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2020.1.11~12 まともな議論ができない立法府、議論の土台となる正確な資料を作れない行政府、不勉強なくせに傲慢な検察のゴーン氏逮捕と日本の司法の闇について (2020年1月13、14、17日に追加あり)
(1)日米貿易協定発効


 2019.9.26   2019.10.19     2019.11.19      2019.11.16
日本農業新聞   日本農業新聞      Yahoo        東京新聞

(図の説明:さくら国会であまり話題に上らなかったが、日米貿易協定では、左の2つの図のように、農業への影響が大きいにもかかわらず、右の2つの図のように、本質を突いた議論があまりなされなかった。これは、日本では、感覚の遅れた行政が調整して政策を決め、国会はそれに追随しているだけで、民主主義がうまく機能していないことを意味する)

 2020年1月1日に、*1-1のように、日米貿易協定が発効したが、TPPは2018年末に、EUとのEPA2019年2月に発効しているため、これによって日本の農業生産額は減少すると思われる。国会議決の際に与党が賛成、野党が反対だったのは、実際には貿易自由化を進めたのが経産省だからだ。

 一方、日本は自動車及びその部品をの攻めの分野として“カード”として使おうとしたが、関税撤廃は継続協議となり、得たものはなかった。

 そして、農業に関しては、いつも生産基盤強化や農業者の支援のためとして予算がつけられるが、これまでも同様の政策がなされてきたのに離農者が多いため、その費用対効果は検証する必要があり、効果が低いのなら「桜を見る会」どころではない額の選挙目的のバラマキであるため、政策を根本的に考え直す必要がある。従って、費用対効果を正確に把握できる国の会計処理と正確な統計が必要なのである。

 なお、*1-2のように、政府は、「①日米貿易協定が発効しても日本の農家の所得や生産量は一切減らない」「②万全の国内対策を打つ」と述べているそうだが、①はあり得ないので「③日本農業が受ける影響はどの程度か」を正確に見積もらなければ、②の万全の対策は打てない筈だ。このように、日本の立法・行政は理論的で建設的な議論を行わず、感情的な言葉だけが飛び跳ねているわけである。

(2)日本の自動車産業は本当に強いのか?

   

(図の説明:左図のように、2018年11月逮捕時のゴーン氏の容疑は、役員報酬の過少記載による金融取引法違反だったが、「これだけでは罪にならない」と見て、検察は2019年4月に会社資金の私的流用による会社法違反を罪状に加えた。しかし、日産と司法取引して逮捕したのなら、最初から容疑はすべてわかって書面によるバクアップもあった筈なので、こういうところからもゴーン氏を有罪に陥れるためにない頭を絞って罪を探していることがわかり、これが人権侵害なのである。さらに、中央の図のように、日産と司法取引しながら、たったこれだけの容疑を整理するのに2年もかかっているのはのろく、これでは最高裁まで闘ったら高齢になっても結論が出ておらず、人権侵害も甚だしいわけである。この際、一人の人間が築き上げた人生を台無しにするのに、「忙しいから時間がかかった」などというのは言い訳にもならない)

1)ゴーン氏逮捕事件の本質
 私は、このブログの2018年12月4日・2019年4月6日などに記載したとおり、「ゴーン事件の本質は、経営上の争いに司法取引を用い、“私利私欲にまみれた独裁者”というレッテルを張って実績あるリーダーを追い出したことだ」と最初から見ていた。

 そのため、先見の明を持ってリーダーシップを発揮していた(こうすると日本では“独裁者”と言われることが多いのだが)ゴーン氏をなくした日産が、経済産業省出身で社外取締役の豊田氏が薦めるガバナンス改革を行えば、漂流し始めることは予測できたので、*2-2のように、日産の業績が悪化し、*2-1のように、西川氏が辞任することになったのは想定内だった。

 また、2010年にオランダに設立された子会社「ジーア社」は、法務部門を所管する外国人の専務執行役員の告発によると、リオデジャネイロやベイルートでゴーンが使う住宅の購入費・改修費を支払っていたそうだが、「イ.その告発は正確なのか」「ロ.刑事事件に相当する違法行為なのか」についても検討する必要があった筈だ。

 東京地検特捜部はゴーン氏に、「①役員報酬の未払い分を隠した金融商品取引法違反」「②日産の資金を不正送金した会社法違反」という容疑を示したが、①は本来ゴーン氏が受け取れる筈の役員報酬をメディアが多すぎると叩いてできた法律で、株主が納得していれば問題ない性格のものである。そして、このような経営者叩きを続けていれば、外国人のみならず日本人でも有能な人は日本で会社を作らず上場もしなくなる。また、②は、日本人にはなじみのないやり方でも、販促であって不正でない場合もあるため、短絡的な解釈は禁物だ。

 そして、ゴーン氏は、2019年6月24日に東京地裁で行われた公判前整理手続きにケリー氏とともに主席し、保釈中、弘中弁護士の事務所に通って弁護団と議論を重ね、弁護団はゴーン氏の認識や記憶を前提に公判での主張を組み立てて公判で予定する主張内容を、2019年10月17日、既に裁判所に提出しているので、日本の検察や裁判所はいつでもそれを参照できる。しかし、それ以上の証明や反論は、日本の司法の支配下にいてはできない事情があるのである。

2)ゴーン氏の出国
 検察が容疑者としてメディアに発表した途端、日本のメディアは、*3-1のように、「ゴーン被告」と呼んで犯罪人扱いをし、殺人犯かレイプ犯ででもあるかのような保釈条件を求めた。つまり、ここでは「無罪の推定」は働いておらず、日本のメディアは「有罪の推定」を働かせ、「言論の自由」「表現の自由」と称して無節操なイメージ操作をしてきたのである。

 そのため、無断ででも出国しなければ、日本メディアのしつこい情報操作に負ける上、検察が書類を押収して都合の悪い証拠は出さず、このままでは本人が無罪の証拠を出すこともできないため、ゴーン氏は出国を選んだのだろう。私は、出国に成功してよかったと思う。

 日本の検察は、有罪が確定する前からまるで有罪が確定しているかのようにメディアに知らせ、メディアは疑問も持たずに裁判抜きで人を貶める報道をいっせいにしたのだから、ここでゴーン氏が日本のメディアを外して他国を中心としたメディアと自由にコミュニケーションを取ったのは当然である。

 また、ゴーン氏は、*3-5のように、プロの力を借り、プライベートジェットを使って、出国に際しては楽器箱に隠れて関西空港からトルコ経由でレバノンに入り、*3-2のように、「有罪が前提の政治的な迫害を逃れた」という声明を発表し、*3-4・*3-6のように、「事件は自らを引きずり下ろすクーデターだ」等々と記者会見で述べているが、これを批判するのは当たらないと思う。

3)今度は「違法出国」が罪とは・・
 このように、ゴーン氏の容疑内容は、2019年6月24日の公判前整理手続きで既に行われており、出国するにはそれだけの理由があったため、*3-3のように「違法出国が法秩序を踏みにじる行為だ」などという主張をする前に、ゴーン氏の刑事事件としての逮捕と長期の拘束が日本国憲法に定められた人権侵害にあたらないのかを反省すべきだ。

 森雅子法相は、*3-3のように、「刑事裁判そのものから逃避し、許されない」と批判し、東京地検の斎藤次席検事は「日本の刑事司法制度を不当におとしめる主張で到底受け入れられない」とコメントしているが、刑事裁判に当たる事案か否かも含め、日本の司法の公正性が信頼できないので避けたのだから、この根本を忘れずに日本国憲法に沿った司法に改めるべきだ。

 上記が、*3-7の琉球新報社説への私の説明でもあり、さらにゴーン氏の場合は、大切な人を人質にとられたのではなく自分が不当に長く拘束され、権利を大きく制限されたのだから、「人質司法」というよりは「拷問」「人権侵害」と言う方が正しい。

 また、日本では検察が起訴した途端に「推定有罪となり、検察のメンツのために無罪の人が刑務所に入れられ、有罪率が99.4%で、反証は殆ど取り上げられない」ため、その本質を改革すべき森雅子法相が、「(逃亡は)どの国の制度でも許されない」と批判したのは本質を理解しておらず、*3-8のように、ゴーン氏が「法相の発言は愚か」と言うのは理解できる。

 なお、法務省は、森雅子法相が「潔白だと言うのなら、(日本の)司法の場で正々堂々と無罪を証明すべきだ」と発言したことを3カ国語でHPに掲載したそうだが、刑事裁判では「推定無罪」の原則が働き、逮捕するにあたっては逮捕時に逮捕理由を説明し、検察官が有罪を立証しなければならないのであるため、森雅子法相は弁護士の割には知らなすぎる。

(3)単なる情報戦ではなく、人権を求める戦いである
 ゴーン氏の出国については、*4-1・*4-2のように、海外メディアは好意的だそうだが、私は中国でもとっくの昔に卒業した“文化大革命”のようなことを言っている日本のメディアの方がおかしいと思っていたため、ゴーン氏の出国が成功してよかったと思う。また、レバノンと日本の間に“犯罪人”引渡条約がないのは幸いしたが、今後は、レバノン政府が日本の圧力に屈しないことが必要だ。

 また、ゴーン氏は、これだけ負のイメージを擦りつけられたのだから、*4-3のように、ハリウッド映画化して、ビジネス界・自動車革命の時代背景・各国の世論・日産社内の経営権争いに司法が介入した日本の事情などをリアルに表現すれば、これまでにないものすごいビジネス映画になると考える。ただし、命に気を付けて行動して欲しいくらいの真剣勝負になる。

 このような中、日経新聞は社説で、*4-4のように、「日本の法廷の場なら議論が深まったかもしれない」などとありもしない嘘を書いているが、司法制度が違っても人権が大切なことは普遍であるのに、それがない日本の司法を改革しなければ、そうはならない。ゴーン氏がSECとは争わずに100万ドルの課徴金を支払ったのは、同時に多くの敵を作らないためだろう。

 なお、日本は特殊な国であるという日本の立場の説明は、言い訳としていろいろな分野でよく聞かれるが、グローバルな世界でそれは通用しない。また、プライベートジェットには不特定多数の人は乗らないため、手荷物チェックが緩いのは当然である。

(4)日本はこうして遅れていく
 「日本の自動車産業は今後も強いか」については、結論から言って「危うい」というのが私の見方だ。その理由は、ゴーン氏が率いていた日産・三菱・ルノー組を、将を捕えることによって漂流させて護ったのは、*5-1のトヨタだからである。トヨタは、EVではなくハイブリッド車に妥協した会社で、国を挙げてEVを推進していた中国の環境規制も緩めさせるように働いた。

 そのため、*5-2のように、欧州の自動車大手が事業活動に伴うCO2の純排出量もゼロにする「カーボンニュートラル」を相次いで宣言し、2019年11月4日には、独フォルクスワーゲン(VW)がEVを量産し始め、メルケル首相が「独自動車産業の未来の礎石となる」と述べ、VWのディース社長が「VWの新しい歴史が始まる」としているのは希望が持てる。私は、次に自動車を買うなら、高すぎなければポルシェかベンツのEVにしたいと思っているくらいなので、外国人労働者と組み合わせて九州のどこかで工場誘致したらどうかと考える。

 そのような中、*5-3のように、日経新聞は社説で「①2018年度に国内で消費した1次エネルギーの約9割は化石燃料に支えられている」「②化石燃料から水素を取り出して使う」「③千代田化工建設などのグループは、天然ガスから取り出した水素を別の化学物質に変えて日本に持ち込む計画」「④資源国にとっても保有資源を有効に使い続ける道になるはずだ」「⑤水素利用技術の確立に向けて、資源国と連携した取り組みを加速していかねばならない」などと、馬鹿なことを書いている。

 何故なら、①は、先見の明のなさによるものであり、②③④については、化石燃料から水素を作るなど愚の骨頂で、⑤については、「日本には資源がないから、資源は輸入しなければならない」という先入観から抜けられない頭だからだ。こうして日本はどんどん遅れて行き、国民は貧しくなっていくが、私は、このようにして作られた水素は使わないつもりだ。

 なお、*5-4のように、地球温暖化対策のパリ協定に関する目標や政策の評価で、日本は、六段階評価で下から二番目の「極めて不十分」と判定されたそうだが、全体として尤もである。

・・参考資料・・
<日米貿易協定>
*1-1:https://www.agrinews.co.jp/p49413.html (日本農業新聞 2019年12月5日) 日米協定“拙速”承認 来年1月1日発効へ 参院
 日米貿易協定は4日、参院本会議で与党などの賛成多数で可決、承認された。来年1月1日に発効する見通し。牛肉、豚肉などは環太平洋連携協定(TPP)と同様に関税を削減。生産額の減少は過去の大型協定に匹敵する。昨年末に発効したTPP、今年2月に発効した欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)に続き大型協定の発効が迫り、日本農業はかつてない自由化に足を踏み入れる。同協定を巡る交渉は4月に開始。9月に最終合意し、10月に署名した。合意内容の公表から協定の国会審議までは1カ月足らず。TPPなど過去の大型協定と比べても異例の短さで、情報開示や国民的な議論の不十分さが目立った。同日の採決では、自民、公明両党と日本維新の会などが賛成。立憲民主党、国民民主党などの共同会派や共産党は反対した。政府は今後、関連する政令改正などの国内手続きを終え、米国に通知する。米国側は国内法の特例に基づき議会審議を省く方針。両国の合意で発効日を決められ、米国の要望に応じて1月1日の発効となる見通しだ。発効後、日米は追加交渉に向けた予備協議に入り、4カ月以内に交渉分野を決める。政府は関税交渉について「自動車・自動車部品を想定しており、農産品を含めてそれ以外は想定していない」(茂木敏充外相)としているが、具体的な交渉範囲は協議次第だ。協定では、牛肉は関税率を最終的に9%まで削減する。セーフガード(緊急輸入制限措置=SG)を設定した一方、発動した場合、発動基準をさらに高くする協議に入る。TPPのSGと併存し、低関税で輸入できる量がTPPを超えるため、政府は加盟国との修正協議に乗り出す。今後、追加交渉での農産品の扱いやSGの発動基準数量の引き上げの動向などが焦点になる。日本の攻めの分野の自動車・同部品の関税撤廃は継続協議となった。政府の影響試算では、農林水産物の生産額は、米国抜きのTPP11の影響も踏まえると最大2000億円減る。国会審議で野党は、日欧EPAなど発効済みの他の貿易協定も含めたより精緻な試算を求めたが、政府・与党は応じなかった。政府・与党は現在、中長期的な農政の指針となる食料・農業・農村基本計画の見直しの議論を進めている。一連の大型協定による農産品の自由化にどう対応するか具体策が問われている。
●国内対策 農家規模問わず
 政府は4日、日米貿易協定に伴い、国内対策の指針となる「TPP等関連政策大綱」改定案を自民、公明両党に示し、了承された。農業分野では、中山間地を含めた生産基盤強化の必要性を強調し、「規模の大小を問わず、意欲的な農林漁業者」を支援する方針を明記。新たに肉用牛や酪農の増頭・増産対策などを盛り込んだ。政府は5日に正式決定し、2019年度補正予算に農林水産業の対策費として3250億円程度を計上する。改定案では、国内外の需要に応え、国内生産を拡充するため農林水産業の生産基盤を強化する必要性を指摘。畜産クラスター事業による中小・家族経営支援の拡充や、条件不利地域も含めたスマート農業の活用も盛り込んだ。規模要件の緩和や優先採択枠の設置で対応する。自民党TPP・日EU・日米TAG等経済協定対策本部(本部長=森山裕国対委員長)などの会合で、西村康稔経済再生担当相は「(農業の)国内生産を確実に拡大するため、中山間地域も含めた生産基盤を強化していく」と述べた。森山本部長は会合後、「(家族経営を)政策の横に置くのではなく、中心に据えてやっていくことが大事だ」と記者団に語った。改定案には輸出向けの施設整備、堆肥活用による全国的な土づくりの展開、家畜排せつ物の処理円滑化対策、日本で開発した農産物の新品種や和牛遺伝資源の海外流出対策なども盛り込んだ。農林水産分野の対策の財源について、既存の農林水産予算に支障のないよう「政府全体で責任を持って」確保する方針は改定案でも維持した。TPPの牛肉SGの発動基準見直しを巡っては、「日米貿易協定の発効後の実際の輸入状況などを見極めつつ、適切なタイミングで関係国と相談を行っていく」との記述にとどめた。
●日米協定国会承認 期限ありき審議不足 再協議規定 農業扱い不透明
 日米貿易協定は、踏み込んだ議論には至らないまま、国会審議が終結した。来年1月1日発効を目指す政府・与党は、野党側の資料請求にも応じず、議論がかみ合わないまま審議が進展。野党も最終的には4日の参院本会議での採決に応じたため、農産品の再協議の可能性をはじめとした懸念を掘り下げることなく、協定は承認された。衆参両院の委員会審議は22時間余り。過去の経済連携協定を大きく下回る。参院本会議では、これまでの委員会審議と同様に、農産品について、米国が「特恵的な待遇を追求する」と明記した再協議規定への懸念が続出。採決の最終盤となっても不明瞭な部分が残っている実態が改めて浮き彫りになった。国民民主党の羽田雄一郎氏が再協議規定について「米国の強い意志を感じる」と指摘。大統領再選を目指すトランプ氏の強硬姿勢を警戒した。協定に賛成した日本維新の会の浅田均氏も「米国がさらに強気の姿勢で交渉に臨んでくるのは不可避。積み残しになった自動車・同部品の関税撤廃の確定も含め、交渉は一筋縄ではいかない」と警鐘を鳴らした。ただ、野党側は採決を容認。会議場内では「反対」などの声が出たが、賛否の投票作業は淡々と進んだ。衆参両院を通じて、審議不足は否めない結果となった。衆院では、自動車の追加関税の回避の根拠となる議事録など示さない政府・与党に対し、主要野党が反発して退席。与党側が審議時間の消化を優先。質問者不在のまま割当時間を消化する「空回し」を含めても、審議時間は22時間余りにとどまる。一方、環太平洋連携協定(TPP)は2016年、衆参両院に特別委員会を設けて計130時間以上審議。日米協定の審議時間は短さが際立つ。さらに衆院では、協定の審議が「桜を見る会」の説明責任を巡る与野党の駆け引き材料になった部分も多い。野党内からも「政争の具にせず、審議の充実を追求していくべきだった」(幹部)と審議運営を批判する声が出ている。

*1-2:https://www.agrinews.co.jp/p49059.html (日本農業新聞 2019年10月24日) 日米影響試算 審議の材料たり得ない
 日米貿易協定が発効しても、万全の国内対策を打つので日本の農家の所得や生産量は一切減らない──。政府がそんな影響試算を発表した。現実離れしていると言わざるを得ない。これでは国会審議の材料になるはずもない。政府は納得感の得られる試算を出し直すべきだ。日米協定の承認案は24日から衆院本会議で審議が始まる。審議を進める上で重要な材料の一つとなるのが、日米協定によって日本農業が受ける影響試算だろう。日米協定発効に伴い、日本農業が受ける打撃はどの程度か。影響をしっかり試算した上で必要な国内対策を考える。これこそが本来あるべき姿のはずだ。だが、政府が先週発表した影響試算は、そうした期待に沿う内容とは言い難い。試算によると、日米協定発効に伴い、安い米国産農林水産物が日本に押し寄せた結果、国産の価格も低下。国内の農林水産物の生産額は600億~1100億円減る。減少額がとりわけ大きいのが牛肉で、最大約474億円に達するという。不思議なのはここからだ。生産額が減るにもかかわらず、国内の農家の所得、生産量は一切減らないという。コスト低減や経営安定につながる万全な国内対策を措置するからで、食料自給率も変わらないという。そもそも国内対策の検討が始まるのはこれからで、まだ決まっていない。にもかかわらず、なぜ日本の農家所得や生産量に影響なしと言い切れるのか。首をかしげたくなる農家も少なくないだろう。環太平洋連携協定(TPP)や欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)に合意した際も政府は影響試算を発表。今回同様に国内対策の効果で、日本の農家所得や生産量に影響なしという内容だった。政府には、農家の不安を大きくしたくない気持ちがあるのかもしれない。だが、貿易自由化に伴う打撃に目を背けたままでは、十分な国内対策が出来上がるとは思えない。今回の影響試算には、国内対策を考える以外にも、もう一つ重要な意味合いがある。来年3月の策定に向けて議論が本格化している新しい食料・農業・農村基本計画だ。同計画は今後10年間の農政の指針となる。10年後と言えば、日米協定やTPP、日欧EPA発効に伴う関税削減が、今よりずっと進んでいる時期。その時に日本農業が受ける打撃はどの程度か。それをきちんと踏まえて新たな基本計画を策定する必要がある。「農家の不安にもしっかり向き合い、生産基盤の強化など十分な対策を講じる」。安倍晋三首相は臨時国会冒頭の所信表明演説で力強く宣言した。ならば、まずは現実離れした一連の影響試算を見直すべきだ。このまま国会審議に突き進んでも議論は深まらず、生産基盤強化という首相の決意にも疑問符が付きかねない。

<日本の自動車産業は強いか>
*2-1:https://digital.asahi.com/articles/ASMCK71NCMCKULFA00L.html?iref=comtop_favorite_01 (朝日新聞 2019年11月18日) ゴーン氏追放、西川氏の大誤算 主導した改革は己の身に
 日産自動車前会長のカルロス・ゴーンを東京地検特捜部が電撃的に逮捕してから19日で1年になる。世界に衝撃を与えた事件の裁判は来春にも始まる。ゴーンはすべての事件で無罪を主張している。弁護側は捜査の手続きそのものが違法だとして争点化する方針で、検察側と弁護側の全面対決となる。ゴーンに代わって経営トップにのぼりつめた社長の西川(さいかわ)広人も、自らの報酬不正の責任を問われて今年9月に辞任に追い込まれた。極秘に進めた社内調査をもとに特捜部の捜査に全面協力し、ゴーンを「追放」した日産にとっても、この1年は想定外の連続だった。
     ◇
 「おかしな会社があるぞ」。日産自動車が「ベンチャー投資」目的で2010年にオランダに設立した子会社「ジーア」に対し、社内では疑問の声がたびたびあがっていた。「投資活動を全然していない」「休眠法人ではないか」。設立の数年後にはこうした指摘が上層部に寄せられ、役員が「すぐ調査を」と指示していた。だが実態がつかめない。「その下にまた会社があって、仕組みが複雑すぎるんです」(当時の役員)。調査に関わった監査役(当時)も「手を尽くして調べても、よくわからなかった」と振り返る。暗礁に乗り上げた調査の突破口は「有力な内部告発だった」と複数の日産関係者は明かす。前会長カルロス・ゴーンの部下で法務部門を所管する外国人の専務執行役員が「これ以上、不正につきあわされるのはごめんだ」とジーア社の実態を監査役に打ち明けたというのだ。ベンチャー投資をするはずのジーア社は、リオデジャネイロやベイルートでゴーンが使う住宅の購入費や改修費を支払っていた。この専務執行役員はその後、司法取引に応じ、東京地検特捜部の捜査に全面協力することになる。監査役らは昨年春から、米法律事務所レイサム&ワトキンスと組んでゴーンの不正の調査に本格的に着手した。ゴーンはもちろん、社長の西川(さいかわ)広人にも知らせずに動き出した。それは、ゴーン側近の西川に知らせたら「どう反応するかわからない」(幹部)と警戒していたからに他ならない。監査役が証拠を示してゴーンの不正を西川に初めて説明したのは昨年秋。ゴーンが電撃的に逮捕された11月19日の1カ月前だった。すでに特捜部との間で司法取引の協議が進んでいた。幹部らは「全てが整った段階で説明した」と明かす。西川はこのころ、仏政府の要求を受け、連合を組む仏ルノーと日産の経営統合に意欲を示すようになったゴーンと対立。ゴーンに疎まれ、社長の座を追われそうになっていた。「窮鼠(きゅうそ)猫をかむ」のたとえ通り、「西川はゴーン降ろしに最後に乗っかった」(幹部)。11月19日午後10時。横浜市の日産本社で緊急記者会見に1人で臨んだ西川は「当然、解任に値する」と強調し、ゴーンとの決別を宣言した。それから1年足らず。自らも報酬不正で社長の座を追われることになろうとは、西川は思いもしなかった。この1年は多くの日産関係者にとっても誤算続きだった。
●旗振った改革、辞任迫られる誤算
 「会社の仕組みが形骸化し、透明性が低い。ガバナンス(企業統治)の問題が大きい」。ゴーンが逮捕された昨年11月19日夜の記者会見で、日産自動車社長(当時)の西川(さいかわ)広人はゴーンの不正を長年見抜けなかった理由をそう説明した。その後の日産の動きは素早かった。3日後に臨時取締役会を開いてゴーンの会長職を解任。12月17日の取締役会で「ガバナンス改善特別委員会」を設置し、外部有識者から改善策の提言を受けることを決めた。逮捕直後から、ゴーンの不正を止められなかった西川の責任を問う声が社内外でくすぶっていた。カリスマのゴーンを「追放」して経営トップに就いた西川にとって、自らの求心力を高めるにはガバナンス改革という旗が必要だった。特別委は今年3月にまとめた報告書で、人事・報酬の決定権のゴーンへの集中が不正を招いた原因だと指摘。社外取締役の権限を強める「指名委員会等設置会社」への移行を提言し、日産は6月の株主総会で移行に必要な議案を提案した。仏ルノーが一時、この議案への投票を棄権する意向を示すと、西川は強く反発。改革の頓挫を避けたい日産はルノー出身者のポストを増やして人事面で譲歩し、なんとかルノーの賛成をとりつけた。経済産業省も、同省OBで社外取締役の豊田正和を通じて改革の実現を促した。だが、会社の形を大きく変える改革には「副作用」も伴う。「自分たちの思い通りの人事をすることができなくなりますよ」。日産から水面下で相談を受けた法務アドバイザーは「移行は危険だ」と伝えていた。懸念は現実のものとなる。ゴーンの不正を追及する急先鋒(きゅうせんぽう)だった西川自身の報酬不正が社内調査で判明。9月9日の取締役会では、取締役11人のうち7人を占める社外取締役の多くが西川に辞任を迫った。この時点での辞任を否定していた西川の外堀は一気に埋まった。旗を振って進めたガバナンス改革が機能した結果、自らが辞任に追い込まれたとは皮肉だ。社外取締役は「ポスト西川」選びも主導した。首脳人事の決定権を握る指名委員会が次期社長に指名したのは専務執行役員の内田誠。社内では西川の辞任後に暫定的に社長代行を務める山内康裕の昇格を期待する声が多く、取締役でもない内田の起用に驚く声もあった。指名委も6人中5人を社外取締役が占め、残る1人はルノー会長のジャンドミニク・スナール。スナールは他の社外取締役と水面下で人選を調整し、トップ人事に積極的に関わった。経営トップを自らの手で決められないもどかしさに、「結局、日産への影響力を強めたのはスナールではないか」と幹部は嘆く。来月1日に発足する内田新体制の前途は多難だ。今月12日に2020年3月期の業績予想を下方修正。ゴーンが進めた拡大路線の修正は難しく、純利益は前年比65・5%の大幅減益になる見込みだ。日産三菱・ルノーの3社連合に安定をもたらしていた「ゴーン1強」体制が崩れたいま、ルノーが経営統合を求めて再び圧力を強める可能性もある。「将来の展望や野心的な戦略がない。3社の関係がゆがんで成長が滞っている」。ゴーンは最近、知人にこう漏らし、日産の行く末を案じたという。=敬称略
●来春にも公判、全面対決の構図鮮明
 ビジネスジェット機で羽田に到着した日産自動車のカルロス・ゴーン前会長を東京地検特捜部が電撃的に逮捕してから19日で1年。世界に衝撃を与えた事件は、来春にも始まるとみられる公判に向けた手続きが進む。検察、弁護側双方の大まかな主張が出そろい、全面対決の構図が鮮明となっている。ゴーン前会長は今年4月までに計4回逮捕され、役員報酬の未払い分を隠したとする金融商品取引法違反事件と、日産の資金を不正送金したなどとする会社法違反事件で起訴された。今月11日に記者会見した弁護団の弘中惇一郎弁護士によると、保釈中のゴーン前会長は弘中氏の事務所に通って裁判の記録を読むなどし、週に何回も弁護団と議論を重ねている。弁護団は前会長の認識や記憶を前提に、公判での主張を組み立てているという。弁護側は公判で予定する主張内容を10月17日に裁判所に提出した。すべての事件で無罪を主張するだけでなく、捜査の手続きそのものが違法だと争点化し、公訴(起訴)棄却を申し立てる方針を示した。裁判で公訴棄却が認められて確定した例はまれだが、主任弁護人の河津博史弁護士は「過去に例のないほど違法な捜査が行われた。単なる戦術ではない」と強調する。焦点の一つが、特捜部が日産幹部2人と交わした司法取引の違法性だ。本来は部下がトップの不正を明らかにする代わりに罪を減免されるようなケースが主に想定されている。弁護側は、日産の経営陣がゴーン前会長を失脚させる目的だったとし、「実質的な当事者は日産だ」と指摘。「2人は業務命令で司法取引したにすぎず、法の趣旨に反する」と主張する。これに対し、検察幹部は「弁護団の筋書きは根拠がなく妄想だ」と一蹴。「裁判所が違法性を認めるとは思えない」と自信を見せる。今後も公判に向けて証拠や争点を絞り込む公判前整理手続きが進められるが、弁護側は検察側が提出する供述調書の大半について、証拠採用に同意しないとみられる。このため、検察側は司法取引に応じた2人を含め多くの日産幹部を証人申請することが予想される。弁護側は西川前社長も一連の行為に関与したとして証人申請するとみられ、状況によっては公判が長期化する可能性もある。地裁は、金商法違反事件について初公判を来年4月にも開きたいとの意向を示している。審理は来年いっぱいは週3日のペースで隔週行う案も示しているという。ただ、会社法違反事件の審理については未定になっており、公判のスケジュールはなお流動的だ。

*2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191203&ng=DGKKZO52882830S9A201C1MM8000 (日経新聞 2019.12.3) 日産、ルノー連携で事業再建 新社長、中計見直し
 日産自動車の内田誠社長兼最高経営責任者(CEO)は2日、就任後初めて記者会見し、仏ルノー、三菱自動車との関係について「アライアンスの活動を通して利益を上げていくことに注力する」と語った。日産は値引き頼みの販売が重荷となり業績悪化が深刻だ。世界主要市場の縮小や次世代技術対応など事業環境が厳しさを増すなか、日仏連合をテコに業績回復を目指す考えだ。内田氏は「私が指揮を執って新たな事業計画を策定する」と述べ、中期計画を見直す方針も示した。日産に43%出資する筆頭株主の仏ルノーは仏政府の意向を受ける形で19年春、日産に経営統合を打診。内田社長は経営統合の協議について「ルノー会長とも今は全くしていない」と述べ、少なくとも当面は進めない考えを示した。ただ、将来の関係については言及しなかった。西川広人前社長は「ネガティブなインパクトが大きく、否定的だ」と明確に反対していた。日産の業績は大きく悪化している。20年3月期の連結純利益は1100億円と前期比66%減る見通しだ。立て直しに向けて日仏連合での協力を拡大する。拡大路線を進めるために過大な目標を設定して無理を重ねた反省から、企業風土の改革も進めると表明した。内田氏は1日付で就任した。元会長カルロス・ゴーン被告の後を継いだ西川前社長が報酬問題で辞任したのを受けたものだ。

<ゴーン氏の出国>
*3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200101&ng=DGKKZO54007910R00C20A1MM8000 (日経新聞 2020.1.1) ゴーン元会長、レバノンへ無断出国 保釈条件違反
 日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告(65)が日本を出国し、中東レバノンに入ったことが31日、分かった。元会長は保釈条件で海外渡航が禁じられており、無断出国とみられる。日本とレバノンの間に犯罪人引き渡し条約はなく、4月にも始まる見込みだった元会長の刑事裁判は事実上、困難になった。元会長はレバノン国籍を持っており、「私は今、レバノンにいる。有罪が予想される日本の偏った司法制度の下でのとらわれの身ではなくなった」などと声明を出した。同国外務省は元会長が30日に合法的に入国したとの声明を出した。東京地裁は31日、東京地検の請求を受けて元会長の保釈を取り消す決定をした。保釈保証金計15億円は没収される。現地メディアなどによると、元会長はプライベートジェットを使い、トルコ経由でレバノンに入った。出国に際して元会長が楽器箱に隠れたとし、レバノン入国後、同国大統領と面会したとの報道もある。日本の出入国在留管理庁関係者によると、元会長名での出国記録はなく、日本で正規の出国手続きを経ていない可能性がある。外務省関係者は事実関係や出国の経緯について「現地の日本大使館などを通じて確認中」と語った。元会長の弁護人を務める弘中惇一郎弁護士は31日、東京都内で報道陣の取材に「事実とすれば保釈条件に違反している」と話した。

*3-2:https://digital.asahi.com/articles/ASMD04H87MD0UHBI00J.html (朝日新聞 2019年12月31日) ゴーン被告「有罪が前提、政治的な迫害逃れた」声明全文
 日産自動車のカルロス・ゴーン前会長の広報担当者は米東部時間30日夜(日本時間31日昼)、取材に対してゴーン前会長の英文の声明を発表した。全文の訳は以下の通り。
     ◇
 私は現在レバノンにいます。もうこれ以上、不正な日本の司法制度にとらわれることはなくなります。日本の司法制度は、国際法・条約下における自国の法的義務を著しく無視しており、有罪が前提で、差別が横行し、基本的人権が否定されています。私は正義から逃げたわけではありません。不正と政治的な迫害から逃れたのです。やっと、メディアのみなさんと自由にコミュニケーションを取ることができます。来週から始められることを、楽しみにしております。(原文は英語)
●レバノン大使館の関係者?は無言
 東京都港区の駐日レバノン大使館が入るビルの前には、31日午前から報道陣が集まった。ビル入り口のインターホンはスイッチが切られているのか呼び出し音は鳴らず、レバノン大使館の関係者とみられる男性が出入りしたが、記者の問いかけには一切応じなかった。

*3-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14317743.html (朝日新聞社説 2020年1月7日) ゴーン被告逃亡 身柄引き渡しに全力を
 世界を驚かせた逃走劇から1週間が過ぎた。情報が交錯し、経緯にはいまだ不明な点が多いが、保釈中の日産自動車前会長カルロス・ゴーン被告が、国籍をもつレバノンに違法に出国したことは間違いない。法秩序を踏みにじる行為であり、断じて許されるものではない。森雅子法相はきのう記者会見し、国際機関などと連携して、日本での刑事手続きが適正に行われるよう、できる限りの措置を講じる考えを示した。会社法違反などの罪に問われたゴーン被告は無罪を主張し、東京地検が日産関係者と交わした司法取引についても違法だと訴えていた。被告が不在のままでは裁判は開かれず、事件は宙に浮くことになりかねない。レバノン政府とねばり強く交渉するのはもちろん、日本の司法制度について丁寧に情報を発信するなど、あらゆる外交努力を尽くし、ゴーン被告の身柄の引き渡しを実現させる。それが政府の責務だ。あわせて、前代未聞の逃走を許してしまった原因は何か、究明を急ぐ必要がある。ゴーン被告はプライベートジェット機を使って関西空港から出国した可能性が高いとみられる。一連の審査手続きに不備や緩みはなかったか。国民に対する説明と適切な改革が求められるのは言うまでもない。ゴーン被告は起訴・保釈・再逮捕などの曲折を経て、昨年4月末から身体拘束を解かれていた。住居玄関への監視カメラ設置、パソコンや携帯電話の利用制限など、弁護側が示した条件を裁判所が認めた。にもかかわらず、結果として今回の事態を防げなかったことを、関係者は重く受け止めねばならない。15億円という保釈保証金は、富豪であるゴーン被告に対するものとして適切だったか。弁護士にすべて預けるはずだった複数の旅券を、途中から1冊に限ってとはいえ、被告が携帯することを認めたことに問題はなかったか――。他にも点検すべき事項はあるはずだ。日本では容疑を認めない人を長く拘束する悪弊が続き、国内外の批判を招いていた。それが裁判員制度の導入などを機に見直しが進み、保釈が認められるケースが増えてきている。ゴーン被告の処遇は象徴的な事例の一つであり、運用をさらに良い方向に変えていくステップになるべきものだった。その意味でも衝撃は大きいが、だからといって時計の針を戻すことはあってはならない。捜査・公判の遂行と人権の保障。両者のバランスがとれた保釈のあり方を模索する営みを続けるためにも、今回の逃走の徹底した検証を求める。

*3-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200109&ng=DGKKZO54192030Z00C20A1MM8000 (日経新聞 2020.1.9) ゴーン元会長「無実」強調 レバノンで会見 逃亡経緯語らず
 保釈条件に違反して逃亡した日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告は日本時間の8日午後10時から、レバノンで記者会見した。一連の事件について「日本の検察や日産の経営陣が画策したもの」と無実だという従来の主張を繰り返した。事件は自らを引きずり下ろすクーデターだとしたが、検察など日本の関係者は事実と異なると反論した。ゴーン元会長が会見するのは、2018年11月に逮捕されて以来、初めて。元会長は会見で「日本の司法は非人道的。公正な裁判を受けられないと判断した」などと述べ、自らの逃亡を正当化。勾留の長さを強調するなど日本の刑事司法制度の批判を展開したが、逃亡方法などについては一切話すつもりはないとした。ゴーン元会長は起訴された一連の事件について「検察や日産の経営陣によるもの」とし、西川広人前社長兼最高経営責任者(CEO)ら日産の元幹部ら6人の名前を挙げた。元会長は逃亡後、米メディアの取材に対し日本政府の関係者の名前を会見で挙げる意向も示していたがレバノン政府への配慮を理由に見送った。森雅子法相は9日未明に会見し「刑事裁判そのものから逃避し、許されない」と批判。東京地検の斎藤隆博次席検事は「日本の刑事司法制度を不当におとしめる主張で到底受け入れられない」とのコメントを出した。日産の広報担当者は「当社はすでに(反論の)声明を出しており、新たなコメントは必要ない」と述べた。ある日産幹部は「茶番劇だ」などと反論。別の幹部も「不正の証拠もたくさんあり、ゴーン元会長の主張は議論のすり替えにすぎない」と厳しく指摘した。

*3-5:https://digital.asahi.com/articles/ASN142T3QN14UHBI00F.html?iref=comtop_8_05 (朝日新聞 2020年1月4日) ゴーン被告、プロが逃がす?元グリーンベレーの名前浮上
 日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告(65)がレバノンに逃亡した問題で、米紙ウォールストリート・ジャーナルは3日、ゴーン前会長が米陸軍特殊部隊出身とみられる男性ら2人の助けを借り、音響機器を入れる箱に隠れて日本を出国したと報じた。同紙によると、ゴーン前会長は12月29日、プライベートジェットで関西空港を発ち、30日にトルコ・イスタンブールに到着。大雨の降る中、車で約90メートル移動してより小型のジェット機に乗り換え、レバノンにたどり着いた。いずれも機内にはゴーン前会長ら乗客の他にパイロット2人、乗務員1人が乗っていたという。トルコの航空会社は、ゴーン前会長の逃亡に際して記録を改ざんしたとして、従業員を刑事告訴。同紙はトルコ当局の捜査に詳しい関係者らの話として、この従業員が、ゴーン前会長が関空で飛行機に乗り込むまでに箱がどのように使われたかを捜査員に証言したと伝えている。同紙が写真で確認したこの箱は、角が金属で強化されており、機体後部近くの通路に押し込まれていた。もう一つの箱にはスピーカーが入っていたという。同紙はまた、関空からイスタンブールへの飛行計画書には、米国のパスポートを持つ男性2人だけが乗客として書かれていたと指摘。2人はその後、ゴーン前会長が乗った小型機ではなく民間機でレバノンまで向かったという。この米国人のうち1人は陸軍特殊部隊グリーンベレーの出身者で、2009年にアフガニスタンで武装グループに拉致された米紙ニューヨーク・タイムズの記者を救出したことで知られる人物と同姓同名。民間警備業界では著名だという。もう1人は、この男性と関係のある会社の従業員として働いたことがある人物だという。ゴーン前会長の米国の広報担当者は、朝日新聞の取材に「ゴーン氏の日本出国をめぐるいかなる報道についても、現時点ではコメントはしない」と回答した。

*3-6:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200109&ng=DGKKZO54192800Z00C20A1EA2000 (日経新聞 2020.1.9) ゴーン元会長、司法・日産批判に終始 日本メディア大半排除
 日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告は8日のレバノンでの記者会見で改めて無実を主張した。事件は当時の日産経営陣の「策略」とし、日本の司法は「非人道的」だと非難。会見では日本メディアの大半を排除し、一方的に主張を展開した。国際手配を受けるなど不安定な立場が続くなか、国際世論を味方に付けたいとの思惑が透けた。ゴーン元会長は会見で、自身が日本で罪に問われた内容について「中傷のキャンペーンに過ぎず、想像の産物」「検察が日産の幹部と画策したものだ」などと批判した。元会長は、中東の知人側に資金を流出させるなどして日産に損害を与えた会社法違反(特別背任)の罪と、役員報酬の「未払い分」約91億円を有価証券報告書に記載しなかった金融商品取引法違反の罪で起訴された。元会長は特別背任罪に問われた資金の支出について、社内の適正な手続きを経ていたなどと主張。報酬の過少記載については「支払われていない報酬が容疑とは理解に苦しむ」と述べた。元会長が日本に戻らなければ裁判は始まらず、事件の真相解明は宙に浮く。元会長は「公正さが確保されればいかなる所でも裁判に臨む」としたが、「(日本は)有罪率が99%を超え、公正な裁判は受けられない」などと話した。この日の会見は元会長側の意向により「過去に関係を築いたメディア」だけを招待する形で行われた。フランスや中東のメディアが大半を占め、日本メディアの参加は数人にとどまった。元会長は会見で事件に関する日本メディアの報道も批判し、日本メディアの多くを排除した理由を問われると「客観的な見方ができると判断した人を選んだ」と答えた。日本の捜査当局は国際刑事警察機構(ICPO)を通じて元会長を国際手配し、7日に駐レバノン大使がアウン大統領と面会して協力を求めた。だが、元会長はレバノンの政財界に太いパイプを持ち、同国政府はこれまで一貫して元会長を擁護する立場を取ってきた。捜査関係者は「レバノン政府が元会長を日本に引き渡すとは思えない」と悲観的な見方を示す。元会長はレバノンに長期間滞在する考えを示し、「数週間以内に全ての証拠を開示し、嫌疑を晴らしたい。真実を明らかにしたい」とした。安倍晋三首相は8日夜、都内で自民党の河村建夫元官房長官らと会食した。河村氏によると、首相はゴーン元会長を巡る問題について「本来、日産の中で片付けてもらいたかった」と述べたという。

*3-7:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1052965.html (琉球新報社説 2020年1月7日) ゴーン被告国外逃亡 裁判で無罪主張すべきだ
 まるでスパイ映画を見ているような衝撃的な事件だからこそ、冷静に問題を見極める必要がある。会社法違反罪などで起訴され保釈中の前日産自動車会長カルロス・ゴーン被告が日本を出国し、国籍があるレバノンに逃亡した。保釈の条件として海外渡航は禁止されていた。東京地裁は保釈を取り消し、保証金15億円を没収する。ゴーン氏は逃亡後、次のような声明を出した。「私はもはや有罪が前提で、差別がはびこり、基本的人権が否定されている不正な日本の司法制度の人質ではなくなる。日本の司法制度は、国際法や条約に基づく法的義務を著しく無視している。私は裁きから逃れたのではなく、不正と政治的迫害から逃れた」。否認すれば勾留が長引く「人質司法」は日本の司法制度の問題点として、かねて批判されてきた。早く解放されたいがために、やってもいない罪を認めてしまうなど冤罪の温床ともいわれる。裁判で有罪が確定するまで罪を犯していないものとして扱う「無罪の推定」原則にもとる人権上の問題も指摘されている。その意味でゴーン氏が指摘する「人質司法」の問題は、日本の司法制度の欠陥として改善すべき点が多い。その点は指摘を真摯(しんし)に受け止めるべきである。しかしその問題と、今回ゴーン氏が違法と知りつつ企てて実行した国外逃亡の責任は別の問題だ。ゴーン氏は日本の制度下で保障された権利でもって経済活動をし、多大な報酬と高い地位を得ていた。その中で日本の刑事法により罪に問われた以上、法の手続きにのっとって裁判で主張すべきだ。それが義務である。そうせずに国外に逃亡した責任は厳しく問われるべきだ。法的責任だけではない。金さえあれば違法行為もまかり通るという悪印象を世界に与えた責任も重い。逃亡の過程では、米国の警備会社やトルコの航空会社職員を含め組織的に違法行為を重ねた疑いがある。日本では入管難民法違反の疑いがあるだけでなく、出入国を巡る国際的な司法への挑戦とも受け取れる。ただ、今回の事件を保釈条件の厳格化につなげてはならない。国際的に批判を浴びている身柄拘束の在り方を是認する意見が強まることを危惧する。日本の保釈率は最近10年、わずかに上がる傾向にある。人権に配慮する流れを止めてはならない。重要なのは、ゴーン氏がなぜ国外へ逃亡できたかを詳細に検証することだ。関係当局にとっては、映画のような逃亡劇を現実に許した大失態である。重大に受け止め、再発防止を徹底する必要がある。ゴーン氏は、自身が「無罪だ」と主張するのなら、日本の裁判の場で身の潔白を証明すべきだ。そうしてこそ、日本の司法制度の欠陥に対する自身の指摘に説得力を持たせることもできる。国外逃亡は道理から外れた道だ。

*3-8:https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/202001/CK2020011002000256.html (東京新聞 2020年1月10日) 森法相「誤った喧伝看過できない」 ゴーン被告「法相の発言は愚か」
 レバノンに逃亡した前日産自動車会長カルロス・ゴーン被告は九日、森雅子法相が被告の記者会見を受けて「わが国の法制度や運用について誤った事実を殊更に喧伝(けんでん)し、到底看過できない」などと批判したことに対し「非常に愚かだ」と反発した。レバノンのテレビインタビューに答えた。ゴーン被告は八日の記者会見で、日本の司法制度について「『推定有罪』の原則がはびこっている」と非難。森氏も九日に二回にわたって記者会見し「適正な手続きを定め、適正に運用されている」と反論するなど、非難の応酬となっている。被告は森氏の記者会見を受けた九日のテレビインタビューで「日本の司法制度は時代遅れだ」と主張。「有罪率は99・4%で、司法制度が腐敗している。(罪のない)多くの人が刑務所に入れられている」と述べた。法相が個別事件に関して会見すること自体が極めて珍しい。保釈がなかなか認められないとするゴーン被告の主張に欧米やレバノンの一部メディアが同調。日本政府は国際社会に被告への賛同が広がるのを打ち消そうと躍起になっている。
◆3カ国語でHP掲載 法務省
 法務省は九日、ゴーン被告のレバノン逃亡をめぐる森雅子法相の記者会見でのコメントを、日本語のほか、英語、フランス語でもホームページに掲載した。ゴーン被告が八日に開いた記者会見を受け、森氏は九日に会見を二回開催。「(逃亡は)どの国の制度でも許されない」などと批判した。
◆被告が「無罪証明すべき」 法相、発言を訂正
 森雅子法相は九日、日本の司法制度に対するゴーン被告の批判に反論するため、同日未明に開いた記者会見での発言内容の一部を訂正したとツイッターで明らかにした。「無罪を主張」と言うべきところを「無罪を証明」と言い間違えたとしている。森氏は会見で「潔白だと言うのなら、(日本の)司法の場で正々堂々と無罪を証明するべきだ」と発言。刑事裁判では、あくまで「推定無罪」の原則があり、その中で検察官が有罪を立証する仕組みになっているため、インターネット上で批判が出ていた。

<単なる情報戦ではなく、人権を求める戦いである>
*4-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/202001/CK2020010102000104.html (東京新聞 2020年1月1日) ゴーン被告逃亡 海外報道は好意的 レバノンや仏メディア
 日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告の国外逃亡について、逃亡先のレバノンや国籍を持つフランスのメディアはおおむね好意的に伝えた。レバノン紙によると、ゴーン被告は三十日に首都ベイルートの国際空港に到着。大手紙アンナハル記者は「レバノン市民として合法的に入国した。アウン大統領と面会した」としているが、真偽は不明。レバノン政府は今のところ正式なコメントを出していない。両親の出身地で被告が少年時代を過ごしたレバノンでは、立身出世の「英雄」として被告を擁護する声が多い。友人の一人は「新年に訪れた奇跡だ」と歓迎し、「彼はいま、適切な保護下にある」と明かした。別の友人は本紙取材に「彼はレバノンだけではなく、日仏にとって偉大な経営者。母国で無実を証明すればいい」と話した。「ゴーン氏の華々しい新展開」と伝えた仏経済紙レゼコーは、未確認情報ながら「警戒が厳しい大きな空港を避け、人目につく機会が少ない小さな空港からプライベートジェット機で飛んだようだ」と解説。仏高級紙ルモンドは、再保釈された四月から監視下に置かれ「妻と会い、話す権利すらなかった」と一定の理解を示した。一方、仏左派紙リベラシオンは「裁判所による禁止に違反して出国した」「脱獄」などと表現するなど批判的な論調で伝えた。
◆レバノンと引渡条約なし 外務省幹部「逃げ得の可能性」
 外務省幹部は三十一日、前日産自動車会長カルロス・ゴーン被告が日本から逃亡し、国籍があるレバノンに入国したと表明したことに関し「事実関係を確認中だ」と取材に答えた。政府関係者は身柄引き渡しについて「さまざまな方策を考える必要がある」と述べ、レバノン政府への要請も視野に検討する考えを示した。外務省幹部は、日本とレバノンは犯罪人引渡条約を結んでいないとして「基本的には相手国の理解を得ないと被告人は引き渡されない」と説明。「現段階で、レバノン政府が協力的かどうかは不明だ」と語った。別の外務省幹部は一般論と断った上で「法務省と協議し、外交ルートを通じて引き渡しを求めることになるだろう。ただ、レバノン政府が応じず、『逃げ得』になる可能性がある」と述べた。自民党の葉梨康弘元法務副大臣は取材に対し「公的機関は被告人を監視できるわけではなく、信義則が破られた。想定外で、結果は言語道断だ」と強調した。
◆楽器箱に隠れ日本脱出?
 レバノンの主要テレビMTV(電子版)は三十一日、カルロス・ゴーン被告が楽器箱に隠れ、日本の地方空港から出国したと報じた。出国に際し、民間警備会社のようなグループの支援を受けたとしている。情報源は明らかにしておらず、信ぴょう性は不明。レバノン紙アフバルアルヨウムも「警備会社を使い、箱に隠れて密出国した」と報じた。MTVによると、このグループはクリスマスディナーの音楽隊を装ってゴーン被告の滞在先に入り、楽器箱に隠して連れ出した。映画のような脱出劇で、日本の当局者は気付かなかったとした。その後に出国し、トルコ経由でレバノンに入国したが、その際はフランスのパスポートを所持していたと伝えた。

*4-2:https://digital.asahi.com/articles/ASN142HVZN14UHBI007.html?iref=comtop_8_06 (朝日新聞 2020年1月4日) ゴーン被告逃亡「正しかった」8割 仏紙読者アンケート
 仏紙ルモンドは3日、日産自動車と仏自動車大手ルノーの会長だったカルロス・ゴーン被告(65)のレバノン逃亡についての論評を掲載し、「本当に汚名をすすぎたかったのなら、裁きから逃れた理由がわからない」として、日本で裁判を受けるべきだったと主張した。ゴーン前会長が声明で、逃亡の理由を「不正な日本の司法制度」から逃れるためとした説明に反論した形だ。同紙は「民主主義国家での裁きを拒み、裁かれる場所をもっとも自分の都合のいいように選ぶ可能性を不当に手に入れた」と前会長の逃亡を批判。「西欧人はゴーン氏の事件を通じて、日本の司法の特殊性、ある意味においてはその厳しさに気づくことになった」と伝えつつ、「彼が逃げ出せたのは、批判されていたほどは(保釈条件が)厳しくなかったからだ」とも指摘した。日本の犯罪率の低さといった要素を踏まえずに「中世のような(遅れた)司法システム」と非難するのは、「日本の文化の正しい理解にもとづかない」ものだと論じた。ただ、日本の司法システムを批判する論調が支配的なフランスでは、ゴーン前会長の逃亡容認論が根強い。仏紙フィガロが2日、「ゴーン氏が日本から逃げ出したのは正しかったか」と読者に尋ねたところ、そうだと応じた人が77%に上った。同紙は毎日、主要ニュースについてのアンケートを実施している。紙面にその日の質問を載せて同紙のサイトで投票してもらい、翌日の紙面で結果を伝える仕組みだ。ゴーン前会長の逃亡問題には、8万6798人が投票した。投票ページに寄せられたコメントには「有罪がまったく証明されていないのに非人間的な扱いをする日本人の爪から抜け出した。見事だ」「ゴーン氏は何年間もフランスの最も主要な企業の一つ(ルノー)に奉仕した偉大な人物だ」「日本の司法は全く偏っている。逃げ出せてようやくゴーン氏は説明の場を持てる」など、逃亡を肯定する書き込みが並ぶ。「この逃亡は、フランスのイメージを悪くするだろう。日本人は、どこかフランスを体現しているこの男(ゴーン前会長)の恥ずべき逃避を忘れないだろう」といった声も寄せられている。

*4-3:https://digital.asahi.com/articles/ASN132TS1N13UHBI009.html?iref=comtop_8_04 (朝日新聞 2020年1月3日) ゴーン被告、ハリウッド映画プロデューサーと面会 米紙
 米紙ニューヨーク・タイムズは2日、レバノンに逃亡した日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告(65)が昨年12月、東京都内の住居で、ハリウッドの映画プロデューサーと面会していたと報じた。ゴーン前会長は日本の司法制度への不満を語っていたといい、同紙は「2人の会話が、ゴーン前会長の当時の思考の一端を知るヒントになるかもしれない」としている。同紙によると、ゴーン前会長が面会したのは、米アカデミー賞作品賞などを受賞した「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(2014年)のプロデューサーを務めたジョン・レッシャー氏。ゴーン前会長はレッシャー氏に対して日本の司法制度を批判し、無実の証明に苦心していることを説明。映画をつくれば、人びとがより自らに同情的になってくれるかどうかを気にしていたという。ゴーン前会長を知る複数の人物の話として同紙が報じたところでは、ゴーン前会長は日本での初公判に向けた手続きが進む中、著名人の裁判について調べていた。極めて高い確率で有罪になる日本では、公正な裁判が受けられないと確信するようになったという。楽器を入れる箱に隠れ、プライベートジェットを使ったなどといわれるゴーン前会長の逃亡をめぐっては、欧米メディアが「スパイ映画のよう」などと報道。同紙も「ハリウッドらしい要素は全てそろっている」と伝えている。ただ、レッシャー氏との面会が、ゴーン前会長の逃亡方法に影響を与えたかは定かではない。レッシャー氏は、日本の新聞社に在籍していた米国人記者の体験記をもとにしたドラマの制作陣に名を連ねている。朝日新聞は、レッシャー氏が代表を務める米カリフォルニア州のプロダクションに連絡したが、2日夜時点でコメントは得られていない。

*4-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200110&ng=DGKKZO54227140Z00C20A1EA1000 (日経新聞社説 2020.1.10) ゴーン元会長の「情報戦」に有効な反論を
 特別背任などの罪で起訴され、保釈中に密出国した日産自動車の元会長、カルロス・ゴーン被告が逃亡先のレバノンで記者会見した。日本の刑事司法を批判し、逮捕は検察と日産の共謀によるもので自分は無実などと、これまでとほぼ同じ主張を繰り返した。これが日本の法廷の場であれば議論が深まったかもしれない。そう思うと残念だ。世界を驚かせた日産をめぐる事件の裁判は開かれず、真相は分からないままになってしまう可能性が高い。歴史、文化や国内の治安情勢が違うのだから、日本とレバノン、フランスなどとでは司法制度もそれぞれ異なる。異なる制度のもとで刑事訴追されたことへの驚きや失意は理解できなくもない。だが元会長が繰り返す日本異質論には誤解や一方的な思い込みが多い。自身の報酬に関する虚偽記載についても無実であれば、なぜ米証券取引委員会(SEC)からの同様の指摘には、争わず100万ドルの課徴金を支払ったのか。納得できるような説明はなく、一方的主張との印象が強い。保釈中に妻と会えなかった点も繰り返し批判している。だが捜査関係者によれば、妻は日産の資金が元会長側に流れたとされる企業の代表を務めていた。通常は「事件関係者」ということになり、接触の禁止は十分ありうる措置だ。東京地検は妻に対しても偽証の疑いで逮捕状を取っている。ゴーン元会長はこの先も、同じような批判をいろいろな場面で繰り返すだろう。元会長に共感する海外メディアも多く、「情報戦」に敗れれば誤ったイメージが定着し、日本の信頼を大きく傷つける。ひいては海外の人たちが、日本で生活することをためらうような事態さえ招きかねない。ゴーン元会長が会見した直後、森雅子法相が未明に会見を開いてすぐに反論したことは評価したい。だが国内だけでなく、あらゆる手段を使って海外に向け、日本の立場や考え方を正しく伝えていく必要がある。今回の問題では、日本の空港でのチェック体制に穴があることが明らかになった。出入国在留管理庁や税関、国土交通省などは深刻に受け止めるべきだ。今年は夏に東京五輪・パラリンピックの開催を控え、テロや不法行為の危険性が高まる。事件を受けて対策を講じたというが、本当に大丈夫なのか。一から見直すべきである。

<日本はこうして遅れていく>
*5-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191123&ng=DGKKZO52522790S9A121C1EA1000 (日経新聞 2019.11.23) トヨタ、中国2位に、1~9月新車販売、GM抜く
 中国の1~9月の新車販売台数(乗用車)でトヨタ自動車が米ゼネラル・モーターズ(GM)などを抜き、前年同期の5位から2位に浮上した。中国政府との関係を強化し、環境技術の協力や販売店の整備などで攻勢をかけるなど中国を重視してきた戦略が実を結びつつある。「中国は国を挙げて電気自動車(EV)を推進している。需要にこたえる重要なモデルだ」。22日に開幕した広州国際汽車展覧会(広州モーターショー)で、トヨタのレクサス部門トップの沢良宏執行役員は力を込めた。レクサス初のEVを世界に先駆けて公開し、中国を重視している姿勢を印象づけた。トヨタと中国の合弁会社は多目的スポーツ車(SUV)の中国専用車も発表した。SUVは中国の乗用車市場の4割を占め、メーカーの勢力図を左右する。戦略車で現地の若者らを取り込む。トヨタの中国での勢いは著しい。英調査会社のLMCオートモーティブによると、1~9月の新車販売台数(乗用車)シェアは前年同期の5位(6.4%)から2位(7.8%)に浮上した。中国全体の新車販売台数は1~9月に1837万台と10.3%減った。好調だったEVを中心とする新エネルギー車も7月から前年同月比マイナスに転じ、10月は5割近く減った。政府が6月下旬から補助金を減らした影響が大きい。主要メーカーは規制対応で新エネ車の投入を増やしており、競争は激しさを増す。GMや同社と組む上海汽車集団の独自ブランド、民営最大手の浙江吉利控股集団などが販売台数を落とすなか「シビック」が若者をつかんだホンダは13%増、「カローラ」が人気のトヨタも8%増だった。LMCオートモーティブの康軍アナリストはトヨタは「現地の若者向けのデザインが成功し、販売価格や豊富な品ぞろえが顧客獲得につながった」という。足元では年間約50店のペースで販売店を増やし、販売店網も「レクサス」を含め約1300店舗(2019年1月時点)に広がった。また、中国系メーカーが7月に都市部などで施行された新排ガス規制「国6」対応で出遅れたのに対し、日本車の燃費の良さなどが評価されてきたことも大きい。米中貿易摩擦で米国車のイメージが悪化したという敵失もあった。

*5-2: https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191203&ng=DGKKZO52875480S9A201C1EA1000 (日経新聞 2019.12.3) 欧州車、生産も「CO2ゼロ」、VW、EV部品会社に義務付け 排出枠取得、新たな負担に
 欧州の自動車大手が事業活動に伴う二酸化炭素(CO2)の純排出量をゼロにする「カーボンニュートラル」を相次いで宣言している。欧州連合(EU)が義務付けを目指し、消費者の環境意識も高まる中での各社の危機感が背景にある。自動車大手は部品や物流も含む排出ゼロをめざすが、部品などのサプライヤーには波紋が広がる。11月4日、独フォルクスワーゲン(VW)の電気自動車(EV)「ID.3」の量産が独東部ツウィッカウ工場で始まった。式典でメルケル首相が「独自動車産業の未来の礎石となる」と述べ、VWのヘルベルト・ディース社長は「VWの新しい歴史が始まる」と応えた。VWが自賛する理由は欧州最大のEV工場というだけではない。生産する車種はVW初のカーボンニュートラルだ。VWは使用電力に再生可能エネルギーを購入、車両輸送などで減らせないCO2分はインドネシアの熱帯雨林保存プロジェクトに投じ相殺する。走行時にCO2を出さないEVには「不都合な真実」がある。火力発電が多い地域では、走行のための電気や電池をつくる際にCO2を出す。生産やエネルギー生成、リサイクルまでを評価するライフサイクル評価(LCA)で見ると、ガソリン車より多くCO2を排出することもある。
●「悪玉論」広がる
 そこで企業は行動に移した。VWは全体で2050年にカーボンニュートラル達成を目指して工場投資を決め、独ダイムラーも39年の実現を打ち出した。欧州以外の企業に先んじ、動いたのは2つ理由がある。一つはEUの欧州委員会が50年にEU全体でのカーボンニュートラル義務付けに向け動いていることだ。石炭火力発電に頼る東欧の加盟国は反発するが、西欧でコンセンサスになりつつあり企業は今から対応が必要だ。もう一つは「自動車悪玉論」の広がりだ。9月のフランクフルト国際自動車ショーでは環境団体「ザンド・イン・ゲトリーベ」が「自動車は悪」と訴え、会場の入り口のひとつを封鎖する過激な行動に出た。別の団体は自転車で1万2500人が会場に乗り付けるデモを実施した。自動車大手の中には将来の販売減につながるとの危機感も出始める。VWのディース社長は「ザンド」との対話にも乗り出し、負のイメージ払拭に躍起だ。もっとも自社だけでニュートラル達成は難しい。VWはID.3に部品を供給する企業から初めてカーボンニュートラルを義務付ける契約を結んだ。車載電池は韓国LG化学が再生エネを使い生産しているという。だがほとんどの部品メーカーが排出枠の購入などで辻つまを合わせているとみられる。環境の名の下の新たな負担だ。VWは手綱を緩めない。調達担当のシュテファン・ゾンマー取締役は「持続可能性は(サプライヤーとの)取引を決める要素となる」と述べ、義務化の対象を他の車種、工場に広げる計画だ。
●素材産業厳しく
 5月に車部品世界首位の独ボッシュが唐突に20年のニュートラル達成を宣言したのも、こうした背景があるもよう。同社はまず排出枠を購入し、30年までに2400億円超を省エネや再生エネに投資して実現する考えだ。独部品大手コンチネンタルも9月、40年に実現するとの目標を掲げた。苦しいのがCO2を多く排出する素材産業だ。樹脂大手の独コベストロは25年に09年比50%削減の目標を掲げるが、マルクス・シュタイレマン社長は「今はここまでしか宣言できない」と努力の限界を指摘する。電源構成や電力料金など外部要因に依存する部分が大きいからだ。鉄鋼もCO2を排出しない生産は基礎研究段階だ。EUでは車業界に対し、LCAで規制する議論が進む。世界で最も厳しい環境規制を導入し、他地域より企業の競争力を高めるのがEUの施策だった。日本では「夢物語」とも思われる話が現実のビジネスに影響を与え始めている。日本企業も無視できない。

*5-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200112&ng=DGKKZO54325530R10C20A1EA1000 (日経新聞社説 2020.1.12) 化石燃料を使い続けるなら
 地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」の本格運用が2020年から始まった。温暖化ガスの排出削減に向けた取り組みの強化が求められる中で、排出量が多い石炭火力発電所を使い続ける日本に向けられる視線は厳しい。国が掲げる中長期のエネルギー目標は脱炭素の要請に応えられているか、改めて点検が必要だ。ただし、18年度に国内で消費した1次エネルギーの約9割は、石炭を含む化石燃料だった。私たちの暮らしや経済活動はこれに支えられている現実がある。太陽光や風力など再生可能エネルギーは最大限伸ばしたい。だが再生エネだけでは需要を賄いきれないとすれば、温暖化対策を講じながら、化石燃料を効率的に使い続ける方法を考える必要がある。手掛かりの一つが、化石燃料から水素を取り出して使う技術だ。石炭や石油を、水素と二酸化炭素(CO2)に分離し、温暖化の原因となるCO2は地中に埋め戻したうえで水素を発電燃料などに使う。こうした活用法の実用化に向けた活動が始まっている。川崎重工業などの企業グループは、オーストラリアの低品位炭から水素を取り出し、これを液化して日本に運ぶサプライチェーンの構築に向けた実証事業を進めている。世界初となる液化水素の運搬船も19年12月に進水した。千代田化工建設などのグループは、天然ガスから取り出した水素を別の化学物質に変えて日本に持ち込む計画だ。国際石油開発帝石や日立造船は、CO2と水素を合成して都市ガスの主成分のメタンをつくる実証試験を開始した。実用化には水素の製造費用を大幅に下げるなど、高いハードルがある。燃料電池車の普及やCO2を出さない発電への転換に弾みをつけるためにコスト低減を急がなければならない。資源国にとっても保有資源を有効に使い続ける道になるはずだ。水素利用技術の確立に向けて、資源国と連携した取り組みを加速していかねばならない。

*5-4:https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2019121290135411.html (東京新聞 2019年12月12日) 温暖化対策 日本に厳しい目 パリ協定目標「極めて不十分」
 海外の研究機関でつくる「クライメート・アクション・トラッカー」は、開催中の気候変動枠組み条約第二十五回締約国会議(COP25)の会場で、地球温暖化対策のパリ協定で三十余りの国や地域が掲げる目標や政策の評価を公表。日本については、国内外で石炭火力発電所を推進していることなどを理由に六段階評価で下から二番目の「極めて不十分」と判定した。パリ協定は産業革命前からの気温上昇を二度未満、できれば一・五度に抑えることを目指しているが、各国の目標の水準では今世紀末に約三度上昇すると予測。目標の引き上げを求めた。世界全体では、再生可能エネルギーが順調に普及しているものの、天然ガスの利用が拡大。二〇一七~一八年に化石燃料の燃焼で増加した二酸化炭素排出量の三分の二近くが天然ガスによるとして、歯止めをかけるよう警鐘を鳴らした。最高評価の「見本になる」に当たる国はなかった。それに次ぐ「一・五度に整合」がガンビアとモロッコ、「二度に整合」にインドやコスタリカなど六カ国が入った。天然ガスの利用が増えている欧州連合(EU)やオーストラリアなど十一カ国・地域は「不十分」と評価。それより低い評価の「極めて不十分」は日本や中国、韓国、ドイツなど十カ国だった。担当者は「日本は石炭や天然ガスへの依存から早急に脱却し、海外援助も中止するべきだ」とコメントした。パリ協定離脱を国連に正式通告した米国は、ロシアやサウジアラビアなど五カ国とともに最低の「決定的に不十分」とされた。

<意思決定と教育>
PS(2020/1/13追加):*6-1のように、国連環境計画(UNEP)が、2008年から2017年までの10年間を「失われた10年だった」と厳しく総括する報告書をまとめたが、日本は国内で石炭火力発電所の新設を進め、海外でも石炭火力発電所の建設支援を続けている。日本には再エネ資源が豊富なのに、日本の意思決定権者が一昔前の化石燃料や原発から脱却できないのは何故かと考えると、科学的・論理的に思考して実行するための勉強(≒教育)ができていないからだ。そして、これはEVを世界最初に実用化したゴーン氏と、それにケチをつけることしかできなかった日本のメディア・行政との違いでもある。
 日本は、1980年代に「ゆとり教育」と称する勉強しない方向への教育改革を進めたので、社会を構成する人々の知的判断力が低くなった。*6-2に書かれている思考力・判断力はもちろん重要だが、それには知識や論理的思考訓練が必要なのである。また、論理的思考には理数系科目の理解が不可欠であるため、「ゆとり教育」で理数系の内容を削減したのも間違いだった。
 なお、何かしようとすると、*6-2・*6-3のように、「教員に時間的余裕がない」「長時間労働を是正すべき」「働き方改革が必要」という声が必ず聞かれるが、合理的に自分たちの問題を解決して必要な教育を遂行することのできない学校や教員が、生徒に思考力・判断力・問題解決力などを教えられる筈がなく、教員の質の低下は既に起こっているのではないかと思う。もし、教員の質が高く、教科に興味をわかせる教育ができたら、モンスターになる生徒や保護者はもっと減ると思われる。
 世界は、*6-4のように、新たな「学歴社会」に突入しており、高度な知識や技能を要する仕事が多くなった。そのため、教員にも修士号・博士号を要求してよいのかもしれないが、日本は、“専門性より人間性”を重視する雇用慣行を維持したままである。しかし、実際には、専門性と人間性は二者択一の性格ではないため、これらを二者択一であるかのように言う文化が問題なのであり、専門性や技術力がなければ競争以前なのである。

*6-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/475644 (佐賀新聞 2020/1/12) 温室ガス排出量、増加続く、「失われた10年」と国連総括
 2008年から17年までの10年間に世界の温室効果ガス排出量がほぼ一貫して増え続け、国連環境計画(UNEP)が「失われた10年だった」とこの間の地球温暖化政策を厳しく総括する報告書をまとめていたことが12日分かった。各国の削減対策は不十分としており、18年も排出量は増加。パリ協定の温暖化抑制目標を達成するには石炭火力発電所の新設中止など思い切った対策が急務だと指摘している。国内で石炭火力発電所の新設を進め、海外の建設支援も続ける日本に方針転換を求める圧力がさらに強まりそうだ。報告書によると、UNEPが世界の排出量の分析を始めた08年から17年までに世界の温室効果ガス排出量は平均で年1・6%増加し、17年には過去最高の535億トンに達した。約10年前に「目立った削減対策が取られず、成り行きのまま排出量が増える」とのシナリオで予測された排出の伸びとほぼ等しかった。18年はさらに増えて553億トンに上ったとみられている。それでも各国政府が再生可能エネルギーや省エネの大幅拡大、森林破壊の防止や植林などの対策を大幅に強化すれば「産業革命以来の気温上昇を2度より十分低くし、1・5度になるよう努力する」とのパリ協定の目標達成はまだ不可能ではないと分析した。一方で現在、建設中の石炭火力発電所が全て稼働すると気温上昇を1・5度に抑えることは不可能で「新設をやめ、既存の発電所も徐々に減らすことが目標達成に欠かせない」と指摘した。UNEPは08年から毎年、温暖化の被害防止に必要な温室効果ガスの削減量と実際の排出状況に関する調査報告をまとめている。今回、10年間の変化を改めて分析した。

*6-2:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/573435/ (西日本新聞社説 2020/1/6) 教育再生元年 学ぶ喜びを知ってほしい
 新学習指導要領がこの4月から、小中高で順次実施され、戦後教育の転換点ともいわれる大改革がいよいよ本格化する。学年を問わず「主体的・対話的で深い学び」という新たな指導理念が導入される。知識を蓄えるだけでなく、それを活用する思考力や判断力、表現力などを育むことが主眼である。小学高学年では外国語(英語)が教科となる。論理的思考を学ぶプログラミング教育も始まる。グローバリズムやIT社会に対応するためとされる。高校ではいずれ、大規模な教科・科目再編も行われる予定だ。負担が確実に増えるだけに、子どもが「学ぶ喜び」と「考える楽しみ」を体得できるよう、教員は指導に知恵を絞ってほしい。学習の原動力は、何よりも知的好奇心である。
■読解力向上が課題だ
 戦後、日本の教育行政は「詰め込み」と「ゆとり」の間を振り子のように揺れてきた。米国流の自由で余裕のある教育から始まり、1960年代以降は学習量が増え、カリキュラムも過密化した。これが詰め込み教育と批判され、国は80年代に学習量を減らすゆとり教育を進めた。しかし、2000年代に入ると潮目が変わる。15歳の応用力や読解力を問うため、経済協力開発機構(OECD)が実施する学習到達度調査(PISA)で03年、日本は大きく順位を下げた。いわゆる「PISAショック」だ。この結果を受け、文部科学省は前回の指導要領改定で「脱ゆとり」にかじを切った。今回の改定はその流れを踏襲し、さらに深い思考力などの育成を目指している。昨年末発表されたPISA18年調査では、科学と数学の応用力は上位に踏みとどまったものの読解力は15位と低迷した。この順位に一喜一憂する必要はないが、読解力は学力の土台だ。読解力が伸び悩む要因に、若者に広がる会員制交流サイト(SNS)が短文中心である影響を指摘する識者もいる。授業で長文に親しむ機会を増やす工夫を求めたい。授業で新聞を活用するNIE(教育に新聞を)の推進も後押しになるだろう。家庭でも、SNSのルールをつくり、読書習慣を生活に定着させてほしい。
■現場の声に耳を傾け
 「主体的・対話的で深い学び」の実現には、教員にも授業を練る余裕が欠かせない。公立小学校の18年度教員採用試験の倍率は2・8倍で過去最低だった。九州では福岡県の1・3倍を筆頭に2倍未満が4県もある。定年による大量退職時代の到来と相まって、教育の質の低下を招きかねない深刻な事態と言えよう。民間への就職の堅調さが背景にあるようだが、教員という仕事を敬遠する風潮も広がってはいないか。深刻な長時間労働を是正するため、働き方改革を急ぐべきだ。まずは、各学校で教員が担う膨大な業務の削減に本気で取り組んでほしい。一連の改革は政府の教育再生実行会議が起点となってきた。大改革だけに、政治主導による強いリーダーシップが必要な場面もあろう。ただ議論が生煮えのまま「改革ありき」で強行しては、教育の現場に混乱を広げてしまう。大学入試改革を巡る騒動に、それは明らかだ。英語民間検定試験と国語・数学への記述式問題を導入する方針を検討した二つの会議の内容が昨年末公開された。16年の時点で、昨年問題となった地域格差や採点ミスの可能性は指摘されていた。文科省は仕切り直しの議論の中で、現場や識者の声に誠実に耳を傾けるべきだ。今年は「教育再生元年」とも呼ばれる。主体的に行動し、よく考えて判断する。異なる意見を持つ人と話し合い、問題を解決する-そんな力を養える教育環境を着実に整えたい。

*6-3:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1055817.html (琉球新報社説 2020年1月12日) 教員の長時間労働 働き方改革の道筋付けよ
 長時間労働などで学校現場が疲弊し、教員にゆとりや将来への希望が見えなくなっている現状が改めて浮き彫りになった。県教職員組合(沖教組)が40歳未満の若手教職員に行ったアンケートで、定年まで現在のような働き方を続けられないとする人が55%に上った。月平均の時間外労働は平均55・7時間となり、持ち帰りの仕事も10・6時間あった。働き方改革関連法の施行によって、民間企業では時間外労働は原則月45時間と定められたが、それを大きく超える実態だ。教育現場はいじめや不登校などの課題が山積している。「モンスターペアレント」の対応に神経をすり減らす例があるのも事実だ。教員が多忙故に疲れ切っていては適切な対処ができない恐れがある。教員の残業を減らし、ゆとりある教育現場にするための具体的な対策が求められる。本紙が昨年12月に市町村の教育委員会へ聞いたアンケートでも、公立小中学校で月100時間を超える残業をした教員が延べ810人、「過労死ライン」とされる80時間超は少なくとも延べ2329人だった。学校現場の長時間労働は常態化している。文部科学省は昨年1月、働き方関連法に沿う形で公立校の教員の残業が月45時間を超えないようにする指針を出した。しかし、指針に罰則規定はなく、「臨時的な特別の事情」の場合は月100時間を超えない範囲で延長できるとしている。そもそも県内の公立小中学校でタイムカードやICカードなどで客観的に勤務時間を把握していたのはおよそ半数の21市町村だった。その他は教員自身がエクセルデータに記入したり、出勤簿に押印したりする方法で勤怠を管理していた。労働時間が正確に管理されず、月45時間の指針を守らなくても罰則もない状況では、指針が形骸化しているのも無理はない。沖教組のアンケートによれば、教員が本来時間をかけたいのは教材研究や補習指導、学年学級運営など子どもたちを指導する業務だが、時間外勤務が発生する理由は報告書作成や校務分掌などが上位となり、生徒と向き合う時間が取れていない実態も見えた。経済協力開発機構(OECD)の国際教員指導環境調査で日本の中学校教員の週当たりの仕事時間は56時間と世界最長だ。にもかかわらず、生徒が自ら考える力を育む授業を実践する教員は各国平均に比べて低い水準にある。多忙さが子どもの指導に向けられていないのだ。いま、学習指導は暗記中心の授業から表現力や深い思考を養う方向へ転換している。教員の指導法がより高度になるよう、授業の準備を充実させる時間が必要だ。教員の仕事の在り方を抜本的に見直し、働き方改革の道筋を付けたい。

*6-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191208&ng=DGKKZO53006550V01C19A2MM8000 (日経新聞 2019.12.8) 「博士」生かせぬ日本企業、取得者10年で16%減 世界競争、出遅れも
 世界は新たな「学歴社会」に突入している。経営の第一線やデジタル分野では高度な知識や技能の証明が求められ、修士・博士号の取得が加速する。主な国では過去10年で博士号の取得者が急増したのと対照的に、日本は1割以上減った。専門性よりも人柄を重視する雇用慣行を維持したままでは、世界の人材獲得競争に取り残されかねない。「日本人だけでは定員を埋められない。経済学の修士課程は6割が留学生だ」。データ分析を駆使したミクロ経済学を研究する、東京大学の渡辺安虎教授は危機感を募らせる。今夏まで米アマゾン・ドット・コム日本法人で経済学部門長を務めた経験から「社会的なニーズは必ずある」と断言するが、日本人の大学院への進学意欲は乏しい。科学技術・学術政策研究所によると、米国や中国では2016年度までの10年間に博士号取得者が2割超増えた。修士号でも傾向は同じ。企業などで上級ポストを射止めるには高い学位が必要になる。グーグルなど米IT大手に先端分野の技術者として入社するには、修士・博士号が求められる。トランプ政権がビザ発給を厳格化するまで、中国からは年数千人が渡米して博士号を取得。民間企業の成長のけん引役になっていた。一方、日本の博士号取得者は16年度に1万5000人と10年間で16%減った。少子化は関係ない。この間に4年制大学の入学者は一貫して増えている。学生が専門課程への進学をためらい、日本は世界の中で相対的な「低学歴化」に沈んでいるのが実情だ。大学などの研究者の収入が不安定な面は否めないが、企業の機能不全も深刻だ。博士課程で人工知能(AI)を専攻した大山純さん(仮名)は今、国内電機大手でインフラ分野の営業と開発に従事する。採用面接では専門知識はほぼ問われず、逆にこう求められた。「学位取得より入社を優先してほしい」。結局、博士号は取らなかった。経団連は毎年、加盟各社が「選考時に重視した点」を調べている。上位を占めるのは「専門性」ではなく、「コミュニケーション能力」など人柄に関する項目ばかりだ。入社後も専門性は評価されにくい。30歳前後の平均年収を比べると、日本の学部卒人材が418万円なのに対し、修士・博士の大学院卒は524万円。その差は1.25倍だ。米国の修士の平均年収は763万円で、学部卒の1.4倍を稼ぐ。博士では915万円と1.68倍まで開く。高学歴者に高収入で報いるのは、世界の常識だ。社会学者の小熊英二・慶応義塾大学教授は「グローバルの人材評価基準から日本市場は隔絶されている」と指摘する。倍以上の年収で外資に転じる博士が後を絶たないのは、国内企業の待遇の悪さの裏返しだ。「社会」に出ても稼げないため、日本では博士号を保持する研究者の75%が大学などに所属する。日本では1990年代に政府主導で博士を増やしたが、雇用が不安定なポスドク問題を生み出した。科学技術振興機構の永野博研究主幹は「企業に採用される人材を、大学側が育ててこなかった面もある」と話す。米国では博士の4割が企業で働き、イノベーションの原動力になっている。高度人材の育成と確保は、国家の競争力も左右する。雇用慣行と教育現場。2つのアプローチで改革を急ぐ必要がある。

<警察の呆れた優先順位>
PS(2020年1月14日追加):ゴーン氏の場合は刑事事件になるか否かもわからないようなことで長期間拘束したが、40代の女性を人質にとって立てこもった20代の日本人男性に対しては、*7のように、10時間経っても警察官が事務所内で男の説得を続けているのに呆れた。単独の現行犯なのだから、その男を拘束すると同時にさっさと女性を解放しなければ、その女性はたまったものではないだろう。つまり、警察は、日産のような組織は護るが、40代の女性のような個人はどうでもよいという価値観を持っているらしく、この価値観がおかしいのである。これなら、被害者になった場合でも、日本の警察に頼むより元グリーンベレーの人に頼んだ方が早そうだ。

*7:https://digital.asahi.com/articles/ASN1G571VN1GPTIB00D.html?iref=comtop_latestnews_02 (朝日新聞 2020年1月14日) 立てこもりの男が軽いけが 女性が人質、説得続く 出雲
 14日午後2時半ごろ、島根県出雲市神西沖町(じんざいおきちょう)の運送会社「上田コールド」の従業員から「立てこもりたいという男が来て部屋の外に出された」と110番通報があった。島根県警によると、男は刃物のようなものを持っており、同日午後10時現在、事務所2階で40代の女性従業員を人質にとって立てこもっている。女性にけがはないが、男は軽いけがをしているという。県警によると、男は「社長に会わせろ」という趣旨の話をしており、警察官が事務所内で男の説得を続けている。男は階段に通じる廊下にいて、比較的落ち着いた状態だが、ブラインドをおろす時にけがをしたと話しているという。女性従業員は廊下の奥の部屋に入れられているという。県警によると、男は午後2時20分ごろ、事務所を訪れ、「今から立てこもる」と言って女性従業員を人質にとった。当時、7人ほどの従業員がいたが、ほかの従業員は外に出されたという。県警は、男は20代で、同社との雇用や取引の関係はないとみている。現場は、JR山陰線の出雲神西駅から北西約1・5キロで、周囲には住宅や田畑が広がる。40代の男性従業員は「配送から戻ってきたら事件が起きていた。会社ともめて辞めたような人は聞いていない。女性が心配だ」と話した。同社のホームページによると、同社は生鮮品の冷凍・冷蔵輸送に特化した運送会社。1973年の創業で出雲市や鳥取市に物流センターがある。上田コールド出雲物流センター(出雲市長浜町)の従業員によると、本社では普段、10人前後が働いているという。

<ゴーン氏の主張は正当である>
PS(2020年1月17日追加):*8のように、日産は、ゴーン氏の不正を許してきたガバナンスの改善などに関する報告書を東京証券取引所に提出して、CEOリザーブ(CEOの交際費の筈)を利用した支出、仏ルノーとの統括会社を使った会社資金の私的流用等の不正に関する社内調査結果を新たに盛り込み、「ゴーン氏が事実を隠したため、取締役は不自然さを探知できず、監査役も是正できなかった」とし、ゴーン氏の方は、「CEOリザーブは多くの役員がチェックするもので、私のサインだけで支払われたCEOリザーブは1ドルもない」と主張しているそうだ。
 しかし、①CEOリザーブを設けること自体 ②その金額 ③使い方 などについては、役員が了承し監査役もチェックしている筈で、チェックする立場の人は疑問があれば質問して妥当性を調べるのも仕事のうちであるため、「不自然さを探知できなかった」「ゴーン氏のすることに反対できなかった」と言うのは「仕事をしていなかった」と言うのと同義である。一方、ゴーン氏だけのサインで支払われたCEOリザーブが1ドルもないのであれば、思いついたように後付けでゴーン氏のみを批判するのは妥当ではない。

*8:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14329752.html (朝日新聞 2020年1月17日) 日産、東証に不正調査を報告 「ゴーン前会長への反論」
 日産自動車は16日、カルロス・ゴーン前会長による不正を許してきたガバナンス(企業統治)の改善などに関する報告書を東京証券取引所に提出した。CEO(最高経営責任者)の裁量で使える予算「CEOリザーブ(予備費)」を利用した支出や、仏自動車大手ルノーとの統括会社を舞台にした会社資金の私的流用など、前会長の不正に関する社内調査結果を新たに盛り込んだ。逃亡先のレバノンで開いた会見で「無実」を主張した前会長と真っ向から対立する内容だ。報告書では、前会長がCEOリザーブを使って、海外の知人が経営する企業や、販売代理店に計4670万ドル(約51億円)の不正な支出をしたと認定。前会長をめぐる特別背任事件で、東京地検特捜部が起訴した内容に重なる。ルノーとの統括会社「ルノー・日産BV(RNBV)」を通じて、パリ郊外のベルサイユ宮殿でのパーティー費用やカンヌ映画祭への知人の招待費用などの私的な支出を含め、少なくとも計1137万ユーロ(約14億円)の不正支出があったとも認定した。これらの調査結果は、昨年6月に東証に提出した「改善報告書」の内容に付け加える形で盛り込んだ。日産幹部は「会見への反論にもなっている」と話す。ゴーン前会長はベイルートで8日に開いた会見で、CEOリザーブについて「多くの役員がチェックするものだ。私のサインだけで支払われたCEOリザーブは1ドルもない」と主張。日産は報告書でこうした支出の背景について、前会長が「事実を隠したため、取締役は不自然さを探知できず、監査役も是正できなかった」と指摘した。

| 司法の問題点::2014.3~ | 09:01 PM | comments (x) | trackback (x) |
2019.4.6 日本は人権を大切にしない国である ← ゴーン氏逮捕事件から日本の司法を評価する (2019年4月8、9、10、11、12、13、15日に追加あり)
    
2019.4.4朝日新聞 2018.12.19    2019.1.6産経新聞     2019.4.5Yahoo
          東京新聞
(図の説明:左図のように、最初のゴーン氏の逮捕・拘束は108日間続き、10億円もの保釈金を払って保釈されたのに、保釈から1か月後に再逮捕された。しかし、検察が指摘する罪状は、日産が協力しているにもかかわらず、まだ「ゴーン氏に証拠隠滅の恐れがある」と言っているほど証拠を押さえられていないらしい。さらに、ゴーン氏の罪の内容は、左から2番目、右から2番目、1番右と、実力派経営者の高額報酬にケチをつけたり、とにかくゴーン氏個人の不正を探したりしているもので、批判している人の方が見苦しいのである)

(1)刑事事件に関する日本国憲法の規定
 日本国憲法は、*1のように、「①33条:理由となる犯罪を明示する裁判所の令状によらなければ逮捕されない」「②34条:理由は直ちに告げられ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ拘禁されず、要求があれば、理由は直ちに本人と弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない」「③37条:すべて刑事事件で、被告人は公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する」「④38条:不当に長く拘禁された後の自白を証拠とすることはできず、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合は、有罪とされたり刑罰を科せられたりしない」と規定している。

 これを、ゴーン氏の逮捕と勾留に当てはめると、①については、裁判所の令状があったので満たされているが、②については、有価証券報告書虚偽記載という逮捕理由は告げられたものの逮捕するような罪ではなく、ゴーン氏のみを悪人に仕立てるにも都合が悪かった。そのため、検察は、ゴーン氏の特別背任罪を言い立てるために不正捜しを行い、直ちに本人と弁護人の出席する公開の法廷で逮捕理由を示すどころか、逮捕から半年たっても証拠隠滅の恐れがあるなどとして再勾留した。しかし、逮捕は証拠を揃えてからすべきものであるため、これは憲法違反である。

 また、③についても、被告人は公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有するにもかかわらず、裁判もせずに懲罰的拘束を行っているので、人権侵害が甚だしい。これに加え、日本の司法は、④の「不当に長く拘禁された後の自白を証拠とすることはできない」「自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合は、有罪とされたり刑罰を科せられたりしない」という日本国憲法の規定を無視している。

(2)日本の司法の問題点
 東京地裁は、2019年1月15及び22日、*2-1・*2-2のように、証拠隠滅の恐れがあるとしてゴーン氏の保釈請求を却下した。しかし、日産の代表取締役社長兼最高経営責任者は西川氏(1953年11月14日生まれ、開成高校・東京大学経済学部卒業、1977年日産入社)で、現在の日産はゴーン氏ではなく西川氏の指示で動くため、ゴーン氏は既に日産内外で影響力は持っておらず、証拠隠滅の恐れはない。だからこそ、2018年4月頃から、ゴーン氏を日産の会長職から追い落とすための証拠集めができたのだ。

 それどころか、*2-3-4のように、「ゴーン氏が中東の子会社からオマーンの販売代理店に『販売促進費』として送金させた資金は不要な支出だった」と日産関係者が証言しているように、現在は、西川氏をトップとする日産が組織的に口裏合わせをする方が容易だ。また、中東日産に100億円規模の販売奨励金があって半分ほど余っていたとしても、例えば権力者にエコカー優遇の働きかけをするために、販促費をゴーン氏がCEOリザーブから支出していても全くおかしくなく、CEOリザーブはルーチンワークではないCEOの判断で使ってよい金であるため、不正ありきでステレオタイプの論理を組み立てるのは、無知と悪意の両方が原因のように見える。

 また、検察が日産との司法取引で最初にゴーン氏を逮捕(2018年11月19日)してから既に2カ月も経っているため、検察は(あるのなら)既に書面で証拠を入手しているのが当たり前であり、今さら、ゴーン氏が口裏合わせによって証拠を隠滅できる可能性はない筈だ。

 さらに、特別背任罪起訴内容の「①私的通貨取引のスワップ契約の日産への移転」「②サウジアラビアの知人に日産子会社から約12億8千万円支出させた」というのは、①は実際には日産に損をさせていないし、②は販促費として支出されているわけである。

 そのため、検察は、①②だけでは特別背任罪として弱すぎると考えたのか、*2-3-1・*2-3-2のように、ゴーン氏が中東オマーンの販売代理店に送金した約5億6300万円の日産の資金を自らに還流させたとして特別背任容疑で再逮捕した。これについて、ゴーン氏は、「CEOリザーブは、各国の幹部がサインしており、ブラックボックスではない」「容疑に根拠はなく無実だ」としている。

 そして、*2-3-3のように、ゴーン氏は「真実をお話しする準備をしています。4月11日に記者会見をします」という記者会見予告をした途端に再逮捕された。これについて、ゴーン氏の弁護士は「普通に追起訴すればよく、何のために身柄を取るのかわからない。非常に不適当な方法だと思う」と批判しており、ゴーン氏の再逮捕は、2019年4月11日のゴーン氏の記者会見の妨害であるように思える。

(3)ルノー・日産の行動からわかるゴーン氏逮捕の背景
 ゴーン氏は、倒産しかかった日産自動車をルノーの資金援助で立ち直らせ、電気自動車を最初に市場投入し、世界第二位の自動車メーカーに育てた。その実績と環境車の縁があったからこそ、日産・ルノー組は、水素燃料電池車を最初に開発した三菱自動車と連合を組むことができたのだと、私は考える。

 そこで、仮にゴーン氏がいなかったら、日産は電気自動車を最初に市場投入したかと言えば、「決してしなかった」と私は明確に言える。私は、佐賀県唐津市にある日産のショールームに行って、「リーフを見せて下さい」と言ったことがあり、そのショールームのスタッフは「ああ、リーフね。ないよ」と吐き捨てるように言ったからだ。そして、バルセロナでゴーン氏が宣伝に出ていた動画は「Tecnology is Excellent!」として、電気自動車と自動運転車をアピールしていた。ゴーン氏と日産の一般スタッフはそれだけの意識の違いがあり、ゴーン氏は強力なリーダーシップを発揮したと思われ、これは日本に多い調整型のサラリーマン経営者にはできないからこそ、ゴーン氏は価値があったのである。

 しかし、*3-1のように、保釈されたゴーン氏が取締役会への出席を要求すると、裁判所は「証拠隠滅の恐れがあるから」として、ゴーン氏の取締役会への出席要求を退けた。そして、検察幹部は「関係者だらけの取締役会に出ていいわけがない。出席を希望するなんて、どこまで思い上がっているのか」と批判したそうだが、この状況でゴーン氏が証拠隠滅などできるわけがなく、それでもゴーン氏の話に感じ入ってゴーン氏側につく取締役がいるとすれば、それは人間力の差である。そのため、そんなことしか言えない検察の方がよほど思い上がっており、「検察は、そこまで経済や経営に疎いのに、なぜ威張っているのか?」と思う。

 なお、ゴーン氏逮捕の背景には、ルノーの大株主である仏政府がルノーと日産の経営統合を求めており、それを恐れる人が日産にいたことがある。そして、ゴーン氏逮捕後、仏ルノー、日産、三菱自動車を統括するための新組織を近く立ち上げ、新組織はルノーのスナール会長とボロレCEO、日産の西川社長兼CEO、三菱自の益子会長兼CEOが率いるそうだ。そして、日産は、4月8日の臨時株主総会で、ルノーと三菱自動車は6月の株主総会でゴーン前会長を取締役からも外して経営から全面的に排除する予定だったわけである。

 さらに、*3-2のように、日産が設置した企業統治改革の専門委員会は、日産の経営体制の見直しのため、①取締役会議長に社外取締役をあてる等の執行と監督の分離 ②取締役会の過半を、独立性を持つ社外取締役にする ③人事の決定権集中を防ぐため過半を社外取締役で占める指名委員会を設置する ④経営陣の報酬を決める報酬委員会は全員を社外取締役で構成する3~5人の組織を作る ⑤特別委は各取締役が経営会議体に関するすべての資料やデータにアクセスできる体制の構築 ⑥日産会長職の廃止 などを提言し、日産の西川社長兼CEOは同日夜、「大変重い提言だった。これから取締役会で検討し、できる限り実現したい」と述べたそうだ。

 しかし、取引相手である東レに入社して現在は東レ相談役である榊原氏が提言を出すと、日産に有利な提言が出るとは思えない。また、①③⑤は、経営戦略・特許戦略・販売戦略が外部に漏れ漏れになり、日産は私企業として成立しなくなる。さらに、社外取締役だから独立性を持てるとは言えないため、②は誤りである。そして、③④は、経営戦略に従って柔軟に人をスカウトできず、硬直した組織になる。また、⑥の会長職は、会長の権限の強さにもよるが、会長がいてもいなくてもあまり変わらない企業が多い。そのような提言に、西川社長兼CEOが賛同し、西川氏の責任論が早々に封印されたのは、日産にとってプラスではないと思う。
 
 そして、*3-3のように、ルノーは取締役会を開き、ゴーン氏に対して昨年の業績連動型報酬と年間約77万ユーロ(約9600万円)の年金支給を認めないことを決めたそうだが、懲戒解雇の場合以外は年金受給権はあるのが当然だ。また、退職に伴う報酬の支給は認めない方針ということなので、退職金は受領するまで確定債務でないことが、再度、明らかになっただろう。

 なお、*3-4のように、ゴーン氏は「イ.私は無実だ」「ロ.大量の間違った事実や恣意的な解釈によって絶えず名誉毀損が起きている」「ハ.日産自動車の一部の人間が日本でもフランスでも私をおとしめようと働きかけた」「ニ.2018年の4月か5月に、日産の会長職から追い落とせる証拠を集める動きが起きた」「ホ.日産内部での陰謀が背景にある」「ヘ.アライアンスは3、4人で行うクラブではないので、日産、ルノー、三菱自動車のアライアンスの将来を心配している」「ト.利害の対立で重要な決定がなされなくなり、あっという間にアライアンスが消え入ってしまうのを恐れている」という見解を語ったそうだ。

 このうち、ヘ. ト.について、私企業の経営は、サークル活動ではないため、私はゴーン氏と同じ意見だ。また、ロ. ハ.については、報道を見ていれば賛成できるし、*3-5のサッカー日本代表監督であったハリルホジッチ氏が解任された時と同じだ。つまり、名誉を剥奪する数々の行為を行って解任し、それまでの実績に対するリスペクトが全くないのだ。そして、この一部の日本人の性癖は、人間として本当に失望すべきものである。

 また、ニ.の2018年4月、5月に日産の会長職から追い落とせる証拠を集める動きが起きたのは、その時にはゴーン氏が怖くなくなっていたからで、ゴーン氏に権力が集中していたという説明は嘘である。また、ホ.の日産内部での陰謀が背景にあったのも、ゴーン氏逮捕後のあらかじめ計画されていたように速やかなゴーン氏追い出しの経緯を見ればよくわかる。

 さらに、イ.の無実かどうかは、私は証拠資料を見ていないので何とも言えないが、このように日産の権力闘争と一緒になって日本の司法が動いている以上、日本の司法に公正で迅速な裁判は期待できない。そのため、仏政府は仏市民を護るために動いた方がよいし、このような恣意的な司法では日本人も困るわけである。

・・参考資料・・
<日本国憲法>
*1:http://www.japaneselawtranslation.go.jp/law/detail_main?id=174 (日本国憲法抜粋) 昭和二十一年十一月三日
第三十二条 何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。
第三十三条 何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。
第三十四条 何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。
第三十六条 公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。
第三十七条 すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。
第三十八条 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。
第三十九条 何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。
第四十条 何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。

<日本の司法の問題点、ゴーン氏の長期勾留から>
*2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190116&ng=DGKKZO39997400V10C19A1EA2000 (日経新聞 2019年1月16日) ゴーン元会長の保釈認めず 地裁 勾留さらに長期化も
 日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告(64)を巡る一連の事件で、東京地裁は15日、ゴーン元会長の保釈請求を却下する決定をした。証拠隠滅の恐れがあるなどと判断したもようだ。弁護人は不服として準抗告するとみられる。勾留は2018年11月19日の最初の逮捕から2カ月近くに及んでおり、さらに長期化する見通しとなった。海外メディアなどの批判の声が高まる可能性もある。弁護人はゴーン元会長の公判が始まるまで少なくとも半年程度かかるとみており、準抗告が退けられても保釈請求を続けるとみられる。公判前整理手続きで争点や証拠が絞り込まれた段階、初公判で罪状認否が終わった段階で、裁判所が「証拠隠滅などの恐れが低下」と判断すれば保釈が認められる可能性はある。東京地検特捜部は11日、ゴーン元会長を会社法違反(特別背任)と金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の罪で追起訴。弁護人は即日、保釈を請求した。ゴーン元会長はいずれの起訴内容も否認し、8日の勾留理由開示手続きでも「私は無実です」と意見陳述。従来、特捜部の事件で起訴内容を否認する被告については早期の保釈が認められないケースが多い。地裁は18年12月、ゴーン元会長と共に金商法違反罪に問われた元代表取締役、グレッグ・ケリー被告(62)の保釈を認めた。ゴーン元会長については、特別背任罪にも問われた点、日産内外で大きな影響力を持っている点などを重視し、証拠隠滅の恐れが強いと判断したとみられる。特別背任罪の起訴内容は▽08年10月、私的な通貨取引のスワップ契約を日産に移転し、評価損約18億5000万円の負担義務を負わせた▽09~12年、サウジアラビアの知人側に日産子会社から約12億8千万円を支出させた――の2つの行為で日産に損害を与えたとされる。金商法違反罪の起訴内容は、18年3月期までの8年間、退任後に受け取る予定の報酬計約91億円を有価証券報告書に記載しなかったとされる。

*2-2:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2019012201001706.html (東京新聞 2019年1月22日) ゴーン被告保釈再び認めず 証拠隠滅の恐れ理由か、東京地裁
 東京地裁は22日、会社法違反(特別背任)などの罪で起訴された日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告(64)側の保釈請求を認めない決定をした。理由は明らかにしていないが、証拠隠滅の恐れがあると判断したとみられる。弁護人が18日に2回目の請求をしていた。勾留はさらに長期化する。最初の保釈請求は15日に却下され、準抗告も17日に退けられていた。ゴーン被告は昨年11月19日に金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の疑いで東京地検特捜部に逮捕されて以降、2カ月余り東京拘置所に勾留されている。特別背任罪と金融商品取引法違反罪のいずれも無実だと訴えている。

*2-3-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO43283380T00C19A4CC1000/ (日経新聞 2019/4/3) ゴーン元会長立件へ オマーン・ルート、特別背任容疑
 日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告(65)が同社の資金をオマーンの知人側に不正流出させた疑いが強まったとして、東京地検特捜部が会社法違反(特別背任)容疑での立件に向け、詰めの捜査を進めていることが3日分かった。関係者が明らかにした。最高検などと協議し、最終的に判断するとみられる。関係者によると、資金の流出先とされるのはゴーン元会長の知人がオーナーを務めるオマーンの販売代理店「スヘイル・バウワン・オートモービルズ」(SBA)。同社には2009年以降、日産の「CEO reserve」(CEO予備費)から、販売促進費名目で計約35億円が支払われた。CEO予備費は当時、日産の最高経営責任者だった元会長が使途を決めることができた。一方で、ほぼ同時期にゴーン元会長が、このオーナーから約30億円を借り入れていたことを示す文書が残っている。SBAの別の幹部が、元会長の妻が代表を務める会社のクルーザー購入代金約16億円を負担していた疑いも浮上している。特捜部は1月のゴーン元会長の追起訴後も捜査を継続。中東各国に捜査共助を要請するなどしていた。SBAに支払われたCEO予備費は販売促進費ではなく、元会長個人のための不正な支出だったとみている。ゴーン元会長は1月30日に勾留先の東京拘置所での日本経済新聞との単独インタビューで、CEO予備費について「各国の幹部がサインしており、ブラックボックスではない」と主張。「他の地域でも同じように予備費からインセンティブが支払われているのに問題視されていない」などと説明していた。ゴーン元会長は▽退任後に受け取る予定の報酬計約91億円を有価証券報告書に記載しなかった金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)▽サウジアラビアの知人側に日産子会社から約12億8千万円を支出させるなどした特別背任――の罪で起訴されている。3月6日に保釈され、現在は事前に裁判所に届け出た東京都内の住居で生活を送っている。

*2-3-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13965319.html (朝日新聞 2019年4月5日) ゴーン前会長、4回目逮捕 5.6億円、自らに還流容疑 保釈から1カ月
 日産自動車の前会長カルロス・ゴーン容疑者(65)が、中東オマーンの販売代理店に送金した約5億6300万円の日産資金を自らに還流させたとして、東京地検特捜部は4日、ゴーン前会長を会社法違反(特別背任)容疑で再逮捕した。関係者によると、前会長は販売代理店の口座から、自身が実質的に保有する「GFI」社(レバノン)の預金口座に送金させ、自身に還流させていたという。前会長の逮捕は4回目。特捜部の事件で、保釈中の再逮捕は異例だ。弁護団の弘中惇一郎弁護士は記者会見を開き、「合理性も必要性もなく逮捕に踏み切ったのは暴挙だ」と批判した。弘中氏によると、特捜部はこの日早朝、前会長が3月6日の保釈後に暮らしてきた東京都内の住居内で逮捕状を執行。家宅捜索で、裁判準備のための書類や前会長の妻の携帯電話、パスポートなどが押収されたという。弘中氏は「明らかな防御権侵害で弁護権侵害だ」と訴えた。ゴーン前会長も米国の代理人を通じて「容疑に根拠はなく無実だ」などとする談話を公表した。特捜部などによると、ゴーン前会長は2015年12月~18年7月、日産子会社「中東日産」(アラブ首長国連邦)からオマーンの販売代理店「スヘイル・バウワン・オートモービルズ」(SBA)に計1500万ドル(当時のレートで約16億9800万円)を送金。うち計500万ドル(同約5億6300万円)をGFIに送金させていた疑いがある。特捜部は、前会長がGFIを実質的に保有していたとみて調べている。SBAのオーナー、スヘイル・バウワン氏はゴーン前会長の長年の友人。SBAのインド人幹部がGFIの大株主となっている。GFIは15~18年、前会長の息子が米国で起業した会社に計2750万ドル(現在のレートで約30億円)を資金援助していたという。特捜部は1月、サウジアラビアの実業家に日産の資金を不正送金した特別背任罪で前会長を追起訴した。サウジに加えて「オマーンルート」も立件することで疑惑の全容解明をめざす。
■オマーンルート、友人無言 「送金先」に現地で接触
 2月上旬、中東オマーンの首都マスカット。民族衣装を身につけた老齢の男性が建物から出てきた。「日産からどういうお金を受け取ったのですか?」「ゴーン氏個人とはどういう金のやり取りがあったのですか?」。男性は歩きながら、そう質問を投げかける朝日新聞記者をちらっと見ただけで一切答えなかった。運転手に促されてドイツ製の高級車に乗り込み、去った。スヘイル・バウワン氏。現地の富豪で、日産と仏ルノーの販売代理店のオーナーを務める。中東レバノン育ちのゴーン前会長の長年の友人。今回の事件の「オマーンルート」で不正資金の送金先になったとされる。記者は代理店や関連会社、自宅などを訪ねたが一切取り次いでもらえなかった。地元の有力者から、ようやく同氏が訪れる場所と時間を聞くことができた末の接触だった。関係者によると、バウワン氏は、1月に起訴された「サウジアラビアルート」でゴーン前会長から不正送金を受けたとされる富豪ハリド・ジュファリ氏らとともに、日産社内で中東の「GF」(ゴーン・フレンズ)と呼ばれている。オマーン関連の会議を、中東諸国ではなくゴーン前会長がいるパリで開催し、ともに夕食を取るなど親密な関係だったという。オマーンで1970年代から日産代理店だった会社関係者によると、2004年ごろに契約を突然打ち切られたという。不可解に思っていたところ、バウワン氏の会社が新たに代理店となった式典にゴーン前会長が出席した。「ゴーン氏が来るなんて」と驚いたといい、「それほど個人的なつながりがあるのだろう」と感じたという。

*2-3-3:https://digital.asahi.com/articles/ASM4435GCM44UTIL00F.html?iref=comtop_8_01 (朝日新聞 2019年4月4日) 弁護団「意味わからない」 ゴーン前会長、異例の再逮捕
 108日間の勾留後に保釈され、作業着姿で東京拘置所から出て30日目。東京地検特捜部が4日、日産自動車の前会長、カルロス・ゴーン容疑者(65)の4度目の逮捕に踏み切った。前日にゴーン前会長自ら記者会見を予告した矢先の再逮捕に、弁護団は「意味がわからない」と特捜部の対応を批判した。4日午前6時前、東京地検の係官らがゴーン前会長が保釈後に過ごしていた都内の制限住居に入った。住居前に集まった報道陣は約50~60人。現場での混乱を避けるため、東京地検は規制線を敷く異例の対応を取った。約50分後、ゴーン前会長を乗せたとみられるワゴン車が住居を出発。車の窓はカーテンで覆われ、車内の様子を確認することはできなかった。車は午前7時ごろに東京・霞が関の東京地検の敷地に入った。その約30分後、特捜部は前会長を再逮捕したと発表した。特捜部の捜査対象は、政治家や企業の経営者などが多く、早朝の逮捕は極めて異例だ。ゴーン前会長の弁護人を務める弘中惇一郎弁護士は午前8時50分ごろ、事務所前で報道陣の取材に応じ、「普通に(再逮捕せず)追起訴すればいいわけであって、何のために身柄を取るのか意味がわからない。非常に不適当な方法だと思う」と批判した。弘中氏は、前夜までに特捜部からゴーン前会長への聴取要請はなかったとし、今回の再逮捕容疑についてゴーン前会長とは「突っ込んだ話をしたことがない」と明かした。ただ3日に「再逮捕へ」「立件へ」などとする報道を目にしたゴーン前会長は、不愉快そうな様子だったという。ゴーン前会長は3日に自身のツイッターのアカウントを開設し、「真実をお話しする準備をしています。4月11日木曜日に記者会見をします」と発信。弘中氏はその会見について、「逮捕はされたが、裁判所が勾留を認めるかどうかわからないので、勾留されなければ予定通り11日にやろうと思っている」と話した。再逮捕の発表から約3時間後の午前10時15分ごろ、ゴーン前会長を乗せたとみられる車が、昨年11月の逮捕から3月6日まで108日間過ごした東京拘置所に入った。制限住居を家宅捜索した東京地検は、関係する資料を押収したとみられる。

*2-3-4:https://digital.asahi.com/articles/ASM462T3GM46UTIL002.html?iref=comtop_8_04 (朝日新聞 2019年4月6日) ゴーン前会長送金「不要な支出」 中東日産、奨励金余る
 日産自動車の前会長カルロス・ゴーン容疑者(65)をめぐる特別背任事件で、前会長が中東の子会社からオマーンの販売代理店に「販売促進費」として送金させた資金について、日産関係者が「不要な支出だった」と証言していることが関係者への取材でわかった。前会長は自分の裁量で使える予備費から支出していたが、子会社の予算は余っていたことが判明。東京地検特捜部は、前会長が資金の還流を隠すために送金目的を偽ったとみている。特捜部の調べでは、ゴーン前会長は2015~18年、アラブ首長国連邦にある日産子会社「中東日産」からオマーンの販売代理店「スヘイル・バウワン・オートモービルズ(SBA)」に約17億円を送金。そのうち約5億6千万円を、自らが実質的に保有するレバノンの投資会社「GFI」に還流した疑いがあるという。原資はCEO(最高経営責任者)の裁量で使える「CEOリザーブ(予備費)」で、ゴーン前会長は「販売促進費」名目で支出していた。一方、複数の関係者によると、中東日産には、自分たちで予算化した100億円規模の販売奨励金があったという。各国の販売店と決めた年間の販売目標などに基づき、中東日産の判断で支出するが、使い切れずに半分ほど余るような状況だったという。日産関係者は特捜部にこうした実態を説明。ゴーン前会長からのCEOリザーブについて「自分たちの裁量で出す奨励金が余っており、不要だった」と指摘し、SBAへの送金は「中東日産の判断ではない」と供述しているという。一方、関係者によると、ゴーン前会長は、CEOリザーブは正当な販売促進費で「問題ない」と主張しているという。

<ルノー・日産の行動からわかるゴーン氏逮捕の背景>
*3-1:https://digital.asahi.com/articles/ASM3C5JJ6M3CUTIL01T.html?iref=comtop_8_02 (朝日新聞 2019年3月12日) 日産が恐れた取締役会出席 検察は「思い上がり」と批判
 保釈された勢いそのままに、取締役会に乗り込んで反転攻勢に出るのではないか――。日産関係者が恐れた前会長カルロス・ゴーン被告(65)の取締役会への出席要求は退けられた。裁判所は今回、証拠隠滅の恐れを重視した模様だが、前例のない判断が続くことになりそうだ。「(日産に)ここまで強く反対されるとは思わなかった。非常に残念だ。取締役の責任を果たしたいというつもりであり、証拠隠滅する意思なんて全くない」。ゴーン前会長の弁護団の弘中惇一郎弁護士は、検察の意見書に添付されていたという日産の「反対」意見書に不満をにじませた。検察側は、地裁の判断を「妥当」と評価する。一連の事件では、勾留延長の却下や公判前整理手続きが始まる前の保釈と、検察の意に反する判断が続いていただけに、「もはやどんな判断でも動揺はしない」(検察幹部)と構えていた。この幹部は「前会長の発言が取締役個人にどう影響するか分からない。裁判所もさすがにまずいと思ったのだろう」と語った。取締役会には、保釈の条件として接触禁止となっている「事件関係者」とされる西川(さいかわ)広人社長らが出席。事件も議題になる可能性がある。別の検察幹部は「関係者だらけの取締役会に出ていいわけがない。出席を希望するなんて、どこまで思い上がっているのか」と批判した。日産幹部の一人は、東京地裁の判断に「正直言ってひと安心」と胸をなで下ろした。ゴーン前会長が取締役会に出席すれば、他の日産幹部の疑惑への関与などについて、持論を展開する可能性があったからだ。元刑事裁判官の水野智幸・法政大法科大学院教授は「ゴーン前会長に敵対的な人がいる中で簡単に証拠隠滅はできないと思うが、影響を受ける人もいると地裁は懸念したのだろう」と指摘する。一方で、テーマによって判断は変わりうるとし、「取締役会の都度、許可を求めれば、出席が実現することもあるのではないか。前例がなく、裁判官も手探りだろう」と述べた。日産と同様、取締役の職にとどまる三菱自動車や仏ルノーは「事件との関係は希薄になってくる」(弘中氏)。両社の取締役会への出席を求めた場合の判断も注目される。
●3社連合、新組織設立へ
 仏ルノーは11日、3社連合を組む同社と日産、三菱自動車を統括するための新組織を近く立ち上げる方針を明らかにした。新組織の設立により、ゴーン前会長との決別と、3社の連携が強固であることを社内外にアピールする狙いがあるとみられる。新組織はルノーのジャンドミニク・スナール会長とティエリー・ボロレCEO(最高経営責任者)、日産の西川(さいかわ)広人社長兼CEO、三菱自の益子修会長兼CEOが率いる。新組織のトップにはスナール氏が就任する方向で調整している。4人は12日、横浜市の日産本社でそろって記者会見し、新組織などについて説明する。ルノーは11日に出した声明で、新組織の設立はルノーと日産の持ち株比率の変更や、両社のアライアンス(提携)に関する合意文書「RAMA(ラマ)」には影響しないとも明らかにした。ただ、ルノーの大株主の仏政府は両社の経営統合を求めており、今後の協議の行方はなお不透明だ。新組織の設立に伴い、オランダにある統括会社「ルノー・日産BV」と「日産・三菱BV」は機能を停止させる。日産・三菱BVからゴーン前会長が非公開の報酬約10億円を受け取っていたことが判明するなど、二つの統括会社を巡る不透明な資金の流れが問題視されていた。日産は4月8日の臨時株主総会で、ルノーと三菱自も6月の株主総会で、それぞれゴーン前会長を取締役からも外して経営から全面的に排除する予定だ。

*3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190328&ng=DGKKZO43006590Y9A320C1MM8000 (日経新聞 2019年3月28日) 日産会長職「廃止を」 経営体制見直し 特別委提言、監督・執行分離促す
 日産自動車が設置した企業統治改革の専門委員会は27日、経営体制の見直しへ提言をまとめた。元会長のカルロス・ゴーン被告に権限が集まり不正を防げなかった反省から、取締役会の議長に社外取締役をあてるなど執行と監督の分離を明確にするよう求めた。仏ルノーとの間で指名を巡り対立点になった日産会長職は廃止を提言。日産は提言を基に新たな体制作りに着手する。有識者らで組織する「ガバナンス改善特別委員会」の榊原定征共同委員長らは27日夜、横浜市内で記者会見した。榊原委員長は「(経営の)執行と監督の長が同じ人物であることが不正を招いた。執行の長は最高経営責任者(CEO)、監督機関の長は議長とすべきだ」と述べ、会長職の廃止など経営体制の見直しを求めた。特別委は報告書の中で、カルロス・ゴーン被告に権限が集まった反省から、取締役会の議長に社外取締役をあてるなど執行と監督の分離を明確にするよう提言した。取締役会は過半を独立性を持つ社外取締役にした上で、今年6月末までに「指名委員会等設置会社」に移行するよう促した。具体的には、人事の決定権が集中するのを防ぐため、過半を社外取締役で占める指名委員会を設置。経営陣の報酬を決める報酬委員会については、全員を社外取締役で構成する3~5人の組織をつくるよう求めた。日産では意思決定の権限がゴーン元会長に集中していた。特別委は各取締役が経営会議体に関するすべての資料やデータにアクセスできる体制の構築も提言した。特別委は27日、日産の取締役会に提言内容を説明した。日産の西川広人社長兼CEOは同日夜、「大変重い提言だった。これから取締役会で検討し、できる限り実現したい」と述べた。
●西川氏の責任論、早々に封印
 企業統治(ガバナンス、総合2面きょうのことば)改革の専門委員会の焦点は経営の監督と業務執行の分離が主なテーマになった。約100日に及んだ議論を検証すると、ゴーン元会長の暴走を許した西川広人社長兼最高経営責任者(CEO)ら現経営陣の個人の責任には当初から踏み込まない方向が決まっていた。日産の現経営体制の安定を優先した面が浮かび上がる。「ガバナンス改善特別委員会」の発足は2018年12月。日産がゴーン元会長の一連の問題の原因を分析し、企業統治の改善策を提言してもらうのが目的だった。筆頭株主の仏ルノーが日産会長職の指名を要求し対立が激しくなる中、日産が19年3月末に設定した特別委の提言まで時間稼ぎする効果もあった。「ルノーとの関係を含め考えないといけない。まず第三者の観点から問題を明確に指摘してもらう」。12月17日に記者会見した西川社長は特別委に幅広く議論してもらう考えを示した。「ルノーとの資本関係がいびつ」「現経営陣の責任をどう考えるか」。各委員らは1月に開いた会合で何を討議の対象とするか意見を交わした。共同委員長に就いた榊原定征・前経団連会長が議論を主導し、「この委員会は個人の責任追及のためにあるわけではない。人が代わっても企業統治で問題が生じないようなシステムにしないと意味がない」との意見で一致。早々に、ゴーン体制を支えた西川社長ら個人の責任論は議論の対象から除外された。当初は一部委員から「ルノーとの資本関係についても言及すべきだ」との意見が出たが、「ルノーを刺激する必要はない」との意見が多数派を占めた。議論はいかに権限を分散させるかが中心で、日産の現体制を安定させる方向で進んだ。紛糾したのが日産会長職の扱いだ。「取締役会の議長でない会長職は欧州では聞いたことがない」。本格的な討議が始まり会長と議長の分離が議論になった2月15日の会合。委員の一人であるルノー出身の日産社外取締役、ジャンバプティステ・ドゥザン氏から強い異議が出された。欧米で会長は監督トップを指す議長とほぼ同義。議長と分離しては会長の役割が曖昧になる。別の委員は反論する。「ルノーは権限集中を続けたいと思われていいのか」。ある委員は「監督と執行が同じなんて警察と泥棒が同じようなものだ」と例える。理由はある。ゴーン元会長時代の日産取締役会の平均会議時間は20~30分で短いときは9分。「これで異議はないですね」。ゴーン元会長が鋭いまなざしで取締役メンバーを一瞥(いちべつ)し発言すると周囲はうなずく。議論は深まらない。監督機能の不全に対する委員の問題意識は強く、公表された報告書がその一端を示している。「ゴーン氏は取締役会において質問や意見が出ることを嫌い、意見などを述べた取締役や監査役を会議後自室に呼んだり、いわゆる『うるさい監査役』については再任しなかった」。一方、紛糾した2月の会合後、委員は非公式の会合を重ね「日産に会長はいらない。取締役会議長は社外から」との認識でまとまった。この話を聞いたルノーは会長職の指名にこだわらない方針に傾く。ジャンドミニク・スナール会長は3月12日の記者会見で「日産の会長になろうとは思っていない」と明言した。特別委は日産がルノーの要求をかわし、結果的に両社の直接の対立を緩和する役割も果たした。ルノー側もスナール氏が日産の代表権を持つ取締役に就き、副議長という新設ポストに就く実利をとった。報告書は「活動は社内では不可侵領域化していた」とゴーン元会長を批判した。だが元会長は強力なリーダーシップで「ぬるま湯」だった日産の系列解体を迫り、業績をV字回復をさせたのも事実。日産に来た当初は現場の意見を拾い上げ改革プランを実行したが、途中から独裁的に振る舞うようになった。西川社長らの責任を不問にしたまま新体制に動く日産に対し、業界内では「不正を見逃した人物が新体制の中心にいることには違和感がある」との批判が残る。企業統治を機能させながら迅速に意思決定する必要もある。仕組みはできても、経営幹部らがどう運用するかが重要だ。27日にルノーとの提携合意から20年の節目を迎えた日産。カリスマ退場後の道筋はまだ見えない。

*3-3:https://ryukyushimpo.jp/kyodo/entry-898421.html (琉球新報 2019年4月3日) ルノー、年金と一部報酬を不承認 ゴーン前会長巡り
 フランス自動車大手ルノーは3日、取締役会を開き、ロイター通信によると、前会長カルロス・ゴーン被告に対し、昨年の報酬のうち業績などに応じた分の支払いや年間約77万ユーロ(約9600万円)の年金支給を認めないことを決めた。フランス・メディアによると固定給100万ユーロは既に支払われているという。公共ラジオ、フランス・アンフォは、前会長が1月に辞任した際、年金受給権を主張したと報道。生涯受け取れることになっているとしていた。ルノーは2月の取締役会で、退職に伴う報酬などは支給を認めない方針を既に決定していた。

*3-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13966549.html (朝日新聞 2019年4月5日) 資金還流、複数口座を経由 ゴーン前会長、隠す意図か 14日まで勾留決定
 日産自動車の前会長カルロス・ゴーン容疑者(65)がオマーンの販売代理店に不正に支出させた日産資金を私的に流用したとされる会社法違反(特別背任)事件で、販売代理店からレバノンの投資会社「GFI」に送金する際、複数の口座を経由させていたことが関係者への取材でわかった。東京地検特捜部はこの投資会社を前会長が実質的に保有していたとみており、資金の還流を隠すための偽装工作だったとみている。関係者によると、還流した資金の一部は、GFIからゴーン前会長の息子が起業した米国の会社に流れていたとみられる。特捜部は、米国司法当局に捜査共助を要請し、検事を派遣。米当局を通じて息子の会社の口座を解析するなどし、資金の流れを調べるとみられる。特捜部などによると、前会長は2015年12月~18年7月、日産子会社「中東日産」(アラブ首長国連邦)からオマーンの販売代理店「スヘイル・バウワン・オートモービルズ」(SBA)に計1500万ドル(当時のレートで約16億9800万円)を送金させ、そのうち計500万ドル(同約5億6300万円)をGFIに還流させていた疑いがある。関係者によると、SBAからGFIへの送金は、複数の口座を経由。資金の流れを複雑にし、送金先がわからなくなるようにしていたという。GFIは15~18年、ゴーン前会長の息子が米国で起業した会社に計2750万ドル(現在のレートで約30億円)を資金援助していたという。SBAのインド人幹部がGFIの大株主となっていた。前会長は、GFIの株主や役員に名前を連ねていない。自身とGFIの関わりも隠そうとしていたとみて、特捜部はGFIの実態解明を進めている。ゴーン前会長は「容疑に根拠はなく、無実だ」などと主張。弁護人も、前会長に証拠隠滅や逃亡の恐れはなく、逮捕は不当だと主張している。
     ◇
 東京地裁は5日、ゴーン前会長に対する特捜部の勾留請求を認め、14日まで10日間の勾留を決定した。弁護側は決定を不服として準抗告する方針。
■仏政府に権利擁護求める 「日本人、外国からどう言われるか気にする」仏民放に語る
 仏民放ニュース局LCIは4日、ゴーン容疑者に対し、再逮捕直前に行ったとするインタビューを放映した。ゴーン前会長は日本の弁護士事務所から、インターネット電話を通じて記者の質問に約20分間、応じたという。
ゴーン前会長はインタビューで、「私は無実だ」と強調し、「外国で恐ろしい状況に巻き込まれている」と訴えた。「大量の間違った事実や(恣意〈しい〉的な)解釈によって絶えず名誉毀損(きそん)が起きている」と主張した。また、「日産自動車の人間が、日本でもフランスでも(ゴーン前会長をおとしめようと)働きかけてきた」と述べ、「2018年の4月か5月に、日産の会長職から追い落とせるような証拠を集める」動きが起きたと振り返り、日産内部での陰謀が背景にあるという見解を語った。被告として臨む裁判については「どう展開するのか、疑問を持っている」と語った。「日本人は外国からどう言われるかをとても気にする」とし、「仏市民としての私の権利が擁護されるよう、仏政府に訴えた」と述べた。日産、ルノー、三菱自動車のアライアンス(提携)にも触れ、その「将来を心配している」と話した。自身が3社の会長として束ねた体制に代わり、合議制が採用されたことを「アライアンスは3、4人で行うクラブではない」と語り、利害の対立で重要な決定がなされなくなる可能性に言及。「あっという間にアライアンスが消え入ってしまうのを恐れている」と語った。

*3-5:https://www.jiji.com/jc/v4?id=201804vahid0001 (時事 ) サッカー日本代表監督解任 ハリルホジッチ氏会見
●「誰とも何の問題もなかった」
 サッカー日本代表前監督のバヒド・ハリルホジッチ氏(65)が4月27日、東京都内の日本記者クラブで会見し、2018年ワールドカップ(W杯)ロシア大会開幕2カ月前の電撃解任について「日本をこんな形で去ることになるとは考えたことはなかった。私自身が考えつく限りの最悪の悪夢。リスペクトがないのではないか。人間として深く失望している」と語った。同氏が記者会見するのは、今月7日にパリで解任通告を受けてから初めて。会見には報道関係者約330人が集まり、同氏は予定を30分上回り、約1時間半語り続けた。会見の主な内容は次の通り。
 ◇ ◇ ◇
 (解任を通告された)7日以来、初めて私の口から話す機会となった。日本という素晴らしい国を初めて体験してきた。いろいろな物を敬う日本という素晴らしい国に来たのは、観光客、物見遊山ではない。私の手で日本のサッカーに何かをもたらせるのではないか、という気持ちで来た。日本をこんな形で去ることになると考えたことはなかった。人間として、深く失望した。日本にW杯の準備のために来て、しっかり予選を通過させた。ハイレベルなサッカーの世界で45年仕事をしてきて、監督という職業ははかないもので、どんな時だろうと何が起こるか分からない。私に通告されたことに対しては、大変失望した。私に対するリスペクトがなかった。3年間、日本代表チームのためにいろいろな仕事をしてきた。それを説明したい。しっかり誇りを持って仕事をしてきた。(就任)最初の日に、日本サッカー協会のJFAハウスに行った時、こう聞いた。「どこにオフィスがありますか?」と。「あなたのオフィスなんてありませんよ」ということなので、すぐにお願いした。日本のサッカーの歴史で初めてだったようだ。毎日オフィスに出勤した。代表チームのセレクションだけでなく、毎日ミーティングをしたり、テクニカルスタッフと選手の試合の視察もした。選手一人一人の報告書、レポートをつくる。毎週月曜日は、スタッフ全員とミーティングをした。故障した選手とはすぐ連絡を取り、どういう状況かを聞いた。一人一人に、3年間ありがとうと言いたい。私の人生で、ここまでやる気があって、みんなが規律正しくやってくれるのを見たことがない。練習の中身も、選手の集中度、質の高さも本当に素晴らしく、ビッグなブラボー、ビッグなメルシーを申し上げたい。3年前から、私は誰とも何の問題もなかった。特に、選手との問題はなかった。常にコンスタントに選手たちと連絡を取り合っていた。何度、海外組の選手と電話で話しただろうか。国内組もそうだ。合宿、公式戦でもオフィスをしつらえてもらって、選手たちに来てもらって、話し合いができる場をつくった。皆さんは証人になってもらえると思うが、人前で誰か一人の選手を批判したことは一度としてない。いつも「悪いのは私、批判するならハリルを批判してくれ」と言っていた。実際、ピッチで選手たちと1対1で話す時は、ちょっと違っていた。私が何かを言いたい時は、ちゃんと面と向かって言うようにしている。こんなにストレートな物言いに慣れていない選手もいたかもしれない。でも、私はこの選手、チームに対する思い入れは強かった。

<日本版司法取引について>
PS(2019年4月8日追加):ゴーン氏逮捕事件で日産の他の関係者が罪に問われない理由は、*4-1のように、司法取引を導入した改正刑事訴訟法が2018年6月1日に施行され、日産がそれを使ったからである。司法取引とは、共犯者が犯罪解明のため警察官・検察官に対し、供述や証拠提出などの協力をすると、その見返りに検察官が、①起訴見送り ②起訴取り消し ③より軽い罪での起訴 ④より軽い求刑 等ができる制度だ。しかし、誰かを陥れるために虚偽の供述を行って冤罪を生む危険性も孕んでおり、日本の裁判所は迅速で公正な裁判を行わないため、最後に冤罪であることが証明され無罪が確定したとしても、既に数年~数十年間の不名誉な期間が経過して取返しがつかなくなっており、重大な人権侵害を引き起こす。この刑事訴訟法改正は、もともとは厚労省局長であった村木氏の無罪が確定した文書偽造事件を機に議論が始まり、冤罪を防ぐことが目的だったが、それとは逆行した改革になったものである。
 そして、*4-2のように、日本版司法取引の最初の適用事例は、三菱日立パワーシステムズと東京地検特捜部間で行われた「タイの発電所建設事業をめぐる不正競争防止法違反(外国公務員への贈賄)に関し、会社が刑事責任を免れる見返りに賄賂を支払った社員への捜査に協力する」というものだった。私は、受注に贈賄が必要な国もあるため、受注で利益を得た会社が賄賂を支払った社員を刑事罰に処する司法取引を行い、日本の検察や裁判所が国内法や国内の“社会通念”に照らして捜査や審判を行うのは、理不尽が過ぎると思う。

*4-1:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-728536.html (琉球新報社説 2018年5月30日) 司法取引導入 冤罪防止目的に逆行する 
 司法取引を導入する改正刑事訴訟法が6月1日に施行される。逮捕された容疑者や起訴された被告が共犯者らの犯罪解明のために警察官や検察官に対して、供述や証拠提出などの協力をした見返りに、検察官は(1)起訴の見送り(2)起訴の取り消し(3)より軽い罪での起訴(4)より軽い求刑―などができる。罪を犯した人は適正に処罰されるべきである。他人の犯罪を明かしたからといって、償うべき罪を軽減されるなどの恩恵を与えられるのはどう考えてもおかしい。対象となる犯罪は改正法で定めている薬物・銃器関連、詐欺、横領、贈収賄などのほか、3月に閣議決定した政令で独占禁止法違反や金融商品取引法違反などを加えた。薬物事件など組織犯罪捜査での効果が期待される一方、虚偽の供述で冤罪えん(ざい)を生む危険性がある。逮捕された後、刑を逃れたり、軽減させたりするために、虚偽の供述をすることは十分あり得る。検察官がうそを全て見破ることができるとも限らない。実際、共犯者とされた人物の虚偽供述が重要な証拠となり、身に覚えのない罪に問われた例がこれまでもあった。名古屋市発注の道路清掃事業を巡る談合事件で2003年、名古屋地検特捜部に逮捕、起訴された男性は虚偽の証言によって巻き込まれた。業者に予定価格を漏らしたとして逮捕された男性の部下が男性に報告し、了承を得ていたとのうその供述をしたため逮捕された。無罪が確定し、男性が非常勤顧問として職場に戻ったのは逮捕から7年が経過してからである。09年に東京都内の民家に男2人と共に押し入り、現金を奪ったとして、強盗致傷罪などに問われた男性は「身に覚えがない」と否認した。だが、共犯者とされた男が「男性から話が持ち込まれた」と供述したため逮捕された。男性が無罪を勝ち取るまでに6年もかかった。司法取引の導入によって自らの罪が軽減されることが期待されれば、冤罪の危険性がこれまで以上に高まることは否定できない。そもそも刑事訴訟法などの改正は、大阪地検特捜部が押収したフロッピーディスクの内容を改ざんし逮捕した厚生労働省元局長の無罪が確定した文書偽造事件を機に議論が始まった捜査・公判改革の一環である。冤罪を防ぐことが大きな目的だったはずだが、司法取引はそれに逆行する。検察が起訴権限を独占し、容疑者らに対して圧倒的な影響力を持っている現状で、司法取引を導入するのは危険である。検察の意に沿うストーリーを受け入れれば、起訴しないと誘導する捜査手法につながる恐れがあるからだ。司法取引はあまりにも問題点が多い。新たな冤罪を生みかねないとの懸念を払拭できない以上、司法取引制度は廃止すべきだ。

*4-2:https://www.huffingtonpost.jp/nobuo-gohara/mhps-20180718_a_23484212/ (HUFFPOST 2018年7月18日) (2018年7月17日郷原信郎が斬る!より転載) 「日本版司法取引初適用事例」への“2つの違和感” ~法人処罰をめぐる議論の契機となる可能性
 今回の事例には、二つの面で違和感を持たざるを得ない。タイの発電所建設事業をめぐる不正競争防止法違反(外国公務員への贈賄)事件で、事業を受注した「三菱日立パワーシステムズ」(MHPS)と、捜査している東京地検特捜部との間で、法人の刑事責任を免れる見返りに、不正に関与した社員への捜査に協力する司法取引(協議・合意)が成立し、今年6月に施行された刑訴法改正で導入された「日本版司法取引」(捜査公判協力型協議合意制度)の初適用事件になったと報じられている。MHPSは、三菱重工業と日立製作所の火力発電事業部門が統合し2014年2月に設立した会社であり、事業を受注したのは、統合前の三菱重工業だったとのことだ。「日本版司法取引」は、検察官と被疑者・被告人およびその弁護人が協議し、被疑者・被告人が「他人」の刑事事件の捜査・公判に協力するのと引換えに、自分の事件を不起訴または軽い求刑にしてもらうことなどを合意するものだ。導入の目的については、「組織犯罪の末端の関与者に刑事責任の軽減の恩典を与えることで、組織の上位者の犯罪について供述しやすくすること」と説明されてきた。ところが、その初適用事例が、「外国公務員贈賄」という犯罪に関して、事業上の利益を得る「会社」が免責されるのと引き換えに、犯罪行為に関わった「社員」の刑事責任を追及する方向での「取引合意」だった。「想定とは逆」であることに、違和感が生じるのも当然と言えよう。今回の事例には、二つの面で違和感を持たざるを得ない。
●法人免責が「取引合意」の対象となったことへの「違和感」
 第一の「違和感」は、MHPSと検察官との間で、「法人」の刑事責任を免れることと引き換えに、贈賄行為に関わった「社員」が刑事処罰されることに協力するという「合意」が行われたことだ。日本での法人処罰は、刑法以外の法律の罰則に設けられた「両罰規定」に基づいて行われる。両罰規定とは、「法人の役職員が、その業務に関して、違反行為を行ったときは、行為者を罰するほか、法人に対しても各本条の罰金刑を科する」という規定に基づき、行為者個人だけではなく、法人も処罰されるというものだ。この「法人の処罰」は、法人の役職員が法人の業務に関して犯罪を行った場合に、法人にも刑事責任を問うもので、行為者の責任とは別個のものと考えられている。理論上は、法人にとって、その役職員の刑事事件を「他人の刑事事件」ととらえることは可能だ。しかし、その前提は、あくまで、行為者の役職員「個人」について犯罪が成立する、ということであり、アメリカのように、行為者が不特定のままでも「法人の行為」について犯罪成立を認め、法人を処罰するというのではない。自然人個人に対する「道義的非難」が中心の日本の刑事司法では、「意思も肉体も持たない抽象的存在」の「法人」に対する処罰は、重要視されてはこなかった。日本法での法人処罰は、法人の役職員個人について犯罪が成立することを前提に、副次的に行われるものに過ぎず、法人に対する罰金の上限も、3億円から5億円程度にとどまっている(昔は個人の上限と同じ500万円程度だったが、90年代から、独禁法等でようやく「行為者個人と法人との罰金額の上限の切り離し」が行われ、数億円への引き上げが進められていった)。法人に対して数百億円、時には数千億円もの罰金が科されることもある米国などとは大きく異なる。今回問題になっている「外国公務員贈賄」の不正競争防止法違反の法人に対する法定刑の上限も3億円に過ぎない。「法人処罰」を、行為者個人の処罰とは独立したものと位置付けるのであれば、当然、その責任の根拠も異なるはずである。従来の見解では、法人の責任の根拠は、行為者に対する選任監督上の過失とされてきたが、実際に、行為者の犯罪行為が認められた場合に、法人については選任監督上の過失がないとして免責された例はほとんどない。実際には、両罰規定がある罰則によって役職員が処罰されると、ほぼ自動的に法人も処罰されてきたのである。つまり、「個人処罰」中心の考え方の日本法による「法人処罰」は、独立した制裁としての位置づけが十分なものではなく、それ自体の制裁機能も、決して十分なものではなかった。「司法取引」によって処罰が軽減されることの理由は、他人の犯罪への捜査・公判に協力することで、その責任が軽減されるということであろう。「法人」としてのMHPSが捜査・公判に協力することで法人の責任が軽減され、一方で行為者「個人」が処罰されるというのであれば、MHPSの捜査・公判への協力を、「法人自体の責任を軽減する要素」として評価したことになる。そのような「法人固有の責任の評価」は、少なくとも、これまでの法人処罰では、ほとんど行われて来なかった。このような日本法による「法人処罰」の実情からは、法人の処罰を免れることと引き換えに、行為者たる役職員「個人」の刑事責任の追及に協力する「取引合意」が成立するというのは、想定し難いことだった。しかし、今回の件は「両罰規定によって処罰され得る『法人』」が、役職員「個人」の処罰に協力することの見返りに、法人の処罰を免れさせてもらうという取引だ。MHPS側が、法人に対する処罰を免れることを優先したのは、僅か上限3億円に過ぎない法人処罰自体より、法人が処罰されることに伴って国際協力銀行(JBIC)等の融資が停止されるなど、他の制裁的措置がとられることを恐れたからだと考えられる。しかし、そのような「企業そのものが被る事業上の不利益」を免れるために、行為者の役職員「個人」が刑事処罰を受けることに積極的に協力する「取引合意」を行うことが、果たして、企業として適切な対応と言えるのだろうか。
●外国公務員贈賄の処罰をめぐる特殊な問題
 もう一つの「違和感」は、法人に対する処罰を免れさせる見返りに、行為者たる社員の側の刑事責任を追及することに協力する「取引合意」が、「東南アジアの国での外国公務員贈賄」という「特殊な事情から発生することが多い犯罪」について行われたことだ。東南アジア諸国では、古くから、公務員が公務の受益者から直接報酬を受け取る慣習がある。それは、米国等でのレストラン等で従業員が客からチップを受け取るのが慣習化しているのと同様に、その国の公務員制度に深く根差しているもので、それを禁止する法律があっても容易に解消できるものではない。そのような慣習が存在するところで行う事業のために現地に派遣される社員は、事業を進める中で、現地の公務員から賄賂を要求された場合に、極めて辛い立場に立たされることになる。要求どおり賄賂を支払わなければ、有形無形の不利益が課され、事業の大幅な遅延というような事態に追い込まれることは必至だ。海外での事業では、契約時に「履行遅延の場合の損害賠償の予定」(リキダメ)が合意されていることが多く、事業が遅延すると、そのリキダメの発生が予想されることで、その会計年度末に多額の損失引当金を計上せざるを得ないことになる。現地に派遣されている社員は、事業の遅延を生じさせないよう、本社側から強く要求され、一方で、現地の公務員から賄賂を要求され、それに応じないと事業が遅延するというジレンマに立たされることになる。社員に「コンプライアンスの徹底」を指示しても、社員を窮地に陥れるだけだ。贈賄リスクを低減するために、現地のコンサルタントを活用して、「賄賂の支払」が直接的にならないようにする弥縫策がとられることもあるが、それは、根本的に問題をなくすものではない。結局のところ、そのような東南アジアの国で事業を行う場合には、公務員側から賄賂を要求されるリスクが相当程度あることを前提に事業を行うか否かの意思決定を行わざるを得ないのである。今回のMHPSの事件に関しては、2013年に、三菱重工業が、タイの民間の発電事業者から発電所建設事業を受注し、その後、同社と日立製作所の火力発電事業部門が統合されて2014年にMHPSが設立された後、同社の社員が、現地の公務員から現金を求められ、担当社員らが数千万円を支払ったということのようだ。まさに、タイという東南アジアの国で、そのような事業を行うのであれば、意思決定を行う際に、当然、現地公務員による賄賂要求のリスクを認識した上で決定する必要があったのであり、事件は、そのような当然のリスクが顕在化したものに過ぎない。発生することが分かっていたリスクにさらされ、ジレンマに悩んだ末に、賄賂を贈った社員を処罰することと引き換えに、会社に対する制裁を免れさせるというのは、納得できることではない。今回の「取引合意」によって、今後、贈賄の実行行為者の社員側に対する捜査が行われることになるが、最終的にどのような刑事処分が行われるか、現時点ではわからない。担当取締役も贈賄を承認していたという報道もあり【(日経)海外贈賄疑惑、元取締役が承認か 納期遅れ回避で】、「末端の社員」ではなく、取締役クラスが処罰されることになるかもしれない。「トカゲのしっぽ切り」にはならない可能性もある。しかし、担当取締役が承認したとしても、それも、上記のようなジレンマに悩んだ末で判断したことは同様であり、その取締役も、贈賄行為によって個人的利益を受ける立場ではないはずだ。本来処罰すべきは、利益が帰属する法人自体であるのに、逆に役職員個人が処罰されることに問題があるのである。
●日立製作所の南アフリカでのFCPA違反との関係
 MHPSがこのような「取引合意」を行ったことの背景に、経営統合前に日立製作所が起こした南アフリカでのFCPA(Foreign Corrupt Practices Act、海外腐敗行為防止法)違反の事件の影響が考えられる。外国公務員贈賄問題の専門家である北島純氏の【北島 純の「外国公務員贈賄罪研究会」ブログ】によると、この事件は、日立製作所の南アフリカ法人が、南アフリカの与党「アフリカ民族会議」(ANC)のフロント企業と合弁で現地子会社を設立し、その後、日立製作所は二つの発電所建設を政府系企業から受注することに成功、フロント企業に「配当」として500万ドル、「成功報酬」として100万ドルを支払った。このうち「consulting fees」名目で計上した「成功報酬」分は、実質的には「外国政党」への支払いであったのに、適切に会計処理をしなかったということで、FCPAの会計条項違反で日立製作所は起訴され、1900万ドル(約23億円)の制裁金を払う和解に合意したというものだ。この日立製作所の事業を引き継いだのが、三菱重工業の発電事業部門との経営統合で設立されたMHPSだった。この事件は、「企業の外国の政党への支払」がFCPAの会計条項違反とされたもので、日本の「外国公務員贈賄罪」には当たらない。ただ、今回のタイでのMHPSの贈賄事件も、その支払の会計処理が、FCPAの会計条項違反となる可能性もあり、同社としては、FCPA違反も含めて企業としての責任追及を最小限にするため、日本法での法人処罰を免れようとした可能性もある。しかし、今回の「取引合意」で法人が処罰を免れることができるのは、あくまで日本法に関するものであり、FCPA違反も含めて免責されるのではない。日本法で役職員が起訴された場合、それを受けて米国司法省の捜査が行われ、法人がFCPA違反で起訴される可能性は残る。
●「司法取引」初適用事件の「法人処罰」をめぐる議論への影響
 今回、MHPSが検察官との「司法取引」に応じたことが、企業の利益を優先して社員を検察に売り渡したようなイメージを持たれたことで、社会にマイナスのイメージを与えたことは否定し難い。そして、それによって守ろうとした「企業の利益」も、FCPA違反も含めて考えた場合に、最終的に、本当に利益になるのかは疑問だ。また、検察にとっても、今後の捜査の結果が、懸念されているような「トカゲのしっぽ切り」で終わった場合には、経済界にも注目されて導入した「日本版取引」のデビュー戦としては、お粗末極まりないものとなり、制度自体のイメージダウンにつながりかねない。しかし、一方で、今回、「日本版司法取引」の初適用事例で「法人処罰」が対象となったことは、これまで、ほとんど注目されて来なかった日本法における法人処罰に初めて焦点が当たるという面では、大きな意義を持つものと言えよう。前述したように、「法人処罰」は、自然人個人に対する道義的責任が中心の日本では、これまで、あまり注目されて来なかった。個人の行為を離れた「法人自体の犯罪行為」は認められず、法人固有の責任を評価することも殆ど行われて来なかった。そうした中で、今回の「司法取引」で「法人が免責された」ということは、まさに、法人が自社の事業に関して発生した犯罪について積極的に内部調査を行って事実を明らかにし、その結果に基づいて捜査当局に協力することが法人の責任を軽減するものと評価されたことになる。それは、「法人処罰」に対する従来の運用を大きく変える可能性につながるものと言える。本来、違法行為や犯罪行為に対する制裁・処罰は、全体として、その責任の程度、悪質性・重大性のレベルに応じたものでなければならない。しかし、日本では、企業や法人に対する制裁は、「行政上の措置としての課徴金」と「刑事罰」が併存し、その関係についての理論的な整理も必ずしも十分ではなく、制裁の在り方についての総合的な研究は、これまで殆ど行われて来なかった。(行政上の制裁を含む法人に対する処罰の在り方についての殆ど唯一の著作と言えるのが、刑法学者の佐伯仁志教授の【制裁論】(有斐閣2009年))。
●「組織罰」としての「業務上過失致死傷罪」への両罰規定の導入をめざす動き
 今回の事件が、法人に対する制裁の在り方についての議論の契機になるとすると、そこで避けては通れないのが、従来、特別法犯に限定されてきた「両罰規定」を、刑法犯にも導入することの是非の検討である。例えば、「談合罪」など、刑法犯の中にも「法人の利益」のために行われることが多い犯罪があるが、それらについても法人を処罰する規定がないことが、かねてから問題とされてきた。それに関して、既に、具体的な動きとなっているのが、重大事故の遺族の方々が中心となって行っている、「業務上過失致死傷罪」に対する「組織罰」実現をめざす活動である。2005年の福知山線脱線事故、2012年の笹子トンネル事故など、多くの重大事故の遺族の方々が中心になって、当初、イギリスで導入された「法人故殺罪」のような「法人組織自体の行為についての刑事責任」を問うことをめざして、2014年に「組織罰を考える勉強会」が立ち上げられた。2015年10月、その会に私が招かれた際、日本の刑法体系からは実現が容易ではない「法人処罰」ではなく、現行法制上可能な、業務上過失致死傷罪についての「両罰規定」を導入する刑事立法を行うことを提案したところ、その趣旨が理解され、それ以降の会の活動が、「両罰規定」によって重大事故についての企業の責任を問うことをめざす、「組織罰を実現する会」に発展していった。現在も、立法化をめざす積極的な活動が続けられている。この「業務上過失致死傷罪」への「両罰規定」の導入に関して最も重要なことは、法人の業務に関する事故について、法人役職員に同罪が成立する場合には、法人にも両罰規定が適用されるが、「当該法人における安全確保のためのコンプライアンス対応が事故防止のために十分なものであったにもかかわらず、予測困難な逸脱行為によって事故が発生した場合には、法人を免責する」ということである。事故防止のための安全コンプライアンスが十分に行われていたことを、法人側が立証した場合には免責されるとすることで、刑事公判で、企業の安全コンプライアンスへの取組みが裁かれることになるのである。今回の司法取引初適用事例での法人の免責は、内部調査によって犯罪事実を明らかにし、捜査・公判に協力するという「法人の事後的なコンプライアンス対応」を評価し、責任の軽減を認めるものであり、法人の固有の責任を独立して評価するという発想に基づくものだ。それは、事故に至るまでの加害企業の安全コンプライアンスへの取組みを実質的に評価して法人の責任の減免を決するという、「組織罰を実現する会」がめざす両罰規定の導入にとって、追い風になるものと言えよう。今回の司法取引初適用事例が、あらゆる面で「法人処罰」をめぐる議論を活性化することにつながることを期待したい。

<監査のビッグ4について>
PS(2019年4月9日追加):「マッケソン・ロビンス会社事件(米国で1938年に発覚した巨額粉飾決算事件)」は、これを機に現金等の実査、棚卸資産の立会、売掛金の確認等の外部証拠の入手を法定監査に義務付けた監査史に残る事件で、この会社の法定監査を行っていた監査人はPW(PwCの合併前の名称)だった。英国発祥のPWはそれだけ歴史と由緒のある老舗監査法人で、私はフィーリングも一致したので公認会計士二次試験合格後にPWに入ったが、現在は、グローバルネットワーク世界158カ国・721拠点、従業員250,930人、業務収入41,280百万米ドルの大法人となっている。また、ずっと昔、ある銀行がPWに監査を依頼したところ、監査が厳しいので自らは翌年から監査法人を変更し、PWにはその銀行の貸出先を次々と紹介したため、PWの関与先には製造業が多く、KPMGの関与先には銀行が多いというエピソードもある。
 そのような中、*5に「①『監査ビッグ4』の解体論が英で浮上」「②企業の会計監査からコンサルティングまで幅広く手掛ける巨大法人の寡占が監査不信や会計不祥事の一因」「③監査と非監査業務を完全な別法人として解体することを提言」「③大手4グループの寡占が問題なので占有率に上限を設けるなどの競争政策を提言」 「④外部監査人KPMGが『無限定適正意見』を出し続けながら経営破綻した建設大手カリリオン事件が改革論に火を付けた」「⑤こうした動きの背景には利益相反のリスク軽減や監査レベルの向上に厳しい競争が不可欠という視点がある」「⑥経営サイドに立って経営や税務戦略を支えるコンサルティングを同時に行えば、外部からのチェック役であるべき財務監査が甘くなる」などが書かれている。
 このうち①②③については、ビッグ4は日本でも世界でも監査・税務・コンサルティングサービスは別会社で行っており、出資者兼経営者のパートナーも別の人であるため、誤った指摘だ。また、私自身は、監査・税務・コンサルティングの全部を経験したが、これは勉強のために別会社間を移動して経験させてもらったからであり、こういう公認会計士はむしろ少ない。
 また、④については、KPMGが何らかの理由で甘かったのかもしれないが、それとPwCなど他の監査法人とは別であるため、全体を改悪するのは止めるべきである。例えば、⑤については、分割して競争が激しくなれば監査レベルの向上に繋がるわけではなく、小さくて被監査会社との間の力関係が弱く、少ない被監査会社に利益を依存している監査法人ほど、被監査会社を失いたくないため、監査が甘くなるという実情がある。
 さらに、⑥については、債権者・株主・投資家に向けて財務諸表を作成する責任は経営者にあり、監査は経営者が作成した財務諸表がお手盛りでないことを証明して被監査会社から報酬をもらうもので、その産業の背景・経営者の考え方・組織の動きなどがわかっていなければ、監査上のリスクもよくわからない。そのため、経営者はじめ担当者とのコミュニケーションや経験の積み重ねは大変重要であり、それと監査が甘くなることとは別なのである。

*5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190406&ng=DGKKZO43418360V00C19A4DTA000 (日経新聞 2019年4月6日) 「監査ビッグ4」 英で解体論、議会が寡占問題視 質向上へ競争促す
 「ビッグ4」と呼ばれる巨大監査法人の改革論議が英国で山場を迎えている。英議会の委員会はこのほど監査と非監査業務を完全分離する「解体」に踏み込んだ提言をまとめた。大手4グループの寡占を問題視し、占有率に上限を設けるなどの競争政策への支持も表明した。相次ぐ企業の大型破綻や会計不祥事を踏まえて抜本改革に動く。英国の方針は世界の監査業界に影響を与えそうだ。「監査と非監査事業の分離へ、ビッグ4の完全な組織的解体を推奨する」。英下院の民間企業・エネルギー・産業戦略委員会は、改革を提言するリポートで言い切った。企業の会計監査からコンサルティングまで幅広く手掛ける巨大法人による寡占が、監査不信や会計不祥事の一因になっていると指弾した。英国で改革論に火を付けたのが建設大手カリリオンの経営破綻だ。2017年7月、通期決算の発表から約4カ月で巨額損失が表面化し、18年1月に破産申請した。財務諸表に注意喚起なしのお墨付きである「無限定適正意見」を出し続けた外部監査人のKPMGに対して批判が噴き出た。同社を含む4大法人をめぐっては、日本の公正取引委員会にあたる英競争・市場庁が、寡占を問題視する報告書を18年12月に発表。組織内で監査・非監査業務を分離したり、大企業に2社以上の監査を義務付けたりする改善案を挙げた。今回の英下院委の発表は、分離についてより強く踏み込んだのが特徴だ。競争・市場庁はグループ内で財務や報酬などを切り分け、運営面も分離する形態を提言した。下院委は完全な別法人として解体することも視野に入れるべきだとした。こうした動きの背景には利益相反のリスク軽減や、監査レベルの向上に厳しい競争が不可欠という視点がある。経営サイドに立って経営や税務戦略を支えるコンサルティングを同時に行えば、外部からのチェック役であるべき財務監査が甘くなるとの疑念は根強い。解体論のカギは、監査業務より非監査業務の方が総じて採算が良いという、大手グループの収益構造にある。コンサルでの稼ぎを前提として、採算割れで監査を受注していることが質の悪化や競争阻害につながっていると問題視している。英下院委の調べによると、PwCの場合、17年の英事業収入30億200万ポンド(約4400億円)のうち、監査は6億7600万ポンドと約2割にとどまる。予算比で約1割の採算割れを承知で受注した監査は約5割に上ったという。英メディアによると競争・市場庁は今後数週間で監査法人の寡占問題に関する最終報告書を公表する見通し。それを基に政府が法制化に動く。議会は大手監査法人の「解体」が今回見送られる場合も、3年後をめどに状況を見極めて再検討すべきだと提唱した。監査法人側は質を高める必要性は認めつつ、完全分離論には反発している。PwCは分離は英国の競争力をそいで「かえって監査の質の低下につながる」との声明を出した。各社は同じ企業に監査・非監査を同時に提供しないなど自主的に信頼回復に努める構えだが、当局側には自助努力は限界との認識が広がっている。日本では規制で大手監査法人は税務や戦略的なコンサルティングなどを別法人で展開している。日本での議論は監査法人の説明責任などに向けられることが多い。東芝の不正会計などを受けて金融庁は有識者の懇談会を設置。今年1月にはその提言を公表するなど監査の質向上に向けた取り組みが続いている。

<ゴーン氏の映像を見て>
PS(2019年4月10日追加):再逮捕された場合に備えてゴーン氏がとった映像を、弁護団が2019年4月9日に公開し、その動画が掲載されているHP(https://www.youtube.com/watch?v=zLRsvAjW1bI 参照)は多い。そして、①現経営陣のビジョンのなさ ②ゴーン氏逮捕は、日産・仏ルノー統合に向けた動きを恐れた幹部による「陰謀」「謀略」「中傷」であること ③現在の3社連合のリーダーシップの欠如 ④リーダーシップは必要で、妥協か独裁のどちらかしかないと考えている人はリーダーシップを理解していないこと 等が述べられ、納得できた。
 しかし、従来のメディアは、*6のように、必ず④を述べず、故意にゴーン氏に悪いイメージをつけようとしている。そして、映像を見た日産幹部は「相次ぐ不正発覚にもかかわらず一度も記者会見に出なかった」としているが、本当に必要な検査要件を無視したのなら技術部門トップと工場長の責任であり、必要でない要件を国から課されているのなら国交省・経産省に交渉してその要件をなくしてもらうのが社長と技術部門トップの仕事である。つまり、トップが頭を下げる係になり下がり、トップが頭を下げるのを見て民衆が喜ぶ姿は日本の悪しき特徴なのだ。

*6:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13971856.html (朝日新聞 2019年4月10日) ゴーン前会長、経営陣批判 「ビジョンない。悲しくうんざり」
 日産自動車の前会長カルロス・ゴーン容疑者(65)=会社法違反(特別背任)容疑で再逮捕=の弁護団が9日公開した映像で、ゴーン前会長は発言の大半を日産の現経営陣への批判に費やした。事件は、日産と仏ルノーの統合に向けた動きが進むと恐れた幹部による「陰謀」「謀略」「中傷」だと主張。日産の業績低迷や株価下落、三菱自動車を交えた3社連合のリーダーシップの欠如を嘆いた。
■日産幹部「業績低下の責任棚上げ」
 ゴーン前会長は、逮捕前の昨年9月の日産の取締役会で、3社連合の「アライアンス(提携)を深める議論を進めていきたい」と発言。これを機に日産側は独立性を脅かされることへの危機感を強めたとされる。ゴーン前会長は映像で「統合、すなわち合併に向けて進むことが、ある人たちに確かな脅威を与え、それがゆくゆくは日産の独立性を脅かすかもしれないと恐れたのです」と分析し、この「恐れ」が「陰謀」につながったと主張した。約7分半の映像のほぼ半分、約3分50秒を費やして日産の現経営陣への批判を展開。「この2年で3回の業績の(下方)修正があり、何度も不祥事(検査不正問題)があった」とも指摘し、「現経営陣に問題があった」からだと断じた。「株価の下落と業績の低迷を目にしながらも、幹部たちは『あれはしない、これはしない』と言って、今後何をするのかも言わない」「業績を向上させるビジョンもなく、自らを誇っている幹部たち。それを見ることは非常に悲しい。うんざりさせられる」と嘆く一方で、自らを「20年かけて企業価値を創造し、ブランドを強化してきた人間」だと表現。経営陣が「退廃して無頓着になっているのを目にすることは本当につらい」とも述べた。撮影時には経営幹部の実名を挙げて批判していたが、映像では「自分勝手な恐れを抱いたために、会社の価値を毀損(きそん)している人たち」と述べるにとどめた。3社連合はゴーン前会長に権限が集中していた統治を改め、3社連合を統括する新組織を設立して12日にパリで初会合を開く。3社の首脳の合議による運営に移行することに対し、「テーブルを囲んでコンセンサス(合意)で意思決定していくのは、自動車業界ほど競争の激しい産業においては何らのビジョンも生み出さない」と述べ、リーダーシップの必要性を訴えた。映像を見た日産幹部は「想定の範囲内で影響はゼロ。業績低下の責任はゴーンにもあるのに、それを棚上げするあたりが、いかにも言いたいことだけ話すゴーンらしい」と冷ややかに受け止めた。検査不正に触れた発言にも反論。相次ぐ不正発覚にもかかわらず一度も記者会見に出ず、「対応に追われている最中に、レバノンの高級住宅の改装費用を早く送れと幹部にメールしていた。批判する資格はない」と憤った。
■ゴーン前会長の発言のポイント
 ・全ての嫌疑について私は無実だ
 ・事件は、日産とルノーの経営統合に恐れを抱いた日産経営陣による「陰謀」だ。数人の
  幹部が「汚いたくらみ」を実現させた
 ・日産の業績低下を心配している。経営陣には業績を向上させるビジョンがない
 ・3社連合の提携を強化するビジョンもない。合議による意思決定はビジョンを生み出さ
  ない。リーダーシップの発揮が必要だ
 ・公正な裁判を強く望む。裁判で無実を証明したいと切に願っている

<乗り物は電動化すること>
PS(2019年4月11日):日本の批判的世論は、①報酬が高すぎるからいけない ②ヨットを持っているからいけない ③ヴェルサイユ宮殿で挙式したからいけない など、「個人の生活が質素でないからいけない」という価値観に端を発したものが多い。
 しかし、①の報酬は成果に連動するのが世界の常識で、その人の実績に応じて決めるのが当たり前であるため(そうでなければ勤務年数や学歴で報酬を決めざるを得なくなる)、高報酬や好待遇を求めるのに実績を主張するのは当然であり、報酬がその人の評価なのである。また、(サラリーマンには覚えがあると思うが)従業員毎に報酬を開示すれば会社がひっくりかえるのと同様、取締役の報酬を個人毎に開示するのも有害な面が多いと、私は考える。
 そして、②については、ルノー・日産・三菱グループなら、会社所有の航空機・ヨット・船舶を持ち、取締役や技術者を載せて、それらを電動化しながら乗り心地をよくするよう、センスを磨いて頭を絞れば、次の人気商品になって世界で売れるだろう。そのため、日本の一般人にとって贅沢に見えることでも、商品開発に有意義なことは多々ある。
 なお、③については、特にプライバシーであり、めざしを食べようとヴェルサイユ宮殿で再婚の挙式をしようと個人の自由であるため、報道する必要もない。つまり、誰にでも「質素がよい」というワンパターンの価値観を押し付けるのはよくないと思うのである。


中国のEVタクシー BMWのEV  ジャガーのEV  ホンダのFCV   日産リーフ

(図の説明:左の写真は、整然と並んでいる中国の現役EVタクシーで、日本も営業車は早くEVにすべきだ。また、中央の2つのように、BMWやジャガーもスマートなEVを出しているし、右から2番目のように、ホンダもFCVを出した。しかし、1番右の日産リーフは、いつまでも後部が短く、エコなだけでスマートではない。さらに、このような中、「ツール・ド・九州2019 in 唐津」が開催されるそうだが、ラリーも排気ガスを出すガソリン車ではなく、EVかFCVの競技にすべき時代だ。そのため、夏に世界のEV・FCVを招いて北海道の名勝を周るラリーを行い、世界に放映したらどうかと思う)


   EVバス       燃料電池航空機   蓄電池電車  ゴーン氏のシャチョウ号

(図の説明:1番左は、既に実用化されているEVバスである。また、左から2番目は、IHIが米ボーイング社と共同で開発した燃料電池航空機で、右から2番目は、蓄電池電車で電車の脱電線化を実現できそうなのだが、今一つデザインが悪い。一方、1番右のゴーン氏所有のクルーザーはイタリアのアジムット・ベネッティ社製で、動力は軽油だがデザインは完璧だ。そのため、このようなクルーザーを燃料電池や蓄電池で動くようにすると、ヨーロッパ・アメリカ・オーストラリアはじめ世界で売れそうだ)

*7:https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201904/CK2019040902000126.html (東京新聞 2019年4月9日) 還流資金で私的投資か ゴーン前会長 息子の投資会社利用?
 日産自動車の資金約五億六千万円を自身に還流させたとして、会社法違反(特別背任)容疑で再逮捕された前会長カルロス・ゴーン容疑者(65)が、自身のペーパー会社を介して日産資金を流入させたとされる息子の投資会社(米国)の資金で、私的な投資をした疑いがあることが関係者への取材で分かった。東京地検特捜部は、実質的に日産の資金で個人的な投資をしたとみている。ゴーン容疑者は、日産子会社「中東日産」から二〇一五~一八年、中東オマーンの販売代理店「SBA」に千五百万ドル(約十七億円)を支出し、うち五百万ドル(約五億六千万円)を自身が事実上保有するレバノンのペーパー会社「GFI」に還流させ、日産に損害を与えたとして逮捕された。関係者によると、SBAから別の複数のペーパー会社を経由してGFIに還流された資金は、息子が最高経営責任者(CEO)を務める米投資会社「ショーグン・インベストメンツ」や、妻が代表を務める英領バージン諸島の会社「ビューティー・ヨット」などに流れたとされる。ビューティー社の資金は高級クルーザー「SHACHOU(社長号)」の購入費に充てられた疑いが持たれている。ショーグン社の資金の一部は、ゴーン容疑者の投資に充てられていた可能性があるという。特捜部は経緯を把握するため、息子に説明を求める検討をしているが、米国在住で日本の司法権は及ばない。そのため米国に捜査共助を要請し、任意で事情聴取をしてもらいたい意向だが、実現は不透明という。

<リーダーもワンパターンではないこと>
PS(2019年4月12日追加):*8は、「①ゴーン氏が強欲で自己中心的だとして、推定無罪の慎重性に欠けている点」「②リーダーは、自己中心的かサーバント型の二者択一しかないとしている点」「③会社によって、必要なリーダーシップは異なることを無視している点」「④日本企業は世界の中で、社員の経営参加や従業員の支援をよく行っている方であることを知らない点」「⑤自分の結論を導くために、状況の異なる外国の大家の理論を都合よく引用し、引用する際に歪めた解釈をしている点」で誤っている。
 このうち①については、これまで述べてきたとおりなので詳細を省くが、こんなことも知らないとは見識が低い。また、③については、専門能力の高い社員を活用する知識生産型のビジネスで、構成メンバーが意見を聞くに足る人である場合には重要だが、業種・メンバー構成・その時の状況によってこの加減は異なり、それを判断するのも経営者やリーダーの能力だ。
 そのため、②の「リーダー(経営者)は、自己中心的かサーバント型の二者択一」としているのは全くの誤りで、経営者は生産物の付加価値を上げ、従業員に相応の給与を支給しつつ利益も挙げ、会社が存続できるようにすることが重要で、すべてはそのために行われるのである。
 従って、④のように、単に社員の経営参加や部下の支援を提唱すればよいのではなく、これらは会社の製品の付加価値と生産性を上げるために行われなければならないし、日本企業は基本的には参加型である。そして、自動車産業などの製造業には階層の多すぎないヒエラルキーが必要で、ヒエラルキーがあっても現場との情報のやりとりは重要なのである。これは、公務員にはピンとこないかも知れないが、経営学の基本だ。
 なお、⑤は、「日本では上意下達傾向が強いが、新たなリーダー像には部下の支援が不可欠で、経営に参加し支援する従業員で業績が向上するので、浸透に工夫が必要だ」という自分の結論を合理化するために、日本の現状や企業毎に異なる実態を無視し、これまでトップダウンの傾向が強かった外国の大家の理論を都合よく引用している。しかも、歪んだ解釈をしているので科学的とは言えず、私に反論したければ、日本企業に関してどういう調査を行い、外国企業とどう比較してこの結論を導き出したかを明らかにすべきだ。何故なら、私は経営学・経済学を勉強した上で、日本の大中小企業や外国企業を数多く見て言っているからだ。そのため、もし「女は経済・経営・ビジネス・リーダーシップについて知らず、論理に弱くて感情的だ」などと思っていたとすれば、それは女性蔑視そのものである。
 さらに、有能な個人は上から一方的に指導するというのも変な決めつけであり、再生医療・電気自動車・ネットなどの新しい事業は最初は一人の思いつきから始まったもので、思いついた人は各方面の勉強をし情報も収集した筈だ。が、そのシーズを日本は育てられず、外国に持って行かなければ形にならないのは、このような変な言動が足を引っ張るからにほかならない。

*8:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190412&ng=DGKKZO43619610R10C19A4KE8000 (日経新聞 2019年4月12日) 従業員視点の新リーダー像、京大教授 若林直樹氏
○新たなリーダー像には部下の支援不可欠
○経営に参加し支援する従業員で業績向上
○日本では上意下達傾向強く浸透に工夫も
 昨今の経営者の不祥事を見るにつけ思うのは、リーダーは有能であれば、自己中心的で良いのだろうかということだ。事実、研究の世界でも経済や社会の変化の中でリーダーシップのあり方について反省が進んでいる。有能な個人が上から一方的に指導するスタイルから、社員の参加や支援を求めるスタイルへと関心が変わってきているのだ。英ダーラム大学教授のロバート・ロード氏らによると、リーダーシップ研究としては従来型は多くはなく、社員の経営参加や部下の支援を求める参加型・支援型リーダーシップへの注目が高まってきている。
背景には、先進国での産業が大量生産型から知識集約型へと転換する中で、企業組織も構造転換を迫られている現実がある。米アリゾナ州立大学名誉教授のロバート・クレイトナー氏らは、リーダーシップの見直しを促す組織変化の要因として3つを挙げる。第一に、チームで行う業務が増えてきたため、チーム全体として業績を上げる仕組みが重要になった。第二に、事業がヒエラルキー組織ではなくプロジェクト組織で行われるようになり、社員や関係者の関与が重要になった。第三に、専門能力の高い社員を活用する知識生産型のビジネスが増えてきた。コンサルティングビジネスや製造業のサービス化はその典型である。そのため、部下や同僚たちが創造性や専門性を発揮し、経営や事業、製品・サービスの革新に主体的に取り組むことを勧めるリーダーシップへの関心が高まっているのだ。参加型・支援型のリーダーシップの研究者は、従来型のリーダーシップが個人に頼りすぎていると問題視している。表のように、従来型リーダーの研究では有能な個人の特性や能力、働きに注目しているが、個人の価値観で意思決定することや上意下達であることは前提条件となっていた。そこでは、リーダーの動機付けが利己主義的であることも暗に認められてきた。そもそもリーダーの機能は、目的達成のために組織やチームをまとめて動かすことにある。だがリーダーがあまりに強い利己主義を表した場合、社員も会社も本当についていくだろうか。参加型・支援型のモデルはこうした反省から、フォロワーシップ研究と関連して、従業員視点に立つ水平的なリーダーシップのあり方を示そうとしている。米デポール大学准教授のグレース・レモン氏らは、リーダーは本来、組織や社員の能力の発揮や成長を推進するという利他的な動機を持っているとする。その上で社内コミュニティーの発展に貢献するような行動分析の重要性を指摘した。これはリーダーが社員から支持を得て、自分のリーダーシップに正統性を得る仕組みの検討でもある。参加型・支援型の典型的なリーダーシップ理論として、シェアード・リーダーシップ、サーバント・リーダーシップの二つのモデルがある。それぞれの研究を検討しながら、水平的で利他的なリーダーシップのモデルの特徴を見てみよう。シェアード・リーダーシップは、チームのメンバーに意思決定や貢献への積極参加を促す、参加型リーダーシップの代表的モデルである。もともとはチーム、特に自己管理型チームの業績を上げるメカニズムの研究から発展してきた。経営コンサルタントであるクレイグ・パース氏らによると、チームのメンバーが組織やチームの目的達成のために、チーム内で相互に導き合うように影響し合う活動の仕組みであるとする。米ワシントン大学教授のブルース・アボリオ氏らによれば、集団の結束力、組織におけるメンバーの利他的貢献(組織市民行動)、チーム業績への貢献を引き出すことができる。米サザンメソジスト大学客員教授のジェイ・カーソン氏らは、こうした参加型リーダーシップがチームの業績を上げる条件として、チームを指導する外部の上司の役割も重視する。内部で目標の共有や相互支援、発言を促進するだけではなく、チームを管理する外部の経営者や管理職のコーチングも業績に影響する。近年の経営者や管理職の不祥事の多発は、リーダーの態度の個人中心性、利己性、独善性の批判につながっている。こうした態度のリーダーは、トラブルの際に、自己保身のために粉飾決算、社内不正、品質偽装を積極的に進めてしまう誤った姿勢を取りがちだ。国際団体である公認不正検査士協会の2006年の調査によると、社内不正の2割が経営者であるが、その1件の損失額は極めて大きく深刻である。また経済広報センターの調査でも、経営者の自己中心的な態度・発言が、消費者や市民の企業イメージ悪化に影響している。経営者がリーダーとして、会社や社会に貢献する意識が期待されるゆえんである。一方、サーバント・リーダーシップは自己よりも社員や他者に対する配慮を優先する利他的リーダーのモデルである。米AT&T出身の経営者であるロバート・グリーンリーフ氏が主唱したリーダーの経営倫理から始まる。米国でもエンロン疑惑など企業不祥事が多発した反省から、実務家を中心に発展した。このモデルでは、リーダーは従業員に対して、意見に耳を傾け、共感、配慮をするだけではなく、従業員の能力や幸福増進を支援するための積極的な取り組みを行い、社会や会社のコミュニティーづくりに貢献する。1970年代以降、米ハーバード大学などでの経営倫理の講演活動を通じて発展してきたが、近年、利他的リーダーシップモデルとして再注目されている。サーバント・リーダーシップの研究は21世紀に入り本格化している。主に、従業員の成長を支援することを通じて、組織やチームの業績を上げる効果が重視されている。米イリノイ大学准教授のジョン・ピーチー氏らの研究では、組織活動へのメンバーの利他的貢献を促進する面や、経営品質の向上、長期的な視点、部下の創造性の活性化、従業員の幸福感促進といった効果が検証されている。米ビラノバ大学教授のジョナサン・ドーハ氏らによると、サーバント型のリーダーは、利己的なリーダーよりも株主や会社の外部利害関係者への配慮が強くなるとの指摘もある。さらにピーチー氏らによると、米国だけではなく中国やインドネシアにおいても同モデルは受容可能であり、国際的な期待も高い。参加型・支援型リーダーシップは日本企業にも定着するのだろうか。国際比較組織調査のグローブによると、日本での参加型リーダーシップ浸透は世界平均より低い。コーチング会社コーチ・エィの国際リーダーシップ調査でも、米国に比べると日本と中国での上司と部下のコミュニケーションは上意下達傾向が強い(図参照)。定着には工夫が必要であろう。

<脱原発・再エネへの転換を解くのを感情論とは!>
PS(2019年4月13日追加):*9-1のように、日本がWTOに提訴していた韓国の水産物禁輸撤廃要求は逆転敗訴だったが、日本政府関係者は「①韓国の禁輸措置がWTO協定に整合的だと認められたわけではない」「②WTOの上級委は日本産食品の安全性について一審の判断を変更していない」「③一審の判断の仕方に瑕疵があったと上級委が認定したのである」「④日本産食品は科学的に安全で、日本の食品の安全性を否定したものではない」等と述べている。
 しかし、④の「科学的に安全」の根拠は、「食品に含まれる放射性物質が基準値以下」という意味しかなく(https://www.r-info-miyagi.jp/r-info/kiseichi/ 参照)、基準値以下ならいくら食べても安全と言える根拠は科学的に示されていないため、今度は“基準値以下”が安全神話を作っている。そのため、国民の安全を第一に考えれば韓国の禁輸措置は妥当で、その禁輸措置がWTO協定違反だとして提訴したり、政府高官が敗訴後に①②③④の弁を発したりするのは、日本産食品全体の安全性に関して世界の信用をなくし、国民の安全をも脅かす。つまり、原発事故を起こせば付近の農林漁業が壊滅するのも、原発のコストに入れるのが当然なのである。
 このような中、*9-2のように、経団連の中西会長は「i)感情的な反対をする人たちと議論しても意味がない」「ii)原発と原爆が結びついている人に違うというのは難しい」「iii)再エネだけで日本の産業競争力を高められればいいが、技術開発が失敗したらどうするのか。いろんな手を打つのがリーダーの役目だ」などと語られたそうだが、i)については、民間企業だけでは採算すらとれず、国の予算を湯水のように使わなければならない原発に固執する方がよほど非論理的かつ感情的である上、それでも原発に固執するのはii)以外には考えられない。また、iii)の再エネは日本は資源豊富で、エネルギー自給率を100%にしながら産業競争力を高められるので、「何をおかしなことを言っているのか」と思うわけである。
 そこで、2019年4月11日、*9-3のように、原発立地県の佐賀新聞が、「脱原発を志向する流れは変わらない」として国民的議論を呼びかけている。経産省は、エネルギー基本計画で原発を「重要なベースロード電源」と位置づけ、2030年度の電源構成における割合を20~22%としているが、これこそ理念も根拠もなく決めた国民の安全を犠牲にする机上の“エネルギーミックス”にすぎず、原発論争は、既に「神学論争」から「安全神話の崩壊」にかわったため、時間と金の無駄使いをしてまた世界に後れを取る前に、早々に終わるべきである。



(図の説明:1番左の図のように、太陽光発電設備の価格は普及とともに下落している。また、左から2番目の図のように、薄膜型太陽光発電設備もできたため、設置可能な場所が増えた。さらに、右から2番目の図のように、駐車場に太陽光発電設備を設置してEVと組み合わせれば、燃料代が0になる。にもかかわらず、右図のように、急速充電器もできているのに、いつまでも価格を高くしていたり、設置が難しいと言っていたりするのは理解不能だ)

*9-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190412&ng=DGKKZO43659910S9A410C1MM0000 (日経新聞 2019年4月12日) 韓国へ水産物禁輸の撤廃要求 日本、WTO逆転敗訴で
 河野太郎外相は12日未明、韓国による福島など8県産の水産物輸入禁止措置をめぐる世界貿易機関(WTO)の判決を受け談話を発表した。「韓国の措置がWTO協定に整合的であると認められたわけではないが、わが国の主張が認められなかったことは誠に遺憾だ」と表明。「韓国との協議を通じ措置の撤廃を求めていく」とした。韓国は東京電力福島第1原子力発電所の事故を受け、放射性物質の漏出を理由に福島県など8県産の水産物の輸入を禁止してきた。日本は韓国の輸入禁止は不当だとしてWTOに提訴した。WTOは一審の紛争処理小委員会(パネル)では日本の主張を認め、韓国に是正を求めた。だが最終審にあたるWTOの上級委員会は11日、一審の判断を取り消し、韓国の措置を妥当とする最終判決を下した。WTOの紛争処理は二審制のため、上級委員会の決定が「最終審」の判断となり、韓国の禁輸措置は継続する。一審の判断を取り消した理由について、政府の担当者は同日、「一審の判断の仕方に瑕疵(かし)があったと上級委が認定した」と説明した。一方で「上級委は日本産の食品の安全性について、一審での判断を変更していない」とした。河野氏は12日午前、外務省内で韓国の李洙勲(イ・スフン)駐日大使と会い、輸入規制の撤廃に向けた2国間協議を呼びかけた。吉川貴盛農相は12日の閣議後の記者会見で「復興に向けて努力してきた被災地を思うと誠に遺憾だ」との認識を示した。その上でWTOの今回の判断は「日本の食品の安全性を否定したものではない」と語り、風評被害の払拭に取り組む考えを述べた。菅義偉官房長官は同日の閣議後の記者会見で「日本産食品は科学的に安全で、韓国の安全基準を十分クリアするとの一審の事実認定は維持されている。敗訴という指摘は当たらない」と強調した。輸入規制をかける他国にも緩和を働きかけ続ける考えを示した。

*9-2:https://digital.asahi.com/articles/ASM3C663FM3CULFA01Q.html?iref=comtop_8_06 (朝日新聞 2019年3月11日) 経団連会長「感情的な人と議論意味ない」原発巡る議論に
 経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)は11日、自ら必要性を訴えていたエネルギー・原発政策に関する国民的な議論をめぐり、「エモーショナル(感情的)な反対をする人たちと議論をしても意味がない。絶対いやだという方を説得する力はない」と語った。原発の早期再稼働を求める立場から国民的議論を呼びかけた中西氏は2月、脱原発を求める民間団体から公開討論を求められたのに対し、「反原発を通す団体で議論にならない。水と油だ」などとして断った。「原発と原爆が結びついている人に『違う』ということは難しい」とも発言し、釈明に追われている。11日の定例会見で中西氏は、記者団から「東日本大震災以降、原発に関する国民の意識が変わったのでは」と問われたのに対し、「再生エネルギーだけで日本の産業競争力を高めることができればいいが、技術開発が失敗したらどうするのか。いろんな手を打つのがリーダーの役目だ」と指摘。「多様なエネルギー源を確保しなければ日本は立ちゆかなくなる。福島の事故から何年たとうが変わらない」と話し、電力業界への積極的な投資を呼びかけた。

*9-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/360766 (佐賀新聞 2019年4月11日) 平成と原発 次代へ責任ある政策論議を
 新元号「令和」が決まり、5月1日の新天皇即位まで3週間となる中、紙面では「平成」を振り返る企画が続く。歴史を時間の連続性で考える時、「一世一元」の元号で区切ることへの異論もあろう。ただ、明治、大正、昭和、と改めて時代に思いをはせると、その時どきの国家、社会像が浮かんでくる。それは次代への教訓となり、指針となる。平成の31年間で強く印象に残る出来事を聞いた世論調査の結果(3月31日付)では「東日本大震災と福島第1原発事故」が70%(複数回答可)で最も多く、「オウム真理教事件」(50%)、「阪神大震災」(40%)と続いた。後年、回顧する時、震災と原発事故はどう教訓化されているのだろうか。原発立地県で暮らす私たちにとっても大きな命題だ。被爆国日本の原子力政策は戦後10年をおかず「核の平和利用」のかけ声で始まり、高度経済成長以降、需要予測をもとに各地に原発が建設された。その後、スリーマイル島原発事故などで世界は停滞期に入るが、日本は拡大路線を続けてきた。しかし8年前の2011年、福島第1原発事故が発生し「安全神話」は根底から崩れた。玄海原発3号機再稼働から1年の3月、県内の首長に聞いたアンケート調査では7割超が運転継続を是認しつつ、6割超が「将来的に廃止」と答えた。再稼働という現実を前にしてか、前回「即時に廃止」と答えた2人の首長はトーンダウンしたが、脱原発を志向する流れは変わらないと言えよう。そこで気になるのは国民を巻き込んだ幅広い議論がないことだ。政府はエネルギー基本計画で原発を「重要なベースロード電源」と位置づけ、2030年度の電源構成における割合を20~22%とする。そのためには新増設が必要とされるが、具体的な言及はない。一方、経団連は原発の再稼働や新増設、リプレース(建て替え)を真剣に推進すべきとする政策提言を発表した。エネルギーは生活と経済の基盤であり、安定供給と経済性、そして温暖化など環境への対応が不可欠だ。提言は進展なき現状への危機感の現れだろう。ただ、どういうエネルギーを選ぶかは、私たちがどのような社会、どのような未来を選ぶかという、社会設計そのものである。だからこそ中長期的な視点が必要だ。平成は55年体制が終焉しゅうえんした時代でもある。戦後の保守と革新のイデオロギー対立の中で原発をめぐる議論は堂々巡りの「神学論争」とも言われたが、東日本大震災と福島第1原発事故を経験した今、諸課題を正面から見据えた国民的議論が必要だ。政府が具体的な政策を提示し、多面的な観点からエネルギー構成を考え、最大限の合意点を見いだしていく。平成から令和を生きる私たちの責務である。

<日本の産業が劣化した理由は?>
PS(2019年4月15日追加):*10-1のように、仏紙が「日本の経産省が2018年春、日産・ルノー間の経営統合を阻止しようと関与を試みていた」と報道したそうだ。西川社長の経歴から、経産省・法務省にも同窓生が多く歩調を合わせやすいと想像できるが、この面からの指摘は日本メディアはやりにくいため、外国メディアが活躍すべきだ。経営統合については、ゴーン氏は動画で「私は、持株会社方式を支持していた」「独立的に運営するかどうかは実績により、独立的に運営することが目的になってはいけない」と言っておられたが、私もそう思う。
 なお、*10-2のように、日立、東芝、ソニーの事業を統合した「日の丸液晶連合」のJDIが中国と台湾の企業連合の傘下に入り、日本の液晶産業が消滅するそうで困ったことだが、一瞬の売上高最大化を目指す政府主導の統合はうまくいかないことが明らかになったわけだ。
 うまくいかなかった理由は、①内部の主導権争いにエネルギーを使い ②巨大化・官僚化で、課題を先送りして変化の遅い経営になり ③政府の関与で意思決定が遅れ ④顧客ファーストでなくなり ⑤日本経済全体の物価上昇でさらに国際競争力をなくした などが挙げられるが、②③④は、まさに共産主義経済が遅れた原因であり、中国・ロシア・東欧が1990年代に日本を含む西側諸国の援助を受けながら修正したことなのである。

*10-1:https://digital.asahi.com/articles/ASM4H26J6M4HUHBI004.html?iref=comtop_8_03 (朝日新聞 2019年4月15日) 日産・ルノーの統合案、経産省が阻止へ関与か 仏紙報道
 仏日曜紙「ジュルナル・デュ・ディマンシュ」は14日、日本の経済産業省が2018年春、日産自動車と仏ルノーの間で持ち上がっていた経営統合案を阻止しようと関与を試みていた、と報じた。日本政府はこれまで、両社の提携について「政府が関与するものではない」との立場を表明していた。同紙は同年4~5月に日産の幹部が、当時両社の会長だったカルロス・ゴーン容疑者(65)=会社法違反(特別背任)容疑で再逮捕=らにあてた電子メールを入手したとしている。同年4月23日に日産幹部がゴーン前会長にあてたメールでは、経営統合をめぐって同社と仏政府で直前に行われた議論を報告していた。日産側は統合への慎重論を表明したほか、ルノーが日産に43%を出資する一方、日産のルノーへの出資は15%にとどまる関係の見直しを優先するよう求めたことを報告。仏政府側の意見として、「日産の経営統合に向けた歩みが確かでない以上、(日産の要求は)ルノーにとってあまりに大きな犠牲を払うことになる」と反発があった様子を伝えている。5月21日に別の日産幹部がゴーン前会長や西川広人社長に送ったメールには、経産省が準備したという「覚書案」が添付され、そこには「両社のアライアンス(提携)強化は、日産の経営自主性を尊重することによってなされること」などと、日産の懸念に沿って、統合を阻むような文言が並んでいた。ただ、この幹部は同じメールの中で「日本政府の支持はありがたいが、これは民間企業の問題だ」とも指摘。経産省の関与を必ずしも歓迎していなかったという。両社の関係をめぐっては安倍晋三首相が18年12月、マクロン仏大統領と会談した際に「民間の当事者で決めていくもので、政府が関与するものではない」との考えを伝えていた。

*10-2:https://www.kochinews.co.jp/article/269288/ (高知新聞 2019.4.14) 【日本の液晶消滅】国策再編の検証が必要だ
 国内電機産業の衰退を改めて印象付ける出来事だ。中小型液晶パネル大手、ジャパンディスプレイ(JDI)が中国と台湾の企業連合の傘下に入る。JDIは日立製作所、東芝、ソニーの事業を統合した「日の丸液晶連合」。これにより日本の液晶産業は事実上消滅することになる。日の丸連合の立ち上げを主導したのは経済産業省だ。その見通しの甘さも問われかねない頓挫である。2012年に発足したJDIは、中小型液晶の出荷額で世界首位となった。ところが海外勢との価格競争が激化。主要顧客の米アップル社の需要低迷も響いた。液晶より薄く画質が鮮明な有機ELの開発も後手に回り、業績は急速に悪化。19年3月期まで5年連続の連結最終赤字となる見込みだ。この間、経産省の意を受けた官民ファンドの産業革新機構(現INCJ)が出資や融資などで計約4千億円を支援してきた。さらに支援を続ければ、本来淘汰(とうた)されるべき「ゾンビ企業」の救済と批判されよう。一方で税金も投入されている以上、破綻させれば国民負担の議論は避けられなくなる。海外へ日本の技術が流出する恐れがあるにしても、外資による再建に委ねるのはやむを得ない。かつて日本企業が世界市場をけん引したテレビやパソコンも、現在は韓国や中国などのメーカーが上位を占めている。産業界に「栄枯盛衰」はつきものだ。ただしそれとは別に、日の丸連合によって液晶産業を再興しようとした官製シナリオはなぜ狂ったのか。そこはきちんと検証しなければならない。JDIは3社の寄り合い所帯であることから内部で主導権争いが起きたり、課題を先送りにしたりする経営体質が問題視されていた。「政府の関与によって意思決定が遅れるなど、経営が振り回された面もある」といった指摘もある。実際、JDI同様の「国策再編」は失敗続きだ。公的資金を投入した半導体大手のエルピーダメモリは12年に破綻し、外資傘下となった。エルピーダも三菱電機、NEC、日立の事業の寄せ集めだった。同じ3社の半導体部門を統合したルネサスエレクトロニクスも13年に産業革新機構が出資。こちらも人員削減や工場閉鎖を重ねるなど苦戦している。こうした事例が今後もなくならなければ、国の産業政策の失敗を指摘する声はますます強まるだろう。現在のINCJも経営陣の報酬水準を巡って政府と対立し事実上、機能停止に陥っている状態だ。組織を立て直すのであれば官民ファンドの在り方や政府の関与の度合いなど、根本的な議論が欠かせない。日本の電機産業の復権は喫緊の課題だ。なぜ世界市場で埋没してしまったのか。ニーズを見極めることができていたか。顧客ファーストの原点に戻って考える必要がある。

| 司法の問題点::2014.3~ | 07:20 PM | comments (x) | trackback (x) |
2018.12.4 合併・買収・組織再編にまつわる経営意思決定と会計制度 (2018年12月5、6、7、8、9、10、13、14、15、16、17、18、19、20、21、23、27、28日、2019年1月5日追加)
           2018.11.22朝日新聞

(図の説明:左図のように、平均的役員報酬の額は日米欧で全く異なり、日本は著しく低い。また、中央のように、自動車大手の経営トップを比べてもゴーン氏の報酬が特別高いわけではなく、トヨタの場合は外国人副社長の報酬の方が日本人社長よりも高い。さらに、右図のように、日本企業にも役員報酬の高い上場企業があり、ゴーン氏の報酬が特に高いわけではない)

 書かなければならないことは多いのだが、私は、監査だけでなく税務やコンサルティングの経験もあり、組織再編税制・連結納税制度・退職給付会計・暖簾の会計処理・税効果会計等々の変更を提案してきた人であるため、今日は、ゴーン氏の「有価証券報告書への虚偽記載」によるとされる逮捕劇と合併・買収について記載する。

(1)ルノー・日産の事例から
1)経営統合を阻止するためのゴーンさんの逮捕
 *1-1、*1-2のように、日産は、ルノーとの経営統合を阻止すべく、ゴーン氏の不正行為について少人数の極秘チームで内部調査を進め、財務担当役員交代後に、秘書室幹部に司法取引させてゴーン氏を逮捕に追い込み、これを理由に会長を解任したというのがStoryの全貌だろう。メディアは、最初から「ゴーン容疑者」「不適切な支出」「有価証券報告書への虚偽記載」「個人に依存した体制」などという文言を使っていたが、日産自動車は個人企業ではないため、ゴーン氏の報酬についても優秀な財務部や法務部が関与して不法行為にならないよう気を付けたのは想像に難くない。また、ゴーン氏自身が日本や世界の法律・税務に詳しいわけではないため、ケリー氏を通じて社内外で検討させたのも当然のことと思われる。
 
 そして、*1-3のように、フランスのマクロン大統領は、仏ルノー・日産自動車・三菱自動車の3社連合について、ルノーの筆頭株主である仏政府は日産元会長のゴーン氏逮捕後の混乱収拾に乗り出す姿勢を示すことで、3社の「対等な関係」を目指す日産をけん制するそうだが、交渉役のゴーン元会長が不在になり、影響力拡大を狙う仏政府の思惑が崩れ始めていると日本のメディアは伝えている。

 しかし、EVかガソリン車かを選択する時代は既に終わったので、持ち株会社の下には「ルノー、日産、三菱自動車」をぶらさげるのではなく、①EV・燃料電池車 ②ES・燃料電池船 ③EA・燃料電池航空機 ④ゼロエミッション住宅 ⑤研究開発 ⑥マーケティング(新市場開拓や政策立案を含む)等々、製品や機能別に会社をぶら下げるべき時代になったようだ。こうなると、従来のエンジニアも新技術・新市場で活躍するしかないが、活躍の場は少なくないだろう。

 ゴーン氏の速やかな判断のおかげで、現在、ニッサンはEVや自動運転技術が他社より少し進んでいるが、ゴーン氏のようなリーダーを失い、調整とカイゼンしかできなくなった日産が全体を率いるよりは、(フランスはじめヨーロッパは、既にEVを普及させる政策には入っているのだから)フランス政府肝入りのルノーが全体を率い、3社を統合して組織再編を行い、それぞれの分野でトップに立つ機会を狙った方がよいように思う。そのためにも、コスモポリタンでヨーロッパ人ではないゴーン氏を失ったのは、日本勢にとって痛かったのではないか?

2)司法取引の問題点 ― 経営権争いに司法取引を用い、軽微な“罪”を言い立てて、
  実力者を追い出すことが可能になったこと
 司法取引が導入された時から、私は冤罪や人権侵害の温床になると考えていたが、やはり、*1-4のように、「①報酬合意文書は秘書室で秘匿され、取締役会に諮られていなかった」「②将来の支払いを確定させた文書だ」と、東京地検特捜部が文書作成に直接関与したとする秘書室幹部は、司法取引を行って証言したそうだ。

 しかし、取締役会は株主総会で認められた役員報酬(30億円)のうち、支払われなかった部分についてゴーン氏に一任することを承諾していたのだから、ゴーン氏は取締役会に諮っていたことになり、①は虚偽である。また、*1-6のように、報酬文書には日産の別の幹部のサインもあり、ケリー氏が「会社としても退任後の報酬支払いを把握していた証拠だ」としているのは本当だろう。

 なお、東京地検特捜部は、「退任後に支払う報酬は確定していたので、有価証券報告書に記載義務がある」として受領額の確定性を論点にしている。しかし、従業員の退職給付債務も、退職金規程等(企業と従業員の契約)に基づくに制度と解されており、誰でも自己都合退職時の支給額は確定しており、会社都合の場合はそれより大きくなる。そして、企業は、当該会計期間までに発生した退職給付債務を現在価値に割引いて退職給付支払いのためだけに使用する年金基金などに外部拠出し、年金基金は企業からの拠出金を元本として株式や債券等で運用して、従業員が退職した際に退職金を支払う。そのため、日産の従業員だった取締役は、この退職給付を必ず受け取るが、有価証券報告書にはそれを記載しておらず、弁護士のケリー前代表取締役が合法な方法だと言ったのは本当で、②の将来支払確定性は従業員の退職給付債務にもあるのである。

 従って、*1-5のように、退職後の報酬不記載を違法性の焦点にした時点で、日本の特捜や検察は敗北した。にもかかわらず、自白させるために拘留期間を伸ばす目的で逮捕容疑を2015年3月期までとそれ以後に分けたのは悪どい。さらに、どの取締役も書いていない退職後の報酬を書かなかったことを金商法違反(有価証券報告書の虚偽記載)だとして、ゴーン氏を逮捕するのは法の下の平等に反する。

 そのため、*1-7のように、ゴーン氏が「嘘の自白は耐えられない」として、一貫して容疑を否認しているのは当然だ。また、ゴーン氏は、フランスの工学系グランゼコールの一つパリ国立高等鉱業学校を卒業した人で、法律や会計の専門家ではないため自らの正当性を理論的に説明することはできないかも知れないが、社内外の専門家に相談して行動したと思われるので、嘘の自白を強要するのはやめるべきである。

3)役員報酬の相場と透明性
 経産省は、2015年3月に、「日本と海外の役員報酬の実態及び制度等に関する調査報告(http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2015fy/000134.pdf#search=%27IFRS+%E5%BD%B9%E5%93%A1%E5%A0%B1%E9%85%AC+%E9%96%8B%E7%A4%BA%E8%A6%8F%E5%AE%9A%27)」をトーマツグループに委託し、トーマツグループがしっかりした報告書を提出しているので、役員報酬に関心のある方は参照されたい。

 その中に、「日本国内における役員報酬の決定方法は、取締役が代表取締役に一任する会社が58%を占め、報酬委員会で協議して取締役会で決議する会社は15%に留まる」と書かれている。また、*1-8にも書かれているように、ゴーン氏問題を受けて高額批判が出ている役員報酬は、主要企業のトップの報酬を比較すると、日本は米国の1割程度で国際的には低い水準にあり、日本は経営者も含めた人材獲得のグローバル競争で後れを取る恐れがある。これは、高度専門職や研究者も同じだ。

 しかし、*1-9のように、日産は、ゴーン容疑者の裁量で報酬額を決めてきた現行の仕組みが不正の温床だと判断し、役員報酬の決定過程を透明化するために、報酬委員会を新設することを検討するそうだ。こうすると、確かに特定の人が槍玉に挙げられることはなくなり、決定過程も透明にはなるが、必要な人をヘッドハントして業績や相場に応じた報酬を支払うことはできにくくなる。また、50%以上の人が賛成することは、現在の常識であって先端ではないのである。

 なお、ゴーン氏は日産から7億3500万円の役員報酬を得ていたそうだが、ルノーから得ていた報酬は、ルノーは日産の被連結子会社でないため、日産の連結財務諸表に掲載されない。つまり、会社の資本関係やそれに伴う連結範囲を吟味せずに、こういう問題を語ることはできないのである。

(2)不適切な合併・買収に関する論評
 このように、破綻寸前だった日産をよみがえらせたゴーン氏のやり方が非難され、*2-1のように、世界的な企業規模の大型化についていけていないため日本企業の「小粒化」が進んでいると書かれた記事がある。しかし、合併して瞬間的に大規模になればよいわけではなく、合併後にシナジー効果を発揮して大きな成果の得られることが合併の本当の意義である。

 また、長寿だから新陳代謝が鈍くて成長力がないわけではなく、時代にあった的確な戦略を作ってそれを実行できるか否かが問題であるため、歴史があり優秀な人材の揃っている企業が強いことは多い。さらに、他と比べたから成長率が上がるわけではなく、成長率が上がること自体が企業の目的でもない。

 それどころか、国民生活を犠牲にした金融緩和でじゃぶじゃぶにした金で無理にM&Aをして大損した例は、枚挙に暇がない。例えば、*2-2の東芝の例のように、自らは技術がないため高すぎる買収額で技術があると思われる会社を買収したケースは、相手が納得していないので、金をむしり取られただけでうまくいかなかった。

 なお、買収額と本当の企業価値のギャップは、現在は全て暖簾に計上しているが、本来の暖簾部分と高値買いした部分とに分け、後者は直ちに償却するか買収を行った経営者がいる数年のうちに償却するのがFairである。しかし、本来の暖簾部分は、時間の経過とともに価値が上がることも多いため、価値がなくなった時に減損処理する現在の会計処理が妥当だと考える。

 また、*2-3のように、銀行・生保・商社は、大きくさえあればよいと、日本型の「メガ合併」や「救済合併」をよく行ったが、それによりコスト・システム運営費などを削減できればよいものの、人事でやりにくさが増したり、企業の数が減ったため製品やサービスに個性がなくなり、消費者が求めるサービスが減ったりしたという現象もあった。

 そのような中、*2-4のように、ゴーン氏は聖域なき改革を行い、工場閉鎖・人員削減・系列破壊を行って非効率にメスを入れ、破綻寸前だった日産はV字回復を果たしたのだが、ゴーン氏は恨まれているようである。工場労働者と経営者との報酬格差が日本ではよく批判されるが、日産が破綻していれば全員が職を失っていたのであり、時代に先んじた正しい意思決定をすることは、小田原評定の議論をしているよりずっと重要なことである。

(3)暖簾の会計処理
 暖簾の会計処理について、*3のように、国際会計基準(IFRS)を策定する国際会計基準審議会(IASB)が、企業買収を巡る会計処理の見直しを始めたと書かれているが、(2)で述べたとおり、暖簾は買収先企業の収益還元価値と純資産の差額がブランド力等と解され、買い手企業が資産計上でき、その価値がなくなった時に減損損失を計上するのが正しいと、私は考える。

 しかし、日本の合併・買収は、高値買いした価格と純資産の差額をすべて暖簾に計上するため、問題が起こる。つまり、高値買いした価格と収益還元価値の差額は、直ちに償却するか買収した経営者のいる数年のうちに償却し、収益還元価値と純資産の差額は、暖簾として計上し続けるのが適切であろう。

<ルノー・日産の事例>
*1-1:http://qbiz.jp/article/144694/1/ (西日本新聞 2018年11月24日) 日産、今春から極秘チーム結成 ゴーン前会長の不正調査
 日産自動車が、逮捕された前代表取締役会長カルロス・ゴーン容疑者の不正行為について、今年春ごろから役員を含む少人数の極秘チームを結成し、社内調査を進めていたことが24日、関係者への取材で分かった。財務担当の役員交代を機に、不適切な支出が確認された。フランス自動車大手ルノー主導による経営統合をゴーン容疑者が進めることを警戒し、会長解任を急いだことも判明した。統合を阻止するために調査を始めたわけではないが、経営戦略を巡る日産内部の対立が事件発覚の引き金となったことが裏付けられた。関係者によると、ゴーン容疑者が会社の資金を不当に使っている疑いは以前から浮上していた。だが、絶対的な権力を持つゴーン容疑者から不利な扱いを受けるのを恐れ、社内には声を上げられない雰囲気が広がっていたという。転機となったのは今年5月。最高財務責任者(CFO)がそれまでの外国人から日本人の軽部博氏に交代した。財務部門のメンバーが代わり、不適切な支出が次々と明るみに出た。ゴーン容疑者による証拠隠滅や妨害を警戒し、社内調査は秘密保持を徹底した。司法取引した外国人の専務執行役員らも調査に協力した。6月ごろから大手弁護士事務所も加わり、証拠を積み上げていった。日産は公表時期を慎重に検討。ゴーン容疑者は今年3月以降、日産とルノーの資本関係を見直す発言を繰り返すようになり、日本人役員を中心に日産内で経営の自立性を失うことへの警戒が広がった。ゴーン容疑者が年内にも協議開始の提案をするとの情報があり、今回、来日したタイミングで公表する手はずを整えたという。関係者は「協議が始まった後に不正を発表し、クーデターという見方が強まるのを避けた」と話す。

*1-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO38263090X21C18A1EA2000/?n_cid=NMAIL006 (日経新聞 2018/11/28) 日産「日仏対等」探る 出資「4割ルール」焦点に、3社連合トップ、29日初会合
 日産自動車と仏ルノー、三菱自動車の3社連合のトップが29日、オランダで会合を開く。カルロス・ゴーン容疑者(64)が逮捕されて以降、初めてのトップ協議になる。出資比率や提携内容の見直しを通じ「対等な関係」を模索する日産と、支配的な地位を維持したいルノー――。日仏連合は「ゴーン後」の新しい枠組みを構築する作業に着手するが、日産とルノーの溝は深く妥協点を見いだすのは容易ではない。29日のトップ協議は、新車開発や部品調達など重要事項を決める統括会社「ルノー日産B・V」(アムステルダム)が舞台になる。日産の西川広人社長と三菱自の益子修会長は、現地に行かずテレビ会議で参加。ルノーからは暫定トップのティエリー・ボロレ最高執行責任者(COO)が加わる見通しだ。3社連合の実権をゴーン元会長に委ねてきた西川氏とボロレ氏にとっては事実上の「外交デビュー」となる。29日は「込み入った話には踏み込まない」(日産幹部)見通しで、3社連合の枠組みを維持する方針の確認にとどまるとみられる。「個人に依存した体制を見直すいい機会になる」。ゴーン元会長の逮捕を受けた19日の記者会見。3社連合への影響を聞かれた西川社長は危機ではなく好機だと強調した。日産は29日の初協議を経て、ルノーとの対等な関係の構築に動き出すとみられる。日産が求める「対等」とは何か。その柱はルノーとの資本構造と事業面での不均衡の是正だ。「4割ルール」――。日産とルノーの資本関係にはフランスの会社法が重みを持つ。ルノーは日産株を43.4%持ち議決権もある一方、日産が15%持つルノー株には議決権がない。仏会社法の定めでは、40%以上の出資を受ける企業は、出資元の企業の株式を保有しても議決権を持てない。ルノーは資本面で優位に立つ。日産は08~18年に出願した特許が約6万8千件とルノーの2倍を超えるなど、先端技術や販売台数、収益力などでルノーに勝る。しかし北米で売る主力車を経営不振だった韓国のルノー子会社で生産するなど、ルノーを支えることを主眼とした判断も迫られた。日産にとっては、こうした事業面のゆがみを解消するには資本による支配構造の見直しが必要だ。考えられる選択肢はいくつかある。仏会社法ではルノーの日産への出資比率が4割を割れば、原則として日産もルノーの議決権を得るとみられる。逆に日産がルノー株を25%まで買い増せば、日本の会社法に基づきルノーが持つ日産の議決権が消える。持ち株会社を設立し、日産とルノーが事業会社としてぶら下がる案もある。両社の間には「改定アライアンス基本合意書(RAMA)」と呼ばれる協定がある。ルノーは日産の合意なしに日産株を買い増せないが、日産は仏政府などから経営干渉を受けたと判断した場合、ルノーの合意なしにルノー株を買い増せる。日産はこの協定をカードにルノーと見直し協議を進める可能性がある。ただ、ルノーは仏政府にとって数少ない虎の子の企業だ。仏国内では有力企業が次々と外資の手に渡っている。支持率低迷にあえぎ国内投資や雇用を重視するマクロン政権が、現在のルノーの支配的地位を譲る事態は想定しにくい。日産は12月17日に取締役会を開きゴーン元会長の後任人事を協議する。ルノーは後任会長を送る意向を示したのに対し、西川社長を軸に検討する日産は拒否したとされ、水面下で両社の綱引きはすでに始まっている。泥沼の主導権争いを避け、妥協点を見いだせるか。日仏連合は岐路に立つ。

*1-3:
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181202&ng=DGKKZO38440120R01C18A2EA2000 (日経新聞 2018年12月2日) 3社連合、崩れる仏の思惑、マクロン氏「維持・安定を」
 フランスのマクロン大統領が日本時間1日未明、日産自動車と仏ルノー、三菱自動車の3社連合について安倍晋三首相と議論した。ルノーの筆頭株主である仏政府が日産元会長のカルロス・ゴーン容疑者の逮捕後の混乱収拾に乗り出す姿勢を示すことで、3社の「対等な関係」を目指す日産をけん制する。交渉役のゴーン元会長が不在になり、影響力拡大を狙う仏政府の思惑が崩れ始めている。20カ国・地域(G20)首脳会議に合わせた会談は15分という短時間だった。マクロン氏は「3社連合を維持し、安定させるのが重要だ」と語り、仏政府が支援する姿勢を明確にした。逮捕されたゴーン元会長については「司法的な手続きは進めなければいけない」と日本の司法制度を尊重する姿勢もみせた。会談は当初予定されていなかったが、マクロン氏の呼びかけで開かれた。直前の11月29日に日産・ルノー・三菱自の3社トップが会合を開き、今後の方針は3社による合議制で決めると合意していた。仏政府にしてみれば、「ルノー優位の連合」という構図にヒビが入った瞬間だった。日仏首脳会談を開く重要な狙いは、ルノー優位の連合の関係見直しを求める日産へのけん制だ。かつて国営の「ルノー公団」だったルノーは仏国内で4万8000人の雇用を抱える、いわば「国策企業」だ。日産車の生産移管などで仏国内での雇用を創出している。マクロン氏の支持率は17年の就任以来最低の2割台に急落している。自ら連合の維持を訴えることで、ルノーを巡る経営や雇用への不安を打ち消そうとする狙いがある。経済産業デジタル相だった2015年、マクロン氏はルノー株を買い増して影響力の拡大を図った。さらに日産・ルノーの経営統合を目指したとされ、日産から激しい反発を生んだ。ゴーン元会長の逮捕後に遠心力を強める日産に対し、マクロン氏が首脳会談で自らの指導力を見せつける必要があった。G20の直前、仏経済紙レゼコーは政府幹部の「我々には『重火器』がある。つまり、ルノーに日産株を買い増しさせる」との声を伝えた。信頼関係の崩壊につながる極めて荒っぽい提案だが、仏政府内に強硬派がいることを日産に知らしめた。自動車行政を所管するルメール経済・財務相は、はっきりと仏政府が介入する姿勢をみせている。11月下旬の仏メディアの取材に「ルノーと日産が互いの出資比率を変えることを望まない」と語った。

*1-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13789560.html (朝日新聞 2018年11月29日) 報酬合意文、秘書室で秘匿 取締役会に諮られず ゴーン前会長 関与の幹部、司法取引
 日産自動車の会長だったカルロス・ゴーン容疑者(64)が約50億円の役員報酬を有価証券報告書に記載しなかったとして逮捕された事件で、この約50億円を退任後に受け取ることで日産と合意した文書は、秘書室で極秘に保管されていたことが関係者への取材でわかった。東京地検特捜部は、文書作成に直接関与した秘書室幹部と司法取引し、将来の支払いを確定させた文書だという証言を得た模様だ。関係者によると、この文書は役員報酬を管理する秘書室で管理され、経理部門や監査法人には伏せられていた。退任後に支払うという仕組みは取締役会にも諮られなかったという。ゴーン前会長と前代表取締役のグレッグ・ケリー容疑者(62)は、2014年度までの5年間の前会長の報酬が実際は約100億円だったのに、有価証券報告書に約50億円と虚偽記載したという金融商品取引法違反の疑いで逮捕された。関係者によると、ゴーン前会長は高額報酬への批判を避けるため、各年度に受け取る額は約10億円にとどめたうえで、さらに約10億円を退任後に受領するという文書を毎年、日産と交わしていたという。特捜部は、外国人執行役員と共に、ゴーン前会長に長年仕えた秘書室の日本人幹部と司法取引。捜査に協力する見返りに刑事処分を減免することにした。秘書室幹部は合意文書を特捜部に提供。さらに文書の解釈について、退任後に支払う約10億円は約20億円の年間報酬の一部で、将来の支払いが確定しているなどと証言したとみられる。特捜部は、司法取引しなければ入手困難な文書を得たうえ、解釈に関する当事者の証言を得られたことを重視し、隠蔽(いんぺい)工作と判断した模様だ。
■「従業員のやる気考慮」 ゴーン前会長、容疑否認
 ゴーン前会長が、約20億円の報酬のうち毎年開示するのは約10億円にとどめ、差額の約10億円を退任後に受け取ることにしたとされる点について、「(公表したら)従業員のモチベーションが落ちると思った」と話していることが、関係者への取材でわかった。関係者によると、2008年秋のリーマン・ショックで日産の業績が下がったため、ゴーン前会長の報酬も減った。その後、日産の業績は回復。ゴーン前会長は報酬を元に戻そうと考えたが、開示すれば従業員のやる気を失わせてしまうと考えたという。退任後の報酬の支払いについては「確定したものではなく、記載義務はない」と容疑を否認。弁護士でもあるケリー前代表取締役に相談して「『合法な方法です』と言われた」とも主張しているという。

*1-5:https://www.nikkei.com/paper/related-article/tc/?b=20181201&bu=BFBD9496EABAB5E (日経新聞 2018年12月1日) 報酬不記載の違法性焦点 ゴーン元会長逮捕1週間、先送り80億円、開示対象? 受領額確定か否か
 日産自動車元会長のカルロス・ゴーン容疑者(64)の逮捕から26日で1週間を迎えた。役員報酬約80億円の過少記載方法の違法性を巡り、検察側とゴーン元会長側が争う構図が鮮明になってきた。業績をV字回復させたカリスマ経営者は、逮捕容疑以外にも会社を「私物化」していた不正行為が発覚。事件を機に、日産・ルノーの資本関係の見直し協議が本格化するなど「ゴーン元会長退場」の余波は広がる。関係者によると、有価証券報告書に記載されていないゴーン元会長の役員報酬は▽受け取りを先送りした金銭報酬=8年間で計約80億円▽株価上昇と連動した額の金銭を受け取れる「ストック・アプリシエーション権」(SAR)=4年間で計約40億円分――の2種類があるとされる。関係者によると、2種類のうち受領を先送りした報酬は毎年約10億円、2018年3月期までの8年間で計約80億円に上る。東京地検特捜部が金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)にあたるとしてゴーン元会長らを逮捕した容疑は、このうち15年3月期まで5年間の約50億円を対象としたもようだ。日産では近年、役員報酬の総額上限を29億9千万円と設定。ゴーン元会長は上限内で各役員への報酬の配分を決める権限を持ち、自身は年20億円前後としていた。だが、10年に報酬1億円以上の役員について報酬額の開示が義務化されると、高額報酬への批判を避けるため、約10億円の受領を退任後などに先送りし、有価証券報告書に記載しないことにしたという。金融庁によると、内閣府令では開示対象の報酬を「職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益」と定義。ストックオプションや退職慰労金なども含まれ、開示義務は受け取る見込み額が明らかになった時点で生じるという。青山学院大の八田進二名誉教授(会計学)も「支払いの時期にかかわらず、額が決まった時点で記載の義務が生じる」と説明する。東京地検特捜部は報酬先送りについて記載した文書を入手するなどしており、ゴーン元会長が受け取る報酬額は固まっていたので受け取り前でも記載の義務はあったと判断しているもようだ。ただ、先送り分の引当金などは計上されていなかったとみられ、ゴーン元会長らは「確実に支払われると決まっていなかった」などと容疑を否認しているという。2種類の報酬のうちSARについても、他の役員は付与された分を記載していたのに、ゴーン元会長は18年3月期までの4年間に得た計約40億円分を記載していなかったとされる。SARの場合、受け取れる金額は権利を行使した時点の株価で決まる。会計実務に詳しい専門家によると、開示義務が生じるのはSARを付与された時点とする考え方がある一方、権利行使が可能になった時点だとする考え方もあり、運用は各企業に委ねられているのが実情という。金商法に詳しいある弁護士は「開示ルールが必ずしも明確ではなく、SARの不記載を立件するハードルは高いだろう」と話している。投資家の判断の元となる有価証券報告書の虚偽記載は証券市場の公正さに対する信頼を損なう犯罪とされ、検察当局は厳しい姿勢で臨んでいる。06年には法定刑も「5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金」から「10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金」に引き上げられた。一般的には、投資の判断材料として、役員報酬の重要度は財務諸表などより低い。しかし、企業統治の健全さなどを評価する指標として開示が義務化された経緯もあり、特捜部は巨額の報酬を株主や投資家の目から隠した悪質性は高いと判断しているもようだ。

*1-6:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2018120201001679.html (東京新聞 2018年12月2日) 報酬文書、日産の別幹部もサイン ゴーン前会長側近が作成
 日産自動車の前会長カルロス・ゴーン容疑者(64)=金融商品取引法違反の疑いで逮捕=が有価証券報告書に記載せず、退任後に受け取ることにした報酬の支払い名目を記した文書に、作成者の前代表取締役グレゴリー・ケリー容疑者(62)=同=のほか、当時のより上位の役員クラスの日産幹部がサインしていたことが2日、関係者への取材で分かった。文書はケリー容疑者が常務執行役員だった2010年ごろから数年間、毎年作成されていた。ケリー容疑者は、自分やゴーン容疑者らだけでなく、会社としても退任後の報酬支払いを把握していた根拠だと主張するとみられる。

*1-7:http://qbiz.jp/article/145135/1/ (西日本新聞 2018年12月3日) 「うその自白耐えられない」 ゴーン容疑者、一貫し容疑否認か
 金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の疑いで逮捕された日産自動車の前会長カルロス・ゴーン容疑者(64)が周囲に「うその自白をすると自分の評判が落ちるので耐えられない」と話していることが3日、関係者への取材で分かった。一貫して容疑を否認しているとみられる。ゴーン容疑者は、2011年3月期〜15年3月期の5年間に、自分の報酬を約50億円少なく記載した有価証券報告書を提出した疑いで逮捕された。毎年の報酬額を約20億円と設定し、このうち退任後に受け取ることにした半分程度を記載しなかった点が容疑となった。関係者によると、ゴーン容疑者は退任後の報酬について、東京地検特捜部の調べに「あくまでも希望額だった」などと供述。記載していない事実は認めた上で、支払いは確定しておらず、報告書への記載義務はなかったと主張している。さらに、側近の前代表取締役グレゴリー・ケリー容疑者(62)=金融商品取引法違反の疑いで逮捕=に事前に確認し、記載しなくても合法との回答を得ていたとも説明しているという。不記載の総額は18年3月期までの8年間で総額80億円を超えるとみられ、特捜部は直近3年分の立件も検討している。

*1-8:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181201&ng=DGKKZO38423100R01C18A2MM8000 (日経新聞 2018年12月1日) 役員報酬 きしむ日本流、「ゴーン問題」で注目 水準・透明性に課題
 日産自動車元会長カルロス・ゴーン容疑者の問題を受け、高額批判も出ている役員報酬。ただ、主要企業のトップの報酬を比較すると日本は米国の1割程度にとどまり、国際的には低い水準にある。経営者も含めた人材獲得のグローバル競争で後れを取る恐れがある。役員報酬を適切な水準へと見直していくべきだとの指摘があり、同時に決定過程を透明にするといった対応も課題となる。開示されているベースでゴーン元会長の2017年度の報酬は仏ルノーや三菱自動車の分も含めて約19億円にのぼる。日産からは7億3500万円で、役員報酬全体(18億5700万円)の約4割を得ていた。ゴーン元会長の報酬は過少に記載されていた疑いがあり、全体に占める比率はもっと高かった可能性もある。投資資金や会社経費を巡る「私物化」疑惑もある。海外子会社を通じてブラジルやレバノンに自宅用の住宅を購入させたり、姉と実態のないコンサルタント契約を結んで報酬を払ったりしていたとされる。様々な問題が指摘されてはいるが、ゴーン元会長の報酬額が国際的に突出しているわけではない。半導体大手ブロードコム約117億円、放送大手CBS約79億円、旅行サイトのトリップアドバイザー約54億円――。米労働総同盟・産別会議によると米国では17年も多くの最高経営責任者(CEO)が高額な報酬を得た。自動車大手のCEOだと米ゼネラル・モーターズが約25億円、米フォード・モーターは約19億円だ。社会主義的な風潮から高額報酬に批判的なフランスでも、医薬大手サノフィや化粧品大手ロレアルのCEOは約12億円を得ている。日本の役員報酬の平均水準は海外を大きく下回る。米コンサルティング会社、ウイリス・タワーズワトソンがまとめた17年度の日米欧主要企業のCEO報酬によると、米国の14億円に対して日本はわずか1.5億円。ドイツや英国、フランスと比べても2~3割の水準にとどまる。「総中流」時代のなごりで格差への抵抗感が強く、高額な報酬を避ける経営者が多いためだ。報酬が1億円以上だと個別名の開示が必要になるため、「9990万円」程度に抑えるケースも珍しくない。業績や株価に連動する「インセンティブ報酬」の比率が国際的に低いという違いもある。
●低成長でも高報酬
 この結果、日本の役員報酬には「上方硬直性」が生じている。国内上場企業の17年度の役員報酬合計は約8800億円と10年度比で31%増加。だが、業績ほどには伸びていないため、純利益に占める役員報酬の比率は同期間に4%から1.95%へと半減した。個別企業でみても報酬と業績の関係はあやふやだ。東京商工リサーチのデータで国内主要100社の取締役ひとりあたりの報酬を算出し、業績動向を反映しやすい時価総額との関係を調べたところ、17年度中に「時価総額が大きく伸びたのに報酬は低位」の会社が2割にのぼった。反対に「時価総額の伸びが鈍いのに報酬は高位」も2割弱あった。日産は時価総額が約3%増と低成長なのに、報酬額は約2億700万円と全体の平均値を上回る。ゴーン元会長の報酬が過少に記載されていたなら、「低成長・高報酬」の度合いはもっと強かった計算になる。
●委員会26%どまり
 日本の役員報酬には「決め方が不明確」という問題もある。報酬総額は株主総会の承認が必要だが、どう配分するかは「社長一任」としている企業が多い。歴史的に低い水準の報酬が続き、突っ込んだ議論が求められてこなかったためだ。一方、米上場企業は「報酬委員会(総合2面きょうのことば)」の設置が義務付けられている。報酬委は外部の有識者などを交え、客観性をもたせながら取締役など個人別の報酬を決めるための仕組みだ。日本で報酬委(任意導入含む)を設置しているのは日立製作所やブリヂストンなどの932社。全上場企業の約26%にすぎない。日産も報酬委はなく、ゴーン元会長は自身の報酬を「お手盛り」で決めていたとされる。「透明性と緊張感のある報酬制度は競争力の源泉」と一橋大学の伊藤邦雄特任教授は指摘する。外国人も含めて優秀な経営者を引きつけるには、日本の役員報酬は欧米に見劣りしない水準へと切り替わっていく必要がある。報酬委などの活用で透明性を高め、利害関係者の納得を得やすくするといった制度上の工夫がその第一歩になる。

*1-9:http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201811/CK2018112202000162.html (東京新聞 2018年11月22日) 日産、報酬制度変更へ ゴーン容疑者 ルノーと統合模索
 日産自動車が、代表取締役会長カルロス・ゴーン容疑者(64)が役員報酬を過少に申告したとして逮捕されたことを受け、役員報酬制度を変更する検討に入ったことが二十一日分かった。事実上、ゴーン容疑者の裁量で報酬額を決めてきた現行の仕組みが不正の温床と判断した。フランス大手ルノーとの企業連合の在り方も見直す。二十二日に臨時取締役会を開き、ゴーン容疑者の会長職を解く。ゴーン容疑者が今年九月の取締役会でルノーとの資本関係の見直しを提案していたことも判明した。役員報酬は決定過程を透明化するため、報酬委員会を新設し「委員会設置会社」に移行することなども検討する。甘い内部監査の是正は急務で、関係者は「報酬委員会などの設置は避けられない」と話す。現在の社内規定で各役員の報酬は、取締役会議長でもあるゴーン容疑者が、共に逮捕された代表取締役のグレゴリー・ケリー容疑者、西川広人社長と相談して決まる。企業連合の見直しは、ルノーから日産への出資比率の引き下げや新たな役員構成が焦点。英紙は二十日、ゴーン容疑者がルノーと日産の経営統合を考えていたと報じた。日産経営陣はかねて統合論に反発しており、ゴーン容疑者の失脚が関係再構築の呼び水となる。ただ日産がルノー株の15%を持つのに対し、ルノーは日産株の43・4%を保有し発言権が強いため、調整は難航が予想される。一方、ルノーは二十日に臨時取締役会を開き、ナンバー2のティエリー・ボロレ最高執行責任者が最高経営責任者(CEO)代理に就任する人事を決めた。ゴーン容疑者の会長兼CEO職の解任は先送りした。日産経営陣で代表権を持つ取締役はゴーン、ケリー両容疑者が欠け西川氏だけになり、補充が必要だ。他の取締役は六人で、うち二人がルノー出身。両容疑者を早期に取締役からも外すため臨時株主総会を開くことも議論になりそうだ。

<不適切な合併・買収に関する論評>
*2-1:https://www.nikkei.com/paper/morning/?b=20181118&d=0 (日経新聞 2018年11月18日) 小粒になった日本企業、「寿命」突出の89年 成長鈍く
 日本企業の「小粒化」が進んでいる。世界的な企業規模の大型化についていけていないためで、米国では企業の1社あたり時価総額が2000年末の2.6倍になった一方、日本は1.7倍にとどまる。企業再編などによる「新陳代謝」が鈍く、成長力の差を生んでいるとの指摘が多い。企業の競争環境の見直しなどが今後の課題となる。
●中国に逆転許す
 00年末に9.9億ドル(約1120億円)だった日本の1社あたり時価総額は17年末に17億ドルまで増えた。だが、米国は27.5億ドルから72.3億ドルと大きく伸ばし、「日米格差」は2.8倍から4.3倍に広がった。5億ドルだった中国は5.4倍の27億ドルと日本を逆転。「日中格差」は0.5倍から1.6倍に拡大した。米国ではアマゾン・ドット・コムやグーグル親会社のアルファベット、中国ではアリババ集団や騰訊控股(テンセント)など若いネット企業が急成長したためだ。日本でもソフトバンクグループやファーストリテイリングなどが健闘しているが、そうした新たな成長企業の数・時価総額の増え方などで見劣りする。ネットビジネスでの出遅れ、土台である日本経済の低迷、規制緩和の鈍さ、経営者マインドの保守性、語学力も含めたグローバル人材の不足――。背景には様々な要因がある。なかでも特に深刻だと多くの専門家が指摘するのが「企業の新陳代謝が国際的にみて鈍い」(帝京大学の宿輪純一教授)という問題だ。確認のために上場企業の「平均寿命」を試算してみた。期中の新規上場を含めて上場社数の年間平均が100社だったとする。上場廃止が10社なら、1年で10分の1の企業が消えたことになる。全企業が入れ替わるには10年かかるペースなので、「平均寿命(上場維持年数の平均値)」は10年だと見なせる。この計算だと17年時点で米ニューヨーク証券取引所の上場企業は「15年」、英ロンドン証取は「9年」。これに対して日本取引所の上場企業は「89年」と極端に長寿だと分かった。NY証取では約130社が新規に上場し、これを上回る150社強が消えた。この結果、上場社数(期中平均)は約2300と前年より約60社減少。上場社数は16年から減少が続いている。米証券取引委員会への提出資料で上場廃止の理由(上場投資信託など除く)を調べると、約8割がM&A(合併・買収)によるものだった。競争力の一段の強化を狙った大型再編や独自の強みをもつ小型企業の買収が多発しているからだ。17年にはダウ・ケミカルとデュポンが統合し、世界最大の化学会社ダウ・デュポンが誕生している。
●「長寿」があだに
 一方、日本取引所は100社強増えた一方で、上場廃止は40社どまり。上場社数は増え続けており、3600社弱と世界的にも多い。再編などの動きが鈍いためで、「日本には成長ではなく、企業存続を目的とする経営者が多い」(みずほ証券の菊地正俊氏)との指摘がある。景気低迷が長期にわたって続いたうえ、日本では銀行の力が強いため、M&Aなどを駆使して積極的に成長を狙うよりも、借金返済が確実になる安定型の経営が選ばれやすいようだ。これが突出した「長寿」につながっている。このため倒産も国際的にみて少ない。帝国データバンクによると17年までの10年間に倒産した日本の上場企業は79社。同期間に米国では総資産1億ドル以上に限っても331社が連邦破産法11条を申請している。日本と違って米国では経営上の選択肢と割り切って早めに倒産を申請するので再生も容易になる。倒産には時代遅れの企業から資本や人材を解き放ち、新たな成長企業を育ちやすくする効用もある。成長志向の弱さという問題は以前より悪化している可能性がある。日銀が年6兆円規模で上場投資信託(ETF)を購入し、東証1部に上場してさえいれば一定の買いが入る。業績低迷を放置していても株安による市場からの圧力を受けにくくなった。成長ではなく上場維持だけを目的にする経営マインドの土壌になっている。起業を促しつつ、事業や会社そのものの売却、破綻処理などのハードルを下げ、経営者には成長へのインセンティブを明確にする――。企業の新陳代謝を活発にするトータルな施策が、成熟期に入った日本経済には一段と重要になっている。

*2-2:https://medium.com/@newsgimon/東芝-westinghouse失敗の本質-1-9bbf2894469e (ニュースノギモンNov 19, 2017 抜粋)東芝:Westinghouse失敗の本質(1)
 日本のマスコミは、よく日本のモノづくりを礼賛していますが、ときに行き過ぎているのではないかと思うことがあります。確かに日本の電動自転車やシャワートイレに感動する外国人は多いでしょう。ただ、そういった画期的な製品というのは、ここ数年出ていないように見受けられます。日本のモノづくりの現場を同業の外国人が視察して感動する、そういう番組があるのも「もう一度自信を取り戻したい」という願望の裏返しに思えてなりません。日本のモノづくり神話、本当は疑っているんですよね? 率直にいうと、日本の製造業は大手になればなるほどモノづくりカルチャーというより、モノ(単一の)カルチャーに支配されていているのではないかと思っています。一つの企業文化の中に押し込められているので、悪い方向に流れ始めても軌道修正ができない。悪い方向に進んだ結果、失敗が起きても敗因分析はされない。なぜなら、モノカルチャーでは自己と他者が同一視されるので、誰かに責任をとらせるようなことをすると自分に返ってくるようで怖いのです。大手製造業では、多くの人は新卒で入社し、なんなら寮や社宅で同じコミュニティに属し、上意下達が根付いていて、「それ違うんじゃないの?」という気力が抜け落ちて行きます。名門といわれる企業ほど、外国人・中途採用にとって狭き門であり「異論」を持つ人間が主流派になりづらい現状があるのではないでしょうか。「それ違うんじゃないの」という人不在で突き進んで行った代表例、それが東芝だと思っています。僭越ながら東芝社内にかわり私めが失敗分析をさせていただきますね。東芝は、子会社であるWestinghouseの原子力事業により、巨額の損失を抱えることになりました。このことについて日本のマスコミの多くは、良心的にも「東芝がダマされた」「東芝は見抜けなかった」という論調で掲載しています。その根底にあるのは「日本の生真面目な製造業は、マネジメントが下手であるため欧米企業の暴走をコントロールできない」という思想ではないでしょうか。マネジメントが下手なのは事実かもしれませんが、果たして問題はWestinghouseの暴走にあったのでしょうか。
(あらすじ)
 この2年間、東芝は話題につきなかったので、Westinghouseにフォーカスしてことの経緯をざっくり振り返ります。
i)東芝が買ったWestinghouse(WEC)がShawの子会社のStone& Webster(S&W)という会社と原子力発電所の建設を受注した
ii)工期が遅れた
iii)プロジェクトの責任一本化のためにS&Wを買った
iv)S&Wの工期遅れによる損失がものすごいとわかった
といった感じです。
●買収における失敗
①高すぎた買収額
 そもそも東芝がWestinghouseを買収しようとした際、市場の想定価格は18億ドル程でしたが、東芝はライバル達に競り勝つために54億ドルで交渉権を得ました。当時の記事に、「3年単位で25億ドルのキャッシュフローを稼げるから大丈夫」という東芝幹部の発言が残っています。東芝の当時の主力事業は、半導体やハードディスクなど投資の規模・スピードともにもとめられる事業でした。その需要サイクルから考えると、キャッシュフローが一定に維持できるか疑問が残ります。一方で、東芝にしてみるとだからこそ、安定した収益の柱としてエネルギーにかけたのでしょう。結論からいうと、数年後のリーマンショックによる景気後退と、高すぎた買収額と企業価値とのギャップ(のれん)により、東芝のガバナンスは歪められていきます。
②買収がゴールだった時代
 2006年は、日本板硝子が英ピルキントンを6,160億円、ソフトバンクが英ヴォーダフォンを1兆7500億円、JTが英ガラハーを2兆2000億円で買収するなど、大型買収が目白押しでした。この年、日本企業による外国企業の買収が、始めて外国企業による日本企業買収を上回り、まさに外国企業買収のれい明期といえます。成功例として語られるM&Aもある一方で、この東芝の件については「どのように統合し、ガバナンスを利かせていくか」が考えられていなかったように思えます。もちろん、統合後の事業シナジーは描かれていました。問題は買収される側の心理をよく理解していなかったということです。日本企業の生え抜き文化では、経営陣の指示のもと組織は粛々と機能していくため、従業員への配慮を忘れてしまったのかも知れません。
③一方通行のシナジー戦略
 東芝の描いた絵というのは、次のようなものでした。原子力ルネッサンスが花開く(原子力市場が再興する)といわれるアメリカや、日本企業にハンディキャップのある中国や欧州市場でWestinghouse(WEC)にマーケティグを頑張ってもらい、その上がりをいただこう。WECがとってきたプロジェクトに東芝のタービンや周辺機器も入れてもらおう。原子力発電所の設計技術は、大きくBWR(※1)とPWR(※2)の2つに分けられています。東芝はBWRの会社だったので、世界の3/4を占めるPWR市場にリーチできることに当時の報道ではフォーカスされています。一方、当の東芝は、WECの販売力への期待もかなり大きかったようです。スピード感が重視される海外案件は、日本企業にとって依然言葉の壁、規制の壁が大きく立ちはだかります。東芝のプレスリリースに記載された以下のコメントにも、WECの裁量に任せる感が出ていますね。その方がスピーディに売り上げが上がっていくとの想定でしょう。
※1:沸騰水型軽水炉、※2:加圧水型軽水炉、加圧水型の方が安全性が高いといわれている
(ウェスチングハウス社については、これまでの経営体制と方針を尊重し、引き続き 独立性を保持した事業運営が行われます。また、当社およびパートナー企業とのシナ ジーが最大限にはかられるよう体制を強化し、さらなる事業の拡大を目指します。 出典:2006年10月東芝プレスリリース)
④自由裁量≠ロイヤリティ
 買われた側のWECの人たちはどう思うでしょうか。「このM&AでWECはどう成長させる気なの?」となりませんか。相互に刺激し成長していくビジョンがなければ、モチベーションは下がります。独立性が保たれるのは結構ですが、リーダーシップや共有の成長ビジョンが示されないと、「金持ちがバックについた」くらいの感覚になっても致し方ないように思えます。買収時に発表された運営体制の図には、常勤の取締役2人、CFO(最高財務責任者)・CCO(最高調整責任者、東芝の造語)、コーディネーションスタッフの派遣を行うと書かれています。コーディネーションオフィスは、人員が記載されていませんが、WEC内に1つ東芝内に1つ作られていたようで、恐らく本社との情報共有くらいの役割しか担っていなかったのでは、と思う次第です。経験上ですが(※)、直轄の現地法人であっても本社に自動的に情報が入るとはを限りません。必ず、どの情報をどの様に誰に伝えるか選択されます。世界のPWR特許の4割を抑えている名門WECが、買収されたからといって、真っ正直にタイムリーに報告しようとするでしょうか。コーディネーションオフィスをおいたぐらいでは、恙無い情報共有とは至らないはずです。ましてガバナンスを利かせるという点においては、いうに及ばずです。
※:東芝での勤務経験はございません。悪しからず。
⑤ふりかえり
 買収時における失敗要因は、以下に集約されるのではないでしょうか。
  1.買収額が高すぎた
  2.買収後のビジョン共有ができていなかった
  3.Westinghouseの信頼獲得に失敗した

*2-3:https://gendai.ismedia.jp/articles/-/50896 (週刊現代 2017.2.7 抜粋)銀行・生保・商社・自動車…これから始まる一流企業「大合併」、人口減少社会で生き残るために
 「勝者総取り」の時代だ。ごく一部の企業だけが突出して成長して輝く一方で、大多数は無残に死んでいく。勝ち残るためにはライバルとも手を組む。経営者たちはもう動き出している。
●「メガ合併」の衝撃
 みずほフィナンシャルグループ(FG)と三井住友トラスト・ホールディングス(HD)が、傘下の資産管理銀行を統合すると報じられてから約2週間。いまだ銀行業界では、この統合劇による衝撃の余波が収まらない。今回の統合は、コストやシステム運営費を減らしたいという思惑が一致したライバル同士が手を組んだもの――。新聞やテレビではそんな経済解説がなされているが、銀行業界のインナーたちはまったく違った視点からこの統合劇を眺め、戦々恐々としている。「現在、日本の銀行業界は青息吐息の経営を強いられています。ただでさえ人口減少で経済のパイが縮小して利ザヤを稼ぎづらくなっている中、日本銀行がマイナス金利政策を導入したことでトンネルの先がまったく見通せない状況に追い込まれている。そうした中で、今回の統合話が急浮上してきたことの意味は何かと言えば、メガバンクですら生き残るためには手段を選んでいられず、系列を超えた金融再編が一気に幕を開ける可能性が出てきたということです。すでに日本の銀行界では、'90年代後半から'00年代前半にかけて、不良債権問題から経営破綻、経営危機が勃発し、現在の3メガに集約された経緯があります。あれから10年以上が経ち、この体制すら維持するのが厳しくなってきた。ここからは、生き残りをかけた大合併劇が起こり得る」(元日本興業銀行金融法人部長で経済評論家の山元博孝氏)。そんな金融再編の「目玉」として銀行界で噂になっているのが、みずほと三井住友FGの「メガ合併」という驚愕のシナリオである。順を追って説明すると、まず今回はみずほが出資する資産管理サービス信託銀行と、三井住友トラストが出資する日本トラスティ・サービス信託銀行の統合だが、その先にはみずほFGと三井住友トラストHD同士が一緒になる可能性がある。みずほ幹部が、「確かにそれは検討されている」として内情を明かす。「現在のみずほFGの佐藤康博社長は、信託銀行部門を強化したいという想いが強い。信託銀行は普通の銀行と違い不動産業ができるため、低金利時代にあって高い仲介手数料を稼げる絶好のビジネスになるからです。佐藤社長は、みずほ銀行とみずほ信託銀行を統合させて、全国の支店で不動産業を展開させる壮大な構想まで考えていた。みずほ信託銀行が三井住友トラストHD傘下の三井住友信託銀行と一緒になれれば、まさにその強力な一手となり得る」。三井住友トラストも、「みずほと近づくメリットは大きい」と、三井住友グループ幹部は言う。「三井住友FGが同じ金融グループ内で自分たちを格下として見るのが気に入らないし、仮に統合となれば経営の主導権を握られるのは目に見えている。そのため、三井住友銀行の國部毅頭取と三井住友信託銀行の常陰均社長は表向き良好な関係だが、水面下での駆け引きは激しくなっている。その点、みずほ相手であれば、交渉次第では『対等合併』という形に持ち込める」。次に、両社がそうして蜜月を深めるほど、三井住友FGとしては黙ってはいられなくなる。三井住友は昨年度にみずほの後塵を拝して業界3位に転落しており、みずほと三井住友トラストが統合すれば、その差は広がるばかりだからである。「そこでいま業界内で語られているのが、三井住友と大和証券グループ本社の『復縁話』です」と、銀行業界を長く取材する金融専門記者は言う。

*2-4: https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181123&ng=DGKKZO38122570S8A121C1EA2000 (日経新聞 2018.11.23) 「経営者ゴーン」の功罪
 カルロス・ゴーン元会長の「犯罪」に注目が集まっているが、ここでは事件からあえて距離を置き、企業のトップリーダーとしてのゴーン元会長の功罪を分析してみる。ゴーン元会長の日本での歩みの中で最大の衝撃をもたらしたのは、日産に赴任直後の1999年10月に発表した「日産リバイバルプラン(NRP)」だ。当時の日産は業績が長期にわたって低迷し、売れ筋の車にも乏しく、自動車業界でも「終わった会社」と突き放す見方が多かった。その危機を救ったのが仏ルノーから送り込まれたゴーン元会長の聖域なき改革であり、その基本設計であるNRPだ。ほぼ手つかずだった工場閉鎖や人員削減、「系列破壊」とまでいわれた調達改革を断行し、長年の非効率にメスを入れた。影響は自動車だけでなく、隣接産業にも波及した。川崎製鉄とNKKの統合など鉄鋼再編が加速したのは、ゴーン改革による調達先の絞り込みが直接の引き金だった。こうした改革の結果、日産はV字回復を果たした。「業績が悪くなったのはしがらみを断ち切れなかった経営のせいで、開発や生産などの車づくりの実力まで落ちていたわけではなかった。ゴーンさんは私たちにそれを気づかせてくれた」と日産社員は振り返る。自信回復の波は他の日本企業にも広がった。2000年ごろのいわゆるITバブルの崩壊で業績が悪化したのを機に、松下電器産業(現パナソニック)やコマツは事業や関連会社を思い切って整理し、業績を立て直した。一時的な痛みは覚悟のうえでウミを出し、心機一転、再出発する――。基本的な発想はゴーン改革と同じであり、そこから学ぶことも多かったのだろう。コマツの再生を主導した坂根正弘元社長は「ゴーンさんは常に意識する存在だった」と述べたことがある。今から振り返れば、ゴーン元会長が日産の経営に専念していた05年までが最も輝いていた時期かもしれない。ルノーと日産の両社のトップを兼ねるようになって以降はやや精彩を欠いた。中国への積極投資や三菱自動車への出資などで日産・ルノー連合の規模はトヨタ自動車と肩を並べるまでに巨大化したが、収益性やエコカーの技術力などもろもろひっくるめた会社の総合力ではまだまだ差が大きいのではないか。「コミットメント(必達目標)」はゴーン経営の代名詞にもなったが、実は最近の中期経営計画はほとんど未達に終わっている。17年3月期までの6年間の計画「日産パワー88」は期間中に電気自動車を150万台売るという目標を掲げたが、実績は30万台前後にとどまった。目標と結果がここまで乖離(かいり)するのは、そもそも計画を策定する側が市場の実態をきちんと把握できていないか、販売や開発の前線の士気がよほど低下しているのか。いずれにしても、会社が重大な問題を抱えているというシグナルに違いないが、そこに日産経営陣が機敏に手を打つ気配は感じられなかった。過去19年でカリスマ経営者は何を残したか、その歴史的評価が定まるのはゴーン元会長が去ったこれからかもしれない。

<暖簾の会計処理>
*3:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO35330630T10C18A9MM8000/ (日経新聞 2018/9/13) M&A「のれん」費用計上の義務化検討 国際会計基準、見直し、21年にも結論
 国際会計基準(IFRS)を策定する国際会計基準審議会(IASB)が、企業買収を巡る会計処理の見直しに着手したことが明らかになった。買収代金のうち相手企業の純資産を超えて支払った「のれん」と呼ぶ部分について、費用計上義務付けの議論を始め、2021年にも結論を出す。大型のM&A(合併・買収)が相次ぎ、企業財務への影響が強まっていることを考慮した。欧州中心に広がるIFRS採用企業には業績の下押し要因となる。IASBのハンス・フーガーホースト議長が日本経済新聞の取材で明らかにした。のれんは買収先企業のブランド力などの対価と解釈され、買い手企業が資産計上する。日本の会計基準では最長20年で償却し、費用として処理していく。IFRSではのれんの償却は不要な一方、買収先企業の財務が悪化した際などにのれんの価値を一気に引き下げる減損損失の計上を求める。巨額の減損損失を突然公表するケースもあり、投資家から分かりにくさを指摘されてきた。フーガーホースト議長は減損損失を巡る企業の判断が「楽観的になりやすい」うえ、計上のタイミングも「遅すぎる」と指摘した。IASB内でも以前からのれんの会計処理を巡る問題が意識されてきたものの、これまでは現状維持派が優勢で議論を始めてこなかった。しかし、議長の意向などを踏まえ、議論を始めると7月に正式に決定。今後、規制当局など利害関係者から意見を集めたうえで、のれんの償却を義務付けるかどうか判断する。企業業績への影響は大きい。IFRSは欧州を中心にアジアなど120以上の国・地域に広がる。日本では武田薬品工業、三菱重工業、ソフトバンクグループなどが導入している。IFRS採用企業には大型M&Aを実施するケースも目立つ。17年度時点で国内IFRS導入企業(約160社)は約14兆円、欧州の主要600社は240兆円ののれんを抱える。仮に20年間の定期償却が導入されると、日欧合計で年間13兆円の減益要因が生じる計算になる。中国では主要100社で約10兆円ののれんがある。中国の会計基準はIFRSとの互換性を重視しており、今後、対応を迫られる可能性がある。大型M&Aが活発な米国ではのれんは主要500社で340兆円にのぼる。米国会計基準ではのれんの償却は不要。ただ、世界の主流になりつつあるIFRSが変更されれば、米国でも見直し議論が出そうだ。のれんの償却は企業財務の予見性を高め、投資家のメリットとなる。その半面、M&Aのコストを増やし、企業活動を阻害するとの反対論も根強い。IFRSの見直し議論も今後、曲折が予想される。

<ゴーン氏逮捕事件と日本の刑事司法手続き>
PS(2018年12月5、7日追加):ゴーン氏が役員報酬を過少記載したとして逮捕された事件に関して、側近だったケリー氏は、*4-1のように、「退任後の支払いのうち隠したとされる分は、前会長の秘書室が開示義務はないと外部に確認した」と供述しておられるそうだが、有価証券報告書の記載事項について疑問がある時は、外部監査人や金融庁に確認をとり、根回しをしておくのが普通であるため、こちらが事実だと考える。
 もし退職金でなく、コンサルタント料であったとすれば、コンサルタントとしての役務提供を行うか否かによって契約が実行されるかどうかは変化するが、60代で退任するゴーン氏なら、退任後にコンサルタントとして有益な役務提供ができると考えても決しておかしくない(日本には、顧問として残っている元役員も多い)。
 なお、*4-2のように、ゴーン氏逮捕事件は、日本の刑事司法に世界の目を向けさせ、長く是正されてこなかった問題点をあらためて浮き彫りにしているが、これこそ人権を重視する時代に合わせて改革すべきである。そうでないと、危なくてやっていられないからだ。
 また、2018年12月7日、日経新聞は社説で、*4-3のように、「①ゴーン氏事件で、海外から日本の捜査手法や刑事手続きに対する批判が相次いでいるので、見直すべき点は検討課題とすべき」としながらも、「②司法制度や司法文化の違いを無視した単純比較や、誤解、思い込みも目立つ」「③一方的な批判を放置すれば、刑事司法に対する国民の信頼を損ない、国際的な日本のイメージが傷つく」「④証拠のあれこれではなく、明示されたルール、裁判所の関与、人権への一定の配慮の仕組みを伝えればいい」「⑤フランスでは警察による勾留は原則24時間にとどまるが、予審の段階で最長4年に及ぶ勾留が認められる」「⑥欧米では捜査側に幅広い通信傍受や司法取引、おとり捜査といった強い権限が与えられるので、容疑者に弁護士の立ち会いを認めている」「⑦日本では捜査手法は限定しており、取り調べに比重を置いて弁護士立ち会いを認めずに供述を引き出すやり方を採用してきた」などと記載している。
 しかし、④のような高飛車な言い方をするのなら、①は枕詞にすぎないだろう。そして、③を防止するため、法務省・最高裁は制度の違いを丁寧に説明して正しく反論する姿勢が求められるとしているが、②のように、文化や制度が違うから問題なのではなく、有罪と決まってもいない人を生活環境の悪い拘置所に長期間拘留し、弁護士もつけずに自白に導く手法が拷問に近く、これは日本人に対してでも人権侵害なのである。さらに、④の「罪状や証拠は関係ない」「明示されたルール・裁判所の関与・人権への一定の配慮の仕組みを伝えればいい」などとするのは、その制度そのものを問題にしている時に、思考停止だ。私は、⑤のフランスの仕組がどうかは知らないが、ゴーン氏のような司法取引で最初から事実が確認されている“罪”なら24時間の勾留で終わる筈だし、容疑者に弁護士の立ち会いを認めるのは、⑥⑦のような捜査手法とは全く関係なく、司法に詳しくない一般人の人権を守るためだということを忘れていると思う。

*4-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13798329.html (朝日新聞 2018年12月5日) 「開示義務ない、秘書室が確認」 ゴーン前会長側近
 日産自動車の会長だったカルロス・ゴーン容疑者(64)が巨額の役員報酬を過少記載したとして逮捕された事件で、側近の前代表取締役グレッグ・ケリー容疑者(62)が、退任後の支払いにして隠したとされる分について「前会長の秘書室が開示義務はないと外部に確認した」と供述していることがわかった。相談した外部の弁護士や会計士の事務所名も具体的に挙げているという。違法性の認識をめぐる、東京地検特捜部との対立が鮮明になった。特捜部は2人を金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の疑いで逮捕。2010~17年度の8年間の年間報酬は各約20億円だったが、各約10億円は退任後の支払いにして計約90億円を隠蔽(いんぺい)し、退任後はコンサルタント料などの別名目に紛れ込ませて支出する計画だったとみている。一方、関係者によると、ケリー前代表取締役は、前会長の退任後の処遇をめぐる計画は、役員報酬とは無関係だと主張。前会長の秘書室に指示して会計事務所などに法的な問題点を問い合わせたとし、「取締役として各年度に行った職務への報酬ではなく、開示義務はないと確認した」「日産として確認したということだ」と強調しているという。特捜部が有力な証拠とみる関連書類についても、「前会長に見せる時は『退任後の支払いを確約するものではない』と何度も言っていた」と説明しているという。

*4-2:https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20181203/KT181130ETI090020000.php (信濃毎日新聞 2018年12月3日) 刑事手続き 不備を見直す機会に
 日産自動車の前会長カルロス・ゴーン容疑者が逮捕された事件は日本の刑事司法手続きにも世界の目を向けさせた。長く是正されてこなかった問題点があらためて浮き彫りになっている。一つは、捜査当局が被疑者を取り調べる際の弁護士の立ち会いだ。日本の刑事訴訟法は、立ち会わせる権利を明記していない。一方、欧米をはじめ各国が立ち会いを認めている。米国では、1966年の連邦最高裁の判決に基づき、被疑者が権利を放棄しない限り、立ち会わせるルールが確立された。欧州連合(EU)は、権利として保障することを加盟国に義務づけている。取調官が密室で被疑者に自白を迫る捜査手法は、冤罪(えんざい)を生む温床となってきた。弁護士の立ち会いは、取り調べの可視化(録音・録画)と並んで、その弊害を防ぎ、人権を守る手だてである。一昨年の刑訴法改正で、可視化は実現したが、裁判員裁判の対象となる事件などごく一部に限定された上、幅広い例外規定が設けられた。弁護士の立ち会いは、法制審議会の議論の過程で抜け落ち、制度化は見送られた。供述が得にくくなり、真実の解明を妨げる、といった捜査側の主張が背景にある。密室での不当な取り調べを防ぐには、可視化の範囲を広げて事後の検証を可能にするとともに、弁護士の立ち会いを認めることが欠かせない。もう一つの問題点は、否認している容疑者の身柄拘束を長引かせる「人質司法」だ。精神的、肉体的に追いつめて自白を迫るために使われてきた実態がある。裁判所が勾留を認めれば、逮捕してから最長で20日余の拘束が可能だ。ゴーン容疑者も12月10日まで勾留が延長された。検察の勾留請求を裁判所が退ける例が以前より増えたとはいうものの、全体の5%に満たない。起訴されると、拘束はさらに続く。2009年の郵便不正事件で、厚生労働省の局長だった村木厚子さんの勾留は160日余に及んだ。後に無罪が確定している。長く拘束されれば、社会的にも大きな不利益を被る。仕事を失う場合もある。虚偽の自白を強いて冤罪を招けば、取り返しがつかない。否認しているからと不公正な扱いをすることは許されない。憲法は、適正な刑事手続きの保障を重んじ、詳細な定めを置いている。刑事司法制度の現状はそれを踏まえたものになっているか。あらためて見つめ直し、社会に議論を広げる機会にしたい。

*4-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181207&ng=DGKKZO38655270X01C18A2EA1000 (日経新聞社説 2018年12月7日) 海外からの捜査批判に説明を
 有価証券報告書に虚偽の記載をした疑いで日産自動車のカルロス・ゴーン元会長が逮捕された事件で、海外から日本の捜査手法や刑事手続きに対する批判が相次いでいる。こうした指摘に真摯に耳を傾け、見直すべき点があれば検討課題としていくことは当然だ。ただ、日本と欧米とでは刑事司法全体の仕組みが大きく異なる。一連の批判の中には、司法制度や司法文化の違いを無視した単純な比較や、誤解、思い込みによる主張も目立つ。一方的な批判を放置すれば、刑事司法に対する国民の信頼を損なうとともに、国際的な日本のイメージが傷つくことになりかねない。法務省や最高裁には制度の違いなどをていねいに説明し、正しく反論する姿勢が求められる。必要なのは事件の証拠のあれこれではない。明示されたルール、裁判所の関与、人権への一定の配慮。こうした仕組みを堂々と伝えればいい。「公判で明らかにする」「捜査のことは答えない」だけで済む時代は終わっている。海外からの代表的な批判に、容疑者の勾留期間の長さがある。東京地検特捜部による捜査では、地検が48時間、その後は裁判所の判断で通常20日間、身柄が拘束される。一方、フランスでは警察による勾留は原則24時間にとどまる。だがその後、日本にはない制度である「予審」の段階で最長4年に及ぶ勾留が認められている。欧米では捜査側に幅広い通信傍受や司法取引、おとり捜査といった強い権限が与えられている。これに対抗する形で取り調べの際、容疑者に認めているのが弁護士の立ち会いだ。日本では捜査手法は限定して取り調べに比重を置き、弁護士立ち会いを認めずに供述を引き出すやり方を採用してきた。そうした手法が、容疑を認めなければ保釈されない「人質司法」へつながるなど負の側面も持っていることは否定できない。ゴーン事件で相次いだ批判を、日本に適したよりよい刑事司法制度を考えるためのきっかけにしたい。

<日本のガラパゴス世論は世界で拒否されること>
PS(2018年12月6日追加): 「パナマ文書」を挙げ、*5のように、タックスヘイブンを利用して各国首脳や富裕層が節税していることを、すべて脱税や資金洗浄などの犯罪に当たるかのように、日本の全メディアが批判し報道した時期があった。しかし、タックスヘイブンとは、法人税・源泉税などが低い国・地域で、それぞれの国が理由があって決定している法定税率である上、日本も租税条約に調印しているので、タックスヘイブンを利用すること自体を批判するのは的外れである。もし、脱税や犯罪組織の資金洗浄等に使われていれば、それを罪として起訴するのは妥当だが、全てのタックスヘイブン利用事例が脱税や犯罪組織の資金洗浄に結びついているかのような批判をするのは、タックスヘイブンを持っている国やタックスヘイブンを利用している人・法人の全てに対して失礼であり、誹謗中傷・侮辱による実害を与えているケースもある。特に、各国首脳に対して無知で的外れた批判をしていると、日本の外交上の不利益となる上、行き過ぎれば日本をまた孤立に追い込むことになるので注意すべきだ。

*5:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13799967.html (朝日新聞 2018年12月6日) 「パナマ文書」、米で初の起訴 弁護士・顧客ら、脱税・資金洗浄の罪
 タックスヘイブン(租税回避地)を利用した各国首脳や富裕層の実態を暴いた「パナマ文書」に関連し、米司法省は4日、文書が流出したパナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」の弁護士や顧客ら4人を、脱税や資金洗浄の罪で起訴したと発表した。文書を巡る米国での訴追は初めて。起訴されたのは、同事務所の弁護士でパナマ国籍のラムセス・オーウェンズ被告(50)、顧客でドイツ国籍のハラルド・フォン・デア・ゴルツ被告(81)ら。発表によると、オーウェンズ被告らは2000~17年ごろ、パナマや香港で設立したペーパーカンパニーや架空の基金を使って、複数の顧客について米国での脱税や資金洗浄を行ったとされる。また、フォン・デア・ゴルツ被告は米国在住で納税義務があったにもかかわらず、自身などが設立したペーパーカンパニーを国外の母名義と偽り、脱税に使ったとされる。オーウェンズ被告は逃亡中という。米司法省は今回の起訴について、「国境を越えて行われる金融犯罪や脱税を立件するという、我々の決意を示している」との声明を発表した。パナマ文書の実態は、16年4月に「国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)」が報道し、アイスランドとパキスタンの首相が辞任した。パナマ当局は17年2月、同事務所の創業者2人を資金洗浄の容疑で逮捕。同事務所は今年3月末に閉鎖した。

<入管難民法改正と外国人労働者の受入拡大>
PS(2018年12月7、10日追加):*6-1、*6-2のように、入管難民法が国会を通過し、トランプ大統領の移民政策を批判しながら日本では認めていなかった外国人労働者の“単純労働分野”への就労を認めることになったのは、一歩前進だ。もちろん、受入規模など確定していないことは多いが、市場経済の下で事前に確定するのは無理である。
 また、技能実習生の問題は、外国人労働者に新しい選択肢を用意して技能実習生から移行できるようにしたため、何もしないよりはずっとよいだろう。さらに、首相が「移民政策でない」と言っておられたのは、外国人労働者受入拡大に強く反対する自民党内などの慎重派対策であり、野党が主張するやり方では、技能実習生問題も解決しなかったと思われる。
 今後は、言語・住宅・教育・社会保障等の問題解決が必要だが、全市町村が多言語に対応するのは費用対効果が悪すぎるため、同言語の人に集って住んでもらう方向で住宅を整備し、教育・社会保障は不公正・不公平のないようにすべきと考える。また、人手不足で外国人労働者の受け入れを積極的に行いたい市町村はそれを実行して共生するようにし、従来の住民だけでやりたい市町村はそうすればよい。しかし、市町村に選択の余地ができたので、まずは市町村が総合計画を作って、それに基づいて外国人労働者を受け入れ、必要な支援を国に要請すれば、あまり混乱なく結果が出ると思う。
 入管難民法が国会を通過したことについて、日本農業新聞は、*6-3のように、「①特定技能1号の創設が柱で、これは家族の呼び寄せを認めない」「②1号より高度な技能試験に合格すれば特定技能2号になれ、在留期間に上限がなく家族を呼び寄せられる」「③政府は農業では2号の人材を求める要望はないとして当面1号の受け入れに限り、人材派遣業者が雇用契約を結んで複数農家に派遣する形態も認める」としている。①②は、状況を見ながら判断していくことになるだろうが、③は農業では必要であり、この仕組みは外国人に限らず日本人にも有効だ。また、遺伝資源の海外流出は、技能実習生に技術移転すれば当然のこととなり、技術移転をやめ知的財産権の保護意識を高めれば解決する。
 また、西日本新聞は、*6-4のように、「九州・沖縄と山口の9県計293市町村のうち4割超の128自治体で、①高齢化 ②人口減少に伴う他産業の雇用減により、介護サービスなど医療・福祉業が雇用の最大の受け皿になった」としている。①は、今後、日本全国で次第に起こることだが、②の人口が減少したから他産業で雇用が減少するというのは、モノやサービスの需要内容が変化するだけで、輸出も可能であるため、短絡的過ぎると思う。
 なお、内閣府の高齢社会白書によると、2017年の高齢化率は、沖縄・福岡以外の7県で29.2〜33.4%と全国(27.7%)を上回り、2045年には9県とも6.3〜10.4ポイント上昇する見通しだそうで、医療・福祉分野は人手不足で、入管難民法改正による外国人労働者の受け入れ拡大では介護業も対象になったが、外国人労働者を含めた人材確保に加え、機械化による生産性向上や高齢者が暮らしやすくなる仕組み作り などが不可欠であることは間違いない。

  
  2018.11.29新潟日報  2018.12.8東京新聞 2018.12.1西日本新聞(*6-4より)

*6-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181208&ng=DGKKZO38698860X01C18A2EA2000 (日経新聞 2018年12月8日) 「選ばれる国」へ制度設計、外国人受け入れ5年最大34万人 生活支援や待遇、政省令に先送り
 外国人労働者の受け入れを拡大する出入国管理法改正案は日本社会のあり方を変える。政府は28日に具体的な対策をまとめ、2019年4月の制度開始へ準備を加速する。「選ばれる国」へ外国人労働者への生活支援、待遇の改善を急ぐ。「選ばれる国」へ日本の賃金水準がアジアの外国人労働者にとって魅力的に映るのか。新制度の対象となるのは比較的低賃金の職種が多い。中国やタイでも少子高齢化や労働力不足が進み、アジアのなかでも人材獲得競争は激しくなる。日本の賃金水準はライバルとなるアジア諸国に比べ突出して高いとは言えない。日本貿易振興機構(JETRO)の17年度の調査によると、一般工の賃金は東京で月額2406ドル。香港は1992ドル、シンガポールは1630ドルと日本に迫る。政府は外国人労働者の賃金水準について「日本人と同等以上」を支払うように求める。外国人労働者が増えることで日本人の賃金水準も下がるのではないかとの懸念は根強い。人手不足が深刻な地方ではなく、賃金水準が高い首都圏など都市部に外国人が集まるとの予測がある。制度は法律ではなく、政省令で決めるものが多い。今後5年間の受け入れ見込み数を分野別の運用方針で示す。どのくらいの外国人を受け入れるかが分からなければ、企業は対応しづらい。法務省は11月、新たに外国人労働者を受け入れる14業種を所管する省庁が推計した受け入れ見込み数を国会に提示した。現時点で5年後に14業種合計で145万5千人の人手が不足すると仮定し、19年4月から5年間で最大34万5150人を受け入れる見通しだ。山下貴司法相は「この数字を上回ることはない」と説明した。上限は外国人労働者が急増した場合、受け入れ停止を判断する基準になる。各業界を所管する閣僚が受け入れ上限に近づいた際に法相に停止の判断を求める仕組みだ。上限は各業界が外国人を採用する目安になる。日本で暮らす外国人が増えれば、様々な問題が生じる。住居の契約に伴う手続きやゴミ出しのルールなど日本の習慣に外国人は戸惑う。ドイツのように欧州では外国人の急増が国内政治を揺るがした例もある。外国人にとって特に高いのが日本語の壁だ。行政手続きに多言語対応は欠かせない。銀行口座の開設や転居に伴う手続きにも多言語が必要だ。日本語教育や行政窓口の設置など地方自治体が実務の大部分を担う。熟練した技能が必要で在留資格の更新と家族帯同が可能な「特定技能2号」を巡っては試験の制度設計も課題だ。資格を得るのに十分な能力があるか判断する試験は細部を詰め切れていない。日本で働く外国人は日本人と同様に公的年金の保険料などが給与から天引きされる。保険料の払い損になる恐れがある。厚生労働省は健康保険に外国人労働者の扶養家族に居住要件を求める法改正を検討中だ。新設する「特定技能」を取得する外国人労働者の大半は現行の技能実習生から移る。技能実習制度を巡って最低賃金を下回る低賃金や違法な長時間労働、パワハラの問題も明らかになっている。参院法務委員会で立憲民主党の有田芳生氏は15~17年の3年間で技能実習生69人が自殺や実習中の事故に巻き込まれて亡くなったと追及した。日本に来る前に母国で多額の保証金を払わせる悪質ブローカー(仲介業者)も存在する。法務省は悪質業者を排除するため、多額の保証金を払っていないか事前に確認すると省令に記す。法務省は実態調査の結果を来年3月末に公表する。大島理森衆院議長は改正法が施行する前に運用方針や政省令の内容を国会に報告するよう要求。安倍晋三首相は施行前に制度の全容を国会に示すと明言した。

*6-2:https://www.kyoto-np.co.jp/info/syasetsu/20181208_4.html (京都新聞社説 2018年12月8日) 改正入管難民法  議論は尽くせていない
 入管難民法などの改正案を巡る国会審議が大詰めを迎えた。これまで原則認めてこなかった外国人労働者の単純労働分野への就労を認めるものだ。高度な専門人材に限っていた政策の転換であり、社会を変える可能性がある。だが議論は全く深まりを欠いた。採決を押し切ろうとした政府与党の国会軽視の姿勢は容認できない。受け入れの規模や対象業種をどうするのか。必要な技能や運用の詳細は不明確だ。次々と明るみになった技能実習生の実態も含め、外国人労働者問題の論点を掘り下げたとは言い難い。大島理森衆院議長は与野党へ異例の裁定を行い、来年4月の改正法施行前に政省令を含めた法制度の全体像を国会に報告させるとした。政府与党のまずい国会運営に対し、立法府の長が注文をつけた形だ。だが、本来は制度の全体像こそ国会で審議すべきではなかったか。外国人労働者を受け入れた後の議論は全くできていない。権利をどう保障するかや日本人と地域で共生する仕組みなど、幅広い分野での検討が早急に求められる。その「司令塔」となるのは法務省に新設される出入国在留管理庁とされる。新在留資格の創設に伴い増加する外国人の管理や、雇用する企業などへの監視を行うほか、共生に向けた受け入れ環境整備も担うという。だが、日本語教育や住宅確保など担当する領域は広い。同庁だけで対応できるのか疑問だ。関係省庁との連携と情報共有が欠かせない。健康保険や年金など社会保障制度の準備も遅れている。教育や医療、福祉など身近なサービスを提供する自治体の役割が一層重要となる。言葉の壁や生活習慣の違いもあり、現在はボランティアや市民団体の活動に頼っているのが現実だ。マンパワーも不足しており、負担も重くなるため国の支援が不可欠である。総務省によると、今年4月時点で外国人住民向けの指針や計画を策定している自治体は46%にとどまる。住民に占める外国人の割合は地域差が大きく、地域の実情にあった支援態勢が欠かせない。官民挙げて整えていくべきだ。政府は年内に受け入れ環境の整備に関する総合対策を取りまとめる方針だが、改正法施行まで残された時間は少ない。働く外国人の生活と人権を守る視点で制度を改善していく必要がある。来月召集予定の通常国会でも引き続き議論を深めていかねばならない。

*6-3:https://www.agrinews.co.jp/p46078.html (日本農業新聞 2018年12月9日) 改正入管法が成立 4月施行 外国人就労 農業も
 外国人労働者の受け入れ拡大に向けた改正出入国管理法が8日、参院本会議で可決、成立した。3年間の技能実習の修了者ら一定の技能を持つ外国人が、通算5年を上限に日本で働ける在留資格「特定技能1号」の創設が柱。農業など14業種を受け入れ対象にし、来年4月に施行する。労働現場への就労を本格的に外国人に開放し、受け入れ施策の大転換となる。今後、業種ごとの具体的な制度設計が焦点となる。国会審議では「失踪や死亡などが相次ぐ技能実習制度の課題解決が先決だ」と一部野党が訴え、法改正に反対。与党側が押し切る形になった。改正法では、1号よりも高度な技能を問う試験に合格した外国人に対象とした特定技能「2号」も創設。在留期間に上限はなく、家族も呼び寄せられる。1号は基本的に家族の呼び寄せは認めない。政府は農業では2号の人材を求める具体的な要望はないとして、当面1号の受け入れに限る。外国人は受け入れ経営体が直接雇用契約を結ぶのが原則だが、政府は、農業では人材派遣業者が雇用契約を結び、複数農家に派遣する形態も認める方針。農業は繁忙期と農閑期の差が激しく、個別では周年雇用が難しい面があることに考慮する。業種ごと具体的な制度設計は、所管省庁を中心に今後定める業種別受け入れ方針で明確化する。政府は、同方針を含む制度の全容を法施行前に示す方針。来年の通常国会で議論になる見通しだ。農業では同一外国人を複数産地で連携して受け入れられるか、和牛精液など遺伝資源の海外流出の懸念がある肉牛経営での受け入れはどうするのかなど、不明確な点も多い。政府が制度設計で、これらの課題にどう対応するのかが焦点になる。

*6-4:http://qbiz.jp/article/145088/1/ (西日本新聞 2018年12月1日) 老いる九州、雇用「医療・福祉」最多 九経調分析 自治体4割でトップ、変わる受け皿
 九州・沖縄と山口の9県計293市町村のうち4割超の128自治体(2016年)で、医療・福祉業の従業者数が業種別で最多となっていることが、九州経済調査協会の分析で分かった。09年時点では44市町村だったが約3倍に増加。高齢化によるニーズの拡大に加え、人口減少に伴う他産業の雇用減で、介護サービスなど医療・福祉業が雇用の最大の受け皿になっている。九経調が国の経済センサス調査の民間事業所従業者数から算出した。医療・福祉業の従業者が最多を占める県別の自治体数は、福岡28▽佐賀6▽長崎10▽熊本22▽大分8▽宮崎9▽鹿児島21▽沖縄16▽山口8。北九州市や佐賀市、長崎市、熊本市、宮崎市、鹿児島市といった大都市や県庁所在地に加え、人口に占める65歳以上の高齢者の割合(高齢化率)が20%以下と低い福岡県春日市なども含まれる。09年は従業者数トップが製造業の自治体が104、小売業が101だった。16年は製造業が101で微減となる一方、小売業は32に激減。人口減やネットショッピングの普及など流通構造の変化が背景にある。9県全体の医療・福祉従業者は09年比26・7%増の113万4千人となり、伸び率は全産業中で最大。全雇用者数に占める割合も17・3%と09年から3・9ポイント上昇し、小売業を抜いてトップになった。内閣府の高齢社会白書によると17年の高齢化率は、沖縄(21・0%)、福岡(27・1%)以外の7県で29・2〜33・4%と全国(27・7%)を上回っている。45年には9県とも6・3〜10・4ポイント上昇する見通しだ。医療・福祉業は人手不足が特に深刻化しており、政府が今国会の成立を目指す入管難民法改正による外国人労働者の受け入れ拡大では、介護業も対象になる見通し。調査を担当した九経調の渡辺隼矢研究員は「外国人労働者を含めた人材確保に加え、介護用ロボット導入や、医療介護が必要な人を地域全体で支える仕組みづくりが不可欠」と指摘している。

<有価証券報告書における役員報酬の重要性>
PS(2018年12月9、13日追加): 有価証券報告書は、株主や投資家の投資判断に資するために作成するもので、*7-1の「有価証券報告書への役員報酬の“虚偽記載”」は、それが認定されたとしても重要性が低い(仮に重要性が高ければ、監査証明をした監査法人も責任を免れず、監査証明を得ておくことは経営者を守る効果もあるのだ)。また、*7-2で、機関投資家団体のワリング事務局長が述べておられるように、投資家にとっての重要事項は、「利益と配当」「企業価値向上と株価上昇」であるため、役員は、報酬額だけでなく、報酬に見合った能力を有しているかどうかが重要になる。
 しかし、日産は、*7-3のように、4度目の検査不正が明らかになったそうで、これは企業価値を落とすが、日産車が事故を起こしたという話は聞かないため、私には、検収や検査に資格がいるのか、その検査は有用なのかという疑問が残る。また、その理由をリストラによる人員不足だとしている点は、どうも日本的発想すぎておかしい。しかし、このような報道があると、日産の企業価値が落ちるのは確実だ。
 なお、2018年12月13日、*7-4のように、朝日新聞が「政治資金監査制度」で少なくとも23人の国会議員関係政治団体が監査を担当した税理士など監査人から寄付を受けており、「監査人として独立性がない」と問題視している。2007年に導入したこの監査制度も、最初に私が提唱してできたので説明すると、私が考えていたよりもずっと狭くて不十分な形の監査になったため、これは本物の監査とは言えないのだ。本物の監査と言えないポイントは、①「国会議員関係の政治団体のすべての支出をチェックする」と定められているので、収入はチェックしなくてもよい ②独立性の要件に関する規定や指針がない ③監査担当者に監査論を勉強して監査の実務経験を積んだ公認会計士以外(税理士、弁護士)の人を認めている ④公認会計士が本物の監査を行って責任を持てるには、政治資金会計も複式簿記による網羅的で検証可能な通常の会計にする必要があるが、現在は単式簿記による収支のみの記載で不都合な収支は記載しないことも可能であるため、監査をしてもそれを見つけられず、監査人も責任を持ちかねる(これは、政治家も会計担当者の不正をチェックできないということ) などである。政党と政治家の関係は、会社と従業員ではなく任意組合と組合員に近いため、政党が政治家を管理するのは妥当でないと思うが、不十分な監査では主権者に政治資金のありようが正しく開示されず、政治家もいちゃもんから守ってもらえないため、政治資金会計も複式簿記による網羅的で検証可能な通常の会計(市販の会計ソフトを使えるので簡単で安上がりな上、税務事務所に計算を委託することも可能)に変更して正規の監査を行うべきである。これは、国会議員に限らず地方議員も同じだ。

   
   日産リーフ     日産リーフ軽    日産リーフセダン 資源エネルギー庁より

(図の説明:一番右の図のように、太陽光発電とEVを組み合わせれば、脱燃料費・脱排気ガスの究極のエコカーができる。女性は、ガソリン車で走るのが目的ではなく、実用目的で自動車に乗っており、環境には敏感であるため、本来はEVの格好の顧客になる。しかし、安全性に疑問符がつくのはご法度で、さらに日産車のデザインは怖い面構えで角ばっており、スタイルもかっこよくないため、女性を遠ざけている。日産の役員構成を見ると、取締役は全員男性で執行役員47名のうち女性は2名だが、もっと女性の声を反映させ、デザインにはフランスのデザイナーのアドバイスなどを入れて、スマートでかわいいスタイルするとさらに売れると思う。例えば、服はピエールカルダン、靴はフェラガモ、車はニッサンの○○と言われるようにだ)

*7-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201812/CK2018120902000132.html (東京新聞 2018年12月9日) 「役員報酬虚偽記載」初の事件化 悪質性、分かれる見解 ゴーン容疑者あす起訴
 日産自動車の前会長カルロス・ゴーン容疑者(64)が逮捕された事件で、ゴーン容疑者が問われている有価証券報告書への「役員報酬の虚偽記載」は、これまで刑事事件として立件されたケースがない。役員報酬が投資家の判断にどれだけ影響するかは、市場関係者らの間でも見解が分かれている。東京地検特捜部は勾留期限の十日、金融商品取引法違反の罪で起訴する見通しで、今後の司法判断が注目される。「役員報酬は企業の姿勢が顕著に表れる重要事項。額を偽ることは投資家を欺く行為で、許されない」。検察幹部はうその報酬を記載する悪質性を強調する。経営方針や財務状況などさまざまな企業情報が盛り込まれ、有価証券報告書は「年度ごとの成績表」とも評される。ただ、うそを書けばすべて罪に問われるわけではなく、金商法は「重要事項への虚偽記載」を罰すると定めている。何が重要事項に該当するのか、明確な定義はない。ある市場関係者は「投資家の判断を左右する事項すべて」と解説する。これまで罪に問われてきたのは、ライブドア元社長や旧カネボウ経営陣の粉飾決算事件、オリンパス元会長らの損失隠し事件などで、利益や資産などが重要事項とみなされた。役員報酬が刑罰の対象になったケースは、金融庁の担当者も「聞いたことがない」といい、「案件ごとに判断するしかない」とする。実際、役員報酬が重要事項に当たるのか、定まった見解はない。ある投資家は「役員報酬は一応チェックする程度。投資する上で、主な参考情報とすることはない」と言い切る。証券市場に詳しい弁護士も「役員報酬が投資判断に大きな影響を与えるかどうかは疑問だ」と、重要事項との見方に否定的だ。一方で、大和総研の横山淳主任研究員は「正当な理由なくトップが高額な報酬を得ている会社は信頼されない。部下たちが仕事へのやる気を保てているか否かの判断材料にもなる」と重視する。ある市場関係者も「今の時代、投資家はコーポレートガバナンス(企業統治)を注視している。特に経営者の資質、報酬体系には厳しい目が注がれている」と指摘。「今回の事件はリーディングケース。何が重要事項かは、社会のニーズによって変わるのではないか」と語った。

*7-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181207&ng=DGKKZO38654510W8A201C1TJ3000 (日経新聞 2018年12月7日) 日本、統治改革の再加速を 日産巡り機関投資家団体提言 ワリング事務局長
 欧米の主要機関投資家で構成する国際コーポレート・ガバナンス・ネットワーク(ICGN)のケリー・ワリング事務局長が、日産自動車のカルロス・ゴーン元会長逮捕を受け、日本経済新聞に対し「事件をきっかけに日本は企業統治改革を加速させるべきだ」と強調した。具体的には「社外取締役の質の向上」や「独立性の高い指名・報酬委員会の設置」を挙げた。日本のガバナンス改革に影響を与えそうだ。
主な発言は以下の通り。
【日産ショックの教訓】
 日産ほどの大企業が報酬委員会も設けず、報酬の配分が実質的にトップ1人に委ねられていた事実は、世界中の投資家にショックを与えている。日本は安倍晋三政権のもと、2014年から本格的なガバナンス改革が始まった。進捗は順調だったと言えるだろう。しかし、足元では「自分たちはよくやっている」という自己充足感も広がってはいなかっただろうか。その意味で、日産ショックは日本の市場関係者にガバナンス改革の再加速を促す目覚まし音(ウエイクアップ・コール)となったのではないか。
【社外取締役】
 ゴーン元会長逮捕を受け、金融庁にガバナンス改革を提言した。まず、社外取締役だ。人数を増やすだけでなく、経営や金融・財務に通じた人材を多く採用し、取締役会の質を上げる必要がある。経営の専門家が求められる。性別や国籍、年齢で制限しなければ、日本にも社外取締役の候補者はたくさんいる。取締役の教育制度も拡充すべきだ。
【報酬問題】
 監査役会設置会社であっても、上場企業ならば任意で指名・報酬委員会を設置し、トップの選任や役員報酬算定の方法を決めるようにしてほしい。役員報酬の金額の多さだけに目を向けるべきではない。大切なのは企業価値を向上させるために、どんなトップをいかに処遇するかという、透明性の高いルールづくりだ。
【日本への働きかけ】
 日産ショックをきっかけに外国人投資家は日本企業のガバナンスに改めて目を向けるだろう。ICGNは金融庁のほか経団連や東京証券取引所などと意見交換の場を持ち、市場の立場から建設的な提案をしていきたい。2019年7月には東京で年次総会を開く。日本の企業人もお招きしガバナンス改革を話し合いたい。
*ICGN:米カリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)など米欧の年金基金が1995年に設立。運用総額は34兆ドル(約3800兆円)に達し、世界の株式市場に強い影響力を持つ。ワリング事務局長は日本の金融庁に度々招かれ、企業統治に関する指針づくりを助言している。

*7-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181207&ng=DGKKZO38634640W8A201C1EA1000 (日経新聞 2018.12.7) 日産、深まる統治不全 新たな検査不正、ブレーキなど
 日産自動車が新車を出荷する前の完成検査で新たな不正をしていたことが6日、分かった。不正発覚は2017年9月から4回目だ。企業統治(コーポレートガバナンス)の不全やコンプライアンス(法令順守)意識の低さに改善の兆しが見えない。元会長のカルロス・ゴーン容疑者(64)の逮捕に新たな不正発覚が追い打ちとなり、西川広人社長兼最高経営責任者(CEO)ら経営陣への批判がさらに強まりそうだ。今回の不正は、国土交通省が日産の主力工場に立ち入り検査した10月以降、社内調査で見付かった。ブレーキなど複数の項目が対象とみられる。日産は国交省とリコール対応などを協議しており、月内にも詳細を公表する見通しだ。
●防止策を再検証
 日産では完成車の品質検査不正が後を絶たない。17年9月に資格を持たない従業員が完成車の検査をしていたことが発覚した。18年7月には一部の完成車を対象にする抜き取り検査で、燃費・排ガスデータの書き換えや不適切な条件での試験が見つかった。18年9月末には全ての新車を対象にした検査で、決められた試験を省いたことなどが明らかになった。一連の不正はゴーン元会長が仏ルノーから派遣された翌年の00年代以降、常態化していた。不正の背景には「効率性やコスト削減に力点を置くあまり、検査員を十分に配置せず技術員も減らした」(外部の弁護士事務所が9月にまとめた調査報告書)ことがある。国交省は無資格検査を受けて日産に対し、17年9月と18年3月に2度の業務改善指示を出している。再発防止策の進捗を四半期ごとに報告させるほか、重点監視の対象として抜き打ち検査を増やしてきた。日産は9月に再発防止策を盛り込んだ最終報告書を公表し、一連の問題に区切りをつけたはずだった。再発防止策とともに今後6年間で測定装置などに1800億円を投じ、検査部門に670人を採用する計画を打ち出していた。西川社長は9月時点で「できる限り将来の再発防止に努めることが私の仕事だ」と述べた。しかし新たな不正発覚で、再発防止策そのものの再検証は避けられない。
●発覚は4度目
 ゴーン元会長逮捕を受け、日産はガバナンス不全が指摘されている。01年に日産のCEOに就いたゴーン元会長は人事と報酬の両方の決定権を持っていたとされ、絶対的な存在として長期間君臨。独立した社外取締役を主要メンバーにした報酬委員会などの仕組みもなかった。報酬過少記載事件ではゴーン元会長らに加え、法人としての日産の刑事責任も問われる見通しだ。西川社長ら同社の取締役らも虚偽記載という不正を見逃したとして、民事上の責任を追及され、損害賠償を求められかねない。ゴーン元会長逮捕に加えて4度目の検査不正が明らかになったことで、西川社長を含む現経営陣の経営責任を問う声が強まる可能性がある。日産同様に完成検査を巡る不正が相次ぐSUBARU(スバル)では、6月には当時の吉永泰之社長兼CEOが責任を取り、CEO職を返上。代表権のない会長に退くなど経営責任に波及している。「ポスト・ゴーン体制」を担う西川社長には、経営トップとしての説明責任が求められる。

*7-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13809380.html (朝日新聞 2018年12月13日) 23議員の政治団体、監査人から寄付 公正さ、疑問の声 17年収支報告書
 国会議員の政治資金の支出を第三者がチェックする「政治資金監査制度」で、少なくとも23人の国会議員の関係政治団体が、監査を担当した税理士などの監査人から寄付を受けていたことがわかった。外部性の確保が求められる監査を支援者にまかせていた形になり、専門家からは「公正ではない」と疑問視する声もある。11月30日までに全国で公表された2017年の政治資金収支報告書を分析したところ、23の国会議員関係政治団体に対し、それぞれを監査する監査人が1万~40万円を寄付していた。総額は約340万円だった。総務省によると、監査制度は、不適正な支出が疑われた閣僚の事務所費問題などをきっかけに、07年の政治資金規正法の改正で導入された。公認会計士や税理士など「外部性を有する第三者」が、国会議員関係政治団体のすべての支出をチェックすると定められた。監査人は「監査の対象となる国会議員関係政治団体との間に密接な身分関係を有してはならない」とされ、対象の政治団体の役職員や議員の配偶者が務めることはできない。ただし、監査人が団体側に寄付することは禁止されていない。政治資金規正法に詳しい富崎隆・駒沢大教授(政治学)は「監査は利害関係のない人が行うのが前提で、政治家を支援している寄付者がするのはおかしい」と指摘する。「公正な収支報告書を有権者が見られるようにすることが重要で、各団体が監査人の選定や費用負担などに難しい面があるなら政党が責任を持つべきだ」と話す。

<退職金・退職年金の認識時期>
PS(2018年12月14、19日追加):*8-1のように、今回のゴーンさん逮捕事件はルノーと日産の組織再編に端を発したものだが、市場経済の中での経済闘争に微“罪”で刑事を介入させるのは、人権侵害である上、公正ではない。そのため、「権力闘争になれば、われわれは大砲を持ち出し、ルノーに対して日産への出資比率を上げるよう要請する用意がある」という仏政府幹部の言葉は理解できる。また、*8-2のように、米ウォールストリート・ジャーナルは、ゴーン氏は米国での販売不振や度重なる検査不正をめぐり、西川社長の解任と経営陣の刷新の考えを一部の役員に伝えていたとも報じている(西川社長は否定)。
 なお、ゴーンさん逮捕の根拠について、東京地検特捜部は確定債務だったか否かを論点とし、*8-3のように「日産の取締役会で決定され、文書化されているから確定債務だ」とか、*8-4のように「文書に報酬額が1円単位で書かれていたから確定債務だ」などとして、有価証券報告書への役員報酬の過少記載による金商法違反と結論づけている。しかし、*9-1の企業年金も、給付額は個人毎に債務が確定しており、企業は掛金の拠出時に費用計上するが、受取人の所得となるのは退職後にその年金をもらった時であり、認識時期にずれがある。また、企業は、現在価値に割り引いて掛け金を拠出するため、1円単位になるのが普通だ。
 さらに、*8-3には、役員報酬の決定をゴーン氏に一任することは取締役会で2年ごとに諮られ、決定事項として文書に残されていたと書かれているため、役員報酬の決定は、ゴーン氏の独断ではなく取締役会の承認済である。「実は異論は言えなかった」と弁解する取締役がいれば、その人は取締役としての任務を怠っていたので、報酬を払う価値がなかったということになる。さらに、違法行為があれば、監査役は是正しなければならず、言えなかったという弁解は通用しない。つまり、「確定債務だから、その期の報酬だ」という結論が誤りなのである。
 そのような中、*8-5のように、12月10日午後、東京地検特捜部はゴーン氏、ケリー氏及び日産を金商法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の罪で起訴したが、本来は裁判所が即時棄却しなければならない。しかし、法学系の人は会計に疎く、殆ど全員が退職給付の会計と税務を理解しておらず、「自分が黒と言えば白でも黒になる」「特捜が起訴した以上は、(人権よりも)司法のメンツと信用が大切」などと思っているため、結論が危ぶまれるわけだ。そして、*8-6のように、罪状が確定していない人を長期間拘留して自白を促すのは人権侵害だ。
 なお、*8-7のように、日産は、不記載報酬を一括処理して今期決算で計上するそうだが、私は日産退職後に支払う報酬であるため、退職慰労金として一括処理するのが正しいと考える。また、日産はゴーン氏と同社が有価証券報告書に虚偽記載したため「内部統制報告書」の訂正も検討するそうだが、有価証券報告書と内部統制をチェックしていた監査法人は、どういう見解を持っているのだろうか。重要な虚偽記載なら、「見つけられなかった」では済まないからだ。
 2018年12月19日、朝日新聞が、*9-2のように、「ゴーン氏は2009年度分の報酬として十数億円をいったん受け取ったが2010年3月施行の改正内閣府令で1億円以上の報酬を得た上場企業の役員の名前と金額の個別開示が義務づけられたため、一部返却して退任後に受け取ることにし、翌年度分からは報酬の約半分は退任後に受け取る仕組みを最初から採用した」と記載しており、当時の日本国内での高額報酬批判から、そのような対応をしたことが理解できる。ここで問題なのは、①日本では、高額報酬として世界常識から外れた批判をしたこと ②国会を通さず、内閣府令で個人情報の過度な開示規定を定めたこと ③個人の報酬認識時期は受領時であるのに、企業の債務確定時と解釈していること(受領時に認識しなければ、受領者は確定申告・納税ができない) などである。これは、逆の立場に立って考えればすぐわかることなのに、意図的な解釈を行うことによって筋の通らない制度にした事例だ。

*8-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201812/CK2018121202000132.html (東京新聞 2018年12月12日) <ゴーン事件の底流>(2)自動車戦争 日仏ぶつかる国益
 「出資比率と統治は現状通りが望ましい。世耕氏と、統治のルールは変わらないことで一致した」十一月二十五日の仏報道番組。仏ルノーと日産自動車、三菱自動車の三社連合について、仏経済・財務相ブルーノ・ルメールは、三日前の経済産業相の世耕弘成(せこうひろしげ)との会談内容をこう説明した。会談は三社の会長だったカルロス・ゴーンの逮捕後、仏側の要請を受け、訪問先のパリで急きょ行われた。世耕はこの発言に強く反発。二十七日の閣議後会見で「日産のガバナンス(統治)に関して、何か他国と約束するようなことは全くない」と否定した。ルノーは日産株の43・4%を保有する筆頭株主で、仏政府はルノー株15%を保有する物言う株主だ。フランスでは、今回の事件をルノーとの関係を対等にしようとする日産側のクーデターとの見方が根強い。仏大統領エマニュエル・マクロンと首相の安倍晋三の首脳会談が行われた十一月末のG20直前、仏経済紙レゼコーは「権力闘争になれば、われわれは大砲を持ち出し、ルノーに対して日産への出資比率を上げるよう要請する用意がある」という仏政府幹部の言葉を紹介した。「大砲」はルノーの大株主としての強力な議決権行使を意味する。マクロンは経済相だった二〇一五年、ルノー株を買い増した上で、二年以上株式を保有する長期株主に一株当たり二票の議決権を認めるフロランジュ法を利用し、日産とルノーの経営統合に動いたこともある。ゴーン逮捕で、再び日仏の国益がぶつかり合うことになる。
◆特捜と連携、官邸は「サポート」
 カルロス・ゴーン逮捕翌日の十一月二十日、日産自動車専務執行役員の川口均が首相官邸を訪れ、官房長官の菅義偉に事件の経緯を説明し謝罪した。川口は「日産とルノーとのアライアンス(提携)の関係でサポートしていただけるとお聞きした」と記者団に語った。一昨年五月の三菱自動車との提携発表前にも官邸で、菅に事前報告していた。仏マクロン政権はルノーと日産の経営を一体化し、日産車の仏国内での生産に意欲的とされる。日産には、独自性が失われ、ルノーにのみこまれていく恐怖感が募る。日産側の動きにも日本政府の影がちらつく。日産のある執行役員はゴーン逮捕後、政府と連絡を取り合っているのかという報道陣の質問に「(政府には)心配いただいている。今回の件だけでなく、フロランジュ法のときも日本政府としての考え方を仏政府に伝えてもらった。国をまたがることなので、いろいろとお話をさせてもらっている」と明かした。検察との司法取引に協力した日産側の弁護士は元東京地検特捜部検事の熊田彰英。安倍政権や自民党の「守護神」とも呼ばれるやり手だ。日産は特捜部とも密に連携。米在住のグレゴリー・ケリーとゴーンが同時に来日するのは珍しく、日産側はゴーンの帰国スケジュールを特捜部に伝えていた。日産の川口は渉外担当が長く、大手企業幹部は「議員会館や霞が関でよく見かける。菅長官は地元が日産本社のある横浜で、事前に相談を受けていても不思議ではない」と推測する。自動車業界に詳しい大手監査法人関係者は、米司法省がカルテル容疑で摘発した日系自動車部品メーカー四十六社と役員三十二人が有罪(五月現在)となったことなどを例に分析する。「国対国の自動車戦争は日米、米独で起きており、それが日仏でも起きたのでは」 

*8-2:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201812/CK2018121002000047.html (東京新聞 2018年12月10日) ゴーン容疑者、西川社長の解任計画か 販売不振など不満
 米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)は九日、金融商品取引法違反の疑いで逮捕された日産自動車の前会長カルロス・ゴーン容疑者(64)が、逮捕前に西川(さいかわ)広人社長の解任を計画していたと報じた。ゴーン容疑者は二〇一七年に日産の社長を退き、西川氏を後継者に指名した。だが、同紙によると、ゴーン容疑者はここ数カ月間、米国での販売不振や度重なる検査不正をめぐり、西川氏の経営手腕に対して不満を募らせていたという。このためゴーン容疑者は一部の役員に経営陣を刷新したいとの考えを伝えており、十一月二十二日の取締役会で西川氏の解任を提案する意向だったという。だが、ゴーン容疑者は同十九日、役員報酬を過少に記載したとして、金融商品取引法違反の疑い(有価証券報告書の虚偽記載)で東京地検特捜部に逮捕され、二十二日の取締役会では自らが会長職を解任された。一方、西川氏はここ数カ月間、内部通報を受けゴーン容疑者の不正について社内調査を行い、検察に情報提供したことを明らかにしており、ゴーン容疑者による西川氏の解任計画とほぼ同じ時期にゴーン容疑者の不正に対する社内調査が進められていたことになる。同紙はゴーン容疑者による西川氏の解任計画を、西川氏自身が知っていたかや、それが逮捕のタイミングに影響したかどうかは分からないとしている。

*8-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13810942.html (朝日新聞 2018年12月14日) 報酬「ゴーン前会長に一任」 日産取締役会で決定、文書化
 日産自動車の前会長カルロス・ゴーン容疑者(64)が役員報酬を過少記載したとして逮捕された事件で、ゴーン前会長に役員報酬の決定を一任することが取締役会で2年ごとに諮られ、決定事項として文書に残されていたことが関係者への取材でわかった。東京地検特捜部は文書を入手し、報酬額の確定に関する重要な証拠とみている模様だ。ゴーン前会長側は、退任後の支払いにして隠したとされる報酬について、「希望額」で、社内の手続きを経ていないため「確定していない」と反論。これに対して特捜部は、取締役会での一任によって、ゴーン前会長が正式な権限に基づいて支払いを確定していたと立証できるとみている模様だ。関係者によると、取締役の任期(2年)に合わせる形で2年に1回、役員の報酬額はゴーン前会長に一任すると取締役会で決定していた。前会長が社長兼最高経営責任者(CEO)だった時期は「CEOに一任」とし、17年に会長に退くと「会長に一任」と変更された。異論はなく、取締役会の内容は決定事項として文書に残されているという。日産は役員報酬について「取締役会議長」が「代表取締役と協議の上、決定する」と定める。この議長はゴーン前会長で、一任を決めた取締役会には他の代表取締役も出席しているため、特捜部は「協議」を経ていると判断した模様だ。立件対象となった8年間では、西川広人社長兼CEOと志賀俊之取締役が代表取締役の時期もあったが、特捜部は前代表取締役のグレッグ・ケリー容疑者(62)以外は、報酬の後払いを把握していなかったとみている。一方、ゴーン前会長側は、ケリー前代表取締役以外と協議せずに決めたのであれば、社内規定に違反しており、「確定しているとはいえない」と主張している。

*8-4:http://qbiz.jp/article/145494/1/ (西日本新聞 2018年12月10日) ゴーン氏報酬文書、金額1円単位 特捜部、支払い確定の根拠に
 金融商品取引法違反の疑いで逮捕された日産自動車の前会長カルロス・ゴーン容疑者(64)が報酬の一部を有価証券報告書に記載せず、受け取りを退任後に先送りする計画を記した文書に、報酬額が1円単位で書かれていたことが10日、関係者への取材で分かった。東京地検特捜部は退任後の受領額が確定していた根拠の一つとみている。証券取引等監視委員会は10日、同法違反の疑いでゴーン容疑者と前代表取締役グレゴリー・ケリー容疑者(62)、法人としての日産を告発した。特捜部が同日起訴する。また、新たに約40億円の報酬を記載しなかった金融商品取引法違反の疑いで、同日中にも2人を再逮捕する。2人は、ゴーン容疑者の報酬が2015年3月期までの5年間で計約100億円だったのに、このうち退任後の報酬を記載せず、約50億円とした有価証券報告書を提出したとして逮捕された。18年3月期までの3年間にも同様の疑いがあり、虚偽記載の立件総額は約90億円になる。関係者によると、先送り計画が記された「報酬契約書」には、報酬総額、実際に支払われた額、未払い額の3種類の金額が1円単位で書かれていた。ゴーン容疑者や、秘書室に所属していた日本人の元幹部のサインがあった。この元幹部と外国人執行役員が特捜部との間で司法取引に合意し、不正を裏付ける保管資料を提出したとされる。

*8-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181210&ng=DGKKZO38733440Q8A211C1MM0000 (日経新聞 2018年12月10日) ゴーン元会長、午後起訴 虚偽記載で東京地検 監視委が告発
 日産自動車元会長のカルロス・ゴーン容疑者(64)の報酬過少記載事件で、東京地検特捜部は10日午後、ゴーン元会長と元代表取締役のグレッグ・ケリー容疑者(62)、法人としての日産を金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の罪で起訴する。特捜部は同日、2018年3月期まで3年間の有価証券報告書でゴーン元会長の報酬を計約40億円過少に記載したとして、同法違反容疑で2人を再逮捕する方針だ。証券取引等監視委員会は10日、15年3月期まで5年間の報酬過少記載について、ゴーン元会長とケリー役員、法人としての日産を同法違反容疑で東京地検に告発した。監視委としても、ゴーン元会長らの刑事責任を問う必要があると判断したもようだ。ゴーン元会長らは容疑を否認しており、起訴されれば公判で無罪を主張して争うとみられる。再逮捕容疑の捜査によってさらに20日間の勾留の可能性があり、身体拘束の長期化に対して海外の批判が強まることも予想される。関係者によると、ゴーン元会長は役員報酬の個別開示が義務化された10年3月期から、自身の報酬の一部について受領を先送りし、有価証券報告書に記載しないようにしていたとされる。先送り分を含めた報酬の総額は、10年3月期~12年3月期には年20億円を下回る水準だったが、毎年のように引き上げられ、17年3月期と18年3月期にはそれぞれ約24億円とされていたという。18年3月期の記載額は7億3500万円だったのに対し、記載のない先送り分は約16億円に上っていたとみられる。

*8-6:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181211&ng=DGKKZO38770160R11C18A2MM8000 (日経新聞 2018年12月11日) ゴーン元会長ら再逮捕 直近3年の報酬、虚偽疑い
 日産自動車元会長のカルロス・ゴーン容疑者(64)の報酬過少記載事件で、東京地検特捜部は10日、ゴーン元会長と元代表取締役のグレッグ・ケリー容疑者(62)、法人としての日産を金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の罪で起訴した。さらに直近3年間でも過少記載があったとして、ゴーン元会長らを同法違反容疑で再逮捕した。立件額は8年間で計91億円余となった。ゴーン元会長らは起訴内容・再逮捕容疑を否認しているとみられ、公判では無罪を主張して争う見通しだ。役員報酬に関する虚偽記載の起訴は初めて。企業統治(コーポレートガバナンス)に対する関心の高まりなどを背景に、特捜部は役員報酬も投資家の判断に影響を与え、虚偽記載をすれば刑罰の対象となる「重要な事項」に当たると判断した。有価証券報告書の虚偽記載には個人だけでなく法人の刑事責任を問う両罰規定があり、長期間にわたって経営トップの虚偽記載を止められなかった法人としての日産の責任も重いと判断した。日産では新車の完成検査で新たな不正が発覚。企業統治の面から、西川広人社長兼最高経営責任者(CEO)ら現経営陣の経営責任についても批判が強まりそうだ。日産の起訴を受け、東京証券取引所は同社株について上場廃止のおそれがあることを示す「特設注意市場(特注)銘柄」に指定するかどうかの検討に入る。特注銘柄は、有価証券報告書に重大な虚偽記載があり、会社の内部管理体制にも問題がある際に東証が指定する。指定期間中も通常どおり売買できるが、東証が内部管理体制の改善度合いを監視する。改善が認められれば指定解除する。西川社長は10日、社内に向け「法人として日産が起訴されるにいたったことは厳粛に受け止めている。ゴーン、ケリー(両容疑者)による私的な動機・目的で行われたことが原因だ」とコメントを出した。関係者によると、ゴーン元会長は自ら決めた各期の自身の報酬の一部について受領を先送りし、有価証券報告書に記載していなかったとされる。特捜部の起訴に先立ち、証券取引等監視委員会は10日、ゴーン元会長ら2人と日産を金商法違反容疑で東京地検に告発した。

*8-7:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20181211&c=DM1&d=0&nbm=DGKKZO38770160R11C18A2MM8000&ng=DGKKZO38743870Q8A211C1MM8000&ue=DMM8000 (日経新聞 2018年12月11日) 日産、不記載報酬を一括処理 今期決算で計上へ
 日産自動車はカルロス・ゴーン元会長と同社が役員報酬について有価証券報告書に虚偽の記載をした罪で起訴されたことを受け、記載されていなかった役員報酬に絡む費用を2019年3月期決算で一括処理する方針だ。正しい決算を作成するための社内管理体制が整っていると上場企業が投資家に向けて宣言する文書、「内部統制報告書」の訂正も検討する。ゴーン元会長が記載していなかった役員報酬は総額90億円前後とされるものの詳細が明らかになっていない部分もあり、日産は費用計上すべき額の把握を急いでいる。日産が今期、5000億円と見込む純利益は目減りする見通しだ。19年2月初旬とみられる18年4~12月期決算発表と合わせて開示する。日産内部では費用の一括処理案が有力。「虚偽記載の額が利益に対して小さい」(関係者)ためだ。ただ、取引所などとの今後のやりとり次第では過去にさかのぼって分割処理する案が検討される可能性もある。日産は10日、過年度の有価証券報告書を訂正する予定だと発表した。役員報酬の総額と1億円以上を受け取った役員の個別の報酬額などが対象になるとみられる。虚偽記載の疑いがある11年3月期以降の有価証券報告書が対象となる見込みだ。日産はゴーン元会長による費用の付け替えなどがなかったかも調査をしている。結果が確定し次第、必要であれば過去の有価証券報告書の損益計算書や貸借対照表など財務諸表を修正する見通しだ。

*9-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181129&ng=DGKKZO38305510Y8A121C1MM8000 (日経新聞 2018年11月29日) 企業年金、積み立て手厚く、確定給付、制度改正で100社超 手元資金で危機に備え
 株価下落など将来の損失リスクに備え、企業年金の積立金を手厚く積む企業が増えている。2017年の制度改正で予防的な掛け金拠出が解禁されたのを受けた動きで、18年11月時点の導入企業はサッポロビールなど100を超えた。業績改善で手元資金が厚くなった企業が従業員の老後資金に還元している。配当などの株主還元や設備投資に続く手元資金の第3の活用策として同様の動きが広がりそうだ。企業の抱える現預金は17年度末時点で221兆円と5年前に比べ3割以上増えた。年金の掛け金は税務上の損金となることもあり、現預金を抱えるよりも効率的と判断した企業が拠出に動いている。企業は掛け金を基金など企業年金の運営主体に出し、その分を費用として計上する。厚生労働省は17年、従業員の年金額を保証する確定給付型企業年金を対象に「リスク対応掛け金」と呼ぶ仕組みを解禁した。金融危機など20年に1度程度の頻度で生じるような損失に備え、年金会計上の必要額を超えて掛け金を積み立てることを認める仕組みだ。この仕組みを活用した企業年金はサッポロビールやコーセーなど18年11月1日時点で104社・グループに上った。「より安定した年金制度を維持できる」(サッポロビール)という。企業年金の運用管理を受託するみずほ信託銀行によると「福利厚生の充実のために検討する企業が増えている」という。確定給付年金は運用不振で積み立て不足が生じると、企業は年金水準を維持するために掛け金を追加拠出して穴埋めする必要がある。90年代のバブル崩壊や08年のリーマン危機では株価の低迷などで巨額の積み立て不足が発生し、多くの企業で穴埋めを余儀なくされた。危機後には年金制度が企業経営を圧迫する事態の再発を防ごうと年金制度そのものを見直し、給付水準を下げる改革に踏み切る動きも相次いだ。今の企業の動きにはこうした悪循環を断ち切る狙いがある。リスク対応掛け金は株価急落などがあっても年金水準を維持できるように、企業業績に余力があるときに掛け金を本来必要な水準よりも多めに拠出しておくものだ。これにより企業年金の財政に「のりしろ」をつくり、将来、運用不振に直面しても積み立て不足に陥りにくくする。企業は突然、巨額の穴埋め負担を迫られるリスクが減り、経営の安定につながる。従業員にとっても年金財政が悪化して給付減額などを求められるリスクが減り、老後への備えが安定する利点がある。企業年金は確定給付型が主流だったが、リーマン危機後は従業員が運用先を決め、損失リスクも負う確定拠出年金に移行する企業が増えた。運用が好調だと将来の年金も増えるが、今は元本保証型などリスクを抑えた運用を選ぶ人が多い。掛け金にも上限があり、年金資産がなかなか積み上がらない課題がある。予防的拠出で確定給付型年金の安定性が高まれば、従業員の老後を支える福利厚生として存続・維持させる企業も増えそうだ。

*9-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13817684.html (朝日新聞 2018年12月19日) 09年度報酬、一部返却 「退任後払い」の発端か ゴーン前会長
 日産自動車の会長だったカルロス・ゴーン容疑者(64)が役員報酬を過少記載したとして逮捕された事件で、ゴーン前会長が、役員ごとの報酬の開示制度が導入された2009年度分について、いったん満額で受け取った後、一部を返却したとみられることが、関係者への取材でわかった。差額を退任後の支払いにして隠蔽(いんぺい)する仕組みのきっかけになった可能性があり、東京地検特捜部は詳しい経緯を調べている。特捜部は、10~17年度の8年間の報酬を立件対象にし、計約91億円を各年度の有価証券報告書(有報)に記載しなかったという金融商品取引法違反の罪で、ゴーン前会長と前代表取締役グレッグ・ケリー容疑者(62)を起訴、再逮捕した。09年度の返却分も退任後に受け取ることにしたとみられるが、特捜部は仕組みが明確に確立したのは10年度分からとみて、09年度は除外した模様だ。関係者によると、ゴーン前会長は09年度分として十数億円をいったん受け取った。しかし、09年度末となる10年3月施行の改正内閣府令で、1億円以上の報酬を得た上場企業の役員は、名前と金額の個別開示が義務づけられた。日産は09年度決算から対象となった。このため、ゴーン前会長は「高額報酬」批判を懸念して一部を返却。10年6月末に提出した有報には返却後の約8億9千万円と記載したとみられる。ケリー前代表取締役らに「返した場合、有報への記載は実際の受け取り分だけでいいのか」と確認し、「返却分の記載は不要」という回答を得て返したという。関係者によると、ゴーン前会長はこうした経緯を踏まえ、翌10年度分からは、報酬の約半分は退任後に受け取る仕組みを最初から採用した。「総報酬」「支払った報酬」「延期報酬」といった趣旨の3項目を記した11年作成の文書には、09、10年度の2年分がまとめて記載され、前会長が署名していたという。一方、ゴーン前会長は、「総報酬」について、米国の自動車大手3社の最高経営責任者の報酬の平均値であり、「希望額として了解したという意味で署名した」と供述。「延期報酬」分は「将来の受領が確定していない」と述べ、記載義務を否定しているという。

<女性の能力に対する過小評価について>
PS(2018年12月15日追加):有報への虚偽記載もあやしくなってきたせいか、2018年12月14日、日産は、*10-1のように、「理由なき利益」を日産から得ていたとしてゴーン氏の姉をブラジル・リオデジャネイロ州の裁判所に提訴する方針を固めたそうだ。ゴーン氏の姉は、リオでコンサルタント会社を経営していた2002年に日産とアドバイザー業務契約を結び、日産から年約10万ドル(約1130万円)の支出を受けたが、日産は「業務実態はなかった」として会社経費の不正支出にあたるとする。しかし、*10-2のように、ゴーン氏の姉は、ブラジル生まれのレバノン育ちで、フランスのリヨン大学を卒業し、パリ・デカルト大学(パリV)などの大学院で民族学研究をした後、1995年に「Netune Ltda」の責任者に就任し、2013年3月~2017年3月には、フランスとブラジルの商工会議所の会長を務めた人であり、アラビア語、フランス語、英語、ポルトガル語の4か国語を話すことができるため、強力な営業マンだったと考えることもできる。そのため、「業務実態がなく、理由なき支払いだった」というのが本当かどうかは慎重な吟味を要する。日本の社会通念では、「60代の女性が大した仕事をしていたわけがないため、業務実態のない不正支出だろう」と思うのかも知れないが、私も佐賀地裁唐津支部で佐川急便に提訴された時、「この人はパートくらいでしか働いたことがなく、何も知らないのだろう」と推測され、呆れたとともに不利益を蒙ったのでわかるわけである。

*10-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13812578.html (朝日新聞 2018年12月15日) 日産、ゴーン前会長の姉を提訴へ 
 日産自動車は14日、「理由のない利益」を日産から得ていたとして、前会長カルロス・ゴーン容疑者の姉をブラジル・リオデジャネイロ州の裁判所に提訴する方針を固めた。手続きに向けた準備を始めているという。日産によると、リオでコンサルタント会社を経営するゴーン前会長の姉は2002年に日産とアドバイザー業務契約を結び、日産から年約10万ドル(約1130万円)の支出を受けていたという。社内調査によると、姉に業務の実態はなかったといい、日産は会社経費の不正支出にあたるとみている。

*10-2:https://shiawase-no-tobira.com/carlos-ghosn-claudine-keireki-kaogazo-titioya-hahaoya-sister/ (わしろぐ) カルロスゴーン姉(Claudine)の経歴や顔画像は?父親と母親と妹についても
 カルロスゴーン姉(Claudine Bichara)の経歴や名前や顔画像があるのか調査していきます。カルロスゴーンは3人兄弟で、姉、ゴーン、妹の兄弟構成です。また、父親と母親と妹についても情報があるのかチェックしていきます。
●カルロスゴーン姉の経歴や顔画像は?
 名前は「クロディーヌ(Claudine Bichara)」というのが判明しています。ブラジル生まれ、その後、レバノンで育ちます。弟になるカルロスゴーンの誕生日が1954年3月9日ですので、年齢は64歳より上になりそうです(2018年11月23日現在)。カルロスゴーンが16歳でフランスに移住しますが、姉のクロディーヌは既にフランスに渡っています。クロディーヌはフランスのリヨン大学を卒業し、パリ・デカルト大学(パリV)などの大学院で民族学研究をしています。1995年に「Netune Ltda」というインターネット決済や電子取引の戦略などに関するコンサルティングサービスを提供する会社の立ち上げに協力し、責任者に就任します。2013年3月から2017年3月まで、フランスとブラジルの商工会議所の会長を務めます。現在、ブラジルのリオデジャネイロに住んでおり、日産リオのオフィスの昼食会に参加できる人物のようです。アラビア語、フランス語、英語、ポルトガル語の4か国語も話せます。
●カルロスゴーン姉も不正に関与?
 カルロスゴーンが姉に対して、業務実績がないのにコンサル料を支払っていたという報道がありました。姉はブラジルのリオに住んでいて、子会社に購入させたという住宅がブラジルにありますし、他にもありそうですね。(以下略)

<日本の資源と生産性について>
PS(2018/12/16追加): *11-1のように、COP24が、2018年12月15日、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」を運用する実施指針を採択したそうだ。内容は、地球温暖化防止のため化石燃料をやめることで、これについては、*11-2のように、(私の提案で)日本がリードして、1997年に「気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書」が採択されている。
 しかし、日本では「ハイブリッド車」止まりで、ゴーン氏率いる日産がEVを開発しても逆風を吹かせて足を引っ張り、三菱自動車が燃料電池車を開発しても黙殺してきた。このように、合理的な先端技術の実用化に時間をかけるのが我が国の生産性が低い原因であり、その後の世界競争を不利にしている。また、再エネで電力を作ればエネルギー資源はあるのに、「資源がない」と馬鹿の一つ覚えのように言っている“経済専門家”こそが、成長を阻害し国民を豊かにしない原因であり、これらは知識不足に由来するため、教育の充実が必要である。

*11-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO39011660W8A211C1MM8000/ (日経新聞 2018/12/16) パリ協定20年適用開始 COP24、実施指針を採択、温暖化防止へ一歩
 ポーランドで開かれている第24回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP24)は15日、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」を運用する実施指針について合意し、採択した。焦点だった資金支援や削減目標を巡って先進国と途上国が折り合い、パリ協定が2020年から適用される。世界各国は温暖化防止に向けて一歩を踏み出す。議長を務めたポーランドのクリティカ環境副大臣は「次の世代に持続可能な社会をつくるため、パリ協定を稼働させる時がきた」と語った。パリ協定は15年にパリで開いたCOP21で合意して16年11月に発効した。産業革命以前より気温上昇を2度未満に抑える目標を掲げて約180カ国が批准した。ただ削減に向けた詳細なルールが決まっておらず、20年からの適用に向けてCOP24で交渉していた。COP24は会期を1日延長して15日夜まで協議を続けた。資金支援については先進国が歩み寄り、フランスやドイツなどが途上国向けの基金を一定額増やすと表明した。また先進国が2年ごとに将来の支援額を新たに示すことにした。資金支援についてはパリ協定を採択した15年、先進国が20年までに年間1千億ドルを途上国へ拠出すると約束していた。ところが米トランプ政権が17年に協定から離脱を表明し、オバマ政権時代に約束した資金拠出を取りやめた。今後は米国分を先進国がどれだけ穴埋めできるか課題となる。焦点の一つだった削減目標や削減した総量の検証を巡っては、先進国と途上国で差をつけず客観的なデータの提出など共通のルールを導入することでも合意。途上国にも先進国と同じ情報公開を求めた。一方、海外での削減分を目標達成に利用する「市場メカニズム」と、温暖化ガスを削減する目標期間を5年か10年のどちらにするかは結論を19年以降に先送りした。各国が現行の削減目標の深掘りを進めることでも一致した。パリ協定は各国が温暖化ガスの削減目標を公表して2度未満の達成を目指していたが、10月に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2度未満に抑えても海面上昇による国土の消失や洪水のリスクが高まるとする「1.5度報告書」を公表。削減目標の上積みが議論されていた。COP24の合意で参加国は20年までに削減目標を現行より増やせるか検証したうえで再提出しなければならない。日本もこれまで30年度に13年度比で26%削減する目標を公表しているが、さらなる上積みを求められそうだ。

*11-2:https://kotobank.jp/word/%E4%BA%AC%E9%83%BD%E8%AD%B0%E5%AE%9A%E6%9B%B8-2793 (京都議定書)
「気候変動枠組条約」に基づき1997年に京都で開かれた「地球温暖化防止京都会議」で議決した議定書。正式名称は「気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書」。地球温暖化の原因となる、「温室効果ガス」の一種である二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素、HFCs、PFCs、六フッ化硫黄について、先進国における削減率を90年を基準に各国別に定め、共同で約束期間内に目標を達成することを定めている。2008年~12年の間に、日本はマイナス6%、アメリカはマイナス7%、EUはマイナス8%と各地域で削減率を設定。日本ではこれをもとに二酸化炭素排出削減運動が展開されており、「ハイブリッド車」や「クールビズ」などが大きく注目されるきっかけとなった。(以下略)

<パリ協定ルールの採択は、環境を重視する企業に追い風であること>
PS(2018年12月17、18日追加):地球温暖化だけでなく他の排気ガスも深刻な公害だが、*12-1のように、COP24でパリ協定の実施ルールが採択され、先進国・発展途上国とも厳しいルールの下で温室効果ガスの排出削減を進めることになったのは、結果として全ての排気ガスを削減できるのでよかったと、私は思っている。しかし、先進国と発展途上国の定義は曖昧であり、時間の経過とともに変わるものでもあるため、一人当たり排出量及び国全体の排出量で、きちんと定義しなおした方がよいと思われる。また、環境を壊して工場を立て公害を出しつつ操業した方が、自然を維持するよりもGDPが上がるというパラドックスは補正しなければならないため、地球ベースで環境税を徴収して自然や緑を維持する国にその面積に応じて配分するのがよいと考える。このような中、COP24の結果、再エネ・EV・ゼロエミッション住宅などの技術を持っている企業は、世界進出のチャンスだということは間違いない。
 なお、*12-2のように、英自動車最大手ジャガー・ランドローバーは数千人規模の人員削減を検討しているそうだが、アフリカやインドに進出したい企業は、まずイギリスに進出してイギリスと手を組むのも一案だろう。
 また、日立が、*12-3のように、スイスのABBから送配電・電力システム部門を買収することで最終合意したが、そのアクションは速かった。ただ、①ABBがまず対象事業を分社して日立が出資し ②1~2年かけて出資比率を高めて完全子会社化する というやり方では、肝心な集団はそれまでに配置転換してしまい、日立には残りしか移転して来ない可能性があるので要注意だ。なお、日立の蓄電池や燃料電池を組み合わせれば、再エネも容易に使いこなせるだろう。
 12月17日、*12-4のように、EUが2030年の自動車のCO2排出量を21年比で37.5%減らす規制案をまとめ、これはガソリン車やハイブリッド車の燃費改善では達成困難で、EVシフトがカギを握るとのことだ。そのような中、現在の日本には捨てている再エネ電力も多いのに、「EVシフトが急加速すれば電力需給が逼迫する」「電力需要増に対応する多額の投資コストをどう負担するか」などと言っているのは愚かだ。駐車している時間が長い自動車自身にも、スマートな太陽光発電を取り付ければよいのではないか?

   
2018.12.3東京新聞     AFP        JCCCA    2017.11.17毎日新聞 

(図の説明:左図のように、エネルギー由来のCO2排出は、総量では中国が1番・米国が2番だ。しかし、一人あたり排出量は、中2つの図のように、米国が最大でカナダ・ロシア・ドイツ・イギリス・日本と続く。また、右図のように、米国がパリ協定から離脱しようとしているが、これは先進国・途上国という人為的で不公平な分類を使わず、CO2排出量に応じてGlobalに環境税を課し、吸収量に応じてその国・地域に配分するルールにすれば阻止できると思う)

   
       ameblo          2018.12.17東京新聞   2018.12.6毎日新聞

(図の説明:パリ協定の構造は、左図のように、“先進国”“能力のある国”が“後進国”“開発途上国”に資金支援という施しをする形になっているが、この区別は曖昧で、時代とともに変化するものだ。そのため、世界環境機関を作って、CO2排出源(主に化石燃料)からGlobalに環境税を徴収し、CO2吸収源(自然や緑)の量に応じて配分して環境保全に努めるのが、論理的で不公平がないと考える。そうすると、化石燃料の使用を控えて自然や緑を守る行動が促される。なお、一番右の図で、日本は「検討中」と書かれているが、2030年以降は交通系に化石燃料を使わず、省エネを徹底し、発電方法も再エネに切り替えるのが、あらゆる意味でよいと思う) 

*12-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201812/CK2018121702000139.html (東京新聞 2018年12月17日) パリ協定のルール採択 COP24 全ての国に共通基準
 ポーランド・カトウィツェで開かれた国連気候変動枠組み条約第二十四回締約国会議(COP24)は十五日(日本時間十六日)、地球温暖化対策を進めるためのパリ協定の実施ルールを採択した。先進国と発展途上国が共通の厳しいルールの下で温室効果ガスの排出削減を進めることとなり、二〇二〇年の運用開始へ準備が整った。温暖化対策は国際的な仕組み作りに力を注ぐ段階を終えた。今後、深刻な被害を避けるために各国が脱炭素化への取り組みをどう強化するのか、具体的な行動が問われることになるが、米国が離脱を表明するなど先行きに不透明さも残る。議長を務めたポーランドのクリティカ環境副大臣は採択時の全体会合で「合意により、パリ協定の開始を確保できる。人類のために一歩を踏み出すことができた」と意義を強調した。交渉は三年にわたり、先進国と途上国で内容に差をつけるかどうかが焦点だった。採択されたルールは、二五年までに各国が出すことになる新しい削減目標や、削減の進み具合を検証する手法は、共通の厳しい基準を適用すると規定。詳しいデータの提出などが必要で、取り組みが透明化されて対策強化を促しやすくなると期待される。途上国への資金支援については、可能であれば先進国は二〇年から二年ごとに将来の拠出額を提示するよう求めた。削減目標を出さない国には順守委員会が対応するが、懲罰や制裁は科さないとした。パリ協定は一五年に採択され今月二日からのCOP24がルール作りに向けて設定された最後の場だった。会期後半は各国の環境相らが協議に加わって膠着(こうちゃく)状態の打開を図り、二日延長して十六日未明に閉幕した。

*12-2:http://qbiz.jp/article/145877/1/ (西日本新聞 2018年12月17日) 英ジャガー、数千人削減か EU離脱備えでコスト増
 英自動車最大手ジャガー・ランドローバーが数千人規模の人員削減を検討していることが16日分かった。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)電子版などが報じた。英国の欧州連合(EU)離脱に備えるためのコスト増加に加え、ディーゼル車の不振や中国での販売落ち込みが業績に響いていることが理由。報道によると、5千人規模の削減になるとの予測もある。来年1月にも正式に発表するという。EU離脱が英経済の軸である自動車産業に与える影響が広がりつつある。ジャガーは英国内で約4万人を雇用し、これまでも国内工場で人員削減や操業時間の短縮を実施してきた。FTによると、ジャガーは10月、1年半以内に10億ポンド(約1400億円)のコスト削減を実施することを明らかにしていた。

*12-3:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO39021920X11C18A2MM0000/ (日経新聞 2018年12月17日) 日立、ABBの電力システム事業買収で合意 午後発表
 日立製作所は17日、電気を発電所から企業や家庭に届ける送配電など電力システム事業で、世界最大手のスイスABBから同部門を買収することで最終合意した。買収総額は6千億~8千億円程度になるようだ。日立が手掛けるM&A(合併・買収)では過去最大。再生可能エネルギーの普及や新興国の電力網整備で成長が見込まれる同分野の海外展開を急ぐ。日立とABBが17日午後に記者会見を開いて発表する。ABBがまず対象事業を分社して日立が出資。1~2年かけて出資比率を高めることで完全子会社にする方針だ。段階的な買収とすることで事業環境が大きく変わるリスクなどを軽減する。日立は送配電で世界首位となり、企業全体の規模では重電分野2位の独シーメンスと肩を並べる。ABBは産業用電機の世界最大手で、電力部門では制御システムを含めた送配電設備の製造や運営を世界中で手掛ける。2017年の部門売上高は約103億ドル(約1兆1700億円)、営業利益率は約8%を確保している。設備納入だけでなく送配電システム全体の運用も手がけ、売上高の4割以上をサービスで稼ぐ。日立の電力・エネルギー事業の売上高は18年3月期で4509億円。営業利益率は6%弱にとどまる。発電設備のほか、送配電・変電設備、再生エネなどを幅広く手がけるが、国内事業が9割以上を占める。原発関連など主力の国内電力事業が不振のため、海外市場の開拓が課題になっていた。22年3月期の連結売上高営業利益率を10%と3年で2ポイント高める目標を掲げる。電力システム事業は電力会社などから発注を受けて変電所を建てたり、電線を敷設したりする。設備運営を受託し、停電を防ぐために電力網全体の需要と供給を調整する役割を担う。太陽光発電や風力といった再生エネは天候により発電量が大きく変わるため、IT(情報技術)を使った高度な制御システムの需要が高まっている。

*12-4:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO39095650Y8A211C1EA2000/?nf=1 (日経新聞 2018/12/18) EUが迫る電気自動車シフト 乗用車CO2 37.5%削減
 欧州連合(EU)は17日、2030年の自動車の二酸化炭素(CO2)の排出量を21年比で37.5%減らす規制案をまとめた。今後自動車メーカーごとに具体的な削減幅を決める方針だが、ガソリン車やハイブリッド車の燃費改善では達成は困難とみられる。各メーカーは新車の3分の1程度を電気自動車(EV)などに代替する必要があるとの見方もある。EUではこれまで執行機関である欧州委員会と、加盟国政府の意見を代表する閣僚理事会、欧州議会がそれぞれ別のCO2の排出規制案を打ち出して議論していた。欧州委員会(30%)や閣僚理事会(35%)の提案よりも厳しく、最も厳しかった欧州議会(40%)の提案に近い形での決着となった。今後、欧州議会と閣僚理事会の承認を経て正式決定する。EUは21年に乗用車1台の1キロメートル走行あたりのCO2排出量を全企業平均で95グラム以下とする目標を掲げ、欧州市場で自動車を販売する各社が取り組んでいる。非営利団体「クリーン交通の協議会(ICCT)」によると、この目標でも17年は119グラム。消費者のディーゼル車離れで16年より増えており、これを大きく上回る目標の実現は容易ではない。今回決めた37.5%の規制値はEU全体の削減幅であり、すべての乗用車に一律に適用するのではない。販売台数や車種構成にあわせてメーカーごとに異なる削減幅が割り当てられることになる。それでも燃費の良いディーゼル車とハイブリッド車の比率を高める既存の戦略の延長線上で対応できる目標とみる向きは少ない。カギを握るのがEVへのシフトだが、17年のEUの新車販売に占めるEVの比率はプラグインハイブリッド車(PHV)を含めても1.4%にすぎない。今回の規制は各メーカーにEVシフトの急加速を迫る内容といえる。EUが重視するのは温暖化ガスの域内排出量を30年までに90年比で40%削減するとした「パリ協定」だ。さらに11月には欧州委員会が50年までに「実質ゼロ」を目指す新目標を提案。温暖化ガス削減で世界を主導する姿勢をアピールしてきた。自動車へのCO2排出削減でも高めの規制を打ち出すのもその一環といえる。EU域内では17年以降、フランスや英国、オランダなどが相次いで30~40年にガソリン車やディーゼル車の販売を禁止する計画を公表。11月にはスペインも追随した。CO2排出規制の強化はこうした「脱ガソリン・ディーゼル」の動きと表裏一体だ。削減規制は自動車が対象だが、EVへのシフトで需要の高まる電力部門については、再生可能エネルギーの拡大などで温暖化ガス削減を急ぐ。ただ、自動運転や人工知能(AI)の普及による電力需要が増える中で、EVシフトが急加速すれば電力の需給が逼迫する可能性もある。電力需要増に対応する多額の投資コストをどう負担するかも課題となる。

<EV化を誘導する中国の政策>
PS(2018年12月20日追加): *13のように、中国政府は厳しい規制で自動車産業の高度化と環境対応を進める狙いで、2019年1月10日からガソリンなどを燃料とするエンジン車をつくる工場の新増設を規制するそうで、よいと思う。PHEVも、エンジン付のため、車体が重くて居住空間が狭く、部品が多くてコスト高(=価格高)にもなるため、これまでの雇用は守られても消費者にとってメリットが少ない。従って、日本のメーカーもEVかFCVに変更する時だろう。

*13:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13819401.html (朝日新聞 2018年12月20日) 「脱エンジン」中国加速 工場の新増設規制、生産を抑制 来月から
 中国政府は2019年1月10日から、ガソリンなど油を燃料にするエンジン車をつくる工場の新増設を規制する。完成車メーカーの新設による新工場建設を禁じるほか、既存メーカーの生産能力増強も制限する。日本メーカーの販売計画に影響する可能性もある。中国政府は現在、将来的なエンジン車の販売禁止に向けた計画の策定を進めており、まずは生産の抑制に乗り出す。厳しい規制を通じ、自動車産業の高度化と環境対応を進める狙いだ。国家発展改革委員会が10日付で出した「自動車産業投資管理規定」によると、中国国外で販売する場合を除き、エンジン車の生産メーカーの新設が禁止される。既存メーカーが生産能力を増やす場合も、過去2年の設備利用率が業界平均より高い場合などに限る。これまで新エネルギー車として優遇されてきたプラグインハイブリッド車(PHEV)も、エンジン車として規制対象になる。規定では、電気自動車(EV)を生産するメーカーの新設についても制限。建設規模は、乗用車が年産10万台、商用車は5千台を下回ってはならないことといった制限が加えられる。EVなどを普及させるための補助金目当ての「にわかEVメーカー」が乱立。こうした問題に対応する。日本メーカーでは、トヨタ自動車や日産自動車が、世界最大の市場である中国での販売増をねらい、工場の生産能力増強を計画している。規制にひっかかる場合は、今後の投資計画が狂う可能性もある。

<検察の姿勢と人権侵害>
PS(2018年12月22日):*14-1のように、ゴーン氏逮捕の争点となった「退任後の報酬」は、ゴーン氏はじめ司法取引に合意した日産の元秘書室長と外国人執行役員、東京地検特捜部、メディアがその仕組みを理解しているかどうかは怪しいが、確定拠出年金と同様、確実に受け取れる金額ではなく利子率の変化によって変わるものだと思われる。また、2018年3月期までの8年間に有価証券報告書に記載しなかった約91億円は、退職後に受領するものなので、受領時に認識して納税すべき退職慰労金と考えるのが普通だ。そのため、地検のステレオタイプで古い見立てに合う証言をするまで勾留したり、罪人呼ばわりしたり、粗末な場所に閉じ込めたりするのは、ゴーン氏だけでなく誰であっても人権侵害なのだ。従って、*14-2のように、東京地裁が2018年12月20日にゴーン氏とケリー氏の勾留延長を却下したのは英断だった。
 しかし、*14-3のように、東京地検特捜部は、2018年12月21日、新たな会社法違反(特別背任)を持ち出してゴーン氏を再逮捕して勾留を続けているので呆れる。容疑は*14-3・*14-4のように、①新生銀行との間で結んでいたスワップ契約による約18億円の損失を日産に付け替えた ②日産がオランダに設立した子会社「ジーア」とタックスヘイブン(租税回避地) にあるその子会社を通じて、レバノン・ブラジル・オランダ・フランスなどの高級住宅が購入され、ゴーン氏に無償提供された ③日産とゴーン氏の姉が実態のない「アドバイザリー契約」を結び、姉に年10万ドルが供与された ④日産が所有するジェット機を、日産の主要拠点がないレバノンへの往来に使用した ⑤娘の通う大学への寄付金や、家族旅行の費用にも会社資金が充てられていた などとされている。
 そのうち、①については、普通はドルか受取手が望む通貨で報酬を支払うため、日産が円でしか支払わないのは融通が利かなすぎる感があった。②については、所有権はまだ日産にあり、退職後に退職慰労金でジーアを購入すべく投資していたのであれば、ゴーン氏が言っていたことは首尾一貫する。さらに、③については、本当に実態がないかどうかわからず、④⑤については、現在は日産の主要拠点がなくても、日産の会長として中東に足掛かりを作る役に立っていたかも知れないため、既にある枠組みの中でルーチンワークしかしていない人には、トップの働きは理解できないのかも知れないと思えたわけである。

*14-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201812/CK2018121902000118.html (東京新聞 2018年12月19日) 報酬文書にゴーン容疑者ら反論 きょう逮捕1カ月 「動かぬ証拠」検察に戸惑いも
 日産自動車前会長カルロス・ゴーン容疑者(64)の衝撃の逮捕から、十九日で一カ月になる。事件の争点となっているゴーン容疑者の「退任後の報酬」は、確実に受け取れるものだったと言えるのか-。文書という物的証拠を握っているとして強気な検察当局と、文書の解釈を巡り真っ向から反論するゴーン容疑者側。想定以上のせめぎ合いに、検察当局の戸惑いも透ける。「まるで言葉遊びのようだ。こういう展開になるとは予想外だった」。ある検察幹部が肩をすくめる。ゴーン容疑者と前代表取締役グレゴリー・ケリー容疑者(62)が問われている金融商品取引法違反事件は、二〇一八年三月期までの八年間、ゴーン容疑者の実際の役員報酬は計約百七十億円だったにもかかわらず、計約九十一億円を有価証券報告書に記載しなかったというものだ。東京地検特捜部は逮捕の約五カ月前、日産の元秘書室長と外国人執行役員と司法取引(協議・合意制度)に合意し、複数の文書を入手していた。最も重視したのは、報酬額が一円単位で記された一連の書面。年によって書式は異なるが、本来の報酬は「固定報酬」、実際に受け取って有価証券報告書にも記載した報酬は「支払った報酬」、その差額は「延期された報酬」などと英語で書かれ、ゴーン容疑者と秘書室長がサインしていた。ある検察幹部は逮捕前から「単なる希望額だったら、おおよその金額を書くはず。一円単位で記載していたのは、受け取りが確定していた動かぬ証拠」とみていた。別の幹部も「たとえ黙秘でも立証できる」とにらんでいた。ところが、ゴーン容疑者は逮捕されると「後任の最高経営責任者(CEO)が支払ってくれるかは未知数」と反論。最近では、役員報酬は複数の代表取締役と協議して決めるのが日産のルールなのに、自分一人で決めていたとして、「手続きに誤りがあったので確定はしていない」と主張している。検事は当初の取り調べでは、書面を突きつけず、存在をちらつかせながら追及していたとされる。だが、最近はゴーン容疑者に「書面があるから大丈夫なんだ」「いくら争ってもダメだ」と追及することも。一連の書面作成を巡り、司法取引した二人と直接関わったとされるケリー容疑者には、「(二人が)あなたたちに不利な証言をしている。何を言っても無駄だ」と詰め寄ることもあるという。東京拘置所にいる両容疑者の元には、領事館関係者らが頻繁に接見に訪れるため、一日の取り調べは五時間程度。通訳を交えており、実質的な調べはより短時間になる。ケリー容疑者は接見した関係者に「検事は怒るけど、通訳を介すから迫力ないね」と余裕を見せることもあるという。一方、捜査の過程では、退任後にどのような名目で支払うか検討した文書に、日産の西川(さいかわ)広人社長のサインがあったことも明らかに。ともに文書にサインしていたケリー容疑者は「今年九月、西川社長と『(支払いは)まだ確定したものではないよね』とやりとりした」と供述。特捜部は慎重に経緯を調べている。

*14-2:http://qbiz.jp/article/146118/1/ (西日本新聞 2018年12月20日) ゴーン前会長らの勾留認めず 東京地裁 近く保釈の可能性
 東京地裁は20日、金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の疑いで再逮捕された日産自動車の前会長カルロス・ゴーン容疑者(64)と、前代表取締役グレゴリー・ケリー容疑者(62)の勾留延長を認めない決定をした。20日が勾留期限だった。東京地裁が東京地検特捜部の勾留延長を認めないのは異例だ。検察側が準抗告を検討する。最初の逮捕から約1カ月。近く保釈される可能性がある。欧米を中心に長期勾留への批判が出ていた。2人は共謀し、ゴーン容疑者の2016年3月期〜18年3月期の役員報酬が実際は計約71億7400万円だったのに、計29億400万円と過少に記載した有価証券報告書を関東財務局に提出したとして、10日に再逮捕された。11年3月期〜15年3月期には計約48億6800万円少なく記載したとして起訴されている。受領を退任後に先送りした分を記載していなかったとされる。関係者によると、2人は「退任後の報酬は確定しておらず、報告書への記載義務はない」と否認している。

*14-3:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2018122190140234.html (東京新聞 2018年12月21日) ゴーン前会長、再逮捕 保釈見通し一転、特別背任疑い
 日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告(64)=金融商品取引法違反罪で起訴=が、私的な投資で生じた約十八億五千万円の損失を日産に転嫁するなどして会社に損害を与えたとして、東京地検特捜部は二十一日、会社法違反(特別背任)の疑いでゴーン被告を再逮捕した。東京地裁は二十日、地検が求めていたゴーン容疑者の勾留の延長を却下しており、保釈請求が認められれば二十一日にも保釈される可能性が浮上していた。ともに起訴された前代表取締役グレゴリー・ケリー被告(62)の弁護人は同日午前、地裁に保釈を請求。ゴーン容疑者は今回の再逮捕によって、さらに勾留が続く可能性が高まった。再逮捕容疑などでは、ゴーン容疑者は二〇〇八年十月、自身の資産管理会社と新生銀行との間で、通貨デリバティブ(金融派生商品)のスワップ取引を行っていたところ、評価額約十八億五千万円の損失が発生。この損失を含むすべての権利を日産に移し、損害を与えたとされる。また、この損失の付け替えに尽力した関係者が営む会社の口座に、〇九年六月から一二年三月までの間、四回にわたり、日産の子会社名義の口座から千四百万ドル(約十六億三千百万円)を振り込み、日産に損害を与えたとされる。関係者によると、ゴーン容疑者はかねて私的な投資をしていたが、〇八年秋のリーマン・ショックによる円高で多額の損失が発生。「飛ばし」の手法で約十八億五千万円の損失を日産に肩代わりさせたという。ゴーン容疑者はこの疑惑が報じられた先月下旬、弁護人に「当局から違法との指摘があり、付け替えは実行しなかった。日産に損失を与えていない」と説明したという。ゴーン容疑者は損失を含む権利を日産に移した後、再び資産管理会社に権利を戻したとされる。特捜部は権利を移した時点で特別背任は成立するとみている。特別背任の公訴時効は七年だが、海外に滞在している期間は除外されるため、立件が可能となった。
<特別背任>会社法で規定。取締役など特定の地位にある者が自分や第三者の利益のために任務に背く行為をし、会社に損害を与えた場合、10年以下の懲役か1000万円以下の罰金が科される。会社の経営に携わる立場での背任行為は大きな責任が問われるため、刑法の背任罪より法定刑が重い。

*14-4:https://mainichi.jp/articles/20181221/k00/00m/040/069000c?fm=mnm (毎日新聞 2018年12月21日) ゴーン前会長再逮捕 地検の経費不正疑惑の解明に注目
 会社法違反(特別背任)容疑で21日に再逮捕された日産自動車前会長のカルロス・ゴーン容疑者(64)を巡っては、会社資金の流用や、経費の不正使用とみられる疑惑が次々に浮上していた。東京地検特捜部の捜査で、数々の疑惑がどこまで解明されるか注目が集まっている。ゴーン前会長については、銀行との間で結んでいたスワップ契約による私的投資で受けた約18億円の損失を、2008年に日産に付け替えた不正経理疑惑が判明していた。この疑惑が今回の再逮捕容疑となったが、証券取引等監視委員会が当時、取引に関わった銀行に実施した検査で明らかになったとされていた。私的流用とみられる疑惑は他にもある。日産がオランダに設立した子会社「ジーア」とタックスヘイブン(租税回避地)の会社などを通じて流れた資金で、レバノンやブラジル、オランダ、フランスなどの高級住宅が購入され、前会長に無償提供されていた疑惑が浮上した。前会長はこの疑惑を否定しているとされる。また、日産と前会長の姉が実態のない「アドバイザリー業務契約」を結び、姉に年10万ドルが供与されたことも明らかになった。前会長は「正当な理由がある」と説明しているという。他にも、日産が所有するジェット機1機を、会社の主要拠点がないレバノンへの往来に使用した問題も指摘されていた。さらに、娘の通う大学への寄付金や、家族旅行の費用にも会社資金が充てられていた疑惑が浮上している。送金に関わっていたとされる社員らは特捜部に任意で事情聴取され、送金の詳細を説明している模様だ。「前会長は外出してのどが渇いて、部下に水を買わせる時も会社持ちだった。何から何まで会社のお金を使っていた」。日産関係者はそう声をひそめた。ゴーン前会長の私的流用は、ともに逮捕された前代表取締役のグレッグ・ケリー被告(62)=金融商品取引法違反で起訴=が、外国人執行役員らに具体的に指示していたとみられる。特捜部は送金記録を入手し、裏付け捜査を進めているとみられる。

<とにかくゴーン氏を陥れようとするのは、公正でないこと>
PS(2018年12月23日追加):*15-1・*15-2に、「①ゴーン氏再逮捕の理由は、自身の資産管理会社で生じた損失を日産に付け替え、さらに日産の資金約16億円を第三者に流出させた特別背任容疑」「②日産は逮捕容疑を踏まえ、ゴーン氏に損害賠償請求を検討する」「③ゴーン氏の資産管理会社(どこか?)が新生銀行と締結していた通貨取引に関するスワップ契約で損失を抱え、損失を含むこのスワップ契約を日産に移転し、約18億5000万円の評価損を負担する義務を日産に負わせた」「④この契約移転が証券取引等監視委と監査法人から相次いで問題視されたので、資産管理会社にスワップ契約を再移転した」「⑤ゴーン氏のサウジアラビアの知人が信用保証に協力し、この知人が経営する会社に日産子会社の口座から1470万ドル(現在のレートで約16億円)を振り込ませた疑いもある」と、ゴーン氏が業務上横領・特別背任の重罪を犯したかのように記載されている。
 しかし、③④については、ゴーン氏は監査法人から指摘されて契約を再移転し、その後、監査法人は適性意見を出しているので、日産に損失はなく、②は当たらない。そして、監査法人が、事前にこのような指導的機能を発揮して適性意見に導くことはよくある。さらに、新生銀行には全く瑕疵がなく、証券取引等監視委から問題視される理由がないため、証券取引等監視委は特捜に頼まれて嘘の証言をしているのではないかと思われる。
 また、①⑤のサウジアラビア人の知人が信用保証に協力し、日産子会社の口座から1470万ドル(約16億円)を振り込ませた疑いというのは、*15-3のように、ゴーン氏の直轄費から出したのであれば、企業には役員に認められた(ある程度の)使途不明金や交際費はよくあるため問題ない。さらに、*15-4には、「ゴーン氏が私的な損失を日産に付け替えたなどとして逮捕された特別背任事件で、ゴーン氏は取締役会で、全ての外国人取締役の役員報酬を外貨に換える投資を行う際の権限を、側近の秘書室幹部に与えるという決議をさせていた」と書かれているが、海外赴任した従業員の給料・報酬などは、通常は人事部で本人が必要とする通貨で支払うように決定し、通貨スワップ等は財務部が行う。しかし、日産の外国人役員は円でしか報酬をもらえなかったため、ゴーン氏が全ての外国人取締役を対象として自らの秘書室でそれを行うこととし、それに対して取締役会決議を得たのなら、むしろ気の毒なくらいで問題ない。つまり、何でもゴーン氏が悪いかのように言うのは、不公正でよくない。
 なお、*16のような冤罪事件は多く、不当に拘束された人は人生を台無しにされるため、死刑制度さえ廃止すればよいというものではない。つまり、「司法がメンツや信用を保つためなら、個人の人権を侵害してもかまわない」と考えていること自体を変えるべきであり、メディアは、日本でも無罪の推定が働くのだから、裁判で罪が確定するまでは、自らがさも偉いかのような言い方で人を罪人と呼ぶ浅はかな報道は止めるべきだ。

*15-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181222&ng=DGKKZO39285720R21C18A2MM8000 (日経新聞 2018年12月22日) ゴーン元会長、再逮捕 日産から16億円流出か、損害賠償請求へ
 東京地検特捜部は21日、日産自動車元会長のカルロス・ゴーン容疑者(64)を会社法違反(特別背任)容疑で再逮捕した。自身の資産管理会社で生じた損失を日産に付け替え、さらに同社の資金約16億円を第三者に流出させた疑いが判明。日産は今回の逮捕容疑を踏まえて会社が受けた損害額を精査し、ゴーン元会長に対する賠償請求を検討する。今回の逮捕容疑はゴーン元会長による「会社の私物化」の疑いを強める構図。保釈の可能性が高まるなかで特捜部は3回目の逮捕に踏み切り、勾留はさらに長期化する見通しとなった。関係者によると、再逮捕容疑の発端は2008年のリーマン・ショックに伴う急激な円高。ゴーン元会長の資産管理会社は、新生銀行と締結していた通貨取引に関するスワップ契約で巨額の損失を抱え、銀行から担保不足を指摘された。新たな逮捕容疑の一つは、08年10月、このスワップ契約を損失を含めて日産に移転し、約18億5000万円の評価損を負担する義務を日産に負わせたというものだ。ところがこの契約移転が一部で問題視され、資産管理会社にスワップ契約を再移転することになった。この際、ゴーン元会長のサウジアラビアの知人が信用保証に協力したという。09~12年、自分と知人の利益を図り、知人が経営する会社に対し日産子会社から計1470万米ドル(現在のレートで約16億円)を振り込んだというのが2つ目の容疑だ。関係者によると、ゴーン元会長は調べに対し容疑を否認している。損失付け替えでは結果的に契約を再移転しており「日産の損失はない」と主張。知人には「日産のための仕事をしてもらっていた」とし、振り込みは業務の対価だと説明しているという。今後の捜査では、特別背任罪の構成要件である「自己または第三者の利益を図る目的」と日産の「財産上の損害」を立証できるかが焦点となる。今回の逮捕容疑は日産の内部調査では突き止められず、特捜部の捜査によって判明。司法取引で合意した日本人の幹部社員の証言や提出資料が重要な役割を果たしたという。幹部社員は秘書室長としてゴーン元会長を長年支えた側近だった。逮捕容疑の一部は約10年前の行為だが、ゴーン元会長は海外滞在が長く、特捜部は特別背任罪の公訴時効(7年)は成立していないと判断した。特捜部は10日、金融商品取引法違反の罪でゴーン元会長らを起訴し、同法違反容疑で再逮捕した。20日に東京地裁に勾留延長を請求したが却下され、保釈の可能性が出てきたため、予定を早めて新たな容疑で逮捕したとみられる。3回目の逮捕容疑について22日にも地裁に勾留請求する見通しだ。

*15-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181222&ng=DGKKZO39298300S8A221C1MM0000 (日経新聞 2018年12月22日) ゴーン元会長の損失移転問題 監視委・監査法人が指摘
 日産自動車元会長のカルロス・ゴーン容疑者(64)の特別背任事件で、ゴーン元会長が私的な金融取引の損失を日産に付け替えた後、証券取引等監視委員会と監査法人から相次いで問題視されていたことが22日、関係者の話で分かった。外部の指摘を受け、ゴーン元会長は損失を自身の資産管理会社に再移転したという。損失付け替えは再移転で解消された形だが、特捜部は、いったん付け替えを実行した時点で日産に損害が生じており、会社法違反の特別背任罪が成立すると判断しているもようだ。ゴーン元会長は2008年10月、自身の資産管理会社が運用していたデリバティブ取引の契約を日産に移転し、評価損約18億5000万円を負担する義務を日産に負わせた疑いが持たれている。関係者によると、ゴーン元会長の資産管理会社が契約していた新生銀行の関連会社に監視委の検査が入った際に損失付け替えが発覚。日産の取締役会の議決を経ていないなど、コンプライアンス上の問題があると指摘された。同じころ、日産を担当する監査法人も会計監査の過程で付け替えを把握。「会社が負担すべき損失ではなく、背任に当たる可能性もある」との指摘が日産側にあったという。外部からの相次ぐ指摘を受け、ゴーン元会長はデリバティブ取引の契約を自身の資産管理会社に再移転することにした。この際、巨額の評価損に対応する追加担保が必要になり、サウジアラビアの知人の協力により信用保証を得ることができたという。ゴーン元会長はこの知人が経営する会社の預金口座に日産子会社の口座から1470万ドル(現在のレートで約16億円)を振り込ませた疑いも持たれている。関係者によると、ゴーン元会長は特別背任の容疑を否認。損失付け替えについては、結果的に契約を再移転していることなどから「日産の損失はなく、背任には当たらない」と主張している。知人への支払いは日産のための業務の対価だったと説明し、日産には損害を与えていないとしているという。

*15-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181223&ng=DGKKZO39312900S8A221C1MM8000 (日経新聞 2018年12月23日) ゴーン元会長、CEO直轄費から捻出か 流出の16億円
 日産自動車元会長のカルロス・ゴーン容疑者(64)の特別背任事件で、日産からゴーン元会長の知人側に流出したとされる約16億円は「CEO reserve」と呼ばれる最高経営責任者(CEO)直轄の費用枠から捻出された疑いがあることが22日、関係者の話で分かった。東京地検特捜部は21日、約16億円の支払いにより日産に損害を与えたなどとする特別背任容疑でゴーン元会長を再逮捕した。一方、ゴーン元会長の弁護人によると、ゴーン元会長は「知人が日産のために行ったサウジアラビアでのトラブルの解決などへの対価だった」と容疑を否認している。ゴーン元会長は2008年10月、自身の資産管理会社が締結していたデリバティブ取引の契約を日産に移転し、約18億5千万円の評価損を同社に付け替えた疑いがある。その契約を自身の資産管理会社に戻した際に協力した知人の会社に対し、日産子会社から計1470万米ドル(現在のレートで約16億円)を振り込み入金させた疑いも持たれている。関係者によると、知人はサウジアラビアで会社を営む実業家で、日産から契約を再移転する際の信用保証を手助けした。当時CEOだったゴーン元会長は、必要に応じて使途を決められる「CEO reserve」と呼ばれる費用枠を持っており、知人側への資金もこの枠から日産子会社を経由して支出された可能性があるという。

*15-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13824319.html (朝日新聞 2018年12月23日) 秘書室幹部に特別な権限 損失付け替え可能に ゴーン前会長
 日産自動車の会長だったカルロス・ゴーン容疑者(64)が私的な損失を日産に付け替えたなどとして逮捕された特別背任事件で、前会長が取締役会で、全ての外国人取締役の役員報酬を外貨に換える投資を行う際の権限を、側近の秘書室幹部に与えるという特別な決議をさせていたことが、関係者への取材でわかった。一般的なルールを装ったこの決議で、自らの報酬の投資で生じた損失を、他の取締役には隠したまま付け替えたとみられる。東京地検特捜部などによると、ゴーン前会長は2006年以降、自身の資産管理会社と新生銀行の間で、金融派生商品であるスワップ取引を契約。前会長が「日本円で受け取った報酬をドル建てにするため」と説明するこの契約で、08年秋のリーマン・ショック前後に、円高による多額の評価損が発生した。ゴーン前会長は同年10月、契約の権利を資産管理会社から日産に移し、約18億5千万円の評価損の負担義務を日産に負わせた疑いがある。関係者によると、銀行側は、日産の取締役会で権利移転の承認を得るよう求めた。だがゴーン前会長は「円建てで報酬を得ている全ての外国人取締役の利便を図るため」として、外貨に換える投資を行う際の権限を、秘書室幹部に与える議案を取締役会に諮った。そのまま議決されたという。ゴーン前会長は、この権利を再び自分に戻した際の信用保証に協力したサウジアラビアの実業家に、アラブ首長国連邦(UAE)の子会社「中東日産」を介して1470万ドル(現在のレートで約16億3千万円)を入金した特別背任容疑でも逮捕された。関係者によると、前会長は「サウジの日産販売店で起きたトラブルの処理や、中東から投資を集めてもらった報酬」として、最高経営責任者(CEO)の裁量で使える資金から支払ったと供述。容疑を否認しているという。

*16:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130612-00010004-wordleaf-soci (Yahoo 2013/6/12) 東京電力女性社員殺害事件から考える冤罪の背景
 1997年の東京電力女性社員殺害事件で再審無罪となったネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリ氏を支援し続け目的を果たして解散していた「ゴビンダさんを支える会」が、この事件での教訓を生かし、2013年6月8日「なくせ冤罪! 市民評議会」として新たな活動をスタートしました。冤罪事件の背景には検察による「供述調書」の作成における問題点があると言います。
■事件の経緯
 「捜査・公判活動に特段の問題はなかったと考えているが、結果として、無罪と認められるゴビンダ・プラサド・マイナリ氏を、犯人として長期間身柄拘束したことについては、誠に申し訳なく思っている。」2012年10月29日の東京電力女性社員殺害事件再審初公判後、青沼隆之東京高検次席検事のコメントです。11月7日の再審判決当日、ゴビンダさんは「どうして私が15年間も苦しまなければならなかったのか、日本の警察、検察、裁判所はよく考えて、悪いところを直してください。」とコメントしました。1997年3月19日、東京都渋谷区円山町のアパートで、東京電力に務める39歳の女性が絞殺死体で発見され、同年5月20日、現場の隣のビルに住んでいたインド料理店店員のネパール人、ゴビンダさんが逮捕されました。決め手とされたのは、現場の鍵を持って居たことと、目撃証言でした。2000年4月14日に一度無罪判決を言い渡されましたが、同年12月22日、現場に残されたDNAなどを理由に逆転有罪、無期懲役判決を言い渡されました。ゴビンダさんは、獄中から再審を請求、様々な支援を得て、2011年に東京高検がDNA鑑定を実施し、遺体に付着していたDNAとゴビンダさんのDNAが一致しないことが判明しました。それでも、検察はゴビンダさんが犯人である可能性を主張し続けていました。
■報道の過熱による人権侵害
 この事件は、冤罪事件だったという警察・検察・裁判所の在り方だけではなく、マスコミをはじめとしたメディアの報道の在り方も議論の的になりました。捜査が進む中で、被害者女性が、大企業の管理職であり経済的な問題はなかったにも関わらず、対照的ともいえる私生活での事実が発覚し、マスコミの報道は過熱、事件とは直接関係のないプライベートまで暴露報道するようになり、被害者の家族が警察に抗議するに至りました。東京法務局は、行き過ぎた内容は人権侵害に当たるとして再発防止の勧告をし、スキャンダラスな報道は沈静化しましたが、たくさんの問題点があらわになりました。
■黙秘によって意に反する供述調書の作成を阻止
 警視庁はかなり早い段階からゴビンダさんを犯人だと決めつけていた、といいます。ゴビンダさんは不法滞在だったうえ、被害者とプライベートでの関係があったため、検察が調書を作りやすかったのでは、という議論もありました。この事件に関してお話を伺ったリンク総合法律事務所の梅津竜太弁護士によれば、冤罪事件の場合、意外に見落とされるのは「供述調書」の問題だと言います。「供述調書は検察官が作ります。被告人は、検察官が書いた供述調書の内容を確認して、押印するわけですが、細かいところをちゃんとチェックせずに、概ね合っていれば押さされてしまうことも多いんです。外国人などコミュニケーション能力が低い場合、もちろん通訳などはつくのですが、しっかりとチェックするのは難しいでしょう。」つまり「自白」とされている「供述調書」は自白自体ではなくて、自白を聞いて検察官が作成したものだということです。弁護人は、捜査段階の初めから、完全黙秘を貫く方針を取りました。これに対して「弁護人が捜査妨害をしてきた」などと言っている捜査関係者もあるといいます。しかし、上記のような背景事情がある以上、完全黙秘という方針を取らない限り、ゴビンダさんの意に反する供述調書が作られていた可能性は否定できません。仮にそうした調書が作成されていれば、今回の無罪判決はなかったのではないかと思います。「検事の作文」が真実として報道され、世論を形成してしまっている可能性があるわけです。日本の刑事事件の有罪率は99.9%という世界でも極めて高い水準を保っています。つまり起訴された時点で有罪はほぼ確定してしまいます。その理由として、検察官は情状を考慮して起訴しないことができる「起訴便宜主義(刑事訴訟法248条)」が機能していることが挙げられますが、あくまでも一要因に過ぎません。刑事裁判は、「疑わしきは罰せず」という原則があります。また「十人の真犯人を逃すとも一人の無辜(無罪の人)を罰すなかれ」という格言もあります。とはいえ、日々、冤罪事件が明るみに出ています。そしてその事実は、晴れることのない無数の冤罪の存在を証明していると言えます。警察の持つ捜査権限の強大さ、検察官が独占する起訴の選別、そして捜査書類中心の公判について、多くの人が知り、自分事と捉えて意見を持つことが必要ではないでしょうか。

<ゴーン氏に特別背任はあったか>
PS(2018/12/27、28追加): *17-3のように、ケリー氏が保釈されたが、取締役であるのに、取締役会や株主総会への出席に裁判所の許可が必要というのは解せない。また、首の手術をするとのことだが、それができる医師は日本でも少ないため、住居制限や海外渡航禁止があるのなら、しばらく様子を見た方が安全だと思われる。
 ゴーン氏については、*17-1、*17-2のように、東京地検特捜部は、2009~12年、ゴーン氏が日産子会社からサウジアラビアの知人に「販促費」「販売委託料」等として約1470万ドルを支出させたのは、実際には販促活動ではなく日産に損害を与えたので特別背任だとしている。そして、この支出は、2008年のリーマン・ショックに伴う急激な円高で、ゴーン氏の私的な資産管理会社(ジーア社?)が通貨スワップで評価損を抱えたため、契約相手の銀行側から担保不足を指摘され、①契約当事者を資産管理会社から日産に移転して約18億5000万円の評価損負担義務を付け替えた ②4カ月後に契約を資産管理会社に戻して担保不足にサウジアラビアの銀行から信用保証を得るため、サウジアラビアの知人に協力してもらった ③ゴーン氏は「業務の正当な報酬だった」としている ④約1470万ドルは、ゴーン氏が必要に応じて使途を決められる「CEOreserve」から「販売促進費」等の名目で「中東日産会社」を通じて支払われた という内容で、現在は「損害の有無」と「支出の趣旨」が主な対立点となっているそうだ。
 しかし、①については、日産は4か月間信用保証したが実損はなく、②のように、ゴーン氏は指摘を受けて契約を資産管理会社(誰の所有?)に戻し、数千万円の信用保証料や手数料はゴーン氏が負担したそうだ。さらに、本来なら日産が行うべき外為リスクの回避策が行われていないため、ゴーン氏自身が行ったものだろう。そのため、特捜部がこの一時的な損失付け替えをもって特別背任とするのは行き過ぎだと考える。さらに、サウジアラビアの知人が日産のためにサウジで政府や王族に対するロビー活動やトラブル解決などに尽力していたというのは、新しい市場を開くにあたって、国によってはロビー活動や*18のような袖の下が必要になることもある(25年前だが、私が中国深圳市に進出した日本企業の監査に行った時、その企業の社長が「袖の下を渡すことを知らず、いつまでも通関してもらえなかった」とこぼしていたことがある)。そのため、世界中が日本と同じ状況だと勘違いして行き過ぎた批判をしていると、日本企業の世界進出をやりにくくする。さらに、トラブル解決費は、日産がブレーキ性能の検査等で騒がれているのに世界でクレームが少ないのは、ゴーン氏のこういう支出のおかげではないのか?
 なお、サウジアラビアが女性に運転免許を解禁したため、これから中東は女性好みのEVを販売するよい市場となって顧客をつかむチャンスであり、技術は売れて初めて磨かれるにもかかわらず、このようにサウジアラビアの王族や販促に協力している人から反感を買うような営業感覚の鈍さがあるのは、世界市場への展開を危ぶませる。
 2018年12月28日には、日経新聞はじめ各メディアが、*17-4のように、ゴーン氏の信用保証に協力したのはサウジアラビアの財閥創業家出身で、同国中央銀行理事も務めるハリド・ジュファリ氏で、同氏は、日産が中東の販売業務支援のために設立した合弁会社の会長も務めていたと報じている。そのため、1470万ドルは「日産の業務の正当な対価」で、信用保証料はゴーン氏が自ら負担した数千万円に含まれると考えるのが妥当であり、東京地検特捜部のどうしても不正にこじつけたがる捜査は次元が低すぎると思う。

*17-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO39319590T21C18A2CC1000/ (日経新聞 2018/12/23) 知人への16億円、「販売促進費」名目で ゴーン元会長
 日産自動車元会長のカルロス・ゴーン容疑者(64)の特別背任事件で、日産からゴーン元会長のサウジアラビアの知人側に流出したとされる約16億円が「販売促進費」などの名目で支出されていたことが23日、関係者の話で分かった。東京地検特捜部は販促活動などの実態はなかったとみている。ゴーン元会長は「業務の正当な報酬だった」と反論しているという。逮捕容疑では、ゴーン元会長は2009~12年、日産子会社から知人が経営する会社に対し計約1470万ドル(現在のレートで約16億円)を支払わせ、日産に損害を与えたとされている。関係者によると、知人側への約16億円は、当時最高経営責任者(CEO)だったゴーン元会長が必要に応じて使途を決められる「CEO reserve」(CEO予備費)から捻出。「販売促進費」などの名目で、中東での販促などを担当しているアラブ首長国連邦の子会社「中東日産会社」を通じて支払われたという。この知人は09年初めごろ、ゴーン元会長の私的な金融取引の損失を巡って銀行に対する信用保証に協力。約16億円は、知人が経営している会社の預金口座に対し09年6月から12年3月にかけて4回に分けて振り込まれていた。特捜部は、知人が経営する会社は日産の販促に関わる業務を手掛けておらず、巨額の支払いに見合う活動実態はなかったと判断。信用保証に協力した見返りなどの趣旨だった疑いがあるとみているもようだ。一方、弁護人によると、ゴーン元会長は知人についてサウジアラビアのビジネス界の重要人物であると説明。日産のために同国の政府や王族へのロビー活動を担っていたほか、日産と現地販売店の間で深刻なトラブルが生じた際に解決に尽力するなどし、約16億円はこうした業務への正当な報酬だったと主張しているという。ゴーン元会長の私的な資産管理会社は08年のリーマン・ショックに伴ってデリバティブ取引の契約で巨額の評価損を抱え、契約相手の銀行から担保不足を指摘された。ゴーン元会長は担保の追加に応じず、08年10月に評価損ごと契約を日産に移転。しかし、証券取引等監視委員会などから契約移転を問題視され、09年2月ごろに契約を資産管理会社に戻したとされる。この際に改めて担保の不足が問題になり、サウジアラビアの知人が銀行に対する信用保証に協力したという。

*17-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?ng=DGKKZO39422390W8A221C1M10800 (日経新聞 2018年12月27日) 「会社に損害」か「正当な支出」か
 カルロス・ゴーン元会長の3度目の逮捕は会社法違反の特別背任容疑。私的な金融取引で生じた巨額損失を日産自動車に一時付け替え、さらに会社の資金約16億円を知人に流出させた疑いがあるとして、東京地検特捜部は「会社私物化」の疑惑に正面から切り込んだ。2008年のリーマン・ショックに伴う急激な円高によって、ゴーン元会長の私的な資産管理会社は通貨取引のスワップ契約で巨額の評価損を抱え、契約相手の銀行側から担保不足を指摘された。ゴーン元会長は担保の追加を拒み、08年10月、契約当事者の立場を資産管理会社から日産に移転。約18億5000万円の評価損を負担する義務を付け替えたという。約4カ月後の09年2月ごろには契約を再移転して資産管理会社に戻したが、その際に評価損の担保不足を巡ってサウジアラビアの知人が約30億円の信用保証で協力した。ゴーン元会長は09~12年、この知人が経営する会社に対し、日産子会社から計約1470万ドル(現在のレートで約16億円)を支出させたとされる。こうした事実関係についてはゴーン元会長側もほぼ認めており、「損害の有無」と「支出の趣旨」が主な対立点となっている。損失付け替えについて特捜部は、たとえ一時的だったとしても「評価損を負担する義務」を負わせたことは会社に損害を与える行為であると判断している。対するゴーン元会長は、契約移転中に定期的な精算で生じた数千万円の支払いも自ら負担しており、「日産に実損はない」と反論している。知人側に支出された約16億円を巡っては、「販売促進費」などの支出名目に実態はなく、信用保証への謝礼などの趣旨だったというのが特捜部の見方。一方、知人は日産のためにサウジで政府や王族に対するロビー活動、トラブル解決などに尽力しており「正当な報酬だった」とゴーン元会長は主張している。特捜部は、当時秘書室長の立場で損失付け替えなどの実務を担った元幹部社員と司法取引で合意し、捜査の支えとなる証言や証拠を得ているとみられる。さらに捜査を進め、証拠によってゴーン元会長の反論を突き崩せるかどうかが問われる。

*17-3:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20181226&c=DM1&d=0&nbm=DGKKZO39377820V21C18A2EA1000&ng=DGKKZO39341130V21C18A2EA1000&ue=DEA1000 (日経新聞 2018年12月26日) ケリー役員 保釈 取締役会出席、許可必要に
 日産自動車元会長のカルロス・ゴーン容疑者(64)の報酬過少記載事件で、東京地裁は25日、元代表取締役、グレッグ・ケリー被告(62)の保釈を認める決定をした。保釈保証金は7000万円で即日納付。東京地検の準抗告も棄却し、ケリー役員は同日夜、最初の逮捕から約1カ月ぶりに東京・小菅の東京拘置所を出た。関係者によると、保釈には住居の国内制限、海外渡航の禁止のほか、西川広人社長兼最高経営責任者(CEO)ら事件関係者との接触禁止などの条件が付いた。取締役会や株主総会に参加する場合、事前に裁判所の許可が必要となる。

*17-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181228&ng=DGKKZO39458140X21C18A2CC1000 (日経新聞 2018年12月28日) ゴーン元会長「知人」はサウジ財閥創業家出身 ハリド・ジュファリ氏、30億円保証 日産と合弁の会長も
 日産自動車元会長のカルロス・ゴーン容疑者(64)の特別背任事件で、ゴーン元会長の私的損失を巡って信用保証に協力したのはサウジアラビアの財閥創業家出身で、同国の中央銀行理事も務めるハリド・ジュファリ氏だったことが27日、関係者の話で分かった。日産が中東の販売業務支援のために設立した合弁会社の会長も務めていたという。ジュファリ氏経営の会社には2009~12年、日産側から1470万ドル(現在のレートで約16億円)が入金されており、東京地検特捜部は信用保証の謝礼などの趣旨だったとみて調べている。弁護人によるとゴーン元会長は「日産のための業務の正当な対価であり、謝礼の趣旨はない」と主張しているという。関係者によると、ジュファリ氏はサウジアラビアの財閥「ジュファリ・グループ」の創業家出身。同国有数の複合企業「E・Aジュファリ・アンド・ブラザーズ」の副会長のほか、同国の中央銀行理事も務める。ジュファリ氏が経営する会社は08年10月、アラブ首長国連邦(UAE)に日産との合弁会社「日産ガルフ」を設立。同氏が会長に就任した。当時の発表では、同社は日産の中東市場の販売・マーケティング業務をサポートするとしていた。弁護人によると、ゴーン元会長とジュファリ氏は長年の友人。ゴーン元会長は「ロビー活動や現地のトラブル解決への対価として約16億円を支払った」と説明しているという。ゴーン元会長は通貨取引のスワップ契約で巨額損失を抱えた際、ジュファリ氏から約30億円の信用保証の協力を得た。これにより新生銀行から求められた追加担保を免れたとされる。日本経済新聞はジュファリ氏側に電子メールでコメントを求めたが、回答はなかった。

*18:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181225&ng=DGKKZO39325660U8A221C1CR8000 (日経新聞 2018.12.25) 初の司法取引 きょう初公判 元幹部ら、タイ贈賄事件
 捜査協力の見返りに刑事責任を減免する日本版「司法取引」が初適用されたタイの発電所建設を巡る贈賄事件の公判が25日から東京地裁で始まる。不正競争防止法違反(外国公務員への贈賄)罪で起訴された元会社幹部3人のうち1人は無罪を主張する見通し。司法取引を巡っては虚偽供述などの恐れも指摘され、公判の行方は今後の制度運用にも影響しそうだ。起訴されたのは三菱日立パワーシステムズ(MHPS)の元取締役、内田聡被告(64)と元執行役員、錦田冬彦被告(63)、元部長、辻美樹被告(57)。起訴状によると、3人は2015年2月、タイの発電所建設に使う建設資材を港で荷揚げする際、荷揚げの許可条件違反を見逃してもらう見返りに、港湾当局の現地公務員に約3900万円相当の現地通貨バーツを支払ったとされる。25日に錦田被告と辻被告の初公判があり、19年1月11日に内田被告の初公判が開かれる。内田被告は無罪を主張する方針とみられる。事件では、法人としてのMHPSが東京地検特捜部と司法取引で合意。関係者によると、同社は合意内容に基づいて80点超の資料を提出し、役員らの事情聴取に協力。必要に応じて役員らが証人として出廷することも合意内容に含まれているという。こうした捜査協力の見返りに特捜部は同社の起訴を見送った。法取引を巡っては、自らの罪を逃れるために虚偽の供述をするリスクが指摘されてきた。今回は個人が罪に問われる一方で企業が起訴を免れたことに「トカゲのしっぽ切り」との批判もあった。公判などを通じて制度の課題や運用のあり方を検証していくことが求められている。

<ゴーン氏を有罪にするための嘘の記述が多いこと>
PS(2019/1/5追加): *19-1の「ゴーン氏が私的投資の損失付け替えを伏せて日産の取締役会承認を得た」と書かれている件は、日産の取締役を馬鹿にし過ぎている。何故なら、取締役は、部長まで勤めあげた人が多く、日産の仕組みや部下の監督に精通しているため、外国人取締役の役員報酬を外貨に替える権限をゴーン氏の秘書室幹部に与える案をゴーン氏が出せば、その目的や日産に損失が出るかどうかなどの必要事項を質問し、承認するかどうか判断できる筈だからだ。そして、私は、一時的に日産の信用を借りただけで、日産に実損は出ていないと思う。
 また、*19-2の「関係者によると、日産社内ではCEO予備費は自然災害に伴う見舞金など予算外の大きな支出に使うことを想定」としているが、この関係者は特捜部(国の機関)だろう。何故なら、国の予備費は自然災害など予定外の大きな支出に使うが、企業のCEO直轄費は多くの企業にあり、目的を明示しないで使うもので、災害の見舞金には損金算入できる費用や寄付金・ふるさと納税などを、目的を明示して使うのが合理的だからである。

*19-1:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181225-00000058-mai-soci (毎日新聞 2018/12/25) 投資損失付け替え伏せ、日産取締役会に ゴーン容疑者
 私的な投資の損失を日産自動車に付け替えたなどとして前会長、カルロス・ゴーン容疑者(64)=金融商品取引法違反で起訴=が会社法違反(特別背任)容疑で逮捕された事件で、損失付け替えが分からないよう偽装する取締役会決議が行われたとみられることが関係者への取材で明らかになった。東京地検特捜部は、前会長らが不正の隠蔽(いんぺい)を図る意図があったとみて捜査を進めている模様だ。ゴーン前会長は、新生銀行と契約した金融派生商品取引で多額の損失が生じたため、2008年10月に約18億5000万円の評価損を含む契約を日産に付け替えるなどしたとして21日に逮捕された。関係者によると、付け替えにあたって、新生銀行は前会長に取締役会の承認を得るよう要請。前会長は、自身の名前や損失の付け替えを明示することなく、外国人取締役の役員報酬を外貨に替える権限を秘書室幹部に与える案を諮り、承認されたという。元々、前会長の取引は役員報酬を円からドルに替える内容であったため、この承認で事実上、前会長の損失の付け替えが可能になったという。前会長は取締役会の承認を得たとして、新生銀行側に伝達したとされる。前会長は「(付け替えに関連する)取締役会の承認を得ている。会社に実害も与えていないので特別背任罪は成立しない」と供述している模様だ。これに対し、特捜部は、前会長が他の取締役らに分からないような形で「承認」を得て、側近だった秘書室幹部と共に付け替えを実行したとみている模様だ。この秘書室幹部は、既に特捜部と司法取引で合意しており、付け替えの経緯などについて特捜部に資料提出するなどしているとみられる。

*19-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO39665340U9A100C1CR8000/?nf=1 (日経新聞 2019/1/4) ゴーン元会長「直轄費」が焦点 知人側に支出70億円
 日産自動車元会長のカルロス・ゴーン容疑者(64)の特別背任事件で、ゴーン元会長が直轄で管理し、自ら使途を決めることができた「CEO予備費」に疑いの目が向けられている。この経費枠を使ってゴーン元会長の知人側に支出された資金は総額70億円近い。その実態は会社資金の私的流用だったのか、個人的な人脈を使ったトップビジネスだったのか――。関係者によると、CEO予備費は2008年12月ごろ、当時最高経営責任者(CEO)だったゴーン元会長の指示によって創設され、アラブ首長国連邦(UAE)の子会社「中東日産会社」内で管理されていた。中東日産は09~12年、CEO予備費から「販売促進費」などの名目で、ゴーン元会長の知人であるサウジアラビアの実業家、ハリド・ジュファリ氏が経営する会社に約1470万ドル(現在のレートで約16億円)を支出。ほぼ同時期、ゴーン元会長の中東の知人2人が経営するオマーンとレバノンの会社にも、約3200万ドル(同約35億円)、約1600万ドル(同約18億円)を支出していた。関係者によると、日産社内では、CEO予備費は自然災害に伴う見舞金など予算外の大きな支出に使うことを想定。ある日産幹部は「止められなかった責任は我々にもあるが、会社の資金が巧妙に私物化されていた」と問題視する。CEO予備費が創設されたのは、ゴーン元会長の資産管理会社が通貨取引のスワップ契約で約18億5000万円に上る評価損を抱え、銀行側から担保不足を指摘されていた時期と重なる。ゴーン元会長は08年10月、スワップ契約を評価損ごと日産に移転。その後、ジュファリ氏から約30億円の信用保証で協力を得て、09年2月に契約を自身の資産管理会社に再移転した。特捜部は、ジュファリ氏側への約16億円は信用保証の謝礼などの趣旨で、会社法違反の特別背任の疑いがあるとしている。別の2社への支出も私的な目的だった可能性があるとみている。他方、日産は08年10月、ジュファリ氏の会社と共に中東市場の販売・マーケティングを支援する合弁会社「日産ガルフ」をUAEに設立。会長にはジュファリ氏が就任した。オマーンとレバノンの会社も日産の販売代理店を務めるなど、日産とつながりが深い。この時期、日産が中東での販促を強化しようとしていたようにも見える。ゴーン元会長はジュファリ氏側への支出について「サウジの政府や王族に対するロビー活動、現地販売店とのトラブルの解決など、日産のために尽力してもらったことへの正当な対価だった」と説明。信用保証の謝礼など、個人的な目的を否定している。

<ゴーン氏の陳述について>
PS(2019年1月8日追加):有価証券報告書への虚偽記載については、後に報酬を受け取る契約をしていたとしても未受領で、退任後に受領する契約であるため役員退職慰労金となり、「開示されていない報酬は受け取っていない」というのは本当だ。さらに、日産が組んでもおかしくない通貨スワップを一時的に移転しただけで実損は与えておらず、取締役会の承認も得ているため、“特別背任”にはならないだろう。もともとは、メディアが「ゴーン氏の報酬が多すぎる」などという国際標準と異なる批判をしすぎたのが悪いのであり、これでは優秀な外国人は日本に来たがらなくなる。

*20:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190108&ng=DGKKZO39746100Y9A100C1MM0000 (日経新聞 2019年1月8日) ゴーン元会長「私は無実」 特別背任事件で陳述、50日ぶり公の場 勾留理由開示
 日産自動車元会長のカルロス・ゴーン容疑者(64)の特別背任事件で、裁判官が容疑者に勾留理由を説明する勾留理由開示の手続きが8日、東京地裁であった。出廷したゴーン元会長は自ら意見陳述し、「I am innocent(私は無実です)」と会社法違反(特別背任)容疑について潔白を主張した。ゴーン元会長が公開の場に姿を見せるのは2018年11月19日の最初の逮捕以来、50日ぶり。勾留理由開示にはゴーン元会長と弁護人3人、検察官2人が出廷。英語の法廷通訳人も参加した。冒頭、担当する多田裕一裁判官が氏名を尋ねると、ゴーン元会長は「カルロス・ゴーン・ビシャラ」と答えた。多田裁判官が特別背任の逮捕容疑の概要を述べ、勾留には正当な理由があると説明した後、ゴーン元会長は英語で用意した紙を読み上げる形で意見陳述した。ゴーン元会長は「私に対する容疑がいわれのないものであることを明らかにしたい」「私は会社の代表として公明正大かつ合法的に振る舞ってきた」とし、「私にかけられた容疑は無実です。根拠無く、不当に勾留されている」と強調した。特別背任容疑の一つは、08年10月、銀行から担保の追加を求められた通貨取引のスワップ契約を自身の資産管理会社から日産に移転し、評価損約18億5000万円を負担する義務を日産に負わせた疑い。これについて、ゴーン元会長は「日産に損失を負わせない限りにおいて契約を付け替えた」とし、日産に損害は与えていないと主張した。もう一つの容疑は、09年2月ごろにスワップ契約を資産管理会社に戻した際に信用保証で協力したサウジアラビアの実業家側に対し、09~12年、日産子会社から計1470万ドル(現在のレートで約16億円)を支出させた疑い。これについても「(知人の実業家は)日産の支援者で、現地の販売代理店との紛争解決にも尽力した。関係部署の承認に基づいて対価を支払った」とし、正当な支出だったと主張した。さらに、有価証券報告書に自身の報酬を過少に記載したとされる金融商品取引法違反にも言及。「開示されていない報酬は受け取っていない。後に報酬を受け取るという契約もしていない」として虚偽記載を否定した。弁護人は開示手続きの終了後、8日中にも勾留取り消しを東京地裁に請求する方針。取り消しが認められるケースは少ないが、今後の保釈請求も見据え、裁判所に直接ゴーン元会長の主張を訴える機会として開示手続きを利用したとみられる。東京地検特捜部が現在捜査している特別背任事件で、地裁が認めた勾留期限は11日。特捜部は同日までに起訴するかどうかを判断する。

| 司法の問題点::2014.3~ | 01:35 PM | comments (x) | trackback (x) |
2014.9.26 これも冤罪では?
(1)遺体発見翌日の容疑者逮捕で兵庫県警は何とか面目を保ったが、容疑者は真犯人か?
 *1-1のように、9月11日から2週間近くも行方が分からなくなっていた神戸市長田区の小学1年生、生田美玲ちゃんが9月23日に遺体で見つかり、翌日、近くに住む47歳の男が警察に取り調べられ、容疑が固まりしだい死体遺棄の疑いで逮捕する方針とのことである。そして、すべてのTVチャンネルが、長い時間を割いて、まだ犯人と確定していない男性の悪い噂を探しては報道しているが、これが、我が国のメディアのレベルだ。

 *1-1などのTV報道で、「遺体が入っていた袋の中に、近くに住む47歳の男の名前が書いてある診察券が入っていた」と報じられた時、私は公認会計士として経験を積んだ監査人の直感で、遺体を捨てる袋にわざわざ自分の診察券を入れるのは不自然だと思ったが、これが取り調べを始める決め手となり、同じく袋に入っていた煙草の吸殻のDNAと容疑者のDNAが一致したのだそうだ。つまり、遺体を入れた袋には、犯人特定に必要なすべてのものが入っていたが、遺体は切断されて複数の袋に分けて入れられ、下半身は見つかっていないというのであり、これは普通では考えられない。

 また、*1-2に書かれているように、死体遺棄容疑で逮捕された無職の君野容疑者は、逮捕前に自宅を訪問した警察官を警戒することなく招き入れ、「女児のことは知らない」と話していたそうだが、もし部屋で犯行に及び、部屋に女児の遺体があれば、警戒することなく招き入れることはできない筈である。

 そして、*1-2、*1-3に書かれているように、複数の防犯カメラが不審な男の行動を記録し、服装などから兵庫県警はいずれも君野容疑者とみているそうだが、それはつまり、防犯カメラに顔ははっきり映っていなかったということだ。

(2)真犯人なら、わざわざ遺体の袋に診察券や煙草の吸殻を入れない
 兵庫県警は何度も探したが、その草むらだけは探していなかったとしているが、これは捜査の専門家にしてはおかしな話だ。さらに、本物の犯人なら、わざわざ遺体の袋に診察券や煙草の吸殻を入れたりはしないと思われるので、報道されるたびに、この事件の展開はおかしいと思っていたところ、*2-1のように、「またまた、兵庫県警による大冤罪事件か?」というブログがあった。

 *2-1には、「遺体の入ったポリ袋に唾液の着いた吸殻と診察券。真犯人が君野容疑者に罪を擦り付けるために行った小学生でも判るトリックに騙される低脳」「レイプを隠蔽するため下腹部の隠蔽(精液で犯人を特定されるのを防ぐため)など明らかに捜査の基本を知っている人間の犯行」「冤罪発生装置の兵庫県警と記者クラブ制度で警察発表を鵜呑みで垂れ流すクソマスゴミを許すな」と書いてあり、このシナリオの方が自然に思えた。

(3)冤罪のパターン
 *2-2にまとめられているこれまでの冤罪事件をみると、袴田事件では、事件から1年以上経って味噌樽から発見された5点の衣類が犯行着衣とされ、弁護団の実験では、1年以上味噌樽に付け込んだ衣類は真っ黒になり、発見された時のような状況には、数時間漬け込んだ時になるということだった。そして、それまで何度も捜査をしながら味噌樽からは何も発見できなかったのに、1年以上経過した後に発見され、それが重要証拠となって有罪とされているのが、今回の容疑者の診察券と煙草の吸殻入り遺体袋の発見と似ている。

 なお、冤罪に落とし込むには、周りの反発が少ないため、身寄りがなく無職で孤独な人を選ぶのだと聞いたことがある。君野容疑者はまさにそれにあたるため、弁護士はしっかりしてもらいたいところだが、弁護士も、国選弁護人や交通事故の弁護士として警察から情報をもらうため、容疑者より警察との利害関係が深く、容疑者の立場で弁護するとは限らないところが問題なのである。

<遺体発見と容疑者逮捕>
*1-1:http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140924/t10014824601000.html
(NHK 2014年9月24日) 小1女児遺体遺棄事件 近所の47歳男逮捕へ
 今月11日から行方が分からなくなっていた神戸市長田区の小学1年生、生田美玲ちゃん(6)が遺体で見つかった事件で、警察は近くに住む47歳の男が事件に関わっている疑いがあるとして取り調べていて、容疑が固まりしだい死体遺棄の疑いで逮捕する方針です。取り調べを受けているのは、神戸市長田区の47歳の男です。この事件は、23日午後4時すぎ、神戸市長田区の雑木林で袋に入った子どもの遺体が見つかったもので、警察によるDNA鑑定の結果、24日午前、同じ長田区で今月11日から行方が分からなくなっていた小学1年生の生田美玲ちゃん(6)と確認されました。警察によりますと、遺体が入っていた袋の中には、近くに住む47歳の男の名前が書いてある診察券が入っていたということで、取り調べを始める決め手になったということです。警察は男が事件に関わっていた疑いがあるとして、容疑が固まりしだい死体遺棄の疑いで逮捕する方針です。これまでの調べによりますと、遺体は切断され複数の袋に分けて入れられていました。また、現場からは美玲ちゃんのものと特徴がよく似たサンダルやワンピースが見つかっています。調べによりますと、美玲ちゃんは行方不明になった当日の午後、小学校からいったん帰宅したあと再び外出し、午後3時15分ごろ、家から400メートルほど離れたコンビニエンスストアの防犯カメラに、日傘をさして1人で歩く姿が確認されています。そして午後5時半ごろに、そこから数百メートル離れた高校のグラウンドの近くを1人で歩いている様子が目撃されたのを最後に行方が分からなくなり、警察が付近を捜索していました。警察は遺体の状況などから殺人と死体遺棄の疑いで捜査本部を設置して捜査しており、死因についても調べを進めることにしています。

*1-2:http://digital.asahi.com/articles/ASG9V31Q1G9VPTIL002.html
(朝日新聞 2014年9月26日) 逮捕前、訪問の警察に「女児知らない」 神戸・遺棄事件
 神戸市長田区で市立名倉小1年の女児(6)の遺体が見つかった事件で、死体遺棄容疑で逮捕された無職君野康弘容疑者(47)が逮捕前、自宅を訪問した警察官に「女児のことは知らない」と話していたことが捜査関係者への取材でわかった。行方不明当日に君野容疑者とみられる男と女児の姿が防犯カメラに映っていたが、事件前の面識の有無は不明だ。兵庫県警が最初に君野容疑者に接触したのは、女児が行方不明となってから5日後の今月16日だった。捜査関係者によると、君野容疑者は警戒することなく捜査員を招き入れた。女児との面識について問われると、「知らない」と説明したという。行方不明当日の11日の自らの行動については「覚えていない」と述べ、事件への関与を否定したという。ただ、複数の防犯カメラが、不審な男の行動を記録していた。11日午後3時15分ごろ、コンビニエンスストアのカメラに、女児の後ろを歩く男が映っていた。コンビニ近くの同級生のマンションに女児が入ったのとほぼ同じ頃にも、マンションの入り口のカメラに男の姿が映っていた。これらの映像を端緒に君野容疑者が浮上したという。これ以降、女児の目撃証言は同日午後5時半ごろまであるが、2人の接触を裏付けるものは見つかっていないという。君野容疑者の自宅アパートの関係者によると、現在の神戸市長田区長田天神町1丁目のアパートに君野容疑者が入居したのは昨年6月。同じ長田区内からの転居だった。一方、女児は今年4月、君野容疑者の自宅からも近い名倉小学校に入学した。夏には近所のマンションから現在のアパートに転居した。場所は君野容疑者のアパートから西へ約100メートル余りしか離れておらず、2人の生活圏は、この時点で非常に接近していた。君野容疑者と女児が以前から面識があったのかは、君野容疑者が黙秘しているため判然としない。事前に面識はなかったとみている捜査関係者もいる。女児の遺体は23日に見つかり、君野容疑者は翌24日に逮捕された。
■運動会開催へ
 神戸市教委は26日、開催の見送りを決めていた名倉小の運動会を10月に開くことを明らかにした。女児の母親から「子どもたちのために開いてほしい」との意向が伝えられたという。運動会は今月27日に予定されていたが、遺体発見を受けていったん見送りを決めていた。名倉小の平井正裕校長が母親にお悔やみの電話をかけた際、運動会についても相談したところ、「開いてほしい」と言われたという。事件前、女児は熱心にダンスの練習に取り組んでいたという。

*1-3:http://www.asahi.com/articles/ASG9T6DBJG9TPTIL01Q.html?iref=comtop_pickup_05 (朝日新聞 2014年9月26日) 複数の防犯カメラに容疑者の姿 神戸・女児遺棄
 神戸市長田区で市立名倉小学校1年の生田美玲(いくたみれい)さん(6)の遺体が見つかった事件で、行方不明になる11日に美玲さんが近所の同級生のマンションを訪れた際、その周辺をうろつく無職君野康弘容疑者(47)=死体遺棄容疑で逮捕=とみられる男の姿が複数の防犯カメラに記録されていたことが兵庫県警への取材でわかった。県警は、君野容疑者が被害女児に関心を持っていたとみて調べている。捜査関係者によると11日午後3時15分ごろ、マンション近くのコンビニエンスストアの防犯カメラに、日傘を差して歩く女児と、その後ろをふらふらした足取りで通り過ぎる不審な男が映っていた。その直後、女児は同級生を訪ねるためにマンション内に入った。ほぼ同じころ、マンションの防犯カメラには、入り口付近にいる似た男の姿が映っていた。さらにコンビニ店の防犯カメラには、マンション方面から戻ってきて立ち止まる男の姿も記録されていた。男は、マンションのほうをうかがうように見たあと、もともと来た北方向に立ち去っていた。服装などから、県警はいずれも君野容疑者とみている。一方、女児は同級生と会えないままマンションを出た。北隣にある公園の防犯カメラに姿が映っているが、コンビニ店のカメラには戻ってくる女児の姿が確認できないことから、公園とコンビニ店の間にある脇道に入った可能性があるとみられている。女児はその後、午後5時半ごろまで近辺を1人で歩く姿が目撃されている。県警は、これ以降に再び君野容疑者と接近した場面があったとみて、2人の詳しい足取りを調べている。
    ◇
 君野容疑者に25日夜、県警本部で接見した弁護士が報道陣の取材に応じた。君野容疑者について「表面上は落ち着いているように見えたが、とにかく疲れた様子だった」と語った。

<冤罪のパターン>
*2-1:http://blog.livedoor.jp/tacodayo/archives/7538708.html
(tacodayoのブログ) またまた、兵庫県警による大冤罪事件か?
 神戸連続児童殺傷事件で無実の中学生を犯人に仕立てあげた前科がありますからね。神戸市長田区の小学1年生、生田美鈴さん(6)の切断遺体が見つかった事件で、遺体発見現場の近くに住む君野容疑者(47)が逮捕されましたが、遺体の入ったポリ袋に唾液の着いた吸殻と診察券。真犯人が君野容疑者に罪を擦り付けるために行った小学生でも判るトリックに騙される低脳馬鹿ザル。真犯人は兵庫県政の大物の子弟か県警幹部周辺人物でしょう。レイプを隠蔽するための下腹部の隠蔽(精液で犯行を特定されるのを防ぐため)など明らかに捜査の基本を知っている人間の犯行。冤罪発生装置の兵庫県警と記者クラブ制度で警察発表を鵜呑みで垂れ流すクソマスゴミを許すな!!

*2-2:http://blog.iwajilow.com/?eid=1071754 (つぶやきいわぢろう 2013.6.16) 
TVディレクターがメディアでは伝えられないニュースの裏側を日々レポ
 「助けてください」冤罪被害者の叫び、「息子は人を殺めていません。無実なんです。私が生んで私が育てたんです。どうか息子を助けてください(涙)」。仙台北稜クリニック事件の守大助さんのお母さんの叫びです。大阪に僕が行っていたのは昨日開かれた「なくそう冤罪 救おう無実の人々」というたんぽぽの会の集会に出席するためでした。クレオ大阪西のホールで開かれたこの集会は、ほぼ満席という盛況ぶりでした。集会では布川事件の桜井さんが司会で、福井女子中学生殺害事件の前川さん、袴田事件の袴田さんのお姉さん、そして守大助さんのお母さんによるパネルディスカッションが行われました。皆さん再審請求審が進められています。
 事件から1年以上経ってから味噌樽から発見された5点の衣類が犯行着衣とされて有罪証拠とされた袴田事件。この5点の衣類は本当に袴田さんのものなのか?事件から1年以上、味噌樽に付けられたものなのか?弁護団の実験では1年以上味噌樽に付け込まれた衣類は真っ黒になり、とても発見された時のような状態ではないことがわかりました。しかも数時間、漬け込めば発見された時のような状況になることもわかりました。それまで何度も捜査をしながら味噌樽からは何も発見できなかったのに、なぜ1年以上経過した後に発見されたのか?不思議でなりません。袴田さんの再審請求審では5月24日。この実験を行った方の証人尋問が行われたそうです。またDNA鑑定でもこの5点の衣類についた血痕が被害者のものでも袴田さんのものでもないことがわかりました。お姉さんはこう言います。「DNA鑑定の結果が出て大変良かったのでこれでしゃべれると思いました。それまでは沈黙を続けていましたが、去年から大いに弟は無実であると訴えています。5月24日に味噌漬実験の証人尋問が終わりました。普通、こういった証人尋問で裁判所に呼ばれることはありません。母親は『もうダメかいね、もうダメかいね』といって死んできました。私は母親を背中にしょっています。その苦しみを少しでも軽くしたいと思っています。すで兄たちも2人が他界しました。亡くなった兄たちのためにも少しでも頑張りたい。裁判所には何を言ってもしょうがないと思っています。ひたすら再審開始を願ってやっています」。袴田さんのお姉さんはすで80歳です。ずっと独身を通してきました。「縁談もないことはなかったのですが、巌のことを承知してもらってくれるというのは何かあると思ってね、そんなことをしなくていいと思って、面倒だと思って独身できました」。検察と警察の悪意は家族の人生もボロボロにします。
 守大助さんのお母さんはこう言います。「有罪を下した唯一の証拠が大阪科捜研の鑑定なんです。去年の12月に三者協議で検察がこの誤りを認めました。それを先延ばしにしているんです。このことに対する怒りを我慢することができません。警察官とすれ違うだけでムカムカします。「本当に悔しい」。
 去年名古屋高裁で再審開始決定が取り消されてしまった前川さん。再審に向けて頑張っていたお父さんの体調はあまり良くないそうです。「本当にショックでかなり堪えたみたいです。未だに僕も信じられません。ただ最高裁でひっくり返る可能性もないことはないとい言うのでそこに向けて頑張っています」。前川さんには事件当夜のアリバイがあります。「その当時家族と一緒にいたんですね。母親が退職してその退職金が入ったのと、それから姉がいるのですがその姉が結婚するので、婚約者と一緒に来ていたんです」。その家族で一緒に食事をしていました。しかし、その姉とも疎遠になってしまっているそうです。桜井さんはこう言います。「検察は目の前の人間を犯人にするためには何をやってもいいと思っているんですね。そして誰も責任を取らない。検察は今もこう言っているんですね。『桜井と杉山はたまたま有罪が立証できなかっただけであいつらは犯人である』。
 今、私は国賠訴訟を起こしていますが、証拠開示を実現したいと思っているんです。税金で集めた証拠をなんで見せてもらえないのか?なんで隠すのかおかしいと思いませんか?検察はこういうんですよね。『証拠を開示する法律はない』。だから開示しなくていいという。確かに『証拠を開示する』という法律はありません。けれども『開示しない』という法律もないんです。これは検察が『証拠を隠す』ということは想定してないんです。まさか、そんなひどいことをしないという前提のもとにあるんです。
 酷いと思いませんか。http://blog.iwajilow.com/manage/?mode=write&eid=1071668 僕は検察、裁判官、警察この司法3公務員の腐敗ぶりは目を覆うばかりだと思います。今もたくさんの冤罪被害者が国家権力に人生を台無しにされています。DJポリスが表彰されるってことは、いかにいつも国家権力が庶民に対して高飛車であるかということの象徴じゃないでしょうか?本当にこの国の司法はどうかしていると僕は思います。

| 司法の問題点::2014.3~ | 05:26 PM | comments (x) | trackback (x) |
2014.4.1 ストーカー事件における警察の対応に見る女性軽視は、女性の被害を大きくすること
    
       2012年ミスインターナショナルの吉松育美さん

 私が、このブログの2014年3月29日に記載した袴田さんの冤罪事件のような理不尽なケースは、他人事であって自分とは関わりないと思っている人も多いだろうが、ストーカー事件であれ殺人事件であれ、事件と遭遇して、自分がお世話にならなければならない時に司法が歪んでいると、普段から税金を払っているにもかかわらず、自分も正しいケアを受けられないことを認識しておくべきである。

 しかし、自分がお世話にならなければならない時には、自分の身を守ることで精一杯の弱者となっているため、司法の理不尽さを指摘することまではできないので、このようなことは普段から意識して改善しておく必要がある。

(1)ストーカー事件に見る警察・裁判所の女性軽視
 *1のように、警察が把握したストーカー被害は2013年に2万1089件で、東京都三鷹市の女子高校生が元交際相手に刺殺されたり、神奈川県逗子市の女性が2012年11月に元交際相手の男に殺害されたりした。そして、警察に届けたのに対応されず、犯罪に至ったケースが多い。

 *2の長崎ストーカー殺人事件では、警察に届けたにもかかわらず、警察署員が女性の被害届受理を先送りして北海道に旅行し、殺人が起こるまで野放しにした上、(男性)裁判員が、「逃げられなかったのは家族や同僚を守るためだけですか?」と質問して、「女性にも未練があったのでは?」という二次的セクハラに当たる問いを発している。しかし、“未練”は、警察に届けた時点では全くないと考えるのが自然だ。

 つまり、司法を含む全体として、①女性の主張は無視又は軽視する ②ストーカーになった男にでも女性にも未練があったのではないかと考える など、女性の意思や命を男性のそれよりも軽視しているように見え、それは、普段からメディアや演歌で毎日のように流布され、人々の脳裏に刻印され続けている男性中心の男女関係像からくるものだと考えられる。そして、このように全ての人の発想に影響を与えるため、偏見と差別だらけのメディアの質の悪さは、表現の自由を超える重大な問題なのだ。

(2)ミスインターナショナルで優勝した吉松育美さんへのストーカー行為について
 *3に書かれているように、2012年に日本人として初めてミスインターナショナルで優勝した吉松育美さんは、美人であるだけでなく中身もしっかりした人であるため、現代の山本富士子や吉永小百合として晴れやかな未来があっても不思議ではないのに、女優としてチャンスを与えて大切に育てられることもなく、大手プロダクションの男性から執拗なストーカー行為や業務妨害を受けたり、その人が裏で仕掛けた週刊誌記事によって仕事を失ったり、警察に事情を話しても「自宅周辺のパトロールを強化する」と言われただけで終わったり、裁判所で身の安全を確保するための仮処分の申請をしてもそっけなくあしらわれたりしており、もったいないことである。

 そのため、「女性が輝く社会を作る」と言っておられる安倍総理に、「人の命が無くならなければ動けないようなシステムを変えるため、女性に対する暴力と犯罪の加害者への取り締まりや処罰を厳しくし、警察の意識改革をし、メディア報道の問題も変えていただきたい」とのことだ。

 私も、2012年12月26日に、このブログに記載したように、衆議院議員及び候補者の時に、週刊文春記事やGoogleをはじめとするインターネットを使って、私の名誉を棄損をしたがるストーカーから、事実でもない悪い評判を立てられ続けた。そして、これは、美人の女性や優秀な女性を貶めるために行っているもので、女性蔑視・軽視に端を発する同じ動機に依るものであるため、決して許してはならない野蛮な行為だ。また、「美人だから知的ではない」「知的だから美人ではない」というのも、多くの人が信じる根拠のない“常識”であり、そのような必然性はなく、人間もサラブレッドと同様、機能美が美しいのである。

*1:http://qbiz.jp/article/34103/1/
(西日本新聞 2014年3月20日)  ストーカー被害底なし 昨年2万件超
 全国の警察が2013年に把握したストーカー被害は前年比1169件(5・9%)増の2万1089件となり、初めて2万件を超えたことが20日、警察庁のまとめで分かった。ドメスティックバイオレンス(DV)も5583件(12・7%)増の4万9533件で、過去最多を更新した。同庁は「関心が高まり、被害者が積極的に相談するようになったため」とみている。逮捕件数が11月以降、前年の同じ時期より2割以上増えたことも判明した。東京都三鷹市の女子高校生が元交際相手に刺殺された事件を受け、警察庁の米田壮長官が10月25日の全国警察本部長会議で、危険な場合は逮捕を優先して被害者を守るよう指示した影響とみられる。ストーカー事案を脅迫や傷害、ストーカー規制法違反容疑などで摘発したのは1889件あり、116件増加。DVの摘発は198件増の4405件だった。このうち容疑者を逮捕したのはストーカーが1716件、DVは3323件。1カ月の平均件数を前年と比べると、1〜10月はストーカーが3・2%増の137・6件、DVが4・6%増の277・6件だったのに対し、11、12月はストーカーが20・6%増の170件、DVは25・2%増の273・5件に急増していた。一方、13年7月に施行された改正ストーカー規制法に盛り込まれた「電子メールの連続送信」で摘発したのは43件あり警告は143件、禁止命令は8件だった。警察庁は昨年12月、ストーカーやDVを一元的に扱う専門チーム設置などの体制構築を全国に指示した。26都府県警が既につくり終え、残りも今月中に整えるという。
●福岡県内では1141件
 福岡県内の昨年のストーカー被害は前年比341件増の1141件で、DV被害は前年比238件増の1280件だった。福岡県警幹部は「今後とも被害者の安全確保を最優先に、組織一体となって被害の未然防止に努める」と話している。
■逗子ストーカー殺人 神奈川県逗子市の女性が2012年11月、元交際相手の男に殺害された事件。男は前年6月、女性への脅迫容疑で逮捕され、執行猶予付き有罪判決を受けた。女性に接触しない決まりだったが、その後千通を超すメールを送り付けた。連続メールがストーカー規制法の対象外だったため県警は逮捕せず、保護観察所もメール送信を把握していなかった。逮捕状の読み上げがきっかけで女性の新住所が特定されていたことも判明。運用の改善や法改正が行われた。

*2:http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG1800Q_Y3A510C1CC0000/
(日経新聞 2013/5/18) 被害女性「逃げることもできず」 長崎ストーカー事件
 長崎県西海市の2女性殺害事件で、殺人罪などに問われた筒井郷太被告(28)=三重県桑名市=の長崎地裁(重富朗裁判長)で開かれた裁判員裁判で、被告からのストーカー被害を訴えていた女性(24)が18日までに、証人として出廷した。「死刑でも足りない。家族を殺すと言われていたので、死ぬことも逃げることもできなかった」と涙ながらに訴えた。女性の証人尋問は17日の第4回公判で、地裁内の別室と法廷を結んだビデオリンク方式で実施。女性の姿が映る小型モニターが筒井被告から見えないように、弁護側の机には紙と布でできた仕切りが設置された。女性は2011年5月に筒井被告と交際を始めたが、千葉県習志野市の女性宅で同居を始めるとすぐに暴力を振るわれるようになったと述べ「鉄亜鈴やコップで殴るなどひどかった」と話した。また、女性が職場にいても束縛された状況を「雑貨売り場で男性客を接客する時は、携帯電話を通話状態のままにさせられていた」と明かした。殺害された2人は女性の母、山下美都子さん(当時56)と祖母、久江さん(当時77)。筒井被告は、殺人罪のほか、女性にけがをさせた傷害罪などを否認し、全面無罪を主張している。女性は「自分を守るためにうそをついて現実から逃げているだけ」と語気を強め、死刑にしてほしいと繰り返した。2人が殺害される10日前、習志野署員が女性の被害届受理を先送りにして北海道に旅行したことについては「自分を助けてくれ、支えてくれたみんなを私も守らなければと警察に行ったのに、野放しにされて捕まえてくれなくて……」と涙を流し、言葉を詰まらせた。男性裁判員が「逃げられなかったのは家族や同僚を守るためだけですか」と質問すると、女性は「それだけです」と答えた。筒井被告は終始顔色を変えず、ノートにメモを取り続けた。

*3:https://www.change.org:443/ja/キャンペーン/stalker-zero-被害者が守られる社会へ
(吉松育美:http://ameblo.jp/ikumi-621/) 『吉松育美から安倍総理へ 女性に対する暴力、犯罪、ストーカー行為をなくすために、タスクフォースの成立を!』
 2012年に初めて日本人としてミスインターナショナルで優勝した吉松育美です。大会を優勝してからのこの一年、私は大手プロダクションの男性から執拗なストーカー行為、嫌がらせ、脅し、業務妨害を受けています。彼の行為というのは、約1年前から始まり、私の仕事場に現れたり、大事な企業との契約を破談にしたり、“芸能界”という特殊な環境の中で仕事をする身には精神的虐待とでもいえる酷い被害を受けてきました。私のみならず、彼は実家の電話番号を調べ上げ、大切な両親にも脅しとも言える電話や郵便物を幾度となく送りつけ、全く関係のない家族をも恐怖に陥れました。探偵を雇い、私の自宅周辺を調査させ、ある日スーツ姿の強面な男性が部屋の窓から覗き見写真を撮りました。その人物はマスコミにも影響力のある人物で、彼が裏で仕掛けた週刊誌の記事により、私は仕事を失い、さらにはミスインターナショナル日本人初の世界一としての最後の役目をも奪われてしまいました。このようなことが一年間自分自身の身に起こり、今も、何が起きるか分からない恐怖から逃れられず、自宅ですら一人では安心していられません。もちろん、警察に事情を話したこともあります。しかし、警察からは「自宅周辺のパトロールを強化します。」と言われ、終わりました。それでも自分の身を守るために裁判所へ行き、身の安全を確保するため仮処分申請も出しました。しかし、プロテクションの基本となる仮処分ですら1ヶ月経ってもまだおりません。思わず感情的になり、裁判官に「この間に身に何かあったらどうするのですか?!」と言ったことがあります。しかし、眉間にシワを寄せられ「それは弁護士の先生方に相談してください。」と言い返される次第です。現代社会で、こんなにもストーカー事件が後を経たない中、警察や裁判所、法律に疑問を持たざるを得えません。実際にこの数年間、ストーカー事件で守れた命はいくつあったでしょうか。人の命が無くならなければ動けないシステムを変えなければ、ターゲットにされた被害者は安心した生活が送れません。また犠牲者が出ることを待つだけです。「守れるはずの命は、守らなければいけない。」「守るべき人は、守らなければいけない。」。この一年間、自分が受けてきた被害を私は意を決して自身のブログに心境を語り、さらには日本と海外に向けて2度の記者会見も開きました。その反響というものは想像していたよりも遥かに大きく、力強いものでした。日本のメデイアは沈黙を続ける一方で、世界中のメデイアが報道し、話題となりました。何百万人の方が事件の経緯と報告をしている私のブログを読んで下さり、数千件にも及ぶメッセージや被害者からのお話が送られてきました。その中で私と同じようにストーカー被害にあい、今でも恐怖と戦っている被害者、女性たちの声がとても多いことを改めて認識しました。ストーカーというものは、元恋愛関係にあった男女間だけではなく、組織からの集団ストーカーや同性からのストーカーまで、様々な形で悪質な行為を受けている被害者がいることを忘れてはいけません。総理は「女性が輝く日本」を経済戦略の柱として掲げ、女性の活躍の重要性を主張して来られました。成長戦略の一つにも、「女性が働きやすい環境を整え、社会に活力を取り戻す」と唱え、第68回国連総会の総理演説の中でも『「女性が輝く社会をつくる」――。そう言って、私は、国内の仕組みを変えようと、取り組んでいます。』と心強いお言葉を、私は聞きました。「女性が輝く社会」というのは、まず「女性が安心して輝ける環境を作ること」です。その環境を作るためには、総理のリーダーシップが必要です。この問題を解決するには、法律を強化し、取り締まりや加害者への処罰を厳しくすることが必然です。警察の意識改革、そして被害者が相手の保全処分を求めやすくすることも大事です。メディアの報道の問題も多く存在します。被害者のセーフティネットとなる市民団体への支援も拡大する必要もあります。第一歩として、ストーカー被害などの女性に対する暴力と犯罪に関わる全ての組織や人の意識が変わるような新しい法律、また法律の改正を打ち出し、国の問題として取り組むタスクフォースを内閣府として設立していただきたいです。女性が輝く日本に向けて、ご検討いただければ幸いです。

| 司法の問題点::2014.3~ | 09:44 AM | comments (x) | trackback (x) |
2014.3.29 警察を始め、司法もメディアもおかしいということ-袴田事件の判決から
     
  再審が決定し、釈放後    死刑を確定させた証拠の不自然さ

(1)最初の袴田事件判決について
 *1-1に書かれているとおり、冤罪により人の誇りある幸福な人生を奪った行為は、 国家の犯罪である。しかし、*1-3に書かれている先輩判事を説得できなかったとする静岡地裁で死刑判決を書いた1審元裁判官の熊本典道さん(76)は、上司の圧力に屈して冤罪判決を書いたことについては、当然非難されるべきであるものの、2審以降で判決が覆るのを期待していたのかもしれない。

 何故なら、*1-2に書かれているように、袴田さんは、拷問のような取り調べの末に追い込まれて自白し、その内容は日替わりで変わり、公判では起訴内容を一貫して否認しており、一審判決は、捜査段階で作られた四十五通の自白調書の四十四通を信用性も任意性もないとして証拠から排斥した上で、残り一通の検察官作成の自白調書だけを証拠として採用し、色もサイズも整合性のないズボンを証拠として死刑を言い渡したからだ。これらは、DNA鑑定しなくても、直ちに不自然さを指摘できる証拠である。

 しかし、その矛盾を、当時の弁護士は控訴審で強力に指摘しなかったのだから、警察・検察・裁判所だけでなく、仕事上の利害関係で警察と一体になっている弁護士もまた追及されるべきである。

(2)48年後の再審決定の意味
 DNA鑑定しなくても、直ちに証拠の不自然さを追求できる状況にありながら、控訴審でも死刑判決が出た上、48年間も再審決定がなされず、48年後に再審が決定して釈放された意味を考えたところ、48年という期間は、高卒の18歳で警察署に就職した人も66歳となり、当時の関係者でこの事件の真相を知る人はすべて退職して、無事に年金を支給されている時点だった。

 つまり、司法は、司法の信頼性を維持するために、無実の個人に冤罪を着せて死刑判決を下し、その関係者がすべて退職するまで、再審を認めず拘束し続けたということなのである。つまり、司法の信頼性維持とその関係者の保護が、一人の人間の人生を奪うことよりも重要だという価値観なのだ。

(3)冤罪で失われたものは大きい
 冤罪事件の罪は、①真犯人を探し出して罪の償いをさせる機会を奪うこと ②冤罪になった人の希望に満ちた人生を奪うこと ③真犯人に罪の償いをさせたかった被害者が報われないこと である。今回も①②③のすべてが起こったが、これらの重大な罪に対し、司法自身は、どういう裁きと償いをするのかが重要な注目点だ。

(4)歩ける人を車椅子に乗せたり、健康な人を入院させたりするのは、適切ではない
 *2-1には、今後は体調を整えてから静岡県内の医療施設で療養すると書かれており、写真や映像にも、歩いて出てきた袴田さんが車椅子に乗っている姿が映し出されたが、歩ける人を車椅子に乗せることは不要であり、健康な人にも病人の意識を与えてマイナスであるため、病院はそのような指示はしない。そのため、何故、車椅子に乗せたのか不明だし、今後の再審の進展のためにその必要があったとすれば、それこそが重要な問題である。

 また、袴田さんが長期間の身柄拘束で拘禁症状があるというのは正常な防御反応と思われるし、「袴田さんがやっと『ありがとう』と言った」などと強調しているメディアもあったが、「俺の一生を返せ」と言うのが当たり前の状況であるから、「ありがとう」という言葉は、努力して再審までこぎつけてくれた人のみに対して発せられて当然の言葉である。さらに、認知症は、頭脳に刺激のない場所(長期入院も含む)に拘束されていれば起こるのが当たり前で、刺激のある場所に出てくれば治る可能性が高く、糖尿病などの指摘をされている人は一般人にも多い。

 なお、*2-1で、静岡地裁の村山浩昭裁判長が再審開始を認めた27日の決定で「捏造の疑いのある証拠によって有罪とされ、死刑の恐怖の下で拘束されてきた。これ以上拘束を続けることは正義に反する」としたのは、本来は当然なのだが、勇気ある行動だ。これに対し、*2-2のように、検察は、釈放を行わないよう申し立てを行っていたが、東京高裁が28日、検察の申し立てを退ける決定を出したのはもっともで、まずは、早急に過ちを正すべきである。

(3)死刑を廃止すればすむ問題ではない
 司法のメンツを保つため、冤罪は人を選んで着せられるのだそうで、そういう冤罪が少なくないため、「死刑廃止」の意見もあるが、これは、死刑を廃止すればすむ問題ではない。例えば、①中卒で元プロボクサーの袴田さんのように、皆が先入観と偏見を持って犯人だと納得しそうな人 ②身よりがなく孤立していて親身に再審の請求をしてくれる人がいない人 ③被害者の配偶者 などが冤罪被害者になりやすいそうだ。確かに被害者の家族を逮捕してしまえば、被害を訴える人も親身に再審の請求をする人もいなくなるため、警察は一石二鳥だろうが、このように計算しつくされた悪を許すわけにはいかない。

 そして、犯罪のストーリーを考える司法関係者はじめ裁判員やそのストーリーを受け入れる一般市民の先入観や偏見は、このブログの2014年3月26日に記載したように、メディアが、日々、国民の頭脳に刻印し続けて作り出しているものであるため、メディアの偏向報道は、あらゆる場所に問題の基礎を作っているのである。

*1-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2014032802000164.html (東京新聞 2014年3月28日) 袴田事件再審決定 冤罪は国家の犯罪
 裁判所が自ら言及した通り、「耐え難いほど正義に反する状況」である。捏造された証拠で死刑判決が確定したのか。速やかに裁判をやり直すべきだ。事件発生から一年二カ月後に工場のみそタンクから見つかった血痕の付いた衣類五点は、確定判決が、袴田巌さんを犯人と認定する上で最も重視した証拠だった。その衣類について、今回の静岡地裁決定は「後日捏造された疑いがある」と述べた。検察庁も裁判所も証拠の捏造を見抜けないまま死刑を宣告していたのであろうか。
◆「こちらが犯行着衣」
 絶対にあってはならないことであるが、死刑を言い渡した当の裁判所が、その疑いが極めて高くなったと認めたのである。ただならぬ事態と言わざるを得ない。そもそも、起訴の段階で犯行着衣とされたのは、血痕と油の付着したパジャマだった。ところが、一審公判の中でパジャマに関する鑑定の信用性に疑いがもたれるや、問題の衣類五点がみそタンクの中から突然見つかり、検察官は「こちらが真の犯行着衣である」と主張を変更した。袴田さんは、公判では起訴内容を否認したが、捜査段階で四十五通の自白調書が作られていた。毎日十二時間以上に及んだという厳しい取り調べの末に追い込まれた自白で、その内容は、日替わりで変遷していた。一審判決は、そのうち四十四通を、信用性も任意性もないとして証拠から排斥したが、残り一通の検察官作成の自白調書だけを証拠として採用し、問題の衣類五点を犯行着衣と認定して死刑を言い渡した。判決はそのまま高裁、最高裁を経て一九八〇年に確定した。この間、どれほどの吟味がなされたのか。この確定判決をおかしいと考えていたのは、再審を請求した弁護側だけではなかった。
◆新証拠の開示が鍵に
 一審で死刑判決を書いた元裁判官の熊本典道さん(76)は二〇〇七年、「自白に疑問を抱き無罪を主張したが、裁判官三人の合議で死刑が決まった」と告白している。「評議の秘密」を破ることは裁判官の職業倫理に反する暴挙だと批判されたが、この一件で、袴田事件に対する市民の疑念も決定的に深まったのではないか。第二次再審請求審では、弁護団の開示請求を受けて、裁判所が検察側に幾度も証拠開示を勧告。静岡地検は、これまで法廷に提出していなかった五点の衣類の発見時のカラー写真、その衣類のズボンを販売した会社の役員の供述調書、取り調べの録音テープなど六百点の新証拠を開示した。その一部が再審の扉を開く鍵になった。これまでの再審請求事件では、捜査当局が集めた証拠の開示、非開示は検察の判断に委ねられたままで、言い換えれば、検察側は自分たちに都合のよい証拠しか出してこなかったともいえる。弁護側から見れば、隠されたことと同じだ。今回の請求審では、証拠開示の重要性があらためて証明されたといっていい。そもそもが、公権力が公費を使って集めた証拠である。真相解明には、検察側の手持ち証拠が全面開示されてしかるべきだろう。柔道二段で体格もよい被害者を襲う腕力があるのは、元プロボクサーの彼以外にない…。従業員だから給料支給日で現金があることを知っている…。袴田さんは、いわゆる見込み捜査で犯人に仕立てられた。一カ月余り尾行され、逮捕後は、時に水も与えられない取り調べで「自白」に追い込まれる。典型的な冤罪の構図である。無理な捜査は証拠捏造につながりやすい。冤罪であれば、警察、検察庁、裁判所、すべてが誤りを犯したことになる。真犯人を取り逃がした上、ぬれぎぬを着せられた人物の一生を破滅に追い込む。被害者側は真相を知り得ない。冤罪とは国家の犯罪である。市民の常識、良識を事実認定や量刑に反映させる裁判員裁判の時代にある。誤判につながるような制度の欠陥、弱点は皆無にする必要がある。
◆検察は即時抗告やめよ
 司法の判断が二転三転した名張毒ぶどう酒事件を含め、日弁連が再審請求を支援している重要事件だけでも袴田事件以外に八件。証拠開示を徹底するなら、有罪認定が揺らぐケースはほかにもあるのではないか。冤罪は、古い事件に限らない。今も起きうることは、やはり証拠捏造が明らかになった村木厚子さんの事件などが示している。袴田さんの拘置停止にまで踏み込んだ今決定は、地裁が無罪を確信したことを意味している。検察は即時抗告することなく、速やかに再審は開始されるべきである。

*1-2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11053300.html (朝日新聞 2014年3月28日) 袴田さん、48年ぶり釈放 「国家が無実の個人陥れた」 死刑停止、再審決定 
 1966年に静岡県の一家4人が殺害、放火された「袴田事件」で、静岡地裁(村山浩昭裁判長)は27日、死刑が確定した元プロボクサー袴田巌(いわお)さん(78)の再審開始を認める決定をし、袴田さんは同日夕、東京拘置所から釈放された。逮捕から48年ぶり。死刑囚が再審決定と同時に釈放されるのは初めて。検察側は身柄をとどめるよう地裁に求めたが、退けられた。決定は、物証が捏造(ねつぞう)された疑いに言及し、「捏造する必要と能力を有するのはおそらく捜査機関(警察)のほかにない」と指摘。「国家機関が無実の個人を陥れ、45年以上拘束し続けたことになり、刑事司法の理念からは到底耐え難い」と悔恨もにじませた。今回の第2次再審請求審では、犯行時に着ていたとされた「5点の衣類」についていた血痕のDNA型鑑定が実施された。まず11年12月に、被害者のものとされていた血痕が別人のものの可能性が強いことが弁護側の鑑定で判明。12年4月には、袴田さんの血痕とされた白半袖シャツの右肩の血と、袴田さんのDNA型が一致しないとする結果が、検察、弁護側双方の鑑定で明らかになった。検察側は「DNAが劣化していた可能性がある」と信用性を争ったが、地裁決定は弁護側鑑定の信用性を認め、「DNA型鑑定が裁判で提出されていれば、有罪判断に達していなかった」と指摘。5点の衣類は袴田さんのものでも犯行時の着衣でもない可能性が十分あると認定した。5点の衣類は事件の約1年2カ月後、現場近くのみそ工場タンク内からみそ漬けの状態で発見された。弁護側は血をつけた衣類をみそ漬けにする実験の結果、長期間漬かっていた衣類と色が違うと主張。地裁決定も、「事件から相当期間経過した後、みそ漬けにされた可能性がある」として、「後日、捏造されたと考えるのが最も合理的」と判断した。また、5点の衣類のうち、「B」と書かれた札がついたズボンにも言及。確定判決は「B」を肥満体用の表示と認定し、袴田さんが装着実験でズボンをはけなかったのに、元々肥満体用のズボンがみそに漬かっている間に縮んだとしていた。しかし弁護側は、検察側の新たな証拠開示で得られた供述調書の中身から「B」は色を表すと指摘。地裁決定も「ズボンは袴田さんのものでないとの疑いに整合する」と判断した。
■再審開始決定の骨子
 ◆確定判決で犯行時の袴田さんの着衣とされた「5点の衣類」は、弁護側が提出したDNA型鑑定に
   よれば、袴田さんのものでも、犯行時の着衣でもなく、後日、捏造(ねつぞう)された疑いがある。
 ◆5点の衣類が(事件の約1年後にみそ工場のタンクから)発見された当時の色合いや血痕の赤み
   は、長期間、みそのなかに隠されていたにしては不自然だ。
 ◆その他の証拠を総合しても袴田さんを犯人と認定できるものはない。
 ◆再審を開始する以上、死刑の執行停止は当然。捜査機関によって捏造された疑いのある証拠で
   有罪とされ、極めて長期間、死刑の恐怖の下で身柄を拘束されてきた。これ以上、拘置を続ける
   ことは耐え難いほど正義に反する。よって拘置の執行も停止する。
■姉や支持者と車に
 袴田巌さんは27日午後5時ごろ、東京拘置所(東京都葛飾区)から釈放された。同20分すぎ、姉のひで子さん(81)や支援者らと車に乗り込んだ。ひで子さんらは釈放前に20分ほど面会。立ち会った弁護士によると、巌さんは当初、「袴田事件は終わった」などと再審開始を信じない様子だったという。拘置所から外に出たことがないため、ぼろぼろの靴しかなく、靴は拘置所から借りた。巌さんとひで子さんはこの日、都内のホテルに宿泊。ビールとケーキを用意したが、疲れた様子で、すぐに寝てしまったという。
◆キーワード
 <袴田事件> 1966年6月30日未明、静岡県清水市(現・静岡市清水区)のみそ製造会社専務(当時41)宅から出火。焼け跡から専務、妻(同39)、次女(同17)、長男(同14)の遺体が見つかった。全員、胸や背中に多数の刺し傷があった。県警は同年8月、従業員の袴田巌さん(同30)を強盗殺人などの疑いで逮捕。一審・静岡地裁は袴田さんは家を借りるための金が必要で動機があるなどとして死刑を宣告した。
<おことわり> これまで「袴田巌死刑囚」と表記してきましたが、刑の執行停止や釈放などを受け、今後は「袴田巌さん」と改めます。

*1-3:http://mainichi.jp/select/news/20140327k0000e040162000c.html
(毎日新聞 2014年3月27日) 袴田事件:「やっていません」に涙出る…1審死刑の裁判官
 静岡市(旧静岡県清水市)で1966年、みそ製造会社の専務一家4人を殺害したとして強盗殺人罪などで死刑が確定した元プロボクサー、袴田巌死刑囚(78)側の第2次再審請求。静岡地裁(村山浩昭裁判長)は27日、再審を開始し、死刑執行を停止する決定を出した。1審・静岡地裁で死刑の判決文を書いた元裁判官、熊本典道(のりみち)さん(76)は「公判で袴田さんが『やっていません』と言った姿が忘れられない。思い出すと涙が出る」と、今でも悔やみ続けている。真っすぐに裁判長を見据えて受け答えする袴田死刑囚の様子や、任意性に乏しい供述調書などを通じ、「有罪認定は難しい」と思っていた。だが、結審後に判決文を検討する中で、結果的に先輩判事に押し切られた、と振り返る。半年後、耐えられず退官し、弁護士に転じた。合議の秘密を破り、第1次再審請求中の2007年、「無罪の心証があった」と告白したが、請求棄却が確定した。先月末には古巣の静岡地裁を訪ね、再審開始を求める上申書を提出。「自分は他の裁判官を説得できなかった。償いをしたい」と訴えた。

*2-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140328&ng=DGKDASDG2704V_X20C14A3CC1000 (日経新聞 2014.3.28) 袴田さん「ありがとう」 、再審決定、48年ぶり釈放
 1966年に静岡県で一家4人を殺害したとして死刑が確定し、静岡地裁が再審開始を決定した元プロボクサー、袴田巌さん(78)が27日、東京拘置所から釈放された。66年8月の逮捕以降、約48年にわたり身柄を拘束されていた。弁護団によると、今後は体調を整えてから静岡県内の医療施設で療養する見通しだという。静岡地裁は27日午前、袴田さんの再審開始を認め、刑の執行とともに拘置も停止する異例の決定をした。検察側は身柄を拘束する法的根拠はないと判断し、釈放の手続きをとった。検察側は再審開始の決定については、東京高裁に即時抗告を申し立てる方向で検討している。釈放された袴田さんは27日午後5時20分すぎ、姉の秀子さん(81)らと共に車で東京拘置所(東京・葛飾)を出た。弁護団などによると、袴田さんは長期間の身柄拘束による拘禁症状に加え、現在は認知症も進んでいるとされる。拘置所の医師からは糖尿病などの指摘があったという。静岡地裁の村山浩昭裁判長は再審開始を認めた27日の決定で「捏造の疑いのある証拠によって有罪とされ、死刑の恐怖の下で拘束されてきた。これ以上拘束を続けることは正義に反する」としていた。
お断り:「袴田巌元被告」と表記していましたが、釈放に伴い「袴田巌さん」と改めます。

*2-2:http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140328/k10013328441000.html
(NHK 2014年3月28日) 高裁も袴田さんの釈放認める
 昭和41年に静岡県で一家4人が殺害されたいわゆる「袴田事件」で再審=裁判のやり直しが認められた袴田巌さんの釈放を、東京高等裁判所も認める決定を出しました。検察が今後、最高裁判所に申し立てを行っても認められる可能性は低いとみられるため、釈放を認めた判断が確定する見通しです。袴田巌さんは昭和41年、今の静岡市清水区で、みそ製造会社の専務の一家4人が殺害された事件で強盗殺人などの罪で死刑が確定しましたが、静岡地方裁判所は27日、再審を認める決定を出しました。さらに裁判所は釈放を認める異例の決定を行い、袴田さんは、昭和41年に逮捕されて以来、およそ48年ぶりに拘置所から釈放されました。これに対して検察は、釈放を行わないよう申し立てを行っていましたが、東京高等裁判所は28日、退ける決定を出しました。今後、最高裁判所に申し立てを行っても認められる可能性は低いとみられるため、釈放を認めた東京高裁の判断が確定する見通しです。検察はこれとは別に、再審開始についても取り消しを求める即時抗告を行う方向で検討しています。

| 司法の問題点::2014.3~ | 12:58 PM | comments (x) | trackback (x) |

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