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2019,07,22, Monday
国会議員の女性割合 管理職の女性比率 女性・女系天皇(2019.7.10毎日新聞) (図の説明:左図のように、日本の国会議員に占める女性割合は著しく低く、中央の図のように、管理職に占める女性割合も低い。さらに、右図のように、女性天皇・女系天皇に未だ反対する政党もあり、世界からは周回遅れになっている) 2019.7.22毎日新聞 2019.7.22読売新聞 2019.5.13朝日新聞 (図の説明:2019年参院選の結果は、左図のようになった。女性は、中央の図のように、候補者に占める女性割合より当選者に占める女性割合が低く、一般に女性の当選率の方が悪いことがわかる。また、女性・女系天皇を認めた場合の皇位継承順位は、右図のようになる) (1)リーダーになる機会の男女平等はあるのか 1)2019年の参院選について *1-2のように、①2013年4月に安倍首相が成長戦略に女性活躍を盛り込み ②2014年1月の国会施政方針演説では「全ての女性が活躍できる社会をつくるのが安倍内閣の成長戦略の中核」と述べられ ③2016年4月には企業や自治体に女性の登用目標などの計画策定・公表を義務付けた女性活躍推進法を施行し ④2018年5月には「政治分野の男女共同参画推進法」が議員立法で成立して、女性が活躍しリーダーになるための法律整備は既にできている。 しかし、2019年の参院選における主要政党の女性候補割合は、野党は社民(71%)、共産(55%)など女性が半数を超える政党もあり、立憲民主(45%)も約半数だが、与党は自民(15%)、公明(8%)と低かった。これには意識の低さ以外に、すでに現職で埋まっているため新しい候補を擁立しにくいという事情もあるだろう。 世の中は、少子化による生産年齢人口割合の減少で物理的にも女性労働力の重要性は増しておりが、女性の地位向上によって男性にはない視点からの気付きを意思決定や政策に反映しやすくなる。そのため、男性優位の習慣や制度は大胆に変えるのが経済的にも有効だが、日本の女性登用は欧州連合(EU)委員長と欧州中央銀行(ECB)総裁に女性を起用した欧州に比べると30年遅れである。 なお、7月21日に投開票された参院選の候補者となった女性の当選率は、*1-1のように、26.9%で、男性の36.1%に及ばず、女性候補の比率は過去最高の28.1%となったものの全当選者に占める女性の比率は22.6%に留まった。選挙区別では、女性当選者が東京で半数の3人を占め、神奈川や大阪でも半数だったが、九州は全体で0だった。 女性の当選率が低い理由は、女性候補が野党に多く、現職でない上に準備期間も短いため、不利な闘いを強いられることだろう。しかし、九州の0は、*2-2に代表される女性蔑視が大きな原因の一つだと考える。 2)世界と日本の男女平等度 日本の男女平等度は、*1-3のように、世界経済フォーラムが公表する「ジェンダーギャップ指数」で示されており、この指標による日本の2018年の順位は149か国中110位とG7、G20で最下位だ。指標の内訳は、2018年で、①経済分野 0.595(117位) ②教育分野 0.994(65位) ③健康分野 0.979(41位) ④政治分野 0.081(125位) であり、いずれも決して高くはないが、政治分野は特に低い。 政治分野の評価の対象は、「国会議員の男女比」、「女性の閣僚率」、「女性首相の在任期間」などだが、国会議員における女性の割合が衆議院10.2%、参議院20.7%(平成31年1月現在)であるのは、日本のジェンダー平等への進行が遅すぎるということだ。 今回の参院選では、370人の候補者のうち女性は104人で28.1%を占め、過去最高の高さと言われているものの、政党別では、①自民党15%(12人) ②立憲民主党45%(19人) ③国民民主党36%(10人) ④公明党8% (2人) ⑤共産党55%(22人) ⑥日本維新の会32%(7人) ⑦社民党71%(5人)と党による差が大きい。 しかし、採用時点で30%では、指導的地位に女性が占める割合を30%程度にすることはできず、2020年に指導的地位の女性割合を30%にするためには、採用時は50%くらいでなければ、女性に多いハードルや偏見をクリアして生き残る人は30%にならない。そして、衆議院議員・参議院議員も、なっただけでは指導的地位についたとは言えず、実力と実績で閣僚や党幹部になれて初めて指導的地位についたと言えるのである。 3)他分野における指導的地位に女性が占める割合 i) キャリア官僚への女性合格 国家公務員キャリア官僚への女性合格率は、*1-4のように、2019年度の採用試験で1798人が合格し、女性割合は過去最高の31.5%で初めて3割を超えたそうだが、キャリア官僚になったから指導的地位に就いたとは言えないため、採用時は女性を50%採用すべきだ。 そうすれば、次官や局長などの女性割合が次第に30%になると思われるが、2020年にはとても間に合いそうにない。 ii) 女性天皇、女系天皇は何故いけないのか このように、「指導的地位の女性割合を30%にしよう」と言っている時代に、*1-5のように、女性天皇や女系天皇に拒否感を示す政党は、科学的でも論理的でもなく感情的である。 立憲民主党は「皇位継承資格を女性・女系皇族に拡大し、現代における男女間の人格の根源的対等性を認める価値観は一過性ではない」と明記し、「皇位継承順位は長子優先」とした。共産党は女性・女系天皇に賛成する立場を明らかにしており、自民党と国民民主党は男系維持だ。この「立憲民主党」「共産党」と何かと自民党に近い「国民民主党」の違いが、今回の野党間の選挙結果の違いに繋がっていると思う。 (2)女性がリーダーになることを阻害する偏見・女性蔑視 2019年7月22日、*2-1のように、佐賀新聞が「政治分野の男女共同参画推進法成立後、初めての大型国政選挙だったが、参院選の女性当選者数は、選挙区18人、比例代表10人の計28人で過去最多の前回2016年と同数だったものの、立候補した女性104人のうち当選率は26.9%は前回を下回り、当選者全体に占める女性比率は22.6%だったと記載している。 せっかくこの認識に至ったのなら、私には心当たりが多いため、九州は全県で女性当選者が0だったという日本の平均から見ても周回遅れだったことも含めて、何故そうなるのかを分析し、女性候補に対する報道や表現を改めてもらいたい。何故なら、選挙は候補者を直接には知らない有権者が多く投票するため、メディアの女性蔑視表現で票が減ることが多いからである。 このような中、選挙の最中の2019年7月20日、西日本新聞が、*2-2のように、「IQ(論理的思考)とEQ(情緒的感性)には明確な男女差がある」と書いており、その内容は、「男性は論理的に思考するタイプが多く、女性は情緒的・感覚的に思考するタイプが多いという明確な差が出て、男性は論理的に考えるのが得意で、女性は共感力が高いというイメージに近い結果になった」というものだ。 これは、「(原因が何であれ)女性は感情的で男性ほど論理的でないため、リーダーには向かない」と言っているのであり、個に当てはめると妄想であって現実ではない。また、調査の仕方にも問題があり、出した結果は女性に対する偏見や女性差別にほかならない。さらに、こういう記事を書くことは女性候補者を不利にするため、選挙違反である。相手の立場に立って考える「おもいやり」は男女の別なく持っていなければならないものだが、そもそも“共感力”とはどういう能力なのか、特定の接客業以外で必要な能力なのか、私には意味不明である。 (3)女性差別を禁止する条約締結と法律制定の経緯 私は、東大医学部保健学科を1977年に卒業し、男性に比べて就職の条件が悪かったので公認会計士の資格を取るために勉強をしていた時、1978年頃、さつき会(東大女子同窓会)の代表だった正木直子さんから電話をいただき、「どうしてさつき会に入らないの?」と聞かれた。 そのため、「東大の卒業証書が就職であまり役に立たなかったからで、現在は公認会計士試験の勉強中です」と答えたところ、1979年の第34回国連総会で、*3-1の女子差別撤廃条約が採択され、日本は、1985年に、*3-2の最初の男女雇用機会均等法を外圧を借りて制定し、同年、女子差別撤廃条約を締結した。正木直子さんは、労働省勤務だったのだ! 女子差別撤廃条約の締結と最初の男女雇用機会均等法制定は、赤松良子さんや正木直子さんなど、労働省(当時)に勤務していたさつき会の先輩方が変わった人であるかのように言われながらも、日本の男女平等を進めるための法律を作ったのである。一方、同じ1985年に、厚生省(当時)は、専業主婦の奨めともなる年金3号被保険者を作り、年金制度を積立方式から賦課方式に変更し、日本では女性活躍のアクセルとブレーキが同時に踏まれたのである。 そして、*3-3のように、内閣府が男女共同参画社会基本法を作ったのは、*1-3のように、20年前の1999年だ。しかし、男女平等ではなく、男女共同参画に過ぎない。これに先立ち、1997年に男女雇用機会均等法が改正され、努力義務でしかなかった男女の雇用機会均等を義務化したが、これは経産省に私が頼んでやってもらったものである。 そのほか、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)」は、第2次安倍内閣下の最重要施策の1つとなり、2015年9月4日に公布・施行されたが、これは私の提案がきっかけだ。 また、2018年5月23日に公布・施行された「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」は、赤松良子さんが中心になって女性たちが協力してできた法律である。 つまり、女性差別を禁止する法律は、日本国憲法制定で男女平等を勝ち取ったのに差別され続けた日本女性が協力して制定してきたものだ。にもかかわらず、「男性には論理的に思考するタイプが多く、女性には情緒的、感覚的に思考するタイプが多い」とか「均等法以降の女性にのみキャリアがある」「空気を読むことが大切」などと言っているのは、馬鹿にも程があるのだ。 <リーダーになる機会の男女平等はあるのか> *1-1:https://www.jiji.com/jc/article?k=2019072200284&g=pol (時事 2019年7月22日) 女性28人、過去最多タイ=当選率、男性に及ばず-東京など半数占める【19参院選】 21日投開票の参院選で、女性の当選者は選挙区18人、比例代表10人の計28人となり、過去最多の前回2016年に並んだ。選挙区の当選者は16年より1人多く、最多記録を更新。一方、女性候補全体に占める当選者の比率は16年より2.3ポイント減の26.9%で、男性の36.1%には及ばなかった。今回の参院選は、男女の候補者数をできるだけ均等にするよう政党や政治団体に求める「政治分野における男女共同参画推進法」が18年5月に成立して以降、初の大規模国政選挙となった。ただ、女性候補の比率は過去最高の28.1%となったものの、全当選者に占める女性の比率は22.6%にとどまった。選挙区別では、改選数が1増えた6人区の東京で女性が半数の3人を占め、ともに4人区の神奈川と大阪でも男女の当選者が同数だった。政党別で見ると、12人が挑んだ自民党の当選者が10人で、16年に続き最も多かった。公明党は2人の候補がともに当選。女性を積極的に擁立した主要野党4党では、立憲民主党で19人中6人が議席を得たのに対し、候補者数が最多だった共産党は22人中3人、国民民主党は10人中1人の当選にとどまり、社民党はゼロだった。NHKから国民を守る党も女性当選者がいなかった。改選数1の1人区で無所属の野党統一候補として出馬した中では4人が勝利。日本維新の会、れいわ新選組はそれぞれ1人が初当選した。 *1-2:https://www.kochinews.co.jp/article/293741/ (高知新聞社説 2019.7.18) 【2019参院選 女性活躍の社会】看板倒れの現実直視を 「全ての女性が活躍できる社会をつくる。これは安倍内閣の成長戦略の中核です」。2014年1月の国会の施政方針演説で、安倍首相はそう決意を述べた。13年4月に成長戦略に女性活躍を盛り込んで、もう6年以上がたつ。演説では「20年には、あらゆる分野で指導的地位の3割以上が女性となる社会を目指す」と数値目標も掲げる意気込みだった。14年9月の内閣改造では、新設した女性活躍担当相ら5人の女性閣僚を起用。16年4月には企業や自治体に、女性の登用目標などの計画策定・公表を義務付けた女性活躍推進法が施行された。矢継ぎ早に打ち出された政策に対し、現在の実績はどうか。まず13年の政策演説で発表された「17年度末までに待機児童をゼロにする」との目標は、早々と断念し20年度末に先送りされた。女性閣僚の数も内閣改造のたびに減り、現在は片山地方創生担当相ただ1人だ。鳴り物入りで設置された女性活躍担当相も、片山氏が兼務するありさまである。政策を遂行する体制がこれでは、安倍政権のやる気を疑われても仕方がない。世界経済フォーラムが公表した18年版の男女格差報告によると、日本は調査対象の149カ国中110位だ。先進国では閣僚が男女ほぼ半々という国も珍しくない。女性1人というのは極端に遅れている。こうした現状を打開しようと昨年、「政治分野の男女共同参画推進法」が議員立法で成立した。選挙で男女の候補者数をできる限り均等にすることを目指す。同法が施行されて初の国政選挙となる今回の参院選が、今後を占う試金石となる。ところが主要政党の女性候補の割合を見ると、がくぜんとする事実が浮かんでくる。野党は社民(71%)、共産(55%)と女性が半数を超え、立憲民主(45%)もほぼ半数に近い。これに対し与党は自民(15%)、公明(8%)とあまりにも低い。自公が政権を握って6年半、早くから「女性が輝く社会」をぶち上げていったい何をしてきたのか。言い出しっぺがこのありさまでは、女性活躍推進法に真面目に取り組んでいる民間企業のやる気もそぎかねないだろう。安倍首相は男女が共同参画する社会の意義について、理解と努力が不足しているのではないか。少子高齢化が進む中で、国民の半数以上を占める女性の地位向上がなければ、よい政策や企画も生まれまい。これまでの「女性活躍」が看板倒れになっている現実を直視し、男性優位の習慣や制度を大胆に変えていく気概が必要だ。激動が続く欧州では先日、欧州連合(EU)委員長と欧州中央銀行(ECB)総裁に、ともに女性を起用する人事が固まった。世界との差は開く一方のようだ。 *1-3:http://ivote-media.jp/2019/07/09/post-3196/ (Ivote 2019.7.9) 2019年は節目の年【政治×女性】〜参院選2019〜 第25回参議院議員通常選挙が7月4日に公示され、投開票日は、7月21日となっています。2019年は12年に一度の「統一地方選挙」と「参議院議員選挙」が重なる亥年の選挙として大きな節目の年になっていてivote mediaでも取り上げています。そして、もう一つ大きな節目として、2019年は「男女共同参画社会基本法」が制定・施行されてから20年という節目の年でもあるのです。男女共同参画社会の実現というものを21世紀の日本の最重要課題と位置づけ、課題の解消のために走り始めた年から20年経過をした年になります。ジェンダー平等に関して、近年では「女性活躍」という言葉を頻繁に聞くようになり、女性活躍は安倍政権の看板政策の一つでもあり、立憲民主党はじめ他政党でもジェンダー平等について動きを見せています。そこで今回の記事では、男女共同参画社会基本法が成立してから20年が経過をした現在の日本の男女平等における状況、とりわけ「政治」の分野における状況を確認し、参議院議員選挙における、読者の方々の投票の一つの視点となってもらえればと思います。 ●日本における男女平等の現状 男女平等を世界の国々と比較するときに用いられる指標は、世界経済フォーラム(World Economic Forum)が公表する「ジェンダーギャップ指数」です。この指標では、経済・教育・健康・政治の4つの分野のデータから作成されています。そして、日本の2018年の順位は149か国中110位(前年:144か国中114位)であり、前年から4つ順位を上げたものの、G7内では最下位となっていて、男女平等については後進国といっても過言ではありません。 指標の内訳としては、(2018年←2017年) ◇経済分野 0.595(117位) ← 0.580 ◇教育分野 0.994(65位) ← 0.991 ◇健康分野 0.979(41位) ← 0.980 ◇政治分野 0.081(125位) ← 0.078 となっています。(1が完全平等を示す。) 政治分野の評価の対象には、「国会議員の男女比」、「女性の閣僚率」、「女性の首相在任期間」などが評価の対象となっています。皆さん、ご存じの通り、日本では未だ女性首相の誕生は一度もありません。そして、国会議員の男女比の割合について、衆議院では10.2%、参議院では、20.7%(平成31年1月現在)が女性の議員となっています。これらのデータや、皆さんの方々の実感から分かるように日本では、政治分野における男女平等は、後進国であると考えられます。しかし、男女共同参画社会基本法が成立してから、今現在まで無策だったわけではありません。国・都道府県においては、男女共同参画計画を策定し、ほぼ全ての基礎自治体においても、男女共同参画に関する計画を策定して施策を実施しています。自治体の施策だけでは解決しない問題ではありますが、ジェンダー平等に関する課題は日本の大きな課題として掲げ続けられています。そのような状況から、特に政治分野におけるジェンダー平等の不平等を解消しようという大きな動きも出てきています。平成30年(2018年)5月23日に「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」が公布・施行されました。この法律では、衆議院、参議院及び地方議会の選挙において、男女の候補者の数ができる限り均等となることを努力目標として掲げ、目指しています。そこで、この法律が成立をしてから初めての国政選挙となる第25回参議院議員通常選挙の立候補者の男女の割合を見てみましょう。 ●政党別立候補者数の男女比(今回の参院選) 第25回参議院議員通常選挙には、370人が立候補をすることを予定しています。そのうちの女性候補は104人で28.1%を占めています。これは、過去最高の割合の高さとなっています。では、政党別に女性候補の数と割合を見てみましょう。 ◇自由民主党 15%(12人) ◇立憲民主党 45%(19人) ◇国民民主党 36%(10人) ◇公明党 8% (2人) ◇共産党 55%(22人) ◇日本維新の会 32%(7人) ◇社民党 71%(5人) 政治分野における男女共同参画の推進に関する法律が制定されてからのはじめての国政選挙で、以上のような立候補者の状況となっています。 ●2020年30%目標 「2020年30%目標」初めて聞く人も多いかと思います。これは、「社会のあらゆる分野において、2020年までに指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%程度とする」という平成22年12月に閣議決定をされた目標です。「指導的地位」の中には、衆議院議員や参議院議員も含まれているため、国の目標としても30%という目標は達成をすべき大きな指標となっています。この目標は、兼ねてから掲げられてきた目標でありますが、今回の参議院議員選挙の立候補者の男女の割合、政党別にみたときの男女の割合はどうでしょうか。判断は皆さま方にお任せをします。(以下略) *1-4:https://www.hokkaido-np.co.jp/article/318756?rct=n_topic (北海道新聞 2019/6/25) 国家公務員の女性合格、初3割超 19年度、総合職 人事院は25日、2019年度の国家公務員採用試験で、中央省庁のキャリア官僚として政策の企画立案を担う総合職に1798人が合格したと発表した。うち女性は567人。割合は過去最高の31・5%で、初めて3割を超えた。前年度から4・3ポイントの増加。人事院は「中央省庁で活躍する女性が増え、入省後のイメージを描きやすくなったことが一因」と分析している。申込者数は1万7295人で、倍率は9・6倍だった。合格者の出身大学別は、東大の307人が最多で、京大126人、早稲田大97人、北海道大81人、東北大と慶応大が75人で続いた。 *1-5:https://www.sankei.com/politics/news/190611/plt1906110035-n1.html (産経新聞 2019.6.11) 立民が「女系天皇」容認 国民との違いが浮き彫りに 立憲民主党は11日、「安定的な皇位継承を確保するための論点整理」を取りまとめた。皇位継承資格を「女性・女系の皇族」に拡大し、126代に及ぶ男系継承の伝統を改める考えを打ち出した。「女性宮家」創設の必要性も強調した。一方、国民民主党「皇位検討委員会」は同日、男系維持に主眼を置いた皇室典範改正案の概要を玉木雄一郎代表に提出。両党間で皇室観の違いが浮き彫りとなった。立憲民主党の「論点整理」は伝統的な男系継承について「偶然性に委ねる余地があまりに大きい」と指摘した。また、「現代における男女間の人格の根源的対等性を認める価値観は一過性ではない」などと明記した上で、女系天皇を容認すべきだと訴えた。皇位継承順位に関しては、男女の別を問わず、「長子優先の制度が望ましい」とした。男系を維持する手段として旧皇族を皇室に復帰させる案は明確に否定。「今上天皇との共通の祖先は約600年前までさかのぼる遠い血筋だ。国民からの自然な理解と支持、それに基づく敬愛を得ることは難しい」と断じた。また、皇族減少に歯止めをかけるため、女性皇族が結婚後、宮家を立てて皇室に残り皇族として活動する女性宮家の創設を訴えた。一方、国民民主党は女系天皇を「時期尚早」として認めず、改正案も男系を維持する内容だ。ただ、過去に10代8人いた「男系の女性天皇」の皇位継承は認める。きょうだいの中では男子を優先した。皇統に関しては、共産党がすでに女性・女系天皇に賛成する立場を明らかにしている。3党は参院選の32ある改選1人区の全てで候補を一本化したが、最重要の皇室をめぐり、「立憲民主党・共産党」と「国民民主党」の間で方向性の違いが表面化した。 <女性がリーダーになることを阻害する偏見> *2-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/403685 (佐賀新聞 2019年7月22日) 女性当選者28人、過去最多に並ぶ、政府目標には届かず 参院選の女性当選者数は、選挙区18人、比例代表10人の計28人で、過去最多の前回2016年と同数となった。立候補した女性は104人で当選率は26・9%。前回を下回った。当選者全体に占める女性の比率は22・6%だった。政党に男女の候補者数を均等にするよう促す「政治分野の男女共同参画推進法」の成立後、初めての大型国政選挙。「指導的地位に占める女性の割合」を2020年までに30%にするとの政府目標には届かなかった。秋田と愛媛両県選挙管理委員会によると、両選挙区で戦後女性参院議員が誕生したのは初めて。 *2-2:https://www.nishinippon.co.jp/item/o/528623/ (西日本新聞 2019年7月20日) IQ(論理的思考)とEQ(情緒的感性)には明確な男女差が ●43万人の個性診断結果をビッグデータ解析して見えてきた、男女の思考性の違い COLOR INSIDE YOURSELF( https://ciy-totem.com/ )は43万人以上が利用する、自己診断サービスです。43万人以上の診断結果をビッグデータ解析した結果みえてきた、個性や性格に関する興味深い統計データをお届けします。 ●IQ(論理的思考)とEQ(情緒的感性)には明確な男女差が COLOR INSIDE YOURSELF(以下「CIY」)の診断結果では、個人の様々な特性が明らかになりますが、その中でも特に、「論理的に思考するタイプ」と「情緒的、感覚的に思考するタイプ」では、男女間で明確に差がでました。年齢別の診断結果の割合を多項式近似曲線で表すと、「論理的に思考するタイプ」は全年齢層で男性の割合が高く、逆に「情緒的、感覚的に思考するタイプ」では、全年齢層で女性の割合が高くなっています。ステレオタイプに言われているような「男性は論理的に考えるのが得意、女性は共感力が高い」というイメージに近い結果となりました。 ●男女によって、求められる思考性が異なる? さらに、ライフスタイル別の統計結果を見ると、男性では新社会人(23歳~29歳)から40代にかけて「論理的に思考するタイプ」が増加しています。女性では、高校から大学、社会人になるに従って「情緒的、感覚的に思考するタイプ」が増えており、30代からは緩やかに減っていきます。 ●年齢とともに性格が変化する要因は、何でしょうか? A:組織の中で、「男性は論理的であること、女性は情緒的で共感し合うこと」を求められた結果、年齢とともにそれぞれの思考性が変化していく B:そもそも男女で年齢とともに思考性が変化していく傾向があり、結果的に「男性は論理的、女性は情緒的で共感力が高い」という集団ができていく いずれの要因かまでは分析結果からはわかりませんでしたが、ここまで明らかになると、さらに興味深い洞察が得られそうです。 ●年齢とともに性格は変わるのか? 世代別の結果では、男性では「ゆとり第一世代~団塊ジュニア世代」までが、やや「論理的に思考するタイプ」が高くなっているようです。(女性では、世代別の変化は、あまり見られません。上述の通り、年齢や社会的なポジションに伴って性格が変わっていくのか、特定の世代に限って「論理的に思考するタイプ」がそもそも多いのかについても、興味深いポイントです。個性や性格の半分は遺伝で決まり、残りの半分はその他の要因によって決まると言われています。そのため加齢による性格の変化はそこまでないはずですが、男性で30−40代が「論理的に思考するタイプ」が多く、50代をすぎると「情緒的、感覚的に思考するタイプ」が増えていくという傾向を見ると、年齢とともに性格が変化しているとも感じられます。今後も継続的に結果を分析することで、年齢による変化なのか、特定の世代による傾向なのかを明らかにしていきたいと思います。 <女性差別を禁止する法律と条約> *3-1:https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/josi/index.html (外務省) 女子差別撤廃条約 女子差別撤廃条約は、男女の完全な平等の達成に貢献することを目的として、女子に対するあらゆる差別を撤廃することを基本理念としています。具体的には、「女子に対する差別」を定義し、締約国に対し、政治的及び公的活動、並びに経済的及び社会的活動における差別の撤廃のために適当な措置をとることを求めています。本条約は、1979年の第34回国連総会において採択され、1981年に発効しました。日本は1985年に締結しました。(以下略) *3-2:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/danjokintou/index.html (厚労省) 男女雇用機会均等法 *3-3:http://www.gender.go.jp/about_danjo/law/index.html#law_brilliant_women (内閣府男女共同参画局) 男女共同参画社会基本法 配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律 女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法) 政治分野における男女共同参画の推進に関する法律 <女性の当選者> PS(2019/7/23追加):滋賀県選挙区は1人区だが、脱原発を掲げる前滋賀県知事の嘉田由紀子さんが無所属で初当選された。無所属で立候補すると費用が自分持ちで大変なのだが、よく頑張られたと思う。 *4:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190722-00010002-bbcbiwakov-l25 (BBCびわ湖放送 2019/7/22) 参院選 嘉田氏当選/滋賀 参議院議員選挙は、21日投票が行われました。即日開票の結果、滋賀県選挙区は無所属新人で、前の滋賀県知事の嘉田由紀子さんが初めての当選を果たしました。初当選を果たした嘉田さんは「この滋賀から草の根の声をあげる転換点にしたい」と意気込みを語りました。参議院選挙滋賀県選挙区の開票結果は、嘉田由紀子さんが、29万1072票自民党現職で再選を目指した二之湯武史さんが27万7165票NHKから国民を守る党の新人服部修さんは、2万1358票でした。なお、投票率は51.96%で、3年前の前回を4.56ポイント下回りました。 <多様性、正常と異常の境界など> PS(2019/7/24追加):*5に「①生産年齢人口(15~64歳)の減少が進む日本では、女性・高齢者(65歳~)・外国人など働き手の多様化が必要」「②企業が収益・生産性を高めるためには、多様性が重要」「③多様な人材を活用するためには日本的な雇用慣行の見直しが不可欠」と書かれている。 このうち、②③はそのとおりだが、①は、生産年齢人口を15~64歳としているのが実態に合わないので18~70又は75歳にすべきで、そうすると年金など社会保障の支え手が増えると同時に、健康寿命を伸ばすこともできる。さらに、(若年男性の雇用だけを優遇するのはもともと憲法違反だが)“生産年齢人口”が減って人手不足であり、技術革新や新産業も起こっているため、高齢者・女性・外国人の雇用が若年男性の雇用を抑制することはない。むしろ、人材の多様性により、同質ではない人材の相互作用により、新製品が作られたり、新しい販路が開けたり、生産性が上がったりする。ただし、人材が多様化した時に報酬や賃金の公平性を保つためには、年功ではなく実績に基づいた個人に対する公正な評価が必要なのである。 なお、多様性と言えば「障害者」「LGBT」と書く記事が多いが、障害者やLGBTの人にも人権があって生きる喜びや働く喜びを享受したいのは当然であるものの、それらは多様性とは異なり異常の範疇に入る。さらに、現在、*6のように、「知的な遅れ」がないのに、たった3歳で「発達の遅れ」を指摘するような「同一主義」が横行するのは「ゆとり教育」による基礎教育不足のせいだろうか? そういう学級にいれば、正常な人は意味もなくざわつくのはうるさいと感じるだろうから、「発達障害」などとする過剰診断で、1人の人生が無限の夢あるものから支えられるだけのものになるのは痛ましく、もったいないことである。このように、“生産年齢人口”に統計学等の基礎教育が足りないのは、ますます“高齢者”の重要性を増加させるのである。 (図の説明:左図の人口ピラミッドを見ればわかるように、生産年齢人口が著しく減っているため女性が就職活動しても人手不足でいられ、これからは、“高齢者”や外国人も重要な労働力になるだろう。また、右図のように、“高齢就業者数”は増えているが、女性・高齢者・外国人の労働条件はいまだに悪いと言わざるを得ない) *5:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO47657400T20C19A7MM0000/?nf=1 (日経新聞 2019/7/23) 生産性向上、働き手の多様化が必要 経済財政白書 茂木敏充経済財政・再生相は23日の閣議に2019年度の年次経済財政報告(経済財政白書)を提出した。少子高齢化と人口減少が進む日本で企業が収益や生産性を高めるためには、働き手の多様化を進める必要があると分析。多様な人材を活用していくために、年功的な人事や長時間労働など「日本的な雇用慣行の見直し」が欠かせないと強調した。白書は内閣府が日本経済の現状を毎年分析するもので、今後の政策立案の指針の一つとなる。今回の副題は「『令和』新時代の日本経済」。生産性の向上を通じて、潜在成長率を高める必要性を訴えた。白書によると、日本の生産年齢人口(15~64歳)に対する高齢者人口(65歳~)の割合は43%で、世界の先進国平均より高い。2040年には64%まで増加することが見込まれている。政府は年齢や性別にかかわらず多様な人材を活用することで人手不足を緩和する働き方改革を進めてきた。高齢者の雇用拡大を巡っては、若者の処遇に影響を与えるとの懸念も根強いが、白書が上場企業の実際の状況を分析したところ、高齢者雇用の増加が若年層の賃金や雇用を抑制する関係性は見られなかったという。外国人労働者に関しても日本人雇用者との関係は補完関係にあるとの見解を示した。人材の多様性は生産性の向上につながることも分かった。企業における人材の多様性と収益・生産性の関係を検証したところ、男性と女性が平等に活躍している企業ほど収益率が向上している傾向が明らかになった。人材の多様性が高まった企業の生産性は、年率1.3%程度高まるとの分析を示した。内閣府による企業の意識調査によると、多様な人材が働く職場では、柔軟に働ける制度や、仕事の範囲・評価制度の明確化が求められている。「同質性と年功を基準とする人事制度では、個人の状況に応じた適切な評価ができない」として、日本型の雇用慣行の見直しを迫った。今年の白書では日本企業の国際展開が雇用に与える影響も分析した。グローバル化が進んでいる企業ほど、生産性や雇用者数、賃金の水準が平均的に高かった。実証分析の結果をみると、輸出の開始だけでなく、海外企業との共同研究や人材交流にも生産性が上がる効果が認められた。足元の日本経済については「緩やかな回復が続いている」との判断を示す一方、中国経済の減速などで「生産の減少や投資の一部先送りもみられる」とした。生産性の向上を賃金の上昇や個人消費の活性化につなげることが「デフレ脱却にも資する」と指摘した。 *6:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/529530/ (西日本新聞 2019/7/24) 発達障害 学ぶ場は 「通級教室」希望でも入れず 需要急増、教員が不足… 「通級指導教室を希望したが、かなわなかった。もっと数を増やせないのでしょうか」。発達障害があるという中学3年の男子生徒(14)から、特命取材班に訴えが届いた。調べてみると、通常学級に在籍しながら特別な指導を受けられる通級指導教室の需要は急激に伸びており、各自治体が運営に苦慮している実態が浮かび上がった。福岡県に住む生徒は、3歳で「発達の遅れ」を指摘された。知的な遅れはなく、小学校は通常学級で過ごした。中学入学後、問題が生じ始めた。通常学級に在籍したが、聴覚、視覚過敏が現れ、教室のざわつきに耐えられず、同級生とのコミュニケーションも難しくなった。昨年10月に「自閉スペクトラム症」との診断を受けた。今年2月、「コミュニケーションの方法を学びたい」として通級指導教室への入級を学校に申し出た。これに対し、特別支援教育の必要性を判定する「教育支援委員会」は9、11月の年2回しか開かれず、次回9月の委員会までは「難しい」と説明された。そもそも学校に通級指導教室がなかった。今春、通級教室が新設されたものの、既に定員は満杯。「落ち着ける場所をつくる」「苦しい時は教室を抜けることを認める」などの個別支援計画に沿って、スクールカウンセラーや補助教員がサポートすることで落ち着いた。生徒は「中学生になって急に苦しいことが増えた。状況に応じて柔軟に対応してほしい」。校長は「通級指導教室にいるのとほぼ同じ支援をしている」とする半面、「特別支援を希望する生徒は多いのに専門教員が足りず、希望に応じきれていない」と打ち明ける。 ■ 通級指導教室は、自閉症や情緒障害、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)などが対象。文部科学省によると、2017年度、通級指導を受けている児童生徒は全国で10万8946人と10年前の2・4倍。特に、発達障害の子どもが急増している。教室がある学校は5283校で全体の17・7%。福岡県は18年度は156校(271クラス)と10年で2・5倍に増えたが、全体の14・7%にとどまる。福岡市は16年度に通級の対象となったのに入れなかった児童生徒が113人と最多になったことから、設置を急ぎ、17年度以降、待機者はゼロという。北九州市も希望者が毎年200人前後に上るため、08年度に通級の対象期間を上限3年と決め、12年度以降は待機者ゼロになった。一方、特命取材班に訴えを寄せた男子生徒が住む町は本年度、待機者が12人。町教育委員会は「県に専門教員の配置は申請している。配置されるまでは現場に頑張ってもらうしかない」。福岡教育大の中山健教授(特別支援教育学)は「希望者の増加は、障害への理解が進み、保護者や本人が特別支援を望むようになったことが背景の一つにある。通常か通級かという『教育の場』だけではなく、本人、保護者、学校がよく話し合い、安心して学べる環境をつくることが大切だ」としている。 <投票率と投票の中身> PS(2019年7月25日追加):*7-1、*7-2のように、選挙前に「参院選の投票に必ず行く」と答えた人は55.5%いたが、実際の投票率は48.8%だった。中でも10代・20代の若年層は、「必ず行く」と答えた人も男女ともに3割と低調であり、実際の10代の投票率は31%(性別:男性30.02%、女性32.75%、年齢別:18歳34.68%、19歳28.05%)で全世代より17%低かったそうだ。今回の争点は、幼児教育・保育の無償化、全世代型社会保障、年金、消費税、憲法、原発などだったため、「興味がない」「高校・大学が試験期間で選挙前に主権者教育できなかった」等は、普段から意識が低いということであって弁解の余地がない。ただ、親元を離れて進学した若者は、通常は住民票を移していないため投票できないので、国政選挙はどこででも投票できるようにして、学食付近に期日前投票所を設ければよいと考える(インターネット投票は、本人確認・重投票の防止・投票の秘密保持が不確実なため、私は賛成しない)。 しかし、選挙権は権利であって義務でないため、興味のない人が棄権するのは自由である。さらに、普段から政治に関心を持って情報を集めていない人が適当に投票すると、選挙結果を歪める弊害もある。そのため、メディアは、殺人・放火・吉本興業事件や安っぽいなまぬる番組に大量の時間を使うのではなく、普段から正確に分析した政治情報を報道しておく必要があるのだ。 2019.6.9赤旗 2019.7.24東京新聞 2019.7.17朝日新聞 2019.7.24朝日新聞 (図の説明:選挙の争点をわかりやすく纏めた新聞もいくつかあったが、左の赤旗もわかりやすい。年代別投票率は、中央の2つの図のように、若い世代で低く、他人任せだ。右図は、投票しない理由だそうである) *7-1:https://www.sankei.com/politics/news/190716/plt1907160044-n1.html (産経新聞 2019.7.16) 【産経・FNN合同世論調査】参院選投票「必ず行く」55% 若年層は3割、投票率低い懸念 産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)が14、15両日に実施した合同世論調査で、21日投開票の参院選の投票に行くか尋ねたところ「必ず行く」が55・5%に上った。ただし10・20代の若年層は男女ともに3割と低調だった。今年は統一地方選と参院選が12年に一度重なる「亥年選挙」で有権者らの「選挙疲れ」による投票率の低下が懸念されており、前回の平成28年参院選(54・70%)を上回るかが焦点となる。調査によると、投票に「たぶん行かない」は7・9%、「行かない」は4・8%にとどまった。これに対し「できれば行く」は20・1%、「期日前投票を済ませた」は10・2%で、投票に前向きな回答が否定的な回答を大きく上回った。性別・年代別では、高齢層ほど「必ず行く」が多くなり、「60代以上」の男性は73・3%、女性では61・3%を占めた。50代の男性は64・4%、女性では51・5%、40代の男性は56・8%、女性で53・6%といずれも過半数に達した。一方、10・20代の男性は36・5%、女性は37・3%で、それぞれ「60代以上」の約5~6割にとどまる。若年層のうち、20代の投票率低迷は顕著だ。総務省によると、全体の投票率が過去最低の44・52%を記録した7年参院選では20代が前回比8・2ポイント減の25・15%に急落した。その後は30%台で推移している。一方、有権者が投票しやすい環境に向けて増えているのが期日前投票所だ。世論調査で「期日前投票を済ませた」との回答について、男性は「60代以上」が最も多く13・1%、50代が9・7%。女性は30代が最多の15・3%に上り、「60代以上」の14・2%、40代の10・6%が続いた。総務省が発表した14日現在の期日前投票者数は630万9589人で有権者の5・92%に相当し、選挙期間が1日長かった前回の水準に迫っている。与野党は選挙戦の最終盤まで勝敗を左右する若年層や無党派層などの動向に気をもむことになりそうだ。 *7-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201907/CK2019072402000138.html (西日本新聞 2019年7月24日) 参院選、10代 投票率31% 全世代より17ポイント低く 総務省は二十三日、参院選(選挙区)の十八歳と十九歳の投票率(速報値)は31・33%だったと発表した。全年代平均の投票率48・80%(確定値)より17・47ポイント低い。大型国政選挙で選挙権年齢が初めて十八歳に引き下げられた前回二〇一六年参院選に比べ、速報値で14・12ポイント、全数調査による確定値からは15・45ポイント下がった。政治参加を促す主権者教育の在り方が課題になりそうだ。速報値は抽出調査で算出した。男性が30・02%、女性が32・75%。年齢別では、十八歳は34・68%で、十九歳は28・05%と三割を下回った。同省選挙課によると、今回は確定値を出すための全数調査は行わない。大型国政選の十八、十九歳投票率は、一六年参院選が速報値45・45%、確定値46・78%。一七年衆院選は速報値41・51%、確定値40・49%で、下落傾向が続いている。若者の投票率向上のため高校で出前授業を行ってきた「お笑いジャーナリスト」のたかまつななさんは、十代の投票率低下について「多くの高校や大学が試験期間だったことで、選挙前に主権者教育の機会を設けづらかったのではないか」と分析。「投票率が高ければ『この世代を無視すると危ないよ』というプレッシャーを政治側に与えられるのに」と悔しがった。若者の投票行動に詳しい埼玉大学の松本正生(まさお)教授(政治学)は「主権者教育だけでなく、若者が投票しやすいよう選挙制度も問い直すべき事態だ」と指摘。その上で「年長世代が『十代は投票に行かない』と一方的に批判できない」と、有権者全体の五割超が投票しない状況に危機感を示した。 <空港の設計とアクセス←女性の視点から> PS(2019/7/26追加):*8のように、北海道で2020年に7空港が民営化され、空港ビルの建設・路線の増加・国際ハブ(拠点)空港化・道の駅機能の追加が考えられているそうだ。福岡空港は2019年4月2日に民営化され、観光客誘致のためのバス網を充実したり、ターミナルビルの商業機能を強化したりしたが、頻繁に往来する私から見ると、①空港の水道の出が悪くて不潔 ②電車と離発着窓口の距離がものすごく長くなり、重たい荷物を持っての移動が苦痛 ③航空機を利用しない人も土産物店に並んでおり、土産を買うのに時間がかかるようになった ④レストランも混んで入れなかった など、利用者の目線で改善してもらいたい点が多い。 国交省は、羽田に行く交通機関の乗り継ぎを見ても、未だに「航空機は観光で使うもので、乗り換え距離が長ければ途中の店で買い物をする」などと思っているようだが、用があって頻繁に航空機を利用する人が荷物の多い時に買い物をすることはないため、アクセスや空港利用者の便利を第一に考え直すべきである。そして、今から整備する北海道は、このような不便を航空機の利用者に与えない設計にすることこそ、最善の空港利用者増加方法だと考える。 *8:https://www.hokkaido-np.co.jp/article/328927 (北海道新聞 2019/7/26) HKK連合、地方空港も重視 計画概要判明 稚内、ビル建て替え 釧路はアジア便誘致 新千歳新ビル470億円 2020年度の道内7空港民営化で運営事業者に内定した、北海道空港(HKK、札幌)中心の企業連合による投資計画などの概要が25日、判明した。中核の新千歳では新空港ビル建設を計画。稚内で空港ビルの建て替え計画を盛り込むなど、新千歳以外の6空港にも積極投資する方針だ。新千歳には運営委託期間最終年度の49年度までに2900億円を投資する。現在は、国内、国際線それぞれ専用のビルがあり、国際線ビルは拡張工事中。新ビルは、両ビルを維持したまま、両ビルの南側に整備する。国内、国際線共用で30年ごろの開業を目指す。建設費は約470億円。多様な路線を展開できる態勢を整え、国際ハブ(拠点)空港としての位置付けを強める狙いとみられる。新千歳以外の6空港への投資額は、49年度までに約1300億円。稚内は空港ビルを全面建て替えし、商業施設と観光拠点を兼ねる「道の駅」のような機能を持たせる。台湾など国際チャーター便誘致も進める。 <「伝統」「言語」による女性蔑視を守るべきか?> PS(2019年7月26日追加):私がPrice Warterhouse(当時、青山監査法人)東京事務所に勤めていた1982年、アメリカ南部の同事務所に勤務していた黒人の女性シニア・マネージャーが、「女性差別を含む不公正な評価によって、パートナーになれなかった」として提訴し、最高裁まで闘って1988年にPrice Warterhouseに勝った。私は、その女性が膨大な時間と労力を使って闘ったことに感謝するとともに、敗訴した途端に世界で使う自社出版物で「chairman」を「chairman/woman」に変更するなど、男性でなければならないと誤解させるような女性差別を含む言葉をすべて書き換えて世界に影響を与えたPrice Warterhouseにも敬意を表する。日本では、今でも「日本語だから」「伝統だから」などとして、女性に過度の尊敬語・謙譲語・謙遜・やさしさを要求し、「姦しい(かしましい)」「女々しい」「嫉妬」「姦計」「奸策」「雌伏」など悪い意味を表す言葉に「女性」を意味する漢字を多用しているのと対照的だ。 そのため、私は、*9の「chairperson」は女性ではなくジェンダーニュートラルだと思うし、自分には「Ms.」を使うが、日本人の中には「Ms.」を使ったり、旧姓を通称使用していたりすると、「離婚したのでは?」とか「夫婦仲が悪いのでは?」などといらぬ詮索をする人がいて呆れることが多い。日本も、女性蔑視や女性差別を含む言葉を、「日本語だ」「伝統だ」として合理化するのをやめるべき時代にとっくの昔に入っているのに、である。 *9:https://digital.asahi.com/articles/ASM7T4RP5M7TUHBI01V.html?iref=comtop_8_06 (朝日新聞 2019年7月26日)「ze」を知ってますか?性別表す用語、進む言い換え 「マンホール」の「マン」は男性を指す言葉だから、性別と関係のない「メンテナンスホール」に改める――。そんな風に、市の用語を性別にとらわれない言葉に言い換えようという条例が、アメリカ西海岸のカリフォルニア州バークリー市で提案され、話題を呼んでいます。同州では男女の平等をめぐる議論にとどまらず、性的少数者の権利を尊重する観点からも、男女の性にとらわれない「ノンバイナリー」が選択できるようになっていて、そうした意識の高まりが条例の背景にあるそうです。でも記者(32)が大学で英語を学んでいた頃から、すでに「ポリスマンは古い英語だから、ポリスオフィサーと言うように」と教わったような記憶も……。こういった言葉の言い換えは、いつから始まったのでしょうか? ゆくゆくは英語は全然違った形になるかも? 「manの語法」という論文も書いている関西学院大学の神崎高明・名誉教授(英語学)に話を聞きました。 ●ハリケーンの名前も男女交互に □ 中性的な言葉に言い換える取り組みは、いつごろ始まったのでしょうか。 中性的なことを「ジェンダーニュートラル」と言いますが、この動きは欧米で1970年代初頭から始まったと考えられています。1960年代末から女性の権利や束縛からの解放を求めた女性解放運動「ウーマン・リブ」が活発化しました。その流れで、言語学者たちが、英語にある女性差別的・男性中心的な言葉を指摘し、言葉の整理を始めたのです。このころ、アメリカでは企業や自治体など、いろんな組織がマニュアルとして「言い換え集」を作りました。言葉の性差別の問題が非常に注目を集めたのです。 □ 例えばどんな言葉でしょうか。 「fireman」→「firefighter」(消防士)、「chairman」→「chairperson」(議長)、「policeman」→「police officer」(警察官)などです。女性の社会進出で男女が同じ職業に就くようになり、新しい表現が必要だということになったんですね。また、アメリカではハリケーン(台風)に名前をつけるのですが、女性名をつけるのが通例でした。ところが1979年以降、男女交互につけるように変わりました。例えですが、「アンドリュー」とつけたら、次は「カトリーナ」のような具合です。 ●「chairperson」は女性? □ ジェンダーニュートラルな言葉が定着していった背景は? 1980年代後半になると、今度は「ポリティカル・コレクトネス」という人種や性別、障害の有無などによる偏見や差別を含まない言葉や表現を使おうという動きが、アメリカの大学を中心に広まりました。1990年以降、これが世界にも広まり、性差を含まない言葉が好まれるようになっていきました。このころにはポリティカル・コレクトネスの考え方を踏まえた辞書が欧米でいくつも出版されました。アメリカでの「police officer」の使用率を調べた大阪国際大学の畠山利一・名誉教授の調査があるんですが、それによると、1970年代は20%、1980年代で50%、2000年に入って80%です。だいぶ定着していると言えるでしょう。でも、全ての言葉が定着していったわけではありません。バークリー市の言葉の言い換え案の中に含まれている「manhole(マンホール)」だって、辞書には「personhole(パーソンホール)」などの言い換えが載っていますが、定着していません。 □ 新たな言葉が生まれるのと、その言葉が定着して広く使われるのとは別の話だと。 そうなんです。しかも、広く使われてくると、別の問題も生まれてきます。例えば「chairperson」はかなり定着してきていますが、男性議長にはいまだに「chairman」を使い、「chairperson」は暗に女性議長を指す人もいます。形が変わっても、これでは差別は変わりません。同じようなものに、女性の呼称「Ms.(ミズ)」があります。男性は結婚の有無にかかわらず「Mr.(ミスター)」なのに、女性は未婚だと「Miss(ミス)」、既婚者だと「Mrs.(ミセス)」と呼ぶのは不公平ということで「Ms.」が生まれました。でも、裏の意味で「Ms.」を離婚した人やフェミニストに対して使う人もいるのです。いろんな言葉の言い換え案ができても、定着するもの、しないもの、別の意味合いで使われてしまうものがあります。今回のバークリー市のように、すでに定着しつつある言葉も含めて、市が公に使っていくことは、定着に向けた一つの取り組みとして意義のあることだと思います。 ●「his」はもう古い? □ ジェンダーニュートラルが進むと、「he」「she」のように性別で代名詞が変わる英語は、大きく変わることになるのでは? 「he」「she」が将来的になくなる可能性もありますよ。例えば、「Everyone loves his mother」という文章。「everyone」は単数形なので、「his」を使うのが正解でした。でも今は、「Everyone loves their mother」のように、男女を問わない「their」を使うことが広まっています。ちょっと前までは、「they」や「their」は複数形なので文法的には間違いとされましたが、現在はどちらでも正解。むしろ最近の文法書では「hisは古い用法」と注が付いているものもあります。さらに、欧米では「he」「she」に変わって、中性的な代名詞として新しく「ze(ズィー)」という語を使う大学生も出てきています。学者の中には抵抗感を示す人もいますが、言葉は大衆が使うもの。時代が変化すれば、大衆が変化し、言葉が変化するのも当然のことです。これからどの国の言葉もますます中立的な単語や表現になっていくことが予想されます。
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2019,07,17, Wednesday
2018.3.7毎日新聞 2019.7.10東京新聞 2018.8.1東京新聞 (図の説明:左図のように、フクイチ事故の処理費用は天井知らずで、先が見通せない状況だ。また、中央の図のように、原発事故被災地の放射線量は今でも高い。さらに、右図のような活断層や火山噴火は、これまでの原発建設には考慮されていなかったようだ) 2019.7.11 2018.12.22 農業地帯の風力発電 東京新聞 毎日新聞 (図の説明:参議院選挙の候補者は、国の予算のうち年金・社会保障を削ることには積極的だが、金を湯水のように使う原発再稼働には賛成の人がいるため、それぞれの意見を並べて比較すべきだ。また、農業補助金をばら撒くことを厭わない人も多いが、毎年補助金をばら撒くより一度だけ太陽光・風力など再エネ発電機器の設置を行い、その収入を補助金に換えた方が、予算の削減・地方創成・エネルギー自給率向上のすべてに資すると考える) (図の説明:1番左の図のように、特に地域間送電線は鉄道などの既存インフラに沿って超電導ケーブルを敷設すれば電力ロスが少なく、人手不足なら、左から2番目の図のように、外国人労働者を雇用することも可能だ。また、漁業地帯は、右から2番目の図のような養殖施設に付帯した風力発電もあり、1番右の図のようなEV冷蔵トラックもできている) (1)環境とエネルギー政策 地球温暖化が原因と見なされる気象災害が、世界の各地で相次ぎ、*1-1・*1-2・*1-3のように、「気候緊急事態宣言」をする自治体がオーストラリア・欧州・北米国内で広がり、2019年5月には英国議会も宣言した。 また、2015年にはパリ協定が採択され、国際エネルギー機関も2040年に総発電量の40%超を再エネが占めると見込んでいる。しかし、日本政府(特に経産省)は、フクイチ事故の辛酸を舐め「安全神話」が崩壊して原発比率が2017年度では3%になっているにもかかわらず、エネルギー基本計画で2030年の電源構成に占める再エネ比率を22~24%、原発比率を20~22%としている。つまり、国民の年金を減らしながら、無駄な国費を使って、環境に悪い輸入資源由来の原発を推進しようとしているわけだ。 その原発の総コストは、国費も入れると再エネに到底かなわず、使用済核燃料という膨大な負債を未来に残し続けている。また、輸入石炭による石炭火力を温存しつつ「脱炭素社会」の実現を掲げる政策も自己矛盾しており、世界に遅れている。さらに、再エネによってエネルギー自給率を高め、国内で資金を循環させながら、安価なエネルギーを作って産業や国民生活に資する努力にも欠けるのである。 一方、野党の多くは原発0をうたって再エネ導入の目標拡大を掲げており、共産党は再稼働させずに即時0、立憲民主党は2030年までに全廃を目指すとしているが、私は、即時0も可能だと考えている。エネルギー価格は産業の国際競争力に大きく影響し、エネルギー自給率は安全保障を左右するため、メディアは各党のエネルギー政策を参院選前に明確に報道し、有権者が参院選でエネルギー政策に関する審判もできるようにすべきだ。 (2)原発 1)フクイチの現在 フクイチ事故後8年後の現在も、*2-1のように、終わりの見えない廃炉作業が続いており(予算ばかり使って本当にやる気があるのか?)、住民は苦境の中にあるのに、政府は原発再稼働の方針を変えず、旧来型の産業界がそれに期待を寄せている。 しかし、*2-2のように、フクイチ1~4号機が立地していた福島県大熊町の帰還困難区域の放射線量は、今でも毎時2~3マイクロシーベルトあり、帰還が始まった地域でも事故前と同じように放射線量が低くなったわけではない。 2)参院選候補者の原発に対する見解 そのため、「今後も原発を存続すべきと思うか?」については、各地で全候補者に問うて欲しいが、東京では、自民の武見さん・幸福実現党の七海さん・安楽死制度を考える会の横山さん・無所属の関口さんが「原発存続賛成」で、立民の山岸さんと塩村さん・共産の吉良さん・社民の朝倉さん・日本無党派党の大塚さん・れいわ新選組の野原さんが「原発存続反対」だそうだ。国民の水野さん・公明の山口さん・無所属の野末さんは「どちらでもない(言えない?)」で、回答しなかった人は「(言えないが)原発存続に賛成」と考えてよいだろう。 3)司法の見解 四電伊方原発3号機の運転差し止めを求めて山口県の住民が申し立てた仮処分申請で、山口地裁岩国支部が申し立てを却下する決定を出したことについて、愛媛新聞が社説で、*2-3のように、「①山口地裁伊方稼働を容認したが、司法はフクイチ事故を忘れている」「②このような司法判断の連続に失望を禁じ得ない」「③住民の不安に正面から向き合っていない」等と報道しており、全く同感だ。 4)市民の抵抗 また、*2-4のように、脱原発を目指す市民グループ「eシフト」が、ウランは100%輸入なのに、国のエネルギー基本計画が「日本の原発は準国産のエネルギー源」と記載して国産を強調しており、このような記述が104カ所もあって「原発推進への印象操作だ」と批判しており、そのとおりだと思う。このような論理的な反論が、あちこちから出ることが重要だ。 (3)これからのエネルギーは脱原発・脱化石燃料にして再エネへ転換 1)再エネへの転換 九電が川内原発を鹿児島県で再稼働させた地元誌の南日本新聞も、*3-1-1のように、「①東日本大震災とフクイチ事故は、世界のエネルギー政策の転機となった」「②政治の責任で脱原発・再エネへの転換を急ぐべき」「③原発が競争力を失っていることは明らか」「④川内と玄海で原発4基が再稼働した九州では再エネの出力制限を招き、原発で再エネがはじき出された」「⑤政府が脱炭素社会をうたったパリ協定を批准しながら石炭火力発電所新設を認めているのはちぐはぐだ」「⑥原発にこだわった日本のエネルギー政策は世界の潮流から取り残された」「⑦政府は現実を見据えた大胆な政策転換に踏み出すべきだ」としている。私も、日本政府が原発を護ってトップランナーだった日本の再エネ技術をビリまで落とした責任は大きいと考える。 日本弁護士連合会も、*3-1-2のように、パリ協定と整合したエネルギー基本計画の策定を求める意見書を資源エネルギー庁長官に提出しており、「①太陽光・風力について蓄電池・水素等と組み合わせた電力貯蔵系システム」「②再エネの送電網への優先接続」「③既存送電網の活用及び地域分散型電源に対応した送電網の拡充」「④地域分散型のエネルギー需給システム構築のための政策の積極的推進」「⑤省エネ対策の一層の強化」「⑥脱炭素化を促進する野心的な炭素の価格付けの早急な導入」などを挙げており、同感だ。 2)「RE100」の提言 事業で使う電力をすべて再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的な企業連合「RE100」の国内メンバーと米アップルの計20社が、*3-2-1のように、2019年6月17日、2030年の日本の再エネ比率を、政府目標の「22~24%」から「50%」に引き上げるべきだと提言したそうだ。 アップルで環境対策を担当するリサ・ジャクソン副社長が、「世界中でクリーンなエネルギーを調達している企業として痛感しているのは、政府の決断次第で、より安価で安定的に調達が可能になるということだ」と述べ、日本政府に企業の取り組みを後押しする政策を求めたのは、全くそのとおりでよかった。 また、*3-2-2のソニーのように、(ちょっと遅いが)2040年までに、世界の111拠点で全電力を再エネに切り替える目標を立てたり、環境対策の優れた企業に投資や調達を集中させたりするのは効果的だ。 さらに、*3-2-3のように、取引先等の自社拠点以外でもCO2排出削減や資源循環に取り組んだり、物流拠点の共同利用でCO2を減らしたりするグローバル企業が増えると、世界に好影響を与えることが可能だ。 3)電力会社は・・ 九州では太陽光発電の出力が原発7、8基分に高まり、九電の原発4基も再稼働したため、九電は、*3-3-1のように、太陽光や風力発電事業者に稼働停止を求める「出力制御」に踏み切ることが多くなり、もったいないことだ。余った再エネを事業者に直接販売したり、水素に変えたりするインフラがあれば、意識の高い事業者の助けになるが、このようなことが技術的に難しいようでは先進国とは言えない。 しかし、*3-3-2のように、 四電管内では、太陽光や水力発電など自然エネルギーによる電力供給量が、2018年5月20日午前10時から正午にかけて需要の100%を超えていたそうだ。内訳は、太陽光161万キロワット、水力56万キロワット、風力7万キロワット、バイオマス1万キロワットの計225万キロワットで、需要の101.8%に達し、余った電力は連係線を通じて市場で他社に卸売りしたほか、水をくみ上げて夜間に発電する「揚水発電」に使ったとのことである。他地域への電力販売は、地方経済の活性化を通じて地方の財源創出に資すると考える。 また、*3-3-3のように、エアコンを夜通し動かしておかないと命が危うい猛暑の夏でも、3・11の教訓を生かした賢い省エネ・再生可能エネルギーの普及・電力融通の基盤整備によって電気は足りていたそうで、むしろ最大のピンチに立たされたのは、昨年から今年にかけて4基の原発を再稼働させた関西電力だそうだ。 地域独占からネットワークへ、集中から調整へ、原発から再エネへと電力需給の進化は静かに、しかし着実に加速しているのではないかとのことである。 <環境とエネルギー政策> *1-1:https://www.chugoku-np.co.jp/column/article/article.php?comment_id=552537&comment_sub_id=0&category_id=142 (中国新聞 2019/7/15) ’19参院選、エネルギー CO2と原発、どう脱する 「気候緊急事態宣言」をする自治体がオーストラリアや欧州、北米の国内で広がり、5月には英国議会も宣言した。地球温暖化が原因と見なされる気象災害が、世界の各地で相次いでいるからだ。温暖化を食い止めるため2015年に採択されたパリ協定が来年、本格的に始動する。各国のエネルギー政策の動向には今後、注目が強まるだろう。石炭や天然ガスなどの化石燃料に依存した経済や社会から、いかに脱却するか。東京電力福島第1原発事故の辛酸をなめた日本社会にとっては、原発の扱いも重い政策課題である。活発な政策論議が望まれる。安倍政権は昨年改定したエネルギー基本計画で、30年に電源構成で占める再生可能エネルギーの比率を22~24%、原発は20~22%とした。再生エネの「主力電源化」を今回初めて打ち出した割には、海外諸国に比べると見劣りのする数値といえよう。40年に世界で総発電量の40%超を再生エネが占める―と見込む、国際エネルギー機関(IEA)の予想ともかけ離れている。一方で、原発の電源比率は17年度で約3%にとどまる。20%超の比率目標は、30基前後の稼働を前提とした数字である。現実はどうだろう。耐震補強や津波対策による高コスト化で廃炉を余儀なくされる原発も現れている。再稼働にこぎ着けた9基の幾つかは、テロ対策の不備から運転停止命令の出る公算が大きい。比率の実現など、もはや困難な状況である。政府はまた、先にまとめた温暖化対策の長期戦略で「脱炭素社会」実現を掲げた。今世紀後半のなるたけ早期に、二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出量をゼロにするという。にもかかわらず、石炭火力を温存する姿勢は変えていない。国内では新規の発電所建設が進み、30年度の排出削減目標は達成が危ぶまれている。CO2の排出量が膨大なため、石炭火力の廃止に向かいつつある世界とは逆行している。どうして、これで30年の電源構成比率や「脱炭素社会」の実現を成し遂げられると言い切れるのだろう。化石燃料を使わず、CO2を排出しない。「非化石」電源として原発を位置付け、推進すれば、矛盾はしない―。そう言いたいのかもしれない。だが、原発の「安全神話」はとうに崩壊し、事故の際のリスクを国民は目の当たりにした。代償はあまりに大きく、そして長期に及ぶ。先の見えぬ使用済み核燃料の廃棄や処分コストを考えても、妥当性はもはや見当たりそうにない。現政権のエネルギー政策は明らかに、ちぐはぐと言わざるを得ない。矛盾しないとするなら、与党は選挙戦できちんと説明する責任がある。野党の多くは原発ゼロをうたい、再生エネ導入の目標拡大などを掲げる。石炭火力では唯一、立憲民主党が30年までの全廃を目指す―と打ち出した。対立軸がこれほどはっきりした分野でありながら、議論がまだ低調なのは物足りない。エネルギー政策は、私たちの暮らしはもとより、産業の国際競争力や安全保障も左右する。与野党間で、もっと論争が交わされるべきである。 *1-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14097729.html?iref=editorial_news_two (朝日新聞社説 2019年7月15日) 参院選 脱炭素政策 変革への意欲はあるか 来年から、地球温暖化対策の国際ルール・パリ協定が始まるのを前に、世界の脱炭素化が加速している。 再生可能エネルギー発電の設備容量は一昨年までの10年間で倍増し、すでに総発電量の4分の1を超えた。石炭火力発電は二酸化炭素(CO2)の排出量が多く、先進国では全廃や縮小をめざす動きが相次ぐ。 日本も自らの目標を達成できるよう、温室効果ガスの削減に本気で取り組まねばならない。そのために必要なのは、社会や経済の思い切った変革だ。参院選では、脱炭素化への与野党の覚悟と意欲が問われる。 これまで安倍政権のもとで打ち出されてきた各種の政策で、日本の脱炭素化を加速させられるのかは心もとない。たとえば昨年のエネルギー基本計画は、2030年度の電源構成で再エネを22~24%しか見込まず、石炭火力を26%も残すとしている。これに縛られたままでは、閣議決定した「50年までに80%排出削減」という目標にたどり着くのは難しい。政府は先月、この目標に向けたシナリオである長期戦略を国連に提出した。目標を達成した後、今世紀後半のできるだけ早期に排出ゼロの脱炭素社会をつくるとしている。だが、将来の不確かな技術革新に過度な望みをかけ、炭素税や排出量取引などのカーボンプライシングのように、いま実行できる対策からは逃げている。説得力に欠ける戦略である。それでも与党は、このシナリオに沿って進めばいいとの考えだ。脱炭素化を急がねば、という危機感は感じられない。それを象徴するのが石炭火力への姿勢である。日本には多くの新増設計画があり、「CO2削減に後ろ向きだ」と海外では評判が悪い。なのに与党は産業界の意向を尊重し、石炭火力からの撤退を視野に入れていない。大胆な政策転換に背を向けていては、世界の流れに取り残されてしまう。選挙戦の前半では、気候変動や温暖化をめぐる論戦は活発ではなかった。しかし野党には脱石炭に前向きな声があり、与党との対立軸として訴えられるはずだ。「30年までに石炭火力全廃」を公約に掲げる立憲民主党は、野党第1党として安倍政権の姿勢をただしてほしい。近ごろ、世界のあちこちで異常気象や自然災害が相次いでいる。このまま温暖化が進めば、くらしに深刻な影響が及ぶことを忘れてはならない。次世代に重いツケを回さぬよう、いま対策を急ぐ必要がある。与野党どちらに脱炭素社会をめざす意気込みがあるのか、しっかり見極めたい。 *1-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13491491.html (朝日新聞 2018年5月13日) 原発20~22%を明記 「取り組み強化」 エネ計画改定案 政府が今夏の閣議決定を目指す「第5次エネルギー基本計画」の原案がわかった。電力量に占める原子力発電の割合を20~22%にするなど、政府が2030年度にめざす電源構成を初めて明記し、「確実な実現へ向けた取り組みのさらなる強化を行う」とした。核燃料サイクル政策は維持し、原発輸出も積極的に進めるなど、原発推進という従来の姿勢を崩していない。原発比率を20~22%にするには30基程度を動かす必要がある。経済産業省はいまある原発の運転を60年間に延長すれば達成できるとの立場だ。だが、新規制基準のもと、現時点では8基しか稼働しておらず、「非現実的」と指摘される。東京電力福島第一原発事故後、再稼働に反対する世論が多数を占めるなか、エネルギー政策への不信を深めることにつながりかねない。30年度の電源構成は原発のほか、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの比率を22~24%にすることなどを掲げる。15年に経産省がまとめたもので、その前年に決定した第4次計画には盛り込まれていない。原案は原発について「依存度を可能な限り低減させる」としながらも、「重要なベースロード電源」とし、従来の計画の位置づけを維持。新規制基準に適合した炉の再稼働を進めるとした一方、新増設の必要性の文言は明記していない。核燃料サイクルについては、自治体などの理解を得つつ、再処理で取り出したプルトニウムを燃やすプルサーマル発電を一層推進する、とした。安倍政権が成長戦略に掲げる原発輸出は各地で難航しているが、「世界の原子力の安全向上や平和利用などに積極的な貢献を行う」として、こちらも進める姿勢だ。再生エネは「主力電源化」を初めて打ち出した。送電線への接続制限などの課題の克服を「着実に進める」とした。一方、石炭火力は「重要なベースロード電源」との位置づけを維持した。温室効果ガス排出量が多く、国内外で批判も強いが、「高効率化技術を国内のみならず海外でも導入を推進していく」とした。化石燃料の自主開発比率について、30年に石油・天然ガスで40%以上に引き上げ、石炭は60%を維持することも目指す。基本計画は政府の中長期的なエネルギー政策の方向性を定め、約3年に1回見直している。原案は16日にある経産省の審議会に示す。 <原発> *2-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/tokyo/list/201907/CK2019071102000124.html (東京新聞 2019年7月11日) <参院選>候補者アンケート 原発 「存続すべき」4人が主張 東日本大震災から八年がたった今も、東京電力福島第一原発では終わりの見えない廃炉作業が続き、ふるさとに帰還できても、避難先などにいても、住民は苦境の中にある。一方、政府は原発再稼働の方針を変えず、産業界も期待を寄せている。今後も原発を存続すべきか。候補者に賛否を問うと、「賛成」が四人、「反対」が九人、「どちらでもない」が三人、「回答なし」が四人だった。賛成とした自民の武見敬三さんは「徹底した省エネ、再エネの導入等で原発依存度を可能な限り低減し、段階的な廃止を進め、安全性を最優先に、立地自治体等の理解を得るための取り組みを進めるべきである」と「条件付き」で存続の立場を取る。日本は石油などが乏しいことや、経済力、技術力の維持という観点から存続を容認する意見も。諸派(幸福実現党)の七海ひろこさんは「安全保障上からも原発の再稼働・増設を進め、エネルギー自給体制を構築すべきだ」と主張した。また、無所属の関口安弘さんは「原発なしで電源問題は解決できない。再生可能エネルギーの比率を高めながら最低限は存続」とする。諸派(安楽死制度を考える会)の横山昌弘さんは「原子力発電の技術を維持するためにも存続する必要がある」としつつ「狭い日本では数を半分に減らせる」と述べた。一方、反対する立民の山岸一生さんは「『原発ゼロ基本法』成立後五年以内に全ての原発を停止し、再稼働させることなく廃炉にする」と持論を展開。同じく立民の塩村文夏さんも反対の立場だった。共産の吉良佳子さんは「原発と人類、地震国日本は共存できない。コストの点でもすでに失格」と断じ、再生可能エネルギーへの転換を提言。社民の朝倉玲子さんは「人間の力で制御できないものは作るべきではない」、諸派(日本無党派党)の大塚紀久雄さんは「海岸線に設置され危険極まりない」、諸派(れいわ新選組)の野原善正さんは「巨大地震が取り沙汰されている中、継続はありえない」と安全性を疑問視。国民の水野素子さんは「原発ゼロ社会を目指していくためには、現実的な道筋、ロードマップを責任ある形で示していくことが必要」と指摘する。公明の山口那津男さんは「新設は認めない」が「新規制基準を満たし、立地自治体等関係者の理解を得て、再稼働を判断。再エネ拡大で原発依存度を下げる」として「どちらでもない」を選択。無所属の野末陳平さんは「当面は原発存続しかないが、三十年くらい先は原発依存から脱却しなくてはいけない」とする。 ◇ アンケートでは、丸川さん、西野さんから回答を得られなかった。森さんは回答を拒んだ。大橋さんは一部のみ回答。 *2-2:https://genpatsu.tokyo-np.co.jp/page/detail/1075 (東京新聞 2019年7月10日) 福島・大熊町の放射線量 −本紙が実走して測定− 本紙は6月26日、東京電力福島第一原発1~4号機が立地する福島県大熊町の帰還困難区域で放射線量調査を実施した。7時間かけ自動車で約160キロを低速で走り、車外の線量分布を調べると、今なお原発事故の爪痕が色濃く残っていた。同町は、今年4月、大川原(おおがわら)、中屋敷(ちゅうやしき)両地区の避難指示が解除され、JR常磐線大野駅近くにあった町役場は大川原地区に移転し、新たな歩みを始めた。町の復興計画では、大野駅周辺など人口が多かった地域を「特定復興再生拠点区域」に指定し、優先的に除染を進めて2022年春ごろまでに避難指示の解除を目指す。27年には居住人口を、震災前の2割強に当たる2600人まで回復させたい考え。除染はまだ始まったばかりで、大野駅周辺は毎時2~3マイクロシーベルトあった。国道6号の東(海)側は、除染で出た汚染土などを長期貯蔵する中間貯蔵施設。用地が確保されしだい、次々と処理・貯蔵施設が建設され、急速に町の姿が変わっていた。 *2-3:https://www.ehime-np.co.jp/article/news201903160010 (愛媛新聞社説 2019年3月16日) 山口地裁伊方稼働容認 司法は福島の事故を忘れている 東京電力福島第1原発事故を忘れたかのような司法判断の連続に、失望を禁じ得ない。四国電力伊方原発3号機の運転差し止めを求め、山口県の住民が申し立てた仮処分申請で、山口地裁岩国支部は申し立てを却下する決定を出した。愛媛をはじめ、広島、山口、大分4県の住民らが同様の仮処分申請をしているが、2017年に広島高裁が火山の危険性を指摘し運転を差し止めた以外、全て運転を認める決定が下っている。ほとんどが四電の主張を追認する内容で、原発の安全性や重大事故が起きた場合の避難など、住民の不安に正面から向き合っているとは言い難い。司法は、二度と福島のような事故を起こさない責任を改めて自覚し、住民の命や権利を守る役割を果たすべきだ。山口地裁で争点の一つだった住民の避難計画に対する判断は特に信じがたい。伊方原発から30㌔圏外で避難計画が策定されていない点について、国の緊急時対応が合理的との理由で問題視しなかった。しかし、福島原発事故の被害が30㌔圏にとどまらなかったことは周知の事実。事故への備えを一律に距離で線引きすることはできず、現実から目を背けるような姿勢は看過できない。さらに、地震などとの複合災害が起きた場合には「速やかに避難、屋内退避を行うことは容易ではないようにも思われる」と認めながら、具体的な問題点には触れていない。そればかりか「自治体レベルでの対応が困難になった場合には、全国規模のあらゆる支援が実施される」と言及。避難計画がなくても、いざとなれば国が何とかしてくれるといった論理はあまりにも乱暴で楽観的すぎる。伊方原発で最大の懸案である地震の影響に関しては、審尋の中で、地質学の専門家が活断層である沖合の中央構造線断層帯とは別に、地質の境界線の中央構造線の周辺にも活断層が存在する可能性を指摘した。決定では、四電や大学などが詳細に調査しているとして「活断層が存在するとはいえない」と断言したが、疑問だ。政府の地震調査研究推進本部も調査の必要性に言及しており、国や四電は速やかに検討すべきだ。広島高裁が運転差し止めの根拠とした巨大噴火の危険性は、「社会通念を基準として判断せざるを得ない」と、他の決定を踏襲した。だが、国民が気に留めないことと、実際の危険性は別の話だ。弁護団が「科学的な問題に社会通念を用いるのはおかしい」と指摘するように、噴火の規模の予測が困難な以上、自然災害には最大限謙虚に向き合わなければならない。社会通念を持ち出すべきは、原発の在り方そのものだろう。決定では「原発の必要性が失われている事情も認められない」としたが、太陽光などの再生可能エネルギーの普及が進む今、脱原発への潮流を司法が見誤ってはならない。 *2-4:https://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201903/CK2019031502000147.html (東京新聞 2019年3月15日) 「エネ計画に印象操作」市民団体分析 原発「国産強調」 事故「矮小化」 国のエネルギー基本計画について、脱原発を目指す市民グループ「eシフト」は十四日、その内容を詳細に分析した結果を公表した。ウランは100%輸入なのに計画には「日本の原発は準国産のエネルギー源」と「準」とすることで国産を強調しているとし、グループはこのような問題を含む記述が百四カ所あると指摘。「原発推進への印象操作だ」と批判している。作成の中心を担った東北大の明日香壽川(あすかじゅせん)教授(環境エネルギー政策)は本紙の取材に「都合の良いデータだけを採用したり、事象の一面しか取り上げないなど、印象操作を狙ったように見える」と指摘した。検証サイトは、基本計画の本文を示しながら、問題のある箇所を一目でわかるように色づけし、問題点を解説するコメントを逐一、添えた。例えば、基本計画の前提となる近年のエネルギー動向をどう見るかについて、二〇一八年に閣議決定したこの第五次計画は、第四次計画を決めた一四年から「本質的な変化はない」と記述。これに対し、検証サイトは再生エネのコストが低下する一方で、原発のコストが増加したことを挙げ、「極めて大きな変化があった」と、前提の置き方を問題視した。福島第一原発事故による避難者の数に関して、基本計画が区域外避難者を含めていない点を「被害の矮小(わいしょう)化だ」と批判した。明日香氏は「エネルギー政策は複雑と思われがち。問題点を分かりやすく示すことで、改めて議論のきっかけになれば」と語った。検証サイトは、eシフトの公式サイトで読むことができる。 <これからのエネルギーと脱原発> *3-1-1:https://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=103037 (南日本新聞社説 2019/3/10) [原発政策] 再生エネへ転換を急げ 東日本大震災とそれに伴う東京電力福島第1原発事故は、世界のエネルギー政策の転機となった。原発依存を脱却し再生可能エネルギー中心への大転換である。それなのに日本では安倍政権の下で原発の再稼働が進められ、ルール骨抜きの運転期間延長の動きも顕在化している。いまだに汚染水がたまり続け、溶けた核燃料の取り出し方法さえ定まっていない福島第1原発の状況を見れば、現実離れした政策と言わざるを得ない。安倍晋三首相は、8年たっても5万人以上に避難生活を強いている震災と原発事故の複合災害の教訓を思い起こすべきだ。政治の責任で脱原発の方針を明確にし、再生エネへ転換を急ぐ必要がある。福島の事故後、安全規制の強化によって原発の建設コストが膨れ上がり、世界各地で新増設計画が苦境にある。東芝の米子会社が経営破綻し、フランスの原発大手だったアレバ社も事実上破綻した。昨年末には、三菱重工業がトルコで進めていた原発新設計画と、日立製作所の英国での案件が断念の方向に追い込まれていることが表面化した。これで安倍政権が成長戦略として旗振り役を務めた原発輸出は全て行き詰まった。原発が競争力を失っていることは明らかだ。政府は昨年7月に改定したエネルギー基本計画でも原発を引き続き基幹電源と位置付け、2030年の電源構成比率の目標でも原発を20~22%のまま据え置いた。目標達成には現在稼働している9基を30基程度に増やす必要があるが、国民の反発が予想される新増設の議論は封印したままだ。川内と玄海両原発の4基が稼働する九州では、電力の供給過剰対策で再生エネの出力制限を招いている。原発再稼働によって再生エネがはじき出された格好だ。一方で政府は電力会社に多くの石炭火力発電所の新設を認めている。「脱炭素社会」の実現をうたったパリ協定を批准しながら、まったくちぐはぐな対応である。この間に、多くの国が脱原発や脱石炭のエネルギー政策に動きだしている。再生エネのコストが劇的に低下し、急拡大しているからだ。20年までに風力や太陽光が最も安価な電源になると予測する国際機関もある。原発にこだわるあまり、日本のエネルギー政策は世界の潮流から完全に取り残された。政府は早急に、現実を見据えた大胆な政策転換に踏み出さなければならない。 *3-1-2:https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2018/180615.html (日本弁護士連合会 2018年6月15日) パリ協定と整合したエネルギー基本計画の策定を求める意見書 ●本意見書について 当連合会は、2018年6月15日付けでパリ協定と整合したエネルギー基本計画の策定を求める意見書を取りまとめ、資源エネルギー庁長官に提出しました。 ●本意見書の趣旨 第5次エネルギー基本計画は、2050年までに温室効果ガスの排出量を80%削減するという我が国の長期目標に向けて、以下の点を明確にし、パリ協定の目的と整合したものとすべきである。 1 福島第一原発事故の経験から、原子力発電所の稼働、新増設を前提とするのではなく、原子力からの脱却を前提とする計画とすべきである。 2 脱炭素を実現するため、石炭火力発電からの脱却を明確に位置付けるべきである。 3 速やかに再生可能エネルギーの主力電源化を実現するために、2030年の電力供給に占める再生可エネルギーの割合を30%以上に引き上げるべきである。また、その拡大に当たっては、太陽光・風力について蓄電池や水素等と組み合わせた「再生可能エネルギー・電力貯蔵系システム」をコスト検証の対象とするのではなく、再生可能エネルギーの送電網への優先接続、既存送電網の活用及び地域分散型電源に対応した送電網の拡充など、地域分散型のエネルギー需給システム構築のための政策を積極的に推進するべきである。 4 省エネ対策の一層の強化及び脱炭素化を促進する野心的な炭素の価格付け政策を早急に導入するべきである。 5 エネルギー基本計画は、国民への十分な情報開示と、国民の意見が政策の立案・策定において実質的に反映されるプロセスの下で策定されるべきである。 *3-2-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201906/CK2019061802000131.html (東京新聞 2019年6月18日) <原発のない国へ>2030年、再エネ50%提言 ソニー、イオン、アップルなど20社 事業で使う電力をすべて再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的な企業連合「RE100」の国内メンバーと米アップルの計二十社が十七日、二〇三〇年の日本の再エネ比率を、政府目標の「22~24%」から「50%」に引き上げるべきだと提言した。RE100は、英非政府組織(NGO)「The Climate Group」などが運営し、米グーグルやスターバックスなど百七十九社が参加。提言には、国内企業で加盟するソニーやイオンなど十九社に、世界の自社施設で使う電力を昨年すべて再エネにした米アップルを合わせた二十社が名を連ねた。提言は、世界中で異常気象が頻発していることを挙げ「早期の脱炭素化への行動が必要だ」と強調。気候変動に対応するため、温室効果ガスを排出しない再エネの比率を高める必要があるとし、「国が明確かつ意欲的な方向性を示すことが、迅速かつ大規模な再エネ普及の前提になる」と訴えた。この日、東京都内で関連のシンポジウムがあり、アップルで環境対策を担当するリサ・ジャクソン副社長が「世界中でクリーンなエネルギーを調達している企業として痛感しているのは、政府の決断次第で、より安価で安定的に調達が可能になるということだ」と述べ、日本政府に企業の取り組みを後押しするような政策を求めた。アップルは取引先にも納める部品を再エネ100%で生産することを求めており、国内ではイビデン、太陽インキ製造、日本電産の三社が対応した。ジャクソン氏は「他の日本の部品供給企業も続いてほしい」と訴えた。 *3-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO35148180Y8A900C1EA5000/ (日経新聞 2018/9/9) ソニー、全電力を再生エネに 世界111拠点で40年に ソニーは事業運営に必要な電力をすべて再生可能エネルギー由来に切り替える。現在7%の再生エネ比率を2040年までに段階的に引き上げる。環境対策の優れた企業に投資や調達を集中させる動きがあり、企業価値に直結すると判断した。日本では10社程度にとどまる全面切り替えが、半導体など生産に大量の電力を使う大手製造業にも広がってきた。世界中の事務所や工場など111拠点で使う電力を再生エネに切り替える。テレビやカメラなどの生産に必要な電力に加え、映画などコンテンツ製作も含む。工場の屋根に太陽光パネルを設置したり、再生エネを使ったとみなされるグリーン電力証書を買ったりして再生エネ比率をまず30年に30%まで引き上げる。再生エネへの全量切り替えを目指す世界的な企業連合「RE100」に加盟する。米アップルなど先行する欧米勢に加え、日本では富士通やリコー、イオンなどが参加し30~50年までの全量切り替えを目指している。ソニーは欧州ですでに再生エネ活用100%を達成しているが、グループ全体の電力消費の8割は日本に集中している。半導体工場があるためだ。ソニーの電力などに由来する温暖化ガス排出量はリコーの4倍あり、同連合に加盟する日本の製造業では最多になるとみられる。太陽光発電設備の買収も進める。日本では32年以降、再生エネでつくった電力を高値で買い取る固定価格買い取り制度の対象から外れる太陽光発電所が出てくるため、発電事業者の間で設備売却機運が高まるとソニーはみている。環境や社会への配慮で優れた企業に投資するESG投資は世界的な潮流になっている。世界持続可能投資連合(GSIA)の集計によると、世界でESG投資に向かった金額は16年に22兆9千億ドル(約2540兆円)と14年比で25%増えた。日本でも約160兆円を運用する最大の機関投資家、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が17年からESG指数に基づいた運用を始めた。再生エネへの切り替えは一時的にコスト増を招くが、「対応しなければ(資金調達など)事業が立ちゆかなくなる未来が来る」(ソニー幹部)と取り組みを強化する。 *3-2-3:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO25954220Q8A120C1EA5000/ (日経新聞 2018/1/21) 本社調査:環境エネ 素材キヤノン、製造業首位守る 環境経営度ランキング 日本経済新聞社が実施した第21回環境経営度調査の企業ランキングで、製造業ではキヤノンが2年続けて首位となった。環境対策を取引や投資の条件とする動きが世界で強まるなか、取引先など自社拠点以外でも二酸化炭素(CO2)の排出削減や資源循環対策に取り組む企業が増えている。非製造業では物流拠点の共同利用でCO2を減らす試みが広がっている。調査では、資源循環や温暖化対策など5つの評価指標で企業を評価してランキングにまとめた。キヤノンは評価指標すべてで高評価を獲得。中でも資源循環は最高点だった。使用済みの複合機やトナーを回収し、部品や素材を製品に再利用する取り組みを強化。使用済み製品を生まれ変わらせた量は2016年に累計3万4千トンと、12年の6倍に増えた。茨城県には再資源化専用の工場も設けた。環境統括センターの古田清人所長は「欧州の国際会議などでは温暖化対策以外に資源循環を求める声がある」と話す。再資源化拠点は欧州や米国、中国にも設けている。5位のトヨタ自動車も資源循環に取り組む。使用済み自動車の破砕処理後に出る廃棄物の再資源化率は16年度に98%と12年度比4ポイント高まった。2位のコニカミノルタは主要な調達先500社以上を対象に省エネ支援を始めた。自社工場で培った省エネ対策をまとめたデータベースを17年に作成。調達先が容易に省エネできるようにした。サプライチェーン(供給網)全体で水資源のリスク管理に動くのは7位のサントリーホールディングス。17年度に取引先を対象とした水使用についてのガイドラインを整備した。海外の水使用量や水の枯渇リスクなどを把握。水を通じて持続可能な生産体制を整える。非製造業の運輸部門では佐川急便が3年連続の首位。20年をメドにIHIと都内に物流拠点を新設して共同運用する。物流を効率化することでトラックの配送距離を短くし、CO2排出量を減らす。2位の日立物流は佐川急便と資本提携しており、両社で千葉県の物流拠点の共同活用を進める。建設業は2年連続で積水ハウスが首位となった。17年から住宅の建設廃棄物をQRコードを使って現場で分別するリサイクルシステムの運用を始めている。 ▼環境経営度調査 企業が環境対策を経営と両立させる取り組みを評価する調査。日本経済新聞社が日経リサーチの協力を得て1997年に始めた。今回は上場と非上場の有力企業のうち、製造業1724社、小売り・外食、電力・ガス業、建設業などの製造業以外の業種1357社を対象に、2017年8月から11月に実施。676社から有効回答を得た。評価指標は製造業が、環境経営推進体制、汚染対策・生物多様性対応、資源循環、製品対策、温暖化対策の5つ。スコア算出の際は、評価指標によって最高点が異なるため、最高を100、最低を10に変換。最高スコアを500とした。建設業は製造業に準じ5指標で評価し、非製造業、電力・ガス業は「製品対策」を除く4指標で評価している。非製造業の最高スコアは400、電力・ガス業は対象社数が少ないため各指標の平均を50、合計の平均を500としてスコアを算出している。 *3-3-1:http://qbiz.jp/article/139788/1/ (西日本新聞 2018年8月28日) 九電が事業者に太陽光制限周知へ 供給過剰の可能性 9月にも 九州電力は、9月にも太陽光発電や風力発電事業者に稼働停止を求める「出力制御」に踏み切る可能性が高まったとして、近く事業者(契約件数約2万3千)に事前周知する。出力制御が行われれば、離島を除き全国初。九州では太陽光発電の出力が原発7、8基分に高まる中、今夏までに九電の原発4基が再稼働している。暑さがピークを過ぎて冷房需要が落ちる秋以降、電力の供給力が需要を大幅に上回り「送電網の安定運用が難しくなる恐れがあるため」(九電)としている。電気は需要と供給のバランスが崩れると、周波数が乱れたり、最悪の場合は大規模停電が起きたりする可能性がある。九電によると、再生可能エネルギーの出力制御は、工場やオフィスが休業し、需要が特に落ちる連休中などを想定。実施する場合は、前日夕方までに事業者にメールなどで通知し、当日朝に実施の最終判断をする。九電は初の本格的な出力制御となるため「突然の通知で混乱を招かないよう、あらかじめ対象者にダイレクトメールや直接訪問で周知」(関係者)する方向で調整している。九電管内では、5月の連休中に一時、太陽光発電の出力が需要量の81%を占めた。この時期にも出力制御が検討されたが、同社の火力発電の出力を抑制したり、揚水発電所の水をくみ上げる「揚水運転」に電力を使ったりすることで、実施を回避してきたという。その後、玄海原発4号機の再稼働や、川内原発1号機の定期検査終了で供給力が大幅に上昇。現在、定検中の川内原発2号機も近く発電再開の見通しとなっているほか、太陽光発電も月5万キロワットのペースで増えている。九電は「再生エネルギーを前向きに受け入れてきた結果、出力制御をしなければ需給バランスを保てない限界に近づいている」としている。経済産業省によると、出力制御は、揚水運転、火力発電抑制、再生エネ、原発の順に行われる。原発が最終手段とされている理由については「短時間に供給力を微調整するのが技術的に難しい」(担当者)と説明している。 *3-3-2:http://www.topics.or.jp/articles/-/87629 (徳島新聞 2018年8月17日) 四電、自然エネ100%供給 今年5月、国内10社で初 四国電力管内で太陽光や水力発電など自然エネルギーによる電力供給量が、5月20日午前10時から正午にかけ、需要の100%を超えていたことが、NPO法人・環境エネルギー政策研究所(東京)の調べで分かった。2012年に太陽光発電などの固定価格買い取り制度が始まって以降、供給が100%に達したのは国内電力10社で初めてという。5月20日午前10~11時の四電管内の電力需要は221万キロワット。これに対する供給は太陽光161万キロワット、水力56万キロワット、風力7万キロワット、バイオマス1万キロワットの計225万キロワットで、需要の101・8%に達した。同11時~正午は需要が223万キロワットで、太陽光167万キロワット、水力52万キロワット、風力6万キロワット、バイオマス1万キロワットの計226万キロワットを供給し、需要に対する割合は101・3%だった。両時間帯ともに、太陽光が72・9%、74・9%を占め、最も多かった。火力発電と合わせると、10~11時は150万キロワット、11時~正午には153万キロワットの供給過多となった。余った電力は連係線を通じて市場で他社に卸売りしたほか、水をくみ上げて夜間に発電する「揚水発電」に使った。春は冷暖房があまり使われないため電力需要が少なく、太陽光発電の出力が大きい好天時は、自然エネルギーの割合が高くなりやすい。四電によると、5月20日は企業の需要の少ない日曜日で、晴天の上、それまでの降雨で水力の供給力も大きかった。自然エネルギーの1日平均の供給割合は52・2%だった。一時的とはいえ100%を超えたのは、固定価格買い取り制度に伴い、太陽光発電の導入が進んだことが背景にある。研究所によると、四電が他電力よりも早く100%を超えたのは太陽光や水力の比率が高いためという。飯田哲也(てつなり)所長は「伊方原発の再稼働は、電力需給を見る限り明らかに不要」と訴えている。四電は「自然エネルギーは天候に出力が左右される。安定的な供給のため原子力発電は不可欠」としている。 *3-3-3:http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018090402000169.html (東京新聞社説 2018年9月4日) 猛暑も電力余力 節電、融通、再エネで エアコンを夜通し動かしておかないと、命が危うい猛暑の夏-。それでも電気は足りていた。3・11の教訓を生かした賢い省エネ、そして電力融通の基盤整備が、エネルギー社会の未来を切り開く。七月二十三日。埼玉県熊谷市で国内観測史上最高の四一・一度を記録した猛暑の中の猛暑の日。東京都内でも史上初めて四〇度の大台を超えた。冷房の使用もうなぎ上り。午後二時から三時にかけての電力需要も、この夏一番の五千六百五十三万キロワットを記録した。それでも最大需要に対する供給余力(予備率)は7・7%。“危険水域”とされる3%までには十分な余裕があった。その日中部電力管内でも3・11後最大の二千六百七万キロワットに上ったが、12・0%の余力があった。東電も中電も、震災後に原発は止まったままだ。この余裕はどこから来るのだろうか。最大の功労者は省エネだ。計画停電を経験した3・11の教訓を受け止めて、家庭でも工場でも、一般的な節電が当たり前になっている。これが余力の源だ。そして、再生可能エネルギーの普及が予想以上に原発の穴を埋めている。猛暑の夏は太陽光発電にとっては好条件とも言えるのだ。むしろ最大のピンチに立たされたのは、昨年から今年にかけて四基の原発を再稼働させた関西電力ではなかったか。七月十八日。火力発電所のトラブルなどが重なって供給率が低下し、予備率3%を割り込む恐れがあったため、電力自由化を見越して三年前に発足した「電力広域的運営推進機関」を仲立ちとして、東電や中電、北陸電力などから今夏初、計百万キロワットの「電力融通」を受けた。3・11直後、東日本と西日本では電気の周波数が違うため、融通し合うのは難しいとされていた。だが、やればできるのだ。震災当時百万キロワットだった周波数変換能力は現在百二十万キロワット。近い将来、最大三百万キロワットに増強される計画だ。北東北では、送電網の大幅な拡充計画が進行中。地域に豊富な再生可能エネルギーの受け入れを増やすためという。地域独占からネットワークへ、集中から調整へ、原発から再エネへ-。電力需給の進化は静かに、しかし着実に加速しているのではないか。猛暑の夏に、エネルギー社会の近未来を垣間見た。 <おかしな論理はやめ、脱化石燃料へ> PS(2019.7.17追加):*4-1・*4-2のように、2019年6月、この海域で日本のタンカーが攻撃されたため、米国が派遣した艦船が監視活動を指揮し、参加国が米艦船の警備や自国の民間船舶の護衛に当たるため、米国が同盟国に有志連合の結成を呼び掛け、原油を中東に依存する日本にとってこの航路の安全は極めて重要なので、日本政府は担当者を出席させるそうだ。 こうなる理由は、*4-3のように、安保法制関連法案の国会審議の中で、集団的自衛権を行使し、自衛隊を米軍とともに世界に派遣する一例として、この航路の安全確保が挙げられていたからだ。しかし、根本的におかしいのは、①民間の船舶であるタンカーの経済的リスクなら保険で手当てすべきで ②保険料込みで原油購入者は対価を支払っている筈であり ③リスクが高ければ原油の販売者も大きな打撃を受けるため、この海域を守るべきは周辺の産油国側で ④この海域が原油で汚染されて困るのもこの海域の国々であること などである。 このような中、エネルギー自給率を向上させる努力もせず、化石燃料であるこの地域の原油に依存し続けている日本の政治は、とりわけビジョンがないと言わざるを得ない。 *4-1:https://www.kochinews.co.jp/article/293436/ (高知新聞 2019.7.17) 【ホルムズ海峡】有志連合は緊張を高める 中東・ホルムズ海峡などの安全を確保するため、米国が同盟国に有志連合の結成を呼び掛けている。米軍によると、米国が派遣した艦船が監視活動を指揮し、参加国は米艦船の警備や自国の民間船舶の護衛に当たるという。6月にこの海域で日本のタンカーなどが攻撃されたことに伴う対応としている。日本政府にも参加や負担を求めてくる可能性がある。イラン沖にあるホルムズ海峡やその周辺海域は原油の海上輸送の大動脈といってよい。原油を中東に依存する日本にとっても、航路の安全は極めて重要である。だが、自衛隊は現状で有志連合に参加すべきではない。現行法上、派遣が難しいこともあるが、航路の安全確保は本来、実力部隊の派遣によってではなく、国際社会の対話と協調で実現していくのが筋である。自衛隊派遣について岩屋防衛相はきのう「現段階では考えていない」と述べた。当然の判断だ。他の同盟国にも冷静な判断を求める。トランプ米政権は、タンカー襲撃などはイランの最高指導者ハメネイ師が直轄するイラン革命防衛隊の仕業と指摘し、非難している。ただ、確たる証拠がないのが現状だ。そもそも、米国とイランの最近の関係悪化はトランプ政権が引き起こしたといっても過言ではない。イランと、米欧など6カ国は2015年、イランが核開発を大幅に制限する見返りに制裁を解除することで合意。中東の緊張緩和は大きく前進すると期待された。ところが、米大統領に就任したトランプ氏はこの核合意からの離脱を一方的に表明し、対イラン制裁も再開した。イランが猛反発するのも当然だ。トランプ氏のイランへの強硬姿勢には、来年の米大統領選に向け、支持者に強いリーダー像を見せたいとの思惑があるとみられる。支持層である保守派はイランへの制裁強化を望む人が多い。問題は、トランプ氏がそれに同盟国を巻き込もうとしていることだ。同盟国はこれまで、トランプ政権の対イラン政策に一定の距離を置いてきたはずだ。有志連合に加われば一転、同調したことになる。ホルムズ海峡はイランにとって対外戦略上の要衝である。そこに米軍主導で多国籍の艦船が展開すれば、イランには軍事的な包囲網に映るだろう。航路の安全どころか、かえって緊張が高まりかねない。米国は数週間以内に有志連合を結成したいとしている。同盟国は参加を検討するより前に、米国とイランの関係修復に当たりたい。日本はイランと友好的な関係を維持してきた。安倍首相は6月、仲介のためにイランを訪問し、ハメネイ師とも会談した。その日本が有志連合に入るようなことになれば、これまでの友好関係も仲介の取り組みも水泡に帰すことになろう。今後も粘り強い外交努力が必要だ。 *4-2:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190717/k10011995731000.html (NHK 2019年7月17日) ホルムズ海峡安全確保 米構想の説明の場に日本も出席で調整 中東のホルムズ海峡などの安全確保のため、アメリカ政府が今月19日に関係国に新たな構想を説明する場に、日本政府も担当者を出席させる方向で調整しています。アメリカとイランの対立で緊張が高まる中、アメリカ軍はホルムズ海峡の安全を確保するため、同盟国などとの有志連合の結成を検討していて、国務省のフック特別代表は、今月19日に関係国に対し新たな構想について説明する場を設ける考えを明らかにしました。これを受けて日本政府は、アメリカにある日本大使館から担当者を出席させる方向で調整しています。有志連合の結成をめぐっては、岩屋防衛大臣は16日「この段階で、いわゆる有志連合に自衛隊の参画を考えているものではなく、自衛隊を派遣することは考えていない」と述べています。ただ日本政府としては有志連合をめぐるアメリカの構想が明らかにならない中、担当者を出席させることで構想の具体的な内容について情報を収集するねらいもあるものとみられます。 *4-3:https://www.news-postseven.com/archives/20150604_326445.html (週刊ポスト 2015年6月12日号)安保法案でのホルムズ海峡機雷除去 想定自体現実にあり得ず 安保法制関連法案の国会審議が始まった。集団的自衛権を行使し、自衛隊を米軍とともに世界に派遣する──安倍政権が閣議決定した憲法解釈変更を法制化し、日本の安全保障政策を大転換させる重要法案だ。法案早期成立のために、安倍晋三首相は詭弁と詐弁を駆使している。「他国の領土、領海、領空に派兵することはない」。安倍首相は安保審議の前戦の党首討論でそう言明した。しかし、安保法制の柱であり、国際紛争に際して自衛隊派遣の要件を定める恒久法「国際平和支援法案」には、「外国の領域における対応措置」が明記されており、他国領で活動しないという安倍首相の説明は明らかに嘘である。安倍首相が他国領域での集団的自衛権の行使について、「例外」のひとつとして挙げているのがホルムズ海峡での機雷除去活動だ(その他「米艦防護」に含みを持たせ、内閣法制局長官は「敵基地攻撃」にも言及した)。イランがペルシャ湾口のホルムズ海峡を機雷で封鎖する事態になれば、日本は中東からの石油運搬ルートを断たれる。それは安全保障上の重大事態だから、米国との集団的自衛権を行使して海自による機雷除去の掃海活動が必要になるという論理である。しかし、早稲田大学法学部の水島朝穂教授はこの想定自体が現実にはあり得ないと指摘する。「ホルムズ海峡はイランとオマーンの間で最狭部は幅約30キロ。両国が主張する領海が重なり、公海はない。この海峡を通る世界のタンカーの9割は中間線よりオマーン側の航路を通る。イランが海峡を封鎖するなら、オマーン領海にも機雷を敷設しなければならない。相手国領海への機雷敷設は戦闘行為そのもので、イランはオマーンに宣戦布告することになる。しかしオマーンはイランの友好国だから、機雷を敷設するという想定自体が非現実的だ」。それだけではない。「仮に機雷が敷設された場合でも、戦争状態での機雷除去は軍事行動になる。それを自衛隊が行なうとすれば、日米の集団的自衛権に基づくものではない。これは『集団的自衛権は米国が相手』としてきた政府の説明と矛盾する」(同前)。それでも安倍首相がホルムズ海峡を持ち出したのは、「石油が断たれたら大変なことになる」と危機を煽れば国民も認めるだろうという発想なのだ。 <電動車への移行> PS(2019年7月18日追加):*5-1のように、市川市が低炭素社会の実現をアピールするためにEV導入を決定し、市長と副市長の公用車にテスラ製の高級セダンの『モデルS』とSUV(スポーツ用多目的車)の『モデルX』の2台を導入することをめぐって、「高額すぎる」と市民から見直しを求める声が上がったそうだが、それを次の産業政策に結び付ければ上出来だと私は考える。例えば、市長の公用車をテスラ、副市長の公用車をリーフ、市の他の所有車もEVや運転支援車にして皆で性能を比較し、今後の自動運転化やEV化を進める基礎にしたり、その方面の企業を誘致したりできれば初期投資は大きすぎず、値引要請も可能だろう。 なお、最近は、*5-2のように、燃料電池電車も独で営業を始めており、これを運行する州の交通公社は2021年までに全てを燃料電池電車に置き換える予定で、その電車は水素タンクを満タンにすれば千km走行できる上、将来は風力発電による電気で水を分解して得た水素を使うのだそうだ。再エネによる分散発電と燃料電池電車を組み合わせれば、エネルギー代金が下がってエネルギー自給率は高まり、さらに超電導電線を敷設すれば送電料が入るため、日本でも北海道・東北・四国・九州の鉄道会社に特にお勧めだ。 (図の説明:1番左が、2018年9月17日から営業運転を開始したドイツのFCV電車だ。左から2番目は、日立製のFCV電車だが、営業運転はしておらず、DENCHAという子供じみた命名をしている点で本気度が見えない。また、右から2番目は、EV電車、1番右はEVバスで、陸上交通は既に実用化済のFCVやEVに変えることが可能になっている) *5-1:https://response.jp/article/2019/07/18/324536.html (Response 2019年7月18日) 高級EVテスラにこだわる市川市長、リーフの選択は論外?[新聞ウォッチ] ローカル過ぎる話題だが、批判の的にされているのは、あのイーロン・マスク氏が最高経営責任者(CEO)をつとめる米電気自動車(EV)メーカー、テスラの高級EV車だけに見過ごすわけにもいかないようだ。千葉県の市川市の市長と副市長の公用車にテスラ製の高級セダンの『モデルS』とSUV(スポーツ用多目的車)の『モデルX』の2台を導入することをめぐり、市民から見直しを求める声が上がっているという。きょうの毎日などが「米テスラ高級EV公用車に批判」などと、社会面で大きく取り上げている。それによると、市川市は低炭素社会の実現をアピールするため、EV導入を決定。7月上旬には、副市長用に車両価格1110万円のモデルXのリースを開始した。費用は月約14万円で期間は8年間。これまでのトヨタの『クラウン』は月約6万円で月額が2倍以上となったという。このため、市民や議会から「高額だ」と批判が噴出。村越祐民市長は「説明不足だった」として、もう1台の車両価格1020万円のモデルSについては入札を延期することを決定。すでに納車された1台については、これまでの国産車との差額分8万5000円分を自身の給料から減額して補てんする考えを示したそうだ。この市川市の公用車導入の問題を少し整理すると、地球温暖化対策に前向きな取り組みの一環としてエコカーを選択することについての批判は少ないようだが、市民感情としてはその車種が1000万円を超える高級外車だから「税金の無駄遣い」との反対意見が噴出したと思われる。もし、最初から日産自動車の『リーフ』などを選択していたら、批判の声も上がらなかったのではないだろうか。もっとも、リーフは大衆車であるのと「差額は自腹でも」という市長の発言からみると、最初から「テスラありき」との思惑も透けて見える。 *5-2:https://digital.asahi.com/articles/ASL9K1RV4L9KUHBI001.html (朝日新聞 2018年9月18日) 世界初、燃料電池で走る列車 時速140キロ、独で営業 鉄道が電化されていない区間の多いドイツで17日、燃料電池を使った列車の営業運転が始まった。車両を製造したフランスのアルストム社によると世界初の取り組みという。走行時に二酸化炭素(CO2)を出さず、環境にやさしい次世代の列車として世界的に注目されている。北部ニーダーザクセン州の約124キロの区間(ブクステフーデ駅―クックスハーフェン駅)を走る14編成のうち2編成で導入された。1編成で最大300人を乗せることができ、運行する州の交通公社は2021年までに全てを燃料電池列車に置き換える予定だ。車両の屋根にあるタンク内の水素と空気中の酸素を化合して発電。架線からは電気を受けずに、モーターを回して走る。床下にはリチウム電池が設置され、走行中にも自動で蓄電する。最高速度は時速140キロで、水素タンクを満タンにすれば1千キロまで走行できる。将来は風力発電による電気で水を分解して得た水素を使う方針という。通勤のため乗車した50代の女性は「すごく静かでとても驚いた。乗っていて心地良いくらい」と話した。ドイツの鉄道は現在も電化されていない区間が約半分を占め、ディーゼル車が走る。電化には巨額の投資と時間がかかるため、二酸化炭素削減に取り組む中で、燃料電池列車が急速に普及する可能性がある。一方、日本では鉄道総合技術研究所などで開発が進むが、営業運転のめどは立っていない。アルストム社の広報担当者は「燃料電池列車の価格はディーゼル列車より高いが、電化の費用を考えれば十分に見合う」と話す。 <メディアの質が低いこと> PS(2019年7月19、20日追加):*6-1のように、参院選のテレビ報道が少なく、報道関係者は「選挙自体が盛り上がらず高視聴率を見込めないから」と説明しているそうだ。しかし、テレ朝の「羽鳥慎一モーニングショー」は、参院選公示以降、毎日30~40分、消費増税、年金などをテーマに専門家を招いて選挙報道を行い、各党の主張を紹介して連日9%台の視聴率を記録しているそうで、これは、この時間帯に家にいる高齢者や女性の政策への関心も高いことを示している。各党の公約を掘り下げて報道しなければ選挙による有権者の真の審判はできないが、NHKはじめ他の民放は、災害・天気・放火・殺人・高齢者の交通事故ばかりを報道しており、これらの報道関係者は各党の政策や公約を的確に掘り下げる意欲も能力も使命感もないようだ。 また、メディアの質が低下しているのは報道番組だけでなく、*6-2のようなNHKの大河ドラマ「いだてん」も同じで、ゴールデンタイムを使って広告がないにもかかわらず6月9日の平均視聴率は6.7%と苦戦し、1989年以降最低だそうだ。そして、その理由を「①合戦のシーンを大河の見どころと考える従来の固定層が近現代という設定になじめなかった」「②有名人のストーリーではないから」「③作品のメッセージ性はよい」「④少子高齢化により高齢視聴者の影響が強い数字になりがちだから」「⑤『歴史好き』ではなく、『ドラマ好き』が支持しており、視聴率は関係ない」としているが、マーケットリサーチは正確に行わなければ今後の改善もない。私は、①②④は、言い訳にしても従来の視聴者や高齢者を馬鹿にしており、③は偶然に触発された人ばかりのメッセージで感動するほどのものではなく、⑤は、ドラマとしても、失敗ばかりして絶叫しているストーリーで面白くないのである。 大河ドラマに戦国時代・明治維新の話は既にしつこいほど出たため、今後は、1)秦の始皇帝と徐福 2)三国志と倭 3)神功皇后の新羅出兵と応神天皇の東征 4)大化の改新・白村江の戦い・飛鳥時代・持統天皇 5)「この世をば わが世とぞ思ふ・・」と詠んだ藤原道長と彰子、定子、紫式部、清少納言 など、日本の古代史とアジアを、二国間協力し壮大な大河ドラマにして美しい映像で放映すれば、世界レベルで興味を持たれると思う。もし、日本の作家にそういう能力がなければ、中国・インド・アラビア・エジプトはじめ文化に力を入れている外国の映画を放映した方がよほど面白い。 なお、京都アニメ放火事件について、ある番組のコメンテーターが「テロと言ってもいい」などと言っていたのには呆れたが、テロリズムとは、*6-3のように、「準国家的集団又は秘密の代理人による、非戦闘員を標的とし、政治的な動機を持つ暴力をいう」と定義されており、非国家主体又はその各々の政府のために仕える秘密捜査員によってのみ関与されるものだ。日本は既に民主主義国で政治の変革にテロは不要なので、私は京都アニメ放火事件はただの犯罪だと思うが、あれをテロだと言った人は(いい加減ではなく)テロの要件に合う理由を述べるべきだ。 *6-1:https://digital.asahi.com/articles/ASM7K6X5XM7KUCVL02H.html?iref=comtop_8_02 (朝日新聞 2019年7月19日) 「視聴率取れない」参院選、TV低調 0分の情報番組も 参議院選挙のテレビ報道が低調だ。選挙自体が盛り上がらず、高視聴率を見込めないためと関係者はみるが、そんな常識を覆す現象も起きている。テレビ番組を調査・分析するエム・データ社(東京都港区)によると、地上波のNHK(総合、Eテレ)と在京民放5社の、公示日から15日までの12日間で選挙に関する放送時間は計23時間54分で、前回に比べ6時間43分減っている。とりわけ「ニュース/報道」番組の減少が顕著で、前回から約3割減、民放だけなら約4割減っている。公示日のテレビを見ると、NHK「ニュースウオッチ9」がトップで伝えたり、TBS系「NEWS23」と日本テレビ系「news zero」が党首討論を行ったり、午後9時以降の主な報道番組六つすべてが選挙にふれたが、翌日は六つとも報じなかった。その後も、番組によって、放送しない日があった。「情報/ワイドショー」は、前回より放送時間が増えたが、フジテレビ系「とくダネ!」やTBS系「ビビット」、日本テレビ系「スッキリ」など、公示日から15日まで選挙企画が全くないところも。10年以上情報番組に携わった在京キー局の元プロデューサーは、選挙自体、盛り上がりに欠けるためだとみる。「安倍政権1強下で行われる参院選。政権交代が起きる要素もない。テレビが取り上げたくなる個性の強い候補者や選挙区もない。視聴率が取れない」。また選挙期間中は、陣営からのクレームを恐れ、発言時間をストップウォッチで管理するなど細心の注意が必要だったとし、「数字が取れないのに、作り手は、手間とリスクを取って放送するメリットはないと思っているのでは」。実際、14年には自民党がテレビ局に、出演者の選定や街の声の放送など、事例を挙げて「公平」な報道を求める文書を送付している。そんな中、積極的なのはテレビ朝日系の朝の情報番組「羽鳥慎一モーニングショー」。公示日以降、ほぼ毎日30~40分、消費増税、年金などをテーマに、専門家を招いて掘り下げ、各党の主張を紹介している。しかも、視聴率(関東地区、ビデオリサーチ調べ)は連日9%台を記録。同時間帯の民放の情報番組の中で首位を走る。憲法改正に絡む「緊急事態条項」を取り上げた祝日15日の放送は、15年の番組開始以来2位の11・7%となった。小寺敦チーフプロデューサーは「難しいテーマに司会者の羽鳥慎一さんさえ『祝日の朝に本当に見てもらえるのだろうか』と心配していたのに、結果を見て、選挙に関する有権者の知りたいという欲求を確かに感じた」と話す。NHKは前回に比べ3時間弱、放送時間が減少した。同局幹部は4日の公示日前後にあった九州南部の大雨に触れ、「災害報道に時間を割いたことも影響しているのでは」と言う。ただ、NHKの場合、ネット上で選挙サイト「NHK選挙WEB」も展開。世論調査の結果や各党党首の演説を、グラフや図を使って多角的に分析。全国の選挙区ごとに特設ページを設け、候補者へのインタビュー映像や、NHKの記者による争点解説の動画を発信するなどネット報道を強化しているという。別の幹部は「全体では、発信する情報量はむしろ増えている」。政治とメディアの関係に詳しい逢坂巌・駒沢大准教授は、選挙に強い関心のある有権者を満たす受け皿としてネットの充実は必要だと評価する。ただ「選挙に関心の低い人が興味を持つきっかけは、最も影響力の大きい地上波が担うべきではないか」。そもそも、各局の放送内容に批評性が足りないと指摘するのは、フジテレビで報道番組のディレクターなどを務めた筑紫女学園大の吉野嘉高教授だ。「本来であれば、安倍政権の6年を振り返り、何が実現して何が実現しないのか検証する報道が必要だ。公平性に気が回りすぎて、全く切り込めていない」と話す。「有権者が一番知りたい時期に、知る権利に量的にも質的にも応えていないことを意識すべきだ」と指摘する。 *6-2:https://digital.asahi.com/articles/ASM6M2W93M6MUCVL001.html (朝日新聞 2019年7月2日) こんな大河見たことない いだてん、視聴率が計れない熱 NHKの大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」が苦戦している。6月9日の平均視聴率は6・7%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)で、NHKが把握している1989年以降で大河史上最低を更新した。作品を評価する声はあるのに、なぜ?「いだてん」は五輪マラソンに日本人初出場を果たした金栗四三(かなくりしそう)と、64年の東京五輪招致に関わった田畑政治の歩みを描く。大河としては珍しい近現代の物語だ。脚本は人気作家の宮藤官九郎さん、金栗を中村勘九郎さんが演じ、ビートたけしさんや役所広司さんらも出演し、話題性は十分だった。ところが、初回視聴率こそ前作「西郷(せご)どん」を上回ったが、2月から6月30日まで20回連続で1桁台。対照的に、山奥の一軒家を訪ねる同時間帯のテレビ朝日系「ポツンと一軒家」は20%前後の高視聴率で、民放関係者は「確実に視聴者が流れている」と指摘する。 ●従来の固定層がなじめない 受信料で支えられる公共放送のNHKは、数字に一喜一憂する必要はないはずだが、大河や朝ドラは「NHKの看板番組」。ある幹部は「トヨタでプリウスが売れなかったら問題になるようなもの。公共放送も、放送内容に納得してもらうからこそ受信料を払ってもらえる」と危機感を募らせる。低迷の理由はどこにあるのか?大河に詳しいコラムニストのペリー荻野さんは「合戦のシーンを大河の見どころと考える従来の固定層が、近現代という設定にそもそもなじめなかった」と分析。明治・大正期と昭和期の二つの時代を唐突に行き来する複雑な演出なども敬遠されたとみる。さらに、織田信長や坂本龍馬のような有名人のストーリーではないため、「1回見逃すと、話についていけなくなると思われた」こともマイナスに影響したと考える。とはいえ、ペリーさん自身は、これまでにない「新しい大河」として、いだてんを評価する。 ●現代に通じる強いメッセージ 6月9日の放送では、陸上競技の大会で、女学生が素足に靴を履いて走った。父親が「おなごが人前で脚を丸出しにするなんて。もう嫁には行けない」ととがめる中、教師の金栗は「おなごが脚ば出して何が悪かね」と猛然と反論する。ペリーさんは、女性が職場でヒールがあるパンプスを強制されることに疑問を投げかける昨今の社会状況と重なったと語る。「単なる女性の自立ではなく、『男女はこうあるべきだ』という社会の押しつけに異議申し立てする現代的な視点を歴史物語に盛り込むなど、作品のメッセージ性は強い」。近現代文学を扱う小樽文学館(北海道小樽市)の玉川薫館長は「金栗の日記などを元にした脚本は人物を生き生きと描いており、明治・大正期の人物が身近なものとして感じられる。4年に一度の五輪がいかに人生を振り回すかが切実に伝わってきます」と評価する。 ●「ドラマ好き」からの支持 そもそも「視聴率が低いから失敗」とは言えないと、メディアコンサルタントの境治さんは指摘する。ビデオリサーチの視聴率とは「世帯視聴率」のことで、少子高齢化により高齢視聴者の影響が強い数字になりがちだというのだ。「ツイッターでの反響や他の調査会社のデータなどを分析すると、高齢視聴者が中心の従来の『歴史好き』ではなく、『ドラマ好き』が支持しているとわかる。新しい視聴者の開拓という意味では成功していると言えます」。視聴率の高い低いは注目され、ニュースにもなる。「しかし、世帯視聴率は今や番組を測る基準の一つでしかないのだと、テレビ局もメディアも視聴者も認識を改めるべきではないか。もっとも、好きなドラマを楽しむのに視聴率は関係ないと思いますが」。大河制作に携わっていたNHKの木田幸紀放送総局長は視聴率低迷を「残念なこと」としつつ、「『いだてん』は今までにない、これからあるかどうかわからない、見たこともない大河ドラマ。この作り方を最後まで貫いてほしい」と語る。ドラマは6月30日から田畑が主役の第2部へ。その前に報道陣の取材に応じた田畑役の阿部サダヲさんは「ポツンと一軒家」を念頭にこう言った。「もう一軒家って、そんなにないでしょう、そろそろ。(視聴者が)帰ってくると思いますよ」 *6-3:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%86%E3%83%AD%E3%83%AA%E3%82%BA%E3%83%A0%E3%81%AE%E5%AE%9A%E7%BE%A9 (Wikipediaより抜粋) テロリズムとは 「準国家的集団又は秘密の代理人による、非戦闘員を標的とし、事前に計画された政治的な動機を持つ暴力をいう」と定義されている。テロリズムの教科書に載っている定義には、以下のようなものが含まれている。 1)テロリズムは、政治目的、宗教又はイデオロギー的な変化を追求しようとして、 特に民間人に対して、暴力又はその脅威を行使することである。 2)テロリズムは非国家主体又はその各々の政府のために仕える秘密捜査員に よってのみ関与され得る。 3)テロリズムは直接対象となる犠牲者以外にも影響が及び、より広範囲の社会 への標的にも向けられる。 4)テロリズムは「法律により違法とされた犯罪(法定犯)で、不道徳又は不正な 行為(自然犯)である。 <参院選における投票判断の材料> PS(2019年7月20日追加):*7は、朝日新聞社と東京大学谷口研究室の共同調査で、候補者や政党の見解がわかりやすく纏められていてよいのだが、大雨や日程の都合で期日前投票をした人も多いため、今週始めくらいに出してもらえるともっとよかったと思う。 *7:https://www.asahi.com/senkyo/senkyo2019/asahitodai/?iref=comtop_8_08 朝日新聞社と東京大学谷口研究室の共同調査で、候補者に政策課題への賛否を尋ねました。皆さんが注目する候補者の政策への考え方を調べてください。(以下略) <政策選択と投票> PS(2019年7月21日追加):*8-1のように、今日、参院選が投開票されるので、有権者は選挙で政策への賛否を示すべきである。一票では力がないと考える人もいるが、一票の集まりが選挙結果や政策変更に繋がっており、棄権は政権への白紙委任だ。しかし、メディアの情報にも、「年金支給を支えながら自身は十分に受け取れない可能性がある若者こそ声を上げるべきだ」というように行政の説明を鵜呑みにした論調が多く、これでは、「これまで年金を支えたり、老親を直接養ったりしてきたのに、自分は生活できる年金すら受け取れない」という現在の高齢者の生活を無視している。そして、この問題を一挙に解決して誰にも文句を言わせないのが、自分のために積み立てる積立方式への移行と税外収入による積立不足分の補填なのである。 また、*8-2のように、自由貿易至上主義でTPPとEUとのEPAが推進されているが、産業政策も考えておかなければ、我が国は食料自給率が低く、自国の食料確保さえおぼつかなくなる。それは与党が主張する「攻めの農政」だけでは解決しないし、野党が主張する「戸別所得補償制度」では財源が膨大になる上、農業の生産性向上に資さない。また、「農産物の価格補償」は、高価格分が国民負担なのである。そのため、私は、TPPとEUとのEPAを進めるにあたり、「戸別所得補償制度」の代わりに農林漁業に再エネ機器を貸与して副収入を得させるようにし、補助金の削減・地方創成・地方交付税の削減に結び付けるのが最もよいと考える。 なお、自民党政権は行政とつるみ、大人が働いている産業に補助金をばら撒いて社会的弱者への教育・社会保障を削ってきた。しかし、*8-3の教育投資は重要で、技術革新や生産性向上の源は教育だ。さらに、*8-4のように、沖縄は過去2回の知事選・今年2月の県民投票で基地移設反対の民意が鮮明に示され、オール沖縄で基地の集中に抗議しているのに、与党は公約で辺野古移設推進を掲げ、沖縄選挙区の自民党公認候補は賛否を明らかにしていない。そして、ここにも土木業者と結託して将来計画もなく環境を破壊している無駄遣いの温床があるようだ。 2019.6.26、28東京新聞 2018.3.19東京新聞 (図の説明:参院選のテーマは多いが、左と中央の図のように、ポイントが纏められている。根本は、インフレ政策で実質年金・実質賃金が減少し、生活が苦しくなった人が多い《=エンゲル係数が上がった》ことである) *8-1:https://www.hokkaido-np.co.jp/article/327180 (北海道新聞 2019年7月21日) <2019参院選>きょう投票 未来につながる選択を 参院選はきょう投開票される。衆院選と違って政権選択選挙ではないとされるが、6年半続く安倍晋三首相の政権運営に評価を下す大切な機会である。この間に、われわれの暮らしはどう変わっただろうか。参院選の公示直前に「老後に夫婦で2千万円の蓄えが必要」と試算した金融庁の報告書が明らかになり、老後への不安があらわになった。こうした不安を取り除く手だてを講じるのが政治の使命であり、その政治を動かすのは有権者の切実な声だ。なかんずく、現在の年金支給を支えながら自身は十分に受け取れない可能性がある若者こそ、声を上げるべき局面といえる。未来を見据えた思いを1票に託そう。今回改選される参院議員は、安倍首相が政権復帰して初めて行われた国政選挙で当選した。任期が第2次以降の安倍政権とほぼ重なるだけに、候補者や、候補が所属する政党が政権とどう向き合ってきたかが問われる。「安倍1強」の下、政権に不都合な事実を覆い隠すような公文書の隠蔽(いんぺい)や改ざんが行われ、参院を含む国会の形骸化が進む。行政監視の機能を取り戻す必要がある。安倍首相は「違憲論争に終止符を打つため、憲法に自衛隊を明記していく」と繰り返し、改憲を最大の争点に掲げる。権力を縛るはずの憲法について、為政者自らがそのくびきを外すかのごとく改定を声高に叫ぶのは、やはり違和感が拭えない。改憲は国民の代表である国会が発議するもので、そこに投票で意思を投影するのは有権者であることを忘れてはならない。首相があまり強調しないテーマの方がむしろ問題は切迫している。北海道では、急激な人口減と高齢化に伴う地方衰退に歯止めをかける施策が求められる。ふだんの暮らしで困ったことを、どう解決するか。自分の生活に引きつけて、候補や政党の公約を見比べてみるのも有効だ。道選挙区の投票率はかつて60~70%台で推移していたが、2013年は54・41%、16年は56・78%と低迷が続いている。前回の参院選から選挙権年齢が18歳以上に引き下げられたが、投票所に足を運ぶ若者は少ない。少子高齢化が加速し、若者の声が政治に届きにくくなっている。この状況を変えるためにも、まずは1票を投じてほしい。 *8-2:https://www.hokkaido-np.co.jp/article/326973?rct=c_editorial (北海道新聞社説 2019年7月21日) <2019参院選>農業政策 自由化後の展望見えぬ あす投開票される参院選は、環太平洋連携協定(TPP)、日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)の発効後、最初の国政選挙である。日本農業はかつてない自由化の荒波に直面し、多くの農家が将来に不安を抱いている。これからの農業をいかに守り、育てるのか―。食料基地・北海道の有権者にとって関心の高いテーマだが、年金問題などに比べて各党の優先順位は低く、論戦が深まっていないのが残念だ。選挙戦も残り1日である。特に道選挙区の候補者には、農業政策の具体論を語り、有権者に明確な選択肢を示してもらいたい。農業政策について与党は、安倍晋三政権が推進する「攻めの農政」を通じ、対外的な競争力を高めることに重きを置く。自民党は「TPPや日欧EPAの下でも農業者が安心して再生産に取り組めるよう全力で応援する」、公明党は「世界に日本ブランドを広め、輸出力を強化する」とそれぞれの公約集に記した。こうした考え方は、輸入農産物の攻勢にさらされている生産現場の実感とは大きく異なる。例えば、TPP発効後の約半年で、オーストラリアなど加盟国からの牛肉の輸入は前年同期比で4%伸びた。しかも関税は今後14年間下がり続ける取り決めがある。ただでさえ高齢化と人手不足で経営体力を失う生産者が増えているのに、既存の国内対策の「着実な実施」や輸出などの「攻め」を強調するだけでは説得力を欠く。対する野党は、農家の所得を底上げし、40%未満に落ち込んだ食料自給率向上を訴えている。所得向上策に関しては、立憲民主党と国民民主党が「戸別所得補償制度の導入」、共産党は「農産物の価格補償と所得補償の抜本強化」を掲げた。農家への直接支払制度は自国農業を守るのに有効だが、巨額財源をどう確保するかの説明がなく、絵に描いた餅にしか見えない。特に立憲民主党と国民民主党は、民主党政権時代の戸別所得補償制度が十分機能しなかった原因を検証し、改善案を示さなければ、農家の信頼は得られまい。選挙後には日米貿易協定交渉も本格化する。トランプ米大統領は「農産物と牛肉が重要だ」と主張しており、輸入拡大を求めてくることははっきりしている。各候補は「農業を守る」と連呼してきたが、そんなかけ声だけで済ませてよい選挙ではない。 *8-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201907/CK2019072002000134.html (東京新聞 2019年7月20日) <参院選 くらしデモクラシー>中所得層にも無償化訴え 大学生困窮「教育もっと投資を」 日本の公教育への投資は先進国の中で極端に低く、家計への負担は大きい。低所得世帯の学生らを対象に高等教育の負担を軽減する新法が五月にできたが、中所得層は置き去りのままだ。現状に苦しむ学生から「教育への投資」を求める声が高まっている。「政治はもっと教育に目を向けてほしい」。梅雨空が広がった六月末、学生団体「高等教育無償化プロジェクト」(通称・フリー)代表の岩崎詩都香(しずか)さん(20)=東大三年=の声が東京・新宿駅前に響いた。「高額な学費で学生生活が奪われている」「奨学金という借金を背負い未来を自由に描けない」。メンバーの学生らも代わる代わるマイクを握り、窮状を訴えた。フリーは、岩崎さんらが学生の実態調査のために約三十大学の学生らとともに昨年九月につくった。現在、首都圏を中心に約百三十人が活動している。岩崎さんは地元・長崎市の公立高を卒業し、二〇一七年に東大文学部に進学した。六人きょうだいの末っ子。八歳の時に父を病気で亡くした。起業に失敗した父の借金を背負った母が、清掃業のパートで家計を支えてきた。しかし、父の遺族年金を含めても収入は年二百五十万円に届くのがやっとで、浪人は許されない。東大を選んだのは、年約五十四万円の授業料が全額免除される制度の所得対象になったからだ。仕送りはなく、月額約五万円の奨学金に加え、母子生活支援施設を警備する夜間バイトで生活費を賄う。「教科書の購入が必要な授業は、なるべくとらないようにしています。同級生との交流を極力減らし、コンパも断ってきた。ましてや旅行なんて」。返済が必要な奨学金の総額は、大学四年間で約二百五十万円を見込む。進学を望む大学院でも奨学金を頼るつもりだが、一段と膨らむ負担への不安は大きい。苦しんでいるのは「自分のような低所得層だけではない」と言う。「裕福そうな友人たちも、授業料のためにバイト漬けの生活を送っていた」。フリーが全国の大学や短大、専門学校に実施したアンケートでは、七月中旬までに集計が完了した約六千七百人の六割程度が「大学・学部を選択する際に学費を考慮した」と回答。奨学金の利用は三割を超えた。安倍晋三首相は消費税の使い道として「高等教育無償化」を掲げたが、五月に成立した高等教育の負担を軽減させる新法の対象は低所得世帯に限定された。多くの学生が望むものとはほど遠い。岩崎さんは「地元の友達の中には、親から『おまえは大学にはやれない』と言われて早々に諦めた人もいる。高等教育を受けることができないのは本人の努力不足かのような自己責任論を押しつけられている。こうした社会を変えていきたい」。二十一日投開票の参院選で、学生の未来を託せる候補者を見極めるつもりだ。 ◆公的支出2.9% OECD34カ国中最下位 日本の学生を取り巻く環境は厳しさを増している。日本の教育への公的支出の割合は、経済協力開発機構(OECD)の加盟国の中でも際立って低い。二〇一八年の発表によると、日本の国内総生産(GDP)に占める公的教育費の割合は2・9%でOECD平均の4・2%を下回り、比較可能な三十四カ国で最下位だった。日本では特に国公立大など高等教育の授業料が主要国の中でも高く、学費の家計依存度の68%もOECD平均の30%の二倍を超える。授業料の値上げも続いている。文部科学省によると、バブル経済に沸いた一九八九年に約三十四万円だった国立大の授業料は現在、約一・六倍の約五十四万円に。入学金は十万円増の約二十八万円となった。一方、九四年に六百六十万円を超えた一世帯あたりの平均所得は、一七年には五百五十一万六千円に低下した。家計に余裕がなくなっているのに、国立大では学費値上げが相次ぐ。東京工業大や東京芸大などは一九年度から学費を年額十万円値上げし、学生らが苦境に立たされている。 *8-4:https://www.hokkaido-np.co.jp/article/326972?rct=c_editorial (北海道新聞 2019年7月21日) <2019参院選>沖縄に基地集中 辺野古は全国の問題だ 戦後、沖縄が背負ってきた負担はあまりに重い。今なお、国内の米軍専用施設の7割が集中している。その状況下で安倍晋三政権は米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設工事を強行している。首相は就任以来「沖縄に寄り添う」と繰り返してきたが、実際の態度は違う。県はすでに辺野古沿岸部の埋め立て承認を撤回している。加えて過去2回の知事選に続き今年2月の県民投票では、移設反対の民意がより鮮明に示されている。なのに、国は県の承認撤回を脱法的とも言えるやり方で取り消し、希少な自然が残る辺野古沿岸で埋め立て域を広げ続けている。安全保障を理由に、国の政策を一方的に押し付ける姿勢は、対等であるべき国と地方の関係をゆがめている。沖縄以外の地方にとっても人ごとではない。沖縄の基地問題は負担の公平性も含め、参院選の大きな争点だ。自民党は公約で辺野古移設推進を掲げる。しかし沖縄選挙区では公認候補が賛否を明らかにしていない。昨年の知事選同様、争点をぼかそうとする意図が透ける。公明党は党本部が政府方針を容認する一方、沖縄県本部は県内移設に反対している。一貫性を欠き、有権者には分かりづらい。一方、立憲民主、国民民主、共産、社民の野党4党は中止、反対を公約に掲げ、政権批判を強めている。ならば普天間返還を含め、基地負担の軽減を米側とどう進めるか具体的に示す必要があろう。県は今週、石井啓一国土交通相が県による埋め立て承認撤回を取り消す裁決をしたのは違法だとして、裁決の取り消しを求める訴訟を福岡高裁那覇支部に起こした。国と県の対立はまたも法廷闘争に入り、出口が見えない。そもそも県の撤回理由には、辺野古沿岸部に最深約90メートルに達する軟弱地盤の存在が新たに判明したことがある。現計画では対応できず、費用も大幅に膨らむ。国が県の承認なく工事を強行し続けることができないのは明らかだ。国は普天間問題について「辺野古移設が唯一の解決策」とする。だが移設を最初に閣議決定してから20年たち、安全保障環境も変わる中「なぜ、唯一なのか」を県民に丁寧に説明したことはない。今回の参院選は、政権の地方軽視の姿勢と基地負担のあり方を国全体の問題として考え、投票する機会にしたい。
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2019,07,01, Monday
2018.3.16、2018.11.20産経新聞 司法取引 共謀罪 特定秘密保護法 (図の説明:左の2つの図のように、司法取引を導入している国は日本だけではないが、重要なのは使われ方で、ゴーン氏逮捕事件は民衆の嫉妬を煽って無理に有罪を作りだすという日本独特の様相を呈している。また、右から2番目の図の共謀罪も何とでも言えるため、憲法違反が指摘されている。さらに、一番右の特定秘密保護法は行政のやりたい放題になる上、「秘密を漏えいしやすいので特定秘密取扱者の制限を受ける」として挙げられた類型は差別そのものである) (1)参院選で考慮すべき国民監視強化と人権侵害への法改正 1)2019年7月の参院選について 日本農業新聞が、*1-3のように、TPPの発効や規制改革推進会議による官邸主導の政策決定が生産者を無視したため、「安倍内閣の農業政策を評価しない」は68.5%に上っており、政権運営に不満はあるのだが、農業従事者は野党にも厳しい目を向けていると書いている。 そして、支持政党トップは自民党の46.7%、野党のトップは立憲民主党の9.3%で、参院比例区の投票先も、自民党39.1%が立憲民主党14.5%を大きく引き離しているそうだ。その理由は、「①野党は選挙協力を進めたが、共産党を含む連立政権の樹立を目指しているわけではない」「②野党はばらばら」「③政権交代の可能性がない」「④野党第1党の立憲民主党は都市型政党で農政に弱い」と書かれている。しかし、①②は、自民党支持者が野党を分裂させるために使う批判であるため、野党支持者はこれに乗ってはいけないのである。 また、③については、参院選であるため仕方なく、④については、野党は、歴史が浅いこともあって i)地域に根付いた議員が立候補していない ii)地域に根差した支持基盤がない などが理由で、地域からの政策に関する指摘が上がりにくいわけである。その点、自民党は県議や市議にも自民党員が多く、普段から組織がしっかりしている。しかし、自民党の欠点は、永く与党であるため立候補に既得権や世襲の色合いが強く、世襲議員は(特に優秀でなくてもなれるため)代を重ねるごとに劣化する傾向があるということだ。 そのため、自民党候補者は支持しないが、野党候補者も支持できないので、選択肢も興味もなくなり、棄権するのが近年の低い投票率の原因だろうが、浮動票が少なくなれば組織票がモノを言うため、さらに自民党に有利になって自民党は組織票の源泉となる政策を増やすわけである。 2)参院選の争点 これは、メディアがわかりやすくまとめて一覧表にして欲しいが、*1-1は、参院選で、①改憲 ②安倍政権の経済政策の是非 ③くらしと年金(公的年金制度のあり方) ④外交 ⑤原発・エネルギー ⑥安倍政権の政治姿勢 を主要争点としている。 このうち①については、*1-2のように、安倍首相は、「憲法改正の議論すら行われない姿勢でよいのか、国民に問いたい」としておられるが、自民・公明・維新・改憲に前向きな諸派や無所属議員を加えた改憲勢力が改憲発議に必要な2/3以上になれば、改憲を議論した途端に党議拘束のある強行採決が行われて国民投票となりそうであるため、まともな議論をするためには改憲勢力は2/3未満でなければならない。 また、このブログに書いてきたとおり、私も②③④⑤に不満足な点は多いが、⑥の「安倍政治だからいけない」という批判は政策に対する批判ではなく、(理由を長くは書かないが)他の人ならそれ以上のことができるかどうかもあやしく、事実も知らずに人格攻撃をしていることになるため、民主主義の国の大人が言うべきではないだろう。 3)公的年金について 安倍首相は、*1-2のように、公的年金問題に関する金融庁報告書に対し「対案もないまま、不安をあおる無責任な議論があってはならない」と言われたそうだが、私がこのブログの「年金・社会保障」の項目に何度も記載したとおり、誰も文句を言わない唯一の方法は、①積立方式(≒発生主義による引当方式)への移行 ②徴収・支払の完全化 ③積立金の管理強化 ④二重負担の排除 であり、出生率に影響され散財の多い現在の仕送り方式である限り、皆が不安で不満足なのである。 (2)国民の人権を大切にしない立法・行政・司法とその政策 1)立法・行政・司法による人権侵害 日本国憲法で、立法・行政・司法は三権分立していると規定されているが、実際には日本の行政・司法(昔の“お上”)は、個人の人権や幸福のために行動するのではなく、別の目的で行動することが多いというのが多くの事例で示されており、日本国憲法は、未だ形だけで精神まで実行されていないというのが現状である。 そのような中、*2-1・*2-2に書かれているとおり、自民党政権下で「刑事訴訟法等の一部を改正する法律」が成立したが、これは、裁判員裁判対象事件と検察庁の独自捜査事件に限定された一部事件で取調べの全過程の可視化が義務付けられた一方で、司法取引の導入、通信傍受の拡大を含む。 私も、この通信傍受拡大は警察の見たい放題・聞きたい放題となり、通信の秘密やプライバシー等の人権侵害が著しく、濫用の危険性も高いため、この法律を成立させた自民党政権に疑問を感じた。しかし、自民党政権は、G20でもデータの流通を提案するなど、日本はもちろん世界の人も眉をひそめるほどだ。 また、司法取引の導入も濫用の危険性を排除しておらず、この制度が人権侵害を生み出した例としては、今後、内部紛争の手段として司法取引制度を使った、*3-1の三菱日立パワーシステムズ(MHPS)の海外贈賄事件や、*3-2-1のゴーン氏の逮捕事件などが挙がってくると思われる。いずれのケースでも、日本の司法は、個人を犠牲にして会社の味方をしている。 2)司法が生んだ冤罪 通常は警察の取り調べと関係がないため無視していられるが、*2-3のように、1967年の「布川事件」では、検察が証拠をでっちあげ、無実の証拠は隠して、1978年に無期懲役が確定し、再審で無罪となった桜井昌司さんがいる。 また、*2-4のように、自宅の火災原因は、土間に設置していた風呂釜の種火が同じ土間に止めていたホンダ・アクティ(軽ワゴン)のガソリンに引火して自宅が全焼した青木惠子さんは、「娘殺し」の犯人として無期懲役を課せられた。それは、捜査員たちが、ホンダの車からガソリンが漏れるわけはないと思い込み、「出火原因は放火で、動機は生命保険金を狙った殺人だ」というストーリーを描いたからだが、風呂釜の種火の近くに置いてあれば、一定の温度以上になればガソリンが漏れていなくても引火することはある。 しかし、被害者の青木惠子さんと内縁の夫の朴さんは捜査員の言いなりに自白させられ、この2人の甚大な不幸によって助けられたのは、風呂釜の種火近くに可燃物を置かないよう説明していなかった会社と保険金を払わずにすんだ会社なのである。 また、*2-5の袴田事件は高裁で再審を取り消されたが、犯人のものとされる着衣に付いていた血痕のDNA鑑定がおかしく、再審を決めた静岡地裁は「袴田元被告のものと一致しない」という弁護側鑑定の信用性を認め、高裁は信用性を否定した。しかし、DNAは、一卵性双生児なら完全に同じであり、近親者になるほど近いため、同じでも疑うべきである上に、昔の鑑定はさらに不正確だっただろう。つまり、“科学的”という名の下に、他の複数の証拠との整合性もなく犯人と決めつけるのはおかしく、検察の立証が合理性を欠く場合は速やかに再審を行うべきだ。 さらに、*2-6-1の大崎事件は、1979年10月、夜に泥酔して自宅から約1キロ離れた用水路に自転車とともに倒れていたところを通りがかりの村人に引き上げられ、家まで軽トラックで送り届けられた後に所在不明となって捜索願が出されていた中村邦夫さんが、自宅牛小屋の堆肥の中から腐乱死体で発見された大崎事件の死亡原因は殺人ではなく転落による事故死であるため殺人罪は冤罪だとの主張があるそうだ。 警察は、当初から近親者の犯行と見て捜査を開始し、同一敷地内に住む長兄の中村善三さん・次兄の中村喜作さん・喜作さんの長男の中村善則さん・善三さんの妻だった原口(当時中村)アヤ子さんら4人を殺人と死体遺棄で逮捕し、原口アヤ子さんは一貫して否認したが他の3名が自白して起訴され、原口さんも3名の供述を元に起訴された。 検察は、「原口さんが首謀者となって酒乱の邦夫さん殺害による保険金取得を謀議し、原口さん、夫の善三さん、義弟の喜作さんの3人で邦夫さんを押えつけたうえ西洋タオルで絞め殺し、原口さんと甥の義則さんで牛小屋堆肥に死体を遺棄した」というストーリーを作り、原口さんは終始これを否認したが、鹿児島地裁は「頸椎前面に出血があることから首に外力が働いた。他殺による窒息死と想像する」という鹿児島大医学部教授の鑑定書と自白を根拠に、全員に(それにしては、短い)実刑を宣告した。 そして、*2-6-2のように、最高裁が、再審開始を認めた福岡高裁と鹿児島地裁の決定を取り消し、再審請求を棄却する決定をして、再審を認めない判断が確定したが、確定判決が「窒息死と推定される」とした男性の死因については、「転落事故による出血性ショックの可能性が極めて高い」との指摘もあるそうだ。しかし、自転車で転んだ際に首の骨が折れたり、全身不随になったりすることもあるため、警察や検察の死因推定やストーリー仕立ては単純なワンパターンにすぎるわけである。 (3)司法取引について 日本版「司法取引」が導入されたのは、*3-1のように、2018年6月1日で、これを利用した起訴は2件あり、それは、日産自動車前会長ゴーン氏と三菱日立パワーシステムズ(MHPS)の元幹部3人だが、いずれも「社内紛争で、会社が社員を差し出した」という感じがする。 また、(2)の冤罪事件で明らかなように、①日本の警察・検察は単純すぎるワンパターンの犯罪ストーリーを描く ②経済事件に弱い ③公正でなく意図的である ④権力や会社側について個人を犠牲にすることを厭わない などにより、信用に値しないため「司法取引」も都合よく使うだろうと推測せざるを得ない。 なお、*3-2-1のように、ゴーン前会長と前代表取締役ケリー氏が公判前整理手続きに出席したそうだが、ゴーン前会長の弁護側が検察側に対して証拠を早期に開示するよう求めたり、日産の西川広人社長が虚偽記載事件で不起訴処分になった理由の説明などを求めたりしたのは当然だろう。また、*3-2-2のように、ゴーン前会長は、保釈条件で妻キャロルさんとの接触を禁止されているわけだが、証拠は既に出ていて当然の時期であるため、妻と助け合えないよう接触禁止にしているのは嫌がらせに見える。 (4)共謀罪について 政府は、*4-1・*4-2のように、2017年3月21日、共謀罪の創設を含む組織的犯罪処罰法改正案を閣議決定して国会に上程し、2017年6月15日に可決成立した。この法案は、日弁連意見書が検討の対象とした法案に比べ、①犯罪主体についてテロリズム集団その他の組織的犯罪集団と規定している ②準備行為は計画に基づいて行われる必要があることを明記して準備行為が必要とされている ③対象となる犯罪が長期4年以上の刑を定める676の犯罪から277の犯罪にまで減じられている点が異なっているそうだ。 しかし、①の「テロリズム集団」は組織的犯罪集団の例示として掲げられているに過ぎず、この例示が記載されたからといって主体がテロ組織・暴力団等に限定されることはなく、②の準備行為についても計画に基づいて行われるものに限定したとしても準備行為自体は法益侵害への危険性を帯びないため犯罪成立を限定する機能を果たさず、③の対象となる犯罪が277に減じられたとしても組織犯罪やテロ犯罪と無縁の犯罪も対象とされていることから、上記3点を勘案したとしても、日弁連の意見書で指摘した問題点が解消されたとは言えないそうだ。 私も、この法案の成立過程を見ていたが、この法律は日本を監視社会化して市民の人権や自由を侵害する恐れが強いと考えた。 また、この法案に対しては、国連人権理事会特別報告者であるジョセフ・カナタチ氏が懸念を表明する書簡を発出するという経緯も存したが、④一般市民が捜査の対象になり得るのではないか ⑤「組織的犯罪集団」に「一変」したといえる基準が不明確ではないか ⑥計画段階の犯罪の成否を見極めるために、メールやLINE等を対象とする捜査が必要になり、通信傍受の拡大など監視社会を招来しかねないのではないか などの様々な懸念は、*6-1の2019年6月1日の施行の「改正通信傍受法」で実現している。 さらに、「改正通信傍受法」が、これまで捜査員が通信会社に出向いて通信会社社員の立会の下で行なっていた通信傍受を、警察に居ながらにしてできるようにしている。そして、通信傍受が認められている“犯罪”は、薬物、銃器、集団密航、組織的殺人、殺人、傷害、放火、爆発物、窃盗、強盗、詐欺、誘拐、電子計算機使用詐欺・恐喝、児童売春など殆どで、今後は裁判所の令状を取られた被疑者と会話やメール等で通信する相手は、警察の監視下に置かれ、ネット化、IT化、キャッシュレス化がもたらす個人情報の共有が警察当局にももたらされ、通信傍受と合わせられるそうだ。 そして、日本政府は、キャッシュカードの使用を推奨しているが、利用履歴や買い物履歴は個人情報になるため、自分の個人情報が悪用されないように気を付けるのは、今では正当な注意になってしまった。これを、主権者はどう評価するのだろうか。景気さえよければ、民主主義はどうでもよいのだろうか? (5)特定秘密保護法について 日本弁護士連合会は、*5のように、特定秘密保護法について廃案を求める会長声明を出し、特定秘密保護法における「テロリズム」の定義が広すぎ、市民の表現行為が強要とされてテロリズムに該当すると解釈される危険性があるとしている。 私も、特定秘密保護法については、特定秘密の範囲も曖昧で、秘密の指定は恣意的になりかねず、それをチェックすべき第三者機関の独立性は疑わしく、テロの定義を広げて国民の正当な政府批判まで取締りの対象にする危険があり、特定秘密の取扱者の制限も差別的内容を含んでおり、人権侵害の恐れがあるため、特定秘密保護法についても改めて有権者の評価を求めたい(https://www.tokyo-np.co.jp/feature/himitsuhogo/news/131206zenbun.html 参照)。 (6)監視社会へ ← 一度失ったら取り戻すのに多大な犠牲を強いる「自由」 (4)にも記載した通り、*6-1のように、2019年6月1日施行の「改正通信傍受法」で、捜査員は警察に居ながらにして通信傍受を行えるようになったが、改正は「段階を踏んで少しずつ行われ、今では殆どの犯罪領域がカバーされることになったのだそうだ。そして、本当に犯罪捜査にだけ使われるのならよいが、そうとは限らないため問題なのである。 さらに、*6-2のように、地銀64行がテロリストへの資金供給などに使われるマネーロンダリング(資金洗浄)防止のため、情報共有システムを構築するそうだが、日本でテロリスト・テロリストと言われのに、私は違和感がある。何故なら、日本は戦争をする国ではないため恨まれる理由がなく、国内でテロが起こることは考えにくいからだ(実際、何回起こったか?)。そのため、テロ対策と称する国民への個人情報の侵害の方がよほど重大な問題だろう。 <参院選の争点に含めるべき国民監視強化と人権無視> *1-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201906/CK2019062602000155.html (東京新聞 2019年6月26日) <参院選岐路>参院選 事実上スタート 憲法、年金など争点に 国会は二十六日に閉会し、参院選の公示を前に、選挙戦が事実上、スタートする。衆院は二十五日の本会議で、立憲民主など野党五党派が共同提出した安倍内閣不信任決議案を自民、公明の与党と日本維新の会などの反対多数で否決した。安倍晋三首相は衆院解散を見送る。参院選は七月四日公示、二十一日投開票となる見通し。首相は二十六日午後、官邸で記者会見を行う。衆参同日選を見送る理由や参院選への決意を表明するとみられる。政府はこれに先立ち臨時閣議を開き、参院選の日程を正式決定する。参院選では、首相が目指す改憲、安倍政権の経済政策の是非に加え、老後二千万円不足問題で不安が広がる公的年金制度のあり方などを主要争点に与野党が論戦をかわす。憲法、くらしと年金、外交、原発・エネルギーに加え、安倍政権の政治姿勢など、政権の六年半が問われる。首相は二〇二〇年の新憲法施行を目指している。自民、公明の与党に加え、維新や改憲に前向きな諸派・無所属議員を加えた「改憲勢力」が、改憲発議に必要な三分の二の議席を維持できるかが最大の焦点となる。内閣不信任決議案を巡る本会議での趣旨弁明で、立民の枝野幸男代表は「安倍内閣が議会制民主主義を根底から破壊している現状を見過ごすことは到底できない」として、首相の政治姿勢を批判した。自民党は、外交や経済で実績を上げていると反論した。 *1-2:https://www.jiji.com/jc/article?k=2019062600875&g=pol (時事 2019年6月26日) 憲法改正「国民に問う」=年金充実へ経済強化-安倍首相記者会見 安倍晋三首相は26日、通常国会閉幕を受けて首相官邸で記者会見した。7月21日投開票の参院選について、かつての民主党政権を批判した上で「最大の争点は安定した政治の下で改革を前に進めるのか、再び混迷の時代に逆戻りするかだ」と強調。憲法改正に関し「議論すら行われない姿勢でよいのか、国民に問いたい」として、争点とする意向を示した。首相は「令和の日本がどのような国を目指すのか、その理想を語るものは憲法だ」と述べ、改憲への意欲を表明。野党が国会での改憲論議に非協力的だったと指摘した上で、「憲法の議論すらしない政党を選ぶのか、国民に自分たちの考えを示して議論を進めていく政党を選ぶのか、それを決めていただく選挙だ」と訴えた。首相は経済最優先の政権運営を継続する考えを示した上で、「景気下振れには、ちゅうちょなく機動的かつ万全の対策を講じる」と述べ、追加経済対策の可能性に言及した。老後資金が公的年金以外に2000万円不足するとした金融庁報告書に対して批判を強める野党を念頭に、「対案もないまま、ただ不安をあおるような無責任な議論は決してあってはならない」とけん制。「年金(制度)を充実する唯一の道は、年金の原資を確かなものとすること、すなわち経済を強くすることだ」と述べた。 *1-3:https://www.agrinews.co.jp/p48078.html (日本農業新聞 2019年7月1日) 参院選 このままでいいのか 野党の体たらく問う 一橋大学大学院教授 中北浩爾 参院選の帰趨(きすう)を決すると言われるのは、農村部に32ある改選定数1の「1人区」である。かつてであれば、自民党が堅調に議席を獲得する金城湯池であった。しかし、日本農業新聞が行っている農政モニターの意識調査を見る限り、自民党が楽観できる状況にはない。2006年の第1次安倍政権では、発足後の06年10月調査の内閣支持率は76・1%あった。それが第2次安倍政権発足時の12年12月調査では支持率66・0%となり、今年3月の調査では支持率39・5%と低迷。17年10月以降は支持率30%台の低空飛行が続く。これに対して、不支持率は6割を超える。国民一般に比べて農業従事者ほど、安倍政権に不満を抱いていることがうかがえる。 ●政権運営に不満 3月の調査結果からは、その理由も浮かび上がる。安倍内閣の農業政策を「評価しない」は68・5%に上った。政権運営が謙虚かどうかの評価では、「全く謙虚ではない」が最も高く42・9%で、「あまり謙虚ではない」が33・2%と続いた。環太平洋連携協定(TPP)が発効するなど過去最大の農産物の市場開放への不満に加え、規制改革推進会議に象徴される官邸主導の政策決定に対して、生産者の声を無視しているとの批判の表れとみられる。本来であれば、これは野党にとって大きなチャンスである。それを生かせば、間もなく公示となる参院選で勝利し、3年後には「ねじれ国会」に持ち込む展望が開けるかもしれない。 ●投票先では大差 ところが3月の調査結果を見ると、農業従事者らは野党にも厳しい目を向けている。支持政党のトップは自民党の46・7%で、野党は最も支持が多かった立憲民主党でも9・3%にとどまった。参院選比例区での投票先でも、自民党が39・1%で、立憲民主党の14・5%を大きく引き離した。これには二つの理由が考えられる。第一は、野党がばらばらであり、当面、政権交代の可能性がないと考えられていることだ。1人区で候補者調整を行うなど、野党は選挙協力を進めているが、共産党を含む連立政権の樹立を目指しているわけではない。そうである以上、自民党政権の枠内で農業政策の転換を期待するしかない。昨年9月の党総裁選の際、農業従事者の間で石破茂元幹事長への期待が高かったのは、そのことを裏付ける。第二に、野党第1党の立憲民主党が、都市型政党であり、旧民主党以来の農業者戸別所得補償制度を主張しているとはいえ、農政に弱いことである。枝野幸男代表は、民主党代表時代の小沢一郎氏のようには、農村部を丁寧に回るということをしていない。旧民主党では、むしろ国民民主党の方に農政通が多い。玉木雄一郎代表の父親は農協関係者である。だが、結党の経緯などから、同党の支持率は低く、3月の調査結果では1・7%にすぎない。安倍内閣の個別の政策には批判が強いのにもかかわらず、民主党政権の失敗を背景とする野党の低迷により、異例の長期安定政権が可能になっている。これは農政に限られた現象ではない。その結果が、近年の低い投票率である。今回の参院選では5割を下回る可能性すらある。参院選を目前に控えて改めて野党に問いたい。本当にこのままでいいのか、と。 *なかきた・こうじ 1968年、三重県生まれ。東京大学法学部を卒業後、立教大学法学部教授などを経て、一橋大学大学院社会学研究科教授。政治学が専門。著書に『自公政権とは何か』(筑摩書房)、『現代日本の政党デモクラシー』(岩波書店)など。 <司法が生む冤罪と人権侵害> *2-1:https://www.osakaben.or.jp/speak/view.php?id=121 刑事訴訟法等の一部を改正する法律の成立に当たっての会長声明 (2016年5月24日 大阪弁護士会会長 山口健一) 本日、「刑事訴訟法等の一部を改正する法律」が可決・成立した。この改正は、一部の類型の刑事事件について、身体を拘束された被疑者に対する捜査機関の取調べの全過程を録音・録画することの義務付け等を行う一方で、いわゆる司法取引の導入や通信傍受の拡大を含むものとなっている。これらの改正部分は、法律成立の日から3年以内に施行される。取調べ全過程の録音・録画は、市民の監視が全く及ばない密室で、捜査機関が違法・不当な取調べを行ったことにより、無実の者が虚偽の自白を強いられ、多くのえん罪を生んだことへの痛切な反省から導入された。富山・氷見強姦えん罪事件、志布志事件、足利事件等虚偽自白の強要によるえん罪事件は枚挙に暇がない。拷問による虚偽自白の強要、無罪を裏付ける証拠の隠ぺいに加えて、捜査機関による証拠ねつ造の疑いまで発覚し、確定死刑囚に再審開始及び死刑の執行停止が言い渡され、釈放された袴田事件(検察側申立により即時抗告審で審理中)は、記憶に新しいところである。2010年(平成22年)には、関係者の虚偽自白調書に基づき、虚偽有印公文書作成罪等で起訴された厚生労働省の官僚に無罪判決が言い渡された。同事件の捜査に携わった大阪地方検察庁特別捜査部の主任検事による証拠改ざんも明らかとなり、この重大な検察の不祥事を機に、取調べ及び供述調書に過度に依存した捜査・公判からの脱却を目指す刑事司法改革の検討が本格化した。取調べ全過程の録音・録画の法制化は、今般の刑事司法改革の中核をなすものである。当会は、数々の虚偽自白とえん罪を生んだ違法・不当な密室取調べの根絶を目指し、1990年代から、捜査機関における取調べ全過程の録音・録画、すなわち「取調べの可視化」を提唱してきた。今般の刑事訴訟法改正は、当会が長らく訴えてきた、被疑者・被告人の人権を守り、えん罪を根絶するための取調べの可視化の必要性を、正面から認めたものと評価することができる。今回の法改正による取調べ全過程の録音・録画の義務化は、裁判員裁判対象事件及び検察庁の独自捜査事件に限定されており、未だ道半ばであることは否めない。しかしながら、捜査機関が長らく抵抗してきた取調べ全過程の可視化が、一部の事件類型であっても法制化に至ったことは、率直に評価すべきである。身体拘束の有無を問わず、全刑事事件の取調べの可視化実現に至る第一歩として、我が国の刑事司法制度における歴史的意義を有するものである。今般の取調べ全過程の録音・録画の法制化を機に、刑事弁護の実践において漏れのない取調べの録音・録画を実施させ、取調べ監視体制を確立しなければならない。義務化の対象事件であるか否か、被疑者が拘束されているか否かを問わず、捜査機関に対する取調べ全過程の録音・録画の要請をさらに強化し、一刻も早く、全事件の取調べの可視化を実現することが、我々弁護士に課せられた社会的使命であり、当会としてもこれを推し進めていきたい。そして、今後は、全事件・全過程の取調べの可視化の法制化を可及的速やかに実現させることが強く求められる。また、検察庁及び警察は、既に義務化の対象以外の事件類型についても、録音・録画の実施対象を拡大し始めているところであるが、今般の法制化を機に改めて、捜査機関に対し、義務化対象事件であるか否かを問わず、被疑者が拘束されているか否かをも問わず、全事件・全過程の取調べの録音・録画を実施するよう強く要請する。なお、取調べの録音・録画について参議院法務委員会の審議において問題とされた、別件の被告人勾留中における対象事件の取調べは、対象事件についての「勾留されている被疑者」を取り調べるときにほかならないのであるから、録音・録画の義務付けの対象となることは明らかであり、それを前提とした弁護実践を行うことが強く求められる。他方、今般の改正に盛り込まれた通信傍受制度の拡大は通信の秘密やプライバシー等の人権侵害の程度が著しく濫用の危険性も大きい。いわゆる司法取引の導入についてもその濫用の危険性を排除したものとは言い難い。今後、これらの制度が人権侵害を生み出すことのないよう、その運用に厳しく対応する必要がある。捜査機関においてもこれらの制度を濫用することのないよう、通信傍受制度については補充性・組織性の要件を厳格に解釈運用すること、司法取引については引き込みの危険等に留意しつつ本制度が誤判の原因とならないよう厳格に運用されることを要請する。加えて、通信傍受制度について第三者監視機関の設置等の通信の秘密やプライバシー等の人権侵害を防止するための制度の創設を要請する。 *2-2:https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2019/190601.html 取調べの可視化を義務付ける法律の施行に当たっての会長談話 (2019年6月1日 日本弁護士連合会会長 菊地裕太郎) 本日、取調べの可視化を義務付ける改正刑事訴訟法が施行されました。改正法は、裁判員裁判対象事件及び検察の独自捜査事件について、逮捕・勾留下の被疑者の取調べの開始から終了に至るまでの全過程の録音・録画を義務付けています。そして、原則として、録音・録画がない場合には、供述調書を証拠として提出することができなくなると定めています。当連合会は、かねて取調べの全過程を録音・録画する取調べの可視化を求めてきましたが、これが法律上の義務となり施行されることは、歴史的意義を持ちます。現在、取調べの可視化によって、取調べの適正化が進んできています。同時に、従来からの日本の刑事司法の特徴である、捜査段階の供述調書に過度に依存する「調書裁判」は、根本から見直され始めました。既に、裁判員裁判対象事件については、警察でも検察庁でも、ほぼ全ての事件について、逮捕・勾留下の取調べの全過程の録音・録画がなされており、改正刑事訴訟法施行に向けての準備が整ってきていました。また現在、検察庁においては、裁判員裁判対象事件以外でも、幅広く取調べの録音・録画がなされており、今後は、この動きが、警察を含め加速されることが期待されます。一方、本日施行の改正刑事訴訟法では、取調べの録音・録画を義務付ける対象事件が限定されています。しかし、取調べの適正確保に録音・録画が必要であることは、事件の重さや種類に関わりません。このことは、痴漢、窃盗等、比較的軽微な事件におけるえん罪事件の経験からも明らかです。このほか、逮捕・勾留されていない、いわゆる在宅被疑者の取調べについても録音・録画を義務付ける必要があること等の克服すべき課題があります。全事件における取調べの全過程の録音・録画を実施するまでには、なお道のりがあります。取調べの可視化の改革は更に前進させなければなりません。当連合会は、改正刑事訴訟法の附則に定める3年後の見直しの際に録音・録画の対象・範囲を全事件・全過程に拡げるべく、全ての弁護士、弁護士会とともに引き続き全力で取り組む所存です。 *2-3:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/520945/ (西日本新聞 2019/6/23) 検察の「証拠独占」批判 「布川事件」桜井さん講演 「なぜ証拠は検察の独占物なのか」‐。1967年に茨城県で起きた強盗殺人事件「布川事件」で再審無罪が確定した桜井昌司さん(72)=水戸市=の講演会が22日、福岡県直方市で開かれた。今年5月に東京地裁であった国家賠償訴訟判決が、公判で証拠開示を拒否した検察側の対応を違法と認定したことを受け、桜井さんは「検察は証拠をでっちあげ、無実の証拠を隠す」と語った。布川事件は、別の窃盗容疑などで逮捕された桜井さんを含む男性2人が強盗殺人罪に問われた。公判で一貫して無実を訴えたが、78年に無期懲役が確定。未提出証拠の開示請求を繰り返し、目撃証人の初期供述調書などを開示させ、2011年5月に2人とも再審公判で無罪となった(1人は15年に死去)。市民ら約50人が訪れた会場で、桜井さんは「正直に話しても刑事から『違う』と言われると、自分の記憶が間違っていると思ってしまう」と取り調べを振り返った。検察に対しては「人権を守るべき公益の代表者が、有罪無罪を左右するかもしれない証拠を(公判で)出さなくていいのか」と批判した。質疑応答では、福岡県飯塚市で女児2人の殺人容疑などで久間三千年(みちとし)元死刑囚(08年刑執行)が逮捕された「飯塚事件」について問われ「(目撃供述など)ありえない証明を基に彼は犯人にされた。布川事件と同じで、久間さんを犯人にするために何の証拠もないから証人がつくられた」と指摘した。 *2-4:https://gendai.ismedia.jp/articles/-/54537 (週刊現代 2018.3.20) 「娘殺し」で20年も身柄を拘束された冤罪母の声、それでも裁判官にはおとがめなし 判断をひとつ間違えれば、罪のない人間に罰を与えてしまうかもしれない。それが裁判官だ。だが、その重みを十分に感じていない判事もいる。彼らは冤罪を出しても咎められることはないのだから。 ●裁判官に裏切られた 「本当のことを言っているんだから、私の話をちゃんと聞いてくれたら無罪しかないわけですよ。裁判官はきちんと審理して無罪判決を出してくれるに決まってる。そう思ってたもの。私は裁判所を疑ってなかったから。ところが、無罪の人間に無期懲役を宣告したんですから絶望した。これが日本の裁判所なのかって。そんな酷いところなんだって」。険しい表情で一気にこう語ると、青木惠子(現在54歳)は押し黙ってしまった。人生を一瞬にして崩壊させられた法廷での記憶が、生々しく甦ってきたかのようだった。大阪市内の貸会議室に、約束の時間ピッタリに現れた青木は、花柄のブラウスに黄色のカーディガン、スカートにハイソックスという若々しい出で立ちだった。その服装に、しばし気を取られていると、弁解するように言った。「若作りしてるって言われるんだけど、あの日以来、時間が止まってしまって。どんな服を着ればいいかわからないから。昔、着ていたような服ばかり買ってしまうんです」。衆議院法務委員会で、清水忠史代議士が最高裁刑事局長に質したところによれば、「死刑または無期懲役の判決が確定し、昭和五十年以降に再審開始決定がされた事件数は合計十一件」(2015年12月4日)。その11件目の再審開始決定が、青木惠子を犯人とした「東住吉事件」だった。再審開始決定とは、「無罪を言い渡すべき明らかな証拠をあらたに発見したとき」、裁判のやり直しを命じる制度である。ごく平凡な主婦として大阪市東住吉区に暮らしていた青木は、23年前の夏、自宅が火災で全焼。この時、青木が前夫との間にもうけたふたりの子供のうち、長女のめぐみ(当時11歳)を亡くしていた。めぐみには、3年ごとに30万円が給付される学資保険タイプの生命保険をかけていたが、事故で死亡した場合は1500万円が支払われるというものだった。大阪府警捜査一課の捜査員たちは、この保険金を得ようと火災事故に見せかけ、長女を殺害したものと憶測。「保険金目的放火殺害事件」の「主犯」として、青木(当時31歳)を逮捕したのである。「共犯」は、内縁関係にあった朴龍晧(当時29歳)で、青木の「発案」のもと放火を実行したとして逮捕されている。この逮捕の日から、再審裁判で無罪判決を勝ち取るまで21年という時間がかかっていた。「娘殺し」の汚名を着せられ、無期懲役囚として自由を奪われた一審裁判を思い出すだに怒りを抑えきれないと、青木は言った。「私は、世間に迷惑かけんようにと、一生懸命、いろいろ考えて働いていただけなのに。なんで、裁かれないかんかったんでしょうか。なんで、あんな扱いをうけないかんかったのかと、いまでも思いますけどね」。青木の自宅の火災原因は、玄関を入ってすぐの土間に止めていたホンダ・アクティ(軽ワゴン)の燃料タンクからガソリンが漏れ、その土間に設置していた風呂釜の種火に引火しての事故(自然発火)だった。この事実は、青木と朴の弁護団による「燃焼再現実験」で客観的に実証されている。実際、裁判所もまた、この実験結果を「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」として採用したことで、再審開始の決定がなされ、その後の再審無罪判決を得ることができたのだ。しかし、当時の捜査員たちは、ホンダの車からガソリンが漏れるわけはないと思い込んでいた。そしてその憶測が、出火原因は放火で、動機は生命保険金を狙った殺人という、根も葉もない確信へと変わるのである。 ●悲しむ時間も奪われて ただ、ふたりの犯行を裏付ける物証はなかった。だったら「自白」で放火を認めさせろ。短絡的で野蛮な捜査方針がとられたのである。過酷な取り調べのなか、青木は、やってもいない犯行を「自白」している。その時の心理状態をこう語った。「何を言っても信じてもらえないし。怒鳴られて、ののしられて、侮辱されて。私にしたら、娘を亡くしたばかりでしょう。一番弱ってますよね。娘の死を悲しむ時間まで奪われたうえ、お前みたいな奴が母親で、めぐみも可哀想やとまで言われて。なんなんだろう、これはって思いましたよ」。底の見えない絶望感へ突き落としたのは、捜査員の次のひと言だった。「朴さんが、めぐちゃんに性的虐待を加えていたと言われたんですよ。ガーンと頭殴られたみたいな衝撃で、私にしたら止めを刺されたようなもんですよ。助けられなかったうえ、気づかなかったわけだからね。私は、子供を幸せにしてあげたいと思ってるのに、そんな不幸なね。毎日、恐ろしい目にあってたんだと思ったら。こんなことにも気づかず、私は、子供は幸せなんだと思い込んでいた。そんな自分が情けなくて、すごく追い詰められたわけですよ」。司法解剖の結果、「死後半日から2日前くらいの間に性的虐待があった可能性は否定できない」と報告されていた。捜査員はこの報告をテコに、まず、朴を追及し、性的虐待を認めさせている。そしてその恥ずべき行為をマスコミに公表すると脅し、暴行を加えるなど肉体的、精神的に追い込んだうえで、捜査員の言いなり通りの自白をさせていたのである。あまりのショックに茫然自失となった青木は、「めぐちゃん、ごめんね」との思いが頭から離れなかった。何も考えることができず、ただ捜査員に言われるまま「自供書」を書いていた。自ら手にとったペンで書く「自供書」は、「自白」の内容を記載した「供述調書」より重い。捜査員は、証拠価値の高い「自供書」をとることで、何としても青木を犯人に仕立て上げたかったのだろう。起訴に持ち込めなければ「誤認逮捕」としてマスコミから批判され、職場の同僚からも白眼視される。保身からの計算をし尽くしての、狡猾な取り調べであった。「刑事から紙を渡され、まずは題名書こうって言われるわけですよ。そんなこと言われても、わかんないしね。すると、刑事が題名言うわけですよ。言ったこと書けって言われても、全部は聞き取れないでしょう。途中で止まったら、認めたくない気持ちはわかるけど、これを書かなあかんって言って、題名の続きを言うわけですよ。そのあと内容にいくわけです。この内容って、本当のことも入ってるわけですよ。たとえば、家が火事になりました。当たり前でしょう。そしてめぐちゃん、19歳の時に産みました。これも合ってるわけですよ。だから、合ってる中にポツンと犯行の状況を入れるわけです。いまでもね、その時書いた内容覚えていますかって言われたら、覚えてないんですよ」。往々にして、マスコミで大きく報道された事件で、捜査が行き詰まった場合、厳しい取り調べが行われる。元大阪高裁裁判長の石松竹雄は、『刑事裁判の空洞化』のなかで、そんな捜査の恐ろしさを指摘している。「捜査官としての見通し・見込みを立てたうえ、被疑者を……長期間徹底的に取調べ、その見通し・見込みに沿った自白を追及して詳細な供述をさせ、これらの供述を含む捜査の結果を、その見通し・見込みに従って整理し詳細に調書に録取して固定化し」、「これらの証拠が採用されれば、直ちに有罪判決をすることができる状態になっている」。青木らへの捜査は、まさに石松が指摘する通りのものだった。 ●調書を鵜呑みにする裁判官 元東京高裁裁判長はこう語っている。「供述調書を見る時は、最初の調書と2通目を見比べて、2通目で本当は何を取りたかったんだろうかと、詮索する。最初のは、捜査員の意図通りの供述をうまく調書に取れなかったからじゃないか。じゃ、その先の調書ではどうなってるの、と見る。何通重ねた調書でも、かなりの部分は同じ内容が多いんですよ。それなのに、本人を連日呼び出した狙いはなにかとか、詮索してみなくちゃならない。見抜くために、乗せられないために背後の事情を読み取るのが、刑事裁判官のあるべき姿なんです」。裁判官には、証拠の価値評価や、その採否を「総合的、直感的」に自由に決定できる権限が与えられている。自由心証主義と言われるこの特権は、かりに「冤罪」を生み出したとしても、その責任を問われることはない。そんな気楽さからか、青木らに有罪判決を下した地裁の裁判官も、その判決を支持した高裁と最高裁の裁判官たちも、「自供書」や「供述調書」に隠された捜査員の意図を見抜こうとしなかった。単に、検察官の主張を無批判に受け入れ、「冤罪」を生み出していたのである。当時の大阪地裁刑事部では、こんな会話が飛び交っていたという。「自然発火と言ってるぞ」「そんなの無理」「共犯の男は、亡くなった娘に性的暴行加えてるしな」「完全にクロ」――。実際、青木を裁いた地裁の毛利晴光裁判長は、こう断罪した。「被害者(のめぐみ)は母親から愛情を与えられず、理不尽に死に追いやられており、まことに哀れだ。悲しみに暮れる母親を装った青木被告の刑事責任は重い」。また、朴を裁いた川合昌幸裁判長も判決文に書いている。「金のためなら子供の命すら奪うという被告人らの非人道的態度は、いかに厳しく非難しようとも非難し過ぎるということはない」。「捜査段階においては本件各犯行を悔悟し反省する態度が見られたのに、公判段階では不合理な弁解を縷々並べ立てており、結局のところ、ひたすら自己の罪責を免れようとの一心しかなく、自己の犯行を反省し被害者の冥福を衷心から祈ろうとの人間らしい心情に全く欠けるものといわなければならない」。青木と朴の法廷での必死の訴えを、裁判官たちは鼻でせせら笑っていたのである。ただひとり、一連の裁判のなかで、青木らの無罪を主張した裁判官がいた。大阪弁護士会会長から最高裁判事に任官した滝井繁男だ。滝井は、青木惠子の審理を担当した最高裁第二小法廷の裁判長だったが、同小法廷の多数意見が青木を有罪と認定すると、ひとり反対意見を書いた。 ●「誤判」後に栄転 A4用紙24枚に及ぶ意見書はこう結論づけている。「被告人が共謀によって本件犯行を行ったとするには、なお合理的な疑いが残る」「(控訴審判決を)破棄しなければ著しく正義に反する」。しかし、この反対意見は陽の目をみることはなかった。最高裁判決の文案を作成する調査官が、その公表に難色を示したからだ。70歳の定年が近づいていた滝井は、なんとか判決期日を決め、その反対意見を世に示そうとしたが叶わなかった。滝井の定年退官から約1ヵ月後の2006年12月、第二小法廷は青木の上告を棄却している。この日の棄却から10年目の、2016年8月、ようやく大阪地裁の西野吾一裁判長は、青木と朴の再審裁判で無罪を言い渡した。そして、「被告人の自白すべてに証拠能力を認めることはできない」「本件火災が自然発火によるものである可能性が合理的な疑いとして認められるから、被告人が……犯行を行ったとは認められない」と判示した。青木らを犯人としてきた「自白」のすべてを証拠から排除したのである。この再審無罪判決が出る半年前、一審で朴龍晧を有罪と「誤判」した川合昌幸裁判長は、広島高裁長官に栄転している。高裁長官は、天皇によって認承される「認証官」で、最高裁長官と最高裁判事に次ぐ地位にある。長官着任後の記者会見で川合は、いみじくも「自分は間違える人間だと思ってやってきた」と語っていた。また、青木惠子を裁いた毛利晴光裁判長は、再審無罪判決の約2年前、長崎家裁所長へと異動している。エリートコースを歩んできた毛利が、川合に比べさほどの地位を得られなかったのは、東京地裁裁判長時代の2006年2月、書面による厳重注意処分を受けたことによるとされている。毛利は、少年法の規定で家裁送致しなければならない少年を、捜査機関の求めるまま不当な勾留を認めていたのである。一方の青木惠子は、出所後、愛娘めぐみに性的虐待を加えていた朴と決別。亡き娘の霊を供養しながら、一枚3円でチラシを各家庭の郵便受けに投入するポスティングの仕事と、新聞の集金人を務めながらつましく暮らしている。青木は言った。「これだと月4万4000円ぐらいでしょう。最低でも6万円稼ぎたいなぁと思ってるんだけど、うまくいかないんだよね」。冤罪によって奪われた時間の空白は、懸命に生活の基盤を築こうとする彼女の背中に、いまも重くのしかかっている。 *2-5:https://mainichi.jp/articles/20180615/ddm/005/070/063000c (毎日新聞社説 2018年6月15日) 袴田事件で再審取り消し 鑑定評価の仕組み検討を 科学的とされる鑑定結果でも、その評価は難しい。1966年に起きた「袴田事件」で、死刑が確定した袴田巌元被告の再審決定を東京高裁が取り消した。焦点になったのは、犯人のものとされる着衣に付いていた血痕のDNA型鑑定だ。再審を決めた静岡地裁は「袴田元被告のものと一致しない」との弁護側鑑定の信用性を認めたが、高裁は信用性を否定した。鑑定の評価がなぜ正反対になったのか。高裁では、検察側が申請した鑑定人が、弁護側鑑定の手法を検証した。その中で、DNAの抽出に当たり、試薬を使った独自の方法を取ったことを「不適切だ」とする報告書をまとめた。他にも批判的な法医学者の意見書が出て、高裁はそうした意見をくんだ形だ。静岡地裁の決定から4年がたつ。専門家が別の専門家を否定する科学論争のためにいたずらに時間が経過した感は否めない。鑑定を科学的に突き詰めて事実解明することは重要だが、最先端の科学でも場合によってはあいまいな部分は残る。そこをどう考えるかだ。弁護側、検察側双方の鑑定人が意見をぶつけ合うだけでは限界がある。今回は極めて古い試料でのDNA型鑑定の信頼性が問われた。そのような難しい事案の場合、裁判所の主導下で、第三者的な立場の専門家を集め、鑑定や検証を担ってもらう仕組みが築けないだろうか。もちろん、鑑定結果が全てではない。その上で全証拠を総合して結論を出すのは司法の責任だ。事件発生から半世紀がたつのに、なぜ再審の決着がつかないのか。主な原因は、再審段階での証拠開示が検察の判断に委ねられていることだ。袴田事件で検察が衣類発見時の写真などを開示したのは第2次再審請求後の2010年だった。再審での証拠開示のルール作りが必要だ。この事件では1審段階で45通の自白調書のうち44通が証拠採用されなかった。捜査は自白偏重だった。「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の原則は再審でも例外ではない。弁護側は週明けにも最高裁に特別抗告する。最高裁は鑑定結果を含め十分かつ迅速な審理をし、その上で検察の立証が合理性を欠くならば再審の扉を開くべきだ。 *2-6-1:https://matome.naver.jp/odai/2140539519066755001 (NAVER 2018年09月26日) 大崎事件 大崎事件(おおさきじけん)は、1979年10月、鹿児島県曽於郡大崎町で起こった事件。殺人事件として有罪が確定したが、死亡原因は殺人ではなく、転落による事故であるため殺人罪は冤罪である、との主張がある。1979(昭和54)年10月15日午後2時ごろ(大隅半島の中央に位置する)鹿児島県曽於(そおぐん)郡大崎町井俣の農業・中村邦夫さん(当時42歳。中村家の4男)が、自宅牛小屋の堆肥の中から腐乱死体で発見された。邦夫さんは、3日前の夜泥酔して自宅から約1キロ離れた用水路の中に自転車とともに倒れているところを、通りがかった村人に引き上げられて家まで軽トラックで送り届けられた後、所在不明となり、捜索願が出されていた。警察は、当初から近親者の犯行と見て捜査を開始し、10月18日、同一敷地内に住む長兄(中村家の長男)の中村善三さん(当時52歳。服役後の93年10月に病死)と次兄(中村家の二男)の中村喜作さん(当時50歳。服役後87年4月自殺)を、続いて27日には喜作さんの長男の中村善則さん(邦夫さんのおい。当時25歳。服役後の01年5月自殺)を、さらに30日には善三さんの妻であった原口(当時中村)アヤ子さん(当時52歳。11年9月現在84歳)ら4人を殺人と死体遺棄(善則さんは死体遺棄)で逮捕した。原口さんは一貫して否認したが、他の3名は自白、11月1日に起訴、また原口さんも3名の供述を元に11月20日起訴された。原口さんと他の3人は別々に起訴され(裁判官の構成は同一)、起訴日は違うものの、検察のストーリーは、公訴事実は同一で、原口さんが首謀者となって酒乱の邦夫さん殺害による保険金取得を謀議し、原口さん、夫の善三さん、義弟の喜作さんの3人で、邦夫さんを押えつけたうえ西洋タオルで絞め殺し、原口さんと甥の義則さんで牛小屋堆肥に死体を遺棄したというものであった。原口さんは終始一貫否認したが、80(昭和55)年3月31日鹿児島地裁は双方の事件について、「頸椎(けいつい)前面に出血があることから首に外力が働いた。他殺による窒息死と想像する」とする城哲男鹿児島大医学部教授(当時)の鑑定書と、殺害・死体遺棄を実行したとする共犯者とされた原口さんの夫・善三さんら3人の自白を根拠に、「原口さんと兄2人が殺害。善則さんも死体遺棄に加わった」として、全員に実刑を宣告した。判決は、保険金目あてという裁判中に崩れてしまった動機については検察主張こそ排斥したが、その他は検察主張を認め、主犯格とされた原口さんが懲役10年、夫の善三さんが懲役8年、義弟の喜作さんは懲役7年、甥の善則さんは懲役1年の各実刑を言い渡した。原口さん以外の他の3名は控訴せずに服役。原口さんは控訴・上告して争ったものの、福岡高裁宮崎支部は80年10月14日、最高裁判所は翌81年1月30日、いずれも棄却した。原口さんは、再審をめざして仮出獄を拒否し、90年7月17日の刑期満了まで服役した(善三さんと90年7月23日協議離婚)。原口さんは獄中からも無罪を訴え続け、服役後(出所後)の95(平成3)年4月19日に、また死体遺棄罪で懲役1年の刑を受けた服役後、無実を訴えた善則さんが97年9月19日に、鹿児島地裁にえん罪を訴えて再審開始を求めた(01年5月死亡により母親のチリさん〈01年当時73歳〉=同県志布志町志布志=が再審を継承。02年4月1日チリさん死亡)。 *2-6-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201906/CK2019062702000175.html (東京新聞 2019年6月27日) 大崎事件 再審取り消し 最高裁 鑑定の証明力否定 鹿児島県大崎町で一九七九年に男性の遺体が見つかった「大崎事件」で、殺人罪などで服役した義姉の原口アヤ子さん(92)が裁判のやり直しを求めた第三次再審請求審で、最高裁第一小法廷(小池裕裁判長)は、再審開始を認めた福岡高裁宮崎支部と鹿児島地裁の決定を取り消し、再審請求を棄却する決定をした。再審を認めない判断が確定した。二十五日付。裁判官五人全員一致の意見。一審、二審の再審開始決定を最高裁が覆したのは初めてとみられる。共犯とされた元夫(故人)の再審開始も取り消した。最高裁は、一、二審が重視した弁護側が新証拠として提出した法医学鑑定を検討。鑑定は、確定判決が「窒息死と推定される」とした男性の死因について、「転落事故による出血性ショックの可能性が極めて高い」と指摘していた。最高裁は鑑定について、写真だけでしか遺体の情報を把握できていないことなどを挙げ、「死因または死亡時期の認定に、決定的な証明力を有するとまではいえない」と判断した。有罪の根拠となった「タオルで首を絞めた」などとする元夫ら親族三人の自白については、「三人の知的能力や供述の変遷に問題があることを考慮しても、信用性は強固だといえる」と評価。「法医学鑑定に問題があることを踏まえると、自白に疑義が生じたというには無理がある」とした。最高裁は「鑑定を『無罪を言い渡すべき明らかな証拠』とした高裁支部と地裁の決定を取り消さなければ著しく正義に反する」と結論づけた。弁護団は二十六日、東京都内で記者会見し、「許し難い決定だ」と批判。第四次再審請求を検討するとした。第三次再審請求審では、鹿児島地裁が二〇一七年六月、目撃証言の信用性を否定する心理学者の鑑定や法医学鑑定を基に、再審開始を認めた。一八年三月の福岡高裁宮崎支部決定は、心理鑑定の証拠価値は認めなかったが、「法医学鑑定と整合せず不自然」などとして親族らの自白の信用性を否定し、再審開始決定を維持した。 <司法取引について> *3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190601&ng=DGKKZO45538510R30C19A5CR8000 (日経新聞 2019年6月1日) 司法取引 慎重運用続く、導入1年で起訴わずか2件 社会の理解なお深まらず 日本版「司法取引」が導入されて6月1日で1年となる。複雑な経済事件の解明につながるとの期待を受けてスタートしたが、起訴に至ったことが判明しているのは日産自動車元会長、カルロス・ゴーン被告(65)の事件など2件にとどまる。制度の使われ方に批判や懸念が根強く、慎重な運用が続いている。日本の司法取引は他人の事件の捜査や公判に協力すれば不起訴や軽い求刑を約束する「捜査公判協力型」だ。複雑な資金移動や隠蔽工作のある経済事件などで有効な捜査手法になるとされる。検察幹部は「捜査に時間と労力が必要な事件でも、しっかりとした証拠が一括で得られ、重要人物も確実に聴取できる」とメリットを強調する。ただ、無関係の人を巻き込む恐れがあり、運用には慎重さが求められる。導入後、水面下では「かなりの数の司法取引の申し入れがあった」(検察幹部)。違法薬物や暴力団がからむ事案が多く、情報の信用性などの面から関係者との合意には至らなかったという。現時点で起訴に至った事件は東京地検特捜部が手掛けた2件だけとみられる。ゴーン元会長の事件では側近幹部が取引に応じた。弁護人は「内部紛争の手段として制度が使われた」と批判する。三菱日立パワーシステムズ(MHPS)の海外贈賄事件では合意した法人は不起訴だったが、元幹部3人が在宅起訴に。「会社が社員を差し出した」との違和感を指摘する意見もあった。企業や弁護士らにも戸惑いが残る。企業法務に強い弁護士は「取引に応じた側が批判されかねない」と懸念し「まだ特殊な事件しか適用例がなく、実際に活用するイメージがつかめない」と困惑する。独占禁止法の課徴金減免(リーニエンシー)制度が2006年に導入された際も「仲間を売る制度は日本になじまない」と指摘されたが、17年度は103件の申請があるなど定着した。日本経済新聞社の18年「企業法務・弁護士調査」では弁護士の82%が司法取引を活用すべきだと回答し、企業も計44%が活用を検討している。稲田伸夫検事総長は検察幹部が集まる会合で「(司法取引の)有用性は明らかだ」と強調し、「国民の信頼を得ながら定着させる必要がある」と述べた。適用例が蓄積され、利点が明確になれば、活用される可能性もある。 *3-2-1:https://digital.asahi.com/articles/ASM6S3DQQM6SUTIL00D.html?iref=comtop_list_nat_n05 (朝日新聞 2019年6月24日) ゴーン前会長、公判前整理手続きに出席 ケリー氏も 日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告(65)の裁判で、争点や証拠を絞り込む公判前整理手続きが24日、東京地裁(下津健司裁判長)であり、保釈中のゴーン前会長と前代表取締役グレッグ・ケリー被告(62)が出席した。ケリー前代表取締役が公の場に姿を現すのは昨年12月の保釈後、初めて。午前10時過ぎ、雨が降る中、傘を差したゴーン前会長は黒いスーツに身を包み、弁護士らと地裁に入った。ケリー前代表取締役もスーツ姿で、15分ほど後に入った。ゴーン前会長は金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)と会社法違反(特別背任)の罪で起訴されている。特別背任事件の公判前整理手続きは2回目で、虚偽記載事件では初めてとなる。虚偽記載罪だけで起訴されているケリー前代表取締役に加え、法人としての日産も弁護人が出席した。手続きは非公開。関係者によると、ゴーン前会長の弁護側は、検察側に対して、証拠を早期に開示するよう求めたり、日産の西川広人社長が虚偽記載事件で不起訴処分になった理由の説明などを求めたりした。 *3-2-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14074683.html (朝日新聞 2019年6月29日) 「ゴーン前会長が会見」…撤回 日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告(65)が28日、日本外国特派員協会で同日夜に記者会見を開く意向をいったん示しながら、数時間後に撤回した。会見を主催する同協会に、弁護団から「家族や広報担当者から反対があった」と連絡があったという。同協会によると、この日正午ごろ、会見を開きたいというゴーン前会長の意向が弁護団から伝えられた。午後9時に会見が設定されたが、午後3時半に弁護団から家族らの反対があると連絡があり、午後5時過ぎに中止が決まったという。同協会は「遺憾に思う。一連の経緯に対する失望を弁護団に伝えた」とホームページ上でコメントした。弁護団によると、ゴーン前会長は保釈条件で妻キャロルさんとの接触を禁止されていることに強い不満を持っているという。 <共謀罪について> *4-1:https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2017/170331.html いわゆる共謀罪の創設を含む組織的犯罪処罰法改正案の国会上程に対する会長声明 (2017年3月31日 日本弁護士連合会会長 中本和洋) 政府は、本年3月21日、いわゆる共謀罪の創設を含む組織的犯罪処罰法改正案(以下「本法案」という。)を閣議決定し、国会に本法案を上程した。当連合会は、本年2月17日付けで「いわゆる共謀罪を創設する法案を国会に上程することに反対する意見書」(以下「日弁連意見書」という。)を公表した。そこでは、いわゆる共謀罪法案は、現行刑法の体系を根底から変容させるものであること、犯罪を共同して実行しようとする意思を処罰の対象とする基本的性格はこの法案においても変わらず維持されていること、テロ対策のための国内法上の手当はなされており、共謀罪法案を創設することなく国連越境組織犯罪防止条約について一部留保して締結することは可能であること、仮にテロ対策等のための立法が十分でないとすれば個別立法で対応すべきことなどを指摘した。本法案は、日弁連意見書が検討の対象とした法案に比べて、①犯罪主体について、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団と規定している点、②準備行為は計画に「基づき」行われる必要があることを明記し、対象犯罪の実行に向けた準備行為が必要とされている点、③対象となる犯罪が長期4年以上の刑を定める676の犯罪から、組織的犯罪集団が関与することが現実的に想定される277の犯罪にまで減じられている点が異なっている。しかしながら、①テロリズム集団は組織的犯罪集団の例示として掲げられているに過ぎず、この例示が記載されたからといって、犯罪主体がテロ組織、暴力団等に限定されることになるものではないこと、②準備行為について、計画に基づき行われるものに限定したとしても、準備行為自体は法益侵害への危険性を帯びる必要がないことに変わりなく、犯罪の成立を限定する機能を果たさないこと、③対象となる犯罪が277に減じられたとしても、組織犯罪やテロ犯罪と無縁の犯罪が依然として対象とされていることから、上記3点を勘案したとしても、日弁連意見書で指摘した問題点が解消されたとは言えない。当連合会は、監視社会化を招き、市民の人権や自由を広く侵害するおそれが強い本法案の制定に強く反対するものであり、全国の弁護士会及び弁護士会連合会とともに、市民に対して本法案の危険性を訴えかけ、本法案が廃案になるように全力で取り組む所存である。 *4-2:https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2017/170615.html (日弁連会長声明 2017年6月15日) いわゆる共謀罪の創設を含む改正組織的犯罪処罰法の成立に関する会長声明 本日、いわゆる共謀罪の創設を含む組織的犯罪処罰法改正案(以下「本法案」という。)について、参議院本会議において、参議院法務委員会の中間報告がなされた上で、同委員会の採決が省略されるという異例な手続により、本会議の採決が行われ、成立した。当連合会は、本法案が、市民の人権や自由を広く侵害するおそれが強いものとして、これまで本法案の制定には一貫して反対してきた。また、本法案に対しては、国連人権理事会特別報告者であるジョセフ・カナタチ氏が懸念を表明する書簡を発出するという経緯も存した。本国会における政府の説明にもかかわらず、例えば、①一般市民が捜査の対象になり得るのではないか、②「組織的犯罪集団」に「一変」したといえる基準が不明確ではないか、③計画段階の犯罪の成否を見極めるために、メールやLINE等を対象とする捜査が必要になり、通信傍受の拡大など監視社会を招来しかねないのではないか、などの様々な懸念は払拭されていないと言わざるを得ない。また、277にも上る対象犯罪の妥当性や更なる見直しの要否についても、十分な審議が行われたとは言い難い。本法案は、我が国の刑事法の体系や基本原則を根本的に変更するという重大な内容であり、また、報道機関の世論調査において、政府の説明が不十分であり、今国会での成立に反対であるとの意見が多数存していた。にもかかわらず、衆議院法務委員会において採決が強行され、また、参議院においては上記のとおり異例な手続を経て、成立に至ったことは極めて遺憾である。当連合会は、本法律が恣意的に運用されることがないように注視し、全国の弁護士会及び弁護士会連合会とともに、今後、成立した法律の廃止に向けた取組を行う所存である。 <特定秘密保護法について> *5:https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2013/131203.html (日本弁護士連合会会長 山岸憲司 2013年12月3日) 特定秘密保護法案について改めて廃案を求める会長声明 特定秘密保護法案に関連して、自由民主党の石破茂幹事長が、自身のブログで、議員会館付近での同法案に反対する宣伝活動に対して、「絶叫戦術はテロ行為とその本質においてあまり変わらない」と述べたことにつき、厳しい批判の声が上がり、その後、記事の撤回と謝罪がなされたことなどが大きく報道された。テロとはまったく異質な市民の表現行為をとらえて、テロと本質が同じであると発言したことについては、当連合会としても、表現の自由を侵害するもので許されないと考える。特定秘密保護法案においては、第12条2項で「テロリズム」の定義が記載されている。これに対しては、「政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要」する行為がそれ自体でテロリズムに該当すると解釈されるのではないかとの疑義が示され、問題であると指摘されている。この点について、政府は、「人を殺傷する」などの活動に至る目的としての規定であるとし、石破幹事長も説明を修正したが、政権与党の幹事長が、上記のような発言をしたことは、その後発言が修正されたとはいえ、市民の表現行為が強要と評価され、直ちにテロリズムに該当すると解釈されることもありうるという危険性を如実に示したものということができる。特定秘密保護法案については、その危険性を懸念する声が日に日に増しており、マスコミ各社の世論調査などによってもそのことが明らかとなっている。それにもかかわらず、衆議院では法案の採決が強行され、その拙速な審議が強く批判されている。このような状況において、やむにやまれず法案への反対を訴える市民の行動をとらえて、政権与党の責任者が、市民の宣伝活動について、テロ行為と本質が変わらない、主義主張を強要すればテロとなり得るなどと発言することは、甚だ不適切であり、特定秘密保護法が成立した場合に、表現の自由やその他の基本的人権を侵害するような運用がなされるのではないかとの危惧をますます大きなものにしたといわざるを得ない。このようなテロリズムの解釈の問題については、国会審議でも疑念が指摘されたが、政府は条文の修正をしようとしない。この法案については、秘密の範囲が広範であいまいであり、秘密の指定が恣意的になされかねないこと、それをチェックすべき第三者機関の設置が先送りされたままであること、報道の自由をはじめとする表現の自由に対する萎縮効果があることなどの問題点が指摘されており、これに加えて、テロの定義が広がり、国民の正当な政府批判までが取締りの対象になる危険性が明らかになったのであって、このような問題点が払拭されないまま、この法案を成立させることは許されないというべきである。よって、当連合会は、人権侵害のおそれがより明らかになった特定秘密保護法案について改めて廃案を求める。 <監視社会へ> *6-1:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190530-00064915-gendaibiz-bus_all (Yahoo 2019/5/30) 6月1日施行「改正通信傍受法」で国民の情報はここまで裸にされる ●国民は丸裸に TTドコモなど通信会社と都道府県警本部を回線で結び、被疑者などの電話やメールを専用のパソコンで通信傍受(盗聴)する改正通信傍受法が、6月1日に施行される。これまでとの違いは、捜査員が通信会社に出向き、社員立ち会いのもとで行なっていたリアルタイムの通信傍受を、警察に居ながらにして行えること。しかも、傍受した会話やメールを暗号化して送り、一時保存、後に再生することができる。このため、「使いやすさ」は飛躍的に向上する。改正通信傍受法は、段階を踏んでおり、16年12月の段階で、まず対象犯罪が拡大した。それまで通信傍受が認められていたのは、薬物、銃器、集団密航、組織的殺人の4類型。それに、殺人、傷害、放火、爆発物、窃盗、強盗、詐欺、誘拐、電子計算機使用詐欺・恐喝、児童売春などが追加され、ほとんどの犯罪領域がカバーされることになった。今後、裁判所の令状を取られた被疑者と、会話やメールなど通信の相手先は、警察当局の監視下に置かれる。加えて、ネット化、IT化、キャッシュレス化がもたらす個人情報の共有が、令状を伴う強制か、捜査関係事項照会書による任意かはともかく、警察当局にももたらされ、通信傍受と合わせ、国民は“丸裸”である。我々は、各種サービスを個人情報との引き換えによって得ている。アプリやカードを作成する際に個人情報は必須。買い物や利用の履歴は、ビッグデータとなって蓄積され、企業の製造、雇用、サービスに役立ち、利用者はポイントを溜めて買い物や旅行などで便宜を得る。グーグル、ヤフー、フェイスブックといった巨大プラットフォーマーは、住所年齢、趣味嗜好、行動範囲、友人の傾向などを踏まえ、個人情報どころから、「本人すら気付かない人格と性向」まで把握する。プラットフォーマーは、個人情報を取得するのが目的ではない。本業が広告の彼らは、精度の高いターゲティング広告を得るために個人情報を集め、その反対給付として、メールや会話サービス、天気や位置・地図情報、検索エンジンサービスなどを提供する。買い物やレンタルをするとポイントが溜まるTカード発行のCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)が、警察からの要請を受け、令状なしに顧客情報を渡していたことが、年初、明らかになった。この件が報じられた後、CCCは事実関係を認め、「当初は捜査令状に基づき、個人情報を提供していたが、12年からは警察の捜査関係事項照会書だけでも提出していた」としたうえで、「規約を見直す」としたものの、警察への捜査協力をどう変えるかについては言及しなかった。この問題を機に行なわれたアンケート調査などにより、CCCだけではなく、交通系、ネット通販系、量販店系などアプリやカードを発行する企業や団体が、警察の照会書で情報提供していることが明らかとなった。プラットフォーマーも同じである。ラインは、ホームページ上で「捜査機関への対応」として、どのような要請に対し、どのような対応をしているかを公表している。情報開示は、①捜索差押令状がある場合、②(捜査関係事項照会書のような)法的根拠に基づく捜査協力の要請があった場合、③緊急避難が成立すると判断した場合、に行なうとされ、③は、自殺予告や誘拐等の特殊事情なので、実際は、強制(令状)であれ、任意(照会書)であれ、応ずる可能性が高いということだ。 *6-2:http://qbiz.jp/article/139111/1/ (西日本新聞 2018年8月13日) 地銀64行が資金洗浄防止 情報共有システム構築へ 全国地方銀行協会(地銀協)が、テロリストへの資金供給などに使われるマネーロンダリング(資金洗浄)を防止するため情報共有システムの構築を検討していることが10日、分かった。国際組織の審査を来年に控え、対策が不十分な国とみなされると海外の金融機関と取引がしづらくなる恐れがあり金融庁も対応を求めていた。地銀協は全国64の地方銀行で構成する。全国銀行協会(全銀協)とも連携して対策の強化を急ぐ。地銀協会長の柴戸隆成氏(福岡銀行頭取)が共同通信のインタビューで明らかにした。柴戸氏は「マネロン対策は競争ではない。(銀行同士で)一緒にやっていく余地はある」と強調。「時間は限られている。スピード感をもって対応していく」と地銀協として重点的に取り組む考えを示した。共有システムに登録するデータとしては、怪しい人物の顧客情報や送金先の国・地域、送金事例などが想定される。メガバンクは本人確認の徹底や不正検知システムの導入などにより既にマネロン防止対策を強化しているのに対して、地銀には管理体制が緩い銀行もあり、不正送金などが起きやすいとされる。マネロン対策の国際組織「金融活動作業部会」(FATF)は2014年、日本に対してテロ資金対策の不備に迅速に対応するよう異例の声明を発表した。日本政府は犯罪収益移転防止法を改正するなど対応してきたが、それでも「日本の金融機関の対策は不十分だとみられている」(金融庁幹部)という。このため金融庁は今年に入り、資金洗浄やテロ資金対策を担当する企画室を新設。金融機関に対し、マネロン対策に関する報告を求めるなど監視を強化し、不十分な金融機関には立ち入り検査する方針を示している。 <個人情報の無断使用による人権侵害と所有権の所在> PS(2019年7月2日追加):G20が6月28日に大阪市で開幕し、議長を務める安倍首相が国境を越えた自由なデータ移動を認める「データ流通圏」の構想を提唱して交渉開始を宣言されたそうだが、「データを自由に流通させる」とは日本政府はデータを誰のものと認識しているのだろうか。「デジタルデータなら、本人の許可なく対価も支払わずに勝手に流通させて良い」と考える国は、国民から見て「信頼できる国」ではない。つまり、*7-1の「デジタルを最大限活用する」というのは既に当然のこととして行われているが、それと「デジタルデータなら勝手に流通させて良い」というのは全く異なるのである。そのため、国際的ルールづくりは、個人の権利保護につき、「自由なデータの流通」を「大阪トラック」などと呼ぶのは恥さらしだ。また、貿易についても、「貿易制限的な措置の応酬はどの国の利益にもならない」というのも単純すぎ、自由貿易だけを念仏のように唱えていても解決しないことは日本にも山ほどあるのである。 それに加えて、2018年4月、*7-2のように、政府は主要農作物の種子の生産・普及を都道府県に義務付けた種子法を廃止したが、これは、それまでその地域の気候にあった種子を地域で開発し、ブランド力のある農産物を作ってきた地方に対し、大変な不便を与えている。同時に、その価値もわからずに国民の財産である種子という知的所有権を投げ捨てたことになる。さらに、その種子法廃止の目的を、「農業の競争力向上のため、民間技術も取り入れて新品種の開発力を強める意図があった」としているが、技術や競争力のある民間の種子なら種子法を廃止しなくても勝ち残るし、条例で従来の生産体制が維持・強化されると参入が難しいような民間の種子ならいらないのである。にもかかわらず、このようなことをするのは、知的所有権という種子の本質を理解しておらず、国民の財産を大切にせず、農業を粗末にしているということだ。 そして、このように国民の財産をドブに捨てるようなことはせず、国有林のストックや海底資源を活用すれば、消費税を廃止しても十分な年金の支払いや社会保障を行うことができるため、「社会保障は消費税増税がなければ無理」と考えることこそ愚かな思考停止である。 2019.1.19読売新聞 種子法廃止の悪影響 2019.7.2日経新聞 種子条例を定めた自治体 (図の説明:左図のように、日本は個人情報の流通には原則として本人の同意が必要としているが、産業データに入れれば自由に流通できるため、欧州のようにプラーバシー保護を前面に出すべきだ。また、中央の図の種子法廃止は、利益追及目的で行動する民間企業はやらないことも多いのでよくない。従って、農業を大切にする地方自治体が種子条例を制定したのはよいと思う) *7-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO46687400Y9A620C1MM0000/ (日経新聞 2019/6/28) 首相、「データ流通圏」交渉開始を宣言 G20サミット、貿易、緊張緩和めざす 20カ国・地域首脳会議(G20サミット)が28日、大阪市で開幕した。議長を務める安倍晋三首相は国境を越えた自由なデータ移動を認める「データ流通圏」の構想を提唱し、交渉開始を宣言した。拡大するデータを使ったビジネスに対応したルールづくりを世界貿易機関(WTO)の枠組みで進める方針を打ち出した。G20サミットは28、29両日の日程で開かれる。初日のデジタル分野での特別会合で首相は「デジタル化は経済成長を後押しし、国際社会の課題を解決する可能性を有している。最大限活用するには国際的なルールづくりが不可欠だ」と強調。信頼できる国・地域間で自由にデータが流通し、技術革新につなげられる国際的な枠組みやルールの必要性を訴えた。その上で「2020年6月のWTO閣僚会議までに実質的な進捗を達成しよう」と述べ、ルールづくりの交渉枠組みを「大阪トラック」と呼んで本格的な交渉開始を宣言した。世界経済や貿易分野での28日の討議では、足元の経済・貿易の現状を分析する。首相は「貿易制限的な措置の応酬はどの国の利益にもならない。現下の状況に深く憂慮している」と表明した。米中対立などで深刻化する貿易摩擦に対し、協調して対処する方針を示したい考えだ。機能不全が指摘されるWTOの改革で一致し、貿易問題を多国間で解決していく姿勢を示すことをめざす。G20サミットは2008年11月、リーマン・ショックに対処するための会議として発足した経緯がある。29日の閉幕時の首脳宣言で、各分野で実効性の高い協調策を世界に向けて発信できるかが焦点だ。 *7-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190702&ng=DGKKZO46834490S9A700C1MM0000 (日経新聞 2019年7月2日) 種子の保護、条例で復活 民間参入促進へ法廃止も… 、価格高騰や供給不安 自治体、農家に配慮 全国の自治体で種子条例を制定する動きが広がっている。国はコメなど主要農作物の種子の生産・普及を都道府県に義務付けた種子法を2018年4月に廃止したが、県などが引き続き責任を負う姿勢を示す。種子の供給不安や価格高騰を懸念する農業者らに配慮した形だが、同法廃止が狙う品種開発などへの民間参入が、条例により阻まれる可能性もある。富山県は1月、「主要農作物種子生産条例」を施行した。種子の作付面積の配分など計画の策定や圃場の指定などを県が受け継ぐことを示した。同県はコメの種もみ出荷量が全国首位で43都府県に供給する。「農家などに安心して種もみの生産を続けてもらうため、条例が必要だと判断した」(農産食品課)。供給力の強化へ3月には富山市内の県農業研究所に生産施設を立ち上げた。隔離した圃場で種子のもとになる原種を生産し、病害虫がつかないよう管理を徹底する。北海道も4月、同様の条例を施行した。道内に適した優良品種を道が認定し、種子の安定供給につなげる。種子法の対象だったコメや麦類、大豆に、特産の小豆とエンドウ、インゲン、ソバを独自に加えた。北国のため育ちやすい品種が他地域と異なり、輪作で複数の農作物を育てる農家が多いことに配慮した。これまでに9道県が種子条例を施行した。種子法の下では、各都道府県の農業試験場などが優良な品種の種子を開発し、その原種を指定された生産者が増やして農家に供給してきた。同法廃止後も多くの自治体が要綱などで供給を支える方針を示すが、行政の関与が薄れるなどの懸念から生産者団体などが条例化を求める動きを強めた。長野県は種子条例案を県議会の6月定例会に提案した。主要農作物の種子を県が安定供給するほか、新たに生産が盛んなソバや県が認定する「信州の伝統野菜」を対象とする。生産者の確保や技術承継などへの支援も盛り込み、20年4月ごろに施行を目指す。鳥取県も6月の県議会で主要農作物に関する種子条例を採択し、7月に施行予定。宮城県は6月に条例案を示し、意見を募集している。ただ、種子法廃止は農業の競争力向上へ、民間技術も取り入れて新品種の開発力を強める意図があった。都道府県によるコメの奨励品種で民間企業が開発したものはないという。条例で従来の生産体制が維持・強化されると、民間参入が難しい状況が続きかねない。 <政治と外交> PS(2019年7月4日追加):*8-1のように、徳川家康に似た顔の徳川宗家19代目徳川家広氏(54)が、立憲民主党から家康ゆかりの静岡選挙区で立候補され、「天下泰平」と書かれた葵紋ののぼりを掲げて、脱原発や憲法改正反対を訴え、家康の銅像前で演説されたそうだ。筋金入りで好感が持てるが、「静岡県民として落とすわけにはいかない」と地元議員や元首長らの勝手連が立ち上がり、幕臣の子孫の一部も支援しているそうだ。 日本は、*8-2のように、IWCを脱退して31年ぶりに商業捕鯨に踏み出し、関係者は「日本の鯨食文化を守る」と捕鯨に熱心だが、国際社会が日本の外交に疑問符を加えるのは間違いなく、日本人から見ても野生動物保護の意識が低い。さらに、食糧難で蛋白質不足の時代とは異なり、現在の食卓は鯨より美味しい肉類はじめ蛋白質が豊富で、鯨肉を食べたことのない人も増え、捕鯨が切望されていたわけではないため、財源を使って外国からの印象を悪くし、他の外交に不利益を蒙りながら、何のために捕鯨業の発展に努めているのかわからない。 また、*8-3のように、G20大阪サミットが開かれ、①海洋プラスチックごみは2050年までに流出をゼロにする目標導入 ②各国が自主的に削減に取り組んで報告し合う国際枠組み新設 などが決まり、首相は「③日本の知見を生かして途上国の適切な廃棄物の管理などに貢献する」と述べられたそうだ。しかし、環境への流出をゼロにすればよいため、i)公共の場所にゴミ箱を多く設けて捨てやすくし ii)なるべくリサイクルし iii)リサイクルしやすいプラスチックを作って使い iv)リサイクルできないものは必ず焼却する などを徹底すればよく、木や竹などの植物が多い日本はプラスチックの代替として紙を使うのもよいが、ヒステリックにプラスチック製のストローやレジ袋を排除して、その生産者・消費者を困らせる必要はないだろう。 (図の説明:プラスチック製容器は食品を入れるために使い捨てとして使われることが多く、1番左や左から2番目の図のように、異なる材質の安っぽい模様のついたプラスチックの底をつけて品を落とした上、分別・リサイクルをやりにくくしている。そのため、私は、右から2番目の図のような透明な容器をペットボトルと同じ素材で作り、底はクマザサや植物由来の抗菌剤を含む紙を敷いた方が、品がよい上、プラスチック部分はすべて簡単に分別・リサイクルできるのにと前から思っていた。しかし、1番右の図のように、使用後の漁網を海中に捨て、それに生物がかかって気の毒なことになっているため、ゴミを水中に捨てるのはやめなければならない) *8-1:https://www.hokkaido-np.co.jp/article/321973?rct=n_politics (北海道新聞 2019年7月4日) 立民で初陣、徳川宗家19代目 家康ゆかりの静岡 徳川宗家19代目で評論家の徳川家広氏(54)は、静岡選挙区(改選数2)で立憲民主党として初の議席獲得を目指す。江戸幕府初代将軍の徳川家康が晩年を過ごした駿府城跡の公園で「江戸の平和が生まれた場所だ。私たちの知る平和は全てここ静岡から始まった。この平和を壊してはならない」と第一声を上げた。徳川氏は「天下泰平」と書かれた葵の紋入りののぼりを掲げ、家康の銅像前で演説。「国民のほとんどが経済をどうにかしてと言っているときに安倍(晋三)さんは改憲が争点だと言っている。だから私は受けて立ちます」と力を込め、応援に駆け付けた蓮舫参院幹事長らと気勢を上げた。6月の記者会見では「今の世相が戦時中の末期に近づいていると感じる。よく分からない理由のために人がどんどん使いつぶされていく」と危機感をあらわにした。「本来、言われてしかるべきことが言われていない」と、脱原発や憲法改正反対を訴える。東京生まれだが、家康を祭る久能山東照宮(静岡市)の行事に参加するなど静岡との縁は深く「魂が根を張っている」。出馬表明以降、「静岡県民として落とすわけにはいかない」と、地元議員や元首長らの勝手連が立ち上がり、一部の幕臣の子孫も支援の動きを見せている。 *8-2:https://digital.asahi.com/articles/ASM71532MM71ULFA027.html (朝日新聞 2019年7月2日) 商業捕鯨、不安乗せた船出 肝心の食卓ニーズは尻すぼみ 日本が国際捕鯨委員会(IWC)を脱退し、31年ぶりの商業捕鯨に踏み出した。「日本の鯨食の文化を守る」と関係者は意気込むが、国際社会は反発し、外交上のリスクも抱える。肝心の鯨肉の需要も尻すぼみで、「商業」の名を借りた国の補助金頼みの「官製捕鯨」になりかねない。1日午後5時ごろ、北海道・釧路港に、捕鯨船からクレーンでつり上げられたミンククジラ2頭が初水揚げされた。1頭は体長約8・3メートルで、体重約5・6トン。日本小型捕鯨協会の貝良文会長によると、「ミンククジラとしては最大級」という。「今日は最高な一日だった。31年間辛抱したかいがあった。皆さんにおいしいクジラを召し上がっていただきたい」と話した。この後、クジラは約15キロ離れた加工場に運ばれた。清酒を振りかけて清める「初漁式」や計測などを済ませ、解体処理が始まった。早ければ4日にも店頭に並ぶという。 ●「捕鯨業の発展に努めていく」 沖合操業の基地・山口県下関市。1日朝、約200人が集まった出港式で、3隻の捕鯨船団の総括責任者、恒川雅臣さんは決意を語った。下関は江戸時代からクジラの流通拠点で、戦後の食糧難の時代は関連の加工業や飲食店で街はにぎわった。だが現在は活気が失われ、商業捕鯨再開への期待も強い。出港式では前田晋太郎・下関市長が、「安定的な陸揚げや新たな産業振興、観光振興、さらなる経済の活性化を図るための取り組みを推進する」と述べた。商業捕鯨の再開は、業界にとって「30年来の悲願」(前田晋太郎・山口県下関市長)だ。昨年末に政府が再開方針を決めると「早く捕獲枠を公表して欲しい」との要望がわき起こっていた。だが、捕獲枠が業者に通知されたのは出港直前の1日午前8時。水産庁は「100万通り以上の試算が必要で時間がかかった」とする。だが、2週間前には捕獲枠は固まり、首相官邸に報告していた。6月28~29日に主要20カ国・地域(G20)首脳会議が大阪市であり、英豪など反捕鯨国トップが出席。この場で反発が起きないよう公表を先送りしたのだ。国際社会の反応を気にかけながらの再開となったが、反捕鯨団体などからは批判の声が相次いだ。南極海での日本の調査捕鯨への妨害を繰り返してきた反捕鯨団体シー・シェパード豪州支部のジェフ・ハンセン代表は1日、「クジラやイルカの殺害に対する闘いに今後も焦点を当てる」との声明を出した。IWCの本部がある英国では6月29日、ロンドン中心部で動物保護団体「ボーン・フリー財団」の関係者らが企画した抗議デモがあり、「捕鯨をやめよ。さもなくば(東京)五輪をボイコットする」などと訴えて練り歩いた。英紙タイムズは29日付で「恥ずべき瞬間」と題した社説を掲載した。 ●国際社会でのリスク 国際社会の反発に加え、商業捕鯨を続けるには「二つの外交リスク」も潜む。一つが、日本も批准する国連海洋法条約だ。クジラの管理は「適当な国際機関を通じて活動する」ことを定めている。日本はIWCから脱退したが、オブザーバーとして参加は続けるため、「条約の要件は満たせる」(外務省)とする。だが、捕鯨をめぐる国際政治を研究する早稲田大学地域・地域間研究機構の真田康弘・研究院客員准教授は、「条約違反で訴える国が出てくれば、敗訴する可能性が高い」と指摘する。日本はオブザーバー参加で捕鯨をしている国の例としてカナダをあげるが、カナダは先住民が年数頭を捕獲するだけだ。年383頭も捕獲する日本が「カナダと同じ状況だと主張するには無理がある」(真田氏)。もう一つがワシントン条約の精神に反するとの批判だ。今回商業捕鯨で捕獲するミンク、イワシ、ニタリの3種類のクジラはいずれも、同条約で「絶滅の恐れがある」として、国際的な売買を禁ずるリスト「付属書1」に記載されている。日本はミンク、ニタリについては非締結国扱いとなる「留保」をしているが、北太平洋のイワシは留保をしていない。同条約の常設委員会は昨年、日本の北西太平洋でのイワシクジラの調査捕鯨を「条約違反」と認定し、日本に是正を勧告したばかりだ。外務省の担当者は「ワシントン条約は公海が対象で、排他的経済水域(EEZ)内は規制の対象外」と説明するが、国際法上、日本自体が「絶滅の恐れがある」と認めた鯨種を捕獲するという矛盾は否めない。1日に公表した捕獲枠で、水産庁はイワシを年25頭にした。調査捕鯨だった昨年(134頭)から大幅に縮小した。「ワシントン条約違反への回答で、『公海ではとらない』と宣言した点も考慮した」という。二つのリスクを国際社会で厳しく責められれば、せっかく再開した商業捕鯨が頓挫しかねない。 ●鯨食文化も存亡の危機 調査捕鯨では、捕獲後に胃の内容物など約60項目の調査が必要で、その間に鮮度が下がった。捕獲するクジラも乱数表に従って群れの中から機械的に選んでいたが、商業捕鯨では枠内でおいしそうなクジラを選んでとれる。だが、日本捕鯨協会の山村和夫会長は「期待と言うよりもむしろ不安でいっぱいだ」と話す。鯨肉では、えさのオキアミが豊富な南極海でとれるミンククジラが最も高級品とされている。だが、商業捕鯨の海域は日本のEEZ内だけになり、南極海からは撤退する。国が認めた捕獲頭数は、調査捕鯨だった昨年より4割も少ない。しかも、EEZ内での捕鯨は手探りで、漁場探しから始めなければならないのが実態だ。ある水産庁OBは「枠はあっても実際には捕獲できず、とれる鯨肉は昨年の半分ぐらいにまで減るのではないか」と心配する。捕鯨推進派が掲げる鯨食文化も存亡の危機だ。鯨肉の販売関係者は「かつて調査捕鯨の鯨肉は飛ぶように売れたが、00年代半ばからは、在庫処分に苦労するようになった」と明かす。終戦直後は半分近くあった国民が食べる肉全体に占める鯨肉の割合は、今では0・1%以下。鯨肉を日常的に食べた経験がある60歳以上の世代はこれからどんどん人数が減っていく。5月には、創業から半世紀の大阪市の老舗鯨料理店「徳家(とくや)」が閉店した。国際社会の反発を恐れ、海外で事業を展開する大手スーパーでは鯨肉の販売を「自粛」する動きが続く。イオンは鯨肉販売は捕鯨拠点などがある一部の店舗に限定しているが、「販売店舗の拡大予定はない」。15年ほど前に販売をやめたイトーヨーカ堂も「再開の予定はない」という。今年度の国の捕鯨予算は昨年度と同じ51億円。調査捕鯨をやめる一方で、新たに捕鯨業者に配る補助金をつくった。捕鯨基地がある山口県下関市は安倍晋三首相の地盤で、和歌山県太地町は二階俊博自民党幹事長の選挙区。捕鯨業界の政治力は強い。水産庁幹部は「補助金を未来永劫(えいごう)続けるつもりはないが、打ち切る時期はわからない」とする。 *8-3:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO46756940Z20C19A6MM0000/ (日経新聞 2019/6/29) 海洋プラごみ「2050年ゼロ」 G20首脳が合意 20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)は最終日の29日、国際的に問題となっている海洋プラスチックごみ(廃プラ)は、2050年までにゼロにする目標を導入することで一致した。閉幕後の議長会見で安倍晋三首相が明らかにした。首相はこうした「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」をG20でリードしつつ、他の国にも賛同を呼びかけていく考えを示した。首相は「日本の知見を生かして、途上国の適切な廃棄物の管理などに貢献していく」と述べた。廃プラは毎年少なくとも900万トン近くが海に流出しており、海洋生物や地球環境への深刻な影響が懸念される。6月中旬に長野県軽井沢町で開かれたG20エネルギー・環境相会合では、各国が自主的に削減に取り組み、報告し合う国際枠組みを新設することで合意したが、数値目標はなく、実効性の担保が課題だった。首脳宣言では50年までに流出をゼロにする目標を盛り込むことが固まった。欧州連合(EU)など一部の加盟国・地域からは、より早期の達成を目指す声もあったが、国際的に初の数値目標の導入を優先した。 <偏見・差別による人権侵害> PS(2019年7月9、15日追加):日本には、「①成功した人は、悪事を働いたに違いない」「②自分が普通(=“模範”と混同している)なので、それと異なる人は悪い人である」というような変な普通至上主義(農耕由来か?)があり、ゴーン氏は、①②の価値観により、築きあげてきたすべての名誉を無にされようとしている点で著しい人権侵害を受けている。 また、*9-1の見出しは、「③素顔のビシャラ ゴーン氏、本名の秘密 祖国ブラジル『彼はビシャラだ』」と書かれており、ゴーン氏はビシャラという名前を都合が悪いから隠していたかのような印象を与え、アクリル板越しに姿を見せたり、何でも私物化したりしたのが素顔だとしている点で、中東出身の人に対する差別である。さらに、④南米大陸初の五輪が開幕したリオデジャネイロのアトランチカ通りで半袖・短パン姿で聖火ランナーとしてゴーン氏が走り、ゴーン氏を先導した日産車が世界中に『NISSAN』のロゴを見せつけ、⑤日産がリオ五輪のスポンサーとして数百億円支出し、⑥時期を同じくしてマンションの一室を購入したこと、⑦リオから内陸に約160キロ入ったレセンデという都市に新工場を作ったことなどを私物化と決めつけているが、④⑤は、通常の広告宣伝費を支出するよりもずっと効果的に排気ガスの出ないEVを世界にアピールすることができ、⑥は全体から見ればおまけのようなものである。さらに、⑦は土地価格や人件費が安かったり、税優遇してもらったりなどの理由があると思われ、これらを批判することしか考え付かないのは“普通”の日本人のワンパターンの思考であり欠点だ。 なお、*9-2のように、フェニキア人は海上交易で活躍し、交易のためにさまざまな地域に移動し、いくつもの植民市を建設し、アルファベットを作った『ヨーロッパ文明の父』」だそうだが、このように新しい市場やビジネスを開拓するのに身内・出身校・同僚・祖国などのすべてをネットワークとして活用するのは自然であり、むしろ組織の決まった手続きに従って二番煎じの仕事をしているだけでは下層サラリーマンしか勤まらないだろう。 一方、私は、*9-3の三菱重工のMRJを全く評価できないが、その理由は、①三菱自動車は既に燃料電池を完成させており ②世界は脱石油の方向で ③約半世紀ぶりに日本企業が開発する旅客機であるため、ジェットエンジンを使わなければならない理由はないのにジェットエンジンを使い ④顧客への納入延期を繰り返す というダサさだ。「それなら、わざわざ三菱重工の航空機を買う必要はない」というのが需要家の見方であり、ボンバルディアの保守網と顧客基盤を手に入れるためにボンバルディアを買収しても、シナジー効果を出して両社にメリットがなければボンバルディア側の人を満足させることはできず、シナジー効果を出すためには世界初の燃料電池or電動航空機を市場投入するのがBestだろう。 ハフィントンポスト 2019.4.9東京新聞 石垣島の電動船のデザインに 採用されたシャチョウ号 2018.12.2東京新聞 Goo 2018.8.15JBpress(*9-2より) (図の説明:上段の中央の図のように、妻の会社でシャチョウ号を所有したことを特別背任だとしているが、その動機は会社の私物化とは限らない。それよりも、上段の右図のシャチョウ号のデザインは石垣島の電動船のモデルになっており、世界に通用する素敵な電動船を作るために、安く買えるチャンスに社長決裁で素早く手に入れたのかもしれない。そして、下段の左や中央の図の会社の私物化や特別背任とされている件も、何とか有罪にしようと違法でない事案にまで検察が手を出しているのはよくない。さらに、下段の右図のように、ゴーン氏の出自であるフェニキア人は、船など移動手段のエキスパートであり、グローバルな人材でもあるため、ゴーン氏を働けなくしたことは、ライバルにとっては朗報だが日産にとっては大きな損失だったと思う) *9-1:https://www.asahi.com/special/matome/ghosn-identity/?iref=kijiue_bnr (朝日新聞 2019年7月9日) ゴーンショック 素顔のビシャラ ゴーン氏、本名の秘密 祖国ブラジル「彼はビシャラだ」 アクリル板越しに姿を見せた日産自動車前会長のカルロス・ゴーンは黒いジャージーの上下を着ていた。2月19日、東京・小菅の東京拘置所。会社法違反(特別背任)などの罪で起訴された後も勾留が続いていたゴーンを励まそうと、フランスから来日した40年来の旧友のフィリップが面会に訪れた。仏タイヤ大手ミシュランに同期入社した間柄。ともに24歳だった。週末はカードゲームに興じ、パーティーで夜を明かした。その後も家族ぐるみの付き合いを続けてきた。高級スーツに身を包み、世界を飛び回っていたゴーンの様変わりした姿に、フィリップは「歯がゆく、悲しくなった」という。昨年11月。電撃的に逮捕される10日前、ゴーンはフィリップに近況を尋ねる電話をかけてきた。フィリップがミシュランを退職したことに話が及ぶと、ゴーンはふと「私も次の仕事を探している」と漏らした。そのやりとりを覚えていたのだろう。心配そうに現れた旧友の姿を見るなり、ゴーンはこんなジョークを飛ばした。「ここがキミの次の職場かい?」。拘置所の職員2人が立ち会い、許されるのは英語の会話のみ。ゴーンは特異な状況に驚く友人をリラックスさせようとしたのかもしれない。フィリップは「カルロスは自分自身をコントロールできている」と感じた。フィリップは、マイクル・コナリーやシュテファン・ツヴァイクの小説など20冊余りの本を差し入れ、フランスの約20人の友人から託されたメッセージを一つひとつ読み上げた。「(逮捕された)11月19日から私たちはあなたとともにいる」「あなたのもとで働き多くを学んだ」「あなたなら自らの無実を証明できると思っている」……。ゴーンは「ベリー、ベリー、ナイス」と相好を崩した。ゴーンが日産社内で独裁体制を敷き、会社を「私物化」するような数々の疑惑が報じられたが、フィリップは「独裁者」のように日産に君臨したゴーンの姿がどうしても想像できない。「カルロスは部下に自由にやらせる。部下はみな、彼をがっかりさせたくないと思う。一緒に仕事もしたが、彼が部下を罵倒した場面を見たことがないんだ」。フィリップは、逮捕直前に「次の仕事を探している」と漏らしたゴーンに思いを巡らせる。「カルロスは日産を早く去った方が幸せだった。信じていたのに裏切られたのだから」。そして、この先のゴーンをこう想像する。「カルロスは生粋のフランス人ではない。どんなネットワークにも属さず、様々な場所に住むのだろう。彼は自分がやりたいことのために他人の助けを必要としないんだ」 ●異国で商機つかんだ祖父 大西洋に面するブラジルの古都サルバドールから約150キロ南に位置する小さな街、イトゥベラ。中心部から数キロ南に、仏タイヤ大手ミシュランが長年運営にかかわってきたゴム農園がある。9千ヘクタールの広大な敷地を覆うように膨大なゴムの木が林立し、樹液が集められる一画には発酵の際に放たれる強烈な異臭が立ち込める。日産自動車前会長のカルロス・ゴーンは1978年にミシュランに入社し、85年に南米事業を統括する経営トップとしてブラジルに赴任した。30歳だった。このゴム農園を何度か訪れている。「カルロス・ゴーン? そんなヤツは知らない」。ここで40年以上働くアンドレ(60)は、記者の取材にけげんな表情を浮かべた。ゴーンの写真が載った当時のミシュランの社内報を見せると「この人、知ってる! 名前は何だ?」。「カルロス・ゴーン・ビシャラ」とフルネームで伝えると、彼は叫んだ。「そうだ。この人はビシャラだ! 俺たちはビシャラって呼んでたんだ!」。ゴーンの祖父ビシャラ・ゴーンは中東レバノンで生まれ、1900年代初頭にブラジルに移住した。レバノンは当時、スエズ運河開通に伴う不況にあえいでいた。中国産品が欧州に流入するようになり、レバノンから欧州への輸出が減少。経済的に追い込まれたレバノン人は世界各地に移住した。レバノンからの移民の多くは商業で身を立てた。ノートルダム大学(レバノン)のレバノン移民研究所のギータ・ホウラーニー所長は「レバノン人は交易国家として栄えた古代フェニキア以来、商人としての伝統を受け継いできた」と話す。ブラジルには現在、レバノン系ブラジル人が数百万人住み、政治・経済の分野で重要なポストを占めているとされる。ミシェル・テメル前大統領もレバノン系の移民2世だ。13歳でブラジルに渡った祖父ビシャラも、国外に仕事を求め、商業で身を立てた一人だった。アマゾン川最大の支流の一つ、マデイラ川に面するブラジル西部の街ポルトベーリョに定住した。いまは物流の拠点だが、当時は熱病を媒介する蚊が飛び交う未開の地。ボリビアで採れるゴムの集積地として発展し始めたころだった。ゴムを運ぶ鉄道が開通し、ビシャラは「商機」を見いだした。砂糖や塩などの生活物資を列車で運んでボリビアで売り、帰りの列車に沿線の農地で仕入れた果物や野菜を載せてポルトベーリョで売る。自分の店を持つほどの成功をつかみ、家族をもうけた。ゴーンはこの街で54年に生まれ、祖父の名を受け継いだ。ビシャラが21年に建てた青色のビルが市場の真向かいの一等地に残る。ビルの所有権は人手に渡ったが、隣の区画の土地と商店が入る低層の建物群は今もビシャラ家が所有する。管理するのはゴーンのいとこのゼッカ・ビシャラ(55)。ゴーンを彷彿(ほうふつ)させる太い眉毛が印象的だが、ゴーンに会ったことは一度もないという。生まれ故郷を離れたゴーンがポルトベーリョを訪ねたことがあるかも知らないが、こう口にした。「世界でも有名な経営者になったゴーンは、ビシャラ家の誇りだ。この先どんなことがあっても、リスペクトし続ける」。ゴーンの逮捕はブラジルでも大きく報道されたが、ゴーンがポルトベーリョ出身であることは地元でもほとんど知られていない。「私たちはこの街で『ビシャラ家』として知られている。ゴーンという名前は通じない」とゼッカは話す。 ●「私物化」の疑い、祖国にも 2016年8月11日。妻の誕生日を友人と祝っていたゴーンの旧友フィリップの携帯電話が鳴った。「いま、五輪会場にいる」。ゴーンの声に一同は驚いた。前週の5日。南米大陸初の五輪が開幕したブラジル第2の都市リオデジャネイロのアトランチカ通りに、半袖に短パン姿で聖火ランナーとして走るゴーンの姿があった。ゴーンを先導したのは日産車。日産はリオ五輪の期間中にSUV(スポーツ用多目的車)「キックス」など4200台の日産車を提供し、世界中に「NISSAN」のロゴを見せつけた。日産はリオ五輪の期間中にスポンサーとして数百億円を支出したとされる。観光名所コパカバーナ海岸の高級ホテルを1棟借り切って「キックスホテル」と名付け、世界中から報道機関の関係者らを招待もした。日産はリオ五輪の開催が決まった2年後の11年10月、ブラジルのリオデジャネイロ州に工場を建設すると発表。その4カ月後、リオ五輪のブラジル国内最大のスポンサーの一つに選ばれた。14年に稼働した新工場はリオから内陸に約160キロ入ったレセンデという都市に立地する。日産と取引する部品メーカーの幹部は「なぜ多くの自動車メーカーが進出するサンパウロでなく、部品調達や人材採用がしにくいレセンデに建てたのか」といぶかる。工場用地を紹介した同州の元知事は、リオ五輪誘致をめぐる汚職疑惑で逮捕された。当時1%ほどだったブラジルの国内シェアを5%に引き上げる目標が掲げられたが、販売は伸び悩んだ。「なぜ、ブラジルなのか」。日産社内にはブラジルでの投資拡大に疑問の声が広がった。ゴーンが祖国愛から決めた投資だと感じる幹部もいた。ゴーンが邸宅として使っていたリオの高級マンションは、ゴーンがトーチを片手に走ったコパカバーナ海岸沿いの通りに面して立つ。マンションの一室が購入された時期は、日産が五輪のスポンサーに決まった時期に重なる。購入と改装にかかった費用約6億2千万円は、日産の海外子会社などを通じて支払われていたとされる。逮捕後に明るみに出た会社の「私物化」の疑いは、祖国ブラジルにも及んでいた。=敬称略 *9-2:https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53774 (JBpress 2018.8.15) フェニキア人が歴史上いかに重要だったか説明しよう 歴史研究に、史料は不可欠です。ですが史料というものは、本質的に勝者による記録です。敗者の記録は、廃棄されてしまうことも多く、そうなると人の目に触れることはありません。したがって、実は史料にあまり信用が置けない場合もあるのです。今回取り上げるフェニキア人は、おそらく一般に知られている以上に歴史上重要な役割を果たした民族です。しかし彼らは、古代ローマとの戦いに負けてしまい、その史料はほとんど燃やされてしまいました。そのため、勝者であるローマの偉大さばかりが強調され過ぎ、フェニキア人の重要性が軽んじられてきました。そこで今回は、フェニキア人が歴史上どれほど重要であったのかを見ていきたいと思います。 ●フェニキア人とはどういう民族だったのか 一般に、「フェニキア人」は、エーゲ文明に属するクレタ文明(前2000〜前1400年頃)とミケーネ文明(前1600〜前1200年頃)が後退した後に、地中海交易で栄えた民とされます。彼らについてはあまり多くのことは分かっていませんが、フェニキア人がセム系の語族に属し、海上交易に従事していた民であったことは確かです。フェニキア人は、ユーフラテス川上流に定住し内陸交易を担ったアラム人とよく対比されます。アラム人がラクダによってシリア砂漠などで隊商を組んで交易をしたのに対し、フェニキア人は海上交易で活躍しました。さらに、アラム人はアラム文字を作り、それがヘブライ文字、アラビア文字、シリア文字、ソグド文字、ウイグル文字の母体となっていきました。それに対してフェニキア人は、まだ象形性が残っていた古代アルファベットを改良し、線状文字にし、今日まで続くアルファベットの元を作ったとされます。ちなみに、フランスの古代エジプト学の研究者・シャンポリオン(1790〜1832年)が、後代にロゼッタ石からエジプトの神聖文字(ヒエログリフ)を解読しましたが、それはエジプトの文字がアルファベットの祖先だからこそ可能になったのです。このように、アムル人やフェニキア人が文字を発明・改良したのは、おそらく交易のためであったと考えられます。交易というのは、単に言葉を交わすだけで完結するわけではありません。使用言語の違うさまざまな民族と意思を通じ合わせなければならなりません。そのために、文字が必要だったのでしょう。フェニキア人が使用していたアルファベットは、現在のように26文字ではなく、27文字から30文字あったそうです。しかも、左から右に書くだけではなく、右から左へ、左から右へ、あるいは上から下に書かれたと言われています。彼らが改良したアルファベットは、ヨーロッパ各地で使用されるようになりました。それは、彼らが交易のためにさまざまな地域に移動する人々であったからでした。言うなれば、フェニキア人は「ヨーロッパ文明の父」なのです。フェニキア人の根拠地は、東地中海南岸、現在のレバノンにありました。彼らはそこで生長していたレバノン杉を使って、地中海の交易活動に進出したのです。レバノン杉は、高さが40メートルほどにまで生育するのですが、現在ではほんのわずかしか残っていません。それは、フェニキア人をはじめとする交易に従事する人たちが船材や建材にするため伐採したからです。耐久性があり香がよいため、高級木材として珍重されたレバノン杉は、神殿の内装材にも使われたようです。ちなみに、現在のレバノンの国旗の中央に描かれている樹木のシルエットもこのレバノン杉。それだけこの地の人々にとって誇るべき存在なのです。さらにフェニキア人の特産品として、赤紫色の染料がありました。この染料で染めた織物も有力な商品だったのです。他にも、高度な技術を身につけた職人多作り出す象牙や貴金属、ガラス細工もありました。地中海世界各地の貴族階級に属する人々にとって、フェニキア人がもたらす品物は垂涎の的だったのです。この強力な“商材”を武器に、フェニキア人は貿易と海運で地中海を席巻しました。地図に、フェニキア人の交易路を示しました。彼らの交易ネットワークは全地中海に及んでいます。古代ローマのそれと比較しても、各段に広いものです。フェニキア人ほど広大な取引網をもつ民族は、この当時のヨーロッパには見当たりませんでした。われわれは、「古代地中海世界はローマ人によって形成された」と思い込みがちです。しかし、古代地中海世界は、むしろフェニキア人によって築かれたと考えるほうが妥当です。彼らは地中海の物流を完全に支配していたのです。フェニキア人は、前12世紀から地中海の物流をほぼ独占するようになり、いくつもの植民市を建設するようになります。その植民市を中継点として、地中海の物流は徐々に統一されていきます。このフェニキア人が開拓した航路は、ずっと後になってローマ人やムスリム商人、イタリア商人、オランダ商人たちも利用することになりますが、当初はフェニキア人だけが知る「秘密のルート」でした。(以下略) *9-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190715&ng=DGKKZO47343840T10C19A7PE8000 (日経新聞社説 2019年7月15日) 航空機の競争力高める買収に 三菱重工業がカナダの航空機・鉄道車両メーカーであるボンバルディアから、小型旅客機の保守・販売サービス事業を買収することで合意した。三菱重工が中心になって開発する国産ジェット旅客機「スペースジェット(旧MRJ)」は、開発作業が遅れ、顧客への納入延期を繰り返している。ボンバルディアの保守網と顧客基盤を手に入れる今回の買収を、国際競争での出遅れを取り戻し、グローバル市場に挑む足掛かりにしていかねばならない。MRJは戦後初の国産旅客機「YS11」以来、約半世紀ぶりに日本企業が開発する旅客機だ。航空機は高い安全性が要求され、使われる部品や部材などの技術は他の分野への波及効果が大きい。スペースジェットは航空機開発の技術と経験を伝承する機会と期待されたが、これまでに合計5回、納入時期を先送りした。当初、2013年を予定した納入は、20年半ばにずれ込んだ。開発は商業運航に必要な安全性の確認検査という最終段階にある。これ以上の遅れを出さないことはもちろんだが、競合相手との競争はこれからが本番だ。来年に迫る納入に備え、販売・保守の体制を整えることが必要だ。頻繁に離着陸を繰り返す小型機は必要に応じて迅速に保守・点検ができる拠点が欠かせない。YS11が苦戦した理由の一つは、全世界をカバーする販売・保守体制が十分でなかったこととされる。三菱重工はボンバルディアが米国とカナダに持つ保守拠点4カ所を手に入れる。小型機事業は今後20年で5千機の需要が見込まれ、北米がその4割を占める。主戦場となる北米で実績のある拠点を手に入れる判断を評価したい。航空機開発は巨額の資金を要し、回収に時間がかかる。開発から販売まで、すべて自前主義にこだわる必要はない。ボンバルディアから引き継ぐ資産を、スペースジェットの競争力向上につなげていくことが重要だ。 <報道による人権侵害とメディアの質> PS(2019年7月10日追加):*10-1のような「『報道の自由』『表現の自由』を取り戻そう」という主張は、マスコミ関係者からよく聞かれる。もちろん、権力のお先棒を担がなければやっていけないようなシステムがあれば、それは変えなければならないが、現在のマスコミは、上記のように、弱者を批判して権力と闘う姿を演出しつつ、本当の権力には無批判なものが多い。中には、偏見・差別を含んで営業妨害・政治活動の妨害、ひいては人権侵害に至るケースもあり、これを「報道の自由」「表現の自由」で正当化するのは憲法違反だ。そのため、報道内容を作る人の質と意識が問われるのだが、これが心もとなく、私は、報道内容については与野党とも事実と深い分析に基づいた「公平中立」を求める申し入れを行ってもおかしくないと思う。国際社会の政治報道は、日本ほど底が浅くてお粗末なものではないのだ。 このような中、*10-2のように、2018年5月に「政治分野の男女共同参画推進法」が成立し、合計104人の女性が立候補し、候補者に占める女性割合が28.1%になったそうだ。私は、ベビーシッターを雇わなければ選挙活動できないような時期に候補者になるのは子どもと有権者の両方に無責任だと思うが、そうでなくても公認されにくかったり、公認されなければ参議院選挙では数千万円かかると言われる選挙資金(https://senkyo-rikkouho.com/rikkouho-hiyou.html 参照)を自前で支払ったりしなければならず、女性候補に対する特有の偏見やハラスメントも多いため、女性候補が当選する確率は低くなると思う。また、お茶の水女子大の申准教授の言われる通り政策議論は重要だが、野党だったり、党議拘束がかかったりすると個人の政策は反映されにくいため、「ねじれはいけない」「(党議拘束をかけて)同じ票を入れなければまとまっていない」と言うなど民主主義国家にあるまじき批評はやめるべきである。 なお、*10-3の若者の政治に関する無関心や過度の政治家不信は、メディアの政治家叩きと政治報道の貧しさが作ったものだ。何故なら、「若者が関心を持たないから、政治が高齢者優先になる」というのは事実に基づかない記述だが、このように一般の人が事実誤認するような報道が多いからである。例えば、幼保無償化や全世代型社会保障は、現在の若者の政治的無関心の下で(私の提案で)できた高齢者優先でない政策であるし、「若者が関心を持つ争点がない」のなら、それはメディアが政策内容をしっかり報道していないからである。もちろん、年金問題も若者にとっても無縁ではないし、高齢者向けの年金・医療・介護政策を充実すれば若者の直接負担が減るため、これを「シルバー民主主義」と呼ぶのは我儘に過ぎる。なお、「政治には特に期待していない。自分たちができることをやり、少しでも社会を変えていけたら」というのは、政治で行った方が大規模に根本的解決ができるため、やはり政治を動かした方がよいわけである。 *10-1:http://www.union-net.or.jp/mic/seimei/2019_07_02-MICseimei.pdf (日本マスコミ文化情報労組会議《新聞労連、民放労連、出版労連、全印総連、映演労連、映演共闘、広告労協、音楽ユニオン、電算労》 2019年7月2日) 国際社会の指摘を受け止め、「報道の自由」を取り戻そう 「言論と表現の自由」に関する国連の特別報告者デービッド・ケイ氏が6月26日、日本のメディアは政府当局者の圧力にさらされ、独立性に懸念が残ることを指摘し、「政府はどんな場合もジャーナリストへの非難をやめるべきだ」と日本政府に改善を求める報告書を国連に提出しました。ケイ氏は2016年に訪日調査を行い、日本の報道が特定秘密保護法などで萎縮している可能性があるとして同法の改正や、放送に対する政治圧力の根拠となり得る放送法4条の廃止などを求めた11項目の勧告を2017年に日本政府に出していますが、未だに9項目が全く履行されていないと批判しています。今回の報告書のなかでは、私たちメディア・文化・情報関連の労働組合で組織する「日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)」が訴えてきた、記者会見における質問制限・妨害問題についても「新聞や雑誌の編集上の圧力」と指摘しています。菅義偉官房長官は「不正確で根拠不明」と反論していますが、私たちは日本政府が、国際社会の指摘を真摯に受け止め、民主主義国家として改善につなげることを強く求めます。現状、日本のメディア環境をめぐっては、国際ジャーナリスト組織、海外世論からも厳しい視線を向けられ、その真価が問われています。民主主義社会を支える動脈である「報道の自由」をこれ以上、侵害させないよう権力に屈することなく抗い、しっかりと取り戻さなければなりません。7月4日には参議院選挙が公示されます。選挙報道をめぐってもこの数年間、政権与党から過剰に「公平中立」を求める申し入れを行い、報道現場が萎縮することが問題になってきました。こうしたことを繰り返していては、メディアの信頼が揺らぐとともに、有権者が社会の現状を正確に把握したうえで投票行動を行うことが難しくなってしまいます。私たちはそれぞれの現場において、人々の知る権利のために「報道の自由」「表現の自由」を担う職責を全うし、国際的にも信頼されるメディア環境を日本で築いていくことを再確認します。そのためにも私たちは政府に対して、国際社会の指摘を謙虚に受け止め、改善をすることを求めます。 *10-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190710&ng=DGKKZO47090890Y9A700C1CR8000 (日経新聞 2019年7月10日) 女性議員 躍進なるか、立候補104人、最高の28% 勉強会で刺激、新人も挑む 女性の政界進出は本当に進むのか。今回の参院選は、政党に男女の候補者数を均等にするよう求める「政治分野の男女共同参画推進法」が2018年5月に成立してから初の大型国政選挙だ。選挙区と比例代表で計104人の女性が立候補し、候補者に占める割合は過去最高の28.1%となり、女性の政治参加を応援する団体で学んで出馬を決めた新人候補も目立つ。「熱意ある女性と出会い、初めて国会を目指そうと思えた」。参院選の比例代表で出馬し、関西で選挙活動をしている40代の新人女性候補は力強く話す。候補は当初「弱者に寄り添う社会をつくりたい」と地方議員に関心があったという。18年7月、女性の政治家を育てる一般社団法人「パリテ・アカデミー」(東京)の「女性政治リーダー・トレーニング合宿」に参加。会社員や経営者など様々な女性が政治への思いを語る姿に「目線の高さに刺激を受けた」と振り返る。政党関係者からスカウトされ、国政への挑戦を決めた。同アカデミーは18年3月、お茶の水女子大の申きよん准教授(政治学)らが「学術研究に基づくプログラムで若手女性の政治参画を促す」目的で設立した。セミナーで現役の女性議員がやりがいや苦労をざっくばらんに話し、スピーチの練習やSNSの活用法も伝える。これまでに高校生から40代まで延べ約60人が参加し、今春の統一地方選では同アカデミー出身の4人が当選した。「政治分野の男女共同参画推進法の成立は明らかに追い風になった。女性自身が立候補の大切さに気付けた」。女性の政治参加を推進する一般財団法人「WINWIN」(東京)の山口積恵専務理事は手応えを感じているという。勉強会などを続け、今回の参院選でも3人の議員未経験者を送り出した。ただ「せっかく選挙に立ち上がってくれても、選挙活動では女性が直面する問題がまだ多く残っており、支援が欠かせない」と強調する。選挙活動では、女性候補への「票ハラスメント」と呼ばれる嫌がらせが表面化している。山口さんの元にも「夜遅くに有権者が事務所に来て暴言をぶつけられたが、誰にも相談できない」「2人の子供のベビーシッターを雇わないと夜まで選挙活動できない。費用がかさむが、党に言い出せない」などの悩みが聞こえてくる。WINWINでは女性政治家らの寄付金を元に、候補者に支援金を給付している。今回の参院選では8人に1人30万円ずつを渡した。山口さんは「身だしなみなど女性ならではの使途もあり、わずかでも役立ててほしい」と話す。内閣府が17年度に実施した女性地方議員への調査によると、選挙活動中の悩みは「資金不足」「家事・育児・介護との両立が難しい」が目立ち、当選後も「女性として差別やハラスメントを受けた」との回答が約3割あった。お茶の水女子大の申准教授は「男性候補が主体の選挙活動では、政策議論よりもいかに有権者と握手をしたかが評価されるどぶ板選挙が続いていた。各党は候補への選挙指導を見直してほしい。議会が男女均等になれば互いの違いを尊重し合える社会に近づく。今回の参院選は絶好のタイミングだ」と話している。 *10-3:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/525418/ (西日本新聞 2019/7/9) 【参院選あなたの声から】若者、無関心じゃないけど… 「私たち若い世代って、政治に無関心と言われるけど…」。鹿児島市の大学1年の男性(18)から、特命取材班に戸惑いの声が届いた。本人は参院選の投票に行くつもりだが、友人ら同世代には冷めた空気があるという。若者の選挙離れ、その訳は‐。今年5月のこと。福岡市西区の九州大3年、田中迅さん(22)は大学内で若者の政治参画を促す討論会を企画した。テーマは被選挙権引き下げなど若者に関連する話。パネリストに国会議員を招き、直接質問できるようにした。メディアを集めて記者会見も開いた。準備万全のつもりだった。当日、絶句した。3千人収容の講堂に集まった学生は、わずか20人程度。来なかった友人からは「政治家に直接言っても、本当に取り組むか信用できない」と厳しい言葉を浴びせられた。「政治への諦めのようなものを感じます」と田中さん。「若者が関心を持たないから政治が高齢者優先になり、ますます若者向けの政策が少なくなる。『負のスパイラル』に陥っているのではないでしょうか」 ■ 2016年の前回参院選から、国政選挙で初めて選挙権が18歳に引き下げられた。各政党は若者向けイベントを開き、安全保障法制に反対した若者グループ「SEALDs(シールズ)」が野党共闘の一役を担うなど、若者が主体的に行動する姿が見られた。主権者教育による意識の高まりもあり、18歳の投票率は51・28%だった。その傾向は長続きしていない。翌17年衆院選では、16年参院選で18歳だった19~20歳の投票率は30%程度と大幅に下がった。今回の参院選でも、若者に盛り上がりは感じられない。「若者が関心を持つ争点があまりない」と明治大の井田正道教授(政治意識論)。年金不安の問題は若者にとっても無縁ではないはずだが、「若者からすれば、まだまだ先の話。もともと年金だけで老後は暮らせないと分かっており、老後資金2千万円問題にも反応が鈍い」と話す。近年、与野党が子育てや教育支援策を競うようになり、高齢者向けの「シルバー民主主義」と呼ばれた状況から脱しつつあるが、「政治への関心を喚起させるところまではいっていない。むしろ政治に頼っては駄目だという意識が強い」と井田教授はみる。特命取材班が話を聞いた鹿児島市の男性(18)も「報道を見ても、老後の話が中心でよく分からない」。ほかにも「投票率が高い高齢者向けの政策ばかり光が当たっている」(福岡工業大3年、金子茉嵩さん20歳)、「政策のアピールの仕方が下手」(福岡市の20代女性)といった声があった。 ■ 若者たちが社会に無関心というわけではない。11年の東日本大震災や16年の熊本地震では、被災地でボランティアに励む姿が見られた。社会貢献を意識し、就職先の選択肢に非政府組織(NGO)やNPO法人を挙げる人もいる。筑紫女学園大大学院1年の中山日向子さん(23)は少女の非行について研究する傍ら、子ども食堂の運営や、親や恋人からの暴力に悩む女性の支援に当たる。投票には行くつもりだ。「でも、政治には特に期待していない。自分たちができることをこつこつとやり、少しでも社会を変えていけたら」。政治とは一定の距離を置いているように映る若者たち。世界ではどうか。例えば16年の米大統領選では、バーニー・サンダース上院議員が公立大学授業料無償化を訴えて若者の心を捉え、旋風を巻き起こした。井田教授は言う。「昨今の自民党支持は、大卒就職率が高水準を維持する中、『他よりはまし』という選択。若者の心を揺さぶる政策やカリスマ性のある政治家が出てくれば、若者を動かす可能性があります」 <交渉や議論の基礎がわかっていない日本人と日本外交の拙さ> PS(2019年7月16日追加):*11-2のように、韓国の元徴用工裁判の原告が「奴隷のように扱われた」として複数の日本企業を相手に訴訟を起こし、日本製鉄・不二越に続いて三菱重工の資産を現金化する手続きに入るそうだ。日本の元徴用工への補償については、韓国政府も1965年の日韓請求権協定で「解決済」としてきたが、韓国大法院が「個人の請求権は消滅していない」としたため、日本政府が日韓関係の「法的基盤を根本から覆すものだ」として反発している。私も、いつまでも歴史問題をネタにして日本を批判すれば賠償金がとれると思われるのはたまったものではないと思うが、いろいろな解釈が成り立たないように日韓請求権協定に明確に記載しなかったことは、契約(協定)締結における初歩的ミスだと思う。これに対抗してか否か、*11-1のように、日本政府は突然、韓国に対して半導体材料の輸出管理強化措置を行った。韓国経由で輸出が禁止されている他国に輸出されているのであれば管理するのは当然だが、我が国がよく行う経済制裁(輸出入禁止)は、相手国が輸入先を多角化したり国産化を進めたりするため、中長期的に日本製のシェアを小さくする子どもっぽい政策だ。 このように両者の主張が異なる時は国際機関の調停が必要になるが、常日頃から、*8-2のように、IWCを脱退して商業捕鯨を始めたり、*11-4のように、多くの国が実施しているにもかかわらず、福島第一原発事故被災地からの水産物輸入を禁止した韓国政府の措置を日本がWTOに提訴して敗訴したりしていると、「日本政府(安倍首相だからではない)の判断や行動はおかしい」というのが世界の認識になるだろう。菅官房長官は「日本産食品は科学的に安全なので韓国の安全基準を十分クリアする」と主張されているが、日本でも癌の発生率が高まっており、日本の消費者である私も原発被災地近くの食品が科学的に安全だとは思わない。また、「食の安全」や「リスク」をどこまで追及するかは、その国で選ばれた政府の判断であるため、WTO上級委員会の「韓国の措置は不必要に貿易制限的である」「韓国の措置は日本産水産物に対して差別的である」という判断の破棄は正しい。何故なら、食品・薬は「疑わしきは摂取せず」が科学的だからで、我田引水の解釈を繰り返せば繰り返すほど世界の信用を無くすわけである。 さらに、*11-3の2018年12月の韓国海軍による日本の自衛隊機へのレーダー照射については、日本が韓国に抗議したのに対して韓国は「日本の自衛隊機が威嚇的な低空飛行をした」として謝罪を要求した。自衛隊機が低空飛行した理由は、「日本の排他的経済水域で北朝鮮漁船が漁をしていたから」とも言われているため、最初に苦情を言った日本が起こった事象を明確に説明して韓国側の違反を国際社会に明らかにしなければ、これも「日本の横車」で終わってしまい、信頼関係の回復どころか世界の信用も無くす。にもかかわらず、日本の防衛相が2019年6月1日に、韓国の国防相と会談して両者の言い分が平行線のまま「棚上げ」にされたそうだが、「(利害対立関係にあっても)話し合えばどちらかが譲る」「議論しないのが大人」などというのは、日本の一部でしか通じない甘えあいの価値観だ。 *11-1:https://www.jiji.com/jc/article?k=2019071500318&g=pol (時事通信 2019年7月15日) 韓国大統領「日本経済により大きな被害」=輸出管理強化で警告 韓国の文在寅大統領は15日、日本政府による半導体材料の輸出管理強化措置について「わが国の企業は、輸入先の多角化や国産化に進む。結局は日本経済に、より大きな被害が及ぶ」と警告した。また、「わが国経済の成長を妨害したも同然だ」と主張、「日本の意図がそこにあるなら、決して成功しない」と強調した。首席秘書官・補佐官会議での発言を大統領府が発表した。文氏は席上、「日本が歴史問題を経済問題と関連付けたことは、両国関係発展の歴史に逆行する行為だ」と批判。日本企業に元徴用工らへの賠償を命じた韓国最高裁判決を受けた経済報復という認識を改めて示した。その上で、「一方的な圧迫をやめ、外交的解決の場に戻ることを望む」と訴え、「わが政府は、われわれが提示した方策が唯一の解決策だと主張したことはない」と述べた。徴用工問題で韓国政府は先に、日韓企業による自発的な資金拠出で慰謝料を支給する案を日本側に提示したが、修正もあり得るという考えを示した形だ。韓国の輸出管理違反などの疑惑に関しては「わが政府に対する重大な挑戦だ」と指摘。「これ以上、消耗する論争をする必要はない」と述べ、国際機関に調査を依頼する案を受け入れるよう求めた。 *11-2:https://news.livedoor.com/article/detail/16779409/ (Livedoor 2019年7月16日) 元徴用工訴訟、原告側が三菱重工業の韓国内の資産現金化着手を表明 韓国の元徴用工らをめぐる裁判の原告が、近く三菱重工業の資産の現金化に着手すると明らかにした。 徴用工裁判をめぐる日本企業の資産を売却する手続きに入るのは、日本製鉄と不二越に続き3件目。原告側が差し押さえているのは、三菱重工が韓国国内で持つ特許権や商標権などおよそ8000万円相当の資産で、近く裁判所に売却命令を請求するといい、三菱重工側からは昨日の期限までに賠償協議に応じるとの回答がなく、「原告の高齢化を考えるとこれ以上先送りすることはできない」としている。原告らは11時からソウルで会見を開き、詳しい方針などを明らかにする予定。(AbemaTV/『AbemaNews』より) *11-3:https://news.livedoor.com/article/detail/16561644/ (Livedoor 2019年6月3日) 日韓会談でレーダー照射「棚上げ」 それでも「信頼回復」道半ばな理由 アジア安全保障会議に合わせてシンガポールを訪問していた岩屋毅防衛相は2019年6月1日、韓国の鄭景斗(チョン・ギョンドゥ)国防相と非公式に約40分間会談した。両者の会談は18年10月以来8か月ぶりで、18年12月の韓国海軍による自衛隊機へのレーダー照射事案以降初めて。レーダー照射事案では、日本側は韓国側に抗議したのに対して、韓国側は「日本側が威嚇的な低空飛行をした」として謝罪を要求していた。会談では両者の言い分は平行線で、こういった状況を「棚上げ」した形で「未来志向の日韓防衛当局間の関係を作っていく」(岩屋氏)ことになった。それでも、韓国メディアの中では、信頼関係の回復に懐疑的な声も出ている。 ●「話し合っていれば、どちらかが譲って答えが出てくるのかというと」... 岩屋氏は会談後に記者団に明かしたところによると、日本側は自衛隊機の飛行が適切だったことを説明し、再発防止を求めた。これに対して、韓国側は「従来の主張」を展開したという。会談でレーダー照射事案が「一定の区切り」を迎えたのか、という記者の質問には、「本当は、真実は一つしかないということだと思うが、話し合っていれば、どちらかが譲って答えが出てくるのかというと、そういう状況ではないと私は判断している。私どもの見解に変わりはないが、未来志向の日韓防衛当局間の関係を作っていくために、一歩前に踏み出したいと思っている」と答え、事実上棚上げする考えだ。岩屋氏はシンガポールで中国の魏鳳和国防相とも会談し、年内に訪中することで一致している。こういった姿勢を産経新聞は、「中韓に非がある重大な課題を棚上げして融和に転じれば、相手から侮られるだけでなく同盟国や友好国の信頼をも失いかねない」と非難している。 ●相変わらず日本側に責任転嫁 一方の韓国メディアも、必ずしも歓迎ムードではない。中央日報は「両国間の信頼が完全に回復していなかったという解釈が支配的だ。日本がまだ哨戒機の事態に対して責任がないという主張を繰り返しているからである」として、日本側に責任転嫁する形で、両国間の信頼回復は道半ばだという否定的な見方だ。一方、聯合ニュースでは、「それでも『出口』のない攻防戦を繰り広げ、防衛交流を全面中断してきた両国が、今回の会談を契機に、少なくとも対話と交流の正常化の端緒は設けた、という評価も出ている」と、事態改善が多少なりとも進みつつあるという点で肯定的に評価している。 *11-4:https://webronza.asahi.com/business/ares/2019042600009.html (RONZA 2019年5月7日) 日本は韓国にWTOで敗訴したのか?、原発事故の被災地からの水産物の禁輸。日本がこれからとるべき道は? 山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 福島第一原発事故の被災地からの水産物輸入を禁止した韓国政府の措置を日本がWTO(世界貿易機関)に提訴した事件で、第一審に当たるパネルは日本の主張を認めたものの、上級審に当たる上級委員会はこの判断を覆した。この結果、韓国の禁輸措置が継続されることとなった。この結果について、菅官房長官は「敗訴の指摘は当たらない」と主張し、その理由に「日本産食品は科学的に安全であり、韓国の安全基準を十分クリアするとの第一審の事実認定は維持されている」ことを挙げた。これが国際経済法学者から誤りだと指摘され、物議を醸している。「日本産食品は科学的に安全」という記載は第一審の報告書にはなかったとも指摘されている(4月23日朝日新聞1面)。本件に関する報道や専門家の解説記事を読む限り、私は「敗訴の指摘は当たらない」という日本政府の主張には同意するが、その理由として挙げたものは上級委員会報告を正確に理解したものではなかった。その限りで国際経済法学者の批判は当然だと考える。その根拠を以下で解説するが、むしろ問題は、敗訴していないのに、韓国がWTOに違反しているおそれが高い禁輸措置を継続できることになったことである。 ●食の安全とWTO・SPS協定 WTOが食の安全と貿易について規律するようになった経緯について簡単に説明しよう。食品・動植物の輸入を通じた病気や病害虫の侵入を防ぐため導入される衛生植物検疫措置―これをSPS措置という―は国民の生命・身体の安全や健康を守るための正当な手段である。他方、我々は、貿易によって世界中からさまざまな食品を輸入し消費している。国際交渉によって関税が引き下げられるなど伝統的な産業保護の手段が使いにくくなっている中で、これに代わってSPS措置が国内農業の保護のために使われるようになってきた。貿易の自由化の観点からは、保護貿易の隠れ蓑となっているSPS措置の制限・撤廃が求められる。しかし、真に国民の生命・健康の保護を目的としたSPS措置であっても、貿易に対して何らかの効果を与える。生命・健康の保護を目的とした真正の措置と貿易制限を目的とした措置との区分は容易ではない。このため、食の安全という利益と食品の貿易・消費の利益の調和が必要になる。このような二つの要請のバランスを図ろうという試みが、1986年から開始されたガット・ウルグァイ・ラウンド交渉の一環として行われた。その結果1994年合意されたWTO・SPS協定は、この問題の解決を「科学」に求めた。科学的根拠に基づかないSPS措置は認めないとしたのである。生命・健康へのリスク(危険性)が存在すること、そして当該SPS措置によってそのリスクが軽減されることについて、科学的根拠が示されないのであれば、その措置は国内産業を保護するためではないかと判断したのである。そのうえで、各国のSPS措置を国際基準と調和(ハーモナイゼイション)することを目指している。各国の規制が統一されている方が、貿易の円滑化に資するからだ。 ●WTO・SPS協定の仕組み 簡単にSPS協定の仕組みを解説しよう。まず、各国は適切な保護の水準(ALOP:appropriate level of protection)を設定することができる。ALOPとは、1万人に一人の死亡まで認めるか、1億人に一人の死亡しか認めないのか、つまり、どこまでのリスクを許容するかということである。ALOPは”acceptable level of risk”(受け入れられるリスクの水準)とも定義されている。ALOPをどのような水準に設定するかは各国の主権的な権利である。以下のSPS協定の規定に整合的なら、ゼロ・リスクとすることも可能である。ただし、異なる状況において恣意的または不当な区別を設けることが、国際貿易に対する差別または偽装した制限をもたらすことがないようにしなければならない(5.5条)。整合性の原則であり、同じようなリスクに対して、ある時は保護の水準を低くして緩やかな措置を許容し、ある時は保護の水準を高くして厳しい措置を要求してはならないということである。ALOPを定めたら、各国は科学的な評価(これをリスクアセスメントという)に基づきSPS措置を決定する。下の図では、この関係を簡単に理解できるよう、縦軸にリスクの程度(X人に一人死亡)をとり、横軸に措置(どれだけのハザード(危害)を摂取するか)をとり、両者の関係を右上がりの直線で示している。原点に近いほど許容できるリスクが小さい、つまり健康保護の水準が高くなる。これに伴い、許容できるハザード摂取量も減少する。ALOPが目的ならSPS措置は手段である。SPS措置に対しては科学的根拠が要求されるが、ALOPに対しては要求されない。政治的または政策的にALOPを決めると、SPS措置はALOPとリスクアセスメントによって決定される。 SPS措置について、SPS協定は、①科学的な原則に基づいてとること(2.2条、つまりリスクアセスメントを行うということである=5.1条)、②同一または同様の条件(自国の領域と他の加盟国の領域との間を含む)の下にある加盟国間で恣意的または不当な差別をしないこと(2.3条、同一または同様の条件にあるのに、異なる扱いをしてはならないということである)、③国際貿易に対する差別または偽装した制限となるように運用してはならない(2.3条)、④ALOPを達成するために必要である以上に貿易制限的でないこと(5.6条)という要件を課している。 ●WTO上級委員会の判断 上級委員会は、パネルが行った、韓国の措置は不必要に貿易制限的である(5.6条)、韓国の措置は日本産水産物に対して差別的である(2.3条)という判断について、破棄している(以下川瀬剛志「韓国・放射性核種輸入制限事件再訪」RIETIを参照した)。まず、最初の5.6条違反かどうかについて、川瀬論文は次のように要約している。 《パネルは本件での韓国のALOPが「①通常の環境における食品の放射能レベルに維持すること、よって②1mSv/年を上限として、③合理的に達成可能なできるかぎり最低限(as low as reasonably achievable-ALARA)に食品の放射能汚染を維持すること」であると認定した。にもかかわらず、パネルはもっぱら②にのみ焦点を当て、3要素がそれぞれ別個であるか、それらがどのように相互作用するか、また②がALOPの質的側面である①、③を内包するのか、などの問題を検討していない。パネルは日本が提案する代替措置(セシウム100Bq/㎏以上の食品のみ輸入制限、これで1人当たり年間被ばく量を1mSv/年以下にできる水準)が韓国の複合的なALOPを達成できるか否かを検討する責務がある。しかし、パネルは韓国のALOPの3要素全てについて検討せず、代替措置が1mSv/年を著しく下回る被ばく量を達成できる、としか判断しなかった。》 しかし、このようなあいまいなALOPの設定は問題である。「上級委員会の先例によれば、ALOPは定量的でなくてもいいが、SPS協定の義務の実施を妨げないように「詳細な(precise)」ものでなくてはならず、SPS措置を取る国がこれを設定する専権および義務がある」(川瀬論文)からである。実際にも、このような曖昧なALOPからどのようにリスクアセスメントをしてSPS措置を決定できるのかはなはだ疑問に感じる。結局のところ、「上級委員会としては、ALARAおよび「通常の環境下」要件は単独では意味をなさず結局は1mSv/年基準を意味する、という結論をパネルは明確にすべきだった、ということに尽きる」(川瀬論文)。つまり、韓国のALOPが不適切であることをパネルが明示的に示さなかったことがおかしいと上級委員会は述べていることになる。これは、パネルがおかしいのであって、日本敗訴というものではない。第二の2.3条違反かどうかに関し、差別しているかどうかが判断される「同一または同様の条件(自国の領域と他の加盟国の領域との間を含む)」について、食品自体の放射能汚染のレベルだけで判断したパネルに対して、上級委員会は日本に原発事故が生じたという食品汚染に関わる生産国の環境も含めて判断すべきだとした。「食品自体の汚染水準についても、パネルは食品の実際の汚染レベルがパネルが認定するところの韓国の安全基準(セシウム100Bq/kg)を下回るかにのみ着目し、日本とそれ以外の地域での放射能汚染の状況の違いもたらす潜在的な食品汚染について検討していないことを指摘している」(川瀬論文)。しかし、この上級委員会の判断は疑問である。健康に影響を与えるのは、食品であり、問題なのは、それがどこで生産されたものであれ、どの程度ハザードを持っているかどうかである。存在するかどうかも分からない潜在的な汚染を、どうやってリスクアセスメントすればよいのだろうか?ただし、ここでも上級委員会が問題視しているのは、パネルの判断の誤りであって、潜在的な汚染を検討すればどうなるかという判断を行っているのではない。また、この論点で日本の主張が受け入れられなかったとしても、別の論点で韓国の措置がSPS協定違反だと認定されれば、日本は勝訴していた。いずれにしても、上級委員会はパネルが判断を誤ったと言っているにすぎず、韓国の措置がSPS協定に違反していないとも言っていない。パネルが最初の5.6条違反の点を明確に指摘していれば、韓国の措置がSPS協定違反だというパネルの結論は維持されていたと思われるのである。(以下略)
| 民主主義・選挙・その他::2014.12~2020.9 | 05:41 PM | comments (x) | trackback (x) |
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