして、造船会社は、*4-2のように、自動車会社やIT会社からヘッドハントしてでも転職者を採用して活かせば、短時間で船舶のイノベーションを行うことができるのだが、そのためには転職が不利にならない賃金体系(年功序列ではなく能力主義)を作っておくことが必要だ。従って、今頃、「定年まで勤めあげるだけが職業人生のゴールではない(当然)」「生え抜き社員だけでなく・・(これも当然)」などと言っていること自体、かなり遅れているのである。
 なお、*4-3の記事の「①グローバル化で報酬制度改革が不可避で、役員報酬は序列から誘因型へ」「②資本生産性やESG等の指標も考慮を」と書かれているが、このうち①は、ゴーン氏の報酬が高いことを強く問題にした日本国内の批判に一石を投じるものだ。実際には、②も加味して実績を挙げた経営者の報酬が高いのは世界標準であり、経営者の多様化が進めば進むほど単純な高額報酬批判は当たらなくなる。私の経験では、報酬がその人の貢献度(=実績、価値)を表す代理変数であるのは、米国だけでなく日本以外はどこも同じで、年功序列型雇用制度を堅持している日本だけが勤務年数の代理変数になっている。そして、年功序列型雇用制度の中では、問題を先送りして静かに長く勤めた人が役員になり、中途採用は不利であるため従業員の転職も進まず、改善はできても摩擦の起きる改革ができない企業体質を作ることになるわけだ。

*4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190309&ng=DGKKZO42076550V00C19A3QM8000 (日経新聞 2019年3月9日) ハイブリッド内航船、期待の船出 少ない騒音 労働環境改善も
 人手不足に悩む内航海運業界に一石を投じる船が走り出した。NSユナイテッド内航海運(東京・千代田)が2月に就航させた「うたしま」はリチウムイオン電池を使ったハイブリッド(HV)推進システムを搭載した新型船。騒音や振動が少ないため、環境負荷の低減だけでなく洋上の労働環境改善を後押しするモデルとして注目される。うたしまは新日鉄住金の鋼材を運ぶ。生産計画に基づき最適な航路や運航頻度を今後決める。太平洋などを航行する際はディーゼルエンジンを使うが、港湾内では洋上で充電したリチウムイオン電池から電動機に給電する。陸上の設備からも充電可能だ。船の建造にかかるコストは従来の2倍近いが、同様のシステムの内航貨物船は日本で初という。利点は二酸化炭素(CO2)排出量を削減できるだけではない。「リチウムイオン電池を使っている際の音が静かで驚いた」。船主である向島ドック(広島県尾道市)の竹嶋秋智船長は話す。内航船の船員は2~3カ月間乗船した後、1カ月ほど休暇をとるのが一般的。勤務中、エンジンの音や振動で睡眠や業務を妨げられるとの声も多い。HV船は港湾内で船を移動させる際、エンジンの温度を管理する作業も軽減できる。日本内航海運組合総連合会(東京・千代田)によると2018年の輸送量は前年並みの2億2254万トン。荷動きは総じて堅調だった。トラックから船や鉄道に輸送手段を変える荷主が増加。トラック運転手の労働環境が厳しくなる中、物流網に船を加え負荷を分散させる動きもある。だが人手不足に悩むのは海運も同じ。内航貨物船は60歳以上の船員が約3割を占めるとされる。船舶管理会社、イコーズ(山口県周南市)の蔵本由紀夫相談役は「船員を年々確保しづらくなった」と懸念する。「労働環境の改善は人手確保にもつながる」とNSユナイテッド内航海運の和田康太郎常務。洋上の働き方改革に一役買えるか、HV船の行方に期待が集まる。

*4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190114&ng=DGKKZO39985250T10C19A1PE8000 (日経新聞社説 2019年1月14日) もっと転職者を生かす会社に
 終身雇用の慣習が崩れ、転職や起業が珍しくなくなった。でも円満退職へのハードルは高い。いまだに転職をマイナスの印象でとらえる風潮が、日本の会社に残っていないだろうか。人手の確保が難しい今こそ、転職した人材も活用する視点をもちたい。総務省の2018年7~9月の調査によると、過去1年以内に転職した経験のある人は341万人に達し、リーマン・ショック以降で最も高い水準となった。一方で民間の調査では、35歳以上の退職者の半数が「後任が不在」などの理由で強引に慰留され、円滑に辞められなかった。本人に代わって手続きをする退職支援サービスが伸びているのは、退社をめぐる会社と個人のギクシャクした関係の裏返しだろう。退職・転職は「別れ」ではなくコミュニティーの「広がり」と考えたい。退職希望者を無理に引きとめても、意欲は下がり周りの社員にも悪影響を及ぼしかねない。連帯感を持ち続けることで得られる利点に目を向けるべきだ。元社員の転職先が仕入れ先や外注先、代理店となる場合がある。一度やめて社外で経験を積んだ人材を再雇用すれば、客観的な視野から経営改善に取り組める。さらに起業が増えれば、起業家を輩出する企業として評価され、優秀な人材を獲得しやすくなる。米マイクロソフトが現役の研究者と元社員の交流の場を設け、研究分野の相乗効果を生みだそうとしている。社外の知恵を持ち寄って製品やサービスを企画・開発するオープンイノベーションの発想が、人材の確保や育成においても求められる。企業は働き手の人生設計に応じた制度を考えてほしい。転職や再雇用を含めた将来のキャリア形成について、採用時に担当者と率直に話せる企業はまだ少ない。人生100年時代には、定年まで勤めあげるだけが職業人生のゴールではない。生え抜き社員だけでなく、社外の多様な人材も生かすことが企業の成長につながる。

*4-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190117&ng=DGKKZO40069050W9A110C1KE8000 (日経新聞 2019年1月17日) 企業統治、何が足りないか(上)役員報酬、「序列」から「誘因」型へ、指標や開示 統合的に改革 伊藤邦雄・一橋大学特任教授(1951年生まれ。一橋大博士。専門は会計学、企業統治論、企業価値評価論)
<ポイント>
○グローバル化で報酬制度の改革不可避に
○業績連動の株式報酬は比率高める方向へ
○資本生産性やESGなどの指標も考慮を
 いま進んでいる企業統治改革は当初、取締役会の機関設計、複数社外取締役の導入、取締役会の実効性評価などに焦点が当てられたため、役員報酬の議論が比較的遅れていた。ところが、日産自動車のカルロス・ゴーン元会長の高額報酬や有価証券報告書記載漏れ、官民ファンドの「高額報酬」問題に世間の耳目が集まったこともあり、経営者報酬への関心がにわかに高まった。ただ昨今の論調は、報酬水準の多寡だけが独り歩きしており、危険でもある。皮相的な議論は統治改革の流れを逆行させる恐れもある。経営者報酬制度は本来、企業統治や企業価値の持続的向上の文脈で冷静に議論されるべきものである。本稿では、日本の経営者報酬に焦点を当て、その課題や今後のあり方をグローバルな視点も入れながら論じてみたい。日本企業の経営者報酬水準は2009年以降、上昇傾向にある(図参照)。ウイリス・タワーズワトソンの調査によれば、17年度の日本の時価総額上位100社のうち売上高1兆円以上の74社の経営トップの報酬額は1億5千万円(中央値)。米国は14億円、英国とドイツはそれぞれ6億円、7億2千万円である。この彼我の差には、経営者報酬に対する各国の経緯と基本的な考え方が投影されていることを看過してはならない。米国では、報酬を自分の価値を表す代理変数であり、自らの働きのベクトルをけん引するインセンティブ(誘因)と捉える傾向がある。将来に向けた「けん引指標」なのだ。日本では、経営陣の報酬水準は社内序列の代理変数であり、株主総会をにらんだ報酬総枠内での調整結果であり、過去の「処遇指標」の性格が強い。そこには「インセンティブ」の要素は薄い。日本では自社の報酬水準が業界内で突出するのを避け、従業員との給与格差が拡大し過ぎないよう配意してきた。また、おカネのことを言い出しにくい雰囲気の中で、過去を踏襲した、抑制型の「逆お手盛り」実務が多く見られた。経営者が自らの報酬水準を独断で設定した日産には、多くの日本人が目を疑った。日本の統治改革の狙いは、過去の慣習を問題視し、株主・投資家視点で報酬制度の透明性の向上と「攻め」の統治に基づくインセンティブとして性格づけることにある。興味深いことに、経営者報酬を巡って日本と欧米は逆の方向にある。欧米では最近、高額報酬が企業の持続的発展に寄与しているとは限らないとの認識から、株主が経営者報酬の暴走を抑止する動きが見られる。背景には、経営者が目先の利益に走る「短期主義」への反省がある。日本の報酬水準が低位にある理由は他にもある。欧米企業が高額報酬を払うのは、選任の際に経営者としての過去の実績や人脈の豊富さなどを重視するからだ。日本は内部昇格が普通で、自社の事業経験はあるが、経営者としての実績は「未知数」状態で選任されるのが通例だ。人脈も限られる。経営トップに登りつめた人材は流動性が低く、経営者市場が育たなかった。こうした実情から一見、日本の役員報酬制度をあえて変革する必然的理由は見いだしにくい。ところが急速に進む日本企業のグローバル化がこうした現状に揺らぎを与え、変革を余儀なくしているのだ。海外M&A(合併・買収)などにより、外国籍の経営人材がグループ内に流入し、かつ買収先の経営陣には日本型とは異なる報酬制度を認めざるを得ない。また、競争戦略の面からも、海外の有能な経営人材を獲得しなければならない。報酬は、数値化し比較できる重要な指標だ。見直す際の基本的視点は、「序列処遇型」から未来志向の「インセンティブ制度」に変えていくことだ。確かに「報酬の多寡で働きが変わるものではない」と喝破する日本の経営者も多い。筆者もその美意識には共感するが、報酬を競争戦略の一環と捉える限り、インセンティブを高められない報酬制度は危機的だ。今後は、以下の点に留意しながら報酬制度を設計・運用すべきである。第1はプロセスの透明性と客観性の確保。この点はコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)でも強調されている。最低限、任意でも報酬委員会を設置すべきだ。委員会は社外取締役が過半(社外が委員長)を占めるのが肝要だ。日産の悲劇の発端は、最低限の要件を満たさなかったことにある。要は、役員報酬について堂々と透明性をもって議論すべきだ。客観性の担保として、外部の報酬データベースを使うのもよい。その際に散見されるのが「中央値傾斜症候群」だ。確かに報酬水準の突出を回避する点では意義があるが、そこには世間相場に引っ張られた標準化志向がうかがえる。重要なのは、競争環境を視野に入れ、自社のビジネスモデルや中期経営計画の積極性などを考慮して、柔軟に報酬制度を設計することだ。報酬と指名の委員会を連携させるのも一法だ。両委員会は役割が異なる。指名委員会は、選任・昇格・降格・解任という「ゼロ・イチ」の鋭角的性格をもつ。報酬委員会は、役員のパフォーマンスを評価して報酬を決定するという「連続的」な性格をもつ。評価結果が各役員への人事的なメッセージや警鐘となる。「組織内公平性」も忘れてはならない。余りに高い役員報酬は、従業員のやる気をそぐ恐れもある。それを防ぐのが報酬決定プロセスの透明性と客観性だ。従業員にプロセスを丁寧に説明すべきだ。第2は基本報酬と中・長期インセンティブ(LTI)の組み合わせだ。LTIは中長期の業績に連動した報酬のことで、統計によれば、米国は基本報酬1割、年次インセンティブ2割で、LTIが7割である。日本は5割が基本報酬、年次インセンティブ3割で、LTIは2割だ。昨今、日本でも中長期業績に連動した株式報酬制度を導入する企業が増えている。それでもLTIの導入割合は欧米がほぼ100%に対し、日本は半分にとどまる。企業価値について経営陣が株主と利害を共通化するには、業績に連動する株式報酬の比率を高めるべきだ。大事なのは、インセンティブの構成比を自社の哲学や文化、競争環境や戦略の時間軸を踏まえて統合的にデザインすることである。第3の点は、KPI(重要経営指標)だ。三井住友信託銀行によれば、日本では中長期業績連動報酬に用いるKPIは売上高など損益計算書の項目が多い。統治改革では資本生産性の向上を課題としており、そうしたKPIを入れる必要があろう。LTIの指標と中期経営計画で掲げるKPIとの間にかい離があると、投資家から「二枚舌」と捉えられかねない。定性評価の指標にも目配りすべきだ。「持続可能性」の観点からESG(環境・社会・企業統治)や国連の持続可能な開発目標に関わる指標の導入も検討すべきだろう。最後は説明責任の問題だ。欧米の報酬水準は高額だが、一方で詳細で厳しい開示規制がある。米では最高経営責任者(CEO)と最高財務責任者(CFO)に加え報酬額上位3人の個別開示と説明、英でも「取締役報酬報告書」の作成、毎年の事前と事後の開示が要求されている。それに比べ、日本の開示は見劣りがし、改革の余地が大きい。経営者報酬ガバナンスを実効性あるものにするには、開示を通して納得性と妥当性を高めることが鍵となる。経営者報酬制度は単に欧米に追従するのではなく、企業価値を中長期で高めるよう、持続可能性の観点から統合的に設計されるべきである。

<ルノー・日産の権力闘争という背景>
PS(2019年3月9日): *5-1のように、ゴーン氏はルノー・日産・三菱自動車の業務提携の立役者で、「①自身の逮捕は策略と反逆の結果だ」「②日産の一部幹部が日産と業務提携しているルノーとの経営統合を望んでいなかった」「③自分は、3社をより緊密に統合した後、持ち株会社の傘下でそれぞれの自主性を確保する計画だった」と語っている。そして、逮捕直後に日産と三菱の会長職を追われ、2019年に入ってからルノーの会長兼CEOも解任されているため、ゴーン氏逮捕事件の背景にはルノー・日産の権力闘争があったことが明らかだ。しかし、権力闘争に役員報酬の過少記載や会社資金の不正利用などという別件逮捕を使うのは人権侵害であるため、私は、Big4で監査・税務・コンサルティングのすべてを経験しながら多くの会社を見てきた専門家として、感性の良い経営者であるゴーン氏が無罪である理由を説明しているわけである。
 なお、ゴーン氏は、執行役員の半分(25人)を日本以外から採用し、成果給の比率を高めて外国人材を獲得してきたが、ゴーン氏の逮捕後は、*5-2・*5-3のように、ゴーン氏の信任が厚く国際業務で重責を担ってきた人事統括のバジャージュ専務執行役員や中国事業担当のムニョス氏が外され、ゴーン体制は崩されつつある。そして、この3月末の人事異動で、それも完了するということなのだろう。

*5-1:https://blogos.com/article/354799/ (BBCニュース 2019年1月31日) ゴーン前会長、逮捕は「策略と反逆」の結果と 日経新聞が逮捕後初インタビュー
 金融商品取引法違反などの罪で勾留されている日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告(64)は、自身の逮捕は「策略と反逆」による結果だと、30日付の日本経済新聞に語った。昨年11月の逮捕以来初めてとなるインタビューでゴーン前会長は、日産の一部の幹部が日産とアライアンスを組んでいるルノーとの経営統合を望んでいなかったと話した。経営統合の計画については、日産の西川広人社長兼最高経営責任者(CEO)と協議していたという。日本経済新聞の取材に応じたゴーン前会長は、現在も東京拘置所に勾留されている。取材は20分にわたり、拘置所内で行われた。ゴーン前会長はルノー・日産アライアンスの立役者で、2016年には三菱自動車もアライアンスに組み込んだ。しかし逮捕直後に日産と三菱の会長職を追われたほか、今年に入ってルノーの会長兼CEOからも解任されている。ゴーン前会長は、アライアンスの将来について三菱自の益子修CEOにも会話に加わってほしかったが、西川社長が「一対一での会話を求めてきた」と話した。ゴーン前会長の構想では、3社をより緊密に統合した後、「持ち株会社の傘下でそれぞれの自主性を確保する」計画だったという。その上で、自身の逮捕・起訴に日産幹部が関係していたことは「疑いようがない」と話した。ゴーン前会長は昨年11月19日、役員報酬の過少記載や会社資金の不正利用など「重大な不正行為」があったとして、金融商品取引法違反容疑で逮捕された。その後、別の時期の金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)容疑および会社法違反(特別背任)の疑いで2回再逮捕・起訴されている。今年1月8日に東京地裁で開かれた勾留理由開示手続きで、多田裕一裁判官は、前会長には国外逃亡と罪証隠滅を図る恐れがあったとして、勾留は正当なものだと認めた。一方、ゴーン前会長は無罪を主張している。

*5-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190109&ng=DGKKZO39789860Y9A100C1TJ1000 (日経新聞 2019年1月9日) 日産外国人幹部、また職務外れる 中国担当に続き人事も
 日産自動車で上級外国人幹部が職務から外れる例が続いている。人事を統括するアルン・バジャージュ専務執行役員が通常業務から外れたことが8日分かった。中国事業を担当するホセ・ムニョス氏も同様に業務から離れた。ともにカルロス・ゴーン元会長の信任が厚く、国際業務で重責を担ってきた。求心力だったゴーン元会長の逮捕を受け、同様の動きが続く可能性がある。バジャージュ氏はすでに通常業務を離れ、新たな担当業務なども決まっていない。同氏は弁護士として活動し、米フォード・モーターを経て、2003年に日産カナダ法人の弁護士として入社。08年に日産本体の人事部の担当部長に就き、アジアや海外人事の要職を担った。14年に人事統括の常務執行役員に昇格すると、ゴーン元会長の右腕として人事を差配。15年から仏ルノー・三菱自動車との3社連合でも人事担当役員の職に就いていた。チーフ・パフォーマンス・オフィサー(CPO)で中国事業を担ってきたムニョス氏も通常業務から外れたことが明らかになっている。新たな担当業務は非公表。同氏は北米など主要地域を統括し、18年4月から重点地域の中国戦略を一手に任されるなど、ゴーン元会長の信任が厚かった。日産は両氏が職務から離れた理由を明らかにしていない。ムニョス氏に関しては、統括していた北米事業は採算が悪化。中国でも足元の新車販売が減速し、同氏の責任を問う声もあった。日産はゴーン元会長のもとで国籍にとらわれない「ダイバーシティー経営」を推進し、18年には執行役員の半分にあたる25人を日本以外の出身者が占めた。ルノーからの派遣に加え、グローバル企業で実績を積んだ人材を多く幹部として迎え入れてきたのが特徴だ。日産は成果給の比率を高める欧米流の給与体系などの制度を整備し、海外でも知名度が高いゴーン元会長の存在も求心力となり外国人の人材を獲得してきた。海外事業や3社連合の統括業務では、元会長の信任を得て抜てきされた外国人役員が多い。元会長逮捕による社内の動揺は大きく、こうした動きが続く可能性がある。

*5-3:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2019011201001248.html (東京新聞 2019年2月1日) 日産ゴーン前会長の側近が辞任 執行役員のムニョス氏
 日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告に近い存在とされてきたホセ・ムニョス執行役員が辞任したことが12日分かった。ムニョス氏は日産の重要市場である中国を受け持ってきたが担当を外れていた。ロイター通信は11日、日産がゴーン被告に関する内部調査の対象を米国、インド、南米にも拡大すると報じた。日産はムニョス氏が中国担当を外れたことについて「別の業務に専念するため」と説明してきたが、関係者は「ゴーン被告に忠実な人間なので現経営陣に警戒されている」と指摘していた。一方、内部調査はムニョス氏が米国事業を統括していた際に行った決定などが対象になるとしている。

<足元にある未来:再生可能エネルギーと電気自動車>
PS(2019年3月10、11、12、13日):原発事故で放射性物質に汚染された地域で生産された食品は、いくら「基準値越えした食品は0だから、風評被害だ」と叫んでみても、基準値が0ではないので生産・販売を続けることが難しいが、*6-1のような再生可能エネルギーなら全く問題ない。そのため、「飯舘電力」が太陽光発電・風力発電を行って送電したり、水素を作ったりするのは、どうせ街づくりをやり直さなければならない被災地にとって大変よく、せっかくなら宮城県以北の比較的安全な場所に、BMW・6-5のフォルクスワーゲン・ポルシェなどの電気自動車や炭素繊維工場などを集積し、東北大学と組んでさらに開発を進めてはどうかと思った。
 なお、*6-2のように、宮城県東松島市赤井地区に落雷があり、赤井地区全体は停電したが、東松島市が震災後に住宅メーカーと作った「スマート防災エコタウン」の住宅街の電気は消えず、約二百人の住民は誰も停電に気付かなかったそうだ。非常時は蓄電池だけでなく、ディーゼル発電機も自動で動くそうだが、私は、これがディーゼルではなく水素か国産の天然ガスであれば、電気は100%国産にできる上、地産地消も進むと考える。
 また、*6-3のように、北海道内の酪農地帯でも自家発電機の導入が相次いでいるそうだが、広い牧場や畑に風力発電設備を設置すれば、停電の心配がなく農家が農業と売電のハイブリッドで稼げるため、外国産に負けない農産品価格にすることもできる。さらに、北海道地震におけるブラックアウトは、再エネは大地震後も稼働していたのに電力需給の調整弁を果たす火力発電所の停止で活用できなかったのであるため、道内の足元の資源を生かして100%再エネ発電をすれば停電の心配がなく、エネルギー代金も外部に流出しないわけである。
 さらに、北海道だけでなく、農業地帯はどこも再生可能エネルギーが豊富なため、発電とのハイブリッドで稼げば日本産農産物の価格を外国産農産物に負けない価格にすることができる筈だ。そのため、*6-4のように、国民のツケで既得権益にしがみつく抵抗勢力に忖度して高コストの電源にしがみつくのではなく、世界の状況と時代の要請にあった政策に大転換すべきで、そうすれば国内に製造業を戻したり、無駄な財政支出を減らしたりすることができるが、このような大転換に乗り出す政治家が現れた時に、それを支持する国民が多くなければその人は政治家たりえないという意味で民主主義の主権者は国民であるため、国民の判断を支えるメディアの普段からの表現も重要なのである。


  岩手県の復興住宅   宮城県石巻市の災害公営住宅       北欧の住宅

(図の説明:大災害の後に新しい街づくりをして復興するのなら、全住宅に太陽光発電をつけて電気代を無料にし、電線を地中化し、デザインのよい家づくり・景観のよい街づくりをすればピンチをチャンスに変えられるが、前と同じかそれより悪い家に住むことになるのなら帰還する人は少ないだろう。その点、欧米の住宅や街づくりは参考にすべきものがある)

*6-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2019031002000136.html (東京新聞社説 2019年3月10日) 3・11から8年 再生の光、復権の風
 国は福島県を「再生可能エネルギー先駆けの地」と位置付ける。でも、忘れないでほしい。太陽や風の電気には、脱原発の願いがこめられていることを。福島県飯舘村は、福島第一原発の三十キロ圏外にもかかわらず、あの日の風向きの影響で放射性物質が降り注ぎ、全村避難を余儀なくされた。おととし三月、避難指示は解除されたが、事故以前、約六千人いた村民は、一割しか戻っていない。高原の美しい風景が、都会の人に愛された。「までい」という土地の言葉に象徴される村人の生き方も。「丁寧、心がこもる、つつましさ」という意味だ。原発事故は「までい」な暮らしを引き裂いた。
◆自信と尊厳を取り戻す
 二〇一四年九月に設立された「飯舘電力」は、「までい」再生の象徴だ。村民出資の地域電力会社である。設立の理念は、こうだ。<『産業の創造』『村民の自立と再生』『自信と尊厳を取り戻すこと』をめざして飯舘村のあるべき未来を自らの手により造り成すものとする->原発事故で不自然に傷つけられたふるさとの尊厳を、村に豊富な自然の力を借りて、取り戻そうというのである。現在、出力四九・五キロワットの低電圧太陽光発電所、計四十三基を保有する。年末には五十五基に増設する計画だ。当初は、採算性の高い千五百キロワットの大規模発電所(メガソーラー)を造ろうとした。ところが設立直後、東北電力送電網が一基五十キロワット以上の高圧電力の受け入れを制限することにしたために、方針を転換せざるを得なかった。三年目には、風力発電所を建設しようと考えた。やはり東北電力に「接続には送電網の増強が必要で、それには二十億円の“受益者負担”が発生する」と言われ、断念したという。「風車が回る風景を、地域再生のシンボルにしたかった…」。飯舘電力創設者の一人で取締役の千葉訓道さんは、悔しがる。送電網が“壁”なのだ。送電線を保有する電力大手は、原発の再稼働や、建設中の原発の新規稼働も前提に、太陽光や風力など再生可能エネルギーの接続可能量を決めている。原発がいつ再稼働してもいいように、再エネの受け入れを絞り込み、場所を空けて待っている。「送電線は行列のできるガラガラのソバ屋さん」(安田陽・京都大特任教授)と言われるゆえんである。
◆原発いまだ特別待遇
 発電量が多すぎて送電網がパンクしそうになった時にも、国の定めた給電ルールでは、原発は最後に出力を制限される。あれから八年。原発はいまだ特別待遇なのである。電力自由化の流れの中で、二〇年、電力会社の発電部門と送配電部門が別会社に分けられる。しかし今のままでは一六年にひと足早く分離した東京電力がそうしたように、形式的に分かれただけで、同じ持ち株会社に両者がぶら下がり、「送電支配」を続けるだろう。大手による送電支配がある限り、再エネは伸び悩む。先月初め、「東京電力ホールディングス」が出資する「福島送電合同会社」が、経済産業省から送電事業の許可を受けた。「先駆けの地」の先行例として、福島県内でつくった再生エネの電力を、東電が分社化した子会社の「東京電力パワーグリッド」の送電線で、首都圏へ送り込む計画だ。大手による実質的な送電支配は変わっていない。「発電事業にも大企業の資本が入っており、私たちには、何のメリットもありません」と、千葉さんは突き放す。福島県の復興計画は「原子力に依存しない、持続的に発展可能な社会づくり」をうたっている。千葉さんは、しみじみ言った。「私たちがお日さまや風の力を借りて、こつこつ発電を続けていけば、いつかきっと原発のいらない社会ができるはず-」
◆再エネ優先の送電網を
 最悪の公害に引き裂かれたミナマタが、日本の「環境首都」をめざして再生を果たしたように、脱原発依存は、最悪の事故に見舞われたフクシマ再生の基本であり、風力や太陽光発電は、文字通り再生のシンボル、そして原動力、すなわちエネルギーではないのだろうか。脱原発こそ、福島復興や飯舘復権の原点なのだ。原発優先の国の姿勢は、福島再生と矛盾する。例えば飯舘電力などに、地域再生の活力を思う存分注ぎ込んでもらうべく、再エネ最優先の電力網を全国に張り巡らせる-。今「先駆け」として、やるべきことだ。

*6-2:https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2019031190070628.html (東京新聞 2019年3月11日) <原発のない国へ すぐそばの未来>(1)停電3日 耐える街 宮城・東松島 電気を地産地消
 太平洋の海岸線から北に三キロ、宮城県東松島市を横断するJR仙石(せんせき)線の線路沿いに、平屋や二階建ての住宅八十五戸が並ぶ。この住宅街を含む赤井地区に落雷があったのは、二〇一七年七月二十五日の午前一時すぎのことだった。停電し、地区は一時間半にわたり真っ暗に。だが、この街の電気は消えず、約二百人の住民は誰も停電に気付かなかった。地元自治会副会長の相沢正勝さん(68)は「二、三日後になって、初めて知ったよ」。八年前、相沢さんは大津波で壊滅的被害を受けた海沿いの大曲(おおまがり)地区に住んでいた。自宅は流され、五人の家族や親戚を失った。停電が長引き、避難先の姉の家では、庭で火をおこして米を炊き、ドラム缶を風呂にした。記憶は鮮明に残っている。「あんな災害は二度と起こってほしくない。でも、ここでは万が一の電気の心配だけはないんだ」。この住宅街は災害などで外部からの電力供給が途絶えても、三日間は自前で電気を賄える。東松島市が震災後、住宅メーカーの積水ハウスと共に水田に開発した復興住宅で「スマート防災エコタウン」と呼ばれる。日本初の取り組みだ。街の真ん中には、太陽光発電の黒いパネル。夏なら昼間の電力需要を100%満たせる。足りない分は、電力事業を担う「東松島みらいとし機構」が東北電力の送電網を通じて市内の別の太陽光発電所から買ったり、太陽光で充電した大型蓄電池を活用したりして補う。機構の常務理事、渥美裕介さん(34)は「街の全需要の半分近くを、地元の再生可能エネルギーで満たしている」と説明した。非常時は蓄電池だけでなく、ディーゼル発電機が自動で動く。渥美さんは「二年前の停電の時、発電機が動きだして黒煙を上げたので、火事と勘違いした人もいました」と明かした。街の中の電線は自営で、東北電の送電網から独立。住宅だけでなく、近くにある仙石病院など四つの医療機関と県の運転免許センターにつながり、普段から電気を供給している。これらの施設は災害時には避難所となる。停電が四日以上となれば、街の非常用電源から最優先で電気の供給を続ける。仙石病院では八年前、長期化した停電で腎不全患者の人工透析が続けられなくなったが、これで助かる命が増えた。街の整備には約五億円の税金が投じられた。四分の三は環境省の補助金が充てられ、残りを市が負担。みらいとし機構は街の外の公共施設や漁協、農協に電気を売って利益を得ており、市が負担した一億二千五百万円を十五年ほどで回収できる見込みだという。再生エネの電気を地産地消しながら防災に生かす試みは、東京都武蔵野市など全国四十カ所以上で進む。震災の苦い経験が、その挑戦を後押ししている。
 ◇ 
 東日本大震災と東京電力福島第一原発事故から八年。原発のない国をどう実現するか。先進的な取り組みから、未来を展望する。

*6-3:https://www.agrinews.co.jp/p46981.html (日本農業新聞論説 2019年3月9日) 大地震と電力 鍵を握る再エネの活用
 北海道地震から半年が過ぎた。国内初の全域停電(ブラックアウト)の教訓から、道内の酪農地帯では自家発電機の導入が相次ぐ。ただ、自家発電は自衛手段の一つ。停電が長引けば燃料確保の問題も出てくる。災害が多発する今こそ、再生可能エネルギー(再エネ)を活用した地域分散型の電力供給システムを導入すべきだ。別海町の30代の酪農家はブラックアウトの衝撃をこう振り返った。「数分で復旧するだろうと思っていたが、朝の搾乳が夕方にずれ込んだ。牛の乳房は風船のように膨らみ噴水のように生乳が噴き出した」。乳房が張り、牛が鳴き叫ぶ声が耳に残っているという。この酪農家は、知人から大型発電機を借り、停電時も搾乳ができた。近隣の酪農家2戸と交代で使い、電気が復旧した翌日の9月7日夜遅くまで牛の命を支えた。現在は万一に備えて自家発電機を配備したという。乳業メーカーも電力確保に動きだした。よつ葉乳業は既に3工場で自家発電機を導入。他の大手メーカーでも配備に向けた検討や調査を進めている。よつば乳業の有田真社長は本紙インタビューで「非常時でも余裕があれば、他メーカーが集乳した分の処理を手伝う」と述べた。災害時の市民生活に欠かせない小売店の営業継続に向けた動きも出てきた。北海道の日産自動車の販売会社7社と、道内で1000店超のコンビニエンスストアを運営する札幌市のセコマが、電気自動車(EV)を電源に活用し、営業を続ける体制の確立へ協定を結んだ。試乗車として配備するEVをコンビニに派遣し、バッテリーの電力を供給する。今後、モデル店舗を札幌市に設ける予定で、20時間程度の給電が可能という。問われるのは、ブラックアウトを二度と起こさないための電力供給網の整備だ。北海道電力は先月末、燃料に液化天然ガス(LNG)を使う石狩湾新港発電所の営業運転を始めた。大規模停電の発端となった苫東厚真石炭火力発電所を補い、電力の安定供給を目指すためだ。それでも「集中型電力システム」の仕組みは変わらない。ブラックアウトは、電気の需給バランスが乱れたことが原因。再エネは地震後も稼働していたが、電力需給の調整弁を果たす同発電所の停止で、活用できなかったことを教訓にすべきだ。酪農や畜産から出るふん尿、林業から出る木質バイオマス、地形や気象条件を生かした風力。道内には足元の資源を生かした再エネ発電施設がある。太陽光、風力を合わせて地震前日の最大需要の4割に相当する160万キロワットの発電容量を持つ。石炭火力、LNGともに化石燃料の採掘は永遠には続かない。燃焼に伴い、地球温暖化につながる二酸化炭素(CO2)の排出も増える。今こそ環境に負荷をかけない持続可能な「地域分散型」の電力供給システムを検討すべきである。

*6-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/348131 (佐賀新聞 2019年3月12日) 原発とエネルギー政策、世界の現実に目を向けよ
 東京電力福島第1原発事故から8年間、世界のエネルギー情勢は大きく変わった。高コスト化が目立つ原発が低迷する一方で、再生可能エネルギーが急成長し、地球温暖化対策として脱化石燃料、特に石炭火力廃止の動きが広がった。だが、日本では、世界で進む大転換から懸け離れ、旧態依然としたエネルギー政策が続いている。このままでは、エネルギーに関するリスクが高まり、日本の産業の国際競争力が大きく損なわれることになる。政策決定者は一刻も早く現在の過ちを改め、世界の状況と時代の要請に即した政策の大転換に向けかじを切るべきだ。高コスト化が目立つ原発は事故前から停滞していたのだが、福島事故後の安全対策費用の高騰がこれを加速し、競争力を失った。東芝の子会社だったウェスチングハウス・エレクトリックは経営破綻、フランスの原発大手アレバも事実上、破綻した。トルコ、英国などで国策として進めた日本の原発輸出案件もすべて頓挫した。2015年には、「脱炭素社会」実現を掲げるパリ協定が採択された。英国、フランスなどが相次いで石炭火力の廃止を決め、石炭への依存度が高かったドイツでさえ、最近になって38年までに石炭火力発電を全廃する方向を打ち出した。一方で、世界の電力供給に占める水力を含む再生可能エネルギーの比率は17年には26・5%にまで増え、多くの国で最も低価格な電源とされるまでになった。消費電力の100%を再生可能エネで賄うとの目標を掲げる国も増えている。こんな中、日本の状況を見ると、暗い気持ちにならざるを得ない。日本でも原発事故後、太陽光発電が急成長し、国も再生可能エネルギーの主流化を打ち出した。だが、30年度の発電比率の目標は22~24%と、現在の世界平均より低い。発電と送電の分離が進まず、大電力会社が送電網を支配する状況が続いているのも、国際的には異例だ。逆に高すぎて、多くの専門家が実現の可能性が低いとするのが20~22%という原発の目標だ。電力会社は多大な労力とコストを投じて原発の再稼働を進めているが、17年の比率は3%弱だ。石炭火力の目標が26%と高いこともあって、日本は石炭火力の新設を進める数少ない国の一つになっている。20、21年にかけて建設中の100キロワット級の大型を含む10基近くが運転開始する予定だ。石炭重視の日本の政策には、外国政府からも厳しい批判が出ている。重厚長大、大規模集中型の発電技術にこだわり、「革命」とも称される再生可能エネルギーの拡大で後れを取り、脱炭素社会づくりに向けた国際競争でも劣後するとなれば、国際社会での日本の発言力は低下し、日本の産業界は多くのビジネスチャンスを失うだろう。再生可能エネルギー拡大のために政治家や官僚が口にするのは、水素や二酸化炭素の固定など画期的な技術開発の必要性だ。だが、適切な政策が社会の変革を促せば、既存の技術で原発も温暖化もない社会の実現が可能であることを、過去8年間の世界の経験は示した。日本にないのは新技術ではない。欠けているのは、既得権益にしがみつく勢力の抵抗を排して大転換に乗り出す政治家の勇気と確固たる意志である。

*6-5:http://qbiz.jp/article/150190/1/ (西日本新聞 2019年3月13日) VW、EV生産2200万台に 今後10年で、重視姿勢鮮明
 ドイツ自動車大手フォルクスワーゲン(VW)は12日、今後10年間の電気自動車(EV)の生産台数を2200万台にするとの計画を公表した。2028年までに計約70車種のEVを売り出す。従来より野心的な方針を示し、電動車重視の姿勢を鮮明にした。VW本社があるドイツ北部ウォルフスブルクで記者会見したディース最高経営責任者(CEO)は「予見可能な将来においては、道路交通分野で二酸化炭素を削減するために、EVが最良で一番効率的な方法だろう」と強調した。VWはこれまでEV約50車種を25年までに投入するとの計画を示していた。22年までに欧州と北米、中国の計18工場でEV生産を始める。ディースCEOはEVの推進で生産の省力化が進み、人員削減の必要性が生じるとも指摘した。ドイツ紙は、VWが今後数年間でドイツの2工場の従業員約7千人を削減する計画だと報じている。中国政府が外資規制の緩和方針を示したことで可能になる合弁企業への過半出資に関しては、19年中にも結論を出す考えであることを明らかにした。

<日本の司法の問題点>
PS(2019年3月13日): *7-1のように、東京地検特捜部がこれまでの逮捕容疑をすべて起訴したそうだが、有価証券報告書への役員報酬の過少記載が金融商品取引法違反に当たらない可能性が高くなると、「とことんやるしかない(検察幹部)」「何とか事件に結び付ける」として特別背任に問える疑いがないか捜査するのは、“司法の信頼を保つ”以外には何のメリットもなく、*7-2-5の松橋事件のように、司法の名誉のために無罪の人の人生を奪うことに繋がるため厳に慎むべきだ。そして、「俺が黒と言ったら白でも黒になる」という思い上がりは、日本の司法が冤罪を生む原因となっているが、いくつもの整合的な物証のない自白だけでは証拠にならないというのが、監査では基本中の基本である。
 また、*7-2-1のように、「ゴーン氏は会社を私物化した悪者」という筋書きで話が進められているが、個人企業ではあるまいし上場企業でそのようなことはできないので、検察は経済事案に疎いと考える。さらに、日産と三菱が作った統括会社からゴーン氏が報酬約10億円を受け取っていたとしても、それが日産の有価証券報告書に開示されないのは当然であるとともに、特定目的会社のように連結対象でない会社も日産の有価証券報告書に記載されない。そして、「日産がゴーン氏の姉とアドバイザリー契約を結んで毎年10万ドル(約千百三十万円)前後を支出していたのは実態がない」と決めつけるのは、日本独特のキャリアに関する女性蔑視である。なお、娘が通う大学への寄付金を日産の名前で支払ったり、*7-2-3のように、ルノーがベルサイユ宮殿と文化芸術を支援する「メセナ」契約を結んで宮殿の改修費用の一部を負担する代わりに城館を借りられるようにし、ルノーの会長だったゴーン氏がベルサイユ宮殿で結婚披露宴を無料で開催したというのも、寄付を尊ぶ文化の中では日産やルノーの名声と知名度を高める方向に働くため、ゴーン氏は家族を挙げて日産車のマーケティングに尽くしていたとも考えられ、私的流用と決めつけて批判ばかりしているのはむしろ変である。
 さらに、*7-2-2のように、ゴーン氏がオマーンの日産販売代理店オーナーから私的に3千万ドル(現在のレートで約33億円)を借り入れ、この後に日産子会社から代理店に計約3500万ドル(同約38億円)送金させていたのも、CEOリザーブから「販売促進費」として支出されており、CEOリザーブの支出について従業員の要請はいらない上、従業員がすべての必要性を把握しているわけでもない。また、損失の付け替えについては、*7-2-4のように、郷原弁護士も取引の決済期限が来て損益が確定するまで損失は「評価損」に留まり、損失を発生させることなくゴーン氏に契約上の権利が戻っているので罪に問えないとされており、私と同意見だ。

*7-1:https://digital.asahi.com/articles/ASM1C5782M1CUTIL02R.html?iref=pc_rellink (朝日新聞 2019年1月12日)「とことんやるしかない」対ゴーン氏、目算狂った特捜は
 日産自動車の前会長カルロス・ゴーン容疑者(64)をめぐる一連の捜査は11日、東京地検特捜部がこれまでの逮捕容疑をすべて起訴した。世界的な経営者に対して、前例のない容疑での着手で始まった54日間の捜査は、異例の展開をたどった。「ゴーン氏という世界的に有名な方に対する強制捜査。様々な反響があるとは考えていた」。東京地検の久木元(くきもと)伸・次席検事は11日の定例会見で、捜査に対して海外から寄せられた疑問の声についてこう答えた。特捜部が逮捕に踏み切ったのは昨年11月19日。ゴーン前会長と前代表取締役グレッグ・ケリー容疑者(62)が、2010~14年度の前会長の役員報酬を有価証券報告書に過少記載したという金融商品取引法違反容疑だった。報酬の過少記載を問うのは初めてだ。前例のない捜査が本格化した。毎年の報酬は約20億円だったが、開示するのは約10億円だけにし、差額の約10億円は顧問料など別の名目に偽装し、退任後に受け取る――。特捜部が描く「報酬隠し」はこうした仕組みだ。この「退任後支払い」の報酬が確定しており、記載義務があったかどうかが争点となった。ゴーン前会長は「退任後の報酬支払いは確定していない」と容疑を否認。ケリー前代表取締役も「役員報酬とは関係ない」と主張した。未受領の報酬の事件化には「形式犯」の批判もあり、専門家でも意見が割れる。ただ検察幹部らは「役員報酬の開示はガバナンス(企業統治)にゆがみがないかを投資家が判断するうえで重要だ」と強調する。2人の勾留期限となる12月10日、特捜部は5年分の虚偽記載の罪で起訴。15~17年度の3年分の容疑で再逮捕した。8年分の容疑を2回に分けて捜査を続ける想定通りの展開だった。このころ特捜部では、虚偽記載の解明を進める検事と別の検事たちが、前会長を特別背任に問える疑いがないか捜査していた。だが検察としてはあくまで「虚偽記載につながる予備的な主張」との位置づけ。ある幹部は「立件できるものがあればやればいい」と語り、別の幹部は「日産ほどの規模の会社で数十億円程度の損害を与えた話より、投資家を欺いた虚偽記載の方が重要だ」と話していた。検察は虚偽記載事件を「本丸」とし、捜査を進める構えだった。目算が狂ったのは再逮捕から10日後の12月20日。東京地裁が検察側の勾留延長請求を却下した。特捜部が担当する事件で勾留延長が却下されるのは極めて異例だ。地裁は5日後、否認したままのケリー前代表取締役を保釈。異例の早期保釈だった。ゴーン前会長の早期保釈の観測も広がる中、特捜部が再逮捕に踏み切ったのは、前会長の私的取引の評価損をめぐる行為だった。約18億5千万円の評価損が生じた契約を日産に付け替えた容疑と、信用保証に協力したサウジアラビアの実業家ハリド・ジュファリ氏に計約13億円を不正送金した容疑の二つだ。「もうとことんやるしかない」(検察幹部)。徹底抗戦の構えの前会長は1月8日、勾留理由の開示手続きに出廷。付け替えについて「日産に金銭的な損失を負わせない限りで、一時的に担保を提供してもらっただけ。一切損害を与えていない」と反論した。送金も「ジュファリ氏は日産に対して重要な業務を推進してくれた。関係部署の承認に基づき、相応の対価を支払った」と訴えた。特捜部はジュファリ氏の取り調べをしていない。元特捜部長であるゴーン前会長の弁護人、大鶴基成弁護士はこう古巣に疑問を呈した。「特別背任で、金の支払われた先から話を聞かずに逮捕するのは異例だ」
●「私物化」捜査は継続 4回目の逮捕は
 今後、新たな容疑での再逮捕はあるのか。特捜部はゴーン前会長による「会社の私物化」を疑わせる膨大な証拠をつかんでおり、捜査は継続するとみられる。
一連の捜査で特捜部が注目した資金の一つは、CEO(最高経営責任者)直轄の「CEOリザーブ(予備費)」だった。関係者によると、この資金から、特別背任事件でサウジアラビアの実業家へ支払った約13億円以外にも、オマーンとレバノンの販売代理店に計50億円超が支出されるなどしていた。代理店幹部は前会長の知人で、前会長に「還流」したように見える資金の流れもあるという。ただ検察幹部は「簡単にはひも付けられない。CEOリザーブが全て不正とは言えない」と慎重に見極める構えだ。またゴーン前会長は未払いの役員報酬を退任後に受け取る方法として、日産、ルノー、三菱自動車の統括会社(オランダ)や、ベンチャー投資名目で設立された子会社「ジーア」(同)からの支出を検討していた。ジーアなどが絡む資金は、租税回避地(タックスヘイブン)や実態のないペーパーカンパニーを経由しており、解明は容易ではない。特捜部は、中東各国に捜査共助を要請して協力を求めており、その回答待ちだ。日産関係者の聴取もまだ続いている。今後は、起訴された罪について弁護側への証拠開示も進む。ただ資料の英訳などが必要で、初公判までに半年~1年ほどかかるとみられている。特捜部は、初公判の冒頭陳述で描く「犯行に至る経緯」を分厚くする捜査を続けながら、別途事件化できる容疑が煮詰まれば、4回目の逮捕も排除しないとみられる。現時点では、再逮捕をにおわす検察幹部がいる一方、「すぐに事件にできる材料はない」と語る幹部もおり、見通しは不透明だ。
●広がる疑惑 「ゴーン後」へ日産混迷
 日産が特捜部に社内調査の結果を報告し、幹部が司法取引に応じた結果、経営トップらの逮捕に至った事件は、ゴーン前会長の追起訴で一区切りを迎えた。だが、日産社内の混迷は、3社連合を組む仏ルノーや三菱自動車を巻き込んで、むしろ深まりつつある。ゴーン前会長が羽田空港で身柄を確保された昨年11月19日の夜、西川(さいかわ)広人社長兼CEO(最高経営責任者)は前会長の不正行為として①役員報酬の過少記載②投資資金の不正支出③経費の不正支出――の三つを挙げた。①は特捜部による立件に至ったものの、三菱自とつくる統括会社から前会長が非開示の報酬約10億円を受け取っていたことが追加の社内調査で判明。3社連合を統治する別の統括会社から仏ルノー副社長に不透明な報酬が支払われた疑いも浮上するなど、起訴内容とは異なる不正が相次いで明るみに出ている。ゴーン前会長が私的な投資で生じた損失を日産に付け替えたなどとして起訴された特別背任事件は、社内調査が端緒ではなく、検察独自の捜査によるものだった。オランダの子会社を通じた高級住宅の購入、業務実態がない前会長の姉に対する経費の不正支出など、②③に関する疑惑も次々と発覚し、混迷が収束する兆しは見えない。裏を返せば、長年にわたる前会長の「暴走」を止められなかった深刻なガバナンス(企業統治)の不全が次々と露呈しているともいえる。西川氏ら経営陣の責任は重い。日産は先月、社外の弁護士らでつくる「ガバナンス改善特別委員会」を新設することを決めた。3月末までに抜本的な統治体制の改善策の提言を受ける予定だが、20年近く君臨した前会長に重用された「イエスマン」が多く、企業風土を刷新できるかは不透明だ。日産、三菱自と異なり、会長職の解任を見送っているルノーや、「推定無罪」の原則を主張してルノーの判断を支持する仏政府との足並みも乱れたままだ。「ゴーン後」の統治体制もなかなか定まらない。
●元検事の落合洋司弁護士の話
 日産の資金が支出されたサウジアラビアの実業家への聴取なしで違法性を裏付けられるかが焦点になる。通常は、資金の趣旨を裏付ける上で、支出先の聴取は欠かせない。公判で検察の想定しない説明がなされる可能性もあり、有罪となるかは予断を許さない。今回の捜査を通じては、経営者の暴走を、企業内部でどう解決するのかという課題も浮き彫りになった。
●元刑事裁判官の木谷明弁護士の話
 日本でこれまで当たり前だと思われてきた刑事司法が、「外圧」で変わろうとしている。従来は、否認しているうちは保釈しないという「人質司法」が当然だった。ケリー前代表取締役も従来なら、保釈されていなかったはずだ。前例ができた以上、裁判所は今後、外国人だけを特別扱いするのではなく、運用自体を変える必要に迫られるだろう。

*7-2-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201812/CK2018120202000136.html (東京新聞 2018年12月2日) 「会社私物化」疑惑続々 ゴーン容疑者
 日産自動車の前会長カルロス・ゴーン容疑者(64)を巡っては、有価証券報告書に自分の報酬を約五十億円少なく記載したとする逮捕容疑とは別に、海外社宅の無償利用や経費の私的利用などの問題も次々と持ち上がっている。カリスマ経営者として二十年近くトップに君臨する中、会社を「私物化」していた実態が浮き彫りになってきた。「『コストカッター』としてあれほど人員や経費を削ってきたのに、自分だけ私腹を肥やしていたのか…。驚いたというより、あきれたね」。ある検察幹部がこう苦笑するほど、ゴーン容疑者の会社私物化疑惑は底が知れない。その象徴的な舞台がオランダ・アムステルダムにある日産の子会社「ジーア」。日産が約六十億円出資し、二〇一〇年に投資会社として設立された。関係者によると、ジーアはタックスヘイブン(租税回避地)などの会社に約二十億円を投じ、ゴーン容疑者が出生したブラジルのリオデジャネイロ、幼少期から高校まで過ごしたレバノンのベイルートに高級住宅を相次いで購入。ゴーン容疑者が私的に無償で使っていたという。また、パリやアムステルダムにも別の会社を通じて住宅を用意し、ゴーン容疑者が私的に利用していたにもかかわらず、賃料の一部を負担していたとされる。ゴーン容疑者は逮捕後、海外住宅の私的利用疑惑について、周囲に「仕事で世界中を飛び回るので、拠点として使っていた」と正当性を主張しているという。ゴーン容疑者の指示でジーアに深く関与したとされるのが、側近の前代表取締役グレゴリー・ケリー容疑者(62)だ。ゴーン容疑者の意向をごく限られた部下に伝え、契約などの実務を担わせていたとされる。関係者によると、日産は一二~一四年、監査法人から「ジーアは設立趣旨に沿った投資活動がされていないのではないか」などの指摘を複数回受けた。しかし日産側は「ゴーン氏が戦略的投資をするための会社で問題ない」と回答。私的利用疑惑は見過ごされた。ゴーン容疑者の指示を受けたケリー容疑者が、会社の資金をゴーン容疑者個人のために使う-。こういった疑惑は、ほかにも複数持ち上がっている。ジーアを通じて購入したリオの家では、実はゴーン容疑者の姉が暮らしていた。さらに日産は姉とアドバイザリー契約を結び、毎年十万ドル(約千百三十万円)前後を支出。だが、アドバイザー業務の実態はなかったとされる。このほか家族の海外旅行費数千万円、娘が通う大学への寄付金…。日産のプライベートジェット機で、会社の拠点がないレバノンにも渡航していた。ある日産関係者は「プライベートで誰かと食事をするときも、会社のカードで支払っていた。自分に関わるものは会社に支払わせるのが当然だと思っていたのか。誰も彼に意見できない中で、公私混同が進んでいったのだろう」と話した。

*7-2-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13853476.html (朝日新聞 2019年1月18日) 日産資金で借金返済か ゴーン前会長、38億円送金 オマーンの友人側に
 日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告(64)が2009年1月にオマーンの日産販売代理店のオーナーから私的に3千万ドル(現在のレートで約33億円)を借り入れ、この後に日産子会社から代理店に計約3500万ドル(同約38億円)を送金させていたことが、関係者への取材でわかった。東京地検特捜部が、この資金の流れに焦点をあてて捜査していることも判明。貸借契約書を押収し、日産の資金を借金の返済に充てた可能性もあるとみて調べている。関係者によると、ゴーン前会長はオマーンの日産販売代理店のオーナーと長年の友人で、09年1月20日付で、個人的に3千万ドルを借りる貸借契約書を交わした。その後、子会社の「中東日産」(アラブ首長国連邦)に指示し、複数年にわたってこの販売代理店に500万ドル前後ずつを送金させ、総額は約3500万ドルに上った。原資はCEO(最高経営責任者)直轄の「CEOリザーブ(予備費)」で、「販売促進費」名目で支出された。CEOリザーブからの支出について、日産関係者は「現場は要請していない」と証言し、必要性を否定しているという。一方、ゴーン前会長はオマーンを含む中東各国の代理店への支出について「奨励金であり、問題ない」と反論。借金返済という自らの利益を図るため、業務とまったく無関係な支出をして会社に損害を与えたと立証されれば会社法違反(特別背任)に問われるが、ハードルは高い。特捜部は関係者の聴取や、日産を通じた現地での証拠集めを続け、立件の可否を慎重に検討するとみられる。ゴーン前会長は既に起訴されている特別背任事件で、リーマン・ショックの後の08年10月、約18億5千万円の評価損が生じた私的な投資契約を日産に付け替えたとされる。さらに、この契約を自分に戻す際に約30億円の信用保証に協力したサウジアラビアの実業家の会社に09~12年、中東日産からCEOリザーブで計1470万ドル(当時のレートで約13億円)を不正送金したとされる。オマーンの販売代理店オーナーからの借金は、サウジの実業家からの信用保証と同時期にあたり、特捜部は当時の前会長の資金繰りを調べているとみられる。
■準抗告を棄却
 前会長の弁護人は17日、保釈請求の却下を不服として準抗告したが、東京地裁は同日、これを棄却した。

*7-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190313&ng=DGKKZO42345310S9A310C1EA2000 (日経新聞 2019年3月13日) 仏検察もゴーン元会長捜査、国際世論に影響も
 日産自動車元会長、カルロス・ゴーン被告(65)を巡る捜査が海外にも広がりつつある。ベルサイユ宮殿で開いた結婚披露宴を巡り、ルノーの資金を不正に使用した疑惑に関して、フランス検察当局が11日、初期段階にあたる「予備捜査」を開始したことが判明。東京地検特捜部も中東ルートへの捜査を継続している。日本に続き、フランスも捜査に着手したことは国際世論に影響を与える可能性もある。ルノーなどによると、2016年10月、ベルサイユ宮殿内の大トリアノン宮殿で妻キャロルさんとの結婚披露宴を開催した。検察当局は、宮殿使用料に当たる5万ユーロ(約625万円)が、「個人的な利益」だった疑いがあるとみていると、フランスメディアが一斉に報じた。フランスでは経済事件の疑いが生じた場合、検察がまず「予備捜査」を行う。ナンテール検事局が予備捜査を始めた今回もこのケース。事件の複雑さにもよるが、年単位で行われることもあり、重大事件と判断されれば裁判官による「予審」の捜査手続きに移行する。起訴するか不起訴にするかを決めるのが予審判事だ。フランスの経済事件の場合、在宅捜査が主流だが、予審が始まれば本格的に容疑者扱いとなるため、打撃は大きい。南山大学の末道康之教授(フランス刑法)は「予審が開始される可能性がある」と話す。一方、ゴーン元会長は12日、弁護団会議に参加。弁護人によると、ゴーン元会長は記者会見について「やる以上は、自分でどういうことを言うか決めてから出たい」とし、発言内容の精査に時間が必要との考えを示したという。記者会見は来週以降になる見通し。現時点で、4月8日の日産の臨時株主総会に参加しない方針も説明したという。

*7-2-4:https://news.yahoo.co.jp/byline/goharanobuo/20181224-00108835/ (Yahoo2018/12/24)ゴーン氏「特別背任」での司法取引に関する “重大な疑問”(郷原信郎)
 日産自動車の前会長のカルロス・ゴーン氏が12月21日に特別背任で再逮捕されたが、その後の報道によれば、その逮捕容疑の概要は、以下のようなもののようである。[ゴーン氏は、10年前の2008年、リーマンショックの影響でみずからの資産管理会社が銀行と契約して行った金融派生商品への投資で18億5000万円の含み損を出したため、新生銀行から担保の追加を求められ、投資の権利を日産に移し損失を付け替えた。その付け替えが日産の取締役会の承認を経ておらず違法ではないかということが証券取引等監視委員会の新生銀行の検査の際に問題にされ、結局、この権利は、ゴーン氏の資産管理会社に戻された。その権利を戻す際に、サウジアラビア人の知人の会社が、担保不足を補うための信用保証に協力した。平成21年から24年にかけて、日産の子会社から1470万ドル(日本円でおよそ16億円)が送金された。]このうち、損失を付け替えたことが第1の特別背任、サウジの知人に送金したことが第2の特別背任だというのが検察の主張のようだ。しかし、報道によって明らかになった事実を総合すれば、二つの事実について特別背任罪で起訴しても、有罪判決を得ることは極めて困難だと考えられる。検察は、ここでも日産秘書室長との司法取引を使おうと考えているのかもしれないが、そうなると、「日本版司法取引」の制度自体の重大な問題が顕在化することになる。第1については、新生銀行側が担保不足への対応を求めたのに対して、ゴーン氏側が、「日産への一時的な付け替え」で対応することを提案し、新生銀行がこれに応じたが、証券取引等監視委員会による銀行への検査で、新生銀行が違法の疑いを指摘されて、新生銀行側が日産に対して再度対応を求め、それが日産社内でも問題となり、結局、短期間で「付け替え」は解消され、日産側には損失は発生していないようだ。それを、「会社に財産上の損害を発生させた」特別背任罪ととらえるのは無理がある。確かに、その時点で計算上損失となっている取引を日産に付け替えたのだとすれば、その時点だけを見れば、「損失」と言えなくもない。しかし、少なくとも、その取引の決済期限が来て、損益が確定するまでは、損失は「評価損」にとどまり、現実には発生しない。不正融資の背任事件の場合、融資した段階で「財産上の損失」があったとされるが、それは、その時点で資金の移動があるからであり「評価損」の問題とは異なる。ゴーン氏側が、「計算上損失となった取引を、一時的に、日産名義で預かってもらっていただけで、決済期限までに円高が反転して損失は解消されなければ、自己名義に移すつもりだった」と弁解した場合、実際に、損失を発生させることなくゴーン氏側に契約上の権利が戻っている以上、「損害を発生させる認識」を立証することも困難だ。第2については、サウジアラビア人の会社への支出は、当時CEOだったゴーン氏の裁量で支出できる「CEO(最高経営責任者)リザーブ(積立金)」から行われたもので、ゴーン氏は、その目的について、「投資に関する王族へのロビー活動や、現地の有力販売店との長期にわたるトラブル解決などで全般的に日産のために尽力してくれたことへの報酬だった」と供述しているとのことだ。実際に、そのような「ロビー活動」や「トラブル解決」などが行われたのかどうかを、サウジアラビア人側の証言で明らかにしなければ、その支出がゴーン氏の任務に反したものであることの立証は困難であり(「販促費」の名目で支出されていたということだが、ゴーン氏の裁量で支出できたのであれば、名目は問題にはならない)、そのサウジアラビア人の証言が得られる目途が立たない限り、特別背任は立件できないとの判断が常識的であろう。検察は、サウジアラビア人の聴取を行える目途が立たないことから、特別背任の立件は困難と判断していたと考えられる。サウジアラビア人の証言に代えて、検察との司法取引に応じている秘書室長が、「支出の目的は、信用保証をしてくれたことの見返りであり、正当な支出ではなかった」と供述していることで、ゴーン氏の弁解を排斥できると判断して、特別背任での再逮捕に踏み切ったのかもしれない。しかし、そこには、「司法取引供述の虚偽供述の疑い」という重大な問題がある。この秘書室長は、ゴーン氏の「退任後の報酬の支払」に関する覚書の作成を行っており、今回の事件では、それが有価証券報告書の虚偽記載という犯罪に該当することを前提に、検察との司法取引に応じ、自らの刑事責任を減免してもらう見返りに検察捜査に全面的に供述している人間だ。そのような供述には、「共犯者の引き込み」の虚偽供述の疑いがある。そのため、信用性を慎重に判断し、十分な裏付けが得られた場合でなければ、証拠として使えないということは、法務省が、刑訴法改正の国会審議の場でも繰り返し強調してきたことだ。「覚書」という客観証拠もあり、外形的事実にはほとんど争いがない「退任後の報酬の支払」に関する供述の方は、有価証券報告書への記載義務があるか否かとか、「重要な事項」に当たるのか否かなど法律上の問題があるだけで、供述の信用性には問題がない。しかし、秘書室長の「サウジアラビア人の会社への支出」の目的についての供述は、それとは大きく異なる。ゴーン氏の説明と完全に相反しているので、供述の信用性が重大な問題となる。その点に関して致命的なのは、この支払については、日産側は社内調査で全く把握しておらず、「退任後の報酬の支払」の覚書について供述した秘書室長が、この支出の問題については、社内調査に対して何一つ話していないことだ(上記朝日記事でも、「再逮捕は検察独自の捜査によるもので、社内調査が捜査に貢献するという思惑通りにはなっていない」としている。)。秘書室長は、検察と司法取引する前提で、社内調査にも全面的に協力したはずであり、もし、このサウジアラビア人に対する支出が特別背任に当たる違法行為だと考えていたのであれば、なぜ社内調査に対してそれを言わなかったのか。「その点は隠したかった」というのも考えにくい。この支出が特別背任に当たり、秘書室長がその共犯の刑事責任を負う可能性があるとしても、既に7年の公訴時効が完成しており、刑事責任を問われる余地はないからである(ゴーン氏については海外渡航期間の関係で時効が停止していて、未完成だとしても、その時効停止の効果は、共犯者には及ばない)。結局、秘書室長の供述の信用性には重大な問題があり、ゴーン氏の説明・弁解を覆して「サウジアラビア人への支出」が不当な目的であったと立証するのは極めて困難だと言わざるを得ない。以上のとおり、第1、第2について、ゴーン氏を特別背任で起訴しても、有罪に持ち込むことは極めて困難だと考えられる。勾留延長請求却下を受けて急遽、ゴーン氏を再逮捕した検察の、年末年始をはさんだ捜査には、多大な困難が予想される。(以下略)

*7-2-5:https://www.topics.or.jp/articles/-/162254 (徳島新聞社説 2019年2月14日) 松橋事件無罪へ 冤罪を防ぐ法整備急げ
 冤罪を巡るさまざまな問題が、司法と立法府に改めて厳しく突きつけられた。熊本県松橋町(現宇城市)で男性が刺殺された松橋事件で、殺人罪などに問われ服役した宮田浩喜さん(85)の再審初公判が熊本地裁で即日結審し、来月の判決で無罪になることが確実となった。なぜ宮田さんは殺人犯にされたのか。どうして、名誉回復まで何十年もかかったのか。しっかりと検証し、悲劇を繰り返さない対策を進めなければならない。事件は1985年に起きた。男性の将棋仲間だった宮田さんが、警察に任意で12日間連続で取り調べられ自供、逮捕された。否認し続けたものの「うそ発見器で陽性反応が出た」と告げられ、「自白」してしまったという。長時間の過酷な取り調べで疲弊させ、精神的に追い詰める。行き過ぎた自白偏重捜査の典型と言えよう。物証はほぼなく、この自白が唯一の証拠となった。宮田さんは一審で全面否認に転じ、必死に無実を訴えたが、聞き入れられなかった。90年に最高裁で懲役13年が確定、99年の仮出所まで服役した。自白の信頼性が揺らいだのは、判決確定から7年も後だった。再審請求に際し、弁護団が検察に開示を求めた証拠の中から、あるはずのないシャツ片が見つかったのだ。自白では「シャツから左袖を切って、凶器の小刀に巻き、犯行後に燃やした」とされていた。その左袖である。弁護団は、小刀と傷の形状が一致しないとする法医学者の鑑定書も加え、2012年に再審を請求。16年に熊本地裁が再審開始を決め、昨年10月に最高裁で確定した。不都合な証拠を検察が隠していなければ、有罪判決は変わっていた可能性がある。証拠開示については、16年の改正刑事訴訟法施行で、被告側への一覧表交付が検察に義務付けられた。しかし、それではまだ十分とは言えまい。やはり全面開示が原則だろう。一覧表の交付義務が通常の裁判に限られているのも問題だ。今回のように、再審請求の段階で「新証拠」が発見される例は少なくない。裁判官の判断に委ねている現状を改め、開示手続きの明確なルール作りを急ぐ必要がある。高齢の宮田さんは、認知症で寝たきりの状態になっているという。「生きているうちに無罪を」との願いはかないそうだが、再審請求から約7年、地裁の再審開始決定からでも2年半以上になる。明らかな新証拠が見つかったのに、検察が有罪立証に固執し、抗告を重ねたためだ。無用な引き延ばしを防ぎ、早期に名誉回復を図るには、少なくとも再審開始決定に対する検察の抗告権を制限すべきである。捜査当局はもちろん、虚偽の自白を見抜けなかった裁判所も、事件を教訓にしなければならない。法を整備する国会も対応が問われている。

| 日本国憲法::2016.6~2019.3 | 12:05 PM | comments (x) | trackback (x) |
2018.8.14 日本は人権を大切にしない国である ← データの売買・利用に関する意識から (2018年8月15、16、17、18、20日に追加あり)
  
                               上 政治経済塾
              (http://www.seijikeizaijuku.com/kihontekijinken.html)

(図の説明:日本国憲法は、一番左の図のように、「国民主権」「基本的人権の尊重」「平和主義」の3本柱から成る。そのうち「基本的人権の尊重」は「自由権」を含み、監視社会は「自由権」を奪うものだ。また、「国民主権」は国民が選挙で為政者を選ぶことだが、これが有効に機能するためにはメディアの質の高い分析と先入観や偏見のない真実の報道が必要だ。さらに、「介護は節約しさえすればよい」という主張は、基本的人権の中の生存権を脅かしている)

(1)経産省による個人情報及び個人データの利用推進はおかしい
1)個人のデータは個人のものである
 経産省は、データの活用は企業の競争力を左右するとして、*1-1のように、補助金などの新制度を設け、企業間の産業データ共有を支援する制度を始めるそうだ。そして、これを受け、日本の産業界では企業の枠を超えてデータの活用が広がり、セブン&アイ、NTTドコモ、東急電鉄、三井物産、三井住友フィナンシャルグループなど10社が、2018年6月からビッグデータの共同利用をするとのことである。

 しかし、個人のデータは個人情報であって、本人が予定していない企業に勝手に提供されては迷惑である。何故なら、ビッグデータやAIを使ったデータ分析と呼んで見ても、*1-3のように、匿名性に関しては何が起こるかわからない上、予定外の第三者に勝手に個人データを使用されるなど、とんでもない話だからだ。

 また、マーケティングのためなら、各社がそれぞれの会社に有用なデータを集めればすむため、「ビッグデータを共有しなければならない」「経産省が補助金をつけて推進している」というのは、国民を管理する別の目的があるように見える。

2)「データ売買取引所」を設けるとは!
 そのような中、博報堂ホールディングスは、*1-2のように、2019年度、企業が持つ商品の販売データなどを売買する「取引所」事業に参入するそうだ。また、日立・オムロンはセンサーデータなどを流通させる環境を官民連携で整えて、安全を確保したデータ流通基盤を米欧に先行して整えるとのことだが、これは、日本が「米欧に先行している」のではなく、「米欧に比べて人権意識が低い」ことの証明である。

3)個人情報の第三者への提供は、政府に届け出れば問題がないわけではない
 また、ベネッセコーポレーションの個人情報流出事件で犯人が不正取得したデータを名簿業者に売却し他の名簿業者を通じて拡散した対策としては、*1-3のように、本人が拒否した場合のみ第三者に提供しない「オプトアウト方式」でデータを提供する業者には政府の個人情報保護委員会への届け出を義務付けたそうだが、第三者に提供してよいか否かは、政府に届け出ればよいのではなく、すべて本人に確認するのが筋である。

 何故なら、病歴・犯罪歴等の開示は差別を助長するだけでなく、しつこい営業もはなはだ迷惑であり、いずれもプライバシーの侵害だからである。

(2)EUのデータ規制が正常である
 EUは、*2-1のように、名前・住所・メールアドレス・IPアドレス・ネットの閲覧履歴・GPSによる位置情報・顔画像・指紋認証・遺伝子情報等を規制対象にしており、これらを対象にしていない日本の規制が甘すぎて、人権侵害になっているのだ。

 そこで、EUは、*2-2のように、企業が欧州市民の情報を保管するにあたっては、プライバシー保護の水準が十分でない国のサーバーへの保管を禁じている。私は、日本も日本企業の海外赴任の従業員情報なら移転してよいなどとするように交渉するのではなく、日本国民にもEU並みのプライバシー保護規則を導入すべきだと考える。

(3)医療・介護の個人情報共有(?!)
 このような中、3-1、*3-2のように、本人の了承なく治療・服薬履歴・介護サービスの利用実績などの医療・介護にかかわる個人情報を全国の関係者が共有できる仕組みを政府が作るとしたのには驚いた。医療・介護は、セカンド・オピニオンを得るために患者が別の病院を受診することもあり、これは先入観の入らない診断が独立的に行われて初めて機能するため、医療・介護にかかわる個人情報を全国の関係者が共有すると機能しなくなる。

 また、電子カルテの普及はよいが、患者に関する情報は患者のものであり、医療費を減らす目的などで本人の了承なく勝手に他者に受け渡しすることは、著しい個人情報の侵害・プライバシーの侵害である。そのため、患者が必要とする時のみ、患者が電子カルテのコピーデータを別の病院に持参できるようにすべきだ。

 さらに、科学的な観点から効率的に医療・介護サービスを提供するには、役所の都合で医療・介護の重要な要素である守秘義務を廃するのではなく、それぞれの専門家が綿密な計画を立ててから調査するのが有効だ。

(4)メディア報道の質について
 このようなことが議論されている最中、TVは殺人・犯罪・スポーツ・天気の話ばかりだったが、日本の民主主義は、既に「依らしむべし、知らしむべからず」という時代を終えている。

 そのため、メディアは、主権者に対して正確に分析された質の高い真実の情報を提供することによって、本物の民主主義を実現させなければならない。

<経産省の個人情報データ利用推進>
*1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180601&ng=DGKKZO31239970R00C18A6MM8000 (日経新聞 2018年6月1日) データ共有で競争力 セブンなど10社、経産省も補助金など新制度
 日本の産業界で企業の枠を超えたデータ活用が広がる。セブン&アイ・ホールディングス(HD)やNTTドコモなど10社は6月から、ビッグデータ(総合2面きょうのことば)の共同活用に乗り出す。これとは別に経済産業省は企業間の産業データ共有を支援する制度を始める。人工知能(AI)の進化を受け、データの活用法は企業の競争力を左右する。「データ資源」を求め企業が手を組む動きが加速する。セブン&アイとドコモのほか、東京急行電鉄や三井物産、三井住友フィナンシャルグループなど異業種の10社がビッグデータ活用で協力する。1日、研究組織「セブン&アイ・データラボ」を発足。データ共有の手法や事業化の検討を進める。セブン&アイは1日約2300万人分の消費データを得ている一方、ドコモは約7600万件の携帯利用者を抱える。各社はデータを共有することで情報量を増やし、AIを使ったデータ分析の精度向上や、以前は得られなかった解析結果の取得につなげる。例えばセブン&アイの消費データとドコモの携帯電話の位置情報を掛け合わせる。日常の買い物が不便な地域を割り出し、ネットスーパーの展開に役立てることができる。人の動きや嗜好を組み合わせれば、魅力的な街づくりや効果的な出店計画なども可能になる。まずセブン&アイと他社が1対1でデータを共有し分析結果を参加企業で共有。全社のデータを一元的に活用する仕組みを検討するほか、10社以外にも参加を呼びかける。データは個人を特定できない形に加工し、プライバシーを保護する。一方、経産省は製造ノウハウなど産業データの共有を支援する制度を始める。参画する企業に補助金を出すほか、6月にも施行する生産性向上特別措置法をもとに減税措置を取る。日本郵船、商船三井などはこの制度を活用し、船舶の運航データを共有。気象条件によってエンジンがどのように動くのかなどのデータを共有し、省エネ船や自動運航船の開発につなげる。JXTGエネルギーや出光興産など石油元売り大手も、製油所の配管の腐食データなどを共有し、効率的な保守点検を目指す。各社は競合関係にあるが、データの一部を共有することで無駄をなくし、個別の注力分野に人材や資金など経営資源を集中的に投下する。ドイツでは工場にあるロボットの稼働状況を企業間で共有して効率化を図るなど、データを活用した生産改革の動きが広がる。日本は現場での擦り合わせに強みを持つ一方、企業の枠を超えたデータ共有による生産性の向上は遅れていた。これまでは技術力やブランド力が企業の価値の中核を占めた。経済のデジタル化が進むなか、企業の価値にデータ資源が加わる。今後、データ獲得へ向け企業の合従連衡が進む可能性がある。公正取引委員会は2017年6月に独占禁止法の適用指針を公表。データの集積や利活用は競争を促す一方、寡占により競争が損なわれる場合は独禁法による規制が考えられるとした。産業全体でデータを活用し価値を生むための仕組み作りが必要になる。

*1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180525&ng=DGKKZO30923060U8A520C1TJ2000 (日経新聞 2018年5月25日) データ売買に「取引所」 博報堂DYが参入、安全な基盤整備、利用促す
 企業が持つ様々なデータを相互利用し、新サービス創出などにつなげようとする試みが広がってきた。博報堂DYホールディングスは2019年度に、企業が持つ商品の販売データなどを売買する「取引所」事業に参入する。日立製作所やオムロンはセンサーデータなどを流通させる環境を官民連携で整える。個人情報の流出が問題となる中、安全を確保したデータ流通基盤を米欧に先行して整える。博報堂DYは8月にも、データ取引所事業の実証実験を始める。カード会社や小売企業が参加し、自社のデータを売ったり、他社のデータを買ったりする。企業は購入したデータを基に消費者像をより具体的に絞り込み、効果的な広告配信や商品開発につなげられる。例えば、自動車の販売会社が近隣のホームセンターの販売データを入手できれば、キャンプ関連商品の販売が増えている場合に、キャンプで使いやすい多目的スポーツ車(SUV)の品ぞろえを増やすなどの販売戦略を立てることができる。データの販売価格や受け渡し方法などを検証し、19年度から本格展開する。博報堂DYはデータ活用支援など周辺サービスの需要を開拓する。海外企業からデータを集めるなど取引所事業の海外展開も視野に入れる。企業が保有するデータ量は、あらゆるものがネットにつながるIoTなどの普及で大幅に増えている。各社が持つ様々なデータを互いに利用できれば、新たな製品やサービスの迅速な開発につなげられる可能性が高く、企業間でデータを取引できる仕組みやルールの整備が急務になっている。日立製作所やオムロン、ソフトバンクなど100以上の企業と団体でつくるデータ流通推進協議会は、企業やデータ取引会社の枠を超え、横断的にデータ検索・取引ができる方法の検討に着手した。経済産業省などとも連携し、検索しやすいようデータの形式を整えたり、信頼できる取引参加者の認定をしたりする。ヤフーも検索など同社のサービスで蓄積したデータを、企業や行政のデータと組み合わせ、新商品開発などにつなげる取り組みを始めた。日産自動車やサッカーJリーグ、神戸市など十数の企業・団体が参加する。米フェイスブックの個人情報流出が問題となり、欧州連合(EU)も25日、新たな個人情報保護ルール「一般データ保護規則」(GDPR)を施行するなど、データ管理に求められる安全性のハードルは高まっている。博報堂DYは個人情報を数十~数百件ごとにまとめて統計処理してつくった仮想の個人データを取引所で提供することで、個人を特定できないようにする。仮想データは元のデータと統計的に同じように活用できる一方、仮想データはGDPRの規制の対象外となるという。データ流通推進協議会もGDPRやEU域内でのデータ流通に関する有識者研究会を設け、対応を進める。交流サイト(SNS)など個人の情報流通基盤では米欧が先行したが、企業が持つIoTや販売データの流通基盤は米欧でも固まっていないという。日本勢は企業のビッグデータが安全に流通する仕組みを早期に整え、主導権を狙う。

*1-3:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO15317100U7A410C1TCJ000/ (日経新聞 2017/4/17) 〈情報を極める〉個人情報保護法(2) 第三者への提供、ルール厳格に
 5月30日に全面施行される改正個人情報保護法では、企業などが保有する個人データを第三者に提供する際のルールが厳格になった。2014年に発覚したベネッセコーポレーションの個人情報流出事件で、犯人が不正取得したデータを名簿業者に売却し、他の名簿業者を通じて拡散したことなどがきっかけだ。名簿業者を意識した対策の1つめとして、本人が拒否した場合のみ第三者に提供しない「オプトアウト方式」でデータを提供する業者には、政府の個人情報保護委員会への届け出を義務付けた。個人データを第三者に提供するには原則として本人同意が必要であり、オプトアウト方式は名簿業者が多用するためだ。加えて、病歴や犯罪歴など特に慎重に扱うべき「要配慮個人情報」は、本人の同意なしには第三者に提供できないこととした。対策の2つめとして、個人データを第三者とやり取りした業者には、新たに記録の作成と保存の義務を課した。データを提供する場合は第三者の社名や氏名、情報の項目など、提供を受ける場合は第三者の社名や氏名、相手側がそのデータを取得した経緯などを記録し、原則3年間保存しなければならない。不正な利益を得るために個人情報データベースなどを盗用・提供した者には1年以下の懲役または50万円以下の罰金を科す。外国にある第三者に個人情報を提供する場合も厳しく規制する。合併、委託、共同利用も対象となる。提供できるのは、現時点では「あらかじめ外国にある第三者への提供を認める本人の同意を得る」か「外国にある第三者が個人情報保護委員会の規則で定める基準に適合する情報保護体制を整備する」場合だ。この国外移転規制は海外のコールセンターを活用する企業などで要注意となる。個人情報保護に詳しい上村哲史弁護士は「データの国外移転を実施・検討する企業は今、海外のグループ会社や拠点先の保護体制を担保するための内規や契約を策定中だ」と指摘する。

<EUのデータ規制>
*2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180525&ng=DGKKZO30946670V20C18A5TJ2000 (日経新聞 2018年5月25日) よくわかるEUデータ規制(1)企業はまず何から? 所有情報の棚卸し重要
 欧州連合(EU)は25日、個人情報保護の新ルール「一般データ保護規則(GDPR)」を施行する。日本より厳しいルールのポイントについて4回にわたり考える。1回目は企業が何をすべきかを取り上げる。規制の対象となる情報は名前や住所、メールアドレスだけではない。インターネットの住所を指すIPアドレス、「クッキー」と呼ぶネットの閲覧履歴、スマートフォンの全地球測位システムによる位置情報も入る。顔画像や指紋認証、遺伝子の情報も対象になる。企業は対策を取る上で、EUに住む人の個人情報について「社内にどんな種類の情報を、どれだけ持っているか調べる必要がある」(PwCコンサルティングの松浦大マネージャー)。ビジネスに個人情報をどう使っているか把握することも重要だ。こうした所有情報の棚卸し作業をデータマッピングと呼ぶ。EUの現地法人や日本の本社はもちろん、各国にある拠点で調べることが欠かせない。企業は棚卸ししたデータをもとに、消費者から情報の利用目的について同意を得なければならない。例えば日本に本社のある企業のフランス現地法人で働くAさん。商品を店舗やネットで販売する際、消費者に記入してもらう情報を巡って「こういう目的で利用してよいですか」と聞き、同意を取る必要がある。一方、社内では安全に管理する仕組みを整える。暗号化などでセキュリティ水準を高めたり、情報を扱える人を限定したりする。情報漏洩が発覚した際にはEU当局に72時間以内に通知する体制も求められている。日本の個人情報保護法にも報告義務はあるが、制限時間は決めていない。GDPRの規則を守るための責任者として、大企業などは「データ保護オフィサー」の設置が義務付けられている。EUは規則違反に高い制裁金を科す。最大で世界での年間売上高の4%か2千万ユーロ(約26億円)の高い方を科される。日本IBMで企業に助言している中山裕之氏は「これほど高い罰金の設定は他国にない」と話す。

*2-2:https://jp.reuters.com/article/eu-data-japan-idJPKBN1K800B (ロイター 2018年7月18日) EUと日本、個人データ相互移転で最終合意 年内実施へ
 日本と欧州連合(EU)は17日、日本とEU間で企業による個人データの円滑な移転を認めることで最終合意した。これにより、7年に及んだデータ移転を巡る協議が終了。年内の実施に向け、欧州委員会と日本政府は今後、最終的な詰めの作業に入る。欧州委のヨウロバー委員(司法担当)は声明で、「データは世界経済の原動力であり、今回の合意により、EUと日本の間での安全なデータの移転が可能になり、双方の市民と経済に恩恵がもたらされる」と述べた。EUは厳格なデータ保護規則を導入し、企業が欧州市民の情報を保管するにあたって、プライバシー保護の水準が十分でない国のサーバーへの保管を禁じている。欧州委によると、今回の日欧合意により、欧州経済領域(EEA)から日本への個人データの移転が特段の手続きを経ることなく行えるようになる。企業が重視する越境データには、海外赴任の従業員情報やオンライン取引の完了に必要なクレジットカード情報、消費者のインターネットの閲覧傾向などが含まれる。17日には東京で日欧首脳会談が開催され、日欧経済連携協定(EPA)への署名が行われた。

<医療・介護の個人情報共有>
*3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180729&ng=DGKKZO33542830Y8A720C1MM8000 (日経新聞 2018年7月29日) 医療・介護の個人情報共有 全国の病院、適切処置で費用抑制
 政府は治療や服薬の履歴、介護サービスの利用実績など医療や介護にかかわる個人情報を全国の関係者が共有できる仕組みをつくる。今は地域ごとに管理しているデータベースを順次統合し、2020年度には全国の医療機関などが同じデータを利用する体制を目指す。データを適切な医療に役立てつつ、重複した投薬などを避けて医療費の抑制につなげる。今は270に分かれた地域ごとに医療の情報を共有する仕組みはあるが、この地域をまたぐとオンラインでの情報共有はできない。介護施設で受けたケアの内容や、会社で受ける健康診断の結果などもバラバラに保管され、医療データと結びつけられていない。データを連携できない理由の一つが、保存する形式がそれぞれ異なることにある。政府は20年度までにデータ統合の仕組みを整え、入退院や介護などの情報を既存のデータベースから政府が新たに整備する「健康・医療・介護情報基盤(仮称)」に移す。内閣官房や厚生労働省、総務省など関係府省で構成する「健康・医療・介護情報基盤検討タスクフォース(TF)」で、年内に具体的な方法を決める。医療や介護の個人別データベースは、国の支出の3分の1を占める社会保障費(18年度は約33兆円)の抑制に欠かせない。野村総合研究所は情報の共有が進めば、医療費を5千億円近く減らせると試算している。電子カルテの普及は日本が3割程度で、9割を超えるノルウェーやオランダなど欧米に劣っている。今年5月に施行された次世代医療基盤法では患者の同意があればデータを匿名加工して大学や製薬会社が研究に使えるようになっており、今後は診療情報のデータ整備が官民で進みそうだ。

*3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180812&ng=DGKKZO34080450R10C18A8MM8000 (日経新聞 2018年8月12日) 介護データ、厚労省が民間開放 サービス効率化へ知恵生かす
 厚生労働省は介護保険サービスの利用状況や利用者の状態などに関するデータを民間の研究機関などに開放する。膨大なデータを民間の知恵を生かして分析することで、介護サービスの効果的な提供の手法や効率化策などの発見につながる可能性があると判断した。9月末までに利用目的などの提案を募り、年内にも提供先の第1陣が決まる見通し。提供するのは要介護状態の区分や利用するサービスなどを記載した「介護レセプト」と、利用者の心身の状態を詳細に記載した「要介護認定データ」の2つ。現在は個人情報を匿名化した上で市町村などから厚労省に提供されており、計9億件のデータがある。いまは行政だけがデータを利用し、第三者への提供はしていない。医療では診療や検診のデータを大学や研究機関などに提供する取り組みが始まっており、介護でも求める声が出ていた。介護費は医療や年金を上回るペースで増加が見込まれており、より科学的な観点から効率的に介護サービスを提供する必要性が指摘されている。民間へのデータ開放によって要介護度の進行や介護サービスの有効性、地域差などの精緻な分析が進み、有効な対策が見いだされることを期待している。データを提供する際は、利用目的に公益性があるかどうかなどを有識者が審査し、その助言に基づいて厚労相が最終的に可否を決める。

<高齢者の人権と被介護者主体の介護サービスへの転換>
PS(2018年8月15日追加):*4には、「介護離職を本気で減らすため」と題して、①政府・企業は介護と仕事の両立に本気で取り組むべき ②両立に向けて社員が努力しやすい環境(短時間勤務制度など)を整えるべき ③業務が滞らないために介護に時間をとられやすい社員のカバー体制も必要 ④管理職は代わりに仕事をこなす人を日頃から決めておくべき ⑤介護サービスも利用しやすくしなくてはならないが、人手不足が深刻なので介護現場で働く人の収入を増やすべき ⑥介護保険外のサービスを事業者が柔軟に提供できるように、規制改革を推進すべき などが記載されている。
 このうち①②③④は、税金で運営されている役所や人手にゆとりのある大企業しか実現できず、生産性と報酬から考えて、介護に時間をとられやすい社員(女性が多い)と認定されれば、医学科の入試だけでなく就職や昇進でも不利な扱いを受けるものだ。しかし、この主張の根本的な問題は、「介護は愛のある家族ならできる」という発想があることで、実際には、介護はプロの知識と経験を要するものなのである。
 さらに、⑤は、「介護保険料は高いが介護サービスは足りない」現状で、どうやって介護現場で働く人の収入を増やすかの解決策が考えられていない。しかし、そもそも介護サービスは被介護者のために作ったものであり、条件のよい雇用を増やすために作ったものではないため、考え方の優先順位が違う。なお、私自身は、外国人労働者も含めた組織的介護(グループ介護)を行うことによって、限られた財源で、知識と経験のある熟練した介護者には十分な報酬を支払うことも可能になると考えている。
 ⑥については、被介護者になるとできなくなってしまう生活補助などのサービスも柔軟に行えるよう混合介護が認められるようにするのがよく、多くの人が満額を払ってでも使うサービスは、本当に必要とされるサービスなので、速やかに介護保険の対象にすることが必要だ。

*4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180814&ng=DGKKZO34118470T10C18A8EA1000 (日経新聞 2018年8月14日) 介護離職を本気で減らそう
 家族の介護のために仕事をやめる人が、依然として多い。働き盛りの社員の退職は、企業にとっても国民経済にとっても損失だ。経営者は介護離職防止を重要課題ととらえ、手を打つ必要がある。総務省の2017年の就業構造基本調査によると、過去1年間に介護や看護を理由に離職した人は9万9100人にのぼる。前回12年調査の10万1100人に比べ、ほぼ横ばいだ。政府は「介護離職ゼロ」を掲げているが、目標達成にはほど遠い。会社勤めなど雇用されて働きながら介護をしている人は299万9200人で、12年調査より59万9900人増えた。介護と仕事の両立に、政府も企業も本気で取り組まなければならない。企業の役割は、両立に向けて社員が努力しやすい環境を整えることだ。短時間勤務制度など柔軟に働ける仕組みが欠かせない。国の介護休業制度や企業独自の休暇制度などを社員が理解できるように、マニュアルをつくることも求められる。一定の年齢に達した社員を対象に、説明会を開催することも必要だろう。家族の介護をすることになった社員の心理的負担は大きい。これを軽減できるよう、企業は丁寧な情報提供に努めるべきだ。一方で、業務が滞らないよう、介護に時間をとられやすい社員のカバー体制も大切だ。管理職などについては一人ひとり、代わりに仕事をこなす人を日ごろから決めておくといいだろう。補完体制づくりが、本人が安心して介護に携われることにもつながる。介護サービスも利用しやすくしなくてはならない。ただ、介護の現場では人手不足が深刻だ。新しい在留資格を設けるなど、外国から人材を受け入れる間口を政府は広げているが、限界がある。介護現場で働く人の収入を増やすことで人手不足を和らげていくのが本筋だ。介護保険外の付加価値の高いサービスを事業者が柔軟に提供できるよう、規制改革を政府は強力に推進すべきだ。

<幼児教育・保育と子どもの人権>
PS(2018/8/16追加):*5の「3~5歳の子全員と保育所に通う0~2歳の住民税非課税世帯の子について、幼児教育と保育の費用を無償化する」というのは賛成だが、保育サービスについては1995年くらいから大きく問題にしている実需であるため、まだ量が足りないと言っている自治体は不作為だ。また、年少でも、やり直しのきかない体験を子どもにさせるため、質も重要であり、無認可保育所まで無償化の対象に加えるのは疑問だ。
 なお、せっかく子どもを預かるのなら、単に居場所を作るだけでなく、家庭ではできない教育(言語・音感・読み書き・計算・ダンス・食・自然と親しむ等々)をした方がよいので、小学校の入学年齢を3歳にし、余っている小学校のインフラを改修して使うのがよいと思われる。そうして保育を0~2歳児と学童保育に特化すれば、待機児童はなくなるだろう。

*5:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31009550W8A520C1MM0000/?n_cid=SPTMG022 (日経新聞 2018/5/26) 幼児教育・保育の無償化 19年10月から全面実施
 政府は2019年10月から幼児教育・保育の無償化を全面的に実施する方針を固めた。これまでは19年4月から5歳児のみを無償化し、20年度から全体に広げる予定だったが、半年前倒しする。19年10月に予定する消費税率10%への引き上げに合わせることで子育て世帯の暮らしに配慮する。幼稚園や認可保育所に加え、預かり保育などの認可外施設も対象にする。6月にまとめる経済財政運営の基本方針(骨太の方針)に盛り込む。教育無償化は昨年の衆院選で安倍晋三首相が公約に掲げていた。消費税増税による増収分の一部を財源に使う。幼稚園や保育所に通う3~5歳の全ての子どもと、保育所に通う0~2歳の住民税非課税世帯の子どもについて、利用料を無料にする。増税に伴う税収がすべて入るのは20年度。そのため、これまでは税収の確保に合わせて、19年4月と20年4月の2段階で無償化する予定だった。無償化を半年前倒しすると、19年度に2000億~3000億円程度の追加予算が必要になる可能性がある。税収による財源確保の前に歳出が膨らむため、財政に悪影響がでる。それでも政府が前倒しに踏み切るのは、14年4月に消費税率を8%に引き上げた際の経緯が背景にある。当時は増税に向けた駆け込み需要の反動で、増税後の半年間は消費が落ち込んだ。政府は19年10月の消費税率引き上げが景気に与える影響を少しでも抑えたい考え。増税に合わせて教育無償化を全面的に実施すれば、子育て世帯の暮らしを支援できる。増税への理解も広がると判断した。無償化の対象は預かり保育やベビーホテルといった認可外施設も含む方針だ。市区町村から保育が必要と認定された世帯であれば、施設の種類を問わず支援を受けられるようにする。ただ、認可外施設は原則として国や自治体が定める一定の基準を満たしたところに限る。5年間は経過措置として、基準を満たしていない場合も無償化対象に加える。認可外は施設によっては保育料が高額になるため、認可保育所の保育料の全国平均額を上限に支援する。

<人権とは関係ないが、お祭りの話>
PS(2018年8月16、17日追加):*6のように、「阿波踊り」の人出が1974年以降最少だったそうだが、徳島市を中心とする実行委員会が観覧席の入場料収入を増やそうと決定した「総踊りの中止」は、営業センスのない「阿呆」の発想だ。何故なら、「阿波踊り」が人を集める最大の魅力は、千人以上の上手な踊り手が1つの演舞場に集って踊る華やかさにあるからで、有料の演舞場に分かれて見なければならないのなら「祭」ではなくショーになる。そのため、徳島市がやった方がいいのは、唐津くんち(2015年にユネスコ無形文化遺産に登録)のように、ユネスコ無形文化遺産に登録してもらって国から継続のための少々の補助金をもらったり、ふるさと納税で「阿波踊り保存のための寄付金」を全国の徳島県人会から集めたりすることである。
 また、*7-1のように、2020年の東京五輪・パラリンピックを機にサマータイムを導入する話もあるが、暑さ対策なら「サマータイム」より開催時期を9月末頃の収穫と紅葉の時期に合わせた方が根本的な解決策になるし、ついでに観光して帰る外国人客も増えるだろう。
 一方、「サマータイム」を導入して時間を操作すると、現在の時間を前提として住宅を買い通勤している人の健康に悪い。そのため、*7-2のように、EUは廃止を検討しているのだ。日本の場合は、東西の距離が短く明石標準時を使っているため、「日の出」「日の入り」が速いと感じられるのは関東以東だけであり、西日本は時間と日照はずれていない。しかし、関東地方は通勤時間が長いため、始業時を早めると健康への悪影響がより大きいのである。

*6:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180816&ng=DGKKZO34211040W8A810C1CC0000 (日経新聞 2018年8月16日) 阿波おどり 人出最少に 徳島、「総踊り」巡る対立影響か
 15日に閉幕した徳島の夏の風物詩「阿波おどり」の人出が昨年より約15万人少ない約108万人で、記録が残る1974年以降、最少だったことが16日、徳島市への取材で分かった。有力踊り手団体が、市を中心とする実行委員会の中止決定に反して「総踊り」を強行するなど運営を巡る対立が影響した可能性があり、市は原因を検証する。昨年まで主催していた市観光協会が多額の累積赤字を抱えて破産。今年から、市主導でつくる実行委が新たな主催者となった。毎年8月12~15日に開催しており、市によると、雨天で一部の日程が開催できなかった年を除き、これまでの最少は2014年の約114万人だった。今年は雨が降った15日の人出が落ち込んだという。総踊りは期間中、毎晩のクライマックスとして千人以上の踊り手が1つの演舞場に集まって踊る演出で人気が高いが、実行委は複数の演舞場に踊り手と観客を分散させて観覧席の入場料収入を増やそうと中止を決定。14の踊り手グループでつくる「阿波おどり振興協会」がこれに反発し、13日夜、市の制止を振り切って総踊りを実施した。

*7-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO33528920X20C18A7CC1000/?n_cid=DSREA001 (日経新聞 2018/7/27) サマータイム導入 五輪組織委、暑さ対策で要望
 2020年東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長は27日、安倍晋三首相と首相官邸で面会し、暑さ対策のため、大会に合わせて全国一律で時間を早める「サマータイム」の導入を求めたことを明らかにした。安倍首相は「ひとつの解決策かもしれない」と応じたという。森会長は今夏の猛暑に「来年、再来年に今のような状況になっているとスポーツを進めるのは非常に難しい」と指摘。面会に同席した武藤敏郎事務総長は「国民の理解が得られてその後もサマータイムが続けば、東京大会のレガシー(遺産)となる」としている。観客や選手の暑さ対策は大会の大きな課題。組織委は屋外競技のスタート時間を早朝に前倒しするなどしたほか、競技会場ごとにテントや冷風機の設置を検討している。

*7-2:http://qbiz.jp/article/139321/1/ (西日本新聞 2018年8月17日) EUが夏時間廃止を検討 睡眠障害招く 省エネ効果薄く
 2020年東京五輪・パラリンピックの暑さ対策として、安倍晋三首相が時間を夏季だけ早めるサマータイム(夏時間)導入の可否を検討するよう自民党に指示する中、欧州連合(EU)は長年続ける夏時間の存廃の検討を本格化させている。標準時を年2回、1時間前後させることによる健康への悪影響や、想定されたほどの省エネ効果が得られないことなどが指摘されるためだ。EU欧州委員会は16日まで実施するパブリックコメント(意見公募)も参考に方針を決める。欧州委によると、欧州諸国の多くは夜間の明るい時間を増やして電力を節約することを主目的に、1970年代ごろまでに夏時間を採用した。EUが2000年代初頭に定めた法令では、3月下旬〜10月下旬に夏時間を一斉実施するとしている。交通事故防止や仕事後の余暇時間の拡大も重要な効果だ。しかし、欧州メディアによると、北欧フィンランドで昨年、夏時間廃止を求める7万人超の署名が議会に提出された。首都ヘルシンキは北緯60度に位置し、6月下旬の日没は午後10時50分。夏時間がなくても夜は明るい。フィンランド議会の委員会は専門家からの意見聴取も重ね、標準時を動かすことで睡眠障害を引き起こすなど夏時間は問題が大きいと結論付けた。同国政府はこれを受け、欧州委に対応を要求。リトアニアなど高緯度の加盟国も同様の声を上げ、EU欧州議会は今年2月、欧州委に存否の検討を求める決議を採択した。EUのブルツ欧州委員(運輸担当)は夏時間の採用が各国ばらばらになると、列車の運行など「運輸部門にかなり大きな問題が生じる」と訴える。欧州委は意見公募の参考資料として、「省エネ効果は薄い。地理的要因が左右する」「体内リズムへの悪影響はこれまで考えられていた以上に大きい可能性も」などと研究結果を紹介している。

<「表現の自由」はメディアだけにあるのではなく、人権に優先しないこと>
PS(2018年8月18日追加):*8-1のように、「ア)自由な報道は民主主義の存立基盤」「イ)近年、メディアに対する政治の敵視が目立つ」「ウ)『言論、出版、その他一切の表現の自由』が、憲法21条に定められている」「エ)どんな政権に対しても、メディアは沈黙してはならない」と書かれている。
 しかし、*8-3のように、日本国憲法は、「①すべての国民に基本的人権を認める」「②憲法が国民に保障する自由・権利は、国民の不断の努力によつて保持しなければならない」「③すべての国民は法の下に平等」「④すべて国民は、個人として尊重される」「⑤思想・良心の自由を侵してはならない」「⑥集会・結社・言論・出版その他一切の表現の自由を保障する」「⑦検閲をしてはならない」「⑧通信の秘密を侵してはならない」「⑨何人も職業選択の自由を有する」という立派な条文を持っており、「表現の自由」は、メディアに限らず国民すべてが平等に持っており、嘘や偏見に満ちた記事を書いて他人の人権を侵害してはならないのである。
 そして、メディアが行政の記者発表を報道しているだけで分析力や人権意識に欠けた記事を書いていたり、女性蔑視の価値観を表現していたり、変な印象付けをしたりして、正確な報道をしていない事例は枚挙にいとまがない。そのため、トランプ大統領が「フェイクニュースだ」と言っていることの一部に私は賛成で、米国民が選んだトランプ大統領の政策が正解かどうかは、メディアの評価ではなく歴史が証明するだろう。
 また、日本国憲法は、「検閲の禁止・通信の秘密」も明記しているが、*8-2のように、データを繋げさえすればよいという論調も多い。さらに、「グーグルなどのネット企業は競争法違反やプライバシー侵害といった批判を受けているが、業績は拡大している」というように、業績が拡大しさえすれば人権侵害をしても何をしてもよいという論調も多く、メディアが正しいことを言っているとは限らない。そのため、まずメディアの姿勢が問われるのである。

*8-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13640288.html (朝日新聞社説 2018年8月18日) 自由な報道 民主主義の存立基盤だ
 社会の中に「敵」をつくり、自分の支持層の歓心をかう。そんな分断の政治が招く破局は、世界史にしばしば現れる。近年、各地で政治による敵視が目立つのはメディアである。とりわけ民主主義の旗手を自任してきた米国の大統領が、「国民の敵」と公言した。明確にしておく。言論の自由は民主主義の基盤である。政権に都合の悪いことも含めて情報を集め、報じるメディアは民主社会を支える必須の存在だ。米国の多くの新聞や雑誌が、一斉に社説を掲げた。「ジャーナリストは敵ではない」(ボストン・グローブ紙)とし、政治的な立場や規模を問わず、結束を示した。その決意に敬意を表したい。報道への敵視や弾圧は広がっている。中国のような共産党一党体制の国だけでなく、フィリピンやトルコなど民主主義国家でも強権政治によるメディアの閉鎖が相次いでいる。そのうえ米国で自由が揺らげば、「世界の独裁者をより大胆にさせる」と、ニューヨークの組織「ジャーナリスト保護委員会」は懸念している。米国の多くの社説がよりどころとしているのは、米国憲法の修正第1条だ。建国後間もない18世紀に報道の自由をうたった条項は、今でも米社会で広く引用され、尊重されている。その原則は、日本でも保障されている。「言論、出版、その他一切の表現の自由」が、憲法21条に定められている。ところが他の国々と同様に、日本にも厳しい目が注がれている。国連の専門家は、特定秘密保護法の成立などを理由に「報道の独立性が重大な脅威に直面している」と警鐘を鳴らした。自民党による一部テレビ局に対する聴取が起きたのは記憶に新しい。近年相次いで発覚した財務省や防衛省による公文書の改ざんや隠蔽(いんぺい)は、都合の悪い事実を国民の目から遠ざけようとする公権力の体質の表れだ。光の当たらぬ事実や隠された歴史を掘り起こすとともに、人びとの声をすくい上げ、問題点を探る。そのジャーナリズムの営みなくして、国民の「知る権利」は完結しない。報道や論評自体ももちろん、批判や検証の対象である。報道への信頼を保つ責任はつねに、朝日新聞を含む世界のメディアが自覚せねばならない。「国民の本当の敵は、無知であり、権力の乱用であり、腐敗とウソである」(ミシガン州のデッドライン・デトロイト)。どんな政権に対しても、メディアは沈黙してはなるまい。

*8-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180816&ng=DGKKZO34198400V10C18A8EA1000 (日経新聞社説 2018年8月16日) データ社会3.0 世界と競える利用基盤をつくろう
 身の回りの情報機器や様々な機械が生み出すデータの量が急速に増えている。こうしたデータを活用する能力が社会や経済、産業の競争力を大きく左右する傾向が強まり、世界的な競争が激しくなってきた。日本もこの課題に真剣に取り組み、後れを取らないようにする必要がある。
●800億個がつながる
 データが急増するのは自動車や産業機械、医療機器といったあらゆるモノがネットにつながる「IoT」が普及するのが一因だ。米調査会社のIDCによると、2025年に世界のネットにつながるモノは800億個に増え、1年間に生まれるデータの量も10年前の約10倍に膨らむ。まず1990年代にパソコンが普及し、デジタルのデータが身近になった。次の変化はネットの普及だ。データを動かす速度が上がり、コストは大幅に下がった。IoTや人工知能(AI)といった技術革新は過去2回に続くデータ社会の大きな転換点となる。「データ社会3.0」ではあらゆる分野で競争の構図が大きく変わる可能性が高い。広告業界はいち早く変化に直面し、世界のネット広告費は今年、テレビなどを上回る見通しだ。世界最大の広告市場である米国ではデータを高度に利用したグーグルとフェイスブックの2社が合計で約6割のシェアを握った。グーグルなどのネット企業は競争法違反やプライバシー侵害といった批判を受けているが、業績は拡大している。ひとたびデータを集める基盤を押さえると、そこにより多くのデータが集まる。強者がますます強くなるというのが広告市場から学ぶべき教訓だ。今後、ネットにつながる多くのモノがデータを生み、広告以外の様々な市場でも、収集や分析、活用の基盤が必要になる。日本企業も世界に通用する基盤づくりを急ぐべきだ。まず重要なのは、多くの企業や利用者が使う開かれた基盤とすることだ。日本企業は以前、家電製品などで自社製品だけをつなぐ閉じた仕組みをつくり、利用者を十分に取り込めなかった。こうした反省を生かす必要がある。参考になるのは建機大手のコマツの事例だ。以前は自社の製品のみを対象としたデータ基盤を運営していたが、今年から他社にも開放した。利用企業はコマツ以外の建機からもデータを取り込み、外部企業がつくったソフトで業務の効率を高められる。コマツの大橋徹二社長は開かれた基盤により「人口減少やインフラの老朽化といった社会課題を解決する」と話す。多くの企業や利用者に参画してもらうには、明確な目標を示して共有することが前提となる。人材の確保も課題になる。資源開発や農業などのために超小型衛星から撮影した画像を販売するアクセルスペース(東京・中央)は社内にデータ活用の基盤を開発する部門を設け、イタリア人をトップに据えた。約15人の担当者の過半が海外出身だ。
●「課題先進国」を生かす
 日本は統計学を学ぶ学生が少ないなど、データを扱う人材が不足している。大学のカリキュラムの見直しや社会人の再教育などはもちろんだが、スピードを上げるために必要に応じて海外から優秀な人材を受け入れるべきだ。米国ではネット企業が新たな基盤をつくる動きをけん引する。欧州では産官学が連携し、自動車などの競争力が高い産業を基盤づくりに積極的に活用している。世界的な競争に勝つには、日本もその強みを利用する必要がある。画像データを活用した介護支援サービスを手がけるエクサウィザーズ(東京・港)は年内に中国と欧州に進出する。同社の石山洸社長は「超高齢化が進む日本はデータを集めやすい」と日本から世界を目指す理由を説明する。「課題先進国」としての強みを利用して技術力を高め、海外に広げていく手もある。政府は未来投資戦略などでデータの活用を進める方針を示している。重要なのは利用者の安心や安全を前提に、企業がデータを活用しやすい環境を整えることだ。障害となる規制の緩和などにスピード感をもって取り組む必要がある。規模の大小や国籍に関係なく、企業が公正に競争できるルールの整備も急ぐべきだ。

*8-3:http://www.houko.com/00/01/S21/000.HTM (日本国憲法抜粋)
第3章 国民の権利及び義務
第11条 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本
    的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。
第12条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持
    しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に
    公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。
第13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利
    については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を
    必要とする。
第14条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地に
    より、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
第19条 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。
第21条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
   2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
第22条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
   2 何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。

<ない責任を押し付けるのは人権侵害である>
PS(2018年8月20日追加):*9-1に、「既婚で子どもがいない女性の5割超が周囲の言葉で『肩身が狭い』と感じた経験を持つと書かれているが、「子どもは?」という言葉を繰り返すのはセクハラだ。私は既婚だが、仕事をとって子どもを持たない選択をし、この場合は、*9-2のような「ロールモデルになれない」という理由で不利な扱いを受けた。これは昇進における間接差別(形式的には差別していないが、無理な要件を課して実質的に差別することで、欧米では禁止)で、セクハラと同様、日本国憲法13、14、19条に違反する人権侵害である。
 また、*9-2の①仕事で成果を上げ ②結婚と出産を経験し ③育児と仕事を両立させ ④マネジャーに昇進した女性 は、家事や育児を他人に任せられる状態にあった人以外にはないと私は確信する。何故なら、②③は育児休業期間だけではなく1人の子どもに10年以上続くため、①④とは両立不可能だからだ。そして、「ロールモデル論でトクする人」とは、不作為によって実需である保育所を増やさず必要以上の少子化に至らしめた2000年代前半までの厚労省はじめ為政者で、「官のすることに間違いはない」という体裁にするために、「女性が頑張らなかったから少子化した」などという論理にしているのである。

*9-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180820&ng=DGKKZO34326930Z10C18A8CR8000 (日経新聞 2018年8月20日) 「子供なく肩身狭い」5割 30~40代前半の既婚女性、多様な生き方、理解必要 民間調査
 既婚で子供がいない30代~40代前半の女性の5割超が周囲の言葉などで「肩身が狭い」などと感じた経験を持つことが、明治安田生活福祉研究所(東京)の調査で分かった。同研究所は「既婚者は子供がいて当然とする考えがまだ社会にある」と指摘する。個々の家庭の事情への配慮や、多様な生き方への理解を広げることが求められている。調査は2018年3月、25~44歳の男女約1万2千人を対象に実施。結婚状況や子供の有無に応じて、出産や子育てに関する意識を調べた。調査対象のうち子供がいないと答えた人は6592人で、うち既婚者は2472人。「子供がいないことで肩身の狭い思いやハラスメントを感じているか」との問いに対し、「よく感じる」「感じることがある」と答えた既婚女性の割合は20代後半で41.1%、30代前半では51.7%。30代後半では66.7%、40代前半は66.0%に達し、およそ3人に2人が当てはまった。既婚男性は既婚女性に比べると低く、20代後半で24.9%、30代前半で32.4%。ただ、30代後半は40.5%、40代前半でも37.6%と、40歳前後の層は約4割が嫌な思いをしている。未婚者は男女とも既婚者に比べると低い傾向がみられ、40代前半女性で44.7%、同男性で27.6%だった。調査では、具体的にどのような周囲の言動、場面で肩身の狭い思いをしたかまでは尋ねていない。同研究所は「年齢が上がるにつれ、身内や知人からの『なんで子供ができないの』『子供はいつできる』などの問いに傷ついている人が増えるのではないか」と推測する。子供の有無を巡っては、自民党の杉田水脈衆院議員が性的少数者(LGBT)のカップルを念頭に「彼ら彼女らは子供を作らない、つまり『生産性』がない」などと月刊誌に寄稿。批判が集まり、同党は杉田議員を指導した。明治安田生活福祉研究所は「身体的な理由や経済的な事情などで子供ができなかったり、持たない選択をしたりした夫婦もいる。社会全体がそうした人々の生き方に配慮する必要がある」としている。

*9-2:https://diamond.jp/articles/-/175292 (DIAMOND 2018.8.2) 「ロールモデルがいないから女性は活躍できない」は本当か? 中原淳:立教大学 経営学部 教授

 女性活躍推進法が施行されて数年になるが、「女性活躍推進」という言葉にある種のモヤモヤを感じている人もいるはずだ。たとえば、「女性が活躍できないのは、ロールモデルがいないから」という言説はどこまで本当なのだろうか? 「7,400人への徹底リサーチ」と「人材開発の研究・理論」に基づいて、立教大学教授・中原淳氏らがまとめた最新刊『女性の視点で見直す人材育成――だれもが働きやすい「最高の職場」をつくる』から、一部を抜粋してお送りする。
●模範となる「完璧な女性」はどこにいるのか?
 女性が活躍できる状況をつくろうというとき、多くの人が真っ先に語るのが、ロールモデルとなる女性の存在です。女性活躍推進の旗を振る政府も「ロールモデル創出」を謳っていますし、メディアでもそれを前提とした報道が繰り返されています。じつは、そもそもこの言葉が何を意味しているのかもあまり明確ではないのですが、ほとんどの人が「ロールモデル」に相応しいと考えているのは、次のような複数の条件を満たす女性のことではないかと思います。
 条件1 仕事で成果を上げていて、
 条件2 結婚と出産も経験し、
 条件3 育児と仕事を両立させ、
 条件4 マネジャーに昇進した女性
 多くの企業は、程度の差こそあれ、4つの条件すべてを満たす女性をロールモデルとして掲げているように思います。こういう女性を企業が発掘し、高く掲げておけば、女性従業員たちは「私も彼女みたいになれるようにがんばろう!」とやる気になるはずだ―ごくごく大づかみではありますが、ロールモデル論はこういう考え方に支配されているように僕には思えます。しかし、このような複数の条件を満たす女性は、いったいどのくらいいるのでしょうか? また、このような女性像は、多くの女性が目指すべき「ロールモデル」として本当に機能するのでしょうか?あくまで単純化した議論ですが、それぞれの分岐における達成確率を50%とした場合でも、4条件すべてを達成できる可能性は6%ちょっとです。ひょっとすると、実際の達成確率は50%よりも低いかもしれません。そんなわずかな可能性に、僕たちは将来の希望を託すべきなのでしょうか? そのような女性が現れるのを待っているだけで、女性活躍は進むのでしょうか?もちろん、仕事で成果を上げて、結婚・出産を経験し、産休・育休の制度を使いながら仕事と育事を両立させ、管理職としてバリバリ働く女性が、会社にとって貴重であることは言うまでもありません。そのような女性たちの奮闘には、心から賞賛を贈りたくなります。しかし、多くの働く一般の方々にとって、こうした女性たちは、わずか6%の可能性でしかありません。一般の女性から見れば、会社が設定したロールモデルは、目指したくても到達できない「高嶺の花」のように受け取られないか、心配になります。
●ロールモデル論でじつはトクする人たち
 「でも、もしそんな優秀な先輩女性がいれば、それに越したことはないのでは?」と思う人もいるでしょう。そのとおりです。現にそういう女性はいるでしょうし、懸命に努力している女性や企業さんもたくさんあります。一方で、もう一つ指摘しておきたいことがあります。じつは、「女性にはロールモデルがいない」という前提そのものが、かなりあやしいのかもしれないということです。次のデータをご覧ください。ご覧のとおり、4人中3人(75.1%)の女性は「自分にはロールモデルがいる」と考えているようです。だとすると、「女性にはロールモデルがいない」「だから会社がなんとかすべきだ」という議論自体も、根拠は薄いのかもしれません。また、人事担当者のなかには、「女性陣に意識を変えてほしくて、社内で特別セミナーを開催した」という人もいるかもしれません。なんらかの女性活躍推進策を講じねばならないので、外部講師や専門家を招いて、女性社員向けのイベントを行うというケースもあるようです。しかし、こうしたイベント型の女性活躍推進もまた、ロールモデル論と本質的には同じです。ワンワードで申し上げれば、両者に共通するのは「個人の力」に頼る発想、「女性社員に手本や刺激を与えて、個々の女性に努力させていけば、女性が活躍する組織をつくれる」という考え方です。このイベント型施策には大きく2つの問題点があります。まず何よりも、それは、一過性のイベントであるがゆえに、継続性がないということです。「女性のみなさん、もっと自信を持っていいんです。自分らしく仕事をしましょう!」と励まされれば、誰だってその場では「明日からがんばるぞ!」とモティベーションが高まります。とはいえ、これはいわば「徹夜を覚悟したときに飲む栄養剤」のようなもので、たしかに一瞬元気になりますが、根本的な解決にはなりません。そして、もう1つの問題は多くの場合、こうした講演は「個人の経験談」にならざるを得ないということです。セミナーにしろ書籍にしろ、語り手のほとんどは、自ら活躍の道を切り開いてきたスーパーウーマン(=ロールモデル)です。彼女たちは、自分の経験をベースに、聴衆・読者に何が足りていないのかを延々と語ります。「私もかつてはみなさんと同じような普通の女性でした。しかし……」という具合です。しかし、その「個人の経験談」が、ほかの一般的な女性にもあてはまると考えるのは早計です。彼女が「活躍」できたのは、その奮闘が認められるような環境が、たまたまそこにあったおかげかもしれないからです。
●なぜ女性は「入社2年目」で昇進をあきらめるのか?
 ロールモデルもダメ、うまくいった個人の自分語りもダメ……そうだとすれば、何が現実を変えられるのでしょうか? そこで見ていただきたいのが、次のデータです。注目すべきポイントは2つです。まず、入社1年目の段階で管理職志向には大きな男女差があること。入社1年目の男性は94.1%が管理職を目指したいと考えているのに対し、女性でそう答えているのは64.7%。男女でじつに30ポイントほどの開きがあることになります。みなさんの実感と照らし合わせてみて、いかがでしょうか?しかし、より重要なのはもう1つの点です。2年目以降も継続して「管理職を目指したい」と考えている男性は、9ポイントほどしか減っていませんが(85.2%)、女性ではなんと20ポイント以上の減少が見られます(44.1%)。驚くべきことに、職場での日々の仕事をしていくなかで、入社2年目の段階にキャリア見通しを「下方修正」する女性がかなり多くいるというわけです。データ上にここまで大きな男女差が出ているとなると、女性のモティベーションを一気に低下させる「構造的要因」の存在が推測されます。これは、本人の努力や個人の資質だけに着目して女性の労働問題を語っていてはなかなか見えてこない「現実」です。個人がどれだけ成果を上げられるか、どこまで成長できるか、どんな価値観を持つかといったことは、本人の努力もあるのですが、彼女たちにどのような職場でどのような仕事を任せるかに大きく左右されます。予告的に言えば、女性活躍推進に最も必要なのは「(1)女性たちが働く職場づくり」と「(2)キャリアステージに応じた支援」なのです。だとすれば、みなさん(経営者・人事担当者・マネジャー、そして働く女性たち自身)がまずもって捨てなければならないのは、女性だけの努力に頼りきって女性の労働問題にアプローチしようとする発想です。僕たちは、女性をはじめとした「多様な働き方を求める人々」が、もっと働きやすくなるよう、自らの組織や職場のあり方を見直していく必要があるのです。
●なぜいま、「女性の働く」を科学するのか?
―著者・中原淳からのメッセージ
 このたび、『女性の視点で見直す人材育成―だれもが働きやすい「最高の職場」をつくる』という本をトーマツ イノベーションのみなさんと一緒に執筆させていただきました。この本の内容は、あえてアカデミックな言い方をすれば、「ジェンダー(文化的性差)の視点を取り入れた人材育成研究」ということになります。誤解しないでいただきたいのですが、同書は決して女性のためだけの本ではありませんし、ましてや男性のためだけの本でもありません。この本には 
 ・部下を持つリーダーやマネジャー
 ・社内の人材育成を担当する人事・研修担当者
 ・社員の採用・育成に責任を持つ経営者や経営幹部
の皆さんにぜひ知っていただきたい「これからの時代の人材育成のヒント」が凝縮されています。
●では、なぜ、わざわざジェンダーに着目して、企業内の人材育成を見直すのでしょうか?
 僕たちが働く職場では、日々、なんらかの機能不全が起こっています。こうした職場の機能不全は、順調にキャリアを積み上げている職場のマジョリティ(多数派)には、なかなか見えづらいものです。あるいは、これらの事実に気づいても、見えないふりをするかもしれません。一方、現代の職場では、育児・介護・ハンディキャップ・病気など、さまざまな事情を抱えながら働く人々――いわば職場のマイノリティ(少数派)が増えてきています。これから数十年のあいだに、おそらく「ダイバーシティ」のような言葉は、おおよそ「死語」になっていくでしょう。わざわざそんな言葉を使わずとも、おそらく職場は“そのようなもの”になっていくからです。しかし目下のところでは、組織が抱える問題のしわ寄せを真っ先に受けるのはいつも、そうしたマイノリティたちです。子育て中のワーキングマザー、家族の介護をしている人、病気を抱えつつ働いている人……彼らこそがまず、「職場の課題」に相対し、「うちの職場はココがおかしい!」と疑念を持ちはじめます。「さまざまな事情を抱えた人々が、やりがいを感じながら長く働き続け、かつ、幸せな人生を営むためには、何が必要なのか?」。これがいまの僕の、最も大きな関心事です。そして、それを考えていくうえでの「思考のファーストステップ」として、僕たちは、「ジェンダー(文化的性差)」の視点を選び取りました。誤解を恐れず言えば、男性中心文化がいまだ支配的な日本の職場において、女性には“最もメジャーなマイノリティ”としての側面があるからです。僕たちは信じています。今後、女性にすらやさしいチーム・職場・企業をつくれない人・組織は、ダイバーシティの荒波に直面したときに、まず間違いなく暗礁に乗り上げます。そうした職場は、魅力的な人材を採用することも、志溢れるプロジェクトを率いるリーダーを育成することも難しくなり、人手不足に苦しむことになるでしょう。未来の職場において結果を出し続けたいと願うマネジャー、優秀な社員に働き続けてほしい人事担当者・経営者……これらすべての人にとって、「女性視点での職場の見直し」は、今後の成否を大きく左右する試金石の一つとも言えます。ぜひ『女性の視点で見直す人材育成』を参考に、だれもが働きやすい「最高の職場」をつくっていただければと思います。
*中原 淳(なかはら・じゅん):立教大学経営学部 教授/同リーダーシップ研究所 副所長/立教大学BLP(ビジネスリーダーシッププログラム)主査/大阪大学博士(人間科学)
 1975年北海道旭川市生まれ。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院 人間科学研究科、メディア教育開発センター(現・放送大学)、米国マサチューセッツ工科大学、東京大学などを経て、2018年より現職。「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発、リーダーシップ開発について研究している。専門は経営学習論・人的資源開発論。妻はフルタイムで働くワーキングマザーで、2人の男の子(4歳と11歳 ※本書刊行時点)の父親でもある。 著書に今回発売となった『女性の視点で見直す人材育成』のほか、『企業内人材育成入門』『研修開発入門』『アルバイト・パート[採用・育成]入門』(以上、ダイヤモンド社)等多数。
*トーマツ イノベーション株式会社
 デロイト トーマツ グループの法人で2006年に設立。中堅中小ベンチャー企業を中心に、人材育成の総合的な支援を行うプロフェッショナルファーム。支援実績は累計1万社以上、研修の受講者数は累計200万人以上と業界トップクラス。定額制研修サービス「Biz CAMPUS Basic」、モバイルラーニングと反転学習を融合した「Mobile Knowledge」など、業界初の革新的な教育プログラムを次々と開発・提供している。著書に『女性の視点で見直す人材育成』『人材育成ハンドブック――いま知っておくべき100のテーマ』(ともにダイヤモンド社)がある。

| 日本国憲法::2016.6~2019.3 | 10:15 AM | comments (x) | trackback (x) |
2018.2.18 日本国憲法のその他の変更論点 - 地方自治・主権在民・1票の価値・教育の充実など
   
     日本の人口構造         2018.1.17日経新聞   2018.2.17
                                 西日本新聞    
(図の説明:1番左の図のように、日本の人口構造は高齢者の割合が増加している。そのため、定年を延長もしくは廃止して高齢者が働けるようにし、70歳超まで年金受給を遅らせることができる案が浮上している。また、外国人労働者は、国内の雇用を守るために現在は制限されているが、増やすことは容易であり、財・サービスの生産に役立つだろう)

    
             2018.2.2日経新聞(*2-2-1より)   
(図の説明:上の図のように、高齢者の割合が増え投票率も高齢者の方が高いため、高齢者の意見が通り易いという指摘があるが、高齢者は女性も含めた普通選挙を有難く思い、社会保障に頼る側になり政治の影響を大きく受けるようになったので、若者よりも積極的に投票するのである。それに対し、若者はこれから将来が開けるため、政治に関わっているよりも仕事に集中して自分の将来を拓く意欲が高く、住まいはまだ固定していないためその地域の議員とのなじみが薄い。そのため、若者の投票率が低いのは必然で、前からそういう傾向はあったのである)

(1)地方自治について
 昭和21年11月3日に公布され、昭和22年5月3日に施行された日本国憲法は、*1-1のように、地方自治を、第92条で「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める」としているのみである。

 そして、昭和22年4月17日に公布され何度も改正されてきた地方自治法は、*1-2のように、日本国憲法を受け、第一条で「この法律は、地方自治の本旨に基いて、地方公共団体の区分並びに地方公共団体の組織及び運営に関する事項の大綱を定め、国と地方公共団体との間の基本的関係を確立し、地方公共団体における民主的で能率的な行政の確保を図り、地方公共団体の健全な発達を保障することを目的とする」としている。

 従って、*1-3のように、「地方自治の本旨」は、地方自治法で明確にすればよく、それは既になされており、足りなければ地方自治法を改正すればよいだけだ。例えば、道州制にして徹底した地方分権を行いたいのなら、それは憲法を変更する問題ではなく、「地方自治体」の区割りと税源配分の問題である。確かに、地方自治の展開を妨げているのは日本国憲法ではなく、地方分権を骨抜きにして権力を維持してきた官僚だろうが、知事会・県議会は、どこまで分権しても(地方の)人材を含めて自立できるかを考慮し、うまくいく分権改革案を提出すべきだ。

(2)合区の解消について
 自民党の憲法改正推進本部は、*2-1-3のように、参院選の合区を解消するための憲法改正条文案を了承し、改選毎に各都道府県から1人以上選出できる内容を盛り込み、細田会長が「法の下の平等と地方自治重視のバランスをとるための改正だ」と説明されたそうだが、地方自治重視は、沖縄県のように県を挙げて米軍基地の縮小や撤去を要望し、総合開発に取り組もうとしている県を応援するのが早道だと考える。

 これに対し、朝日新聞は社説で、*2-1-4のように、法の下の平等をうたい、投票価値の平等を求める憲法第14条と矛盾し、国会議員を全国民の代表と定める憲法第43条とも相いれないと記載している。

 衆議院議員は、*2-1-1のように定数465人(小選挙区選出議員289人、比例代表選出議員176人)で、*2-1-2のように憲法第45条で「任期4年・解散あり」と定められている。また、参議院議員は、定数242人(選挙区選出議員146人、比例代表選出議員96人)で、憲法第46条により「任期6年・解散なし・3年毎に半数入れ替え」と定められている。

 そして、*2-1-2の憲法第47条は、「選挙区、投票方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律(公職選挙法のこと)で定める」としているため、選挙区、投票方法その他選挙に関する事項は、基本的には公職選挙法で決めればよく、憲法を変更する必要はない。

 また、憲法第43条に「両議院の議員の定数は、法律で定める」と書かれているため、一票の価値を同じにしながら合区を無くしたければ、合区を無くした後の人口に合わせて他地域の小選挙区選出議員を増やす選択肢もあり、これは公職選挙法を改正すればできる。この場合は、参議院の比例代表選出を減らすか無くすのが、議員数を多くしすぎない方法になる。

 しかし、衆議院も地域代表になりがちな小選挙区を地盤とする議員が60%以上いるため、国民が政党の政策に対して意思表示を行い、解散・総選挙を通じて示された国民の意思が選挙結果に正確に反映されるためには、衆議院議員は全員を比例代表にするくらいでなければ、衆参両院のチェック機能が働かない。そして、どのような選び方をしても、国会議員は、(精神的にはともかく)形式的には全国民を代表するため、憲法の変更は不要なのである。
 
(3)法の下の平等と1票の価値について
 日本国憲法第14条1項で「すべて国民は法の下に平等であつて、人種・信条・性別・社会的身分又は門地により、政治的・経済的又は社会的関係において差別されない」と定められており、1票の価値が人によって異なることがあってはならない。これについては、司法も同じ見解だ。

 しかし、*2-2-1のように、日経新聞などいくつかのメディアや“研究者”が、①高齢者の意見が反映されやすい「シルバー民主主義」になるのはよくない ②「頑張って保険料を納付してきたのに、年金を減らされることは認めない」と言う高齢者は冷静でない ③社会保障給付は医療・年金・介護が約9割を占め、若い世代ほど給付より負担が重い ④投票率は若者が低く、高齢者は高い ⑤大票田は高齢者で、子育て世代や結婚・出産を考える世代は存在感が薄いため、団塊世代が年をとるにつれ「高齢者の声」が大きくなる ⑥18歳未満やこれから生まれてくる世代の声を誰がどのように政治に反映するかが問題だ 等として、*2-2-2のように、「イ.余命に応じて投票権に重みをつけ、若い人の一票を高齢者の一票よりも重くする」「ロ.投票権を持たない未成年に投票権を与え、親が代わりに投票する」などと書いた記事もある。

 しかし、①⑥の見解は、*2-1-2の憲法第14条1項「すべて国民は法の下に平等であつて、人種・信条・性別・社会的身分又は門地により、政治的・経済的又は社会的関係において差別されない」に反する。また、②の高齢者の主張は事実であり、厚労省の杜撰な管理により働き手が多かった時代に必要な年金資産を積み立てられなかったことが問題なのであって、勝手に減らすのは契約違反であるとともに、生存権・財産権の侵害に当たる。

 さらに、③のうちの年金・医療については、1980年代に予想可能だったため、厚労省と社会保険庁は支払時の資産を準備しておくのが当然であったし、介護保険制度については2000年に施行されものであるため、多くの高齢者が支払っていないのは当然なのである。そのかわり、高齢者は、自分がやりたいことを二の次にして親と同居し、生活補助や介護をした人が多いが、若者はそちらの方がよいのだろうか?

 また、④の投票率は若者が低く高齢者は高い ⑤の大票田は高齢者 というのは事実だが、高齢者の現在のみを考えて政策を練る議員はおらず、私も票田に媚びるために政策を提唱したことはない。それより、*2-2-2のように、若者の投票率が低いから選挙で若者を特別扱いするなどという発想は、憲法第14条1項に反するとともに、政治に関心がないから投票に行かないような人が政治関連の情報を普段からキャッチして正しい選択をする筈がないため、わけのわかっていない浮動票が増えて、かえって選挙結果を狂わせると考える。

 なお、少子化による労働力の減少は、*3-1のように、定年を延長・廃止して年金開始年齢を70歳超でも選択可能にしたり、働きたい女性を差別なく雇用したり、*3-2のように、外国人労働者を積極的に雇用したりすることによって解決できる。そして、これらハングリー精神を持つ人材の方が、甘えきった日本の若者より役に立つのは既に経験済みなのだ。

<地方自治>
*1-1:http://www.cc.kyoto-su.ac.jp/~kazyoshi/constitution/jobun/chap08.html (日本国憲法 昭和21年11月3日公布、昭和22年5月3日施行 より抜粋)
第8章 地方自治
第92条(地方自治の基本原則)
 地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて法律でこれを定める。
第93条(地方公共団体の機関、その直接選挙) 1.地方公共団体には、法律の定めるところに
 より、その議事機関として議会を設置する。
 2.地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共
 団体の住民が、直接これを選挙する。
第94条(地方公共団体の権能)
 地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の
 範囲内で条例を制定することができる。
第95条(特別法の住民投票)
 一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体
 の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができ
 ない。

*1-2:http://www.houko.com/00/01/S22/067.HTM (地方自治法 昭和22年4月17日公布、改正平成28年6月7日最終改正・平28年11月30日施行)
第一編 総 則
第一条 この法律は、地方自治の本旨に基いて、地方公共団体の区分並びに地方公共団体の
 組織及び運営に関する事項の大綱を定め、併せて国と地方公共団体との間の基本的関係を
 確立することにより、地方公共団体における民主的にして能率的な行政の確保を図るととも
 に、地方公共団体の健全な発達を保障することを目的とする。
第一条の二 地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を
 自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする。《追加》平11法087
 2 国は、前項の規定の趣旨を達成するため、国においては国際社会における国家としての存
 立にかかわる事務、全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動若しくは地方自治に
 関する基本的な準則に関する事務又は全国的な規模で若しくは全国的な視点に立つて行わな
 ければならない施策及び事業の実施その他の国が本来果たすべき役割を重点的に担い、住民
 に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本として、地方公共団体との間で
 適切に役割を分担するとともに、地方公共団体に関する制度の策定及び施策の実施に当たつ
 て、地方公共団体の自主性及び自立性が十分に発揮されるようにしなければならない。
 《追加》平11法087
第一条の三 地方公共団体は、普通地方公共団体及び特別地方公共団体とする。
 2 普通地方公共団体は、都道府県及び市町村とする。
 3 特別地方公共団体は、特別区、地方公共団体の組合及び財産区とする。
 《改正》平23法035
第二条 地方公共団体は、法人とする。
 2 普通地方公共団体は、地域における事務及びその他の事務で法律又はこれに基づく政令に
 より処理することとされるものを処理する。《全改》平11法087《1項削除》平11法087
 3 市町村は、基礎的な地方公共団体として、第五項において都道府県が処理するものと
 されているものを除き、一般的に、前項の事務を処理するものとする。《改正》平23法035
 4 市町村は、前項の規定にかかわらず、次項に規定する事務のうち、その規模又は性質に
 おいて一般の市町村が処理することが適当でないと認められるものについては、当該市町村
 の規模及び能力に応じて、これを処理することができる。《全改》平23法035
 5 都道府県は、市町村を包括する広域の地方公共団体として、第二項の事務で、広域に
 わたるもの、市町村に関する連絡調整に関するもの及びその規模又は性質において一般の
 市町村が処理することが適当でないと認められるものを処理するものとする。
 《改正》平11法087
 6 都道府県及び市町村は、その事務を処理するに当つては、相互に競合しないように
 しなければならない。《3項削除》平11法087
 7 特別地方公共団体は、この法律の定めるところにより、その事務を処理する。
 8 この法律において「自治事務」とは、地方公共団体が処理する事務のうち、法定受託事務
 以外のものをいう。《追加》平11法087
 9 この法律において「法定受託事務」とは、次に掲げる事務をいう。
  一 法律又はこれに基づく政令により都道府県、市町村又は特別区が処理することとされる
 事務のうち、国が本来果たすべき役割に係るものであつて、国においてその適正な処理を
 特に確保する必要があるものとして法律又はこれに基づく政令に特に定めるもの
 (以下「第一号法定受託事務」という。)
  二 法律又はこれに基づく政令により市町村又は特別区が処理することとされる事務の
  うち、都道府県が本来果たすべき役割に係るものであつて、都道府県においてその適正な
  処理を特に確保する必要があるものとして法律又はこれに基づく政令に特に定めるもの
  (以下「第二号法定受託事務」という。)《追加》平11法087
 10 この法律又はこれに基づく政令に規定するもののほか、法律に定める法定受託事務は
 第一号法定受託事務にあつては別表第一の上欄に掲げる法律についてそれぞれ同表の
 下欄に、第二号法定受託事務にあつては別表第二の上欄に掲げる法律についてそれぞれ
 同表の下欄に掲げるとおりであり、政令に定める法定受託事務はこの法律に基づく政令に
 示すとおりである。《追加》平11法087
 11 地方公共団体に関する法令の規定は、地方自治の本旨に基づき、かつ、国と地方公共
 団体との適切な役割分担を踏まえたものでなければならない。《追加》平11法087
 12 地方公共団体に関する法令の規定は、地方自治の本旨に基づいて、かつ、国と地方公
 共団体との適切な役割分担を踏まえて、これを解釈し、及び運用するようにしなければならな
 い。この場合において、特別地方公共団体に関する法令の規定は、この法律に定める特別
 地方公共団体の特性にも照応するように、これを解釈し、及び運用しなければならない。
 《改正》平11法087
 13 法律又はこれに基づく政令により地方公共団体が処理することとされる事務が自治事務
 である場合においては、国は、地方公共団体が地域の特性に応じて当該事務を処理すること
 ができるよう特に配慮しなければならない。《追加》平11法087
 14 地方公共団体は、その事務を処理するに当つては、住民の福祉の増進に努めるとともに、
 最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。
 15 地方公共団体は、常にその組織及び運営の合理化に努めるとともに、他の地方公共団体
 に協力を求めてその規模の適正化を図らなければならない。
 16 地方公共団体は、法令に違反してその事務を処理してはならない。なお、市町村及び
 特別区は、当該都道府県の条例に違反してその事務を処理してはならない。
 17 前項の規定に違反して行つた地方公共団体の行為は、これを無効とする。 (以下略)

*1-3:http://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20180108/KT180106ETI090004000.php (信濃毎日新聞 2018年1月8日) 憲法の岐路 知事会改憲案 生煮えで示されても
 全国知事会の作業部会が独自の改憲草案を発表した。92条にうたわれている「地方自治の本旨」規定の中身を明確化するのが柱だ。〈地方公共団体の組織および運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律でこれを定める〉。92条である。本旨とは何かの説明はない。明治憲法に地方自治の規定はなかった。知事は政府が任命する官僚だった。憲法に「第8章地方自治」の項を設け、知事、市町村長や議会議員を公選制にしたのは戦後改革の柱の一つだった。それなのに肝心の部分が曖昧だ。徹底した分権型を目指したGHQ(連合国軍総司令部)と旧体制を維持したい日本側とのせめぎ合いの結果という見方がある。▽住民は国民主権の原則に基づき地方自治に参画する権利を持つ▽地方公共団体固有の権能は国政で尊重される▽国は地方自治に影響を及ぼす政策の企画、立案、実施に当たっては地方との協議の場を設けなければならない。草案にはこんな中身が盛り込まれている。本旨の意味はかなりはっきりしてくる。それでも、今度の案には問題が多い。理由は三つある。第一に、本旨の意味を明確化するには必ずしも憲法を変えなくても済むことだ。地方自治法を抜本改正する、あるいは地方自治基本法を制定して本旨の意味を盛り込む、といったやり方がある。その方が手っ取り早いし国民に理解されやすいだろう。第二は議論が生煮えなことだ。知事会が全国の知事47人を対象に行ったアンケートでは、8項目の改憲項目に対し「賛同する」と答えた知事はそれぞれ36〜21人にとどまった。「趣旨は分かるが幅広い議論が必要」といったコメントが多く寄せられている。そして第三に打ち出したタイミングだ。安倍晋三首相は今年中の改憲発議を目指している。国民の間には慎重論が根強い。そんな中での改憲案提示である。改憲を急ぐべきでないと考える人たちにとっては、知事会が首相を後押ししている、あるいは改憲の動きに便乗しようとしていると見えておかしくない。地方自治の豊かな展開を妨げているのは憲法なのか。そうではあるまい。政治家と官僚が分権を骨抜きにしてきた経緯がある。知事会が今やるべきは、国に要求して分権改革を再始動させることだ。

<主権在民と一票の価値>
*2-1-1:http://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/naruhodo/naruhodo03.html (総務省)選挙<抜粋>
1.衆議院議員総選挙
 総選挙とは、衆議院議員の全員を選ぶために行われる選挙のことです。小選挙区選挙と比例代表選挙が、同じ投票日に行われます。総選挙は、衆議院議員の任期満了(4年)によるものと、衆議院の解散によって行われるものの2つに分けられます。衆議院議員の定数は465人で、うち289人が小選挙区選出議員、176人が比例代表選出議員です。
2.参議院議員通常選挙
 参議院議員の半数を選ぶための選挙です。参議院に解散はありませんから、常に任期満了(6年)によるものだけです。ただし、参議院議員は3年ごとに半数が入れ替わるよう憲法で定められていますので、3年に1回、定数の半分を選ぶことになるのです。参議院議員の定数は242人で、うち96人が比例代表選出議員、146人が選挙区選出議員です。

*2-1-2:http://www.houko.com/00/01/S21/000.HTM#s4 (日本国憲法抜粋)
第14条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
 2 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
 3 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。
第15条 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
 2 すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
 3 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
 4 すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。
第4章 国 会
第41条 国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。
第42条 国会は、衆議院及び参議院の両議院でこれを構成する。
第43条 両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。
 2 両議院の議員の定数は、法律でこれを定める。
第44条 両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない。
第45条 衆議院議員の任期は、4年とする。但し、衆議院解散の場合には、その期間満了前に終了する。
第46条 参議院議員の任期は、6年とし、3年ごとに議員の半数を改選する。
第47条 選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。

*2-1-3:http://www.saga-s.co.jp/articles/-/182285 (佐賀新聞 2018.2.16) 自民、合区解消の改憲条文を了承、「都道府県に1人以上」
自民党の憲法改正推進本部(細田博之本部長)は16日午前、全体会合を党本部で開き、参院選「合区」解消に向けた条文案を了承した。参院選挙区に関し、改選ごとに各都道府県から1人以上選出できる内容を盛り込んだ。自民党が改憲を目指す4項目のうち具体案がまとまったのは初めてで、細田氏に今後の対応を一任した。公明党も今年初の憲法調査会全体会合を開催し、論議を本格化させた。細田氏は全体会合で条文案について「法の下の平等と地方自治重視のバランスをとる改正だ」と意義を説明した。

*2-1-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13363301.html (朝日新聞社説 2018年2月17日) 憲法70年 「合区」改憲、筋通らぬ
 参院選で二つの県を一つの選挙区にする「合区」の解消に向けた改憲条文素案が、きのう自民党の憲法改正推進本部で大筋了承された。鳥取・島根と徳島・高知の県境をまたぐ合区が導入されたのは、16年の参院選。「一票の格差」を是正するためだ。これに対し素案は、改選ごとに各都道府県から最低1人を選べるようにすることが柱だ。そのために、国政選挙制度の根拠となる47条に「改選ごとに各選挙区において少なくとも1人を選挙すべきもの」と明記する。人口減少が進むなか、合区が増えればいっそう置き去りにされかねない。危機感をもつ地方には歓迎されるかもしれない。しかし素案は、法の下の平等をうたい、投票価値の平等を求める14条と矛盾する。国会議員を「全国民の代表」と定める43条とも相いれない。参院は「地域代表」とし、衆院は人口比例を徹底した「国民代表」とする。自民党がもし、中長期的にそんな議論をしようというなら理解はできる。
だがそれには衆参の権限や役割分担、国と地方の関係も含む統治機構全体を見渡す議論が不可欠だ。憲法の他の条文との整合性をどう保つかといった論点にも、答えを出す必要がある。素案には、衆参両院の選挙区を「人口を基本とし、行政区画、地域的な一体性、地勢等を総合的に勘案して」定めることも盛り込まれた。昨年の衆院選で自民党が訴えたのは参院の合区解消であり、衆院については何の言及もなかった。あまりに唐突な提案だ。参院選の合区も、衆院小選挙区で市町村を分割する区割りが増えていることも、一票の格差を正すためである。それにブレーキをかけようとする今回の素案は、結局は、一票の格差が広がっても違憲性を問われないようにしたい――。そんな狙いが明らかだ。忘れてならないのは、2年前の参院選で合区を導入した改正公選法の付則である。19年の参院選に向けて選挙制度の「抜本的な見直し」を検討し、「必ず結論を得る」と明記した。抜本改革を怠った小手先の対応の末に、やっと合区にたどりついた実情を省みてのことだ。見直しの期限まで1年余。公明党を含め、他党の多くはこの件での改憲に否定的だ。おおがかりな統治機構改革の議論が今さら間に合うはずもない。非現実的な改憲ではなく、まずは憲法の下で可能な手だてを探る。それが与野党の、とりわけ政権与党の責任である。

*2-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180202&ng=DGKKZO26462770S8A200C1EAC000 (日経新聞 2018.2.2) 進むシルバー民主主義、投票者の4割、65歳以上
 国会議員はよく「国民や有権者の意見を聞く」と口にする。この「国民」「有権者」とは、どのような人をイメージしているのだろう。若者なのか、高齢者なのか。少子高齢化が続くなか、近年は高齢者の意見が反映されやすい「シルバー民主主義」という言葉が広がっている。国会議員を選ぶ票はどの世代が投じているのかを分析した。「頑張って保険料を納付してきたのに、年金を減らされることは認められない」。日本維新の会の足立康史幹事長代理は最近、こう言われて驚いた。相手は年配の支持者。普段は冷静な人だが、高齢の富裕層に年金抑制を求める政策案への意見を尋ねると、急に感情的になったからだ。社会保障給付はいま医療・年金・介護が約9割を占め、対象は主に高齢者。少子高齢化が進み、若い世代ほど給付より負担が重い。高齢者に給付の抑制や負担を求める案が現実的だが、当事者は受け入れがたい。選挙区を回る政治家はその空気を肌で感じる。いまは「シルバー民主主義」といわれている。高齢者の投票行動が大きな影響力を持つ2つの構造的な現象があるからだ。(1)急速な少子高齢化で、人口に占める高齢者の割合が高まっている(2)投票率は若者は低く、高齢者は高い――という要素だ。まず高齢者の割合だ。2017年10月時点の総務省の人口推計の概算値は1億2672万人。このうち65歳以上は27.7%。一方、20~30歳代は21.7%にとどまる。次に投票率をみてみよう。同省が昨年10月の衆院選で年齢別投票者数を抽出調査した結果をみると、投票率は年齢が上がるごとに高くなる傾向が顕著だ。5歳ごとの年齢階層別では、60~64歳から75~79歳までは全て7割を超える高水準だ。それが50歳代は6割台、40歳代は5割台、30歳代は4割台、20歳代は3割台と、きれいに下がっていく。2つの調査をもとに、実際に投票した有権者の数を推計してみた。5歳ごとの年齢階層別で最も投票者が多いのは65~69歳で、700万人を超えた。この層は、第2次世界大戦直後のベビーブームに生まれた「団塊世代」。子育てを終えて年金を受給し始めている人が多い世代が、選挙で「大票田」になっている。65歳以上の高齢者は投票者全体の4割近くにのぼる。65~69歳を除く40歳以上の各世代はそれぞれ500万人前後。それが30歳代以下では若くなるほど投票者が減り、20~24歳は200万人を割った。18~39歳は全体の2割にとどまる。子育て世代やこれから結婚や出産を考える世代の票は存在感が薄い。過去の推定投票者数と比べると、団塊世代が年をとるにつれ「高齢者の声」がどんどん大きくなることが分かる。1980年の衆院選で最も投票者が多かった年齢層はこの時に30~34歳だった団塊世代で、800万人近くいた。年齢階層別の投票者数の分布は、年齢が上がるほど先細りになる右下がりの三角形に近い。子育てまっただ中の世代の票が厚みを持ち、65歳以上の高齢者は全体の約13%と、存在感は大きくなかった。その20年後の2000年衆院選。団塊世代は50~54歳になり、やはり最多投票層だった。投票者数の分布は高齢者と若年層が少ない山の形。この時は「大票田」の年齢層はまだ働く現役世代だった。これまでの傾向を考えれば、今後も投票者数の分布はさらに右肩上がりの三角形になる可能性がありそうだ。安倍晋三首相は昨年の衆院選で「全世代型社会保障」を打ち出した。財政健全化に充てる財源の一部を、子育て支援や教育無償化に回す。借金返済は将来に先送りする。「若者と高齢者の対立ではなく、生まれる前の将来世代にツケを押し付け、若者も高齢者も給付を受けているのが現実だ」。中部圏社会経済研究所の島沢諭主席研究員はこう指摘する。シルバー民主主義は、有権者間の世代間不公平から、有権者と非有権者の間の不公平の時代に入ろうとしている。問題は高齢者の発言力が強いことだけではない。18歳未満やこれから生まれてくる世代の声を誰がどのように政治に反映するかだ。

*2-2-2:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20180202&c=DE1&d=0&nbm=DGKKZO26462770S8A200C1EAC000&ng=DGKKZO26462830S8A200C1EAC000&ue=DEAC000 (日経新聞 2018.2.2) 若者の意思反映 試行錯誤 18歳から選挙権/ネット活動解禁 選挙制度の改革案も
 シルバー民主主義への問題意識から、若者の投票をできるだけ政治に反映させる工夫も出てきている。2016年からは選挙権年齢を「20歳以上」から「18歳以上」に下げ、若い有権者を増やした。13年にはインターネットを使った選挙活動を解禁し、若者の政治参加を促した。それだけでは足りない――。そう考える学者は選挙制度改革も提案している。例えば「世代別選挙区制度」。選挙区を年齢階層別に分け、各世代の代表の政治家を選ぶ構想だ。30歳代以下は青年区、40~50歳代は中年区、60歳代以上は老年区と分け、各世代の有権者数に比例した定数を割り当てる。若い世代の投票率が低くても、各世代の人口に比例した議会構成にできる。政治が短期的な視点にならない仕組みにするのは「余命別選挙制度」。余命に応じて投票権に重みをつけ、若い人の一票を高齢者の一票よりも重くする。投票権を持たない将来世代に配慮する制度もある。「ドメイン投票方式」だ。投票権を持たない未成年に投票権を与え、その親が代わりに投票する仕組みだ。とはいえ、こうした選挙制度改革が実施できるかというと、かなり難しい。いま大きな影響力を持つ高齢者の世代が反対するのは必至だからだ。理論としての研究にとどまり、現実政治の俎上(そじょう)に上ることは期待薄だ。八代尚宏・昭和女子大学特命教授は「借金依存の年金制度は現時点で大きなリスクがある。高齢者に自分の問題だと説明すれば、ある程度の負担増は受け入れられる」と強調する。高齢者票の反発を恐れず説明しなければならない。

*3-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201802/CK2018021602000259.html (東京新聞 2018年2月16日) 【政治】年金開始 70歳超可能に 政府、定年延長を支援
 政府は十六日の閣議で、公的年金の受給開始時期を七十歳超も選択できるようにする方針を盛り込んだ高齢社会対策大綱を決定した。これを受け、厚生労働省は二〇二〇年度中の関連法改正を目指し、検討を始める。少子高齢化が進行する中、健康な高齢者は働き続け、社会の支え手になってもらう狙い。大綱は六十五歳以上を一律に高齢者とみる考え方を見直し、年齢にかかわらず柔軟に働ける環境の整備を打ち出した。高齢者の体力的年齢が若くなっており、就業や地域活動への意欲も高いと指摘。「年齢区分でライフステージを画一化することを見直し全世代型の社会保障を見据える」とした。同日の高齢社会対策会議で、安倍晋三首相は「高齢化はますます進行し地方人口の減少も見込まれている。全ての世代が幅広く活躍できるような社会を実現することが重要だ」と話した。年金受給の開始時期は現在、原則六十五歳で本人が申し出れば六十~七十歳の間で選択できる。六十五歳より遅らせると、その分、毎月の受給額は増えるが、仕組みの利用は低調だ。厚労省は一九年の年金の財政検証を踏まえて、具体的な制度設計を進める。生涯現役を実現するため定年延長や継続雇用延長を進める企業を支援する。再就職や起業支援、職場以外で働くテレワークの拡大も目指す。先進技術を活用し、高齢者の移動手段を確保するための無人自動運転サービスの実現や、介護ロボットの開発にも取り組む。数値目標も掲げた。二〇年時点で(1)八十歳以上の高齢運転者による交通事故死者数を二百人以下(一六年二百六十六人)(2)六十~六十四歳の就業率を67・0%(同63・6%)(3)健康寿命を一歳以上延伸-など。高齢社会対策大綱は政府の施策の指針となり、およそ五年に一度見直される。

*3-2:http://qbiz.jp/article/128252/1/ (西日本新聞 2018年2月17日) 外国人労働者4万人迫る 福岡労働局 卸売、製造など25%増最多更新
 福岡県内の外国人労働者数(2017年10月末時点)が3万9428人となり、5年連続で過去最多を更新した。前年同期比で25・0%増。県内の有効求人倍率が過去最高を更新する状況が続く中、人手不足の製造や卸売などの業界を中心に、外国人を雇用する傾向が強まっている。福岡労働局が発表した統計によると、産業別では卸売業・小売業で働く外国人が7465人(全体の18・9%)でトップ。製造業の7303人(同18・5%)、サービス業の6379人(同16・2%)が続いた。国籍別は、中国人が最多の1万1299人(同28・7%)。次いでベトナム人が1万84人(同25・6%)、ネパール人が6591人(同16・7%)だった。ベトナム人の増加率が最も著しく、前年同期比49・0%増だった。在留資格別では、技能実習が同47・8%増の8265人。勉強しながら働く「出稼ぎ留学生」は同21・3%増で1万6345人だった。外国人を雇用する事業所数は、同17・4%増の6621となった。外国人労働者数は、雇用対策法に基づくもので、全事業主に雇用状況の報告が義務付けられている。

<教育の充実>
PS(2018年2月24日追加):*4-1、*4-2に書かれているとおり、自民党の教育充実に関する改憲条文案以上のことが、既に日本国憲法・教育基本法・国連人権規約等に書かれている。そのため、「日本維新の会を改憲論議に取り込む思惑」のような改憲は、日本国憲法と下部の法律全体の調和を害する上、改善にはならず、このような改憲は全く不要だ。それよりも、現行法を実行すべく、手を尽くすべきである。

*4-1:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-670902.html (琉球新報社説 2018年2月24日) 自民党改憲条文案 教育拡充は口実にすぎず
 自民党の憲法改正推進本部は、教育の充実に関する改憲条文案を大筋で了承した。教育を受ける権利などを定めた26条に3項を新設し、国に教育環境を整備する努力義務を課す。財源難などを理由に教育の無償化の明記は見送ったものの、日本維新の会の改憲案の内容を一部取り入れた。しかし、改憲条文案は既に現行憲法と教育基本法に盛り込まれている。国際人権規約上も国の義務となっている。改憲する必要性はない。教育拡充は、改憲の口実にすぎない。幅広い勢力による改憲の国会発議に向け、教育無償化を掲げる日本維新の会の取り込みを狙った姑息なやり方だ。自民党案は26条1項に「経済的理由によって教育上差別されない」と付け加えているが、憲法14条で法の下の平等をうたっている。教育の機会均等を定めた教育基本法4条も「人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって教育上差別されない」と明記している。わざわざ憲法に追加する必要はない。国連人権規約の社会権規約13条は、高校・大学までの段階的な無償化を定めている。この規約は1966年に採択され、日本は79年に批准したが、無償化部分については保留していた。だが、2012年に保留を撤回し、国際的に教育の無償化を約束している。改憲する必要はないのである。新設される26条3項で教育は「国の未来を切り拓(ひら)く上で極めて重要な役割を担う」としている。教育基本法前文は「日本国憲法の精神にのっとり、我が国の未来を切り拓く」としている。3項には「憲法の精神」が抜け落ちている。これでは国民ではなく、国家が望む教育を促しかねない危険性をはらむ。与党内にも異論がある。法改正や予算措置で対応すべきだとする公明党の山口那津男代表は「教育の環境整備は法律でこれまでも最大限の努力をしてきたし、今後もやっていく」と述べ、自民党と距離を置いている。政府は昨年12月、3~5歳児の幼児教育・保育を原則として全て無償にし、低所得世帯では高等教育まで無償化の対象を広げることを閣議決定した。教育無償化は既に動き出している。教育無償化だけでなく、教員の待遇改善も急務だ。文科省が昨年4月に公表した実態調査で、中学校教諭の57%が「過労死ライン」を上回っている。背景に、教員の残業代を給料月額の4%と定めた、教職員給与特別措置法(給特法)がある。週2時間しか残業していないことになっているから、残業代はつかず残業記録もない。給特法を見直す必要がある。改憲ありきは本末転倒だ。憲法の精神を生かした施策こそ政治に求められている。

*4-2:http://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20180222/KT180221ETI090003000.php (信濃毎日新聞 2018年2月22日) 憲法の岐路 教育充実 自民本部の党利党略
 自民党の憲法改正推進本部が全体会合を開き、教育充実に関する改憲条文案をまとめた。26条に3項を新設し、国に教育環境整備の努力義務を課すことが柱である。26条は国民に対し「その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利」を保障している。教育環境の整備は今も国の責務である。改めて努力義務をうたうことで何が変わるのか、と疑問を持つ人は多いだろう。自民本部が決めた条文案は必要性が乏しく、実効性も期待できない。背景には日本維新の会を改憲論議に取り込む思惑がありそうだ。維新は幼児期から高等教育までの無償化を改憲案の柱に据えている。維新を取り込めば改憲に慎重な公明党へのけん制になる、ともにらんでいるのではないか。自民の改憲案には「(国民は)経済的理由によって教育上差別されない」との文言もある。これも維新案の引き写しだ。教育に関して政府が今やるべきは、返済不要の奨学金の拡充、大学授業料の減免など負担軽減に向けた地道な取り組みである。それは憲法を変えなくてもできる。反対に、憲法に努力義務を盛り込んでも政府がその気にならなければ状況は改善しない。自民は先日の全体会合では参院選の「合区」解消に向けた改憲案を了承している。改選ごとに各都道府県から1人以上選出できる規定を47条に加える。この案も問題が多い。解消を目指すのはいいとしても、都道府県代表制を明記すると国会議員を「全国民の代表」と定めた43条との整合性が問われる。合区の対象となるのは主に地方の選挙区だ。自民は地方で強い。自民の解消論の背景には選挙絡みの思惑がある。教育充実も合区解消も党利党略が見え隠れする。これでは憲法審査会の議論は深まらない。そもそも合区は政治制度全体に関わる問題である。衆参の在り方や地方制度も含めた検討が要る。自民の議論はそこも足りない。自民は教育充実、合区解消に加えて、9条への自衛隊明記、緊急事態対応の合わせて4項目を改憲対象としている。一番の狙いはむろん9条だ。教育充実や合区のような底の浅い議論を9条でもするようでは日本の針路が危うくなる。厳しく見ていかなければならない。

| 日本国憲法::2016.6~2019.3 | 03:03 PM | comments (x) | trackback (x) |
2018.2.8 辺野古移設から見た日米安全保障条約・尖閣防衛・日本国憲法の変更について (2017年2月11、12、13、14、15、18、21日追加)
 
                      2017.5.14琉球新報
(図の説明:1番左のグラフのように、防衛費はうなぎ上りに増えているが、費用対効果は疑わしい。また、沖縄は、本土復帰後、米軍基地面積は65%に減っているが、自衛隊基地面積が2倍近くに増えている)

    
     尖閣諸島      沖縄の自衛隊基地   沖縄の米軍基地  2018.2.6日経新聞

(図の説明:1番左の写真の尖閣諸島対応には、下地島、石垣島などの基地を使った方が近くて便利なため、沖縄本島の米軍基地・自衛隊基地は異常に多すぎ、速やかに減らしてもっと稼げる有効な土地利用をした方が良いと考える。また、1番右の図の自民党憲法改正案は、基本的人権や民主主義を疎かにしそうなものが多い)

(1)普天間基地の辺野古移設について
1)名護市長選
 任期満了に伴う名護市長選は、*1-1のように、稲嶺陣営は新基地建設阻止を前面に掲げ、渡具知陣営は辺野古問題にはほとんど触れずに経済振興をアピールする戦術に徹し、*1-3のように、2018年2月4日に、約3500票差での渡具知氏の勝利で終わった。

 そのため、*1-4のように、安倍首相は5日朝、辺野古移設について、「市民の皆様のご理解をいただきながら、最高裁判決に従って進めていきたい。市街地に囲まれている普天間基地の移設についてはその方針で進めていきたい」と述べられたそうだが、渡具知氏は移設問題への言及や争点化を避けて当選したのだから、*1-5のとおり、名護市民が辺野古新基地の建設を容認したと解釈するのは行き過ぎだ。また、*1-2のように、「移設先の理解が得られない」のは辺野古も同じであり、日本の国土面積の0.6%しかない沖縄に在日米軍専用基地の70%が置かれている事実も変わっていない。

 しかし、米軍キャンプ・シュワブ沖で護岸工事が進む辺野古新基地が不要であることについて、米軍属女性暴行殺人事件やヘリ部品落下問題だけでは足りないため、私は、2)に「米国海兵隊が沖縄に基地を持っていても、日本の国境防衛には役立たないこと」について述べる。

2)沖縄基地の役割と尖閣諸島の防衛
 尖閣諸島防衛は、*2-1のように、自衛隊がまず対応し、米軍はその「支援」「補完」をすることになっている。そして、辺野古に移設しようとしている米海兵隊は、防衛ではなく攻撃部隊であるため、中谷元防衛相には、尖閣諸島防衛のために沖縄の島嶼部に自衛隊基地を増やしながら、さらに米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設の必要性を力説する根拠を明確に説明してもらいたい。

 また、中国公船の尖閣諸島周辺海域への侵入については、それ自体が既に有事であるにもかかわらず、現在は日本側だけで情けない対処をしており、2015年4月改定の日米防衛協力の指針でも自衛隊が一義的な責務を負うとしており、米軍が最初から軍事攻撃に加わることは想定されていない。また、トランプ大統領は、「米国ファーストで、米国は世界の警察ではない」としているが、これは米国民の立場から見れば当然のことである。

 そして、仮に尖閣諸島が中国に占領された場合、*2-2のように、総理大臣が防衛出動を発令すると陸海空3自衛隊が一気に動き、最後は陸上自衛隊の島嶼防衛部隊が奪還する予定だそうで、元航空幕僚長の田母神氏は、宮古島の隣の下地島に3000m級の滑走路があるので、ここに整備支援力を展開すれば、尖閣上空まで10分でF-15やF-2を飛ばして制空権を握ることができ、下地島空港で地対空ミサイル部隊や基地防空部隊で防御も固められるとしていた。防衛による尖閣対応は、「それ+α」で十分ではないのか?

 しかし、*2-3のように、2016年3月時点で沖縄自衛隊は、施設数41、施設面積694.4haになったそうだ。2016年3月には先島初の陸上自衛隊の基地が与那国島にでき、今後は宮古島、石垣島にも新基地が建設される計画があるそうだが、島嶼防衛をネタに自衛隊が大宴会を開いているようでやりすぎだ。施設数は、自衛隊・米軍合わせて5指以内、島の数も2つくらいまでにすべきで、米軍と同様、自衛隊も沖縄を占有すべきではないだろう。

(2)安保法と憲法
 自民党は、*3-1のように、昨年末、「憲法改正に関する論点取りまとめ」を作成して議論の方向性を示し、①自衛隊 ②緊急事態 ③合区解消等 ④教育無償化の4項目について憲法改正の発議に向けて議論を進めていくとしたそうだ。しかし、これだけに絞るとすれば、まず平成24年4月27日に決定した自民党憲法改正草案(https://jimin.ncss.nifty.com/pdf/news/policy/130250_1.pdf 参照)を撤回すべきだ。何故なら、この自民党憲法改正草案は、主権者である日本国民(注)が定めた形の現行憲法を日本国という抽象的な主体が定める形に改め、国民の基本的人権に制限を加えて民主主義に逆行するものだからである。
(注:日本国憲法の日本語訳は、現在は「日本国民は」と訳されているが、前は「われわれ日本国民は」と訳されていた。英語の原文は「We,the Japanese people,」 であるため前の訳の方が正しく、原文は、国民が定めた憲法であり主権者は国民であることを明確に表しているのだ)

 また、②の緊急事態条項も、「緊急事態が発生した場合には、国民の権利を制限することができる」としており、「緊急事態」は政府の都合によってどこまでも拡大解釈可能であるため、決して認めるべきでない。さらに、③の合区解消は、一票の価値を同じにしながらより賢い方法があるため改悪だ。④に至っては、憲法が教育無償化を阻害していたのではなく、教育・福祉を軽視する政府の政策が阻害していた面が大きいため、憲法変更はかえって憲法を頂点とする全体の法体系の整合性を壊して見苦しくする。

 そして、①の自衛隊の明記についても、*3-2のように、まともに議論すれば違憲となる存立危機事態を安全保障関連法で定め、これを改憲で合憲化しようとするのはあまりにも危険な政府である。そのため、私は、*3-1の「理論的な体系性や整合性に配慮が必要」という主張に賛成で、つぎはぎでも何でもいいから憲法を変更することのみが党是であるかのように言う理念のなさは問題だと考える。

 私は、日本国憲法については、裁判所も含め、なるべく影響を小さくしようと努力してきた人々がいると考える。裁判所は、直接的に訴えの利益がある人以外は違憲立法を申し立てられないという不要な制限をつけ、*3-2のように、一審の東京地裁は、提訴した自衛官に対し「出動命令が出る具体的な可能性はない」と述べて、踏みこんだ審理をしないまま訴えを却下した。また、国は、安全保障関連法の立法時とは異なり、裁判では存立危機事態の発生は想定できないとの立場を終始とり続けたそうである。

 つまり、このような人たちの議論を真に受けて憲法を変更することは、国民が第二次世界大戦で多大な犠牲を払って得た理想憲法を自ら投げ捨てることになるのだ。

(3)日本国憲法と基本的人権の尊重
1)緊急事態条項
 自民党憲法改正推進本部は、*4-1のように、大規模災害時の緊急事態条項について議論し、私権制限を求める声が続出したそうだ。しかし、大災害や武力攻撃を受けた際に、どういう私権を行使してその対処に反対する人がいると言うのだろうか。私は、緊急事態条項は、他に目的があって行う制限のための制限だと考えている。また、自民党内でも、2012年の自民党改憲草案が理想だと考えている人が何人いるのか、自民党議員の正確なアンケート調査をして公表すべきだ。その結果によっては、国民は経済や景気だけを考えて選べばよいわけではない。

2)特定秘密保護法
 *4-2の特定秘密保護法も、何が特定秘密かわからず、罪の予想はできないが、逮捕されることのある人権侵害の法律だ。衆参両院に常設される情報監視審査会は秘密会にもかかわらず、政府側は回答を拒む場面が目立ち、これでは北朝鮮を批判するどころか、よく似た国である。

3)個人データの移転
 日本政府は、*4-3のように、個人データを柔軟に使用できるようにするそうだ。EUは、個人情報保護について十分な対応をしていると認定する国や地域以外へのデータ持ち出しを原則として禁じており、ある程度は信頼できるが、日本がEUから認定されていないのは尤もである。何故なら、個人情報保護法のせいにして仲間内の同窓会名簿さえ明らかにしないような誤った運用をしながら、ビッグデータと称すれば企業は自由かつ無責任にどこまでも個人情報を利用できるからだ。日本企業が競争上不利になるのは、人権に対するこの節度のなさからである。

4)部落差別
 昭和22年5月3日施行の日本国憲法は、第14条1項で、「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と定めている。従って、この日から、人種差別・女性差別は憲法違反であり、認められないものになっている。

 しかし、*4-4のように、部落差別がなくならなかったので、2016年12月16日に部落差別解消推進法が公布・施行された。しかし、「部落差別禁止法」として差別を禁止したのではなく、「部落差別解消推進法」として罰則のない理念法にしたのは、差別の是非を曖昧にしている。差別は、差別される側に問題があるのではなく、差別する側に問題があるため、とっつきにくい云々ではなく、禁止してなくさなければならないものなのだ。

<名護市長選>
*1-1:http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/204719 (沖縄タイムス社説 2018年2月4日) [名護市長選投開票]地域の将来この1票に
 任期満了に伴う名護市長選は4日、投開票される。前回2014年の選挙とは多くの点で様相を異にしており、予断を許さない激戦となっている。立候補しているのは無所属現職の稲嶺進氏(72)=社民、共産、社大、自由、民進推薦、立民支持=と、前市議で無所属新人の渡具知武豊氏(56)=自民、公明、維新推薦=の2人。米軍普天間飛行場の辺野古移設問題と地域の活性化が最大の争点だ。稲嶺陣営が相次ぐ米軍ヘリ事故などを取り上げ、新基地建設阻止を前面に掲げているのに対し、渡具知陣営は辺野古問題にはほとんど触れず、経済振興をアピールする戦術に徹した。選挙期間中、辺野古移設の是非を正面から戦わせることはなく、両者が公の場に同席し有権者に対立軸を提示する場面もなかった。日米両政府が普天間飛行場返還に合意した1996年以降、市長選は今度で6回目。政府が埋め立て工事に着手してからは初めてである。有権者の思いは複雑だ。「反対しても工事は止められない」とのあきらめムードが広がっている一方、相次ぐ米軍ヘリ事故に対する怒りや、政府高官が言い放った暴言への反発は根強い。「決定権は与えられていないのに、自分たちだけが何度も選択を迫られるのはおかしい」と、現状への不満をぶつける市民もいる。選挙によって地域が分断され、ぎすぎすした空気が広がるのを懸念する声は多い。
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 いくつかの注目点を挙げたい。政府は「辺野古が唯一」と繰り返すだけで、「なぜ自分たちだけが…」という市民の切実な疑問に答えたことがない。政府の姿勢に対する疑問が投票行動にどう表れるか。選挙人名簿登録者数は1月27日現在4万9372人で、前回からおよそ2700人増えた。今度の市長選は18歳選挙権が施行されてから初めての市長選でもある。新たに有権者の仲間入りをした若者票がどこに流れるかも大きな注目点だ。前回選挙で自主投票だった公明党は今回、渡具知氏を推薦し、積極的に集票活動を行っている。公明党の推薦は渡具知陣営にとって大きなプラス要因である。ただ公明党県本は普天間問題について「県外・国外移設」の方針を堅持しており、組織票をどの程度まとめ切れているか未知数の部分もある。
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 選挙結果は、秋の知事選に連動し、辺野古埋め立て工事にも直接影響する。一市長選にもかかわらず、政府自民党が相次いで大物を投入し、総力を挙げて新人候補を支援しているのは、そのためだ。オール沖縄勢力にとっては、取りこぼしの許されない象徴的な選挙である。翁長雄志知事も危機感をあらわにし、現職候補の応援に全力を挙げた。市長選は地域の将来を決める大事な選挙。政策をよく吟味し、自分自身の考えで1票を行使してほしい。

*1-2:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-658830.html (琉球新報社説 2018年2月4日) 「本土理解困難」発言 いつまでも捨て石なのか
 安倍晋三首相が衆院予算委員会で、沖縄の基地の県外移設が実現しない理由について「移設先となる本土の理解が得られない」と述べた。裏を返せば沖縄県民の理解を得ることは全く念頭にないことを意味する。これが本音だろう。同じ国民に対する二重基準を放置することはできない。沖縄の基地負担軽減策のほとんどが県内移設だ。政府は米軍普天間飛行場の移設に伴い、名護市辺野古への新基地建設を進めている。琉球新報が昨年9月に実施した世論調査では80・2%が普天間飛行場の県内移設に反対した。沖縄の理解など得られていない。それにもかかわらず安倍政権は基地建設を強行している。国土面積の0・6%しかない沖縄に在日米軍専用基地の70%が置かれている。沖縄への基地集中は米統治下の1950~60年代に日本各地の基地が移転したためだ。56年に岐阜、山梨両県から海兵隊第3海兵師団が移転し、69年には安倍首相の地元・山口県岩国基地から第36海兵航空群が普天間飛行場に移転した。本土住民の反対運動に追いやられる形で、沖縄に基地が移転したのだ。しかし防衛省は冊子「在沖米軍・海兵隊の意義および役割」の中で「沖縄は(中略)朝鮮半島や台湾海峡といった潜在的紛争地域に近い(近すぎない)位置にある」と記し、沖縄の基地集中は地理的な理由だと主張していた。今回の安倍首相の見解で、それが欺瞞(ぎまん)であることが一層明白になった。これまでも閣僚らから沖縄の米軍基地駐留の根拠は軍事上ではなく政治的な理由であるとの見解が示されてきた。森本敏防衛相(当時)は2012年に普天間飛行場の移設について「軍事的には沖縄でなくてもよいが、政治的に考えると沖縄が最適地だ。許容できるところが沖縄にしかない」と述べた。中谷元・元防衛相も14年、沖縄への基地集中について「分散しようと思えば九州でも分散できるが(県外の)抵抗が大きくてなかなかできない」と述べている。73年前に沖縄で繰り広げられた地上戦は沖縄の住民を守ることではなく、国体護持、本土防衛のための捨て石作戦だった。政府は現在も本土への基地駐留を回避するために、沖縄を日米安保の捨て石として扱い、沖縄ばかりに犠牲を強いている。差別以外の何ものでもない。安倍首相には05年に小泉純一郎首相(当時)が述べた言葉を突き返したい。「沖縄以外のどういう地域に移転すればいいか。そういう点も含め、沖縄の過重負担は日本全体で考える問題だ」。政府は辺野古新基地建設を即座に中止すべきだ。そして沖縄にこれまで押し付けてきた基地の県外移設を進める必要がある。これ以上、沖縄を捨て石として扱い続けることは許されない。

*1-3:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-659269.html (琉球新報 2018年2月5日) 名護市長選「市民の選択の結果」 稲嶺さん、声絞り出す
 「残念ながら、辺野古が争点とならなかった」。2期8年の実績と沖縄県名護市辺野古の新基地阻止を訴えた稲嶺進さんは、約3500票差で3選に届かなかった。午後10時28分、渡具知武豊さんの当選確実がテレビで流れると、市大中の選挙事務所は沈黙に包まれ、カメラのシャッター音だけが響いた。稲嶺さんは報道陣のインタビューに「市民の選択の結果だ。真摯に受け止めないといけない」と言葉少なに話した。米軍キャンプ・シュワブ沖での護岸工事が進む中、今回の市長選は過去2回と比べものにならないほど厳しかった。新基地建設の是非に触れず、経済振興を前面に押し出す相手候補。選挙期間中、稲嶺さんは「基地で栄えても、裏には人の犠牲がある」「市民の良識を信じている」と強調し、建設阻止を懸命に訴えた。陣営には毎日、多くの人が訪れ、メッセージや手紙を寄せた。米軍属女性暴行殺人事件の被害者の父親からも、応援の差し入れが届けられた。「子どもたちに安心と安全を届ける」と勝利を信じて闘った。気温11度まで冷え込む中、稲嶺さんは翁長雄志知事や地元選出の国会議員、多くの支持者らと事務所の外で開票を見守った。落選が伝えられると、鼻を赤くし、涙を拭うしぐさを見せた。インタビューで「工事はまだ予定の1%にも満たない。止めることはできる。諦める必要はない」と強調すると、支持者は「そうだ」と声を上げ、拍手と指笛で応えた。

*1-4:https://digital.asahi.com/articles/ASL252SY7L25UTFK004.html (朝日新聞 2018年2月5日) 辺野古移設、首相「進めていく」 名護市長選の結果受け
 安倍晋三首相は5日朝、沖縄県名護市長選で、米軍普天間飛行場移設計画を事実上容認する新顔の渡具知(とぐち)武豊氏が現職の稲嶺進氏を破ったことについて「最も強いと言われている3選目の現職市長。破るのは難しいと思っていたが、本当に勝ってよかった」と述べた。首相官邸で記者団の取材に応じた。普天間飛行場の名護市辺野古への移設計画については「市民の皆様のご理解をいただきながら、最高裁判決に従って進めていきたい。市街地に囲まれている普天間基地の移設についてはその方針で進めていきたい」と述べた。今後は「落ち着いた政治」を求めるとし、「教育や福祉や環境にしっかりと力を入れてもらいたいという市民の声に応えていってもらいたい。市長が公約したことは国としても責任をもって応援する」とも強調した。

*1-5:https://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=90241 (南日本新聞社説 1018/2/6) [名護市長選] 新基地の容認ではない
 沖縄県名護市長選は、新人の渡具知武豊氏が3選を目指した現職稲嶺進氏を破って初当選した。一地方自治体の首長選挙が全国の注目を集めたのは、名護市辺野古への米軍普天間飛行場(宜野湾市)移設が最大の争点とみられていたからだ。稲嶺氏は移設反対を訴え、同じ立場の翁長雄志知事が全面支援した。渡具知氏は移設を推進する安倍政権の支援を受けた。渡具知氏が約3500票の差をつけて勝利したことで、移設に弾みがつくとの見方もあろう。だが、基地建設を容認する地元の民意が示されたと捉えるのは早計だ。稲嶺氏は2010年に初めて市長選に立候補した時から一貫して移設反対を主張しており、今回の選挙戦でも揺るがなかった。これに対し、渡具知氏は学校給食や医療費の無償化など生活支援を掲げ、移設問題への言及を避けた。安倍政権は今秋の知事選の前哨戦と位置付け、与党幹部や閣僚を相次いで応援に送り込んだ。地方選としては異例の総力戦である。その一方で争点をずらす戦術をとった渡具知陣営自身が、移設の是非を正面から問われれば勝ち目はないことを理解していたはずだ。共同通信の出口調査では、渡具知氏に投票した人のうち、3割超が辺野古移設に反対の立場を示した。稲嶺氏への投票者は反対派が87.5%を占めた。市民の意向は明らかだ。渡具知氏は当選後、移設に関し「国と県が係争中なので注視していく」と述べた。政府は昨年4月、辺野古沿岸部の埋め立て護岸工事に着手したが、県は差し止めを求めて法廷闘争に発展している。渡具知氏は裁判の行方同様に、市民の声にも十分に耳を傾けなければならない。渡具知氏は選挙戦で、「移設阻止にこだわり市民生活が放置されている」と稲嶺氏を批判した。この主張が一定程度受け入れられたのは事実だ。反対を続けても工事が進むことへの失望感や疲労感が、市民の間に漂っているとの指摘もある。浮かび上がるのは、米軍基地問題で市民が分断され、街づくりや行政サービスの議論が後回しにされている沖縄の自治体の姿だ。在日米軍専用施設の7割超を沖縄県に押しつけている日米安全保障体制のひずみであり、目をそらすわけにはいかない。政府は移設反対派の敗北で勢いづき、辺野古の工事を加速させる可能性がある。反対の声を踏みつぶすような強引な進め方をすれば、激しい反発が全国に広がることになろう。

<沖縄基地の役割>
*2-1:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-244831.html (琉球新報 2016年3月24日) <沖縄基地の虚実2>自衛隊まず対応 米軍は「支援」「補完」
 2015年5月、県庁で翁長雄志知事と初会談した中谷元・防衛相は、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設の必要性を力説し、中国公船の尖閣諸島周辺海域への侵入を挙げた。米海兵隊の重要性を説くものだった。現状では日本側だけで中国船に対処していると説明した上で「自衛隊や海上保安庁もこの対応が大変だ」と述べている。そして中谷氏はこう続けた。「先日の日米防衛相会談でも尖閣諸島でも安全保障条約におけるコミットをすると再確認した。沖縄は戦略的に極めて重要な位置にある」。つまり仮に現在よりも緊迫した尖閣有事が起きれば、米軍が即座に自動的に海兵隊を派遣し、奪還作戦を行うことを念頭に置いたとも受け取れる発言をしている。インターネット上などでは、尖閣有事が発生すれば海兵隊員が尖閣に急行し、中国軍を撃破、島を奪還する筋書きが示され、米海兵隊を沖縄に置き続ける根拠として挙げられている。一方、15年4月に改定された日米防衛協力の指針(ガイドライン)では、日本に対する陸上攻撃への対応をこう明記している。「自衛隊は島嶼(とうしょ)に対するものを含む陸上攻撃を阻止し、排除する作戦を行う一義的責務を負う。必要が生じれば、自衛隊は島嶼を奪還する作戦を実施する」。つまり他国から尖閣への武力侵攻に対しては自衛隊が一義的な責務を負うとしており、米軍が最初から軍事攻撃に加わることを想定していない。むしろ指針では米軍について「(自衛隊を)支援し、補完するための作戦を実施する」と定めている。13年4月、米議会上院が設置する米中経済安全保障調査委員会で「東・南シナ海における海洋紛争」に関する公聴会が開かれた。参考人の一人に米海軍シンクタンク「海軍分析センター」のマイケル・マクデビット上席研究員が招かれた。同氏は退役海軍少将で主にアジア太平洋の安全保障に精通し、ブッシュ政権時には国防総省でアジア政策を統括した。尖閣をめぐる日中の紛争を問われたマクデビット氏は、米政府が尖閣諸島を日米安保条約の対象だと公式に説明したことに触れ、「米国はこれらの島をめぐる防衛では日本側を『支援する責務』がある」と述べた。だが続けて、安倍晋三首相がその2カ月前に首都ワシントンでの講演で「尖閣について日本は米側にあれやこれをしてほしいと頼む意図はない。自国の領土は今も将来も自分で守るつもりだ」と述べたと強調し「ホワイトハウスは、尖閣防衛では日本が主導的役割を果たすことを明確にすべきだ」と続けた。その後、マクデビット氏はより露骨な考えを示した。「尖閣には元来住んでいる住民もおらず、米国にとって地理的な戦略的価値も、本質的な価値もない。ワシントンは無人の小島のことで中国軍と銃弾を交えることを強く避けるべきだ」。昨年改定された日米防衛協力の指針(ガイドライン)で、島嶼(とうしょ)防衛における米軍の役割が自衛隊の「支援」と定められる中、支援の具体的な内容は米政府から示されておらず、あいまいだ。尖閣問題で「米政府は無人の小島のことで中国軍と銃弾を交えることは強く避けるべきだ」との見解を示した米海軍分析センターのマイケル・マクデビット上級研究員(元海軍少将)は米側が担う「支援」の具体例として「監視、補給、技術指導」を挙げている。「抑止力」の意味について政府見解はこう定義している。「侵略を行えば耐え難い損害を被ることを明白に認識させることで、侵略を思いとどまらせる機能」。一方、元防衛官僚で内閣官房副長官補を務めた柳沢協二氏は「離島防衛は陸上自衛隊が主体で、米軍の役割はその支援に限られる。日本政府は『海兵隊は抑止力だから沖縄に必要だ』としているが、米国は日本の離島防衛で海兵隊を出す気はない。つまり抑止力じゃない」と指摘する。日米両政府が尖閣諸島を日米安保条約第5条の対象だと確認した際、日本政府は米国の支援という約束を「引き出した」(外務省幹部)と成果を強調した。一方、同条項は日本の施政権下の地域で日米いずれかに対する武力攻撃があれば「自国の憲法上の規定と手続きに従い共通の危険に対処する」と規定する。米国憲法の手続きに沿えば、大統領は例外措置があるものの、武力行使に際しては議会承認が必要だ。他国の「無人の小島」をめぐり、米国と並ぶ大国となった中国と戦火を交えることについて大統領が議会に承認を求めることが現実として起こり得るのか。米側ではその政治決断に一定の時間を要することは想像に難くない。県辺野古新基地建設問題対策課は「米海兵隊が尖閣に派遣される可能性が全くないとは言わない。ただ仮にその場合も、まずは海上保安庁や自衛隊による対応、外交交渉など長いプロセスを経てからになる」と指摘する。実際、森本敏防衛相(当時)は2012年に尖閣問題への対応はまず海保や自衛隊が行うとし「尖閣諸島の安全に米軍がすぐ活動する状態にはない」と明言している。県は「政府は普天間飛行場を県外に移設した場合、(日本本土から尖閣に飛行する)数時間の遅れが致命的な遅延となり得ると主張するが、実際のシナリオを考えれば、数時間では即応力は失われない」として、尖閣問題への対処は普天間を県内移設する理由にはならないと強調する。14年4月に東京で開かれた日米首脳会談。オバマ米大統領は安倍晋三首相との共同記者会見で、尖閣は日米安保条約の適用範囲だと表明し、併せて日本側に「この懸案の平和的解決の重要性を強調した。事態がエスカレートし続けるのは重大な誤りだ」と伝達したことも明らかにした。オバマ氏の“真意”を確かめる米メディアの記者から「明確にしたい。中国がこれらの島に侵入すれば、米国は武力行使を検討するのか」と質問を浴びせた。オバマ氏は気色ばみ、こう答えた。「他国が国際法や規則を破るたびに、米国は戦争しなければならないのか。そうじゃないだろう」

*2-2:http://www.news-postseven.com/archives/20121205_156435.html (NEWSポスト 2012.12.5) 中国尖閣占領も最後は陸上自衛隊の島嶼防衛部隊が奪還の予測
 漁民を装った人民軍兵士が上陸するなどして尖閣諸島が中国に占領された場合、日本の自衛隊はどのように動くのか。魚釣島を奪還できるのか。総理大臣が防衛出動を発令すると、陸海空3自衛隊が一気に動く。まず日中の尖閣攻防は航空戦で始まる可能性が高い。先陣を切るのは西部航空方面隊と南西航空混成団だ。元航空幕僚長の田母神俊雄氏は、こう予測する。「最初に出撃するのはF-15戦闘機。同機は世界で最高レベルの要撃戦闘機で、制空権の確保が主な任務。同時にF-2戦闘機が出撃する。こちらは強力な対艦ミサイルで中国海軍の艦艇を迎撃するのが役目だ。宮古島の隣の下地島には3000m級の滑走路があり、ここに整備支援力を展開すれば、尖閣上空まで10分でF-15やF-2を飛ばして制空権を握ることができる。下地島空港は当然地対空ミサイル部隊や基地防空部隊で防御も固められることになる。さらに半径400km以上先までの探知能力を持つ早期警戒管制機E767を投入して中国側の動きを先にキャッチする。戦闘機の戦闘能力を決めるのは、現代戦においては空中におけるリアルタイムの情報収集能力であり、E767を中心とする組織戦闘能力だ」。襲来する中国機はSu-27やJ-10などの最新戦闘機、早期警戒管制機KJ2000などが考えられるが、『尖閣を獲りに来る中国海軍の実力』(小学館刊)著者で元統幕学校副校長の川村純彦氏は、こう見る。「中国空軍は早期警戒管制機の機数が十分ではない上に、管制能力も空自より劣っており、実戦的経験も乏しい。強力な防空体制を構築して待ち構えている日本に航空戦を挑んでも勝ち目はない」。中国空軍は最近になって福建省寧徳市に秘密基地を作り、戦闘機を配備しているが、それでも専門家の見方は、この緒戦では日本が有利という声が多い。一方、海上自衛隊は8隻の護衛艦からなる第2護衛隊群(佐世保)を尖閣周辺海域に差し向ける。沖縄本島周辺で作戦展開中だった最新鋭の潜水艦2隻も南下。第5航空群(那覇)、第1航空群(鹿屋)からは、P3C対潜哨戒機各20機が一斉に飛び立つ。尖閣周辺では中国の漁業監視船に代わって中国海軍の艦隊が展開するだろう。だが、海自の優位は揺るがない。前出・川村氏はこう分析する。「艦艇の戦闘能力、乗組員の練度、情報指揮通信管制能力などでは、海上自衛隊が格段に優れている。特に海自の対潜水艦作戦能力は極めて高く、世界最高レベルにある。中国海軍の潜水艦は昔に比べて格段に静粛性を増しているが、それでも海自は発見できるだろう。東シナ海という海域の特性を考えても、海自が圧倒的に勝っていると断言できる」。海自の潜水艦が発射した魚雷が中国のフリゲート艦に命中。F-2の空対艦ミサイルも精度が高く、駆逐艦数隻から水しぶきと黒煙が上がるそのようにして自衛隊は中国艦隊をじりじり西側に押し返していくと予測される。そうなれば魚釣島に上陸した“漁民”は完全に孤立する。そこから先は陸上自衛隊の出番となる。沖縄を拠点とする第15旅団、特殊部隊を擁する中央即応集団などの精鋭部隊が続々と石垣島、宮古島や与那国島に結集する。魚釣島に逆上陸してとどめを刺すのは西部方面普通科連隊(佐世保)の約600名。島嶼(とうしょ)防衛のスペシャリスト部隊だ。「夜間、密かにゴムボートなどで接近、上陸、暗視スコープを携帯して奇襲する。小銃や機関銃のほかに迫撃砲なども携行。狙撃銃で遠方の敵を狙い撃つヒットマン顔負けの隊員もいる。ただし生身の人間がぶつかり合う陸戦なので、かなりの死傷者が出ても不思議ではない」(前出・田母神氏)。戦闘は1日で終わる。自衛隊の死傷者に比べ、中国側の死傷者が多いと予想される。

*2-3:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-495454.html (琉球新報 2017年5月14日) 自衛隊面積は復帰後4倍に 沖縄、先島諸島で新設の動き加速
 沖縄では1972年の復帰を境に、それまで配備されていなかった自衛隊が駐屯するようになった。記録に残っている1972年5月時点では施設数3、施設面積は166・1ヘクタールだったが、2016年3月時点では施設数41、施設面積は694・4ヘクタールとなり、面積は4倍に拡大した。隊員数も増加傾向にあり、特に防衛省が旧ソ連を念頭に置いていた「北方重視」戦略から、北朝鮮や中国を重視した「南西シフト」に転換して以降、沖縄での自衛隊基地の機能強化が一層鮮明になっている。陸上自衛隊那覇基地は10年3月にそれまでの混成団から旅団に格上げされ、隊員も1800人から2100に増員した。航空自衛隊那覇基地でも09年に、従来使用していた戦闘機をF4からより機動性の高いF15に切り替え、さらに16年には20機を追加し、計40機体制へと強化した。さらに近年では、先島での自衛隊基地新設が加速している。16年3月、先島で初となる陸上自衛隊の基地が与那国島にできた。レーダーによる沿岸監視活動を主任務とする「沿岸監視部隊」の約160人が常駐する。今後は宮古島でも、有事の際に初動を担う警備部隊とミサイル運用を担う部隊など計700~800人規模の陸上自衛隊が配備される計画があるほか、石垣島にも500~600人規模の新基地が建設される計画がある。県内米軍基地での自衛隊による共同使用も重ねられており、沖縄が日米双方の防衛力強化の拠点とされつつある。

<安保法と憲法>
*3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180206&ng=DGKKZO26526210V00C18A2KE8000 (日経新聞 2018.2.6) 経済教室憲法改正の論点を探る(上)統治構造改革の議論必須、国に継続的な議論の場を 曽我部真裕・京都大学教授(1974年生まれ。京都大修士(法学)。専門は憲法、情報法)
〈ポイント〉
○理論的な体系性や整合性にも配慮が必要
○専門的知識や議論の透明性確保欠かせず
○議論の場として憲法審査会の活用も一案
 自由民主党は昨年末、「憲法改正に関する論点取りまとめ」を作成して議論の方向性を示した。自衛隊、緊急事態、合区解消等、教育無償化(教育の充実等)の4項目について憲法改正の発議に向けて議論を進めていくとしている。こうした方向性に対してはまず、既に定着していたり法律で対応可能だったりすることから、憲法を改正する必要はないとの批判がありうる。確かにその通りである一方で、自衛隊の問題のように憲法の規定に曖昧な点があり、それを巡り長年争われてきた末に一定の収束をみた場合には、明文化のために改正すること自体がおかしいとは言えないのではないか。もっとも、この種の改正には性質上緊急性はないから、こうした改正論を提起することの政治的動機には注意が必要だろう。同じく法律により実現可能な教育無償化も、憲法に明記するからには純粋に象徴的な意味合いを超えて、将来にわたり一定の拘束力を確保するようなものにすべきだろう。曖昧な文言で、しかも別途無関係に無償化論議が進んでいるような現状では、別の政治的動機によるものでないことの説明が特に求められる。次に憲法改正にあたっては理論的な体系性・整合性についてもより一層の配意が必要だ。およそ法というものは内的な一貫性が求められる。憲法改正は国民主権の発露だからといって、この点が軽視されてはならない。とりわけ合区解消の項目は、参議院での一票の価値の大きな不平等を容認する一方で、参議院の権限が現状のままであることの不整合については、多くの論者の指摘するところだ。さらに改正の影響を十分に考慮する必要がある。この点、9条は現在のような文言であるからこそ、自衛隊の権限や規模の拡大に対する一定の歯止めになってきたのであり、現状を追認する文言改正がなされれば、それを起点としてさらなる拡大が危惧されるとの意見がありうる。現状を変えないという大前提で改正するのであれば、改正時の意思としてその点を明確にすべきだろう。改正原案の審議の際に明確にしたり、発議の際の付帯決議で明記したりするなどの工夫が求められる。これらの観点を踏まえれば検討の進め方についても現状には問題が多い。憲法改正論議に政府が表立って関与していないのは、憲法改正の発議権が国会にあること(憲法96条1項)が理由だろうが、それにより検討のための人材が不足することになっていないか。また議員立法に共通する問題だが、改正原案の柱になる内容が政党内あるいは政党間で議論される結果、国会の場では議論の経緯が十分に説明されず、前述の懸念が払拭されないことにならないか。専門的知識の調達と議論の透明性確保が求められる。以上、自民党の議論に即して筆を進めてきた。より視野を広げると、憲法に加え、国会法、内閣法などの憲法を具体化する法律(憲法付属法と総称される)、さらには慣習などで形成されている政治の仕組み(統治機構)については、様々な改革の論点がある。今回の改正論議が筋の良くないものであったとしても、これを契機に少なくとも統治機構についてはより良いものに向かって、憲法改正も含めて不断に改革を議論できるような変化が求められる。課題を大まかに示せば、まずは主に1990年代にそれなりの一貫性をもって進められた統治構造改革のフォローアップがある。これにより首相のリーダーシップが強化された。しかし一方で「ねじれ国会」の問題などリーダーシップの限界、他方で首相が権限をフル活用することに対する制度的な備えの脆弱性などが明らかになっている。これらの課題をどう受け止め、どのように改革を進めるのか。「統治構造改革2.0」が求められる。そこでの問題は、統治のエンジンとブレーキをどう最適配置するかだ。「ねじれ国会」の問題のほか国会改革が求められることはもちろん、裁判所、中央銀行、公共放送といった独立機関を制度的に強化することなども重要な課題となる。こうした文脈では、政界でも解散権の制限や憲法裁判所の設置問題などが実際に提案されている。解散権の行使に制限のないことは比較憲法的にみて異例であり、政党間競争の観点からは正当化の余地がないことも確かだ。他方で、解散権行使のメッセージにより与党議員の造反を抑制するといった機能も考慮すべきであり、要は統治機構全体の観点からの検討が必要だろう。ほかにも21世紀の日本社会の状況や各国の統治機構改革の水準に合わせて、どうアップデートしていくかが問われている。例えば(1)各国で「代表制の危機」が叫ばれる中で、選挙以外に国民意思を反映する回路をどう構築していくか(2)財政や環境の問題も含めて将来世代の利益を制度上どのように考慮すべきか(3)多様化し続ける個々人を国民として統合しつつ、各人が自分らしい人生を送れるような枠組みをどう構想するか――といった大きな問題を統治機構論の文脈でどう受け止めるのか考えていかなければならない。最後に、これまで述べてきたような憲法論議の改善に向けて、継続的な議論の場の重要性を強調したい。議論の枠組みや質は、議論の場のあり方にも左右される。憲法については日本国中の様々な場で議論されるべきなのは当然だが、こうした国民の声や専門家による問題提起を受け止めて制度改革のための憲法・法律の改正プロセスに入力したり、国民的な議論を喚起したりする場が、国の側に設けられる必要があろう。実は、行政府には憲法全体を所管する省庁はない。周知のように内閣法制局は9条をはじめとする政府の憲法解釈に決定的な役割を果たしてきたが、所掌事務上憲法を所管しているわけではない。前述のような意味での「場」に近いものでありうるのは、衆参各院に設けられた憲法審査会だ。憲法審査会は憲法改正原案などの審査のほか、日本国憲法のみならず、それに「密接に関連する基本法制」について「広範かつ総合的に調査を行」うことを任務とする(国会法102条の6)。憲法改正問題だけでなく、法令レベルの制度も含めて統治機構に関して海外諸国の動向や学界その他国内での問題提起を受け、現状を調査し論点を整理し、場合によっては改革案の問題提起をするといった役割を、憲法審査会のようなところで担うことも考えられてよいのではないか。もちろん、そのためには多くの課題があろう。例えば(1)前述のような国会法の規定がこうした活動の根拠として十分かどうか(2)専門性を持つスタッフや十分な活動を展開するための予算を確保できるかどうか(3)各議院の他の委員会との関係はどうか(4)党派的に利用されるのではないか――など枚挙にいとまがない。だが日本の統治機構改革は90年代の政治改革がリクルート事件を発端としたように、不祥事などを受けて偶発的に行われるのが常だ。より効率的にであれ、民主的にであれ、統治機構を改善しようとする不断の取り組みは軽視されてきた。今回の改憲論議を通じてこの問題点に光が当たり、こうした仕組みあるいは「場」が統治機構にビルトインされる必要性の認識が広がるのであれば、それなりの意義があったと言えるだろう。

*3-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13343426.html (朝日新聞社説 2018年2月3日)「安保法」訴訟 あぜんとする国の主張
 安全保障関連法をめぐる訴訟で、国が驚くような主張をして裁判所に退けられた。安保・防衛論議の土台にかかわる問題である。国民に対する真摯(しんし)で丁寧な説明が必要だ。舞台になったのは、安保法の成立をうけて現職の陸上自衛官が起こした裁判だ。自衛官は、集団的自衛権の行使は違憲との立場から、法が定める「存立危機事態」になっても、防衛出動の命令に従う義務がないことの確認を求めていた。一審の東京地裁は「出動命令が出る具体的な可能性はない」などと述べ、踏みこんだ審理をしないまま訴えを却下したが、東京高裁はこれを否定。「命令に反すれば重い処分や刑事罰を受ける可能性がある」として、自衛官が裁判で争う利益を認め、審理を差し戻した。あぜんとするのは、裁判で国が、存立危機事態の発生は想定できないとの立場を終始とり続けたことだ。安倍首相が北朝鮮情勢を「国難」と位置づけ、衆院選を戦った後の昨年11月の段階でも「国際情勢に鑑みても具体的に想定しうる状況にない」「(北朝鮮との衝突は)抽象的な仮定に過ぎない」と述べた。説得力を欠くこと甚だしい。ならばなぜ、長年の憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認し、強引な国会運営で安保法を成立させたのか。広範な疑問の声を抑えこみ、「国民の平和と安全なくらしを守り抜くため不可欠だ」と法の成立を急いだのは安倍内閣だ。ところが裁判になると、自らに有利になるよう「存立危機事態は想定できない」と主張する。ご都合主義が過ぎる。高裁が、国の言い分を「安保法の成立に照らし、採用できない」と一蹴したのは当然だ。どんな場合が存立危機事態にあたり、集団的自衛権の行使が許されるのか。安保法案の国会審議を通じて、安倍内閣は納得できる具体例を示さなかった。首相が当初、象徴的な事例としてあげたホルムズ海峡の機雷除去も、審議の終盤には「現実問題として具体的に想定していない」と発言を一変させた。一方で小野寺防衛相は昨年夏、米グアムが北朝鮮のミサイル攻撃を受ければ日本の存立危機事態にあたりうると、国会で前のめりの答弁をした。裁判での国の主張とは相いれない。ただ共通するのは、存立危機自体の認定が、時の政府の恣意(しい)的な判断に委ねられている現状の危うさである。判決を機に、安保法がはらむこの本質的な問題を改めて問い直す議論を、国会に望む。

<人権と憲法>
*4-1:https://www.jiji.com/jc/article?k=2018013100155&g=pol (時事 2018.1.31) 私権制限求める声続出=緊急事態条項-自民改憲本部
 自民党憲法改正推進本部は31日午前、今年初の全体会合を党本部で開き、大規模災害時の緊急事態条項について議論した。国会議員任期の延長などに加え私権制限も検討すべきだとの意見が相次いだ。推進本部幹部の間では、任期延長に限るべきだとの見解が大勢となっており、根本匠事務総長は全体会合後、「まだ議論が必要だ」と記者団に述べた。会合では「大災害や武力攻撃の事態を真剣に想定しないといけない」「理想は2012年の党改憲草案だ」などの意見が続出した。一方、野党などの理解を得るため、「党改憲草案が理想だが(改憲を)実現しないといけない」との声も上がった。

*4-2:https://www.nishinippon.co.jp/nnp/syasetu/article/380219/ (西日本新聞 2017年12月14日) 秘密保護法3年 監視機能の強化を早急に
 国民の知る権利を侵害しかねない特定秘密保護法が施行されて10日で3年が経過した。特定秘密に指定され、国民には知らされない文書や写真などは時間の経過とともに増え続ける。一体何が指定されているのか、指定は正しいか、運用に誤りはないのか-監視機能は弱いままだ。内閣府によると、指定された特定秘密は2014年末に382件18万9千点だったのが、15年末には443件27万2千点、16年末には487件32万6千点に増えた。特定秘密に指定される情報は防衛▽外交▽スパイ活動防止▽テロ防止の4分野で、漏らしたり不正に取得しようとしたりすると最高で懲役10年が科せられる。北朝鮮情勢の緊迫化などを背景に件数の増加は当然との見方もあろう。ところが、15年末までに指定された特定秘密の37%に当たる166件は件名だけで具体的な文書や写真がなかった。担当者の「頭の中」(知識や記憶)を指定した-などずさんな運用もあった。衆参両院に常設される情報監視審査会は秘密会にもかかわらず政府側が回答を拒む場面が目立つという。審査会は過半数の賛成で特定秘密の開示を求めることができるが、政府は拒否できる。運用改善を勧告しても強制力はない。そもそも審査の手掛かりとなる特定秘密指定管理簿は「開催した会議の結論に関する情報」など抽象的な表記が並び、どんな情報なのか想像もつかない。審査会は具体的表記への改善を求めているが、政府はゼロ回答を繰り返す。内閣府には独立公文書管理監が室長の情報保全監察室がある。官房長官あるいは法相が委員長の内閣保全監視委員会もあるが、「身内のチェック」には限界がある。特定秘密ではないが、森友・加計(かけ)学園問題や防衛省の日報隠蔽(いんぺい)問題など政策決定に関わる重要情報の開示を政府が拒んだり早々に廃棄したりする実態は目に余る。国の情報は国民のものであり、政府の独占物ではない。国会の監視機能を強化するとともに、第三者機関の設置を検討すべきだ。

*4-3:http://qbiz.jp/article/124575/1/ (西日本新聞 2017年12月14日) 日EU、データ移転で大枠合意 企業、域外持ち出し容易に
 政府と欧州連合(EU)が、互いの進出企業が現地で得た個人データを柔軟に域外に持ち出せるようにすることで大枠合意したことが14日、分かった。地域を越えた情報の自由なやりとりが可能となり、新サービスの創出が期待される。日欧は今月、経済連携協定(EPA)交渉も妥結しており、日欧間のビジネスが一層活性化しそうだ。政府の個人情報保護委員会と来日している欧州委員会のそれぞれの委員が14日に協議。来年3月までに最終合意を目指すことを確認した。日欧は15日午後に合意文書を公表する見通しだ。インターネットが普及する中で、膨大な個人データが国境を越えて行き交うが、EUは個人情報保護について十分な対応をしていると認定する国や地域以外へのデータ持ち出しを原則として禁じている。現状、日本はEUから認定されていないため、EU域内に支社や子会社を持つ日本企業が、住所や電話番号、クレジットカード番号などを含む顧客リストを日本の本社に送るのには煩雑な手続きが必要だった。今回合意すれば、簡単な手続きだけで従業員や顧客のデータを送ることができる。昨年夏に本格的に協議入りしたが、EU側は当初、法制度の違いを指摘するなど、早期合意は困難だとみられていた。14日の協議で、日本側がEU市民の個人データを慎重に取り扱うように配慮するガイドラインをつくることで折り合った。EUはスイスやアルゼンチンなど11の国・地域を認定済み。このままでは日本企業が競争上不利になるとして、産業界から対応を求める要望が出ていた。

*4-4:http://www.saga-s.co.jp/articles/-/160774 (佐賀新聞 2017.12.17) 部落差別解消推進法の周知を、施行から1年
 「部落差別解消推進法」の施行から1年となった16日、部落解放同盟大阪府連合会などの人権団体が「法律が十分浸透していない」として、大阪市北区のJR大阪駅前で、法律の概要を解説したチラシなどを配り周知を図った。インターネット上に同和地区の地名が書き込まれたりしている実態も訴えた。同法は「現在もなお部落差別が存在するとともに、情報化の進展に伴って部落差別に関する状況の変化が生じている」と明記。すべての国民が、部落差別解消への理解を深めるよう努めるとする基本理念を定めた。解放同盟大阪府連の村井康利書記長は「(差別解消への)具体化が課題。部落差別の問題はとっつきにくい印象を持たれるので、貧困対策などの地域・福祉活動と一体で取り組んでいきたい」と話した。

<軍事技術と基地>
PS(2018年2月11日追加):私も、*5のように、久間元防衛相の「①軍事技術の進展で現状の基地の存在について疑問」「②あんな広い飛行場もいらない」「③日米地位協定も改定すべき」という意見に賛成で、もっと小さな費用で合理的な防衛をすべきだと考える。なお、返還される広い敷地は、温暖で、近くに資源が眠り、宝石のように美しい自然に囲まれた島として、使い道はいくらでもある。

*5:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-663195.html (琉球新報 2018年2月11日) 「辺野古 基地いるのか」 久間元防衛相、軍事技術進展理由に
 米軍普天間飛行場返還を巡り、SACO最終報告やキャンプ・シュワブ沿岸部案の合意時に防衛庁長官を務めた久間章生元防衛相が8日までに琉球新報のインタビューに応じ「辺野古でも普天間でもそういう所に基地がいるのか。いらないのか」と必要性を疑問視した。を呈したものだが、新基地建設を推進してきた当事者として極めて異例の発言となった。普天間飛行場移設を巡っては、これまでも森本敏防衛相(当時)が2012年に「軍事的には沖縄でなくてもよいが、政治的に考えると沖縄が最適地だ」と述べるなど、閣僚から「政治的な理由」で沖縄に基地を押し付ける発言が展開されてきた。久間氏の発言は補強する格好で、波紋を広げそうだ。久間氏は軍事技術が向上しており、ミサイル防衛態勢の強化や無人攻撃機といった防衛装備品も進歩しているとして「辺野古でも普天間でもそういう所に基地がいるのか。いらないのか。そういう議論をしなくても安保は昔と違ってきている」と指摘した。その上で「」と面積の大きい飛行場建設も疑問視した。同時に自主防衛能力が高まっている現状を念頭にと主張した。在沖海兵隊の存在についても異議を唱えながらとの持論も展開した。辺野古新基地の現行計画にも理解を示した。一方、辺野古新基地について埋め立て方式に決まった理由について、外部からの攻撃を想定し「防衛庁(現・防衛省)で検討した」と証言した。当時の橋本龍太郎首相は撤去可能なメガフロート案を検討していたが、防衛省が基地を固定化する案を提示していたことになる。久間氏は1996年11月~98年7月、06年9月~07年1月に防衛庁長官、07年1月~同年7月まで初代の防衛相を務めた。


<踏みにじられた言論の自由>
PS(2017年2月11日追加):このブログを書いた途端、*6-1のメールが日経新聞読者応答センターから私のところに送られてきた。内容は、私がこのブログに掲載している日経新聞及びグループ各社の記事が、著作権の侵害に当たるということだった。しかし、私は日経新聞及び日経電子版の読者であるため、その記事を見ることができるのであり、ブログに掲載する日経新聞の記事には必ず新聞名と掲載日を記載しており、新聞記事を自分の著作と偽った事実は皆無だ。そして、私のブログ記事は、私が見ることのできる範囲の別の新聞記事も比較し、問題点を把握し、真実の所在を明らかにして、私が考える処方箋を書いているものだ。そのために掲載した記事は、記事・メディア・行政に対する批判やディスカッションのための参考資料もしくは証拠であり、記事の比較で私が使っているのは、公認会計士として培ってきた監査の手法であるため、ブログ全体の内容は私の著作物である。にもかかわらず、著作権法違反などとして私の言論を封じようとするのは、日本国憲法第21条1項「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」のうちの「言論の自由」に反する。なお、憲法は、あらゆる国内法の上位に立つため、憲法違反の法律をいくら作っても、それは違憲立法であり無効だ。
 さらに日経新聞は、*6-2のように、SNSやブログは政治のもろ刃の剣などとしているが、真実から遠い記事を書き続けて世論操作を行うため弊害が多いのはメディアの方であり、政治家は言われっぱなしで反論するツールがなかったが、インターネットの登場で反論の場を得たという方が正しい。また、仮に私のブログ記事を大衆迎合や世論操作だと言うのであれば、自分の記事の価値をどのくらいだと思っているのかと呆れてモノが言えない。まず、メディアが、真実ではなく、真実と認める相当の理由もない低レベルで興味本位の記事を書くのをやめ、20年後に読まれても恥ずかしくない記事(私が25年前に書いたアドバイスレターは、今でも通用する)を書いていれば、いちゃもんをつけて私のブログをあわてて消させる必要はなく、国民の意識も高まる筈なのだ。

*6-1:From: ◇読者応答センター
Sent: Friday, February 9, 2018 11:27 AM
To: hirotsu@hirotsu-motoko.com
Subject: 著作権侵害の件について
広津様
http://hirotsu-motoko.com/weblog/index.php
 広津様が運営されている上記ページに、日本経済新聞社及び日経グループ各社等が、著作権を有するコンテンツが数千件規模の多数、長期間にわたり転載されていることを、2018年2月までに把握いたしました。日経電子版の記事、写真、グラフイメージ等のデータは全て、日本経済新聞グループ各社および筆者が、著作権を有しております。弊社には、当掲示板設置者に記事転載を許諾した記録がございません。したがって同ブログ上での行為は、弊社著作権の侵害に当たると、認識しております。弊社が読者との契約に基づき、提供している製品・商品であるコンテンツが大量に無断転載され、無償での送信・複写が可能な状態となっていることは、弊社にとり大きな損失となります。貴台におかれましては、当該掲示板による弊社コンテンツ無断転載等の著作権侵害に関して、所要の対応をお願いします。具体的には全転載記事を速やかに削除していただけるよう請求いたします。対応がみられない場合、弊社としてもさらに踏み込んだ措置を、とらざるを得なくなりますことを、ご承知おきいただきたく存じます。以上、宜しくお願い申し上げます。

*6-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180210&ng=DGKKZO26746610Z00C18A2TM1000 (日経新聞 2018.2.10) SNSやブログ 政治のもろ刃の剣、「真意」発信/世論操作の危うさ ネット台頭(6)
 平成に入って普及したインターネットは、政治の風景も大きく変えた。誰もが気軽に発信し、共感し合える社会――。それは国境や人種、宗教の壁を超えた世界を切り開くとともに、政治の大衆迎合や意図的な世論操作を助長する危うさもはらんでいる。村山内閣の発足から間もない1994年8月、首相官邸が公式ホームページを開設した。通信できるパソコンの本格的な普及は翌年に基本ソフト「ウィンドウズ95」が発売されてからで、当時は永田町でもネット利用者はまだ少数に限られていた。現在では首相官邸のネット発信はユーチューブ、ツイッター、LINE、フェイスブックへと広がり、今年1月からインスタグラムでの写真や動画の配信も始まった。これとは別に安倍晋三首相も自身の名前で交流サイト(SNS)で積極的に発信している。立憲民主党の幹部は「野党もネットの活用に力を入れているが、残念ながら政府への注目度にはかなわない。海外を訪問して沿道の市民に大歓迎を受ける首相の動画などは確かにアピール力がある」と悔しげに語る。大手メディアは伝統的に権力の監視に力を入れ、時の政権幹部の言動に批判的な立場で報道する機会も多い。政府の直接発信は首相や閣僚らの生の姿を国民に伝えるのが売りだが、権力側に都合がよい場面だけを公表する要素があるのは間違いない。日本では選挙で物を言うのは「地盤(後援会)、看板(知名度)、カバン(資金力)」と長く言われてきた。政治活動とネットとの親和性はもともと高くなく、政党や国会議員らが90年代後半から公式サイトを立ち上げはじめても党の綱領や政策、プロフィルなどを掲載するだけの簡素なものが目立った。だが21世紀に入るとネット利用は次第に広がっていく。特に後援会組織が弱い都市部の政治家にとって、最近の活動を有権者に報告するのにホームページやメールマガジン、ブログは手間や経費がかからない便利なツールとして定着していった。こうした動きを一気に加速させたのが、2013年夏の参院選でのインターネットを使った選挙運動の解禁だ。街頭演説や選挙カーでの選挙区回りが主な活動なのは不変だったが、日ごろからのこまめな発信とフォロワー数の拡大が得票に結びつくことに気づいた政治家が多かった。日本の先をいく米国には、多くのヒントと教訓がある。08年の米大統領選でオバマ氏はネットを積極活用した。ボランティアへの呼びかけなど既存の組織に頼らない選挙戦術を展開し、献金をクレジットカードで「広く薄く」集める手法も導入した。16年の前回の大統領選では、トランプ氏が自身に批判的な既存メディアを攻撃し、自分の「真意」を伝える手段としてツイッターなどを活用した。大統領就任後も続く品位を欠いた発信には眉をひそめる米国人も多い。日本でもネットの台頭が政治にもたらす負の影響が目立ち始めている。野党の女性議員は自身のホームページに「デマについて」とのコーナーを設けた。自身の健康問題や家族関係、果ては東日本大震災の支援物資流用から北朝鮮との親密な関係まで事実に反する中傷が飛び交った。放置すると情報がどんどん拡散していくため、第三者の見解などを付けて反論することにした。ネットでは中国や韓国、在日外国人、社会的弱者らを過激な言葉で非難し、違う考えの個人や政治家、マスメディアを「反日」「売国奴」などと決めつけて一方的に非難する論調も飛び交っている。立教大学社会学部の木村忠正教授は「過激な言動を繰り返しているのはごく一部。ただ、それを見ている多数も『少数派の権利が過剰に守られている』といら立ちを感じている面がある」と指摘する。同時に「ネットという手段そのものに問題があるわけではなく、大事なのはどう利用するかという使い手の意志だ。今後は他国がサイバー攻撃的に日本の世論を誘導するような動きにも気をつけないといけない」と語る。自宅のパソコンで行政や政治家に関する情報を集めたり、自分の考えを表明したりする手段としてネットはすでに重要な役割を果たしている。「ふるさと納税」などを活用して特定の自治体を応援する仕組みも、ネット無しでは広まらなかっただろう。言論の自由、開かれた政治活動や公正な選挙は、民主国家を支える基盤だ。民意をつかみ、異なる意見にも耳を傾けて調整する政治の役割は、次の時代にも決して変質させてはならない。そのためにはネットが持つ長所と短所をよく理解し、上手に活用するための社会的なルールを確立していく必要がある。

<原発再稼働は高コストの不用な挑戦>
PS(2018年2月11、12、13、14日追加):*6と時を同じくして、*7-1のように、原子力規制委員会の更田委員長が佐賀県唐津市を訪れ、「阿蘇山の巨大噴火が起きる可能性は十分に低い」と述べられたそうだが、「十分に低い」というのは「0でない」ということである。しかし、原発が事故を起こせば、第一次産業は壊滅し、そこに住むこともできなくなるため、事故の確率は0でなければならない。従って、原発再稼働は、他のあらゆるエネルギーよりも高コストで、近くに住む人の人権・財産権を脅かす不用な挑戦だ。なお、この論調を「風評被害」「世論操作」などと言う人がいれば、そちらの方がリスク管理に欠ける人である。
 なお、*7-2には、更田委員長が、①「再稼働を判断する主体は規制委とは別」としていること ②「少しでもリスクを語る方向に向けたい。私にあのような質問が出るのは、経済産業省、九電の努力が理解されていない表れだ」と述べたこと などが記載されているが、②のように仮に経産省や九電が努力したとしても、リスクが0にならなければ意味がない上、①のように再稼働判断の主体と安全性判断の主体は別として無責任体制にしている点は、地域の安全や産業等の広い意味でのリスクを真剣に考えている人から見ると、経産省・規制委・九電の形だけのごまかしに過ぎない。そのため、伊万里市長の欠席は、再稼働に反対して佐賀県知事らとけんかしたくないことが理由だと思われ、ここは広島県同様、長崎県の住民に頑張って欲しい。
 なお、埼玉県も原発事故の被害を受けており、それを忘れて原発再稼働を求める意見書を可決・提出したというのはあまりに愚かで、私も、*7-3の意見に全く同感だ。

*7-1:https://ryukyushimpo.jp/kyodo/entry-663519.html (琉球新報 2018年2月11日) 玄海原発の火山灰対策視察 規制委員長、知事と会談
 原子力規制委員会の更田豊志委員長は11日、九州電力玄海原発(佐賀県玄海町)を訪れ、火山灰の対策設備などを視察した。佐賀県の山口祥義知事らと視察後に会談し、熊本県・阿蘇山の影響について「巨大噴火が起きる可能性は十分に低い」と述べた。九電は3号機を3月、4号機を5月に再稼働させる方針だ。更田氏は非常用ディーゼル発電機の吸気口に取り付けた火山灰の侵入を防ぐフィルターや、3、4号機の中央制御室などを見て回った。会談は佐賀県唐津市で実施し、同原発の半径30キロ圏に含まれる福岡、長崎の両県幹部や市町の首長らも出席したほか、九電の瓜生道明社長が同席した。

*7-2:https://mainichi.jp/articles/20180212/k00/00m/040/094000c?fm=mnm (毎日新聞 2018年2月11日) 玄海原発:3首長、規制委に反対訴え「リスク説明不十分」
 原子力規制委員会の更田(ふけた)豊志委員長が11日、九州電力玄海原発(佐賀県玄海町)から半径30キロ圏内にある佐賀、長崎、福岡3県の8市町の首長らと意見交換をした。16日に核燃料の装着が始まる予定の3号機は3月中旬以降、再稼働の見通し。再稼働に反対する4市長のうち、出席した3市長が「リスクの説明が不十分」と改めて反対を訴えた。意見交換は、立地自治体や周辺地域との意思疎通を強化する目的で、全国の原発で初めて実施。更田委員長らが同原発の火山灰対策などを視察後、佐賀県オフサイトセンター(佐賀県唐津市)で開催した。自治体側は佐賀県の山口祥義(よしのり)知事と岸本英雄・玄海町長の他、再稼働に反対してきた長崎県の松浦、平戸、壱岐の3市長も参加。黒田成彦・平戸市長が「ゼロリスクではないと住民に説明しても理解されない。避難道路の整備を国に要望しても無視されている」と指摘した。出席しなかった佐賀県伊万里市長も反対している。更田委員長は「再稼働を判断する主体は規制委とは別」と回答。終了後、報道陣に「少しでもリスクを語る方向に向けたい。私にあのような質問が出るのは、経済産業省、九電の努力が理解されていない表れだ」と述べた。

*7-3:http://www.kahoku.co.jp/editorial/20180213_01.html (河北新報社説 2018年2月13日) 原発再稼働意見書/目に余る住民軽視、議論軽視
 東京電力福島第1原発事故の風化もついにここまで来たか。誰もがそう感じたに違いない。埼玉県議会が原発再稼働を求める意見書を可決、提出した一件だ。地方議会が機関意思を表明することに異論はない。それでもなお、国民議論が生煮えの再稼働問題で真っ先に一方へとかじを切ったのが埼玉県議会であることには、驚きと落胆を禁じ得ない。原発被災者の多くが埼玉県の人々に感謝しているからこその率直な感想だ。事故直後から原発避難者を官民一体で支援してきたのが埼玉県だった。加須市には福島県双葉町の行政機能と住民が丸ごと身を寄せた。県内では今も福島から3300人が避難生活を送っている。手続きそのものに瑕疵(かし)はなかったとはいえ、議論は十分だったのだろうか。自民党系会派を中心に議員11人が意見書案を提出したのは、昨年12月の定例会最終日だった。即日採決が行われ、賛成多数で可決された。県民からすれば、住民排除の密室で意に沿わない決定がなされたに等しい。定例会が閉じてから初めて意見書可決の事実を知った人々が、連日のように抗議行動を続けているのが何よりの証拠だ。地方自治法は、地方公共団体の公益に関する事項について国会や関係行政庁への意見書提出を認めている。つまり地方自治に資するかどうかが意見書の眼目となる。法の趣旨に従えば、意見書はその内容も不可解だった。原発再稼働と同時に「避難のための道路や港湾の整備や避難計画の策定支援」を求めているからだ。事故に備えた港湾整備や避難計画策定は、少なくとも海も原発もない埼玉県には無関係の事項だろう。また意見書は、原発再稼働を求める理由に経済効率の向上を挙げた。経済効率こそが埼玉県にとっての「公益」であり、そのために他県は原発を再稼働すべきなのか。暮らしの便利を謳歌(おうか)するだけで、「コンセントの向こう側」で起きた過酷事故の現実や、原発立地自治体の苦悩を理解しようといない埼玉県議会の不見識を問いたい。意見書を取りまとめたという議員は、総合経済誌の取材に対して「そもそも(意見書を)提出してどうなるのかという疑問もある」と述べていた。自治体の議決機関として驚くべき自覚の欠如と言わざるを得ない。確かに関係行政庁に応答の義務はないのだが、一方で提出したら撤回できないのが地方議会の意見書だ。それ故、徹底した議論や世論の賛否が割れる事項では慎重な取り扱いが求められる。しかし今回は、意見書提出を端緒として県民の抗議行動が起こった。事の順序が逆であり、この混乱を埼玉県議会はどう収束させるつもりなのか。住民軽視、議論軽視の代償は、あまりにも大きい。

<日本におけるEV普及の遅れについて>
PS(2018年2月13日追加):*8に、「①インド政府は、2030年までにすべての自動車販売をEVにするとの目標を掲げた」「②インド・タタ自動車のブチェックCEOは、スマート・エナジー・ゾーンに小型セダンやバスなどEVを6台展示し、年内にもEVの発売を始めたいと語った」「③EV販売で先行するマヒンドラも様々なEVの試作車を公開した」等が書かれており、インド政府は合理的な判断を行って自国の自動車産業を育てようとしていることがわかる。
 それに対する朝日新聞のコメントは、「i. 広い国土で充電設備の整備が必要」「ii. インドでは停電が多く石炭火力発電の割合が6割と高いので、EV拡大で石炭火発が増えれば二酸化炭素排出量は減らない」「iii. EVは高価になりがちなので、成長途上のインドで販売が増えるかも未知数」である。しかし、充電設備の整備はガソリンスタンドの整備よりずっと安価で何処にでも設置でき、インドは太陽光が豊富なので住宅・駐車場等への太陽光発電の設置で石炭火力は減らすことすらできる。また、EVは、HVよりずっと部品点数が少ないため安価に製造できる。従って反論が非論理的すぎ、このような反論を続けてスズキがHVの量産に資金を投入すれば、原発への固執と同様、無用な寄り道をして各国の自動車会社に敗退することになるだろう。


    インド、グレーターノイダの「オートエキスポ」で展示されているEV

*8:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13356989.html (朝日新聞 2018年2月13日) インド、国策EVの風 普及へ税制優遇で後押し
 拡大するインドの自動車市場で電気自動車(EV)への注目が集まっている。首都ニューデリー郊外のグレーターノイダで開かれている自動車ショー「オートエキスポ」では、EVの普及を掲げるインド政府の意向を受け、各社が試作車などを次々と公開。普及への期待は強まるが、課題も多い。
■広い国土、充電設備課題
 「今こそ、インドがEV大国となるようあらゆる推進策に注力していく」。ショーの会場を訪れたインド・タタ自動車のブチェック最高経営責任者(CEO)はこう語り、EV化を進める姿勢を強調した。タタは会場に「スマート・エナジー・ゾーン」を設け、小型セダンやバスなどEVを6台展示。ブチェック氏は「年内にもEVの発売を始めたい」と語った。オートエキスポは2年に1回開かれ、部品メーカーも含めて1300社が参加するインド最大の自動車ショーだ。インドの2017年の新車販売は400万台を超え、ドイツを抜き世界4位。成長市場で各社はEVに注目する。EV販売で先行するインドのマヒンドラ・アンド・マヒンドラも様々なEVの試作車を公開。バスやSUV(スポーツ用多目的車)、三輪車のほか、渋滞をすり抜けられる超小型車など8台を展示した。韓国の現代自動車は19年にもEVをインド市場に投入予定で、EV「アイオニック」を展示した。背景にはインド政府の方針がある。昨年、2030年までにすべての自動車販売をEVにするとの目標を掲げた。昨年7月から税制優遇でEVを後押しし始めた。電気モーターで走るEVの税率は12%に抑え、モーターとエンジンを併用するハイブリッド車(HV)は43%に引き上げられた。ニティン・ガドカリ道路交通相は、朝日新聞の取材に「インドにとって原油の輸入に依存するのは財政的に大きな問題だ。大気汚染も深刻で、排出のないEVが最適だ」と話す。ただ、EV普及には課題も山積みだ。広い国土での充電設備の整備が必要で、そもそもインドでは停電が多い。石炭火力発電の割合が6割と高く、EV拡大で石炭火発が増えれば、二酸化炭素の排出量は減らない。さらにEVは高価になりがちで、成長途上のインドで販売が増えるかも未知数だ。インド自動車工業会は、新車販売に占めるEVの割合は30年時点で3~4割にとどまるとみる。政府内でも、30年までの目標達成は不可能だとして見直しを求める声がある。
■日系はHVも重視 目前の規制に対応
 HVで先行する日系メーカーは、インド政府のEV推進策への対応を迫られる。新税導入後、HVの売れ行きは軒並み落ちている。ただインドでは20年以降相次いで、排ガス規制や燃費規制が強化される。目先の規制をクリアするには「HVが現実的な解」(自動車アナリスト)として、当面はHVを重視する構えだ。インド最大手でスズキ子会社のマルチ・スズキはショーにEV試作車を出品し、20年に市販する。HVの量産も急ぐ。モディ首相の地元州に工場を建て、20年からHVを生産する。マルチ・スズキの鮎川堅一社長は「EVは突然の動きで、国も業界もまだ地に足がついていない」としたうえで、「インド政府の強い考えには応えていくが、EV化がすべてではない。HVも一つのソリューションだ」と話した。トヨタは昨年12月、20年代前半にインドでEVを売り出す方針を発表した。トヨタの17年のインドでの販売台数は前年比6・7%増の14万台。台数はまだ少ないが、今後も成長が見込めるとみて環境規制にも対応する方針だ。EVやHVが注目されるが、市場の中心はエンジン車で、各社は戦略車を投入している。ホンダは八郷隆弘社長がショーに出席。「インドはホンダにとって重要な市場の一つ」と述べ、新型の小型セダン「アメイズ」を世界で初公開した。バイクから自動車への乗り換え需要をねらう。2017年の新車販売は17万9千台で前年比10・9%増。アメイズをてこにさらなる飛躍をねらう。成長市場での競争は激しい。韓国の現代自動車グループ傘下の起亜自動車と中国の上海汽車集団は、いずれもインドに参入することを表明。生産準備を進めている。

<鉄軌道について>
PS(2018年2月13、18日追加):*9-1のように、今まで鉄道のなかった沖縄で、「那覇⇔浦添⇔宜野湾⇔北谷⇔沖縄⇔うるま⇔恩納⇔名護」のルート案を、有識者の検討委員会が推奨決定したそうだ。私は、鉄道を導入するのなら、那覇市内などの既開発地域は地下鉄がよいとしても、それ以外は、海が見えるように鉄道を作って景色を眺めながら走れるようにするのがよいと考える。しかし、乗用車だけでなくバスやトラックも電動化するため、道路を3階建てにして最上階はバスなどの公共交通機関のみ走らせれば、鉄軌道でなくても環境汚染や渋滞はなくなるし、3階部分に鉄道を敷設することも可能だ。また、沖縄は太陽光が豊富で自然が売りの離島であることから、スイスのマッターホルンの麓の町ツェルマットのように(https://www.zermatt.ch/jp/zermatt-matterhorn 参照)、自然エネルギーとEVの導入を素早くやれば、それを見て感心する国内外の観光客は多いだろう。
 このような中、*9-2のように、JR九州は鉄路削減をしようとしているが、どうしても貨物や乗客を増やすことができず、送電線を敷設して収益を上げることもできず、数人の高校通学者のためだけにがら空きの電車を走らせているのなら、廃線にしてバス会社が必要な時間帯に小型EVバスを走らせる方法もある。しかし、収益は全体として上がるものであるため、「“鉄道カンパニー”が大赤字のままでは、鉄道以外の事業の発展もない」というのは正しくない。なお、*9-3のような自動運転が在来線やバスに導入されれば損益分岐点はさらに下がるが、それらをどう組み合わせるかは、何をどこに配置して何で稼ぐのかという近未来の総合計画があって初めて決定できることだ。
 なお、*9-4の琉球新報2月18日に、「大手スーパーの複合商業施設拡張展開にあたり、県道38号をまたぐ空中通路構想が浮上している」と書かれているが、県道38号を3階建にし、2階を乗用車・トラック、3階を公共交通機関専用道にして、大手スーパーの駐車場を2階部分、公共交通機関の停車駅を同3階部分に設置すれば、既にある土地を有効に利用して渋滞をなくすことができ、水害に強くて便利な街づくりができる。東京では渋谷駅ビル内の東急百貨店がそうで、私は東急百貨店はそこしか行かない。そして、県道の1階部分は、歩行者・二輪車専用道と、ブーゲンビリアなど本土から見れば珍しい沖縄の花咲く緑地公園にするのがよいだろう。


台湾の鉄道と地下鉄路線  台湾の高速鉄道        2018.2.12西日本新聞 

*9-1:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-655103.html (琉球新報社説 2018年1月29日) 鉄軌道の推奨ルート 総合交通体系の視点必要
 沖縄本島の鉄軌道導入に向けて、県が設置した有識者の検討委員会が推奨ルート案を決定した。那覇から浦添、宜野湾、北谷、沖縄、うるま、恩納を通り、名護に至る「C派生案」だ。過度に自動車に依存した沖縄の交通体系は、もはや限界に来ている。鉄軌道だけではなく、バスやモノレール、タクシーなどと連携した総合的な公共交通体系の観点から包括的に議論し、今後の計画を進めていくべきだ。沖縄鉄軌道計画検討委員会(委員長・森地茂東京大名誉教授)は那覇と名護を1時間で結ぶ七つのルート案を比較検討してきた。(1)利便性(2)採算性(3)事業費と建設期間(4)施工性と環境への影響-を基に、推奨ルートを絞り込んだ。事業費は約6100億円と最安ではないものの、集客地域の広さや乗客数から最良と判断した。慢性的な渋滞は沖縄が抱える積年の課題だ。経済的損失、時間的損失に加えて、観光イメージの悪化、環境や健康への負荷など多方面に悪影響を及ぼす。本紙が今月から始めた連載「交通改革-未来への地図」では、渋滞による弊害が多角的に報じられている。那覇市の混雑時の自動車の走行速度(2012年度)は時速16・9キロと全国ワーストで、14年度はさらに悪化した。車社会は加速しており、17年の自動車保有台数は113万台と30年間で2倍以上に増えた。レンタカーも年々増え3万5千台に達している。一方で、鈍化したとは言え、バス離れも深刻だ。16年度の輸送人員は約2600万人。30年間で3分の1に減った。陸上交通全体に占める鉄道・バスの人員輸送の割合は沖縄はわずか3・2%で、全国平均29・9%の10分の1だ。自家用車が9割と極端に高い。鉄軌道の整備には渋滞解消への期待も大きい。そのためには他の交通機関との有機的な連結も欠かせない。検討委は基幹の鉄軌道から分かれる支線は路線バスの活用を提言している。次世代型路面電車(LRT)やバス高速輸送システム(BRT)なども同時に考えるべきだ。推奨ルートで懸念されるのは、大半が地下トンネル方式になっている点だ。用地買収期間の短縮という利点はあるかもしれないが、建設コストが膨らみ、実現性が遠のいてしまうのではないか。国は採算性の厳しさを理由に沖縄の鉄軌道整備に慎重姿勢だ。しかし、国などの公共予算で整備し、鉄道会社は運行に専念する「上下分離方式」がある。検討委の試算では、上下分離だと開業後30年で黒字化できる見通しだ。整備新幹線は上下分離で進められている。沖縄は戦後、国鉄の恩恵も受けていない。戦後補償の一環として、上下分離で国が関わるべきだ。検討委は2月から意見を公募する。多くの県民の声を反映した鉄軌道にしてほしい。

*9-2:http://qbiz.jp/article/127888/1/ (西日本新聞 2018年2月12日) 鉄路削減に諦めと困惑 JRダイヤ改正 対象列車ルポ 「慣れた学校通いたい」「乗客少なく仕方ない」
 3月17日のダイヤ改正で、1日117本の運行本数削減などを計画するJR九州。沿線自治体から改正見直しの要望を受け一部の修正方針を固めたが、削減の大枠は変わらない見込みだ。運行取りやめが予定されている列車に乗車し現状を見るとともに、利用者や沿線住民の声を聞いた。1日午後9時半すぎ、宮崎県都城市のJR都城駅。待合室に利用客の姿はまばらだ。「最終列車がなくなったらどうすればいいのか…」。吉都線の列車を待っていた都城工業高2年の柿木大地さん(17)は戸惑いを隠さない。バレーボール部の練習後、帰りはいつもこの時間だ。ダイヤ改正で列車がなくなれば親の迎えが必要になる。「困ったなという感じ」とつぶやき、列車に乗り込んだ。午後9時45分、記者を含めて17人を乗せた2両編成の列車は、吉松駅に向けて動きだした。車内は多くが制服姿の学生で、飲み会帰りとみられるサラリーマンの姿もちらほら。乗客の1人に声を掛けると、都城泉ケ丘高の定時制に通う男子生徒(16)だった。通学に利用しており、この列車がなくなれば、通信課程がある宮崎市内の高校への転校も視野に入れなければならないという。「親は深夜に働いており送迎は難しい。環境が変わるのは不安だし、慣れ親しんだ学校に通い続けたい」と訴えた。JR九州はこの最終列車について、定時制高校生の通学を考慮し、学校のある平日のみ、運行を継続する方針に転換した。小林駅で大半の乗客が降り、車内は記者を含め3人に。えびの駅で塾帰りの女子高生が下車すると、終着駅の吉松まで乗車したのは記者だけだった。
   §    §
 翌朝、午前10時5分吉松発の都城行き減便対象列車にも乗車した。通院で利用する高齢女性、近隣の街に遊びに出かける女子高生5人組、パチンコをしに行くという高齢男性…。車内には空席が目立つ。入院中の妹の見舞いに行くという鹿児島県霧島市の境田タエ子さん(80)は「いつもは夫の運転する車で行く。こんなに乗客が少ないのでは、減便も仕方ないのかなと思う」と話した。鉄道は生活の足だけでなく、観光資源としての役割も大きい。吉松−鹿児島中央を1日2往復する観光列車「はやとの風」は平日の定期運行を取りやめる計画だ。午後3時1分の吉松発列車の乗客は、2両編成の車内に老夫婦や訪日外国人客など記者を含めて18人。停車駅のJR嘉例川駅周辺で町おこしに取り組む団体の山木由美子委員長(70)は「1日1往復でもいいから、平日も維持してもらいたい」としつつも、「『はやとの風』に頼らずに観光客に来てもらえる取り組みも考えないといけない」と前を向いた。
●鉄道部門の効率化が必要 古宮洋二・JR九州常務鉄道事業本部長
 ダイヤ改正の狙いや見直しの方針などについて、JR九州の古宮洋二常務鉄道事業本部長に聞いた。
−大規模な減便を含むダイヤ改正の狙いは。
 「JR九州発足後、列車本数は1・8倍に増えたが利用者は1・3倍にとどまる。線区別に見ると利用者が減っているところもある。各エリアでのローカル線の意義を確認しながら、効率的に列車を動かすように検証した結果だ」
−不動産など好収益事業で補填(ほてん)し、鉄道を維持すればよいとの意見もある。
 「“鉄道カンパニー”が大赤字のままでは、鉄道以外の事業の発展もない。株式上場が全く関係ないとは言わないが、民営化後30年間ずっと効率化に取り組んできた。増収施策や効率化で鉄道部門を良くしていく役目がある」
−自治体などからは見直しを求める声が大きい。
 「必要であれば検討する。(ダイヤ改正後の)時刻表の発表時期を考えると今の時点で大きな見直しは難しく、一部修正になると思う。改正後も足りない部分は対応する」
−自治体とのコミュニケーション不足だったようにも映るが。
 「沿線自治体それぞれに多様な意見があり、非常に難しいところ。最大公約数を見つけるのがダイヤ改正であり、どこに重点を当てるかは会社の判断だ」
−どう理解を得るか。
 「定期的に地元の方々とつながりを持っていくことは必要と思っている」

*9-3:http://qbiz.jp/article/127896/1/ (西日本新聞 2018年2月13日) JR九州が自動運転研究に着手 19年度にも試験運行 大量退職に備え
 JR九州が在来線への自動運転の導入に向けた研究を進めていることが分かった。早ければ2019年度中の試験運行を目指す。自動運転技術の活用で乗務員の負担を軽減し、人材不足や将来的な大量退職などに対応したい考えだ。同社によると、部署を横断したプロジェクトチームを1年ほど前に編成し、メーカーも交えながら自動運転技術について研究。発車から停車までを自動で行い、乗務員は安全の確保などを担う仕組みを想定している。導入線区については「検討中」としているが、投資効果が期待できる都市部を視野に入れているとみられる。背景には人材確保が厳しさを増していることや、旧国鉄時代に採用した社員の大量退職を控えていることがある。自動運転の導入により、高齢の運転士や運転士の資格を保有しない社員の活用が期待できるという。事故や故障など異常時の対応や、国が省令で定めた技術基準との整合性など課題はあるが、古宮洋二常務は「チャレンジすることが社員の意欲向上にもつながる」と期待を寄せる。国内では東京の新交通システム「ゆりかもめ」や神戸新交通の「ポートライナー」などが既に無人化。九州でも福岡市営地下鉄が自動運転を導入しているが、JR各社が実施した事例はない。

*9-4:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-667384.html (琉球新報 2018年2月18日) サンエー西原シティに「空中通路」構想 県や町などと議論
 2020年9月の完成に向けて関係自治体などが協議している沖縄県内最大手スーパー、サンエーの複合商業施設「西原シティ」(西原町)の拡張展開について、既存の施設に隣接して増築する0・45ヘクタールの部分と西原町役場跡地に新築する1・64ヘクタール部分を、県道38号をまたぐ「空中通路」でつなぐ案が持ち上がっている。14日に那覇市の県市町村自治会館であった2017年度第3回県都市計画審議会で県から中間報告があった。ただ道路規制上の問題もあり、空中通路の実現について県都市計画・モノレール課の担当者は「あくまで構想段階」との認識を示している。8月の県都市計画審議会で拡張展開の妥当性が承認されれば、事業者側が増築に向けて着工できるよう県や西原町は各種手続きを進める。

<長所を活かした沖縄の発展>
PS(2018.2.15追加):*10-1のように、久間元防衛相や森本元防衛相が、辺野古や普天間基地の必要性を疑問視しておられ、私も海上にある日本の国境を護るためであれば、それに近い離島や半島に陸海空の自衛隊を配置するのが合理的だと考える。そして、現在、日本海は対馬に陸海空1セットあり、東シナ海は、(反対も多いが)宮古・与那国・石垣島に自衛隊基地が整備されようとしている。従って、沖縄本島にある広大な米軍基地や自衛隊基地は必要最小限まで整理・統合し、その跡地を使って、*10-2のような翁長知事の「アジアの中心に位置する地理的優位性とソフトパワーを生かした味諸国(東南アジア諸国)との経済交流や連携」「教育の充実」を行うのが最もよいだろう。そして、*10-3のようなスマートシティーを作るためにも、既存施設のない広い敷地の存在は好条件である。
 なお、沖縄の長所は、*10-4のように、平均寿命が女性7位と長いことだ。男性が36位に落ちたのは、死因別の死亡率で肝疾患が全国一高い値を示していることから、夜中に集まって泡盛などを飲む習慣が原因で、糖尿病が多いのは地元産の砂糖をよく食べるからだろう(女性の平均寿命が最も長い長野県は、食生活の改善や健康診断に本気で取り組んできたのだ)。そのため、私は、沖縄は、東南アジア諸国や日本国内を視野に、空港近くに、温暖で環境の良い沖縄で人間ドック・医療・リハビリなどを行うことができるような施設を作ってはどうかどうかと考える。それには、*10-5に書かれているような介護人材はじめ医療関係の専門人材を確保することが課題となるが、沖縄なら、国内だけでなく海外の人材も広く使えるのではないだろうか。


              2017.12.13琉球新報        2018.2.15日経新聞
                平均寿命          スマートシティーの可能性

*10-1:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-664764.html (琉球新報社説 2018年2月14日) 久間元防衛相発言 新基地の正当性揺らいだ
 米軍普天間飛行場返還を巡り、名護市辺野古の新基地建設の正当性を揺るがす発言である。普天間飛行場の返還合意時に防衛庁長官を務めた久間章生元防衛相が「辺野古でも普天間でもそういう所に基地がいるのか。いらないのか」と必要性を疑問視した。琉球新報のインタビューに応えた。久間氏は軍事技術が向上し、ミサイル防衛態勢の強化や無人攻撃機といった防衛装備品の進歩などを挙げ「あんな広い飛行場もいらない」と飛行場建設に疑問を投げ掛けた。重い問い掛けだ。「辺野古が唯一」と繰り返し、別の選択肢を検討しない日本政府の硬直した姿勢が沖縄との対立を生み、解決を遅らせている。思考の転換が求められる。例えば、民間のシンクタンク「新外交イニシアティブ(ND)」は、米軍の運用を見直せば、新基地を建設する必要はないと提言している。これまで政府は、普天間飛行場を県外ではなく県内に移設する理由として地理的、軍事的理由を挙げていた。しかし、2012年に森本敏防衛相(当時)はまったく違う発言をしている。「例えば、日本の西半分のどこかに、三つの機能(地上部隊、航空、後方支援)を持っているMAGTF(マグタフ=海兵空陸任務部隊)が完全に機能するような状態であれば、沖縄でなくてもよい。軍事的に言えばそうなる」と述べている。軍事的理由から県外移設は可能という認識を示した。だが、森本氏は「政治的に考えると沖縄が最適地だ」と述べている。返還合意時の官房長官だった故梶山静六氏は、普天間飛行場の移設先が沖縄以外だと「必ず本土の反対勢力が組織的に住民投票運動を起こす」との書簡を残している。今国会で安倍晋三首相も「移設先となる本土の理解が得られない」と答弁した。これらの発言から、政治的な理由で沖縄に基地を押し付けていることは明白である。他府県の意見は聞くが、沖縄の民意は無視するというなら差別でしかない。一方、久間氏は、普天間返還交渉で米側が「辺野古に造れば(普天間を)返す」と提案し、政府もこれに「乗った」と証言している。なぜ辺野古なのか。米側は1966年に辺野古周辺のキャンプ・シュワブ沖に飛行場と軍港、大浦湾北沿岸に弾薬庫建設を計画していた。辺野古の新基地はV字滑走路、強襲揚陸艦が接岸できる岸壁が整備され、辺野古弾薬庫の再開発を加えると、過去の計画と酷似している。普天間飛行場の移設に名を借りて、基地機能を再編・強化しているのである。政治的理由で辺野古に新基地を押し付け、基地の整理縮小で合意した日米特別行動委員会(SACO)最終報告に反する行為に、正当性があるはずがない。

*10-2:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-664933.html (琉球新報 2018年2月14日) 「県民に大きな不安と衝撃」 米軍機トラブル頻発受け 翁長知事が県政運営方針
 沖縄県議会2月定例会が14日開会し、翁長雄志知事が2018年度の県政運営方針を発表した。米軍機の不時着や部品落下が頻発していることに触れ、「県民に大きな不安と衝撃を与えている。事件や事故、それに対する日米両政府の対応は今後の日米安全保障体制に大きな影響を与える恐れがある」と指摘した。米軍普天間飛行場の移設に伴う辺野古新基地建設について「辺野古に新基地は造らせないということを引き続き県政運営の柱に全力で取り組んでいく」と語った。普天間飛行場について「固定化は絶対に許されない。残り約1年となった『5年以内の運用停止』を含めた危険性の除去を政府に強く求めていく」と強調した。経済面では「アジアの中心に位置する地理的優位性と沖縄が誇るソフトパワーなどの強みを生かし、味諸国との経済交流に向けた連携を強化する」とした。子どもの貧困対策については「基金を活用し、市町村における就学援助の充実などを促進し、国と連携し、県立高校内の居場所設置などを引き続き取り組む」と語った。

*10-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180215&ng=DGKKZO26889260U8A210C1MM8000 (日経新聞 2018.2.15) ベトナムにスマート都市 官民で中国に対抗、住商など、生活インフラ4兆円開発
 日本の官民がベトナムで最先端技術を結集したスマートタウン(総合2面きょうのことば)を建設する。自動運転バスや、IT(情報技術)を活用した省エネルギー機器を備えた街を2023年までに完成させる。住友商事、三菱重工業など20社以上と経済産業省が参画。交通渋滞や大気汚染に悩むアジア各国に新たな都市のモデルを示す。中国の影響力が高まる東南アジアで、親日ぶりが際立つベトナムとの関係も深める。日本企業が発電所や鉄道のような個別の大型インフラだけでなく、身近で最先端の生活インフラを「街ごと」輸出できることを示す。住商が中心となり、地元不動産大手のBRGグループと提携して開発。日建設計が街全体をデザインする。首都ハノイの中心地から北に車で15分ほどの土地310ヘクタールを開発する。第1期は18年10月にも着工し、19年末までに7000戸のマンションと商業施設などを整備する。中間所得層を対象に1戸1000万~1500万円程度で販売する。このほど地元当局から40億ドル(約4400億円)の投資認可が下り、まず住商やBRGが10億ドルの初期投資をする。排ガスを出す自動車とバイクの利用を減らすため、三菱重工が自動運転バスを提供するほか、電気自動車の充電基地を設ける。パナソニックがスマート家電、KDDIがスマートメーターなどのITシステムを導入し、省エネにつなげる。住宅には太陽光発電設備や生ごみのリサイクル装置も設置する。第1期の周辺の土地も開発する。計画地にはハノイの都市鉄道2号線が25年をめどに延伸される見込み。鉄道などの交通インフラや駅ビルを含む事業規模は「4兆円近くに達する」(日本企業関係者)とされ、日本企業を中核とした海外の都市開発で最大規模となる。各社が調達する資金に加え、日本の政府開発援助(ODA)やベトナムの補助金を活用する。ベトナムは世界有数の親日国。中国と南シナ海の島々の領有権を巡って対立しており、日本に接近しているため、日本企業は投資しやすい。日本政府にとっても、アジアへの影響力を拡大する中国に対抗するうえで、ベトナムとの関係を強化する意味は大きい。中国は広域経済圏構想「一帯一路」を掲げ、価格競争力を強みにアジアでインフラ受注を拡大している。これに対し、安倍晋三政権は安全や環境にも配慮した「質の高さ」で受注する考えで、今回のハノイのスマートタウンも安倍政権の方針に合わせた開発とする。アジアでは都市への人口集中が急速に進んでいる。国連によると、都市人口は15年までの10年間で30%増と世界全体の伸び率(24%)を大幅に上回る。25年までの10年間でも21%増と高水準の伸びが続く見込みだ。交通渋滞や劣悪な住環境などの問題を抱え、各国では先端技術を活用したスマートタウンへの関心が高い。シンガポールの官民もマレーシアなどでスマートタウンの開発を手掛けている。日本企業はアジア各地で都市開発に参入している。インドネシアで事業費約2兆3千億円に上る大規模開発の一部に三菱商事が参加するといった例が出てきたが、多数の有力企業が先端技術を持ち寄る例はなかった。

*10-4:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-630080.html#prettyPhoto (琉球新報 2017年12月13日) 〝長寿沖縄〟復活遠のく 平均寿命、沖縄は女性7位、男性36位 順位後退に歯止めかからず 厚労省発表
 厚生労働省は13日、平均寿命などをまとめた「2015年都道府県別生命表」を発表した。沖縄県の平均寿命は女性が87・44歳となり、全国7位で前回調査(10年)の3位(87・02歳)から順位を落とした。男性も全国36位の80・27歳で、前回の30位(79・40歳)から下がった。男女とも全国と比較した平均寿命の延びが鈍く、順位後退に歯止めがかかっていない。「健康長寿・沖縄」の面影はすっかり薄れている。平均寿命は厚労省が人口動態統計や国勢調査などを用いて5年ごとにまとめている。最も高かったのは男性が滋賀県(81・78歳)、女性が長野県(87・67歳)だった。最も低いのは男女とも青森県で、男性78・67歳、女性85・93歳。男女とも全都道府県で前回より平均寿命が延びた。沖縄県は日本復帰後の1975年調査からデータがあり、女性が05年調査まで全国1位を維持したが、前回の10年調査で3位となり初めて順位を落とした。男性も2000年調査で4位から26位に急落し、その後も下降傾向が続く。順位後退の理由に挙げられるのが、平均寿命の延び悩みだ。10年と比較した寿命の延びは全国平均が男性1・18、女性0・66だったのに対し、沖縄は男性0・87(都道府県別41位)、女性0・42(同42位)と全国値を下回った。死因別の死亡率では、沖縄の男女の肝疾患が全国一高い値を示したほか、女性の糖尿病も全国一だった。同様な傾向は一貫して続いており、過度のアルコール摂取や肥満率の高さとの関連などが指摘されている。前回調査の結果を受け、沖縄県は14年に「健康長寿おきなわ復活県民会議」を立ち上げるなど、長寿日本一の復活を掲げてきたが、道のりは険しくなっている。

*10-5:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-656400.html (琉球新報社説 2018年1月31日) 介護報酬改定 専門人材確保が課題だ
 高齢者の自立を促して生活の質を高め、介護費用の抑制を図る。理想的な一挙両得策に見えるが、国の狙い通りに高齢者の要介護度の改善を促すには、自立型を支援する介護施設と専門知識を備えた職員が必要だ。人材の確保は大きな課題である。厚生労働省が3年に1度の介護報酬の見直しの内容を公表した。リハビリによって高齢者の自立支援や重度化防止を進める事業所に配分を重点化するのが特徴だ。終末期の高齢者が増えていることを背景に「みとり」へ対応する介護施設への報酬を加算する。高齢者の自立支援に努力した事業所に報いる狙いは評価できる。現在の仕組みでは要介護の状態が悪化すれば費用も増える。逆に質の高いサービスで高齢者の状態が改善すると、事業所は減収となる。これはおかしいとの指摘は以前からあった。実際に福井県や岡山市など一部自治体は、成果を上げれば報酬を払う独自の仕組みを既に導入している。ただ、今回の「報酬」加算は1人当たり月30~60円で、認定も複雑だ。即、効果が出るとは考えにくい。さらに高齢者の生活を支える介護予防やリハビリ、状態の回復には、自立支援型ケアの手法の確立が必要となる。それにはさらに専門性を持つ人材が必要だ。しかし、介護分野の人材不足は深刻化している。介護職員の平均給与は月約22万円と全業種より10万円以上安く、離職率も高い。人手不足が職員の負担増を招く悪循環になっている。逆に家事代行などの生活援助サービスは報酬を引き下げる。ただ、独居などでヘルパーらによる家事援助で生活を維持できている高齢者も多い。個々の事情に応じた援助も必要だ。今改定では訪問介護のうち生活援助について、研修を受けた幅広い人材の参入を図る。介護福祉士など専門性のある職員は身体介護に集中してもらうためだ。介護の質を維持するための研修なども欠かせない。介護報酬は介護サービスを提供する事業者に支払われる報酬で、いわば価格表だ。利用者の自己負担は1~2割で、残りを40歳以上が支払う保険料と国、地方の税金で賄っている。報酬を引き上げるとサービスの充実が期待される半面、利用料や保険料は上がる。今年4月の改定では全体で0・54%の引き上げが決まり、国の必要財源は約140億円増える。現役世代や国、自治体の財政を圧迫することになる。団塊の世代が全て75歳になる2025年の超高齢社会に向けて、いかに介護費用の膨張を抑えつつ、介護ニーズの増加に対応するかは難しい課題だ。しかし、介護保険の趣旨が社会全体で介護を支えることである以上、知恵を絞って持続可能な介護制度へ向け、対策を模索するしかない。

PS(2018年2月21日追加):*11-1のように、沖縄県では農畜産業の労働力に関して約6割の自治体が労働力不足としており、農業特区の外国人材は活動範囲の広さなどで関係者の期待が大きく、JA沖縄中央会の担当者は「特区の導入は必要で、特区に期待している」と述べたそうだ。一方で、*11-2のように、ロヒンギャ難民約5300人は、バングラデシュとの国境地帯に留まっており、赤十字やUNHCRが支援物資の配布を始めているそうだが、あの状態でミャンマーに帰れるわけがない。そのため、私は、農畜産業・林業・食品加工・織物などは、適切な指導者の下では、教育がなく日本語を話せなくてもできることも多いため、これらの難民を受け入れて雇用すればよいと考える。子は日本の法律に従って義務教育から始め、親子とも望む人には中等・高等教育を受けさせられる準備が、*11-3のような国際大学の設置や教育の実質無償化によって既にできつつある。

*11-1:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-669143.html (琉球新報 2018年2月21日) 経済:労働力不足、農業も深刻 沖縄、6割の自治体「不足」 花卉、野菜、キビ…外国人受け入れに期待も
 沖縄県内の農業・畜産業の労働力に関して都市部以外の市町村を中心に、約6割の自治体が「労働力が不足している」と認識していることが、県の調査で20日までに分かった。品目別では花卉(かき)、野菜、サトウキビなどで不足し、12月~3月の冬春期に不足人数が多かった。他の期間にも常に100人以上が不足するなど、農業の労働力不足の深刻さが浮き彫りとなっている。県が導入を検討する国家戦略特区の農業の外国人材の受け入れに関し、県農林水産部が調査した。調査は昨年12月から今年1月、県内41市町村と農業関係11団体を対象に実施。市町村の労働力不足については、29市町村が回答し、18市町村(62%)が「不足している」と答えた。農業団体の調査で農業生産に関わる労働力不足人数を月別に見ると、12月から3月までの冬春期に最大282人が不足していた。沖縄は県外が寒くなる冬春期に農業生産が活発で、とりわけ季節性があり通年雇用が困難なことから労働力の確保が難しいとみられる。年間を通じて100人以上が不足していた。花卉や野菜・キビなどの「耕種分野」は145の経営体で外国人材の雇用を要望しているが、一方で「畜産分野」の要望は8経営体にとどまった。畜産では海外の伝染病などの侵入を懸念し、受け入れに慎重な声もある。アンケートでは他に、外国人材の採用に関し、言語や生活習慣の違い、農業技術の流出などの課題が挙がった。労働力の確保には前向きな意見もある半面、国内の若手就労者、後継者などへの支援充実に注力すべきとの指摘もあった。現在、県内で受け入れが進む外国人技能実習生と比較して、農業特区の外国人材は活動範囲の広さなど関係者の期待も大きい。JA沖縄中央会の担当者は本紙の取材に「(特区の導入は)当然、必要だ。かなりの人数で労働力が必要となり、特区に期待している」と述べた。別の農業関係者は「外国人材に慎重な人もいるだろうが、潜在的な需要はまだまだある」と話した。

*11-2:https://ryukyushimpo.jp/kyodo/entry-669168.html (琉球新報 2018年2月21日) ロヒンギャ5千人が国境に 支援なく取り残されとUNHCR
 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)報道官は20日、ミャンマーでの迫害から逃れたイスラム教徒少数民族ロヒンギャ約5300人が隣国バングラデシュとの国境地帯にとどまっていると明らかにした。昨年8月以降、65万人以上のロヒンギャが難民としてバングラデシュに逃れた。帰還への準備作業も始まったが、国境地帯のロヒンギャには支援が行き届かず、事実上、取り残された状態だという。UNHCRによると、バングラデシュ南東の国境の無人地帯に約1300世帯がとどまっているのを確認。女性や子どももおり、赤十字やUNHCRが支援物資の配布を始めたという。

*11-3:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-663617.html (琉球新報 2018年2月12日) 初の式典、伝統織物が花を添え 沖縄科学技術大学院大の学位授与式に「読谷山花織」 アカデミックドレスフードに
 2012年の開学後、24日に初めての学位授与式を開く沖縄科学技術大学院大学(OIST、沖縄県恩納村)はこのほど、読谷山花織事業協同組合(池原節子理事長)と共同で、学位を授与される学生が身に着けるアカデミックドレスのフード部分を製作した。フード部分を織った我喜屋さんは「アカデミックドレスはなじみが薄く、製作イメージが湧きにくかった」と振り返りつつ、羽織った学生たちの姿を見て「素晴らしいドレスになり、感激した」と喜んだ。フードは、学位授与式で学長が学生に掛け、修了証書と同様の役割を果たす。学生がデザインし、同組合に所属する我喜屋美小枝さん(63)が織って完成させた。池原理事長は「読谷山花織は海外から600年前に伝わってきたと言われている。これを身に着け、世界を股にかけて活躍してほしい」と激励した。9日、フードをデザインしたOIST学生自治会のレショドコ・イリーナさん(30)=カザフスタン出身、ブリエル・山土林(サンドリン)さん(40)=フランス出身、渡辺桜子さん(30)=東京都出身=が読谷村役場に石嶺伝実村長を訪ねて、報告した。学位授与式の式典を担当する大学院事務局マネージャーのウィルソン・ハリーさんは「OISTは40カ国から学生が来ている。沖縄の伝統を入れたかった」と話した。学生側からも「卒業後も沖縄との絆をずっと持っていきたい」(レショドコさん)などの声が上がった。フードはOISTカラーの赤い糸で織り、読谷山花織の特徴の「金花(じんばな)」、「風車花(かじまやーばな)」と科学の象徴「正弦波」が織り込まれている。

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2017.9.17 精神障害者・ハンセン病患者に対する差別と最近の人権軽視への歩み (2017年9月21、24日、10月10日に追加あり)
  

(図の説明:左のグラフのように、精神病床の平均在院日数は日本が著しく高い。また、真ん中のグラフのように、統合失調症入院患者への向精神病薬投与量も日本が著しく高く、自閉症と診断される人もうなぎ上りに増えている。これは、日本人には特に重度の精神障害者が多いというわけではなく、診断と入院及び薬の投与方針の問題だろう)

  

(図の説明:左のグラフのように、ADHDと診断される子どももどんどん増え、子どもへの使用に関する安全性は疑問であるにもかかわらず、メチルフェニードの子どもへの処方が著しく増えている。これに加えて睡眠薬の処方も日本で著しく高いため、精神科の診断と睡眠薬を含む薬剤使用の妥当性について再検討する必要がある)

(1)精神障害者・知的障害者について
1)精神障害者を殺人犯になり易い人と理解するのは間違っていること
 植松容疑者が措置入院からの退院後に相模原市障害者施設「津久井やまゆり園」の入所者19人を殺害した事件を受けて、*1-1、*1-2のように、厚労省は、責任能力の有無を調べていると報道されている。これは、刑法第39条に、「①心神喪失者の行為は、罰しない」「②心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する」という古い規定があり、心神喪失者・心神耗弱者の定義が不明確であるにもかかわらず、精神障害者や精神障害の病歴のある人がこれにあたると非科学的に決めつけているからで、これは大多数の精神障害者に対する人権侵害である。

 しかし、植松容疑者の障害者殺害事件は精神障害が理由ではないため、精神障害者に対する監視強化等は福祉目的ではなく意味のない防犯目的の差別である。私は、①精神障害者が引っ越せば、その自治体に支援計画と呼ぶ監視計画を引き継ぐ(精神障害者と殺人犯を結び付けて監視する人権侵害) ②自治体・警察・病院が参加する協議会を設置して病気の個人情報を共有する(精神障害者と犯罪者とを結び付けて個人情報を開示する人権侵害) ③障害者差別解消法の理念を啓発(共生社会の推進) ④障害者の地域生活を支援(共生社会の推進)のうち、①②は精神障害者への言われなき差別を助長して、③④をやりにくくするものだと考える。

 そして、*1-4のように、東京都港区で厚労省のキャリア官僚女性が弟に包丁で刺されて死亡した事件も、弟は精神疾患での通院歴があり、警視庁が男の責任能力の有無を調べていると報道されているが、これは刑法第39条の規定を根拠としており、このような報道が続けば「精神障害者=殺人犯予備軍」という先入観ができる。

 さらに、*1-5では、埼玉県熊谷市で小学生2人を含む6人が殺害された事件で、強盗殺人などの罪で起訴されたペルー人のナカダ・ルデナ・バイロン・ジョナタン被告について弁護側が請求して実施された精神鑑定では、さいたま地検の鑑定と異なり、「精神疾患がある」という診断結果が出たそうだが、弁護側も罪を軽減するために刑法第39条をよく使い、冤罪の際にも刑法第39条を使ってうやむやにすることがあるのは、「殺人犯=精神疾患」というイメージを一般の人につけるという意味で、精神障害者に対する差別を醸成する人権侵害である。

 そのため、今回の厚労省の精神障害者と殺人犯を関連付けて精神障害者を監視するという再発防止策は、精神障害者に対する差別や人権侵害を無くすために、これまで培われてきた精神科の歴史に逆行する程度の低いものである。

2)知的障害者施設「津久井やまゆり園」について
 神奈川県の「津久井やまゆり園」を再生する案が、*1-3のように持ち上がり、入所者の意思を尊重したものだとも評価されたそうだが、知的障害者である入所者も、自宅から離れた交通の便の悪い場所で滅多に家族にも会えず積極的に集団生活をしたかったわけではないだろう。

 そのため、公聴会で、「入所者の意向を聞くべきだ」「時代錯誤だ」との批判が続出し、大規模施設の建て替え案が撤回されたのはよかった。私は、セキュリティーが悪く、当直の職員が身をもって防衛することもなく、植松被告が殺人するに任せておいた他の職員の意識にも疑問を感じている。

3)「殺人犯=精神障害者」というイメージの社会では、精神障害者の雇用が進まないこと
 *1-6のように、佐賀労働局と佐賀県は、佐賀県の経営者協会など経済4団体に、障害者の積極的な雇用を要請したそうだが、ここで言う障害者に精神障害者は入っているのだろうか?

 「殺人犯=精神障害者」というイメージがついた社会では、トライアル雇用など労働条件の悪い雇用でも難しいと思われるが、それが政府とメディアがまき散らした精神障害者差別の大きな問題点なのである。

(2)“発達障害”について
 最近、*2-1のように、“発達障害”として、「落ち着きがない注意欠陥・多動性障害(ADHD)」「読み書きや計算など特定分野が苦手な学習障害(LD)」「対人関係をうまく築けず、限られた対象にこだわる傾向(アスペルガー症候群)」など、何でも異常だと言うことが多いが、言語や知能に遅れがなければ周囲の“常識的”な大人が理解できなくても全く問題ない。

 何故なら、将来、周囲の“常識的”な大人には想像もつかないことを行って“常識”を変える人物かも知れず、別の面でとびぬけた能力を持っている人かも知れないからである。

 にもかかわらず、*2-2のように、いちいち発達障害として病気扱いし、*2-3のように、全国学力テストの結果として文科省に報告さえせず、一人前と見做さないでいると、本当にその子の将来性をつぶしてしまう。そのため、何でも異常だとしてしまう最近の子どもへの扱いは問題であり、人権侵害である。

(3)ハンセン病患者に対する差別
 *3のように、国がハンセン病患者に対する不要な隔離政策を行い、司法が加担して「密室の法廷」で死刑判決を下し、ハンセン病患者の人権が無視された差別助長の歴史に対し、国は、元患者らを差別や偏見の中に置き続けて精神的苦痛を与えたり、人生を台無しにしたりした責任をとって損害賠償すべきだ。

 しかし、現在でも、国は「精神障害者=殺人犯、犯罪者予備軍」というレッテルを張って監視することにより、病気の人に対する人権侵害の過ちを繰り返そうとしているわけである。

<精神障害者と殺人犯の関連付け>
*1-1:http://digital.asahi.com/articles/ASJD924FDJD9UBQU001.html (朝日新聞 2016年12月9日) 措置入院中から 退院後の支援計画
 相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者19人が殺害された事件を受けて、厚生労働省は8日、再発防止策の報告書を公表した。精神保健福祉法に基づく措置入院中から都道府県や政令指定市が支援計画を作成。植松聖(さとし)容疑者(26)の退院後に事件が発生したことから、自治体や医療機関が連携して退院後も患者を孤立させない仕組みをつくることが柱だ。
■厚労省 相模原事件 再発防止策
 有識者9人による厚労省の検証・再発防止策検討チーム(座長=山本輝之成城大教授)がまとめた。厚労省は報告書を踏まえ、精神保健福祉法改正案を来年の通常国会に提出する方針。報告書では、措置入院を決める都道府県や政令指定市に対し、すべての患者について入院中から退院後の支援計画づくりを求めた。計画に盛り込む支援内容は入院先の病院や居住する自治体の職員による「調整会議」で検討。会議には患者本人や家族の参加も促す。現行法では退院後の支援体制が定まっていないため、退院後もチームで支援を続けられるようにする狙いだ。患者が転居した場合には支援計画を自治体間で引き継ぐことも明記した。
■「監視強化」の懸念も
 相模原市の事件を受けた厚生労働省の再発防止策は、措置入院患者の退院後の継続支援に重点を置いた。ただ、障害者の監視が強まることへの懸念は残った。東京都内の診療所で働く精神保健福祉士の男性(50)は、自治体や医療機関などによるチームで連携することで、継続支援をしやすくなると評価している。治療を拒否する患者は多く、措置入院と通院中断を繰り返し、通院を続けるようになって症状が安定する人もいるためだという。「治療継続の重要性を患者本人が自覚できる働きかけが必要で、ネットワークが大切になる」。一方、自身も精神障害者という「全国『精神病』者集団」運営委員の桐原尚之さんは、現行の措置入院について「『社会防衛的』に運用されることがあり、多くの精神障害者のトラウマになっている」と指摘。事件の再発防止を理由にした退院後の継続支援であることから、「福祉目的ではなく防犯目的であることは自明だ。精神障害者を監視する方向に秩序化されるのではないか」と心配する。こうした懸念に対し、報告書をまとめた厚労省の検証・再発防止策検討チームの山本輝之座長(成城大教授)は記者会見で「あくまでも退院後、孤立せず安心して暮らせる支援体制を築くもので、精神障害者の利益にもなる」と強調した。退院後にいつまで支援は続くのか――。報告書は「国が一定の目安を示す」として方向性を示さなかった。患者の症状によって期間が異なるうえ、長くなれば自治体の負担が増えるため調整がつかなかった。厚労省が別途議論を進め、年度内に結論を出す予定だ。事件における警察の対応については「法令に沿ったもの」と触れるにとどめ、再発防止につながる検証結果などは明らかにされなかった。
■再発防止策のポイント
【入院中の対応】
・国が心理検査や薬物使用に対応するガイドラインを作成し、それに基づいて治療
・都道府県や政令指定市が病院職員らを交えた「調整会議」などの意見を参考に退院後の支援計画を作成
【退院後の対応】
・保健所を持つ自治体が支援計画に基づいて支援
・患者が引っ越せば、その自治体に支援計画を引き継ぐ
・自治体や警察、病院が参加する協議会を設置し、情報を共有
【共生社会の推進】
・障害者差別解消法の理念を啓発
・障害者の地域生活を支援

*1-2:http://digital.asahi.com/articles/ASJCF6286JCFUTFL002.html
(朝日新聞 2016年11月14日) 措置入院の患者情報、自治体間で共有へ 厚労省の原案
 相模原市の障害者施設で入所者19人が刺殺された事件で、厚生労働省は措置入院をした患者の個人情報を共有できるような制度改正を盛り込んだ再発防止策の原案をまとめた。自治体間の連携強化が狙いで、14日の検証・再発防止策検討チーム(座長=山本輝之成城大教授)で提示。11月中にも最終報告書を公表する。植松聖(さとし)容疑者(26)は退院後、「東京都八王子市で家族と同居する」としていたが、相模原市と八王子市は連携できていなかった。個人情報は原則、自治体間で共有できない。そこで措置入院について定めた精神保健福祉法を改正し、特例的に患者の精神症状や住所地などの個人情報を共有できるようにする。原案には、措置入院を決めた都道府県や政令指定市が、患者の入院中から家族らの情報も踏まえて中長期的な支援計画をつくる方針も盛り込んだ。この計画をもとに、患者が居住する自治体が退院後の生活や治療の相談にのる。病院は相談員を選び、患者の地域での生活に目を配る。また、警察や病院、自治体が地域ごとに集まる協議会を設け、措置入院を決める際の仕組みを強化。措置入院や退院を判断する精神保健指定医の研修には、薬物に関する課程を加える。原案に対して検討チームでは「(措置入院患者は)年間7千人ほどいるので、自治体や病院の負担が大きい」などの意見が出た。

*1-3:http://www.tokyo-np.co.jp/article/kanagawa/list/201709/CK2017090602000178.html(東京新聞2017年9月6日)【神奈川】やまゆり園再生案 入所者の意思尊重 評価
 昨年七月に殺傷事件があった知的障害者施設「津久井やまゆり園」(相模原市緑区)の再生基本構想案の説明会が五日、横浜市神奈川区で開かれ、全七回の説明会が終了した。この間、入所者の意思を尊重して居住先を決める仕組みを評価する意見が目立った一方、建て替え後も指定管理者が運営することに懸念を示す声もあった。神奈川区の説明会には、障害者団体の関係者ら約六十人が出席。「時間をかけて入所者の意思確認をする考えが盛り込まれて良かった」などと、構想案を前向きに捉える人が多かった。県が一月、定員百五十人規模での現地建て替えを発表した際の公聴会では、「入所者の意向を聞くべきだ」「時代錯誤だ」と批判が続出。県は大規模施設の建て替え案を撤回するとともに、入所者の意思を二年がかりで確認する仕組みを構想案の柱の一つにした。ただ、家族からは不安も漏2016年12月8日、措置入院患者の退院後の継続支援(支援と呼ぶ監視)という再発防止策を公表した。

*1-4:https://headlines.yahoo.co.jp/videonews/ann?a=20170813-00000013-ann-soci (Yahoo 2017/8/13) 死因は出血性ショック 厚労省女性キャリア官僚刺殺
 東京・港区で厚生労働省のキャリア官僚の女性が弟に包丁で刺されて死亡した事件で、女性の死因が腹を刺されたことによる「出血性ショック」だったことが新たに分かりました。52歳の男は12日午前5時半ごろ、自宅マンションで、姉の厚労省関東信越厚生局長・北島智子さん(56)の腹を包丁で刺し、殺害した疑いで13日朝、送検されました。その後の警視庁への取材で、北島さんは腹を複数回刺されたことによる「出血性ショック」で死亡していたことが新たに分かりました。男は「私がやりました」と容疑を認めています。男には精神疾患での通院歴があり、警視庁は、男の責任能力の有無を含めて当時の状況を調べています。北島さんは男と同居する母親の介助のため、事件前夜から泊まりにきていたということです。

*1-5:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/462726 (佐賀新聞 2017年9月12日) ペルー人被告「精神疾患」の診断、埼玉・熊谷6人殺害事件で再鑑定
 埼玉県熊谷市で2015年9月14~16日、小学生2人を含む6人が殺害された事件で、強盗殺人などの罪で起訴されたペルー人のナカダ・ルデナ・バイロン・ジョナタン被告(32)について弁護側が請求し実施された精神鑑定で、「精神疾患がある」との診断結果が出たことが12日、関係者への取材で分かった。さいたま地検が起訴前に実施した鑑定では「精神疾患なし」と診断されていた。裁判はさいたま地裁で年度内にも始まる見通し。異なる鑑定結果が出たことで、刑事責任能力が主な争点になる。事件は間もなく発生から2年となる。ナカダ被告は逮捕後の県警の調べに不可解な説明もみられた。

*1-6:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/460108 (佐賀新聞 2017年9月2日) 障害者の積極雇用を 労働局と県が要請
■経済4団体に
 9月の障害者雇用支援月間に合わせて、佐賀労働局と佐賀県は1日、県経営者協会など経済4団体に、障害者の積極的な雇用を要請した。他の要請先は県商工会議所連合会、県中小企業団体中央会、県商工会連合会。松森靖佐賀労働局長は県経営者協会で、前年度の県内のハローワークにおける障害者の就職件数が8年連続で増加した点を踏まえつつ、「精神障害者雇用が全体に占める割合が7・3%にとどまっている。積極的な採用を」と促した。協会側は「トライアル雇用などの多様な手段を使いながら、障害者雇用の機運を高めていきたい」と応じた。県内の障害者雇用率は2・43%で全国5位(昨年6月現在)。法定雇用率達成企業の割合は73・1%で6年連続で全国トップを維持している。

<発達障害>
*2-1:http://www.asahi.com/topics/word/%E7%99%BA%E9%81%94%E9%9A%9C%E5%AE%B3.html
(朝日新聞 2013年2月27日) 発達障害
 生まれながらの脳の機能障害が原因と考えられ、犯罪など反社会的な行動に直接結びつくことはないとされる。落ち着きがない注意欠陥・多動性障害(ADHD)、読み書きや計算など特定分野が苦手な学習障害(LD)などがある。アスペルガー症候群は対人関係をうまく築けず、限られた対象にこだわる傾向がみられるが、言語や知能に遅れがなく、周囲が障害を見過ごすケースも少なくない。文部科学省の調査(2012年12月)は、小中学校の通常学級の子の6.5%に発達障害の可能性があるとしている。

*2-2:http://www.nishinippon.co.jp/nnp/lifestyle/article/302604 (西日本新聞 2017年1月20日) 発達障害、進学先と連携を 総務省が文科、厚労両省に勧告
 総務省行政評価局は20日、自閉症やアスペルガー症候群などの発達障害を抱える児童・生徒に対する個人別の支援計画を、進学時に引き継ぐ仕組みが不十分だとして、文部科学省と厚生労働省に改善を勧告した。全国の計42施設を抽出した調査で、中学は卒業生の15%、高校は6%しか進学先へ計画を引き継いでいなかった。小学校は79%、保育所は35%、幼稚園は47%だった。計画の作成対象が施設ごとに異なる実態も判明。文科省の通知などは「必要に応じて」計画をつくるよう学校側に求めているが、医師の診断書を必要としたり、特別支援学級の児童に絞ったりというケースもあった。

*2-3:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-570430.html (琉球新報 2017年8月30日) <“学力向上”の現場>障がいある子、全国学力テストを問う、全国学力・学習状況調査、全国学テ
◆点に入れないで/「手の掛かる子」対象外に
 「標準的な学力が身に付いていないなら、入れなくていい」。沖縄県内南部のある小学校で昨年、発達障がいがある生徒が受けた全国学力テストの結果を、文科省に報告しなくていいと管理職が断言した。担任らは「子どもたちの実力を把握するための調査なのだから出すべきだ」と主張したが、通らなかったという。文部科学省によると全国学テの対象は該当学年の学習内容を履修できている全児童・生徒。知的障がいの診断が付くと対象外にされるが「学習内容を履修できているか」の判断は学校に任される。診断が付いていないグレーゾーンや、発達障がいがある児童・生徒を一律に対象から外したり、点数によって選択したりすることが、少なくない県内学校で行われている。情緒障がいやADHD、学習障害などがある児童・生徒が、通常学級に在籍しながら必要に応じて別教室で指導を受ける「通級指導教室」。県内の設置数は右肩上がりで、2017年には過去最多を記録した。通う子どもたちに知的障がいはないが、一斉授業では力を伸ばしにくく、教科などによって得手不得手が出る場合もある。「通級の子どもは、学テを受けても結果は文科省に出さない」と多くの教員が口をそろえる。県は「数人の調査結果を抜いても学校の平均正答率は大きく上下しない。点数が悪いからと、結果を報告しないことは考えにくい」と否定するが、現場教員は「平均点が取れるなら入れて、取れないなら入れなくていいと言われることもある」と明かす。学テの目的は「義務教育の機会均等と水準の維持向上」だ。だがわずかな点差を競い合う中で、全ての子どもの学習を保障するはずの「学力向上」の現場から、平均から外れる子どもたちが排除されている。「誰かの指示というより慣例」で通級学級の児童の結果を除外すると説明していた若手の小学校教諭は、記者と話をするうち「学力向上の対象に通級の児童が入る認識がなかった。恐ろしいことをしていたのかもしれない」と表情を変えた。

<ハンセン病患者差別>
*3:https://www.nishinippon.co.jp/nnp/syasetu/article/354631/ (西日本新聞 2017年8月30日 ) ハンセン病差別 司法が加担した罪を問う
 「密室の法廷」で下された死刑判決は妥当だったのか、重大な疑義があるのに司法が検証を拒むのは不当-として、国家賠償を求める訴訟が熊本地裁に起こされた。ハンセン病患者の誤った隔離政策に司法が加担し、差別を助長した歴史を踏まえ、国はこの訴えを重く受け止めるべきだ。訴えたのは熊本県でハンセン病患者とされた男性が殺人罪などで死刑判決を受け執行された「菊池事件」を巡り、裁判のやり直しを求めてきた支援者の元患者らだ。隔離施設内に設けられた「特別法廷」で裁かれた男性について、元患者らは差別的な扱いを受けた冤罪(えんざい)の疑いが強いとして、検察自らが刑事訴訟法に基づき「公益の代表者」として再審を請求すべきだと主張してきた。しかし、最高検は「再審の事由がない」とこれを拒み、元患者らは差別や偏見の被害回復を求める権利が侵害され、精神的苦痛を被ったと訴えている。再審の道が開かれない中で、国賠訴訟を通じて事件の真相に迫るのが狙いだ。熊本県の元役場職員を殺害するなどした罪に問われた男性は一貫して無罪を主張しながらも1962年、3度目の再審請求が棄却された翌日に死刑が執行された。最大の問題は、人権尊重や裁判の公開をうたった憲法に反した疑いが強い特別法廷である。最高裁が1948~72年に開廷を認めた事例は全国で95件に上る。最高検は今年3月、隔離法廷に関与したこと自体は認め、最高裁や日弁連に続き謝罪した。菊池事件は特別法廷で下された唯一の死刑事案とされる。元患者らの弁護団は冤罪の新証拠などを示すとともに、特別法廷の違憲性を明らかにしていく方針という。ハンセン病問題は、国の隔離政策を違憲とした2001年の熊本地裁判決(確定)後、元患者の救済策が進む一方、今も差別と偏見に苦しむ家族が国を集団提訴するなど、全面解決にはほど遠い。菊池事件が問うのは人権侵害に対する司法全体としての姿勢だ。真相を闇に葬ってはならない。

<共謀罪と個人情報運用も人権侵害の方向>
PS(2017年9月21日追加):*4-1のように、犯罪を計画段階で逮捕でき、そのためには監視社会になる「共謀罪」法案も国民の反対を無視して可決された。これは、安倍首相が人権侵害を好む人なのでは全くなく、官僚機構やそれに便乗して民主主義(国民主権)の理念を護るためではなく他の目的のために働く国会議員やメディアに原因がある。そのため、誰が首相になっても余程の気概と力がなければ「共謀罪」の廃止はできないと思われる。
 また、*4-2のように、総務省は、①個人が健康状態や購買履歴等の情報を一括で企業に預けて報酬やポイントを得る仕組みを作り ②データを預かる事業者は個人情報を匿名化した上で情報が欲しい企業に提供できるようにする とのことだが、民間企業の利用によって歯止めがなくなる上、個人から同意を取る形で次第に個人の選択の余地もなくなるため、この規制緩和は個人情報の過度な開示や利用による人権侵害に繋がる。
 つまり、近年は、民主主義や人権尊重の歴史に逆行する改革が次々と行われているのだ。

*4-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201709/CK2017091602000145.html (東京新聞 2017年9月16日) 【社会】「共謀罪」廃止へ集結 「監視を恐れず」「改憲つながる恐れ」
 犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法の廃止を目指す市民団体や法律家団体などでつくる「共謀罪廃止のための連絡会」は十五日、東京都千代田区の日比谷野外音楽堂で「共謀罪は廃止できる!9・15大集会」を開いた。約三千人(主催者発表)が参加し、「共謀罪は絶対廃止」などと声を上げた。連絡会は今月七日、「SEALDs(シールズ)」の元メンバーらがつくった「未来のための公共」や日本消費者連盟など十四団体が結成した。アムネスティ・インターナショナル日本の山口薫さんは「今、市民活動は危機にさらされている。法は施行されたが廃止できる。監視を恐れず、萎縮せず活動したい」と話した。「共謀罪対策弁護団」の三澤麻衣子事務局長は多くの弁護士で、摘発された場合の対策や予防を考えるとした。世田谷区の会社員横山淳さん(46)は「共謀罪の強行採決はひどかった。計画段階で捕まり、監視社会が進む。改憲の流れにもつなげられるのでは」と話した。民進党など野党四党の国会議員らは、二十八日からの臨時国会への廃止法案の提出を明らかにした。

*4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170828&ng=DGKKASFS25H54_X20C17A8MM8000 (日経新聞 2017.8.27) 個人情報 運用を一任、総務省、利用増へ事業者認定 データ利用先を自由に
 総務省は個人が健康状態や購買履歴などの情報を一括で企業に預け、ビジネスに役立ててもらって報酬を得る仕組みを作る。2020年をめどに、情報を預かって運用する事業者への認定制度を設ける。個人にとってはデータを預けて、その先の利用を運用者に任せる「簡易型」の仕組みだ。データの運用先まで個人が選ぶ「厳格型」と合わせて、政府は個人データをビジネスに利用する制度を整える。ビジネスに個人データを活用する仕組みは、実際に情報を使う企業まで個人が指定する「情報銀行(総合・経済面きょうのことば)」も政府内で検討が進んでいる。総務省が取り組むのは、運用者が一定のルールのもとで個人のデータを自由に利用できる仕組み。個人情報のビジネス利用は2本柱で設計が進む。総務省は新たな仕組みを「情報信託」と呼んで整理する。データを扱う事業者はIT(情報技術)系の企業やシンクタンクを想定する。個人はあらかじめ病院や銀行、旅行会社などのデータベースを事業者に指定し、病歴や資産情報、渡航履歴などの情報に運用担当者がアクセスできるようにする。データの開示範囲は個人が設定する。データを預かる事業者は個人情報を匿名化したうえで、情報を欲しい企業に提供する。医療や観光、金融といった企業のニーズを見込む。データをもらう企業は対価を払い、一部を特定のサービスに使えるポイントなどの形で個人に還元する。個人情報を適切に管理するため、データを運用する事業者に対し、民間が設立する団体による認定制度を導入する方針だ。提供元の個人との間ではデータを漏洩しない、提供先の企業との間では個人データを不正に使わない、などの約款を交わすことを義務付ける。18年度予算の概算要求に実験費用を盛り込む。政府はIT総合戦略本部を中心に、個人が預ける情報を管理・運用する仕組みとして「情報銀行」を検討している。ただ、「どの企業にどのデータを提供する」といった具合にデータの提供先まで個人が指定する方法が議論されている。銀行方式は最終的にデータを使う企業が分かる。個人に詳細なデータを出してもらうかわりに、大きなポイントを出すといった個別の設計をしやすい。総務省の方式はデータ運用の自由がある一方、個人がデータ提供をためらう可能性はある。政府は個人の使い勝手に応じて2案を設け、流通の仕組み作りを進める。日本は海外と比べて個人データの外部提供への抵抗感が強いとの調査もある。信託方式はデータ管理のルール作りとともに、認定制度の信頼を高めることが課題になる。

<子どもへの人権侵害>
PS(2017年9月24日追加):*5-1のように、1000人あたりの向精神薬の処方件数を算出し、年齢層ごとの処方件数の経年変化を統計解析で比較したところ、2002年~2004年と2008年~2010年の比較で、13歳~18歳のADHD治療薬使用が2.49倍、統合失調症などに使う抗精神病薬が1.43倍、抗うつ薬が1.31倍と増加し、小学生でもADHD治療薬が1.84倍、抗精神病薬が1.58倍となっており、病気も効果も安全性も確立していないのに子どもへの適応外処方や多剤併用が浮上しているのだ。また、*5-2のように、以前はADHDという名前の病気はなく、子どもに元気があるのは当たり前で、そういう人が大人になってもやはり元気に仕事をしているため、「子どもに落ち着きがないから、ADHDが疑われる」などとして、すぐ子どもを異常扱いして薬漬けにするのは疑問が多い。

*5-1:https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20150120-OYTEW54767/ (読売新聞 2015年1月20日) 「子供に向精神薬処方増」のなぜ?
 1月13日の朝刊社会面で、「子供に向精神薬処方増」のニュースを書いた。臨床現場では以前から指摘されていた傾向が、初の全国調査で確かめられたのだ。いささか硬い内容になるが、子どもへの投薬を考える上で重要なデータが多く含まれているので、今回は調査結果を詳しく紹介してみたい。調査を行ったのは、医療経済研究機構研究員の奥村泰之さん、神奈川県立こども医療センター児童思春期精神科医師の藤田純一さん、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部室長の松本俊彦さん。2002年~2010年の外来患者(18歳以下)の診療報酬明細書と調剤報酬明細書の一部、計23万3399件をもとに、1000人あたりの向精神薬の処方件数などを算出し、統計解析で年齢層ごとの処方件数の経年変化などを比較した。2002年~2004年と2008年~2010年を比較すると、13歳~18歳では、注意欠如・多動症に使うADHD治療薬が2・49倍、統合失調症などに使う抗精神病薬が1・43倍、抗うつ薬が1・31倍と増加した。2008年~2010年の同年代の人口1000人あたりの処方件数は、抗不安薬・睡眠薬が4・8件、抗精神病薬が3・9件、抗うつ薬が3件、気分安定薬が3件だった。小学生(6歳~12歳)への向精神薬処方も増え、2002年~2004年と2008年~2010年の比較では、ADHD治療薬が1・84倍、抗精神病薬が1・58倍となった。依存性のあるベンゾジアゼピン系薬剤を中心とする抗不安薬・睡眠薬は、この年代では0・67倍と減少した。同年代の人口1000人あたりの処方件数は、気分安定薬が3・6件、ADHD治療薬が1・5件、抗精神病薬が1・2件、抗うつ薬が1・2件だった。件数は少ないが、0歳から5歳の幼児に対しても、抗精神病薬などの処方が確認された。処方件数増加の背景について、調査報告書は、受診者数の増加(厚生労働省の患者調査では、未成年の精神疾患受診者数は2002年に9万5000人、2008年は14万8000人)や、思春期外来の増加(2001年は523施設、2009年は1746施設)、ADHD治療薬など新薬の承認、などの影響を挙げている。
●適応外処方と多剤併用の問題も浮上
 果たして診断や投薬は適切に行われているのだろうか。過剰診断や誤診、不適切投薬の症例はないのか。診療報酬明細書などを基にした今回の統計調査では、個々の状況が分からず、処方が適正か否かの判断はできない。だが、疑問点はいくつも浮かび上がる。特に、処方件数が増えている向精神薬の多くが、子どもに対しては「適応外」であることは認識しておく必要がある。現在使われているADHD治療薬は、子どもに対する臨床試験を行って適応(6歳以上)を得ているが、抗精神病薬や抗うつ薬、抗不安薬・睡眠薬などは、子どもを対象とした大規模な臨床試験が日本では行われておらず、有効性や安全性の確認が十分ではない。このような向精神薬の添付文書(薬の説明書。インターネットで簡単に読める)には、子ども(小児)への投与について、「安全性は確立していない」「使用経験がない」などの記述があるので、関心のある方は確認していただきたい。子どもへの薬の適応外処方は、向精神薬以外にも行われることが多く、すぐに「悪」と決めつけることはできない。本物の薬か偽の薬を、ランダムにグループ分けした子どもたちに飲ませ、効果を比較する臨床試験への抵抗感が日本では根強く、実施しにくい事情もある。大切な子どもたちを、薬の「実験」に巻き込みたくないのだ。しかし一方で、成長期の脳に作用する向精神薬が、「安全性は確立していない」「使用経験がない」とされながらも、実際には使用が拡大している。子どもたちを守りたいがゆえに、子どもたちを未知のリスクにさらす。そんな矛盾した状況が生じているのだ。子どもに対する臨床試験が行われなければ、副作用の種類や発生頻度は分からず、市販後の副作用調査も徹底されないなど、被害を組織的に防ぐ手立てが乏しくなってしまう。さらに、深刻な問題が起こった時の救済策も、適応外処方の場合は不十分になりかねず、善意で処方した医師が責任を問われる可能性もある。このような状況で、誰が得をするというのだろうか。この調査でもう一つ注目したいのが、一人の子どもに異なる向精神薬を複数処方する例が多いという指摘だ。向精神薬が、他の種類の向精神薬と併用される割合は、気分安定薬で93%、抗うつ薬で77%、抗不安薬・睡眠薬で62%、抗精神病薬で61%に上った。言い方を変えると、例えば抗精神病薬を処方される子どもの61%は、抗不安薬・睡眠薬や抗うつ薬など、他の種類の向精神薬も併用処方されている、ということになる。調査報告書は「この数値は欧米と比べて著しく高い」と指摘し、欧米での未成年への向精神薬併用処方割合について、米国19%、オランダ9%、ドイツ6%という数字を示した。医療提供体制の違いや調査対象の等質性などの点から、この結果だけで「安易に『わが国では、向精神薬の不適切な多剤併用処方の割合が異様に高い』と結論づけるのには慎重であるべき」と注意を求めたが、「今後、わが国の多剤併用処方の割合が欧米よりも高くなる理由について、検討していく必要がある」とした。当然の指摘だろう。日本では以前から、成人患者に対して抗精神病薬を何種類も使う多剤大量処方が続き、国際的にも問題視されてきた。ベンゾジアゼピン系薬剤を漫然と長期間処方され、常用量依存に苦しむ人も多い。カウンセリング技術の未熟さや診療時間の短さ、マンパワーの少なさなど様々な事情から、薬に過度に頼る医師が多いのだ。そして更に、過剰な処方が子どもたちにも及んでいるとすれば、早急に歯止めをかけなければならない。日本の子どもへの多剤併用処方や適応外処方は、どのような根拠で、どのような必要に迫られて行われているのか。処方医や患者、家族を対象とした詳細な実態調査が求められている。

*5-2:http://healthpress.jp/2015/07/adhd-1.html (Health Press 2015.7.8) 覚せい剤に似た性質を持つADHD薬。子どもへの処方は本当に害はないのか?
 近年、ADHD(注意欠陥・多動性障害)など発達障害と診断される子どもが増えている。ADHDの特徴は、集中力や注意力に欠けたり、衝動性や多動性が見られたりすることだ。詳しい原因はわかっていないが、脳の機能障害ではないかといわれている。しかし、以前はADHDという名前の病気はなく、"元気があること"はその子どもの個性だと思われていた。そして、そうした子どもたちも、たいていは成長するにしたがって落ち着いて生活できるようになっていた。今は病気というレッテルを貼られ、薬漬けにされる時代だ。メディアでこの病気が取り上げられるようになると、「この子も落ち着きがないのでADHDではないか」と、親や教師など周囲の大人が心配し、子どもを受診させるケースが多くなった。また、少しでも兆候があるとADHDとみなし、脳の中枢神経に作用する強い向精神薬を処方する医師も増えている。
●向精神薬を服用していた米銃撃事件犯の少年たち
 この向精神薬の代表的な薬のひとつに、リタリン(塩酸メチルフェニデートの一般製剤)がある。すでに、スウェーデンでは1960年代後半に同剤の発売が禁止されており、1970年代にはヘロインと同等の依存性があると指摘されていた。それにもかかわらず、アメリカではADHDの特効薬として患者への投与を継続。また、子どもへの投与だけではなく、大人の間でも「活動的になり仕事や家事がはかどる」という理由で、急激に広まっていった。リタリン生産量は1990~1999年に全世界で700%という高い伸びを示し、その9割がアメリカで使用されていた。だがそうしたなか、少年たちによる銃乱射事件が学校内で多発する。彼らは学習機能障害と診断され、リタリンなどの向精神薬を投薬されていた。コロラド州ではその後、厳密な検査を行わず安易に診断を下されたADHDの子どもに対して、リタリンを強制投与することを禁止した。日本において、ADHDはリタリンの適応外であったものの、うつ病の患者に処方されてきた。だが、2007年、ある男性が複数の病院を受診して安易にリタリンを処方され、同剤の依存に陥り自殺するという事件が起こる。このことからうつ病も適応外となり、ナルコレプシーのみの適応となった。2008年からは登録された専門医にしか処方できなくなっている。現在、日本でADHDと診断された子どもに処方されるのは、コンサータ(メチルフェニデート徐放剤*)という薬だ。しかし、このコンサータには覚せい剤に似た性質があるため、承認にあたって"コンサータ錠適正流通管理委員会"を設置し、処方できる医師や調剤できる薬局を登録制にするという厳しい規制が設けられた。また、薬局はリストにない場合は拒否しなければならないなど、流通・処方状態の管理がしっかり行われている。このように、子どものADHDに処方される薬は、厳重な規制を必要とする危険な薬だ。これを子どもに与え続けて、果たして悪影響がないといいきれるのだろうか。ADHDが疑われるからといって子どもを安易に薬漬けにしてしまう医療には、疑問を持たざるを得ない。何らかの弊害が起こらないよう、親をはじめとする周囲の大人たちが、子どもに投与される薬には、どのようなリスクがあるのかを十分理解するべきである。
○徐放剤:成分の放出を遅くし、服用回数を減らせるように開発された薬。血中濃度を長時間一定にすることで、副作用を回避できる。

<精神障害者差別>
PS(2017年10月10日追加):*6-1のように、「①ラスベガスで銃乱射事件があった」「②容疑者の動機は謎に包まれている」「③米ABCは事件の数カ月前から容疑者の精神状態が悪化していたと報じた」と朝日新聞が報道し、日本の多くのメディアは、「原因は米国が銃社会であることだ」としているが、①は事実であるとしても、②の動機は、容疑者の弟が「最近、金額の大きなカケをしていた」と証言していることから、私は「カケで破産するほどの大損をしてラスベガスに恨みを持った」のが動機ではないかと考える。しかし、この容疑者の弟の証言は相手にされず、③のように「容疑者は精神状態が悪化していた」ということになっており、この「精神状態の悪化」の定義は全く曖昧で、それが銃乱射を行う動機になるとは思えない。にもかかわらず、こういう報道が堂々となされることは、国連の「障害者権利条約」や日本の「障害者基本法」「障害者差別解消法」などに反しており、精神障害者への差別を助長して社会参加をやりにくくするとともに、その尊厳を無視する見識の低いものである。
 そのような中、*6-2のように、「農福連携」して農業を障害者雇用の場とする取り組みが始まっている。私は、衆議院議員時代(2005~2009年)に、伊万里市の障害者福祉施設で精神障害者が有田焼の絵付けをしているのを視察したことがあるが、この仕事は自閉症でも問題なく、集中する分だけ出来は上々で、高級品を作らせればそれにも対応できそうに思われた。

*6-1:http://digital.asahi.com/articles/ASKB55F2ZKB5UHBI018.html (朝日新聞 2017年10月6日) ラスベガス銃乱射容疑者、精神状態悪化か 米報道
 米史上最悪の銃乱射事件を起こしたスティーブン・パドック容疑者(64)の動機は、いぜん謎に包まれている。解明のかぎを握ると思われた交際相手の女性(62)は帰国後、「全く知らない」と困惑した。容疑者の精神状態が悪化していたとの報道も出ているが、なおはっきりしない。「こんな事件を計画していたとは全く考えられなかった」。女性が4日、事件後初めて弁護士を通じて出した声明には、突然捜査対象となった困惑とともに、容疑者への思いがにじんだ。「親切で思いやりのある、静かな人だった。私は彼を愛していて、将来をともにすることを望んでいた」。容疑者は、事件前に女性にフィリピンに帰るための航空券を買い与えていた。女性は9月15日に日本を経由してマニラに到着。その後、容疑者から「フィリピンの家族のために家を買うお金」として10万ドルの入金があった。米メディアによると、女性が容疑者と知り合ったのは、地元のカジノだった。女性は接客担当をしており、度々訪れる容疑者と親しくなり、交際を始めた。ネバダ州の地元紙リノ・ガゼット・ジャーナルによると、女性は容疑者と知り合った当時、別の男性と結婚していたという。2013年、女性は夫と暮らしていた家を出て、パドック容疑者が所有していた同州リノのアパートに引っ越した。それから2年後、女性は夫と離婚した。女性が元夫と暮らしていた当時の隣人は「家でパーティーをしたり、近所の子どもたちを家に泊めてあげたりしていた。近隣の皆に好かれ、とてもすてきな女性だった。家族に会いによくフィリピンへ往復していた」と話し、事件に衝撃を受けていたという。しかし、容疑者と暮らし始めてから、女性の近隣の人は全く違った印象を語る。「2人とも見た覚えがない」。事件直前まで2人が暮らしていた家の隣人はそう話す。他の近隣住民も、つきあいのあった人はほとんどいなかった。オーストラリアに住む女性の姉妹は米NBCの取材に「彼女は何も知らぬままフィリピンに行かされた。(容疑者が)計画を邪魔されたくないと思ったのだろう」と涙ながらに訴えた。一方、米ABCは4日、事件関係者の話として、容疑者は事件の数カ月前から精神状態が悪化していたと報じた。体重が減り、身なりも汚くなり、女性の元夫に対する妄想にとりつかれていたという。確たる動機が見えぬまま、捜査関係者のいらだちは高まっている。ラスベガス警察のロンバルド保安官は4日の会見で「1人で全てやったとは信じがたい」と話し、協力者がいた可能性も視野に入れていることを示唆した。同保安官は、容疑者が9月下旬に高層コンドミニアムの一室を予約していたことも明らかにした。その時期、今回の事件と同じように、ここから見下ろせる場所で別の音楽祭が開かれていた。警察は「理由は不明」としているが、容疑者が当初、この音楽祭を狙おうとした可能性もある。ラスベガス警察は、これまで事件での死者を59人としていたが、自殺した容疑者を除く58人に訂正。けが人も489人とした。

*6-2:http://special.nikkeibp.co.jp/NBO/businessfarm/bizseed/05/ (日経BP 2017.2.28) キーワードは“ノウフク”、浸透し始めた「農福連携」、「働き手」が欲しい農と「働く場」を求める福祉、両者のニーズが合致
 「農福連携」と呼ばれる取り組みが活発化している。農業を福祉の現場に取り入れる試みは従来からあるが、どちらかというと障がい者支援が中心だ。引きこもりやニートなどの生活困窮者への支援は、それほど多くなかった。最近になって、生活困窮者の支援にも手が広がる。また、農作物の生産・加工・販売を広く手掛けたり、農家からのニーズに応じて農作業の委託請負をしたりする法人が少しずつ増えている。一般にはまだそれほど馴染みがないが、「農福連携」という言葉がじわじわと浸透し始めている。農福連携とは、文字通り、農業の現場と福祉の現場が連携することだ。具体的には、障がい者や生活困窮者などの社会的に弱い立場にいる人たちが、農園で畑仕事に従事したり、農産物の加工・販売をしたりして、自分の働く場所と居場所を手に入れる取り組みを指すことが多い。農業の現場では、高齢化などにより担い手の減少が止まらず労働力不足が悩みの種だ。一方の福祉サイドでは、障がい者・生活困窮者の働く場所がなかなか見つからない。農業の「働き手がいない」という問題と、福祉の「働く場がない」という問題を解決し、補完してくれるのが農福連携というわけだ。
●農福連携のシンポジウムやフォーラム、マルシェ
 最近、農福連携を冠したシンポジウムやフォーラム、マルシェなどの催しが頻繁に開かれるようになった。農業・福祉関係者だけでなく、行政や一般の人も巻き込みながら、大きなうねりになろうとしている。この2月14日には、農林水産省の政策研究機関である農林水産研究所主催の「農福連携」シンポジウムが開催された。「農業を通じた障害者就労。生活困窮者等の自立支援と農業・農村の活性化」というテーマが掲げられ、障がい者や引きこもり、ニートなどを実際に引き受けている事業者をはじめとして、農業関係者、行政の担当者、自治体、研究機関など多くの人たちが集結。農福連携の最前線について報告が行われ、活発な議論が交わされた。3月には農福連携の取り組みを全国レベルで推し進める「全国農福連携推進協議会」が設立される。ここに全国の福祉事業所や農家、行政や研究者、企業など、多くの賛同者が参加する。行政の側でも、該当省庁でもある農林水産省と厚生労働省の関心度は高い。協力しながら、積極的に連携を推し進めている。「農福連携マルシェ」などはその一例だろう。2015年6月に初のマルシェを霞が関で開催。2016年5月には官庁街を出て東京・有楽町、その後全国規模で開かれている。予算面でも、両省庁に農福連携を意識したものが少しずつ目立つようになってきた。
●取り組みには2つの方向がある
 一般社団法人JA共済総合研究所主任研究員で、長らく農福連携分野の研究を先導してきた濱田健司氏は、今、農福連携の取り組みとして大きく2つの方向があると分析する。1つは、障がい者や生活困窮者が身を寄せる福祉関係の事業者が取得したり借りたりした農地で農業生産を行う方向だ。生産だけでなく、できた農産物の加工・製造や販売まで手掛けるところも多い。もう1つは、農家や農業生産法人などに対して農作業の請負契約を結ぶというもの。こちらは、障がい者や生活困窮者が農業側の田畑やハウスに出向いて、いわゆる施設外就労として農作業に従事する。直接生産を手掛ける事業者の中には、独自の工夫で、持続可能な事業にしているところもある。代表例は、農福連携のパイオニアとしても知られる農事組合法人「共働学舎新得農場」だ。共働学舎は、北海道十勝地方・新得町に約120ha(120万㎡)の農地を構え、酪農、チーズや有機野菜の生産、工芸品づくりなどを行っている。ここには障がいを持つ人をはじめ、引きこもりやホームレスなど、様々な困難を背負った人たちが集まり共同生活をしながら農業生産・販売を行う。ここで生産されるチーズなどの農産物や工芸品はその品質の高さで知られ、学舎の経営にも寄与する。共働学舎の総売上高は約2億2千万円にのぼり、代表宮嶋望氏によれば「生活に必要な経費は賄えるほど」だという。後者でよく知られている取り組みは、特定非営利活動法人(NPO法人)香川県社会就労センター協議会の例だ。生産者と同協議会が農作業の請負契約を結んで、協議会から障がい者施設に作業の参加を募集・依頼する。農作業の対価として工賃が支払われる。請け負う農作業は、野菜類の苗の植え付けから収穫、除草、出荷調整に至るまで多種多様だ。協議会を中心として、障がい者施設と地域行政、JA、生産者の間で協力し合う仕組みを構築し、上手に連携している例といえる。生活困窮者への支援をする団体も増えている。厚生労働省が2015年4月にスタートさせた「生活困窮者自立支援制度」の中には、生活困窮者に対する就労訓練事業を行う社会福祉法人や生活協同組合で条件を満たすところに対して、支援をする仕組みがある。内容も地域によって違ってくるが、固定資産税や不動産取得税などの一部を非課税にする措置や、事業を立ち上げる時の経費の補助、自治体による商品の優先発注がある。農林水産省でも、いわゆる「福祉農園地域支援事業」という、福祉農園の全国展開を支援する事業を進めている。平成29年度の予算でも、同様の施策が取られていて、「農山漁村振興交付金」といわれるものの中に、福祉農園を支援する枠が設けられた。こちらはNPO法人、民間企業、一般社団法人も申請できる。
●生活困窮者への就労訓練の場としても注目
 こうした制度の充実に伴って、引きこもりやニートなどの生活困窮者に対して就労訓練をする団体が今後増えてきそうだ。ホームレスの就農支援プログラムを手掛けるところも出てきている。JA共済総合研究所の濱田氏は、こうした一連の動きを、「単なる社会貢献や福祉という範疇を超えて、障がい者や生活困窮者はいまや農業にとって必要な人材だと見る動きだ」と語る。担い手不足に悩む農業の現場からのニーズは今後ますます高まってくるだろう。社会的な弱者といわれる人たちが、農業を通じて働く場と収入を得て自立できれば、それだけ社会保障費の削減につながる。同時に、農業の衰退にも一定の歯止めがかかり、生産の拡大に寄与する可能性もある。もちろん解決しなければいけない問題は山ほどある。現在のセーフティネットにアプローチできなかったり、しなかったりする人もまだまだ多い。受け入れる側の意識や体制もまだまだだ。しかし、農福連携には大きな可能性が秘められている。今後の進展に大きな期待がかかっている。

| 日本国憲法::2016.6~2019.3 | 04:45 PM | comments (x) | trackback (x) |

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