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2015.10.22 伝統工芸は、最新技術の導入で発展産業にできるし、そうしなければならない。 (2015年10月24日、11月19日に追加あり)
      
  2015.10.6    2014.7.3          従来の博多人形
  西日本新聞     佐賀新聞 
       
              古代をモチーフにした最近の博多人形               劉備の博多人形
                 (*一番よいものを掲載したとは限りません)

(1)伝統工芸の活路
 私が衆議院議員だった時、上のグラフのように、佐賀県の有田焼は、それまでの料亭への販売が減り、売上が最盛期の20%程度まで落ちたという相談を受けたため、日本全体の伝統工芸の団体を集めて実情を聞いたところ、自民党の谷垣幹事長の地元の丹後ちりめんや伊吹文明元衆議院議長の地元の京都西陣織・友禅染なども含めて、他の伝統工芸も似たような状況であることがわかった。そのため、麻生財務大臣の地元、福岡の博多人形や博多織も似たような状況だと思われる。

 伝統工芸品生産額は、*1-1に書かれているように、年々減少するという厳しい状況にあるが、それはライフスタイルの変化に対応して需要を取り込まなかったこと、あまりにも高価で日本の中流階級には買いにくいこと、和式や和装が急速に少なくなったこと等が理由だろう。そのため、それぞれの産地で新技術の開発・応用や輸出拡大・販路開拓などに活路を見いだそうとしているのは重要なことである。

 そして、伝統工芸品には優れたものが多いため、それが消失するのはもったいなさすぎる。そのため、①織物なら過去の逸品を先端技術のコンピューター付織機で再現して品質を上げながら安価なものを生産するよう技術革新したり、②染色も著作権のなくなった過去の逸品をプリンターで印刷したり、③人形は3Dプリンターで注文主が要望する顔を作ったり、*1-3のようなロボットを組み込んだりすると、新しい付加価値がついてヒットすると思う。ちなみに、西安の兵馬俑は、素焼きの人形や馬に着色してあった点が博多人形と同じだが、その修理場に行った時、従来のモンゴル民族・漢民族の頭のほかに、オバマ米大統領の頭も置いてあったのが意外で興味深かった。

(2)人材
 九州経済調査協会(福岡市)は、*1-2のように、九州・沖縄・山口の2014年の人口移動は、全293市町村のうち8割近くの228の自治体で55〜69歳のリタイア層が転入超過で、「すでに人口還流が起きている」としている。50歳以上で大都市から九州に還流する人には、これまで九州にはなかったような国際企業や輸出企業で経験を積んだ人も多いため、彼らの知識や経験を取り込んでまちづくりや地域産業の活性化に生かすのは有意義だ。

 また、高齢者も、働いて支える側にいれば、本人には遣り甲斐があって健康寿命を延ばせるとともに、年金受給額が低くなるため、年金財政にもプラスである。

(3)金融とファンド
 事業の見通しがたったら金融が必要になるが、西日本シティ銀行と地場企業は、*2-1のように、既に九州大の特定関連会社、産学連携機構九州と共同で、大学発ベンチャーの創出を目的としたファンドを組成し、バイオ・医療機器・ナノテクノロジー・情報通信・デジタルコンテンツ−などへの投資を想定しているそうで、頼もしい。

 また、*2-2のように、佐賀県内に本店を置く全8金融機関と政府系ファンドの地域経済活性化支援機構は、「佐賀観光活性化ファンド」を設立し、2016年に創業400年を迎える有田焼産地である有田町の事業を最初の支援対象とし、地域活性化のモデルとして全県への展開を目指すそうだ。さらに、*2-4のように、九州の地方銀行は、地域経済の活性化を掲げた投資ファンドを相次いで設立している。

 そして、*2-3のように、ゆうちょ銀行も、中小企業の経営支援をするための投資ファンドを各地の金融機関と設立する検討をしており、地域金融機関との連携を強化するとともに、資金運用の多様化を進めるそうだ。私は、民営化したゆうちょ銀行の事業に政府が制限を加えすぎるのは妥当ではなく、ゆうちょ銀行にとって慣れない仕事は、他の金融機関と協調融資しながら習熟していけばよいと考えている。

    
        丹後縮緬                       京友禅           加賀友禅
     
      西陣織                              博多織
    
    佐賀錦      大島紬(奄美大島)  黄八丈(八丈島) 久留米絣      紅型(沖縄)  
                  (*一番よいものを掲載したとは限りません)

*1-1:http://qbiz.jp/article/73077/1/
(西日本新聞 2015年10月6日) 九州の伝統的工芸品、活路探る 輸出や新技術に力点
 陶磁器、織物、木工品…。九州にはさまざまな伝統産業がある。国指定の伝統的工芸品は、博多織や博多人形、伊万里・有田焼など20品目。各県指定の工芸品も多数ある。生産額が年々減少するなど厳しい状況にあるが、それぞれの産地で輸出拡大や販路開拓、新技術の開発・応用などに活路を見いだそうとしている。伝統的工芸品産業の振興に関する法律(伝産法)が1974年に施行され、産業振興の仕組みが整った。要件としては(1)主に日常生活で使われる(2)製造過程の主要部分が手工業的である(3)100年以上前から続く技術・技法で作られる(4)100年以上前から使われる原材料で製造される(5)産地が一定の規模を形成していること−など。国指定の産地は全国で222品目(今年6月現在)ある。全国組織の伝統的工芸品産業振興協会(東京)によると、国指定産地の12年の販売額は1039億円で、83年(5405億円)の5分の1に減少している。従事者数は約6万9千人で、79年に比べると4分の1。ライフスタイルの変化や、安い海外品の流入などで、苦戦を強いられているのが現状だという。国による支援では、産地ごとに製造事業者などで組合を結成。組合が振興計画を作った上で、後継者の育成や技術の伝承、需要開拓、事業の共同化などの取り組みに対して国が助成している。経済産業省の本年度予算は約12億6千万円。また、各都府県でも独自に、比較的小規模な工芸品産地を指定し、支援している。近年では、輸出拡大に向けた取り組みが活発だ。イタリア・ミラノで開催中のミラノ万博で伝統的工芸品を展示。訪日外国人観光客向けには、東京にある展示・販売施設「伝統工芸青山スクエア」などをPRしている。

*1-2:http://qbiz.jp/article/66364/1/ (西日本新聞 2015年7月9日) リタイア層、九州の8割で転入超過 九経調「すでに人口還流起きている」
 九州経済調査協会(福岡市)は九州・沖縄・山口の2014年の人口移動を分析し、全293市町村のうち8割近くの228の自治体では、55〜69歳(リタイア層)の世代が転入超過だったとの調査結果をまとめた。有識者でつくる日本創成会議が6月上旬、東京圏の高齢者の地方への移住推進などを国や自治体に求める提言を発表したことを受け、九経調が総務省の住民基本台帳人口移動報告年報(14年)を基に分析した。内訳を見ると、総人口は転出超過であるにもかかわらず、リタイア層の転入超過が起こったのは、熊本市や鹿児島市など半数超の163自治体。総人口、リタイア層いずれも転入超過は、福岡市、鹿児島県姶良市など65自治体だった。九経調は「すでに九州では高齢世代の人口還流が起こっている」としている。また、50歳以上では特に三大都市圏から九州への人口流入が進んでいるという。この理由については「比較的温暖な気候や物価の安さなどによるのではないか」とみている。九経調は「リタイア層を受け入れる自治体は、彼らの知識や経験を取り込んで、まちづくりや地域産業の活性化に生かす方策を考えるべきだ」とする一方、「自治体にとってはリタイア層の流入に伴う医療や福祉の負担増が懸念材料で、国の支援などが必要だ」と指摘している。

*1-3:http://qbiz.jp/article/65968/1/
(西日本新聞 2015年7月3日) ロボット「ペッパー」が広報担当職員 鹿児島・肝付町
 鹿児島県肝付町は2日、ソフトバンクが開発した人形ロボット「Pepper(ペッパー)」に職員の辞令を交付した。ペッパーは「肝付町でお仕事します」と元気に宣言した。町は高齢者の生活援助にITやロボットを使う事業を推進中。徳島県の企業の協力でペッパーを呼び、イメージキャラクターとして広報担当職員に任命した。介護施設にペッパーやIT機器を持ち込み、高齢者の反応を見て活用案を募る。CMなどで話題のロボットの訪問に町役場は大騒ぎ。見守ったお年寄りは「しゃべれるごたっが、かごっま弁はつじっとや?(通じるのか)」と興味津々。

<ファンド>
*2-1:http://qbiz.jp/article/65846/1/
(西日本新聞 2015年7月1日) 西日本シティが九大発ベンチャー創出ファンド 地場9社も出資
 西日本シティ銀行(福岡市)は1日、九州大の特定関連会社、産学連携機構九州(九大TLO、福岡市)と共同で、大学発ベンチャーの創出を目的としたファンドを組成すると発表した。総額は約30億円。このうち15億円を西シ銀、残りを地場企業などが出資し、7月末に設立する。ファンド名は「QB第一号ファンド」で、存続期間は10年。大学の研究成果や特許を活用するビジネスについて、事業化調査の段階から投資対象とするのが特徴で「こうしたファンドは全国で初めて」(西シ銀)としている。出資者には、西部ガス(福岡市)や福岡地所(同)、第一交通産業(北九州市)など9社のほか個人数人も名を連ねる。運営会社は設立済みで、九大TLOの坂本剛前社長、投資ファンド運営の本藤孝氏の2人が代表を務める。現時点では、バイオ▽医療機器▽ナノテクノロジー▽情報通信▽デジタルコンテンツ−などの分野の20社程度に投資することを想定している。創業前の事業化調査のために会社を設立したり、経営人材を探したりすることも手掛ける方針という。

*2-2:http://qbiz.jp/article/66183/1/
(西日本新聞 2015年7月7日) 佐賀 全8金融機関と政府系ファンドと連携
 佐賀県内に本店を置く全8金融機関と政府系ファンドの地域経済活性化支援機構(東京)が6日、観光振興事業を支援する「佐賀観光活性化ファンド」を設立した=写真。最初の支援は2016年に創業400年を迎える有田焼の産地である有田町の事業を対象にし、地域活性化のモデルとして全県への展開を目指す。同機構は観光庁と連携し、資金提供や専門家の派遣を通して観光事業を支援している。佐賀銀行と有田商工会議所、機構が中心となり、ファンド設立の準備を進めた。同機構と金融機関が設立したファンドは六つ目で、九州では初めて。ファンドの規模は5億円で、事業期間は7年間。食、伝統工芸に関する事業者やまちづくり会社に対して投資や融資をするほか、会計や経営の専門家による指導、助言を行う。まずは有田商工会議所が4月に設立した有田まちづくり公社への支援を検討している。ファンドの参加団体は同日、佐賀市の佐賀銀行本店で「観光を軸とした地域活性化」の推進協定も締結。佐賀銀行の陣内芳博頭取は「地域の成長なくして地域金融機関の発展はない。一体となって魅力を発信し、交流人口増加を図りたい」と話した。

*2-3:http://qbiz.jp/article/71677/1/
(西日本新聞 2015年09月29日) 中小支援ファンド出資検討 ゆうちょ銀、地銀などと
 日本郵政グループのゆうちょ銀行が、中小企業の経営を支援するための投資ファンドを、各地の金融機関と設立する検討をしていることが29日、分かった。地域金融機関との連携を強化するとともに、資金運用の多様化を進める狙いがある。金融庁も容認する方向だ。具体的には、ゆうちょ銀と地方銀行などが共同でファンドに出資して、中小企業に出資や融資をするほか、経営上の課題解決のために助言することなども想定している。ただ、国内の銀行は低金利で貸し出しの収益性が低下しているのが実態だ。このため金融庁は、「ゆうちょ銀の主力業務は投資信託運用・販売が望ましい」(幹部)としており、投資リスクのあるファンドへの出資額は預貯金残高約180兆円の1%未満に抑えられる方向だ。ファンドによる1件当たりの出資や融資の額も数百万〜数千万円にとどまる見通し。地域では特に中小企業の株主として投資する出資者が不足しているとされる。金融庁は、ゆうちょ銀の加わるファンドがこの役割を担うことを期待しているもようだ。

*2-4:http://qbiz.jp/article/73077/1/ (西日本新聞 2015年10月20日) 地銀系ファンド続々、地方創生支援に期待 成功例少なく乱立気味?
 九州の地方銀行が、地域経済の活性化を掲げた投資ファンドを相次いで設立している。資金不足や後継者不在などの課題を抱える企業の成長や再建を後押しし、地方創生につなげる経営支援策として期待されるが、成功事例はまだ少ない。乱立気味にも見えるファンドの課題を探った。肥後、鹿児島両銀行が経営統合し、九州フィナンシャルグループ(FG)が発足した今月1日、九州に三つのファンドが誕生した。まず、九州FGが立ち上げた「KFG地域企業応援ファンド」。次いで、九州FGと営業エリアが重なる宮崎銀行の「みやぎん地方創生1号ファンド」。そして、ふくおかFG傘下の福岡、親和、熊本と大分、宮崎の5行が参加する「九州観光活性化ファンド」だ。大学発ベンチャーの創出、イスラム市場でのビジネス支援、再生可能エネルギー事業の育成…。他の地銀も、競うようにファンドの組成や参画を進めており、テーマが重複するファンドも少なくない。地銀再編がささやかれる中、複数の地銀が手を組むケースもあり、興味深い。
   ◇     ◇
 投資ファンドは、運営者が金融機関などから集めた資金を、出資や社債などの形で企業に提供するのが一般的。企業の価値を中長期的に高め、株の上場や売却で収益を出すビジネスモデルだ。特に最近、地銀のグループ会社がファンドを運営し、銀行の取引先を支援するケースが目立つ。背景には、企業の設備投資意欲がなかなか上がらず、預金の貸出先が見つかりにくいことや、金融庁が、担保となる不動産よりも事業の将来性を重視する姿勢への転換を迫っていることがある。昨年、政府が打ち出した「地方創生」に向け、地域金融機関の役割に期待が高まっていることも大きい。出資を受ける企業にとっては、事業の計画段階から銀行の助言を得たり、人材の派遣を受けたりできる。一方で、銀行にとっては融資よりも高いリスクを抱えることになる。
   ◇     ◇
 「一緒にやろうという雰囲気があり、信頼関係を築きやすい」。アメイズ(旧亀の井ホテル、大分市)の山本等総務部長は地銀系ファンドの増加を歓迎する。ホテル事業を手掛ける同社は、2013年に福岡証券取引所に上場した際、大分銀行グループのファンド運営会社から支援を受けていた。今も、運営会社の社長が社外監査役を務める。ただ、ファンドにとって理想とされる出資先の上場事例はまだ少ない。九州のあるファンド運営会社の広報担当者は「経営支援の結果、会社が筋肉質になっても、根本から変わるわけではない」と外部から事業を磨く難しさを語る。ある地銀の担当者は「支援先が見つからず、空箱のようなファンドも増えるのでは」と声を落とす。関西学院大大学院経営戦略研究科の岡田克彦教授(行動ファイナンス)は「銀行がリスクを取ってファンドを活用することは、日本経済の発展に不可欠。一度失敗した会社でも、将来性を見込んで支援するケースが増えれば、斬新な企業がもっと増えるはずだ」と期待を寄せている。


PS(2015年10月24日追加): 持株会社の形にして異なる業種を下につけていくのは経営合理性のある場合が多いが、*3の「九州では、西日本シティ銀行グループを抜き、ふくおかフィナンシャルグループ(福岡市)に次ぐ地域金融グループが誕生した」というように、資産規模や資本金の大きさで一位・二位を争う目的の合併は、合併後のシナジー効果が小さく、経営をややこしくするだけのケースが多い。つまり、経営体は大きければよいわけではなく、時代に対する洞察力をもつ組織が一丸となって何をできるかが大切なので、メディアや周囲も、大規模化しさえすればよいという方向にそそのかしてはいけない。

*3:http://qbiz.jp/article/73421/1/
(西日本新聞 2015年10月23日) 西日本シティ銀、持ち株会社設立へ 来年10月
 西日本シティ銀行(福岡市)は23日、2016年10月をめどに、持ち株会社を設立する検討を始めた、と発表した。同日の取締役会で決議した。目的は「グループを挙げた総合金融力の向上」とし、他の金融機関との経営統合など地銀再編の受け皿とする意向については、「将来の可能性までは否定しないが、現時点では念頭にない」とした。同行によると、持ち株会社は株式を移転して設立する方針で、西日本シティ銀行が傘下にぶら下がる。詳細な日程や、具体的な方式については今後詰めるという。狙いは「グループ経営管理態勢の再構築を図り、グループ総合力を強化すること」という。同行には、長崎銀行や西日本シティTT証券、九州カードといった金融子会社があるが、どの企業を傘下に入れるかは、「これから検討する」とした。金融業界では、人口減や高齢化による国内市場の縮小や、グローバル化の加速など厳しい経営環境が続く中、地銀の再編が進む。10月1日には、肥後銀行(熊本市)と鹿児島銀行(鹿児島市)が経営統合し、九州フィナンシャルグループ(FG)が発足。総資産は6月末現在の単純合算で約8兆9千億円に上り、九州では、西日本シティ銀行グループを抜き、ふくおかフィナンシャルグループ(福岡市)に次ぐ地域金融グループが誕生したばかりだ。西日本シティ銀行も、九州を舞台にした地銀再編のプレーヤーとして注目されるだけに、今回の「持ち株会社設立」は、「さらなる経営統合の受け皿づくりではないか」(金融関係者)との見方も少なくない。同行は、2004年10月に西日本銀行と福岡シティ銀行が合併して発足。資本金は857億円。店舗数は194。従業員数は3834人。
*銀行持ち株会社:銀行を中核とした企業グループを統括する会社。銀行や証券会社などの株式を保有し傘下に置く。金融制度改革の一環として1998年に設立が解禁された。経営の健全性を確保する観点などから子会社も含め業務範囲は厳しく制限されている。大手行だけでなく「ふくおかフィナンシャルグループ」など地方の銀行にも活用事例が広がっている。


PS(2015年11月19日追加):意外な人が上手だったりするため、*4のように、「育成塾」を開いて広い裾野の人に人形師が指導するのはよいことだ。ただ、私は、顔が自分に似た博多人形を大切にしていたが、手が折れてがっかりしたことがあるため、①もっと壊れにくい材料にする ②3Dプリンターで家族写真、思い出の写真、特定の人物などをいい人形にする等を行うと、別の大きな需要ができると考える。

*4:http://qbiz.jp/article/75174/1/
(西日本新聞 2015年11月19日) 【伝統産業の挑戦】博多人形 若手育成で裾野拡大図る
 「中をくりぬくときは、脇を締めて」と、講師の明るい声が飛ぶ。粘土の人形を手に持つ受講生のまなざしは真剣だ。細かい表情や衣服のしわを描いていく。福岡市博多区の福岡商工会議所ビルの一室で開かれる「育成塾」。約30人が集まり、博多人形師の指導を受けながら、約1年かけて作品を仕上げていく。博多人形商工業協同組合と福岡市が共同で続けている後継者育成事業。2001年に「体験講座」としてスタートし、12年から「育成塾」に衣替えした。受講生は計約300人で、2年目の講座に参加する人も多い。そのうち11人が人形作家になった。育成事業を始めたのは、博多人形を取り巻く環境の厳しさからだ。1977年度のピークに32億円あった生産金額は、00年度に約13億円に半減。その後も低迷は続き、14年度は約7億円だった。「若い人がこの業界に入ってこなければ、ますます先細りしてしまう」と、協同組合の武吉国明理事長は危機感を抱く。体験講座1期生の永野繁大さん(38)=福岡県大野城市=は、大学生のときに参加。「最初は形にならず、難しかった。だからこそ面白かった」と振り返る。受講後に師匠の下で5年間修業し、独立。スケート選手やアニメのフィギュアなどの作品も手掛けている。永野さんは今年3月、高度な技術を保持する「伝統工芸士」に認定された。「伝統的な手法を生かしつつ、博多人形の幅広い可能性に挑戦したい」と、あらためて決意する。博多人形の販売が落ち込んだのは、生活様式の変化も大きいという。床の間、げた箱、たんすなど家の中に人形を置ける空間が減少。祝い事で人形を贈るケースも減った。ただ若手育成の努力で、組合員数はここ10年以上、60人台を維持している。「今は、人形好きな人が自分のために買っている。時代のニーズに合った多様な作家が出てくれば、裾野が広がる。決して悲観はしていない」。武吉理事長は力を込めて語った。博多人形 福岡市。黒田長政が筑前国(現福岡県)に入った際に集めた職人の中から素焼き人形が生まれたとされる。明治時代には海外でも評判になった。素焼きの人形に彩色して繊細な表現を生み出すのが特徴。1976年、経済産業省の伝統的工芸品に指定された。

| 経済・雇用::2014.6~2015.10 | 05:09 PM | comments (x) | trackback (x) |
2015.9.5 2020年東京五輪のエンブレム問題について
    
問題のエンブレム比較     発表イベント   これまでの   火の鳥と地球のモチーフ  
                              エンブレム     
                    (*画像は、無料の画像集より入手)
(1)本当に似ているか?
 上の一番左の写真や*1-1のように、2020年東京五輪のエンブレムとベルギー・リエージュ劇場のロゴが酷似していると指摘されたことについて、私は、東京五輪のエンブレムはカラフルで、かつ5輪のマークがついているので、全体としてベルギー・リエージュ劇場の暗いロゴとは似ていないと思った。アルファベットをデザインにすれば、展開の仕方が限られているため似ることもあるだろうが、デザインは色や五輪のマークも含めて考えるべきだろう。

 弁護士の山岸氏も、*1-3のように、「①他人の著作物を利用して作品を創作したのではなく、偶然似た場合 ②他人の著作物を少し参考にしたが、本質的な点を変更した場合 などは著作権の侵害には当たらず、東京五輪エンブレムは、海外劇場ロゴの著作権侵害には該当しない。商標・著作権は誤解だらけだ」という見解を述べておられ、私もそれが正しいと考える。

 しかし、日本のマスコミが騒ぐ中、*1-2のように、ベルギーのリエージュ劇場のロゴマークのデザイナーであるオリビエ・ドビさんと同劇場が、2015年8月31日に、国際オリンピック委員会(IOC)に著作権侵害の疑いがあるとして使用差し止めを求める申立書を送付すると明らかにした。この2020年の東京五輪エンブレムは、東京で開催すること以外は何のメッセージも発していないため、私自身は好きではなかったが、別の欠点を言い立てて降ろされた感がある。     

(2)東京五輪エンブレムの白紙撤回とその費用回収について
 2015年9月1日には、*2-1のように、2020年東京オリンピック・パラリンピックの組織委員会は、佐野氏がデザインしたエンブレムを白紙撤回し、新たなエンブレムを公募で選ぶ方針を示した。エンブレム自体は、私には模倣のようには見えなかったが、使用例の画像はじめ佐野氏の他の作品に転用事例が散見されたのは、一般国民の支持を失ったため、白紙撤回もやむを得なかっただろう。

 しかし、*2-2のように、舛添東京都知事は、発注済みの約4600万円分のエンブレム入りグッズ(紙袋、名刺など)のうち使えるものは使いたいとしており、既に支出してしまった費用に対する悔しさがにじみ出ている。また、2015年7月には、大会組織委員会と共催してエンブレムの発表イベントを行い、そのうち最大で7千万円を東京都が負担する協定を組織委員会と結んでいたというのも、これだけ多くの金をかけて発表イベントを行わなければならない理由はわからない。

 それに対しても、*2-3のように、ベルギー側はエンブレム紙袋の使用は矛盾するとしているが、ただで捨てるのはもったいないため、デザインの中に「幻のオリンピックエンブレム」というハンコをスマートに押して売却すれば、使った費用を回収して利益が出るかもしれない。

(3)では、どういうオリンピックエンブレムがよいか?
 私は、中学生以上(2020年には20歳前後)の広い裾野から、「一つの地球」や「夢ある未来」など、意味のあるテーマを表現したエンブレムのデザインを公募するのがよいと考える。そして、私自身は、2020年の東京五輪までに東北・関東の復興を完了させる決意で、丸い形の火の鳥(鳳凰、フェニックス)をかっこよくデザインしたらどうかと思っている。

<本当にパクリか?>
*1-1:http://www.jiji.com/jc/zc?k=201507/2015072900981
(時事ドットコム 2015/7/29)東京五輪エンブレムが「酷似」=リエージュ劇場ロゴと
 2020年東京五輪エンブレム(写真左)とベルギー・リエージュ劇場のロゴ(ドビ・グラフィック・デザイン社提供) 2020年東京五輪・パラリンピック組織委員会が24日に発表した五輪エンブレムが、ベルギーにあるリエージュ劇場のロゴと酷似しているとの指摘を受けたことが29日、明らかになった。同劇場のロゴは白黒の2色構成で配色は異なるが、五輪エンブレムに描かれた東京やチーム、トゥモローの頭文字「T」の形が同じように見える。劇場のロゴをデザインしたオリビエ・ドビ氏は時事通信の電話取材に対し、「先週末に友人から電子メールで知らせがあり驚いた。類似点が多くある」と指摘。ただ現時点では、具体的な対応は決めていないと話した。ドビ氏はツイッター上で、「リエージュ劇場対東京2020」とつぶやき、東京五輪エンブレムとリエージュ劇場のロゴを比較する画像を掲載した。東京五輪組織委の戦略広報課は「国際商標確認の手続きを済ませており、問題がないと認識している。見方はそれぞれあると思う」との見解を示した。五輪とパラリンピックのエンブレムのデザインは組織委が公募し、国内外の104作品からアートディレクターの佐野研二郎氏の作品が選ばれた。五輪開幕まであと5年となった24日に発表されたばかりだった。

*1-2:http://digital.asahi.com/articles/ASH701CGNH7ZUHBI03Q.html
(朝日新聞 2015年7月31日) 五輪エンブレム、使用差し止め申立へ ベルギーの劇場
 2020年の東京五輪のエンブレムと、ベルギーにあるリエージュ劇場のロゴマークが似ているとされる問題で、デザイナーのオリビエ・ドビさんと同劇場は31日、国際オリンピック委員会(IOC)に著作権の侵害の疑いがあるとして、使用差し止めを求める申立書を送付する。ドビさんが朝日新聞に明らかにした。ドビさんは、弁護士や劇場関係者、ベルギーのオリンピック委員会などに相談し、申立書を送付することを決めたという。東京五輪のエンブレムの決定過程などについて説明を求めたうえで、提訴なども検討するとしている。ドビさんは朝日新聞の取材に対し、「盗作の立証は難しいかもしれないが、私のデザインは何年も劇場のロゴマークとして使われ、浸透している。東京五輪のエンブレムのデザイナーが、どこかで見たとしてもおかしくない」と語った。
     ◇
 遠藤利明五輪担当相は31日の記者会見で、東京五輪のエンブレムについて「似ている似てないは、個人の思い」とし、「組織委が発表前に商標調査しており、問題ないと認識している」と述べた。

*1-3:http://biz-journal.jp/2015/08/post_10980.html (山岸純/弁護士法人AVANCE LEGAL GROUP・パートナー弁護士 2015.8.5) 東京五輪エンブレム、海外劇場ロゴの著作権侵害に該当せず 誤解だらけの商標と著作権
 先月24日に発表された2020年東京五輪の公式エンブレムが、ベルギーにある「リエージュ劇場」のロゴにそっくりで「パクリではないか?」などと一部で話題になっているようです。同29日には、東京五輪・パラリンピック競技大会組織委員会の高谷正哲戦略広報課長がこの問題に関し、「国際的な商標登録の手続きを経てエンブレムを発表している。特に本件に関して懸念はしていない」とコメントするなど、毅然と応対しているようです。本件をめぐっては、法律上どのような問題が生じるのでしょうか。まず注意しなければならないのは、「国際的な商標登録の手続きを経てエンブレムを発表しているから問題はない」というわけにはいかないという点です。商標とは、自身の商品やサービスを他人のものと区別する、他人に勝手に使用させないためのものなので、パクリかどうか、すなわち「著作権」の問題とはまったく異なるからです。問題は、リエージュ劇場のロゴの著作権を持っている人の権利を侵害しているかどうかです。さて、そもそも著作物というものは、なんらかの手続きにしたがったり、どこかに登録しなければならないものではなく、日本の法律にしたがえば、「個人の思想や感情を創作的に表現したもので、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの(小説、音楽、舞踏、絵画、彫刻、映画、写真等)」であれば、創作した瞬間に著作物として認められます。これらの著作物を複製したり、展示したり、売ったり、少し変更したりする権利(総じて著作権といいます)として認められます。また、著作物には国境はなく、世界各国が条約を締結し、お互いの国で生まれた著作物とこれに関わる著作を保護しています。したがって、リエージュ劇場のロゴはこれを創作したとされるフランスのデザイン会社が著作権を有していることになります。そして、「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約」によって、その国(フランス)と、条約同盟国(日本)において、その国(フランス)が与えている権利と同じ内容の保護が与えられることになります。具体的には、「保護の範囲及び著作者の権利を保全するため著作者に保障される救済の方法は、この条約の規定によるほか、専ら、保護が要求される同盟国の法令の定めるところによる(条約5条(2)」ので、日本の著作権法が適用されることになります。その結果、フランスのデザイン会社は、この条約と日本の著作権法に基づき、使用の差し止め請求や損害賠償請求ができることになります。また、このデザイン会社が望めば(親告すれば)刑事告訴も可能となります。
●著作権侵害の成立条件
 では、今回の東京五輪のエンブレムは、フランスのデザイン会社の著作権を侵害しているのでしょうか。ここで注意すべき点は、似ていればなんでもかんでも著作権侵害となるわけではなく、たとえば2つの作品が偶然に一致した場合は、著作権侵害には該当しません。あくまで他人の著作物を「利用して作品を創作する(依拠する)」場合に、著作権侵害が問題となるわけですが、過去の判例が、「既存の著作物に接する機会がなく、従って、その存在、内容を知らなかった」場合は、著作権侵害の可能性は極めて低いとしているように、もともとの著作物に接するチャンスがあったかどうかを「依拠している」かどうかのメルクマール(基準)としています。今回、エンブレムを創作した人が、どこかでリエージュ劇場のロゴを見ていた場合には、「依拠している」とされるかもしれません。しかし、「依拠している」なら、常に著作権侵害となるわけではありません。判例は、複製権侵害や翻案権侵害にすら該当しない場合、すなわち、「もともとの著作物を修正し、増減した別の著作物に新しい創作性が認められ、かつ、もともとの著作物の表現形式の本質的な特徴が失われてしまっている場合」には、著作権侵害とならないとしています。要するに、「確かに、ちょっと参考にした(依拠した)けど、もともとの著作物の本質的な点が変更されているから、まったく別の著作物になっている」場合は、侵害ではないということです。実際に過去の判例をみても、デザインの著作権侵害はなかなか認められにくいようです。今回の東京五輪のエンブレムとリエージュ劇場のロゴは、「正方形を彷彿させる図形の中に、直径が同じ円のシルエットと、長辺が同じ長方形を配置している」ところまではほぼ同一ですが、カラー、右上の赤丸の有無、さらなる外枠の円の有無などが異なるので、「まったく別の著作物になっている」といえるのではないでしょうか。

<白紙撤回>
*2-1:http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150901/k10010212431000.html
(NHK 2015年9月1日) 佐野氏デザインのエンブレム 白紙撤回
 2020年東京オリンピック・パラリンピックのエンブレムについて、大会の組織委員会は、佐野研二郎氏がデザインしたエンブレムについて、「佐野氏は模倣ではないと否定したが、一般国民の理解が得られない」として白紙撤回し、新たなエンブレムを公募で選ぶ方針を示しました。東京大会のエンブレムを巡っては、アートディレクターの佐野氏がデザインしたエンブレムが、ベルギーのグラフィックデザイナーが2年前に作った劇場のロゴマークに似ているとして、IOC=国際オリンピック委員会に対しエンブレムの使用差し止めを求める訴えを、先月ベルギーの裁判所に起こしました。さらに、エンブレムの審査の際、佐野氏からの応募資料でエンブレムの使用例として提出された空港や街中での2つの画像について、インターネット上に似た画像があることから、無断で転用しているのではないかという指摘が出ていました。こうしたなか、組織委員会がきょう午前、佐野氏本人に事情を確認したところ、エンブレムについては「模倣していない」と盗用を否定しましたが、使用例の画像については転用を認めたということです。これを受けて組織委員会は夕方、森会長や遠藤オリンピック・パラリンピック担当大臣、舛添都知事などが出席して臨時の調整会議を開き、「一般国民の理解は得られない」として、東京オリンピックとパラリンピックのエンブレムを白紙撤回することを決めました。オリンピックのエンブレムが大会組織委員会の正式発表のあとに撤回するのは極めて異例のことです。新たなエンブレムの選考について、組織委員会は公募を前提に、選考過程についてもより開かれた形でできるだけ早く選ぶ方針を示しました。 .組織委の森会長「何が残念なんだ」東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長は、臨時の調整会議のあと、報道陣からの「残念な結果になってしまいましたが」との問いかけに対し、「何が残念なんだ」と応えました。さらに、感想を求められると「今会見やっているでしょ」とだけ述べて会場を立ち去りました。裏切られたという思いだ2020年東京オリンピックのエンブレムについて、大会の組織委員会が佐野研二郎氏のデザインしたエンブレムの使用を中止する方針を固めたことを受けて、東京都の舛添知事は「私が見ても似ていると思うし信用の問題になっている。デザイナーの佐野さんにはまずしっかりと説明してもらいたい。裏切られたという思いだ」と述べました。そのうえで、「エンブレムのイメージ低下は否めず、佐野さんの責任はあると思うのできょうの会議でしっかり議論したい。こうした問題は一刻も早く片付けてすばらしい大会にしたい」と述べました。JOC会長「間違いなくオリジナルのエンブレムを」2020年東京オリンピック・パラリンピックのエンブレムを白紙撤回されたことについて、JOC=日本オリンピック委員会の竹田恒和会長は「エンブレムが発表されてから1か月、取りやめざるを得なくなったのは残念だ。盗作ではなくオリジナルと信じたいが社会的影響を考えると致し方ない。世界に対して信用を失ったことになるので、われわれスポーツ界でも信用を取り戻し、2020年の大会が成功するように努力しないといけない。IOC=国際オリンピック委員会とも連絡を取り合って了承してもらった」と話しました。そのうえで、「この結果を真摯に受け止めて間違いなくオリジナルのエンブレムを世間にオープンにしながら皆さんに理解してもらって作る必要がある」と話しました。遠藤大臣「国民が納得信用のエンブレムに」遠藤オリンピック・パラリンピック担当大臣は、記者団に対し、「新国立競技場といっしょで、みなさんに喜んでもらえる形でなければうまく進まないし、何よりも透明性がいちばんだから、今回、取り下げたうえで新しく公募されることになるから、まずは、できるかぎり透明性を高め、国民に納得し、信用し、喜んでもらえるようなエンブレムになってもらいたい」と述べました。下村大臣「非常に残念」下村文部科学大臣は、岐阜市で記者団に対し、「非常に残念なことだが、組織委員会が判断したことなので、それを受け止めたいと思う。見直すものは見直し、国民の理解をしっかり得られるように、まさに日本を取り戻す流れを作っていきたい」と述べました。無断転用疑い画像とは今回、無断転用の疑いが指摘されたのはアートディレクターの佐野研二郎氏が審査の応募資料として提出した空港や街なかでのエンブレムの使用例の画像2点です。このうち空港での使用をイメージした画像は海外のブログに掲載されていた羽田空港のロビーの写真に構図や写っている人の様子が似ていると指摘されています。また、街なかの画像は、海外の別のブログで紹介されている渋谷駅前のスクランブル交差点の写真と、海外の野外音楽イベントのホームページに掲載されている写真に写っている両手を挙げる人々を合成したのではないかと指摘されています。このうち渋谷駅前のスクランブル交差点の写真を無断で転用されたとみられる日本に住む31歳のイギリス人の男性は、NHKの取材に対してメールで回答しました。男性は写真は平成22年に休暇で東京を訪れた際に撮影したものだとしたうえで「佐野氏側がほかの人のものを使う際に許可を取らなかったのは不注意だと思うが、佐野氏の東京オリンピックのデザインは好きだったので使用の中止は悲しい」などと、コメントしています。「ずさんなやり方は著作権侵害に当たるだろう」佐野氏がエンブレムの審査資料にインターネット上の画像を無断で使用していたことについて、著作権の問題に詳しい弁理士の栗原潔さんは、「資料を作成する際に、自分で撮影した写真を使ったり事前に権利者の承諾を得たりすることは、どこのデザイン事務所でも当たり前にやっていることだ。オリンピックというイベントには極めて大きい社会的責任が伴うという認識が足りなかったのではないか。ずさんなやり方というしかなく著作権侵害に当たるだろう」と指摘しました。そのうえで、エンブレムの使用中止について、「おそらく前代未聞だと思うが、このエンブレムを使った公式グッズの販売などが始まればあとには戻れなくなってしまう。エンブレムの使用の見直しはやむをえない決断だと思う」と話しています。

*2-2:http://digital.asahi.com/articles/ASH925DNXH92UTIL030.html
(朝日新聞 2015年9月2日) 舛添都知事「エンブレム紙袋・名刺、使えるものは使う」
 新エンブレムが決まるまでの措置で、62区市町村にも方針を伝える。都によると、手提げの紙袋など約4600万円分のエンブレム入りグッズが発注済みだ。7月に大会組織委員会と共催したエンブレム発表イベントでは、都が最大で7千万円を負担する協定を組織委と結んでいる。舛添氏は記者団に対し、「ポスターはエンブレムを知ってもらうためのものだが、(名刺などは)ついでに入っているだけ。税金の無駄をなくしたい」と話した。先月末に完成したエンブレム入りの記者会見場の背景パネルは今後使わないが、「無駄をなくすため、私のサインを入れて100万円で売れないか」と提案した。

*2-3:http://www.news24.jp/feature/109/feature109_01.html (日テレ 2015年9月4日) 東京オリンピック「エンブレム」問題、エンブレム紙袋、ベルギー側「使用は矛盾」
 佐野研二郎氏デザインの東京五輪エンブレムがついた紙袋などを舛添知事が使い続ける考えを示したことについて、エンブレムが自身の考案した劇場ロゴに似ていると主張するベルギーのデザイナー側は「使用は矛盾している」と述べ、改めて使用しないよう求めた。


PS(2015年9月8日追加): 気仙沼は、下の写真のように、津波で流され人手が足りないため、*3のように、佐賀市などが職員を派遣している。しかし、見方を変えれば、住宅の高台移転や災害に強い21世紀の街づくりをするチャンスであり、人口減少時代でもあるため、決して復旧ではなく、一人一人が安全で豊かなスペースを持てる模範的な街づくりをするのがよいと考える。

    
   浸水域               押し寄せる津波             津波がひいた後
           <東日本大震災の津波による気仙沼の被害状況>
*3:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/227058
(佐賀新聞 2015年9月7日) 気仙沼市長が佐賀、鳥栖を表敬、職員派遣のお礼に
 東日本大震災で被災した宮城県気仙沼市の菅原茂市長が7日、佐賀と鳥栖の2市を訪れ、職員派遣への感謝を伝えた。菅原市長は「復興はこれから」と強調し、引き続きの協力を要望した。佐賀市役所で秀島敏行市長と会談した菅原市長は、「毎年3人ずつ職員を派遣していただいている。ありがとうございます」と感謝の言葉を述べた。その上で「これからも復興事業は続きます。来年度以降もよろしくお願いします」と協力を求めた。秀島市長は「職員は、さまざまな難問にぶつかっている。職員にとっても、いい経験をさせてもらっている」と応じた。会談後、菅原市長は「行革を進める中で、貴重な職員を派遣していただいている。全国から220人の職員が来て復興を進めている。本当にありがたい」と語った。菅原市長は鳥栖市の橋本康志市長とも会談し、お礼を述べた。

| 経済・雇用::2014.6~2015.10 | 10:45 AM | comments (x) | trackback (x) |
2015.7.7 ギリシャ危機を契機として議論が予定されている日本の消費税増税と社会保障削減は、日本の財政再建に適切ではないということ (2015年 7月8日、9日、10日に追加あり)
   
ギリシャの地図   2015.7.6西日本新聞      ギリシャの歴史     6世紀、ビザンチンの地図    

(1)国際通貨基金(IMF)発のギリシャ危機について
 *1-1のように、「①ギリシャは2012年に大幅な債務削減を受けたが、再び危機に陥った」「②国際通貨基金(IMF)は報告書で、ギリシャの財政は新たな金融支援が欠かせないとした」「③IMFは、最も楽観的なシナリオでも2022年に110%の目標を達成するにはGDPの3割超に及ぶ大幅な債務カットが必要になると分析」「④ギリシャのGDPは危機前の2008年から2014年にかけて約25%減った」「⑤雇用情勢も3月の失業率が25.6%とユーロ圏内で最悪」「⑥欧州連合(EU)財務相会合のデイセルブルム議長はこれまでより厳しい条件が必要になるとけん制した」とのことである。

 私は、この場合の処方箋は、失業率が5~8%になるまで仕事を作ってGDPを増やすことであって、まともな生活ができないほど年金を減らして、消費税を上げることではないと考える。年金は、日本と同様に仕事を持って十分に収入のある人は停止することで、削減することが可能だ。

 そのため、*1-2のように、ギリシャが国民投票を行ってEUが求める財政再建策を、反対61・31%・賛成38・69%で拒否したのは正解である。しかし、*1-3、*1-5のように、欧州中央銀行(ECB)は、ギリシャが緊縮策を受け入れなければ、金融支援の延長や債務減免協議を行わず、ギリシャの銀行への資金供給を据え置くとしている。

 しかし、*1-4のように、中国は、「ギリシャがユーロ圏に留まることができるか否かは、国際金融の安定と経済復興に関わる問題だ。中国は建設的な役割を果たす用意がある」と言っているため、貿易・投資・観光・金融などで協力してもらうのがよいだろう。このほか、ロシアも協力する意志を表明している。

 ギリシャは古代ヨーロッパ文明の発祥の地であり、その近くにはエーゲ海、価値ある遺跡、美しい街並みが数多く残っているが、廃墟のようになってしまったものや消防車の入らない道も多い。そのため、古代遺跡の価値を損なわずに忠実に復元しながら、最新の技術を導入する投資をすればよいと考える。

(2)古代文明遺跡群はどうだろうか
   
 ギリシャの街並み          アテネにある遺跡          ギリシャの彫刻

        
  ポンペイ   エジプト   インドの彫刻    中国、兵馬傭の人物
  の彫刻    の彫刻

 ヨーロッパはじめ、古代文明遺跡のある場所は、建物を壊したり、建て替えたりすることができないため、2000年以上も同じ建物が建っている。そのため、壊れたり、もともと着色されていた色がはげたりしているものが多く、安っぽい復元ではない本当に史実に忠実な復元を行えば、観光資源としてのみならず、ものすごい価値の出るものが多いだろう。さらに、それぞれの文明の発祥、拡散、混合が目に見えるようになり、歴史が「百聞は一見にしかず」となる。そのため、ユネスコは、古代文明遺跡群も世界遺産に認定して、発掘や復元を推進してはどうだろうか。

 その中には、当然、エジプト、メソポタミア、インド、中国、ギリシャ、ローマなどが入り、これらがハイウェイや高速鉄道で結ばれれば、一般の人にとっても面白くなる。(書ききれなかった地域は申し訳ないしょぼん

(3)日本の危機を煽り、間違った解決策を推進する財務省など
 ギリシャ危機に乗じ、財務省が中心となって「①ギリシャの惨状は遠い外国の話ではない」「②日本も財政再建の先送りは危うい」「③増税は消費税率の10%への引き上げを織り込むが、それ以上は封印した」「④歳出の抑制・削減策もメニューこそ並べたが、具体案や実行への道筋は先送り」「⑤経済成長に伴う税収増に頼ることは期待頼みの禁じ手」「⑥医療・介護・年金などの社会保障抑制・削減と増税が必要」「⑦社会保障を持続可能にし、将来世代へのつけ回しをやめるには、痛みを伴う改革が避けて通れない」というメッセージを発している。

 しかし、②③⑤⑦は、どうしても消費税増税をしたい財務省が中心となって言っていることを、殆どのメディアがマイクロホンのように書きたてているだけだ。これを政治が発信しているのではなく、行政が発信していることは、政権が民主党にかわっても同じことをさせられたことによって、既に証明されている。

 また、第三の権力として動いているメディアが行政に協力している理由は、政治家は都合が悪くなれば追い落とせるので怖くないが、行政はそういうわけにはいかないので真に怖く、かつ、消費税が上がれば新聞が生活必需品として軽減税率を適用されるよう運動しているからである。これでは、国民の福利向上のために闘う組織という姿勢はない。

 さらに、ヨーロッパと異なり、福祉国家にはなったこともない日本で、①④⑥のように、国民への福祉削減を言いたてるのは間違っている。そもそも、医療・介護・年金は、国民が若くて健康な間に、それぞれ別に保険料を支払い、年をとって必要になったら給付を受けることを約束していたものであるため、この契約を大きく変更して国民負担を増やし、厚労省の管理運用の不備に関する責任を、ひそかに国民にとらせることは筋が通らないのである。

 そして、⑦のように、「痛みを伴うから、よい改革である」と言うのは考えが浅すぎるとともに虚偽であり、管理運用の不備をそのままにして国民が不足分を補てんすれば、管理運用の不備を改善する機会が失われて、ずさんで無責任な管理運用がそのまま続くのだ。

 古賀茂明氏は、*2-2のとおり、「増税こそがギリシャへの道」としており、私も同じ意見だ。ただ、年金は、定年を延長したりして、高齢者でも十分な収入がある場合には現在でも支給停止になるため、これでよいと考えている。また、株式会社にしさえすれば、何でもよくなるとは思わない。

 「ギリシャにならないために増税」「将来の安心のために増税」というキャッチフレーズは、本当によく使われているが、私も「増税すればギリシャへの道」と考えている。ギリシャの消費税は現在20%だが、消費税は消費する者にペナルティーをかけるため、消費税を高くすればするほどモノが売れなくなり、稼ぐ力が落ちるからである。また、おおざっぱに言えば、公務員は新しく財やサービスを生産する人ではなく、新しく財やサービスを生産した人が払った税金によって養われている人であるため、国全体としては、公務員の割合が高ければ高いほど、国民一人当たりの稼ぐ力が落ちるわけなのである。

 そして、日本も「つい最近まで消費税を1%上げれば2・5兆円税収が入るといわれたが、今は1%上げて2・1兆円しか入らない国になった」「そういう中で、財務省はいま増税しようとしており、そうすると経済はもっと縮小して、税収はさらに減る」というのは本当であるし、理論的にも正しい。

 そして、「稼げるようにする」ためには、農業、医療、新エネルギー、環境車などの比較優位な分野をさらに伸ばさなければならないのであって、政府がそれを妨害することは決してあってはならない。

 なお、「消費税を上げるのは不人気な政策だが、責任与党の政治家はこのような不人気な政策もやらなければならない」というのはおかしい。何故なら、古賀氏が言うとおり、これは戦うべき相手を間違えており、強力な既得権グループとは戦わずに、一番弱い消費者(それも高齢者)を相手に戦って、消費税や物価を上げ、生活を困窮させているからだ。しかし、第三の権力と言われるメディアもこれに加担しているため、まともな政策を行おうとする政治家の方が落選させられる仕組みになっているのである。

<ギリシャ危機について>
*1-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150706&ng=DGKKASGM05H1H_V00C15A7NN1000 (日経新聞 2015.7.6) 
ギリシャ経済 いばらの道 EU、債務再編も視野に 財政再建見通せず
 5日に実施されたギリシャの国民投票は、欧州連合(EU)に債務再編を含めたギリシャ支援の仕切り直しを迫る。ギリシャは2012年に大幅な債務削減を受けたが、持続可能な財政運営に戻れず、再び危機に陥った。国民投票の結果が賛成と反対のどちらに転んでも、ギリシャ経済にはいばらの道が待ち受ける。ギリシャの債務は持続不可能――。国際通貨基金(IMF)は2日の報告書で、ギリシャの財政は新たな金融支援が欠かせないと結論づけた。12年のギリシャ支援の際、EUやIMFなど債権団はギリシャ財政を持続可能な水準に戻すため、金融支援や債務カットで合意した。具体的にはギリシャの債務残高の国内総生産(GDP)に対する比率を、22年に110%を下回る水準まで下げる目標を掲げた。ただ、ギリシャの債務残高は14年時点でGDPの177%と高止まりしたままだ。IMFの2日の報告書では最も楽観的なシナリオで試算しても、ギリシャ債務は20年に150%と高水準が続く。「22年に110%」の目標を達成するには、GDPの3割超に及ぶ大幅な債務カットが必要になると分析した。試算はギリシャがIMFへの返済を延滞して実質的な債務不履行(デフォルト)に陥ったり、資本規制を導入したりする以前の評価に基づく。その後のギリシャ経済の混乱で、財政状況はさらに悪化しているもようだ。これまで新たな債務再編に慎重な姿勢をみせてきたEU側でも、このままではギリシャ財政が立ちゆかなくなるとの見方は浸透している。ユンケル欧州委員長は6月末に物別れに終わった支援交渉の最終局面で、チプラス首相に秋にも債務再編の協議に入る準備があると伝えていた。債務削減は最終的には各国の納税者の負担につながるだけに、ユーロ加盟国の議会などの反発は避けられない。ユーロ圏財務相会合のデイセルブルム議長(オランダ財務相)はこれまでの交渉に比べ「より厳しい条件が必要になる」とけん制する。EU側がギリシャの国民投票で焦点となった緊縮策よりさらに厳しい財政改革を求める可能性もある。ギリシャのGDPは危機前の08年から14年にかけて約25%減った。雇用情勢も3月の失業率が25.6%とユーロ圏内で最悪だ。ギリシャのユーロ残留に向けた新たな金融支援の交渉では、持続可能な財政を取り戻すうえで成長をどう底上げするかも重要な課題となる。

*1-2:http://qbiz.jp/article/66105/1/
(西日本新聞 2015年7月6日) ギリシャ、大差で再建策拒否 国民投票、首相が勝利宣言
 【アテネ共同】欧州連合(EU)などが求める財政再建策への賛否を問うギリシャの国民投票は5日投開票の結果、反対が61・31%と賛成の38・69%に大差をつけ、反対を訴えていたチプラス首相が勝利宣言した。再建策が拒否されたことを受け、EUは対応を協議するが、ギリシャ支援を再開するかは不透明。ギリシャが財政破綻し、欧州単一通貨ユーロ圏から離脱を迫られる事態も想定され、EUは最大の試練に直面した。欧州統合の象徴ユーロは1999年の誕生以来、離脱の前例はない。ドイツのメルケル首相とフランスのオランド大統領はユーロ圏首脳会議を呼び掛け、EUのトゥスク大統領は同会議を7日に招集。欧州中央銀行(ECB)が6日に臨時理事会を予定するなど、危機回避に向けた動きが活発化してきた。週明け6日の東京市場で日経平均株価(225種)の下げ幅が一時、前週末終値比300円を超え、ユーロ安が進むなど国際金融市場には動揺が広がった。ギリシャがEUの支援と引き換えにこれまで行ってきた年金支出削減など緊縮策への不満は強く、一段の負担を求める再建策への圧倒的な反対につながった。投票率は62・5%だった。「反緊縮」を掲げるチプラス氏は5日夜のテレビ演説で「ギリシャは歴史的なページを開いた」と述べ「交渉のテーブルにつく」として、1日に失効した支援の再開をめぐりEUとの協議に臨む考えを表明。反対多数の世論を後ろ盾にEU側に譲歩を迫る構えだが、交渉の難航は確実だ。ギリシャは6月末が期限だった国際通貨基金(IMF)への債務返済が滞り、事実上のデフォルト(債務不履行)状態。今月中に満期を迎える円建て債券(サムライ債)や国債の償還ができない恐れもある。

*1-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150707&ng=DGKKASGM06H65_W5A700C1MM8000 (日経新聞 2015.7.7) 
ギリシャが新提案へ、EU、緊縮策なお要求 欧州中銀、資金供給を議論
 財政危機に直面するギリシャのチプラス首相は6日、ドイツのメルケル首相と電話で話し、7日のユーロ圏首脳会議でギリシャが欧州連合(EU)による支援を巡る新たな提案を示すことで一致した。EUは緊縮策受け入れが支援の条件という従来の立場を崩していない。ギリシャの銀行の手元資金は枯渇しつつあり、政府は7日から再開を目指していた銀行の営業について8日まで休業を延長すると決めた。ギリシャは6月末に資金の流出を防ぐため、銀行営業の停止と資本規制の導入を発表した。欧州中央銀行(ECB)による支援がなければ銀行が営業を再開しても資金繰りに窮するのは確実とみられている。ロイター通信によると8日までの銀行休業の延長とともに一日60ユーロの現金引き出し制限も維持される。ECBは6日、緊急理事会を開き、ギリシャ銀行への流動性支援について協議した。5日のギリシャ国民投票ではEUが支援の条件として示した緊縮策に約6割が反対を表明し、賛成は約4割にとどまった。チプラス首相は「結果は我々の交渉での発言力を強めた」と発言。緊縮策の緩和や、債務減免などをEUに求める立場を示唆した。しかし、EU側はあくまでもギリシャに緊縮を要求する構え。フランスのサパン財政相は6日、「新たな提案をするのはギリシャ政府だ」と主張。独政府報道官は「交渉の扉は開いている。ギリシャ側の提案を待ちたい」と記者団に語った。ギリシャに残された時間は少ない。銀行機能の停止が長引けば、主力の観光産業だけでなく、すべての商取引に影響が及び、経済全般が打撃を受けるのは避けられない。一方、EUとの交渉を主導したバルファキス財務相は6日、辞任した。チャカロトス外務副大臣が後任に指名された。EUの一部はバルファキス氏の存在が交渉を難しくしているととらえており早期合意へギリシャ側が一定の譲歩をした格好だ。首相はECBのドラギ総裁とも電話協議した。ギリシャ中銀は5日夜、民間銀の資金繰りを支えるため、ECBに「緊急流動性支援(ELA)」=総合2面きょうのことば=の上限を拡大するよう要請した。ギリシャは14日に円建て外債(サムライ債)の償還、20日にECBが保有する国債償還を迎える。債権団からの新たな支援を引き出せなければ、債務不履行(デフォルト)になる見込みだ。国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事は6日、注意深く情勢を見守っているとの声明を出した。

*1-4:http://www.sankei.com/world/news/150630/wor1506300043-n1.html (産経新聞2015.6.30)中国がギリシャに急接近、狙いは欧州進出の足掛かりか 国債購入約束の情報も…
 欧州を訪問中の中国の李克強首相は29日、ブリュッセルで記者会見し、ギリシャ財政危機について、「ギリシャがユーロ圏に留まることができるか否かは、国際金融の安定と経済復興に関わる問題だ。中国は建設的な役割を果たす用意がある」と述べ、ギリシャ問題に積極的に関与する姿勢を示した。中国は、ギリシャを手がかりに欧州での存在感の拡大を狙っている。中国は、ギリシャの財政問題が深刻化したこの数年間に同国に急接近した。2014年6月19日、李克強首相がギリシャを訪問し、約50億ドル規模の貿易・投資協定を締結。その約1カ月後の7月13日、習近平国家主席もギリシャを訪問し、観光、金融分野などで協力を深めることで合意した。中国の国家主席と首相が1カ月以内に同じ国を訪問するのは極めて異例だ。さらに両国は15年を「海洋協力年」と決め、今春、北京とアテネで祝賀イベントを同時開催した。

*1-5:http://www.nikkei.com/paper/related-article/tc/?b=20150707&bu=BFBD9496
(日経新聞 2015.7.7) 欧州中銀、ギリシャ銀行への資金供給を据え置き
 欧州中央銀行(ECB)は1日、ギリシャの銀行の資金繰りを支えるために実施している資金供給額を据え置くことを決めた。ギリシャの銀行の苦境は当面続くことになりそうだ。一方、欧州連合(EU)も同日にユーロ圏財務相会合を開き、ギリシャが5日に実施する国民投票後までギリシャ政府との交渉は見送る方針を確認した。ECBは「緊急流動性支援(ELA)」という仕組みを活用し、預金流出が続くギリシャの銀行を支えている。資金供給額は毎週見直すが、1日の理事会では上限枠を現行の約890億ユーロ(約12兆1千億円)に据え置くことを決めた。ギリシャ国内では預金流出が進んでいたが、ECBから銀行への資金供給上限が一定額にとどまっているため営業停止などの規制が6月29日から実施されている。ECBは、ギリシャが緊縮策を受け入れればELAの上限枠を見直す用意があるとの立場だ。1日にはユーロ圏財務相会合も開かれた。ギリシャ側がEUなどに要請している金融支援の延長や債務減免などについて改めて協議したが、5日に予定されている国民投票の結果が出るまでギリシャ側と交渉はできないとの見解で一致した。終了後にデイセルブルム議長(オランダ財務相)は「ギリシャ政府が国民投票で(緊縮策受け入れの)否決を国民に勧めている状況では、協議を続ける理由はない」と述べた。

<日本の危機に対するいかさまな解決策>
*2-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11832749.html
(朝日新聞社説 2015年6月30日) 日本の財政再建 やはり先送りは危うい
 今年度予算では、財源不足を補うための36兆円余の新たな国債や、満期を迎えた分の借り換えなどで、総額170兆円の国債を発行する。こんなに借金を重ねて大丈夫なのか。発行後に国債が売買される市場で国債価格が急落(金利が急上昇)しないのか。
■市場に潜む危うさ
 国債の大半は、国内の資金、もとをたどれば国民の貯蓄でまかなわれている。逃げ足の速い海外マネーに頼っているわけではないから、大丈夫。こう説明されることが多い。おカネの流れを見れば、その通りだ。ただ、この流れに潜む構図を見落としてはならない。「異次元」とも称される、日本銀行による大胆な金融緩和策である。この政策の柱として、日銀は大量に国債を買っている。昨年秋の緩和策第2弾を経て、そのペースは、政府が市場で発行する分の最大9割に及ぶ。日銀が政府から国債を直接買う「引き受け」は、法律で禁じられている。かつて政府の戦費調達などに日銀が手を貸し、激しいインフレを招いた反省からだ。現状は金融機関を経て購入しているとはいえ、引き受けも同然と言える。何が起きるか分からないのが、市場だ。「日本の国債だけは価格が暴落しない」というわけにはいかない。投機筋などによる売り浴びせをきっかけに混乱が広がれば、企業の借り入れや住宅ローンの金利が急上昇し、景気の悪化に伴って税収が減る一方、国債の利払いは増える。ギリシャの惨状は遠い外国の話ではなくなる。そんな事態を避けるには、政府が「借金を返していく」という姿勢を示し続け、「すき」を見せないことだ。今は日銀が国債の大量購入で波乱の芽を封じ込めている格好だが、日銀の黒田総裁自身が政府に財政再建の大切さを説いていることがそれを物語る。
■成長頼みは禁じ手
 20年度の基礎的財政収支の黒字化を目指す政府の財政再建策は、借金を返していく意思を問う試金石だ。ところが、である。毎年名目で3%台という、実現が難しい成長を前提として、税収も伸びていくと見込む。増税については、1回延期した消費税率の10%への引き上げこそ織り込むものの、それ以上は封印。歳出の抑制・削減策も、メニューこそ並べたが、具体案や実行への道筋は先送りした。経済成長に伴う税収増を目指すのは当然としても、それに頼ることは「期待」頼みの財政再建であり、禁じ手だ。確実な手段は、歳出の削減と増税の二つ。ともに痛みを伴う。まずは歳出の抑制・削減だ。あらゆる分野にメスを入れる必要があるが、焦点は国の一般会計の3分の1を占める社会保障分野だ。高齢化に伴い、放っておけば毎年1兆円近いペースで増え続ける。医療や介護、年金など、社会保障は「世代」を軸に制度が作られ、現役世代が高齢者を支えるのが基本的な仕組みだ。しかし、同じ世代の中で資産や所得の格差が開いていることを考えれば「持てる人から持たざる人へ」という軸を加え、制度を改めていくことが不可欠だ。財政難の深刻さを考えれば、歳出の抑制・削減だけでは間に合わず、増税も視野に入れるべきだ。柱になるのは消費税の増税である。景気にかかわらず増えていく社会保障をまかなうには、税収が景気に左右されにくく、国民全体で「薄く広く」負担する消費税が適している。3年前に政府が決めた「社会保障と税の一体改革」は、そうした考え方を根本にすえる。安倍政権は10%を超える増税を否定するが、それではとても足りない。欧州の多くの国が付加価値税(日本の消費税に相当)の税率を20%前後としていることからも明らかだ。所得や資産に課税する所得税や相続税も、豊かな層に応分の負担をしてもらう方向で見直す。そんな税制を目指したい。
■避けられない痛み
 いずれも痛みを伴う改革だ。しかし、社会保障を持続可能にし、将来世代へのつけ回しをやめるには、避けて通れない。財政の再建から逃げ、放置すれば、いずれ破綻(はたん)しかねない。いったんそうなれば、国民の生活がもっと大きな痛みを強いられる。選挙で選んだ代表を通じ、法律を改正して制度の再設計や負担増を受け入れるのか。金利急騰といった市場の圧力に追いたてられて取り組むのか。民主主義の手続きに基づく負担の分かち合いを選びたい。

*2-2:http://cache.yahoofs.jp/search/cache?c=BYvb8LLFGe4J&p
古賀茂明「増税こそがギリシャへの道。消費税率引き上げの前に『戦う成長戦略』で日本再生を」
 最近話題になっている例えば年金と定年延長の話とか、あるいは復興増税も含め財政の問題、こういうことの関連で「成長をどう考えるか」ということをお話ししておきたいと思います。よく財務省は「日本は1千兆円の借金があって借金で首が回らない。このまま行くとギリシャになる。だから先のことを考えてやはり増税が必要なんだ」と言っています。最近は財務省の幹部が何人もぞろぞろ揃って、各新聞社・テレビ局を回っています。各新聞社は論説委員のエライ方から、何人も集まって、財務省の幹部から御高説を賜る。そういうことをやってます。新聞もかなり色が分かれているので、皆さん、読んでいる新聞が違うと、隣の人と全然違う世界に住んでいる可能性があるんですよ。最近、産経新聞もかなり増税反対のキャンペーンを相当強烈にやって、国税が調査に入りました。それくらい財務省は一生懸命、増税、増税と言っているんですね。
●稼がないから借金が返せない
 「ギリシャにならないために増税」「将来の安心のために増税」っていうキャッチフレーズで、何となく国民の皆さんもやっぱり財政が大変だという理解はある程度深まっている。「やっぱり増税、しょうがないな」と思っている方も多いと思うんですね。ですが、私が今日申し上げたいのは、いまのまま増税していけば確実に「ギリシャへの道」だということです。つまり財務省は「ギリシャにならないために増税だ」と言っていますが、私は「いまのまま増税すればギリシャへの道だ」と反対のことを言っています。その意味するところは、いまギリシャはどうなっているのか見ていただければ分かると思います。借金が嵩んで返せなくなった。ドイツとフランスが助けてくれない限り破綻です、というところに追い詰められているわけです。では、ギリシャは増税しなかったのかというと、ちゃんと消費税を上げています。20%になっています。もっと上げろと言われていますが、すでにこれ以上上げられませんというところまで上がっています。よくギリシャは公務員の数が多いと言われています。メチャクチャ多いので、公務員のリストラをやると言われています。それからムダな歳出が多い、年金カットしろといろいろ言われてます。それらすべてをやりましょうということになっている。でも、それで財政が再建できると思っている人は誰もいないんですよ。マーケットは、そんなことやったって焼け石に水だということをよく分かっています。だから、破綻に追い込まれたんです。なぜそんなのでは駄目だって言っているかというと、ギリシャには稼ぐ力がないんです。借金は大きくたって何の問題もないんです、返せれば。大きな企業で何兆円も借金している企業はたくさんあります。でもそれを返せるだけ稼いでいるんです。だから借金が大きいから潰れるっていうことはないんです。国の経済もまったく同じです。借金が大きいから潰れるんじゃなくて、返せないから潰れるんですね。日本の場合は、もちろん借り過ぎだとは思います。じゃ、借り過ぎちゃった場合にどうすれば返せるのか。もちろんムダも省かなくちゃいけないし公務員改革とかリストラもやらなくちゃいけない。しかし、それだけではだめです。借金を少しでも減らしていくためにどうすればいいのか。結局、日本はいま稼げなくなっているんですよ、それが最大の問題なんですね。ついこの間まで消費税を1%上げれば2・5兆円税収が入るといわれた。消費税1%=2・5兆円と、覚えやすい数字だったので記憶されていると思いますが、実はいまはもう1%上げても2・1兆円しか入らないんです。なぜかというと、この20年間ずっと日本の経済はデフレで縮小しているんですね。「成長」と言うとき、よく「実質経済成長率」というのを使います。実質経済成長率というのは要するに物価上昇分を差し引いた伸び率のことです。その差し引く物価上昇率がマイナスなんです。マイナスを差し引くからプラスになっちゃっう。物価が下がった分、成長が大きく見えるんですね。ところが、我々が普段おカネのやり取りをしている現実の世界においてはずっと日本の経済は縮小しているんです。だから消費税を1%上げても、昔だったら2・5兆円増えたけど、いまは2・1兆円しか増えない、そういうふうになっている。
●消費税を20%にしても追いつかない
 そういう中でいま財務省は増税をしようとしています。そうすると経済はもっと縮小していきます。で、また税収は減ります。足りないからまた増税します、とやっていって消費税を20%まで上げるという。プラス15%の増税です。15%の増税で、仮に1%=2兆円としても30兆円です。今年の国債発行額は44兆円ですから、消費税を20%にしても国債の発行をゼロにはできない。つまり借金は減らないんです。25%にしてぎりぎりトントン。借金を減らすんだったら30%くらいにしなきゃいけない。所得税とか年金とか払った上に、更に3割消費税に持っていかれます。こういう世界で財政再建をしましょうということになるんです。私が言いたいのは、「そんなやり方ではなくて、稼げるようにしなくちゃいけないでしょ」ということなんですね。ではどうやって稼ぐのか。必ず成長分野としてあがるのが農業です。「これから農業ですね。人口もどんどん増えているし、途上国の所得が非常に上がってきていろいろなものをどんどん海外から輸入するようになって農産品は必ず足りなくなります。日本の農業は輸出のチャンスです。これから大きく伸びるんだ」と。それから医療。「高齢者がどんどん増えます。医療を産業化すればこれも大きなチャンスがあります」と言うんです。これも正しいと思います。またエネルギー分野もそうです。「これから原発に頼らない。二酸化炭素を減らさなくてはいけない。だから再生可能エネルギーをどんどん増やさなくてはいけない。この分野もものすごく伸びるんです」と。これも正しいですね。農業、医療、エネルギー、これらを「三つの成長分野」ってよく言うんです。けれども、よく考えると、この三つの分野って全部企業が自由に活動できないんですよ。たとえば三菱商事が三菱アグリカルチャーという会社を作って、小規模農家から土地を買い集めて大規模農業にやります、株式会社で参入しますって、言うのはできないんですね。それから、医療で株式会社は病院を持てません。エネルギーの分野は、電力会社は全部株式会社ですが、それ以外の企業はほとんど自由に参入できない。つまり成長するはずだって言っている世界で、企業が自由に活動できないんです。日本は資本主義で自由主義、その国で企業が活動できないところが成長分野ですって言う。これはほとんど笑い話ですね。だからそれをもっともっと自由にすればいいんですけど、じゃ、どうやって自由にするんですか。自由にしたら困る人たちがたくさんいます。農業なら農協がいる、医療だったら医師会がある、エネルギーなら強力な電力会社が立ちはだかります。それが怖くて自民党は改革に手を付けられなかったんですよ。だから知らないうちにずっと日本の経済が沈んでいたんです。
●戦う成長戦略を実現してほしい
 政権交代のまえは民主党なら柵(しがらみ)がないからできるんじゃないかと、みんな思った。ところが幹事長室に陳情の窓口を作ったら一番に並んだのが農協で、二番は医師会だという笑い話もあるんです。結局戦えなくなっちゃった。組合もいますしね。強いところと戦えない。だから財務省は、民主党、自民党に「是非、消費税を上げてください」と言いに行く。中には、「消費税を上げれば銅像が建つ」って言う政治家もいるんです。消費税を上げるというのは不人気な政策だけれど、でも責任ある政治家は不人気な政策もやらなくちゃいけない、それをやり遂げるのが立派な政治家なんだと思い込んでいるんです。私に言わせるとちゃんちゃらおかしい。なぜかというと、戦うべき相手を間違えているからです。強力な既得権グループと戦うのが怖いから、一番弱い消費者を相手に戦って消費税を上げる。つまり普通は「強きを挫き弱きを助ける」、これが正義の政治ですね。それとまったく逆で「強きを守り弱きを叩く」という方向にいっている。ですから私は、強いところと戦う勇気を持っている政治家・政党、覚悟を持ってる政治家・政党、そういうところを我々が声を出して・・・、声だけじゃなく、投票だけっていうんじゃなくて、おカネを出さなきゃいけないと思ってます。個人の政治献金ですね。そうやって支援していくことによって本当に日本を変えていく。これが「戦う成長戦略」と私が呼んでいる成長戦略です。バラマキの成長戦略ではなくて「戦う成長戦略」を是非やってほしい。ちょっと話し過ぎになりましたので、今回はこの辺にさせていただきたいと思います。ありがとうございました。


PS(2015年7月8日追加):*3のように、ギリシャは債務減免交渉で瀬戸際と言われているが、素晴らしい気候で景色のよいエーゲ海に無数の島を有しており、冬やバケーションを過ごす格好の場所になるため、北欧、ベネルクス三国、ドイツ等の北国に可能な島を売却して、まず債務を削減したらどうだろうか。

   
                            エーゲ海の島々
*3:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11846792.html?_requesturl=articles%2FDA3S11846792.html (朝日新聞 2015年7月8日)
債務減免、瀬戸際の交渉 ギリシャ、銀行の資金切迫
 財務相会合のデイセルブルーム議長(オランダ財務相)は会合後、「非常に困難な状況にある。私たちに(残された)時間はほとんどない」と述べた。ギリシャに金融支援と改革案の内容を早く提出するように求めたという。欧州委員会によると、ギリシャの2015年の政府の借金は、国内総生産(GDP)比で180%に達する見通し。12年に合意したEUの支援プログラムでは、15年に153%、20年には117%としたが、景気低迷や民営化の遅れでシナリオから大きく外れている。政府の総債務残高は13年で3191億ユーロ(約43兆円)。借金を軽くしなければ、ギリシャはさらなる緊縮策をのむ必要がある。チプラス首相は5日の国民投票直後の演説で「債務の問題は交渉テーブルにかけられる」と述べた。債務カットのほか、財政危機国を支援する基金「欧州安定メカニズム(ESM)」から低利で融資を受け、その資金をほかの債務返済にあてる「債務の借り換え」などを求める可能性がある。ギリシャ側が追い風とみるのは、国際通貨基金(IMF)が2日発表した報告書だ。債務削減の目標達成が難しくなっているとして、今後3年間で500億ユーロの資金が必要で、EU側からの少なくとも360億ユーロの支援が必要と指摘。その上で債務減免も必要になるとの見方を示している。EU側は、債務減免への賛否が分かれる。ユンケル欧州委員長(EUの首相に相当)は6月29日の記者会見で、債務減免の話し合いに応じる姿勢を示した。一方、ギリシャ支援に国民の反発が強いドイツは慎重だ。フィンランドのストゥブ財務相は会合前、「ギリシャの財務負担を軽くするのは望まない」と述べた。EUの基本条約は、加盟国がほかの加盟国に財政援助をすることを禁ずる「非救済条項」を定めている。債務削減は、加盟国の事実上の借金の肩代わりになり、条約違反になるとの見方もある。
■財政改革、受諾姿勢も
 そもそも、債務減免が議題にのぼるには、まずはギリシャが、EU側が納得できる財政改革案を示す必要がある。これまでの支援交渉でギリシャは、EU側が求める財政再建の目標や年金改革などの緊縮策を拒否。だが、6月末にチプラス首相はユンケル氏ら支援側トップにあてた書簡で、一部の修正を除いてEU側の改革案を受け入れる準備があるとの姿勢を示していた。ギリシャが示す改革案はこれが土台とみられる。ただ、国民投票では約6割が緊縮策の受け入れに反対しており、さらなる修正を求める可能性もある。改革が不十分だと各国が判断すれば、債務減免の交渉どころではなくなる。ギリシャには時間が残されていない。ギリシャは6日、銀行窓口の閉鎖を8日まで2日間延長することを決めた。ECBも銀行への資金供給への増額に応じておらず、このままEU側との支援交渉が前進しなければ、週内にも銀行の資金が底をつく可能性もある。


PS(2015年 7月9日追加):私もギリシャの国民投票を関心を持って見ていたが、*4-1、*4-2の記事に書かれているように、過去に政府が誤った政策を国民が暮らしていけないような対策で解決しようとするのは政策と呼ぶに値しないため、まず行き過ぎた財政緊縮策と消費税増税に『ノー』を突きつけた民主主義発祥の地、ギリシャの国民投票の結果に敬意を表する。その上で、ギリシャは国民投票によって国民全体が真剣に考えたため、次のステップは団結してやれると期待したい。

*4-1:http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKCN0PG09J20150706
(ロイター 2015年 7月 6日) ギリシャ投票結果は「民主主義の勝利」、アルゼンチン大統領が称賛
 財政緊縮策をめぐるギリシャの国民投票結果を受け、アルゼンチンのフェルナンデス大統領は5日、短文投稿サイトのツイッターに「民主主義と国家の尊厳にとって目を見張るべき勝利」と歓迎するメッセージを投稿した。投票では緊縮策の受け入れ反対が61%となった。同大統領は「ギリシャ国民は、実行不可能かつ屈辱的な緊縮策に『ノー』を突きつけた。われわれアルゼンチン国民にはそれがどういうことか理解できる。自らの死刑執行令状へのサインを強要することは誰にもできないというそのメッセージを、欧州首脳らが理解してくれることを望む」とした。アルゼンチンも2002年に債務危機を経験。債務リストラ提案をめぐり、投資家との係争も起きている。

*4-2:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150706-00000022-jij-eurp
(時事通信 7月6日) 欧州の反EU政党が称賛=「民主主義の勝利」―ギリシャ国民投票
 ギリシャ国民投票で緊縮反対が確実になると、欧州各国の反緊縮・反欧州連合(EU)政党からは「チプラス政権の勝利」への称賛が相次いだ。スペインで「反緊縮」を掲げて5月の統一地方選で躍進した急進左派政党「ポデモス」のイグレシアス党首はツイッターで「きょう、ギリシャで民主主義が勝利した」と祝意を表明した。ポデモスはギリシャの与党・急進左派連合(SYRIZA)の友党で、イグレシアス党首はチプラス首相の盟友。一方、ロイター通信によると、フランスで勢力を伸ばす極右政党「国民戦線(FN)」のルペン党首も声明を出し「ギリシャ国民からの『ノー』は、健全で新しい道を開くものとならねばならない」と主張した。英国のEU離脱を目指す「英独立党(UKIP)」のファラージュ党首もツイッターで「ブリュッセルによる政治的・経済的脅しと対決したギリシャ人の勇気は素晴らしい」とたたえた。


PS(2015.7.10追加):ヨーロッパの付加価値税(VAT)は、企業がつけた付加価値に対してかかり、レストランを例にとれば、「付加価値=売上-(外部からの仕入+光熱費など経費の支払い)=人件費+利益」となる。つまり、付加価値税は企業が支払った人件費と儲けた利益にかかるペナルティーのように働くため、企業の雇用削減効果やレストランで食べることを控えさせる消費抑制効果があるのだ。1989年に、ヨーロッパの付加価値税を参考にして日本に一般間接税を導入することとなった時には、日本では消費にかかる消費税に変わり、消費者へ転嫁するようになったため、消費抑制効果のみがある。
 なお、*5のように、ギリシャでも商店街がシャッター通りになっているが、全体を素敵に改装して、ギリシャ(ヨーロッパ)らしいセンスの良い品物を置く店にすればよいと思う。私は、25年くらい前、夫とエーゲ海クルーズを含むギリシャ旅行をしていた時に、アテネで黒いミンクのコートを衝動買いして今でも大切に着ているが、買った理由は、自分を引き立ててくれるしゃれたデザインで、日本で売っているワンパターンなデザインのミンクのコートの1/3くらいの値段であり、二度とない「出会い」だと思ったからだった。

    
  スケジュール                   *5より

*5:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150710&ng=DGKKASGM10H2Q_Q5A710C1MM0000 (日経新聞 2015.7.10) ギリシャ、EUに譲歩 増税・年金抑制、財政改革案を提出、7兆円の支援要請
 財政危機に直面するギリシャは9日夜(日本時間10日未明)、新たな金融支援の条件として欧州連合(EU)から求められた財政改革案を提出した。日本の消費税にあたる付加価値税(VAT)の引き上げや年金の給付抑制を盛り込むなどEU側に譲歩した内容。その引き換えとして535億ユーロ(約7兆円)の支援を要請しているもようだ。EUは12日の首脳会議までに、改革案を受け入れて金融支援を再開するか最終的に判断する。地元メディアによると、改革案ではレストランなどへの付加価値税の税率を現行の13%から23%に引き上げる。離島に適用している軽減税率は観光業で豊かな島から段階的に取り払う。法人税は26%から28%に引き上げる。また、年金の支給開始年齢の引き上げのほか、貧しい年金生活者への特別給付制度を2019年までに段階的に廃止する。軍事費は16年までに3億ユーロ減らす内容で、削減額を従来案よりも上積みした。2年間で100億ユーロ以上の収支改善を目指しているもようだ。5日の国民投票では、EUなどが求める緊縮策にギリシャ国民の6割が反対票を投じた。同国政府の新提案に対し、議員や国民から反発の声が上がる可能性はある。ギリシャは8日、ユーロ圏で財政危機に陥った国を支援する枠組み「欧州安定メカニズム(ESM)」を活用した新たな金融支援を申請した。3年間の融資を求める。地元メディアによると、最低でも535億ユーロを求めているもようだ。これまでギリシャは2400億ユーロの支援を受けている。ギリシャは同国の債務を「持続可能にする手段」も求めている。債務の元本削減や、返済期間延長や金利引き下げといった負担軽減を期待しているもようだが、EU側には慎重意見も根強い。ギリシャとEUの交渉は不調に終わり、6月末に金融支援はいったん失効した。ギリシャ政府は8日、同国の市中銀行からの預金流出を防ぐため6月29日から実施している銀行の休業を13日まで延長する方針を決めた。約5年間の緊縮策で疲弊した同国経済は、資本規制でさらに悪化の一途をたどっている。ギリシャは20日に欧州中央銀行(ECB)が保有する同国国債35億ユーロの償還を迎える。返済できなければ、ギリシャの銀行にとって命綱となっているECBによる資金供給が打ち切られる可能性がある。このため、新たな金融支援の獲得が急務となっている。

| 経済・雇用::2014.6~2015.10 | 04:56 PM | comments (x) | trackback (x) |
2015.6.20 「決められない政治」が終わり、人を大切にしない法律が次々と決められているが、誰がそういうふうに「決める政治」を望んでいたのかが重要である。
       
労働者派遣法改正案 変更内容     同イメージ      衆院決議の様子
        <2015年6月19日、20日の西日本新聞より>   

(1)労働法制の変更について
 *1によれば、①企業の派遣社員受入期間上限を撤廃する労働者派遣法改正案が衆院厚労委員会と本会議で可決し ②時間ではなく成果で賃金を払う内容の労働基準法改正案の成立は見通せず(通称「残業代ゼロ」法案) ③病院のベッド(病床)削減に向け病院統合を促す医療法改正案 を先に審議入りする とのことだ。

 しかし②については、ホワイトカラーを中心とする業種は、時間ではなく成果で賃金を支払った方が、「成果を出すより、だらだらと仕事をした方が得だ」という状況ではなくなって妥当なケースも多いが、それが経営者の都合に振り回されず公正に行われるためには、年収や専門職か否かではなく、労働時間と成果を正確に把握して公正に貢献度を評価するシステムが必要である。そして、そのように評価した結果は、残業代がゼロになるのではなく、だらだらして長時間かかった分は支払われないだけだ。これは、監査法人や税理士法人では前から行われていたことだが、日本企業では、労働者の貢献度合いを公正に評価する制度になっていないため、経営者本位のご都合主義の改悪になる可能性が高い。

 また、③については、これから高齢者が増加する時に、既にあるベッド(病床)をわざわざ強制的に削減し、後から足りなくなってまたベッド(病床)を準備するような無駄なことをしてはならないし、高齢者が難民にならないための準備は、犠牲者を出した後の事後ではなく事前に行っておくべきである。

(2)①の労働者派遣法変更について
1)派遣労働者の定義と立場
 派遣労働とは、英語ではContingent work(不慮の仕事)で、産休や病気で休んだ社員の変わりの人や国際会議・国際学会の同時通訳など、常時必要ではないが急に必要となって派遣してもらう場合に使う雇用形態だ。そのため、日本でよく言われる「高度、専門的な技能を有する労働者を必要な時期に雇用したいと考える企業がある一方で、一般の雇用制度にとらわれず自己の能力、都合に合わせて働きたいと考える労働者が存在し、両者を仲介する人材派遣業が成立した」というのは、派遣会社や企業に都合のよい法律をつくるための説明にすぎない。

 また、派遣労働者は、「人材派遣会社と労働契約を結び、その業務命令によって他社で働く者」であるため、派遣先の企業でどんなに頑張っても、派遣先の正社員と同じ待遇や研修・配置・昇進が保障されるわけではなく、それでも文句は言わないという法的立場なのである。

 そのため、*2-2の「労働者派遣法改正案が生涯派遣に繋がる」というのは本当であり、年齢が増して企業にとっての労働者としての価値が下がれば下がるほど、正社員になる可能性は低くなる。また、均等待遇を求めないのが派遣労働者の法的立場であるため、格差が埋まらないのは当たり前だ。さらに、企業は他社の社員である派遣労働者には多くを期待せず、正社員のコストを払いたくないからこそ派遣社員を使っているというのが本音であるため、派遣社員はスキルアップもやりにくい立場なのである。

2)労働者派遣法の変更について
 (1)①の派遣法については、*2-1、*2-2のように、企業の派遣労働者受け入れ期間の制限をなくす労働者派遣法改正案が2015年6月19日の衆院本会議で可決された。

 しかし、今後、企業は3年ごとに人を交代させるなどすれば、その派遣労働者を恒久的に使えることになるため、派遣法の改正により、労働基準法や男女雇用機会均等法はザル法化される。このように、働く人を正社員ではなく非正規社員・派遣社員・契約社員などと区分して、労働基準法や男女雇用機会均等法をザル法化させる国は日本以外にはないだろう。

 一方、他国では、正社員でも解雇することが日本よりも容易だ。このような時、日本では嫌がらせなどの陰湿な方法を使って辞めさせるが、裁判で不当解雇として解雇無効の判決が出た場合には労働者はその企業に戻って働くことができる。しかし、その企業に戻っても、再度、嫌がらせを受けるだけと予想される場合には、当該労働者の選択で企業側に金銭を支払わせることにより雇用を終了することができる解決金制度が検討されており、これは必要なことだと私も考える。なお、私が監査に従事していた外資系企業では、通常の3倍の退職金を支払って希望退職を募っていたのを見たことがあるが、これがフェアな会社都合解雇の方法であろうし、解雇もフェアに行わなければならないのだ。

(3)トヨタ自動車の外国人女性役員を批判する目的の逮捕報道が目に余る
 *3-1、*3-2のように、女性や外国人の登用を進める“目玉人事”として抜擢され、トヨタ自動車の常務役員に就いたばかりのジュリー・ハンプ氏は、役員として本格デビューした翌日に、麻薬取締法違反容疑で警視庁に逮捕され、翌日、豊田章男社長が都内で記者会見し、「世間を騒がせて申し訳ない」「今後の捜査で法を犯す意図がなかったことが明らかになると信じている」と話した。

 ハンプ氏は2012年にトヨタ米国法人に入り、4月の就任会見で、「身が引き締まる思いで、役割を託されたことにわくわくする」「トヨタの女性活躍の一翼を担いたい」など意欲を示したそうだが、そのハンプ氏の容疑が、米国から麻薬成分「オキシコドン」を含む錠剤を国際宅配便で輸入した疑いとのことなのだ。

 しかし、結論から言って、私は、日本では麻薬に指定されているが、米国では医師が処方する鎮痛剤として幅広く使われているオキシコドンを、ハンプ氏は使い慣れた鎮痛剤として使っただけだと考える。それが、*3-3のように、日本国内では、医師の診断書を添えて厚労相に申請して許可を得ることが必要なので、そのややこしさを回避しようとしたのだろう。つまり、日本で処方してもらった薬を中国に持って行ったら、麻薬の密輸として死刑判決を受けたようなものである。

 また、*3-4に、「ハンプ“容疑者”が日本に密輸した疑いが持たれているオキシコドンはアヘンから抽出した成分を原料とした医療用麻薬で、服用時に得られる多幸感を目的とした乱用が問題となっている」と書かれているが、ハンプ氏は、トヨタ自動車の女性初の常務役員になっており、仕事で十分に多幸であるため、多幸感を得るために麻薬を必要としたとは考えられず、また麻薬の密輸で稼がなければならないほどカネに困っていた筈もないため、鎮痛剤として使う目的だったと考えるのが自然なのだ。

<労働法制の変更>
*1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150620&ng=DGKKASFS19H41_Z10C15A6EA2000 (日経新聞 2015.6.20) 派遣法改正、成立へ 労働改革ようやく前進、脱時間給、労基法は不透明
 企業が派遣社員を受け入れる期間の上限を事実上なくす労働者派遣法改正案が19日の衆院本会議で自民、公明両党と次世代の党の賛成多数で可決された。維新、共産両党は反対した。政府・与党は24日までの今国会会期を2カ月超延長する方針で、成立は確実だ。改正案は安倍政権が岩盤規制改革とみなす労働法制見直しの柱。過去2回の国会で廃案になったが、実現に向けて前進した。
●19日、衆院で派遣法改正案が可決され、拍手する安倍首相
 派遣法改正案は19日午前に衆院厚生労働委員会で可決。午後に衆院本会議に緊急上程された。改正案に反対の民主党は緊急上程に反発し、生活、社民両党とともに本会議の採決前に退席した。強行採決にはならなかった。野党で民主に次ぐ勢力の維新が、自公の国会運営に協力したからだ。維新は自公と共同修正した同一労働同一賃金推進法案の成立と引き換えに、派遣法改正案の採決に応じた。19日の衆院本会議では同一労働法案も自公と維新、次世代の賛成多数で可決された。労働法制見直しのもう一つの柱、労働基準法改正案は成立が見通せない。時間ではなく成果に賃金を払う「脱時間給」制度(ホワイトカラー・エグゼンプション)を盛り込んだ内容で、民主党などは「長時間労働を助長する」と反発している。政府・与党は野党の理解を得やすい法案の審議を優先する構え。衆院厚労委では社会福祉法人の経営改革を促す社会福祉法改正案や、病院の過剰なベッド(病床)の削減に向け病院統合を促す医療法改正案などが先に審議入りする見通しだ。

<労働者派遣法について>
*2-1:http://qbiz.jp/article/64858/1/
(西日本新聞 2015年6月19日) 派遣法案、衆院通過 会期延長で今国会成立へ
 企業の派遣労働者受け入れ期間の制限をなくす労働者派遣法改正案は19日の衆院本会議で自民、公明両党などの賛成多数で可決され、衆院を通過した。今国会で成立する見通しだ。安倍政権は、野党が「残業代ゼロ」と批判する法案の審議や安易な解雇につながりかねないルール導入の議論も加速させる。労働法制は働く人保護のための規制強化から、企業活動を重視する規制緩和路線への転換点を迎えた。安倍政権は現状の雇用ルールを「岩盤規制」と問題視。規制緩和による企業活動活性化で経済成長を目指す。派遣法の改正は、こうした政策の第1弾と位置付けられる。改正案は、現在は原則3年までとなっている企業の派遣労働者受け入れ期間の制限を撤廃。企業が3年ごとに人を交代させるなどすれば、派遣労働者をずっと使える。派遣法の次に控えるのは、年収の高い専門職を労働時間規制の対象外とし「残業代ゼロ」とする労働基準法改正案だ。審議入りしていないものの、政府、与党は大幅な会期延長に踏み切る方針で、今国会中の成立も視野に入り始めた。派遣法改正案が成立すれば、雇用が不安定な派遣労働者が増える可能性がある。「残業代ゼロ」が実現すれば長時間労働が横行しかねないと労組は懸念。働く人の処遇が改善しないと消費が伸びず、景気回復の足を引っ張りかねない。民主党などは労働法制見直しを徹底追及する構えだ。裁判で解雇無効の判決が出た場合などに、企業側が金銭を支払うことで雇用を終了できる解決金制度の導入検討も政府の規制改革会議が打ち出した。民主党政権は日雇い派遣を原則禁止する法改正に踏み切るなど働く人の立場を重視したが、安倍政権で様変わりした。派遣法改正案は19日午前、衆院厚生労働委員会で自民、公明両党の賛成多数で可決され、民主党、維新の党、共産党は反対した。午後の本会議で可決されて衆院通過。民主党などは採決前に本会議を退席した。

*2-2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11816545.html
(朝日新聞 2015年6月20日) 派遣法改正案、衆院可決 民主など採決欠席
 労働者派遣法改正案が19日、衆院本会議で自民、公明と次世代の賛成多数で可決された。今後は参院で議論され、政府・与党は早期の成立をめざす。一部の野党は「『生涯派遣』につながる」などとして徹底抗戦の構えで、対立は深まっている。改正案は昨年から出されていたが、条文ミスや衆院解散で2度廃案になった。今回も年金の個人情報流出問題で一時、審議が進まなかった。その後、維新、民主、生活の党が出した賃金格差是正のための同一労働・同一賃金推進法案について、「待遇の均等の実現を図る」という文言を「均等と均衡」に変えることで維新と与党が修正合意。待遇の差を認める余地を残した内容だが、合意で両法案の可決の流れができた。衆院本会議では、派遣法改正案の採決が始まると民主、生活、社民が退席。維新と共産は出席した上で反対したが、与党などの賛成多数で可決した。同一賃金法案も、修正した上で与党と維新、次世代が賛成して可決。両法案とも同日中に参院に送られた。国会会期は延長される見通しで、菅義偉官房長官は19日の記者会見で「早期成立に全力で取り組む」と述べた。一方、退席した3党は国会内で集会を開き、民主の枝野幸男幹事長が「まだ闘いは道半ば。党派を超え、衆参を超えて、全力を挙げて闘っていく」と表明した。民主などは参院でも時間をかけて審議するよう求める方針だ。
■「格差埋まらない」 労組や派遣社員反発
 政府は、派遣法改正で、派遣社員の待遇を改善し、正社員化の道を開くと強調する。しかし労働組合や派遣社員らからは批判の声が上がる。労組の中央組織、連合は19日夕、東京・新橋で街宣し、改正案が衆院で可決されたことを非難した。神津里季生事務局長は「『生涯派遣』になって低賃金がさらに進む。改悪の方向に流れている」と述べた。全国労働組合総連合も同様に国会前で抗議した。法案の衆院通過を受けて厚生労働省で会見した派遣社員の50代女性は「どうスキルアップしたって正社員になんてなれない」と述べた。月収16万円ほどで、新人正社員の約20万円より低い。同一労働・同一賃金法案について「『均衡』では弱い。同じ賃金にしないと罰則があるような厳しい法律を」と訴える。会見に同席した日本労働弁護団の棗(なつめ)一郎弁護士も「賃金も低いし、交通費も福利厚生もない。そういう正社員との格差を縮めて欲しいという人たちの願いが裏切られた」と憤る。(平井恵美、牧内昇平、細見るい)
■労働者派遣法改正案のポイント
・同じ派遣先の職場で働ける上限を3年に
・人を代えれば企業は派遣社員をずっと受け入れ可能に
・派遣会社に無期雇用される派遣社員は同じ派遣先の職場でずっと働ける
・派遣会社に派遣社員への「雇用安定措置」を義務づけ
・派遣事業をすべて許可制に

<報道は、外国人の女性役員批判目的>
*3-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150620&ng=DGKKASDZ19I0X_Z10C15A6EA2000 (日経新聞 2015.6.20) トヨタ、外国人役員逮捕で社長陳謝 人材戦略に試練 麻薬密輸疑い
 トヨタ自動車の豊田章男社長は19日、都内で記者会見し麻薬取締法違反容疑で同社常務役員のジュリー・ハンプ容疑者(55)が18日に逮捕されたことについて「世間を騒がせて申し訳ない」と陳謝した。同社は4月、米国籍のハンプ容疑者を初の女性役員として起用したばかり。多様な人材を活用し競争力を高めるトヨタの戦略が試練に直面した。東京本社の記者会見の冒頭で豊田社長は深々と頭を下げ「捜査に全面協力する」と強調した。逮捕容疑は米国から麻薬成分「オキシコドン」を含む錠剤を国際宅配便で輸入した疑い。国際宅配便は6月8日ごろ、米ミシガン州から発送されていたことが捜査関係者への取材で分かった。ハンプ容疑者は容疑を否認しているという。豊田社長も「今後の捜査で法を犯す意図がなかったことが明らかになると信じている」と同容疑者を擁護した。逮捕翌日に経営トップが記者会見した理由を問われると同社長は「私にとっては役員も従業員も子どものような存在。迷惑を掛ければ謝るのも親の責任」と説明した。2009年の米国の品質問題で対外的な説明が後手に回り、批判を招いた反省を生かしたようだ。海外メディアの関心も高く米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)などが記者会見を詳細に報じている。英紙フィナンシャル・タイムズ(同)は海外人材登用のリスクを指摘した。事業への影響について豊田社長は「動向を見守る」と述べるにとどめた。関東の販社幹部は「報道が長引いて影響が出ないか心配」と語った。トヨタは今回の逮捕で19日に予定していた新型ディーゼルエンジンの記者説明会を延期した。ハンプ容疑者は12年にトヨタ米国法人に入り、4月に役員に就任した。豊田社長は「性別や国籍に関係なく適材適所で人材を起用する」ことを目指してきた。グループ内からは「人材多様化への焦りがあったのでは」との声が出ている。グローバル人材の活用は日本企業にとって共通の課題だ。世界の最新の経営手法を吸収する窓口でもあり、採用を広げる企業は増えている。それだけに今回のトヨタのつまずきが経済界に与えた衝撃は大きい。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの藤井恵チーフコンサルタントはグローバル人材採用のリスク管理について「経歴を厳しくチェックするほか、以前勤務していた会社から人柄を聞くことも必要」と指摘する。

*3-2:http://www.iza.ne.jp/kiji/events/news/150618/evt15061819180040-n1.html (産経新聞 2015.6.18) 常勝トヨタに衝撃 目玉人事が一転…女性役員、逮捕前日に本格デビューしたばかり
 麻薬取締法違反容疑で18日、警視庁に逮捕されたトヨタ自動車常務役員のジュリー・ハンプ容疑者(55)は今年4月に女性初の役員に就いたばかりだった。女性や外国人の登用を進める“目玉人事”として抜擢(ばってき)されたハンプ容疑者の逮捕は、トヨタの企業イメージにも打撃を与えそうだ。ハンプ氏は米国出身でゼネラル・モーターズなどを経て平成24年6月にトヨタの北米子会社に入社し、副社長に就任。今年4月、女性初の役員として本社の常務役員に就き、広報部門のトップを務めていた。4月の就任会見では「身が引き締まる思いで、役割を託されたことにわくわくする」と述べ、「トヨタの女性活躍の一翼を担いたい」と意欲を示していた。

*3-3:http://www.sankei.com/affairs/news/150618/afr1506180037-n1.html
(産経新聞 2015.6.18) 「麻薬」指定のオキシコドン、がんの痛み緩和などで使用
 麻薬取締法違反(輸入)の疑いで逮捕されたトヨタ自動車常務役員のジュリー・ハンプ容疑者。密輸したとされる麻薬成分を含む錠剤「オキシコドン」は、医療機関などで使われる鎮痛剤で、乱用すれば依存してしまう恐れがあるため、国内では「麻薬」に指定されている。国内の医療現場では通常、鎮痛剤が効きにくい、がんの強い痛みを緩和するなどの用途で使われ、一般的な痛みの治療には用いられない。厚生労働省監視指導・麻薬対策課によると「細かい制度は国によって違うが、多くの国で規制されている成分だ」といい、国内の医療機関などでは厳重に管理され、医師の処方なしに入手は難しい。治療のためであれば個人が自身の荷物として輸入することは可能だが、その場合は事前に医師の診断書を添えて厚労相に申請し、許可を得ることが必要だという。

*3-4:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150620&ng=DGKKASDG19H9X_Z10C15A6EA2000 (日経新聞 2015年6月20日) オキシコドン、米で乱用問題に
 ジュリー・ハンプ容疑者が日本に密輸した疑いが持たれている「オキシコドン」はアヘンから抽出した成分を原料とした医療用麻薬。米国では医師が処方する鎮痛剤として幅広く使われる一方で、服用時に得られる多幸感を目的とした乱用が問題となっている。米保健省の2013年の調査では、医療目的以外で1年以内に新たに使った人(12歳以上)は43万6千人に上る。17日にはニューヨーク州の薬剤師が20万錠を病院から盗んだとして、懲役5年の判決を受けた。闇市場で1錠30ドル(約3700円)で販売できるという。09年に死亡したマイケル・ジャクソンさんも常用していたとされる。日本の関東信越厚生局麻薬取締部によると、日本では主にがん患者の痛みを和らげる目的で使われており、許可を得た医療機関や薬局しか取り扱うことができない。海外から日本国内に持ち込むには、医師の診断書などを添えて事前に地方厚生局長の許可を得る必要があり、郵送などでの輸入は認められていない。東京税関は密輸入を防ぐため、海外から届く貨物や郵便物を麻薬探知犬やX線で検査。疑わしい場合は開封して成分を調べている。

| 経済・雇用::2014.6~2015.10 | 04:43 PM | comments (x) | trackback (x) |
2015.4.7 それでは、何故、日本企業は利益率が低く、ゼロ金利にしても国内投資が少ないのか (2015.4.8に追加あり)
    
  各国の政策金利     日本の電源構成の推移    電気料金の国際比較 日本のベースロード
                                                    電源の推移

     
   日本の           オランダのソーラーロード          日本の直流・交流 
エネルギー自給率                                  併用システム

(1)各国の政策金利
 上の段の左のグラフで各国の政策金利を比較すると、日本円はいつも最低で、米ドル、スイスフラン、英ポンド、欧州ユーロが1%未満に続き、豪ドルが3%以上で最も高い。2015年現在は、欧州ユーロ(0.05%)が最低になり、日本円(0.1%)、米ドル(0.25%)、英ポンド(0.5%)、豪ドルが(2.25%)と続く。スイスフランは、最近の原油相場下落等を受けたスイスフランへの逃避買いを抑制するために、マイナス0.75%からプラス0.25%とマイナス金利部分を作ったのだそうで、永世中立国の信用できる金融はこのようなプレミアムがあるようだ。

 このように、日本円が世界で最低の金利をずっと続けてきたことは、日本全体として見れば、①大量にある国債や企業の借入金利払いが少なくて済む ②産業が低金利でしか営業できない利益構造になっている ③その結果、運用益で勝負しなければならない年金・保険の業績が低迷している ④個人も金融資産からの収入(預金利息、配当等)が殆どない ⑤実質賃金も下げなければ国際競争に勝てない という状況になっている。

 国としては国債の利払いが少なくて済むのは助かるものの、①②④は、日本全体としては、それだけ生産性の低い事業しかできていないということだ。特に、雇用対策・景気対策として国が支出する歳出には、辺野古の埋め立てや東北のいらない巨大堤防のように、環境を壊して水産資源を減少させるため他の代替案の方が安価で優れているものが多い。また、毎年のように同じ場所を掘り返しても以前と変わらない道路工事や、原発に対する膨大な歳出もある。そして、このように意味がなくむしろ害のある活動にヒト・モノ・カネをつぎ込めばつぎ込むほど、日本全体を平均した生産性は低くなり、それが産業の利益率の低さや平均実質賃金の低さになって国民に跳ねかえってくる。そして、その低金利、低配当の構造は、③のように、年金や保険資産の運用益の低さを招いているのだ。

(2)日本の生産性が低い理由(エネルギー政策を事例として)
1)燃料電池車、水素に対する日本政府の認識と対応
 *1-1のように、三菱自動車に続いてトヨタ自動車が燃料電池車(FCV)「MIRAI」を発売し、ホンダもこれに追随する予定だ。燃料電池車は、水素を燃料とするため排気ガスを出さず、*1-2の下水汚泥から製造した水素をはじめとして自然エネルギー由来の水素など、国産エネルギーで走れる文句なしの車だが、まだ福岡市と北九州市のタクシー会社5社が導入しただけで、いまだに水素ステーションの整備に戸惑っている状況だ。つまり、日本の経産省はじめ政府は、技術が外国に抜かれるまでやらない体質であるため、世界初の技術を開発しても創業者利得を得ることができず、付加価値が低くなるのである。

 なお、*1-3のように、世界では、日本企業のIHI(旧社名:石川島播磨重工業株式会社)とIHIエアロスペースが、航空機でも再生型燃料電池システムを搭載して飛行実証することに成功したそうだ。そのフライト試験では、航空機の離陸前から高度上昇中には燃料電池から電力供給を行い、巡航飛行時に航空機の電源を用いて充電を実施し、発電、充電、発電のサイクルを行うことに成功したそうである。

2)太陽光発電に対する日本政府の認識と対応
 *2-1、*2-2のように、オランダでは、世界初の「発電する道路(ソーラーロード)」の建設が始まり、100m当たり一般家庭3世帯分の電力が得られるそうだ。そのソーラーロードは、極小の結晶シリコン太陽電池をコンクリートにびっしりと埋め込み、その上を半透明の強化ガラスで被って作るそうである。この道路はオランダの全道路の最大5分の1に適応でき、信号や電気自動車への電力供給ができ、5年以内に商業的に実現可能な製品にするとのことである。

 道路は面積が広いので、場所を選んでソーラーロードを設置しても相当の発電量が見込める上、太陽光のうち電気エネルギーになる分は熱エネルギーにならないため、その分は道路の温度が上がらない。そのため、安価な太陽電池材料を開発すれば、道路は無公害で大量の国産エネルギーを生産することができ、国や地方自治体の税外収入になる。従って、オランダでの成功を待つまでもなく、日本でも全力をあげて開発すべきである。

 また、*2-3のように、有機薄膜太陽電池も次第に改良され、ペンキのように壁面に塗って発電することも可能になっている。現在の薄膜太陽電池の変換効率が10%未満でも、ガラスに塗って光の一部をエネルギーに変換する方が好ましい使い方もあるため、早急に建材への安価な利用を可能にすべきだ。

3)次世代の送配電について
 *3-1のように、太陽光発電した電気を家庭で使ったり長距離送電したりするには直流の方が低コストであるため、経産省とシャープが住宅に直流で電気を送って使う実験に成功したそうだ。この実証実験は「北九州スマートコミュニティ創造事業」の一つとして、2013~14年度に実施され、シャープと経産省は住宅1棟の実験で、約15%の省エネ効果を確認したとのことである。現在でも、太陽光発電、電気自動車、テレビ、パソコン、LED電球などは直流であり、その他の電気製品も直流仕様にすることが可能であるため、直流送電にすれば直交変換による電力ロスを防ぐことができる。

 そのような中、*3-2のように、自治体が電力小売りに次々と参入し、再生エネを高く買って安く販売するとのことでよいことである。上下水道と電力をスマートグリッドを使って自治体が安価に販売することにすれば、自治体の税外収入が増えるとともに、そこに立地する企業や移住する住民が増えると思うので、民間企業と協力して知恵を出しあい、推進してもらいたい。

4)次世代送配電に対する大手電力会社と政治の対応
 自然エネルギーで発電した電力を販売するに当たり、今は発送電分離が必要条件だが、*4-1のように、電事連の八木会長(関西電力社長)は発送電分離に懸念を示し、安定供給を維持する制度設計を注文したそうだ。そして、自民党の経済産業部会などが、分離前に電力の安定供給に支障がないかを検証する規定を盛り込み、電力システム改革の総仕上げとしての発送電分離を進める電気事業法改正案を了承したとのことである。

 つまり、上の段の2番目、3番目、4番目のグラフのように、原発は1980年に稼働を開始し、原発が稼働しても日本の電気料金は世界最高であったにもかかわらず、まだ「原発は環境によく、安定電源でコストが安い」として、現在は全く稼働していない原発の再稼働を主張し、“ベースロード電源”にしたのだ。

5)エネルギーに対する経産省と日本の産業界トップの行動
 *4-2のように、経団連は、2030年の電源構成比率に関して、太陽光などの再生可能エネルギーは総発電電力量の15%程度、原発は25%超、火力は60%程度にすることが妥当との提言を発表し、経済性、環境影響、エネルギー安定供給の観点からこの比率を算出したと主張している。

 経団連の榊原会長は、「①再生可能エネルギーは、高コストや発電効率の低さといったマイナス面がある」「②地球温暖化問題に対応するため、再生可能エネルギーや省エネルギーの技術開発に重点支援を行うべき」「③原発は、今後もベースロード電源として大きな役割が期待される」「④廃炉にした原発の敷地内に新たな原発を建設することや安全性が確認された老朽原発の運転延長が必要」とし、経産省の有識者委員会でも、ベースロード電源と位置付ける原発、水力、石炭火力による発電量を2030年に全体の6割程度にするとの見通しが示されている。

 しかし、①は再生可能エネルギーの技術進歩に理解がなさすぎ、②で再生可能エネルギー・省エネルギー技術の開発を言ってはいるものの、③④では原発のコスト高や放射性物質の環境への悪影響を無視しており、原発、水力、石炭火力をベースロード電源としている点で、物理・生物・化学に疎すぎる。そして、このような人たちが意思決定しているのが、技術で一番になっても制度で敗北して日本企業の利益率が低くなる理由なのである。

(3)その他の自動車及び燃料電池技術
 *5-1のように、(外国人社長である)日産自動車のゴーン氏は、2016年に市場投入する自動運転機能を搭載した自動車を同年に日本で売り出すと明らかにした。ゴーン社長は、「日本は大変重要な市場で、このような画期的な技術をできるだけ早く提供したい」と説明され、2016年の自動運転機能は高速道路限定だが、2018年に高速道路での車線変更に対応させ、2020年には市街地でも使えるようにすると表明されており、この技術は、安全性と生産性を同時に上げ、バリアフリーにも役立つだろう。

 また、*5-2のように、長崎大(長崎市)が東京大と共同で、希少元素のリチウムの代わりに豊富にあるナトリウムを使った「ナトリウムイオン電池」を開発し、これにより低コスト化が可能になり、電気自動車(EV)などへの活用も期待されるそうだ。開発者の一人で長崎大工学研究科の森口教授は「リチウムイオン電池と同じ性能で充放電できる。特定国への資源依存を解消できる次世代電池になる」「世界でリチウムの需要はさらに高まる。今後、ナトリウム電池の性能を強化し、企業と連携して実用化を目指したい」としており、原発にしがみついて生産性を下げている人々との対照が際立っている。

(4)人材に対する考え方と労働政策
 以上のように、最先端の研究をするにも、それを経営に反映させるにも、ジェネラリストでは役に立たず、その仕事に対する専門性と情熱が不可欠である。しかし、厚労省は、残業代を支払わない裁量労働制の対象を、デザイナー、コピーライター、研究職、弁護士、大学教授などの専門的な技術・知識を持つ職種と企画・調査分析などの事務職から、一定の専門知識を持って顧客の経営課題の解決につながる提案をする営業職、複雑な保険商品を組み合わせて奨める損保会社の社員、顧客企業に合った基幹システムを提案する営業担当者、企業年金の制度を指南する生保会社の担当者などに広げるのだそうだ。(しかし、企画は、現場をしっかり調査し、現場を知っていなければ役に立つものは出せないため、企画を短時間のひらめきだけでできるアイデア勝負だと考えている人は、よい企画ができない人である)

 つまり、日本の厚労省は、努力して専門性を持つと労働条件を悪くする提案をしており、この考え方が、我が国の生産性の低下や付加価値の低下に繋がっているのだ。これは、ジェネラリストと呼ばれる専門性を持たない人々が中心になって政策を作っているせいだろうが、工場における単純労働者を前提とした時間給中心の現行労働基準法が合わない職種は多いものの、専門性の高さや給料で適用を区分するのは当たっていない。

<燃料電池車と水素>
*1-1:http://qbiz.jp/article/58733/1/
(西日本新聞 2015年3月25日) 福岡で「MIRAIタクシー」全国初登場 5社が導入
 燃料電池車(FCV)の普及を目指す産学官組織「ふくおかFCVクラブ」は25日、FCVを導入した福岡県内のタクシー5社の合同出発式を、福岡市博多区の福岡県庁で開いた=写真。FCVをタクシーで使うのは全国初という。5社は、北九州第一交通(北九州市)、福岡昭和タクシー(福岡市)、福岡西鉄タクシー(同)、双葉交通(同)、姪浜タクシー(同)。国や県の補助金を活用し、トヨタ自動車の「MIRAI(ミライ)」を250万円程度のリース形式で導入した。出発式であいさつした同クラブ共同代表の小川洋福岡県知事は「FCVの普及に貢献してほしい。今後、水素ステーションを県内10カ所程度で整備したい」と述べた。

*1-2:http://qbiz.jp/article/59232/1/
(西日本新聞 2015年3月31日) エコカー燃料、下水で製造 福岡市で世界初の施設稼働
 下水の汚泥から水素を製造し、燃料電池自動車に供給する実証事業を行う施設が福岡市中央区荒津の市中部水処理センターに完成し、31日、現地で式典が開かれた。福岡市と九州大、民間企業2社でつくる共同研究体が、国土交通省の事業として建設。処理場に集まる汚泥の一部を発酵させてつくるバイオガスからメタンを取り出し、化学反応させて高純度の水素を製造する「世界初の施設」(同省)とされる。1日に燃料電池自動車65台分に相当する3300立方メートルを作り、併設した水素ステーションで自動車に充てんできる。市などは4月から1年かけ、施設の耐久性や水素発生の効率を検証する。月内には料金などを設定し、一般利用できるようにする方針。式典では九州大水素センター長の佐々木一成教授が「一日も早く全国や海外に展開していくことが使命だ」とあいさつした。

*1-3:http://www.ihi.co.jp/ihi/all_news/2012/press/2012-10-04/ (IHI 2012年10月4日) 世界初となる再生型燃料電池システムの民間航空機飛行実証に成功 -IHI/ボーイング共同研究によるフライト試験
 IHIとIHIエアロスペースは、米ボーイング社と共同で再生型燃料電池システムを民間航空機に搭載し、飛行実証することに成功しました。再生型燃料電池システムの飛行実証は、世界初の試みとなっています。再生型燃料電池は、充電可能な燃料電池であり、エンジンとは独立して電力を供給することが出来ます。また副産物は水のみであるため、省エネルギー化、二酸化炭素排出削減を可能とし、航空機の環境負荷を低減することができます。今回の飛行実証は、ボーイング社の環境対応技術実証を目的としたecoDemonstrator計画の一環として、米国シアトル近郊においてアメリカン・エアラインのボーイング737型機を用いて行われました。フライト試験では、航空機の離陸前から高度上昇中において、燃料電池からの発電による電力供給を行い、巡航飛行時に航空機の電源を用いて充電を実施、その後、再度、発電、充電、発電のサイクルを行うことに成功しています。再生型燃料電池の航空機適用技術は、経済産業省が公募した「航空機用先進システム基盤技術開発(航空機システム革新技術開発)」で採択されたプログラムを活用し、平成21年度より研究を行ってまいりました。 ここで得られた研究結果を、ボーイング社との共同研究でのフライト実証試験につなげることにより、今回の成功に至っています。航空機という閉鎖空間に、水素ガスを用いた燃料電池システムを搭載する必要があったため、飛行安全をどのように確保するかという部分が、一番重要な課題でした。水素ガスを民間航空機に搭載するための基準が現状は存在しないため、航空機の安全性確保のための安全設計基準を検討し、安全性解析、システム設計をボーイング社と共同で繰り返して行いました。 本システムにおいては、航空機を安全に飛行させるためのバックアップを含め、各種安全機能が備えられていることが特徴となっています。IHIは、ジェットエンジンでは国内最大のシェアを有し、航空機装備品メーカーとしての経験は豊富です。また、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)と地上発電用燃料電池の研究開発を行った経験があり、IHIエアロスペースにおいてもJAXA(宇宙航空研究開発機構)と成層圏プラットフォーム飛行船プロジェクトの電源系開発の一環として再生型燃料電池の研究を進めてきており、今回 実証した再生型燃料電池システムの基礎技術になっています。IHIは、今回得られた経験をもとに、再生型燃料電池の小型化、大出力化の改良を進め、航空機の低燃費及び環境負荷低減に寄与する将来の民間航空機用補助電源の製品化に向けた検討を実施していきます。

<ソーラー発電>
*2-1:http://toyokeizai.net/articles/-/53533
(東洋経済 2015.3.24) 世界初!「発電する道路」のインパクト
 ソーラーロードは通常の自転車専用道路ではない。これは、ソーラーパネルを埋め込んで作られる世界初の道路だ。オランダのヘンク・カンプ財務大臣は、アムステルダム市内で込み合う通勤道路に70メートルのソーラーロードを建設することにしました。「今は経済的な点で可能ではありませんが、それを可能にします。現在、懸命に努力しています」(カンプ大臣)。共同考案者であるステン・デ・ウィット氏によると、ソーラーロードは、極小の結晶シリコン太陽電池をコンクリートにびっしりと埋め込み、その上を半透明の強化ガラスで被うことで作られる。デ・ウィット氏は次のように言う。「一番上の層には様々な機能を組み合わせる必要があるため、ここがこの道路における最も革新的な部分です。日光は、この一番上の層を貫通してその下の太陽電池に辿りつかなければならないため、ここは透明でなければいけませんが、同時に十分な横滑り耐性、つまり、十分なざらつきも必要になるのですから」。太陽の位置に合わせて道路を調節することはできないので、ソーラーパネル製の屋根と比べ、ソーラーロードの発電量は30%下がる。だが、デ・ウィット氏によると、この道路はオランダの全道路の最大5分の1に適応でき、いずれは信号や電気自動車の電力としても使えるかもしれないという。「将来的に、この道路からその上を走る電気自動車へと電力供給できるようになれば、持続可能な移動システムに向けて非常に大きな進歩を見せることができます」。オランダ応用化学研究機関で働くデ・ウィット氏の同僚たちは、5年以内に商業的に実現可能な製品ができると言う。この最初の試験運用が軌道に乗れば、商業化へ向けたスタートを切ることになる。

*2-2:http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1411/14/news048.html
(スマートジャパン 2014年11月14日) オランダの夢「太陽光道路」、無線で車へ電力送る?
☆オランダで太陽電池を埋め込み、発電する世界初の道路「SolaRoad」が完成した。100m当たり一般家庭3世帯分の電力が得られるという。当初は道路の照明や家庭への電力供給を試みる。最終的な目標は自給自足可能な交通システムの基盤となることだ。2014年11月12日、オランダで世界初の道路「SolaRoad」が完成、開通式が開催された。太陽電池セルを組み込んだ部材を利用して作られたという意味で世界初である。アムステルダムの北西約15kmに位置し、長さは100m*1)。3年間の実証実験の形で運用されることになっている。実証実験の計画では、発電能力は道路の長さ100m当たり一般家庭3世帯分。実験開始時は発電した電力を系統にそのまま接続している。設置前の見積もりによれば、寿命(20年)以内に投資を回収できるという。現在は投資回収期間を15年以内に短縮することを目指している。オランダは大都市における交通システムに革命を起こそうとしている。首都アムステルダム市は2040年までに段階的に私有車を全て電気自動車化しようという計画を打ち出している(関連記事)。その電力を生み出すのに最も自然な方法は何か。車両の下に長く伸びる道路だ。道路を「無駄に」照らしている太陽光を利用する。オランダでの議論からは離れるものの、このようなシステムは系統との関係が希薄になる。日本で現在論じられているような、系統に悪影響を与えるという課題も同時に解決する。SolaRoadにつながるアイデアを2009年に打ち出したのは、オランダ応用科学研究機関(TNO)である。オランダの年間総消費電力は約1200億kWh。発電に適した建物の屋根全てに太陽電池を設置すると、総量だけを考えた議論ではあるものの、このうち4分の1を賄うことができる。さらに太陽電池を増やそうとすると、道路が適切であるという。オランダの道路総延長距離は約14万km。面積に換算すると450km2になる。これは屋根の総面積よりも広い。首都アムステルダムが位置する北ホラント州と、道路関連技術を得意とするオランダOoms Civiel、技術サービスプロバイダーである同Imtech Traffic&InfraがTNOのアイデアに賛同し、SolaRoadコンソーシアムを形成した。州政府が主に資金を提供した。5年間で350万ユーロを投じたという。Ooms Civielは道路に設置するパネル関連を扱う。同社は道路から熱や冷熱を取り出すソリューションを既に提供している。Imtech Traffic&Infraは用途開拓や技術の方向性の提案を担う。道路から取り出した電力を(無線で)電気自動車に送り込む。これはSolaRoadにとっての最終的な目標だ。そこに至る前の段階では、系統に接続する、道路照明に利用する、道路に隣接する家屋に供給するといったさまざまな用途があるのだという。実証実験では一般道路ではなく、自転車専用道路を対象とした。自転車専用道路は一般道路と比較して加重負荷が少ない他、路面を取り外して実証実験中に改良を加えやすいためだ。なお、オランダは自転車保有率が世界一(約110%)であり、自転車専用道路が約1万5000kmも延びている。一般道路に展開する前に、実証された技術を展開する場が広がっている。
●どのような部材が必要なのか
 SolaRoladの基本単位は3.5m×2.5mのコンクリートパネルだ。厚さははっきりと公表されていないものの、写真から20cm前後だと分かる(図2)。コンクリートパネルの表面は端面付近を除き、厚さ1cmの強化ガラスで覆われている。その内部に結晶シリコン太陽電池セルが配置されており、下面の強化ガラスとの間に挟まれている。つまり一般的な太陽電池モジュールをコンクリートとガラスで作り上げた形だ。SolaRoadによれば、現時点では道路用の特別な太陽電池セルを開発する必要はないのだという。図2を注意深く眺めると、中央の人物の前後で表面の様子が違う。SolaRoadでは「2車線」のうち、図手前の1車線のみに太陽電池を組み込んでいるからだ。同じ道路で従来と似た路面と、新しい路面の影響を比較しやすい。実証実験のコストも低くなる。
●道路に対する要求も満たす
 このような「モジュール」に求められる性能は何だろうか。SolaRoadによれば4つある。まずは光を通しやすいこと(光を反射しにくいこと)、次に可能な限り汚れをはじくことだ。残る2つは道路用の部材としての性質である。強度が高いことと、車両が横滑りを起こさないことだ。強度の高さとは、車両の重量はもちろん、落下物の衝撃に耐えること、寒暖の差に耐えること、塩害を受けないことだ。オランダは干拓で国土を広げてきた経緯があり、北ホラント州の面積の過半数は海面下だ。塩害に対する十分な対策が必要である。横滑りに対する対応策は、ガラス表面のコーティングだ。歩行者、車両ともグリップが効くようなコーティング材料を用いた(図3)。SolaRoadによれば一般的な自転車用道路と比較して、横滑り抵抗力は平均以上なのだという。この他、モジュールを組み合わせたときに要求される性質が1つある。走り心地だ。モジュール同士に高低差があると、わずかな差であっても車両内部に響く。そこで、モジュール同士が相互に連結して高低差が生じない構造を採った(図4)。下地の土壌が完全に平たんでなくてもよい。さらに温度変化による収縮・膨張の影響も受けにくいという。

*2-3:http://qbiz.jp/article/55947/1/ (西日本新聞 2015年2月15日) 薄膜太陽電池、普及へ一歩 変換効率の鍵は温度、九大研究院グループ解明
 九州大大学院工学研究院の田中敬二教授(高分子化学)の研究グループは、有機薄膜太陽電池に使われる高分子半導体(半導体プラスチック)で電気が流れやすくなるメカニズムを解明した。電気の変換効率を高め「より薄いディスプレーや、軽くて曲げることができる太陽電池の普及に役立つ」(田中教授)という。有機薄膜太陽電池は高分子や有機化合物の薄い膜でできた太陽電池。ペンキのように壁面に塗って発電することも可能だが、屋根などに設置する太陽光パネルなどシリコン系太陽電池に比べ、変換効率が低いことが課題だった。研究グループは、半導体プラスチックに光を当てた瞬間、正と負の電荷のペアが自由に分離することを突き止めた。さらに、温度が高くなると、プラスチック分子のねじれによって、電荷がプラスチックに閉じ込められ、電気が流れやすくなることも分かった。温度変化によって効率よく電気が流れる構造が解明されたのは初めてという。田中教授によると、電気の変換効率はシリコン系太陽電池の25%程度に比べ、現在の薄膜太陽電池は10%未満。今回、解明したメカニズムを材料設計に反映させると、変換効率の上昇が期待できる。論文は13日付の英科学誌ネイチャー姉妹紙の電子版に掲載された。

<送配電>
*3-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150331&ng=DGKKZO85068440Q5A330C1TJM000 (日経新聞 2015.3.31) 次世代送電、直流で 洋上風力や家庭内発電、効率よく、シャープ、住宅15%省エネ
 送電線で電気を送る際に、現在の交流ではなく直流を利用する試みが広がっている。太陽光で発電した電気を家庭でそのまま使ったり、長距離を送ったりするのは、直流の方がコストが安い。経済産業省が旗振り役で、シャープは住宅に直流で電気を送って使う実験に成功した。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は来年度から洋上風力発電の本格導入に向け直流送電設備の開発に乗り出す。次世代の送電インフラとして普及を目指す。シャープと経産省は直流給電ができる住宅1棟の実験で、全て交流で給電する一般の住宅より約15%の省エネ効果を確認した。住宅に取り付けた太陽電池で発電した直流の電気を、家庭内のコンセントに送る。この実証実験は「北九州スマートコミュニティ創造事業」の一つで、2013~14年度に実施した。350~400ボルトの電気で、専用に開発したテレビやエアコン、冷蔵庫、発光ダイオード(LED)照明などが問題なく作動した。家庭で使うテレビやパソコンなどは今でも直流で稼働している。現行の電気製品を改良する必要があるが、普及すれば製品内部で交流と直流を変換する手間が省ける。経産省の担当者は「太陽光で発電した電気の地産地消が実現できる」と商用化に期待する。発電所や変電所から工場や家庭などに電気を送る送電網の一部も直流に切り替える試みが進む。交流と併用して高効率の送電方式を探る。NEDOは企業と協力し15年度から、洋上風力発電所からの高効率直流送電システムを開発する。洋上風力発電はメガ(メガは100万)ワット級の発電能力を持つ風車を洋上に複数設置する。発電した電気は交流で、変電設備で直流に変えて陸上の変電所に送る。先進地の欧州では、個々の発電所と陸上変電所を1本の直流ケーブルでつなぐ方式が主流だ。日本で開発するのは複数の発電所を直流ケーブル1本で陸上変電所につなぐ方式だ。風車は陸地から数十キロメートル以上離れているため、直流で送れば交流より7~8%効率が上がるという。ケーブルの本数が少なく建設コストも抑えられる見通しだ。5年間で約45億円を投じて研究開発を進める。将来、スマートグリッド(次世代送電網)が普及し、各家庭の太陽電池や電気自動車(EV)のバッテリーにためた直流の電気を集合住宅や地域で共有して使うことも想定される。その場合、電力系統の負担を減らすために複数の電源をうまく制御する必要がある。工学院大学の荒井純一教授は、直流と交流を変換するインバーターを活用し制御する方法を提唱する。一つの電源に取り付けたインバーターを主電源として周波数や電圧が一定になるように設定する。他の電源を主電源の設定に合うように出力制御する。この工夫で、全体の出力を一定範囲に収め、系統への負担を抑えて直流電源の安定した運用が可能になるという。

*3-2:http://qbiz.jp/article/59661/1/
(西日本新聞 2015年4月7日) 自治体、電力参入次々 再生エネ 高く買い安く販売
 電力の小売りに参入する自治体が広がっている。電力を買い取って利用者に販売する「新電力」を設立し、太陽光などでつくった地域の電力を安く販売することで、エネルギーの自給自足の動きを支援している。2016年4月の電力小売りの全面自由化に合わせ、家庭への電力販売も視野に入れている。群馬県中之条町は13年、新電力の「中之条電力」を設立した。町内の大規模太陽光発電所(メガソーラー)の電力を、中之条町の庁舎や小学校に供給している。中之条町の公共施設が支払う電気料金は年約1千万円減った。大手電力は太陽光などの再生可能エネルギーを、政府が固定価格買い取り制度の下で決めた価格で買い取り、利益を上乗せして販売している。中之条電力は大手と比べて買い取り価格は高いが、上乗せする利益を圧縮し、販売料金を安くしている。中之条町はことし4月中に小水力発電所の建設も始める。地域の再生エネ発電を増やして、将来的には地元企業への販売や、小売りの全面自由化後に家庭に供給することも検討している。福岡県みやま市もことし3月、新電力を立ち上げた。当面は公共施設や企業に販売し、将来は家庭向けに電力会社よりも2〜3%程度安く電力を供給する計画だ。山形県も15年度中に新電力を設立する。再生エネによる電力を地域の事業者から買い取り、家庭に供給する考えだ。電力小売りの全面自由化で、大手電力による家庭への電力販売の独占がなくなり、家庭は電力会社を自由に選べるようになる。自治体の新電力から電力を購入する家庭も増えそうだ。一方、地域の再生エネ事業者を支援する自治体もある。長野県飯田市は公民館などの屋根を無料で太陽光発電事業者に提供。岩手県紫波町は小学校などの屋根を、市民から出資を募ったファンドに貸し出し、太陽光発電の運営を任せている。
*新電力 東京電力や九州電力など全国の大手電力10社の後で電力小売り事業に参入した会社。政府は電力市場を段階的に開放し、現在は契約電力が50キロワット以上の小売りを手掛けられるようになった。2016年4月の全面自由化で一般家庭への電力供給も可能になる。大手と比べて割安な電気料金が強みで、ガスや通信などさまざまな企業が設立している。

<経産省と産業界トップの意見>
*4-1:http://qbiz.jp/article/56385/1/
(西日本新聞 2015年2月21日) 電事連会長、発送電分離に懸念示す 「安定供給維持に検証を」
 電気事業連合会の八木誠会長(関西電力社長)は20日の記者会見で、大手電力会社の送配電部門を切り離す「発送電分離」を2020年4月から実施する方向になったことについて、「課題や懸念が残されている」と述べ、安定供給を維持する制度設計を注文した。自民党の経済産業部会などが19日、電力システム改革の仕上げとして発送電分離を進める電気事業法改正案を了承。改正案には、分離前に電力の安定供給に支障がないかを検証する規定が盛り込まれた。検証規定を要望してきた八木会長は「(法案に)記載するだけでなく、きちんとした検証が大事」と指摘。その上で「(何か問題があれば)延期を含め柔軟な改革を進めていただく」と強調した。原発停止が長期化し、電力の安定供給に不安が生じるような場合を想定しているとみられる。

*4-2:http://qbiz.jp/article/59651/1/
(西日本新聞 2015年4月6日) 再生エネ15%に、経団連が提言 原発は25%超
 経団連は6日、2030年の電源構成比率に関して、太陽光などの再生可能エネルギーは総発電電力量の15%程度、原発は25%超、火力は60%程度にすることが妥当との提言を発表した。それぞれの経済性や環境への影響、エネルギーの安定供給といった観点から比率を算出した。経団連の榊原定征会長は6日の記者会見で、再生可能エネルギーは普及が進んでいるものの、高コストや発電効率の低さといった「いろいろなマイナス面がある」との考えを示した。提言では、地球温暖化問題に対応するため、再生可能エネルギーや省エネルギーでの技術開発に「重点支援を行うべきだ」との見解も示した。原発は「今後もベースロード電源として大きな役割が期待される」とし、廃炉にした原発の敷地内に新たな原発を建設することや、安全性が確認された老朽原発の運転延長が必要とした。経済産業省の有識者委員会では3月、ベースロード電源と位置付ける原発、水力、石炭火力による発電量を30年に全体の6割程度にするとの見通しが示されている。

<人材に対する考え方と労働政策>
*5-1:http://qbiz.jp/article/59504/1/
(西日本新聞 2015年4月3日) 自動運転車、日本で16年販売 日産ゴーン社長が表明
 【ニューヨーク共同】日産自動車のカルロス・ゴーン社長は2日、2016年に市場に投入する自動運転機能を搭載した自動車に関して、日本で同年に売り出すと明らかにした。ゴーン社長はこれまで、どの国でこの機能を搭載した車を発売するか表明していなかった。ゴーン社長はニューヨーク国際自動車ショーの会場で、共同通信などのインタビューに「日本は大変重要な市場で、このような画期的な技術をできるだけ早く提供したい」と説明した。この自動運転機能は高速道路に限定する。走行中に道路の白線や前方を走る自動車を検知し、ハンドル操作や加速、減速を自動的に行う。ゴーン社長は18年に高速道路での車線変更にも対応させ、20年には市街地でも使えるようにする計画を進めるとあらためて表明。「ドライバーがハンドルから手を離し、道路から目線をそらすことができるような技術を徐々に実用化し、規制当局が認めるようにしたい」と語った。

*5-2:http://qbiz.jp/article/59477/1/
(西日本新聞 2015年4月3日) 長崎大が次世代電池開発 希少リチウム不要
 長崎大(長崎市)は2日、東京大と共同で、希少元素のリチウムの代わりに、豊富にあるナトリウムを使った「ナトリウムイオン電池」を開発したと発表した。低コスト化が可能になり、電気自動車(EV)などへの活用も期待される。開発者の一人で長崎大工学研究科の森口勇教授は記者会見で「リチウムイオン電池と同じ性能で充放電できる。特定国への資源依存を解消できる次世代電池になる」と話した。ナトリウムイオン電池の開発はさまざまな企業や大学が手掛けているが、マイナス極の材料選びが課題になっていた。森口教授は、多量のナトリウムイオンをスムーズに吸蔵、放出できるマイナス極の材料を研究。チタンと炭素、マグネシウムの粉末を1300度に熱し、フッ酸水溶液に漬けるなどして、シート状の化合物を開発した。既に東京大が完成させていた鉄と硫黄で作ったプラス極と合わせて、ナトリウムイオン電池を試作した。検査では、リチウムイオン電池と同様の出力で、急速充電と長時間放電も可能なほか、充放電を100回重ねても劣化はなかったという。現在、携帯電話やノートパソコンなどの電池に広く使われているリチウムの最大産出国はチリで、日本は輸入に頼っているが、ナトリウムは国内でも入手できる。森口教授は「世界でリチウムの需要はさらに高まる。今後、ナトリウム電池の性能を強化し、企業と連携して実用化を目指したい」と話している。

*5-3:http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS01H51_R00C15A4MM8000/
(日経新聞 2015/4/2) 裁量労働制の対象拡大 専門知識持つ法人営業職にも
 厚生労働省は働く時間を社員が柔軟に決められる裁量労働制の対象を広げる。一定の専門知識を持つ法人向け提案営業職にも適用する。金融機関やIT(情報技術)企業などで活用が進む見通しで、新たな対象者は数万人規模にのぼりそうだ。導入の手続きも簡単にする。多様な働き方を認め、効率的に仕事ができるようにする。政府が3日に閣議決定する労働基準法改正案に盛り込む。今国会で成立すれば2016年4月に施行する。裁量労働制はあらかじめ決めた時間だけ働いたとみなす制度。ただ深夜や休日に働くと手当がつく点で、同じ法案に盛り込まれた「脱時間給」制度(ホワイトカラー・エグゼンプション)とは異なる。今の裁量労働制の対象者は専門型で約50万人。デザイナーやコピーライター、研究職、弁護士、大学教授など専門的な技術や知識が求められる職種が対象だ。00年に解禁された企画型の裁量労働制は約10万人。企画や調査、分析といったアイデア勝負の事務職が対象だ。企画型は専門型に比べて普及が遅れているため、見直すことにした。第1に対象を広げる。一定の専門知識を持って顧客の経営課題の解決につながる提案をする営業職を新たな対象に加える。具体的には、高度な金融技術を使って企業の資金調達を支援する銀行員や、顧客の事業に対して複雑な保険商品を組み合わせてすすめる損害保険会社の社員、顧客企業に合った基幹システムを提案する営業担当者などを想定している。企業年金の制度を指南する生命保険会社の担当者なども対象になりそうだ。企業からは「法案が成立すれば適用するかどうか検討したい」(三井住友海上火災保険)、「協調融資や大型事業向け融資の担当者などが適用候補になる」(大手銀行)といった声があがる。裁量労働制を既に導入しているSCSKの古森明常務執行役員は「法人向けの提案営業が対象になれば、さらに500人弱を対象にできる可能性がある」と話す。厚労省は法案の成立後に指針を見直して、具体的な職種を例示する。既存の顧客を定期訪問する「ルートセールス」や店頭販売など一般的な営業職は対象に含めないことも明記する。裁量が乏しい営業職も対象にすると、働き過ぎを招く可能性があるためだ。産業界には営業職にも裁量労働制を導入すべきだとの声が根強い。現在は外回りの人向けの「事業場外みなし労働時間制」を適用する企業も多いが、外回りはみなし時間、内勤は実際に働いた時間で計算するため、労働時間の管理が煩雑になる。第2に手続きを簡単にする。これまで企画型の裁量労働制を導入するには、オフィスや工場ごとに労使が合意する必要があった。これからは本社で合意すれば、全国の事業所で適用できるようにする。裁量労働制の対象になると、職場にダラダラと残っても残業代はもらえない。短い時間で効率的に働く意識が高まりやすい。働く時間を柔軟に選べるので介護や育児との両立もしやすくなる。
▼裁量労働制 あらかじめ想定した労働時間に賃金を払う「みなし労働時間制度」の一種。労働時間規制を外す「脱時間給」制度とは異なり労働時間という概念が残るため、深夜や休日に働くと手当が出る。個人の仕事と生活の両立がしやすくなる一方、働き過ぎが増える懸念もある。


PS(2015.4.8追加):*6の記事もあり、排気ガスを出さない環境型のエネルギーを使うという意味で、水素で一貫体制を作ることは必要不可欠である。しかし、そもそも「現状では石油などから水素を取り出す時にCO2が出る」という水素の作り方をしたこと自体が、①高くつく ②エネルギー自給率に貢献しない ③環境にも悪い  など、燃料を水素に変える意味を理解していないのだ。この知識のなさ、見識の低さは、教育と社会の雰囲気のせいだろう。

   
    水素社会      *6より   IHIの水素燃料ジェット    *1-2より      

*6:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150407&ng=DGKKASDZ06I7X_W5A400C1MM8000 (日経新聞 2015.4.7)東芝、水素で一貫体制 開発拠点新設、製造から発電まで
 東芝は6日、二酸化炭素(CO2)の排出を減らせる水素エネルギー専用の研究開発拠点を開設したと発表した。2020年度にも水素の製造から発電まで手掛ける大規模システムを他社に先行して実用化する。水素関連の世界市場は50年に160兆円になるとの予測がある。米ゼネラル・エレクトリック(GE)など世界大手の間で主導権争いが始まりそうだ。東芝は府中事業所(東京都府中市)に研究開発拠点を設けた。現状では石油などから水素を取り出す時にCO2が出る。東芝は水素の製造過程でCO2を排出しないシステムを目指す。太陽光発電で水を分解して作った水素を、専用装置にためて大型の燃料電池で集中発電する。電力は送電網を通じて家庭に供給する。20年度までに1万世帯分の電力を発電できる大型システムを開発し新電力などに販売する。製造から発電まで一貫した水素エネルギーシステムは世界初。東芝は家庭用燃料電池など現在約200億円の水素関連売上高を20年度に1千億円にする。日本メーカーでは昨年末にトヨタ自動車が世界初の市販用燃料電池車(FCV)「ミライ」を発売した。三菱日立パワーシステムズは温暖化ガスの排出が少ない水素タービンを17年度にも実用化する。川崎重工業は同時期に海外の安価な水素を海上輸送する取り組みを始める。海外勢ではGEがイタリア電力最大手と3万世帯分の水素発電を実証実験中だ。

| 経済・雇用::2014.6~2015.10 | 03:26 PM | comments (x) | trackback (x) |
2015.4.4 年金受給額削減による年金制度維持は管理者の受託責任をうやむやにする詐欺であり、こういうことを許していれば同じことが何度も繰り返されること、また、政府の説明には虚構が多いこと (2015年4月6日、7日に追加あり)
    
  円ドル建て株価   日本の利子率(公定歩合)   実質賃金推移   名目賃金と実質賃金

      
*4より    家計収入と     国民会議   人口ピラミッド    年金の      *3-1より 
        消費支出の推移   報告書     の推移    マクロ経済スライド    

(1)資産からの所得について
 *4のように、①年間80兆円の大量資金を日銀が市場に流し続けることで、人々のデフレ心理を払拭し2%の物価上昇を目指す異次元の金融緩和3年目で、家計の株式・投資信託が50兆円増加し、株式・投資信託の保有残高は200兆円近くにまで膨らんだ ②しかし金融市場から離れると効果は弱まり、消費回復は株高の恩恵を得られる富裕層に偏り、昨年4月の消費増税を乗り越えられるほどには消費者心理が改善していない ③企業も設備投資になかなか本腰を入れられない ④2014年度の実質成長率はマイナスになったもようで、「金利低下が個人消費や設備投資を促す」という日銀のねらいは機能していない と今日の日経新聞に書かれていた。

 しかし、②は当然のことであり、ここで問題なのは、名目の円で計った株価しか見ずに、「株価が上がったから景気がよくなった筈だ」と騒いでいることだ。何故なら、需要と供給の構造や生産性が変わらないのに貨幣の供給量だけを増やしても、円の価値が下がって名目上の物価や株価が上がるだけであり、その上現在は、国民の年金資産を株式に移動させることにより、株価が上昇しているにすぎないからだ。

 その証拠に、上の段の左のグラフのように、円ドル為替レートは円安になり、円建ての日経平均株価の方がドル建ての日経平均株価より高くなっている。さらに、円安と左から2番目のグラフの金利低下で、国民の貯蓄の価値は2/3になったことにより株式価値の増加による資産増加は相殺され、さらに0金利政策により利子所得とそれに連動する配当所得がなくなったため、高齢者をはじめ貯蓄を持つ堅実な人の消費は増加しないどころか減少したのである。その結果が、③④になったわけだ。

 この悪政の理由は、①のように、「イ、年間80兆円の大量資金を日銀が市場に流し続けることで、人々のデフレ心理を払拭する」「ロ、2%の物価上昇を目指す」としたことにある。デフレが賃金低下の理由だとはずいぶん言われてきたが、上の段の3番目のグラフのように、実質賃金は2000年から殆ど変っておらず、4番目のグラフのように、脱デフレと称するインフレ政策をとり始めて半年後の2013年7月以降に実質賃金はみるみる下がっているのだ。そして、為政者がこれを知らずにやっていたわけはないため、政府とメディアは、国民に対し、協力して大きな虚構の説明をしてきたことになる。

(2)「財政健全化=年金減額+社会保障削減」というのも虚構である
 厚生年金、国民年金などの公的年金支給水準を物価に応じて変動させる「マクロ経済スライド」と呼ばれる仕組みが導入されたのは2004年の年金制度改革時で、当時は物価下落や賃金低下の局面では発動されないという制限があったのだそうだ。しかし、*1-1のように、「少子高齢化の下での財政健全化には痛みを伴う年金改革を行うことが重要で、支給額抑制を先送りしないように制度を見直すべき」「デフレでもマクロ経済スライドが発動できるようすべき」という意見が行政・メディアから相次いだ(下の段の左から2、3、4番目の図)。

 しかし、これは、一見もっともらしいが、実は高齢者のみに痛みをしわ寄せして年金資金の管理・運用のずさんさを改善しない政策であり、将来は、さらにずさんな管理・運用がより大きな規模で行われると予想される。そのため、それを防ぐには、退職給付会計の導入による年金資産の毎年の見直しと管理運用の反省及び積立不足分の計画的な積立が必要なのである。

 また、*1-2でも、「財政健全化の焦点は社会保障削減」と長い文章で書かれているが、ここで欠落している視点は、「必要十分な社会保障は行わなければならない」ということだ。にもかかわらず、社会保障を削減しさえすればよいという論調の学者が多く意見を書いている理由は、①そういう論調の人しかメディアに登場させない ②公共経済学を専門として社会保障削減を主張している人は、殆どが経済学部・法学部の出身で社会保障や社会福祉を勉強したことがないため、必要十分な社会保障とは何かという考察ができない ③そのため単純な収支計算でしかものを考えていない からだろう。

 例えば、「公費ベースで十数兆円増える社会保障費自然増のうち、支出を何兆円か抑制できれば、目指すべき社会保障の姿に近づけるとともに、財政健全化にも貢献する」というのは、社会保障の量は必ず増えるが効率よく必要十分なサービスを行うという視点ではなく、「社会保障を改悪しても制度さえ維持すればよい」というもので、国民の福利からは程遠く、これでは社会保障の役割を果たさないのである。

(3)年金について
 *2-1、*2-2のように、厚労省は、①現役世代の人口減や平均余命の伸びに応じて年金額を調整し、年金財政の安定化を図るため、デフレ経済でもマクロ経済スライドを適用 ②パートなど短時間労働者の厚生年金への加入を拡大 ③制度維持のため高齢者に給付減の「痛み」を求める ④2016年10月から従業員500人超の企業のみパートなどの短時間労働者への厚生年金適用拡大を義務化 ⑤高所得高齢者の基礎年金を減額 ⑥国民年金保険料の納付期間を現在の60歳から65歳に延長する などを盛り込み、報告書案を作って関連法案の取りまとめを目指すとのことである。

 しかし、①の公的年金が積立方式(自分用に積み立てる方式)から賦課課税方式(仕送り方式)になったのは1986年からで、この制度改正により、厚労省は積立金や収支差額(当時は収入超過)を大々的に無駄遣いしたが、その問題点は国民への退職給付債務を認識しない仕組みにしていることである。そうやって、年金資産をずさんに管理・運用してきた結果、*2-3の「年金が消えて詐欺だ」という結果になったのだ。また、②④は不完全であるため、あまり国民のためになっておらず、⑤⑥は、高齢者に十分な所得があれば年金を停止してもよいが、判定する所得レベルが低すぎるのが問題だろう。

(4)介護について
 *3-1のように、東京都は3月27日、今後10年で都内の「要介護認定者」が20万人増えて77万人に達し、65歳以上の介護保険料が約7割上がって月額平均8,436円となる見込みだと発表した。しかし、介護保険料は、受益者となる働く人全員が支払う仕組みとし、介護人材には外国人留学生を介護士として教育したり、労働者として外国人介護士も働かせることを前提としたりするのが筋である。

 そのような中、*3-2のように、政府は3月6日、外国人技能実習生の受け入れ期間を最長3年から5年に延長することを柱とした法律整備を閣議決定し、人手不足が深刻な介護分野などでの人材確保策として技能実習制度を活用する方針とし、制度の悪用による実習生の人権侵害等を防ぐ目的で新法を成立させるそうだ。しかし、働いている外国人を労働者として認めないのが最も大きな人権侵害であるため、小手先の対応ではなく正規の労働者として受け入れるべきであり、そういう方向への政策転換の方が、少子高齢化でグローバル化した時代の日本に適してもいる。

<「財政健全化=社会保障削減」としか言わない視点>
*1-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150129&ng=DGKKZO82521630Z20C15A1EA1000 (日経新聞社説 2015.1.29) 「痛み」を伴う年金改革から目をそらすな
 厚生労働省の審議会が公的年金制度の改革について報告書をまとめた。少子高齢化で年金財政が厳しくなる中、支給額の抑制を「極力先送りしない」ように制度を見直すべきだとした。「痛み」を伴う改革だが、早急に実現すべきだ。厚生年金や国民年金といった公的年金制度には「マクロ経済スライド」と呼ぶ年金支給水準を毎年小刻みに切り下げていく仕組みがある。2004年の制度改革で導入された。ただ、物価や賃金が低下するデフレ経済下では発動できないなどの制約が設けられた。このため、長らくデフレが続いた日本では年金水準を抑えることができなかった。15年度からやっと発動できる見通しだが、この先の経済状況によってはまた年金抑制が先送りされかねない。抑制が遅れれば、その分、将来世代の年金が先細りとなってしまう。そこで報告書は、デフレでもマクロ経済スライドが発動できるような見直しを求めた。ただ、医療や介護でも国民に負担となる制度改革が続くことから、政府・与党には今国会での見直しに慎重な意見も目立つ。日本は世界最速で高齢化が進む。これまで通りの制度では対応できないことは明らかだ。様々な分野で厳しい改革が相次ぐことはやむを得ない面がある。覚悟を持って改革を進める姿勢が必要だ。報告書は、年金財政安定のため、年金を受け取り始める年齢の引き上げや、パート労働者の厚生年金加入拡大についても触れた。しかし様々な反発も考慮し明確な方針は示していない。これらについても早期に議論を詰めるべきだ。現在原則65歳である年金受給開始年齢を66歳以上に引き上げるには、年齢にかかわらず働ける社会の実現も必要になる。大きな課題だけに早く具体的な検討を始めてほしい。将来の年金を増やすために、現在は原則40年である保険料の拠出期間を45年に延ばす案も出ているが、これも合わせて速やかに議論すべきだろう。パート労働者については、16年10月に第1弾の厚生年金加入拡大策が実施されることがすでに決まっている。ただしこの段階では、ごく一部のパートしか対象にならない。企業や本人の保険料負担にも配慮しながら、その先をどうしていくのか決める必要がある。年金課税強化や基礎年金のあり方の見直しなど課題はほかにもある。立ち止まってはいられない。

*1-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150309&ng=DGKKZO84099150X00C15A3KE8000 (日経新聞 2015.3.9) 財政健全化の焦点(上)、社会保障改革は不可避 土居丈朗 慶応義塾大学教授 (どい・たけろう 70年生まれ。大阪大経卒、東大博士(経済学)。専門は公共経済学。)
〈ポイント〉
 ○成長による税収増では健全化目標は未達
 ○病床削減・介護効率化通じ5.5兆円確保
 ○所得税は低所得層に有利な税額控除軸に
 安倍晋三内閣は、2020年度の財政健全化目標を達成するための具体策を今夏までに策定すべく議論を始めた。本稿では、具体策の検討に何が重要かを論じたい。内閣府が2月に示した「中長期の経済財政に関する試算」によると、20年度の基礎的財政収支は、17年度に消費税率を10%とし、今後の経済成長率を名目で3.5%前後と高く見積もった経済再生ケースでも、約9.4兆円の赤字となる見込みである。経済の実力に合った、より慎重なベースラインケースでは赤字はさらに約7兆円増える。政権には、厳しい歳出削減や増税の前にデフレ脱却・経済再生を図り、税収増によって収支を改善したいという思惑がある。成長による収支改善は前述の両ケースの赤字の差である約7兆円が期待される。しかし、3.5%超の名目成長が実現できなければ、それ以上の税収増はもはや期待できない。目標の達成には、歳出削減と増税を一体として改革し、9.4兆円の赤字を解消するしかない。中長期試算によると、債務残高の国内総生産(GDP)に対する比率は、何も努力しなくても14年度末をピークに低下するという。この数値だけを目標とすることは、歳出入面で何の改革もしなくてよいことと同義となる。グローバル化に対応した税制や、高齢化がさらに進む20年代によりよい社会保障を整えるためにも、それでよいはずはない。債務のGDP比を安定的に低下させるには、やはり基礎的収支の黒字化が欠かせない。歳出改革では、教育費や公共投資費など非社会保障支出の削減余地はかなり限られる。まず社会保障費の過剰な支出の抑制や効率化への追求に焦点を当てる必要がある。社会保障費の抑制というと、弱者切り捨てとか医療や介護の質の低下を連想したり、かつてとられたような毎年度一律削減策を想起したりするかもしれない。しかし本当の改革とは、社会保障の目指すべき姿を志向しながら、真に救うべき人を救えていなかったり、給付する必要のない人に給付を出していたりする現状を改めることである。とはいえ、社会保障のためならどんな負担増でも応じられる、というはずはない。国民が耐えられる負担には限度があり、それを超えた給付は出し続けられない。したがって、今後20年度までに公費ベースで十数兆円ほど増える見込みの社会保障費の自然増のうち、改めるべき支出を何兆円か抑制できれば、目指すべき社会保障の姿に近づけるとともに、財政健全化にも貢献すると考える。さらに、図にあるように、医療介護の過剰な給付を抑制したり、給付の重点化・効率化をさらに進めたりすることは、社会保険料の負担軽減や医療介護の業務の生産性向上にもつながる。給付抑制は直接的に税や保険料の負担軽減につながる。保険料負担を軽減することで、就業者の手取り賃金を増やすだけでなく、低所得者により重く課す逆進性の強い保険料負担の現状を改め、格差是正にも寄与する。さらに、事業主負担保険料の軽減につながり、企業の資金制約を緩和して活発な経済活動が促され、経済成長にも資する。これらの施策に民間活力を活用することにより、医療や介護の業務を、より短時間で高い付加価値を生み出せるものに変えることができる。こうした生産性向上は、経済成長を促すだけでなく、相対的に低いとされる介護従事者の賃金の増加を後押しし、格差も多少是正されよう。こうした利点を生かした社会保障費の抑制は、真の弱者に対する安全網は守りながら、社会保障の質を落とさないようにできる。では、どう改革するのか。筆者は慶応大学の鶴光太郎教授らとともに総合研究開発機構(NIRA)において共同提言をまとめた。医療、介護、年金の順に説明しよう。医療は、GDP比でみた医療費が欧米諸国より低いとか、医師不足、看護師不足、過疎部での病院閉鎖など、過剰というイメージが薄いが、必ずしもそうではない。我が国の年間受診回数や病床数、入院期間、設置されている高額医療機器数は、欧米諸国を大きく上回る。高齢者に飲みきれないほどの薬を処方しては飲み残すという過剰投薬も顕著である。欧米諸国より高い価格がつけられた薬も多い。過剰な病床の削減を含む病院・診療所の再編や入院・外来診療の標準化、後発医薬品の普及などの取り組みを徹底すれば、医療の質を確保しつつ医療費抑制につながる。同じ病気ならどの地域でも同じような治療が受けられる診療の標準化や、医療が施される場所を「施設から地域へ」と改めることができ、公費で1.9兆~4.0兆円程度の削減が見込まれる。介護給付は、今後、団塊世代の要支援・要介護者が急増すると見込まれる。さらなる負担増を国民に求める前に、給付の出し方を工夫して絞ることで、負担増の度合いを抑えなければならない。制度創設時に比べて軽度者向けサービスの給付費が膨らみ、それが負担増につながっている。重度化を防ぐことは重要ではあるが、その効果検証が不十分である。科学的根拠を蓄積し、重度化予防に真に効果のあるものに限定することがさらに必要である。そのうえで専門職でなくてもできるものはボランティアなどを活用すれば、必要なケアをしつつ給付は抑制できる。加えて、要介護認定の精度を高め、サービスの質を標準化することが求められる。こうすることで公費ベースで1.1兆円程度削減できる。年金については、5年程度で成果が出る施策は少ない。しかし、高齢世代内の所得格差是正のためにも、公的年金等控除を圧縮して、0.4兆円程度の捻出が可能である。こうした改革の具体策に取り組むことによって、基礎的財政収支赤字を3.4兆~5.5兆円程度、削減できる。財政を持続可能にするためには歳出改革だけでなく税制改革も不可欠である。わが国の税制は欧米諸国と比べて、税収に占める個人所得課税の割合が少なく、法人所得課税の割合が多く、消費課税の割合が付加価値税導入国のなかでは低いという特徴がある。今の税制は、わが国が抱える課題にうまく適合できていない。法人所得課税が多いことはグローバル化の進展にそぐわない。所得格差是正に対し、個人所得課税が効果を発揮できていない。景況にかかわらず社会保障費が増大するなかで税収が景況に影響を受けにくい消費課税は少ない。つまり、税制の重点を所得課税から消費課税へシフトさせることが課題を解決させる。個人所得課税で手厚い所得控除を縮小し、税額控除にシフトさせる必要がある。所得控除は、税率が高い高所得者ほど税負担の軽減額が大きい。税額控除は、税負担軽減額が皆同じである。税額控除に切り替えれば、低所得者には増税にならず、累進税率を上げずとも中高所得者により多く所得税を課すことができ、所得格差が是正できる。法人所得課税は、財源を確保した上で法人実効税率をさらに引き下げることが必要である。消費税は、今後増大する社会保障費の財源確保のためにも、黒字化目標達成のためにも増税が必要である。黒字化目標の達成に際し、社会保障支出削減や消費税率引き上げに反対するのであれば、他の具体的な支出削減や増税項目や規模を明示することが、責任ある議論である。政府は逃げてはいけない。

<年金>
*2-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2015012202000112.html
(東京新聞 2015年1月22日) 年金給付 さらに痛み 物価下落分以上に減額
 厚生労働省は二十一日、年金制度改革の方向性を示す報告書案を社会保障審議会部会に示し、了承された。物価上昇時にしか年金給付を抑制できないルールを、物価が下がるデフレ経済などでも実施できるようにする必要性を強調。パートなど短時間労働者の厚生年金への加入拡大を求めた。制度維持のため支え手を増やす一方、高齢者には給付減の「痛み」を求める内容になっている。年金の支給額は、物価の変動に合わせて毎年改定される。給付の自動抑制は、物価変動率より年金の改定率を1%程度低くする仕組み。例えば物価上昇率が2%なら年金は1%、物価上昇率が3%なら年金は2%程度上がる。低インフレで物価上昇率が0・5%なら年金は1%程度低くなるため、改定率はマイナス0・5%となる計算だが、現行では年金減額まで踏み込まず、0%に据え置く。一方、デフレ経済で物価が1%下がった場合は年金はさらに1%下げて計2%、物価が2%下がれば年金は計3%程度下がる計算。しかし、現行では年金の目減り額が大きいため、物価下落率と同率しか年金を減らさなかった。報告書案は、低インフレ時に年金の改定率をマイナスにしないルールや、デフレ経済で物価下落率以上に年金改定率を減らさないルールを撤廃するよう求めた。減らす分は将来世代の年金に回す。報告書案でも「将来世代の給付水準を確保する観点から、極力先送りされない工夫が重要」と指摘した。パートなどの短時間労働者への厚生年金適用拡大は一六年十月から、従業員五百人超の企業に一年以上勤め、週二十時間以上勤務し月収八万八千円以上の人が新たに対象となる。報告書案では、五百人以下の企業でも任意で加入を認めることを盛り込んだ。適用拡大で制度の支え手が増える。加入者は保険料負担が増えるが、厚生年金がもらえるようになる。高所得高齢者の基礎年金の減額などの必要性や、国民年金保険料の納付期間を現在の六十歳から六十五歳に延長することも盛り込んだ。ただし、国民年金は国の支出も増えるため、財源確保の問題から慎重な検討が必要と付け加えた。厚生労働省は報告書案を踏まえ、関連法案の取りまとめを目指すが、簡単ではない。物価下落時の給付の自動抑制は、高齢者の生活を直撃する。短時間労働者への厚生年金適用拡大は企業の保険料負担が増えるため、パートが多い流通・小売業界の反発が根強いからだ。
<公的年金> 20歳以上60歳未満の全国民が加入し、制度の土台部分になるのが国民年金(基礎年金)。これに上乗せする「2階部分」として、会社員を対象とした厚生年金、公務員や私立学校教職員が対象の共済年金がある。保険料は、国民年金で現在月額1万5250円。厚生年金の場合、国民年金分も含め、給料の17・474%を労使折半で負担する。

*2-2:http://qbiz.jp/article/59391/1/
(西日本新聞 2015年4月2日) マクロ経済スライド、初めて実施 年金額抑制で財政安定化図る
 新年度を迎えた今月から、年金支給額の伸びを抑える「マクロ経済スライド」が初めて実施される。制度を支える現役世代の人口減や、平均余命の伸びに応じて年金額を調整し、年金財政の安定化を図る狙いだ。
Q マクロ経済スライドとは。
A 年金給付の増額を自動的に抑制する仕組みだ。公的年金は、現役世代が払う保険料で現在の高齢者に給付する「仕送り方式」。少子高齢化で現役世代が減り、受給者は増えるため、現役の負担が重くなり過ぎる。そこで、給付を抑える目的で2004年に導入された。賃金や物価が下落するデフレ下では行わない決まりなので、これまで行われなかったが、「アベノミクス」で物価が上向いたので初めて実施される。
Q 年金額はどれくらい抑えられるの。
A 年金額は物価や賃金の上下に合わせて毎年4月に見直される。15年度改定では現役世代の名目賃金の伸び率2・3%分が増額されるはずだったが、マクロ経済スライドによる調整が行われる。調整率は平均余命の伸びなどから1%前後で算出され、今回は0・9%。さらに今年は、過去の不況期に払い過ぎた分を調整する目的で0・5%分を引く改定もあり、計1・4%分が引かれ、伸び率は0・9%分に抑えられる。
Q マクロ経済スライドは今後も続くの。
A 厚生労働省は、年金財政が安定するには43年ごろまで続ける必要があると試算している。マクロ経済スライドを続けると、現役世代の手取り賃金と比べてどれくらいの割合で年金を受給できるかを示す「所得代替率」が低下してくる。例えば今65歳の夫婦の所得代替率は62・7%だが、90歳時点で41・8%まで下がる。給付水準を抑えることで将来にわたって年金制度を維持可能にする狙いだ。
Q うまくいくのかな。
A マクロ経済スライドは賃金・物価が上昇していくことを前提にしている。賃金・物価の伸び率がスライド調整率より小さい場合、改定率は0が下限になる。また、賃金・物価の伸び率がマイナスの間は調整は行われない。調整が小幅だったり、行われなかったりすると調整期間が長引く。社会保障の専門家には、賃金・物価の上昇率が小さい年やデフレ下でも、確実に調整を実施するよう求める声もある。ただ、高齢者の生活に直結するため、与党は慎重だ。厚労省は、予定通り抑制できなかった分を翌年以降に繰り越す仕組みを導入する考えだ。

*2-3:http://digital.asahi.com/articles/ASH2V6W1DH2VULFA045.html?ref=nmail
(朝日新聞 2015年3月2日) 年金消え、穴埋め負担あと30年 64歳「詐欺みたい」
●シリーズ「報われぬ国」
 「何十年も掛けてきた企業年金がなくなったうえ、追加負担まであるなんて。詐欺みたいなもんだ」。栃木県で給油所を営んでいた男性(64)は憤る。この基金は栃木県内の給油所などが集まり、社員らの厚生年金の一部(代行部分)と企業年金(上乗せ部分)を出すためにつくった。だが、積み立て不足に陥り、今年1月、ついに解散に追いこまれた。厚生年金の代行部分は積み立て不足を加入企業が穴埋めしなければならず、男性のもとにはその負担額が通知されていた。最長30年かけて、月に1万円ほどずつ払っていくという。男性は、多いときで数人の社員を雇って給油所を経営してきたが、エコカーの普及などでガソリンの販売が低迷した。貯蔵タンクが古くなって改修が必要になったのを機に、数年前に給油所をたたんだ。60歳からは厚生年金と企業年金を合わせて月に約8万円(基礎年金を除く)を受けとってきた。だが、基金が解散したため、厚生年金は支給されるものの企業年金分の約1万円がなくなる。男性は「病気などに備え、年金をあてにしてきたのに」と肩を落とす。中小企業が集まってつくる厚生年金基金は、年金保険料を納める若い社員が減る一方、年金を受けとる退職者は増えてどこも厳しい。さらにこの男性が加入していた基金は、2012年2月に発覚したAIJ投資顧問の詐欺事件で、運用のために大手信託銀行を通じてAIJに預けていた約40億円を失い、積み立て不足が拡大してしまった。企業年金は退職時にまとめて一時金として受けとることもできるため、退職金の一部と位置づける中小企業もある。昨年2月に解散した京都府建設業厚生年金基金に加入していた資材会社でも、退職者の多くが一時金で受けとっていた。勤続年数などに応じて100万~200万円ほどだったが、解散後はもらえなくなった。この会社の担当者は「退職金代わりだったので痛い」ともらす。厚生労働省のまとめでは、昨年末時点で厚生年金基金483基金のうち290基金が解散を予定していた。その9割にあたる261基金は13年度末時点で企業年金の積み立て不足に陥っており、企業年金がなくなったり減額されたりするおそれがある。261基金の年金受給者と現役加入者は計約300万人に及ぶ。
■企業年金、中小企業は余裕なし
 厚生年金基金はかつて1900基金近くあり、会社員が入る代表的な年金だった。だが、この20年余りで、高齢化と経済低迷という日本社会の変化にほんろうされていく。「厚生年金基金をつくらないと損ですよ。余った金で大企業なみに保養所やプールもつくれます」。信託銀行の元行員は、1990年代初めにはこんな営業トークがあたり前だったという。「当時はまだまだ金利も株価も高かった。資金さえ集めて国債や株式に運用すれば、中小企業も銀行ももうかる。ウィンウィンだった」。入行したのはバブル経済の余韻が残る91年で、運用利回りで年6~7%を稼ぐ基金もあった。運用で大きくもうけた分で保養施設をつくることもできた。しかし、5年ほどで「おかしい」と感じ始めた。基金に加入する段ボール製造や繊維などの中小企業の社員が減っていったからだ。「100人の加入をみこんでいた基金に10人ほどしか入らない。業界が厳しくなって厚生年金の保険料を払う現役社員が減った」。97年、さらなる衝撃が襲う。アジア通貨危機が起きて世界的に株価が急落した。国内では不良債権を抱えた山一証券や北海道拓殖銀行などの経営破綻(はたん)が相次ぎ、金融不安が広がった。基金が買っている国債の金利や株価が下がって運用利回りが悪化し、積み立て不足が目立ち始めた。「ぎりぎりの基金はすぐに資金不足になった」という。厚労省は02年度、基金が厚生年金の一部を国から預かって運用する「代行部分」を国に返上することを認めた。大企業がつくる基金は負担を減らそうと代行返上し、支給額を減らすなどして企業年金だけの組織へ移行して生き残った。だが、中小企業の基金の多くは企業年金に移行するほどの余裕はない。同年度には代行部分の積み立て不足だけを穴埋めすれば、企業年金に移行せずに解散できる特例も認められた。「国は中小企業の企業年金を守る気はないと感じた。従来の基金のしくみは崩れたと思った」。元行員はそう振り返る。
■広がる老後の格差
 厚労省の厚生年金基金のモデル例では、支給月額は基礎年金が約6万5千円(夫婦で約13万円)、厚生年金(代行部分含む)が約10万円、企業年金が約7千~1万6千円になる。企業年金は受けとる期間が10~20年の人が多い。企業年金がなくなると数百万円の老後資金を失う人が出るおそれがある。基金に加入している人の多くはいま、中小企業の社員らだ。解散によって企業年金を失えば、企業年金が出る大企業と中小企業の老後の格差が広がる。厚労省の13年の調査では、退職金も企業年金もない企業の割合は従業員数が30~99人だと28・0%で、10年前より12・8ポイント上がった。一方、従業員が1千人以上だと6・4%で、3・5ポイント上がった。ただ、基金に入る人は企業年金がなくなっても、厚生年金は支給される。もっと支給額が低い国民年金に入る人もいる。国民年金は保険料を40年間納めた場合でも支給額は月に約6万5千円だ。保険料を納めない時期などがあると年金額は少なくなる。厚労省の11年の調査では、国民年金の加入者約1700万人のうち無職が約39%、臨時・パートの非正規労働者が約28%、自営業が約22%、厚生年金がない会社などで働く常用雇用が約8%だった。高齢になると、病気で医療費がかかったり介護施設に入ったりして療養費がかかる。年金が少なければ少ないほど、年をとったときの療養不安が増す。家計の相談に応じるファイナンシャルプランナーの藤川太さんは「公的な年金だけでは老後破産する。若いときから地道に貯蓄する習慣をつけたほうがいい」と話す。年金にくわしい慶応大非常勤講師の久保知行さんは、社会の変化に合わせた見直しを訴える。「非正規労働者も厚生年金に加入させる必要がある。また、厚生年金や国民年金は受給開始を遅らせるほど額が増えるので、企業は社員が定年後も仕事を続けられたり、退職金や企業年金だけで暮らせる期間を長くできたりするよう支援すべきだ」(座小田英史、生田大介、松浦新)
     ◇
 〈解散が相次ぐ厚生年金基金〉 厚生年金基金は会社員らが入る年金のひとつ。国から厚生年金の積立金の一部(代行部分)を預かり、企業が社員のためにお金を出して上乗せする企業年金とともに運用している。バブル崩壊後の不況で運用利回りが低くなったり、高齢化が進んで年金受給者が増える一方、現役社員の加入者が減ったりして、大企業の基金が代行部分を国に返上し、企業年金だけに移行していった。2012年にはAIJ投資顧問による年金積立金詐欺事件が起き、多くの基金が預けていた年金資金を失った。14年末時点で483基金まで減り、中小企業が業界や地域ごとに集まる基金が多い。このうち290基金が解散を予定し、その9割にあたる261基金が13年度末で企業年金の積み立て不足に陥っていた。

<介護について>
*3-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150328&ng=DGKKZO84965080X20C15A3L83000 (日経新聞 2015.3.28) 介護職員、3万6000人不足、都の今後10年推計 要介護認定者20万人増
 東京都は27日、今後10年で都内の「要介護認定者」が20万人増えて77万人に達するとの推計を発表した。これに伴って介護保険料は約7割上がり月額平均8436円となる見込み。介護需要の急増で介護職員は3万6千人不足する。介護の必要な高齢者を受け入れる施設の整備に加え、介護人材の育成が急務だ。10年後の2025年は団塊の世代が全員75歳以上の後期高齢者となる節目で、介護需給のミスマッチの拡大がかねて懸念されていた。都が具体的な中長期推計を示すのは初めて。舛添要一知事が27日の定例記者会見で、15~17年度の高齢者保健福祉計画と合わせて公表した。舛添知事は「きわめて恐るべき推計。総合的にあらゆる施策を動員したい」と話した。要介護認定者(要支援を含む)の急増は社会保障の重しとなる。介護保険料を負担する65歳以上の高齢者数は、15年時点では要介護認定者1人につき5人。これが25年には4人に減る。一方で介護保険の給付額は5割近く増えて1兆2千億円を突破。介護保険料も跳ね上がる。都は今後10年間で特別養護老人ホームを1万8千人分、介護老人保健施設を約9700人分、認知症高齢者グループホームを約1万600人分整備する目標を設定。受け皿の拡充を急ぐ。介護を担う人材の育成も重要になる。介護職員数は12年度に約15万人だったが、25年度には約25万人が必要とされる見込み。現在の新規採用などのペースでは需要の急膨張に供給の拡大が追いつかず、3万6千人もの職員不足が発生すると懸念される。都は介護人材の確保に向けて求人・求職情報を一元管理する「人材バンクシステム」を構築し、17年度から運用する。27日成立した15年度予算には介護職員の処遇改善を促す補助金を盛り込んでいる。

*3-2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11636612.html?ref=pcviewpage
(朝日新聞 2015年3月6日) 外国人実習、5年に延長 閣議決定 介護職などにも拡大
 政府は6日、外国人技能実習生の受け入れ期間を最長3年から5年に延長することを柱とした法律の整備を閣議決定した。安倍政権は、人手不足が深刻な介護分野などでの人材確保策として技能実習制度を活用する方針。同時に、制度の悪用による実習生の人権侵害などを防ぐ目的で新法を成立させる。新設する法律案と入管難民法の改正案を開会中の通常国会に提出する。今国会での成立と、2015年度中の施行を目指す。技能実習制度をめぐっては、実習生が低賃金や長時間労働などの劣悪な環境で働かされている問題が指摘されている。このため、制度全体を監視する認可法人「外国人技能実習機構」を新設する。実習生を受け入れる監理団体や企業の許認可を担うほか、実習生の人権侵害などの不正行為がないかチェックする。不正行為があった場合の罰則も設け、実習生を暴行・脅迫すると、1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金。パスポートを無理やり回収すると、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金となる。一方、人権侵害を受けた実習生が他の企業に移ることを支援する。これらを新法で定めると同時に、技能実習制度を拡充する。受け入れ期間を延長するほか、企業ごとの受け入れ人数の上限も緩和。対象職種も現在の69職種から追加し、介護のほか、林業、自動車整備、総菜製造、店舗運営管理などが検討されている。介護分野では、日本の養成施設で介護福祉士の資格を取った外国人の長期就労を認める。入管法改正案でも介護を新たな在留資格とする。同改正案では、外国人がうその申告で入国したり滞在したりした場合の罰則を新設し、それを手助けしたブローカーも処罰の対象とする。

<資産からの所得について>
*4:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150404&ng=DGKKASDF03H2G_T00C15A4MM8000 (日経新聞 2015.4.4)
異次元緩和3年目、家計の株・投信50兆円増 消費に波及、課題
 日銀が大量の国債や株式を購入して市場に資金を供給する異次元緩和が4日、3年目に入った。円安・株高の好循環が生まれ家計の資産や企業業績が急回復。デフレ脱却の動きは前進しつつある。一方で、個人消費や設備投資には慎重さが残る。市場には大量購入のひずみも見え始め、副作用を懸念する声もくすぶっている。
●200兆円に迫る
 「理論の上でも実践の上でもしっかり機能している」。3月20日、黒田東彦総裁は自らの政策の効果に自信を示した。年80兆円もの大量の資金を市場に流し続けることで、人々のデフレ心理を払拭し、2%の物価上昇を目指す異次元緩和。白川方明前総裁の政策よりも緩和のアクセルを強烈に踏み、2年間で円相場は1ドル=93円から120円へ下落。日経平均株価は約6割も上昇した。これだけ資産価格が動けば、効果も大きい。家計の株式と投資信託の保有額は2年間で約50兆円増えた。残高は200兆円近くまで膨らみ、戦後最長の好景気だった2007年6月やバブル末期をも上回った。第一生命経済研究所の試算では、この1年間の株高効果で個人消費を2.3兆円押し上げる。企業業績への恩恵も大きい。円安で製造業の採算が改善。融資も40兆円近く増え、企業は資金を楽に手当てできるようになった。14年の経常利益は65兆円と2年で33%増え、7年ぶりに過去最高を更新。稼いだ利益は雇用や賃上げを通じ、家計にしみ出している。ただ金融市場から離れると効果は弱まる。消費回復は株高の恩恵を得られる富裕層に偏り、昨年4月の消費増税を乗り越えられるほどには消費者心理が改善していない。企業も設備投資になかなか本腰を入れられない。14年度の実質成長率はマイナスになったもようで、「金利低下が個人消費や設備投資を促す」という日銀のねらいは十分機能していない。
●4分の1が日銀
 日銀が資産を買い続けられるか懸念も出始めた。日銀の国債保有額は、全発行額の4分の1を占める。市場に流通する国債が細り、金利が乱高下する場面が増えた。株価指数に連動する上場投資信託(ETF)の保有額も約7兆円と市場の過半に達した。BNPパリバ証券の河野龍太郎氏は「株価はバブルの色彩が濃く、緩和を弱めるときの反動は大きくなる」と指摘する。目標としてきた2%の物価上昇も想定外の原油安で遠のいた。黒田総裁は「15年度を中心とする期間に2%に達する」と断言するが、民間エコノミストの多くはそのシナリオを疑問視する。「いつまでも続けられる政策ではない」と日銀内から焦りの声が漏れ始めた。物価上昇が実現しないと、政策そのものの有効性が問われる。「壮大な実験」として世界が注目する異次元緩和。物価目標の期限を迎える3年目は、その成否が問われる試練の1年になる。


PS(2015.4.6追加):下の段の左から2番目の図のとおり、物価上昇による実質家計収入の低下と消費税増税により、消費税増税前の駆け込み需要を除き、2014年以降は消費支出と家計収入が急激に低下して、*5に書かれているとおりになっているが、その理由は、「脱デフレをして雇用増加と賃金上昇を図れば消費が増える」という前提が誤っているからである。
 本当は、①買いたいものが生涯収支と比較して適切な価格で存在しなければ消費は増えない ②消費者(顧客)がいなければ生産は不要 ③生産が不要であれば民間投資はない ④生産や投資が減れば雇用は減る ⑤さらに景気が悪くなり年金支給額も減る ①に戻る という循環になっているのだ。
 しかし、日本経済を語る人は、殆どが生産年齢人口の男性であり、女性がいても経済学的に理路整然と自らの意見を言えない人が多いため、①の考え方がいつも欠けており、これが日本でゼロ金利政策をとっても民間投資が増えない理由である。何故、こういうことになっているかについては、私がこれまで、教育、男女雇用機会均等、女性の登用、ジェンダー(男女の生物学的性差による社会的役割分担の強制)などで問題点を指摘してきたとおりだ。

*5:http://www.kochinews.co.jp/?&nwSrl=335921&nwIW=1&nwVt=knd
(高知新聞 2015年4月5日) 【消費増税1年】国民の負担に目を向けよ
 昨年4月に消費税率が5%から8%に引き上げられてから1年がたった。この間、毎月のように食品などが値上げされた。増税と物価上昇のダブルパンチで家計の負担は増すばかりだ。消費の低迷は景気回復に影響する。政府は国民の負担にもっと目を向ける必要がある。増税以降、消費者の節約志向は強い。少額商品なら負担を感じにくいが、高額の場合には何千円、何万円と出費が増える。増税の影響が収まらない中、物価上昇も続いている。アベノミクスが招いた円安などで原材料の輸入価格が上がったことが要因だ。原油相場が下がり、ガソリン価格はいっときより安くなった。だが、今月も乳製品や調味料などさまざまな商品が値上げされた。高齢者は介護保険料も上がる。家計には厳しい春で、財布のひもは当分緩みそうにない。消費の力が弱いのは物価上昇に賃金の伸びが追い付いていないからだ。物価を考慮した実質賃金は22カ月連続で減少している。どの企業でも賃金が上がれば、消費者はお金を使おうという気になるはずだ。本格的な景気回復には実質賃金を上げることが重要となる。確かに、円安や輸出の持ち直しにより、企業の生産や収益は改善している。春闘では大企業を中心に高額の賃上げ回答が相次いだ。だがその動きが波及するかどうかは不透明だ。中小・零細企業、そして家計に恩恵が行き渡ってこそ、政府が言う「経済の好循環」は実現する。増税と物価上昇の影響が特に大きい低所得者層への目配りも欠かせない。政府は負担軽減策として低所得者向けの給付金を支給した。しかし総務省の家計調査では、依然として低所得者の支出減少が目立つ。消費回復につながる効果は見えていない。もちろん一時的な支援策は大切だが、雇用の安定など抜本的な対策も必要だ。負担増のしわ寄せに苦しむ人たちへの配慮が求められる。政府は2年後に消費税率を10%に引き上げる方針だ。国民にとってはさらなる負担増となる。そもそも消費税増税は増大する社会保障費の財源を確保するためだった。新たな負担を求める以上、社会保障の充実や歳出削減など政治の責任を忘れてはならない。


PS(2015.4.7追加):*6のように、技術すら固まっておらず、国の多大な補助を必要としながら、次世代に放射性廃棄物の管理という大きな負債を残し、事故時には不可逆的な環境汚染を起こす原発を、「地球温暖化対策によい安価なエネルギー」として、経産省とその下部機関になっている経団連が推進するのは、前後左右を見ておらず、あまりにも視野が狭い。そして、意思決定する立場の人がこの状況なのが、日本の生産性が上がらず、ゼロ金利にしても投資が起こらない理由である。

*6:http://qbiz.jp/article/59669/1/
(西日本新聞 2015年4月7日) 「原発比率25%超に」 経団連、電源構成で提言
 経団連は6日、政府が検討している2030年時点の電源構成比率(エネルギーミックス)について、原発、石炭火力などを合わせたベースロード電源を62%超とする提言をまとめた。ベースロード電源を6割程度にする方針を示している自民党の調査会や経済産業省と足並みをそろえた格好だ。電源別の構成は、原発25%超、石炭火力27%、地熱・水力10%。太陽光などの再生可能エネルギーは「国民負担の急増などの問題がある」としつつ、「20%程度の実現を政策目標にし、革新的技術開発への重点的支援をすべきだ」とした。榊原定征会長は記者会見で「原子力を一定規模保有するのは温暖化対策のためにも必要」と強調。25%超を維持するためにリプレース(建て替え)を容認する考えも示した。

| 経済・雇用::2014.6~2015.10 | 03:22 PM | comments (x) | trackback (x) |
2014.12.23 ふるさと納税制度について
   
  *2-1より           *3-1より        玄海町浜野浦の夕日

(1)ふるさと納税制度の趣旨とその発展的展開
 「ふるさと納税制度」を提案し実現にこぎつけたのは私だ。そこで、「ふるさと納税制度」の趣旨を書くと、地方である「ふるさと」で教育を受けて大都市で働いている人の多くは、高校までの教育費を地方で支出してもらいながら、働き手となって税金を納めるのは居住する大都市に対してであるため、教育投資をする場所と働き手として税金を納める場所が異なるという根本的な齟齬(そご)が生じている。また、その老親は、地方である「ふるさと」に残って医療・介護などのケアを受けるため、地方は、支出は多いが収入が少ないという構造的な問題を抱えることになる。

 そこで、私は、都会で働く地方出身者を視野に「ふるさと納税制度」を提案したため、地方出身者が自分が育った地方にふるさと納税を行うというのが最初の趣旨だったが、①父親の転勤等で「ふるさと」が複数ある人はどこに納税すればよいのか ②自分の転勤で住んだ第二の「ふるさと」に納税したいができるか ③東日本大震災のような災害時に被災地に納税できるか などのさまざまな要望があり、*1のような発展的展開になっているもので、私は、これでよいと思っている。

 そして、重要なことは、これまでとられるだけだった税金を、人々が地域や事業を選んで納めることができるようになったことで、これを使えば、メニューさえあれば、現在住んでいる自治体に対しても「ふるさと納税制度」を利用して、使途を指定して税金を納めることが可能である。そのため、それぞれの自治体が知恵を出して政策を作れば、確かに、よいまちづくりが進むとともに、市民の地方自治への関心を高めて民主主義の活性化にも繋がるだろう。

(2)地方自治体の努力とその成果
 *2-1に書かれているように、平戸市はふるさと納税制度の本年度の寄付申込が10億円を突破し、昨年度の個人市民税と法人市民税の合計約10億5370万円と匹敵するそうだ。その理由は、①寄付額に応じてポイントを寄付者に付与し、ウチワエビ、平戸牛などの特典をカタログから選べる制度を導入したこと ②ポイント付与率の引き上げや特典拡充 ③クレジットカード払い導入 などで寄付者を増やしたことだそうで、アッパレだ。

 黒田成彦市長は「市の知名度を上げ、特産品の販売増と生産者の所得向上につなげたい。観光客や移住の増加も期待している。」と話しているそうで、寄付集めに熱心な自治体は、人口減少などで税収減に悩んでいる地域に多く、寄付額の上位10位に九州の5市町が入っている。政府は来年度から減税対象となる寄付の上限を2倍に引き上げる方針であるため、工夫すればもっと実を結ぶことになる。

 また、玄海町のふるさと納税は、米、いちご、高品質の黒毛和牛、豚の角煮、うにの塩漬け、サザエ、サザエご飯、鯛、鯛茶漬け、イカの一夜干しなど、美味しそうな特典が多いため人気があるが、これは、玄海町にある上場商工会議所が知恵を絞って地元農水産物の振興と合わせて行っているからだ。

 しかし、*2-2の玄海町の新酒づくりはよいのだが、「音音〜ネオン〜」という名前では当たらないと思う。何故なら、ネオンなら都会の方がオリジナルで数が多い上、ネオン街の酒は清潔そうでも美味しそうでもないからだ。そのため、むしろ玄海町の長所である自然の風、岬、紺碧の海か歴史的な地名である「末盧」をアレンジした命名にした方がよいと考える。なお、今までそれほど酒好きでなかった人を酒市場に取り込むためには、スパークリング清酒も面白いが、イチゴ(ショッキングピンク)やみかん(黄色)で作ったスパークリング・ワインがよいと思う。

(3)返礼合戦でふるさと納税の趣旨は薄れず、平準化主義はむしろ自治体の努力を妨げる
 *3-1の日経新聞記事は、「ふるさと納税返礼合戦で、お得感が膨らみふるさと納税の趣旨が薄れた」とし、「ふるさと納税は、自治体間の税金の奪い合いになりかねない面があり、過度な競争は地方の自滅になる」と京都府知事が懸念していると書き、「東京都は、ふるさと納税で5億円近い税収が“流出”した」としている。しかし、これらの大都市こそ、教育費を出さずに働き手を入手して納税させている地域であり、東京都にとっての5億円は小さな金額であるため、お礼に工夫を凝らしてふるさと寄付金を増やした自治体を攻めるのは的外れだ。

 また、*3-2の北海道上士幌町の場合も、そもそも北海道には美味しい食品が多い上、北海道上士幌町には和牛や蜂蜜などの魅力的な特産品があり、住民は少なく個人住民税も少ないため、半年で個人住民税の倍になったとしても驚くには当たらない。これはむしろ、ふるさと納税制度が人口の偏りを特産物で是正している姿であり、上士幌町は返礼品にそれだけ魅力があることに自信を持って、それらの商品が品切れにならないよう増産すべきなのである。

   
      春(菜の花)       夏(ハスの花)  秋(彼岸花)      冬(樹氷)

<ふるさと納税の趣旨と展開>
*1:http://www.f-tax.jp/site/about_tax (ふるさと納税応援サイト ふたくす)
●「ふるさと納税制度」とは
 「ふるさと納税」について、言葉からは、“生まれ育った「ふるさと」に「納税できる」制度”と受け止める方が多いと思います。しかし、国が制度化した趣旨や具体の運用方法はこれとは若干異なると考えるため、勝手ながら説明させていただきます。
※ここで書く内容は、下記文書をベースに、一部当法人の考えを交えてまとめたものです。
  •総務省:「ふるさと納税研究会報告書」
  •自由民主党:「平成20年度税制改正大綱」
 これまで、“とられる”イメージであった税金について、“選んで納める”という市民の自発的行為に基づいて自治体に渡していくものであり、従来の考え方を変えるものです。また、まちづくりにおいては資金の確保が重要な要素でありますが、これにより、市民が主体性を発揮してまちづくりを進められる新たな可能性が生まれました。
●人それぞれの“ふるさと”への寄付
 一般的に“ふるさと”とは、“生まれ育った地域”と捉えられ、“ふるさと納税”については、地域への恩返しや地域で暮らす親への生活支援等のために納税することを指すと考えられがちです。しかし、自分を育ててくれたのは、“生まれ育った地域”のみならず、“すばらしい歴史や自然を有する地域”や“心温かいもてなしをしてくれた人たちが暮らす地域”など人それぞれです。また、将来、“この地域に住みたい”、“この地域でとれる農作物を食べていきたい”など、今後を見通した新たな形の“ふるさと”も考えられます。つまり、人それぞれが、“生まれ育ったふるさと”のみならず、“第二のふるさと”や“心のふるさと”を持っており、各々の思いのある地域を選んで納税することができる制度といえます。
●「納税」ではなく「寄付」
 手続きとしては、“自治体を選んで税金を納める”のではなく、“他の自治体に寄付した金額の一部を、本来納めるべき税から引いてもらう”ことになります。わかりやすさの面から「納税」という語が使われているに過ぎず、手続きとしては「寄付金分の控除」となっています。
●税金が使われる「事業」の選択も可能
 “○のために資金面で協力したい”という思いを形にする制度ですので、単に“生まれ育った○町に!”、“一生懸命がんばる○村に!”と納税するのみならず、“あの歴史あるまちなみの保全のために”、“地域のために働く志の高い人材を育成するために”といった「取り組み・事業」を選んで寄付することができます。言い換えれば、あなたの税金が、まちづくり事業の出資金・投資資金となるわけです。実際に、この制度が始まる前から寄付は多く行われていますが、“緑の保全のために”、“子供たちの交通安全のために”と使途を限定するものが多くを占めていましたので、これを促す制度であるといえます。ということは「自分の住む自治体にも・・・」。現在住んでいる自治体に対しても「ふるさと納税」制度を活用することができ、税金を単に納めるだけではなく、使途を指定して納められると考えます。“何のために使われているかよくわからない”といぶかしく納税していたお金を、“この地域の発展のために”と範囲を限定したり、“若者の教育のために”、さらには“この事業のために”、と使途を限定して寄付(資金を提供)することができる訳です。全国には、「住民税の1%を自分の望む団体の活動資金に回せる自治体(千葉県市川市)」や、「自分の望む事業に寄付できる自治体(北海道夕張市)など」も現れています。それぞれの自治体が知恵を出し合って政策を競い合うことで、各地でより住みよいまちづくりが進むとともに、市民に対して地方自治への関心を高め、民主主義(ないし自治)の活性化にもつながると考えられます。

<地方自治体の努力と成果>
*2-1:http://qbiz.jp/article/52453/1/
(西日本新聞 2014年12月23日) 平戸市、ふるさと納税10億円超 全国初、昨年度の26倍
 長崎県平戸市は22日、ふるさと納税制度での本年度の寄付申込額が約10億2420万円(約2万6400件)となり、10億円を突破したと発表した。昨年度の寄付額の約26倍。ふるさと納税に関する全国の情報を集めたポータルサイト「ふるさとチョイス」によると、10億円突破は全国の自治体で初めてという。市によると、昨年度の個人市民税と法人市民税は計約10億5370万円で、ふるさと納税でこれに匹敵する寄付が集まった。平戸市は寄付額に応じてポイントを寄付者に付与し、ウチワエビ、平戸牛などの特典をカタログから選べる制度を昨年8月に導入。ポイント付与率の引き上げや特典拡充、クレジットカード払い導入などで寄付者を増やした。黒田成彦市長は「市の知名度を上げ、特産品の販売増と生産者の所得向上につなげたい。観光客や移住の増加も期待している」と話した。寄付集めに熱心な自治体は、人口減少などで税収減に悩んでいる地域に多く、寄付額の上位10位に九州の5市町が入った。政府は来年度から減税対象となる寄付の上限を2倍に引き上げる方針。一方、豪華な返礼品による自治体の“特典合戦”を問題視する声もある。

*2-2:http://qbiz.jp/article/47263/1/
(西日本新聞 2014年10月7日) 玄海町、ふるさと納税生かし新酒づくり
 佐賀県玄海町が、全国から寄せられるふるさと納税制度の寄付金を用いて、地元の棚田で収穫した新米を使った新酒づくりに取り組んでいる。来春にも第1弾の5千本が完成する予定で、棚田米を生かした特産品として売り出すほか、ふるさと納税のお礼にも活用する。町財政企画課によると、町内には夕日の観賞スポットとして知られる「浜野浦の棚田」などが点在。海と山に挟まれて寒暖の差が大きく、米にも甘みが出やすいという。来年10月には全国棚田サミットが同町で開かれることもあり、食味のいい米を使った土産品の開発を検討していた。今回、唐津市の酒造会社・鳴滝酒造の協力を得て、純米酒とスパークリング清酒の2種類を製造。すでに秋口に収穫した新米約2700キロを確保し、19日にも米の磨き作業に入る。事業費には、ふるさと納税制度を通じて募った寄付金500万円を活用。新酒の完成後は、数量限定で納税のお返し品にもする。新酒は「音音〜ネオン〜」と命名する予定。酒を囲んで、笑い声などさまざまな音が響き合う場にとの願いを込めている。財政企画課の担当者は「町には生塩ウニやこのわたなど酒のあてはたくさんあるが、地酒はなかった。海産物と合わせてPRし、町の新たな土産品として定着すれば」と話している。

<平準化主義は工夫を妨げること>
*3-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20141027&ng=DGKKZO78882390V21C14A0ML0000 (日経新聞 2014.10.27) ふるさと納税返礼合戦 「居住地以外で寄付」に税控除 膨らむお得感、薄れる趣旨
 居住地以外の自治体に寄付すると住んでいる自治体で税金が控除される「ふるさと納税」が急拡大している。寄付者の自己負担を上回る額の返礼が増え、返礼品を見比べられるサイトが登場するなど、お得なイメージが広がった。他の自治体に入るはずの税金を原資にした返礼合戦や、ゆかりの土地に貢献する趣旨が薄れていることへの疑問も強まっている。「今のままだとお礼の品の予算が尽きてしまう」。新潟県三条市の国定勇人市長は15日の記者会見で、ふるさと納税による寄付が、返礼品が不足しそうなほど急増していることへの喜びを口にした。1万円以上の寄付者に、園芸用のハサミなど寄付額の6割に相当する特産品を送る仕組みを1日にスタート。2週間で申込件数は1021件、金額は1566万円となり、目標の月間300件を軽く超えた。返礼品の追加には補正予算で対応するという。
●震災前比で倍増
 ふるさと納税の利用者は、所得などに応じた上限額の範囲内なら何回でも寄付することができ、自己負担の2千円を除く全額が居住地の住民税などから控除される。例えば三条市に3万円を寄付すると2万8千円の税金が控除され、1万8千円相当のお礼が返ってくるため、寄付者は1万6千円のプラス効果を見込める。市からみると1万8千円の返礼で3万円が入る勘定だ。国定市長は「寄付を受ける自治体は損しない仕組みで(議会の理解が得やすく)予算を組みやすい」と話す。返礼品を地元業者から購入すれば、地域振興にもつなげられる。総務省によると、ふるさと納税による寄付額は2012年に約130億円。一時的に急増した東日本大震災の直前の10年の約67億円のほぼ倍だ。ふるさと納税支援の専門サイト「ふるさとチョイス」を12年9月から運営するトラストバンク(東京・渋谷)によると、同サイトに返礼品を掲載している自治体は現在、約980団体で、1年間で4割増えた。9月の閲覧ページ数は約1500万件で前年同月の17倍だ。13年12月からクレジットカードで寄付を受けられるサービスを導入したのも奏功したという。普及の背景にあるのは、寄付の上限額が高くなる高額所得者を中心にメリットの認知度が高まったことがある。独身で年収5千万円の寄付者の上限額は92万3千円。仮に上限額を寄付して半額分を返礼品として受け取れば、2千円の負担で40万円を超す特産品などが得られることになる。4月に出版された「100%得をするふるさと納税生活」の著者、金森重樹氏は「一定のルール下で『欲』に訴えたことでテコが働いた。利用者視点がないと継続的な制度にならない」と指摘する。返礼合戦の過熱を象徴する事例も生じている。京都府宮津市は1千万円以上の寄付者に750万円相当の土地を無償譲渡する特典を設け、9月中旬に告知を始めたが、総務省が待ったをかけた。土地の譲渡は税控除を受けられない税法上の「特別の利益」に当たる恐れがあるとの理由だ。井上正嗣市長は「勉強不足だった」と認め、9月26日に募集中止を発表した。同市は100万円以上の寄付なら来夏の花火大会で寄付者の名前を冠した50万円相当の花火を打ち上げるコースの募集も始めている。ふるさと納税には、特産品を競い地元をPRする効果がある一方で、自治体間の税金の奪い合いになりかねない面がある。あくまでも国から地方への税源移譲を訴える全国知事会の山田啓二会長(京都府知事)は過度な競争は「地方の自滅になる」と懸念。自民党の「ふるさと納税の拡充を目指す議員の会」も今後の留意点として「節度を期待する」と提言した。
●5億円弱「流出」
 ふるさと納税により、13年度に都道府県で最も大きい5億円近い税収が“流出”した東京都は「影響は限定的で静観している。ただ返礼の過熱が好ましいとは思っていない」(財務局)という。都は返礼品を設けていないが、総務省内には「東京が返礼品の導入に乗り出せば、さらに税収が都に集中することになる」との声もある。普及と節度のバランスをどうとるのか。お得感だけでなく、他の自治体や住民に納得感を生む努力も欠かせない。

*3-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20141027&ng=DGKKZO78882480V21C14A0ML0000 (日経新聞 2014.10.27) 北海道上士幌町の場合 半年で個人住民税の倍
 ふるさと納税の返礼品には正負両面の評価がつきまとう。総務省が昨秋に公表した自治体調査によると、特産品の送付に関し「特に問題はない」との回答は5割程度を占めたが、「問題はあるが、自治体の良識に任せるべき問題」も都道府県で約3割、市区町村で約2割にのぼった。返礼が寄付を呼ぶのは確かだ。北海道上士幌町は和牛や蜂蜜といった特産品とクレジットカード対応を武器に、ここ半年余りで個人住民税の2倍近い約4億4千万円を集めた。返礼品などの経費を除くと約35%が残る。学校の吹奏楽部の楽器など「通常予算での購入が難しかった資材に使いやすい」(企画財政課)。「話題性を優先し、すぐ品切れになる返礼品が少なくない」と指摘するのは、ふるさと納税の情報サイト「ふたくす」を運営するNPO支援全国地域活性化協議会(東京・千代田)の吉戸勝理事長。「お得感を宣伝する返礼はせず、地元の家族をパイプに、校区など身近なエリアへの寄付を上手に集める自治体もある」と強調する。総務省の研究会が制度の骨格を規定した07年の報告書は第一の意義に「納税者が自分の意思で、納税対象を選択できるという道を拓く」と明記した。それぞれの自治体が「どんな納税者に選ばれたいか」と自問してみるのも意味があるかもしれない。

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2014.12.3 「この道」はいつか来た道で、日本を昔に逆戻りさせる道でしかない - 経済・年金減額・消費税増税から (2014年12月4日、8日に追加あり)
     
 消費税増税と税収の関係  *1-1より     2014.11.28、29日経新聞より
        <消費税を導入してからワニの口は開き始めた>
(1)アベノミクスの“この道”は、昔の日本に逆戻りする道である
1)消費税増税と社会保障の切り捨ては、今後必要となる財やサービスの発展を阻む
 *1-1は、財務省の論理を記載しており、「ワニの口」とは国の税収と歳出の推移を示したもので、「歳出-歳入」の差が次第に広がって、大きく開いたワニの口の形をしているため、名付けられたものである。そして、「消費税増税」そのものが目的である財務省は財政再建を旗印として、社会保障費の確保を人質に、消費税再増税を訴えているわけだ。

 また、メディアも、軽減税率適用時に自らが軽減税率適用対象となる目的と財務省のオウム返ししかできない質の低さにより、*1-1のように、「再増税先送りは債券、株、円のトリプル安を招く恐れがあり、将来に大きな禍根を残しかねない」とか、*1-2のように、「消費再増税、信頼維持に重要」とか、*1-6のように、「不利益の分配も問う時」などという記事を掲載している。

 しかし、省毎に縦割りの中で、財務省だけで考えれば財政再建には増税しか思いつかないだろうが、私が、このブログの「年金・社会保障」「資源・エネルギー」「まちづくり」などのカテゴリーに何度も記載したように、①エネルギーを国産の再生可能エネルギーに変換する ②排他的経済水域内で天然ガスなどの資源を採掘する ③日本国民(高齢者が多い)に本当のニーズがある財やサービスを開発し生産して、間もなく同じものが必要となるアジアや世界に輸出する など、本物の経済成長を促して財政健全化に資する正道は、他にいくらでもあるのである。

 それでも、高齢者に対する年金や社会保障をカットしたがるのは、③の日本国民に本当のニーズがある財やサービスを開発・生産することを阻み、ヒューマニズムに反すると同時に、今後、世界で必要となる産業を育成することをも妨げている。

2)アベノミクス政策では日本経済は発展せず、実質賃金や実質年金収入は減る以外にない
 安部首相は、企業に何度も賃上げを頼んでおられるが、*1-3のように、1人当たりの名目給与総額が0.5%増加しても実質賃金は減少し続けており、これは当然の結果だ。何故なら、企業は、その生産性以上の賃金を支払うことはできず、ここで言う生産性とは会社全体、もしくは国全体の平均であるため、不要な仕事をして給料をもらう人が多ければ多いほど、全体の生産性は低くなるからである。

 そのため、景気対策として不要な工事を行えば、全体の生産性は低くなる上、辺野古の埋め立てのように、その工事の結果として環境にマイナスの影響が出て、さらに経済の足を引っ張ることもある。

 なお、*1-3に、「①物価の影響を加味した実質賃金は2.8%減と16カ月連続で減少」「②賃金の伸びは物価上昇に追い付かない」などと書かれているが、①については、名目で語ることはそもそも意味がなく実質のみが意味のある数字だ。また、②については、まさに日本を昔の低賃金の状態に戻して輸出を増やすべくインフレ政策を行っているので実質賃金が下がるのは当然のことだが、歴史の進歩と新興国の台頭で既に日本が輸出を増やすことは不可能になっているため、目的は達せられない。そのため、問題点の突き方が甘いのである。

 しかし、*1-4では、「個人消費の低迷が続いているものの、企業の投資意欲は高い」としている。これは、マイナス金利による設備投資と公共投資による投資需要が主な理由だろうが、自動車と建築向け素材しか眼中にないようでは、お先真っ暗だ。

 このような中、*1-5で、公明党の山口代表が「アベノミクスの推進に加え、家計などを支援するための緊急経済対策の速やかな実施を訴えていく」という考えを示されたそうだが、「きめ細かな配慮」と称する意図的な需要操作を行うよりも、減税や年金削減の中止、必要な社会保障の充実を行った方が、21世紀に世界で必要とされる需要に合った財やサービスを開発し、生産・販売するのに役立つ。また、消費税増税があると必ず緊急経済対策の実施と称する公共投資などの歳出が増加するのが、「ワニの口」が開く理由だったことを決して忘れてはならない。

3)「不利益の分配が必要」というのは、本当の責任者の責任逃れと乏しい発想力の結果である
   
1950年と2012年  時代による人口          *2-1より    2014.11.28東京新聞
の人口ピラミッド    ピラミッドの変化
比較(世代毎)

 *1-6には、「①いちばん恩恵をこうむっているのが高齢者で、投票する頭数の多さからその世代の利益が優先されるシルバー・デモクラシーに日本政治は流されている」「②若い人が割を食う世の中はやはり問題だ」「③所得や地域だけでなく世代の格差もならすことを考えなければならない」「④これから、より迫られるのは『不利益を分配する政治』だ」などとしている。

 しかし、①については、人口の中で割合が増える高齢世代のニーズにあう財・サービスを生産するのが次の産業発展に繋がることを忘れてはならないし、高齢者を粗末にすれば若い世代が大切にされるということも絶対になく、これは単純な対立の構図を作って見せる誤った考え方である。さらに、投票率が高いのはシニア世代であり、民主主義における意志決定は投票に依るため、棄権する人の意見は反映されないことも、若い世代は認識しておくべきだ。

 また、②については、年金積立金の放漫な管理の責任を、高齢者と若者の世代間対立に落とし込み、本当の責任者を見えなくして高齢者いじめをしているが、一昔前と違ってこれからのシルバー世代は、年金保険の支払いをしてきており、「若い人が割を食う」という表現は当たらない。また、これからのシルバー世代は必要なものに対する消費性向が高いため、「消費は若者がするものだ」という先入観も古い。

 さらに、③については、格差をなくすためには一番下に合わせるしかないため、格差の解消を唱えれば努力した人が報われる社会にはならない。例えば、皆一緒にゴールする100m走がオリンピックにあったら、努力して記録を伸ばし、そこに参加する人はいなくなるのと同じである。そのため、最低線のセーフティー・ネットは整えた上で、公正な(ここが重要)競争の結果できた格差はあるのが当然とすべきだ。

 なお、④のように、「不利益の分配が必要」という声は多いが、これは責任なき人にも責任を負わせることによって真の責任者が責任を逃れる手法である上、実際には(1)の1)に記載したとおり、解決する手段は他にいくらでもあるのに皆が損することを薦めている変な理屈である。薬は、病気の原因に作用するから効くのであって、苦いから効くのではない。

(2)日本が本当に進むべき道は、どういう道か
1)国民の豊かさや幸福を求めることとその指標について
 国民の豊かさは、名目ではなく実質で測らなければわからないため、今後は実質のみで議論すべきだ。また、豊かさは、一人当たりの豊かさによって感じるものであり、国全体の実質GDPが多くても、国民一人当たりの実質GDPが小さければ、国民は貧しいのである。

 ただし、国民一人当たりの実質GDPが同じでも、例えば、①不自由なく暮らせる ②社会保障がしっかりしていて安心である ③土地や家が広い ④食べ物が安全で美味しい ⑤環境がよい ⑥自由である など、国民の幸福を増す他の要素はあるだろう。

2)アベノミクスの「三本の矢」では、国民は貧しくなるだけだ
 アベノミクスの三本の矢とは、①大規模な金融緩和 ②拡張的な財政政策 ③民間投資を呼び起こす成長戦略 のことだ。

 このうち、①については、日銀がお金を印刷して発行すればよいためすぐできたのだが、これにより円の価値が下がって尺度が変わったため、円の価値を反映する為替レートは円安になり、企業価値を反映する株価は上昇し、財・サービスの価値を反映する物価は上がった。従って、円で生活している日本国民の資産は減り、給料も目減りした。「デフレを脱却してインフレになった」とは、こういうことである。

 また、②の拡張的な財政政策は、東日本大震災から復興しなければならないため、迅速に必要な工事をすれば十分だった筈である。しかし、その上さらに財政出動したため、建設関係のモノ不足と作業員不足で、同じ歳出でもできあがるものが減り、工期も延びた。また、政府が景気対策として行う財政出動は、出動することが目的であるため、生産性を高めず、環境を壊した上、無駄遣いという事例が多い。

 次に、③の民間投資については、民間は、(正常な経営が行われていれば)需要のある生産を行うためにしか投資しないため、これを誘うためには、本当に必要な需要が増える必要がある。そして、この典型が、人口が増えたのにまだ整っていない高齢者関係の需要、家事の外部化を行うための需要、新エネルギー関係の需要なのだが、年金や社会保障を削減し、原発再稼働を薦めてこの需要を抑えたため、本当に必要な需要が増えず、民間投資も勢いづかないという結果を招いている。

(3)年金減額、労働条件の悪化、人件費の削減が経済にもたらす影響
1)年金減額の影響について
 *2-1、*2-2に書かれているように、年金の給付水準は、2回目の減額が終わった現段階で、削減前に比べて国民年金(基礎年金)で月額1,041円、厚生年金(標準世帯)で月額4,015円カットされ、その上、もう一回減額があり、これ以外にも給付抑制が進む予定だそうだ。また、物価上昇時には年金給付の伸びを物価上昇より低く抑える「自動抑制」が来年度にも動きだすとのことである。

 これは、「切迫する年金財政を支えるため」として、民主党の野田政権時代に自、公、民の三党でまとめた「税と社会保障の一体改革」で決めたそうだが、このシナリオを描いたのは財務省・厚労省だ。そして、「税と社会保障の一体改革」が行われれば、もともと少ない年金しかもらっていない高齢者は生活できなくなる。また、「年金の財源は現役世代が負担し続けてきた」とも書かれているが、これから高齢者になる人は現役時代に年金保険料をしっかり支払った人が多く、年金が積立方式から賦課課税方式に変更されたのは1985年であり、賦課課税方式ではこのような結果になるのは、人口ピラミッドを見て前からわかっていなければならない。つまり、この積立金不足は、厚労省はじめ政府の年金制度に関する失政のつけであるのに、その責任を高齢者の二重負担として、これからの高齢者に強いるものなのである。

 さらに、公的年金積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、今年10月、株式の運用比率を大幅に引き上げる方針を決め、「成長への投資に貢献する」としたそうだが、これは、リスクの高い株式に投資するということであるため、将来の年金支給に充てるべき積立金が株価下落のリスクに晒される可能性は高く、危険な行為である。

 そして、マクロ経済スライドによる年金支給額の抑制により、人口の大きな割合を占める年金生活者の実質所得が減らされ、需要があっても購入できない状況になれば、本物の需要は伸びず、景気の足を引っ張り、これを政府の生産性の低い公共投資で補えば、国全体の生産性はさらに低くなるとともに、新たな産業の創造はできない。

 *2-3のように、「実質国内総生産(GDP)のうち、公共投資による押し上げ分は5割弱を占め、建設労働者が不足し、民間工事の一部に人手が回らなくなった」そうだが、民間需要や民間投資こそが生産性を高めるために必要な投資であるため、国が国民の所得をこっそり移転して生産性の低い公共投資に無駄遣いすることは国益にならない。なお、公的年金の支給開始年齢の引き上げには、私も賛成だが、それは定年の延長と同時に行わなければ、失業者や暮らせなくなる高齢者が増えるだけである。

2)非正規、派遣という働かせ方による労働条件の悪化と人件費の削減について
 非正規、派遣という働き方では、労働者として労働法で保護されることができない。そのため、この働かせ方は、一時的なものとして雇用の増加に含めるべきではないだろう。

 また、非正規労働者・派遣労働者は、生涯所得が低くて不安定な雇用形態である上、社会保険料の支払いを行っていない人が多いため、このような労働者が増加することは、本人にとっても、他の国民にとっても困ることなのである。

(4)税制に組み込まれた所得の再配分
1)所得税に組み込まれた所得の再配分効果
 所得税は、累進課税であるため所得の大きい人ほど高い税率になり、所得の再配分効果が税制の中に組み込まれている。また、法人税も所得税も景気がよくなると増え、景気が悪くなると減るため、景気調整効果(ビルトインスタビライザー)を内蔵している優れた税制である。

 しかし、消費税は誰に対しても同様に税を課すため、所得の低い人ほど税率が高くなる。このため、公明党は軽減税率の適用を公約にしているが、これは何を軽減するかに関して意図が入りやすく、軽減税率を適用すれば、それだけ消費税増税による税収が落ちる。つまり、国税としての消費税は、あまりお勧めではない税だと、私は考えている。

 そのため、戦後、シャウプ勧告を出して日本の税制の基礎を作ったアメリカでは、付加価値税(消費税に似たもの)は国税ではなく州税となっており、各州で自由に税率を決めることができる。私も、消費税は全額地方税として県や市町村で自由に税率を決められるようにするのがよいと考える。そして、税収を移転した分は地方交付税を減らし、それぞれの地域で努力に見合った税収があるようにすべきである。

2)衆院選で作るべき構図は、一強の転換だ
 *3に、東京新聞が、「一強継続か転換か」と題した記事を書いているが、今回の一強の状態で、自民党は、国民の「知る権利」を侵す特定秘密保護法、武器輸出三原則の事実上の撤廃、原発の「ベースロード電源」としての位置付けなどを、まともな国会論戦もなく国民を馬鹿にした目線で、次々と決めていった。そのため、私は、野党との力のバランスが重要であると考えている。

 また、「この道」より賢い道については、私は、このブログの2012年12月18日をはじめ「年金・社会保障」のカテゴリーで、既に何度も記載している。

<財務省・厚労省の論理をそのまま語る政治家やメディアは、その役割を果たしていないこと>
*1-1:http://qbiz.jp/article/50860/1/
(西日本新聞 2014年11月29日) 閉じない「ワニの口」 歳出削減と税収増、見通せず
 中央官庁が集中する東京・霞が関で、「ワニの口」と呼ばれるグラフがある。国の税収と歳出の推移を示したもので、両者の距離が広がる様子が、大きく開くワニの口のように見える、というわけだ。財政再建を使命とする財務省の幹部らはこのグラフを手に夏以降、政府、与党幹部を回って来年10月の消費税再増税の必要性を訴えてきた。一方で4月の消費税増税で景気は失速し、夏場の天候不順や円安による物価高で消費は低空飛行のまま。「再増税して景気がさらに悪化すれば元も子もない」。安倍晋三首相周辺からは公然と再増税延期論も出てきた。首相が再増税の是非を有識者に聞く「景気点検会合」が始まった翌日の11月5日。危機感を強めた財務省は麻生太郎財務相を先頭に事務次官、主計局長、主税局長らが顔をそろえて首相に直接再増税を迫った。だが時既に遅し。延期への流れは固まっていた。
    □    □
 消費税増税の目的は財政健全化と、増え続ける社会保障費の確保だった。少子高齢化により社会保障費が毎年約1兆円伸びているのに対し、増税延期で2015年度は約1兆5千億円の減収が見込まれる。再増税を果たせなかった財務省は早速“意趣返し”に出た。麻生財務相は25日、消費税10%への引き上げ時に予定していた低年金者への月5千円の上乗せ給付について、実施を先送りする意向を示した。「法律で10%に上げた時と書いてあるので、その時にやらせていただく」とにべもない。塩崎恭久厚生労働相も「当然優先順位はつけなきゃいけない」と表明。首相の指示を受け15年4月からの子ども・子育て支援新制度を予定通り行うことを最優先にする構えだが、実施延期や規模縮小になる事業が出るのは必至だ。
    □    □
 財政健全化について「国内総生産(GDP)に対する基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の赤字の割合を15年度に半減、20年度に黒字化する」とする政府目標に影響が及ぶのも避けられない。首相は再増税延期の一方で「財政健全化目標も堅持する」と明言したが、内閣府の最新の試算では20年度のPBは11兆円の赤字だ。これは15年10月に消費税を上げ、税収も約69兆円と、過去最高だった約60兆円(1990年度)を大きく上回ることが前提。再増税見送りで目標達成はさらに困難になった。大和総研の熊谷亮丸チーフエコノミストは「再増税先送りは将来に大きな禍根を残しかねない。財政規律の維持に失敗すると債券、株、円のトリプル安を招く恐れがある」と警告する。再増税を含め税収増を図るとともに、歳出削減に抜本的に切り込む−。「ワニの口」を閉じる手段は限られるが、その先行きは見通せない。

*1-2:http://qbiz.jp/article/48400/1/
(西日本新聞 2014年10月24日) 消費再増税、信頼維持に重要 閣議後に財務相
 麻生太郎財務相は24日の閣議後記者会見で、来年10月に予定される消費税率10%への引き上げに関し「国際社会における日本の信用だ。確実に実行することが日本への信頼を保証する意味でも非常に大きい」との認識を示した。同時に、再増税に備えた経済対策について「12月の予算編成時期までにきちんと対応しないといけない」との考えをあらためて強調した。自民党の山本幸三元経済産業副大臣ら再増税に慎重な議員が、先送りを主張していることに関しては「自由な意見を言えて、最終的に決められた通りにやっていくのが自民党の良き伝統だ」と語った。

*1-3:http://qbiz.jp/article/51011/1/
(西日本新聞 2014年12月2日) 1人当たり給与総額、0・5%増 10月、実質賃金は減少続く
 厚生労働省が2日発表した10月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上の事業所)によると、1人当たりの全ての給与を合わせた現金給与総額は前年同月比0・5%増の26万7935円と、8カ月連続で増加した。春闘の賃上げや堅調な雇用情勢を反映した。ただ、物価の影響を加味した実質賃金は2・8%減と16カ月連続で減少。消費税増税や円安の影響で、依然として物価上昇に賃金の伸びが追い付いていない。基本給などの所定内給与は0・4%増の24万2370円。フルタイムで働く一般労働者が0・5%増、パートタイム労働者は0・3%減だった。残業代などの所定外給与は0・4%増の1万9673円。残業時間が伸び悩んだことから、プラス幅は前月の1・9%増から縮小した。ボーナスなどの特別給与は6・0%増の5892円だった。

*1-4:http://qbiz.jp/article/50923/1/
(西日本新聞 2014年12月1日) 設備投資伸び率拡大、5・5%増 7〜9月GDP上方修正か
 財務省が1日発表した7〜9月期の法人企業統計は、金融・保険業を除く全産業の設備投資が前年同期比5・5%増の9兆4383億円と6四半期連続で増えた。伸び率は4〜6月期の3・0%増から拡大した。個人消費の低迷が続いているものの、企業の投資意欲は底堅いことを示した。4〜6月期と比べた季節調整済みの設備投資(ソフトウエアを除く)も3・1%増だった。内閣府が8日に発表する7〜9月期の実質国内総生産(GDP)改定値は今回の結果が反映され、速報値の前期比年率1・6%減から上方修正されるとの見方が出ている。前年同期と比べた設備投資の内訳は、製造業が10・8%の大幅増で2四半期ぶりのプラス。非製造業も2・7%増と6四半期連続で増えた。全産業では売上高、経常利益とも伸ばし、財務省は「緩やかな回復基調が続いている経済全体の傾向を反映している」と分析した。設備投資は、スマートフォン向け電子部品や自動車関連の生産能力の増強が全体を押し上げた。非製造業では、商業施設やオフィスビルの開発投資がけん引した。売上高は全産業で2・9%増と5四半期連続で増えた。消費税増税に伴う駆け込み需要の反動減から持ち直し、伸び率は4〜6月期の1・1%増を上回った。製造業が0・9%増、非製造業は3・8%増といずれも増えた。天候不順の影響で飲料など食料品が減収となった一方、自動車や建築向け鋼材需要は好調だった。経常利益も7・6%増で、製造業が19・2%増と特に大きく伸ばした。

*1-5:http://www3.nhk.or.jp/news/html/20141130/k10013606251000.html
(NHK 2014年11月30日) 公明 山口代表 家計支援の緊急経済対策を
 公明党の山口代表は東京・北区で街頭演説し、衆議院選挙では安倍政権の経済政策・アベノミクスの推進に加え、家計などを支援するための緊急経済対策の速やかな実施を訴えていく考えを示しました。この中で公明党の山口代表は安倍政権の経済政策・アベノミクスについて、「働く人の数は増え賃金は上がってきているが、実感できていないのも実情だ。消費税率を10%に引き上げるまでの間に賃金アップを行い、物価に追いつき追い越せるようにしていくのが我々の責任だ」と述べ、アベノミクスを推進していく考えを示しました。そのうえで山口氏は、GDP=国内総生産の伸び率が2期連続でマイナスになったことについて、「今の経済状況を考えると、ことし4月に消費税率が上がり、物価高の直撃を受けている人たちも多い。家計や中小企業を助け、大都市から地方に経済の流れを及ぼしていく対策もあわせて実行しなければならない」と述べ、衆議院選挙では家計などを支援するための緊急経済対策の速やかな実施を訴えていく考えを示しました。

*1-6:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20141203&ng=DGKKASDE01H1P_R01C14A2MM8000 (日経新聞 2014.12.3)「不利益の分配」も問う時だ 論説委員長 芹川洋一
 これまでの2年間を問い、これからの4年間を託すこんどの選挙。いちばんの争点はアベノミクスだという。有権者のふところを温かくするための経済の手法をめぐる政治のぶつかり合いである。もちろん大切なことだが、それだけでなく政治は口に苦い話にも向き合う必要があるのではないだろうか。小選挙区選挙は、政権・首相・政策の3つを選択するものだが、残念ながらこんどは政権も首相も選べる状況にない。野党のふがいなさを嘆いてもしかたがない。安倍晋三首相みずからが設定したように、アベノミクスを中心とした政策の選択にならざるを得ない。政治が個々人の豊かさを実現するための進め方をめぐって論じ合うことは、けっこうなことだ。世の中はこうあるべきだといった物の考え方で対立し接点が見いだせないのより、ずっとましだ。経済を真っ正面にかかげ政権の命運をかけるのは池田勇人内閣以来である。高度成長の当時、日々ふところが豊かになっていく実感があった。所得倍増はなんなく達成した。遠い昔の話である。デフレ脱却をめざすアベノミクスのひとつの特徴は、期待という人の心理に働きかける経済政策である。今すぐではなく、時間軸をつかいながら、ちょっと先の豊かさに期待を持たせる時間差攻撃がミソだ。「期待の政治」である。ひと昔前の自民党は右肩上がりの経済を前提に、利益の分配がお家芸だった。公共事業を中心に全国津々浦々までみんな等しく豊かになる「利益の政治」だった。しかしもはやその手法は使えない。すぐさま利益を与えるのも無理だ。期待の政治はそうした中から出てきた変化球である。それが決して悪いわけではない。「豊かで自由で安全な社会」をめざしてきたのが戦後日本である。社会の安定が個人のふところによるのは間違いない。期待の政治がもたらしたのは資産を持つ人だけのふところの温かさなのか、資産がなくともこの先まだ可能性はあるのか、これまでのやり方ではうまくいかないのか……アベノミクスをめぐる議論は大いにたたかわせる必要がある。ただ心配なのは、自分たちのふところの豊かさを追い求めるのはいいが、子や孫のふところまでちゃんと考えているかどうかという点だ。消費再増税の延期について、中止を主張する政党は別にして、選挙の争点にはなっていない。デフレを脱却しまず経済を立て直さないことには前に進めないというのはその通りだ。経済を大きくするのが何より大事だ。成長戦略が促されるゆえんだ。しかしどう考えても、膨大な借金を抱えたままで、この国が先々までやっていけるわけがない。少子高齢化はいやおうなく進む。地方はどんどん疲弊していく。入るを量りて出ずるを制すしかない。とりわけ毎年増えていく社会保障費の抑制はやむを得ない。いちばん恩恵をこうむっているのが高齢者で、投票する頭数の多さからその世代の利益が優先されるシルバー・デモクラシーに日本政治は流されていないかどうか。若い人が割を食う世の中はやはり問題だ。所得や地域だけでなく世代の格差もならすことを考えなければなるまい。これから、より迫られるのは「不利益の政治」のはずだ。それを知らん顔して論戦を交わしていていいものかどうか。過去の業績と将来への期待をはかりにかけながらの選択になるとしても、不利益も視野に入れたものでありたい。そうしなければこんどの選挙は次につながらない。

<年金減額や高齢者切り捨てでは、経済にも良い結果が出ないこと>
*2-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2014113002000124.html
(東京新聞 2014年11月30日) <安倍政治2年 くらしこう変わった> (3)国民年金
 年金の給付水準は、本来より高い「特例水準」が二〇〇〇年度から続き、直近で2・5%高くなっていた。これの解消に向けて、昨年十月、今年四月、来年四月と三回にわたって段階的な引き下げが行われている。物価の上昇分は勘案されているが、それでも二回目の減額が終わった現段階で、削減前に比べて国民年金(基礎年金)は月額千百四十一円減少。厚生年金(標準世帯)は同四千十五円のカットになった。もう一回減額がある。これ以外にも、給付抑制が進む予定だ。年金給付は物価に連動して上下するが、物価上昇時に給付の伸びを低く抑える「自動抑制」が、早ければ来年度にも動きだす。物価下落時には、それ以上に給付を減らす仕組みも検討されている。特例水準の解消は、切迫する年金財政を支えるため、野田政権時代の一二年六月に自民、公明、民主三党でまとめた「社会保障と税の一体改革」で決まったこと。自動抑制も〇四年の年金制度改革に基づく措置で、いずれも安倍政権が決めたわけではない。そもそも特例水準は時の政権が受給者の反発を恐れて据え置いてきたもので、その財源は現役世代が負担し続けてきた。ただ、アベノミクスに伴う円安で物価上昇が続く中だけに、給付抑制策が既定方針通り進んだことは、年金生活者にとって大きな負担感をもたらす結果になった。低所得者に対しては上乗せ給付制度の新設が予定されているが、消費税率10%への再増税が財源とされている。再増税が先送りされ、現段階で実現の見通しは立っていない。一方、年金をめぐっては、公的年金積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が今年十月、株式の運用比率を大幅に引き上げる方針を決めた。「成長への投資に貢献する」という安倍晋三首相の意向に沿い、約百三十兆円ある積立金を経済成長に活用する動きだが、将来の年金支給に充てる積立金が、株価下落のリスクにさらされる懸念もある。さらに、第一次安倍政権時の“宿題”もある。年金記録問題だ。〇七年の参院選で首相は「最後の一人まで年金を支払う」と約束した。しかし、「宙に浮いた年金記録」のうち、四割にあたる約二千百十二万件は持ち主が不明のまま。厚生労働省と日本年金機構は事実上、照合作業を打ち切っている。 

*2-2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11480752.html
(朝日新聞 2014年11月29日) 年金、初の実質減額へ 来年度1.1%程度 物価上昇で発動
 公的年金の支給額の伸びを物価上昇よりも低く抑える仕組み(マクロ経済スライド)が、来年度に初めて実施されることが確実な情勢となった。2014年の通年での物価上昇が決定的となったためだ。これにより年金の支給水準は来年度、物価に比べて実質的に目減りすることになる。マクロ経済スライドは、少子高齢化で厳しくなる年金財政を維持するため04年に導入された。来年度の抑制額は1・1%ほどが見込まれている。国民年金を満額(月6万4400円)もらっている人で言うと、物価上昇に対応した本来の増額分から、月に700円ほど目減りする。年金額は本来、前年の物価や賃金の上昇に合わせ、翌年度から増額される。マクロ経済スライドは、例えば物価が2%上昇しても年金は2%までは上げず、支給額を実質的に減額していく。条件がそろえば自動的に発動されると法律で決まっている。抑制幅は、保険料を払う働く世代の減少度合いなどに応じて決まる。ただし物価下落時は発動されないルールがある。制度導入後デフレが続いたことなどから、まだ一度も発動されていない。しかし今年は経済状況が変わった。総務省が28日に公表した10月の消費者物価指数が前年同月比で2・9%上昇。1~10月の消費者物価指数は前年比約2・6%上がった。また、かつて物価下落時に年金額を据え置いたことで高止まりとなっている支給水準(特例水準)を解消するため、来年4月に0・5%分の引き下げが決まっている。このため来年度は、マクロ経済スライドによる抑制の約1・1%と特例水準解消分をあわせ、本来の物価上昇による増額分より、支給額は計約1・6%抑制される見通し。国民年金の満額受給者で言うと、合計の抑制額は月1千円ほどとなる。ただ物価の伸びが大きいため、名目の年金額自体は増える見込みだ。来年度の正式な年金額は、来年1月末に分かる14年の年間物価上昇率を反映させ、厚生労働省が公表する。

*2-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20141129&ng=DGKKZO80291350Z21C14A1MM8000 (日経新聞 2014.11.29) 
社会保障改革 目先の痛み、迫れず 歳出削減に切り込みを
 「短期的には柔軟な対応をする。中長期にはしっかりとした財政再建の目標は崩さない」。甘利明経済財政・再生相はアベノミクス第2の矢である「機動的な財政政策」の意味をこう語っていた。2012年12月の政権発足直後、安倍晋三首相は12年度補正予算で10兆円超、13年度補正で5兆円超の対策をそれぞれ打った。「コンクリートから人へ」を掲げた民主党政権から一転、公共事業の積み増しに転じた。景気の下支え効果はあった。14年7~9月期までに増えた実質国内総生産(GDP)のうち、公共投資による押し上げ分は5割弱を占める。一方、建設労働者が不足するなかで、公共事業を増やした結果、民間工事の一部に人手が回らなくなる副作用を生んだ。家計向け支援が不十分だったことも、4月の増税後の消費回復が鈍い一因となった。政権発足からの2年足らずで、国の借金は41兆円あまり増え、総額は1000兆円を超えた。公共事業、防衛、文教など主な歳出項目は軒並み増えた。最大の問題は、膨張する社会保障費の伸びを十分に抑えきれずにいることだ。医療では70~74歳の窓口負担を1割から2割にあげ、介護保険でも収入が多い高齢者の自己負担は2割にあげた。だが「竹やり戦術では不十分」と鈴木亘学習院大教授は指摘する。公的年金の支給開始年齢の引き上げ、診療報酬の大胆な引き下げ、抜本的な少子化対策など「本当に重要なことには手をつけていない」。自民党も民主党も、国と地方の基礎的財政収支を20年度に黒字にする財政健全化目標を掲げてはいる。だが、肝心の実現手段は公約から抜け落ちている。社会保障制度を持続可能にするための道筋も見えない。20年度時点で最大13兆円の赤字が残る――。日本総合研究所によれば、17年4月に消費税率を10%に引き上げたうえで、公的年金の支給開始年齢を70歳に遅らせ、後発医薬品の普及で医療費の伸びを名目成長率並みに抑えたとしても、財政健全化目標は達成できない。「歳出削減や消費税のさらなる増税で皆が痛みを分かちあう必要があるのに、政治が国民に伝えようとしていない」と同総研の岡田哲郎主席研究員は話す。高齢者向け給付が手厚く、現役世代の負担が重いという不均衡は、「シルバー民主主義」の産物だろう。有権者が高齢化するほど高齢者に給付減や負担増といった痛みを迫る政策を出すのを政治が尻込みする。そのツケを払うのは若者や将来世代だ。小黒一正法政大准教授は「問われるべきは、消費増税の是非ではなく、『いまの痛み』か『近い将来のより大きな痛み』かだ」という。欧州のスウェーデンでは今年「もう減税はしない」といって社会民主労働党が政権を奪還した。米国の中間選挙では歳出削減による「小さな政府」を訴える共和党が上下両院を制した。翻って日本。リベラルな勢力が社会保障充実のための増税を、保守勢力が歳出削減をそれぞれ十分に唱えずにいる。有権者にとって、各党が「何を語っていないか」を見抜く力もカギになる。

<衆院選について>
*3:http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2014120202000278.html
(東京新聞 2014年12月2日) 【政治】<衆院選>「一強」継続か転換か
 <解説> 国会は、憲法四一条で「国権の最高機関」と位置付けられている。その最高機関はこのところ「一強多弱」といわれる。自民党は二年前の衆院選で過半数を大きく超える二百九十四議席を獲得し、政権復帰。翌年七月の参院選でも勝ち「一強」を作り上げた。それ以降、安倍政権は国民の「知る権利」を侵す恐れのある特定秘密保護法を成立させ、他国への輸出を禁じた武器輸出三原則を事実上撤廃する大幅な見直し、原発を「ベースロード電源」と位置付ける新エネルギー基本計画を決定。他国を武力で守る道を開く集団的自衛権行使を容認する憲法解釈変更を閣議決定で行った。いずれも世論が割れる問題だが、十分な国会論議があったとは言えない中で次々に決めていった。経済では、安倍晋三首相自身が「アベノミクス」と呼ぶ政策を進めた。首相は衆院解散にあたりアベノミクスを「この道しかない。この道を前に進む」と断言した。民主党政権の時、政策決定のたびに与党内で混乱、分裂を繰り返し「決められない政治」と批判された。逆に今は矢継ぎ早に行われる重要な政策決定に対し、民意が十分反映されていないとの指摘がある。安倍政治の二年間が問われる今回の衆院選は一強が続くのか、一強が崩れて転換するのかの分岐点でもある。野党は「この道」とは違う「もう一つの道」を有権者に示すことができるのか。その意味で、今回の衆院選は野党も問われている。


PS(2014.12.4追加):私は、「“格差”とは、公正平等な競争条件の下でできた差」と理解しているが、*4では、低年金生活者や非正規雇用などを格差と呼んでいる。年金の水準を下げ、医療や介護の自己負担も重くするというのは、私は、格差と言うよりも憲法25条(すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない)違反に当たるケースが多い。また、常時の非正規雇用や派遣労働は、労働法の脱法行為であるため、実質的な労働法違反として扱うべきだろう。

*4:http://mainichi.jp/opinion/news/20141204k0000m070112000c.html
(毎日新聞社説 2014年12月4日) 衆院選 ここを問う 日本の貧困
◇格差放置は安定損なう
 安倍政権の経済政策で株価は上がり輸出企業が潤う一方で、貧困が高齢者ばかりか若年層にも深く広がっている。生活保護を削減し困窮者に自助努力を求める政策がもたらした負の側面だ。「アベノミクスの陰」は選挙戦の重要な争点である。現在の日本は先進国で貧富差が最も大きい国の一つだ。全国民の年収を順に並べた中央値の半分に満たない人の割合を示す「相対的貧困率」は16.1%(2013年国民生活基礎調査)で過去最悪を更新、生活保護受給者も200万人以上に及ぶ。ところが、2年前に安倍政権が始まった時、すぐに着手したのが生活保護の削減だった。自助や家族による助け合いを重視するのが自民党の伝統だが、安倍政権は給付水準の段階的引き下げに加え、親族の扶養義務の強化など要件も厳しくした。家族に頼ることができない独居の高齢者は10年時点で約500万人だったが、30年には約730万人になる。無年金・低年金だけが問題ではない。満額受給者の年金の水準も下がり、一方で医療や介護の自己負担は重くなる。低年金者への給付も、消費増税の延期とともにあっさりと先送りされた。貧困の高齢者は加速度的に増えるだろう。さらに最近は20〜30代の生活保護受給者が急増している。低賃金や劣悪な雇用条件で心身の健康を害する人も少なくない。「アベノミクスで雇用は伸び、賃金は増えた」と首相は力説するが、増えたのは非正規雇用ばかりで、正社員は減っている。中小企業や非正規雇用の賃金はあまり改善されていない。特に女性は深刻で、年収200万円以下の人が4割にも上る。パートや派遣の仕事を掛け持ちし、長時間働きながら低収入の人は多い。会社内で職業訓練を受ける機会がなく、キャリア形成ができないことも貧困の要因となっている。社会保障の制度自体にも貧困や格差を悪化させている面がある。非正規雇用の人が加入する国民健康保険(国保)や国民年金には保険料に事業主負担がなく、個人の負担は重い。国保の保険料には世帯の人数による応益負担部分があり、子どもの数が多い貧困家庭ほど負担が重い原因となっているのだ。貧困対策や格差の是正はただ困っている人を助けるだけではなく、社会を安定させ、国民相互の信頼を高めることにつながる。消費を喚起し経済全体の底上げにも寄与するはずだ。自助か現金給付によるバラマキかという単純な比較ではなく、各党の公約をじっくり見極めたい。


PS(2014.12.8 追加):自民党は「責任与党だから」というのを消費税増税強行の理由にしているが、実際には消費税増税を行っても税収は増えず、景気対策と称する歳出が増えて、上のグラフのワニの口は開くばかりだった。つまり、「責任与党だから消費税を増税する」というフレーズは、「責任与党は、行政官僚が作った消費税増税政策を進める」という意味で、これは国民主権の下での議会政治を自ら否定して官主主義を推進しており、*5で野党が言っているとおり、国民に対しては無責任である。

*5:http://qbiz.jp/article/51357/1/
(西日本新聞 2014年12月8日) 「強い決意」「無責任」 与野党 景気条項廃止で応酬
 与野党の幹事長らは7日のNHK番組で、消費税再増税の2017年4月への延期に伴い、景気の動向次第で増税を停止できる「景気条項」を増税法から削除するとした安倍晋三首相の方針をめぐり議論した。与党は増税への強い決意だと評価する一方、野党は無責任だと批判した。自民党の谷垣禎一幹事長は「必ず(増税を)するという強い意志の表れだ」と強調。「財政再建と景気回復の二兎(にと)を追う」と述べた。民主党の枝野幸男幹事長は「経済は生き物だと首相は言ってきた。3年先、経済がどうなっているか。決め打ちするのは無責任だ」と反発した。維新の党の江田憲司共同代表は「景気が悪ければ(延期を決めた)今回と同じ判断をすべきだ」と柔軟な対応を訴えた。公明党の井上義久幹事長は「財政健全化の目標がある」とした上で、再増税凍結を打ち出した民主党に関し「はるかに無責任だ」と反論した。共産党の山下芳生書記局長は「国民の暮らしがどうあれ、17年に10%に上げるというなら大変な『増税宣言』だ。暮らしが壊れ、経済が壊れる」と非難した。これに先立ちフジテレビ番組で谷垣氏は、再増税延期で財源不足が懸念される子育て支援を充実させる方向性は変わらないとの考えを強調した。


PS(2014.12.8 追加):*6のように、野党が苦戦する理由は、1)景気対策と称する歳出は、与党議員が当選しやすいように行われてきたこと 2)前回の民主党政権のように、まともな政策でも行政官僚の意図と異なるものは否定され、メディアも行政官僚のメガホンとして動いていること 3)このように何かと与党である自民党の方が有利であるため、候補者や地元も与党志向であり、“人物”で選んでも与党が勝つ候補者構成になる場合が多いこと 4)行政官僚が作った政策を進めるだけが仕事であれば、議員時代は小選挙区の地元の祭りに顔を出したり、地元に利益誘導したりして、選挙区で“いい人”“役に立つ人”という評判をとり、名前を売っておくのが最も重要な仕事となり、これは現職や世襲に有利であること などである。つまり、選挙は公示後に始まるのではないため、有権者も日頃から、何が自分を幸福にするのか、そして国の発展に繋がるのかを、主権者として関心を持って考えておくべきである。

*6:http://qbiz.jp/article/51356/1/
(西日本新聞 2014年12月8日) 衆院選 野党なぜ苦戦 経済対案具体性欠く 選挙協力ぎくしゃく
 衆院選の序盤情勢調査で、自民党が300議席超獲得の勢いを見せる「自民1強」の現状が浮き彫りになった。野党不振の背景について有識者や関係者は、公約の実現性や、政権批判票を取り込む「受け皿」としての位置付けが不明確だと指摘する。14日の投開票へ巻き返しを図る野党側の課題となりそうだ。論戦の焦点となっている経済政策について、民主党は安倍政権の経済政策「アベノミクス」が生んだ格差是正へ「厚く、豊かな中間層」の復活を公約に掲げた。子育て世帯への支援や最低賃金の引き上げなど家計支援を盛り込み、大企業や富裕層を優遇して経済再生を目指すアベノミクスとの違いを際立たせる戦略だ。しかし実現への道筋や財源を明示していない政策も多い。他の野党の公約にも同様の課題がある。実施段階に入った政策が含まれる自民党公約と比べ、野党の政策は「具体性に欠け、実現可能性を判断しにくい」と、市場関係者は説明する。慶応大大学院の小幡績准教授は、アベノミクスは成長戦略の成果が出ていないとする一方で、民主党公約に関し「中間層全員にお金をばらまくのか」と疑問を示す。国民の将来不安をなくすため、社会保障改革などを訴えるべきだと提案した。
   □    □    
 民主党や維新の党など共産党を除く野党各党は、政権への批判票を分散させまいと候補者を調整し、295選挙区のうち194選挙区は一本化に成功した。だが内実は、政策の不一致を度外視し、共倒れを回避したにすぎない。相互の推薦はほとんどなく、選挙後のビジョンも異なる。維新の党の橋下徹共同代表は街頭演説で「反対ばかりだから民主党は駄目だ」と批判。民主党幹部は「矛先が違う」と不快感を隠さない。民主党最大の支援組織の連合と、官公労を敵視する橋下氏は水と油の関係だ。連合幹部は「維新候補を支援しろとは、とても言えない」と話す。一方の維新の党関係者も「うちにあるのは『ふわっとした民意』だけ。組織票と違って他党に差し上げられない」と語る。民主党幹部は「空白区が100以上もあれば、政権奪取への覚悟が疑われても仕方ない」と嘆く。自民党幹部は「単なる数合わせなら怖くない」と断言した。
   □    □    
 衆院選公示直後、東京都心に雨が降った夕方。ビルや飲食店が立ち並ぶ一角で声をからす野党候補の訴えに足を止める人はまばらだった。多くの人は候補者をちらりと見ただけで家路を急いだ。作家で映画監督の森達也さんは「野党が具体的戦略を打ち出せないだけでなく『野党では駄目』というイメージが有権者に刷り込まれている」と分析。民主党政権が公約実現に「失敗した」と繰り返し報じたメディアの影響も大きいとみる。森さんは「ここ十数年、多数派につこう、勝ち馬に乗ろうという流れが強まっている」と「日本人の集団化」も指摘する。精神科医の香山リカさんには、有権者の熱狂的な与党支持も、野党への反発も感じ取れていない。「『景気はそんなに悪くない。このままでいい』との曖昧な支持が多い気がする。目の前の生活に追われ、政治家任せになっているのだろう」と話している。

| 経済・雇用::2014.6~2015.10 | 05:58 PM | comments (x) | trackback (x) |
2014.7.11 地域と協働した鉄道会社のチャレンジは、地域に見返りのあるものにすべきである。
    
             九州JR駅弁大会入賞作品
(1)東京生まれ、東京育ちで専業主婦を持っている増田氏は、この検討には向かない
 *1-1のように、増田寛也氏が、「①日本は2008年をピークに人口減少に転じ、推計では48年に1億人、2100年には5000万人を下回る」「②日本特有の人口移動で、東京圏に全国から若者が集まり続けるが、どの国も人口が密集する大都市圏の出生率は低い」「③大都市圏に流入した人口が高齢化し、東京圏は40年までに高齢化率35%の超高齢社会となる」「④1万人規模の人口を維持できない市町村は消滅可能性が高く、北海道、青森、山形、和歌山、鳥取、島根、高知の7道県ではこうした市町村の割合が5割を超える」「⑤農業の立て直しも重要」「⑥若者の雇用を守るためにも医療介護機能を集約し、高齢者を誘導して街全体のコンパクトシティー化を進める必要がある」「⑦地方の医療介護を中心としたコンパクト・シティー化に東京も関わり、東京の高齢者の受け皿としていくべき」などとしている。

 しかし、①は、少子化した原因として保育・学童保育など働く女性に必要なインフラ不足を言い始めた頃から、「子どもを産まないのがいけない」とすり替えてアピールするために使っているもので、これまでの厚労省の怠慢を棚に上げ、子どもがいない人に責任をなすりつけている。そして、過去50年、具体的には保育・学童保育の整備すらしてこなかった為政者が、突然、次の50~100年の人口推計を言い始めるのもおかしく、その意図は見え見えで、科学的でない。その結果、結婚するか否か、子どもを産み育てるか否かは個人の自由であるにもかかわらず、*1-2のように、少子化対策について質問中の女性国会議員に男性国会議員が「子どもを産まないと駄目」とヤジったり、*1-3のように、父子家庭の市議が父子家庭への支援策を質問したら「再婚した方がいい」とヤジられたりする事態となったのである。

 ②については、保育・学童保育の待ち行列がなくなったとしても、人口過密地帯で遠距離通勤・高コストの狭い家で育てることのできる子どもの数は0か1なのであり、地方では既に保育・学童保育の待ち行列はなく、通勤時間は短く、広い家に住めるため、教育費の限界を考慮しても、育てられる子どもの数が2か3になるので、事実である。

 しかし、いくら高齢化しても、③⑥⑦のように高齢者をやっかい者扱いし、「受け皿を作って田舎にやれ」という発想は冷たいし、適切でない。さらに、医療介護は若者の雇用確保のためにあるのではなく、それを必要とする人を助けるためにあるので、間違ってはならない。これがわかっておらず、「老人からはむしり取れ」と主張する倫理観のない“有識者”の意見は、老人を食い物にして罪の意識を持たない若者(オレオレ詐欺や老人を騙す詐欺的販売者など)を増やす結果となっている。

 なお、農林漁業やその他の産業を振興して地方都市に若者の雇用ができ、知的刺激なども都会に劣らず得られるようになれば、④のようなことはなくなる。しかし、そのためには、農林漁業など地方固有の産業を儲かる産業にし、新幹線やリニア新幹線の整備などで都会との往来に時間がかからないようにすべきであり、一律なコンパクトシティー化は農林漁業の振興に逆行する。

(2)地域と協働した鉄道会社のチャレンジは、地域に見返りのあるものにすべきである
 *2のように、田園風景を守り旅客を確保するため鉄道会社が農に関心を持ち、JR九州は、観光列車「ななつ星」だけではなく、農業生産法人「JR九州ファーム」を持ち、農業生産や加工・販売を充実させている。同社は「景観を維持するためにも、後継者不足が課題となっている地元農業を支える必要があると考えた」としており、このような地域貢献の意識があるからこそ、JAも技術指導をしたり、地域が協力したりしているわけだ。

 そのような時に、*3のように、地域が協力してせっかく儲かったJR九州株を売却し、その売却益を北海道整備新幹線建設に回すのは見識がない。地域と協力して利益を上げたJR九州株の売却益は、九州で再投資すべきであり、それぞれの地域のJR株式売却益は、それぞれの地域でリニア、新幹線、その他の鉄道関係施設の建設に再投資するのが、今後の地域との協働のためによいと考える。

 なお、JR九州は、上の写真のように駅弁大会を行って九州の農業・漁業に貢献している。2016年度までの上場を目指しているそうだが、関東から見れば、未開発な部分の多い九州鉄道の潜在力は大きいため、駅ビル・不動産開発、リニア、新幹線、その他の鉄道の整備などで、地方に住む不便を解消してもらいたい。それは、結局は、農林漁業の振興や人口政策にもよい影響を与えると考える。

*1-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140403&ng=DGKDZO69267240S4A400C1KE8000 (日経新聞経済教室 2014.4.3) 
地方戦略都市に資源集中、増田寛也 元総務相・前岩手県知事
〈ポイント〉
  ○人口減は東京集中と地方消滅が同時に進行
  ○地域の戦略都市は研究機能高め雇用を創出
  ○東京は国際化や高齢者の地方移住も検討を
 日本は2008年をピークに人口減少に転じた。推計では48年に1億人、2100年には5000万人を下回る。人口減少は容易には止まらない。合計特殊出生率は05年以降反転し、12年は1.41まで回復したが、出生数は前年より1万3000人減少した。子どもを産む女性の人数が減ったからだ。鍵を握るのは人口の再生産力をもつ20~39歳の若年女性人口で、9割以上の子どもがこの年齢層から生まれる。第2次ベビーブーム世代(1971~74年生まれ)は外れつつあり、それ以下の世代の人数は急減する。仮に30年に出生率が人口減少を食い止めるのに必要とされる2.1になっても、出生数の減少が止まるのは90年ごろとなる。日本特有の人口移動がこれを加速する。高度成長期やバブル経済期、地方から大都市圏へ大規模な人口移動があった。東京圏は現在も流入が止まっていない。政治・経済・文化の中心として集積効果が極めて高く、首都直下地震のリスクが叫ばれつつも全国から若者が集まり続ける。実に国全体の3割、3700万人が東京一極に集中している。先進各国では大都市への人口流入は収束しており、日本だけの現象だ。どの国も人口が密集する大都市圏の出生率は低く、東京都も1.09と全国最下位である。一極集中が人口減少を加速している。問題は、さらなる大規模な人口移動が起こる可能性が高いことだ。若年層が流出し続けた地方は人口の再生産力を失い、大都市圏より早く高齢化した。今後は高齢者が減り、人口減少が一気に進む。一方、大都市圏は流入した人口がこれから高齢化していく。特に東京圏は40年までに横浜市の人口に匹敵する388万人の高齢者が増え、高齢化率35%の超高齢社会となる。15~64歳の生産年齢人口の割合は6割に低下し、医療や介護サービスの供給不足は「深刻」を通り越し「絶望的」な状況になる。地方から医療介護の人材が大量に東京に引っ張られる可能性が高い。日本の人口減少は東京への人口集中と地方の人口消滅が同時に進む。都市部への人口集中が成長を高めると言われる。短期的には正しいが、長期的には逆だ。高齢者減少と若者流出という2つの要因で人口減少が進み、一定の規模を維持できなくなった地方は必要な生活関連サービスを維持できず消滅していく。東京は当面は人口シェアを高めていくが、やがて地方から人口供給が途絶えたとき、東京もまた消滅することになる。筆者は経営者や学識者有志とともに、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の地域別将来推計人口(13年3月推計)」を用いて国土全体を俯瞰し、地域ごとの将来像を推計してみた。現在の出生率が続いた場合、若年女性人口が30年後(40年)に半減する地域は、出生率が2.1に回復しても流出によるマイナス効果が上回り、人口減少が止まらなくなる。このうち一定規模の人口(1万人を想定)を維持できない市町村は「消滅可能性」が高い。結果は人口移動が収束する場合、消滅の可能性が高い市町村は243(全体の13.5%)に対し、人口移動が収束しない場合は523(29.1%)と大幅に増えることがわかった。北海道、青森、山形、和歌山、鳥取、島根、高知の7道県ではこうした市町村の割合が5割を超える。東京と地方のあり方を見直し、人口の社会移動の構造を根本から変える必要がある。若者の東京流出を抑え、東京の高齢者の地方移住を促す。地方では生活関連サービス機能の維持に向け、郊外の高齢者の中心地移住を促進する。国土全体を俯瞰し、地域ブロックごとに戦略的拠点都市を絞り込み、バラマキではなく集中的に投資することが必要になる。「国土の均衡ある発展」でも「多極分散型国土形成」でもなく、地域の特徴を踏まえた戦略的開発とネットワーク化を通して日本全体の総合力を向上していく。
 若者の社会移動対策で必要なのは産業政策の立て直しである。戦略的拠点都市を中心に雇用の場をつくり、若者を踏みとどまらせる「ダム」とする。東京は労働や土地などの生産コストが高く日本の高コスト体質を生んでいる。上場企業の5割が本社を首都に置くような国は日本だけであり、変える必要がある。地方の産業政策としては円高による空洞化を経験した現在、工場誘致には限界がある。若者の高学歴化も視野に、時間はかかっても産業の芽となる研究開発機能の創出に取り組むことが必要だ。政策の一環に人材供給やイノベーション(技術革新)の基盤である地方大学の機能強化を組み込み、インフラなど環境整備と連携させていく。地元で学び、地元で働く「人材の循環」を地域に生み出す。
 農業の立て直しも重要だ。先の推計でも農業振興に成功した秋田県大潟村は消滅を免れる結果となった。職業として農業を志向する若者は増えている。東日本大震災を契機に地元に戻り、IT(情報技術)を生かした農業を始めたり、総務省の「地域おこし協力隊制度」で地方に移住して大学院出のキャリアを生かして地域活性化に貢献したりする事例が各地でみられる。こういう意欲ある若者が活躍できる社会に変えることが、これからの政策の中心となる。
 地方の高齢者対策では生活関連サービスの多機能集約化が必要である。地域ブロックごとに医療介護の戦略拠点をつくり、そこを中心に多様なサービス機能を集約する。直近10年、地方の雇用を支えたのは高齢者の増加に合わせて拡大した医療介護だったが、高齢者が減っていけば広域で医療介護を支えることは難しくなる。若者の雇用を守るためにも医療介護機能を集約し、高齢者を誘導して街全体のコンパクトシティー化を進める必要がある。問題となるのが、自動車での移動を前提に開発された郊外宅地だ。住民が高齢化して運転できなくなり、生活困難者となる可能性がある。中心地への移住を希望しても、不動産に買い手がつかないケースもある。コミュニティーバスなどでの支援も考えられるが、対象区域が拡大していけば、やがて難しくなるだろう。農地中間管理機構の住宅版として郊外住宅地管理機構のようなものをつくって住宅地を借り上げ、若者に安価に提供するような施策を検討する必要がある。
 一方、東京は世界の金融センターとして国際競争力を高め、グローバルに高度人材が集う国際都市にしていくことが望ましい。大学の国際化や企業の雇用多様化をもっと大胆に進めていく必要がある。国際機関の本部機能の誘致も重要だ。現在、日本には約40の国際機関事務所があるが、多くは欧米に本部を持つ機関のブランチにすぎない。
 超高齢化への対策も必要だ。医療介護人材の育成に全力を挙げないと東京はいずれ立ち行かなくなる。地方で余る介護施設の活用を視野に高齢者の地方移住の促進も真剣に取り組むべきだろう。地方の医療介護を中心としたコンパクト・シティー化に東京も関わり、東京の高齢者の受け皿としていくべきだ。老後もできる限り住み慣れた土地で過ごしたいと考える人は多い。元気なときに地方にセカンドハウスを持つことを支援するような施策も必要となる。人口が減れば、国民1人当たりの土地や社会資本は増える。これをいかに有効活用できるかが、これからの日本の豊かさを左右する。国には都市や農地といった行政区分を超え、国家戦略として国土利用のグランドデザインをつくり直すことを強く求めたい。
*増田 寛也 
  略歴(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A2%97%E7%94%B0%E5%AF%9B%E4%B9%9Fより)
  1951年生まれ。
  1970年 - 東京都立戸山高等学校卒業
  1972年 - 東京大学入学
  1977年 - 東京大学法学部卒業。建設省入省
  1982年 - 千葉県警察本部交通部交通指導課長
  1986年 - 茨城県企画部鉄道交通課長
  1993年7月5日 - 建設省河川局河川総務課企画官
  1994年7月1日 - 建設省建設経済局建設業課紛争調整官
  1995年 - 岩手県知事初当選(当時全国最年少43歳)
  2007年8月27日 - 第1次安倍改造内閣で総務大臣

*1-2:http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2014070502000230.html (東京新聞 2014年7月5日) 男女平等 程遠い日本 女性蔑視やじ問題
 東京都議会を舞台にしたやじ問題は波紋を広げ、国会でも自民党の大西英男衆院議員(67)が女性議員に「子どもを産まないと駄目だ」と言い放ったと認めた。非常識な発言は女性の社会進出の遅れを反映しており、未婚や子どもを持たない女性への偏見を浮き彫りにした。同様の問題は他の先進国にも残るが、女性の社会進出が広がるにつれ偏見が薄れる傾向も浮かぶ。米調査機関ピュー・リサーチ・センターの報告によると、米国では四十~四十四歳の女性のうち、出産歴のない人の割合は一九七六年には10%だったが、二〇〇八年には18%とほぼ倍増した。「充実した結婚生活のために子どもは非常に大切」と答えた人は九〇年に65%だったが、〇七年には41%に低下。子どもを産まないという生き方が広がった。その結果「子どものいない女性への世間の目は寛容になった」(報告をまとめた専門家)。米家族・結婚研究センターのスーザン・ブラウン共同所長は「結婚の意義を子育て以外に見いだす女性が増えている」と分析した。女性の大学進学や共働きが増えるにつれ、偏見が後退する構図は韓国でも見られる。かつては儒教文化を背景に、結婚や出産を経験していない女性への風当たりが強かったが今では社会の圧力は表向き後退した。未婚の朴槿恵(パククネ)氏が昨年、大統領に就任する以前から、結婚や出産に関わるやじには厳しい。〇六年には酒席で女性記者にセクハラ行為をした野党議員(当時)に対する辞職勧告決議案が国会で可決された。日本と同じく少子化の危機が叫ばれたフランスでは「女性への出産圧力は強い」(国立人口統計学研究所)。だが、個人の選択を尊重する考えも社会に浸透。リベラシオン紙はやじ問題を「日本社会にはびこる男性優位主義」と批判した。先進国の中でも日本は女性の社会進出が特に遅れている。一四年版男女共同参画白書によると、女性管理職の割合はフィリピン(47・6%)や米国(43・7%)、フランス(39・4%)などの上位国を大きく下回る11・2%。圧倒的な男性優位社会がやじ問題の背景に潜んでいるといえそうだ。

*1-3:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10202/82886
(佐賀新聞 2014年7月11日)  「再婚したほうがいい」とやじ、旭川、父子家庭市議に
 北海道旭川市議会の一般質問で、妻を病気で亡くした男性市議が、同じ会派の男性市議から「再婚したほうがいい」とのやじを受けていたことが11日、分かった。やじを受けた保守系会派、市民クラブ所属の木下雅之市議(37)によると、6月25日の本会議で、自身の経験を踏まえて父子家庭への支援策を質問した際、同じ会派の福居秀雄市議(57)からやじがあった。取材に対し福居市議は「『再婚した方がいいね』とつぶやいた。木下市議の境遇を知っており、エールのつもりだったが、議会では不適切だったかもしれない」と釈明した。

*2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28548
(日本農業新聞 2014/7/3) 鉄道会社が農に関心 田園風景守り旅客確保
 鉄道各社が農業への関与を深めている。農業経営への参入や沿線の特産品の販路開拓、駅構内での農産物直売など手法はさまざまだが、共通するのは農業・農村の現状に対する危機感だ。鉄道観光の魅力である田園風景の荒廃や沿線の過疎化は、旅客の減少に直結するためだ。農村の活性化は鉄道事業者にとっても、他人任せにできない大きなテーマになりつつある。九州各地を巡る観光寝台列車「ななつ星」の運行を昨年10月から始めたJR九州(福岡市)。豪華な装備やおもてなしに加え、車窓から望む雄大な自然や田園風景を売りに国内外から旅行者を呼び込む。そんな同社が7月1日に発足させたのが、農業生産法人「JR九州ファーム」だ。既に2010年から福岡、熊本、大分、宮崎の4県でニラやサツマイモ、トマト、ピーマン、かんきつ類を栽培してきた。関連会社4社を一本化し、農業生産の他、加工・販売を充実させる。
●野菜を生産、販路の開拓・・・
 畑違いの農業に参入するのには理由がある。観光などで同社の路線を利用する乗客からは「田園の風景が素晴らしかった」など農村景観への好感度が高く、鉄道利用の大きな動機づけになっているという。一方で、農村部では耕作放棄地が増大している現実がある。同社は「景観を維持するためにも、後継者不足が課題となっている地元農業を支える必要があると考えた」と説明。技術指導を受けるJAを通じて農産物を出荷してきた実績を生かし、地域と調和した農業の展開を目指す。長野市と近郊の農業地帯を結ぶ長野電鉄(同市)は、主要駅の改札口や待合スペースに直売コーナーを設け、特産のきのこやリンゴに加え、農産加工品を売る。同電鉄は旅客の減少に伴い、3本あった路線を1本に縮小。最大約70キロあった営業キロ数は、半分の33キロになった。農産物の販売には、地域との結び付きや乗客の利便性を高め、鉄道利用の活性化につなげたいとの思いがある。湯田中温泉や栗の産地として有名な小布施といった沿線の観光地を訪れる客に、ローカル色豊かな鉄道の魅力をアピールする狙いもある。「輸送人員の減少に歯止めをかけるには沿線の活性化が不可欠」と話すのは西日本鉄道(福岡市)。今年5月にスローガン「農業イノベーション~西鉄の第6次産業に向けた挑戦」を打ち出した。福岡県のJA柳川産のイチゴ「あまおう」を使ったスパークリングワインを同県内のワイナリーで製造。6月から始まった首都圏の高級スーパーやJA全農が展開する飲食店、香港での取り扱いの橋渡しをした。特産品を通じて沿線の知名度を高め、観光などで訪れる客の増加につなげる構想だ。こうした取り組みについて、鉄道会社や商社との連携に関わる近畿大学の宇都宮直樹農学部長は「鉄道会社は系列にスーパーやホテルなどの販売先を持つため、比較的農業に取り組みやすい」と指摘。「ただ最終的には 栽培技術力が重要なので、生産者との連携が必要だ」と話す。

*3:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10202/81805
(佐賀新聞 2014年7月8日) JR九州株売却で延伸工期短縮、整備新幹線の財源に
 整備新幹線の延伸区間の工期を短縮するための財源として、JR九州の株式を上場し、売却益の一部を充てる案が政府、与党内で浮上していることが8日、分かった。売却益を整備新幹線の建設に回すには旧国鉄債務処理法の改正などが必要なことから、国土交通省は有識者会議の設置を検討している。JR九州と北海道、四国の3社の全株式は、国交省の所管で整備新幹線を建設する鉄道建設・運輸施設整備支援機構が保有している。JR九州は駅ビル、不動産事業などで収益の改善を図っており、2016年度までの上場を目指している。

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2014.6.25 外国人労働者の雇用について
    
                  外国人労働者が働く分野
(1)外国人労働者の必要性
 *1に、旧経済企画庁出身の小峰氏が、「①日本経済は、『ある日突然』という感じで人手不足状態になった」「②これは景気拡大による短期的な現象ではなく、人口減少を背景とした長期的・構造的なものなので、これから人手不足はますます強まる」「③日本経済は2012年11月を景気の谷として拡大を続けており、アベノミクス景気だ」「④これを構造改革の契機とし、政府も企業も、長期的視野から対処していくことが必要だ」と記載している。

 しかし、①②で言われている生産年齢人口の減少による人手不足は、その年に生まれた人数が確定すれば新しい人口ピラミッドができるので、『ある日突然』わかるのではなく、ずっと前からわかっていた筈だ。また、③④は“大胆な”金融緩和と東日本大震災の復興、国土強靭化計画、東京オリンピックに関する財政支出によって起こっているため、旧経済企画庁出身でありながら、これらを想定外の結果とするのは無責任すぎる。

 また、「建設労働者の不足」「外食チェーン店の人手不足」「日本の生産年齢人口減少」「労働人口減少」は事実だが、「経済にとっての労働力の天井が低くなった」のは、この40年間、経済成長率、株価、失業率だけを指標として短期的な景気対策のみを行い、長期的な労働力需給や産業のイノベーション、出生率などを考慮した政策立案をしてこなかった旧経済企画庁(現内閣府)の失政のつけである。そして、これは、旧経済企画庁が、女性は成績が良くても職業能力はないという考えから、男子学生に下駄をはかせて男子を優先して採用してきた結果である。

 このように、途中の論理はおかしいが、「女性・高齢者・外国人の活用によって労働力不足を解消していくことが重要」とする結論だけは合っている。ただ、どの人材も、人権侵害なき労働力であるべきで、国際協力や人手不足の名の下に差別して使っていると、(長くは書かないが)決して日本のためにならない。

(2)労働者への差別はなくすべき
 *2-1に書かれているとおり、現在は、外国人労働者の受け入れを真剣に考えるべき時だ。しかし、「外国人技能実習制度は、途上国の人材が働きながら技能を学ぶ制度」「建設業を対象に20年に限って、現在は最長3年の受け入れ期間を5年に延ばす」などとしているが、この制度は、技術を教え、覚えたら追い出す制度であるため、外国人を雇う企業側にもメリットが少なく、技能実習に来た外国人も、労働法違反が問題となるような働き方をさせられて、たまったものではない。また、多くの技能実習生が帰国した後に、日本をどういう国だと吹聴するかは、長い目で見れば、外交上、重要な問題である。

 なお、*2-1には、「永住を前提とした移民の本格的な受け入れについては、国民の間に合意ができていない」「まずは受け入れる期間や職種を限るかたちで増やしていくべき」とも書かれている。しかし、世界には、問題なく外国人労働者を受け入れて労働力として活用している国も多いため、それらの国の制度を調べて前向きに進めるべきである。また、介護福祉士、看護師、家事使用人は、女性が働く時には不可欠であるため、地域を限らず受け入れるべきだ。

 *2-2に、2014年4月3日、日弁連会長の村越氏が「技能実習制度は人権侵害が横行しているため、制度の抜本的見直しを行うべき」「国際的にも、米国国務省人身取引報告書が、日本政府は技能実習制度における強制労働の存在を正式に認知していない」等と書かれており、私も賛成である。

(3)外国人労働者の受入分野拡大について
 *3のように、政府は、専門的な技術や経営のノウハウを持つ「高度人材」の受け入れを広げ、単純労働者の受け入れに繋がる移民は認めず、技能実習の形での受け入れを拡大するそうだ。

 拡大内容は、1)技能実習期間を最長3年から5年程度に延ばす 2)新たな対象に「介護」や「林業」のほか、「自動車整備」、「店舗運営管理」、「総菜製造」を加えるそうだが、現在では日本人労働者の方が真面目で質が高いとは限らないため、特区で地域を限るのではなく、需要のある場所では選別しながら外国人労働者も雇えばよいと考える。ただし、技能実習制度については、(2)に書いた問題があるため、契約更新可能な期間労働者や正規雇用にするなど、労働者として人権侵害がないようにすべきだ。

<労働力不足>
*1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140624&ng=DGKDZO73174010T20C14A6KE8000 (日経新聞 2014.6.24)人口減の負荷 影響直視を、小峰隆夫 法政大学教授
 日本経済は、「ある日突然」という感じで人手不足状態となった。これは景気拡大による短期的な現象ではなく、人口減少を背景とした長期的・構造的なものである。これから人手不足はますます強まることを認識したうえで、これを構造改革の契機とし、政府も企業も、長期的視野から対処していくことが必要だ。日本経済は2012年11月を景気の谷として拡大を続けている。いわゆるアベノミクス景気である。特徴は雇用情勢の改善テンポの速さだ。通常の拡大局面は「外的要因(輸出、財政・金融政策など)による生産増」→「企業収益の拡大と設備投資の増加」→「雇用の改善と家計の所得・消費の増大」という順番をたどる。雇用の改善は景気全体の動きに遅れるのが普通だ。政府の景気動向指数でも失業率は遅行指数に位置づけられる。ところが、今回は雇用関係指標が急速に改善してきた。12年11月には0.82倍だった有効求人倍率は、今年4月には1.08倍となり、失業率もこの間、4.1%から3.6%に低下している。もはや「悪い状態が良くなってきてうれしい」というレベルを超え、「足りなくて困った」という状態に入りつつある。1倍超の求人倍率は全体としての労働需要が供給を上回ったことを意味し、現在の失業率は、ほぼミスマッチ(希望や条件のずれ)によるだけとなっている。実態的にも建設労働者の不足が公共投資の円滑な試行を阻害しているし、アルバイトに頼っていた外食チェーン店で事業展開が難しくなるといった事態が生じている。改めて考えてみれば、雇用機会をいかに確保するかに腐心していたのは、つい最近である。それが突然、労働力不足状態に突入したのはなぜだろうか。筆者は、もともと潜在的に存在していた労働力不足が、景気の拡大で一気に顕在化したからだと考えている。単なる景気の上昇による一時的なものはなく、長期的・構造的な現象なのである。筆者はかねて生産年齢人口が減少し、人口に占める働く人の割合が低下するという「人口オーナス(負荷)」こそが人口問題の最重要課題だと考えてきた。人口動態からみて、日本はこれからますますその度合いが強まり、やがては世界有数の人口オーナス国になることが確実だ。人口オーナスが強まれば、労働力不足になるのはこれまた必然である。世界有数になるのだから、その不足ぶりも半端なものでは済まないはずだ。日本の生産年齢人口(15~64歳)は1995年をピークに一貫して減少を続けており、全人口に占める比率は95年の69.5%から13年に62.1%に低下した。労働力人口も98年の6793万人をピークに減少し続け、13年は6577万人となった。しかし現実には労働力不足問題は発生せず、逆に雇用情勢の悪化の方が懸念されてきた。人口面から労働力の供給は減っていたものの、経済実態面から労働力の需要がもっと減ったからである。つまり、表面化はしなかったものの、潜在的な労働力不足の要因は常に底流として、次第に勢いを増しながら流れ続けており、経済にとっての労働力の天井はどんどん低くなっていたのだ。景気が好転して労働需要が拡大し始めると、日本経済はたちまち低下しつつあった天井にぶつかった。これが突然やってきた労働力不足の理由である。今後、生産年齢人口はさらに減少する。高齢者や女性の労働参加がある程度は進んだとしても、労働力人口の減少もまた、避けられない。図は労働政策研究・研修機構の30年までの推計などを基に、日本経済研究センターの桑原進主任研究員が将来の労働力人口を推計したものである。ある程度の労働力率の上昇や政策効果を織り込んでも、30年に5954万人、60年には4017万人に減る。減少率も13~30年で年率0.6%、30~60年で同1.3%と加速していく。経済財政諮問会議の有識者委員会「選択する未来」は中間とりまとめで、60年の労働力人口を5522万人とする試算を示している。30~60年の減少率は年率0.3%程度にとどまる。これは出生率が30年までに人口維持に必要とされる2.07に回復し、女性の労働力率がスウェーデン並みに上昇するなど、思い切り背伸びをした推計であることに注意する必要がある。以上の推計から、経済が停滞して労働需要が極度に低迷しない限りは、長期的に労働力不足はますます強まると考えるのが自然である。
 こうして労働制約(労働力不足)が強まることに対し、我々はどう対応すべきか。基本的な生産要素の一つである労働力人口が大幅に減少することは、日本経済全体では潜在成長力のかなりの低下要因となる。長期的な国民福祉のレベルを決めるのは供給力なのだから、潜在成長率が大きく低下すれば、国民の福祉は損なわれる。他方、労働力不足が強まれば、労働者はより貴重な資源になる。労働条件は改善するはずだし、ブラック企業など労働者を大事にしない企業は規制などしなくても自然に淘汰されていくはずだ。ワーキングプアや若年層の雇用不安も改善が期待される。どちらの影響が強く出るのか。鍵を握るのは政策的な構造改革と企業行動の変化だ。労働力不足が強まれば、働く人々は高い収入を求め、より付加価値を生み出しやすい(生産性の高い)分野に集まってくるはずだ。それが経済全体の生産性を引き上げ、結果的に労働制約を緩和することになる。これまでのように個々の企業が雇用者を抱え込んでいたのでは、生産性上昇の効果は期待できなくなる。つまり、労働制約が強まるほど、政策的には労働市場の流動化を促進することがより重要になるのだ。貴重な労働資源が、より高い付加価値を生み出せる分野にシフトしやすくなるように環境の整備を急ぐべきだろう。企業は労働力過剰型から不足型へのモデルチェンジが必要となる。労働力不足時代には、人的資源としての価値の高い雇用者を育てていく必要があるから、アルバイト、派遣などの非正規、長時間労働に頼った事業展開は限界に達するだろう。企業が労働者を選ぶのではなく、労働者が企業を選ぶ時代になるのだから、働きやすい勤務条件を整備しないと企業を支える人材を確保できなくなるだろう。
 女性・高齢者・外国人の活用により労働力不足そのものを解消していくことも、より重要になる。既に対応は図られてはいるが、高齢者の再雇用は同一企業内での雇用継続が基本となっているため、生産性がかなり低い状態での雇用継続となっている。建設分野などの外国人の活用も、国際協力を主眼とした研修制度を使い続けるなど、建前と現実とのギャップが大きい。労働力不足の長期化を見すえた制度の再設計が必要だ。
 人口オーナスという流れは、地下を流れるマグマのようなもので、その勢いは今後ますます強まっていく。そのマグマによって、日本の経済社会は、地層の弱い部分から噴火を繰り返すことになるだろう。今回はそれが労働力不足という形で噴火した。今後、人口オーナスへの備えを怠り続ければ、更に、貯蓄率の低下による経常収支赤字と財政危機、社会保障制度の破綻、地域の崩壊という形で次々に噴火が起きるだろう。将来を展望した上での腰をすえた対応が望まれる。
○景気回復に伴い労働力不足が一気に顕在化
○短期的な現象ではなく長期で構造的な問題
○人口負荷は社会保障や地域崩壊に飛び火も
こみね・たかお 47年生まれ。東大経済卒、旧経済企画庁へ。専門は経済政策論

<外国人労働者>
*2-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140421&ng=DGKDZO70160100R20C14A4PE8000 (日経新聞社説 2014.4.21) 外国人の活用に「国家百年の計」を
 企業の生産や販売活動が活発になり、様々な分野で人手が足りなくなっている。将来も人口減少で労働力不足は大きな問題になる。外国人の労働力の活用を真剣に考えるときだ。足元の人手不足、中長期的な労働力不足のそれぞれについて、戦略的に外国人受け入れ政策を練る必要がある。現在、人手不足が特に深刻なのは建設や土木の分野だ。東日本大震災の復興工事に加えて景気対策の公共工事も増えているためだ。2020年に開く東京五輪関連のインフラ整備もあり、建設労働者の需要は今後も増大する。
●見直したい技能実習
 このため政府は緊急措置として、途上国の人材に日本で働きながら技能を学んでもらう外国人技能実習制度の拡充を決めた。建設業を対象に20年までに限って、現在は最長3年の受け入れ期間を5年に延ばすなどの内容だ。技能実習制度をめぐってはかねて、最低賃金に満たない賃金で働かせたり、長時間の残業を強いたりするなどの違法行為が問題になっている。ただ目の前の人手不足への対応は急務だ。建設職人が足りず、保育所が予定通りに開設できない例もある。政府の緊急措置では、実習生を受け入れる企業が過去に不正行為を働かなかったかをチェックすることにしており、当座の対策としてやむを得まい。並行して、中長期的な視野に立った外国人受け入れの政策づくりを急がなければならない。高齢化で介護に携わる人材は25年に約100万人足りなくなると見込まれている。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、日本の15歳から64歳までの生産年齢人口は、13年の約7900万人から39年には6000万人を割る。女性や高齢者の就業促進により力を入れなければならないのはもちろんだ。だが、それで労働力不足を賄えるかどうかは不安がある。これまで外国人の単純労働力は国内の雇用に影響をおよぼさないよう受け入れを抑制してきたが、この姿勢は改める必要がある。ただし、永住を前提とした移民の本格的な受け入れについては、国民の間に合意ができていない。このため外国人は、まずは受け入れる期間や職種を限るかたちで増やしていくべきだろう。どのように外国人の受け入れを拡大していけばいいか。いくつかポイントがある。まず、技能実習制度についてだ。実習生を安い労働力ととらえる雇用主が少なくない。現行制度は抜本的に見直して、受け入れの新たな器になる制度を考えたい。逆に、もっと機能させるべき制度がある。経済連携協定(EPA)に基づきインドネシアやフィリピンから介護福祉士や看護師の候補者を受け入れている。これをさらに増やせるはずだ。受け入れにあたって現在は厳しい資格要件が設けられており、日本で働き続けるには一定期間内に日本語による国家試験に合格しなければならない。もっと柔軟に考えるべきだ。また、いまも「特定活動」という在留資格を法相の指定で外国人に与えることができる。11年のタイの洪水の際は、操業できなくなった日系企業の工場のタイ人従業員に、この在留資格で日本の工場で働いてもらった。この仕組みを活用する余地も大きい。
●生活環境の整備急げ
 大事なのは安定的に外国人労働力を招き入れるために、その経路を多面的につくることだ。受け入れ拡大には注意も必要だ。競争力を回復させるのが難しい労働集約型の産業で、外国人労働者を増やして受注増に対応するようだと、日本の産業構造の高度化を妨げる。受け入れる外国人の数には、業種別に上限を設けることなども考えられる。情報分野の技術者や大学の研究者など専門性の高い「高度人材」は、より積極的に受け入れを拡大したい。親や家事使用人を呼べる優遇措置があるが、年収などの要件が厳しい。緩和を検討すべきだ。単純労働力と高度人材の両面で、総合的な外国人受け入れ政策が求められる。加えて重要なのは外国人の生活インフラの整備だ。彼らが日本の社会になじみ、暮らしていくためには、行政や自治体、ボランティアらによる支援が欠かせない。まずは日常の生活や教育、医療など、さまざまな分野での困りごとを一括して受け付け、対応にあたるワンストップ型の相談窓口を充実させていかなければならない。外国人の家族らが日本語や日本の社会制度などを学ぶ場の整備にも力を入れていく必要がある。

*2-2:http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2014/140403.html  2014年(平成26年)4月3日 日本弁護士連合会会長 村越 進
外国人の非熟練労働者受入れにおいて、外国人技能実習制度を利用することに反対する会長声明
 政府は、東日本大震災後の復興及び東京オリンピック関連施設を建設するための建設労働者が不足しているとして、建設関係業種での外国人労働者の受入れのため、「年度内を目途に当面の時限的な緊急的措置にかかる結論を得る」意向を明らかにし(2014年1月24日の関係閣僚会議後の菅官房長官の定例記者会見)、その具体策として、技能実習制度を前提に、建設分野において、現行の「技能実習」の在留資格から「特定活動」の在留資格に変更してさらに2年間の在留を可能とし、また、一度、技能実習を終えて帰国した者についても現行制度で許可されていない再入国を許可して特定活動の在留資格で日本で働けるものとするよう、告示を定める案などが報じられている。技能実習制度については、実習生による日本の技術の海外移転という国際貢献が制度目的として掲げられながら、その実態は非熟練労働力供給のための制度として運用されており、その名目上の目的ゆえに受入れ先である雇用主の変更が想定されておらず、受入れ先を告発すれば自らも帰国せざるを得ないという結果を生んでしまうことにより、受入れ先との間で支配従属的な関係が生じやすい。また、送り出し機関による保証金の徴収などの人権侵害が横行していることなどから、衆参両院も、2009年の入管法改正にあたっての附帯決議で、制度の抜本的見直しを行うべきこととしていた。当連合会も、これらの構造上の問題点を指摘し、技能実習制度の廃止を強く訴えてきたところである(「外国人技能実習制度の廃止に向けての提言」2011年4月15日、「外国人技能実習制度の早急な廃止を求める意見書」2013年6月20日)。国際的にも、米国国務省人身取引報告書(2013年6月19日)が、日本政府は技能実習制度における強制労働の存在を正式に認知していないと指摘するなどしている。したがって、政府は、東京オリンピック開催の準備等を理由とした一時的な建設労働者の受入れを行うとしても、技能実習制度の存続を前提とした制度構築をするべきではない。また、建設業分野で一時的な外国人労働者の受入れを行うとしても、技能実習制度で指摘された構造上の問題点を再度発生させないよう、労働者受入れ制度であることを前提とした制度構築を行い、雇用主変更の自由を認め、受入れのプロセスにおいて二国間協定の締結や公的機関の関与を強めるなどして対等な労使関係を実現する制度の在り方を検討し、国会で法改正を行うべきである。さらに近時、建設業だけでなく、農林水産業などにおける労働者不足を理由に、技能実習制度についても、現行で最長3年間の技能実習期間を延長すること、再度技能実習生としての入国を許可することなどの意見が関係業界団体などを中心に提案されている。しかし、技能実習制度の構造上の問題点、現実の人権侵害の事例があるにもかかわらず、技能実習制度を維持・拡大し、受入れ期間の延長や再技能実習を認めることは、人権侵害の温床を拡大する結果となるものであるから、当連合会は、強く反対し、速やかな技能実習制度の廃止を改めて求めるものである。

<外国人労働者の受入分野・方法>
*3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140611&ng=DGKDASFS10037_Q4A610C1MM8000 (日経新聞 2014.6.11)
介護・自動車整備に外国人 成長へ働き手確保、政府が技能実習拡充 家事支援も特区で
 政府は「働き手」としての外国人の受け入れを広げる。外国人が日本で技能を学びながら働く技能実習制度を拡充し、介護や販売関連の業務も対象にする。高度な技術を持つ専門家や、日本企業の海外子会社で働く外国人が国内でも働きやすくする方向だ。家事を手伝う外国人も地域を限って受け入れる。人口減に伴う働き手の不足を外国人も活用して補い、経済成長を目指す。産業競争力会議(議長・安倍晋三首相)は10日、6月中に作る成長戦略の骨子案をまとめた。外国から人材を受け入れる手立てとして、技能実習制度の抜本的な見直しと、高度専門家が日本で働く環境の整備を明記した。外国人活用は3つの段階で取り組む。まず足元の景気回復で広がる人手不足対策だ。谷垣禎一法相の私的懇談会は10日まとめた報告書で(1)実習期間を現在の最長3年から5年程度に延ばす(2)新たな対象に「介護」や「林業」のほか、「自動車整備業」、従業員や在庫の管理を手がける「店舗運営管理業」、食材を加工する「総菜製造業」を加える――などの方針を示した。実習生が劣悪な環境で働かされることがないように、不正に対する罰則を強化する。法務省はこれを受け、法改正の準備に入る。新たに実習の対象にする分野はいずれも人手不足が目立つ。首都圏を中心に訪問介護を展開するメッセージ子会社のJICC(東京・中央)は土日祝日の夜間帯に働くパートを最大で時給2800円で募集しているが、なかなか集まりにくい。介護福祉士は経済連携協定(EPA)に基づいてインドネシアとフィリピン人の就業者を認めたが、3年間の国家試験合格者は計242人にとどまる。技能実習制度とは別に、EPAの対象でない国の留学生でも、日本で介護の資格を取れば国内で働くことを認めることも検討する。日系企業の外国子会社で働く人が日本に転勤して働くため新たな在留資格を作る方針も成長戦略に盛り込む。専門的な技術や経営のノウハウを持つ「高度人材」の受け入れを広げる。政府はこれまで、年収や学歴が高いと認めた外国人は家事を手伝う人を連れてきてもよいなどとする制度改正を実施した。さらに受け入れを増やす施策を2014年度中に検討すると成長戦略に明記する方向だ。単純労働者の受け入れにつながる移民は認めない。ただ、家事を手伝う人については、東京や大阪など全国6地域を指定した「国家戦略特区」での先行受け入れを目指す。地域を限って受け入れて社会制度への大きな影響を避けつつ、外国人の受け入れ拡大に向けた課題などを探る構えだ。政府は成長戦略と並行してまとめる経済財政運営と改革の基本方針「骨太の方針」で、人口を1億人に保つ目標を掲げる。少子化に歯止めをかけても日本の人口は2千万人以上減るため、働き手の確保や自治体の維持には外国人の受け入れを増やすといった対策が避けられなくなってきている。

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