■CALENDAR■
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28  
<<前月 2014年02月 次月>>
■NEW ENTRIES■
■CATEGORIES■
■ARCHIVES■
■OTHER■
左のCATEGORIES欄の該当部分をクリックすると、カテゴリー毎に、広津もと子の見解を見ることができます。また、ARCHIVESの見たい月をクリックすると、その月のカレンダーが一番上に出てきますので、その日付をクリックすると、見たい日の記録が出てきます。ただし、投稿のなかった日付は、クリックすることができないようになっています。

2014.2.28  メディアもジェンダー(社会的・文化的な性差別)とセックス(生物学的性別)を混同しているような状況で、202030を実現するのは大変な仕事であること、及び、日本で日本女性に求められる「らしさ」や「しなやかさ」はジェンダーであること
         

(1)NHK経営委員の長谷川三千子氏の発言について
 埼玉大学名誉教授でNHK経営委員になった長谷川氏の*1-1の発言には呆れる人が多いが、このようなことを言う人が重要な地位にいるのが日本の現況である。これまでも長谷川氏が埼玉大学教授等の地位にいたのは、同じような考えの人が彼女を引っ張り上げたからだろう。

 そして、*1-1で述べられた長谷川氏の計算は、明らかに科学的でない。何故なら、「西暦3000年に日本の人口がゼロになる」としているが、生物の繁殖行動は、そのような直線グラフではなく、なだらかな曲線を描くからだ。人(生物の一つ)は、人口密度が高く暮らしにくい時には、出生率の低下と死亡率の上昇が起こって人口を抑制し、人口密度が低く暮らしやすくなると、出生率の上昇と死亡率の低下が起こって人口減少が緩やかになり、次第に人口増加に転じる。つまり、生物は、個体が暮らしやすい場合に数が増えるのであり、家が狭く通勤距離が長くて周りから子育ての援助を得られない東京では、他地域より出生率が低くなっているのだ。

 さらに、*1-2では、長谷川氏の主張として、①男女共同参画社会に批判的で「女性が家で子を産み育て男性が妻と子を養うのが合理的」と主張 ②女性に社会進出を促す男女雇用機会均等法の思想は個人の生き方への干渉であるため、政府に「誤りを反省して方向を転ずべき」と求めている などとされている。しかし、男女雇用機会均等法は、働く女性が職場で差別されないための法律であり、すべての女性が外で働くべきだと法律で強制しているわけではない。そして、「女性が家で子を産み育て男性が妻と子を養うのが合理的」と決めつけることこそ、個人の生き方への干渉である。さらに、こういう考え方の人が多く、保育所や学童保育の整備が遅れたために、働く女性は子育てしにくく、仕事と子育ての二者択一を迫られて出生率の低下が加速されたのだということを忘れてはならない。そのため、長谷川氏は、「個人の生き方への干渉」「男女雇用機会均等法」「男女共同参画社会」の意味を正しく理解していない。

 なお、長谷川氏は「女は家で子を産み育て、男が妻子を養うもの」と断定しているが、人間の女性は乳牛や採卵鶏と異なり、子を作る以外にも多様な能力や価値を持つことを決して忘れて欲しくない。子を作るだけなら、上のイラストの中では、鮭が一番優秀なのである。

(2)女性の賃金・登用について
 *2-1のように、安倍首相は女性政策を成長戦略の柱の一つに位置づけ、「政府の成長戦略を、指導的地位にある女性の割合を2020年までに全体の30%にする」「全都道府県の公的機関や企業での女性の登用状況を点検し、課長級以上の指導的地位につく女性の割合を調べて女性登用をチェックする」とし、内閣府が、全上場企業の女性管理職の登用状況を来年1月から公表する予定で、経済団体を通じて役員のうち1人は女性を登用するよう要請したそうである。1980年代から男性と同じに働いてきた私たちから見れば遅すぎるが、日本としては、かなり進んだ。

 しかし、*2-2のように、現状として九州7県の59市町村で短期任用が原則の臨時・非常勤職員を10年以上雇い続け、任用期限が来る度に契約を繰り返して同じ非正規職員を約30年雇い続けた自治体もあったそうだ。非正規労働者は、仕事内容が正規職員と殆ど同じでも雇用条件が悪くて女性が多いが、その結果、*2-3のように、男女間の賃金水準は男性を100とした時に女性は71・3になっている。

 そのため、*2-4のように、女性は公的年金の支給額が少なく、年金不足分を補うには自分で年金不足分を貯蓄しておく必要があり、生涯独身のケースでは、「2600万円の自分年金」を目標にすべきだそうだ。2600万円の根拠は明確でないが、低賃金で働かされた女性が老後資金を溜めるのは困難で、*2-5のように、最多更新し続けている生活保護世帯の中には女性高齢者が多い。

(3)女性の教育と女子教育
 *3-1のように、小1で既に男女に将来就きたい職業に違いがあるのは、親や社会の意識に由来すると考える。例えば、男子の親は「医師」が希望で、女子の親は「看護師」がトップというように、女の子には賃金が安く、熟練度の低い仕事を奨める教育を行っているからである。

 なお、*3-2には、「女子のみの高校数は、20年前の1993年度から半減し324校で、男子のみの高校は20年前から6割減り、女子大も減って、近年は女性リーダー育成を目指す女子大が増えてきた」と書かれている。しかし、*3-3のように、埼玉県内最古の女子校である県立浦和第一女子高等学校は、公立であるにもかかわらず戦後も男女別学で、2007年まで附属幼稚園が存在し、校歌はメロディーが優しく女子高らしい雰囲気のもので、2007年まで良妻賢母を作る女子教育をしていたのである。

 また、*3-4に、「しなやかに駆ける女子校の魔法 役割縛られず自由育む」と題して記事が書かれているが、「しなやか」とは、①柔軟で弾力に富んでいるさま。 ②動作・態度がなよやか、たおやかで優美なさま。(http://kotobank.jp/word/%E3%81%97%E3%81%AA%E3%82%84%E3%81%8B 参照)である。そして、「思い込みを吹っ切り、楽になって女性の強みを生かす」とこうなるのが女性だとしているが、これがまさにジェンダーなのである。職場が男女別になっているわけではあるまいし、男女共学校で、女子生徒も堂々とすればよいのである。それでも、生物としてのセックスは、遺伝子に組み込まれているため、個体が無理に意識しなくても自然と出てくる。

 さらに、*3-4の「運針」して初めて集中力が養われるとは呆れた上に情けなく、男女共学の必要性を再確認した。数学でも物理でも、勉強はそれ自体に集中しなければできず、スポーツもそれ自体に集中しなければよい結果は出せないという基本的なことを学んでいないからである。

(4)メディアも女子差別撤廃条約の効力発生から30年遅れで、まだ足を引っ張っている
 *4では、九州大大学院で遺伝子解析の研究をしている井上麻美さんが、女子児童を対象に科学講座「ガールズサイエンスチャット」を開設し、「身近な暮らしと結び付けることで、理数系に苦手意識を持ちがちな女子にも興味を持ってほしい」と、初回は生理用ナプキンの構造を科学的に解説したそうだ。

 しかし、「理数系に苦手意識を持ちがちな女子」という決め付けは、そもそも失礼である。また、「みんな、生理って聞いたことあるよね。すてきな女子になるために大事なことなの」と切り出したのは、「素敵な女性=生理」としておりセクハラだ。このような経験からは、女子児童が生命科学に興味を持つことは期待できず、「今後は男児にも門戸を広げ、野菜を使った密度測定の実験などを検討中」とのことだが、教える側のテーマ選択に既にジェンダーが存在しており、女子児童には魅力のないものになっている。

 ただし、井上麻美さん自身がジェンダーを持っている人か否かは不明だ。何故なら、メディアの記者は文科系が多く、編集で内容の色あいが変更されるのは、私が衆議院議員時代、当然のことを言っても女性を一段低く見た歪みを持って報道したメディアが多かったことから明らかだからである。

★女子差別撤廃条約★1979年に国連総会で採択され、1981年に発効。1985年7月25日に日本において効力発生(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A5%B3%E5%AD%90%E3%81%AB%E5%AF%BE%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%82%E3%82%89%E3%82%86%E3%82%8B%E5%BD%A2%E6%85%8B%E3%81%AE%E5%B7%AE%E5%88%A5%E3%81%AE%E6%92%A4%E5%BB%83%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E6%9D%A1%E7%B4%84参照)。

*1-1:http://blogos.com/news/hasegawa_michiko/ (産経ニュース 2014.1.6 埼玉大学名誉教授 長谷川三千子) 年頭にあたり 「あたり前」を以て人口減を制す
 新年早々おめでたくない話--どころか、たいへん怖い話をいたします。このままでゆくと日本は確実に消滅する、という話です。日本の人口は昨年の10月1日で1億2730万人となりました。すでに8年前から減少に転じて、今のところ毎年20万人ほど減り続けています。
≪千年後の日本人口ゼロに≫
 だからといって何が怖いのか、と首をかしげる人も多いでしょう。戦後急に増えすぎた人口がもとに戻るだけではないか。毎年20万人減れば百年後には1億そこそこの人口になってちょうどよいのではないか--そう考える方もあるでしょう。しかし、そういう単純計算にならないというところが人口減少問題の怖さなのです。今の日本の人口減少は飢餓や疫病の流行などでもたらされたものではありません。出生率の低下により、生まれてくる子供の数が減ることによって生じている現象です。子供の数が減れば、出産可能な若い女性の数も減ってゆく。ちょうどネズミ算の逆で、出生率の低下による減少は、ひとたび始まると急カーブを描いて進んでゆくのです。学者たちの計算によると、百年後の日本の人口は現在の3分の1の4000万人になるといいます。そして西暦2900年には千人となり、3000年にはゼロになるというのです。

*1-2:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%95%B7%E8%B0%B7%E5%B7%9D%E4%B8%89%E5%8D%83%E5%AD%90
長谷川 三千子(1946年3月24日~)、日本の政治評論家、哲学者。埼玉大学名誉教授。保守系政治団体日本会議代表委員。NHK経営委員。
<主張>
選択的夫婦別姓制度に反対している。
男女共同参画社会に批判的で「女性が家で子を産み育て男性が妻と子を養うのが合理的」と主張している。また、女性に社会進出を促す男女雇用機会均等法の思想は個人の生き方への干渉だと批判し、政府に対し「誤りを反省して方向を転ずべき」と求めている。絶対天皇制を肯定。野村秋介の朝日新聞東京本社襲撃について「彼の行為によって我が国の今上陛下は人間宣言が何と言おうが憲法に何と書かれていようが再び現御神となられた」と追悼文集に寄せた。これらの発言に対して2月10日の夕方までに約800件の意見が寄せられ、大半が批判的な内容だった。

*2-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20131231&ng=DGKDASFS3002L_Q3A231C1PE8000 (日経新聞 2013.12.31)女性の活躍、全国で把握 政府、都道府県ごとの登用状況 支援体制を強化
 政府は来年度から、全都道府県の公的機関や企業での女性の登用状況を点検する。内閣府が中心となり半年ごとに実施。全職員のうちの女性の割合や、課長級以上の指導的地位につく女性の割合を調べ、女性登用への取り組みが地方に浸透しているかをチェックする。安倍晋三首相は女性政策を成長戦略の柱の一つに位置づける。地方に取り組みを強化するよう促すとともに、調査結果を支援策の検討につなげる。「女性の活躍」を全国に広げたい考えだ。政府は広報や啓発活動も強化する。働く女性支援に取り組む企業を紹介する専用のホームページを整備。家庭と仕事の両立に対する経営者の理解を促すためのセミナーも開催する。政府の成長戦略は全国の官庁や民間を含めて指導的地位にある女性の割合を2020年までに全体の30%にする目標を掲げている。人事院が10月に初めてまとめた21府省庁の課長・室長以上のポストに占める女性の比率(11年度)は2.6%にとどまる。安倍内閣は旗振り役として、厚生労働次官に村木厚子氏を起用したほか、11月には初めての女性の首相秘書官として総務省出身の山田真貴子氏を抜てきした。内閣府は全上場企業の女性管理職の登用状況を来年1月から公表する予定。経済団体を通じて役員のうち1人は女性を登用するよう要請しており、企業が競争意識を持って取り組むよう促す。政府は働く女性のために結婚や妊娠・出産、育児などに応じた支援策を打ち出す。国家公務員を対象に配偶者の転勤に伴う休職制度を来年度から導入。夫の転勤を機に離職しがちな女性の就業継続につなげ、将来は民間企業にも働きかける。

*2-2:http://qbiz.jp/article/32618/1/
(西日本新聞 2014年2月22日) 非正規公務員の長期雇用常態化 九州59市町村、10年以上
 九州7県の59市町村で、本来は半年や1年の短期任用が原則の臨時・非常勤職員を、10年以上雇い続けていることが西日本新聞の取材で分かった。任用期限が来るたびに契約を繰り返し、同じ非正規職員を約30年雇い続けた自治体もあった。非正規は長年働いても退職金が支払われず、急な雇い止めで生活の糧を奪われることもあり、トラブルは後を絶たない。総務省による全自治体の臨時・非常勤職員調査(2012年4月1日時点)で各自治体から同省へ提出された資料を、本紙が情報公開請求で入手し集計した。それによると、調査は各自治体の事務補助や保育士、給食調理員、看護師、消費生活相談員、清掃作業員が対象。九州で非正規を20年以上雇い続けているのは、熊本県菊陽町のほか熊本市、佐賀県唐津市、大分県国東市、熊本県南小国町、熊本県荒尾市など11市町。保育士を29年雇っている同県菊陽町が最も長かった。同じ人を雇い続ける理由として、自治体側は「新しく任用した人に業務を最初から教える余裕がない」(福岡県桂川町)と説明する。ただ、非正規の給与水準は正職員より大幅に低く、諸手当や休暇制度も整っていない。仕事内容が正職員とほぼ変わらなくても、退職金は支払われない。専門家や労働組合からは待遇改善を求める声が相次いでおり、雇い止めされた長期の非正規職員が自治体に退職金を求めて提訴し、裁判所が支払いを命じるケースも出ている。

*2-3:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140221-00000104-san-bus_all
(産経新聞 2014年2月21日)  昨年の平均給与は4年ぶり前年割れ 厚労省調査
 厚生労働省が20日発表した平成25年の全国賃金構造基本統計調査で、同年6月時点の一般労働者の平均給与(残業代など除く)は前年比0・7%減の29万5700円となり、21年以来4年ぶりに前年を下回った。男女とも前年を割り込んだのは、比較可能な昭和51年以降初めて。賃金が低い中小企業の雇用やパートタイム労働者が増え、賃金水準全体が押し下げられた。男女間の賃金水準は男性を100とした場合、女性は71・3となり、前年の70・9から0・4ポイント上昇し男女の格差は縮小した。女性の社会進出が進み、勤続年数が伸びたためとみられる。パートタイム労働者の1時間あたりの賃金は、男性が1095円、女性が1007円でともに過去最高だった。昨年4月に施行された改正高年齢者雇用安定法で、60~64歳の再雇用が増えたのが要因。

*2-4:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140226&ng=DGKDZO67368830V20C14A2PPF000 (日経新聞 2014.2.26) 独身なら「自分年金」 、2600万円を目標に
 女性が生涯独身でいることを決めたら、早めに老後資金の見通しを確認しよう。一般に女性は男性より長生きなうえ、公的年金の支給額が少ない。そのため年金の不足分を補う「自分年金」づくりを強く意識する必要がある。漠然とした不安を抱えるより、備えるべき額を把握してすぐに動き出した方が賢明だ。「私の年金、これだけしかないの?」。都内に住むシングルの会社員、山田涼子さん(41、仮名)は初めて日本年金機構の「ねんきんネット」で見込み額を調べてショックを受けた。このまま働き続けると65歳から受け取る年金は月14万円程度。マンション購入の相談で訪れたファイナンシャルプランナー(FP)に老後への備え不足を指摘され、慌てて家計の見直しと積み立てを始めた。山田さんの年金額は女性にしては少なくない。厚生労働省によると女性の厚生年金の平均月額は10万2千円。現役時代の給与と加入期間で決まるため、女性は男性より少ない傾向が顕著だ(グラフA)。女性が7割を占める非正規雇用では厚生年金の受給資格が得られないケースもある。その場合もらえるのは基礎年金だけになり、額はさらに少なくなる。ではシングル女性は自分年金をいくら用意すればいいのか。求める生活水準や死亡年齢、年金額、企業年金の有無などによって変わるが、FPの氏家祥美氏は60歳から平均寿命の87歳までに必要な資金として2000万円が目安になるという。
●賃貸なら余分に
 総務省の家計調査によると、60歳以上の女性単身世帯の平均消費支出は月15万円程度。年金がもらえない60~64歳分の約900万円は自分で用意する必要がある。加えて年金受給が始まっても65歳以上の単身無職世帯では月2万8000円程度不足するため、65~87歳に約740万円が必要で、これに入院などの予備費300万円を入れると2000万円程度になる。ただこれはあくまでも平均値を使った試算。例えば家計調査で住居費は月1万5千円程度と低く「賃貸住宅に住む場合は余分に準備しなければならない」。米運用大手アライアンス・バーンスタイン(AB)の後藤順一郎・未来総研ディレクターは「豊かな生活に必要な資金」として月額26万円を想定。この場合、自分で賄わなければならない老後の不足額は2611万円とシングル男性(674万円)の4倍近くに達する。「現役時代の賃金の低さと寿命の長さが大きな要因」(後藤氏)だ。後藤氏は「支出の合計額」から「収入の合計額」を引く方法で試算。65歳まで働き続け、65歳時点の平均余命(23.82歳)より余裕を見て30年間、つまり95歳まで生きる前提とした。65歳まで働いたことを考慮するため、収入は厚労省の賃金構造基本統計調査をもとに年金が月14万円、退職一時金1709万円と算出している(図B)。老後の生活費は見通しにくいが「現在の8掛け程度で考えるといい」(FPの山本節子氏)。親からの贈与や相続もありうる人は早めに話し合い、老後資金に織り込んでおいた方がいいだろう。ただ、こうして割り出した自分年金額も年金の支給開始年齢引き上げや平均余命の延びを考慮に入れると「さらに増える可能性がある」(後藤氏)ことは頭に入れておきたい。
●早めに積み立て
 シングル女性の中には「節約志向は強いが、普通預金や定期預金にそのまま置いている人を見かける」と氏家氏は指摘する。扶養控除などがある子持ち世帯に比べ「独身者は税負担が相対的に重くなりやすい」(同)面も見逃せない。マイホームを購入しても単身用の50平方メートル未満であれば、住宅ローン控除は受けられない。後藤氏は「資産形成では確定拠出年金や少額投資非課税制度(NISA)といった税制メリットのある制度を活用するのが一案」と助言する。「2000万円ためるのは無理と思う人も多い」(氏家氏)が、諦めるのは早計だ。後藤氏が示した自分年金額2600万円程度を40歳から積み立て投資で備える場合、年2%の利回りで月6万7千円弱、年3%では5万8千円でたどり着く。積み立て開始は早いほどいい(表C)。投資にリスクは付きものだが「長生きする可能性、今後の物価上昇リスクを考えると、運用である程度リスクを取ることを考える必要はある」(後藤氏)。しかし実際に準備を始めている人は多くない。年金シニアプラン総合研究機構が40、50代の独身女性を中心に調査したところ「老後の生活費が不安」と答えた割合が9割近くだったが「老後の生活設計をまだ考えていない」との割合が未婚者全体の46%を占めた。氏家氏は「結婚するかどうかは未定で、老後を真剣に考えることも先送りしている人は多い」と指摘する。まず年金額や企業年金の見込み額、保険の満期金などをチェックすることから始めてはどうだろうか。

*2-5:http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2014020502000237.html (東京新聞 2014年2月5日) 生活保護最多更新 昨年11月 人数・世帯とも増加
 厚生労働省は五日、全国で生活保護を受けている人が昨年十一月時点で二百十六万四千八百五十七人(前月比五百十九人増)となり、過去最多を二カ月連続で更新したと発表した。受給世帯数も百五十九万五千五百九十六世帯(同八百六十七世帯増)で、過去最多だった。厚労省は「働ける世代は、就職などで保護を抜け出した人もいて減少しているが、高齢受給者の増加が上回り、全体の増加につながった」と分析している。世帯別では、六十五歳以上の高齢者世帯が七十二万六百十六世帯(同千二百十八世帯増)で、全体の45%を占める。働ける世代を含む「その他の世帯」は前月より六百十一世帯減って、二十八万八千十九世帯だった。生活保護をめぐっては、昨年十二月に不正受給対策を強化した改正生活保護法が成立。政府は、消費税増税などに対応するため、保護費のうち食費や光熱水費に充てる「生活扶助」の基準額を四月から約0・4%引き上げる。

*3-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140222&ng=DGKDASGG1302M_Z10C14A2EE8000 (日経新聞 2014.2.22) 小1の夢 男女に違い 役割意識 TVで薄まる
 子供たちの将来の夢は男女で違う。クラレが2013年入学の小学1年生に将来就きたい職業を聞いた調査によると、1位は男子が「スポーツ選手」、女子は「パン・ケーキ屋・お菓子屋」。それぞれ調査を始めた1999年以降15年連続してトップを占めている。子供に就かせたい職業を親に聞いたところ、男子の親は「公務員」が1位で、「スポーツ選手」「医師」と続くのに対し、女子の親は「看護師」が90年代以降トップを占める。公務員、薬剤師も人気だ。かつて放送中止となった「私作る人、僕食べる人」という即席ラーメンのテレビCMは、女性が料理を作り男性が食べる、と性別によって役割を固定しているという批判を受けた。最近は白物家電や衣料洗剤の広告に男性タレントが相次ぎ登場。NHKは50年以上続く親子向け番組「おかあさんといっしょ」に加え、13年から「おとうさんといっしょ」の放送を始めた。一方で男女差の科学的分析も関心が高い。00年発売の「話を聞かない男、地図が読めない女」(アラン・ピーズ、バーバラ・ピーズ著、藤井留美訳)は行動や思考の違いを探り、ベストセラーになった。

*3-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140220&ng=DGKDASGG12001_S4A210C1EE8000 (日経新聞 2014.2.20) 女子高 20年で半減 大学ではリーダー育成
 男女別の高校は、全体から見れば数が少ない上に減少傾向が続いている。文部科学省の「学校基本調査」によると2013年度の女子のみの高校数は、20年前の1993年度から半減し324校。男子のみの高校は20年前から6割減った。98年度に99校あった女子のみの大学も13年度には79校にまで減り、近年は女性リーダー育成を目指す女子大が増えてきている。文科省によると、日本の女子中等教育のはしりは1872年(明治5年)に東京で開校した官立の女学校。1882年(明治15年)に東京女子師範学校付属高等女学校となり、この頃から小学校の他は男女別学が原則となった。帝国大学も当初は男性のみで、女性初の学生は1913年に東北帝国大学に入学した3人の「リケジョ(理系の女子学生)」だ。今や女性の大学進学率は45%を超えるが、女子大学生が増え始めた60年代には結婚前の教養として大学に行く女性がはばをきかせていると「女子学生亡国論」が世を騒がせた。80年代の「女子大生ブーム」では経済的に恵まれ、おしゃれな女子大生のファッションなどが注目を集め1つの社会現象になった。

*3-3:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9F%BC%E7%8E%89%E7%9C%8C%E7%AB%8B%E6%B5%A6%E5%92%8C%E7%AC%AC%E4%B8%80%E5%A5%B3%E5%AD%90%E9%AB%98%E7%AD%89%E5%AD%A6%E6%A0%A1#.E6.A0.A1.E6.AD.8C (フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)
埼玉県立浦和第一女子高等学校
●埼玉県立浦和第一高等女学校
●公立学校
●男女別学:男子校である埼玉県立浦和高等学校と同じように、県内最古の女子校
●2007年 附属幼稚園廃止。
●校歌:野上彰作詞、高田三郎作曲で、メロディーは優しく、女子高らしい雰囲気

*3-4: http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140220&ng=DGKDASGG1302N_U4A210C1MM8000
(日経新聞 2014.2.20) しなやかに駆ける(1)女子校の魔法 役割縛られず自由育む
 思い込みを吹っ切り、楽になりませんか? しなやかに駆け出し、あなたの強みを生かしませんか。
●本音の付き合い
 冬の三陸沖で30キログラムを超す機材と酸素ボンベをかつぎ潜る水中写真家の尾崎たまき(43)。東日本大震災後、魚の群れが戻って来る姿を撮り続ける尾崎は、ふと「女子高に通ったのが幸いした」と思うことがある。地元の漁師に撮影地点を教えてもらったり、漁に同行させてもらったりするには信頼を築くのが大切だ。「海の男」と「女の園」。別世界のようで共通点がある。懐に飛び込み自分をさらけ出すのに、「九州女学院(現ルーテル学院)高校時代に『女』を売りにせず『人』として腹を割る本音の付き合いをしたことが生きる」という。東京大学大学院助教の坂井南美(33)は星ができる過程を研究する宇宙物理学者。中高6年間を過ごした女子校、桜蔭学園で医者や研究者を目指す多くの同級生に恵まれた。「女子は文系、男子は理系という発想とは無縁でいられ、自分の可能性を狭めずに済んだ」。文部科学省によると、大学の人文系学部は女子が6割を超える半面、理系は3割。ただ「女子高の中には理系進学者の方が多いところもある」(教育ジャーナリスト、おおたとしまさ)。「良妻賢母を育てる」と始まった女子校も多いが、力仕事やまとめ役もすべて女子でこなし、男子の反応も気にならない。一歩外は男性主導の社会で、世間知らずとの指摘もある中、知らぬ間に染みつく「男女の役割意識」と距離を置けたことが道を開く。見渡せば元国連難民高等弁務官の緒方貞子や前米国務長官のヒラリー・クリントン、レディー・ガガも女子校出身だ。米国では男女別学の方が能力が伸びると見直され、別学が増えている。翻って日本の大学、高校に占める女子校の割合は年々減少。少子化や働く女性の増加という現実に、女子校自身も変わろうと道を探る。「良妻賢母だけでは時代に対応できない。社会に必要とされる力を身につけないと」。内閣府男女共同参画局長も務めた坂東真理子(67)は2007年に昭和女子大学長となり、キャリア教育にカジを切った。今は「就職率が90%と女子大トップ」を売り物にする。
●「運針」で集中力
 昨春、グローバルビジネス学部を新設。全員を米ボストンキャンパスに留学させる。3月にボストンにたつ杉下明直美(19)は「働き続ける武器に、まず語学力をつける」と意気込む。東京・池袋の進学校、豊島岡女子学園。旧加賀藩士夫人が1892年に開いた女子裁縫専門学校が前身で、毎朝、静まりかえった教室で生徒が一斉に白い布に赤い糸を走らせる。戦後から続く朝5分間の「運針」は時代も変わり、集中力を養う鍛錬になった。受験前の精神統一に役立てる生徒もいるという。「お嬢様学校」とも呼ばれた女子校。世に言う「女性らしい」人材を育てているように見えて、実は世界に羽ばたく強さも育んでいる。女性(Woman)を勇気づける魔法は気付けば社会の様々なところに息づいている。

*4:http://qbiz.jp/article/32352/1/
(西日本新聞 2014年2月18日) 育て!“リケジョ”の卵 26歳九大院生、女子児童の科学講座開設
 九州大大学院で遺伝子解析の研究をしている井上麻美さん(26)=福岡県久留米市北野町=が、地元の女子児童を対象にした科学講座「ガールズサイエンスチャット」を開設した。「身近な暮らしと結び付けることで、理数系に苦手意識を持ちがちな女子にも興味を持ってほしい」と、初回は、生理用ナプキンの構造を科学的に解説。「リケジョ」(理系女子)の卵を育てようと奮闘している。「みんな、生理って聞いたことあるよね。すてきな女子になるために大事なことなの」。今月1日、北野町の大城ますかげセンター。白衣をまとった井上さんが、3〜5年の女子児童7人に向かって切り出した。初回のテーマは「ナプキンのふしぎ」。児童らの年頃に抱きやすい、体の変化への不安を解消しようと選んだ。女性の体の仕組みを紹介した後、実験開始。各自がナプキンを切って細かくし、顕微鏡で観察した。初めは照れから消極的だった児童も「糸みたいなものがくっついてる」「こっちはつぶつぶが見える」と次第に真剣な表情に。つぶつぶの正体「高吸水性ポリマー」に水を加える実験では「水が一瞬で固まった」と驚きの声が上がった。井上さんは久留米高専を卒業し、現在、九州大大学院システム生命科学専攻に在籍する3年生。昨年から大学院の仲間とショッピングモールなどを回り、子ども向けの科学講座を開いている。自然豊かな北野町で生まれ育ち、虫や魚を取って遊ぶうちに理科好きになったという井上さん。今回の企画は地元への恩返しの思いを込めた。「科学を教えるだけでなく、何でも相談できる地域のお姉ちゃんになりたい」と話す。今後は男児にも門戸を広げ、野菜を使った密度測定の実験などを検討中。科学者を育む土壌を、こつこつ耕していくつもりだ。

| 男女平等::2013.12~2014.6 | 10:58 AM | comments (x) | trackback (x) |
2014.2.24 「放射能は安全、食べて協力」という誤った情報や説明は有害である。(2014.2.26追加あり)
     
 2014.2.24東京新聞       2014.2.20西日本新聞

(1)大切なものは何なのか
 私は、今生きている人の命と健康を守ることが一番大切だと考えている。しかし、地域を継続させることが一番大切で、その為には、今生きている人の命や健康を犠牲にしてもよいという考え方の人も多いようだ。そして、それが原発被害や食品汚染に関し、私と政策が一致しない人との価値観の違いだろう。

(2)放射能汚染食品による内部被曝の軽視
 「わが国の食品基準は、他国より厳しいので内部被曝の心配はない」と言う人がいるが、EUは、*1に書かれているように、汚染した食品1割に対し汚染されていない食品を9割食べるという希釈係数10%の前提で、内部被曝が年間1ミリシーベルト以下になるように設定しているものであり、EUの基準は、当然のことながら、食品からの内部被曝と同時に外部被曝を受けるという前提ではない。

 しかし、わが国の政府やメディアは、そのことを国民に周知しておらず、国民の多くは希釈を前提としていることを知らずに、基準値以下の食品ならそればかり食べても安全だと考えている。そして、「食べて応援」をキャッチフレーズにして、それを否定する発言は風評被害と断定しているのだ。

(3)甲状腺癌発症率のデータを無視
 *2に書かれているように、平時と比較しやすい福島の小児甲状腺癌の発症率は事故前の100倍以上で、チェルノブイリや広島原爆を超え、人類未踏の領域だそうである。これは、*3のように、伊藤病院の岩久建志医師らも日本甲状腺学会で、「東京の病院で3千人に行なった検査でも福島と同程度の膿胞が見つかった」と発表しており、*2が大げさすぎるわけではない。そして、フクシマ原発事故で外に放出された放射性物質の分量から考えれば、むしろこちらの方が納得できるのである。

 この検査結果については、①検査の精度が上がったため ②検査した母集団が多かったため などの解釈(弁解)もある。しかし、真実は、京都市などフクシマの影響を受けていない地域の同年代の子どもを同じ方法で検査して比較すれば、すぐに明らかになることだ。

(4)旧警戒区域の避難指示解除や浜岡原発再稼働は、人の危険を無視
 このような中、*4のように、フクシマ原発から20キロ圏の旧警戒区域が避難指示解除されることになった。住民から「早く自宅に戻りたい」という意見が出たとしても、それは、(2)(3)のような内部被曝情報を開示した上での意見ではなく、外部被曝も減っていない中での意見なのである。

 また、*5で、菅元首相が、「浜岡原発の安全審査申請は根本的に間違いで、当時から怖さが知らされていない」と述べているように、あまりにも人の命を粗末にする判断が続いており、その結果は恐ろしいものになる。このような状況で、国が「客観的」「科学的」と言っても、それを信用する人は少ないだろう。

*1:http://approaches.blog135.fc2.com/blog-entry-26.html
EU比較で食品基準安全は誤り-汚染食品から身を守るためにEUと日本の違い
 EUは、原発事故以前はセシウム1250ベクレルであり、事故後に日本からの汚染食品が実際に来ることを警戒し、国民の健康第一で基準を厳しくして500ベクレルにした。そのため、EUと比較して、日本の食品の旧基準(暫定基準)でも安全と思われがちだ。今まで政府はこの情報を積極的に利用してきたし、マスコミも垂れ流し続けてきた。しかし、これは間違っている。EU基準は食品の1割がその汚染レベルと想定しての輸入基準である。すなわち希釈係数10%としての基準である。汚染した食品1割に対して汚染されていない食品9割なら食品からの放射能の平均摂取量は10分の1になる。EUはその上で放射線被曝が年間で1ミリシーベルトを超えないように設定している。このことは下記JETRO資料に明記されている。そして実は日本の基準も一定の希釈を前提としている。しかし政府がその周知を怠っているので、多くの国民は食品の放射能基準が希釈を前提としていることさえ知らない。もし汚染食品だけを摂取するなら、大人の安全基準は50ベクレル/kgである。子供も場合はさらに低い必要がある。大人50ベクレル/kgの根拠については下記のブログ『子供に安全な食品とは』に示してある。簡単に言うと汚染食品を10分の1しか食べないのだから10倍汚染していてもいいという意味だ。だから日本の旧基準500ベクレルがEUとほぼ同様の基準だから安心だと言うなら、日本も汚染食品10%に対して汚染していない食品90%を食べる必要がある事を周知する必要がある。4月からの新基準で100ベクレルになったが、それでも50%の汚染されていない食品を食べることを前提としている。そのことを国民に周知すべきである。ところがそのことを政府は国民に周知しないため、多くの人は食品の放射能基準が一定の希釈を前提としていることを知らずに、政府の基準以下ならそればかり食べていても安全だと思っている。実際に国内で原発事故が起きてしまって放射能に汚染された食品の流通が日常化している状態で、暫定基準500ベクレルの時に政府の言うことを真に受けて積極的に食べて応援をしていたら、汚染食品1割に対して汚染していない食品9割なんて保証はどこにもない。もし積極的に汚染食品を食べていたら、10分の1に希釈しないどころか、放射能測定をまともにやっていない食品や基準超え食品も流通しているので、場合によっては濃縮だってある。
●新基準の再見直しも必要
 日本のように食品が広範囲に汚染している状況で、しかも日本では多くの国民が希釈を理解していないのに、希釈を想定とする食品基準は適切ではない。食べ続けても安全な数値に新基準を見直すことが必要だ。私は昨年から大人50ベクレル、子供はその5分の1以下だとずっと言っている。2011年11月の環境省地球環境戦略機関(IGES)の専門家会議でも、基準を下げろと農水省役人にも直接言った。それでも500ベクレルが1年続き、素直な国民は絆と食べて応援で騙された。そして勉強しないバカ学者はEUより安全と今も言い続けている。実際の被爆量は汚染食品と非汚染食品の摂取比率に密接に関係している。だから旧基準500ベクレルで汚染食品ばかり食べていたら安全でない。大人の場合は非汚染食品を90%食べて10分の1に薄めて50ベクレルにする必要がある。子供の場合は約5倍感受性高いので、50分の1に薄めて10ベクレルにする必要がある。すなわち子供は98%の非汚染食品を食べる必要がある。新基準は一般(乳児以外の子供を含む)100ベクレルなので、大人50ベクレルのためには非汚染食品を50%食べる必要がある。感受性の高い子供に対して5分の1の10ベクレルなので90%の非汚染食品が必要である。それなのに国民の命を軽視する日本政府は、乳児の新基準を許し難い50ベクレルとし、経過措置で4月以降も旧基準食品を流通させている。食品基準は国民一人一人がかなりの量の汚染されていない食品を食べることを前提としているのに、政府は国民にその周知を怠っている。それどころか、政府の基準は安全だ、流通している食品は安全だと国民に信じ込ませ、『食べて応援』キャンペーンをして汚染食品の摂取率を高めた。しかも民間の独自基準さえ妨害する。マスコミは知っていながら国民に伝えようともしない。国民が知らないのをいいことに政府は意図的に国民を危険にさらしている。政府とマスコミがしていることは国民への許し難い背信行為であり、世界の歴史にさえ永遠に残る犯罪行為である。今でも多くの人たちは食品基準の希釈という言葉も知らず、政府の基準以下ならそればかり食べていても安全だと思っている。政府が安全だと言った基準だから安心だと素直に信じて、積極的に東日本の食品ばかりを食べている人もいる。地域差もあるし個人の意識の差もあるので、国民が旧基準で10%、新基準で50%しか汚染食品を食べない保証などない。子供ならもっと事態は深刻だ。しかも食品基準は非汚染食品を一定比率食べることが前提なので、民間が実施している国より厳しい独自基準は必須なのに、事もあろうに政府は食品業界に独自基準をやめろと行政指導した。政府は今すぐ食品基準を再度見直し、大人50ベクレル、子供10ベクレル、幼児5ベクレル、乳児0ベクレルに改めるべきだ。さらに年内続ける予定の旧基準の経過措置をやめるべきである。ただちに食べて応援キャンペーンを中止して、国民に対して今ままで騙し続けてきたことを率直に謝罪すべきである。さらに政府の食品基準で想定していた希釈、すなわち汚染食品の摂取率についての真実を、広く国民に分かりやすく周知する義務がある。
●汚染食品から身を守るために
1)2012年3月末までの旧基準(暫定基準)では汚染食品を食べる量は、大人は10%以下、子供は2%以下にすることが必要です。すなわち大人は90%以上、子供は98%以上の汚染されていない食品を食べる必要があります。
2)2012年4月から実施の新基準でも、汚染食品を食べる量は大人は50%以下、子供は10%以下にすることが必要です。すなわち、大人は50%以上、子供は90%以上の汚染されていない食品を食べる必要があります。しかも新基準後も経過措置の名目で旧基準が継続する食品があるので注意が必要です。
3)政府は国民の健康より東電を助けることを優先させて、食べて応援キャンペーンを続けています。そして汚染食品の摂取率について、政府は責任逃れのためにこっそり情報公開だけして、国民への周知は怠り続けています。マスコミはこの事実を報道しません。
4)食品基準は非汚染食品を一定比率食べることを前提としているので、なおさら民間の独自基準は必須なのです。それなのに政府は、食品業界が国より厳しい独自基準で自主検査することやめろと行政指導しています。国民が知らないことをいいことに、政府は国の基準を超えてまで国民を危険にさらそうとしています。
5)上記での『汚染食品』とは、政府の基準値を超えた食品のことではなく、政府基準に従った食品のことです。もし政府基準値を超えた食品を摂取した場合には上記の比率でも安全ではなくなります。
(この記事でのベクレルの記述はベクレル/kgの意味です)

*2:http://saigaijyouhou.com/blog-entry-1802.html  福島の小児甲状腺癌、チェルノブイリや広島原爆を超える!発症率は事故前の100倍以上!人類未踏の領域に突入へ!
 2014年2月7日に福島県の甲状腺調査結果が公表され、甲状腺癌の疑いを含めて合計で75人も小児甲状腺癌の患者が居ることが判明しました。この検査は原発事故発生時に18歳以下だった22万5000人を対象としているため、発症率は22万5000分の75となります。小児甲状腺癌の発症率は日本臨床検査薬協会によると、100万人に1~3人です。これらの数字を当てはめて計算してみると、実に110倍から330倍というような値が出て来ます。つまり、政府が公式に発表している甲状腺検査の数値でも、福島県の小児甲状腺癌は福島原発事故前の100倍から300倍に増加しているということなのです!
 政府の検査は「数秒で簡単に終わってしまう」と指摘されている手抜き検査なのに、ここまで途方も無いほど高い値が出ている事は大変恐ろしいと言えるでしょう。福島の「75人」という値は、広島原爆やチェルノブイリ事故を遥かに超えている値で、人類が未だかつて経験したことが無いほどの異常値です。
甲状腺癌の手術をした後がネックレスみたいになることから、ウクライナやベラルーシでは「チェルノブイリネックレス」という言葉がありましたが、その時のベラルーシですら、最初の3~4年間は10人程度の発症数で収まっていました。ちなみに、ベラルーシは国です。それに対して、福島県は日本の一地方に過ぎません。福島県だけで、一国の甲状腺癌発症数を超えたということです。ハッキリ言って、桁が一つ違うというようなレベルではなく、桁が2~3個違うという状態になっています。政府や原子力村の関係者らは、「機材が昔とは違うから・・・」とか言い訳をしていますが、ちょっと機械が変化したくらいで発症率が数百倍に変化した事例なんて見たことも聞いたこともありません。本当に機械の変化でそんなに発症率が変化するのならば、具体的な資料やデータを提示して頂きたいと思います。福島県も「被曝(ひばく)の影響とは考えにくい」とか言っていますし、国や行政を待っていては、全てが手遅れ状態になってしまうでしょう。最終的には全てを隠すのは不可能だと私は思います。アメリカですら手を出すことが出来なかったほどの陸軍や特殊部隊を持っていたあのソ連が、甲状腺癌と放射能の関係を渋々認めるような状況に追い込まれてしまったのです。特定秘密保護法だろうが何だろうが関係なく、被曝の影響が本格的になったら、最終的には放射能被曝を認めるしか無い状況になってしまうと予想しています。
☆子どもの甲状腺検査 「甲状腺がん」と診断されたのは33人(福島14/2/7)
URL http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG0800P_Y4A200C1CR0000/
 東京電力福島第1原子力発電所の事故による放射線の影響を調べている福島県の「県民健康管理調査」の検討委員会が8日までに福島市で開かれ、甲状腺がんと診断が「確定」した子供は前回(昨年11月)の26人から7人増え、33人になった。「がんの疑い」は41人(前回は32人)。検討委の星北斗座長はチェルノブイリ原発事故後の甲状腺がんの発症経過や、今回見つかったがんの種類、大きさなどから「現時点では放射線の影響は考えにくい」と述べた。がんの発見率がこれまで考えられていたよりも高いことについては「症状がない人も含めた未知の調査で、比較できない」と説明した。しこりの大きさなどを調べる1次検査で約25万4千人の結果が判明し、1796人が2次検査の対象となった。

*3:http://inventsolitude.sblo.jp/article/63081238.html
(2013年3月3日) 子どもの甲状腺がんは年を追って急増する 親御さんは覚悟が必要
 2012/12/1付けの朝日新聞によると、東京の伊藤病院の岩久建志医師らが11/30、日本甲状腺学会で発表したところによれば,東京の病院で3千人に行なった検査でも福島と同程度ののう胞が見つかったという。2003年から2012/8まで同病院で甲状腺の超音波検査を受けた15歳以下の子ども2753人の結果を集計した結果、36%の子にのう胞が見つかった。経過観察中にがんなどの悪性の病気になる子どもはいなかった。一方、福島県が18歳以下の子どもに行っている甲状腺検査では、2011年度実施分の35%で、2012年度実施分では42%にのう胞が見つかっていた、と報じられている。東京で福島と同様な割合で甲状腺異常が見つかるのは、当然予測されるところだ。2011/3/15午前に強力なプルームが関東を襲っており、その後風向きの変化でプルームは福島県内陸に流れている。
 伊藤病院の医師の発表は解せないところがある。竹野内真里氏が伊藤病院に照会したら事故前のデータは発表できないと回答があったという。「東京の甲状腺異常は実は36%より多いはずです!伊藤病院に電話したが、なぜか事故前のみのデータは今のところ発表できないと。そうすると、事故後は福島と変わらないくらい高いはずです。異常をもたらす閾値を超えて、東京も被曝したと考えるのが妥当!」。私も福島第一原発事故後の検査では36%を大きく超えるのう胞が発見されたのだろうと思う。それを引き下げるために、過去の検査データを混ぜて薄めたと見ている。竹野内氏のツイートでは、関西と東京の子どものエコー検査をした医師から、「事故時に関西にいた赤ん坊は全くのう胞がないが、東京にいた赤ん坊は、ほぼ全員に小さいのう胞が数多く出た」と聞かされたとのこと。
 とにかく、子どもの甲状腺ののう胞を初めとする異常発生率は極めて高いと認識しておくべきだ。のう胞が見つかっても、すべてががんに進行するわけではないが、甲状腺がんになると転移が早いと山下俊一氏自身が述べているのだろから、危険は大きい。関東と南東北の9都県に15歳以下の子どもは575万人いる。上に書いた福島県の2012年度実施分のう胞検出率42%をこれに当てはめると、241万人。さらに甲状腺がんについては、福島県の健康管理調査の結果によると、検査対象者18万人のうち38,000人の結果がまとまり、甲状腺がんと確定した子どもが計3人、そして悪性腫瘍の疑いありとされる子どもが7人なので、3800人に1人が甲状腺がん発症かその疑いが強いという状況になっている。
 チェルノブイリ事故被災地の甲状腺がん発症率は、いくつかデータがあるが、深川市立総合病院内科部長の松崎道幸医師による意見書のデータを引用すれば、1万4千人に一人となる。日本では、チェルノブイリ事故のときに比して、症状の出方が早いとされている。チェルノブイリ被災地の小児甲状腺がんの年次別発症数に関するデータは、いくつかあるが、どれが信頼に足りうるのか、判断がつかない。今中哲二氏の論文チェルノブイリ原発事故による小児甲状腺ガン、長崎大学大学院医歯学総合研究科原研細胞山下俊一氏のスライドチェルノブイリ原発事故と甲状腺がんのどちらでも、事故後の数年は少なくてもその後、10年、15年かけて増加している。今中論文によれば、ベラルーシでは9年目には2年目の9倍くらいに増えており、日本でもこの倍率で増えれば単年で0.237%の発症率となり、これが何年も継続する。仮に5年継続したとすれば発症率は1.185%、それ以前の発症分を含めれば、1.5%程度にいく可能性が高い。この推計によれば、10年、15年の間には累計で上の表のD欄にある数字の50倍程度の人数が甲状腺がんを発症し、全摘手術を受けなければならないだろうと恐れる。(中略)
※2013/3/2のラジオフォーラム第8回番組での小出裕章氏の発言
「チェルノブイリの事故で、4年後から甲状腺ガンが出たという主張は、まずそれ自体が誤りです。4年後には、もう明確に出て来たということなのであって、1年後から甲状腺ガンがもう発生していますので、経験から見ても、注意をしなければいけないということだと思います。そして、今回福島で検出された甲状腺ガンの発生率というのは、これまででは決してあり得ないような発生率になっています。それを見て、まあ山下さんとかですね、そういう方々は、いや、検査のやり方が向上しているから見つかっているのだということをおっしゃっているわけですけれども、言葉を変えて言えば、それより前は検査自身をしていなかったということなのです。ですから、前のことは分からないのですね、どうであったかということが。それで科学というものはですね、元々分からないものは分からないと言わなければいけないし、分かったことを分かったと言うのが本来の科学のあり方だと私は思います。今、山下さんを含めて、福島県で甲状腺ガンの発生を否定したがっている方々は、分からないものに関して、いやそうではないというような結論を出してしまっているわけで、元々科学的な態度とは言えないと私は思います。私自身も本当にこの甲状腺ガンが被ばくの影響かどうかということは、申し訳ありませんが、確信を持っては言えません。しかし、だからこそきちっと分からないので調べなければいけないと言わなければいけないのだと思います。

*4:http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/nucerror/list/CK2014022402100005.html (東京新聞 2014年2月24日) 
【福島原発事故】旧警戒区域で避難指示、初の解除 4月、田村市都路地区
 東京電力福島第一原発事故による旧警戒区域で、現在は避難指示解除準備区域となっている福島県田村市都路(みやこじ)地区の避難指示が四月一日に解除されることが二十三日、決まった。原発から二十キロ圏の旧警戒区域で初の避難指示解除となる。近く、政府の原子力災害対策本部で正式決定する。政府と市、住民が二十三日、田村市内で協議。住民からは「早く自宅に戻りたい」と避難指示解除を求める意見が出た一方、放射線量や健康への不安から反対の声も上がったが、原子力災害現地対策本部長を務める経済産業省の赤羽一嘉副大臣が「四月一日解除」を表明し、協議は終了した。協議の中で、政府は「除染で放射線量が下がった」とした上で「除染を繰り返しても効果は限定的なので、再度一律に面的に実施することはしない」と、事実上の打ち切りを表明。放射線量のモニタリングや、線量が高い場所の土壌の除去などは続けると説明した。避難指示解除準備区域は、日中しか滞在できず、夜は避難先に戻らなければならないが、都路地区は昨年八月から特例として夜間も過ごすことが認められている。政府と市は昨年十月に「十一月一日解除」を住民に提案したが、放射線への不安などから反発が強く、いったん取り下げていた。

*5:http://digital.asahi.com/articles/ASG2G4448G2GULFA00L.html?iref=comkiji_redirect&ref=rss (朝日新聞 2014年2月15日)
菅元首相「根本的に間違い」 浜岡原発の安全審査申請に
 2011年5月に浜岡原発の停止を中部電力に求めた菅直人元首相は14日、朝日新聞の取材に応じ、浜岡原発の安全審査申請について「根本的に間違っている」と批判した。主なやりとりは以下の通り。
●再稼働に向けた手続きが動き出しました。
 「当時、30年以内にマグニチュード8程度の地震が発生する可能性が87%との数字があった。浜岡が事故を起こせば、100万人単位の避難が必要になる。東海道新幹線や東名高速など日本の大動脈、自動車産業も大打撃を受ける。その対策ができていなかったので止めた。その前提はまったく変わっていない。再稼働に向けた審査を申請するのは根本的に間違っている」
●首相としての要請は「超法規的措置」でした。
 「あり得ないと言われていた原発事故が実際に起きた。あす大地震が起きるかもしれないのに、法律を整備してからやりますというのか。国民の安全と安心を考えて政治判断した。総理としてやらざるをえなかったし、やるべきだった」
●中部電は防潮堤新設などの対策をとりました。
 「原発の安全対策は大きく二つある。一つは地震や津波などで事故が起こらないようにするための技術的な対策。もう一つは事故が起きた場合に住民がどう避難するか、どう被害を防ぐかの対策だ。原子力規制委員会が判断するのは技術的な対策だけだ。住民避難にだれが責任を負うのかもあいまいだ」。「政府も中部電も、絶対に事故が起きないとは言っていない。たとえ100年に一度であっても、国がつぶれるようなリスクは負えない。浜岡は事故が起きた時の被害が特に大きい」
●原発がほとんど動かない状態が続いています。
 「天然ガスや石油代がかかっているのは事実だが、国民生活も経済活動も成り立っている。原発がなくてもなんとかなることを実証したといえる。事故のコストを考えれば経済的にも原発を止めた方が安い」
●都知事選では「原発即ゼロ」を掲げた細川護熙元首相らが敗れました。
 「当時の怖さが忘れられているのではなく、知らされていない。福島第一原発4号機の使用済み燃料プールに水が残っていたのは、まったく偶然だった。東京に人が住めなくなるリアルな恐怖感が、残念ながら国民に共有されていない。細川さんも小泉純一郎元首相も、総理経験者だからこそ『こんな事故が起きたら』と強く感じたのだろう」
●安倍政権は原発を活用していく方針です。
 「福島事故の前と基本的な考え方が同じだ。やっぱり事故は起きない、今度は大丈夫と。自然災害はコントロールが難しいが、原発はやめればいい。技術的には一番簡単だ」。


PS(2014.2.26追加):下のように、EUは、フクシマ後に行っている日本産食品の輸入規制を緩和するそうだが、日本の消費者にとって重要な情報は、EUで輸入規制が緩和されることではなく、①今まで輸入規制されていたこと ②一部地域の米・大豆・そば・きのこ類・山菜・水産物は従来通り検査証明書が必要で、福島県で生産されていない茶以外の全ての食品に産地証明書も必要となっていること である。

*6:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=26171
(日本農業新聞 2014/2/25) 日本産の野菜、果実、茶、畜産物 EUが輸入規制緩和
 欧州連合(EU)は、東京電力福島第1原子力発電所事故後に行っている日本産食品の輸入規制を緩和することを決めた。3月の欧州委員会での議決後、4月1日から適用する。福島県以外の野菜や果実、茶、畜産物には放射性物質の検査証明書を要求せず、茶は産地証明書も要求しない。対象品目は、検査に掛かる費用や手間がなくなり輸出しやすくなる。日本茶をはじめ欧州で人気の日本産食品にとっては、需要拡大の追い風となる。
●証明書の対象縮小 4月から適用へ
 EUの輸出規制をめぐっては、林芳正農相が1月のベルリン農相サミットに出席時、ボルジ欧州委員(保健・消費者政策担当)に緩和を要請していた。改正では、検査証明書を求める範囲を見直した。福島県以外の野菜や果実、茶、畜産物は検査証明書を求めず、東京都と神奈川県は、全ての食品で検査証明書を不要とした。福島県以外の茶は検査証明書、産地証明書の両方が不要となる。日本からEUに食品を輸出する場合、産地証明書が必要だが、茶は福島県内でほとんど生産がないことを考慮。例外的な扱いとして、産地証明書を求めないことにした。通関時のモニタリング検査も緩和した。現在、5%の検査を要求しているが、加盟国の判断で5%以下にできる。サンプル抽出後は検査結果を待たずに通関を許可する。これまでは検査が終わるまで品物が数週間取り置かれ、倉庫代などの費用がかさむケースもあったが、今回の措置で改善される見込みだ。一方、福島県産の全食品と飼料、一部県の米や大豆、そば、きのこ類、山菜、水産物は従来通り検査証明書が必要。茶以外の全ての食品には、産地証明書も必要となる。

| 内部被曝・低線量被曝::2012.9~2014.4 | 07:54 PM | comments (x) | trackback (x) |
2014.2.22 大したことのない雪が、雪害に結びつかないように準備しておくべき (2014.2.23追加あり)
   

 今日は、少し簡単な話題について記載します。雪害は、私が衆議院議員をしていた2005~2009年の間も毎年あり、国は、多くの除雪費用を支出していました。そのため、私は、毎年消えてしまう除雪費用に支出するよりも、①建物や道路が雪に強い街を作る ②除雪ができなくなったお年寄りは、近くに集合住宅を作り、今まで住んでいた家と交換して移ってもらう 等をした方が安くつきそうだと考えました。

(1)雪下ろし・雪掻きについて
 *1、*2に書かれているとおり、確かに、過疎化・高齢化で、お年寄りが一人で雪下ろしを担わなければならない家が多くなり、雪下ろしが危険な作業となり、それを解決するには、短期的には雪下ろしや雪掻きを手伝ったり、その費用を国が支出することが必要である。しかし、中長期的には、建物や道路を雪害に強くする構造にするために支出し、災害全般への備えを固めた方が安上がりだと、私は思う。

 そのため、下に、スウェーデン、北米、カナダ、ロシアなど、冬の気温が低く雪が多い地域の家を掲載した。ゴミや間伐材を焼却して発電した上、温水を作って道路に流し、道路の雪を溶かすなど、道路に雪積させない構造にすることも可能だと思うので、技術をつくして安上がりに解決してもらいたい。また、屋根の傾斜を強め、地下水(年間を通して16度C前後)・空気熱・自家発電による電力などを使うことによって、屋根の積雪も防げるだろう。そして、これらの技術が確立できれば、それも輸出できる。

   
スウェーデン・オール電化     北米            カナダ           ロシア

(2)農業用ハウスの被害について
 また、山梨県や埼玉県の農業用ハウスが積雪で倒壊して作物が被害を受けたそうだが、私は、前から農業用ハウスの作りは貧弱すぎると思っていた。そこで、北海道の農業用ハウスを下に掲載するが、やはり屋根の傾斜と雪質の違いのせいか、今回の山梨県や埼玉県での積雪くらいでは倒壊していない。

 農業用ハウスも、屋根の傾斜、空気の循環、頑丈さなどを改善することにより、「たいしたこともない雪で!?」と雪国の人に笑われない程度の災害対策はできる筈だ。しかし、しっかりした農業用ハウスの建設費用が異常に高いのは、どう考えても暴利をむさぼっていると思う。

   
                     北海道の農業用ハウス

*1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S10959276.html?iref=comkiji_redirect 
(朝日新聞 2014年2月3日) (災害大国 あすへの備え)雪害、増える死者 除雪中が7割超、高齢者が大半
 「雪害」による死者数が2000年代に入ってから増え、最大で以前の10倍に上ることが国土交通省の分析でわかった。降雪量が同水準の年同士を比べた。大半は除雪作業中の事故だといい、国交省は過疎化や少子高齢化で、危険な雪下ろしをお年寄りが担わざるを得なくなったことが背景にある。
■豪雪地帯、背景に過疎化
 昨年度までの3年間、年間死者数が100人を超える深刻な事態が続いており、国交省は豪雪地帯への国の支援策を検証する方針だ。調査では、国が豪雪地帯に指定する24道府県532市町村の1988~2012年度の年間降雪量を平均。除雪作業中の事故、落雪事故、雪崩といった雪害による死者数(03年までは暦年ベース)との関係を調べた。平均降雪量が300~400センチの年の死者数は、88~99年が9~29人だったのに対し、00年以降は12~59人だった。400~500センチ超の年は88~99年が14~28人だったのに対し、00年以降は52~152人だった。国交省によると、12年度までの3年間の雪害による死者は計368人。278人(76%)が雪下ろしなど除雪中の事故で、このうち、70%を65歳以上が占めた。担当者は「若者が減り地域コミュニティーが衰退した影響が、数字に如実に反映している」と言う。豪雪地帯では80年代半ば以降、人口が8%近く減少。特に雪が多い特別豪雪地帯に限ると、減少率は17%弱に上る。一方、高齢化率は全国平均の22・8%に対して、豪雪地帯で26・1%、特別豪雪地帯で29・2%に達しているという。
■災害全般の備え再考を
 東北工業大の沼野夏生教授(都市・地域計画)の話 50~60年ごろは死者に占める65歳以上の割合、屋根からの転落者の割合はいずれも数%だった。雪による被害の増加は、高齢化・過疎化が災害への備えも弱らせていくという現実を表している。豪雪地帯に限った話ではない。巨大地震や風水害に対する備えも弱っていくことが予想される。雪害対策とともに、備え全般について考える必要がある。
◆キーワード
 <豪雪地帯> 豪雪地帯対策特別措置法に基づき、激しい積雪で、産業の発展や住民生活の向上が妨げられていると国が指定した地域。指定を受けると、雪崩対策や道路整備といった様々な事業への支援を受けられる。24道府県(北海道、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、栃木、群馬、新潟、富山、石川、福井、山梨、長野、岐阜、静岡、滋賀、京都、兵庫、鳥取、島根、岡山、広島)にまたがり、国土面積の約51%を占める。とりわけ長期間、車の通行ができなくなるような大雪が降る特別豪雪地帯は国土面積の約20%。

*2:http://www.shinmai.co.jp/news/20140216/KT140215ETI090004000.php
(信濃毎日新聞 2014年2月16日) 記録的豪雪 除雪への備え見直そう
 関東甲信や東北の各地が記録的な豪雪に見舞われた。長野県全域で被害が出ている。悩ましいのは除雪の問題だ。国や県、市町村から委託された建設業者がフル稼働しているが、生活道路までは手が回らない。2週続けて週末に大雪が降ったこともあり、役所には「早く除雪を」「融雪剤をまいて」「雪で水路があふれている」といった要望や苦情が殺到している。業者頼みの除雪には限界がある。それぞれの自治体は、委託方式を見直すとともに、住民の協力を得られやすい仕組みづくりを工夫してほしい。高齢化が進むなか、支え合いの輪を広げることが、ますます大切になっている。松本市では8日、全国で2番目の積雪量を記録した。幹線道路で車が立ち往生し、凍結した雪で凸凹になった路面や歩道が市内のあちこちで見られた。市民から苦情が相次ぎ、菅谷昭市長は会見で陳謝。建設業者の機動力を検証する考えを示している。公共事業が削減されてきた影響で、除雪を受注できる建設業者は全国的に減っている。除雪はもともと、業者にとって採算の合う仕事とは言い難い。除雪機は冬しか使わないのに多額の維持費がかかる。稼働状況に応じて委託料が支払われるため、雪が少ない年は人件費などが大きな負担になる。公共事業の受注を目指す業者の貢献姿勢に、自治体側が甘えてきたのが実情だ。国土交通省の有識者会議が2年ほど前、例えば夏の除草と組み合わせて複数年契約を結ぶなど、発注方法を見直すよう提言した。重労働に見合う委託の在り方を、各自治体にあらためて求めたい。業者の除雪が追い付かないからといって、住民個々に責任を押し付けるのは酷だ。どの地域でも高齢者世帯が増え、雪かきの担い手が不足している。一人で雪かきをしていた高齢者が事故に遭う事例も後を絶たない。めったに大雪が降らない市町村が、豪雪地帯のように雪害対策救助員や、県外ボランティアを確保するのは現実的でないのかもしれない。それでも職員自身が加わって、自治会や町内会に相応の備えを促すことはできる。事業所も巻き込めば、平日の日中でも若手の動員を見込めるだろう。時には「雪かき塾」を開き、こつを学びつつ住民同士の交流を深めるのもいい。いざという場合を意識した取り組みは、雪害に限らず、災害全般の備えを強めることにもなる。


PS(2014.2.23追加):*3の規模の被害なら、国の補助率が高くなる激甚災害の指定を受けられるが、この機会に、単なる復旧ではなく、よりよい方向への改善を行うことが望まれる。

*3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=26112
(日本農業新聞 2014/2/22) 大雪被害額本紙まとめ 農業 最低でも480億
 今月14~16日にかけて降った大雪による農業被害額が、17道府県で少なくとも480億円に上っていることが21日、日本農業新聞の各県への聞き取りなどで分かった。各地で園芸用ハウスや畜舎の倒壊が相次いでいるが、除雪や復旧作業が遅れている地域もあり、全容の把握にはまだ時間がかかりそうだ。被害総額は今後さらに増える可能性が高く、JAグループは農家の経営再建に全力を挙げている。
 被害は関東甲信を中心に、北海道~近畿の太平洋側と九州にまで及んでいる。東北は宮城、福島両県がそれぞれ1億円を超す。岩手県は沿岸北部中心にパイプハウスが90棟近く損壊。雪で現地確認が難しい所もあり、全容がつかめない状況だ。
 埼玉県は21日、229億円と発表。19日時点の22億円余から調査が進み10倍に膨らんだ。全域で農業施設の損壊が相次いだ。搾乳、集乳ができず生乳の廃棄に追い込まれる農家もいた。静岡県東部などでも酪農が被害を受けた。
 群馬県は18日時点で140億円。内訳はイチゴ、キュウリ、トマトなど農作物が70億円、ハウスの損壊・倒壊で67億円。家畜は1億4000万円で、鶏舎の屋根が潰れて鶏21万羽が圧死するなどの被害が出た。雪の被害としては過去最大となる見通しで、JAグループ群馬は被災農家を支援するため「豪雪に係る災害対策本部」を立ち上げ、被害実態の把握と経営再建に当たっている。
 記録的豪雪となった山梨県では、農業施設の被害面積が20日までで過去最大の173ヘクタールに達している。園芸用ハウスの他、JAの共選場も2カ所で損壊した。被災した範囲が広いため「被害額の把握にはまだ時間がかかる見込み」(県災害対策本部)という。
 栃木県では主要農作物のイチゴなどが打撃を受けた。19日までに判明した被害額は70億円に達している。特に県南部で被害が大きい。
 長野県は被害実態が見通せない状況が続く。19JAでハウス倒壊などの報告があるが、除雪作業に追われ被害金額は3JAでしかつかめていない。
 九州でも被害は広がっている。大分県は19日時点で10億円を超えた。

| まちづくりと地域振興::2011.8~2014.4 | 10:07 PM | comments (x) | trackback (x) |
2014.2.21 武器輸出三原則見直しと原発ゼロの関係も問題にすべきである。 (2014.2.22追加あり)
  
                フクシマ                   *2-4より

(1)日本の原発は、何故、止められないのか
 *1-1に書かれているとおり、経団連が武器輸出三原則を緩和するよう求める提言を自民党の国防関連会合に示し、国産品の輸出を認めることを求めているそうだが、これは、日本が平和国家の看板を下ろし、武器禁輸政策を変更するという意味を持つものであり、ここでビジネス優先の論理を通せば日本の平和主義の理念が問われる。

 また、*1-1によると、政府は、「安保上の利益がある国」や「国際的な平和や安定に資する場合」は武器輸出を認め、大規模な国際共同開発を国が主導して輸出先の国に訓練・運用を支援するそうだが、具体的に、どういう武器を売るつもりか。まさか、唯一の被爆国で平和主義国家の日本が世界に核兵器を輸出することはないと願いたいが、原発を辞められない本当の理由は核兵器開発目的だと言われる。

 防衛産業の存続や育成のために平和主義の理念を捨て、日本製の武器や装備が紛争国に広がれば、アメリカのように、その武器の消費のために一定期間ごとに戦争をしなければならず、わが国は恨まれてテロの標的になりやすく、戦争にも巻き込まれやすい。これと、*1-2の核の不拡散や核テロ対策への取り組みを一層強化する方針を表明するというのは矛盾しており、慎重な議論が必要である。

(2)事故の真実も報道できず、人がコントロールすることもできないフクシマ原発事故
 *2-1のように、東京電力は、昨年7月に楢葉町の井出川河口付近で見つかった高濃度の放射性物質に汚染された四つの物体を「福島第一原発内にあった構造物」と断定したが、原発から南に約15キロメートル離れた場所で、原発内にあった構造物が発見された理由は、不明として説明を避けている。

 また、*2-2のように、炉心溶融事故を起こしたフクシマ2号機の原子炉圧力容器の底についた温度計が誤操作による故障で壊れて測定できなくなり、その温度計は、圧力容器の底にある溶けた燃料が再臨界しないか、冷温停止状態が維持できているかを常時監視しているものだと東京電力が発表した。フクシマ2号機は再臨界したのだという人もおり、原発で誤操作や故障が多すぎるのは、東京電力(他の電力会社も同じ)が、もともと原発を使う資格や能力がないか、再臨界の事実を隠していることになる。

 さらに、TVは大雪やソチ・オリンピックに関する冗長な報道しかしていないが、実際には、*2-3のように、フクシマの地下水で2014年2月12日に採取した地下水から1リットル当たり、セシウム137が5万4000ベクレル、セシウム134が2万2000ベクレルというこれまでの最高値のセシウムが検出され、セシウム137の濃度は、国の海への放出基準の600倍に当たるそうだ。そして、濃度は日々上がっているが、これも漏れた具体的な場所は特定されておらず、これでは事故時からこれまでの測定値が正しかったかどうかも疑問である。

 その上、*2-4のように、2014年2月20日、東京電力は、フクシマで原子炉を冷却した後の水を貯蔵するボルト締め型タンクの上部から約百トンの処理水が漏れて周辺敷地に流れ出したが、処理水には一リットル当たり二億ベクレル超と超高濃度の放射性ストロンチウムなどが含まれており、これも「誤って」水を入れすぎたのが原因と発表した。このようなことを続けていれば、その付近の線量が上がり、その付近には人が近づくことすらできなくなるだろう。

 そして、*2-5のように、東電は、今頃、フクシマの貯蔵タンクにたまった汚染水を、浄化装置「ALPS(アルプス)」で、全て浄化するのは困難であることを発表した。これは、最初から全て浄化して排出し、決して海を汚さないという真剣さがなかったということである。

(3)これらにより示された民意は、原発再稼働拒否である
 そのため、*3-1のように、原発再稼働のみについて投票したわけではない東京都知事選でも、原発「即ゼロ」の候補が193万票を獲得し、「脱原発依存」の舛添氏の得票211万票に迫った。

 また、*3-2のように、2月14日~16日に全国の有権者2035人に原発再稼働について質問した結果は、安全基準を満たした原子力発電所の再稼働を「支持する」と答えた人が32.9%、「支持しない」と答えた人が54.3%であり、今後の電力供給について、原子力発電を一定程度続けていく方針を「支持する」と答えた人が34.0%、「支持しない」と答えた人が50.0%である。

 つまり、想定外、不明、ミスだらけで、人間がコントロールすることすらできず、真実を報道することもできない、電力会社や”専門家”への明確なNoなのだ。

(4)電力会社は、原発再稼働を促す目的の値上げを主張するべきではない
 *4-1のように、原発のストップにより、電力会社の経営が圧迫され、北海道電力が再値上げ表明し、九電なども追随しそうだと書かれている。

 これに対し、*4-2のように、「原発維持が目的だ」と北海道電力の再値上げ方針に批判や反発が相次いでいるが、電力会社の燃料費については、本当は、地域独占による燃料の高値買いや円安の影響の方が著しく大きいのだ。

 そして、*4-3のように、脱原発を主張する団体「伊方原発50キロ圏内住民有志の会」がフクシマ事故当時、福島県双葉町長だった井戸川克隆氏を招いて福島の現状を話してもらおうと講演会を企画したが、施設の利用を拒否されたそうで、このような妨害は、民主主義国家にあるまじきことである。

(5)国は、原発を「重要なベース電源」から「重要なベースロード電源」に変え、核融合を追加した
 そのような中、*5のように、エネルギー基本計画の政府案は、民意に対してそしらぬ顔で、原発を「重要なベースロード電源」と位置づけ、安全を確認できた場合は再稼働する方針を明確にするそうだ。そして、核融合の研究を進めることも新たに加えたそうだが、エネルギーが大きく、事故時には人間の手に負えず、生物(人間を含む)に危険を与える原子力を発電に使うのは、核分裂か核融合かを問わず、代替的発電方法が豊富で、かけがえのない地球で行うべきでない。

 しかし、国は、このように原子力にむしゃぶりついているため、*6のように、函館市が、建設中の大間原発の建設を差し止める訴訟を始めた。豊かな海を、視野の狭い人間が原発で汚し、環境や農林漁業にこれ以上の悪影響を与えれば、日本には国産の食べ物がなくなり、輸入するしかなくなるため、本当の意味で貿易収支は赤字になる。そのため、このような地方自治体の行動に期待するしかないのだ。

*1-1:http://www.kyoto-np.co.jp/info/syasetsu/20140214_3.html
(京都新聞社説 2014年2月14日) 武器輸出  ビジネス優先許されぬ
 経団連が武器輸出三原則を大幅に緩和するよう求める提言を自民党の国防関連会合に示した。防衛装備品の共同開発だけでなく、国産品の輸出を認めることや政府内に武器輸出を専門に扱う部局を設けるよう求めている。安倍晋三政権が進めている武器輸出三原則の見直しを後押し、あるいは便乗しようとの思惑だろう。歴代政権が踏襲してきた武器の禁輸政策の変更を迫るもので、ビジネス優先の論理がまかり通るようなら、戦後築き上げた平和国家の看板が傷つくばかりか、足元が揺らぎかねない。提言は三菱重工業や川崎重工業など、防衛関連産業約60社でつくる経団連の防衛生産委員会がまとめた。1970年代に禁輸政策として定着した武器輸出三原則を大幅緩和したのは民主党の野田政権だが「積極的平和主義」を掲げる安倍政権は輸出基準の明確化など一層の見直しを目指している。提言では、安全保障面で重要な関係を持つ国に対する装備品の移転が、日本や国際社会の安保に資する場合には幅広く輸出を認めるよう主張。その上で装備品を第三国に移転する際の事前同意の条件を緩めるよう求めている。政府も新たな原則として「安保上の利益がある国」や「国際的な平和や安定に資する」場合には武器輸出を認める方向だ。装備品を第三国に移転する際に求めていた事前同意についても例外規定を設ける見通しで、専門部会の提言はぴったり重なる。そればかりか、大規模な国際共同開発は国が主導し、輸出先の国には訓練・運用を支援するよう求めるなど、より踏み込んだ内容となっている。背景には防衛関係予算が頭打ちになる中、防衛産業全体の弱体化に対する危機感がある。採算割れなどから撤退する企業も多く、厳しい状況に置かれているのは確かだが、防衛産業自らの存続や、防衛産業育成のために国の理念や政策を曲げては本末転倒だろう。武器輸出の市場は中東やアジア諸国向けが全世界の7割を占めるという。武器輸出が緩和されれば政府や経団連が期待する国家戦略に位置づける輸出品となるかもしれないが、一方で日本製の武器や装備が紛争当事国に広がる恐れのあることを忘れてはならない。官民一体となった武器の輸出拡大策は、国是である平和主義の根幹を崩しかねない。かつて、経済的利益を第一とする日本人の態度はエコノミックアニマルと皮肉られたが、敵味方を問わず兵器を売る「死の商人」になってはならない。

*1-2:http://www.saga-s.co.jp/news/global/corenews.0.2636924.article.html
(佐賀新聞 2014年2月20日) 首相、核テロ対策強化表明へ / 核サミットで積極的平和主義発信
 安倍晋三首相は3月24、25両日にオランダのハーグで開かれる「第3回核安全保障サミット」に出席し、参加国との連携を通じて核の不拡散や核テロ対策への取り組みを一層強化する方針を表明する意向を固めた。北朝鮮の核開発の動きについても言及し、自らが掲げる「積極的平和主義」について理解を求める方向だ。政府関係者が20日、明らかにした。 訪問時期は2014年度予算案の国会審議が大詰めを迎えるため、政府内では首相の出席は難しいとの見方もあったが、首相は被爆国である日本の首相がサミットに出席する意義は大きいとして、当初から出席を強く望んでいた。

*2-1:http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/fukushima/news/20140213-OYT8T01319.htm?from=tw (読売新聞 2014年2月14日) 原発内構造物と東電がほぼ断定
 東京電力は、昨年7月に楢葉町の井出川河口付近で見つかった高濃度の放射性物質に汚染された四つの物体について、「福島第一原発内にあった構造物」とほぼ断定した。発見場所は同原発から南に約15キロ・メートル離れている。原子炉建屋の水素爆発で飛び散ったのか、海から流されてきたのかなど、理由は不明という。東電が12日に発表した。四つの物体の材質はポリエチレンや木などで、全長2~16センチ、重さ0・3~6・9グラム。放射性物質はセシウムが最大292万ベクレル、ストロンチウムなどベータ線を出すものを合わせて同250万ベクレルだった。付近の土壌と比べてセシウムの濃度が高いことや、原発敷地外では検出されていない放射性コバルトが含まれていたことから、原発内にあった構造物の可能性が高いとした。

*2-2:http://digital.asahi.com/articles/ASG2M6GK6G2MULBJ016.html?iref=comkiji_redirect
(朝日新聞 2014年2月19日) 原子炉の温度計故障 炉心溶融事故の福島第一原発2号機
 東京電力は19日、炉心溶融事故を起こした福島第一原発2号機の原子炉圧力容器の底についた温度計が壊れて測定できなくなったと発表した。もう一つある温度計で監視しているという。東電は、誤操作による故障とみている。温度計の異常に気づいたのは18日午後。事故後に新しくつけた温度計が壊れた。18日午後に温度計を点検した際に想定以上に電圧をかけ、壊したという。現在、事故前からついている別の温度計で監視している。壊れた温度計は、圧力容器の底にある溶けた燃料が再臨界しないか、冷温停止状態が維持できているかを常時監視している。

*2-3:http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140213/t10015214951000.html?utm_source=twitterfeed&utm_medium=twitter 
(NHK 2014年2月13日) 原発地下水で最高値のセシウムが検出
 東京電力福島第一原子力発電所で地下水の汚染を調べるため、海側に新たに掘られた井戸の水から、これまでで最も高い濃度の放射性セシウムが検出され、東京電力は周辺の井戸に比べて値が高いことなどから、この近くに汚染水が漏れた場所があるとみて調べています。東京電力によりますと、福島第一原発2号機の海側の海からおよそ50メートルの場所に新たに掘った観測用の井戸で、12日に採取した地下水から、1リットル当たり▽セシウム137が5万4000ベクレル、▽セシウム134が2万2000ベクレルと、いずれもこれまでで最も高い値で検出されました。このうちセシウム137の濃度は、国の海への放出基準の600倍に当たり、すぐ北側の井戸で今月6日に採取した水と比べて3万倍以上高い値でした。福島第一原発では、建屋から海側の地下に伸びる「トレンチ」と呼ばれるトンネルから汚染水が漏れているとみられ、海への流出を防ぐ対策が取られていますが、漏れた具体的な場所は特定されていません。放射性セシウムは土に吸着しやすく、地下水とともに広がりにくい性質があるため、東京電力は、今回検出された井戸の近くに汚染水が漏れた場所があるとみて調べています。

*2-4:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2014022002000270.html (東京新聞 2014年2月20日) 高濃度汚染水100トン漏れ タンク弁開きっぱなし
 東京電力は二十日、福島第一原発で原子炉を冷却した後の水を貯蔵するボルト締め型タンクの上部から約百トンの処理水が漏れ、周辺敷地に流れ出したと発表した。処理水には一リットル当たり二億ベクレル超と超高濃度の放射性ストロンチウムなどが含まれていた。閉まっているはずのタンクの弁が開きっぱなしになっており、誤って水を入れすぎたのが原因とみられる。高濃度の処理水漏れ事故は、昨年四月に止水性能が劣る地下貯水池(漏れ量は不明)で発生。さらに八月にタンク底板の接ぎ目の止水材がずれて三百トン、十月にはタンクが傾いているのに水を入れすぎて〇・四トンが漏れた。東電によると、十九日午後十一時二十五分ごろ、巡回中だった下請け企業の作業員が4号機の西側にあるタンク群の一基で、天板の接ぎ目付近から水漏れしているのを見つけた。発見の九時間半ほど前には、タンクの水位計がほぼ満水を知らせる警報を発していた。この時点ではタンク周辺に水漏れなどの異常は見つからなかったため、東電は現場で実際の水位を確認しないまま水位計の故障と判断し、特段の対策は取らなかったという。しかし、実際にはタンクに取り付けられた処理水を受け入れるための二つの弁が開きっぱなしになっており、水位はさらに上昇し、遅くとも深夜には処理水があふれ出すレベルに達していた。タンク群の周囲には、コンクリート製の堰(せき)があり、処理水は食い止められるはずだった。しかし、タンクには、天板に降った雨を堰の外に直接排出する雨どいが取り付けられており、これが裏目となって処理水が敷地へ大量漏出した。東電は「近くには排水溝がなく、海への流出はないと考えている」と強調している。

*2-5:http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/life/20140219-567-OYT1T00631.html
(gooニュース 2014年2月19日) 原発汚染水浄化、来年度中達成は困難…東電試算
 東京電力福島第一原子力発電所の敷地内の貯蔵タンクにたまった汚染水を、2014年度中に全て浄化するという計画が達成困難であることが東電の試算で明らかになった。試算によると、約35万トンの汚染水の浄化には今年10月以降に1日当たり1960トン処理する必要があるが、浄化装置「ALPS(アルプス)」の能力が追いつかない。東電の広瀬直己社長が昨年9月、安倍首相に約束した「14年度中に浄化」の実現は難しくなってきた。試算は、福島市内で18日に開催された「廃炉・汚染水対策現地調整会議」で、東電が示した。ALPSは、汚染水に含まれる63種類の放射性物質のうち、トリチウム(三重水素)以外の62種類を除去する装置で、現在、東電が1台を試運転中。東電によると、最大で同750トンの汚染水を処理できる設計だが、点検や部品交換などの停止期間も必要なため、実際には平均で同560トンしか処理できない。

*3-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2014021002000212.html (東京新聞 2014年2月10日) 原発「即ゼロ」193万票 舛添氏得票211万票に迫った
 九日投開票された東京都知事選で、原発「即ゼロ」を訴えた前日本弁護士連合会長の宇都宮健児氏(67)、元首相の細川護熙氏(76)の合計得票は約百九十三万八千票となった。初当選した元厚生労働相の舛添要一氏(65)の得票数に十七万票差に迫り、ほぼ拮抗(きっこう)した。原発再稼働に前向きな安倍政権に「待った」をかけたい民意が意地を示した形だ。都選管が十日未明に発表した投票率の確定値は46・14%で、衆院選と同日になった前回二〇一二年十二月より16・46ポイントの大幅減。開票作業が進む中で墨田、品川両区で不在者投票数を二重計上するミスが見つかるなどしたため、当初発表値を訂正した。元厚労相の舛添氏には少子高齢化など身近な暮らしの課題解決への期待が大きく、支援を受ける自民、公明両党の組織票を積み重ね、二位の宇都宮氏に百十三万票差をつけた。原発政策をめぐっては、再生可能エネルギー活用を進め原発依存度を徐々に減らす考えを示し「即ゼロ」には否定的な見解を示している。一方、宇都宮氏の得票数は約九十八万二千票、同じく原発ゼロを訴えた細川氏は約九十五万六千票。二人を合計した原発「即ゼロ」支持票は有効投票数の39・81%を占め、舛添氏の43・39%と約3ポイント差だった。
 舛添要一氏は、当選から一夜明けた十日朝、選挙戦で原発「即ゼロ」を訴えた候補者二人の合計票を約十七万四千票上回っての勝利に「福祉や他の分野に加え、原発を少しずつ減らしていくとの政策が評価された」と力を込めた。情報番組への出演のために訪れた東京・渋谷のNHK前で、報道陣の取材に答えた。灰色のスーツにピンク色のネクタイ姿で現れた舛添氏は、一夜明けた心境を問われ「午前三時から二時間しか寝ていない。まだ選挙が続いている感じだ」と晴れ晴れとした笑顔。勝因を「政策中心にさまざまな訴えをしたこと。どの候補よりも広く、全ての地域を回って直接、多くの有権者と対話をしたことが成果につながった」と分析した。二百十一万票を超す得票数について「二番目の候補者の倍以上の票をいただいたことは大きい。私以外の候補に投票した方も良かったと思えるような都政をしたい」と述べ、「さまざまな課題を抱えており、大変重い責任。厚労相としての政治経験を生かして、全力を挙げて結果を出す」と真剣な表情で抱負を語った。また、新年度予算案の福祉や防災の分野で、独自の政策を加える意向を示しており「舛添カラーを出せるように、小額だけれども、公約に見合った形でやりたい」と述べた。原発問題については同番組内で「原発は少しずつなくしていく方向にするべきだ。都民の使う電力のうちの自然エネルギーの割合を、六年後の五輪までに6%から20%まで引き上げる」などと主張した。この日は、あいさつ回りや自民党役員会への出席が予定されており、十二日に初登庁し、知事に就任する。

*3-2:http://www.news24.jp/articles/2014/02/16/04245911.html
(日テレニュース 2014年2月16日) 原発再稼働、半数以上が「支持しない」
 NNNが14~16日に行った世論調査で安全基準を満たした原子力発電所の再稼働について半数以上の人が「支持しない」と答えた。世論調査で安倍内閣を「支持する」と答えた人は51.8%(前月比-0.2ポイント)で、「支持しない」と答えた人は29.9%(前月比-0.1ポイント)だった。安全基準を満たした原子力発電所の再稼働については「支持する」と答えた人が32.9%だったのに対し、54.3%の人が「支持しない」と答えた。また、今後の電力供給のあり方をめぐり、原子力発電を将来にわたって一定程度続けていく方針について、「支持する」と答えた人は34.0%で、50.0%の人が「支持しない」と答えた。一方、集団的自衛権の行使を認めるよう、憲法解釈を見直す事については「支持する」と答えた人が37.9%だったのに対し、「支持しない」と答えた人は45.5%だった。さらに集団的自衛権の行使を認める事に変えた場合、「日本の安全保障政策を大きく変えるものだと思う」と答えた人が62.2%に上り、「思わない」と答えた人の21.8%を大きく上回った。
NNN電話世論調査
 【調査期間】14~16日
 【調査対象】全国有権者2035人
 【回答率】50.9%
 http://www.ntv.co.jp/yoron/

*4-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140218&ng=DGKDZO66974790Y4A210C1EA1000 (日経新聞 2014.2.18) 
原発ストップ、電力の経営圧迫 北海道電、再値上げ表明 九電など追随も
 原子力発電所を再稼働する見通しが立たず、電力会社が電気料金の再値上げに動き出した。北海道電力は17日、家庭向け電気料金の引き上げを政府に申請する方針を表明した。再稼働が遅れるほど電力会社の収益は圧迫され、値上げは大幅になる恐れがある。北海道電の川合克彦社長は同日、札幌市内で記者会見し「本日付で再値上げの具体的検討をするよう、社内に指示した」と述べた。東日本大震災後、泊原子力発電所(北海道泊村)の運転停止で火力発電の燃料費がかさみ、業績が悪化しているためだ。申請は「可及的速やかに行う」といい、値上げ幅は今後詰める。震災後に7電力が値上げを申請したが、再値上げ表明は北海道電が初めて。同社は昨年9月、電気料金を家庭向けで7.73%、企業向けで11%引き上げた。その時点では泊原発が全く稼働しない場合、原価の上昇分を穴埋めするには単純計算で3割超の値上げが必要としていた。川合社長は「その数字が上限だが、料金の改定ですべて対応するわけではない」とした。「債務超過を避けるには、家庭向けでさらに10%程度の値上げをしたいところだろう」(SMBC日興証券の塩田英俊氏)との見方もある。北海道電単体の自己資本比率は2014年3月期末は5%を下回る。来期は追加で200億円の費用を削ると表明したが赤字回避には追いつかない。川合社長は「収支改善の道筋を示せなければ燃料調達や資金借り入れが困難になる」とした。電気料金の改定には経済産業省の認可が必要。再値上げ申請があった場合、経産省は燃料費に関係する4項目に絞って審査を簡単に済ませられるよう12年に導入した新制度を初適用する。従来の料金審査は、申請から半年近くかかっていた。新制度での審査は規制委の安全審査の進み具合をにらみながらの作業となる。1カ月近くで審査を終わることを想定しているものの「どのくらいかかるかはやってみないとわからない」(経産省幹部)という。5電力の15基が値上げ申請時に想定していた再稼働時期を過ぎたが、再値上げを申請してもすでに余計に支払った分の燃料費は料金に転嫁できない。九州電力は1月、再値上げの可能性に言及。中部、関西、九州も3期連続の赤字となる見通しで、北海道電に追随する動きが出てきそうだ。原子力規制委員会は17日、東京電力柏崎刈羽原発の敷地内の断層調査に入った。東電の姉川尚史常務執行役は調査に「3、4カ月もしくは5、6カ月」かかるとの見通しを明らかにした。半年なら7月の再稼働は不可能となり、東電も収支計画の見直しを迫られる。

*4-2:http://www.hokkaido-np.co.jp/news/topic/521877.html
(北海道新聞 2014年2月18日) 「原発維持が目的か」 北海道電力の再値上げ方針に批判、反発
 北海道電力が電気料金を再び値上げする方針を表明した17日、負担増を強いられることになる道民からは批判や反発が相次いだ。道消費者協会の木谷洋史専務理事(65)は「昨年9月の値上げ以来、道民がどんな思いで節電、節約しているか、北電は分からないのだろうか」と憤る。再値上げは泊原発(後志管内泊村)の「再稼働時期が見通せないため」(川合克彦社長)だ。17日には同原発の廃炉を求める訴訟の第8回口頭弁論が札幌地裁であった。原告の一人で空知管内南幌町の元教員山根正子さん(71)は「値上げの真の要因は原発の維持管理費ではないか。必要ない原発を推進したツケを道民に回すのは納得できない」と批判した。原発を持つ全国の電力会社の中で、再値上げの表明は北電が初めて。再値上げに道民の理解は得られるか。17日の会見でそう聞かれた川合社長は「理解する、しないの判断は、こちらが言えるものではない」とだけ述べた。

*4-3:http://www.47news.jp/CN/201402/CN2014022001001282.html
(47ニュース 2014/2/20) 脱原発団体の施設利用拒否 愛媛・伊方町
 四国電力伊方原発のある愛媛県伊方町が1月、脱原発を訴える市民団体から講演会の施設利用を求められ、政府の原発政策が定まっていないとして拒否していたことが20日、関係者への取材で分かった。同町産業振興課の担当者は事実関係を認め、取材に「賛成、反対にかかわらず原発がらみの講演会は施設の使用を遠慮してほしい」と説明した。一方、四国電への配慮については否定した。講演会は、東京電力福島第1原発事故当時、福島県双葉町長だった井戸川克隆氏を招いて福島の現状を話してもらおうと、「伊方原発50キロ圏内住民有志の会」(愛媛県八幡浜市)が企画した。

*5:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140220&ng=DGKDASFS1903A_Z10C14A2PP8000 (日経新聞 2014.2.20) 原発は「重要電源」 エネ計画政府案、表現残す
 エネルギー基本計画の政府案が19日、明らかになった。原発を「重要なベースロード電源」と位置づけ、安全を確認できた場合は再稼働する方針を明確にする。将来的にも「確保する規模を見極める」との文言を盛り込み、当面は一定比率を原発に依存する。「重要」という表現をはずすべきだとの意見もあったが、温暖化対策や安定供給のために原発は欠かせないと判断した。与党との最終調整をへて、25日に関係閣僚会議を開き正式に決定する。今年度中の閣議決定を目指す。昨年12月に政府の総合資源エネルギー調査会基本政策分科会(会長は三村明夫・新日鉄住金相談役)がまとめた計画案に国民から寄せられた1万9千件の声や与党の意見を反映した。「基盤となる重要なベース電源」の表現から「基盤となる」の部分は削除する。当初案と比べて原発の活用を前面に出す表現は弱めた。公明党に配慮して将来の原発の活用も「必要とされる規模を十分に見極めて、その規模を確保する」としていた当初案からは後退させる。一方、電気料金の抑制や、廃炉に必要となる人材・技術水準の維持のためには必要な量を慎重に見極める必要があるため、ぎりぎりの表現を探った。今後の公明党との調整で表現が変わる可能性もある。発電しながら消費した以上の核燃料を生み出せるとしてきた高速増殖炉もんじゅは「25年ごろまでの実証炉の実現、50年より前の商業炉の導入」という前回計画に明記した目標を撤回する。核のゴミを減らす「減容化」の研究を進める方針も明記する。太陽がエネルギーを放射する原理で発電でき、高レベル放射性廃棄物を発生しないとされる核融合の研究を進めることも新たに追加する。再生可能エネルギーは3年にとどまらず、最大限導入する姿勢を打ち出す。

*6:http://digital.asahi.com/articles/ASG1L4G00G1LIIPE00D.html?iref=comkiji_redirect (朝日新聞 2014年1月19日) 大間差し止め提訴、3月にも 函館市
 Jパワー(電源開発)が建設中の大間原発(青森県大間町)の建設差し止め訴訟を準備している函館市が、3月にも東京地裁に提訴する方針を固めたことが18日、わかった。2月末に開会予定の市議会に議案を提出する方向で準備を進めている。大間町と津軽海峡を挟んで向かい合う函館市は、大間原発と最短で23キロの距離。原発事故に備える防災対策重点地域は2012年、それまでの半径8~10キロから30キロに拡大され、同市も含まれるようになった。同市は工事の無期限凍結を求めており、再開の動きがあった場合は法的措置で食い止める姿勢を示していた。訴状原案では、事故が起きた場合、「自治体崩壊という壊滅的な被害を受ける危険にさらされる」などとしている。提訴の時期について、工藤寿樹市長はこれまで、原発再稼働の議論の盛り上がりをみながら判断するとしていた。工藤市長は18日、原子力規制委員会による安全審査手続きに入る「原子炉設置変更許可申請」が今春以降に想定されていることから、「安全審査の前に提訴するために、3月とした」などと説明。また、都知事選にあわせたわけではないとした上で、「都知事選で原発が争点になれば、世論は大きく盛り上がるだろう」とも述べた。


PS(2014.2.22追加):*7のように、原子力規制庁も「東電の安全文化や事業者として対応能力があるのか議論になる」と述べているが、東電柏崎刈羽原発も東電の安全文化や事業者として対応能力に依存している以上、切り離して考えてよいわけがない。

*7:http://mainichi.jp/select/news/20140222k0000m040065000c.html
(毎日新聞 2014年2月22日) 規制庁:「東電の能力、議論に」…トラブル続出で次長
 原子力規制庁の森本英香次長は21日の記者会見で、東京電力福島第1原発で極めて高濃度の汚染水約100トンが漏れるなどトラブルが続いていることについて、「東電の安全文化や、事業者として対応能力があるのか議論になる」と述べた。一方、再稼働に向けた安全審査の申請が出ている東電柏崎刈羽原発の審査については「法に基づいて粛々としてやる」と、福島第1原発の対応とは切り離す方針を示した。また、今回の事故を国際評価尺度(INES)で示すことが適切かどうかを国際原子力機関(IAEA)と協議することを明らかにした。規制庁は昨夏発生した大量の汚染水漏れ事故で、8段階で上から5番目の「レベル3」になるとしたが、福島事故自体が最悪の「レベル7」とされており、「整合性がとれない」などの意見がある。

| 原発::2013.11~2014.5 | 10:41 AM | comments (x) | trackback (x) |
2014.2・19 保育園と幼稚園、初等・中等教育について (2014年2月20日追加あり)
       
       正規分布       子ども園               小学校

 *1は東京都の課題だが、わが国の大都市ではだいたい同じ課題が山積している。そして、このように重要なことが今まで解決されなかった理由は、①戦後の男女共学教育の下で働く能力を十分に身につけた女性の存在を、「少数だから」と無視する人が多かったこと ②核家族化の進行による負担は女性の犠牲的労働で賄えばよいとする意見が多かったこと ③その結果、家事・育児・介護は女性の無償労働という考え方を見直す動きがあまり出なかったこと などが挙げられるだろう。

 しかし、次の時代に常識となる行動は、最初は上図の正規分布のA領域にいる少数の人から始まって次第に広がっていくものである。そのため、「少数だから」という理由で無視するのは根本的に間違いであり、政策の取捨選択は、公正性と先見の明によって行うべきだったのだ。

(1)幼児教育について-子を保育園に預けている親も幼児教育が不要だとは思っていない
 そのような中、現在、0歳~小学校就学までの子どもは、保育所(管轄:厚労省)、幼稚園(管轄:文科省)、認定子ども園(管轄:都道府県)が担当している。そして、両親が働くためには、勤務時間中に子どもを預かってもらうことが必要であるため、*2-1、*2-2のような保育所に預けることになる。

 現在、保育所は、保護者が働いているなどの何らかの理由で保育に欠ける児童を預って保育する施設とされており、幼稚園は、満3歳から小学校就学までの幼児を預かり、適切な環境を整えて心身の発達を助長するための教育施設とされている。しかし、子どもを保育所に預けている親も、適切な環境と子どもの発達を促す教育が不要だと考えているわけではなく、狭い部屋に詰め込まれている子どもの心身の発達には問題を感じている。一方で、幼稚園は、専業主婦の減少とともに空きが多くなった。

 そのため、保育所も教育機能を持ち、幼稚園も預かり機能を持てばBestだったのだが、これは監督官庁が異なるということで、私は、1995年に初めて提案し衆議院議院だった2005~2009年にもやったができなかった。そのかわり、保育所も幼稚園も、認定基準を満たす施設は、都道府県知事が「認定こども園」の認定を行うことができるようになり、預かり機能と教育機能の両方を有する施設ができたのである。従って、認定子ども園の利用者は、保育園児として入園しても幼稚園児と同じ教育が受けられるので、東京都などの地方自治体は、質と量の両方を充実できる、この制度を推し進めればよいと考える。

(2)初等・中等教育について-「ゆとり教育」は、先生のための「ゆとり」だったのでは?
 *3-1に書かれているとおり、政府の教育再生実行会議が、義務教育の開始年齢を5歳からに早める案を検討している。これに反対する人もいるようだが、イギリスの義務教育は5歳から始まる。私は、①義務教育の無償性 ②早期の語学教育や幼児教育の必要性 ③ゆっくり、しっかり学べることの有効性 などの観点から、イギリスと同様、5歳からにするのがよいと思う。

 また、「ゆとり教育」により、公立学校で勉強する内容が減ったことについては、私立や塾に行けない家庭の子どもは学業のチャンスが奪われ、親は子どもの勉強について心配と教育費用が増えた。そのため、グローバル経済の現在、*3-2のように、公立学校で学べば、国内の大学の入学試験に合格できるだけでなく、海外留学や海外での仕事も容易にできる基礎学力が身に着くようにすべきである。

(3)学童保育と補習
 *3-3のように、北九州市教委が、新年度、希望者を対象に放課後の校内で、国語と算数や数学を教える学習塾事業を始めるそうだ。学習塾は放課後の空き教室を利用して、講師は教員OBや大学生から募るそうだが、これは、質の高い学童保育の一部として、できない子(上図E領域の子)には落ちこぼれ防止効果があり、できる子(上図A領域の子)にはさらに上の段階の勉強を教えるのがよいと思う。そして、現在は不備も甚だしい学童保育も、このような質の高いものを十分に提供することが重要である。

(4)広く才能を開拓しなければ、国の発展はない
 科学技術の研究を行い、それを評価して経営を行ったり予算をつけたりする事例を考えれば、国の底力は、それを担う国民全体の知識レベルや質の高さに依存することがわかる。また、付加価値の高い製品やサービスを作り出し、国民の幸せに繋げるためには、上図の正規分布で言えば、A領域の人だけではなく、A~E領域のすべての人の総合力がものを言うのである。

       
            小学校            総合学習          社会

*1:http://mainichi.jp/opinion/news/20140203k0000m070082000c.html
(毎日新聞 2014年2月3日) 都知事選と福祉 若者がいなくなる前に
 政治や経済の中心というだけでなく、東京は1300万以上の人々が暮らす場所でもある。介護や子育てに有権者の関心が高いのは当然だ。しかし、これまでの都政が福祉に熱心だったとは言い難く、今回の各候補者の福祉政策も総じて物足りない。もっと具体的な議論が聞きたい。高齢者福祉では医療や介護の必要が高まる75歳以上がどのくらい増えるのかが重要だ。東京では2010年から30年まで前期高齢者(65〜74歳)の数はさほど変わらないが、後期高齢者(75歳以上)は127万人から211万人へと大幅に増える。このままでは深刻な病院不足、介護サービス不足に陥る。適切な対策を講じないと若年層も東京で暮らせなくなる日がやってくる。家族の構成人数が少なく、高齢者の独居や夫婦のみ世帯が多いことが東京の特徴だ。高齢者は持ち家率が高いが、高齢者のみの世帯は借家暮らしが3〜4割もある。地価が高く介護施設の新設は難しいが、その一方で空き家が約70万戸もある。財政も比較的恵まれており、都心では独自の手厚い介護サービスもある。こうした東京の特性を反映した福祉ビジョンが必要だ。もう一つ注目すべきは、親族の介護のため離職や転職をする人の8割以上が女性、要介護認定を受けて介護保険サービスを利用している人の7割以上が女性ということだ。つまり、男性は妻や娘に介護される人が多いが、長生きする女性は介護をしてくれる家族がなく、公的介護サービスに頼る割合が高くなる。最近増えているサービス付き高齢者向け住宅は家賃と食費だけで毎月10万円以上が必要だ。在宅でも要介護度が高くなれば長時間の介護サービスが必要になり、自己負担が増える。給付額の少ない国民年金しかない女性はどうすればいいのだろうか。少子化や子育て対策も急務だ。東京の出生率は1.09しかなく、全国平均(1.41)を大きく下回る。一方、全国で最も保育所の待機児童が多いのが東京だ。もともと都市は死亡率が高く出生率が低い。地方から人々が移ってくることで都市の人口は維持されている。だが、全国的に現役世代の人口が減っており、いつか東京に移入する人数が確保できなくなる時代がやってくる。負担の重さを嫌って東京から地方へ移住する人も増えるだろう。東京で暮らす現役世代の女性が安心して結婚し子供を産めるような政策が今ほど必要な時はない。今回の立候補者16人は全員が男性。介護や子育てに関する公約が新鮮味や具体性に乏しいのはそのせいだろうか。危機感を持って巨大都市の暮らしをどうするのか語ってほしい。

*2-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2014021802000103.html (東京新聞 2014年2月18日) 認可保育所、一刻も早く 杉並区役所前 母親ら40人抗議
 東京都杉並区の認可保育所に四月からの入所を申し込み、選考に漏れた区内の母親ら約四十人が十七日、区役所前で抗議集会を開いた。二十一日には、行政不服審査法に基づく異議申し立てを集団で行う。杉並区では新年度、認可保育所に三千二百五十七人が申し込み、認可保育所に千三百九十人が、区保育室に四百二十三人が内定。申請を取り下げた二十八人を除いた千四百十六人が選考から漏れた。入所の可否は十三日に通知した。区は、待機児童対策で認可保育所のほかに認可外の施設も組み合わせて対応しているが、認可保育所の希望者が多い。母親らはマイクを手に「保育士や施設の面で安心して預けられる認可保育所を増やして」などと訴えた。集会を呼び掛けた母親グループ「保育園ふやし隊@杉並」事務局の島恵子さん(40)は「区も努力しているが、認可保育所に預けられない親が大勢いる。都や国と連携し対応してほしい」と話した。昨年四月に、最終的にどこにも入れなかった待機児童数は二百八十五人。区は昨年度、認可、認証保育所整備などで受け皿を計約一千人分拡大したが、ゼロ、一歳児の入所希望や働く女性の増加で、ことし四月の待機児童解消は難しい状況にある。集会に先立ち、田中良区長は十七日午前の区議会で「新年度も認可保育所を核に六百人超の定員を確保する」と、保育施設の整備を進める方針を示した。

*2-2:http://www.nikkei.com/article/DGXNZO66955260X10C14A2L83000/
(日経新聞 2014/2/18) 東京23区の保育定員を1万人増
 東京23区が相次いで保育サービスを強化する。各区の保育所定員を集計したところ、2014年4月1日時点の定員数は、1年前に比べて1万人以上増える見通し。ただ、都心では子育て世代が増え続けており、待機児童の解消にどの程度つながるかは未知数だ。「スマート保育の施設数は23区では最多となる。今後も広域に整備し、待機児童の解消を急ぐ」と話すのは板橋区の担当者。13年4月1日の待機児童数はその前年度比約2割増の417人。このうち98%が0~2歳児だ。このため0~2歳児が対象で定員19人以下の小規模保育所に東京都が独自に補助する「スマート保育」施設を大幅に拡充する。スマート保育は、認可保育所などの基準から外れる6~19人を預かる保育施設。ビルの空き室などを活用するため低予算で素早く開設できるのが特徴だ。4月に計20カ所と現在に比べ17カ所増やす。
 江東区は14年度にマンション大手など民間企業の保育所12園の新設を補助金で後押しし、保育所定員を1088人増やす。1年間で2ケタを超す保育所の整備は過去最多。豊洲や有明など同区の湾岸部ではマンションの建設計画が相次ぎ、保育所併設を促すことで待機児童解消につなげる。
 豊洲6丁目では三井不動産などが建設中の1千戸超の超高層マンションに定員120人の園を併設する。有明1丁目でもマンション併設で定員91人の園の整備を計画しており、区内の総定員数は10%増の1万1923人になる。園の新設を支援する補助金総額は約16億円。
 品川区は14年度中に定員を406人増やす計画。用地不足などで民間の保育園新設が伸び悩んでいることから、国有地を活用した整備に着手する。南品川国家公務員宿舎跡地に定員80人の私立保育園の整備を計画し、建設・運営する民間事業者を公募で選定中だ。
 港区は14年度の保育定員を1371人増の5728人とする。私立の認可保育所が13園開園することなどが寄与し、過去最大の定員拡大となる。
 全国の区市町村で待機児童数が最多の世田谷区は14年度から、保育所の運営事業者が支払う土地賃借料への補助金の支給期間を3年程度から20年に延ばす。初期投資だけでなく、長期間にわたる運営費にも補助することで、民間が保育事業を始めやすいようにする狙いだ。保育所を整備するための民有地を区が借り上げ、運営業者に転貸する制度も始め、保育所の整備を加速させる。同区の保育サービスの予算は14年度に前年度比27%増の約208億円と、過去最大規模の予算を配分する。
 ただ、都内の保育需要は年々増加を続けている。港区の今年1月時点の待機児童は294人だが、4月の大量開園でも待機児童がゼロになるかどうかは微妙な情勢だという。新宿区の中山弘子区長も「保育定員は増やしてはいるが、新たな申し込みも増えており、待機児童を減らせるかは何とも言えない状況」と懸念を示す。

*3-1:http://www.saga-s.co.jp/news/global/corenews.0.2636419.article.html
(佐賀新聞 2014年2月19日) 5歳から義務教育で両論 / 政府の教育再生会議
 政府の教育再生実行会議(座長・鎌田薫早稲田大総長)は18日、首相官邸で会合を開き、義務教育の開始を5歳からに早める意見と、慎重な検討を求める声の両論が出た。幼児教育の充実が必要との認識では一致した。昨年秋に始めた「6・3・3・4」の学制見直し議論の一環として、この日は9年間の義務教育期間の妥当性をテーマに意見交換した。義務教育の開始時期をめぐっては、戦後間もない時期と比べ子どもの成長が早くなっているとして1年早めるよう求める声が出た。一方「開始時期は保護者の意向に任せるべきだ」との意見もあった。

*3-2:http://digital.asahi.com/articles/ASG243FWJG24UTIL00K.html?iref=comkiji_redirect&iref=comtop_list_edu_n02 (朝日新聞 2014年2月4日) 小中高の英語教育検討 有識者会議委員に三木谷氏ら
 文部科学省は4日、小中高校での英語教育を検討する有識者会議を設置し、発表した。委員は英語を社内公用語とした楽天の三木谷浩史社長や、予備校講師の安河内哲也氏ら11人で、今月中に初会合を開く。各学校段階の到達目標やクラス編成方法、必要な教材開発などを検討し、秋までに報告書をまとめる。下村博文文科相は4日の記者会見で三木谷氏の起用について、「直接、私からお願いした。大臣就任直後から強く私に、英語教育を学校教育にしっかり入れるべきではないかと(話された)」と説明した。

*3-3:http://qbiz.jp/article/32028/1/
(西日本新聞 2014年2月12日) 北九州市教委が小中学校で塾開講 教員OB、大学生を講師に
 北九州市教育委員会は新年度、市内の小学3〜6年と中学3年の希望者を対象に、校内で放課後、国語と算数、数学を教える学習塾事業を始める。市内の小中学校全192校のうち、まず約40校で実施する。同市は全国学力テストの正答率が全国平均を下回っており、学力の底上げを図る。学習塾は放課後の空き教室を活用。講師は教員OBや大学生から募り、教員免許の有無は問わない。小学校が6月、中学校は7月からそれぞれ週2回、約1時間ずつ、文章の読解力や漢字、九九や掛け算、分数などの基礎を無料で教える。総事業費は約7千万円。北九州市は昨年4月の全国学力テストで、国語と算数、数学の全科目で全国平均を1・7〜3・4ポイント下回った。高知県が同様の取り組みで学力テストの正答率を上げており、九州でも福岡市や熊本市が既に実施している。市教委は「学力アップのほか、学習習慣そのものを身に付けてもらいたい」としている。


PS(2014年2月20日追加):*4のように、大企業か中小企業かを問わず、グローバルな展開の可否は、ビジネスの成功に大きく影響している。

*4:http://qbiz.jp/article/32468/1/
(西日本新聞 2014年2月20日) 【わが社のアジア戦略】本多機工 国際的人材がニーズに対応          
 社内のグローバル化を目指したきっかけは、かつて、自分の机に積まれた外国語の書類の山だった。産業用ポンプを受注生産するメーカーで、龍造寺健介社長の入社は1998年。当時、輸出先から部品の注文があっても回答できる語学力を持つ社員は少なかった。米国に23年住んだ龍造寺氏に、書類の処理が回ってきた。「これだけニーズがあるのに。もったいない」。書類の多くは輸出を担う商社に送ったが、得意先に部品が届くまでの間に仲介者が増えれば価格は上がる。安価な海外製に切り替えられてしまう恐れもあった。経済成長著しいアジアでは、工場の心臓部といえるポンプの需要は増すばかり。アフターケアで輸出先とメーカー側が直接やりとりできれば、需要を十分に取り込めるはずだと読んだ。
 龍造寺氏は、義父が創業した会社を継いで2005年に社長に就任。06年に福岡市内に国際事業本部を設立し、九州にいる留学生や、外国語が堪能な日本人を含めてグローバル人材を積極的に採用し始めた。入社後は技術営業者としてインドや中国、インドネシア、タイなどに派遣。海外26社のビジネスパートナーと連携し、各国で需要を掘り起こしている。納品後はメンテナンスについてのやりとりも担った。「国際事業本部は福岡空港のすぐそば。何かあればひとっ飛びで行けます」。外国人社員は15人に増えた。海外の売上高は90年代後半、全体の20〜30%だったが、現在は60%に伸び、その大半がアジア向けだ。製品への評価も高まっている。世界で初めて、直径0・05ミリ以下の小さな気泡を発生させて排水を浄化する装置を開発した。環境問題に悩むアジア各国に売り込みを図っている。龍造寺社長は「外国との懸け橋となる人材と、オーダーメードの強みを生かしていきたい」と意気込んだ。

| 教育・研究開発::2013.11~2014.7 | 05:13 PM | comments (x) | trackback (x) |
2014.2.18 雇用形態差別がなくても職務上の配慮はできるのに、労働者を非正規社員、派遣社員、契約社員、限定正社員などとして差別するのはおかしい。 ← 世界標準は、中途入社、中途退職など出入り自由な社会である。
         

(1)世界標準の雇用形態
 *1のアンドレア・シュライヒャー氏の発言のように、世界標準の雇用は、新卒一括採用ではなく、中途採用・中途退社などの労働移動が可能で、男女を問わず、就職後に学位や資格を取る目的・育児目的などで休職・退職して後、元の企業に復帰することも可能であり、他の企業に転職しても、それまでの経験を評価されて「1から出直し」というような不利益を受けることはないというものである。

 そして、新卒を一括採用して終身雇用や年功序列を保証するという雇用形態ではなく、労働移動が容易なシステムの上で、正規労働者でも人員調整できるため、企業は、採用時に過度に慎重になる必要はない。

(2)社員への配慮目的なら、雇用形態による差別は不要な筈である
 日本では、“労働者が多様な働き方を選択できるようにするため”として、「非正規社員」「契約社員」「限定正社員」「派遣労働者」「有期雇用」などに社員を分ける方向になっている。しかし、正規労働者でなければ、労働基準法や男女雇用機会均等法などによる労働者の権利が制限されるため、非正規雇用の労働者は、正規雇用の労働者よりも労働条件が悪く、むしろ合法的に差別されている状態で、自ら望まないのに他に仕事がないため非正規労働者になっている人が多い。

 これは、労働者にとって不幸なことで、*2、*3のように、現在、自ら望まない非正規雇用労働者の割合が上がり、非正規雇用が働く人の4割近くを占めて、正規雇用との所得格差や社会保険・年金などの福利格差が大きくなっている。ここで派遣労働が規制緩和されれば、正規社員から派遣労働者への切り替えが進み、さらに正規雇用が減るだろう。このように、“多様な雇用形態”というのは、実は、企業の要請を重視して労働法を出しぬく手口となっているが、これにより社会保険料の支払いも減っているのだ。

(3)収入の高い専門職の労働条件は悪くてよいというのは変である
 *4には、弁護士や公認会計士など収入の高い専門職に限って、「有期雇用」の労働者の契約期間を5年から最長10年に延ばす方針を決めたと書かれている。しかし、一般の人が正規雇用で働く場所で、勉強して難関の試験を通り、経験を積んだ弁護士や公認会計士が、わざわざ一般の人より条件の悪い「有期雇用」で働くわけがないし、そうしなければならない理由もない。それにもかかわらず、こういう政策を作ろうとしている厚労省の役人は、的外れで不公正な愚か者としか言いようがないのである。

 なお、*5では、非正規社員の待遇を改善する手段として、仕事内容や勤務地を限定する「限定正社員」を普及させたいとのことだが、「この場所、この職種だけで正規並みに働きたい」という要望は、雇用形態として不利な条件で差別されながら働かなくても、中途採用・中途退社などの労働移動が自由にできれば、正規社員として望む場所に転職することによって解決できるものだ。

       

*1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S10980050.html?iref=comkiji_redirect
(朝日新聞 2014年2月15日) 産学協同の拡充を 採用・職業訓練・女性雇用 OECD教育局次長のシュライヒャー氏
 経済協力開発機構(OECD)教育局次長のアンドレア・シュライヒャー氏(49)は13日、朝日新聞などのインタビューに応じ、「日本の経済社会の発展のためには、経済界と大学などがもっと協力を拡大すべきだ」と語った。具体的な協力課題として、(1)新卒一括採用を見直し、いつでも企業などの採用試験が受けられるようにする(2)就職後も技能を向上させる職業訓練と、学位や資格を取れるような生涯学習の機会を保障する(3)大学や高校でインターンシップを拡大し、採用につながりやすい環境をつくる(4)女性の雇用を拡大する、などを挙げた。新卒一括採用を通年型の採用に切り替えることについては「若者が卒業時に大量に失業してしまうようなリスクを減らし、経済社会全体の損失を回避することができる」と指摘。また、「日本は労働移動が柔軟にできるような社会にすべきだ」としたうえで、「スウェーデンのように卒業後も資格や学位を取って有利な転職ができる環境にするため、大学が協力してほしい」と、産学の協同を拡大する利点を強調した。シュライヒャー次長はOECDが実施している「生徒の学習到達度調査」(PISA)や「国際成人力調査」(PIAAC)を担当。大震災後の福島県などの教育現場視察のため来日。経団連幹部や国会議員らとも意見交換した。「教師や子どもたちの熱心さに胸を打たれた」と語る一方、「PISAについては順位ばかりに関心を寄せるのではなく、各国がよりよい教育方法を学び合い、改革を進めてほしい」と述べた

*2:http://www.saga-s.co.jp/news/global/corenews.0.2617610.article.html
(佐賀新聞 2014年1月31日)  非正規雇用の割合36・6%/13年、過去最高更新
 総務省が31日発表した2013年平均の労働力調査(基本集計)によると、雇用者全体に占めるパートやアルバイトなどの非正規労働者の割合は前年比1・4ポイント増の36・6%となり、過去最高だった。完全失業率が改善傾向にある一方、不安定な非正規雇用の広がりに歯止めがかかっていないことが示された。13年の非正規労働者数は93万人増の1906万人。内訳はパートが928万人、アルバイトが392万人、契約社員が273万人などだった。非正規割合を男女別でみると、男性が1・4ポイント上昇の21・1%で、女性が1・3ポイント上昇の55・8%となった。

*3:http://www.sanyo.oni.co.jp/news_s/news/d/2014020308560096/
(山陽新聞社説 2014.2.3) 派遣労働見直し 「非正規」の拡大招かぬか
 労働者派遣法の見直しに向けて、労働政策審議会の部会が報告書をまとめた。現在は3年となっている派遣受け入れ期間の上限をなくし、3年ごとに働く人を入れ替えれば同じ職場で派遣を使い続けられるようにする。派遣労働者を臨時的・一時的な仕事に限定してきた従来の原則を大きく変えるものである。企業にとっては、人員調整がしやすい派遣労働者を活用できる範囲が広がり、事業転換などもしやすくなる。安倍政権は成長戦略の柱の一つに労働規制緩和を掲げ、「世界で一番企業が活躍しやすい国」を目指している。その意向を踏まえ、産業界の要請をくみ取った内容といえよう。企業側は、多様な働き方の一つとして派遣を選ぶ人のニーズに沿っており、派遣労働者の保護にもつながると評価している。懸念されるのは、正社員の仕事が派遣に置き換えられ、非正規雇用がさらに広がりかねないことだ。報告書は、労働組合が派遣継続に反対した場合は企業に再検討するよう義務付けた。だが、労組に拒否権はなく、最終判断は経営者に委ねられる。際限のない派遣拡大に歯止めをかけられるかは疑問が残る。派遣会社に対しては、期限を迎えた労働者が希望すれば、派遣先の企業に直接雇用を求めたり、次の派遣先を紹介するよう義務付けた。派遣労働者に教育訓練を実施することや、キャリア形成支援制度の整備も求めている。派遣会社が、より重い責任を担うことに意義はあるが、派遣先がきちんと応じるかは未知数だ。派遣先が限られる地方の業者などは対応に苦慮するのではないか。負担に耐えられず撤退する中小事業者が出る事態も予想される。現在、非正規雇用は働く人の4割近くを占めている。所得格差も広がっている。厚生労働省には、正社員を希望する人の処遇が改善するよう、しっかりと派遣会社を監督することが求められる。部会では、正社員と同じ仕事をする派遣労働者には同水準の賃金を払う「均等待遇」の導入も議論になった。経営側の反対で報告書に盛り込まれなかったが、実現すれば企業が正社員を派遣に置き換えるメリットは薄れるため、非正規雇用拡大を食い止める効果が期待できた。派遣労働は1999年の法改正で一部を除いて対象業務が原則自由化され、2004年には製造業でも解禁された。08年のリーマン・ショックで大量の「派遣切り」が社会問題化し、民主党政権時代の12年、日雇い派遣を原則禁止する改正が行われた。自民党への政権交代を機に、労働者保護から規制緩和へ政策転換が行われようとしている。分厚い中間層に支えられた安定した社会づくりに、雇用安定と待遇改善は不可欠だ。改正法案を審議する今国会で、そのための方策を丁寧に議論していく必要がある。

*4:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140215&ng=DGKDASGC1401H_U4A210C1EE8000 (日経新聞 2014年2月15日) 
有期雇用、専門職は10年に 厚労省方針、高齢者も更新可能
 厚生労働省は14日、非正規労働者など働く期間が区切られた「有期雇用」の労働者の契約期間を5年から最長10年に延ばす方針を決めた。弁護士や公認会計士など収入の高い専門職に限って適用する見通しだ。関連法案を今国会に出し、成立を目指す。定年後の高齢者について5年の有期雇用の後に、有期の契約を更新して雇えるようにする規定も盛り込んだ。2015年4月の施行を目指す。現行法では企業が有期雇用の労働者を5年間同じ職場で雇用した場合、本人が希望すれば無期雇用に変えなければいけない。新しい法律には企業が一部の人材に関して有期雇用の労働者を雇いやすくする措置を入れる。例えば今の制度に基づく有期雇用なら5年後の19年までしか働けないが、新法の成立後は今から6年後の20年の東京五輪に向けたプロジェクトでも有期雇用で働けるようになる。最長10年まで有期雇用を認める対象の職種は、法成立後に決める。年収で1千万円以上などと制限をかける案もある。定年退職後の高齢者について有期雇用で5年すぎた後に、1年単位などの有期契約で改めて雇えるようにする仕組みは、企業が求めていた。高齢者が5年の期間後に無期雇用に変わると、企業はずっと雇い続けなければいけなくなる。企業側の事情で、5年たつ前に雇用をいっせいに止めるといった行為を防ぐ効果も見込む。5年の有期契約の見直しは、昨年、政府が進める「国家戦略特区」での規制緩和の一環として浮上した。ただ「全国一律でなければ、企業間で不公平になる」(厚労省)と反発が出て、特区ではなく全国で実施することになった。

*5:http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS10005_Q3A111C1000000/
(日経新聞 2013/11/10) 経財相、限定正社員の普及へ環境整備 連合は警戒
 甘利明経済財政・再生相は10日のNHK番組で、非正規社員の待遇を改善する手立てとして仕事内容や勤務地を限定する「限定正社員」を普及させたい考えを示した。「日本の雇用形態は正規と非正規の2極しかない。その中間を作りたい」と強調した。政府は限定正社員の導入に向けた検討を進めている。経財相は「二者択一ではなく『この場所、この職種だけで正規並みに働きたい』という要望はかなりある。そういう多用な働き方に対応できる社会を作っていかないといけない」と述べた。連合の古賀伸明会長は同番組で「社員をどういう処遇にするかは労使で話し合ったらいい。国が一律的に制度として確立するものではない」と指摘。「あくまでも国は(企業が)制度を導入している好事例を紹介していけばいい。解雇規制(の緩和)まで考えているだろうと想定せざるを得ない」と警戒感を示した。経団連の宮原耕治副会長は「企業にとっても多様な働き方を持つことが重要だ。すでに約半数の企業が限定正社員を導入している。好事例を紹介しながら労使で話し合い、政府に環境づくりをお願いする」と語った。政府、経済界、労働界は9月からデフレ脱却に向けた課題を協議する「政労使会議」を開いており、限定正社員もテーマになっている。

| 人口動態・少子高齢化・雇用 | 07:43 PM | comments (x) | trackback (x) |
2014.2.17 農業の所得倍増には、大規模化・自動化によるコスト削減、ブランド化・高度加工による高付加価値化、未利用資源の資源化が有効である。(2014.2.18追加あり)
    
*2-2より           竹林の繁茂と森林への浸入

(1)食料自給率向上と所得倍増は重要
 このブログの2014年1月8日に記載したとおり、日本の食料自給率は39%で、フランスの121%やドイツの93%よりも大きく下回っている。これは、世界人口が急速に増え、世界規模で工業化が進む中、わが国だけが「工業製品を輸出して食料を輸入する」という方式をとることが不合理であることを示しており、日本が食料自給率を上げることは重要だ。

 また、日本で農業の就業者がこれまで減少し続けてきたのは、農業所得が他産業と比較して低かったり、不安定だったりしたことが原因であるため、大規模化や先端技術の導入によって生産性を向上させ、生産物の付加価値を上げて所得を増やし、農業を魅力的な産業にすることが必要であり、その結果が「所得倍増」で出てくると思う。

(2)輸入飼料を使う畜産は食料自給率向上に貢献していない
 現在、わが国では、食用米は殆ど日本産であるため食料自給率は100%だが、パンは原料の小麦が殆ど輸入であるため食料自給率は1%、同じく中華めん3%、スパゲティー3%などとなっている。また、畜産は飼料がほぼ海外からの輸入であるため、食料自給率は、鶏肉7%、豚肉5%、牛肉10%(http://www.foodpanic.com/index2.html参照)と低くなっており、為替と穀物価格の変動によって、大きな打撃を受ける状況だ。

 そのため、飼料の自給率を上げて安定した畜産経営を行う目的で、*2-1のように、飼料米を使う方法が進められている。また、*2-2のように、人が飼料米を刈って狭い家畜小屋に入れた家畜のいるところへ運ぶよりも、水田や草原に放牧する方が手間が省け、家畜にとっても健康的だろう。そのためには、地域に、適度な飼料作物や牧場と畜産の組み合わせが必要である。

 なお、*2-3では、「米国やオーストラリアなどの輸出国は『アメリカン・ビーフ』『オージー・ビーフ』など、国ごとにまとまって販売戦略を打ち出す一方、日本では同じ品目でも「A県産」「B県産」と産地ごとの小さい単位で輸出に取り組んでいる」とされているが、米国産やオーストラリア産のような大きなくくりにすると、品質と価格を最低に合わせなければならないため、高級品ではなく普及品にしかならない。しかし、日本産の牛肉は、各産地で努力して品質を高め、ブランド化して高い価格で販売しているものが多いため、国でまとめて販売するのは適当でない。

 また、牛のBSE全頭検査をやめてアメリカ産に揃え、フクシマでは原発事故が起こったため、「日本産」の牛肉は原発のないオーストラリア産よりリスクが高く、放射性物質含有可能性の高い安全面で劣った製品になったのである。そのため、産地を統一して日本産とすれば、西日本産まで買い手がつかず価格が安くなるのだ。そして、これは風評ではなく、原発事故の現実による農業被害なのである。

(3)所得倍増のためには
①生産性の向上
 生産性の向上とは、人間の単位労働時間当たりの収益額を増やすことである。その方法には、大規模化、機械化、先端技術の導入などがあり、それを行うためには投資が必要だ。そこで、国は、農業の担い手を決め、担い手に土地を集中させようとしているが、*1のように、「担い手」をめぐっては、地域ぐるみで生産体制を発展させていく方向か、一部の大規模な担い手に一層の規模拡大をさせ企業参入を許すかという見解の違いがある。しかし、ごく一部の担い手だけでは、その地域の農業、農地、環境を守ることはできないため、「担い手」は、地域ぐるみで生産体制を発展させていく方向にすべきだと、私は思う。

②高付加価値化と農業における女性の視点の重要性
 *1-2のように、九州で、大分県国東半島宇佐地域世界農業遺産推進協議会と熊本県阿蘇地域世界農業遺産推進協会が、両地域の女性農業者による交流会を開き、農業遺産認定を追い風に、両地域の女性が手を組んで、地域の農産物や食文化を国内外に発信し、ブランド化や農業の発展につなげていこうと確認したそうである。

 農業は、主に食品を作る産業であるため、消費者の使い方を予測して生産を行うことができる女性は、優秀な農業者になれるし、加工もうまい。そのため、第一線に出るのが遅すぎたくらいだが、女性農業者の活躍は農業の高付加価値化に貢献すると考える。

③ブランド化
 ブランド化の典型は、「松坂牛」「魚沼産コシヒカリ」「関サバ、関アジ」だが、利益率が高くなるため、最近は、どの地域もブランド化に熱心で、実際に価値の高い農水産物が多くなった。

④竹など未利用資源の資源化
 *3-1のように、政府は竹材を使った紙類をグリーン購入法の対象に位置付け、これにより竹材の活用が促進され、放置竹林対策と地域活性化に繋がることになった。つまり、今まで邪魔物とされていた竹材の利用法が開発され、未利用の資源が資源化されて、地域の得られる利益が増えたわけである。

 また、*3-2のように、九州工業大大学院生命体工学研究科(北九州市)の西田治男教授(高分子化学)が、竹繊維を使ったプラスチック材料を開発し、文部科学省が「大学発新産業創出拠点プロジェクト」に採択したそうだ。これは、建築資材や自動車部品などへの活用が期待され、普及が進むことで放置竹林対策にも繋がり、未利用資源の竹が利益を生むので、地域の得られる利益が増えるわけである。

*1-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=25596
(日本農業新聞 2014/1/22) 基本計画見直し 改革へ担い手明らかに
 食料・農業・農村基本計画の見直し論議が下旬に始まる。一連の農政改革を具体的にどう実践し、農業・農村の所得倍増につなげていくかが課題で、農業者の経営にも直結する重要な検討作業になる。食料自給率の向上も大きな焦点だ。農政改革の羅針盤とする上で、誰が取り組みの中心的な役割を担うのかが鍵となる。地域の総力を引き出す必要性を踏まえ、審議での明確化を求めたい。政府は昨年12月に、農業改革の今後10年間のグランドデザインとなる農林水産業・地域の活力創造プランを策定した。経営所得安定対策や米政策の見直し、農地中間管理機構(農地集積バンク)の整備、日本型直接支払いの創設を政府全体として最終決定したのも同プランだ。他に6次産業化や輸出倍増、次世代型施設園芸の推進といった政策を網羅する。重要なのは、同プランが「農山漁村の有する潜在力を十分に引き出すことにより、農業・農村全体の所得を今後10年間で倍増させることを目指す」と明記したことだ。政策の柱は出そろったが、どうすれば所得倍増につながるのか、同プランでは道筋が明確でない。そもそも「農業・農村全体の所得」とは何を指すのか、現時点でよく分からないのが実態だ。誰が担い手かという大事な軸が据わっていないため、改革が目指す10年後の農業・農村の姿もイメージできない。農政改革の実行が急がれるが、どのような将来像を描くのか、羅針盤を示すことが最優先だ。
 担い手の在り方をめぐっては、この間の農政改革論議でも異なる考えがぶつかり合った。地域ぐるみの生産体制を発展させていく方向か、ごく一部の大規模な担い手に対し一層の規模拡大や企業参入を重視するかという立場の違いは、今も火種を残す。こうした宿題は、規制改革会議や産業競争力会議の議論とともに、食料・農業・農村基本計画の検討作業に引き継がれる。同プラン自体も、基本計画の見直しの中で将来ビジョンとなる農業構造や経営展望を具体的に示すよう求めている。本来なら目指すべき農業・農村の姿を描き、その上で実現に必要な政策を議論するのが筋だ。今回は“目的”の前に“手段”が決まり、検討手順には違和感を覚える。ただ、裏を返せば、基本計画が同プランに魂を込めるということでもあり、これからが勝負の議論になる。
 食料自給率の向上に向けた議論も注目だ。これには国全体での生産力強化が欠かせず、麦・大豆や飼料用米など戦略作物の増産に向けた水田フル活用を展開していく上でも、農地や担い手、作物の在り方を地域で議論し、総力挙げて取り組むことが重要だ。規制改革会議などが目指すような一部企業がビジネスとして農業で成功するだけでは、目標実現には直結しない。自給率が高まっていない現実も直視し、具体的で地に足着いた議論を求めたい。

*1-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=25724
(日本農業新聞 2014/1/30) 世界農業遺産2地域 農業女性がタッグ 大分・国東宇佐と熊本・阿蘇
 ふるさとの世界農業遺産認定をきっかけに、女性の力で農村の文化や食の豊かさを発信――。大分県の国東半島宇佐地域世界農業遺産推進協議会と熊本県の阿蘇地域世界農業遺産推進協会は29日、阿蘇市内で両地域の女性農業者による交流会を開いた。認定を追い風に両地域の女性が手を組み、地域の農産物や食文化を国内外に発信、ブランド化や農業の発展につなげていこうと確認した。世界農業遺産に認定された両地域が共同で、生産者の交流会を開くのは初めて。国東半島宇佐地域の同協議会長でシイタケ農家の林浩昭さん(53)は「地域の農産物の良さを一番知っているのは女性たち。おいしい食べ方やPRの方法を共有して、活躍の場を広げてほしい」とエールを送った。交流会にはJA大分県女性協やJAおおいた管内の女性部、JA阿蘇女性部など女性組織代表も出席。地産地消や食農教育、グリーン・ツーリズムなどの活動を共有した。国東半島の豊後高田市でかんきつなど果樹を栽培するJA大分県女性協会長の永松カズ子さん(67)は「国東半島宇佐と阿蘇で農業や文化は違うが、農と食をつなげるのは女性の役目。アイデアやノウハウを共有し、両地域の発展につなげよう」を提唱。施設園芸農家でJA阿蘇女性部長の栃原清子さん(64)も「今回の交流会で生まれた交流をのちのちまでつなげ、知名度を国内外に浸透させよう」と呼び掛けた。会場では、国東半島宇佐地域から持参した特産の干しシイタケやネギ、かんきつなどを使った「しいたけのバター焼き」や「白ネギのサラダ」などを披露。阿蘇地域は特産のあか牛やタカナを使い「赤牛ステーキサラダ」や「高菜めし」を紹介した。

*2-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=25911
(日本農業新聞 2014/2/11) 飼料米要望6万7000トン 畜産農家を調査 衆院予算委で農相
 林芳正農相は10日の衆院予算委で、2014年産の飼料用米について、現在までに畜産農家から約6万7000トンの利用要望が寄せられていることを明らかにした。また農地中間管理機構(農地集積バンク)について、「3月から4月にかけて相当数の都道府県で立ち上がる」との見通しを示した。いずれも自民党の宮腰光寛・農業基本政策検討プロジェクトチーム座長への答弁。農水省は飼料用米の利用拡大に向け、作る側の耕種農家と、利用する側の畜産農家のマッチング(結び付け)活動を行っており、林農相は現時点での状況を説明した。同省は、毎年8万トンずつ需要が減る傾向にある主食用米の生産数量目標の減少分を飼料用米に振り向ける方針で、目安として5年で40万トン程度の生産を目指している。また農地中間管理機構について林農相は「都道府県で早期に立ち上げられるよう、準備をお願いしてきた」と強調。これに対し、宮腰氏は「(都道府県によって)取り組みに濃淡がある」としてさらに働き掛けを強化するよう求めた。一方、安倍晋三首相は米の生産調整の見直しについて「(農家が)マーケット(市場)を見ながら自らの経営判断で(作物を)生産できるようにしていくことで、消費者への米の安定供給、米の生産性向上、所得増大を図っていく」と述べた。麦・大豆や飼料用米などの生産振興による水田フル活用で、米の需給安定を確保していく考えを示したとみられる。また安倍首相は、政府の規制改革会議などが検討しているJAや農業委員会、農業生産法人の在り方については「さらに議論を深め、具体的な農業改革の推進について、結論を得ることにしている」と述べるにとどめた。ただ「岩盤にドリルを入れること自体が目的ではなくて、そこから新たな天地を開いていくのが目的だ」と語った。いずれも宮腰氏への答弁。

*2-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=25904
(日本農業新聞 2014/2/11) 水田放牧こうして 手引書普及版HPで公開 中央農研
 農研機構・中央農業総合研究センターは10日、水田放牧の研究成果をまとめた手引書「水田放牧の手引き―水田飼料資源の効率的利用と畜産経営の発展に向けて」の普及版を同センターのホームページ(HP)で公開した。水田放牧によるコスト低減や繁殖成績の向上、規模拡大効果などを掲載している。同機構プロジェクト研究「飼料イネ活用型周年放牧モデルの開発」で得られた成果を作成した。全7ページで5章からなる。水田放牧に適した牧草や飼料稲の放牧利用技術、リスク管理方法、衛生管理上の注意点などをまとめた。普及版では水田放牧による繁殖牛の栄養・繁殖への影響を掲載した。水田通年放牧実証経営の繁殖牛の分娩間隔は360日前後と全国平均より繁殖成績は良好。子牛の生時体重も33キロを超え放牧開始前よりも増加したという。飼料用稲の立毛放牧の実績も紹介。イタリアンライグラスやバヒアグラスなどの牧草と飼料稲を組み合わせることで、放牧期間を1月末まで延長できる。実証圃場で飼料稲専用品種「タチアオバ」や「たちすずか」を栽培したところ、10アール当たり150日頭以上の高い牧養力を挙げたという。手引書の請求など問い合わせは同センター、(電)029(838)8414。

*2-3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=25912 
(日本農業新聞 2014/2/11) 農産品輸出1兆円へ 物流改革で産地連携 品目ごと時期調整 農水・国交省検討会
 農水省は農林水産品輸出額1兆円の目標に向け、物流対策に乗り出した。これまで産地ごとにばらばらだった物の流れを整理することで、輸送費を削減しようとする試みだ。農水省の狙いの根底には、単に輸送費削減にとどまらない、「産地ばらばら」から「オールジャパン」への意識改革がある。農産品は、各産地がそれぞれ輸出商社を通じて輸出するが、実際に物を運ぶ段階では同じ系列の物流会社を使っていることがある。産地ごとに少量の荷物を送るよりも、複数の産地で連携し、時期を調整しながらまとまった量を定期的に送る方が輸送費の削減につながる。こうした観点から、物流を所管する国土交通省と農水省が1月末、共同で物流検討会を立ち上げ、共同輸送が可能かどうかを探っている。物流の面からコスト削減に取り組むことで、産地を超えて連携する利点を示したいという思惑がある。米国やオーストラリアなどの輸出国は「アメリカン・ビーフ」「オージー・ビーフ」など国ごとにまとまって販売戦略を打ち出す一方、日本では同じ品目でも「A県産」「B県産」と産地ごとの小さい単位で輸出に取り組んでいる。販売ルートも産地によって違う。また産地間で輸出時期を調整しないため、たとえばある国でA県、B県、C県の同じ果実が特定の時期に集中し、逆に他の時期には全くないなどの問題が出ている。産地ではこうした問題を認識しつつも、「産地を超えて連携すると、具体的にどんな利点があるのか分からない」(農水省輸出促進グループ)のが現状だという。農水省は昨年8月、輸出額1兆円に向けて国別・品目別の戦略を作り、米、牛肉など、大きく8品目ごとに金額目標を設定した。目標達成のためには同じ品目を作る産地が垣根を越えてまとまり、戦略の点検や、課題の検討が欠かせない。品目ごとにゆるやかな連携をつくれないか検討を重ねている。

*3-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=25933
(日本農業新聞 2014/2/12) 竹材活用へ弾み グリーン購入法対象に 政府 
 政府は、国が環境に優しい製品やサービスの利用に努めることなどを定めたグリーン購入法の基本方針を見直し、新たに竹材を使った紙類を同法の対象に位置付けた。これにより竹材の活用が促進され、放置林対策につながるとの期待がある。
●地域活性、放置林対策も
 同法は、環境に負担が少ない製品、サービスを国や地方公共団体、独立行政法人などが率先して購入する仕組み。持続可能な社会の構築を目指す一環だ。今回の見直しで竹パルプを「間伐材等」とし、新たに竹紙が購入の対象となった。環境省は「資源の有効活用や放置林対策の観点から、竹パルプを同法に位置付けた」と理由を話す。林野庁によると、竹林の面積は13.8万ヘクタール。これとは別に手入れを放置したことなどにより約27万ヘクタールの森林に竹が侵入している。竹材生産量は、2000年の約60万トンから10年には約29万トンに減少したが、11、12年は一転して増加。製紙用の利用が本格化したことが追い風となり、約36万トンになった。生産量の約半分は鹿児島で、製紙用が約7割を占める。竹材の利用について議論を進めてきた自民党の木質バイオマス・竹資源活用議員連盟の会長を務める宮路和明氏(衆・比例九州)は「環境にとって良い影響を及ぼす製品だ、とのお墨付きを与えてもらった。竹パルプの活用に弾みがつく」と期待する。

*3-2:http://qbiz.jp/article/31256/1/
(西日本新聞 2014年1月29日) 竹ファイバーで強化プラスチック 九工大が新材料開発
 九州工業大大学院生命体工学研究科(北九州市)の西田治男教授(高分子化学)が、竹繊維を使ったプラスチック材料を開発した。しなやかな竹の繊維を混ぜることで強度が増し、熱による変形が抑制されるといい、建築資材や自動車部品などへの活用が期待される。西田教授は「普及が進むことで放置竹林対策にもつながる」と話している。竹の繊維を使った布や紙製品は実用化されているが、プラスチック化は珍しく、文部科学省が「大学発新産業創出拠点プロジェクト」に採択。実用のめどが立ったため、西田教授は2014年度中に法人を設立し、事業化を支援する。竹の有効活用の研究は09年に開始。10年以降はタケノコの産地として知られる北九州市や福岡県八女市の支援も受け、複合材料の開発に取り組んできた。竹から繊維を取り出すには、高温の圧力容器内で加減圧を繰り返したり、薬品で溶かし出したりするが、コストが高かった。西田教授は圧力容器を使わず、竹に水蒸気を当て繊維周辺の物質を分解する手法に着目。220度前後の水蒸気を1時間〜1時間半当てて細かく粉砕し、繊維を取り出す方法を確立した。複合材料には、竹繊維を30〜50%配合。プラスチックより堅い竹繊維を混ぜることで、複合材料は曲げ強度が2倍に増したほか、熱による膨張も10分の1程度になった。静電気を帯びにくい性質もあり、既に北九州市の自動車部品メーカー2社が製品化の可能性を調査。竹の粉末は月産100トンで通常のプラスチックより価格が安くなるため、大手素材メーカーからも問い合わせが来ているという。事業化を支援するDBJキャピタル(東京)の山口泰久投資部長は「建築資材のほか、優れた帯電防止性を生かし半導体のクリーンルームで使う樹脂製品などにも活用できるのではないか」と期待している。林野庁によると、九州の竹林面積は1981年の約5万5千ヘクタールから2012年には約6万4400ヘクタールに拡大。増えた分は放置竹林とみられる。竹は、地中の浅い部分に地下茎を伸ばすため、地滑りの危険性を高めるとの指摘もある。


PS(2014.2.18追加):なお、*3-3のように、ジビエも邪魔にされていた鳥害獣を資源を利用し、発展可能性の大きなものである。

*3-3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=26007 
(日本農業新聞 2014/2/17)  [鳥獣害と闘う] ジビエでおもてなし 23日まで食べ歩き JR長野駅前飲食店グループ
 長野市のJR長野駅前の飲食店グループが17日から23日、地元で捕獲された野生鳥獣肉(ジビエ)の料理で“おもてなし”する「ジビエウィーク」を開く。ピザ、煮込み料理など30品を超すメニューを考案して各店が提供。スタンプラリーでの食べ歩きなども企画し、消費者に「信州ジビエ」をPRする。ジビエウィークは、市内で18日に開かれる「全国ジビエサミット」に合わせて開催。飲食店組合「長野しまんりょ会」の賛同店舗が県内の食肉処理施設で加工したイノシシや鹿の肉を使った創作料理を提供する。気軽にジビエを楽しめるよう、500円のメニューを中心に用意。食べ歩き企画やアンケート、景品プレゼントを実施する。参加店の居酒屋「鶴亀」では、地元のJAグリーン長野女性部が加工した「シカ肉味噌」を使ったピザや、イノシシの空揚げなどを販売。同店料理人の二本松孝洋さん(24)は、「ジビエが初めてという人も食べやすいよう工夫した」と勧める。取り組みは、同市の猟師やJAグリーン長野、飲食店が連携する「若穂食のモデル地域実行協議会」の活動の一環。飲食店はJA女性部とともに、数回にわたり研修を通じ、ジビエの特性や調理法の研究を重ねた。

| 農林漁業::2014.2~7 | 10:55 AM | comments (x) | trackback (x) |
2014.2.14 先端科学の農林漁業への導入と遺伝子組み換え作物
  
   蛍光蚕             蛍光繭と蛍光絹糸        蛍光絹布のドレス

(1)遺伝子工学、医療、IT、ロボット工学など先端科学の農業への利用
 *1のように、遺伝子工学、医療との連携、ITの活用、ロボットの活用などにより、農林水産業は、日本の長所を活かした成長産業にすることができる。

 例えば、*2及び上の写真の蛍光絹糸は、遺伝子工学を使ってクラゲの緑色蛍光タンパク質やサンゴの赤色蛍光タンパク質を絹糸に発現して作られたもので、帯、帯上げ、帯締めなどに使っても面白そうだ。このほかに、抗菌性やクモ糸なみの強さを持つ絹糸も開発中とのことで、このブログの2014.2.13に記載したSTAP細胞を使うと、同じ遺伝情報を持つ蚕を大量に作ることもできるようになると思う。

 なお、農作業は、IT化やロボット化できる部分も多いため、農機具の進歩やその安価な普及が望まれる。また、医療や栄養学と連携すれば、栄養管理や介護食の開発も可能で、付加価値が高くなる。

(2)生命科学を使った品種改良
 *3のように、近年は、畜産でも生命科学を使って、乳用牛の繁殖性、肉用牛の成長速度や味、豚の繁殖性、鶏の卵質などをターゲットにして、遺伝子情報を取り入れた育種を行い、従来よりも短時間で効率的な育種が進められているそうだ。これらは、その動物が従来から持っている遺伝情報を選別しているだけであるため、食べる人に害はない。

 また、林業でも、*4のように、花粉をまき散らさない杉が誕生し、従来の杉との植え変えが進んでいる。もう一歩進んで、花粉を作らない樹木ができれば、花粉症の防止になるだけでなく、花粉を作るためのエネルギーも成長にまわせるためその樹木の成長は早くなるだろう。さらに、その他の必要な性質を持つ樹木を育種することも、生命科学を使えば効率的にできる筈だ。

(3)遺伝子組換食品について
 食品とする農産物の遺伝子組換については、*5のように、山形大学医学部が見解を出しているが、害虫抵抗性や除草剤抵抗性のある農作物が多く、害虫を殺せる物質が人体にだけ無害とは信じにくい。少量なら無害でも、食べ続けるとどうなるのかは心配だ。

 また、経済性も高いとは限らず、食品は身体に入れるものであるため、私は基本的に反対であり、消費者が選択しやすいように、最低でも、スウェーデンやEU並みの食品表示による情報公開と遺伝子組み換えでない食品を選べるという選択肢の存在が必要だと考えている。

*1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=25816
(日本農業新聞 2014/2/5)  農業、食品分野 成長産業に 民間の研究後押し 農水省
 農水省は、遺伝子工学や医療、IT、ロボット工学など異分野の技術を活用して、農林水産業・食品産業分野の成長産業化を目指す。消費者らのニーズを把握した上で、民間企業や大学などが手掛ける研究の支援に乗り出す。同省は、民間活力を生かした研究の推進に2014年度予算案で11億1300万円、13年度補正予算案で30億円を新たに計上した。国内の農林水産・食品分野の研究投資は他の産業より活発ではなく、新たな技術の開発や事業化が遅れていると指摘。民間企業の研究開発支援に乗り出した。具体的には農林水産業の生産現場や、民間のニーズに合う研究課題を設定する。アレルギーがある人でも食べられる農産物の加工品作りや、希少価値のある薬用作物を効率的に栽培する生産システムの開発などを想定する。事業を委託する企業などが研究に成功した場合は、委託費の100%、成功しなかった場合には10%返済する仕組みを設け、研究に必要な企業の負担を低減する。農林水産分野は天候によって生産量が左右されやすい特徴を考慮し、委託費を全額返済する場合も返済期間を5~10年とした。新たな技術・製品は、開発した企業が優先的に使える。ただ、同省は「税金を使っているため、社会還元ができるよう他企業でも活用できるようにする」(研究推進課)としている。並行して、大学や研究機関などとの連携も強める。医療、工学系の大学などに研究拠点を置き、異分野の共同研究を支援する。テーマは和食の機能性効果やウイルス対策、情報通信技術(ICT)を活用する農業など。2月中に第1回の検討会を開き、公募を経て研究拠点を決める。また、全国に配置した研究機関などのOBが務める「コーディネーター」が、生産現場や消費者が求める情報を収集する。現場が求めることと研究内容が一致するよう、コーディネーターと情報を共有しながら研究を進める。

*2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=25851
(日本農業新聞 2014/2/7)  蛍光絹糸GM蚕 試験飼育承認へ 農水省
 農水省は6日、緑色に光る蛍光絹糸を生産する遺伝子組み換え(GM)蚕の農家段階の生産を目指した試験飼育が承認される方向だと発表した。農業生物資源研究所(生物研)が開発した蚕で、付加価値の高い絹糸の生産を目指す。実験室や工場などの閉鎖環境ではなく、一般農家での生産につながる「第1種使用」と呼ばれる区分での承認で、GM蚕が同区分で飼養されれば国内初となる。試験飼育は生物研が茨城県つくば市で行う。蚕と交雑する可能性がある野生のクワコが侵入するのを防ぐ対策を取った隔離施設で飼育。試験で野生生物への影響などの問題がないことを確認した後、農家での飼育を申請する予定だ。GM蚕を飼育するには、GM生物の販売・流通を規制するカルタヘナ法に基づき、承認を受ける必要がある。同法ではGM生物の利用を、一般圃場での生産や流通を想定した「第1種使用」と、閉鎖環境で生産する「第2種使用」に区分。農水省と環境省は同日までに専門家による検討会を開き、生物研が申請した「第1種使用」のGM蚕の試験飼育を認める内容の意見をまとめた。

*3:http://www.nlbc.go.jp/g_tyousa/iden/idenshiikusyu.asp
(家畜改良センター 2013年8月19日) 遺伝子育種
 育種とは、特徴ある家畜、具体的には人にとって望ましい能力(泌乳量、産子数、肉質など)を向上させた個体や集団を作り出すことです。これまでは、血統などから優秀な能力を持つと考えられる父親と母親を選び出して交配させ、生まれた子畜から、次の世代の父親、母親となるものを選抜してきました。一方、1990年頃から身長や体重などのように連続的な数値で表示される形質(量的形質)に関与する複数の遺伝子が染色体上のどの位置(遺伝子座)にあるのかを、DNA配列の個体間で異なる部分(DNAマーカー)を使って探索する方法が開発され、家畜においても、繁殖性、成長速度および肉質などの経済的に重要な形質を支配する遺伝子座を特定することが可能になりました。このように家畜の生産性や畜産物の品質などと関連のある遺伝子座を特定することができれば、特定した遺伝子座の情報を用いて家畜の選抜を行うことができます。現在は、血縁や家畜個体の成績を統計学による分析に基づき、個々の遺伝子の作用ではなく遺伝子の集まりの特性を調べて、育種(改良)が行われていますが、上述のような個々の遺伝子情報を取り入れた育種手法は、従来の育種に必要であった時間、人員や施設等の経済面において飛躍的に効率化が図られるものと期待されています。マーカーアシスト選抜は、様々な経済形質の向上を目的とした育種に力を発揮する手法と考えられています。現在のところ、乳用牛では繁殖性、肉用牛では成長や食味、豚では繁殖性及び鶏では卵質などの形質をターゲットに調査研究を進めています。

*4:http://www.bioportal.jp/ja/column/604
(Jabion 2008年5月1日、要点のみ) 花粉の出ないスギ「爽春」の誕生
 今年の3月に、林木育種センターが開発した花粉の出ないスギ「爽春:そうしゅん」が新品種として登録され、全国に挿し木苗として普及させる動きが進んでいます。しかし、その効果が期待できるのは、スギが成長して開花するのに10~20年かかりますから、まだ先のようです。
●花粉症を誘発する植物の花粉
 日本のスギ(Cryptomeria japonica)は英名をJapanese Cedarと呼び、日本にしか分布しない固有種です。世界中には、北米、東アジア、タスマニアなど、和名でアケボノズギやヤナギスギと呼ばれる樹種が存在しますが、分類学的には属レベルで異なり、日本のように大規模な植林は行われていません。
●雄性不稔性のスギ
 今回話題となった「爽春」は、雄花を付けますが花粉が成熟できず、花粉散布が起こらない突然変異の個体で、これを 雄性不稔性といいます。この品種は、40年前に林業用として、材質の良い品種を開発する目的で、全国から様々な特性のある個体を集め、茨城県内の国有林に人為的に樹木を植栽した人工林で、日本では建築材として加工されるスギやヒノキが植栽され、ほとんどの人工林が針葉樹林を形成します。そうした中から、 長い年月を経て モニタリングした結果、林業に最適な個体を見つけては、その個体の枝先を切って(穂木)、苗床で根を生やす(挿し木)が行われてきました。「爽春」も、こうした挿し木によってつくられた品種です。
 一方で、挿し木ではなく、細胞培養から増やす研究も進められていますが、こちらは野外に移して、正常に生育し、材質が林業的に価値のあるものかどうか調査する必要があり、まだまだこれからです。さらに、短期間で確実な品種改良を行うために、遺伝子解析が進んでいますが、遺伝子領域の解読は断片的で、形態変異に関係する領域は一部のみで、現在、解析中です。一般的に樹木はスギを含めゲノム数が大きく、現在の少ない予算枠では、断片的な遺伝子配列の解析や他の樹種の遺伝子情報が集まるのを待ちつつ解析せざるをえないのが現状です。
●林業の現状
 さて、「爽春」の全国普及が実現できるかどうかですが、まず、国内の林業を活性化しなければ、難しいと言えます。現在、日本のスギ林の多くは 北山杉などの有名なスギの産地を除いて、管理されず放置されているのが現状です。その原因は根が深く、スギの植林は、昭和30年代に国の補助政策により、全国各地で盛んに行われましたが、昭和40年頃から、木材の流通は海外市場が中心となり植林業者が激減しました。そのため、枝打ちなどの管理も行き届かなくなりました。また、昭和50年頃までは、枝打ちした廃材はその現場で焼却処分などを行っていましたが、現在では環境問題の配慮から、枝打ちしたものはすべて産廃場で処理することが指導されており、その処理費の出費が林業者を圧迫しています。植林して40年経過したスギでさえ、伐採して木材にすると管理費や運搬経費等がかさみ赤字になるため、多くのスギ林が枝打ちもできず放置されています。こうした状況の中で、「爽春」をいかに全国に広げるか、行政と民間企業の緊密な連携がなくては難しいところです。また、スギ花粉だけでなく、花粉症に関する多方面にわたる研究開発も必要でしょうから、爽快な日本の春の訪れは今しばらく遠いようです。

*5:http://www.id.yamagata-u.ac.jp/EPC/15mirai/01kumikae/kumikae.html#5
(山形大学医学部)
1. 遺伝子とその利用
a. 遺伝子とは
 ヒトをはじめとし、動物、植物、細菌など全ての生物はそれぞれの姿、形、性質を親から子へと次世代に伝える仕組みを持っています。全ての生物の構成単位は細胞からなり、どんな生物の細胞も基本的な構造はほとんど同じようなものです。細胞膜に包まれた細胞の中には核があり、核の中には染色体が入っています。この染色体に「親から子へ遺伝する」という形で受け継がれていく遺伝の基本単位、すなわち「遺伝子」が含まれています。遺伝子の本体は「DNA(デオキシリボ核酸)」という物質でできています。DNAはA(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)と呼ばれる4種類の物質(塩基)がたくさんつながり、1本の鎖のような形をしています。この塩基の並び方が一種の暗号になっており、例えば、G-T-Cという並び方は、「グルタミン」というアミノ酸を意味します。このように、塩基3個の並び方が1つのアミノ酸に対応しており、この暗号どおりに、アミノ酸をつなげていくと、最終的に蛋白質ができあがります。蛋白質は生物の発生・分化・成長等の調節をしたり、酵素などとして働きます。
b. 従来の方法による品種改良
 人類は昔から植物や動物を交配することによって品種を改良し、酒や味噌などの食品を作るために微生物を利用したりなど、生物の持つ機能を上手に活用してきました。 農林水産、食品の分野でも交配を重ねることによって優れた品種を作りだしてきました。従来の品種改良では自然交配が可能な同種の生物、あるいはごく近縁の生物同士を交配することによって遺伝子の導入を行なってきました。交配によって遺伝子が組み換えられた結果、様々な性質を持った個体が出現しますが、そのうちの有用な性質を持った個体のみを選抜して改良を重ねてきたわけです。今日私たちが日常の生活で食べている米、野菜、肉などのほとんどは、このような様々な交配によって作り上げられてきたものです。
c. バイオテクノロジーによる品種改良
 しかし、現在ではバイオテクノロジー(バイオロジー + テクノロジー、生物学 + 科学技術)と呼ばれる方法を用い、生物の組織や細胞さらには遺伝子を利用して、優れた形質を持つ生命体を誕生させることができるようになりました。細胞と細胞を人工的に融合させて両方の性質を持つ細胞を作る「細胞融合技術」や、植物の細胞や組織(同じ種類の細胞の集まり)を養分のある液に植えつけて、一つの植物にまで成長させる「細胞・組織培養技術」、そして「組換えDNA技術」などです。
2. 遺伝子組み換え技術とその応用
 遺伝子組み換え技術とは細菌などの遺伝子の一部を切り取って、その構成要素の並び方を変えてもとの生物の遺伝子に戻したり、別の種類の生物の遺伝子に組み入れたりする技術です。この技術を利用すれば、特定の生物がもっている遺伝子を異なる種の生物に組みこんで、必要とする性質を持ったタンパク質をつくらせることができます。農作物や細菌などに、本来作り得ない、有用な酵素などを作らせることもできます。動物の遺伝子を植物の細胞に組みこむことすら可能な技術です。
a. 組み換え技術
●アグロバクテリウム法
 最初に開発された方法はアグロバクテリウム法という土壌細菌を使って植物に遺伝子を組み込む方法です。アグロバクテリウムには、「核外遺伝子」(プラスミド)と呼ばれる小さな環状のDNAが存在し、その内部には「T-DNA」という領域があり、アグロバクテリウムが作物に感染すると、その作物の細胞のDNAに入り込むという性質を持っております。そこでこの性質を利用し、プラスミドの一部を切りとって、そのかわりに取り入れたい遺伝子をプラスミドにつなぎ合わせた後、T-DAN領域内に「プロモーターに連結した目的遺伝子」を導入すれば、目的遺伝子が作物細胞中のDNAに組み込まれ、目的のタンパク質を作るようになります。プロモーターとは遺伝子の機能を開始させ、タンパク質を作らせるスイッチとなる働きを持つ、特定のDNA領域です。なお、プラスミドは、遺伝子を運ぶ役目をするので、運び屋DNAとも言われています。
●エレクトロポレーション法
 次に、電気を使って遺伝子を取り入れるエレクトロポレーション法が開発されました。エレクトロポレーション法では、まず、植物細胞の固い細胞壁を酵素で溶かして取り除き、プロトプラストと呼ばれる裸の状態の細胞にして、遺伝子が入りやすいようにします。次に、このプロトプラストに、短時間の電気刺激(電気パレス)をかけて穴をあけ、ここから取り入れたいDNAの断片を入れることにより、役に立つ遺伝子を改良したい植物に組み込むことができます。
●パーティクルガン法
 10年ほど前に、アメリカのコーネル大学で開発された方法です。パーティクルガン法とは、金やタングステンの微粒子に取り入れたい役に立つ遺伝子をまぶし、これを高圧ガスで改良したい植物細胞に打ち込む方法です。
b. 遺伝子組換え技術を用いて作られたもの及び研究開発中のもの
 1. 農林水産・食品分野
  農林水産・食品分野では植物、家畜、魚介類、昆虫、微生物といった主要な生物種が対象 となっており、実用化を目指した広範な研究開発が進行中です。各分野における実用化及び 研究開発状況は以下のようになっています。
 a)植物分野
  (1) 実用化されている技術
  細胞・組織培養:
  病気に侵されていないイチゴ苗、優良な系統のラン苗等の大量生産
  イネ、イチゴ、ネギ、ユリ、カンキツ等の新品種の作出
  薬用人参を成分とする飲料の大量生産
  組換えDNA技術:
  我が国では、組換えDNA技術を利用して作出された色変わり(青っぽい藤色)カーネー  ションが平成9年10月から販売されています。 米国等では組換えDNA技術により日持ち  をよくしたトマト、除草剤耐性のナタネ、ダイズ及び害虫抵抗性のジャガイモ、トウモロ  コシ、ワタなどが商品化されています。
  (2) 研究開発の状況
  細胞・組織培養 :
  花粉の少ないスギ品種、低リグニンのパルプ用に適した樹木、難育苗樹種の組織培養によ  る苗木の大量増殖技術の開発
  組換えDNA技術:
  病気に強いイネ、トマト、メロン、ペチュニア、低アレルゲン、酒造用の低タンパク質の  イネなどの作出に成功。これらは、隔離ほ場での栽培試験が終了し、一般ほ場での栽培が  可能となっている(ただし、製品化には至っていない)。
  耐寒性、耐乾燥性、耐塩性等を有し極限環境でも生育できる作物、光合成や窒素固定の能  力を向上させ生産性を飛躍的に高めた作物、機能性成分に富む作物、化石燃料に替わり効  率的なエネルギー生産を行う作物の開発を目指した研究に取り組んでいる。
  組換えDNA技術を用いた画期的な新品種開発の基盤となるイネの全遺伝子の配列及び機  能を解明するゲノムプロジェクトが進行中。
 b)家畜分野
 (1) 実用化されている技術
  卵子、胚の利用 :
  優良な雌牛から一度に大量の受精卵を取り出し、他の雌牛に移植することによる優良な子  牛の生産(受精卵移植)
  組換えDNA技術:
  医薬品開発等のための組換え実験動物(マウス等)の生産(米国では組換え生ワクチンが商品  化されている。)
 (2) 研究開発の状況
  卵子・胚の利用 :
  1つの受精卵や成体細胞から同じ性質を持つクローン牛を生産する技術の開発
  組換えDNA技術:
  牛白血病の組換え生ワクチン接種試験の開始
  有用物質生産のための組換え家畜や臓器移植用の組換えブタの試験的作出
  ウシ、ブタを中心に家畜ゲノムの解析研究を実施中。
  DNA鑑定:
  受精卵のDNAを調べることによる雌雄の産分け
 c)水産分野
 (1) 実用化されている技術
  卵子・胚の利用:
  大きな魚介類(三倍体魚、全雌魚)の生産
  新素材の開発:
  エビ・カニの甲羅を素材とした手術用糸の生産
  組換えDNA技術:
  真珠養殖用のフィブロネクチンの生産
 (2) 研究開発の状況
  卵子・胚の利用 :
  ウナギ稚魚の人工養殖技術の開発
  組換えDNA技術:
  遺伝子組換えニジマスの作出に成功しており、世界的水準にある。
 d)昆虫分野
 (1) 実用化されている技術
  組換えDNA技術:
  カイコを用いたネコ用インターフェロンの生産
 (2) 研究開発の状況
  昆虫の高度利用
  昆虫の有用成分を利用した新素材(抗菌性物質、抗血液凝固物質、ワックス、人工皮膚   等)の開発、昆虫機能を利用したバイオセンサー、バイオマイクロマシン等の開発
 e)微生物分野
 (1) 実用化されている技術
  細胞融合 :
  冷凍保存が可能なパン生地用酵母
  微生物・酵素の高度利用:
  バイオリアクターを利用した糖類、酒類の製造
  欧米では組換え微生物により生産されたチーズ製造用酵素の商品化。
  米国では組換え微生物により生産されたウシ成長ホルモンの商品化。
 (2) 研究開発の状況
  組換えDNA技術:
  耐熱性酵素等の開発
  微生物の高度利用:
  微生物を利用した環境浄化技術(バイオリメディエーション)の開発
2. 医薬品、工業用酵素、試薬(実験や検査等に使う薬剤)
  具体的には、ヒトの医薬品としてインターフェロンやインスリン、衣料用洗剤の酵素など があり、大きな市場となっています。また、実験用の疾患モデルマウスの生産なども実用化 されています。
3. 遺伝子組換え技術を使うメリット
 農林水産業・食品産業等では遺伝子組換え技術の応用により、画期的な新品種の作出や、生産工程の効率化等といったことが可能です。21世紀半ばには世界の総人口は100億人の時代になります。食糧不足と地球環境の破壊はますます深刻になることが予想されます。遺伝子組換え技術は今後の食料問題、地球環境問題等を解決するためのキーテクノロジーの一つとして期待されます。
 遺伝子組換え技術の利用により、ある生物から有用な遺伝子を取り出し、他の生物に導入することで、農作物の品種改良の範囲を大幅に拡大することができます。農作物を利用して自然の状態で分解するプラスチック製品を作ることやエネルギー資源として用いることも可能です。これまでと全く異なった農作物の利用形態が浮上してくることでしょう。
 具体的には、次のような課題への対応を可能にする技術といえます。
1. 消費者の好み・要望にそった農林水産物・食品の生産
  栄養成分や機能性成分(抗ガン効果等)に富む農作物、日持ちの良い農作物、アレルギー  原因物質を除いた食品の生産
2. 生産力の飛躍的向上
  超多収農作物、低温・乾燥・塩害などの不良環境や病虫害に強い農作物の開発
3. 環境・資源問題の解決への貢献
  生分解性プラスチック、環境浄化微生物、病虫害抵抗性を付与することによる農薬使用量  の減少、生物エネルギー等の開発
* 遺伝子組み換え食品目次に戻る *
4. 遺伝子組み換え作物
 すでに商品化されている遺伝子組み換え作物の種類はいろいろありますが、現在までにアメリカやカナダで商品化されている遺伝子組み換え作物の代表的な機能としては、除草剤に対する耐性、害虫に対する抵抗性、日もち向上性の3点があげられます。その他、雄性不捻性・不捻性回復性の組み込みや、鉄分などの人体に有用な成分を多く含む作物、効率的なエネルギー生産を行う作物、きびしい環境下でも生育できる作物などの開発をめざした研究が進んでいます。
a. 除草剤の影響を受けない農作物
 除草剤の影響を受けない農作物には、特定の除草剤の影響を受けなくするタンパク質を作る遺伝子が組み込まれています。そのため、その除草剤をまいても枯れない農作物を作ることができます。農作物を作るときには、雑草や農作物の種類に合わせて数種類の除草剤を何回もまかなくてはなりませんが、この除草剤の影響を受けない農作物を栽培することによって除草剤の使用回数や使用量を減らすことが可能になります。現在、除草剤耐性遺伝子を導入した作物にはダイズやナタネなどがあり、グリホサートやグルホシネート、オキシニル系などの除草剤に強い性質をもつ品種が作られています。除草剤の影響を受けないバクテリアや、除草剤を分解してしまう性質を持つバクテリアから、その部分のDNAを取り出して植物のDNAに組込み、除草剤に強い植物が作られます。
 (1) グリホサート耐性作物
 グリホサートは、植物や微生物に特有なアミノ酸合成経路に必要なEPSPS蛋白質の働きを阻害するため、植物は生育に必要なアミノ酸を合成できずに枯れてしまいます。そこで、植物が元々持っているEPSPS遺伝子を部分的に変化させたmEPSPS遺伝子を挿入することにより、グリホサートの影響を受けないmEPSPS蛋白質ができるので、グリホサートを散布しても植物は枯れずに生き残ることができます。
 (2) グルホシネート耐性作物
 植物は生きるために窒素を利用していますが、その結果、アンモニアという有害物質が組織内にたまってしまいます。このアンモニアを無毒化する酵素を植物はもっているのですが、グルホシネートの有効成分であるPPTは、この酵素の働きを阻害するため、アンモニアがたまって植物は枯れてしまいます。そこで、このPPTの働きを阻害する酵素を発現する遺伝子を植物に導入することにより、グルホシネートを散布しても、植物は枯れずに生き残ることができます。
 (3) オキシニル系除草剤耐性作物
 オキシニル系除草剤は、植物が光合成を行うときの電子の流れを遮断することで、植物の生育を阻害しますが、オキシニル系除草剤耐性作物には、オキシニル類を活性成分とする除草剤を加水分解するnitrilase蛋白質を発現するoxy遺伝子を導入しているので、オキシニル系除草剤の影響を受けずに生育できます。
b. 害虫抵抗性農作物
 害虫をよせつけない農作物とは、害虫の天敵である微生物から、特定の害虫だけを殺すタンパク質を作る遺伝子を取り出して、これを農作物に取り入れたものです。遺伝子組み換えの技術によって害虫をよせつけないよう改良された農作物としてよく知られているのがトウモロコシです。トウモロコシにとっての害虫はガやコガネムシの仲間です。これらの害虫に対抗するためにトウモロコシに取り入れられた遺伝子は、ガやコガネムシの天敵微生物である「バチルス・テューリンゲンシス菌」(通称:Bt)のもで、このBtが持つタンパク質が殺虫力を示すのは特定の種類の害虫だけだとされており、そのためこのBtタンパク質は環境に優しい農薬として20年以上も前から使われています。このBtタンパク質をトウモロコシに組み込んだのが、通称Btコーンと呼ばれている組み換え作物で、このBtコーンを害虫が食べると、まず害虫の体内にBtタンパク質が取り込まれます。しかし、昆虫の消化器内はアルカリ性になっているため、このBtタンパク質は害虫の体内では完全には消化されず、毒性を持つ特定のプチペド(タンパク質が部分的に消化されたもの)が残ります。このプチペドが害虫の腸の粘膜にあるレセプター(受容体)と結びついて、虫の腸管細胞を破壊し、害虫は死んでしまいます。なお、人間などのほ乳類では、胃液が酸性であるためにBtタンパク質は消化されてしまい、仮にプチペドが体内に存在したとしてもほ乳類にはレセプターがなく、生体には影響がないとされています。Bt菌は土壌中に常在しており、特定の種類の害虫以外に影響をおよぼすことは少ないと考えられています。また、殺虫剤の散布回数や使用量を減らすことができ、労力とコストの削減にもなります。
c. 日もちを向上した農作物
 遺伝子組み換えの技術によって日持ちがよくなるよう改良された農作物として、トマトやカーネーションが知られています。これらには、果実が熟する時に働く酵素が現れるのをおさえる遺伝子や、果実の成熟や植物の老化をすすめる植物ホルモンが現れるのを抑える遺伝子が取り入れられています。日持ちのよいトマトには「畑で完熟してから収穫できる」という利点があり、日持ちのよいカーネーションは「いままでより長い間花を楽しめる」という利点があります。日もち向上性を獲得させたトマトは1994年にアメリカではじめて認可され、市場に出まわりました。トマトは実が熟すと「ポリガラクチュロナーゼ」と呼ばれる酵素が働いて、ペクチンが分解され、果皮がやわらかくなります。日もち向上性のトマトでは、トマトのポリガラクチュロテーゼを生成させる遺伝子の一部を逆向きにして元の遺伝子に組みこむことにより、遺伝子本来のはたらきをおさえる「アンチセンス法」とよばれる方法が用いられます。その結果、ポリガラクチュロナーゼの生成が抑制され、熟しても果皮がやわらかくなりにくく、畑で完熟させてから収穫できるので風味もよく、カビなどの発生も少なくなります。
d. 雄性不捻性・不捻性回復性
 雄性不稔性とは、植物の雄性器官である花粉や胚のうに異常があるために、受粉・受精や種子形成が行われないことをいいます。花に雄シベと雌シベが共についていると、植物は自家受粉を行うことができ、他の品種の花粉を受け付けにくくなるので、雑種強勢(雑種の植物は純粋なものよりも生命力が強く、収穫量が上がる)の特徴を利用する雑種第1代を育成することが困難になりますが、雄性不稔を用いるとこれが可能になります。しかし、できた種子の次代が雄性不稔のままでは、受粉ができず収穫量が減るので、花粉親となる植物には、雄性不稔遺伝子を働かなくする稔性回復遺伝子を組み込んでおきます。
e. 色変わりの花
 遺伝子組み換えの技術によって、色変わりのカーネーションなども開発されております。ペニチュアという花から青の色素(アントシアニン)をつくりだす遺伝子を取り出してカーネーションに取り入れ、今までにない藤色の花が咲くようにした色変わりのカーネーションは日本でも平成9年10月から販売が開始されております。濃い青紫色のカーネーションも平成11年6月下旬から販売されております。
5. 遺伝子組み換え大豆の意外なマイナス面
 雑 草管理が楽になり、収穫量が増える」「除草剤の使用が減る」と言われてきた 遺伝子組換え農作物ですが、実際にはその逆であるという専門家のリポートが米国で相次いで発表され、大きな反響を呼んでいます。名古屋大理学部の河田昌東助手(分子生物学)はリポートの一つを日本語に翻訳して紹介しております。
以下、河田昌東先生のリポートから、その要点をご紹介させて頂きます。
a. リポートの要旨
 リポートをまとめたのは、病害虫専門家で元米国科学アカデミー農業委員会 委員長のチャールズ・ベンブロック氏です。「ラウンドアップ・レディ大豆の収量低下の程度とその 結果」(ラウンドアップ・レディは除草剤の商品名)という内容は昨年夏に翻訳・公表されました。調査は八つの州立大学の試験栽培地で行われた結果を分析したもので、それ によると、在来品種と組み換え品種を比較したところ、平均収穫量は8州のう ち7州で在来品種の方が高く、1エーカー(約4000平方メートル)当たりの収穫量で見ると、組み換え品種の方が約7%低かった。遺伝的に収量性の高い5品種を選んで比較しても、組み換え品種の方が約6%低かった。組み換え大豆の栽培では除草剤を1、2回まくだけで雑草が枯れるため、これまで除草剤の使用量は減るとされてきた。ところが、農場での使用状況を調べた結果、組み換え大豆が登場する前に比べ、1エーカー当たり約2~5倍の除草剤を使っている所があり、使用量は減っていないと結論づけている。除草剤の使用が増えた理由として、「散布するだけで雑草が枯れるため、安易にまく傾向がある」「雑草に耐性ができて、結果的に散布量が増える」の二つが考えられるという。
b. メーカー巻き込む論争
 一方、米国のネブラスカ大農業資源研究所は今春、過去2年間にわたって調査した結果、「ラウンドアップ・レディをまいても枯れない組み換え大豆の方が従来の大豆に比べ、6~11%収穫量が少ない」という研究リポートを発表した。この調査はベンブロック・リポートを支持する内容だけに、米国では除草剤メーカーを巻き込んでの論争となっている。調査結果を学会や公開討論会で積極的に発表しているベンブロック氏は「組み換え大豆は経済的にも収入減をもたらし、決して夢の技術ではない」と米国農業の未来に懸念を抱いているという。ベンブロック・リポートを訳した河田さんは「このリポートは、日本の消費者や生産者にも重大な問題を提起している。組み換え大豆の収量が低くなるメカニズムは分かっていないが、外から遺伝子を組み込まれて除草剤に強くなった分、大豆自体の健康度、生命力みたいなものが低下したのではないか。今年の米国での組み換え大豆の栽培面積は昨年に比べて減るだろう」と語る。
c. メーカーは反論
 これに対し、「ラウンドアップ・レディ」のメーカーである米国モンサント社の日本法人は「もともと収量の増加をうたい文句にしていない。しかも、除草剤の使用が増えたという根拠がはっきりと示されていない。雑草に耐性ができたという話も聞いたことがない」などと反論している。
【米8州の平均収穫量の比較】
 州    在来種 組み換え
イリノイ   58   60
アイオワ   61   57
ミシガン   66   64
ミネソタ   66   61
ネブラスカ  66   51
オハイオ   60   58
南ダコタ   49   44
ウィスコンシン71   69
※数字は1エーカー当たりの収穫量(単位はブッシェル。1ブッシェルは約27キログラム)
河田先生のリポートは中部よつ葉会で冊子としてまとめられております。 
 取り扱い:中部よつ葉会=電話052・937・481 7
6. 遺伝子組み換え食品とその安全性
a. 遺伝子組み換え食品とは
 遺伝子組み換え食品とは「遺伝子組み換え技術を用いて開発された農作物と、それを加工した食品」を指します。現在、厚生省が安全性を確認したものとしてはとうもろこし、なたね、じゃがいも等の農作物29品種と、キモシン、α-アミラーゼ等の食品添加物6品目があります。日本で販売されている食用油や豆腐、醤油、スナック菓子などにはアメリカやカナダから輸入された原料が使われることが多いことから、組み換え食品である可能性があります。
b. 遺伝子組み換え食品の安全性
 遺伝子組み換え食品の開発とその安全性について日本で賛否両論が飛びかうようになったのは、1996年ころからです。賛成派は「遺伝子組み換え食品は従来の食品と同等に安全である」と考えるのに対し、反対派は「予期しない事態を生む可能性があるにもかかわらず、安全性が評価されているか疑わしい」としております。遺伝子組み換え食品としての安全性の確認には以下の3点があります。
1. 導入された遺伝子が新たに作り出すタンパク質が人体に安全かどうか
2. 新たに作り出されるタンパク質にアレルギーを引き起こす作用がないか
3. 目的遺伝子とともに導入されることの多い抗生物質耐性遺伝子が作り出す酵素が、人体に影響しないかどうか
 1989年にアメリカで遺伝子を組み換えた枯草菌を利用して生産されたトリプトファンを食べた人々に、筋肉の痛みや呼吸困難、せき、発疹などの症状がみられました。トリプトファンは必須アミノ酸の一つであり、この製品は不眠症などにも効果がある食品として販売されていたものです。調査の結果、商品中に予期されなかった2種類の有害物質が混入していたことが判明しました。それらの有害物質が遺伝子組み換えによる副産物であるかどうかは不明ですが、安全性がよく確認されないまま市場に出まわったとして問題視されました。
c. 遺伝子組み替え食品の安全性に疑問を投じた二つの論文
1. 1998年8月イギリスのアーパド・バズタイ博士は「遺伝子組み換えによる害虫抵抗性ジャガイモをラットに与えたところ腎臓や、脾臓、胸腺、胃などの組織における成長障害と免疫力の低下がみられた」とテレビ番組で公表しました。この報告は「世間に誤解を与えるものである」として博士は停職処分を受け、事件はいったん解決したかのように思われましたが、その後も賛否両論が噴出し、最終的に明確な結論は得られておりません。
2. アメリカのコーネル大学のJ. ローシー助教授がアワノメイガという害虫を防除するために「Bt (バチルス・チューリンゲンシス)」というバクテリアの遺伝子を組みこんだトウモロコシの花粉を、オオカバマダラというチョウの幼虫に食べさせる実験を行いました。その結果、4日間でチョウの幼虫のうちの44%が死んだという論文が科学雑誌「ネイチャー」(1999年5月20日号)で発表されました。「害虫が死ぬトウモロコシを人間が食べてほんとうに害はないのか」といった疑問が大きな波紋をよび、遺伝子組み換え作物に対する反対運動がおきるきっかけとなりました。
 これに対して、開発した企業や科学者らからは、「アワノメイガとオオカバマダラは同じ鱗翅目の昆虫なので、Bt作物にある程度影響を受けてもおかしくない」、「昆虫は自分がえさにする植物を決めているのでトウモロコシをえさとしないオオカバマダラで死ぬものがいても当然」などと、反論がでました。1999年11月にはこの問題を検証するシンポジウムが開かれ、「現段階では、自然環境に対する影響は心配ない」との結論になっております。
d. 遺伝子組み換え食品、賛成派の主張
(1)遺伝子組み換え作物は食品として安全である。
 OECD(経済協力開発機構)が1993年に出した報告書の中で述べられている「遺伝子組み換え作物は、従来(非組み換え)の作物と基本的に同じである」という考えが大前提にある。また、遺伝子を組み換えるに当たっては性質の明らかな遺伝子を、一般によく知られている農作物に組み込むので、安全上予想もしないような事態はほとんど発生しない。万が一、予想もしなかったような物質が出てきても、現在の安全性評価の基準においてチェックできるようになっている。
(2)遺伝子組み換え作物は農薬・害虫に強い。
 現在、作物には病気と害虫と雑草という3つの敵がある。これに対して、いままでは品種改良という方法をとっていたが、これは長い時間がかかってしまう。これに対して組み換え作物は、病気や害虫に強い遺伝子を組み込むだけで、短い時間で確実に問題が解決できる。
(3)人口爆発による食糧危機の対応策となる。
 組み換え作物は耕地を増やさなくても、害虫や病気に強いものを作ることによって確実に生産量を増やす事が出来、発展途上国の食糧問題の解決に大きく貢献できる
(4)遺伝子を組み換える事は自然の摂理に反していない。
遺伝子組み換え作物も、科学的にみれば通常の品種改良で行われている事と同じであり、将来に渡って食料の品質や生産性を高め、私達の生活を豊かにするためのものであるという点においても、これまで行なってきた品種改良と同じものであるといえる。よって、遺伝子の組み換えはやり方は違うが今までの改良技術の考え方の延長線上にあるものであり、自然の摂理には反していない。
e. 遺伝子組み換え食品、反対派の主張
(1)遺伝子組み換え作物は食品として安全ではない。
遺伝子組み換え作物は人が無理矢理ほかの種類の生物の遺伝子を植物に組み込んだものである。それは自然界には絶対に存在しない植物であり、その点において従来の作物とは明らかに違うものである。遺伝子を組み換える事によって、今まで眠っていた遺伝子が目覚めたり、逆に遺伝子が働かなくなったりと、いろいろな事が起こる可能性があるのだ。結局、実際に食べたらどうなるかは私達の体で試される事となる。
(2)生態系への影響が懸念される。
 遺伝子組み換え作物は人間が作り出したもので、自然界には存在しない。そのため、生態系への影響が問題になっている。組み換え作物は人間のコントロールを超えてはびこり、植物や昆虫の生態系を変えてしまう危険性がある。
(3)人口爆発による食糧危機の対応策にはならない。
 単に収穫量が多いとか、砂漠でも成長できるとか、そういう技術に依存しても食糧不足の問題は解決できない。食糧不足の原因である人口の増加は、世界の北と南の経済格差、南北問題が主な原因である。この南北問題を解決しない限り、食糧不足の問題も解決しない。
(4)遺伝子を組み換える事は自然の摂理に反する。
 自然界には「種の壁」という基本的なルールのもとに成り立っている。人間が他の動物とは交配できないのと同じように、大豆は大豆としか交配できない。だが、遺伝子組み換えは「種の壁」を超える技術である。例えば、大豆に微生物の遺伝子を切りとって組み込んだり、人工的に作った遺伝子を組み込んだりする。理論的には、人間の遺伝子を犬や猫に組み込み、人間の遺伝子を持つ犬や猫を作る事も可能である。生命の設計図ともいわれる遺伝子を人間が勝手に操作して、「種の壁」というルールを破っても良いのかどうか、現時点ではほとんど論じられていない。
(5)特定企業による農業支配が起こる恐れがある。
 現在、遺伝子組み換え作物を開発しているのは先進国の一部の企業である。それらの企業は、自分たちが開発した組み換え作物の種子、販売権、特許などを持っている。もしこのまま遺伝子組み換え作物が世界中に広まっていけば、これらの企業が世界中の農業を支配してしまうだろう。
7. 遺伝子組み換え食品の安全性の評価ならびに評価の確認
 日本における食品の安全性の確保は、「食品衛生法」などに従って、まず製造者または輸入者が自らの責任において実施することになっています。遺伝子組み換え食品についても同じで、組み換え食品の製造者は、厚生省の作成した「組み換えDNA技術応用食品の安全性評価指針」(以下安全性評価指針と略す)などに従い、自らの責任において製造した組み換え食品の安全性の確認を行ないます。国の機関が直接組み換え食品の安全性を審査する事はありません。
a. 製造者による安全性評価
 製造者はまず、
・ 科学技術庁の「組み換えDNA実験指針」に基づいて、遺伝子組み換え作物を実験室で開発し、そこで作物に新しく組み込んだ性質をチェックすると共に、従来の植物と成分・性質を比較します。
・ 次に、開発された遺伝子組み換え作物は実用化の段階に入りますが、ここでは農林水産省の「農林水産分野における組み換え体利用のための指針」に基づき、隔離された田畑で、他の生物に与える影響など、環境に対する安全性の評価が行なわれます。
・ 食品としての実用化の段階では厚生省の安全性評価指針にしたがって、従来の食品と栄養成分を比較し、また組み込まれた遺伝子が作り出すタンパク質の安全性などを検査します。
 このようにして組み換え食品の製造者は、製造した食品の環境に対する安全性、食品としての安全性等を検査します。このような検査がすんだあと、製造者は厚生省に、開発した組み換え食品の安全性検査の確認を申請しなければなりません。
b. 厚生省による安全性評価の確認
 製造者の安全性検査の確認申請をうけて、厚生省は開発者が安全性評価指針に沿ってきちんと組み換え食品の安全性を検査しているかどうかを確認します。まず厚生省の食品衛生調査会に回され、専門家の委員で構成されているバイオテクノロジー特別部会に審議を依頼し、その組み換え食品が安全性評価指針に合っているかどうか審議が行なわれます。次に専門家の他、生産者、消費者の代表で委員が構成されている食品衛生調査会常任委員会で安全性などが審議され、その結果が厚生省に伝えられます。審議の結果、その組み換え食品の安全性評価が適切に行われていると判断されれば、その組み換え食品は商品化され、私たちの食卓に並ぶことになる。食品衛生調査会において、人体への健康上の影響が疑われたり、確認された場合には、食品衛生法に基づき、販売停止などの措置がとられます。厚生省の安全性評価指針では、製造された遺伝子組み換え食品と既存の食品との成分を比較し、
1.タンパク質などの主要食品成分の割合が既存の食品と同程度である
2.組み換えにより新たなアレルゲン(アレルギーの原因)が生じていない
 等が確認されれば、既存の食品と同様に安全であると考えます。
c. 遺伝子組み換え食品の安全性確認義務化について
 遺伝子組み換え食品の安全性確認を輸入業者や開発業者に義務づける制度が定められる予定です。この法律は2001年4月から施行される予定で、これによって業者は、国の安全性審査をうける義務を課され、安全性審査をうけていない組み換え食品の販売、輸入、製造は禁止されることになります。この新制度では、「遺伝子組み換え食品は安全性審査を経たものでなくてはならない」などと定め、この基準に合わない食品の製造、販売、輸入は禁止される他、市場に出回った場合は、その食品の廃棄、回収、輸出国への積みもどし命令などの行政処分もできます。
8. 遺伝子組み換え食品表示義務化について
 これまでに厚生省が安全性を確認し、国内で流通している遺伝子組み換え作物は、トウモロコシ、大豆、ジャガイモ、なたね、わたの五つです。厚生省は、これら遺伝子組み換え作物を原料に使った食品について、メーカーに表示を義務づける方針で検討をしています。重量が全体の5%未満である時など、少量しか遺伝子組み換え作物を使っていないものは除くものの、原則として遺伝子組み換え作物を含んだ全ての食品を表示対象とする予定です。農水省がこれまで表示対象にしていなかった、醤油やコーンフレーク、マッシュポテトなどの食品にも表示の義務が課せられることになります。農水省では日本農林規格(JAS)法に基づく品質表示基準で、遺伝子組み換え作物を主な原料とする30食品を対象に表示義務を課していますが、表示義務のある食品は、遺伝子組み換え作物が全原材料中の重量で上位三品目のなかに入っていて、しかも重量が全体の5%以上のものだけとされています。さらに、油は表示の対象外です。このため、豆腐、おから、納豆などは入っているが、醤油や大豆などは入っておりません。具体的な遺伝子組み換え食品の表示方法は、「遺伝子組み換え」「遺伝子組み換え不分別(遺伝子組み換え作物を使用しているか分からない)」「非遺伝子組み換え(組み換え作物は使用していない)」の3区分とする方法のほか、原材料中の組み換え作物の混入率を示す方法も考えられております。2000年6月をめどに遺伝子組み換え技術で作られた米の安全性の審査が申請される予定です。
9. 遺伝子組み換え食品の世界的動向
 遺伝子組み換え作物を大々的に生産し、その主要輸出国でもあるアメリカは、外国への輸出拡大をねらい、遺伝子組み換え作物の貿易自由化を主張しています。一方ヨーロッパ諸国では、まだ遺伝子組み換え食品が敬遠されがちであるという理由以外に、自国の農業を保護するためにその輸入を制限しようとしています。遺伝子組み換え作物は本来低コスト・高品質な作物なので、国内に大量に輸入されると、国内でとれた農作物が売れなくなってしまう懸念があるためです。農作物の輸入国である日本も、農業はただ「食糧を生産する」という役割だけでなく、環境を守ったり、美しい景観をもたらすといった役割を果たしていると主張し、自国の農業保護を訴えているので遺伝子組み換え作物の輸入自由化にも慎重な態度をとっております。また、現在のところ安全性に不安が残っているため、遺伝子組み換え作物の需要はあまり高くありません。
●EU(ヨーロッパ連合)
 EUはこれまで、18種類の遺伝子組み換え食品を認めてきたが、健康や環境への不安の声が高まってきて、3年前からあらたに承認することが止められている。そして、EUに加盟する国に共通のルールがいくつかある。スウェーデンでは、実際に売られる遺伝子組み換え作物はつくられてないが、試験的には栽培されており、遺伝子組み換え作物をふくむ食品も出回っている。その出回っている食品については、EU共通のルールにしたがって、「遺伝子組み換え作物が原材料の1%以上の食品には、その表示をしなければならない」ことになっている。また、EUが許可した遺伝子組み換え食品を、スウェーデンが勝手に輸入禁止にすることはできないし、EUが許可した遺伝子組み換え作物を、スウェーデンが勝手に栽培を禁止することもできないことになっている。スウェーデンでは「スウェーデン環境党」が先頭にたって、「GMOフリー自治体(遺伝子組み換え食品のない自治体)」の運動がすすめられている。自治体だけでは進められない政策もあるが、「GMOフリー自治体」は、次のような取り組みをしている。
 *自治体が所有する土地には遺伝子組み換え作物の作付けを許さない。
 *自治体が学校、保育所、福祉施設、政治家の会議などで食事を用意する場合、遺伝子組み換え
   食品をさける。
 *スーパーで売られる遺伝子組み換え食品の表示が正しくおこなわれているかをチェックする。
 *遺伝子組み換え食品をさける努力をしている店を応援する。
 このような「GMOフリー自治体」の活動は、ほかの国でもおこなわれていて、とくにイタリアでは77以上の自治体が取り組んでいるそうだ。そのようななか、2001年の2月に開かれたEUの議会では、「遺伝子組み換え食品の生産と販売に関する規制」が認められた。この規制では、遺伝子を組み換えた食品や飼料、種子、医薬品について、今までよりもきびしく表示をすることや、きびしくとりしまることが決められた。またアレルギーを引き起こす可能性がある「抗生物質」をふくむ食品は、これから8年の間につくらないようにすることになった。しかし、EUに加盟している15の国すべてが賛成しないと、この規制は実現しない。
●アメリカ・カナダ
 アメリカ合衆国やその隣国のカナダは、遺伝子組み換え作物を他の国々に先がけて大規模に栽培し、それを輸出しています。アメリカでは遺伝子組み換え大豆、トウモロコシを主に輸出し、カナダでは遺伝子組み換え菜種、綿花、ジャガイモ、カボチャなどを輸出しています。これらの国では、遺伝子組み換え作物を原料に使った食品の表示義務はありません。
●オーストラリア・ニュージーランド
 オーストラリアやニュージーランドは、アメリカ・カナダと同じく農産物の輸出国です。其れ故、ヨーロッパとは違い、遺伝子組み換え食品に対する表示義務化については、農産物の生産者から強い反対の声が挙がってます。 一方、消費者の間では、やはり遺伝子組み換えに対する不信感も強く、各地のスーパーマーケットなどに遺伝子組み換え食品をおかないように求める運動も起きています。オーストラリアでは1998年7月、政府の基準を満たしていない遺伝子組み換え食品は販売禁止になりました。また12月には、遺伝子組み換え食品の味・色・栄養価や使用方法が元の食品と違うものについては、その表示が義務づけられることになりました。しかしそれ以外の表示については見送られております。ニュージーランドでも、遺伝子組み換え食品を販売するには、その安全性や栄養などに関して、政府が作った評価基準を満たして、その販売の許可を取らなければなりません。また、オーストラリアと同じく、元の食品と味・栄養などが変わったものについては表示も義務づけられる事になりました。
●韓国
 日本のお隣、韓国では、アメリカの遺伝子組み換え大豆とトウモロコシの輸入が認められています。しかし、消費者の遺伝子組み換え食品に対する不安感もあり、1999年7月、「農水物品質管理法」が施行され、これにより、韓国でも遺伝子組み換え食品の表示が義務づけられることになりました。
* 遺伝子組み換え食品目次に戻る *
10. 私達のこれからの対応
 私達は日々の生活において食事に限らずあらゆる行動・活動で、ある程度のリスクを負って生きております。現代生活ではプラスとマイナス、安全性と危険性とのバランスで、知らず知らずのうちに物事を選択することを行なっていることが日常茶飯事です。遺伝子組み換え食品の安全性をどのような基準できめるかは重要な課題ではありますが、最終的には利用者(消費者)が利益とリスクを天秤にかけて選択しなければならないケースが増えそうです。そのためにも私達は遺伝子組み換え食品に対する正しい知識と、最新の情報を持つことが必要です。もちろん行政府や組み換え食品を提供する業界が十分な情報を公開してくれることが必要条件になりますが。

| 農林漁業::2014.2~7 | 02:52 PM | comments (x) | trackback (x) |
2014.2.13 STAP細胞による再生医療について ← そもそも科学研究は、常識を破ることが目的の行動であると言っても過言ではない
  

(1)「夢だから」「理想だから」「常識でないから」と言って、実現不可能と考えるのは間違い
 実現不可能なことは夢や理想とは呼ばず、妄想と呼ぶべきであろう。また「理想と現実は違うから理想は実現不可能」と言う人もいるが、人類は、実現不可能と考えられていた理想を現実にしてきたからこそ、現在がある。そして、そのツールが科学や技術であり、人類が科学を通して知っていることは、まだ全体のほんの一部にすぎない。そのため、「夢や理想は実現できない」「常識はいつの時代にも常識である」と考えるのはそもそも間違いであり、新しく問題解決ができれば、理想が実現でき、常識も変る。

(2)再生医療について
 *1には、「理化学研究所の小保方晴子さんが、『STAP(スタップ)細胞』の作製に成功した」「STAP細胞の特徴は、弱酸性の液体に浸すなど細胞を外から刺激することで、万能細胞を簡単につくれるところだ」「一昨年英科学誌ネイチャーに論文を投稿した当初は、『何百年にもわたる細胞生物学の歴史を愚弄している』と激しく突き返された」と書かれている。

 けれども、私は、「下等動物の細胞では普通にやっていることが、高等動物の細胞になると絶対にできなくなる」という、証明されたわけでもない細胞生物学の“常識”自体が不自然で、何かのスイッチを入れればできる筈だと思っていたため、1995年くらいに再生医療を提案し、2005年~2009年の衆議院議員時代に、再生医療を、経産省、文科省、厚労省が省の枠を超えて協力する国家プロジェクトにした。その理由は、再生医療が実用化すれば、今まで治らなかった病気を治すことができ、免疫を抑えながら他人の臓器を移植しなくてもすむようになるからである。そのスイッチが、『STAP(スタップ)細胞』では酸などのストレスであり、iPS細胞では遺伝子であり、ES細胞は受精によりスイッチの入った卵子を使うということなのだ。

 しかし、すでに再生医療が国家プロジェクトになっている環境の下では、周囲の研究者の理解も進んでおり、むしろ追い風と言える状況なので、小保方さんは恵まれている方であり、失敗して泣き明かす時間があったら他の解決方法を探るべきである。*5に書かれているように、遺伝子の二重らせん構造を発見する時代の女性研究者は、ノーベル賞級の成果があっても成果を認められなかった上、人格否定されているくらいなのであり、日本では、現在でもそういう傾向があるため、油断や甘えは禁物だ。

 なお、*1には、「教科書を学ぶ学習を卒業し、教科書を書き換える研究の道に進む。強い信念と柔らかな発想に満ちた若い世代の飛躍を、もっともっと応援したい」とも書かれているが、教科書を書き換えるほどの研究は、教科書を学ぶ基礎学習をした上で、それに疑問を突き付けて解決することによって成立するものだ。そして、若い人が研究できるためには、それまでの積み重ねがあったのだということを、決して忘れさせてはならず、これは初等・中等教育レベルの道徳教育で教えるべきである。

(3)STAP細胞の今後の研究について
 *2のように、米ハーバード大のチームは、既に「STAP細胞」を使って脊髄損傷のサルを治療する研究を始めているそうだ。人間の細胞を使った作製も研究しているとのことで、これが、間髪をいれずに、速やかに次の段階に進んだ姿である。そして、*3には、共同研究者のチャールズ・バカンティ米ハーバード大教授が米公共放送(PBS)のニュース番組で、「霊長類や人間の細胞でもマウスと同様にSTAP細胞を作れることを示唆する初期のデータが得られた」と打ち明け、既に複数の大学などで人間のSTAP細胞を作る研究が始まっているそうだ。

 しかし、日本では、*3のように、STAP細胞応用へ過熱したり、性急な国家事業は逆効果と書かれており、*4のように、厚労省が、安全の確保を目指して、効果が不確かな再生医療を大幅に制限する見通しになったなどとされている。これでは、新しい治療法の開発ができないのは当然であり、ここは教育の問題であるため、文科系の事務官でも、その科学技術の意味がわかる程度の科学的知識を持っていなければ、国を発展させることはできないということだ。

 なお、私は、研究者同士の競合があるため、「STAP細胞」の研究は、iPS細胞研究のプロジェクトに組み込むのではなく、別組織を作ってあらゆる方面から行うのがよいと思うし、その価値があると考える。そうしなければ、「STAP細胞」の研究でも、日本は遅れるだろう。

(4)DNAの二重らせん構造の発見
 *5に書かれているように、1962年のノーベル生理学・医学賞は、DNAの構造が二重らせんであることを発見した功績で、ジェームス・ワトソン、フランシス・クリック、モーリス・ウィルキンスの三人に与えられたが、このDNAの二重らせん構造の発見は、その後の生物学への発展に貢献し、生物学のパラダイム変換となった。

 私は、生命科学に関心を持っていたので、20代の頃にワトソンの『二重らせん』という本を読み、「DNAの構造を明らかにするX線回折データをとったのは、ロザリンド・フランクリンという女性研究者だ」とワトソン自身が書いていたのを知っているが、ワトソンは自分で書いている分だけ、多くの日本人男性より卑怯ではなく潔いと思った。1960年代のイギリスでは、女性研究者がマイノリティーで地位も低かったのだろうが、日本は、現在でも、この領域の中にあることを忘れてはならない。

*1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S10953905.html?iref=comkiji_redirect
(朝日新聞社説 2014年1月31日) 新万能細胞 常識を突破する若い力
 輝かしい新星が現れた。理化学研究所の小保方晴子ユニットリーダー(30)らのグループが、まったく新しい万能細胞「STAP(スタップ)細胞」の作製に成功した。筋肉や神経など、さまざまな細胞に変化できるのが万能細胞だ。万能性があるのは、生命の初期である受精卵など、特殊な細胞に限られるというのが生物学の常識だった。だが近年、万能細胞を人の手で生み出す研究が進み、すでに、受精卵を壊してつくるES細胞、山中伸弥・京都大教授らが遺伝子を導入する方法で開発したiPS細胞がある。STAP細胞の大きな特徴は、弱酸性の液体に浸すなど細胞を外から刺激することで、ずっと簡単につくれるところだ。一昨年英科学誌ネイチャーに論文を投稿した当初は突き返された。だが追加の証拠をそろえ、掲載にこぎ着けた。最初に拒絶した専門家は「何百年にもわたる細胞生物学の歴史を愚弄している」と激しい意見を付けてきた。これはいまや最大級の賛辞と読まれるべきだろう。まさに教科書を書き換えるような大発見である。博士号をとってわずか3年。若い小保方さんの研究過程は、決して順風満帆ではなかった。「誰も信じてくれない中で、説得できるデータをとるのは難しかった」「泣き明かした夜も数知れないですが、今日一日、明日一日だけ頑張ろうと思ってやっていた」と振り返る。化学畑の出身で、生物学の既成概念にとらわれず、自らの実験データを信じた。一人また一人と周囲の研究者を味方につけ、数々の壁を乗り越えた。変わってきたとはいえ女性の働きづらさが指摘される日本で、これほど信念に満ちた研究成果を上げた小保方さん、そして彼女を支えた共同研究者のみなさんはすばらしい。「21世紀は生命科学の時代」といわれ、日本政府も力を入れる。小保方さんの属する理研の発生・再生科学総合研究センターは00年に神戸市にできた。基礎研究から治療への応用まで、再生医学を総合的に進める態勢づくりが結実したようだ。特大ホームランを放った小保方さんに限らず、きっと同じように「もう一日だけ」と頑張っている研究者がたくさんいるだろう。そう考えると、日本の科学への希望も膨らむ。教科書を学ぶ学習を卒業し、教科書を書き換える研究の道に進む。強い信念と柔らかな発想に満ちた若い世代の飛躍を、もっともっと応援したい。

*2:http://www.saga-s.co.jp/news/global/corenews.0.2617021.article.html
(佐賀新聞 2014年1月30日) STAP細胞使い、サルで実験 / 米チーム、脊髄損傷に
 細胞に刺激を与えることで、さまざまな種類の細胞に変化できる能力を持たせた新しい万能細胞「STAP細胞」を使い、米ハーバード大のチームが脊髄損傷のサルを治療する研究を始めていることが30日、分かった。人間の細胞を使った作製も研究しているという。マウスの細胞で世界初の作製を報告した30日付英科学誌の論文を理化学研究所チームと共同で執筆したハーバード大のチャールズ・バカンティ教授が共同通信の取材に答えた。人工的に脊髄を損傷してまひを起こさせた複数のサルからSTAP細胞を作製し、移植に利用する実験を2011年から始めているという。

*3:http://www.nikkei.com/article/DGXNASGG0600D_W4A200C1000000/?dg=1
(日経新聞 2014/2/10) STAP細胞、応用へ過熱 性急な国家事業は逆効果
 理化学研究所の小保方晴子研究ユニットリーダーらが新しい万能細胞「STAP細胞」を作製し、世界が追試や再生医療への応用研究に動き出した。2006年に京都大学の山中伸弥教授が最初にiPS細胞を発表した時以上の注目が集まっている。一方で、国家プロジェクトなどが動き出すと小保方さんの研究が束縛を受けるのではないかと懸念する声もある。小保方さんの柔軟な発想がSTAP細胞の作製をもたらした。
■日本版NIHの目玉に?
 共同研究者のチャールズ・バカンティ米ハーバード大教授は米公共放送(PBS)のニュース番組で、「霊長類や人間の細胞でもマウスと同様にSTAP細胞を作れることを示唆する初期のデータが得られた」と打ち明けた。米紙などの報道によると、既に複数の大学などで人間のSTAP細胞を作る研究が始まっているようだ。日本でも安倍晋三首相が小保方さんの成果を称賛。下村博文文部科学相は政府の研究支援強化に前向きの姿勢を示し、加藤勝信官房副長官は再生医療への応用に期待を表明した。iPS細胞研究を軸に進めてきた再生医療関連の国のプロジェクトに、STAP細胞の応用研究も組み込まれる可能性が高い。基礎研究を臨床に素早くつなげようと、政府が米国立衛生研究所(NIH)を手本に15年春に設立を目指す日本版NIHの目玉プロジェクトになるかもしれない。iPS細胞の場合は、難病患者らの治療に一刻も早く生かすために「オールジャパン」の研究体制づくりが急務とされ、山中教授が先頭に立って全体計画のとりまとめなどを進めた。研究費集めにも奔走、関係省庁や国会の協力を取り付けた。山中教授に会うと、いつも「研究に力を入れたい」と話していたが、現実には調整・管理業務などが多く研究の時間が取りにくかったようだ。もちろん京大のiPS細胞研究所(CiRA)にはまな弟子の高橋和利講師をはじめ、優秀な研究者が大勢いる。皮膚細胞などにいくつかの遺伝子を入れることによってiPS細胞ができるメカニズムの解明を試みる論文も、いくつも出ている。慶応義塾大などと協力し、がんを起こさず再生医療などに安全に使えるiPS細胞の作製法の研究も進む。

*4:http://digital.asahi.com/articles/DA3S10962708.html?iref=comkiji_redirect
(朝日新聞 2014年2月5日) 再生医療の審査を厳格化 厚労省案、安全の確保目指す
 効果が不確かな再生医療が大幅に制限される見通しになった。安全確保を目指した新法の規制対象がまとまり、細胞を使う治療の大半が、厳格な審査委員会の承認を得なければ実施できない位置づけとされた。委員は専門家、法律家や生命倫理の有識者ら8人以上とし、第三者の立場で内容や手順を確認する。昨秋成立した再生医療安全性確保法は、治療をリスクに応じ高中低に3区分し審査の仕組みを定める。11月の施行を前に、厚生労働省が政省令に盛り込む具体的な対象の案をまとめた。「高」はiPS細胞(人工多能性幹細胞)やES細胞(胚〈はい〉性幹細胞)、他人の細胞を使う治療など安全性と有効性が未知の場合が対象。これ以外で細胞に手を加える場合などはいずれも「中」とした。体外での培養や、脂肪由来の幹細胞を糖尿病やがんの治療に使う場合があてはまる。「低」は、患者自身の細胞を、同じ種類の組織や臓器にそのまま用いる場合に限った。自分の脂肪の幹細胞を豊胸手術やしわ取りに用いるケースが入る。審査委は病院や大学、NPO法人や学術団体が設置し、国が認定する。「中」以上の審査委は、法律家や生命倫理の有識者ら8人以上とし、独立性の保障も求めて厳格にする。「高」はさらに国も治療計画をチェックし、変更を命じられる。一方、「低」は5人以上で、独立性の保障までは求めない。再生医療は、iPS細胞などの応用に期待が高まる一方、根拠が不明確な治療法を提供する民間施設もあり、朝日新聞の昨年の調べでは少なくとも20カ所以上。安全性や信頼性の確保が課題になっていた。
■再生医療のリスク区分
<リスク・高>
【対象の例】iPS細胞、他人の細胞による治療
【審査委員会】8人以上、高い独立性
【国の審査】あり
   *
<リスク・中>
【対象の例】自分の幹細胞による体の機能の再生
【審査委員会】8人以上、高い独立性
【国の審査】なし
   *
<リスク・低>
【対象の例】自分の脂肪幹細胞によるしわ取り
【審査委員会】5人以上
【国の審査】なし

*5:http://thomas.s301.xrea.com/thinking/20seikisaidainohakken.pdf#search='DNA%E7%99%BA%E8%A6%8B%E8%80%85' 20世紀最大の発見-二重らせんの裏側
 1962年のノーベル生理学・医学賞は、DNA の構造が二重らせんであることを発見した功績で、ジェームス・ワトソン、フランシス・クリック、モーリス・ウィルキンスの三人にもたらされた。二重らせんとは、二本のDNA鎖がらせん状になった構造のことである。DNA 構造の発見は20 世紀最大の発見といわれている。その理由は、この発見により遺伝情報がどのように伝えられるかという最大のなぞが解明されたからである。当時、DNAが遺伝物質であるということが実験的に確かめられていたが、複雑な遺伝情報を、単純な物質であるDNAがすべてになっているという考えには批判も多かったのである。そして、複雑なタンパク質こそが、複雑な遺伝情報を伝えるのではないかという考えもあった。DNAの構造が発見されたことで、遺伝がDNAの複製によって起こることや、塩基配列が遺伝情報であることがみごとに説明された。いまでは、この事実は、高校の教科書でも扱っている。塩基の種類ATGCを覚えたひともあるだろう。アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)である。DNA の構造発見は、その後の分子生物学への発展にも大きく貢献し、生物学のパラダイム変換となった。
 ところで、DNAの模型は、分子模型を構築する手法を用いて、1953年にワトソンとクリックによって提唱されNature(vol. 171, pp.737-738, 1953)に発表されている。このDNA構造発見の経緯は、発見者のひとりワトソンが、『二重らせん』という本を1968年に上梓したことで、一般のひとにも感動をもって迎えられた。この本は、日本でも訳書が発売され、ベストセラーとなっている。実は、20世紀最大の成果と呼ばれる二重らせん構造の発見は、科学史上まれにみる剽窃事件とも捉えられている。ノーベル賞受賞者をけなすことはできないという遠慮から、それほど大きく取り上げられないが、ワトソンの人間性の下劣さも加わって、いまだに非難の声は絶えない。
 この謎をとく鍵は、なぜ、ノーベル賞の決定版となったNatureの論文の著者がワトソンとクリックのふたりだけだったにもかかわらず、ウィルキンスにもノーベル賞が授与されたのかという事実である。分子構造は、資料もなしに、頭の中で簡単に構築できるものではない。実験データがあってはじめて考えられるものである。この貴重なX線回折データをワトソンらに与えたのが、ウィルキンスというわけである。これが、ウィルキンスにもノーベル賞が与えられた理由である。しかし、ここで疑問が生じる。なぜ、ワトソンはウィルキンスをNature の共著者にしなかったのだろうか。そして、ノーベル委員会は、なぜ、ウィルキンスを論文の共著者でもないのに、ノーベル賞に選んだのだろうか。ところで、ノーベル賞対象となったワトソンとクリックによるNature論文は、参考文献のない、まれに見る美しい論文として語り継がれている。しかし、少しでも科学論文に関わったことのある人間ならば、これは嘘であることは明白である。科学の重要な発見は、突然、出てくるものではない。その前に、数多くの仕事があって、そのうえに成り立つものである。参考文献がないというのは、なにか、その裏に意図が隠されているはずである。
 実は、DNAの構造を明らかにする決定的な証拠となるX線回折データをとったのは、ロザリンド・フランクリンという女性研究者である。ワトソンは、卑怯にも、彼女の実験データをこっそりと盗み見ていたのである。このことは、上品な表現ながら、彼自身が語っている。これでは、参考文献をかけるはずがない。しかし、ノーベル委員会にも、構造を決定するには、実験データが必要だということを知っていた人間がいたのにちがいない。その結果、登場したのがウィルキンスである。では、なぜ、フランクリンではなかったのだろうか。彼女は、1958年に37歳の若さでなくなっている。1962年には、この世にいなかったのである。一説には、実験でX線を浴び続けてきたためにガンになったと言われている。とすれば、フランクリンという女性研究者の功績を三人の不埒な男が奪って、ノーベル賞を獲得したことになる。
 ノーベル賞を受賞したワトソンは、1968年に意気揚々と「二重らせん」という本を上梓する。用意周到にも、ワトソンはノーベル賞級の研究成果を上げたらこうした本を上梓することをあらかじめもくろみ、日々の記録をとっていたのだそうだ。まさに死人に口なしとはよく言ったものである。ワトソンは、この本のなかで、ロザリンド・フランクリンを意地の悪い女としてけちょんけちょんにけなしている。その実験成果を盗んだうえに、人格まで否定する。にもかかわらず、世の中のひとはワトソンを現代のヒーローとして賞賛するのである。かわいそうなのは、この本のなかで、フランクリンと対立していたと書かれたウィルキンスである。彼は、フランクリンに無断で、ワトソンにDNAのX線回折データをみせたとされている。ワトソンは、自分の剽窃の罪を、巧妙にウィルキンスになすりつけたのである。おかげで、ウィルキンスは悪者にしたてあげられた。しかも、ノーベル賞の受賞理由が、部下のデータをライバルのワトソンに渡した功績というのだから研究者としては、最大の侮辱であろう(以下略)。

| STAP細胞::2014.1~ | 09:38 AM | comments (x) | trackback (x) |
2014.2.12 普天間基地の辺野古移設について
   

(1)名護市長選の結果
 *1-1、*1-2、*1-3に書き尽くされているとおり、沖縄県名護市の市長選で、政府の辺野古案が厳しく拒絶され、名護市民の意思が明確になった。そのため、日本政府は、この事実を重く受け止め、米軍普天間飛行場の同市辺野古への移設を強行してはならないと、私は考える。

(2)沖縄の米軍基地は、本当に日本の防衛目的に資するか否か、まず明確にすべきだ
 *2に書かれているとおり、沖縄復帰前の1960年代初め、沖縄を統治していた米軍は、生物兵器の研究開発のため、「いもち病菌」を散布し、実験データを収集していたことが、米国の情報公開制度で明らかになったそうである。

 また、猛毒のダイオキシンを含む枯れ葉剤が沖縄に保管されていたことを示す公文書の存在も明らかになり、沖縄は、化学兵器を大量に貯蔵し、生物兵器の研究開発の実験場でもある軍事植民地であり、米軍は日米地位協定に基づき返還時の原状回復義務を免除されているため、原状回復義務がなく、有害物質等の保管・管理・処理に関する届け出義務もないそうだ。

 さらに、沖縄の米軍は、他国に駐留しており、主権者である国民の監視も受けないため、軍隊が「モラル・ハザード(倫理の欠如)」を起こしていたとのことであり、土壌汚染に関する総合環境調査と地位協定の見直しを、早急に進めるべきである。

(3)日本政府は、何故、ここまで民意を無視するのか?
 しかし、*3-1に書かれているとおり、19日の名護市長選で辺野古移設阻止を掲げた稲嶺進氏の再選から僅か2日後に、沖縄防衛局が、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設に向けた代替施設設計などの受注業者を募る入札を公告し、民意を全く無視する決定をした。これでは、日本は、アメリカと価値観を同じくする民主国家とは言えない。

 また、*3-2に書かれているとおり、米識者も、日米両政府は「仲井真知事による埋め立て承認は、日米関係の突破口になる」と歓迎しているが、知事の承認により普天間論争が解決され、日米の安全保障協力の強化が促進できるとの期待は「希望的観測にすぎない」と断言したそうだが、そのとおりである。

(4)これでは「沖縄差別」だ
 そのため、*4のように、沖縄の地方紙が、ケネディ大使に、上空からではなく、自らの目、耳、足で確かめて名護市長と会談して欲しいと英語と日本語で掲載している。これは、名護市長選の結果を考慮することなく、「沖縄差別」を続け、辺野古の埋め立て工事に向けた手続きを進めている日本政府への不信任であることを、日本政府は素直に受け止めるべきだ。

*1-1:http://www.hokkaido-np.co.jp/news/editorial/516247.html
(北海道新聞社説 2014年1月20日) 名護市長選 辺野古案を厳しく拒絶
 市民は国からの圧力をきっぱりとはね返した。沖縄県の米軍普天間飛行場を県内名護市辺野古へ移設する是非が最大の争点となった名護市長選で、反対派の稲嶺進市長が勝利した。過重な基地負担の押しつけを拒否する民意が稲嶺氏を押し上げた。仲井真弘多沖縄県知事は国による辺野古埋め立て工事を承認したが、地元の不支持が明確になった。日米両政府は結果を重く受け止めなければならない。計画を白紙撤回し、県外、国外への移設を真剣に模索すべきだ。選挙戦で稲嶺氏は「辺野古の海にも陸にも基地をつくらせない」と反対姿勢を貫いた。住民にさらなる基地負担を強いる上、環境への影響も心配される現行計画を受け入れられないという主張は理解できる。初当選を目指した推進派の末松文信氏は安倍晋三政権とのパイプを強調した。しかし、振興策と引き換えに基地を受け入れるかのような姿勢に支持が集まらなかった。「国や県の姿勢には納得いかない」。それが名護市民の思いだろう。安倍政権は、見通しが不明確な基地返還の前倒しなどを約束して仲井真知事に埋め立て承認を迫った。沖縄選出の自民党国会議員には県外移設の公約を撤回させた。あまりに強引な進め方だった。知事の埋め立て承認も、県外移設の公約に違反すると言われても仕方ないものだった。県議会は、強制力はないものの、知事辞任を求める決議を可決した。全市町村議会がすでに辺野古移設反対を決議している。県内移設反対が沖縄県民の大多数の意思だ。名護市民の選択はそれを代弁していると言える。稲嶺氏の勝利によって、辺野古への移設工事はなかなか進まなくなることも予想される。工事に必要な道路や港湾などの使用には市長の許可が必要なものがあるためだ。気になるのは政権幹部が名護市長選の結果にかかわらず、辺野古移設を進める構えを見せていることだ。知事の埋め立て承認が根拠だ。だが名護市長選の結果は単なる首長の決定ではなく、有権者の厳粛な意思表明だ。無視すれば民主主義の否定につながる。国はこれまでも基地負担を沖縄に一方的に押しつけてきた。辺野古移設が実現しなければ、普天間基地が固定化するかのような恫喝も続けてきた。こうした手法は地元の反感を増幅させるだけだ。工事の強行は到底認められない。このまま作業を進めても混乱は必至だ。日米間で協議して県外、国外への移設を目指す方が現実的であるという事実を直視すべきだ。

*1-2:http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2014012002000150.html (東京新聞社説  2014年1月20日) 名護市長選 「辺野古」強行許されぬ
 沖縄県の名護市長選で、市民の意思が明確になった。政府はこの事実を重く受け止め、米軍普天間飛行場の同市辺野古への移設を強行してはならない。それでも日本政府は、米海兵隊普天間飛行場(宜野湾市)の辺野古沿岸部への「県内」移設を強行しようというのだろうか。辺野古移設の是非が問われた名護市長選である。反対する現職、稲嶺進氏(68)が、賛成する自民党推薦の新人、末松文信氏(65)を破り、再選された。安倍内閣が強力に推進し、仲井真弘多沖縄県知事が追認した辺野古移設に反対する、名護市民の明確な意思表示である。
◆民主国家と言えるか
 菅義偉官房長官は、市長選の結果は辺野古移設には「全く影響はない。国民の生命、財産を守る観点からも予定通り進めさせてほしい」と述べた。稲嶺氏勝利を見越して予防線を張ったのだろう。果たしてそうだろうか。外交、安全保障は国の役割だ。日米安全保障条約上、基地提供の義務を負うのは日本政府である。しかし、米軍基地は地元の住民に大きな負担を強いる。騒音や事故、米兵らの犯罪、そして戦争への加担という精神的重圧だ。基地の安定的提供には周辺住民の理解が欠かせない。反対意見が多数を占めるにもかかわらず、押し付けるのは民主主義国家と言えず、どこかの専制国家と同じだ。ましてや、沖縄には在日米軍基地の約74%が集中している。危険な普天間飛行場の返還は急務だが、名護市民がこれ以上の基地負担を拒み、稲嶺氏も市長権限で移設阻止の構えを見せる以上、「国外・県外」移設に切り替えた方が、返還への早道ではないか。米軍基地負担の県内たらい回しにすぎない辺野古移設を、もはや強行してはならない。
◆知事判断への不信任
 昨年十二月二十七日、仲井真知事は、辺野古沿岸部に代替施設を建設するために政府が許可申請した海面の埋め立てを承認した。市長選で稲嶺氏の当選が決まった後では許可しにくくなるため、駆け込みで手続きを進めたのだろう。仲井真氏は再選された二〇一〇年の県知事選で普天間飛行場の県外移設を公約し、その後も県民の反対が強い県内移設は「事実上不可能」と繰り返し強調していた。県外移設を求める考えに変わりないと、仲井真氏は強弁しているが、県内移設のための埋め立てを承認することはやはり、公約違反ではないのか。公約と違う政策を進めるのなら、辞職して県民に信を問い直すのが筋だ。今回の市長選は知事の埋め立て承認後、初めての関係自治体の首長選でもある。辺野古移設に反対する候補が勝利した選挙結果は知事の判断に対する不信任だと、重く受け止めなければならない。公約違反は知事だけではない。一二年の衆院選で、自民党本部は普天間問題を公約に明記せず、沖縄の同党公認候補はそれぞれ県外移設を訴えた。一三年参院選では党本部は県内移設を掲げたが、党沖縄県連は県外移設を「地域公約」として訴えた経緯がある。国政選挙で自民党を支持した沖縄の有権者にとって県外移設こそ自民党との契約だ。にもかかわらず、党沖縄県連は県内移設容認に転換し、仲井真知事の埋め立て許可を後押しした。このまま県内移設を推進する立場に立つのなら、公約違反との批判は免れまい。沖縄選出の自民党国会議員は全員、潔く辞職し、四月の統一補欠選挙で有権者の信を問い直すべきである。仲井真知事や自民党沖縄県連に公約違反を迫ったのは、安倍晋三首相率いる内閣であり党本部だ。年間三千億円台の沖縄振興予算という「アメ」と、危険な普天間飛行場の固定化という「ムチ」をちらつかせて辺野古移設を迫る手法は、名護市民に拒絶された。無視し得ない民意の高まりだ。琉球新報など地元メディアの県民世論調査で、知事の埋め立て承認を支持する回答は34・2%で、不支持は61・4%。しかし、共同通信の全国世論調査では、承認を評価する回答は56・4%、評価しないは30・7%と、全く逆だ。
◆人ごとで済まされぬ
 この世論調査からうかがえるのは、米軍基地負担は沖縄県民が受け入れて当然という、本土の側にある、どこか人ごとの空気だ。日米安保体制が日本と周辺地域の平和と安全に不可欠と言うのなら、その基地負担は沖縄に押し付けず、国民が可能な限り等しく負うべきである。本土の側にその覚悟がないのなら、日米安保体制の重要性を口にする資格などない。本土による沖縄への基地押し付けや差別的政策は、もはや許されない。名護市長選の結果は、われわれにそう語りかけてくる。

*1-3:http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=60995
(沖縄タイムス社説 2014年1月20日) [稲嶺氏が再選]敗れたのは国と知事だ
 米軍普天間飛行場の辺野古への移設に対し名護市民は「ノー」の民意を、圧倒的多数意思として示した。国の露骨な圧力をはね返して勝ち取った歴史的な大勝である。同時に仲井真弘多知事が、辺野古埋め立てを承認したことに対し、市民が明確に拒否したことも意味する。名護市長選で辺野古移設に反対する現職の稲嶺進氏(68)が、移設を積極推進する新人の末松文信氏(65)を破り、再選を果たした。普天間の辺野古移設の是非が文字通り最大の争点となった市長選は今回が初めてだ。過去4度の市長選では、移設容認派が推す候補は選挙への影響を考慮して、問題を争点化しなかった。移設問題を明確に市民に問うたのは、1997年の市民投票以来である。市民投票では、条件付きを合わせた反対票が52・8%と過半を占めた。住民投票的な性格を帯びた今回の選挙で市民は再び移設反対の意思を明確にしたのだ。日米両政府は辺野古移設計画を撤回し、見直しに着手すべきだ。今回の市長選で末松氏は、基地受け入れによる再編交付金を財源にした地域振興策を前面に掲げた。これに対し、稲嶺氏は、再編交付金に頼らない4年間の実績を強調し、「再編交付金は一時的なもの。基地のリスクは100年以上も続く」と反論した。「すべては子どもたちの未来のために」をスローガンに、基地に頼らない街づくりを訴えた。本紙などの世論調査では、最も重視する政策を「普天間移設問題」と答えた市民が56%に達し「地域振興策」の23%を大きく上回っていた。市民の選択は、沖縄だけに負担を押し付け、その矛盾を振興策で覆い隠す「補償型」の基地行政がもはや通用しないことを証明した。名護市民がそのことを国内外に発信したことは、沖縄の基地問題の歴史的な転換点となろう。日米政府が進めてきた普天間の県内移設策が、大きな変更を迫られることは間違いない。
 市長選は、国による辺野古埋め立て申請を承認した仲井真知事の政治姿勢に対する信任投票の側面もあった。埋め立て承認に至る経過はいまだに不透明なままである。知事は、当事者である名護市民への説明もなく、選挙応援では、振興策のみに言及した。それにしても、安倍政権・自民党の策を弄するやり方は目に余った。仲井真知事から年内の埋め立て承認を得るため、県関係国会議員、県連に圧力をかけ県外移設の公約を転換させた。知事の翻意を促すため沖縄振興予算を大盤振る舞いし、実効性の担保が乏しい基地負担軽減策を「口約束」した。
 名護市に対する「アメとムチ」もあからさまだった。市の喜瀬、許田、幸喜の3区にまたがるキャンプ・ハンセンの一部の返還で、国は幸喜の分を先に返すことを決めた。返還予定地は利用価値が低く、幸喜区には軍用地料が入らなくなる。辺野古移設への協力姿勢を示さなかった同区へのいやがらせとしか受け取れない。選挙期間中も、菅義偉官房長官が、選挙結果に左右されることなく辺野古移設を「粛々と進めていきたい」と発言。自民党の石破茂幹事長は「基地の場所は政府が決めるものだ」と述べた。その石破氏は、選挙終盤の16日に名護入りし、同市の地域振興に500億円規模の基金を立ち上げる意向を表明した。基金は新たな財源措置ではなく、既存予算内の調整を念頭にしたものとみられるが、あからさまな選挙への介入であり、地方自治の精神にもとるものだ。県外移設を求める「オール沖縄」の枠組みは崩れたが、その精神は息づいている。自民県連OBが稲嶺氏を支援し、那覇市議会が知事の埋め立て申請に抗議する意見書を可決したことは、象徴的だ。今回は公明党が自主投票となったことも稲嶺氏の当選を後押しした。再選を果たした稲嶺氏は、公約に掲げた政策実現に向けて選挙のしこりを解消し、市民一体となった態勢づくりに取り組まなければならない。

*2:http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=60541
(沖縄タイムス社説  2014年1月13日) [生物兵器実験]底知れぬ軍事優先の闇
 稲に大きな被害をもたらす「いもち病菌」を大量に散布し、人為的に「いもち病」を発生させる-復帰前の1960年代初め、沖縄を統治していた米軍が、生物兵器の研究開発のため、「いもち病菌」を散布し、実験データを収集していたことが米軍の報告書で明らかになった。60年代初め、米軍はマクナマラ国防長官の指示で、「プロジェクト112」という名の化学兵器開発計画を進めていた。この計画に基づいて63年、1万3000トンの毒ガスがホワイトビーチに陸揚げされ、知花弾薬庫のレッドハットエリアと呼ばれる区域に貯蔵された。米軍が排他的な統治権を持っていた軍政下の沖縄に大量の核兵器が貯蔵されていたことは「公知の事実」に属するが、その上、沖縄は、アジア最大の化学兵器備蓄基地でもあった。今回、明らかになった生物兵器開発のための屋外実験も、「プロジェクト112」の一環だと思われる。報告書は米国の情報公開制度を利用し、共同通信が入手した。それによると、1961年から62年に、少なくとも12回の実験を実施。「ナゴ」(名護)、「シュリ」(首里)、「イシカワ」(石川)などの具体的な地名も記載されている。あらためて痛感するのは、核・化学兵器を大量に貯蔵し、生物兵器の研究開発の実験場でもあった沖縄の、軍事植民地としての異常さである。県内各地で相次いでいる返還軍用地の土壌汚染問題は、米軍政下の異常な現実が決して過ぎ去った過去の話ではないことを示している。
  ■    ■
 沖縄市の市営サッカー場の地中からダイオキシン類が付着した大量のドラム缶が見つかったのは昨年のことだ。それ以前にも、恩納通信所の跡地から水銀、PCB、鉛、ヒ素などの有害物質が検出され、北谷町・桑江中学校近くの基地返還跡地から「タール状物質」の入ったドラム缶が215本も発見された。嘉手納弾薬庫地区の返還跡地からはカドミウムが検出され、キャンプ桑江北側の返還跡地からもヒ素、鉛、六価クロムなどの有害物質が見つかった。猛毒のダイオキシンを含む枯れ葉剤が沖縄に保管されていたことを示す公文書の存在も明らかになっている。米軍は沖縄に枯れ葉剤が保管されていたことを公式には認めていない。だが、退役米兵や県民からも枯れ葉剤に関する証言が寄せられており、米軍の説明は説得力を欠いている。
  ■    ■
 米軍は日米地位協定に基づいて返還の際の原状回復義務を免除されている。それがネックになっているのは明らかである。原状回復の義務がなく、有害物質等の保管・管理・処理に関する届け出義務もなく、他国に駐留しているため主権者である国民の監視も受けない軍隊は確実に「モラル・ハザード」(倫理の欠如)を起こす。土壌汚染に絡む信頼のおける総合環境調査と地位協定の見直しによる新たな仕組みづくりを早急に進めるべきだ。

*3-1:http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-218188-storytopic-11.html
(琉球新報社説 2014年1月22日) 辺野古入札公告 民主国家の自殺行為だ
 世界中を捜しても民意をこれほど露骨に踏みにじる「民主主義国家」は存在しないのではないか。沖縄防衛局が21日、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設に向けた代替施設設計などの受注業者を募る入札を公告した。19日の名護市長選で辺野古移設阻止を掲げた稲嶺進氏の再選から、わずか2日後だ。政府に求められるのは移設作業の加速ではなく、選挙結果を尊重し、県内移設を撤回することだ。稲嶺市長は「選挙で示された名護市民の民意を無視して手続きを進めるのは民主主義社会としてあり得ない。あまりにひどい」と政府を批判した。まさに正論だ。しかし、小野寺五典防衛相は「埋め立て承認を得られているので、関係法令にしたがって進めていく」と述べた。民主的な選挙結果を歯牙にもかけない態度は権力の暴走以外の何物でもない。ただ、移設作業には名護市長の許可や協議が必要な手続きもある。作業ヤード設置のための漁港使用、キャンプ・シュワブ内への水道敷設、資材搬入のための道路使用、飛行場施設への燃料タンク設置、建設で影響を受けた場合の河川の水路切り替えなどだ。稲嶺市長は「建設阻止へ権限を行使する」と述べており、市長権限の手続きについては、国から申請されても許可しない方針を示している。それでも国が強引に作業を進めるというのなら、民主国家としての自殺行為だ。名護市は、過去に基地建設に関する国の調査申請を不許可にしたことがある。こうしたことから、石破茂自民党幹事長は「市長の権限はきちんと法に従った形であるべきだ」と述べ、市長方針をけん制する。自治体の判断への介入を予告するような圧力は言語道断だ。今回の入札公告について、地元では条件付きで移設を容認する住民からも疑問の声が挙がる。辺野古有志会代替施設安全協議会の許田正武代表理事は「移設を百パーセント、ノーと言っている稲嶺進市長への当てつけだ」と批判する。政府は入札公告を取り消すべきだ。直ちに米政府に対し、辺野古移設の断念と普天間固定化の回避策について協議を申し入れるのが筋だ。沖縄は植民地扱いを拒否する。政府は沖縄の非暴力の異議申し立てを力で屈服させるつもりなら民主主義を語る資格を失うと自覚すべきだ。

*3-2:http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=60503
(沖縄タイムス 2014年1月12日) 「辺野古移設 緊張続く」米識者が警鐘
 米大手シンクタンク「ランド研究所」の研究員ステイシー・ペティージョン氏はこのほど、米外交専門誌ナショナル・インタレストに寄稿し、仲井真弘多知事の名護市辺野古の埋め立て申請の承認を歓迎する日米両政府の甘さを指摘し、「米軍普天間飛行場の移設問題は今後も日米同盟の緊張の要因であり続ける」と警鐘を鳴らした。同氏は、普天間移設をめぐるこれまでの経緯に触れたうえで、日米両政府は「仲井真知事による埋め立て承認は、(停滞してきた)日米関係の突破口になると歓迎している」と指摘。知事の承認により普天間論争が解決され、日米の安全保障協力の強化が促進できるとの期待は「希望的観測にすぎない」と断言。返還合意から17年以上が経過しているとし、「埋め立て許可は、普天間移設手続きの始まりにすぎない」と評した。また、「すべての県民が移設反対ではなく、基地建設が経済的利益をもたらすと信じ、計画を支持する層もある」とし、こうした移設計画における支持派と反対派の対立が「普天間闘争が今後も日米同盟の緊張の要因であり続けるだろう」と分析。名護市長選挙で現職の稲嶺進氏が勝利すれば、「辺野古再考への圧力増加に燃料を注ぐことになる」との見方を示した。同氏は今後の見通しについて「米国防総省は(普天間より)論争の少ない岩国基地の建設に10年以上を要した」と指摘した上で、「普天間を閉鎖し、海兵隊の機能を辺野古に再配置するには、すべてがスムーズに進行した場合でも少なくとも10~15年かかる」と分析。その上で、普天間移設の進行が「ふたたび行き詰まった場合、ワシントンと東京は計画を振り出しに戻し、他の選択肢を検討する必要が生じるかもしれない」と警鐘を鳴らした。

*4:http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=62412
(沖縄タイムス 2014年2月11日) EDITORIAL [Dear Madame Ambassador Kennedy] Please Meet with Mayor Inamine
Welcome to Okinawa, Madame Ambassador Caroline Kennedy. It is your first visit to Okinawa as the US Ambassador to Japan. Many Okinawans are paying close attention to your visit and the statements you will make.
They are listening closely because they want you to see the real situation here, the real Okinawa that cannot be described in State Department staff briefings or reports from Japanese government officials.
They want you to see USMC Futenma Air Station, located in the heart of the densely populated city of Ginowan. They want you to experience- not from the sky, but with your own feet, your own eyes, your own ears - the ocean at Henoko, in the city of Nago, the proposed location of Futenma’s replacement and designated by our prefectural environmental survey as a Rank 1 site : Urgent Need for Environmental Protection.
In November, 1963, on the day your father, US President John F. Kennedy was assassinated in Dallas, Texas, this island was also enveloped in that sadness.
The red light district of Koza dimmed its neon lights as restaurants and bars closed of their own volition. The following day, at schools and workplaces, many residents grieved in silence the loss of the President.
After being appointed as ambassador to Japan, surely you have learned much about the concerns surrounding the US ? Japan relationship. As you know, the issue of USMC Futenma Air Station has been a huge strain on that relationship in the 18 years since your government and ours pledged to return it to the Okinawan people in 1996.
Why hasn’t the issue been resolved? Please visit Henoko. Talk to the people in the tent village on the seashore who have for years been sitting in protesting the proposed relocation. You will hear the raw voice of Okinawa, far different from the explanations of our governments’ foreign ministers and defense secretaries. You will quickly come to the heart of the problem.
The mayoral election was a clear expression of the will of Nago city. Residents reelected incumbent Susumu Inamine, who said that the relocation of Futenma to Henoko was in direct contradiction with the regional needs of Nago and its residents. In a prefecture wide opinion survey conducted by the Okinawa Times and another news organization at the end of last year, close to 70% of Okinawans expressed opposition to the proposed Henoko relocation. The majority in Okinawa are still opposed to any relocation of Futenma within the prefecture.
During your visit here, you should meet with Mayor Inamine and listen to the reasons why.
You have expressed “deep concern” about the “inhumaneness” of dolphin hunting on Twitter, saying that “the US government opposes dry hunt fisheries”.
The ocean around Henoko is the habitat of the Dugong, an ocean mammal like the dolphin. The Dugong is a Japanese natural monument and the Ministry of Environment has designated it as an endangered species at high risk of extinction.
If the ocean around Henoko is buried, the Dugong will lose their home and their extinction cannot be avoided. To forever lose the Dugong from the planet for the sake of the construction of a military base would be a great detriment to the human race.
The Japanese government has ignored the result of the Nago mayoral election and continued to move forward on the process of burying the ocean at Henoko. To allow the construction of this base to continue in direct opposition to the will of local residents is completely unacceptable in a democratic society.
To attempt to build a new military airbase in Okinawa after the tragedy of the Battle of Okinawa, the 27 long and difficult years of American occupation that followed it, and the disproportionate burden of military bases shouldered by Okinawa since, is nothing but blatant discrimination against the Okinawan people. Please relay these feelings to President Obama.

(沖縄タイムス社説 2014年2月11日) [拝啓 ケネディ大使]現地訪ね市長と会談を
 キャロライン・ケネディさん、ようこそ沖縄へ。駐日米大使として、きょう初めて来県されるんですね。沖縄の多くの人があなたの発言に注目しています。
 大使館スタッフのブリーフィングや日本政府関係者の情報からはとらえきれない、この島のありのままの姿を見て考えてもらいたいからです。
 宜野湾市の市街地の真ん中にある米軍普天間飛行場。移設先に予定されている名護市辺野古の海は、県の環境保全指針で「自然環境の厳正な保護を図る区域」であるランク1に評価されています。
 上空からではなく、自らの足で、目で、耳で確かめてください。
 1963年11月、あなたの父ジョン・F・ケネディ大統領がテキサス州ダラスで悲劇に見舞われた日、この島も悲しみに包まれました。
 コザの繁華街はネオンを消し、飲食店は営業を自粛しました。哀悼の日には、学校や職場などで多くの住民が黙とうし、哀悼の意を表しました。
 駐日米大使としての赴任に当たって日米間のさまざまな懸案について学んだことと思います。普天間問題は、ご存じのように96年の返還合意から18年にわたって、迷走を続けています。
 なぜでしょうか。辺野古を訪れ、移設反対を訴えテント村で座り込みを続けている人たちとじかに話してみることです。日米の外務・防衛官僚の説明とは違った沖縄の生の声が聞けるはずです。それによって、この問題の深層に触れることができるでしょう。
   ■    ■
 先の名護市長選で、名護市の民意は示されました。普天間の辺野古移設は地域利益に反するという稲嶺進市長の主張に多くの市民が賛同したのです。
 沖縄タイムス社などが昨年末に実施した県民世論調査では、7割近くが辺野古移設に反対でした。沖縄の多数意思は今も、普天間の県内移設に反対しています。
 今回の来県で、名護市を訪れ、稲嶺市長と会い、その考えに耳を傾けるべきです。
 あなたは短文投稿サイトのツイッターで「米国政府はイルカの追い込み漁に反対します」と表明しました。
 辺野古の周辺海域は、イルカと同じ海洋哺乳類ジュゴンの生息域です。ジュゴンは国の天然記念物で環境省は「絶滅の危険性が極めて高い種」に指定しています。
 沿岸域が埋め立てられれば、影響は避けられません。基地建設によってジュゴンを失うことは人類にとって大きな損失です。
   ■    ■
 日本政府は、名護市長選の結果を考慮することなく、辺野古の埋め立て工事に向けた手続きを進めています。民主主義を大切にする社会で、地元合意なしに一方的に軍事基地を建設することは許されません。
 沖縄戦と27年間の米軍統治、その後も過重な基地負担を背負わされている沖縄に、新たな米軍飛行場を建設するのは「沖縄差別」というしかありません。多くの県民の思いをぜひオバマ大統領に伝えてほしいのです。

| 辺野古・普天間基地問題::2012.2~2015.3 | 11:28 AM | comments (x) | trackback (x) |

PAGE TOP ↑