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2014,07,12, Saturday
*2-1より 2014.7.6日経新聞より 2014.6.4農業新聞より (1)改革の基本方針について *1-1のように、「①政府は、新しい成長戦略と経済財政運営と改革の基本方針を決めた」「②医療、雇用、農業など関係省庁や業界団体が既得権益を守ろうとする岩盤規制にも切り込んだ」「③第3子以降の出産・育児を重点支援するなど、50年後に人口1億人程度を維持する目標を政府として初めて掲げた」としている。 改革は、「現状は、どういう病根があるから、どういう処方箋を書き、その処方箋の長所短所は?また、その処方箋はBestか否か?」ということを検討して初めて意味があるが、この基本方針の設定過程では説得力のある根拠が示されず、「岩盤規制を壊す」「改革に切り込む」という規制に挑むポーズばかりが目立った。しかし、これでは本物の改革はできない。 (2)農業改革について 私が国会議員になって、すぐに農業改革を始めたJA佐賀中央会会長の中野氏(全中理事、全農会長)は、*1-2のように、「①農協が自律的に改革することは重要だが、真逆のJA全中廃止が突然出てきて驚いた」「②中央会制度の改革で地域農協の経営自由化を高めるというのは、現場への理解が不足」「③農協は金融保険部門を手放し、営農や販売に集中すべきとの提言がなぜ出てきたか分からない」「④准組合員に事業利用制限を設けるべきとの意見は慎重に議論すべき」「⑤企業の農業生産法人への出資制限緩和は、農地としてずっと使われるならば異論ないが、企業が農業を数年間やってもうからないと判断した時、農地を転売や分譲する恐れを法的に規制せずに企業が農地を所有できるようにするのは反対」と述べている。 私は、これまでこのブログに記載してきたとおり、①②④⑤には全く賛成であり、③については預金者保護の観点からの改革が必要だと考えている。 また、*1-3に、農村の高齢化率が2050年には40%以上となり、食料消費も大幅減して問題であると書かれているが、何でも人口減少のせいにすれば誰も責任を取らずに済むかもしれないが、問題解決はできない。農業の場合、本来は魅力的な産業であるにもかかわらず、所得が低いため次世代の参入が少なく、農業従事者が社会的に減少したのが高齢化の理由で、所得の高い農家は次世代を確保している。また、農村の人口減を抑えるためには、農林業を真に儲かる産業にすることが重要だ。 (3)農業において、既に始まっている努力 農家の所得を増やし、魅力的な産業として農業の振興を計るには、生産性の向上、単位当たり付加価値の上昇が不可欠である。そのため、*2-1のように、100ヘクタール以上の大規模な農場を作り、地域農業の中心的な担い手へ農地集積を加速させるなど、産品にあった方法をとって一人当たりの農業所得を上げる必要があり、そのためには農業従事者の数は減少しなければならない。 また、*2-2のように、山がちで大規模な農場ができない場所でも、オリーブを栽培して生産から商品化までの6次産業につなげるなど、地域の他産業と連携し、地形や気候を利用して、高付加価値を生み出す産品を作ることも可能だ。 このほか、*3-2のように、早くから大豆に転作してブランド戦略をとっている佐賀県では、4年連続して県産大豆の1等比率が日本一となり、全国での1等比率が30・4%であるところ、佐賀県の1等比率は78・3%だった。これは、九州農政局が分析しているとおり、JAと県などが生産指導や乾燥調製を徹底して、高品質を維持しているからである。 (4)ブランド戦略 農林業を農業者にとって儲かる産業にするには、大規模化等によるコスト削減だけでなく、品質を向上させ、その品質を維持することによって高付加価値を得るブランド化が重要である。これは、既に佐賀県では実行に移しているため、佐賀県産大豆の1等比率が日本全国の2倍以上という実績を得ているのであり、これは、佐賀牛や有明海苔などの多くの産品で既に行われている。 だが、*3-1のように、農水省は、「輸出戦略実行委員会」を設置し、産地を越えて連携する「オールジャパン」の体制をつくろうとしている。しかし、私は、オールジャパン体制では、オーストラリア産牛肉やアメリカ産豚肉のように、価格の安さで勝負する普及品しか作れないと考える。何故なら、消費者が全体に対して持つイメージは、最低品質に合わせられるからで、このやり方の苦い経験は(長くは書かないが)いくらでもある。そのため、お互いが管理可能な地域規模による品質維持とブランド化が適切だ。 (5)TPPに参加しなくても、人口が39%にならなければ食料自給率は100%にならない 現在、わが国のカロリーベースの食料自給率は39%であり、単純計算すれば、現在1.2億人の日本の人口は4,680万人(1.2億人X39%/100%)にならなければ、食料自給率が100%にならない。もちろん、この間に生産性の上昇や他産業で輸出を行うかわりに食料を輸入することも考えられるが、これからは、工業が日本の独壇場ということはあり得ないため、「少子化=人口減=悪い」だけでは、考慮している要素が少なすぎるのである。 (6)農業周辺の産業について *4-1のように、ガソリンや軽油などの燃料価格高騰と景気回復による人件費増が、トラック運送へ悪影響を与え、佐賀県のトラック協会は、「金をばらまきながら走っているようなもの」と窮状を訴えている。私が衆議院議員の時、電気自動車や燃料電池車の話をしていたら、佐賀県のトラック協会会長から、「早く水素燃料の無人運転できるトラックを開発して」と頼まれたが、未だに燃料電池車がくすぶっているのは困ったことだ。トラック輸送している農林漁業などの産業全体に悪影響を与えるため、速やかに実用化して欲しい。 また、*4-2のように、農水省が新たに開発してほしい農機の種類や価格帯について、「担い手農家」を対象にしたアンケート調査を始めたそうだが、燃料価格の高騰で農業・漁業そのものも打撃を受けている。そのため、農機や漁船の動力を蓄電池や燃料電池に変更したり、温室の加熱システムを工夫したりして安価で提供すべきである。これらの技術は、どこの国でも売れると確信する。 *4-3のように、JAグループは、再生可能エネルギーの普及を目的に「農山漁村再エネファンド」を創設し、10億円で運営を始めたそうだ。そして、再生可能エネルギーの推進に向け、JA全中、JA全農、農林中金、共済連で事務局体制を整備し、全中は法令対応や優良事例を紹介、全農は太陽光発電の支援をするそうだが、自然エネルギーによる電力を使えば、環境にプラスであるとともに、燃料価格高騰の問題がなくなる。 (7)よい製品を育てるのは、見る目のある消費者と選択を可能にする表示だ *5-1のように、全国で小学生に農業を学ばせる動きが広がり、総合学習で米や野菜作りをしているそうだが、農業・漁業は、生物学(生命科学を含む)・生態学・栄養学の知識のかたまりでもあるため、わかっている先生が教えれば、理科や家庭科でも生きた教材となって面白い。また、賢い消費者を育てるのにも役立つ。 しかし、最近、*5-2のように、消費者庁が食品表示基準の最終案を示し、“現場の負担に配慮”して、小規模事業者などを例外とし、厳しくしないのがよいことであるかのように書かれているが、消費の現場で消費者が選択するためには、加工品も含めて原材料の産地表示も必要であり、栄養表示やアレルギー表示のみに偏ったのは問題だ。また、食品表示で必要な情報が示されなければ消費者は賢い選択をすることができないため、これまで、消費者の賢い選択によって育てられてきた産品の質が落ちる。 なお、消費者庁が加工食品の栄養表示で小規模事業者を対象から外した理由は、表示コストと労力負担の軽減だそうだが、食品が含む栄養は毎日大きく変わるものではないため、一度栄養士に計算してもらえば長く使える。そのため、そのコストと労力が大きすぎるというのは、やる気がないのを言い訳しているにすぎず、そのような見分けもつかない人が消費者庁や内閣府で基準づくりをリードすべきではない。 <農業政策のチェック> *1-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140625&ng=DGKDASFS24033_U4A620C1MM8000 (日経新聞 2014.6.25) 成長戦略、実行段階に 閣議決定、首相「好循環、力強く」 政府は24日夕、首相官邸で臨時閣議を開き、新しい成長戦略と、経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)を決めた。成長戦略は法人減税や「岩盤規制」の改革に踏み出し、実行段階に入る。安倍晋三首相は記者会見で「経済の好循環を力強く回転させ、景気回復の実感を全国津々浦々に届けるのがアベノミクス(総合2面きょうのことば)の使命だ。すべては成長戦略の実行にかかっている」と訴えた。臨時閣議では、規制改革の実行手順を盛り込んだ「規制改革実施計画」も決めた。新成長戦略と骨太の方針はこれに先立ち経済財政諮問会議と産業競争力会議の合同会議で正式に了承された。新成長戦略は昨年まとめた「日本再興戦略」の改定版で、積み残した課題で一定の前進があった。アジアや欧州の主要国に比べて高い法人実効税率(東京都の場合、35.64%)は、2015年度から数年間で20%台に引き下げることをめざすと明示した。首相は「法人税の構造を成長志向型に変え、雇用を確保し、国民生活の向上につなげたい」と述べ、年末までに決める税率や財源は「国際競争に打ち勝つ観点、財政再建の観点から議論したい」と語った。首相は「成長戦略にタブーも聖域もない。日本経済の可能性を開花させるため、いかなる壁も打ち破る」として、医療、雇用、農業など関係省庁や業界団体が既得権益を守ろうとする「岩盤規制」にも切り込んだ。雇用では時間でなく成果に応じ給与を支払う制度を導入。農業では地域農協が創意工夫しやすい仕組みに改め、公的な医療保険が使える診療と使えない診療を組み合わせる混合診療も拡大する。人口減少や少子高齢化による労働力不足を踏まえ、50年後に人口1億人程度を維持する目標を政府として初めて掲げた。第3子以降の出産・育児を重点支援するなど20年までに税制や社会保障で政策を総動員して人口減少に一定の歯止めをかけ持続的成長をめざす。働き手として女性や外国人を重視し、女性の働く意欲をそぐとされる配偶者控除を見直す。途上国の人材が働きながら技能を学ぶ外国人技能実習制度の対象業種を広げ、受け入れ期間も3年から5年に延ばす。首相は「成長戦略は大胆にパワーアップした」と話すが、年末の予算編成や税制改正で詰めるものも多く、具体化がカギを握る。景気の現状について首相は「企業の収益が雇用の拡大や所得の上昇につながる。日本経済は再び自信を取り戻そうとしている」と指摘した。一方で景気回復の遅れが指摘される地方や中小企業にも目配りし、7月にも地方活性化に取り組む「地方創生本部」を新設する。15年春の統一地方選をにらみ、首相は「これからの成長の主役は地方だ」と訴えた。 *1-2:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10103/76318 (佐賀新聞 2014年6月21日) 中野吉實氏に聞く 政府の農協改革 政府は、農協改革などを含む新たな成長戦略を近く閣議決定する。全国農業協同組合中央会(JA全中)の抜本的な見直し、中央会制度の新制度への移行が盛り込まれる見込み。政府の規制改革会議は当初、JA全中を頂点とする中央会制度の廃止を提言していたが、自民党や農業団体から反発を受けて修正された経緯がある。政府の方針をどう受け止め、自主的な改革を実施していくか。全中理事、全国農業協同組合連合会(JA全農)会長を務める中野吉實・JA佐賀中央会会長に聞いた。 ■これまでの農協改革の議論をどうみているか。 常々、農協が自律的に改革することが重要と考えてきた。ただ、JA全中の廃止が突然出てきたことには驚いた。これまでの農業政策と真逆の方向性だったからだ。農水省はこれまで中央会の指導権限を強化してきたが、これは農協を強くするためだった。中央会が農協の経営状況を把握し、体力の弱い組合を指導したり、合併を進めたりしてきた。1万以上あった農協は現在、700以下。中央会が各農協の意向を調整しながら努力してきた成果だ。 ■中央会制度の改革で、地域農協の経営の自由化を高めるとしている。どう受け止めているか。 現場への理解が不足しているように思う。全中が農協の経営の自由度を阻害したという批判は上がっていない。規制改革会議も具体例は示せなかった。農協が自由に経営を行い、農家の手取りを増やすのは当然のことで、私たちもしっかり考えていきたい。耕作面積を増やせばいいという単純なものではない。6次化による収入増という意見はあるが、加工や販売に専門知識が必要で、一般農家には難しいだろう。オランダのような大規模施設園芸も、安価なエネルギーの確保などの問題があり、導入には時間がかかるだろう。結局は収益を見込める作物を選定し、効率的な栽培法を推進するほかない。農協改革の具体化はこれからだが、私たち自身で農家の所得を向上させる取り組みを考えたい。 ■規制改革会議では当初、農協は金融保険部門を手放し、営農や販売に集中すべきとの提言もあった。 なぜ、こんな主張が出てきたかよく分からない。農協は協同組合であり、相互扶助が理念。貯金・共済事業があったから、赤字になりがちな営農支援に取り組めた。農協経営の自由度を高める役割も果たせた。運用益を生産者のためにもっと使えるようにすべきという意見もあるので、そこは検討したい。 ■国は2015年春に農協法の改正案を国会に提出する予定だ。法施行から70年近くたち、農業を取り巻く環境は大きく変化した。何を変更すべきか。 変更内容は、これから議論を進めたい。法施行時は農家である正組合員ばかりだったが、現在は高齢化に伴う離農などで准組合員が急増した。そのため、准組合員に事業利用制限を設けるべきという意見が一部にあるが、これは慎重に議論した方がいい。地域のライフラインとしての観点があるからだ。JAの給油所や金融機関、スーパーは、企業が採算を見込めずに撤退したような地域にある。無くしたら生活に大きな影響が出る。公的機関などとも話し合って検討したい。 ■農地法改正案も提出される予定。企業の農業生産法人への出資制限が緩和される点をどう考えるか。 農地としてずっと使われるならば異論はない。心配なのは、企業が農業を数年間やってもうからないと判断した時のことだ。農地を転売したり、(住宅)分譲したりする恐れがないだろうか。こうした事例を法的に規制せず、企業が農地を所有できるようにすることには反対だ。 *1-3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28473 (日本農業新聞 2014/6/28) 農村の高齢化率 50年には40%以上 食料消費も大幅減 農水省推計 農水省は27日、食料・農業・農村政策審議会の企画部会(部会長=中嶋康博東京大学大学院教授)で、2050年には平たん部、山間部を問わず農業地帯の高齢化率が40%以上になるとの推計を明らかにした。食料の消費量は12年時点と比べ、最大で4割近く減る。15年度から始まる新たな食料・農業・農村基本計画では、人口減少への対応策をどう示すかが課題になりそうだ。推計は農林水産政策研究所がまとめた。人口や高齢化率は「都市部」と農業地帯の「平地」「中間」「山間」の4種類を予測。国勢調査などに基づき推計した。10~50年の40年間で人口減少や高齢化が最も進むのは山間地域。人口は3分の1に減り、65歳以上の高齢者率は51%に達した。中間地域は高齢化率が44%で、人口は半分程度に落ち込む。高齢化率が最も低くかった平地でさえも、40%に達した。人口は4割減る。食料消費量は総供給熱量で推計した。12年の1日当たり総供給熱量3098億キロカロリーを基準に試算すると、50年には最大で1913億キロカロリーにまで落ち込んだ。約40年間で62%にまで減った。農村人口だけでなく、農産物の消費も減っていくことを踏まえ、中嶋部会長は「農業が単なる食料供給産業になれば成長はない」と指摘。「新たなマーケット拡大をもっと考えるべきだ。あらためて課題を整理する必要がある」と提案した。人口減少と消費に加えて「働き手がいなくなる問題もある」と強調。「農林水産業で人手を確保するのは難しくなっている。人口減少が進めば、もっと問題が深まってしまう。全体の政策を考える上で大きなポイントだ」と指摘した。名古屋大学大学院の生源寺眞一教授は「水田農業では高齢化が進んでいるが、施設園芸や畜産では若い人もいる。就職する形で農業に就く人も増えている。そういう違いを伝えることも大事だ」と強調した。福岡大学の藤井千佐子非常勤講師は、日本創成会議の「40年までに896自治体が消滅する可能性がある」との試算は、「出産可能な女性20~39歳が半分以下に減る」との基準で推計した点に着目。「女性に農業参入してもらうなどの施策はあまり見受けられない。次期計画で対策を明示するべきだ」と提案した。 <具体的行動> *2-1: http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28479 (日本農業新聞 2014/6/28) [農政改革を追う] 稲作再構築へ5地区 100ヘクタール規模 モデル農場指定 熊本県 熊本県は、地域農業の中心的な担い手への農地集積を加速させるため、100ヘクタール以上の大規模な広域モデル農場づくりに県内5地区を指定した。今年度から運用を始めた農地中間管理機構(農地集積バンク)の機能を最大限活用し、カントリーエレベーター(CE)を核にして水田農業を再構築する。主食用米と米粉用、加工用、飼料用米を品種ごとに団地化して営農を効率化。生産コストの3割削減を目指す。 ●用途ごと団地化 生産費を3割減 モデル農場は「低コストパイロット地区(スーパー重点地区)」と名付け、熊本市城南町、玉名市岱明町、宇土市走潟、多良木町など上球磨地区、嘉島町大島・六嘉地区を指定した。各モデル農場は、県が米の振興方策として複数示す選択肢の中から、地区に適した方向を選び産地づくりに取り組む。主食用米は(1)食味ランキング日本一の強みを生かした良食味型(2)高温に強い温暖化に対応した新品種型(3)減農薬や化学肥料を減らした環境負荷軽減型――の米作りを追求。非主食用米は(1)県産米粉を普及させる米粉用米(2)県産飼料で畜産物の付加価値を高める飼料用米(3)県産米で製造した焼酎のブランド化を図る加工用米――の生産を通じ、水田を有効利用する。また、全てのモデル地区で品種ごとの団地化や作付け時期の分散をし、低コスト農業を実現する。嘉島町は「良食味米(プレミアム米)の団地化」、上球磨地区は「多様な品種の組み合わせ」、宇土市は「米麦の輪作体系」など、地区ごとに特色ある産地を形成し、県全体として多様な米のニーズに対応できるようにする。県は、法人化への合意形成や技術面の指導、農業機械の導入費の助成を通じ支援する考えだ。蒲島郁夫知事は26日の定例会見で「国の成長戦略の農地集積バンクが始動し、県では一歩進んだ取り組みとして大規模な広域農場を新たに育成する。悠久の宝である農地を守り、集積し、ふるさとの景観を 保全しながら、次世代に引き継ぎたい」と抱負を述べた。 *2-2:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10103/82867 (佐賀新聞 2014年7月11日) オリーブを化粧品原料に 唐津で商品化説明会 唐津オリーブ研究会は12日午後4時から、唐津市の大手口センタービルで、オリーブの栽培・商品化についての説明会を開く。九州普及協会との共催で、同研究会は「唐津市が進めるコスメ構想の中で、化粧品原料に活用できないかを考えたい」としている。オリーブは食用だけでなく、美容にも使え、ミカン同様に温暖な気候が栽培に適しているとされる。全国的には香川県の小豆島が有名だが、九州でも天草や佐世保などで企業が取り組んでいる。唐津オリーブ研究会は今年4月に発足。オリーブ油を搾った残渣(ざんさ)を化粧品の原材料に活用していくのが狙いで、唐津市宇木のミカン畑跡に樹齢3~4年の苗木約160本を植え、来年以降の収穫を目指す。同研究会の山浦康男代表は「オリーブの実を2度使えるという点では、農業者にとっても興味のあるビジネスモデルと思う。生産から商品化までの6次産業につなげたい」と話す。説明会の問い合わせは電話090(5927)7461。 <農水省の輸出戦略とブランド化の矛盾> *3-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28461 (日本農業新聞 2014/6/27) 輸出戦略委が初会合 産地越え連携体制 農水省 農水省は26日、農林水産品・食品輸出の司令塔となる「輸出戦略実行委員会」を設置し、第1回会合を開いた。実行委員会は、同省など関係省庁の輸出担当部局や農業団体、米、畜産といった品目別団体の担当者で構成する。農産物輸出はこれまで産地ごとにばらばらで取り組んできたため、産地を越えて連携する「オールジャパン」の体制をつくるのが狙いだ。2020年までに輸出額を1兆円に倍増させる政府目標の着実な達成を目指す。品目ごとに目標達成度を検証し、課題を解決する仕組みを設ける。 ●品目別に部会設 輸出倍増目標の達成に向けて農水省は昨年、「国別・品目別輸出戦略」を策定。米や牛肉など品目ごとに目標額を設定し、輸出が見込める重点地域や達成に向けた課題をまとめた。13年の輸出額は5500億円で過去最高を記録し、今年に入ってからも順調に推移している。ただ、目標までまだ開きがある。このため実行委員会の下に、米や米加工品、青果物、牛肉、茶など個別の戦略を検証する品目ごとの部会を設置。物流の効率化を探る物流部会やイスラム圏への輸出への対応策を話し合うハラール部会、米国向けの輸出課題に対応するFSMA(米国食品安全強化法)部会など、品目を超えて輸出課題を話し合う部会もつくる。実行委員会は、こうした部会で洗い出した課題や取り組み状況をくみ上げ、全体戦略づくりを検討する。日本の統一的な銘柄を活用して発信力を強め、同じ品目でも産地間で出荷時期を調整し日本産を途切れず輸出できるようにする。実行委は、JA全中、JA全農や、畜産、米、茶、花き、日本酒、食品産業、木材、水産の団体の他、経済産業省、国土交通省、厚生労働省などの関係省庁、全国知事会が参加する。委員会は、農業団体など150以上の会員でつくる農林水産物等輸出促進全国協議会の下に設置。構成する生産者団体などに連携した取り組みを促す。26日の会合では、江藤拓副大臣が「目標を立てるだけでは何も解決しない。官民、経済界も一体となって、良い方向に進むように力を貸してほしい」と、オールジャパン体制の構築に意欲を示した。 *3-2:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10103/76319 (佐賀新聞 2014年6月21日) 県産大豆の1等比率日本一 4年連続 農水省がまとめた2013年産大豆の品質検査結果で、佐賀県の普通大豆の1等比率は78・3%だった。前年に比べると、12・4ポイント減となったが、4年連続で全国1位。県がコメ転作の基幹作物として位置づけており、生産管理を徹底した成果が表れた。農水省によると、品質検査はサンプル調査で行い、外観、水分含有量、病害虫の被害状況などを調べている。県産普通大豆の検査総量は1万4906トンで、このうち1等は1万1670トン。2等は1620トン(10・9%)、3等は1613トン(10・8%)だった。粒ごとの1等比率は、大粒93・2%、中粒76・3%、小粒0・1%。品種別では、フクユタカが87・7%、むらゆたかが74・1%だった。全国の1等比率は30・4%(4万2256トン)。九州農政局は「佐賀県はJAと県などが生産指導と乾燥調製を徹底しており、高品質を維持できている。前年実績を下回ったのは、播種期の長雨で小粒傾向になったことが影響したようだ」と分析している。 <農業関連他産業> *4-1:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10103/82514 (佐賀新聞 2014年07月10日) 燃料高騰で運送業界悲鳴 景気回復も利益増えず ガソリンや軽油などの燃料価格が高騰し、佐賀県内の経済活動に影響が広がっている。記録的な高値となった2008年の水準に迫る勢いで上昇しており、景気回復に冷や水を浴びせかねない状況。運転手不足による人件費増などで経費がかさんでいるトラック業界などからは「利益が確保できない」と厳しい声が漏れる。県内のレギュラーガソリン1リットル当たりの平均小売価格は173円10銭(7日現在)。軽油は同150円50銭と、いずれも08年以来の高値で推移している。消費税増税に加え、産油国イラクの情勢悪化に伴う原油高を背景に、元売り各社が卸価格を引き上げたためだ。トラックなどが使う軽油の販売価格は、5年前に比べて約40円アップ。運送業への影響は大きく、県トラック協会は加盟514社全体で、年間約50億円の負担増になると試算する。長引く景気低迷で、新車導入を先延ばしにするなど経費削減に努めてきた県東部の運送会社は「景気回復でやっと需要が伸びてきたのに、利益は全く増えない」。東京、大阪の2大商圏に遠く、「打撃は大きい。金をばらまいて走っているようなもの」と窮状を訴える。同協会によると、県内で燃料費の上昇分を運賃に転嫁している事業者は1割程度。値上げによる顧客離れを恐れ、全額転嫁したところは全国で1%に満たないという調査結果もある。ただ、景気回復による人件費増が収益悪化に追い打ちを掛ける中、転嫁に踏み切る企業もある。食品や自動車部品などを運ぶ佐賀市の事業者は「このままだと会社が持たない。少しくらい客が逃げても仕方ない」と、月内にも取引企業に値上げを要請するという。漁業者も神経をとがらせる。有明海では、海況悪化や赤潮の早期発生でノリの単価が下落。1番摘み(秋芽)の平均単価は1枚14円台と30年前の3分の1に低迷する一方、漁船に使う軽油価格は2倍以上に膨らんだ。佐賀市川副町の漁業者(49)は「ただでさえ、もうけが減っているのに」と深いため息をつく。5月の県内ガソリン販売量は、前年同月比11・4%減。燃油高騰の影響は、消費者の買い控えという形でガソリンスタンドの経営も直撃している。価格競争の激化で値上げに踏み切れない店も多く、「利益をはき出しながらの過酷な消耗戦が続いている」(県石油商業組合)という。今後の動向について、石油業界では夏の行楽シーズンの需要高まりなどでさらに値上がりするとの見方もあり、幅広い業種や暮らしにダメージが広がる恐れがある。 *4-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28631 (日本農業新聞 2014/7/8) 農機開発 担い手の声 反映 HPでアンケート 農水省 農水省は7日、新たに開発してほしい農機の種類や価格帯について農家の要望を取り入れるため、地域農業を中心的に支える「担い手農家」を対象にした初のアンケート調査を始めた。生産現場のニーズに、より即した農機開発を進める狙いで、2015年度からの農業機械等緊急開発事業(緊プロ事業)に生かす。ホームページ(HP)に調査票を掲載し、直接回答を募集。希望者には実証試験にも参加してもらう。同省は「担い手に有益な農機を開発するために、多くの声を寄せてほしい」(生産資材対策室)と呼び掛ける。緊プロ事業は同省が開発機種を定めて、農研機構・生研センターと民間企業などが共同で開発、農機メーカーが商品化する。これまでも都道府県の農業試験場や農業改良普及センターを通じて農家の意見を集めていたが、数が少なく、回答者の経営規模などの分析も十分ではなかった。調査票には、新たに開発を希望する農機について、必要とする理由、求める機能・性能、購入できる価格帯、回答者の経営品目や規模などを記入してもらう。調査で判明したニーズは、まずメーカーや研究機関が持つ技術、ノウハウで対応できるものがあるかを調べる。その上で、年内に開く農業資材審議会農業機械化分科会で、調査結果と、それを踏まえた新たな開発機種の提案を公表する。同省HPの農業機械化対策情報のコーナーに調査票と送付先を掲載している。25日までにファクスかメールで回答する。問い合わせは、同省技術普及課生産資材対策室、(電)03(6744)2111。 *4-3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28521 (日本農業新聞 2014/7/1) 再エネファンド創設 地域主導型に出資 JAグループ JAグループは30日、再生可能エネルギーの普及を目的に「農山漁村再エネファンド」を創設したと発表した。規模は10億円で運営を始めた。農山漁村や中山間地域に利益の還元が見込める事業体に出資する。2014年5月の農山漁村再生可能エネルギー法の施行を受け、農業・地域の活性化につながるよう後押しする。「農山漁村再エネファンド」は農林中央金庫とJA共済連がそれぞれ5億円を出資して創設した。農林水産業協同投資(株)が運営する。行政や企業、農林水産業者、JAで構成する地域の協議会などがつくる発電事業体に出資する。既に地元企業などが運営している発電事業体への増資にも対応する。地域外の企業が地域関係者と共に取り組む場合も出資対象とする方針だ。出資上限額は資本総額の50%以内。10年間を目途とし、期間の短縮・延長は柔軟に検討する。地域の農林水産業との調和や地域主導の取り組みを重視するため、期間終了後は出資金を地域関係者に譲り渡すことを想定するという。規模は10億円だが、地元のニーズに応じて将来的に30億円まで拡大することも検討している。JAグループは13年8月に、第26回JA全国大会決議に基づき、再生可能エネルギー推進の方針を決定。同ファンドはこれを踏まえて設立した。再生可能エネルギー推進に向け、JA全中、JA全農、農林中金、共済連で事務局体制を整備。全中は法令対応や優良事例紹介など、全農は太陽光発電のノウハウを生かして支援する。県段階でも、地域からの相談に対応する。 <よい食品を選ぶ能力とツール> *5-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28510 (日本農業新聞 2014/7/1) 小学校の農業学習 市町村ぐるみ 導入広がる 全国で小学生に農業を学ばせる動きが広がっている。「総合的な学習の時間」の半分を米や野菜作りに充てたり、町が教育用農場を整備したり、地域ごとに知恵を絞る。従来は学校単位での活動が中心だったが、市町村ぐるみで全校・全児童を対象に取り組む例が増えてきた。先行して実践する小学校で、農業に触れた児童が「友達と協力する楽しさ」や「食べ物への感謝」を学べたことに、自治体や教育関係者が注目し、農業学習の背中を押す。 ●感謝の心や協調性養う 福島の成功例に注目 先進事例として知られるのが、福島県喜多方市だ。2007年度から小学校の授業で「農業科」を開始。現在は市内全17校の3~6年が「総合的な学習の時間」の授業70時間のうち35時間を使い、水稲や野菜作りに励んでいる。児童にやりがいを感じてもらうため、作物は種子から栽培。除草や収穫は手作業にこだわる。JA職員などから栽培指導を受けたり、収穫した作物は地域の人と一緒に食べたりと、地域ぐるみの取り組みが特徴だ。児童の感想文には「友達と協力する楽しさを教えてくれた」「食べ物に感謝の気持ちが持てるようになった」といった思いがつづられている。こうした児童の気付きや心の成長が、自治体や教育関係者の注目を集めるきっかけとなっている。 士別市は「地域資源を学校教育に生かしたい」(教育委員会)と、15年度から小学校の授業に農業を取り入れる。初年度は小学全8校のうち5校で始め、16年度に全校に広げる予定。3~6年の各学年で35時間の授業を行い、児童には水稲や野菜の生産から流通まで幅広く学んでもらう構想だ。同委員会は「手を掛けて農作物を育てることで、根気強さなどを培ってほしい」と期待する。北海道では美唄市も10年度から小学校教育に農業を導入した。生活科などの時間を使い、全5校の全学年で花や水稲などを栽培。市民参加型のシンポジウムも用意し、児童による体験発表会も行っている。 山口県萩市は、吉田松陰が主宰した「松下村塾(しょうかそんじゅく」にちなみ、「農下村塾(のうかそんじゅく)」と題した事業を昨年度から予算化。小学校全21校で、小学生のうち1年は必ず稲作を行うようにした。同市教育委員会は、授業を通し「地域の良いところや、職業としての農業の魅力を知ってほしい」と狙いを話す。 学校給食の食材を、児童自ら生産する試みも始まろうとしている。北海道当麻町は今年度、町役場に隣接する農地1.9ヘクタールを買い取り、小学生が稲作などをする食育圃場(ほじょう)に整備する。来年度から地域の農家と協力し、小・中学校全3校の給食で使う米6トンを生産する計画だ。数品種を栽培する予定で、町は「町や農業の歴史を知るきっかけにしながら、味覚教育にもつなげたい」(農林課)と意気込む。 *5-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28439 (日本農業新聞 2014/6/26) 食品表示基準 加工食品で義務強化 消費者庁最終案 消費者庁は25日、内閣府の消費者委員会食品表示部会で、加工食品の栄養表示義務化の基準などをとりまとめた食品表示基準の最終案を示した。加工食品にはエネルギーやたんぱく質などの表示を義務付ける他、消費税を納めない小規模事業者など例外規定も明記。加工食品と生鮮食品の区分を明確化し、アレルギーの表示ルールも変更する方針だ。ただ、一部制度の見直しをめぐって委員の意見が分かれたため、今後、パブリックコメントや全国で開く説明会で意見を募る。 ●アレルギーも変更 最終案は、2015年6月に施行する「食品表示法」の基準に向けた、たたき台となる。現行の表示制度から大きく変わる点は(1)栄養成分表示の義務化(2)アレルギー表示のルール改善(3)加工食品と生鮮食品の区分の統一――など。加工食品には原則、熱量など栄養表示を義務付けるが、消費税法第9条に規定する課税売上高1000万円以下の事業者、業務用加工食品、食品関連事業者以外は栄養成分を表示しなくてよいとした。また、酒類など一部の加工食品は除く。これまで表記していた「ナトリウム」は「食塩相当量」として表示する。加工食品と生鮮食品の定義も整理した。乾燥させた野菜や果実など食品衛生法で従来、規定のなかった簡単な加工を加えた食品を「加工食品」と明確に位置づけ、アレルゲンや製造所の表示を義務付ける。この他、パンや生クリームなど特定加工食品は廃止しアレルゲンの表示を義務付ける。見直しをめぐって同部会では、JAS法、食品衛生法、健康増進法の3法にまたがる58の現行の表示ルールの一元化を目指し、同部会が3つの調査会を設けて約半年間、検討してきた。同庁は最終案を基に7月にパブリックコメントや全国の主要都市で説明会を開いた後、今秋にも同委員会に基準案を諮問、年内にも同委員会が答申する見通しだ。ただ、この日の会合で、製造者情報の記載を省略できる「製造所固有記号制度」の見直しなどで意見が出たため、委員の提案と同庁の案を併記して一般からの意見を求める。 <解説> 現場の負担に配慮を 消費者庁がパブリックコメントにかける食品表示基準の最終案は、示された加工食品の栄養表示の義務化について課税売上高1000万円以下の事業者が対象から外された。しかし、6次産業化に取り組む大規模農家にとっては経営を圧迫しかねない。消費者や加工・販売事業者にも混乱が広がる恐れもある。決定に当たっては、現場の課題を丁寧にくみ取り、表示コストと労力負担の軽減に向けた環境整備が求められる。消費税法で線引きした加工食品の栄養表示の義務化を免除する特例範囲は、小規模な事業者らの負担に配慮したものだ。同庁によると、加工食品の表示義務ではおよそ半数の事業者が特例を適用されず、加工品を開発するJAや農業法人の大半は表示義務が課せられる見込みだ。今後は、全加工品の栄養成分の検査負担に加え、表示シールや包装のデザインの変更を余儀なくされる他、直売所などでは表示の有無で混乱が生じるのも懸念される。農業法人などからは「加工事業者の負担が増える一方で、消費者が本当に求めているのか」といった疑問の声も上がる。食品表示法は消費者にとって分かりやすい表示を目指した新基準だが、現場の理解を得られなければ実現しない。農家や地域の創意工夫を伴って加工品が開発、販売されており、開発の努力や意欲に水を差すことがないよう配慮が欠かせない。 PS(2014.7.18追加):私は、(2)に「預金者保護のために、農協の金融改革は必要だ」と記載したが、それは、*6にも書かれているような「金融・保険部門を譲渡して営農や販売に集中する」という目的ではなく、預金者保護や被保険者保護が目的だ。農協の金融・保険部門の譲渡は、農業改革よりもむしろ金融機関や保険会社の要請ではないだろうか。しかし、農協も、事業部門と金融部門の経理をどんぶり勘定にしていると、預金の引き出しや保険金の支払い原資を確保できなくなる可能性が高いため、農協が、一定の地域毎(例えば、道州や県など)に金融子会社を所有してはどうかと思う。農林中央金庫は日本中から金を集めて、他の金融機関と一緒にアメリカのサブプライムローンに貸し出しを行い、その質の悪い貸し出しのために大損害を蒙ったような状況であるため、農協の子会社となる地域金融機関が、地域の農業、街づくり、環境に役立つ貸し出しを率先して行うというスタンスを維持し、それをアピールすれば、預金者の共感を得られて、預金ももっと集まると考える。銀行名は公募すればよいと思うが、例えば、「JABank みどり」とか「あすなろ銀行」とか・・。 *6:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28802 (日本農業新聞 2014/7/17) [規制改革の論点 3] 農協(2)信用事業 譲渡の是非 見極めて 規制改革では、単位農協の金融事業についても、大きな改革を求めている。政府の規制改革実施計画によると、単協の信用事業は支店・代理店方式(信連や農林中央金庫に事業を譲渡し、単協に支店を置いたり、単協が代理店になったりして金融サービスを提供する方式)を推進する。既に実質的な代理店方式となる「共同元受方式」を導入している共済事業も、さらに単協の事務負担を軽減する方式を全共連が提供する。いずれも、今年度中に検討して結論を出し、必要があれば通常国会に関連法案を提出するとしている。特に論点になるのが信用事業の支店・代理店方式だ。この狙いを政府は「単協の負担を減らし経済事業に全力投球するため」と説明する。年々強化される国際的な金融規制に対応する負担が増す中、同方式を導入すれば単協は規制を回避できる利点もある。政府は既に同方式を可能にする規定を法律で整備済み。農協系統ではないが、漁協系統では導入が進む。農協系統でも導入を促すために規制改革実施計画では、代理店方式で得られる手数料水準を農林中金や信連に早急に示すことも求める。ただ、同方式に懸念も少なくない。単協は自ら総合事業を行うことで、営農・経済と一体的に個々の農業者の実情に応じたきめ細かな融資対応ができる。支店・代理店になれば定型化された商品だけを扱い、組合員のニーズに応じた柔軟な対応ができず、かえって営農資金などの利便性を損なう恐れがある。支店・代理店方式を導入した場合、単協にどんなメリット・デメリットがあるのか、議論は十分とはいえず、はっきりしない部分も多い。まず丁寧に議論し、そこを明確にする必要がある。また、導入するかどうかはあくまでJAグループ自ら選択することが基本であり、強制されることのないように制度で担保することが欠かせない。
| 農林漁業::2014.2~7 | 02:42 PM | comments (x) | trackback (x) |
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2014,06,10, Tuesday
*1-1より (1)巨大な防潮堤の建設は、住民のためになるのか *1-1に書かれているように、現在、東北の被災地はじめ全国で、巨大な防潮堤の建設計画が進められている。防災対策と理由をつければ免罪符になる公共工事だが、海岸を巨大なコンクリート構造物で囲ってしまえば、砂浜が消え展望が悪くなるという意味で自然環境を失うだけでなく、陸地から海に流れ込む栄養による漁業環境も悪化させるため、地域の漁業資源と観光資源の両方を失うことになる。そのため、建設関連会社の一時的な利益のために、巨大防潮堤の建設を合理化するのは、あまりにも他産業と環境の軽視である。 そのかわりに、*1-2のように、大規模地震に備え、防潮堤と防災林を一体化して津波の被害を軽くする「緑の防潮堤」を進めていたが、改正海岸法が6月4日の参院本会議で可決・成立して、「緑の防潮堤」も国の補助対象になることが明確化された。私は、緑の防潮堤と都市計画(街の高台移転)により、コンクリートの防潮堤は最小限にすべきだと考えている。 (2)それでは、街づくりで、どういう防災方法があるのか *1-1でパーフェクトに書かれているように、アメリカのハワイ州では、砂浜の自然観察から高波の最高到達ラインを調査し、住宅などの建造物を到達ラインより上に後退させる方法をとっており、これが最も安価で確実であるとともに、自然環境を壊さない。 私も、東日本大震災直後の2011.4.19にこのブログで記載しているとおり、自然条件に合わせて土地の利用計画を立て、「巨大な堤防を作って自然と闘い、人工的に安全な住環境を作る」というコンセプトから、「人が海岸との距離や高さを考慮して土地を利用し、自然環境を活かしながら安全を保つ」というコンセプトに変えることが重要だと考える。何故なら、考えるべきことは多く、天災から身を守ることだけが重要なのではないからだ。 (3)まずい公共工事 ― その他の事例 *2-1のように、唐津市でも海岸浸食が起こっているが、その原因は、西の浜や浜崎海岸で海岸浸食が起こり始めた時期から考えて、①埋め立てにより潮流が変わったこと ②河川に農業用水確保のため安易に堤を作ったり、コンクリートで固めたりしたため、河川から海に砂が供給されにくい構造になったこと と考える。このほか、沖合での海砂採取との因果関係を問う声もあるそうだが、海砂採取は、魚の産卵場所を荒らすことにより不漁に結びつくが、海岸浸食の原因ではないだろう。 原因が、原発由来の海水温上昇や海砂採取による水揚げの減少、燃料費の高騰による採算割れのいづれであったにせよ、*2-2のように、長崎、佐賀両県を拠点にまき網漁業を営むまる川漁業(長崎県新上五島町)と丸福漁業(長崎市)、悠久漁業生産組合(佐賀県唐津市)が、破産申請準備に入ったそうだ。どれも、豊かな海の幸に恵まれている筈の地域のできごとであり、漁業に対する人間及び環境の影響が無視できないことは明らかだ。 (4)後で国民に付け回しされる政策ミスを、決して許してはならない *3のように、情けなくも「現役収入の半分以下」に設定しようとして、それすら危ういとされている年金について、厚生労働省が長期的な財政についての見通しをまとめたそうだが、(1)や(3)のような無駄遣いと自然破壊により、既存の産業を壊し、新たな産業の芽は摘みながら、バブルではない本物の成長率や利益率が高くなるわけがない。 もちろん、女性の就労割合が増えれば、私や*1-1の九大工学研究院准教授の清野氏のように、人間活動と環境を両立させようとする人の割合も増えるだろうが、それにしても、現在の年金の惨憺たる状況も、これまでの厚生労働省の杜撰な管理や政策ミスの結果であることを、決して忘れてはならない。 参考資料: *1-1:http://www.nacsj.or.jp/katsudo/kaiho/2013/07/1.html (清野 聡子:九州大学大学院工学研究院環境社会部門准教授。沿岸開発・保全の合意形成について、環境改変などの研究をもとに、地域会議の企画運営、計画作成、実施時の生態工学的な技術支援を行っている) 特集:このままでいいのか!? 防潮堤計画 今、東北の被災地をはじめ全国各地で、巨大な防潮堤の建設計画が進もうとしていることをご存知でしょうか?防災対策が必要な一方で、巨大なコンクリート構造物に頼る方法で事業を進めてしまえば、地域の財産でもある自然環境を失うことになりかねません。沿岸の暮らしと自然環境の折り合いをどうつけていくのか、これからの地域の海辺の管理のあり方を考えます。 ●東日本太平洋沿岸か砂浜が消える?! 東北3県だけで総延長約370km! 現在、青森県から千葉県の東日本太平洋沿岸で進む巨大防潮堤建設計画。その規模は、岩手、宮城、福島の東北3県だけで総延長約370km、約8200億円。高さは既存のものを大きく上回る10m前後で、高い場所では14mを超えている。東北3県の自然海浜は、現時点ですでに全体の7%にまで減少している※。残された自然海浜とどう付き合うか、住民合意を置き去りにしたまま、計画の一部はすでに着工されている。 ※環境省平成24年度東北地方太平洋沿岸地域自然環境調査海岸調査よりNACS-Jが算出 ●防潮堤の形状は台形で、まるでコンクリートの山 防潮堤の復旧にあたり国から示されているのが、越流したとしても直ちに全壊しない「粘り強い構造」。天端(防潮堤のてっぺんの幅)の3m以上の確保や、壁面の勾配を緩くする、といった基本的な方針を示す。これに従った標準断面では、仮に高さが10mの場合、底幅は43m以上となり、砂浜を広く覆いつぶす。 ●建設計画は日本全国にある! 「全国防災対策費」という予算をご存じだろうか。5年間で約19兆円を投じ東日本大震災からの復興を目指すものだが、このうち1兆円程度は被災地以外の防災・減災対策にも使用可能。また、「国土強靭化」を進める安倍政権が誕生させた2012年補正予算、2013年当初予算では、公共事業予算が増額され、議論のないまま新規事業に多額の予算がつけられた。さらに、今年5月に自民・公明両党から提出された「防災・減災等に資する国土強靱化基本法案」が成立すれば、全国を対象とした新規公共事業の根拠法がさらに増える。海岸や河口を埋める防潮堤計画は、決して被災地だけの話ではない。 ●防潮堤に頼らない海岸のまちづくり 防潮堤のような巨大な海岸構造物に頼らない防災計画・まちづくりは可能なのでしょうか。景観まちづくり、ビーチフロント計画(豊かな海岸地域形成)が専門の岡田智秀さんに伺いました。 ■ずばり防潮堤に頼らないまちづくりは可能なのでしょうか? まず、始めに押さえるべきは、「防潮堤ありか、なしか」という議論ではなく、街としてどう防災対策を立てていくかを複眼的、総合的に考える必要があるということです。複眼的とは、さまざまな手段や方法について、総合的とは、地域全体を鳥瞰的・俯瞰的に見て検討するということです。 ■「複眼的」に考える、とのことですが、防潮堤以外にどんな方法があるのでしょうか? 参考となる事例としては、ハワイ州の「海岸線セットバックルール」があります。これは沿岸域には極力構造物をつくらず、住宅などの建造物を海岸線からセットバックさせることを定めたもので、1977年にハワイ州法のコースタルゾーン・マネジメント(CZM)沿岸管理計画で規定されました。セットバック距離の具体的な数値や基準は郡によって異なるが、基本的には、砂浜の自然観察を通じて高波などの最高到達ラインを調査し、その到達ラインから、10~15mほどの標準距離と、建物の耐用年数に見合った砂浜の自然浸食距離を合計した距離を後退させるという方法をとっている。それまでのハワイでは、今の日本と同じく構造物による海岸線の維持管理を行っていました。しかし一度構造物を入れたことで逆に構造物周辺の洗掘が進み、それを食い止めるために次々に構造物をつくらなくてはならないという悪循環に気づいたのです。ハワイ州は観光が主要産業ですから、構造物によって自然環境や景観を損ねるだけでなく観光資源である砂浜がなくなっては話になりません。そこで、思い切って海岸に構造物をなくし、街自体を海岸から離す制度づくりを決断しました。砂浜の消失は日本でも大きな課題となっています。構造物に頼らず経済的・効果的に、観光資源でもある海岸の自然を残し、防災に配慮したまちづくりを実現したこの事例には、日本も学ぶべき点がたくさんがあるでしょう。 ■自然の条件に合わせて土地の利用方法を決めるのですか? そうです。ハワイでは、構造物を用いて人工的に安全な住環境を沿岸に生み出すのではなく、人の方が海岸線との距離を常に考慮し、土地の利用を制限することで街の安全性を保っています。今後は日本でも、堤防の高さという垂直方向での防御だけではなく、海から後背地にかけての「面」で受けていく発想が必要だと考えています。自然条件に合わせた土地利用が展開できれば、防潮堤の高さにこだわる必要はなくなるはずです。高台移転はその最たる事例ですが、すべてを移転することができなくても、例えば海への依存度別に土地利用を制限していくなどの方法も考えられます。災害時の避難先となる学校や市役所といった施設はできるだけ高台などに置き、水産加工業など海に依存する施設は、避難経路を確保したうえで沿岸に配置して防護範囲を最小化するといったものです。日本は今後人口減少が進むばかりですから、居住地の選択集中という点でも土地利用のあり方を再整理することは重要でしょう。 ■なぜ日本ではハワイのような土地利用と合わせた計画がつくれないのでしょうか? 日本では現行の制度上、沿岸域の管理者がいくつにも分かれていることが大きな要因です。海岸法での海岸保全範囲は海岸線を中心に100m足らず。それより陸側は都市であれば都市計画法、防災林があれば林野庁で、田畑なら農水省が所管していて、実際はこれらがモザイクのように入り乱れて存在しています。沿岸域の自然条件に合わせてまちづくりや防災計画を整備したいと思っても、管理者が異なり、総合的な視点で計画できないのが日本の現状なのです。今回の震災で、行政間で連携・調整して新しい流れができるかと思いましたが、結局何も変わらない。このままでは、何度でも同じことを繰り返します。 ■ほかにも沿岸構造物に頼らないまちづくりの例はありますか? 避難訓練や防災教育などソフト面の対策や、避難路・避難タワーの整備が重要なことは言うまでもありません。名古屋港周辺では、区域の条件に応じて建築物の1階の床の高さや構造などを規定する「名古屋市臨海部防災区域建築条例」を定めています。平野部に位置し高台の少ない静岡県袋井市では江戸時代の知恵を活かし(写真2)、津波発生時の避難場所かつ平時の憩いの高台にもなる「平成の命山」の築造が決定しました。さらに、砂丘や海岸林といった自然地形の存在を尊重し、積極的に防護施設として活用するという考え方もあります。大分県の中津干潟では住民が生態系保全の必要性について声を上げたことで、防潮堤の建設位置が干潟の後方に変更されました。これらは平時の豊かさや自然環境保全と防災を両立させた、いい事例と言えるでしょう。 ■地域ごとにさまざまな工夫があるのですね。 そうですね。先に紹介したハワイのセットバックルールを日本のすべての沿岸域で適用すべきだとは思いません。1mでも高い防潮堤が必要な地域もあれば、そうでない地域もある。ただここで留意すべき点は、「公共事業は地域の利益が最大になるものでなくてはならない」ということだと考えています。地域の利益とは何か、住民自身が考え、覚悟を決めていく過程が必要なのです。イカ漁の盛んな青森県むつ市の木野部海岸ではかつて、防災のために行政主導で磯を覆うようにつくられた緩傾斜護岸を、「海の豊かさを取り戻したい」と願う住民の声で撤去につなげていきました。撤去後、住民たちの発意で、防災効果を高めつつ昭和30年代の磯場の風景も取り戻そうと、沖合に自然石を撒いて、わが国初ともいえる「築堤」を実現しています。その後、一時落ち込んだ漁獲量も回復し、その築堤周辺は磯遊びの場や漁場にもなるなど、今や地域の財産になっています。公共事業は、地域の人が求める日常の暮らしの豊かさを一方的に奪うものであってはなりません。そのためには、住民と行政が協調して現行制度の壁を乗り越えていく勇気と実行力が必要になるでしょう。地域に合ったまちづくりを考える際には、地域の文化や伝統から学ぶ点もたくさんあります。神社やお寺などの宗教施設は高台に配置され、今回の震災でも、被災せず避難所となった場所も多くありました。伊豆地方では海岸線から神社へ続く参道が津波避難路にも指定されています。地名からも土地の特徴を見出すことができる。地域の人がつないできた先人の知恵を今一度学ぶことも重要です。これからの海岸まちづくりのキーワードは、平時の豊かさと災害時の防護の共存策です。 <岡田 智秀> 日本大学理工学部まちづくり工学科准教授。景観まちづくり、ビーチフロント計画が専門。国交省・農水省・水産庁「防災・利用と調和した海岸の景観形成のあり方に関する検討委員会」委員などを務める。 ・・・これからの海辺のまちづくりのために・・・ ①海の猛威は、一線かつ限定的な位置で抑えようとすると海岸構造物の大型化を招くが、面的かつ 複眼的な海岸防護策を講じることで海岸構造物の最小化を目指すことが可能。 ②面的な海岸防護策を検討するためには、陸側の土地利用形態にも配慮する、新たな社会的しくみ が必要。 ③砂丘や海岸林といった自然地形の存在を尊重し、積極的に防護施設として活用するための検討が 必要。 ④地域の海象や伝統文化を踏まえ、地域の利益を住民自身が考え、地域の将来像を描いていく合意 形成の過程が重要。 ●ココが問題! 巨大防潮堤 現在、東日本太平洋沿岸域を中心に進められる巨大防潮堤建設計画には、どのような問題点があるのでしょうか。NACS-Jは今年2月、防潮堤復旧事業の問題し、生態系への配慮を求める意見書を出しました。意見書の内容(青字部分)とあわせて重要な問題を整理します。※上の画像をクリックする大きくなります。 ●日本の沿岸管理のあり方を見直すために 沿岸の保全管理には、なぜ地域の力が必要なのか、海岸の自然環境と暮らしのかかわり方をどう見直したらよいのか、NACS-J沿岸保全管理検討会委員の清野聡子さんに伺いました。 海岸の自然保護活動は防災活動でもあった 近年、津波被害を軽減する砂丘や砂浜の自然地形の存在が、改めて注目されています。砂丘の防災効果は、古くから戦後のころまでは、沿岸域に暮らす住民にはよく知られていました。多くの沿岸部の集落のお祭では、お神輿は山から下りて波打ち際を走ります。ウミガメが産卵する砂浜を海からのお使いが上陸する神聖な場と考えたり、沖縄では、来世への想いをつなぐ礼拝を砂浜で行ったり、さまざまな伝説や伝統によって海岸は神聖な場とされ、人のテリトリーが海に近づき過ぎないよう規制されていました。海の危険を予防するための適度なバッファーゾーン(緩衝帯)が維持されてきたのです。かつて沿岸の住民は、その地に合わせた住まい方を熟知していました。自然を観察することで、地形によって異なる波の上がり方や、砂丘の防災効果を知り、安全な場所に暮らす。動植物と同じく、人間もまた自然条件に即した場所にすみ、空間を使い分けてきたのです。自然の力が強い海岸は人間が近づきすぎると危険で、その境界となる砂丘に咲くハマヒルガオのような海浜植物群落は、限界線の象徴でした。コアジサシが営巣し、ハマヒルガオが咲き乱れ、ウミガメが上陸する浜を守ることは、人と海との適切な関係を保ち、防災効果を最大限に発揮する砂丘を守る防災活動なのです。しかしこの自然の防災効果を忘れ、海に近づきすぎた結果、巨大な防潮堤で海岸を囲むという選択をすることになりました。 ▼砂浜に咲くハマヒルガオ 「線」にこだわりすぎた日本の失敗 日本の沿岸管理の失敗は、海岸「線」を死守する管理に終始してきた点にあります。日本の制度では「大地は動かざるもの」を前提として、海岸線の変動を「国土の消失」と見なし、沿岸管理の現場には1㎝たりとも国土を減らすなという意識を持たせてきました。本来、海岸を地形的に守るには、背後の陸、川、沖の海まで含めて、全体がつながっている流域というシステムを「面」として統合的に把握しなくてはなりません。しかし、日本の海岸の管轄は、海岸四省庁と呼ばれる「河川」(国交省水管理・国土保全局)、「港湾」(同港湾局)、「漁港」(農水省漁港漁場整備部)、「農地」(同農村振興局)に分割され、後背地は林野庁などとさらに細かく分けられ、システム全体でとらえるという当たり前の概念を反映できない状態にありました。そして管轄ごとに海岸線を守るために、自然の変動を無視し、本来、波や潮、風によって時々刻々と姿を変える渚や海岸を人工構造物で固めてきたのです。海岸は常に変動する場であり、海岸線に構造物を設置するだけでは対処できないことは工学の分野でも明らかになりつつあります。世界を見ると、欧米ではイギリスをはじめ各国で構造物主義を大きく見直しつつあり、アジアの新興国は当初から動的な海岸の環境に配慮した制度設計を行おうとしています。日本は環境配慮のない中で制度をつくり、全体を見直す機会がないまま、付け足しや一部変更だけでとどまってきました。そして、海岸を構造物で固める事業は、国土と人命・財産を守る防災事業として民意にも支えられ、原因の精査が不十分なまま、護岸やブロック投入という対処療法的な対応が全国で続けられてきました。防災工事に異論を唱えることが地域において反社会的な行動とされ、国土保全のあり方の社会制度まで問う全国的な動きには至らなかったのです。東日本大震災では、大きな地盤沈下が生じました。従来通り、国土保全の原則にのっとったままでは海没個所を線で守るために強固な構造物をつくらなければ対応できなくなります。コンクリートの巨大防潮堤がスタンダードとして示されてしまうのは、従来の原則に基づいた結果です。 ▼地域知を再発見し新たな沿岸管理計画を しかし今こそ、このような沿岸管理の歴史を実証的に調べ、制度に踏み込んだ変化を求める時機にきています。沿岸管理の問題は、決して東北沿岸の被災地だけの問題ではありません。海岸防災工事は、全国でこの数年間に急激に進みます。現在、太平洋岸をはじめ各地で計画段階に入っています。巨大防潮堤のような従来通りの方法ではない道を探るなら、今が意見を言う大事なタイミングです。そして、代替案の検討に入るならば、地域の海岸の歴史、地形、動植物などの情報を集中的にまとめていく必要があります。ここが、地域で長く自然観察をしてきた人の出番であることは間違いありません。大分県中津干潟、沖縄県嘉陽海岸、千葉県鴨川沿岸は、いずれも、根本を問い直す自然保護運動があり、海の自然環境に関するデータを蓄積したうえで、利害関係者が共に解決の道を探る場がつくられてきました。相互不信を脱却し、具体的なデータを持って共に未来をつくろうとする場ができて初めて、海岸の総合的な将来像を考える時間的、精神的な余裕が出てきます。日本の沿岸管理が多くの問題を抱えていることは行政も自覚してきています。だからこそ隘路を探る場が確保されれば、それぞれの人たちが持っている良さがかみ合ってくるでしょう。新たな沿岸管理計画を見出し、調整するために必要な苦労は多大なものになります。それを超えてでも、よりレベルの高い沿岸管理を目指す覚悟が、今、行政や地域住民、そして私たち一人ひとりに求められているのです。海岸を「線で守る」から「面で対応する」転換には、その場所に合わせた土地利用計画も欠かせません。現在は、海岸管理のあり方を「利用」「環境」「防災」と要素に分けて考えていますが、海辺に暮らした先人たちは自然を総合的にとらえ、自然条件に即して土地利用を行ってきました。この先人たちの知恵こそが「地域知」です。海岸の自然を見つめ続けてきた住民、自然に依存して生業を営む漁業や観光業、そしてナチュラリストたちによってこそ、この「地域知」は再発見され、新たな沿岸管理手法がつくられていくはずです。 *1-2:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10202/70657 (佐賀新聞 2014年6月4日) 「緑の防潮堤」国の補助明確化、改正海岸法が成立 大規模地震に備え防潮堤と防災林を一体化して津波の被害を軽くする「緑の防潮堤」の整備を進めるための改正海岸法が4日の参院本会議で可決、成立した。通常の防潮堤と同様に海岸保全施設の一つに位置付け、地方自治体が整備する場合に国の補助対象になることを明確にした。緑の防潮堤は、通常の防潮堤の陸側などに土を盛って植林したもの。基礎部分が強化され倒壊しにくくなるほか、防潮堤を越える高さの津波が来ても防災林が勢いを弱めて、内陸への到達時間を遅らせる。またコンクリートがむき出しになった防潮堤に比べ、景観への影響を小さくできる。現状でも建設は可能で、宮城県岩沼市では国が整備を進めている。ただ海岸法に規定がないため、自治体が建設しようとしても国の補助が出るのか不明確だった。このほか改正法は、東日本大震災で水門の閉鎖に当たった消防団員が犠牲になったことを踏まえ、海岸を管理する都道府県などに対し、安全確保のため水門の操作規則を作ることを義務付ける。 *2-1:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/69448 (佐賀新聞 2014年5月31日) 唐津湾、海岸浸食で住民から聞き取り 海岸浸食が問題となっている唐津湾を調査している検討委員会(委員長・小島治幸九州共立大名誉教授)は30日夜、唐津市で地元住民から浸食経過の聞き取りを行った。住民からは沖合での海砂採取との因果関係を問う声が相次いだ。佐賀県が今年初めに行った調査によると、西の浜と浜崎海岸で海岸浸食が進んでいるものの、湾全体は砂が堆積傾向にあるという。住民からは「沖合での海砂の採取量と海岸線の変化を検証すべき」との意見が出され、小島委員長は「海砂採取も原因の一つとして検討する必要がある」とした。一方、湾内で砂が堆積傾向にあるとの調査結果に対し、漁業者から「底引き網に石が引っかかり漁ができない状態が続いている」と疑問の声も上がった。 *2-2:http://qbiz.jp/article/38553/1/ (西日本新聞 2014年5月27日) 長崎・佐賀のまき網漁業、2社1組合が破産申請 負債計77億円 東京商工リサーチ長崎支店によると、長崎、佐賀両県を拠点にまき網漁業を営むまる川漁業(長崎県新上五島町)と丸福漁業(長崎市)、悠久漁業生産組合(佐賀県唐津市)が、破産申請準備に入ったことが分かった。負債総額はまる川漁業が約44億円、丸福漁業が約23億円、悠久漁業生産組合が約10億円で、合計は約77億円と見られる。協業体制で再建を目指していたが、多額の債務を抱えたままでの再建は困難と判断。破産により債務整理を行い、2月末に設立された別会社に事業を継承する予定という。いずれも1948年から54年に設立された老舗だが、水揚げの減少などで経営が悪化。減船などで再建を目指していたという。 *3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140604&ng=DGKDASFS0304Z_T00C14A6MM8000 (日経新聞 2014.6.4)年金「現役収入の半分」以下、長期見通し 目標達成難しく 厚生労働省は3日、公的年金の長期的な財政について8つのケースの見通しをまとめた。ほぼゼロ成長が続き、女性や高齢者の就労が増えない3つのケースでは、約30年後までに会社員世帯の年金水準は政府が目標とする現役会社員の収入の50%を下回る。50%を維持する5ケースも年金の運用利回りが4%台など強気のシナリオが前提だ。将来の年金が減るという若年世代の不安を和らげるには、女性の就労促進に加え、現在の高齢者への給付抑制など抜本対策も急ぐ必要がある。厚労省は経済成長率や働く人の数が異なる8ケースで、将来の給付を試算した。少子高齢化に合わせ給付額を抑える「マクロ経済スライド(総合2面きょうのことば)」は2015年度から発動する前提だ。ただ、現行の仕組みは物価が1%ほど上がらないと十分に効果が出ない。14年度に会社員の夫と専業主婦の妻が受け取る年金は合計で月額約21.8万円。現役会社員世帯の平均収入に対する年金の割合(所得代替率)は62.7%だ。政府は04年の年金改革で所得代替率は将来も5割以上を維持すると約束した。しかし今回の試算は働く人が増えず実質経済成長率がほぼ横ばいの3つのケースで41年度までに5割を下回った。最悪シナリオでは36年度に50%、55年度に39%まで下がり積立金は枯渇する。一方、所得代替率が50%を確保する5つのケースは働きに出る女性や高齢者が急増するという楽観的な前提だ。現在の日本は働きに出る女性の割合が子育て期の30代前半に下がるが、このへこみが消え、30年には86%と現在より16ポイントも上がると想定した。60代後半の男性も3人に2人が働きに出る。働きに出る割合が現在と同じ場合と比べ、全体で約600万人増える見通しだ。楽観的な5つのケースは経済シナリオも今後10年間は実質2%成長という政府の見通しに基づく強気の想定だ。120兆円を超える年金積立金が4%を上回る高い利回りで運用し続けられる。最も楽観的なケースの所得代替率は50.9%で下げ止まる。働く人が増え、高い経済成長を続け、運用で高い収益をあげ続ける――これらの前提が1つでも崩れれば所得代替率は50%を割り込む。今後20年間は団塊世代への年金給付で年金支出が急増する。8ケースのうち6ケースは物価が毎年1%超上昇し、マクロ経済スライドで給付の伸びを抑制できると想定した。だが、実際の物価上昇率は1%を下回ることもあり、現在の名目の年金額を減らさない条件付き発動では給付を抑える効果が薄れる。物価上昇率に関係なく必ずスライドを適用し支給を抑える仕組みを早急に導入しなければ、若年世代の将来の年金水準の低下を防ぐのは難しくなる。 PS(2014.6.12追加):*1-1に書かれているように、環境を破壊するコンクリートの巨大防潮堤をやめ、緑の防潮堤や高台移転などの街づくりに変更すれば、*4の幼児教育の無償化・義務化の費用くらいはすぐ出る筈だが、「福祉や教育の費用は、消費税からしか出せない」と言う人がおり、これがおかしいのである。しかし、このような馬鹿なことを無くすためにも、教育は重要だ。 *4:http://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20140612&c=DM1&d=0&nbm=DGKDASDG1103W_R10C14A6EA2000 (日経新聞 2014.6.12) 幼児教育の無償化 財源メドなく 教育再生実行会議が素案で示した小中一貫校の創設や幼児教育の無償化・義務化の検討を中心とする学制改革案。鎌田薫座長は11日の記者会見で「会議の委員から積極的に賛同する意見をいただいた」と述べたが、財源など課題もある。文部科学省内から「実現が最も難しい」との指摘があるのは幼児教育の無償化だ。試算では、3~5歳児の幼稚園と保育所の私費部分を無償化すると7840億円の国庫負担が必要。5歳児だけでも2610億円かかるが、素案は具体的な財源に言及しなかった。義務教育化のハードルも高い。検討対象とする5歳児は55%が幼稚園、42%が保育所に通う。公立が9割超を占める小・中学校とは異なり、運営主体は幼稚園の8割、保育所の6割が民間。全国で一定の教育水準を確保するのは簡単ではない。「小中一貫教育学校」(仮称)をめぐっては、先取りする形で、東京都品川区などの960校で小・中学校が連携する取り組みが特例として導入されている。中1ギャップの解消などの成果が報告されており、文部科学省は制度導入そのものについて大きな障害はないとみているが、学校関係者からは「通常の小中学校との間で転校すると、カリキュラムが異なり、子供が戸惑うのでは」と懸念する声もある。職業教育専門の高等教育機関の創設は、2009~10年に中央教育審議会でも議題にのぼったが、学生確保で競合する大学側からの反発に配慮し、見送られた。
| 農林漁業::2014.2~7 | 11:02 AM | comments (x) | trackback (x) |
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2014,06,09, Monday
2014.6.7農業新聞より 2014.6.9日経新聞より (1)“改革”の目的は何で、手段は目的を達成するために有意義か否かを検証すべきだ *1-1により、農協改革の主な論点は、1)中央会制度の廃止 2)全農の株式会社化 3)准組合員の利用規制になったそうだが、“改革”の目的を明確にしている記事は少ない。 しかし、*6-1で、日経新聞が「①兼業脱却」「②小規模兼業農家の影響の排除」「③一人一票制という農協の意思決定の仕組み打破」「④組合員農家のほとんどは兼業のコメ農家」「⑤成長する農業法人は、規模は大きくても兼業と比べると数が少なく、農協の方針を左右するのは難しい」「⑥いまの制度では、JA全農が非農協系の農業法人の農産物を中心に売れば是正の対象になるが、株式会社になれば、JA全農は事業の拡大を目指し、有力な農業法人と本格的に組むことが可能になる」「⑦農村票の力で政治を揺さぶってきたJA全中の廃止は、兼業農家の政策への影響を弱めることにつながる」として、本音らしき目的を述べている。 それによれば、この“改革”の目的は、①②③のように、小規模農家が相互扶助するための組合制度を否定して小規模農家の排除を奨めており、その前提には、古くて誤った認識がある。例えば、夫が別の職業に就くと兼業農家(=農業に熱心でない農家)として、妻がよい農業経営をしている農家は無視する。また、④の「組合員農家の殆どは兼業のコメ農家」というのは、転作が進んでいる現在、一部の地域を除いて誤っている。さらに、農村は、大規模農家だけでなく、小規模農家もあって初めて成り立つ。 その上、⑤のような成長する農業法人や、⑥のような非農協系の農業法人は、商社や大規模小売店、大規模製造業などと直接取引する機会があり、JA全農と取引しなくても有利な販売先を見つけることができるため、既にそうしているところが多い。つまり、小規模農家こそ、まとまって産地でブランドを作ったり、販売先や販売方法を得るために農協が必要なのだ。また、⑦の「JA全中は農村票の力で政治を揺さぶってきた」というが、これは、労働組合と同じく適法であり、民間組織がどの政党(もしくは誰)を応援しようと、政府から苦情を言われる筋合いはない。 そして、*6-1で、「今回の農協改革はこうした構図を変える一歩となりえ、規制改革会議の提案は、こうしたJA全中の役割を縮小し、シンクタンクのような組織にすることを狙っていた」というのは、目的と手段が間違っており、大規模法人の利益のために組合を潰すというのだから、それは違法行為である。 (2)中央会制度の廃止について *1-1に、規制改革会議が農協法に基づく中央会制度の廃止を提案したことについて、①2011年の東日本大震災で被災した複数の組合長が、農業やJAの復興に都道府県中央会や全中などが貢献したことを報告し、単位JAや県域をまたぐ問題が発生した場合の役割は大きい ②中央会は監査で検出した問題をJAバンクと共有して経営改善指導を行うことでJAの経営破綻の未然防止に寄与している ③全中が廃止されれば「監査」と「経営指導」の両輪が機能せず、指導の実効性が失われる ④全国監査機構の監査から公認会計士監査になればJAのコストも増える可能性が高い などと書かれている。 私は、①の主張はもっともだが、これは農協法に基づかなくても、農協組織の内部規則で決めればよいことで、完全な自主組織になった方が、政治に翻弄されずに自由にやれるメリットがあると考える。また、*1-2では、「実質的なJAグループの解体につながりかねない」としているが、それは、JAの組合長や会長が会議を開き、自主組織になっても司令塔機能を持つ中央会制度をいただくことを、団結して決議すればよいことである。 但し、監査については、監査の専門家から見て、全国監査機構を通じて中央会が行う監査は、内部監査であって独立性のある外部監査とは言えず、出資している組合員数や資産・負債の額から考えて公認会計士の外部監査も必要であり、長くは書かないが、これはコストが増えるよりもメリットの方が大きい。 (3)全農の株式会社化について *6-1によれば、規制改革会議は、大規模農業法人の利益に資するために全農の株式会社化を提案しているが、そうなると小規模農業者が組合を通じて地域として闘うことができなくなるため、私は全農の株式会社化には反対である。そして、*3-2、*3-3に書かれているように、現在の農業の実態を踏まえず、協同組合の意味も目的も知らず、改革を行うのに株式会社化しか思いつかないような人は、”有識者”と名乗っても、改革を提言する資格はない。 しかし、全農が協同組合であっても、独占禁止法の適用除外はなくすべきだ。なぜなら、その方が組合員である農業者も、販売・購買ルートを自由に選択でき、組合で共同販売や共同購入をしたければそうするし、他の取引先の方が有利な条件を提示する場合はそちらを選択して、市場経済による切磋琢磨ができるからである。それでも、農協と包括取引した方がよいと判断する農業者は、農協と取引する筈だ。 (4)准組合員の事業利用制限について *1-1のように、規制改革会議は、「准組合員の事業利用は、正組合員の事業利用の2分の1を超えてはならない」と提案したそうだが、そういうことは、それぞれの組織が決めることであり、准組合員にも支えられているJAにとって、規制改革会議の根拠なき提案は営業妨害でしかない。 また、*4-1、*4-2、*4-3の活動を見ればわかるように、「ただ安いものを買えばよい」とか「その時、儲かればよい」と考えている人たちと異なり、農業・漁業地帯は、安全で高品質な食品を生産するために協同組合を核として地域全体で意識を高め、農協の準会員になっている人も多いため、農協の崩壊は地域社会にもよくない。 参考資料: <農協制度見直し全般に関する記事> *1-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28141 (日本農業新聞 2014/6/7) 農協制度見直し 課題を追う 政府・与党で調整が続く農業改革に関する議論。政府の規制改革会議が示した農協制度の見直しで焦点となっている中央会制度の廃止、全農の株式会社化、准組合員の利用規制についてあらためて整理した。 ●指導と監査の役割重要視を <中央会制度> 規制改革会議は農協法に基づく中央会制度の廃止を提案した。こうした指摘に対し、2日に開かれた全JA組合長・会長緊急会議で、2011年の東日本大震災で被災した複数の組合長は、農業やJAの復興に都道府県中央会や全中などが貢献したことを報告した。単位JAや県域をまたぐ問題が発生した場合の役割は大きいということだ。また、中央会は監査で検出した問題をJAバンクと共有、経営改善指導を行うことでJAの経営破綻の未然防止に寄与している。全中が廃止されれば「監査」と「経営指導」の両輪が機能せず、指導の実効性が失われることになる。全国監査機構の監査から公認会計士監査になればJAのコストも増える可能性が高い。2007年に当時の若林正俊農相は参院農林水産委員会で「中央会における農協指導と監査は車の両輪となって有効に機能している」と答弁している。 ●不採算部門の切り捨て懸念 <全農の株式会社化> 「農業者の利益増進に資する観点から」、規制改革会議は全農の株式会社化を提案した。その目的とは裏腹に生産現場には、農業者の所得減少につながるのではないか、という危機意識が広がっている。協同組合でなくなることで、独占禁止法の適用除外がなくなるからだ。農業者のリスクを分散する共同販売、資材のコスト低減のための共同購入ができなくなる。利益だけを追い求めることになれば、不採算部門の切り捨てなどを迫られ、離島や山間部でサービスの低下を招くことになる。また、税制上の軽減措置がなくなることで、組合員や組合の負担が大きくなるといった不利益もある。 ●条件不利地のライフライン <准組合員> 組合員の在り方について規制改革会議は「准組合員の事業利用は、正組合員の事業利用の2分の1を超えてはならない」と提案した。准組合員数が正組合員数を上回ったことは事実だが、北海道のような農業地帯では構造改革の結果、1戸当たりの経営規模が拡大することに伴い正組合員が減って准組合員比率が高まっているという側面がある。こうした地域や、人口減少によって民間企業が撤退する地域でJAは、ライフラインを担っている。実態を無視して准組合員の利用を制限すれば農業者の営農・生活だけでなく地域社会にも影響が及ぶことになる。JAによって准組合員に市民農園や直売所の利用を促すことで販売事業の増加につなげる例も多いが、利用制限で水を差すことになりかねない。 *1-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28092 (日本農業新聞 2014/6/5) 農協改革3大焦点 「改悪」許せば地域崩壊 農業改革をめぐり、政府、与党の協議が大詰めを迎えた。急進的な規制改革会議の提案は到底受け入れらない。「改悪」そのもので、特に農協改革は実質的なJAグループ「解体」につながりかねない。大きな争点は(1)中央会制度の廃止(2)JA全農の株式会社化(3)准組合員の事業利用制限――の三つだ。いずれも強行すれば地域経済の崩壊につながりかねない。提案は全く生産現場の意見を反映していない。2日に約1000人が一堂に会した異例の全JA組合長・会長緊急会議で、組合長からはJAグループ全体の「解体」につながるとの意見が相次いだ。東日本大震災の被災県の組合長は「全国の組織の仲間が駆け付け、復興の一歩にめどが付いた。他にそうした組織はない」と、協同の力が農業再建に貢献したことを指摘。北海道十勝地方で大規模畑作を営み、担い手の代表でもあるJA全青協の黒田栄継会長は「提言は逆に農業者を窮状に追い込む。改革は自らの意思で行うべきだ」と強調する。政府・与党の農協改革論議は、こうした不安と不信感を踏まえ現場の声に率直に耳を傾けるべきだ。各地方知事会の緊急提言は、行政責任者としての危機感の表れだ。政府、与党の調整は難航しており、取りまとめは週明けにずれ込む見方も強い。それだけ、農協、農業生産法人、農業委員会の抜本改革は大きな課題を抱えている。自民党は農林幹部が連日、内部協議を続けている。だが全議員が参加できる合同会合は5月21日以降、2週間開かれていない。この時は100人以上が参加し、農協改革提言に対しさまざまな懸念と注文が相次いだ。国会議員一人一人は投票を通じて選ばれ地域を代表する存在だ。農協改革は地域経済そのものの盛衰に結び付く問題だけに、各自が地方の思いを代弁した。早急に全議員の会合を再開し、開かれた議論を通じいま一度、農協改革の疑問点、課題、自民党全体として譲れないぎりぎりの一線を確認すべきではないか。三大争点は、どれも対応を一つ間違えれば地域農業に取り返しのつかない打撃を与えかねない。司令塔機能を持つ中央会制度で県中を存置する一方で全中の社団法人化などの一部報道は、組織の「分断」以外の何物でもない。全中、県中一体での中央会制度である。全農の株式会社化は独占禁止法適用と表裏一体で、経済事業の根幹である共同販売が困難になる。さらに問題なのは准組合員の事業利用制限だ。提案は正組合員の2分の1を超えてはならないとした。准組合員はJAにとって農業・地域に貢献するパートナーと位置付けている。農業の構造改革が進む北海道では全体の8割が准組合員だ。過疎化が進む中で、JAはなくてはならない組織だ。利用制限は地域の生活基盤崩壊にもつながる。 *1-3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28058 (日本農業新聞 2014/6/3) JA自己改革を決議 農家所得増大へ 全組合長・会長緊急会議 JA全中は2日、政府の規制改革会議がJAグループの解体につながる農協制度の見直しを提言したことを受け、東京都内のホテルで全JA組合長・会長緊急会議を開いた。JAと連合会などが連携し、自らの意思で改革に取り組むことを確認する決議を満場一致で採択した。参加した組合長からは、組織の力を結集して自己改革に取り組み、農業・農村の振興に役割を発揮し続けることの重要性を訴える声が相次いだ。規制改革会議は、(1)事実上の信用・共済事業の分離であるJAの代理業方式(2)准組合員の利用制限(3)JA全農の株式会社化(4)農協法に基づく中央会制度の廃止――などを提言。決議はこれらの提言について、「組織全体の結集力を弱め分断を図り、JAグループ全体の解体につながる」として強い危機感を示した。その上で、JAグループの改革は自らの意思で行うことが「民間の自治組織である協同組合としての大原則」と強調。JA・連合会・中央会が一体となって組織・事業を改革することで、農家組合員の所得増大を実現し、JAの事業を利用する地域住民の期待に応えていく決意を示した。出席した組合長からはJAグループの改革は自ら行い、農業や地域の振興に役割を果たすべきだとの意見が相次いだ。規制改革会議の提言については「生産現場や地域のためにならない」という意見が出た。また、2011年の東日本大震災で被災した複数のJA組合長が、農業やJAの復興に都道府県中央会や全中などが貢献したことを強調。非常事態から、農家組合員の経営を守る機能を発揮することの重要性を指摘した。会議では、中央会の指導について、JAがこれまで以上に地域の創意工夫を発揮できるよう、経営指標などに基づく一律的な指導から、JAの販売力強化に向けたチャレンジを後押しする個別指導にできるだけ転換する方針をあらためて整理した。JAの信用事業の代理業務化については、全国一律で強制するのではなく、組合員が適切な事業の態勢を選べるよう、代理業の実施方式などについて農林中金などが明確化することも確認した。 ●JAグループの組織に対する攻撃をはねのけ自らの意思に基づく改革の実践に関する決議 JA全中が2日開いた全JA組合長・会長緊急会議で採択した決議は次の通り。われわれ、農業協同組合組織は、これまで一貫して、地域の農業者、地域住民と共に歩みを進め、常に自らの改革を実践することで環境の変化に対応し、今日の姿を築き上げてきた。農業と地域に根差した協同組合であるJAグループは、次代においても引き続き環境変化に対応し、自ら組織・事業の改革・革新に取り組まなければならない。こうした中、規制改革会議は、事実上の信共分離であるJAの代理業方式、准組合員の利用制限、全農の株式会社化、中央会制度の廃止などを打ち出した。規制改革会議の意見は、全ての項目が組織全体の結集力を弱め分断を図り、JAグループ全体の解体につながる内容となっており、われわれ自らの意思による改革を無視したもので断じて受け入れることはできない。改革は、自らの意思に基づいて行うものであり、民間の自治組織である協同組合としての大原則である。われわれは、農家組合員の所得増大やJAの事業を不可欠とする地域住民の思いに応え、これからもそれぞれの地域で総合事業を基本に、組合員の負託に応え責任を持って事業を展開していく覚悟である。そのためにも、組合員への最大奉仕という目的を貫徹し、JA・連合会・中央会が一体となって、われわれ自らの組織・事業の拡大・革新に果敢に取り組んでいく所存である。以上、決議する。 <中央会制廃止に関する記事> *2-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=27717 (日本農業新聞 2014/5/15) 「農協解体」の危機 総合事業、中央会制廃止 規制改革会議が農業改革案 政府の規制改革会議は14日、農業改革案を公表した。農協については、中央会制度の廃止、准組合員の利用制限、信用・共済事業の移管などを提言し、組織・事業の解体につながりかねない見直しに踏み込んだ。これらを実行すればJAの経営を揺るがし、改革の本来の目的である農業者の所得向上に逆行しかねず、生産現場や与党から強い反発の声が上がるのは確実だ。「農業改革に関する意見」と題し、同会議農業ワーキンググループ(WG、金丸恭文座長)が同日の会合でまとめた。この内容がそのまま実現するわけではない。政府は今後の与党の議論も踏まえ、6月に改訂する成長戦略に盛り込む。現場の実態に見合った内容に押し戻せるか、与党が6月初めにまとめる対案が鍵を握る。今回の改革案は農協、農業生産法人、農業委員会の3テーマについて35項目に及ぶ提言を列挙した。農協については農協法に基づく中央会制度の廃止を提言し、農業振興のためのシンクタンクなどとして再出発するよう促した。准組合員の利用制限も新設し、事業利用額が正組合員の2分の1を超えないようにする。事実上のJAの信用・共済事業の分離も盛り込み、農林中金や全共連に移管し、JAはその代理・窓口業務を行うとした。農委については「自主性・主体性を強化する」として、法律に基づく都道府県農業会議・全国農業会議所制度は廃止する。農委の選任は選挙制度を廃止し、市町村長が人材を選ぶとした。これらは農協や農委などの影響力を弱め、農業者の所得向上というよりも企業のビジネスチャンスを拡大しようという色彩が濃い。企業による農地所有の解禁も提言した。農業を一定期間継続しているなどの条件を満たし、さらに農委の許可を得れば、企業は要件を満たしていなくても、企業が農地を所有できる農業生産法人になれるようにする。農業生産法人の要件も大幅に緩和する。事業要件は廃止し、常時農業従事者が過半などとしている役員要件は、役員または重要な使用人の1人以上が従事していればよいようにする。25%以下に制限している企業による出資割合も50%未満に引き上げる。 ●全中会長強く反論 組織の自主性無視 JA全中の萬歳章会長は14日、規制改革会議農業WGがまとめた改革案について「総合農協の解体、組合員への新たな利用制限の導入、JA全農の株式会社化、中央会制度の廃止など、組織の理念や組合員の意思、経営や事業の実態と懸け離れた内容であり、JAグループの解体につながるものだ」と述べ、強く反論した。また、JAグループは民間の協同組合組織であり、組合員の意思と負託に基づいて事業 の改革などを進めていることを強調し、「自主・自立の組織運営の根幹を揺さぶることはあってはならない」と強い危機感を示した。今後は、JAグループが農業所得増大に向けてまとめた自己改革「営農・経済革新プラン」について国会議員らの理解を得るとともに、現場の実態を踏まえたJA改革の実現に向け、全力を挙げる。 *2-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28101 (日本農業新聞 2014/6/5) 農協制度見直しで自民 中央会制めぐり攻防 廃止なら 農政改革に水差す 大詰めを迎えた自民党の農協制度の見直し論議で、中央会の在り方をめぐる攻防が激しくなってきた。論点は農協法に基づく中央会制度を廃止するか否か。廃止すれば中央会は法的根拠を失って機能を十分果たせず、農政改革にも水を差すだけに慎重論は根強い。ただ、廃止論も党内で勢いを増している。農業者の所得向上という本来の目的より、規制改革の実績としてアピールするといった政治的思惑を優先した形で決着する恐れもある。 ●慎重論根強く 政府の規制改革会議は5月中旬、農協法に基づく中央会制度の廃止などを盛り込んだ農協制度の見直し案をまとめた。これを受け自民党は農林幹部が連日会合を重ねており、近く独自案を示す。これを踏まえて政府は最終案を固め、月内にも閣議決定する方針だ。同党農林幹部による議論でとりわけ意見集約が難航しているのが、農協法に基づく中央会制度の廃止の是非だ。廃止した場合、中央会は農協法に位置付けられた「特別な法人」ではなくなる。一般社団法人など任意団体として存続できるが、懸念が強い。農水省がまとめた中央会を一般社団法人化した場合の影響によると、(1)法律に規定された「JAの指導」の根拠がなくなる(2)法定の独自の会計監査ができなくなる(3)独占禁止法の適用除外がなくなる(4)課税が強化される場合があり組合員やJAの負担が大きくなる――といったデメリットがある。半面、目立ったメリットは見当たらない。農政改革でも旗振り役となる中央会の影響力が弱まれば、飼料用米の推進などはより困難になる。農林幹部には「(廃止は)農業・農村の所得向上にどう結び付くのか」「メリットは少ない」といった意見があり、同党の「新農政における農協の役割に関する検討プロジェクトチーム」の森山座長も廃止に慎重な立場とされる。ただ、ここにきて廃止論も勢いを増す。農林幹部や農水省政務三役の一部議員らが強く主張し、同党の石破茂幹事長も3日のテレビ番組で「農協のためであるならば、それは社団法人でもできるのではないか」と廃止容認とも受け取れる発言をした。廃止論の後ろ盾になっているとみられているのが首相官邸だ。見栄えのする内容で改革姿勢を印象付けるとともに、中央会の政治力をそぐ狙いとみられる。ただ、廃止派の中には「全中は廃止だが、都道府県中央会は残すべきだ」「廃止に当たって数年の猶予期間を設け、再来年の総選挙より先送りする」といった意見も出ているもようだ。 *2-3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28118 (日本農業新聞 2014/6/6) 中央会の役割強調 規制改革提案 全中が反論資料 JA全中は5日、JAの経営のリスクを監査で把握し、改善を指導することでJAの経営破綻を防ぐといった中央会の役割を列挙し、農協法に基づく中央会制度の廃止を求めた政府の規制改革会議の提言に反論する資料を公表した。全中と都道府県中央会が一体的に、JAの経営安定や事業の垣根を越えた総合的なサービスなどに取り組み、農業と地域の振興に貢献する決意を示した。全中の冨士重夫専務が同日の会見で東京電力福島第1原子力発電所事故後、都道府県中央会と全中が連携し、損害賠償請求の窓口を一本化して農業者やJAの期待に応えたことなどを説明し、「東日本大震災のような数県にまたがる問題が発生した場合は、(中央会の)ナショナルセンターである全中が補完機能を果たす」と述べ、中央会制度の重要性を強調した。全中は同制度の機能として、(1)監査でつかんだJAの問題を検証し、指導を通じて経営を健全化する経営指導機能(2)JAグループの事業や組織間の調整、また農政、広報のような対外的な活動を行う代表・総合調整機能――を挙げた。その上で、全中が廃止された場合の影響として、全中と県中央会が一体でJAの問題解決を支援できなくなることや、破綻防止のための全国的な自主ルールを運用できなくなることを挙げた。中央会監査から公認会計士監査に切り替わると、監査と指導が結びつかなくなり、破綻を防止する経営指導の実効性が損なわれる。JAが負担する監査のコストも6割ほど増えるという。また、全中が廃止になると、農業政策に現場実態を反映できず、飼料用米の増産といった政策を生産現場に浸透させることも難しくなる。JAグループの組織、事業間の調整機能が弱まれば、農業者を総合的に支援できなくなる懸念もある。一方、全中は、経営指標などに基づく一律的な指導から、JAの農産物の加工や輸出などを後押しする個別指導にできるだけ転換する方向性をあらためて示した。 ●農業の将来に貢献 萬歳会長会見 JAの必要性訴え JA全中の萬歳章会長は5日、理事会後の会見で、政府の規制改革会議の農業改革案が、JAグループの解体につながる提言であることをあらためて指摘した。その上で、「世界に類を見ない総合JAというシステムはこれからも必ず日本農業の将来に貢献すると信じる」と述べた。農協法に基づいた中央会制度の廃止や、JA全農の株式会社化については「JAは地域の農家にとってなくてはならない組織だが、その事業活動を支えてきたのが連合会であり、中央会だ」と述べ、JAグループの組織が一体となって総合事業を行うことの重要性を強調した。この他萬歳会長は、次期全中会長選への対応については、立候補の受け付けが締め切られる19日までに判断する考えを示した。 *2-4:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28056 (日本農業新聞 2014/6/3) 指導の根拠なくす 行政関与は限定的 中央会の社団化 農水省が影響精査 政府の規制改革会議が農協法に基づく中央会制度の廃止を提起したことを受け、農水省がJA中央会を一般社団法人にした場合の影響を精査していることが2日、分かった。メリットとデメリットをまとめ、自民党内での議論にも参考資料として提出した。ただメリットについては、同党内から「農家の所得増大にどう結び付くのか分からない」などの異論が出ている。農水省が挙げる中央会を一般社団法人にした場合のメリットは(1)行政庁による監督(常例検査や定款変更の認可など)がない(2)会員の範囲を定款で自由に定められ、農業法人協会や経済団体を正会員にできる(3)事業の範囲を定款で自由に定められ、農業法人への経営指導などが直接できる(4)JAグループ内の他の一般社団法人などとの合併が可能になり、効率的な再編ができる――の4点。だが、現行でも農業関係団体は准会員にでき、農協法を改正すれば事業範囲の追加もできる。JAグループ内の一般社団法人にはJC総研や家の光協会などがあるが、合併の必要性は乏しい。 一方で、デメリットとしては(1)法律で特別に規定された「JAの指導」の根拠がなくなる(2)法定の独自の会計検査が実施できない(3)独占禁止法の適用除外がなくなる(4)課税が強化される場合があり、組合員やJAの負担が大きくなる――の4点を示した。 JAへの指導については、法的根拠がなくなれば指導力が低下し、効果的な指導ができなくなるとも指摘。これを防ぐために行政の関与を強めても、指導の内容は限定的で、官から民の流れにも逆行するとしている。ただ「一般社団法人でも、会員(JA)が必要と認めれば、会則や契約などを根拠に、現在のような形で経営指導や業務監査などを行うことはできる」ともしている。監査については、「会計監査をJA全中に代わって公認会計士が行うことになる」「指導と監査が切り離され、指導力の低下や(破綻などの)予防的措置が取れない」「JAによっては監査コストが増える」とも指摘した。 農水省はこれらをまとめた資料を、JAなどの在り方をめぐる自民党内での議論に提出。だが党農林幹部からは「(同党が目指す)農業・農村所得の倍増にどう結び付くのか」「デメリットに比べメリットが乏しい」との異論が出ている。ただこれらも参考に、中央会の在り方についても慎重に検討していく構えだ。規制改革会議は5月に示した農業改革案の中で、農協法に基づく中央会制度の廃止とともに、「組織形態の弾力化」として、JAや連合会組織の社団法人などへの転換を可能にするよう提起している。 *2-5:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28066 (日本農業新聞 2014/6/4) 中央会の意義 廃止は成長戦略に逆行 政府の規制改革会議が進める農協改革で、特に看過できないのが「中央会制度の廃止」である。総合調整や経営指導機能を持つ中央会が、なぜ法的に認められているのか。その根本的な理解が欠如している。JAグループが司令塔機能を失えば農政改革や農業の成長産業化が円滑に進まないことは明白だ。批判や不要論を封じ込めるためにも、これまで以上にJAの意欲的な取り組みを支援・指導する中央会改革を加速させたい。 規制改革会議は、中央会廃止の理由として、単協が独自性を発揮し、自主的に地域農業の発展に取り組むことができるようにするためだと明記。中央会主導から単協中心へ、系統組織の抜本的な再構築を求めている。そもそも中央会の一律的な指導が単協の発展をそいでいるという認識が誤っている。JAグループの自己改革「営農・経済革新プラン」でも示したように、中央会は、6次産業化や販売強化などJAの挑戦を後押しする個別指導への転換を明確に打ち出し、実践している。廃止論は、現場起点でJAの事業展開を支援するという中央会の役割を理解していない暴論だ。あらためて中央会制度の機能と役割に触れておこう。一つは、JAグループ間の総合調整機能であり、農家組合員の要望をくみ上げ対外発信する農政・広報活動も欠かせない。もう一つの柱は、監査を通じた経営指導機能である。これらが一体的に機能することで、JA経営の健全性が保たれているのだ。都道府県中央会と全中は、密接不可分の関係にあり、法的にも県中の全中への加入が措置されている。JAグループの司令塔である全中を廃止すれば、指導や調整の法的根拠を失い中央会制度の崩壊に直結する。そうなれば、JA経営破綻の未然防止、農業政策への農業者の意思反映、新農政の推進、東日本大震災など災害時の県域を超えた支援活動、原子力発電所事故の損害賠償請求支援など、さまざまな中央会機能の発揮は困難になるだろう。総合事業体であるJAは、農業者の営農と暮らしを守るだけでなく、広く地域社会のライフラインを担っている。だからJAの指導機関として中央会も重い社会的使命を負っているのだ。会員だけに指導を限定した一般社団法人になれば、到底そのような機能や役割は発揮できなくなる。中央会制度の廃止は、地域社会の振興に逆行するばかりか、政府の目指す農業の成長戦略にも反する。JAは「自主・自立・民主的運営」を綱領に掲げる独立した民間組織である。JAグループは今、自ら課題を洗い出し、農家組合員、地域住民のために何をすべきか実行策を定め、JA・連合会・中央会一体となって事業・組織改革にまい進している最中だ。不断の自己改革でJAへの信頼と存在価値をより高め、農協解体につながる不当な攻撃を封じ込めていこう。 <全農の株式会社化に関する記事> *3-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140607&ng=DGKDAS7TL2L01_W4A600C1EA2000 (日経新聞 2014.6.7) JA全農の株式会社化促す、農政改革で政府が骨格 全中は5年内廃止、与党と詰めへ 政府は6日、今月まとめる農政改革の骨格を固めた。全国約700の地域農協を指導してきた全国農業協同組合中央会(JA全中)は3~5年でなくす。農産物の集荷・販売を事実上、一手に引き受けてきた全国農業協同組合連合会(JA全農)は株式会社への転換を促す。農業に参入する企業との連携をしやすくし、日本の農業の競争力を高める狙いだ。週明けから与党内で調整のうえ、月内にまとめる成長戦略に盛り込む。今秋に見込む臨時国会か来年の通常国会に、農業協同組合法の改正案を提出する。最大の柱はJA全中が地域農協を経営指導したり、監査したりする権限をなくす点だ。農協法から根拠規定を削除する。3~5年の移行期間を設ける案が有力だ。複数の農協がつくる「連合会」として改組する案があり、組織そのものは残る可能性はある。JA全中は戦後の混乱期に赤字に陥った地域農協を立て直すために1954年に設立された。当時は農協の数が1万前後あったが、今は合併が進み、約700。今後の再編はすでに大規模化した農協に委ねるべきだとの声が強まっている。JA全中の政治力が農政の停滞を招いたとの指摘もある。2つ目の柱は、JA全農の株式会社化。JA全農は地域農協が出資する相互扶助組織で、組合員である農家から農産物を集荷し、まとめて販売したり、肥料・農機具など農家の生産資材を共同購入したりする役割を担ってきた。こうした行為は本来、独占禁止法に抵触する可能性があるが、協同組合として適用除外を受けている。株式会社になると、こうした恩恵が受けられなくなる。税制上の恩典もなくなる。この結果、民間企業との資本・業務提携など農業の競争力強化に取り組む機運も高まると政府は判断した。規制改革会議は農産物市場のグローバル化をにらみ、JA全農を株式会社に強制転換するように提言した。政府は強制転換は求めないが、「本体の組織形態の見直しに道筋がつけば、全農は株式会社化する」とみている。すでに全農の事業のうち、物流やコメの販売、青果物の加工など50近くの事業は株式会社化し、事業の効率化を進めているからだ。地域農協が手がける住宅ローンなどの金融事業はこれまで通り認める。ただ現状では融資が焦げ付いた場合の責任も地域農協が負っているだけに、一部で撤退を模索する動きもあるという。農林中央金庫の代理業として窓口業務にとどめることもできるようにする。政府はすでに骨格案をもとに与党と最終調整に入った。自民党内にはJA全中の廃止に慎重論がくすぶるが、石破茂幹事長は受け入れる考えを示している。来週、自民党農林部会などで了承を求める段取りだ。政府は昨年まとめたコメの生産量を減らして米価を維持する生産調整(減反)の廃止に続く、農政改革第2弾として位置づけている。環太平洋経済連携協定(TPP)の妥結をにらみ、農業競争力の強化を急ぐ。 *3-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28111 (日本農業新聞 2014/6/6) 全農 株式会社化 「農家利益と相反」 自民議論で強い懸念 農協制度の在り方などを検討している自民党の議論で、JA全農の株式会社化の是非が焦点の一つとなっている。規制改革会議は株式会社化が「農業者の利益増進」につながるとしているが、同党内では「農家の利益と相反する」との懸念が強い。同会議の改革案は「全農がガバナンス(統治)を高め、グローバル市場における競争に参加するため」に株式会社への転換を提起した。全農は「株式会社化は受け入れられない」との立場だが、農水省は全農を株式会社化した場合の影響を精査。員外利用制限や農協法に基づく事業範囲の制限がなくなり、「経営の自由度が高まる」ことなどがメリットだと分析している。だが自民党農林幹部による議論では、異論が相次いでいる。株式会社の目的は利益の追求であるため、「もうけるために農家から農産物をできるだけ安く仕入れるようになる」「売れそうにないものは引き取らなくなる」など、農家の利益と相反する恐れがあるからだ。また利益追求のため、「不採算部門が切り捨てられる」「地域の違いで公平なサービスが受けられなくなる」との懸念も出ている。需要の多さや配送のしやすさといった条件によって、肥料や資材などの価格が大きく変わる可能性があるためだ。特に、離島や山間部では、サービスが低下する可能性が高い。こうした悪影響を防ぐために「JAグループが全農の株を保有すればいい」との指摘もある。だが単位JAだけで全国に約700あり、地域の事情が異なったり産地間競争もあったりするため「あるJAの利益は、別のあるJAの不利益」(同党農林幹部)となる恐れがある。事業規模が大きいため、将来的に上場を求められる可能性もある。党農林幹部は、JAの経済事業の改革は必要との考えで一致している。買い取り販売の強化などを検討しているが、議論は難航している。 *3-3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28107 (日本農業新聞 2014/6/6) 全農の株式会社化 農業者の不利益に直結 政府の規制改革会議が提案した「JA全農の株式会社化」に生産現場では不安が広がっている。独占禁止法の適用で協同組合の根幹である共同販売や共同購入ができなくなり、農業者の不利益に直結する恐れがあるためだ。全農はこうした協同組合による事業展開の否定論に打ち勝つためにも、農業者の所得向上に向けた販売力をこれまで以上に強めていかなければならない。規制改革会議は、全農の株式会社化の理由として、農業者の利益増進の観点からガバナンス(統治)を高め、グローバル市場における競争に参加するためだと明記。付加価値を獲得できる組織への再構築を求めている。ガバナンスの強化やグローバル市場への事業展開は、協同組合の仕組みでも十分に可能だ。実際に全農は川中・川下に積極的に進出している。昨年12月には消費が拡大するカット野菜を製造・販売する合弁会社をキユーピーと設立した他、JA・6次化ファンドを使った外食企業との新会社設立、和牛輸出などを展開。必要に応じてJA全農青果センターなどの株式会社も設立している。法人の設立・出資に関する定款も変え、迅速な経営判断ができるように整えている。そもそも株式会社が最も優れた法人形態という認識が誤っている。専門家は株式会社化に対し「乱暴だ。協同組合の存在を否定するのは極端過ぎる」と指摘する。協同の力で品質の一定した農産物を安定供給したり、効率的に農産物を流通させたりして、農家の所得向上と食料の安定供給に成果を挙げてきた。株式会社化は農家だけでなく、消費者にもマイナス面が大きい。全農は、JA単独では難しい広域での事業を効率化するための組織だ。小規模で立場の弱い農業者がJAに出資し協同組合を立ち上げ、それを補う形で県組織、全国組織があり、JAと全農は協力関係にある。協同組合だからこそ、独占禁止法の適用除外の措置が講じられている。株式会社になれば独占禁止法の適用除外から外れ、販売事業では共同販売、購買事業では共同購入が同法に抵触し、できなくなる恐れがある。JAと全国本部・県本部との関係も壊れかねない。農産物販売では、売り手と買い手の関係になりJAグループの結集力は弱まりかねない。共同購入も事業規模の減少で効率化が難しくなり、生産資材が従来よりも高値になるかもしれない。協同組合だからこそ山間部など条件不利地にも他地域と同じサービスを提供しているが、株式会社では利益が優先され、こうした地域に悪影響が出るのは必至だ。生産現場からは、安倍政権の掲げる農業者の所得倍増に逆行する、との声が上がる。JAグループは営農・経済革新プランで全農の組織、事業の改革を進めている。協同の強みを生かしてこそ農業の成長産業化と地域活性化は図れる。 *3-4:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28077 (日本農業新聞 2014/6/4) [農業改革 言うことあり 現場発] 全農 株式会社化 独禁法で共販困難 規制改革会議が提起した「JA全農の株式会社化」は農業者の所得の減少につながる――との危機意識が、生産現場に広がっている。独占禁止法の全農への適用で全国本部・県本部を通じた共同販売・共同購入ができなくなり、JAグループ(系統)の価格形成力が弱まる懸念があるためだ。「JA全農が株式会社になり共同販売の仕組みが崩れれば、これまで以上に小売りなどの実需主導の価格形成になってしまうのではないか」。長野県のJA信州うえだ管内でリンゴやブドウなどの果実を1ヘクタール栽培する川上満男さん(61)は、規制改革会議が提案する「全農の株式会社化」の影響を心配する。川上さんは生産物の全てをJAを通じてJA全農長野に委託、販売代金は共同計算で得る共同販売を活用している。「安定出荷できるよう、生産に専念したいから」だ。株式会社化で全農に独占禁止法が適用になるのは、同法の適用が除外されている協同組合でなくなるからだ。これによりJAグループの農産物販売事業で当然となっている全農を通じた共同販売が同法に抵触し、できなくなる恐れがある。長野県では20JAが全農長野に委託し、「全農長野」としてブランドを構築。全農長野が卸や小売りへの売り込みや商談といった販売活動を展開し、安定供給のために県内のリレー出荷体制なども整えている。 ●系統の交渉力低下 全農長野を通じた共同販売ができなくなれば、JAは個別での販売活動を余儀なくされ、大型化するスーパーなどのバイイングパワーで販売条件や価格が悪化、リレー出荷にも支障が出て供給が不安定になることが懸念されている。また無条件委託を前提としたJAと全農長野との関係も壊れかねない。農産物の売り手と買い手の関係になり、JAグループの結集力は弱まりかねない。同JAの塩川壽友常務は「農産物の価格と供給の安定を目指して取り組む共販体制の崩壊は、農家だけでなく、消費者にもマイナス面が大きい」と指摘する。全農が株式会社になれば、農業機械や肥料などの生産資材の共同購入も独禁法に抵触する恐れが生じ、JAグループの農機や肥料などのメーカーとの価格交渉力が低下、生産資材が高値になりかねない。株式会社は利益を最優先する組織で、生産資材を全農がJAに供給する際に、取引量の多寡で価格を変えるようになることも想定される。 ●「所得倍増」に逆行 同JAの芳坂榮一組合長は指摘する。「安倍首相は農業者の所得倍増、規制改革会議は農業者の利益の増進を図ると言っているが、全農の株式会社化はJAグループの販売力と購買力を弱め、農業者の“所得の半減”につながる恐れが強い」。宮城県有数の穀倉地帯、登米市。市内にある東和町域の11ヘクタールで水稲を栽培する農家、丸山祐亀さん(59)は、約8割をJAみやぎ登米が進める「環境保全米」として栽培し、収穫した米をほぼ全量、JAに出荷する。「営農をしながら、生産者自身が米卸など販路を開拓するのは難しい」と丸山さん。全農を通じた共同販売体制を壊しかねない「全農の株式会社化」には首をかしげる。 ●崩れる協同の輪 丸山祐亀さん(59)が暮らす浅草集落では、約80戸の大半が兼業農家。集落の生産者の高齢化も進み、耕せなくなった水田を丸山さんらが引き受ける機会が増加。また宮城県・JAみやぎ登米の稲作部会連絡協議会の委員長の経験者で集落の農業の担い手となっている。その丸山さんが、「全農の株式会社化」で心配するのは、「宮城県産米」として品質向上などに一丸で取り組んできた米作りの輪、協同組合の輪が崩れることだ。「これまで通り各地の米を集めて販売してくれるのか。全農が利益優先になれば販売する米を絞り込み、最終的には組合員のための全農ではなくなるのではないか。(県内でも産地により価格差が生じ)産地間の関係にもひびが入るのではないか」と指摘する。集荷する同JAも疑問の声を上げる。主食用米としてここ数年、環境保全米を含めて年間約3万7000トンを集める。このうち7割を全農通じて米卸に販売する系統出荷に取り組む。小回りが利く単位JAの利点を生かし3割は小規模な卸などに直売しながらも、系統出荷を主軸に位置付ける。理由についてJAは「実需の要望を踏まえてJA全農みやぎなどと共に開拓し、築いてきた看板がある」(米穀販売課)と説明。単位JAでの販売活動では、実需の要求量を調達できないなどで信用を落とし取引先を失ったり、価格交渉力が弱まったりすることを危惧する。JAの小野寺裕幸専務も「例えば、全農の買い取り販売になれば県内JAが取り組んできた共同計算が崩れ、グループの歩調が合わなくなる。場合によっては組合員の安定的な手取り確保には結び付かない可能性もある」と指摘する。榊原勇組合長は「協同組合として全農はこれまで、万が一の時のセーフティーネット(安全網)の役割を果たしてきた。株式会社化でそれが壊れるのが最も怖い」と強調する。 ●危険な利益優先構図 JA全農は販売・購買事業を広く展開する。農業者のリスクを分散するための共同販売や資材コストの低減のための共同購入は、協同組合の強みだ。規制改革会議は全農について、農業者の利益増進に資する観点からガバナンス(統治)を高め、グローバル市場における競争に参加するため株式会社に転換する、と提案した。しかし、株式会社になれば「独占禁止法の除外には該当しなくなる」(後藤田正純内閣府副大臣)。独禁法の対象になることでこうした共同行為ができなくなり、生産者の不利益に直結することが懸念される。現在は協同組合として山間部など条件不利地域でも他地域と同等のサービスを提供している。利益追求が最優 先となれば一定の利益を確保できない事業を続けるのが難しくなり、こうした土地の農業者に悪影響を及ぼす恐れもある。販路拡大や価格形成力の強化に向けて全農は、川中・川下に積極的に進出し、バリューチェーン(価値連鎖)の構築に取り組みだした。具体的には、キユーピーとの合弁会社設立や、JA・6次化ファンドを使った外食会社との新会社設立、和牛輸出などだ。法人の設立・出資に関する定款も変更し、迅速な経営判断ができるように整えた。 <準組合員の制限に関する記事> *4-1:http://www.saga-s.co.jp/news/saga.0.2661736.article.html (佐賀新聞 2014年4月12日) 食農教育教材本 小学校約180校に贈る JAバンク佐賀は15日から、小学5年生を対象とした補助教材本『農業とわたしたちのくらし』を県内の小学校と特別支援学校約180校に贈る。2008年から毎年作成しており、今回は林業と漁業の現状も新たに盛り込んだ。食農教育の一環。地域のJAが通常版1万冊、特別支援教育版100冊を各学校に配る。教材本は農作物の生産流通や価格形成の仕組み、里山が果たす環境保全機能を分かりやすく紹介。国産木材の自給率低下、漁業資源を守る活動にも触れている。社会科や家庭科、理科などの資料に使われる。県庁で開かれた贈呈式では、JA佐賀信連の堤秀幸理事長が県市町教育長会連合会の中川正博会長に本を手渡した。 *4-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28091 (日本農業新聞 2014/6/5) [JA自己改革 所得アップへ わが戦略 中] 加工産地形成を主導 JAグループ宮崎 宮崎県西都市。かつて葉タバコ栽培が盛んだった県内屈指の畑作地帯が今、ホウレンソウをはじめとする加工・業務用野菜の産地に変貌を遂げている。その中心にあるのがJA宮崎経済連の子会社「(株)ジェイエイフーズみやざき」の冷凍・カット工場だ。地元のJA西都と連携して生産者を組織化。種まきから収穫までの基幹作業を受託し、機械で行う効率的な生産支援体制をつくり上げた。実需者の信頼を得て、有利販売を実現。農業者の所得向上につなげている。 ●作業受託し経営後押し 主力のホウレンソウは現在、西都・児湯地域を中心に約80戸の農家と栽培契約を結ぶ。作付面積は3年で約90ヘクタールまで拡大、冷凍ホウレンソウの年間製造量は約1400トンに上る。工場は2011年8月に稼働を始めた。急速冷凍装置を備え、収穫後、24時間以内に処理することで鮮度を保ち、実需者から高い評価を得ている。同工場が1日に冷凍処理できる量は約30トン。処理量に合わせた計画出荷が求められる中で、迅速な産地形成を可能にしたのが、同社が独自に開発した「生産管理システム」と、これに基づくJAとの新たな協力体制だ。衛星利用測位システム(GPS)を使って圃場(ほじょう)ごとに栽培面積を把握、生育予測に基づいて種まきなどの日程を割り振る。さらに「フィールドコーディネーター」と呼ばれる担当者が各圃場を巡回し、生育状況を逐次、更新することで、正確な出荷日と出荷量を割り出す。一方、JAは専任職員を配置し、生産者間の調整や加工・業務用野菜に特化した技術指導に当たる。種まきや防除、中耕、収穫といった主な作業は、JAが出資する農業生産法人「(株)アグリさいと」が受託し、農家の労力軽減と計画出荷を両立させた。ホウレンソウを1.1ヘクタールで栽培する青山章三さん(52)は昨年度、10アール2トンを超える収量を挙げた。委託料と肥料代などの物財費を差し引いても同10万円以上が手元に残り「収穫までやってくれるので、栽培に手間は掛からない。農家は土づくりに専念でき、収量を上げれば、安定した所得が得られる」と話す。ジェイエイフーズみやざきは、ホウレンソウの他にも小松菜やサトイモなどの産地化と冷凍加工を手掛け、量販店や加工メーカーなど約50社と取引する。内野宮由康専務は「(量販店やメーカーといった)エンドユーザーに品質の良さをじかに訴えていくことで、まだまだ国産の価値が入り込む余地は大きい」と手応えを語る。こうした中、宮崎経済連も12年、「法人・加工推進課」を設置、大口の農業生産法人への対応を強化するとともに、加工メーカーなどへの営業に駆け回る。既にコンビニ向けのおでん用ダイコンや長期貯蔵用抑制カボチャなど、新たな商品と産地が生まれている。 *4-3:http://www.hokkaido-np.co.jp/news/chiiki2/542168.html (北海道新聞 2014/5/29) コープさっぽろ、函館市の大間訴訟を支援 理事長が意向 コープさっぽろ(札幌)の大見英明理事長は28日、函館市内で北海道新聞の取材に答え、同市が国などを相手に起こした電源開発大間原発(青森県大間町)の建設差し止め訴訟を支援する意向を明らかにした。大見理事長は「店舗などで組合員に募金を呼び掛け、訴訟費用に充ててもらうのも一案」と具体例を挙げた上で「生協としてどんな協力ができるのか、市の要望を聞いてみたい」と述べた。支援方法について、近く函館地区本部を通じて市側と話し合いたい考えだ。コープさっぽろは2012年の総代会で「脱原発」を求め決議。脚本家の倉本聰さんらが呼び掛ける「脱原発『全道100万人』署名」では組合員約30万人が署名したという。大見理事長は同日、函館市民会館での函館地区総代会でも「大間の建設を止めることには意味がある」と訴訟を支援する考えを組合員に説明した。コープさっぽろの3月末現在の組合員数は149万人で世帯加入率(全世帯に対する組合員数の割合)は55・4%、うち函館市内は9万360人で同63・4%。(浜中淳) <与党の対応に関する記事> *5-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140609&ng=DGKDASFS09007_Z00C14A6MM0000 (2014.6.9) 農協改革案、自民容認へ 自民党は政府が検討している全国農業協同組合中央会(JA全中)の廃止を柱とする農協改革案を大筋認める。全国約700の農協を経営指導し、監査するJA全中の農協法に基づく権限をなくすことを容認。どのような新組織に移行するかはJAグループの自己変革を踏まえる立場を示す。9日夕にも決定する党の考え方に盛り込む。農協改革は、支持組織の弱体化を懸念する自民党側の出方が焦点になっていた。党の取りまとめ役である森山裕総務会長代理ら関係議員が8日に都内で協議し、政府案の大筋容認で一致。政府の規制改革会議(議長・岡素之住友商事相談役)が6月中旬に示す答申に反映させる。関連法案は2015年の通常国会に提出される見通しだ。自民党は党の考え方で今後5年を改革集中期間と位置付ける。JA全中については「自律的な新しい組織への移行」を明記。地域農協への指導権限はなくなるものの、複数農協が集まる連合会などに改組して組織を存続できる余地を残す。 *5-2:http://qbiz.jp/article/39421/1/ (西日本新聞 2014年6月9日) JA全中、新組織に移行へ 来年の通常国会に法案提出 自民党は9日、全国農業協同組合中央会(JA全中)を新たな組織に移行するとした農協改革案を固めた。どのような組織に変えるかはJAグループ内の議論を踏まえて決める。政府は来年の通常国会に農協法などの改正案を提出する方向で調整に入った。地域の農協の経営を指導するなどJAグループの司令塔を務めていたJA全中の役割の大幅な見直しは避けられそうにない。自民党幹部は9日午後に開く農林関係の会合に農協の改革案を提示し、理解を求める。自民党案はJA全中を頂点とする中央会制度に関し、「自律的な新しい制度への移行を検討する」と明記した。当初は「5年後をめどに中央会制度を廃止する」方向で調整していたが、党内の反対論に配慮し、表現を変えた。ただ、政府は「JA全中の廃止」を求めており、政府が農協改革案を最終決定する6月下旬までに曲折も予想される。 *5-3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28142 (日本農業新聞 2014/6/7) 中央会制度は必要 週明けに与党協議 公明 政府・与党で議論が大詰めを迎えている農業改革案をめぐり、公明党は6日、JAの中央会制度を存続させる方向で党内の考えを固めた。農政改革などを進めるに当たって、総合調整機能を持つ組織が、全国段階も含めて必要と判断した。指導権限などの一部機能は見直す必要があ るとの認識だが、農協法上の位置付けは残すべしとの考えが強まっている。週明けにも自民党と の与党協議に臨み、最終的な政府案に反映させたい考えだ。同日の農林水産部会(石田祝稔部会長)で党内の意見を集約した。政府の規制改革会議がまとめたJAや農業委員会、農業生産法人の見直し案について、個別論点で結論は出さなかったが、「重大な改革にもかかわらず拙速な進め方で、極めて遺憾」との認識で一致。最終案の取りまとめは井上義久幹事長と石井啓一政調会長、石田部会長に一任した。JA改革では、中央会制度廃止には否定的な考えが大勢を占めた。JA全中については、全国的に総合調整する機能は必要との認識で、一般社団法人ではなく、農協法上の位置付けを残すべしとの意見が強い。だが、一定の改革は不可欠で、指導権限の強さをどうするかなどを引き続き検討するとしている。JA全農の株式会社化に対しても慎重な姿勢を示す。判断に時間をかけるべき中長期的課題として、3~5年の年数を経て検討するべしとの考えだ。信用・共済事業の分離については、農産物販売などの経済事業だけでは単位JAの運営が困難として認めない方針。准組合員の利用制限も、JAが地方の生活インフラを担っていることから、拙速に進めることは難しいとの考えが党内で支配的だ。農業委員会の選任制度をめぐっては、意見集約が難航しているものの、選挙による公選制が望ましいとの立場。市町村の首長による選任に一元化する場合も、政治的中立性を担保する機能が必要とみる。農業生産法人では、企業の参入拡大につながる事業要件や役員要件の見直しに対して慎重な考えで、規制改革会議の案をそのまま受け入れることは難しいとの立場だ。 <組合に関する記事> *6-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140607&ng=DGKDASFS06034_W4A600C1EA2000 (日経新聞 2014.6.7) 「兼業のため」脱却へ一歩 政府・与党が最終調整に入った農協改革は、日本の農業と農政のあり方を大きく変える可能性をはらんでいる。狙いは「規模の小さい兼業農家」の影響の排除だ。問題の核心は「一人一票制」という農協の意思決定の仕組みにある。株式会社とは違い、出資額に関係なく、組合員である農家がひとしく意思決定に参加できる。そのほとんどは兼業のコメ農家。成長する農業法人は、規模は大きくても兼業と比べると数が少なく、農協の方針を左右するのは難しい。この構造を支えてきたのが、各地の農協からJA全農にいたる販売ルートだ。農協はいまもコメ流通の半分近くを握る。コメ卸が「JA全農の提示する値段を動かすのは難しい」と嘆く交渉力を武器に、小規模な農家を温存させてきた。一方、JA全中は県ごとの下部組織と連携して政治に圧力をかけ、強い農家への支援に政策が傾くことに抵抗してきた。例えば農林水産省は2007年に大規模農家に助成を集中する制度を実施したが、農協の巻き返しで翌年撤回した。今回の農協改革はこうした構図を変える一歩となりえる。いまの制度だと、JA全農が非農協系の農業法人の農産物を中心に売れば是正の対象になる。だが株式会社になれば、JA全農は事業の拡大を目指し、有力な農業法人と本格的に組むことが可能になる。農村票の力で政治を揺さぶってきたJA全中の廃止は、兼業農家の政策への影響を弱めることにつながる。問題はJA全中の機能をどんな組織に担わせるかにある。現行制度でJA全中は農協への指導や監査、政府への提言などの機能を持つ。規制改革会議の提案は、こうしたJA全中の役割を縮小し、シンクタンクのような組織にすることを狙っていた。政府・与党はJA全中を農協の連合会に衣替えすることを検討中。この組織が監査権限で農協をしばり、政府に提言する役割を法律で保証されれば、本当の意味で「廃止」とはいえない。農業は高齢化と担い手不足で危機的な状況にある。安倍政権はこうした状況を打破し、「農業を成長産業にする」と宣言する。そのために昨年、担い手の農家に農地を集める「農地バンク」の創設と、生産調整(減反)の廃止を決めた。いずれも目的は強い農業の実現にある。農協改革はこれに続く課題。その先に持続可能な農業の姿が見えてくる。 *6-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=27895 (日本農業新聞 2014/5/26) 農協解体論と与党 地域再生へ力発揮の時 政府の規制改革会議の農業改革案は、いったい誰のための改革なのか。特に中央会制度の廃止などを柱とした農協改革は、実質的にJAグループの解体を意味する。これでは改革の名に値しない「改悪」である。今後の議論は与党にかかっており責任は重い。農業者の所得向上による地域活性化という農業改革の基本線に立ち戻り、与党案をまとめ政府に迫るべきだ。林芳正農相は23日の閣議後会見で、農業改革案での与党との協議に当たり「農協は農業者が自主的に設立した民間機関で自己改革が基本だ」と強調した。言葉の意味合いをかみしめたい。農業改革はいったい誰のために、何のためにやるのか。その基本を忘れ現場の実態を無視した「言葉遊び」は許されない。角を矯めて牛を殺すことになりかねない。農業活性化に向け自民党が公約した「農業・農村所得倍増」とも逆行する。懸命に営農に励む担い手を中心とした農業者へ混乱と先行き不安を募らせるばかりではないか。これでは生産意欲を喪失させかねない。JA全中を「司令塔」とした中央会制度は指導・監査、代表・調整といった単位JAでは果たせない重要で基本的な機能を担い、全国の組織を束ねる。だからこそ、JAが一丸となって農業生産を支援し、国民生活に欠かせない安全で安心な国産農産物を安定的、持続的に提供できる仕組みが担保されている。JAごとに対応したのでは、農業者の所得に直結する米生産調整も実効ある対応ができなくなる。地域農業振興の鍵は地域現場のJAが握っている。その調整を担い、代表するのが中央会だ。原発事故対応の農業補償でも全中、中央会がなければ対応できなかった。改革案は現場の実態を無視し「廃止」「見直し」そして「株式会社化」などの言葉が続く。自民党は反発を強め、現実的な案を6月初旬にもまとめ、政府に実現を迫っていく方針だ。改革案を受けた21日の同党プロジェクトチームでは反発が相次いだ。当然である。この中で「改革ごっこはやめてほしい」「当事者でもない人間が国民の代表である国会議員を差し置いて物事を決めようとするのは納得できない」などの意見が出た。的を射た指摘だ。「政高党低」といわれる官邸主導の手法で、今回の地域つぶし、農協解体論を許すことは絶対にできない。農業者、JAのためだけでなく、国産農産物の安定供給という意味で国民全体にとっても不利益となる。稲田朋美規制改革担当相は「決して農協を解体するという改革ではない」と強調する。それなら「解体」に直結する中央会制度廃止や全農株式会社化などを即刻撤回すべきだろう。国民に選ばれた国会議員、特に与党が力を発揮し、再び「党主導」で地域再生に道筋を付ける改革案を提示すべきだ。議員一人一人が具体的な行動を起こす時である。 *6-3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28139 (日本農業新聞 2014/6/7) JAへの支援約束 全中副会長と意見交換 欧州農業団体 国際協同組合同盟(ICA)グローバル理事会に出席するためベルギーの首都、ブリュッセルを訪れているJA全中の村上光雄副会長は5日、欧州連合(EU)農業団体連合会(COPA)・EU農業協同組合連合会(COGECA)本部事務所を訪問、日本政府の規制改革会議 が示した農協制度の見直し 提案などについて意見を交わした。全中によると、村上副会長は、中央会制度の廃止やJA全農の株式会社化、信用・共済事業の分離といった規制改革会議が提起した農協に関する制度改革の内容を説明。JAグループの取り組みなどに理解を求めた。両団体共通事務局の事務局長であるペッカ・ペソネン氏は「日本の皆さんの懸念はよく理解できる。両団体として支援をしていきたい」と述べ、JAグループの取り組みに対する支持を約束した。村上副会長は「皆さまから支援を頂けることはJAグループ組合員・役職員にとって大きな励みになる」と述べた。 *6-4:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28014 (日本農業新聞 2014/5/31) 農業改革に強い懸念 日本協同組合連絡協など声明 日本協同組合連絡協議会(JJC)は30日、政府の規制改革会議がJAの総合事業や中央会制度の廃止を盛り込んだ農業改革案を示したことについて、自主・自立、民主的運営を基本にする協同組合の在り方を考慮していないとして「強い懸念」を表す共同声明を発表した。JJC加盟団体の他、趣旨に賛同した協同組合6団体も加わり、計20団体が声明に名を連ねている。共同声明は、「時代の変化に対応し、常に改革の努力は必要だが、あくまでも組合員の立場に立った協同組合自身による自己改革が基本」と強調。農業改革案について「一方的に制度改変を迫るものであり、強い懸念を感じる」と訴えている。声明は、JJC加盟の全団体の他、趣旨に賛同した生活クラブ事業連合生協連やワーカーズ・コレクティブネットワークジャパン、労働者福祉中央協議会など、6団体も参加した。JJC会員の一つ、日本労協連の永 戸祐三理事長は「これはJAグループに限らない、協同組合全体に対する攻撃だ。われわれ が目指す協同労働の協同組合の 法制化にも影響を与える」と懸念。「規制改革会議の農業改革案は撤 回すべきだと考える。他の協同組合と連携しながら、取り組みを進める」とした。会員外で賛同した生活クラブ生協連の加藤好一会長は「農業改革案は結果的にJAの解体を意味し、とても認められない」と批判。「協同組合として危機感を持つ。共同声明は第一歩であり、今後も具体的な行動につなげていきたい」と語った。JJC幹事長を務める谷口肇JA全中常務は「多くの協同組合が意を一つに懸念表明していただいたことは、ありがたいことだ。この事実に政府は、しっかりと目を向けてほしい」と訴えた。また、「JA・組合員目線で自らの改革に努力していきたい」と述べた。 <ことば> JJC 国際協同組合同盟(ICA)に加盟する国内の協同組合組織で構成。日本生協連や全漁連、日本労協連、JAグループなど14団体が加盟する。 <農村について> *7-1::http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=27949 (日本農業新聞 2014/5/28) 30年後の市町村人口 農業地帯ほど減少 13年度白書で推計 農林漁業に従事する人の割合が高い市町村ほど人口減が顕著に進むとする推計が、政府が27日に閣議決定した2013年度の食料・農業・農村白書に盛り込まれた。就業人口の10%以上を占める農業が盛んな地域では、30年後の人口が現在の7割弱に落ち込むと推測。経営体力のある担い手の確保を急がなければ、農業生産の弱体化や農村地域が崩壊する恐れのあることが、あらためて浮き彫りになった。同白書が農村部の人口推計を取り上げるのは初めて。林芳正農相は同日の閣議後会見で「農林漁業従事者の割合が高い自治体ほど人口減少率が高くなっている。こういうことを踏まえ、今後どうしていくかを考えなければならない」と強調した。推計は、15歳以上の就業人口のうち農林漁業就業者が占める割合で市町村を三つに区分。人口が10年から40年の間にどう推移するか、国立社会保障・人口問題研究所の推計などに基づき試算した。それによると、農林漁業就業者が10%以上の市町村は、30年間で66.8%に落ち込む。2~10%だと80.0%、2%未満だと89.9%に減ると見込んだ。白書は、農村地域の人口減が今後加速すると予想。「農業生産活動や共同活動の弱体化、地域資源や定住基盤の崩壊」を懸念している。今回の白書は、現在進められている食料・農業・農村基本計画の見直し議論も踏まえた。「人口減にどう対応するか」が大きなテーマになっており、課題認識で足並みをそろえた格好だ。また、将来の食料消費を見通すため、今後増える見込みの「65歳以上の単身世帯」の実態もまとめた。食料消費の支出を13年と03年とで比較。生鮮食品は6.8%減ったが、サラダや天ぷら、フライなどの調理食品は9.5%増えた。農水省は「簡便な食事が好まれている」と分析。「単身・高齢者世帯のニーズにかなった食品、農産物の生産を推進することが重要」と指摘した。 *7-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28076 (日本農業新聞 2014/6/4) 農業・農村衰退を危惧 農協制度見直しで緊急提言 四国知事会 四国知事会は3日、徳島県神山町で開いた会議で、農業政策についての緊急提言を発表した。政府の規制改革会議が示した農協制度の見直しについて、農業・農村の衰退につながることを危惧し「地方の意見も十分に聞き、拙速な見直しとならないよう」強く求めた。各県知事は「唐突だ」「勢いで進めるのは危険」など、地方を置いて進む議論に違和感を表明。緊急提言は早急に政府に提出し、対応を求めていく。会議は4県知事が参加し、四国地域の財政や振興策を幅広く話し合った。喫緊の課題を多く抱える農業分野では、農協制度の見直しへの意見の他、環太平洋連携協定(TPP)交渉での要望や農業の振興・国際競争力の強化など4項目を緊急提言としてまとめた。緊急提言を提案した高知県の尾﨑正直知事は「(規制改革会議の)唐突な提案に、早速地域の農業者から不安の声が強く上がっている。緊急提言が必要だった」と説明。「農協制度は地域の暮らしを守ってきた。改革案には、しっかり地方の声を反映するべきだ」と強調した。愛媛県の中村時広知事は「根本的に変えたらどうなるか考えないまま、勢いで進めようとしている」と危機感を表明。「時代の変化に対応しようとする農協が出てきており、それには中央会の指導が重要だ。初めに(結論)ありきの議論は乱暴だ」と指摘した。緊急提言は4知事の賛成で採択され、できるだけ早い段階で政府に提出する。緊急提言では、TPP交渉について、重要品目の聖域確保などを求めた国会決議の順守、情報の開示、国民の合意の上での参加判断などをあらためて要望。中山間地域の農業振興として施設園芸や露地野菜、かんきつ栽培などの支援と、2015年度から始まる第4期の中山間地域等直接支払制度で超急傾斜地区分を設けることなどを求めた。 *7-3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28122 (日本農業新聞 2014/6/6) 現場の意見踏まえよ 政府に緊急要望書 北海道東北地方知事会 北海道東北地方知事会は5日、政府の規制改革会議の農業改革案に対する緊急要望書をまとめた。JAなどが地域農業の振興や農村地域の生活基盤を支えてきたことを踏まえるべきだと強調。農協制度などの見直しでは、農家や農業関係者の意見を広く聞き、慎重に議論を尽くすよう求めた。東日本大震災被災地の復興加速への配慮も必要だとした。要望書は同日、内閣府と農水省、自民党に提出した。JAなどが中山間地の実情なども配慮した農業振興や生活支援などを行っていることを重視。政府の成長戦略への反映では「地域の農業・農村振興や食料供給等を通した国民生活に十分な機能を果たすような見直しになること」を求めた。また、東日本大震災からの復興には関係団体が一丸となった取り組みが必要であることから「復興の途上にある被災地の活力を決して低下させることがないよう、十分に配慮すること」とした。同知事会は北海道と東北6県、新潟県で構成する。 *7-4:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28121 (日本農業新聞 2014/6/6) 農協制度見直し案 知事から疑問相次ぐ 政府の規制改革会議が示した農協制度の見直し案について、各地の知事が疑問を呈している。地域農業・社会に果たすJAの役割を認める発言や、改革の必要性を認めながらも議論の進め方が性急過ぎるといった指摘だ。知事会も提言などをまとめている。農業地帯、条件不利地を問わずJAグループの役割を評価する意見があった。北海道の高橋はるみ氏は「農協が、専業性の高い北海道農業の発展の中で大きな役割を果たしてきてもらったし、もらっている」と述べた。宮城県の村井嘉浩氏は「農協が農業振興に果たしてきた役割や生活基盤を支える機能を発揮している実態を踏まえた議論が極めて重要」とコメント。島根県の溝口善兵衛氏は「中山間地が多い島根県では農協の果たす役割が大きい」、高知県の尾﨑正直氏も「農協は地域の暮らしを守ってきた」と語る。茨城県の橋本昌氏は「原子力発電所事故後の損害賠償も、農協組織があったからうまくいったと思っている」と中央会の機能を含めて評価。熊本県の蒲島郁夫氏は「JA全中は全国組織として農業に大事な役割を果たしてきた」とし、「制度改革が全てではない」と述べた。議論が性急過ぎる、現場の声を踏まえるべきだという意見も多い。山形県の吉村美栄子氏は「改革の本質が見えず、現場の混乱を招いている」と指摘。愛媛県の中村時広氏も「結論ありきの議論は乱暴だ」と語る。愛知県の大村秀章氏は「自主的な協同組織を変えるのであれば、国民に分かりやすい説明がなければいけない」とした上で、「なぜ中央会を廃止するのか説明しきれていない」と言う。鳥取県の平井伸治氏と広島県の湯﨑英彦氏は、十分な時間をかけて現場の意見を取り入れて議論すべきだと要望。和歌山県の仁坂吉伸氏は「力のある農協の全国組織や県組織を解体し、弱くすると世の中が良くなる、という発想が間違いではないか」と述べた。規制改革や規制緩和自体を疑問視する意見もある。長野県の阿部守一氏は「いろいろな改革をすること自体がいいことだという話ばかりではない」、宮崎県の河野俊嗣氏も「これまで(規制改革の)弊害も出ており、慎重な議論が求められる」と語った。中国地方知事会、四国知事会、北海道東北地方知事会が共同アピールなどをまとめている。日本農業新聞が会見やインタビューなどから主な発言をまとめた。 ●規制改革会議 農協改革案 根拠なく違和感当然 急進的な農協改革を提言した政府の規制改革会議に対する各県知事らの反応や本来のJAの役割について滋賀県立大学の増田佳昭教授に聞いた。 ●滋賀県立大学教授 増田佳昭氏に聞く 複数の知事らが性急な改革や現場実態と乖離(かいり)した規制改革会議の提言に疑問を呈しているのは、規制改革会議が「地方」も「現場」も素直に見ようとしないからだ。提言に対して、生産現場や地方が違和感を持つのは当たり前だ。同会議農業ワーキンググループ(WG)が行ったヒアリングの記録を見れば、現場のJAが組合員の農業経営と地域のために頑張っているのが分かる。何のためのヒアリングだったのか疑問だ。WGでの議論の経過と懸け離れた結論ありきの提言で、驚きを通り越して不快感さえ感じる。何かを変える場合、合理的な理由や根拠が必要だ。提言にある農協法に基づく中央会制度の廃止やJA全農の株式会社化、信用・共済事業の分離といった改変の合理的根拠はほとんど示されていない。誰のための改革なのか。提言は、政治的な背景や動機、あるいは一部の人たちの功名心に基づいているように感じる。大事なのは、組合員のための、地域農業振興のための改革の視点だ。需要に見合った米生産や交付金の申請手続きの支援など、農業の現場はJA抜きに語れない。だが、JAは行政の下請け組織ではない。農業者を中心とする組合員の自主的な自助・共助の組織だ。政府がJAを自分たちにとって都合のいい組織と捉え、組織の根幹に関わることに介入してもいいと考えているなら、それはおごりではないか。日本農業は過渡期にある。農業を支えてきた高齢者はリタイア段階にあり、着実に次の世代の農業者が育っている。その人たちを励ますことこそが農政の課題だ。規制改革会議が求めるような、野放図な企業の土地所有を認めることが農業を発展させるとは思えない。これからも農業は家族経営が中心であることは間違いないし、地域に根差した農業者こそが日本の農業を支える。こうした実態の中では必ず農業者の協同が必要になる。協同を否定する動きは、地域農業の発展にとって百害あって一利なしだ。JAも協同組織としての特性を自覚し、次世代の農業者としっかり腕を組んで頑張ってほしい。それぞれのJAが組合員と共に、組合員と地域社会のための改革にしっかり取り組めば怖いものはない。
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2014,06,06, Friday
(1)森林の役割と保全 森林は、木材の生産、生物多様性・地球環境の保全、土壌の保全、水源、海への養分補給など、多くの役割を果たしているため、これまで木材の生産だけでは採算があわずに放置されてきた民有林にも、*1のように、農林中金が森林再生へ基金を創設して、荒廃した民有林の再生や森林の多面的機能の維持を後押しすることになった。これに先立ち、森林のある地方では、地方自治体が森林環境税を集めて、民有林を含む荒廃した森林の手入れをしているところが多い。 (2)国土の7割もある森林は、林業で有意義に使うべきである わが国の国土の7割もある森林は、資源として有意義に使いたいところで、*2のように、中山間地で農業や林業などの多様なルートから収入を得ている人の報告もある。そして、多くの若者が地域おこし協力隊をきっかけに農村に移住しており、都会から農村に移住した人も、「縁をつなげて自ら動いていけば、新しい道が開ける」そうだ。これは、地域の産業を興し、経済や雇用に資するため、地方自治体も、後押ししてもらいたい。 (3)林業を、日本らしく強い産業にするには・・ 林業を、日本らしく強い産業にするには、*3-1、*3-2のように、林業も6次産業化して輸出するのがよいだろう。住友林業は、2016年度をめどに、米国とオーストラリアで年6000棟の木造住宅を販売するそうだが、日本産の木材を高度な技術でカットし、建設現場では材木を組み立てるだけで目的の家ができるようにして輸出すれば、日本の林業は、高付加価値になると考える。 家のデザインは、輸入国の人が好むものにすべきで、日本文化の押し付けではいけない。しかし、環境技術や自家発電技術など、日本が得意とする分野の製品を組み込めば、人気が出ることは間違いない。また、家具も、世界で人気が出るような現代的な木(竹)製家具を作って輸出することを考えたい。それなら、現代の若者も、林業に大きな魅力を感じるのではないだろうか。 *1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=27502 (日本農業新聞 2014年5月3日) 森林再生へ基金創設 農林中金 農林中央金庫は2日、公益信託農林中金森林再生基金(農中森力=もりぢから=基金)を創設したと発表した。荒廃した民有林の再生や森林の多面的機能の維持を後押しする。地域の中核を担う林業事業体が取り組む先進事例に助成する。同基金は間伐などの整備を地域で一括して行いコストを削減する「施業集約化」や、間伐した木材を森林の外に運び出して木質バイオマス(生物由来資源)や木材加工品などの材料に利用する「搬出間伐」などを加速する取り組みを支援する。6月から募集して助成先を決めた後、2015年4月から助成事業を始める予定。対象は非営利法人の林業事業体で、森林組合や特定非営利活動法人(NPO法人)に加えJAや漁協なども含む。期間は5年で、総額は10億円。1件当たりの助成限度額は3000万円としている。農林中金が全森連や農中信託銀行と連携して運営する。農林中金はこれまで、公益信託農林中金80周年森林再生基金(FRONT80。期間10年、総額10億円)で全国の林業事業体を支援してきた。この基金は14年度の助成事業で終了する。実績は52件、助成決定額は9億4200万円となった。この後続として農中森力基金を創設した。引き続き国内の森林再生や国土保全をサポートする。 *2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=27497 (日本農業新聞 2014年5月3日) [根を張る若者たち 地域おこし協力隊のその後 3] 林業再生にアイデア 島根県吉賀町 中国山地に囲まれた島根県吉賀町。山を見詰めながら「町の人にもう一度、山に関心を持ってもらいたい。その仕組みを根付かせたい」と夢を描くのは小林健吾さん(36)。シイタケや山菜などが豊富に採れる山は、かつて町民の暮らしの一部だったが、現在は間伐が行き届かず、荒れていた。 ●山村の収入源 多様に そこで小林さんは、地域おこし協力隊を“卒業”した2011年から町の助成金を得ながら「木の駅プロジェクト」に取り組む。プロジェクトは、山から間伐した木材などを「木の駅」に出荷すれば、町内の商店などで活用できる地域通貨がもらえ、山の手入れをすればするほど地域経済が潤う仕組み。通貨は市場価格より高めに設定するのがみそだ。岐阜県で発祥し、現在、山村を抱える全国の自治体で導入が進む。小林さんは、この仕掛けを町に根付かせようと奔走する。現在、小林さんは「木の駅プロジェクト」の他、米作り、林業の技術伝承、記事の執筆や養蜂など多様なルートから収入を得ている。小中学校での講師も引き受け、将来的には農林産物の加工販売も手掛ける考えだ。「一つのことで大きくもうけなくても、農林業を中心にさまざまな仕事を仕掛け、自分のできることをたくさん増やしていく。そんな生活が中山間地域には合っている」と小林さん。農業や林業の専業は厳しいが、地域にある素材を生かして仕事の枠を少しずつ広げながら、年間通して暮らしていける今のスタイルに行き着いた。そんな姿は、町の若者にも刺激を与える。同町産業課の田渕晋平さん(30)は「いろいろな情報にアンテナを張る姿はとても勉強になる」と林業振興に励む日々だ。きっかけは、首都圏でサラリーマンをしていた時、人づてに同町が地域おこし協力隊を募集していることを知ったこと。今後の自分の人生を模索した結果、思い切って入隊を決断した。定住に踏み切れたのは、地域おこし協力隊時代に、山奥の集落で有機農業を営む人たちとの出会いが大きい。条件不利地を嘆くわけではなく、農業に志を抱き、生活している人たちばかりだった。「この縁を大切にし、この町で生きていきたい」。町の人や農村に移住した先駆者を見ながら、定住可能な方法を編み出した。都会から農村に移住した人たちとの交流にも力を注ぐ。「多くの人たちは、農村への定住は収入面などでハードルが高いと言う。でも、縁をつなげて自ら動いていけば、新しい道が開けるんじゃないかな」。小林さんはそう感じている。 メモ:若者が中心 総務省によると、2013年6月までに任期を終了した隊員366人の8割以上が20、30代。多くの若者が地域おこし協力隊をきっかけに農村に移住している。移住者の65%を男性が占める。 *3-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140605&ng=DGKDZO72286390U4A600C1TJ1000 (日経新聞 2014.6.5) 住友林業、米豪で年6000棟、木造住宅 海外販売、16年度1.7倍 住友林業は2016年度をめどに、米国とオーストラリアで年6000棟の木造住宅を販売する。米子会社などを通じた現在の海外販売は年3600棟と、日本の住宅メーカーでは海外戸建て販売の最大手だが、さらに7割近く増やす。独自技術を取り入れた住宅を加える。海外での分譲用地取得費も現状比で約7割増の年300億円程度に引き上げる。住友林業は米テキサス州の中堅住宅販売会社ギーエン・ホームズを5月に買収するなど、昨年から今年にかけて米豪の住宅販売会社を傘下に収めた。買収先の販路を生かして事業を拡大する。米国では販売計画を今年度の1700棟から3000棟に引き上げる。買収企業を含む米グループ3社で、土地価格の変動が小さい南部のテキサス州を中心に分譲用地を取得し、需要を開拓する。西部のワシントン州が地盤で高価格帯を強みとする子会社ヘンリーUSAが今夏テキサス州に進出。中価格帯のギーエンなどとすみ分ける。テキサス州は比較的平地が多く、土地開発費が少なくてすむという。人口も増えており、住宅需要は引き続き高いとみている。豪州ではビクトリア州の子会社が1900棟を3000棟にする。分譲住宅だけだったニューサウスウェールズ州でも注文住宅を受注する。住友林業の国内販売は約9000棟。効率の良い動線など日本の住宅事業で培ったノウハウを積極導入する。日本の購入者のニーズを工事図面に描く作業を中国子会社で実施しており、米豪でも活用する見込み。世界で木造住宅の市場が大きい国は日米豪の3カ国。ただ、国内は今後、少子高齢化で戸建ての購入が落ち込むと見込まれるため、海外に経営資源を振り向ける。米商務省がまとめた4月の米住宅着工件数(季節調整済み、年率換算)は前月比13%増の107万2000戸で、市場予想(97万5000戸)を上回り好調に推移している。同社はカナダから木材を調達。米国だけで5000棟規模の販売を目指し地場の住宅メーカー買収によるもう一段の規模拡大も視野に入れる。 *3-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140504&ng=DGKDZO70775520U4A500C1PE8000 (日経新聞社説 2014.5.4) 林業再生へ国産材を生かす技術開発を 日本の国土の3分の2を占める森林には、山崩れを防いで雨水をため、温暖化ガスを吸収するなど様々な機能がある。森林浴をすれば気分がさわやかになるだろう。今日は「みどりの日」。私たちにとって森が大切な資源であることを改めて確認したい。森林が本来の役割を果たすには、下刈りや間伐をして適切に管理することが欠かせない。しかし、林業の担い手は5万人に満たず、高齢化も著しい。適切に手を入れるどころか、放置されている森が増えているのが実情だ。一方では、戦後に植林した人工林が伐採に適した時期を迎えている。すでに合板では輸入材に代わって国産材を使う動きが広がっている。林業を立て直す好機だ。国産材の需要をさらに増やす必要がある。林野庁は木造住宅を建設した場合などに、最大で60万円相当の特産品などに交換できる「木材利用ポイント事業」を実施し、一定の効果をあげている。だが、政府が補助金を出して消費を喚起する政策には、おのずと限界がある。大切なのは戸建て住宅以外でも国産材を広く使えるよう技術開発を進めることだ。たとえば今、板の繊維の方向が交差するように重ね合わせてつくる新型の集成材パネル「CLT(クロス・ラミネイティド・ティンバー)」が、注目されている。これまでの木材パネルに比べて耐火性や強度に優れ、鉄筋コンクリートよりも軽いので施工もしやすい。オーストリアなど欧州ではすでにCLTを使った10階建て程度の中層ビルが建設されている。国内でも、岡山県真庭市が市営住宅にCLTを使う計画だ。本格的に普及させるには建築関連の法整備が要る。林野庁や関係団体は実証実験を積極的に進め、木造ビルの建設が可能かどうか早期に判断してほしい。木質バイオマスを使った発電所の建設も全国各地で進んでいる。CLTなどの新型材で木造建築物を増やし、木くずや樹皮なども発電所で有効活用できるようになれば、木材の利用価値が高まり林業の採算性は向上するだろう。1964年に木材輸入が完全に自由化されて、今年で半世紀になる。その後、輸入材に押されて国産材価格は低迷し、林業は長い冬の時代が続いてきた。その林業が再生すれば、地域に雇用が生まれ、山もよみがえる。 白樺林 *4より *5より PS(2014.6.6追加):私は、燃やすのは最も付加価値が低く、木材のもったいない使い方だと思うが、廃材や他に用途のない間伐材なら、このような使い方も仕方がないだろう。 *4:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28114 (日本農業新聞 2014/6/6) [木質ペレット 最新事情 6] 燃料自給 森林資源フル活用 高知県には“枯れない油田”が眠っているという。県内の約8割が森林に覆われる同県。高知工科大学地域活性化研究室の永野正展特任教授によると、県の年間の森林成長量は最大600万立方メートル。これを燃料と見立て、原油換算すると150万キロリットル分になるという。重油1リットル80円で計算すると1200億円。毎年県外から買っているエネルギー900億円分を十分賄える額になる。しかも、適切な管理をすれば森林は毎年成長し続ける。これが“枯れない油田”の正体だ。 ●利用増には確かな情報 同県では、この森林資源をフルに活用するための仕組みが動きだしている。その一つが、木質バイオマス(生物由来資源)による発電と、木質ペレットの生産をする(株)グリーン・エネルギー研究所の設立だ。ハウス加温での木質ペレットボイラー利用が増えていることを踏まえ、JAグループ高知や県内の農家も同社に出資している。国内のペレット工場の多くは、販路が少なく製造能力を生かしきれないところも多い。一方同県では農業分野での利用を広げようと、民間レベルで市場開拓をしてきた経過がある。「供給体制が完全ではなかったのに、ここまでの市場ができた」と永野特任教授。「供給体制も整ったので、これからは加速度的にペレット利用は進んでいくだろう」と市場開拓の効果を見通す。ペレットの安定的な供給を考えた場合、林業の発展を切り離して考えることはできない。ペレットの原料は木材加工の過程で出る端材やおが粉などだ。いわば副産物。しかし国内には大規模な製材所が少ない。丸太そのものからペレットを作っている例も多い。この場合、切断や乾燥などに余分なコストが掛かる。欧州などに比べ日本のペレット価格が高いのはここからきている。高知県では、ペレットを含む木質バイオマスの利用拡大に向け、まずはその原料を生み出す建築用材の増産を図っていく方針だ。鉄骨などに代わる材として、加工分野では、木材を組み合わせて高い耐震性や耐火性を持たせ、大規模建築にも活用できる「直交集成板(CLT)」の生産に力を入れるという。CLTは、加工途中で出る端材も多い。「増産できればペレットの原料も多くできることになる」(木材利用推進課)という。資源エネルギー庁によると、国内のエネルギー自給率は約4%。農業分野でも輸入燃料に頼っている限り、海外情勢などに影響を受けるのは避けられない。ただ、農家にとってエネルギーを替える決断は簡単ではない。長所と短所の見極めが必要になる。静岡県温室農業協同組合では、2008年の重油高騰以降、重油ボイラーから木質ペレットボイラーやヒートポンプに替えた組合員が1割を超えた。これまでは実態がよく分からなかった木質ペレット燃料の実力が、ここに来て身近に見えるようになってきた。「事例を見た上で安心して導入できるものを判断していきたい」と安田昌敏組合長。燃料の選択肢の実態が、徐々に明らかになってきた。 PS(2014.6.7追加):*5のように、佐賀市富士町に大規模な木材センターができ、6月9日から稼働するそうだ。新たに植林する木や木材の加工技術に最新のテクノロジーを導入すれば、林業もハイテク産業になる。 *5:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10103/71784 (佐賀新聞 2014年6月7日) 木材センター9日稼働 佐賀市富士町 富士大和森林組合(杉山利則組合長)は、佐賀市富士町栗並に木材供給センターを開設した。原木の選別と皮はぎを行い、県のクリーク防災工事のくいや住宅用木材の販売を目指す。9日から稼働、初年度の取扱量は1万2千立方メートルを見込む。県内2カ所目の選別・加工の一体型施設になる。伐採適期を迎える森林が増え、これまでは切り捨てたままにしていた間伐が利用できるようになっていることから開設した。総事業費は2億5285万円で、国が半額を補助、残りは佐賀市と組合が負担した。敷地面積は約2万3千ヘクタールで、組合職員4人が業務に携わる。選木機は「3Dスキャナー」で原木を計測し、直径や曲がり具合、長さなどで選別する。7時間で3600本を処理できるという。皮はぎ機は直径6センチ~47センチ、長さ2~6メートルの原木の表皮をはぐことができる。処理能力は7時間で1680本。販売は県森林組合連合会が担い、仲卸業者との交渉を行う。杉山組合長は「公共事業、家造りに県産の間伐材が使われるように貢献していきたい。将来的にはバイオマス発電の需要も出るのではないか」と期待する。落成式は7日、同センターで開く。
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2014,06,02, Monday
オリーブ畑(日本) アーモンド畑(日本) 菜の花畑 キャベツ畑 (1)農協の金融改革について 日経新聞が、*1-1で、「日本の農業融資は5兆2千億円の残高があり、民間金融機関は1割強、残りは政府系金融機関と農業協同組合(JA)の金融事業などが占める」「民間銀行の融資全体に占める農業の割合は0.1%程度。天候などに左右されるリスクが大きく、現金収支が安定しないケースが多いため、有望な成長分野とはいえ、融資に二の足を踏む銀行も多い」と記載している。 このように、一般金融機関は、「天候に左右されるリスクが大きいから」などと、既に農法や保険等で解決されていることを根拠に、これまで農業への融資をあまりしてこなかった。それで「農家に税務やマーケティングを助言する資格、農業経営アドバイザーの合格者は地銀を中心に2500人を超えた」と言われても、(それ自体は良いことだが)自然と生物を相手に行う事業のやり方やリスク管理の方法も知らずに、税務やマーケティングの資格をとっただけで農業経営アドバイザーができると考えるのは甘い。 また、*1-1では、「米国にならった農業規制の緩和など、政策面からのテコ入れも求められている」としているが、米国にならって食品基準の規制緩和を行えば、日本の農業製品は長所を失うことがわかっておらず、これが日本経済新聞のレベルなのだ。 その上、*1-1は、「米国では農地規制が緩く、農地を担保にした融資が浸透している」と大手銀行の関係者が言ったとして、「農業分野に民間資金を呼び込むには、規制緩和などもう一段の取り組みが必要だ」と結んでいるが、土地を売却価格で担保にとることしか融資のリスクヘッジを考えられない点が、日本の銀行の融資テクニックの拙さなのである。 これ対しては、1)融資が滞ったからと銀行が農家から土地を取り上げ他の用途で転売されては、農地が虫食いになり農業地帯が維持できなくなるため、農地の転用については地域で計画を立てるように規制をかけているのであること 2)日本でも農地は担保価値があるほど高価ではないこと 3)米国の農地はさらに安価で、米国ではそもそも土地の価値は売却価格ではなくその土地の収益獲得能力で測るのだということ 4)不動産担保で融資するのではなく、動産(作物や家畜)などによる収益獲得能力と信用保証などのリスクヘッジで融資する方法がすでにできていること などの反論がある。また、大規模な農業経営体に対しては、適切な農業会計(日本にはまだないため国際会計基準を翻訳して使えばよい)の適用と監査証明を前提にすべきである。 なお、日本農業新聞は、*1-2で、「規制改革会議は、信用・共済事業の農林中央金庫・JA共済連への移管を提案したが、現行法で措置済みだが実際はどこも導入していない信用事業の譲渡と代理店方式の導入、『共同元受け方式』として実質的に導入済みの共済事業の代理店方式の導入を主張している」「JA共済の共同元受け方式は、JA共済連と組合の支払い責任を100対0とし、共済契約者の保護を図る画期的な仕組みで、銀行法にも対処し得る信用事業規程とJAバンクシステム、保険法と保険業法にも対処し得る共済規程を整備して、銀行・保険会社とほぼ同水準の事業展開を図ろうとするものである」としており、それが事実ならば、規制改革会議は、それで不足な点について合理的な説明ができるのでないかぎり、粗末な提言をすべきではない。(なお、私は、今は事実を調査する術はない) また、JAの信用・共済事業の実績については、*1-3のように、「運転資金が必要な時、農業を知っているJAだから、すぐに来て手続きをしてくれる。いつ収入があって、いつ返せるのか、農業を知っているJAだから信用して貸してくれる。農業経営は、JAの信用事業なしでは成り立たない。資材や機械の更新時や補助事業の活用など、融資だけでなく面倒な手続きもJAが引き受けてくれる」という組合員の意見があり、国の補助も理解した上で手続きをしてくれるJAが、農業者にとって有難いことは明らかだ。 (2)農協の意思決定機関への女性の参画の必要性 *2-1に書かれているように、「JA全国女性組織協議会が、女性のJA運営参画推進と次世代育成に、力を入れることを目標に掲げた2014年度計画を決め、女性正組合員25%以上、女性総代10%以上、女性理事等2人以上という数値目標の実現に向けた取り組みを進める」ことを決議したそうだ。規制改革会議は、農協の理事に占める女性割合を2020年までに30%にすることを提言した方が、理事に多様性を持たせ、農と食の現場で生産者・消費者の両方として活躍している女性の能力を引き出すことができると考える。 実際、*2-2の日本オリーブオイルソムリエコンクールで初代優勝者になった渡辺さん、*2-3のJAとファミリーマートの業務提携、*2-4のタイへの冷凍ケーキ輸出・販売などのアイデアは、女性を始め多様な人材がJA理事としてJAを支えれば、比較的容易に出て農業の高付加価値化や6次産業化に資するものである。 (3)準組合員の制限について *3-1に書かれているとおり、「准組合員の事業利用は、正組合員の事業利用の2分の1を超えてはならない」とする根拠は何もない。むしろ、准組合員としてJAの事業を利用している人は、食品や農業に対する意識が高い人である場合が多い。 植物工場で液肥によって栽培されたトマトと有機肥料で栽培されたトマトは、形は同じかもしれないが、味や栄養価は後者の方がずっと優れている。このような食品選択能力は、こどもの頃から培っておく必要があり、よい農業を維持するためには、よい産品を選んでくれるよい消費者を育てることも重要だ。 茶畑 桃畑 葡萄畑 さくらんぼ畑 *1-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140601&ng=DGKDZO72112070R00C14A6NN1000 (日経新聞 2014.6.1) 元気な農業へ民間資金動く ファンド出資、300億円超す 銀行融資5年ぶり高水準 農業の活性化に向けて民間の資金が動き始めた。銀行の農業分野への融資残高は5年ぶりの高水準となった。農家が加工・販売まで手掛ける6次産業化を支援するためのファンドへの出資額は民間分だけで300億円を超えた。異業種からの参入や、生産規模を拡大する農業生産法人の投資を後押しする金融環境が整いつつある。米国にならった農業規制の緩和など、政策面からのテコ入れも求められている。日本の農業融資は5兆2千億円ほどの残高があり、民間金融機関が1割強、残りを政府系金融機関や農業協同組合(JA)の金融事業などが占める。民間銀行の2013年末の融資残高は約5500億円と1年前に比べて3.9%伸びた。農業以外も含む全体の融資の伸び(2.8%増)を上回る。農業融資は00年代以降、担い手の減少などで縮小が続いてきた。08年のリーマン・ショックを受けてさらに大きく落ち込んだが、13年に反転。リーマン・ショック直後の水準近くまで回復した。地方銀行が農業を成長産業と位置づけて融資に取り組んでいることが背景にある。北海道銀行や山梨中央銀行は農業経営者を育てる塾を開設。中国銀行や千葉銀行が農業参入を目指す企業に融資している。農家に税務やマーケティングを助言する資格、農業経営アドバイザーの合格者は地銀を中心に2500人を超えた。 ●生産と販売結ぶ 銀行が生産者と販売先を結びつける役割も果たしている。三井住友銀行は昨年12月、農業法人や食品メーカー、農機・農薬の関係企業を約150社集め、商談会を開いた。三菱東京UFJ銀行も農林漁業に鉱業などを加えた分野への融資が1年で2割近く伸びた。6次産業化を支援する農林漁業成長産業化支援機構と共同出資のファンドが40以上設立され、民間の出資額は300億円を超えた。みずほ銀行は地銀と組んで10のファンドを各地でつくり、水産加工や乳製品メーカーへの支援実績が出ている。三井住友銀のファンドが3千万円出資した農業法人の果実堂(熊本県益城町)は、データ分析を駆使したベビーリーフ栽培に取り組む。農林中央金庫も高品質のイチゴ農園や生産性の高い果樹生産など技術力のある農業法人に出資しており、支援実績は100件に達した。 ●米は規制緩く ただ、民間銀行の融資全体に占める農業の割合は0.1%程度。天候などに左右されるリスクが大きく、現金収支が安定しないケースが多いため、有望な成長分野とはいえ、融資に二の足を踏む銀行も多い。米国では農業融資の4割程度を民間の商業銀行が占める。「農地規制が緩く、農地を担保にした融資が浸透している」(大手銀)という。日本でも銀行が成長分野と位置づけて積極的に融資しようとしているが、農業の活性化自体は道半ばといえる。大規模化や6次産業化など前向きな投資に踏み切る農家は一部にとどまっている。政府は6月にまとめる新成長戦略に、公的ファンドの出資対象を広げるなど企業の農業参入を後押しする方策を盛り込む。農業分野に民間資金を呼び込むためには、規制緩和などもう一段の取り組みが必要だ。 *1-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28009 (日本農業新聞 2014/5/31) [規制改革会議 農協改革案の検証 5] 信用・共済事業 移管は法精神を無視 農協の歴史的使命は戦後自作農体制の堅持にあるが、この農政課題を協同組合の目的に翻訳すれば、「農家家族の福祉向上」ということになる。この目的を、営農面活動・事業だけではなく、信用・共済事業を含む生活面活動・事業を通して実現するというのが農協系統組織の使命である。 ●組合員の判断が基本 しばしば「ゆりかごから墓場まで」という言い方がなされるが、組合が幅広く事業を展開できるようにする、というのが農協法の立法精神である。このような立法精神を無視して政府の規制改革会議は、信用・共済事業の農林中央金庫・JA共済連への移管を提案した。それも非常にお粗末な話であるが、現行法で措置済みの、しかし実際はどこも導入していない信用事業の譲渡と代理店方式の導入、「共同元受け方式」として実質的に導入済みの共済事業の代理店方式の導入を主張している。JA共済の共同元受け方式は、JA共済連と組合の支払い責任を100対0とし、共済契約者の保護を図る画期的な仕組みである。銀行法にも対処し得る信用事業規程とJAバンクシステム、保険法と保険業法にも対処し得る共済規程を整備して、銀行・保険会社とほぼ同水準の事業展開を図ろうとする組合の努力に水を差すものである。規制改革会議の提案を分かりやすく表現すれば、「総合農協の顔をした専門農協になれ」というものである。漁協とほぼ同じこの仕組みで「農家家族の福祉向上」が図れるかどうかがポイントである。歴史的経過からいえば、農協法制定に当たって、信用事業については、組合は兼営、連合会は単営という整理で決着がついた。また、共済事業については、当初、保険業への進出を目指したが、保険会社と行政庁の壁に阻まれて進出できなかった。経験や歴史を重ねて育つのが組織と事業であるから、これらの事実は重い。協同組合は、資本制企業の対抗組織でもあるが、同調組織でもある。このことは、例えば農林中金、JA共済連とメガバンク、大手保険会社との関係を見てもよく分かる。ただ、最終の意思決定は組合員の民主的コントロールの下で行う、というのが協同組合原則である。 (三重大学招聘=しょうへい=教授・石田正昭) *1-3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28008 [農業改革 言うことあり 利用者編] 運転資金すぐに対応 (日本農業新聞 2014/5/31) 農協改革などと言って、規制改革会議はJAをばらばらにしようとしているが、現場の声も聞いてもらわないと困る。私は乳牛50頭を飼養し、1日2回の搾乳で早朝から夜遅くまで仕事が詰まっている。運転資金が必要な時、農業を知っているJAだから、すぐに来て手続きをしてくれる。いつ収入があって、いつ返せるのか、農業を知っているJAだから信用して貸してくれる。農業経営は、JAの信用事業なしでは成り立たない。資材や機械の更新時や補助事業の活用など、融資だけでなく面倒な手続きもJAが引き受けてくれる。「組合員のため」という姿勢の表れだ。JAだからこそできることは多い。規制改革会議は実態を踏まえた議論をするべきだ。政府の規制改革会議が決めた農業改革の農協制度見直し案を、組合員農家らJAの利用者はどう見ているか。声を聞く。 *2-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=27866 (日本農業新聞 2014年5月23日) JA運営参画を推進 TPPで特別決議 全国女性協14年度計画 JA全国女性組織協議会は22日、東京・大手町のJAビルで第64回通常総会を開き、女性のJA運営参画推進と次世代育成に、一層力を入れることを目標に掲げた2014年度計画を決めた。TPP交渉に関する特別決議も採択した。JA女性組織3カ年計画の実践2年目を迎え、女性正組合員25%以上、女性総代10%以上、女性理事等2人以上という数値目標の実現に向けた取り組みや、フレッシュミズ世代の育成を引き続き進める。大川原けい子会長は「食と農の現場で、生産者として、母として地域のくらしを守る活動に取り組もう」と呼び掛けた。女性部世代からフレミズ世代へ、文化を伝えながらの仲間づくりを目指し、伝統料理の継承に取り組むことを決議した。和食が国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に選ばれたこともあり、女性組織が食と農を通じて地域を一層盛り上げていく。3カ年計画の柱の一つであるフレッシュミズ組織活性化のために作った冊子「この指とまれ! フレッシュミズ」を会場で配布し、活用していくことを確認した。冒頭、JA全中の萬歳章会長は規制改革会議の農業改革案について「JA組織の理念や実際の活動とかけ離れた内容で、極めて大きな 問題」と述べ、JAグループと女性組織が一丸となって農業を守っていく考えを示した。TPP交渉の特別決議では、予断を許さない厳しい局面を踏まえ、未来に生きる子どもたちに安全で安心な食を守り、地域やくらしを残していく必要を訴え、今後もJAグループ一丸となってTPP問題に取り組むことを宣言した。女性 正組合員加入優良実績表彰では群馬県のJA利根沼田女性部、静岡県のJAとぴあ浜松女性部、JA三重中央女性組織連絡協議会、JA女性組織仲間づくり運動優良実績表彰では滋賀県のJAグリーン近江女性部、JA大阪中河内女性会を、それぞれ表彰した。 *2-2:http://qbiz.jp/article/37721/1/ (西日本新聞 2014年5月15日) 「オリーブオイルソムリエコンクール」の初代優勝者になった 渡辺美喜子さん 一般社団法人「日本オリーブオイルソムリエ協会」(東京)が4月に初開催したソムリエコンクールで、初代の優勝者になった。「勉強のために受けてみようと応募した。まさか1位になるなんて」。風光明媚(めいび)な大村湾を望む長崎県東彼杵町。人口約8700人の町の女性がソムリエの頂点に輝いた。ソムリエはオリーブオイルの特徴や魅力を把握し、品質を見極め、消費者にアドバイスする。全国に約150人いるオリーブオイルのソムリエの中で渡辺さんは最高位「マスター」の16人の1人だ。コンクールには20人が出場し、5種類のオイルの香りや後味、適した料理などを鑑定。海外の料理研究家や輸入商など「その道のプロ」の審査鑑定にどれだけ近いかを競い、内容の90%を一致させた。20年ほど前、家を新築した際に小さなオリーブの木を庭に植えた。植え替えを重ねながらだんだんと成長していく姿に、心も体も癒やされた。フィットネスインストラクターの資格を持っていることもあり、「体にいいオリーブオイルをもっと深く知りたい」と思い立った。本格的に学べる環境は近くになかった。協会のテキストを参考に自宅でオイルのテイスティングを繰り返し、独学で知識を身に付け、マスターの資格を取得した。オイルには多くの種類がある。品質の悪いものを知らず知らずに使っていることもあるという。「せっかく評価された知識。いいオイルを選んでもらうため、生産者や消費者の指針になりたい」。夫の悟さんは東彼杵町長。60歳。 *2-3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=27964 (日本農業新聞 2014/5/29) 全農、ファミマが業務提携 一体型店を全国展開 JA全農とコンビニエンスストア大手のファミリーマートは、Aコープとコンビニの一体型店舗の全国展開を柱とした包括業務提携について合意し28日、東京都内で記者会見を開いた。中規模以下のAコープ店舗を改装するなどし、農産物直売や寄り合いスペースを兼ね備えた地域の“ライフライン店舗”を目指す。JAグループが営農・経済革新プランで重点戦略と位置付ける「経済界・企業等との連携」を実践する取り組みだ。買い物弱者が発生する農村地域では、Aコープ店舗がライフラインの役割を担ってきたが、経営が年々悪化。会見で全農の鈴木盛夫常務は「ファミリーマートの経営資源やノウハウを一緒に使わせてもらい事業展開し、地域インフラを整備したい」と説明。ファミリーマートの中山勇社長も「全国1000万人の組合員に“自分の店”として使ってもらいたい」と応じた。31日には1号店として愛媛県伊予市に「ファミリーマート+Aコープいよ店」が開店。売り場面積は通常のコンビニの2倍近くに当たる279平方メートルで、直売コーナー、全農コーナーの他に、地域住民の交流の場として使える26席のイートインを設けた。今後3年で30の一体型店舗を設置したい考え。包括業務提携では、買い物不便地域での移動販売車の運行や国産農畜産物を使った商品開発などにも取り組む。台湾を中心に海外展開しているファミリーマート店舗で、日本の農畜産物・加工品を販売する構想もある。 *2-4:http://qbiz.jp/article/38508/1/ (西日本新聞 2014年5月26日) 冷凍ケーキの五洋食品、タイで展開へ 冷凍洋菓子製造の五洋食品産業(福岡県糸島市)は26日、タイへの冷凍ケーキ輸出と販売を8月から始めると発表した。課題としている海外市場開拓の一環。商社の双日九州(福岡市)を通じて輸出を行い、タイの中堅パン・菓子製造販売会社「Srifabakery(スリファ・ベーカリー)」の店舗網で販売する。五洋食品が冷凍ケーキを海外で本格販売するのは、香港と米国に続いて3例目。タイ進出を皮切りに、東南アジア諸国への販路拡大を目指す。また同日、2014年5月期決算の業績予想を下方修正したと発表。売上高は13億2700万円(今年1月予想は13億5300万円)、経常損益は4100万円の赤字(同1200万円の黒字)、純損益は3600万円の赤字(同1700万円の黒字)となる見通しで、経常赤字は3年連続、純損失は2年連続。タイ進出の収益効果は15年5月期から見込めるという。 *3-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=27981 (日本農業新聞 2014/5/30) [4] 准組合員制度 利用制限に根拠なし 政府の規制改革会議は、“組合員の在り方”の項で、「准組合員の事業利用は、正組合員の事業利用の2分の1を超えてはならない」とした。この提案は、例えば准組合員が圧倒的多数を占める北海道の農協にとって、死活的に重要な問題となる。実態無視の典型である。 ●共益権は定款自治で そもそも2分の1という量的規制に何の根拠もない。経営基盤を確保する観点から、組合員の事業利用に支障を及ぼさない限り、組合員以外の事業利用には制限を設けない、というのが西欧の協同組合の考え方である。准組合員といえども組合員であるから、彼らの事業利用を制限する理由は何ら存在しない。准組合員制度は、農協法制定に当たり、非農民的利害、すなわち地主的利害に支配されない農協づくりを目指したものであった。それは戦後創設された自作農の保護という農協理念に即したものである。准組合員には自益権(事業利用権など)は与えられるが、共益権(議決権、選挙権など)は与えられない。規制改革会議はこのことを問題視しているようであるが、准組合員にどのような共益権を与えるかは定款自治に委ねるべきであり、この観点からの法改正が望まれる。准組合員への共益権の付与に当たっては、古くからその地域に居住し、正組合員と近隣相識の関係を持つ准組合員と、新しくその地域に居住し、事業利用だけを求める准組合員との違いに配慮する必要がある。両者の区分は、基本的に自己申告あるいは農家組合など組合員組織の承認によるべきであろう。他方で、農業者の減少が進む中で正組合員資格の見直しも必要である。耕作面積要件と農業従事日数要件のうち、耕作面積要件は外すのが望ましい。現行法は、既にこれを定款自治に委ねている(JA兵庫六甲で導入済み)。かつて「農協は職能組合か地域組合か」という論争が巻き起こった。規制改革会議は明らかに職能組合に肩入れしているが、この二者択一の問題設定に誤りがあった。農協設立の歴史的経過からすれば、「職能組合であると同時に地域組合である」とする理解が正しい。農協法は、戦前の地域組合(産業組合)に米国の職能組合(販売農協)の考え方を接ぎ木した折衷的な性格を持つためである。(三重大学招聘=しょうへい=教授・石田正昭) *3-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=27515 (日本農業新聞 2014年5月5) こどもの日 食農体験始める好機に 5日は「こどもの日」。端午の節句であると同時に、子どもにとっては自由な時間を得やすい一日となる。窓の外には爽やかな風が吹き、野山へと誘う。学校が休みというだけでなく、この日から子どもの野外体験を増やすシーズンに入ったと捉え、少しでも多くの食農・自然体験をさせてやりたい。身近に電子機器類のある生活が、すっかり定着した。着信の合図と同時に携帯電話に手を伸ばす子がいれば、テレビのリモコンを器用に扱い、お気に入りの番組を見る子がいる。しかもそれをするのは、おむつがまだ外せない幼児たちだ。同じものを手にした祖父母の戸惑いとは、大違いである。スイッチのどこを押せばどんな反応がある、といったことを見よう見まねで覚える。手引書がなくても直感的に操作方法が分かることは素晴らしいことでもあり、だからこそ科学も進歩を遂げるのだと思えてくる。そんな場面だけを見ると天才的な子どもだが、ひとたび野外に出るとそうでもない。途端に慎重になり、そこに生えている草、飛び出した虫に手を伸ばすことはない。昔の子どもたちは、そうでなかった。動くものがあれば反射的ともいえる素早さで捕らえ、食べられそうだと思える植物は口にしてみた。そうした体験から学ぶのか、日常生活でも五感をフルに働かせて食べ物の賞味期限を嗅ぎ分けた。食べて腹をこわすかどうかを判断するのは親ではなく、それを食べる自分自身だった。傷んでいると感じたら、とっさに吐き出した。においで判断することはできず、口に入れても違いの分からない遺伝子組み換え食品の選択は取りあえず、表示に頼るしかない。しかし、そうでない食べ物ぐらい見極められる力は身に付けておきたいものだ。食農・自然体験を積む価値は、そこにある。作物の種をまき苗を植えることで成長が楽しみになり、病気から守る手だてを考える。あるいはアブラムシを襲うテントウムシを見て、自然界の仕組みに思いをはせる。そうした何でもないこと、当たり前のことを子ども時代に体験できるかどうかは、その後の生き方・生活にも影響しよう。「こどもの日」は、そのきっかけにするのに最適の日だ。田植えは移植機に任せる時代になったが、子どもにもできることがあれば手伝わせよう。日本の食の基本である米作りを肌で知ることは、何物にも代え難い財産になる。農作業がなければおにぎりでも持って野山に連れだし、草木に触れさせたい。川の流れに足を入れて魚を追いかけ、山菜を摘んで調理し、食卓に出そう。子育て中の大人は、自分の体験をじかに伝えることができる最後の親世代でもある。農業の未来を支えるのは、技術だけではない。風景や風、空の色も含めた農村全体を感じ取ることができる感性だ。
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2014,05,31, Saturday
*3-1より 日本の大豆畑 日本の麦畑 日本の水田 (1)自己目的化しているTPP決議 *1には、「日米協議の詰めを急ぎTPP交渉決着を」と題して、「交渉12カ国による共同声明は交渉妥結に何が必要かの見解を共有し、決着を目指す機運が高まった」と記載されているが、具体的なことは何も書かれていない。そして、私が、このブログで何度も記載したとおり、TPP条約が締結されると、既に貿易自由化や現地生産が進んでいる日本の製造業にとってはメリットがなく、規制に関して主権を失うディメリットの方が大きい。それに加えて、食品の安全基準緩和や農産品の関税引き下げ、医療保険、ISD条項等の問題によるディメリットが大きいため、全体として、TPP条約の締結はわが国の誰にどういうメリットがあるのか不明であり、日本にとってはマイナスの方が大きいように見える。 このような中、「日米が2国間協議で膠着状態に陥った」「日米間の協議が前進し、障壁だった対立の構図が薄れた」などとして、いかにもシビアな交渉をしているかのような報道をするのは、TPP決着努力を自己目的化しており、見かけだけの交渉努力に思える。 (2)農業や地方を知らない人が作った農業改革案は適切ではない 1)農協法に基づく中央会制度の廃止はよいことではない *2-1に書かれているように、農業を強くするためとして、規制改革会議は、「①農家や地域の農協が独自に経営強化に取り組むには、全中が持つ権限を弱める必要があり、全中の『指導権』を廃止することを求める」「②各地の農協が、上部団体に納めてきた『上納金」といえる賦課金は、グループの方針を国の政策に反映させる陳情活動などに使われ、『負担が大きい』『使い道の情報開示が不十分』などと批判があるため、廃止して農協ごとの農家支援策に使えるよう改める」としている。 しかし、全中が強いから農家や地域の農協が経営強化できないというのは、経団連、弁護士会、司法書士会、税理士会、公認会計士協会、医師会、看護連盟、労働組合など、どの業種も業界全体の利益を纏める組織を持っていることから考えておかしい。また、全体が纏まって初めて政治にモノが言えるため、そのやり方も、農協の組合員が民主的な方法で決めるべきだ。 さらに、「約700ある地域の農協が自由に活動できるようにするため、全中の『指導権』を廃止して、全中、県団体、農協というタテの『指揮系統』を見直す」というのはいわれなき強者叩きであり、軍隊と官僚機構以外の組織は、現場の方が事情に通じていて行動しやすいことと、それらの諸事情を統合してより高い見地から意思決定や交渉を行うべきことが混在しているため、内容によってトップダウンだったり、ボトムアップだったりするのが普通である。そのため、*3-1に、「中央会廃止論も中央会指導が単協の独自性をそいでいるかのような誤った認識に基づいている」「JAグループは、現場の実践を最大限尊重し、優良事例は横展開し相互に高め合う柔軟な組織構造で、上意下達のような指揮系統にはなっていない」と書かれているのであり、これは本当だ。そして、これについては、*3-1、*3-2、*3-3、*3-6、*3-7など、現場を知る学者の反対意見が多く、横の連携も、まとめ役があって初めて効率的に機能するものであるため、規制改革会議のこの提案は、農業や一般の組織を知らない人の作文である。 なお、*2-1に、「農協関係者が、全中は利益を重視した革新的な取り組みより、グループの秩序を壊さない伝統的な運営方針を好む傾向があると言うので、改革案で、農家や地域の農協が独自に経営強化に取り組むには全中が持つ権限を弱める必要があるとして全中の『指導権』を廃止することを求める」と記載されているが、*3-1、*3-2等に書かれているとおり、JAグループは、現在、主体的に自己改革に取り組んでおり、環境次第で、全中も先進的で強力なリーダーシップを持つことができるのは明らかであるため、組織を弱めることを目的とする“改革”はマイナスである。 2)農協の配当率制限をなくすのは、どういう意図か? *2-1に、「農協は出資の配当が7~8%に制限されており、こうした制限もなくす」と書かれているが、配当率7~8%というのは、日本国内では、現在、高い配当率である。しかし、配当率は組織で決めるのが本来の姿であるため、法律上の制限を無くして組織決定にしてもよいと思う。しかし、これは、出資者である組合員のためになる改革なのか否か、この記述からは不明だ。 3)農協の役員制限緩和について *2-1に、「農協の役員に登用できる外部の人材は定員の3分の1未満だが、この規制も緩和し、民間から経営感覚のある人材を登用できるようにする」と書かれているが、農協に必要な経営上の見識は、民間の経営感覚とは異なる。わかりやすく言えば、NHKの○○会長のようになっては取り返しがつかないため、農協は3分の1未満という制限をつけながら外部人材も入れているのだ。そして、私も、「民間の経営感覚」は補助的にあればよいと考えるが、認定農業者だけでなく、その他の農業に従事した経験のある人、川下の食品産業やサービス産業に従事した経験のある人など、多様な役員が、経営意思決定権のない50%未満くらいはいてよいかも知れない。 4)全農自体を株式会社に転換するのはよいことではない *2-1に、「農産物の販売などを手がける全農は、将来の『株式会社化』を提案する。農協法に株式会社化を選択できる新たな規定を設け、生産や流通、販売段階の効率化や大規模化に向けて、様々な資金調達の手段を確保するねらいだ」と書かれている。 しかし、*3-1のように、そもそもJAや連合会の目的は、弱い立場の農家が、「協同組合」として集まることで、組合員農家の所得向上と国民への食料安定供給を図ることであり、主役は組合員である農家であって株主ではない。もし、全農や経済連が株式会社になれば、農家の所得向上のために共同行為を行うよりも、株主の利益のために、取引相手として農家と対峙しなければならなくなる。つまり、何でも株式会社にしさえすれば問題解決できるという発想は拙い。 そして、農業の6次産業化などで、株式会社にした方が製造・販売・資金調達などがスムーズにいく製品を全農が生産する場合には、農家の協同組合である全農が支配権を持てる子会社にして行うのがよいと考える。 5)准組合員の事業利用制限はよいことではない 農業地帯では、農協の正組合員の農家だけではなく、消費者である地域住民を準組合員として、地域全体で農業や農協を支える仕組みを作っている。そして、地域住民も農協のサービスにより支えられている面が大きく、地方では農業は税金を支払っている重要な産業だ。そのため、准組合員に制限を設けるか否かなどは、経営手法として農協が決めればよいことであり、都会で種々のサービスを選択できるが、地域との繋がりの薄い人が決めた改革案は当たっていない。 6)単位JAの信用事業を、農林中金・信連に移管することは必要か? 規制改革会議は、「単位JAの信用事業を、農林中金・信連に移管することが必要」としているが、それに対して、*3-1は、「単協の信用・共済事業切り離しも、世界の協同組合のモデルとなっている日本の総合事業の優位性を無視した暴論である」としている。今までの実績で見れば、地域の農業のニーズに合わせた融資は、窓口でニーズを把握し、ニーズに近い融資を行い、地元の人の預金を地元に還元してきた分だけ、単位JAの方が、農林中金や信連よりも優れていたと言える。 一方の農林中金は、集めた資金を農業ではなく、日本の他の銀行と同様、アメリカのサブプライムローンなど質の悪いローンに融資して消失させてしまったのだから、日本の金融界は使命を果たしていないと言わざるを得ない。しかし、「単位JAが、金融事業で他の事業の赤字を埋めている」というのは、金融における前近代的な管理であり、これでは預金者の預金を守れない。 農業地帯の資金需要に対応するためには、一般銀行や信用金庫から農業者への融資もやりやすくしなければならない。しかし、単位JAの金融事業を、預金者の預金を守れるように農林中金に移管するとしても、地方銀行と同様に、管轄地域を区切り、集めた資金はその地域で、地域のニーズにあった運用をしてもらいたいというのが、貯めた資金を都会に持って行かれ、どこかで消失させられてしまって開発が遅れている地方の要望である。 7)企業の農業生産法人への出資比率の緩和について *2-2には、「国内農業を強化するため、上限を25%に制限している企業の出資比率を高めるほか、農作業への従事を義務付ける役員の割合を減らすことを検討する」と書かれている。「農業生産法人の改革では、規制改革会議が農業関係者以外の出資できる比率を50%未満まで高めるよう提言した」ということだが、50%未満であれば経営の決定権は農家に残るので問題ない。しかし、過半数の役員が農業に従事していなければ、農業生産法人とは言えないだろう。 8)企業の土地所有について *3-4に書かれているように、「担い手」への農地集積は2009年の農地法改正で「所有」から「貸し付け(リース)」へと本格的に移り、リース方式で既に約1300件の企業が農業に参入し、農地中間管理機構(農地集積バンク)の整備でその流れはさらに強まっているため、農業をするのに土地所有は必要条件ではない。それにもかかわらず、規制改革会議が農地を所有できる「農業生産法人」の要件緩和を提案し、農業生産法人の事業用件を廃止して、農業生産法人の土地所有を許せば、*3-4に書かれているとおり、「農業生産法人」に「抜け道」を準備して、農業以外の事業を許すことになるのでよくない。農業以外の事業を行いたいのなら、「農業生産法人」としてではなく、「一般企業」としてやるべきである。 また、農地は、長い年月をかけ、多くの人の貢献によって築き上げてきた国富であるため、*3-5に書かれているように、「農業委員会は選挙制度を残した最後の行政委員会であり、農地の移動には、その土地に精通した人が選挙で選ばれる必要がある」というのが正しく、その時点の所有者の意思のみで農地の転用がなされて良いものではないと考える。 じゃがいも畑 梅畑 みかん畑 梨畑 *1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140523&ng=DGKDZO71644900T20C14A5EA1000 (日経新聞社説 2014.5.23) 日米協議の詰めを急ぎTPP交渉決着を シンガポールで開いた環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の閣僚会合で、大筋合意に向けた道筋がようやく見えてきた。日米など交渉12カ国による共同声明は「交渉妥結に何が必要か、見解を共有した」と記し、残る課題が絞られてきたことを示した。決着を目指す機運が高まったことを歓迎したい。前回の2月の閣僚会合では、自由化を主導すべき日米が2国間協議で膠着状態に陥り、他の10カ国に「模様ながめ」の空気が漂っていた。今回の会合で各国が積極姿勢に転じたのは、日米間の協議が前進し、障壁だった対立の構図が薄れたからだ。交渉の勢いを維持しなければならない。そのためには日米が最終的な詰めを急ぎ、日米合意の内容を堂々と各国に示す必要がある。具体的にどこまで合意したのか分からない曖昧な状態のままでは説得力に欠け、交渉全体を力強く推し進める力にはならない。これから先は時間との戦いになる。推進役の米国が、11月に議会の中間選挙を控えているからだ。オバマ政権の通商政策は、ますます議会や特定業界の意向に左右されやすくなる。労働組合や自動車産業など保護主義的な勢力は、個別議員への影響力が大きい。日本への輸出を増やしたい豚肉業界なども、強硬姿勢を求めて強い声を上げている。中間選挙が近づくほど、オバマ政権は譲歩しにくくなる。日米に残された時間は多くない。日米両国の経済規模はTPP交渉国の約8割を占める。日米協議で決まる措置は、TPP域内の自由化の実質的な水準の目安となるだろう。牛肉・豚肉、乳製品などの関税の引き下げ幅や、自由化にかける期間、セーフガード(輸入制限措置)などが日米間で具体的にどう決着するかによって、各国の対応は変わってくる。日米の交渉担当者は「21世紀型の自由貿易協定」というTPPの看板に恥じない中身で、合意を築いてほしい。見かけ上の関税率の数字でなく、経済的に意味がある実質的な市場開放が重要だ。関税による保護に頼らない強い農業を築く改革の実行が、安倍政権の急務だ。一時的に不利益を被る農家や企業を支援する移行措置が必要になる場合もあるだろう。TPP交渉が大詰めを迎えた今こそ、こうした国内対策を含めて、通商政策と農業政策の知恵の絞りどころである。 *2-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11131782.html (朝日新聞 2014年5月13日) 全中の「指導権」廃止提言 規制改革会議、「上納金」制度も ●JAの仕組みと改革案 政府の規制改革会議が検討している農協(JA)グループの改革案がまとまった。グループを束ねる全国農業協同組合中央会(全中)の「指導権」を廃止し、全中、県団体、農協というタテの「指揮系統」を見直す。約700ある地域の農協が自由に活動できるようにするねらいだ。改革案は、JAグループの役割や運営方法を規定する農業協同組合法(農協法)の改正も提言し、14日にも公表する。農協法には、全中などが組織、事業、経営について指導するとあり、全中が農協などを指導・監督する根拠とされてきた。グループで活動目標を3年ごとに定めることになっており、全中は取り組み状況を定期的にチェックしている。農協関係者によると、全中は利益を重視した革新的な取り組みより、グループの秩序を壊さない伝統的な運営方針を好む傾向があるという。改革案では、農家や地域の農協が独自に経営強化に取り組むには、全中が持つ権限を弱める必要があるとして、全中の「指導権」を廃止することを求める。農協などが、上部団体に納めてきた「賦課金制度」も廃止するよう求める。「上納金」ともいえる賦課金は、グループ方針を国の政策に反映させる陳情活動などに使われ、2014年度は77億円の見込み。「負担が大きい」「使い道の情報開示が不十分」などと批判があり、農協ごとの農家支援策に使えるよう改める。農産物の販売などを手がける全農は、将来の「株式会社化」を提案する。農協法に株式会社化を選択できる新たな規定を設け、生産や流通、販売段階の効率化や大規模化に向けて、様々な資金調達の手段を確保するねらいだ。協同組合では出資の配当が7~8%に制限されているが、こうした制限もなくす。農協の役員に登用できる外部の人材は定員の3分の1未満だが、この規制も緩和し、民間から経営感覚のある人材を登用できるようにする。今回の改革案に全中は強く反発しそうだ。農協改革をめぐっては、自民党も改革案を検討している。政府は規制改革会議案や自民党案を見極め、6月にも政府の改革案をまとめる。 ■農業改革、待ったなし 《解説》規制改革会議が全中の権限を弱める改革案をまとめた背景には、農家と直接つながる地域の農協に芽生えてきた改革意欲を積極的に生かし、成功事例を全国に広げるねらいがある。代表例がJA越前たけふ(福井県越前市)だ。地域農協の多くは、コメなどの経済事業が赤字続きなのを悩んでいる。物価下落が続くデフレや、企業との激しい競争のためだ。「たけふ」はこれらの事業を株式会社化し、黒字化した。コメは、グループでコメ事業を手がける全農などに頼らず、もうけが多いグループ外に売っている。だが、全中は「たけふ」を問題視し、成功事例として広めようとはしなかった。これを認めると、全国の地域農協が、全農などを通さずに外部に売るようになる。全農の仕事が減り、農薬や肥料の売り上げにも影響する。これまでの農協改革は、全中の圧力を受けた政治家らの反対で踏み込めずにきた。今回も全中の猛反発は避けられない。しかし、関税の原則撤廃を目指す環太平洋経済連携協定(TPP)や、農家の高齢化などで農業そのものの改革は待ったなしの状況だ。国内農業を再生する最後のチャンスとして取り組む必要がある。 *2-2: http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/66987 (佐賀新聞 2014年5月24日) 企業の農業参入促進へ本格調整、出資25%の緩和検討 政府、与党は24日、国内農業を強化するため、農業生産法人の規制を緩和して企業参入を促す改革案の策定に向け本格調整に入った。規制改革会議の提言をたたき台にする。上限を25%に制限している企業の出資比率を高めるほか、農作業への従事を義務付ける役員の割合を減らすことを検討する。有識者でつくる規制改革会議が22日に決定した改革案には与党内の反発が強い。だが、安倍晋三首相の強い改革姿勢を受け、農業を成長産業に育てていくには企業の参入拡大が不可欠との判断に傾いた。自民、公明両党が5月中にもそれぞれ改革案を出して与党案として取りまとめ、規制改革会議が6月半ばにまとめる首相への答申に反映させる。政府はこれらを盛り込んだ「規制改革実施計画」を6月中に閣議決定する予定だ。農業生産法人の改革では、規制改革会議が農業関係者以外の出資できる比率を50%未満まで高めるよう提言したが、農家側が上限の引き上げをどの程度まで受け入れられるかが焦点となる。役員の過半が農業に常時従事するなどとの現在の要件に関しても、規制改革会議は大幅に緩和するよう求めており、重要な検討課題となる。ただ、政府が今年になって立ち上げた「農地中間管理機構」は、土地の売却に抵抗の強い農家に配慮して、農地の貸し出しを基本としているなど、企業による土地買収につながる農業生産法人の規制緩和には慎重な意見が根強い。農協の改革では、規制改革会議の改革案に全国農業協同組合中央会(JA全中)を頂点とする中央会制度の廃止が盛り込まれた。しかし、与党の農林関係議員が激しく反発しており、調整の最大の焦点となる。安倍首相は19日の産業競争力会議で農協、農業生産法人、農業委員会の3点セットで改革を断行すると表明した。これを受けて与党内では「こちらからも一定程度踏み込んだ改革案を示す必要がある」との声が強まっている。 *3-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=27699 (日本農業新聞 2014/5/15) 不当な農業改革 農協解体を総力で阻止 政府の規制改革会議が農業改革提言を公表し、農業委員会、農協、農業生産法人の見直しを掲げた。農業への全面的な企業参入に道を開き、JAグループを事実上解体に追い込む極めて不当な内容だ。とりわけ民間の協同組織であるJAに対する改革案は、無知と無理解に基づき到底容認できない。JAグループは今まさに主体的に自己改革に取り組んでいる。与党の議論も見据えながら、総力を挙げJAつぶしに抗していこう。これは、明らかに規制改革に名を借りたJA解体論であり、民間の独立組織への政治的介入である。そして、全ての協同組合セクターへの攻撃でもある。こうした提言を、政府が6月にまとめる成長戦略の改訂版に反映させることは断じて許されない。 農協改革提言は、中央会制度の廃止、JA全農の株式会社化、単協信用事業の農林中金・信連への移管、准組合員の事業利用制限、理事会役員構成の見直しなどを盛り込んでいる。これをまとめた同会議農業ワーキンググループは、協同組合組織の歴史的成り立ちや基本的意義が理解できているのか。いうまでもなくJAや連合会の目的は、経済的に弱い立場にある個々の農家が「協同組合」に結集することで、農家組合員の所得向上と国民への食料の安定供給を図ることである。その主役は組合員であり、JAは組合員の負託を受けて最大奉仕するための自主・自立の組織だ。株主の意向に左右される株式会社とは異なる。だから農協法によって利用者本位の事業運営を法的に措置しているのだ。 全農や経済連が株式会社になったら、農家の所得向上のための共同経済行為はできなくなり、農機や肥料の価格交渉力は弱まるだろう。販売面で大手量販店などの買いたたきに対抗できるのも協同の結集力があるからだ。また、県域を越えた需給調整機能が、営利主義の株式会社にできるだろうか。 中央会廃止論も、中央会指導が単協の独自性をそいでいるかのような誤った認識に基づいている。中央会は協同組織の指導機関として法的に位置付けられている。JAグループは、現場の実践を最大限尊重し、優良事例は横展開し相互に高め合う柔軟な組織構造を持っている。萬歳章JA全中会長が8日の記者会見で「中央会の本来的な役割はJA・連合会の総合力発揮の推進力になること」と述べたように、上意下達のような指揮系統にはなっていない。単協の信用・共済事業切り離しも、世界の協同組合のモデルとなっている日本の総合事業の優位性を無視した暴論である。 与党には現実に即した建設的な改革論議を期待したい。JAグループは今、農業者の所得増大に向けた革新プランに取り組んでいる。不当な介入をはね返すには、正しい情報発信と自己改革が不可欠だ。組織一丸となって攻撃に立ち向かおう。 *3-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=27869 (日本農業新聞 2014年5月23日) 農業改革 廃止ありき 浮き彫り 中央会で内閣府 現場から意見なし 規制改革会議の農業ワーキンググループ(WG)が農協改革の提言に中央会制度の廃止を盛り込んだことについて、事務局の内閣府は22日の参院農林水産委員会で「(担い手農業者やJAなどへのヒアリングで)当事者から中央会制度の廃止などの直接の意見はなかった」と説明した。公明党の平木大作氏、共産党の紙智子氏への答弁。農業WGは中央会制度を廃止する理由として、地域のJAの独自性を発揮するためとしている。しかし、現場の当事者の声を踏まえてないことが国会審議でも明らかになり、“廃止ありき”だった可能性が高まっている。また、環太平洋連携協定(TPP)交渉について林芳正農相は同日の衆院農林水産員会で、「重要5品目などの聖域確保を最優先する」と述べ、衆参両院の国会決議を踏まえて国益を守るとの考えをあらためて強調した。公明党の石田祝稔氏への答弁。19、20日の両日にシンガポールで開かれた閣僚会合では、首席交渉官会合を7月に開催することで合意した。これを受け、林農相は今後の見通しを「残された課題の解決に向けて、各国と精力的に交渉を進めていくことになる」と説明。牛肉・豚肉などの重要品目について、関税撤廃などの対象から除外または再協議とするとした決議を守る考えを示した。また、TPP政府対策本部の渋谷和久内閣審議官は、日米間の協議について「(関税率について)お互いに幅を狭めていくということにはならない」と述べ、「仮説としていろいろな議論はしているが、幅が特定されたということではない」とした。「関税率はある程度の幅で合意しているのではないか」とした石田氏に答えた。 ●参考人質疑で担い手農家 JAの役割を評価 農協とは今後も太いパイプでやっていきたい――。22日の参院農林水産委員会に参考人として出席した担い手農家が、JAの役割を評価する場面があった。営農に主軸を置くためJAの経済事業を活用していることを紹介。政府の規制改革会議は急進的な農協改革案を打ち出したが「他の所でどうこう言ってもらう筋合いはない。農家の要望に合わせていくのが農協の在り方だ」と強調した。担い手の声だけに、今後の政府・与党の議論にも影響を与えそうだ。発言したのは島根県の(株)勝部農産社長の勝部喜政氏。米と麦、大豆を手掛け、地域の農地55ヘクタールを借り入れながら、30ヘクタールの作業受託もこなす。農産物の販売について勝部氏は、大消費地が遠いことを挙げ「自分は生産に一生懸命。販売は農協に任せており、代金は必ず集金してもらっている」と農協出荷の利点を指摘した。6次産業化についてもJAの活躍に期待を寄せた。農家側の考えとして「手間や時間を取られる。軸足は生産に置きたい。個人の労働力や資金では大変だ」と述べた。その上でJAと連携した6次産業化に意欲を見せた。 ●農政改革法案賛否分かれる 参院農水委参考人質疑 参院農林水産委員会は22日、政府提出の農政改革法案について、担い手農家や研究者、農業団体関係者による参考人質疑をした。経営所得安定対策の見直しをはじめとする政府・与党の農政改革には賛否が分かれた。兼業農家らの離農が増え、担い手への農地集積が進む中、面積拡大に対応するための担い手側の体制づくりも課題に浮かび上がった。参考人は東京大学大学院准教授の安藤光義氏、(株)勝部農産(島根県)社長の勝部喜政氏、北海道農民連盟書記長の山居忠彰氏、愛媛大学客員教授の村田武氏。勝部氏は水田作の法人代表で、現場の実態として2013年度までの農地集積協力金などを背景に「兼業農家の離農が増えている」と報告。地域の担い手として、離農する農家の農地を「(自らが)限界でも引き受け」ており、作期分散などで工夫しているとした。安藤氏は、経営所得安定対策のうち畑作物の直接支払交付金(ゲタ)と米や麦、大豆などの収入減少影響緩和対策(ナラシ)に面積要件を設けず、多面的機能支払いでは農業者だけの活動も対象とした点などを挙げ、「方向性は原則、評価できる」と述べた。今後は現場の意見をくみ上げ、改善点を検証するよう提起した。山居氏は、担い手経営安定法案の修正を要求。米の直接支払い交付金を10アール当たり7500円に半減し、5年後に廃止する方針に対し「大規模農家、規模拡大に向けて投資をしてきた担い手ほど打撃は大きい」と主張。主食用米をゲタ対策の対象とするよう求めた。村田氏は農政改革法案について「構造改革に逆行する施策を一掃するという位置付け。しかし戸別所得補償制度は構造改革に逆行するものではなかった」と指摘。今回の見直しでゲタ、ナラシ対策の対象を認定農業者らとすることには「農村に差別を持ち込む」と懸念を示した。 *3-3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=27885 (日本農業新聞 2014/5/24) 中央会制廃止 東京農業大学名誉教授 白石正彦氏 規制改革会議の農業ワーキンググループ(WG)の提案には、農業協同組合の見直しの一つに農協の連合組織である中央会制度の廃止が盛り込まれている。 ●世界的潮流から逸脱 教育と監査で機能の強化へ 国際協同組合同盟(ICA)は、1995年に21世紀の協同組合原則を採択し、その第4原則「自治と自立」の中で「政府を含む他の組織と取り決めを行う場合は、組合員による民主的管理を保証し、協同組合の自治を保持する条件のもとに行う」と明示している。国連や国際労働機関(ILO)はこの原則を尊重し、政府による協同組合への干渉を厳しく戒め、2012年国連国際協同組合年も含め、世界の協同組合の自主的発展を支援している。世界の潮流と異なるこのような干渉を許すとJAの准政府機関化への変質が危惧される。WGの提案にある「中央会主導から単位JA中心へ」という記述も協同組合であるJAの本質的理解の中核に位置付けられるべき「組合員による民主的管理」が欠けている。日本のJAを含む世界の協同組合は組合員自らが共通する経済的、社会的、文化的なニーズと願いをかなえるために単位協同組合を組織し事業経営を行い、その機能を補完するために連合組織、さらにICAに結集している。このように人々の結合体である非営利の協同組合と資本の結合体である株式会社には本質的差異があり、それぞれ共に役割分担を図っており、リーマン・ショック時には協同組合の経済社会の発展への貢献が注目された。グローバル化時代は、協同組合人らしい国際的見識と専門的知識が求められる。ドイツの協同組合連合組織は、協同組合の的確な監査機能の発揮や協同組合アカデミーでの大学と連携した博士学位の授与をしており、国内外の協同組合役職員の高度な協同組合教育・研修に熱心である。日本のJA中央会は、今後このような監査機能や協同組合教育・研修で、より高度な機能発揮が求められる。中央会制度廃止という見解は世界的潮流とは異次元と言わざるを得ない。欧州連合(EU)の政府や農協などは連携して、14年国際家族農業年の意義を重視し、「欧州と世界のより持続可能で活力ある農業のための意見交換会議」を開催した。家族農業の重要性の確認と若手農業者らによる実践、未来のための挑戦・革新、家族農業支援の最適手段としての農協の役割、消費者と農業者のネットワーク、直接契約の草の根組織の役割などを論議している。WGの提案には「非連続な農業改革を断行することを提言する」とあるが、例えば米国中西部の農協では、自ら生産したバイオエタノール85%含有を明示した自動車燃料用をガソリンスタンドで販売(日本では3%以内に規制)している。むしろこのような分野の規制改革で、バイオ資源米・飼料米定着化による水田フル活用や高付加価値型農業化を支援するべきである。 <プロフィル> しらいし・まさひこ 1942年山口県生まれ。九州大学大学院修了。農学博士。ICA協同組合原則・宣言検討委員、日本協同組合学会長などを歴任。現在は東京農業大学総合研究所農協研究部会会長、日本農業労災学会副会長。 *3-4:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=27963 (日本農業新聞 2014/5/29) [農業改革 言うことあり 6] 企業の農地取得 農山村地域経済研究所長 楠本雅弘氏 「担い手」への農地集積は2009年の農地法改正で「所有」から「貸し付け(リース)」へと本格的に移った。リース方式では既に約1300件の企業が農業に参入しており、農地法改正前の7倍以上に増えた。農地中間管理機構(農地集積バンク)の整備でその流れがさらに強まる。 ●目的外使用に道開く 集落営農こそ最善の仕組み 今回、規制改革会議が農地を所有できる「農業生産法人」の要件緩和を提案した。これは経済界が求める企業の農地所有を進める狙いがあり、「所有から借地へ」という農地利用の流れに逆行するものだ。また、一定期間、(借地で)農業をすれば要件を満たさなくても農業生産法人として農地所有を認める、という「抜け道」も提案し、執拗(しつよう)に企業の農地所有を目指している。最長40年間借りられる農地を、経営リスクを負ってまで購入しようとするのはなぜか。農業経営上は農地を所有する必要はないのだから、農業生産以外に目的があるのだろう。所有権を持てば、目的外使用や処分を規制するのは困難。過去に耕作放棄されたり、産業廃棄物の捨て場になったりした事例は少なくない。このような批判をかわす狙いで規制改革会議の案には、参入した法人は農業委員会の許可を得なければ退出できない、という旨の規制を設けるとある。しかし、撤退する法人はわざわざ許可申請するより耕作放棄に走る懸念の方が大きい。かねて経済界は「農業への参入は原則自由にして、農地利用の義務を厳格に規制すればよい」との主張を繰り返してきたが、実際には農地を守れない空論であることは、農地に関する農水省の検討会など過去何回もの政府内の議論でも論証済みだ。農業委員の公選制を廃止して首長の任命制にするとか、農地の権利移動を原則届け出制に改めるといった提案を認めれば、国民の公共財である農地を安定的に維持するために、現場の英知を積み上げて築かれてきた農地法を骨抜きにし、農地を企業の営利活動に委ねてしまうことになる。短期の利潤追求を使命とする企業が30年、50年にわたって地域の資源や環境保全の共同活動といった義務を果たし続けられるのか、大いに疑問だ。農地は地域の共同資源であり、地域社会が成り立つための基盤だ。だから住民自らが主体的に管理・活用しなければならない。農地を保全・活用する最善の仕組みは集落営農だと考えている。地域住民の英知を結集して皆で意思決定し、得意分野で生涯現役で参加できる。元気な農業と活力ある地域を両立させる大きな可能性がある。農地を有効活用するために、農家以外に所有権が移っている農地を地域で共同管理できる仕組みづくりの方が優先すべき課題だ。 <プロフィル> くすもと・まさひろ 1941年愛媛県生まれ。一橋大学経済学部卒。農林漁業金融公庫を経て山形大学教養部・農学部教授。2007年から農山村地域経済研究所を主宰。島根、熊本、大分、徳島、宮城など全国で集落営農塾を開講している。 *3-5:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=27850 (日本農業新聞 2014年5月22日) [農業改革 言うことあり 1] 北海道大学名誉教授 太田原高昭氏 JA弱体化 規制改革会議の農業ワーキンググループがまとめた文書は、現政権が目指しているという「農業・農村の所得倍増」にとって有益だとはとても思えない。地域農業の担い手のメリットになるかも極めて疑問だ。 ●農家利益 確保できぬ 歴史と現実に学ぶ態度必要 JAが事業展開する上で、地域の単位組織、県域・全国域の連合会という枠組みが欠かせない。これらが一体となって販売・購買事業を展開しており、これを分断することは組合員である農業者の利益確保に逆行する。また、JA全中はJAのナショナルセンター(全国中央組織)だ。全国的組織はどこでも、合意形成や運動のために必要だからナショナルセンターを持っている。中央会の指導で単位JAの自由がないなどという批判は、およそ現場の感覚から離れている。都市部にも農村部にも、そこで役割を発揮している優れたJAはたくさんある。JAグループも改めるべき部分はあるが、互いに情報を共有し自ら改革すべきことだ。 信用事業と共済事業の代理店化は、信共分離そのものとみることができる。JAは経済事業の専門農協になれということかもしれない。かつて畜産や果樹などで専門農協が元気だった。その時は「総合農協から専門農協の時代だ」といわれたが、総合農協に吸収された。かんきつや畜産物の自由化で成長農産物がつぶされたことの影響が大きいが、金融事業を持っていなかったということもある。総合農協ゆえに危機に対する耐性があるのだ。わが国ではなぜ総合農協が発達したのか、もっと歴史と現実に学ぶ態度が必要だろう。JAグループが、農産物の供給により国民生活のインフラを支えていることからすれば、JAの弱体化で国民が失うものは大きい。この案を作った人たちは協同組合についての見識がほとんどないのではないか。協同組合は、小規模事業者らが大資本と対峙するために存在している。だからこそ独占禁止法の適用除外もある。農業だけでなく中小企業なども同様だ。小規模事業者が大資本と対等な関係になるという、戦後改革の“経済民主主義”の原点を忘れてはならない。政府は農業基本法以来、自立した家族農業をつくることを目的にしてきた。それがうまくいっていないとして、これまでの外的環境の変化の検証もないままに企業を参入させようとしているように見える。しかし、それで本当に国際化に耐えられるのかというと、そんな保証はない。企業の方が逃げ足が速いということだけだろう。農業委員会は選挙制度を残した最後の行政委員会だ。選挙制度や農業団体による推薦制度をなくし、上から選任された人が間に立って農地の移動が進むのか。その土地に精通した人が選挙で選ばれてこそ、正統性があるのだと思う。 <プロフィル> おおたはら・たかあき 1939年福島県生まれ。北海道大学大学院農学研究科農業経済学専攻博士課程修了。同大学農学部長、同大学大学院農学研究科長、道地域農業研究所長などを歴任。日本農業経済学会長、コープさっぽろ会長も務めた。 *3-6:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=27870 (日本農業新聞 2014年5月23日) [農業改革 言うことあり 2] 信州大学・大阪府立大学名誉教授 桂 瑛一氏 株式会社化 政府の規制改革会議が示したJA全農の株式会社化は乱暴な提言だ。やるべきことが十分できていないからといって協同組合の存在自体を否定するというのは極端過ぎる。 ●協同否定、共販に制約 役割明確化し経済事業強く 株式会社になったのでは、全農とJA・組合員は買い手と売り手の間柄になってしまう。また独占禁止法の適用除外から外れ、無条件委託を前提とした現在の共同販売に制約が生じる恐れが強い。組合員がJAの力を借りて協同の力で売っていくのがJAグループの販売事業だ。現に協同の力により、市場メカニズムの重要な担い手として競争力と交渉力を強化し、品質の一定した農産物を安定供給したり、効率的に農産物を流通させたりして、農家の所得向上と食料の安定供給を目指し、成果を上げている。大規模農家や農業法人の直販などの個別対応がもてはやされている。しかしそれができるのは、JAグループが農産物を安定供給するといった流通基盤を整えたからこそ、注目が高まっているという側面を見逃してはならない。とはいえ、JAの強みを生かした十分な取り組みがなされていない現実が提言の背景になって いることは明らかだ。そこは謙虚に受け止めなくてはならない。いかにも消極的で内向きの共販三原則((1)無条件委託(2)共同計算(3)特定の取引先に集中させない平均販売)ではあるが、うやむやにするのでなくきちんと総括をして、それに代わる販売事業の理論武装が必要な時だ。組合員とJA役職員は一緒に意見を出し合い、時には批判や文句を言い合って事業を担うことこそが販売力強化への道なのだ。いま一度、JA、経済連(全農県本部)、全農の役割分担を明確にして販売事業を展開する必要があるのではないか。世界に冠たる長寿を支えてきたとされる食文化は、長年の試行錯誤の中で築き上げられたもので、消費者ニーズそのものである。その基本は素材の持ち味にこだわり、品質にこだわる点にある。日本の農業はコストを掛け、技を駆使して曲がりなりにもそれに応えてきた。全農は日本の食料、農業そして農村のすごさを国民に訴えて正しい評価を得る必要がある。農産物に対する値頃感を正す取り組みも重要だ。1本130円の缶コーヒーを毎日買うのに対し、数カ月間かけて生産されたキャベツが1玉300円になると「野菜が高騰した」と大騒ぎする。こうした風潮を正す必要もある。天候不順で農産物が高騰した際に、スーパーが安く売る行為に対しては、「需給バランスを無視した商行為」とスーパーに質問状を出すぐらいの気概があってもよい。特に全国レベルの全農は、単位JAでは対応が難しい農産物の消費拡大や食文化の発展につながるダイナミックな活動を展開してほしい。 <プロフィル> かつら・えいいち 1939年旧満州(中国東北部)生まれ。京都大学農学部農林経済学科卒業。農学博士。専攻は農産物流通学。地域農林経済学会副会長や放送大学客員教授などを務め、現在は農業開発研修センター理事。 *3-7:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=27885 (日本農業新聞 2014年5月24日) [農業改革 言うことあり 3] 東京農業大学名誉教授 白石 正彦氏 中央会制廃止 規制改革会議の農業ワーキンググループ(WG)の提案には、農業協同組合の見直しの一つに農協の連合組織である中央会制度の廃止が盛り込まれている。 ●世界的潮流から逸脱 教育と監査で機能の強化へ 国際協同組合同盟(ICA)は、1995年に21世紀の協同組合原則を採択し、その第4原則「自治と自立」の中で「政府を含む他の組織と取り決めを行う場合は、組合員による民主的管理を保証し、協同組合の自治を保持する条件のもとに行う」と明示している。国連や国際労働機関(ILO)はこの原則を尊重し、政府による協同組合への干渉を厳しく戒め、2012年国連国際協同組合年も含め、世界の協同組合の自主的発展を支援している。世界の潮流と異なるこのような干渉を許すとJAの准政府機関化への変質が危惧される。WGの提案にある「中央会主導から単位JA中心へ」という記述も協同組合であるJAの本質的理解の中核に位置付けられるべき「組合員による民主的管理」が欠けている。日本のJAを含む世界の協同組合は組合員自らが共通する経済的、社会的、文化的なニーズと願いをかなえるために単位協同組合を組織し事業経営を行い、その機能を補完するために連合組織、さらにICAに結集している。このように人々の結合体である非営利の協同組合と資本の結合体である株式会社には本質的差異があり、それぞれ共に役割分担を図っており、リーマン・ショック時には協同組合の経済社会の発展への貢献が注目された。グローバル化時代は、協同組合人らしい国際的見識と専門的知識が求められる。ドイツの協同組合連合組織は、協同組合の的確な監査機能の発揮や協同組合アカデミーでの大学と連携した博士学位の授与をしており、国内外の協同組合役職員の高度な協同組合教育・研修に熱心である。日本のJA中央会は、今後このような監査機能や協同組合教育・研修で、より高度な機能発揮が求められる。中央会制度廃止という見解は世界的潮流とは異次元と言わざるを得ない。欧州連合(EU)の政府や農協などは連携して、14年国際家族農業年の意義を重視し、「欧州と世界のより持続可能で活力ある農業のための意見交換会議」を開催した。家族農業の重要性の確認と若手農業者らによる実践、未来のための挑戦・革新、家族農業支援の最適手段としての農協の役割、消費者と農業者のネットワーク、直接契約の草の根組織の役割などを論議している。WGの提案には「非連続な農業改革を断行することを提言する」とあるが、例えば米国中西部の農協では、自ら生産したバイオエタノール85%含有を明示した自動車燃料用をガソリンスタンドで販売(日本では3%以内に規制)している。むしろこのような分野の規制改革で、バイオ資源米・飼料米定着化による水田フル活用や高付加価値型農業化を支援するべきである。 <プロフィル> しらいし・まさひこ 1942年山口県生まれ。九州大学大学院修了。農学博士。ICA協同組合原則・宣言検討委員、日本協同組合学会長などを歴任。現在は東京農業大学総合研究所農協研究部会会長、日本農業労災学会副会長。
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2014,03,12, Wednesday
里山と春の花 (1)未利用資源になっている女性はいませんか? *1の、空いている田んぼを使ってリーフレタス栽培を始めた女性は、27歳で初めて農業の世界に飛び込まれたそうだが、私は佐賀県で衆議院議員をしていた時、奥さんが中心となってハウスで花作りをしている農家に伺ったことがある。元気な奥さんで、ハウスには花が沢山咲いており、女性が中心となってやっている農業もあることを知った。そして、私は、女性が中心となって経営意思決定を行うと、農業も需要に密着した多様なものになるだろうと思った。 また、*2は、女性で慶應義塾大学環境情報学部の渡邊萌果さんが、3次元(3D)プリンターで米粉の食器を作られたという記事で、発想が若者らしく面白くて、いろいろなものに応用できそうだ。ちなみに、最初にパンに米粉を使うアイデアを出したのは、私と同期の衆議院議員で料理研究家の藤野真紀子さんで、食料自給率向上ためだったが、驚くほど美味しかった。 (2)増えすぎた野生鳥獣は未利用資源 *3-1に書かれているように、現在は野生鳥獣が増えて農業被害があるため、捕獲わなや監視・操作システムを開発して捕獲しようとしている状況である。その捕獲した野生鳥獣を無駄にせず、ジビエとして利用しようと最初に提案したのは私だが、現在、*3-2のように、ジビエや旬の野菜などを使った本格的な缶詰が作られ、ワインによく合うと好評になっているのは、喜ばしいことである。 また、最初に獣皮を使っておしゃれな小物作りをやってみせたのは女子大生だったが、現在では、*3-3のように、なめし業者や鳥獣対策を進める自治体などでつくる「MATAGIプロジェクト実行委員会」などが、里山を荒らす害獣の皮を製品化するまでの課題を共有し、地域の資源にしようと確認して、イノシシや鹿の革製品を通じた地域興しを目指し始めたのは嬉しい限りだ。 野生鳥獣の肉や皮革は、都会の人から見れば価値の高いものだが、農業の生産現場では単なる厄介者と扱われていた。そして、その価値を見出し、高い付加価値をつけたのも、女性だったのである。 *1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=24177 (日本農業新聞 2013/10/28) 新規就農 信じる自分の可能性 宇佐川美奈さん 福岡県久留米市 福岡県久留米市でリーフレタスを栽培する宇佐川美奈さん(29)は、小学校と保育園に通う3人の息子を抱え、27歳で農業の世界に飛び込んだ。一人での就農は予想を超える忙しさで、慣れない作業や栽培講習会への出席、農業と育児との両立に悩みつつ、畑に向かい続ける。3年目の今年、地域が期待する新規就農者に成長、規模拡大に挑んでいる。きっかけは、同市の花農家で義父の光雄さん(63)の冗談めいた一言だった。「田んぼも空いているし、レタスでも作ってみんね」。それがまじめで責任感のある美奈さんのハートに火を付けた。ちょうど流れ作業のパート仕事に飽きていただけに、迷わず農業の世界に飛び込んだ。2011年9月、光雄さんの畑38アールを借りて就農した。就農してみたものの、光雄さんは専業のガーベラ栽培に忙しく、夫の直さん(31)は当時、会社員。畑には農家出身でない美奈さん一人が立った。でもトラクターに乗れない、田んぼを「鋤(す)く、返す」の意味も分からない。頭の中がはてなだらけの中、JAのリーフレタス部会や営農指導員に先生役を依頼、一から農業を学んだ。仕事に追われる一方、戸惑ったのは3人の息子だ。当時、美奈さん一家は、畑から車で20分の筑後市に住んでいた。小学校や保育園が休みの土・日も家を空ける美奈さんに、子どもたちは寂しさをぶつけた。「お母さんが農業しなくてもいいじゃん。なんで農業なんて始めたの」。畑に連れてきても、すぐに飽きて帰りたがる。直さんも、育児と農業の手伝いで負担が増えた。畑で一人になると途方に暮れた。「農業すると決めたのは自分。今さら辞められない」と自分を奮い立たせた。だが、本当に就農して良かったのか、自信が持てなくなっていった。栽培は手探り、悩みは山積み――。収穫を喜ぶ余裕もなく初年度が終わった。転機は就農2年目にやってきた。13年1月、直さんが就農を決意し、一家で久留米市に引っ越した。畑は徒歩圏になり、子どもの姿を見ながら農業ができるようになった。2月には、義妹の法子さん(28)が戦力に加わった。共同でのレタス栽培が、美奈さんを規模拡大へと導いた。現在定植を進めている今年産は、当初の2倍以上の87アールになった。県の事業を活用してトラクターとロータリーなども購入し、大型特殊免許も取得した。美奈さんが一人で頑張る姿を見てきた周辺農家からは、農地が集まり始めた。「農業は正直言ってきつい。でも頑張っていれば、周りの人が自分のことのように助けてくれる。他の仕事にはない温かさがある」。目標は、リーフレタスで子どもを養えるくらいの収入を得ることだ。「どこまで頑張れるのか、できるところまでやってみたい。やっと農業が楽しくなってきた」。畑に向かう足取りが、今はちょっぴり軽い。 *2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=26418 (日本農業新聞 2014/3/10) 米粉で食器 食べれば“もちもち” 3Dプリンター開発 慶應大の渡邊さん 米粉で食器ができる3次元(3D)プリンターを、慶應義塾大学環境情報学部の渡邊萌果さん(21)が開発した。使った後は食べることもできるため、紙皿・紙コップの代替品としての利用を見込む。米粉の新たな使い方として提案し、実用化を目指す。材料に米粉を用いた同機の開発は「初めてではないか」(渡邊さん)という。 ●紙製品の代替期待 3Dプリンターは金型がなくても、立体の物を短時間・低コストで作れる先端技術。通常、材料には樹脂などを用いるが、渡邊さんは同大の田中浩也准教授の助言を受けて材料を絞るノズルなどを米粉用に改良した。1月末に高さ50センチ、直径80センチの試作機を完成させた。これまでチョコレートや砂糖を造形物の材料に用いるものはあったが「主食の米を使うことで、もっと家庭に身近なものが開発できるはずだ」と考えた。材料は、米粉に片栗粉と水を加えて粘土状にしたもの。パソコンで設計図を描くと、後は機械が自動で立体に仕上げる。作れるサイズは縦、横、高さともに10センチほどで、文字や星の形に仕上げることもできる。電子レンジで温めて固めると完成する。皿やコップ、スプーンなどの他、誤飲しても害がない幼児用のおもちゃなどが作れる。使用後は鍋などで煮込むと餅状になり、違和感なく食べられるという。渡邊さんは「食べられる食器を作れるのは驚きで、話題が増え、食卓がきっと明るくなるはず」と家庭円満にもつながると期待する。目標は、商品化して一般家庭や加工業者へ販売すること。米粉に味や色を加え、用途を広げることも検討中だ。ただ、課題もある。プリンターの想定価格は10万円台と 家電としては高価で、設計には専用のパソコンソフトも必要となる。「地元産の米を使ったり、材料に農作物を混ぜたりするなど、特徴のある米粉の活用法を見つけたい」と渡邊さん。今夏までに消費者に実際に使ってもらい、具体的な使い方を考える計画だ。 *3-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=25927 (日本農業新聞 2014/2/12)[鳥獣害と闘う]インターネット利用 大型捕獲わな 三重県農研など開発 三重県農業研究所と国立鳥羽商船高等専門学校、それに同県伊勢市にある電子機器設計・開発メーカー「アイエスイー」は、大型捕獲わなのウェブ監視・操作システムを共同で開発。「まる三重ホカクン」の名でアイエスイーから販売を始めた。獣が来ると赤外線センサーで感知、パソコンや携帯端末にメールで知らせる。わなの様子はインターネットカメラで常時監視しており、ネットの映像を見て、トリガーを遠隔操作し、群れを一網打尽に捕獲できる。導入したところでは、一挙に鹿9頭を捕獲した例もある。 ●遠隔操作で一網打尽 カメラが常時監視 獣害対策は捕獲数が少ないことが課題になっている。囲いわなやドロップネットなど大型のわなは大量に獣を捕獲できるものの確実に複数の獣を捕獲するためにはわなの近くで夜間、常時監視する必要があり捕獲者の負担が大きかった。同システムはその手間を無くした。わなの近くにカメラと赤外線投光器を設置し無線LANカードと制御器が入った制御ボックスを設置する。どこでも設置できるようソーラーパネルとバッテリーを電源とした。遠隔地からインターネットを介して常時、携帯端末やパソコンでわなを監視できる。わな内に群れが全頭入るなどした適切なタイミングで捕らえる。熱を感知する赤外線センサーを設置し、獣が来たらメールで知らせる装置も加えた。捕獲者は携帯端末などの画面を開いてわなの入り口を閉めるシステムを操作して捕獲する。このため携帯端末を常時監視する必要もない。アイエスイーが施工費別で1基約80万円で2012年9月から販売。1月末までに26基が普及しているという。装置とは別に通信料が毎年約9万円かかる。同県南伊勢町は12年7月に実証試験のために導入した。発売後買い増しして、現在4基をドロップネットと大型箱わなで運用している。13年11月末までに鹿78頭、猿116頭、イノシシ10頭の合計204頭を捕獲した。町水産農林課の城勝司係長は「夜間見張る必要がなくなり楽になった」と評価する。大型の箱わなと一緒に13年10月に導入した滋賀県日野町の鎌掛地区有害鳥獣被害対策協議会長の岡幹雄さん(64)は「鹿を昨年は7頭、今年は9頭捕獲した日があった。今後はイノシシも捕獲できるようにわなを改良したい」と話す。副次的な効果も生まれた。同研究所の山端直人主幹研究員は「これまでは捕獲者任せになりがちだったが、公民館などで集落の住民がみんなで捕獲場面を見ることで獣害対策に関心を高め、意欲が継続する効果が生まれている。獣が高密度に生息している地域は1人の担当者が複数台を集中監視するなど計画的に捕獲する必要がある」と指摘する。問い合わせはアイエスイー、(電)0596(36)3805。 *3-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=26283 (日本農業新聞 2014/3/3) ワインにぴったり ジビエ料理缶詰に 東京・渋谷の酒販店 (株)恵比寿ワインマート(東京都渋谷区)が販売する、野生鳥獣肉(ジビエ)や旬の野菜などを使った缶詰「森の自美恵(じびえ)」が、ワインにもよく合うと好評だ。缶詰のレシピは、日本ジビエ振興協議会の代表で長野県茅野市のフランス料理店主、藤木徳彦さんが監修した。鹿肉のソーセージや塩漬けバラ肉と、キャベツをコンソメで煮込んだ「シュークルート」(470グラム・1940円)は、フランス・アルザス地方の名物料理を缶詰で再現した。缶詰は8種類あり、ほとんどの食材は同県産で無農薬栽培の野菜を使う。購入者から「レストランで食べる料理みたい」という声も届く。今後は「長野県産だけでなく全国各地の食材とジビエを組み合わせた缶詰を作りたい」と同社で販売を担当する増永太郎さん(42)は意欲を見せる。 *3-3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=26103 (日本農業新聞 2014/2/22)[鳥獣害と闘う]「厄介者を地域資源」共有 都市と農村 連携を 獣皮シンポ なめし業者や鳥獣対策を進める自治体などでつくる「MATAGIプロジェクト実行委員会」などは21日、東京都墨田区でシンポジウム「里山再生~明日からできる獣皮活用」を開いた。狩猟者や地域のリーダー、自治体関係者ら200人が参加。里山を荒らす獣の皮革を製品化するまでの課題を共有し、地域の資源にしようと確認した。イノシシや鹿の革製品を通じて地域興しを目指す産地からは、広く普及させるために「商品を見てもらう機会を増やす」(岡山県)、「デザインを工夫してイメージ向上につなげる」(北海道)といった報告があった。参加者からは、都市と農村が連携して革製品を広げる重要性を指摘する声が相次いだ。日本エコツーリズムセンターの鹿熊勤理事は「地方の人は獣害が非常に深刻で切実な問題だが、都市住民は全く知らない。意識の差を埋めて事業を進めることが必要」と指摘。跡見学園女子大学の許伸江助教も「鳥獣被害で困っているという産地の物語を含めて販売することが大切だ」と強調した。
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2014,02,17, Monday
*2-2より 竹林の繁茂と森林への浸入 (1)食料自給率向上と所得倍増は重要 このブログの2014年1月8日に記載したとおり、日本の食料自給率は39%で、フランスの121%やドイツの93%よりも大きく下回っている。これは、世界人口が急速に増え、世界規模で工業化が進む中、わが国だけが「工業製品を輸出して食料を輸入する」という方式をとることが不合理であることを示しており、日本が食料自給率を上げることは重要だ。 また、日本で農業の就業者がこれまで減少し続けてきたのは、農業所得が他産業と比較して低かったり、不安定だったりしたことが原因であるため、大規模化や先端技術の導入によって生産性を向上させ、生産物の付加価値を上げて所得を増やし、農業を魅力的な産業にすることが必要であり、その結果が「所得倍増」で出てくると思う。 (2)輸入飼料を使う畜産は食料自給率向上に貢献していない 現在、わが国では、食用米は殆ど日本産であるため食料自給率は100%だが、パンは原料の小麦が殆ど輸入であるため食料自給率は1%、同じく中華めん3%、スパゲティー3%などとなっている。また、畜産は飼料がほぼ海外からの輸入であるため、食料自給率は、鶏肉7%、豚肉5%、牛肉10%(http://www.foodpanic.com/index2.html参照)と低くなっており、為替と穀物価格の変動によって、大きな打撃を受ける状況だ。 そのため、飼料の自給率を上げて安定した畜産経営を行う目的で、*2-1のように、飼料米を使う方法が進められている。また、*2-2のように、人が飼料米を刈って狭い家畜小屋に入れた家畜のいるところへ運ぶよりも、水田や草原に放牧する方が手間が省け、家畜にとっても健康的だろう。そのためには、地域に、適度な飼料作物や牧場と畜産の組み合わせが必要である。 なお、*2-3では、「米国やオーストラリアなどの輸出国は『アメリカン・ビーフ』『オージー・ビーフ』など、国ごとにまとまって販売戦略を打ち出す一方、日本では同じ品目でも「A県産」「B県産」と産地ごとの小さい単位で輸出に取り組んでいる」とされているが、米国産やオーストラリア産のような大きなくくりにすると、品質と価格を最低に合わせなければならないため、高級品ではなく普及品にしかならない。しかし、日本産の牛肉は、各産地で努力して品質を高め、ブランド化して高い価格で販売しているものが多いため、国でまとめて販売するのは適当でない。 また、牛のBSE全頭検査をやめてアメリカ産に揃え、フクシマでは原発事故が起こったため、「日本産」の牛肉は原発のないオーストラリア産よりリスクが高く、放射性物質含有可能性の高い安全面で劣った製品になったのである。そのため、産地を統一して日本産とすれば、西日本産まで買い手がつかず価格が安くなるのだ。そして、これは風評ではなく、原発事故の現実による農業被害なのである。 (3)所得倍増のためには ①生産性の向上 生産性の向上とは、人間の単位労働時間当たりの収益額を増やすことである。その方法には、大規模化、機械化、先端技術の導入などがあり、それを行うためには投資が必要だ。そこで、国は、農業の担い手を決め、担い手に土地を集中させようとしているが、*1のように、「担い手」をめぐっては、地域ぐるみで生産体制を発展させていく方向か、一部の大規模な担い手に一層の規模拡大をさせ企業参入を許すかという見解の違いがある。しかし、ごく一部の担い手だけでは、その地域の農業、農地、環境を守ることはできないため、「担い手」は、地域ぐるみで生産体制を発展させていく方向にすべきだと、私は思う。 ②高付加価値化と農業における女性の視点の重要性 *1-2のように、九州で、大分県国東半島宇佐地域世界農業遺産推進協議会と熊本県阿蘇地域世界農業遺産推進協会が、両地域の女性農業者による交流会を開き、農業遺産認定を追い風に、両地域の女性が手を組んで、地域の農産物や食文化を国内外に発信し、ブランド化や農業の発展につなげていこうと確認したそうである。 農業は、主に食品を作る産業であるため、消費者の使い方を予測して生産を行うことができる女性は、優秀な農業者になれるし、加工もうまい。そのため、第一線に出るのが遅すぎたくらいだが、女性農業者の活躍は農業の高付加価値化に貢献すると考える。 ③ブランド化 ブランド化の典型は、「松坂牛」「魚沼産コシヒカリ」「関サバ、関アジ」だが、利益率が高くなるため、最近は、どの地域もブランド化に熱心で、実際に価値の高い農水産物が多くなった。 ④竹など未利用資源の資源化 *3-1のように、政府は竹材を使った紙類をグリーン購入法の対象に位置付け、これにより竹材の活用が促進され、放置竹林対策と地域活性化に繋がることになった。つまり、今まで邪魔物とされていた竹材の利用法が開発され、未利用の資源が資源化されて、地域の得られる利益が増えたわけである。 また、*3-2のように、九州工業大大学院生命体工学研究科(北九州市)の西田治男教授(高分子化学)が、竹繊維を使ったプラスチック材料を開発し、文部科学省が「大学発新産業創出拠点プロジェクト」に採択したそうだ。これは、建築資材や自動車部品などへの活用が期待され、普及が進むことで放置竹林対策にも繋がり、未利用資源の竹が利益を生むので、地域の得られる利益が増えるわけである。 *1-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=25596 (日本農業新聞 2014/1/22) 基本計画見直し 改革へ担い手明らかに 食料・農業・農村基本計画の見直し論議が下旬に始まる。一連の農政改革を具体的にどう実践し、農業・農村の所得倍増につなげていくかが課題で、農業者の経営にも直結する重要な検討作業になる。食料自給率の向上も大きな焦点だ。農政改革の羅針盤とする上で、誰が取り組みの中心的な役割を担うのかが鍵となる。地域の総力を引き出す必要性を踏まえ、審議での明確化を求めたい。政府は昨年12月に、農業改革の今後10年間のグランドデザインとなる農林水産業・地域の活力創造プランを策定した。経営所得安定対策や米政策の見直し、農地中間管理機構(農地集積バンク)の整備、日本型直接支払いの創設を政府全体として最終決定したのも同プランだ。他に6次産業化や輸出倍増、次世代型施設園芸の推進といった政策を網羅する。重要なのは、同プランが「農山漁村の有する潜在力を十分に引き出すことにより、農業・農村全体の所得を今後10年間で倍増させることを目指す」と明記したことだ。政策の柱は出そろったが、どうすれば所得倍増につながるのか、同プランでは道筋が明確でない。そもそも「農業・農村全体の所得」とは何を指すのか、現時点でよく分からないのが実態だ。誰が担い手かという大事な軸が据わっていないため、改革が目指す10年後の農業・農村の姿もイメージできない。農政改革の実行が急がれるが、どのような将来像を描くのか、羅針盤を示すことが最優先だ。 担い手の在り方をめぐっては、この間の農政改革論議でも異なる考えがぶつかり合った。地域ぐるみの生産体制を発展させていく方向か、ごく一部の大規模な担い手に対し一層の規模拡大や企業参入を重視するかという立場の違いは、今も火種を残す。こうした宿題は、規制改革会議や産業競争力会議の議論とともに、食料・農業・農村基本計画の検討作業に引き継がれる。同プラン自体も、基本計画の見直しの中で将来ビジョンとなる農業構造や経営展望を具体的に示すよう求めている。本来なら目指すべき農業・農村の姿を描き、その上で実現に必要な政策を議論するのが筋だ。今回は“目的”の前に“手段”が決まり、検討手順には違和感を覚える。ただ、裏を返せば、基本計画が同プランに魂を込めるということでもあり、これからが勝負の議論になる。 食料自給率の向上に向けた議論も注目だ。これには国全体での生産力強化が欠かせず、麦・大豆や飼料用米など戦略作物の増産に向けた水田フル活用を展開していく上でも、農地や担い手、作物の在り方を地域で議論し、総力挙げて取り組むことが重要だ。規制改革会議などが目指すような一部企業がビジネスとして農業で成功するだけでは、目標実現には直結しない。自給率が高まっていない現実も直視し、具体的で地に足着いた議論を求めたい。 *1-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=25724 (日本農業新聞 2014/1/30) 世界農業遺産2地域 農業女性がタッグ 大分・国東宇佐と熊本・阿蘇 ふるさとの世界農業遺産認定をきっかけに、女性の力で農村の文化や食の豊かさを発信――。大分県の国東半島宇佐地域世界農業遺産推進協議会と熊本県の阿蘇地域世界農業遺産推進協会は29日、阿蘇市内で両地域の女性農業者による交流会を開いた。認定を追い風に両地域の女性が手を組み、地域の農産物や食文化を国内外に発信、ブランド化や農業の発展につなげていこうと確認した。世界農業遺産に認定された両地域が共同で、生産者の交流会を開くのは初めて。国東半島宇佐地域の同協議会長でシイタケ農家の林浩昭さん(53)は「地域の農産物の良さを一番知っているのは女性たち。おいしい食べ方やPRの方法を共有して、活躍の場を広げてほしい」とエールを送った。交流会にはJA大分県女性協やJAおおいた管内の女性部、JA阿蘇女性部など女性組織代表も出席。地産地消や食農教育、グリーン・ツーリズムなどの活動を共有した。国東半島の豊後高田市でかんきつなど果樹を栽培するJA大分県女性協会長の永松カズ子さん(67)は「国東半島宇佐と阿蘇で農業や文化は違うが、農と食をつなげるのは女性の役目。アイデアやノウハウを共有し、両地域の発展につなげよう」を提唱。施設園芸農家でJA阿蘇女性部長の栃原清子さん(64)も「今回の交流会で生まれた交流をのちのちまでつなげ、知名度を国内外に浸透させよう」と呼び掛けた。会場では、国東半島宇佐地域から持参した特産の干しシイタケやネギ、かんきつなどを使った「しいたけのバター焼き」や「白ネギのサラダ」などを披露。阿蘇地域は特産のあか牛やタカナを使い「赤牛ステーキサラダ」や「高菜めし」を紹介した。 *2-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=25911 (日本農業新聞 2014/2/11) 飼料米要望6万7000トン 畜産農家を調査 衆院予算委で農相 林芳正農相は10日の衆院予算委で、2014年産の飼料用米について、現在までに畜産農家から約6万7000トンの利用要望が寄せられていることを明らかにした。また農地中間管理機構(農地集積バンク)について、「3月から4月にかけて相当数の都道府県で立ち上がる」との見通しを示した。いずれも自民党の宮腰光寛・農業基本政策検討プロジェクトチーム座長への答弁。農水省は飼料用米の利用拡大に向け、作る側の耕種農家と、利用する側の畜産農家のマッチング(結び付け)活動を行っており、林農相は現時点での状況を説明した。同省は、毎年8万トンずつ需要が減る傾向にある主食用米の生産数量目標の減少分を飼料用米に振り向ける方針で、目安として5年で40万トン程度の生産を目指している。また農地中間管理機構について林農相は「都道府県で早期に立ち上げられるよう、準備をお願いしてきた」と強調。これに対し、宮腰氏は「(都道府県によって)取り組みに濃淡がある」としてさらに働き掛けを強化するよう求めた。一方、安倍晋三首相は米の生産調整の見直しについて「(農家が)マーケット(市場)を見ながら自らの経営判断で(作物を)生産できるようにしていくことで、消費者への米の安定供給、米の生産性向上、所得増大を図っていく」と述べた。麦・大豆や飼料用米などの生産振興による水田フル活用で、米の需給安定を確保していく考えを示したとみられる。また安倍首相は、政府の規制改革会議などが検討しているJAや農業委員会、農業生産法人の在り方については「さらに議論を深め、具体的な農業改革の推進について、結論を得ることにしている」と述べるにとどめた。ただ「岩盤にドリルを入れること自体が目的ではなくて、そこから新たな天地を開いていくのが目的だ」と語った。いずれも宮腰氏への答弁。 *2-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=25904 (日本農業新聞 2014/2/11) 水田放牧こうして 手引書普及版HPで公開 中央農研 農研機構・中央農業総合研究センターは10日、水田放牧の研究成果をまとめた手引書「水田放牧の手引き―水田飼料資源の効率的利用と畜産経営の発展に向けて」の普及版を同センターのホームページ(HP)で公開した。水田放牧によるコスト低減や繁殖成績の向上、規模拡大効果などを掲載している。同機構プロジェクト研究「飼料イネ活用型周年放牧モデルの開発」で得られた成果を作成した。全7ページで5章からなる。水田放牧に適した牧草や飼料稲の放牧利用技術、リスク管理方法、衛生管理上の注意点などをまとめた。普及版では水田放牧による繁殖牛の栄養・繁殖への影響を掲載した。水田通年放牧実証経営の繁殖牛の分娩間隔は360日前後と全国平均より繁殖成績は良好。子牛の生時体重も33キロを超え放牧開始前よりも増加したという。飼料用稲の立毛放牧の実績も紹介。イタリアンライグラスやバヒアグラスなどの牧草と飼料稲を組み合わせることで、放牧期間を1月末まで延長できる。実証圃場で飼料稲専用品種「タチアオバ」や「たちすずか」を栽培したところ、10アール当たり150日頭以上の高い牧養力を挙げたという。手引書の請求など問い合わせは同センター、(電)029(838)8414。 *2-3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=25912 (日本農業新聞 2014/2/11) 農産品輸出1兆円へ 物流改革で産地連携 品目ごと時期調整 農水・国交省検討会 農水省は農林水産品輸出額1兆円の目標に向け、物流対策に乗り出した。これまで産地ごとにばらばらだった物の流れを整理することで、輸送費を削減しようとする試みだ。農水省の狙いの根底には、単に輸送費削減にとどまらない、「産地ばらばら」から「オールジャパン」への意識改革がある。農産品は、各産地がそれぞれ輸出商社を通じて輸出するが、実際に物を運ぶ段階では同じ系列の物流会社を使っていることがある。産地ごとに少量の荷物を送るよりも、複数の産地で連携し、時期を調整しながらまとまった量を定期的に送る方が輸送費の削減につながる。こうした観点から、物流を所管する国土交通省と農水省が1月末、共同で物流検討会を立ち上げ、共同輸送が可能かどうかを探っている。物流の面からコスト削減に取り組むことで、産地を超えて連携する利点を示したいという思惑がある。米国やオーストラリアなどの輸出国は「アメリカン・ビーフ」「オージー・ビーフ」など国ごとにまとまって販売戦略を打ち出す一方、日本では同じ品目でも「A県産」「B県産」と産地ごとの小さい単位で輸出に取り組んでいる。販売ルートも産地によって違う。また産地間で輸出時期を調整しないため、たとえばある国でA県、B県、C県の同じ果実が特定の時期に集中し、逆に他の時期には全くないなどの問題が出ている。産地ではこうした問題を認識しつつも、「産地を超えて連携すると、具体的にどんな利点があるのか分からない」(農水省輸出促進グループ)のが現状だという。農水省は昨年8月、輸出額1兆円に向けて国別・品目別の戦略を作り、米、牛肉など、大きく8品目ごとに金額目標を設定した。目標達成のためには同じ品目を作る産地が垣根を越えてまとまり、戦略の点検や、課題の検討が欠かせない。品目ごとにゆるやかな連携をつくれないか検討を重ねている。 *3-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=25933 (日本農業新聞 2014/2/12) 竹材活用へ弾み グリーン購入法対象に 政府 政府は、国が環境に優しい製品やサービスの利用に努めることなどを定めたグリーン購入法の基本方針を見直し、新たに竹材を使った紙類を同法の対象に位置付けた。これにより竹材の活用が促進され、放置林対策につながるとの期待がある。 ●地域活性、放置林対策も 同法は、環境に負担が少ない製品、サービスを国や地方公共団体、独立行政法人などが率先して購入する仕組み。持続可能な社会の構築を目指す一環だ。今回の見直しで竹パルプを「間伐材等」とし、新たに竹紙が購入の対象となった。環境省は「資源の有効活用や放置林対策の観点から、竹パルプを同法に位置付けた」と理由を話す。林野庁によると、竹林の面積は13.8万ヘクタール。これとは別に手入れを放置したことなどにより約27万ヘクタールの森林に竹が侵入している。竹材生産量は、2000年の約60万トンから10年には約29万トンに減少したが、11、12年は一転して増加。製紙用の利用が本格化したことが追い風となり、約36万トンになった。生産量の約半分は鹿児島で、製紙用が約7割を占める。竹材の利用について議論を進めてきた自民党の木質バイオマス・竹資源活用議員連盟の会長を務める宮路和明氏(衆・比例九州)は「環境にとって良い影響を及ぼす製品だ、とのお墨付きを与えてもらった。竹パルプの活用に弾みがつく」と期待する。 *3-2:http://qbiz.jp/article/31256/1/ (西日本新聞 2014年1月29日) 竹ファイバーで強化プラスチック 九工大が新材料開発 九州工業大大学院生命体工学研究科(北九州市)の西田治男教授(高分子化学)が、竹繊維を使ったプラスチック材料を開発した。しなやかな竹の繊維を混ぜることで強度が増し、熱による変形が抑制されるといい、建築資材や自動車部品などへの活用が期待される。西田教授は「普及が進むことで放置竹林対策にもつながる」と話している。竹の繊維を使った布や紙製品は実用化されているが、プラスチック化は珍しく、文部科学省が「大学発新産業創出拠点プロジェクト」に採択。実用のめどが立ったため、西田教授は2014年度中に法人を設立し、事業化を支援する。竹の有効活用の研究は09年に開始。10年以降はタケノコの産地として知られる北九州市や福岡県八女市の支援も受け、複合材料の開発に取り組んできた。竹から繊維を取り出すには、高温の圧力容器内で加減圧を繰り返したり、薬品で溶かし出したりするが、コストが高かった。西田教授は圧力容器を使わず、竹に水蒸気を当て繊維周辺の物質を分解する手法に着目。220度前後の水蒸気を1時間〜1時間半当てて細かく粉砕し、繊維を取り出す方法を確立した。複合材料には、竹繊維を30〜50%配合。プラスチックより堅い竹繊維を混ぜることで、複合材料は曲げ強度が2倍に増したほか、熱による膨張も10分の1程度になった。静電気を帯びにくい性質もあり、既に北九州市の自動車部品メーカー2社が製品化の可能性を調査。竹の粉末は月産100トンで通常のプラスチックより価格が安くなるため、大手素材メーカーからも問い合わせが来ているという。事業化を支援するDBJキャピタル(東京)の山口泰久投資部長は「建築資材のほか、優れた帯電防止性を生かし半導体のクリーンルームで使う樹脂製品などにも活用できるのではないか」と期待している。林野庁によると、九州の竹林面積は1981年の約5万5千ヘクタールから2012年には約6万4400ヘクタールに拡大。増えた分は放置竹林とみられる。竹は、地中の浅い部分に地下茎を伸ばすため、地滑りの危険性を高めるとの指摘もある。 PS(2014.2.18追加):なお、*3-3のように、ジビエも邪魔にされていた鳥害獣を資源を利用し、発展可能性の大きなものである。 *3-3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=26007 (日本農業新聞 2014/2/17) [鳥獣害と闘う] ジビエでおもてなし 23日まで食べ歩き JR長野駅前飲食店グループ 長野市のJR長野駅前の飲食店グループが17日から23日、地元で捕獲された野生鳥獣肉(ジビエ)の料理で“おもてなし”する「ジビエウィーク」を開く。ピザ、煮込み料理など30品を超すメニューを考案して各店が提供。スタンプラリーでの食べ歩きなども企画し、消費者に「信州ジビエ」をPRする。ジビエウィークは、市内で18日に開かれる「全国ジビエサミット」に合わせて開催。飲食店組合「長野しまんりょ会」の賛同店舗が県内の食肉処理施設で加工したイノシシや鹿の肉を使った創作料理を提供する。気軽にジビエを楽しめるよう、500円のメニューを中心に用意。食べ歩き企画やアンケート、景品プレゼントを実施する。参加店の居酒屋「鶴亀」では、地元のJAグリーン長野女性部が加工した「シカ肉味噌」を使ったピザや、イノシシの空揚げなどを販売。同店料理人の二本松孝洋さん(24)は、「ジビエが初めてという人も食べやすいよう工夫した」と勧める。取り組みは、同市の猟師やJAグリーン長野、飲食店が連携する「若穂食のモデル地域実行協議会」の活動の一環。飲食店はJA女性部とともに、数回にわたり研修を通じ、ジビエの特性や調理法の研究を重ねた。
| 農林漁業::2014.2~7 | 10:55 AM | comments (x) | trackback (x) |
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2014,02,14, Friday
蛍光蚕 蛍光繭と蛍光絹糸 蛍光絹布のドレス (1)遺伝子工学、医療、IT、ロボット工学など先端科学の農業への利用 *1のように、遺伝子工学、医療との連携、ITの活用、ロボットの活用などにより、農林水産業は、日本の長所を活かした成長産業にすることができる。 例えば、*2及び上の写真の蛍光絹糸は、遺伝子工学を使ってクラゲの緑色蛍光タンパク質やサンゴの赤色蛍光タンパク質を絹糸に発現して作られたもので、帯、帯上げ、帯締めなどに使っても面白そうだ。このほかに、抗菌性やクモ糸なみの強さを持つ絹糸も開発中とのことで、このブログの2014.2.13に記載したSTAP細胞を使うと、同じ遺伝情報を持つ蚕を大量に作ることもできるようになると思う。 なお、農作業は、IT化やロボット化できる部分も多いため、農機具の進歩やその安価な普及が望まれる。また、医療や栄養学と連携すれば、栄養管理や介護食の開発も可能で、付加価値が高くなる。 (2)生命科学を使った品種改良 *3のように、近年は、畜産でも生命科学を使って、乳用牛の繁殖性、肉用牛の成長速度や味、豚の繁殖性、鶏の卵質などをターゲットにして、遺伝子情報を取り入れた育種を行い、従来よりも短時間で効率的な育種が進められているそうだ。これらは、その動物が従来から持っている遺伝情報を選別しているだけであるため、食べる人に害はない。 また、林業でも、*4のように、花粉をまき散らさない杉が誕生し、従来の杉との植え変えが進んでいる。もう一歩進んで、花粉を作らない樹木ができれば、花粉症の防止になるだけでなく、花粉を作るためのエネルギーも成長にまわせるためその樹木の成長は早くなるだろう。さらに、その他の必要な性質を持つ樹木を育種することも、生命科学を使えば効率的にできる筈だ。 (3)遺伝子組換食品について 食品とする農産物の遺伝子組換については、*5のように、山形大学医学部が見解を出しているが、害虫抵抗性や除草剤抵抗性のある農作物が多く、害虫を殺せる物質が人体にだけ無害とは信じにくい。少量なら無害でも、食べ続けるとどうなるのかは心配だ。 また、経済性も高いとは限らず、食品は身体に入れるものであるため、私は基本的に反対であり、消費者が選択しやすいように、最低でも、スウェーデンやEU並みの食品表示による情報公開と遺伝子組み換えでない食品を選べるという選択肢の存在が必要だと考えている。 *1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=25816 (日本農業新聞 2014/2/5) 農業、食品分野 成長産業に 民間の研究後押し 農水省 農水省は、遺伝子工学や医療、IT、ロボット工学など異分野の技術を活用して、農林水産業・食品産業分野の成長産業化を目指す。消費者らのニーズを把握した上で、民間企業や大学などが手掛ける研究の支援に乗り出す。同省は、民間活力を生かした研究の推進に2014年度予算案で11億1300万円、13年度補正予算案で30億円を新たに計上した。国内の農林水産・食品分野の研究投資は他の産業より活発ではなく、新たな技術の開発や事業化が遅れていると指摘。民間企業の研究開発支援に乗り出した。具体的には農林水産業の生産現場や、民間のニーズに合う研究課題を設定する。アレルギーがある人でも食べられる農産物の加工品作りや、希少価値のある薬用作物を効率的に栽培する生産システムの開発などを想定する。事業を委託する企業などが研究に成功した場合は、委託費の100%、成功しなかった場合には10%返済する仕組みを設け、研究に必要な企業の負担を低減する。農林水産分野は天候によって生産量が左右されやすい特徴を考慮し、委託費を全額返済する場合も返済期間を5~10年とした。新たな技術・製品は、開発した企業が優先的に使える。ただ、同省は「税金を使っているため、社会還元ができるよう他企業でも活用できるようにする」(研究推進課)としている。並行して、大学や研究機関などとの連携も強める。医療、工学系の大学などに研究拠点を置き、異分野の共同研究を支援する。テーマは和食の機能性効果やウイルス対策、情報通信技術(ICT)を活用する農業など。2月中に第1回の検討会を開き、公募を経て研究拠点を決める。また、全国に配置した研究機関などのOBが務める「コーディネーター」が、生産現場や消費者が求める情報を収集する。現場が求めることと研究内容が一致するよう、コーディネーターと情報を共有しながら研究を進める。 *2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=25851 (日本農業新聞 2014/2/7) 蛍光絹糸GM蚕 試験飼育承認へ 農水省 農水省は6日、緑色に光る蛍光絹糸を生産する遺伝子組み換え(GM)蚕の農家段階の生産を目指した試験飼育が承認される方向だと発表した。農業生物資源研究所(生物研)が開発した蚕で、付加価値の高い絹糸の生産を目指す。実験室や工場などの閉鎖環境ではなく、一般農家での生産につながる「第1種使用」と呼ばれる区分での承認で、GM蚕が同区分で飼養されれば国内初となる。試験飼育は生物研が茨城県つくば市で行う。蚕と交雑する可能性がある野生のクワコが侵入するのを防ぐ対策を取った隔離施設で飼育。試験で野生生物への影響などの問題がないことを確認した後、農家での飼育を申請する予定だ。GM蚕を飼育するには、GM生物の販売・流通を規制するカルタヘナ法に基づき、承認を受ける必要がある。同法ではGM生物の利用を、一般圃場での生産や流通を想定した「第1種使用」と、閉鎖環境で生産する「第2種使用」に区分。農水省と環境省は同日までに専門家による検討会を開き、生物研が申請した「第1種使用」のGM蚕の試験飼育を認める内容の意見をまとめた。 *3:http://www.nlbc.go.jp/g_tyousa/iden/idenshiikusyu.asp (家畜改良センター 2013年8月19日) 遺伝子育種 育種とは、特徴ある家畜、具体的には人にとって望ましい能力(泌乳量、産子数、肉質など)を向上させた個体や集団を作り出すことです。これまでは、血統などから優秀な能力を持つと考えられる父親と母親を選び出して交配させ、生まれた子畜から、次の世代の父親、母親となるものを選抜してきました。一方、1990年頃から身長や体重などのように連続的な数値で表示される形質(量的形質)に関与する複数の遺伝子が染色体上のどの位置(遺伝子座)にあるのかを、DNA配列の個体間で異なる部分(DNAマーカー)を使って探索する方法が開発され、家畜においても、繁殖性、成長速度および肉質などの経済的に重要な形質を支配する遺伝子座を特定することが可能になりました。このように家畜の生産性や畜産物の品質などと関連のある遺伝子座を特定することができれば、特定した遺伝子座の情報を用いて家畜の選抜を行うことができます。現在は、血縁や家畜個体の成績を統計学による分析に基づき、個々の遺伝子の作用ではなく遺伝子の集まりの特性を調べて、育種(改良)が行われていますが、上述のような個々の遺伝子情報を取り入れた育種手法は、従来の育種に必要であった時間、人員や施設等の経済面において飛躍的に効率化が図られるものと期待されています。マーカーアシスト選抜は、様々な経済形質の向上を目的とした育種に力を発揮する手法と考えられています。現在のところ、乳用牛では繁殖性、肉用牛では成長や食味、豚では繁殖性及び鶏では卵質などの形質をターゲットに調査研究を進めています。 *4:http://www.bioportal.jp/ja/column/604 (Jabion 2008年5月1日、要点のみ) 花粉の出ないスギ「爽春」の誕生 今年の3月に、林木育種センターが開発した花粉の出ないスギ「爽春:そうしゅん」が新品種として登録され、全国に挿し木苗として普及させる動きが進んでいます。しかし、その効果が期待できるのは、スギが成長して開花するのに10~20年かかりますから、まだ先のようです。 ●花粉症を誘発する植物の花粉 日本のスギ(Cryptomeria japonica)は英名をJapanese Cedarと呼び、日本にしか分布しない固有種です。世界中には、北米、東アジア、タスマニアなど、和名でアケボノズギやヤナギスギと呼ばれる樹種が存在しますが、分類学的には属レベルで異なり、日本のように大規模な植林は行われていません。 ●雄性不稔性のスギ 今回話題となった「爽春」は、雄花を付けますが花粉が成熟できず、花粉散布が起こらない突然変異の個体で、これを 雄性不稔性といいます。この品種は、40年前に林業用として、材質の良い品種を開発する目的で、全国から様々な特性のある個体を集め、茨城県内の国有林に人為的に樹木を植栽した人工林で、日本では建築材として加工されるスギやヒノキが植栽され、ほとんどの人工林が針葉樹林を形成します。そうした中から、 長い年月を経て モニタリングした結果、林業に最適な個体を見つけては、その個体の枝先を切って(穂木)、苗床で根を生やす(挿し木)が行われてきました。「爽春」も、こうした挿し木によってつくられた品種です。 一方で、挿し木ではなく、細胞培養から増やす研究も進められていますが、こちらは野外に移して、正常に生育し、材質が林業的に価値のあるものかどうか調査する必要があり、まだまだこれからです。さらに、短期間で確実な品種改良を行うために、遺伝子解析が進んでいますが、遺伝子領域の解読は断片的で、形態変異に関係する領域は一部のみで、現在、解析中です。一般的に樹木はスギを含めゲノム数が大きく、現在の少ない予算枠では、断片的な遺伝子配列の解析や他の樹種の遺伝子情報が集まるのを待ちつつ解析せざるをえないのが現状です。 ●林業の現状 さて、「爽春」の全国普及が実現できるかどうかですが、まず、国内の林業を活性化しなければ、難しいと言えます。現在、日本のスギ林の多くは 北山杉などの有名なスギの産地を除いて、管理されず放置されているのが現状です。その原因は根が深く、スギの植林は、昭和30年代に国の補助政策により、全国各地で盛んに行われましたが、昭和40年頃から、木材の流通は海外市場が中心となり植林業者が激減しました。そのため、枝打ちなどの管理も行き届かなくなりました。また、昭和50年頃までは、枝打ちした廃材はその現場で焼却処分などを行っていましたが、現在では環境問題の配慮から、枝打ちしたものはすべて産廃場で処理することが指導されており、その処理費の出費が林業者を圧迫しています。植林して40年経過したスギでさえ、伐採して木材にすると管理費や運搬経費等がかさみ赤字になるため、多くのスギ林が枝打ちもできず放置されています。こうした状況の中で、「爽春」をいかに全国に広げるか、行政と民間企業の緊密な連携がなくては難しいところです。また、スギ花粉だけでなく、花粉症に関する多方面にわたる研究開発も必要でしょうから、爽快な日本の春の訪れは今しばらく遠いようです。 *5:http://www.id.yamagata-u.ac.jp/EPC/15mirai/01kumikae/kumikae.html#5 (山形大学医学部) 1. 遺伝子とその利用 a. 遺伝子とは ヒトをはじめとし、動物、植物、細菌など全ての生物はそれぞれの姿、形、性質を親から子へと次世代に伝える仕組みを持っています。全ての生物の構成単位は細胞からなり、どんな生物の細胞も基本的な構造はほとんど同じようなものです。細胞膜に包まれた細胞の中には核があり、核の中には染色体が入っています。この染色体に「親から子へ遺伝する」という形で受け継がれていく遺伝の基本単位、すなわち「遺伝子」が含まれています。遺伝子の本体は「DNA(デオキシリボ核酸)」という物質でできています。DNAはA(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)と呼ばれる4種類の物質(塩基)がたくさんつながり、1本の鎖のような形をしています。この塩基の並び方が一種の暗号になっており、例えば、G-T-Cという並び方は、「グルタミン」というアミノ酸を意味します。このように、塩基3個の並び方が1つのアミノ酸に対応しており、この暗号どおりに、アミノ酸をつなげていくと、最終的に蛋白質ができあがります。蛋白質は生物の発生・分化・成長等の調節をしたり、酵素などとして働きます。 b. 従来の方法による品種改良 人類は昔から植物や動物を交配することによって品種を改良し、酒や味噌などの食品を作るために微生物を利用したりなど、生物の持つ機能を上手に活用してきました。 農林水産、食品の分野でも交配を重ねることによって優れた品種を作りだしてきました。従来の品種改良では自然交配が可能な同種の生物、あるいはごく近縁の生物同士を交配することによって遺伝子の導入を行なってきました。交配によって遺伝子が組み換えられた結果、様々な性質を持った個体が出現しますが、そのうちの有用な性質を持った個体のみを選抜して改良を重ねてきたわけです。今日私たちが日常の生活で食べている米、野菜、肉などのほとんどは、このような様々な交配によって作り上げられてきたものです。 c. バイオテクノロジーによる品種改良 しかし、現在ではバイオテクノロジー(バイオロジー + テクノロジー、生物学 + 科学技術)と呼ばれる方法を用い、生物の組織や細胞さらには遺伝子を利用して、優れた形質を持つ生命体を誕生させることができるようになりました。細胞と細胞を人工的に融合させて両方の性質を持つ細胞を作る「細胞融合技術」や、植物の細胞や組織(同じ種類の細胞の集まり)を養分のある液に植えつけて、一つの植物にまで成長させる「細胞・組織培養技術」、そして「組換えDNA技術」などです。 2. 遺伝子組み換え技術とその応用 遺伝子組み換え技術とは細菌などの遺伝子の一部を切り取って、その構成要素の並び方を変えてもとの生物の遺伝子に戻したり、別の種類の生物の遺伝子に組み入れたりする技術です。この技術を利用すれば、特定の生物がもっている遺伝子を異なる種の生物に組みこんで、必要とする性質を持ったタンパク質をつくらせることができます。農作物や細菌などに、本来作り得ない、有用な酵素などを作らせることもできます。動物の遺伝子を植物の細胞に組みこむことすら可能な技術です。 a. 組み換え技術 ●アグロバクテリウム法 最初に開発された方法はアグロバクテリウム法という土壌細菌を使って植物に遺伝子を組み込む方法です。アグロバクテリウムには、「核外遺伝子」(プラスミド)と呼ばれる小さな環状のDNAが存在し、その内部には「T-DNA」という領域があり、アグロバクテリウムが作物に感染すると、その作物の細胞のDNAに入り込むという性質を持っております。そこでこの性質を利用し、プラスミドの一部を切りとって、そのかわりに取り入れたい遺伝子をプラスミドにつなぎ合わせた後、T-DAN領域内に「プロモーターに連結した目的遺伝子」を導入すれば、目的遺伝子が作物細胞中のDNAに組み込まれ、目的のタンパク質を作るようになります。プロモーターとは遺伝子の機能を開始させ、タンパク質を作らせるスイッチとなる働きを持つ、特定のDNA領域です。なお、プラスミドは、遺伝子を運ぶ役目をするので、運び屋DNAとも言われています。 ●エレクトロポレーション法 次に、電気を使って遺伝子を取り入れるエレクトロポレーション法が開発されました。エレクトロポレーション法では、まず、植物細胞の固い細胞壁を酵素で溶かして取り除き、プロトプラストと呼ばれる裸の状態の細胞にして、遺伝子が入りやすいようにします。次に、このプロトプラストに、短時間の電気刺激(電気パレス)をかけて穴をあけ、ここから取り入れたいDNAの断片を入れることにより、役に立つ遺伝子を改良したい植物に組み込むことができます。 ●パーティクルガン法 10年ほど前に、アメリカのコーネル大学で開発された方法です。パーティクルガン法とは、金やタングステンの微粒子に取り入れたい役に立つ遺伝子をまぶし、これを高圧ガスで改良したい植物細胞に打ち込む方法です。 b. 遺伝子組換え技術を用いて作られたもの及び研究開発中のもの 1. 農林水産・食品分野 農林水産・食品分野では植物、家畜、魚介類、昆虫、微生物といった主要な生物種が対象 となっており、実用化を目指した広範な研究開発が進行中です。各分野における実用化及び 研究開発状況は以下のようになっています。 a)植物分野 (1) 実用化されている技術 細胞・組織培養: 病気に侵されていないイチゴ苗、優良な系統のラン苗等の大量生産 イネ、イチゴ、ネギ、ユリ、カンキツ等の新品種の作出 薬用人参を成分とする飲料の大量生産 組換えDNA技術: 我が国では、組換えDNA技術を利用して作出された色変わり(青っぽい藤色)カーネー ションが平成9年10月から販売されています。 米国等では組換えDNA技術により日持ち をよくしたトマト、除草剤耐性のナタネ、ダイズ及び害虫抵抗性のジャガイモ、トウモロ コシ、ワタなどが商品化されています。 (2) 研究開発の状況 細胞・組織培養 : 花粉の少ないスギ品種、低リグニンのパルプ用に適した樹木、難育苗樹種の組織培養によ る苗木の大量増殖技術の開発 組換えDNA技術: 病気に強いイネ、トマト、メロン、ペチュニア、低アレルゲン、酒造用の低タンパク質の イネなどの作出に成功。これらは、隔離ほ場での栽培試験が終了し、一般ほ場での栽培が 可能となっている(ただし、製品化には至っていない)。 耐寒性、耐乾燥性、耐塩性等を有し極限環境でも生育できる作物、光合成や窒素固定の能 力を向上させ生産性を飛躍的に高めた作物、機能性成分に富む作物、化石燃料に替わり効 率的なエネルギー生産を行う作物の開発を目指した研究に取り組んでいる。 組換えDNA技術を用いた画期的な新品種開発の基盤となるイネの全遺伝子の配列及び機 能を解明するゲノムプロジェクトが進行中。 b)家畜分野 (1) 実用化されている技術 卵子、胚の利用 : 優良な雌牛から一度に大量の受精卵を取り出し、他の雌牛に移植することによる優良な子 牛の生産(受精卵移植) 組換えDNA技術: 医薬品開発等のための組換え実験動物(マウス等)の生産(米国では組換え生ワクチンが商品 化されている。) (2) 研究開発の状況 卵子・胚の利用 : 1つの受精卵や成体細胞から同じ性質を持つクローン牛を生産する技術の開発 組換えDNA技術: 牛白血病の組換え生ワクチン接種試験の開始 有用物質生産のための組換え家畜や臓器移植用の組換えブタの試験的作出 ウシ、ブタを中心に家畜ゲノムの解析研究を実施中。 DNA鑑定: 受精卵のDNAを調べることによる雌雄の産分け c)水産分野 (1) 実用化されている技術 卵子・胚の利用: 大きな魚介類(三倍体魚、全雌魚)の生産 新素材の開発: エビ・カニの甲羅を素材とした手術用糸の生産 組換えDNA技術: 真珠養殖用のフィブロネクチンの生産 (2) 研究開発の状況 卵子・胚の利用 : ウナギ稚魚の人工養殖技術の開発 組換えDNA技術: 遺伝子組換えニジマスの作出に成功しており、世界的水準にある。 d)昆虫分野 (1) 実用化されている技術 組換えDNA技術: カイコを用いたネコ用インターフェロンの生産 (2) 研究開発の状況 昆虫の高度利用 昆虫の有用成分を利用した新素材(抗菌性物質、抗血液凝固物質、ワックス、人工皮膚 等)の開発、昆虫機能を利用したバイオセンサー、バイオマイクロマシン等の開発 e)微生物分野 (1) 実用化されている技術 細胞融合 : 冷凍保存が可能なパン生地用酵母 微生物・酵素の高度利用: バイオリアクターを利用した糖類、酒類の製造 欧米では組換え微生物により生産されたチーズ製造用酵素の商品化。 米国では組換え微生物により生産されたウシ成長ホルモンの商品化。 (2) 研究開発の状況 組換えDNA技術: 耐熱性酵素等の開発 微生物の高度利用: 微生物を利用した環境浄化技術(バイオリメディエーション)の開発 2. 医薬品、工業用酵素、試薬(実験や検査等に使う薬剤) 具体的には、ヒトの医薬品としてインターフェロンやインスリン、衣料用洗剤の酵素など があり、大きな市場となっています。また、実験用の疾患モデルマウスの生産なども実用化 されています。 3. 遺伝子組換え技術を使うメリット 農林水産業・食品産業等では遺伝子組換え技術の応用により、画期的な新品種の作出や、生産工程の効率化等といったことが可能です。21世紀半ばには世界の総人口は100億人の時代になります。食糧不足と地球環境の破壊はますます深刻になることが予想されます。遺伝子組換え技術は今後の食料問題、地球環境問題等を解決するためのキーテクノロジーの一つとして期待されます。 遺伝子組換え技術の利用により、ある生物から有用な遺伝子を取り出し、他の生物に導入することで、農作物の品種改良の範囲を大幅に拡大することができます。農作物を利用して自然の状態で分解するプラスチック製品を作ることやエネルギー資源として用いることも可能です。これまでと全く異なった農作物の利用形態が浮上してくることでしょう。 具体的には、次のような課題への対応を可能にする技術といえます。 1. 消費者の好み・要望にそった農林水産物・食品の生産 栄養成分や機能性成分(抗ガン効果等)に富む農作物、日持ちの良い農作物、アレルギー 原因物質を除いた食品の生産 2. 生産力の飛躍的向上 超多収農作物、低温・乾燥・塩害などの不良環境や病虫害に強い農作物の開発 3. 環境・資源問題の解決への貢献 生分解性プラスチック、環境浄化微生物、病虫害抵抗性を付与することによる農薬使用量 の減少、生物エネルギー等の開発 * 遺伝子組み換え食品目次に戻る * 4. 遺伝子組み換え作物 すでに商品化されている遺伝子組み換え作物の種類はいろいろありますが、現在までにアメリカやカナダで商品化されている遺伝子組み換え作物の代表的な機能としては、除草剤に対する耐性、害虫に対する抵抗性、日もち向上性の3点があげられます。その他、雄性不捻性・不捻性回復性の組み込みや、鉄分などの人体に有用な成分を多く含む作物、効率的なエネルギー生産を行う作物、きびしい環境下でも生育できる作物などの開発をめざした研究が進んでいます。 a. 除草剤の影響を受けない農作物 除草剤の影響を受けない農作物には、特定の除草剤の影響を受けなくするタンパク質を作る遺伝子が組み込まれています。そのため、その除草剤をまいても枯れない農作物を作ることができます。農作物を作るときには、雑草や農作物の種類に合わせて数種類の除草剤を何回もまかなくてはなりませんが、この除草剤の影響を受けない農作物を栽培することによって除草剤の使用回数や使用量を減らすことが可能になります。現在、除草剤耐性遺伝子を導入した作物にはダイズやナタネなどがあり、グリホサートやグルホシネート、オキシニル系などの除草剤に強い性質をもつ品種が作られています。除草剤の影響を受けないバクテリアや、除草剤を分解してしまう性質を持つバクテリアから、その部分のDNAを取り出して植物のDNAに組込み、除草剤に強い植物が作られます。 (1) グリホサート耐性作物 グリホサートは、植物や微生物に特有なアミノ酸合成経路に必要なEPSPS蛋白質の働きを阻害するため、植物は生育に必要なアミノ酸を合成できずに枯れてしまいます。そこで、植物が元々持っているEPSPS遺伝子を部分的に変化させたmEPSPS遺伝子を挿入することにより、グリホサートの影響を受けないmEPSPS蛋白質ができるので、グリホサートを散布しても植物は枯れずに生き残ることができます。 (2) グルホシネート耐性作物 植物は生きるために窒素を利用していますが、その結果、アンモニアという有害物質が組織内にたまってしまいます。このアンモニアを無毒化する酵素を植物はもっているのですが、グルホシネートの有効成分であるPPTは、この酵素の働きを阻害するため、アンモニアがたまって植物は枯れてしまいます。そこで、このPPTの働きを阻害する酵素を発現する遺伝子を植物に導入することにより、グルホシネートを散布しても、植物は枯れずに生き残ることができます。 (3) オキシニル系除草剤耐性作物 オキシニル系除草剤は、植物が光合成を行うときの電子の流れを遮断することで、植物の生育を阻害しますが、オキシニル系除草剤耐性作物には、オキシニル類を活性成分とする除草剤を加水分解するnitrilase蛋白質を発現するoxy遺伝子を導入しているので、オキシニル系除草剤の影響を受けずに生育できます。 b. 害虫抵抗性農作物 害虫をよせつけない農作物とは、害虫の天敵である微生物から、特定の害虫だけを殺すタンパク質を作る遺伝子を取り出して、これを農作物に取り入れたものです。遺伝子組み換えの技術によって害虫をよせつけないよう改良された農作物としてよく知られているのがトウモロコシです。トウモロコシにとっての害虫はガやコガネムシの仲間です。これらの害虫に対抗するためにトウモロコシに取り入れられた遺伝子は、ガやコガネムシの天敵微生物である「バチルス・テューリンゲンシス菌」(通称:Bt)のもで、このBtが持つタンパク質が殺虫力を示すのは特定の種類の害虫だけだとされており、そのためこのBtタンパク質は環境に優しい農薬として20年以上も前から使われています。このBtタンパク質をトウモロコシに組み込んだのが、通称Btコーンと呼ばれている組み換え作物で、このBtコーンを害虫が食べると、まず害虫の体内にBtタンパク質が取り込まれます。しかし、昆虫の消化器内はアルカリ性になっているため、このBtタンパク質は害虫の体内では完全には消化されず、毒性を持つ特定のプチペド(タンパク質が部分的に消化されたもの)が残ります。このプチペドが害虫の腸の粘膜にあるレセプター(受容体)と結びついて、虫の腸管細胞を破壊し、害虫は死んでしまいます。なお、人間などのほ乳類では、胃液が酸性であるためにBtタンパク質は消化されてしまい、仮にプチペドが体内に存在したとしてもほ乳類にはレセプターがなく、生体には影響がないとされています。Bt菌は土壌中に常在しており、特定の種類の害虫以外に影響をおよぼすことは少ないと考えられています。また、殺虫剤の散布回数や使用量を減らすことができ、労力とコストの削減にもなります。 c. 日もちを向上した農作物 遺伝子組み換えの技術によって日持ちがよくなるよう改良された農作物として、トマトやカーネーションが知られています。これらには、果実が熟する時に働く酵素が現れるのをおさえる遺伝子や、果実の成熟や植物の老化をすすめる植物ホルモンが現れるのを抑える遺伝子が取り入れられています。日持ちのよいトマトには「畑で完熟してから収穫できる」という利点があり、日持ちのよいカーネーションは「いままでより長い間花を楽しめる」という利点があります。日もち向上性を獲得させたトマトは1994年にアメリカではじめて認可され、市場に出まわりました。トマトは実が熟すと「ポリガラクチュロナーゼ」と呼ばれる酵素が働いて、ペクチンが分解され、果皮がやわらかくなります。日もち向上性のトマトでは、トマトのポリガラクチュロテーゼを生成させる遺伝子の一部を逆向きにして元の遺伝子に組みこむことにより、遺伝子本来のはたらきをおさえる「アンチセンス法」とよばれる方法が用いられます。その結果、ポリガラクチュロナーゼの生成が抑制され、熟しても果皮がやわらかくなりにくく、畑で完熟させてから収穫できるので風味もよく、カビなどの発生も少なくなります。 d. 雄性不捻性・不捻性回復性 雄性不稔性とは、植物の雄性器官である花粉や胚のうに異常があるために、受粉・受精や種子形成が行われないことをいいます。花に雄シベと雌シベが共についていると、植物は自家受粉を行うことができ、他の品種の花粉を受け付けにくくなるので、雑種強勢(雑種の植物は純粋なものよりも生命力が強く、収穫量が上がる)の特徴を利用する雑種第1代を育成することが困難になりますが、雄性不稔を用いるとこれが可能になります。しかし、できた種子の次代が雄性不稔のままでは、受粉ができず収穫量が減るので、花粉親となる植物には、雄性不稔遺伝子を働かなくする稔性回復遺伝子を組み込んでおきます。 e. 色変わりの花 遺伝子組み換えの技術によって、色変わりのカーネーションなども開発されております。ペニチュアという花から青の色素(アントシアニン)をつくりだす遺伝子を取り出してカーネーションに取り入れ、今までにない藤色の花が咲くようにした色変わりのカーネーションは日本でも平成9年10月から販売が開始されております。濃い青紫色のカーネーションも平成11年6月下旬から販売されております。 5. 遺伝子組み換え大豆の意外なマイナス面 雑 草管理が楽になり、収穫量が増える」「除草剤の使用が減る」と言われてきた 遺伝子組換え農作物ですが、実際にはその逆であるという専門家のリポートが米国で相次いで発表され、大きな反響を呼んでいます。名古屋大理学部の河田昌東助手(分子生物学)はリポートの一つを日本語に翻訳して紹介しております。 以下、河田昌東先生のリポートから、その要点をご紹介させて頂きます。 a. リポートの要旨 リポートをまとめたのは、病害虫専門家で元米国科学アカデミー農業委員会 委員長のチャールズ・ベンブロック氏です。「ラウンドアップ・レディ大豆の収量低下の程度とその 結果」(ラウンドアップ・レディは除草剤の商品名)という内容は昨年夏に翻訳・公表されました。調査は八つの州立大学の試験栽培地で行われた結果を分析したもので、それ によると、在来品種と組み換え品種を比較したところ、平均収穫量は8州のう ち7州で在来品種の方が高く、1エーカー(約4000平方メートル)当たりの収穫量で見ると、組み換え品種の方が約7%低かった。遺伝的に収量性の高い5品種を選んで比較しても、組み換え品種の方が約6%低かった。組み換え大豆の栽培では除草剤を1、2回まくだけで雑草が枯れるため、これまで除草剤の使用量は減るとされてきた。ところが、農場での使用状況を調べた結果、組み換え大豆が登場する前に比べ、1エーカー当たり約2~5倍の除草剤を使っている所があり、使用量は減っていないと結論づけている。除草剤の使用が増えた理由として、「散布するだけで雑草が枯れるため、安易にまく傾向がある」「雑草に耐性ができて、結果的に散布量が増える」の二つが考えられるという。 b. メーカー巻き込む論争 一方、米国のネブラスカ大農業資源研究所は今春、過去2年間にわたって調査した結果、「ラウンドアップ・レディをまいても枯れない組み換え大豆の方が従来の大豆に比べ、6~11%収穫量が少ない」という研究リポートを発表した。この調査はベンブロック・リポートを支持する内容だけに、米国では除草剤メーカーを巻き込んでの論争となっている。調査結果を学会や公開討論会で積極的に発表しているベンブロック氏は「組み換え大豆は経済的にも収入減をもたらし、決して夢の技術ではない」と米国農業の未来に懸念を抱いているという。ベンブロック・リポートを訳した河田さんは「このリポートは、日本の消費者や生産者にも重大な問題を提起している。組み換え大豆の収量が低くなるメカニズムは分かっていないが、外から遺伝子を組み込まれて除草剤に強くなった分、大豆自体の健康度、生命力みたいなものが低下したのではないか。今年の米国での組み換え大豆の栽培面積は昨年に比べて減るだろう」と語る。 c. メーカーは反論 これに対し、「ラウンドアップ・レディ」のメーカーである米国モンサント社の日本法人は「もともと収量の増加をうたい文句にしていない。しかも、除草剤の使用が増えたという根拠がはっきりと示されていない。雑草に耐性ができたという話も聞いたことがない」などと反論している。 【米8州の平均収穫量の比較】 州 在来種 組み換え イリノイ 58 60 アイオワ 61 57 ミシガン 66 64 ミネソタ 66 61 ネブラスカ 66 51 オハイオ 60 58 南ダコタ 49 44 ウィスコンシン71 69 ※数字は1エーカー当たりの収穫量(単位はブッシェル。1ブッシェルは約27キログラム) 河田先生のリポートは中部よつ葉会で冊子としてまとめられております。 取り扱い:中部よつ葉会=電話052・937・481 7 6. 遺伝子組み換え食品とその安全性 a. 遺伝子組み換え食品とは 遺伝子組み換え食品とは「遺伝子組み換え技術を用いて開発された農作物と、それを加工した食品」を指します。現在、厚生省が安全性を確認したものとしてはとうもろこし、なたね、じゃがいも等の農作物29品種と、キモシン、α-アミラーゼ等の食品添加物6品目があります。日本で販売されている食用油や豆腐、醤油、スナック菓子などにはアメリカやカナダから輸入された原料が使われることが多いことから、組み換え食品である可能性があります。 b. 遺伝子組み換え食品の安全性 遺伝子組み換え食品の開発とその安全性について日本で賛否両論が飛びかうようになったのは、1996年ころからです。賛成派は「遺伝子組み換え食品は従来の食品と同等に安全である」と考えるのに対し、反対派は「予期しない事態を生む可能性があるにもかかわらず、安全性が評価されているか疑わしい」としております。遺伝子組み換え食品としての安全性の確認には以下の3点があります。 1. 導入された遺伝子が新たに作り出すタンパク質が人体に安全かどうか 2. 新たに作り出されるタンパク質にアレルギーを引き起こす作用がないか 3. 目的遺伝子とともに導入されることの多い抗生物質耐性遺伝子が作り出す酵素が、人体に影響しないかどうか 1989年にアメリカで遺伝子を組み換えた枯草菌を利用して生産されたトリプトファンを食べた人々に、筋肉の痛みや呼吸困難、せき、発疹などの症状がみられました。トリプトファンは必須アミノ酸の一つであり、この製品は不眠症などにも効果がある食品として販売されていたものです。調査の結果、商品中に予期されなかった2種類の有害物質が混入していたことが判明しました。それらの有害物質が遺伝子組み換えによる副産物であるかどうかは不明ですが、安全性がよく確認されないまま市場に出まわったとして問題視されました。 c. 遺伝子組み替え食品の安全性に疑問を投じた二つの論文 1. 1998年8月イギリスのアーパド・バズタイ博士は「遺伝子組み換えによる害虫抵抗性ジャガイモをラットに与えたところ腎臓や、脾臓、胸腺、胃などの組織における成長障害と免疫力の低下がみられた」とテレビ番組で公表しました。この報告は「世間に誤解を与えるものである」として博士は停職処分を受け、事件はいったん解決したかのように思われましたが、その後も賛否両論が噴出し、最終的に明確な結論は得られておりません。 2. アメリカのコーネル大学のJ. ローシー助教授がアワノメイガという害虫を防除するために「Bt (バチルス・チューリンゲンシス)」というバクテリアの遺伝子を組みこんだトウモロコシの花粉を、オオカバマダラというチョウの幼虫に食べさせる実験を行いました。その結果、4日間でチョウの幼虫のうちの44%が死んだという論文が科学雑誌「ネイチャー」(1999年5月20日号)で発表されました。「害虫が死ぬトウモロコシを人間が食べてほんとうに害はないのか」といった疑問が大きな波紋をよび、遺伝子組み換え作物に対する反対運動がおきるきっかけとなりました。 これに対して、開発した企業や科学者らからは、「アワノメイガとオオカバマダラは同じ鱗翅目の昆虫なので、Bt作物にある程度影響を受けてもおかしくない」、「昆虫は自分がえさにする植物を決めているのでトウモロコシをえさとしないオオカバマダラで死ぬものがいても当然」などと、反論がでました。1999年11月にはこの問題を検証するシンポジウムが開かれ、「現段階では、自然環境に対する影響は心配ない」との結論になっております。 d. 遺伝子組み換え食品、賛成派の主張 (1)遺伝子組み換え作物は食品として安全である。 OECD(経済協力開発機構)が1993年に出した報告書の中で述べられている「遺伝子組み換え作物は、従来(非組み換え)の作物と基本的に同じである」という考えが大前提にある。また、遺伝子を組み換えるに当たっては性質の明らかな遺伝子を、一般によく知られている農作物に組み込むので、安全上予想もしないような事態はほとんど発生しない。万が一、予想もしなかったような物質が出てきても、現在の安全性評価の基準においてチェックできるようになっている。 (2)遺伝子組み換え作物は農薬・害虫に強い。 現在、作物には病気と害虫と雑草という3つの敵がある。これに対して、いままでは品種改良という方法をとっていたが、これは長い時間がかかってしまう。これに対して組み換え作物は、病気や害虫に強い遺伝子を組み込むだけで、短い時間で確実に問題が解決できる。 (3)人口爆発による食糧危機の対応策となる。 組み換え作物は耕地を増やさなくても、害虫や病気に強いものを作ることによって確実に生産量を増やす事が出来、発展途上国の食糧問題の解決に大きく貢献できる (4)遺伝子を組み換える事は自然の摂理に反していない。 遺伝子組み換え作物も、科学的にみれば通常の品種改良で行われている事と同じであり、将来に渡って食料の品質や生産性を高め、私達の生活を豊かにするためのものであるという点においても、これまで行なってきた品種改良と同じものであるといえる。よって、遺伝子の組み換えはやり方は違うが今までの改良技術の考え方の延長線上にあるものであり、自然の摂理には反していない。 e. 遺伝子組み換え食品、反対派の主張 (1)遺伝子組み換え作物は食品として安全ではない。 遺伝子組み換え作物は人が無理矢理ほかの種類の生物の遺伝子を植物に組み込んだものである。それは自然界には絶対に存在しない植物であり、その点において従来の作物とは明らかに違うものである。遺伝子を組み換える事によって、今まで眠っていた遺伝子が目覚めたり、逆に遺伝子が働かなくなったりと、いろいろな事が起こる可能性があるのだ。結局、実際に食べたらどうなるかは私達の体で試される事となる。 (2)生態系への影響が懸念される。 遺伝子組み換え作物は人間が作り出したもので、自然界には存在しない。そのため、生態系への影響が問題になっている。組み換え作物は人間のコントロールを超えてはびこり、植物や昆虫の生態系を変えてしまう危険性がある。 (3)人口爆発による食糧危機の対応策にはならない。 単に収穫量が多いとか、砂漠でも成長できるとか、そういう技術に依存しても食糧不足の問題は解決できない。食糧不足の原因である人口の増加は、世界の北と南の経済格差、南北問題が主な原因である。この南北問題を解決しない限り、食糧不足の問題も解決しない。 (4)遺伝子を組み換える事は自然の摂理に反する。 自然界には「種の壁」という基本的なルールのもとに成り立っている。人間が他の動物とは交配できないのと同じように、大豆は大豆としか交配できない。だが、遺伝子組み換えは「種の壁」を超える技術である。例えば、大豆に微生物の遺伝子を切りとって組み込んだり、人工的に作った遺伝子を組み込んだりする。理論的には、人間の遺伝子を犬や猫に組み込み、人間の遺伝子を持つ犬や猫を作る事も可能である。生命の設計図ともいわれる遺伝子を人間が勝手に操作して、「種の壁」というルールを破っても良いのかどうか、現時点ではほとんど論じられていない。 (5)特定企業による農業支配が起こる恐れがある。 現在、遺伝子組み換え作物を開発しているのは先進国の一部の企業である。それらの企業は、自分たちが開発した組み換え作物の種子、販売権、特許などを持っている。もしこのまま遺伝子組み換え作物が世界中に広まっていけば、これらの企業が世界中の農業を支配してしまうだろう。 7. 遺伝子組み換え食品の安全性の評価ならびに評価の確認 日本における食品の安全性の確保は、「食品衛生法」などに従って、まず製造者または輸入者が自らの責任において実施することになっています。遺伝子組み換え食品についても同じで、組み換え食品の製造者は、厚生省の作成した「組み換えDNA技術応用食品の安全性評価指針」(以下安全性評価指針と略す)などに従い、自らの責任において製造した組み換え食品の安全性の確認を行ないます。国の機関が直接組み換え食品の安全性を審査する事はありません。 a. 製造者による安全性評価 製造者はまず、 ・ 科学技術庁の「組み換えDNA実験指針」に基づいて、遺伝子組み換え作物を実験室で開発し、そこで作物に新しく組み込んだ性質をチェックすると共に、従来の植物と成分・性質を比較します。 ・ 次に、開発された遺伝子組み換え作物は実用化の段階に入りますが、ここでは農林水産省の「農林水産分野における組み換え体利用のための指針」に基づき、隔離された田畑で、他の生物に与える影響など、環境に対する安全性の評価が行なわれます。 ・ 食品としての実用化の段階では厚生省の安全性評価指針にしたがって、従来の食品と栄養成分を比較し、また組み込まれた遺伝子が作り出すタンパク質の安全性などを検査します。 このようにして組み換え食品の製造者は、製造した食品の環境に対する安全性、食品としての安全性等を検査します。このような検査がすんだあと、製造者は厚生省に、開発した組み換え食品の安全性検査の確認を申請しなければなりません。 b. 厚生省による安全性評価の確認 製造者の安全性検査の確認申請をうけて、厚生省は開発者が安全性評価指針に沿ってきちんと組み換え食品の安全性を検査しているかどうかを確認します。まず厚生省の食品衛生調査会に回され、専門家の委員で構成されているバイオテクノロジー特別部会に審議を依頼し、その組み換え食品が安全性評価指針に合っているかどうか審議が行なわれます。次に専門家の他、生産者、消費者の代表で委員が構成されている食品衛生調査会常任委員会で安全性などが審議され、その結果が厚生省に伝えられます。審議の結果、その組み換え食品の安全性評価が適切に行われていると判断されれば、その組み換え食品は商品化され、私たちの食卓に並ぶことになる。食品衛生調査会において、人体への健康上の影響が疑われたり、確認された場合には、食品衛生法に基づき、販売停止などの措置がとられます。厚生省の安全性評価指針では、製造された遺伝子組み換え食品と既存の食品との成分を比較し、 1.タンパク質などの主要食品成分の割合が既存の食品と同程度である 2.組み換えにより新たなアレルゲン(アレルギーの原因)が生じていない 等が確認されれば、既存の食品と同様に安全であると考えます。 c. 遺伝子組み換え食品の安全性確認義務化について 遺伝子組み換え食品の安全性確認を輸入業者や開発業者に義務づける制度が定められる予定です。この法律は2001年4月から施行される予定で、これによって業者は、国の安全性審査をうける義務を課され、安全性審査をうけていない組み換え食品の販売、輸入、製造は禁止されることになります。この新制度では、「遺伝子組み換え食品は安全性審査を経たものでなくてはならない」などと定め、この基準に合わない食品の製造、販売、輸入は禁止される他、市場に出回った場合は、その食品の廃棄、回収、輸出国への積みもどし命令などの行政処分もできます。 8. 遺伝子組み換え食品表示義務化について これまでに厚生省が安全性を確認し、国内で流通している遺伝子組み換え作物は、トウモロコシ、大豆、ジャガイモ、なたね、わたの五つです。厚生省は、これら遺伝子組み換え作物を原料に使った食品について、メーカーに表示を義務づける方針で検討をしています。重量が全体の5%未満である時など、少量しか遺伝子組み換え作物を使っていないものは除くものの、原則として遺伝子組み換え作物を含んだ全ての食品を表示対象とする予定です。農水省がこれまで表示対象にしていなかった、醤油やコーンフレーク、マッシュポテトなどの食品にも表示の義務が課せられることになります。農水省では日本農林規格(JAS)法に基づく品質表示基準で、遺伝子組み換え作物を主な原料とする30食品を対象に表示義務を課していますが、表示義務のある食品は、遺伝子組み換え作物が全原材料中の重量で上位三品目のなかに入っていて、しかも重量が全体の5%以上のものだけとされています。さらに、油は表示の対象外です。このため、豆腐、おから、納豆などは入っているが、醤油や大豆などは入っておりません。具体的な遺伝子組み換え食品の表示方法は、「遺伝子組み換え」「遺伝子組み換え不分別(遺伝子組み換え作物を使用しているか分からない)」「非遺伝子組み換え(組み換え作物は使用していない)」の3区分とする方法のほか、原材料中の組み換え作物の混入率を示す方法も考えられております。2000年6月をめどに遺伝子組み換え技術で作られた米の安全性の審査が申請される予定です。 9. 遺伝子組み換え食品の世界的動向 遺伝子組み換え作物を大々的に生産し、その主要輸出国でもあるアメリカは、外国への輸出拡大をねらい、遺伝子組み換え作物の貿易自由化を主張しています。一方ヨーロッパ諸国では、まだ遺伝子組み換え食品が敬遠されがちであるという理由以外に、自国の農業を保護するためにその輸入を制限しようとしています。遺伝子組み換え作物は本来低コスト・高品質な作物なので、国内に大量に輸入されると、国内でとれた農作物が売れなくなってしまう懸念があるためです。農作物の輸入国である日本も、農業はただ「食糧を生産する」という役割だけでなく、環境を守ったり、美しい景観をもたらすといった役割を果たしていると主張し、自国の農業保護を訴えているので遺伝子組み換え作物の輸入自由化にも慎重な態度をとっております。また、現在のところ安全性に不安が残っているため、遺伝子組み換え作物の需要はあまり高くありません。 ●EU(ヨーロッパ連合) EUはこれまで、18種類の遺伝子組み換え食品を認めてきたが、健康や環境への不安の声が高まってきて、3年前からあらたに承認することが止められている。そして、EUに加盟する国に共通のルールがいくつかある。スウェーデンでは、実際に売られる遺伝子組み換え作物はつくられてないが、試験的には栽培されており、遺伝子組み換え作物をふくむ食品も出回っている。その出回っている食品については、EU共通のルールにしたがって、「遺伝子組み換え作物が原材料の1%以上の食品には、その表示をしなければならない」ことになっている。また、EUが許可した遺伝子組み換え食品を、スウェーデンが勝手に輸入禁止にすることはできないし、EUが許可した遺伝子組み換え作物を、スウェーデンが勝手に栽培を禁止することもできないことになっている。スウェーデンでは「スウェーデン環境党」が先頭にたって、「GMOフリー自治体(遺伝子組み換え食品のない自治体)」の運動がすすめられている。自治体だけでは進められない政策もあるが、「GMOフリー自治体」は、次のような取り組みをしている。 *自治体が所有する土地には遺伝子組み換え作物の作付けを許さない。 *自治体が学校、保育所、福祉施設、政治家の会議などで食事を用意する場合、遺伝子組み換え 食品をさける。 *スーパーで売られる遺伝子組み換え食品の表示が正しくおこなわれているかをチェックする。 *遺伝子組み換え食品をさける努力をしている店を応援する。 このような「GMOフリー自治体」の活動は、ほかの国でもおこなわれていて、とくにイタリアでは77以上の自治体が取り組んでいるそうだ。そのようななか、2001年の2月に開かれたEUの議会では、「遺伝子組み換え食品の生産と販売に関する規制」が認められた。この規制では、遺伝子を組み換えた食品や飼料、種子、医薬品について、今までよりもきびしく表示をすることや、きびしくとりしまることが決められた。またアレルギーを引き起こす可能性がある「抗生物質」をふくむ食品は、これから8年の間につくらないようにすることになった。しかし、EUに加盟している15の国すべてが賛成しないと、この規制は実現しない。 ●アメリカ・カナダ アメリカ合衆国やその隣国のカナダは、遺伝子組み換え作物を他の国々に先がけて大規模に栽培し、それを輸出しています。アメリカでは遺伝子組み換え大豆、トウモロコシを主に輸出し、カナダでは遺伝子組み換え菜種、綿花、ジャガイモ、カボチャなどを輸出しています。これらの国では、遺伝子組み換え作物を原料に使った食品の表示義務はありません。 ●オーストラリア・ニュージーランド オーストラリアやニュージーランドは、アメリカ・カナダと同じく農産物の輸出国です。其れ故、ヨーロッパとは違い、遺伝子組み換え食品に対する表示義務化については、農産物の生産者から強い反対の声が挙がってます。 一方、消費者の間では、やはり遺伝子組み換えに対する不信感も強く、各地のスーパーマーケットなどに遺伝子組み換え食品をおかないように求める運動も起きています。オーストラリアでは1998年7月、政府の基準を満たしていない遺伝子組み換え食品は販売禁止になりました。また12月には、遺伝子組み換え食品の味・色・栄養価や使用方法が元の食品と違うものについては、その表示が義務づけられることになりました。しかしそれ以外の表示については見送られております。ニュージーランドでも、遺伝子組み換え食品を販売するには、その安全性や栄養などに関して、政府が作った評価基準を満たして、その販売の許可を取らなければなりません。また、オーストラリアと同じく、元の食品と味・栄養などが変わったものについては表示も義務づけられる事になりました。 ●韓国 日本のお隣、韓国では、アメリカの遺伝子組み換え大豆とトウモロコシの輸入が認められています。しかし、消費者の遺伝子組み換え食品に対する不安感もあり、1999年7月、「農水物品質管理法」が施行され、これにより、韓国でも遺伝子組み換え食品の表示が義務づけられることになりました。 * 遺伝子組み換え食品目次に戻る * 10. 私達のこれからの対応 私達は日々の生活において食事に限らずあらゆる行動・活動で、ある程度のリスクを負って生きております。現代生活ではプラスとマイナス、安全性と危険性とのバランスで、知らず知らずのうちに物事を選択することを行なっていることが日常茶飯事です。遺伝子組み換え食品の安全性をどのような基準できめるかは重要な課題ではありますが、最終的には利用者(消費者)が利益とリスクを天秤にかけて選択しなければならないケースが増えそうです。そのためにも私達は遺伝子組み換え食品に対する正しい知識と、最新の情報を持つことが必要です。もちろん行政府や組み換え食品を提供する業界が十分な情報を公開してくれることが必要条件になりますが。
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2014,02,01, Saturday
鹿と鹿皮の製品 (1)鳥獣害にもいろいろある 私が2005~2009年の期間に衆議院議員をしていた頃、毎年、イノシシやシカによる農作物の被害が訴えられてきたため、狩猟免許の取得に関する規制緩和を行ったり、予算をつけたり、ジビエ食材としての利用を進めたりしていた。そして、害獣とされるものには、エゾシカ(北海道)、トド(北海道)、クマ(東北・北海道)、サル、ハクビシン、越前クラゲ、グミなど、土地柄もあり、野生動物の豊富さに感心した。 (2)人間はそこまで弱かったのか? もちろん、野生動物を採りすぎたり、野生動物の棲みかに人間が浸食しすぎたりするのはいけないことだが、人間が採らなくなったせいか、野生動物の数が増えすぎて魚や田畑の作物を食べられ、人間が困っているから国に助けて欲しいという話が毎年来るのも疑問に思った。そのため、私は、人間と野生動物の数とのバランスをとりながらも、人間としては、困ってばかりいないで資源として採取して利用すべきだと主張し、現在、*1~*4のように、それが進んできている。 (3)野生動物は、本当は付加価値が高い 野生動物は、昔は、人間が狩猟して利用していたが、数が減ったため狩猟を制限し、人間は家畜を利用するようになった経緯がある。そのため、野生動物の肉や皮にはもともと利用価値や希少価値があり、シカ皮は高級皮革だ。 そこで、*1のように、シカ皮を利用し始めたのはGoodだが、「厄介者がくれた恵み」として安く売るよりも、なめしをよくして、グッチ、フェラガモ、ダンヒル、プラダ、ピエール・カルダンなどの高級ブランドと取引したり、提携したりするのがよいだろう。そうすれば、一番上の写真のように、できあがったシカ皮のバッグや手袋やジャケットは高級品となり、下の写真のようなイノシシ皮のバッグや手袋や靴も、面白い製品になると思う。 イノシシとイノシシ皮の製品 また、*2のように、人の食には適さない部位をペットフードに利用したり、*4のように、九州の有明海で、クラゲ漁をして食材として珍重される中国に輸出したりしているのは、アッパレだ。 *1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=25605 (日本農業新聞 2014/1/22) [鳥獣害と闘う 地域の資源に] 鹿革活用 宮崎県えびの市 「農家にとっての厄介者が、今では地域の財産だ」。鹿革の財布やバッグ、ベルト、名刺入れ、ジャケット。宮崎県のえびの市鹿協会の縫製工場にずらりと並んだ30種類以上の製品を前に、会長の下牟田盛利さん(77)は誇らしげだ。 ●厄介者がくれた恵み 原料は全て同市の猟師が捕獲した鹿の皮。新たな特産品として販売につなげ、狩猟者の捕獲意欲を高めている。デザインや縫製を主に手掛けるのは、農家で同市猟友会の会長も務める下牟田さんと、同市地域おこし協力隊の山道絵里さん(47)だ。下牟田さんは各地に出向いては革製品を買い、デザインや縫製の技術を磨いてきた。同市では20年ほど前から鹿による農林業被害が深刻化したが、捕獲した鹿のほとんどが埋設処分されていた。「もったいない」と考えた猟友会は、市の提案もあり、2007年から鹿革製品の開発、加工に着手。10年には狩猟者や地元商工会の女性らで鹿協会を設立し、本格販売を始めた。原料の皮は、狩猟者から血抜きと塩漬け後に乾燥させた鹿1頭分を4000円で買い取る。業者になめし加工を委託し、縫製工場で革製品を製造。元市職員で協会の事務を担う菅田正博さん(63)を中心にイベントなどに参加、口コミで少しずつ販路を広げた。 価格は製品によって異なるが、高過ぎると売れなくなるため、名刺入れ(1個5800円)などの小物はほとんど原価と同じだ。年間の売り上げは約200万円で、原料やなめしの加工料を払えば、小さな工場の電気代など維持管理に充てるのがやっとだという。当初は市や国から補助金があったが、今は独立採算で運営する。地域おこし協力隊の人材支援はあるが、経営は厳しい。菅田さんは「行政が知恵を出し相当な力を入れなければ、鳥獣の活用対策は進まず、持続できない」と訴える。 日本鹿皮革開発協議会によると、国内の鹿革製品の多くが輸入品。えびの市のように、販売までつなげる産地は全国でもわずかだ。協議会の丹治藤治会長は「国内の鹿被害対策には、資源利用の視点が欠けている」と指摘。鹿の皮革を集める仕組みや商品開発の技術、販路、情報などの共有が必要という。課題は多いが希望もある。えびの市鹿協会は12年、有害鳥獣対策で捕獲した鹿の1割に当たる約80頭の皮革を買い取った。同市は「皮革利用も捕獲意欲を高める動機の一つ。農業被害の軽減や地域活性化の役割も担っている」(農林整備課)と評価する。そして、協会にとって、千葉県から移住した縫製経験を持つ山道さんは心強い存在だ。「鹿の皮は山の恵み。狩猟者と農家、地域に恩恵をもたらす」と山道さん。下牟田さんは「鹿革製品は薄くても丈夫で長持ちする。やめようと思うこともあるが、その魅力が伝われば販路は広がるはず」と前を向く。 *2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=25584 (日本農業新聞 2014/1/21) ペットフード加工 三重県伊賀市 鹿肉で軟らかいロースやモモは人に、硬くて骨に張り付いているスネやクビなどの部位はペットに――。ペット用の鹿肉ジャーキー「えこばんび」を加工、販売する三重県伊賀市の(有)芭蕉農林は、産地が明確で無添加という安心感を売りに、新たな市場を切り開いた。命を奪われた鹿の肉を大切に使い切り、鳥獣害対策も後押しする。 ●鹿肉使い切り 命思う 鹿肉ジャーキーの原料は、食用としては人気がない部位の肉を使う。ミンチにして手作業で薄く小判状に固め、野菜用乾燥機で14時間乾燥した後、天日で丸一日干して作る。価格は30グラム300円。一般的なペット用ビーフジャーキーと同価格だ。原料の鹿肉は同市の猟師らで組織する「いがまち山里の幸利活用組合かじか」から仕入れる。組合には鳥獣害対策などで捕獲した鹿が毎月15~50頭持ち込まれる。同県の「みえジビエ」品質・衛生管理マニュアルに基づいて解体し、食用肉を市内外の飲食店に販売。ジャーキー用の部位は芭蕉農林が1キロ150円で買い取る。同社の中森律子さん(60)によると、体重30キロの鹿の可食部は約10キロ。そのうち、飲食店でニーズがある部位は6、7キロ分。食用に売れない肉が3、4キロ出るが、中森さんは「肉の特徴に合わせて用途と売り先を変えれば、食べ切ることができる」という。「えこばんび」は、中森さんの「命をほかって(捨てて)しまうのは悲しい」との思いから生まれた。同社は間伐や田植えなど農林業の作業受託会社で、夫と息子2人の4人で営む。中森さんは長年、獣害の増加や、銃で撃たれた鹿が放置される様子に胸を痛めてきた。2009年に、県の中小企業の支援事業を活用して「えこばんび」を開発、販売を始めた。加工は、律子さんが担う。 販売開始から売り上げは右肩上がり。12年度は107キロ分、約90万円を販売、13年度は100万円超の売り上げを見込む。飼い主の口コミで話題になり、今では県内外4軒のペット専門店で販売する。愛知県東海市の29QLAND(にくきゅうらんど)は「産地が明確で無添加の上、牛肉より低脂肪という点が好評。一度買うと必ず再購入してもらえる。店の人気商品だ」と話す。同県が野生鳥獣肉(ジビエ)の普及に力を入れることもあり、飲食店では鹿肉のニーズが高まっている。鳥獣害対策による捕獲頭数も増えた。中森さんは「大事な命を無駄にしないためにも『えこばんび』は絶対に必要だ」と言い切る。伊賀市でこのペットフードを愛用する伊藤美雄さん(64)は、「2匹の愛犬は食欲がない時でも『えこばんび』なら食べる」とほれ込む。中森さんと話し、初めて鳥獣害の深刻さを知ったという。「鹿肉を選ぶのが、動物の命を大事にする方法だ」と言葉をかみしめる。 *3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=25690 (日本農業新聞 2014/1/28) [鳥獣害と闘う]安全・安心ジビエ 通年流通 熊本県多良木町の村上精肉店 熊本県多良木町の村上武雄さん(68)は、鹿やイノシシを狩猟者から仕入れて解体し、流通させる全国でも珍しいジビエ(野生鳥獣の肉)の精肉店を経営する。牛や豚の家畜動物の食肉処理技術を生かし、通年で全国のホテルやレストランなど外食産業に販売。ジビエの注目が高まっていることから需要も増えており、ジビエ普及の一翼を担っている。 ●狩猟者と協力体制 量と品質を確保 村上さんが社長を務める「村上精肉店」は、およそ20年前から野生動物の肉の販売を始めた。開店当初は家畜だけを精肉にして卸していたが、南九州で鳥獣被害が深刻化し、有害鳥獣を駆除する狩猟者が増えていたため、ジビエを取り扱うようになったという。狩猟者からは捕獲後、とどめを刺して血抜きなどをした野生動物を仕入れる。仕入れ値は捕獲の状況や処置状態などによるが、球磨郡内を中心に約20人の狩猟者と取引している。解体などの処理は全て同社で行っている。珍しさや専門店で解体している信頼性、安心感などが口コミで広がり、現在は全国に販路を広げる。希望があれば肉の出荷地や雌雄などをデータ化した産地証明にも応じている。最近は特に注文が多く、扱う肉の7割近くがジビエになり、経営の柱に据える。村上さんは「ジビエに脚光が集まっている。衛生面の課題もあるジビエだが、精肉店であれば安心できるといって取引してもらっている。安全・安心なジビエであれば、もっと売れるはず」と実感する。狩猟によって仕入れ量が大きく異なるが、狩猟者との人脈を生かし、「希望の量に満たない」と言えば協力してもらえる体制を整える。夏場の野生動物は脂肪を蓄える冬に比べて傷みやすく「調理に向いていない」と敬遠する地域が多い中で、通年で販売するのも同社の特徴の一つ。「ジビエの味は冬と夏は異なるものの、きちんと食肉処理すれば夏場もおいしく食べられる。農産物への被害が起きやすい夏場に捕獲した野生動物を売るという意味も大きい」との考えで、売り先に夏のジビエの特徴などを正確に伝える。村上さんと取引する狩猟者は「売り先があることが捕獲の意欲につながっている」と歓迎し、大阪市の外食産業も「安定した量と安心できる品質を確保してくれるので信頼できる。ジビエでは貴重な購買元だ」と評価する。鳥獣害の出口対策として重要視されるジビエ。村上さんは「ジビエは利益率も高い。狩猟者と売り先を結び付ける役割を今後も果たしていきたい。ジビエの可能性はまだまだ広がる」と見通している。 *4:http://digital.asahi.com/articles/SEB201308170019.html (朝日新聞 2013年8月19日) かつて邪魔者、いま宝物 有明のクラゲ漁、ブームなぜ? 九州の有明海で、クラゲ漁がブームになっている。昨年夏の九州北部豪雨で有明海に大量の栄養分が供給され、大発生したのがきっかけだ。食材として珍重される中国からの引き合いが急増していることも、クラゲ漁活況に拍車をかけている。有明海で繁殖しているのは赤い色をしたビゼンクラゲで、えさは動物性プランクトン。大きいものでは重さ約40キロにもなるという。約30年前からクラゲ漁をしている福岡県柳川市の荒巻勝枝さん(75)によると、ビゼンクラゲは福岡、佐賀両県の沖合から南下する習性があるという。今夏の漁は6月下旬ごろから始まった。船上から網ですくい上げて取る。門司税関によると、日本からの輸出は、2011年までは統計に上らないほどの少なさだったが、12年には2252トンに上った。約4億5千万円相当になる計算で、その大部分が中国向けの有明海産ビゼンクラゲとみられる。これまでは柳川市一帯で酢の物などで食べる習慣がある程度だったが、昨夏からは佐賀、熊本両県の漁師も参入。出漁は多い時で延べ約300隻とも言われる。福岡県魚市場筑後中部魚市場(柳川市)によると、1日に出荷されるビゼンクラゲは3~4トンで、1キロあたり100~150円。かつては、つい網にかかってしまう「邪魔者」扱いだったのが一転、漁業者にとってはいまや「宝物」だ。長崎県のある漁協組合長は「諫早湾の干拓事業で潮受け堤防が閉め切られて以降、魚や貝の不漁が続き、漁師をやめる組合員が多くなった。お金になるものは水揚げする、という切羽詰まった状況がある」と話す。クラゲ漁には思わぬ波及効果もあった。クラゲは塩やミョウバンに漬け込む加工が必要なため、柳川市内に最近、新たな加工所が数カ所できた。熊本県上天草市、長崎県諫早市などにも加工所ができ、加工法に詳しい中国人スタッフが雇用されている。その一方、乱獲懸念も出てきたため、福岡、佐賀両県の水産団体は、直径40センチ未満のクラゲは取らないとの自主ルールを決めた。クラゲに詳しい広島大大学院の上真一教授(生物海洋学)は「クラゲは中国では高級食材だが、枯渇状態にある。有明海で増えたのは、プランクトンをえさにする魚や貝が減ったためで、決して良いことではない。クラゲの生態も十分にわかっておらず、資源管理の難しさもある」と話している。 PS(2014.2.3追加):*5もGood Idea(よい考え)だと思うが、小物、衣類、家具など需要は多いので、「鳥獣害対策だから」とか「障害者支援のための製品だから」という理由で売るのではなく、品質とデザインで勝って欲しい。 *5:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=25621 (日本農業新聞 2014/1/23) 障害者就労支援 岡山県 岡山県で注目され始めている県産イノシシの皮革製品「KIBINO(きびの)」。障害者の就労を支援する県セルプセンターが扱う新しいブランドだ。製造は県内3カ所の障害者就労支援施設に委託している。鳥獣害対策と福祉事業を結び付け、処分に困っていたイノシシ皮を県特産品として生まれ変わらせた。 ●働く喜び生む革加工 センターは2013年にブランドを商標登録。スリッパや手提げ袋、ティッシュカバーなど約30商品を岡山市の雑貨店やイベントで販売する独自の流通網を整えた。支援施設になめした革を提供し、製品の製造を任せる。施設利用者が手作業で加工し、専用の焼き印を入れてセンターに卸す。皮革製品の価格はスリッパの1万9800円から、しおりの700円まで幅広く設定。売り上げの一部が工賃として利用者に支払われる。センターの田中正幸事務局長は「皮革製品は希少で売価が高く、工賃アップが見込める。手芸に慣れた利用者が多く作業もスムーズだ」と、利点を説明する。障害者の自立には、労働に見合った収入を得ることの実感が欠かせない。しかし、就労訓練は菓子や工業部品の製造などに限られているのが実情だ。新たな仕事づくりにセンターが目を付けたのが皮革製品だった。県備前県民局の紹介で12年度、イノシシを精肉加工する吉備中央町の加茂川有害獣利用促進協議会から革を調達、商品開発に乗り出した。支援施設と試作を重ね、東京都内や名古屋市など都市部で試験的に販売。革本来の手触りや物珍しさが好評だったことに商機を見いだした。倉敷市で昨年11月に開かれたイベントでは、3日間で14万円を売り上げた。手作りで色や形が一つずつ微妙に違うこともブランドの魅力になっている。革は12年度に69枚、13年度には39枚(12月末まで)を使用。1頭で1枚しかないため、革を供給する促進協議会は品質にこだわる。解体時に手作業で剥皮して脂肪を除去した上、業者になめし加工を委託し、1枚約1万円でセンターに卸す。協議会長の二枝茂広さん(62)は「1頭で平均7キロ出る皮の処分に困っていた。廃棄物が売れ、一頭でも多く捕ろうという意欲につながっている」と評価する。製造を担う施設の一つ、吉備中央町の「吉備の里 希望」は3人が作業する。型作りや縫製など得意分野を分担し、ピーク時には2週間で100品を仕上げる。「縫い物が得意なんだ。やりがいを感じている」と話す利用者の男性(31)。黙々と作業し、熊をかたどった小物を完成させた。皮革製品作りが好きで、製造が始まった時から作業に参加しているという。施設の丸山貴子主幹は「利用者の意欲は高く、需要拡大にも対応できる」と指摘。就労支援につなげながら、鳥獣害対策をも後押しする。 PS(2014.2.6追加):森林総合研究所は、(さすがに)シカを資源管理しながら、習性を利用して簡単に捕獲する方法を研究したそうだ。後は、その方法を用いるための道具を安価に提供することが必要だが、ここには中小企業も参入できると思う。 *6:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=25814 (日本農業新聞 2014/2/5) 鹿捕獲の新技術紹介 少人数で効率的に 森林総研 森林総合研究所は4日、東京都内で講演会「新たなシカ管理に向けて」を開き、ニホンジカの個体数管理の新技術を紹介した。鹿の視覚、聴覚を利用する捕獲方法や、捕獲の評価方法を説明。参加者からは「より少ない人数で効率的な猟ができる」との期待する声が相次いだ。同技術はニホンジカによる農林業被害を減らそうと、2010年から農水省のプロジェクトとして取り組んできた。研究を重ね、伝統的な狩猟方法とは違う新たな技術を開発した。講演会には、自治体や狩猟団体関係者ら180人が参加した。信州大学の竹田謙一准教授は視覚、聴覚刺激を利用して、鹿を捕獲しやすい場所に誘いこむ方法を研究。(1)鹿の警戒心を解く鹿の等身大模型(2)交尾期の雄鹿の求愛声(3)鹿が夜間でも認識しやすい9センチ以上の人工芝――を、誘い込みに効果的な具体策として発表した。竹田准教授は「模型や人工芝の単価が高いなど、残された課題はある」とする一方、「今後もより簡単で負担の少ない捕獲方法を提案していきたい」と話した。この他、森林用の囲いわなと銃器を組み合わせた捕獲法や、苗木の食害数や鹿の出現頻度を基に捕獲の効果を評価する方法も紹介した。
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