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2022,07,04, Monday
2022.1.24東京新聞 2022.6.20日経新聞 2022.7.4日経新聞 (図の説明:1番左の図は、憲法に関する主な政党の主張で、左から2番目の図が、今回の参議院議員選挙における憲法に関する各党の公約だ。また、右から2番目と1番右の図が現在の予想獲得議席で改憲派《改憲項目は異なる》が優勢だそうである) 2022.5.28沖縄タイムス 2022.6.18時事 2022.6.30時事 (図の説明:左図が、今回の参院選における防衛関連の自民党公約、中央の図が、主要政党の物価高・経済対策、安全保障、憲法に関する公約で、右図が、財政政策に関する各党の公約だ) (1)参院選の争点となっている憲法の変更について 1)各党の公約 イ)与党の公約 憲法の変更(「改正」「改悪」は言葉の中に是非を含むため、私は使用しない)に関する各党の公約は、*1-1と上図のように、自民党は、①9条に自衛隊の明記 ②緊急事態条項の新設 ③参院の合区解消 ④教育の充実 である。また、与党である公明党は、⑤デジタル社会での個人情報保護や環境保全の責務など憲法施行時に想定されなかった新理念や憲法改正でしか解決できない課題があれば加憲 ⑥憲法9条は堅持して自衛隊の憲法明記については引き続き検討 ⑦緊急事態発生時の議員任期延長は議論 としている。 しかし、①は、明記されていなくても国際法で自衛権の行使は認められ、「どこまでが自衛か」という論点の方が重要で、「どこまで行っても、何をやっても、自衛だ」と解釈する方が日本にとってマイナス面が大きいと思う。 また、②は、「(政府の放漫経営で)日本が破綻して社会保障が続かなくなり、それが緊急事態とされて、私権の制限に至る」ということも大いにあり得る上、日本国憲法第25条「①すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。② 国はすべての生活部面について社会福祉・社会保障及び公衆衛生の向上・増進に努めなければならない」は常に疎かにされてきたため、国の利益のために国民の私権制限を正当化させるような憲法に変えてはならないのだ。 ③は、憲法を変更しなくても公職選挙法を改正すれば済み、④は憲法だけでなく教育基本法にも定められているため、これまで実行しなかった部分があれば、その理由を明確にして、全力で実行することが必要なのであって、改憲すべき事項ではない。 さらに、⑤の個人情報保護は、(デジタル社会か否かを問わず)憲法第21条で「1項:集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由を保障する」「2項:検閲をしてはならない。通信の秘密を侵してはならない」と定められているため、既に個人情報は保護されている筈だ。そのため、具体的な不足事項があれば個人情報保護法を改正すればよく、環境保全も既に環境基本法があるため守ればよく、法律に不足があれば改正して罰則もつければよいのである。 ロ)日本維新の会と国民民主党など改憲推進政党の公約 日本維新の会は、⑧教育無償化 ⑨統治機構改革 ⑩憲法裁判所の設置 ⑪9条改正 ⑫緊急事態条項制定 とし、国民民主党は、⑬緊急事態条項の創設 ⑭議員任期の特例延長規定創設 ⑮憲法9条については自衛権範囲や戦力不保持などを規定した9条2項との関係などの論点から具体的な議論 とする。 このうち、⑧は④と同様で、⑨は具体的に「何が、どう不便なので、統治機構をどう改革して、憲法にどう記載するか」を説明しなければ議論にならないし、必要性もわからない。さらに、⑩は、憲法裁判所という特殊な裁判所を作らなくても現在の裁判所で判定すればよく、それが公正にできないようなら憲法裁判所を設置しても同じかそれ以下であろう。 また、⑬は②と、⑮は①と同様であるし、⑭は両院があるため、一緒に解散してしまって議員が誰もいないという場面はなく、政府もあるため不要だと思う。 ハ)立憲民主党・日本共産党・れいわ新選組など改憲反対政党の公約 立憲民主党は、⑯憲法9条に自衛隊を明記する自民党の案は、交戦権の否認などを定めた9条2項の法的拘束力が失われるので反対 ⑰内閣による衆議院解散の制約、臨時国会召集の期限明記、各議院の国政調査権強化、政府の情報公開義務、地方自治の充実について議論 とする。 私は、⑯⑰には賛成だが、臨時国会がなかなか召集されなかった際は、政策に関する建設的な議論ではなく、個人の誹謗中傷を予算委員会でしつこく言いたてていた時期であったため、「そういうゲスな質問ばかり繰り返して時間の無駄をしない」というマナーも重要だと思った。 日本共産党は、⑱前文を含む全条項を護り、特に平和的・民主的諸条項の完全実施 ⑲自衛隊は憲法9条との矛盾を自衛隊の解消を段階的に行うことで解決 とする。また、社民党も、⑳日本国憲法は徹底した平和主義を貫き「世界でも先進的」なので改悪に反対で、社会に行き詰まりが目立つのは憲法の理念を活用しない政府の責任なので、憲法理念を暮らしや政治に活かして国民生活を再建 とする。 私も、⑱⑳のように、現行憲法を護って平和的・民主的諸条項を完全に実施した後に、「やはり不足がある」というのなら改憲の議論をしてもよいと思うが、現行憲法が施行された当初から自主憲法の制定を党是として改憲のチャンスを伺い、「改憲勢力の数さえそろえば、改憲のポイントが違っても、ゆるい協力で言われたことを全部を改憲する」などという政党は、現行憲法のよさを理解していないため改憲の発議をする資格がないと思う。 しかし、⑲については、明記されていなくても自衛権の行使は国際的に認められているため、「どこまでが自衛か」という論議の方が重要だろう。 れいわ新選組は、自民党の改憲4項目は憲法改正を要するものではなく、第25条などの完全に実現できていないものを実現する としているが、確かにまだ実現できていないものを実現する方が先だと思う。 2)自民党の方針について 現在の政権党である自民党は、*1-2-1のように、①憲法9条1項、2項を維持したまま自衛隊を憲法に明記するか、9条2項を削除して自衛隊の目的・性格を明確化するかの2案があり ②選挙できない事態に備えて国会議員の任期延長・選挙期日の特例を設けるか、政府への権限集中・私権制限を含めた緊急事態条項を憲法に規定するかの2案もあり ③47条を改正して両院議員の選挙区及び定数配分は人口を基本としながら、行政区画や地勢などを総合的に勘案して、都道府県をまたがる合区を解消し、参院選は改選毎に各都道府県から1人以上選出可能となるよう規定し ④教育の重要性を憲法上明らかにするため、26条3項を新設して国が教育環境の整備を不断に推進すべき旨を規定する という状況だそうだ。 そして、*1-2-2のように、自民党の茂木幹事長は、6月20日、「参院選後、できるだけ早いタイミングで改憲原案を国会に提案し、発議を目指したい」「(自民、公明、日本維新の会、国民民主などの改憲勢力が参院選で改憲発議に必要な3分の2以上の議席を獲得するのが前提で)主要政党間でスケジュール感を共有し、早期に改憲を実現したい」と述べられたそうだ。 しかし、参院選で改憲発議に必要な3分の2以上の議席を獲得したとしても、それぞれの政党は改憲したいポイントが異なるため、協力をとりつけるためにそれらの全部をともかく改憲項目にするようなら、憲法を愚弄すること甚だしいのである。 3)各メディアの意見 メディアは、*1-2-3・*1-2-4のように、参院選の主要争点の一つに憲法改正が挙げられ、ロシアによるウクライナ侵攻が憲法論議に影響しているが、①改憲を主張する政党は憲法を変えないことによる不具合は何かを具体的に説明し ②改憲でしか問題が解決しない理由を明確にしなければならず ③選挙期間中に議論を深めて欲しい ④選挙結果によっては日本国憲法の重大な岐路になる可能性があるため、どんな国を目指すのか、危機を煽るのではなく熟議や歴史に耐えうる憲法論議を各党に望む としており、賛成だ。 また、合区解消・教育無償化は、教育基本法や公職選挙法で対応可能なので改憲の必要性はなく、緊急事態条項は、大規模災害や武力攻撃発生時を例に挙げて政府の権限を強めることと説明されているが、いざとなったら私権を制限して個人の権利尊重や立憲主義の理念を根本から変える運用もできるため要注意なのである。 4)参議院議員選挙における改憲情勢 7月10日投開票の参院選は、*1-3-1・*1-3-2・*1-3-3のように、自民・公明両党が改選124に欠員補充1を加えた125議席の過半数63議席を超える勢いで、立憲民主党は伸び悩み、日本維新の会は伸長する見通しだそうだ。自民党が1人区で強いのは、長期にわたって政権政党であるため、予算配分で支持を得たり、個人的に集票力があったり優秀だったりする人を候補者にし易いからで、有権者に政策に賛成する人が多いからではない。 共同通信社の参院選トレンド調査でも、*1-2-3のように、投票先未定の有権者に何を最も重視して投票するかを聞くと、「物価高対策・財政政策」が46.1%の最多で、「憲法改正」は1.8%に留まり、「改憲に賛成だから、自民党に投票する」という人が多いわけではないことが明らかになっている。 今回の参院選では、改憲論議に前向きな自民・維新・国民民主・公明の4党が非改選で84議席を持ち、この4党の無所属・諸派を含めて82議席以上となって、改憲の国会発議に必要な総議員の3分の2(166議席)維持が視野に入るそうだ。ただし、政党毎に改憲したいポイントは異なるのに、これらをまとめて改憲の国会発議ができるのかという疑問は残る。 自民党は憲法9条への自衛隊明記と緊急事態条項の創設を中心として4項目の条文イメージを掲げ、茂木幹事長は報道各社のインタビューで「参院選後できるだけ早いタイミングで憲法改正原案の国会提出と発議を目指したい」と述べられた。 しかし、緊急事態条項の創設について、私自身は(1)1)に記載したとおり、立憲民主党の「緊急事態条項の創設は、国民の権利保障や立憲主義に逆行する」というのに賛成で、国民の生存権を保障する社会保障は疎かにしながら、外交や経済での事前準備もなく、防衛費だけをGDPの2%まで増やして戦争の準備をされては困るため、9条の改憲もやめた方がよいと思う。 いずれにしても、*1-3-4のように、有権者は国の形や改憲発議の可能性まで考慮して投票先を決めなければならないことになっているのだ。 (2)改憲に関する憲法学者と法律家団体の見解 1)憲法学者、東京大学石川教授の見解 東京大学の石川教授は、*2-1のように、①ウクライナへの軍事支援で兵器ビジネスが活性化している現在、9条2項の存在意義は大きい ②9条は国防の手段を定めた条文ではなく、軍事力を統制して自由を確保する立憲主義の統治機構を構築するための条文 ③国家は、9条があっても安全供給義務を免れるわけではなく、憲法の許容範囲で政治的・経済的・社会的安全を確保しなければならない ④9条が立憲主義を挫折させた帝国主義・軍国主義を吹き飛ばしたので、それを不用意に動かすと不可逆的改正になりかねない ⑤自衛隊明記の名の下に9条の中身を変えるのは、自由のシステムを壊すだけに終わる可能性がある ⑥政治家には、条文の改正によって既存の制度の何が損なわれるのか、新しい制度が機能するのかを見定める責任がある ⑦国防国家に逆戻りして軍拡競争に巻き込まれていくことを恐れる ⑧公職選挙法の改正で足りる規定を、自縄自縛を解く突破口として利用しようというのは姑息 ⑨問われているのは、異質なものと共存する世の中を選ぶのか、異質なものを排除して仲間内だけで気持ちよく生きるか、という文明的な選択 ⑩上滑りの改憲論ではなく、尊皇攘夷の排外主義を立憲主義に切り替えた伊藤のような文明観を持ってまっとうな憲法論議を深めることが大切 としておられる。 石川教授の説明は、確かに、⑩のように上滑りではなく、⑨のように、異質なものを排除することもなく文明的であり、深く考えた跡が見られるので気持ち良い。また、①②③はなるほどと思わされ、④⑤⑥⑦⑧は、私が何となく恐れていたことを具体的な言葉にしておられる。 従って、上滑りの改憲論議が議員・候補者・メディア等を通して頻繁に行われ、学生や生徒が深い憲法観を持てなくなりつつある現在、石川教授が「50分、10コマ」くらいの日本国憲法に関する講義を動画配信したらよいと思われる。そして、中学・高校では、公民の時間に、石川教授などの動画による憲法の講義を視聴し、憲法のテキストも読んでディスカッションしながら、現代政治の仕組みとそれを支える制度について考えを深めるようにすればよいと思う。そして、このような動画の使い方は、他の教科にも応用できることである。 2)憲法に基づく政治を求める法律家団体の見解 改憲を阻止する法律家団体は、*2-2のように、①岸田首相は在任中の改憲に強い意欲を見せ、憲法 9条への自衛隊明記への執念を表明した ②7月10日の参院選は重大な選択を主権者である市民に求めている ③自衛隊が憲法に明記されれば、憲法9条は死文化して歯止めなき軍拡と武力行使が可能になる ④国民主権と基本的人権の尊重という憲法の体系を破壊して軍事の論理が人権や民主主義に優先する国となる危険がある ⑤敵基攻撃論は先制攻撃と紙一重である ⑥安倍元首相や維新の会は「核共有」の議論を始めるべきとして核兵器禁止条約に背を向け、日本が堅持してきた非核三原則も捨て去ろうとしている ⑦5月23日の日米首脳会談でウクライナ危機を口実に力には力で対抗することが宣言され、これは憲法 9条が掲げる「外交による平和の実現」をかなぐり捨てるものである 等と記載している。 また、自民党は、i)敵地攻撃能力を保有し、攻撃対象を敵国中枢に拡大する ii)防衛予算を 5年以内にGDP比2%に増やす iii)日米軍事同盟のさらなる強化と核抑止力を強化する iv)核持ち込み禁止を見直す などの専守防衛政策転換を求める提言を岸田首相に提出し、日本維新の会も安倍元首相が民放番組で核共有の議論を促すとすぐに賛成して、v) GDP比2%への防衛費増額 vi)中距離ミサイル等の装備拡充 vii)核共有等の拡大抑止議論の開始 viii)専守防衛の見直しなどを打ち出した とのことである。 しかし、日本が敵基地攻撃能力保有や核共有を実施すれば他国も軍事力を増強して果てしない軍拡の応酬と相互不信を生み、日本の軍事力増強はむしろ安全保障環境を危機に陥れそうである。そのため、地域のすべての国を包み込む安全保障と非軍事的支援の枠組みを作るのが唯一の平和への道で、憲法 9条はそれを指し示す役割を担っているというのは正しそうだ。 さらに、軍事費を増大させれば、次は、生活に必要な福祉を削って社会保険料や消費税を上げるという話が出てくるが、防衛費倍増分の 5兆円があれば、大学授業料の無償化・児童手当の高校までの延長と所得制限撤廃・小中学校の給食無償化 (合計約 3.2兆円) をしても余り、年金受給者に対して一律年12万円受給額を増加させる (約 5兆円) ことも可能である。そして、コロナ禍や物価高騰でさらに苦しくなっている国民は、こういう財政支出の方を望んでいるのだ。 (3)社会保障と国民生活 2022.6.30時事 2022.6.27産経新聞 2022.6.28時事 (図の説明:左図は、財政政策に関する各党の主な公約で、中央と右の図が、社会保障関連の公約である) 1)各党の公約 *3-1のように、各党の公約は、自民党は、①全ての世代が安心できる持続可能な年金・医療・介護等の全世代型社会保障構築に向けて計画的な取組み ②出産育児一時金の引上げなど出産育児支援を進めて仕事と子育てを両立できる環境をさらに整備 ③健康長寿・年齢に関わらない就業、多様な社会参加等で長生きが幸せと実感できる「幸齢社会」を実現 とし、公明党は、④社会保障を支える人を増やし、全世代型社会保障の構築 ⑤公的価格引き上げによる医療・介護・障がい福祉の人材確保策強化 ⑥高齢者の所得保障充実に向け、高齢者が働きやすい環境整備と基礎年金の再配分機能強化を検討 としている。 このうち、①の「安心」できるためには、生活できる年金と頼りになる医療・介護が確実に支給されることが必要であるため、「持続可能性」を口実に負担増・給付減ばかりしていれば逆になる。また、全ての世代が安心できる全世代型社会保障構築は重要だが、そのために高齢者と働く世代を対立させ、計画的に高齢者への支給を減らすのは、現在でも不十分な社会保障がさらに不十分になるため、工夫が足りず賛成できない。 また、②の「出産育児一時金の引上げ」については、出産を保険適用にすれば済む上、一時金を少々もらっても出産で正規雇用の仕事を失い子育て後には非正規の仕事しかなければ全くPayしないため、出産しても正規雇用の仕事を失わないように仕事と子育てを両立できる環境を整備するか、子育て後に正規雇用の仕事に不利なく復職できるようにすべきである。 しかし、*3-3-3のように、1990年代には共働き世帯と専業主婦世帯数が逆転したにもかかわらず、「M字カーブ」が続き、現在は「L字カーブ(女性の正規雇用率は20代後半に5割を超えてピークに達し、その後は正規雇用率が一貫して下がること)」が問題になっている。その理由は、出産後の女性に事実上非正規雇用の選択肢しかないからで、これは、女性の経済的自立、社会での活躍、労働力確保、社会保険料の徴収などの観点からよくない。 そのため、「非正規雇用」という労働基準法でも男女雇用均等法でも護られない低賃金での不安定な働き方の許容をやめるべきである。また、③の健康長寿・年齢に関わらない就業はよいが、「多様な社会参加」という名目で高齢者や女性に低賃金労働や無償労働を強いるのは不公正で、長生きが幸せと実感できる社会にもならないため、内容をよく吟味すべきだ。 なお、公明党は、④社会保障を支える人を増やし、全世代型社会保障の構築 ⑤公的価格引き上げによる医療・介護・障がい福祉の人材確保策強化 ⑥高齢者の所得保障充実に向け、高齢者が働きやすい環境整備と基礎年金の再配分機能強化を検討 としている。 このうち④は①と同じであり、⑤は公的価格引き上げを負担増・給付減で賄えば、高齢者に負担が偏るため、全世代が所得に応じて薄く広く負担する必要がある。また、国有資源からの収益を充てることも考えるべきだ。さらに、⑥については、定年制の廃止や定年年齢の延長と年金給付年齢の引き上げをセットで行えば、高齢者の所得保障と社会保障充実の両立が可能だろう。 一方、立憲民主党は、⑦年金切り下げに対抗して低所得の年金生活者向けの手厚い年金生活者支援給付金 ⑧政府がコロナ禍で行う後期高齢者医療費窓口負担割合の1割から2割への引き上げ撤回 ⑨公立・公的病院の統廃合や病床削減に繋がる「地域医療構想」の抜本的見直し とし、日本共産党は、⑩物価高騰下での公的年金の支給額の引き下げ中止 ⑪年金削減の仕組み廃止と物価に応じて増える年金 ⑫75歳以上の医療費2倍化を中止・撤回 としている。 また、社民党とれいわ新選組は、⑬75歳以上の医療費窓口負担の引き上げ中止と後期高齢者医療制度の抜本的見直し ⑭非正規労働拡大に歯止めをかけて正規労働への転換と雇用の安定実現 ⑮労働者派遣法の抜本改正と派遣労働の制限 ⑯社会保険料の国負担を増やして国民負担軽減 ⑰年金支給は減らさず、保険料の応能負担も含めた制度改革 ⑱介護・保育従事者の月給10万円アップして全産業平均との差を埋める とする。 このうち⑦は、現在の高齢者については、老齢年金給付額の引き上げが必要で、将来の高齢者については、正規雇用への転換による厚生年金等への加入が重要だと思う。そのため、⑭⑮⑰の非正規から正規への転換がKeyになる。また、⑧⑫⑬の後期高齢者医療費窓口負担割合の1割から2割への引き上げについては、高齢者であっても3割負担してよいが、1カ月あたりの医療費割合を年金手取り額の5%以内に抑える等の上限を設ければ、生活できなくなるほどの医療費をとられることはなく、大病をしても負担に上限があるため安心できるだろう。 また、⑩⑪⑰は、今でも暮らせない人が多い年金であるため、当たり前のことだ。さらに、⑨は、コロナ禍であろうとなかろうと、公立・公的病院の機能はあるため、数合わせでギリギリの病床数になるまで統廃合や病床削減をしてよいわけがなく、そのような計画は「地域医療構想」の名にも値しない。 日本維新の会は、⑲現在の年金に代わって、すべての国民に無条件で一定額を支給する「ベーシックインカム」を導入して持続可能なセーフティーネット構築 とし、国民民主党は、⑳「給付付き税額控除」を導入し、マイナンバーと銀行口座を紐付けて「プッシュ型支援」を実現して「日本型ベーシックインカム」創設 としている。 しかし、⑲⑳のように、「ベーシックインカム」「日本型ベーシックインカム」と名付けてマイナンバーと銀行口座を紐付け、すべての国民に無条件で一定額を支給するというのは、すべての国民に無条件で一定額を支給する必要はない上、「ベーシックインカム」とマイナンバー・銀行口座を紐付けて国民の管理を行うのも、自由主義の国の倫理に反すると思う。 2)物価上昇は実質賃金や実質年金給付の減額であること *3-2-1は、「総務省が6月24日に発表した5月の消費者物価指数(2020年=100)は、生鮮食品を除く総合指数が101.6で前年同月比2.1%上昇し、生鮮食品も含む総合指数では2.5%上昇したが、生鮮食品とエネルギーをともに除いた総合指数では0.8%上昇した」と記載している。しかし、消費者にとっては、食品とエネルギーが最も節約しにくい支出であるため、これらを除いた物価指数を示されても意味がない。 さらに、ロシアに対する金融制裁等の制裁によって飛躍的に上がった食料やエネルギー代は、必需品を供給している国の方が制裁に強く、制裁・制裁と大騒ぎした国の方が実際には大きな制裁を受けたという結果を示しているが、この物価上昇を緩めるためにガソリン補助金等を拡大するなど生産性が低くて気候危機や自給率向上に逆行する補助金を出すのは、投資と違って戻らない歳出増加になるのである。 また、食料やエネルギー価格の上昇が貧しい人にほど大きな打撃を与える理由は、*3-2-2のように、高齢層はじめ収入が限られる人ほど、食費や光熱費などの節約できない支出の支出全体に占める割合が大きいからである。そのため、「4月の消費者物価指数が前年同月比2.5%上がって30年ぶりの伸びになった」などと「伸びた」という言葉を使うのは無神経にも程があり、物価上昇が国民生活や需給バランスに与える影響もわかっていない。 そのため、*3-2-3のように、参院選の一番の争点に「物価高」が浮上しているのは自然なことだが、改憲に前向きな4党で2/3の議席を得れば改正の発議が可能になることから、「憲法改正」も主要なテーマとして考えなければならないわけである。 3)社会保障の負担と給付 書き終わらないうちに参議院議員選挙が終わってしまったが、朝日新聞社説は、*3-3-1に、①各政党は公約の柱に、子ども・子育て支援策の充実を掲げるが、国民負担のあり方に関する言及が殆どない ②2040年代まで現役世代は減り続け、2025年に「団塊の世代」が全て75歳以上になる ③現在は約130兆円の社会保障給付費が、2040年度には190兆円に達すると推計される ④給付抑制や利用者負担増で支出を抑えるか ⑤税金や社会保険料の負担を引き上げて収入を増やすか と記載した。 また、⑥与野党とも言及するのは余力ある高齢者に応分の負担を求め、元気なうちは働ける環境を整えて制度の担い手になってもらうこと ⑦高齢者の負担を増やし過ぎれば、必要な医療や介護サービスを受けられなくなったり、家族介護や仕送りなどの形で現役世代の負担になったりする可能性もある ⑧高齢者に負担を求めれば解決するような言説は楽観的すぎる とも記載している。 さらに、⑨振り返れば、政府・与党は経済成長をあてにして本格的な給付と負担の議論を避けてきたが、社会保障給付の伸びと税収の開きは大きくなるばかり ⑩野党の多くは富裕層への課税強化を訴え、消費税の減税や廃止を主張するが、それで増え続ける社会保障費を賄えるか ⑪手厚い保障と高負担の国もあれば自助を中心に据えた国もあり、日本がそのどちらともつかない状況にある と記載している。 このうち①②は本当だろうが、③はどの項目の支出がどれだけの額になるのかを詳細に調べる必要がある。そして、調べた結果として、④の負担増・給付減ではなく、(いくらでもある)無駄を排することが必要なのだが、それもやらずに、⑤の税金や社会保険料の負担増を行っても、これまでと同様、無駄遣いが増えるだけで社会保障利用者の便宜は図られないのである。 また、⑥の元気なうちは働ける環境を整えて制度の担い手になってもらうのはよいが、「余力ある」高齢者といっても何を基準にどの範囲を「余力」と考えるのかは厳密な議論が必要で、⑦のように、高齢者の負担を増やし過ぎれば必要な医療・介護が受けられなくなって、一世代前のように、家族が介護や仕送りをしなければならなくなる。そのため、⑧のとおり、高齢者と若者を対立させて高齢者に負担増を行えば解決するかのような言説は思考停止である。 政府・与党の⑨の経済成長が上手くいかなかっ理由は、i)大胆な金融緩和で日本経済を底上げしている間に、ii)機動的な財政政策とiii)民間投資を喚起する成長戦略を行う筈だったアベノミクス「3本の矢」が、ii)は本質的な投資に至らずに著しい無駄遣いが多く、iii)は岩盤にドリルで穴をあける改革は中途半端で積極的な民間投資を喚起できなかったため、経済成長に至らなかったことである。 なお、高齢者に対する医療・介護等の社会保障は比較的新しい市場で、今後とも伸びる市場なのだが、この必要なサービスを無駄遣い扱いして抑えてきたことも、日本が経済成長できなかった理由の1つだ。にもかかわらず、社会保障の中での奪い合いが目立ち、「本格的な給付と負担の議論」と言えば、⑪のように、イ)手厚い保障と高負担の国 ロ)自助を中心に据えた国 もあり、日本がそのどちらともつかない状況とする点が誤りなのである。 本当は、イ)ロ)のどちらでもない第三の方法が存在し、それはサウジアラビアやロシアのような国有資源を持つ国である。しかし、日本は、国の管轄下である海底に資源が多く存在し、自然エネルギーも豊富で国有地で発電することも可能であるのに、政府は「資源のない国」として国富を海外に流出させることしか考えず、真剣に資源開発もしてこなかったのである。 そのような考え方の政府の下では、給付の伸びと税収の開きは大きくなるばかりで、所得税との二重課税になるにもかかわらず、⑩の消費税は減税・廃止どころかさらなる増税しかできず、高齢者関連のサービス市場も育たないわけである。 佐賀新聞は、*3-3-2のように、⑫日本が抱える多くの困難は人口減少・少子高齢化が原因 ⑬土台の揺らぐ社会保障制度の安定化は焦眉の急 ⑭財源の手当て抜きに給付拡大ばかりを与野党が競い合って重要な論点まで行き着かず ⑮安全網として不可欠な社会保障は、給付と負担のバランスで成り立ち、給付を増やせば全体として負担が増す ⑯負担は分かち合いで、高齢者も含む今の大人が痛みを避ければツケが確実に子や孫に回る ⑰2040年に高齢者人口がピークの約3900万人に増え、年金・医療・介護の社会保障費がかさむが、働いて保険料を払う現役世代は約7500万人から1500万人減る ⑱これに備えるのが政府の「全世代型社会保障」 ⑲高齢者に偏る社会保障からの恩恵を若者・子育て世代に回し、少子化を止める ⑳元気な高齢者や女性にもなるべく働いてもらい、社会保障の支え手を増やす と記載した。 この中での課題の捉え方の問題は、⑫の人口減少と少子高齢化は日本が抱える困難の原因で、⑯の高齢者も含む今の大人が痛みを避ければツケが確実に子や孫に回るから、⑬の社会保障制度の安定化のために、⑲の高齢者に偏る社会保障からの恩恵を若者・子育て世代に回して少子化を止めることが必要 ということだ。 何故なら、「親孝行」という言葉はあるが「子孝行」という言葉がない理由は、子が生まれると大多数の人は本能が働いて「自分が護らなければならない」と強く感じるのだが、親に対してはそういう本能が働かないため、人類は、文明の力で親や老人を大切にする習慣を作ってきたからである。そして、年金・介護の役割を家族で行うと、それを担当する家族の負担が大きすぎるから、年金制度・介護保険制度として社会化したのであって、⑯⑲はおかど違いの指摘も甚だしいのである。もしくは、家族が老人の世話をしていた昔に戻したいのか? また、⑫⑰は「日本が抱える多くの困難は人口減少・少子高齢化が原因で、2040年には高齢者人口がピークになり、現役世代は1500万人減る」としているが、今でも失業者の吸収のために景気対策に汲々とし、金融緩和で失業者の発生を防ぎ、それでも非正規雇用という条件の悪い労働を強いられている人が多いのであるため、景気対策をしなくても失業者や劣悪な労働条件下で働かされる人がいなくなるようにする方が先なのである。 その上、(日本人労働者を護るために行っているのだが)外国人労働者や難民への人権侵害や差別的待遇は文明国とは言い難い状況であるため、まともな待遇をする方が先であろう。 なお、⑭の「財源の手当て抜きに給付拡大ばかりを与野党が競い合って重要な論点まで行き着かない」のは困ったことだが、⑮の「安全網として不可欠な社会保障は、国民への給付を増やせば国民負担が増す」というのは、目的外の無駄遣いがあることを無視し、第三の方法も考えていないため、狭い範囲の算術だけで思考停止が過ぎる。 私も、⑱の「全世代型社会保障」は必要で、例えば65歳以下でも遠慮なく介護サービスを受けられ、そのかわり介護保険料も所得のある全世代が所得に応じて広く薄く負担する制度にすべきだし、そうすれば第二子以下の出産もしやすくもなると思う。しかし、⑳の元気な高齢者や女性にも働いてもらうのはよいが、半人前の非正規労働者として使って搾取することは許されないし、それでは、社会保障の支え手も増えないのである。 4)医療保険制度について 国立癌研究センター 厚労省 日本腎臓学会 (図の説明:左図は、年齢階層別人口10万人当たりの癌の罹患率で、50才を過ぎる頃から等比級数的に増える。また、中央の図は、年齢階層別の糖尿病有病率と予備軍の割合で、癌と比較すれば増え方は滑らかだが、年齢が上がるにつれやはり有病者が増えている。さらに、右図は、年齢階層別のCKD《慢性腎臓病》患者の割合で、これも年齢が上がるにつれて有病者が等比級数的に増える。そして、これらの現象が起こる理由は、人間には死がセットされており、年齢が上がるにつれて健康を維持する機能が衰えるからだと言われている) 日経新聞は、*3-4-1で、①日本医療が少子高齢化を乗り越えるには、負担と給付の発想転換が必要 ②「団塊の世代」全員が75歳以上になる2025年以降は医療費の膨張が加速 ③現役世代の負荷を緩和するため、マイナンバーを活用して金融資産等の保有状況を考慮した負担を検討 ④資産のある高齢者にもっと負担してもらう ⑤高齢者の医療費窓口負担は70~74歳は2割、75歳以上は1割が原則だが、今後は現役世代と同様に3割負担を原則とすることも課題 ⑥会社員らの健康保険組合は加入者の賃金水準が新型コロナ前に戻らない中、高齢者医療を支えるため毎年3兆円超拠出 ⑦府推計では2040年の医療給付費は68.5兆円と2020年度の約1.7倍に増え、20~64歳の現役人口は2割近く減少 と記載している。 このうち、②は事実だが、⑦のように、現役人口を未だに20~64歳と決めつけているのは思考停止だ。何故なら、上の図のように、50才を超える頃から癌・糖尿病・腎臓病をはじめとする成人病の罹患率が上がり始めるが、80歳超でもどの病気でもない健康な人が3/4~2/3はおり、個人差が大きいからである。さらに、働き続けて頭や身体を使っている人の方が健康でいられる確率は高い。しかし、病気への罹患率が高齢になるほど上がるのは事実で、若い頃は誰しも保険料を払ってもあまり病院に行く必要がなかったわけである。 そのため、本来はリスクの高い人とリスクの低い人が同じ医療保険に加入していることにより、保険制度は成立する。しかしながら、(私は現職だったので反対したが)2008年の制度変更で病気になるリスクの低い若い人が多い被用者保険は65歳の定年退職時に脱退させ、退職後の65~74歳の間は前期高齢者として国民健康保険に加入させ、75歳以上になると後期高齢者として後期高齢者医療保険に入れる仕組みにして、入る医療保険を年齢で分けたから、国民健康保険と後期高齢者医療保険は、(当然のことながら)大きな赤字になったのである。 そのため、令和4年度のケースでは、赤字補填のために被用者保険と公費から前期高齢者が入る国民健康保険に6.7兆円、後期高齢者が入る後期高齢者医療保険に17兆円拠出している。そして、③の「現役世代の負荷」、⑥の「会社員らの健康保険組合が高齢者医療を支えるため毎年3兆円超拠出」などというのはこのことを言っているわけだが、本来は、若い頃に入っていた保険に生涯入り続ける方が、えいやっと決めた意図的な金額を被用者保険や公費から拠出するよりも保険の理論に合っているわけである(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/iryouhoken01/index.html 参照)。 従って、①③④の「マイナンバーを活用して金融資産等の資産のある高齢者にもっと負担してもらう」というのは、若い頃は病院にも行かず多額の医療保険料を支払ってきた高齢者に対して二重三重の負担を強いるものであり、公正性に欠ける。そして、そのような意図があるから、「マイナンバーを活用して金融資産等の保有状況を考慮」することによって保険料を何重にも負担させられてはたまったものではないし、*3-4-2のように、個人情報が漏れたり悪用されたりする可能性もあるため、マイナンバーカードは作らない方がよいことになる。 なお、⑤の「高齢者の医療費窓口負担」については、私は現役世代と同じ3割負担を原則としてよいと思うが、上の図の通り、高齢になると病気になる確率が上がり、同時に介護も必要になったり、収入が年金に限られていたりするため、年齢にかかわらず医療費の上限を収入の5%として医療費・介護費が生活費を圧迫しないようにすべきだ。そして、このような事態は誰にでも起こり得るため、不公平でも不公正でもなく、それこそが保険の役割である。 また、*3-4-1は、⑧フランスでは医薬品について有効性や安全性だけでなく、疾病の重篤度、治療の特性、公衆衛生への影響などの医療上の有用性の観点で評価し、(一般患者なら一律70%給付の日本と異なり)給付率は5段階あって、抗がん剤など他で代替できない薬は100%給付、重要度が下がるにつれ65%、30%、15%、0%と給付率が下がり、有用性が低い薬ほど患者負担が重い ⑨治療法の評価も見直しが必要で、例えば内視鏡手術が開腹手術より早期退院できるなら、病気治療だけでなく「日常生活により早く戻る」という便益も提供される ⑩特別な治療法を選択した患者に追加的な自己負担を求める考え方も検討すべき ⑪こうした改革を進める前提として保険診療と保険外診療を併用する「混合診療」を禁止するルールは見直し、柔軟に併用できるようにしたほうがよい とも記載している。 このうち、⑧⑨⑩については、フランスの場合は、政府の選択が正しいと信頼できるのかもしれないが、日本の場合は、「抗がん剤」のような副作用の大きな薬剤の方が免疫療法よりもよく、「抗がん剤」は他で代替できない薬だとしていたり、内視鏡手術が開腹手術に及ばない場合もあるのに「日常生活により早く戻れる便益がある」等々としているように、政府(厚労省)の選択に信頼が置けないのである。そのため、まず、⑪のように、保険診療と保険外診療を併用する「混合診療」を可能にし、医師と患者が合意して行われた保険外診療で成果を出したものは、原則としてその価格で次々と保険診療化するというのが最も変な恣意性の入らない方法だろう。 ・・参考資料・・ <憲法> *1-1:https://www.nhk.or.jp/senkyo/database/sangiin/pledge/policy/07/ (NHK 2022年6月16日) 各党の公約「憲法」 ●自由民主党 みんなで憲法について議論し、必要な改正を行うことによって、国民自身の手で新しい“ 国のかたち” を創る。改正の条文イメージとして、自衛隊の明記などの4項目を提示しており、国民の幅広い理解を得るため、改正の必要性を丁寧に説明していく。衆参両院の憲法審査会で提案・発議を行い、国民が主体的に意思表示する国民投票を実施し、改正を早期に実現する。 ●立憲民主党 憲法9条に自衛隊を明記する自民党の案は、交戦権の否認などを定めた9条2項の法的拘束力が失われるので反対する。内閣による衆議院解散の制約、臨時国会召集の期限明記、各議院の国政調査権の強化、政府の情報公開義務、地方自治の充実について議論を深める。 ●公明党 憲法施行時には想定されなかった新しい理念や、憲法改正でしか解決できない課題が明らかになれば、必要な規定を付け加えることは検討されるべき。憲法9条は今後とも堅持する。自衛隊の憲法への明記は引き続き検討を進めていく。緊急事態の国会の機能維持のため、議員任期の延長についてはさらに論議を積み重ねる。 ●日本維新の会 2016年に公表した憲法改正原案「教育の無償化」「統治機構改革」「憲法裁判所の設置」の3項目に加えて、平和主義・戦争放棄を堅持しつつ自衛のための実力組織として自衛隊を憲法に位置づける「憲法9条」の改正、他国による武力攻撃や大災害、テロ・内乱、感染症まん延などの緊急事態に対応するための「緊急事態条項」の制定に取り組む。 ●国民民主党 緊急時における行政府の権限を統制するための緊急事態条項を創設し、いかなる場合であっても立法府の機能を維持できるよう、選挙ができなくなった場合に、議員任期の特例延長を認める規定を創設する。憲法9条については、自衛権の範囲や戦力の不保持などを規定した9条2項との関係などの論点から具体的な議論を進める。 ●日本共産党 日本国憲法の前文を含む全条項をまもり、とくに平和的民主的諸条項の完全実施を目指す。憲法9条改憲に反対をつらぬく。自衛隊については、憲法9条との矛盾を、9条の完全実施(自衛隊の解消)に向かって段階的に解決していく。「自衛隊=違憲」論の立場を貫くが、党が参加する民主的政権の対応としては、自衛隊と共存する時期は、「自衛隊=合憲」の立場をとる。 ●れいわ新選組 いま、憲法を変える必要はない。自民党の改憲4項目はいずれも憲法改正を必要とするものではない。憲法は、最高法規であり、権力者を縛る鎖であり現行憲法の条文のうち25条などまだ完全に実現できていると言えないものの実現をまずは行う。緊急事態条項を加える憲法改正は有事に政府への権限集中を認めるという危険があり、行うべきではない。 ●社会民主党 徹底した平和主義を貫くなど「世界でも先進的」と言われており、改悪には反対。いま憲法を変える必要はなく、社会にさまざまな行き詰まりが目立つのは、憲法が原因ではなく、憲法の理念を活用しようとしない政府の責任だ。憲法理念を暮らしや政治に活かして、国民の生活を再建することに全力をあげる。 ●NHK党 憲法改正の発議を行い、国民投票を実施することは国民にとって貴重な政治参加の機会。そのため国会においては憲法審査会の開催など、憲法改正に関する議論をするよう積極的に促していく。国会閉会中の国会召集の要求に対して国会が開かれない問題への対策として、憲法 53 条などの改正を提案していく。 *1-2-1:https://www.sankei.com/article/20171221-IV26S36DVFJPXEZHVVBN62COYY/ (産経新聞 2017/12/21) 自民の改憲4項目「論点取りまとめ」要旨 【自衛隊】自衛隊が日本の独立、平和と安全、国民の生命と財産を守る上で必要不可欠な存在だとの見解に異論はなかった。改正の方向性として(1)9条1項、2項を維持し、自衛隊を憲法に明記するにとどめるべき(2)9条2項を削除し、自衛隊の目的・性格をより明確化する改正を行うべき-の2通りが述べられた。「シビリアンコントロール(文民統制)」も明記すべきだとの意見もあった。 【緊急事態】(1)選挙ができない事態に備え、国会議員の任期延長や選挙期日の特例を憲法に規定(2)政府への権限集中や私権制限を含めた緊急事態条項を憲法に規定-の2通りがあった。現行憲法で対応できない事項について憲法改正の是非を問う発想が必要と考えられる。 【合区解消・地方公共団体】47条を改正し(1)両院議員の選挙区および定数配分は人口を基本としながら、行政区画や地勢などを総合的に勘案(2)都道府県をまたがる合区を解消し、参院選は改選ごとに各広域地方公共団体(都道府県)から少なくとも1人が選出可能-となるよう規定する方向でおおむね一致。その基盤となる市町村と都道府県を92条に明記する方向で検討している。 【教育充実】教育の重要性を理念として憲法上明らかにするため、26条3項を新設し、国が教育環境の整備を不断に推進すべき旨を規定する方向でおおむね一致。89条は私学助成禁止と読めるため、条文改正を求める意見もあった。 *1-2-2:https://ryukyushimpo.jp/kyodo/entry-1536457.html (琉球新報 2022年6月20日) 参院選後、早期に改憲発議 「早いタイミングで」と茂木氏 自民党の茂木敏充幹事長は20日、報道各社のインタビューで、参院選後の早期に憲法改正の国会発議を目指す考えを表明した。「選挙後できるだけ早いタイミングで改憲原案を国会に提案し、発議を目指したい」と述べた。自民、公明、日本維新の会、国民民主の各党などの改憲勢力が参院選で、改憲発議に必要な3分の2以上の議席を獲得するのを前提にした発言だ。先の通常国会で改憲論議に前向きだった政党を念頭に「主要政党間でスケジュール感を共有し、早期に改憲を実現したい」とも主張した。早期改憲を目指す理由については、安全保障環境などが大きく変化していると指摘した。 *1-2-3:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1541904.html (琉球新報社説 2022年7月1日) 参院選・憲法 論点示し議論を深めよ 6月22日に公示された参院選の主要な争点の一つに憲法改正が挙げられる。戦争放棄の第9条を掲げ平和主義を基本原則とする憲法の重みが今ほど増している時はない。ロシアによるウクライナ侵攻は憲法論議にも影響しているとみられる。改憲を主張する政党は、憲法を変えないことによる不具合は何かを具体的に説明し、憲法を改めることでしか問題は解決しない理由を明確にしなければならない。選挙期間中に議論を深めてほしい。共同通信社の参院選トレンド調査で、投票先未定の有権者に何を最も重視して投票するか聞くと「物価高対策・財政政策」が46・1%で最多だったのに対し、「憲法改正」は1・8%にとどまった。暮らしの問題が切実なのと同様に、憲法問題も日本の針路に関わる重要な議論だ。自民党の茂木敏充幹事長は「選挙後早いタイミングで改憲発議を目指す」と明言し、今回の参院選が大きな節目となる可能性がある。各党は論点を示し、有権者の関心を引き上げなければならない。自民党は憲法9条への自衛隊明記や緊急事態条項の新設、参院選「合区」解消、教育無償化・充実強化―の党改憲4項目をまとめている。だが、合区解消と教育無償化は、教育や選挙制度に関する法律で対応が可能だ。憲法を変えなければならないという説明が足りていない。緊急事態条項は、大規模災害や武力攻撃発生時などの有事の際に政府の権限を強める内容だ。私権制限を伴うため個人の権利尊重や、法によって国家権力を縛る「立憲主義」といった、憲法の理念を根本から変えることになる。岸田文雄首相は4項目を「喫緊の課題」として早期実現を目指す。ただ、トレンド調査では岸田首相の下での憲法改正に「賛成」44・8%、「反対」44・7%と賛否が拮抗(きっこう)した。「喫緊」とは言えず、徹底した論議が必要だ。公明は自衛隊明記について「検討を進める」と従来より踏み込んだ。野党は、日本維新の会が武力攻撃を受けた際の緊急事態条項創設などを掲げる。国民民主党は9条改正の議論を進めるべきだと主張する。これに対し、立憲民主党の泉健太代表は改憲の優先度が低いとして、慎重な憲法論議を訴えた。共産党と社民党は9条改正反対の立場だ。沖縄選挙区で事実上の一騎打ちとなる伊波洋一氏と古謝玄太氏でも賛否は分かれる。伊波氏は「基本的人権や地方自治、平和主義など現行憲法の理念の実現が先だ」として改憲に反対の立場をとる。古謝氏は「自衛隊をきちんと憲法に位置付け『自衛隊違憲論』を解消すべきだ」として9条改正が必要だとする。改憲発議に必要な3分の2以上の議席獲得という数の論理ありきでなく、冷静な議論が必要である。 *1-2-4:https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/828084 (京都新聞社説 2022年7月3日) <7・10参院選> 憲法の改正 重大な岐路関心寄せねば 参院選の投開票日まで1週間。身近な物価高の対策に目が向きがちだが、結果によっては、施行から75年を迎えた日本国憲法の重大な岐路になる可能性がある。昨秋の衆院選に続き、参院でも憲法改正に積極的な勢力が国会の発議に必要な「3分の2以上」を超えれば、改憲の動きは加速するとみられるからだ。戦後、平和と繁栄を築いてきた日本の土台たる最高法規の書き換えは、国の行く末を大きく左右する。有権者は選択材料として、各党の憲法への主張を十分に吟味してほしい。公約などから自民、公明の与党に加え、日本維新の会、国民民主党が改憲勢力とされる。自民は公約に、安倍晋三政権下でまとめた9条への自衛隊の明記や緊急事態条項の新設など4項目を掲げる。日本維新の会も従来の改憲項目(教育無償化など)に加え、自衛隊明記と緊急事態条項設置を追加し、実質的に歩調をそろえた。一方、立憲民主党は「論憲」を標榜(ひょうぼう)し、衆院解散権の制約などは検討項目とするが、自衛隊の明記には反対する。共産党と社民党は護憲の立場で、れいわ新選組は憲法順守を訴える。新型コロナウイルス禍やロシアのウクライナ侵略など国内外の情勢変化に加え、衆院選で改憲勢力が議席を増やしたことも受け、先の通常国会では衆院憲法審査会の開催が過去最多の16回を数えた。自民内からは「ソフトな印象の岸田文雄首相の誕生もあり、改憲環境は整ってきた」との声が聞かれる。岸田氏は「改憲の党是を成し遂げる」とし、茂木敏充幹事長は「選挙後できるだけ早いタイミングで改憲原案を国会に提案したい」と公言する。選挙序盤の世論調査では与党が改選議席の過半数を上回り、維新も議席倍増以上の勢いがあるという。茂木氏の言葉は現実味を増しているようにみえる。それだけに、いま一度、憲法の意義を見つめ直し、改憲の必要性や優先度を考えたい。自民公約の緊急事態条項は、災害や感染症など不測の事態時に、内閣が国会抜きで法と同等の「緊急政令」を制定できるようにする内容だ。国民の私権制限や、選挙を行えない時の議員任期延長も可能にする。事実上、憲法を停止して内閣に白紙委任する形になる。既に緊急事態発生時の法整備が進む中、本当に必要なのか。憲法には、衆院解散後に非常事態があれば、参院が緊急集会で予算や議案を可決できる規定もある。自衛隊が国民に定着する中、憲法への明記は各種世論調査で賛否が半ばしている。9条改正の先に、専守防衛を転換し、自民が「反撃能力」と言い換えた敵基地攻撃能力の保有を目指すなら一層慎重な議論が欠かせない。国内外に多大の犠牲を強いた無謀な戦争の反省に立ち、強大な政府権力に制限をかけて国民を守るのが憲法の本質だ。それを変え、どんな国を目指すのか。力の縛りを解き放つマイナスは考えたか。危機をあおるのではなく、熟議や歴史に耐えうる憲法論議を各党に望む。 *1-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220704&ng=DGKKZO62285940U2A700C2MM8000 (日経新聞 2022.7.4) 自公、改選過半数の勢い 参院選情勢、立民伸び悩み、維新は伸長 改憲勢力3分の2視野 日本経済新聞社は1~3日、7月10日投開票の参院選について世論調査した。取材を加味して情勢を探ると、自民、公明両党は改選124に欠員補充1を加えた125議席の過半数63を超える勢いだ。立憲民主党は伸び悩み、日本維新の会は伸長する見通しとなった。参院は3年ごとに半数ずつ改選し、今回から総定数が248となる。自公は非改選で70議席を持つため、参院の過半数(総合・経済面きょうのことば)は55議席で届く。調査は選挙区と比例代表でそれぞれ回答した人の1割前後が投票先を決めておらず、情勢は投票日まで流動的な要素が残る。自民、維新、国民民主党に公明を加えた4党は非改選で84議席を持つ。この4党の改憲論議に前向きな「改憲勢力」が無所属・諸派を含めて82議席以上とりうる。国会発議に必要な総議員の3分の2(166議席)維持が視野に入りつつある。自民は全体の勝敗に影響する32の1人区(改選定数1)のうち6割で当選が有力となっている。宮城や新潟、山梨など4割は立民など野党と競り合う状況だ。改選定数2~6の複数区は大半の選挙区で1議席を確保する公算が大きい。唯一接戦の京都も自民がやや上回る。千葉や東京、神奈川の各選挙区で2人目の当選も狙える情勢になっている。自民の比例は前回2019年参院選の獲得議席への上積みがみえてきた。選挙区と比例代表の合計で19年の57議席から伸びしろがある。60以上になれば非拘束名簿式の現行制度で01年と13年に続く3回目となる。立民は先行する1人区が接戦区を含めて青森や長野などにとどまる。今回の選挙で野党が候補者を一本化した1人区は11選挙区。16年と19年は全選挙区で統一候補をたて、野党系がそれぞれ11勝、10勝した。共闘体制が限定的になり、政権批判票が分散したことで情勢が厳しくなった。立民は複数区の東京や千葉、福岡では各1議席の獲得を見込む。北海道は自民と立民が3議席目を競り合う。比例代表と合わせて改選23を維持できるか微妙な情勢にある。公明は擁立した7選挙区全てでの議席確保が濃厚だ。比例代表とあわせ14議席前後となりそうだ。維新は改選6議席から2桁台への勢力拡大が見えつつある。選挙区は大阪で議席を確保するほか神奈川、兵庫に加え、京都でも当選圏内入りをめざす。比例代表も改選議席3からの積み増しをうかがう。国民民主は接戦の山形や愛知で現職がややリードするものの大分は追う展開となっている。共産党は比例を中心に議席獲得をめざす。選挙区は改選定数4の埼玉や同6の東京で議席獲得を争う。れいわ新選組も東京で1議席をかけて維新などと接戦を展開する。社民党やNHK党は比例代表で議席獲得の可能性がある。 *1-3-2:https://mainichi.jp/articles/20220622/k00/00m/010/292000c?cx_fm=mailasa&cx_ml=article&cx_mdate=20220623 (毎日新聞 2022/6/22) 参院選、憲法改正の行方は 前向きな4党 「83議席」の攻防 与野党は選挙戦で、岸田文雄首相が意欲を見せる憲法改正を巡っても、論戦を交わす。自民党は憲法9条への自衛隊明記や緊急事態条項の創設を含む4項目の条文イメージを掲げる。改憲に前向きな自民、公明、日本維新の会、国民民主の「改憲4党」が憲法改正の発議に必要な3分の2の議席(166議席)を得られるかが焦点で、4党が3分の2以上の議席を獲得するには計83議席を得る必要がある。首相は4項目に関し「極めて現代的な課題だ」と強調。自民の茂木敏充幹事長も20日、報道各社のインタビューで、憲法改正に関し「参院選後できるだけ早いタイミングで改正原案の国会提出と発議を目指したい」と述べた。改憲4党は緊急事態条項のうち国会議員の任期を延長する改憲について、必要性があるとの認識で一致している。一方、立憲民主党は緊急事態条項の創設について「国民の権利保障や立憲主義に逆行する」(泉健太代表)と反対。首相の衆院解散権制約や臨時国会の召集期限の設定を例に挙げ、「論憲」を主張する。共産、社民両党は9条改憲に反対する。れいわ新選組は、改憲の優先度は低いとしており、NHK党は改憲論議に前向きだ。また、自民総裁の岸田氏は勝敗ラインを「非改選議員も含めて与党で過半数」と設定している。自民、公明両党の非改選は計69議席で、今回の選挙で過半数(125議席)維持に必要な数は計56議席になる。自民は単独で2016年参院選で56議席、19年参院選は57議席を獲得しており、自公両党で56議席確保は高い壁ではない。自民党内には「自民単独で過半数を目指すべきだ」(麻生太郎副総裁)など、目標の上方修正を促す声がある。茂木氏も20日のインタビューで「与党で改選議席の過半数(63議席)獲得も含めて一議席でも多く積み重ねていきたい」と語った。 *1-3-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15337269.html?iref=comtop_Opinion_03 (朝日新聞社説 2022年6月28日) 参院選 憲法 数集めでなく熟議を 憲法は、国のあり方を定める最高法規である。幅広い国民の理解のうえに、与野党をこえた丁寧な合意形成が不可欠だ。発議に必要な数を集め、期限を切って結論を急ぐようなら、議論の土台を崩すことになる。今回の参院選の結果は、日本の針路を大きく左右する可能性をはらんでいる。安全保障をめぐっては、戦後の抑制的な政策を維持するのか、敵基地攻撃能力を含む防衛力の抜本的な強化にかじを切るのかが、問われている。憲法に対する各党の姿勢も、重要な論点のひとつだ。自民党は自衛隊の明記、緊急事態対応など4項目を引き続き公約に掲げ、「早期の実現」をうたう。統治機構改革などを優先していた日本維新の会が、自衛隊を明確に位置づける9条改正と緊急事態条項の創設を加えたことで、共通点が広がった。国民民主党も緊急事態に議員の任期を特例で延長する規定の創設など、憲法論議に積極的だ。一方、公明党は与党だが、違憲論解消のための自衛隊明記は検討事項にとどめ、賛否を明らかにしていない。野党第1党の立憲民主党は「論憲」の立場から、衆院の解散権の制約などの議論は深めるとしながら、自民の9条改正案には、戦力不保持・交戦権否認を定めた2項の法的拘束力が失われるとして、反対を明確にする。共産党は9条だけでなく、「前文を含む全条項」を守るとした。各党の議論が集約されつつあるとは、とてもいえないのが現状だ。そもそも自民の4項目は4年前、任期中の改憲に意欲を示し続けた安倍元首相の下でとりまとめられた。その後、進展がみられないのは、中身よりも、憲法を変えること自体を目的とするような態度が、野党の不信や警戒を招き、国民の支持も得られなかったためだ。岸田首相は日本記者クラブでの党首討論会で、維新が求めたスケジュールの明示には応じなかったが、「中身において、(改憲発議ができる)3分の2が結集できる議論を進めていきたい」と語った。「安倍改憲」の頓挫を直視し、「改憲ありき」を繰り返してはならない。コロナ禍やロシアのウクライナ侵略が、改憲の追い風になるとの見方もあるかもしれない。確かに、パンデミックへの備えや日本の安全保障のために何が必要かの議論は重要だ。ただ、法改正では対応できないのか。改憲が求められるなら、どの条文をどうするのか。そうした具体論を欠いたままでは、国民の理解が広がることはあるまい。熟慮と議論を重ねて共通認識を導く。憲法論議こそ、とりわけ熟議が求められることを忘れてはならない。 *1-3-4:https://www.tokyo-np.co.jp/article/186958 (東京新聞 2022年7月1日) 改憲勢力、9条改正に踏みこむか 有権者は投票で意思を示そう 「真正面から9条改正でやってくるんじゃないですか」。参院選の最中に会った護憲の立場の野党関係者が警戒感を持って語った言葉が気になった。岸田文雄首相も「(改憲勢力が)内容で結集できるよう議論を進めていく」と訴える。参院選後、改憲論議はどうなるのだろうか。戦後日本の平和主義の大枠を定めてきた9条の扱いが、ヤマ場を迎つつある。 ▽ウクライナ侵攻で風向き変化 今回の参院選(10日投開票)は「憲法改正の是非」が主要な争点に挙げられている。衆院は「改憲勢力」に位置付けられる自民党と日本維新の会、公明党、国民民主党の4党が、国会での改憲発議に必要な3分の2以上の議席を占めている。参院も6月22日の公示前勢力でぎりぎり3分の2を超えていた。今回の選挙でこのラインを確かなものにすれば、改憲を政治日程に乗せる動きが具体化しそうだ。与野党ともに憲法を巡る訴えを強めるのは、こうした背景がある。岸田政権では通常国会の会期中、衆院でほぼ毎週、憲法審査会が開かれた。選挙情勢を踏まえると、参院選後は当面、落ち着いた政治環境にもなるとみられる。改憲勢力が好機と受け止めるとは当然だ。こうした中、自民党はどのような改憲原案を検討してくるのだろうか。自民党は安倍政権下で、緊急事態条項の創設などと並んで、9条への自衛隊明記を盛り込んだ「改憲4項目」をまとめた。だが党内では、9条改正はハードルが高いとして、緊急事態条項の中の「国会議員の任期延長ならやりやすいのでは」(党幹部)と、9条回避を唱える議員も少なくなかった。風向きが変わったのは、今年2月からのロシアによるウクライナ侵攻からだ。「防衛力の抜本的強化」(首相)が喫緊の課題となる中で、9条改正に再び焦点が当たってきた。 ▽足並みそろえる自・維・公 首相は5月3日、改憲推進派の大会で、9条改正について自民党改憲案4項目に関し「早期実現が求められる」とビデオメッセージを寄せた。維新は5月18日、戦争放棄を定めた9条1項、戦力不保持と国の交戦権否定をうたった2項を残したまま「9条の2」を新設し自衛隊を明記する点で、自民党案と共通する「条文イメージ」を発表した。あまり注目されなかったが、公明党も踏み込んだ。5月の衆院憲法審で北側一雄副代表が、首相や内閣の職務を規定した72、73条に自衛隊を明記するという、これまでにない具体的な案を示したのだ。公明党は参院選公約でも、従来の「慎重に議論」から「検討を進める」へと表現を進めた。9条明記で自民と維新、公明は足並みをそろえつつあると言っていい。 ▽憲法の理念実現が先 こうした動きに、主要野党は反対の論陣を張る。立憲民主党の西村智奈美幹事長と、共産党の小池晃書記局長は、6月26日のNHK討論番組で、生活や暮らしで実現されていない憲法の理念があるとして、その実現こそが求められると歩調を合わせた。社民党の福島瑞穂党首は護憲を訴えて声をからす。筆者は先日、「立憲デモクラシーの会」に加わる杉田敦法政大教授(政治理論)に話を聞く機会があった。改憲は国論を二分するため、相当な政治的エネルギーが必要となり、政治の空白を招いてしまう。内外の重要課題が山積している中で、そのような無責任なことをするべきではない、という話だった。だが、改憲への動きは参院選後を見据え、強まりつつあるように見える。自民党の茂木敏充幹事長は同じNHK番組で「できるだけ早いタイミングで改憲原案を国会で可決したい」と述べ、選挙後に主要政党間で改憲への日程感の共有を進める考えを示した。維新の藤田文武幹事長も、21年衆院選で議席を伸ばしたことが、改憲論議を進めるきっかけになったとして、早期改憲への意欲を強調した。ここから浮かぶのは、秋の臨時国会以降、自民、維新両党が中心となって改憲原案の作成を進め、来年の通常国会で衆参両院の憲法審査会に提出し、議論を進める日程感だ。自民党幹部は「最速で通常国会の会期末には発議もあり得る」と話す。このような展開になった時に、われわれはどのように受け止めればいいのか。ウクライナでの戦争は続いており、防衛力を確かなものにするためにも、自衛隊の明記は必要だと考えるのか。それとも、社会保障や教育の充実など、もっとやるべきことはあるとして、憲法理念の実現を求めていくのか。日本の未来を決めるのは一人一人の有権者だ。どのような未来がいいのか、しっかりと頭に描いて10日の投票で意思を示そう。 <憲法学者と法律家団体の見解> *2-1::https://digital.asahi.com/articles/DA3S15283962.html?iref=pc_shimenDigest_opinion_01 (朝日新聞 2022年5月3日) (インタビュー)これからの立憲主義 東京大学教授・石川健治さん(いしかわけんじ 1962年生まれ。東京大学教授。著書に「自由と特権の距離(増補版)」、編著に「学問/政治/憲法 連環と緊張」など) 明治憲法下でスタートした立憲主義のプロジェクトは一度挫折を味わうが、敗戦を経て日本国憲法の下で再開して75年を迎えた。ロシアがウクライナを侵攻し、国際秩序を揺さぶる中、国内では改憲論が勢いづく。日本の立憲主義の現状をどう見るか。憲法学者の石川健治・東大教授は、読み解くかぎは「文明」だという。 ―今年は明治憲法の施行(1890年)から132年でもあります。明治憲法下の立憲主義をどう評価されますか。 「明治時代の首脳たちは、文明国になるためには、権力分立と権利保障を備えた立憲主義の体制が必要だという認識を持っていました。当時の日本は、西洋列強の圧力の中で国家としての生き残りを懸けており、富国強兵・殖産興業(軍部主導の軍国主義と官僚主導の開発主義)に注力していましたが、国防目的だけではない観点を、彼らはもちあわせていました」「伊藤博文が特にそうです。文明国であることを認めさせて不平等条約の改正を促進するもくろみは、もちろんありました。しかし、憲法というのは、ヨコのものをタテに翻訳すれば済むような、簡単な話ではありません。社会に定着するかどうかが勝負です。伊藤は、広大な新世界に連邦制かつ共和制の憲法体制を実現したアメリカ人の実験精神に触発されつつ、立憲主義を日本という古い土壌に定着させるよりどころを求めてヨーロッパをめぐりました。伊藤の文明へのコミットメントは本物です。彼が中心になって起草した憲法には、天皇制をてこにした文明化の実験という側面があったわけです」 ―伊藤が目指したようなかたちで立憲主義は定着していくのでしょうか。 「残念ながら、近代日本の国のかたちは、立憲主義だけでなく、君主主義、軍国主義、開発主義、植民地主義の合成物として、伊藤の死後1910年ごろに固まることになり、その後はそれらの間で綱引きが行われることになります。大正デモクラシーと呼ばれたのは、立憲主義が他に比べて相対的に優勢だった時期で、それを支えていたのが東京帝大教授の美濃部達吉の憲法学でした。政界官界のみならず宮中をも支配し、昭和天皇自身もその考え方を支持していました。その理屈の力で、公権力の分立・均衡と、私人の権利保障とを支えていたわけです」 ■ ■ ―35年、美濃部の天皇機関説は「国体に反する」と右翼や軍部の激しい攻撃を受け、美濃部は公職を追われ、著書は発禁処分となります。 「満州事変が、軍国主義が優勢に転ずる決定打となりました。これを契機に、大正デモクラシーは終わり、最後の防波堤だった美濃部学説が社会的に抹殺されると、歯止めがなくなってしまったのです。翌36年に起きた2・26事件は天皇機関説事件の論理的帰結です。国体の本義と呼ばれた国家イデオロギーが私生活にも入り込み、異論を言うことを許さない社会になっていきます」 ―天皇機関説事件について、明治憲法の実質的な改正だったとみる見解もあります。 「憲法は条文のかたまりではなく制度のかたまりです。条文の字面ではなく、それが演出している制度の実体をみなくてはなりません。やがて近衛文麿首相を総裁とする大政翼賛会が結成され、国民総動員体制が確立されますが、その実体は、立憲主義を捨て、国防目的の国家に切り替えた憲法革命です。ワイマール憲法の条文を改正しないで立憲主義を否定した、いわゆるナチスの手口も、判例変更によって修正資本主義を決定づけたニューディール期のアメリカもまた、同様ですね」 ―軍国主義の下で破滅の道を歩んだ日本は再び、日本国憲法の下で立憲主義のプロジェクトをスタートさせました。特徴はどこにあったのでしょうか。 「敗戦と日本国憲法の制定によって、かつて立憲主義の足を引っ張った植民地主義や軍国主義が切り離されました。君主主義も象徴天皇制に後退し、国民主権にかわりました。75年間もの長きにわたって立憲主義の体制が維持された秘訣(ひけつ)は、そこでしょう」「例えば、改憲論議の焦点となっている9条2項には、『陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない』とあります。ここでいう『その他の戦力』の禁止とは、かつて富国強兵・殖産興業という形で、軍国主義と開発主義が癒着して形成された、軍産複合体の禁止を意味しているのです。ウクライナへの軍事支援によって、兵器ビジネスが活性化している現在、その今日的意義は依然として大きいというべきでしょう」 ■ ■ ―9条について、理想主義に過ぎ、「お花畑」と揶揄(やゆ)する言説があります。どうお考えですか。 「議論の次元が間違っていると思います。9条は、国防の手段を定めた条文ではありません。軍事力を統制し自由を確保する、立憲主義の統治機構を構築するための条文です。しかし、国家は国民の税金で運営されている以上、国民に安全を供給する義務があります。9条があるからといって、国家が安全供給義務を免れるわけではありません」「憲法によって許容される範囲内で、あの手この手を使って、政治的・経済的・社会的な安全を確保しなくてはなりません。もし仮に、放射能の脅威なしに生存する権利の主張が強まって、反原発の条文を憲法におくことになったとしても、それによって、国家がエネルギー政策そのものを免除されるわけではないのと同じです」 ―自衛隊を9条に明記するという改憲案をどう見ますか。 「戦後、国内では9条が自由のシステムを作ってきました。日本の立憲主義を挫折に追い込んだ帝国主義・軍国主義が、すべて9条によって吹き飛ばされたのです。その意味で9条の統制はよく効いてきた。それを不用意に動かすのは不可逆的な改正となりかねません。問われているのは戦後築いてきた自由のシステムをどう考えるかという問題です。自衛隊明記という名の下に9条の中身を変えることは、自由のシステムを壊すだけに終わる可能性があります。条文だけでなく制度のメカニズムをみて欲しいと思います」「憲法を機能させるのは、『権力への意志』を押し返す、『憲法への意志』です。平和主義へのコミットメントが、戦後一貫して、憲法を支える国民的地盤であったことを軽視すべきではありません。9条に代わる制度を支える『意志』がこの社会になければ、改憲論議は空理空論に過ぎず、せっかく作った新しい条文も、絵に描いた餅に終わってしまいます。政治家には、条文の改正によって既存の制度の何が損なわれるのか、新しい制度が本当に機能するのかを見定める責任があります」 ―ウクライナ侵攻に乗じるかのように、敵基地攻撃能力や核共有、防衛費の対GDP(国内総生産)比2%以上の拡大などを主張する議論が生まれています。「国防国家に逆戻りし、軍拡競争に巻き込まれていくことを恐れています。しかも、軍事面だけでなく、軍拡競争を可能にする財政の仕組みがすでに生まれていることに注意すべきです。アベノミクスです。これは、かつて高橋是清蔵相が戦費調達システムとして編み出した、新規国債の日銀引き受けと大胆な財政支出に、機能が酷似しています。財政と戦争は常につながってきたということは記憶にとどめておく必要があります。しかも、国防国家が国民の命を救うかといえば、必ずしもそうではなかったことを歴史が示しています」 ■ ■ ―永田町では、憲法改正それ自体が自己目的化した政治家たちの議論が繰り返されています。その一つが大災害時などの緊急事態に衆院議員の任期を延長できるようにすべきだという主張です。必要性がよくわかりませんが、どのように見ていますか。 「その時々の権力にとっては、むしろ都合が悪い、自縄自縛の仕組みを作る文明的な営みが、憲法の制定や改正の作業です。公職選挙法の改正で足りる規定を、自縄自縛を解く突破口として利用しようというのは、姑息(こそく)です」 ―立憲主義のプロジェクトを進めるうえで何が肝心ですか。 「問われているのは、異質なものと共存する世の中を選ぶのか、異質なものを排除して仲間内だけで気持ちよく生きるか、という文明的な選択ではないでしょうか。例えば、国内では性的な少数者の権利を認めて一人ひとりが生きやすい社会にするのか。国外では体制の異なる国と外交でうまくやりながら平和な秩序を作る努力を重ねていくのか。国内外ともに、すべての論点がこの一点につながっており、その選択こそが喫緊の課題です。上滑りの改憲論ではなく、尊皇攘夷(じょうい)の排外主義を、立憲主義に切り替えた伊藤のような文明観を持ちながら、まっとうな憲法論議を深めることが大切ではないでしょうか」 *2-2:http://www.news-pj.net/topics/136758 (NPJ 2022年6月20日) 改憲を阻止し、命と平和を守る憲法に基づく政治への転換を求める法律家団体のアピール 改憲問題対策法律家 6団体連絡会 社会文化法律センター 共同代表理事 海渡 雄一 自由法曹団 団長 吉田 健一 青年法律家協会弁護士学者合同部会 議長 上野 格 日本国際法律家協会 会長 大熊 政一 日本反核法律家協会 会長 大久保賢一 日本民主法律家協会 理事長 新倉 修 はじめに 7月10日に投開票を迎える参議院選挙は、専守防衛政策を転換し、軍備を増強し、憲法 9条を「改正」して戦争をする国に日本を変えるのか、それとも専守防衛政策を徹底し、憲法 9条を活かして日本が非軍事的に平和を創造するあらゆる努力を続ける平和主義の立場を堅持するのかという重大な選択が主権者である市民に求められています。私たち改憲問題対策法律家 6団体連絡会 (法律家 6団体) は、改憲にNO ! 憲法蹂躙の政治に終止符を ! の審判を下すことを広く市民に呼びかけます。 1 9条改憲に NO ! 岸田文雄首相は、在任中の改憲に強い意欲を見せており、施政方針演説でもその方針を明言するとともに、憲法記念日にも憲法 9条への自衛隊明記への執念を表明しました。こうした岸田首相の方針に呼応するかのように、衆議院憲法審査会で改憲ありきの異常な審議が続きました。国民生活の福利のために注力すべき予算審議の時期にあえて憲法審査会を開催しました。また、改憲を望む国民世論は極めて低いにもかかわらず衆議院の憲法審査会の毎週開催を強行しました。自民党、公明党、維新の会、国民民主党などは、積極的に改憲論議を展開してきました。特に、ウクライナ侵攻を契機として自民党、維新の会は「憲法9条では国を守ることはできない」と述べ、憲法 9条を「改正」し自衛隊を明記する必要性を強調しました。自衛隊が憲法に明記されれば、憲法9条は死文化し、歯止めのない軍拡と武力行使が可能となります。平和主義の理念が葬られることは、国民主権と基本的人権の尊重という憲法の体系そのものも破壊し、軍事の論理が人権や民主主義に優先する国となる危険があります。 2 国民 (市民) の命と生活を犠牲にする戦争する国にNO ! 憲法 9条違反の政治が自公政権のもとで進んでいます。岸田首相は、敵基地攻撃能力を保有と軍事力の抜本的強化を繰り返し宣言しています。敵基攻撃論は、国際法上違法とされる先制攻撃と紙一重であり、攻撃対象を「指揮統制機能」に拡大すれば、国際人道法違反にも問われかねないものです。 5月23日の日米首脳会談では、ウクライナ危機を口実に「力に対して力で対抗する」ことが宣言されていますが、これは憲法 9条が掲げる「外交による平和の実現」をかなぐり捨てるものです。また、安倍晋三元首相や維新の会は「核共有」の議論を始めるべきと述べ、核兵器禁止条約に背を向け、日本が堅持し続けてきた非核三原則まで捨て去ろうとしています。自民党は、① 敵地攻撃能力の保有並びに攻撃対象を敵国中枢に拡大 ② 防衛予算を 5年以内にGDP比 2% ③ 日米軍事同盟のさらなる強化と核抑止力の強化 ④ 核持ち込み禁止の見直しなど、専守防衛政策の転換を求める提言を岸田首相に提出しました。日本維新の会も、安倍元首相が民放番組で核共有の議論を促すとすぐさま賛成し、① 防衛費増額GDP 2% ② 中距離ミサイル等の装備拡充 ③ 核共有等の拡大抑止の議論開始 ④ 専守防衛の「必要最小限」の見直しなどを打ち出しています。しかし、専守防衛政策を捨ててこれ以上軍事力を増大させることは、日本や近隣諸国の安全保障環境を危機に陥れかねません。日本が敵基地攻撃能力を保有し、核共有を実施し軍事力を倍増させることは、必然的に周辺国の疑心暗鬼を招き他国も軍事力を増強することにつながります。軍事力に頼る抑止論は、果てしない軍拡の応酬と相互不信を生むだけであり、近隣諸国の緊張関係を亢進し軍事衝突の危険を逆に増すことになります。むしろ地域のすべての国を包み込む安全保障と非軍事的支援の枠組みを作ることこそ唯一の平和への道であり、憲法 9条はそれを指し示す役割を担っています。さらに、軍事費を増大させることは、私たちの生活のために必要な福祉予算を削る、あるいは消費税を大増税するということを意味します。防衛費倍増 5兆円があれば、大学授業料の無償化、児童手当の高校までの延長と所得制限の撤廃、小中学校の給食無償化 (合計約 3.2兆円) をしてさらに余りがでます。また、年金受給者に対してその受給額を一律年12万円増加させる (約 5兆円) こともできます ( 6月 3日東京新聞調べ) 。ただでさえコロナ禍や近時の物価高騰で悩まされている市民は、こうした財政支出こそ望んでいるはずです。 私たちは、軍事力に依存した政策にきっぱりとNOを突きつけなければなりません。 3 「政策要望書」を一致点とした野党共闘こそ求められている 安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合 (市民連合) は、 5月 9日、平和・暮らし・気候変動・平等と人権保障の 4つの柱からなる「政策要望書」を発表し、立憲民主党、共産党、社民党、沖縄の風、碧水会の 3党 2会派はこの要望書を口頭にて確認しました。この確認された「政策要望書」には、「憲法が指し示す平和主義、立憲主義、民主主義を守り、育む」という理念が記されるとともに、「非核三原則を堅持し、憲法 9条の改悪、集団的自衛権の行使を許さない、辺野古新基地建設は中止する」という目標が掲げられており、私たちの主張と一致しています。さらに「政策要望書」は、「すべての生活者や労働者が性別、雇用形態、家庭環境にかかわらず、尊厳ある暮らしを送れるようにする」、「原発にも化石燃料にも頼らないエネルギーへの転換を進め (る)」「すべての人の尊厳が守られ、すべての人が自らの意志によって学び、働き、生活を営めるように人権保障を徹底する」としています。これらは、いずれもコロナ禍の中で苦しめられてきた市民の命と暮らしを第一に据えた政策であり、私たち法律家 6団体が求めてきたことと一致します。 私たちは、立憲野党がこの「政策要望書」を共有し、参議院選挙を共同して闘うよう決意したことを大いに歓迎するともに、この政策に基づき自公政権の下で破壊された憲法秩序と人権保障を回復する政治を実現し明文改憲を阻止することを強く期待します。 4 参議院選挙で勝利し改憲を阻止し、平和を創造する政治への転換を 7月10日の参議院選挙を終えると、その後 3年間は国政選挙はなされないと言われています。改憲勢力は、これまで選挙直前には「改憲」の主張を一時的に隠しますが、選挙直後には再び改憲を声高に叫んできました。仮に改憲勢力へ改憲に必要な 3分の 2の議席を与えてしまうと、この 3年のうちに改憲発議がなされる危険も決して杞憂とは言えません。 その意味で、この参議院選挙は、軍事優先の国家づくりにストップをかけることができるか否か、東アジアの平和構築を図ることができるか否かの重大な選挙であると言えます。いうまでもなく、平和なくして命や人間の尊厳は守れません。きたる参議院選挙では、改憲勢力である自民、公明、維新にNO ! の審判を下すよう呼びかけます。そして、参議院選挙が、命を守り平和を創造する政治への転換となるよう、私たち法律家もみなさまとともに行動することを宣言します。 <社会保障と国民生活> *3-1:https://www.nhk.or.jp/senkyo/database/sangiin/pledge/policy/02/ (NHK 2022年6月16日) 各党の公約「社会保障」 ●自由民主党 全ての世代が安心できる持続可能な年金・医療・介護などの全世代型社会保障の構築に向け、計画的に取組みを進める。出産育児一時金の引上げなど、出産育児支援を推し進め、仕事と子育てを両立できる環境をさらに整備する。健康長寿、年齢にかかわらない就業や多様な社会参加などによって長生きが幸せと実感できる「幸齢社会」を実現する。 ●立憲民主党 年金の切り下げに対抗し、当面、低所得の年金生活者向けの年金生活者支援給付金を手厚くする。政府がコロナ禍で行う後期高齢者の医療費窓口負担割合の1割から2割への引き上げを撤回する。公立・公的病院の統廃合や病床削減につながる「地域医療構想」を抜本的に見直す。 ●公明党 社会保障を支える人を増やし、全世代型社会保障の構築を進める。公的価格の引き上げなどにより、医療・介護・障がい福祉等の人材確保策を強化する。高齢者の所得保障の充実に向けて、高齢者が働きやすい環境整備とともに基礎年金の再配分機能の強化に向けた検討を進める。 ●日本維新の会 現在の年金に代わって、すべての国民に無条件で一定額を支給する「ベーシックインカム」などを導入し、持続可能なセーフティーネットを構築する。医療費の自己負担割合は、年齢ではなく、所得に応じて負担割合に差を設ける仕組みに変更する。 ●国民民主党 給付と所得税の還付を組み合わせた新制度「給付付き税額控除」を導入し、尊厳ある生活を支える基礎的所得を保障する。マイナンバーと銀行口座を紐付けて必要な手当や給付金が申請不要で自動的に振り込まれる「プッシュ型支援」を実現する。これらの組み合わせで「日本型ベーシックインカム」を創設する。 ●日本共産党 物価高騰下での公的年金の支給額の引き下げを中止する。年金削減の仕組みを廃止して、物価に応じて増える年金にする。〝頼れる年金〟への抜本的な改革として、基礎年金満額の国庫負担分にあたる月3.3万円をすべての年金受給者に支給し、低年金の底上げを行う。75歳以上の医療費2倍化を中止・撤回させる。 ●れいわ新選組 社会保険料の国負担を増やして、国民の負担を軽減する。年金支給は減らさない。保険料の応能負担も含めた制度の改革を提案していく。介護・保育従事者の月給について、全産業平均との差を埋めるため、月給10万円アップが必要。 ●社会民主党 75歳以上の医療費窓口負担の引き上げを中止し、後期高齢者医療制度を抜本的に見直す。非正規労働の拡大に歯止めをかけ、正規労働への転換を進め、雇用の安定を実現する。労働者派遣法を抜本改正し、派遣労働は一時的・臨時的な業務に厳しく制限する。 ●NHK党 持続可能な社会保障制度のためには、社会保障費の削減を目指すべきであると考える。高齢者の医療費の自己負担を3 割に引き上げることをタブー視しない。年金の支給開始年齢の引き上げの検討をすべき。 *3-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220624&ng=DGKKZO62009960U2A620C2MM0000 (日経新聞 2022.6.24)消費者物価2.1%上昇 2カ月連続2%超 総務省が24日発表した5月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が101.6となり、前年同月比2.1%上昇した。上昇率は2カ月連続で2%を超えた。資源高により電気代やガソリン価格などエネルギー関連が大きく上昇し、原材料高で食料品の上昇も目立った。家庭用の耐久消費財にも上昇が波及した。4月は携帯電話の料金値下げの影響が薄まったことで、7年1カ月ぶりに2%を超えて2.1%の上昇となっていた。5月の生鮮食品も含む総合指数は2.5%上がった。生鮮食品とエネルギーをともに除いた総合指数は0.8%の上昇となった。それぞれ上昇率は4月と変わらなかった。品目別に見ると、エネルギー関連が17.1%上昇した。4月(19.1%上昇)に続いて高水準の伸びとなった。ガソリン補助金拡大の影響で上昇率は鈍化した。エネルギーだけで総合指数は1.26ポイント高まった。電気代は18.6%、ガソリンは13.1%上がった。生鮮食品以外の食料は2.7%上がり、上げ幅は4月(2.6%)をやや上回った。上げ幅は7年2カ月ぶりの大きさ。原材料価格の高騰で、食パン(9.4%)やハンバーガー(7.6%)が上がった。調理カレー(11.4%)、ポテトチップス(9.0%)などの上昇も目立った。食用油は36.2%の大幅な上昇になった。生鮮食品は12.3%上がり、4月(12.2%)から伸びがやや加速した。たまねぎは2.3倍となり、キャベツ(40.6%)なども大きく上昇した。生鮮魚介(12.2%)も上昇が続いており、まぐろは16.6%上がった。家庭用耐久財にも上昇が波及してきた。5月の上昇率は7.4%で前月(5.0%)より伸びが大きくなった。中国の都市封鎖で物流が滞ったことや半導体不足により、ルームエアコン(11.0%)が上昇した。電気冷蔵庫(15.8%)やソファ(8.8%)も上がった。天然ゴム価格上昇の影響で、自動車タイヤ(3.2%)も上がった。インフレは、年内は続く公算が大きい。日本経済研究センターがまとめた民間エコノミスト37人の経済見通し「ESPフォーキャスト調査」によると、物価上昇率は4~6月期が前年同期比2.08%、7~9月期が2.11%、10~12月期が2.17%となっている。電気代や食品価格は、燃料高や小麦の国際価格上昇が時間をかけて反映される。他の主要先進国に比べると物価上昇はまだ鈍い。米国は5月に8.6%と3カ月連続で8%を超えた。ユーロ圏は8.1%、英国は9.1%と高水準だった。政府は電気などエネルギーや食料品の価格上昇を抑える政策を実施する。事業者が節電した場合には電力会社が実質的に電気代を下げる制度を導入する。食料価格抑制のため、飼料や肥料の価格高騰対策もとる。 *3-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220624&ng=DGKKZO62004470U2A620C2EA2000 (日経新聞 2022.6.24) 〈指標で読む参院選争点〉物価高「2.5%」高齢層ほど痛み、食費・光熱費割合大きく 国民生活を揺さぶる物価高が参院選で論戦の争点になっている。4月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比2.5%上がり、消費増税の影響があった時期を除くと1991年12月以来30年ぶりの伸びになった。インフレへの警戒感は高齢層で際立ち、参院選では各党が対策を競う。CPIは変動の大きい生鮮食品を除く総合指数でも前年同月比2.1%上昇し、消費増税の影響があった2015年3月(2.2%)以来、7年1カ月ぶりに2%を超えた。日本経済研究センターがまとめた民間予測の平均では、22年中は2%台で推移する。各党とも物価高対策を訴えるのは、多くの人が選挙に足を運ぶ高齢層でインフレの「痛み」が強まっているからだ。総務省がまとめた前回19年参院選の投票率は48.80%。年代別では60歳代が63.58%、70歳代以上が56.31%と平均を上回る。30歳代の38.78%、40歳代の45.99%と対照的だ。高齢層はインフレに強い警戒感を抱く。内閣府がまとめる消費動向調査によると、5月の消費者態度指数(原数値)は1年前に比べて1.1ポイント下がった。年齢別では30歳代や40歳代が1ポイント超改善したのに対し、60歳代は2.2ポイント、70歳代以上は2.8ポイント下がった。高齢層は収入が限られるうえに、支出に占める食費や光熱費の割合が大きい。そのため、高齢者ほど近い将来にさらに物価高が進むと感じている。同調査によると60歳代の61%、70歳代以上の57%が「1年後も5%以上の物価上昇」と回答する。30歳代(40%)や40歳代(49%)を上回る。各党の公約をみると、具体的な対策で違いがある。自民党は激変緩和措置として、ガソリンなどの燃油価格を補助金で抑えると訴える。公明党は新たな政労使合意で賃上げを目指すとした。野党はほぼそろって消費税の軽減を打ち出した。立憲民主党は時限的に税率を5%に下げるとするほか、日本維新の会も食品などに適用されている8%の軽減税率を3%に下げると主張する。国民民主党は消費減税とともに、ガソリン税の一部を減税する「トリガー条項」の凍結解除による負担減を訴える。共産党は減税とともに、後期高齢者の医療費負担増の中止を主張する。れいわ新選組、社民党、NHK党も税率引き下げや廃止を公約に盛る。物価高は欧米でも政治情勢に影響している。5月の消費者物価は米国が8.6%の上昇で、約40年ぶりの高さとなった。上昇率はユーロ圏が8.1%、英国も9.1%と日本を大きく上回る。暮らしの負担感は政治への不満につながりやすい。19日投開票されたフランス国民議会決選投票では、マクロン大統領が率いる与党連合が議席を大きく減らし、過半数を下回った。インフレ対策を掲げる野党に票が集まった。米国も11月の中間選挙に向けて、インフレ対策が最大の争点だ。このため各国政府も悪影響の緩和に躍起だ。フランスはガソリン1リットル当たり15ユーロセントを割り引き、ドイツもガソリン販売価格を抑える措置を打ち出す。バイデン米大統領もガソリンへの一時的な課税停止を議会に要請した。経済協力開発機構(OECD)によると、独、仏、イタリアでの資源高対策にかかる政策コストは国内総生産(GDP)比で1%に達する見込みだ。OECDは「対象を絞らない支援策は財政コストが高く、省エネルギーの推進や脱炭素への投資を損なう恐れがある。数カ月以上継続すべきではない」と強調する。英国は低所得の800万世帯に照準を絞り1200ポンド(約20万円)の支援策を公表し、効率の高い施策にしようとしている。 *3-2-3: https://mainichi.jp/articles/20220623/k00/00m/010/251000c (毎日新聞 2022/6/23) 「改憲」影潜め…参院選のメイン争点に「物価高」 有権者の関心高く 22日に公示された参院選の一番の争点に、「物価高」が浮上してきた。公示前日の与野党9党の党首討論会でも、ほとんどの党首が「最も訴えたいこと」として触れた。一方、改憲に前向きな4党で3分の2の議席を得れば改正の発議が可能になることから「憲法改正」も主要なテーマと言われてきたが、街頭演説で触れられる機会は少ない。主婦ら有権者からも「物価高への対応を投票先選びの参考にしたい」と声が上がるなど、今の生活に密着する課題への関心は高まっている。専門家は「政治は物価高を克服する対策を具体的に示し、有権者もその内容を比較して」と語る。「物価高やインフレ、政権が何も手を打たないから物の値段が上がってみんなが大変な思いをしている。『(ウクライナの)戦争のせいだから我慢をしてください』って。人ごとですよ」(東京選挙区の野党候補者)。「何もしなければ(ガソリン1リットル当たり)210円くらいまで上がっているものを(政府の対策で)170円になんとか抑え、小麦の価格にしても(上昇を)2割3割でなんとか抑えている」(自民党の首相経験者)。公示日の22日に東京都内であった各党の街頭演説。与野党問わず、多くの候補者や応援で訪れた党幹部が物価高や上がらない賃金を俎上(そじょう)に載せ、有権者に訴え掛けた。物価高は深刻だ。商品やサービスの価格がどのくらい変動したかを示す4月の全国消費者物価指数(2020年=100、天候不良などで変動の大きい生鮮食品を除く)は、去年の同じ月に比べ2・1%上昇し、101・4だった。上昇率が前年を上回るのは8カ月連続で、消費増税の影響を除けば08年9月の2・3%以来、約13年半ぶりの高い水準だ。品目別では、食料(生鮮食品を除く)2・6%▽電気代21%▽ガス代17・5%――など、軒並み前年の同じ月よりも高くなった。東京・上野のアメ横商店街の食料品店主は「3月ごろから物価高を実感し始めた。最初は輸入品で、4月以降は国産品にも広がった」と振り返る。帝国データバンクが6月、約1700社を対象にインターネットで調査したところ、4月以降に値上げを「実施済み」「今後する予定」と回答した企業は約7割に上った。飲食料品企業では、その割合が9割に達した。有権者の関心も高い。夫と年金生活を送る東京都杉並区の女性(70)は「野菜も肉もほとんど全てが値上がり。日銀の偉い人が『家計が値上げを許容している』と言っていたが、許容なんてしていない。すでに食費は切り詰めていて、買い控えもできない。どうにかしてほしい」と訴える。大阪府吹田市の男性会社員(42)は「生きていくのに必要な食材費や光熱費は上がっているのに、給料は上がらない」と嘆き、「資本家のためではなく、まじめに働く人が苦しまない資本主義を実現してくれる政治家に1票を投じたい」と、物価高への対応を投票先選びの材料とするつもりだ。こうした関心に、各党も敏感に反応している。公示前日の21日、与野党9党首の討論会。冒頭に「一番訴えたいこと」を聞かれ、9党首中7党首が物価という単語を使って「物価高騰から暮らしを守る」などと訴えた。憲法改正は、1党が「9条を変えさせない」と述べるにとどまった。その後、各党首がそれぞれ1人を指名してテーマを決めて討論する場面でも、1巡目では6党首が物価を選び、憲法改正で議論した党首はいなかった。フランスでは、19日にあった国民議会(下院)総選挙の決選投票で与党連合が過半数を大きく割り込んだ。その背景には物価高騰への有権者の不満があったとされる。日本でも物価高がメインの争点に浮上した背景について、政治ジャーナリストの角谷浩一さんは「国民の目の前にある分かりやすい不安だからだろう。物価を下げるという話に反対する有権者はほとんどおらず、各党がテーマに掲げやすい」と分析。改憲は「有権者それぞれで考えが分かれ、党の主張が全ての有権者に届くわけではない」と違いを指摘した。そのうえで「大切なのは、物価高でも困らない程度までサラリーマンの給料を引き上げたり、セーフティーネットを充実させたりするなどの具体的な政策に踏み込んで議論を深められるか。参院選は3週間近くあるので、各党が物価高の先に描くビジョンを明確に示してほしい」と注文した。 *3-3-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15348104.html (朝日新聞社説 2022年7月8日) 参院選 社会保障改革 「負担」の合意形成急げ 人口減少と高齢化が進む日本で、年々膨らむ社会保障の費用をどう賄い、制度を維持するか。選挙の時こそ、国民の負担のあり方について語るべきなのに、各政党の公約に具体的な言及はほとんどない。大事なテーマを素通りする姿勢が、いつまで続くのだろうか。参院選では各党とも、子どもや子育て支援のための施策の充実を公約の柱に掲げる。「手厚い少子化対策・子育て支援を実現」(自民党)、「チルドレン・ファースト」(立憲民主党)――。少子化に歯止めがかからないなかで、重要な施策であることは間違いない。ただ、そうした政策が効果を上げても、2040年代まで現役世代は減り続ける。一方、25年には「団塊の世代」が全て75歳以上になり、高齢化は加速する。現在、約130兆円の社会保障給付費は40年度に190兆円に達するとも推計される。給付の抑制や利用者の負担増で支出を抑えるのか。それとも、税金や社会保険料の負担を引き上げて収入を増やすのか。与野党ともに言及するのが、余力のある高齢者に応分の負担を求めることと、元気なうちは働ける環境を整えて制度の担い手になってもらうことだ。大事な取り組みだが、それで生み出せる財源には限りがある。高齢者の負担を増やし過ぎれば、必要な医療や介護サービスを受けられなくなったり、家族介護や仕送りなどの形で現役世代の負担になったりする可能性もある。実際、10月から、75歳以上でも一定以上の所得がある人の医療費窓口負担の割合を2割に増やすにあたって、限られた年金での生活に配慮し対象者を絞り込まざるをえなかった。高齢者に負担を求めれば解決するかのような言説は楽観的すぎる。振り返れば、この間、政府・与党は経済成長をあてにして、本格的な給付と負担の議論を避けてきた。しかし、社会保障給付費の伸びと税収の開きは大きくなるばかりだ。これ以上の先送りは許されない。にもかかわらず、与党は具体策を示していない。政権党として無責任としかいいようがない。野党の多くは富裕層への課税強化などを訴えるが、一方で消費税の減税や廃止を主張する。それで増え続ける社会保障費を賄えるのだろうか。給付と負担のバランスをどこでとるか。答えは一つではない。手厚い保障と高負担の国もあれば、自助を中心に据えた国もある。問題は、日本がそのどちらともつかない状況にあることだ。めざす方向と選択肢を示して、合意形成をはかる。それが政治の役割だ。 *3-3-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/880949 (佐賀新聞 2022/7/6) 参院選―社会保障 未来に責任感はあるか 参院選の論戦は終盤に入ったが、社会保障の議論が一向に深まらない。日本が抱える多くの困難は、人口減少・少子高齢化が原因だ。土台の揺らぐ社会保障制度の安定化は焦眉の急と誰もが感じる。にもかかわらず、子ども・子育て支援を含め、財源の手当て抜きに給付拡大ばかりを与野党が競い合い、重要な論点まで行き着いていない。人の一生につきまとう「生老病死」の苦悩を和らげる安全網として不可欠な社会保障は、給付と負担のバランスで成り立つ。給付を増やせば必ず全体として負担が増す。そして負担は分かち合いだ。高齢者も含む今の大人が痛みを避ければ、そのツケが確実に回り、子や孫が給付削減や負担増で苦しむことになる。有権者の耳に優しい「ばらまき」で目の前の選挙を有利に戦えたとしても問題解決は遠のくばかりだ。この国の未来に最も責任感があるのはどの政党、候補者か。残りの論戦で目を凝らしたい。2040年には高齢者人口がほぼピークの約3900万人に増え、年金、医療、介護の社会保障費がかさむ。一方、働いて保険料を払う現役世代は今の約7500万人から1500万人も減る。これに備えるのが政府の「全世代型社会保障」だ。眼目は二つ。高齢者に偏る社会保障からの恩恵を若者・子育て世代にも回し、少子化を止める。元気な高齢者や女性にもなるべく働いてもらい、社会保障の支え手を増やす―。現実的な対策の方向として妥当だろう。これに対し、各党はどんな公約を掲げたか。自民党は、出産育児一時金引き上げ、児童手当拡充などを表明した。立憲民主党は、4月から公的年金が0・4%引き下げられた年金生活者への支援金給付などを主張。野党各党と与党の公明党は教育無償化で声をそろえる。日本維新の会と国民民主党は最低所得を保障する「ベーシックインカム」導入も唱えた。これらの実現には多額の予算が必要だ。現状でも40年の社会保障給付費は18年度比1・6倍の190兆円に達する予想だが、財源はどうするのか。消費税は社会保障や少子化対策に使うと法律で決まっているが、立民など野党はその減税や廃止を主張。与党は減税こそ否定はするが、岸田文雄首相は「10年程度は上げることは考えない」と言う。消費税に依拠して40年問題へ対処することをためらう点では、与野党に実は大差はない。選挙中に増税派と受け止められたくないからだろう。所得税なども含め税収が不足なら、必要な政策は国債発行による借金に頼るほかない。しかし新型コロナウイルス禍で20年度の新規国債発行は空前の100兆円超となり、21年度の国の長期債務は1千兆円を超えた。子ども政策充実を巡り野党側は「未来への投資は国債を発行してもいい」と言うが、どうだろうか。子どものための借金と言っても、将来返済するのは当の子どもたちだろう。これでは、社会人になっても多額の奨学金返済で困窮する元苦学生と同様にならないか。50年の日本は現役世代1・2人で高齢者1人を支える「肩車型社会」だ。今の若者たちは自分の年金が目減りする上、お年寄りの医療や介護を支え、さらに親世代の借金返済も担う未来が待つ。若者こそ自らと、まだ選挙権もない弟妹たちのため投票所へ行ってほしい。 *3-3-3:https://news.yahoo.co.jp/articles/de21721f6097b93e91d659e258084a62ee75dccc (Yahoo 2022/7/6) 女性の働き方が「極めて特殊」と指摘される日本…課題だった「M」は消え、浮かび上がる「L」が意味する深刻な格差とは? 共働き世帯と専業主婦世帯の数が逆転したのは1990年代のことです。社会に出て働く女性が増えてきました。ただし、就業の「中身」についてはもっと検討が必要だという声を労働関係の専門家から聞くことがあります。どういうことでしょうか。女性の働き方についてよく聞く言葉に「M字カーブ」があります。出産や育児を機に一度仕事をやめて、再び働き始める――。そんな女性の働き方を表す用語として広く知られています。20代に上昇した労働力率が出産・育児期にあたる30代に落ち込み、再び上がる様子が「M」の字に似ていることから、M字カーブと呼ばれてきました。長年、女性の継続就業を阻む壁の解消が課題とされてきましたが、働く女性の増加などでM字の谷が浅くなってきました。近年、M字カーブは徐々に解消されつつあります(図表参照)。 ●新たに登場した「L字カーブ」とは? 代わって最近、登場したのが「L字カーブ」という言葉です。2020年に、政府の文書(政府の有識者懇談会「選択する未来2.0」中間報告)に初めて登場しました。女性の正規雇用率が20代後半に5割を超えてピークに達した後、一貫して下がり続ける様子を指した言葉です(図表参照)。内閣府の担当者は「保育の受け皿の拡大などで『M字』は解消されつつあるが、出産後、非正規雇用の選択肢しか事実上残されていないのは問題だ」とした上で、「こうした状況をわかりやすく伝えたいと、担当大臣と相談して『L字』と名付けた」といいます。ちなみに、この時の担当大臣は西村康稔経済再生担当大臣です。このL字、正直、M字のようにわかりやすくありません。年齢別の正規雇用率を線で結ぶと、への字形のカーブが表れます。への字の頂点にくるのが20代後半で、以降、正規雇用率は年齢とともに下降します。この「へ」の字形のカーブを左に90度回転させた形が「L」の字に似ていることから「L字カーブ」と名付けたようです。しかし、個人的には「への字カーブ」と言った方がピンときます。女性の経済的自立や社会での活躍、人口減社会における労働力確保の点などから、女性の就業率が各年齢層で上がり、M字カーブが解消の方向にあるのを歓迎する声は強いのですが、「M字が解消されたからといって問題解決というわけではない」という声を聞きます。就業率が上昇したといっても、その中身は「非正規雇用」が中心で、低賃金で不安定な働き方となりやすいからです。 *3-4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220624&ng=DGKKZO62003870U2A620C2MM8000 (日経新聞 2022.6.24) 医療再建(下) 迫られる負担の「脱・年齢」 給付のメリハリ欠かせず 日本の医療が少子高齢化を乗り越えるには負担と給付の発想を転換する必要がある。だが改革の動きはあまりに鈍い。「マイナンバーを活用すること等により、金融資産等の保有状況を考慮に入れた負担を求める仕組みを検討する」。政府が経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に記した文言だ。といっても今年の骨太方針ではない。安倍晋三政権が2015年に閣議決定したものだ。「団塊の世代」の全員が75歳以上になる25年以降は医療費の膨張が加速する。現役世代の負荷を緩和するため、資産のある高齢者にはもっと負担してもらう。こんな問題意識があった。ところが25年が迫ってきても実現する気配はない。厚生労働省の社会保障審議会が16年末に「金融資産を正確に把握する仕組みがない現状では尚早」と課題を指摘しただけ。政府がその後、マイナンバーを活用した資産把握の実装を急いでいるようにもみえない。閣議で「検討する」と決まった改革が実際には「検討しただけ」で尻すぼみになる。霞が関文学の典型だ。高齢者の医療費の窓口負担は70~74歳は2割、75歳以上は1割が原則だが、今後は現役世代と同様に3割負担を原則とすることも課題だ。そのうえで年齢に関係なく、所得や資産の状況から支援が要る人だけ負担割合を1~2割に下げる。こんな負担の全世代型改革を進める必要がある。会社員らの健康保険組合は加入者の賃金水準が新型コロナウイルス前に戻らない中で、高齢者医療を支えるために毎年3兆円超を拠出している。22年度は全体の7割にあたる963組合が赤字予算を組んでいる。現役世代の苦境は今後さらに深刻になる。政府の推計では40年の医療給付費は68.5兆円と20年度の約1.7倍に増える一方、20~64歳の現役人口は2割近くも減ってしまうためだ。荷を軽くするには給付の取捨選択も避けられない。今は有効性と安全性が確認された治療法や医薬品はすべて公的保険でカバーしている。今後は医療上の有用性などの視点で保険適用の可否を判断すべきだ。例えばフランスでは医薬品について有効性や安全性だけでなく、疾病の重篤度、治療の特性、公衆衛生への影響など医療上の有用性の観点で評価している。一般患者なら一律で70%給付の日本と異なり、給付率は5段階ある。抗がん剤など他で代替できない薬は100%給付だが、重要度が下がるにつれて65%、30%、15%、0%と給付率が下がる。有用性が低い薬ほど患者負担が重くなる。治療法の評価も見直しが要る。例えば、同じ病気の治療で内視鏡手術の患者が開腹手術の患者よりも早期に退院できるなら、それは病気の治療だけでなく「日常生活により早く戻る」という便益も提供されていることになる。特別な治療法を選択した患者には、追加的な自己負担を求める考え方も検討すべきだ。こうした改革を進める前提として、保険診療と保険外診療を併用する「混合診療」を禁止するルールは見直し、柔軟に併用できるようにしたほうがよい。国民皆保険を守るためにも聖域を廃した改革が必要だ。 *3-4-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15354299.html?iref=comtop_Opinion_04 (朝日新聞社説 2022年7月13日) マイナンバー 地方交付税ゆがめるな ものごとが進まないときに必要なのは、真の原因に向き合うことだ。政府がそれを怠り、筋違いの促進策に熱を上げる。あきれざるをえない光景だ。政府が、自治体ごとのマイナンバーカードの交付率を、地方交付税の額に反映させる方針を打ち出した。住民がカードを取得した率が高い自治体には、交付税の配分を増やす。先月閣議決定した「デジタル田園都市国家構想」の基本方針に盛り込まれた。この方針には「交付率を普通交付税における地域のデジタル化に係る財政需要の算定に反映することについて検討」と書かれている。カードを使ったデジタル施策の費用に充てるために配分を増やすという理屈のようだが、到底納得できない。そもそも政府はマイナンバー制度の目的の一つに、「様々な情報の照合、転記、入力などに要している時間や労力が大幅に削減される」ことをあげてきたはずだ。カード普及でコストが増えるのであれば、「行政の効率化」との説明はウソだったことになる。システムや関連機器などの初期投資が一時的にかさむことは考えられる。その経費の支援ならば補助金を出すべきで、交付税に差をつけるのは筋違いだ。交付税は、すべての自治体が一定の行政サービスを行う財源を保障するために、国が自治体の代わりに徴収し、財源の不均衡を調整するものだ。この「地方固有の財源」を、国策の推進に用いるのは、明らかに交付税の精神に反する。なぜここまで理の通らないことをしようとするのか。政府は今年度末までにほぼ全国民にマイナンバーカードを交付する目標を掲げる。だが、6月末の交付率は約45%に過ぎない。総務省は5月分から、全市区町村の交付率を高い順に並べた表を公表し始めた。今回の方針について、政府は表向き「政策誘導ではない」(金子総務相)という。だが、交付税をてこに、自治体に圧力をかける目的があるとみられても仕方がないだろう。マイナンバーカードの普及を図るため、政府は多額のポイントを配布している。健康保険証を将来的に原則廃止し、このカードに一元化するという。行政のデジタル化の基盤としてカードを広めたいとの意図は分かる。ただ、取得が進まないのは、国民がカードの利点を実感できず、個人情報が漏れたり悪用されたりするのではという不安も払拭(ふっしょく)されていないからではないか。根本的な問題の解決こそが求められていることを、政府は心すべきである。 <私も変だと思った安倍元首相の警護> PS(2022年7月20日追加): 安倍元首相が、*4-1のように、 2022年7月8日、奈良市で参院選の街頭応援演説中に銃撃された事件に私は衝撃を受けたが、その警備の問題点について、テロ対策・要人警護・施設警備の専門家が、*4-3のように、①警察の警護体制の甘さが各方面から厳しく指摘され ②安倍氏が演説していた場所は、ガードレールに囲まれた場所で逃げ場がなく、このような場所に安倍元総理を立たせたのが誰か、警察は調べるべき ③SPが1人として安倍氏のすぐ後ろに「ボディーガード」として立たず、腕の届く位置にもいなかった ④安倍氏の周囲にはSPが7人ほど配置されていたが、誰一人背後まで警戒をしている様子はなく、背後から銃を持った犯人に対象者から約3mの距離まで入り込まれたのは、VIPを警護するプロの世界では考えられないレベルの失策 ⑤警護要員はみな内向きに配置され、安倍氏と同じ方向を見て背後に注意を払っていない ⑥安倍氏は背後から至近距離で発砲され、犯人は初弾を外して2発目を発射するまでに2.5秒ほどの間隔があったが、SPがまともに反応し始めたのは2発目が発射された後 ⑦プロの警護要員なら次弾発射まで1~2秒も時間があればいろいろなことができた筈 ⑧警護対象者を護らず、何人もの警官が犯人に飛びかかったのは疑問 ⑨今回の失敗は、日本警察の警護能力の低さの証明と世界中の警察や軍で「絶対にやってはならない失敗の手本」になる と書いておられた。 私も安倍元首相殺害現場の映像を見た時から、どこか不自然なものを感じていたが、それはまず、③のように背後が空いていた上、④⑤のように、SPらしき人が申し合わせたように皆同じ方向を見て誰も背後を見ていなかったからである。さらに、⑥のように、犯人が初弾を外した音がした時も、背後を振り向いたのは安倍元首相だけだった。②については、私は「背後に街宣車を置くか、建物内で応援演説すればよかったのに」と思っていたが、プロの警護要員から見れば、このような場所に安倍元総理を立たせること自体が高リスクだったようだ。また、①⑦⑧⑨についても、全くそのとおりだ。 そのため、*4-2のように、警察庁がこの事件が起こった背景についての「検証・見直しチーム」を発足させたそうだが、警察庁もまた責任を問われるべき立場にあるため、独立した第三者の手で問題点を洗い出して責任の所在を明確にすべきだろう。これは要人の殺害事件であり、⑧のように、事件勃発後に何人もの警官が犯人に飛びかかって、一生懸命に警備していたふりをしても意味がないのだから。 そのような中、*4-4のように、安倍元首相銃撃事件の奈良市消防局による無線記録の全容が判明したところ、11月8日午前11時32分に出動命令が出て、⑨(銃撃から約3分後の8日午前11時35分)「高齢男性、拳銃で撃たれ、心肺停止状態」 と言っているが、通報した人は安倍元総理と言わずに高齢男性と言ったのか、これが第一の疑問である。また、⑩(銃撃から約8分後の同40分)隊員が安倍元首相の心肺蘇生を試み、「ドクターヘリ出動させます」 ⑪(銃撃から約11分後の同43分)現場から「救急車内に収容しました」 ⑫(銃撃から約21分後の午前11時53分頃)ドクターヘリが合流地点に到着し、救急車も銃撃から約25分後の同57分に着いて、受け渡しが完了した後に搬送先が決まり、「ヘリにあっては橿原の医大、橿原の医大となりました」(銃撃から約40分後の午後0時12分) としているのは、銃撃直後に被害者の名前と場所を明確にして直ちに現場にドクターヘリ(そのために作ったのだから)を呼び、同時に搬送先病院を決めて迅速に運ぶこともなく、⑬(銃撃から約43分後の午後0時15分)にやっとドクターヘリが離陸して奈良県立医大病院(奈良県橿原市)に搬送した というのだから、要人救命の意思がなかったように見えるし、これなら亡くなるのが当たり前だと思われた。 そして、*4-5のように、山上容疑者(41)が事件直前に出した手紙には、安倍氏襲撃を決意したかのような文章が記されていたそうだが、母親が寄付した団体への不満を晴らすには安倍元首相の殺害は的外れすぎるし、安倍氏を護る体制は申し合わせたように抜け穴だらけだったため、山上容疑者はケネディ米元大統領狙撃事件のオズワルドのような利用のされ方をしたのではないかと、私には思われた。 2022.7.14日経新聞 2022.7.20時事 2022.7.20時事 (図の説明:左図は、安倍元首相銃撃事件後の消防のやり取り、中央の図は、事件現場の様子、右図は、安倍元首相の警備の問題点だ) *4-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/885000 (佐賀新聞論説 2022/7/14) 安倍元首相警護 失態の原因、徹底究明を 安倍晋三元首相が奈良市で参院選の街頭演説中に銃撃され死亡した事件で、逮捕された無職の山上徹也容疑者は演説が始まって間もなく歩道から車道に出て、安倍氏の背後に近づいた。警視庁のSP(警護官)や奈良県警の警察官が配置されていたが、交流サイト(SNS)の動画などを見ると、誰も声をかけたり、制止したりしていない。山上容疑者はショルダーバッグから手製の銃を取り出して発砲。さらに距離を詰め、安倍氏が振り向きかけた時、再び発砲した。最初の発砲音で警護要員が動き出し、安倍氏を守ろうとして防弾仕様のケースを掲げたが、間に合わなかった。2発目の銃撃が致命傷を与えたとみられている。制服警察官を目立つように配置する「見せる警備」もなく、今なお国政に影響力を持つ首相経験者の警護としては後方ががら空き状態になるなど、いくつも「穴」が指摘されている。警察庁は「検証・見直しチーム」を設置し、警視庁や奈良県警から当時の状況を詳細に聞き取り、8月に検証結果と要人警護の見直し案をまとめるとした。選挙は民主主義の基盤であり、政治家が有権者と触れ合い、交流する重要な機会だ。事件は、その安全をいかに守るかという重い課題を社会に突き付けた。山上容疑者の動機や背景など全容解明を急ぐ一方で、失態の原因を徹底究明し、国民に説明する必要がある。山上容疑者は、母親が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に入信し、多額の寄付をして家庭が崩壊したことに恨みを募らせ、旧統一教会と安倍氏がつながっていると思ったから狙ったなどと供述。「昨年春ごろから手製の銃を作り始めた」「当初は教祖を殺そうとした」とも話している。先祖供養などを名目に高額の美術品や宝石を売りつける「霊感商法」が社会問題化したこともある旧統一教会は記者会見し、母親は信者で家庭が経済的に破綻したことも把握していると説明した。ただ今のところ、安倍氏と教会側のつながりははっきりしていない。容疑者は自宅で手製銃の試作を繰り返して殺傷力を高めるなど、強い殺意と計画性がうかがわれるが、今回の警護で最大のミスは、警護要員の誰一人として、安倍氏に近づく容疑者に気付かなかったことだ。さらに1発目から2発目の発砲までに3秒ほどあったが、この間に安倍氏に覆いかぶさったり、伏せさせたりすることもなかった。警察庁の検証・見直しでは、こうした現場の対処がポイントになるだろう。また首相経験者の警護計画は特段の事情がない限り、都道府県警から警察庁に報告しない。今回も奈良県警から報告はなかったが、事前に警察庁の担当部署がチェックすることも検討する。要人警護の中でも、選挙時のそれは特に難しいといわれる。街頭演説の場所に不審者がいないか、不審物がないかなどをあらかじめ警察が確認するが、演説は次々に場所を移して行われるため、全ての地点で十分下見をしている余裕はない。加えて、警察は警護対象者を見ず知らずの人から引き離したいが、できるだけ多くの人と接したい対象者はそれを嫌うとされる。だが今回のような取り返しのつかない事件を二度と起こしてはならず、守る側と守られる側が意見を交わす場を設けることも考えたい。 *4-2:https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2022071400018 (信濃毎日新聞社説 2022/7/14) 安倍氏の警備 第三者による検証が要る 選挙で街頭演説をする政治家に暴力が向けられる事態は、民主主義の根幹を脅かす。命を奪う凶行をなぜ防げなかったのか。徹底した検証が必要だ。安倍晋三元首相が銃撃されて死亡した事件で、警察庁が警備の問題点を調査する「検証・見直しチーム」を発足させた。現場の警備態勢のほか、警察庁の関与のあり方についても検証する。奈良市の現場は四方を車道に囲まれ、遮る物がない場所だった。逮捕された男は、街頭演説に立った安倍氏の背後から車道に歩み出て近づき、およそ7メートルの地点で1発目を、さらに2メートルほど近寄って2発目を撃っている。警視庁の警護官(SP)1人と奈良県警の複数の警察官が警護にあたっていたという。しかし、がら空きに近い背後から男が接近するのを許し、最初の銃撃後ただちに安倍氏の身の安全を確保する行動も取っていない。銃声がしたら瞬時に警護対象者を伏せさせ、覆いかぶさったり、周りを囲んだりして守るのが要人警護の基本とされる。2発目までに3秒ほど間隔があり、対処できて当然だと警視庁警備部の元幹部は指摘している。警察庁次長を筆頭とする検証チームは奈良県警や警視庁から聞き取りをして調査を進めるという。けれども、警察庁もまた重大な失態の責任を問われるべき立場にある。身内の警察組織内部で調べれば済む問題ではない。現場の警備態勢の詳細を警察は明らかにしていない。警備の手の内をさらせない事情はあるとしても、透明性を欠くやり方では公正さを担保できない。独立した第三者の手で問題点を洗い出し、責任の所在を明確にすべきだ。もう一つ、注意深く見ていかなくてはならないことがある。暴力を防ぐことを理由にした警備の強化が、批判の声を上げる人の排除につながらないかだ。2019年の参院選では、首相だった安倍氏の街頭演説にやじを飛ばした人たちが警察に排除された。表現の自由の侵害と断じる判決を札幌地裁が出している。この判決が今回の事件に影響したという見方があるが、的外れだ。言葉による批判と暴力は明確に区別されなければならない。政権当時からの安倍氏への激しい批判が事件を誘発したかのような見方にも同じ危うさがある。政治的な思惑で事件が利用され、言論を封じる公権力の行使が正当化されていかないか。警戒を怠らないようにしたい。 *4-3:https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/70984 (JBpress 2022.7.17)要人警護の歴史に残る大失態、プロが指摘する安倍氏銃撃現場の問題点、あり得ない場所で演説、SPたちの鈍い反応(丸谷 元人:日本戦略研究フォーラム政策提言委員・危機管理コンサルタント) 2022年7月8日、安倍晋三元総理が奈良・西大寺での選挙応援演説中に凶弾を受け、命を落とした。この事件は、多くの日本国民に衝撃を与えたのみならず海外のマスコミにも大きく取り上げられたが、同時にその直後から、警察の警護体制の甘さが各方面から厳しく指摘されている。本稿では、米国の民間軍事会社で対人警護や対テロ戦等の訓練を受け、海外のハイリスク地帯における石油施設の警備や大手企業エグゼクティブらの要人警護オペレーションを実際に担当してきた者として、また、各国の軍・警察出身の警護要員や米シークレットサービス出身者を含むプロたちと現場で共に汗をかいた者として、2022年7月10日の段階までに得られた事件発生時の映像等の情報を元に、今回の襲撃事件を許してしまった警察の警護体制を考察してみたい。 ●逃げ場のない場所とボディーガードの不在 事件の映像を見て最初に驚いたのが、安倍氏が演説していた場所だ。安倍氏は当時、ガードレールに囲まれた中洲のような場所で演説をしていた。これはつまり、警護対象者(以下、対象者)に対する攻撃があった場合、SPたちが対象者の肩を掴んでその場所から脱出させる際の大きな障害となる。また、爆発物を投げ込まれた場合でも、対象者は自分を囲むガードレールという障害物のせいで、容易にその爆発物から逃れることすらできなくなる。このような「逃げ場のない場所」に対象者を絶対に配置してはならないわけだが、安倍元総理をこんな場所に立たせたのが誰なのかは、警察でも調べるべきであろう。次に挙げるべき問題点は、SPらの配置である。特に、SPが一人として安倍氏のすぐ後ろに「ボディーガード」として立っていなかったことは大きな問題だ。通常、ボディーガードは対象者の右か左のすぐ後方に立つものであり、その位置は「手を伸ばせば対象者を掴める距離」でなければならない。なぜなら、襲撃があった際には対象者の体を素早く押さえ込んで倒したり、あるいはその肩を掴みつつ、より安全な方向に向けて脱出させねばならない。場合によっては対象者と犯人の間に自分の身を割り込ませ、身代わりとなって刃物や銃弾を受けなければならないからだ。しかし今回、SPは誰も安倍氏から腕の届く位置に立っていなかった。つまり、担当SPはボディーガードとしての基本的な役割を果たしていなかったのである。もし右か左の背後にSPが立っていれば、犯人は安倍氏を直接狙えなかったであろうし、弾丸の何発かは安倍氏の代わりに、防弾チョッキを着ていた(はずの)SPに当たっていたであろう。 ●SPたちの鈍い反応 もう1つの大きな問題は、安倍氏の周囲にいたSPたちの反応の鈍さである。いくつかの動画からは、背後から至近距離で発砲されたのに、銃声に驚いたSPたちはその方向に振り向いただけで、即座に対象者を守るための行動に移らなかった様子が見てとれる。しかもこの時、犯人はその初弾を外してくれており、2発目を発射するまでに2.5秒ほどの間隔があったが、SPたちがまともに反応し始めたのは安倍氏を死に至らしめた2発目が発射されたのとほぼ同時であった。プロの警護要員であれば、次弾発射まで1~2秒も時間があればいろいろなことができたはずだ。大声を上げて犯人に飛びかかったり、その射線を遮るだけでも犯人の手元を狂わせるだけの心理的効果はあるからだ。しかし彼らは全く動かなかった。この反応の鈍さは、弁護の余地がないくらいにひどいものである。SPたちは安倍氏に対する群衆からの野次に加え、鈍器・刃物程度の攻撃は想定していたであろうが、まさか銃で撃たれるとまでは想像していなかったのかもしれない。しかしこれはまさに「平和ボケ」が取り返しのつかない事態を招くのだという良い例である。グローバル化した今の時代、日本だけが安全だとか、犯人は銃や爆弾を使うまい、などと勝手に想定してはならない。セキュリティの世界においては「脅威は常に自分の想定の数歩先を行っている」と考えるべきなのだ。 ●十分な周辺警戒をしていなかったSP ちなみに当時、安倍氏の周囲にはSPが7人ほど配置されていたというが、誰一人背後まで警戒をしている様子はない。その結果、まさにその背後から銃を持った犯人に対象者から約3メートルの距離まで入り込まれている。奈良県警は、犯人の姿を確認したのは一発目が発射された後だったと言っているが、つまり犯人が約3メートルの距離に接近するまで、警察官らは誰一人その脅威に気づかなかったというわけだが、こんなことは普通、VIPを警護するプロの世界では考えられないレベルの失策である。そもそも、殺傷力のある武器を持った犯人を対象者の位置から10メートル以内に入れた段階で、警護任務はほとんど失敗である。その武器が刃物であっても状況は同じだ。例えば、刃物を隠して群衆に紛れていた犯人が、10メートル先で周辺警戒するSPの隙をつく形で、その背後にいる対象者に向かって走り始めたとしよう。SPは恐らく、犯人が駆け寄る靴の音や群衆から上がる小さな悲鳴などによって最初に異変を察知するであろうが、その段階ですでに1秒ないし2秒は経過しており、その時点で犯人との距離は5~6メートルにまで縮まっている。そこでSPは初めて犯人の姿を確認し、武器の種類を見て素手で対応するか、或いは拳銃を抜くかの判断をしつつ、同時に対象者と犯人の間に体を割り込ませ、スーツをめくって腰のホルスターから拳銃を抜くわけだが、その頃には犯人は既にSPの目と鼻の先まで来ているであろう。そうなるとSPは、向かってくる犯人に対して自ら体当たりでもする必要があるが、それでも10メートルという距離がSPにより多くの時間を与えるため、対象者を守る確率は大きくなるだろう。こうして犯人との距離をとることは、銃犯罪に対抗する上でも極めて有効だ。仮に犯人が拳銃を持っている場合でも、10メートルも離れれば命中精度がかなり落ちることが予測できるし、今回の事件で使われたような銃身の短い散弾銃であれば、発射直後に弾丸がバラけるため、10メートルという距離があればやはりターゲットへの命中はかなり困難になる。事実、今回の犯人は安倍氏から約5メートルの位置で初弾を発射したようだがそれは命中しておらず、そこからさらに数歩進んだ約3メートルの距離で放った2発目で初めて安倍氏に致命傷を与えている。つまり、今回もしSPたちが背後までしっかりと警戒し、この犯人の挙動が怪しいと感知することができていれば、そしてそこでしっかりと犯人に声掛けをして距離を取っていさえすれば、安倍氏は命を落とさずに済んだ可能性は極めて高い。 ●海外の要人警護のプロによる指摘 元英国ロンドン警視庁刑事部長として長年北アイルランドや海外において数多くのテロ事案や誘拐事案を担当し、現在は筆者が経営するリスクコンサルティング会社の顧問を務めるピーター・ガルブレイス氏も、「今回の警護チームによる最大の失敗は、犯人を安倍氏のすぐ背後まで簡単に侵入させたことだ」と指摘する。「映像を見る限り、警護要員はみな内向きに配置され、群衆に向かって語りかける安倍氏と同じ方向を見ており、安倍氏の背後にある潜在的な脅威に対して注意を払っていたようには見えません。今回警護チームには、脅威を早期に特定して無力化するための機会が十分にあったはずですが、残念ながらそれらは見過ごされました。犯人はそんな彼らの隙を突く形で安倍氏に接近し、致命的な攻撃を行うことができたのです」。ガルブレイス氏は、2013年に10人の日本人がイスラム過激派に殺害されたアルジェリア事件の際には現場での対テロ作戦を担当し、また極めて優れた功績を残した警察官にのみ授与される英国女王警察勲章(QPM)に加え、凶悪な国際テロリストの逮捕・引き渡しの功により「スペイン国家憲兵功労十字章」をも授与された人物だ。現在は欧州や中東諸国の軍・警察機関に誘拐人質交渉や犯罪予防、テロ対策の指導をも行うなど、英国でも指折りのセキュリティ専門家であるが、「犯人と安倍氏の間にもっと距離さえあれば、今回の悲劇は起きなかっただろう」と語る。「一般的に、手製の銃器は工場で製造されたものと比べて遠距離での精度が劣ります。しかし、犯人が安倍氏の数メートル背後にまで接近できたこと、そして銃自体が2発発射可能な構造であったため、1発目を外した後にさらに続けて2発目を発射できたことが犯人の成功に繋がったのでしょう」(ガルブレイス氏) ●丸裸になってしまった安倍氏 さらに、当社のパートナー企業である米民間軍事会社「トロジャン・セキュリティ・インターナショナル社」の代表で、英海兵隊特殊部隊「特殊舟艇隊(SBS)」出身のスティーブン・マスタレルズ氏は、安倍氏が倒れた後の犯人の身柄確保についても首を傾げる。「2発目の射撃で安倍氏が被弾した後、何人ものSPが犯人に向かって走り出すのが見えましたが、あれは間違いです。SPの本来の仕事は対象者を守ることです。犯人の押さえ込みは1人か2人で十分であり、その他のSPは全員が安倍氏を取り囲んで、さらなる襲撃の可能性に備えつつ、同時に周囲のより安全な脱出路の確保を行い、また必要に応じて救命救急に対応するために動かねばなりません」。この点は筆者も全く同感で、映像を見た瞬間、なぜ犯人に何人もの警官が飛びかかる必要があるのだろうという疑問を持った。そんなことをすれば、その間に安倍氏はほとんど丸裸になってしまうわけで、実際に安倍氏の警護はこの時かなり手薄になっていたようだ。倒れる安倍氏の周囲は、心配する支持者や自民党関係者らが囲んでいたが、もしその中にもう1人の「バックアップ」としての刺客が紛れ込んでいたら、安倍氏はそこでも確実にやられていたであろう。因みにこのマスタレルズ代表もまた、現在も麻薬カルテルの凄まじい殺し合いが横行する中南米や、テロと紛争が多発するアフリカといった危険地帯でVIP警護を行う現役のプロであり、筆者に最新の要人警護技術や対テロ戦闘、さらに市街戦の訓練を叩き込んでくれた恩師でもある。そんな氏の経営する会社は、グリーンベレーやネイビー・シールズといった米軍特殊部隊や、英豪仏独蘭といった欧州諸国の陸海軍特殊作戦部隊に加え、連邦捜査局(FBI)、麻薬取締局(DEA)のような法執行機関に対して高度な対人警護や対テロ戦の訓練を提供し、さらに実際にイラクやアフガニスタンでも数々のオペレーションを行った実績を有している。マスタレルズ氏は、過去数十年のキャリアの中で、自身のクライアントからは1人の犠牲者も出さなかったことを誇りとしているが、それらの警護任務中にチームの仲間を失った経験もあるようだ。そんな修羅場を抜けてきたプロの指摘は重い。他にも、安倍氏が倒れた後、天理市長が周辺の人たちに向かってAEDを探してくれと叫んでいるシーンがあったが、もしSPがAEDや救命救急装備の準備さえしていなかったとしたら、これはこれで大問題だ。海外の警護チームであれば、対象者が負傷した場合に備えて、こういう救命救急装備の一式は必ず用意しているし、訓練も受けている。さらに、対象者の持病なども把握し、発作等が起きた場合には最寄りの専門医のところに救急搬送を行える体制を整えてから警護を開始するのが普通だ。今回の警護チームが危機にうまく連携できなかったのには、それなりの理由もあるだろう。例えば、安倍元総理の奈良入りは事件前日に急遽決まったそうであるが、これではあまりに準備期間が短すぎる。幹部の中には、人数を配置していれば大丈夫だと考える人もいるかもしれないが、現場はそう簡単にはいかないものだ。いくら毎日警護の訓練や実任務についているようなベテランの警護チームであっても、日によっては当直明けや休暇中のメンバーもいるだろう。その穴を埋めようとするあまり、かつて一緒に仕事をしたことのない同僚や、ベテランSPと新人SPを不適切な割合で混ぜた急ごしらえのチームを作った結果として、普段なら絶対に考えられないような連携ミスが生じてしまう可能性は十分にある。前出のガルブレイス氏も「英国には『自己満足は敵である』という言葉がありますが、いくら警察官を多く配置したところで、そこに適切な警護チームが配置されていなければほとんど無意味です」と指摘する。いずれにせよ、SPたちは全てが後手に回り、とてもではないがプロの警護要員らしからぬ対応しか見せられなかった。 ●某県警SPの技量レベル 一方で、筆者は今回の彼らの対応については、それほど驚かなかったし、寧ろ正直なところ「なるべくしてこうなった」といった感想を持った。なぜなら筆者はかつて、ある地方の県警SPたちと同じ場所で警護の仕事をしたことがあったからだ。数年前のことであるが、筆者が所属していた企業の地方オフィスを大臣クラスが視察するという話が持ち上がった。当時、同社のセキュリティ・マネージャーであった筆者は念のためということで、警備対策要員として受け入れ側チームの一員に加えてもらい、現地入りしたことがあった。大臣の訪問は夕方ということになっていたため、筆者自身は半日前に現場入りし、午前中から数時間かけてオフィスの建物周辺を歩き回り、フェンスの状況や周辺の茂み、近隣住宅の状況を入念にチェックした。また隣接する駐車場も定期的に巡回し、停車車両のナンバーや中にいる人物、助手席や後部座席に置かれている荷物の様子をも徹底的に確認し、さらに自社オフィスがある建物内でも、使われていない部屋や倉庫、階段の裏、裏口などに加えてボイラー室の中まで何度も入念にチェックをし、同時に海外にある監視センターから現場をCCTVで遠隔監視しているチームに対しても、不審な人影があれば直ちに連絡をもらえるように依頼をしていた。さらに、その地方オフィスは南側が全面ガラス張りであったので、万が一の狙撃に備えて、どこからなら角度的にもっとも狙いやすいかという確認を行ったが、これは犯罪者やテロリストからの狙撃のみばかりではなく、逆にVIPやその一行、あるいは社員らが猟銃などを所持したまま立て籠った犯人に人質にとられた場合、警察の狙撃チームに情報を共有することにもつながる。その一方、大臣警護を担当する県警SPの担当者らが到着したのは、大臣が来る30分ほど前であった。彼らは建物の中をちらっと見回しただけで、セキュリティ・マネージャーである旨を告げて自己紹介した筆者に対して、警備上の質問は一切せず、その後はそのまま入口付近に立って大臣一行の到着を待ち始めたため、筆者は拍子抜けをしてしまった。彼ら県警SPの動きは、確かに何らかのマニュアルに沿ったもののようには見えたので、ある程度の訓練はされていることは間違いないと思ったが、しかし動きに柔軟性や注意深さが足りないと感じた。警護オペレーションとは、対象者の性別や年齢、体格や性格、性質、人数、持病の有無、使用する車両の種類や道路状況、季節や気温、天候、時間帯、建物の構造など様々な条件によって変化するのであり、それらに対して柔軟に対応することが求められるわけだが、この時のSPたちが周囲の環境にそこまで配慮しているようには思えなかった。もちろん、全てのSPがこのようなレベルにあると言いたいのでは決してない。筆者の個人的な知り合いの中にも、高い技能や豊富な経験を持たれた極めて有能なSP出身の民間警護要員は確かにおられる。しかし、筆者が目撃した地方の県警SPや、今回の事件現場のSPらの動きを見る限り、警察SPの全体的な底上げと体制強化が喫緊の課題であることに疑いの余地はない。また以前あるテレビ番組で、そこに出演していた元SPという人が、「我々SPは1年に1回、米海兵隊でイヤというほど射撃をするんです」と話していたので、興味を持って見ていたところ、その弾数がわずか「300発」だと聞いてびっくりしたことがある。筆者自身は、海外のハイリスク地域に住んでいた際、いつどこで誰に襲われるかもしれないという環境であったせいもあり、最低でも毎週500発(つまり毎月2000発以上)は射撃をしていたため、1年に1回程度の射撃では、いざという時には決して役に立たないだろうと感覚的に感じたものであった。銃器というのは、自分の体の一部になるまで触れてドリルを行い、また射撃を繰り返すことで初めて上手に使えるようになるものだ。特に、どこからともなく突然向かってくる脅威に対して、わずか数秒のうちに状況判断をして、そこから拳銃を抜き、正確な射撃まで行うという厳しい対応が求められるSPにとって、年にたった数回、わずか数百発の射撃しかさせてもらえないというのはあまりに少なすぎて気の毒なくらいだ。(以下略) [筆者プロフィール] 丸谷 元人(まるたに・はじめ) 1974(昭和49)年、奈良県生れ。オーストラリア国立大学卒業、同大学院修士課程中退(東アジア安全保障)。オーストラリア戦争記念館の通訳翻訳者を皮切りに、パプアニューギニアでの戦跡調査や、輸送工業事業及び飲料生産工場の設立経営、さらにそれに伴う各種リスク対策(治安情報分析、要人警護等)を行った後、西アフリカの石油関連施設におけるテロ対策や対人警護/施設警備、地元マフィア・労働組合等との交渉や治安情報の収集分析等を実施。また、米海兵隊や米民間軍事会社での各種訓練のほか、ロンドンで身代金目的の誘拐対処訓練等を受ける。さらに防衛省におけるテロ等の最新動向に関する講演や、一般企業に対するリスク管理・危機管理に関するコンサルティングに加え、複数のグローバルIT企業における地域統括セキュリティ・マネージャー(極東・オセアニア地区担当)やリスク/危機管理部門長等を歴任。現在、日本戦略研究フォーラムの政策提言委員として、『週刊プレジデント』や月刊誌『VOICE』『正論』などへの執筆をも行う。著書に『The Path of Infinite Sorrow: The Japanese on the Kokoda Track』(豪Allen & Unwin社)、『ココダ 遥かなる戦いの道』『日本の南洋戦略』『日本軍は本当に「残虐」だったのか』『学校が教えてくれない戦争の真実』(ハート出版)、『なぜ「イスラム国」は日本人を殺したのか』(PHP研究所)等がある。 *4-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220714&ng=DGKKZO62596540U2A710C2CE0000 (日経新聞 2022.7.14) 安倍氏銃撃後、緊迫50分 奈良市消防局の無線全容、11時35分「男性、心肺停止状態」 11時48分「頸部に銃創。心静止」 安倍晋三元首相が参院選の街頭演説中に銃撃され死亡した事件で、現場で救命活動に当たった奈良市消防局の無線記録の全容が判明した。「高齢男性、拳銃で撃たれ、現在CPA(心肺停止)状態と思われます」(銃撃から約3分後の8日午前11時35分)――。出動命令から救急車に収容、ドクターヘリへの搬送までの生々しいやりとり、約50分にわたる緊迫した救命の実態が浮かび上がった。事件は8日午前11時32分に発生。花火を打ち上げたような大きな銃声が響き渡り、奈良市の近鉄大和西大寺駅前で演説していた安倍元首相が路上に崩れ落ちた。その直後に「救急指令、加害事故、出動せよ」と消防本部が命令。「西大寺東町2丁目において発砲事件」(同34分)、「CPA状態と思われます」(同35分)と追加情報を出すと、最初の隊が現場に着き「自民党の参議院候補の演説会場です」(同37分)と報告した。すぐに隊員が安倍元首相の心肺蘇生を試みた。「ドクターヘリ出動させます。ドクターヘリ出動させます」(同40分)。救急車からヘリに受け渡す地点は、現場から南東に直線で約700メートルの平城宮跡歴史公園に。同43分に現場から「救急車内に収容しました」。約2分後に救急車が合流地点に向けて出発した。この後、消防本部が数回にわたり、救急車に呼びかけ。同48分、救急車から「頸部(けいぶ)、頸部に銃創あり。初期波形にあっては、心静止。挿管・ルートの方、実施したいと思います」と報告があった。安倍元首相の首、左上腕部の計2カ所に銃弾が命中した傷があり、救急車内で気道を確保し酸素を送る処置が取られた。現場の情報が入り乱れ「加害者にあっては警察と捜査していますが行方不明です」(同51分)、「犯人、犯人確保済み、逮捕済みです」(同)とのやりとりもあった。午前11時53分ごろにドクターヘリが合流地点に到着。救急車も同57分に着き、受け渡しが完了した後、搬送先が決まった。「ヘリにあっては橿原の医大、橿原の医大となりました」(午後0時12分)。午後0時13分に飛び立ち、奈良県立医大病院(奈良県橿原市)に搬送された。同20分に到着し、胸部の止血や大量の輸血の処置が行われたが、安倍元首相は午後5時3分、死亡が確認された。 *4-5:https://mainichi.jp/articles/20220719/k00/00m/040/417000c (毎日新聞 2022.7.19) 銃撃前日「決意表明」の手紙か 旧統一教会批判の男性宛てに書き残し 安倍晋三元首相(67)が奈良市で街頭演説中に銃撃され死亡した事件で、山上徹也容疑者(41)=殺人容疑で送検=が事件直前に出した手紙には安倍氏襲撃を決意したかのような文章が記されていた。10代の頃から母(69)が入信した宗教団体を恨み、団体の活動を安倍氏が支援したと解釈した容疑者。ツイッターや第三者のブログ、手紙に書き連ねた積年の団体への思いから、安倍氏殺害という凶行に駆り立てたものが浮かび上がる。「あの時からこれまで、銃の入手に費やして参りました」。山上容疑者が、団体の活動に批判的なブログの男性管理人(71)=松江市=に宛てた手紙には、こんな一文がある。さかのぼること約1年7カ月。男性のブログには2020年12月16日、ある書き込みがなされていた。「復讐(ふくしゅう)は己でやってこそ意味がある。不思議な事に私も喉から手が出るほど銃が欲しいのだ。何故だろうな?」。山上容疑者が記したとみられる。手紙はブログの言葉を引用し、母の入信した世界平和統一家庭連合(旧統一教会)が家庭崩壊をもたらした経緯に言及。「安倍(元首相)の死がもたらす政治的意味、結果、最早(もはや)それを考える余裕は私にはありません」と本文を結び、安倍氏銃撃を決意したことを示唆していた。山上容疑者は21年春ごろから手製銃の密造を始め、22年2月ごろまでに完成させたとされる。奈良県内の山中で試射を繰り返し、殺傷能力などを高めたとみられる。計画の着手は7月7日だった可能性がある。夜、岡山市で安倍氏が登壇予定の演説会を狙った。手紙は会場に向かう直前、近くのコンビニエンスストアにあるポストに投函(とうかん)された。この時は、警備体制などで断念、翌8日に奈良市で事件を起こした。手紙の文面を見た国際医療福祉大の橋本和明教授(犯罪心理学)は、強固な政治的思想よりも団体への不満を晴らしたいとの思いが見て取れると指摘する。「本人も本当に襲撃を実行できるのか、不安があったと思う。自分自身の背中を押す『決意表明』という意味で書いたのではないか」。奈良県警は、山上容疑者が安倍氏の岡山訪問を3日に把握したとみている。6日にはJR奈良駅で岡山行きの片道切符を購入。手紙は印字されたもので、県警が自宅から押収したパソコンからは、手紙と同じ文面の文書データが見つかり、6日深夜に最後の保存がされていた。安倍氏を銃撃の対象に据えたのはなぜなのか。山上容疑者は「母が団体にのめり込んで破産した。団体が家族をめちゃくちゃにした」と供述しており、19年10月には来日した団体最高幹部、韓鶴子(ハンハクチャ)総裁を愛知県内で火炎瓶で襲撃しようとしたと説明。この頃始まった山上容疑者のものとみられるツイッターにも「憎むのは統一教会だけだ」と投稿していた。手紙には「(安倍氏は)本来の敵ではないのです。あくまでも現実世界で最も影響力のある統一教会シンパの一人に過ぎません」とあった。ジャーナリストの大谷昭宏さんは「韓総裁襲撃は難しいと悟った容疑者が、団体の悪質性を世に知らしめるターゲットとして安倍氏を選んだに過ぎない」と事件の構図を描く。銃撃前に手紙を投函したことについては「逮捕されてしまえば、自分の主張が世に伝わるかは分からない。背景には団体の問題があると社会に書き残したかったのではないか」と指摘する。ツイッターには団体への強い恨みの他に、母についての複雑な心境もつづられていた。親族によると、父は山上容疑者が4歳の頃に自殺し、一つ違いの兄は幼い頃に小児がんを患って右目を失明している。投稿では、家庭環境に触れた上で、母が大病を患う兄を気にかける様子を記し「オレは努力した。母の為(ため)に」と書かれていた。「オレは母を信じたかった」とも投稿され、母を慕う子の心情が吐露されていた。一方、「こんな人間に愛情を期待しても惨めになるだけ」と見限るような記述もあり、愛憎が交錯していた。甲南大の園田寿名誉教授(刑法)は「家族全体が団体にズタズタにされてしまったと考える中で、母も自分と同じ被害者なのだと山上容疑者は考えていたのでは」と心境を推察する。その上で母を含めた家庭環境についての投稿を重ねていたことについて「文章を書くことで自身を客観的に見て、抱える心の苦しみを昇華しようとしたのではないか。周囲に相談できる人がおらず孤独だったからこそ、思いの丈を書きとどめたと考えられる」と語った。 <日本のセキュリティーと原発・経済安保> PS(2022年7月23日追加):福島民報が論説で、*5-1-1のように、「フクイチ事故を巡る株主代表訴訟の東京地裁判決は旧経営陣の賠償責任を認め、これは国内の原発事業者に重い意味を持つ」とし、その判決理由を、①政府の地震調査研究推進本部が2002年に公表した長期評価に基づいて、東電子会社は福島第一原発に最大15.7mの津波が到達すると試算して上層部に報告したが ②旧経営陣側は一貫して地震予測の「長期評価」は信頼性を欠くとし ③判決は「長期評価は専門家によって真摯に検討され、相応の科学的信頼性がある」と認定して注意義務を怠り津波対策を講じなかった不作為を旧経営陣側に認め ④廃炉・除染・避難者への支払い等に巨費を投じる東電に対して13兆3210億円の賠償を旧経営陣側の個人に科し、⑤これは事故の結果責任を厳しく見積もる覚悟を経営陣に迫るもので ⑥「事故が起きれば国土の広範な地域と国民全体に甚大な被害を及ぼし、わが国の崩壊に繋がる」と示した懸念は、仮定でも想定でもなく実際に起きた災禍だ ⑦エネルギー危機に直面して原発回帰への動きが強まっているが、窮状を打開する現実的な選択肢なら、安全管理への信頼性が司法の場で今なお問われている現実も踏まえた議論を求めたい と記載している。 太平洋側で大津波が来ることは古くから記録に残っているため、①のように、地震調査研究推進本部が長期評価を2002年に公表したのが遅すぎるくらいで、②③のとおり、それを無視するのは考えたくないことを想定外にする不作為そのものである。そして、その不作為の結果として、④の高額のコストを株主だけでなく、(恩着せがましく)電力需要者にも課し、⑥のように、国土の広範な地域を汚染して国民に甚大な被害を与えてきたのだから、汚染された地域の国民や電力需要者も提訴してよいくらいだ。そして、使用済核燃料の最終処分や事故の後始末も終わらないうちに、⑦のように、エネルギー危機と称して原発回帰を急ぐのは、どさくさに紛れさせてセキュリティーを無視することそのものである。 北海道新聞も社説で、*5-1-2のように、⑦東京地裁は旧経営陣が当時の知見を踏まえて巨大津波の発生があり得ると認識し、津波対策を取っていれば原発事故は防げたと判断し ⑧対策の先送りに終始した旧経営陣の怠慢を厳しく指弾しており妥当な内容で ⑨安全性への疑問により札幌地裁から運転差し止め判決を受けた北海道電力を含め、全国の原発事業者は判決を重い警鐘として受け止めるべきで ⑩判決は「原子力事業者は最新の知見に基づき過酷事故を万が一にも防ぐ社会的責務がある」と指摘しており ⑪国も無関係ではなく、住民らが集団で国を訴えた別の訴訟では先月、最高裁が津波の規模は想定外で防ぎようがなかったと国の責任を免じる判断をしたが、東電幹部の責任感を欠く姿勢の背景には、安全をうたい原発を推進してきた国の存在がある 等と記載しており、私も、⑪のとおり、(科学ではない)安全神話を唱えて原発を推進してきた国も決して無関係ではないと思っている。 さらに、原発燃料も輸入品であるため、*5-2のように、日本の排他的経済水域内に存在するエネルギー資源や海洋鉱物を採取して使う海洋科学技術を開発推進することが、経済安全保障の観点から極めて重要な施策である。にもかかわらず、経産省が資源・エネルギーは輸出するどころか自国に存在するものも採取せず、輸入さえすればよいと考えているのは著しい思考停止状態であり、何故、こうなるのかが重要なKeyである。 2022.7.11産経新聞 2022.7.14神戸新聞 2013.8.26エネ百科 (図の説明:左図は、フクイチ事故を巡る株主代表訴訟の東京地裁における原告・被告の主張、中央の図は、同事故を巡る3つの判決の比較で、右の列が株主代表訴訟の東京地裁判決である。また、右図が、全量輸入している日本のウラン購入先で、現在もあまり変化していない) *5-1-1:https://www.minpo.jp/news/moredetail/2022071498726 (福島民報論説 2022/7/14) 【東電株主代表訴訟】安全意識厳しく問う 東京電力福島第一原発事故を巡る株主代表訴訟で、旧経営陣の賠償責任を認めた十三日の東京地裁判決は、国内の原子力事業者にとっても重い意味を持つ。「安全意識や責任感が根本的に欠如していた」といった指摘は東電の現経営陣のみならず、自戒として安全意識を問い直す姿勢を広く共有する必要がある。大きな争点でもあった地震予測の「長期評価」について、旧経営陣側は一貫して信頼性を欠くとしてきた。当時は原発の安全神話があったとはいえ、国策下、国と一体で原子力政策を進めてきた旧経営陣におごりはなかったか。長期評価を、地裁がどう判断するかが注目された。政府の地震調査研究推進本部が二〇〇二(平成十四)年に公表した長期評価に基づき、東電子会社は福島第一原発に最大一五・七メートルの津波が到達すると試算し、上層部に報告した。旧経営陣側は、長期評価は信頼性を欠くと反論した上、試算を対策に取り入れるべきかの検討を土木学会に依頼中の段階で事故が発生したため、結果を待たずに対策を取る合理性はなかったと訴えた。判決は主張を退け、「長期評価は専門家によって真[しん]摯[し]に検討され、相応の科学的信頼性がある」と認定し、注意義務を怠り、津波対策を講じなかった不作為を厳に認めた。廃炉や除染、避難者への支払いなどに巨費を投じる会社としての東電に対し、十三兆三千二百十億円もの賠償を個人に科したのは、安全で健全な稼働に果たす責任の重大さと、事故が起きた場合の結果責任を自ら厳しく見積もる自覚や覚悟を経営陣に迫るものだ。東電の旧経営陣側の多くの主張が退けられた結果に対し、公共的事業を担う他の経営陣に萎縮が生まれる、といった見方も司法関係者にあるようだ。ただ、「ひとたび事故が起きれば、国土の広範な地域と国民全体に甚大な被害を及ぼし、わが国そのものの崩壊につながりかねない」と判決で示した懸念は、仮定でも、想定される危険でもない。福島第一原発事故で実際に起きた災禍であり、現実問題として肝に銘じるべき教訓だ。経営陣側が控訴した場合、判断は維持されるのか、変わるのかは見通せないが、高い危機管理意識が要求される事実は動かない。エネルギー危機に直面し、原発回帰への動きが強まっている。窮状を打開する現実的な選択肢というのであれば、安全管理への信頼性が司法の場で今なお問われている、もう一方の現実を踏まえた議論を求めたい。 *5-1-2:https://www.hokkaido-np.co.jp/article/705372 (北海道新聞社説 2022/7/14) 東電株主訴訟 原発事業者に重い警鐘 2011年3月の東京電力福島第1原発事故を巡る株主代表訴訟で、東京地裁が東電旧経営陣の責任を認め13兆円余を東電に賠償するよう命じる判決を言い渡した。旧経営陣が当時の知見を踏まえて巨大津波の発生はあり得ると認識し、津波対策を取っていれば原発事故は防げたと判断した。対策の先送りに終始した旧経営陣の怠慢を厳しく指弾しており、妥当な内容である。原発事故で旧経営陣の民事上の責任を認めた司法判断は初だ。原発事業体を率いる経営トップらの責任の大きさを示したと言える。原発事故がひとたび起きれば国民と国土に深刻な被害を及ぼす。安全性に疑問があるとして先に札幌地裁から泊原発の運転差し止め判決を受けた北海道電力を含め、全国の原発事業者は判決を重い警鐘として受け止めるべきだ。旧経営陣が巨大津波の到来を予見できたか、対策を取れば事故は防げたか―が争点だった。原告側は政府機関が02年に公表した地震の「長期評価」に基づけば巨大津波は予測でき、取締役の注意義務を果たして対策を取れば事故は回避できたと主張した。旧経営陣側は長期評価には十分な予見性がなく、対策を取らなかったのは合理的だと反論した。これに対し判決はまず、「原子力事業者は最新の知見に基づき過酷事故を万が一にも防ぐ社会的責務がある」と指摘した。その上で、多くの専門家の議論を経た長期評価は「相応の科学的信頼性がある」と認め、にもかかわらず津波対策を取らなかった旧経営陣を「安全意識や責任感が根本的に欠如していた」と断じた。注目すべきは、08年に対策先送りの判断を下した武藤栄元副社長を「著しく不合理で許されない」と特に厳しく批判した点だ。提訴から約10年、多くの証拠が調べられ、裁判長は原発の視察も行った。丁寧な審理が説得力ある判決を導いたと言えるだろう。国も無関係ではない。住民らが集団で国を訴えた別の訴訟では先月、最高裁が津波の規模は想定外で防ぎようがなかったと国の責任を免じる判断をした。だが東電幹部の責任感を欠く姿勢の背景には、安全をうたい原発を推進してきた国の存在がある。政府には原発再稼働に積極的な姿勢が目立つ。しかし今回の判決は原発事故の代償が廃炉や除染、被災者への賠償など広範で巨額になることを改めて示した。脱原発こそ国の取るべき道である。 *5-2:https://ryukyushimpo.jp/kyodo/entry-1552892.html (琉球新報 2022年7月20日) 首相に経済安保強化を提言 次期海洋計画へ有識者 政府の「総合海洋政策本部参与会議」の田中明彦座長=国際協力機構(JICA)理事長=は20日、岸田文雄首相を官邸に訪ね、経済安全保障の観点から海洋鉱物やエネルギー資源、海洋科学技術の開発推進に重点的に取り組むよう求める意見書を提出した。首相は「意見を踏まえ(来年に策定する)次期海洋基本計画の具体化を進める」と応じた。意見書は、次期基本計画も引き続き「総合的な海洋の安全保障」が主要テーマだと強調。中国海警局の船が繰り返す領海侵入などを念頭に「わが国周辺海域を取り巻く情勢は緊迫化している」と指摘した。海洋基本計画は5年ごとに策定、次期改定は来年の予定だ。 <日本のセキュリティーとコロナ・経済安保> PS(2022年7月24日追加):*6-1-1は、①新型コロナの国内感染者が7月21日午後8時現在で、新たに18万6246人が確認された として、厚労省専門家組織の専門家から、②今後も多くの地域で感染者の増加が続く ③これまで新規感染者の急増から遅れて重症者・死亡者が増加する傾向にある ④既に強い行動制限を検討する時期にあるのではないか」との意見が出たそうだ。また、他県に先行して6月下旬から感染拡大が始まった鳥取県では、⑤家庭を介して職場から学校保育施設、高齢者施設や医療機関へと感染が広がり、高齢者施設などで今後さらに増加の恐れがある と記載している。また、*6-1-2は、⑥病床が逼迫する沖縄県は医療非常事態宣言を発令して県民に会食人数の制限も要請し ⑦軽症の場合や検査目的での救急病院の受診を控えるよう県民に要請し ⑧認証を受けた飲食店でも会食は「4人以下・2時間以内」としてアルコールを伴うイベントの開催延期も求めた ⑨熊本県は保健所業務や災害対応、窓口業務などを除いて、職員の半数をテレワークにする目標を掲げ ⑩千葉県や東京都は、自宅待機となる子どもの保護者が仕事に出られなくなることを防ぐために、保育所や小学校で濃厚接触者の特定をやめた としている。 このうち①は事実だろうが、ワクチン接種しても新型コロナ感染者と接触すれば感染はするため、感染者のみを公表するのは意味がない。何故なら、ワクチン接種すれば過去に新型コロナに感染したのと似た効果があり、身体がその異物を記憶して獲得免疫(細胞性免疫と液性免疫)になるため、*6-1-3のように、新たに入ってきたウイルスに対し、すぐ抗体を作ったり、免疫細胞がそのウイルスを食べて破壊したりすることが容易になり、治癒が速くて重症にならないからである。そのため、「感染者が増えた」と言って行動制限を含むワクチン接種前と同じ対策をとる必要はなく、また、「抗体価が下がった」と言って同じワクチンを何度も打つ必要はない筈だ。そのため、厚労省専門家組織の専門家が、②で大騒ぎして、④の行動制限を求めるのはむしろ変であり、③で述べられているように感染者がこれまでと同じ比率で重症化するわけではない。しかし、子どもはワクチン接種しておらず、若い人も接種率が低いため、⑤は起こるだろう。このような中、沖縄県は⑥⑦⑧の対応をとったそうだが、ワクチンの接種率を低くしたまま何度も飲食店に制限をかけて支援金を払うのは、国の財政を考えれば控えるべきだ(ワクチン接種率を上げるには、「10月以降は検査やワクチン接種を有料にする」という方法もある)。また、⑨のテレワーク推進は、コロナにかこつけなくてもやればよく、既にコロナの治療薬もあるため、コロナは保健所で対応するのではなく、病院に行って治療し、速やかに治す病気にすべきだ。さらに、⑩は、便宜上のなし崩し的措置にすぎないため、科学的な思考と説明が必要だ。 従って、最も情けないのは、高い給料をもらいながら、免疫の基礎も知らず、ワクチンの国内生産も進めず、高い金を払って何度もワクチンを外国から購入することしか思いつかない厚労省関係者で、厚労省専門家組織の専門家とされる人のアドバイスや説明にも呆れた。 さらに、*6-2のように、2022年7月20日、塩野義製薬が開発した新型コロナウイルス向け飲み薬「ゾコーバ」の緊急承認の結論が見送られ、その理由を、⑪臨床試験(治験)では服用後にウイルス量が大きく減ることが判明し ⑫陰性になるまでの期間も短くなり ⑬安全性においても目立った問題はなかったが ⑭有効性をみるための審査データが十分でなく ⑮疲労感や熱っぽさといった症状の改善効果がどの程度あるかがわからないため ⑯緊急承認制度を初適用せず、最終段階の治験データを待って判断する としている。 しかし、⑪⑫なら、効き目があって治療期間が短くなることは明らかであり、⑬なら使用しても問題ない。それでも⑮を主張するのはむしろ変であり、⑭は緊急性を理解せず、⑯は日本向けの高い価格をつけた外国製を輸入すればよいと考えている点で国産の開発意欲を削ぐことになるため経済安保にもマイナスだ。そのため、塩野義製薬にアドバイスするとすれば、「開発に協力的で承認を受けやすい国で開発を行い(特許権はその国でできるが)、治験しやすい国で治験して製品化するのがよい」ということになり、医薬品の分野でも日本の出る幕はなくなるのだ。 2022.2.7NHK 2022.7.24NHK すべて2022.7.24NHK (図の説明:上の段の左図は、2022年2月7日のワクチン接種率で、高齢者は高いが、若くなるほど低く、11歳以下は接種していない。ここに、下の段の左図のように、一部しかコロナの検疫をしていない外国人が入ったため、若い世代を中心としてコロナが蔓延し、家庭を介して中高年にも広がったと思われる。上の段の中央の図は、日本全体のワクチン接種率の推移で、2022年2月時点で、2回目まで接種した人が約80%いる。上の段の右図が、国内の感染者数推移だが、ワクチン接種が進み、マスクの着用や手洗いも徹底しているため、感染者数と比較して、下の段の中央の重症者数、下の段の右の死者数は著しく低く、インフルエンザ以下になっている) *6-1-1:https://digital.asahi.com/articles/ASQ7P6QL7Q7PUTFL002.html?iref=comtop_7_02 (朝日新聞 2022年7月21日) 感染爆発、厚労省の専門家組織「今後も増加」 行動制限求める意見も 新型コロナウイルスの国内の感染者は21日午後8時現在で、新たに18万6246人が確認され、前日に続いて1日あたりの最多を更新した。厚生労働省に新型コロナ対策を助言する専門家組織(アドバイザリーボード)は、「全国的に過去最高を更新していくことも予測される。最大限の警戒感で注視していく」との分析を示した。専門家組織の会合で、後藤茂之厚労相は「現時点で新たな行動制限は考えていない」と述べ、病床の稼働や臨時医療施設の開設を進め、医療関係者や高齢者施設職員へのワクチンの4回目接種を急ぐ考えを示した。ただ、複数の専門家から、現在の感染状況や想定される被害を踏まえ、「すでに強い行動制限を検討する時期にあるのではないか」との意見が出たという。 ●病床使用率、15県が40%以上に 朝日新聞のまとめでは、35都府県で新規感染者が過去最多を更新した。専門家組織によると、20日までの1週間で、全国の新規感染者は前週の1・72倍。すべての都道府県で前週に比べて増加した。秋田県で2・34倍、栃木県で2・23倍、茨城県と山口県で2・10倍となるなど、8県で2倍以上となった。ほか30都道府県でも1・5倍以上となり、「第7波」の感染の広がりは急激だ。1人が何人に感染させるかを示す実効再生産数は1・23で、専門家組織は「今後も多くの地域で感染者の増加が続く」との見方を示した。地域差があるものの、病床使用率も総じて上昇傾向で、20都府県が40%以上に達した。専門家組織は「これまでも新規感染者の急増から遅れて、重症者・死亡者が増加する傾向にある」と危機感を示した。高齢者の感染が増えることが懸念されるという。救急搬送困難事案も増えており、重症化しやすい人の搬送を優先するため、軽症者が救急車を呼ぶ際の目安を示すべきだとも訴えた。感染爆発の要因の一つは、感染力が強いオミクロン株の変異系統「BA.5」の広がりだ。会合で国立感染症研究所は、BA.5の検出割合が今週時点で96%に達したとの推計を示した。大阪府では、17日までの1週間で、BA.5などの疑いがある変異株の検出率が6割を超えた。急速な感染拡大とともに医療機関と高齢者施設に関連するクラスター(感染者集団)も急増。13日までの1週間の発生施設は計51カ所で、前週の3倍を超えたことが報告された。他県に先行して6月下旬から感染拡大が始まった鳥取県でも、家庭を介して職場から学校保育施設、高齢者施設や医療機関へと感染が広がっている現状を報告。高齢者施設などで「今後さらに増加の恐れがある」との見方を示した。 *6-1-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/7ce2430cb983b45ded9fc11cfcd38f1a7a7a9d18 (Yahoo 2022/7/24) 会食制限、県職員5割在宅 保育所の濃厚接触特定せず コロナ感染最多で対応急ぐ・自治体 新型コロナウイルスの新規感染者が多くの都道府県で過去最多を更新する中、各自治体は対応を迫られている。病床が逼迫(ひっぱく)する沖縄県は「医療非常事態宣言」を発令。県民に会食人数の制限も要請した。熊本県は接触を避けるため、職員の半数をテレワークにする目標を掲げた。千葉県や東京都は保育所などで濃厚接触者の特定をやめるなど、実情に即した運用もみられる。28日に奈良市で行われる全国知事会議では、オミクロン株の派生型「BA.5」への置き換わりを踏まえた国への提言について議論する。沖縄県の玉城デニー知事は21日、医療非常事態宣言を出し、軽症の場合や検査目的での救急病院の受診を控えるよう県民に要請。また、認証を受けた飲食店でも会食は「4人以下・2時間以内」とし、アルコールを伴うイベントの開催延期も求めた。23日の病床使用率は77.1%。熊本県の蒲島郁夫知事は22日の記者会見で、保健所業務や災害対応、窓口業務などを除き「各職場の出勤者数を5割減らすことに取り組む」と表明した。県幹部は「全ての年代で感染が爆発的に増えている。家庭や高齢者施設に特化した対策には限界がある」と語る。25日以降、テレワークの体制を整えつつ、保健所などには応援職員を派遣してコロナ対応に万全を期す。千葉県は21日、クラスター(感染者集団)が発生した場合を除き、保育所や幼稚園などで濃厚接触者を特定しないことを決めた。自宅待機となる子どもの保護者が仕事に出られなくなることを防ぐためで、熊谷俊人知事は「感染者が出た時点で感染拡大が進んでいることが想定され、自宅待機の有効性は低下している」と説明。東京都は小学校も含め、特定をやめる。家庭や職場など飲食店以外での感染が急増し、重症者が比較的少ないというBA.5の特性を踏まえ、国による「まん延防止等重点措置」の発令や、飲食店の営業時間短縮措置には、否定的な見方も強い。沖縄の玉城知事は「感染状況に即して地方創生臨時交付金を機動的かつ柔軟に支援できる制度に改めてほしい」と主張する。一方、東京都の小池百合子知事は22日の会見で、国がコロナワクチンの4回目接種対象を医療従事者らに拡大したことについて「2カ月間遅れた。しわ寄せが医療現場にいっている」と苦言を呈した。 *6-1-3:https://www.macrophi.co.jp/special/1564/ (やさしいLPS編集部 2020/11/22) 獲得免疫における細胞性免疫とは?液性免疫との違いも詳しく解説! 免疫とは 免疫とは、外部から侵入する異物のほか、死んだ細胞や老廃物、がん細胞などといった体内で発生する異物やゴミの除去を行うシステムです。免疫が対応しなくてはならない異物は数限りないため、どんな異物が来ても対抗できるよう、自然免疫と獲得免疫という2段構えで体を守っています。自然免疫とは、生まれたときから体に備わっている免疫です。マクロファージや好中球、樹状細胞といった、異物を食べて破壊する免疫細胞(食細胞)がメインで働いており、体内に異物が侵入したときに1番に反応して異物を排除します。また、抗体を作るために、体内に侵入した異物の情報を、獲得免疫で働く免疫細胞に伝える役割も担っています。一方、獲得免疫とは、体内に侵入した異物に対する抗体を作り、次に同じ異物が侵入した場合に効率的に排除する仕組みを作る免疫です。自然免疫をすり抜けた異物が入り込んだ感染細胞や、がん細胞などを排除する役割もあります。獲得免疫でメインとなるのは、抗体を作るよう指令を出すT細胞や、抗体を作るB細胞といったリンパ球です。真っ先に異物に対処する自然免疫、抗体を作って次に備え、自然免疫で対処しきれなかった異物に対処する獲得免疫と、それぞれが補いあって体を守っています。 ●獲得免疫は「細胞性免疫」と「液性免疫」に分けられる 獲得免疫には、抗体を作る、感染細胞やがん細胞を排除するなどいろいろな役割がありますが、役割によって「細胞性免疫」と「液性免疫」の2種類に分けられます。それぞれの特徴や違いについて、くわしく見ていきましょう。 ●細胞性免疫とは 細胞性免疫は、T細胞という免疫細胞が主体となって働いている免疫です。抗体を産生するのではなく、免疫細胞自体が異物を攻撃するという特徴があります。免疫細胞の一種であるT細胞は、「ヘルパーT細胞」「キラーT細胞(CTL)」「制御性T細胞」の3種類に分けられます。 ○ヘルパーT細胞:マクロファージなどの免疫細胞から異物の情報を受け取り、B細胞とともに異物が危険なものか判断し、サイトカイン(免疫細胞が作り出すタンパク質)を産生して、CTLやNK細胞(ナチュラルキラー細胞)などを活性化させる、司令塔のような役割を持つ免疫細胞 ○キラーT細胞(細胞傷害性T細胞):感染細胞やがん細胞を攻撃、排除する免疫細胞 ○制御性T細胞:キラーT細胞が正常な細胞まで攻撃しないように制御したり、免疫反応を終了させる免疫細胞 体内に異物が侵入すると、まずマクロファージや樹状細胞といった食細胞が異物を食べて分解し、その情報をヘルパーT細胞へと伝えます(抗原掲示)。次にヘルパーT細胞の一種である「Th1細胞」が食細胞から届いた情報をキャッチして、サイトカインを産生し、キラーT細胞やNK細胞を活性化させます。すると、活性化されたキラーT細胞やNK細胞が、感染細胞やがん細胞に対して攻撃を始めるのです。また、キラーT細胞やNK細胞が正常な細胞を攻撃するのを防ぎ、適切な時期に免疫反応が止まるよう、制御性T細胞も働きます。その後、ヘルパーT細胞によって活性化されたキラーT細胞の一部は、今回キャッチした異物の情報を記憶した「メモリーT細胞」となり、次に同じ異物が入ってきたときに効率的に攻撃できるように備えます。 ●液性免疫とは 液性免疫は、B細胞が主体となって、抗体を作ることで異物に対抗する免疫です。まずマクロファージや樹状細胞が発した異物の情報を、ヘルパーT細胞の一種である「Th2細胞」がキャッチして、サイトカインを産生します。すると、そのサイトカインによってB細胞が活性化され、形質細胞へと分化して抗体を産生し始めます。産生された抗体は体液を介して全身に広がり、食細胞を活性化したり、異物の毒性や感染力を失わせたりするのです。その後、活性化されたB細胞の一部は「メモリーB細胞」となり、次に同じ異物が入ってきたときに効率的に抗体を産生できるように備えます。(以下略) *6-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK214EF0R20C22A7000000/ (日経新聞社説 2022年7月21日) 何のための薬の「緊急承認制度」なのか 塩野義製薬が開発した新型コロナウイルス向け飲み薬の緊急承認の結論がまた見送られた。新規感染者数が過去最多を更新し「第7波」が猛威をふるう。緊急承認という新制度は何のためにあるのか。今回の判断はふに落ちない。塩野義の抗ウイルス薬「ゾコーバ」(販売名)は軽症のコロナ患者に対し、1日1回、5日間経口投与して使う。臨床試験(治験)では服用後にウイルス量が大きく減ることが判明。陰性になるまでの期間も短くなった。安全性においても目立った問題はなかった。厚生労働省の専門家分科会は20日、承認の可否を決める2度目の会合を開いた。有効性をみるための審査データが十分でなく、疲労感や熱っぽさといった症状の改善効果がどの程度あるかがわからないとし、現在進行中の最終段階の治験データを待って判断する「継続審議」とした。可否の結論は秋以降になる見通しだ。平時における医薬品承認の審議であれば妥当かもしれない。しかし、今回はこの春にできた緊急承認制度を初適用したものだ。感染症のまん延による健康被害を防ぐため治療薬やワクチンの有効性を限られたデータから「推定」すればいいはずではなかったか。もし、その判断がつかないのなら「承認せず」とするのが筋だろう。「継続審議」という玉虫色の結論は理解できない。制度自体の問題が顕在化したといえる。緊急承認制度は米国の緊急使用許可(EUA)を手本にした。感染者の急増や医療の逼迫といった緊急度合いも考慮し、効果が科学的に「確定」しなくても、有効性の解釈を広げて承認できる。要は「仮免許」のような位置づけだ。しかし、その有効性とは何かが明確に示されておらず、審議は従来の科学的知見にこだわったものになった。安全性に問題がないのであれば、緊急承認し、使うかどうかの判断は現場の医師や患者に委ねることもできただろう。国産品で安定供給される飲み薬をうまく活用すれば、自宅療養の拡充などで医療や保健の現場を逼迫させずにすむかもしれない。今回、塩野義は承認されると100万人分を供給するよう国と合意しており、いつでもすぐに出荷できる体制にある。名ばかりの「緊急承認制度」は製薬会社の開発意欲をそぐことにもなる。国内発のコロナ医薬品はまだ登場していない。実現がまた遠のいた。 <物価上昇に対するセキュリティー> PS(2022年7月27日):*7-1-1は、①IMFは世界経済の成長率を下方修正し、世界経済成長率が2022年に2.6%、23年に2.0%まで下がる「リスクシナリオ」は十分に現実味があるとし ②ロシア産天然ガスに依存する欧州経済は大きな打撃を受け、経済制裁の報復措置でロシアがパイプラインによる欧州への天然ガス供給を2022年末までに完全にストップすれば、ガス価格は約200%上昇する ③G7が景気後退に陥る可能性は平時の4倍の約15%でドイツは約25% ④IMFが経済見通しを下方修正した最大の要因は4月時点の見通しを大きく上回るインフレで、「スタグフレーション」になる可能性もある ⑤消費者物価指数上昇率(前年同月比)は米国9.1%、欧州が8.6%で ⑥エネルギー・食料をはじめ幅広い商品が値上がりして経済成長の柱である個人消費を鈍らせている ⑦欧米の中央銀行は、インフレ退治のためIMFの予想を上回るペースで金融を引き締めいるが ⑧IMFは安価な石炭など温室効果ガスの排出が多い化石燃料へ回帰する動きを一時しのぎでしかなく、再エネへの投資を促進すべきだとしている としている。 ②のように、経済制裁すればロシアが報復措置として天然ガス供給を止めるのは当然予測されることであるため、必需品を頼っている国と戦争するのは、何があっても不可能である。しかし、G7は甘かったため、①③④⑤⑥のように、エネルギー・食料をはじめ幅広い商品が値上がりしてスタグフレーションを起こして、経済成長の柱である個人消費を鈍らせ、世界経済成長率が下がることになった。しかし、日本と異なるのは、⑦のように、欧米の中央銀行がインフレ退治のためIMFの予想を上回るペースで金融を引き締め、⑧のように、IMFが再エネへの投資を促していることで、どちらも欧米の方が正しい。 一方、日本は、*7-1-2のように、総務省が6月24日に発表した5月の物価上昇率が前年同月比2.5%で、資源高等によって2カ月連続2%超になったが、よく買うものほど価格高騰したため体感物価上昇率は5.0%と全体の倍になった。これは米国(8.6%)や英国(9.1%)などに比べれば低いが、日本は賃金が上がらず年金は減っているため、購買力は欧米以上に落ちている可能性が高く、これは私の体感とも一致する。にもかかわらず、*7-1-3のように、日銀は(何故か、生鮮食品を除く)2022年度消費者物価指数の上昇率見通しを前年度比2.3%に引き上げ、大規模金融緩和策の維持を決めたが、この日銀の思考にないものは、上記⑥の「個人消費が経済成長の柱である」という視点であり、この視点の欠如が、金融緩和して物価を上昇させ、個人消費を抑えることによって最終消費者が買えない状況を作り、経済成長も経済発展もさせなかった一因である。このブログに前にも書いたとおり、“安定”と称するイノベーションの阻害など、もちろんその他の要因もあるが・・。 なお、*7-2に、佐賀県牛乳普及協会は、牛乳や乳製品を使った料理コンクールの作品を募集していると記載されているが、私は、「小麦粉の値段が上がった、上がった」と言われ、外食のラーメンの価格が2倍近くになったので小麦粉の値段を調べてみたところ、それほど高くなってはいなかった。そのため、うちにはオーブンやみじん切り機もあったことを思い出し、ふるさと納税でもらった薄力粉や蜂蜜とココナツオイル・スキムミルク・ベーキングパウダー・卵、人参・ピーマン・ベーコンのみじん切りなどを混ぜ合わせてケーキを作ったところ、コンクールに出るほどではないが、オールインワンの朝食ができ、パンを食べなくなったため、物価上昇へのささやかな抵抗となった。しかし、電気代は確実に上がっただろう。 *7-1-1:https://mainichi.jp/articles/20220726/k00/00m/020/356000c (毎日新聞 2022/7/26) インフレ進行、予想を上回る勢い 先進国経済が景気後退の懸念 国際通貨基金(IMF)は26日、世界経済の成長率を下方修正し、予想を上回るインフレ加速と急ピッチの金融引き締めによって先進国経済が景気後退(リセッション)に陥る可能性を指摘した。ロシア産天然ガスに依存するドイツなど欧州経済は大きな打撃を受けているが、ガス供給の完全ストップなどで経済の落ち込みがさらに深刻になる可能性があると分析している。「経済の不透明感やリセッションへの懸念がここ数カ月で強まっている」。IMFは26日に公表した最新の世界経済見通しでこう指摘。資産価格や株価変動を基に、米欧日など主要7カ国(G7)が景気後退に陥る可能性は平時の4倍の約15%、ドイツは約25%との試算を示した。IMFが経済見通しを下方修正した最大の要因は、4月時点の見通しを大きく上回る勢いで進行するインフレだ。6月の消費者物価指数の上昇率(前年同月比)は米国が9・1%、欧州が8・6%。新興・途上国の4~6月期のインフレ率も推計9・8%と10%に迫る水準だった。エネルギーや食料をはじめ幅広い商品が値上がりし、経済成長の柱の個人消費を鈍らせている。インフレ退治のため、欧米の中央銀行はIMFの予想を上回るペースで金融を引き締めている。米連邦準備制度理事会(FRB)は3会合連続で利上げを実施。欧州中央銀行(ECB)も11年ぶりの利上げに踏み切った。過熱した経済を冷やし物価を押し下げる効果を狙っているが、住宅ローン金利の上昇や企業の借り入れコスト増などで景気を過度に失速させる懸念が強まっている。新型コロナウイルスを封じ込めるための中国政府の厳格な都市封鎖(ロックダウン)や、部品供給網の途絶が長引いていることも下方修正の要因となった。IMFは「経済の先行きリスクと不確実性の高まりを考慮し、代替シナリオに大きな重点を置いている」と指摘。世界経済の成長率が2022年に2・6%、23年に2・0%にまで下がる「リスクシナリオ」は十分に現実味があるというわけだ。IMFが特に懸念するのは、経済制裁への報復措置などでロシアがパイプラインを通じた欧州への天然ガス供給を途絶させるリスクだ。供給量は通常の2割程度まで急減することになり、22年末までに完全にストップすれば、他に供給手段がないため、ガス価格は約200%上昇すると指摘。原油価格もロシアからの輸出が減少すれば約30%上昇すると試算した。インフレが収まらない一方、経済はリセッションに陥る「スタグフレーション」の可能性もあると分析している。一方、IMFは、最近のエネルギー価格高騰を受け、安価な石炭など温室効果ガスの排出が多い化石燃料へ回帰する動きがあると指摘。「そのような対策は一時しのぎでしかない。再生可能エネルギーへの投資を促進すべきだ」とクギを刺した。 *7-1-2:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO62056720V20C22A6EA2000/ (日経新聞 2022年6月25日) 物価上昇、体感は2倍、食品など「よく買うもの」5%高 家計負担が数字以上に 消費者が体感するインフレが加速している。総務省が24日発表した5月の物価上昇率は前年同月比2.5%だった。資源高などで2カ月連続で2%を超えた。内訳を分析すると、よく買うものほど価格高騰が鮮明だ。ガソリンや食品など月1回以上は買う品目は上昇率が5.0%と全体の倍に達する。物価高は統計の見た目以上に家計の重荷となっている可能性がある。物価上昇率は4月に全体で2.5%、変動の激しい生鮮食品を除いて2.1%といずれも7年1カ月ぶりに2%台に乗った。ウクライナ危機下のエネルギー価格の高騰に加え、携帯値下げの影響が一巡したのが大きかった。同じ幅の伸びが5月も続いた。国内の物価上昇は全体としては米国(8.6%)や英国(9.1%)などに比べればまだ鈍い。内実はまだら模様といえる。足元では消費者がよく買うものほど値上がりが目立つ。物価算定のもとになる計582品目のうち、購入回数が平均年15回以上と「頻繁」な食パンやガソリンなど44品目のインフレ率は2021年秋に4%を突破した。22年3~4月は5%を超え、5月も4.9%と高水準が続いた。日常の買い物で直面する物価高が物価全体の表向きの数字以上に重いことを示す。頻繁に買うのは生鮮食品も多い。5月にタマネギは2.25倍になり、キャベツは40.6%上がった。産地での天候不順のほか、輸送費の高騰などが響いている。買うのが1カ月に1回程度のものも急騰し、5.1%上がった。食品各社が相次ぎ値上げに踏み切った食用油(36.2%上昇)、電気代(18.6%上昇)などを含む。生活に欠かせないため値段が上がっても買わずに済ませるのが難しく、インフレが進みやすいとみられる。これらの「よく買うもの」は物価全体を押し上げる寄与度も大きい。ガソリン、電気代などエネルギー関連は1.26ポイント分、食料は1.06ポイント分のインフレ要因となった。裏腹に、あまり買わないものほどインフレ率は低い傾向がある。ロールケーキや殺虫剤など購入が半年に1回程度の品目は2.3%で全体と同水準だ。ソファ、パソコンなど買うのが年0.5回未満と「まれ」な品目は1.7%にとどまった。体感インフレの加速は家計の物価見通しにも表れる。内閣府の5月の消費動向調査によると、二人以上の世帯で1年後に5%以上の物価上昇を見込む割合は55.1%と、過半になった。回答の選択肢はほかに「2%未満」「2%以上~5%未満」がある。21年の前半は「2%未満」、21年後半は「2%以上~5%未満」が最多だった。2月以降は「5%以上」が最も多くなり、割合も2月の39.7%から高まっている。この調査の物価見通しはエコノミストの予測に比べ高めに出やすい。それを差し引いても、物価上昇圧力の高まりを鮮明に映し出している。日本経済は米欧に比べて回復が遅く、国内総生産(GDP)は1~3月期時点で新型コロナウイルス禍以前の水準に届いていない。潜在的な供給力に対して需要が足りない状態も解消していない。現状のインフレはエネルギーや食料など海外発のコスト高や円安による部分が大きい。企業収益の拡大や賃上げが物価を安定的に押し上げる望ましいかたちにはなっていない。資源高による海外への所得流出で日本の購買力が全体として低下する構図も定着しつつある。大和総研の瀬戸佑基氏は「家計が実感するインフレ率はかなり高い状況が当面続き、物価上昇が消費マインドなどに及ぼす悪影響は注意が必要だ」と指摘する。 *7-1-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB2170Y0R20C22A7000000/ (日経新聞 2022年7月21日) 日銀総裁、利上げ「全くない」 物価見通し2.3%に 日銀は20~21日の金融政策決定会合で、大規模な金融緩和策の維持を決めた。2022年度の消費者物価指数(生鮮食品を除く)の上昇率見通しを前年度比2.3%に引き上げた。海外で利上げが進むなか、緩和継続による急速な円安で企業や家計に与える影響が大きくなっている。黒田東彦総裁は利上げについて「全くない」と言い切った。日銀は4月の会合で22年度の物価上昇率見通しを1.9%としていたが2.3%に上方修正した。日銀が直近年度で2%超の物価見通しを示すのは、消費増税が影響した14年度を除き比較可能な03年度以降で初となる。政府・日銀が定める2%の物価安定目標に達するが、黒田氏は「物価目標の持続的、安定的な実現には至っていない」と述べた。23年度は1.4%、24年度は1.3%と徐々に物価上昇が落ち着く見通しを示した。黒田総裁は「年明け以降はエネルギーの押し上げ寄与が減衰しコスト転嫁も一巡していく」として、金融緩和策の必要性を訴えた。日銀は物価の上昇に賃金の伸びが追いついておらず、景気の腰折れを招く懸念が残るとの見方を崩していない。黒田総裁は「一段の賃金上昇と物価目標の実現のために緩和を続ける」と強調した。追加緩和についても「必要があればちゅうちょなく講じる」と従来の主張を繰り返した。22年度の実質成長率見通しは前回の2.9%から2.4%に下げた。世界的なインフレ率の上昇や、それに伴う急速な金融引き締めで、世界経済に減速懸念が出ている。 *7-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/886344 (佐賀新聞 2022/7/16) 牛乳使った料理募集中 高校生以上対象 佐賀県牛乳普及協会がコンクール 佐賀県牛乳普及協会は、牛乳や乳製品を使った料理コンクールの作品を募集している。未発表のオリジナル料理で、4人分で200ミリリットル以上の牛乳を使うことなどが条件。書類選考を通過した10人が10月2日に佐賀市のアバンセで調理を実演し、最優秀賞を決める。料理とデザートの2部門があり、バターや生クリームなどの乳製品を組み合わせて使用できる。材料費は4人分で2400円以内とし、1時間以内で調理できるものとする。参加対象は高校生以上で、現職の調理師は参加できない。前年は1103点の応募があった。手軽さ、独創性、おいしさ、栄養バランスなどを審査する。最優秀賞には2万円の商品券などを贈る。JAさがのホームページから応募用紙をダウンロードして郵送またはファクスで申し込む。締め切りは8月31日。問い合わせは同協会事務局(JAさが酪農課)、電話0952(71)9644。
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2021,05,05, Wednesday
(1)日本国憲法変更の危険性
2021.5.7中日新聞 2018.5.3産経新聞 IWJ (図の説明:左図のように、2021年5月6日に国民投票法改正案が衆議院憲法審査会で可決して今国会で成立する予定となった。その後の『改憲4項目』として自民党が示しているのが中央の図で、このうち、右図の緊急事態条項は、国会決議を通さずに基本的人権を制限したり、法律と同じ効果を持つ政令指定を可能にしたりできるようにするもので、問題が多い。) 1)憲法記念日における与党幹部のメッセージから 憲法記念日の5月3日、菅首相は、*1-1のように、ビデオメッセージで「①憲法9条への自衛隊明記」「②新型コロナ感染拡大や大災害時に内閣が国民の権利を一時的に制限する『緊急事態条項の創設』は極めて大切」「③参院選の合区解消」「④教育無償化」など、「⑤現行憲法も制定から70年余り経過し、時代にそぐわない部分、不足している部分は改正していくべき」等を語られたそうだ。 このうち、①は、前にこのブログで詳しく記載したため省略するが、②も、このような厚労省の故意又は重過失による感染症の蔓延を国民のせいにし、それを理由として「国民の権利を制限する緊急事態条項の創設が重要」と結論づける政府であるからこそ、決して緊急事態条項を創設してはならないし、③は、憲法を変更しなくても下位の法律を改正すればできるのである。 さらに、④は、憲法第26条に「第1項:すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」「第2項:すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。 義務教育は、これを無償とする(http://law.main.jp/kenpou/k0026.html 参照)」と定められているため、既に憲法で義務教育は無償化されており、義務教育以外についても給付型奨学金を支払ってはいけないなどとは憲法に記載されていないため、憲法変更は不要なのである。 それにもかかわらず、「仕方がない」として緊急事態条項の創設を許せば、政府の放漫経営によって財政破綻するにもかかわらず、さらなる年金カットや医療・介護サービスの削減など国民との契約で政府が保険料を徴収した社会保障の受給権(私権)を制限することも、政府が憲法に基づいて行うだろう。日本政府が前から熱心な「税と社会保障の一体改革」や「マイナンバーカードの創設」はその準備作業だが、それに感染症の蔓延を利用するなどもってのほかである。 これを裏付けるように、与党系の幹部が、*1-2のように、「この憲法で国家の危機を乗り越えられるのか!-感染症・大地震・尖閣-」と述べているが、感染症・大地震・尖閣を乗り越えられないのは、日本国憲法に「緊急事態条項」がないからではなく、感染症に対する基本的理解の不足、都合の悪いことを想定外にする危機意識の低さ、領土保全の努力のなさという運用上の問題である。そのため、憲法9条に自衛隊を明記し、緊急事態条項を創設したからといって、これらの問題が解決するわけではない。 また、⑤のように、憲法制定から70年余り経過して時代にそぐわない部分・不足している部分があると言うのも、それなら、イ)どこが ロ)どうして改正によってしか解決できないのか を論理的に説明すべきで、憲法変更という結論ありきで、とってつけたような理由を並べるのは国民を馬鹿にしすぎている。 2)憲法学者と弁護士会の見解 *1-3の憲法学者で東京都立大学教授木村草太氏が、①現行憲法下でも規制の目的が自由の制限を正当化できるほど重要で ②規制の方法が合理的かつ必要不可欠なら法律に根拠のある規制は合憲だが ③感染症対策だからどんな制約でも我慢しろという論理は通用せず ④その感染症の抑制が社会にとって重要性があり、科学的・法的根拠に照らして手段が適切であれば重要だが ⑤目標がないままの場当たり的規制が多かったし ⑥自由を制約する政策は法律の正しい解釈に基づく細かな検討こそ必要だが、この1年以上にわたるコロナ禍で政府にはこうした意識が決定的に欠けていることが明らかになり ⑦政府が法の解釈や整合性を気にしなくなったことのマイナス面がわかりやすく示された 等と述べておられ、私も全く賛成だ。 また、*1-4のように、日本弁護士連合会会長の荒中氏も、2021年5月3日、憲法記念日を迎えるに当たっての会長談話として、⑧緊急事態宣言等の下で市民や企業等には外出・移動の自粛や休業・時短等が要請されているが、そのような感染拡大防止策を講ずる場合であっても個人の権利は最大限尊重される必要がある ⑨新型コロナの感染拡大を受けて憲法を改正して緊急事態条項の新設を求める声も与野党の一部にあるが、感染拡大防止は市民の協力を得ての法律上の対応で十分可能で ⑩憲法に緊急事態条項を新設することは、立法事実を欠くだけでなく、個人の権利の侵害に繋がる恐れがある ⑪新型コロナ感染拡大の下でも、立憲主義を堅持し、国民主権に基づく政治を実現することにより個人の人権を守る立場から、引き続き、人権擁護のための活動を積極的に行っていく と書かれており、法律家としての論理性が感じられて納得できた。 (2)新型コロナのワクチン・検査・治療薬について 2020.6.19毎日新聞 2021.4.17時事 (図の説明:1番左の図のように、G7やAPECの中では日本の人口100万人当たり新型コロナウイルスによる死亡率は低いが、東南アジア・東アジアの中では最も高い。これを見て、先進国は新型コロナウイルスによる死亡率が高いのだと理解した人は愚かであり、実際には地理的所在地によって人間側の遺伝的形質や免疫履歴が異なるのである。そのため、日本の成績は悪い方に属する。また、左から2番目の図のように、日本国内で確認された新型コロナ変異ウイルスの中に『由来不明』があるが、これは非科学的であると同時に日本由来ではないかと思う。右から2番目の図は、日本国内で新型コロナに使われる主な薬だが、承認済みは2つだけで厚労省の能力のなさがあらわれている。そして、1番右の図のように、日本は科学技術にかける予算が少なく、今後の産業構造に悪影響を与えそうだ) 1)新型コロナワクチンの開発と普及について 河野規制改革相が、*2-1-1のように、5月10日からの2週間で自治体に届ける高齢者向けの新型コロナワクチンの供給量が自治体の要望量に約400万回分足りないと陳謝したそうだが、まず、誰かが陳謝すれば喜ぶというメディアをはじめとする日本人全般の感じ方はおかしい。何故なら、陳謝されても亡くなった人の人生は戻ってこないため、陳謝などしなくてよい政策を採ることの方がずっと重要だからである。 そして、65歳以上の高齢者向けワクチン接種が4月に始まったそうだが、新型コロナウイルスに暴露される機会が多く、決して患者にうつしてはならない医療・介護従事者に高齢者より先にワクチンを接種するのは当然だ。その後に、高齢者・基礎疾患のある人・不特定多数の客に接せざるを得ない勤労者への接種となる筈だが、そもそも製造業が得意な世界第三位の経済大国と豪語しながら、必要な時に間に合わせてワクチンすら作れず、米ファイザー社からの輸入に頼りながら、公正な判断もできずにロシア製や中国製を馬鹿にしているのは滑稽ですらある。 なお、*2-1-2のように、米製薬大手ファイザーは、2021年の新型コロナウイルスワクチン売上高が260億ドル(約2兆8千億円)、モデルナも、2021年のコロナワクチンの売上高が184億ドル(約2兆円)になる見込みだそうだ。このように、ワクチンも、感染症が蔓延し必要とされる時に1番・2番で完成することが重要なのであり、日本でよく言われるように「時間をかけたからよい」というものでは決してない。そのため、厚労省の非科学的な承認遅れや治験妨害は、経済的にもチャンスを逃す重大な原因になっているのである。 このような中、*2-4-1のように、ワクチンの足りない途上国のWTOへの要請として、バイデン米政権が新型コロナワクチンの国際的な供給を増やすために、特許権の一時放棄を支持すると表明したそうだ。しかし、*2-4-2のように、製薬会社は強く反発しており、ドイツのメルケル政権は「知的財産の保護はイノベーションの源泉で、将来もそうでなければならない」と反対している。リスクが大きく金がかかる研究開発を行う動機づけを失わせないためには、メルケル政権の見解の方が正しい。そのため、新型コロナワクチンを途上国に供給する目的なら、開発した製薬会社の負担ではなく、国が製薬会社から特許権を購入して開発途上国の製薬会社に供与する方法を採るべきだ。メダルその他の報酬がなければ、いろいろなことを犠牲にしてオリンピック等のスポーツで頑張る人はいないのと同じ理屈である。 2)治療薬の治験と承認 イ)アビガンのケース 細胞に入ったウイルスの増殖を抑える薬であるアビガンは、*2-1-3のように、2014年に新型インフルエンザ薬として承認され、製造元の富士フイルム富山化学が2020年3月に新型コロナ向けの治験を始め、2020年9月23日に治験の結果を発表して2020年10月16日に厚労省に製造販売の承認申請をしたが、2020年12月21日の厚労省専門部会で審査を担うPMDAが「エビデンス(科学的根拠)がない」「解析計画やデータの取り扱いに信頼性がない」「新型コロナへの有効性を現時点で明確に判断することは困難」と判断したそうだ。 その科学的根拠がないという理由の1つは、20~74歳の重症でない新型コロナの患者156人が参加し、偽薬とアビガンをのんだ患者の経過を比べ、アビガンをのんだ患者はPCR検査で陰性になるまでの期間の中央値が偽薬をのんだ患者より2.8日短かったが、医師が知っている「単盲検」だったからだそうだが、陰性になるまでの期間が2.8日短かければ、それだけ入院日数が減り、患者や病院の負担も減るのである。 さらに、単盲検だから本当に科学的根拠がないかと言えば、国民への移動の自粛要請や飲食店の時短営業要請よりはずっと明確な科学的根拠があり、「動物実験で胎児に奇形が出る恐れがわかり、副作用の懸念」というのも使う対象を絞ればよいため、厚労省は新型コロナの蔓延を防ぎたくない理由でもあるのかと思うのである。 ロ)イベルメクチンのケース 北里大学の大村智特別栄誉教授が発見し、2015年にノーベル医学・生理学賞を受賞した微生物が生産する天然有機化合物アベルメクチン由来のイベルメクチンを、*2-1-5のように、北里大学大村智記念研究所感染制御研究センターが、新型コロナウイルス感染症の治療薬として、2021年3月に臨床試験を終了して製造元の米製薬大手MSDに試験結果を提供し、MSDは効果を検証しながら承認申請を検討する見通しだそうだった。 米ブロワードヘルスメディカルセンターの研究では、イベルメクチン投与で新型コロナ重症患者の致死率は80.7%から38.8%に改善し、イベルメクチンは駆虫薬として2019年には世界で4億人以上に投与されているが、大きな副作用は確認されていないそうだ。ちなみに、ペニシリンはじめ抗生物質は、生物が他の微生物を排して自らを守るために合成する化合物由来が多い。 その治験結果がどうなったかは不明だが、*2-1-4のように、東京都医師会会長の尾崎治夫氏が「海外で重症化を防ぐ効果が示されているため、抗寄生虫薬イベルメクチンも自宅療養中のコロナ感染者に重症化を防ぐ狙いで投与すべき」「副作用が少ないので、かかりつけ医が治療ができるよう国に検討してほしい」と言っておられ、軽症から重症まで効果があると思われるので、厚労省は新型コロナの治療をしたければ治験を助けて早々に承認すればよかったのだ。 3)変異型について 変異は、生物が遺伝子をコピーする際のコピーミスで起きるため、ランダムに起き、生存により適した変異のみが選択されて残っていく仕組みになっている。そして、地球上に広がった人間が、住む地域に適応して異なる進化を遂げ、さまざまな人種が存在するのと同様、ウイルスも住む地域に適応して異なる進化を遂げ、さまざまな変異が存在するのは当たり前だ。また、人種間の違いも小さなものはあるが、大きくなると生物としての種が変わるわけである。 一方、新型コロナウイルスにとっての住む地域は、宿主である人間の体の中であるため、人間の体の中で早く増殖して次々と感染する能力の高いウイルスほど生き残る確率が高い。従って、日本のように、検査数を絞って原型となる新型コロナウイルスを大量に残したのは、変異を生み出す確率も増え、大失敗だったのである。しかし、治療薬やワクチンに対する新型コロナウイルスの抵抗力は、変異で小さな差は出るだろうが、大きな差は出ないと思う。 そのため、変異型が首都圏で急拡大して5月前半に8~9割を占めるようになるのなら、その理由こそが重要なのだが、*2-2-1は、「①国内の変異型は、英国・南アフリカ型・ブラジル型・由来不明型の4種類がある」「②英国型はウイルスが細胞に侵入する際に用いるスパイクタンパクに細胞と結び付く力を強めるN501Y変異がある」「③由来不明型は関東・東北で拡大し、ワクチンの効果低減が懸念されるE484K変異がある」「④南ア型とブラジル型は両方の変異を併せ持つ」「⑤東京でもN501Y変異に置き換わってきているが、プラスアルファの変異が出る恐れもある」と記載しているだけだ。 しかし、ウイルスがいる限り変異型は発生し、それは国名に意味があるのではなく、宿主である人間側の免疫履歴や生活様式・インフラの違いが変異型ウイルスの生存確率の違いになる。ここで、由来不明型としているのは“日本型”ではないのか?それらの変異型について、厚労省専門家組織のメンバーは、「ゲノム解析を通じて変異型を追い掛けることが重要だ」と話しているそうだが、国民に自粛を促して人の流れを止めるのではなく、数多く検査やゲノム解析を行い、感染経路を分析して、科学的に対処法を考えるのが厚労省の仕事の筈である。 なお、*2-2-2のように、厚労省の助言機関の集計によると、国内で4月に発生した新型コロナのクラスターは463件に上り、場所別では学校・高齢者施設を含む職場(96件)が最多で、会議で使うデスク・電話機・コピー機などの共用備品を通して感染が拡大した可能性があるとされている。私は、共用トイレもそうで、トイレを清潔に保つための改修は経済の停滞している今がやりどきだと思う。 そして、第4波は日常生活全般で感染が懸念される事態となり、対応策として国立感染症研究所の脇田所長は、「大型連休に向けて1人1人が不要不急の外出を減らし、マスク着用などの感染防止対策を徹底してほしい」と話されているそうだが、ウイルスがものを介して感染する理由はマスクの着用を怠ったからではなく、石鹸をつけて流水でよく手を洗うのではなく、アルコールを吹きかけたり擦り込んだりすればよいという指導をしたからだろう。日本で生き残るウイルスは、そういう日本の弱点を突いたものになると思う。 4)新型コロナとオリンピック 「感染拡大が続いているのに五輪中止を決定できないのは、戦時中に無謀な作戦を強行して多くの犠牲者を出したのに責任回避した旧日本軍のようだ」と、*2-3のように、菅首相に批判が殺到しているが、先進国ではワクチン接種が進み移動制限が解除されつつあるのに、厚労省が対応を誤った日本は未だ制限解除もできない状況なので、旧日本軍と同じなのは厚労省である。 そもそも、世界第三位の経済大国になっているのに、「国家の威信のため」などとして1965年当時と同じスローガンを振りかざし、東京という同じ場所にオリンピックを誘致し、大金を使って新国立競技場を建て替えたのには、私は全く賛成できなかったが、誘致した以上は万難を排して完全な形で遂行するのが先進国のやることである。 また、オリンピック選手はオリンピックに出場するために多くを犠牲にして努力してきたのに、4年に1度の機会を逃せば年齢が進んで次のチャンスはない人が多い。そのため、IOCが東京五輪を開催すると各国のオリンピック委員会とともに決めたのなら、オリンピックの開催判断に政治が介入することは控え、誘致した責任として完全な形で開催できるようにあらゆる努力をするのが当たり前である。私には、東京五輪中止派の人の方が、オリンピックを政治利用しているのではないかと思われるので、オリンピックを中止した場合の損害や影響を明確にすべきだ。 なお、「①五輪開催の最も大きな障害は医療陣の確保」「②五輪組織委員会は五輪期間中に1日に医師300人、看護士400人ずつの医療陣が必要と予想」「③医療界は『テレビで五輪を見る時間もない』として難色」「④新型コロナ感染再拡大で昼夜なく働いているのに、5月からはワクチンの大規模接種も始まり、人材派遣は不可能」「⑤日本政府の感染症対策分科会を率いる尾身会長は、組織委員会など関係者が感染レベルや医療の逼迫状況を踏まえて五輪開催の議論をしっかりやるべきとした」などと言って、五輪を開催できない理由を医療に押し付けるのは妥当ではない。その理由は、新型コロナの治療をする医師とオリンピックで働くスポーツドクターは別の診療科であり、医療関係者全員が新型コロナの治療に専念しているわけではないからだ。 さらに、「⑥五輪に参加する選手と大会関係者は出国時点を基準として96時間以内に2回の新型コロナウイルス検査を受けて陰性証明書を提出」「⑦入国時に日本の空港の検査で陰性判定を受ければ14日間の隔離が免除され、入国初日から練習できる」「⑧入国後は毎日1回ずつ新型コロナウイルス検査を受ける」「⑨活動範囲は宿泊施設、練習会場、競技場に制限される」「⑩ここまで制限しながら五輪をやるべきか」とも書かれている。 このうち⑥⑦で十分であり、⑧は、観客を入れて大会を行うなら必要だが、無観客なら毎日1回ずつ検査を受ける必要はないかもしれないが、検査しても毒にはならない。また、⑨⑩は、オリンピックに出場するために多くを犠牲にして努力してきたオリンピック選手は、日本に遊びに来るわけではなく競技で勝つためにくるのであるため、万難を排して参加したいだろう。それは、当然のことである。 (3)環境軽視は生存権の侵害である 2021.4.22東京新聞 JCCCA (図の説明:1番左の図のように、政府はCO₂排出量を2030年までに2013年度比で46%削減するように目標を変更したが、これでも甘いという声が大きい。世界のCO₂排出量に占める日本の割合は、左から2番目の図のように3.4%で小さいという主張があるが、右から2番目の図のように、1人当たりCO₂排出量は、米国・韓国・ロシアに続いて日本は4番目と大きい。日本の部門別CO₂排出量は、1番右の図のように、産業部門と運輸部門が著しく大きい) 1)日本国憲法から見た環境の重要性 日本国憲法は、生存権及び国民生活の社会的進歩向上に努める国の義務として、第25条「1項:すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。2項:国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と規定している。 この25条の意味は、国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有するので、国は生活面のすべてで、社会福祉・社会保障・公衆衛生の増進に努めなければならないということだ。そのため、今回の新型コロナのように、他国の1/100程度の感染者数・重症者数で医療崩壊を起こしたり、原発による放射能汚染リスクを国民に甘受させたりする政策は採ってはならないということで、この条文は多くの事柄に適用できるので覚えておくべきだ。 このうち、温室効果ガス削減については、*3-1のように、菅首相が2030年度の排出量を13年度より46%削減する目標を掲げて50%の高みを目指すと表明されたのはよかったが、2015年のパリ協定から5年、1997年の京都議定書からは23年も経過しているため、遅いと言わざるを得ない。この間に世界の先進国は、脱炭素に向けて産業構造の転換や技術開発の加速を進める政策を行い、日本は遅れれば競争力を損なう状況となっているのである。 2)日本人の歪んだ心 日経新聞は、*3-2のように、「①グリーン成長の野心と下心」というように、グリーン戦略は悪いことででもあるかのように書く点で歪んでいるが、これは少なからぬ日本人が持っている感性だ。ここで言う「野心」とは、「aggressive」の翻訳のつもりかもしれないが、欧米人が使う「aggressive」は「積極的」という意味で、素直な「positive」に近い。逆に、グリーン戦略を下心があるなどとして否定する人こそ、環境改善に「negative」な下心を持つ歪んだ人であり、本当はグリーン戦略で大規模に雇用創出できれば一石二鳥で言うことがない筈だ。 また、「②最も野心的な目標を掲げたのは英国で、グリーン産業革命を表明して総額120億ポンド(約1.8兆円)の政府投資で25万人の雇用創出を狙い、切り札は北海の強い風と遠浅の海を武器とする洋上風力」などと書いているが、得意分野を探して伸ばすのは当然であり、それは野心でも下心でもない。それより、「日本は再エネに有利な条件を欠き、日本には資源もエネルギーもない」などという虚偽を書き、「資源・エネルギーは外国から高い価格で買えばよい」などとして国民や産業に迷惑をかけるのを「馬鹿の一つ覚え」と言う。 さらに、「③EUはいち早くグリーンディールを打ち出し10年間で1兆ユーロ(約130兆円)の投資に踏み切り、民間からも1兆9500億ユーロのグリーン投資を促して雇用を創った」というのは立派なことであり、私も、こういう国がリードして欲しいと思う。それにもかかわらず、「④それだけでなく国際的な環境基準づくりで主導権をとろうとする意図を隠さない」とまたまた歪んだ意見を披露しているが、本当によいものは日本発でも国際基準になるし、歪んだものを無理に押し込もうとしても国際基準にはならず、筋の通った正論が主導権をとるというのが私の経験だ。また、「⑤EUは環境規制が手ぬるい国々からの輸入に関税を上乗せする国境炭素税を導入予定」というのは尤もなことであり、「やはりEUがリードして欲しい」と感じざるを得ない。 このように、それこそ下心ある歪んだ主張を重ねて、「小型モジュール炉は、原子炉をプールのなかに沈めることで緊急時にも外部電源に頼らずに済む」などとして原発の推奨を結論づけているが、冷やした熱は水中に発散されることを無視している上、放射能汚染の問題も解決しておらず、憲法25条違反の政策を国民に押し付けているのである。 3)水素エネルギーで動く都市とEV・FCV 水素を作ったり運んだりするのに原発や化石燃料を使うのは論外だが、*3-3のように、中国や韓国が水素エネルギーを中核として都市を作り始め、交通機関をEVやFCVにするのは歓迎だ。今後は、日本はじめインド・インドネシア・フィリピンなどの人口の多い国は特に続いて欲しいが、人口が少なくてもエベレストなどの自然を観光資源にする国は、まずその付近を水素エネルギーで動く都市にすると観光との相乗効果が図れると思う。 しかし、「生態系」という言葉は、食物連鎖を中心とした生物システムに対して使う言葉であるため、*3-3のように人間の文化や工業に使うのは誤りだ。また、「DNA」も生物の遺伝子を表す言葉であり、インターネットやAI関係 の会社が「DeNA(発音が同じ)」という社名にしているのは、国民(特に子ども)を混乱させ、正確な理解を困難にする。そのため、冗談のつもりでも、社会に悪影響を与える。 運送手段である路面電車・バス・トラックがFCVで静かに走るのは、環境にも景観にも配慮しておりスマートだが、製造業の副産物である水素を使うのは賢いし、再エネ由来の水素にも手を打ち、まずインフラを整えやすい商用車や鉄道に投資を集中して国家主導で需要を作り出しているのは偉い。 これを「強引にも映る市場創出」と感じる記者は、エネルギーイノベーションに「negative」なようだが、これらは「日本の文系人(エリートまで含む)が、生物・物理・化学・数学に著しく弱く、丸暗記の勉強しかしていないのが原因」というのが、理由を長くは書かないが私の結論だ。そして、この文系の暗愚さこそが、水素大国を目指して技術で先頭を走っても、市場の育成をすることすらできずに、日本だけが置いてきぼりになる原因なのである。 なお、*3-4に、「①水素(元素記号H)の普及を阻むのはコストや技術だけではなく、規制も高いハードル」「②ガソリン車やEVは通常の車検のみで利用できるが、FCVは水素貯蔵タンクが車検対象外であるため、国交省とは別に経産省所管の検査が必要で空白期間が生まれる」「③日本では、水素は危険物扱いでガソリンより危険というイメージがある」「④海外では安全に配慮しつつ水素を利用する動きが広がる」と書かれている。 このうち①については、水素は、元素記号で書くならHでは存在しないのでH₂と書く方が正しく、②のように、車検という規制でFCVを使いにくくしているのなら論外だ。③については、ロケットが燃料の水素とそれを燃やすための酸素の両方を積んで地球の重力から抜け出して行くように、水素のエネルギーは大きく、使い方に注意すれば安全だ。そして、今後は、航空機・船・作業機械にも水素燃料を応用して燃料電池の関連産業を育てることが必要であるため、航海を始める前に座礁していたのでは話にならない。 また、英国はじめEUのように、既存のガス管を活用して、ガスへの水素混入を広げるのもよいと思う。なお、日本人には「技術で勝って普及で負ける」などと言う人が多いが、製品として普及していく過程で開発される技術が多いため、普及で負ければ技術でも負けるのである。 (4)医療・介護について (図の説明:左図のように、日本の人口1000人あたり病床数は13.1で、他の先進国と比較して著しく高い。また、中央の図のように、急性期病床数も人口1000人あたり7.79で、他の先進国と比較して著しく高いが、右図のように、精神科病床数が多く、精神科の入院日数も他国と比べて長いため、急性期や感染症に当てることのできる病床数が他国と比べて多いとは言えない) (図の説明:左図のように、公立病院の71%、公的病院の83%が新型コロナ患者を受け入れたが、民間病院は21%しか受け入れておらず、これは、院内感染を起こすと診療と病院経営に支障が出るからだろう。また、中央の図のように、日本の人口1000人あたり医師数・看護師数・病院数・病床数・CT台数・MRI台数の国際比較があるが、病院数・病床数が多い割には医師数・看護師数が少なく、急性期に対応できる病院は少ないと推測できる。なお、右図のように、医療施設に勤務する人口10万対医師数は、東京及び関西以西で多い) 1)医療制度について イ)“非効率な医療供給体制”とは何か? 日経新聞は、*4-1-1のように、「①団塊の世代が75歳以上になり医療費が急膨張する2022年の壁を乗り越えるには非効率な医療供給体制の改革が必要」「②都道府県別1人当たり医療費は、病床数が全国最多の高知県は病床数最少の神奈川県の3倍」「③1人当たりの医療費は人口当たりの病床数と関係が強く、供給が需要を作り出しており、病床数が危機時の力を左右するとは限らない」「④神奈川県はコロナ患者を症状ごとに重点医療機関やホテル療養で柔軟に対応する神奈川モデルを導入して、病床数最少でも県主導で効率的な体制を作り、その手法は全国に広がった」と記載している。 医療制度改革は、①のように、団塊の世代が75歳以上になって医療費が急膨張するのを止めるという財政的見地のみで主張する人が多く、これが重大な問題を引き起こしている。何故なら、75歳以上になった人が医療のお世話になる機会が増えるのは当然であり、医療費が増えるのも当たり前であるため、これを抑えれば日本国憲法第25条「1項:すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。2項:国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」に反するからである。 また、②については、高知県と神奈川県は人口の年齢構成が異なるため、高知県の方が病床数が多く、医療費が高くなるのは理解できる。その年齢構成の違い以上に高知県の病床数が多いとすれば、介護制度が整っていないため高齢者を社会的入院させ、Quality of Life(生活の質、以下QOL)の低い生活を強いている状態ではないかと思われ、このままなら、その状態は次第に全国に広がるだろう。 さらに、③は、「医療従事者が儲けのために病床数を増やして不要な供給を作り出し、危機時には役立たない」と言っているのだが、慢性期の高齢者が多く入院している病床を感染症病床に併用することはできないため、急性期の感染症に対応できる病院を効率化と称して減らした政策ミスが問題なので、それを医療従事者の強欲のせいとして責任転嫁することは許されない。 なお、④の神奈川県の対応は、重点医療機関ですべてのコロナ患者を最後までケアできる医療体制になっていなかったため、移動制限によって空室が増えたホテルを療養病棟のように使ったもので、それが全国に広がったのは同じ理由からだ。しかし、数週間程度の療養期間しかない患者のケアを症状毎に異なる病院で行えば、転院先の病院では患者の病態を把握しにくく、短期間で転院させられる患者も落ち着いて療養できない。 その上、*4-1-1は、「⑤日本の千人あたり病床数は先進国最高水準で英国・米国の約5倍だが、感染爆発時は小さな医療機関を中心にコロナ患者をたらい回しにし、医療供給体制に無駄のあることがコロナで浮き彫りになった」「⑥自民党財政再建推進本部小委員会は、地域に応じた医療体制構築と医療費適正化の計画作りで都道府県のガバナンス強化を求めたが、都道府県は民間病院に病床機能の転換を促すことをためらっている」「⑦現行制度で医療体制整備の権限は都道府県にあり、国は都道府県毎に『地域医療構想』を作るよう求めて過剰な急性期病床の削減等を進め在宅医療への転換を促してきた」「⑧全国知事会は医療提供体制の議論について、地域医療の混乱を理由にコロナ収束後に先送りしたい意向」「⑨医療行政は責任を負いたくない地方自治体と、本音では権限を失いたくない厚労省の利害がもつれあう」と記載している。 ⑤の「日本の千人あたり病床数は先進国最高水準で英国・米国の約5倍」というのは間違っていないが、日本の病床数の内訳は精神科病床や慢性期病床が多いため、感染症に対応できる病院か否かを正確に把握しなければ比較しても意味がない。また、小さな医療機関が感染症患者を受け入れるのは、院内感染のリスクから困難であるため、総合的な医療計画が妥当であったか否かを検証すべきなのだ。 さらに、⑥⑦のように、政治・行政は、地域に応じた医療体制構築と医療費適正化と称して都道府県に民間病院への病床機能転換を促し、急性期病床の削減を進めて在宅医療への転換を促してきたが、民間病院は収支の合わない診療科に長期に医療資源を割くことはできない上、急性期病床で対応すべき病気を在宅医療で対応することも不可能であるため、*4-1-3のように、感染症の中等症・重症には公的病院や大規模基幹病院の役割が大きかったのである。 そのため、⑧のように、全国知事会が医療提供体制の議論を先送りしたのは正解で、これを⑨のように、利害関係のみに結び付けるのは質の悪い議論だ。 ロ)日本の医療の弱点は、コロナで浮き彫りになったのか? 日経新聞は、*4-1-2で「①感染者を受け入れる病床が足りなくなる事態を医療崩壊と呼ぶなら、日本では2020年9月13日時点で医療崩壊は起きていない」「②OECDの調査で、人口千人当たり病床数は日本が13.1と突出して多く、OECD加盟国平均の4.7を大きく上回る」「③その病床は、一般病床・療養病床・感染症病床・結核病床・精神病床のうち感染症病床は1886で、152万を超える病床全体に占める割合は0.1%程度」「④厚労省は緊急時には感染症病床以外の病床に入院が可能との見解を示したが、それでも病床数に入院者数が近づいている地方がある」「⑤厚労省は地域医療構想の下で、病床数を削減する方向を打ち出していたが、コロナ対応で病床不足が問題となった」「⑥慶応大学の土居教授は『地域医療構想で打ち出したのは一般病床と療養病床の再編で、新型コロナの病床不足は、病床が足りないのではなく機能分化と連携が進んでいなかったことが問題』と強調」「⑦みずほ情報総研の村井チーフコンサルタントは『病床をとにかく増やすというのは現実的でなく、どんな機能の病床を増やすのかを明確にすることが必要で、これは地域医療構想の考え方とも一致する』と述べた」と記載している。 2021年5月10日現在では、①の感染者を受け入れる病床が足りなくなる医療崩壊が大阪府で起こっているそうだが、検疫はザルである上に、他県との医療における広域連携ができていないため、やはり人災だ。②③については、イ)で述べたとおり、病床数ではなく全体を総合的に考えて、地域に少なくとも1つは頼れる基幹病院を持っておく必要があるということだ。④の緊急時に感染症病床以外の病床に感染症患者を受け入れるのは、今回は仕方がなかったとしても、今後は感染症も軽視しないゆとりある医療計画を立てておくべきである。 ⑤については、医療費削減目的ありきのケチな医療制度改革が、経済を止めて大出費を招いた事例であり、⑥の土居教授の発言は言い訳がましいが、⑦の村井チーフコンサルタントの「どんな機能の病床を増やすかを明確にする医療計画が必要」というのは、そこまで考えた地域医療計画を立てなければならないという意味で正しい。 ハ)本当に必要な医療体制は何か? (図の説明:日本における新型コロナによる死者数は、左図のように、欧米の1/50~1/100だが、医療崩壊・医療崩壊と騒がれている。一方、世界の専門医の平均年収を比較すると、日本は欧米の1/2~1/3であり、先進国の中では著しく低い。さらに、右図のように、米国の専門医は診療科で年収が2倍以上の開きがあり、3Kで重労働になりやすいため人材が集まりにくいと思われる科ほど高給となっており、これは合理的だと思う) 結論から言って、どの地域にも当てはまる最適解はないが、日本国憲法第25条の「1項:すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。2項:国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」という規定は、国民のために護られなければならない。 具体的には、どの地域に住んでいても、人種・年齢・性別・社会的身分等にかかわらず、必要な場合は最新の医療を受けられ、平時も気軽に受診でき、健康管理しやすい医療・介護システムが必要で、これは国や地方自治体が普段から心がけて作っておくべきインフラの一つである。 また、日本国憲法は14条で、「すべて国民は法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において差別されない」と規定しており、ここに年齢による差別が記載されていないのは、憲法制定当時は当然のこととして高齢者を大切にしていたため、わざわざ書く必要がなかったからである。 このような中、*4-1-3は「①日本の医療機関は自由開業制で、政府・都道府県は民間病院に患者の受け入れを命令する権限はない」「②税金で医療を運営する国には、感染症等の緊急時に医療機関や医療従事者を国や地方政府が動員する仕組みもあるので、社会保険方式の日本も医療機関や医師には医療体制を確保する責務がある」「③菅首相は緊急事態の際の病床確保に関する特別措置が必要とした」「④非常時に医療機関の経営の自由を制限し、強制力を持って医療機関に病床を確保させることができる仕組みを早急に整えるべき」としている。 この①②③④をまとめると、「非常時(緊急事態)には、医療機関の経営の自由を制限して病床を確保させることができるよう、政府や都道府県が民間病院に患者の受け入れを命令する権限を有するようにすべきで、その根拠は医療は社会保険方式だから」ということだが、これまで述べてきたように、政府や一部都道府県は自らの不作為や失政によって生じた事態を「緊急事態だ」「非常時だ」「変異種だ」と主張しているのであり、新型コロナ以外の病気は眼中にない状況であるため、政治・行政に強い強制力を持たせれば状況が改善するとは思えない。 それどころか、政府や都道府県が民間医療機関の経営の自由度を下げて医療機関への強制を増やせば、短期的には通常の医療に弊害を及ぼし、長期的には医師の志望者が減って優秀な人材を医療に送り込めなくなることにより、むしろ国民の命を危険に晒しそうである。 また、*4-1-3は「⑤小規模医療の源流は1961年の国民皆保険制度の創設で公的病院に病床規制が導入され、診療所の一部が規模拡大して入院機能を持つ病院に衣替えした」「⑥民間開業医を中心とする医療体制はこうして形成され、経営の自由が確保された病院が増加の一途をたどった」「⑦世界一とされる医療へのアクセスの良さは日本が誇る長寿社会を実現する大きな支えになったが、非常事態に対応できない致命的な欠陥が露呈したので、改革をためらうべきではない」「⑧医療機関の徹底した役割分担の必要性はコロナ前から指摘されており、軽い病気なのに大病院で受診する人が多く、患者に追われて数十時間も寝ずに手術をする外科医がいる一方、急性期病床を名乗りながら重篤ではない患者で病床を埋める病院がある」「⑨これでは医療人材の確保が年々難しくなる今後の人口減少社会で医療の質を維持できないため、改革は喫緊の課題だ」とも記載している。 このうち⑤については、普段は収支の合わない診療科や病床を持つには公的病院が最適であるため、数合わせで公的病院の病床規制を行ったのは失敗だった。⑥については、経営の自由度が大きい民間病院の方が、最新の医療設備や快適な闘病空間を備えていることも多いため、診療所の一部が規模拡大して入院機能を持つ病院になったのも時代の流れとして必要だった。⑦については、「緊急」「非常事態」とさえ言えば何でもありではなく、その定義を限定すべきであり、本当に非常事態なら公的病院だけでなく自衛隊病院を使うのも選択肢の一つである。 ⑧の医療機関の徹底した役割分担については、軽い病気か重い病気かを患者が判定することはできないため、まず大病院でしっかり検査して病名を明らかにしてから、その後の対応を決めるべきである。そのため、「紹介状のない人は大病院で受診するな」とか「37.5°C以上の熱が4日以上続かなければ病院には行くな」等の誤った強制が多く、PCR検査までケチったことが問題なのであり、これは、政府が⑦の医療へのアクセスを阻害した重大な事例である。 なお、⑧の「患者に追われて数十時間も寝ずに手術をする外科医がいる」というのは、技術・設備・スタッフ等の揃った病院で手術するのが合理的だからで、そういう病院の医師はじめスタッフ不足の方が問題なのだ。また、⑨の「医療人材確保が年々難しくなり、今後の医療の質を維持できない」というのは、政府や都道府県が医療スタッフに不合理な強制や負担を押しつけず、医師などの医療スタッフの年収を先進国並みに引き上げ、女性差別をやめて働く人の母集団を2倍にすれば、解決すると思う。 また、*4-1-4の家庭医は、*4-1-3で悪いかのように書いた民間開業医が主として担うため、病床を持たない民間開業医も一定数は必要で、初期診療や慢性期対応を任せられることが重要なのである。家庭医がおり、介護体制が充実していれば、自宅療養をしやすくなるため、QOLを下げてまで社会的入院をする必要はなくなる。 しかし、病院の機能を低下させ、介護制度を充実するどころかその逆にしてきたため、「世界に冠たる国民皆保険は幻想にすぎず」「介護制度も未だに充実していない」ということとなった。また、薬やワクチンの開発にも行政のネックが浮き彫りになった。 そのため、私は、総合診療を担える家庭医がいることには賛成だが、医療の主役である患者第一を貫けば、どの病院・診療所にもかかれる「フリーアクセス」の原則は保つべきであり、総合診療を担える家庭医の実力が認められれば、強制しなくてもその重要性は自然と高まると思う。日本の行政は、財政削減と効率性だけを求めて、国民の権利を制限し、強制しさえすればうまくいくなどと考えているため、かつての共産主義の失敗と同じことを繰り返し、「世界に冠たる」という名を返上する結果となってしまったのだ。 二)ザルになっている検疫と厚労省の言い訳について 日本の水際対策について、*4-1-5のように、自民党の佐藤外交部会長が政府の対策の甘さを指摘し、自民党外交部会が入国者の管理を強化するよう政府に要求したところ、田村厚労相は「①憲法の制約上、移動の自由がある」「②我が国は私権の制限に対しての法律がないため、強制するのは難しい」と述べ、「③厚労省は、過去にハンセン病患者を強制隔離し批判を浴びた歴史がある」としている。 しかし、①②については、日本国憲法22条は「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」と定めており、ワクチン接種証明や陰性証明を持たない人に対する原則14日間のホテル待機が本人に与えるディメリットは、「公共の福祉」のメリットと比較して著しく小さいため、憲法違反にならない。 また、③のハンセン病患者の強制隔離は、1947年に特効薬ができて「公共の福祉」のメリットがなくなった後まで続き、それから約50年後の1996年にやっと「らい予防法」が廃止されたが、それまで無意味にハンセン病患者に対して人権侵害や家族まで含む差別を続けて人生を台無しにしてきたので、深刻さの質が全く異なる。にもかかわらず、厚労省がこの事例を引き合いに出すとすれば、その違いもわからないほどの馬鹿でなければ意図的であり、こういうことをする人は厚生労働担当にふさわしくないと言わざるを得ない。 2)介護制度について *4-1-4には、「①高齢コロナ患者が回復期も病院にとどまり、医療職が介護を提供する例がみられる」「②都道府県が域内の医療機関に、コロナ患者の重症度に応じて機能分担・連携してもらうのは難しいので、医療の公定価格である診療報酬の一定範囲を県独自に設定できるようにすれば、病床誘導がしやすく医療費抑制への動機づけになる」「③地域ごとに医療機関と介護施設が円滑な連携策を探ってほしい」とも書かれている。 しかし、①③については、脳卒中等の患者が急性期を終えて慢性期に入った時に自宅療養するのに介護は不可欠だが、感染症は慢性疾患ではない上、患者を自宅に帰せば家族に感染する。その上、介護士は感染症防護を徹底しているわけではないため、介護士や介護用器具から感染する可能性もあり、介護を通じて別の患者に感染する可能性が高くなる。さらに、感染症は比較的短期間で治癒するため、重症度に応じて病室を変更することはあっても同じ病院で完治するまで治療するのが、患者の安心感に繋がる。 このように慢性疾患と感染症の違いすら理解していない人が、②のように、医療の診療報酬に踏み込んで変な病床誘導を推進し医療費抑制に繋げようとすることが、感染拡大を助長してより大きな惨事を引き起こしていることを忘れてはならない。まさか、「高齢者はコロナで早く死んでもらった方が、年金給付や医療・介護サービスが不要になって助かる」などと思っているのではないだろうが、仮にそうだとすれば日本国憲法25条違反だ。 このような中、*4-2-1に、「④介護保険料が4月から改定され、65歳以上の高齢者が支払う介護保険料は、2000年の介護保険制度開始時の2倍の月額6,000円程度になる」「⑤年金で暮らす高齢者の負担は限界に近づいた」「⑥介護保険サービスの費用は、利用者が払う自己負担分を除いて加入者の保険料と税から半分ずつ賄う」「⑦介護保険料は40~64歳については毎年改定され、加入する公的医療保険を通じて納付する」「⑧65歳以上の保険料は市区町村や広域連合毎に3年に1度見直され公的年金からの天引きが原則」と書かれている。 この④⑤⑥⑦⑧は事実だが、介護保険制度創設に尽力した私は、年金生活の高齢者に集中して重い介護保険料負担を課している点で全く不本意だ。また、65歳以上の人は、要介護状態や要支援状態である場合はすべて介護保険適用の対象となるのに、40~64歳の人は、受けられる介護サービスに「老化に起因する指定の16疾病で介護認定を受けた場合に限る」という限定があるのも非科学的で不合理だと思っている。 さらに、「⑨高齢化で介護が必要なお年寄りが増え、人手不足の介護職員の処遇改善のために、介護報酬が4月から全体で0.7%引き上げられた」「⑩保険料アップに繋がったが、公的年金給付額は賃金水準下落を受けて4月分から0.1%引き下げられた」「⑪保険料は高齢化率や要介護認定率が高い自治体ほど高く、大阪市は8,094円まで上がった」「⑫このままでは高齢者の生活費が圧迫され、介護サービス利用時の原則1割負担が払えず、介護保険に加入しながら利用できない」というのも事実だが、このうち⑩⑪⑫は、明らかに邪魔者ででもあるかのように高齢者いじめをしており、憲法25条違反だ。 また、⑨については、介護保険制度はサービスの担い手の仕事を確保するために作った制度ではなく、介護サービスを受けるべきユーザーのために作った制度であるため、日本人の潜在看護師や看護師資格を持つ外国人労働者など比較的安価で介護に志を持つ質の高い労働力の導入を検討したり、車椅子などの介護用品に高すぎる価格をつけたり不要な人に支給したりしていないかなど、支出の妥当性も検証すべきだ。 最後に、「⑬日本の高齢化は2040年頃にピークを迎え、そこに向けて介護人材を確保してサービスを充実させることは避けて通れない」「⑭それを抜本改革抜きに実現しようとすれば、財源捻出のため保険料は天井知らずになり『介護を社会全体で担う』という介護保険制度の理念は破綻しかねない」「⑮介護保険料は40歳以上が支払っているが、支え手を増やすために20歳以上に広げる案も検討せざるを得ない」というのも事実だ。 しかし、私は、介護サービスの提供に関する負担と給付の不公平是正のため、働く人すべてが介護保険制度に加入して保険料を引き下げ、出産・療養などの老化に起因しない介護ニーズにも応えられるよう単純明快にするのが第一だと考える。介護サービスが充実すれば自宅療養しやすくなるため、社会的入院の必要性が低くなって医療費は下がるだろう。 なお、*4-2-2は、「⑯一定の収入がある75歳以上の医療費窓口負担を1割から2割に引き上げる医療制度改革関連法案が衆院厚生労働委員会の賛成多数で可決し」「⑰単身なら年金を含み年収200万円以上、夫婦世帯なら合計年収320万円以上の収入ある高齢者を2割負担として現役世代の負担増を抑える」としているが、年収限度が著しく低いため、月額医療費に上限を設けることが必要不可欠だ。この時、どうせ戻ってくる医療費なら、窓口負担は避けた方がよい。 (5)日本は、本当に領土・領海・排他的経済水域を保全する意志があるのか? 朝日新聞 海上保安庁 (図の説明:尖閣諸島に対する日中の領有権の主張は左図のようになっている。また、尖閣諸島は、中央の図のように、日本の石垣島と台湾からともに170kmの距離にあるが、李登輝総統は「尖閣諸島が台湾領だったことはない」と言っておられた。そして、中国が尖閣諸島の領有権を主張し始めたのは、右図のように、排他的経済水域境界付近の海底で原油が発見されて以降のことであるため、中国の方に恣意性があるだろう) ameblo canpan goo (図の説明:日本は四方を海に囲まれた島国であるため、左図のように、排他的経済水域が世界で6番目に広い。さらに、中央の図のように、日中中間線付近に石油・ガス田があり、そのほかレアアース・コバルトリッチクラフト・メタンハイドレート等も多く埋蔵されているため、現在では「資源のない国」ではなく、単なる「掘る気のない国」になっている。さらに、右図のように、メタンハイドレートは領海内にも多く存在し、交通機関に使わなくても化学製品の原料として使えるため、今後は資源を買う国ではなく資源を売って税外収入を得る国になるべきだ) 中国全人代が、2021年4月29日、「①海上交通安全法を改正して外国船が領海に入った場合は中国の判断で退去を命じたり罰金を科したりできるようにし」「②中国は尖閣を『固有の領土』と主張しており」「③海警局に武器使用を認めた海警法も2021年2月に施行していたため」「④尖閣周辺で操業する日本漁船にとってはさらなる脅威となり」「⑤領海や接続水域より広い『管轄海域』で中国の実効支配が進む懸念がある」と*5-1に書かれている。 これに対し、日本政府は、前から「⑥尖閣に領土問題はない」「⑦一方的な現状変更に反対する」「⑧自由で開かれたインド太平洋の航行の自由」という対応をしてきたため、現状に意義はないから変更せずに誰でも自由に航行できるようにしようと主張して中国の行動を容認していることになる。これが世界の率直な受け取り方であり、メディアでよく言っている「大人の対応」というよりは、不作為に近い対応だ。 また、*5-2のように、中国が2021年4月に空母を沖縄本島・宮古島間の海域に航行させ、尖閣諸島周辺で中国海警局の船が領海侵入を繰り返している中で、同年4月の日米首脳会談を受けて、4月30日に日米制服組トップ会談が行われ、台湾海峡の平和と安定の重要性を確認し、日本と米国は共同で抑止力と対処力を強化すると申し合わせたそうだ。 日本は米国と日米安全保障条約5条に基づく「米国の揺るぎないコミットメント」を再確認し、多国間協力を進めていく方針でも合意して、これに基づいて英国は空母「クイーン・エリザベス」を日本に派遣すると決め、フランスも日米と離島防衛訓練を実施するそうだが、尖閣諸島の領有権と中国海警局の船の領海侵入については、どう話し合われたのだろうか? しかし、このような時に、「米中対立に巻き込まれないよう・・」「中国とは経済で切っても切れないから・・」と言ったり、聞く方がくだらないような同盟国首長の批判のための批判をしたりしているのは、どこの国のためにこういうことをしているのかを忘れているようで、日本のメディアに眉をひそめさせられた。 また、台湾の独立性について無関心で「寄らば大樹の陰」を決め込んでいるのも、節操がない上に日本国憲法前文の中の「いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は普遍的なものであり、この法則に従うことは自国の主権を維持し他国と対等関係に立とうとする各国の責務であると信ずる。日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓う(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=321CONSTITUTION 日本国憲法 参照)」に反している。 (6)知識と判断力を得られる教育にするには・・ (図の説明:左図のように、英国は、4歳から初等教育を始め、15歳までの11年間が義務教育である。日本は、右図のように、3歳時点で90%近くが幼稚園か保育園に通っており、せっかく預かるのならいろいろ教えた方がよいし、教育格差はこの時代から始まっているため、3歳から義務教育を始めてはどうかというのが、私の意見だ) (図の説明:左図のように、高校進学率は全世帯では既に99%に達しているが、生活保護世帯は93%であり、大学進学率はさらに大きな差があるため、保護者の所得格差は次世代の教育に影響している。また、関東以北では公立高校でも男女別学の地域があり、中央の図のように、私立進学校は多くが男女別学であるため、ジェンダーは初等教育から始まっている。国立大学では文理融合型の学部ができているが、大学教養程度の基礎知識は、文系・理系を問わずすべての人が持っていた方がよいと思われる) 日本では、*6-2のように、「課題解決力」を育成するとして文系・理系の枠組みを超えた文理融合型学部の創設が国立大学で広がり、高校で文系のクラスにいた東京都内私立高校の女子生徒が「文理融合型」の学部に勧められたそうだ。しかし、率直に言って文系・理系のどちらに進むか決めかねている場合は、理系クラスにいなければ理系には進めない。 その理由は、日本の高校では、理系クラスは数IIIまで教えるが、文系クラスは数IIまでしか教えないため、文系クラスから大学の理系学部に進学するのは困難だからで、逆に理系クラスが文系に比べて文系科目の勉強量が少ないわけではないため、理系クラスからは大学のどの学部に進学することも可能だからである。 しかし、東京周辺やそれより北の地域は、公立高校でも未だ男女別学で、女子高には理系コースのないところもあるそうで、さらに、私立の進学校は男女別学ばかりと言っても過言ではないため、ジェンダーは初等・中等教育から始まっているのである。 なお、九大が文理融合型の「共創学部」を設けたのは、異なる視点や学問的知見を持つ人が連携して新たなものを創造する課題解決力の獲得をめざすことが目的だそうだが、これは現在の初等・中等教育を前提として大学内でできることをしたのだろう。私は、大学の教養くらいまでの基礎知識は、共通言語として理系・文系にかかわらず誰でも身に着けておくことが必要で、そうでなければ仕事等で他の専門分野の人と話をした時に、お互いの話を理解して次のアクションに結び付けることができないと思う。 それでは、大学の教養くらいまでの知識を、現在は95%の人が進学している高校の卒業時までに習得させる方法があるかと言えば、幼稚園と小中高の就学年齢を3年前倒しすればできる。 *6-1の私立玉川学園のケースでは、秋入学を導入して小学校教育の開始を半年繰り上げ、高校まで学ぶ「初等中等一貫教育学校」を作り、幼稚園年長児(5歳)の9月から小1の学習を始めて翌年6月で1学年を修了することを構想しており、こうすると、高校までの教育課程全体を半年前倒しして、海外の大学に進学したり、ゆとりを持って国内の大学に進学したりできる。 しかし、諸外国には、4~5歳児から小学校に就学させる国も少なくないため、学校教育法の義務教育開始時期を「満6歳に達した日の翌日以降の最初の学年の初め」ではなく、「(今では90%以上の子が幼稚園か保育園に通う)満3歳に達した日の翌日以降の最初の学年の初め」に変更して小学校教育を始め、義務養育期間を12年か15年に伸ばせばよいと、私は思う。 何故なら、義務教育期間を中学校までとすれば3年伸びて12年となり、高校までとすれば15年となって、現在の大学の教養くらいの知識までを、高校でゆとりを持って教えることができ、大学教育はもっと専門性の高いものにできるからだ。そして、中等学校以上は、義務教育であっても受験して、合格すればその学校に入学できる制度にすればよいだろう。 ・・参考資料・・ <改憲の危険性> *1-1:https://digital.asahi.com/articles/ASP535S6SP53UTFK009.html (朝日新聞 2021年5月3日) 緊急事態条項や「改憲4項目」実現を 首相がメッセージ 菅義偉首相は憲法記念日の3日、改憲派の集会に自民党総裁としてビデオメッセージを寄せた。新型コロナウイルスの感染拡大に触れ、大災害などの時に内閣が国民の権利を一時的に制限する「緊急事態条項」に関し、「極めて重く大切な課題」と語った。その上で、同条項や、憲法9条への自衛隊明記を含む自民党「改憲4項目」の実現をめざす考えを示した。この集会には安倍晋三氏も首相当時にメッセージを寄せており、菅首相も同じ形をとった。首相は「現行憲法も制定から70年余り経過し、時代にそぐわない部分、不足している部分は改正していくべきではないか」と述べた。続けて「新型コロナ対応で緊急事態への備えに関心が高まっている」とし、「大地震等の緊急時に国民の命と安全を守るため、国家や国民がどのような役割を果たすか、憲法にどう位置づけるかは極めて重く、大切な課題だ」と訴えた。さらに「自衛隊は大規模災害や新型コロナへの対応で国民の多くから感謝されているが、自衛隊を違憲とする声がある」とも主張。その上で、自民党が掲げる「自衛隊明記」「緊急事態条項創設」「参院選の合区解消」「教育無償化」の「改憲4項目」について、「自民党は、(国会の)憲法審査会で活発に議論を行っていただくため、憲法改正のたたき台を取りまとめている」と強調した。また、与党が6日にも衆院憲法審査会で採決をめざす、憲法改正の手続き法である国民投票法改正案に関し、「憲法改正議論を進める最初の一歩として、成立を目指さなければならない」と意欲を示した。菅首相は改憲について、昨年9月の就任以来、国会演説やメディアのインタビューなどで、国会での議論への期待を述べるにとどめてきた。「先頭に立って責任を果たしていく」と訴えた安倍氏に比べ、改憲への意欲は低いとされる。先月の訪米時にも、米誌ニューズウィークのインタビューで、首相は「(改憲は)現状では非常に難しいと認めなければならない」と話している。ただ、今秋までに衆院選や自民党総裁選が予定されることから、自民党の支持基盤である保守層に向けてアピールする狙いがあるとみられる。一方、立憲民主党の枝野幸男代表は3日、護憲派の市民団体が開いたイベントにオンラインで参加。コロナ対策を理由に「緊急事態条項」創設のための改憲を自民党などが訴えている点について、「公共の福祉にかなう私権制限は現行憲法でも許されている」とした上で、「必要な対策が打てていないのは、根拠なく楽観論に基づき、命や暮らしを守ることを最優先しない政策判断にある。まったく関係ない憲法のせいにしている」と批判した。ただ、枝野氏は、国民投票法改正案については触れなかった。同じイベントに参加した、共産党の志位和夫委員長は同法案について「憲法改定に向けた地ならしが狙いだ。採決を断固として止めよう」と訴えた。 *1-2:https://www.sankei.com/politics/news/210503/plt2105030026-n1.html (産経新聞 2021.5.3) 改憲派集会に参加した与野党幹部・有識者らの主な発言 3日にオンライン形式で行われた憲法改正を訴える公開憲法フォーラム「この憲法で国家の危機を乗り越えられるのか!-感染症・大地震・尖閣-」(民間憲法臨調、美しい日本の憲法をつくる国民の会共催)では、与野党幹部や有識者らが講演などを行った。主な発言は次の通り。 ■自民党・下村博文政調会長 南海トラフ巨大地震のような大災害がこれから30年以内に70~80%の確率で発生する。そのときに感染症などがもし重なっていたとしたらこの国はどうなるのか。そのときの対応として世界では常識の緊急事態条項を入れなければならない。 ■日本維新の会・足立康史氏 憲法改正の中身の議論を進めるためにも、国民投票法改正案についてはただちに採決し、速やかに可決・成立を図るべきだ。立憲民主党が改正案に対する修正案を提示してきた。付則に3年の期限を切り、CM規制や資金規正に関する検討規定を設けるというもので、常識的な範囲だが、立民や共産党に常識は通用しない。3年間は手続きに関する議論を優先し、憲法改正を拒むカードにさえしかねないと危惧している。 ■国民民主党・山尾志桜里氏 (国の交戦権を否定した)憲法9条にしっかり自衛権を位置付け、それを戦力であることをきちんと認めた上で、国民の意志で枠づけをしていくことをこれからも皆さんの知恵を借りながら訴えたい。国家が危機を乗り越えるために必要不可欠な力を、憲法で無視し続けることでその力を抑制しようというのは、日本の「法の支配」にとっては有害だ。 ■日本経団連・井上隆常務理事 緊急事態条項を持たない憲法は世界でもまれだ。「オールハザード型」の危機対応にはなっていないことは気がかりで、複合型の災害や国家の危機を乗り越えられるのか、法治国家としての制度的な備えは十分なのか、今こそ再考する必要がある。わが国最高法規である憲法も社会の変化や時代に即し、国民的な議論が行われることは当然であり、決して不磨の大典ではない。国民一人一人が議論をし、次の世代に引き継いでいく作業が必要だ。 ■日本青年会議所・佐藤友哉副会頭 今の憲法には住民自治を明確に示す言葉がない。新型コロナウイルス禍では感染対策は地域によってさまざまだ。地域の実情にあった対策が打てるように国と自治体の権限のあり方を考えるべきだ。これからの地域発展を考える上でも、地方自治に関する憲法のあり方が今後大いに議論されることを心から期待する。 ■国士舘大・百地章特任教授 国家的な緊急時においても、国会の機能を維持し、国民の生活を守る必要がある。例えば、感染症の拡大によって全国から国会議員が集まれず、定足数が満たせない場合、どうするのか。来週に国会で感染症が発生し、定足数を満たせなかったら、すぐに起きる問題だ。国会の機能を維持するためにも憲法に根拠規定を置く必要がある。 *1-3:https://digital.asahi.com/articles/ASP515JTYP4XUPQJ008.html?iref=comtop_7_01 (朝日新聞 2021年5月3日) 制限と補償の前に、問いたい法解釈と統治 木村草太さん いま、日本の統治機構の憲法原則が脅かされている――。憲法学者の木村草太さん(東京都立大学教授)は言う。長引くコロナ禍で、移動や営業の自由が制限される生活が続き、十分な補償がない「制約」には、反発の声が繰り返し上がる。そんななか、統治のあり方にこそ、日本社会の危機の本質がある、という指摘だ。どういう意味なのかを聞いた。 ●必要なのは正しい解釈に基づく検討 ――東京や大阪、京都、兵庫で緊急事態宣言が出されています。「感染拡大を抑えるため」「人の流れを止めるため」という理由です。結果、移動や営業の自由に制約がかかっている。そもそもこの状況は、日本国憲法が保障する自由の侵害には当たらないのでしょうか。 「結論からいうと、二つの条件が満たされれば、私権の制限は可能です。①規制の目的が自由の制限を正当化できるほど重要で、②規制の方法が合理的かつ、必要不可欠であれば、法律に根拠のある規制は合憲とされます。コロナ禍に当てはめれば、毒性の強い感染症のまん延を防ぐという『目的』の重要度は高い。感染症の専門家が合理的で必要だと考え、かつ法律に即した『手段』であれば、自由の制約は正当化され得るということになります。日本に限らず、欧米など立憲的憲法を持つ国々では、このような論理でコロナ禍における自由の制約がなされてきました」 ――意外にハードルが低いように聞こえます。 「いや、違います。むしろ『感染症対策なのだから、どんな制約でも我慢しろ』という論理は通用しないことを意味しています。その感染症を抑制することが社会にとってどれほどの重要性を持つのか、そして制約の内容、すなわち手段が科学的・法的根拠に照らして適切なのかという視点が重要です。そして法的根拠も伴わなければなりません。米国では、制約の度合いが適切な範囲を超えているから違憲だ、という判決も出ています」 ――「やりすぎ」はいけない、ということですね。 「感染症の拡大を止めるという目的に対して、その対策は役に立っているといえるのか。もっと緩やかな制約で効果的なものはないのか。こうした細やかな検討が不可欠です。具体的にいえば、人が集まってもほとんど会話しない映画館や、個人が黙々と打つパチンコ店の営業を制約する必要があるのか。営業自粛を要請するとして、それに従わない場合の罰則はどの程度にするのか」 ●ユカちゃん店主、首相答弁に衝撃 コロナ禍の自由とは? 「言い換えれば、自由を制約する政策には、こうした法律の正しい解釈に基づいた細かな検討こそが必要です。ですが、この1年以上にわたるコロナ禍でこうした意識が今の政府には決定的に欠けていることが明らかになりました」「自由と補償をめぐる議論が繰り返されてきましたが、憲法上の問題という意味では、法の支配や政府の国民への説明責任といった、日本の統治機構の憲法原則が危機にさらされていることがより深刻だと考えています」 [記事後半で木村さんは、コロナ対策に関する国の目標設定のあいまいさや、不十分な説明について論じます。そのうえで、近年の政権の憲法や法解釈に対する向き合い方についても鋭い指摘をします。] ●目標ないまま場当たり規制 ――どういうことですか。 「まず、先ほど示した条件の一つ目、『規制の目的』について考えてみましょう。政府は、これを具体的に設定できていないし、国民に十分な説明もしていない。今回のウイルスをどの程度封じ込めるべきかという問題です。例えば、完全な『ゼロコロナ』を目標にするなら、行動抑制は広範で強いものになります。一方、1日千人くらいの陽性者は許容するということにするなら抑制の程度は弱まります」「感染拡大から1年以上が経った現在も、目的・目標を明確に示せずにいる。これがないと、第2の条件に当たる規制の正当性は評価できません。規制の方法が合理的かつ必要不可欠かは、目標によります。それがなければ国民からすれば場当たり的にしか映らない規制がまかり通ることになります」 ――他国も感染は拡大しました。 「もちろん日本と同じように当初混乱しました。ただヨーロッパの多くの国では、感染者数・死者数の規模が大きかった。そのため、コロナの毒性への評価や恐怖について、社会的に合意形成がしやすかった。日本では、人によってウイルスの毒性に対する評価が違うので、必要だと考える規制の範囲や強度にも食い違いが顕著に生じたように見えます。新型コロナウイルスは、より致死性の高いエボラ出血熱などと比較すると、社会的な意思決定がしにくい特徴を持っているともいえます。しかしここは、政治が率先してリーダーシップを取るべきでした」 ――「営業自粛を求めるならば、その分の補償を」という議論が繰り返されてきました。十分な額とはいくらかという議論はあるとしても、一部の業種にだけ制約が偏るならば憲法14条が定める法の下の平等、あるいは29条の営業の自由の侵害にならないのですか。補償がない、あるいは十分ではない、というのは憲法違反と言えませんか。 「それは難しい。憲法29条3項は『私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる』と定めていますが、公平性の観点からの議論です。つまり、ある人だけが不公平に財産権を制約されてはいけない。でも制約される人に理由があれば別なのです。例えば、食中毒を出した店への営業停止命令が出た際に、補償はされませんよね。その店に『内在するリスク』があるからです」「コロナ禍のスタート時点では、憲法の観点からすると、飲食店には社会を脅かすウイルスの感染を拡大させるリスクが内在するから補償はできない、という論理だった。ただ、私は今は状況が変わったと考えています」 ――どういうことでしょう。 「緊急対応を余儀なくされた当初と比較すれば、ウイルスについてわかってきた情報も多く、各飲食店もさまざまな対策を講じている。一方で、営業自粛要請は非常に長期間に及んでいる。感染症対策をしていようがいまいが一律に規制する手法が、『内在するリスク』への対応として正当なのかどうか、疑問が生まれます。映画館や書店に関しても同様です」 ●揺らぐ立憲主義の根幹 ――リスクの評価の基準はどうすれば? 「このリスクの評価は、政府が掲げる目標との関係で決まります。コロナ・ゼロを目標にするならば、もちろん制約は広範囲に強く、そして長くなります。その場合は『3密』産業には業種転換支援を政策として打たないといけません。『人の流れを止めるため』という漠然とした理由で、ある業種だけが狙い撃ちになるのは正当化できません」 ――政府が目標を設定し、説明責任を果たせていないのが問題だということですね。 「明確な目標を設定し、それを法令に明記して国民に説明し、理解を得ようとする。それをしないまま政策を打ち続けるということは、『法律による行政』を軽んじていることになる。立憲主義の根幹を揺るがしかねない問題です」「思い返すと、昨年2月に当時の安倍晋三首相が法的根拠もないまま、全国一斉休校宣言をしました。当時は新型コロナウイルスには新型インフルエンザ特別措置法は適用できませんでしたから、法の外からの『要請』でした」「翌月にはこの特措法を適用できるよう法改正をしました。少しテクニカルな話ですが、新型インフルエンザ対策であるこの法律では、市中感染が広がっている状況では、緊急事態宣言は継続する、となっていた。これだと新型コロナの場合、宣言は解除できない。ですがそうなりませんでした。そして昨年4月の緊急事態宣言の理由として、医療体制の崩壊が語られました。これも法律に書かれていない。何となく数字が下がってきたので解除し、増えると宣言を出す。一貫して法的根拠という視点が軽視されてきました」 ――当初は想定されていなくて対応が遅れた、ということではありませんか。 「今も変わっていないと思います。まん延防止等重点措置をめぐる混乱がその一例です。この措置とは、法律で定められた内容をみると、『医療崩壊寸前に行われる強力な措置』です。でも、『まん延防止』と表現してしまうと、一般的には医療崩壊寸前というより『まだまん延していない』というニュアンスで受け取られます」「官僚がこういう名称を提案してきても、政治家は、果たしてこの名称で、自分が日頃から付き合っている地元の支援者たちに法律の内容が伝わるだろうかと考えないといけない。政治家が政府と国民をつなぐ仕事ができていない。政治家が想像力を働かせて主張するべきところでしたが、機能しませんでした」 ●問われる統治のあり方 ――こうした事例から言えることは何でしょうか。 「政府が法の解釈や整合性などを気にしなくなってしまったことのマイナス面がわかりやすく示されてしまった。コロナ禍によってと言うよりも、もう少し長いタイムスパンで起きてきました。2015年の安保法制時の憲法解釈の変更、そして最近では日本学術会議の問題でも従来の法解釈をないがしろにしてきた」「法文言の正しい解釈を尊重しながら、必要な目標設定をしてそれを国民に向けて説明する。こうした統治や民主主義の根幹を揺るがすことに慣れてしまっているように見える。国民の命や暮らしをおびやかす形で、露呈したのがコロナ禍といえます」 ――行政に権力が集中していなかったから感染症対策で後手に回って、東京などでは3度の緊急事態宣言を出さないといけなくなった、ではなくて……。 「その反対でしたね。法の支配や説明責任を軽んじてきたから、様々な法改正や宣言の意味を国民と共有できていない。権力があるだけでは、統治機構はきちんと機能しない。実際に法を超えて、権力行使して実現したのが、首相による『一斉休校』とマスクの配布だったことを思い出すと、いかに憲法に基づいた法の支配が重要かがわかります」「自由と補償の前提、統治のあり方の問題です。自由と補償の議論は重要なんですが、むしろそうした議論ばかりになってしまうと、それが今の危機を見失うごまかしの手段になってしまうことを懸念しています」(聞き手・高久潤) ◇ 1980年生まれ。専門は憲法。著書に「憲法学者の思考法」「平等なき平等条項論」など。 *1-4:https://www.nichibenren.or.jp/document/statement/year/2021/210503.html (日本弁護士連合会会長 荒 中 2021年5月3日) 憲法記念日を迎えるに当たっての会長談話 本日は、日本国憲法が施行されてから74年目の憲法記念日です。昨年から続く、新型コロナウイルスの感染拡大については、引き続き予断を許さない状況にあり、本年も新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言やまん延防止等重点措置(以下「緊急事態宣言等」といいます。)の下で憲法記念日を迎えることになりました。緊急事態宣言等の下で、市民や企業等には、外出・移動の自粛や休業・時短等が要請されている状況にあります。しかし、そのような感染拡大防止策を講ずる場合であっても、個人の権利は最大限尊重される必要があります。規制により生活が脅かされたり、事業活動が著しく制約されたりする場合には、速やかに適切な措置を講ずる必要があるとともに、その補償も課題となります。また、感染者やその家族、医療従事者等への偏見や差別は決して許されないことに留意する必要があります。加えて、ワクチン接種に伴い発生する様々な問題についても、きめ細やかに対応していく必要があります。報道によると、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、憲法を改正して緊急事態条項の新設を求める声も、与野党の一部にあるようです。しかしながら、感染拡大防止は市民の協力を得ての法律上の対応で十分可能です。憲法に緊急事態条項を新設することは、立法事実を欠くだけでなく、これにより個人の権利の侵害につながるおそれがあります。また、現在、衆議院の憲法審査会では、日本国憲法の改正手続に関する法律(以下「憲法改正手続法」といいます。)の一部を改正する法律案の審議が行われており、本年5月6日に開催予定の同審査会において採決される可能性も報道されています。当連合会の2018年6月27日付け「憲法改正手続法改正案の国会提出に当たり、憲法改正手続法の抜本的な改正を求める会長声明」で指摘しているとおり、現在審議されている改正法案で取り上げられている事項以外にも、テレビ・ラジオの有料意見広告規制や最低投票率制度等、検討や見直しを行うべき重要な課題があります。当連合会は、今後もこれらの重要な課題の検討や見直しを含む憲法改正手続法の抜本的な改正を求めていきます。さらに、昨年は、検察官の定年後勤務延長問題や日本学術会議会員の任命拒否問題が発生しましたが、当連合会は各問題について意見表明を重ね、憲法の基本原則を脅かすような問題があることを指摘しました。当連合会は、新型コロナウイルスの感染拡大という状況の下においても、立憲主義を堅持し、国民主権に基づく政治を実現することにより個人の人権を守る立場から、引き続き、人権擁護のための活動を積極的に行ってまいります。 <コロナのワクチン・検査・治療> *2-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA2291I0S1A420C2000000/ (日経新聞 2021年4月22日) ワクチン、自治体要望に400万回分不足 GW後の供給分 河野太郎規制改革相は22日の記者会見で、5月10日からの2週間で自治体に届ける高齢者向けの新型コロナウイルスのワクチンを巡り都道府県別の配分量を発表した。自治体の要望する量に供給が約400万回分足りないといい、河野氏は「申し訳ない」と陳謝した。政府は2週間で1万6千箱(約1900万回分)を配送する計画にしている。自治体に希望量を聞いたところ1万9571箱(約2300万回分)で、供給量を約400万回分超えた。そのため希望量に応じて傾斜配分し、供給量を決めた。東京都が2064箱(約240万回分)と最も多く、埼玉県1095箱(約130万回分)、大阪府1058箱(約120万回分)と続いた。河野氏は「最初だからまだ手元に在庫がなく、予約を取るときに若干の不安があるということも入った数字だと思う」と述べ、自治体が在庫分も含めて発注した可能性を指摘した。その後の供給については、各自治体の希望と接種実績を踏まえて決めていくという。65歳以上の高齢者向けワクチン接種は4月12日に始まった。当初は供給量が限られ、大型連休前後から米ファイザーからの輸入量が増加する。政府は6月末までに高齢者全員が2回分の接種を受けられる量を供給できるとしている。 *2-1-2:https://digital.asahi.com/articles/ASP546WW5P54ULFA009.html?iref=comtop_7_05 (朝日新聞 2021年5月4日) ファイザーワクチン、売上高2兆8千億円の見込み 米製薬大手ファイザーは4日、今年の新型コロナウイルスワクチンの売上高が260億ドル(約2兆8千億円)になる見込みだと発表した。年内に供給する予定の16億回分の売上高にあたる。2月時点の予想(150億ドル)から大幅に増えており、今後契約数が増えればさらに金額が増えるという。ワクチンの売上高が上積みされ、会社全体の売上高は705億~725億ドルと、前年の419億ドルから大幅に増える見込みだ。4日発表した1~3月期決算で明らかにした。1~3月期のコロナワクチンの売上高は34・6億ドル(約3800億円)。会社全体の売上高は、前年同期比45%増の145・8億ドル、純利益も同45%増の48・7億ドルで、ともにワクチンの販売が大きく貢献した。ワクチンは、ファイザーとドイツのバイオ企業ビオンテックが共同で開発した。日本政府が契約しているモデルナも2月、今年のコロナワクチンの売上高が184億ドル(約2兆円)になる見込みだと明らかにしている。 *2-1-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14894139.html (朝日新聞 2021年5月5日) コロナ薬にアビガン、実現は 安倍前首相「承認めざす」発言、1年 新型コロナウイルス治療薬の候補として、注目を集めた抗インフルエンザ薬「アビガン」について、安倍晋三・前首相が「今月中の承認をめざしたい」と異例の発言をして1年が経つ。承認申請はされたが継続審議となり、新たな臨床試験(治験)が始まった。この間に何がわかったのか。今後どうなるのか。 ■申請→有効性「判断困難」→再治験 アビガンは2014年、従来の薬が効かない新型インフルエンザ向けに承認された。細胞に入ったウイルスの増殖を抑える薬だ。製造元の富士フイルム富山化学が20年3月に新型コロナ向けの治験を始めた。有効性を示すデータがまだ出ていない昨年5月4日、安倍氏は会見で、「一般の企業治験とは違う形の承認の道もある」などと述べ、月内の承認をめざすとした。この直後に厚生労働省は、「治験データは後でも可」と早期承認が可能となる特例を設けた。だが患者が減り参加者が集まらず、治験と別の特定臨床研究では、統計的な有効性は示せなかった。同社は9月23日、治験の結果を発表。特例は使われず、10月16日に厚労省に製造販売の承認申請をした。12月21日、厚労省専門部会での審議は荒れた。審査を担う医薬品医療機器総合機構(PMDA)側は新型コロナへの有効性について、「現時点で明確に判断することは困難」としながら、流行が広がる緊急的な状況に備えるため、「使用可能な状況にすることも検討は可能」と説明した。朝日新聞が入手した議事録によると、委員からは厳しい意見が相次いだ。「ちゃんとしたエビデンス(科学的根拠)がない」「解析計画とかデータの取り扱いに信頼性がない」「有事だからこそ正当な科学的手続きは通すべきだ」。論点の一つは治験の手法だ。20~74歳の重症ではない新型コロナの患者156人が参加し、偽薬とアビガンをのんだ患者の経過を比べた。どの患者がアビガンをのんだか、医師が知っている「単盲検」という手法だった。アビガンをのんだ患者は、PCR検査で陰性になるまでの中央値が11・9日。偽薬をのんだ患者より2・8日短かった。客観的な効果の評価には、薬か偽薬かを医師も患者も知らない「二重盲検」という手法が通常は使われる。単盲検にした理由は、急変時の患者の安全の確保のためなどという。どの患者が薬をのんだか医師が知っていると、薬が効いたのだろうとの思いこみが生じうる。PCR検査や肺のCT画像撮影のタイミングに客観性がない可能性も指摘された。結果の解析方法の不備も指摘され、承認は先送りとなった。同社は審議結果について「治験のプロトコル(実施計画書)は適正プロセスにのっとって、PMDAに提示し、合意を得た」とのコメントを出した。 ■専門家「治験、根本的見直しを」 継続審議となったアビガンは今も、患者の希望と医師の判断による「観察研究」の枠組みで使われている。クウェートや米国での二重盲検の治験の結果が待たれていた。クウェートでは1月に治験を終え、結果を発表。中等症と重症の計353人の患者では、アビガンをのんだ方が、偽薬よりも回復期間が1日早かったが、有意差はなかった。ただ、軽症者ら181人ではアビガンの方が3日早く退院できた。米国では昨年から軽症、中等症の826人での治験を続ける。そんな中、富士フイルム富山化学は4月21日、国内で二重盲検による治験を新たに始めたと発表した。対象は50歳以上の男女316人。発熱などの症状が出たばかりの軽症者で、基礎疾患があるなど重症化リスクがある患者に絞り、薬の効果が出やすいようにした。10月末まで有効性や安全性を調べる。データを基に、部会で再審議される。ただし予定通り終わるかや、審査にかかる期間は見通せない。アビガンはのみ薬で使いやすいが、動物実験で胎児に奇形が出る恐れがわかり、副作用も懸念されている。承認前の薬だが、備蓄のための追加購入もあった。元々新型インフルのために約70万人分を備蓄していたが、厚労省は昨年度、新型コロナ治療のため、約134万人分を購入した。予算案では139億円を計上した。臨床現場からは「ハイリスクの患者がのみ、重症化が防げるならばブレークスルー(突破口)になりうる」という声が上がる。一方、「効かないという前提をつくりたくないだけではないか。ほかの感染症が次に流行した時にアビガンを使いにくくなるから」との声も漏れる。臨床試験に詳しい日本医科大学武蔵小杉病院の勝俣範之教授(腫瘍〈しゅよう〉内科)は言う。「科学的に有効性が示されて初めて薬は承認される。これが基本。ヒトを対象にした試験が成功する可能性は低く、結果が出る前に承認への言及があることそのものがおかしい」。日本では製薬企業主導の試験が多く、米国のように研究者によるものが少ないことも問題視する。「コロナ禍を機に、臨床試験を推進し、正しい情報発信をする機関を作るなど根本的な見直しをすべきだ。政治から独立した機関を設け、質の高い臨床試験ができる環境を整えてほしい」と話す。 *2-1-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFB25AAL0V20C21A1000000/ (日経新聞 2021年2月9日) 東京都医師会、イベルメクチン投与を提言 重症化予防で 東京都医師会の尾崎治夫会長は9日の記者会見で、新型コロナウイルスの感染拡大に対応するため、主に自宅療養者の重症化を防ぐ狙いで薬剤の緊急使用を提言した。海外で重症化を防ぐ効果が示されているとして、抗寄生虫薬「イベルメクチン」などをコロナ感染者らに投与すべきだと強調した。イベルメクチンのほか、ステロイド系の抗炎症薬「デキサメタゾン」の使用を国が承認するよう求めた。尾崎氏は「(いずれも)副作用が少ない。かかりつけ医のレベルで治療ができるよう、国に検討してほしい」と述べた。イベルメクチンもデキサメタゾンも国内で処方されている。ただ、コロナの治療薬としては承認されていない。8日時点で都内には自宅療養者が約1600人、入院先などが決まらず「調整中」になっている感染者も約1600人いる。軽症や無症状の多い自宅療養者の容体急変にどう対応するかも課題になっている。尾崎氏は都内の1日当たり新規感染者数について「100人ぐらいまでに抑えることが4~6月の状況を良くする道だ」と強調した。都内では9日、412人の新規感染者が確認された。 *2-1-5:https://newswitch.jp/p/25238 (Newswitch 2020年12月27日) 来年3月に臨床試験終了へ、抗寄生虫薬「イベルメクチン」はコロナに効くか 北里大学大村智記念研究所感染制御研究センターは、抗寄生虫薬「イベルメクチン」について、新型コロナウイルス感染症の治療薬としての臨床試験を2021年3月にも終了し、製造元の米製薬大手MSDに試験結果を提供する。MSDは効果を検証しながら、承認申請を検討する見通しで、新型コロナの治療薬として認められれば、抗ウイルス薬「レムデシビル」とステロイド薬「デキソメタゾン」に続き、3例目となる。臨床試験を取りまとめている花木秀明センター長が方針を明らかにした。イベルメクチンは寄生虫感染症の治療薬だが、エイズウイルス(HIV)やデングウイルスへの効果が報告されている。ウイルスの遺伝子であるリボ核酸(RNA)の複製やたんぱく質生成を阻害するほか、サイトカインストーム(免疫暴走)を抑制する作用が期待される。米ブロワードヘルスメディカルセンターの研究では、イベルメクチンの投与により、新型コロナ重症患者の致死率が80・7%から38・8%に改善した。イベルメクチンは駆虫薬として、19年には世界で4億人以上に投与され、大きな副作用は確認されていない。新型コロナへの治療薬としては、インドやペルーなど29カ国で研究が続けられている。花木センター長は「日本ではイベルメクチンの知名度が低いが世界では駆虫薬として知られ、新型コロナの治療効果の検証が進んでいる」と説明。「日本でも新型コロナ治療薬としての可能性を広く知ってもらい、試験を進めたい」と述べた。イベルメクチンは、寄生虫によって引き起こされる「オンコセルカ症」の治療に使われる。オンコセルカ症は目のかゆみや発疹などが生じ、失明に至ることもある。イベルメクチンのもととなる化合物アベルメクチンの発見により、北里大学の大村智特別栄誉教授は15年、ノーベル生理学・医学賞を受賞した。 *2-2-1:https://www.jiji.com/jc/article?k=2021041700411&g=soc (時事 2021.4.17) 変異型、首都圏で急拡大 「5月前半に8~9割」―全国は1カ月で4倍 新型コロナウイルス感染拡大の「第4波」が鮮明になる中、関西圏で急拡大する変異ウイルスが首都圏でも猛威を振るう恐れが強まっている。国立感染症研究所は、首都圏での新規感染者に占める変異型の割合が5月前半に8~9割に達する恐れもあるとみて、警戒を強める。厚生労働省によると、全遺伝情報(ゲノム)解析で確定した変異型の国内感染者は、3月9日時点では21都府県の271人だった。今月13日時点で42都道府県の1141人となり、1カ月で4倍超に激増した。国内の変異型は大きく分けて、英国型、南アフリカ型、ブラジル型、由来不明型の4種類。国内感染者の94%超を占める英国型は、ウイルスが細胞に侵入する際に用いるスパイクタンパクに細胞と結び付く力を強める「N501Y」変異がある。厚労省の集計に含まれない由来不明型は関東や東北で拡大し、ワクチンの効果低減が懸念される「E484K」変異が特徴。南ア型とブラジル型は両方の変異を併せ持つ。フィリピン、米国に由来する変異型も確認されたが広がりはない。変異は、ウイルスが細胞に入り込み、遺伝物質RNAをコピーして増殖する際のコピーミスで起きる。N501Yは、スパイクタンパクの501番目のアミノ酸がN(アスパラギン)からY(チロシン)に変わったことを意味する。E484Kは484番目のアミノ酸がE(グルタミン酸)からK(リシン)に変化している。特に急拡大が懸念されるのが、感染力が強いN501Y変異だ。東京で拡大した由来不明型は、英国型に取って代わられつつある。感染研によると、首都圏(東京、神奈川、千葉、埼玉)での感染者に占めるN501Y変異の割合は、現在の約5割から、5月前半には8~9割になると推定される。東海圏(静岡、愛知、岐阜、三重)、関西圏(大阪、京都、兵庫)、沖縄では5月前半までに9割台後半になる見通しだ。厚労省専門家組織のメンバーは「東京でもN501Y変異に置き換わってきているが、プラスアルファの変異が出る恐れもある。ゲノム解析を通じ変異型を追い掛けることが重要だ」と話す。 *2-2-2:https://www.yomiuri.co.jp/national/20210428-OYT1T50275/ (読売新聞 2021/4/28) 変異ウイルス猛威の「第4波」、クラスター発生場所が多様化 国内で4月に発生した新型コロナウイルスのクラスター(感染集団)が463件に上り、場所別では初めて職場(96件)が最多となったことが、厚生労働省の助言機関の集計でわかった。昨年末以降の第3波では飲食店を「急所」とみて対策が強化されたが、変異ウイルスが猛威をふるう今の「第4波」では、学校や高齢者施設なども含めて、発生場所が多様化している。助言機関によると、把握が難しい家庭内を除いて、昨年1月以降に発生した5人以上のクラスターは計4631件。昨年春の第1波では医療機関で、続く夏の第2波では接待を伴う飲食店を中心とした「夜の街」での感染事例が目立った。年末から年始にかけて感染者が急増した第3波では、会食のリスクが注目され、各地で飲食店への営業時間短縮要請などが行われた。だが現在の第4波では、日常生活全般で感染が懸念される事態となっている。今年4月1日~23日の暫定値463件の内訳をみると、最多の職場(96件)に続いて、学校・児童福祉施設(90件)、高齢者施設(86件)、飲食店・会食(82件)などが多かった。職場感染は2月は49件だったが、4月に入り拡大した。厚労省の職員らが3月下旬、深夜まで23人が参加する送別会を開催したケースでは、参加者12人を含む同じ部局の29人の感染が判明。送別会との因果関係は不明のままだが、会議で使うデスクや電話機、コピー機など共用の備品を通して感染が拡大した可能性があるという。一方、助言機関は小中学校や大学、学習塾などで昨年1月以降に起きた489件のクラスターも分析。その結果、部活やサークル活動が要因とみられる事例が2割(100件)に上り、大学では4割(58件)を占めた。横浜市では、慶応大ラグビー部員ら78人(28日現在)の感染が確認された。寮生活などが原因の可能性があるという。政府は、こうした部活やサークル活動の自粛を呼びかけている。東京、大阪など4都府県への緊急事態宣言による飲食店の休業などで、「路上飲み」による集団感染も新たな課題となっている。国立感染症研究所の脇田隆字所長は「大型連休に向けて一人一人が不要不急の外出を減らし、マスク着用など感染防止対策を徹底してほしい」と話している。 *2-3:https://news.yahoo.co.jp/articles/23b1e6bf4c3850bde326210845eca8900e01a7b3 (Yahoo 2021/4/29) 「戦時中に責任回避した旧日本軍のようだ」…五輪中止決定できないという菅首相に批判殺到 「感染拡大が続いているのに自ら五輪中止を決定できないとは、戦時中に無謀な作戦を強行し多くの犠牲者を出した旧日本軍と全く同じだ」。日本の医療関係者がある日本メディアで新型コロナウイルスの感染が拡大する中でも「五輪開催決定は国際オリンピック委員会(IOC)がすること」としながら責任を転嫁した日本の菅義偉首相をこのように批判した。東京五輪開幕を85日後に控え、日本政府は「五輪強行」を叫んでいるが、責任者の間では内紛が起きる雰囲気だ。五輪開催と進行案をめぐり日本の首相はIOCに、担当大臣は主催都市である東京都に、互いに決定と責任を転嫁しようとする。こうした中、日本政府の新型コロナウイルス分科会会長は28日、五輪開催の是非について「そろそろしっかり議論すべき時期にきている」と警告した。 ◇「安倍首相は『五輪延期』を直接決定」 菅首相は23日、東京都や大阪府など4都府県に3度目の緊急事態宣言を発令する席で、五輪中止の可能性と関連した質問を受け「五輪の開催権限はIOCにある」と話した。感染者がさらに増加しても、緊急事態宣言が続いても、自身には五輪中止を決める権限がないという「責任回避」だ。菅首相は続けて「IOCがすでに東京五輪を開催するということを各国のオリンピック委員会とともに決めた」とも述べた。現在日本の新型コロナウイルスの状況は深刻だ。緊急事態宣言にもかかわらず、28日の1日だけで日本全国で5791人の感染者が確認された。五輪開催都市である東京では29日に1027人の感染者が確認され、3カ月ぶりに1日の感染者数が1000人を超えた。楽観を難しくするのは変異ウイルスだ。28日に開かれた東京都のモニタリング会議では現在の東京都内の感染者の59.6%が感染力の高い「N501Y」型の変異ウイルス感染者とされ、「こうした状況が続く場合、2週後には東京都の1日の新規感染者は2000人になるだろう」という予測も出てきた。だが、緊急事態宣言が延長される場合に五輪はどのようにするのかなどに対してはだれもが明言を避けている。特に菅首相の無責任な態度に対する批判が激しい。東京新聞は、五輪で感染が全世界に広がっても(IOC委員長の)バッハさんがやれと言ったとして責任を転嫁するのだろうかと皮肉った。昨年安倍晋三首相(当時)は五輪を1年延期することを直接決め、こうした意向をIOCに伝えた。 ◇医療陣確保問題、政府と都知事、互いに「相手のせい」 現在五輪開催の最も大きな障害に挙げられるのは医療陣の確保だ。五輪組織委員会は五輪期間中に1日に医師300人、看護士400人ずつ、大会期間中に延べ1万人以上の医療陣が必要なものと予想している。だが、医療界は「テレビで五輪を見る時間もない」として難色を示している。新型コロナウイルスの感染再拡大でそうでなくとも昼夜なく働いているところに、5月からはワクチンの大規模接種も始まるだけに、人材派遣は不可能だという立場だ。丸川珠代五輪担当相は27日の記者会見で、これを確認する質問に「(責任を持っている)東京都がどのように取り組んでいくのか、具体的なことがまだ示されていない」としながら東京都に苦言を呈した。これを受け東京都の小池百合子知事は「実務的には詰めている。コミュニケーションをしっかりとっていく必要がある」と受け返した。日本政府と東京都が医療陣の確保をめぐり舌戦を行った格好だ。こうした中、日本政府の感染症対策分科会を率いる尾身茂会長は28日の国会で「組織委員会など関係者が感染のレベルや医療の逼迫状況を踏まえて(五輪開催の)議論をしっかりやるべき時期に来ている」と話した。政策決定に深く関与してきた尾身会長が五輪中止の可能性に公式に言及したのは今回が初めてだ。彼は五輪開催の可否判断には、感染の状況と医療の逼迫状況が最も重要な要素だと説明した。 ◇五輪参加選手は毎日コロナ検査 一方、五輪組織委員会が28日に公開した東京五輪の感染防止に必要なルールをまとめた「プレーブック」の内容についても論議が起きている。このルールによると、五輪に参加する選手とすべての大会関係者は各国から出国する時点を基準として96時間(4日)以内に2回の新型コロナウイルス検査を受けた後に陰性証明書を提出することを明記した。入国時に日本の空港での検査で陰性判定を受けた選手は14日間の隔離が免除され、入国初日から練習できる。だが、入国後は毎日1回ずつ新型コロナウイルス検査を受けなければならず、活動範囲は宿泊施設、練習会場、競技場に制限される。また、選手を含むすべての関係者は原則的に一般市民とは接触できず、公共交通機関も利用できない。五輪による感染拡大を防ごうとする措置だが、行き過ぎた制限という反発も出てくる可能性が大きい。ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などには「ここまでしながら五輪をやるべきなのか」という懐疑的な反応が続いている。上智大学の中野晃一教授は東京新聞に、さまざまな国の選手たちと観衆の交流という五輪の意義そのものがすでに失われた状況で、海外から不参加通知が続いてやむを得ず五輪中止に追い込まれる前に日本の政治家が責任を持って決定を下さなければならないと話した。 *2-4-1:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?R_FLG=1&b=20210507&be=NDSKDBDK・・ (日経新聞 2021.5.6) 米、ワクチン特許放棄を支持 途上国の供給後押し バイデン米政権は5日、新型コロナウイルスワクチンの国際的な供給を増やすため、特許権の一時放棄を支持すると表明した。ワクチンが足りない途上国が世界貿易機関(WTO)で要請していた。製薬会社は反対しており、交渉の先行きは不透明だ。米通商代表部(USTR)のタイ代表は声明で、WTO加盟国がワクチンの特許権を保護する規定を適用除外とする案を支持すると表明した。「コロナのパンデミック(世界的な大流行)という特別な状況では特別な政策が必要だ」と指摘した。各種特許はWTOの「知的財産権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)」で保護が定められている。インドや南アフリカは自国でワクチンの生産を増やすため、ワクチンを同協定から一時的に適用除外とするよう求めていた。ワクチンを開発した製薬会社を抱える米国のほか、欧州連合(EU)など先進国は特許権の放棄に反対してきた。米国が支持に回ったことで、WTOで具体的な条件を詰める。USTRは問題が複雑で「交渉には時間がかかる」と指摘した。バイデン政権は自国民へのワクチン接種を優先するため、他国への供給に消極的な姿勢を貫いてきた。国内外から「ワクチンを独り占めにしている」との批判が高まっていた。世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は5日、「新型コロナとの闘いで、記念すべき瞬間だ。特許の放棄の支持は、世界の健康問題に取り組む米国のリーダーシップの強力な例だ」との声明を出し、米国の決定を称賛した。 *2-4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210507&ng=DGKKZO71628670X00C21A5MM0000 (日経新聞 2021.5.7) 独、ワクチン特許放棄に反対の構え EU首脳が議論へ 欧州連合(EU)は7日から始まる首脳会議で、新型コロナウイルスのワクチン供給拡大に向けて、特許権を一時的に放棄する考え方を支持するかどうかを討議する。バイデン米政権が前向きな姿勢を示したためだが、ドイツのメルケル政権は反対する構えだ。特許権を持つ製薬会社が本拠地を置く国・地域での議論が本格化する。EUは7~8日、ポルトガルのポルトで首脳会議を開く。フォンデアライエン欧州委員長は6日の講演で、ワクチンの供給増という目的の達成に向けて「バイデン米大統領の提案を議論する用意がある」と語り、27カ国の首脳間で話し合う考えを表明した。ドイツメディアによると、独政府の報道官は「知的財産の保護はイノベーションの源泉で、将来もそうでなければならない」などと述べ、特許権の一時放棄に否定的な考えを示した。ワクチンの普及を妨げているのは生産能力や品質管理の問題であって、知的財産の保護が原因ではないというのがドイツ政府の主張だ。ドイツにはワクチン開発にいち早く成功したビオンテックが本拠を置く。急浮上した特許の一時放棄という考え方への反発を強めている。ただ、欧州内でも考え方は分かれている。フランスのマクロン大統領は6日、「完全に賛成する」との考えを示した。首脳会議で結論が出るかどうかは見通せない。バイデン米政権は5日、ワクチンの特許権の一時放棄について、従来の慎重姿勢を一転させ、支持する姿勢を打ち出した。ワクチンの供給が遅れている途上国向けの生産を増やすためだ。だが製薬会社は強く反発している。 <環境軽視は生存権の侵害> *3-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14883435.html?iref=comtop_Opinion_04 (朝日新聞社説 2021年4月25日) 温室ガス削減 具体策示して変革促せ 菅首相が、米国主催の気候変動サミットで、2030年度の温室効果ガスの排出量を13年度より46%削減する目標を掲げ、「さらに50%の高みに向けて挑戦を続けていく」と表明した。従来を大幅に上回る目標を世界に約束したことは評価できる。しかし実現へのハードルは高い。乗り越える道筋を早期に描く責務が、首相にはある。地球温暖化対策の枠組みであるパリ協定からトランプ政権の際に離脱した米国は、バイデン大統領になって復帰すると、サミット開催を呼びかけた。すでに昨年新たな目標を掲げた欧州連合に続いて今回、米国や英国も野心的な目標を提示。中国も参加し、気候変動では協調する姿勢を示した。世界で脱炭素の動きが強まるなか、日本は昨春、30年度の削減目標を13年度比で26%と、5年前のまま据え置いて国連に提出し、国際的に批判された。その後の昨年10月、菅首相が、森林などの吸収量を差し引いた実質的な排出量を「50年までにゼロにする」と表明したことから、30年度目標の引き上げ幅が注目されていた。首相が掲げた「50年実質ゼロ」は、気候変動の影響を減らすため、パリ協定が努力目標とする「産業革命前からの世界の平均気温の上昇を1・5度までに抑える」のに必要とされる。達成には、50年までの段階での二酸化炭素(CO2)排出削減も欠かせない。排出量1位の中国などの動きを促すためにも、5位の日本のさらなる目標上乗せを期待したい。今回の目標は議論を積み上げた結果ではなく、首相主導の政治判断で示された。世界は脱炭素に向けた産業構造の転換や技術開発を加速させており、取り残されれば日本経済の競争力を損なう。政府も産業界も対策を怠ってきた末、追い詰められて決断したともいえる。首相が強調する再生可能エネルギーの活用拡大を始め、CO2排出削減に向けた産業の構造変革を考えると、残された時間は短い。本気で「1・5度」を目指すなら、分野別の目標を示し、社会の理解を得る必要がある。そのうえで排出規制や税制改正、補助金などの誘導策を練り上げることが求められる。ただ、発電時にCO2を出さないことを理由に原発に頼るべきではない。日本社会は事故による甚大な被害を経験した。原発はリスクが極めて大きく、「ゼロ」を目指すべきだ。新目標の達成には、産業界も国民の生活も大きな変化を迫られる。それでも進めるべき意義を、政府は真摯(しんし)に説明し、新しい社会構造をつくる変革を促さなければならない。 *3-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD271T10X20C21A4000000/ (日経新聞 2021年5月2日) 「グリーン成長」の野心と下心 各国の覇権争いの舞台に 削減率は米国が50~52%、欧州連合(EU)は55%、英国は78%、日本も46%へ。4月22~23日に開いた気候変動サミット。各国首脳は温暖化ガス削減の目標を競い合った。その舞台裏では「グリーンの土俵」の囲い込みを狙う各国の下心がのぞく。まず主催国である米国。「何百万もの高給な、中間層の、労働組合員の雇用を創出する」。バイデン政権は温暖化対策の訴えを、大規模な雇用創出と結びつけている。3月31日にはインフラ投資が柱の総額2兆2510億ドル(約240兆円)の「米国雇用計画」を発表済み。電気自動車(EV)支援の1740億ドルや電力網整備の1000億ドルが、環境対策の目玉だ。 2030年までに50万カ所にEV充電施設を設け、35年までに発電による温暖化ガスをなくす。今回のサミットは雇用計画の売り込みの場だ。最も野心的な目標を掲げたのは英国。昨年11月に「グリーン産業革命」を表明している。政府による総額120億ポンド(約1.8兆円)の投資で、25万人の雇用創出を狙う。なかでも切り札とする洋上風力は、30年までに発電量を4000万キロワットと現在の4倍に増やす。北海の強い風と遠浅の海を大きな武器とする。英国は今年6月に主要7カ国首脳会議(G7サミット)、11月に第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)を議長国として開催する。EU離脱による孤立から抜け出し、温暖化対策の晴れ舞台で世界の主導権を握ろうとする意図は明らかだろう。そしてEU。いち早く19年12月に「グリーンディール」を打ち出した。その投資計画では、EU自身が30年までの10年間に1兆ユーロ(約130兆円)の投資に踏み切るとともに、民間から1兆9500億ユーロのグリーン投資を促す。産業の方向を示し、雇用を創るばかりでない。国際的な環境基準づくりで主導権をとろうとする意図を隠さない。例えば、環境にかなった「グリーン投資」とは何なのかの線引き。タクソノミー(分類)と呼ばれるが、EUは自らの基準を国際基準にしようと狙う。グリーンボンド(環境債)の発行額は年4000億ドルに達するとみられるが、そうした環境投資がEU基準となれば、投資家のマネーを吸い寄せることができる。環境規制によるコスト増で域外との競争で不利にならないためにも、EUは周到な用意をしている。「国境炭素税」だ。21年に原案を提示し、23年には導入の予定である。環境規制が手ぬるい国々からの輸入に関税を上乗せし、税収は欧州復興基金に充てる。輸入相手国に「最高レベルの環境基準」を求め、輸入品の製品価格を引き上げることでEUの産業競争力を維持する。しかも環境基準を満たすためにEUの脱炭素技術を導入したら、と売り込みを図る。あわよくば日本などから生産拠点をEU域内に移させようとも企てる。世界の温暖化ガスの4分の1を排出する中国はどうか。気候変動サミットでは、より高い目標は見事にやり過ごした。温暖化ガスの排出ピークの時期は従来の30年を変更せず、排出ゼロの目標年も60年と先進国より10年先のまま。これだと先進国が50年の排出ゼロの目標達成に失敗した場合にも、自国の経済活動が制約を被らずに済む。中国は20年にも原子力発電所30基に相当する3000万キロワットの石炭火力発電所の建設を続けた。その傍らで世界のEV市場を低価格車で席巻しようとする。今回のサミットは中国の参加を最優先したためか、そんないいとこ取りに目をつむる結果となった。翻って日本。議論を主導する米欧が投資や雇用、市場拡大を目指すのと同様、菅義偉首相はグリーン成長を掲げる。政府は脱炭素の研究開発を支援する2兆円の基金を用意したが、実際にどれだけの投資と雇用を創出できるのか。内外の市場は広がるのか。知りたいのはこの点である。広大な米国、平地主体のEU、風と浅瀬が強みの英国。再生可能エネルギーに有利なこれらの条件を日本は欠く。もともと高い電力料金が温暖化対策で一段と上昇すれば、グリーン成長どころか産業空洞化を加速させかねない。菅政権が活路を探るのは、米国との提携かもしれない。4月16日の日米首脳会談の後で発表された共同声明には「日米気候パートナーシップ」と題した付属文書がある。温暖化対策の枠組み(パリ協定)の「未決定要素の策定」で日米が協力する。付属文書はそう記す。温暖化対策の勝負は基準づくりだが、そこで「日米が連携しEUに対抗する」と経済財政諮問会議の新浪剛史氏は明言する。付属文書のもうひとつの注目点は、環境技術での日米協力。再エネ、蓄電池、次世代送電網と並び「革新原子力」なる耳慣れない言葉に言及している。米、英、カナダをはじめ各国が開発を競う「小型モジュール炉」のことだ。大規模な原子力施設を建てる代わりに、小型原子炉をコンパクトな格納容器に納め、設計の複雑さを解消したのが特徴。原子炉をプールのなかに沈めることで、緊急時にも外部電源に頼らずに済む、次世代の原発とされる。実用化は20年代末とみられる。福島の原発事故を経験した日本では役割を終えたように見られる原発。その間にも世界では急速な技術革新が進んでいる。温暖化対策で高い目標を掲げるには、エネルギー源の問題は避けて通れない。 *3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210504&ng=DGKKZO71577370U1A500C2MM8000 (日経新聞 2021.5.4) Hを制する(2)水素都市へ走る中韓 見えてきた新・生態系 中国南部の広東省仏山市高明区。経済発展に伴って立ち並ぶ高層マンションの間を縫うように路面電車が静かに走る。よく見ると給電に必要な架線がない。燃料電池を載せて水素(元素記号H)で走る「高明有軌電車」だ。 15分間の水素充填で100キロメートル走り料金は路線バス並みの2元(30円強)。地元に住む徐さんは「子どもと公園に行くのに使う。音が静かで快適だよ」と話す。2019年11月から運行を始め、20年の1日当たりの乗客数は1千人を超えた。 ●国家主導で需要 仏山市では水素で走るバスやトラックが約1500台運行し、中国全土の普及台数の約2割を占める。広東省には製造業が集積し材料となる樹脂製品工場も多く、副産物で水素が出る。市は18年から本格的に関連産業を振興し、数十の燃料電池関連企業が集まる。世界最大の水素生産国である中国。現状は工業用が大勢を占める。そこでいくつかの都市を仏山のような「水素都市」に選定。インフラを整えやすい商用車や鉄道に投資を集中し、国家主導で需要を作り出す。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によると、19年9月時点で中国を走る水素燃料車の99%超が商用車だった。現在は生成過程で二酸化炭素(CO2)が出る「グレー水素」が主流だが、再生可能エネルギー由来の「グリーン水素」でも手を打つ。北京市に隣接する河北省張家口市の農村地帯。小高い山に数百メートルの間隔で風車が幾重にも並ぶ、風力発電が盛んな場所だ。同省の国有企業は、この電力を使って水を分解し水素を生成する世界最大級の装置をつくった。欧州で固体水素の貯蔵技術を誇るマクフィーなどの技術協力を得て、設備やパイプラインの整備を進め、年間約1500トンの水素生産を見込む。調査会社の米ブルームバーグNEF(BNEF)のアナリスト、テングレル・マルティン氏は「水素を生成する水電解装置は半分以上が中国市場で売れる」と指摘する。強引にも映る市場創出で水素大国をめざすのは中国だけではない。韓国南東部の蔚山(ウルサン)。現代自動車が旗艦工場を置く人口115万人の工業都市を、韓国国土交通省は19年12月「水素モデル都市」に指定した。石油精製の過程で年間82万トン出る水素を使い、生産から消費までの生態系を整える。蔚山市の燃料電池車(FCV)の登録数は2000台と韓国全体の約2割を占める。購入時に半額が補助され、現代自のネッソ(NEXO)なら3400万ウォン(約330万円)で買うことができる。水素ステーションの設備費に至っては全額を公的補助。市によると一部では黒字化した。翻って日本はどうか。09年、世界に先駆けて家庭用燃料電池(エネファーム)を実用化し、14年にはトヨタ自動車が世界初の量産型FCV「ミライ」を発売した。水素大国を目指し技術では先頭を走っていたのに、市場の育成で中韓の後じんを拝す。 ●供給網生かせず 官営八幡製鉄所が整備され日本の近代産業発祥の地である福岡県北九州市の八幡東区。街中を長さ1.2キロメートルの水素パイプラインが走る。日本製鉄が製鉄過程で生まれる水素を供給し、岩谷産業が世界でも珍しい「街中パイプライン」を管理。実証住宅などに置かれた燃料電池に供給する。このプロジェクト、世界に先駆け10年度にパイプラインによる水素供給実験を始めたが、5年で一度打ち切った。18年度に再開したが来春にまた一部実験が終わる。官民一体で中韓のような「水素生態系」をつくり上げているとは言いがたい。せっかくの供給網を生かさなければ、日本だけ置いてきぼりだ。 *3-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210505&ng=DGKKZO71582530V00C21A5MM8000 (日経新聞 2021.5.5) Hを制する(3)新ルールで市場創造 水素阻む縦割り規制 水素(元素記号H)の普及を阻むのはコストや技術だけではない。規制も高いハードルとなる。「車検を通ったのに水素を充填できない」。奇妙な出来事が日本の燃料電池車(FCV)で起きている。ガソリン車や電気自動車(EV)は通常の車検のみで利用できる。FCVの水素を貯蔵するタンクは車検の対象外だ。国土交通省とは別に経済産業省所管の検査が要る。車検との間隔があわない場合があり、空白期間が生まれる。「タンクの横に貼ったシールで検査の期限が分かる。期限切れの場合はお客様に説明して帰ってもらう」と水素ステーションの運営者は話す。 ●FCV活用に影 全国に約100台あるFCバスは大型の燃料電池を載せ、地震や台風による停電時の非常用電源としても期待される。もっとも、学校などの防災拠点にFCバスから電気を送るには20日前までに自治体に届けておく必要がある。いつ起こるかわからない停電の備えとしては使いにくい。日本で水素は危険物扱い。たしかに水素は滞留すると爆発しやすく、漏れれば空気中に逃がす必要がある。2012~13年のアンケート調査では2割強が「水素はガソリンより危険」と答えた。水素の製造装置を開発する英ITMパワーのグラハム・クーリー最高経営責任者(CEO)は「水素はとても軽く、もし漏れても数秒で消える。ガスや燃料よりも危険度が低い」と話す。海外では安全に配慮しつつ水素を利用する動きが広がる。韓国政府は19年、南東部の工業都市、蔚山(ウルサン)を水素特区に指定した。韓国では動力源としての燃料電池は乗用車とバスに限るが、特区の蔚山はフォークリフト、船、ドローンにも応用できる。燃料電池の関連産業を育てる思惑だ。同年には国会敷地内に水素ステーションも開いた。規制の特例を活用したもので「水素は危ない」という不安を払拭する宣伝効果を期待する。FCVに力を入れる現代自動車は日本市場もねらう。英国北東部では今春、ガス管に20%の水素を混ぜる実験が本格化する。水素の混入分だけ温暖化ガスを減らせる。19年にキール大学で始まった実験の第1段階は成功し、規模を広げる。実験に参加するITMパワーによると、英国では1969年までガス管に60%の水素が混ざっており、北海ガス田の発見後にガス100%になった。クーリーCEOは「50年までにガス管を通る水素を100%にしたい」と話す。英国では水素はガス管に0.1%しか混ぜられないが、特別に規制を緩めて実験する。欧州のエネルギー企業など90社超も3月、欧州連合(EU)の欧州委員会にガス管への水素混入を広げるように求める要望書を出した。既存インフラを使えるガス管混入は、短距離では水素の最も安い輸送手段とされ、需要を押し上げる効果も大きい。 ●韓国は専用の法 日本は混合規制そのものがなく、ガス事業者に対応が委ねられる。日本ガス協会の広瀬道明会長(当時)は3月に「既存のガス管を活用する発想が大事」と語っており、統一のルール作りを急ぐ必要がある。日本で水素は化学プラントなどを対象にした高圧ガス保安法で主に規制される。韓国は水素の活用や安全規制をまとめた「水素経済法」を制定した。日本の企業関係者は「水素を推進したいならば、水素専用の法律が必要だ」と指摘する。国が安全性を担保するのは当然としても、水素利用を想定しない古い枠組みで縛れば規制もちぐはぐになる。水素社会という新市場を創造するには新しい枠組みを用意するのが近道だ。このままでは他の脱炭素技術と同様、水素も技術で勝って普及で負けかねない。 <医療・介護> *4-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66372040Y0A111C2EE8000/ (日経新聞 2020年11月20日) 地域医療、浮かぶ非効率 改革の重責に自治体及び腰、コロナ禍に迫る2022年の壁(下) 団塊の世代が75歳以上になり始め、医療費が急膨張する2022年の壁を乗り越えるには、非効率な医療供給体制の改革も必要だ。新型コロナウイルス危機は地域の医療体制の権限を持つ都道府県の力量を試した。都道府県別の1人当たりの医療費は最大4割近くの差が出る。千人当たりの病床数で全国最多の高知県は1人当たりの医療費が66万5294円と2位。病床数は最少の神奈川県の3倍だ。大和総研の鈴木準執行役員は「1人当たり医療費は人口当たり病床数と関係が強く、供給が需要を作り出している」と指摘する。病床数が危機時の力を左右するとは限らない。3月、神奈川県はコロナ患者を症状ごとに重点医療機関やホテル療養で柔軟に対応する「神奈川モデル」を導入した。病床数は最少でも県主導で効率的な体制を作り、その手法は全国に広がった。日本の千人あたりの病床数は先進国で最高水準で英国や米国の約5倍になる。それでも春先の感染爆発時は小さな医療機関を中心にコロナ患者をたらい回しした。「医療供給体制に無駄があることがコロナで浮き彫りになった」(鈴木氏)。「新型コロナとの戦いで都道府県の体制整備の責任に焦点が当たっている」。自民党の財政再建推進本部の小委員会は10月末、都道府県の医療体制へのガバナンス強化を求めた。地域に応じた医療体制の構築と医療費適正化の計画作りに関し、都道府県の責任を法律で明確にする内容だ。現行制度で医療体制整備の権限は都道府県にある。国は都道府県ごとに「地域医療構想」を作るよう求め、過剰な急性期病床の削減などを進め在宅医療への転換を促してきた。だが都道府県は民間病院に病床機能の転換を促すことをためらう。独自策を探る都道府県もある。「収入増には地域別の診療報酬が活用できる」。7月、奈良県の荒井正吾知事は新型コロナによる受診控えで収入減に悩む医療機関を支援するアイデアを示した。診療報酬は全国一律がこれまでの通例。高齢者医療確保法は都道府県が地域別の報酬を決めることを可能としているが、適用例はない。奈良県は医療機関の動向に影響を与えるには収入である診療報酬を使うのが効果的とみる。今夏に厚生労働省に提言したが、奈良県の医師会や厚労省は反対の方針だ。全国知事会は医療提供体制の議論について、地域医療の混乱を理由にコロナ収束後に先送りしたい意向を示す。医療行政は責任を負いたくない地方自治体と、本音では権限を失いたくない厚労省の利害がもつれあう。コロナ禍で医療制度に迫る22年の壁は高く厚い。 *4-1-2:https://style.nikkei.com/article/DGXMZO63622860Z00C20A9EAC000 (日経新聞 2020/9/13) 日本の医療、コロナで弱点浮き彫り 回復期病床少なく 新型コロナウイルスの感染拡大で、日本の医療が崩壊するのではないか、との懸念が広がっています。感染者を受け入れる病床が足りなくなる事態を医療崩壊と呼ぶなら、日本では現時点では医療崩壊は起きていません。経済協力開発機構(OECD)の調査によると(各国のデータはおおむね2017年時点)、人口千人当たりの病床数が日本は13.1と突出して多く、OECD加盟国平均の4.7を大きく上回っています。入院後の治療も含め、日本の医療体制を評価する声は少なくありません。しかし、病床を種類別にみると、決して十分とはいえません。日本の医療法では、病床を一般病床、療養病床、感染症病床、結核病床、精神病床の5種類に分類しています。厚生労働省の調べでは、3月末の病院全体の感染症病床は1886で、152万を超える病床全体に占める割合は0.1%あまりにとどまっています。そこで同省は2月、緊急時には感染症病床以外の病床への入院が可能であるとの見解を示しました。一般病床を転用する動きが広がり、コロナの入院患者受け入れが可能な病床数は全国で2万を超えています。ただ、受け入れ可能な病床数と、現在の入院者数の比率には都道府県によって大きな差があり、病床数に入院者数が近づいている地方は特に注意が必要です。同省はこれまで「地域医療構想」のもとで、病床の総数を削減する方向性を打ち出していました。しかし、コロナ対応で病床不足が問題になり、構想を批判する声も聞かれます。これに対し慶応大学の土居丈朗教授は「地域医療構想で打ち出したのは、一般病床と療養病床の再編であり批判は的外れ。コロナの病床不足は、病床そのものが足りないのではなく、機能分化と連携が進んでいなかったことが問題だ」と強調します。みずほ情報総研の村井昂志チーフコンサルタントは「病床をとにかく増やすというのは現実的ではない。どんな機能の病床を増やすのかを明確にすることが必要であり、これは地域医療構想の考え方とも一致する」と指摘します。 *4-1-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210504&ng=DGKKZO71577210U1A500C2PE8000 (日経新聞社説 2021.5.4) 医療体制を問い直す(上) 非常時の病床確保に強力な措置を 新型コロナウイルスの感染拡大は、日本の医療提供体制のもろさを浮き彫りにした。人口あたり患者数が米英の10分の1でも病床が足りなくなり、緊急事態宣言を三たび出す事態に追い込まれた。パンデミック(感染大流行)という非常時の対応力を高めるためだけでなく、今後の人口減少社会で医療の質を維持するためにも、日本の医療体制に早急にメスを入れる必要がある。 ●小規模分散で余力なく 日本に急性期病床は約88万9千床ある。人口千人あたりでは7.8床と、経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で最も多い。しかし、重症患者に対応するはずの急性期病床でコロナ患者を受け入れたのは、わずか3%にすぎない。それも公立・公的病院が大半だ。全病院の8割を占める民間病院の受け入れは少ない。コロナ患者に対応するには、院内感染を防ぐために、感染リスクがある場所と安全な場所を施設改修で分ける必要がある。そのうえで感染症に対応できる専門医を確保し、一般病床の何倍もの看護師を配置しなければならない。患者を数人受け入れるだけで、他の入院患者を数十人規模で転院させたりすることも必要になる。ところが民間病院の7割強は200床未満と規模が小さく、人材も手薄で余力が乏しい。小規模に分散した医療資源でコロナ病床を増やすには、医療機関の役割分担を徹底するしかない。1月末時点で全国自治体病院協議会が実施した調査では、400床以上の公立病院に入院するコロナ患者の3分の1が軽症で、重症者は1割に満たなかった。大規模な公立病院や大学病院は、重症者を中心とした受け入れに特化した方がいい。集中治療室(ICU)や体外式膜型人工肺(ECMO、エクモ)など重症者向けの治療設備や、これを使いこなす人材を集中的に配置すべきだ。重症者に対応できない中規模以下の病院は、中等症を中心にコロナ患者を受け入れてほしい。患者が重症化したら速やかに重症者向け病院に転院させるなど、地域の医療機関が密接に連携して一体的な医療を提供する。回復期の患者は療養型病院や高齢者施設に受け渡す。こうした階層型にして医療資源を有効に使えば、受け入れ能力は増えるはずだ。問題はこうした医療体制をどうやって構築するかだ。日本の医療機関は自由開業制で、政府や都道府県には民間病院に患者の受け入れを命令する権限はない。税金で医療を運営する国々には、感染症などの緊急時に医療機関や医療従事者を国や地方政府が動員する仕組みもある。社会保険方式の日本でも医療従事者の育成には公費が投じられ、病院の収入は保険料と税金で支えられている。医療機関や医師には医療体制を確保する責務があるはずだ。菅義偉首相は4月23日の記者会見で病床確保に関して「緊急事態の際の特別措置をつくらなければならない」と述べた。非常時には医療機関の「経営の自由」を制限し、強制力を持って医療機関に病床を確保させることができる仕組みを早急に整えるべきだ。 ●病院の自由経営に限界 小規模医療の源流は、1961年の国民皆保険制度の創設にさかのぼる。皆保険で急増した医療ニーズを引き受ける形で民間の診療所が増えた。公的病院に病床規制が導入される一方、診療所の一部は規模を拡大し、入院機能を持つ病院に衣替えしていった。民間開業医を中心とする医療体制はこうして形成され、結果として「経営の自由」が確保された病院が増加の一途をたどった。世界一とされる医療へのアクセスの良さは、日本が誇る長寿社会を実現する大きな支えになった。しかし、非常事態に対応できない致命的な欠陥が露呈した今、改革をためらうべきではない。医療機関の徹底した役割分担の必要性は、コロナ前から指摘されていた。軽い病気なのに大病院で受診する人が多く、患者に追われて数十時間も寝ずに手術をする外科医がいる。一方で急性期病床を名乗りながら、重篤ではない患者で病床を埋める病院がある。これでは医療人材の確保が年々難しくなる今後の人口減少社会で、医療の質を維持できない。勤務医の働き方改革の観点からも、改革は喫緊の課題だ。 *4-1-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210505&ng=DGKKZO71583880V00C21A5PE8000 (日経新聞社説 2021.5.5) 医療体制を問い直す(下)初期診療をこなす家庭医を増やせ 「世界に冠たる」は、国民皆保険に代表される日本の医療制度の枕ことばとして医師会や与野党の関係議員、厚生労働官僚、また一部の学者らが多用してきた。それが幻想にすぎなかった現実をあぶり出したのがコロナ禍である。欧州主要国や米国より感染者が桁違いに少ない一方、人口あたりの病床数は格段に多いにもかかわらず、治療体制のゆき詰まりが露見した。特効薬とワクチンの開発にも大きく後れをとった。 ●医師の働き方改革も ワクチン接種は遅々として進んでおらず、当面はコロナとの共存を覚悟せざるを得ない。その間にも将来をにらんで医療体制を根本的に再構築する必要性は、論を俟(ま)たない。医療の主役である患者第一を貫きつつ、効果が高くコストが低い医療体制に向けた再構築のカギを握るのは、欧州などで一般化している家庭医制度の普及である。さまざまな病をひと通り診る力を備えた医師だ。総合診療医などとも呼ばれる。健康保険証があれば、どの病院・診療所にもかかれる「フリーアクセス」が日本の医療制度の特徴だ。これは患者の安心につながる面があるが、体調を少々崩しただけでも建物や設備が整った病院に行けばいいという思い込みを生む要因にもなっていた。そこで、患者はまず家庭医にかかるのを原則とし、診断・治療・処方を受ける。複数の診療科をこなし初期診療に責任をもつ家庭医は、慢性期の持病をいくつか抱えた高齢患者の診察にも適任だ。ただし、その過程で専門的な治療や手術が必要と判断すれば、遅滞なく病院の専門医につなぐのが家庭医の重要な役割になる。「まず家庭医へ」が浸透すれば、病院の勤務医や看護職に過重な負担がかかる事態は緩和されよう。家庭医制度が浸透している国のひとつが英国だ。税財源で運営する同国の医療制度NHSは、原則として患者に医療費の負担を求めない。その代わりに患者はGPと呼ばれる資格を持つ家庭医に登録し、病院ではなく登録GPにかかるのを基本とする。GPは担当患者の健康管理にも携わる。病院での専門治療や手術が必要な患者にとっては一定期間、待たされるリスクがある。半面、コスト意識が強いGPが初期診療をこなすので必要度が低い検査や処方を省き医療費を抑えやすくなる。日本は一般に、開業医に比べ勤務医の労働環境が過酷だ。最近は減ったが、夜勤明けの外科医がメスを握ることもある。働き方改革を推し進めるためにも大学医学部は家庭医養成を急いでほしい。家庭医制度は患者の医療機関へのアクセス制限につながるので医療界に根強い反対論があるが、風向きは変わりつつある。慢性期治療の専門病院で組織する日本慢性期医療協会は、医師の卒後臨床研修を見直し、後期研修のうち2年を総合診療機能の習得に充てるよう求める要望書を4月に出した。医師不足の懸念に対し、政府・医療界はこれまで医学部の定員増などで対応してきたが、人口高齢化に即した研修強化をはじめ、医学教育の質拡充へカジを切るときだ。次の感染症パンデミックへの備えとしてもそれは有用である。 ●介護との連携必要 患者の特性や高齢化の度合いにみられる地域差への対応も、課題に浮上している。とくにコロナ禍で浮き彫りになったのは、患者の重症度に応じて都道府県当局が域内の医療機関に機能分担・連携してもらう難しさだ。 医療の公定価格である診療報酬は全国一律だが、一定範囲で県独自に設定できるようにすれば、病床誘導がしやすくなろう。医療費抑制への動機づけにもなる。医療サービス価格に大きな地域差がつくのは好ましくないが、一定の裁量を認める手法は検討に値する。不可欠なのが介護サービスとの連携だ。高齢コロナ患者が回復期も病院にとどまり、医療職が介護を提供する例がみられる。地域ごとに医療機関と介護施設が円滑な連携策を探ってほしい。団塊世代の後期高齢化が迫り介護需給は逼迫の度を増す。海外人材の受け入れ拡大やロボット介護の保険適用なども急ぐべきだ。コロナによって日本の医療の弱みが誰の目にもみえてきた。「世界に冠たる」の復活へ向け、多面的改革を推し進めるときである。 *4-1-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210513&ng=DGKKZO71815760S1A510C2EA1000 (日経新聞 2021.5.13) 入国後待機「管理強化を」 自民要求、要請の実効性低く、厚労省慎重「憲法の制約」 変異型の新型コロナウイルスを巡る日本の水際対策が課題に浮上してきた。自民党の外交部会は12日、入国者の管理を強化するよう政府に要求した。自宅での待機要請などに従わない人は1日300人に及ぶ。厚生労働省は「移動の自由」を記す憲法の制約を理由に厳しい措置に慎重だ。「(水際対策が)強化されていないのはゆゆしき問題だ。菅義偉首相に恥をかかせたと言わざるを得ない」。佐藤正久外交部会長は会合で政府の対策の甘さを指摘した。「入国した300人と連絡がつかない状況は水漏れだけでなく水道管が破裂して水浸しとの批判も出かねない」と語った。感染者数が減らないのは入国者を完全に捕捉できていないのも一因になっているとの危機感だ。田村憲久厚生労働相は10日の衆院予算委員会で「憲法の制約上、移動の自由がある。判例でも出ている」と言及した。「我が国は私権の制限に対しての法律がない」とも述べ、強制するのは難しいとの認識を示した。憲法22条は「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」と定める。過去に厚労省が「公共の福祉」を理由にハンセン病患者を強制隔離し批判を浴びた歴史がある。私権制限の措置に消極的になる背景だ。政府は入国者に国籍を問わず、原則14日間の自宅・ホテル待機と健康状態の報告を促す。厚労省によると1日2万人超いる報告が必要な入国者のうち報告がない人が200~300人いる。位置情報を把握できなかったり指定した場所などから離れたところにいたりするケースも多い。政府の「要請」に従う義務がないのが要因だ。政府は入国後の居場所や健康状態を把握するため警告メールや自宅訪問による本人確認などの対策を講じているが、義務化は私権制限になりかねないと懸念する。憲法学者の中には入国した邦人や外国人に一時的な待機を義務づける措置は憲法上、認められると指摘する声がある。慶大教授の横大道聡氏は「邦人と外国人を問わず、合理的な根拠と明確な法律に基づく条件を満たせば移動の自由を制約できる」と話す。「待機期間が科学的に必要かどうか検証がいる。そのうえで期間や要件などを定めた法律を整備すれば憲法上許される余地がある」とも唱える。元三重中京大教授の浜谷英博氏は「違憲とは考えないが、移動を制約した法律に対する違憲訴訟になる恐れはある。憲法に緊急事態条項の創設が必要だ」と訴える。日本は海外に比べ外国人の入国規制が緩いとの批判もある。150を超える国・地域からの入国を原則拒否しているものの、希望する外国人に「特段の事情」があると認めた場合は許可する。例えば、重篤な状態の家族への見舞いや、死亡した家族の葬儀のためといったケースだ。4月は1万7557人の外国人が入国した。変異ウイルスが広がるインドだけで1900人ほどいた。米国や台湾などはインドからの自国民以外の入国を禁止している。 *4-2-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/662531 (佐賀新聞 2021年4月17日) 65歳以上の介護保険料、高齢者負担は限界に近い 介護保険料が4月から改定された。65歳以上の高齢者が払う保険料は多くの市区町村で引き上げられ全国平均は月額6千円程度になりそうだ。2000年の介護保険制度開始時の2倍であり、年金で暮らす高齢者の負担は限界に近づいている。介護保険のサービス費用は、利用者が払う自己負担分を除き、加入者の保険料と税からの公費で半分ずつ賄う。介護保険料は、40~64歳については毎年改定されて、加入する公的医療保険を通じて納付。65歳以上の保険料は、市区町村や広域連合ごとに3年に1度見直されて、原則的に公的年金から天引きされる。高齢化の進行で介護が必要なお年寄りが増える一方、人手不足が深刻な介護職員の処遇改善などのため、介護サービス事業者に支払う介護報酬は4月から全体で0・7%引き上げられた。これらが保険料アップにつながった一方、公的年金給付額は賃金水準下落を受け4月分から0・1%引き下げられた。高齢者の暮らしには厳しい逆風の春だと言わざるを得ない。共同通信の調査では、65歳以上の介護保険料は、都道府県庁所在地と政令指定都市の計52市区の60%で引き上げられ、81%が6千円以上となった。かつて「5千円が負担の限界」とも言われたが、高齢化が加速する25年度には20超の市区が7千円を上回るとの推計もあり、負担増への歯止めは待ったなしの課題だ。保険料は高齢化率や要介護認定率が高い自治体ほど高くなる。家族のケアがない単身高齢者の割合が高く、1人当たりの介護費用がかさむ大阪市は8094円まで上がった。このままでは高齢者の生活費が圧迫され、介護サービス利用時の原則1割負担が払えず、介護保険に加入しながら、利用したくてもできないという矛盾が現実化する。介護保険料滞納で18年度に資産差し押さえ処分を受けた高齢者は、全国で1万9221人と前年度より3千人超増えて過去最多を更新している。65歳以上で働いて賃金を得ている人は約900万人、うち約400万人はパートなど非正規雇用だ。新型コロナウイルス流行拡大による景気低迷が重なって収入減になり、高齢者の家計はさらに苦しくなるとみるべきだ。日本の高齢化は、団塊の世代が全員75歳以上となる25年を経て40年ごろピークを迎える。そこへ向け介護人材を確保し、サービスを充実させることは避けて通れない課題だ。だがそれを抜本改革抜きに実現しようとすれば、財源捻出のため保険料は天井知らずになり「介護を社会全体で担う」という介護保険制度の理念が破綻しかねない。改革は「給付と負担」の見直し以外にない。介護保険料は40歳以上が払っているが、支え手を増やすため「20歳以上」に対象年齢を広げる案も検討せざるを得ない段階に来ている。一定所得がある高齢者が介護サービス利用時に払う2割負担の対象拡大も焦点だろう。給付の伸びを抑えるため、要介護度が低い人の掃除、洗濯など生活援助を介護保険から外し市区町村事業に移すことなども課題になる。介護保険料引き上げが限界となれば、残る財源の柱は税しかない。そして社会保障に充てる税とされるのは消費税だ。菅義偉首相は消費税10%超への引き上げを「10年は考えない」とするが、いずれ議論は避けられまい。 *4-2-2:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1318009.html (琉球新報社説 2021年5月9日) 75歳以上2割負担 窓口負担増避ける議論を 一定の収入がある75歳以上の医療費窓口負担を1割から2割に引き上げる医療制度改革関連法案について衆院厚生労働委員会が賛成多数で可決した。自民、公明両党と日本維新の会、国民民主党が賛成し、立憲民主、共産両党は、高齢者が受診を控え体調を損ねるとの理由で反対した。医療制度改革は、収入のある高齢者に窓口負担を求めることで、医療費を保険料で支える現役世代の負担増を抑える狙いがある。団塊世代が2022年から75歳以上になり始め、医療費が膨張することが背景にある。法案は今週にも衆院を通過し参院に送られる見通しだ。今国会で成立する可能性が高まっているが、国会で審議入りしてまだわずか1カ月。議論は不十分だ。高齢者の経済的事情にどれだけ配慮しても、受診控えを招かないという保証はない。この点を十分に認識し、窓口負担増を避ける方策を探るべきである。75歳以上の高齢者の窓口負担は現在、原則1割で、現役並みの収入がある場合は3割だ。それ以外の財源は、5割が公費、4割が現役世代の保険料で賄われている。法案は、この現役世代の負担を抑えるため、単身だと年金を含む年収200万円以上、夫婦世帯では計年収320万円以上を対象に2割負担にする内容だ。22年度からの実施を目指す。厚生労働省によると、全国で後期高齢者医療制度に加入する75歳以上の人約1815万人のうち、2割負担の対象は約370万人に上る。自己負担の増加幅が月最大3千円とする上限額があるものの、窓口負担が2倍になる人もいる。このため立民、共産両党は「経済的な理由から受診を控え、病気が重症化する可能性がある」と懸念する。立民は75歳以上の高所得者の保険料上限を引き上げて財源を捻出する対案を出した。共産は高齢者医療の国庫負担を35%から、少なくとも従来の45%に戻し国が公的役割を果たすことで若い世代の負担軽減を図るべきだと主張する。誰でも高齢になれば体が弱る。受診する機会が増えるのはやむを得ない。しかし受診を控えると、命や健康を損ねるリスクが高まる。政府の試算では、負担引き上げに伴い、75歳以上の外来受診回数は1人当たり年平均で33回から32・2回に減るとの見通しだ。さらに収束が見通せないコロナ禍にある。ただでさえ受診を控えている高齢者に拍車を掛けて受診をためらわせないか。そのリスクに配慮すべきだ。受診控えを招く窓口負担増以外に財源を捻出する方策を、あらゆる観点から探る必要がある。高齢者は長期にわたり社会に貢献した敬うべき存在である。なおかつ現在は社会的弱者だ。憲法25条が国に義務付けている生存権の保障にも関わる。これらの点を重視し、高齢者に負担を強いることは極力避ける方向で議論を進めるべきだ。 <領土保全の意志> *5-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210430&ng=DGKKZO71487210Z20C21A4FF8000 (日経新聞 2021.4.30) 中国、外国船「領海侵入」に罰金 関連法を改正 中国の全国人民代表大会(全人代)常務委員会は29日、改正海上交通安全法を可決した。外国船が中国の「領海」に入った場合、中国当局の判断で退去を命じたり罰金を科したりできるようになる。沖縄県・尖閣諸島の周辺海域で緊張が高まる懸念がある。9月1日に施行する。中国国営の新華社通信は改正法の狙いを「海上の交通条件を向上させて、安全保障の水準を高める」と解説した。交通運輸省の傘下の海事局の権限を強める。中国が主張する領海で「海上交通の安全に危害を及ぼす恐れ」のある外国籍の船舶に事前報告を義務づけた。違反すれば退去を命じたり、船舶の管理者に5万元(約83万円)以上50万元以下の罰金を科したりできる。中国は尖閣を「固有の領土」と主張しており、周辺海域も領海とみなしている。中国当局が危害を及ぼす恐れのある船舶について幅広い解釈権を持つとみられる。尖閣周辺で操業する日本漁船にとって脅威になる。中国は海上警備を担う海警局に武器使用を認めた海警法を2月に施行した。海警局が管理する中国公船と海事局の巡視船が連携し、尖閣周辺の海域での監視活動を増やす可能性がある。領海やその周辺の接続水域より広い「管轄海域」にも海事局の監督権限が及ぶとしている。管轄海域で海事局が任意に「航行禁止区域」を設定できる権限も盛り込んだ。中国の民間船への管理も強める。中国版全地球測位システム(GPS)「北斗」の設置や航行データの保全の徹底を求めた。益尾知佐子・九州大准教授は「管轄海域で中国の実効支配が進む懸念がある」と指摘する。海事局は大型の巡視船の建造を進めている。中国メディアは年内に初の1万トン級の巡視船「海巡09」が広東省広州で就役すると伝えた。中国共産党の機関紙、人民日報は「世界中で巡視、救援が可能」と強調している。 *5-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA021DY0S1A500C2000000/ (日経新聞 2021年5月2日) 東シナ海の現状変更反対 日米制服トップ会談、中国念頭 防衛省は2日までに、山崎幸二統合幕僚長が米ハワイで米軍のミリー統合参謀本部議長と会談したと発表した。中国が海洋進出を強める東シナ海に関し、一方的な現状変更の試みに「断固として反対する」と一致した。日米制服組トップの会談は2019年11月以来、1年半ぶり。4月30日(日本時間5月1日)に実施した。台湾海峡の平和と安定の重要性を確認した4月の日米首脳会談を受け、自衛隊と米軍の連携策について意見を交わした。中国は4月に空母「遼寧」を沖縄本島と宮古島の間の海域に航行させるなど、緊張を高める行動を続ける。沖縄県尖閣諸島周辺では海警局の船が領海侵入を繰り返す。両氏はこうした状況を念頭に、日本と米国が共同で抑止力と対処力を一層強化すると申し合わせた。米国の日本防衛義務を定める日米安全保障条約5条に基づき「米国の揺るぎないコミットメント」を再確認した。「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、多国間協力を進めていく方針でも合意した。英国は空母「クイーン・エリザベス」を日本に派遣すると決め、フランスも今月、日米と離島防衛訓練を実施する。軍備を増強する中国に対峙するため、欧州各国との協調をめざす。山崎氏は米インド太平洋軍司令官の交代式に出席するためハワイを訪れた。アキリーノ新司令官とも会い、日本やインド太平洋地域の情勢について認識をすり合わせた。日米の会談に先立ち、韓国軍の元仁哲(ウォン・インチョル)合同参謀本部議長を交えて日米韓3カ国の会談も実施した。北朝鮮の核・弾道ミサイル計画に対する懸念を共有した。山崎氏から国連安全保障理事会決議の完全な履行が重要だと伝えた。 <教育> *6-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGH308QR0Q1A430C2000000/ (日経新聞 2021年5月2日) 幼小中高一貫校で初の秋入学 玉川学園、23年度にも 私立学校の玉川学園(東京都町田市、小原芳明理事長)が秋入学(9月始業)を導入する方向で文部科学省と協議していることが分かった。小学校教育の開始を半年繰り上げ、高校まで学ぶ「初等中等一貫教育学校」構想だ。国際標準の9月始業・6月終業とし、高校は6月卒業とする。2023年度にも発足させたい意向だ。構想が実現すれば日本初となり、秋入学や早期就学を巡る国の議論にも影響を与える。「K-12」と呼ぶ構想では、幼稚園年長児(5歳)は9月から小1の学習を始め、翌年6月で1学年を修了する。9月から2学年に上がり、高校までの教育課程全体を半年前倒しする。高校卒業が6月だと夏休み明けに海外大学に進め、国内大学に入る場合は入学前の時間をギャップタームとして多様な活動に使える。幼稚園以降の学費総額も軽減できる。秋入学・9月始業の国や、4歳児、5歳児から小学校に就学させる国は少なくない。日本でも東京大学が秋入学の導入を模索した。20年には新型コロナウイルスの感染拡大への対応策として首長らから秋入学と就学年齢見直しを求める声が上がったが、課題が多いとして議論は棚上げとなった。学校教育法は義務教育の開始を「満6歳に達した日の翌日以降の最初の学年の初め」とし、同法施行規則は小学校の学年の始業は4月1日とする。構想実現には同法との兼ね合いが課題になる。文科省幹部は「運用上の対応なら問題ない。秋入学を制度的に認めるには法改正が必要」と指摘するが、「研究開発校などの既存制度をうまく使えば実現可能ではないか。私学が秋入学などに実験的に取り組むのは意義がある」という声もある。小原理事長は「戦後間もなくできた学校制度を守り続ける必要があるのか。文科省と相談しながら実験的な取り組みに挑戦したい」と話している。1929年創立の同学園は幼稚園から大学院まで擁し、幼小中高の総定員は2480人に上る。 *6-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63028960V20C20A8TCN000/ (日経新聞 2020年8月26日) 文理融合学部、国立大で広がる 「課題解決力」を育成 文系と理系の枠組みを超えた文理融合型学部の創設が国立大で広がっている。幅広い分野を学べる環境をつくり、社会での活躍に必要な「課題解決力」を育てる狙いがある。受験生の人気も高いが、就職などを見据えて専門分野も学びやすい仕組みを合わせて整えられるかなど課題もある。「文系と理系のどちらの学部を志望するのか聞かれ、すぐに答えられなかった」。東京都内の私立高校3年の女子生徒が振り返る。高校は文系クラスだが、文系学部に進むのは迷いがあった。7月の進路相談で教員に「興味ある分野を探しながら学びを深めたい」と伝えると、勧められたのが「文理融合型」の学部だった。文理融合型の学部新設の代表例は2018年4月、「共創学部」を設けた九州大だ。共創を「異なる観点や学問的な知見の融合を図り、ともに構想し、連携して新たなものを創造すること」と定義。課題構想力や国際コミュニケーション力などを育て、「共創的課題解決力」の獲得をめざすという。所属する学生は「データサイエンス基礎」「共創デザイン思考発想法」「フィールド調査法」など必修7科目に加え、生命科学や歴史などの分野から好きな科目が選べる。文理どちらかだけの科目を選ぶことはできない。英語力の育成にも力を入れる。1年生から、他学部よりも英語に触れる機会を多くし、3年生の討論、4年生の卒業研究発表は全て英語で行う。鏑木政彦学部長は「社会の課題をベースに学問の切り口を考えるために、文系・理系の枠を超え自由に学んでいこうという考えが核心にある」と語る。初年度の志望倍率は4倍以上。19、20年度も3倍超で、予備校関係者は「新設学部としては異例の人気」と話す。従来、国立大の多くが学部を文理に分けてきた。だが、社会のグローバル化やデジタル化が急速に進むなか、幅広い視野を持った人材を輩出できるようにすべきだとの認識が高等教育の専門家らの間で広がった。文部科学省も15年に国立大の組織見直しに関する通知を出した。教育・研究の質の向上には学問分野を超えた総合性や融合性、国際性などが必要とし、人文社会科学系学部などには廃止を含めて組織改編を迫る内容だった。通知には批判も集まったが、結果的に文理融合型の学部やカリキュラムをつくる動きが活発になった。九州大の鏑木学部長は「色々な立場の感覚を持ち、世界でも司令塔としての役割を果たせる人材が必要だという社会の要請に国立大として応える責任がある」と語る。地域社会の課題解決を目指す文理融合型の学部も増えている。新潟大は17年に「創生学部」を創設した。地元の企業や自治体に出向き、課題を見つけて議論する実践型の授業を実施。他学部の22科目から関心がある分野を学べる。宮崎大の地域資源創成学部も地域資源を生かす経営学・マネジメントを身につける実習などに加え、生物学や食品学などを選べるようにしている。ただ、法学部や工学部などに比べると、文理融合型の学部は卒業後のキャリアを明確に示しにくい面がある。広島大高等教育研究開発センターの大膳司副センター長は「視野の広い人材が求められているのは事実だが、最終的には大学院などで専門性を身につけた方が将来有利になる可能性は高い」と指摘。「専門分野を少しでも深く学べるプログラムを組み、学生がこだわって勉強した経験をつくれる環境が必要だ」と語る。 *情報系学部が人気、専門性獲得に期待か 文系と理系の垣根が低い学部への志願者数は増加傾向にある。2020年度入試を巡る河合塾の調査によると、国公立大の13学部系統のうち、志願者数が19年度より増えたのは文理両方から入れる「総合・環境・情報・人間」のみだった。特に人気があるのが情報系学部だ。河合塾担当者は「全てのものがインターネットでつながる『IoT』や人工知能(AI)などの情報技術の発展に伴い、専門分野を学べる期待感がある」と指摘する。滋賀大データサイエンス学部は情報や統計関連の理系科目に加え、データを生かすための経済や経営などを開講する。一橋大は「ソーシャル・データサイエンス学部」の設立準備委員会を設置。両大学を含めた6校は20日に「データサイエンス系大学教育組織連絡会」を立ち上げた。今後は規模を拡大し人材育成や研究などで連携を進める。 <その他の憲法違反と人権侵害> PS(2021年5月17日追加):*7-1のように、アイルランドの高等裁判所は、米国には連邦政府レベルのプライバシー保護法がないため、欧州から米国への個人データ移管を禁じた仮命令に対してフェイスブックが申し立てた異議を棄却した。また、欧州司法裁判所は2020年にプライバシー・シールドも無効と判断している。これに対し、日経新聞は、「①個人データの移管禁止が確定すれば、他の米国企業も欧州の個人データを米国に送れず、ターゲティング広告やマーケティング分析などが制約を受ける」「②そのため、ネット企業の国際展開の足かせになり、迅速に対応できない中小が大手との競争で不利になる可能性がある」などと記載している。 しかし、①は、個人のプライバシー保護よりもターゲティング広告やマーケティング分析の方が重要だという本末転倒の考え方を明示している。また、②は、個人のプライバシー保護のために割くことができる人材や資金が大企業より限られる中小企業が競争で不利になることを問題にしているのである。これが、個人情報を勝手に使うことを許し、それが漏れた時には人権侵害になる可能性もあることを気にかけない日本ではなく、欧州が国際基準づくりのリーダーになって欲しい理由の1つだ。 なお、日本における個人のプライバシー保護は、*7-2のように、「③日本政府と与党が自己情報のコントロール権を保障せずに個人情報保護を後退させるデジタル改革関連6法を可決・成立させ」「④国民の利便性向上のみを強調して、現行制度を抜本的に変更するのに法案を60本以上束ねて提出して国会の熟議なしで成立させ」「⑤行政手続きのオンライン化を進めてマイナンバーの利用拡大等を行っており」「⑥民間・行政機関・独立行政法人に分かれていた個人情報保護法を一本化して最も規制の緩い国のルールに合わせさせ」「⑧中央省庁が持つ個人情報を匿名加工して民間に提供する現行制度を自治体にも広げて、目的外使用や漏洩の可能性を拡大させ」「⑨個人情報保護に関する監視体制は不適切な個人情報の取り扱いに対して命令ができない」という状況なのである。 このうち③④は、新型コロナ騒動で国民の目から隠しながら、議会で情報を開示した議論をしなかった点で、日本国憲法(https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/shiryo/dl-constitution.htm 参照)前文の「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、ここに主権が国民に存することを宣言する」等の主権在民に反している。また、⑥⑦⑧のように、このような粗雑な議論をした結果、国民にとって不利益な法案を可決し、決して国民の福利を増加させる変更にはなっていない。 さらに、⑤⑨は、個人情報を使った国による国民への監視体制強化の意図を含んでおり、「19条:思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」「21条1項:集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」「21条2項:検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない」に次第に反していく可能性があるのだが、この法案の内容や問題点を報道しなかった日本のメディアは、日頃から主張している「言論の自由」「表現の自由」が本物ではないことを露呈させた。また、日本国憲法は「12条:この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない」と定めているが、報道もされずにこそこそと遂行され蚊帳の外に置かれて事実を知らされなかったことがあれば、(いくら選挙をしても)国民は主権者としての権利行使ができないのである。 *7-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210516&ng=DGKKZO71936610V10C21A5EA2000 (日経新聞 2021.5.16) フェイスブックの異議棄却、欧米間データ移管に逆風、ネット事業拡大に制約も 欧州から米国への個人データ移管に対する逆風が強まっている。米フェイスブックが欧州統括拠点を置くアイルランドの高等裁判所は14日、データ移管を禁じた仮命令に対する同社の異議を棄却した。プライバシー保護の観点から歓迎の声が上がる一方、ネット企業の国際展開の足かせになる恐れもある。「フェイスブックの完敗だ」。オーストリアの弁護士でプライバシー保護活動家のマックス・シュレムス氏は14日、コメントを出した。2013年にフェイスブックによる欧州から米国へのデータ移管が違法だとアイルランドのデータ保護当局に申し立てた人物だ。米国には連邦政府レベルのプライバシー保護法がない。さらに13年に発覚したスノーデン事件で米国家安全保障局(NSA)による情報収集が明るみに出て、欧州は米国のデータ保護体制に懸念を強めた。欧州連合(EU)は18年、一般データ保護規則(GDPR)を施行し個人データの域外移管を厳しく制限。一方で例外を残し、欧米間では「プライバシー・シールド」という独自のデータ移転の枠組みや、「標準契約条項(SCC)」というデータ移転契約のひな型が利用されていた。ただEUの最高裁判所にあたる欧州司法裁判所は20年、プライバシー・シールドを「無効」と判断。SCCについては有効としたが、米当局が企業の持つ個人データを監視しかねないという問題意識が強く示された。この判断などを受けてアイルランドのデータ保護当局はフェイスブックへの調査を始め、20年8月にデータ移管を禁止する仮命令を出した。同社は「壊滅的な結果をもたらす」などと異議を申し立てたが、高裁は今回、同社の主張を退けた。フェイスブックは14日の声明で「仮命令は当社だけでなく利用者やほかの企業に損害を与える可能性がある」と指摘。移管禁止が確定すれば売上高の約4分の1を占める欧州向けサービスが一時中断を余儀なくされるとの見方もある。ほかの米国企業も欧州の個人データを米国に送れなくなり、ターゲティング広告やマーケティング分析などデータを活用した事業展開が制約を受けかねない。アイルランド当局によるフェイスブックへの個人データ移転の禁止については他のEU加盟国当局も精査する。異議がなかったり、異議が退けられたりすれば事実上、EU全体でアイルランドを支持したことになる。フェイスブック側が追加の法的手段に訴えるとの観測もあり、判断が確定するまでには時間がかかるとの見方も多い。米国では20年に当時のトランプ大統領が中国発の動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の運営会社に米国の利用者の個人データを国内に保管するように求めた。各地でデータの国内・域内保管を求める動きが強まっている。EUがGDPRを施行した際、フェイスブックのような資金や技術者が豊富な大手は迅速に対応し、影響を軽微にとどめた。一方、中堅・中小企業の一部は欧州向けサービスの一時中断に追い込まれた。データ移管を巡っても、結果として中小が大手との競争で不利になる可能性もある。 *7-2:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1320217.html (琉球新報社説 2021年5月13日) デジタル法成立 個人情報保護 後退させた デジタル庁設置を柱とするデジタル改革関連6法が参院本会議で与党などの賛成多数で可決、成立した。 国民の利便性向上を強調するが、実態は自己情報コントロール権を保障せず個人情報保護を後退させる内容だ。現行制度を抜本的に変更するにもかかわらず、法案を60本以上束ねて提出した政府の国会軽視と、熟議せず成立させた国会の責任は重大だ。デジタル改革関連法成立によって、改革の司令塔で首相をトップとするデジタル庁を9月1日に発足させる。デジタル庁に権限を集中させ他省庁に業務見直しなどを勧告する。行政手続きのオンライン化を進め、マイナンバーの利用拡大や押印を求める手続きの削減などデジタル社会に向けた環境を整備する。関連法の柱の一つが個人情報保護制度の見直しだ。民間、行政機関、独立行政法人の三つに分かれている個人情報保護法を一本化し、共通のルールを導入する。内実は規制が緩い国のルールに合わせるということだ。その上で中央省庁が持つ個人情報を匿名加工して民間に提供する現行制度を、自治体にも広げる。これまで個人情報の保護は、住民に近い自治体がそれぞれ条例を制定し、思想信条や病歴・犯歴などの要配慮情報の収集は禁じるなど慎重に運用してきた。住民本人の合意を得た上で、個人情報を取り扱うことが自治体では原則となっている。制度の見直しで個人情報保護の原則はなし崩しになり、目的外に使われ、漏えいする恐れがある。実際に現行制度でも、防衛省が米軍横田基地の夜間飛行差し止め訴訟や、航空自衛隊小松基地の騒音訴訟の原告名簿などを民間への提供対象にしていたことが発覚した。関連6法の中で基本理念を定めた「デジタル社会形成基本法」に、個人の権利を担保する自己情報コントロール権が明記されていない。専修大学の山田健太教授(言論法)は「情報を有する側の縛りを一貫して緩めてきたのが日本の法制度であって、一方で自己情報コントロール権も含め、個人の権利化は進捗(しんちょく)がない。その結果、両者のバランスはますます崩れる一方」と警鐘を鳴らす。個人情報の保護について監視する仕組みにも問題がある。全体の監督は個人情報保護委員会に委ねられる。しかし、捜査情報は個人情報保護委員会の監視対象から外されている。不適切な個人情報の取り扱いに対して勧告はできるが、命令はできない。権限が不十分だ。日本弁護士連合会は、官民で管理する個人情報全般の取り扱いを監視・監督する独立した第三者機関を創設し、専門的な能力を備えた職員をそろえるための定員と予算を担保するよう求めている。政府は日弁連の提言を真摯(しんし)に受け止め、デジタル庁設置までに、監視・監督の権限を強化する手立てを講じるべきだ。 <生物的性差と社会的性差> PS(2021年5月20、27日追加):*8-1のように、山谷えり子氏が「①LGBTの問題で大きな議論が必要」と言われたそうで、*8-2には「②就活で『らしさ』を押しつけないで」という声が性的少数者を中心に上がっている」「③就活で身につける衣類や振舞方が男女で分けられ、LGBTの存在が取り残されている気になった」「④服装やマナーでつまずいて、どんな仕事がしたいのかまでたどり着けない」「⑤極端に二元化した男女別スタイルやマナーの押しつけをやめ多様性のある装いのスタイルを提案すべき」等が書かれている。 まず①については、「多様性・ダイバーシティー=LGBT」という記事が多すぎるのには、私も辟易している。何故なら、“多様性”はLGBTだけでなくすべてに存在し、日本国憲法は75年も前の公布時から「14条:すべて国民は法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において差別されない」と規定して属性による差別を認めておらず、LGBTはそのごく一部にすぎないからだ。また、日本はLGBTの割合が高いと言われているが、その理由は、男女共学校なら中学・高校・大学の同窓生・同級生間で恋愛結婚して一般的ケースになるものが、男女別学校の場合はLGBTとなり、男女別学校が多いからだと思われる。そのため、LGBTにも生物的違いのあるものだけではなく、社会的に作られたものが多いのではないか? 次に、②③④⑤については、求められる人柄や服装は職種によって異なり、就活指導として一律に男らしさ・女らしさを押し付けるのは不適切だが、求人する会社が求める人柄は一律ではないため、求職者は会社が求める人材を知った上で就活した方がよいと思う。そうすれば、就活時に不合理な条件を出す会社は、有用な人材を採用できなくなって次第に変わらざるを得なくなる。つまり、就活する人は、会社に選ばれる人材であるための何かを身に着けた上で、実績を示して変な慣習をなくしていくのが正攻法であり、門前払いされて実績を示すことすら妨げられたり、実績を示しても不合理が改善されない場合に差別に当たるのだと考える。 なお、*8-2に、「⑥大手アパレルは、女性用のリクルートスーツの紹介で『女性らしさを引き立たせて、第一印象から美しく』の言葉が目立つ」「⑦別のアパレル企業のサイトでは、ファンデーションで肌を明るく均一に整え、ポイントメイクはいつもよりもしっかりめに」等を書いているそうだが、⑥は士業・研究者・学校の先生・記者・看護師などの実務型職種の採用試験ならむしろマイナスで、⑦は肌のきれいな若者なら濃くファンデーションを塗るより薄化粧で素肌を見せた方が長所を強調できる。つまり、自分の長所は強調し短所はカバーしつつ、採用側が求める人材像が合理的なら合わせ、不合理なら次第に変えるようにした方がよいと思う。 性同一性障害の原告が、*8-3のように、経産省トイレ制限訴訟で逆転敗訴されたのは気の毒だが、経産省も性別不問の障害者用トイレくらいは各階に複数作ったらどうか?私は、狭い公共女子トイレでコートやかばんがばさっと下に落ちて不潔な思いをしたのに懲りて障害者用トイレを使うようにしているが、「障害者優先」と書いてあるので罪悪感を感じなければならないのにも参っている。公共トイレも、使いやすくて手洗いの水くらいはふんだんに出る清潔なものであって欲しい。 *8-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14909980.html (朝日新聞 2021年5月20日) 「ばかげたこと起きている」 性自認めぐり自民・山谷氏 自民党の山谷えり子元拉致問題担当相は19日、党内の会議で、自分の性別をどのように認識しているかを意味する「性自認」をめぐり、「体は男だけど自分は女だから女子トイレに入れろとか、アメリカなんかでは女子陸上競技に参加してしまってダーッとメダルを取るとか、ばかげたことはいろいろ起きている」と発言した。性自認をめぐっては、戸籍上は男性だが女性として生きる性同一性障害の経済産業省職員が、女性トイレの使用を制限される差別を受けたなどとして国を訴えた。2019年12月の東京地裁では、経産省の対応は違法として国に132万円の賠償を命じた。判決は「トランスジェンダーが働きやすい職場環境を整える重要性が日本でも強く意識されるようになっている」と指摘した。その後、敗訴した国と勝訴した職員の双方が東京高裁に控訴している。LGBTなど性的少数者に関し、超党派の議員連盟が、「理解増進」法案の今国会での成立を目指しており、20日に自民党内で法案審査を予定している。これに対し、山谷氏は、法案の目的と基本理念で「性自認を理由とする差別は許されない」とされている点を問題視。「このまま自民党として認めるにはやっぱり大きな議論が必要。しっかりと議論することが保守政党としての責任だ」と語った。 *8-2:https://digital.asahi.com/articles/ASP5F5Q8BP56ULFA00N.html (朝日新聞 2021年5月16日) 就活で「らしさ」を押しつけないで 性的少数者たちの声 「女性らしさ」が強調されたリクルートスーツ、面接時には必須とする「ちょうどいい化粧」――。就職活動する学生に対して、こうした押しつけをやめてほしいという声が性的少数者を中心に上がっています。履歴書の性別欄のあり方にも変化が起きるなど、就活におけるジェンダーのあり方を問う動きが広がっています。 ●「おかしいと思われる」 フリーで翻訳の仕事をする水野優望(ゆみ)さん(31)は大学生だった10年前、就職活動に臨んだ。ゆったりめのパンツスーツにネクタイを締め、面接会場に向かった。その途中で怖くなった。「面接担当者におかしいと思われる」 駅のトイレに駆け込んだ。ネクタイをはずし、化粧をした。ヒールのある靴に履き替え、靴下はストッキングに。それでも、かばんが男性用だと気づかれたらどうしよう、と不安は消えなかった。戸籍上は女性だが、性自認は、女性にも男性にも当てはまらないと考える「Xジェンダー」。就職活動で身につける衣類や振る舞い方は、どれも「男性用」か「女性用」に分けられていると感じ、自身の存在が取り残されている気持ちになった。「服装やマナーでつまずき、どんな仕事がしたいのかまでたどり着けなかった」。就職活動を断念。体調を崩し、大学卒業前後の3カ月ほど自宅から出ることができなくなった。職場でパンプスを強制することに疑問の声を上げる「#KuToo」運動を立ち上げた俳優の石川優実さんに数年前に出会い、就職活動での「らしさ」の押しつけも抑圧や差別だと気がついた。昨年11月、インターネット上で「#就活セクシズムをやめて就職活動のスタイルに多様性を保証してください!」という署名活動を立ち上げた。メンバーは会社員や就職活動中の学生、マナー講師ら約10人だ。「極端に二元化した男女別スタイルやマナーの押しつけをやめて、多様性のある装いのスタイルを提案して」「女性はこうすべき、男性はこうすべきという偏った表現は差別や抑圧につながるため見直しを」と求める。集まった1万5千筆強を、マイナビやリクルートキャリアといった就職支援企業や、青山商事やAOKIなどの大手アパレル企業、大学などに提出する予定だ。 ●体の曲線美を強調する表現 どういった表現が「ジェンダーの押しつけ」に当たる恐れがあるのか。署名活動のメンバーに聞いた。例えば大手アパレルのホームページでは、女性用のリクルートスーツの紹介で「女性らしさを引き立たせて、第一印象から美しく」の言葉が目立つ。「女性らしい美しさと清潔感を引き立たせる、カービーシルエットを採用」と体の曲線美を強調する表現もある。化粧をすることを「マナー」として求める記述も。「オンライン就活での好印象の与え方」を助言する別のアパレル企業などのサイトでは、ノーメイクの女性のイラストを提示し、「ファンデーションで肌を明るく均一に整え、ポイントメイクはいつもよりもしっかりめに」と求める。メンバーの調べでは、合同企業説明会の情報を掲載するサイトで「オジサマ受けの良いシンプルでさわやかなスーツで身を包み、清楚(せいそ)な子を演じればいい」との表現も一時期見られた。書籍では、「一次面接こそスカートで勝負を」「女性は面接官の息子の嫁にしたいタイプがベスト」などと記載されたものもあった。こうした表現について、水野さんは「就職活動で学生にリスクをとらせないために生み出されたものだろうが、『美しさ』『清楚さ』など仕事の能力とは無関係の要素を女性に求めるのはセクハラにあたる」と指摘。「就活関連企業は、学生が自分らしく働くための第一歩となるよう多様なスタイルを提案してほしい。そして学生を採用する企業は、その人らしい服装や振る舞いを受け入れると積極的にアナウンスして」と求める。 ●「困難感じる」 トランスジェンダーの8割以上 性的少数者たちは就職活動中に、どのようなことに難しさを感じているのか。NPO法人「ReBit(リビット)」によるLGBTを対象にした調査(2018年、有効回答241人)では、生まれた時の体の性と異なる性で生きるトランスジェンダーの当事者(95人)のうち、性のあり方で困難やハラスメントを経験した人は87・4%にのぼった。具体的な困りごとでは、半数弱が「エントリーシートや履歴書に性別記載が必須だった」と回答。「男女別のスーツやバッグなどの購入」「人事や面接官から、性的マイノリティでないことを前提とした質問や発言」などが続いた。「性自認と異なるスーツ・服装、髪型、化粧をしなくてはならなかった」も3割いた。事務局長の中島潤さんは「服装をきっかけに、企業側に対して本人が望まないカミングアウトにつながる恐れもある」と懸念する。困難を感じる当事者は多いとみられるのに、支援機関などに相談できていない現状もあるようだ。別の調査で、性的指向や性自認からくる悩みを学校の就職課やハローワークなどの就労支援窓口に相談したかどうかを聞いたところ、「していない」が95・9%にのぼった。理由は「どこに相談していいかわからなかった」「相談しても解決してもらえない」がそれぞれ3割強だった。ReBitではこうした状況を受け、キャリアコンサルタントらを対象に、LGBT当事者への支援方法を伝える研修プログラムを20年に始めた。知識を学ぶ講義や、ロールプレイング、当事者へのカウンセリングなどが中心だ。 *8-3:https://mainichi.jp/articles/20210527/k00/00m/040/127000c?cx_fm=mailsokuho&cx_ml=article (2021.5.27) 経産省トイレ制限訴訟 性同一性障害の原告が逆転敗訴 東京高裁 戸籍上は男性で、女性として生きる性同一性障害の経済産業省の50代職員が、女性トイレの利用を不当に制限されたとして、国に処遇改善などを求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁(北沢純一裁判長)は27日、利用制限を違法とした1審・東京地裁判決(2019年12月)を変更し、制限の撤廃を求めた原告側の請求を棄却した。北沢裁判長は「国の対応は不合理とは言えない」と述べた。原告側の逆転敗訴となった。 <ワクチン頼みで、どうしていけないのか?> PS(2021年5月22日追加):*9-1のように、コーツ副会長が「①(五輪)選手村に居住予定の75%が既にワクチンを接種もしくは確保し、大会時には80%を超える」「②選手と接触が多い人についても協力する用意がある」「③できるだけ多くの大会参加者がワクチンを接種したうえで来日することになるよう、IOCは努力する」と言っておられるため、開催国の日本は選手村に居住予定の残り20%とボランティアや来日する関係者にワクチンを接種する方法を考えればよいのである。にもかかわらず、「④ボランティア8万人への優先接種は想定していない」「⑤来日する約8万人の関係者やメディアの行動をどう制限し、感染拡大を防ぐのか」などと言っているのは愚かにも程があり、「⑥IOCと米製薬大手ファイザー社が、各国・地域の選手団向けに無償提供を受けることで合意してから、ワクチン頼みの姿勢が強まっている」などと、協力してくれているIOCやファイザー社に感謝もせずに、ワクチンに依存することを批判しているのだから、その無責任さ・無礼さに世界が呆れ、IOCが怒ったとしても文句は言えまい。 さらに、「⑦欧米ではワクチン接種が進み、新型コロナに対する状況が明らかに変わった」そうだが、ワクチン接種が進めば集団免疫を獲得するため欧米に限らず普通に暮らせるようになるのが当然で、行動ルールをまとめたプレーブックが「⑧大会関係者やメディアはワクチン接種の有無に関わらず、原則3日間の待機を経る必要がある」「⑨14日間、外出先は競技会場などだけで移動は専用車。食事も会場内やホテル内か宅配に原則限られる」などと決めていることが非科学的なのである。また、「⑩入国から14日間が過ぎれば公共交通機関を使えるようになり、活動の範囲を広げることができる」というのも、(PCR検査ができないわけではないのに)検査に基づいた判断をしないのは非科学的で、ワクチンを打った人と打っていない人、PCR検査で陰性の人とそうでない人を同じ扱いにしなければならない理由は全くない。そのため、「⑪1万5千人の選手のほか、7万8千人の大会関係者が世界中から来日予定と明らかになり、選手村などで徹底隔離される選手と違って条件を満たせば市中に出られる大会関係者やメディアの感染対策が課題」というのは、航空機に搭乗する前にワクチン接種証明書か陰性証明書を提示してもらい、ワクチン接種証明書を提示できなかった関係者には、日本政府が成田空港でワクチン接種することを申し出てもよいくらいだ。そのため、「⑫メディアはコロナ下の東京を取材したいのではないか。行動管理が本当にできるのか」については、非科学的な行動管理を続けていれば、それが世界に報道され、呆れられて、日本の医療への信頼が地に落ちるということである。 また、*9-2のように、迅速にワクチンを接種して行動制限を無くすのが経済回復への道であるのに、非常に狭い了見で医療費やPCR検査をケチり、ワクチンや治療薬の開発・承認を遅らせた結果、この分野において日本は先進国ではなく後進国になっていることを心に銘記すべきだ。そして、日本のワクチン接種の遅れは先進国の中で際立っており、行動制限により所得が減って個人消費は回復せず、1~3月期のGDPはマイナス成長となって、経済は感染を抑えた国への外需頼みになっているのである。 President 2021.5.19日経新聞 (図の説明:左図は、各国の新型コロナ感染者数と死者数の推移だが、日本以外の国は頭打ちになっているのに対し、日本だけが不名誉な右肩上がりだ。そして、その理由は、専門家会議を含む厚労省はじめ行政・政治の誤った政策である。中央の図は、PCR検査を徹底して感染を抑え、新しい検査法・ワクチン・治療薬の開発や承認を行う正攻法をとった国の経済回復状況で、その効果は、右図の2021年3月期経済成長率に明確に現れている。日本は、医薬品や医療機器の開発・普及がやりにくい国で、①治験のやりにくさ ②厚労省の承認遅れ ③メディアの誤った批判 などが、その理由になっているため、よい結果を出している国のやり方を研究すべきだ) *9-1:https://digital.asahi.com/articles/ASP5P73Z8P5PUTQP00N.html?iref=comtop_7_03 (朝日新聞 2021年5月21日)東京五輪、強まるワクチン頼み 大会関係者へ接種も 海外で新型コロナウイルスのワクチン接種が広がるなか、東京五輪に参加する選手や関係者にも接種を促す動きが加速している。開幕まで約2カ月。来日する約8万人の関係者やメディアの行動をどう制限し、感染拡大を防ぐのか。議論は大詰めを迎えている。国際オリンピック委員会(IOC)で東京大会の準備状況を監督する責任者のジョン・コーツ副会長がこの日、「緊急事態宣言下でも大会を開ける」との認識を示したことについて、大会組織委員会の幹部は「本当に宣言中にできるのかは、国民も疑問に思うし、慎重にやっていかないといけないが、宣言下でもテスト大会はやっていたので、安全性を担保していくということだろう」と話した。コーツ副会長はこの日、「ワクチンに関する議論もできた」とも述べた。新型コロナウイルスへの対策をめぐっては、IOCと日本側はともに「ワクチン接種を前提とせずに、安全で安心な大会を開く」と繰り返してきた。だが、IOCと米製薬大手ファイザー社などが今月6日、各国・地域の選手団向けに無償提供を受けることで合意してからは、ワクチン頼みの姿勢が強まっている。コーツ副会長はこの日の総括会見で「選手村(ベッド数は五輪で1万8千台)に居住予定の75%がすでにワクチン接種をしているか、ワクチンを確保している。大会時には80%を超えるだろう」と述べた。また、「選手との接触が多い人についても協力する用意がある」と述べ、日本の大会関係者に対するワクチン確保の可能性に言及した。IOCのトーマス・バッハ会長は19日、中止や延期を求める日本国内の世論を意識し「日本人を守ることが重要」と強調。「できるだけ多くの大会参加者がワクチンを接種したうえで来日することになるよう、IOCは努力する」とした。国内では高齢者のワクチン接種を7月末までに終わらせるという政府目標がある。五輪関係者について、丸川珠代五輪相は6日時点ではボランティア8万人への優先接種は想定していなかったが「打たないとIOCも心配するだろう」と話す官邸幹部もいる。さらに丸川五輪相は21日の閣議後会見で、報道関係者についても「調整委での議論を踏まえ、どう対応すべきかは話を詰めたい」と言及した。ある大会関係者は「欧米ではワクチン接種が進んでおり、新型コロナに対する状況が明らかに変わっている」と話す。6月に最終版を発行する大会時の選手や関係者の行動に関するルールブック(プレーブック)について「ワクチンを打っている人と、打っていない人が同じ扱いでいいのか議論がある」と明かす。この日の調整委員会では1万5千人の選手のほか、7万8千人の大会関係者が世界中から来日予定と明らかになった。選手村などで徹底隔離される選手と違い、条件を満たせば市中に出られる大会関係者やメディアの感染対策が課題だ。五輪に向けた飛び込みのテスト大会があった今月、東京イーストサイドホテル櫂会(かいえ)(東京都江東区)には、約30カ国から審判や国際水泳連盟役員らがピーク時は80人滞在した。一般客と接触しないよう全9階のうち6、7階を専用フロアとし、食事は各部屋で。出入りも警備員常駐の業者用を使ってもらった。関係者は競技会場へ行く以外、部屋にこもっていたという。本番も関係者を受け入れる予定で、多田敬一営業部長は「大会関係者は毎日の検査で陰性を確認し、行動管理も徹底していた。ホテルも従業員の健康をしっかり管理して臨みたい」と話す。行動ルールをまとめたプレーブックによると、大会関係者やメディアはワクチン接種の有無に関わらず、原則3日間の待機を経て活動可能になる。ただ14日間、外出先は競技会場などだけで移動は専用車。食事も会場内やホテル内、宅配に原則限られる。違反すれば大会に関わる権利が失われたり、14日間の隔離や強制退去の対象になったりする可能性がある。だが、入国から14日間が過ぎれば公共交通機関を使えるようになり、活動の範囲を広げることができる。選手村や多くのホテルがある東京都中央区の保健所の担当者は、特に村外に宿泊する人たちの行動に気をもむ。「メディアはコロナ下の東京を取材したいのではないか。行動の管理が本当にできるのか」と話す。来日15日目以降に規制が緩むことに複雑な思いを抱く海外メディアもいる。南ドイツ新聞からは記者4人が来日予定。東京特派員のトーマス・ハーンさんは自宅から通っての取材となる。「私は一般の人と一緒に電車に乗るわけで、市中感染し、プレスセンターにウイルスを持ち込むリスクは消えない」と話す。来日する各国や団体に違反がないよう管理・監督する責任者が各団体に置かれるが、専門家は「プレーブックは性善説に基づいており、実効性をどう担保するのか」と不安視する。 *9-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK184780Y1A510C2000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞社説 2021年5月18日) 迅速なワクチン接種が経済回復の前提だ 1~3月期の実質国内総生産(GDP)が3四半期ぶりのマイナス成長となり、年明け以降の日本経済の足踏みが鮮明になった。新型コロナウイルスの感染拡大で緊急事態宣言が再発令され個人消費が大きく減ったのが響いた。先進国で際立つ日本のワクチン接種の遅れは、経済の正常化をさらに後ずれさせかねない。景気の一段の下押しを避けるためにも、迅速な接種を進めたい。内閣府が18日発表した1~3月期の実質GDPは前期比1.3%、年率換算で5.1%減った。20年度の実質GDPは前年度比4.6%減と2年連続で減り、マイナス幅も戦後最大となった。直近で目立つのは内需の不振だ。年初から3月下旬にかけての2度目の緊急事態宣言で外食や宿泊の消費が低迷し個人消費は3四半期ぶりに減った。企業の売り上げ不振を背景に設備投資も2四半期ぶりのマイナスとなった。中国などへの輸出が回復し、経済の下振れをある程度は食い止めた。足元の経済は外需頼みだ。先行きは予断を許さない。変異型も含めた感染の再拡大で主要都市では4月下旬に3度目の緊急事態宣言が発動された。対象地域は広がり、4~6月期のマイナス成長を予想する声も多い。再び正念場を迎えた経済に政府・日銀は抜かりなく対応してほしい。気になるのは内外経済の回復度合いの違いだ。米国では1~3月期の実質GDPが前期比年率で6.4%増え、GDPの規模もコロナ危機前をほぼ回復した。ユーロ圏の同期間の実質GDPは2.5%減だったが、ここへきて21年の成長率見通しを大幅に引き上げるなど明るさを増す。ワクチンの接種が進み経済正常化への動きが加速しているためだ。この点、日本では厳しい状況が続く。少なくとも1度目のワクチン接種を終えた人の割合は3%未満。全人口の半数が1度目の接種を終えた英米、3割前後のドイツやフランスに大きく遅れる。菅義偉首相は7月末までに高齢者への接種を終えると述べたが、予約などの手続きをめぐり混乱が続く。問題を一つずつ解消し、円滑な接種につなげてほしい。今後も外出規制が繰り返されるような事態になれば経済の正常化はさらに遠のく。人びとが安心して生活できる環境を取り戻すことが経済回復の前提になることをあらためて認識すべきだ。 <日本は役に立つ新産業の育成・普及が遅れる国である(その1)> PS(2021年5月25日追加):*10-1のように、IEAが2050年までに世界で温暖化ガス排出量を実質0にするための工程表を公表し、①化石燃料への新規投資を即時停止 ②2035年までにガソリン車の新車販売停止 ③2050年にエネルギー供給に占める再エネ割合を約7割に引き上げる必要 ④原子力割合を11%に増やし、石炭は2050年までに2020年比で9割減らす そうだ。 しかし、①②はよいが、「パリ協定」は化石燃料だけではなく、原発の使用も禁止している。具体的には、③④は、原発は放射性物質だけでなく温排水も出しており、「産業革命からの気温上昇を1.5度以内に抑える」という目標には合致しないため、再エネ100%にするしかない。日本は、最初に脱化石燃料を言いはじめた再エネに恵まれた国であるのに、EVも再エネも遅れた原因は、このように従来型の高コストエネルギーを残そうとしてきたことである。また、2035年までに全車をEV・FCVにすることも、人口の多い他の国がモータリゼーション化する時代には必要不可欠であり、1997年に京都議定書が決められる頃からそのつもりだった。そのため、ハイブリッド車に時間とカネをかけすぎたのは無駄遣いで、従来型の雇用が減っても代替分野で新規雇用が発生するのは歴史を見れば明白なのである。 また、*10-2のように、発電所を新設した場合に一番安い電源を国・地域ごとに調べれば、再エネが最も安い国が多数だったのは当然である。その理由は、電力は装置産業であり、原価の殆どが「(i)発電装置の建設費(固定費)+(ii)燃料代(変動費)+(iii)公害対策費(変動費)」だからだ。従って、(i)は、発電所を新設する場合なら原子力・火力より仕組みが簡単な再エネの方が安いに決まっており、(ii)の燃料代は、原子力・火力ともに高いが再エネは無料であるため、これほど安いものはない。また、(iii)の公害対策費も再エネが最も安いため、「日本で最も安い電源は石炭火力で、太陽光・風力の方が高い」というのがおかしいのである。なお、送電網の問題は人為的で、総括原価方式で作った既存の装置を使いたい大手電力会社の要請で経産省が故意に行ったものであり、電力市場を歪めているものでもある。 このように、「再エネ電力は高コスト」などとできない理由を並べている間に、*10-3のように、車載電池では日本のチャレンジャーメーカーがはじき出されて脱落し、米国は韓国メーカー等と連携を深めている。一方、従来型に固執して既得権益を守るメーカーと新規事業にチャレンジするメーカーのどちらが次の時代に必要であるかは明白であるのに、政府が誤った選択をする日本は、新規のベンチャー企業などが育ちにくい。他国がやったのを見てあわてて追随するのは、文明開化時代の後進国ならともかく、既に経済発展をしてリーダーの立場になっていた日本としてはあまりにお粗末で、これでは今までの取引を失ってもやむを得まい。 その上、*10-4のように、経産省が40年以上経過しても原発の使用済核燃料の貯蔵や処分、プルサーマル発電の推進のために自治体に支援策として血税を大量投入し、市場に誤った勝敗をもたらしているのは、国民にとっては「百害あって一利なし」であり、税と高額な電気料金の二重負担になっているのである。 *10-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?ng=DGKKZO72030850Z10C21A5MM8000 (日経新聞 2021.5.19) 化石燃料へ新規投資停止 50年脱炭素、IEAが工程表 国際エネルギー機関(IEA)は18日、2050年までに世界で温暖化ガス排出量を実質ゼロにするための工程表を公表した。化石燃料への新規投資をすぐに停止し、35年までにガソリン車の新車販売をやめる。50年にはエネルギー供給に占める再生可能エネルギーの割合を約7割に引き上げる必要があり、脱炭素へ具体的な取り組みが求められる。50年までに温暖化ガス排出量を実質ゼロにするのは、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」が定める「産業革命からの気温上昇を1.5度以内に抑える」目標と合致する。主要国が相次ぎ「排出量ゼロ」を表明したことを踏まえ、11月に英国で開かれる第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)を前にIEAが具体的な道筋を示した。代表的な温暖化ガスである二酸化炭素(CO2)でみると、燃料燃焼や産業工程からの排出量は20年で340億トンだった。50年の温暖化ガス排出実質ゼロを宣言した日米EU(欧州連合)や、60年のCO2排出実質ゼロを宣言した中国など各国・地域の目標を集計すると、CO2排出量は30年に300億トンになる。50年に温暖化ガス排出量を実質ゼロにするには、30年にCO2排出量を20年比で約4割減の210億トンにする必要がある。IEAのビロル事務局長は「(実質排出ゼロは)難しいが、達成可能だ」との声明を発表。各国政府が強力な対策をとるよう求めた。化石燃料への新規投資を即時にやめ、エネルギー供給に占める再生可能エネルギーの比率を30年時点で3割、50年時点で約7割にする必要も指摘した。原子力の割合を11%に増やす一方、石炭は50年までに20年比で9割減らす。電気自動車(EV)への移行や新興国の成長で発電量は50年までに2倍強に増える。先進国は35年、世界全体も40年までに再生エネ導入などで電力部門の排出を実質ゼロにする必要がある。輸送部門ではEV普及がカギだ。新車販売でEVとプラグインハイブリッド車(PHV)などの割合は足元で4.6%だが、30年に6割、35年までにほぼ全車がEVと燃料電池車(FCV)になることが必要だ。ハイブリッド車は含まれない。スウェーデンのボルボは30年、米ゼネラル・モーターズ(GM)は35年に新車をすべてEVにすると決めた。ホンダは40年までに全ての新車をEVかFCVに切り替える。30年以降の排出減には新技術の活用が不可欠だ。代表例が水素活用や、CO2を地中に埋めたり再利用したりするCCUSと呼ばれる技術だ。IEAの50年排出量実質ゼロの筋書きではCCUSを使い76億トンのCO2を取り込むと試算する。エネルギー投資は20年までの5年間は年平均2.3兆ドル(約250兆円)で推移しているが、30年までに年5兆ドルに引き上げる必要がある。脱炭素の取り組みで化石燃料部門で500万人の雇用が減る一方、30年に向けて1400万人の新規雇用が生まれ、世界の経済成長率を0.4ポイント押し上げるとみている。 *10-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFK282N90Y1A220C2000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2021年3月1日) 日本の再生エネ発電費用が高い理由は? 2021年3月1日の日本経済新聞朝刊1面に「緑の世界と黒い日本(カーボンゼロ)」という記事がありました。1000㌔㍗時の電気をつくる場合、日本の太陽光発電にかかる費用は中国の約4倍になります。なぜ日本は再生可能エネルギーの発電にかかる費用が高いのでしょうか。 ●ここが気になる 発電所を新設した場合どの電源が一番安いかを国・地域ごとに調べたところ、再生エネが最も安い国が多数でした。1世帯が4カ月間に使う1000㌔㍗時の電気をつくる場合、中国は太陽光(33㌦)、米国は風力(36㌦)が最安でした。一方、日本で最も安い電源は石炭火力(74㌦)で、太陽光は124㌦、風力は113㌦かかります。日本で再生エネの発電費用が高止まりしている背景には不十分な送電網があります。地域をまたいで送電できる量が限られているうえ、送電網の運用は電力会社から独立しておらず、電力会社の自前の火力発電所や原子力発電所でつくった電力を優先的に接続します。この仕組みが再生エネの大量導入を阻み、コスト削減につながりにくい一因となっています。英国では送電線の利用に新たなルールを導入したことで再生エネが送電線を使いやすくなり、普及率が高まりました。日本も似た制度を21年に導入するものの、再生エネ事業者にとって不利な状況は変わりません。現在ほとんどない洋上風力が再生エネ拡大の切り札とされていますが、送電網の強化に加え、発電した電気を貯めておく蓄電池の整備も必要で、課題は山積しています。 *10-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210522&ng=DGKKZO72162700R20C21A5TB0000 (日経新聞 2021.5.22) EV電池、相次ぐ米韓連合 供給網で中国に対抗 車載電池で米韓メーカーの連携が広がっている。米フォード・モーターは20日、韓国のSKイノベーションと米国に電気自動車(EV)電池の合弁工場を建設すると発表した。EVの基幹部品である電池で韓国メーカーの存在感が増せば、日本の部品や素材メーカーがサプライチェーン(供給網)からはじき出される可能性がある。フォードとSKは約6000億円を投じて米国に新工場を建設する。建設地は未定だが、2020年代半ばをめどにピックアップトラックのEV60万台分に相当する60ギガワット時の生産能力を確保し、能力増強も視野に入れる。フォードは19日に主力ピックアップトラックのEVモデル「F-150ライトニング」を公開した。「F-150」は米国で最も売れている人気車で、新型コロナウイルス危機下の20年も78万台を売り上げ、フォードの米国販売の4割を占めた。SKとの合弁で電池の調達にめどをつけ、看板車種のEV化で量産に弾みをつける。米ゼネラル・モーターズ(GM)は19年に韓国のLG化学と提携。22~23年にオハイオ州とテネシー州に合弁の電池工場を完成させ、合計70ギガワット時の電池を生産する。米自動車2強のEVシフトを、韓国の電池大手が支える構図だ。米韓2陣営の投資計画はバイデン米大統領の意向とも合致する。バイデン氏は2月に「半導体」「医薬品」「レアアース(希土類)」とともに「EV電池」を主要4品目と位置づけ、中国に依存しない調達体制の構築を指示した。車載電池は中国の寧徳時代新能源科技(CATL)や比亜迪(BYD)が大手だが、両社は米国への輸出や投資が難しい。18日にフォードのEV工場を見学したバイデン氏は「EVの競争で中国に勝たせるわけにはいかない」と強調した。韓国勢は米中の緊張関係が続く状況を米国開拓の好機ととらえ、投資を加速する。SKの金俊(キム・ジュン)社長は20日、「フォードとの合弁事業は米政府が推進するEV産業のバリューチェーンの構築と育成において核心的な役割を担う」と米国への貢献をアピールした。SKとLGはEV専業の米テスラとの契約こそパナソニックに譲ったものの、米2大メーカーを押さえて一気にシェア拡大を狙う。フォードとGMはEV事業で独フォルクスワーゲン(VW)、ホンダとそれぞれ提携しており、合弁事業を通じて提携先への供給拡大にも道筋がつく。同じ韓国のサムスンSDIも、旧クライスラーを引き継いだ欧州ステランティスに電池を供給している。一方、日本企業では日産自動車と組んでいたNECが車載電池事業から撤退。ジーエス・ユアサコーポレーションも独ボッシュとの電池の合弁事業を解消した。本格的な電池供給を手掛けるのはテスラやトヨタ自動車と組むパナソニックのみだ。完成車メーカーも日産が米テネシー州でEV「リーフ」を生産しているものの、年間1万~2万台と規模は小さい。バイデン大統領は電池だけでなくEVそのものも米国内で生産するよう求めており、生産設備をもたない日本や欧州メーカーは追加投資の判断を迫られる。EVシフトが進むにつれ、自動車のサプライチェーンは電池とモーターを中心としたかたちへと組み替えが進む。基幹部品である電池を中国や韓国メーカーに押さえられれば、日本の部品や素材メーカーは従来の取引を失いかねない。 *10-4:https://this.kiji.is/769847994391150592 (共同通信 2021/5/25) プルサーマル発電で支援策、自治体向けに検討、経産相 原発の使用済み核燃料の貯蔵や処分に関する対策推進協議会が25日、経済産業省で開かれ、梶山弘志経産相が、プルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料を通常の原発で使うプルサーマル発電の推進に向け、自治体の支援策を検討する考えを表明した。原発を持つ電力各社はオンラインで会合に参加した。梶山氏は、プルサーマル発電を拡大するため事業者間の連携強化を要望し、自治体支援にも触れ「地元の理解確保に向けて、事業者と一体となって取り組む」と述べた。電気事業連合会の池辺和弘会長(九州電力社長)は「支援は大変ありがたい」と答えた。 <日本は役に立つ新産業の育成・普及が遅れる国である(その2)> PS(2021年5月26日追加): 新型コロナワクチンについては、*11-1のように、「①複数のワクチンを仕分けして適正配分する仕組みが欲しい」「②自衛隊のセンターについては、自治体接種との『二重予約』が防げない等の問題点も判明した」「③打ち手確保のため医師・看護師・歯科医師だけでなく、薬剤師・救急救命士に広げたい」「④大学病院や産業医がいる事業所の診療所などの活用も進めたい」等々、打つ段階になっても問題の指摘が多い。 しかし、①については、持病のある高齢者など高リスクの人は、かかりつけ医と相談した上で、かかりつけ医か紹介された大病院で安全にワクチンを接種した方がよいため、市区町村が日本で実績を積んだファイザー製を使うのは理にかなっている。また、大規模接種センターは、高齢者や一般人の中でも比較的低リスクの人が素早く接種するために行くので、承認されたばかりのモデルナ製を使ってよいだろう。さらに、②の二重予約は、二重にワクチンを打つ必要はないため遅い方をキャンセルすればよく、どれも普通の大人が考えてわかることである。 また、③については、日本は人口当たりの医療従事者数が少ないわけではなく、注射するにもリスクがあるため、「緊急だから何でもあり」では困る。従って、④のように、大学病院・産業医のいる事業所・校医のいる学校・大規模スーパーなどで適切なワクチンを選んで接種すれば素早く終了できるだろう。また、ワクチンを打てずに旅行しようとする人等のためには、一度の接種ですむJ&Jのワクチンを、航空会社が空港で有料接種すれば良いと思う。 なお、日本は新型コロナウイルスのワクチン開発や承認が遅れており、*11-2のように、「⑤科学的エビデンスに基づいて実用化するための国内治験に壁がある」「⑥実用化されたワクチンが既に存在するのに、国産ワクチン候補の治験に参加者を集めるのは難しい」「⑦比較のための『偽薬』を接種する通常の手法が倫理的に許されない」などの課題がある。しかし、⑤⑥については、ワクチンや治療薬の開発を行うには、最初は必ず希望者を募って治験しなければ科学的エビデンスはできないのに、日本では希望者を募っての治験すらやりにくいのが問題なのである。また、⑦については、新型コロナのような重篤にもなりうる感染症で偽薬を使われた人はたまったものではないため、iPS細胞を使った臨床試験など他の方法を開発すべきだ。さらに、いくら難病になってもいい加減に承認された薬剤を使われては困るが、患者が希望しても日本の厚労省が承認していない薬は使えないのも、治験が進まず新薬を世に出せない理由となっている。そして、メディアも、批判のための批判が多すぎて、「君子危うきに近寄らず」という環境を作ってしまっているのは改めるべきだ。 *11-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/681276 (佐賀新聞 2021.5.25) 国、地方は連携強化を 米モデルナ製と英アストラゼネカ製の新型コロナウイルスワクチン承認に続き、東京と大阪で自衛隊運営の大規模接種センターが始動した。都道府県や政令指定都市による独自の大規模会場設置も拡大する見通しだ。10都道府県で緊急事態宣言が発令される中、東京五輪開幕まで2カ月を切った。菅政権は7月末を目標とする高齢者への接種完了に向け大規模接種で局面転換を狙う。ただ複数のワクチンをきちんと仕分けして適正配分する仕組みや、打ち手確保など効率的な接種態勢整備にはなお課題がある。国と地方自治体は連携を最大限に強化しこの難局を乗り切ってほしい。自衛隊運営のセンターは首都圏1都3県と関西3府県の高齢者それぞれ900万人、470万人が対象だ。最大で1日当たり東京1万人、大阪5千人に接種する想定だが、3カ月間フル稼働したとしても対象者の1割程度にしか接種できない。全国の高齢者3600万人に対応するには市区町村が実施する集団、個別接種がフル回転してもなお不足だ。政府の要請で宮城、群馬、愛知各県が開設し、今後は計約30自治体に広がる見通しの自治体独自の大規模会場を早く軌道に乗せたい。それには医師、看護師、歯科医師で注射の打ち手が十分確保できるのか、薬剤師などに広げることが可能なのか、政府は早急に検討し対処すべきだ。自衛隊のセンターについては、自治体接種との「二重予約」が防げないなどの問題点も判明した。予約の際に高齢者に注意喚起するほかない現状であり、政府と自治体の情報共有、連携が従来になく重要とみるべきだ。一方、都道府県と政令市は、7月末完了を目指す政府から尻をたたかれ、市区町村の力不足を補う大規模接種に乗り出す形だ。会場確保・設営、接種や問診に当たる要員確保などの準備は突貫作業を迫られている。自治体同士の人材争奪を避けるためにも大学病院や産業医がいる事業所の診療所などの活用も進めたい。政府が主導して地方への支援を強めてほしい。政府は複数のワクチン活用で接種加速化を図る方針だ。いずれのワクチンも2回接種が必要だが、自衛隊や自治体独自の大規模接種ではモデルナ製、市区町村が先に開始した接種はファイザー製を使う。1回目と2回目で別のワクチンを打つと短期的な副反応が多いとされるため、配送経路も含めてすみ分けを明確にし、現場の混乱を防ぐ。ただ大規模会場がある地域では、どこに予約するかで高齢者が二つのワクチンを選択できてしまう実態がある。別ワクチンを打つことがないよう防止策徹底を求めたい。アストラゼネカ製は、まれに接種後に血栓が生じる例が海外で報告されているため、政府は当面公費接種の対象から外す方針だ。ただ英国などで接種実績があって効果も確認されている上、6千万人分の供給契約が済んでいる同社製を完全に排除するのもどうか。リスクと利益の兼ね合いで接種年齢を絞るなど対策を講じた上で使用する道も探るべきではないか。内閣支持率がジリ貧の菅義偉首相は「ゲームチェンジャー」と位置付けるワクチン接種に起死回生を懸ける。だが集団免疫の獲得には国民8~9割の接種が必要ともされ、すぐに以前の日常が戻るわけではない。過度な期待もまた禁物だ。 *11-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14916621.html (朝日新聞 2021年5月25日) 国内治験に壁、政府が承認過程見直し議論 国産ワクチン、科学的検証は必須 野口憲太 「有効性と安全性について、みんなが納得できる科学的なエビデンスがなければならない」。新型コロナウイルスのワクチンについて取材したときの専門家の言葉だ。「周回遅れ」とされ、実用化が待望される国産ワクチンだが、スピードありきではない、科学に基づいた実用化を求めたい。国内企業による「後発」のワクチン開発は大きな壁に直面している。十分な有効性と安全性があるかをみる、最終段階の臨床試験(治験)を国内でやることが難しいのだ。ファイザー製など実用化されているワクチンがすでに存在するなかで、国産ワクチン候補の治験のために未接種の参加者を大勢集めるのは難しい。比較のための「偽薬」を接種する通常の手法が倫理的に許容されるのか、という論点もある。ワクチン候補を使って体内の免疫反応を確認し、有効性を評価する方法もある。だが、「どんな免疫反応が起きれば、感染や発症を防げるのか?」の知見は確立していない。海外での治験も模索されるが、世界でワクチン分配がすすめば、同じ壁にぶつかる。政府は今後、承認過程の見直しの議論をすすめる。難病の治療薬開発で使われる「条件付き早期承認制度」の適用を求める声があるが、大勢の健康な人が接種するワクチンへの適用は慎重になるべきだ、という意見は重い。さまざまな制約を克服するためには、厚生労働省など規制をかける側にもある程度の柔軟さが必要だろう。ただ、壁を乗り越えることや迅速さが目的となって、科学的な検証がないがしろにされてはならない。そもそもなぜ治験をするのか? ワクチン候補の有効性と安全性を確かめるための、科学的な証拠を得るためだ。柔軟さが必要でも、それは科学に基づいた検証に耐えうるものでなければならず、世論の期待感や政治的な思惑とは距離を置く必要がある。たとえ「後発」でも、使えるワクチンが増えることは望ましい。使われる技術は次の危機への備えにもなる。「みんなが納得できる」ワクチンを、この国がしっかり生み出すことができるのか、これからも注目したい。 <日本は役に立つ新産業の育成・普及が遅れる国である(その3)> PA(2021年5月28、31、6月4《図》日追加):*12-1のとおり、自宅療養に必要な介護サービスを支える介護保険料は、現在は主として65歳以上の高齢者に支払わせている。そのため、所得の少ない年金生活者に月額6千円を超える負担を強い、現在の制度のままでは高齢者人口がピークの2040年度には高齢者の介護保険料負担が8千円を超えるという試算もある。その上、年収200万円(月収16.7万円)以上の高齢者は医療費の窓口負担が1割から2割に引き上げられ、収入源である年金の方は減らされて、高齢者の暮らしが成り立たなくなった。これら一連の政府(特に厚労省)の政策は、「高齢者はお荷物だから、早く死んでくれ」と言わんばかりだ。 しかし、戦後の働き手は、制度ができて以降は制度に従って社会保険料を支払ってきたため、受給段階になって積立金が足りないのなら、それは100%管理者の責任だ。さらに、日本は高齢化先進国であるため、高齢者の需要を満たす製品は今後の世界の売れ筋商品になり、これは政治や行政が勝手に決めた供給政策よりずっと利益獲得機会が確実なのである。 その一例として、*12-2のセコムのセンサー技術等を使った見守りサービスがあり、今後、サービス内容を充実させたり、1人あたりの生産性を高めたりすれば、便利でニーズの高い第三次産業になる。また、*12-3の食事の準備が難しくなった高齢者の自宅に美味しくて栄養バランスのよい食事を届ける配食サービスも、自活や自宅療養をやりやすくして社会的入院を減らすことに貢献する。そのため、医療や介護と連携して自治体が協働するのもアリだが、実需なので民間の工夫で第一次産業・第二次産業・第三次産業を包含しながら発展することも可能なのだ。それにもかかわらず、政府は高齢者の可処分所得を減らすことに専念して、高齢者がそのニーズにあった消費を選択できないようにしているのである。 なお、*12-4のように、公表されているだけで全国の介護施設で9,490人が感染して486人が死亡し、46自治体で入院が必要なのに施設にとめおかれた高齢者がおり、介護現場はコロナ療養まで担って負担が激増するというあってはならない事態が起こった。しかし、介護施設に入所している高齢者は出歩かないため、介護担当者や出入業者などの関係者から感染したことは明らかで、検疫をザルにし、介護関係者のPCR検査やワクチン接種をケチった厚労省(含:専門家会議)の責任は重い。 2021hitoshia 2021njg 2021nliresearch (図の説明:左図が介護保険制度の仕組みだが、主として65歳以上の高齢者しか対象にしていないため、負担に無理があると同時に給付内容に不足がある。また、中央の図のように、負担に上限が設けられているのは良いが、介護は医療と同時に行われ、長期に渡るため、医療費と合計した上限にすべきだ。なお、右図のように、介護保険制度は、2003年から2019年まで改正を重ねてきたが、その度に介護保険料が上がり、高齢者の保険料負担が上限を超えている) 2021.5.30琉球新報 2021nliresearchi (図の説明:左図は、2020年5月と2021年5月で介護施設の新型コロナ感染者数と死者数を比較したものだが、病態がわかってきたのに感染者数が20倍にもなっているのは自然でない。また、中央の図は、厚労省の介護保険部会で論じられている検討事項だが、介護予防や健康作りのために介護保険料を支払っているのではないため、これは目的外支出だろう。さらに、自宅療養を可能にするためには、右図の地域包括ケアの充実が必要不可欠だが、現在は介護としての生活支援が不足しており、ケアマネジメントやケアプランは最低コストで最大効果を出して患者を護るための介護計画であるため、介護費用に含まれるべきであって有料にするのはおかしい) *12-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/743038/ (西日本新聞社説 2021/5/23) 介護保険料上昇 制度改革へ国民的議論を 生活がだんだん苦しくなる。そんな実感から不安を募らせる高齢者も少なくないだろう。65歳以上の高齢者が支払う介護保険料が全国平均で初めて月額6千円を超え、6014円となった。制度が始まった2000年度から2倍に膨らんだ。高齢者の保険料は市区町村や広域連合が3年に1度見直す仕組みで、今年4月の改定ではおおよそ半数が引き上げた。九州でも高齢化が進む市町村などの多くで保険料が上昇した。高齢化が進むと、要介護や要支援と認定される人は増え続ける。高齢者が払う保険料は、団塊の世代がすべて75歳以上になる25年度には7千円に迫り、高齢者人口がほぼピークに達する40年度は8千円を超えるという推計もある。このままでは、負担の増大は避けられない。一定の収入がある高齢者は医療費の窓口負担を1割から2割へ引き上げる法案が今国会で成立の見通しだ。その一方で高齢者の主な収入である年金は減っている。介護保険料を滞納し、資産を差し押さえられる人も増え、18年度は全国で約2万人に達した。困窮する高齢世帯の支援は待ったなしの課題だ。介護保険制度はこれまで保険料の引き上げと利用時の自己負担増、サービスの縮小で維持されてきた。その結果、高齢者全体の暮らしは徐々に厳しさを増している。介護報酬体系の複雑化を問題視する声もある。日本の高齢化率は40年以降も上昇するだろう。慢性的な介護人材不足の解消には待遇改善は不可避だ。介護保険制度の持続には「負担と給付」の在り方を抜本的に見直す必要がある。現役世代の過度な負担増には配慮が欠かせないとはいえ、保険料を支払う年齢を現行の40歳以上から引き下げることも検討対象とすべきだ。サービス利用時に2割、3割を自己負担する高齢者の範囲を広げることについても議論の余地があろう。介護保険の財源の半分は国や自治体の公費で賄われている。保険料や自己負担の引き上げだけでなく、税制全体に踏み込んだ議論も避けるべきではない。必要なサービスが過不足なく提供されているか。無駄なサービスがないか。チェックが欠かせない。自治体による介護予防の効果も検証を急ぎたい。高齢になった子が老いた親を介護する老老介護や介護離職に続き、介護などの負担にあえぐ若年層を意味する「ヤングケアラー」が社会問題化している。このまま手をこまねいていては、介護保険制度の柱である「介護を社会全体で担う」との理念が損なわれてしまう。政府は早急に制度の見直しに着手し、国民的議論を喚起すべきだ。 *12-2:https://digital.asahi.com/articles/ASNCW5DBQNCTULFA02G.html (朝日新聞 2020年12月2日) 会えない、だけど見守りたい セコム社長語るコロナ需要 コロナ禍の猛威が続くなか、企業に広がったテレワークや時短営業。その影響は警備業にも及んでいるという。どんな状況なのか、セコムの尾関一郎社長に聞いた。私たちの売上高(連結)の5割以上はセキュリティーサービス事業で、主力はオンラインによる機械警備です。会社に出勤する人がいなくなったり、店が24時間営業を取りやめたりすれば、無人の時間帯が発生し、警備の需要が発生します。4、5月の緊急事態宣言期間は経済活動が止まった一方、サービス解約の動きはあまり出ませんでした。国内のグループ合計のセキュリティー契約件数(事業所や家庭など)は9月時点で約250万件で、3月時点から約3万件増えました。コロナ対応でオフィスが集約されると、需要が減る面はありますが、世の中の動きとしてはあまり出ていないと思います。今後の感染状況にも左右される外食やアパレル業界などの店舗の統廃合は心配ですが、現状は新規の契約でカバーしています。一方、コロナ禍で家庭向けのサービスでは、当初の想定とは違う形でニーズが出てきました。離れて暮らす高齢の家族に「会いたいけど会えない」状況でも、健康状態を見守りたいというニーズです。当社は以前から見守りのサービスに力を入れてきましたが、センサー技術を使った新たなサービス導入に向けて準備しています。事業者向け、家庭向けともに需要が高まると、異状があれば現場に急行する警備員にとっては、担当件数も増えます。1人あたりの生産性を高める必要があります。コロナの影響で雇用が流動化して比較的人材が採りやすい環境になり、いっそう中途採用に力を入れています。とはいえ、ただでさえ夜勤があるような厳しい職場。社員の負担を軽くすることは取り組むべき課題です。 *12-3:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO63735200R10C20A9KNTP00/ (日経新聞 2020年9月14日) 高齢者に配食サービス、自治体が支援、安否確認も 食事の準備が難しくなった高齢者の自宅に弁当を運んでくれる配食サービスが広がっている。住む地域によっては、ひとり暮らしやお年寄りだけの世帯向けに自治体が料金を一部負担したり、安否確認を兼ねたりするサービスもある。栄養バランスのとれた食事の活用も考えてみてはどうだろう。東京都東村山市に住む80代のひとり暮らしの男性は、夕方に弁当が届くたびに配達員との会話を楽しみにしているという。玄関で弁当を手渡すと男性は事前に購入した複数枚つづりの配食チケットを1枚(550円)を切り取って交換。その日にあった出来事などを軽く雑談するという。「栄養バランスもあり、季節ごとのメニューも良い」と満足した様子だ。東村山市の助成は、原則65歳以上のひとり暮らしか70歳以上の高齢者のみの世帯が対象。心身の障害や傷病などで調理が困難だと認められる場合、月曜から金曜日に夕食の配食サービスを利用できる。1食あたりの料金の一部を市が負担する。7月末時点で約120人が利用している。配食時に見守りサービスを組み合わせる自治体は多い。京都府長岡京市は配食事業者へ安否確認を委託。見守り費用として1日につき1回320円を助成、市が事業者に支払う。事業者は高齢者に食事を手渡し「今日もお変わりないですか?」といった声かけもする。利用者から毎回、サインやなつ印をもらう。玄関の呼び鈴を押しても反応がないなど異変を発見した場合は市役所や家族、介護などの窓口になる地域包括支援センターなど事前に登録してもらった場所に速やかに連絡する。「孤独死防止や生活不安の解消が狙いだ」(同市)。現在、市内で約280人の高齢者が利用している。愛知県西尾市は2018年から昼食か夕食かを選択できるようにした。19年度の利用者は375人になった。市は1日1食あたり250円を負担する。「利用者も増え、高齢者の安否確認を充実させることにつながっている」(同市)。福岡県直方市では高血圧や糖尿病の高齢者向けに減塩食のメニューが選択できる。1食の塩分使用量が2.3グラム以下の弁当を用意し、市が1食209円を支援する。減塩食の利用者負担は520円と普通食の370円より高いが「配食利用者約220人のうち39人が頼んでいる」(直方市)。東京都台東区では社会福祉協議会が業者に依頼し、普通食のほか糖尿病や腎臓病などで食事制限がある人向けにカロリーやたんぱく質を調整する特別食(600円から730円)を昼と夕食のメニューに加えている。健康管理に役立てている。配食支援は各地の自治体などが手がけているが意外と知らない人も多い。申し込む場合は高齢者の居住地によって心身の衰えや疾病の状況、家族の支援の有無の条件などが異なる。高齢者と離れた場所で暮らす親族が敬老の日を前に、自治体の公式ウェブサイトや役所に電話で確認してみるのもいいかもしれない。 *12-4:https://ryukyushimpo.jp/kyodo/entry-1330404.html (琉球新報 2021年5月30日) 全国の介護施設で感染9490人 486人死亡、共同通信調査 高齢者が入所する介護施設で、新型コロナウイルスに感染した入所者が全国で少なくとも累計9490人おり、このうち486人が亡くなっていたことが30日、共同通信の調査で分かった。46自治体が、入院が必要にもかかわらず施設にとどまった高齢者がいたと回答した。昨年5月に共同通信が実施した同様の調査では、感染した入所者は474人、死者79人。感染者は1年で約20倍となった。非公表とする自治体もあり、実際の数はさらに多いとみられる。介護現場では本来の業務に加え、感染防止策、コロナ療養も担うなど負担が激増。感染弱者の高齢者に病床逼迫のしわ寄せが及んでいる恐れもある。 <日本は役に立つ新産業の育成・普及が遅れる国である(その4)> PA(2021年5月30日追加): 日本政府は、*13-1のように、2021年版「ものづくり白書」で、経済安保の観点から国内の製造業にサプライチェーンを強化し、リスクを把握するよう求めたそうだ。私も、*13-2のように、尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件の後にレアアースが輸出制限されたこともあり、日本も国内供給網を充実させておくことは必要不可欠で、自由貿易だからといって「石油は中東」「レアアースは中国」「家電も中国」「食料も中国ほか外国」「繊維製品も中国ほか外国」など何でも輸入に頼っているようでは、そのうち売る物がなくなり、言うべきことも言えなくなると思う。さらに、レアアース・メタンハードレート・原油などが、上の(5)で述べたとおり、日本の排他的経済水域に大量に埋蔵されていることは既に発見されており、現在は日本が資源国になっていることに外国は気付いているのに、日本の行政・政治・メディア・国民だけがそれに気付いていないという情けない状況なのだ。 資源があれば、それを巡っての争いも起きやすくなる。そのため、日本は、論理的に筋を通した上で自衛する必要もあり、*13-3のように、米軍が国外兵員配置を欧州・中東から東アジア・太平洋に移しているのも必然だ。しかし、日本では「石油供給の9割を中東に依存するため、米国が中東から手を引く影響を最も受ける」などと馬鹿なことを言っているのであり、資源所在の変化に気付いていないのである。また、*13-4のように、英空母群もインド太平洋に出航し、米国やオランダの艦船も加わって日本での共同訓練を調整しているのは頼もしいが、ジョンソン首相が外交安保の新戦略で「経済、地政学上の中心」としてインド太平洋地域への「傾斜」を表明したのは、香港・台湾の自由と民主主義のためだけではない筈だ。 *13-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210528&ng=DGKKZO72359120Y1A520C2EAF000 (日経新聞 2021.5.28) 「供給網リスク把握を」 ものづくり白書、経済安保を重視 政府は28日、2021年版の「ものづくり白書」を閣議決定した。経済安全保障の観点で米国や中国、欧州が輸出入の管理を強めていることを踏まえ、国内製造業に自社のサプライチェーン(供給網)を強化し、リスクを精緻に把握するよう求めた。脱炭素化とデジタル化の推進も不可欠とした。新型コロナウイルスの感染拡大や米中の貿易摩擦を背景に国際的な供給網の再構築が課題となっている。デジタル化や脱炭素化が加速するなか、半導体や蓄電池といった重要部品で強固な供給網をつくることが国際競争力の向上に直結すると強調した。コロナ禍で物資供給に支障が出たことを受け、「世界で同時多発的に発生する寸断リスクへの対応に取り組まねばならない」と指摘し、事業継続計画(BCP)では自社被害だけでなく供給網全体で備えることを求めた。 *13-2:https://news.yahoo.co.jp/byline/nishiokashoji/20210223-00224079/ (Yahoo 2021/2/23) アメリカに「レアアース輸出制限」をちらつかせながらも踏み切れない――中国に根深い “対日トラウマ” レアアース(希土類)の主要産出国である中国が「仮に輸出制限に踏み切れば、米欧の防衛産業にどれだけの打撃を与えられるか」という値踏みを始めた――と、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が最近報じた。米国に対するレアアース規制という中国の“報復”措置はたびたび俎上に載せられるが、いつの間にか、立ち消えになっている。中国側が踏み切れない事情とは……。 ◇「輸出制限で米防衛産業にどれぐらいの影響?」 FTは今月16日、「米中対立の際、中国がレアアースの輸出を制限した場合、防衛請負業者を含む米国や欧州の企業にどのぐらい影響が及ぶかと、中国政府当局者が業界幹部に質問した」と伝えた。中国がレアアースの輸出規制というカードで米側に揺さぶりをかけるというポーズをちらつかせた形だ。レアアース規制は2019年に米中関係が悪化した時にも注目された。当時のトランプ政権が中国通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)に対し、米製品輸出や米国由来の技術移転を規制するなど強硬姿勢を見せた。この際にも、中国側が報復措置としてレアアース輸出規制に踏み切るかどうか、国際社会の関心を集めていた。中国共産党機関紙・人民日報系「環球時報」の胡錫進編集長は中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」で、FT報道を「米中対立の機運をさらに盛り上げて、これを喜んでいる」と批判しつつも「中国が米国に『レアアース戦争』を仕掛けなければならないほどの対立には至っていない」と火消しに回った。同時にバイデン現政権に向けて「理性を取り戻し、米中を深刻な関係断絶の方向に推し進めないよう願う」と求めた。 ◇「中東に石油、中国にレアアース」 レアアースとは、希少金属(レアメタル)の一種。磁力を強めるネオジムや、高温でも磁力が落ちないジスプロシウムなど、17種の元素の総称だ。スマートフォン、パソコン、省エネ家電、ハイブリッド車、電気自動車(EV)、最新鋭ステルス戦闘機F35、対戦車ミサイル「ジャベリン」、レーザーなど、幅広い分野で不可欠な材料であり、「産業のビタミン」などとも呼ばれる。そのレアアースの埋蔵量は中国が世界の30%以上を占める。中国では1950年代から周恩来首相(当時)らがレアアース産業に注目し、発展計画を立ててきた。92年には当時の最高指導者、鄧小平氏が南方視察の際、「中東に石油あり、中国にレアアースあり。どうあろうとも、レアアースの仕事をうまく処理していくべきだ」と積極展開を指示してきた。中国は安い採掘コストを背景に生産を急拡大させ、それに押された米国などは産業を縮小せざるを得なくなった。その結果、中国は2007年、世界の生産量の96.8%を握る「一人勝ち」状態になった。一方で、中国のレアアース産業には多様な問題点が浮き彫りになった。需要が高まる中で生産統制が甘くなり、不法採掘や密輸が横行▽生産過程で土壌・地下水・大気の汚染が深刻化▽中国の急速な経済成長に伴いレアアースの国内需要の大幅増――などから、そもそも輸出に慎重にならざるを得ない状況にはある。 ◇尖閣事件のダメージ 中国は「一人勝ち」を背景に、外交関係が悪化した国に対し、輸出規制というカードをちらつかせてきた。それがはっきり示されたのが、2010年9月7日に起きた沖縄県・尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件だった。日本領海内で違法操業した中国漁船が海上保安庁の巡視船に体当たりしたため、海保が船長を逮捕。すると中国側が反発し、日本向けのレアアース輸出の通関手続きを滞らせる事実上の「禁輸」措置に打って出て、日本側に動揺が広がった。ただ、レアアースの戦略的活用が相手国に打撃を与える一方で、多くの「副作用」も露呈した。日本は事件後、「中国に頼らない供給の仕組みをつくるべきだ」として新たな供給網の構築を進めるとともに、代替技術の開発も促進した。このため輸入全体に占める中国の割合は09年の85%から18年には58%にまで引き下げられた。さらに、中国産レアアースの相対的な価値が低下した▽中国が国際的な信頼を失い、海外で別の資源を採掘するのが困難になった▽不法採掘や密輸が一段と深刻化した――などの逆風が吹き、中国のレアアース産業もダメージを受ける形となった。対米規制が実施された場合にも、同様の事態が予想される。中国にとってレアアース規制は「もろ刃の剣」でもあるようだ。 *13-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210523&ng=DGKKZO72176310T20C21A5MM8000 (日経新聞 2021.5.23) 軍事の重心、西から東へ、対中シフト、在外米兵5割がアジア 世界の軍事力の重心が西から東へ移ってきた。米軍の国外の兵員配置は20年間で、欧州や中東に代わり東アジア・太平洋が最も多くなった。世界全体の兵力もアジア太平洋の比重が高まる。冷戦期の東西対立から対テロ戦争を経て、中国が安全保障上の脅威になった変化を映す。米国の対外戦略が転換点を迎えている。バイデン米大統領はアフガニスタンの駐留軍を9月までに撤収する方針を打ち出した。4月には日米首脳の共同声明で台湾海峡に触れた。中国抑止を重視する姿勢が前面に出る。米国防総省のデータから米軍の在外兵力の配置の変遷をみた。2000年の駐留先は6.9万人のドイツが最多だった。01年の米同時テロ以降は中東に軸足を移し、ピーク時はアフガニスタン、イラクに各10万人超を投じた。13年に当時のオバマ米大統領は「もはや世界の警察官ではない」と語った。20年までの10年間で在外兵力は全体で5割程度減った。一方で東アジアの同盟国の日本や韓国では規模を保っている。米国以外の動向はどうか。英国のシンクタンク、国際戦略研究所(IISS)が発行する「ミリタリー・バランス」のデータで世界の兵力分布や装備の変化を調べた。世界全体の兵力は縮小が進む。冷戦期に東西対立の前線だった欧州・旧ソ連諸国は30年間で半分以下に減らした。対照的に中国周辺の新興国などが増加した。インドネシアは30年間で4割、フィリピンは3割、国境紛争を抱えるインドは15%伸びた。アジアの比重が顕著に高まった。中国は兵員数を減らしたものの装備の充実が目覚ましい。1990年にゼロだった中国の近代型戦闘機の保有数は30年間で米国に次ぐ規模に膨らみ、自衛隊や在日米軍を上回る。日韓台も新型装備の導入に力を注ぐ。中国が競争を招く構図が浮かび上がる。中国はミサイルや潜水艦も大幅に増強した。米国防総省などの分析によると、台湾を射程に収める短距離弾道ミサイルは95年の50発から19年時点で750~1500発に増えた。中距離弾道ミサイルも950発以上と推計される。「多くの人が考えるよりもずっと近いと思う」。4月末に就任したアキリーノ米インド太平洋軍司令官は3月、上院の公聴会で中国の台湾侵攻への危機感を訴えた。オースティン米国防長官は3月の来日時、記者会見で「中国などへの競争優位性を持つ必要がある」と強調した。同氏は中東を管轄する米中央軍司令官だった。いまは「この20年、我々は中東に関心を払ってきた。その間に中国は軍の近代化を進め、威圧的な行動をとるようになった」と警鐘を鳴らす。防衛研究所の塚本勝也社会・経済研究室長は「米国にとって地域の軍事バランス回復は急務だ」と話す。「前方展開能力を高め、中国のさらなる台頭を抑え込もうとしている」と分析する。米国のプレゼンスだけで中国に対峙するのは難しく、同盟国の責任も増す。日米首脳の共同声明は日本の防衛力強化の決意を盛り込んだ。岸信夫防衛相は国内総生産(GDP)比1%の枠にこだわらず防衛費を増やす方針を示す。変化の影響は中東にも及ぶ。三菱総合研究所の中川浩一主席研究員は最近のイスラエルとパレスチナの衝突激化を「バイデン政権の脱中東、対中国シフトの外交戦略による面が大きい」とみる。日本は石油供給の9割を中東に依存する。中川氏は「米国が中東から手を引く影響を最も受ける」と警戒する。世界の軍事バランスの変動は日本に新たな安保上の難題をもたらしている。 *13-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/680768 (佐賀新聞 2021年5月23日) 英空母群、インド太平洋へ出航、日本で共同訓練調整 英軍の最新鋭空母「クイーン・エリザベス」を中核とする空母打撃群が22日、初のインド太平洋地域への展開に向けて英国を出航した。英メディアが23日報じた。同地域を重視するジョンソン政権の安全保障戦略の象徴として、日本やインドなど約40カ国に寄港。台頭する中国をけん制する狙いもあるとみられる。艦隊は7カ月をかけて地中海やインド洋、太平洋に展開。日本では自衛隊との共同訓練も調整されている。シンガポールや韓国にも寄港する。クイーン・エリザベスは2017年に就役した英最大級の艦艇で、排水量6万5千トン、全長280メートル。英政府によると、今回の派遣では駆逐艦やフリゲート艦、潜水艦を従え、最新鋭ステルス戦闘機F35Bなども配備する。米国やオランダの艦船も加わる。出航前の22日にはエリザベス女王が司令官らの激励に訪れた。ジョンソン首相は「インド太平洋地域の平和と安全への関与を行動で示し、われわれの影響力を示す」と意義を強調している。ジョンソン政権は3月に公表した外交安保の新戦略で「経済、地政学上の中心」としてインド太平洋地域への「傾斜」を表明した。 <日本は役に立つ新産業の育成・普及が遅れる国である(その5)> PS(2021年5月31日追加): 医療が逼迫してパルスオキシメーターも足りなくなり、自宅療養中に死亡者が出たという沖縄県で、*14-1のように、治療が必要な自宅療養者を対象として訪問看護が開始されたそうだ。訪問看護も介護と同時期に始まった自宅療養に必要な制度であるため、これまで表に出なかったのが不思議なくらいだ。しかし、沖縄は島なのに、新型コロナ感染者が増えた理由は、空港での検査がザルだったからではないのか?理由を明らかにしてそれを止めなければ、現象のみに対応しても「焼石に水」である。また、家族がいるのに感染者が自宅療養すれば、マスクを着けたり消毒したりしても家庭内感染を止めることはできないため、軽症ならホテル療養することになっていたではないか? また、*14-2には、「①診療所には内科でも発熱患者を拒むところが多い」「②発熱・体調不良の患者が最初に相談する窓口は住民に身近な診療所であるべき」「③日本ではその役割を保健所が引き受け、業務逼迫でパンクした」「④通常の診察を大きく減らして地域の高齢者に幅広く接種する開業医は少数」「⑤コロナ禍は診療所の存在意義も問いかけている」「⑥小規模な民間病院の再編・統合を促す政策を打ち出すことが必要」と書かれている。 しかし、①②は、一般の患者と動線を分けられない診療所は、新型コロナの疑いのある患者を避けて院内感染を防ぐ必要があるので仕方がない。また、④は、病気は新型コロナだけではないため、通常の診察を大きく減らすわけにもいかない。しかし、③のように、保健所が間に入ったことで、医師以外の慣れない人に相談して埒があかなかったり、無駄な時間を費やしたりするケースが多かったのだ。従って、⑤については、自宅療養するためには適切な数の診療所は必要であり、⑥のように、小規模な民間病院を再編・統合すればうまくいくとは限らない。 それでは何が必要かと言えば、*14-3のように、都道府県が地域の事情に合わせて「地域医療構想」を作り、病院間の役割分担・訪問看護・介護の計画や広域医療計画を立てることが必要なのだ。ただし、重症者や救急患者に対応する急性期を治療するのが病院なので、病院の急性期病床を減らすのは誤りだ。それ以外にリハビリ病床は必要だが、生活習慣病などの慢性期は病床を増やすよりも自宅療養を可能にする方が重要だろう。つまり、「急性期病床を減らせ」「症状が軽くなったら主治医を変えよ」などという誤った指示をするから話が進まないのであり、それらの総合的結果として「新型コロナ患者受入拒否」や「医療崩壊」に繋がったのだと思う。 *14-1:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1330606.html (琉球新報 2021年5月31日) 自宅療養1000人超す これまで2人死亡 沖縄県は訪問看護開始 沖縄県の糸数公医療技監は30日、これまでに県内で自宅療養中に亡くなったのは、今月15日に発表した那覇市の70代女性と、4月30日に発表した那覇市の40代男性も新たに含まれることを明らかにした。新規感染者の急増で医療がひっ迫し、病床占有率は30日現在、95・7%に上る。自宅療養者は1088人となり、高齢者や持病がある人も自宅療養せざるを得ない状況となっている。血中の酸素飽和度を測るパルスオキシメーターも全ての自宅療養者に配布されておらず、県の配布対象は高齢者や基礎疾患がある人などに限られている。急増する自宅療養者への対応強化は必至だ。県によると、自宅療養者にはパルスオキシメーター300個を高齢者と基礎疾患がある人に優先的に配布した。500個を追加で購入する予定だが、不足が想定されるため、全員に行き届いていない。療養期間が終了した人は返却するよう返信用封筒も渡しているものの、返却状況が好ましくないという。糸数技監は「感染者が増える中で、パルスオキシメーターは貴重な医療機材だ。返却の協力をお願いしたい」と訴えた。県は投薬などの治療が必要な自宅療養者を選定し、県看護協会に委託して訪問看護を始めている。30日現在、これまでに実施したのは6件。今後、投薬が必要な自宅療養者の増加が想定され、調整を進めている。酸素投与や薬の投与などの医療行為は訪問看護がなければ受けることはできず、解熱剤のアセトアミノフェンなど一般の市販薬を常備し、自身で服用するしかないのが現状だ。糸数技監は「体調が変化したときは近くにいる人に速やかに伝え、県に連絡をいただきたい。家庭ではマスクの着用、触ったところの消毒など家庭内の感染対策にも注意が必要だ」と述べた。 *14-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210531&ng=DGKKZO72396640Y1A520C2TL5000 (日経新聞 2021/5/31) 開業医、問われる役割 日本の医学部定員は9330人と過去最多の水準にある。2016年には37年ぶりに医学部を新設した。厚労省は医師数が現在の33万人弱から36万人台まで増える29~32年ごろに需給が均衡するとしている。だが政府が医師数を増やす方針に転じたのは08年から。1980年代から医療の質を高める改革を始めたことを考えると、後手に回ったのは明らかだ。80年代前半に8280人だった医学部定員はその後縮小され、90年代以降は7600人程度に据え置かれた。医師が増えると医療機関の開業も増え、既存の診療所や病院に患者が集まらなくなる。こう懸念した日本医師会が医師を増やすことに反対したためだ。小規模な民間病院の再編・統合を促す政策も打ち出せず、病院勤務医の業務が増えるにつれて日本の医療は機動力を失っていった。医師会が守ってきた診療所には、内科でも今なお発熱患者を拒むところが少なくない。コロナとの闘いの「外側」にいる医師がかなりいる。ワクチン接種には多くの診療所が手を挙げたが、接種対象者を日ごろの患者に限っている例が多い。通常の診察を大きく減らし、地域の高齢者に幅広く接種するという開業医は少数だ。発熱や体調不良の患者が最初に相談する窓口は本来、住民に身近な診療所であるべきだ。日本ではその役割を保健所が引き受け、そして業務逼迫でパンクした。コロナ禍は診療所の存在意義も問いかけている。 *14-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210531&ng=DGKKZO72385760Y1A520C2TCS000 (日経新聞 2021/5/31) 病状・緊急性で役割分担 全日本病院協会会長 猪口雄二氏 国は都道府県に「地域医療構想」を策定させ、2025年に向けて病院の再編・統合や病床の転換を促してきた。団塊の世代がすべて75歳以上になって長期療養の病床が必要になるとともに、人口減少で医療需要が大きく変わるためだ。国は全国の病院に対し、病床を(1)高度急性期(2)急性期(3)回復期(4)慢性期――の4つに分類して現状と25年の見通しを報告させた。急性期病床を少なくし、リハビリを中心とする回復期病床や生活習慣病などに対応する慢性期病床を増やす推計を基本とした。18年から都道府県ごとの調整会議で検討してきたが、25年の推計病床数を達成できないのはほぼ間違いない。調整会議で病院団体や地元医師会の代表が議論しても、個々の病院が経営判断として急性期病床の転換に踏み切れなかった。日本は重症者や救急患者に対応する急性期だけでなく、回復期や慢性期病床を併せ持つケアミックス(混合型)病院が多い。こうした病院は高齢者が多く、職員配置も薄いため、院内感染のリスクが高いコロナ患者を受け入れにくい。国内に一般病床は90万床近くあるが、人手を要するコロナ患者に対応できる急性期病床は40万床程度ではないか。ただ、人口が減少する地域では急性期の需要が減ることは変わりがない。地域に最適な機能分化が必要だろう。欧米の病院では急性期の入院患者に特化している。日本では東京都でさえ、医療スタッフが分散し、夜間に心筋梗塞などの救急患者に緊急手術できる病院は限られる。病院単位で機能分化して再構築を進める必要があるだろう。難易度が高い緊急手術のような高度急性期の患者は大学病院など大病院に集約する。通常の救急患者は地域医療支援病院など中核病院が対応する。急性期に至らない「亜急性期」の患者を受け入れる地域に密着した病院も必要だ。外来は地域密着型病院や診療所で総合診療医などが担当する。このような再構築の実現には身近な地域単位で病院自身が加わって議論する必要がある。 <日本は役に立つ新産業の育成・普及が遅れる国である(その6)> PS(2021年6月2日追加):*15-1のように、2020年度森林・林業白書は、2050年にCO₂排出量を実質ゼロに減らす政府目標に向け、温暖化ガス吸収源の森林整備が重要だと明記したそうだ。林業の経営強化には、省力化に繋がる技術開発も重要だが、林業地域は住居費が安く自然環境もよいため、343万円という年間平均給与は、再造林の意欲をしぼませて造林面積を伐採面積の3~4割程度に留まらせるほど低くはない。つまり、「環境として、資源として、森林を護る」という意識の欠如が問題なのだと思う。 このような中、*15-4のように、日本は、在留資格のない外国人を大した罪もないのに入管施設に収容して送還し、難民認定率は僅か0.4%などと難民保護に消極的な国だが、これをやめて条件を明示し、日本で働きたい外国人(難民を含む)を募れば、人件費で物価を高騰させて国際競争力を失うことなく、多くの産業を再開できる。 しかし、*15-3のように、日本で働く外国人が172万人にも達するという労働力の実需があり、移民の子に日本で教育を行えば生産年齢人口減少時代に良質な労働力となり、多言語・多文化の背景を持って日本社会の多様性を支えていく存在になって社会的コスト以上の見返りがあるにもかかわらず、「技能実習」「特定技能」の外国人労働者に家族帯同を認めないことで、日本政府は人権侵害と日本国憲法違反を犯しているわけである。 また、農業白書も、*15-2のように、食料供給リスクの高まりを指摘する内容だが、日本の食料自給率は4割以下となり、多くを海外依存したまま具体的解決策が示されていないそうだ。人口が減るなら輸入どころか輸出できてもおかしくないが、国内の農業生産は高めず輸出規制回避のため国際協調を進めるなど外国依存を増やそうという呑気な政策のままなのである。今では、興味を抱いて都市部から就農を目指す若者が増え、生産現場を支えている外国人も多いため、外国人労働者に「技能実習」等の劣悪な労働条件を押し付けるのではなく、労働法に沿った安定した人材確保を行うべきである。 *15-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA288S60Y1A520C2000000/ (日経新聞 2021年6月1日) 脱炭素へ林業経営の支援強化 20年度林業白書 政府は1日、2020年度の森林・林業白書(森林・林業の動向)を閣議決定した。50年に二酸化炭素(CO2)の排出量を実質ゼロに減らす政府目標に向け、温暖化ガスの吸収源である森林の整備が重要だと明記した。林業経営の支援強化策として省力化につながる技術開発などを盛り込んだ。白書は伐採面積に比べて人工造林された面積が3~4割程度にとどまり、林業に適した場所でも再造林が進まないとの事例を示した。林業従事者の所得水準が低く、再造林の意欲がわかないことが一因だと指摘した。17年の林業従事者の年間平均給与が343万円と4年前から38万円増えたものの、全産業平均(432万円、17年)に比べると低いことに触れた。人材の定着も長期的な課題として挙げた。再造林の担い手である林業従事者数は15年時点で10年前から1割強減ったとの調査結果をもとに、定着率を高めるために林業の収益性向上が重要だと強調した。経営改善に向けた具体策として、自動化を進める機械の導入や成長速度が早い品種の投入などを例示した。 *15-2:https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2021053100121 (信濃毎日新聞社説 2021/5/31) 農業白書 見通せぬリスクへの備え 政府が先日閣議決定した農業白書は、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を踏まえ食料供給のリスクの高まりを指摘する内容となった。日本の食料自給率は4割を切っており、多くを海外からの調達に依存する。途絶えるようなことがあれば大きな混乱が生じる。供給不足には至らなかったものの、ロシアやウクライナなど19カ国が昨年、小麦やソバの一時的な輸出規制に踏み切った。都市部を中心に不足への懸念が広がり、長期保存できるパスタや冷凍食品がスーパーで品薄になる事態も昨年、一部で発生した。白書は、自然災害や家畜伝染病の多発に加え、感染症の拡大も食料供給に影響を及ぼすリスクになるとし、不測の事態に備えていく必要があると強調した。もっともな指摘である。では具体的にどう備えを進めていくかとなると、説得力は乏しい。安定供給への道筋が見えてこない。輸出規制回避などのため、国際協調を進める、とある。当該国が深刻な不足に陥った場合にも輸入を継続できるだろうか。小麦やトウモロコシの備蓄を挙げている。リスクを踏まえ備蓄水準を見直していく必要はある。だが対応には限界がある。国際市場で食料が逼迫(ひっぱく)する恐れが中長期的に増すのが避けられない以上、重要度が高まるのは国内の農業生産だろう。何をどれだけ維持・拡大していくか。腰を据えた議論が必要ではないか。農業の生産基盤は長期間、弱体化が止まっていない。担い手が減り、高齢化している。農地の減少と荒廃も進んでいる。白書によると、2020年の基幹的農業従事者数は136万3千人。10年前から34%減少した。平均年齢は67・8歳で、この10年で2歳ほど高齢化している。一方、興味を抱いて都市部から就農を目指す若者も少なくない。農協や自治体による就農支援の強化など、長い目で人材育成の取り組みに力を入れたい。コロナ下では、農業の外国人材に関する問題も顕在化した。農繁期の労働力を東南アジアなどから来る技能実習生に頼る構造が定着し、コロナの影響で来日できなくなった途端、人手不足に陥った。県内では高原野菜産地が深刻な状況になっている。厳しい労働環境に失踪する技能実習生もいる。生産現場を外国人が支えている現実に改めて目を向けつつ、安定的な人材確保策を考えていく必要がある。 *15-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14905817.html (朝日新聞 2021年5月17日) 子どもと来日、閉ざす日本 「家族分離生む政策」批判も 日本で働く外国人は昨年172万人に達し、5年でほぼ倍増した。その一方で、政府から家族の帯同を認められず、母国に子どもを残してくる外国人労働者も多い。日本の政策が、家族の分離を生み出していると批判の声があがる。二国間の経済連携協定(EPA)に基づく介護福祉士の候補者は、インドネシア(2008年~)、フィリピン(09年~)、ベトナム(14年~)から受け入れ、これまでに約5500人が来日した。原則として来日4年目に介護福祉士試験に合格すれば、その後も日本で働き、配偶者や子どもを呼び寄せることもできるが、合格率は約5割にとどまる。日本で働く外国人のうち、在留資格別で最多の40万人を占める「技能実習」では、家族の帯同が認められていない。人手不足の14業種で外国人労働者を受け入れるため、19年に新設された「特定技能」(約7千人)でも、家族帯同の道は、ほぼ閉ざされている。フィリピンからの移民労働者を研究する小ケ谷(おがや)千穂・フェリス女学院大教授(国際社会学)は「家族が分離されることなく一緒に暮らすことは基本的な権利。それを国が認めないのは大きな問題だ」と言う。特定技能の新設をめぐる18年の国会審議でも、野党側から「深刻な権利侵害に問われる」との批判があった。しかし、安倍晋三前首相は国会答弁で「受け入れれば、家族に対する支援も検討する必要があり、幅広い観点から国民的なコンセンサスを得る必要がある」と、家族の生活支援にかかる社会的コストを理由に、否定的な認識を示した。出入国在留管理庁の担当者は取材に、技能実習や特定技能について「制度上、日本で一定期間、働いた後は帰国することになっている。家族帯同を認める必要性は低い」と説明する。働き手自身が日本語や生活上の支援を必要としていることや、家族と一緒に暮らすために十分な賃金を得られないケースが多いことも、帯同を認めない理由に挙げた。小ケ谷教授はこうした日本の外国人労働者政策について「政府は短期的な労働力だけを求め、家族にかかるコストの負担を拒否している」と指摘する。「移民の子どもは多言語や多文化の背景をもち、日本社会の多様性を支えていく存在にもなり得る。長期的視野をもって、受け入れていくべきだ」と話す。 ■残された子、精神面に課題 フィリピンの人材を日本企業に紹介するN.T.グループ(大阪市)は06年以降、約2千人を日本へ送り出した。家族や親戚に子どもを預けて来日する人も多く、高橋信行会長(72)は「国際電話しかなかった十数年前に比べ、スマートフォンの普及で親子の連絡が簡単になり、出稼ぎへの心理的な壁は低くなった」と話す。送金が重要な外貨収入であるフィリピンでは、政府が移民労働者の子ども向けに奨学金を設け、出稼ぎを後押しする。親が海外に働きに出ることの子どもへの影響は、評価が割れている。フィリピンなどの移民送り出し国での調査でも、子の精神面や学習面に悪影響が「ある」「ない」という両方の結果が出ている。ユニセフは昨年9月に出した「残された子どもたち」に関する報告書で、「親からの送金によって子が学校に長く通えるようになる」一方、「親と長期間離れることでうつ病や不安症といった精神面のリスクを高めかねない」と指摘した。「健全な発達のために、コミュニティーの支援や親子の頻繁な連絡が必要」としている。 *15-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210528&ng=DGKKZO72356160Y1A520C2EAC000 (日経新聞 2021.5.28) 難民保護、政策手薄の10年、日本の認定率わずか0.4% オーバーステイ(超過滞在)などの理由で在留資格のない外国人の保護のあり方が注目を集める。政府・与党は入管施設での長期収容を防ごうと出入国管理法の改正を目指したが野党が反発し今国会での成立を見送った。難民認定をはじめ入管行政は効果的な政策が打たれないままだ。「きょう食べるものにも困っている」。NPO法人の難民支援協会(東京・千代田)には、生活や就労などの支援を求める外国人からの連絡が年間4000件近く寄せられる。最近は新型コロナウイルス禍で困窮した人からの相談が急増しているという。紛争や人権侵害のため母国に住めず日本に難民申請する人は増加傾向にある。申請者数はピークの2017年に1万9629人となり10年に比べ16倍に達した。協会は「難民は仲介人らを通じ国を探す。入国できそうな国の航空券を取り入管などで保護を求めることが多い」と指摘する。難民が日本を訪れるのは多くの場合「偶然、査証(ビザ)が発給された」ためだ。日本に来る難民はもともと、ベトナム、ラオス、カンボジア人が中心だった。ベトナム戦争の「ボート・ピープル」が典型例として知られる。02年に中国の日本総領事館に北朝鮮の脱北者が駆け込む事件が発生。それを機に、難民の申請要件を緩和し、認定前の仮滞在を可能にした改正入管法が04年に成立し申請がしやすくなった。政府は10年、申請者の就労も一律で認めた。年間1000人程度だった申請者数は14年には5000人に。入管の人手不足もあり「就労目的で申請を悪用したとみられる事例が増え審査期間も長くなった」(出入国在留管理庁)。10年代には紛争の激化で世界の難民の数も増えた。日本は観光客の誘致へビザの発給要件を緩和したこともあり難民が来日する事例も増えた。法務省は申請増に歯止めをかけようと、18年、明らかに難民に当てはまらない申請者の在留や就労の制限を強化した。支援団体は日本の認定率を問題視する。19年は1万375人の申請に対し認定は44人と、0.4%にとどまった。56%のカナダ、46%の英国に比べ低水準が際立つ。認定されず在留期限が切れて日本に残る不法残留者は今年1月時点で17年に比べ3割多い8万2868人に達する。そうした人は摘発され帰国するまで原則として入管施設にとどまる。3月に名古屋出入国在留管理局で死亡したスリランカ人女性は半年以上施設に収容されていた。仮放免を求めハンガーストライキを起こし体調を崩す収容者も多い。難民申請を繰り返す人が多く入管施設は逼迫する。「送還忌避者」は20年12月時点で3100人にのぼる。「入管法改正の背景には送還忌避があとをたたない状況がある。迅速な送還の実施に支障が出て収容が長期になることの要因となっていた」(上川陽子法相)。法務省は入管法改正案で長期収容の問題解決を目指した。3回目以降の申請は強制送還の対象になるとの規定を設けた。現在は認定申請すると回数や理由に関係なく送還できない。強制送還が可能になると収容者は減るが帰国先で迫害を受けかねない。野党は「人権侵害のスリーアウトルール」と呼び反対の論拠にした。法務省は外国人の受け入れを広げるため難民に準じた新資格「補完的保護対象者」を提案した。母国が紛争中の人を念頭に難民と同じように定住者の資格で在留を認める。筑波大の明石純一准教授は法改正の必要を強調する。それだけでは長期収容の問題は解決せず「難民認定などを審査する入管の体制強化が必要だ」と話す。支援団体などは難民認定を入管当局ではなく専門性の高い独立機関がすべきだと主張する。日本の入管行政はこの10年間、申請の急増に対応する政策が手薄だった。改正案の成立は見送りになったが長期収容の問題は残る。 <日本は役に立つ新産業の育成・普及が遅れる国である(その7)―生物由来の薬> PS(2021年6月3日追加): *16-1のように、ヘルペスウイルスの遺伝子を組み換えて癌細胞だけで増殖するようにした「癌治療薬」が初めて実用化され、5年生存率10%の難病患者の1年後の生存率が92.3%で、これは他の抗癌剤治験で示された34.5%より高いそうだ。また、*16-2のように、新型コロナウイルスは武漢研究所で遺伝子操作によって造られたという法医学的学術論文が、英国とノルウェーの学者によって発表された。最初の状況から見て中国政府が意図的にばら撒いたとは考えにくいが、遺伝子操作が容易にできるようになり、構造の単純な人工ウイルスを作り出すのは簡単だというのが現在の常識になっている。 また、「ウイルスには免疫とワクチン」というのが私が学生の頃から常識であるため、*16-3のように、厚労省新型コロナ感染症対策分科会の尾身会長が、徹底的な検査をしたり、ワクチン・治療薬の開発・承認を急がせたりすることなく、検疫もザルにしたまま「人の流れを止めよ」と言って緊急事態宣言を出させて経済に大損失を与えた上、ワクチン接種が始まっても「五輪開催は普通はない」「規模をできるだけ小さくして管理体制を強化するのが主催する人の義務」などと言っているのは、とても医学の専門家とは思えない。さらに、「オリンピックを開く際は、何のためにやるのか、しっかり明言することが重要」などと指摘するのは、行政にいた人とは思えない無知であるため、これらの必要な対応をしなかった日本の厚労省の方に、新型コロナ感染症を広げる意図があったように、私には見える。 なお、*16-4のミドリムシ(藻類)は、動物と植物に分化する前の生物なので、動物が持つ栄養素と植物が持つ栄養素の両方を持っており、それを食べると野菜と肉を同時に食べたのと同じ効果があるのだそうだ。、佐賀市は、そのミドリムシを下水の廃液やごみ処理場のCO2を活用して増やし、鶏の餌や肥料にして賢く効果を出している。私は、ミドリムシもウイルスに対する抗体を作れる筈なので、抗体薬を作るのに使えそうだと思っている。 *16-1:https://www.yomiuri.co.jp/medical/20210525-OYT1T50156/ (読売新聞 2021/5/25) ウイルス使った「がん治療薬」初の実用化へ…5年生存率10%の難病患者、1年後で92・3%生存 厚生労働省の薬事・食品衛生審議会の部会は、がん細胞だけで増殖する特殊なウイルスを使った悪性脳腫瘍の治療薬「テセルパツレブ」の条件付き承認を了承した。近く厚労省が承認し、第一三共が製造販売する。ウイルスを使ったがん治療薬の実用化は初めて。この薬は東京大医科学研究所と同社が共同開発した。ヘルペスウイルスの遺伝子を組み換え、がん細胞だけで増えるように加工。増殖の過程でがん細胞の破壊を狙う。治療の対象は、脳腫瘍の中でも特に悪性度が高い膠芽腫こうがしゅ。年間の新規患者数は約2400人で、5年生存率は10%程度と治療が難しい。東大医科研の治験では、手術、放射線治療、抗がん剤の標準治療を行った後の患者13人に投与したところ、1年後の生存率は92・3%だった。同じ状況で投与された他の抗がん剤の治験で示された34・5%より高い。ただし、治験対象者が少数のため、7年かけて有効性と安全性を確認する条件が付いた。 *16-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/8b36470ee15dcbe2899f76571ee3d820aa9bb39c (Yahoo 、FNNプライムオンライン 2021/5/31) 「コロナウイルスは武漢研究所で人工的に変造された」英研究者らが法医学的学術論文発表へ ●「ウイルスは中国研究所で人工的に変造された」 新型コロナウイルスの武漢研究所流出説が再燃する中、英国の研究者らがウイルスが中国の同研究所で人工的に変造されたことを法医学的に突き止めたと、近刊の学術誌で論文を発表する。英国の日刊紙デイリー・メイル電子版28日の特種報道で、近く発行される生物物理学の季刊誌Quarterly Review of Biophysics Discoveryに掲載される学術論文を事前に入手し「中国がコロナウイルスを造った」と伝えた。論文の筆者は、ロンドンのセント・ジョージ大学で腫瘍学専科のアンガス・ダルグライシュ教授とノルウェーの製薬会社イミュノール社の会長で生物学者でもあるビルゲール・ソレンセン博士の二人で、研究の発端はイミュノール社で新型コロナウイルスのワクチンを開発するために、ウイルスを調べ始めたところ、ウイルスが人工的に改ざんされた痕跡(フィンガープリント)を発見したことだったという。そこで二人は、武漢ウイルス研究所を疑って2002年から2019まで同研究所で行われた実験にかかわる研究論文やデータから、その根源を探る「レトロ・エンジニアリング」という手法で分析した。その結果二人は、中国の研究者が、その中には米国の大学と協調して研究していた者もいたが、コロナウイルスを「製造する術」を手にしたらしいことが分かった。彼らの研究のほとんどは、米国では禁止されている遺伝子操作で性質の異なるウイルスを作り出すことだった。 ●コウモリのウイルスを遺伝子操作で変造 二人は、中国の研究者が中国の洞窟で捕らえたコウモリからそのウイルスの「バックボーン」と呼ばれる部分を別のスパイクに接着させ、より致死性が高く感染力の強いウイルスを造ったと考える。そのウイルスのスパイクからは4種のアミノ酸の列が見つかったが、こうした構造は自然界のウイルスには見られないことで、人工的なウイルスであることを裏付けるものだとソレンセン博士は言う。コロナウイルスの発生源については、世界保健機関 (WHO)の調査団が中国で調査した結果「コウモリから別の生物を介してヒトに感染した可能性が高い」と報告し、中国のキャンペーンもあって自然界での変異説が有力視されてきた。 ●「軍事利用」が目的だったのか? しかし、ここへきて武漢ウイルス研究所の研究員3人が2019年秋にコロナと似た症状で入院していたという米情報当局の情報がマスコミに流されたり、英国の情報部もウイルスが武漢研究所から流出したものと判断したと伝えられ「研究所流出原説」が再燃。バイデン米大統領も26日コロナウイルスの発生源再調査を命じ、90日以内に報告するよう求めた。そうしたタイミングで出てきた今回の研究論文は、単なる噂話ではなくウイルスを法医学的に分析した学術研究なので説得力があり、今後このウイルス変造が「軍事利用」を目的としていたのかどうかなどの論議に火をつけることになりそうだ。 *16-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210603&ng=DGKKZO72534310T00C21A6PD0000 (日経新聞 2021.6.3) 尾身会長、五輪開催「普通はない」 規模最小化訴え 政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は2日の衆院厚生労働委員会で東京五輪・パラリンピックに言及した。開催に関し「いまの状況でやるというのは普通はない」と述べた。「規模をできるだけ小さくして管理体制を強化するのは、主催する人の義務だ」とも強調した。五輪実施が人流の増加などにつながらないよう政府や大会組織委員会などが一体となった取り組みを促した。大会を開く際は「いったい何のためにやるのか、しっかりと明言するのが重要だ」と指摘した。十分な説明がなければ「なかなか一般の人は協力しようと思わない」との考えを示した。加藤勝信官房長官は11~13日の主要7カ国首脳会議(G7サミット)で菅義偉首相から各国首脳に開催への理解を求める方針を示した。2日の記者会見で「感染対策を徹底し、安全・安心な大会を実現すると各国に説明する」と話した。 *16-4:https://news.yahoo.co.jp/articles/b3c6863a0c84d9cee87cacd0c6f7d741f126111b (Yahoo 2021/5/29) 藻・ミドリムシ循環担う 下水の廃液・CO2活用 鶏の餌や肥料に 佐賀で実証 ミドリムシなど藻類を野菜の肥料や鶏の餌にする試みが、佐賀市で加速している。藻類は下水や、ごみ処理場の二酸化炭素(CO2)で培養可能だ。未利用資源の有効活用となる。藻類を原料とした餌を食べた鶏の卵は、黄身が濃く機能性も増す。市は企業と連携して藻類の利用を促進。低炭素社会の実現を後押しする。養鶏業やパン製造販売を手掛ける「むーらん・るーじゅ」は、卵かけご飯専門店を市内にオープンした。使う卵は藻類「ヘマトコッカス」を混ぜた餌を与えた鶏が産んだものだ。卵は免疫力を高める効果がある赤い色素「アスタキサンチン」を含み、抗酸化成分は通常の250倍とされる。石井利英社長は「黄身が熟した柿のような濃い色でお客さんが驚く」と話す。原料のヘマトコッカスはCO2を吸収して光合成して増える。市のごみ焼却場から排出されるCO2を買い取り、(株)アルビータが培養を担う。市と同社が2014年に結んだバイオマス(生物由来資源)資源利活用協定に基づく。市は「一般社団法人さが藻類バイオマス協議会」の事務局を務める。資源活用の旗振り役だ。賛同する(株)ユーグレナは4月、市内に試験農場を開設した。藻類・ミドリムシを肥料に混ぜてホウレンソウなどを栽培。肥料効果を実証する。ミドリムシは、市下水浄化センターの汚泥処理で出る廃液とCO2で培養する。同社によると、年間130トンのCO2で75トンのミドリムシを生産できるという。廃液には窒素やリンなどが多く、ミドリムシの栄養源となる。ただこれまで悪臭などの問題で、廃液のままでは農業利用が難しかった。廃液の成分をミドリムシが吸収し、下水処理場の負荷軽減にもつながる。ミドリムシの肥料で育てた作物は収穫後の鮮度を保てるとされる。小松菜を収穫後に低温保管したところ、1週間後に失われる水分が慣行の肥料のものより3割少なかった。市バイオマス産業推進課は「廃棄物を安価に資源化でき、無理のない形で資源循環が実現できる」と説明する。 <ことば> 藻類 主に水中に生息し、光合成を行う生物のこと。ミドリムシなど微細なものから、コンブなど大型の海藻も含む。バイオマス利用には微細藻類が中心に使われている。 <「できない」「できない」ではなく、やる方法を考えるべき(その1)> PS(2021年6月5日追加):*17-1は「①47都道府県庁所在地のある市区のうち、51%に当たる24市で64歳以下のワクチン接種開始時期が決まっていない」「②自治体は高齢者接種の7月末完了に追われている」としているが、ワクチンが足りないわけではなく接種するか否かの問題であるため、「できない、できない」と言うのではなく、やる方法を考えたらどうかと思う。私が住んでいる埼玉県の場合は、市町村以外に埼玉県浦和合同庁舎に集団接種会場を設けてモデルナのワクチンを接種しており、市町村よりそちらの方が予約しやすかった。沖縄県の場合は、市町村が接種券さえ発効すれば、国際通りの前の県庁近くに会場を設けて感染確率の高い人たちに大量に接種することが可能だろう。 また、*17-2のように、小規模離島の首長から「③できるだけ一斉接種ができる体制が作れないか」という要望があったのなら、沖縄県の場合は自衛隊の病院船に離島を廻って集団接種してもらってもよいくらいだ。基礎疾患のある人は、あらかじめかかりつけ医に相談しておいたり、かかりつけ医で接種したりすればよい。 なお、*17-3のように、遅くとも6月21日から職場・大学でモデルナのワクチン接種を始めるため、一般向けの接種券も早く配布した方がよい。また、*17-4のように、トヨタ・日航・住友生命・楽天などは職場での接種を検討しているそうだが、タクシー業界や宅配など不特定多数の人に接する職種も会社や組合で早く接種した方がよいと思う。農業者は、家族まで含めてJA全厚連がやればよいだろう。 しかし、*17-5のように、「④沖縄県は出発地で検査と陰性確認を求めてきたが、事情があって出発地で検査を受けられない場合は県内で到着時に検査を受けるよう呼び掛けている」「⑤宮古空港と下地島空港(ともに宮古島市)、石垣空港(石垣市)でのPCR検査は有料で義務ではない」という水際は、やはりザルだ。何故なら、陰性証明でもワクチン接種証明でもよいが、要求するからには完全に要求しなければ漏れが生じ、⑤のように希望者だけがPCR検査をして検査結果の通知は翌日しか来ないのであれば、その漏れも完全には捕まらないからだ。これでは「感染を予防する気があるのか!?」と言いたいわけである。 *17-1:https://ryukyushimpo.jp/kyodo/entry-1333949.html (琉球新報 2021年6月5日) 一般接種、51%時期未定 高齢者対応で追い付かず 新型コロナウイルスワクチンを巡り、47都道府県庁所在地のある市区のうち、51%に当たる24市は64歳以下の一般接種の開始時期が決まっていないことが5日、共同通信の調査で分かった。接種券を国の方針通り6月発送としたのは28%(13市区)にとどまった。政府は自治体に対し、高齢者接種に一定のめどが立てば、基礎疾患のある人を含めた64歳以下にも広げるよう要請した。しかし、自治体は高齢者接種の7月末完了に追われており、政府の思惑通りに自治体の事業が加速するかどうかは不透明だ。調査は5月31日~6月4日、47都道府県庁所在地の市区(東京は新宿)に実施した。 *17-2:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1333571.html?utm_source=ryukyushinpo&utm_medium=referral&utm_campaign=top_kennai (琉球新報 2021年6月5日) 「一斉接種体制を作って」離島首長ら要望 沖縄コロナ意見交換会 県は4日、新型コロナウイルス感染症対策に向けて、県内41市町村の首長らとインターネットのビデオ会議システムを通じて意見交換会を開催した。県内で感染が急拡大した5月は、医療提供体制が脆弱(ぜいじゃく)な小規模離島でも感染が相次いで報告されている。小規模離島の首長からは「できるだけ一斉接種ができる体制が作れないか。役場職員が急患対応するため非常にリスクが高い」(座間味村)などの要望が上がった。また県が7日から県立学校の休校を決めたことで、「学校が休校になると本島から学生が島に帰ってくる可能性がある」(伊平屋村)として、事前のPCR検査の徹底などを求めた。(以下略) *17-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODE010PD0R00C21A6000000/ (日経新聞 2021年6月1日) ワクチン接種、職場・大学で21日から 一般接種券も送付 加藤勝信官房長官は1日の閣議後の記者会見で、新型コロナウイルスワクチンの職場や大学での接種を21日から始めると発表した。準備が整えば21日より前に始める。米モデルナ製を使う。6月中旬には一般向け接種券の配布を始めるよう自治体に要請した。職場での接種は社員、大学は学生と職員が対象になる。企業や大学、地方自治体の判断で、対象者の家族や周辺の住民への接種も認める。職場の接種は産業医や委託機関が企業内の診療所や会議室で実施する。提携先の医療機関で受けることもできる。中小企業には商工会議所を通じた共同接種を呼びかける。従業員の住所と職場がある市区町村が異なる場合が多いため、自治体が発行する接種券がなくても受けられる仕組みを検討する。いまは自治体からの接種券が届き次第、接種の予約ができる。新たに導入するのは後日、自治体の接種券が届けば接種が済んだと登録できる仕組みだ。加藤氏は企業や大学へのワクチン供給について「かなりモデルナのワクチンを持っている。峻別しなくても、要望があればそれに応じて発送していくことは十分可能だ」と述べた。供給先の順位付けはしない意向を示した。政府は65歳以上の高齢者の次に基礎疾患を持つ人や一般の人への接種を認める。加藤氏は「6月中旬をめどに一般接種の対象者全体に接種券を送付できるよう、各自治体で準備を進めてほしい」と強調した。政府はこれまで医療従事者と高齢者の接種を優先してきた。7月末に高齢者への2回目の接種を終える目標を掲げる。職場での接種はモデルナ製を使い、ファイザー製を用いる高齢者接種に支障がでないよう配慮する。首相は5月31日の自民党役員会で「高齢者接種にめどをつけたい。6月中には基礎疾患のある人を含め一般の接種を開始する」と述べた。政府発表によると5月30日時点での総接種回数は1234万回に達した。 *17-4:ttps://ryukyushimpo.jp/kyodo/entry-1331423.html (琉球新報 2021年6月1日) トヨタ、職場での接種を検討 日航や住友生命、楽天も トヨタ自動車は1日、新型コロナのワクチンの職場接種を検討していると明らかにした。21日から企業での接種を可能にするとの政府方針に対応した。日本航空や住友生命保険、楽天グループなども実施方針を表明。時期や対象者が未定の企業は多いが、コロナ収束に協力する動きが早速出てきている。トヨタはワクチン接種を巡り、地域支援の一環として本社がある愛知県豊田市などに産業医を派遣している。この取り組みと並行し、職場接種の方法を詰める。日本最大のメーカーで、子会社を含む従業員が約36万人(2020年3月末時点)に上るトヨタが実施に踏み切れば、追随する企業も出てきそうだ。 *17-5:ttps://ryukyushimpo.jp/news/entry-1331157.html (琉球新報 2021年6月1日) 沖縄・宮古島と石垣島の空港でPCR検査 3日から開始、専用サイトで予約受付も 沖縄県は31日、新型コロナウイルス感染症対策として、宮古空港と下地島空港(ともに宮古島市)、石垣空港(石垣市)でのPCR検査の予約受け付けを専用サイトで開始した。6月3日から実際の検査が始まる。離島での水際対策として整備を求める声が上がっていた。検査は義務ではなく、対象空港の発着便利用者のうち、希望者が有料で検査を受けられる。検査料金は県内在住者は3千円、県外在住者は5千円。利用できる時間は午前9時から午後8時(下地島のみ同6時)まで。空港で提出した唾液を那覇の検査場に送るため、結果の通知は原則翌日。航空便の都合によっては翌々日以降になる可能性もある。県は1日当たりの検査数を宮古と新石垣で100件程度、下地島で50件程度と想定している。検査事業者は、那覇市松山で沖縄PCR検査センターを運営するミタカトレード沖縄支社。県は基本的に出発地での検査と陰性確認を求めてきたが、事情があって出発地で検査を受けられない場合は県内で到着時に検査を受けるよう呼び掛けている。離島空港PCR検査プロジェクトに関する問い合わせは沖縄PCR検査センター(電話)050(8880)2391。 <「できない」「できない」ではなく、やる方法を考えるべき(その2)> PS(2021年6月6、7日追加):*18-1のように、東京五輪組織委員会・政府・東京都・IOC・IPCの代表が選手向け新型コロナ対策をまとめたプレーブックの変異株に対応した改訂版を確認し、その内容は、「①入国時に陰性証明を求め、空港でも検査する」「②全ての大会関係者は、出発前に2回検査する」「③出場するアスリートとチーム役員は、原則毎日検査する」「④滞在中は、公共交通機関の使用禁止」「⑤行動計画に反した場合は、資格剥奪も検討」だそうだ。 しかし、①②の陰性証明書かワクチンの接種証明書を提示させれば、その人が新型コロナの感染者である確率は、どちらもない日本人よりずっと低いため、③④は、日本人よりアスリートとチームの役員を護るための対策だ。従って、⑤は「自分をリスクに晒さないため」という説明をすればよく、資格剥奪までは不要だろう。このような中、「ワクチンを接種した人と接種していない人の間に差別が生まれる」などと言う人がいるのは、“差別”の意味すらわかっていない。また、大会期間中に医療スタッフとして看護師500人を確保しても、地域医療に影響がないようにすることは可能であるため、証拠に基づかない感情的な反対は止めるべきである。 さらに、*18-2のように、「⑥何百、何千の命と天秤にかける『平和の祭典』などあり得ない」等として五輪の中止を求める声が大きいが、「五輪を開催すると感染拡大して何百・何千の命が失われる」という科学的根拠はないため、あると言う人はその根拠を明示すべきだ。さらに、今から五輪の開催を中止しても既に費やした金とエネルギーは埋没原価となっていて戻らず、新たに多くの損害や信用棄損が生じるため、⑦徹底した検疫 ⑧ワクチン接種による国民の集団免疫形成 ⑨出入りする観客や関係者への陰性証明書かワクチン接種証明書の提示義務化 などで、無観客や時間短縮はせずに感染の制御と五輪を両立させた方が合理的である。 このような中、*18-3のように、「⑩息子は運動会を楽しみにしていて、徒競走で『1等賞を取る』と張り切っていたけど中止が決まって家で泣いていた」という親がいたそうだが、運動会を断念する必要はなく、緊急事態宣言中になったのなら雨天と同じく順延にするか、文科相が言うように秋にすればよいだろう。にもかかわらず、小学生の息子に「運動会はやらないのに、なんで五輪はやるの?」と聞かれて答えに窮するのは、(答え方は沢山あるため)保護者の教育力に欠ける。また、「⑪死人が出てまで行われることではないから、1人もコロナの患者が出ない時に五輪はやるべき」「⑫コロナ禍で国民が様々な我慢を強いられる中、東京五輪だけが開催されることに違和感を持つ」というのも、必要な予防を徹底すれば五輪開催と新型コロナによる死者数の相関関係はなくなるため、感情論にすぎない。 さらに、*18-4は、「⑬日本では9都道府県に発令中の緊急事態宣言が6月20日まで延長され、酒類を提供する飲食店、カラオケを使用する飲食店、遊興施設に引き続き休業を要請している」「⑭東京五輪に出場する選手らが宿泊する選手村に、アルコール類の持ち込みが許可される」として「アスリートだけ特別扱い」という不公平論が囁かれるのもおかしい。何故なら、①~⑤のように、アスリートには必要以上の感染防止策を講じているので規制は不要だからで、批判すべきは、厚労省が「⑮国民へのPCR検と検疫をいい加減にして新型コロナを国内で蔓延させ」「⑯酒や外食をターゲットにして休業・時短を要請し」「⑰ワクチン・治療薬の開発・承認をせずに国民に迷惑をかけたこと」だからである。それにもかかわらず、これらを不公平やモヤモヤとしか表現できないのは、スポーツ偏重にして勉強を疎かにした教育の結果だろう。 *18-5のように、移動解禁に向けて7月から運用を始めるEUはじめ世界で新型コロナワクチンの接種証明書を発行し活用する動きが広がり、遅すぎるものの日本政府もEUの「デジタルCOVID証明書」をモデルとしてワクチン接種者とコロナからの回復者を対象に発行することにしたのはよいことだ。これについて、「接種は任意なのに、証明書の導入で未接種者への差別を招く」とする意見もあるようだが、任意で行う自由な意思決定がメリットとディメリットを受容することになるのは当然であるため、これと病気にかかった人への差別とを混同するのは、あまりに見識が低いと言わざるを得ない。 *18-1:https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-04-28/QS7MWWT0AFB501 (Bloomberg 2021年4月28日) アスリートは原則毎日検査、出発前に検査2回を要請-東京五輪 東京五輪・パラリンピック組織委員会と政府、東京都、国際オリンピック委員会(IOC)、国際パラリンピック委員会(IPC)の代表者は28日、選手向けの新型コロナウイルス対策をまとめた「プレーブック」の改訂版について確認した。発表資料によると、東京五輪・パラリンピック大会に出場するアスリートとチーム役員は原則毎日検査するほか、全ての大会関係者には出発前に2回の検査を求める。滞在中の公共交通機関の使用は禁止する。また、組織委の武藤敏郎事務総長は記者会見で、行動計画に反した場合には資格のはく奪も検討すると述べた。五者協議後に発表された改訂版では、入国時に陰性証明が必要とした上で、空港でも検査をすることを明記。到着後の3日間は自室で隔離が必要としながらも、アスリートとチーム役員については、期間内の検査が陰性であれば、組織委の監督下で活動はできる。組織委はIOC、IPCと共に医療専門家らの助言を受けながら選手や大会関係者らの感染対策をまとめたプレーブックの第1版を今年2月に公表。大会参加者に日本到着時にコロナ検査の陰性証明を提示することや、少なくとも4日ごとに検査を受けることとしていた。その後、変異株の感染拡大など状況の変化に対応するため大幅に更新をした第2版を策定した。開催都市である東京都では、3度目となる緊急事態宣言が出され感染収束のめどが立っていない。組織委の武藤敏郎総長は26日の会見で、日本看護協会に大会期間中の医療スタッフとして看護師500人の確保を要請したことを認めた上で、「地域医療に影響がないよう勤務時間やシフトで対応して折り合う」と述べた。一方で、28日に開かれた政府の新型コロナ感染症対策調整会議では、組織委の感染症対策センターや大会保健衛生支援東京拠点を6月に開設する方針が示された。大会開催中は選手村に設置する診療所発熱外来などを24時間態勢で運営する。大会期間中にアスリートらへの医療提供を行う大会指定病院には、組織委員会が協力金を支払う予定としている。7月に予定されている大会は海外からの一般客の受け入れを断念して行われることになったが、アスリートやコーチ、競技団体の関係者やメディアなどが200カ国余りから東京に集まる。組織委は入国する大会関係者の削減についても精査している。 *18-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/90e6e4f42e5c603cea15ea5a06f7b75f7b785221 (Yahoo 2021/5/10) 東京五輪「無観客開催」にさえ消極的なIOCと政府 小池知事は四面楚歌 何百、何千の命と天秤にかける「平和の祭典」などあり得ない。5月5日に札幌で行なわれたマラソンの五輪テスト大会では、沿道に「五輪ムリ 現実見よ」とプラカードを掲げる市民が見られ、「オリンピック反対!」と叫ぶ声が中継にも流れた。日本政府、組織委員会、そしてIOC(国際オリンピック委員会)も強行開催に突っ走っているが、いよいよ病床確保が怪しくなってきた東京都の小池百合子知事は、1300万都民の命とオリンピックの板挟みに苦悩している。都庁幹部の1人は、「小池知事は四面楚歌の状態」と指摘する。「都民の命を預かる小池さんは五輪開催と感染拡大の危険との板挟みになっている。IOCも政府も組織委員会も五輪強行すれば都民にどれだけの犠牲を強いることになるかを考慮せずに開催に走っており、都民の安全は小池知事の判断にかかっているが、IOC側からは“もし、ここまで来て東京が中止を言い出すなら、全損害を負担できるのか”という強いプレッシャーを感じる」。五輪が1年延期されて以来、「簡素な大会」への見直しを掲げた小池氏はカネの問題でIOCの意向に振り回されてきた。その1つが世界で高い視聴率が期待される開会式の見直しだ。各国の選手団1万人以上が入場行進することから数時間の待ち時間に「3密」が発生し、感染リスクが懸念されている。東京都や組織委員会は規模や時間短縮を検討してきたが、IOCから“待った”がかかったのだという。組織委の森喜朗・前会長が交渉の舞台裏をこう明かしている。「(開会式は)個人的には半分の2時間で良いと思っている。しかしIOCが反対。テレビ局が枠を買っている。時間を短縮すると契約違反で違約金が発生する。それを日本が払ってくれとなる恐れがある。それ以上の議論をすると深みにはまるから、私はそこは引っ込めて、他の案を考えようと言った」(日刊スポーツ1月1日付インタビュー)。五輪の放映権は米国3大ネットワークのNBCが取得しており、五十音順の選手団入場の順番も、先頭に近いアメリカを米国内での視聴率を考慮するIOCの意向で最後尾近くに登場する順番にしたと報じられている。IOCは放映権の収入を守るためにそこまで口を出している。五輪中止となれば、IOCは放映権料だけで約1300億円の損失が出る。さらに組織委員会が集めた公式スポンサー料が約3700億円にのぼる。合わせて5000億円だ。そんな巨額の賠償金を「東京が払え」と言われれば、小池氏もよほどの覚悟がなければ中止を言い出しにくい。 *18-3:https://news.yahoo.co.jp/articles/d6c0c7628dbfbd0c3f9ddb24b1f72dc56e892426 (Yahoo 2021/5/18) 「運動会はやらないのに、なんで五輪はやるの?」 小3の息子が泣きながら口にした一言 新型コロナウイルスの感染拡大が収束しない中、感染のリスクを抑えるため、全国各地の小・中学校が運動会の中止、延期を決めている。「息子は運動会を楽しみにしていました。徒競走で『1等賞を取る』と張り切っていたけど中止が決まり、家で泣いていました」――。こう複雑な胸中を口にしたのは、北海道在住で小3の男児を持つ父親だ。 ■「子供でも不思議に思うことなのに」 政府は東京、大阪、兵庫、京都の4都府県に発令している緊急事態宣言の期限を2021年5月31日まで延長。愛知、福岡を新たに対象地域に加えた。「まん延防止等重点措置」の対象地域だった北海道、岐阜県、三重県も感染拡大の勢いが止まらないため、政府は方針変更して14日に3道県に緊急事態宣言を出した。宣言地域を中心に、運動会を断念する小・中学校は少なくない。先述した北海道在住の父親は、運動会中止に泣いた息子の話について、こう続ける。「東京五輪は開催すると政府が発言しているニュースを見て、息子に『運動会はやらないのに、なんで五輪はやるの?』と聞かれて...。答えに窮しましたがその通りですよね。海外の何十カ国から選手たちが日本に集まる五輪の方が運動会よりもコロナの感染リスクがはるかに高い。子供でも不思議に思うことなのに、政府は矛盾を感じないのでしょうか」 ●萩生田文科相も「運動会問題」にコメント 海外のトップアスリートが東京五輪の出場辞退を発表する中、男子テニスの日本のエース・錦織圭も5月10日に開催されたイタリア国際1回戦の試合後の会見で、「死人が出てまでも行われることではないと思うので。究極的には1人もコロナの患者が出ない時にやるべきかなとは思います」と五輪の開催を疑問視。この発言は海外メディアでも大きく取り上げられた。「コロナ禍で国民が様々な我慢を強いられる中、東京五輪だけが開催されることに違和感を持つ人たちは多い。アスリートも今は五輪での目標を言えない状況になっている。気になるのは政府の対応です。菅首相は『安全、安心の大会実現は可能』と発言していますが、その根拠を何も示していない。これでは国民が不信感を抱くのは当然です」(一般紙の政治部記者)。運動会が中止になり、東京五輪は開催される。この現実に違和感を抱くのは決して不思議ではないだろう。なお、萩生田光一文部科学相は5月18日の閣議後会見で、緊急事態宣言下における小中学校などの運動会について、中止するのではなく、感染対策などを工夫して実施する可能性を探ってほしい、と話している。 *18-4:https://news.yahoo.co.jp/articles/1f32624898ede99e09fbe5697c20d91622b7e85c (Yahoo 2021/5/29) 選手村での飲酒はOK 国民の不満爆発「アスリートだけ特別扱い」 東京五輪の開幕まで残り2か月を切ったが、国民の怒りが噴火間近となっている。米国などでは新型コロナウイルスのワクチン接種が進み、一部地域では規制が緩和がされつつある。一方で、日本では9都道府県に発令中の緊急事態宣言が6月20日まで延長。東京都の小池百合子知事(68)は、酒類を提供する飲食店、カラオケを使用する飲食店、遊興施設に引き続き休業を要請しており「居酒屋に行きたい」との声が多方面から聞かれる。そんな中、関係者によると、東京五輪に出場する選手らが宿泊する「選手村」に、アルコール類の持ち込みが許可される見込みだという。この判断にネット上では「国は五輪のことしか考えてない」「居酒屋でも節度をもって飲酒すればOKですよね!」「アスリートだけ特別扱いはおかしいな?」などのコメントがあふれている。東京五輪の開催を巡ってさまざまな声が上がっているが、国際オリンピック委員会(IOC)のジョン・コーツ副会長(71)による「緊急事態宣言下での開催? 答えはイエスだ」との爆弾発言や、今回の選手村でのアルコール解禁などで、国民の不満は日に日に上昇。ある組織委関係者は「街の飲食店がこんなに苦しんでいるからね…」と頭を抱えた。先の見えないコロナ禍の現状。国民の行き場のないモヤモヤはたまる一方だ。 *18-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210607&ng=DGKKZO72641020X00C21A6MM8000 (日経新聞 2021.6.7) 「ワクチン証明」今夏に 渡航者用、経済正常化後押し EUは来月から 新型コロナウイルスワクチンの接種証明書を発行・活用する動きが世界で広がってきた。感染のリスクを抑えながら経済活動を正常化する狙いがあり、企業からも期待の声が上がっている。日本はまず海外渡航者用に今夏にも発行し、ビジネス往来などを後押しする。欧州連合(EU)は域内の移動解禁に向けて7月から運用を始める。既に一部の政府高官らは非公式の証明書を作成し、海外に持参している。欧米などで接種履歴を聞かれるケースが増えているためだという。一般のビジネス利用も想定した公的な制度は、加藤勝信官房長官をトップとする省庁横断のチームで検討を急いでいる。まずは紙の公式証明書を今夏に利用できるようにする想定だ。年内にはスマートフォンのアプリなどでデジタル化する段取りを描く。国内でもファイザー製やモデルナ製の調達・供給量が増えていることが背景にある。21日には企業の職場での接種も始まる。接種を証明することで渡航者と受け入れ国側の双方のリスクが低減すれば、海外での商談などのハードルが下がる。証明書は住民情報を持ち、接種の実務を担う自治体が出す。氏名やワクチンメーカー、打った時期などを記載する。接種履歴を一元的に管理する国の「ワクチン接種記録システム(VRS)」と連動させ、内容を国が保証する仕組みとする方針だ。飛行機への搭乗時や海外での入国審査時などに提示する。ビジネスや留学で渡航する日本人、日本に滞在中で母国に戻る外国人らの利用を見込む。日本貿易会の小林健会長(三菱商事会長)は「経済人の立場からいえばワクチンパスポート(証明書)で自由に行き来できるようになるのが理想だ」と話す。エイチ・アイ・エス(HIS)は「帰国後の14日間の隔離期間が海外旅行の最大のハードル。ワクチンパスポート制度により措置が緩和されると風向きは変わる」と期待を寄せる。政府がモデルとするのはEUが7月から運用する「デジタルCOVID証明書」だ。接種経験者やコロナからの回復者が対象で、自主隔離や検査を免除する。ドイツなど7カ国は6月から先行運用している。レインデルス欧州委員(司法担当)は「自由で安全な移動を取り戻す」と力説する。欧州委員会は5月31日、証明書の活用を念頭に、加盟国に移動制限を緩和するよう提言した。米国や日本など域外からも、EUが認めるワクチンを打った人は入域できるようにする方向だ。接種は任意なのに、証明書の導入で未接種者への差別を招くとの懸念もある。米国は州によって対応が割れる。東部ニューヨーク州は3月、接種歴を示すスマホアプリ「エクセルシオール・パス」を導入した。発行数は既に100万を超える。一方、南部ジョージア州は公的機関による証明書要求を禁止している。「接種は個人的な決定」(ケンプ知事)との考えからだ。州が保有する接種データは民間企業などに提供しない。住民への接種は引き続き奨励する。米メディアによると、少なくとも10州が禁止・制限している。日本も国内向けの導入は慎重に検討している。経済再開を急ぐ自治体や企業の独自ルールが乱立する恐れもあるため、政府が統一指針をつくることも視野に入れる。ワクチン証明書は国際協調も必要になる。主要7カ国(G7)は3~4日、英南部オックスフォードで開いた保健相会合で連携の必要性を確認した。世界保健機関(WHO)を中心に相互承認の仕組みづくりを進める。 <ワクチン接種で、五輪の観客も数や行動の制限が不要になる> PS(2021年6月8、9、10日追加):*19-1のように、米ファイザー製の新型コロナウイルスワクチンの対象年齢は12~15歳に広げることができ、日本政府が無料で打つ対象に追加したそうだ。しかし、京都府伊根町が12~15歳に新型コロナワクチンの接種を始めたところ、*19-2のように、「①人殺しに加担している」「②殺すぞ」「③子どもへの接種はリスクがある」「④若い女性が接種すると不妊につながる」などという町職員を問い詰める電話が相次いだそうである。が、③④は科学的根拠がなく(科学的根拠があると主張する人はそれを明示すべき)、①②は脅迫であるため、相手を特定して警察に届けるべきである。 なお、日本政府は、*19-3のように、新型コロナワクチン接種済を証明する「ワクチンパスポート」を今夏にも発行するそうだが、各国の水際対策に対応するだけでなく、国内での感染対策にも使うべきである。具体的には、「⑤新型コロナワクチン接種済証を持つ外国人は通常の検疫のみで入国させる」「⑥オリンピックはじめ多くの観客が集うイベントの入場にあたっては、ワクチン接種済証を提示させる」などだ。 こうすると、*19-4のように、東京五輪の観客もワクチン接種済証があれば陰性証明を求める必要はなく、会場や入り口での健康チェック・マスクの常時着用・応援禁止・分散退場なども不要になる。また、ワクチン接種が間に合わなかったがチケットを持っている人は、「⑦観戦日の前1週間以内の陰性証明書を提示する」という緩い規制では感染が広がるため、会場の入り口で10分で結果が出る抗原検査・抗体検査をして陰性を証明するか、ワクチン接種済証を提示できる人に譲るかの2者択一にすべきだ。それによって空席になる観客席があるようなら、スポンサー企業の社員や学校でその競技を練習している生徒のうちワクチン接種済の人に譲れば、観客席が寂しくないだけでなく、プラスの効果も出るだろう。 新型コロナ感染症対策分科会の尾身会長が、*20-1のように、「⑧観戦に行かず感染対策を求められる人に不公平感や不満が生じない対応が必要」「⑨(そのためには)スタジアムの中の景色が大事」「⑩やるのであればかなり注意してやる必要がある」と言われたそうだが、⑧⑨は、「幸福な人がいると(それを見て)不幸を感じる人が多いため、国民全員を不幸にすれば文句が出ない」という中央省庁がよくやる狭くて国民を馬鹿にした発想である。現在は、国内外の情報が自由に手に入るため、国民全員を不幸にすれば外国政府と比較して日本政府の能力不足を見定める。また、⑩については、何をすれば注意したことになるのか列挙されればよいが、医療・介護の不備、治療の遅れ、ザルの検疫、積極的疫学調査と称する疫学の名に値しない消極的検査と陽性者に対する不当な差別、ワクチン・治療薬の開発・承認の消極性など厚労省の失敗ばかりが多く、それによって無駄遣いした血税が数十兆円にも昇るのである。その上、無観客のオリンピックで大きな損失を出して血税を投入しようというのか。国民はそれらに不満を持っているのであって、観戦に行く人がいるのに自分が行かないから不満を持っているのではない。つまり、考えることの視野が狭くて次元が低いのである。 私は、党首討論を全て見たが、*20-2のうち、「⑪感染ルートの徹底的遮断」「⑫ワクチンが切り札」というのは正しいと思う。また、1964年の東京五輪の時、私は小学5年生でオリンピックのために両親が買ったカラーテレビで、開会式から閉会式まで殆どを見て感動したため、菅首相が語られたことは重要だと思う。“東洋の魔女”と呼ばれた日本女子バレーは日本女性の頑張りを見せ、マラソンのアベベ選手は裸足で走ってマラソンが終わってから体操をするゆとりがあり、体操のチャスラフスカは優美でキレがあり、世界は広いことを実感させた。また、オランダのへーシング選手が柔道で日本選手を破って金メダルをとった時は心から拍手を送った。そのため、菅首相が東京五輪を「⑬子どもたちに見てほしい」と言われたのはよくわかるのだが、立憲民主党の枝野代表はじめ現役のメディア記者など1964年の東京オリンピックを見ていない世代には無駄話に聞こえたようで、これだから若い人だけで意思決定をすると偏るのである。なお、新型コロナについては、緊急事態宣言等で人流を止めて一時的に下火になったとしても、集団免疫ができていなければ人が動き始めれば何度でもリバウンドする。それだからこそ、ワクチンと治療薬が重要なのであり、厚労省のやり方は100年前のスペイン風邪の時代から進歩していないばかりか、ワクチンを軽視している点で私が子どもの頃より遅れているのだ。 2021.5.1日経新聞 2021.6.1琉球新報 2021.5.13日経新聞 (図の説明:左図がメッセンジャーRNAを使ったワクチンの仕組みだ。中央の図は、職場接種の方針を示している企業で、これが増えるとワクチンの接種が飛躍的に進む。右図が日本の水際対策だが、ワクチン接種済証を持つ人は通常の検疫だけで通してよいと思う) *19-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/107205 (東京新聞 2021年5月28日) 12~15歳にも接種拡大 ファイザー製ワクチン 厚労省部会が了承 厚生労働省の専門部会は28日、現在16歳以上となっている米ファイザー製の新型コロナウイルスワクチンの対象年齢について、12~15歳にも広げることを了承した。31日に別の専門分科会で12~15歳を予防接種法に基づき無料で打てる対象に追加することを決める。2~8度の冷蔵庫での保存期間を5日間から最長1カ月間とすることも認めた。管理がさらに容易になると期待される。ファイザーは、対象年齢の拡大や保存期間の延長に向けて、国の審査機関「医薬品医療機器総合機構(PMDA)」に添付文書の改訂を相談していた。米国では既に認められている。同社が12~15歳の2260人を対象に実施した臨床研究(治験)の結果によると、ワクチンを投与したグループでは100%の発症予防効果が確認された。政府はファイザー社との間で、9700万人分の供給を受ける契約を交わしている。米モデルナも、18歳以上が対象となっている同社製ワクチンについて、12~17歳も有効とする臨床研究結果を発表しており、各国で接種年齢拡大に向けて準備を進めている。 *19-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/109215 (東京新聞 2021年6月7日) 子どもへのワクチン接種やめろ 抗議の電話殺到 「殺すぞ」と脅迫も 京都府伊根町が6日から始めた12~15歳への新型コロナウイルスワクチン接種を巡り、町へ抗議の電話が殺到していたことが7日、分かった。「人殺しに加担している」「殺すぞ」と脅迫するような内容もあり、町は問い合わせ窓口のコールセンターを停止。京都府警に相談した。町によると、7日朝から「子どもへの接種はリスクがある」「若い女性が接種すると不妊につながる」などと職員を問い詰める電話が相次いだ。センターは回線がパンクし、午前9時の開始から約30分で停止した。その後は代表番号にかかってくるようになり、午後5時までに計約100件に及んだ。全て町外で、異なる番号が多かったという。抗議文はメールで20件以上、ファクスでも8件あった。 *19-3:https://news.yahoo.co.jp/articles/b06fa652a4d0a40a0f8cb4eb228a3b2304006566 (Yahoo 2021/6/7) ワクチン接種証明、今夏にも発行 渡航者向け、往来円滑化図る 政府 政府は、新型コロナウイルスワクチンの接種歴を証明する「ワクチンパスポート」を今夏にも発行する方向で調整に入った。複数の政府関係者が7日、明らかにした。各国の水際対策で接種履歴の確認を行う動きが広がっていることを受けた対応。海外渡航者向けに発行し、主にビジネス往来の円滑化を図る。ワクチンパスポートに関しては、加藤勝信官房長官をトップに、外務省や厚生労働省でつくるチームで検討を進めている。接種時期やワクチンのメーカーを明記する方向で、まずは紙の証明書を発行。将来的にスマートフォンのアプリで管理することを視野に入れる。日本がワクチンパスポートを交付した場合、入国後の待機免除などの措置を相手国で受けられるかや、相手国のワクチンパスポート保持者をどのような条件で受け入れるかについて、今後、各国と交渉を行う。ただ、一部の国では「未接種者への差別につながる」との懸念も出ている。加藤氏は7日の記者会見で「海外の動きにしっかりと対応できるように検討を進めていきたい」と語った。 *19-4:https://www.yomiuri.co.jp/olympic/2020/20210530-OYT1T50102/ (読売新聞 2021/5/31) 【独自】東京五輪観客に「陰性証明」求める、1週間以内の取得条件…政府原案 夏の東京五輪・パラリンピックの観客の新型コロナウイルス対策について、政府が検討している原案が判明した。入場時にPCR検査などの陰性証明書提示を求めることや、会場内での食事や飲酒の禁止などが柱となっている。厳しい対策により、大会期間中の感染拡大防止を図る。複数の政府関係者が明らかにした。政府と東京都、大会組織委員会は会場の観客数上限を6月中に判断する方針だ。一定の観客を入れる場合を想定し、原案を基に3者で感染対策の具体化を急ぐ。原案によると、観客全員に事前にPCR検査などを求め、入り口で観戦日の前1週間以内の陰性証明書を提示することを条件に入場を認める。ワクチンを接種した人は接種証明書があれば陰性証明書は求めない。検査費は自己負担で、政府は検査数は1日最大約40万件と試算しており、今後、検査態勢の拡充も図る。会場では、入り口での健康チェックやマスクの常時着用、分散退場などを徹底する。観戦中の食事や飲酒、大声での応援、ハイタッチは禁止の方向だ。警備員を配置し、違反に対しては入場拒否や退場などの措置も想定している。 *20-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/109698 (東京新聞 2021年6月9日) 尾身会長、五輪開催の場合は「観客以外の納得感が大事」 政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は9日、衆院厚生労働委員会で、東京五輪・パラリンピック期間中の感染対策に関し「大事なのは人々の納得感だ」と指摘し、開催する場合も、観戦に行かずに感染対策を求められる人たちに不公平感や不満が生じないような対応を求めた。尾身氏は「ほとんどの人は観戦に行かない。そういう人たちに一定の感染対策をお願いすると思うので、そういう人たちに納得してもらえるようなスタジアムの中の景色が大事だ」と語った。競技場内の観客と、観戦に行かない住民の双方への感染対策が「矛盾しない形での五輪の在り方が求められる」とも話した。五輪開催による感染拡大への影響については「さらに感染の機会が増加するということなので、本当にやるのであればかなり注意をしてやる必要がある」と重ねて慎重な検討を求めた。尾身氏ら専門家は近く、五輪開催に伴う感染拡大リスクの評価をまとめ、独自に提言する方針。 *20-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/109592 (東京新聞 2021年6月9日) 初の党首討論 菅首相、東京五輪「子どもたちに見てほしい」6分45秒とうとうと… 菅義偉首相と立憲民主など野党4党の代表が1対1で論戦を交わす党首討論が9日午後4時から開かれた。菅政権発足後初めて。持ち時間は立民の枝野幸男代表が30分、日本維新の会の片山虎之助共同代表と国民民主党の玉木雄一郎代表、共産党の志位和夫委員長が各5分で東京五輪・パラリンピック開催の是非や新型コロナウイルス対策などをテーマに論戦を繰り広げた。 ◆討論開始「ワクチンは切り札」 菅義偉首相と枝野幸男代表の党首討論が始まった。枝野氏は、政府のコロナ対策から口火を切った。今年1月から2度の緊急事態宣言の発令があり、法令に基づく自粛などがなかったのは3週間だと指摘。「リバウンドを防ぐためには十分な補償がセットでないといけない。第5波を防ぐためにも、3月の解除が早すぎたという反省を明確にした上で、私たちのような厳しい基準を明確にすべきだ」と問いただした。菅首相は「緊急事態宣言やまん延防止等重点措置は専門家の委員にかけて決定している。世界どこでもロックダウンをした国でも簡単におさまっていない」と答えた。ワクチン接種が始まり1日100万回に達成していることを挙げ、「国民のみなさんの接種に必要なワクチンは既に確保している。ワクチン接種こそが切り札だと思っている」と成果を強調した。さらに枝野氏は、ニュージーランドやオーストラリア、台湾が感染防止に成功したことを例に挙げ「感染者を1日50人に抑えるために感染ルートを徹底的に遮断することが必要だ」と強調。また、首相が東京五輪開催をめぐって「国民の命と健康を守る」と発言していることについて、「開催を契機に国内で感染が広がるといった、国民の命と健康を脅かす事態を招かないことも意味するのか」と迫った。首相は「私権制限の強い国などと比較するのはいかがなものか」と反論。大会関係者の訪日数を半分以下に抑え、参加選手の8割以上にワクチン接種を行う方針をアピールした。 ◆菅氏独演「子どもに見てほしい」 続けて、菅首相は「57年前の東京五輪の時、私は高校生だったが、『東洋の魔女』の回転レシーブ、マラソンのアベベ選手、敗者に敬意を払ったオランダ柔道のへーシング選手など今も鮮明に覚えている。こうしたことを子どもたちにも見てほしい」と力説。さらに、前回の東京大会で初めてパラリンピックと名付けられたことを挙げ、「パラリンピックの開催が共生社会の1つの契機になった。素晴らしい大会をぜひ、今の子どもや若者に希望や勇気を伝えたい。さらに心のバリアフリーこうしたものもしっかり、大きな学習にもなるのではないか。世界の人たちに東日本大震災からの復興もみてもらいたい」と訴えた。菅首相は五輪の質問に対して、約6分45秒にわたって、とうとうと述べ続けた。枝野氏は「2年ぶりの党首討論。後半はここにはふさわしくない話だった」と話した。 <新型コロナワクチンに関する優先順位の不合理と接種予約のやりにくさ> PS(2021年6月11日追加):*21-1のように、新型コロナワクチンの接種加速のために国・地方自治体が大規模会場の利用促進を急いでおり、自衛隊の大規模会場は予約を受け付ける高齢者の居住地を全国に拡大するそうだが、ワクチンを接種するためにリスクの高い高齢者がわざわざ感染多発地帯に公共交通機関を使って出ていくのは不合理だ。そのため、年齢制限を廃してオリンピック関係者や東京・大阪・周辺地域の人に接種した方が効果的に集団免疫を獲得できる。また、対象者の設定が悪く、高齢者施設のスタッフで未だにワクチン接種していない人がいるというのには呆れるが、厚労省の専門家会議はどういう目的で何をアドバイスしたのか? なお、*21-2のように、「①ワクチンの職場接種を着実に進めたい」としながらも、「②冷凍庫の関係で1000人以上に実施する場合に限る」「③1000人規模の接種を進めるだけの医療従事者を抱える企業は少ない」などと言い、「④職域接種では65歳未満で市区町村から接種券が届いていない人も対象になるため、後日届いた接種券を国の記録システムに登録する必要がある」「⑤政府は職域接種の対象を取引先企業の社員や地域住民にも広げるよう企業に呼びかけているが、対象を広げると事務は複雑になる」「⑥ワクチンを接種するかどうかは本人の意思に委ねなければならず、接種を強制したり、働き手に強制と受け止められたりすることはあってはならない」と記載している。 しかし、②③は、冷凍庫を有料のレンタルにすれば国の無料配給を待つ必要はなく、ネックの出ない規模で接種を行うことができる。また、④⑤は、年齢制限を廃して市区町村の接種券を速やかに送付すれば解決する。さらに、⑥は、若い人でも免疫をつけて他人に感染させない必要があるため、多くの集客をする場所の入り口で、また人と接する職業の人には、免疫パスポートか頻繁な陰性証明書の提示を求めればよいのだ。 このような中、*21-3のように、加藤官房長官が新型コロナ感染拡大を踏まえ、「⑦未曽有の事態を全国民が経験して緊急事態の備えに関心が高まっているので、今が緊急事態条項の創設を進める絶好の契機だ」と言われたそうだが、まさに⑦が、厚労省が新型コロナ感染拡大にあたっていい加減な対策を繰り返して全力を尽くさなかった理由だろう。しかし、自民党内の少なからぬ人が緊急事態条項創設の必要性を主張しているため、野党のように、その時点の首相を貶めて責任追及ばかりしても何も変わらない。そのため、国民は国政選挙の時には、「誰が緊急事態条項の創設に賛成しているか」を確認した上で、政党にかかわらず投票するのがよい。 *21-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210611&ng=DGKKZO72793360R10C21A6EA2000 (日経新聞 2021.6.11) 接種加速へ対象拡大 国・自治体の大規模接種、予約の空き活用 国は10日から全国予約 新型コロナウイルスワクチンの接種加速を目指し、国や自治体は大規模会場の利用促進を急ぐ。自衛隊の大規模会場は予約を受け付ける高齢者の居住地を10日から全国に拡大。自治体の会場も対象年齢・地域を広げる。空きの目立つ予約枠を埋め、大規模会場の接種能力を最大限生かす。防衛省は10日、自衛隊が東京と大阪で運営する大規模接種センターについて、同日以降は全国の高齢者から予約を受け付けると発表した。従来は首都圏と関西の7都府県としてきた居住地の制限をなくした。防衛省によると、14~27日の枠は東阪合計で10日午後5時時点で76%が埋まっていない。東京会場は14万人の枠のうち11万2000人、大阪会場も7万人のうち4万7000人の空きがある。インターネットに加え、12日午前7時から電話での予約受け付けを新たに始める。ネットに不慣れな高齢者の利用を促す。対象地域拡大と合わせて予約率アップにつなげ、接種を加速する。当面は65歳以上の高齢者が対象だが、64歳以下で基礎疾患を持つ人や高齢者施設のスタッフへの拡大も検討する。各自治体による接種券の発行状況をみて、拡大時期を判断する。28日以降は1回目を終えた人の2回目接種が始まり、予約枠の空きは少なくなる見通しだ。中山泰秀防衛副大臣は10日の記者会見で「1回目の接種を希望する人は27日までの枠を確保するよう、早めの予約をお願いする」と呼びかけた。地方でも予約が伸び悩むケースが出ている。広島県は福山市内の会場で7日に接種を始めたが、17日までの枠は9日午前の時点で3%しか埋まらなかった。アクセスの不便さや周知不足に加え、対象年齢の設定が影響したもようだ。福山市内の高齢者について80歳以上を受け付け対象としたところ、遠方の会場を敬遠し、近くのかかりつけ医での個別接種を選ぶ人が多かったという。県は10日から対象を65歳以上に拡大し、予約率は同日午後3時時点で32%に上がった。徳島県は徳島市内の大規模会場で予約率が5割程度にとどまっているのを受け、同市以外からの予約を受け付ける。1回目の接種期間である5~24日のうち、22.23日に阿南市、24日は小松島市の高齢者にも開放する。大規模会場の空いた予約枠を活用し、64歳以下への接種を検討しているのが大阪市だ。14日以降の枠に空きがあった場合は市立学校の教職員や消防局職員らに接種するほか、接種券が届いた市民の予約も受ける。市の大規模会場は14~20日の予約枠の7割が空いている。64歳以下にも16日から接種券を順次発送し、早い人は18日にも届く見通し。その時点で空きがあれば、64歳以下の予約を認める考えだ。松井一郎市長は「例えば月~木曜は高齢者だけ、金土日は64歳以下も予約できるような方式を考えている」と話す。高齢者の予約伸び悩みは個別接種が進んだ裏返しとの見方もある。札幌市は個別接種が集団接種の2~3倍の規模で進んでいるという。集団接種の予約枠は3割近く残っているが「個別接種を補完する位置づけであり、あるべき姿に落ち着いてきた」(ワクチン接種担当部)とみる。 *21-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210611&ng=DGKKZO72792160Q1A610C2EA1000 (日経新聞社説 2021.6.11)ワクチンの職場接種を着実に進めたい 新型コロナウイルスのワクチン接種が、職場や大学で21日から始まる。すでに多くの企業が申請しており、接種のスピードアップが期待できる。こうした職域接種は65歳未満の人も対象となり、1000人以上に実施する場合に認められる。大企業による単独実施だけでなく、商工会議所などを通じた中小企業の共同実施も可能だ。労働安全衛生法は企業に産業医の選任を求めている。1000人以上が働く事業所で1人、3000人超なら2人以上の専属医を置く必要があり、オフィスや工場に診療所を持つ企業も多い。日ごろから健康を管理している企業内診療所でワクチンを打てるのなら、労働者は安心だ。業務の性質上、在宅では仕事ができない人たちが早く接種できれば、感染防止と企業活動の安定の両面で大きなメリットがある。ただ1000人規模の接種を速やかに進めるだけの医療従事者を抱える企業は少なく、外部の医療機関の助けが必要だ。政府は企業や大学に自力で医療従事者を確保することを求めている。医療機関はぜひ協力してほしい。事務負担も気がかりだ。職域接種では65歳未満で市区町村から接種券が届いていない人なども対象になる。企業や医療機関は接種記録を管理しつつ、後日届いた接種券を本人から回収し、国の記録システムに登録する必要がある。さらに予診票や接種券の写しを5年間保管しなければならない。政府は職域接種の対象を取引先企業の社員や地域住民などにも広げるよう企業に呼びかけている。しかし、対象を広げると事務は一段と複雑になる。対象者の範囲は企業の判断に任せるべきだ。ワクチンを接種するかどうかは本人の意思に委ねなければならない。職域接種ではこの点を特に注意すべきだ。接種を強制したり、働き手に強制と受け止められたりすることはあってはならない。会社員は職場、学生は大学など生活スタイルに合った接種拠点はワクチンの浸透に有効だろう。一方、自衛隊が東京と大阪で運営する大規模接種会場で予約が埋まらなくなったのは、都心オフィス街という立地が高齢者の日常生活から遠いのが一因だ。高齢者に身近な診療所での接種を強化し、大規模会場は勤め人を主な対象にするなど、立地の特性にあった運用を考えたい。 *21-3:https://www.jiji.com/jc/article?k=2021061101031&g=pol (時事 2021年6月11日) コロナ禍は改憲の好機 加藤官房長官 加藤勝信官房長官は11日の記者会見で、自民党が憲法改正案に盛り込んだ緊急事態条項の創設について、新型コロナウイルス感染拡大を踏まえ「未曽有の事態を全国民が経験し、緊急事態の備えに関心が高まっている。議論を提起し、進めるには絶好の契機だ」と発言した。国難と言える状況を「絶好」と形容した真意を問われると、加藤氏は「この状況が良い状況だとは全く思っていない。申し上げたいのは、緊急事態というものに大変高い関心を持っているということだ」と釈明した。
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2020,03,28, Saturday
2020.3.27 2020.3.16 2020.3.12 2020.3.21 東京新聞 毎日新聞 中日新聞 毎日新聞 (図の説明:1番左の図は、2020年3月の世界における新型コロナウイルス感染者数推移で、左から2番目の図のように、中国では感染者数が頭打ちになったのに対し、中国以外では感染者数が等比級数的に増えている段階だ。右から2番目の図は、3月11日の世界の感染者が多い10ヶ国だが、検査数も影響しているようだ。1番右の図は、3月21日時点の日本国内の県別感染者数で、人口密集地帯に多いことがわかる) 2020.2.28 2020.3.23 2020.3.25 2020.3.8西日本新聞 東京新聞 朝日新聞 四国新聞 *1-2-5より (図の説明:1番左の図は、2020年3月27日時点の新型コロナウイルス感染者が多い国・地域の感染者数と死者数だ。日本では、左から2番目の基準で学校を再開するが、右から2番目のチェックリストに従ってチェックすることになった。このように、連日、新型コロナウイルスの予防策が報道され浸透した結果、1番右の図のように、インフルエンザ患者数も前年より6割減少するという効果があったそうだ) (1)新型コロナの感染・予防・治療について 1)欧米の感染者とその対応 新型コロナは、*1-1-4のように、中国で始まって多数の死者を出したため、世界でアジア人やマスク姿の人が差別されていたが、現在は、*1-1-1・*1-1-2のように、欧米で蔓延している。日本でも、武漢ウイルスと呼んで中国人を差別する論調が多かったが、人種差別だけでなく病気にかかった人(感染源という加害者である以前に感染させられた被害者)を差別するのも、知識と教養の欠如による人権侵害だ。 世界では、*1-1-1のように、3月26日20時現在、感染者47万人超、死者2万人超(イタリア7,500人超、スペイン3,600人超、米国1,000人超、フランス1300人超、英国460人超、オランダ350人超)であり、さらに、米国は、*1-1-2のように、3月下旬から感染者が急増して3月27日までに感染者が85,000人超となり、*1-1-3のように、全米の感染者数の3割がニューヨーク市に集中して病床や人工呼吸器が不足し、医療崩壊が懸念されているそうだ。 米国でマスクが普及しなかったのはドレスコードになかったからだそうだが、欧米は難民や外国人労働者の流入も多く、貧しくて栄養が十分でなかったり、予防の知識・意識・ツールが乏しかったり、医療へのアクセスが悪かったりする人も多いと思われる。そのため、今後は、年齢や持病の有無だけでなく、感染して亡くなった方の背景も調査した方が良いだろう。 このような中、日本では、花粉症を起こす杉花粉やフクイチ由来の放射性物質から防護する目的でマスクを常用している人が多く、栄養状態も全体としては悪くなく、予防の知識やツールもあるため、新型コロナやインフルエンザが流行しても、よほど意識の低い人でなければ一定の抵抗力はあると考える。 2)新興国(開発途上国)での感染と強制的対応 インドネシアのジャカルタでは、*1-1-5のように、3月20日までに369人が感染して32人が死亡し、感染者の6割が首都ジャカルタに集中しているため、州知事が3月20日に非常事態宣言を出して州内の全企業にオフィス利用の停止を強く求めたほか、娯楽施設の営業を禁止し、非常事態宣言中は州内に軍や警察が展開して住民の外出を事実上制限するそうだ。 また、インドでも、*1-1-6のように、3月24日、首相が国民向けにテレビ演説して、新型コロナの感染防止策として、3月25日から21日間、全土を封鎖すると表明している。インドやインドネシア等の新興国は、人口当たりの医師数や医療資源が乏しく、一般の衛生環境や教育・意識にもバラツキが大きいため、家にいる以外に予防手段がないというのは本当だろう。 3)日本での感染と対応 日本の感染症のわかりやすい歴史は、1822年に世界的大流行が九州(長崎?)から日本に及んで初めてコレラが日本で発生し、1858年や1862年にも大流行が発生し、1879年と1886年に死者が10万人の大台を超えたものだ。コレラの予防には、衛生の改善と清潔な水へのアクセスが必要なのだが、江戸(東京)や大阪に人口が集中し、上下水道等の衛生関係インフラが整っていなかった時代に、免疫のないところに外国からコレラ菌が入ってきて大流行になったのである。 現在の日本は、上下水道・衛生意識・医療などのインフラが整ってきている上、東大医科研のチームがコメに遺伝子組換技術を用いてコレラ毒素B鎖を発現させたコレラワクチン米を開発して常温保存可能な経口ワクチンを作っており、まだ臨床に応用されていないのが残念ではあるものの、よい技術を見つけているので、他の感染症にも応用が利きそうである。 つまり、人口が密集して衛生環境の良くない大都市で、開国やグローバル化により一般人が免疫を持っていない菌が入った場合に感染症が大流行しているのであり、新型コロナも似ているため、開発途上国や先進国大都市の衛生弱者にリスクが高いと思われる。 従って、外国で非常事態宣言を出したり、都市封鎖をしたりしたから、日本でも同様にしなければならないというわけではなく、*1-2-3のように、日本国内の感染者が3月25日午後10時までに1,269人に上り、東京都の感染者数が210人になって都道府県で初めて200人を超えたと書かれているものの、東京都の人口が13,935,645人(2019年9月1日現在)であることを考えると、感染者割合は(あまり検査していないせいかもしれないが)0%に近いのである。 また、*1-2-4のように、「新型コロナの感染拡大が、重大局面を迎えつつある」「爆発的な急増を防ぐ措置として、東京都と関東近県が週末の往来を自粛するよう住民に求めたのはやむを得ない」「緊急事態宣言を出す」「首都封鎖」などと言うのは、騒ぎ過ぎだろう。ただし、東京都は下水道が古くて容量が足りず、上水道も節水しすぎて不潔なくらいであり、通勤・通学で近県から満員電車という密閉空間で1日300万人近くが往来するため、日本国内では感染リスクが高い方にあたる。 そのため、東京や大阪などの大都市で新型コロナが蔓延しているからといって、全国一斉に休校や自粛をする必要はないと思う。 その新型コロナの感染が広がる一方で、*1-2-5のように、インフルエンザの患者数は前年と比較して6割減少しているそうだ。これは、新型コロナの感染予防で、手洗い・マスク着用・せきエチケットなどの取り組みが全国に浸透していったことが奏功しているそうで、これは、新型コロナの感染拡大防止にも繋がるものである。 なお、東京慈恵会医科大学の浦島教授が、*1-2-6のように、日本で新型コロナが感染爆発しない理由を挙げておられる。私は、これに加えて、ウイルスの弱毒化への変異があると思うが、その理由は、宿主を殺してしまえばウイルスは増殖できず、宿主を殺さない方向に変異したウイルスだけが次に感染する機会を得て増殖するからである。つまり、油断や楽観視は禁物だが、人権侵害になるほど騒ぎ過ぎる必要はないと思われるウイルスだ。 4)感染源特定と病人差別 *1-2-1のように、医師の新型コロナ感染が判明した和歌山県有田病院の病棟内をドローンで撮影しようとしたり、ふるさと納税に対する有田町の返礼品を拒んで“地元いじめ”をしたり、感染者が悪いことをした犯人であるかのように追跡したり、感染者を見下すような報道をしたり、患者の住所を教えてほしいという要求をしたりして、新型コロナ感染者いじめをしたのは、(自分は“普通”だから上だと思っている)日本人の知識や教養に欠ける病人差別だ。 5)治療差別 政府が、*1-2-2のように、(どのような病気であれ、病室に複数の人を収容するのは治療環境が悪すぎるが)感染症指定医療機関などに個室管理可能なベッドを1万2千床確保するのはよいことだ。ただ、厚労省は「爆発的感染拡大が起きれば、最悪で東京だけで1日4万5千人の感染者が出る」としているが、そもそも無症状や軽症者を病院に入院させておくことは他の病気ではありえない。感染防止のためなら、自宅やホテルなどの借り切りで、徹底して衛生管理すればよいと考える。 しかし、重症化した人には治療するのが医療先進国であり、ここで“トリアージ”と呼んで年齢による治療差別を行うのはよくない。さらに、コロナ感染については、その重症化しやすさについて、必要以上に年齢差別して報道しているように見える。 (2)ハンセン病差別 (図の説明:左図のように、ハンセン病は1947年に治療薬ができた後も隔離政策が続き、本人だけでなく家族も著しい差別を受けた。国の隔離政策の根拠となった「らい予防法」は1996年にやっと廃止されたが、その後も元患者や家族に対する差別は続いている。中央の図は、ハンセン病への対処の歴史であり、人権よりも国家の対面を重んじるために隔離政策をとったことがわかる。そして、右図のように、その判断には科学的根拠がなく、それこそ国家の恥である) 完治する病となり科学的根拠がなくなっても長く続いた隔離政策で、ハンセン病の元患者は、*2-2のように、社会からだけでなく家族からの偏見・差別・人権無視にも苦しんだ。例えば、元患者は家族に迷惑がかかるからと療養所内で偽名を使わせられ、隔離政策の誤りを国が認めた2001年の熊本地裁判決を機に実名に戻って故郷に帰ろうとしても家族が受け入れず、死んでも実家の墓に骨を引き取ってもらえないという状況があった。 しかし、これは、家族が率先して社会復帰の壁になったわけではなく、長く引き離された上に日本社会から受けたすさまじい家族差別もあったため起こったことである。そのため、国の責任が認められ、元患者に補償がなされ、差別されながら顧みられかった元患者の家族に対しても、2019年11月22日に「ハンセン病元患者家族に対する補償金の支給等に関する法律」が公布・施行され、名誉回復にも言及されたのは遅すぎたとしてもないよりはずっとましだったのである。 ハンセン病の元患者と家族は国の誤った政策により、*2-1のように、熊本地裁が指摘したとおり、人格形成や自己実現の機会が失われ、家族関係の形成を阻害されるという人生を台無しにされて取り返しのつかない「人生被害」を受けたのだから、国が賠償をするのは当然である。さらに、らい予防法廃止後も偏見や差別を除去しなかったことは驚きであると同時に憲法違反でもあるのに、この当たり前の判決が“画期的”なのである。 (3)「犯罪者≒精神障害者」とする精神障害者差別 1)責任能力の有無は本当の争点だったのか? ← 犯罪者を精神障害者に仕立て上げる日本の刑法の非科学性と精神障害者差別 相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者45人を殺傷して殺人罪などに問われた植松被告の裁判員裁判が横浜地裁で開かれた。日本では、殺人が明白な場合の弁護側の方針は、*3-1のように、「精神病で判断力がなかった」という精神鑑定結果を出すことが多いが、ここで言われた大麻精神病などという精神病を私は聞いたことがない。 それにもかかわらず、弁護士がこういう弁護方針を採用する理由は、*3-5のように、刑法第39条に「心神喪失者の行為は、罰しない。心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する」と規定されているからで、その前提として、違法行為を行った者の責任を問うためには、責任能力(①事理弁識能力:物事の善し悪しが判断できる能力) ②行動抑制能力:自身の行動を律することができる能力)が必要とされているからだ。 そして、“心神喪失者”とは「精神障害者の中でも行為の善悪の判断が全くつかない人」、“心神耗弱者”とは「精神障害者の中で判断能力が著しくつきにくい状態の人」とされているが、現在の精神病に“心神喪失”や“心神耗弱”という医学的症状はない。つまり、刑法第39条は、1907年に施行された刑法の枠組みのまま使われており、そこには現在の精神病医学の概念は入っておらず、医学的に正しくないのである。 その上、刑法第39条は、「精神病者を、“平均人ならざる”ものであるため、“反社会的”で“危険な個人”である」と、精神医学とは全く関係なく位置付けており、法律で精神病患者を差別することになっている。そのため、“心神喪失”“心神耗弱”という言葉は正確に定義しなおし、そこに入れるべき人も検討し直すべきだ。さらに、「泥酔していたから」「薬物中毒だったから」というのは、「判断能力がなかった」等として責任を問わない理由にはならないと考える。 植松被告の弁護側は、*3-1のように、「植松被告は2015年頃から大麻を乱用するようになって問題行動が増え、『障害者は不幸をつくるから殺す』という考えに至ったのは大麻乱用による飛躍や病的高揚感があったからだ」と指摘しているが、横浜地裁判決は、差別的な主張を繰り返した植松被告の事件当時の刑事責任能力を認めて、求刑通りの死刑判決を言い渡した。 しかし、その裁判の進行中、検察側・弁護側・裁判所・メディアの報道は、「被告の障害者に対する差別的な考えが犯行を引き起こした」としていたが、その基になっている考え方が、非科学的な精神障害者差別そのものであることには、全く気を止めていなかった。 一方、*3-3の埼玉県熊谷市の強盗殺人事件では、罪に問われたペルー国籍のナカダ・ルデナ・バイロン・ジョナタン被告に対して、東京高裁が「統合失調症の影響で心神耗弱状態だった」と判断して一審の死刑判決を破棄したが、「統合失調症による被害妄想→心神耗弱→強盗殺人」という論理にはそれこそ飛躍がある。そのため、東京高裁が被告の供述を持ち出して行動制御能力がないと結論づけたのは、真犯人ではないと気付いたからではないかと思うが、それなら真犯人を捕まえて罰すべきであり、刑法39条をこのように使えば、統合失調症患者にとってはいわれなき差別を助長されることになるわけだ。 そして、このような裁判や報道が繰り返された結果、*3-4のように、全国には首長部局に知的・精神障害者を1人も雇用していない自治体が少なくとも41%あり、全体の13%は一般職員(短時間を含む)の募集条件からも知的・精神障害者を除外するという雇用差別を行うことになり、知的障害者や精神障害者に雇用の機会が与えられないという実害が生じているのである。 2)本当の論点は、家族や社会のためではなく、本人が主体として差別されず尊厳を持って幸福に生きられるか否かである 裁判で「意思疎通のとれない人は社会の迷惑」「重度障害者がお金と時間を奪っている」等と語った「津久井やまゆり園」事件の本当の論点が、植松被告の責任能力でないことは確かだ。しかし、本当の論点を語るのは難しい上に、いわれなき非難を浴びる可能性も高い。そのため、「気の毒だが、距離を置こう」と考えるのが普通の人だが、それでは何も解決せず、誰も今より幸福にすることができない。 そのような中、*3-4のように、重度身体障害があって18歳までの大半を施設で暮らした、れいわ新選組の木村参院議員が、障害者本人の立場から「津久井やまゆり園」事件について述べられたのは、参考になる。木村議員が、「①彼が言っていることは皆さんにとっては耳慣れなくて衝撃的でしょうが、同じような意味のことを、私は子どもの頃、施設の職員に言われ続けました」「②19歳で地域に出ていなければ、津久井やまゆり園に入所していたかもしれず、殺されていたのは私かもしれません」「③親が頼れるのは施設だけでしたが、私にとっては牢獄のような場所でした」「④食事を食べさせてもらえないこともありました」「⑤自由もプライバシーも制限され、希望すら失って決まった日常を過ごす利用者を見た人に偏見や差別の意識が生まれても不思議ではありません」と語っておられるのは、施設で人間としての尊厳を失って過ごすことを余儀なくされた経験のある本人にしか言えないことだろう。 また、「⑥私は、被告だから事件を起こしたとは思えません」「⑦私は親から施設に捨てられた歓迎されない命だという思いを抱いて生きてきました」「⑧公園デビューをした時、息子と子どもたちが砂場で遊んでいて、車いすに乗った私が息子に声をかけ、私が母親だとわかった瞬間、周りのお母さん方が自分の子どもを抱き上げて帰ってしまいました」「⑨小学校の授業参観で教室が狭くて他のお母さんたちが入れないので『詰めていいですよ』と言っても、半径1メートル以内には近寄ってきません」「⑩社会から排除することそのものが差別です」というのは、「津久井やまゆり園」事件で如何にも人道主義者であるかのように植松被告を批判している多くの人が無意識に行っている行為だ。 そして、「⑪福祉サービスは増えたが、重度訪問介護が就労中などに公的負担の対象外」「⑫移動支援が自治体により差がある」「⑬重度障害を理由に普通学校への入学が認められない例もある」については、高齢者のみに偏らない訪問介護が必要であり、尊厳を失わずに生きられるための普通教育も重要で、こうした課題を解決できた時に、「津久井やまゆり園」事件は意味を持てるのである。 なお、重度障害者を家族や社会の都合ではなく、本人の幸福のためにどこまで治療して助けられるか、どこから本当の安楽死を認めるべきかという難しい論点も見逃されているが、これは、森鴎外の「高瀬舟」以来、日本では解決できていない重たすぎる課題である。 (4)後見制度について 税理士は、事業承継が困難な中小企業や相続が発生しそうな事業主に普段から接し、税務に関する代理・税務書類の作成・アドバイスなどをしているため、成年後見や任意後見のニーズを知る機会の多い専門職だ。また、税理士法の1条、2条に基づき、独立・公正な立場で税務代理や税務書類の作成を行い、顧客の求めに応じて財務書類の作成や記帳代行も行うため、税理士が蓄積してきた知識・経験は成年後見人や成年後見監督人にも役立つものである。そのため、関東信越税理士会が、2019年11月、「成年後見人等養成研修」を行い、私もそれに参加したが、内容や資料が充実して気合いの入ったものだった。 このような中、西日本新聞が、2019年11月26日、*4のように、「適正な類型をどう判断するか」「後見偏重の修正はこれからだ」と記載しており、私もそれに賛成だ。また、90代の父親から金を搾り取っている息子には呆れるが、そのように育てた父親にも責任の一部はあるし、他の兄弟とは異なる事情があるのかもしれないため、父親の本心をよく聞いた上で、遺産分割についての遺言を作っておいたらどうかと思う。 なお、私は、本人の意思を尊重する指針が出て、法定後見が本人の意向が尊重される方向に改正されたのは、日本国憲法も「第11条:国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない」「第13条:すべて国民は個人として尊重され、生命・自由及び幸福追求に対する権利は、公共の福祉に反しない限り、最大の尊重をする」と定めていることから、よかったと考えている。 従来の禁治産・準禁治産制度は、1898年に明治憲法下の明治民法で定められたもので、禁治産者・準禁治産者になると、その事実が公示され戸籍に記載されてプライバシーが侵害され、呼称が偏見や差別を生み、障害者本人の権利や利益の擁護はしておらず、障害者と取引を行った相手の取引の安全性も図られていなかったため、2000年の民法改正で本人の意思や自己決定権の尊重、ノーマライゼーションを理念として民法の成年後見制度が施行されたことはよかったのだ。しかし、これまで後見に慣れてきた専門家は、「後見にしておけば間違いない」という意識が強く、制度の利用が後見に偏りがちという欠点があるそうだ。 関東信越税理士会の「成年後見人等養成研修」の研修の終わりに課せられ、研修内容を基にして私が書いたレポートの一部が下のとおりだが、ここでも「精神障害」を一括して後見の必要な人と定義しているため、医学的症状と整合性がとれ人権に配慮した用語への修正が必要だ。 1)現在の後見制度の種類 (イ)法定後見制度(民法838条~876条の10) 従来の禁治産・準禁治産制度を、各人の判断能力や保護の必要性の程度に応じて、補助(新設)、保佐(準禁治産の改正)、後見(禁治産の改正)に改めたもので、被補助人・被保佐人・成年被後見人を支援するために、家庭裁判所が適当と認める者(補助人・保佐人・成年後見人)を選任して権限を付与するもので、開始時には裁判所が監督人を選任する。 ①補助(民法876条の6~876条の10) 「補助」は、比較的軽度な精神障害(認知症・知的障害・精神障害)がある人のための制度で、本人の重要な財産に影響を与える行為について、状況に応じて補助人に同意権や代理権を付与して保護を図るもので、本人・配偶者・四親等内の親族・後見人・後見監督人・保佐人・保佐監督人又は検察官が、裁判所に「補助開始の審判」を申立てることにより開始される。本人以外の者の申立てによって「補助開始の審判」を行う場合は、本人の同意を要する。申立により、家庭裁判所は、補助人を選任したり、当事者が選択した特定の法律行為に関して代理権や同意権を付与したり、代理権の追加・取消をしたり、補助の終了を行ったりする。 ②保佐(民法876条~876条の5) 「保佐」は、精神障害(認知症・知的障害・精神障害)により「事理を弁識する能力が著しく不十分な者」を対象とする制度で、一定の「重要な行為」について保佐人の同意を必要とすることで、本人が不利益を受けるのを防ごうとするものだ。保佐の開始も、本人・配偶者・四親等内の親族・後見人・後見監督人・補助人、補助監督人又は検察官・任意後見受任者・任意後見人・任意後見監督人・市町村長が、裁判所に「保佐開始の審判」を申立てることによって行われ、補助とは異なり本人の同意は不要で精神鑑定が必要である。 これにより、家庭裁判所は本人のために保佐人を選任し、「重要な行為」を行うには保佐人の同意が必要となり、「重要な行為」でなくとも同意権付与の審判を経れば保佐人に同意権を付与することができ、特定の法律行為については、当事者が選択したものについて保佐人に代理権を付与することができる。本人の判断能力の回復により保佐開始の原因が止んだ時は、家庭裁判所は本人・配偶者・四親等内の親族・保佐人・保佐監督人等の請求により、保佐開始の審判を取り消さなければならない。また、判断能力の減退又は回復により、後見開始又は補助開始の審判に移行する時は、審判の重複を避けるため、家庭裁判所は職権で保佐開始の審判を取り消す。 ③後見(民法843条~875条) 「後見」は、精神障害(認知症・知的障害・精神障害)により「事理を弁識する能力を欠く状況にある者」を対象とする制度で、自分の行動の意味や結果を理解できないため、単独で契約などを行った場合に不利益を被る恐れがある場合に、成年後見人が代わって契約等を行い、本人を保護する制度だ。後見の開始は、本人・配偶者・四親等内の親族・後見人・後見監督人・補助人、補助監督人又は検察官・任意後見受任者・任意後見人・任意後見監督人・市町村長が、裁判所に「後見開始の審判 」を申立てることによって行われ、本人の同意は不要だが、精神鑑定が必要である。 家庭裁判所は後見開始の審判において、本人(成年被後見人)のために成年後見人を選任し、成年後見人には幅広い権限が付与される。本人の判断能力回復により後見開始の原因が止んだ時は、家庭裁判所は本人・配偶者・四親等内の親族・成年後見人・後見監督人等の請求により、後見開始の審判を取り消さなければならない。また、判断能力の回復により、保佐開始又は補助開始の審判に移行する時も、審判の重複を避けるため、家庭裁判所は職権で後見開始の審判を取り消す。成年後見人は、本人の財産に関する法律行為について代理権、同意権又は取消権を付与され、本人のためにその職務を行うとともに、善管注意義務を負う。具体的には、その職務を行うにあたり、「意思尊重義務」「身上配慮義務」が求められる。 ④成年後見監督人等 2000年の改正により、成年後見人・保佐人・補助人の権限乱用に配慮し、成年後見制度の信頼性や安全性をより確実なものにするため、法定後見制度で家庭裁判所が必要と認めた場合は、成年後見人の職務を監督する者(個人・法人とも可)を選任できる旨の規定が設けられた。そのため、成年後見監督人等の職務は、i)成年後見人等の事務を監督する ii) 成年後見人等が死亡で欠けた場合に、遅滞なく後任者の選任を家庭裁判所に請求する iii)急迫な事情がある場合は、成年後見人等に代わって必要な処置をする iv) 成年後見人等と本人の利益が相反する場合は本人を代理する などだ。そのほか、成年後見監督人等は、いつでも成年後見人等の事務に関する報告を求めて成年後見人等の事務や本人の財産状況を調査することができ、本人の財産の管理、その他後見等の事務について必要な処分を命ずることを家庭裁判所に請求したり、監督過程で不正行為を知った場合には、成年後見人等の解任を家庭裁判所に請求したりすることができる。 (ロ)現在の任意後見制度(任意後見契約に関する法律) 任意後見制度は、2000年に施行された「任意後見契約に関する法律」で新設された制度で、本人が契約締結に必要な判断能力を有しているうちに、将来の判断能力低下に備えて任意後見人や支援の範囲等に関して公正証書により契約を行い、実際に判断能力が低下した時に、家庭裁判所による任意後見監督人の選任によってその契約の効力が生じる制度である。 ①任意後見制度の特徴 任意後見制度の特徴は、自らの意思で決める自己決定権の尊重と任意後見監督人の選任による信頼性の確保だ。 ②任意後見契約の締結 任意後見契約は、法務省令で定める公正証書によって代理権の有無・範囲を明確にして作成し、公証人が直接関与することによって委任者の真意による適法で有効な契約締結が担保することが意図され、登記所へは公証人が遺漏なく登記する。 ③任意後見契約の開始と任意後見監督人の選任 任意後見契約の締結後、本人の事務弁識能力が不十分な状態になった時は、本人の住所地を所管する家庭裁判所に対して、任意後見監督人の候補がいる場合にはその旨を記載し、通常は書面で審判の申立を行い、家庭裁判所が任意後見監督人を選任して任意後見契約が開始される。この申立ができるのは、本人・配偶者・四親等内の親族・任意後見受任者のみである。 ④法定後見と任意後見契約の関係 任意後見契約が登記されている場合には、本人の自己決定権を尊重する観点から、法定後見の開始の申立がなされた時は、任意後見を優先して裁判所は原則として法定後見開始の申立を却下する。ただし、任意後見に与えられている代理権の範囲が狭すぎ、悪質な訪問販売による被害の恐れが強い場合など、本人の利益のために特に必要があると認められる場合には、例外的に法定後見開始の審判をすることができる。 ⑤任意後見制度の利用形態 任意後見制度の利用形態には、i) 本来型(任意後見契約を単独で結び、本人の判断能力が低下してから任意後見を開始するもの) ii) 移行型(任意後見契約と民法の委任契約・代理権授与契約による財産管理等に関する契約を同時に締結し、本人の判断能力が低下してから任意後見を開始するもの) iii) 即効型(判断能力が多少不十分だが契約締結時に意思能力はある者が、任意後見契約の締結と同時に任意後見監督人の選任を申立て、直ちに契約を発効させるもの) がある。 (ハ)後見登記制度 成年後見登記制度は、法定後見(補助・保佐・後見)及び任意後見に関する事柄を公示するための制度で、従来の禁治産宣告・準禁治産宣告の戸籍記載に代わる新たな方法として「後見登記に関する法律(平成11年法律152号)」に基づいて創設されたものだ。これは、後見に関する情報を「登記」という方法によって管理・証明し、この登記情報の開示を求めることができる者を限定することによって、取引の安全性と本人のプライバシー保護の両立を図ったものである。登記は、原則として裁判所書記官又は公証人の嘱託に基づいて行われ、申請に基づいて行われる登記は、変更又は終了の登記等の一部に限られる。 (二)2016年(平成28年)度の改正による影響 ①成年後見人が、家庭裁判所の審判を得て、成年被後見人宛の郵便物の転送を受けることが できるようになった(郵便転送。民法第860条の2,第860条の3) ②成年後見人が、成年被後見人の死亡後にも行うことができる事務(死後事務)の内容と その手続が明確化された(民法第873条の2) ・・参考資料・・ *1-1-1:https://digital.asahi.com/articles/ASN3V6SR3N3VUHBI01J.html (朝日新聞 2020年3月26日) 新型コロナ、死者2万人超 イタリアとスペインで半数に 世界で感染拡大する新型コロナウイルスによる死者数が26日、2万人を超えた。世界保健機関(WHO)や各国政府の発表をもとに集計している米ジョンズ・ホプキンス大学システム科学工学センターによると、イタリアが7500人超、スペインが3600人超で全体の半数以上を占めた。感染が急増している米国でも1千人を突破。世界の感染者数は同日午後8時現在で47万人を超えている。欧州での感染の中心となっているイタリア政府は25日、死者数が前日比で683人増え、7503人になったと発表した。感染者も7万4386人に達し、8万1千人超の中国に迫る勢いだ。イタリアでは移動の制限や公園の閉鎖などの措置が全土に広がっている。14日に政府が警戒事態を宣言したスペインでは死者数が前日より738人増えた。感染者数も4万9千人超となった。首都のあるマドリード州で被害が集中している。そのほかの死者数はフランスが1300人超、英国が460人超、オランダが350人超で、イタリア、スペインを含む欧州5カ国で計1万3千人超となり世界の死者数の6割を占める状況だ。 *1-1-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/202003/CK2020032702000301.html (東京新聞 2020年3月27日) <新型コロナ>世界感染50万人超 米が中国抜き最多 米ジョンズ・ホプキンズ大の集計によると、新型コロナウイルスの感染者が二十六日、世界全体で五十万人を超えた。二十四日に四十万人に達したばかりで、二十日の二十五万人から一週間足らずで倍増。米国が初めて中国、イタリアを上回って世界最多となり、流行の拡大は新たな局面に入った。勢いは衰えず、終息の気配は見えない状態が続いている。三月は欧州で感染拡大が続いてきたが、下旬からは米国での感染者が急増し、二十七日までに八万五千人を超えた。中国は横ばいで推移、欧州ではイタリアで被害が最も大きい。世界全体の死者は二十五日に二万人を超え、二十六日時点で二万三千人に上っている。世界保健機関(WHO)の二十六日付状況報告によると、感染者の54%、死者の67%は欧州地域事務所管内(旧ソ連諸国を含む)に集中しており、三月に入り「パンデミック(世界的大流行)の中心地」(テドロスWHO事務局長)となったことを如実に反映している。同報告によると、前日からの新規感染者についても、欧州は世界全体の61%と多いが、単独で24%に上っているのが米国で、ここ数日は一日当たり一万人前後の増加が続いている。三億六千六百万人の人口を抱える米国での感染拡大防止策が効果を上げるか否かが、今後の世界的流行の情勢を左右することになる。二十一世紀に入ってからのコロナウイルスによる新たな感染症では、重症急性呼吸器症候群(SARS)が感染者約八千人で死者約八百人、中東呼吸器症候群(MERS)が感染者約二千五百人で死者約八百六十人の被害が出ている。 *1-1-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14418428.html (朝日新聞 2020年3月27日) 感染集中、NYの医療窮地 病床、14万床必要なのに5万床 新型コロナ 全米最大の都市、ニューヨーク(NY)市で新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。全米の感染者数の3割が集中。病床や人工呼吸器の数が不足しており、医療崩壊が懸念されている。25日昼、NY市のジョン・F・ケネディ空港の出発ロビーには、感染を避けようと防護服に身を包んだり、大型ゴーグルを着けたりする乗客たちの姿があった。「NYで暮らすリスクはあまりにも高すぎる」。市内の金融機関勤務のアジア系男性がマスクを押さえながら語った。「NYからの逃避」という言葉が、たびたび報じられている。 市内で感染者が最初に確認されたのは今月1日だが、3週間あまりで約2万人まで増え、死者も280人に達した。デブラシオ市長は25日夕、会見で「NY市はこの危機の中心地だ」と危機感をあらわにし、「4月は、3月より厳しい状況になる」と語った。感染者が次々と確認される中、医療態勢の不備が懸念されている。NY市によると、最も多くの感染者が出ているクイーンズ地区の公立病院「エルムハースト・ホスピタル・センター」(545床)では24時間のうちに感染患者13人が死亡した。集中治療室がいっぱいになり他の病気の患者を別の医療機関に移し始めた。NY州のクオモ知事によると、州内では今後2~3週間で感染者数がピークを迎え、最大で推計14万床必要だが、州内には約5万3千床。NY市内の大型会議場を含む4カ所に仮設病院を作っているが、まだ足りない。人工呼吸器も、NY市だけで1万5千個必要だが、その6分の1しかないという。NY市当局の初期対応にも注目が集まる。デブラシオ氏は今月2日時点で「1200床のベッドを確保している」と強調し、「我々には対処する能力がある」と封じ込めに自信を見せていた。12日に緊急事態宣言。その後も、1866校ある市内の公立校は「給食に頼っている子どもも多い」と続けており、保護者や教員の要請を受け、16日に休校した。ニューヨーク・タイムズ紙は「デブラシオ氏は、日常生活を送るよう市民を促し続けた」と批判し、保健当局の複数の担当者が「市長が態度を改めない限り、辞任する」としていると伝えた。市の対応が後手に回った感は否めない。 *1-1-4:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO55420100Y0A200C2000000/ (日経新聞 2020/2/8) 新型肺炎、各地で広がるアジア人差別 NYで暴行被害 中国で多数の死者を出している新型コロナウイルスの拡大を受けて、世界各地でアジア人への差別が問題となっている。米ニューヨークの地下鉄の駅では男がマスクをつけたアジア系の女性に暴行を加える事件が発生した。SNS(交流サイト)の普及で差別的な発言やヘイトスピーチ(憎悪表現)が拡散しやすくなっており、冷静な対応が求められている。「マスクの中国人女性が暴行された」。ニューヨーク在住のトニー・ホー氏は4日、ツイッターに事件の様子をとらえた動画を投稿した。マンハッタンの地下鉄の駅内を走る女性の前に突然、男が立ちはだかり「俺に触るな」などと罵りながら傘や手でたたく様子が映っていた。ホー氏は「多くのアジア人は新型ウイルスが流行する前からマスクをつけているのに、急に脅威と感じるようになった」と嘆く。「アジア人が事件に巻き込まれても、その情報は広まらない。アジア人は従順で気が弱いと思っている」とも書き込んだ。移民に寛容なイメージの強い隣国カナダも例外ではない。トロント近郊の中国系住民が多く住む地区では、最近中国を訪れた家族のいる子どもをしばらく通学させないよう学校に求める署名運動が起きた。インターネット上で約1万人の署名が集まったが、学校側は「安全の確保という善意に基づいていたとしても、隔離を求めるのは人種差別だ」として要求を却下した。中国料理店のサイトへの人種差別的な書き込みや学校でのいじめなども報告されているという。欧州で初の感染者が確認されたフランスでも「アジア人には近づかないほうがいいと露骨に避けられた」などの声が上がっている。ジャーナリストのリンラン・ダオ氏はツイッターで「アジア人だからと侮辱され、公共交通機関から蹴り出される。これは冗談やネット上のヘイトではなく、現実に起こっていることだ」と訴えた。差別の対象となっているのは中国系住民だけではない。仏高級ブランド「ルイ・ヴィトン」の公式アカウントがSNSに掲載した日本人女優の広告には「コロナウイルスか?」といった差別的なコメントが多数寄せられた。問題のコメントは現在は削除されているが、ルイ・ヴィトン側が1週間近く対応を怠ったとしてネット上では非難の声が上がっている。仏紙パリジャンは「中国人か韓国人かなんて分からないから、アジア人の横には座らない。差別ではなく予防だ」という市民の意見も紹介した。米紙ニューヨーク・タイムズは、日本でもツイッターで「中国人は日本に来るな」がトレンド入りしたことを取り上げた。同紙は「中国の経済・軍事力の成長がアジアの隣国や西欧諸国を不安にさせる中で、新型コロナウイルスが中国本土の人に対する潜在的な偏見をあおっている」と分析している。フランスでは「私はウイルスではない(#JeNeSuisPasUnVirus)」として、ツイッターで人種差別をやめるよう訴える投稿が相次いでいる。仏国立人口学研究所のヤーハン・チャン氏は地元メディアの取材に対し「学校や公共機関での教育活動が必要だ。アジア人への人種差別を止めるため、やるべきことがたくさんある」と述べた。国連のグテレス事務総長は4日に新型肺炎を巡り「人種を理由にした差別や人権侵害を懸念している」と発言した。 *1-1-5:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57057480R20C20A3I00000/ (日経新聞 2020/3/21) ジャカルタ、新型コロナで非常事態宣言 オフィス利用中止を要請 インドネシアの首都ジャカルタのアニス州知事は20日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて非常事態宣言を出した。州内の全企業にオフィス利用の停止を強く求めたほか、娯楽施設の営業を禁止した。人の移動を制限して感染拡大を食い止める狙いだが、ジャカルタには企業が集中していて、ビジネスに大きな影響が出ることは避けられない。当面、4月2日までの2週間を「災害非常事態」として、州内の全企業に原則としてオフィスを利用しないよう要請するほか、市内の映画館やバー、カラオケ店などの営業を禁止する。公共交通機関の運行も減らす。アニス氏は「責任のある態度とは、外での活動をすべてやめることだ」と述べ、住民に対して、仕事以外でも外出をしないよう求めた。インドネシアでは20日までに369人が感染し、32人が死亡した。感染者の6割がジャカルタに集中する。州政府は14日、全住民に対して外出しないように要請したが、強制力を伴わず、出勤を続ける住民も多かった。感染拡大が続くため、より強い対応が必要と判断した。非常事態宣言中は州内に軍や警察が展開して、住民の外出を事実上制限するという。周辺自治体も含めたジャカルタ首都圏には約3000万人が住む。ジャカルタ特別州だけでも個人企業もあわせて120万の企業が集まるインドネシアの経済の中心だ。首都の人の移動が大きく制限されることで、経済に大きな影響が出そうだ。 *1-1-6:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57193700V20C20A3000000/ (日経新聞 2020/3/25) インド、新型コロナで全土封鎖 25日から21日間 インドのモディ首相は24日、国民向けにテレビ演説し、新型コロナウイルスへの感染防止策として全土を25日から21日間、封鎖すると表明した。モディ氏は「ウイルスと戦うには社会的な距離を保つしかない。人々は外出が禁じられ、安全のため家で過ごしてほしい」と述べ、国民に外出を控えるよう呼びかけた。インドは22日に全土で外出禁止を命じ、その後は感染者が確認されていたデリーなどの75地区を31日まで封鎖する方針を示していた。モディ氏は「医療サービスが世界最高級とされたイタリアや米国でも感染拡大が防げていない。家にいる以外は手段がない」と強調し、一段と厳しい措置に踏み込むことを決めた。病院や検査機器などの医療インフラに対し、1500億ルピー(約2200億円)を拠出する考えも表明した。インドでは既に工場や航空便などが停止している。モディ氏は「経済的なコストが伴うが、ウイルスと戦うには断固とした措置が欠かせない」と言及。シタラマン財務相を中心に景気対策を検討しており、近く公表するとしている。 *1-2-1:https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2020021601001755.html (東京新聞 2020年2月16日) “地元いじめ”に和歌山知事怒り ドローン撮影、返礼品拒否 外科医らの新型コロナウイルス感染が判明した和歌山県湯浅町の済生会有田病院の病棟内をドローンで撮影しようとしたり、ふるさと納税に対する町の返礼品を拒んだりするなどの“地元いじめ”が相次ぎ、仁坂吉伸知事が16日の記者会見で怒りをあらわにした。県によると、感染した外科医の担当病棟がある3階付近を飛ぶドローンが14日から連日確認されているほか、「ふるさと納税の返礼品の受け取りは拒否できるか」との問い合わせが町にあった。本来は健康上の不安を相談するための県の電話窓口に「病院の患者の住所を教えてほしい」との要求まで来たという。仁坂知事は「怒りを感じる」と訴えた。 *1-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200326&ng=DGKKZO57239130V20C20A3EA2000 (日経新聞 2020.3.26) 入院 患者の選別カギに 世界の感染者数は3日間で10万人増えるなどペースが加速している。東京都も25日、41人の新規感染を確認し、今週末の不要不急の外出自粛を求めた。患者が急増した場合、数が限られる病床を重症者に優先的に振り向ける対応が求められる。政府は感染症指定医療機関などで個室管理可能なベッドを1万2千床確保する。ただ爆発的な感染拡大が起きれば、厚生労働省の最悪の想定では東京だけで1日4万5千人の感染者が出ると推計される。そうした場合、政府は病床は重症者などに使い、無症状や軽症者には自宅療養を求める方針。もっとも、こうした「トリアージ」が円滑にいくかは不透明だ。都内の新型ウイルス専門外来の医師は「レントゲンでは明らかに肺炎なのに、本人は元気なことがある。見極めは簡単ではない」と話す。都の担当者も「入院している軽症者に『帰ってください』と説得できるのか。都で宿泊施設を確保するなど対応が必要になるかもしれない」と悩む。愛知県は24日、医療機関外で無症状や軽症の約100人を受け入れられる施設を月内にも開設すると発表した。相模原市も重症者に向けた病床を確保しておくため、一部の軽症患者らに自宅待機を要請しているという。 ◇ 国内で25日に新型コロナウイルスの新規感染が確認されたのは午後9時現在78人で、感染者は41都道府県の1256人となった。東京都と北海道、愛知県でそれぞれ高齢者1人が死亡した。 *1-2-3:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO55811680Z10C20A2I00000/ (日経新聞 2020.3.25) 新型コロナ、41都道府県で1269人感染 都で新規41人 (3月25日午後10時現在) 新型コロナウイルスの感染が国内で広がっている。各自治体などによると、国内での感染者は25日午後10時までに1日の感染確認として最多の91人の感染が新たに確認されて計1269人に上っている。東京都の感染者数は210人で、都道府県で初めて200人を超えた。感染確認は計41都道府県。このほか海外から入国して空港検疫で確認されたのは23人(25日正午現在)。手洗いの徹底など一人ひとりの感染症対策が重要となる。なお、前日午後10時より後に明らかになるなどした感染者や退院患者、死者は当日の新規分には含めていない。 *1-2-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200327&ng=DGKKZO57276430W0A320C2EA1000 (日経新聞 2020.3.27) 「首都封鎖」を防ぐために行動を見直そう 新型コロナウイルスの感染拡大が「重大局面」を迎えつつあるのは間違いない。感染者が急増している東京都と関東近県が週末の往来を自粛するよう住民に求めた。感染者の爆発的な急増(オーバーシュート)を防ぐ措置として、やむを得ない。今週に入り、東京都内の新たな感染者の報告数は24日から25日にかけて、2倍以上に急増した。海外渡航者を起点にした感染者集団(クラスター)が、すでにいくつも形成されている恐れがある。外務省は全世界を対象に不要不急の渡航中止を求めた。北海道は外出自粛の効果もあり爆発的な増加を免れた。首都圏もこれをモデルに感染者集団を抑え込む努力が不可欠だ。しかし、東京は通勤・通学で近県から1日300万人近くが行き来する。感染経路の特定が難しく、封じ込めは容易ではない。政府は26日、改正新型インフルエンザ対策特別措置法に基づく対策本部を設置し、いつでも緊急事態宣言を出せるようにした。緊急事態宣言の目的は医療の機能不全を防ぐことだ。感染者の増加を遅らせ、その間に医療態勢を整えて死者を増やさないようにする。そのための措置が、厳しい外出制限だ。緊急事態を宣言すれば各国の「都市封鎖」に近い状態になり、社会や経済の活動が一段と制約される。今はその一歩手前だ。「首都封鎖」という最悪の事態を招かないためにも、一人ひとりが今の状況を自覚し、外出や飲食を伴う集まりを自粛するなど行動を見直すことが重要だ。住民に協力を求めるには、国や自治体が情報開示を徹底して信頼を得る必要がある。最悪の場合、感染はどこまで広がりうるのか、行動制限や外出自粛でどの程度抑制できるのか、どんな条件を満たせば普段の生活に戻れるのか。明確でわかりやすい説明が信頼を育み、対策の効果を上げる。政府の専門家会議は19日に大都市圏で感染者の爆発的な急増が起こる可能性が高いと指摘していたが、そのメッセージが浸透していたとは言い難い。政府が学校の休校を解除すると決めたのも、誤った安心感を与えた可能性がある。特に若い世代に危機感が薄い傾向があり、伝え方に工夫が必要だ。危機対応では専門家の知見を踏まえて国民に行動を促すのが、政治家の役割だということを改めて肝に銘じてほしい。 *1-2-5:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/590238/ (西日本新聞 2020/3/8) インフル患者、前年から6割減 新型コロナで予防浸透 新型コロナウイルスの感染が広がる一方で、インフルエンザの患者数が急減している。医療機関の報告を基にした厚生労働省の推計によると、2020年の全国の累計患者数(3月1日時点)は、前年同期(約1024万人)の4割を切る約397万人で、600万人以上減少した。新型コロナウイルスの感染予防で手洗いやマスク着用などが徹底されたことが奏功しているようだ。厚労省がまとめた約5千の定点医療機関からの報告によると、20年の患者数のピークは1月6~12日の週で1医療機関当たり平均18・33人。前年ピークの週(1月21~27日)の57・09人を7割近く下回った。九州各県も同様の傾向で、今年ピークとなった週の患者数は、熊本県が15・99人で前年ピークより約7割減少。福岡(23・55人)や大分(26・59人)なども約6割減った。厚労省は昨年11月15日、例年並みだった前年より1カ月ほど早く全国的な流行が始まったと発表した。昨年9月~12月末までの患者数は約315万人で、前年同期の約106万人を大きく上回る勢いだった。だが、昨年12月以降、中国・武漢市で新型コロナウイルスの感染が急拡大。1月15日には国内初の感染者が確認され、マスク着用やせきエチケットなどの感染予防の取り組みが全国に浸透していったとみられる。厚労省感染症情報管理室の梅田浩史室長は「一人一人の感染予防意識が高まったことが要因で予防対策の効果が示された。新型コロナウイルスの感染拡大防止にもつながるだろう」と分析した。 *1-2-6:https://forbesjapan.com/articles/detail/33158 (Forbs JAPAN 2020/03/19) 日本で新型コロナが「感染爆発」しない理由 浦島充佳:東京慈恵会医科大学教授 3月11日、ドイツのメルケル首相は、「ドイツ国民の60%から70%が新型コロナウイルスに感染する可能性がある」と警戒を呼びかけた。こんなことが本当に起こりえるのだろうか?これが現実になった場合、感染者のうち1~2割が重症化し、入院治療が必要になること考えると、医療崩壊は免れないだろう。しかし、私はそうはならないと考える。その理由は新型コロナの感染拡大パターンにある。 ●新しい感染症が入ってくるとどうなる? メルケル首相の言葉は、新しい感染症に対する基本モデルに基づいている。ある感染者がその感染症に対する免疫を持たない集団に入ってきた場合、かなりの勢いで広がっていく。しかし、集団免疫という考え方がある。感染から回復し免疫を得た人々が「免疫の壁」として立ちはだかるようになり、未感染者が感染者から感染するのを阻止する形となるのだ。すると、一定の未感染者を残しながらも、感染拡大は停止する。ウイルスの感染力が弱まって感染拡大が止まるわけではない。 ●60%から70%が感染のカラクリ ある感染者がその感染症に免疫を全く持たない集団に入ったとき、感染性期間に直接感染させる平均の人数を「基本再生産数」と呼ぶ。これが1より大きければ感染は拡大し、1であれば感染は定常状態となり、1未満になれば感染は終息に向かう。新型コロナ、インフルエンザ、SARS の基本再生産数はだいたい2~3といわれている。計算式に当てはめると、基本再生産数が3のとき、集団免疫による感染拡大停止までに67%が感染することになる。メルケル首相が、「国民の60%から70%が新型コロナウイルスに感染可能性」を示唆した背景には、この計算があるのだろう。しかし、これは集団が新型コロナに対して全く免疫を持っていないという仮定に基づいている。 ●私たちは新型コロナウイルスへの免疫を持っている? 2009年にパンデミック化した新型インフルエンザを思い出してほしい。基本再生産数が3だったとしても国民の6~7割が感染するようなことはなかった。季節性インフルエンザに対する免疫が、新型インフルエンザにもある程度有効だったと私は考える。そもそも「新型」ではない「コロナウイルス」は、主に子供の風邪のウイルスとしてありふれたものである。これは「新型コロナウイルス」とは別物であり、多くの人が年に1,2回は感染している。そのため、子ども、子育て世代、小児科医などは新型コロナに対しても免疫を持っているかもしれない。また、新型コロナは8割が軽症である。無症状で経過する人も相当数いる。日本には春節前から多くの中国人が訪れていた。あくまで推測の域をでないが、既に日本人の多くが自分でも知らない間に感染しているかもしれない。そうであれば、先に示した集団免疫の作用で感染爆発は起こり難い。またメルケル首相の発言には「仮に政府が何も対策をとらなかったら」という仮定も入っている。しかし、日本も含め多くの国が既に強い対策に打って出ており、また人々は行動変容を起こし、大勢の人が集まるところに出かけることを控えている。よって、無防備に感染が拡大するとは考えにくい。新型コロナの感染拡大パターンは、次のようなものである。 ●新型コロナの感染パターン 3月9日夜、新型コロナ対策専門家会議の記者会見があり、新型コロナ対策専門家会議・尾身茂副座長が疫学的知見を発表している。感染症が進行中の集団の、ある時点における、1人の感染者から発生した二次感染の平均の数である、「実効再生産数」について述べている部分を引用する。「現時点において、感染者の数は増加傾向にあります。また、一定条件を満たす場所において、一人の感染者が複数人に感染させた事例が、全国各地で相次いで報告されています。しかし、全体で見れば、これまでに国内で感染が確認された方のうち重症・軽症に関わらず約80%の方は、他の人に感染させていません。また、実効再生産数は日によって変動はあるものの概ね1程度で推移しています」。新型コロナの基本再生産数は2〜3である。対して、実効再生産数は1。要するに、日本国内で感染が広がっている速さを示す実効再生産数は、現在、ウイルスの持つ感染力を示す基本再生産数を下回っているということだ。 ●新型コロナの感染状況をビジュアル化 実効再生産数が1ということは、10人の患者から新たに10人の二次感染患者が再生産されることになる。しかし、専門家会議は「80%が誰にも感染させていない」としている。例えば、新型コロナウイルス感染患者が10人いたとする。そのうち8人は誰にも感染させず、2人が感染させる。一旦感染すると2週間など長期にわたって咽にウイルスをもち感染力を保ったまま活動できてしまうので感染が拡大する。そのため実効再生産数が1であっても、患者数は増加し得る。では、感染を終息に向かわせるにはどうするべきか?図3のように、例えば2つのライブハウスでの感染をブロックできれば、10人から3人の患者しか発生しないので、やがて患者数は減っていく。だれがウイルスをもっているか判らなく、感染力も強く、致死率が高い。このような場合で、かつ感染拡大パターンを最初に示した基本モデルで考えると、感染拡大を止めるにはどうしても外出自粛、休校、移動制限、地域封鎖となってしまう。新型コロナの場合、確かにだれがウイルスをもっているか判らないことが、人々に大きな恐怖心を植え付けている。しかし、私達は今までの経験からクラスター(集団感染)を形成しやすい条件を知っている。それは、換気の悪い室内で、不特定多数と長時間会話したり、食事をしたときだ。 ●エアロゾル感染のリスクは「換気」で減らす 3月9日の専門家会議の記者会見で「みなさまにお願いしたいこと」として以下の点が指摘された。1. 換気の悪い密閉空間、2. 多くの人が密集、3. 近距離(互いに手を伸ばせば届く距離)での会話や発声 という3つの条件が同時に揃う場所や場面を予測し、避ける行動をとってください。これを多くの市民が実施できれば、クラスター発生を予防でき、国が強権を発動せずとも感染は終息に向かうであろう。実際、諸外国と比べて日々の感染者数は数十人で収まっている。ただ、人は同じ説明を聞いても、何も気にせず日常生活を送れる人もいれば、家から一歩も出られない、仕事にも行けない人まで様々であろう。レストランで外食したり、会社で仕事をしたりというのは上記1・2・3にあてはまるからだ。そこで、人々の不安を少しでも解消し、対策の一助になればと思い、感染のメカニズムを解説したい。会話やくしゃみで飛沫が飛び散る。大きな飛沫は放物線を描いて地面に落ちる。しかし、目に見えないくらいの小さな飛沫粒子、いわゆるエアロゾルは数時間室内を空気のように浮遊する。大きな飛沫による感染は(3)の近距離での会話や発声に対応する。これは、お互いにマスクをしていれば予防できるし、マスクがない場合には1~2メートルなど距離を開ければ解消できる。エアロゾルによる感染は(1)の換気の悪い密閉空間に対応する。新型コロナウイルスは1時間で半減するものの、数時間は感染性を保ったままエアロゾルとして空中を浮遊することが最近アメリカの研究チームにより報告された。これは窓を開けて空気を入れ替えれば、解消される。外であれば、まず問題にならない。人数が数十人、数百人と多くなればなるほど、その中にウイルスをもった人がいる確率があがる。(2)の多くの人が密集というのは、このことを指している。しかし、新型コロナの発生がほとんどない地域では気にしなくてもよいかもしれない。「3つの条件が同時に揃う場所」を言い換えれば「1つの条件が解消されていれば避ける必要はない」ということである。例えば十分な換気をはかれればよいことになる。また十分な換気ができなければ、マスクをするか、距離をとればよいことになる。 ●今後の日本は如何に? 2月後半、1日の報告件数が10人、20人と増えだした。これに対して、日本政府は在宅勤務の推奨、大型のイベント自粛、休校を要請した。患者数の推移を海外と比較すると、日本は地域を封鎖したり、移動制限や外出自粛を強要したりすることもなく、何とかよく持ちこたえていると思う。これは政治決断の効果でもあり、日本人1人1人ができることをやっている成果であるとも思う。今後は、患者数の推移を慎重にみながら、屋外や換気を十分するといった条件で、社会活動を少しずつ再開してもよいのではないだろうか。とはいえ、大規模イベントや、今までクラスターのあった場所での活動の再開は慎重にするべきである。危機管理の基本は、初動において厳しい対応をして、様子を観ながら徐々に緩めるのが鉄則だ。 *1-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200315&ng=DGKKZO56809510U0A310C2MM8000 (日経新聞 2020.3.15) 米欧、新型コロナ対策総動員 検査拡充や企業支援、米、非常事態で5兆円 新型コロナウイルスの感染が拡大する米国や欧州で、各国政府が緊急対策に動いている。トランプ米大統領は13日に国家非常事態を宣言し、最大5兆円超を投じてウイルス検査などを拡充することを決めた。欧州各国では医療体制の強化や企業の資金繰りの支援が広がる。感染拡大による社会の混乱や景気の失速を防ぐために、政策を総動員して対応にあたる。トランプ氏は13日、非常事態宣言によって「連邦政府の力を最大限に引き出す」と力説した。災害対策基金など最大500億ドル(約5兆4千億円)を地方政府に振り向ける。最大の柱はウイルス検査の見直しだ。米政権は規制を一時的に緩和し、スイス製薬大手ロシュが開発した24時間以内に4千件超を検査できるシステムを緊急で承認した。スーパーや薬局の駐車場での「ドライブスルー検査」も全米に広げる。米ジョンズ・ホプキンス大の集計では米の感染者は2100人を超え、死者は47人に達した。感染者は46州と首都ワシントンで確認し、ほぼ全米に広がっている。新型コロナで打撃を受けた企業や個人の支援も強化する。非常事態宣言により、新たに中小企業の支援に70億ドルのローンを提供できるようにした。戦略石油備蓄を積み増すため大量の原油を購入し、エネルギー会社も支援する。個人には学生ローンの利息支払いを免除する。14日には議会下院が野党・民主党の経済支援策も可決した。新型コロナの無償検査、有給の病気休暇、失業保険の拡充、低所得者向け食糧支援などを盛り込んだ。トランプ氏も法案に署名する考えで、近く成立する公算が大きい。感染者の広がりでは、欧州の置かれた状況はより深刻だ。感染者はイタリアが1万7千人超と中国に次いで多い。同国政府は最大250億ユーロ(約3兆円)程度の経済支援策を用意する計画だ。売り上げが大きく減った企業の支援、医療体制の拡充などに充てる。スペインでも感染者が5千人を超え、サンチェス首相は13日に非常事態を宣言した。政府が強制力を持って人の往来を制限したり、一定の物資を管理下に置いたりすることができるようになる。ドイツ政府は13日、新型コロナの感染拡大の影響を受けた企業の資金繰りを支援するため、総額に上限を設けない無制限の信用供与を実施すると発表。メルケル首相は同日「必要なことは何でもやるつもりだ」と語った。フランスは休校中の子供の世話などで欠勤せざるをえない従業員への給与補償、企業の納税の延期・一部免除などを順次実施する。こうした措置で数百億ユーロ(数兆円)の予算が必要になるとみられる。英国は2020年度の政府予算で300億ポンド(約4兆円)規模の経済対策を講じる方針だ。医療体制の強化や休業補償などにあてる。米国を中心に人の移動制限に加えて、財政政策も打ち出すことで、感染拡大と景気の落ち込みを食い止める狙いがある。 *1-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200326&ng=DGKKZO57209430V20C20A3MM8000 (日経新聞 2020.3.26) 現金給付、所得減世帯に 5月にも実施、経済対策50兆円超 GDPの1割 政府は新型コロナウイルスの感染拡大を受けた緊急経済対策で、5月にも所得が大幅に減少した世帯に現金を給付する検討に入った。条件が当てはまる1世帯に20万~30万円程度とする案がある。売り上げの急減が予想される飲食業や観光業は割引券や商品券を発行して支える。経済対策の事業規模(総合2面きょうのことば)は名目国内総生産(GDP)の1割にあたる56兆円超をめざす。海外でも米国やオーストラリアなどは新型コロナを巡る経済対策でGDPの1割近い財政出動に踏み切る構えで、日本も足並みをそろえる。リーマン・ショック後の事業規模56兆8000億円を上回る過去最大とする方針だ。海外では事業規模を先に表明することが多いが、日本が目標値を先行させるのは異例となる。日本は個別の政策を積み上げ、積算した規模を公表してきたためだ。新型コロナに伴う株安をにらみ、市場の動揺を抑える狙いがある。安倍晋三首相は2020年度予算案が成立する27日にも経済対策の編成を指示する。裏付けとなる補正予算案を4月上旬にも閣議決定し、下旬の成立を見込む。5月にも給付を始める。事業規模は国による直接支出に加え、融資に伴う金融機関の貸し出し分などを含めた額だ。給付の仕組みは今後詰める。新型コロナの感染拡大を理由とした所得減かを見極めるのは簡単ではない。所得をどの程度減らした世帯を対象にするかや所得制限をかけるかが制度設計の論点だ。フリーランスといった所得の把握が難しい人への対応も課題となる。日本の世帯数は約5300万あり、一定の所得水準を設けて約1000万世帯に絞り込むことも検討する。給付の手法は緊急小口資金の制度を参考にする。同制度は自治体の社会福祉協議会に申請書を出せば、個人の口座に現金が振り込まれる。全国民に配った定額給付金は総額2兆円規模に膨らんだ。多くが貯金に回り消費下支えの効果は乏しかったとの反省がある。雇用確保に向けては従業員を休ませるなどして雇用を維持する企業に支給する「雇用調整助成金」を拡充する。中小企業の場合、賃金相当額の3分の2の助成率を5分の4に引き上げる案が軸となる。従業員を解雇しなかった例では9割の助成も考える。新卒で入社する社員など雇用期間が短いケースでも助成の対象になるよう要件を緩め、内定取り消しが広がらないよう目配りする。飲食業や観光業の支援は消費者が外食や旅行などに支払う料金の一部を国が助成する制度を設ける。日本政府が19年末にまとめた26兆円規模の経済対策は公共事業を中心に執行が進んでいない。緊急的な対応として未執行分の一部も新型コロナ対策に活用する。これに今後編成する30兆円超の対策費を上乗せする。海外では米国はGDP比9.3%にあたる2兆ドル(約220兆円)規模の対策をとりまとめる。 *1-3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200322&ng=DGKKZO57075100R20C20A3MM8000 (日経新聞 2020.3.22) 外食・旅行消費に助成 売り上げ急減で重点支援 緊急経済対策 政府は4月にまとめる新型コロナウイルスの感染拡大を受けた緊急経済対策で、売り上げが急減している飲食業や観光業などを重点的に支える。消費者が外食や旅行に支払う料金の一部を国が助成する制度を検討する。この個人消費への助成策(総合2面きょうのことば)の関連予算は1兆円規模になる可能性がある。新型コロナが直撃している産業に的を絞って強力な支援を実施し、関連業界の雇用を維持する。訪日外国人の減少に加え、政府が要請している大規模イベントの自粛でスポーツ行事やコンサートなどを中止・延期する措置が相次ぐ。旅行や外食を控える動きも広がっており、関連業界は大きな打撃を受けている。政府は観光や飲食のほか、イベント関連支出なども助成の対象にする方向で検討する。飛行機や新幹線など公共交通機関も対象に含める可能性もある。利用者の国籍は問わない。焦点となる国の助成率は今後詰める。たとえば20%を助成することになった場合、飲食店で一定の条件を満たして1000円の食事をしたら800円を消費者が負担し、残りを国が助成することを想定する。助成の仕組みは、政府が各店舗や宿泊施設などで割引となるクーポンを発行したり、インターネット上のホテルや飲食店などの予約サービスを使って支払いをした際に、一部をポイントで還元したりする案がある。高齢者はお金と時間に余裕がある人も多く、高齢者に限って通常より高い補助率を設定して、消費を一段と促すことも想定している。実施期間などは新型コロナの状況をみて判断する。飲食業や観光業などでは、赤字に転落する中小企業が続出することが予想される。そうした中小企業は赤字の規模に応じ、前年度までに支払った法人税の一部を還付してもらうことができるようにもする。「繰り戻し還付」と呼ばれる制度で、災害時には還付対象の企業を広げる規定もある。国税庁は大規模感染症も災害に該当しうると判断している。 *1-3-4:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57269620W0A320C2MM8000/?n_cid=NMAIL006_20200326_Y (日経新聞 2020/3/26) G7、新型コロナワクチン開発支援へ 研究機関に拠出 日米欧の主要7カ国(G7)の各政府は、新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)を受け、ワクチン開発支援で実績のある国際研究機関に数十億ドル規模を拠出する方向で調整に入った。民間では巨額の資金を出しにくいため、公的な資金を国際協調で集中させて早期の開発・実用化をめざす。中国やインドなど20カ国・地域(G20)に加盟する新興国にも参加を呼びかける。資金拠出の対象として検討しているのは、ノルウェーに拠点を置く官民連携でワクチン開発を推進する国際機関、感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)。日欧などの政府の拠出で2017年に発足した。エボラ出血熱のような世界規模の流行が生じる恐れのある新興感染症に対するワクチン開発推進を主な活動目的としている。今週実施したG20財務相・中央銀行総裁やG7財務相の電話やテレビの会議では、ワクチン開発を効率的に進めるため、先進国を中心に共同で財政支出する必要性で合意していた。日本政府も数百億円を軸に拠出を検討する。中国やインドなどG20加盟国にも協力を求めていく。CEPIは少なくとも20億ドルが必要と試算している。今回のような未知の感染症は流行が続くのか短期で終息するのか判断がつきにくいため、民間企業はワクチンの開発に巨額の資金を投じにくい。このため各国の政府が出し合ったお金をもとに、CEPIが企業や研究所、大学の開発を援助し、治験を加速する考えだ。コロナウイルスが原因の中東呼吸器症候群(MERS)のワクチン開発を支援した実績があり、技術転用も期待できる。ワクチンは有効性を確認するための期間が治療薬よりも長く、開発に時間を要する。年単位の時間がかかることが一般的だ。CEPIが主体となって開発に成功した場合でも、日本で使うためには厚生労働省から承認を得ることが必要になるが、弾力的な運用も可能となりそうだ。厚労省は新型インフルエンザが流行した10年、輸入ワクチンについて手続きを簡略化する特例を承認した。 <ハンセン病差別> *2-1:https://digital.asahi.com/articles/ASM6X56YGM6XUTIL02G.html (朝日新聞 2019年6月29日) らい予防法違憲判決から18年、家族の被害にようやく光 ハンセン病の元患者の家族らが起こした訴訟で、熊本地裁はその苦しみを「人生被害」と指摘し、国に賠償を命じた。原告弁護団は高く評価し、今も消えない差別や偏見をなくす契機になればと期待する。一方、国側は今後の対応について明言を避けた。「画期的な判決だ。らい予防法廃止後も偏見と差別を除去しなかったことについて違法性を認めた」。判決後の記者会見で、弁護団の八尋光秀共同代表の表情は硬いままだったが、言葉は力強かった。就学拒否、結婚差別、就労拒否……。判決は、ハンセン病患者の家族について「人格形成や自己実現の機会が失われ、家族関係の形成が阻害された」と指摘した。国が患者の隔離政策を続けたことによって、家族までもが平穏に生活をする権利を侵害されたとして、明確に国の責任を認めた。ハンセン病は、らい菌による感染症。感染力は極めて弱いが、進行すると手足や顔に変形が起きうる。国は1931年に癩(らい)予防法を成立させ、患者の強制隔離政策を推進。戦後「らい予防法」と名を変えた法が廃止されたのは、半世紀以上が経った後の96年だった。元患者が起こした訴訟で熊本地裁は2001年、「予防法の違憲性は明らか」と断じたうえで、「60年以降、96年の法廃止まで、隔離の必要性が失われたことに伴う政策の抜本的な変換を怠った」と厚生相(当時)や国会の責任を認めた。28日の判決はこの判断を踏襲しつつ、96年以降も「偏見差別を取り除くため、正しい知識を普及する活動を行うべき義務を尽くさなかった」と、国の新しい責任を認定した。28日の判決は、人権啓発を担う法務相と、教育を担う文部相・文部科学相の責任に踏み込んだ点でも、01年の判決と異なる。予防法の廃止後も、法務相は「住戸や職場などへの働きかけがなく、活動として不十分だった」と判断。文部相は「教員に対し、誤った教育をしないよう適切な指導」や「差別の是正を含む人権啓発教育」が必要だったのに、怠ったと述べた。判決は一方で、02年以降は「不十分ながら、国などの人権啓発活動の効果が一定程度生じた」として、国の責任を認めなかった。01年の判決や政府の控訴断念、国会謝罪決議などの動きがあったことで、「02年以降は差別被害があっても、隔離政策が原因だったとはいえない」とした。今回の訴訟では、「不法行為を知ってから3年以内に提訴したか」という時効の起算点も争点だった。判決は、元患者の家族が鳥取地裁に起こした訴訟の判決が言い渡された15年を起算点とすることで、原告側の訴えを有効と認めた。鳥取地裁判決は請求を棄却しつつ、差別への対策を怠った国の過失に言及しており、熊本地裁への集団提訴のきっかけとなっていた。 ●救済への課題これから 元患者について国の責任を認めた、01年の判決確定から20年近く。なぜ、家族たちの苦しみに光が当たらなかったのか。「元患者に対する差別や偏見をどうなくしていくかが、あまりにも大きな課題だった。家族の問題までたどり着けなかった」。01年当時に厚生労働相で、控訴断念を決めた協議にも加わった坂口力さん(85)はこう振り返る。28日の判決の後には「家族に被害があったのは事実。裁判の結果にかかわらず、どう解決するかは、我々の大きな課題だ」と話した。家族訴訟弁護団共同代表の徳田靖之弁護士も、「差別と偏見に包まれ生きてきたから、元患者の家族であるという声を非常に上げづらかった」と説明する。元患者の訴訟に加わった遺族はわずかで、実名を公表できた人はほとんどいなかった。元患者の中には、「家族が悲惨な目に遭った。だからこの裁判をするんだ」と訴えた人がおり、弁護団も家族の被害は認識していたが、徳田弁護士は「自分たちが正面から採り上げ、提訴することを怠った」と悔やむ。ハンセン病に対する差別や偏見は根強く残る。13年には誤った認識を持った教員の授業を受けた小学生らが、「骨が溶ける病気」などと感想文を書き、教育委員会が翌年に謝罪したこともあった。28日の判決もこのことに触れ、「正確な知識に基づいた指導がなければ、社会から差別を除去することは困難だ」と指摘した。徳田弁護士は判決後の記者会見で、「国が総力を挙げて差別と偏見の解消に取り組まなければならないと認めたことは大きな前進」と述べ、こう強調した。「国に控訴させないという、大きなうねりを起こすことで、家族が置かれている状況を本質的に変えることが可能になるのでは」 ●求められる政治判断 ハンセン病について正しい情報を発信し、患者の家族への差別や偏見をなくすための義務を怠ったと認定された3省には、動揺が広がった。根本匠厚生労働相は記者団の取材に応じ、「国の主張が認められなかったと聞いている。今後の対応については、判決内容の詳細を確認した上で、各省庁と協議していきたい」と述べた。さらに質問を受けても「関係省庁と協議していきたい」と繰り返し、明言を避けた。厚労省内でも判決直後、担当部署の職員が慌ただしく出入りした。控訴するかどうかについて、ある職員は「判決は法務省や文科省の違法性にも触れている。我々だけでは決められないだろう」と話した。山下貴司法相は判決後、「判決内容を十分精査し、関係省庁と協議した上で、適切に対応する。ハンセン病をめぐる偏見・差別をなくし、理解を深めるための啓発活動を適切に実施する」とコメントした。一方、ある法務省幹部は「ここまで踏み込んで来るとは予想していなかった」と驚きを隠さない。「あまたある差別の中からハンセン病に的を絞った人権啓発を求めるのは、要求が高すぎる」と話した。文部科学省によると、人権教育を担う教師を対象とした研修会でハンセン病について説明するなどしてきた。担当者は「取り組みは裁判で示しているが、その上での判決。判決文をよく読んでみないと何とも言えない」と語る。元患者の裁判では原告の勝訴後、小泉純一郎首相(当時)が政治判断で控訴を断念し、判決を元に被害者の補償立法がなされた。元患者の家族についてはどうか。首相官邸関係者の一人は「まだ政治判断の段階ではない」と語る。菅義偉官房長官は28日午後の記者会見で「国の主張が認められなかったと報告を受けている。関係省庁で判決内容を精査した上で対応する」と述べるにとどめた。 *2-2:https://digital.asahi.com/articles/ASMCB6GNCMCBUTIL1MP.html (朝日新聞 2019年11月16日) 加害者でなく被害者だった家族 ハンセン病差別の根深さ 長年にわたる国の隔離政策で、ハンセン病の元患者は社会からの偏見や差別に苦しんできた。裁判で国の責任が認められて元患者に補償がされた一方、差別にさらされながら顧みられてこなかったのが、元患者の家族たちだ。家族たちが起こした訴訟で、国に賠償を命じた熊本地裁の判決をきっかけに、家族への補償金支給を定めた補償法が15日に成立し、名誉回復に取り組むための法改正が実現した。元患者たちの取材を長く続けてきた北野隆一編集委員は、家族が起こした訴訟に当初、ある違和感を持っていた。それが「認識の浅さ」だったと思い知らされた経緯を振り返った。 ●「家族が社会復帰の壁」という思い違い ハンセン病の隔離を定めた「らい予防法」が1996年に廃止される前から、元患者への取材を続けてきたが、2016年に提訴された家族訴訟の取材は、初めは気が進まなかった。複数の元患者から「家族が社会復帰の壁になっている」と聞いていたからだ。元患者らは家族に迷惑がかかるからと療養所内で偽名を使っていたが、隔離政策を誤りとして国の責任を認めた01年の熊本地裁判決を機に実名に戻り、故郷に帰ろうとした。だが家族が受け入れず、死んでも実家の墓に骨を引き取ってもらえない――。そんな話だった。だが家族訴訟が結審した後の今年3月、東京で開かれた集会で原告らの話を聞き、私は自分の認識の浅さを思い知った。家族らがときに元患者に冷たく接したのは、日本社会から受けてきたすさまじい差別から身を守るためだった。家族は加害者というより、被害者だったということだ。社会の片隅で息を潜め、沈黙を続けていた家族の心を解きほぐすきっかけは、家族らが定期的に集まる「れんげ草の会」を、熊本で国宗直子弁護士が続けてきたことだった。その会で10年以上かけて家族らの話を聞いた福岡安則・埼玉大名誉教授と黒坂愛衣・東北学院大准教授が聞き書きを本にまとめたことで被害が可視化され、家族らの提訴に結びついた。成立したハンセン病家族補償法は前文で、家族が強いられた「苦痛や苦難」の重大性が認識されず、取り組みがされなかったことについて国会と政府が「深くおわびする」と明記した。知らなかったから許されるわけではないが、家族らが自ら差別の被害を語り始めた今は、もう見ぬふりはできない。補償法にうたわれた日本社会の偏見・差別を「根絶する決意」が問われているのは、国だけではない。 <「犯罪者≒精神障害者」とする精神障害者差別> *3-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/202002/CK2020021102000137.html (東京新聞 2020年2月11日) 相模原殺傷公判 「大麻精神病が影響」弁護側の医師、鑑定否定 相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者ら四十五人が殺傷された事件で、殺人罪などに問われた元施設職員植松聖(さとし)被告(30)の裁判員裁判の第十三回公判が十日、横浜地裁(青沼潔裁判長)で開かれた。被告の精神状態を調べた工藤行夫医師が弁護側証人として出廷し「被告は大麻乱用による大麻精神病で、判断力が著しく低下していた」と述べ、大麻の影響はないとした精神鑑定結果を否定する考えを示した。工藤医師は、関係者の供述調書や植松被告との面接などを踏まえ、事件一年前の二〇一五年ごろ、被告が大麻を乱用するようになり、信号無視や速度違反、けんかなどの問題行動が増えた点に注目。「障害者は不幸をつくる」との思考から「殺す」という考えに至った点には大麻乱用による「飛躍や病的な高揚感」があったと指摘。短時間に四十三人の入所者を殺傷した犯行そのものが「並外れたエネルギーと驚異的な行動力がなくてはできない。全ての行程に異常な精神状態が認められる」と話した。前回七日の公判での尋問で「大麻による行動への影響はなかったか、あっても小さかった」とした大沢達哉医師の鑑定結果について、工藤医師は「大麻による影響を著しく低く評価している」と否定した。公判の争点は刑事責任能力の有無や程度。検察側は「大麻の使用は犯行の決意が強まったり時期が早まったりしたにすぎず、完全な責任能力がある」と主張。弁護側は無罪を主張している。 *3-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/500533 (佐賀新聞 2020.3.16) 相模原殺傷、植松被告に死刑判決、責任能力認定、横浜地裁 相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で2016年7月、入所者ら45人が殺傷された事件の裁判員裁判で、横浜地裁(青沼潔裁判長)は16日、殺人罪などに問われた元職員植松聖被告(30)に求刑通り死刑判決を言い渡した。障害者が狙われ、19人もの死者を出した事件。判決は、差別的な主張を繰り返した植松被告の事件当時の刑事責任能力を認めた。被告は初公判で起訴内容を認めたが、弁護側は、心神喪失状態で責任能力がなかったとして無罪を主張していた。争点となった責任能力について、検察側は「パーソナリティー障害」と判断した精神鑑定結果を引用し、特異な考えは人格の偏りにすぎず、正常心理の範囲内と述べた。大麻の影響も少なく、完全責任能力があったとして死刑を求刑していた。弁護側は、大麻による精神障害と反論。乱用によって人格が急変したと強調し、差別的な考えが事件にまで発展したのは「病的な飛躍」で、大麻の高揚感で引き起こしたと訴えていた。公判で被害者は1人を除き匿名で審理。傍聴席内に設けた遺族らの席はついたてで遮蔽する異例の措置を取った。起訴状によると、16年7月26日未明、入所者の男女を刃物で突き刺すなどして19人を殺害、24人に重軽傷を負わせたとされる。また職員5人を結束バンドで廊下の手すりに縛り付け、2人を負傷させたとしている。 *3-3:https://digital.asahi.com/articles/ASMD54FDFMD5UTIL013.html?iref=comtop_8_03 (朝日新聞 2019年12月5日) 「生きる気力なくなった」遺族落胆 熊谷6人強殺の判決 埼玉県熊谷市で2015年、7~84歳の6人を相次いで殺害したなどとして、強盗殺人罪などに問われたペルー国籍のナカダ・ルデナ・バイロン・ジョナタン被告(34)に対し、東京高裁は5日、統合失調症の影響で心神耗弱状態だったと判断し、一審の死刑判決を破棄。改めて無期懲役の判決を言い渡した。判決後、殺害された加藤美和子さん(当時41)ら妻子3人をなくした男性(46)らが都内で会見を開いた。「死刑がひっくり返ることはないと思っていた。裁判官は都合のいいところだけを見て判断した。やりきれないし、納得がいかない」と憤りをあらわにした。法廷で判決を聞いた瞬間、「何も言葉が出なかった」という。男性は「家族を失ってから、どうにか生きていこうと踏ん張ってきた。家族にどう報告したらいいのか……生きる気力がなくなったというのが今の気持ちです」と話した。会見に同席した遺族側代理人の高橋正人弁護士は「一審判決は被害妄想への影響を認めつつも、被告の行動は合理的で説明がつくと判断した。高裁は、被告の供述をことさらに持ち出し、行動制御能力がないと結論づけている。明らかに見誤っている」と批判。検察側に上告するよう求めたことを明らかにした。 *3-4:https://digital.asahi.com/articles/ASN3B5WR9N32UTFL01G.html?ref=weekly_mail_top (朝日新聞 2020年3月15日) 障害ある子生まれ「おめでとう」と言えますか 木村議員 相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で利用者19人の命が奪われるなどした事件の判決が、16日に予定されている。元職員である被告の言葉をどうみるか。事件が繰り返されないためには――。重い身体障害があり、18歳までの大半を施設で暮らした、れいわ新選組の木村英子参院議員(54)は、障害のある子の誕生に「おめでとう」と言える社会かどうかを問う。どういうことなのか。 ●殺されていたのは私かも 彼の言葉は心の傷に触れるので、集中して公判の報道を見ることができませんでした。施設にいたころの傷ついた自分の気持ちに戻っていくのです。 (裁判で被告は「意思疎通のとれない人は社会の迷惑」「重度障害者がお金と時間を奪っている」などと語った) 彼が言っていることはみなさんにとっては耳慣れなくて衝撃的なのでしょうが、同じような意味のことを私は子どものころ、施設の職員に言われ続けました。生きているだけでありがたいと思えとか、社会に出ても意味はないとか。事件は決してひとごとではありません。19歳で地域に出ていなければ、津久井やまゆり園に入所していたかもしれない。殺されていたのは私かもしれないという恐怖が今も私を苦しめます。私は横浜市で生まれ、生後8カ月のときに歩行器ごと玄関から落ち、首の骨が曲がる大けがをして重い身体障害を負いました。小学5年から中学3年の5年間を除き、18歳までの大半を施設で暮らしました。入所は親が決めました。重い障害のある私に医療や介護を受けさせたいという責任感と、施設に預けなければ家族が崩壊しかねなかった現実からです。私には24時間の介護が必要です。親は疲弊し、一家心中をしようとしたことも何度かあった。親が頼れるのは施設でした。やさしい職員もいましたが、私にとっては牢獄のような場所でした。施設が決めた時間に食事をしてお風呂に入って、自分の暮らしを主体的に決めることがない。食事を食べさせてもらえないことも。一番嫌だったのは「どうせ子どもを産まないのに生理があるの?」という言葉です。全ての施設がそうだとは思いませんが、私がいたのはそういう施設でした。時代が変わっても施設とはそういうものだと私は思っています。プライバシーも制限され、自由のない環境で希望すら失い決まった日常を過ごす利用者を見た人たちが、「ともに生きよう」と思えるでしょうか。偏見や差別の意識が生まれたとしても不思議ではありません。私は、被告だから事件を起こしたとは思えない。 ●公園で浴びた排除の視線 (裁判では、新たな事実が明るみに出たものの、事件に及んだ動機や真相は十分には解明されなかった。同じような事件を繰り返さないためにどうすればいいのか) 被告を罰しただけでは社会は変わらない。第2、第3の被告を生まないためには、子どものころから障害者とそうでない人が分け隔てなく、地域で暮らせる環境をつくることが必要です。私が望むのは、障害のある子どもが生まれたとき、「おめでとう」と言える社会。私は親から施設に捨てられた、歓迎されない命だという思いを抱いて生きてきました。うしろめたい存在だと思うことも、絶望感のなかで仕方のないことだとあきらめていた。歓迎されない命などない、と気づいたのは19歳で地域に出てからです。23歳で結婚し、息子を出産しました。不安だったのは、子どもをかわいいと思えるかでした。母に抱かれた記憶があまりない私は、母に対する愛情が持てなかった。でも出産した時は、子どもへのいとおしさがこみあげました。公園デビューをしたときのことです。息子と子どもたちが砂場で遊んでいるのを、車いすに乗った私が近くで見ていました。だれも私が母親だとは思っていない。私が息子に声をかけ、私が母親だとわかった瞬間、周りのお母さん方が自分の子どもを抱き上げて帰ってしまった。自分の子どもが私に近づくと「そっち行っちゃダメ」。小学校の授業参観でも教室が狭くて、他のお母さんたちが入れないので「詰めていいですよ」と言っても、半径1メートル以内には近寄ってこない。私と関わると厄介なことになる、巻き込まれたくない、といった意識が働くのでしょう。本人たちは差別とは思っていませんが、あからさまな差別です。障害のある人とそうでない人を分けることによってお互いが知り合う機会を奪われることから差別は生まれます。社会から排除することそのものが差別なのです。地域で暮らして35年。福祉サービスは増えましたが、重度訪問介護が就労中などに公的負担の対象外だったり、移動支援が自治体により差があったり。普通学校への入学が重度障害を理由に認められない例もある。こうした課題をみんなで解決できたとき、障害のある子が生まれて「おめでとう」と言える社会になる。それが事件を乗り越えることになるのではないでしょうか。 *3-4:https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2020032201001730.html (東京新聞 2020年3月22日) 知的・精神障害者は雇わず41% 自治体調査、13%は募集除外 全国の自治体(1788)を対象とした共同通信アンケートで、首長部局に知的、精神障害者を一人も雇用していないと回答した自治体が少なくとも41%の731自治体に上ることが22日、分かった。全体の13%に当たる230自治体は、一般職員(短時間を含む)の募集条件から知的、精神障害者を除外していた。障害者雇用を巡っては、中央省庁で2018年夏に採用人数の水増しが発覚。厚生労働省は同年12月、特定の障害種別によって応募を制限しないよう自治体に通知した。しかし知的、精神障害については、体調管理や仕事の創出が難しいことを理由に、障壁が解消されていない実態が浮かんだ。 *3-5:https://keiji-pro.com/columns/164/ (弁護士法人プラム綜合法律事務所、梅澤康二弁護士より抜粋) 刑法第39条の概要|責任能力有無の判断基準と39条が適用される対象 刑法第39条には『刑事責任能力のない人は処罰の対象外とする、または、処罰を軽減する』という記述がされています。法律に違反したなら処罰されるのが当然に思えますが、なぜこうした犯罪者をかばうような法律があるのでしょうか。それは、違法な行為を行った者に対して責任を問うために、事理弁識能力(物事の善し悪しが判断できる能力)と行動抑制能力(自身の行動を律することができる能力)が必要とされているからです。例えば、事情のわからない赤ん坊が誤って機械のスイッチを押してしまい、それによって被害者を負傷させたとします。この場合、赤ん坊を罪に問えません。しかし、責任能力がなかったとしても罪を犯したことには変わらないので、納得がいかない人も多いかと思います。この記事では、刑法第39条についてみていきましょう。 ●刑法第39条とは 以下が刑法39条です。 (心神喪失及び心神耗弱) 第三九条 心神喪失者の行為は、罰しない。 2 心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。(引用元:刑法第39条) ●刑法第39条の対象になる人 刑法第39条が適用されるのは、次のような人たちです。 ●精神障害者 精神障害者の中でも、行為の善悪の判断がまったくつかない人は“心神喪失者”として、判断能力が著しくつきにくい状態の人は“心神耗弱者”として扱われます。 ●泥酔状態者・薬物乱用者 精神障害を持っていなくても、上と同様に、行為の善悪の判断がまったくつかない人や判断能力が低い人ならば、刑法39条の適用対象になります。しかし、自らの意思で泥酔状態に陥ったような場合は、完全な刑事責任を問われる可能性もあるでしょう。 ●刑法第39条が適用された事例 心神喪失が認められ、無罪・不起訴となった事例 睦沢町で2014年2月、井戸掘削会社社長の男性=当時(61)=が自宅に侵入してきた男に刺殺された事件で、殺人などの罪に問われた無職の男(64)に対し、心神喪失として無罪を言い渡した千葉地裁判決について、千葉地検は30日、控訴を断念したことを明らかにした。控訴の期限の同日が過ぎれば、男の無罪が確定する。地検は「判決の内容を精査、検討したが、原判決を覆すことは困難と判断した」とコメント。今後、心神喪失者等医療観察法に基づく措置を地裁に申し立てる。千葉地裁は16日、男の殺害行為を認めたうえで、「統合失調症の影響を強く受けており、行動を制御することが困難だった。心神喪失状態だったとの合理的な疑いが残る」と述べ、男を無罪とした。検察側は「男は心神耗弱の限度で責任能力はある」と主張し、懲役10年を求刑していた。(引用元:睦沢男性刺殺事件 検察側が控訴断念 心神喪失で無罪判決 | 千葉日報オンライン) ●心神耗弱が認められ、減軽された事例 東京都世田谷区の自宅で今年1月、生後3カ月の長女を浴槽に沈めて殺害したとして、殺人罪に問われた無職、鈴木由美子被告(39)に対し、東京地裁の裁判員裁判は30日、懲役3年、執行猶予5年(求刑・懲役4年)の有罪判決を言い渡した。島田一裁判長は「子を守るべき立場にありながら、水に沈めるなど犯行態様は悪い」と非難する一方、事件当時は心神耗弱状態だったと認め「治療の必要性が高い」として執行猶予を付けた。(引用元:東京地裁:乳児殺害 母に猶予判決 心神耗弱認める - 毎日新聞) <法定後見制度> *4:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/562768/ (西日本新聞 2019/11/26) 適正な類型、どう判断 「後見偏重」修正これから 【成年後見はいま・3】90代の男性が、質問によどみなく答えていく。「息子さんは来ます?」「全く。来ませんね」。福岡県内の高齢者施設。面会に訪れた50代の男性司法書士に「でも、そろそろ来るんじゃないかな。プレゼントをあげたから」。数年前の出来事を口にした。男性は成年後見制度を利用する。法定後見にある三つの類型のうち、判断能力の低下が中間程度の「保佐」とされた。この司法書士が保佐人として生活支援や財産管理に当たる。制度の助けを借りたのは、息子にたびたびお金を渡していたため。施設に来た息子と銀行に向かい、多い日は80万円ほど。渡した額が計400万円近くになった時、施設側が専門家に相談した。司法書士が保佐人になっても要求は続く。1回20万~30万円。男性本人に伝えると「あげてください」。数日空けて「この前の件、本当に振り込んでいいんですか」と尋ねると、理解できていないことがある。貯金は減っている。息子に一度、「お金は親族の体調不良のため」と言われ、親族に確認してみた。返ってきた言葉は「連絡は取っていません」だった。 ∞∞ 法定後見は、判断能力が低い順に「後見」「保佐」「補助」の3類型がある。後見になると最も広い範囲で法的な手助けを受ける。保佐はこれが後見より狭くなり、逆に本人の意向がより尊重される。司法書士は、この本人の意思の尊重と、保佐人に課せられた財産管理の間で悩む。もし息子のきょうだいに「なぜ1人にだけ財産を渡すのか」と問われたら、責任を取れないとも思う。歯止めをかける方法はある。「類型を後見に変更する」「息子に一定額を送金する際は保佐人の同意を必要とする」ことを家庭裁判所に認めてもらえばいい。しかし、本人は一定の認知機能があり、息子のことを悪くは思っていない。自己決定権の尊重という制度の理念に、それは反しないか-。家裁に相談したが、納得いく答えはなかった。国は今、制度を普及させるため保佐と補助を増やす考えを示す。利用者の約8割を後見が占めている現状は、保佐や補助相当の人が手を挙げていないと見ているためだ。今月は、後見人らが勝手に判断せず、本人の意思を尊重する指針案を公表した。利用者に合った類型を当てはめ、意思も重視するという基本があらためて注目されている。ただ、司法書士は思う。「単に保佐や補助を増やすだけでいいのか疑問だし、意思を尊重するにも男性のような例がある。そんな時の対応も考えるべきだ」。後見に慣れた現場を変えるのも容易ではない。後見人は保佐人や補助人より強い権限で、本人を手厚く守ることができる。家裁や専門家、どの類型が適当か診断する医師の間には「後見にしておけば間違いはない」という意識が強い。九州のある司法書士は「保佐や補助は本人ができることと、できないことの見極めが難しい。ほぼ全てを任される後見の方が正直、仕事は楽」と打ち明けた。 ∞∞ その類型を巡り現場で意見が食い違うこともある。福岡県の女性(69)は頭の病気で倒れ、保佐を申し立てることにした。しかし、医師の診断書は「後見相当」。担当した40代の男性司法書士は「本人の状態に合わない」と、そのまま保佐を申し立てた。家裁が鑑定を行い、出した結論は保佐。鑑定費用約7万円は女性の負担になった。司法書士は「後見になると、本人ができることでも後見人が代わりにしてしまう。本人の能力を生かす類型は何か、もっと考える仕組みが必要」と語る。こうしたこともあり、国は今年4月、類型が記憶力や理解力を反映したものになるよう診断書の様式を改めた。福祉関係者が生活状況などを書く「本人情報シート」も作り、判断する材料を増やした。個人に合う類型を選び、意思を尊重する理念に立ち返ろうとする国と、後見偏重が染み付いた現場。理念とかみ合わぬ運用の修正はこれからになる。 × × 【ワードBOX】法定後見の3類型 法定後見は、判断能力がほとんどない人は「後見」▽著しく不十分な人は「保佐」▽不十分な人は「補助」-の3類型がある。支援するのは後見人、保佐人、補助人。本人に代わって契約を結ぶ「代理権」、本人が結んだ不当な契約を取り消す「取り消し権」、本人が契約をする際、同意できる「同意権」があり、類型ごとに与えられる権限は異なる。後見人は代理権と取り消し権があり、日常生活に関する行為を除いて幅広い法的権限が与えられる。 <緊急事態宣言から緊急事態条項にならないために・・> PS(2020年4月1、2、4、6、9、11日):メディアには「緊急事態宣言を出して欲しい」という論調のものが多いが、その原因は、*5-1のように、諮問委員会メンバーの釜萢日本医師会常任理事による「緊急事態宣言を出す時期だ」という発言や指示待ち族が多い国民性だろう。しかし、東京・大阪で患者数が増加しても、院内感染による多数の患者発生もあり、他の地域に患者の急増はないため、新型コロナにかこつけた「何でもあり」は危なすぎる。むしろ過度の外出自粛要請・指示は経済をストップさせ、消費税増税による消費減退に加えて経済活動をストップさせ、企業の倒産や雇用の消滅により別の意味で生命の危険に遭遇する人を増やしそうだ。 WHOは、*5-3のように、世界各地で導入が進む移動制限について、「都市封鎖などの措置は、移動の自由を侵害するため慎重にやらなければならない」と指摘し、安易な運用を戒めている。実際に、*5-4・*5-5のように、新型コロナによる制限が実体経済に与えた影響は大きく、観光業界やイベント業界だけでなく、美容業界はじめ不特定多数の客を扱う店舗へのマイナスの影響が大きい。そのため、*5-6の治療薬アビガンなどはとっくに治療に使っているべきなのに、今から治験とは驚きだし、治療の前提となる検査も十分に行われていないので、「本当に治療する気があるのか?」と思うくらいだ。 また、政府は、*5-2のように、新型コロナをきっかけとして携帯電話会社やIT大手に利用者の位置情報や検索ワード履歴を集めた統計情報の提供を要請したそうだが、これも新型コロナにかこつけたプライバシーの侵害であり、これは興味本位や営業目的にも使えるものだ。 さらに、「医療崩壊・・」という言葉も何度も聞いたが、*5-5のように、観光客の急減で破綻しそうなほど客が減っているホテルなどを軽症者の隔離に利用し、きちんと管理して入院施設の不足を防げばよいだろう。 安倍首相が、*5-7のように、新型コロナ感染拡大防止のため布マスクを全世帯に2枚ずつ配る方針を示されたことについて、私は賛成だ。50年前の日本は、ガーゼを重ねたマスクが普通で、洗って何度も使うのが常識だった。現在は、中国製の紙マスクを使い捨てにするのが普通であるため、それしか知らない人は「布マスクは防護機能が低い」と言って品不足になっているが、布マスクも生地の選び方や重ね方で機能は変わり、紙マスクのように隙間ができないため防護機能をより高くできるかもしれない。また、*5-8のように、高級ファッションブランドのバレンシアガとサンローランが、同ブランドでマスクの生産を開始すると発表し製造に向けて準備中で、グッチもトスカーナ地方のファッション企業から要請を受けて数週間以内に110万枚のサージカルマスクと5万5000着の医療用オーバーオールを寄付する予定だそうだ。そのため、せっかくなら機能的でおしゃれなマスクや医療用オーバーオールができればよいと思う。さらに、*5-9のように、政府が自動車メーカーに人工呼吸器の部品を生産するよう求める動きが相次いでおり、米国はGMに生産を指示し、英国はマクラーレンが生産を計画しているそうだ。また、重症患者には「体外式膜型人工肺」が使われるが、数が少ないためニプロが増産準備を進めているとのことである。一般に、医療機器は、自動車や家電と比較して構造が簡単であるにもかかわらず、(顧みられることが少なかったためか)ちゃちな製品が多い。そのため、外国メーカーの臨機応変の対応に感心するとともに、改良に期待するわけだ。このような中、感染防止のために常時マスクをつけている医師が、メディアで「マスクは感染防止効果がない」などと言っているのは、自己矛盾であるとともに知識と見識が疑われる。 厚労省が、*5-10のように、病院は重症者の治療に専念できるよう、軽症者や無症状の感染者は自治体の用意する施設・ホテル・自宅での療養を検討するよう、4月2日付で都道府県などに通知したことを受けて、東京・大阪だけでなく福岡でもホテル等の確保に向けた動きが出ているそうだ。私は、自宅療養すれば家族や周囲に感染させそうであるため、14日間くらいならホテル等できちんと管理しながら療養できる体制にした方が、皆にとって負担が少ないと考える。 なお、*5-11のように、埼玉県では病床不足でホテル等での療養も検討しているが、そのホテルがまだ決まらないそうだ。しかし、自宅待機している間に重症化しては困るので、これは一刻を争うことで、診断がついて軽症の人を移すホテルを早々に決めるべきだ。そして、オリンピックが延期になり、ビジネスや観光もストップしているため、これは比較的容易な筈で、他の都道府県でも同じだろう。 2020年4月11日、佐賀新聞が、*5-12のように、イリノイ大の研究者が「布マスクはウイルスの拡散や取り込みを防ぐには不十分で、感染防止効果が低い」という調査結果を発表し、厚労省は軽症者らが自宅療養する場合は感染対策として「サージカルマスク等の着用」を挙げたと記載している。しかし、サージカルマスクが手に入らなければ布マスクを使うしかない上、布マスクも下の図のように工夫次第であるため、厚労省は、PCR検査を待っている間に軽症者を重傷者にすることなく、速やかに検査を行って治療を開始できるよう、検査が必要な人に過度に待機させる帰国者・接触者相談センターや保健所を通させるのをやめるべきである。 帰国者・接触者相談センターや保健所が検査のネックになっていることは、*5-13のように、さいたま市の西田保健所長が、「病院があふれるのが嫌で(検査対象の選定を)厳しめにやっていた」と言っていることから明らかだ。そして、これは、さいたま市だけの問題ではなく、厚労省の考え方そのものであり、軽症者を重傷化させたり、感染者を増やしたりすることに大きく“貢献”しているため、本末転倒も甚だしいわけである。 (図の説明:1番左は、広島県の下着メーカーが伸縮性のある生地で作ったマスク、左から2番目は、今治産タオルのマスクだ。また、右の2つは、手作りマスクで、特に子供用にはかわいい柄付きや動物の鼻付きマスクも面白く、喜んで使ってもらえそうだ。なお、下のように工夫された生地もあるので、三密になりがちな国会議員は、気の利いたマスクをして議論したらどうか?) (図の説明:1番左は、丹後ちりめんに鳥インフルエンザの抗ウイルス加工を施したマスク用生地で、左から2番目は、抗ウイルス加工を施した材料を使う事例だ。そのため、鳥インフルエンザに限らない抗ウイルス加工した資材を、特に駅・病院・ホテル・バス・列車などの公共空間に使ったらどうかと思う。右から2番目は、抗ウイルス加工した丹後ちりめんの説明で、一番右は、綿布に同じ加工を施した説明で、織物はじめ資材も進歩させることができるわけだ) *5-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/202003/CK2020033102000172.html (東京新聞 2020年3月31日) <新型コロナ>「緊急事態宣言 出す時期」 政府諮問委の日医幹部 新型コロナウイルス感染症の急拡大で緊急事態宣言を出す際に政府が判断を仰ぐ諮問委員会のメンバーを務める釜萢敏(かまやちさとし)日本医師会常任理事は三十日の記者会見で、宣言について「個人的には発出し、それに基づき対応する時期ではないかと思う」と話した。政府は、東京都を中心とした感染拡大の現状を踏まえ、発令の要件に適合するかどうか本格的な検討に入った。釜萢氏は、新型コロナウイルスの流行状況などの分析を行い、見解を示す政府の専門家会議と、緊急事態宣言に関する諮問委のメンバーを兼務している。釜萢氏によると、この日の専門家会議メンバーらによる非公式の電話会議でも「もう宣言をした方が良いのではないか」という意見がほとんどだったという。患者が急増する東京では、感染経路が不明の症例が相次ぎ、封じ込め対策が難航。医療機関では防護服やマスクといった必要な物資が不足し、病床(ベッド)が足りなくなる恐れも高まっている。菅義偉(すがよしひで)官房長官は会見で、「ぎりぎりの状態にある。各方面の専門的な知見に基づき、慎重に判断することが必要だ」と強調した。政府は宣言を出した際の経済的な悪影響を懸念してきた。だが、専門家から発令を求める意見が出始めてきたこともあり「そんなことを気にしている場合じゃない」(高官)と急速に危機感を強めている。立憲民主党の枝野幸男代表も「フェーズが変わりつつある。補償とセットになった緊急事態宣言を真剣に検討しなければならない段階に入った」と指摘した。特措法は「国民の生命、健康に重大な被害を与える恐れがある」「全国的かつ急速なまん延により国民生活と経済に甚大な影響を及ぼす恐れがある」の二つの要件を満たせば、首相が宣言を出せる。政府は既に「生命、健康に重大な被害」は該当するとしている。発令されれば、対象となった都道府県の知事が外出自粛の要請や、百貨店など大人数が集まる施設の使用制限、学校の使用制限を要請・指示することなどができる。 *5-2:https://mainichi.jp/articles/20200331/k00/00m/010/347000c (毎日新聞 2020年3月31日) 政府、通信事業者に任意で位置情報提供を要請 「クラスター」早期発見狙う プライバシー侵害懸念も 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府は31日、携帯電話会社やIT大手に対し、利用者の位置情報や検索ワードの履歴などを集めた統計情報の任意での提供を要請した。人の流れをビッグデータで把握することにより、クラスター(感染者集団)の早期発見につなげる狙いがある。要請先には、NTTドコモなど携帯電話大手3社のほか、ヤフーや楽天、「GAFA」と呼ばれる米IT大手4社も含まれる。これらの企業の統計データを使い、人が密集しやすい地域を早期に把握して注意を喚起したり、特定の検索語の増加と感染者の増加との関連性を見いだすことで、早期に医療体制を整えたりするといった活用法が期待されている。情報は企業側で匿名化するため「プライバシーの問題はない」(総務省総合通信基盤局)としている。同局は「単にデータだけもらっても政府で分析するのは難しい。データをどう使うか企業に提案してもらい、有効となれば施策に生かしたい」としている。ただ、要請に法的な根拠はなく、強制力はない。ヤフーは取材に対し、「顧客のプライバシー保護が大前提。ビッグデータの力で新型コロナの感染拡大防止に貢献できる方法が無いか検討したい」とコメント。携帯電話大手のKDDI(au)は「個人情報保護法などの法律の範囲内で対応したい」としており、アプリを通じて得られる位置情報の提供などを想定しているという。ITを使った感染防止策を巡っては、欧州各国で外出禁止措置の順守状況を確認するため、政府が通信会社と携帯電話の位置情報を共有する動きが出ている。シンガポールでは、一定の距離で接触した人の履歴を記録し、感染者が出た場合に濃厚接触者を割り出すスマートフォンアプリも開発され、感染源や感染先の特定に使われている。個人情報保護に詳しい日本情報経済社会推進協会の坂下哲也常務理事は「感染拡大防止のためにデータ活用するという方向性は理解できる。企業が政府の要請に応じる場合は、集めたデータをどのように匿名化するかを公表しプライバシー侵害の懸念の払拭(ふっしょく)に努めるべきだ」と話す。 *5-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/202003/CK2020033102000276.html (東京新聞 2020年3月31日) <新型コロナ>「移動制限」丁寧な説明が必須 WHO、安易な運用警鐘 世界保健機関(WHO)で緊急事態対応を統括するライアン氏は三十日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて世界各地で導入が進む移動制限措置について「各国政府は国民に対し、なぜ必要なのかを隠し立てせず、分かりやすく伝えることが肝要だ」と述べ、安易な運用を戒め、丁寧な説明が必須と強調した。ライアン氏は、都市封鎖などの措置は「移動の自由を侵害するので、非常に慎重にやらなければならない」と指摘。また「都市封鎖だけではウイルスを撲滅できない」と述べ、感染疑い例へのウイルス検査や感染経路の特定、隔離といった対策を決して怠らないようくぎを刺した。またテドロス事務局長も、都市封鎖などは感染拡大を遅らせ、医療体制崩壊を防ぐ「時間稼ぎ」には使えるとしながらも「社会保障制度が整っていない国もある」と指摘。「日々の糧を得るために、毎日働かなければならない人がいることを忘れてはならない」と強調し、移動制限や営業停止措置に伴って収入源を失う人々に配慮した対策を取るよう各国に求めた。ライアン氏は「社会が受け入れられるものであるかどうかを、各国政府は最重視しなければならない」と言明。移動制限を導入する場合、人々が順守して実効性のあるものにするためにも「影響を受ける国民の人権や尊厳が尊重されなければならない」と訴えた。 *5-4:https://www.jiji.com/jc/article?k=2020032401260&g=eco (時事 2020年3月24日) 自粛による損害、助成を イベント業界、政府に要望―経済対策・新型コロナ 政府は24日、新型コロナウイルス感染症の実体経済への影響に関する集中ヒアリングを首相官邸で開いた。同日はイベント業界の代表者らが出席。中止や延期で影響を受けているイベント主催者らから、自粛で生じた損害への助成や、再開時に必要となる消毒液やマスクなどの費用負担の要望が相次いだ。チケット販売大手「ぴあ」の矢内広社長は感染拡大の影響でコンサートやスポーツなどの国内イベントが中止・延期となった結果、既に1750億円の損失が生じていると指摘。矢内社長は終了後、報道陣に対し、「自粛要請を受けて自らの判断で中止・延期した人たちへの補助をきちんとしてほしい」と訴えた。 *5-5:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/596774/ (西日本新聞 2020/3/31) 九州初、福岡と佐賀の宿泊施設が経営破綻 新型コロナで観光客急減 新型コロナウイルスの感染拡大による観光客の急減などを受け、九州の2宿泊施設の経営破綻が31日、相次ぎ明らかになった。福岡県うきは市の旅館「原鶴温泉咸生閣(かんせいかく)」は福岡地裁久留米支部に破産を申請。佐賀県武雄市の「武雄センチュリーホテル」の運営会社も破産申請の準備に入り、営業を停止した。東京商工リサーチ福岡支社によると、咸生閣の負債総額は約2億円。新型コロナ感染拡大でキャンセルが相次ぎ、3月中旬から休業していた。創業50年を超える老舗で1998年5月期は売上高約2億5千万円を計上したが施設の老朽化などで集客力が低下。2019年5月期は売上高約7500万円と低迷していた。武雄センチュリーホテルによると、昨夏の記録的大雨や韓国人客の減少で売り上げが減少。新型コロナの感染拡大が追い打ちをかけた。運営会社は瑞穂商事(島根県)で、ホテル従業員約70人は3月31日付で解雇。ホテルを所有する静岡県の宗教法人は「新たな運営会社を早く見つけ、存続させたい」としている。帝国データバンクによると、瑞穂商事などグループ3社はスキー場やリゾートホテルも運営。負債は計約30億円が見込まれる。 *5-6:https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2020033001002562.html (東京新聞 2020年3月30日) 富士フ、アビガン治験開始へ 新型コロナで、増産も 富士フイルムホールディングス(HD)が、新型インフルエンザ治療薬「アビガン」について、新型コロナウイルス治療のための臨床試験(治験)を近く始めることが30日、分かった。増産も進める。アビガンについては、安倍晋三首相が28日の記者会見で、正式承認に向けた手続きを始める考えを示していた。アビガンを開発した富士フイルムHD傘下の製薬会社、富士フイルム富山化学(東京)が病院と連携して行う。感染拡大が深刻化している状況を踏まえ、治験後は早期に承認される可能性がある。生産能力拡大のため他社への生産委託も検討している。 *5-7:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14426289.html (朝日新聞 2020年4月2日) 1世帯2枚ずつ、政府が布マスク 新型コロナ 安倍晋三首相は1日、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために、洗濯して繰り返し使える布マスクを5千万余りある全世帯に2枚配る方針を示した。再来週以降、感染者数の多い都道府県から順次配る。首相官邸で開かれた政府対策本部の会合で明らかにした。 *5-8:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200323-00010002-ampreview-bus_all (AMP 2020/3/23)バレンシアガとサンローラン、マスク生産 グッチは医療用衣類寄付 高級ファッションブランドのバレンシアガとサンローランの親会社であるフランスのケリングが、同ブランドでマスクの生産を開始することを発表した。現在フランスに本拠地を置く同ブランドは、従業員に対して新型コロナウイルスへの十分な対策を行いながら、マスクの製造に向けて準備をしているという。生産工程と原料について正式に認可され次第、すぐに生産を開始するとのことだ。また同社は今回の新型コロナウイルスのパンデミックを受け、中国やイタリアに寄付を実施。さらに同社が運営するファッションブランド・グッチはトスカーナ地方のファッション企業からの要請を受け、今後数週間以内に110万枚のサージカルマスクと5万5,000着の医療用オーバーオールを寄付する予定だという。 *5-9:https://www.nikkei.com/article/DGXKZO57384230Z20C20A3NN1000/ (日経新聞 2020/3/30) 人工呼吸器とは 新型コロナで自動車メーカーも生産 海外では、政府などが自動車メーカーに人工呼吸器の部品を生産するよう求める動きが相次いでいる。米国がゼネラル・モーターズ(GM)に生産を指示したのは、非常時に企業活動を指示できる「国防生産法」に基づく措置。英国ではマクラーレンが生産を計画しているという。重症の患者には「体外式膜型人工肺」と呼ばれる装置が使われる。血液をいったん患者の体外に取り出し、酸素を供給し二酸化炭素を排出してから体内に戻す。日本呼吸療法医学会などが調べた1558施設の設置台数は約1400台で、ほかのタイプより少ない。このためニプロが増産準備を進めている。取り扱いに高度な技量が必要で、扱える医療従事者の不足も懸念されている。 ▼人工呼吸器 自力で呼吸できなくなったとき、肺への空気の出入りを補助する。息を吸う時は装置で圧力を高めて空気を肺に送り込む。吐く時は、圧力を低くして空気を排出しやすくする。気管にチューブを挿し込む一般的なタイプのほかに、口や鼻を覆うマスクタイプがある。使われていない装置が多かったが、新型コロナウイルスの感染拡大で不足する懸念が出てきた。 *5-10:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/597841/ (西日本新聞 2020/4/4) ホテルや自宅療養、福岡も 軽症者対象 厚労省通知受け施設確保急ぐ 厚生労働省は3日、新型コロナウイルスの感染拡大状況に応じて、軽症者や症状がない感染者については自治体の用意する施設やホテル、自宅での療養を検討するよう都道府県などに通知したと発表した。大都市圏では感染が急拡大し、入院患者を受け入れる病床が逼迫(ひっぱく)しつつある。重症者に対する治療を優先し、医療崩壊が起きるのを防ぐ狙い。通知は2日付。これを受けて、病床数不足が懸念されている福岡県内では施設確保に向けて個別のホテルなどと調整する動きが出ている。福岡市の高島宗一郎市長は3日の会見で「ホテルを借り切って軽症者に入ってもらったり、自宅で療養してもらったりする準備を進めている」と述べた。既に、宿泊施設側に意向や予約状況などの聞き取りを進めており、状況が整い次第、重症者以外は原則、病院外で療養させる医療体制に移行する考えを明かした。同県内では、同市や北九州市でクラスター(感染者集団)が相次いで発生。県や福岡市によると、2日現在、同市内の感染症病床8床は満床で、県内の66床も3分の2が埋まっている。感染者を受け入れられる一般病床の確保数は「数十床」で、感染が判明しても入院先がすぐに決まらず自宅待機を余儀なくされているケースが頻発している。新小文字病院の医療スタッフ19人が院内感染した北九州市では、21人の自宅待機が続く。入院先を調整していたさなかの厚労省の通知に担当者は「急激な感染者の増え方を見ると自宅療養など次の準備をしなければならない」と話した。同県の小川洋知事は3日の会見で、「今までも民間宿泊施設の活用ができないかという話はしていて、既に検討している。作業を加速させたい」と述べた。現時点で、感染者を受け入れられる病床に余裕がある大分県も医療体制の移行について検討を始める方針だ。3日までの感染者は31人だが、感染症病床と一般病床を合わせた118床を確保。県の担当者は「病床は重症者を優先しなければならない」と感染拡大期に向けた備えを万全にする構えを示した。 *5-11:https://headlines.yahoo.co.jp/videonews/fnn?a=20200409-00130247-fnn-soci (FNN 2020.4.9) 埼玉の軽症者ら78人入院できず 病床不足でホテルなどでの療養も検討 埼玉県で、新型コロナウイルスの感染者のおよそ3割が、入院できずに自宅などで待機していることがわかった。埼玉県では、これまでに253人の感染者が出ているが、8日の時点で、78人が入院できずに自宅などで待機していて、さらに増える見通し。埼玉県・大野知事「当初から感染者病棟と一般病棟、さらに難しいときは、ホテルだけでなく、病院以外の施設や自宅待機と段階的にやっていく計画を当初から立てていた。正直、受け入れ表明した病院が入れられない状況がある」。埼玉県によると、自宅で待機している感染者は、主に無症状や軽症者で、地元の保健所が1日2回程度健康状態を確認しているという。埼玉県は、今後、ホテルなどでの療養も選択肢として検討するとしている。 *5-12:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/511015 (佐賀新聞 2020.4.11) 米専門家、布マスクの防御力低い、限界指摘「理解し使用を」 布マスクはフィルターとしての機能が弱く、新型コロナウイルス感染を防ぐ効果は低いとする見解を、感染防御などが専門の米イリノイ大の研究者らが11日までに公表した。日本では安倍晋三首相が全世帯に2枚配布する方針を表明。今後、無症状の感染者や軽症者らの自宅療養も想定され、専門家は「布マスクで感染を完全には予防できないことを理解して使ってほしい」と呼び掛ける。見解は過去の複数の研究成果に基づく。その一つが、ウイルスのような微粒子に対し、マスクや布製品がどの程度フィルター効果を発揮するかを調べた米国立労働安全衛生研究所の実験だ。医療現場などで使うN95マスクが最も効果が高く、微粒子の95%以上を捉えた。タオルが40%前後、スカーフが10~20%程度、Tシャツが10%前後、布マスクは10~30%程度だった。ベトナムの医療現場で働く人を対象にした別の研究では、不織布のサージカルマスクに比べ、布マスクを着けた医療関係者の方が感染してしまう割合が高かった。こうした結果からイリノイ大の研究者は、布マスクはウイルスの拡散や取り込みを防ぐには不十分で「感染防止には効果がないだろう」とした。厚生労働省は軽症者らが自宅療養する場合の考え方の中で、家族ら周囲の人の感染対策として「サージカルマスク等の着用」を挙げた。不織布のマスクを入手できない場合に布マスクを代用で使うよう呼び掛ける。布マスクでも、くしゃみやせきでしぶきが飛ぶのをある程度は抑えられる。ウイルスが付いた自分の手が口や鼻に触れるのも防ぐため、政府は「感染拡大防止に一定の効果がある」とする。全世帯配布の経費は466億円と見積もる。聖マリアンナ医大の国島広之教授は、不織布のマスクの方が有効だとした上で、入手困難なら布マスクでしのぐのが妥当だと指摘。「自宅療養などの際は、換気や消毒と併せて予防効果を高めてほしい」と話した。 *5-13:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200410-00000195-kyodonews-soci (共同通信 2020/4/10)保健所長「病院あふれるのが嫌」、さいたま市の検査数少ない理由 新型コロナウイルス感染の有無を調べるPCR検査が、さいたま市では2カ月で171件にとどまったことについて、市の西田道弘保健所長は10日、記者団の取材に「病院があふれるのが嫌で(検査対象の選定を)厳しめにやっていた」と明らかにした。さいたま市は2月に検査を開始し、今月9日までに171件。同市より人口、感染者ともに少ない千葉市は同日時点で4倍以上の700件を超えた。西田氏は、軽症や無症状の患者で病床が埋まるのを懸念したと説明。「検査を広げるだけでは、必要がないのに入院せざるを得ない人を増やすことになる」と述べ、滞在先施設の確保が必要だと強調した。 <感染症も考慮に入れた病院再編のあるべき方向性は?> PS(2020年4月3日追加):*6-1のように、日本医師会が「①一部地域で病床不足になりつつある」として医療危機的状況宣言を発表したが、①については、*6-3の東京都内で97人の感染が確認されたという一部地域の問題で多くの院内感染を含むため、医師会はホテル借り上げなどの意思決定はできないことを考慮して、政治は国民に犠牲を強いない政策を考えるべきだ。 また、医師会常任理事の釜萢氏は、*6-2に「②比較的症状が軽い患者を受け入れる“コロナ専門病院”を決めておくことを各地の医師会や行政に求めたい」としておられるが、②については、病名のわからない患者がコロナ専門病院を自ら選んで受診することは不可能であるため、地域の基幹病院が検査して振り分ける必要がある。 そして、横浜市立市民病院感染症内科部長の立川氏は、「③新型コロナはいきなり呼吸不全に陥るのではなく、症状の軽い時期が数日続くため、この間に感染がわかれば重症化を防げる。疑わしきは検査し、重症度を判定して早めに治療すれば、入院患者も人工呼吸器の使用も減らせ、十分ウイルスと戦える。治療薬は別の病気の薬で新型コロナに効きそうなものが4種類はあり、当院でもこれらを組み合わせて効果が出ており、早期の検査と治療がカギだ」「④現在は、PCR検査で陽性なら入院となるため感染しても元気な人が入院し、その分、治療が必要ながん患者が入れないのでは本末転倒だ」「⑤軽症者は別の施設で経過を見て、病院には重症者だけを残す形に早く移行するのがよい」「⑥退院には2度のPCR検査で陰性になることが必要だが、これも見直すべきだ」としておられ、③⑤が治す気がある場合の正攻法である。 一方、日経新聞は、*6-4のように、「⑦新型コロナの院内感染を防ぐため、ビデオ通話によるオンライン診療の活用を広げる規制緩和が、限定的な範囲に留まる恐れが出ている」「⑧これは、オンライン診療の拡大を恐れる日本医師会への配慮だ」などと記載している。しかし、医師は初診の患者が入ってきた時は、その愁訴を聞くだけではなく、服装・歩き方・顔色・匂い・触診・愁訴内容などのすべての情報から検査項目を決め、検査の結果によって病名を特定しているため、「⑨初診からオンライン診療では、対面に比べて診察時に得られる情報が限られる」という医師会の主張や「⑩受診歴のある慢性疾患の患者であれば可能」という厚労省の主張は正しい。そのため、⑦⑧のように、新型コロナにかこつけてオンライン診療を解禁させようとするのは、日本の医療水準を落として国民のためにならず、大きな問題である。 さらに、厚労省は、公的病院のうち「急性期」「高度急性期」の病床を持つ1455施設に、2017年時点の手術実績で手術数の少ない病院に再編・縮小に向けた検討を求めて、*6-5のように、2019年9月にリストを発表したが、これには感染症が考慮されていなかったのだそうだ。しかし、インフルエンザ・肝炎・肺炎・結核・風疹・はしかなどの感染症は最も多い基礎的疾患であるため、これを考慮しないというのはあり得ず、金銭に関する稚拙な算術だけで医療を考えることの危うさをあらためて浮き彫りにした。 死因別死亡率 人口10万対病床数 2019.10.3 2019.11.12 朝日新聞 毎日新聞 (図の説明:1番左の図のように、日本の人口10万対死亡率は2011年から肺炎が3位に浮上している。しかし、左から2番目の図のように、日本は一般病床・精神病床が多すぎる割に感染症病床が殆どない。にもかかわらず、右の2つの図のように、厚労省は手術実績のみを基準として手術数の少ない病院に再編・縮小に向けた検討を求めており、改悪の方向になっている) *6-1:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200401/k10012362941000.html (NHK 2020年4月1日) 日本医師会が「医療危機的状況宣言」 病床不足の地域も 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、日本医師会は、一部の地域では病床が不足しつつあるとして、「医療危機的状況宣言」を独自に発表し、国民に感染を広げない対策や適切な受診行動を呼びかけました。新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づく「緊急事態宣言」をめぐって、安倍総理大臣は1日の参議院決算委員会で「今、この時点で、出す状況ではない」と述べていて、政府は今後の感染者数の推移や経済への影響などを見極めながら、引き続き慎重に判断していく方針です。こうした中、日本医師会の横倉会長は記者会見で、「国の宣言は国民の生活や経済の影響を踏まえて発令をされるのだろうが、一部の地域では病床が不足しつつあり、感染爆発が起こってからでは遅い。今のうちに対策を講じるべきだ。現場は『医療危機的状況宣言』と言える状況だ」と述べました。そして医療提供体制を維持するために、国民に対し、みずからの健康管理や、感染を広げない対策、そして適切な受診行動をとるよう呼びかけました。一方で横倉会長は政府の新型コロナウイルス対応について、「今、物資の不足とか、体制が十分にとれていないという現実からみれば、もっと対応を加速してほしい」と述べました。 *6-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200402&ng=DGKKZO57515920R00C20A4TCS000 (日経新聞 2020.4.2 より抜粋) 「感染爆発」 社会をどう守る 新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が止まらない。国内でも東京都の小池百合子知事が「感染爆発の重大局面にある」と述べ、外出の自粛を呼びかけるなど、危機感が広がっている。救える命を救い、社会を守るために今何が必要なのか。専門家に聞いた。 ◇ ◇ ■地域ごとに「専門病院」を 日本医師会常任理事 釜萢敏氏 体調を崩した人が真っ先に受診するかかりつけ医は感染症対応でも最前線に立つ。日ごろからインフルエンザや溶連菌などの検査を行っている所も多く、試料を採取する際に思いがけず新型コロナウイルスにさらされるリスクをはらむ。医療の現場を守りながら新型コロナに対応するためには、かかりつけ医はなるべく日常通り稼働してもらうことがよいと考えている。かかりつけ医の現状は厳しい。全国の診療所では目下、マスクが足りない。日本医師会は国に要望して計1700万枚ほどを配布したが、交換する頻度を減らすなどして何とかしのいでもらっている。新型コロナウイルスの検査に必要なだけの性能の防護服が十分にそろわない診療所もあるだろう。北海道の診療所で受診者のなかに感染者がいたため、内科医が感染した例もある。最大の問題は日本ではこれ以上、医師や病床などの医療資源を拡充するのが難しいことだ。イタリアは医療費削減のために医師の定年制を敷いてきたが、結果的に多くの医師経験者が再雇用された。ドイツでは医療資源が十分に確保できており死者が少ない。日本は高齢の医師が現役で働いているほど日ごろから医師が不足しており、急に増員する余裕はない。人工呼吸器や体外式膜型人工肺(ECMO)を増産しても使いこなせる人材がすぐには出てこない。オーバーシュート(爆発的な感染拡大)が起こり、患者を選ばなければならない事態になりかねない。医療の現場を守りながらコロナに対応するには、現存する医療資源をフル活用する方策を考えるしかない。具体策として、比較的症状が軽い患者を受け入れる「コロナ専門病院」を決めておくことを各地の医師会や行政に求めたい。かかりつけ医が疑わしい患者から電話相談をあらかじめ受けるようにし、必要に応じて「専門病院」を案内する。患者の動きを分けることで、かかりつけ医が感染したり長期の休診に陥るのを防ぎ、透析などで日常的に通院が必要な患者の受け皿を維持したい。「専門病院」には、たとえば夜間や休日に診療できる施設や、都道府県の公立病院などの施設になってもらうのが理想だ。人工呼吸器が必要かどうかという程度の患者まで診てもらい、さらに重度の患者は国立国際医療研究センターなどの病院で受ける。数段構えのイメージだ。都市ごとに各地の医師会と話し合い全国の整備状況を把握しようとしている。それでも病床は足りそうにない。まん延期を見据え、入院中だけれども症状が重くはない人に退院してもらい、なるべく病床を空けることが喫緊の課題だ。基本的には自宅にとどまってもらい、ハイリスクな家族への家庭内感染のおそれがある患者には滞在施設を設けて入ってもらう。宿泊施設などと調整を急ぐ。必要な情報が各診療所にすぐに届くような仕組みも必要だ。「感染者情報が遅い」「発症日ベースで感染者情報を出してほしい」という要望を受けているので、改善すべきだ。かまやち・さとし 78年日本医科大学卒。88年から群馬県の小泉小児科医院院長。高崎市医師会会長などを経て14年から現職。地域医療や感染症危機管理対策などを担当。66歳 ◇ ◇ ■早期の検査・治療カギ 横浜市立市民病院・感染症内科部長 立川夏夫氏 これまで計30人近くの新型コロナ感染症患者を受け入れた。半数はクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」に乗船していた人たちだ。3人は集中治療室で処置した。現在も数人が入院している。第一種感染症指定医療機関として、エボラ出血熱など1類感染症の患者を受け入れられる態勢がある。それでも、クルーズ船の患者が数日の間に10人以上搬送されてきたのは想定外だった。感染症病床は一時すべて埋まり、それ以上は連携先の別の病院で受け入れてもらった。恐怖心がなかったわけではないが、中国のデータでは若い人の重症化例は少ない。当院の若手スタッフに万が一うつっても即、致死的とはならないのは救いだと感じた。一番の問題は、看護師の負担が増えたことだ。学会の推奨を上回る水準まで感染防護を強化しており、防護服で普段通りのケアをするのは大変だ。脱ぐときに接触感染が起きやすいため、別の人に見てもらう必要もある。他の診療科からも応援を頼み、その場で教えながら対応した。人工呼吸器を使った例はあるが、体外式膜型人工肺(ECMO)は患者の年齢、基礎疾患、家族の希望などを踏まえ使用していない。急に多数の患者が来れば機器が不足する心配はある。近隣病院ではマスクが悲劇的に不足している。市が優先的に回してくれる当院でも、できるだけ1日1枚の使用にとどめている。政府は国内感染者発生のピークを遅らせることに、ある程度成功してきた。受け入れ可能な病床数から逆算してPCR検査をしている結果、感染判明者が少ないのだろう。増加ペースが今くらいで、人材や機器の準備期間がとれれば対応はできる。だが、今後どうなるかはわからない。入退院に関しては課題がある。現状ではPCR検査で陽性なら入院となる。感染していても元気な人が入院し、その分、たとえば治療が必要ながん患者が入れないのでは本末転倒だ。政府は新型コロナのまん延期には、軽症者は自宅や別の施設で経過をみて、病院には重症者を残す形に移行するとしているが、まだその時期ではないという。早く移行すべきだ。また、退院するには2度のPCR検査で陰性になり、ウイルスがいなくなったのを確認できなければならない。これも状況に応じて柔軟に見直すべきだ。入退院の判断は医療者がするのがよい。新型コロナはいきなり呼吸不全に陥るわけではなく症状が軽い時期が数日続くので、この間に感染がわかれば重症化を防げる可能性がある。疑わしきはまず検査し、重症度を判定して早めに治療する。こうすれば入院患者も人工呼吸器の使用も減らせ、十分ウイルスと戦える。治療薬は別の病気の薬で新型コロナに効きそうなものが4種類はあり、当院でもこれらを組み合わせて効果が出ている。検査で感染の有無を確定させ、必要に応じて有望な薬を使う症例を積み重ねて、一刻も早くよい治療法にたどり着きたい。それが医療者の安心にもつながる。たちかわ・なつお 1990年佐賀医科大(現・佐賀大医学部)卒。国立国際医療センター(現・同研究センター)などで感染症治療にあたってきた。2008年から現職。60歳 *6-3:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200402/k10012364551000.html (NHK 2020年4月2日) 東京都内で97人の感染確認 これまでで最多に 東京都の関係者によりますと、2日都内で新たに97人が新型コロナウイルスに感染していることが確認されたということです。都が、1日に発表する数としては、3月31日の78人を上回ってこれまでで最も多くなりました。97人のうち、患者や医療従事者などすでに100人以上の院内感染が疑われている東京 台東区の永寿総合病院の関係者が21人いるほか、新宿区の慶応義塾大学病院の関係者も15人いるということです。これで都内で感染が確認されたのは合わせて684人になります。 *6-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200403&ng=DGKKZO57597170S0A400C2EA2000 (日経新聞 2020.4.3) オンライン診療、壁は厚労省、「初診解禁」かかりつけ医の紹介条件 医師会へ配慮にじむ 新型コロナウイルスの病院内での感染を防ぐため、ビデオ通話などによるオンライン診療の活用を広げる規制緩和が限定的な範囲にとどまる恐れが出ている。焦点は受診歴のない患者でも初診からオンライン診療を認めるかどうか。厚生労働省は対面で得る情報の重要さを理由に、かかりつけ医から情報提供を受けた別の医療機関などに絞る方針だ。拡大を恐れる日本医師会への配慮がにじむ。「人類が経験したことのないようなことが起きている。あまりに生ぬるいというのが私の感覚だ」。2日、政府の規制改革推進会議の小林喜光議長(三菱ケミカルホールディングス会長)は落胆を隠さなかった。作業部会が提案した「受診歴のない患者にも初診からオンライン診療を可能とすべきではないか」との意見に対し、厚労省からの回答は「非常に距離があるものだった」(小林議長)。オンライン診療は、風邪や発熱といった軽症の人が自宅にいながら診断してもらえるようにするなど医療の利便性を高める力を持つ。新型コロナの感染が拡大してからは、通院先での感染を防ぐ手段としても期待が高まっている。3月31日の経済財政諮問会議で、安倍晋三首相は「現状の危機感を踏まえた緊急の対応措置を規制改革推進会議で至急取りまとめてほしい」と指示を出していた。規制改革推進会議の主張は、受診歴のない患者でも初診からオンライン診療を認めれば、通院を省け、患者も医療従事者も院内感染から守れるというものだ。一方、厚労省は受診歴のある患者で高血圧などの慢性疾患であれば可能だが「受診歴のない患者は認められない」と説明したという。厚労省がオンライン診療の拡大を阻もうとする背景には日本医師会の存在がある。オンライン診療は「対面に比べ診察時に得られる情報が限られる」というのが医師会の主張だ。通院にかかる時間をあまり気にしなくて済むため、評判のよい病院に人気が集中し、淘汰が進むのを恐れていることも抵抗の裏側にある。オンライン診療はあくまで対面診療を補完するものと位置づけられ、生活習慣病など慢性疾患に限られてきた。医療サービスの対価として受け取る「診療報酬」も対面より少なく、対面の場合と比較して半分以下となることもある。加藤勝信厚労相は3月31日、オンライン診療の初診解禁を検討すると表明した。だが、厚労省が4月2日に開いたオンライン診療の指針を議論する有識者検討会は、限定的な範囲にとどめる方向性で一致した。言葉のイメージ通り、受診歴のない患者に対して、初診でオンライン診療を認めるのは重症化の徴候を見逃すリスクなどがあるため難しいと判断した。患者が急増し、外来医療が危機的な状況にあるなど極めて限定された場合だけに認める方向で、具体的な条件を引き続き検討する。かかりつけ医から情報提供を受けた別の医療機関で、風邪などの症状をオンラインで診てもらうことは認めることになった。ただこれも、かかりつけの医療機関で院内感染が起き、普段と異なる医療機関を受診しなければならないケースを想定したものだ。オンライン診療は18年度に保険適用されたが、18年7月時点でオンライン診療を実施する医療機関は1000カ所程度で全国の医療機関の1%に満たない。オンライン診療に積極的な医師もいるが、規制の厳しさが利用拡大を阻む。オンライン診療に移行するには原則、事前に3カ月以上の対面診療が必要だ。新型コロナ感染症の広がりをうけ、厚労省はオンライン診療のルールを特例・臨時的に2度緩和してきたが、その範囲は限られている。 *6-5:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54489680W0A110C2EE8000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2020/1/16) 公立病院の再編リストを修正へ 厚労省 厚生労働省は再編や縮小を促す目的で昨年9月に実名公表した全国424の公立・公的病院のリストを一部修正する。データを精査した結果、新たに対象に加わったり、今のリストから外れたりする病院が出てくるためで、全体では増える見通しだ。17日に公表する方向で調整している。今回の修正でリストから外れる場合、病院の希望に応じて病院名を公表する。一方、新たにリストに加わる病院名は公表しない方針だ。厚労省は、自治体が運営する公立病院と、日本赤十字社などが運営する公的病院のうち、病気が発症した直後の「急性期」や「高度急性期」の病床を持つ1455施設に対し、2017年時点での手術実績などを分析。実績が乏しい病院もあり、再編や縮小に向けた検討を求める狙いで19年9月にリストを発表した。当時は「資料は暫定版で、今後精査した後に都道府県に確定版を通知する」としていた。近く公立・公的病院との競合状況を示す民間病院のデータも各都道府県に提供し、議論を促す考えだ。 <これを機会にステップアップしたら?> PS(2020年4月4、8、12日追加):*7-1のように、新型コロナ感染拡大の影響で非正規を中心として職を失っており、会社の寮にいるため仕事を失えば住居もなくなる人もいる。そのため、政府は、企業の従業員解雇防止のために雇用調整助成金を拡充し、休業手当を払って従業員を休ませた企業には助成金を出すことにしたが、休業手当は一定割合を企業が負担するため、企業はコスト負担を敬遠して非正規の雇い止めを優先させる恐れがあるのだそうだ。一方、米国では、*7-2のように、新型コロナの感染拡大で経済活動が大きく制限され、ホテル・飲食店・小売店等が営業を大幅に縮小して従業員をレイオフ(解雇・一時帰休)した結果、失業保険の申請が664万件に上ったそうだ。日本では、(企業から見れば)終身雇用・年功序列制度の下で解雇が難しいため、従業員を正規と非正規に分けて非正規を雇用の調整弁として使っているが、米国は、正規と非正規の差別がないかわりに正規でも簡単にレイオフされて失業給付を受け取る。米国の方が、平等で雇用調整も速やかだが、これができるためには、労働市場が流動的で中途採用でも不利にならないことが要件になる。 しかし、新型コロナの感染拡大はすべての業種で人手を余らせたわけではなく、*7-3のように、外国人技能実習生の入国見通しが立たないため、労働力確保の支援を求めている業種もある。そのため、企業は雇用調整助成金をもらった上で従業員を人手が足りない職種に派遣すれば、従業員が感染リスクの小さな農業地帯で農業に従事することによって、今まで見ていなかったICTやロボット技術のニーズを見て新製品を作ったり、*7-4のようなスマート農業が本格化する中、非正規という雇用の調整弁に甘んじるよりはスマート農業の担い手になったりなど、企業・従業員・地域のすべてに新しい閃きが生まれてプラスになると思う。現在、農業への転職については、*7-5のように、全国の農地情報がデジタル地図に集約されつつあり、*7-6のように、後継者のいない多くの集落営農組織が集落外から若者を受け入れて、地域全体で若い農業者を育てて経営刷新するという雰囲気になっている。 さらに、国を挙げての再エネへのエネルギー変換には、*7-7のような徹底した発送電分離が必要で、それには21世紀型送電線の敷設が不可欠であり、農業地帯は副産物として電力を産出することが可能であるため、農業はやり方によっては21世紀の先端産業になり得るのだ。 なお、非正規で最初に雇用を打ち切られる人がステップアップするには、*7-8のような農林業経営のプロと地域のリーダーを育てる農林環境専門職大学に入学する方法もあるし、地域の農協で募集する農業の仕事に応募する方法もある。ただ、*7-9のように、都市部の新型コロナ感染者が地方に移動すると感染を広げるリスクも大きいため、移動して14日間は外出を控え、寮などで仕事内容や地域に関する研修を受けられる仕組みにするのがよいと考える。 新型コロナの影響で営業を縮小せざるを得ない観光業・飲食サービス業等から、*7-10のように、JAや行政が人材を仲介して農業に労働力を回す取り組みが始まっているそうだが、これは、人材の融通に留まらず、お互いの理解と関係を深める上でも良いと思う。 (図の説明:1番左は、スマート農業の説明、左から2番目は、無人田植機を使った田植えの様子、中央は、ドローンを使った消毒作業《あらかじめ害虫の多い場所を把握して効率化している》、右の2つは、収穫ロボットを使ったトマトとブドウの収穫作業だ。収穫ロボットは、色・糖度・大きさ等を測って収穫し《人間より確実かも》、分類してパック詰めする) *7-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/202003/CK2020033102100017.html (東京新聞 2020年3月31日) <新型コロナ>非正規の雇い止め増加 雇用構造のもろさ露呈 現金給付で救済急務 新型コロナウイルスの感染拡大で、非正規を中心に多くの人たちが職を失う危機に直面している。有効求人倍率の高さなど雇用をアベノミクス成功の証拠とアピールしてきた安倍晋三首相だが、労働市場の中身は、非正規割合が高まり景気悪化のショックには極めてもろい構造が露呈している。人々の仕事と暮らしをどう守るかは重い課題だ。 ◆突然の契約終了通告 「もう雇い止めも覚悟している」。日産自動車の栃木工場(上三川町)で、期間工として働く男性(47)が言う。コロナの影響による世界的販売不振と中国などからの部品供給の減少のダブルパンチの自動車業界。トヨタ、日産など大手各社は工場の一時停止による減産を発表。男性の働く栃木工場も四月六日から二十二日までの長期間、操業が止まる。昨春から三カ月ごとの契約で一年働いてきたが、「今の契約が切れる五月末で終わりになるだろう」。会社の寮にいるため、「仕事を失えば住まいもなくなる」と不安にさいなまれる。大阪府内の不動産会社で、住宅の設計をしていた二十代の派遣社員の女性は先週、四月末で契約終了と告げられた。昨年末にマンションを購入、ローンは夫と二人で払う。「いま仕事を失うとローンも返せない。この時期、職がすぐみつかるとも思えない」。働く人々の生活が揺らいでいる。 ◆収入途絶えれば即生活危機に 二〇〇八年の年末。東京・日比谷公園にはリーマン・ショックで雇い止めや派遣切りにあった人々があふれ、支援団体の提供する炊き出しやテントで暖をとった。この「年越し派遣村」の出現を機に、非正規労働の多さは問題化。民主党政権では製造業への労働者派遣を禁止する議論もあったが、企業の立場を重視する自民党の安倍政権は非正規を一段と増やす政策を推進した。一五年の派遣法改正では、それまで企業が派遣社員を使える上限が三年だったのを、働き手を代えればずっと派遣に任せられるようにし、正社員を派遣に置き換える流れを助長した。雇用されないフリーランスや個人事業主としての働き方も奨励。企業を人件費コストから解放する半面で安全網のない不安定な働き手が増加した。一方、非正規の低賃金労働は「貯蓄ゼロ」世帯を増加させた。昨年時点で23%と、二十年間でほぼ倍増。非正規切りで収入が途絶えれば、生活危機に直結する。 ◆「正社員だけ守る差別やめて」 政府は、企業が従業員を解雇するのを防ぐため、雇用調整助成金を拡充、休業手当を払って従業員を休ませた企業に助成金を出す。だが、雇用助成金は、あくまでも企業が自分から申請しないと支給されず、休業手当の一定割合は企業が負担するルール。このため企業がコストを敬遠し、非正規は雇い止めを優先させる恐れがある。労働問題に詳しい宮里邦雄弁護士は「正社員だけを守るような差別はしないよう企業に指導し、助成金支出にもそのような条件を付けるべきだ」と指摘する。 ◆モノ言えない非正規への対策を 働く人々に直接渡る現金給付など、所得補償も不可欠となりそうだ。リーマン時は金融危機が消費不振を招くまで一定の時間があったのに対し今回は需要が短期間で蒸発、所得の大幅低下などで人々の暮らしをすでに脅かしている。関根秀一郎派遣ユニオン書記長は「非正規は企業にモノを言えない弱い立場。現金給付や減税など直接生活を助ける対策が急務だ」という。 *7-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57597950S0A400C2MM8000/ (日経新聞 2020/4/2) 米の失業保険申請、最大の664万件 解雇・一時帰休で 米労働省が2日発表した失業保険の新規申請件数(季節調整済み)は、3月28日までの1週間で664万8千件となり、過去最大だった前週(330万件)からさらに2倍に膨らんだ。新型コロナウイルスで経済活動が大幅に制限され、飲食店や小売店などでは従業員の解雇や一時帰休が急増している。トランプ政権は給与補填などの経済対策を決めたが、迅速な執行が求められる。失業保険の申請数は市場予測(260万件)を大幅に上回った。新型コロナが発生する前は1982年10月の69万件が最大で、リーマン・ショック後でも2009年3月の66万件が最多だった。米経済は長く好況が続いていたが、ホテルや飲食店、小売店などは一気に営業を大幅に縮小。飲食業界では、3カ月で500万~700万人が失業する可能性があるとの試算もあった。米国の労働力人口は1億6500万人。2月時点の失業者数は580万人で、失業率も3.5%と50年ぶりの低水準にあった。失業保険の申請数は2週間で1000万件弱に膨らみ、失業率は6月には10%を超えるとの予測も浮かんでいる。米国の急激な雇用悪化は、従業員を一時的に解雇したり帰休させたりする「レイオフ」制度の影響もある。宿泊業などは3カ月などと期限を区切って従業員の一時解雇・帰休を決め、労働者の多くは失業給付を受け取って職場復帰を待つ。日欧は給与カットなどで労働者の維持を優先するが、米経済は雇用そのものの調整幅が大きくなる。ただ、経済活動が再開すれば職場復帰も加速するため、失業率は20年後半には低下軌道に戻ると分析される。トランプ政権も雇用維持を狙い、中小企業の給与支払いを事実上肩代わりする資金支援策を発表した。中小企業の半数は手元の運転資金が15日分以下しかないとされ、迅速な資金供給が不可欠だ。 *7-3:https://www.agrinews.co.jp/p50436.html (日本農業新聞 2020年4月1日) [新型コロナ]消費喚起、人手対策を 農家らが窮状訴え 農水省は31日、新型コロナウイルス感染拡大を受けた緊急経済対策の策定に向け、農家らから意見を聴取した。需要減退で価格が下落している和牛や果実、野菜の生産者らが窮状を訴えた。外国人技能実習生の入国見通しが立たない問題を受け、労働力確保に向けた支援を求める声も出た。江藤拓農相は、生産現場の支援へ「強大な対策」を講じる考えを示した。感染拡大の情勢を踏まえ、テレビ会議方式で意見聴取した。江藤農相の他、伊東良孝、加藤寛治両副大臣、河野義博、藤木眞也両政務官ら同省幹部が同席。江藤農相は「現場の意見をしっかり聞いた上で経済対策案をまとめなければならない」と強調。安倍晋三首相の指示を踏まえ「前例にとらわれず強大な対策をやる」と述べた。農家らは、インバウンド(訪日外国人)やイベント自粛などの需要減退で打撃を受けている実態を報告。消費喚起策を求める意見が相次いだ。宮崎県高千穂町で和牛を一貫経営する興梠哲法氏は、地元家畜市場の3月の子牛相場が「前回比15万円の値下がりになった」と説明した。枝肉価格の下落で肥育経営が悪化、それに伴い子牛価格も下落し繁殖経営も「危機的状況」と訴えた。過剰の国産牛肉在庫の対策に向け「国の支援で消費者に求めやすい形で流通」するよう要望。ふるさと納税制度の活用やインターネット販売の運賃・手数料の支援などを求めた。温室メロン専門農協、静岡県温室農業協同組合の鈴木和雄組合長は、同組合が出荷したメロン価格が2月は前年比71%、3月は同67%に落ち込んだと説明。「原価を割っている」と訴え「前例のない対応」を求めた。長野県佐久市で野菜を栽培する小松園芸の小松真知子氏は、中国人実習生が「入国できなくなっている」と報告した。「どれだけ作付けられるのか悩み、苦労している」と明かした。今季に実習生が入国できなければ生産量と売り上げが「30%減になる」と説明。「いくらかでも労働力を送ってもらえるような方策をお願いしたい」と訴えた。 *7-4:https://www.sankei.com/economy/news/191223/ecn1912230002-n1.html (産経新聞 2019.12.23) いきなり特等米を獲得 スマート農業の実力は… 担い手の高齢化や労働力不足に悩む日本の農業の課題解決に向け、ICT(情報通信技術)やロボット技術を使ったスマート農業の導入が加速している。リモコン一つで農機を遠隔操作、熟練農家の経験と勘を目に見えるデータに落とし込む-。誰もが高品質な作物を生産できる農業の時代はすぐそこまできているのかもしれない。兵庫県北部の養父市、山間部に急斜面の棚田が広がる能座地区は、65歳以上人口が57・65%と高齢化、過疎化が急速に進む集落だ。日本の農業の課題を抱え込んだようなこの土地で、先進技術を活用した農業を目指して農林水産省が採択した「スマート農業実証プロジェクト」が4月から進んでいる。「ハンドル操作の難しいぬかるんだ所も驚くほど真っすぐ進む」。同地区で酒米を作る「アムナック」の社員、大内良平さん(45)が驚くのはクボタが開発した無人運転のロボットトラクター。準天頂衛星「みちびき」による高精度の位置情報を活かして誤差数センチ以内でルートを正確に耕していく。また、人力で行えば半日以上かかる草刈りも、ラジコン操作によってわずか44分で済ませている。作業データはクラウド上で一括管理、手間取った作業とその解決法を“見える化”することで誰もがどこでもその経験を次に生かすことができるという。 ●全国モデルに アムナックは兵庫県三木市に本社を置く建設会社の農業事業を行う子会社として平成27年に設立。今年4月からは京都大学やクボタ子会社、ソフトバンクなどと作る共同事業体で、スマート農業の技術開発のために角度30度超の、全国有数のきつい傾斜を持つ養父市能座地区の棚田11ヘクタールで稲作に挑んでいる。 *7-5:https://www.agrinews.co.jp/p50428.html (日本農業新聞 2020年3月31日) 全国の農地情報 デジタル地図へ集約 農水省22年度から一部運用 農水省は、全国の農地情報のインターネット上での一元管理に乗り出す。行政機関や農業団体がばらばらに管理してきた農地情報を集約し、同省の地図データと組み合わせて「デジタル地図」を作成。2022年度から一部機能の運用を始める。生産者は補助金などの申請にかかる労力が大幅に減る他、将来的には農業機械の自動運転の活用などにもつなげる。「デジタル地図」は、各機関が持つ情報をひも付けして一元管理する。21年度から運用する「農林水産省共通申請サービス(eMAFF)」と組み合わせ、申請の窓口を一本化。農業者が申請した基本情報は保存され、再入力が省略でき、事務作業が軽減される。オンラインで自宅から申請でき、パソコンやスマートフォンの画面上の地図を見ながら作業が可能になるという。行政機関は、紙の申請書の打ち直しなど事務負担が省力できる。将来的には「デジタル地図」の情報と、人工衛星による位置予測を組み合わせ、トラクターやドローン(小型無人飛行機)の自動運転に活用できる可能性もある。衛星画像と人工知能の画像解析技術を組み合わせ、台風などの災害時に速やかな被災地域特定につなげることも期待される。20年度は、既存のデジタル区画情報と各機関の情報をひも付けすることや、農地関連データの標準化を検討する。農地情報は現状、各機関が農地情報を紙の地図で管理し、手続きに多くの労力がかかっている。例えば、農業委員会に農地の権利設定を申請する場合、農業者は土地の地番や面積などを記載した10枚程度の書類を提出する必要がある。同じ土地でも農業委員会、地域農業再生協議会、農業共済組合が別々に情報をまとめており、重複する情報提出に負担が掛かる。情報を管理する機関も、データ入力や現地調査に多大な労力を費やしている。 *7-6:https://www.agrinews.co.jp/p50404.html (日本農業新聞 2020年3月28日) [ゆらぐ基 問われる実効性](3) 農山村の再生 “よそ者” 継承に活路 福井県あわら市。集落営農組織「グリーンファーム角屋」の代表、坪田清孝さん(69)が、誇らしげに胸を張る。集落外から若者を組織の代表候補として迎え入れ、米だけでなく、タマネギやイチゴの栽培に乗り出す新しい組織に、生まれ変わろうとしているためだ。「全国に水田農業に夢を描く若者はたくさんいる。継承がうまくいけば担い手不足に困る各地の集落営農組織の希望になる」と坪田さん。同組織には3年後、集落とは縁がなかった斎藤貴さん(43)に経営をバトンタッチする予定だ。今は継承に向かう並走期間。集落の住民らと斎藤さんが共同作業を積み重ね、信頼関係を紡いでいる。後継者がいない、高齢化、もうかりにくい米経営……。多くの集落営農組織が抱える課題に、同法人は集落外から若者を受け入れ、経営を刷新することで立ち向かう。 ●人手の確保組織で議論 農水省の調査によると、離農する小規模経営体の農地の受け皿で地域を支える集落営農組織数は、2019年2月時点で1万4949。2年連続で減少した。次期食料・農業・農村基本計画案では30年の農業者数は15年比33%減の140万人と見通しており、生産基盤の要である人材の育成・確保は、農業の最重要課題だ。グリーンファーム角屋は1999年、集落の兼業農家が共同で農業を守ろうと発足。設立から20年を前に後継者不在で組織の継続が危ぶまれた。坪田さんらは16年、全戸に意向調査。88%で「後継者がいない」「割り当てられた農作業が将来的に難しい」など課題が鮮明になった。合意形成に2年かけ、集落外から若者を呼び込むことにした。知人のつてや就農フェアに参加するなどして探し、知り合ったのが斎藤さんだ。埼玉県生まれの斎藤さん。農業に興味を持ち、石川県の農業法人に長年勤めていた。独立して稲作を模索する中、後継者を探す同組織の存在を知った。斎藤さんを迎え入れるため、18ヘクタールの米が中心だった経営にイチゴやダイコン、タマネギなど園芸作物を加え、農閑期の仕事を確保。継承を踏まえ株式会社化した。斎藤さんは「決算書も見て、信頼できると思った。地域の人と一緒に経営を発展させたい」と意気込む。集落の女性らに手伝ってもらって冬は加工にも取り組む考えだ。坪田さんは「代表が代わっても農業を地域から分断させるのではなく、地域と発展する集落営農の基本理念は変わらない。高齢者ばかりの集落に若い人が来たと歓迎されている」と笑顔だ。 ●多様な主体活性化の鍵 信州大学の小林みずき助教は「水田農業の若者の継承は、農村や農業の持続性を左右する」と強調する。預ける農地の選定も含め、地域全体が若い農業者を育てる意識を持つことが重要という。次期食料・農業・農村基本計画でも「多様な主体」を農業の持続的発展のポイントの一つに挙げる。小林助教は「米の消費が減り水田活用の方法が課題となる中、高齢者に比べ、母数が少ない農村の若い力を生かすことが課題解決の鍵を握る。そのための仕組みが必要だ」と指摘する。 *7-7:https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2020040202000168.html (東京新聞社説 2020年4月2日) 発送電分離 電力改革はまだ途上だ 昨日スタートした発送電分離。発電と送配電事業を切り分けて、大手電力による独占の壁を取り払う-。電力システム改革の“総仕上げ”とされているのだが、現状では劇的効果は期待できない。日本の電力供給は長らく、大手十社がそれぞれの“縄張り”で、発電と送配電、小売りを一手に担う「地域独占」だった。原発のような大規模集中型電源で大量の電気を一気につくり、決められた地域へ送り込むというやり方を続けてきた。福島第一原発事故で、その弱点があらわになった。他地域からの電力融通が思うように進まず、大消費地の首都圏は、計画停電を余儀なくされた。そんな地域独占の壁に風穴を開けるべく、政府による電力システム改革が加速した。大手電力会社を発電、送配電、小売りなどに分社化、つまり解体し、「新電力」と呼ばれる中小事業者の参入を図り、大規模集中から小規模分散に移行させる狙いがあった。二〇一六年、家庭向けも含めた電力小売りが自由化された。改革の「総仕上げ」とされるのが、発送電分離である。しかし、分離と言っても、送配電網の所有権を大手から切り離す「所有権分離」には踏み込めず、小売り同様、既存の大手が送配電会社を設立し、それぞれ子会社にするだけの「法的分離」にとどまった。送配電は従来通り、大手の支配下に残された。これまでも、大手が持つ原発の電力が優先的に接続されてきたように、「新電力」からの接続が、理由を付けて抑制される懸念はぬぐえない。分離による効果は恐らく限定的だ。「新電力」には、風力や太陽光を扱う事業者が多い。政府がエネルギー基本計画にうたう、再生可能エネルギーの主力電源化にも支障を来す恐れは強い。地域ごとに送配電子会社が残るのも非効率。欧米では、送配電網の運用そのものを電力会社から切り離し、「独立系統運用機関」(ISO)に委ねるシステムが主流という。そうなれば、全国規模での電力融通もスムーズになるだろう。接続の公平性が保たれて、再生エネの普及にとっても、強い追い風になるはずだ。発電量が天候に左右されやすいという再生エネの弱点を、例えば日照が豊富な九州と、風力の適地が多い東北・北海道などが、補完し合えるようにもなるだろう。送配電網の中立性が保証されるまで、電力改革は終われない。 *7-8:https://www.agrinews.co.jp/p50496.html (日本農業新聞 2020年4月8日) 農林専門職大が始動 コロナ禍でビデオ入学式 静岡 農林業経営のプロと地域社会のリーダーを育てる静岡県立農林環境専門職大学・短期大学部(愛称・アグリフォーレ)が同県磐田市に1日開校し、7日に入学式を行った。同校は全国に11ある専門職大学の中で初めての農林系で、大学と短大合わせて104人が入学。学生生活のスタートを切った。専門職大学は2019年4月に始まった新しい大学の制度。特定の職業に必要な講義と、豊富な実習で実践的な技能を学ぶ。静岡では県立農林大学校に替わり開校した。入学生の内訳は、4年制の大学生産環境経営学部が県内外の27人、2年制の短期大学部が77人。入学式は新型コロナウイルスの感染拡大を受け、保護者と来賓は招かず、入学生と教職員だけが出席。講義室に分かれて学内放送とビデオで行う異例の式となった。鈴木滋彦学長は「農は生活に不可欠で、しかもエネルギーを生み出す。自信と誇りを持ち、プロフェッショナルを目指してほしい」と期待した。川勝平太知事は「実学の日本のモデルにし、みなさんを日本の宝として育てたい」と祝いの言葉をビデオで寄せた。入学した同県富士宮市出身の山本琢寛さん(18)は「静岡県の良い環境を生かした仕事に将来就きたいと考え入学した」と話した。来年完成予定の新校舎には学外からも利用できるレストランを併設。再来年には新寄宿舎が完成する。 *7-9:https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20200407/KT200406ETI090007000.php (信濃毎日新聞 2020年4月7日) コロナ「疎開」 排除や対立招かぬように 都市部で新型コロナウイルス感染者が急増する中、帰省したり別荘に移ったりして地方に生活の拠点を替える人が目立つ。長野県内の別荘地への「疎開」も進んでいる。政府が東京や大阪に緊急事態宣言を出すことで、不安や不便を感じる人の地方への移動がさらに活発になる可能性が出ている。若い世代は感染していても無症状か軽症が多い。移動先で、気づかないうちに人にうつしてしまう恐れがある。地方での感染拡大につながらないよう、各自治体は移動する人も意識した呼び掛けを強めたい。県内では、都内から帰省中の20代男性に感染が判明した。一緒に外出した県内の20代男性も陽性が確認されている。高齢者が感染すると重症化するリスクが高い。一方、地方では新型コロナへの医療体制が整っていない地域も少なくない。感染が広がると、病床が足りなくなる事態が想定される。都市部から地方への移動は危険を伴っていることを、当事者も周辺も自覚してほしい。移動した後も一定期間は健康観察が不可欠だ。症状がある場合は、人との接触を避けるなど一層の注意を払う責任がある。約1万6千戸の別荘がある軽井沢町の藤巻進町長は、町のホームページで「東京の危機感を共有して」と訴え、別荘住民らにも不要不急の外出自粛を求めた。茅野市も、市内の別荘約7千戸に同様の自粛要請を記したチラシを配布。今井敦市長は「開放的な気分にならず、できるだけ別荘にいて」と呼び掛けている。佐久市の柳田清二市長が「できれば首都圏の皆さんも自宅で過ごしてもらいたいと思います」と書き込んだツイッターは、賛否両論を呼んだ。不要不急の来訪が、県内での感染拡大につながってしまうとの危機感から発信したという。重要な注意喚起ではある。「怖さを感じる」と賛同する住民の気持ちも分かる。一方で、命を守る選択として来訪する人たちの事情も大切にするべきだろう。個人の移動の自由は尊重しなければならない。その上で、地域の安全や安心をどう守っていくかを考えたい。自治体は、地域の実情を詳しく知らせ、守るべきことをきちんと分かってもらう努力が必要だ。住民も移動してくる人たちを排除せず、感情的な対立を招かないように心掛けたい。 *7-10:https://www.agrinews.co.jp/p50535.html (日本農業新聞 2020年4月12日) コロナ禍の観光・飲食業 農家が人材受け入れ JAや行政が就労を仲介 農業の人手不足が深刻化する中、新型コロナウイルスの影響で営業を縮小する観光業や飲食サービス業などから農業分野に労働力を回す取り組みが始まっている。観光業などは訪日外国人の減少に外出自粛も加わって経営が厳しく、従業員の雇用継続が難しい。そこでJAや行政が人材を仲介し、互いの労働力の課題解決につなげようとしている。(高内杏奈、藤川千尋) ●長野・JA佐久浅間 旅館組合と協力 長野県のJA佐久浅間は、地元の軽井沢旅館組合と協力し人材のマッチングを始める。宿泊施設は、各従業員に農家での就労希望の意向を尋ね、希望する場合は出勤可能日などの情報をJAに提出。JAは農家にその情報を示し、条件が合えば面接などを経て農家が雇用する仕組みだ。今回の人材マッチングをJAに提案、相談したのは、JA軽井沢事務所野菜部会の前部会長でJA野菜専門委員会常任委員の片山修さん(48)。片山さんは人材不足に悩み、今季は収穫の手間がかかるレタスの一部をキャベツに転換した。片山さんは「労働力として来てもらえればありがたい。これを機に軽井沢の野菜のおいしさを再認識し、宿泊施設で利用が広がればいい」と期待する。旅館組合の鈴木健夫組合長も「軽井沢の観光客は野菜のおいしさに感動する。感染終息後の集客につなげたい」と話す。JAは全国にリゾートホテルを展開する星野リゾートとの連携も検討する。同社も仕事量が減少する見込みで、従業員の雇用確保が課題。JAは農家や選果場などの仕事を紹介する。JAと同社は、雇用条件面や希望人数などを協議中だ。JAでは新型コロナウイルスの影響で、94人の中国人技能実習生が来日できていない。実習生は5月以降にピークを迎えるレタスやキャベツなどの収穫作業を担う。JA営農経済部の内藤浩部長は「産地には安全で安心できる、おいしい農産物を届ける使命がある。生産基盤を守ることにつなげたい」と強調する。 ●マッチング支援 青森県が窓口設置 青森県は10日、営業自粛する観光業や飲食サービス業から労働力を農業分野に回す人材マッチング事業を始めた。青森市の無料職業紹介事業・あおもり農林業支援センターに窓口を設置。JAグループやハローワークと連携して、農業法人などの求人情報を集約する。センター職員が観光業、飲食サービス業、運送業を巡回し声掛けして、短期労働力のマッチングを後押しする。県農林水産部は「労働力不足は加速する。利用者を増やしたい」と説明する。同県はナガイモや露地野菜の出荷最盛期を迎えるが、中国を中心とする技能実習生が来日できず、人手不足が深刻化している。東北町でナガイモを3・5ヘクタール栽培する甲地武彦さん(64)さんは「人手不足で作付け縮小を検討する農家も出てきた。短期でも労働力が増えるのはありがたい」と期待する。 <新型コロナは、社会保障を節約するのに都合のよいウイルスだが、まさか・・> PS(2020年4月4日追加):*8-1・*8-2のように、安全保障や感染症の研究で知られる米ジョンズ・ホプキンス大学が、2018年にまとめた報告書で新型コロナの登場を予見するような分析をし、中でも最大の脅威は呼吸器系に悪さするRNAウイルスで、潜伏期間中・軽い症状の間でも感染してしまうタイプが特に危ないとしていた。そして、これは、新型コロナの性格と一致しており、現在は遺伝子操作したウイルスを使ったバイオテロもできる時代であるため、主たる被害者が高齢者と基礎疾患保有者であれば、新型コロナは社会保障を節約するのに都合よく作られたウイルスのように見える。そう考えると、*8-3のように、コロナ治療薬の有望候補が4つもあるのに、非科学的なことを言って検査も治療も行わず(犯人は政治ではないだろう)、保健所の人員増強等を主張していることと整合性があるわけだ。 そのような中、国民を犠牲にすることしか考えつかない行政はあてにならないため、*8-4のように、国民が手洗いを徹底し、人混みを避け、マスクをつけて予防した結果、インフルエンザ患者数も昨シーズンに比べて4割減ったそうだ。そのため、予防方法が同じ新型コロナも、同じ効果が出ていると思われる。 (図の説明:左図のように、日本は新型コロナの検査数が著しく少ないため患者数も少なく出ているが、これは実態を反映していない。また、治療薬はあるのに、できない理由を並べて使っていないが、検査しなければ使うこともできない。そのため、日本で新型コロナの致命率が低く出ているのは、単なる肺炎に入れられているケースが多いからだと思われる) 2020.3.30東京新聞 (図の説明:何の治療もしないうちから、メディアが医療崩壊・医療崩壊と1カ月以上も騒いでいるため、「政府も医療もあてにならない」と感じて国民が予防を徹底した結果、左図のように、インフルエンザが昨年より4割減った。そのため、予防方法が同じ新型コロナも本来より4割減ったと考えるのが妥当だ。このまま、医療崩壊・医療崩壊と叫んで検査も治療もせず、対症療法も年齢でトリアージすれば、右図の日本の人口のうち団塊の世代より上の致死率が上がり、年金・医療・介護等の社会保障費が節約されるが、このやり方はあまりにあくどい) *8-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57636680T00C20A4I00000/ (日経新聞 2020/4/4) 新型コロナを予見 示唆に富む米大報告書 地球規模の脅威となる感染症を引き起こす病原体とは、どんなものか。安全保障や感染症の研究で知られる米ジョンズ・ホプキンス大学が2018年にまとめた報告書は示唆に富む。いま世界を苦しめている、新型コロナウイルスの登場を予見するような分析がみられるからだ。今後の感染症対策にも役立つはずだ。報告書は同大の健康安全保障センターが120人以上の専門家への聞き取りをもとに作成した。様々な病原体の特徴、感染が引き起こす症状、病気の広がり方などに関する科学的知見を踏まえ、注意点や対策にあたっての勧告をまとめた。このなかで、最大の脅威に挙げたのが呼吸器系に悪さをするRNAウイルスだ。インフルエンザウイルスに比べ、コロナウイルスなどには十分な注意が向けられていないと警鐘を鳴らした。潜伏期間中や、軽い症状しかないときでも感染してしまうタイプが特に危ないと指摘しており、まさに新型コロナウイルスの場合と一致する。勧告は8項目ある。まず、呼吸器系に感染するRNAウイルスに焦点を当てつつも、幅広い種類の微生物に目配りする必要性を説いた。過去に経験し、要注意ウイルスなどとして記録されているものにとらわれすぎるべきではないという。コロナウイルスに関しては疫学的調査が重要だとした。抗ウイルス薬が極めて少ない現状に懸念を示し、治療薬やワクチン開発の加速を促している。製薬企業、政府、医療機器メーカーが資金を出し合い臨床試験を円滑に進める工夫をすべきだとした。さらに、新たなパンデミック(世界的大流行)の兆候をいち早くつかむため、全世界で診断に力を入れるよう提案。コストの問題はあっても、それに見合う効果が得られるはずだと指摘した。今となれば、どれももっともな内容だ。国境を越えたヒト、モノの移動が増えパンデミックが起きやすい状況なのは世界の共通認識だった。にもかかわらず、勧告は十分に生かされず備えは進まなかった。将来、より致死率の高い病原体が広がるかもしれない。新型コロナ対策の一つ一つの経験を確実に「次」への戦略づくりに生かしたい。ジョンズ・ホプキンス大学の報告書で指摘した8つの「勧告」の要約は以下の通り。 (1)脅威となるウイルスへの備えに投資を パンデミック(世界的大流行)を引き起こす可能性が最も高い病原体はRNAウイルス(注1)で、特に鼻やのど、肺などの呼吸器系に感染するタイプだ。この種のRNAウイルスは地球規模で壊滅的な被害をもたらす危険性が高く、調査・監視、科学研究、対策の開発に資源や資金を大規模に投じるべきだ。だが、インフルエンザと一部のコロナウイルスを除けば、ほとんど対策は講じられていない。あらゆる病原体の専門的な知識を育成・維持するとともに、動物から人間に感染する病気の情報を集めることで、パンデミックへの備えや研究につながる。 (2)過去の経験に基づく対策では不足 過去の感染症の事例とバイオテロ対策にもとづき、米国や世界はパンデミックに備えてきた。しかし、取り上げられていない病原体への備えは早々に打ち切られてしまい、対策が硬直的になりがちだ。こうした従来型のやり方から決別し、病原体の性質に基づいてパンデミックのリスクを評価する必要がある。また評価については、綿密な医科学的分析の結果にもとづくべきだ。こうした改善に取り組むことで、パンデミックへの備えや病原体による地球規模のリスクに対する考え方を根づかせる。 (3)呼吸器系に感染するRNAウイルスを優先 呼吸器系に感染するタイプのRNAウイルスはパンデミックを引き起こす可能性が高い。現時点で優先度が高いのは、インフルエンザと一部のコロナウイルスだ。重症急性呼吸器症候群(SARS)と中東呼吸器症候群(MERS)の流行をきっかけに、コロナウイルスへの理解を深める動きは出ているが、実験室で体系的に調べる取り組みは進んでいない。肺炎や気管支炎の原因となるライノウイルスやパラインフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSウイルス)、メタニューモウイルスなどでも同様に動きはない。この種のウイルスは将来、パンデミックを引き起こす危険性が高く、インフルエンザと同様の調査・監視体制を確立すべきだ。 (4)効果がある抗ウイルス薬の開発に重点 呼吸器系に感染するRNAウイルスの治療薬として、現時点で米食品医薬品局(FDA)の承認を受けているのは、抗インフルエンザ薬としては「アマンタジン」や「リマンタジン」、「ザナミビル」、「オセルタミビル」、「ペラミビル」の5種類がある。いずれもインフルエンザウイルスだけに作用し、他のウイルスには効果がない。抗インフルエンザ薬以外では、C型肺炎などの治療に使われる「リバビリン」しかない。RSウイルスの治療で承認を受けているが、効果が弱く、強い副作用が懸念される。特定のウイルスに効く治療薬が開発できれば、パンデミックを抑えられる可能性は高まる。 (5)RNAウイルスのワクチン開発を優先 呼吸器系RNAウイルス向けのワクチンも優先すべき課題だ。インフルエンザ向けはあるが、呼吸器系RNAウイルスのワクチンは存在しない。いくつかの重要な取り組みが存在する。例えば、官民連携でワクチン開発に取り組む感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)はMERSを引き起こすコロナウイルスとパラミクソウイルス(ニパ)向けワクチンの開発を支援している。米国立衛生研究所(NIH)は、どんな型のインフルエンザにも効く汎用ワクチンの開発に資源を振り向けるようになった。最も怖いのが鳥インフルエンザウイルスの一種だ(注2)。汎用的なインフルエンザワクチンは、こうした地球規模で脅威となるウイルスに対して大きな予防策となりうる。 (6)科学的根拠にもとづいた治療法を官民医の連携で インフルエンザを除くと、呼吸器系ウイルスに対する治療は科学的根拠に乏しい。どのような治療が有効なのか、合併症で気をつける必要のある感染は何か、どの段階で人工呼吸器を使うのが適切なのか、といった疑問がある。こうした疑問への答えを見つけることで、パンデミックが起きたときに医師の対応力を高められるだろう。インフルエンザについて、抗ウイルス薬と炎症を抑える抗炎症薬、抗生物質を併用する治療法の報告が増えている。明確な治療指針を作るために、これらの治療効果がはっきりとわかれば、地球規模の脅威となるウイルスへの対応力につながる。 (7)RNAウイルスの研究には特別な注意を パンデミックを引き起こすウイルスに関する研究には特別な注意を払う必要がある。多くは低リスクだが、例えば抗ウイルス薬への耐性、ワクチンに対する抵抗性、感染力の増強といった実験は、国際的な基準である「バイオセーフティー」上の違反が起これば重大な問題を引き起こす。1977年に出現した「N1H1型」インフルエンザ(ソ連かぜ)は、なんらかのミスで研究所から漏れ出た可能性が指摘されている。こうしたウイルスを扱う実験については、リスクに見合った形で承認するプロセスが必要になる(注3)。 (8)診断法や診断装置の実用化を世界で 診断技術と診断装置は適用できる病気の対象、診断速度、使いやすさで改良が進んでいる。普及が進めば、感染症に対する状況認識を高めるきっかけになるはずだ。呼吸器系に感染するRNAウイルスへの調査の強化と組み合わせることで、パンデミックを引き起こす病原体の初期のシグナルを捉える能力は大幅に高まる。コストや治療効果のほか、隔離病床など病院の資源の制約によって、こうした診断装置の採用が制限されている。しかし、パンデミックへの備えという観点から、費用対効果の見積もりも変わるはずだ。人工呼吸器やワクチン、抗ウイルス薬、抗生物質と同じように考えるべきだ。 (注1)ウイルスには、遺伝子がDNAだけのタイプとRNAだけのタイプがあり、RNAウイルスの方が突然変異しやすいため危険性が高いとされる。危険性の高いRNAウイルスには、コロナウイルスの一部のほか、インフルエンザやエボラ出血熱、デング熱などがある。 (注2)鳥インフルエンザの中で毒性が高い「H5N1型」が最も危険性が高いとされる。 (注3)バイオセーフティーは病原体を扱う施設の基準で、世界保健機関(WHO)が定めている。危険度に合わせて4段階ある。最も高いレベル4については、病原体が外に漏れ出ないような対策を講じている。例えば、施設内の気圧を低くし、空気が外に漏れないようになっている。 *8-2:https://iwj.co.jp/wj/open/archives/469833 (IWJ 2020.3.13より抜粋) IWJ調査レポート!新型コロナは「地球規模の破滅的な生物学的リスク(GCBR=Global Catastrophic Biological Risk)」!? ジョンズ・ホプキンス大学の『パンデミック報告書』が、2年前にコロナの出現を予見し、警告! 2020年3月12日、WHOが正式に新型コロナウイルスの感染拡大を「パンデミック」であると発表した。こうした事態に至る約2年前、2018年5月10日に、世界最古の公衆衛生大学院と世界屈指の医学部を有する米国ジョンズ・ホプキンス大学の公衆衛生大学院、健康安全保障センターが、『パンデミック病原体の諸特徴』と題する報告書(以下『パンデミック報告書』)を発表した。この報告書の中で「地球規模の破滅的な生物学的リスク(GCBR=Global Catastrophic Biological Risk)という新しい概念を提示して、ウイルス、細菌などの病原体が近い将来、人間社会に破滅的な影響を及ぼす可能性を予見し、警告している。GCBRを引き起こす病原体の特徴として、高い感染力、低い致死率、呼吸器系疾患を引き起こすなど、7つの特徴を列挙している。これらの特徴は、ほとんど、現在流行中の新型コロナウイルスの特徴と一致するものである。さらに、驚くべきことは、GCBRを定義する中で、『パンデミック報告書』は、GCBRを引き起こす病原体が、自然由来ばかりでなく、人為的な操作によって生み出され、広がるリスクをも想定していたことである。『パンデミック報告書』からわかるのは、陽性ながら無自覚・無症状のまま日常生活を送り、周囲を感染させてゆく「ステルス・キラー」の対策と、その主な被害者になる高齢者と基礎疾患者への対策が、今後、非常に重要になる、ということである。 *8-3:https://toyokeizai.net/articles/-/340641?page=4 (東洋経済 2020/03/29より抜粋) コロナ治療薬「世界の救世主」探る臨床の最前線、有望候補薬は4つ、東大で感染阻止の研究も進む クロロキンは、アメリカのトランプ大統領が、「新型コロナウイルス感染症の治療に有効」と発言して注目を集めたものの、その後は服用者の中毒例や体調悪化が報道され混乱気味。日本でも過去、クロロキンによる網膜症が問題で訴訟になった経緯があり、効くとしても扱い方には注意が必要になりそうだ。また、治療薬の開発には大学、企業も乗り出している。東京大学医科学研究所は3月18日、急性膵炎治療薬「ナファモスタット」が新型コロナウイルスの感染を阻止する可能性を突き止めたと発表した。ナファモスタットは30年近く国内で使われている薬剤で、安全性のデータが十分あるなどメリットは大きい。日本では日医工が「フサン」の製品名で販売しているのをはじめ、各社が後発品を出している。安倍首相は3月28日の会見で、「観察研究として、患者の同意を得て投与を開始する予定」と述べた。このほかに、C型肝炎治療薬である「リバビリン」や「インターフェロン」も候補薬になると見られている。 ●国は早期承認制度の適用も検討 さらに日本の製薬会社も、続々と開発に乗り出している。武田薬品は3月4日に、感染し回復した人の血液成分を使用した新薬(高免疫グロブリン製剤)をつくる。早ければ9カ月程度で実用化するという。また、スイス・ロシュグループ傘下の中外製薬は、関節リウマチ治療薬「アクテムラ」で、新型コロナウイルスを対象とした臨床試験を検討中だ。さらに、塩野義製薬やエーザイも、それぞれ開発を表明している。ただ、医薬品の開発は通常、人に対する安全性、有効性を確認する検証的な臨床試験だけで3~7年かかる。承認申請に必要な臨床試験がすべて終わるのを待っていては、今回の流行に間に合わない。このため加藤勝信厚生労働大臣は、製薬会社からの承認申請があれば、新たに導入した「医薬品の条件付き早期承認制度」を適用し、「可及的速やかに審査を行っていきたい」(3月26日・参議院予算員会)と答弁している。この制度を使えば、致死的な疾患で検証的な臨床試験に時間がかかる疾患であっても、一定の有効性、安全性が示されれば承認でき、早く国民に治療薬を届けることが可能となる。大曲氏は、臨床試験に関しても効果が見えそうなデータが揃った段階で、「(終わるのを)待たずに知見が出る可能性はある」と見る。開発に数年かかると見られる新型コロナウイルスの治療薬だが、臨床試験の状況によっては早期承認もありそうだ。 *8-4:https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/202003/CK2020033002000209.html (東京新聞 2020年3月30日) 手洗い効果? インフル最少 昨季比4割減、流行ほぼ収束 新型コロナウイルスの感染が広がる一方で、インフルエンザの患者数が昨シーズンに比べて激減している。医療機関の報告を基にした厚生労働省の推計で、今年第十二週(三月十六~二十二日)までの累計患者数は前年同期(千百六十四万人)より約四割少ない七百二十七万人。同省担当者は「一人一人が新型コロナ対策にもなる手洗いの徹底などに努めた結果」と受け止めている。厚労省は全国約五千カ所の定点医療機関からの報告を基にインフルエンザ患者数の推計値を毎週発表している。二十七日発表の第十二週までの累計は、比較可能な二〇一一~一二年シーズン以降で最少となった。今後も流行が続く可能性があることを示す「注意報」は全保健所管内で解除され、流行はほぼ収束したとみられる。ただ、過去には五月の大型連休前後に再流行した地域の例もあり、同省は「決して油断はしないで」と呼び掛ける。今シーズンの特徴は、昨年十二月まで例年を上回るペースで増加していた患者数が、ピーク時期になることが多い一月下旬~二月上旬にほとんど増えなかったことだ。一方、新型コロナウイルスは一月十五日に国内で初めて感染者が確認され、一月下旬以降、各地で感染が広がった。このため、例年以上に手洗いを徹底したり、人混みを避けたりして感染症の予防を心掛ける人が増えたとみられる。今シーズンは子どものインフルエンザ患者も少なかった。厚労省が自治体の報告を基にまとめた学校や保育所などの休校や学年・学級閉鎖の状況では、第十二週までの累計は昨シーズンに比べて全国で約二割少なかった。 <病院やオフィスの設備・休業補償など> PS(2020年4月10日追加):新型コロナの感染拡大で緊急事態宣言が出された福岡県では、*9-1のように、感染症指定医療機関でない一般病院も患者の受入を増やす必要があり、院内感染を起こさないための準備をしているそうだ。この病院は、140床全てが個室で陰圧装置を備え、陰圧を強化した部屋もあるので比較的恵まれているが、本来はどの病院も全室個室で陰圧装置を備えてもらいたい。その理由は、複数の人が入る病室は不自由な団体生活になる上、感染症が広がる可能性もあり、他の病気の人と同じ部屋では気分がさらに落ち込むからである。そのため、コロナ後のV字回復には、病院設備の充実(原則として、全室個室で陰圧室)と感染症を受け入れる基幹病院が感染症病棟を備えるための補助金を出すのがよいと思う。 また、*9-2のように、北九州市は、新型コロナ感染拡大を受けて、福岡県の無症状者・軽症者を受け入れる療養施設として「東横イン北九州空港」をホテルごと借り上げ、約200床用意するそうだ。空港近接のホテルも航空機の客室乗務員も今は空いているので、現在のニーズに合ったサービスをするのはよい考えだ。また、通常は航空機の食事を作っている会社も療養食を提供すれば業務を続けられ、新型コロナが収まった後には病院食・介護食という新しい分野に進出することが可能になるため、臨機応変に事業を行うべきである。 さらに、日田市役所は、*9-3のように、飛沫感染防止のため、住民課と税務課の窓口に下部に隙間のある透明シートを使った間仕切りを設置したそうだ。確かに、日本の役所や会社のオフィスは、間仕切りもなく、机をつけて仕事をしており、人ばかり多くて集中できないだろうと前から思っていた。そのため、これを機会に、透明でもよいので適切な高さの間仕切りを付け、人と人との間にはパソコンや書類棚を設置して、一定の距離を確保したオフィスを作ったらどうかと思う。ちなみに、外資系会社のオフィスは、1980年代からそうだ。 最後に、*9-4のように、新型コロナ特措法に基づく緊急事態宣言に関して、西村経済再生担当相は対象地域となった知事とのテレビ会議で、「外出自粛の効果を見極めてから」として休業要請を2週間程度見送るよう打診し、地方は休業要請の損失補償を求めているそうだ。私は、休業要請の判断は地域毎に知事の責任で行うべきだと思うが、「行政から営業自粛を求める以上、補償は表裏一体だ」「補償とセットでなければ理解いただけない」というのは賛成できない。何故なら、新型コロナ感染者を出せば大変なことになる中で、休業は自分や事業の生命を護るために行うものであり、行政から求められて仕方なくやるものではないからだ。さらに、休業によって収入が減少した事業者には、簡素な手続きで速やかに給付金を出せばよいからである。 *9-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/599382/ (西日本新聞 2020/4/10) 感染者受け入れへ一般病院「逃げられない」 対策徹底、風評の懸念も 新型コロナウイルスの感染拡大で緊急事態宣言が出された福岡県では、感染症指定医療機関ではない一般病院に入院する患者が増えている。一般病院での指定感染症の受け入れは異例の事態。各病院は感染対策の徹底に腐心し、風評被害の懸念も募る。県の受け入れ要請に備える同県広川町の姫野病院を9日に訪ねた。病院が感染者の受け入れに備えて用意した個室は3部屋。ベッドが一つ置かれ、冷蔵庫やトイレもあり見た目は普通の病室と同じだが、重症化した際に人工呼吸器を置くためのスペースを確保しておくなど細部に気を使う。「室内には陰圧装置を備えており、廊下に空気が漏れる心配はありません」。病院で感染対策室長を務める感染管理認定看護師の中西穂波さんが説明してくれた。陰圧とは室内の気圧を下げ空気を室外に漏らさない機能。フロアの一部は扉で仕切られ、ほかの入院患者とは動線が交わらないように工夫している。病院は全140床が個室。指定医療機関ほどの機能ではないが、全室に陰圧装置を備える。当面は陰圧を強化した3部屋の使用を想定し、県からの要請次第では、最大35人が入院できる1フロア全てを感染者専用にする方針だ。受け入れ態勢の検討を具体化させたのは1週間ほど前。約500人いる職員には院内感染や風評被害の懸念も根強いが、姫野亜紀裕院長が「医療機関としての使命。ウイルスから逃げてばかりはいられない」と決断した。感染者に対応するスタッフは、使い捨ての医療用長袖ガウンにキャップ、マスク、ゴーグルなどを着ける。着脱は急きょ設けた隔離エリア内に限定し、その都度、アルコール消毒するなどマニュアルも策定。スタッフが帰宅する際はシャワーを浴びることも厳守させる。看護師などを対象に研修を繰り返すという。ただ、十分な対策を講じても病院スタッフの不安は尽きない。感染患者に対応する人員の選定も課題で、中西さんは「精神的なケアも必要になるだろう」と話す。感染者の受け入れによる風評被害も拭えない。電話やインターネットでの診療も実施しているが、姫野院長は「外来診療の患者は減るだろう」と覚悟する。福岡県内の感染者数は累計で250人。県内12の指定医療機関にある感染症病床は66床しかなく、自宅待機を余儀なくされる軽症者や無症状者もいる。重症者らのために感染症病床を空けておく必要があり、県は受け入れ先を一般病院にも拡大し、週内に300床を確保する方針だ。姫野病院では9日、医師や看護師向けの訓練を実施した。中西さんは「いざ感染者が来た時に慌ててミスをしないよう事前にやれることはやっておく」と表情を引き締めた。 *9-2:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/599334/ (西日本新聞 2020/4/9) 福岡県が軽症者を週明け移送へ 新型コロナ、北九州のホテル200床確保 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、福岡県が無症状者や軽症者を受け入れる療養施設として、ホテル「東横イン北九州空港」(北九州市小倉南区)を確保したことが分かった。ホテルごと借り上げ、約200床を用意できる見通し。13日にも感染者の移送を始める。厚生労働省は感染拡大状況に応じ、軽症者や無症状者について、高齢者や基礎疾患がある人、妊婦などを除き、自治体が用意した民間宿泊施設や自宅での療養を検討するよう都道府県などに通知。県内では感染者が急増して病床が逼ひっ迫ぱくしており、厚労省と協議して医療機関以外での療養に移行を決めた。関係者によると、ホテルには医療機関に入院中や自宅待機中の感染者を移送するほか、新たな感染者にも入ってもらう。1人1室での療養が原則で、感染防護の訓練を受けた看護師や保健師が常駐して健康観察し、医師も適時対応する。ホテル内での感染拡大を防ぐため、清潔な区域と、ウイルスによる汚染区域を明確に分けるゾーニングを徹底。搬送は感染予防を施した公用車などを使い、保健所職員らが対応することを検討している。ホテル従業員は一切関与しない。厚労省によると、滞在中のPCR検査で2回陰性となることが退所基準だ。福岡県内の感染者数は累計で250人。県内12の感染症指定医療機関にある感染症病床は66床しかなく、自宅待機を余儀なくされる軽症者や無症状者もいる。重症者らのために感染症病床を空けておく必要があり、県は受け入れ先を一般病院にも拡大し、週内に300床を確保する方針。 *9-3:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/599375/ (西日本新聞 2020/4/10) 飛沫感染防止へ手作り間仕切り 日田市役所の窓口、下部に隙間も 新型コロナウイルスの飛沫(ひまつ)感染を防ぐため、大分県日田市役所の住民課と税務課窓口に9日、透明シートなどを使った職員手作りの間仕切りが設置された。間仕切りは、財政課職員が製作。ホームセンターで農業用のマルチシートなど材料を購入し、縦横90センチの15個を完成させた。窓口担当職員の意見も聞き、下部には書類のやりとりができる15センチの隙間を作った。設置した両課は、市民との接触が最も多い部署。出生届を提出しに訪れた同市日ノ隈町の河津大輔さん(25)は「ウイルスは目に見えないのでこういう対策は安心する」と話していた。隣接する福岡県が緊急事態宣言の対象地域となった7日に同市で初めての感染が確認され、市民の危機感も高まっている。財政課の担当者は「業務が滞ることなく感染防止に役立てれば」と話し、今後は他の部署用も検討するという。 *9-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/510015 (佐賀新聞 2020.4.8) 休業要請2週間見送り打診、西村担当相、7都府県に 新型コロナウイルスの感染拡大に備える改正特別措置法(新型コロナ特措法)に基づく緊急事態宣言を巡り、西村康稔経済再生担当相が対象地域となった7都府県知事とのテレビ会議で、休業要請を2週間程度見送るよう打診したことが8日、関係者への取材で分かった。感染者数の多い東京都の小池百合子知事は異論を唱えた。地方が休業要請を受けた損失補償を求めるのに対し国は拒否。双方の足並みの乱れが表面化しており、終息に向けて宣言が期待通りの効果を上げられるかどうか問われそうだ。関係者によると、特措法を担当する西村氏は8日昼、東京、大阪、千葉、神奈川、福岡など7都府県知事とテレビ会議で会談。休業要請に関し「外出自粛を第1段階として、その効果を見極めてから」として2週間程度の見送りを求めた。安倍晋三首相が7日の緊急事態宣言に伴い「2週間後には感染者の増加をピークアウト(これ以上は上昇しないという段階に)させ、減少に転じさせることができる」と述べたのを受けた対応とみられる。これに対し、小池氏は「東京は感染のスピードが速く、待てる状態ではない。統一的にではなく地域の実情に沿う対応ができるようにしてほしい」と反論。休業要請の判断を地域ごとに知事の責任で行うべきだとの意見は別の知事からも出たという。政府は7日に改正したコロナ対策の「基本的対処方針」で、宣言対象地域の知事に対し、まず住民に外出自粛を要請し、その効果を見極めた上で休業要請などを行うよう求めた。対象7都府県のうち、東京都が独自に休業要請に踏み切る考えを示す一方、6府県は「外出自粛の効果を見たい」(小川洋福岡県知事)などと当面、休業要請しない方針を示している。ただ8日の全国知事会会合で、吉村洋文大阪府知事は「行政から営業自粛を求める以上、補償は表裏一体だ」と強調。小池氏も含め賛同の声が相次いだ。背景には、地域経済や住民生活に大きく影響する休業要請を知事が出すには「補償とセットでなければ理解いただけない」(黒岩祐治神奈川県知事)との事情がある。知事会は同日、国に損失補償を強く求める緊急提言をまとめた。政府は、休業要請の対象となっていない分野でも影響があることを理由に個別補償を否定し、収入が大幅に減少した事業者に給付金を出すとの立場を崩していない。 PS(2020年4月13日追加):*10-1のように、新型コロナの感染防止対策で一斉休校していた全国の小中高校が4月6日以降は新学期をスタートさせているが、「3密」の回避には限界があるとされている。しかし、「3密の回避」や「ドアノブ・手すりの消毒」は、新型コロナ以外の感染症防止にも必要なことなので、これを機会に30人学級にして座る間隔を空けたらどうか。パソコンを置いても不自由のない大きさの机にして間隔を空けることも、子どもの数が減っており、新学期の現在なら可能だろう。 また、「新型コロナの治療薬はない」といつまでも言われているが、実際には、*10-2のように、インフルエンザ治療薬の「アビガン」が効くことが明らかになり、日本には200万人分の備蓄があるそうだ。そのため、(他国に無償供与する前に)国内の患者に速やかに投与して治せばよいと思われる。「アビガン」は、RNAウイルス全般に効くと見られており、動物実験で催奇形性が確認されたため妊婦への使用を禁じているとしているが、それは、全員に使ってならない理由にはならない上、軽いうちに使わなければ効果が薄くなるからだ。 そして、検査して治療することを選ばず、緊急事態宣言による外出禁止に頼った結果、*10-3のように、観光業界が「コロナで死ぬか、経済で死ぬか」という事態になっている。観光バス駐車場の利用は、前年同月と比べて99.5%減で、観光バスで働く人は職を失って再起不能になりそうなのだ。私は、動いていない観光バスを借り上げて内装を変え、駐車場に止めておけば、発熱外来や検査室として使え、テントより余程居心地が良く、一石二鳥になると思う。 なお、ネットカフェが宿泊施設とはとうてい思えないが、*11-1のように、緊急事態宣言によるネットカフェの営業自粛で多くの人が行き場を失うので、埼玉県は県内にある73か所のネットカフェに寝泊まりしている300人ほどに上尾市のスポーツ総合センターを一時的滞在場所として開放するそうだ。しかし、ITやネットとつけば先端という時代は1990~2000年代始めに終わっているため、住居にゆとりのある地方で、*11-2のようなアルバイトをしながら、今後の生き方を考えたらいかがかと思う。 (図の説明:左は、現在の典型的な教室で、中央は机の間を離して配置した写真だ。どちらも、机が粗末すぎて荷物を置く場所もなく、パソコンを置けば書く場所がないという状況だ。そのため、右の写真のように、(色は白でなくてもよいが)机の幅を120cmくらいにしてパソコンを標準装備とし、生徒同士が間隔をあけて座れるよう、30人学級にすればよいと思う) *10-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/599942/ (西日本新聞 2020/4/12) 手探りの教室「3密」回避限界も 学校再開、リスク拭えず「悩ましい」 新型コロナウイルスの感染防止対策で一斉休校していた全国の小中高校が6日以降、続々と新学期をスタートさせている。国内では都市部を中心に感染が収まらず、今後も予測不能な中での学校再開。文部科学省は再開に際して留意点の大枠を示すが、再休校の判断など対応の多くを委ねられた教育現場は難しいかじ取りを迫られている。「今は教室内で大声を出さない方が良い、となっていますので普通の声であいさつをしましょう」。始業式を各教室で迎えた子どもたちは、校内放送で流れる教師の呼び掛けに少しくぐもった声で応じた。6日、佐賀県伊万里市の伊万里小。マスク姿の子どもたちは家庭で検温して登校、結果を記入した健康観察カードを学校に提出した。長谷川晃三郎校長は「子どもたちの心身安定のためにも始業式があって良かった」とまずは安堵(あんど)した。3月下旬に学校再開の指針を示した文科省は、毎朝の検温、マスクの全員着用を原則とし、ドアノブや手すりなどの小まめな消毒を学校に要請。特に(1)換気の悪い密閉空間(2)多くの人が密集(3)近距離での会話や発声(密接)-の3条件が重なることを徹底して回避するよう求めた。伊万里小では教室の机の間隔を空け、授業でのグループ討論は行わない。音楽では当面、歌う時間を減らし、鑑賞を中心とする。体育館で行う体育のマット運動や跳び箱も先送りし、1学期は運動場で接触の少ない授業を優先するという。長谷川校長は「学校再開のメリットデメリットはあるが、今後もどうなるか分からない」と、できる範囲での対応を強調した。それでも、同じ6日に始業式のあった同県唐津市の小学校の女性教諭(26)は「3密(密閉、密集、密接)を避けたいが、児童はくっついて遊ぶことも多く悩ましい」と困惑顔だった。 ◇ ◇ 「3密」対策の必要性は浸透するが実際のハードルは高い。給食の時間、飛沫が飛ばないよう机を向かい合わせにせず、会話を控えるようにしても配膳などの段階で接触はある。40人近い学級であれば確保できる机の間隔はわずかだ。休校が続く福岡市の中学校に勤務する40代の女性教諭は「どんなに工夫しても問題は残る。今、学校が再開されずにむしろほっとしている」と打ち明けた。文科省も指針の中で「多くの学校においては人の密度を下げることには限界がある」とし、学校教育活動上、近距離での会話や発声が必要な場面も生じることを認める。では、どうすべきか。学校によっては、学級を二つに分けて授業をしたり、登校日を分散させたりするといった案もあるが「授業時間数や教育の質を十分に確保できるのかという課題はある」(福岡県の中学校長)。現実的にはマスクの着用と換気の徹底で乗り切るしかないのが実情だ。 ◇ ◇ こうした学校の状況に、大分県では「勉強の遅れは取り返せても、命は取り返せない」と、県立高校生2人が休校の延長を求め、インターネットで集めた約1600件の署名を添えた要望書を県教育委員会に提出した。しかし県教委は「意見は受け止めたが、県内の感染状況は落ち着いている」として、予定通り県立学校を8日に再開している。一方、政府の緊急事態宣言を受けて対象の福岡県内をはじめ九州の一部自治体は再休校を決めたり、学校再開の方針を転換したりしている。実は新型コロナウイルスを巡る対応で安倍晋三首相の唐突な一斉休校要請も、文科省の学校再開の指針も、科学的根拠や効果は今なお示されていない。その中で選択を迫られる教育現場からすれば「地域事情を踏まえて総合的に判断するとしか言いようがない」(宮崎県教委)と歯切れも悪くなる。過去に例のない事態と向き合う現状では、学校を休校するか、再開するか、また再開した場合に感染をどう防ぐのか、完璧な答えは見えない。教育研究家の妹尾昌俊さんは「学校は本来、安全に楽しく学べる子どもたちの居場所。しかし大勢が教室に密集する日本の学校で感染リスクを大きく低下させるのは限界がある。感染が続く地域では子どもや保護者の意思を尊重できる選択肢があってもいい。いずれにせよ全ての子に学習の遅れが生じない手だては不可欠だ」と話した。 *10-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/202004/CK2020041302100024.html (東京新聞 2020年4月13日) 「命救う薬に」コロナへの効果期待 アビガン開発者に聞く 新型コロナウイルス感染症の緊急事態宣言を発令した七日、安倍晋三首相は治療候補薬として、インフルエンザ治療薬「アビガン」を増産する方針を表明した。開発に携わった富山大名誉教授の白木公康さん(67)は「命を救う薬として貢献できればうれしい」と語る。 ◆世界も注目 30カ国が提供申し込み 「すでに百二十例を超える投与が行われ、症状改善につながったという報告も受けている」。首相は会見でアビガンへの期待を前面に押し出し、開発企業と協力して臨床研究を進めることを表明。世界三十カ国から提供の申し入れがあり、政府は無償供与も始める。アビガンはインフルエンザ治療薬として白木さんと富山化学工業(現富士フイルム富山化学)が開発。二〇一四年に治療薬として承認され、現在は政府が新型インフルエンザ対策として二百万人分を備蓄する。 ◆ウイルスに効くと直感 岐阜市出身の白木さんは一九九一年に富山大のウイルス学研究室教授に就任。当初は帯状疱疹などを起こすヘルペスウイルスの治療薬を研究したが、既存の薬より効くものはできなかった。違うテーマでの再出発を目指していた九八年、富山化学の研究者が、同社が持つ三万個の化合物の中から試験管での実験でインフルエンザに効きそうな結果が出た物質として、アビガンを持ってきた。「構造の化学式をみた瞬間、インフルエンザなどのRNAウイルスに効くなと思った」と、白木さんは振り返る。インフルエンザや新型コロナウイルスは、遺伝子としてDNAではなくRNAを持つ。アビガンは、細胞内に侵入したウイルスが、RNAをコピーして増殖するのに必要な部品によく似た構造をしていた。ウイルスが部品と間違えてアビガンを取り込めば、RNAのコピーができなくなり増殖が止まると白木さんはみた。長年研究したヘルペスの場合、DNAで同じような働きをする薬が特効薬になっている。アビガンにはこの薬と共通点があると見抜いた。失敗経験が生きた。 ◆3月に臨床試験開始 動物実験を始めると、マウスでもインフルエンザに効くことを示せた。しかし、富山化学の経営状況が悪化したことや、既にインフルエンザ治療薬があったことなどから治験は停滞。それでも、既存の薬が効かない新型インフルエンザが出現した場合の切り札として一四年に承認された。アビガンはRNAのコピーという、ウイルス増殖の基本的な仕組みを妨げるため、白木さんは「インフルエンザ以外のRNAウイルス全般に効く」とみていた。実際、一四年からアフリカで猛威を振るったエボラ出血熱にも使用された。標準的な治療薬には選ばれなかったが、ギニアでは死亡率を低下させたとの研究成果もある。コロナウイルスでも同様の効果を期待して、藤田医科大(愛知県豊明市)が三月に臨床研究を開始。首相はこうした研究成果を念頭に「効果が出ている」と発言したとみられる。富士フイルム富山化学も今月三日にアビガンの治験を始め、六月末までに結果をまとめる。既に増産にも乗り出した。 ◆「緊急事態に使う薬に」 ただ、アビガンは動物の試験で、胎児に奇形を生じる催奇形性が確認された。人での治験では大きな副作用は確認されなかったが、インフル治療薬として妊婦への使用を禁じている。日本医師会の横倉義武会長もアビガンの治験への協力を表明する一方で「生殖期への影響が強い。注意しながら使うことが重要だ」と強調する。白木さん自身、コロナウイルスへの有効性が確認されたとしても「いつでも広く使うのではなく、現在のような緊急事態に命を救う薬という位置付けになる」とみる。一方で「肺の炎症は、高齢になってから後遺症が出ることもある。肺で炎症のある患者には早い時期から投与する必要がある」と指摘する。 *10-3:https://digital.asahi.com/articles/ASN475T44N47IIPE01F.html (朝日新聞 2020年4月9日) 「コロナで死ぬか、経済で死ぬか」北海道・小樽のいま 新型コロナウイルスの影響が長期化し、観光業界が苦境に立たされている。政府は7日に緊急事態宣言を出し、新たな経済対策をまとめたが、事態の収束は見通せない。国内有数の観光地、北海道小樽市では「もう限界に近い」との声が上がる。 ●観光バス99.5%減の衝撃 今月初旬、小樽市が集計した数値が地元関係者に衝撃を与えた。2月まで多くの人が行き交っていた小樽運河近くの観光バス駐車場の利用が、3月は6台にとどまった。前年同月(1343台)と比べると99・5%減。「観光客が消えた」と市の担当者は表現する。緊急事態宣言の対象は東京や大阪、福岡など7都府県で、北海道は含まれなかったが、観光需要の回復は当面見込めない。約100店舗が軒を連ねる小樽堺町通り商店街では、厳しい現状を訴える声があふれる。「コロナで死ぬか、経済で死ぬか」。昆布専門店「利尻屋みのや」の社長、簑谷和臣さん(50)はそう話す。3月の売り上げは前年の24%。例年、観光客が増える夏に向けて売り上げが伸びるため、このままでは4月の売り上げは前年の10%、5月は5%になる恐れがあるという。31人の従業員の雇用は最後まで維持する考えだが、「あと何カ月、給料を払えるだろうか」と苦しい胸の内を明かす。政府の経済対策、とりわけ即効性がある現金給付に期待を寄せるが、事態が長期化すれば焼け石に水になってしまう。「収束が最大の経済対策だ」と簑谷さんは話す。 ●海鮮丼専門店、アルバイトは全員休み 海鮮丼の専門店「どんぶり茶屋」では、3月の売り上げが前年の2~3割という。十数人のアルバイトは全員休んでもらい、他に仕事が見つかればそちらを優先してほしいと伝えたという。運営会社の外食部門の責任者、大野大輔さん(43)は「先が見えないのが一番不安。打つ手がない。今は耐えるしかない」と話す。アクセサリー店「3Ring(サンリング)」では、3月の売り上げが半減した。運営会社の副社長、淡路祐介さん(39)は「他のお店と比べれば、うちはまだマシかもしれない」。それでも、運転資金を確保するために数百万円の融資を受ける検討をしている。当初は5月までの収束を期待していたが、緊急事態宣言であきらめざるを得ない状況だ。「このままでは、また融資、また融資となりかねない。夏までに収束しないと、商店街でも事業を縮小するお店が増えてくるかもしれない」と淡路さんは言う。 *11-1:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200412/k10012383281000.html (NHK 2020年4月12日) ネットカフェ営業自粛で行き場失う人に県施設を無料開放 埼玉 新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言を受けて、埼玉県は人が集まりやすい施設などに13日からの休業を要請していますが、インターネットカフェの営業自粛で多くの人が行き場を失うおそれがあるため、一時的な滞在場所として、県の施設を12日夜から開放することを決めました。緊急事態宣言を受け、埼玉県は人が集まりやすい施設などに13日午前0時からの休業を要請していて、対象の施設には24時間営業のインターネットカフェも含まれています。しかし、県によりますと、県内にある73か所のインターネットカフェには、300人ほどが寝泊まりを続けているとみられるということで、こうした人たちが行き場を失うおそれがあるため、上尾市にある県のスポーツ総合センターを一時的な滞在場所として、12日夜から開放することを決めました。和室と洋室合わせて30部屋におよそ200人が宿泊でき、県内のインターネットカフェを利用していた人は、原則、無料で1週間、滞在できるということです。施設の開放は12日午後8時から来月6日まで行われ、利用する場合は午前9時から午後6時までは「048-830-8141」、午後6時以降は「048-774-5551」まで連絡が必要だということです。 *11-2:https://www.jomo-news.co.jp/news/gunma/politics/206266 (上毛新聞 2020/4/13) 嬬恋キャベツに人手を 新型コロナで宿泊や飲食の余剰人材へ募集 新型コロナウイルス拡大防止の水際対策強化に伴う入国制限などの影響で、外国人技能実習生らが来日できず深刻な人手不足が懸念される中、群馬県嬬恋村のキャベツ農家でつくる嬬恋キャベツ振興事業協同組合(干川秀一理事長)は12日までに、客数の落ち込みで人手余剰感がある宿泊施設や飲食店の従業員を一時的に雇い入れる農家を紹介しようと募集を始めた。村内の農家に必要な計約220人の確保を目指す。新型コロナ問題による労働者の不足と余剰を結び付け、非常時を乗り切りたい考えだ。 ◎収穫終える10月まで 繁忙期などは配慮 政府は中国やベトナムなど73カ国・地域からの入国制限をしており、同組合は実習生の入国遅れが長期化すると判断し、対応を協議してきた。キャベツの栽培管理や収穫作業は人手が必要のため実習生に頼っている。それぞれの農家は当初、今月20日ごろから栽培作業を実習生に始めてもらう段取りを取っていたという。入国制限が解除された場合でも、入国手続きには1カ月以上かかる見込み。このため今年の入国調整を見送り、収穫を終える10月ごろまでを他業種に従事する日本人や在日外国人らの一時的な雇い入れで補いたい方針だ。農家で人手不足が深刻となる一方、宿泊や飲食といった業界では外出自粛などのあおりで来客数が大幅に減少し稼働率が低下しているほか、製造業などでも海外からの部品調達が滞るなどして工場が停止し、従業員が自宅待機となるケースもあるという。同組合は、一時的に余剰感が生じたこうした業界で働く人を、キャベツ栽培農家が雇えるよう橋渡しをする。村内の観光業者や商工業者にチラシを配り、雇い止めや一時休業を考えている経営者に対して従業員の雇用確保策としても呼び掛ける。同組合はJA系統外の農家などでつくる団体だが、JA嬬恋村に支援を求める農家に対しても応募者をつなぎ、村全体のキャベツ農家に人材を提供していく考え。村内では約120戸が計約220人の人員を求めているという。新型コロナウイルスの状況次第だが、同組合事務局は「夏休みなどに繁忙期となるホテル従業員には配慮したい。短時間でもいいので村内外から一緒に頑張りたい人に来てほしい」としている。問い合わせは同組合の電子メール(fhashi18@gmail.com)へ。 <検査・治療に帰国者・接触者相談センターや保健所を通すのが誤りだ> PS(2020年4月15、16、17日追加):*12-1のように、「新型コロナの感染が拡大し、クラスター追跡が遅れて保健所がパンクしているのが危機だ」と記載されているが、“積極的疫学調査”と称するクラスターの追跡は、(原爆症の調査を思い出すが)疫学調査のための調査であって、治療のための迅速な検査になっていない。さらに、東京都の感染者の約7~8割が感染経路不明というのも、公共交通機関・職場・歓楽街などで接した不特定多数の人の全てを報告することなどできるわけがないため当然で、有用な疫学調査にもなっていない。現在は、クラスターを追跡して無症状の人を隔離するよりも、症状の出た人を素早く検査して治療し、重症化する前に治すことが必要な段階なのである。 京都大付属病院と京都府立医科大付属病院が、*12-2のように、新型コロナの院内感染を防ぐために、手術や救急医療を受ける患者に対して症状がなくてもPCR検査を公費で行うか保険適用するよう求める共同声明を発表し、対策が遅れれば医療崩壊に繋がると訴えている。他の病気で病院を訪れる人でも新型コロナに感染していないという保証はないため、手術や救急医療などの治療を受ける患者に検査を行うのは当然だ。そのため、治療の一環として検査を保険適用にすればよく、*12-4のような15分で判定できる高価すぎない検査キットをクラボウの中国の提携先が開発し、4月16日以降、1日1万テスト分を供給するそうだ。 さらに、*12-3のように、北海道新聞も社説で「新型コロナの検査態勢拡充に手を尽くしたい」と記載しているが、検査方法はPCR検査だけではないため要注意だ。確かに、医師が感染を疑って検査を求めても保健所などが拒否するケースが多すぎ、まだ「感染者や渡航歴がある人などとの濃厚接触」を条件にしているのは現実に合っていない。そのため、先行事例や提言を参考にして工夫すべきだが、専門技師が不足しているからといって、「感染したら重症化するリスクが高いのは高齢者」などと年齢差別的な報道を繰り返しながら、停年退職者に検査を担わせようと考えるのは筋が違うため、リスクが低いと言わている人が対応すべきだ。 新型コロナの国内感染者数は、*12-5のように、「ダイヤモンド・プリンセス」の乗客乗員分を合わせて1万2人となり、三重県四日市市では発熱して自宅療養中だった50代男性が死亡し、感染していたことが判明したそうだ。これは、東京在住の私のいとこ(40代男性)が、①微熱が続くのでかかりつけ医に行ったら「保健所に相談して」と言われ ②保健所は「軽症だから検査しない」と言い ③最初は37.5 度だった熱が4日後には40度になって ④苦しいので保健所に電話したら電話が通じず ⑤やっとPCA検査を受けたら結果が出るまで3日かかると言われ ⑥状態が著しく悪化したためPCA検査の結果を待たずに救急車で病院に行ったら ⑦「軽症だから公共交通機関で帰ってくれ」と言われ ⑧救急車の中で6時間も待たされた後にやっと入院できて酸素吸入を受け ⑨後でPCA検査の結果が陽性だったことがわかった というのと同じケースだと思うが、私のいとこも救急車で病院に行かなかったら「発熱して自宅療養中だった40代の男性が死亡し、死亡後に陽性だったことが確認された」などというくだらない報告になっていたところだった。つまり、日本は、とんでもない医療放棄国になってしまったのだが、①の段階で直ちに検査し、③になる前にアビガンを投与していれば、とっくに治って救急車や救急救命室を占有する必要もなかったのである。また、⑤については、結果が早く出る検査方法を使った方がよく、新型コロナの症状を出している人が⑦のように公共交通機関を使えば、東京で新型コロナが蔓延するのは当然で、どこかおかしい。 なお、新型コロナの治療効果が期待されるアビガン(対症療法ではなく根本的治療薬である)は、*12-6のように、⑩政府は備蓄を3倍の200万人分へ増やす計画を掲げているが ⑪通常であれば中国に依存していた原料の国内生産切り替えには時間がかかる(何でも時間がかかるが、時間をかければ勝負は終わっている) ⑫緊急事態の対応で規制緩和など官民を挙げた取り組みを加速する必要がある そうだ。しかし、日本で開発された付加価値の高い医薬品でも国内で生産すればコストが高いため中国に依存していたのは情けないし、政府は今が必要な時なのだから備蓄を迅速に提供すべきだ。そして、政府が短期間で承認したいのに、厚労省が「条件付き承認でも審査に数カ月がかかる」等と言っているのは、厚労省の怠慢である。 2020.4.6東京新聞 2020.4.10Yahoo 2020.3.6東京新聞 (図の説明:1番左と左から2番目のグラフのように、東京始め日本で新型コロナ感染者が等比級数的に増え、いくつかの都府県で緊急事態宣言が出された。しかし、右から2番目の図のように、37.5度以上の発熱が4日以上続き、患者が崩壊しそうになって初めて保健所や帰国者・接触者相談センターに電話相談することができ、そこの電話は繋がりにくい上に繋がっても事務的な説明をして検査を断られるケースが多く、新型コロナ感染者がやむなく自宅待機してさらに感染者を増やしている状況だ。が、1番右の図のように、迅速に検査して治療しなければアビガン等の治療薬は効かないため、保健所や帰国者・接触者相談センターへの事前相談はやめて迅速な検査と投薬で治す体制に変えるべきだ。そして、そのための準備は、ダイヤモンド・プリンセス号の経験以来、2月~3月中旬までの時間稼ぎをしている期間にやっておくべきだったのに、いつまで同じことを言って経済を停滞させ、無駄遣いばかりしているのか) *12-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58024420U0A410C2EA1000/ (日経新聞 2020.4.15) クラスター追跡に遅れ 感染拡大、駅な保健所パンクの危機 新型コロナウイルスの感染が拡大する中、感染経路の調査を担う保健所の負担が急激に重くなっている。感染者や濃厚接触者が加速度的に増え続け、調査に非協力的な人も多い。保健所がパンクすると、クラスター(小規模な感染者集団)の発見が困難になり、感染が一段と拡大しかねない。態勢増強や業務分散が急務だ。「保健所は今、新型コロナとの闘いの主戦場だ。現場は疲弊しており、何とかしなければならない」。政府の専門家会議の尾身茂副座長は窮状を訴える。保健所は都道府県や政令市、中核市などが設置主体で、医師や看護師、保健師らが配置されている。聞き取りなどを通じ濃厚接触者を捜し出したり、体調を確認したりする「積極的疫学調査」を担う。全国に472カ所(2019年度)ある。国は感染拡大防止のため、クラスター追跡を重要施策に掲げる。尾身氏が危機感を隠さないのううは、感染者や濃厚接触者の急増で、保健所によるクラスター追跡に遅れが生じているためだ。このところ東京都で見つかる感染者のうち、約7~8割は感染経路が不明だ。都の担当者は「保健所からの情報がほとんどなく、背景がよく分からない。受診者が増えて聞き取り調査が十分できていない可能性がある」と明かす。厚生労働省によると、感染者1人あたりの濃厚接触者数はゼロから100人近くと大きな幅がある。自宅で安静にしていたか、外出していたかで大きく異なる。保健所は感染者の行動履歴から濃厚接触者を割り出すが、行動範囲の広い若者や中高年の感染者が増え、追い切れなくなっているという。歓楽街でのクラスターの関係者は聞き取りにも非協力的なことが少なくない。 *12-2:https://www.jiji.com/jc/article?k=2020041501037&g=soc (時事 2020年4月15日) 無症状でもPCR検査を 京大病院など共同声明―新型コロナ 京都大付属病院と京都府立医科大付属病院は15日、新型コロナウイルスの院内感染を防ぐため、手術や救急医療を受ける患者に対し、症状がなくてもPCR検査を公費で行うか保険適用するよう求める共同声明を発表した。対策が遅れれば医療崩壊につながると訴えた。声明は無症状であっても感染者に手術や分娩(ぶんべん)、内視鏡検査をすれば、医師や周囲の患者らに感染させる可能性があると指摘。現在は症状がある患者だけに保険が適用され、無症状のケースで実施した場合に病院側が費用を負担すれば経営を逼迫(ひっぱく)させるとした。また、PCR検査に必要な試薬や、感染を防ぐ防護具の確保も求め、厚生労働省に要望書を提出するという。京大病院の宮本享病院長は記者会見で、「臨床現場の悲鳴でもあり、この危機感は日本中の医療関係者が共有している」と話し、他の医療団体に賛同を求めた。 *12-3:https://www.hokkaido-np.co.jp/article/412751 (北海道新聞社説 2020.4.16) コロナ検査態勢 拡充に手を尽くしたい 新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐには、PCR検査の拡充が不可欠だ。なのに、遅々として進まない現実がある。道内の帰国者・接触者相談センターの健康相談は2、3月で1万8544件に上ったが、検査に至ったのは1・8%の349件で全国3番目の低さだった。検査ができないと、感染に不安を感じる人たちが医療機関を受診して、ウイルスをうつしたり、うつされたりする恐れがある。安倍晋三首相は今月6日、検査の可能数を1日2万件にすると述べたが、実施は8千件を下回っており、目標にはほど遠い。国は地方任せにせず、財政措置を講じて検査態勢を整え、加速させるよう手を尽くすべきだ。北海道保険医会の調査では、会員の医師が感染を疑い検査を求め、保健所などに拒否されたケースが111例あった。「感染者や渡航歴がある人などとの濃厚接触がない」などが理由である。国は感染経路から濃厚接触者を追って検査し、感染爆発を抑える手法を取ってきた。検査数の少なさは国の方針に従ったためだ。だが、感染経路が不明な人が増え、段階は変わった。検査の拡充に重点を移す必要がある。検査数という分母が感染の実態を反映していないと、科学的な統計と知見に基づいた対策を打つこともできない。感染の有無が分かれば、重症者に対して感染症指定医療機関で優先的に治療を行い、軽症者は自宅や宿泊施設で療養してもらうトリアージもしやすくなろう。それにしても日本の検査数は驚くほど少ない。ドイツの検査数は日本の約30倍に上るという調査結果もある。大量検査で早期発見に努め、重症化を阻止している。ドライブスルー方式や訪問型の検査などで院内感染を防ぎ、民間の協力を得て24時間態勢でスピードアップを図っているという。韓国で普及しているウオーキングスルー方式も有効だ。野外にブースを設けて検体を採取するため、車を持たない人でも検査ができ、飛沫(ひまつ)感染のリスクも低い。日本医師会は採血で行う抗体検査を要請している。医療従事者の感染リスクが減り、免疫獲得の確認などに適しているそうだ。こうした先行事例や提言を参考に工夫を凝らしてほしい。検査数が伸びないのは専門技師らが不足していることもある。退職者ら検査を担える人に応援を求めることも必要だろう。 *12-4:https://www.chemicaldaily.co.jp/%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%9C%E3%82%A6%E3%80%80%EF%BC%91%EF%・・ (化学工業日報 2020年3月13日) クラボウ 15分で判定 新型コロナ検査キット クラボウは12日、新型コロナウイルスの検査キットを16日に発売すると発表した。イムノクロマト法を用い、15分で感染の有無を目視で判定できる。衛生研究所や臨床検査会社などに、1日当たり1万テスト分を供給する計画。イムノクロマト法による新型コロナの迅速検査キットは国内初とみられる。保険適用を視野に入れている。検査キットはクラボウの中国提携先が開発。これまでに1000例以上の臨床データがあり、同国では4日に標準診断法のガイドラインに採用された。10マイクロリットルの血液をキットに滴下するだけで診断でき、PCR法と比較して時間、コストなどを削減できる。血液検査のため、検査作業者への2次感染のリスクも軽減できる。キットは感染時に体内で生成される特定の抗体を検出する。PCR法で検出が難しいとされている感染初期でも判定できる。PCR法は検体中のウイルス量の影響を受けやすいが、同キットは血液中に抗体が存在すれば判定可能。サンプル採取の方法や部位による偽陰性も出にくい。感染の初期段階で生成される抗体「IgM」用と感染後長期間にわたり最も多く生成される抗体「IgG」用の2種類を用意し、正診率はそれぞれ95・72%、94・24%。陰性判定率については、ともに100%。併用することで検査精度は高まる。2種ともに価格は税別で2万5000円。同社環境メカトロニクス事業部バイオメディカル部は、イムノクロマト法などを用いた食品中の成分や食中毒菌などのDNAを判定する試薬キットを開発・販売している。今回、新型コロナの感染拡大を受けて、中国の提携先が開発したキットの輸入、販売に踏み切った。 *12-5:https://mainichi.jp/articles/20200416/k00/00m/040/248000c?cx_fm=mailsokuho&cx_ml=article (毎日新聞 2020年4月16日) 国内感染者1万人超え、クルーズ船含め 死者203人に 新型コロナウイルスは16日、東京都の149人など新たに576人の感染が判明した。クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の乗客乗員を合わせた国内の感染者数は計1万2人になった。13人が亡くなり、死者は計203人になった。三重、大分、沖縄の3県での死亡は初めて。大阪府では52人の感染が確認され、感染者数は1000人を超えた。和歌山県では両親の感染が既に判明していた0歳女児の陽性が新たに確認された。三重県四日市市では発熱して自宅で療養中だった50代男性が死亡し、感染していたことが判明した。 *12-6:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200417&ng=DGKKZO58155130W0A410C2EA1000 (日経新聞 2020.4.17) アビガン原料、中国頼み、政府、備蓄3倍の200万人分めざすが…国内生産移行へ総力戦 新型コロナウイルスに対する治療効果が期待される富士フイルムホールディングスの抗インフルエンザ薬「アビガン」。政府は備蓄を3倍の200万人分へ増やす計画を掲げるが、通常であれば中国に依存していた原料の国内生産切り替えには時間がかかる。緊急事態の対応で規制緩和など官民を挙げた取り組みを加速する必要がある。 ●特許切れ後発薬 アビガンはウイルスが体内で増殖するのを防ぐ仕組みで、コロナ治療に効果があったという報告がある。政府はパンデミック(世界的な大流行)に備えてアビガンを備蓄していたが、1人の治療にインフルの3倍量が必要ということが分かり、現在の200万人分は70万人分にしかならず、富士フイルムに増産を指示した。アビガンは海外で基本特許が切れており、原料を製造する中国では同じ成分の後発薬の生産も始まった。国内への原料輸入が難しい状況となり、富士フイルムは国内で原料を製造する能力があるデンカに委託し、国内生産にシフト。7月から本格的な増産を始める計画を公表した。本来、医薬品の原材料を変更するには時間がかかる。原料の調達先変更を申請する場合「通常なら品質の確認や登録手続きに1年程度かかる」(国内の中堅製薬)という。今回は特例的な措置で、こうした手続きが1~2カ月程度に短縮されたようだ。ただ本格的な増産は7月以降とみられ、3カ月程度を要する。コストもかさむ。製薬会社が海外から原料を調達するのは製造原価を下げるためだ。錠剤など一般的な医薬品は化学合成でつくられ、化学物質に溶媒や材料を加えて化学反応を起こす。有毒なガスや排水が発生するため処理コストもかかる。種類や濃度にもよるが日本の医薬品の排水処理費用は1キログラムあたり数十円から数百円とされ、中国やインドなど海外の10倍ともいわれる。国内で原料から製造すると薬価50円の薬に、100円以上のコストが発生することも考えられる。原料生産を内製化できれば、200万人分の目標は達成できる。ただ国内製造だと製造原価も高くなる。製造コストに見合う薬価を設定し、その価格を維持していく支援も必要だ。インフルエンザの代表的な治療薬タミフルは1日2回、5日間の服用で2700円程度かかる。仮にアビガンがタミフルと同価格で3倍量が必要とすると、1人分の薬剤費は8100円。200万人分なら162億円となる計算だ。原薬の海外依存は日本の構造的な問題だ。厚生労働省が2013年に実施した後発薬の調達状況に関する調査によると、原薬をすべて国内で調達しているものは金額ベースで3割にとどまっている。残る7割は原薬の全部もしくは一部を海外から輸入。調達先を金額で比較するとインド(30%)、韓国(26%)、中国(24%)となっていた。薬価の引き下げ圧力は強まっており、現在は海外調達の比率はさらに高まっているとみられる。 ●審査には数カ月 アビガンについては実用化の時期も注目される。政府は短期間でアビガンを承認したい考えだが、厚労省は慎重な姿勢を崩さない。一般的に医薬品は申請から承認まで半年以上。アビガンの臨床試験(治験)は6月末に終了する見通しだ。「副作用などデータの評価、専門家の意見といったプロセスは必須。条件付きの承認でも審査に数カ月がかかるだろう」(元厚労省の薬事担当者)。今回は日本の製薬会社が開発した薬であっても、原料の多くを中国に依存していたため、機動的に増産することができない現実が露呈した。デンカは原料となるマロン酸の製造から17年に撤退していたが、製造設備を残しており、人員の手当てで再生産できることが分かった。デンカが生産できるのは幸運にすぎず、原料を海外に頼る日本の医薬品製造に対する構造的な問題は依然として残ったままだ。新型コロナで浮かび上がった日本の医薬品の供給体制の危うさを解消するためにも、国内生産に対する価格評価や緊急時の審査の仕組みなど柔軟な制度を今こそ再構築する必要があるだろう。
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