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2016.5.30 財務省とメディアの消費税増税自体が目的の政策を中止して国に公会計制度を導入するのが、ギリシャのようにならないために必要な日本の経済・財政政策である (2016年5月31日、6月1、3、4、5日に追加あり)
   
                    2016.5.27日経新聞      2016.5.28    2016.5.25 
                                       日本農業新聞     佐賀新聞

   
    2016.5.27日経新聞   債務残高のGDP比  日本のGDP推移    日本の賃金推移

(1)消費税増税は、国益ではなく財務省の願望だ
 私はギリシャに向かって直進する消費税増税は不要だと思うが、首相が消費税増税延期を選択すると、*1-1のように、日本のメディアは「①消費税増税で得た財源は社会保障の安定や拡充に充てる計画だったので、延期のしわ寄せは社会保障の対象となる高齢者や子育て世帯に真っ先に及ぶ」「②既に深刻な状況にある我が国の財政再建は遠のく」「③大衆迎合や選挙を意識した安易な先送りは許されず、首相は説明責任を厳しく問われる」などと騒ぎ立てる。

 しかし、①②③のような論調こそが、猿芝居の始まりなのだ。首相より前に、財務省とメディアは、①他国にはそのような決まりはないが、日本では社会保障の安定・拡充に充てる財源は消費税でなければならないとする理由 ②実際には消費増税前後の景気対策と称して国民から巻き上げた税金を政府が付加価値の低い投資にばら撒いて経済成長を妨げているのに、消費税増税をすれば財政再建できると唱えている理由 ③算術しかできない消費税増税論者が日本経済を考えており、反対論者は大衆迎合だという誤った自信を持っている理由 などについて、世界が呆れない根拠をもって説明すべきだ。

 なお、首相や多くの国会議員はもともと消費税増税に積極的ではなかったのに、どの党が政権をとっても消費税増税をしなければメディアを使って論理にならない批判をさせ、ついに増税に追い込ませたのは、消費税増税が願望の財務省だ。そして、メディアは財務省の尻馬に乗って騒いでいるにすぎず、「表現の自由」を標榜しなければならないほど芯のある報道をしているわけではない。

 また、東日本大震災や九州大地震の復興で多くの工事が必要になったため、失業率が下がって景気も良くなるのは当たり前であり、実際、上のグラフのように国内需要は東日本大震災の後、急速に伸びている。そのため、金融緩和による物価上昇・消費税増税・社会保障削減などぎりぎりで暮らしている家計にマイナスの影響を与える経済政策の邪魔がなければ、本物の景気回復ができた筈なのである。

(2)景気対策と称する生産性を高めないばら撒き
 日銀が「2%の物価上昇目標を実現するためなら何でもやる」と言っているように、0金利に近い金融緩和でインフレを起こしてデフレを脱却すればよいという発想は、経済学的に誤りである。何故なら、そのような中央銀行の下では、人々は自分の資産と将来の安全を護るために貯蓄を行って家計を護る方向となり、結果として利子率が少なくとも2%程度になるまで物価が下がるからだ。これを、経済学では「ジョンブルも2%の利子率には我慢できない」と表現する。ジョンブルとは、イギリス人の男性に多い名前で、贅沢をせず、文句も言わずに、こつこつと働く人を意味し、そのジョンブルでさえ我慢できないという意味だ。

 そこで、*1-2のように、安倍首相は28日夜、麻生財務相、谷垣自民党幹事長と会談して、来年4月に予定する消費税率10%への引き上げを2019年10月まで延期する方針を伝え、会談で反対する意見も出たため、引き続き政府・与党内で調整することになったそうだ。また、首相は、消費税率10%への増税延期と財政出動を行うために、G7首脳会議で「世界経済は危機に陥る大きなリスクに直面している」「各国の財政出動が必要だ」という合意を取り付けようとしていた。

 しかし、*1-8のように、例えば、道路をより良くするのではなく掘っては埋めるだけのような生産性を上げない工事や合理性のない公共工事によって実際に行われている「ヘリコプターマネー」による財政出動は、役に立つ仕事をせずに給料をもらう人を作って全体の生産性を下げ、円の価値を薄めて所在を変えるだけであるため、我が国の借金を増やして成長に結びつかず、正義でもないのである。
 
 ただし、政府が、当初の契約通りに年金を支払えば必要となる年金資産額を退職給付会計を使って計算し、50年以上の償還期限の0金利長期国債を発行して積み立てたり、教育・医療・社会保障を充実したりするのはヘリコプターマネーではないため、行うべきである。

(3)やはりG7の他国は、日本政府の変な説明には同調しなかった
 *1-3のように、首相はG7で「リーマンショック前に似ている」として消費増税延期への地ならしをしたが、これは日本の特殊事情であるため、G7で話すのは不適切のように思えた。そのため、危機認識が首脳間で差があったのは当然で、既に国に公会計制度を導入しているG7各国の首脳が、「危機、クライシスとまで言うのはいかがなものか」とし、「G7各国は、『それぞれの必要性に応じて経済政策をとるべきだ』というドイツのメルケル首相の意見を支持した」というのは、当たり前のことだった。

 また、*1-4のように、「世界経済に下振れリスク」ともよく言われるが、経済は常に景気循環しながら発展していくため、下振れも上振れも普通に起こる。そのため、一つ一つの投資効果を吟味して生産性を上げる投資をするのではなく、消費税を上げながら「○○兆円規模の景気対策」というヘリコプターマネーを撒く方がよほどまずく、これが通用する理由は、事実を分析し本質や真実を突きとめて報道することができない日本メディアの質の低さと、それを許している主権者の怠慢である。

 つまり、*1-5のように、G7首脳会議(伊勢志摩サミット)で議長を務めた安倍首相は、世界経済のリスクを強調し、G7による危機対応を強く求めたが、G7の他国首脳は日本政府の変な説明に騙されず、首脳宣言は「世界経済の回復は継続しているが、成長は緩やかでばらつきがある」という議長国日本に配慮したあまり意味のない基本認識を示した。しかし今、日本で感じるべき最も大きなリスクは、地震と原発のリスクなのである。

 そのほか、*1-6のように、「アベノミクスが成果を上げていない」とも書かれているが、その最も大きな原因は、金融緩和によるインフレ、消費税増税、医療・福祉の削減によって国民から金を巻き上げ、それを生産性の低い事業にばら撒き、その中には生産性がマイナスの事業すらあることだ。そして、このことはずっとこのブログに書いてきたのでここで長くは書かないが、これまでの一つ一つの政策の総合が日本のマクロ経済に結果として現れているのであり、その責任はアベノミクスのみにあるわけではない。

 なお、*1-7に、「首相は個人消費の低迷を踏まえ、購入額以上の買い物ができるプレミアム商品券の発行といった家計支援策も柱となる2次補正を検討する」と書かれているが、物価上昇、消費税増税・福祉の切り捨てなどで大きくぶんどられた国民に、そこから少額のプレミアム商品券を発行して地元商店街で買い物をするように“支援する”などというのは、あまりにも人を馬鹿にした愚策である。 

(4)G7(伊勢志摩サミット)で議論されたこと
 *2-1のように、G7では世界経済の安定に向け、「G7が世界経済のイニシアチブをとる」と首脳宣言に盛り込み、財政出動、構造改革、金融政策などを総動員して成長を底上げし、そのほか①テロ対策 ②タックスヘイブンを使った課税逃れ対策 ③サイバー対策 ④質の高いインフラ投資 ⑤感染症対策などの国際保健 ⑥女性の活躍推進 などの重点6分野で付属文書をまとめる予定だったそうだ。

 このうち、「財政出動、構造改革、金融政策などを総動員して成長を底上げする」というのは、具体的な意味のないばら撒きを行うという宣言だが、やはりG7の財務相・中央銀行総裁会議は、紳士的に世界経済を下支えするためにあらゆる政策手段を総合的に用いることは確認したものの、各国一斉の財政出動に関しては合意に至らず、健全だった。特に、*2-3のように、独財務相が「目先の効果にこだわり、借金を積み上げるだけになってしまう事態は避けたいと(G7の)みんなが思っている」との認識を示したのはもっともであり、日本もそうすべきである。

 そのような中、*2-4のように、佐賀新聞は「G7、財政出動は各国判断、経済下支えへ政策総動員」という表現をしているが、日本のように「景気対策、景気対策」と言って、具体的な方針のない政府支出(=ばら撒き)を経済下支えと称して行う国はないことを認識しておくべきだ。

 また、*2-5のように、タックスヘイブンをテロ資金と結びつけて禁止しようとする国も日本くらいであり、これが重要な問題として取り扱われなかったのは、世界の正常性と日本の異常性を物語っている。

 なお、①③④⑤はさほど意見の違いの出ない項目だが、⑥の女性の活躍推進は、意見の違いは出ないものの、今頃そういうことを言っている国はG7では日本くらいであるため、G7でそれを言うと、みんな(イギリス、ドイツは既に女性首相を出しており、アメリカも女性大統領が出そうだ)呆れたと思われる。

<財務省とメディアのおかしな思考>
*1-1:http://qbiz.jp/article/87630/1/
(西日本新聞 2016年5月27日) 【解説】増税延期 首相、問われる説明責任
 議論を重ねた末に与野党が合意し法律に定めた消費税率10%への引き上げを、安倍晋三首相が再び延期する道を選んだ。国内外の景気が停滞していることは確かだが、首相が伊勢志摩サミットで訴えた「リーマン・ショック前に似た状況」とは程遠いとの見方が専門家の間では強い。大衆迎合や選挙を意識した安易な先送りなら許されず、首相は説明責任を厳しく問われている。消費税の扱いは、景気への影響にとどまらず、社会保障や国の財政、将来世代も含めた国民負担の在り方といった幅広い観点から論じられるべきテーマだ。増税で得た財源は社会保障の安定や拡充に充てる計画だった。延期のしわ寄せは社会保障の対象となる高齢者や子育て世帯に真っ先に及ぶ可能性がある。既に深刻な状況にある国の財政の再建はさらに遠のくことになる。前回延期時に「再び延期することはない」と約束した首相が前言を翻したことで増税への本気度を疑われ日本国債の格下げを含め市場の信認低下を招く事態も予想される。熊本地震の被災地はなお厳しい状況に置かれており、消費低迷が続く家計にとって増税先送りの恩恵は大きい。ただ、増税を予定通りに実施できる経済環境を整えられなかった安倍政権の責任は重い。「アベノミクス」の限界を露呈したとも言え、政権への批判や経済政策の見直しを求める声が強まるのは必至だ。

*1-2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12382288.html (朝日新聞社説 2016年5月29日) 首相、増税再延期伝える 「19年10月」麻生氏らに 2次補正を検討
 安倍晋三首相は28日夜、首相公邸で麻生太郎財務相、谷垣禎一自民党幹事長と会談し、来年4月に予定する消費税率10%への引き上げを延期する方針を伝えた。延期期間は2019年10月までの2年半とする考えも示した。だが、会談では反対する意見も出たため、引き続き政府・与党内で調整することになった。複数の政府関係者が明らかにした。会談には菅義偉官房長官も同席した。首相は熊本地震の発生に加え、今後は世界経済の収縮も懸念されることから、来年4月に予定通り消費増税を実施すれば政権が掲げるデフレ脱却がさらに遠のきかねないと判断し、増税時期を先送りする考えだ。首相は、主要7カ国(G7)首脳会議(伊勢志摩サミット)が閉幕した27日の記者会見で「世界経済が危機に陥る大きなリスクに直面している。G7はその認識を共有した」と強調。「アベノミクスのエンジンをもう一度、最大限ふかしていく決意だ。消費税率引き上げの是非も含めて検討する」と述べ、増税を延期する考えを示唆していた。28日夜の会談で、首相は伊勢志摩サミットの議論などをもとに、予定通りの増税を求める麻生氏らに増税延期の方針を伝えた。ただ、麻生氏は延期に反対し、仮に延期する場合は「衆院を解散すべきだ」と主張したという。このため、29日以降も調整を続けることにした。首相は今後、山口那津男公明党代表らとも会談し、増税延期に理解を求める。政府・与党内で合意が得られれば、参院選前に正式に表明する考えだ。首相は14年11月にも15年10月の消費増税を1年半延期しており、今回延期を正式に決めれば2回目となる。一方、首相は公共事業など新たな経済対策を盛り込んだ16年度第2次補正予算案を編成する方向で検討に入った。首相官邸の幹部は「消費増税を先送りし、大規模補正を打つという考え方もある」と主張。規模は与党内で5兆~10兆円との見方が出ており、参院選後の臨時国会に補正予算案を提出する方向だ。

*1-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160527&ng=DGKKZO02843290X20C16A5EA2000 (日経新聞 2016.5.27) 首相「リーマン前に似る」 消費増税延期へ地ならし、危機認識、首脳に差も 伊勢志摩サミット 
 安倍晋三首相は26日の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)で、世界経済について「危機に陥るリスクがある」と訴えた。政策対応を誤ればリーマン・ショック級の経済危機が発生しかねないとして各国に財政出動を促したが、認識は必ずしも一致しなかった。首相の強い訴えには、2017年4月に予定する消費税増税を再延期する地ならしの思惑が透ける。「リーマン・ショック直前の洞爺湖サミットは危機を防ぐことができなかった。そのてつを踏みたくない」。首相は世界経済に関する討議で、日本が前回議長国を務めた08年の洞爺湖サミットに言及し「将来の危機」への対処を求めた。首相の「危機」へのこだわりには並々ならぬものがある。討議では商品価格や新興国経済に関する指標を並べた4ページの資料も配布。いずれのページにも「リーマン・ショック」という単語を盛り込み、「リーマン前と状況が似ている」と指摘した。前のめりの姿勢の背景にあるのは消費税だ。首相は14年に増税先送りを理由に衆院を解散した際、17年4月の増税を「再び延期することはない」と断言。その後はリーマン・ショックや大震災のような事態が起こらない限り、増税方針は変えないと説明してきた。政権が目指すデフレ脱却や景気の腰折れの可能性を考えると、予定通りの増税は政権運営へのマイナス面がある。だが「いまはリーマン・ショックのような事態とはとてもいえない」(首相周辺)状況。7月の参院選を控え、説得力のある材料をそろえなければ有権者から理解は得られない。首相はすでに増税延期の方針を固め、来週に表明する見通し。国会会期末の6月1日に記者会見を開く案が有力だ。政権内で浮上しているのが経済状況の悪化懸念と、熊本地震の2つの「合わせ技一本」という案。いまはリーマン・ショック級ではないが、将来の下振れリスクはある。G7でそう合意し、財政出動の必要性でもお墨付きを得れば「負の財政出動」ともいえる増税延期の理由になる。だが各国の反応は首相の期待とは微妙に異なる。日本政府関係者は「危機、クライシスとまで言うのはいかがなものか、という意見もあった」と語る。英国政府の説明によると「G7各国は、それぞれの必要性に応じて経済政策をとるべきだというドイツのメルケル首相の意見を支持した」という。首相が各国首脳に提示した討議資料にも、身内である自民党執行部内から「世界からどんな反応が出るか心配だ」との声が漏れた。討議終了後、記者団の質問に答えた首相は「世界経済は大きなリスクに直面しているとの認識については一致できた」と語った。それは「我々は大きな危機に……」と語り始めたのを言い直した表現だった。

*1-4:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160527&ng=DGKKASFS26H4M_W6A520C1MM8000 (日経新聞 2016.5.27) G7「世界経済に下振れリスク」で一致、サミットで首相「政策対応を」 消費増税延期にらむ
 26日に開幕した主要国首脳会議は初日の討議で、世界経済に下振れのリスクがあるとの懸念を共有した。安倍晋三首相は2008年のリーマン・ショック並みの危機が再発してもおかしくないほど世界経済が脆弱になっているとの認識を表明し、各国に財政出動を含む強力な政策の実施を促した。首相は26日の討議後、記者団に「世界経済が大きなリスクに直面しているとの認識で一致できた。これに基づく(金融・財政・構造政策の)3本の矢を主要7カ国(G7)で展開していくことになった」と語った。首相は26日の討議に「参考データ」を提出し、いまの世界経済がリーマン危機前に似ていると指摘した。「参考データ」によると、最近のエネルギーや食料など商品価格がリーマン危機前後と同じ55%下落。新興国の投資や経済成長はリーマン危機以来の落ち込みを示し、新興国からの資金流出が再び起きた。主要国の成長率見通しの下方修正が繰り返されるのも当時と同じだと主張する。日本政府関係者によると、会議ではある首脳から「『危機』とまで言うのはどうか」と表現ぶりに異論が出たものの「新興国が厳しい」という基本認識では全員一致した。首相は金融産業を抱える米英両首脳と25日に相次いで個別に会い、認識を擦り合わせていた。首相は「G7が金融・財政・構造政策を総動員し、世界経済をけん引する。特に機動的な財政戦略および構造改革を果断に進める重要性を訴えたい」と呼びかけた。インフラや環境・エネルギー、科学技術分野への投資を財政出動の具体例に挙げ「日本が先陣を切っていきたい」と強調した。日本政府関係者によると、複数の首脳が「中間層に対する投資が重要だ」との考えを示した。世界で格差問題が深刻になり、中間層の不満が拡大している。その結果として、各地でポピュリズムが横行しているという共通の危機感がある。日本は「財政出動の重要性で各国が一致した」とし、強固な政策をうたう共同宣言を調整している。金融・財政・構造政策を幅広く活用する政策総動員の議論は、金融市場が不安定だった2月の20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で浮上した。仙台市で21日閉幕したG7財務相会議でもテーマになったが、財政出動は各国がそれぞれ判断する位置づけにとどめていた。サミットの場で一歩踏み込んだ。安倍首相が「リーマン並み危機」の可能性に言及したことは、来年4月に予定する消費増税の先送りをにらんだものと受け止められている。首相は消費増税について「リーマン・ショックや大震災級の影響のある事態が起こらない限り予定通り行っていく。適時適切に判断していきたい」と対外説明してきたからだ。26日のサミットの討議で日本の消費増税は「話題にならなかった」(日本政府関係者)という。

*1-5:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12382162.html
(朝日新聞社説 2016年5月29日) 首相と消費税 世界経済は危機前夜か
 主要7カ国(G7)首脳会議(伊勢志摩サミット)で議長を務めた安倍晋三首相はそのリスクを強調し、G7による「危機対応」を強く求めた。だがその認識は誤りと言うしかない。サミットでの経済議論を大きくゆがめてしまったのではないか。首相は、来年4月に予定される10%への消費増税の再延期を決断したいようだ。ただ単に表明するのでは野党から「アベノミクスの失敗」と攻撃される。そこで世界経済は危機前夜であり、海外要因でやむなく延期するのだという理由付けがしたかったのだろう。首相がサミットで首脳らに配った資料はその道具だった。たとえば最近の原油や穀物などの商品価格がリーマン危機時と同じ55%下落したことを強調するグラフがある。世界の需要が一気に消失したリーマン時と、米シェール革命など原油の劇的な供給増加が背景にある最近の動きは、構造が決定的に違う。足もとでは原油価格は上昇に転じている。リーマン危機の震源となった米国経済はいまは堅調で、米当局は金融引き締めを進めている。危機前夜と言うのはまったく説得力に欠ける。だから会議でメルケル独首相から「危機とまで言うのはいかがなものか」と反論があったのは当然だ。他の首脳からも危機を強調する意見はなかった。にもかかわらず、安倍首相はサミット後の会見で「リーマン・ショック以来の落ち込み」との説明を連発した。そして「世界経済が通常の景気循環を超えて危機に陥る大きなリスクに直面している」ことでG7が認識を共有したと述べた。これは、「世界経済の回復は継続しているが、成長は緩やかでばらつきがある」との基本認識を示した首脳宣言を逸脱している。首相は会見で消費増税について「是非も含めて検討」とし、近く再延期を表明することを示唆した。サミットをそれに利用したと受け止めざるを得ない。財政出動や消費増税先送りは一時的に景気を支える効果はある。ただ先進国が直面する「長期停滞」はそれだけで解決できる問題ではない。地道に経済の体力を蓄えることが必要で、むしろ低成長下でも社会保障を維持できる財政の安定が重要だ。消費増税の再延期は経済政策の方向を誤ることになりかねない。しかも、それにサミットを利用したことで、日本がG7内での信認を失うことを恐れる。

*1-6:http://qbiz.jp/article/87673/1/
(西日本新聞 2016年5月28日) 首相が語らない、消費増税再延期を決断する本当の理由
 安倍晋三首相が消費税増税再延期の方針を固めた背景には、自身の政策アベノミクスが思うような成果を上げていない現状がある。首相は先送りの理由として、主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)で合意した経済危機回避のため、率先して政策を総動員する必要性を強調するとみられる。だが実際は、政策効果が不十分で消費や設備投資は伸び悩み、構造改革も道半ばのままで、増税できる環境が整わなかったことが最大の要因だ。「アベノミクスのエンジンをもう一度、力強く吹かしていかなければならない」。首相は27日、議長を務めたサミットを締めくくる記者会見で強調、「政策総動員」の一環として、消費税率引き上げ見送りの検討を明言した。増税再延期はアベノミクスの破綻を意味するのではないかとの質問には「決してそんなことはない」と強く否定。雇用状況の改善などの成果を示した上で、先送りはあく、世界経済の危機回避を目指すサミットでの合意に基づく判断との考えを示した。しかし、元財務官の篠原尚之氏(東京大政策ビジョン研究センター教授)が「日本経済に悪影響があるからなのに、世界経済にリスクがあるようにすり替えている」と指摘するように、増税先送りは、足踏みが続く日本経済の危機回避策に他ならない。日本の成長率は現在、先進7カ国(G7)の中で最低。国際通貨基金(IMF)の予測では、消費税率を引き上げると2017年にはマイナス成長に陥るとみられている。景気低迷の一因には社会保障制度の将来不安に伴う消費不振がある。増税を先送りし社会保障の充実が遅れれば、国民の不安はますます強まり、さらなる消費抑制につながりかねない。政府は一方で経済成長と財政健全化の両立を目指すが、20年度黒字化目標を掲げる国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)は、現時点でも6兆5千億円の赤字見通し。増税を先送りすれば、目標達成は絶望的になる。サミットの首脳宣言でうたわれた構造改革の重要性に関しても、日本は欧米諸国から「改革が足りない」と批判されているにもかかわらず、取り組みは進んでいない。首相は会見で、アベノミクスを「世界に展開する」とも語ったが、まず行うべきことは、これまでの政策点検と見直しだ。

*1-7:http://qbiz.jp/article/87713/1/
(西日本新聞 2016年5月29日) 首相、2次補正を検討 サミット受け、参院選後に家計支援策
 安倍晋三首相は、世界経済の危機回避のため機動的な財政戦略の実施で合意した先進7カ国(G7)による主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)の議論を踏まえ、新たな経済対策を盛り込んだ2016年度第2次補正予算案の編成に向け検討に入った。自民党の茂木敏充選対委員長が28日、宮崎市の党会合で「参院選後に新たな経済対策に取り組む。補正予算を臨時国会に提出することになる」と見通しを示した。補正予算案の規模は5兆〜10兆円程度との見方が多い。近く閣議決定する「1億総活躍プラン」から先行実施する政策を選ぶ。個人消費の低迷を踏まえ、購入額以上の買い物ができるプレミアム商品券の発行といった家計支援策も柱となる。当初予算の執行前倒しに取り組んでいる公共事業の上積みも検討する。熊本地震の復旧費用は今月成立した1次補正予算で賄えると見ているが、一段の支援が必要になれば対策費を盛り込む。民進党の岡田克也代表は金沢市内で記者団に「アベノミクスは失敗しているから財政出動をせざるを得ない。それが正直な気持ちだろう。従来の古い自民党に戻っただけだ」と指摘した。共産党の小池晃書記局長は「選挙目当ての質の悪いばらまきで、あきれる」と反発を強めた。

*1-8:http://www.saga-s.co.jp/column/economy/22901/315467 (佐賀新聞 2016年5月25日) デフレ脱却へ「ヘリコプターマネー」、「現金ばらまき」 究極の緩和議論盛ん
 既存の金融緩和策への限界論が高まる中、空から現金をばらまくという意味の「ヘリコプターマネー」に関する議論が世界的に盛り上がっている。国民にお金を直接配る「究極の金融緩和」によって消費を刺激し、デフレ脱却を狙うものだ。財源は政府と中央銀行が協力して生み出すため、国の財政への信認が揺らげば国債価格が暴落するなどのリスクも。実現へのハードルは高いが、将来導入される可能性はゼロではない。ヘリコプターマネーは、バーナンキ前米連邦準備制度理事会(FRB)議長がかつて、たとえ話として示して有名になった考え方だ。実際には、お金をばらまくのではなく、政府が償還期限のない永久国債を発行して日銀が購入しお金を供給。その資金を財源に減税や公共投資といった財政拡張に取り組む手法などが専門家の間では取りざたされている。SMBC日興証券の丸山義正チーフマーケットエコノミストは「物価を押し上げる効果は大きい」と指摘する。ヘリコプターマネーに関し、欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は記者会見で「とても興味深い考えだ」と発言。一方、日銀の黒田東彦総裁は4月28日の会見で金融政策と政府の財政政策を一体とすることは「現行の法制度の下ではできない」と慎重な見方を示した。デフレ脱却という目的のために厳格に運用されなければ、国の財政赤字を中央銀行が穴埋めしているとみなされ、国債や通貨の信認が損なわれる危険も大きい。ただ日銀は2%の物価上昇目標を実現するためなら何でもやると言っており、市場では「主要中央銀行の中では日銀が導入する可能性が最も高い」(外資系証券)との見方もある。

<伊勢志摩サミット開催前>
*2-1:http://mainichi.jp/articles/20160525/ddm/001/010/179000c
(毎日新聞 2016年5月25日) 伊勢志摩サミット、あす開幕 G7、世界経済安定へ決意
 主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)は26日、三重県志摩市の志摩観光ホテルを主会場に2日間の日程で開幕する。世界経済の安定に向けた主要7カ国(G7)の決意を示す「世界経済イニシアチブ」を首脳宣言に盛り込み、財政出動と構造改革の推進を打ち出す。また、テロ対策や租税回避地(タックスヘイブン)を使った課税逃れ対策など重点6分野で付属文書をまとめる予定で、世界が直面する課題の解決に向けたG7のリーダーシップが問われる。世界経済では、中国など新興国の成長鈍化や原油安で強まる停滞感を克服するため、実効性のある対策を打ち出せるかどうかが課題だ。イニシアチブはG7各国の事情に配慮しつつ、財政出動▽構造改革▽金融政策−−を総動員して成長を底上げする姿勢を確認する見通しだ。ただ、財政出動には参加国で温度差があり、どこまで強いメッセージを出すかは首脳間の議論にゆだねられた。日本政府は「世界経済が抱えるリスクに対し、財政出動など喫緊の対応が必要との認識で一致したい」(安倍晋三首相周辺)としており、サミットで認識共有を図る考えだ。首相は財政と構造改革、金融政策を「アベノミクス」と共通する「G7版三本の矢」と位置づけている。サミットでこうした戦略をG7が共有することで政策の正当性を裏付け、夏の参院選に向けた政権浮揚につなげる思惑もある。このほかサミットではテロ対策の行動計画▽「パナマ文書」で焦点が当たる課税逃れなど腐敗防止対策▽サイバー対策▽質の高いインフラ投資▽感染症対策などの国際保健▽女性の活躍推進−−の6分野で付属文書をまとめる。8年ぶりのアジア開催にあわせ、中国の岩礁埋め立てや軍事拠点化で緊迫する南シナ海問題に関し、「一方的な現状変更への強い反対」を盛り込む。また、北朝鮮の核・ミサイル問題を巡っても、核拡散防止条約(NPT)体制を堅持し、容認しない姿勢を明記する。サミットは1975年にフランスで第1回会合が開かれ、今回で42回目。国内開催は79年の東京サミット以降6回目となる。協議には日本、米国、英国、フランス、ドイツ、イタリア、カナダの7カ国の首脳に、欧州連合(EU)の欧州理事会常任議長(大統領)らを加えた9人が参加する。

*2-2:http://qbiz.jp/article/87246/1/
(西日本新聞 2016年5月22日) G7の景気認識にずれ 財務相会議閉幕 欧州は財政出動「不要」
 仙台市で開かれた先進7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議は、世界経済を下支えするため、あらゆる政策手段を総合的に用いることを確認したが、焦点だった各国一斉の財政出動に関しては合意に至らなかった。為替政策を巡っても日米間の溝は埋まらず、景気の着実な回復に向けた政策協調を目指す主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)での議論に課題を残した格好だ。「揺るぎない連帯、相互理解、協調の精神をあらためて確認した。(サミットでは)さらに積極的な話ができると思う」。麻生太郎財務相は21日、閉幕後の記者会見で、サミット本番への期待を示した。だが景気に対する各国の認識や危機感は異なり、低成長打開へ向け、具体的な政策を打ち出すのは困難な状況だ。日本では中国経済減速などの影響で円高が進行、日経平均株価は一時、1万5000円の大台を割るなど株価は低迷が続く。企業業績も先行き不透明感が強まり、市場からは「アベノミクスは行き詰まりつつある」と懸念の声も上がっている。一方、ユーロ圏は2013年4〜6月期以降丸3年にわたり、プラス成長が続く。大和総研の山崎加津子氏は「ドイツ政府には、緊急的な経済対策が必要との認識はない」と分析。フランスのサパン財務相も21日の記者会見で「フランスは成長が戻っており(財政出動は)必要ない」と、財政政策に対する、日本との立場の違いを強調した。
   ▼    ▼
 年明け以降の急速な円高は落ち着きつつあるとはいえ、金融市場は不安定なまま。日本は為替相場について「投機的な動きがある」と懸念を示したが、ルー米財務長官は「(円ドル相場は)秩序的」と反論するなど、為替を巡る日米間の溝は埋まらなかった。米国が強硬姿勢を崩さないのは、11月に大統領選挙を控えているためだ。米国は円安により日本の景気が回復、世界経済を支えると期待していたが、ドル高が続いたことで米国の輸出企業業績は低迷。選挙戦を有利に進めるには景気の下支えが不可欠で、環太平洋連携協定(TPP)に対する議会の反発を抑えるためにも「米政府は円安誘導をけん制する必要がある」(エコノミスト)という。ルー米財務長官と会談した麻生氏は「(日米ともに)選挙があり、TPPを抱えている。互いに意見を交換し、感情的な話からもつれることのないよう配慮しないといけない」と表明した。ニッセイ基礎研究所の上野剛志氏は「G7の結束をアピールするため(為替政策について)強く出ることは避けたのだろう」と分析。今後については「再び円高が進んでも、日本が円売り介入をするのは難しいのではないか」と話した。サミット議長を務める安倍晋三首相は、世界経済の持続的成長へ向け「明確で力強いメッセージを出したい」と意気込む。ただ財務相会議で浮き彫りになったように各国の思惑が絡み合う中、合意取りまとめへのハードルは高い。

*2-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160516&ng=DGKKASGM15H3Q_V10C16A5MM8000 (日経新聞 2016.5.16) 独財務相「財政出動の要請ない」 G7で慎重姿勢表明か
 ドイツのショイブレ財務相は15日、日本経済新聞の書面インタビューに答え、日本政府による追加財政出動の具体的な要請は「ない」と明言した。主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)は財政政策の協調を探るが、ショイブレ氏は慎重な姿勢も示した。26~27日のサミットに先立ち、G7は20~21日に仙台で財務相・中央銀行総裁会議を開く。この会議で財政や景気について合意し、首脳がサミットで確認する段取りを描く。ショイブレ氏は仙台の会議に出席する。ショイブレ氏は「目先の効果にこだわり、借金を積み上げるだけになってしまう事態は避けたいと(G7の)みんなが思っている」との認識も示し、仮に要請があっても追加の財政出動は難しいとの考えをにじませた。G7会議でこうした見解を表明するもようだ。日本政府は、安倍晋三首相が5月のメルケル独首相との会談で「機動的な財政出動が求められており、G7で一段と強いメッセージを発出したい」と語り、政策協調に理解を求めたとしていた。為替政策では米国と日本の温度差も目立つ。

*2-4:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/314200
(佐賀新聞 2016年5月21日) G7、財政出動は各国判断、経済下支えへ政策総動員
 仙台市で開かれた先進7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議は21日、減速する世界経済を下支えするため、各国が必要に応じ財政出動することを確認し閉幕した。国ごとの事情を踏まえ金融政策、構造改革を組み合わせて政策を総動員する。課税逃れやテロ資金対策をG7が主導することで一致。為替を巡っては円高を警戒する日本の為替介入を米国がけん制した。焦点の財政出動は構造改革を重視するドイツなどの慎重論を踏まえ各国判断とし、日本が目指した一斉出動は見送られた。

*2-5:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/314144
(佐賀新聞 2016年5月21日) G7、税逃れとテロの温床解明、財務相会議閉幕
 仙台市で開かれた先進7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議は21日、国際的な課税逃れやテロ資金の拡散を阻止するため、不正の温床となりがちなタックスヘイブン(租税回避地)を使った資金取引の解明に連携して取り組むことを確認し、閉幕した。麻生太郎財務相とルー米財務長官は討議に先立ち2国間で会談し、為替政策を巡り協議した。ルー氏は通貨の切り下げ競争を回避することが重要との認識を強調した。20日の討議で金融・財政政策と構造改革を各国の事情に応じて総動員することで一致したことと併せ、26、27両日開かれる主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に成果として引き継ぐ。

<男性社会の欠陥>
PS(2016年5月31日、6月5日《図表》追加):麻生氏のように生活費の上限など考える必要もなく、自分が保育や介護の担当をすることも想像したことがなく、セメントの売れる方が有難いと思う人が財務大臣になった時点で、我が国の財政への取り組みがどうなるかは推測できた。しかし、男性も家計や家事に主体的に参加し、消費者とは自分や家族のことであることを体感し、消費者の行動はどういうものかという感覚を身につけなければ適切な政策を考えることはできないため、世のお母さん方は男の子にもそのような素養を身につけさせる教育をすべきだ。何故なら、現在の男性中心社会は、そういうことを理解した上で働いている人が少なく、いてもマイノリティーで発言権が小さいのが欠陥だからである。

     
  2014.9.17   2015.4.2    延長時の   社会保障負担増        九州の   
  朝日新聞     西日本新聞  年金支給額                  介護保険料負担増
  年金制度   年金支給額減額

*3:http://qbiz.jp/article/87837/1/
(西日本新聞 2016年5月31日) 麻生氏 増税再延期を容認も、『首相との違い』にじませる
 麻生太郎財務相は31日の閣議後の記者会見で、安倍晋三首相が消費税増税の再延期方針を固めたことに関し「首相の最終的な判断に従う」と容認姿勢を表明した。2020年度に基礎的財政収支を黒字化する健全化目標の達成に向け「最大限努力していく姿勢は変わらない」と強調した。麻生氏は予定通りの増税を求めていた。再延期なら夏の参院選に合わせた衆参同日選をしないと「筋が通らない」とも発言していたが「解散は首相の専権事項だ」と、首相の意向を尊重する考えを示した。30日夜の首相との会談内容に対する言及は避けた。一方、増税分を財源に見込んでいた社会保障の充実策については「給付と負担のバランスを考えていくのは当然だ。そういったものは増収額に応じて措置すべきだ」とし、先行実施は困難との姿勢を示唆した。麻生氏は原油安などで「新興国経済が深刻な事態になっている」と指摘しながらも、増税再延期の背景として「一番の問題は(国内の)個人消費が伸びていない点。世界経済は従の原因だ」と述べ、主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)で世界経済の「危機回避」を強調した首相の見解との違いをにじませた。

<高齢者の貧困と社会保障>
PS(2016年6月1日追加):「高齢者は金持ちである」という事実に基づかない情報を基に、社会保障改革と言えば高齢者からぶんどり、高齢者への社会保障を削減することを続けてきた結果、*4のように、生活保護受給世帯の50.8%が65歳以上の高齢者となった。このように、事実を調査することなく、事実に基づいた深い考察もせずに、厚労省の怠慢を隠すべく若者と高齢者を対立軸として観念的に行われてきた高齢者いじめは、底が浅く、それこそ人格を批判されるべきことである。しかし、完全失業率が低下傾向にあるため、65歳以上の高齢者も働きやすくして支える側にまわってもらえば、年金支給開始年齢を上げ、医療・介護費を減らすことは可能だろう。

    
 2016.6.1、2016.2.16西日本新聞      賃金の推移        失業率の推移

*4:http://qbiz.jp/article/87933/1/
(西日本新聞 2016年6月1日) 生活保護50%超高齢者 82万世帯 過去最多
●9割単身、貧困深刻
 生活保護を受給する世帯のうち、65歳以上の高齢者を中心とする世帯が3月時点で過去最多の82万6656世帯となり、初めて受給世帯の半数を超え50・8%となったことが1日、厚生労働省の調査で分かった。うち単身世帯が9割に上った。厚労省の国民生活基礎調査では、高齢者世帯は約1221万世帯(2014年6月時点)で、受給世帯は約6%に当たる。高齢化が進行する中、低年金や無年金で老後を迎え、身寄りもなく生活保護に頼る高齢者の貧困の深刻化が鮮明になった。厚労省の担当者は「高齢者が就労できず、就労しても十分な収入を得られていない」と分析。景気回復による雇用改善で現役世代の受給が減る一方、高齢者の伸びが全体の受給者数を押し上げており、この傾向は今後も続くとみている。厚労省によると、全体の受給世帯数は前月より2447世帯増加して163万5393世帯で、過去最多を3カ月ぶりに更新。受給者数は216万4154人で2847人増え、人口100人当たりの受給者数である保護率は1・71%だった。

<税外収入の可能性>
PS(2016年6月3日追加):消費税増税を延期(本当は永久凍結か国税としての消費税は廃止したいが)すると、*5-1のように、「①増税先送り、次の世代より次の選挙」「②ポピュリズムに陥らず増税も唱えてきた税のプロの姿はそこにはない」「③増税から逃げたら社会保障を含め予算を切るしかない」などと批判するメディアが多い。しかし、①は単純な算術しかできていない上、目先しか見えない愚鈍な発想であり、②は“ポピュリズム”“プロ”の定義を(わざと?)取り違えている。また、日本だけ「社会保障の財源は消費税」としているのは、③の論法で消費税増税を国民に受け入れさせるための悪知恵だ。
 しかし、国民に負担をかけずに国富を増やして社会保障財源を捻出するのが本当の知恵であり、日本の排他的経済水域からは、下のようにメタンハイドレート、レアメタル、*5-2の金鉱石なども発見されている。そして、海底は国有財産であるため、国は公会計制度を導入して正確な財務管理を行うと同時に、これらの鉱業を早急に事業化して税外収入を得るべきであり、20年以上も「消費増税を先送りすれば次の世代の負担が大きくなる」などという馬鹿の一つ覚えの虚偽記事をメディアが書いていることこそ、次世代に悪影響を与えているのだ。

    
    日本の    メタンハイドレート  鹿児島湾の海底で     青ケ島沖で金鉱石発見
 排他的経済水域    の分布       レアメタル発見          *5-2より               

*5-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160603&ng=DGKKZO03157310T00C16A6EA1000 (日経新聞 2016.6.3) 決断増税先送り(2)次の世代より次の選挙
 増税先送りを首相の安倍晋三(61)が表明した1日夜。首相公邸に幹事長の谷垣禎一(71)ら自民党役員が顔をそろえた。「批判も含め、参院選で審判を受けたい」。安倍がカリフォルニアワインを振る舞いながら上機嫌であいさつすると、出席者の一人は「こういう説明もあるのかな」とつぶやいた。谷垣らが増税延期を正式に聞いたのはこの数日前。党幹部は「すでに決定事項で議論の余地はなかった」と話す。しかし安倍が早くから増税延期に含みを持たせる中、党側に議論する時間がなかったわけではない。
   □   □
 2月、安倍から消費増税の先送りを考えていると打ち明けられた首相補佐官の衛藤晟一(68)は、同じ安倍側近の政調会長の稲田朋美(57)に「安倍さんの思いは増税延期ですよ」と伝えた。稲田が主宰する党財政再建特命委員会。2月の会合で園田博之(74)は「増税から逃げたら社会保障を含め予算を切るしかない。この場で増税の是非を議論すべきだ」と稲田に迫った。だが同調する声は出ず、特命委が増税延期を議論することは最後までなかった。自民党税制調査会も5月31日、幹部会合を開いたが増税延期は議論しないまま終わった。幹部の一人は「官邸が決めた以上、何もできない」。ポピュリズムに陥らず増税も唱えてきた税のプロの姿はそこにはない。同じ31日の政調全体会議も、政策決定のあり方には異論が出たものの、増税延期自体には目立った反対はなかった。理由は単純だ。参院選を控え、増税を訴える選挙は勝てないと肌で感じているからだ。政党交付金と選挙の公認を握る安倍には刃向かえない。だが不満はくすぶる。「増税を先送りするような安倍政権だ。我々がもっと頑張らなければいけない」。6月1日夜、都内で開いた額賀派会合。消費税を導入した元首相、竹下登を兄に持つ前復興相の竹下亘(69)はこう訴えた。同じ頃、近くで開いていた岸田派会合では、名誉会長の古賀誠(75)が「首相は芯がない。何をしたいのかわからない」と日本酒を口にしながらぶちまけた。ポスト安倍候補の外相、岸田文雄(58)は受け流したが、出席者から「安倍政権の終わりの始まりだ」「官僚は官邸しか見ていない」と不満が漏れた。こうした声が公の会議で出ず、遠ぼえにしか聞こえないのが今の自民党だ。自民党会派を離脱した前参院幹事長の脇雅史(71)は「権力に弱く、言論空間としての国会が死んでいる」と話す。
   □   □
 2月17日の自公党首会談。安倍が「増税はもちろんやります。ただ経済情勢も注視しますが……」と話すと、公明党代表の山口那津男(63)は「経済は生き物ですからね」と応じた。安倍は「山口さんも経済次第で延期はやむを得ないと考えている」と受け取った。山口は谷垣とともに2012年、社会保障と税の一体改革で消費増税を決めた民主、自民、公明3党合意の当事者。だが前回14年の増税先送りに続き、今回も延期を認めざるを得なかった。痛みを分かち合う時代の政治の知恵とされた3党合意はかすむ。3党合意のもう一人の当事者が民進党の前首相、野田佳彦(59)だ。野田は2日、参院副議長の輿石東(80)に電話で安倍批判を展開した。「19年まで延期なんて誰も信じません。世界経済のリスクなどと言ったら絶対にできない」。その野田も苦しい立場にある。「安倍さんは必ず延期すると言いますよ。その前にこちらが表明しないと機会を逸します」。民進党の発足間もない4月上旬、代表代行の江田憲司(60)は代表の岡田克也(62)に促した。先手を打って延期を表明すれば、安倍が増税する場合、争点にできる。安倍が延期を表明すれば「アベノミクスの失敗」と訴えられる。こう踏んだ岡田は5月18日の党首討論に照準を定めた。党首討論の前週、野田は岡田から「2年延期を打ち出したい」と相談を受けた。岡田は野田の下で一体改革に取り組んだ間柄だ。野田は不満を抱きつつ「代表の足を引っ張ることはしない」と岡田を立てた。野田も安倍と同様、衆院解散時の消費税発言を問われる立場にある。解散した12年の記者会見で「民主党は次の選挙より次の世代を考えた候補者がそろう」と話したからだ。自民党の重鎮の一人は嘆く。「今の政治は与党も野党も、次の世代より次の選挙しか考えていない」

*5-2:http://qbiz.jp/article/88036/1/ (西日本新聞 2016年6月2日) 高濃度の金 海底に 東大発見 鉱石1トン中最大275グラム 伊豆諸島・青ヶ島沖
 伊豆諸島・青ケ島(東京都)沖の海底熱水鉱床で高濃度の金を含む鉱石を発見したと、東京大のチームが2日、発表した。最高で1トン当たり275グラムの高濃度の金を含むものもあり、陸地や他の海域の金鉱石と比較しても高い値だったという。東大の浅田昭教授は「金の採掘を事業化するには同様の鉱床を多く見つける必要がある。この海域の調査を進め、今回のような場所をさらに見つけたい」としている。チームは、海中ロボットから音波を出すことで、海底の地形を高い精度で調べられる装置を開発。昨年6〜9月、青ケ島の東方約12キロにある東青ケ島カルデラを調査し、海底から噴出する熱水に含まれる金属成分が沈殿した海底熱水鉱床を複数発見した。そのうち、カルデラ南部の水深750メートルの小さな丘のような場所で採取した鉱石を分析すると、金や銀を多く含んでいた。分析した15個の鉱石のうち、金の最高の濃度は1トン当たり275グラムで、平均値は同102グラムだった。また0・003〜0・09ミリの大きさの金粒子も確認できた。世界の主要金鉱山の金含有量は1トン当たり3〜5グラムとされ、今回見つかった鉱床の金の割合は高い。飯笹幸吉・東大特任教授は「資源としては期待の持てるエリア」と話した。
■海底熱水鉱床…地中から熱水が噴き出す海底の周りで、熱水に含まれる金属成分が沈殿してできた鉱床。煙突のような噴出口や、小高い丘などの地形が特徴で、含有される金属には銅や鉛、亜鉛などのほか、貴金属の金や銀がある。貴重な資源とされるガリウムやゲルマニウムなどのレアメタルも多く含むものもある。日本近海では伊豆や小笠原の周辺や沖縄海域などでの存在が知られ、政府は商業化に向けた探査や技術開発を推進している。鉱床にすむ生物が特殊な生態系を構成していることでも注目されている。

<本当の責任者>
PS(2016年6月4日追加):安倍首相がTPPテキスト分析チームを表明すると、多くのメディアが「社会保障財源が云々」と騒いでいるが、社会保障財源はもともと社会保険料を徴収して賄っているものであるため、まず徴収漏れや積立金の運用方法を批判すべきである。そして、消費税を増税したからといって、それ以上の景気対策を行えば、社会保障が充実するとも財政状態が改善するとも言えないため、消費税増税延期について自民党と野党連合を舌戦させても意味がなく、「敵は厚労省・財務省にあり」なのだ。
 なお、安倍首相が電力自由化を進められたことは誰にでもはできない大きな実績であり、消費税増税問題で票が減ったからといって責任をとる必要はない。何故なら、誰がやっても、消費税増税も増税延期も票が減る論調にされるからだ。しかし、自民党の憲法改正草案はひどすぎるため、これをおかしく思わない集団が憲法改正国会発議に必要な3分の2以上を占める事態は阻止すべきである。

*6:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/319269
(佐賀新聞 2016年6月4日) 参院選へ舌戦、初の週末、アベノミクス推進、3分の2阻止
 7月の参院選が事実上スタートして初の週末を迎えた4日、各党幹部らが各地で舌戦を繰り広げた。安倍晋三首相(自民党総裁)は経済政策アベノミクス推進へ意欲を表明。目標とした与党による改選過半数(61議席)獲得に届かなかった場合に退陣する可能性について明言を避けた。一方、民進党の岡田克也代表は、自民党など改憲勢力が憲法改正の国会発議に必要な定数の3分の2以上を占める事態を阻止する決意を示した。

| 経済・雇用::2015.11~2016.8 | 04:01 PM | comments (x) | trackback (x) |
2016.5.23 舛添都知事を辞めさせることが目的で都民の感情に訴えた報道は、法律的でも論理的でも民主的でもないこと (2016年5月25、26日、6月1、5、7、10、13、14、15、19日に追加)
 私が、2005年12月に決定した第2次男女共同参画基本計画に、例えば「女性はしとやかで謙虚でなければならず、男性は志と勇気が必要」「女性は文学、男性はエンジニア」というような社会的・文化的に形成された性別(ジェンダー)の強制を禁止する項目を盛り込もうとした時、「それは『男女同室宿泊』や『男女同室着替え』のことか」などという驚くような次元の異なる反論が自民党内の男女共同参画部会でも盛んに出た。その時、参議院議員で隣に座っていた舛添さんに、「こういうことは男性から言ってもらった方が説得されやすいので・・」と発言を頼んだところ、ビシッと的を得た発言をして場をリードしていただいた(これは、経歴や女性遍歴などの背景を知って、より納得できた)。そのため、今回は、本人は言いづらく、私の方がよく知っていて言いやすいことについて援護する。

   
  舛添都知事をめぐる金の流れ   政治資金について        家賃は適切か

    
    出張旅費について        公用車について       都知事記者会見のポイント 
                                         (2016.5.14中日新聞)
(1)舛添都知事が行ってきた政策
 この2年の舛添都知事の政策判断は、*1-1の現代ビジネスの2016年5月10日に、①ロンドンと友好都市協定を締結した ②財政出動よりも構造改革、金融改革、財政出動のいずれも必要である ③アベノミクスの原点は金融緩和政策で日銀はマイナス金利まで導入しているが、いくら金融緩和しても企業のガバナンスが改善しなければ成長のための資金は集まらない などが書かれている。

 このうち、①の友好都市協定はないよりあった方がよいに違いない。また、②の財政出動はドイツが言うとおり構造改革・金融改革があった後に必要ならやることで、日本もこれ以上、無駄遣いで借金を積み増せるような状況ではないと私も考える。さらに、③は、企業のガバナンス以前に②の政府のリーダーシップに問題があり、政府の政策に最適化して利益を挙げようとして、企業のガバナンスは変わるものだ。

 また、東京オリンピックにおける東京都の負担額がうなぎ上りに上がりそうだった時に「待った」をかけたのは舛添都知事で、これは都民の代表としては当然の行為だったが、元自民党森派の長で現在は東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の森喜朗会長とは対立したと思われる。 

 さらに、*1-2のように、東京都は、2016年4月8日、電力小売り事業に参入すると発表し、福岡県みやま市などでつくる電力会社「みやまスマートエネルギー」が、技術やノウハウ面で協力することになった。電力自由化が行われても、再生可能エネルギーのみを使って電力を供給する事業者は少ないので、埼玉県など他県でもやって欲しいところだが、これには舛添都知事の判断があったらしい。舛添都知事は、「今回の取り組みでノウハウを蓄積し、再生エネ由来の電気を供給する事業者を育てていきたい」としているが、これは既得権益のある大手電力会社にとっては都合の悪い意思決定だっただろう。

 従って、全体としての舛添都知事の政策は、日本政府より的確だったものが多いが、政府要人を多く出している旧森派や既得権益を持つ企業・省庁にとっては邪魔だったと考えられる。

(2)メディアは人格批判に終始し、嘘や妬み、不法行為でないことへの法律の拡大解釈が多い
 5月11日発売の週刊文春が報じたのが発端で、*2のように、舛添都知事の資金管理団体「グローバルネットワーク研究会(既解散)」が「会議費」名目で千葉県内のホテルに支出した約37万円が家族旅行に充てられ、政治資金規正法違反(虚偽記載)の“疑い”があると、新聞・テレビは、舛添都知事の政策実行に関する報道に費やした時間とは比較にならない時間を費やして、このことばかりを報道した。

 しかし、私は、都知事としての判断力や実行力を問題にするのではなく、「税金から支出」などとする誤りを含む疑いの段階で公職選挙法違反として派手にしつこく報道して、人格攻撃で引きずりおろそうするのは、都知事を選挙で選んだ有権者を馬鹿にしており、本当の民主主義になっていないと考える。

 また、メディアの記者の質問や番組でのコメントを聞くと、*3-1、*3-2のように、政策や法律・経済には全く触れず、ただ辞任させることのみが目的の結果ありきの低レベルの質問を繰り返しているため、政治的意図がありありとわかり、国民の方が報道の適切性を見抜けるほど賢くならなければならない。

1)出張費について
 最初、報道で、上の写真のように、舛添都知事が海外出張の際にファーストクラスを使ったことが大名旅行として批判されたが、ファーストクラスは外交官が普通に乗っており、サラリーマンが海外出張にビジネスクラスを使うからといって、東京都知事もビジネスクラスを使わなければならない理由はない。つまり、批判の内容が自分と異なるクラスを使っていたというものだが、東京都知事は、そのスケジュールの厳しさや責任の重さから見てサラリーマンクラスではなく外交官クラスだ。ただし、都の職員は、サラリーマンの海外出張であるため、ビジネスクラスを使うのが適切だろう。

 なお、米国では、会社の社長クラスは自家用機を普通に持っており、日本でもトヨタの社長は自家用機を持っておられる。つまり、「時と体力は金なり」という人もいるのであり、すべての人が同じでなければならない理由はない。

2)公用車の使用について
 「公用車での毎週末の別荘通い」というのは、別荘を持っていることが贅沢に見えたのかもしれないが、私は、都内の本宅に本を置ききれずに湯河原に別荘を買って書庫を作り、そこに本を置いている弁護士さんを知っているため、舛添都知事が別荘を持っているからといって、特に贅沢とは思わなかった。

 また、「公用車で別荘に行く」のが公私混同だと思う人もいるかもしれないが、(長いものに巻かれずに)本物の改革をやればいつでも身の危険があるため、SPをつけて公用車で動くのは正当な注意だ。そのため、舛添都知事が毎週末に公用車で別荘に通ったことは公私混同ではなく、都も禁止していない。

3)後援会の収支報告について
 上の図のように、問題となっている舛添都知事の資金管理団体である「グローバルネットワーク研究会」は、2014 年2月の都知事選のために設立された後援会であって政党支部ではない。そして、新党改革本部から舛添氏の参議院比例区第四支部に2014年1月に政党交付金600万円が払い込まれ、そのうち526万円が2014年1月中にグローバルネットワーク研究会に寄付され、新党改革比例区第四支部は同1月末に解散されており、新党改革比例区第四支部の収支報告書は監査済である。そして、参議院比例区第四支部からグローバルネットワーク研究会に寄付する行為は適法であって問題なく、526万円程度の寄付金は3,000万人都市の東京都知事選では、印刷代くらいで終わったと考えられる。

 なお、政党交付金は税金で賄われているため、政治活動に入らないような私的な費用に充当されれば国民は苦情を言う権利があるが、後援会であるグローバルネットワーク研究会には、このほかにも多額の寄付があったらしく、2014年7月の解散時にも4,960万円が残っており、それを新しい後援会である秦山会に寄付してから解散している。政党交付金以外の寄付は、政党支部ではないグローバルネットワーク研究会には個人が行ったものしかなく、それは寄付する個人の所得からなされたものであって、税金から支出されたものではない。

 ただ、政治家個人の後援会への寄付であっても、政党等寄附金特別控除を受けられるので、寄付金控除をとった人はその分だけ税金を負けてもらっている。しかし、寄付金控除をとるためにはグローバルネットワーク研究会が総務大臣もしくは都道府県選挙管理委員会の確認印のある「寄附金(税額)控除のための書類」を発行して、それを添付する必要があるため多くの人がそれを利用したわけではないと思われる(https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1260.htm 参照)。

 つまり、「グローバルネットワーク研究会」が支出した費用の殆どは、税金から支出されたのではなく、舛添都知事誕生を支持した人の懐から出たものである。そして、グローバルネットワーク研究会の解散時にどうすべきかについては特に規則はないため、代表者が決めることができるのだ。

 そのグローバルネットワーク研究会が「会議費」として千葉県内のホテルに支出した約37万円が家族旅行に充てられており、政治資金規正法違反(虚偽記載)の疑いがあると2016年5月11日発売の週刊文春が報じたそうだが、選挙は妻や子も巻き込むため、家族旅行を会議費として事前の打ち合わせや御苦労会をしたとしてもわからなくはない。ちなみに、私は家族に事前の打ち合わせも御苦労会もしないため母から文句を言われていたし、国会議員になって嫁の来手がなくなったとぼやいている人もいた。

4)公職選挙法違反か
 家族旅行は、私的なものであるため税引後所得から行うべきとするのが日本では一般的で、私も基本的にはそう思っている。そして、弁護士である夫の所得税確定申告を税理士である妻が請け負った手数料を弁護士の夫が損金処理したケースでは、夫婦はいかなる場合でも同一世帯だとして税理士である妻の手数料受領と夫の損金算入を否認した判例があるが、私は妻の仕事は無償とする判例は時代にそぐわないと考える。

 何故なら、妻も仕事をする機会を持っているため、他の仕事をせずに夫の仕事を手伝った場合は、夫から何らかの報酬があってしかるべきであり、個人事業主の青色専従者のような制度が政治家の妻にあってもよく、上記の税理士である妻への税務申告手数料は損金算入が認められてよいと思うのだ。

 そして、家族旅行を会議費として処理したのが虚偽記載で公職選挙法違反かと言えば、その旅行でどういう話をしたかによる。もちろん、人の疑いを買うような灰色の行動はしない方がよいが、法律に禁止規定がないため法律違反ではないだろう。

 なお、「資料代」の名目で美術品を購入していたというのは、私は感心しないが、グローバルネットワーク研究会の支出の仕方については、寄付した人が文句を言わなければよいのであって、支出内容や解散時の残余財産処理に関する法律の定めがないため、違法行為にならない。なお、美術品ではなく美術書だとする記事もあるが、それならば東京都のために文化について研究していたとも考えられるので、「資料代」でよい可能性がある。

5)家賃について
 上の図では、税金が舛添氏個人宅の家賃に流れたように書いてあるが、グローバルネットワーク研究会については税金ではなく個人の寄付金を自宅事務所の家賃に充てたものである。そのため、家賃としての価格の適正性は問われるが、税金を横流ししているものではない。なお、新党改革比例区第四支部時代にも同額の家賃を支払っており、こちらは監査を通っているのだから価格の適正性もあるのだろう。

6)婚外子がいるのは不当か
 「週刊ポストの2014年1月24日号に、*4-1のように、結婚3回、離婚2回で子供2人に愛人の子3人で、凄すぎる『女』と『カネ』、現在『隠し子、養育費裁判』係争中」などとプライバシーが曝露されているが、1986年に再婚した相手である片山さつき氏は東大助教授だった舛添氏と見合い結婚し、離婚後に「愛のない結婚で、舛添さんと結婚したことがそもそも間違いだった」と述べておられる。しかし、私は、愛のない結婚の被害者は両方であって片方ではないと思う。

 また、愛人のA子さん、B子さんも、他に選択肢はあったにもかかわらず、相手に妻がいることを承知の上で未婚の母になったのであり、私自身は相手の妻や自分の子のことを考えれば未婚の母になるのは問題だと思うが、近年は少子化を口実にそれを推奨する人もいるわけだ。

 そのような中、バラエティー番組などでこのことを笑っている人たちも、芸能関係の人がついたり離れたりして両親を誇れない悲しい子どもが大量生産されているのを批判したことはないため、政治家へのヘイトスピーチと政治家の汚さをアピールするために批判しているにすぎず、民主主義に関する深い考察や首尾一貫した考えのないことは明らかである。

(3)「表現の自由」をかざしたメディアが、本来の目的である民主主義を護る表現はしていないこと
 私が(1)(2)で書いたことは、*4-2でまとまった記事になっており、舛添都知事が辞任して橋下氏が都知事選に出馬すれば首相にとって一石三鳥の戦略だとされている。そのため、少なからぬ人が舛添都知事の辞任を待っていることは確かだろうが、その根拠は、正しく報道された民主主義の結果ではない。

 なお、舛添都知事の辞任後、大阪から大阪府知事だった橋下氏を立候補させなければならないほど、東京は人材不足ではない。

 また、政治は、人格攻撃による電撃辞任や電撃解散、W選挙やトリプル選挙によってもてあそばれるべきものではない。何故なら、それでは、国民が一つ一つの政策について冷静に選択することができなくなる上、優秀な人は馬鹿らしくて政治家にならなくなるからで、そうなることを望んでいる人は誰だろうか。そして、知事も、よい政策を選択する判断力と実行力を持つことが必要条件であることは言うまでもない。

(4)今後、やるべきこと
 国会議員に「政治とカネ」の問題が浮上する度に、政治資金規正法は改正を重ねて、*3-3のように、2007年12月、国会議員に関する政治団体は1万円以上の支出に関する領収書を公開することとなり、登録政治資金監査人(登録を受けた弁護士、公認会計士、税理士)による政治資金監査も義務づけられた(政治資金規正法第19条の13第1項)。

 しかし、国会議員以外の政治家は5万円以上の支出に関する領収書を公開すればよく、*4-3のように、政治資金監査が義務付けられたのは国会議員関係の政治団体のみであり、その他の政治家には義務付けられていない。そのため、その他の政治家は監査人の指導やチェックを受けることもなく、素人が適当に会計処理しているというのが現状である。

 また、政治資金監査は、①会計帳簿、領収書等が保存されていること ②会計帳簿にその年の支出状況が記載され、会計責任者が会計帳簿を備えていること ③収支報告書は、会計帳簿及び領収書等に基づいて支出の状況が表示されていること ④領収書等を徴し難かった支出の明細書等は、会計帳簿に基づいて記載されていること の4点のみについて行われ、監査人はそれに関する意見表明しかしない。

 監査人は、単式簿記による会計と政治資金規正法からは、この程度のことしか証明できないのだろうが、これでは、監査を受けて適法意見が表明されても政治資金管理団体の会計責任者や代表者は十分に保護されない上、利害関係者(納税者、寄付者)にとっても透明ではない。

 そのため、今後は、すべての政治家の政治資金管理団体の会計を民間企業と同じ複式簿記によるものとし、フル規格の監査で適法意見を表明するように、政治資金規正法を改正するのがよいと考える。

<舛添都知事の政策>
*1-1:http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48618
(現代ビジネス 2016.5.10) 友好都市の先進事例から学ぶこと
 海外出張経費については、批判の声に謙虚に耳を傾け、目下、無駄の削減について検討中であるが、一方で、テロ対策をはじめ多くの分野で成果が上がっていることもまた記しておきたい。昨年、ロンドンのボリス・ジョンソン市長と東京都知事の私は、両都市の友好都市協定を締結したが、それ以来、協力関係のさらなる強化を図っている。この10日には、2012年にロンドンで開かれたオリンピック・パラリンピック大会の警備を担当した元ロンドン警視庁の副総監を都庁にお迎えし、テロ対策についてアドバイスを頂く。スコットランドヤードとの会談の後、警視庁のテロ訓練の現場を視察し、日々精励している警察官を激励する予定である。とくに、羽田の東京国際空港ターミナルにおいては、様々なケースを想定した訓練を行いたいと考えている。26,27日には主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)が開かれるが、東京でも厳戒態勢を敷く。2005年にイギリスのスコットランドで開かれたグレンイーグルズサミットの最中の7月7日、ロンドンで公共交通機関を標的にした同時爆破テロ事件が発生している。サミット開催国の首都である東京もまたテロと無縁ではない。ロンドンの経験に学ぶことは多い。ロンドンでは、ジョンソン市長が、兼任している国会議員職に専念するため任期満了で市長を退任したのを受け、5日に市長選挙が行われた。その結果、最大野党である労働党の下院議員、サディク・カーン氏(45歳)が、与党保守党下院議員のザック・ゴールドスミス氏(41歳)を破って当選した。欧米主要都市で初のイスラム教徒の市長である。イスラム国などによるテロが頻発し、反イスラム感情が高まる中での、今回のカーン氏の勝利は、イギリスの民主主義の成熟度を示す証左でもある。最近、ロンドンでは住宅価格の高騰が続いており、若い世代がマイホームを持つのは不可能な状況である。この問題などを争点化したこともカーン氏がロンドン市民の支持を受けた理由である。その住宅価格の高騰は、とくに海外からの投資によるところが大きい。東京の研究機関によるランキングで世界一の座を占めるだけに、ロンドンは魅力にあふれており、その不動産は格好の投資対象となっている。二位のニューヨーク、三位のパリもまた同様な状況であるが、東京はまだその段階に達していない。だから四位の座に甘んじているのである。これらの都市を訪ね、市長と会談を重ね、活気ある都市作りを視察することは、東京にとっても大いに参考になる。先月訪問したアメリカでは、ニューヨーク、ワシントンDCで、公的住宅のあり方について議論することができた。住宅こそは都市の活気の源であり、今後とも友好都市の先進事例から学びたいと思っている。
●コーポレイト・ガバナンスの改善は東京から
安倍総理は、伊勢志摩サミットの準備のため、議長国首相として欧州諸国を歴訪した。最大の課題は経済政策の調整であるが、安倍首相が積極的に進めようとする財政出動に対して、フランスとイタリアは賛成の姿勢を示したが、ドイツとイギリスはあまり積極的ではない。ドイツのメルケル首相は、「構造改革、金融政策、財政出動の三つとも必要だ」と主張している。安倍首相にとっては、消費税増税を予定通りに行うか否かを判断する材料ともなるだけに、この問題は政治的に微妙である。しかし、経済そのものを見ても、アベノミクスを成功させるためには、さらなる大胆な政策の展開が必要である。メルケル首相が言うように、構造改革、金融改革、財政出動のいずれも必要であるが、とくに日本の場合、経済のグローバル化が進行する中で、企業のコーポレイト・ガバナンスの改善が不可欠である。最近、家電業界など日本企業が外国企業に買収されるケースが話題になることが多いが、それは日本企業のガバナンスに問題があるからである。アベノミクスの原点はベースマネーを増やすという金融緩和政策である。日銀は、マイナス金利まで導入している。しかし、いくら金融緩和をしても、企業のガバナンスが改善しなければ、成長のための資金は集まらない。会社法改正によって、企業のガバナンスを改善する法的仕組みは整っている。たとえば、ライツ・イッシュー(株主割当増資)を使いやすくすることが、企業の増資の選択肢を拡大させる。それは、ダイリュージョン(一株利益の希薄化)を招かずに既存株主の利益を守ることができるからである。企業のコーポレイト・ガバナンスの改善は、まずは東京の企業から始めてもらいたい。そのために、行政ができる支援は躊躇しないし、国際金融センターなどの整備もまた、日本企業の国際競争力を増すことにつながる。先月訪問したニューヨークでは、ウォール街でこの問題について講演し、またNY証券取引所とは協力関係を強化していくことで合意した。官民あげて、成長戦略を前進させるしか日本経済再生の道はない。東京都は、国や他の自治体に先駆けて、日本経済復活への道を歩む決意である。

*1-2:http://qbiz.jp/article/84490/1/
(西日本新聞 2016年4月9日) みやま市が東京都に技術協力 再生エネルギーモデル事業
 東京都は8日、電力小売り事業に参入すると発表した。福岡県みやま市などでつくる電力会社「みやまスマートエネルギー」が、技術やノウハウ面で協力する。都の公益財団法人「東京都環境公社」を通じて、7月から都内の公共施設2カ所への電力供給を始める。都は都内の電力消費量に占める再生可能エネルギーの割合を2030年までに30%程度に高める目標を掲げているが、再生エネのみを使って電力を供給する事業者が都内には少ないのが現状。都がモデル事業として小売りに乗り出すことで、再生エネの利用拡大を図る。公社は今回、バイオマスや太陽光に由来する再生エネの電力を宮城県と都内の2事業者から調達する。みやま社は、昨年11月から公共施設などに電力を供給してきたノウハウや技術を提供。電力の需給調整のほか、再生エネ由来の電力の共同調達などで公社と連携する。公社が調達した電力をみやま市に融通する計画もある。みやま社は業務を受託することで、事業規模の拡大を図る。「電力の地産地消」を掲げるみやま社は、10月にも新電力会社の設立を目指す鹿児島県肝付町なども支援。さらに、九州大と共同で電力小売り事業に参入する自治体向けのソフトウエアの開発を始めており、今後も全国の市町村との連携を広げていく考えだ。この日、記者会見した舛添要一都知事は「今回の取り組みでノウハウを蓄積し、再生エネ由来の電気を供給する事業者を育てていきたい」と述べた。

<人格批判に終始するメディア>
*2:http://digital.asahi.com/articles/ASJ5C3TP6J5CUTIL00X.html
(朝日新聞 2016年5月11日) 会議費で家族旅行と報道 舛添知事「調査指示した」
 東京都の舛添要一知事の資金管理団体「グローバルネットワーク研究会」(解散)が「会議費」名目で千葉県内のホテルに支出した約37万円が、家族旅行に充てられ政治資金規正法違反(虚偽記載)の疑いがあると11日発売の週刊文春が報じた。舛添氏は同日午前、報道陣に対し「事務所に、調べるように指示した。精査が終わればコメントしたい」と述べた。同研究会の政治資金収支報告書によると、研究会は千葉県木更津市の「龍宮城スパホテル三日月」に2013年1月3日に約23万8千円、14年1月2日に約13万3千円を支払っており、支出目的はともに「会議費用」となっている。週刊文春は会議ではなく家族旅行だったとする関係者の証言を紹介し、政治資金規正法違反(虚偽記載)の疑いがあると指摘した。舛添氏は報道陣から自身の記憶ではどうかと問われたが、「不正確なことは言いたくない」と話した。

<法律違反より批判のための批判>
*3-1:http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG20H62_Q6A520C1000000/?n_cid=NMAIL002 (日経新聞 2016/5/20) 舛添都知事、支出問題は弁護士に調査依頼 辞任は否定
 東京都の舛添要一知事は20日の定例記者会見で、政治資金の一部を私的な支出に充てていた問題について、第三者の弁護士に支出が適切だったかどうかの調査を委ねる考えを示した。舛添知事は「公正な目で見てもらう必要がある。第三者にしっかり調査してもらい、改めるところを改めたい」と述べた。調査期間については「できるだけ早くしたい」と述べた。また、自身の進退については「全力を挙げていい仕事をしたい。都民のために尽くしたい」として、辞任を否定した。舛添知事をめぐっては、自身が代表を務める政治団体の政治資金収支報告書の記載に、「資料代」の名目で美術品を購入していたり、「会議費」としたものが家族との旅行が含まれていたりするなど、相次ぎ問題が指摘されていた。

*3-2:http://mainichi.jp/articles/20160521/k00/00m/040/057000c
(毎日新聞 2016年5月20日) 2時間16分間繰り返す「第三者に…」60回以上
 東京都の舛添要一知事は20日の定例記者会見で、政治資金の私的流用を相次いで指摘されていることについて「政治資金規正法に精通した複数の弁護士に(政治資金収支報告書などの)調査を依頼する」と表明した。「第三者に厳しい目で調査いただく」と繰り返すこと60回以上。舛添氏が17日に「20日の定例記者会見で答えたい」と自ら宣言して迎えた2度目の「釈明会見」は2時間16分に及んだが、政治資金の使途などの説明は全て先送りされた。「説明責任は果たした」と強弁した会見から1週間。噴出する「疑惑」を追及された舛添氏は疲れた表情を見せ、口調も弱々しかった。会見場には約170人の報道陣が集まった。薄いグレーのスーツに紫色のネクタイを締めた舛添氏は冒頭の2分間、東京都内の劇場不足対策を説明した。都庁関係者は「文化行政に関心の高い知事が、自ら説明したいと望んだ」と明かす。対策に関する質問が出ないのを見て、舛添氏は手元の資料をそろえると「政治資金についてご心配、ご迷惑をおかけしていることを心から深くおわび申し上げます」と、深々と頭を下げた。その後も「厳しいご指摘をいただいている」「疑念を持たれて恥ずかしい」「真摯(しんし)に反省し改善したい」と述べ、頭を15回下げて反省を強調した。ところが、不透明な政治資金の使途に関する問いには全て口をつぐみ、「政治資金に精通する弁護士に調査をお願いする」「第三者の公正な目で見ていただく」と繰り返した。公用車の使用や一部を政治資金で購入した美術品の保管場所など政治資金以外の問題についても、第三者に調査を委ねるとして説明を拒んだ。恣意(しい)的な公私混同との指摘には「そういう意図はない」と否定したが、政治団体の会計責任者に個人の会計も託した理由を尋ねられても「反省している」「(会計責任者に)精査してもらうため」「システムとしてそうしていた」と言うばかり。市民団体が東京地検に政治資金規正法違反容疑などで舛添氏と会計責任者だった男性の告発状を送付したことに関しては「当局から捜査に協力を求められれば真摯に対応する」と述べた。批判がやまない状況に「私は信頼を失っている」と認め、信頼回復の道筋を問われると「都民のために仕事をしたい」と視線を落としながら答えた。

*3-3:http://mainichi.jp/articles/20160521/ddm/003/010/030000c
(毎日新聞 2016年5月21日) 舛添氏資金問題 疑惑説明は全て先送り 強気の背景に法の不備
 政治資金の不透明な支出などを指摘されている東京都の舛添要一知事は20日の定例記者会見で、第三者に調査を委ねる方針を示す代わりに、具体的な疑問に対する説明を一切拒み、辞職の意思がないことも重ねて強調した。問題の背景には政治資金を巡る制度の不備がある。説明を尽くそうとしない同日の会見を見て、知事選で舛添氏を支援した自民、公明両党からも厳しい声が出始めた。「全力で都民のために仕事をしたい」。舛添氏は20日の会見で謝罪しつつ、知事続投の意思を強調した。さまざまな疑惑が浮かびながらも、こうした強気の姿勢を見せる背景には、今回の政治資金の問題が違法性を問いにくい「支出」に関するものという点がある。国会議員に「政治とカネ」の問題が浮上する度に政治資金規正法は改正を重ねている。ただ、規制の大半は、企業などからの不正献金を防ぐための「収入」についてのことだ。2005年10月の改正では、政治団体間の献金に年間5000万円の上限が設けられた。07年1月以降、松岡利勝農相(当時)ら自民党の閣僚に事務所費の不正支出疑惑が相次いで発覚した。同年2月には民主党の小沢一郎代表(同)の資金管理団体が政治資金で10億円相当の不動産を取得していたことが明るみに出た。これらを機に同年12月、国会議員に関係する政治団体は原則全ての支出の領収書を公開することや不動産取得を一部制限することを柱とした改正法が成立した。支出の中身を「全面公開」させ政治家に「自主規制」を促すのが狙いだった。しかし、その後も政治資金の支出を巡る問題は続く。10年6月、民主党政権の荒井聡国家戦略担当相(同)の政治団体が少女コミックや音楽CD、キャミソールなどの購入費を支出したことが発覚した。自民党政権でも小渕優子経済産業相(同)の資金管理団体が、ベビー用品やブランド衣料品などを購入したことが14年10月に問題となった。政治資金制度に詳しい岩井奉信・日本大教授(政治学)は「使途に規制がないため、問題となった政治家も『運が悪かった』と思うだけ」と指摘する。実際に07年の事務所費問題の後、支出の問題だけで閣僚辞任や議員辞職に至ったケースはなく、議員が謝罪し費用を返して幕引きしている。舛添氏が政治資金から千葉県木更津市のホテル宿泊費を支出した問題などで、市民団体が政治資金規正法違反(虚偽記載)容疑などでの告発状を出した。岩井教授は「本人が『会議を開いた』と言えば罪に問うのは難しい」とみる。その上で「適法なら問題ないということではなく、問われているのは政治活動としての支出の妥当性。舛添氏は説明を尽くし都民との認識のずれを埋める努力をすべきだ」と批判する。一方、税金が原資の政党交付金を巡っても抜け道がある。舛添氏が代表を務める政党支部「新党改革比例区第4支部」は都知事選出馬を控えた14年1月末、支部解散直前に429万円余の政党交付金を舛添氏の別の政治団体に寄付した。政党解党時の政治資金を巡っては自由党党首だった小沢氏が03年9月、解党直前に政党交付金を含む13億円余を自身が管理する政治団体に資金移動していたことが問題となった。政党助成法は政治団体解散後の交付金の残金について「総務相が国庫に返納させることができる」と定めるものの、解散直前の資金移動は対象にならない。小沢氏の政治団体も返金していない。規正法の支出の公表基準は、国会議員と知事の資金管理団体で異なる。舛添氏の場合、参院議員時代は1万円超の支出は全て報告書への記載義務があり、請求されれば領収書を全て開示しなければならなかったが、知事の場合、公開の対象になるのは5万円以上の支出のみ。仮に私的な飲食などに政治資金を支出しても、5万円未満であれば支出の検証は困難になる。
●自公も厳しい姿勢
 20日の舛添氏の会見を受けた与野党の反応は、1週間前の会見の時よりも厳しさを増している。舛添氏を巡るさまざまな問題が発覚した後も静観の構えを続けてきた都議会自民党の幹部は「(記者の質問に)あまり答えていなかったように見受けられた。第三者に調査してもらうと言っていたが、党としては6月の議会で『追及するものは追及する』という立場を取ると思う」と述べた。これまで議会で追及することはないとしてきた都議会公明党の幹部も「所信表明でどう説明するかが全てだ」と厳しい姿勢を見せた。臨時議会の開催を求めている共産党都議団は「(地方自治法に基づく)百条委員会の設置をはじめ、都議会として全容を解明するために全力を尽くす」とし、都議会民進党(旧民主系)の幹部は「本会議で追及せざるを得ない」と冷ややかに語った。国政レベルでも「説明不足」という指摘が相次いでいる。公明党の井上義久幹事長は20日の記者会見で「説明責任を果たしていただきたい」と注文を付けた。与党幹部は「このような質疑応答が毎週の会見や都議会で続けば、都政が滞る」と懸念を示した。ただ、与党は前回の都知事選で舛添氏を支えただけに、表立って進退を問う声は出ていない。自民党の谷垣禎一幹事長は17日の会見で「猛省が必要だ」と苦言を呈するにとどめた。舛添氏が辞職し出直し知事選になれば「自民党に次の知事候補が見当たらない」(同党幹部)という事情もある。これに対し共産党の志位和夫委員長は20日、「都民の不信は非常に強くなっている。都議会でも徹底的な真相究明をやっていきたい」と追及する姿勢を示した。その上で「説明できないなら、(知事の)資格に関わるのは当然だ」と断言した。民進党の岡田克也代表は20日の会見で「舛添氏を評価してきた私からみると、がっかりすることが続いている」と述べた。

<政治>
*4-1:http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q13120650713 (「週刊ポスト2014年1月24日号) 舛添要一の凄すぎる「女」と「カネ」、結婚3回、離婚2回、子供2人に愛人の子3人、現在「隠し子、養育費裁判」係争中』
 首都の顔を決める都知事選挙。有力候補の一人と見られているのが無所属での出馬を表明した舛添要一・元厚労相(65)だ。実は舛添氏、類い稀な男性的魅力を持っているようで、「永田町イチの艶福家」として知られているのだ。舛添氏の最初の結婚は1978年、相手はフランス人女性だった。出会いは、舛添氏が東大法学部政治学科を卒業後、パリ大学研究所やジュネーブ高等国際問題研究所の研究員を歴任したヨーロッパ留学中のことだった。帰国後の1979年、舛添氏は31歳の若さで東大教養学部の助教授に就任。だが、プライベートも順風満帆とはいかず、1981年に破局を迎えている。
1986年に再婚した相手はというと、いまや政治家として全国区の知名度がある片山さつき・参院議員だ。片山氏は大蔵省(現・財務省)入省後、フランス国立行政学院に留学。帰国後の27歳の時、東大助教授の舛添氏とお見合い結婚した。結婚当時は“ミス大蔵省”との呼び声も高く、後に女性初の主計官も務めた。そんな片山氏は結婚生活について、最近のインタビューでこう振り返っている。
<舛添さんと結婚したことがそもそも間違いであったと思います。愛のない結婚をしてはいけないということ。私の人生における大変大きな間違いだった>(『婦人公論』2013年2月22日号)
そう振り返る結婚生活はわずか2年3か月で終わりを告げる。離婚の理由を片山氏はこう打ち明けている。
<慌しく始まった結婚生活でしたが、「平穏」だったのは最初の数週間だけ。「遅く帰ってきやがって!」突然、彼は怒鳴り始めたんです>(『週刊新潮』2010年5月6・13日号)
一旦怒り始めると、舛添氏は怒鳴る、手当たり次第にモノを投げつける、そして、ある時にはいくつものサバイバルナイフを片山氏の目の前にズラーッと並べたこともあったという。
<彼は、ナイフの収集が趣味だったんです。しかも、そのうちの一つの刃先を私に向けたことまであります。(中略)結局、結婚から3か月ほどで、弁護士に離婚を相談しました。すると、弁護士の調査で彼には愛人が、そして彼女が妊娠中であることも分かった>(同前)
その「妊娠中の愛人」を仮にA子さんとしよう。A子さんが東大の学生だった時、舛添氏が指導教官という立場で知り合った。すぐに「もう妻(片山氏)とは別れるから」と舛添氏がA子さんに猛アプローチ。押されるまま付き合い始めたA子さんは1988年、男児を出産した。A子さんの知人が当時の状況を振り返る。「A子さんの存在を知って激怒した片山さんが、バッグに包丁を忍ばせてA子さんと舛添氏がいた部屋に怒鳴り込んできたことがありました。真っ先に部屋を飛び出した舛添氏が逃げ込んだ先は、もうひとりの愛人B子さんの部屋だったそうです」。A子さんの子供を舛添氏が認知したのは1990年。認知するまでの2年間に、B子さんが女児を出産、さらに同時期に他に2人の女性とも交際していたことがわかったという。目まぐるしい女性遍歴の末、舛添氏が15歳年下の現在の夫人である雅美さんと再々婚したのは1996年だ。なお、その前年にB子さんは2人目の女児を出産した。もちろん父親は舛添氏。その後、雅美夫人との間には、2000年に長女、2003年に長男が生まれている。振り返ると、結婚は3回、離婚は2回。2人の愛人が産んで認知した子3人と、雅美夫人との間の子2人を合わせると、舛添氏には計5人の子供がいることになる。

*4-2:http://news.livedoor.com/article/detail/11531554/ (NEWSポストセブン、週刊ポスト2016年5月27日号 2016年5月17日)橋下徹氏が都知事選出馬なら首相にとって一石三鳥の戦略
 舛添要一・東京都知事が絶体絶命のピンチに立たされている。公用車での毎週末の別荘通いや税金を使った海外出張時の大名旅行ぶりへの批判に加え、政治資金で家族旅行をしていたのではといった疑惑が次々発覚、釈明はしたものの都民の不信感は高まるばかりだ。ここに来て都議会自民党関係者からは、6月1日辞任、7月10日に都知事選挙と参議院選挙をWで行なうといった憶測も急浮上してきた。都議会自民党の背後には当然官邸の思惑がある。官邸の思惑通りに舛添電撃辞任によって参院選と都知事選のW選挙となった場合、焦点は新たな「東京五輪の顔」となる都知事候補が誰になるのかだろう。自民党都議の1人は、「知事を辞任させるべきだという声は強いが、ネックは有力な後任が見当たらないこと。都連は参院選の東京選挙区に2人候補を擁立する方針だが、乙武洋匡氏がスキャンダルで出馬断念した後、参院でも2人目の候補がいまだに見つからないというのが実情。ましてや都知事候補となると高い知名度がいる。候補が決まりさえすれば一気に選挙戦に動くことができるのだが」と語る。自民党内の人材難は、前回都知事選で党を除名されていた舛添氏を担がざるを得なかったことが証明している。そこでウルトラCの候補として浮上しているのが「無役」となったあの人だ。政治ジャーナリストの角谷浩一氏はこう見る。「舛添氏を降ろして出直し都知事選となれば、短期決戦だから、有権者にとって顔と名前が一致する知名度の高い候補でなければ勝負にならない。その意味で、大阪府知事と大阪市長を経験し、首長としての経験十分な橋下徹氏の名前が官邸周辺で囁かれています」。橋下氏は「政界を引退する」と大阪市長を退任した後、『おおさか維新の会』には正式に参加せずに現在は弁護士業とテレビ・コメンテーター業を務めているが、安倍官邸、特に菅義偉官房長官との太いパイプを持つことで知られる。そもそも菅氏は橋下氏に政界入りを説得した人物で、橋下氏も引退会見で菅氏を「とんでもない政治家だ」と手放しで絶賛するなど、いまだに強い信頼関係がある。もし、橋下氏が無所属で都知事選に出馬し、安倍政権と自民党が全面支援すれば、知名度からいっても野党側が対抗できる候補を擁立するのは難しいだろう。政治評論家の浅川博忠氏もこう語る。「現在の安倍政権は外交・防衛に力を入れ、世論が求めている社会保障や景気回復がおろそかになっている。アベノミクスの限界も見えてきた。そういう状況の中で参院選と都知事選のダブル選挙になった場合、大都市圏は革新が強い傾向があるため、通常であれば野党にアドバンテージがあると考えられます。ただし、安倍政権が橋下氏を擁立できれば風向きはガラリと与党有利に変わる可能性が高い。橋下氏にはそれだけのインパクトがある。橋下氏の出馬が前提なら、安倍政権にとって都知事選とのダブルは切り札的になるでしょう」。安倍首相は参院選で公明党、おおさか維新などを合わせた改憲推進勢力で3分の2の議席確保を目指している。橋下氏自身は参院選出馬に否定的だが、都知事選に出馬すれば、相乗効果でおおさか維新の参院選での議席の上積みも見込める。首相にとっては参院選のテコ入れと都知事選勝利、改憲勢力の拡大というまさに一石三鳥の戦略だ。橋下氏も憲法改正について「今度の参院選がワン・チャンスだと思っている。泣いても笑っても、ここを逃せば、10年、20年と憲法改正の機会は遠のく」と語るなど首相と同じ考えだ。

*4-3:http://www.soumu.go.jp/senkyo/seiji_s/todokede/answer05.html#q5_4
Q.登録政治資金監査人による政治資金監査制度の概要について教えてください。
A.
I.国会議員関係政治団体(国会議員関係政治団体であった政治団体も含みます。ただし、収支報告書に記載すべき収入・支出がなかった場合はこの限りではありません。)の会計責任者は、平成21年分から、収支報告書を提出するときには、あらかじめ、当団体の支出について、政治資金適正化委員会が行う研修を修了した登録政治資金監査人(同委員会の登録を受けた弁護士、公認会計士、税理士)による政治資金監査を受けることとされています(法第19条の13第1項)。
II.政治資金監査は、
 i.会計帳簿、領収書等が保存されていること
 ii.会計帳簿にその年の支出状況が記載されており、かつ、会計責任者が会計帳簿を備えていること
 iii.収支報告書は、会計帳簿及び領収書等に基づいて支出の状況が表示されていること
 iv.領収書等を徴し難かった支出の明細書等は、会計帳簿に基づいて記載されていること
の4点について政治資金適正化委員会の定める具体的な指針に基づいて行うこととされています。
III.また、国会議員関係政治団体の会計責任者が収支報告書を提出するときには、政治資金監査の結果作成される政治資金監査報告書を併せて提出することとされています(法第19条の14)。


PS(2016年5月25日追加):公私混同はいけないが、過去の田中角栄氏などの事件と比べて金額が桁違いに小さく、政策を左右するような大きな賄賂はないことがわかる。また、政治資金規正法に使途の規定がない以上、罪刑法定主義の民主国家で突然逮捕されることがあってはならず(法律に規定もないのに、その時の都合で逮捕される方がよほど悪い国である)、政治資金規正法を改正して公私混同がなくなるよう使途の範囲を決めたとしても過去に遡って遡及されることはない。そのような中、*5のように、都議団幹部は、「問題は『知事の資質』で、違法かどうかは主眼ではない」と話したそうだが、単なる標的への攻撃ではなく問題の本質を明らかにして解決に導くつもりがあるのなら、①知事・議員の資質の判断基準は何か ②都議はじめ他の議員はこういうことを全くしていないのか についても議論し検証すべきだ。(*ちなみに、私も、いい加減な会計処理をしたことは全くないのに、変な含み笑いをされたり、いちゃもんをつけられたりして、言っている人のレベルの低さに呆れつつムカーッとしたことがある)

*5:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12374757.html?ref=pcviewpage
(朝日新聞 2016年5月25日) 舛添氏、別荘近くで政治資金 道路回数券200枚・食品店で2万円…
 東京都の舛添要一知事の政治団体が、舛添氏の別荘がある神奈川県湯河原町周辺で政治資金を繰り返し使っていたことがわかった。一連の問題は、政治資金規正法に支出内容に関する規定のないことが背景にあるが、過去には政治家の責任が問われた事例もある。都議会は25日、実態解明に向けた対応を協議する。舛添氏が代表の「新党改革比例区第4支部」(2014年に解散)の政治資金収支報告書や総務省に提出した領収書によると、支部は12年と13年に湯河原町の食料品店で、計約2万1千円を「消耗品」代として支出していた。この店は食料品のほかに棚一つ分のトイレットペーパーやティッシュ、洗剤を置く程度。店側の関係者は「食料品ばかりなのに(舛添氏が)事務所のものを買うわけがない」と話す。舛添氏は土曜日に妻子と来店することが多かったという。12年5月には同町の衣料品店に「消耗品」代として約1万円を支出していた。この店の関係者によると、年2、3回家族と来店し、大人用の下着や子ども服などを買っていたという。支部は11年4月と12年10月、同町につながる有料道路「真鶴道路」の回数券(100回分)を2回、計3万2千円で買っていた。回数券を使えば、本来の通行料金よりも1回あたり40円安く済む。12年9月にはJR湯河原駅で「乗車券類代」として1万2120円を支出。舛添氏は当時参院議員で、JRなどの無料乗車パスが支給されていた。町には舛添氏の別荘がある。舛添氏の事務所に、別荘周辺の支出や政治活動との関連を質問したが、24日夜までに回答はなかった。
■規正法、使途の規定なし
 一連の政治資金をめぐる問題について、舛添氏は25日に第三者的に調べる弁護士らを選任する。これまで宿泊費などの支出について「政治活動の費用で問題ない」と繰り返してきた。政治資金規正法では、収支報告書に記す支出額の基準は定められているが、支出の内容の是非について規定がない。元検事で同法違反事件を多く手がけた郷原信郎弁護士は「政治資金の支出に関して刑事責任を問われた例は恐らく過去にない。おかしな支出でも『政治活動だ』と強弁されると覆せないし、記載が虚偽だとしても『意図的だ』という立証が難しい」と話す。同法は繰り返し改正されてきたが、主に企業献金など「収入」に関する規制強化だ。「支出」は、松岡利勝農水相(当時)らによる事務所費の不正支出問題が相次いだことを受け、07年に国会議員の関係政治団体が全ての領収書の公開を義務づけられた程度だ。疑惑を受けた対応は様々だ。佐田玄一郎行政改革担当相(同)は06年、活動実体が無い政治団体の活動費約7800万円を計上していた問題で閣僚を辞任した。他方、荒井聰国家戦略担当相(同)の少女コミックやキャミソールなどの購入問題(10年)では、辞任にまで至らなかった。東京経済大学現代法学部の加藤一彦教授は「違法でなかったとしても、政治家としての説明責任はある。都民の信頼を取り戻さなければ、都政運営もできず、辞任が現実味を帯びる」と指摘する。
■都議会が追及へ
 舛添氏の政治資金などの問題を追及する都議会は6月1日に開会する。野党の共産党都議団は25日の議会運営委員会で、強い調査権限を持つ百条委員会の設置を提案する方針を固めた。都議団幹部は「政治資金や高額な海外出張費、公用車での別荘通いを3点セットで調べるべきだ。問題は『知事の資質』。違法かどうかは主眼ではない」と話す。24日には、正副議長や各会派の幹事長らに書面で趣旨を説明した。知事に自身の言葉で説明してもらうため、総務委員会での集中審議も求めるという。都議会民進党など3会派も、舛添氏が「第三者に調査を委ねる」と繰り返した20日の記者会見後に、「信頼を損ねた責任は大きい」などとする談話を出した。一方、舛添氏を知事選で支援した与党の自民、公明は、「まずは6月1日の本会議での所信表明をしっかりと聞く」という姿勢を変えていない。


PS(2016.5.26追加):*6では、①「公私混同」の範囲 ②支出の内容に踏み込む監査制度の導入 が問題になっているが、①については、都知事としての仕事に必要なものは「公」、それ以外のものは「私」 と定義できる。そのため、都知事としての海外出張は紛れもなく「公」であって東京都の予算から出張費が出ており、都知事選のための会議費なら後援会から支出することもあり得る。また、美術書は、都知事としての見識を得て都の文化政策に資する目的であれば「公」であり、個人の趣味による収集に留まるのなら「私」である。なお、自分で車を運転していてわざとぶつけられたり、命を狙われたりすることを避けるため公用車を使用するなど、一般の人には常識の範囲外だが、政治家には正当な注意ということもあるため、要注意だ。 また、②については、収支報告書や使途報告書が単式簿記に基づいて作られていると、都合の悪い費用は掲載せず、その分は収入も少なく計上するという操作が可能であるため、収支報告書や使途報告書を複式簿記による帳簿に基づいて作るよう変更し(会計ソフトをそのように変更すれば会計処理は簡単)、網羅性・検証可能性を備えた上で公認会計士のフル監査を受けるようにすべきだ。これにより、経験のある会計責任者も含めて、会計処理の正確性に気をつけるようになるとともに、多くの議員がそれを行うようになればソフトの値段や監査料も下がる上、国民にとっては透明性が増し、政治家がカネの問題で陥れられることもなくなる。

*6:http://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20160526&c=DM1&d=0&nbm=DGKKZO02787810V20C16A5CR8000&ng=DGKKZO02787890V20C16A5CR8000&ue=DCR8000 (日経新聞 2016.5.26) 舛添氏、強気の背景 政治資金規正法、支出制限難しく 専門家「明確な違法性ない」
 舛添知事を巡る「公私混同」疑惑が広がりをみせるなか、知事は説明責任を果たしていない。その背景には政治活動とプライベートとの線引きを曖昧にできる政治資金を巡る法律の不備がある。米国人画家の作品や裸婦像、掛け軸、美術関連の洋書……。知事の国会議員時代の政治団体の収支報告書に「資料代」や「書籍代」と記されているものには一見、政治活動とは関係がなさそうなものが並んでいる。知事は「美術品の収集が趣味」と公言しているが、政治資金で購入したものについても「海外の方との交流を行う際のツールだ」として法律上の問題はないと強調。専門家の多くも「グレーだが、明確な違法性はない」と指摘する。正月に家族と宿泊した千葉県木更津市内のホテルに「会議費用」として計約37万円を支出したことも「同じ部屋で事務所関係者らと会議をした」と説明し、政治活動の範囲内とする。釈明の背景には政治資金規正法に「支出」の是非の規定がなく、政治家が「政治活動」と主張すれば違法性を問いにくいことがある。規正法が主眼を置くのは不透明な資金が入っていないかをチェックする「収入」の部分で、「支出」については領収書の公開が義務付けられている程度だ。日本大の岩井奉信教授(政治学)は「支出の制限は政治活動の自由の制限につながりかねず、一律の規制は難しい」と指摘する一方で、「このままでは国民の納得は得られず、政治不信を高めてしまう。支出の内容にも踏み込む監査制度を導入すべきでは」と提案している。


PS(2016年6月1日追加):*7で、「『原点』忘れた?舛添都知事 『弱者向いた政治を』→福祉政策に疑問符 『公のために尽くす』→クリーンほど遠く」と題して、1)海外出張が豪華だったこと 2)後援会資金を「私」目的に使用したこと から舛添都知事の全人格を否定しているが、言えることと言えないことをごっちゃにしており、これが日本によくある「だから資格がない」と結論する典型的な方法であるため、その論法が正しいか否かを検証する。
 まず、①については、賄賂をもらってその人に有利な政策を実行したのではなく(これが最も大きな問題)、後援会から「私」目的の金を支出するほど困窮していたと考えられるので、クリーンでないとまでは言えない。また、②③は、舛添氏の言っておられることは、当時は「寝かせきり」が問題になっていたので本当だが、舛添氏(東大法学部卒、政治学者)が厚生労働大臣だった時に厚生労働委員会で阿部知子衆議院議員(東大医学部卒、小児科医)のポイントを突いた質問に的確に応えておられるのを私も聞いていて、医学知識のない法学部卒の人がそこまで的確な答えができるのは自分が経験して問題意識を持っているからに違いないと確信した。そのため、③の「福祉施設の視察が少ない」のが本当であるとしても、都知事は全体の仕事をやらなければならないので、よくわかっている分野に割く時間はむしろ少なくするだろうし、国(財務省・厚労省)の方針が「高齢者から子どもへの予算移動」となっているため、法学部卒の都知事がそれに逆らう理論構成をして結果を出すのは困難だったとも考えられる。さらに、④の「『己を慎み、品行を正しくし』ていないので人格を全否定し、その他のすべてを否定する」論法は、日本ではよく使われるが、「探したら重箱の隅に傷を見つけたので、それを重箱として使えないと宣言する」というのと同様、論理的ではなく感情的であり、主権者や青少年をミスリードすると考える。

*7:http://mainichi.jp/articles/20160531/dde/012/010/003000c (毎日新聞 2016年5月31日) 「原点」忘れた?舛添都知事 「弱者向いた政治を」→福祉政策に疑問符 「公のために尽くす」→クリーンほど遠く
 この人が「東京の顔」とは、情けない。海外への豪華出張や政治資金の使途を巡り、公金感覚の欠如が批判される舛添要一東京都知事。釈明に追われ、6月1日から始まる定例都議会では、進退問題も含め、厳しく追及されるのは必至だ。かつては「首相にふさわしい」とも評価された舛添氏は、政治を志した「原点」をお忘れなのだろうか。
①〓政治は強者のためではなく、弱者のためにある。これが私の政治哲学だ〓
 舛添氏は2014年に都知事に就任した直後に出版した著書「東京を変える、日本が変わる」の中でこう記した。猪瀬直樹前知事が選挙資金の問題で辞任したことに伴う選挙だっただけに、舛添氏に「クリーンな政治」を期待した都民も多かったに違いない。“政治哲学”の「弱者」の2文字に注目するのが、NPO「高齢社会をよくする女性の会」理事長で、東京家政大名誉教授の樋口恵子さん。1990年代後半、「国際政治学者」として活躍していた舛添氏とテレビ番組で一緒になったことが何度もあったという。「彼は00年に介護保険法が施行される前から、認知症の母の介護をしたことで知られ、番組でも体験を話していました。内容はともかく、親の介護に携わる男性が非常に少なかった時代。この頃は『介護の舛添さん』という印象が強かった」。98年には「遠距離介護」の日々をつづった著書「母に襁褓(むつき)をあてるとき」を出版する。おむつを指す「襁褓」をタイトルに入れた著書にはこうある。
②〓自力で歩いていた母が(施設に入所後)、車椅子が不可欠な身となりました。また、おむつなど不要だったのに、「寝たきり」、いや「寝かせきり」老人になってしまい、昼夜を問わずおむつが必要になりました。わが国の高齢者福祉の現状を告発せざるをえません〓
 この著書には北九州市で暮らす母の元へ、東京から月2〜5回通ったとも記している。おむつ代を医療費控除の対象にする際、税務署で領収書以外に「おむつ使用証明書」の提出を求められたり、母の送迎に使う福祉車両購入時に煩雑な手続きを強いられたりしたことも紹介している。00年にみとるまで、遠距離介護は5年間に及んだ。この時点では、舛添氏の視線は真っすぐに弱者に向けられていたのだろうか。舛添氏の名を「全国区」に押し上げたのが、87年から続くテレビ討論番組「朝まで生テレビ!」だ。司会を務めるジャーナリストの田原総一朗さんは「舛添さんは国際政治に詳しく、世論におもねらない発言をする。88年ごろ、僕が東大の助教授だった彼をマスコミの世界に引き込みました」と振り返る。舛添氏が政治の道を歩み始めたのは99年の都知事選から。この時は、その後4期続く石原慎太郎氏に敗れた。01年、参院選比例代表に自民党から立候補し、約159万票でトップ当選。07年には厚生労働相として入閣した。10年の自民党離党後は紆余(うよ)曲折もあったが、14年の都知事選で初当選を果たす。では「政治とカネ」についてはどう考えていたのか。08年の著書「私の原点、そして誓い」をひもとくと、こんな記述があった。
③〓私利私欲を離れて、公のために尽くすという気持ちになる、つまり無私という境地に達しないかぎり政治家になるべきではないという信念を抱いていましたし、今もそれは変わりません。その覚悟がないかぎり、金権腐敗の政治家に堕落する危険性が常につきまとうからです〓
 しかし、である。家族同伴のホテル代や美術品の購入代金などに政治資金を充てていたことが判明。これでは「私利私欲を離れて」いるとは言えまい。前出の樋口さんは「初心を忘れたのか、思ってもいないことを著書に記したか、そのどちらかでしょう。『お年寄りのために』と政治を志した舛添さんには、質実剛健なところを見せてほしかったのですが……」と残念がる。一方、認知症の母を07年にみとるまで、在宅で7年間介護した作家の落合恵子さんはこう問いかける。「介護をすれば誰でも、いや応なく『政治の壁』にぶつかり、『政治を変えなければ』と思います。しかし、舛添さんが都知事になってから、福祉の分野で大きな政策を実現したとの記憶がありますか」。1人暮らしの高齢者の増加と貧困問題、介護ヘルパーの離職率の高さ……。落合さんはこれらの現実を挙げながら、「都知事は、首相に次ぐほどの発言力と決定力を持つはずですが、自身の介護体験が政治に十分生かされていないのでは」と言うのだ。27日の記者会見では、報道陣から「美術館や博物館の視察は多いが、福祉施設の視察が少ないのでは」との質問も出た。舛添氏の答えは「そういうご批判があることも踏まえ、反省すべきは反省し、改めるべきは改めたい」。政治の「原点」に関わる問いに、多くを語らなかった。舛添氏は周囲に「天下を取りたい」と話したこともあるという。田原さんの証言。「天下を取るということは、自民党の政治家にとって、いずれ総裁、首相になること。実際、党内には舛添さんを総裁にという声も上がっていた。10年に党を飛び出さずにとどまっていれば、舛添政権が誕生する可能性もあり得た」。今の舛添氏に対して、田原さんは「国民が怒っているのは、法律違反の有無ではなく公私混同です。まずは2人の弁護士による調査結果を待つが、きちんと説明責任を果たさなければならないだろう」と語る。舛添氏は続投する方針だが、6月の都議会を乗り切れるのかという問題もある。元都職員の佐々木信夫中央大教授(行政学)はこう見る。「与党の自民、公明はジレンマを抱えています。舛添氏に甘い対応を取れば、夏の参院選、来夏の都議選に影響が出かねない。一方、今辞任に追い込めば7月に知事選が行われ、4年後の任期満了と東京五輪が重なってしまう」。こんな政治事情で“延命”しても、状況は険しさを増す。「舛添氏が何を言っても説得力がなく、都庁職員もついてきません。都議会が地方自治法に基づき、調査権限の強い百条委員会の設置で合意したらアウトでしょう」。再び舛添氏の「原点」につながるであろう発言を紹介したい。都庁に初登庁した14年2月、幹部職員を前に明治維新の功労者、西郷隆盛を引き合いにこうあいさつした。
④〓(西郷は)遺訓の中で、「万民の上に位する者、己を慎み、品行を正しくし、驕奢(きょうしゃ)を戒め、節倹を勉(つと)め、職事に勤労して人民の標準となり、下民其(そ)の勤労を気の毒に思ふ様ならでは、政令は行はれ難し」と喝破しています。都庁の職員一人一人が、天に恥じない仕事をするとき、必ずや都政に対する都民の信頼が回復するものと確信しております〓
 「己を慎み、品行を正しくし」という言葉がむなしく響く。多くの都民に愛想を尽かされてしまったトップの前途は厳しい。


PS(2016年6月5日追加):舛添都知事が航空機のファーストクラスや宿泊時にスイートルームを使ったことが問題になっているが、伊勢志摩サミットで、オランド仏大統領は最高級の新館ロイヤルスイート(210平方メートル、1泊21万6千円)に泊まり、オバマ米大統領は2番目に高級な本館ロイヤルスイート(96平方メートル、同17万8200円)に2泊したそうだ。また、食事は、伊勢志摩、三重、日本の食材のすばらしさを提供したメニューだそうだが、これが首脳ではなく、例えばケネディー駐日大使が訪れても、最高のもてなしをして日本のよいところを感じて帰って欲しいと願うのが自然ではないだろうか。
 そして、これは、東京都知事が海外に行った時も同じで、現地の人はやはりそう思うだろうし、都知事が海外の高級ホテルの食事や設備などのもてなしを体験して来る意味もある(ホテルの居室でもぼやっとしていないで仕事するということ)。このようにマスコミが騒ぐ中、都庁に寄せられた苦情や意見が約2万2700件あり、都議会の傍聴席が満員になったそうだが、苦情を言っていない大多数の人は問題にしておらず、都議会の傍聴席がこのようなことでしか満員にならないのは民主主義国としてお寒い限りだ。つまり、政策では議論できず、このようなことでフィーバーして、何が何でも謝罪させたり辞任させたりしたがるメディアこそ、性格が悪い。

*8-1:http://digital.asahi.com/articles/ASJ655K47J65ONFB00T.html?iref=comtop_8_01 (朝日新聞 2016年6月5日)  オバマ氏は2番目、最高級部屋は誰? サミット会場公開
 主要7カ国(G7)首脳会議(伊勢志摩サミット)の主会場、賢島(三重県志摩市)の志摩観光ホテルは5日、舞台となった会場や首脳らが宿泊した客室を報道関係者に公開した。首脳らは5月26、27の両日、新館「ザ ベイスイート」のラウンジや本館「ザ クラシック」のレストランなどで会合を重ねた。ワーキングランチとディナーで使われた直径約3メートルの円卓2台も公開された。最高級の新館ロイヤルスイート(210平方メートル、1泊21万6千円)に泊まったのはオランド仏大統領。オバマ米大統領は、2番目に高級な本館ロイヤルスイート(96平方メートル、同17万8200円)に2泊した。また、同ホテルの樋口宏江・総料理長(44)は会見で「伊勢志摩、三重、日本の食材のすばらしさを提供したい」と心がけたメニューが、首脳らに称賛されたエピソードを披露した。伊勢エビやアワビ、松阪牛を使った26日夕の洋食は、特に伊勢エビクリームスープが好評で、オランド仏大統領からテーブルに招かれ、G7首脳全員に握手を求められた。メルケル独首相にも「あなたがこの夕食を作ったのですか」と聞かれたという。「まさかお声がけいただけるとは。大変光栄で料理人冥利(みょうり)に尽きます」と振り返った。志摩観光ホテルはこれらの部屋に滞在し、同じ円卓でほぼ同様の食事を堪能できる宿泊プランを用意。2人で1泊2食50万~2泊5食100万円で、5日から予約を受け始めた。

*8-2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12388448.html
(朝日新聞 2016年6月2日) 都議会与党も強く反発 舛添知事に「謝罪になってない」
 東京都の舛添要一知事は1日に開会した都議会の所信表明で、政治資金の公私混同疑惑など一連の問題を陳謝し、元検事の弁護士2人による調査について「今議会での審議に間に合うように公表する」とめどを明らかにした。都議会の自民、公明など主要会派は「説明が不十分で納得できない」と反発を強めており、7日の代表質問、8日の一般質問で事実関係を追及する構えだ。会期は15日まで。舛添氏は所信表明25分のうち、およそ3分を問題への対応にあてた。高額との批判が高まっている海外出張費については、航空機のファーストクラスや宿泊時のスイートルームを使わず、経費縮減に取り組むと表明。公用車は「厳格な運用を徹底し、都民の皆様の疑惑を招かないようにする」と述べた。有権者の関心は高く、この日の都議会は、190枚用意された傍聴券がすべて配布され、満員になった。先月31日までに都庁に寄せられた苦情や意見は約2万2700件にのぼっている。
■あきれる傍聴者
 「怒られたから謝った、という感じ。子どもの発言のようだ」。傍聴席で所信表明を聞いた東京都世田谷区の会社員巽(たつみ)一郎さん(55)はあきれた表情で話した。2年前の都知事選で、お金にクリーンなイメージから舛添氏に投票した。「何が悪かったという説明を聞きたかったが、もう信用はない。辞めてほしい」。渋谷区の自営業女性(52)も「淡々と原稿を読んでいて、謝る意思をまったく感じなかった」と憤る。議席の約6割を占め、前回の知事選で舛添氏を全面支援した自民、公明からも不満が噴出。これまでの「静観」から一転、対決姿勢を見せ始めた。「説明は納得できない。言語道断だ。厳しく追及する」。公明の長橋桂一幹事長は都議会後、強い言葉で舛添氏を批判した。自民のベテラン都議は「今日で潮目が変わったかもしれない」と話す。会派内では議会後、「(所信表明は)謝罪になっていない。どうしようもない」という声が相次いだという。「リオデジャネイロ五輪を控えているうえ、次の知事候補を探す時間もない。いますぐ辞めさせるわけにはいかないが、こんな知事を擁立したことをわびる必要はあると思う」。複数の自民、公明都議の事務所には「知事を辞めさせろ」「参院選では投票しない」などの電話が殺到。ある公明都議は「メディアの目が議会に移り、追及がぬるいと思われると自分たちが糾弾される」と危機感を募らせる。総務委員会の集中審議の開催に、与党側からも前向きな声があがりつつある。
■舛添知事の所信表明の発言
 【疑惑や問題】
 発言内容
   *
 【高額な海外出張費】
 航空機のファーストクラスは使用しない
 宿泊施設のスイートルームは使用しない
 随行職員数を最小限にする
   *
 【公用車使用の公私混同】
 厳格な運用を徹底
   *
 【政治資金支出の公私混同】
 本会議(15日まで)の審議に間に合うよう、(第三者に依頼中の)調査結果を公表
■今後の都議会の日程
<7日・代表質問、8日・一般質問> 知事が「第三者」の調査結果を公表か。各会派が追及へ
<9日、13日・総務委員会> 一連の疑惑を審議か。集中審議になれば、知事に出席を求めて一問一答形式で疑惑を追及することも可能に
<15日・閉会> 会期中に開かれた総務委の集中審議が閉会後に継続することも。会期中に集中審議がなくても、閉会後に開かれる可能性も


PS(2016年6月7日追加):私は、元検事の弁護士による報告は90%以上正確だという印象を受けたが、*9-1のうち、「児童の保護者から子どもが悪い言葉遣いをまねると相談を受けて、どのような表現がなされているかを確認するために『クレヨンしんちゃん』を購入した」というのは、他の人はそこまでしないかもしれないが、舛添氏はそこまでやったのかもしれないと考える(理由:私も確認すると思うから)。
 また、政治資金規正法には、政党支部や後援会を解散した場合に残余財産をどうすべきかについての規定はないため、残余財産のすべてを代表者の舛添氏が受け取ったとしても違法ではない。つまり、わかりやすく書けば、リスクを取って、国の補助金を受ける事業を奥さんといっしょに営んでいた事業主が、その事業を解散する時に補助金を返さなくてよいのと同じであるため、この法律の下で何とか探してケチをつけ、本来の都政を停滞させるのはいかがなものかと考える。

*9-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160607&ng=DGKKASDG06HEW_W6A600C1CC1000 (日経新聞 2016.6.7) ピザの焼き方・「クレヨンしんちゃん」…購入本、家族向け?
 舛添氏が政治資金で買った書籍の中には趣味が目的と取られかねないものも含まれている。「ピザを焼いて振る舞いながら政治課題について意見を聞いたことがある」――。舛添氏はピザの窯や焼き方に関する本の購入理由を弁護士にこう説明したという。洋書や政治書などの購入リストに交じって「のらくら同心手控帳シリーズ」や「ゼロの焦点」などの小説も。舛添氏はそれぞれ「江戸時代の風俗研究のため」「映画化されたので支援者との話題作りのため」としたが、弁護士は娯楽性が強いことから「適切とは言いがたい」と指摘した。「クレヨンしんちゃん」や「イナズマイレブン」などの人気コミックのタイトルも並ぶ。「児童の保護者から子どもが悪い言葉遣いをまねる」と相談を受けた舛添氏が「どのような表現がされているか確認するため」に購入したという。弁護士は家族のために購入したと受け取られてもやむを得ないと苦言を呈す一方、政治資金の使途に法的な制限がないことを挙げて、いずれの書籍購入も「違法とは言えない」との見解を示した。

*9-2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12396555.html (朝日新聞 2016年6月7日) 舛添氏「けじめ」強調 返金・別荘売却、でも辞任は否定 政治資金調査報告
 「慢心があった」「極めて恥ずかしい行動を心から反省」――。東京都の舛添要一知事は6日、政治資金をめぐる疑惑について、これまでよりていねいな言葉で謝る一方、辞任は否定し、「有権者の判断に任せたい」と繰り返した。都政トップの説明責任は果たされたのか。都民や有識者からは疑問の声も上がった。6日午後4時。約200人の報道陣が詰めかける中、元検事の弁護士2人に舛添氏が同席する形で会見が始まった。「違法ではないが、不適切だった」。政治資金で「豪快ダッチオーブンテクニック」などの本やマンガを購入したことをはじめ、私的な宿泊や飲食などに支出したとの疑惑について、佐々木善三弁護士らが見解を読み上げた。続々と挙がる事例に、舛添氏は終始うつむきがちに耳を傾けた。主にインターネットオークションで100点を超える絵画・版画を購入したことについて、舛添氏は「絵画の知識を深めることで、海外の政治家との関係を緊密にできる」と説明したというが、弁護士は不適切だと判断した。家族で天ぷら屋で飲食費を支出したことなども不適切とされた。適切とされた中にも、「政治資金の支出は避けるべきだった」などと指摘されたものもあった。そば打ちやピザ窯の作り方、金魚の飼い方の本の購入について、舛添氏は「政治家仲間とそばを打ちながら政治談義をしたこともある」などと説明したとされる。しかし、佐々木弁護士は「相応の合理性があるが基本的に個人的趣味の本」とした。一方、2011年に上海で13万9178円で買ったシルクの中国服と書道用品について、佐々木弁護士は「書道の際、この服を着ると筆をスムーズに滑らせることができるとの(舛添氏の)説明は説得力がある」と判断した。書道は趣味だが、政治活動にも役立っており適切だ、との理屈だ。舛添氏は、「違法な点がなく、ほっとしたか」と問われると、間髪を入れず「厳しい指摘を受けているので、汗顔の至りだ」と険しい表情で返した。さらに、不適切とされた支出の返金に加え、神奈川県湯河原町の別荘を売却することを「けじめ」と強調。ただ、有権者は納得すると思うかとの質問には「有権者の判断にお任せしたい」と述べるにとどめた。
■「誠意伝わらぬ」
 舛添氏が国会議員になる前から支援してきた元後援会関係者は「最初の会見で自分の言葉で説明できた問題ばかりだ」と批判する。「高校の時も学年トップの秀才だったから、自分のやることに間違いはないと思うんだろう。誠意が伝わってこないし、本当に反省しているとは思えない」と話した。新宿駅周辺で販売員をする女性(75)も「調査結果は、舛添さんが当初から話していたことを第三者の口から言わせただけ。時間稼ぎにすぎなかった」と切り捨てた。
■解明は不十分、指摘も
 「親しい知人から話があり、舛添氏の秘書に会い、きちんと理解してもらった方がいいだろうと思って引き受けた」。調査した佐々木善三弁護士は6日の会見でこう語った。佐々木氏は、東京地検特捜部副部長や京都地検検事正を歴任し、リクルート事件などの捜査を担当した。現金受領問題が発覚した猪瀬直樹前都知事の弁護も担った。もう一人の森本哲也弁護士も東京地検刑事部などで勤務経験がある。佐々木氏と同じ法律事務所に所属し、東京五輪・パラリンピックの旧エンブレム問題では、選考過程を調べる外部有識者による調査委員会のメンバーを務めた。「疑惑を抱える本人から依頼されて調査を行うことで客観性を保てるのか」。こう質問された佐々木氏は「第三者委員会は基本的にそういうもの。今回は第三者委員会ではないが」とし、「十分(調査を)尽くしたと思っている」と語った。これに対し、コンプライアンスに詳しい国広正弁護士は「都知事という公職者の問題なので、本来は百条委員会が必要だが、それに代わるものは真の意味での第三者委員会。その場合、委員会の役割はステークホルダー(利害関係者)である都民の目線で、知りたい真実を調査することにある」という。今回の報告書では、支出が適切か否かや、法的判断の結果が示されたのみで、肝心な舛添氏の真意が明らかにされていないと指摘。「都民が知りたいのは、舛添氏の現在の反省の弁ではなく、支出時の認識のはずだ」と話す。
■これで終わりではない
 危機管理コンサルタントの白井邦芳さんの話 「不適切だが違法ではない」との調査結果に、舛添知事は「これで辞めずに逃げ切れる」と判断したのだろう。だが、知事は法律やルールの境界線上で政治資金を扱っており、コンプライアンス(法令や社会規範の順守)を重視すべき都のリーダーとしての資質に欠ける。弁護士の調査内容は一定の評価はできるが、知事が自分の費用で依頼しており、透明性や客観性に疑問が残る。これで終わりではなく、今後限られた期間で都議会がどこまで追及できるかが重要だ。


PS(2016年6月9日追加):舛添都知事の政治資金問題について、*10-1、*10-2のように、マスコミは連日、①会議費名目の家族旅行 ②高額な海外出張費 ③公用車の使い方など、参議院議員選挙を前に他に報道すべきことは多いだろうに、舛添氏を辞任させることが目的の悪意のある報道を続けている。しかし、このうち東京都が支出した費用は、②③だけで、これが東京都の規則違反ではなく、理由をきちんと説明できれば東京都民が問題にする理由はない。
 また、①については、「グローバルネットワーク研究会」は舛添氏の後援会で、代表者の意志で使い方を決められるため、仮に「家族旅行」だったとしても違法ではないし、政治資金規正法は領収書の添付しか義務づけていないため、請求書を添付しないのは普通である。その上、舛添氏の奥さんは政治活動で重要な働きをしているので、「夫婦だから私的」とするのもサラリーマンの想像にすぎない。さらに、会議に参加したという出版社社長の名前も、その人がメディアにおしかけられたり、嫌がらせをされたりするのを防ぐため、私であっても言わないだろう。
 なお、これまでの舛添都知事の説明や「別荘の売却」「給与の減額」などの対応はポイントをついていないが、これは、辞めさせることを目的として揚げ足取りをし集中砲火を浴びせている人たちにまともな説明をしてもポピュリズムに基づく変な反論をされてかえって不利になるのを防いだり、政治資金規正法に詳しくないので慎重に対応したりしているためと思われる。なお、政治資金規正法(特殊な法律)に詳しい人は稀だが、少なくとも政治資金規正法を使って批判する人はよく調べてからにすべきだ。

*10-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12402181.html
(朝日新聞 2016年6月10日) 都議会、集中審議13日・20日 舛添氏政治資金問題
 東京都の舛添要一知事の政治資金の公私混同問題などについて、都議会総務委員会は9日の理事会で、集中審議の日程を13日と、第2回定例会(6月議会)閉会後の20日に決めた。知事を呼び、一問一答形式で疑惑を追及する。一方、共産党は今定例会中に不信任決議案を提出することを決定。他会派にも同調を呼びかける方針。知事を呼ぶことは、総務委理事会の全会一致で決まった。政治資金の私的流用疑惑、高額な海外出張費、公用車の使い方について、事前に質問内容を通告せずに直接質疑する。説明が不十分と判断すれば21日以降も開くことも合意。舛添氏は9日、報道陣に対し「議会の指示に従う」と話した。

*10-2:http://www.sankei.com/politics/news/160510/plt1605100042-n1.html(産経新聞2016.5.10)会議費名目で「家族旅行」と文春報道 舛添氏「質問やめて」 13日の会見で説明へ
 東京都の舛添要一知事の資金管理団体「グローバルネットワーク研究会」(解散)が「会議費」名目で千葉県内のホテルに支出した約37万円が、家族旅行だった疑いがあると週刊文春がインターネットで報じ、舛添知事は10日、報道陣に「今日はちょっと(その質問は)やめていただきたい」と述べ、13日の定例会見で説明する意向を示した。政治資金収支報告書によると、同団体は舛添氏が知事就任前の平成25、26年に木更津市のホテルにそれぞれ約24万円と約13万円を支出。文春は「2回とも会議は行われていません。お子さんを連れて、家族でご利用になりました」とするホテル関係者の証言を紹介。政治資金規正法違反(虚偽記載)の疑いがあると報じた。


PS(2016年6月13日、15日《蚕の写真等》追加):*11のように、上海で購入した2着3万5000円(1着1万7500円)のシルクの中国服を政治資金の私的流用として騒いでいるメディアが多いが、中国を訪れ、中国に敬意を払って、中国の名産を買って帰るのは非難されるべきことではない。さらに、日本ではシルクは女性用の高級品というイメージが強いが、中国では「2着3万5000円」と安く、私も香港に行った人から5000円くらいのシルクのパジャマをもらって「シルクは洗濯しにくいのでは?」と思ったところ、「洗濯機で他のものと一緒に洗ってよい」と書いてあって驚いたことがある。つまり、日本におけるシルクの値段とシルクへの反応が異常で、批判している人の方が「井の中の蛙、大海(世界)を知らず」かもしれないので要注意だ。


 四葉左の3つは日本の伝統的な蚕生産の様子だが、一番右は蛍光を発する蚕だ。蚕は用途が多く、
   餌(例えば、桑とユーグレナの混合粉末飼料)の改良やコンピューターを使った空調管理などを
   行えば、建物の中で完全自動化してコストダウンした大量生産が可能だろう。また、織物や染色 
   もコンピューター親和性が高いので、従来の繭や絹織物産地の研究と進歩に期待する。

*11:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160610-00000107-dal-ent (デイリースポーツ2016年6月10日)舛添氏「中国服は筆が滑る」と政治的使途を断固主張!背広は筋肉あり「窮屈」
 東京都の舛添要一知事が10日、東京都庁で定例会見を開き、噴出する政治資金の私的流用疑惑などに対する5度目の釈明を行った。この日は「書道の際に着ると筆がスムーズに滑る」ため“政治的使途”だと主張している、中国・上海で購入した2着3万5000円のシルクの中国服について、記者団から激しい突っ込みを受けたが、舛添氏は猛然と反論した。この中国服は、不可思議な政治資金使用の代表作で、記者団から理由があまりに稚拙では?と問われたが、舛添氏は「私は毎日のように書道をやってるんですが、やっぱり中国のシルクのヤツってのは、ここ(脇下や上腕を触りながら)が引っかからないんで、書きやすいんですね」と主張した。「第三者」だとする弁護士の調査時にも実演して説明したという舛添氏は、この日も身振り手振りを交えながら「私は柔道やってるんで、ここ(上腕)がものすごく張ってるんです。ものすごく筋肉があるもんですから、背広ってのは非常に引っかかるというか、どうしても窮屈になる。(中国服は)つるっとしてるんで、そういう意味です」とスーツを触りながら説明した。報道陣から「腕だけの問題か」と聞かれ「基本的にそうです」と返したが、「ならば袖のない服を着れば?」と問われると、「気温が低い時は?」と真顔で聞き返し、会見場に失笑が漏れた。


PS(2016年6月14日追加):確かに舛添氏の最近の答えは、答えになっていない部分もあったが、政局を作るために、法律違反でもない軽微なことで都知事をクビにして再選挙し、次は、それ以上の人を選べるのか疑問だ。日本は、むしろ東京、大阪などの大都市で有名なだけの人が選ばれる傾向にあり、これはマスコミがまともな政策論争をせず、このように歪んだ人格論争ばかりしているからである(公認会計士時代にODAで行った開発途上国の新聞記事の方が、よほどまともなことが書いてあった)。

*12:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/322420
(佐賀新聞 2016年6月14日) 自民、舛添氏不信任案を協議、都議会の野党各会派は午後提出
 東京都の舛添要一知事の政治資金流用問題で、都議会最大会派で与党の自民党は14日午前、幹部らが知事の不信任決議案の提出に踏み切るかどうかを協議した。都議会の野党各会派は同日午後、議会運営委員会に不信任案を提出する。自民党内では参院選への影響などを懸念し「早期に辞めさせるべきだ」との声が高まっており、与党の公明党は自民党に足並みをそろえる方針だ。野党各会派は不信任案の一本化に向けた調整をする考え。不信任決議案は都議の3分の2以上が出席し、4分の3以上が賛成すれば可決される。会期末の15日に審議される見通し。


PS(2016年6月14日追加):舛添都知事は、北九州の貧しい家から東大に合格して成功したドリームの実現者であるのに、子どもの頃に貧しかったことを批判めいて伝えた報道もあるのは日本人の心の劣化を感じた。また、*13-1のように、舛添都知事が泣いたことを喜び、舛添都知事の子ども(公人ではない)がいじめにあうような報道を流し続けている報道姿勢にも意識の低さを感じている。なお、舛添都知事の子どものいじめを止めない慶応高校や慶応中学もおかしいが、子どもの方は悪いことをしておらず学校の替えもいくらでもあるため、いじめる相手とそれを止めない学校を堂々と論破するくらいのたくましさが欲しい。さらに、舛添都知事は、違法でないことについて悪いことをしたかのようにしつこくメディアで報道され辞職に追い込まれたため、名誉棄損・政治活動の妨害、自分と家族に対する人権侵害で週刊文春などを提訴するのが、本当の政治改革に役立つと考える。なお、私が提訴した時に週刊文春の担当者が言っていたのだが、週刊文春は、いつも複数の訴訟をかかえているそうだ。また、*13-2は、「舛添都政のこの2年余りは及第点をつけられるが、今回の退任劇は“おごり”が生んだもの」としており、その“おごり”とは、「公用車を使った」「スイートルームに泊まった」など、知事として不相応なものではないため、「ビジネスホテルに泊まって“おごり”はないが、都民のためにならない人」よりずっとよいと考える。

*13-1:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160614-00000156-jij-pol
(時事通信 2016年6月14日) 議長の辞職要求拒否=舛添氏、涙ながらに―都議会
 自らの政治資金流用問題などをめぐる東京都議会の厳しい追及を受け、辞職に追い込まれることが確実な情勢となった舛添要一知事。しかし、川井重勇議長からの辞職要求を受け入れず、「子どものことを考えれば、今すぐにでも辞めたいが、時間を下さい」と、不信任決議案の提出を9月議会まで待つよう涙ながらに訴えた。川井議長は14日午後、不信任案可決を前に、自発的に辞職するよう議会内で舛添氏を説得したが、舛添氏は「応じられない」と拒否した。舛添氏は理事会で「不信任の可決をしたら、(自分が)辞任するか、議会解散の二者択一しかない。(8~9月の)リオデジャネイロ五輪・パラリンピックをやっているときに選挙をやる姿を世界に見せるわけにはいかない」と熱弁。自分の問題に関する報道で子どもがいじめにあっていることなども説明したという。川井議長は「必要に応じて知事に会うことがあると思う」と述べ、閉会日の15日を控え、引き続き舛添氏の説得を続ける意向を示した。共産党都議団の大山とも子幹事長は「解散をちらつかせながら、子どもまで引き合いに出して、不信任案を出すなと言っているようなものだ」と納得できない表情で語った。都庁関係者も「リオを盾に取って議会を脅しているような感じだ」と話した。

*13-2:http://www.nikkei.com/article/DGXMZO03620070V10C16A6AM1000/
(日経新聞 2016/6/15) 舛添都知事、おごりが生んだ退任劇
 政治資金の流用疑惑などが発覚して2カ月弱。211万票の得票で首都のリーダーになった舛添要一知事は急転直下、その座を追われた。「細大漏らさず公開しているし、何ら問題ない」。2014年1月14日に都庁で都知事選への出馬を表明した舛添氏はこう胸を張った。猪瀬直樹氏が辞めた問題に絡み、「政治とカネ」について質問された時である。あれから2年5カ月。本人の言葉とは裏腹に数々の疑惑が浮上し、批判の嵐にさらされた。都庁内で当初ささやかれていたのは「9月以降辞任説」だった。「今回は許してやる」。問題が発覚して早々、都議会自民党の幹部は舛添知事の周辺にこう伝えた。高い知名度が勝利の絶対条件になる都知事選。「勝てる後任候補」が見つからないうえ、今回、辞任に追い込めば、その次の都知事選は20年の東京五輪と時期が重なる。しかし、世論の批判は自民の想像を超えた。給与全額カットという知事の切り札も不発に終わり自民も方針を転換した。知事個人の評価とは別に、舛添都政のこの2年余りは及第点をつけられるだろう。非正規社員の正社員化へ国を上回る対策を打ち出し、障害者雇用にも力を入れた。巨額に膨らんだ五輪施設の建設費も圧縮し、水素社会の実現や国際金融センター構想も進めている。石原都政の負の遺産である新銀行東京も他行との経営統合という形でケリを付けた。舛添都政はバランスが取れている。しかし、股関節症の手術から復帰した昨年4月末ごろから「おごり」が表に出てくる。公用車での別荘や美術館通いが頻繁になったのもこのころだ。都議会から指摘された海外出張の見直しにも腰が重かった。「俺は首都を24時間、預かっている」。そんな自負が生来の強気な性格と相まって、公私混同を助長した。16年度の都予算に関する今年1月の知事査定。「2年後にはどんな成果が出るのか具体的に示せ」。舛添知事はその場に並んだ都幹部に檄(げき)を飛ばした。18年2月の都知事選での再選をにらんだ指示だった。舛添氏は再選後に東京五輪を「首都の顔」として迎え、その先は国政復帰も視野に入れていたに違いない。しかし、自らのおごりが、そうした思いや計算の全てを吹き飛ばした。


PS(2016年6月15日追加):私でさえ「買収した」「逮捕された」などの虚偽の言いがかりをつけられるのであり、“清廉さ”はどうやってでも否定できるものであるため、“清廉さ”のみを重視して「“清廉”に見えるが、知事としての能力に欠ける」という人選こそしないで欲しいと考える。

*14:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/323075
(佐賀新聞 2016年6月15日) ポスト舛添の調整具体化、自民慎重、民進は清廉さ重視
 与野党は15日、舛添要一東京都知事(67)の辞職決定を受け、後継候補選びへ調整を具体化させた。2014年都知事選で舛添氏を支援した自民党は「政治とカネ」問題で舛添氏ら過去2代の知事が辞職した事態を問題視。7月の参院選に影響するとして、党本部主導での擁立に慎重な声が強い。民進党は、清廉さを重視して人選を進める方針だ。自民党東京都連は15日、緊急幹部会合を17日に開くと所属国会議員らに通知した。人気アイドルグループ「嵐」の桜井翔さんの父親で、17日付で総務事務次官を退く桜井俊氏(62)の名前が取り沙汰されたが、桜井氏は「出るつもりはない」と明言。


PS(2016年6月18日追加):*15-1、*15-2のように、舛添氏が辞職するまで、朝日新聞は最も大きな見出しで辞職を迫っていた。また、テレビ局は全局が不法行為でなかったり、誤解に基づき事実でもなかったりすることに対して非難の世論を煽り、テレビ朝日とTBSは特に熱心だった。そして、辞職後、*15-3のように「水に落ちた犬たたく現象、強まっている」「視聴率は、スポンサーがCMを出稿する際の目安になり、CM契約料金に直結し、他局も流しているので、やめられなかった」などと書いているのは、今後起こりうる名誉棄損と政治活動の妨害に関する訴訟に備える弁解であり、自分たちが本来の「報道の精神」や「責任感」を失って、主権者に悪影響を与えていることを自白したにすぎない。

*15-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12409002.html (朝日新聞 2016年6月15日) 舛添氏不信任案可決へ 都議会、辞職しない場合 与野党、案を一本化
 東京都の舛添要一知事をめぐる政治資金の公私混同疑惑などの問題で、都議会最大会派の自民党は15日未明、舛添氏への不信任決議案を議会運営委員会理事会に提出した。都議会の各会派は、それぞれが出した不信任案を自民案に一本化し、15日の本会議で審議する。舛添氏が自ら辞職しない限りは、同日午後に可決される見通しだ。不信任案は、123人の在籍議員の3分の2以上が出席し、4分の3の賛成で可決される。可決された場合、舛添氏は10日以内に議会を解散しなければ、失職することになる。舛添氏が議会を解散しても、都議選で新たに選ばれた議会が再び不信任案を可決すれば、舛添氏は失職する。14日午後に開かれた議運委理事会では、与党の公明党や野党の共産党、民進党などが、それぞれ計7本の不信任決議案を提出した。舛添氏に自ら辞職を決断するよう説得していた自民も交渉が難航し、夜になって不信任案を提出した。14日は、舛添氏への説得が続いた。都議会の川井重勇議長(自民)も、主要4会派の要望を受けて理事会前に舛添氏と会談して辞職を促したが、舛添氏は「応じられない」と拒否したという。その数時間後、舛添氏は議運委理事会に出席。一連の問題について陳謝したうえで、不信任案を可決したら今夏のリオデジャネイロ五輪・パラリンピックを前に都政が混乱すると改めて説明。「第3回定例会(9月議会)に私の身柄を託したい」と訴え、13日と同様に不信任案提出の先延ばしを求めた。自民の14日午前の都連の幹部会では、一連の問題に対して世論の批判の矛先が自民に向かいつつあることから、「かばいきれない」との意見で一致したという。だが、不信任案が可決された場合、舛添氏が都議会解散を選択することを警戒。「舛添さんが自分から辞めれば、不信任を出さなくて済む」とし、舛添氏へ辞職を促してきた。舛添氏をめぐっては、政治資金での家族旅行や大量の美術品購入など私的流用疑惑が相次いで発覚。公用車の利用や高額な海外出張も問題となり、13日に都議会総務委員会の集中審議が開かれた。一問一答形式での舛添氏の説明が「不十分」とされ、質疑した6会派のうち自民を除く5会派が辞職を要求した。

*15-2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12410878.html (朝日新聞 2016年6月16日) (転落 公私混同の果て:上)語るほど世論反発、相次ぐ誤算 舛添都知事辞職
 15日の東京都議会。辞職を表明した舛添要一知事はこう語り、頭を下げた。疲れ切ったその顔から、かつて見せていた余裕は完全に消えていた。高額の海外出張費が問題になった4月上旬。「香港のトップが二流のビジネスホテルに泊まりますか? 恥ずかしいでしょう」と香港の記者に語った。公用車での別荘通いを問われても胸を張った。「公用車は『動く知事室』で、電話で報告などを受けている」。風向きが変わったのは5月だった。千葉県木更津市のホテルに家族と泊まった費用に政治資金をあてていたことを、週刊文春が報じた。都庁への抗議は1日千件超に増えた。それでもなお、ホテルで面会した人物については「政治の機微に触れる」と明かさなかった。都幹部は「知事は法律論のうえでは、違法ではないから問題ないと考えていた」と言う。理詰めで議論の相手をねじ伏せてきたが、世論は単純ではなかった。ここに舛添氏の一つ目の誤算があった。テレビのワイドショーが連日、問題を取り上げた。《公費で海外に行くのがうれしいのか。『ファーストクラスで海外』というさもしい根性が気にくわない》《議員の公用車も要らないと思っている》こうした著書での過去の記述が洗い出され、言動との不一致が指摘された。民放関係者は「舛添氏の報道を一度やめたら、同時間帯の他局の番組に視聴率を奪われた。視聴率が取れる話題だった」と明かす。二つ目の誤算は「第三者」による調査だった。「第三者の厳しい目に任せたい」。舛添氏は弁護士に調査を依頼することで打開を図ろうとした。調査の結果、宿泊費と飲食費の計約114万円分などが「不適切」とされたが、「違法とはいえない」と結論づけられた。だが、批判はむしろ強まった。まず、調査の客観性を疑問視する声が出た。政治資金で購入したシルクの中国服について、舛添氏が「書道の際、この服を着ると筆をスムーズに滑らせることができる」と説明したことも判明し、都議らから「あまりに説明が稚拙だ」と非難された。弁護士の態度までもが、ネット上で「逆ギレ」などと揶揄(やゆ)された。舛添氏が世に出たきっかけは、東大助教授時代の1987年に始まったテレビ朝日の討論番組「朝まで生テレビ」だった。保守の立場から、リベラル系の重鎮を相手に論争を挑んだ。司会の田原総一朗さんは「歯切れがよく、論争に負けなかった。何を言えばテレビが使ってくれるのか、よくわかっていた」と振り返る。「だが、今回は『正論』を語れば語るほど都民には弁解にしか映らなかった。論争では相手を負かせるという自信が、どんどん自分を追い詰めてしまった」
     ◇
 舛添氏の公私混同問題から何が見えたのかを検証します。全3回。次回からは社会面に掲載します。

*15-3:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12414609.html (朝日新聞、Media Times 2016年6月18日) 舛添氏問題、TV局過熱 情報番組が高視聴率
 東京都の舛添要一知事が辞職に追い込まれた「政治とカネ」の問題。ワイドショーなどの情報番組を中心に、テレビが連日、多くの時間をさいて報じた。各局で異例の高視聴率を記録し、報道が過熱。番組制作の現場で、何が起きていたのか。
■「水に落ちた犬たたく現象、強まっている」
 フジテレビ系「直撃LIVEグッディ!」1部は疑惑追及の場になった都議会の集中審議を伝えた13日、平均視聴率が前4週平均から2・5ポイントアップし、昨年3月の放送開始以来最高の5・6%を記録した。同時間帯の日本テレビ系「情報ライブ ミヤネ屋」も、TBS系「ゴゴスマ・GOGO!Smile!」もそれぞれ2ポイント以上アップし、10・1%、4・9%だった(いずれも関東地区、ビデオリサーチ調べ)。ある情報番組のディレクターが手応えを感じ始めたのは、舛添氏が家族で泊まった千葉県内の温泉ホテルに会議費名目で約37万円を支出していたことを報じた5月からだ。公用車での別荘通い、政治資金での美術品購入……。「辞任を決意するまで日に日に数字が上がった」。別の民放プロデューサーは「関東以外の系列局でも視聴率が上がった。視聴者にわかりやすい問題で、まさにキラーコンテンツだった」と振り返る。なぜ、こんなに注目を集めたのか。図らずも記者会見や議会審議が放送時間に重なり、連日、舛添氏がカメラの前に登場したことが高視聴率を下支えした。番組側は、生中継でとにかく舛添氏の「生の声」を放送することを意識したという。発言を切らずに流したほうが視聴率が伸びたといい、その変遷や疑惑の内容をフリップにまとめて紹介した。ある民放プロデューサーは「舛添氏は何度もカメラの前に登場してくれて助かった。ふつう『渦中の人』はあそこまで出ませんから」。同じ「政治とカネ」の疑惑を追及された甘利明・前経済再生相は療養が必要になり、公の場から姿を消した。舛添氏自身が「怒りの燃料」を投下したとみる民放のチーフプロデューサーもいる。「疑惑を認めない彼のスタンスに対して、人々は自分の生活に引きつけて怒り、もっと知りたいという欲求を高めていった」。各局は、論点を整理し、面白く、分かりやすく伝えようとした。TBS系では、舛添氏がシルクの中国服を政治資金で購入した問題で、実際に書家に中国服を着てもらい「書道の際に着ると筆がスムーズに進む」との舛添氏の弁明を検証。「グッディ!」は集中審議の際、「あなたならどう攻める?」との字幕を出し、舛添氏の答弁に納得できたか、視聴者にツイッターで回答を求めた。連日、報じるなか、ある民放のディレクターは「さすがに放送はもういいだろう」と思った。ところが視聴率は伸び続けたという。視聴率は、スポンサーがCMを出稿する際の目安になり、CM契約料金に直結する。「他局も流しており、やめられなかった」。一連の報道について、服部孝章・立教大名誉教授(メディア法)は「消費増税の先送りや待機児童問題、五輪誘致の贈賄疑惑など報じるべきことが他にあるのに、メディアがわかりやすいスキャンダリズムに走り、軽重が逆転してしまった」とみる。舛添氏は辞任に追い込まれたが、疑惑の全容解明はならなかった。2014年にゴーストライターの存在が発覚し、批判報道が過熱した作曲家・佐村河内(さむらごうち)守氏を取り上げた映画「FAKE」が公開中の映画監督、森達也さんは「舛添氏の問題はあまりに身近で分かりやすく、たたきやすかった。タレントの不倫報道もそうだが、『水に落ちた犬をたたけ』という現象が以前より強まっている」と指摘する。


PS(2016年6月19日追加):法律違反で懲戒免職されるわけでもないのに、*16-1のように、「退職金を辞退せよ」「給料を辞退せよ」などと言うような主権者を育ててはならない。何故なら、「1日24時間、土日も拘束されよ」とも言っており、重責を負って長時間労働している政治家に対して労働基準法からかけ離れた幼稚な要求をして、金持ちや政治家の家系の出身者しか政治家になれないような状況を作っており、そのツケは必ず都民や国民自身にまわってくるからだ。
 例えば、*16-2は、国会議員の家系で金持ちだが、あまり勉強していないらしく教養のない麻生氏は、「①カネは一切息子や孫が払うものと思って使いたい放題使ってましたけど、ばあさんになったらああいう具合にやれるんだなと思いながら眺めてました」「②貯蓄より消費が重要で、金は使って回さないとどうにもならない」「③90歳で老後心配、いつまで生きてるつもり」などと述べておられる。しかし、①は高齢女性を馬鹿にしており、祖母に対してさえ敬愛の念を持たず相手の立場でものを考えられないことや、特殊な環境にいる高齢女性のみを見て全体を判断している点で論理になっていない。また、②は、使いたい放題使っていたとして高齢女性を馬鹿にしていたのとは正反対に無駄遣いの奨励を行っており、一つの話の中にさえ矛盾がある。そして、③は、確かに90歳というのは既に老後であるため老後の心配をしなければならないのはおかしいが、それをさせているのは麻生財務大臣はじめ関係省庁であり、「社会保障費がかかるから早く死ね」と言うのは、教養のなさが見識の低さとなって現れたということだ。

*16-1:http://mainichi.jp/articles/20160616/k00/00e/040/213000c?fm=mnm
(毎日新聞 2016年6月16日) 退職金2200万円、都民「辞退したら…」
 東京都の舛添要一知事の辞職が決まり、来月中にも都知事選が実施されることになった。首都の「顔」が2代続けて「政治とカネ」の問題で辞職した東京。都によると、舛添氏には都条例に基づき約2200万円の退職金が支払われる予定で、都民には次のリーダーへの希望と舛添氏への批判の声が交錯した。辞職決定から一夜明けた16日、舛添氏は午前10時過ぎに登庁した。薄いグレーのスーツ姿で、報道陣の問いかけにも真っすぐ前を向いて口を結び、足早に知事室に向かった。都によると、知事の退職金は退職した時点での給料月額(145万6000円)に在職月数(2年5カ月)をかけた額の52%で、退職から1カ月以内に支払われる。東京都大田区のJR大森駅前の商店街。青果店従業員の女性(52)は「次はお金にクリーンな人がいい。でも、政治家というのはクリーンではいられないのかしら」とうんざりした表情。退職金が支払われることに驚き「誠意があるなら辞退するのが男らしい引き際じゃないかと思う」と話した。総菜店経営の男性(58)は「辞めるのは仕方ないが(50億円とされる)都知事選の費用がもったいない」とぼやき「次はお金にきれいな人がいい」。退職金については「これだけ世間を騒がせたのだから、半分くらい置いていってほしい」と訴えた。寝具店従業員の男性(59)は「都知事は2代続いてお金に絡んだ問題で辞めている。次は政治家という仕事に奉仕の感覚のある人がいい」と望んだ。

*16-2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12416478.html
(朝日新聞 2016年6月19日)「90歳で老後心配、いつまで生きてるつもり」 麻生副総理が発言
 自民党の麻生太郎副総理兼財務相が17日、北海道小樽市での講演で「90歳になって老後が心配とか、わけの分かんないこと言っている人がこないだテレビに出てた。オイいつまで生きてるつもりだよと思いながら見てました」と語った。麻生氏自身も75歳だが、高齢者への配慮に欠けた発言として批判が出ている。麻生氏はこの日、小樽市の党支部会合で「1700兆円を超える個人金融資産があるのに消費が伸びていない」などと指摘する中で「90歳の老後」に言及した。自らの祖母が91歳まで元気だったと紹介し、「カネは一切息子や孫が払うものと思って、使いたい放題使ってましたけど、ばあさんになったら、ああいう具合にやれるんだなと思いながら眺めてました」とも語った。貯蓄より消費が重要として「金は使って回さないとどうにもならない」とも述べた。麻生氏の発言に対し、民進党の岡田克也代表は大分県由布市で「国は年金や医療、介護制度で、高齢者の不安に応えなければならない。私は非常に怒っている」と批判した。

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2016.5.17 九州大地震の支援と今後の方針について (2016.5.18、19、20、21追加あり)
    
  仮設住宅建設費用     仮設住宅間取り  東日本大震災仮設住宅 九州大震災仮設住宅

     
     九州の断層帯と原発                    益城町(役場を含む)の損壊

    
 復興予算        新しい街づくりへ           現在の熊本市    現在のピョンヤン
2016.5.18朝日新聞

(1)復旧・復興へ総額7,780億円の補正予算
 *1-1、*1-2のように、復旧・復興のため総額7,780億円の補正予算が可決し、地元負担が(費用全体の)0.5%から1%になるそうでよかった。

 しかし、熊本市は、地方分権のための道州制が行われる場合には、九州の州都となる第一候補であるため、復旧・復興のための総額7,780億円の補正予算も、単なる無駄遣いではなく、都市計画のある現代の街づくりを始めることに使ってもらいたい。

 単なる無駄遣いとは、①地震直後に送った支援物資が滞留して使用されなかったことや②短期間で壊すことが明白な仮設住宅の建設に使う災害救助費573億円などだ。上図のように、東日本大震災では仮設住宅に一個当たり500~700万円を支出しているが、その作りは粗末で金額に見合わず、家がないよりはよいという程度で住んでいる人も惨めだった。そして、今回の木造のものでも粗末で金額に見合わず、木材がもったいない。しかし、東日本大震災の場合は津波で広範囲の建物が流され、今後の津波に備えて高台移転やかさ上げを行う必要があったため、仮設住宅の建設もまだ合理的だったのだ。

 一方、九州大地震の場合は、津波はなく断層に近い場所で建物が倒壊しただけであるため、どこを住宅地・公園・農業地帯にするかについての都市計画をたて直し、リスクが高くて住宅地に向かない場所に住んでいる人は、他の安全な場所に引っ越さなければならない。そのためには、罹災した人を中心に考えれば、現在住んでいる土地・家屋を固定資産税評価額で国か県か市町村に引き取ってもらい、家を新築する費用900万円(=見舞金300万円+仮設住宅建設費600万円)を補助してもらって、低金利・利息補助・太陽光発電などを利用して次のステップに進んだ方がよいだろう。そのため、見舞金300万円だけもらって仮設住宅に入るか、900万円もらって終わるかを、本人が選択できるようにすればよい。そして、材木は新しい住宅・学校・福祉施設などの建設に、デザインよく使えばよいと考える。

 そこで、「安全に住めない」と認められる一帯の人には、*1-3の罹災証明書を速やかに発行して立ち退かせるべきであり、市町村職員である素人が住宅被害を調査して危険な家を「半壊」などとケチケチした判定をすべきではない。なお、この罹災証明書の発行は、益城町、西原村、南阿蘇村などで大変遅れていたそうだが、必要なことをするにも財政基盤や人的基盤が小さすぎるのを解決するには、*2のように、合併して市町村再編をすべきだ。

(2)民の支援
 *1-4のように、今回は震災に慣れていて手際がよかったにもかかわらず、熊本県内の拠点が物資で埋まり、自治体職員の仕分けが追いつかない状態だったのは、原発事故で近づけなかったわけではないため、初めから輸送の専門家である日通、ヤマト運輸、佐川急便などの運送会社を使って仕分けし、輸送すればよかったと思われる。また、食品も、普段から弁当作りに慣れている業者を使って調達し、道路が開通するまでヘリコプターで運べば問題はなかった筈だ。

(3)仮設住宅について
 *3に、仮設用地の確保が進まないと書かれているが、(1)で書いたように、最終の住居を建設した方が無駄遣いが少ないため、近くの街まで含めて観光客が減ったホテルの空室、空き家、民間賃貸住宅などを手当てし、必要な新しい住宅団地や福祉施設を早急に建設した方がよいと考える。30分~1時間くらいの通勤は、関東では近い方に入る。そして、こうした方が、人口減時代のコンパクトシティー化と熊本県の将来の両方に資すると思う。

(4)農業の再編と規模拡大
 危険であるため住宅地に向かないと判断された土地でも、自然公園、牧場、*4-1のような規模拡大した農業には利用できる。そのため、農水大臣・環境大臣・国交大臣・観光庁長官は、早急に具体的かつ積極的な支援を県や市町村と協力しながら進めてもらいたい。

 また、大規模化して新しい作物を作る場合には、*4-2のように、イオンやイトーヨーカドーなどの小売店と連携して輸出も視野に生産することが可能であり、そうすると、こういう会社から農業生産法人への出資や人材供給も期待できる。

(5)学校の再編
 壊れた学校も多かったが、地方自治体の合併と合わせ、*5の小中一貫校や中高一貫校への移行を行えば、耐震性の高い校舎を新築するにあたり費用が少なく、税金と空き地を有効に使うことができる。

(6)川内原発は断層の上にある
 鹿児島県知事は、*6-1のように、無責任にも「川内原発周辺で熊本地震のような地震は起きない」と述べているが、川内川は断層(地殻の割れ目)そのものであり、それは川の形からわかる。

 そのため、南日本新聞も、*6-2のように、「原発も鹿児島県知事選の重要な争点では」と書いているが、地震で運転中の高圧配管に損傷が生じて圧力が一気に下がった場合には、水の沸点が一気に下がり、圧力容器内でも水が爆発的に蒸発して衝撃波様の衝撃を発し、更に他の機能や構造も損ねる危険性があるため、私も川内原発稼働の再検討に賛成だ。

*1-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160516&ng=DGKKASFS16H0J_W6A510C1MM0000 (日経新聞 2016.5.16) 熊本復旧、首相「必要な財政支援」 補正、今夕に衆院通過
 衆院予算委員会は16日午前、安倍晋三首相らが出席して熊本地震の復旧・復興費用を盛り込んだ2016年度補正予算案の基本的質疑を実施した。首相は「必要な財政支援をしっかり行う。各自治体は安心して復旧事業に取り組んでもらいたい」と表明。補正予算案は16日夕に予算委で全会一致で可決、続いて衆院本会議でも可決し、17日の参院本会議で成立する見通しだ。首相は補正予算案について「被災地に必要な支援をするうえで、十二分の備えを整えるものだ。できることは全てやる決意で取り組む」と強調。麻生太郎財務相は被災自治体に起債を認め、起債額のうち95%は地方交付税で補填すると説明し「地元負担は(費用全体の)0.5%から1%になる」と語った。首相は欧州訪問時の首脳会談に関して「世界経済の認識は一致している。ただ処方箋については議論があった」と指摘。26日からの主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)で「どういうメッセージを出していくか話し合うのが大切だ」と語った。衆参同日選に関しては「今まで一度も申し上げたことはない。衆院解散の『か』の字も考えていない」と述べた。

*1-2:http://mainichi.jp/articles/20160516/k00/00e/010/151000c
(毎日新聞 2016年5月16日) 総額7780億円の補正予算、午後に衆院通過へ
 衆院予算委員会は16日午前、安倍晋三首相らが出席して熊本地震の被害に対応する総額7780億円の2016年度補正予算案に関する基本的質疑を行った。地震直後に被災地への食料や水などの供給が滞ったことについて、首相は「送ったものが(熊本県庁などに)滞留していたのも事実。どういう課題があったかしっかり精査したい」と答弁した。民進党の岡田克也代表が「より良い制度を考えるべきだ」と指摘したのに答えた。補正審議では野党も早期成立に協力する方針。同日夕に可決され、その後の衆院本会議も通過し、17日に参院での審議を経て同日中に成立する見通しだ。安倍首相は補正について「余震が続き被害状況が拡大する可能性にも配慮しつつ、必要な支援を行ううえで十二分の備えを整えるものだ」と意義を強調。そのうえで「国庫補助の拡充強化や地方負担に対する財政措置の充実も含め、どのような対応が必要になるか検討し、必要な財政支援を行う」と述べ、財政基盤の弱い被災自治体を今後も手厚く支援する考えを示した。自民党の坂本哲志氏への答弁。補正予算案は、事前に具体的な使い道を定めず必要に応じて道路や橋のインフラ復旧などに充てることができる「熊本地震復旧等予備費」に7000億円を計上。仮設住宅建設などに使う災害救助費573億円なども盛り込んだ。

*1-3:http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG13HBV_U6A510C1MM8000/
(日経新聞 2016/5/14) 熊本地震、罹災証明発行に遅れ 申請の3割どまり
 熊本地震の被災地で、住宅など建物の被害を証明する「罹災(りさい)証明書」の申請が熊本県内で計9万7741件に上る一方、発行は2万8266件(28.9%)にとどまっていることが14日分かった。証明書は被災者が国などから支援を受ける際に必要となる。国は5月中の発行を求めているが、発行する市町村の人手不足で6月にずれ込む可能性がある。14日で地震発生から1カ月。証明書の発行の遅れは被災者の生活再建の足かせとなっている。罹災証明書は被災者からの申請を受けて市町村が住宅被害を調査し、「全壊」や「半壊」などと判定した上で発行する。熊本県によると、12日までに被災者から県内の30市町村に発行の申請があった。熊本市が5万7244件で最も多く、震度7を2度観測した益城町が9837件。西原村は1793件、南阿蘇村は1548件だった。発行できたのは熊本市が1万8785件(32.8%)などで、益城町、西原村、南阿蘇村など9市町村は発行できていない。益城町は申請の9割の調査を終えたが「電話回線など町役場の設備が整っていない」という。県の災害対策本部は「他県から派遣された応援職員を市町村に割り振って対応しているが、5月中に終了できるか分からない」としている。

*1-4:http://qbiz.jp/article/86900/1/
(西日本新聞 2016年5月17日) 【連続震度7の衝撃・5】「民」の支援、課題あり
 本震発生直後の4月16日午前4時すぎ。九州電力の担当者が電話したとき、相手の四国電力は人員や機材、輸送フェリーなどの手配を、もう済ませていた。
   ◆    ◆
 14日の前震による最大1万6千戸の停電復旧は、自前で15日深夜に完了。数時間後の本震は復旧したばかりの送電網を切り裂き、停電は最大47万戸を超えた。九電は“ミニ発電所”と言える電源車59台を持つが、とても足りない。次々と各社に応援要請を出した。東日本大震災時、東西で周波数が違うため実現しなかったオールジャパン態勢だが、各社はその後、異なる周波数の電源車を配備。「初めて大手10社が集結したミッション」(九電幹部)が実現した。だが、現場は当初混乱した。電源車が向かう避難所の場所が分からない。電源車用燃料を運んだが既に足りていた。優先配備すべき場所をどう判断するか−。それでも20日夜に復旧が完了。九電電力輸送本部計画部の豊馬誠部長(57)は「最大限のスピードだったと思う」と語る。国の電力需給検証小委員会は、22日にまとめた報告書案で「熊本地震の教訓」の項目を急きょ加えた。「電源車の応援は被災地の電力会社の要請を待つことなく関係事業者が先手先手を打って対応すべきだ」。この一文に、九電関係者は複雑な思いでいる。危機の際は、他社や行政機関との連携と統制が原則。非常時とはいえ、そこまで民間が踏み込むべきなのか。物資を載せて出発したトラックが、物資を載せたまま戻ってきた。日本通運久留米支店の福元雅浩業務課長(43)は驚く。同支店が管轄する佐賀県鳥栖市の物流センター。国の要請に基づき、16日夕方から国の物資を自治体ごとに仕分け、配送を始めた。九州では、大規模災害時の物資輸送に関する産官学の協議会で民間の物流施設の活用を想定し、日通の施設もその一つだった。約7万2千平方メートルの敷地、全天候型、24時間稼働で常時数十人の作業員がいる。「作業自体は難しくないので通常業務と並行して続けられた」と現場で指揮した福元氏は語る。ではなぜ「トラックは戻ってきた」のか。熊本県内の拠点は既に物資で埋まり、荷を置いていけず、自治体職員も不足して仕分けが追いつかない状態だったのだ。国は日通に、自治体ごとに必要な物資を割り振っていたが、状況は刻々と変わる。18日、福元氏らは国に「私たちも自治体に情報確認したい」と提案し、認められた。国も19日、物流業者の活用を広げ、熊本県外にあるヤマト運輸や日通の別の施設で仕分けしてから輸送するようにした。物資の滞りは改善されていった。福元氏は「国が現場の裁量に任せてくれたのは大きかった」と話す。熊本市の依頼で物資の仕分けを指揮した熊本県トラック協会の吉住潔専務(61)は「判断の権限は市職員にあるが、物流の知識はこちらの方が豊富。もっと提案型のやりとりをしてもよかった」と振り返る。国は空港や道路などの民営化を進め、公的インフラを担う企業が増えている。東日本大震災を経験し、今年7月に空港民営化第1号となる仙台空港。滑走路などの地震対策も運営企業の責任で行う。契約上、被害が甚大な場合は国が運営を継承する決まりになっているが、この運営企業幹部は「国が引き継ぐ契約だからといって民間がすぐに手を引くわけにはいかない。熊本での大地震連続発生や空港の被災を、民間ができる役割を考える新たな教訓にしたい」と語る。「公」の機能がまひする今回のような大災害時に、ノウハウにたけた「民」がどう主体的に動くか。行政はどこまで任せるのか。仕組みと意識、双方を変えるときがきている。

<地方自治体の再編>
*2:http://www.murc.jp/thinktank/rc/column/search_now/sn090302_01
(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 2009/3/2) 自治体再編:市町村合併一巡で次の焦点は道州制、公共経営・地域政策部 主任研究員 大塚敬
 わが国における都道府県制度の見直しとその具体的な方策としての道州制にかかる議論の歴史は古く、昭和32年には第4次地方制度調査会において、都道府県制度を廃止し国と市町村の中間団体として国と地方自治体の両方の性格を併せ持つ「地方」という団体を新設すべきであるとの提案が既になされていた。その後、道州制はさまざまな議論が重ねられつつも実現せずに今日に至っているが近年改めて注目され、平成18年2月の第28次地方制度調査会答申において、広域自治体改革の具体策として道州制の導入が適当であるとの見解が明確に示されたことにより、導入の機運が急速に高まっている。こうした背景には、地方分権の受け皿として地方自治体の抜本的な改革が不可避となったことがある。少子高齢化と人口減少、経済の低成長への移行などにより、すべての地方自治体を現状のまま維持するのは困難であることが明確になった。これに対し、国はまず地域において包括的な役割を担う市町村を、最低限の行財政基盤を確保可能な規模に再編すべく、市町村合併を強力に推進した。この結果、平成10年度末と比較して平成20年12月時点で市町村数は3,232から1,781に減少した。現在、市町村合併は平成の大合併と言われた平成16~17年度から一段落しており、次の焦点は都道府県の再編に移ったと考えられる。合併により市町村の大規模化が進み、政令指定都市数は12から17、中核市数は21から39に急増している。また、各都道府県の市町村数も、平成11年4月1日時点では市町村数30以下の都道府県はなかったが、平成21年1月1日時点では30以下の団体が19に上り、うち9団体は市町村数が20以下となっており、市町村と都道府県のバランスは大きく変わった。また、道州制導入の機運が高まっている背景には、都道府県間の格差の拡大と小規模県の行財政基盤の弱体化もある。平成17年国勢調査の時点で、東京都の約1,260万人を筆頭に、500万人を超える都道府県が9を数える一方で、人口が100万人を下回る県が7県に上る。最も少ない鳥取県の人口は60.7万人で東京都の約20分の1であり、政令指定都市で最も人口が少ない静岡市の71万人をも下回っている。また、人口規模の小さい県ほど人口減少が進展する傾向にあり、国立社会保障人口問題研究所の推計によれば、2035年には人口が100万人を下回る県の数は15に増加し、鳥取県の人口は約49万5千人と政令指定都市の基本要件をも下回ると見込まれている。一方、こうした状況の中、約360万人の人口規模をもつ横浜市は、その人口規模と都市機能の高度な集積に見合った権限を求めて、新たな大都市圏制度を自ら提言している。これは、横浜市や大阪市、名古屋市など特に人口規模の大きな都市に対し、政令指定都市の枠組みを越えて、都道府県や将来の道州の下に組み込まれることなく、広域自治体に委ねていた権限をすべて掌握する自治体としての位置づけを求めるものである。このように地方分権が進展し、その受け皿となる市町村の行財政基盤が強化される一方で、小規模県の人口減少が避け難い状況から見て、自治体再編という大きな流れの中で、市町村合併の次のステップとして都道府県の再編と役割の見直しは必至であり、その具体的方策として、長い間議論されてきた道州制が近い将来ついに実行に移される可能性が非常に高い。平成19年1月に政府が設置した道州制ビジョン懇談会は、平成20年3月に中間報告を公表、道州制の実現に向けた道州制基本法の原案を平成22年内に作成し、平成23年の通常国会に提出、最終的には平成30年までには道州制に完全移行すべきであると明記している。懇談会は、当初想定していた本年1月の基本法骨子案の策定は見送ったものの、予定通り平成23年通常国会への法案提出に向けて審議を続けている。今後は、具体的な制度の枠組みの調整と、受け皿となる広域自治体側の体制整備の両面から、具体化に向けて慎重に、しかし迅速に準備を進める必要がある。前者において課題となるのは区割り調整と国から道州への権限委譲の内容であり、懇談会での議論においてもこれらが大きな焦点になっている。特に区割りについては、有利不利の議論だけでなく、地域の歴史的文化的な背景も含め、都道府県それぞれの思惑もあって今後調整が難航することが予想される。また権限についても、懇談会中間報告では国の役割は国境管理や国家戦略の策定、国家的基盤の維持・整備、全国的な統一基準の制定に限定すると明記されているが、具体的な内容を検討する段階では、これまでも地方分権や規制改革に際して繰り返されてきたように、国と地方の綱引きによる調整難航は必至であろう。さらに課題となるのは道州政府の体制整備であり、中でも特に重要な点は財政運営の中核を担う人材の確保である。現在検討されている案をベースに予想すると、欧州の中規模国に匹敵する人口規模の道州が複数誕生する可能性が高く、その権限も従来の都道府県と比べて大幅に拡大強化される。道州の政府には、従来よりも飛躍的に拡大した財源と権限を駆使して、これまでの都道府県の枠を超えた、まったく新しい視点に立った政策を企画立案し実行する能力が求められる。その中核的な役割を担う幹部となる人材は、従来の都道府県職員の育成や、地方支分部局の廃止など権限縮小によって余剰となる国の職員の活用だけでは十分に確保することは困難である。これを地方行政の人材登用システム改革の好機ととらえて、新卒中心の採用システムや任期付任用など課題が多く指摘されている従来の民間人材登用に係る制度を抜本的に見直し、外部の有能な人材を機動的に登用する仕組みを再構築することが、道州制の成否の重要なポイントとなると考えられる。

<仮設住宅の建設>
*3:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12359246.html?_requesturl=articles%2FDA3S12359246.html (朝日新聞 2016年5月16日) 仮設用地、確保進まず 熊本10市町村、地震前「未選定」
 熊本県などでの一連の地震で、応急仮設住宅を必要とする県内15市町村のうち、10市町村が仮設住宅の建設用地を事前に決めていなかった。各市町村への取材でわかった。東日本大震災後、国は用地の事前選定を求めている。今回、用地の確保が遅れている自治体が出た要因の一つとなったとみられ、避難所生活の長期化にもつながる可能性がある。仮設建設に着手したり、建設を検討したりしている15市町村に、用地を事前に選んでいたかどうかを尋ねた。「選定済み」は嘉島(かしま)町や南阿蘇村など5市町村。「未選定」は熊本市や益城(ましき)町、西原村など10市町村だった。このうち、8市町村は地域防災計画で地震の被害想定をしていなかった。 東日本大震災を受け、国土交通省は2012年5月、建設用地の確保を各都道府県に要請。国交省と内閣府は15年3月には「平常時から建設用地の確保に取り組むこと」との通知を出している。熊本県は15年度の地域防災計画で、市町村は「予定地の確保を行っておくもの」としている。選定していない理由では6市町村が「災害後の住民要望に柔軟に対応するため」とし、7市町村が「未選定」は仮設の着工時期に影響していない、とした。だが、選定をせず、必要な用地の確保が見通せない自治体もある。益城町は、地盤が沈下して町有地の適地がなかなか見つからなかった。必要戸数は2千戸だが、着工できているのは約160戸。町の担当者は「着工が予定より2週間遅れている。必要戸数を建てるには公有地だけでは足りない」と話す。総務省が全国168市町を抽出した調査(14年公表)では「選定済み」が118市町で7割を占めた。今回の地震を受け、内閣府は全国の選定状況を調べる方針だ。

<農業の再編と規模拡大>
*4-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=37514
(日本農業新聞 2016/5/16) 熊本の農業被害視察 大豆転換、JAが要望書 農相
 森山裕農相は15日、熊本県を訪れ、熊本地震による農業被害を視察した。益城町や南阿蘇村に震災後初めて入り、農家や行政関係者らと意見交換。菊池市では、水稲から大豆への品目転換に必要な環境整備を求める要望書をJA菊池から受け取った。森山農相の熊本地震の視察は3回目。断水が続く南阿蘇村の河陽地区を訪れ、(有)阿蘇健康農園を視察した。地割れと農業施設の破損に加え、断水が続き営農再開はほど遠い状況を確認。生産者や村から支援の拡充を求める声が上った。JA菊池の子会社アグリパートナーきくちでは、JAが森山農相に要望書を提出。三角修組合長は「水稲から大豆への作付け転換により大豆の面積が増大し、播種(はしゅ)や栽培管理、収穫などの支援が必要になる」と指摘し、播種機など農機の調達や人件費の補填(ほてん)に支援を訴えた。阿蘇市の土地改良区や益城町の畜産農家の被害状況も確認した。森山農相は「17日には地震に関する補正予算が成立し、18日から具体的に動きたい」と述べ、積極的な支援を県や市町村と協力しながら進めるとの考えを示した。 

*4-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160516&ng=DGKKZO02348020V10C16A5TJC000 (日経新聞 2016.5.16) イオン、有機農家を育成 欧州企業と共同出資会社 専門店展開
 イオンは有機農産物の生産農家を育成する。欧州の専門企業と共同出資会社を設立。生産者から農産物を直接買い取り、新たに展開する国内の専門店で販売する。2020年をめどに首都圏を中心に50店以上にすることを目指す。環太平洋経済連携協定(TPP)の発効による貿易自由化を見据え、農家が付加価値の高い農産物に取り組める環境を整える。フランスで有機専門スーパー約90店を運営するビオセボンと組む。同社の親会社のベルギー企業と6月にも折半出資で新会社を設立。年内に1号店開店をめざす。それまでに専用の農地を約40ヘクタール確保し、当初はニンジンやホウレンソウなど約30品目を扱う。今後5年をめどに農地を25倍の1千ヘクタールに広げ、品目数も3倍程度に増やす。店舗では有機産品の食品のほかに化粧品、日用品も加え、4千品目程度の商品をそろえる。出店はグループの他のスーパーなどから独立した形が中心となる。ビオセボンは農家に有機栽培への転換を促し、契約分を全量買い取る仕組みで事業を拡大している。「有機」の表示をするには化学合成農薬を3年以上使わないなどの規定がある。イオンはグループの販路やビオセボンのノウハウを生かし、転換する農家の経営を支える。世界の有機産品市場は年率1割以上伸びているとされる。日本は12年に約1400億円で世界7位だった。市場規模が30倍の米国や4倍のフランスに比べると、日本の市場はまだ小さい。有機野菜は通常の栽培よりコストが5割程度多くかかるとされる一方、店頭での販売価格は高値で安定している。環境や健康への関心の高まりを受け、日本でも今後の需要の伸びは大きいとみて、イオンは事業を本格化させる。イオングループでは直営農場を持つイオンアグリ創造(千葉市)が有機栽培を広げ、農家との契約も進めている。プライベートブランド(PB=自主企画)の「トップバリュ」でも有機産品を増やしており、一連の事業間の連携も進める。将来は有機農産物の専用物流網も構築する。

<教育の再編>
*5:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160516&ng=DGKKZO02343760V10C16A5CK8000 (日経新聞 2016.5.16) 義務教育学会の設立を 小中一貫改革広める (前東京都品川区教育長・学校教育研究所理事長 若月秀夫)
 小中一貫教育を行う「義務教育学校」が制度化されたのを受けて、東京都品川区で小中一貫教育を導入した若月秀夫前教育長が「日本義務教育学会(仮称)」の立ち上げを準備している。今年4月、学校教育制度の多様化と弾力化を進めるために、現行の小学校・中学校に加えて、義務教育9年間を一貫して行う「義務教育学校」を新たな学校の種類として規定した改正学校教育法が施行された。文部科学省によると、法改正を受けて4月から全国15市区町村が22校の義務教育学校を設置、2017年度以降に114校の設置が予定されている。東京都品川区が小中一貫教育を導入してから満10年という節目の年に義務教育学校が制度化されたことは、当時の教育長として極めて感慨深い。品川区が小中一貫教育を導入した背景には、戦後続いてきた6―3制が現在の子供達に本当に適しているのかという疑問があった。加えて、教員の意識改革が求められる中で、一向に変わらない小中学校間の“縄張り意識”“ムラ意識”を払拭したいからでもあった。義務教育における学校種間の連携・接続については、中央教育審議会が1971年の答申で、各学校段階の教育を効果的に行うために小中学校の区切り方の変更に言及したが、その後、国レベルの検討は進まなかった。ところが15年ほど前から、一部の自治体が構造改革特区制度などを活用し、小学校と中学校の教育を別々に考えるのではなく、小中を貫く「9年制義務教育の場」という概念で捉え直す学校づくりに取り組み始めた。改革は国の検証作業でも学力の定着・向上や生徒指導上の課題克服に一定の効果があると認められ、05年に中教審は「新しい時代の義務教育を創造する」答申で、義務教育学校設置の可能性やカリキュラム区分の弾力化、学校種間の連携・接続の改善を検討する必要性を指摘した。その後も全国で、施設一体型や施設分離型の小中一貫教育に取り組む自治体が相次いだ。06年には「小中一貫教育全国連絡協議会」が発足し、小中一貫教育法制化に向けた機運が高まった。中教審も、小中間の連携強化や小中一貫教育の制度化に向けた検討を進め、教育再生実行会議は14年の第5次提言に小中一貫教育学校(仮称)の制度化を盛り込んだ。こうして地方が国を引っ張る形で、改正学校教育法施行に至ったのである。
□ □ □
 現在、全国各地で様々な形態で小中一貫教育が展開されている。義務教育学校や施設一体型小中一貫教育学校では、1年生から9年生までの児童生徒が一つの学校に通うという特徴を生かして、9年間の教育課程を「4―3―2」や「4―5」など児童生徒の実態に合わせた柔軟な学年段階の区切りを設定している。さらに教育課程の特例を活用して独自の教科を設けたり、従来は中学校段階で実施していた教科担任制や定期考査、生徒会活動などを小学校高学年段階から導入したりする取り組みも見られる。その一方で、小中一貫教育を標榜しながらも、実際には単なる教員の交換授業や小中学校合同の学校行事など、一過性で表面的な活動に終始奔走している学校も少なくない。職員室や校内の会議が小中学校で別々な学校や、交換授業や合同行事が他の教育活動と関連付けられていないなど、ちぐはぐな実態も散見される。まさに“仏造って魂入れず”である。こうした学校は、小中一貫教育の目的を中1ギャップの解消や不登校対策、学力向上などに矮小(わいしょう)化して語る傾向が強い。確かにどれも重要な問題だが、小中一貫教育本来の目的がそこだけにあるわけではない。なぜなら、それは現行の小中学校でも解決可能だからである。小中一貫教育で大切なことは、「小中一貫した教育」という新しい価値や概念が、教員の学校観や教員観、児童生徒観や指導観などに変化を及ぼし、義務教育に対する教員の認識や意識を新たにすること、そしてそれに基づく教育活動を通して義務教育の質そのものを変えていくことにある。中1ギャップの解消といった個別具体的課題の解決は、教員の意識改革の成果の1つにすぎない。
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 一口に小中一貫教育の展開といっても、それぞれの地域や学校によって大きな温度差が見受けられる。それには理由がある。要は、情報不足、連携不足なのである。多くの自治体や学校にとって小中一貫教育は未知なる分野なのに、国が示す標準型や身近な先行事例が存在しない。今のように他地域との情報の交換・共有化が図られず、相互啓発作用も望めない状況下では、孤立無援で不安な試行錯誤を余儀なくされる。大きな混乱や失態を避けようと、当たり障りのない安全運転に陥りかねない。これでは改革は進まない。今、必要なのは、小中一貫教育が目指すべき方向性を示す縦軸と、同じ「志」を共有する自治体や学校の取組状況を示す横軸、という座標軸の設定なのだ。小中一貫教育を巡って各自治体や学校が情報を交換し、共有できる「場」が必要不可欠であり、それを教育現場は望んでいる。そこで、品川区で共に小中一貫教育を推進してきた大学研究者や学校現場の管理職、文部科学省担当者など多くの関係者の理解と賛同を得て、今秋に「日本義務教育学会(仮称)」を立ち上げる準備を進めている。小中一貫教育を巡ってはカリキュラム開発をはじめ、教員養成、教員免許、人事制度など検討すべき課題が山積する。こうした課題に学校現場や大学、行政の関係者が一体となって取り組み、小中一貫教育を真摯に推進する自治体や学校を支え、その広がりをより確かなものにしたい。

<川内原発は断層の上>
*6-1:http://qbiz.jp/article/86800/1/
(西日本新聞 2016年5月14日) 鹿児島知事「川内原発周辺で熊本地震のような地震は起きない」
 熊本地震を受け、全国で唯一稼働する九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)の安全性に不安の声が上がっていることについて、同県の伊藤祐一郎知事は13日の定例記者会見で「川内原発周辺で熊本地震のような地震は起きない。文献上、地震が頻発する断層がなく、緊急性は感じなくていい」と述べ、運転停止や事故に備えた避難計画見直しは不要との見解を示した。伊藤知事は、運転継続を認める理由に「原子力規制委員会が『停止する必要はない』と明確に言っている」ことも挙げ、「何かあれば自動停止するので、福島第1原発みたいな事故が発生する可能性はほとんどない」とした。

*6-2:http://373news.com/_column/syasetu.php?ym=201605&storyid=75431
(南日本新聞 2016年 5月 15日) [鹿県知事選] 原発も重要な争点では
 鹿児島県の伊藤祐一郎知事はおとといの定例会見で、熊本地震を巡って運転停止を求める声が出ている九州電力川内原発(薩摩川内市)について、今夏に予定されている知事選の争点にならないとの考えを表明した。知事は「調査・点検はすでに終わり、原子力規制委員会も(停止する必要がないと)太鼓判を押している」と述べた。知事としては、最大震度7が2回発生した熊本地震で、川内原発の揺れは最大8.6ガルで、原発が自動停止する設定値(最大加速度160ガル)を大きく下回ったことなどを踏まえた発言だろう。確かに、一連の地震で川内原発が被害を受けたとは聞かない。仮に大きな揺れがあたったとしても、異常があれば自動停止するシステムになっている。だが、不安の声がやまないのは、熊本を中心に甚大な被害をもたらした活断層の動きが専門家の予測を超えていることがある。余震の多さと震源域が広範囲に及び、発生から1カ月たっても地震は終息していない。川内原発周辺にも活断層はある。仮にそれらが動けば、大きな被害につながるのではないかと不安視するのは自然な感情だろう。知事も「多くの人が心配しているのは確か」と語っている。そうした中で、原発の安全性や今後の在り方などを巡り知事選で論争するのは重要なことだ。知事選には現職の伊藤氏のほか、新人の元テレビ朝日コメンテーター三反園訓氏、ストップ川内原発!3.11鹿児島実行委員会実行委員の平良行雄氏の3氏が立候補するものとみられている。三反園氏は地震後、「原発は一時停止し、点検するべきだ」と主張する。平良氏は「廃炉に向けた川内原発の即時停止」を政策の柱とする方針だ。3氏の原発に対する姿勢は異なる。だからこそ知事選では、原発を含む今後のエネルギー政策についてさまざまな選択肢で論争することが欠かせない。避難計画に疑問や不安があることにも、知事は川内原発周辺では今回のような地震は起きないとした。「緊急性は感じなくていい」と述べ、計画を見直す必要はないとの見解を示した。住民の不安に応えているだろうか。知事は「どういう態勢を取れば安心してもらえるかの作業は必要」とも語っている。今後の具体的な対応が求められる。県政の課題は多岐にわたる。原発問題だけが争点ではない。しかし、原発の論議は避けては通れない。正面から論じるべきだ。


PS(2016.5.18追加):熊本県は全国によい農産物を供給している県であるため、*7-2はよかったと思うが、畜舎や農業用ハウスの再建に対する補助率が5割超でいいかどうかは疑問だ。私は、ここでしっかりした畜舎や農業用ハウスを作った方がよいため、余剰している米ではなく、今後伸ばしたい作物を作っている場合の自己負担率は1割以下にした方がよいと思う。
 なお、*7-1のように、政府が地方創生のための地域特性に応じた政策を支援する方針を出したことは、地方が主体となって考える新しい街づくりに役立つため、よいことだ。しかし、私は、現在の省庁に欠けているのは総合的判断力であるため、文化庁や消費者庁など一部の政府機関を分散した場所に移転して、セクショナリズムの度合いを増すのには反対だ。首都直下型地震も予測され首都機能不全に陥っては困るため首都機能を移転するのなら、まとめて被害が及ばない場所に移転した方がよいと考える。
 しかし、*7-3のように、「米価安定のために2016年産米で34都道府県が減反を達成した」などとしているのは、転作せずに土地を遊ばせている誤った政策で、耕作放棄地予備軍を作っている。

*7-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160518&ng=DGKKASFS17H44_X10C16A5PP8000 (日経新聞 2016.5.18) 地域特性に応じ政策 地方創生、政府が支援方針
 政府がまとめる新たな地方創生の基本方針の素案が17日、明らかになった。人口減少や東京一極集中に伴う地方間の経済格差の是正のため、地域の特性に応じた政策を推進する必要性を明記。自治体独自の戦略にあわせ、国が情報・人材・財政からなる「地方創生版3本の矢」の支援を加速する方針を打ち出した。20日に首相官邸で開くまち・ひと・しごと創生会議で素案を示し、31日に閣議決定する見通しだ。文化庁など政府機関の地方移転の実現や、元気な高齢者が地方に移住する「生涯活躍のまち(日本版CCRC)」構想の推進も盛り込んだ。2040年までに全体の4割超にあたる705市町村が全国平均の2倍以上のスピードで人口減少に直面すると分析。中核市や中山間地域など地域特性ごとの共通課題を示し、解決のための政策メニューをまとめる必要があるとした。地方就職を支援する奨学金制度の普及や、公共施設の集約などを具体策に挙げた。

*7-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=37549
(日本農業新聞 2016/5/18) 農業支援第2弾きょう公表 補助率上げなど柱 熊本地震
 熊本地震に対応する2016年度補正予算の成立に伴い、森山裕農相は第2弾となる被災農業者への支援策を18日に公表する方針を表明した。経営体育成支援事業の補助率引き上げや、作付け困難な水稲に代わる作物の種子代助成が柱。迅速な事業の執行を通じ、農業復興を強く後押しする考えだ。 森山農相が17日の閣議後会見で明らかにした。農水省は既存の事業を活用した第1弾の農業支援策を9日に公表し、営農再開の支援に乗り出している。さらに必要な支援は、補正予算を活用して第2弾を打ち出す方針を示していた。森山農相は補正予算の成立をにらみ「(18日に)具体的なものを現場にお知らせする」との意向を示した。畜舎や農業用ハウスの再建に充てる被災農業者向け経営体育成支援事業について森山農相は、熊本県が補助率を現行の3割から5割超に引き上げるよう要望していたことを踏まえ、「どれくらいかさ上げになるか(示す)」と説明した。この他、被災施設の撤去や共同利用施設と卸売市場の再建、被災した畜産農家の地域ぐるみでの営農再開などにも取り組む方針。森山農相は「農家の皆さんの再生産への意欲を失わせることのないよう、しっかりした取り組みをしたい」と強調した。併せて、被害が大きい熊本市や益城町、南阿蘇村など9市町村に技術職員を二人ずつ派遣したと報告。被害の査定や書類作成に当たらせるとした。

*7-3:http://www.saga-s.co.jp/column/economy/22901/312985
(佐賀新聞 2016年5月18日) 佐賀など34都道府県、減反達成へ、16年産米 4月末、農水省調査
 農林水産省は17日、2016年産主食用米の生産調整(減反)目標への対応状況を調査した結果、4月末の計画段階で、佐賀など34都道府県が目標を達成する見込みとなったと発表した。前年同時期より3県増え、目標への取り組みが進んでいることから、過剰生産を回避し、米価の安定につながる可能性があるとみている。熊本県は地震の影響で調査の対象外。長年コメ余りが問題となり、農水省や農業団体は飼料用米や麦、大豆への転作を進めている。作付け計画は6月末まで変更が可能なため、今回の調査を受け、さらに転作を促す狙いがある。農水省は昨年秋、16年産主食用米の全国の生産数量目標を前年比8万トン減の743万トンとし、都道府県別に配分した。この目標を北海道や山形、宮城、富山、兵庫、岡山など34都道府県が達成する見込みだ。このうち在庫量などを踏まえ、目標をより厳しくした「自主的取組参考値」に対しては佐賀、福岡、大分など21都府県が達成する見通し。前年同時期より5府県増えた。調査は県やJAなどから農家の計画を聞き取ってまとめた。農水省は実際の作付面積や生産量の推計は公表していない。15年産は目標が751万トンに対し、生産量は744万トンだった。現在と同じ基準で目標設定を始めた04年産以来、初めて目標を達成した。農家やJAなど出荷側と卸売業者間の取引価格は、全国平均で60キロ当たり約1万3千円で推移し、供給過剰で低迷した14年産から千円ほど上がった。


PS(2016年5月19日追加):*8-1のように、将来の農業の担い手は、「佐賀の地から、世界に向けた農業の発信源となるような担い手やリーダーを目指して頑張りたい」「世界に打って出られる農業をしたい」などの頼もしい抱負を持っているので、学校等(農業高校、農業塾、大学の農学部)で、先進農業国の状況を学ばせたり、視察させたりすると、日本でも応用できる沢山のヒントが得られると考える。なお、「父を超える味のイチゴを作る」というのもあるが、品種や栽培方法などの農業技術が進み、農業生産の環境も変わるため、お父さんは当たり前に超えられ、それだけが目標では小さすぎるだろう。
 また、*8-2のように、熊本地震を受けた農業支援策で、いろいろな農産物に対して復興のための助成金がつくことになったため、これを機会に、熊本の自然条件にあった作物に転作したり(米もあっているとは思うが)、農地の集約を行ったりするのがよいと思う。関東でも、熊本、宮崎、沖縄、鹿児島、長崎、佐賀、福岡(何故か、大分はあまり見ない)などの農産物はおなじみだ。

       
*8-2 イチゴの被害  “重機隊”の応援(*9-1)     その他の応援と感謝
  2016.5.19、4               2016.5.19、15、14西日本新聞
  日本農業新聞

*8-1:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10105/312899 (佐賀新聞 2016年5月18日) 13日、「未来さが農業塾」入塾式、高校生14人 地域農業のリーダーに
 将来、家業を継いで就農を希望する高校生を対象とする「未来さが農業塾」(塾長・荒木清史高志館高校長)の入塾式が13日、佐賀市川副町の県農業試験研究センターで開かれた。県内の農業系5校の生徒14人を新たに迎え、県内の先進農家での研修や海外の農業事情の視察などを通じて高度な農業経営術を身に付ける。同塾は、農業系高校でつくる県高校教育研究会農業部会が主催。県の農林水産部や研究機関、JAなどの団体が支援に当たる。本年度は12月までに県内の農家に泊まり込んでの研修やオーストラリアへの海外研修などを行い、高度な農業技術や経営ノウハウの取得に努め、3年次には営農計画を策定する。式には1~3年生の塾生45人が出席した。荒木塾長は「これからの農業は若い柔軟な発想が大事になる。立派な地域農業のリーダーとして育ってほしい」と式辞を述べた。入塾生を代表して佐賀農高1年の吉原颯人さん(15)=白石町福富=は「佐賀の地から、世界に向けた農業の発信源となるような担い手やリーダーを目指して頑張りたい」と宣誓した。他の塾生も「父を超える味のイチゴを作る」「世界に打って出られる農業をしたい」と入塾の動機などを語った。

*8-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=37570 (日本農業新聞 2016/5/19) 熊本地震で支援策第2弾 種子・苗代を半額助成 農水省
 農水省は18日、熊本地震を受けた第2弾の農業支援策を公表した。2016年度補正予算を活用し、被災した農業者の営農再開に向け、水稲から大豆など作物転換にかかる種子代や作業料金を助成する。畜産クラスター事業を通じた畜産経営の再建などにも乗り出す。第2弾の支援策は、17日の補正予算成立を受けて公表した。森山裕農相は「速やかに営農再開いただけるようにサポートする」と述べ、事業の執行を急ぐ考えを示した。営農再開に向けた支援では、地割れや水利施設の損傷で16年産の稲作が困難になった農業者に対し、代わりに作付ける大豆や野菜などの種子・種苗代を半額以内で助成する。農作業委託や、代替作物の栽培に必要な農業機械のレンタルにかかる経費も支援する。中でも、大豆など経営安定対策の対象作物には交付金合わせて10アール当たり5万5000円が支払われるため、所得の一定確保へ一連の対策で作付けを後押しする考え。畜舎の倒壊や家畜の死亡といった甚大な被害が出ている畜産経営の再建は、畜産クラスター事業で対応。地域ぐるみで収益力向上に取り組む畜産クラスター計画の中心的経営体に、施設整備と家畜導入をセットで支援する。被災地の建設費高騰に備え、施設整備を支援する際の上限単価引き上げなど柔軟に対応する。この他、被災を機に野菜や果樹などに作物転換したり、規模を拡大したりする農業者も支援する。農業機械や施設園芸用機器のリース導入、パイプハウスや果樹棚の設置に必要な資材の共同購入にかかる経費を半額以内で助成する。今回の補正予算は、省庁ごとに予算を積み上げる従来の編成と違い、あらかじめ使い道を定めない予備費を財源とした。同省は現場の要望を聞き取り、事業費を決める方針。農業者が支援を受けるには、JAや市町村などを通じ、同省に意向を伝える必要がある。


PS(2016年5月20日追加):*9-1のように、全国の建設業者のボランティアである“重機隊”が活動を始めて力強い。また、*9-2のように、民間の支援を調整して動くことにより大きな力を出し、それぞれの得意分野を生かして現地のニーズに応えるため、支援組織「佐賀から元気を送ろうキャンペーン」を発足させたそうだが、全国規模や九州規模でニーズに応えれば解決が速やかだろう。

*9-1:http://qbiz.jp/article/87095/1/ (西日本新聞 2016年5月19日) “重機隊”思い出の品救う 建設業者が全国から応援 被災家屋で無償捜索
 熊本地震の被災地では倒壊家屋に埋もれた「思い出の品」を見つけ出そうと、全国の建設業者が重機を使ったボランティア活動を始めている。関係者の思いに応えるため、受け入れ側も万全の環境を整えている。呼び掛けたのは、岐阜県高山市の災害ボランティア団体「Vネットぎふ」代表川上哲也さん(52)。今回の地震後、「本格的な解体作業が始まると、全て撤去されてしまうことが多い」と懸念。「思い出」を持ち主に返してあげたいと、東日本大震災や関東・東北豪雨などで復旧作業した建設業者に協力を募った。活動場所は熊本県西原村。全国から仲間が集まり、ボランティアセンターを開設する村社会福祉協議会に目的を話した。社協側は危険を伴う機器を扱う作業はボランティア活動保険の対象とならないこともあり、一時は難色を示した。しかし「自分の技術を役立てたい」「保険が出なくても構わない」との熱い思いに打たれ、川上さんらの活動を認めた。1階部分がつぶれた川元博美さん(58)宅。社協のビブスを着た作業員らが手慣れた様子でショベルカーやチェーンソーを操ると、小さな貯金箱が見つかった。娘が幼い頃から大切にしていた品。「やっと見つけた。今日で捜し物は終わりだな」。川元さんは目に涙を浮かべながらつぶやく。日記やアルバム、結婚記念のネックレス…。これまで200人以上が携わり、いくつもの「思い出」を見つけた。川上さんは「家族の歴史は一度失うと取り戻せない。それだけは守ってあげたい」と支援を続ける決意を語った。

*9-2:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/313601
(佐賀新聞 2016年5月20日) 民間25団体が連携 被災地を支援、ニーズ、得意分野で調整
 熊本地震の被災地を連携して支援しようと、佐賀県内外のNPO法人や一般社団法人など25団体が支援組織「佐賀から元気を送ろうキャンペーン」を発足させた。民間の支援を一本化し、調整して動くことでより大きな力につなげる狙い。被災地で活動する他の団体とも連携し、それぞれの得意分野を生かして現地の細かなニーズに応える。支援組織は、東日本大震災発生時にできたネットワークを基に構成。佐賀未来創造基金や地球市民の会などが入っており、佐賀から必要な人材や物資を送る仕組みをつくる。具体的には、被災地で復興支援を行うNPO法人アジアパシフィックアライアンスや日本レスキュー協会などが被災者のニーズを調べ、その情報に沿って活動に適した団体が支援する。主に熊本県益城町と西原村で活動し、期間は約1年を予定。岩永清邦委員長は「行政には対応が難しい細かなニーズに、民間のフットワークの軽さで応えていきたい」と話す。被災地の現状と支援のあり方を考える講演会を21日午後3時半から佐賀市白山の佐賀商工ビルで開く。西原村で災害復旧に当たった県職員の鶴田さゆりさんらが話す。参加無料。申し込みは地球市民の会、電話0952(24)3334。


PS(2016年5月22日追加):大豆に転作すると飼料用米(牧草やとうもろこし等の代替品がある)に転作するよりも補助金が少ないのは前からおかしいと思っていたが、水稲農家の転作に際しては、このような問題が生じているのだ。しかし、本当は足りないものを作る人の方が儲かる仕組みでなければならない。熊本は水がよいため、スイカは適地であるし、そのほか桃・アーモンド・オリーブ・デコポン(ハチミツが副産物)などの水を多く吸い上げる作物にも向いていると思うので、熊本大学・九州東海大学の農学部や九州農政局も協力して、水稲にこだわらず、周囲を彩りながら、土地の長所を活かして儲かる農業を考えたらどうだろうか。

    
   デコポン       オリーブ       桃と菜の花            アーモンド

*10:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=37596
(日本農業新聞 2016/5/21) 熊本地震 大豆作「湿田は無理」 水稲並み所得難しく 阿蘇市
 熊本地震の影響で水路を断たれた熊本県阿蘇市の水稲農家が、国が勧める大豆への作付け転換では所得を確保するのは難しいと、不安を抱えている。十分な収量が見込めない湿田地帯で、“大豆不適地”のためだ。国の交付金を含めても主食用米と同等の所得は見込めそうにない。大豆に向かない地域特性を踏まえた支援を求める声も上がっている。「前を向いてやるしかないが、大豆では食っていけないのが現実だ」。同市で稲作を営む内田智也さん(31)は、荒れた水田を前に腕を組む。今期は45ヘクタールで田植えを予定していたが、水路が壊れるなどして3分の1は断念した。大豆への転換も模索するが、「米ほどの所得は確保できない」と言い切る。同市は湿田地帯で雨も多く、大豆には不向きとされる。九州農政局によると、10アール当たり収量は100キロに満たず、全国平均、県平均の半分程度だ。近年は乾田化も進むが、地震で排水施設が破損しているとみられ、収量は減る恐れが強い。阿蘇地域振興局は、管内の大豆の販売代金を60キロ1万円と見込む。10アール収量を100キロとしても、販売代金は1万6000円。畑作物の直接支払交付金(ゲタ対策、10アール2万円)と水田活用の直接支払交付金(同3万5000円)を合わせても収入は10アール当たり7万1000円にとどまる。担い手加算(同2万3000円)などの交付金もあるが、受けられない農家も少なくない。一方、主食用米の販売代金は60キロ当たり1万3000円で、10アール収量は480キロ。米の直接支払交付金(7500円)を合わせて収入は10アール当たり11万1500円となり、大豆を大きく上回る。九州農政局は「基本的に大豆でも米と同等の所得が確保できる」としつつも、「阿蘇などの地域では所得が米を下回る可能性もある」と認める。阿蘇市などによると、市内で田植えができない水田は約300ヘクタール。農家らによる応急復旧が進んでいるため今後、作付けできる水田が増える可能性もあるが、多くの農家が収入減少の影響を受けるとみられる。阿蘇土地改良区は「生活が厳しくなる農家が出る。前例にとらわれず、所得を補償するなどの支援が必要だ」と訴える。農水省は、地震で営農が困難な農業者の所得確保策として、他の農業法人で働くことも想定する。受け入れ法人に年間最大で120万円を助成する支援策を用意した。

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2016.5.12 トップランナーをつぶして付加価値を上げさせない日本の護送船団行政とメディア (2016年5月12、13、14、15、16、27日、6月7、13日に追加あり)

        三菱自動車の燃費不正の概要         これまでの不正  三菱自動車のiMiev


   一人当たり        主な自動車メーカーの提携関係         インド、タタ自動車のEV  
GDP成長率の推移                               (*タタのEVの方が、かわいい)

(1)燃料電池車のトップランナーはどうなったか
1)エコカー減税の愚かなルールのせいで、燃料電池車のトップランナーが苦戦した 
 三菱自動車は、*1-1のように、環境性能が良い車の税金を優遇する「エコカー減税」を獲得するために、メーカーが測定して自己申告する仕組みを悪用して、軽自動車4車種の走行抵抗値を意図的に小さく偽装し、燃費を実際より5~10%良くして申告していた。

 このようなことを他の自動車会社も行っていたことは記憶に新しいが、自己申告で監査も行わず、信頼をベースにしたシステムにしていたことが、不正を許した温床である。

 さらに根本的な問題は、「環境性能が良い車(エコカー)」を「燃費がよい車」と定義づけて、自動車取得税や自動車重量税を減免するルールを作ったことである。実際には、エコカーとして減税すべき車は排気ガスで環境汚染をしない車であって燃費がよい車ではない。何故なら、①燃費がよい車は減税などしなくても消費者に選択されるため減税制度は不要であり ②燃費のみを問題にすればゼロ戦のような軽い車を作ればよく、それでは安全性を保てない上 ③環境には排気ガスという公害を出し続けるからだ。

 しかし、このルールのせいで、*1-2のように、(適度な緊張感としてプレシャーは必要なもので、プレシャーがあるから不正をしてよいということはないが)開発のプレッシャーがかかり、ガソリン1リットルあたり29.2キロまで燃費目標を引き上げたのだそうだ。しかし、私は、世界初の燃料電池車を作った三菱自動車が、このようなくだらない燃費競争の枠組みの中で、1リットルあたり数キロを小さく競ったのが間違いだったと考える。それよりも、軽自動車は女性に愛されるデザインのよいEVにし、環境汚染してならないのは船や飛行機も同じであるため、大きな馬力の必要な船やMRJなどの飛行機を燃料電池に換えればよかったのだ。

 なお、蛇足だが、ブレーキはよく効き走行抵抗値の小さな車を作りたければ、タイヤの摩擦は大きくし車体やホイールの形を工夫して、高速走行時には少し浮力が出るようにすればよいと思う。

 また、*1-3のように、三菱自動車は過去にも何度も不祥事を起こしており、1996年に米国子会社内で起きたセクハラ事件は私も眉をひそめながら見ていたので記憶しているが、その頃、日本にはセクハラという言葉すらなく多くの会社で同じことが行われていたが、三菱自動車は、米国でそれをやったため訴訟されて多額の和解金を支払ったもので、これが日本でセクハラ意識が出てくるきっかけになったと記憶している。

2)三菱自動車が生き残るには、長所を活かして組織再編すべき
 米IT大手グーグルは、*1-5のように、欧州自動車大手のフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)と自動運転車を共同開発すると発表しているが、燃料はまだハイブリッド車のようだ。そのため、太陽と水があれば走れる燃料電池車や太陽があれば走れる電気自動車は、今後、アジア・アフリカはじめ世界各地で主役になると考える。

 そのような中、*1-3のように、アジア市場を強化したり、「選択と集中」を行って世界市場をめざしたりするとすれば、自社の技術に飛びぬけた価値があるうちに、インドのタタグループや韓国の現代自動車やフィアット・クライスラー組などと提携して、その地域に合うデザインのよいEVや燃料電池車を作り上げる方法がある。

 しかし、*1-4のように、日産自動車が約2千億円を投じて三菱自動車の3割強の株式を取得する方向となり、EVで競合する日産・ルノーと組むのが三菱自動車にとってプラスかどうか私にはわからないが、日産・ルノー組は中国やアジアでのEV販売で数歩進んでおり、ゴーン社長のコメントどおり、日産・ルノー組と三菱自動車が生産・販売で連携すれば技術開発や販売力などでのシナジー効果が高まりそうだ。そして、上図のように、GDP成長率の高い国には、近年、アフリカも入ってきており楽しみである。

 こういう世界戦略をたてて、①販売する場所 ②生産する場所 ③研究開発する場所 ④持ち株会社や本社の所在地 などを決める場合は、①は需要の多い場所 ②は労働力の安価な場所 ③は①と近接した場所に置いて販売地域のニーズに詳しいその地域出身のエンジニアを多く採用し ④は税率の低いタックスヘイブンに置く のがグローバル企業の基本だ。そのため、インド・シンガポール・東南アジア・中東・今後のアフリカなどは、有力な選択肢という結論になる。

 そして、これまでガソリン車の部品を作っていた系列会社も、もう新しいスキームに合った部品を作り、必要な場所には出て行く覚悟もしなければ、世界市場に置いて行かれると考える。

(2)太陽光発電のトップランナーはどうなったか
 *2-1のように、過去と目の前しか見えない経産省が、①原子力・石炭火力 ②水力 ③地熱をベースロード電源とし、太陽光発電は高くて不安定などとする風評被害を流したため、*2-3のように、世界のトップランナーだったシャープは行き詰まり、台湾の企業に買収されて、現在は2000人もの優秀な人材の削減を検討している。しかし、そもそも電源を、ベースロード電源とそれ以外に分けること自体が、過去と現在しか見ていない愚かなことなのだ。

 また、*2-2に、北九州市の響灘で、NEDOを主体とした洋上風力発電設備の実証研究が進んでいると書かれているが、この対象は風レンズ風車でもない普通の風車であり、鳥を巻き込んだり低周波を出したりして環境に悪影響を与える危険性も高いため、私は、特に研究しなければならないほどの高い技術だとは思わない。つまり、何でも適当に混ぜておくのが、バランスがよいわけではないのである。

<燃料電池車のトップランナーはどうなったか>
*1-1:http://digital.asahi.com/articles/ASJ4Q5WP4J4QUTIL04N.html
(朝日新聞 2016年4月22日) エコカー減税分、購入者の負担回避 政府、三菱の不正で
 三菱自動車の燃費偽装問題で、国土交通省は22日、燃費算出の元となるデータをメーカー任せにしていた検査方法を見直すと明らかにした。実際の燃費が悪かった場合、エコカー減税の額にも影響が出るが、政府は購入者に負担させない方針を打ち出した。自動車メーカーが新しい車を発売する前には、国交省の「型式認証制度」に基づき、国交省の外郭団体「自動車技術総合機構」が安全性や環境性能を審査する。燃費性能も試験し、カタログに記される値が確定する。燃費試験では、回転するローラー台の上で車を走らせる。実際の路上を走らせると、タイヤと路面の摩擦や空気の抵抗による「走行抵抗」がかかるため、ローラーにはその分の抵抗を加えて燃費を算出する。この走行抵抗の値はメーカーが測定し、機構に自己申告する仕組みだ。三菱自はこの仕組みを悪用し、軽自動車4車種の走行抵抗値を意図的に小さく偽装して申告した。カタログ上の燃費は、実際よりも5~10%良くなっていた可能性がある。三菱自が出したデータを審査する側がチェックする仕組みがなく、石井啓一国交相は22日の記者会見で「不正が二度と行われないよう検査方法の見直しを検討していく」と表明した。具体的には、メーカーが走行抵抗値を測る試験に国の検査員が抜き打ちで立ち会ったり、測定試験の細かなデータを提出させたりする案が浮上している。型式認証制度に基づき、国交省は2年に1度ほどメーカーを監査している。ただ工場での品質調査が中心で、今回不正のあった設計開発部門までは通常は調べない。また、国が直接、走行抵抗値を測るには手間が掛かりすぎて現実的ではないという。担当者は「検査を迅速に行いつつ、データの信頼性を確保することが必要」と話す。(中田絢子)
■三菱自「税金、差額お返しする」
 三菱自動車がデータを偽装した軽自動車4車種では、環境性能が良い車の税金を優遇する「エコカー減税」が過剰に適用された可能性がある。国や自治体にとっては、税金を「取り損ねた」ことになるが、政府は、減税の恩恵を受けた消費者には負担を求めず、三菱側に負担させる方向で検討に入った。購入時などにかかる自動車取得税(地方税)や自動車重量税(国税)には燃費など環境性能に応じて税を減免する制度がある。三菱の偽装がなければ、税の減免幅が小さくなっていた可能性がある。本来なら購入者に差額の納税義務が生じるが、地方税を所管する高市早苗総務相は22日の会見で「購入者はエコカーだと信じて買ったので、さかのぼって税を負担する必要はない」と述べた。総務省や国税庁など関係省庁は、税収不足が明らかになった場合、本来の納税者に代わって第三者が税金を納める「第三者納付制度」を使うなどして、三菱側に直接支払わせることができないか検討を始めた。たとえば、直前まで販売していた「eKワゴン」の主力車種は、取得税と重量税はいずれも免税になっていた。仮に免税も減税もなければ計約3万円の税負担が発生する。三菱自動車は、税金の額が変わった場合、「関係機関と調整し、当然差額をお返しする」(幹部)としている。

*1-2:http://www.j-cast.com/2016/04/26265363.html
(Jcastニュース 2016/4/26) 副社長「プレッシャーがかかったんだと思う」
三菱自動車は4月26日、国土交通省に社内調査の報告書を提出。併せて、公式サイトでも報告書の概略を発表した。それによると、不正が発覚した『eKワゴン』『デイズ』だけに特定せず、国内向け車両について、1991年から法令に定められた方法とは異なる「高速惰行法」で計測していた。01年1月には、「惰行法」と「高速惰行法」の比較試験を実施し、結果に最大2.3%の差が生じることを確認。07年2月には、試験マニュアルで、「DOM(国内)はTRIAS(惰行法)」と改定したが、実際には、それ以降も「高速惰行法」を継続して使用していたと報告した。また、燃費性能データを高く見せる偽装が発覚した『eKワゴン』『デイズ』については、当初(2011年2月)の燃費目標はガソリン1リットルあたり26.4キロだったが、その後の社内会議で繰り返し上方修正され、最終的には同29.2キロまで引き上げられた。同日行われた記者会見で、中尾龍吾副社長は、「コンセプト会議や役員が出席する商品会議で5回の改定があった。(ダイハツ工業の)ムーヴの値をもとに最終的な数値を設定した」などと説明。競合他社との競争が目標燃費の設定に影響を与えたことを明かした。また、開発現場には、「(目標燃費について)プレッシャーがかかったんだと思う」とも話した。報告書の提出とともに、外部の専門家で構成される調査委員会を設置することも発表。「事実関係の調査」「類似した不正の存否及び事実関係の調査」「原因分析、及び再発防止策の提言」の3点について、3か月を目処に調査を実施する予定とした。

*1-3:http://mainichi.jp/articles/20160427/ddm/008/020/165000c (毎日新聞 2016年4月27日) 三菱自動車燃費不正/上 自浄作用働かず グループ内、突き放す声
 「消費者に対してはおわびしかない。会社存続に関わる問題と認識している」。26日、燃費データ不正に関する国土交通省への報告後、東京都内で記者会見した三菱自動車の相川哲郎社長の言葉には、今回の問題の深刻さがにじんだ。「どうしようもない会社だ。私が知ってる範囲でも5度目ぐらいではないか」。三菱グループのある企業幹部が憤るのは、三菱自動車が過去に繰り返し不祥事を起こしてきたからだ。1996年には米国子会社で起きたセクハラ問題で多額の和解金を支払ったほか、97年の総会屋利益供与事件では社長の辞任につながった。そして、2000年に発覚したのが安全面の根幹を揺るがすリコール(回収・無償修理)隠しだ。車両の欠陥を組織的に隠していたことが発覚し、厳しい批判を浴びた。 さらに04年には同社から分社した三菱ふそうトラック・バス製の大型トラックのタイヤが外れ、母子3人が死傷した事故を巡り、欠陥を隠してリコールを逃れていたことが判明。ふそうの元会長らが逮捕された。2度にわたるリコール隠しで三菱自の信用は失墜し、深刻な経営危機に陥った。そこに手をさしのべたのが三菱グループだ。御三家と呼ばれる三菱商事、三菱重工業、三菱東京UFJ銀行を中心に増資や借り入れなどで5400億円の金融支援を実施。三菱自の元幹部は「グループ支援がなければ破綻していた」と振り返る。三菱3社は三菱商事出身の益子修氏を社長に送り込むなど、人材面でも三菱自を支えた。三菱自は国内は軽自動車とスポーツタイプ多目的車(SUV)などに特化、海外ではアジア市場を強化するなど「選択と集中」により業績を回復。14年6月には生え抜きの相川氏が社長に昇格した。三菱重工の元会長を父に持つ相川氏は「早くから将来の社長候補と目されていたプリンス」(三菱自幹部)とされる人材で、業界内では「危機モードからの脱却」と受けとめられた。しかし、ようやく成長への道のりを歩み始めようとした矢先に再び会社を揺るがす燃費不正問題が勃発した。三菱自に出向経験のある三菱グループ企業幹部は「グループの支えで業績回復していた。だが、企業体質までは変えることはできなかった」と悔やむ。「自浄作用が働かなかった」。相川社長が反省の弁を述べるように、今回の問題発覚は提携先の日産自動車からの指摘がきっかけだった。関係者によると、三菱自は当初、約3カ月間の調査委員会による調査が終わるまで発表を先送りすることを検討していたが、日産などの反対を受けて発表に踏みきった。隠蔽(いんぺい)体質は今なお染みついていると受け止められてもおかしくない。今回の問題に伴う補償金の支払いや、消費者不信による販売への打撃などで、三菱自は再び深刻な経営危機に陥ることも予想される。しかし、三菱グループ内には「これ以上支えるのは無理だ」と突きはなす声も出ており、存続の危機に直面している。
    ◇
 三菱自動車はなぜ不正の再発を防げなかったのか。過去の経緯や今回の問題の背景を追う。

*1-4:http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ11IQK_R10C16A5MM8000/?dg=1
(日経新聞 2016/5/12) 三菱自、日産傘下で再建 3割強2000億円出資受け入れ
 日産自動車は約2千億円を投じて三菱自動車の3割強の株式を取得する方向で最終調整に入った。日産が三菱自の第三者割当増資を引き受け実質傘下に入れる案が有力だ。燃費データの改ざんが発覚した三菱自の経営立て直しに協力する。中国やアジアなどでの生産・販売でも連携する。三菱自の不祥事をきっかけに、自動車メーカーの大型再編につながる可能性が出てきた。両社は12日に取締役会を開いて資本提携を決める。日産は三菱自の約20%の株式を所有する三菱重工業を上回る筆頭株主となる。三菱自と日産は2011年に折半出資で軽自動車の共同企画会社を設立している。三菱自の水島製作所(岡山県倉敷市)で生産し、日産に供給している。軽4車種の燃費データの改ざんについて、三菱自は「日産の関与はなかった」としている。三菱自の軽自動車の販売台数は国内全体の6割を占める。同社は16年3月末で自己資本比率が48%あり、現預金も約4500億円ある。当面は財務的な余力があるが、00年以降のリコール(回収・無償修理)隠しなど度重なる不祥事で消費者の不信が深刻になっている。軽以外の車種の販売への影響も必至だ。一方、海外では三菱自は一定のブランド力を保っている。タイやインドネシアでは「パジェロ」などの三菱自の多目的スポーツ車(SUV)の人気は高く、アジアで連結営業利益の5割超を稼ぐ。不正発覚後も海外では目立った販売減は起こっていない。トヨタ自動車やホンダに比べてアジアのシェアが低い日産にとって、三菱のブランド力は魅力だと判断した。両社は電気自動車(EV)の開発でも協力する。ハイブリッド車(HV)に加え、燃料電池車(FCV)を次世代エコカーの柱と位置づけるトヨタやホンダに対し、EV技術でも連携して競争力を高める狙いだ。EVの軽自動車の共同開発も視野に入れる。国内自動車市場で軽の存在感が増すなかで、11年に日産は三菱自との提携を選んだ経緯がある。同社からOEM供給を受ける軽の販売台数は国内の3割近くに達しており、三菱自の経営再建は日産の日本での事業戦略を左右する。今回の不正発覚後も、軽の生産拠点を持たない日産は「できれば三菱自との提携を続けたい」(幹部)との意向を示していた。

*1-5:http://qbiz.jp/article/86165/1/
(西日本新聞 2016年5月4日) 米グーグルが自動車大手と提携 自動運転車を共同開発
 米IT大手グーグルは3日、欧州自動車大手のフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)と自動運転車を共同開発すると発表した。グーグルが自動車大手と直接提携して開発するのは初めて。グーグルは、自社設計の試作車やトヨタ自動車の高級車ブランド「レクサス」を独自に改造した車両で試験走行を重ねてきた。各社との開発競争が強まり、FCAの技術を取り込んで早期の実用化を目指す。FCAのハイブリッド車のミニバン「パシフィカ」に、自動運転に必要なコンピューターやセンサー類を組み込む。年末までに導入して公道試験を開始し、100台を製造する。自動運転車を巡っては、米自動車大手フォード・モーターや配車大手ウーバー・テクノロジーズなどが4月、米政府に統一基準づくりを促すための連合を設立するなど、実用化に向けた動きが加速している。

<太陽光発電のトップランナーはどうなったか>
*2-1:http://www.nikkei.com/article/DGKKASGG07H4G_X00C15A8TJM000/
(日経新聞 2015/8/10) ベースロード電源
 季節や天候、昼夜を問わず安定して発電し、電力を供給できる電源のこと。燃料費が安くて運転コストが低いことも重要な条件になる。「ベース電源」と呼ぶこともあるが、国際的にはベースロード電源が定着している。日本では、原子力や石炭火力、水力、地熱の4つの方式がベースロード電源として挙げられている。液化天然ガス(LNG)や石油を燃やす火力発電所は電力需要の増減に合わせて運転するため「ミドル電源」や「ピーク電源」と呼ばれる。ベースロード以外の電源にはこのほか太陽光や風力などがある。政府は昨年4月に閣議決定した「エネルギー基本計画」で原発を「重要なベースロード電源」と位置づけた。

*2-2:http://qbiz.jp/article/85802/1/
(西日本新聞 2016年5月1日) 【エネ相会合の舞台・中】主力産業に洋上風力 北九州・響灘
 青い空と海に高さ約120メートルの白い風車が映える。北九州市若松区沖1・4キロの響灘。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)を主体にした洋上風力発電設備の実証研究が進む。15日、ここを船で訪ねる見学会が開かれた。年間を通して安定した風が吹き、同市が洋上風力発電の誘致を進める海域だ。「風力産業は約2万点の部品が必要で自動車産業のように裾野が広い。新たな主力産業にしたいと考えています」。案内役の市エネルギー産業拠点化推進課の伊藤嘉隆主任は約60人の市民や企業関係者に語り掛けた。現在、響灘の洋上風力発電設備はこの1基だけだが、市は周辺海域約2700ヘクタールを「洋上ウインドファーム」とする構想を描く。出力3〜5メガワットの風車が数十基立地できると試算。8月以降に事業者を公募し、2021年度からの建設開始を目指す。
   ■    ■
 石油に替わる再生可能エネルギーの一つとして世界的に注目されている風力発電。北九州市は10年度から響灘周辺に風力発電産業を集積し、アジアをマーケットににらんだ生産拠点化を図る「グリーンエネルギーポートひびき事業」をスタートさせた。11年、ドイツの港湾都市・ブレーマーハーフェン市を訪れた市港湾空港局の光武裕次部長は港の光景に目を見張った。荷積み前の自動車などが並ぶターミナルに隣接して洋上風車の部品ターミナルがあり、発電機部分を収納する「ナセル」や、長さ数十メートルの羽根などが所狭しと並んでいた。港は風力発電所が林立する北海に近い。基幹産業の造船業が衰退した同市は06年以降、洋上風力発電設備の積み出し港化と部品工場などの関連企業誘致で復活を果たした。「北九州市とよく似ている。われわれも同じことができるはず」。光武部長は意を強くした。5月1、2の両日、主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)の関係閣僚会議の一つとして、同市で開かれるエネルギー相会合。再生可能エネルギーを含む「持続可能なエネルギー」もテーマとなる見通しだ。「地球に優しい風力発電は環境未来都市・北九州市にふさわしい。積極的に発信していきたい」と光武部長。市は会合の歓迎レセプションで各国閣僚に、洋上風力発電と「G7」、響灘のデザインを背にあしらった法被を着てもらい、国内外にアピールする方針だ。
■北九州市と風力発電…北九州市内には陸上12基、洋上1基の大規模風力発電設備が立地。年間で約1万1500世帯分の電気を賄うことができる。若松区には太陽光やバイオマスなども含めたエネルギー産業の集積が進んでおり、昨年7月、同区の響灘地区を電力産業の拠点にしようと、産学官でつくる「響灘エネルギー産業拠点化推進期成会」が発足した。

*2-3:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12337173.html
(朝日新聞 2016年5月1日) シャープ、2000人削減検討 国内社員の1割規模 太陽電池など
 シャープは台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業に買収されることが決まっているが、中国の景気減速もあって足もとの業績は悪化。2016年3月期は、最終的なもうけを示す純損益が2千億円を大きく超える赤字になりそうだ。12年と15年の希望退職で計約6千人が辞めるなど、人員を減らしてきたが、一層の削減に取り組む。社内には事業活動に影響が出るとして、慎重論もある。複数のシャープ関係者によると太陽電池の販売が落ち込んで、堺市の工場の生産が低迷。鴻海は太陽電池事業の抜本的な見直しを求めており、大幅に縮小するとみられる。本社の土地と建物は3月に売却し、いまは借りて使っている。移転先として、太陽電池の堺工場を活用する。あわせて管理部門の人員は減らし、本社の機能は効率化する。堺工場は、鴻海と共同で運営する液晶工場「堺ディスプレイプロダクト」に隣接しており、鴻海側も移転を求めていた。鴻海はシャープへの出資の契約に際し、既存の従業員の雇用は原則維持することで合意していた。シャープは想定以上の業績悪化で、鴻海から出資を受ける前に、合理化に取り組む。一方、鴻海が重視する液晶部門の技術者らには、業績に応じて高い報酬が得られる仕組みもつくる。
■合理化の主な検討内容
◆社員を2千人規模で削減
◆太陽電池事業を縮小
◆本社を大阪市阿倍野区から堺市の工場に移転
◆本社管理部門を効率化


PS(2016年5月12日追加):このような中、*3のように、目の前の(棚からぼたもちの)金に目がくらんで核のゴミ捨て場になるような後ろ向きで情けないことはしないで欲しい。何故なら、①玄海灘や農林漁業・観光業の盛んな周辺環境を汚す可能性があり ②それらにマイナスのブランドイメージを与える上 ③高レベル放射性廃棄物の最終処分方法はもっと安価で安全な方法がある からである。

*3:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10208/310952
(佐賀新聞 2016年5月12日) 経産省、佐賀で核ごみ処分説明会、候補地、今年中に提示方針
 経済産業省は12日、原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分方針に関する自治体向け説明会を佐賀市で開いた。処分の候補地に選定された場合、国との協議に応じる姿勢を示す佐賀県玄海町など県内14市町の担当者が参加。経産省側は「国が前面に立って丁寧な対話を重ねていく」とし、処分への理解を求めた。説明会では処分の候補地として適性が高い地域を今年中に提示する方針が改めて示された。終了後、玄海町の担当者は「周辺自治体のこともあるので、選定された場合のことはコメントできない」と話した。


PS(2016.5.13追加):自動車会社のテリトリーは下の地図のようになっており、日産自動車と三菱自動車が提携して販売・生産・研究開発を行えばシナジー効果が大きいと考える。しかし、ゴーン社長が言っておられるとおり、売上高で上位になることを目的とした合併では意味がなく、それでは瞬間的な売上高拡大に終わる。しかし、今後、燃料電池や蓄電池は、自動車だけでなく住宅にも使用していくものであるため、住宅団地の多くの家が、①太陽光発電 ②燃料電池や蓄電池 ③オール電化システム などを標準装備すれば、光熱費を0にした上、街を発電所にすることができる。そのため、ヤマダ電気や住宅会社と連携して、九州大地震や東日本大震災の復興、住宅団地の新規建設に入っていけばよいだろう。

     
   世界への自動車会社進出地図  日産・三菱の生産拠点  世界販売台数  世界の 
                              2016.5.13日経新聞     実質経済成長率


スマートハウスのモデル  スマートシティー            個別のスマートハウス

*4:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160513&ng=DGKKASDZ12I5Z_S6A510C1MM8000 (日経新聞 2016.5.13) 日産、三菱自に会長派遣 2370億円出資
 日産自動車は12日、2016年内をメドに2370億円を投じて、三菱自動車の株式の34%を取得すると正式発表した。会長を派遣し燃費データの不正問題に揺れる三菱自の再建を支援するほか、車の次世代技術の開発(総合2面きょうのことば)や両社の生産拠点を一体運用するなど連携を強化する。研究開発費の増大などで中堅以下の自動車メーカーの経営環境が厳しさを増すなか、日産は三菱自の不祥事を契機に大型再編に踏み切り規模拡大を狙う。日産と資本業務提携する仏ルノーに、三菱自を加えた15年の世界販売台数は959万台。1千万台前後で競り合うトヨタ自動車や独フォルクスワーゲン(VW)、米ゼネラル・モーターズ(GM)の3強に迫る第4極が誕生する。日産と三菱自は規制当局の承認を経て16年5月末をメドに正式契約を結び、16年末までに全ての手続きを終える計画だ。第三者割当増資後の三菱重工業をはじめとする三菱グループの出資比率は現在の約3分の1から4分の1前後まで下がる見通し。12日に共同記者会見した日産のカルロス・ゴーン社長兼最高経営責任者(CEO)は「燃費不正にかかる消費者からの信頼回復に力を注ぐ」と強調した。ルノーとの資本業務提携を通じて構造改革を果たした日産の経験やノウハウを生かし、新たなパートナーとなる三菱自の再建を手助けする考えだ。三菱自の益子修会長は再建に踏み切った背景について「日産との提携は、信頼回復と経営の安定を目指す上で重要な道筋だ」と説明した。日産から技術者を受け入れることで、燃費不正の温床となった「開発部門を大きく変えるきっかけをつくれる点を期待している」と述べた。日産は三菱自に34%出資して株主総会における特別決議の拒否権を持つ。日産の出資後も三菱ブランドや経営の独立性は維持する。東南アジアなど新興国市場の開拓や購買部門の連携によるコスト削減を進めるほか、自動運転技術など幅広い分野で連携する。両社の国内外の生産拠点の相互活用も進める。操業度の低い工場に両社の車両を柔軟に振り向けられる体制にすることで、両社が世界に持つ各工場の稼働率を平準化する。日産は会長を含め3分の1の取締役を派遣する。会長を送り込むことで不祥事が相次ぐ三菱自の企業統治を強化するほか技術系役員も派遣し、長引く業績低迷で脆弱な開発力を底上げする。三菱自は11年に軽自動車で日産と提携後、5年かけて提携関係を深める中で「将来の資本提携を含めた提携拡大をゴーン社長と話し合ってきた」(益子会長)。今回の出資については燃費不正の発覚後、「ごく自然な流れで出てきた」(同)という。日産のゴーン社長も「燃費不正問題が今回の資本提携交渉を加速した面はあるが、継続的な検討の延長線上にあるものだ」と話した。環境規制の強化や自動運転車など次世代車の開発負担の増大から中堅の自動車メーカーは「単独での生き残りは難しくなっている」(益子会長)。日本では昨年にマツダがトヨタと包括提携したほか、海外では自動運転車の共同開発でフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)が米グーグルの持ち株会社のアルファベットと提携するなど異業種間での提携も相次いでいる。


PS(2016.5.13追加):*5のように、再生可能エネルギーの導入拡大に向けて、マイクロソフト、フェイスブックなどの米主要企業60社超が、環境問題に取り組むNGOとともに新組織を設立したそうだ。発電ネットワークをうまく作るためには、ソフト企業の参加も不可欠であるため心強く、この傾向は米国だけでは終わらないだろう。

*5:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160513&ng=DGKKASGM13H1U_T10C16A5MM0000 (日経新聞 2016.5.13) 再生エネ普及へタッグ マイクロソフト・フェイスブックなど米主要60社超が新組織
 風力や太陽光など再生可能エネルギーの導入拡大に向け、マイクロソフトやフェイスブックなど米主要企業60社超が12日、環境問題に取り組む非政府組織(NGO)と新組織を設立した。米国における再生エネの安定調達や、環境問題に積極的なイメージの向上を目指す。新設した「再生可能エネルギー購買者連合(REBA)」には両社のほか、グーグル持ち株会社のアルファベット、アマゾン・ドット・コム、ウォルマート・ストアーズ、ゼネラル・モーターズ(GM)などが参加。環境NGOのBSRや世界自然保護基金(WWF)など4団体も加わった。加盟社はREBAを通じた電力の共同調達や、再生エネを調達しやすくする新技術の開発などに取り組む。米国内の再生エネの発電能力を2025年までに60ギガ(ギガは10億)ワット増やすことを目指す。米国では電力に関する規制が州ごとに異なり、企業の再生エネ調達拡大を妨げているとの指摘がある。REBAは大口需要家の連合として、関連規制の見直しなどを当局に働きかける。マイクロソフトのエネルギー調達戦略の責任者を務めるブライアン・ジャヌス氏は「自社の調達を増やすだけなく、他社と協力して企業が利用可能な再生エネルギーの総量を増やすことを目指す」と述べた。


PS(2016.5.14追加):*6-1、*6-2のような地方自治体の努力にもかかわらず、EVの普及には未だに充電設備の不足が挙げられるが、①自動車の蓄電池の性能を上げ ②駅・高速道路のサービスエリア・スーパー・マンションなどの駐車場におしゃれに太陽光発電の屋根を付け ③駐車場を使う人に低価格で充電させれば、EVの普及は加速されると考える。しかし、太陽光発電の設置に一定の角度をつけなければならないという規制や太陽光発電機器のデザインの悪さはネックになると思う。

   
        充電スタンド                      駐車場の太陽光発電屋根

*6-1:https://www.pref.saga.lg.jp/web/shigoto/_32796/_80473/_68646/_68663.html (佐賀県:EVとは)
 EVとは、“Electric Vehicle”の略で、文字どおり“電気の力で走る車”のことをいいます。従来のガソリン車が、ガソリンをエンジンで燃焼させ、車を駆動させるのに対して、電気自動車は電動モーターで車を駆動させます。
●EVってこんなところがすごい
○「地球」にやさしい
 走行中に二酸化炭素などの温室効果ガスをほとんど排出しないため、地球温暖化防止に役立ちます。
○「家計」にやさしい
 電気自動車は100%電気で走ります。電気代はガソリン代の1/3~1/9!また、減速時にエネルギーを回収できるため、エネルギー効率はガソリン自動車よりも飛躍的に上がります。
○「ひと」にもやさしい
 ガソリンを燃焼させないため、走行中の振動や騒音が少なく静かです。また、加速はガソリン自動車よりもパワフルです。(以下略)

*6-2:http://www.meti.go.jp/policy/automobile/evphv/town/state/saitama.html
(埼玉県HP:http://www.pref.saitama.lg.jp/life/3/14/48/)
 EV・PHVの本格普及は、将来の低炭素モビリティ社会の実現に欠くことのできないものである。今回のEV・PHVタウンの提案は、EV・PHVの県全域への普及と地球温暖化対策としての自動車からのCO2の削減はもちろん、県全体における生活レベルの向上に資するものである。このため、従前から行っているEV等の行政による率先導入や民間への導入支援などに加え、本県の地域特性に根ざした先導性、モデル性のある事業として、さいたま市(大都市)と熊谷市(中都市)を中心とした広域実施地域で、主に次の事業に積極的に取り組む。
  (1) パーク&ライド通勤(駅まで自動車を利用し公共交通機関で通勤)に対応したEV・PHVの
      検証 (熊谷市)
  (2) 晴天率が日本一で夏場の気温が非常に高い地域での太陽光利用の充電設備設置の
      検証(熊谷市)
  (3) カーナビゲーションシステムを活用した充電アクセスビリティの検証
      (さいたま市・熊谷市)
  (4) 産官民連携による駅前EVシェアリングの検証(さいたま市)
  (5) 小型EVや電動バイクによる小口配送の検証(さいたま市)
  (6) EV利用課金システムによるマンション等へのEV促進方策の検証 (県南地域)
  (7) 中山間地域でのEV利用の検証(レール&ライド、高齢者向けEV) (県北地域)
 これらは、県内外へ波及するものであり、既存の低燃費車の普及を目的とした「エコカー・エコドライブ連絡協議会」を発展的改組し、EV・PHVの普及を目的とする「(仮称)次世代自動車普及推進協議会」を設置して、自動車メーカーや県内市町村などと連携して行い、その効果を検証し、EV・PHVの普及につなげる。(以下略)


PS(2016年5月15日追加):*7-2のように、①対人関係をうまく築けず(言っても理解しない人とは話をしない選択もあるだろう) ②限られた対象にこだわる傾向があり(成功する人がそれに集中しているのは当たり前である) ③言語や知能に遅れがない(何の問題もない) 人を、アスペルガー症候群などという精神障害者に仕立て上げ、周囲の普通の人が支援や進路指導を行えば、例えば、最初に大陸移動説を唱えたドイツ人気象学者のウェグナーなどは精神障害者扱いされて重要な発見をすることができなかっただろう。何故なら、武田信玄が「動かざること山の如し」と言っているように、つい最近まで、「大地は動かない」というのが確固たる一般常識だったからである。
 つまり、与えられた過去の知識・ルール・その時点の普通であることに固執する人ばかりでは、(日本の産業界のように)根本の大枠を見直すことなく小さなカイゼン(改善)しかできない国民性になるのだ。そのため、*7-1は、支援と呼ぶ人権侵害で国力を弱める教育となりそうであり、注意すべきだ。

*7-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12357874.html?ref=pcviewpage
(朝日新聞 2016年5月15日) 障害ある子、学校が「カルテ」 小中高通じ支援へ 20年度以降
 個別カルテには子どもの障害や健康の状況、保護者と本人の希望や目標などを書き込む。卒業後は進学先に渡し、これまでの子どもの状況を把握してもらう。いまの学習指導要領では、子どもの目標や支援内容についての「個別の教育支援計画」や、教科ごとの指導状況などを記す「個別の指導計画」を作るよう勧めているが、義務化はしていない。文科省の15年度の調査では、特に支援計画は該当者のいる公立小中の1割、公立高校の4割が作成していなかった。さらにこうした計画を中学や高校に引き継ぐかどうかは各校が独自に判断している。このため新しい学校が障害に応じた最適な指導方針を把握しきれていない恐れがあり、特に高校では適切な進路指導がしにくい状況にあると文科省はみている。個別カルテは、いまの支援計画と指導計画をもとに、小学校から高校まで引き継ぐことを前提とした書式を目指す。文科省は20~22年度に順次始まる小中高校の新学習指導要領での義務化を検討する。義務化は公立小中の特別支援学級の子ども(15年5月で約20万人)と、比較的軽い障害や発達障害で通常学級に在籍しながら一部の授業を別に受ける「通級指導」の子ども(同約9万人)を中心に考えている。高校については18年度から始まる通級指導の生徒らを対象とする見込み。私立校に広げるかは今後検討する。今月中にも政府の教育再生実行会議が提言する見通し。文科省はカルテの詳しい中身や、個人情報が漏れない仕組みを詰める。(高浜行人)

*7-2:http://www.asahi.com/topics/word/発達障害.html (朝日新聞 2013年2月27日)
〈発達障害〉生まれながらの脳の機能障害が原因と考えられ、犯罪など反社会的な行動に直接結びつくことはないとされる。落ち着きがない注意欠陥・多動性障害(ADHD)、読み書きや計算など特定分野が苦手な学習障害(LD)などがある。アスペルガー症候群は対人関係をうまく築けず、限られた対象にこだわる傾向がみられるが、言語や知能に遅れがなく、周囲が障害を見過ごすケースも少なくない。文部科学省の調査(2012年12月)は、小中学校の通常学級の子の6.5%に発達障害の可能性があるとしている。


PS(2016年5月16日追加):*8のように、トヨタはFCV普及のため「主戦場」と位置づける米国市場で700台超のFCVを用意し1台5万7500ドル(約620万円)で販売したそうだが、トヨタのFCVの世界販売目標は「2020年ごろ以降に年3万台以上」で、テスラは2016年3月末に3万5千ドル(約380万円)と安くした新型EVを発表して1週間で30万台を超える販売をし、競争の主導権を握りつつあるそうだ。この値付けと販売目標の違いが、日本及び日本企業の環境車に対する意気込みのなさを表している。

*8:http://digital.asahi.com/articles/ASJ4C65GJJ4COIPE01P.html?iref=recob
(朝日新聞 2016年4月12日) トヨタ「ミライ」、米で完売 燃料電池車の主戦場
 燃料電池車(FCV)の普及に向け、トヨタ自動車が「主戦場」と位置づける米国市場。世界初の市販車「ミライ」は昨年秋の発売直後に用意した台数が完売し、滑り出しは好調だ。ただ日本と同様、燃料の水素を補給できる拠点は少ない。将来のエコカーの主役をめざす競争は、ライバルの電気自動車(EV)の後を追う構図で進みそうだ。米カリフォルニア州北部・ローズビルにあるトヨタの販売店。目立つ場所に深いブルーのミライが展示されていた。昨年10月の発売以降、4台が売れた。「エコで乗り心地も静か。これからのスタンダードになるはず」。同店のジュディ・カニンガムさんは話す。トヨタが米国でミライを売り出したのは日本の1年後。発売日は、1989年公開のSF映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー2」の中で、車型タイムマシンが訪れた日に合わせ、イベントで「未来が現実になった」とアピールした。米国では今年5月までの分として用意した700台超が、わずか1週間で売り切れた。「新しいもの好き」の富裕層らが買い求め、今も数カ月の納車待ちだ。トヨタ米国法人は17年までに3千台以上の販売を計画。広報担当者は「幅広い人に興味を持ってもらえるよう、米国への割り当てを増やしてほしい」と話す。
■長い走行距離が強み
 トヨタはFCVを「将来のエコカーの本命」と位置づけ、米国を中心に普及させる戦略を描く。最大市場のカリフォルニア州は、売られる車の一定割合を走行中に二酸化炭素を出さない車とする規制を18年モデルから強化し、メーカーも対応を迫られるためだ。トヨタはミライの購入者向けに手厚い支援策を打ち出した。3年間で1万5千ドル(約160万円)を上限に燃料代を肩代わりし、定期点検も無料にした。米国は国土が広く、FCVは一回の水素補給でガソリン車とほぼ同じ距離を走れるのが強み。水素ステーションの建設費は、安全規制が緩いこともあり、日本の半分ほどの200万~300万ドル(2億~3億円余り)で済む。同州エネルギー委員会のジム・マッキニー氏は「利用が増えれば採算性が高まる」と話す。
■EV、値下げで攻勢
 ただ、順調に普及が進むかは見通せない。FCVを米国で販売(リース含む)しているのは、トヨタと韓国・現代自動車のみだ。ほかに具体的な投入計画を示しているのは、「年内」とするホンダに限られる。次世代エコカーでは米テスラ・モーターズや日産自動車などが推進するEVがライバル。充電スタンドはカリフォルニア州に1千カ所以上あるが、一般向けの水素ステーションは昨年末時点で5カ所ほど。テスラのイーロン・マスク最高経営責任者は「FCVは馬鹿げている」などと批判を繰り返す。ミライは1台5万7500ドル(約620万円)で、購入時に行政の補助も1万3千ドル(約140万円)つく。一方、テスラは3月末、3万5千ドル(約380万円)と大幅に安くした新型EVを発表。予約は1週間で30万台を超え、競争の主導権を握りつつある。これに対し、トヨタのFCVの世界販売は「20年ごろ以降に年3万台以上」が目標。米調査会社IHSオートモーティブは、メーカーの少なさなどから、FCVの浸透に10~20年かかると予想する。水素ステーションの整備と、「値ごろ感」のある新型車の投入を早められるかが、競争を左右しそうだ。

<バイオマスについて>
PS(2016年5月27日追加):*9-2の「輸入ヤシ殻を燃料にしたバイオマス発電を稼働させるのが固定資産税など年間約8千万円の税収増に繋がる」としているのは、理由を説明するのもアホらしいほど先見性のない判断で、これまで給料や報酬をもらって1年中唐津市の仕事をしてきた人たちは何を考えてきたのかと思う。 一方、*9-1の佐賀市ごみ焼却施設や下水浄化施設の処理過程で排出される有機物・二酸化炭素を有効利用するバイオマス(生物資源)事業については、佐賀新聞が「未知の領域なので費用対効果に疑問がある」と記載しているが、既知の領域なら先進性はなく、その先進性ゆえに国の補助がついており、石垣島では既に成功している確実性の高い事業であるため愚かな批判だ。ユーグレナという完全栄養の藻類は、家畜や養殖魚の安価で良質な餌にも使えるため、北部の佐賀県西部広域ごみ処理施設や下水道処理施設でも同様にCO2やユーグレナを生産すればよく、これは、ゴミや下水道が資源に変わる環境・生物の最先端事業であるため大切に育てて軌道に乗せるべきだと、私は考える。ただし、利益を出して市民のために使うべきで、無駄遣いか否かは将来にわたっての収益性で決まるため、投資金額を最小に抑えながら結果を出すのが投資の常識だ。そして、このような状況なら、唐津市の人がふるさと納税すると、返礼品で選べば玄海町、使途で選べば佐賀市になるだろう(笑)。

*9-1:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/316073
(佐賀新聞 2016年5月27日) 佐賀市の巨額バイオマス事業、未知の領域、費用対効果は?
 佐賀市は、ごみ焼却施設や下水浄化施設の処理過程で排出される有機物や二酸化炭素(CO2)を有効利用するバイオマス(生物資源)事業を次々と打ち出している。自治体として全国初のCO2販売や藻類産業の集積など先進的な取り組みが注目される一方、昨年度は関連事業費に約15億円を投じた。下水施設では今後、約48億円の大型事業が控える。先進分野の半面、「未知の領域」でもあり、巨額投資に費用対効果を問うなど慎重意見も出ている。佐賀市は2014年、国の「バイオマス産業都市」に認定された。市北部のごみ焼却施設などがある清掃工場(高木瀬町)と南部の下水浄化センター(西与賀町)で「省エネ・創エネ」の推進を掲げる。生産可能な資源として注目される藻類培養の研究・実用化に向け企業とも連携している。
▽国の補助前提 
 清掃工場では、今夏から藻類培養などを手掛ける「アルビータ」にCO2を販売する。焼却時の排ガスからCO2を回収し、パイプラインで数百メートル離れた同社の培養施設に直接供給する。「液化CO2の市場相場1キログラム当たり60円の半値近い36円で供給できる」(市担当者)という。市は今後、32年度までの18年間でCO2タンク増設工事などに16億円、維持管理費に7億4000万円の支出を見込む。一方、CO2販売収入は、工場北側の21ヘクタールに藻類企業が進出することを前提に約17億円と算出した。さらに国庫補助約6億円を見込んで収支ゼロになる。市は「既に5億円の補助を受けている。赤字にならないようCO2の価格を設定した」と安定収支に自信を見せる。ただ、この収支には21ヘクタールの用地買収と造成の費用(未定)は含まれていない。清掃工場の耐用年数は32年度までで、その後も同じ場所で稼働できるか、企業側が培養を継続するかなど先行きが不透明な要素もある。市上下水道局の下水浄化センターでも同様の事業が進む。藻類関連の「ユーグレナ」が培養実験を進めている。国土交通省事業と連動し、発酵バイオマスを活用した藻類培養とメタンガス発電の実現を目指す。本年度は設計費約9000万円を計上、今後の総事業費は約48億円に上る。費用は国が約半分負担する。
▽環境負荷低減 
 巨額投資なだけに、市議からは事業の説明不足が指摘されている。収入には置き換えられない環境負荷低減も投資効果として掲げており、予算案を審議した市議会では「費用対効果が分からない」「やる必要があるのか」など批判的な意見が相次いだ。市環境部の喜多浩人部長は「産業集積による雇用や税収、低炭素社会の実現など、単純な販売収入以外のメリットもある」と強調する。市上下水道局下水プロジェクト推進部の橋本翼部長は「市のプラスになる事業だということを丁寧に説明していきたい」と理解を求める。

*9-2:http://qbiz.jp/article/87500/1/ (西日本新聞 2016年5月26日) 取得8億円 3億円で売却 唐津市 宅地造成計画破綻 塩漬け36年 バイオマス発電用地に、議案提出へ
 佐賀県唐津市は25日、宅地造成計画が破綻して36年間塩漬けになった土地を、バイオマス発電用地として民間企業に3億円で売却する議案を発表した。市土地開発公社などから約8億円で取得した土地で差し引き5億円の損失。市は「企業進出で税収を得られ、長期的には利益になる」と説明するが、市民からは疑問の声も上がる。6月1日開会の市議会定例会に提案する。市によると、土地は同市佐志の山林や原野など約7万5千平方メートル。もともと民有地で、公社が宅地分譲を目的に1980年以降に地権者から買い取った土地が大部分を占める。市は当時、近くの国道204号バイパス造成などを背景に約100棟の住宅建設を計画。ところが宅地ニーズが変化して計画は破綻し、ほかの用途も見つからないまま塩漬け状態になり、金融機関への利息が膨らんだ。市は今春までに、公社などから土地を9億5500万円で取得し活用策を検討。このうち約8億円分の土地について、バイオマス発電事業用地として参入企業を公募し、宮崎県の業者の関連会社への売却を決めた。同社は3年後を目標に、輸入ヤシ殻を燃料にした発電所を稼働させるという。今回、土地の売買で発生する損失は約5億円。市財務部は、発電所稼働で固定資産税など年間約8千万円の税収増につながるとし、「差額は5〜6年で回収でき、その後も税収を得られる。塩漬けの土地を有効に活用する投資で、問題はない」と強調する。これに対し、住民団体「唐津をよくする会」の木村真一郎代表は「塩漬けの土地を処分する事情は分かるがしっくりこない。バブル前のこととはいえ、市や市議会はまず、使い勝手の悪い土地を購入した反省を示すべきではないか」と話している。

<EVへの転換>
PS(2016.6.7追加):*10のように、重慶長安汽車は、エコカーの普及拡大を狙う中国政府の国策に沿って、今後10年でEV・PHVなどの新型環境車の開発に総額180億元(約3千億円)を投入し、経営資源を集中して勝ち残りにつなげるそうだ。これが正解であり、これまで化石燃料車を作ってこなかった自動車後発地域ほどEVへの転換はやりやすく、アフリカに普及するのもEVだろう。そのため、日本勢がしがらみに束縛されてEVへの転換を遅らせれば遅らせるほど、新興国に引き離されると考える。

*10:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160607&ng=DGKKZO03293920W6A600C1FFE000 (日経新聞2016.6.7)長安汽車、エコカー開発に3000億円 10年で34車種投入
 中国自動車大手、重慶長安汽車は6日、2025年までに総額180億元(約3千億円)を新型環境車の開発に投じる方針を明らかにした。今後10年間で34車種の電気自動車(EV)とプラグインハイブリッド車(PHV)を投入し、累計200万台の販売を目指す。エコカーの普及拡大を狙う中国政府の国策に沿った動きで、経営資源を集中して勝ち残りにつなげる。重慶市で開催中の「国際自動車フォーラム」で朱華栄総裁が明らかにした。自主ブランド「長安」でセダンや多目的スポーツ車(SUV)、商用車タイプの新型環境車を投入する。全体の8割はEVとなる見通しだ。朱氏は「自動運転など最新技術の実用化も進めていく」との方針を示した。電池や制御システムなどの基幹技術については合弁を組む米フォード・モーターなどから協力を得るほか、自主開発にも力を入れる。すでに英国や日本、米国にも拠点を設けて「世界規模で環境車の研究開発を加速している」(朱氏)という。日本勢も含めた有力部品メーカーに幅広く協力を呼びかけていく考えだ。長安汽車は低価格の自主ブランド車でシェアを急速に高めている。環境車の拡充をテコに25年には現在の2倍強となる340万台の「長安」車を販売し、世界10強入りを目指す。


<官主主義では成功しない理由>
PS(2016.6.13追加):*11-1のように、税金345億円を無駄にすることを何とも思わず、国民生活に直結する社会保障については、「税と社会保障の一体改革」で「消費税を増税し、社会保障をカットする」としているのが官主主義とそれに便乗している政治家・メディアである。その官主主義は、欧米に見本があり、国を挙げて欧米を模倣して追いつかなければならなかった明治初期には効率的に機能したが、新しい財・サービスを創造していかなければならない現代では、上のように、付加価値を上げるのをむしろ邪魔しているのだ。さらに、せっかく厚生省と労働省を合併して小さな政府を目指していたのに、*11-2のように、分割提言してさらに縦割り行政にするというのもどうかと思うが、結果が出ず効率の悪い仕事をしながら何かと言えば「人が足りない」と言うのも、税金で運営されている官の性癖である。

*11-1:http://www.sankei.com/premium/news/160612/prm1606120009-n1.html (産経新聞 2016.6.12) 凍らない凍土壁に原子力規制委がイライラを爆発「壁じゃなくて『すだれ』じゃないか!」 税金345億円は何のために
 「本当に壁になるのか?壁じゃなくて、“すだれ”のようなもの」。「壁になっているというのをどうやって示すのか? あるはずの効果はどこにあるのか?」。東京電力福島第1原発で汚染水を増やさないための「凍土遮水壁」が運用開始から2カ月たっても、想定通りの効果を示さない。廃炉作業を監視する原子力規制委員会は、6月2日に開かれた会合でイライラを爆発させた。凍らない部分の周辺にセメント系の材料を入れるという東電の提案に対しても、規制委側は「さっさとやるしかない」とあきれ果てた様子。約345億円の税金を投じた凍土壁の行方はどうなってしまうのか。会合は、冒頭からピリピリと緊迫した空気が漂っていた。東電の担当者は2分間程度の動画を用意していた。凍土壁が凍っている証拠を視覚的にアピールするため、地中の温度の変化を動画でまとめていたのだ。ところが、規制委の更田豊志委員長代理は「温度を見せられても意味がない。凍らせてるんだから、温度が下がるのは当たり前。動画とか、やめてください」とバッサリ。東電の担当者は遮られたことに驚いた様子で、「あ、はい、分かりました。はい。それでは…」と次に進むしかなかった。
●セメント注入、それでも「凍土壁」か?
 規制委側から質問が集中したのは、最初に凍結を始めた海側(東側)の凍土壁の効果だ。地中の温度は9割以上で氷点下まで下がったが、4カ所で7・5度以上のままだった。さらに、壁ができていれば減るはずの海側の地盤からの地下水のくみ上げ量が、凍結の前後で変わっていないことも判明した。更田氏は「『壁』と呼んでいるけれども、これは最終的に壁になるのか。壁じゃなくて『すだれ』のようなもので、ちょろちょろと水が通るような状態」と指摘した。地下水のくみ上げ量も減っていないことについて、「あんまりいじわるなことは聞きたくないが、これは当てが外れたのか、予想通りだったのか」と東電の担当者を問いただした。セメント系の材料を注入し、水を流れにくくする追加工事が東電から提案があったものの、これではもはや「凍土壁」ではなくなってしまい、仮に水が止まっても凍土壁の効果かどうかは分からなくなる。検討会はこの日、追加工事に加えて、凍土壁の凍結範囲を拡大し、海側に加えて山側も95%まで凍結する計画も了承した。だがそれは、凍土壁の効果や有用性を認めたというわけではない。「安全上の大きな問題はなさそう」だから、どうせ温度を下げるなら、早いほうがいいという合理的な判断だ。
●遠い「完全凍結」 根強い不要説
 最も注目すべきなのは、更田氏がこの日、山側もすべて凍らせる「完全凍結」について、「今のままでは、いつまでたっても最終的なゴーサインが出せない」と大きな懸念を示したことだ。規制委は当初から、凍土壁にはあまり期待していなかった。むしろその費用対効果などをめぐり「不要説」が出るなど、懐疑的な立場をとっていた。それでも計画を了承したのは、最も大きなハードルだった「安全性」を東電が担保すると約束したからだ。凍土壁のリスクは、完全凍結の状態で発生する。予想を上回る遮水効果が発現し、建屋周辺の地下水が急激に低下した場合、建屋内の汚染水と水位が逆転して汚染水が環境中に漏れ出す危険がある。このため、東電は地下水の流れで下流側にあたる海側の凍土壁から段階的に凍結させ、水位の低下を防ぐ計画だったが、仮に海側の壁が「すだれ」の状態のまま上流の山側を完全凍結すれば、水位がどんどん下がっていく可能性がある。東電は計画で、山側を完全凍結して遮水効果が80%以上になった場合、水位逆転の危険を回避するためいったん凍結をやめるとしているが、この「80%」を正確に判断するすべがないというのが現状だ。「凍土壁の遮水性を示せない限り、このまま膠着状態になる可能性がある」。更田氏は、はっきりとそう指摘している。安全上のリスクを抱え、膨大な国費をかけながら、なぜ凍土壁を推進しなくてはならなかったのか。仮に失敗した場合、どこが責任を取るのか。今後も目が離せない状況に変わりない。(原子力取材班)
《用語解説》凍土遮水壁 凍土壁は、1~4号機の建屋周辺の土壌を取り囲むように長さ約30メートルの凍結管を埋め込み、マイナス30度の冷媒を循環させて地下に総延長約1500メートルの氷の壁をつくる工法。この巨大な「壁」で建屋に流れ込む地下水をせき止め、汚染水の発生そのものを抑えるのが狙い。

*11-2:http://mainichi.jp/articles/20160514/k00/00m/010/037000c
(毎日新聞 2016年5月13日) 分割提言に「あまりにも人が足りない」
 塩崎恭久厚生労働相は13日の閣議後記者会見で、自民党の若手議員がまとめた厚労省を分割する提言について、「議論は歓迎したいが、膨大な業務量を踏まえると根本的に人員を増やさない限り、処理しきれない」と注文を付けた。提言は、厚労省を▽年金・医療・介護を担う「社会保障」▽少子化対策などを担う「子ども子育て」▽雇用や女性支援を担う「国民生活」−−の3省に分割する案などの検討を求めた。昨年7月1日時点で同省の職員数は3473人だが、農林水産省は3568人、国土交通省は4568人いる。塩崎氏は「あまりにも人が足りていない」と述べた。

| 経済・雇用::2015.11~2016.8 | 03:53 PM | comments (x) | trackback (x) |
2016.5.9 タックスヘイブン税制に関するパナマ文書と民主主義国の犯罪認定について (2016年5月10、11、17日に追加あり)
   
       2016.4.30西日本新聞               標的にされた人       2016.4.7 
                                                       朝日新聞
(1)租税法律主義とタックス・ヘイブン税制の意味
1)租税法律主義について
 租税法の基本原則は、*3-1に書かれているとおり、租税法律主義と租税公平主義であり、租税法律主義は、憲法84条の「租税を課し、又は現行の租税を変更するには法律又は法律の定める条件によることを必要とする」と規定していることから導かれる。そのため、法律に基づかずに租税を賦課・徴収することは、日本国憲法違反であり不可能だ。

 また、相手によって課税要件や課税手続を変えたり、税務署の判断で新たに税金を創設したりすれば経済活動に混乱が生じるため、租税法律主義の内容には、①課税要件法定主義 ②課税要件明確主義 ③遡及立法の禁止(新しい法律を過去に遡って適用しないこと) などが含まれる。

2)タックス・ヘイブンの本当の意味
 現在、全世界には、*3-2のように、 60以上のタックス・ヘイブン「Tax Haven」の地域・国が存在し、正確に翻訳すると「税金天国」である。また、この制度が創設された趣旨は、小さな島国や開発途上の地域など経済発展に不利な要素を持つ地域に対し、経済活性化を目的として、国や地域政府が徴税優遇制度を実施しているものだ。

 そして、この税制を利用すると、金融資産を低税率で運用できるため、例えば英国領のケイマン諸島には世界の一流とされる金融グループを含めて600あまりの金融機関が拠点を置き、預かり資産残高は、東京、ロンドン、ニューヨーク、香港に次ぐ世界第五位の規模になっているわけである。さらに、欧州、シンガポール、香港、中国はじめ多くの国々に、法人税率を減税して海外投資を受け入れ、自国経済の振興に役立てようと優遇税制を導入している地域もあるので、例えば復帰後の国後島と択捉島はタックス・ヘイブンにするなど、日本でも応用できる場所はある。

3)日本における現在の論調
 しかし、*3-2のように、日本が主導して、2000年にOECD(経済協力開発機構)によるマネーロンダリング対策や公正な課税制度確立に向けた制裁により、英領ケイマン諸島、バミューダ、キプルス、マルタ、モーリシャス、サン・マリノの6カ国・地域はブラックリストから免れ、アンドラ、ジブラルタル、モナコ、リヒテンシュタイン、シンガポール、スイス、ベルギー、ルクセンブルク、オーストリアが国際的な徴税制度に非協力的な地域が名ざしされ、フィリピン、マレーシア、コスタリカ、ウルグアイは要注意国とされた。そのため、これらの国々は、気持ちのよい筈がない。

 また、近年、テロ資金規正(アングラ・マネーへの締め付け)が援用され、富裕層の隠し資産、裏金の解明へと拡大適用されつつある。しかし、上の理由から、合法的に設立されたタックス・ヘイブンに所在する会社に資金を預ける人を、根拠もなく違法行為をしているかのように書くのは、日本国憲法違反である。

(2)法治主義の民主主義国家とは言えない日本メディアの論調
 西日本新聞は、*1-1のように、「①日米欧と新興国のG20が脱税や不当な課税逃れを阻止するため、国際的な監視体制を強化する方向で検討に入った」「②パナマはじめ開発途上国に銀行口座など税務情報を共有する枠組みへの参加を促し、隠し資産に対する包囲網を構築する」「③OECDも13日に税務担当者を集めた緊急会合をパリで開き、具体策を協議する方針だ」「④タックスヘイブンを使った政治指導者らの不透明な資金取引を暴いたパナマ文書問題は、一部の富裕層と大多数の国民の間の格差拡大が深刻化する中、各地で波紋を広げている」と記載している。

 もちろん、①のような脱税や違法な課税逃れはいけないので、②③のように税務情報を共有する枠組みは必要かも知れないが、④のように、その標的がどこかの国にとって不都合な政治指導者で、タックスヘイブンに所在する会社に預金を預けていただけで悪いことをしたかのように書くのは、権力を失えば投獄されるなどのいろいろな政治情勢の国がある現在、適切ではない。

 パナマ文書は南ドイツ新聞が入手して共同通信も参加する国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が分析し、英国のキャメロン首相の父親(故人)が租税回避地のパナマにファンドを開設していたとして非難している。しかし、罪刑法定主義・責任主義が近代国家の基本原則であるため、父親が合法的に開設して遡及効もないファンドの責任を、子であるキャメロン首相が負うことはあり得ず、このような論調は、近代国家の基本原則を無視している。

 また、フランスの大手銀行ソシエテ・ジェネラルやスイスの欧州サッカー連盟(UEFA)などに捜査が拡大しているそうだが、合法的であれば訴訟で罪にはならないだろう。

 そのため、*1-2のように、不法な課税逃れを阻止するための国際的連携はあってもよいが、違法でないことを如何にも悪いことをしたかのように書くと、それこそ名誉棄損・侮辱による人格権の侵害という不法行為になる。

(3)燃え上がったメディアのネットワークが追及した内容の非民主性
 TPPの膨大な文書を、ジャーナリストの国際的なネットワークが翻訳し解明したという話は聞かないが、*1-3のように、共同通信も参加する国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)の記者は、タックス・ヘイブンに設立された法人の所有者を示す株主名簿を足掛かりに記者の勘も使って書類を絞り込み、最後は直接取材で裏付けを取りながら報道を続け、「こちらではすごい反応だ」「やったぞ」と成果を喜んでいるそうだ。しかし、タックス・ヘイブンに法人を作ることは違法ではなく、出資した人も違法ではないため、違法行為をしていない人の名簿を提供したモサック・フォンセカ事務所の方がプライバシーの侵害にあたる。

 なお、*1-4のように、南ドイツ新聞の記者がタックス・ヘイブンを利用した不透明な金融取引を暴いたそうだが、その文書には、「①プーチン露大統領の友人」「②中国の習近平国家主席の親族」「③麻薬カルテルなど犯罪組織の関係者も登場した」があったとのことである。100歩譲って①②が違法行為だったとしても、①のような友人の行為の責任を問われることは皆無であるし、②のような親族の行為の責任を問われることも近代法に反しているため、①②を③と並べて記載し、如何にも黒い事象であるかのような示唆を与えるのは名誉棄損であり、政治活動の妨害にあたるだろう。

 なお、モサック社が作ったペーパーカンパニー数千社の代表を務める女性が貧民街に住んでおり、わずかな報酬で名義を貸して「何の会社か、誰に売られたか知らない」などというのは、仮に本当であれば、モサック社とその女性の方に詐欺罪が発生すると考える。

(4)標的は誰で、目的は何なのか
1)標的は政治家と有名人
 朝日新聞・日経新聞は、*2-1、*2-3のように、パナマ文書の影響で英国のキャメロン首相が苦境に立っており、中国の習近平国家主席・ロシアのプーチン大統領・ウクライナのポロシェンコ大統領の親族・知人・本人の名前もあり、10カ国の現旧指導者12人とその親族60人余も浮かび上がり、「納税者の多くが税金の負担に苦しんでいるのに、税金を課す側の統治者やその周辺は特権を使って蓄財に励み、税逃れの手立てを着々と打っているので、納税者の怒りは大きい」と、妬みを煽る報道をしている。

 しかし、違法行為ではないのに、パナマ文書に親族、知人、本人などの名前があるだけで、納税者の不公平に対する怒りや不信感に結びつけて妬みを煽るのは、日本独特の感情論であり、論理的ではない。

 そのため、不法な税逃れという事実もないのに悪役に仕立て上げられた首脳や国々は、G7サミット(伊勢志摩サミット)の議長国を務める日本に、金のためにリップサービスをすることはあるかも知れないが、日本を民主主義の同じ価値観を持つ国と認めることはないだろう。

 なお、*2-2では、クレディ・スイス、ソシエテ・ジェネラル、UBS、HSBCなど欧州・アジアの主要行が挙げられているが、具体的にどういう法律違反をしたのか不明であり、多分、法律違反はしていないと思われるため、名誉棄損かつ営業妨害に当たる。

 また、*2-4のように、パナマ文書には、日本関係者は名誉教授や大手企業役員名もあったとしているが、タックス・ヘイブンを使って合法的に節税するのは、違法行為ではないため罪にならず、これは法人に限らず個人も同様である。それにもかかわらず、*2-5も、思わせぶりな書き方で、佐賀の住所にも3人のパナマ文書関係者がいたと記載しているが、何が違法行為にあたるのかを記載できなければ単なる名誉棄損記事にすぎず、メディアの記者たちの法律知識と見識のなさを露呈している。

2)目的は権力闘争
 佐賀新聞の2016年5月6日、*2-6のように、「クリントン前米国務長官(弁護士)が、在任中に公務で私用メールを使った問題で、CNNテレビは5日、連邦捜査局(FBI)が数週間以内にクリントン氏本人の事情聴取を行う見通しだ」としている。

 しかし、私は、クリントン氏のメール問題は「違法で悪い」とのみ書かれているが、FBIに正面からは言えないとしても、そうした方がむしろ守秘義務が果たせた場合もあっただろうと考える。私は1996~8年頃、アメリカ系のビッグ4でM&Aや組織再編に関する仕事をしていたが、事務所のメールにすべてを添付すると、誰かに見られているらしく情報が漏れるため、わざわざFaxや郵便にも分割して資料を送り、そのすべてを見なければ内容がわからないようにしていた。つまり、よいこととは思わないが、アメリカのIT環境は、20年前からそのくらいシビアなレベルだったのである。

<法治主義の民主主義国家と言えない日本の論調>
*1-1:http://qbiz.jp/article/84693/1/
(西日本新聞 2016年4月13日) G20、税逃れ監視強化 パナマ文書 財務相会議で協議へ
 日米欧と新興国の20カ国・地域(G20)が脱税や不当な課税逃れを阻止するため、国際的な監視体制を強化する方向で検討に入ったことが12日分かった。パナマをはじめ途上国に銀行口座など税務情報を共有する枠組みへの参加を促し、隠し資産に対する包囲網を構築する。経済協力開発機構(OECD)も13日に税務担当者を集めた緊急会合をパリで開き、具体策を協議する方針だ。タックスヘイブン(租税回避地)を使った政治指導者らの不透明な資金取引を暴いた「パナマ文書」問題は、一部の富裕層と大多数の国民の間の格差拡大が深刻化する中、各地で波紋を広げている。仲介した大手金融機関に対する捜査も欧州で相次ぎ、追及の動きはさらに強まりそうだ。G20は14日から米ワシントンで開く財務相・中央銀行総裁会議でこの問題を協議し、15日に採択する共同声明で対処方針を打ち出す。麻生太郎財務相は12日の記者会見で「G20で租税回避や脱税の防止が議論される」との見通しを示した。税務情報を共有する枠組みづくりはOECDが主導して進め、2017年にも各国間の情報交換がスタートする。日本を含め100程度の国・地域が参加予定で、G20として、現時点で未参加のパナマやナウル、バーレーン、バヌアツにも参加を呼び掛ける方向だ。これまで慎重だったパナマが参加の意向をOECDに先週伝えるなど前向きな動きが出始めており、体制強化を急ぐ。G20では、最近の円高進行で日本が関心を寄せる為替問題も協議。「相場の過度な変動は経済に悪影響を与える」との認識を共有する一方、通貨の競争的な切り下げを回避することも確認する。減速気味の世界経済を下支えするため、金融緩和だけに頼らず、財政政策や構造改革を活用した政策総動員の必要性でも一致する見通しだ。パナマ文書は南ドイツ新聞が入手し、共同通信も参加する国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が分析した。
   ◇   ◇
■巨大余波、捜査 首脳やスポーツ界も 
 タックスヘイブン(租税回避地)を経由する金融取引の一端をあぶり出した「パナマ文書」の余波が、さらに広がっている。英国のキャメロン首相は過去に投資で利益を上げたことを認め、批判の矢面に立たされた。大手金融機関やスポーツ界にも捜査のメスが入り、課税逃れへの国際的な非難は高まる一方だ。文書が暴いた巨額投資疑惑で、グンロイグソン首相が辞任に追い込まれたアイスランドに続き、激震に見舞われているのが英国。ロンドンの首相官邸前では9日、キャメロン氏に抗議する千人以上の市民が「キャメロンは退陣しろ」と糾弾するデモで気勢を上げた。2013年の主要国首脳会議(ロックアーン・サミット)は、多国籍企業の課税逃れを防ぐ国際ルール策定が首脳宣言に盛り込まれた。取りまとめに奔走したのが議長を務めたキャメロン氏だ。ところがパナマ文書は、キャメロン氏の父親(故人)が租税回避地のパナマにファンドを開設していたことを明らかにした。当初のらりくらりと追及をかわしたキャメロン氏だが、ファンドに投資して利益を得ていたことを結局認めた。違法性はないと主張しているが、野党や国民から「偽善者」と非難され、納税記録の公表に追い込まれるなど防戦一方。「もっとうまく対処すべきだった」と悔やんでいるというキャメロン氏は、5月の伊勢志摩サミットにも招待されている。南米アルゼンチンでは昨年12月に就任したマクリ大統領が、父親がバハマに設立した会社との関係を問われ、検察が裁判所に捜査許可を求める事態に発展した。
   ■    ■
 神経をとがらせているのは、各国指導者にとどまらない。租税回避地で約千社の法人設立を仲介したフランスの大手銀行ソシエテ・ジェネラルの本社は、当局の家宅捜索を受けた。スイスでは欧州サッカー連盟(UEFA)の本部が捜索を受けるなど、捜査は拡大している。パナマ文書は約1150万通に上り、共同通信などが参加する国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が分析している。出元となった法律事務所モサック・フォンセカがある“震源”パナマでは、バレラ大統領が独立調査委員会の設置を発表、金融制度の信頼回復へ重い腰を上げた。こうした動きは、各国が不透明な金融取引を是正する上で一定の効果をもたらしそうだ。一方、習近平国家主席らの親族や、プーチン大統領周辺の人物の疑惑が浮上した中国やロシアは影響を食い止めようと必死。中国では報道が規制されている。ロイター通信は「非民主的な体制下では、パナマ文書の影響は限定されるだろう」と指摘した。
▼タックスヘイブン 税金を免除したり非常に低く設定したりしている国や地域。タックスは税金、ヘイブンは避難所を表す英語で、日本語では租税回避地と呼ばれる。タックスヘイブンに法人などを設立して海外から金融資産を移せば、本国での課税を大きく免れることができる。産業に乏しい国などが、雇用や外資獲得のために設定している事例が多い。

*1-2:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/301041
(佐賀新聞 2016年4月16日) G20、課税逃れ阻止へ制裁検討、非協力国を特定、政策総動員
 米ワシントンで開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は15日閉幕し、国際的な課税逃れを阻止するため連携を強化する声明を発表した。資金の流れの監視を強め、新たな基準で非協力国を特定し制裁も検討する。景気を下支えする政策総動員で合意し、機動的な財政出動の活用を強調した。タックスヘイブン(租税回避地)を使った不透明な取引を明るみに出した「パナマ文書」問題を受け、課税逃れ対策に焦点が当たる異例の会合となった。不正な資産隠しに対し実効性のある国際包囲網を築けるかどうかが今後の課題となる。

*1-3:http://qbiz.jp/article/86029/1/
(西日本新聞 2016年4月30日) 『パナマ文書』、取材活動の舞台裏
 タックスヘイブン(租税回避地)の実態を明らかにした「パナマ文書」は、1日に千通の書類をチェックしても30年以上を要するほどの膨大な量だ。共同通信も参加する国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)の記者は、回避地に設立された法人の隠れた所有者を示す株主名簿を足掛かりに、記者の勘も使って書類を絞り込み、最後は直接取材で裏付けを取りながら報道を続けている。「レジスター・オブ・メンバーズ」と題された紙に、個人の実名、住所、そして株数、日付。通常は公開されることのない、回避地法人の株主名簿だ。そこに「イイダ・マコト」の名があったことが、日本の警備大手セコム創業者に関連した法人を発見するきっかけとなった。パナマ文書は回避地法人設立を支援する法律事務所「モサック・フォンセカ」の内部書類で、ICIJが南ドイツ新聞を通じ入手した。書類は約1150万通に及ぶ。ICIJは全資料を電子的に検索できるようデジタル処理し、国名や主要都市名をキーワードとして絞り込んだり、気になる人名や企業名を含む文書を抽出したりする環境を整えた。
▼「記者の勘」駆使
 だが資料にあるのはアルファベットの氏名と住所だけという場合も多い。「あの著名人では」と推測しても空振りとなることが大半だ。回避地に法人をつくること自体は違法ではなく、本人の説明で新たに分かる事情もある。本人や所属組織への直接取材は不可欠で、最後はペンとメモ帳を手にした伝統的取材となった。株主とは別に役員名簿もあるが、その氏名は当てにならない場合も多い。表面的な代表者となり公文書で明らかになる場面があるため、回避地各地にある名義貸し会社を通じて形式上の役員を登録しているケースが多いからだ。一方、モサック事務所と関係者のメールやファクスも多数ある。時には法人設立の本当の動機や、生々しいやりとりも記録されている。日付が直接書かれていない書類でも、メールに添付されたものなら、メールの日付で時期が特定できる場合があった。
▼厳重に秘密管理
 ICIJはパナマ文書を電子的に管理し、不正アクセスできないよう厳重に守られた特別なウェブサイトを通じて参加報道機関の担当記者だけが閲覧できるようにしている。同時に、担当記者限定の電子会議室を用意し、国境や時差を超えて議論も重ねた。その中で各国記者は、分析の手法や政治家らへの質問状のひな型、取材の進め方を固めていった。日本時間4月4日午前3時に報道が開始されると、影響は予想を超えて各国に広がった。「こちらではすごい反応だ」「やったぞ」。参加した記者の書き込みが飛び交った。

*1-4:http://mainichi.jp/articles/20160507/k00/00m/030/066000c?fm=mnm
(毎日新聞 2016年5月6日) 情報流出警戒、ネット遮断 入手の独紙記者
 中米パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」から流出した内部文書「パナマ文書」を入手した独大手紙、南ドイツ新聞のバスティアン・オーバーマイヤー(38)と同僚のフレデリック・オーバーマイヤー(32)両記者が初めて日本メディアの取材に応じ、租税回避地(タックスヘイブン)を利用した不透明な金融取引を暴いたスクープの裏側を語った。「データに興味はないか。提供する用意がある」。タックスヘイブンを利用した汚職事件などを長年報じてきたバスティアン記者に暗号通信で連絡が届いたのは1年以上前のことだ。「この文書が報じられることで犯罪行為を明らかにしたい」と提供者は訴えた。バスティアン記者は「連絡が電子メールだったのか、何語で会話したのかは言えない」と情報源の秘匿に努める。独企業の汚職事件にも登場するモサック社を追っていたバスティアン記者は「それまでモサックの実態は全く分からなかった」と話す。フレデリック記者は「とてつもなくセンセーショナルな文書だとすぐに分かった」。文書には、プーチン露大統領の友人や中国の習近平国家主席の親族、麻薬カルテルなど犯罪組織の関係者も登場した。情報が多くの国にまたがり、裏付け取材には人手が必要だった。そして「記者を殺すことなど何とも思わない人物」が含まれるという安全上の問題から、同紙は国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)による共同取材の方針を決めた。ICIJは同紙にデータ取材の専門家を派遣。種類の異なるデータをまとめて検索できるプログラムを導入し、参加する約80カ国、約400人の記者が情報を閲覧できる環境を整えた。同紙に次々と送られてくるデータは最終的に2.6テラバイト(テラはギガの1000倍)に達した。膨大な情報量に対応するため、同紙は約1万7500ユーロ(約230万円)の大型コンピューターを購入。情報流出を防ぐため、コンピューターはインターネットから遮断され、設置場所は極秘にされた。これまでドイツで行われた汚職事件の裁判記録などと提供資料を照合し、信ぴょう性を検証した。裁判記録にあるモサック社が設立した会社の資料と完全に一致する提供資料も多数見つかったという。フレデリック記者はパナマに飛び、モサック社が作ったペーパーカンパニー数千社の代表を務める女性を訪ねた。女性は貧民街に住んでいた。わずかな報酬で名義を貸したとみられる女性は「何の会社か、誰に売られたかは知らない」と語ったという。フレデリック記者は「彼女は国外に出れば逮捕される恐れもある。モサック社のビジネスは貧しい人の搾取そのものだ」と語気を強めた。

<標的は誰か>
*2-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12302057.html
(朝日新聞社説 2016年4月9日) パナマ文書 納税者の怒りは大きい
 英国のキャメロン首相や中国の習近平国家主席、ロシア・プーチン、ウクライナ・ポロシェンコ両大統領の親族や知人、本人の名前もある。中米パナマの法律事務所から流出した「パナマ文書」が波紋を広げている。タックスヘイブン(租税回避地)に設立された法人の情報など、膨大な文書や電子メールを非営利組織「国際調査報道ジャーナリスト連合」が分析したところ、10カ国の現旧指導者12人とその親族60人余らが浮かび上がった。納税者の多くが税金の負担に苦しんでいるのに、税金を課す側の統治者やその周辺は特権を使って蓄財に励み、税逃れの手立てを着々と打っている――。そんな不公平に対する怒りと不信は各国共通だろう。08年のリーマン・ショックに端を発した経済危機と財政難を機に、富裕層や大企業への怒りと格差・不平等への危機感が世界中に広がった。米ウォール街の占拠運動が象徴的だ。それを受けて、主要7カ国(G7)は、国境を超えた多国籍企業の税逃れへの対策を強めてきた。その旗振り役でもあるキャメロン英首相の亡父が、パナマに投資ファンドを設立していたと文書で指摘された。取引自体は違法とは言えないかもしれない。だとしても、政治家ら公職者には道義的責任がある。文書に名前がある指導者は説明責任を果たし、疑わしい取引から手を引くべきだ。各国の政府は、まず違法な取引の有無を調べる必要がある。そのうえで過度な節税など「灰色」の経済活動に対し、納税者が納得できる制度を国際的にどう整えていくかが問われる。土台はすでにある。先進国が中心の経済協力開発機構(OECD)の加盟国は昨年、中印両国など新興国の協力も得て、企業の国際的な税逃れを防ぐために15の行動計画をまとめた。計画は多国籍企業を念頭に置くが、資金の流れを解明し、情報を共有しようとする姿勢は税逃れ問題に不可欠だ。租税回避地への監視をはじめ、行動計画の補完と強化が課題になる。日本はOECDの行動計画づくりの際、関係委員会の議長を財務省幹部が務めた。そうした経験を生かし、国際協調に向けた役割を果たしてほしい。5月にはG7サミット(伊勢志摩サミット)の議長国を務める。当面の世界景気の問題だけでなく、国際的な税逃れに切り込む機会にしたい。

*2-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160409&ng=DGKKASGM08H9X_Y6A400C1EA2000 (日経新聞 2016.4.9) 節税網、欧州勢が主導 パナマ文書を読む、主要銀、名を連ねる ペーパー会社設立関与か
 パナマの法律事務所から流出し、世界に波紋を広げる「パナマ文書」。国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)がホームページ上で公開した資料を読み解くと、欧州を中心に、パナマなどタックスヘイブン(租税回避地)の小国を組み込んだ見えない「節税」ネットワークが構築され、そこに世界の富裕層が顧客に名を連ねる構図が浮かび上がった。ICIJによると、パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」は1977年から2015年にかけて、21カ国・地域に21万のペーパーカンパニーを設立した。ICIJはモサックを「世界で五指に入るペーパーカンパニーの卸売問屋」と皮肉る。21万社のうち、半数以上の約11万3千社は英領バージン諸島にあり、4万8千社がパナマ、1万6千社がバハマ、1万5千社がセーシェルにあった。出資者は200カ国・地域の法人と個人で、政治家や官僚もわかっているだけで140人いる。ペーパーカンパニーの設立をモサックに依頼したのは金融機関や他の法律事務所、コンサルティング会社などだ。金融機関はクレディ・スイスやUBS、HSBC、ソシエテ・ジェネラルなど欧州主要行の系列会社が名を連ねる。500に上る金融機関が1万5600のペーパーカンパニー設立に関わったとみられる。モサックに関わった金融機関の多くはルクセンブルクやスイス、英国に本拠を置き、欧州が節税ネットワークの中心にあったことがうかがえる。モサックもチューリヒに支社を持っていた。これまでのところ、米国や日本の企業や投資家は目立たない。資料によると、モサックが管理する企業数は15年時点で約6万6000社。09年の約8万2000社をピークに、廃業数が新規設立数を上回りだした。09年にUBSによる脱税ほう助問題が米国で浮上。同年の20カ国・地域(G20)首脳会合で租税回避が主要議題になるなど、「徐々に国際的な規制が厳しくなってきたことが背景として考えられる」(国際税務に詳しい弁護士)という。ICIJは5月上旬、パナマ文書に登場する企業や関連人物の全リストをホームページ上に記載する。世界の首脳や著名人の租税回避が新たに明らかになれば、トップ辞任など、波紋がさらに広がる可能性も出てくる。

*2-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160412&ng=DGKKZO99531610R10C16A4DTA000 (日経新聞 2016.4.12)「パナマ文書」に市場が揺れる 編集委員小平龍四郎
 英国のキャメロン首相が苦境に立っている。亡父が設立したオフショアファンドに自身も投資し、利益を得ていたことを認めたからだ。租税回避の実態を示す「パナマ文書」の流出から数日たっての釈明だ。本人が言うとおり違法性はないのかもしれないが、説明責任を果たす姿勢として、誠実さに欠けるとの批判が高まっている。
  □  ■  □
 英首相の指導力を揺るがしかねない「パナマ文書」の騒動に、日本の投資家はもっと目を向けたほうがよいかもしれない。あと3日もすれば、欧州連合(EU)にとどまるかどうかを問う国民投票のキャンペーンが英国で正式に始まる。メディアの調査などによれば、残留派と離脱派は拮抗している。残留を訴えるキャメロン首相が国民の信任を失えば、6月23日の投票日に向けて離脱派がにわかに勢いを増す可能性がある。問題が起きる前から、キャメロン首相への逆風は強まり始めていた。国民に高い人気を誇るロンドン市長のボリス・ジョンソン氏は、次期首相を狙う思惑もあり、離脱への支持を打ち出している。3月下旬には、やはり離脱を支持する元保守党党首、イアン・ダンカンスミス雇用・年金相が、社会保障費の削減方針を巡る意見の食い違いを理由に辞任した。こうした保守党の権力闘争が「内乱」(civil war)といわれるほど激しくなっていたときだけに、後手に回った感の強い「パナマ文書」を巡る説明は、首相にとってはなおさらの痛手となる。投資家が英国のEU離脱を意識すべき理由もここにある。EU離脱が選択された場合、何が起きるか。米ゴールドマン・サックスが3月初旬のリポートで示した筋書きはこうだ。英政府はEUと貿易などに関する取り決めを新たに結ぶ必要がある。2年程度とされる交渉期間は不透明感がきわめて強くなる。産業界の投資は延期され、英国の経済活動に重大な悪影響を及ぼす――。米ブラックロックで投資戦略の対外発信を担当するユーイン・キャメロンワット氏は「影響は英国だけにとどまらない」と訴える。今のところポンド相場を除き、市場は総じて英国のEU離脱の可能性に反応していないように見える。だからこそ「パナマ文書」のような不測の事態が再びもちあがり離脱が決まった場合の驚きは大きく、「世界的なリスクオフは避けられない」。逃避通貨としての円が買われ株安が加速する事態もありうる。
  □  ■  □
 経済の面から判断すれば、EU残留は自明の理に思える。けれど、英国にとってはEUから離れ自国の議会だけで物事を決められるようになるという、主権回復の視点も重要なのだ。目先の不利益は主権の回復に必要なコストであり長期ではEU離脱が国益にかなう。ひそかにそう確信する人が英経済界に少なからずいる。市場からは見えにくい英国の断面である。

*2-4:http://qbiz.jp/article/86239/1/
(西日本新聞 2016年5月6日) パナマ文書に名誉教授らの名 日本関係者、大手企業役員も
 国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)に参加する共同通信のパナマ文書の分析で、大学の名誉教授や大手企業の役員らがタックスヘイブン(租税回避地)につくられた法人に関与していたことが6日、分かった。会社経営者の海外取引を目的とした設立や悪質業者の利用も目立った。パナマ文書には、日本在住者や日本企業の名前が重複を含めて約400あるが、重複を除くと32都道府県の日本人約230人、外国人約80人、企業などが約20となった。租税回避地は税負担を軽くするのに好都合な場所とされるが、法人設立自体に問題はなく、事業が目的の場合もある。

*2-5:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/309374 (佐賀新聞 2016年5月8日) 佐賀の住所にも3人 パナマ文書の日本関係者、唐津市松南町、伊万里市立花町、太良町多良
 国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)に参加する共同通信のパナマ文書の分析で、大学の名誉教授や大手企業の役員らがタックスヘイブン(租税回避地)につくられた法人に関与していたことが6日、分かった。会社経営者の海外取引を目的とした設立や悪質業者の利用も目立った。パナマ文書には、日本在住者や日本企業の名前が重複を含めて約400あるが、重複を除くと32都道府県の日本人約230人、外国人約80人、企業などが約20となった。租税回避地は税負担を軽くするのに好都合な場所とされるが、法人設立自体に問題はなく、事業が目的の場合もある。石川県の医系大学の名誉教授は2012年、英領バージン諸島に法人を設立した。中国人投資家に新薬開発を持ち掛けられ、開発に必要な3億円規模の資金の受け皿としてだったという。その後、日中関係悪化の影響からか、連絡がなくなった。名誉教授は「投資家が新薬の収益への税を逃れるつもりだったのだろう」と話した。セーシェルの法人の関係書類には札幌市の大手企業役員の名前があった。役員は企業を通し一部の書類のサインが自らのものと似ているとしたが「記憶がない」と回答した。
■内閣参与の会社名も記載
 パナマ文書の分析で、回避地法人の株主連絡先として、都市経済評論家で内閣官房参与の加藤康子氏が代表取締役を務める会社名が記載されていることが6日分かった。加藤氏は共同通信の取材に「全く心当たりがなく大変驚いている。当時の会社代表者は別の人で、連絡先として名前を使うことを認めた人がいなかったか調査する」と述べた。
■佐賀の住所に3人
 パナマ文書に記載があったタックスヘイブン(租税回避地)利用者で、佐賀県が住所となっていたのは3人だった。ただ該当する住所がなかったり、転居先が不明だったりし、6日までに該当者は見つからなかった。記載があったのは唐津市松南町、伊万里市立花町、太良町多良の3人。

*2-6:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/308654
(佐賀新聞 2016年5月6) FBI、クリントン氏近く聴取か、メール問題で米報道
 クリントン前米国務長官が在任中に公務で私用メールを使った問題で、CNNテレビは5日、連邦捜査局(FBI)が数週間以内にクリントン氏本人の事情聴取を行う見通しだと報じた。FBIは最近になってクリントン氏の側近らを事情聴取したという。複数の当局者の話としている。クリントン氏は大統領選の民主党候補に指名されることが濃厚となっているが、メール問題が再燃すれば、共和党候補となることが確実なトランプ氏が攻勢を強めそうだ。ただ、CNNによると、複数の当局者はクリントン氏らが意図的に違法行為をした証拠は現時点で見つかっていないと明らかにした。

<租税法律主義とタックスヘイブン>
*3-1:http://www.ichirotax.com/gyoumu/2013/03/post_1093.html (加藤一郎税理士事務所)
●租税法の基本原則(租税法律主義)
 租税法の基本原則とは、憲法に規定する原則であり、大きく分けて租税法律主義と租税公平主義の2つの原則があります。今回は租税法律主義について解説します。憲法84条は「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。」と規定しています。この条文から「法律の根拠に基づかずに、租税を賦課、徴収することはできない」という基本原則である租税法律主義が導かれます。場当たり的に課税要件が変更されたり、税務署の判断で新たに税金を創設されたりすると、国民が経済活動をするにあたり混乱が生じます。そこで、国会があらかじめ制定する法律により課税することで法的安定性と予測可能性を国民に与えることができるようになります。
 租税法律主義は解釈上その内容として、
(1)課税要件法定主義
(2)課税要件明確主義
(3)合法性の原則
(4)手続的保証原則
(5)遡及立法禁止の原則
などを含みます。以下、各原則について見てみます。
(1)課税要件法定主義
 課税要件法定主義とは、納税義務が成立するためには、法律でそのための課税要件(納税義務者、課税物件、課税物件の帰属、課税標準、税率)を規定していなければならず、また、租税の賦課及び徴収の手続は法律によって直接的に規定されていなければならないとする原則をいいます。問題になるのは、例えば「財務省令で定める方法により」などと法律が下位規範である政令や省令に定めを委任する場合です。委任それ自体は租税法律主義に反しませんが、委任する場合には一般的・白紙的委任は許されず、具体的・個別的委任でなければなりません。また、委任の目的、内容及び程度が委任する法律の中で明確にされていなければならないと解されています。
(2)課税要件明確主義
 課税要件明確主義とは、課税要件を法律で規定する場合でも、その内容が一義的でなければならないとする原則をいいます。これは課税庁による自由裁量を排除するために求められる原則です。
(3)合法性の原則
 合法性の原則とは、課税要件が充足されている限り、課税庁は租税を減免し、又は租税徴収を免除することは許されず、法律に定めるところにより税額を賦課徴収しなければならないとする原則をいいます。これは課税庁による恣意的な徴税を排除するために求められる原則です。
(4)手続的保証原則
 手続的保証原則とは、租税の賦課・徴収は公権力の行使であるから、それは適正な手続で行われなければならず、またそれに対する争訟は公正な手続で解決しなければならないとする原則をいいます。更正処分の理由附記の制度(国税通則法74条の14第1項)などはこの原則に由来します。
(5)遡及立法禁止の原則
 遡及立法禁止の原則とは、新法(改正法)を公布日よりも前に施行し、または適用することにより納税者に不利益を与えることを認めないとする原則をいいます。問題になるのは、所得税や法人税のように期間計算が必要な期間税についての遡及立法です。年度の途中で納税者に不利益な改正がなされ、年度の始めに遡って適用されることが許されるかどうかは、そのような改正がなされることが年度開始前に一般的かつ十分に予測できたかどうかにより判断すべきと解されています。問題になるのは、所得税や法人税のように期間計算が必要な期間税についての遡及立法です。年度の途中で納税者に不利益な改正がなされ、年度の始めに遡って適用されることが許されるかどうかは、そのような改正がなされることが年度開始前に一般的かつ十分に予測できたかどうかにより判断すべきと解されています。
(以下略)

*3-2:http://www.g (タックス・ヘブン制度 をめぐる世界の動き)
 現在、全世界には 60以上のタックス・ヘブン地域・国が存在しています。しかし、2000年、OECD(経済協力開発機構)によるマネーロンダリング犯罪対策、公正な課税制度確立に向けた制裁を受け、このうちの 34ヶ国、地域がブラックリスト化されました(下表参照)。英領ケイマン諸島、バミューダ、キプルス、マルタ、モーリシャス、サン・マリノの6カ国・地域は、OECDとの合意により、このブラックリスト掲載を免れています。しかし、合意内容の発効により、これらの国・地域は「透明性高い国際的課税水準の確立」、「預り資産内容等の情報共有」、「公正な課税率の設定」を義務付けられることになりました。こうしたタックスヘブン、マネーロンダリングをめぐる国際間の締め付けはますます強化され、2005年より、スイス金融機関の絶対的匿秘主義にもメスが入れられました(非居住者による書面での口座開設申請不可、犯罪に関わる口座情報の開示義務の制定、など)。特に、欧州諸国の圧力により、顧客情報を提供しない代わりに、居住地国の政府に代わって、その居住者が保有する預金口座から利子税を徴収し、関係各国に代理で納付する、という合意が妥結されました。
   アンドラ グレナダ ガーンジー(英)
   マン島(英) パナマ リヒテンシュタイン
   モナコ バハレーン モルディブ
   マーシャル諸島 ナウル アンギラ(英)
   サモア トンガ バヌアツ
   ニウエ(ニュージーランド) セント・ルシア ヴァージン諸島(英)
   セント・クリストファー・ネイヴィース アンティグア・バーブーダ セント・ビンセント
                                      及びグレナディーン諸島
   ジャージー(英) アルバ(蘭) ドミニカ国
   タークス諸島・カイコス諸島(英) ヴァージン諸島(米) クック諸島(ニュージーランド)
   ジブラルタル(英) モンセラット(英) アンティル(蘭)
   バハマ バルバドス ベリーズ
   セイシェル リベリア ー
              外務省資料 参照
 ここ数年の金融恐慌は、世界各国の財政事情を大きく圧迫しました。税収減と、巨額の財政出動により、各国ともに、徴税制度をますます強化するとともに、さらなる増税も不可避な状況となっております。こうした中で、市民への増税政策の実施前に、その協力を得る目的で、富裕層のキャピタルフライトを狙い撃ちにする方向性が強められています。2009年4月26日のロンドンでの、G20首脳国会合。ここで、タックヘブン諸国・地域に対する対応が協議され、その第一弾として、国際的な徴税制度に非協力的な地域が名ざしされることになりました。
   アンドラ ジブラルタル モナコ
   リヒテンシュタイン シンガポール スイス
   ベルギー ルクセンブルク オーストリア
   要注意国 >> フィリピン マレーシア
   要注意国 >> コスタリカ ウルグアイ
 2009年9月のG20首脳国会合ではさらに、国際景気の動向が議論の大部分を占めたため、特別、突っ込んだ議論は進められなかった模様。しかし、今後の G20での主要テーマの一つになることは確実な情勢です。2008年2月のドイツ税務当局によるリヒテンシュタインのプライベートバンク絡みの脱税者リストの買収、 2009年2月の米国による世界最大プライベートバンクUBS銀行への脱税幇助の指弾と巨額罰金、情報リスト開示命令、そして、同年3月のスイス金融行政による顧客守秘義務規定の変更実施など、近年の先進国政府によるキャピタルフライトに対する締め付けは、加速度的に厳格化しております。2001年米国同時多発テロに端を発するテロ資金規正、すなわち、アングラ・マネーへの締め付けは、さらに援用され、富裕層の隠し資産、裏金の解明へと拡大適用されつつあります。そこへ、金融恐慌が拍車をかけ、財政赤字に苦しむ政府を後押しする格好となっています。そのうち、1998年に改正された日本の外為法も、大幅に見直しが進められ、海外への資金移動が大幅に制限される日が来るかもしれません。 roup-bts.com/OffshoreTax.htm
●タックス・ヘブン制度の概要
 タックス・ヘブン「Tax Haven」とは、日本語に直訳すると「税金避難所」を意味し、一般的には「租税回避地」と訳されます。ちなみに、フランス語では、Paradis fiscaux といい、「会計上の天国」といいます。元来は、中継貿易地として経済を活性化させる目的で、各国・地域政府が徴税優遇制度を実施していましたが、70年代より、海外籍の個人や法人を問わず、その所得に対して、すべての課税を免除(もしくは大幅減額)するようになりました。このようにして同制度は、域内の雇用促進、グローバル経済社会での小国・自治区なりの「生き残り」策として確立されていきます。その発展に伴い、同地域への法人設立や移住手続も簡素化されるようになり、多くの企業や個人、そのマネーを惹きつけることになりました。特に、移動の容易な「マネー」を操る金融ビジネスがここに目を向けるようになりました。こうした背景から、タックスヘブン国や地域はオフショア金融センター(Offshore Financial Center)と呼ばれるようになり、名だたる多国籍企業、金融グループ、投資事業組合、大資本家や政治家らを中心に、多くの資金を集める結果となっています。直接、現地にて居住せずとも、経済活動が許されている、もしくは資産を保管できるという意味で、オフショア=「沖合い」のみでの呼称でも認知されるようになり、これに合わせて、数々の資産保全スキームも考案されていきました。世銀統計によれば、沖縄県 西表島 程度の面積しかない英領ケイマン諸島(270km2、人口4万)は、世界の預かり資産残高において、東京、ロンドン、ニューヨーク、香港に次ぐ世界第五位の規模とされています(約 90兆円)。ここに、世界の一流と目される金融グループを含め、約600あまりの金融機関が拠点を置いています。タックスヘブンとまでは行かずとも、欧州、シンガポール、香港、中国はじめ、多くの国々で今や、法人税率の減税が進んでいます。各国・地域とも、海外投資を受け入れ、自国経済の振興に役立てようと、優遇税制を導入しているわけです。日本も消費税増税と法人税減税の同時実施の必要性が叫ばれていますが、21世紀中盤の国際競争時代に向け、出遅れをとらないように注意すべきでしょう。
●タックスヘブン制度をめぐる近況
 タックスヘブン制度を採用する国・地域では、原則、個人の所得税、利子・配当税、相続税、株式等の譲渡益税、法人の事業税などが免除、もしくは低位に抑えられています。こうした恩恵をねらい、世界中の富裕層、ビジネス・マネーが流入しています。特に、物理的な商品移動等のない、保険、投資業務などの金融ビジネス、さらに各種リース業や、特許・著作権等の知財サービス業には最適な環境といえます。所謂、ペーパーカンパニーという形で法人を設立し、実際のビジネスの運営は別の場所で操作するパターンが圧倒的です。世界の大企業はほぼすべてこうしたペーパーカンパニーを何らかの形で有しています。こうしたタックスヘブン制度を利用し、多くの不正脱税、マネーロンダリン犯罪が行われてきたのは容易に想像できます。諸外国はこのタックスシェルターへの対抗策として、スキーム情報申告・登録制度、資料保存義務規定、移転価格対策、納税者番号制度などを実施し、さらに先進国クラブOECDとして団結し、情報公開に非協力な国々への圧力を強めるなど、あらゆる手段を講じています。日本では、このタックスシェルター制度への対抗策として、移転価格税制、タックスヘブン対策税制という、後追い型の追及手段が主たるものであり、他の先進国に遅れを取っていることは否めません。実際、国内の大手金融グループ、メーカー、サービス事業会社の多くは、ケイマン諸島籍のSPI(特別目的会社)を有しており、株式の増資にともなう第三者割当相手先や、自社の持ち株会社などの形でオフショア・カンパニーを多用しています。これらは、目下の法制度では何ら問題ではございません。こうした日本の外為規制、海外課税体制に関し、G8はじめ先進諸国は批判を強めつつあります。ただし、先進諸国は、実際のところ、自国外のタックスヘブン諸国への富裕層のキャピタル・フライト(資金流出)が大々的に起こっていることを懸念しており、自国内への海外マネーの流入は「歓迎」というのが本音です。その典型的な政策が、「国内非居住者の預金利子や株式等の譲渡益・配当に対する非課税政策」といえます。米国、英国、日本、豪州など、先進諸国はこぞって導入しています。自国のマネーは流出させず、かつまた、海外マネーを積極的に流入させて、国内金融、不動産、その他の市場を活性化させていきたい、という国際競争の激化が、直接的には「タックスヘブン諸国への締め付け」という、近年の国際協調を演出している感があります。(以下略)


PS(2016年5月10日追加):*4に、「日本の政治家は政権交代があっても財産や命を奪われる危険はないので、パナマに資金を隠す必要はないだろう」と書かれているが、現在の日本では、政治家として活動したことによって破産する人はいても、パナマに資金を隠さなければならないほど巨額の資金を溜めた人はいないため(理由:収入より支出の方が多いから)、これは一昔前の古い政治家批判のシナリオにすぎない。また、本当に違法な政治資金、犯罪、暴力団・テロリズム関連団体の資金であれば、タックス・ヘイブンではなく、その違法行為自体を犯罪として摘発すべきだ。
 なお、パナマ文書に関わった記者の一人が、「①タックス・ヘイブンの売りは秘密性なので、秘密を白日の下に晒す私たちの報道はそれに大きなダメージを与えている」「②今回のパナマ文書報道で公職者に焦点を当てた理由は、ジャーナリストとして義務を負っているから公益だ」「③私たちの役割は暴露すべきものを単純に暴露することで、次の段階には関与せず介入しない」と述べているが、①は、銀行預金や非公開会社の株主名簿を公表するのと同様にプライバシーの侵害であり、②は、本当の敵は政治家ではなく官なのに、自分は安全な権力側につき手先として働きながら政治家批判をして権力を批判しているかのようなポーズをしているだけで偽善であり、③は、パパラッチレベルの無責任な見識しか感じられない。そのため、こういう記者は、カレル・ヴァン・ウォルフレンのようなジャーナリストからはほど遠い。
 結論として、何ら違法行為をしていないのに、これらの記事やブログで被害を受けた人は、名誉棄損や政治活動の妨害・営業妨害などで提訴し、民主主義の前提となる公正な報道がなされるよう、一つ一つ正していくしかないだろう。

*4:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12348064.html (朝日新聞 2016年5月10日) (耕論)パナマ文書が晒すもの 鳥羽衛さん、黒木亮さん、ジェラード・ライルさん
 タックスヘイブン(租税回避地)の実態を暴露したパナマ文書が世界に衝撃を広げている。税や金融の専門家、文書を暴露した「国際調査報道ジャーナリスト連合」(ICIJ)幹部に聞く。
■高度な金融専門家育成を 鳥羽衛さん(弁護士・元東京国税局長)
 税金は主権国家が課税徴収しますが、経済はグローバル化し、国境を超えます。各国で制度が違うため、主権の壁にぶつかり、調査や徴税ができない現実があります。例えば日本企業がその事業で利益を上げれば、法人税や事業税が課税されます。しかし仮に、その企業が、海外のペーパーカンパニーに利益を留保していたり、源泉課税がなされない形で送金していたら、直ちには課税できません。こうしたペーパーカンパニーが大量につくられているのが、タックスヘイブン(租税回避地)です。税金が無税だったり、大幅に軽減されたりするので、税負担を減らせます。この仕組みを利用する動きは古くからありましたし、そこからの情報流出は以前からありました。しかし、パナマ文書は情報量が格段に多く、著名人の名前が報じられていることが衝撃を広げています。特に今回は、いくつかの国の最高指導者がタックスヘイブンを利用していたと報じられています。政権を奪われた時には国外に逃亡しなければ身の危険があるような国の政治家は、国外に財産を隠す動機があるでしょう。本人たちにとっては、ある意味で合理的なのかも知れません。蛇足ですが、日本の政治家は政権交代があっても、財産や命を奪われるといった危険はありません。ですから、パナマに資金を隠す必要がないのではないでしょうか。税金以外で問題なのは、違法な政治資金や犯罪、暴力団やテロリズム関連団体といった資金の受け皿になっているのではないかという点です。税制においては、米国では半世紀以上前から、日本でも1978年から対策が導入されています。国際的には、ここ20年ほど、経済協力開発機構(OECD)が「有害な租税競争」の除去に向けて規制強化に取り組んで来ました。現在は、国際課税全般について、多国籍企業が税制の抜け穴を利用して過度の節税をしている状況を是正するため、「BEPS」(税源浸食と利益移転)というプロジェクトが進行しています。不透明な資金の流れを捕捉するために、各国の当局間の情報交換を密にする方向で世界は動いていると言えます。制度は整いつつありますが、課題は実際の執行面です。特に重要なのは、国際課税に精通した人材の育成と、要所にそうした人材を配置した効果的な体制づくりです。税逃れの仕組みは年々複雑化しており、当局に高度な金融知識を持つ人材を常に育成することが欠かせません。税金は民主主義社会の根本です。財政状況は厳しいですが、税負担の公平さを維持するため、人材育成と体制の整備は避けては通れないと思います。
     *
 とばまもる 52年生まれ。75年旧大蔵省入り。国税庁調査査察部長を経て、2008年から長島・大野・常松法律事務所に勤務。
(中略)
■政治家に焦点を当てた ジェラード・ライルさん(ICIJ事務局長)
 オーストラリアで新聞記者をしていたとき、百億円規模の巨額詐欺事件を取材しました。その犯人がタックスヘイブンを使っていました。それが、私がタックスヘイブン問題に関心を持ったきっかけです。9年前のことです。その詐欺事件について本を書いたところ、匿名の人物が事件の情報を含むタックスヘイブンの秘密の電子ファイルを送ってきてくれました。2011年初めのことです。私はオーストラリアでの仕事を辞め、ICIJに来ました。私には野心がありました。ICIJはグローバルな調査報道チームであり、タックスヘイブンのようなグローバルな問題に取り組める、と。タックスヘイブンは日本、ブラジル、ヨーロッパなど世界中のさまざまな場所とつながりがあります。この種の問題はグローバルに取材しなければならないのです。提供された秘密ファイルに基づき、私たちはタックスヘイブンに関する大きな記事を2013年に出しました。メディアが忘れがちなことですが、最良の情報源は読者や視聴者です。政府の関係者や広報担当者ではなく、周辺にいる普通の人が、記者が知っている以上のことを知っています。記者がやるべきことは、自分が何に関心があるかを人々に知らせることです。それができれば、記事を出すたび、興味深い新たな何かを、その記者に提供してくれる誰かを、見つけられる可能性が高まります。そして、それこそが私たちがいま行っていることです。人々が、私たちを見つけてくれ(情報を提供してくれ)ています。タックスヘイブンの売りは秘密性です。だからこそ、その秘密を白日の下に晒(さら)す私たちの報道は、それに大きなダメージを与えています。今回のパナマ文書報道で、私たちはなぜ公職者に焦点を当てたのか。それは私たちが義務を負っているからです。ジャーナリストとして、こうした文書を入手することは、公益上の特別な義務を負うことになります。公益に資するために最も簡単で最も良い方法は、公職者に焦点を当てることです。だからこそ私たちは、一連のパナマ文書報道で、政治家やその家族、関係者に重点を置きました。ジャーナリストの仕事は記事を出すことです。私たちはおそらく今後も2カ月ほどはパナマ文書の取材・報道を続けるでしょう。社会には役割分担があります。私たちの役割は、暴露すべきものを、単純に暴露することです。そして私たちは一歩下がり、その次の段階には関与せず、介入しないようにする必要があります。これから前面に出て、問題にどう対応するかを決める責任は、政府当局や一般の人々にあるのです。
     *
 Gerard Ryle 65年生まれ。アイルランドと豪州で26年にわたって新聞記者や編集者。2011年にICIJの事務局長に就任。


PS(2016年5月11日追加):フィリピンの次期大統領であるロドリゴ・ドゥテルテ氏は、中国の南シナ海に関する領有権の主張について、大統領選で勝利した後は「経済振興となら引き換えにしてもよい」という発言をしているそうだ。日本政府が、北方領土や尖閣諸島の領有権問題に正面から取り組んでいる時、南シナ海で同じ問題を抱えて協力しているフィリピンを“タックス・ヘイブンの要注意国”と呼び、中国の習近平国家主席やロシアのプーチン大統領の遠縁の名をパナマ文書に見つけたなどと熱狂して騒いでいるようでは、外交努力が水泡に帰すだろう。日本の問題点は、各省庁が勝手に異なるベクトルの方向に動き、収拾がつかなくなることだと聞いたことがある。

*5:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12349886.html
(朝日新聞社説 2016年5月11日)フィリピン 堅実な新政権運営を
 今週の大統領選で勝利したロドリゴ・ドゥテルテ氏(71)が国民を引き寄せた持ち味は、その剛腕ぶりだろう。ミンダナオ島のダバオ市長を長く務め、治安を改善した功績が知られる。犯罪者を暗殺する組織を操った疑いも取りざたされるが、荒療治でも結果を出す手法が支持を得た。この国では今も海外出稼ぎが経済を支え、貧富の格差が激しい。ドゥテルテ氏が「犯罪者はマニラ湾の魚のえさにする」などと暴言を繰り返しても、むしろ有権者は留飲を下げつつ実行力への期待を高めた。アキノ現大統領が後継指名したエリート政治家の支持は伸び悩み、ドゥテルテ氏は中央政権での経験がないことが逆に有利になった。世界的に広がる既成政治への不満が、フィリピンでも表れたといえる。アキノ政権は決して無策だったわけではなく、むしろ評価に値する。汚職摘発や財政立て直し、規制緩和を進めた。経済成長率は6%前後を維持し、かつての「アジアの病人」の汚名を返上したとも言われる。1人当たり国内総生産が3千ドル水準になった今こそ正念場だ。ドゥテルテ氏は、成長の流れに水を差すことなく、国民への豊かさの分配を実現するためのかじ取りが求められる。人口は1億を突破し、若年層が厚い。全国に目配りしたインフラ整備に注力し、雇用を増やすことが急務だ。日本からの開発援助や民間の投資も、大いに役立つだろう。各国が注目する懸案の一つは南シナ海問題である。スプラトリー(南沙)諸島で中国が埋め立てを進め、フィリピンの漁船は中国公船との緊張に悩まされてきた。これに対しアキノ政権は対米関係を強めるとともに、中国の領有権主張は不当として、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所に提訴した。国際法に沿って冷静な解決を探る限り、フィリピンの対応は国際社会から理解される。力まかせの海洋進出がめだつ中国と向き合うのは難題だが、細心の外交努力を続けてもらいたい。目指すべきは平和で自由な南シナ海である。ドゥテルテ氏は選挙運動中、「水上バイクで中国の人工島に旗を立てる」と発言したが、今後は不用意な言動を慎み、堅実な政治指導者として国家運営に臨んでほしい。


PS(2016.5.17追加):*6のように、南シナ海等で共働しているオーストラリアのターンブル首相を、不法行為でもないのに「英領バージン諸島の子会社取締役となっていた」として挙げ、総選挙に影響させようとしているが、これらを日本政府がリードしてやっているのではどの国からも眉をひそめられるだろう。何故なら、「成功者はずるい」などという価値観が通用する市場経済の国は、他にはないからである。

*6:http://www.sankei.com/world/news/160512/wor1605120031-n1.html 
(産経新聞 2016.5.12) 豪首相、租税回避地の法人取締役に名前 「問題はない」と表明も7月2日の総選挙に影響か
 オーストラリアン・フィナンシャル・レビュー紙は12日、パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」がタックスヘイブン(租税回避地)の英領バージン諸島に設立した法人の取締役に、オーストラリアのターンブル首相が就任前に名を連ねていたと報じた。租税回避地に関する「パナマ文書」で明らかになった。法人はロシア極東・シベリアで金鉱山を開発。ターンブル氏は12日、同法人の役員になっていたことについて問題はないとの認識を示した。同紙も「不適切な行いはなかった」としているが、7月2日の総選挙に影響が出る恐れもある。同紙によると、ターンブル氏は1993年、オーストラリアの鉱業企業取締役になった後、英領バージン諸島の子会社取締役となり95年に両社の取締役を辞任した。ニューサウスウェールズ州のラン元州首相も共に取締役となった。

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2016.5.6 日米安保条約の代償として農業を差し出した(?)TPP交渉と、その交渉を守った特定秘密保護法 (2016年5月7、8日に追加あり)

   2016.5.5     2016.5.4    ナスの         自動搾乳機      菅平の牧場
  日本農業新聞    日経新聞   自動摘み取り機      (アメリカ)
 
 熊本・大分を中心とする大地震報道の陰に隠れて、メディア上で議論されなくなったことは多いが、今日は、そのうちの環太平洋経済連携協定(TPP)交渉について記載する。

(1)TPP交渉と政府の姿勢
 環太平洋経済連携協定(TPP)の承認案と関連法案の衆院特別委員会での審議は、*1-1、*1-2のように、どこまでが秘密にする交渉過程に当たるかや秘密にしなければならない理由が明確でないのに、交渉資料は国会に全て黒塗りで提出され(海苔弁と言われた)、内容が分からないため審議できない状態だった。私も、交渉に関する情報開示がなければ、交渉の妥当性に関する国会決議はできないと考える。

 これに対し、自民党の国会対策委員長は、「公開しないという国と国との約束は絶対に逸脱できない」としているが、これでは自民党議員でも交渉の内容がわからず、国会決議でも賛否は言えない筈で、これらの対応は国会軽視である。なお、ニュージーランド政府は書簡のひな形を公開しているため、情報公開請求をすれば他の民主主義国の政府なら、ある程度、交渉内容を公開するに違いない。そのため、こここそメディアのネットワークが活躍すべき場所である。

 このTPP交渉は、最初は神奈川県選出の甘利前TPP担当相が顔になり、その後は東京都選出の石原担当相が顔になり、農業とは殆ど関係のない地域から選出され農業に詳しくない議員が担当した。そのため、この人事を見れば、妥結の結果ありきでシビアな交渉はしておらず、日本側には開示できるほどの資料はないと判断される。

 そのため、*1-3のように、大島衆院議長(青森県選出、自民党)が、環太平洋連携協定(TPP)の承認案と関連法案を、参議院議員選挙が終わった後の秋の臨時国会で成立させる意向をすでに米議会に伝達したというのは、農業をはじめとするどの産業にとっても重要な問題を、国民には何も開示せず、参議院議員選挙の争点ともせずに、選挙後の忘れた頃に議決すればよいとしているのであり、これは自民党議員がよく言う「民主主義国(=主権在民)と価値観を同じくする」ものではない。

(2)特定秘密保護法について
 TPPの交渉資料をすべて全て黒塗りにして国会に提出し、内容が分からないため国民の代表である国会議員がまともな審議をできない状態にしている根拠法は、*2-1、*2-2のように、TPPの交渉前の2014年12月に無理に施行された特定秘密保護法である。これにより、政府(自民党よりは官)は、理由を付ければ国民に知られたくない情報を特定秘密に指定して開示せず、政府にとって都合の悪い人も特定秘密保護法違反で逮捕して投獄することができるようにしていたのである。

 なお、この特定秘密保護法を根拠に、*2-3のように、公務員の“適性評価”を行ったが、プライバシーを侵害されるなどの理由で、38人が拒否している。

(3)TPP条約が締結された場合の影響
 環太平洋連携協定(TPP)が発効すれば、*3-1のように、宮崎県は農林生産686億円減1.5万人の雇用減となり、佐賀県は、*3-2のように、県内主要の農水産物15品目の生産額は最大13億8千万円減少すると試算している。佐賀県は、コメは輸入米の増加分を政府が買い取って備蓄するため影響ないとしているが、その備蓄がいつどのような形で放出されるのか、毎年買い取るとしている税金は誰が払うのかが大きな問題だと私は考える。

 福岡県でのTPPの影響は、*3-3のように、福岡県が試算した金額の17倍に当たることを、TPP反対ネットが公表している。確かに、国は「輸入増加分を備蓄するため影響額はゼロ」としているが、鈴木教授のように「(備蓄分は)順次市場に出てくる」とするのが自然であり、対策も正確な影響額を出してから議論するのが本筋だ。

 *3-4のように、農林水産予算総額は、TPPに加入しても前年度より1億円多いだけというのは驚きだが、2兆3091億円という大きな金額である。私は、食用米の自給率が100%を超えているのに他の食用作物に転作せず、水田活用直接支払交付金を支払ってまで飼料用米を支援するのはいかがなものかと思うが、現在は米が最も栽培しやすく、これまで持っている機械を使って兼業農家でも栽培できるからとのことである。しかし、転作のリスクと労力をかけて自給率の低い作物に転作する農家に対して、それに見合った交付金を支払う方が妥当だと考える。

 もちろん、農業農村整備を行い、農業の付加価値や生産性を上げて、農業を成長産業化するのは必要なことで、これは、TPPに入るか否かを問わない。しかし、(4)の理由で、日本政府がやっていることは、付加価値を上げるどころか下げている。

(4)日本の農業は差別化できず、付加価値が下がること
1)新品種の特許権流出
 農産物の収量や味は品種によるところが大きく、農業の場合は、これを主に公的機関が行っている。それにもかかわらず、農水省は、*4-1のように、野菜や果樹などの新品種を外国政府が栽培試験する手間を省き、審査期間の短縮に繋げるそうだ。もちろん、私企業が開発した新品種を輸出するのは自由だが、公的機関が高いコストと長い期間をかけて開発した新品種を、簡単に海外で生産できるようにすれば、日本の農産物は差別化できず、安価な海外製品に負けることになる。ここに、品種は農産物を差別化するための重要な資産であり、特許権は長い方がよいという考慮はあるのだろうか?

2)米の付加価値の低下
 「ナラシ」という言葉は経済学から程遠い用語であるため私は嫌いなのだが、*4-2のように、米の価格下落に対して支払われるナラシ(収入減少影響緩和対策)が、2015年産には全国的に発動される見通しだそうだ。しかし、自給率100%を超えているのに何が何でも米を生産すれば、供給過剰になって価格が下がるのは当然であり、その一方で、足りずに輸入に頼っている作物もいくらでもあるのに、そちらに転作するよりも米の方が手厚い補償を受けられるのでは、誰も米から離れないと考える。

3)「日本産は安全」という付加価値は健在か?
i) 遺伝子組換植物について
 *4-3のように、日経新聞は、2016年5月4日、「遺伝子組み換えやゲノム編集は品種改良の延長上にあり、速すぎる技術の進歩を消費者が不安に感じているので、消費者も食の安全について知識を身につける必要がある」などと、自分はわかっているが消費者が理解できずに感情的な不安を感じているのだとする傲慢なことを書いているが、私は、ゲノム編集や品種改良についてよく理解して述べている。

 その上で、ビタミンCや昆布のうまみを生むグルタミン酸のように、製法が違っても成分が同じで環境に遺伝子組換植物をまき散らさないものならよいが、農薬を使わなくても害虫がつかない遺伝子組換植物を人間が長期間食べても安全か否かは注意する必要がある上、その花粉が環境にまき散らされれば害虫は数年で抵抗力を持つように進化するため、さらに強い害虫駆除性を持つ遺伝子組換をしなければ効かなくなる。その上、ゲノム編集された遺伝子を検査で見つけるのは難しいため、私は人間の食物としてはこれを禁止するのが最善で、それによっても安全性で差別化できると考えている。

ii)放射能汚染について
 東日本大震災に伴うフクイチ事故によって日本産農産物や食品の輸出は、*4-4のように、香港、台湾、米国など多くの国・地域などで輸入制限措置が続いており、「美味しくさえあればいいだろう」として、この輸入制限措置を「風評被害」と断じる姿勢は、日本の安全性への意識の低さを露呈している。そのため、日本の安全ブランドを、さらに損ねる結果となっている。

 そして、この安全性への危惧は、外国人だけが持っているのではなく、日本人も持っているため、*4-5のように、原産地表示を拡大し、加工品は主原料の原産地を明記して選択可能にすることが、誰にとっても必要不可欠なのである。

iii)BSEについて
 日本では、国内初のBSE感染牛が確認された直後から、(私の提案で)BSEの全頭検査をしていたが、アメリカに合わせる形で平成25年7月1日から「48か月齢超」のみの検査とし、各自治体で自主的に全頭検査を行っていたものも全国統一して「48か月齢超」を対象とする検査に変えられた。

 その結果、最低に合わせることとなり、より高い安全性という付加価値で差別化することができなくなったため、それなら価格が安い方がよいという選択になるだろう(http://www.gov-online.go.jp/useful/article/201308/2.html参照)。

3)農業機械価格の高さが、農業の生産性向上を阻んでいること
 *4-6に、「①暗闇の中のビニールハウスでロボットが働き、目のような2つの高性能カメラが熟度を判断して甘くなった粒だけを選んで収穫し、農家が目覚めると朝イチで出荷できる」「②その収穫ロボは4千万円と高い」「③ロボットは、農林漁業の生産性を上げる」「④クラウドファンディングで資金を3カ月で集めた」等が記載されている。

 そのうち、①については、センサーで糖度を計って摘み、サイズ毎に分けてパックづめまでするロボットもあるため、高性能カメラが色を見て熟度を判断しているくらいでは、まだ遅れている。また、②については、農業機械は少しよいと大変高価で、農業補助金は農家に行くのではなく機械に行っているのではないかと思うくらいなので、日本は先端の機械を高い価格に据え置いて普及を阻む慣習を早く改めるべきだ。そうしなければ、工業で追い付いてきた近隣諸国に追い越されるだろう。

 なお、③はそのとおりであるため、私は2005年~2009年の衆議院議員時代にロボットを作成している大学の研究チームと交流して農林漁業用のロボットを作るよう要請していたが、この時、大学の研究チームは農林漁業のニーズをあまり知らず、趣味的なロボットを作りがちであることがわかった。そのため、ロボット技術者に農林漁業のフィールドでの実習場を提供し、農林業者や漁業者の方からニーズを言うことも必要だと考える。

 また、④は、同じ志を持つ人がITで瞬時に集まる新しい形のファンディングであるため、成功すればよいと思う。

<TPP交渉と政府の姿勢>
*1-1:http://digital.asahi.com/articles/ASJ455V3NJ45UTFK016.html (朝日新聞 2016年4月5日) TPP交渉資料、全て黒塗りで公開 内容分からず 自民
 環太平洋経済連携協定(TPP)の承認案と関連法案の衆院特別委員会での審議をめぐり、自民党は5日、民進党が求めていた政府の交渉資料を、特別委の理事懇談会に提出した。ただ、全て黒塗りされ、内容は分からない状態だった。民進は、情報開示がないと十分な審議ができないとして、甘利明・前TPP相とフロマン米通商代表部代表の会談記録の提出を要求。自民は5日、首相官邸への報告用に論点をまとめた資料を提出したが、全て黒塗りされ、「TPPブルネイ交渉会合 平成25年9月」などというタイトルだけが上から貼り付けられていた。自民の佐藤勉国会対策委員長は記者団に「公開しないという国と国との約束は絶対に逸脱できない。それ(黒塗り)でもという話があった」と説明。民進の近藤洋介・特別委筆頭理事は「ここまで黒いと思っていなかった。政府の説明を徹底的に求める」と述べた。資料提出を受け、与野党は、特別委で6日に承認案などの趣旨説明、7、8の両日に安倍晋三首相も出席して質疑を行うことで合意。自民は、首席交渉官だった鶴岡公二氏の参考人招致にも応じた。

*1-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=36901 (日本農業新聞 2016/4/8) 激論TPP国会 「保秘」線引きで応酬 米の影響 見解分かれる
 7日の衆院TPP特別委員会では、民進党が交渉過程に関する情報開示を強く求めたが、政府側は「交渉過程は原則、非公開」と応じず、押し問答が続いた。どこまでが秘密にする交渉過程に当たるかや、秘密にしなければならない理由は、必ずしも明確にならなかった。今後の審議でも秘密の“線引き”が争点になりそうだ。民進党の玉木雄一郎氏(香川)が「本当に国益にかなう交渉をしたのかどうかは交渉過程も吟味しなければ判断できない」と指摘。交渉が終結していることを踏まえ「出せる情報は出してほしい」と求めた。石原伸晃TPP担当相は「(交渉過程に関することは)コメントを差し控えたい」と開示しない方針を繰り返した。ただ、開示できない理由については「秘密保護に関する書簡がある」「外交交渉上の原則」などと答弁が定まらなかった。環太平洋連携協定(TPP)交渉参加国は、秘密保護に関する書簡を交わしており、政府が交渉過程を明かさない根拠になっている。書簡のひな形はニュージーランド政府が公開していたが、書簡の原文は開示されていない。石原氏は「書簡の内容を含めて交渉上のやりとりを外部に出さない」としたが、「書簡自体を秘密にするのは過度な秘密主義ではないか」(玉木氏)など追及が続いた。民進党の柿沢未途氏(東京)は、甘利明・前TPP担当相が交渉中に、米をめぐる米国との駆け引きの一部を明かしていたとし、秘密の範囲の曖昧さを指摘した。一方、民進党の福島伸享氏(比例北関東)は、米国などに認めた、米の国別輸入枠について「屈辱的な内容だ」と追及。「需要のある安い(米国産)米が入ってきたら日本の米の値段が下がるのは当たり前だ」とし、国産米価格への影響に懸念を示した。森山裕農相は「(輸入米は)国産米の価格水準を見据えて流通している」と指摘。「(輸入米の)数量規模が数万トンにとどまる以上、基本的に大きな変化はない」とし国産米価格への影響は小さいと反論した。日本は、3年度中2年度で枠数量が消化されなかった場合に、国が設定する最低マークアップ(輸入差益)を一時的に引き下げる約束を米国とオーストラリアとの間で交わしている。森山農相は「円滑な入札手続きを行うため」と説明したが、福島氏は「(枠の)全量を輸入する仕組みになっている」と譲らず、見方が割れた。

*1-3:http://qbiz.jp/article/86044/1/
(西日本新聞 2016年4月30日) 臨時国会でTPP承認と大島氏 米議会に意向を伝達
 訪米中の大島理森衆院議長は29日、ワシントンでライアン米下院議長と会談し、環太平洋連携協定(TPP)の承認案と関連法案に関し、秋に想定される臨時国会での成立を図る意向を伝達した。会談後の記者会見で明らかにした。自民党は26日、今国会での成立断念を野党に伝えた。民進、共産、社民、生活の野党4党は廃案を要求。国会で紛糾している案件に関し大島氏が米議会に伝達したことに対して、野党から反発が出る可能性がある。大島氏はライアン氏との会談で「今国会では結論は出せないが、たぶん秋の国会では結論を出すようになるのではないか」と伝えた。大島氏によると、米議会の進捗状況の説明を求めたが、ライアン氏は承認時期に関する明確な見通しを示さなかった。オバマ米政権はTPPの年内承認を議会に促しているが、議会では賛否両論があるため、11月の大統領選や上下両院の選挙後に先送りされる可能性が強まっている。

<特定秘密保護法について>
*2-1:http://mainichi.jp/articles/20160404/ddm/004/010/007000c
(毎日新聞 2016年4月4日) 国会監視機関報告 「原則」盾に情報閉ざされ
 特定秘密保護法に基づき指定された特定秘密をチェックする衆参両院の情報監視審査会が3月30日に公表した初の年次報告書からは、秘密を指定した行政機関に対する質疑で、情報を引き出すのに四苦八苦した様子がうかがえる。衆参両院に設けられ、携帯電話の電波を遮断する専用の部屋で、審査会は開かれた。委員は部屋の中でしか書類の閲覧を許されず、メモを取っても持ち出せない。ところが、衆院の審査会の額賀福志郎会長(自民党)によると、省庁幹部の対応は「最初、従来の常任委員会の政府答弁みたいだった」という。委員の「2015年1月に発生したIS(過激派組織『イスラム国』)による邦人殺害テロ事件の関係で特定秘密に指定した文書は存在するか」との質問に、外務省幹部の回答は「個別事案が特定秘密に該当するかどうかを公にすることは、外国の政府等との信頼を損なう恐れがある」とそっけなかった。特に外国から提供された情報は「第三者には情報を渡さない」原則を盾にシャットアウトされた。参院の審査会も同様で、参院の報告書は原則を口実に必要以上の情報隠しがされないよう「適用基準の明確化を図ること」とくぎを刺した。情報管理の専門家からは、与党主導の審査会運営を懸念する声が聞かれた。審査会は衆参とも会派の議席数に応じて委員が割り当てられるため、与野党比率は衆院で6対2、参院で5対3。参院では昨年12月、野党側から出た政府への秘密文書の提出要求が賛成少数で否決され、民主党(現・民進党)の大野元裕委員は「疑義があれば見てみるべきなのに」と悔しがった。情報公開クリアリングハウスの三木由希子理事長は「秘密提出要求は現在の『委員の過半数の賛成』から、『3分の1以上の賛成』に緩和しては」と提言する。国会の仕組みに詳しい南部義典・元慶応大講師(憲法)は「与野党委員の逆転を考えてもいい。机上の空論と言われそうだが、自民党には野党に転落した場合、チェックができるのか想像してほしい」と話す。審査会には常時監視の「調査」のほか、常任委員会の要請を受けて特定秘密をチェックする「審査」機能があるが、昨年中は行われなかった。南部氏は「3月の安全保障関連法施行に伴う特定秘密があるはずだが、常任委員会では議論できない。それを審査会が審査すべきだ」と指摘した。

*2-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160504&ng=DGKKZO00374320U6A500C1PE8000 (日経新聞社説 2016.5.4) 特定秘密への懸念を深める政府の対応
 外交や防衛などにかかわる秘密が漏れたら、国の安全が脅かされてしまう――。政府はそんな理由から、重要情報の漏洩に厳罰を科す特定秘密保護法を2014年12月に施行した。この法案をめぐっては当初から、政府が秘密を抱え込み、国民の「知る権利」が損なわれかねないという指摘があった。施行から約1年半。政府の対応をみると、この懸念は和らぐどころか、むしろ深まっている。特定秘密とは、外部に漏れれば国の安全保障がいちじるしく脅かされかねない情報のことだ。政府がこれに指定した情報は、15年末時点で443件。文書にして27万2020点にのぼる。この制度は正しく運用されれば、国の安全に役立つ。しかし政府に乱用されたら、本来、国民が知るべき情報までお蔵入りし、表に出てこなくなってしまう。そうならないよう、衆参両院には情報監視審査会が設けられ、特定秘密の指定が適切かどうか、チェックすることになっている。審査会は3月末、初めてとなる15年の年次報告書を公表した。その内容から浮かび上がる制度の実態には不安を禁じ得ない。それによると、審査会は15年、外務省や防衛省など10機関が指定した特定秘密382件(約18万9千点)について、聞き取り調査などで実態をつかもうとした。だが、政府側は協力的とはいえず、詳しい説明を拒み続けた。たとえば、政府が提出した特定秘密の項目リストは、「国家安全保障会議の議論の結論」や「日米安保協力に関する検討、協議」などあいまいな表題が多く、約18万9千点の文書については一覧表も出てこなかったという。これでは、指定が適切かどうかを審査するどころか、どんなテーマが特定秘密に含まれているのかすら分からない。審査会は結局、開示を求める特定秘密を絞りきれず、提出を要求した文書は数点にとどまった。政府が慎重な対応に終始したのは、情報漏れへの不安からだろう。だが、審査会は非公開であり、メンバーの国会議員は守秘義務を負っている。特定秘密を漏らせば懲罰の対象にもなり得る。情報がきちんと開示されなければ、国の政策を検証し、教訓をくみ取り、生かしていくことはできない。政府は態度を改め、審査会にもっと協力する義務がある。

*2-3:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/305173
(佐賀新聞 2016年4月26日) 公務員の適性評価、38人が拒否、秘密保護法で政府報告書
 政府は26日の閣議で、2015年の特定秘密保護法の運用に関する報告書を決定した。秘密を扱う公務員らの身辺を調べる「適性評価」の対象となったのは9万6714人で、拒否した職員らが38人だったと明記した。拒否理由は記述がなく不明。家族の個人情報まで収集する評価手法に関し、プライバシー侵害を懸念した結果とみられる。同日中に国会提出する。前回報告書は14年12月10日の施行日から同月末の22日間だけを対象にしており、1年間通しての運用状況や、適性評価を拒んだ職員らの数が明らかになったのは初めて。評価の結果、1人が不適格と判断された。

<TPPの影響>
*3-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=35986 (日本農業新聞 2016/1/16) 農林生産686億円減1.5万人の雇用減も 宮崎中央会がTPP試算
 TPP交渉の大筋合意を受け、JA宮崎中央会は県内の農業と関連産業への影響試算を独自にまとめた。政府の国内対策を考慮せず、関税の撤廃・削減などによる直接的な影響だけを前提とした。発効から16年目までに農林産物の生産額が約686億円減少すると推計。関連産業を含め1万4642人の雇用が失われるとの見通しも示した。対象は産出額50位以内で、関税が撤廃・削減されたり、低関税枠が設けられたりする品目。関税削減分だけ輸入価格が下落し、国産価格も同程度下落すると予測した。畜産への打撃が最も大きく、産出額上位3品目のブロイラーと肉用牛、豚は約533億円の減少を見込んだ。特に豚は産出額の6割に当たる約280億円、肉用牛も3割に当たる約154億円が減少するとした。関連産業への影響もまとめた。農林業を含む全産業の生産減少額は約1094億円と推計。就業者は農林業の1万1248人を含め、全産業で1万4642人減少すると試算した。中央会の森永利幸会長は「政府は国内対策で所得が確保され、国内生産を維持できると説明しているが、農家は大きな懸念を抱いている。今後、今秋までの継続課題となった国内対策について、現場の声が反映されるよう、強く要請していく」と強調する。

*3-2:http://qbiz.jp/article/79718/1/ (西日本新聞 2016年01月30日) TPP発効、最大13億8000万円減 佐賀県が主要15品目試算
 佐賀県は環太平洋連携協定(TPP)が発効すれば県内主要の農水産物15品目の生産額は最大13億8千万円減少するとの試算を明らかにした。国のTPP経済効果分析を基に算出した。28日の県TPP対策本部会議で報告した。国の分析は農林水産物33品目の生産額が全国で1300億〜2100億円減少するとしていた。県の試算では、県産品も牛肉2億1千万〜4億2千万円▽小麦2億5千万円▽豚肉1億2千万〜2億2千万円−の順で影響が大きかった。コメは輸入米の増加分を政府が買い取って備蓄するため「影響はない」とした。ノリもTPP参加国からの輸入実績がなく影響ないとみるが、ノリは韓国などが今後参加すれば影響を受ける可能性もある。山口祥義知事は「数字にどのくらいの意味があるのか。(生産)現場の不安や懸念にしっかりと対応していくことが大事だ」と述べた。

*3-3:http://qbiz.jp/article/84122/1/
(西日本新聞 2016年4月5日) 福岡のTPP影響、県試算の17倍 TPP反対ネット公表
 環太平洋連携協定(TPP)に反対するJA福岡中央会などでつくる「TPP反対福岡ネット」は、東京大大学院の鈴木宣弘教授がまとめた福岡県内の影響試算を公表した。農林水産業の生産減少額は259億〜311億円程度。国の試算を踏まえて県が発表した額の約17倍に上る。国は国内対策の効果を差し引いているが、鈴木教授はTPPの影響自体を試算した。対象は国が33品目で、鈴木教授は57品目。コメについて、国は輸入増加分は備蓄するため影響を「ゼロ」としているが、鈴木教授は「順次市場に出てくることを織り込み、備蓄が増えれば流通価格も下がる。価格が下がれば生産量も減る」として約30億円とした。鈴木教授は「影響額を出してから対策を議論するべきで、生産性の向上などを入れて試算するのはむちゃくちゃだ」と国の姿勢を批判した。

*3-4:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=36794 (日本農業新聞 2016/3/30)農林水産関係2.3兆円 TPP 来月5日審議入り 16年度予算成立
 2016年度予算が29日成立した。農林水産予算の総額は前年度当初より1億円多い2兆3091億円。飼料用米などを支援する水田活用の直接支払交付金や農業農村整備事業を増額し、米政策や農業の成長産業化をはじめとする農政改革を進める。環太平洋連携協定(TPP)大筋合意を受けて最初の当初予算となる。財政当局の削減圧力が強かったが、TPPに対する農業者の不安を払拭(ふっしょく)するため、前年度当初を1億円上回る形で決着した。TPP対策を中心に農林水産関係で4008億円を計上した15年度補正予算を合わせれば2兆7100億円となる。森山裕農相は29日の閣議後会見で「(農家の)将来への意欲を後押しできるよう、省を挙げて現場に親身に寄り添った丁寧な説明を行う。必要な取り組みが着実に推進されるように努めていきたい」と述べた。16年度予算の目玉となる農業農村整備事業は3820億円を計上し、前年度当初を232億円上回った。水利施設の老朽化対策や防災・減災事業に重点的に対応する。もう一つの目玉となる主食用米の需給安定に向けた飼料用米、麦・大豆などの転作支援では、水田活用の直接支払交付金に3078億円を計上した。前年度当初比308億円の大幅増で、農水省は16年産の生産調整達成に必要な額を確保できたとしている。予算成立後の後半国会の焦点となるTPPをめぐっては、4月5日の衆院本会議で承認案と関連法案の審議が始まる。与野党が29日の衆院議院運営委員会理事会で決めた。安倍晋三首相と関係閣僚が出席し、政府による趣旨説明と各党の質疑を行う。石原伸晃TPP担当相は同日の閣議後会見で「日本が率先して動き、発効に向けての雰囲気をつくっていく上で、審議が非常に重要なものになる」と語った。

<日本の農業は差別化できなくなる>
*4-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=37337
(日本農業新聞 2016/5/3) 海外でも 品種登録 種苗輸出、価格下げ 農水省が支援策
 農水省は、野菜や果樹などの新品種について、海外での品種登録の支援に乗り出した。日本で試験栽培した際のデータを無償で提供し、外国政府が栽培試験する手間を省き、審査期間の短縮につなげる。中小の種苗業者や農家が外国で品種登録する手続きを手助けすることも検討している。種苗の輸出に弾みを付けて生産量を増やし、種苗価格の低減につなげたい考えだ。植物新品種の育成者は、品種登録により「育成者権」が認められている。育成者の権利を保護することで優れた品種の開発を促すためだ。「植物の新品種の保護に関する国際条約(UPOV)」では、新品種として海外で登録できる植物は国内発売から4年以内、果樹は6年以内となっている。その期間を過ぎると品種登録できず、海外に持ち出されて日本の品種が栽培されていたとしても対処できない。日本への逆輸入や輸出促進への影響が懸念され、実際に静岡県が育成したイチゴ「紅ほっぺ」が中国で栽培される事例も起きている。このため農水省は3月、日本からの品種登録出願数が多いオーストラリアやブラジル、ニュージーランド、スイスの4カ国と、日本で試験栽培したデータを無償提供することで合意した。日本の業者がこの4カ国で品種登録をする際、果樹であれば7、8年かかる審査期間を大幅短縮でき、栽培試験にかかる年間数十万円とされる審査料を支払う必要もなくなる。今後、欧州連合(EU)、ベトナムなどにも順次拡大する予定だ。同省は、中小の種苗業者や農家に対して、開発した新品種を外国政府に品種登録出願する際、申請書類の書き方や申請方法などを情報提供することも検討している。海外で日本の新品種の育成者権を保護することで、種苗の生産拡大に加え、農産物の輸出拡大にもつなげたい考えだ。種苗価格の低減には、生産量を増やすことが欠かせない。ただ、日本国内の市場規模は2000億~3000億円と推計され、これ以上の拡大も見込み難いため、いかに輸出を伸ばすかが重要になる。政府が今秋にまとめる環太平洋連携協定(TPP)の中長期対策では、生産資材価格の引き下げが目玉になる。今回、導入する海外での品種登録支援は、資材低減を進めるための具体策の一つにもなる。

*4-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=37373 (日本農業新聞 2016/5/5) 米ナラシ 全国で発動 相場上向き補填圧縮 農家収入は目減り 15年産本紙試算
 米の価格下落に支払われる収入減少影響緩和対策(ナラシ対策)が、2015年産は全国的に発動される見通しであることが、日本農業新聞の試算で分かった。米価は14年産より値上がりしたものの、補填額は全銘柄で前年より小さくなり、米の販売金額と合わせた農家収入は多くが前年を下回る結果となった。米価は依然、過去3番目に低い水準で、再生産が難しい状況から脱していない。農水省が公表する相対取引価格(昨年9月~今年3月)を基に、主産地の17産地・銘柄を試算した。60キロ当たり補填額は茨城「コシヒカリ」が1404円、宮城「ひとめぼれ」が677円になるなど、420~1400円の範囲だった。全銘柄平均では820円となった。実際に国から農家に支払われる金額は、都道府県別に作付け上位3銘柄の割合などを踏まえて面積当たりで算出する。農家ごとの10アール収量、大豆や麦などの販売収入によって変わる。農水省によると、14年産は全国平均で60キロ当たり約2480円が交付された。一方で15年産の補填額は減少し、販売収入と合わせた農家収入は8割近い銘柄で前年より減っている。この農家収入が、生産費(14年産の全算入生産費)を割り込む産地が、8割近くあることも分かった。ただ、北海道や新潟など、稲作の大規模化が進む一部地域では上回った。産地からは「米価水準がまだ十分に上がっていない。生産コスト削減に加え、需給改善に引き続き取り組み、農家所得を確保することが欠かせない」(東日本のJA)と声が上がる。15年産では、飼料用米の作付け推進で米価が上昇。相対取引価格は全銘柄平均で1万3178円と前年比1割上げたが、多くの農家経営が安定する水準にはまだ届いていない。

*4-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160504&ng=DGKKASM108H0D_T00C16A5MM8000 (日経新聞 2016.5.4) 次代に伝えたい(1)新技術と安心どう両立 消費者と判断材料共有
 今年2月、マルハニチロがタイから輸入した缶詰から国内でまだ認められていない遺伝子組み換えパパイアが見つかった。長年、同じ製造者から輸入していたが「干ばつで製造者が別の農家からパパイアを仕入れたら混じった」(マルハニチロ)という。中国では未認可の遺伝子組み換えのコメの栽培が広がっている。昨年6月、日本向けのビーフンから遺伝子組み換え米の成分が見つかる事例が2件起きた。
●検査年3.3万件超
 遺伝子組み換え食品の登場から約20年。日本モンサントなどバイテク情報普及会は年間約3100万トンの日本の穀物輸入量のうち、飼料用トウモロコシなどを中心に約1700万トンが遺伝子組み換えと推計する。国内で商用生産はなく、国の安全性審査を経て輸入する。食用油やしょうゆなど加工食品にも使われ、今や日本の食に欠かせない。これまで安全の防波堤の役割は横浜検疫所輸入食品・検疫検査センター(横浜市)などが果たしてきた。全国から輸入食品のサンプルが届き、2014年度の検査実績は3万3千件を超す。遺伝子組み換えだけでなく残留農薬や有害物質も調べ、水際で日本の食を守る。食の安全を脅かしかねない新たな技術とそれを見抜く検査の「いたちごっこ」。それも限界に近い。バイオ技術の進歩は急だ。次の革新はゲノム(全遺伝情報)の狙った部位に突然変異を起こす「ゲノム編集」。政府も芽に毒の無いジャガイモや大収量のコメを研究し始めた。自然界で起こる突然変異と同じ程度の変化にとどめれば「ゲノム編集を検査で見つけるのは難しい」と国立医薬品食品衛生研究所の近藤一成生化学部長(53)は認める。
●品種改良の延長
 食品添加物の世界では遺伝子を組み換えた微生物の活用が広がる。ビタミンCや昆布のうまみを生むグルタミン酸も作れる。製法はこれまでと違っても成分は同じ。製法を変えても条件を満たせば特別な審査は要らず企業も「知的財産、競合他社の観点から具体的な製造方法は答えられない」(味の素)のが現実だ。食と農の歴史は人間が自然を征服し、野生の動植物をよりおいしく、より多く収穫できるように努力を積み重ねた歩みでもある。その中核には品種改良があり、遺伝子組み換えやゲノム編集もその延長にある。しかし、速すぎる技術の進歩を消費者が不安に感じていたらどうだろうか。解の一つは企業や農家が消費者の求める製法や原材料の情報を開示し、情報の不釣り合いをなくしたうえで消費者の選択に委ねる――つまり信頼関係を築いて市場の力を使うことだ。世界保健機関(WHO)の宮城島一明食品安全・人畜共通感染症部長(55)は「リスクコミュニケーションに誰が手間をかけるかを考えねばならない」と話す。企業や農家任せでなく消費者も食の安全について知識を身につけ、安全の向上に伴うコスト負担を受け入れる覚悟が求められる。

 最終部は「食と農」の未来を見据えた課題と解を考える。

*4-4:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=36529
(日本農業新聞 2016/3/6) いまだ続く輸入規制 緩和、撤廃へ交渉急務 日本産の農産物・食品
 東日本大震災に伴う東京電力福島第1原子力発電所事故発生から5年。日本産の農産物・食品輸出は「風評被害」の影響が続いている。香港や台湾、米国などの国・地域が依然、輸入制限措置を講じており、日本政府が掲げる輸出増の機運に水を差しかねない状況だ。今後も「科学的根拠」に基づく輸入規制の緩和、撤廃へ政府間での粘り強い交渉が求められている。原発事故の影響で農林水産物や食品の輸出額は2011年、12年と連続で前年を下回った。各国が日本産に対し、輸入停止などの厳しい規制を設けた。13年からは検疫規制の緩和に向けた官民の努力が実を結び、輸出額は徐々に回復。15年には、前年に比べ2割増の7452億円と過去最高を達成。13、14、15年と3年連続で前年の水準を上回り、政府が目標に掲げる1兆円が見えてきた。一方で、被災地を中心とした特定の都県に対して香港や台湾、米国、中国などは輸入停止など厳しい規制を設けている。輸入を認めても、政府が作成した放射性物質の検査証明書や産地証明書の提示が必要となっている。例えば最大輸出先の香港は、福島や茨城、栃木、群馬、千葉5県の野菜や果実、牛乳などの輸入を停止。台湾は、同5県産の全ての食品の輸入を停止している。厳しい規制が残る香港や台湾。消費者は、日本産をどう見ているか。1月に香港や台湾で日本産リンゴの消費動向を調査した弘前大学の黄孝春教授によると、「ごく一部の消費者を除き、大半の消費者は日本産の食品は安全でおいしいと考えていることが分かった。日本産に対する風評被害は、ほぼ見られなかった」と指摘。海外の消費者の段階では、日本産に対しておおむね好意的に評価していることがうかがえた。海外で焼き肉店を展開するJA全農ミートフーズは「台湾などでは、いまだに特定地域からの牛肉などの輸入を停止している」と実情を話す。その上で政府に対し「輸出規制の緩和・撤廃を働き掛ける一方、全国から日本産の良質な牛肉を輸出できる体制整備を急いでほしい」(海外事業推進課)としている。

*4-5:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=35835
(日本農業新聞 2015/12/28)原産地表示 拡大を TPPで輸入増見込み 国産扱う加工業者
 国産の農畜産物を原料に使う加工業者から、原料原産地表示の拡大を求める声が強まっている。環太平洋連携協定(TPP)による関税撤廃・削減で、原料となる農畜産物や加工品の輸入増が見込まれるためだ。原料原産地表示は輸入品との差別化につながり食料自給率にも貢献する。ただ、輸入品を原料に使う多くの加工業者からは反発も予想される。北海道芽室町の(株)日本罐詰は、大手食品業者からOEM(相手先ブランドによる生産)を請け負い、缶詰や冷凍食品、レトルト食品を製造する。年商73億円を誇る十勝地方屈指の大企業だ。原料の野菜は全て道産にこだわり、農家1000戸と同社が種子や肥料も調達する直接契約を締結。スイートコーンやインゲンなどを仕入れる。同社の高岡隆常務は「原料には絶対の自信がある。原料を海外の野菜に切り替えれば、十勝に存在する意味を失う」と言い切る。TPPで仮に輸入品と国産との価格差が急激に拡大すれば、社の経営には大きな脅威となる。原料の仕入れ価格はこれ以上は下げられず、製造過程でのコスト削減には限界がある。このため、同社営業部の後藤智成係長は「原料の産地が表示される利点は大きい。明確に付加価値を高められ、消費者が価格だけでなく産地で選択するようになる」と期待する。消費者庁はTPP対策として11月、加工食品の原料原産地表示の拡大に向けた検討に着手した。同庁は「TPP大筋合意を受け、輸入品急増に対する国民の不安払拭(ふっしょく)のため拡大を検討する」(食品表示企画課)と説明。ただ、有識者会議の日程など具体的な検討スケジュールは決まっていない。加工食品の原料原産地表示の拡大は、国内産地や消費者団体が強く要望してきたが、これまで検討は先送りされてきた。加工業者にとって包装や印刷の切り替え、季節によって調達国を変える場合などコストや手間を要するためだ。今後も拡大に向けた検討では難航が予想される。原料は表示義務のない加工品が多く、消費者は国産と誤認しやすい状況が続いている。ギョーザなどを製造する長野県塩尻市の美勢商事の野本孝典副社長は「企業側の論理で考えるべき問題ではない。原料原産地表示は消費者の貴重な判断材料となる」と求める。JA全農食品品質表示管理・コンプライアンス部の立石幸一部長は「現状のままではTPPで国産を扱う加工業者は淘汰(とうた)される。日本農業と消費者のためにも表示拡大は不可欠で、食料自給率向上にも欠かせない」と指摘する。
<メモ> 加工食品の原料原産地表示
 生鮮食品は原産国の表示が義務付けられているが、加工食品の原料の原産国を表示する義務は一部に限られる。現在は乾燥きのこ類や餅、緑茶飲料といった22の食品群と農産物漬物など個別の品質表示基準がある4品目にとどまる。

*4-6:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160505&ng=DGKKZO01950500U6A500C1MM8000 (日経新聞 2016.5.5) 次代に伝えたい(2) ロボ導入、24時間農場 生産性向上へ先端技術
 宮城県南部の山元町。夜7時すぎ、暗闇にかすむビニールハウスから「カシャカシャ」と機械音が漏れる。なかをのぞくと身長1.5メートルほどのロボットが真っ赤なイチゴを収穫していた。
●起きたら即出荷
 ライトの瞬きで位置を確かめ、目のような2つの高性能カメラが熟度を判断。甘くなった粒だけを選んでアームを優しく伸ばす。ぐっすり眠った農家が目覚めると朝イチで出荷できる。農業設備メーカーのシブヤ精機(松山市)などが開発した収穫ロボは4千万円と「まだ高い」(宮城県の農家)が実証試験が進む。イチゴ栽培の労働時間は1千平方メートルあたり2100時間と手間のかかるコメと比べても80倍だ。甘く形の良い日本産はアジアの富裕層がブランド品扱いするが、農家の負担は大きい。日本の農業の生産性は海外に比べ低いとされる。ロボットは、その壁の扉を開く可能性を秘めている。鳥取県境港市の沖合に銀ザケ養殖のいけすが並ぶ。海中のセンサーを魚がつつくと餌がパラパラと落ちていく。日本水産の自動給餌ロボだ。空腹と習慣で魚はすぐに仕組みを覚える。台風のときでも食べたい量だけ。海を汚すことも少ない。日の出と共に働き、日没や悪天候で終わりにする――。そんな時間軸を先端技術が変える。ロボと二人三脚で働けば、農地や漁場はコンビニエンスストアのように「24時間営業」だ。日本の就農者は6割以上が65歳以上。米国の2倍の水準だ。農水産ロボは限りあるヒトや土地の生産性を最大限に引き出す力を秘める。農業技術革新工学研究センターの手島司主任研究員(41)は「農家のパートナーになり新しい農業の形を生むだろう」と話す。先端技術は「作る」を変えるだけではない。「売る」まで含めた強い農業に向けて意識改革も促す。千葉県柏市でコメや小麦を作る染谷茂さん(66)はクボタ製の自動走行トラクターを導入した。運転管理システムに100万円かかったが「販売量から逆算して生産計画を立てた。商品量の確保に必要な効率化投資になる」と踏み切った。経営感覚を養ったのは仲間と始めた株式会社方式の直売場だ。「価格も会社で決める。自分で売るから成長の方向が見えてきた」
●ネットで開墾費
 日本の耕作放棄地は富山県の広さと同じ約42万ヘクタール。海外の安価な農作物の流入で農地の荒廃が広がる懸念もあるなか、愛媛県大洲市の山中で10年以上放置されていた農地が生き返った。重機で木の根を取り除くなど約130万円かかった費用の調達先は農協や金融機関ではない。ネットで作物の成長を見守る全国140人の出資者たちだ。まとめ役はベンチャー企業のテレファーム(松山市)。企画や理念に賛同する消費者から小口の事業資金を募るクラウドファンディングの手法で資金は3カ月で集まった。先端技術に加え、ヒトとヒトを結ぶネットワークが農業に新たな資金の流れを生む。農を変える企業は動き出している。


<日本で生産性が上がらないその他の理由>
PS(2016.5.7追加):*5-1のように、経産省傘下の経団連と九経連は、ずっと「電力の安定供給や料金負担の増大に不安を感じている企業が多いので一刻も早い原発再稼働を求める」としてきた。そして、「太陽光発電は、コスト高で安定性がない」という風評被害を流し続けて世界の太陽光発電トップランナーであるシャープを海外企業に売り渡したのである。しかし、他国の企業はこのようなことに左右されずにすむため、*5-2のように、着実に太陽光発電のコスト削減を進め、周辺機器も準備してきた。そして、現在は、*5-3のように、電気自動車で経費を節減した上、環境にも配慮できる時代になったので、*5-4のように、家庭・工場・農場などで太陽光発電を利用して自家発電し、電気自動車を充電するのが、最も経済的で持続可能な時代になったのである。
 つまり、日本で生産性が上がらない大きな理由の一つは、先見の明がなく先進的な技術を理解せずに妨害する人が、行政・メディア・経済界・政治の重要な地位の多くに就いていることなのだ。

    
2016.5.7日経新聞  電気軽トラック   原発事故後の対応    経産省のエネルギーミックス  

*5-1:http://qbiz.jp/article/32465/1/ (西日本新聞 2014年2月20日) 経団連と九経連が懇談会 エネ分野などで意見交換
 経団連と九州経済連合会は19日、福岡市で第66回九州経済懇談会を開き、「九州が動き、日本経済の好循環を実現する」をテーマに、エネルギー、社会基盤整備、医療介護、観光、道州制などさまざまな課題について意見を交わした。両役員など約210人が参加した。意見交換で九経連の大野芳雄副会長(鹿児島銀行相談役)は、原発が停止している現状に「(電力の安定供給や料金負担の増大に)不安を感じている企業が多い。安全性が確認された原発については一刻も早い再稼働が求められる」と強調。竹島和幸副会長(西日本鉄道会長)は「アジアの活力を取り込む空港、港湾の整備が必要だ」と述べ、福岡空港の滑走路増設の早期実現などを要望した。道州制をめぐっては本田正寛理事(西日本シティ銀行会長)が「九州は(道州制論議の)先進地。メリットや課題について地域の理解を深めることが重要だ」と主張。道州制基本法案の早期提出実現に向け、経団連が政府への働き掛けを強めることを求めた。経団連側は九経連側の主張に理解を示し、両団体の連携を強める方針を確認。麻生泰九経連会長(麻生セメント社長)は「(経団連との関係を)心強く思っている。これから実行と実績づくりに取り組みたい」と総括した。懇談会終了後に会場に駆け付けた米倉弘昌経団連会長(住友化学会長)は会見で「九州は工業、農業、観光と非常に明るい地方。強いリーダーシップを発揮する麻生会長に期待している」と述べた。

*5-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160507&ng=DGKKZO02014790W6A500C1TI1000 (日経新聞 2016.5.7) 太陽光パネル 住宅に照準、保守拠点倍増やセット販売 価格下落、普及に弾み メガソーラーは市場縮小
 太陽光パネルメーカー各社が家庭向けの営業に注力している。地元に強い工事会社と組んで保守拠点を倍増させたり、周辺機器とのセット商品を売り出したりする動きが相次ぐ。売電目的のメガソーラー(大規模太陽光発電所)からつくった電気の買い取り価格下落を受け、住宅用が主戦場となっている。パネルの価格も下落傾向にあり、普及に弾みがつきそうだ。太陽光パネル世界3位のカナディアン・ソーラー(カナダ)は6月、保守拠点を現在の2倍の約300カ所に増やす。納入した太陽光発電システムにトラブルが発生したときに技術者を早期に派遣できるようにする。地方の電気工事会社など業務の委託先拡大を急ぐ。太陽光パネルとセットで販売する関連機器の性能を無償で保証する期間も従来より5年延長し、15年間とした。韓国メーカーのハンファQセルズは年内にも住宅向け営業員を現在の倍となる100人体制にする。中国、四国地方では支店も開設する。世界最大手のトリナ・ソーラー(中国)は月内に太陽光パネルと設置に使う架台、電力変換装置などがセットとなった住宅向け商品を売り出す。国内の太陽光パネル市場に占める海外メーカー製は5割以上を占めるが、住宅用に限ると2割未満とみられる。住宅用では営業拠点の少なさや認知度の低さが壁になっていた。住宅用太陽光発電の導入費用は現在、1キロワット当たり35万円前後とみられる。この2年間で1割強下がった。一般的な出力4キロワットの場合、工事代も含め導入費用は新築で現在150万円ほどが相場となる。低価格品に強い海外勢が家庭向けに本格参入することで今後、導入費用が安くなる可能性が高い。埼玉県の50代の男性は「太陽光発電と蓄電池などをうまく組み合わせれば光熱費を減らせる」という。国内勢も拡販に注力している。三菱電機は発電ロスを減らし、出力を高めた住宅用太陽光パネルを6月に発売する。東芝グループは太陽光発電と連携可能な電力変換装置、住宅用蓄電池をセットにした製品を売り出す。京セラも同じ屋根の面積に同社従来品より3割多く敷き詰めることができるパネルの販売を始めた。シャープが事業縮小を検討課題とするなか、内外のメーカーの間で需要取り込みに向けた競争が激しさを増している。

*5-3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=36898 (日本農業新聞 2016/4/8) 電気自動車 農村を快走 充電環境ぐんと充実 エコ 経費節減も もちろん 
 電気モーターを動力源とし、ガソリンを使わない電気自動車(EV)が農村で、じわりと浸透してきた。JAの店舗や農産物直売所でも急速充電ができるようになるなど環境が整備されたことから、EVを所有する農家が年々増加。初期投資はガソリン車以上にかかるものの、乗り換えた農家は、環境に優しいだけでなく経費節減につながると効果を実感している。車を利用して4年。ブルーべリーのプリンなど農産加工品の配達で、1日に150キロ近く走行することもある。環境への配慮が購入のきっかけだが、今では「大幅な経費節減になった」と実感する。充電は主に道の駅や購入先のメーカー、家などで済ませる。電気代など維持費は推定で年間3万~4万円。燃料代で年間約40万~50万円が浮いた計算だ。オイル交換の必要がなく、車検費用も半分以下だ。初期費用は約380万円と、ガソリン車に比べて高いが「元は取れた」とみる。しかも近隣の給油所は近年減っていることから「電気自動車は便利だ」と痛感する。心配だったのは走行距離だが、最近は道の駅やサービスエリアに充電器の設置が進み、途中で急速充電しながら約470キロ先の札幌市まで高速道路を使って行けるようになった。横田さんは「小まめに充電すればよく、不自由さは感じない。賢く使って経費を抑えられた」と喜ぶ。公用車に電気自動車を導入したり、急速充電器を設置したりするJAも増えている。東京都JAマインズ、静岡県JAおおいがわ、滋賀県JA草津市、JA鳥取中央などでは直売所や本店に急速充電器を設置。買い物や食事、JAで用事を済ませる間に充電できる体制を整えた。佐賀県JAからつが運営する直売所「唐津うまかもん市場」も急速充電器を設置。事務担当の坂本輝憲さん(39)は「充電を目的に来てくれるお客さんもいて、直売所のPRになっている」と歓迎する。
●JA店舗や直売所でも
  次世代自動車振興センターによると、EVの保有台数は2009年度末(9000台)以降、年々増えて、14年度末には全国で7万台を超えた。1回フル充電した時の走行距離は100~300キロ、30分の急速充電ができる車種が一般的だ。200ボルトの家庭用電源を使うと8時間前後でフル充電できる。購入への補助事業もあるが、初期投資がかかるため、誰もが「お得」というわけではない。同センター次世代自動車部の荻野法一課長によると「車を多用し、小まめに充電できる環境がある」農家にお薦めという。充電器の普及状況を調べる「GOGOEV」によると、充電器の設置場所は急速・普通合わせて約1万7800カ所と、年々増加している。一方、給油所は14年度末で3万3510カ所(経済産業省調べ)。ここ20年間で、半数近くの約2万7000もの給油所が消えた。それだけに荻野課長は「充電環境が整ってきた電気自動車は、農村部でさらに広がる可能性がある」と見通す。(尾原浩子)

*5-4:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160507&ng=DGKKZO02014830W6A500C1TI1000 (日経新聞 2016.5.7) 住宅用市場、20年度に2倍
 太陽光パネルメーカーが住宅用にシフトする背景には売電目的のメガソーラー(大規模太陽光発電所)を中心とした「太陽光バブル」がはじけたことがある。2012年に太陽光でつくった電気を割高な固定価格で買い取る制度が導入されたことを受け、産業用の需要は急拡大した。だが買い取り価格が高すぎてバブルが発生したとの指摘が相次ぎ、この4年間で政府は産業用の買い取り価格は4割程度引き下げた。調査会社の富士経済によると、産業用太陽光発電システムの市場規模は20年度に430万キロワット(出力ベース)と15年度より4割強減る見込みだ。一方、住宅用の市場規模は20年度に200万キロワット(出力ベース)。15年度の2倍強になると予測している。


PS(2016/5/8追加):*6-1のように、世界農業者機構(WFO)総会で、アジア地域の新理事にJA全中の奥野会長が選ばれ、農協は、突然、世界に踏み出した。動物(人間を含む)は、食料が不足すると自分が生き延びるために殺し合いを始めるため、食料の確保は安全保障に重要であり、アフリカその他の後進地域でも、日本の農業技術・6次産業化・太陽光発電システムなど、使える技術は多いだろう。
 また、*6-2のように、世界農業者機構(WFO)は初めての女性会長を出し、そのグレカ会長が、①農家組織の代表をほぼ男性が占めている ②多くの労働を抱えているのは実は女性 ③その苦労を訴える声が届いていない ④女性が十分な教育を受けることで自らを表現する自信を持つのが重要 と強調しておられるのは、現代日本でも言えることであり共感できる。

*6-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=37386
(日本農業新聞 2016/5/7)所得増大 各国連携を アジア理事に奥野氏 WFO総会
 ザンビア・リビングストンで開催中の世界農業者機構(WFO)総会は5日(現地時間)の本会議で、情報共有を強化するなど今後の取り組み方針を議論した。併せて、アジア地域の新たな理事にJA全中の奥野長衛会長を選んだ。一方、4日の開会からこれまでの議論では、飢餓撲滅などの目標達成へ、食料安全保障の確立や農業の所得増大を共通課題に、各国農家の連携を深めるべきだとの発言が相次いでいる。WFO総会は「成長のための協力」をテーマに開幕した。5日は、2018年から10年間の戦略プランの策定に向け協議した。欧米の団体から、戦略の具体化に向け会員間の情報共有を迅速、密にすべきだとの声が相次いだ。奥野会長もWFOは設立段階から体制を充実させる段階に入ったとして、具体的な取り組み計画の策定を要請した。その上で「組織を強くすることは情報を共有することだ。ボトムアップ、トップダウンの双方の情報のやりとりが必要だ」と訴えた。一方、初日はザンビアのルビンダ農畜産業相が出席。飢餓の撲滅へ食料増産が迫られる一方、「若者は農業への関心が薄く、農家は高齢化、減少しているジレンマにある」と指摘。飢餓や貧困に苦しむ小規模農家の所得増へ、農産加工など付加価値の向上も課題だと訴えた。同国出身でWFOのエブリン・グレカ会長は、こうした農業の担い手不足や所得向上は、各国団体の共通課題だとして「われわれには差異を打ち消す大きな共通点がある。飢えのない世界へ、各国の農家が活動を続けていく意義は大きい」と呼び掛けた。アフリカの農業団体からも「小規模農家の発展には、農協が役割を発揮し商業的な生産を広げる必要がある」(東アフリカ農業者連盟)、「小規模農家の生産物をいかに販売網に乗せるかが課題だ」(マグレブ北アフリカ農業者連盟)との声が上がった。最終日の6日には農家の所得増やそれを支える政策への意思反映へどう取り組むべきかなどについて、各国の農業団体代表が討議する。

*6-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=37388 (日本農業新聞 2016/5/7) 女性参画 積極的発信を 鈴木全国女性協会長とグレカWFO会長が会談
 JA全国女性組織協議会の鈴木春美会長は5日(現地時間)、世界農業者機構(WFO)の初の女性会長、エブリン・グレカ氏とザンビア・リビングストンで会談した。組織への女性参画についてグレカ会長は、家庭での役割を果たしながらも、自らの考えを積極的に対外的に発信する重要性を強調。鈴木会長は、組織に参画した先でいかに役割を発揮するかが今後、より問われるとの考えを示した。鈴木会長は、4日からのWFO総会にJAグループ代表団の一員として出席するため、当地を訪れている。グレカ会長はザンビア全国農業者連盟の会長も務め、昨年のWFO総会で会長に選出された。息子2人を育てながら養豚やトウモロコシ、大豆などを経営する。グレカ会長は、農家組織の代表をほぼ男性で占めている実態がある半面、「多くの労働を抱えているのは実は女性。その苦労を訴える声が届いていないのではないか」と、抱えていた疑問を指摘。女性が十分な学習を受けることで「自らを表現する自信を持つのが重要だ」と強調した。積極的に組織活動に参画し意見を述べ続けた自身の経験を踏まえ、「女性が組織を率いた方が良いという評価が広がる結果につながった」と述べた。鈴木会長は同協議会の新たな3カ年計画でも「ふみ出す勇気」を掲げたことを説明し「勇気を持ち、例えば、JAの総代や理事または農業委員になってみることが大切だ」と指摘。JA理事などへの登用に関して数値目標を掲げ、女性参画を進めていることも挙げた上で「役員になった人数だけでなく、その組織でどう女性が役割を発揮するかも重要になる」と述べた。

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