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2020,02,23, Sunday
購買力平価ベースのGDP 2018.12.18朝日新聞 2019.12.21毎日新聞 (図の説明:物価上昇の影響を除いた購買力平価ベースのGDPは、左図のように、日本は停滞しており、現在はインドと接戦の状態だ。一方、中国は、等比級数的にGDPが伸びているが、これまでは安い人件費に支えられた製造業の発展が主な要因で、現在は先端産業にも進出している。アメリカは人件費が特に安いわけでもないのに、購買力平価ベースのGDPが順調に伸びており、開拓者精神と人材の多様性に支えられているのだろう。また、中央の図は、中国の近年の出来事とGDPの上昇をグラフに示したもので、中国は市場経済を目標にして以降、GDPの伸びが著しいことが明らかだ。右図の日本の2020年度予算は、予算委員会であまり議論されていない《又は議論していても報道されていない》が、持っている資産を活かし、無駄遣いを省いて教育を重視し、技術や人材を大切にしなければ、将来がおぼつかない) 経産省はじめ政府が愚かなため、日本は1億人の人口を抱えながら、食料(自給率37%)やエネルギー(自給率7.4%)の殆どを輸入し、輸入するための金を稼ぐ手段である製造業やサービス業も他国に譲ってしまった。このままでは、将来は、食料やエネルギーを輸入する金もなくなるため、今日は、事例を挙げてそのことについて説明する。 (1)農林業生産物の外国依存 1)日本における食品の自給率低下 農林水産省は、*1-1・*1-2のように、2030年度の食料自給率目標として輸入飼料を与えた国内の畜産物を「国産」に含めた数値を新たに設定する方針だそうだが、これを国産に含めていけない理由は、飼料の輸入が止まれば、その畜産物を生産できなくなるからだ。 これは、政府が農産物の市場開放を優先したため政府が掲げた食料自給率の目標に達しないことを隠すためだろうが、そもそもカロリーだけで自給率が100%になっても生きてはいけない。まして、「45%の目標が37%に落ち込んだが、新たな算定方法で計算し直すと46%に跳ね上がった」などというのは、次元の低い数字遊びにすぎず、飼料増産・耕畜連携・国産飼料を与えた畜産物の消費という機運を削ぎ、食料安全保障の確立のための飼料自給率向上への取り組みを疎かにするものだ。 また、*1-3のように、社会全体の「食の安全」への意識の高まりの中、国は2015年に食品表示法を施行して原産地表示の義務化を進めているが(日本政府が定めると妥協の産物になるため、EUと同じにした方がよい)、不十分なこの原産地表示でさえ、「中国産」を「国産」と偽るなどの虚偽表示が多いそうである。 2)榊(サカキ)も中国産 日本の神事に欠かせないサカキは、国内に広く自生しているにもかかわらず、*2のように、殆ど中国産で、その理由は、国産材が売れなくなって森林の手入れが減り、木材の下に自生しているサカキを切り出して販売していた供給が減ったからだそうだ。 佐藤幸次さんは、そこにビジネスチャンスを見つけて10年前に国産サカキの供給に乗り出したが、軌道に乗せるまでは大変だったそうだ。 (2)和服も中国製 今回の新型コロナウイルス騒ぎで、日本で使われているマスクの80%が中国製だということがわかって驚いたが、日本文化の象徴とされる和服についても、*3のように、①絹糸の殆どが中国産で、made in Japanの着物生地は絶滅寸前であり ②仕立ての半分以上は、ベトナムなど海外の職人が行っており 流通する「日本の着物」の大半は、「中国産の糸」を用いて、日本で仕立てたか、ベトナムなど海外の工場で仕立てたものだそうだ。 これは、品質管理を日本企業が行いつつ、人件費をはじめとするコストの安い中国・ベトナム・ミャンマーなどで生産するようになったためで、そうなった理由は、日本国内では人件費・水光熱費・地代等の必要経費は上がったが、それに見合った生産性向上ができなかったため、国内で生産すれば価格が高くなりすぎて一般市民が買えなくなったという日本市場の現実がある。 この後、日本での生産が0になれば、品質管理ができる日本人もいなくなり、日本からは技術もなくなるが、この現象は、時間の差はあれ他産業にも起こったことで、主に東西冷戦終了後の1990年代から始まったことである。こうなってしまうと、仮に景気がよくなっても、国内ではなく輸入する相手国に金が落ちる仕組みとなる。 (3)工業製品も中国にシフト 私は、東西冷戦が終了した1990年代にODA担当をしていたため、共産主義経済の国が経済敗北し、共産主義経済から市場主義経済に移行した国をずっと市場主義経済だった国が援助しつつ技術移転していた現場にいて、その内容を見てきた。そして、現在、(長くなりすぎるので1つ1つ例を挙げはしないが)市場主義経済の国だった筈の日本が、中国やロシアよりも共産主義経済の弱点を具現しているように見えるのである。 例えば、国内メーカーだったが、日本で変に叩かれて台湾メーカーとなったシャープは、*4-1のように、初めて第5世代(5G)移動通信システムに対応したスマートフォンを発表したそうだ。メディアが的外れの叩き方をして、日本の優良メーカーを日本から追い出したのは本当に残念なことだった。 一方、*4-2のように、中国で発生した新型コロナウイルスによる肺炎の拡大で、スマートフォンなど世界の電子機器の生産に影響が出ているのには、電子機器における中国の重要性が現れている。つまり、中国は、食品・軽工業製品を生産・輸出しているからといって重工業製品・IT産業で遅れているわけではなく、最先端の電子機器も生産しているのであり、これは一国の政策として当然のことなのだ。 さらに、*4-3のように、新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大が続く中、中国からの部品供給が滞ったため、日産自動車は九州の完成車工場の稼働を一時停止するそうで、国際貿易センターによると、2019年の中国からの自動車部品の輸入額は30億ドル(約3300億円)と、重症急性呼吸器症候群(SARS)が流行した03年の約10倍になっているそうだ。 つまり、日本が現状維持や後戻りばかりしている間に、中国はEVや自動運転車でも最先端を走っており、これは、国を挙げて本気でEVや自動運転車の開発を行う意思決定をし、それに基づいて皆が行動した結果だ。にもかかわらず、経産省は、「自動車だけは永遠に日本の方が優れている」と考えているようだが、それもいつまで続くかわからない幻想なのである。 (4)サービス業 製造業は、コストの低い国が立地上の比較優位性を持つのに対し、サービス業は、消費地でしか生産できないため、日本にも立地の比較優位性があり、雇用吸収力もある産業だ。しかし、経産省はじめ日本政府は、製造業と比較すると、サービス業は眼中にないらしい。 1)観光業 中国で発生した新型コロナウイルスによる肺炎拡大で中国政府が海外への団体旅行を禁止した1月末以降、旅客便の運休やクルーズ船の寄港取りやめが相次ぎ、沖縄県の観光施設・ショッピングモール・ドラッグストアなどから中国人団体客の姿が消えて、沖縄県経済の屋台骨である観光業に影を落としているそうだ。 このように、「日本は中国はじめ外国の観光客を迎えて外貨を稼いでいるのに、メディアが『爆買い』などという嘲るような言い方をするのは罰当たりだ」と私は思っていたが、客の姿が消えて初めて、その有難味がわかったようだ。観光で行ける場所は世界に少なくないため、今後は観光客を疎かにしない方がよい。 2)医療・介護 日本の医療は質が良かったにもかかわらず、近年は、*5-2のように、厚労省が医療費抑制しか考えずに医療叩きばかりしているため質が落ちた。医療の質が高ければ、人間ドック・医療・リハビリなどを目的とした観光を設定して稼ぐこともできたが、新型コロナウイルスへの対応を見ても諸外国から見劣りするもので、もともとあった付加価値の高い宝を、浅い思考と狭い視野でなきものにしようとしているわけである。 さらに、介護も、実需に基づいた日本発のサービスで、高齢化とともに世界で実需が増えるサービスであるのに、厚労省や財務省には社会保障という名の無駄遣いにしか見えないらしく、ブラッシュアップするどころか人口減少による支え手不足を理由として高齢者の負担増・給付減しか考えていない。そして、40歳以上の人からのみ高額の介護保険料を徴収する不公正を是正しようという気配すらない。 (5)日本は、人材・熟練技術者やその育成を怠ってきた このような新しい製品やサービスを作って軌道に乗せるのは、科学的・論理的にモノを考えることのできる人材だ。しかし、日本は、人材を計画的に育てておらず、*6-1のように、①量子研究でも後れた ②日本発の再生可能エネルギーの使用も遅れた ③日本発の再生医療もiPS細胞に偏りすぎて遅れた ④日本発の癌免疫療法も遅れた 等の状況だ。その理由は、「司令塔がない」というよりは、「司令塔にふさわしい人材をリーダーにしていない」からである。 さらに、知性が重要な時代になったのに、*6-2のように、高等教育を極めた高度人材に大学も企業も活躍の場を与えて育成していない。既に人口に占める博士の割合は増えているため、「博士≒高度研究者」である必要はなく、小・中・高校の教諭も博士を優先して採用してもよいと思う。なお、考えるための基礎知識は必要だが、覚えて終わりの知識では役にたたないのだ。 また、基礎知識のある人が就職しても、本当の人材や熟練技術者になるためには、On the job training が欠かせない。そのため、*6-3のように、①“ゆとり教育”で基礎知識を減らしたのは人材の育成にマイナスだった ②“働き方改革”によって、知識の吸収期であり仕事に熱中している人にまで働かないことを強制するのはよくない ③労働基準法改正が日本人の「勤労は美徳」という勤労観にトドメを刺して、日本の競争力をますます無くさせている ④残業禁止でダブルワーカーが増えそうだ ⑤「手に職」が付かなくなり技能伝承がやりにくくなる ⑥このままでは何の保護も保障もなく勤勉に働いて日本社会に貢献してきた経営者の多くが労基法違反の“犯罪者”になる ⑦これでは中小企業の多くが消滅してしまうだろう ⑧日本人が働き過ぎだったのは、戦後日本を復興した前の世代のことである というのに、私は賛成だ。 <食品の自給率> *1-1:https://www.hokkaido-np.co.jp/article/394897 (北海道新聞 2020/2/20) 食料自給率 失政覆う数値かさ上げ 農林水産省が、2030年度の食料自給率目標として、輸入飼料を与えた国内の畜産物を「国産」に含めた数値を新たに設定する方針を示した。政府は現在、25年度にカロリーベースの自給率を45%に引き上げる目標を掲げている。18年度実績は過去最低の37%にまで落ち込んだが、新たな算定方法で計算し直すと46%に跳ね上がる。農産物の市場開放を優先し、自給率低迷を放置する安倍晋三政権の「攻めの農政」の欠陥を覆い隠そうとしている。そう勘繰られても仕方あるまい。安直な数値のかさ上げで、輸入飼料に依存する畜産業の実態を見えにくくするのは大いに問題だ。新しい自給率目標は、今春改定される農政指針「食料・農業・農村基本計画」に明示される。輸入飼料を与えた畜産物を除いた従来方式の指標と併記するという。今回の措置について、農水省は「畜産農家の生産努力を反映させ、国産品を購入する消費者の実感を高めるため」と説明するが、姑息(こそく)以外の何物でもない。輸入飼料を与えた畜産物は統計上、国産に含まれなかっただけであって、店頭で輸入品扱いされているわけでも、消費者が国産品と認めていないわけでもない。政府に問いたいのは、そもそもなぜ食料自給率向上を政策目標としてきたのかということである。地球規模で見れば、途上国の人口増、気候変動、疫病、戦争などで、いつ食料争奪戦が起きても不思議はない。自給率は、輸入を絶たれた場合でも国民の食を守れるかどうかの目安であるはずだ。新たな指標は輸入飼料への依存度をさらに高めかねず、政策本来の趣旨に逆行している。背景として思い当たるのが昨夏の日米首脳会談である。首相はトランプ大統領の要請をのみ、米中貿易摩擦でだぶついた飼料用トウモロコシの大量輸入を約束した。トウモロコシの輸入が増えても自給率が上がる算定方法をわざわざ用いるのは、農家のためではなく、日米両首脳にとって政治的に好都合だからではないのか。これは「国産飼料に立脚した畜産の確立」を掲げ、コメ農家に飼料用米への転作を促してきた従来の農政とは明らかに矛盾する。安倍政権は以前にも「国際基準に合わせる」などの理由で、国内総生産(GDP)を年間30兆円規模かさ上げした。経済指標を恣意(しい)的に扱い、成果を誇示するのはいいかげんにやめるべきだ。 *1-2:https://www.agrinews.co.jp/p50020.html (日本農業新聞 2020年02月15日) 新たな自給率目標 飼料増産の機運そぐな 次期の食料・農業・農村基本計画で農水省は、飼料自給率を反映しない新たな自給率目標を設定する方針だ。畜産農家の生産努力を考慮するなどの狙いがあるが、飼料の多くを輸入し、その依存度が高まっているのが実態だ。食料安全保障の確立へ飼料自給率向上への取り組みがおろそかになってはならない。日本の飼料自給率は25%(2018年度)と低い。それを反映させた現行の自給率の算定では畜産物は低くなり、全体が上がらない要因になっている。現行のカロリーベースは過去最低の37%(同)。飼料自給率を高めないと、畜産農家が頑張って生産を増やしても全体の自給率の向上にはつながりにくい。新たな自給率目標はカロリーベース、生産額ベースともに飼料自給率を反映しない「産出段階」の数値。カロリーベースでは46%になる。現行基本計画の目標の45%を上回り、数値を高く見せるためではないかとの誤解を招きかねない。狙いについて分かりやすい説明が必要だ。また飼料自給率を反映しないと輸入飼料に依存している実態が見えにくくなる懸念がある。飼料自給率は3年連続で低下。そうした危機感が国民に伝わらず、飼料増産・耕畜連携や、国産飼料給与の畜産物を食べようといった機運がそがれるようなことがあってはならない。飼料自給率向上の要である飼料用米について現行基本計画は、25年度には、13年度の10倍に当たる110万トンに増やす目標を設定。しかし作付面積は米の生産調整を見直してから18、19年産と連続で減り、18年産の生産量は43万トンにとどまった。飼料自給率の低い日本は、飼料の輸入が滞れば畜産物生産に大きな影響が出る。食料安保が危ぶまれる中、新たな自給率目標設定を巡っては慎重な扱いを求める声が相次ぐ。自民党では「飼料の国産化にマイナスにならないように」、次期基本計画を議論する同省の食料・農業・農村政策審議会の企画部会でも「土地利用型の飼料作物の振興を」などの意見が出た。自給率目標を含む基本計画の根拠法である食料・農業・農村基本法は、「食料の安定供給の確保」のために「国内の農業生産の増大が基本」「国民生活の安定に著しい支障が出ないよう供給を確保」といった理念を掲げる。それを具現化するのが自給率目標だ。国内で作れるものは作るとの姿勢を堅持すべきだ。飼料用米をはじめ飼料生産は農地の有効活用の上でも重要で、自給力の確保にも役立つ。次期基本計画では、飼料自給率を反映した従来の自給率目標と反映しない新たな目標を、カロリーベースと生産額ベースそれぞれで設定、四つの数値が並ぶことになる。これに飼料自給率目標を加えると五つになる。新たな自給率目標の設定には、消費者に国産消費の意義を実感してもらう狙いもある。同省は、各目標の役割を丁寧に説明し理解を深める必要がある。 *1-3:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/542448/ (西日本新聞 2019/9/12) 義務化でも消えぬ不正 相次ぐ産地偽装 2000年代に入り全国各地で相次ぐ食品偽装。11日、福岡県北九州市の食品加工会社が「中国産」の梅を「国産」と偽って販売していたことが明らかになった。社会全体の「食の安全」への意識の高まりの中で、企業にとってそれまで培った信頼を大きく損なう問題だ。国は15年に食品表示法を施行、原産地表示の義務化を進めるが、不正は後を絶たない。02年に雪印食品(東京)が牛海綿状脳症(BSE)対策事業を悪用して外国産の肉を国産と偽装していたことが分かり、同社は解散した。日本食品や日本ハム子会社でも同様の偽装が明らかになった。07年には高級料亭「船場吉兆」(大阪)で、九州産の牛肉と認識しながら兵庫県の高級ブランド牛「但馬牛」「三田牛」のラベルを張る、ブロイラーを「地鶏」として販売するなどの偽装が発覚。賞味・消費期限の偽りや料理の使い回しなどの不正も明らかになった。料理部門で営業を再開したが、崩れた「老舗」の信頼を取り戻せず翌年に廃業した。食品加工会社「キャセイ食品」(東京)も08年、長崎工場で「九州産」「国産」として生産した冷凍野菜の一部に中国産を混ぜて出荷していたと明らかにした。同社は経営破綻した。 ◇ ◇ 各地で相次いだ産地や賞味期限の偽装などを受け、国は2013年、それまで食品衛生法など3法で定めた食品の表示規定を一元化。食品表示法として施行され、加工食品の添加物、賞味期限などの表示基準を守るよう義務付けた。原料の原産地表示についても、来年3月末までに、全ての生鮮食品、輸入食品、一部の加工食品(もち、漬物、野菜冷凍食品、おにぎりなど)に義務付けた。さらに、22年4月までに、国内で製造したすべての加工食品について、重量割合が最も大きい原材料の原産地表示が義務化される。違反行為への罰則も強化。原産地について虚偽の表示をした食品の販売をした場合は2年以下の懲役または200万円以下の罰金に処する-などと定める。だが、食に関わる不祥事は消えない。昨年には大分市の水産品販売会社がギンザケをサーモントラウトと偽るなど不適正な表示で商品を販売。福岡県大牟田市の水産物卸売業も中国や韓国で1年ほど育てて輸入したアサリの成貝を、熊本県内で1~6カ月養殖した後に熊本産として流通業者に販売、九州農政局に是正を指示された。 <神事に用いるサカキも中国産> *2:https://agri.mynavi.jp/2020_01_27_104254/ (マイナビ農業 2020年02月17日) 国産サカキを商機に。売り手優位のビジネス手法とは 日本の神事にとって欠かせない植物であるサカキのほとんどは、じつは中国産だ。彩の榊(さいのさかき、東京都青梅市)を運営する佐藤幸次(さとう・こうじ)さんはそこにビジネスチャンスがあるとにらみ、約10年前に国産サカキの供給に乗り出した。だが経営を成長軌道に乗せるまでには、大きな試練が待ち受けていた。 ●日本で売られるサカキのほとんどは中国産 サカキは、緑の葉が茂った枝を束ねて神棚に供えたり、神社で参拝者が神前にささげる玉串(たまぐし)に使われたりする植物。名前の由来には、神と人間の境界にある境木(さかき)を語源とする説がある。一般に「サカキ」と呼ばれているものには、「ホンサカキ」と葉っぱがやや小さい「ヒサカキ」の2種類がある。いずれもツバキ科の常緑広葉樹で、国内に広く自生している。ここでは両者を区別せず、サカキと表記する。なぜ日本の神事に使うサカキが中国産なのか。背景の一つが林業の衰退だ。国産の杉やヒノキが売れていたときは、森林の手入れの一環として下に自生しているサカキを切り出し、販売していた。だが輸入木材に押されて林業の収益性が下がり、森林を手入れする機会が減るのに伴い、サカキの供給も細っていった。林業に携わる人が高齢化し、作業をする人が減ったことがこうした流れに拍車をかけた。そこに登場したのが中国産だ。今から30年ほど前に日本の業者が中国でサカキの栽培や加工の仕方を教え、日本向けに輸出し始めた。今や日本で流通しているサカキの8割以上は中国産と言われている。そこに商機を見いだしたのが、当時20代後半の佐藤さんだった。 ●山の中で見つけた大量のサカキ 佐藤さんは17歳で高校を中退し、埼玉県飯能市にある実家の花屋で働き始めた。高校を辞めたのはミュージシャンになりたかったからだ。音楽会社にデモテープを送ったりしてみたが、実力不足を感じ、家業を手伝うことにした。サカキに注目した理由はいくつかある。家の仕事を手伝うかたわら、修行のために大手の花屋で働いてみた。そこで中国産のサカキが1カ月に2000束も売れていることを知った。実家の50倍以上。佐藤さんは「サカキってこんなに売れるんだ」と驚いた。実家で売っていたサカキも中国産だった。段ボール箱に入ったサカキを市場から仕入れると、神棚などに供えるサカキの束を指す「造り榊(さかき)」が「シクリサカキ」と誤記されていたりした。もちろんその箱は店には置かないようにしていた。だがあるとき、客の一人から「おまえが売っているのはニセモノだ」と言われ、「これは日本のか」と厳しく問いつめられた。佐藤さんは「今なら違いがはっきりわかります」と話す。中国産は輸送効率を高めるために箱にぎゅうぎゅう詰めにすることが多く、葉っぱが蒸れて弱ってしまうことがあるからだ。その客は違いを一目で見抜くほど目が肥えていたのだった。この一件を通して、佐藤さんは国産のサカキに需要があることを知った。転機は29歳のときに訪れた。佐藤さんは折に触れ、祖母の眠る霊園に行く習慣があった。その日も墓前で手を合わせると、霊園に隣接する山に足を踏み入れた。佐藤さんにとって墓参後の散歩コースだった。ふと見ると、目の前にサカキの木があった。横を見ると、そこにもサカキの木。周囲を見回すと、霧が晴れて風景の輪郭がはっきりするように、大量のサカキが目に飛び込んできた。心の中で「うわーっ」と叫んだ。どれも葉っぱが大きくてツヤがあり、濃い緑色をしていた。自分が店で扱っているサカキとは別物だった。「これだけあれば商売ができる」。佐藤さんはその日のうちに、「花屋を辞める」と両親に告げた。山の持ち主を調べたところ、ある鉄道会社が所有していることがわかった。十数回電話してようやくアポイントメントを取り、担当者に会いに行くと「サカキを切っていいよ」と快諾してくれた。販売用に植えたものではなく、他のサカキと同様、自生したものだったからだ。ちょうどそのころ、鉄道会社は山の中に20キロもの長さの遊歩道を造ることを計画していた。もともとある山道の両側10メートルを整備し、幅20メートルほどの遊歩道を造るという構想だった。担当者と話し合った結果、地面から60センチの高さで切ったサカキの株を遊歩道に残すことが決まった。切った上の部分は佐藤さんが販売用に使う。株から枝が伸びてくれば、それも切って商品にすることができる。山道の両側に生えた雑草や雑木を刈る作業を請け負うことで、佐藤さんは販売用のサカキを無償で確保することができるようになった。一人でビジネスを立ち上げることを決め、実家を出て市内のアパートに移り住んだ。順調なスタートのはずだった。だがすぐに大きな壁に直面した。せっかく手に入れたサカキが思うように売れなかったのだ。 ●売り手優位のビジネスを確立 これまで花やサカキを仕入れていた近くの市場が、最初の販売の場になった。当時はセリにかけると5キロで2500円、花屋から事前に指名で注文が入っていると3500円が相場だった。初の出荷は50キロ。注文は取っていなかったので、「セリで2万5000円くらいで売れればいいな」と思って出した。ところがフタを開けてみると、合計で2500円。期待したほどセリで買い手がつかなかったのだ。「ショックでした」。佐藤さんはそのときのことをこうふり返る。昼はアルバイトでビルや住宅を解体する仕事をし、夜にサカキを切り出しに行く生活が始まった。サカキの販売ではとても生計が成り立たないからだ。そんな生活を始めて1年半ほどたったときのことだ。解体のバイトを終えてアパートに帰ると、路上に大量の荷物が積んであった。「邪魔だなあ」と思いながら近づいてみて驚いた。「うわっ、これ自分のだ」。丁寧に積まれた布団の上にサカキの枝が置いてあった。家財道具一式が自室から外に運び出されていたのだ。生活は困窮を極めていた。アパートに住んでほどなくしてまず携帯代を払えなくなり、1年たったころにはガスも電気も止まり、家賃も払えなくなっていた。そしてついにアパートを追い出され、車の中で寝泊まりするようになった。それから約1カ月。バイト先の解体業者のもとを、兄が訪れた。「おまえ何やってるんだ。やっと見つけたぞ。電話ぐらいつながるようにしとけ」。そう言って携帯代を貸してくれた。「一つ報告がある」。兄がバイト先を訪れたのは、携帯代を貸すことが本当の目的ではなかった。「花屋からおまえあてにサカキの注文が入ってるぞ」。これが佐藤さんにとって初の注文となった。注文は月に2回で、それぞれ50キロずつ。その後もずっと続く定期注文だった。値段は5キロで3500円で、1カ月で7万円の収入だ。市場に熱心に売り込みに来る佐藤さんの姿を見た花屋が、注文を出してくれたのだ。「うれしかった」。そうふり返るのも当然だろう。この注文からほどなくして、佐藤さんは東京都青梅市で事務所を借り、株式会社「彩の榊」を立ち上げた。飯能市を離れたのは、友人たちとの付き合いを断ち、サカキの仕事に本格的に集中するためだった。佐藤さんはその後、受注を徐々に増やしていった。それを可能にしたのが営業努力。市場を通した販売では限界があると考え、花屋を直接回るようにしたのだ。「注文につながるのは100軒に3軒くらい」(佐藤さん)しかなかったが、珍しい国産サカキを評価してくれる花屋が少しずつ増えていった。品質の高さも追い風になった。中国産のサカキが切り出してから日本の花屋に届くまで約40日かかるのに対し、彩の榊は3日。どちらのサカキが生き生きとしているかは言うまでもない。さらに中国産と品質面で差を出すため、効率優先で輸送時にサカキの束を箱にぎっしり詰めたりしなかった。彩の榊には現在、1カ月に20万束の注文が入る。収量に限りがあるため、そのうち対応できているのは1万5000束で、値段は5キロで5000円。圧倒的な売り手優位のビジネスだ。そのほか玉串用などの「1本モノ」も月に約5000本販売している。快進撃はこれにとどまらない。彩の榊は既存のサカキの商売の枠を超える新たなビジネスの手法を取り入れ、飛躍のときを迎えようとしている。 <和服も中国製> *3:http://masaziro.com/?p=880 (MASAJIRO 2016.3.23より抜粋) メイドインジャパンの着物生地は絶滅寸前である。 「絹糸のほとんどは中国産です。それより驚いたことに、仕立ての半分以上は、ベトナムなど海外の職人が行っていると言われています。」また、農林水産省によると、2014年の養蚕農家はわずか393戸で、生糸の生産量も27トン足らずとなっており、ピーク時の1934年(4万5000トン)から1600分の1に減少し、もはや「絶滅寸前」といっても差し支えない。つまり、流通する「日本の着物」の大半は、「中国産の糸」を用いて日本で仕立てたものか、ベトナムなど海外の工場で仕立てられたものだという現実があるのだ。だからこそ、MASAZIROは100年前、大正や昭和初期の着物生地に拘るのです。ご存じのように、絹糸の生産のピークは昭和9年、この時期を境にして生産量が減少し、ナイロンや化学繊維の出現により日本の養蚕業が衰退していったのです。2000年には殆ど国内生産は無くなりました、でも需要は旺盛になってきます。そこで人件費の安い中国やベトナム、ミャンマーで生産されるようになってくるのですが、もちろん品質管理は日本が行うのです、品質には間違いがないのですが、・・・。水を差すようですが、そこに日本の職人のプライドがあるように思えないのです、コストを下げ利益の増大を図る、経済の原則にのっとった大量産商品となっていくのです。あくまでも政次郎の偏った観かたかもしれませんが・・・。現在流通している着物生地には、国産の絹糸で国内で手織されてものは殆ど流通していないのです、あるとすれば価格に糸目をつけない裕福な人々の為に極々僅かに流通しているのに過ぎなく、まず、私たち庶民の目には触れることはありません。実は政次郎、そのことは統計を見るまでもなく肌で感じていたのです。(以下略) <工業製品も中国にシフト> *4-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/o/584770/ (西日本新聞 2020/2/17) シャープが5Gスマホ発表 シャープは17日、国内メーカーとして初めて第5世代(5G)移動通信システムに対応したスマートフォンを発表した。10億色の表現力を持つ独自の液晶技術「IGZO(イグゾー)」を採用し、超高精細の8Kカメラを搭載するなどの特色を打ち出し、先行する韓国や中国勢に対抗する。5Gは高速大容量が特長で、今春に予定される国内での商用サービス開始に合わせて発売する。シャープの新型スマホを用いると、映画などの動画データを数秒でダウンロードできる。肌の質感や青空の濃淡を忠実に表示できる液晶ディスプレーを採用し、強い日差しの下でも快適に視聴できる。 *4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200219&ng=DGKKZO55798040Y0A210C2MM8000 (日経新聞 2020.2.19) スマホ 細る供給網、アップル、売上高「予想届かず」 新型肺炎で稼働率低く 中国で発生した新型コロナウイルスによる肺炎の拡大が、スマートフォンなど世界の電子機器の生産を揺さぶっている。米アップルは17日、2020年1~3月期の売上高予想が達成できない見込みと発表した。電子機器の受託製造サービス(EMS)が集まる中国で主力のiPhoneの生産が滞れば、日本などアジアのスマホ部品メーカーに影響が広がる。中国は世界各地から電子部品などを輸入し、最終製品を輸出する。世界のスマホ生産台数の65%が中国に集まる。国際貿易センターによると、中国は19年1~11月にスマホやパソコンなどの頭脳となる集積回路を2783億ドル(約30兆6千億円)輸入し、携帯電話を1132億ドル輸出した。液晶パネルでは中国が世界の生産能力の半分を占めるほか、日本や韓国製のパネルをスマホ向けに組み立てる工場も多い。アップルはこのサプライチェーン(供給網)を効率よく生かしてきた。iPhoneの大半は中国に集まる台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業などEMSの拠点で生産される。アップルが主要取引先の所在地をまとめたリストによると、世界で809ある取引先の拠点の47%が中国に集中する。アップルは従来1~3月期の売上高は前年同期比9~15%増の630億~670億ドルと予想していたが、17日に達成できないと発表。中国のiPhone関連工場の操業は同日までに全て再開したものの、省や市をまたぐ移動に制限がかかり、トラック運転手が不足し物流にも支障が出る。生産拠点で労働力の不足や部材の目詰まりが起き、「iPhoneの世界的な供給が一時的に制限される」(アップル)。アップルは新型肺炎の影響が見通せないとして新たな業績予想を控えた。野村グループの米インスティネットは17日付のリポートで、20年1~3月の売上高が会社の従来見通しを40億ドルほど下回ると分析。同期間のiPhone販売台数は市場予想を600万台下回る4200万台とみる。台湾の部品メーカーなど複数のサプライヤーによれば、中国のiPhone工場の稼働率は足元で30~50%で、3月いっぱいは影響が残る見込み。世界最大の製造拠点とされる鴻海の鄭州工場(河南省)は先週に地元当局の認可を得て生産を再開したが、稼働率は上がっていないもようだ。スマホの部品点数は1千点以上といわれる。生産は再開されても一部部品はスマホの工場に届かず、供給網は完全に復旧していない。台湾のEMS大手幹部によると、プリント基板の中国での調達に影響が出ている。スマホに数百個単位で搭載されるコンデンサーの需給も逼迫する。日本勢では村田製作所がアップルの高級スマホ向けにコンデンサーを供給しているとみられる。TDKはスマホ向け電池の最大手で中国に拠点を構える。米調査会社IDCは1~3月期の中国のスマホ出荷台数が30%以上減る可能性があるとみる。スマホ生産の停滞が長引けば、部品在庫も積み上がり部品メーカーが生産調整に入る可能性がある。 *4-3:https://www.nikkei.com/nkd/industry/article/?DisplayType=2&n_m_code=042&ng=DGKKZO55501650R10C20A2TJC000 (日経新聞 2020/2/12) 車部品輸入の3割 中国製 エンジン周辺の中核も 、新型肺炎、供給に影響 国内各社、代替生産の動き 新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大が続くなか、国内の自動車生産にも影響が出てきた。中国からの部品供給が滞り、日産自動車は九州の完成車工場の稼働を一時停止する。日本では車部品の中国からの輸入が、輸入全体の3割超を占め存在感を示している。エンジン周辺の基幹部品などを輸入する企業もあり、部品各社は対応に追われている。「日本で使う中国の部品は多い。在庫を細かく調べるには時間もかかる」。ある日産幹部はこう話す。九州工場では日本で売るミニバン「セレナ」や、北米への輸出が多い多目的スポーツ車(SUV)を生産する。同工場の稼働停止は物流網の混乱が要因とみられるが、調達自体が難しくなっている部品も出ている。ある部品会社によるとハイブリッド車(HV)などに使う電装品の一部で調達が難しくなっており、「(日産は)日本国内で代替調達できないか検討しているようだ」という。調達を巡る混乱は長期化する可能性もでている。国際貿易センターによると2019年の中国からの自動車部品の輸入額は30億ドル(約3300億円)と、重症急性呼吸器症候群(SARS)が流行した03年の約10倍となった。約22兆円とされる日本の車部品市場全体に占める比率は2%弱だが、日本は輸入部品のうち、37%(19年)を中国から輸入し、中国比率が米国などに比べ高い。多くはバネや繊維・樹脂製の部品、素材など、小さく輸送コストがかかりにくいもののようだ。中国では一部地域で企業活動が再開されたが、ホンダは11日、中国・広東省広州市の乗用車工場について、17日以降の生産再開を目指す方針を明らかにした。一部従業員は10日に出勤を始めたものの、広州市から新型肺炎の感染防止の対応策を申請するよう求められ、生産準備に時間がかかるという。従来は「できるだけ早く生産を再開したい」としていた。広州市などで運営する乗用車向けのエンジンやトランスミッションなどの部品工場も、17日以降の生産開始を目指す方針を示した。新型肺炎が最初に広がった武漢市にある工場の生産再開時期は引き続き「17日の週」で変えなかった。部品のサプライチェーン(供給網)の正常化には時間がかかりそうで、代替生産などを視野に入れる企業も相次ぐ。内装部品の寿屋フロンテ(東京・港)はシートなどの布素材を中国から仕入れる。3月上旬までの在庫は確保しているが「長期化に備えて生産設備のある日本で代替できるか設備の確認を始めた」(同社)。足回り部品のエフテックは武漢工場でつくるブレーキペダルをフィリピンで代替生産することを決めた。「一時的に他の企業からの調達に切り替えてもらう必要があるかもしれない」と話すのは、ホンダとの取引が多いショーワだ。ドアなどの開閉を補助するガススプリングを中国で生産し、日本にも輸入するが他の地域に生産設備がない。トヨタ自動車系の中央発条はドアロックケーブルなどを日本に供給しており、「すぐに代替生産ができない品目もある」という。自動車部品メーカーは2000年代から東南アジアなどに調達先を分散させる「チャイナプラス1」の動きを進めてきた。「車内の内張りシートは人件費の安いバングラデシュ経由からの調達を増やしており、中国への依存は低い」(シート大手のテイ・エステック)との声も聞かれる。ただ近年は中国の技術力が上がり、エンジンなど「難易度の高さから日本での生産に依存していた領域で中国への生産移管が増えている」(伊藤忠総研の深尾三四郎主任研究員)。自動車の心臓部となる部品だけに、少量でも供給が滞れば国内生産に支障が出やすい。いすゞ自動車が調達するエンジン周辺部品のターボチャージャー(過給器)は一部が武漢で生産されており、「武漢以外の地域で調達する予定だ」(南真介取締役)。他の部品も中国から調達しているものがあるため、在庫を確認し、生産移管などの必要性を慎重に見極めるという。供給網の混乱などが「長期化すれば(国内の生産に)影響が出る可能性もある」と南氏は話す。中国政府は次世代車の国産化を推奨し、電動化に欠かせない部品の生産拠点は中国に集まりつつある。車載電池では寧徳時代新能源科技(CATL)など2社で世界で2割超のシェアを持ち、トヨタなど日本勢も協業を進める。中国の動向が日本の自動車生産に影響を与える構図は一段と強まりそうだ。 <サービス業> *5-1:https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/538085 (沖縄タイムス社説 2020年2月22日) [新型肺炎と県経済]難局というべき状況だ 中国で発生した新型コロナウイルスによる肺炎拡大が、県経済の屋台骨である観光業に影を落としている。裾野の広い産業だけに、地域全体への影響が心配される。楽観を許さない状況だ。人気の観光施設やショッピングモール、ドラッグストアから中国人団体客の姿が消えて、1カ月近くになる。中国政府が海外への団体旅行を禁止した1月末以降、旅客便の運休やクルーズ船の寄港取りやめが相次いだためだ。影響は甚大で、県内の総合スーパーや百貨店のほとんどで、春節期間中の免税品売上高が前年より10%も低下した。国際通りの小売店やタクシーも売り上げが落ち込み、ホテルや観光バスも厳しい状況が続く。2019年に沖縄を訪れた外国人は約293万人。中でも中国人の伸びが目立ち、4人に1人に当たる約75万人を占めていた。懸念されるのは、感染を恐れて外出や旅行を控える動きが国内でも広がりつつあることだ。南西地域産業活性化センターは、新型肺炎の影響が半年ほど続き、中国人を中心に入域観光客が50万人減った場合、観光収入は281億円減少すると試算する。01年の米同時多発テロ後の風評被害で観光客が激減した際、観光収入が200億円余も減る憂き目に遭った。しかし終息のめどが立たず、誘客活動などが打ち出しにくいという点では、今回の方が深刻といえる。 ■ ■ 感染封じ込めに時間がかかれば、地域経済へのダメージは大きくなる。特に地方の中小零細企業にとっては資金繰りが不安材料だ。政府は緊急対策として、中小企業を支援するための5千億円規模の貸し付けや保証枠を確保。経営が苦しくても雇用を維持する企業には、雇用調整助成金の支給要件緩和を決めた。県内でも観光事業者らでつくる沖縄ツーリズム産業団体協議会が、玉城デニー知事を訪ね、経営支援や雇用対策助成の拡充などを要請したばかりだ。既に県には支援融資制度などに関する問い合わせが相次いでいる。県経済への影響を最小限に抑えるためにも、官民で危機意識を共有し、取れる対策の全てをスピード感をもって進めなければならない。同時に「安全宣言」後の戦略も、今から練っておく必要がある。 ■ ■ 好調に推移してきた県経済だが、昨夏以降、日韓関係の悪化による韓国人旅行者の減少、観光の目玉でもある首里城火災、豚熱感染など、いくつもの試練に見舞われている。一番怖いのは「旅行は控えよう」という消費マインドの冷え込みという。情報をしっかりと伝え、風評被害の防止にも努めたい。沖縄ツーリズム産業団体協議会は、県民の県内旅行の促進も求めている。県経済の正念場だ。この難局に一丸となって立ち向かおう。 *5-2:https://www.agrinews.co.jp/p49066.html (日本農業新聞 2019年10月24日) 「病院再編リスト」 農村部に波紋 「実情分かってない」 厚生労働省が医療費抑制のため、競合地域にある病院との再編・統合を促す必要があるとして病院を実名で公表したことに、農村部の住民から戸惑いの声が上がっている。診療実績が乏しいと判断した病院をリスト化したもので、強制力はないが「身近な病院がなくなってしまう」「地域の事情を考えていない」などと声が上がる。同省は再編・統合について本格的な議論を要請。来年9月までに結論を求める。 ●実績ありき疑問 人口減少考慮を 秋田県八郎潟町の湖東厚生病院は2010年、医師不足から存廃論議になったが、住民の署名運動で守った。「湖東病院を守る会」代表で、水稲30ヘクタールを栽培する同町の齊藤久治郎さん(72)は、近隣の3町村の代表らと協力して、3万件の署名を集めた。必死の訴えに同病院は新体制で再編し、在宅療養支援に力を入れ、14年に再スタートした。齊藤さんは「守り抜いたと思ったが、再編・統合の話が再度出て困惑している」と肩を落とす。救急は秋田市の病院と連携し、慢性疾患や在宅医療を主にして医師不足の課題をクリアした。JA秋田厚生連は「がんや救急医療のデータを抜き出して“診療実績が乏しい”というが、役割分担したから当たり前。地域実情を理解していない」と疑問を投げ掛ける。福島県は3カ所の厚生連病院の名が上がった。JA福島厚生連は「あまりに唐突。地方の高齢化、人口減少が一切考慮されていない。都会と同じ物差しで測っているのではないか」と憤る。 ●国の狙いは医療費抑制 医療費は団塊世代が75歳以上となる25年に急増する見込み。17年度の国民医療費は43兆710億円で、25年には56兆円にまで膨らむ見通しだ。そのため同省は医療費抑制に向け、各都道府県に対し、25年に必要なベッド数などを定めた地域医療構想を策定させ、見直しを求めていた。だが、各地で議論は膠着(こうちゃく)しており、同省は全国の1455の公的な医療機関を調べ、診療実績が乏しいなどを理由に424機関の実名を公表。統合再編に向けた議論の活性化を呼び掛けた。だが、突然の実名公表に現場からは不満の声が続出している。リストには農村地域の医療機関が多く含まれる。患者の高齢化が進む。公共バスの廃止などで通院に悩む人も多い。実態を考慮せずに医療費削減と病床数だけでの線引きには疑問の声が上がる。地域医療の在り方を再検証する意味合いが強いが、地域での調整は難航が見込まれる。 <人材> *6-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200219&ng=DGKKZO55800690Z10C20A2MM8000 (日経新聞 2020.2.19) 革新攻防(上) 米中2強、資金力突出 日本、技術競争退場の危機 米国と中国が激しく覇権を争う先端技術の開発で、日本の存在感の低下に歯止めがかからない。世界のテクノロジーの潮流から脱落する危機が迫る。 ●量子研究で後れ 政府が1月に決定した「量子技術イノベーション戦略」。世界に後れる現状に危機感を示すとともに、異例の反省が盛り込まれた。「政府全体として必ずしも整合性ある取組が行われてこなかった」。次世代の高速計算機、量子コンピューターなどの量子技術は米中が開発にしのぎを削る主戦場だが、日本は戦う体制すら整っていなかった。全米科学財団によると、民間を含む研究開発費の世界首位は米国で5490億ドル(約60兆円、2017年時点)。中国も4960億ドルに達する。日本は1709億ドルで米中の3分の1だ。もはや資金力の差は埋めようがない。科学技術立国の幻想にとらわれ、あらゆる研究を望み続けたらいずれの成果も取り損ねる。量子技術の開発は関係省庁のそれぞれの都合で進められ、後手に回った。量子コンピューターも研究初期はNECが先行したが、国をあげて技術を開花させる発想はなかった。その間、米グーグルはカリフォルニア大学のグループの技術に着目。傘下に迎えて19年に最先端のスーパーコンピューターを上回る性能を実証し、世界を驚かせた。 ●司令塔見当たらず 米中が技術覇権を争い、かつてない速さで研究開発が進むいま、有望な技術をいち早く見いだせるかは死活問題。日本の将来につながる技術の支援を優先し、旧弊やしがらみを断って実行に移す覚悟が必要だ。批判もあるが中国はトップダウンで研究を進め、米国にも強い指導力でイノベーションを創出する国防高等研究計画局(DARPA)のような組織がある。日本には技術を見極める目や投資の決断力を持つ司令塔が見当たらない。日本発のiPS細胞の研究支援も中途半端。基礎から応用までを見渡す米国などに見劣りする。量子技術や人工知能(AI)への投資も不十分になる恐れがある。最先端のテクノロジーは将来の産業競争力や安全保障を左右する。中国は16年に打ち上げた人工衛星「墨子号」を使った量子暗号の実験などで先行。衛星を使えば、世界規模で通信の機密を守る究極の盾が手に入る。研究を率いてきた潘建偉氏は中国で「量子の父」と呼ばれ、習近平(シー・ジンピン)国家主席も高い期待を寄せるとされる。量子暗号は量子コンピューターが既存の暗号を破ると危惧される20年先も通信や金融取引の安全を守る。米調査会社クラリベイト・アナリティクスによると14~18年の量子暗号の研究論文数で中国は世界首位。東芝が最高速の暗号化技術をもつなど日本の研究水準も高いが、このままでは中国の独走を許しかねない。米国も「量子科学における中国の躍進は軍事的、戦略的バランスに影響を与えうる」(新米国安全保障研究所)と警戒する。日米は19年末に量子技術で協力する声明を発表した。24年までに宇宙飛行士を月に送る計画でも米国は日本に連携を迫る。日本は応じる方針だが、米国との連携にかけるなら、その中で存在感を高める戦略が問われる。 *6-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54013110S0A100C2SHF000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞社説 2020/1/4) 若い博士が広く活躍できる社会に、次代拓く人材を(中) 日本の社会は若い博士たちに冷たい。高等教育を極めた高度人材の卵に、大学も企業も十分な活躍の場を与えていない。グローバル化に対応しながら明日を切り開くイノベーションの創出を目指すなら、博士をうまく生かす社会に転じなければならない。 ●給付型奨学金を広げよ 日本で毎年新たに博士になる人の数が減少している。100万人あたりの博士号取得者数が米国やドイツ、英国、韓国に比べて半分以下で、さらにこの10年で1割以上も減った(2016年度)。先進国ではあまりみられない、由々しき事態だ。1990年代、政府は科学技術創造立国を目指し、若手の博士研究者を増やす政策をとった。しかし、大学にも企業にも見合った数のポストを用意しなかった。定職につけない高学歴な博士はポスドクと呼ばれ、「漂流する頭脳」として社会問題にもなった。科技政策の失敗といえる。若者にとって博士は将来への不安を抱える「不安定な身分」の代名詞に変質した。優秀でも修士のまま卒業する方が就職に有利と、博士を目指す人も減る。選考のハードルを下げて博士課程の定員を死守する大学院も少なくない。海外は知的集約型社会に向き合うため、国も企業も優れた博士の獲得を競う。日本の博士冷遇は世界の潮流に逆らっている。早急に「負の連鎖」を断ち切らなければならない。まず取り組むべきは、博士の育成環境を改善することだ。欧米や中国では優秀な博士課程の学生を一人前の研究者として扱う。学費は事実上免除し給与も払う。日本の場合、年間50万円超の学費が重くのしかかる。奨学金でまかなっても将来、返せる当てはない。生活費もアルバイトで稼がなければならない。金銭面で博士を敬遠する修士も多い。手始めに給付型奨学金を拡充してみてはどうだろう。2011年に開設した沖縄科学技術大学院大学は、学費を含め年間約300万円を支援金として学生に給付し、学業や研究に専念させる。同大学院大は19年、質の高い論文に関するランキングで世界トップ10に入った。若手の活躍が結果を生む証しとなった。大学の研究室の「構造改革」も急務だ。博士の多くは大学での研究職を希望する。しかし、教授を頂点にしたピラミッド構造が残っており、ポスドクや博士課程の学生は雑務が多く研究もままならない。こうした「ブラック研究室」は時代遅れでしかない。若手人材の正規ポストを確保するには、シニア世代の研究者が流動化する仕組みも要る。国立大学では定年延長に伴って50歳代、60歳代が増えた。これでは教授、准教授といったポストがなかなかあかない。大学力を磨くのに新陳代謝は欠かせないが、柔軟な発想を持つ若手研究者だけが任期付きで割をくうのはおかしい。博士が活躍できる場は大学や研究機関とは限らない。海外では企業の研究者やベンチャー経営者、投資家、官僚など実に多彩だ。 ●知識でなく疑う力磨け 日本製鉄には新卒採用とは別に博士課程の学生やポスドクに特化した制度がある。年俸制で3年間雇い、研究のプロとして働いてもらう。その後は本人と相談の上、正社員として採用する。出会いを作るユニークな取り組みだ。産学が協力し、半年、1年といった長期のインターンシップ(就業体験)を導入、博士と企業とが相互に理解を深める機会こそ有意義ではないだろうか。博士が在籍する企業はそうでない企業より製品やサービスでイノベーションを起こす確率が高いとの調査結果もある。中小、中堅企業での効果が顕著だという。大学も博士の質は担保してほしい。なり手が減っているからといって、適性や能力を見極めずに量の確保に走るのでは本末転倒だ。どんな情報もネットで手に入るデジタル社会では、単なる知識よりも疑う力や解決する力が高度人材には求められる。これまでの日本の高等教育は学問が細分化された結果、視野の狭い専門家が育つ傾向が強かった。2つ以上の専門領域を習得する「ダブルメジャー」を目指す仕組みがあってもいい。社会が求める博士像を追求し、育んでいくことが大切だ。 *6-3:http://tingin.jp/opinion3.html (北見式賃金研究所 北見昌朗 平成30年8月) “働かない改革”は“ゆとり教育”の二の舞になる! 中国に負けて、日本は二流国に転落へ ●働き方改革は選挙の美辞麗句 安倍首相は、働き方改革を主要政策に掲げる。「生産性を向上して、ベースアップを実現して暮らしの向上を図る」と語る。だが、北見昌朗はそもそも生産性がなぜ急に上がるのか理解できない。これまで遊んでいたわけではないのに、なぜ、どうして生産性が上がるのか? そんなの選挙用の美辞麗句であり、根拠がないプロパガンダだと言わざるを得ない。 ●ゆとり教育は土曜日に働かない人を産み出した 働き方改革と二重写しになってしまうのは、ゆとり教育だ。政府は学習時間と内容を減らしてゆとりある学校を目指し、2002年4月6日から公立小中学校及び高等学校の多くで毎週土曜日が休みになり完全な週5日制となった。ゆとり教育はデメリットが取りざたされることが多いが、代表的なものが「学力低下」だ。それまで相対評価と言われていた通知表の評価を個人ごとに見る「絶対評価」に変えた。また「競争社会」をやめようと、運動会の徒競走は全員1位、学芸会では全員主役になるといった内容も物議を呼んだ。だが、「順位を付けない」という考えは現実社会とはかけ離れており、社会に出てから挫折する子供が増えてしまった。この“ゆとり教育”の悪影響は大きかった。土曜日に授業が休みだったために、社会に出ても土曜日の勤務を嫌がる若者にしてしまった。 ●「仕事が終わるまでやる」のは日本人の美徳 新労働基準法では、残業が厳しく制限される。一定時間を過ぎてしまうと、企業側が違法になってしまうので、帰らせるほかなくなってしまう。目の前にドッサリと仕事が残っていても、サッサと帰るのである。それによる顧客離れは当然予想される。そもそも日本人は昔から仕事をやりきってから帰った。みなで一緒に汗を流して、やり切ってきた。「勤労は美徳だ」という勤労観は、わずかながら残っていたと思うが、それにトドメを刺すのが今回の労働基準法改正である。これでは米国人や中国人に負けてしまう。 ●ダブルワーカーが増える 残業削減は、従業員にとっても厳しい問題だ。残業代が減った分だけ年収が減ってしまうだろう。大手企業ならば、ベースアップという形で利潤を従業員に還元できるかもしれないが、中小企業には元々そんな余裕はない。会社側は、副業を禁止している就業規則を見直し、アルバイトを黙認する方向になるだろう。残業代減を補うため、従業員は終業後にアルバイトに精を出すようになる。夜遅くまで働いたら、それこそ身体を痛めそうだ。 ●「手に職」が付かなくなり技能伝承がなくなる 厳しい残業規制により、成り立たなくなる仕事がある。長い修業が必要な職人仕事だ。例えば「宮大工」という仕事がある。社寺の建築や修復を行う仕事だが、それには長い下積み時代が必要である。カンナがけは、今なら機械で一瞬でできるが、それでは腕が身に付かないので、あくまでも人間が行う必要がある。このような職人芸は、たくさんある。和食職人、和菓子職人、陶器職人、木工職人など枚挙に暇がない。それらが消滅しかねないのだ。 ●このままでは経営者の多くが労基法違反の“犯罪者”になる 北見昌朗は顧客からこう言われるようになってきた。「これだけ残業規制が厳しくなるともうやっていけない。モノ造りを止めろというのと一緒だ」。このように言われると、北見昌朗は返す言葉もない。社会保険労務士として労働基準法の遵守を求めるのが仕事だ。だが、現実には困難なことを知っている。このグラフを見てほしい。「愛知県 中小 製造業 男性社員 残業時間数」だ。縦軸は残業時間数で、横軸は年齢である。縦軸に赤ラインが引いてあるのが30時間で、36協定の遵守ラインだ。これを超過すると違法になりかねないが、超過しているのは52.9%いる。従業員に違法残業をさせると、経営者は労働基準法違反ということで犯罪者になってしまう。中小企業の経営者は、勤勉に働いて日本社会に貢献してきた。今の日本社会で、一番猛烈に働いてきたのは、社長さんたちだ。何の保護もなし、保障もなしで身を粉にして働いてきた方々だ。社長が経営の自信を喪失してしまうと、誰も継がなくなり、いよいよ後継者難で、中小企業が消滅してしまうだろう。 ●「日本人は働き過ぎ」は過去の話 そもそも、日本人が働き過ぎだったのは、前の世代のことだ。戦後の日本を復興した方々のことだ。北見昌朗は午後5時過ぎに名古屋駅から電車に乗ると、思わず車内を見渡してしまう。ネクタイを締めた中高年男性がいっぱい乗っているのだ。おそらく17時に会社を出て、18時までに帰宅するのであろう。働き盛りの男が、そんなに早く帰って、いったいどうするのか? と言いたくなる。公庁や大手企業では、年間休日120日が一般的になっているが、年休20日を取得したら、1年間の4割も休むことになる。こんなことで、日本はやっていけるのだろうか? 資源もないのに。日本人は、もっと働くべきだ。次の世代のためにも、もっと、もっと働こう! <新型肺炎の治療、病院船など> PS(2020年2月24日追加):*7-1のように、政府は専門家会議を開いて重症化リスクの高い新型肺炎患者の治療を優先するための基本方針の作成を進めているそうだが、拡大ペースを遅らせ、重症化させないためには早期発見・早期治療が必要であるのに、「風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日以上続く場合や強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある場合は、最寄りの保健所などに設置される『帰国者・接触者相談センター』に問い合わせる」という現在の指針では誰でも重症化する。そのため、本当に治療する気があるのなら、インフルエンザと同様、かかりつけ医を受診すれば必要な検査や薬は保険適用できるようにするのがBestだ。 また、*7-2のように、1~2隻くらいは大型の病院船を持っておくのがよいと思われ、これなら感染症の封じ込めだけでなく、国内外の災害時に派遣して海上から被災地に医療提供することが可能だ。この場合、病院船の所属や運行責任は、日赤か防衛省になるだろう。さらに、離島の多い自治体が小型の病院船を保有していれば、*7-3の「平時の利用法」として、医師のいない離島を1週間に1度は廻って、健診・診療・薬の処方・リハビリなどを行うことができ、この場合の病院船の所属や運行責任は、民間病院か地方自治体になると思われる。 2020.2.24琉球新報 病院船 *7-1:https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2020022401001191.html (東京新聞 2020年2月24日) 新型肺炎、重症化防止へ基本方針 専門家会議で作成、急増に備え 国内での新型コロナウイルスによる肺炎(COVID19)の拡大を受け、政府は24日、専門家会議を開き重症化のリスクが高い新型肺炎の患者の治療を優先するための基本方針の作成を進めた。25日にも開く政府の対策本部で決定する。基本方針は、患者が国内で大幅に増える事態に備えるのが目的。会議では、重症化しやすい高齢者や持病がある人の治療を優先するとともに、拡大のペースを遅らせることを目指した対策を議論する。これまでに策定した新型インフルエンザ対策の基本方針を一部参考にするとみられる。 *7-2:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/586613/ (西日本新聞 2020/2/24) 病院船で新型肺炎封じ込めへ 超党派議連27日に発足 新型コロナウイルスによる肺炎(COVID19)が拡大する中、大規模災害時や感染症の流行危機事態に医師や医療設備を乗せて治療に当たる「病院船」構想に注目が集まり始めた。閣僚から活用に前向きな発言も飛び出し、27日には超党派の国会議員らでつくる病院船の新議員連盟も発足する。国に導入を働き掛けてきた関係者は、機運をさらに高めたい意向だ。「配備の在り方を加速的に検討していく必要がある」。12日の衆院予算委員会で、新型肺炎に絡み病院船への見解を問われた加藤勝信厚生労働相は、こう明言した。河野太郎防衛相も14日の記者会見で、導入に向けた検討に意欲を見せた。患者を隔離して専門治療を集中的に施し、感染症を封じ込める機能が期待される病院船のニーズを、関係閣僚が相次いで認めた形だ。病院船構想が生まれたのは、1995年の阪神大震災がきっかけ。米国などの実例を参考に、陸上交通が寸断されるような災害時に、海上から被災地に医療を提供するシステムを探る議論が起こった。2011年の東日本大震災後には一時、内閣府も「災害時多目的船」の導入を模索した。だが、建造や維持管理に巨額のコストがかかることや、法改正を伴うことから見送られた経緯がある。その後、14年には自民、公明両党による「海洋国日本の災害医療の未来を考える議員連盟」(会長・額賀福志郎元財務相)が設立され、19年3月、病院船の活用を国に促す法案の骨子をまとめた。議員立法として早期成立を目指すため、今月27日には新たに野党を加えた7党による「災害医療船舶利活用推進議員連盟」を立ち上げる。関係者によると、新議連は条文化の作業を進め、今国会に法案を提出したい考え。災害時医療などに船舶を組み込むことを国に義務付け、法施行の1年後をめどに必要な個別法の追加整備を求める内容という。自民中堅は「耳目が集まっている今、議論をしっかり積み上げたい」と話す。 *7-3:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/586614/ (西日本新聞 2020/2/24) 病院船導入 災害時有効な医療アプローチ 元九州大特任教授に聞く 「病院船」導入に向けた活動に長年取り組み、議員連盟の設立にも携わる元九州大特任教授で公益社団法人モバイル・ホスピタル・インターナショナルの砂田向壱理事長=福岡市=に、今後の見通しや課題を聞いた。 -なぜ導入を急ぐのか。 「災害大国の日本で、陸上の交通手段が遮断されたときに、海からの医療アプローチは軽視できない。東日本大震災の津波被害を考えれば、その利点はイメージしやすい。病院船は、南海トラフ巨大地震や首都直下地震の発生前に整備しておかないと手遅れになる。船は医療施設だけでなく、避難所機能としても有効だ」 -災害が発生していない平常時の利用法がネックになっていると聞く。 「平常時も、全国一律の医療サービスが提供できるよう市町村のスキルアップに用いることができるし、沿岸部の巡視船という役割も担える。国民の財産としての使い道は幅広い」 -巨額の建造費に国民の理解は得られるか。 「中古の船を買い取り、内部を改造して最新鋭の医療機器を備えれば、コストは抑えられる。国民のニーズによって船の規模や隻数は決まる。必ずしも大きければ良いというものでもない」 -理想的な災害時の医療体制とは。 「現在の復興庁を『災害庁』のような組織に改編し、研究や装備開発、訓練を一元的に管轄できるようにしたい。全国に技術支援できる仕組みも必要だ。新しい議連では、民間のノウハウや知恵を積極的に活用していく。国民の合意を得るために奔走したい」 <日本政府がPCR検査を渋る理由は何か?> PS(2020年2月26、29日追加): 2月5~19日の期間は船内で隔離しなければならなかったダイアモンドプリンセス号内は、*8-1のように、“検疫”として船内の感染管理・健康管理に不備があったため、COVID-19の船内感染を起こしてしまった。にもかかわらず、下船基準は検疫期間中には感染がなかったものとして扱い、クルーズ船で旅するほど元気だった人を死亡させて「高齢者だから仕方がない」としている点が不誠実である。本来は、2月5~19日の期間に同乗した家族が同室だったとしても、それ以外は船内の隔離と健康管理を徹底しなければならなかったのだ。また、クルーズ船の乗客には退職後の比較的ゆとりある高齢者が多いため、乗客の中には社会的地位の高かった人も多かった(元医師を含む)だろう。そのため、ダイアモンドプリンセス号のスタッフは、隔離を開始した時に全員のPCR検査を行ってその後の清潔を徹底すべきだったし、これらがいい加減であれば、各国で(批判のための批判ではない)科学的な批判が出る。 なお、*8-2・*8-3のように、インド・デリー大学とインド理工学院に所属する研究者たちがまとめた「新型コロナウイルスはSARSウイルスとエイズウイルスを武漢ウイルス研究所が人工的に合成したものでは」とする論文があり、この研究者たちは「このウイルスが自然発生することは考えられない」としている。また、ハーバード大学公衆衛生学教授のエリック・ファイグルーディン博士は自身のツイッターで「武漢市の海鮮市場はウイルスの発生源ではない」と発信されたそうだ。「生物兵器」であれば、SARSウイルスのように若い兵隊に打撃を与えるウイルスの方が合目的的だが、年金や社会保障を要する基礎疾患のある高齢者に打撃を与えて大騒ぎになる新型コロナウイルスなら厚労省や財務省に都合がよさそうだ。そのため、今後は広くPCR検査して完治させるとともに、どこで感染拡大するかを見極めるべきである。 世界保健機関(WHO)は2月28日、*8-4のように、COVID19の地域別の危険性評価を、世界全体を「非常に高い」に引き上げ、WHOで緊急事態対応を統括するライアン氏が各国に感染拡大防止態勢の強化を訴えられた。日本では、2月27日、安倍首相が新型コロナウイルス感染対策として全国の小中学校や高校などに臨時休校を要請する方針を表明し、これについてはさまざまな意見があるものの、*8-5のように、65%(60代:75・1%、10代:73・6%、70代以上:70・1%)の人が賛成だそうだ。一方、子育て世代の多い年齢層で反対が比較的多いが、佐賀県では、*8-6のように、学童保育の受け入れ先が春休みや夏休みと同じ体制で受け入れるようで、学童保育の整備が何とか進んでいたのはよかった。ただ、*8-7のように、PCR検査システムの問題による検査難民が出ているので、検査を早急に保険適用にし、医師の指示があれば検査できるようにすべきだ。 2020.2.7東京新聞 2020.1.31朝日新聞 2020.2.20中日新聞 2020.2.20朝日新聞 (図の説明:1番左の図のように、新型コロナウイルスの感染力はインフルエンザと比較して著しく高くはないが、スーパースプレッダーもいた。その結果、左から2番目の図のように、中国の感染者は1月中に等比級数的に増え、現在は他国でも広がり始めている。日本では、右から2番目の図のように、武漢からチャーター便で帰国した人の中には死亡者はいないが、“検疫”としてクルーズ船に閉じ込められた人の中からは死亡者が出ている。その死亡者は、1番右の図のように、80代ではあるが、元々はクルーズ船で旅行できるほど元気だった人なのだ) *8-1:https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/9422-covid-dp-2.html (国立感染症研究所 2020年2月26日更新) 現場からの概況:ダイアモンドプリンセス号におけるCOVID-19症例 ●背景 背景情報は2月19日掲載の「現場からの概況:ダイアモンドプリンセス号におけるCOVID-19症例」(以下、「現場からの概況2月19日掲載版」)を参照されたい。(https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/9410-covid-dp-01.html) ●検疫の状況 2月5日-19日の間、クルーズ船ダイアモンドプリンセス号(以下クルーズ船)に対し検疫が実施された。検疫期間中、陽性者の「濃厚接触者」等追加的なリスクがあった者については検疫期間が延長された旨、乗客に通知している。 ●下船手順 下船基準は次の3つの項目、1)陽性者と部屋を共有していない14日間の検疫期間が完了していること、2)検疫期間最終日までに採取した検体がPCR検査でSARS-CoV-2陰性であること、3)検疫期間の最終日の健康診断で異常が確認されないこと、を全て満たす者である。2月20日時点で1600人以上が既に下船している。検査は当初高リスクの乗客から実施されたが、2月11日からは全ての乗客が検査対象に拡大実施された。検査は80歳以上の乗客から実施され、75歳以上、70歳以上、70歳未満と順次実施拡大された。全乗客の検査実施後、検査対象が全乗員へ拡大された。COVID-19に関し国際的なガイドラインではPCR検査の実施を考慮した検疫は求められていないが、日本政府はより確実性を高めるためにPCR検査を実施した。 ●データ収集 「現場からの概況2月19日掲載版」 (https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/9410-covid-dp-01.html)に記載されているデータ収集方法に加え、船内の常設診療所からの後方視的な情報収集が開始された。 ●暫定的な結果 2月20日の時点で、82名の乗員と537名の乗客を含む、619名が陽性者であった(2月5日時点の乗船者の16.7%)。合計3,011検体が検査され、重複の者も含め延べ621検体が陽性(20.6%)であった。乗客のうち70歳から89歳が最も感染していた(表1)。発症日の情報が確認できたCOVID-19症例(n = 197)のうち、終日検疫が実施された最初の日である2月6日より前に発症した人が34名(17.3%)、2月6日以降に発症した人が163名(82.7%)であった(図1)。197例のうち163例(乗員48名、乗客115名)は検疫期間中に判明し、定員が2名以上の各客室で最初の陽性者であった者は52名(最小)から92名(最大)の範囲であった(この範囲には、無症候性症例及び発症日が不明の有症状症例が含まれる)。そのうち3名(最小)から7名(最大)が2月6日から開始された検疫期間の7日目以降に報告された者である(表2)。各客室別の乗客人数が増加するに従いCOVID-19陽性者の割合も増加している(図2)。陽性者のうち318名(51%、乗員10名、乗客308名)は、検体が採取された時点では無症状であった。 ●暫定的な結論 現在入手可能な疫学情報に基づいて評価すると、2月3日にクルーズ船が横浜に入港する前にCOVID-19の実質的な伝播が起こっていたことが分かる。発症日が報告されている陽性者数の減少は、アウトブレイクの自然経過、検疫の実施、またはその他の未知の要因によって説明が可能と思われる。各客室の乗客人数別確定症例の割合と、陽性者と客室を共有した確定例の数に基づいて検討すると、客室内の乗客は共通の曝露があったか、客室内でウイルスが伝播した可能性がある。 船の性質上、乗船しているすべての人を個別に隔離することはできず、客室の共有が必要であった。また、乗客が乗船している間、一部の乗員はクルーズ船の機能やサービスを維持するため任務を継続する必要があった。 遅れ報告を考慮した結果、発症日がわかっている陽性者数のピークは2月7日であった。 最近陽性者の報告数が多くなっていることは、検査対象者の拡大によって説明できるが、そのほとんどは無症候性症例である。クルーズ船の乗員乗客で報告された無症候性症例の割合は、他の場所で報告されているものよりもかなり高い。 この主な要因は、2月11日から体系的な検査が実施されその数が日々増加したことが一因と考えられる。一部の症例は、客室内での二次感染例であった可能性はあるが、検疫が始まる前に感染した可能性も否定できず、実際にいつ感染したか、判断は難しい。しかし、これらの無症候性症例は下船後入院し、同室者は濃厚接触者として最終接触日から新たに14日間の隔離期間を開始している。無症候性症例が下船前に判明したことを考えると、この体系立てた検体採取には意義があったと考えられる。現時点では、無症候性症例からの感染伝播に関する知見は国際的にも乏しい。そのため、船内の無症候性症例に関する継続的な調査により得られる情報は、世界的なCOVID-19アウトブレイクにおいて重要である。 (無症候性症例の下船後の発症状況に関する情報が収集されている)。クルーズ船において判明した症例は、感染症発生動向調査(NESID)に報告された情報も含め、臨床症状、重症度、および無症候性症例の評価のためついてさらなる調査が継続して行われている。 この情報は、このクルーズ船事例とCOVID-19の世界的な状況の理解に重要である。 ●暫定的対応とガイダンス 下船者のほとんどが14日間の検疫を確定患者と部屋を共有せず終了し、PCRの検査で陰性、健康チェックにより症状(発熱、咳、呼吸困難など)がない事を確認された。陽性確定例との接触がある者は、最終接触日から14日間が隔離期間となる。この該当者には隔離期間中の乗客に対する食事の配膳等の生活支援に貢献していた、乗員の大半が含まれる。1600人を超える乗客が下船し、今後の焦点は乗員の感染予防となる。下船者は、PCR検査陰性、下船時の健康チェック異常なし、および症状なく14日間の検疫期間を経過しているが、追加の予防措置として絶対に必要な場合を除き、14日間自宅にとどまるよう求められている。また、自分自身で健康チェックを実施し、症状を認めれば医療機関に連絡することになっている。追記:本稿のデータ収集にあたり、クルーズ船に乗船し、乗員乗客の健康管理のために多大な努力と貢献をされた医療チームや関係者、クルーズ船の機能維持に貢献されたダイアモンドプリンセス号のスタッフと本社のご協力に謝意を表します。 *8-2:https://www.msn.com/ja-jp/news/world/%E6%96%B0%・・・ (女性セブン 2020年3月5日号) 新型コロナウイルス 「研究所から流出」説の真偽を追う 連日新型コロナウイルスの話題が後を絶たない。全世界での感染者は7万人を超え、死者は約2000人となった(2月19日現在)。当初、ウイルスは自然発生と報道されていたが、ここにきて、武漢にある研究所からの流出疑惑が持ち上がっている──。中国・武漢市に世界トップレベルのウイルス研究所「中国科学院武漢病毒(ウイルス)研究所」がある。この研究所が備える最新鋭の設備の1つが、BSL4(バイオセーフティーレベル4)実験室だ。実験室では、SARSやエボラ出血熱のような、感染力が強くて危険なウイルスのコントロールも可能で、洪水の被害が及ばない場所に設置され、マグニチュード7の揺れにも耐えうるという。しかしいま、この研究所から新型コロナウイルスが流出したのではないかという疑惑が持ち上がっている。1月末、インド・デリー大学とインド理工学院に所属する研究者たちがまとめた「新型コロナウイルスにエイズウイルスと不自然な類似点がある」とする論文が物議をかもした。さらにこの研究者たちは「このウイルスが自然発生することは考えられない」とした。この論文は大バッシングののちに撤回されたが、一部のネットユーザーの間で内容が拡散。「新型コロナウイルスはSARSウイルスとエイズウイルスを武漢ウイルス研究所が人工的に合成したものでは」という憶測も飛び交い、不安が高まったのだ。さらに1月28日、ハーバード大学公衆衛生学教授のエリック・ファイグルーディン博士は自身のツイッターで「武漢市の海鮮市場はウイルスの発生源ではない」と発信。たちまち世界中のメディアで取り上げられた。中国メディア『大紀元』は、2月6日、オンラインゲーム開発会社の会長が自身のSNSで「武漢の研究所が新型コロナウイルスの発生源」と発言したと報じている。この人物は、かつて中国の生物学者が動物実験で使った牛や豚を食肉業者などに転売していた事件があったことから、新型コロナウイルスに感染した動物が市場で売られたのではないかと疑っているという。現在、中国版Googleともいわれる検索サイト「百度」で「武漢病毒研究所」と検索すると、検索候補に「泄露(漏洩)」という文字が。疑惑は広まる一方のようだ。 ◆何度も北京の実験室からSARSが流出 中国では過去にも“ヒューマンエラー”が起きたことがある。2004年、北京にあるBSL3の要件を満たす実験室から、SARSウイルスが流出する事件が発生し、責任者が処罰されている。中国メディアの報道などによると、研究員がBSL3実験室からSARSウイルスを持ち出し、一般の実験室で研究をしたことで感染が広まった。感染した研究者の1人は、症状が出たあと自力で病院に移動。看護師に感染させ、鉄道で実家に向かったことが確認されている。さらに、この研究者を看病した母親が感染、死亡している。元産経新聞北京特派員の福島香織さんが言う。「この頃、研究所からのウイルス流出や実験動物のずさんな管理が何度か問題になっていました。例えば、動物実験ではウイルスを動物に感染させたりするのですが、実験が終わったらウイルスを不活化、つまり無害化させる処理をしなければいけない。ところが、処理が完璧ではない状態でゴミ箱に捨てたり、外に廃棄したりしたことからSARSウイルスの感染が拡大したと指摘されています」 ◆武漢ではコウモリに宿るウイルスを研究 冒頭の最新ウイルス研究施設は、新型コロナウイルスの発生源とされている華南海鮮市場から約30km離れた場所にある。「世界有数のウイルス研究所を擁するフランスの技術協力を得て完成しました。SARS事件があったのと同じ2004年頃から研究所を整備する計画が始まり、北京五輪やチベット問題などの紆余曲折があった末、2015年に竣工し、2018年から稼働しています」(福島さん)。今回疑惑を向けられている武漢ウイルス研究所のBSL4実験室の評価は高かった。中国メディア『財新』は、この実験室のチームが2017年に、複数のコウモリを起源とするSARS型コロナウイルスが変異したものがSARSウイルスであることを突き止めたと報じた。チームリーダーでBSL4実験室副主任の女性研究者は「コウモリ女傑」とも呼ばれ、コウモリの研究で政府から表彰されたこともあった。そのコウモリの実験で発生したウイルスが華南海鮮市場に流出した可能性はあるのだろうか。しかし、先の女性研究者は、SNSで一連の疑惑を真っ向から否定。「新型コロナウイルスと研究所は無関係であることを私は命をかけて保証する」という内容の投稿をした。中国メディア『財経』も、仮に実験室から流出したとしたら研究スタッフが真っ先に感染しているはずだが、そうではなかったと疑惑を打ち消す報道をしている。しかし今度は香港メディアが華南海鮮市場から300mほどの場所にある実験室「武漢疾病予防管理センター」からウイルスが流出したという内容の論文(のちに削除)の存在を報じるなど、依然ウイルスの出所には疑惑がつきまとう。発生源は華南海鮮市場ではないのだろうか。「医学誌『ランセット』に中国の医師たちが寄稿した分析によると、新型コロナウイルスの患者41人を調べたところ、発生源とされる華南海鮮市場に関係しているのは27人。さらに最も早い昨年12月1日に入院した初期患者4人のうち、3人が市場とは無関係でした」(福島さん)。中国事情に詳しいジャーナリストの富坂聰さんは「そもそも野生動物の市場取引は中国でも違法」と話す。「中国当局もSARSの経験を教訓に厳しく取り締まってきましたが、時間と共にそれが緩くなり、武漢では堂々とヤミ市場が開かれていました。違法だからこそ希少価値が出て、野生動物の値段が上がってしまう。中国に限ったことではありませんが、お金さえもらえればなんでもする人はたくさんいます。いまも違法な野生動物のヤミ市場は開かれているでしょう。武漢ではないところでウイルスが出てもおかしくない状況でした」 ◆いまも中国のどこかで新型コロナウイルスの研究が 新型コロナウイルスは猛威を振るい続けている。「香港大学医学院は1月27日に、新型コロナウイルスの感染者は約1週間ごとに倍増しており、4~5月頃にピークを迎え、夏頃までに減退していくと発表しました」(福島さん)。ただ、ひと段落着いたとしても安心はできない。7月24日から東京五輪が始まり、今年だけで世界中から3600万人もの人が訪日すると予想されている。一旦収束したように見えても群衆の中で知らぬ間に感染し、それをまた本国に持ち帰る人がいてもおかしくない。本当のパンデミックは夏以降にやってくるかもしれないのだ。昭和大学医学部内科学講座臨床感染症学部門主任教授の二木芳人さんが言う。「ウイルスは宿主に感染を繰り返すことによって更に変化が生じます。インフルエンザウイルスのように変異し、またタイプの異なるコロナウイルスが大流行を引き起こす恐れもあります」。今回、武漢の研究所から流出したわけではなかったとしても、今後流出が起こらないとは限らない。ある感染症の専門医は言う。「SARSウイルスと同様、新型コロナウイルスも再発防止のため、すでにどこかの研究所に保管され、研究が進められているはず。人の手がかかわる以上、ヒューマンエラー発生のリスクは伴います」。発生源の根源にあるのは、“人の愚かさ”か。 *8-3:https://news.yahoo.co.jp/byline/kazuhirotaira/20200225-00164456/ (Yahoo 2020.2.25)新型コロナウイルス:「生物兵器」の陰謀論、政治家やメディアが振りまく 新型コロナウイルスの感染源をめぐり、これが「生物兵器」だとする陰謀論の拡散が続く。ネットを舞台とした拡散に加えて、メディアや政治家などが、それを後押ししていることも大きい。そして拡散の背景として、中国政府の情報開示への不信感もつきまとう。だがこのような陰謀論の氾濫は、結果として人種差別を呼び起こしたり、感染拡大を悪化させてしまう危険性も指摘される。19日には公衆衛生や感染学の専門家である著名な科学者ら27人が、この陰謀論を否定する共同声明を英医学誌「ランセット」に発表。陰謀論の拡散を批判している。リアルの感染拡大と陰謀論の拡散。その二つを結びつけるのは、なお正体が明らかにならない新型ウイルスへの不安感だ。 ●上院議員と「生物兵器」 新型コロナウイルスと「生物兵器」を結びつける陰謀論は、米国のテレビ4大ネットワークの一つ、FOXでも取り上げられている。共和党の上院議員、トム・コットン氏はFOXニュースに16日夜に出演し、新型コロナウイルスについて、中国・武漢のウイルス研究所からの「流出疑惑」を主張した。コットン氏は、新型コロナウイルスの感染源として、ツイッターなどで武漢の「ウイルス研究所」を名指ししてきた。現在、世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルスの感染源としているのは、武漢市江漢区にあり、野生動物なども取引されてきた武漢華南海鮮卸売市場だ。コットン氏はFOXニュースの中で、感染源は海鮮市場ではない、と述べる。そして海鮮市場から数マイルの場所に「バイオセーフティレベル4の感染症の特別研究所がある」としている。コットン氏が名指ししているのは、長江を挟んだ対岸、12キロ(7.5マイル)ほど南東にある武漢市武昌区の中国科学院武漢ウイルス研究所の施設「武漢国家生物安全実験室」だ。「武漢国家生物安全実験室」は危険度の高い病原体を扱うことができる安全対策が施された「バイオセーフティレベル4(BSL-4)」の研究所。日本では国立感染症研究所村山庁舎(東京都武蔵村山市)がBSL-4施設だ。コットン氏は、断定はしないものの、新型コロナウイルスと「武漢国家生物安全実験室」について、こう発言している。この感染症の感染源がここ(ウイルス研究所)だという証拠はない。ただ中国はこの問題発覚当初から、二枚舌とうそばかりだ。我々は少なくとも証拠をもとに問いただしていく必要がある。だが中国は、そのための証拠すら一切明らかにしようとはしていない。 ●メディアが火をつける 新型コロナウイルスを「武漢国家生物安全実験室」や「生物兵器」と結び付ける陰謀論は、すでに様々な専門家から繰り返し否定されてきている。だが、これに火がつくきっかけの一つが、メディアだった。英大衆紙のデイリーメールは新型コロナウイルスによって武漢市の「封鎖」が始まった1月23日、「武漢国家生物安全実験室」のことを取り上げている。記事の中で同紙は、同研究所が2018年に中国初のBSL-4施設として稼働する前、病原体の「流出」を懸念する声が米科学者らから上がった、などと指摘。また、地図付きで海鮮市場と実験室の位置関係も掲載している。さらに、中国では2004年に北京の研究所でSARSウイルスが「流出」した経緯がある、などとしていた。デイリーメールの記事には、いくつかの事実がある。一つは2017年2月の科学誌「ネイチャー」の記事で、「武漢国家生物安全実験室」の安全性に米専門家らが懸念を表明していた点だ。さらに、2004年に北京でSARSの集団発生が起きた際には、北京の国立ウイルス学研究所で、BSL-3の実験室のSARSコロナウイルスを、一般の実験室に持ち出して実験に使ったことが感染源となったことも、公表されている事実だ。ただ、今回の新型コロナウイルスの感染と「武漢国家生物安全実験室」を結びつけるデータは、これまで明らかになっていない。また上述の「ネイチャー」の記事には、2020年1月付で「編集者追記」が掲載され、新型ウイルスと「実験室」を結びつける証拠はなく、新型ウイルスの感染源は市場と見られている、と述べられている。 ●陰謀論、拡散と否定 米保守紙のワシントン・タイムズは2019年1月26日、イスラエルの軍事専門家のコメントとして、新型コロナウイルスの感染源が「武漢ウイルス研究所」の可能性があり、同研究所が関わる「生物兵器計画」とつながっている、などと報じている。この記事を、トランプ政権の元首席戦略官兼大統領上級顧問で、右派サイト「ブライトバート・ニュース」の会長だったスティーブン・バノン氏が、自身のポッドキャストで拡散しているという。さらに1月31日、インドの研究グループが、新型コロナウイルスに、HIVウイルスとの「異様な類似点がある」などとする論文を公開。ウイルスへの「人為的操作」の憶測が拡散する。だが、調査手法や結論に関する専門家らからの批判を受け、論文は2日後に撤回されている。刺激的な情報は広く拡散する。ネット調査会社「バズスモー」のデータによれば、デイリーメールの最初の記事はフェイスブックで20万回以上共有され、ワシントン・タイムズの記事もやはりフェイスブックで16万回以上共有されている。撤回されたインドの研究チームの論文も、フェイスブックでは2万回以上共有された。中国の崔天凱・駐米大使は2月9日、米CBSの報道番組「フェイス・ザ・ネイション」に出演し、新型コロナウイルスと武漢の研究所を結びつけることを批判し、こう述べている。憶測やうわさを扇動し、人々に拡散させるのは極めて有害で、危険なことだ。それらはパニックを引き起こしてしまう。そして、人種差別、外国人差別を煽ることになる。これらはウイルス対策への協力態勢を著しく損なうものだ。ただ混乱の背景には、中国の情報開示についての不信感も影を落とす。象徴的なのが武漢の眼科医、李文亮氏のケースだ。李氏は「原因不明」だった今回の新型コロナウイルスについて、2019年12月30日という早い段階でネット上で感染への注意喚起をし、警察の事情聴取を受けた。さらに李氏は、自らも感染し、2月7日に亡くなっている。FOXニュースに出演したコットン氏も、李氏のケースを取り上げ、中国政府の対応を批判した。 ●27人の専門家が否定する 新型コロナウイルスの感染源をめぐるこれらの陰謀論やデマの氾濫に対し、世界的に知られる公衆衛生の専門家27人は2月19日、英医学誌「ランセット」に共同声明を発表した。共同声明に名を連ねているのは、SARSの感染源とコウモリを結び付けた研究など知られる国際NPO「エコヘルス・アライアンス」代表のピーター・ダスザック氏、全米科学財団(NSF)長官などを歴任し、ジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生大学院特別教授、沖縄科学技術大学院大学学園理事なども務めるリタ・コルウェル氏、英医学研究支援団体「ウェルカム・トラスト」代表で、2003年にベトナムでSARS患者の治療にあたったジェレミー・ファラー氏、元米国立感染症センター(NCID)所長で米エモリー大学大学院教授、ジェームズ・ヒューズ氏ら。声明は、各国の専門家による研究は、いずれも新型コロナウイルスが野生生物由来だと指摘。さらに、陰謀論の氾濫について、こう述べている。陰謀論は、ただ不安やうわさ、偏見をかき立て、今回のウイルスに対する世界的な協力の取り組みを危険にさらす。科学的エビデンスと、虚偽情報や憶測への団結した取り組みの推進。我々は、WHOのアダノム事務局長によるこの呼びかけを支持する。 ●陰謀論の被害 陰謀論やデマには、具体的な被害が伴う。今回の新型コロナウイルス感染拡大にともなって、中国人を中心としたアジア系に対する差別や排斥の動きが欧米などで広まっている。また、感染症に関するデマの拡散によって適切な対策が取られず、感染そのものの拡大に悪影響を及ぼす。そんなシミュレーション結果を英国立イーストアングリア大学教授で感染症を専門とするポール・ハンター氏らが発表している。ただ、従来のデマや陰謀論がそうであるように、新型コロナウイルスをめぐっても、情報戦の様相もある。感染源にまつわる陰謀論には、バリエーションがあり、その一つが、米国の陰謀である、とするものだ。フォーリン・ポリシーによれば、ロシアメディアでは、新型コロナウイルスが、米国の「生物兵器」、もしくは米国の製薬会社による策略、との陰謀論が流布している、という。不安の拡大には、それに乗じた様々な意図も入り込む。冷静さは常に必要だ。 *8-4:https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2020022990135918.html(東京新聞 2020年2月29日)<新型コロナ>WHO「危険性最高」評価引き上げ 感染55カ国・地域に 世界保健機関(WHO)は二十八日(日本時間二十九日未明)、新型コロナウイルスによる肺炎(COVID(コビッド)19)の地域別の危険性評価で、世界全体と日本を含む中国周辺地域を「高い」から、中国と同じ最高レベルの「非常に高い」に引き上げた。ウイルス感染が世界各地に拡大し、死者・感染者数の増加に歯止めがかからないことから、世界的に流行していると認定した形だ。中国を発端に韓国、イラン、イタリアなどで大規模感染が確認され、日本でも市中感染とみられる例が相次いでおり、終息の見通しが立たない現状に危機感を示し、各国に一層の警戒を呼び掛けた。事態は急速に変化しているが、WHOのテドロス事務局長は記者会見で、多くの国では大規模な市中感染は起きておらず「抑え込みは依然可能だ」と語った。WHOで緊急事態対応を統括するライアン氏は「危機が高まっている」と述べ、各国に感染拡大防止態勢の強化を訴えた。二十八日付のWHOの状況報告によると感染者は五十五カ国・地域の八万人以上に上った。中国では新規感染者が少なくなる傾向にあるが、感染は世界の五大陸(ユーラシア、アフリカ、北米、南米、オーストラリア)に波及。テドロス氏によると、イタリアに関連した感染者二十四人が十四カ国で、イランに関連した九十七人が十一カ国で確認された。中国以外の国からも感染者が「輸出」される事例が増え、世界的な危険性が高まったと認めざるを得なくなった。WHOはこれまで、世界各地の感染例は中国と比べると格段に数が少なく大半の感染経路も把握できているとしていた。WHOは一月三十日に国際保健規則に基づき、新型コロナウイルスの感染拡大が「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」に該当すると宣言。危険性評価は一月二十三日付のWHOの状況報告から掲載され(1)中国(2)中国周辺地域(3)世界全体-の区域で評価。これまで中国は「非常に高い」、世界全体と中国周辺地域は「高い」となっていた。 *8-5:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/587674/ (西日本新聞 2020/2/27) 「臨時休校」65%が賛成 高齢者と10代割合高く あな特通信員アンケ 新型コロナウイルス感染対策として全国の小中学校や高校などに臨時休校を要請する方針を安倍晋三首相が表明したことを受け、「あなたの特命取材班」は27日夜、無料通信アプリLINE(ライン)でつながる全国約1万1千人の通信員に緊急アンケートを実施した。2251人が回答、方針への「賛成」が約65%を占めた。年代別では、60代の賛成の割合が最も高い75・1%に上り、次いで10代(73・6%)、70代以上(70・1%)の順だった。「このくらいのことをしないと感染は広がるばかり」(福岡県・男性)、「初動指示が遅すぎた」(同県・男性)という声が上がった。子育て世代が多い年齢層では反対が比較的多く、30代では反対が最多の41・1%、次いで40代(36・5%)。「仕事を休めない。子どもだけ置いて行けない」(大分県・女性)のほか「急すぎる」、春休みまでという期間に「長すぎる」という声が目立った。男女別では男性の賛成が68・8%に対し、女性は62・5%。感染が確認された福岡、熊本両県ではそれぞれ64・7%、77・1%が賛成した。「子どもの面倒を誰が見ますか」という質問には、「誰もいない」という切実な声が一斉に寄せられた。小学校高学年や中学生の子どもについては、心配でも「子どもだけで留守番させる」(福岡県・女性)という人が多かった。子どもが低学年で、祖父母など頼れる人がいない場合は「夫婦交代で仕事を休むしかない」(同県・女性)との嘆きが漏れた。収入減少を懸念する声も多く「国が休業補償すべきだ」(鹿児島県・女性)、「どうしても面倒を見られない家庭のための緊急施設の整備が急務」(福岡県・男性)という意見があった。 *8-6:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/494188 (佐賀新聞 2020/2/27) 〈防ごう 新型コロナ〉学童の受け入れ先 ※土日は休みの自治体もあります。 【佐賀市】受け入れ先=児童クラブで検討中▶日時=3日から、午前8時~午後6時半▶対象=利用申し込みをして決定が出ている児童▶問い合わせ=市子育て総務課、電話0952(40)7285 【唐津市】検討中。2日までに詳細を決め、保護者に通知する 【鳥栖市】受け入れ先=放課後児童クラブ▶日時=3~15日(日曜除く)、午前8時~午後6時▶対象=通年で登録している児童のみ▶問い合わせは市生涯学習課、電話0942(85)3694 【多久市】受け入れ先=各校のなかよしクラブ▶日時=3日から、正午~午後7時▶対象=本年度の利用申し込みをしている児童▶問い合わせ=市学校教育課、電話0952(75)2227。 【伊万里市】受け入れ先=各学校の留守家庭児童クラブ▶日時=3~14日、午前8時~午後7時▶対象=本年度の利用申し込みをしている児童▶問い合わせ=市教育総務課、電話0955(23)2125 【武雄市】受け入れ先=小学校の放課後児童クラブ▶日時=3日から、午前8時~午後7時▶対象=利用申し込みをしていない児童でも、保護者の事情によっては受け入れ可能▶問い合わせ=各児童クラブ、こどもみらい課、電話0954(23)9215 【鹿島市】受け入れ先=各校の児童クラブ▶日時=3日から、午前7時半~午後6時10分(延長は午後7時)、弁当を持参▶対象=市内の児童で子どもを見る人がいない家庭。新規利用は就労証明が必要で、市役所に申請する▶問い合わせ=市福祉課、電話0954(63)2119 【小城市】受け入れ先=各校の放課後児童クラブ▶日時=3日から、午前8時~午後7時までで検討中▶対象=本年度の利用申し込みをしている児童▶問い合わせ=市教育総務課、電話0952(37)6130 【嬉野市】受け入れ先=各校の放課後児童クラブ▶日時=3~15日、午前7時半から午後7時まで▶受付期間=3日~15日まで▶対象=通常の利用申し込みをしている児童、長期休暇時のみ申し込みをしている人▶問い合わせ=市子育て未来課、電話0954(66)9121、もしくは、市福祉課、電話0954(42)3306 【神埼市】検討中。2日までに詳細を決め、保護者に通知する▶問い合わせ=市社会教育課、電話0952(44)2731 【吉野ヶ里町】受け入れ先=各小学校の放課後児童クラブ▶日時=3~15日、午前7時半~午後6時(1時間延長可)▶対象=1、2月の平日に利用している児童のみ▶問い合わせ=町社会教育課、0952(37)0341 【基山町】受け入れ先=放課後児童クラブ▶日時=3日から、午前8時~午後7時▶対象=普段から利用している児童のうち1年生から3年生まで受け入れ予定▶問い合わせ=町こども課、電話0942(92)7968 【上峰町】受け入れ先=放課後児童クラブ▶日時=3日から、午前8時~午後7時▶対象=通常から利用している児童のうち1、2年生を受け入れ。学校で受け入れるなどの対応も検討中▶問い合わせ=町住民課、0952(52)7412 【みやき町】受け入れ先=放課後児童クラブ▶日時=3日から、午前7時半~午後7時▶対象=利用登録している児童。学校を開けることも含めて検討中▶問い合わせ=町こども未来課、0942(89)4097 【玄海町】受け入れ先=さくら児童館、みどり児童館▶日時=3日から、午前8時~午後6時▶対象=どうしても預ける必要がある場合のみ対応。申請のない児童生徒の対応も検討中▶問い合わせ=両児童館、町住民課こども・くらし係、電話0955(52)2158 【有田町】受け入れ先=放課後児童クラブ▶日時=3~14日、月~土曜の午前8時~午後6時(延長30分)、日曜は休み▶対象=既に登録をしている児童のみ▶問い合わせ=有田町子育て支援課、電話0955(25)9200 【大町町】検討中 【白石町】受け入れ先=各校の放課後児童クラブ▶日時=3~15日、午前7時40分~午後6時▶対象=利用申し込みしている人。申し込みしていない人の対応も検討している▶問い合わせ=町保健福祉課、電話0952(84)7116 【江北町】受け入れ先=各小中学校、江北小にある放課後児童クラブ、町子どもセンター「うるる」▶日時・対象=午前8時15分~午後2時15分は学校の教室を開放して受け入れ。放課後児童クラブは利用申し込みをしている児童が対象で午後6時半まで▶問い合わせ=町子ども教育課、電話0952(86)5621 【太良町】受け入れ先=各校の児童クラブ▶日時=3~15日、午前8時半~午後6時▶対象=申し込みをしている児童。新規利用は要望次第で検討する▶問い合わせ=町民福祉課、電話0954(67)0718 *8-7:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1081535.html (琉球新報社説 2020年2月28日) 政府の新型肺炎対策 検査体制の拡充が急務だ 政府の危機管理能力のなさが鮮明になってきた。新型コロナウイルスによる肺炎(COVID19)の感染拡大阻止で安倍政権の対応が後手に回り、国民の間に不安と混乱を広げている。その最大の要因は、新型コロナウイルスの有無を調べるPCR検査が十分に行われておらず、感染がどれだけ広がっているのか実態を把握しきれていないことにある。発熱やせきが続いても新型コロナウイルスの検査を受けられず、医療機関をたらい回しにされる事例が報告されている。感染者数を増やさないために、検査を制限しているのではないかと疑いの目を向けられても仕方がない。政府はこれまで1日最大約3800件の検査能力があると説明してきたが、この1週間の実績は1日平均約900件にとどまっている。これに対し隣国の韓国は1日平均約3400件の検査を実施し、これまでの検査総数は約5万3千件となっている。韓国では2015年に中東呼吸器症候群(MERS)への対応が遅れ、政権が批判された。これが教訓となり韓国政府はPCR検査の検査時間を短縮し、民間病院に検査キットを配布して検査の網を拡大してきた。日本では厚生労働省が当初「国内では人から人への持続的な感染は認められない」との認識を示すなど、事態を楽観視していた。集団感染が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」への対応を巡っても、感染防止対策に不備があったと指摘されている。大きな失態だ。陰性が確認された乗客をクルーズ船から下船させたが、栃木や徳島、千葉県では公共交通を利用して帰宅した下船者の感染が判明する事態になった。政府の泥縄式の対応がウイルスを拡散させている可能性が否定できない。終息の道筋が見えない中で、スポーツや文化行事の開催自粛も広がっている。25日に厚労省が発表した基本方針では「全国一律の自粛要請を行うものではない」としていた。だが、安倍晋三首相が翌26日に「国が判断しなければならない。大規模な感染リスクがある」と中止の要請へと方針を一転させたことで、イベント当日に公演中止が決まるなど混乱を招いた。現場に負担を押し付けるやり方は市民生活や経済活動を混乱させる。「最終的な責任は市や町にあると国が逃げている」(谷本正憲石川県知事)との指摘や厚労省に任せきりにしているとの批判もある。首相は3月2日から春休みが明けるまで全国の小中高校などに臨時休校を要請する意向を示した。感染の広がりが不明な中で、場当たり的な印象も否めない。政府は検査の規模と速度を上げる必要がある。検査を希望する全ての人が検査を受けられるよう、民間機関への検査委託の拡大など診断体制を早急に強化すべきだ。 <普及せずに失う日本発の先進技術とその理由> PS(2020/2/27追加):*9-1のように、パナソニックもテスラの「ソーラールーフ」で採用されるはずだった黒屋根のような太陽電池のデザインと発電効率の両立が難しく、テスラの求める仕様に合わないとして共同生産を解消するそうだ。そして、テスラの現行のソーラールーフは、コストも安い中国企業などの電池を採用しているそうで、太陽光発電装置が日本発だったことを考えると情けない。パナソニックが生産した太陽電池は日本のハウスメーカーなどが使っているそうだが、それもデザインが今一つで、設置の傾斜角度を30度にするため、見た目がさらに悪くなっている。日本では、「環境保護≒その他のすべてを犠牲にしてよい」と考えているようだが、この発想は改めるべきだ。 また、ジョンソン英首相は、*9-2のように、「ガソリン車(ハイブリッド車を含む)とディーゼル車の販売禁止を従来より5年早い2035年から実施する」と表明するそうだが、2030年からでよいのではないだろうか。首相がそう表明すれば、充電施設は整備され、大量生産によりEVの値段も下がる。日本は、現状維持や妥協の発想と妨害によってEVも遅れたが・・。 *9-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56059920W0A220C2MM0000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2020/2/26) テスラとパナソニック、太陽電池の共同生産解消へ 米電気自動車(EV)メーカーのテスラとパナソニックは太陽電池の共同生産を解消する。テスラの太陽光パネルに使う太陽電池を生産するため、両社は米ニューヨーク州で工場を運営してきた。ただ実際はテスラ製パネルでの採用はほとんどなく、生産量が増えないため近く稼働を止める。中国勢が台頭する中、日本の太陽電池メーカーの退潮が鮮明になる。テスラにとって太陽光事業はEVに次ぐ柱だが、当初の戦略を修正する。両社は米ネバダ州にある車載電池工場「ギガファクトリー1」を軸としたEV向け電池の共同生産は引き続き維持する。テスラとパナソニックは2016年に太陽電池の生産で提携すると発表。米ニューヨーク州バッファロー市に「ギガファクトリー2」と呼ぶ工場を設け、17年から太陽光パネルの中核部材である太陽電池などの生産を始めた。工場の運営主体はテスラでパナソニックは製造設備の購入など投資の一部を負担。主にパナソニックが生産を担当する太陽電池は、テスラの主力の太陽光パネルである「ソーラールーフ」で採用されるはずだった。ソーラールーフは黒い屋根のように見えるデザイン性が最大の特長だが、パナソニック製の太陽電池は見た目と発電効率の両立が難しくテスラの求める仕様に合わなかった。現行のソーラールーフはコストも安い中国企業などの電池を採用しているもよう。パナソニックは同工場で生産した太陽電池を、テスラの代わりに日本のハウスメーカーなどに販売してきた。 *9-2:https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/02/20355.php (Newsweek 2020年2月4日) イギリス、2035年からガソリン車とディーゼル車を販売禁止へ 5年前倒し ジョンソン英首相は4日に行う講演で、ガソリン車とディーゼル車の販売禁止について、従来より5年前倒しの2035年から実施すると表明する見通し。英国は今年、11月にグラスゴーで開かれる国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)の議長国を務める。4日にロンドンで開かれる関連イベントでの講演を前に、ジョンソン首相は声明で「COP26の開催は英国と世界各国にとって気候変動対策強化の重要な機会になる」と指摘。「2050年排出実質ゼロの目標に向けた今年の英国の計画を明らかにするともに、諸外国に排出実質ゼロを英国とともに公約するよう求めるつもりだ」とした。ジョンソン氏は、排出実質ゼロの早期達成に向け、クリーンな技術への投資や自然生息地の保全、気候変動の影響への耐性を高めるための方策を含めた国際的な取り組みを呼び掛ける見通し。ガソリン車とディーゼル車の販売禁止については、2035年か、可能であればさらに早い時期に前倒しで実施する計画を示す。ガソリンエンジンと電気モーターを併用するハイブリッド車も含まれるという。実施前に意見公募を行う。英国以外にも、フランスは2040年以降、ガソリン車とディーゼル車の販売を禁止する方針で、ノルウェーの議会は、25年までに国内の全ての車を排出ゼロにする法的拘束力のない目標を採択した。ただ、英国ではディーゼル車とガソリン車が国内販売の9割を依然占めており、充電施設の数が少なく、エコカーのモデルも限定的で割高との声が聞かれる。 <新型コロナウイルス対策としての全国一斉休校> PS(2020年3月2、3、16日追加):*10-3のように、重要な仕事をしている女性が多いとは思わず、家庭へのしわ寄せを考えずに、安倍首相が新型コロナウイルス感染防止として、2020年3月2日から全国の小中高校・特別支援学校を一斉に休校にする方針を出された時には、私も「原発廃止と再エネによる分散発電やEV化ではなく、勉強させない方向への意思決定は随分速やかだ」と思った。つまり、感染者が1人も確認されていない自治体(離島を含む)にまで休校を要請する必要性はないと思われるため、全国一斉休校にした科学的根拠を明確にすべきだ。ただし、学校に行くのは全員の義務だが、保育園や学童保育を使うのは親が必要と判断した家庭だけであるため、この期間に保育園や学童保育を開所するのに矛盾はない。 また、学校給食の停止で、*10-2のように、学校給食向け牛乳・野菜等のキャンセルが相次いで供給者が困っているそうだが、それだけではなく、これを給食として児童・生徒に与えて健康を維持させているため(これには親は感謝すべきだ)、一斉休校で免疫力や体力が低下する児童・生徒も出そうだ。そのため、*10-1のように、参院予算委員会は、2020年度予算案全体ではなく(??)、新型コロナウイルス対応策などが中心的な議題になるとのことである。 なお、新型コロナウイルスの感染防止のために始まった全国小中高校の一斉休校で、*10-4のように、朝から預かる学童保育の負担が重くなり、同時に感染をどう防ぐかが問題となっているそうだが、朝から預かる必要性は、休みの日なら日常のことであり、感染防止も新型コロナウイルスに限らずインフルエンザ・はしか・水疱瘡など他の感染症でも同じだ。従って、私は東大女子同窓会を通して1990年代から必要性を言っていたので、未だに保育所や学童保育の不備に慌てている自治体があるとすれば、それは働く女性のニーズを無視して女性に負担を押し付けてきた自治体の怠慢であり、同情の余地はないと思う。むしろ、新型コロナのおかげで、必要不可欠なインフラの未整備が浮き彫りになったことに感謝すべきだ。 このような中、*10-5のように、マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツ氏が取締役を退任し、①気候変動 ②教育 ③公衆衛生 に関わる慈善事業に専念されるそうだ。これは本当に偉いことだが、①②③の命題は、今後のITに求められる技術であるため、ゲイツ氏の判断は長期的には新製品や新サービスのBig market(大市場)を創造することになり、慈善事業に終わらないだろう。例えば、IT教育なら、*10-6のように、オンラインで動画を使った教育をすることもでき、日本に居ながら外国の授業を受けることもできる。これは、学校に行く意義とは別に、開発途上国や地方ではなくてはならないものだ。ちなみに、私は「Nature」の日本法人で、地球45億年の歴史を5分くらいに短縮した大陸移動説の動画を見せていただいたことがあるが、想像を超える科学的事実が画像で表わされており、特に注目したい場所(例えば、恐竜時代の日本など)を拡大して見ることもできて感動した。このほか、イギリスやアメリカの授業を聞けば、他の学科を英語で学習することもできるため、テレビサイズに大きくできるYuTubeがあれば助かる。また、「そこまでやると、学習時間が足りない!」という問題については、*10-7のように、佐賀県は、(私の提案で)私立だけでなく公立高校も中高一貫併設校になっているところが4か所あり、このように中高一貫校の6年間や幼稚園・小中一貫校で年齢に応じた内容を効果的に学べるようにすれば、「時間が足りない」という問題は解決できる。そのため、必要なのは、学習内容をできるだけ前倒しし、学習計画を効率化しながら再編することである。 *10-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200302&ng=DGKKZO56249020R00C20A3PE8000 (日経新聞 2020.3.2) 新型コロナ対応で与野党論戦 自民・世耕氏「休校は有効」 国民・大塚氏「経緯説明を」 参院予算委員会は2日から安倍晋三首相と全閣僚が出席し、2020年度予算案の基本的質疑に入る。新型コロナウイルスの対応策などが中心的な議題となる。それに先立ち与野党の参院幹部は1日のNHK番組で、政府の対応策について討論した。自民党の世耕弘成参院幹事長は首相の休校要請に関して「迅速に対応することが重要だ。全国的にどこで広がるか明確でない状況で、休校は有効だ」と評価した。「休業補償を具体化するなど不安の払拭に努めることが重要だ」と訴えた。公明党の西田実仁参院会長も「休業補償や子供の居場所づくりなどセットで公表するほうが混乱は少ない」と指摘した。世耕氏は国会論戦を前に「今は批判や糾弾の段階ではなく、政府が能力を存分に発揮できるようにサポートすべき時期だ」とも強調した。立憲民主党の長浜博行参院議員会長は「自治体に責任を押しつけるのではなく、国として何をすべきかだ」と述べた。国民民主党の大塚耕平代表代行も休校要請について「なぜこういう判断に至ったか説明を聞きたい」と語った。共産党の小池晃書記局長は専門家を国会に参考人として呼び、政府の対応を検証すべきだと主張した。大塚氏は休校で学校給食がなくなり、材料を納入する業者などに悪影響が出ることに懸念を示した。日本維新の会の片山虎之助共同代表は「国が一律に要請するのはいかがか」と批判し、地方自治体の判断に任せるべきだとの考えを示した。日本経済全体への影響について、大塚氏は「事業者が決済できない状況が発生している」として、政府が支払い猶予措置などを講じるべきだと提案した。イベント中止によるキャンセル料を念頭に、イベント業者らへの損害をなくすように求める考えを示した。小池氏は消費税率を5%に引き下げるように主張し、世耕氏は否定した。 *10-2:https://www.agrinews.co.jp/p50163.html (日本農業新聞 2020年2月29日) 新型肺炎で臨時休校 給食停止で産地混乱 生乳、野菜行き場なく 新型コロナウイルスの感染拡大防止へ、政府が示した全国小中高校の臨時休校方針で学校給食が停止がすることを受け、農畜産物の供給に混乱が生じている。学校給食向けの牛乳(学乳)は飲用向け生乳の1割近くで、供給先を失った産地やメーカーは対応に苦慮する。野菜でも給食向け取引のキャンセルが相次ぐなど影響が広がっている。学校給食に提供する生乳は、全国の飲用向け(年間約400万トン)の1割弱で全て国産。うち最も供給量の多い関東は年間10万トンを学乳に仕向ける。管内の公立学校が2週間休校になると、このままでは7500トンもの生乳が行き先を失う。関東生乳販連は28日午後4時現在で、取引メーカーからキャンセルが相次ぐ。キャンセル分は日量最大で80トンを見込む。余力のある乳業メーカーに引き受けてもらい、難しければ長期休みに稼働率を上げる乳製品工場に納めたい考え。実質、春休みが前倒しになる形だが、工場の人員確保は難しく、どこまで対応できるかは不透明だ。「暖冬で生乳生産が上向く一方、飲用需要も全体的に下がっている。学乳の停止でダブルパンチ」(同生乳販連)と嘆く。乳用牛など50頭を管理し、千葉酪農農業協同組合を通じ小学校に牛乳を出荷する千葉県内の牧場の代表は「まだ損害は出ていないが、先行きが見えない。影響の長期化が心配」と不安視する。北海道では都府県に定期的に移送する生乳のキャンセルの多発を懸念する。キャンセル分は道内の乳業メーカーが引き受け、主に加工向けに振り向ける。生乳増産と飲用向け需要の低迷に加え、観光客の減少で土産用の加工品需要も低下している。大手乳業関係者は「乳業各社や指定団体と協力して生乳需給が崩れないようにしたい」と話す。文部科学省によると、学校給食の1人1食当たりの食品別摂取量(2017年度)は、牛乳が200グラムで最多。野菜類が91グラム、米が52グラムと続く。学校給食向けに出荷する産地やJAなどにも影響が及ぶ見通しだ。東京都小平市の小中学校に食材を提供してきたJA東京むさし小平支店は、3月分の野菜などの契約4・5トンがキャンセルとなった。同JAは「非常に混乱している。市場に荷が集中し相場に影響が出るのも心配」と話す。月約200万円分の野菜を東広島市内の給食センターなどに供給してきたJA広島中央は「学校給食は安定した単価で買い取ってもらっていた」ため、供給停止を懸念する。学校給食材の供給などを担う各都道府県学校給食会でつくる全国学校給食会連合会は「給食メニューや食材調達は約1カ月前に決めるところが多い。食材キャンセルなど影響は出る」とみる。文科省は28日、学校給食に供給してきた産地やJA、業者の支援について「現時点で補填(ほてん)などは想定していないが、影響を踏まえ各省と連携し検討する」としている。 *10-3:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1082245.html (琉球新報社説 2020年2月29日) 新型コロナ休校要請 「全国一斉」の根拠説明を あまりにも唐突で場当たり的と言わざるを得ない。安倍晋三首相が、新型コロナウイルスの感染防止のため3月2日から春休みに入るまで全国の小中学校、高校や特別支援学校を臨時休校にするよう要請する方針を打ち出したのである。萩生田光一文部科学相は「専門家から、学校が集団感染のリスクが高いとかねて意見があり、政府が大方針を示した」と理由を説明する。だが、感染者が出た都道府県だけでなく、1人も確認されていない県を含め、一律に休校を求める必要があるのか。混乱を拡大させるだけではないのか。一斉休校の科学的根拠をしっかりと説明することが不可欠だ。新型コロナウイルスを巡るこの間の政府の対応は後手後手だった。集団感染が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で乗員乗客を船内に隔離したものの、封じ込めに失敗した。未曽有の事態に対処できず右往左往する政府の無策ぶりは日を追うごとに鮮明になっている。一斉休校の要請は、高まる批判を払拭(ふっしょく)する狙いがあるとみられるが、短兵急で稚拙な印象は否めない。知事や市長などから戸惑いや懸念、批判の声が出た。「家庭の負担が大きい」などとして要請に従わない自治体もある。かえって指導力のなさを露呈した。文科省が一斉休校の要請を通知する一方で、厚生労働省は小学生を放課後に預かる放課後児童クラブ(学童保育)などは原則として開所するよう都道府県に通知した。ちぐはぐな対応に映る。休校による保護者の負担は大きい。学習に遅れが出る。学校現場は混乱している。少なくとも、もっと早い段階で休校要請の用意があることを周知しておくべきだった。首相は、休校に伴うさまざまな課題について「政府として責任を持って対応する」と明言した。きめ細かな対策が欠かせない。「急速な拡大の瀬戸際にある」と専門家は指摘するが、どこまで感染が広がっているかは分かっていない。ウイルスの有無を調べるPCR検査の体制が整っていないからだ。検査費用の公的医療保険適用を含め、必要な対策が大きく立ち遅れている。首相周辺の危機意識も薄い。秋葉賢也首相補佐官は首相が全国的なイベントの自粛を要請した26日の夜、地元仙台市で出版記念パーティーを開いた。集団感染が起きやすいとされる立食形式だ。これでは示しがつかない。麻生太郎財務相は、臨時休校要請を巡り、働く母親などがいる家庭への対応を質問した記者に「つまんないこと聞くねえ」とつぶやいた。つまらないのは自身の態度だ。不謹慎としか言いようがない。首相は、一生懸命に取り組んでいるという印象を与えるためのパフォーマンスではなく、実効性のある方策を着実に実行してもらいたい。 *10-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200303&ng=DGKKZO56282830S0A300C2CC1000 (日経新聞 2020.3.3) 学童保育の負担ずしり 新型コロナ、一斉休校初日、朝から預かり/「感染どう防ぐ」 新型コロナウイルスの感染防止に向け、2日から始まった全国小中高校の一斉休校。子どもを預かる各地の放課後児童クラブ(学童保育)は開所時間を前倒しし、朝から対応に追われた。働く親たちは「受け入れてくれて助かった」と安堵したが、預かる施設側は「密集空間でどう感染を防げばいいのか」「人手が足りなくなるのでは」と悩んでいる。文部科学省の2月28日の通知を受け、感染者のいない島根県を除く46都道府県の小中高校で2日から順次、一斉休校が始まった。各地の学童保育では、通常は放課後の開所時間を朝に前倒しし、仕事などで親が自宅で見られない子どもの受け皿となった。区立小学校が休校になった東京都文京区の学童クラブには2日午前8時前から続々と児童が集まった。小学校1年の娘を預けに来た男性会社員(50)は、学童側から「登録済みで保育が必要な場合は午前中から受け入れる」との通知を2月28日に受け取ったという。「共働きで、ここが受け入れてくれなかったら、どうしていいのか分からなかった」と話した。福岡市でも2日朝から、市内139カ所の放課後児童クラブで児童の受け入れを始めた。同市博多区の同クラブでは小学1~6年の児童約40人が手洗いやアルコール消毒をして中に入った。市によると、臨時休校が決まった2月28日以降、新たに約1千人が同クラブに入会したという。臨時休校中の児童の受け皿として期待されている学童には問い合わせが増えているが、施設側は悩みを抱える。「どこまで(感染を)防げるのかはわからない」。東京都葛飾区の区立梅田小学校内の学童保育クラブ責任者、佐々木美緒子さんは心配そうに話す。密集を避けるため、児童約50人を2班に分けたが「結局、学校の教室と同じ人数や環境で集まっている」と話す。大阪府寝屋川市の小学校では2日から24日までの休校期間中、午前8時から午後5時まで預かる児童には給食を提供している。この日、市立石津小学校では預かった35人を4つの教室に分散させ、給食時は全員が前を向いて極力会話しないように注意を促した。森本朋美校長は「保護者の負担を少しでも軽減するため給食の提供は続けたい」と話した。名古屋市緑区の学童保育クラブの男性職員は「子どもを1カ所に集めないために休校にしたのに、学校より小さく、設備が乏しい学童に集めてもいいのだろうか」と困惑する。開所を朝に早めたが、職員の人数は変わらず負担は増している。「アルバイトのシフトを調整できなければ、常勤職員が朝から晩まで働くしかない」と語った。学童保育約100カ所で児童を午前から受け入れた東京都足立区。一部の区営施設には新型コロナ対策で閉鎖中の高齢者施設から職員が応援に入ったが、運営を民間に委託する施設では職員の人手不足や長時間労働の恐れが出ている。区の担当者は「預かりを希望する家庭が増える可能性もあり、今後の受け入れ数は読めない」と語った。 *10-5:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56792950U0A310C2000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2020/3/14) ビル・ゲイツ氏、マイクロソフト取締役を退任 米マイクロソフトは13日、創業者のビル・ゲイツ氏(64)が同社の取締役を退任したと発表した。自ら設立した財団で取り組んでいる気候変動や教育、公衆衛生に関わる慈善事業に専念するため。サティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)らへの「テクノロジーアドバイザー」の役割は続ける。ゲイツ氏は1975年に友人のポール・アレン氏とマイクロソフトを創業し、パソコン用基本ソフト(OS)「ウィンドウズ」で一時代を築いた。2000年までマイクロソフトのCEOを、14年まで取締役会長を務めた。一方で2000年には妻のメリンダ氏とともに、環境問題や新興国の病気など社会課題を扱うビル&メリンダ・ゲイツ財団を設立。財団活動に軸足を移すため、08年以降はマイクロソフトの仕事は「非常勤」にしていた。今回取締役も辞めることで、慈善事業に費やす時間を一段と増やす。ゲイツ氏は友人のウォーレン・バフェット氏が率いる米投資会社バークシャー・ハザウェイの取締役も退任する。ゲイツ氏は「リンクトイン」への投稿で「バークシャーとマイクロソフトのリーダーシップはかつてなく強くなっているため、このステップを踏むのに適切な時期だ」と説明した。ただ、ゲイツ氏は「マイクロソフトの取締役を退任することは会社から完全に離れることではない」とも述べ、技術面のアドバイザーとして関与を続ける意思を示した。ナデラ氏は13日に声明を出し「マイクロソフトはビルの継続的な技術に対する情熱とアドバイスを受けて、製品とサービスを前進させていく」と述べた。新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、ゲイツ財団は同分野でも活動を積極化している。最近は2月に新型コロナウイルス対策に最大1億ドル(約108億円)を拠出すると発表した。 *10-6:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/592277/ (西日本新聞 2020/3/16) にわかに注目、オンライン学習 新型コロナで突然の休校… 企業も支援 ●学校の意義見つめ直す機会にも 新型コロナウイルスの感染拡大の影響で小中高校の臨時休校が続く中、子どもたちが自宅にいても学べるオンライン学習が注目されている。企業による教材の無料公開が相次いでいるほか、学校現場も教師が課題の送信や質疑応答などを工夫。情報通信技術(ICT)を使った教育の浸透と、教室で学ぶ意義の見直しにもつながっている。「楽しみだったし、ドキドキした」。福岡市中央区の福岡雙葉高2年の香山礼美さん(17)は11日、ビデオ会議システムによる学級の朝礼に臨んだ。スマートフォンに並んだ級友や担任の表情に触れて「安心した」と香山さん。臨時休校に入って以降、初めて顔を見る人が大半だったという。ICT教育に力を入れ始めた同校では本年度、全ての教師にタブレット端末を配備した。その環境を利用して教師たちは休校中、生徒向けに小テストや添削、解説動画に加え、黒板の前で撮影した授業の動画を配信。1本の動画を5分にまとめたり、別の教師が生徒役をしたりするなどの工夫を凝らす。ただ、授業の代替ではないため、どこまで取り組むかは生徒次第だ。生徒の関心を伸ばす鍵の一つが教師の「素顔」。今春、定年を迎える教師のメッセージ動画を配信すると生徒間で大きな話題となった。その反響を受け、歌に合わせて踊る教師の姿なども見られるようになった。一方で授業動画は思わぬ効果も。「生徒がノートに書いたり、自分たちが板書したりする時間を省くと50分でやっていた内容を約15分にまとめられた。自分の動画を見て話す早さや滑舌も見直せた」と甲斐恭平教諭(29)は話した。 ◇ ◇ 福岡市西区の福岡西陵高では臨時休校に入った3日、教師たちが学校のタブレットを手にオンライン学習の手法を確認し合った。九州大と連携し、デジタル教材の活用法を探る同校は生徒と教師に保護者も加えて学級、部活動など設定したグループ内で文章や写真、動画を送受信できるシステムを導入。生徒たちには休校前、自宅のパソコンやスマートフォンを使って交信するよう伝えていた。「生徒を個別に呼び出して指導ができるわけではない。いかに生徒がやりたくなる課題を提供できるかが大切」と、中心になって進める吉本悟教諭(39)は言う。休校から10日余り。連絡事項や課題の伝達に加え、テレビ会議システムで一部の補習授業も実践した。今後は海外の学校とつなぎ、生徒間の交流会も計画している。 ◇ ◇ こうした学校現場の取り組みに、教育関連企業も積極的に“参戦”する姿勢を見せている。通信教育事業のZ会(静岡県三島市)や小学館集英社プロダクション(東京)、学研ホールディングス(東京)などの業界大手はそれぞれ、専用サイトを設けるなどし、学習方法や授業解説の動画といった教材を相次いで公開している。経済産業省は2月28日に家庭学習に役立つ取り組みを紹介するサイトを開設。50社・団体以上を載せており、担当課には一時、対応できないほど掲載の要望が殺到したという。4月からプログラミング教育が小学校で必須となるのをにらんだ企画もある。福岡市のベンチャー企業「しくみデザイン」は4月上旬まで、同社が無料で提供しているアプリを使ったデジタル作品を応募してもらうコンテストを実施中だ。パソコンやスマホがあれば、どこでも学べるオンライン学習。それでも、多くの生徒は教室で気軽に話し合い、学び合える友人が隣にいないことに不都合を感じている。福岡雙葉高の甲斐教諭は「生徒たちが集まらないとできないことは何なのかを突き詰めないといけない」と話す。突然の臨時休校は、学校での学びの意義をあらためて感じる機会でもあるようだ。 *10-7:https://www.gakkou.net/kou/src/?srcmode=ci&ci=2&p=41 (中高一貫教育校併設型高校より抜粋) 1.佐賀県立唐津東高等学校 佐賀県唐津市 公立 普通科 中高一貫教育校 2.弘学館高等学校 佐賀県佐賀市 私立 普通科 中高一貫教育校 3.佐賀清和高等学校 佐賀県佐賀市 私立 普通科 専門学科 中高一貫教育校 4.佐賀県立武雄高等学校 佐賀県武雄市 公立 普通科 中高一貫教育校 5.佐賀県立致遠館高等学校 佐賀県佐賀市 公立 普通科 専門学科 中高一貫教育校 6.東明館高等学校 佐賀県基山町 私立 普通科 中高一貫教育校 7.佐賀県立烏栖高等学校 佐賀県鳥栖市 公立 普通科 中高一貫教育校 8.龍谷高等学校 佐賀県佐賀市 私立 普通科 中高一貫教育校 9.早稲田佐賀高等学校 佐賀県唐津市 私立 普通科 中高一貫教育校 <新型コロナウイルスの治療法と特措法> PS(2020年3月4日追加):新型コロナウイルス「COVID-19」が怖いのは、「有効な治療法がないから」と言われるが、*11-1のように、治療薬として①抗ウイルス薬レムデシビル ②抗HIV薬「カレトラ」 ③抗インフルエンザウイルス薬「アビガン」 の3種類が有望視されており、レムデシビルは、現在は承認されていないが、エボラ出血熱の治療薬として開発され、コロナウイルスが引き起こすMERSやSARSへの効果も示唆されて、中国と米国では既に臨床試験が始まっており、日本でも承認申請に向けた試験を3月にスタートするそうだ。ただし、ワクチンは予防には役立つが、既に罹患している人には無意味だ。そのような中、中国では罹患して治った人の血清を注射することによって重傷者が回復した例があり、これなら自分の免疫で回復しきれないほどの重症患者にも有効だろうが、人間の血清は供給に限度がある。 そのため、私は、MERS・SARS・COVID-19がコロナウイルスであることから、*11-2のように、コロナウイルスに効く血清を医療用の無菌豚で作っておけば重症患者の治療に汎用することができ、乳牛で作って牛乳に免疫を出せれば、(乳児が母乳から免疫をもらうように)牛乳を飲んで免疫を作ることもできると思う。 このように、現在の日本は感染症への対処法が多くなっているため、私は、*11-3のように、「政府や自治体の権限強化は抑制的であるべきで、憲法に反する法律で人権を制限しすぎるべきではない」という意見に賛成だ。 *11-1:https://answers.ten-navi.com/pharmanews/17853/ (AnswersNews 2020/2/28) 新型コロナウイルス 治療薬・ワクチンの開発動向まとめ【COVID-19】 世界各地で広がる新型コロナウイルス感染症「COVID-19」。治療薬やワクチンの開発動向をまとめました(2020年2月28日昼時点の情報をもとに執筆。内容は随時更新する予定です。 ●治療薬 2月28日時点でCOVID-19の治療薬として有望視されているのは、▽米ギリアド・サイエンシズの抗ウイルス薬レムデシビル▽米アッヴィの抗HIV薬「カレトラ」(一般名・ロピナビル/リトナビル)▽富士フイルム富山化学の抗インフルエンザウイルス薬「アビガン」(ファビピラビル)――の3種類。レムデシビルは、現時点では世界中のどの国でも承認されていません。日本では、国立国際医療研究センターの研究班による観察研究として、一部の医療機関でこれら3種類の薬剤の投与が始まっています。3月には、レムデシビルの承認申請に向けた医師主導治験がスタートする予定。日本感染症学会は2月26日、3種類の薬剤のうち国内で承認されているカレトラとアビガンをCOVID-19に使用する際の留意点などをまとめた指針を発表しました。 ●レムデシビル(米ギリアド) ギリアドは2月26日、COVID-19を対象にレムデシビルの臨床第3相(P3)試験を始めると発表しました。試験は、重症患者400人を対象としたものと、中等症患者600人を対象としたものの2本で、アジアを中心に診断例が多い世界各国の医療機関が参加。いずれも、レムデシビルを5日間または10日間、静脈内投与し、発熱と酸素飽和度を指標として有効性を評価します。レムデシビルはすでに、中国(中日友好医院主導)と米国(国立アレルギー・感染症研究所=NIAID主導)で臨床試験が始まっており、ギリアドによる企業治験はこれらの試験データを補完するものになるとみられています。中国での試験は4月に結果が得られる見通し。日本でも承認申請に向けた医師主導治験が3月にスタートする予定です。レムデシビルはもともと、エボラ出血熱の治療薬として開発されていた核酸アナログ。これまでの研究では、コロナウイルスが引き起こすMERS(中東呼吸器症候群)やSARS(重症急性呼吸器症候群)への効果が示唆されており、ギリアドは2月3日に発表した声明で「今回の新型コロナウイルス以外のコロナウイルスで得られているデータは希望を与える内容だ」としています。 ●カレトラ(米アッヴィ) カレトラは、ウイルスの増殖を抑えるプロテアーゼ阻害薬ロピナビルと、その効果を増強するリトナビルの配合剤。日本では2000年にHIV感染症に対する治療薬として承認されています。これまでのin vitroや動物モデルを使った研究では、MERSへの有効性が示されており、COVID-19に対してもバーチャルスクリーニングで有効である可能性が示されています。米国の臨床試験登録サイト「CrinicalTrials.gov」によると、中国ではCOVID-19を対象としたカレトラの臨床試験が複数、実施中。日本感染症学会の指針によると、国内では2月21日までに国立国際医療研究センターで7人の患者に投与されています。 ●アビガン(富士フイルム富山化学) アビガンは2014年に日本で承認された抗インフルエンザウイルス薬。新型インフルエンザが発生した場合にしか使用できないため、市場には流通していませんが、国は新型インフルエンザに備えて200万人分を備蓄しています。アビガンは、インフルエンザウイルスの遺伝子複製酵素であるRNAポリメラーゼを阻害することでウイルスの増殖を抑制します。COVID-19を引き起こす新型コロナウイルスもインフルエンザウイルスと同じRNAウイルスであることから、効果を示す可能性があると期待されています。ただし、動物実験で催奇形性が確認されているため、妊婦や妊娠している可能性がある人には使うことができず、妊娠する可能性がある場合は男女ともに避妊を確実に行う必要があります。中国の臨床試験登録サイト「Chinese Clinical Trial Registry(ChiCTR)」によると、中国では2月28日時点でCOVID-19に対するアビガンの臨床試験が4本進行中です。 ●その他 これら3つの薬剤以外では、米リジェネロン・ファーマシューティカルズがCOVID-19に対する抗体医薬の開発に向けて米国保健福祉省(HHS)と提携。米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)は、中国の医療機関からの要請に応じて抗HIV薬「プレジコビックス」(ダルナビル/コビシスタット)を提供し、同薬を使った臨床試験が行われています。CrinicalTrials.govやChiCTRによると、抗マラリア薬のクロロキンや抗ウイルス薬のインターフェロン、抗インフルエンザウイルス薬の「タミフル」(オセルタミビル)や「ゾフルーザ」(バロキサビル)などが、中国でCOVID-19を対象とした臨床試験が行われています(2月28日時点)。 ●ワクチン COVID-19を予防するワクチンの臨床試験も近く始まる見通しです。米バイオベンチャーのモデルナは2月24日、開発中のコロナウイルスに対するワクチン「mRNA-1273」の治験薬を初めて出荷したと発表しました。米NIAIDが近くP1試験を始める予定です。CrinicalTrials.govに登録されている情報によると、mRNA-1237のP1試験は18~55歳の健康な男女45人を対象に実施。ワクチンを4週間隔で2回投与し、安全性と免疫原性を評価します。新型コロナウイルスに対するワクチンの開発をめぐっては、ノルウェーに本部を置く「感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)」が、▽米イノビオ▽豪クイーンズランド大▽モデルナ・NIADI▽独キュアバック――とパートナーシップを締結。英グラクソ・スミスクラインはアジュバント技術の提供でCEPIの開発プログラムに協力しています。仏サノフィとJ&Jは、米HHS傘下の米国生物医学先端研究開発局(BARDA)と協力してワクチン開発を進めると発表しました。日本企業では、アイロムグループ子会社のIDファーマが、復旦大付属上海公衆衛生臨床センターとワクチンの共同開発で合意。両者はセンダイウイルスベクターを使った結核ワクチンを共同開発しており、その経験を生かして新型コロナウイルスに対するワクチンの開発を目指すといいます。 *11-2:https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/050900160/ (日経BP 2016.5.10) 18種の毒ヘビに有効、画期的な血清製造法を開発、アジアの毒ヘビからアフリカの種の血清も!年間9万人超を救えるか 毎年、全世界で9万4000人もの人々が毒ヘビに咬まれて命を落としている。死者数が特に多い地域は、南アジアとサハラ以南のアフリカだ。彼らの命を救えないのは、抗ヘビ毒の血清が手に入りにくいからだ。ヘビ毒は複数の種類のタンパク質からなり、ヘビの種類によって成分や構成が異なる。そのためかなり最近まで、毒ヘビに咬まれたら、その種類のヘビの毒にだけ効く専用の抗毒血清で治療するのが最善とされてきた。だが、それには約600種の毒ヘビのうち、どれに咬まれたのか正確に分かる必要があるうえ、各種のヘビ毒に効く血清を備蓄しておくコストもかかる。また、アフリカには複数種のクサリヘビやコブラの毒に効く抗毒血清があり、現在はそれを使った治療が最も有効だ。しかし、報道によると、この血清の備蓄は2016年6月にも枯渇するという。血清の大半を製造していたフランスの製薬会社が、利益の出ない血清の生産をやめてしまったからである。このたび、タイの科学者たちが、アジアとアフリカの18種のヘビの毒に効く抗毒血清を作る方法を発見したと、いわゆる「顧みられない熱帯病(neglected tropical disease)」の研究を扱う科学誌『PLOS Neglected Tropical Diseases』に研究成果を発表した。研究チームは、自分たちの血清は従来のものより安く、より広い範囲のヘビ毒に効果があるので、血清を最も必要とする貧しい地域にも供給できると主張している。 ●ヘビ毒をろ過して濃度を高める タイ、バンコクのチュラポーン研究所のカヴィ・ラタナバナンクーン氏は、ヘビ毒の恐ろしさを何度もじかに経験している。「私はこれまでに15匹の犬を飼いましたが、そのうちの5匹がコブラに咬まれて死んでいます」と彼は言う。「自宅の庭に体長1.5mのコブラが現れることもあります。私たちにとって、毒ヘビは身近な問題なのです」。より多くの種類のヘビ毒に効く血清を開発するため、ラタナバナンクーン氏の研究チームは、アジアの主要な毒ヘビである4種のコブラと2種のアマガサヘビから12種類のヘビ毒のサンプルを採取した。なかでもアマガサヘビ(Bungarus multicinctus)は手に入りにくかったので、野生のヘビを1匹100ドルで買い取るという口コミを広めて入手したという。捕獲されたヘビは、タイ赤十字社が運営するスネークファームが保護して、研究チームのために毒を採取した。抗ヘビ毒血清の一般的な作製法では、致死量に満たないヘビ毒を天然のままの状態でウマに注射し、できてきた抗体を回収する。けれども今回の研究では、12種類のサンプルのうち9種類を「超ろ過」して最も致死性の高い毒性タンパク質を取り出し、ろ過できるだけの量がなかった残りの3種類のヘビ毒と一緒に投与した。研究チームは、毒以外の成分を減らし、ヘビ毒の最も重要なタンパク質の濃度をあげることで、複数のヘビ毒に効く抗体の多い血清を一度に作れると考えたのだ。彼らの論文によると、こうして得られた血清を、ヘビ毒を注射したマウスに注射したところ、そのすべてが回復したという。さらに、この血清は、研究に用いた6種のヘビの毒だけでなく、類縁種の12種のヘビの毒にも効果があることが明らかになった。ラタナバナンクーン氏が特に驚いたのは、この血清が、アフリカのエジプトとカメルーン原産のヘビの毒にも効いたことだった。これらはいずれもコブラの仲間なので、毒素も似ているせいかもしれない。研究チームは、この方法で、アジアとアフリカのコブラ科のすべてのヘビの毒に効く血清を作れるようになるだろうと考えている。 ●「特許を取得する予定はありません」 米アリゾナ大学VIPER研究所のレスリー・ボイヤー所長は、実験で作られた抗体の数は、血清の有効性の指標となるもので、なかなか立派な数字であるが、他の開発中の抗毒血清に比べて特に多くはないと言う。また、ラタナバナンクーン氏らの研究が小規模で、新しい血清による治療の結果を、伝統的な専用の血清による治療の結果と直接比較していない点は問題だと指摘する。けれども彼女は、この研究は原理を証明したよい実験であり、ハイテク技術を駆使して合成抗毒血清を開発しようとする取り組みに比べると泥臭いが、より実用的なアプローチであるかもしれないと言う。「私自身は、彼らの方法は好きですね。アジアの小さな国々では、めずらしいヘビによる咬傷を治療する方法がなくて困っていると聞きます。ラタナバナンクーン氏らの血清が実用化されれば、こうした国々の公衆衛生は大幅に向上するでしょう」とボイヤー氏。彼女は、タイの研究チームが、もっと多くの研究資金を獲得して、より大規模な比較対照試験を実施できるようになることを願っている。動物を使っての試験が終わったら、今度はヒトでの臨床試験だ。研究チームは、自分たちのマルチ血清を市販するときには、手頃な価格で容易に入手できるようにするつもりだと強調する。ラタナバナンクーン氏は言う。「製造プロセスは非常に簡単なので、特許を取得する予定はありません」 *11-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2020030402000175.html (東京新聞社説 2020年3月4日) 新型コロナ 特措法の検討は慎重に 安倍晋三首相は、新型コロナウイルス対策に立法措置を表明した。事態悪化を想定した対応は重要だが、目指す法整備は政府などの権限を強めるものだ。必要な対応なのか慎重な検討が求められる。首相が唐突に表明したイベントの自粛や小中高校の一斉休校の要請に法的な強制力はない。そこに批判があったことも要因なのだろう。法整備を言い出している。感染症の封じ込めにはあらゆる対策を取りたいが、政府や自治体の権限強化は抑制的であるべきで十分な議論が要る。想定されているのは新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)の改正である。今国会での早期の成立を目指している。特措法は、感染症拡大防止のため企業活動や国民生活を規制する法律で、二〇〇九年の新型インフルエンザの流行を機に検討が始まり一二年に成立した。鳥インフルエンザが発生し、深刻な被害を招く新型インフルエンザに変異して人から人への感染が懸念された一三年に施行された。特措法では重大な被害の恐れがある新型インフルエンザが国内で発生、急速なまん延の恐れがあると政府が判断した場合、緊急事態を宣言する。自治体はあらかじめ定めた計画に沿って対応する。懸念されるのは国民の私権を制限する権限が知事などにあることだ。不要不急の外出の自粛を要請できる。劇場、学校などの使用制限を管理者に要請し、従わなければ指示できる。集会や移動の自由が大きく制限されかねない。土地や建物を借りて臨時の医療施設を設置できるが、所有者の同意がなくても強制使用できる。新型インフルエンザ被害が深刻な場合、国内死亡者は十七万~六十四万人と想定されている。それでも当時、日弁連などから規制は人権が侵害されかねないとの批判が出た。新型コロナウイルスもどんな被害を及ぼすのか不明な点は多い。だが、首相は一斉休校が必要だと判断した根拠を示していない。専門家の意見も聞いていなかった。独断で決める姿勢では「有事」を理由に過剰な制限を求められる不安は消えない。一斉休校の要請に際し文部科学省や厚生労働省との連携が不十分で学校や保育所、雇用などへの支援が後手に回っている。政府はまず政府内の連携を密にし、国民が自主的に判断できるよう正確な情報発信を心掛けるべきだ。現状でもすべきことはある。 <厚労省や保健所が積極的に検査をしなかった理由は・・> PS(2020年3月5日追加):先進国であり、国民皆保険制度を持つ国である日本で、*12-1のように、医師が必要と判断しても保健所が認めずPCR検査を実施できなかった例が全国で30件以上あり、大半が理由不明であるというのは問題だ。保健所が認めなかった理由は「重症でない(5件)」「濃厚接触者でない(1件)」「理由不明(残り)」だが、民間検査会社が参入すれば対応可能件数は増えるため、このようなことが起こった理由を考える必要がある。ただし、保険適用した後の自費負担分まで公費で補填する必要はないと思う。 このような中、2020年2月28日、日経新聞が、*12-2の「①中小企業の健康保険料の地域差が拡大している」「②格差を縮める措置が2019年度で終わり、労使折半の保険料の負担は企業で年数百万円、個人で年数万円の差になる」「③医療費がかさみ保険料が高い地域は、医療の効率を高める努力を一段と迫られる」「④保険料率が高い地域ではその分、企業の投資や個人消費に回らなくなり、地域経済にマイナス」「⑤高齢化が進む中で医療費を抑えるには、医療費がかさみやすい生活習慣病の予防などが欠かせない」という記事を掲載した。しかし、①は真実だが、これまでの国家による資本投資額の地域差、それによるサラリーマンと自営業者の比率差、高齢者と生産年齢人口の比率差などがあるため、健康保険料を県単位で決め、②のように格差を縮める措置を2019年度で辞める制度にしたこと自体が間違っているのだ。従って、③の「保険料が高い地域は医療の効率が悪い」と言うのは何も考えていない単純さがある。また、④は日本全国で保険料を同じにすることや(長くは書かないが)治療の効率化・言い値での薬価支払いを見直すことで医療保険を無駄遣いしないように厚労省が努力するのが筋である。さらに、⑤の生活習慣病の予防はもちろん重要だが、どんなに生活習慣病を予防しても生物である以上は必ず死ぬため、高齢になれば何らかの病気をもつ人が増えるのは当然なのだ。 このような中、*12-3・*12-4のように、厚労省が都内で開いた社会保障審議会の医療保険部会で、「⑥現役世代の重荷になるため、75歳以上の高齢者の医療費の窓口負担を原則2割に引き上げる」ための議論が交わされたそうだ。私は、本当に現役並み所得(その金額が問題)があるのなら3割自己負担にしてもよいと思うが、高額療養費制度で月毎の自己負担に低い上限を設けて低所得になっても医療費を払えることを徹底しなければ、日本は高齢者になると病気をしても検査も治療も受けられないとんでもない国になると考える。さらに、「高齢者が増え続ける中、負担の仕組みを変えない限り現役世代の過度な負担になる」というのは、世代毎の疾病罹患率は違うのに、罹患率の低い若い世代のみを企業の健康保険制度に入れ、罹患率が上がった定年後の世代は国民健康保険に入れ、75歳を過ぎると高齢者医療制度に入れる仕組み自体が保険の仕組みから外れているのだ。つまり、リスクの低い時に保険料を支払った場所でリスクが高くなった後もケアしなければ保険として成立せず、リスクの高い高齢者だけをケアする保険が赤字になるのは当たり前なのである。また、後期高齢者医療制度なら1割負担の人の医療費の半分は公費で賄われるが、3割負担の人の医療費は公費負担がなく現役世代の保険料で賄うため、3割負担の人が増えれば現役世代の負担が増えるなどとみみっちいことを言っているが、3割負担できるほどの所得は健康でなければ稼得できないし、働いている方が健康でもいられるのである。 このように、厚労省はじめ厚生労働族の議員は、複雑なだけで理論的でない医療保険制度を作っておきながら高齢者を邪魔者扱いしているため、高齢者を狙い撃ちするウイルスなどは非常に都合がよく、検査や治療もしたくないのではないかと推測する次第である。 *12-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14390352.html (朝日新聞 2020年3月5日) PCR検査、保健所「認めず」30件 大半は理由不明 新型コロナ 新型コロナウイルスの感染を判定するPCR検査をめぐり、日本医師会は4日の記者会見で、医師が必要と判断しても保健所が認めずに検査を実施できなかった例が全国で30件あまり確認されたと明らかにした。集計途中といい、13日以降に最終結果をまとめる。新型コロナウイルスのPCR検査は現在、感染症法に基づく「行政検査」とされ、保健所が認めないと実施できない。日本医師会によると、保健所が認めなかった理由は「重症ではない」が5件、「濃厚接触者ではない」が1件などで、大半は理由が不明という。厚生労働省は行政検査は続ける一方で、保険を適用して保健所を介さない検査も始める方針。保険適用で民間検査会社の参入が進めば、対応件数が増える可能性がある。厚労省は当初5日に適用する方針だったが調整に時間がかかり、6日に適用すると発表した。 *12-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200228&ng=DGKKZO56123960X20C20A2MM8000 (日経新聞 2020.2.28) 健康保険料 広がる地域差 中小従業員、年数万円 地方経済に影響も 中小企業が加入する健康保険で、保険料の地域差が拡大している。2020年度は最も高い佐賀県が10.73%で、最も低い新潟県より1.15ポイント高くなる。格差を縮める措置が19年度で終わり、労使折半の保険料の負担は企業で年数百万円、個人では年数万円の差になる。医療費がかさみ保険料が高い地域は、医療の効率を高める努力を一段と迫られる。主に中小企業を対象とする全国健康保険協会(協会けんぽ)が20年度の保険料率を決めた。全国平均の料率は12年度以降、10.0%を保っているが、実際の料率は都道府県ごとに異なる。加入者1人あたりの医療費が多いほど料率が高くなる。最も高い県と低い県の料率をみると、20年度の差は6年前の4倍近くに広がる。協会けんぽ佐賀支部の試算によると、従業員300人で平均の標準報酬月額が30万円の企業の場合、企業の負担は最も料率が低い新潟県と比べて年621万円多い。従業員も同額を負担するため、1人あたりの収入は年2万円超少なくなる。佐賀支部は「企業の存続にかかわる重大事」として、格差が広がりにくい仕組みを求めている。保険料が高いと企業と個人の負担が増す。大和総研の神田慶司氏は「保険料率が高い地域ではその分、企業の投資や個人消費に回らなくなり、地域経済にマイナスだ」と指摘する。高齢化が進む中で医療費を抑えるには、医療費がかさみやすい生活習慣病の予防などが欠かせない。20年度の保険料率が最も低い新潟県は、生活習慣病を予防するための健診の受診率が高い。実施体制を備えた健診機関と協力して事業所に受診を呼びかけている。都道府県ごとに保険料率を定めるのは、地域ごとに医療費の抑制を促すためだ。協会けんぽは09年度に全国一律から都道府県別の料率に切り替え、格差が急に広がらないよう経過措置を講じてきた。それが徐々に縮小されて19年度で終わり、20年度は一段と格差が広がることになった。企業は赤字なら法人税の負担はなくなるが、社会保険料は業績にかかわらず払う。協会けんぽの料率には65歳以上の高齢者医療制度を支えるための「仕送り分」を含む。19年度は1.73%の介護保険料、18.3%の厚生年金保険料を加え、中小企業の社会保険料は平均で計30.03%となった。 *12-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200228&ng=DGKKZO56129440X20C20A2EE8000 (日経新聞 2020.2.28) 窓口負担のゆくえ(下) 高齢者「2割」 どこまで 現役世代の重荷を左右 「原則2割負担にすることが必要ではないか。対象を絞ると効果が限定的になる」。厚生労働省が27日、都内で開いた社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の医療保険部会。75歳以上の高齢者の医療費の窓口負担の引き上げを巡って議論が交わされた。現役世代が公的医療で支払う窓口負担は診察でかかった医療費の3割。ただ75歳以上の高齢者は原則として1割で、現役並み所得のある人のみが3割を負担している。政府の全世代型社会保障検討会議が2019年12月にまとめた中間報告では「22年度までに、75歳以上であっても一定所得以上なら負担割合を2割とする」と明記した。これを受け、厚労省では2割負担とする人の所得水準を線引きする議論を進めている。年40兆円を超す医療費の財源は、主に現役世代が払い込む保険料が49.4%、税金などの公費が38.4%だ。患者負担は11.6%。重い病気やけがをした人の負担を抑えるために月ごとの自己負担に上限を設ける高額療養費制度があるため、窓口負担割合が原則3割でも全体でみると低い水準に抑えられている。国際的に見ると、日本の医療の自己負担は比較的軽い。経済協力開発機構(OECD)によると、家計の最終消費支出に占める医療費負担の割合は2.6%でOECD平均(3.3%)を下回っている。一方、医療支出に税や保険料といった公的な財源が占める割合は84%で加盟国で3番目に高い。医療費は高齢になるほど高くなる傾向にある。高齢者が増え続けるなかで負担の仕組みを変えない限り、現役世代が支払う保険料や税金を上げ続けるしかない。実際、大企業の社員が入る健康保険組合の平均保険料率は上昇する一方だ。19年度は9.2%(これを労使折半)で、22年度には9.8%になると見込む。75歳以上の負担割合に新たに2割の区分を設けるのは、こうした現役世代の負担増をやわらげる狙いがある。ただし、対象者が少なければ、現役世代が背負う荷を軽くする効果は小さくなる。高齢者の負担を増やす改革が骨抜きになれば、いずれ必要になるのは「給付の抑制」(厚労省幹部)だ。例えば、外来で医療機関を受診する際に一律で数百円を支払う「ワンコイン負担」。全世代型社会保障検討会議で検討されたものの、導入は見送られた。医療費の負担などを定める健康保険法は02年の改正時に「将来にわたって7割の給付を維持する」とする付則をつけた。ワンコインが追加で生じると自己負担が3割を超え、この付則に反することになる。日本医師会などはこれも論拠に定額負担の導入に強く反対してきた。ただし現役世代に過度な負担を求め続ければ、付則を見直し、3割という窓口負担の「上限」を突破せざるを得ない日がやってくる。「上限3割」という医療保険制度の基盤を少しでも長く維持するためにも、高齢者の負担の見直しを着実に進めていく必要がある。奥田宏二、新井惇太郎が担当しました。 *12-4:https://digital.asahi.com/articles/ASN2W7GWCN2WUTFL00W.html (朝日新聞 2020年2月28日) 75歳以上の医療費どうなる 現役世代負担増の可能性も 75歳以上が診療所や病院の窓口で払う、医療費の自己負担割合の引き上げをめぐる具体的な議論が27日、始まった。今は原則1割で一定の所得があれば3割だが、政府は昨年末の全世代型社会保障検討会議の中間報告で、2割の区分を新設する方針を表明。その対象とする所得の線引きだけでなく、3割負担の対象を広げるかも焦点になる。75歳以上は後期高齢者医療制度の対象で、約1700万人いる。現役並みの所得があるとして3割負担になるのは、単身世帯なら年収約383万円以上、課税対象となる所得が145万円以上の場合。政府は、この基準の見直しも検討項目に盛り込んだ。少子高齢化で医療費の増加が課題になる中、自己負担を増やすことで、医療制度を支える現役世代の負担を軽くする狙いがある。ところが27日の社会保障審議会部会では、3割負担の人を増やすと、逆に「現役世代の負担増になりかねない」との指摘が出た。後期高齢者医療制度では、1割負担の人の医療費は半分が公費で賄われる一方、3割負担の人の医療費は公費負担がなく、その分は現役世代の保険料で賄っている。そのため3割負担の人が増えれば、公費負担は軽くなるが、現役世代の負担は増える構図だ。この点をどう考え、実際に所得基準を見直すかが論点になる。一方、新設する2割負担の対象規模をめぐっては、「『原則2割』に」(経済団体)、「乱暴ではないか」(日本医師会)などと意見が割れた。政府内でも、財務省などは「半分以上を2割負担に」との主張が根強いが、厚生労働省は「75歳以上は所得が減り、医療費がかかる。多くの人に2割負担を求めるのは非現実的だ」(幹部)と慎重だ。政府は6月の「骨太の方針」までに具体策を決める。 <クルーズ船による観光は高齢化社会のトレンドなのに・・> PS(2020年3月6日追加): 米大型クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の姉妹船「グランド・プリンセス」に、新型コロナに感染して死亡した高齢男性が乗っていたため、*13-1のように、カリフォルニア州のニューサム知事の要請を受けて沖合に停泊し、検査キットをヘリコプターで運んで船内で数時間のうちに検査を終えたそうだ。日本も乗船者全員を速やかに検査し、結果に応じた対応をとっていれば、船内隔離は成功していたのにと思う。 そのような中、*13-2は「①沖縄ツーリストが観光客減による経営悪化を受け、社員の4割以上に当たる最大250人の計画的休業に踏み切った」「②同社の計画的休業は、新型コロナによる感染拡大が企業経営を直撃し、自助努力だけでは立ち行かない深刻な局面に入ったことを意味する」「③厚労省は雇用調整助成金の特例を感染拡大で売り上げが落ちた企業にも幅広く適用し、イベント自粛で従業員を休ませた場合でも適用するので周知を徹底し経済的停滞感を払拭に努めなければならない」としている。しかし、クルーズ船への対応で「さすが日本の医療は信頼できる」という評判をとっておけば、一時的に沈んだとしても日本の観光産業の今後は明るかったのに、ピンチをチャンスに変える方法も考えずにクルーズ船の入港を拒否し、政府助成に頼ろうとする発想では今後の回復もおぼつかないだろう。 *13-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56464480W0A300C2000000/ (日経新聞 2020/3/6) 米クルーズ船、沖合で乗客乗員の検査開始 キットを空輸 新型コロナウイルスに感染して死亡した高齢男性が搭乗していた米大型クルーズ船「グランド・プリンセス」が5日までに、当初の予定を変更して出港地の米サンフランシスコ沖合まで戻った。男性と同じ時期に乗船していた約20人に感染の兆候がある。同船は港に接岸せず、米当局は検査キットをヘリコプターで運び込んで実態調査を始めた。グランド・プリンセスは米カーニバルが運航し、新型コロナの集団感染が発生して多数の乗客を横浜港で隔離した「ダイヤモンド・プリンセス」の姉妹船に当たる。カーニバルなどによると、死亡した男性は2月にグランド・プリンセスに乗船した。同船は2月下旬に乗客の大半をサンフランシスコで入れ替えてハワイに向かったが、途中で男性の感染と死亡が判明。検査のためにメキシコの手前で引き返し、サンフランシスコに向かっていた。4日に記者会見した米カリフォルニア州のニューサム知事によると、乗客・乗員21人に感染の兆候がある。また、米メディアによると、死亡した男性と同時に搭乗していた約60人が現在も乗船している。5日朝、100人未満を対象に米疾病対策センター(CDC)などが検査を始めた。グランド・プリンセスは当初、サンフランシスコ港に直接戻る予定だったが、ニューサム知事などの要請を受けて沖合に停泊して検査を実施する方針に切り替えた。取材に応じたカリフォルニア州公衆衛生局の担当者によると、空輸したキットを使って船内での検査を数時間で終え、キットをサンフランシスコ郊外の同局の拠点に運んで感染の有無を調べる。米国では、ダイヤモンド・プリンセスの集団感染に対する日本政府の対応を批判する声が出ていた。米ワシントン・ポスト(電子版)によると、米上院が5日に開いた公聴会で米国土安全保障省の幹部は日本の隔離が効果的であれば感染拡大を防げたと発言した。だが、グランド・プリンセスも「洋上隔離」が長期に及べば、同様に問題となる可能性がある。 *13-2:https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/542929 (沖縄タイムス社説 2020年3月5日) [新型肺炎 観光直撃]雇用守る有効な対策を 県内旅行業大手の沖縄ツーリスト(OTS)は、観光客減による経営悪化を受け、社員の4割以上に当たる最大250人の計画的休業に踏み切った。観光分野で沖縄経済を支えてきた同社の計画的休業は、新型コロナウイルスによる感染拡大が企業経営を直撃し、もはや自助努力だけでは立ち行かない深刻な局面に入ったことを示している。厚生労働省が休業手当の一部を補助する雇用調整助成金の対象を拡大したことを受けたもので、休業期間中の給与は満額支給するという。OTS以外にも観光関連産業を中心に、従業員の休業を余儀なくされる企業が相次いでいる。沖縄観光は逆風の真っただ中にある。県によると2月時点で、海外と県内を結ぶ航空路線は前年同月比で73便減り、クルーズ船寄港も56隻が中止になった。日韓関係の悪化や香港の情勢不安によるインバウンド(訪日観光客)減少に続き、新型コロナに伴う中国団体客、さらに国内客の旅行マインドの冷え込みで、出口が見えない状況が続いている。影響は旅行業やホテルなどの宿泊施設にとどまらず、観光バス、飲食業や行楽施設など幅広い業界に広がっている。本土では、中国客のキャンセルを受けた老舗旅館、食品製造業者が破綻に追い込まれるケースが出てきている。県内では倒産は発生していないものの、長期化すれば、持ちこたえられない会社も出てくるのではないか。 ■ ■ 体力の弱い中小零細企業や自営業者への支援に猶予はない。厚労省は雇用調整助成金の特例を感染拡大で売り上げが落ちた企業にも幅広く運用。イベントの自粛で従業員を休ませた場合でも適用する。周知を徹底し、経済的停滞感を払拭(ふっしょく)するよう努めなければならない。政府は近く2700億円を超える第2弾となる緊急対応策をまとめる。くらし全般を覆う不安を少しでも解消することが、喫緊の課題だ。自民党がまとめた提言には「コロナ対策特別貸付」の創設、観光業へのクーポンやポイント発行などを通じた支援、休校措置で休業せざるを得なくなった個人事業主や非正規雇用者への支援が盛り込まれている。野党と協力して検討を加速してほしい。感染の抑止と経済対策を両輪として、政府には全力を尽くしてもらいたい。 ■ ■ 沖縄観光コンベンションビューローの委員会は、感染拡大が及ぼす今後3カ月の影響について、入域観光客数が前年同期と比べ152万人減って、県内消費額も1024億円減少すると推計している。現在の状況が続けば、2001年の米同時多発テロ後の被害を上回る。雇用悪化への懸念が高まり、長期的な景気後退への分水嶺(れい)に立っている。目前の危機を直視し、政治主導による踏み込んだ対策が必要だ。取り得る施策を総動員し、乗り越えなければならない。 <休職する保護者の支援範囲について> PS(2020年3月7、8、9、14日追加):*14-1・*14-2に、「①COVID19の拡大による全国一斉休校で、子のために休職する保護者の所得減少を補償するため、正規・非正規を問わず休職した保護者を対象に新助成金制度を創設する」「②従業員を休業させた企業に支払う雇用調整助成金による支援を1月までさかのぼって実施する」「③フリーランス(個人事業主)や自営業者は対象にならないため、怒りの声が上がった」「④仕事を休んだ従業員に給料を全額払った企業を対象に正規、非正規雇用を問わず、1人当たり日額上限8,330円の助成金を払う」「⑤医療態勢を強化する」などが書かれている。 私は、①②③④について、“多様な働き方を後押しする”として、労働基準法や男女雇用機会均等法による最低保障すらされない非正規やフリーランスを増やすことにはずっと反対してきた。しかし、正規雇用の就職先を探してもそういう仕事が見つからないため仕方なく非正規・フリーランスの仕事を選択したのではなく、自分の都合で非正規・フリーランス・自営業などを選択した人は自己責任が当然であり、自ら所得補償保険等に入っておくべきだったのである。そのため、「国の意思決定が科学的根拠もないのに行われ、損失を被ったので損害賠償すべきだ」と考える人は、裁判で争うのが筋であって、他の人が納めた血税の配分をねだるのはおかしい。また、⑤については、徹底して速やかにやるべきで、遅すぎたくらいだ。 なお、*14-3のように、少子化対策・生産性向上・地方活性化の三つの課題を中心にこれまでの対応策などを検証して骨太の方針に反映させるそうだが、生産性の向上には人材の質の向上(≒教育+On the job training)が重要な役割を果たすため、“少子化対策”は単に出生数を増やすために金をばら撒けばよいわけではない。また、地方活性化には、産業構造を見据えた効果的な地方への投資が不可欠である。 *14-4は、新型コロナ対策で公立小中学校が一斉休校となったことに関して、「⑥休校2週間をどう過ごすのか」「⑦保護者からストレスをため込むことを心配する声」「⑧図書館は席に着いての読書や学習などは控えるよう呼び掛けている」「⑨学習塾も休校期間中は在宅学習」「⑩体を動かさないから寝付きが悪い」「⑪休校期間の基本は自宅で過ごすを守ってもらう」と記載しているが、⑥⑦については、前の学年で使った主要科目の教科書を通しで読んで理解し、時間が余ったら次の学年で学習する主要科目の教科書を予習しておくのがよく、私は、春休みにはそうしていた。そうすれば、前の学年で学んだことを理解した上で次の学年に進むことができるからだ。⑧⑨⑪は、自宅の環境によるので、自宅で落ち着いて勉強や読書ができる人はそうすればよいが、自宅では落ち着かない家庭は臨機応変にするしかない。⑩については、頭を使うこともエネルギーを使うため、勉強や読書をすれば眠れる筈だ。ただ、運動も大切なので、家の手伝いをしたり、犬を散歩に連れて行ったり、学校に行って鉄棒の練習をしたり、走ったりすればよく、遊ぶことだけが運動ではないので、子どもを甘やかしすぎるのはむしろよくない。それどころか、勉強もさせずに子どもを甘やかしていると、科学的思考もできず、高齢者への思いやりもない自己中の人間になるため、親の顔が見たいような人間に育てないよう注意すべきだ。 *14-5のように、高校で文理をコース分けして数Ⅲ(微分・積分)を学ばない人を80%近く作ることや大学で理・工・農・医・薬学などを専攻する理系学生の割合が全体の約26%にすぎないことは、論理的・科学的思考力に欠ける人材を数多く作り、労働生産性低迷の要因になっている。実は、経済学も行動学・微分・積分・統計学を通じてミクロとマクロが繋がっているのだが、ミクロとマクロは別物だと断じる経済学者は多く、誤った経済政策の温床となっている。そのため、「⑫高校段階での文理コース分けを止めて全ての生徒が数Ⅲまで学べようにすること」「⑬(殆どの人が高校を卒業する時代に合わせて)初等~中等教育のカリキュラムを合理化し、数Ⅲまで十分に学べるようにすること」「⑭初等・中等教育段階から理数系学問の面白さを生徒に伝えられるようにすること」は必要不可欠である。 PCR検査力には問題がなかったのに新型コロナに対する日本の検査数が海外と比較して少ない理由を、日経新聞が2020年3月12日、*14-6のように、「⑮早期発見できても早期治療に繋がらないから」「⑯病気の特徴や広がりなどの感染の全体像をつかむ積極的疫学調査で患者を検査して治療する医療行為ではなかったから」「⑰公衆衛生の発想は感染防止策を探るなど病気から社会全体を守ることで、ロシュの検査キットを使って国内の民間会社が検査をし出すと性能のばらつきで疫学調査に最も大切なデータの収集が難しくなるから」などと記載していた。しかし、新型コロナの治療法の候補も多くなっているため、⑮は誤りだし、疫学調査はサンプル調査で全体を推計することが可能なため、⑯のように国立感染症研究所が積極的疫学調査をしているからといって、国内の民間検査会社がロシュの検査キットを使ってPCR検査をやってはならない理由にはならない。むしろ、多く検査した方が重症化率・死亡率が正確に出る上、治療法も考えやすいのだ。さらに、⑰の「公衆衛生の発想は感染防止策を探るなど病気から社会全体を守ることで、一人一人の患者を治療することではない」というのも、学問の自由から公衆衛生もいろいろな調査をすることができるため、決めつけである。例えば、日本公衆衛生雑誌の2020年2月号には、「要支援高齢者のフレイルと近隣住民ボランティアのソーシャル・キャピタルの関連」「幼児を持つ親の家族のエンパワメント尺度の開発」「高齢者の自立喪失に及ぼす生活習慣病、機能的健康の関連因子の影響:草津町研究」等の論文が掲載されており、治療や予防のために研究をするのであって、研究のために治療を犠牲にするという発想はない。つまり、⑮⑯⑰は、陸軍病院が発祥の国立感染症研究所と厚労省の主張であり、公衆衛生一般の発想ではない。そのため、(たぶん文系の)新聞記者も、分野によって担当を分けて日本公衆衛生雑誌くらいの科学誌は普段から読んでおいて記事を書かなければ、誤った記事を書いて有害無益になるのである。 *14-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/588268/ (西日本新聞 2020/3/1) 安倍首相、休職保護者の所得補償を表明 新型肺炎対策第2弾策定へ 新型コロナウイルスによる肺炎(COVID19)拡大を受け、安倍晋三首相は29日、首相官邸で初めて記者会見した。全国の小中高校、特別支援学校に一斉の臨時休校を要請したことに理解を求め、子どものために休職する保護者の所得減少を補償する新たな助成金制度の創設を表明。従業員を休業させた企業に支払う雇用調整助成金による支援を、特例的に1月までさかのぼって実施するとした。首相は、卒業や進学、進級の節目を控えた時期に一斉休校を要請したのは「断腸の思い」と発言。発表が唐突すぎるとの指摘が出ていることに対し、「十分な説明がなかったのはその通りだが、責任ある立場として判断をしなければならず、時間をかけているいとまはなかった。どうか理解をいただきたい」と述べた。新型肺炎の現状については、専門家の見解を基に「今からの2週間程度、感染拡大を防止するため、あらゆる手を尽くすべきだと判断した」と説明。正規、非正規を問わず休職した保護者を対象にする新助成金制度をはじめ、本年度の予備費を活用した緊急対策の第2弾を今後、10日間程度でまとめる考えを示した。医療態勢の強化では、3月の第1週中にウイルス検査に医療保険を適用するとともに、時間を15分程度に短縮できる新たな簡易検査機器を月内に導入する見通しを明らかにした。新型肺炎にも一定の有効性が認められている新型インフルエンザ治療薬「アビガン」など三つの薬を使用し、治療薬の早期開発につなげていくとした。終息に向け一刻も早い立法措置が必要とし、野党にも協力を依頼したいと話した。今夏の東京五輪・パラリンピックを予定通り行うかを問われ、「アスリートや観客にとって安全、安心な大会となるよう万全の準備を整えていく」と答えた。首相は「道のりは予断を許さない。大変な苦労を国民の皆さまにおかけするが、お一人お一人の協力を深く深くお願いする」と頭を下げた。 *14-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14390313.html (朝日新聞 2020年3月5日) 休業へ助成なし、フリーランス悲鳴 多様な働き方推進、政権の姿勢と矛盾 新型コロナ 安倍政権が打ち出した新型コロナウイルスの感染対策に対し、企業に雇われずに働くフリーランス(個人事業主)が怒りの声を上げている。政権は臨時休校に伴って仕事を休んだ保護者の支援策を発表したが、フリーランスは対象にならなかった。「多様な働き方」を推進する政権はフリーランスを保護する姿勢を示してきたにもかかわらず、矛盾する対応に与党内からも見直しを求める声が出ている。校正の仕事を自宅で請け負う埼玉県の女性(41)は頭を抱える。安倍晋三首相が突然表明した「全国一斉休校」の要請で小学5年、2年の男児の世話に追われ、仕事に専念できなくなったからだ。毎月8万円ほどの収入が欠かせないが、「今月は稼げそうにない。4月も引き続き一斉休校なんてことにならないか不安です」。厚生労働省は2日、仕事を休んだ従業員に給料を全額払った企業を対象に正規、非正規雇用を問わず、1人当たり日額上限8330円の助成金を出す新制度を発表した。だが、フリーランスや自営業者が対象外とされたことに、女性は「納得できない」と憤る。「自営やフリーは自己責任なのか。国は多様な働き方を後押しするなら、多様なセーフティーネットも用意するべきだ」と訴える。カメラマンや編集者、俳優などフリーランスの働き手は国内300万人超とされる。だが、労働法制は会社と雇用契約を結んだ働き手を前提とするため、フリーランスはしばしばその網からこぼれ落ちてしまう。加藤勝信厚労相は参院予算委で「フリーランスの仕事は多様で、このスキーム(枠組み)を適用することは非常に難しい」と答弁。安倍首相は「その声をうかがう仕組みを作り、強力な資金繰り支援をはじめ対策を考えたい」と述べた。政府が想定するのは、5千億円の緊急貸し付け・保証枠の活用だが、これは訪日中国人客らの激減などで打撃を受けた観光産業などの支援を念頭に置く。あくまでも返済が必要な「融資」であり、金融機関の審査も受ける。政府の対応に与党内からも不満が出ている。公明党の斉藤鉄夫幹事長は4日、菅義偉官房長官と面会し、「フリーランスは資金繰り(支援)ではとても持たない」などとして対応を求めた。斉藤氏によると、菅氏は「踏み込んでやる」と答えたという。法政大の浜村彰教授(労働法)は「現行制度の枠組みでは、フリーの人たちに救いの手を差し伸べるのは難しい。セーフティーネットを整えないまま、こうした働き方を政策として進めていいのかという問題が提起されている」と指摘した。 *14-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14390354.html (朝日新聞 2020年3月5日) 少子化対策を検証へ 内閣府は4日、西村康稔経済再生相が主宰する有識者懇談会「選択する未来2・0」を設置すると発表した。少子化対策と生産性の向上、地方活性化の三つの課題を中心にこれまでの対応策などを検証し、今夏とりまとめる骨太の方針に反映させることを目指す。 *14-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/497485 (佐賀新聞 2020.3.8) <新型コロナ>休校2週間どう過ごす ストレスや運動不足、保護者は心配 新型コロナウイルス対策で佐賀県内の公立小中学校が一斉臨時休校となって5日が過ぎた。放課後児童クラブ(学童保育)を利用しない児童の多くは、家で過ごすことになり、保護者からはストレスをため込むことを心配する声も上がる。学校側は不要な外出は控えるよう求めているが、約2週間に及ぶ「在宅」生活に保護者らは「子どもがかわいそう」「どう過ごせばいいの」と悩ましげだ。県こども未来課によると、県内では通常、小学生の4人に1人が学童保育を利用している。臨時休校中の利用状況は「通常の半分くらい」といい、大半の児童は自宅や親族の家で毎日過ごしていることになる。学童保育の利用が懸念したほど多くない現状に対し、「保護者には臨時休校の目的を理解してもらっている」と同課の担当者。ただ、学童保育の現場の支援員は「家に居ることが飽きた子や友達と会いたい子など、今後は増えるのではないか」とみている。休校中の過ごし方について行政や学校は「大勢が集まる場所への外出は避け、基本的に自宅で過ごす」ことを求めており、学校以外で子どもが多かった場所も軒並み利用を制限している。市町の図書館は本の貸し出しは行うが、席に着いての読書や学習など長時間の滞在は控えるよう呼び掛ける。学習塾も「休校期間中は在宅学習にする」(公文教育研究会)など休講にしている所が多い。6日昼の武雄市の商業施設。県外から祖父母の所に遊びに来ていた2人の小学生の母親(35)は「昨日までほとんど家にいて体を動かさないから寝付きも悪く、『食っちゃ寝』の繰り返しで生活のリズムが崩れている。ストレスがたまっているようだし、土日はどこかに連れて行ってあげたい」と話す。小学4年の姪(めい)を連れた伊万里市の女性(51)は「息抜きをさせようと思ってここまでドライブ。何だか子どもがかわいそうで」と同情した。子どものストレス対策について県教委は「配慮が必要な児童生徒への家庭訪問やスクールカウンセラーの派遣など、各現場で個別に対応する」としている。運動や体力づくりも自宅で行うことを求め、休校期間はあくまでも「基本は自宅で過ごす」を守ってもらう考えだ。国立病院機構嬉野医療センター感染対策室の重松孝誠・感染管理認定看護師は「原則は外出しないこと」とした上でこう述べる。「元々、元気に遊んでいた子が1、2週間も家でじっとしていると、免疫力に影響する基礎体力を低下させる心配もある。大人の観察が行き届き、手洗いなどの対策をしっかり行うのであれば、少人数の友達と外で気分転換程度に遊んでもいいのではないか」 *14-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200309&ng=DGKKZO56523740X00C20A3CK8000 (日経新聞 2020.3.9) 高校の文・理コース分け 労働生産性低迷の要因に、関西学院大学長 村田治 数学成績と相関/AI理解に数3必須 村田治・関西学院大学長は、国際学力テストの数学の成績と国の経済成長率や生産性は正の相関関係にあるのに、数学の成績がトップクラスの日本が当てはまらないのは、高校の2、3年で文系・理系に分かれ、数学の学習をやめる生徒が多いからだと指摘する。昨年12月に発表された経済協力開発機構(OECD)の「生徒の学習到達度調査(PISA2018年)」で、わが国の読解力が参加国・地域の中で15位(OECD加盟国中では11位)に転落したことが大きなニュースになった。読解力のスコアが下がったこと自体は残念であるが、数学や科学のスコアはそれぞれOECD加盟国では1位と2位を維持した。 □ □ □ 読解力、数学、科学の3つのリテラシーの中で、これからの世界において特に重要と考えられるのが数学リテラシーである。昨年3月に経済産業省が発表した報告書「数理資本主義の時代」において、「第4次産業革命を主導し、さらにその限界すら超えて先に進むために、どうしても欠かすことのできない科学が三つある。それは、第一に数学、第二に数学、そして第三に数学である!」とうたわれている。 また、昨年6月に統合イノベーション戦略推進会議の報告書「AI戦略 2019」が発表されたが、人工知能(AI)や情報科学の理解には微分、線型代数、統計学の数学能力が欠かせないといわれている。数学に絞ると、OECD加盟国中で09年は4位、12年は2位、15年は1位、18年も1位とトップクラスにある。この傾向は03年から変わらず、数学の学力は15年間トップクラスを維持している。実は、国際学力テストの数学スコアと経済成長率等の間には正の相関関係が観察されるとの研究成果がある。1980年代以降、経済成長論の分野では人的資本ストックの水準が研究開発やイノベーションを通じて技術進歩を促し、経済成長率や生産性成長率を上昇させられるかどうかという実証研究が盛んに行われた。多くの研究は人的資本の代理変数として教育の量的指標である初等・中等教育から高等教育に至る就学年数を用いたが、必ずしも確定的な実証結果を見いだせずにいた。これに対して、米国の経済学者ハヌシェックらは、教育の質が重要だとしてPISAなどの国際学力テストのスコアを用いて経済成長率等への影響を分析した。その結果、数学や科学の学力が経済成長率や生産性成長率にプラスの影響を与えることを見いだした。この関係を簡単な図で示したのが左図である。図の横軸はOECD主要加盟国の03年のPISA数学スコアの国別平均値を示しており、縦軸は16~18年の労働生産性成長率の3カ年平均値を表している。03年のPISA数学スコアと16~18年の労働生産性成長率の3カ年平均値の関係を見るのは、PISAは15歳(高校1年生)で受けるため、生徒たちが社会に出て活躍するまでのタイムラグを考慮したためである。図からわかるように、数学スコアと労働生産性成長率の間には正の相関が見いだされる。他方、わが国の労働生産性は18年のデータによるとOECD加盟国中21位、16~18年の労働生産性の平均成長率は約0.56%とOECD加盟国中20位である。 □ □ □ このように、わが国の数学の学力はOECD加盟国でトップクラス(03年以降の6回のPISAの数学の平均順位は3位)にありながら、近年の労働生産性、労働生産性成長率は下位に低迷する。これはPISA数学スコアと労働生産性成長率の正の相関関係から、わが国が大きく逸脱していることを意味する。なぜ、わが国はPISAの数学スコアがトップクラスにありながら、労働生産性成長率は下位にあるのだろうか。この謎を解く鍵はPISAの実施年齢にあると考えられる。PISAは高校1年生が対象となる。従って、高校1年生までは、わが国の高校生の数学リテラシーはOECD加盟国でトップクラスであることは間違いない。だが、多くの高校は早ければ2年生、遅くとも3年生になると文系と理系にコースを分ける。13年3月の国立教育政策研究所「中学校・高等学校における理系選択に関する研究最終報告書」によると、高校3年生全体に占める理系コースの比率は約22%である。また、文部科学省の「15年度公立高等学校における教育課程の編成・実施状況調査」によると、数学3を履修している生徒の割合は21.6%にすぎない。さらに19年度「学校基本調査」によると、大学で理学、工学、農学、医・薬学などを専攻する理系学生の割合は全体の約26%である。高校1年生段階まではOECD加盟国でトップクラスの数学リテラシーを誇っていたわが国の高校生は、その後、文系と理系のコース分けによって、80%近くが数学を学ばなくなってしまう。このため、十分な数学リテラシーを伴った人的資本の蓄積が進まず、わが国経済において技術進歩やイノベーションが起こりにくく労働生産性上昇率が鈍化していると推察される。一刻も早く、高校段階での理系と文系のコース別編成を止め、全ての生徒が数学3まで学べようにすべきだと考える。さらに、AIの理解に必要な微分が数学3の範囲であることを考慮すると、現在の高校段階での文理の区別を止めることは喫緊の課題である。そのためには、初等・中等教育段階から数学それ自体の面白さを生徒に伝える工夫も必要となる。 *14-6:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200312&ng=DGKKZO56692180S0A310C2EA1000 (日経新聞 2020.3.12) 「疫学調査」優先の誤算 、新型コロナ検査数、日本少なく 不安と不満生む 新型コロナウイルスに対する日本の検査数はなぜ海外に比べて少ないのだろう。感染の有無をみるPCRの検査力に問題があったわけではない。厚生労働省が当初、医療行為としてではなく、感染拡大を抑える「疫学調査」と位置づけたからだ。ただ、思うように封じ込めはできず、世界でも感染が拡大。専門家と一般の人々の認識にずれが生じ「過少検査」への不安と不満が生まれた。がんにしろ生活習慣病にしろ、現代医療のイロハは「早期発見」だ。早い段階で診断がつけば治療の選択肢も増え、症状が悪くなったり死に至ったりするリスクは減る。 ●公衆衛生の発想 今回の新型コロナウイルスによる肺炎のように治療薬のない病気だと話は違ってくる。早期発見できても必ずしも「早期治療」にはつながらない。医療としてみれば検査をする意味は薄れる。PCR検査を担ってきた国立感染症研究所は3月1日、脇田隆字所長名で「市民の皆様へ」と題した文書をホームページ上に公表した。「検査数を抑えることで感染者数を少なくみせかけようとしている」という批判に対し、事実誤認だと反論した。この文書に「積極的疫学調査」という医学用語が何度も登場する。厚労省や感染研が検査を慎重に進めた理由を知るキーワードだ。疫学調査とは新しい感染症が発生した際、感染者や濃厚接触者、疑いがある人の健康状態を調べ、病気の特徴や広がりといった感染の全体像をつかむ調査だ。患者一人一人を検査して治療する医療行為ではなく、感染防止策を探るなど病気から社会全体を守る公衆衛生の発想に基づく。だからこそ感染研は必要な試薬や装置を組み合わせて自前で確立した検査手法にこだわった。中国・武漢をはじめ世界に供給していた製薬世界大手ロシュの検査キットを使って国内の民間会社が検査をし出すと、性能のばらつきで疫学調査にとって最も大切なデータの収集が難しくなる。これが検査能力の拡大を阻むボトルネックとなった。「検査漬け」という言葉があるように、日本では誰でも病気になったら医師の判断で血液検査や画像検査を受けられる。国民皆保険なので自己負担も少ない。これほど臨床検査のハードルが低い「検査大国」は珍しい。ウイルスの国内侵入を防ぐ水際対策は不発に終わり、ヒトからヒトへの感染例が続く。日に日に増す不安から、検査慣れした日本社会では、なぜ新型コロナウイルスへのPCR検査が受けられないのかという疑問が、やがて不信、不満へと変わっていった。 ●早く適正検査に 韓国がドライブスルー方式を活用し積極的にPCR検査を実施する様子が伝わると、検査の目的をきちんと伝えてこなかった厚労省や感染研に対し「感染隠し」の疑念が生まれた。政治介入もあったのだろう。厚労省は2月半ば、臨床検査として保険適用にする方向にかじを切らざるを得なくなった。ロシュが供給する試薬は臨床試験を経ていない研究用だが、感染研の手法と同レベルの性能であると「お墨付き」を与えた。3月6日から保険適用が始まった。新型コロナウイルスに対するPCR検査は医療行為の一環の臨床検査となった。しかし当面はかかりつけ医などが血液検査のように民間会社に直接委託するのではなく、全国約860カ所の「帰国者・接触者外来」の医師が検査の必要性を判断しなければならない。新型コロナウイルスに感染しても8割は軽症のまま回復する。肺炎の症状が確認されない段階で多くの人が検査を求めると、今の日本の医療体制では現場が混乱し重症患者への治療に支障をきたすことにもなりかねないとの懸念が医療関係者にはある。ただ早期発見の検査が阻まれる現状のままでは、社会の不安や不満はなかなか消えない。検査が広がり陽性者が早く見つかれば感染拡大を抑える効果も期待できる。未知の感染症に対する検査のあり方に正解はないが、早く過少検査を「適正検査」にしなければならない。 <社会保障のうちの介護保険制度とその財源> PS(2020年3月9、10日追加):*15-1は、「①市区町村の99%が全国共通の要介護度判定を2次審査で変更し、同じ状態でも利用できるサービスが地域で異なる」「②自治体は独自の判断理由を住民に周知しなければ公平性が保てない」「③要介護度を上げる自治体が多く、財政負担が増す方向」「④国の指針は介護の手間を基準とし、病気の重さや同居人の有無を理由に変更はできないとしているが、家族介護が見込めると要介護度を下げる自治体もある」としている。 しかし、*15-2のように、現在の介護保険制度は、65歳以上の第1号被保険者の保険料は所得に応じて市区町村が決め、その保険料は市区町村ごとに異なるため、要介護度判定に市区町村の考えが入るのは当然だ。ただし、40~64歳の第2号被保険者は加入している医療保険の算定方法に基づいて保険料が決まり、16の特定疾病が原因で要支援・要介護となった人にのみ支給される。40歳未満は保険料を納めない代わりに介護も受けられず、40~64歳は保険料は納めるが特定疾病以外では介護を受けられない。そして、65歳以上は所得の割に高い保険料を市区町村に収めながら、介護を受けるとつべこべ言われる。私は、介護保険制度は、複雑なだけで公平・公正でない制度を改め、年齢にかかわらず所得のある人はすべて所得に応じて保険料を支払い、介護が必要な時には遠慮なく介護を受けられる制度にすべきだと思う。そうすれば、出産、病児、障害児のケアなど40歳未満で介護が必要になった人も利用でき、多くの問題が解決する。 にもかかわらず、「介護保険料の負担は重い」などと自己中なことを言う人も多いため、国民負担を増やすことばかり考えるのではなく、*15-3の世界需要の数百年分も存在するレアアースやメタンハイドレートなどの国有鉱物資源を速やかに採掘し、*15-4のような地熱発電所の積極的開発でエネルギー変換を行い、国は税収以外の収入を獲得して国民負担を減らすのがよいと思う。そのため、エネルギーは電力を主とし、*15-5のように、発送電分離を徹底して再エネ発電による電力を集めやすいシステムを早急に作る必要がある。ただし、全国で唯一の公的電力網を作れば、今度はそれが独占や既得権となって進歩が阻害されるため、地方自治体・鉄道会社・ガス会社・通信会社・電力会社などが地下等に電線を整備し、電力や送電に自由競争を導入してエネルギーコストを下げるのが、日本にとって必要不可欠なことである。 昨年10~12月期の国内総生産(GDP)が実質で前期より1.8%(年換算7.1%)減ったのは、*15-6のように、新型コロナウイルスとは全く関係がなく、昨年10月の消費増税で個人消費が減ったからにすぎない。台風被害の影響を書くメディアも多いが、台風被害は有無を言わせず家屋や家電の消費を促すため、これを日本のGDPに取り込めないのは製造業が中国はじめ外国へ移転してしまっているという情けない結果だ。そして、製造業が外国に移転してしまった理由は、人件費の高騰・古い規制や習慣による支配・エネルギーの高止まり等々、産業政策の失敗の結果である。また、そういう将来性の薄い国がいくら金融緩和しても、企業が国内で設備投資を行う理由に乏しいため、国内投資は増えない。そのような中で、天災のように見える新型コロナウイルスは、メディアからそれらの本質的議論を隠した功労者になっている。 *15-2より (図の説明:左と中央の図のように、介護保険の財源は、被保険者が支払った介護保険料50%、国25%、都道府県12.5%、市町村12.5%となっている。そして、右図のように、年金生活者の多い65歳以上の1号被保険者が財源の23%を支払っており、40歳未満は全く支払っていない。そのため、40歳未満も保険料を支払って介護保険に加入させるとともに、社会保障には国民負担だけでなく国有財産から得る収入を多く投入して負担を軽くすべきだ) *15-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200307&ng=DGKKZO56519820W0A300C2MM8000 (日経新聞 2020.3.7) 要介護度 ばらつく認定、判定、99%の自治体が変更 独自の裁量 住民に見えず 「全国一律」という介護保険制度の前提が崩れている。サービスを受けたい人の要介護度の認定(総合2面きょうのことば)を巡り、市区町村の99%が全国共通の判定を2次審査で変更。申請件数に占める変更比率は自治体でゼロから41%までばらつきがあることがわかった。同じ身体状態でも利用できるサービスが地域で異なることになる。自治体は独自の判断理由を住民に周知しないと、公平性が保てなくなる。要介護度は介助が必要な度合いに応じ、軽い順に要支援1~2、要介護1~5の7段階。立ち上がるのに支えが要る程度なら要支援1、寝たきりの場合は要介護5に相当する。生活上の自律性や認知機能を問う全国共通の調査票に基づきコンピューターで判定。その後、個別事情を考慮し、医師などで構成する介護認定審査会が決める。審査会で議論する材料は自治体で異なる。要介護度を上げれば、利用できるサービス量や種類は増える。要介護5の場合、介護保険からの支給限度額は月約36万円で要介護1は約17万円。むやみに上げると介護需要が膨らみ、保険財政の負担が増す。不必要に下げれば適切なサービスを利用できない懸念が出る。日本経済新聞は厚生労働省に情報公開請求し、2次審査で判断を変えた比率の自治体別データを入手した。最新の2018年10~11月で100件以上を審査した904市区町村が対象だ。 ●指針から逸脱も 892市区町村が要介護度を変えていた。変更率は平均9.7%。変更率が5%未満の自治体数は3割、10%以上は4割だった。77市区町で20%を超し、ばらつきが大きい。ゼロは12市町。多くの自治体で上げる事例と下げる事例が混在しているが、相対的に上げている自治体が多く、財政負担が増す方向に働いている。国の指針は介護の手間を基準とし、病気の重さや同居人の有無を理由に変更はできないとしている。だが、変更率が高い自治体では指針に合わない事例があった。変更率が35%と3番目に高い東京都国立市は大半が要介護度を引き上げていた。末期がん患者は一律に要介護5とする独自運用があるからだ。高齢者支援課は「容体が急変しても対応できるようにするためだ」という。1次審査より要介護度を引き上げる割合が30%超の自治体は埼玉県三郷市や三重県四日市市など8つ。千葉県銚子市も末期がんは要介護2以上にする慣習があるという。21%で要介護度を下げた埼玉県和光市の審査会委員は「家族介護が見込めると下げる」という。宮崎市や兵庫県西宮市も同居人の有無が影響している可能性があるという。変更率が41%で、下げた割合が33%弱の福岡県みやこ町は「調査票の特記事項にある事情を議論した結果」と述べた。日本介護支援専門員協会の浜田和則副会長は「自治体が独自基準を設けてもおかしくない」と指摘する。認定は市区町村の自治事務だからだ。 ●住む場所が左右 問題は独自基準が明文化されておらず、審査も非公開である点だ。19年に長野市から埼玉県内に移った80代女性は要支援1から要介護1に上がった。親族は「住む場所でこれほど違うのか」と驚いた。NPO法人「となりのかいご」の川内潤代表理事は「独自基準があるなら住民に丁寧に説明すべきだ」と訴える。国は18年度、要介護度を維持・改善した自治体に交付金を手厚く配る制度を設けた。ニッセイ基礎研究所の三原岳主任研究員は「自治体の方針で変わる要介護度を指標にすると、交付金狙いで要介護度を下げようとする地域が出かねない」と語る。 *15-2:https://kaigo.homes.co.jp/manual/insurance/decision/ (LIFULLより抜粋) 介護保険の仕組み、保険料はどうやって決まるのか (1)介護保険の仕組み 介護保険とは、介護を必要とする人が少ない負担で介護サービスを受けられるように、社会全体で支えることを目的とした保険制度です。 *介護保険の対象となる人 40歳以上の健康保険加入者全員が必須で加入(被保険者になる)します。40歳になった月(実際は、40歳の誕生日の前日)から保険料の支払い義務が発生し、それ以降は生涯に渡り保険料を支払うことになります。もし介護サービスが必要な要支援や要介護の認定を受けた場合、被保険者は収入に応じた自己負担割合で、その介護度に応じた介護サービスを受けることができます。ただし、介護保険サービスを利用する人になっても、介護保険料の支払いは続きます。要介護になったからといって、保険料支払いが免除されるというものではありません。介護保険サービスの利用料は、利用する本人は1~3割負担となっており、残りの費用は自治体が支払う形となっています。では、その財源はどのように調達しているのでしょうか。 (2)被保険者には2種類の区分がある 介護保険の加入者は65歳以上の第1号被保険者と、40歳から64歳の第2号被保険者に区分されています。 区分 第1号被保険者 第2号号被保険者 ①年齢 65歳以上の人 40歳以上65歳未満の 公的医療保険加入者 ②介護保険サービスを 要支援・要介護の 16の特定疾病※が原因で 利用できる人 認定を受けた人 要支援・要介護となった人 ③保険料 所得に応じて市区 加入している医療保険の 町村が決める 算定方法に基づいて決まる 第1号被保険者の場合、要介護状態になった理由が何であれ、介護保険サービスを利用できます。それに対して第2号被保険者がサービスを利用できるのは、厚生労働省が定める16種類の特定疾病が要介護状態の原因となった場合に限られます。そのため、たとえば事故などで要介護状態になったとしても、第2号被保険者は介護保険サービスを利用することはできないのです。 ※16の特定疾病とは ・末期がん、関節リウマチ、筋萎縮性側索硬化症、後縦靭帯骨化症、骨折を伴う骨粗鬆症、初老期における認知症、パーキンソン病関連疾患、脊髄小脳変性症、脊柱管狭窄症、早老症、多系統萎縮症、糖尿病性神経障害・糖尿病性腎症および糖尿病性網膜症、脳血管疾患、閉塞性動脈硬化症、慢性閉塞性肺疾患、両側の膝関節または股関節に著しい変形を伴う変形性関節症 (3)介護保険料は健康保険料とともに給与天引き 現役世代である第2号被保険者と65歳以上の第1号被保険者では、介護保険料の支払い方法も保険料の計算法も違います。40歳から64歳までのいわゆる現役世代、第2号被保険者の場合は、給料をもらっている人は、健康保険料と一緒に給料から天引きされます。保険料は、健康保険料・厚生年金保険料と同じように、標準報酬月額を使って計算します。 *標準報酬月額とは 毎年4月~6月の給与額を平均し、その平均した額を、標準報酬月額表の等級(報酬額の区分)にあてはめて決めるものです。その等級によって「健康保険料」「介護保険料」「厚生年金保険料」が決まるというわけです。保険料は、その年の9月から翌年の8月まで基本同じ金額を使用します。たとえば、東京都で4月~6月の給与の平均額が40万円だった場合、協会けんぽを例にとると、等級27(厚生年金の等級は24)の39万5,000円~42万5,000円の間に入ります。この範囲にあてはまる人の標準報酬月額は41万円となり、健康保険料と介護保険料をあわせた額は2万3,841.5円と決まります。この標準報酬月額表は、都道府県で異なり、また各健康保険組合でも異なるため、健康保険料・介護保険料・厚生年金の額は、自分がどこに所属しているかで変わります。なお介護保険料は、健康保険料・厚生年金保険料と同様に、原則、被保険者と事業主が同額ずつ負担します。 *自営業の場合は国民健康保険に上乗せして納付 自営業の場合、国民健康保険に加入をしていますので、国民健康保険料に上乗せして納付します。40歳になる年に、介護保険料の上乗せがない金額で先に国民健康保険料の納付金額の通知が届き、介護保険料については別途納付書が届きます。そのため、最初の年は納付を忘れないよう覚えておきましょう。なお、介護保険料の金額は自治体によって多少異なります。 (4)第1号被保険者の保険料は自治体ごとに異なる 65歳以上である第1号被保険者の介護保険料は、自治体ごとに決められています。各自治体は、3年ごとに介護サービスに必要な給付額の見込みを立て、予算を組みます。その予算のうち、国が25%、都道府県と市町村が12.5%ずつ。そして27%が第2号被保険者の保険料、残りの23%が第1号被保険者の納める保険料となっています。 *介護保険料の基準額 全員一律で同じ保険料にしてしまうと、収入によっては負担が大きくなってしまいます。そのため、所得基準を段階に分けて、それぞれの保険料率を掛け合わせて金額を決める定額保険料となっています。この所得段階は国の指針だと0.45倍~1.7倍までの9段階ですが、自治体によってはもっと細かい区分を使用しているところもあります。例えば東京都新宿区の場合では、段階区分は16段階となり、0.4倍~3.7倍まで料率に差をつけて公平性を保っています(※2019年4月1日時点)。第1号被保険者になると、保険料は基本的には年金から天引きされる「特別徴収」となり、年金の支払いにあわせて2カ月ごとに2カ月分が差し引かれます。ただし、年金の額が年額18万円に満たない場合は、「普通徴収」となり、納入書で支払うことになっています。また、第2号被保険者に扶養されているサラリーマンの妻などは、健康保険料を自分で納めていませんので、64歳までは扶養家族として介護保険料も支払っていません。ただし、65歳になり、第1号被保険者に変わるタイミングで、年金から介護保険料が天引きされるようになります。介護保険料は、居住している自治体によって金額が変わります。第2号被保険者の場合、入っている健康保険によっても金額は変わります。また、自分が第1号被保険者なのか、第2号被保険者なのかによって、金額の計算方法も納入の仕方も異なるのです。40歳になるとき、そして65歳になるときは注意が必要です。 監修者:森 裕司 株式会社HOPE代表、介護支援専門員、社会福祉士、精神保健福祉士、障がい支援専門員、医療ソーシャルワーカーを11年間経験後、ケアマネジャーとして相談援助をする傍ら、医療機関でのソーシャルワーカーの教育、医療・介護関連の執筆・監修者としても活動。企業の医療・介護系アドバイザーとしても活躍中。 *15-3:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO29216170Q8A410C1EA2000/ (日経新聞 2018/4/10)南鳥島のレアアース、世界需要の数百年分、早大・東大などが分析 早稲田大学の高谷雄太郎講師と東京大学の加藤泰浩教授らの研究チームは、日本の最東端にある南鳥島(東京都)周辺の海底下にあるレアアース(希土類)の資源量が世界の消費量の数百年分に相当する1600万トン超に達することを明らかにした。詳細な資源量を明らかにしたのは初めて。レアアースを効率よく回収する技術も確立した。政府や民間企業と協力して採掘を検討する。レアアースはハイブリッド車や電気自動車、風力発電機などの強力な磁石、発光ダイオード(LED)の蛍光材料といった多くの最先端技術に使われる。だが、中国への依存度が高いのが問題視されてきた。日本の排他的経済水域(EEZ)に眠る資源を取り出すことができれば資源小国から脱却できる可能性がある。研究チームは、南鳥島の南方にある約2500平方キロメートルの海域で海底のサンプルを25カ所で採集し、レアアースの濃度を分析した。その結果、ハイブリッド車などの強力な磁石に使うジスプロシウムは世界需要の730年分、レーザーなどに使うイットリウムは780年分に相当した。研究チームはまたレアアースを効率的に回収する技術も確立した。レアアースを高い濃度で含む生物の歯や骨を構成するリン酸カルシウムに着目。遠心力を使って分離したところ、濃度は2.6倍に高められた。これは中国の陸上にある鉱床の20倍に相当する濃度だ。東大の加藤教授は「経済性が大幅に向上したことで、レアアースの資源開発の実現が視野に入ってきた」と強調する。レアアースを巡っては、日本は大部分を中国からの輸入に依存する。中国は全世界の生産量の約9割を握るため、価格の高騰や供給が不安定になる事態が発生してきた。一方、東大の加藤教授らは2012年に南鳥島周辺でレアアースを大量に含む可能性が高い泥を発見。14年には三井海洋開発、トヨタ自動車などと「レアアース泥開発推進コンソーシアム」を設立し、回収技術の開発に取り組んできた。研究成果は英科学誌サイエンティフィック・リポーツ(電子版)に10日掲載された。 *15-4:https://www.sankei.com/economy/news/150303/ecn1503030022-n1.html (産経新聞 2015.3.3) 日本も見習うべきか 「資源小国」から「地熱大国」へ変貌したアイスランド いまや電力輸出も視野 世界最北の島国アイスランドは、地熱発電所の積極的な開発を続け、エネルギーを化石燃料の輸入に頼る「資源小国」からの脱却を果たした。いまや自国の電力需要は地熱などの再生可能エネルギーだけで賄うことができ、近年は電力の輸出にも関心を寄せる。日本も豊富な地熱資源量を持つとされるが、法規制などが障壁となり、アイスランドのような“地熱大国”への道のりは遠い。 ◇ 首都レイキャビクから東に約20キロ。広大な火山の裾野にある同国最大のヘトリスヘイジ地熱発電所からは、猛烈な勢いで水蒸気がわき上がっていた。同発電所は約30万キロワットの発電と、約13万キロワット相当の熱水供給能力を持つ。同発電所は2006年に、レイキャビク・エナジー社が運転を開始した。同社の担当者は、「地熱はアイスランドの石油だ」とほほえんだ。発電に使用しているタービンは日本製だという。 ◆かつては輸入頼み 人口約32万人のアイスランドは、かつて典型的な資源小国だった。1973年の石油危機を機に、地熱の開発を本格化したのは「国内に石炭や石油などの天然資源がなかった」(グンロイグソン首相)ためだ。 *15-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200309&ng=DGKKZO56477670W0A300C2KE8000 (日経新聞 2020.3.9) 発送電分離の課題(下)系統運用、公的機関へ移行を、伊藤公一朗・シカゴ大学准教授(1982年生まれ。カリフォルニア大バークレー校博士。専門はエネルギー経済学) <ポイント> ○法的分離では公平な送配電線利用は困難 ○地域ごとに送配電会社設けるのは非効率 ○災害や再生エネ見据えた全国系統運用を 欧米諸国は約20年前に発送電分離を終えており、各国の経験やデータ分析結果が蓄積されている。その知見を基に日本政府の計画を検証すると、重大な懸念材料とさらなる改革が必要である点がみえてくる。本稿では、電力網のような公共的インフラ(社会基盤)を運用するうえで重要となる「独立性」と「網羅性」の2つのキーワードを柱に、論点整理と提言をしたい。現在の日本では電柱や電線といった送配電網の系統運用は、大手電力会社が地域独占的に手掛けている。例えばある時間帯に誰に送電線を使わせるか、どんな使用料金を課すか、どこに新規の送電線を引くかという決定は地域独占企業が担っている。だが大手電力会社は発電部門や小売部門も抱えている。そのため自社の利益追求の手段として、新規参入の発電事業者や小売業者が送配電網を利用することを制限したり、送配電網の利用料金を高く設定したりする懸念が生じる。この懸念を払拭するには系統運用の独立性を確保する必要がある。現行の政府案は法的分離と呼ばれる方式だ。大手電力会社は、自社の送配電部門を子会社化し、その子会社は持ち株会社の傘下に置かれる。そのうえで政府は監視と規制により、親会社と子会社の独立性を目指すという。しかし経済理論、各国の経験および学術的データ分析結果に鑑みると、この方法で独立性を確保できる可能性は非常に低い。第1に営利企業である大手電力会社は持ち株会社一体としての利益を追求するため、親会社と子会社のつながりが消える保証はない。第2に政府の監視と規制には「情報の非対称性」の問題がつきまとう。送配電網の運用では運用者しか知り得ない緻密な情報が付随する。また営利企業は情報を政府に示さないインセンティブ(誘因)がある。情報を直接持たない政府が適切な監視・規制をするのは難しく、監視精度を高めようとするほど莫大な税金が投じられることになる。以上の理由から欧米のほぼ全地域で法的分離は採用されていない。世界的な主流は、公的な第三者組織である独立系統運用機関(ISO=Independent System Operator)を設立し、送配電網の系統運用を完全移行する方式だ。大手電力会社には送配電網を運用する組織はなくなり、系統運用は公的組織に任せられる。同方式のもう一つの特徴は、送配電網の所有権は大手電力会社に残したままでもよい点だ。英国は所有分離という最も強い発送電分離を実施し、大手電力会社から送配電網の所有権を奪った。しかし所有分離は財産権を巡る訴訟を生む可能性があり、大手電力会社の財務的ダメージも大きい。そのため送配電網の所有権は大手電力会社に残し、運用だけを独立系統運用機関へ移行する方法が最善との見解が有力になっている。電力網運用でもう一つの重要な要素は網羅性だ。政府案では、法的分離後も10社の送配電会社が各地域の大手電力会社の子会社として存続する。だが国際的には、電力網のような公共的ネットワークを運用する際は狭い地域ごとでなく、広域的運用が望ましいとの見解が一般的だ。実際に欧州、北米、南米では電力網の系統運用統合が進んでいる。日本でも電力網の系統運用を全国的に一括する便益は大きい。第1に東日本大震災や北海道地震などの災害時、電力が過剰な地域から不足地域へスムーズに送電できる。第2に全国的にみて低コストの発電所から優先的に発電させる「広域的メリットオーダー」という方法を採ることで、電力料金を低下させられる。第3に再生可能エネルギー拡大に向けても全国的な電力網の運用が鍵になる。再生エネの弱点は気候条件に左右される発電量の不安定性だ。だが近年のデータ分析結果によれば、地域間で多様な日本の気候条件は発電量の不安定性を是正できる可能性を秘めている。太平洋側で風力が弱いとか、太陽が出ていない場合でも、日本海側では風が吹き太陽が出ている場合がある。そのとき、電力網が広域的に運用されていれば、ある地域で落ちた発電量を別地域からの電力で調整できる。国土が広くない日本で10社もの送配電会社を残すことは合理的ではない。以上のような独立性と網羅性の確保を考えた場合、日本でも公的な独立系統運用機関を設立し、全国的な送配電網を一括して運用することが望ましい。有識者や政府内にもこの認識はあり、電力システム改革の第1段階として電力広域的運営推進機関が2015年に設立された。今のところ同機関の業務の中心は独立系統運用機関が手掛ける業務の一部に限られる。政府はできる限り早い段階で公的な独立系統運用機関を設立し、全国的な送配電網の系統運用を実施すべきだ。政府案では法的分離を進める根拠として、法的分離を採用したフランスの事例を挙げる。だがフランスは実質的国有企業である1社が全国の電力供給網を担っている。従って法的分離で送配電部門が子会社化した際には、国有の1企業が全国の送電網を運用することになり、実質的には公的な独立系統運用機関が設立されたのと近い形態だった。また電力システム改革に反対する意見として、発送電分離を実施すると安定供給が失われる、送電設備への投資が低下する、発電費用が上昇するという論考がある。だがこの主張を裏付ける科学的エビデンス(証拠)は存在しない。拙著「データ分析の力」で解説しているように、これらの主張は相関関係を因果関係と誤って解釈しているものが多く注意が必要だ。例えば発送電分離をした地域としていない地域を単純比較した分析があるが、気候、発電所の形態、燃料費、環境規制など地域間の様々な違いが考慮されておらず、因果関係を示していない。では発送電分離や電力システム改革の効果について因果関係を検証したエビデンスは存在するのか。この20年間、経済学の実証研究と呼ばれる分野では様々なデータ分析を駆使して研究が進んだ。例えばナンシー・ローズ米マサチューセッツ工科大(MIT)教授らの研究グループは、発送電分離を進めたうえで発電部門の総括原価方式を廃止し、卸売市場取引での自由競争を導入すると、発電所の生産効率性が向上し、発電費用が下がることを示した。さらにスティーブ・シカラ米シカゴ大助教授は全米の発電所の毎時発電データと費用データを分析し、発送電分離後の卸売市場を通じた電力取引は高コストの発電所の生産量を減らし、低コストの発電所の生産量を増やすため、社会全体の発電費用も下がることを示した。いずれも国際的学術誌「アメリカン・エコノミック・レビュー」に発表されたもので、慎重に因果関係を検証した分析結果だ。電力システム改革は大きな利害が絡む難しい政治課題だ。だからこそ諸外国の経験や科学的エビデンスを基に政策決定をして、国民全体の便益を主眼とした改革を追求していくべきだ。 *15-6:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14396623.html (朝日新聞 2020年3月10日) GDP年7.1%減 内閣府が9日発表した昨年10~12月期の国内総生産(GDP)の2次速報は、実質(季節調整値)で前期(7~9月期)より1・8%減った。年率換算では7・1%減。1次速報(年率6・3%減)から下方修正された。マイナス成長は5四半期ぶり。昨年10月の消費増税に加え、台風被害などの影響もあり、個人消費と企業の設備投資が大きく落ち込んだ。減少幅は、前回の増税があった14年4~6月期(年率7・4%減)に近い水準となった。下方修正の主因は設備投資の下ぶれで、1次速報の前期比3・7%減から4・6%減に下方修正された。個人消費は2・9%減から2・8%減に上方修正された。今年1~3月期は新型コロナウイルスの悪影響が強く出るとみられ、国内景気はさらに厳しい局面に入っている。 <東日本大震災からの復興検証←無駄遣いはなかったか> PS(2020年3月10、12、13日追加):*16-1のように、政府は3月10日、東日本大震災とフクイチ事故から9年となるのを前に、復興推進会議と原子力災害対策本部の合同会合を首相官邸で開き、安倍首相が「必要な復興事業を確実に実施するための財源を確保し、被災地が安心して復興に取り組めるようにする」と述べられたそうだが、残っている事業とその予算はいくらだろうか?このような災害は、実際にモノがなくなったり、住めなくなったりしているため、その損害を回復することが重要であって、心のケア(具体的に何?)の問題ではないと、私は考える。また、原発事故については、激烈な毒物を放出したため、廃炉も汚染水対策も困難で、被災者に寄り添うとすれば、「①フレコンバッグは積みっぱなし」「②汚染水を海に放出」「③避難指示を解除したから、住民を呼び戻す」などという選択肢はない。納税者は復興税を黙って支払ってきたので、これまでの復興税の使い方とその効果を開示してもらいたいと思う。 また、前原子力規制委員長の田中俊一氏は、*16-2のように、現在は福島県飯舘村で暮らし、「原発はいずれ消滅します」と言っておられる。ただ、住民が戻らない理由を「避難の長期化で新たな仕事をもった」「子どもの学校の関係」「診療所の問題」「福島県産食品への風評被害」と考えておられるのは、(本当は危険な場所には住みたくないからであるため)甘い。また、「食品規格の国際基準は、一般食品の放射性セシウムの基準値を1キロあたり1000ベクレルと定めているが、日本は原発事故後、より厳しい同100ベクレルとしている」としておられるのは嘘である。何故なら、*16-3のように、食品の国際規格を作成しているコーデックス委員会の指標は年間1mSVを超えないよう設定されており、日本の食品中の放射性物質の新基準は、食品からの被曝上限を暫定の年間5mSVから年間1mSVに引き下げたものだからだ。つまり、田中氏は、国民の健康に無関心なのだ。 さらに、*16-4のように、東日本大震災の津波で被災した土地に総額4,600億円投じてかさ上げされた土地区画整理事業は、宮城など被災3県で造成された宅地の約35%にあたる約238haが未利用になっているそうだが、岩手県陸前高田市の場合は30mの津波が来たのに10mしかかさ上げしていないため55%の未利用はむしろ少ないくらいなのである。そのほか、宮城県気仙沼市、福島県いわき市などの未利用地も単に時間がかかっただけが理由ではないと思われるため、正確な原因分析が必要だ。 原発は、事故を起こせば猛毒の放射性物質をとてつもなく広い環境にばら撒き、人間が近づいてそれを処理することはできず、事故の可能性を0にすることなど不可能であるため、私がこのブログで記載してきたように、脱原発して再エネに転換するのが、日本にとってあらゆる面で最善の策なのである。しかし、*16-5のように、全原発の即時運転停止を記した「原発ゼロ法案」や「分散型エネルギー利用促進法案」は、(野党が提出したためか)一度も審議されていない。もちろん、原発立地地域は、1974年に制定された電源三法交付金制度によって原発から利益を得ているが、それを負担しているのは国民である上、危険を伴う原発立地地域は人口が全国平均より早く減少し、高齢化率も全国平均より高い。従って、他の産業による地域再生を盛り込んだ「原発ゼロ法案」は、日本全体のみならず原発立地地域にとってもプラスなのであり、原発にすがりついて現状維持を図ることこそ、最も安易で政治の責任を果たさないやり方なのだ。 原発事故で猛毒の放射性物質により汚染された環境には内水面や海も含み、*16-6のように、韓国はじめ各国による水産物の禁輸や規制措置が行われている。韓国の禁輸措置については、日本はWTOに提訴して2019年に敗訴したが、その理由は、安全性の問題を自由貿易とすり替えたことである。しかし、この提訴によって、日本食品の安全性は日本政府によって担保されないことを世界にアピールしたことになり、日本国民も、「協力」や「付き合い」でリスクのある食品を食べさせられては困るのである。そして、これを「不安」「風評」「差別」などと強弁するのは見え透いた逃げ口上にすぎない。そのため、これまで東北沿岸部の経済を支えてきた水産業は、最新の設備を備えた(化石燃料を使わない)船を使って遠洋に出るしかなく、そのためにかかる増加コスト(漁船の新造費、燃料・人件費などの増加コスト)は原発被害として東電か政府に補償してもらうべきだ。また、地球温暖化で海水温が上がれば、従来の魚種を捕獲することができないのは当然で、魚種を変えるか北に移動して漁獲するしかない。さらに、養殖も、汚染が0でないその付近の水や餌を使うと価値がなくなるのである。 (図の説明:1番左の図のように、福島第一原子力発電所は、もともと周囲と同じような高台だった場所を削って低くして作り、その結果、左から2番目の図のように、津波に襲われた。この時、非常用電源も地下に置いていたため、津波で使えなくなった。つまり、今回の原発事故は、想定を甘くした結果の連続として招かれたため、甘い想定と安全神話による人災なのだ。また、原発事故後は(山林を除いて)除染を行い、右から2番目の図のように、大量の除染土が今でも放置されており、台風時に流された。さらに、大量に出る汚染水は、浄化後もストロンチウム等を含むため安全ではないが、経産省は「トリチウムしか含まないため安全で、薄めて海洋放出するか空中放出するしかない」と言っているのである) *16-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/498155 (佐賀新聞 2020.3.10) 被災地復興へ「財源確保」と首相、大震災9年で政府合同会合 政府は10日、東日本大震災や東京電力福島第1原発事故から11日で9年となるのを前に、復興推進会議と原子力災害対策本部の合同会合を首相官邸で開いた。安倍晋三首相は「必要な復興事業を確実に実施するための財源を確保し、被災地が安心して復興に取り組めるようにする」と述べた。安倍首相は、被災地の現状について「復興は着実に進展している一方、被災者の心のケアや廃炉・汚染水対策などの課題は残されている」と指摘。2021年度以降5年間で必要となる復興事業の財源を今年夏ごろまでに示す考えを重ねて示した。合同会合では、避難者が震災直後の47万人から今年2月時点で4万8千人まで減少したことや、住宅再建や交通網整備の進捗状況を田中和徳復興相が報告した。田中復興相は記者会見で「現場主義を徹底し、被災者に寄り添いながら全力で復興に取り組む」と述べた。政府は21年度以降の復興政策を定めた法案を今国会に提出しており、早期成立を目指す。法案は、復興庁の設置期限を30年度末まで10年間延長し、引き続き復興相を置く内容。原発事故の影響が続く福島県の支援では、避難指示を解除した地域に住民を呼び込む施策を拡充する。復興推進会議の議長と原子力災害対策本部長は、首相が務めている。 *16-2:https://mainichi.jp/articles/20200306/dde/012/040/020000c (毎日新聞 2020年3月6日) 原発はいずれ消滅します 福島・飯舘村で暮らす、前原子力規制委員長・田中俊一さん 東京電力福島第1原発事故から間もなく9年。あの人は今、何を思っているだろうか。事故後に設置された、原発の安全審査を担う原子力規制委員会の初代委員長、田中俊一さん(75)のことだ。2017年に退任後、「復興アドバイザー」として暮らす福島県飯舘村を訪ねた。飯舘村を南北に走る国道399号から細い山道を上っていくと、田中さんが1人で暮らす木造平屋建ての一軒家があった。前日降った雪がうっすらと積もっている。「今年は降ってもすぐに解けます。暖冬の影響ですね。ここで暮らして3度目の冬ですが、過去2年は雪が一度積もったら春まで残っていた」。村が所有するこの家を賃借したのは、原子力規制委の委員長を退任した3カ月後、17年12月のことである。旧知の菅野典雄村長から「静養にいいですよ」と誘われたのがきっかけだった。「飯舘山荘」と名付けたこの借家と、茨城県ひたちなか市の自宅を行ったり来たり。月の半分は飯舘村で過ごし、無償の復興アドバイザーとして、国と村の橋渡し役になったり、視察に訪れる人たちに村の現状を説明したりしている。「事故後、『原子力ムラ』にいた自分に何ができるかを考え、11年5月に放射線量が非常に高い飯舘村長泥(ながどろ)地区で除染実験を行った。この地区は今も帰還困難区域のまま。事故に向き合う私の原点がこの村にあります」。そんな田中さんに復興の進捗(しんちょく)度を尋ねると、渋い顔になった。「なかなか進みません。少しずつ努力していますが、元々暮らしていた住民の多くが戻ってこない。避難が長期になり、新たな仕事をもったり、子どもの学校の関係があったりして、村外に家を建てた人も多い。特に、若い人は都会志向が強い」。長泥地区を除き村の避難指示が解除されたのは17年春のことだ。震災前の人口は約6200人だが、現在暮らすのは約1400人。震災前、村内の小中学校には約530人が通っていたが、20年度は65人の見通しだ。「避難先の学校に子どもを通わせる親の多くはわざわざ村内の学校に戻らせようとしません。村には診療所が1カ所ありますが、開いているのは週2日。病を抱えている人は戻りにくい」。そして、いまだに続く福島県産食品への風評被害を強調する。食品規格の国際基準では、一般食品の放射性セシウムの基準値を1キロあたり1000ベクレルと定めているが、日本は原発事故後、より厳しい同100ベクレルとしている。「あなたは、あえて厳しく制限している地域のものを食べたいと思いますか? セシウムは検出されないのに『買いたくない』という心理が働き、風評を固定化している。福島県産食品の輸入停止を続ける国がまだあるのはそのためです。現実を無視した前提で決められた現在の基準を見直さなければ、福島の農水産業の復興はできません」。食品の「安心・安全」観に一石を投じる。福島県は郷里でもある。東北大で原子核工学を学び、日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)へ。原発事故前は日本原子力学会の会長や、内閣府原子力委員会の委員長代理を務めた。原子力ムラの中枢を歩んできたとの印象だが、本人は傍流だと自嘲する。「私は核燃料サイクルの実現は技術的に無理だと言ってきたので『村八分』の存在です。使用済み核燃料を再処理して高速増殖炉でプルトニウムを増やして、1000年先、2000年先のエネルギー資源を確保しようと言っているのは世界でも日本だけ。安全神話も私は信じていなかった。科学的に『絶対安全』はあり得ない。日本の原子力政策はうそだらけでした」。こんなエピソードがある。原発事故まっただ中の11年3月15日、皇居で当時の天皇、皇后両陛下に原発事故についての解説を求められた。地震の影響で茨城の自宅と東京を結ぶJR常磐線も高速道も不通だった。(以下略) *16-3:https://www.mhlw.go.jp/shinsai_jouhou/dl/leaflet_120329.pdf#search=%27%E4%B8%80%E8%・・ (食品中の放射性物の新たな基準値) 東京電⼒福島第⼀原⼦⼒発電所の事故後、厚生労働省では、⾷品中の放射性物質の暫定規制値を設定し、原子力災害対策本部の決定に基づき、暫定規制値を超える食品が市場に流通しないよう出荷制限などの措置をとってきました。暫定規制値を下回っている食品は、健康への影響はないと一般的に評価され、安全性は確保されています。しかし、より一層、食品の安全と安心を確保するために、事故後の緊急的な対応としてではなく、長期的な観点から新たな基準値を設定しました(平成24年4月1日から施行)。放射性物質を含む食品からの被ばく線量の上限を、年間5ミリシーベルトから年間1ミリシーベルトに引き下げ、これをもとに放射性セシウムの基準値を設定しました。 ●放射性セシウムの暫定規制値(単位:ベクレル/kg) 食品群 野菜類 穀類 肉・卵・魚 その他 牛乳・乳製品 飲料水 規制値 500 200 200 ●新たな基準 食品群 一般食品 乳児用食品 牛乳 飲料水 規制値 100 50 50 10 ※線量の上限を1ミリシーベルトとした理由 ○食品の国際規格を作成しているコーデックス委員会の指標が、年間1ミリシーベルトを超えないように設定されていること。 ○多くの食品の放射性物質の濃度が、時間の経過とともに相当程度低下傾向にあること。 ※食品区分の考え方 ○特別な配慮が必要な「飲料水」「乳児用食品」「牛乳」は区分し、それ以外の食品は、個人の食習慣の違い(飲食する食品の偏り)の影響を最小限にするため、一括して「一般食品」と区分しています。(以下略) *16-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14396621.html?iref=mor_articlelink02 (朝日新聞 2020年3月10日) (東日本大震災9年)かさ上げ宅地、35%未利用 国交省、検証へ 被災3県 東日本大震災の津波で被災した土地をかさ上げする土地区画整理事業で、宮城など被災3県で造成された宅地の約35%にあたる約238ヘクタールが未利用になっていることが、国土交通省の調査でわかった。東京ドーム約51個分で、国交省は新年度に事業の検証を始める。3県の未利用地の総面積が判明するのは初めて。区画整理事業は、土地をかさ上げして宅地や道路を造り、元の地権者に新たな宅地を割り当てる手法。復興庁によると、岩手、宮城、福島3県の21市町村で実施され、総額4600億円が投じられた。事業は9割以上進み、2020年度末の完成をめざしている。国交省によると、調査は昨年10~11月、21市町村を対象に行い、昨年9月末時点の活用状況を調べた。住宅や店舗などが建設済みや建設中の場合を「利用済み」とした。残りは未利用地となるが、今後利用される予定の土地も含まれる。住宅向けの宅地を整備していない4市町を除く17市町村では、造成済みの674・8ヘクタールのうち、237・9ヘクタールが利用されていなかった。未利用の割合は、岩手県陸前高田市が55%と最多で、次いで宮城県気仙沼市が51%、福島県いわき市が49%だった。未利用地が生まれたのは、地権者の同意やかさ上げに時間がかかり、避難先などでの再建を選んだ人が相次いだためだ。国交省は新年度、有識者らによる検証委員会を立ち上げ、来年3月までに対策をとりまとめる。南海トラフ巨大地震など次の大災害が起きた時に同様の未利用地が発生することを防ぐ。 *16-5:https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/202003/CK2020030902000135.html (東京新聞 2020年3月9日) <東日本大震災9年>原発ゼロ法案 2年たなざらし 与党、再生エネも審議応じず 脱原発や再生可能エネルギーの推進を目指して野党が提出した法案が、一度も審議されず最長で二年間取り置かれている。政府・与党も再生エネの普及に言及しているものの、野党提出法案は原発の再稼働を進める安倍政権の姿勢と対立するため、与党が審議に応じないからだ。たなざらしの関連法案は五本。立憲民主、共産などの四党は二〇一八年三月、全原発の即時運転停止を記した「原発ゼロ基本法案」を衆院に提出した。法施行後五年以内の全原発廃炉や電力供給量に占める再生エネの割合を三〇年に40%に上げることを盛り込んだ。翌一九年六月には、再生エネの普及を確実にするため、エネルギーの地産地消を促す「分散型エネルギー利用促進法案」など四法案も追加で提出した。うち三法案には国民民主党も提出に加わった。法案はいずれも衆院経済産業委員会に付託されたが一度も審議されていない。議員立法は政府が提出した法案の後に審議されるのが通例だ。衆院経産委理事の自民党議員は「野党提出法案を、政府提出法案より優先して審議することは難しい」と話す。政府提出法案の審議後でも、多数を占める与党が認めなければ野党提出法案は扱われない。一八年六月に会期が一カ月余延長された際、同委では「原発ゼロ」以外に審議する法案がなかったのに、自民党は委員会開催すら応じなかった。原発を基幹電源とする政権の方針を踏まえたためだ。安倍晋三首相は今国会で「原発ゼロは責任あるエネルギー政策とはいえない。再稼働は原子力規制委員会が認めた原発のみ、地元の理解を得ながら進めていく」と強調した。立民の枝野幸男代表は本紙の取材に「審議する時間は十分にあった。原発事故を経験した国の国会として、あまりに無責任だ」と自民党の対応を批判した。 *16-6:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14399438.html (朝日新聞 2020年3月12日) (東日本大震災9年)海と生きる町、岐路 サンマ大不漁、韓国のホヤ禁輸続く 東日本大震災で大きな被害を受けた岩手、宮城の水産業が岐路に立たされている。全国有数の水揚げ量を誇ってきたが、昨年秋にはサンマの記録的な不漁に見舞われ、韓国によるホヤの禁輸措置も長引く。なりわい再生の中心となる水産加工業も、人手不足や販路喪失に苦しんでいる。「大変な年だった。今までのようには魚がとれなくなっている」。本州一のサンマの水揚げ量を誇る岩手県大船渡市。漁獲から加工・販売まで手がける鎌田水産の鎌田仁社長(46)は話す。保有していたサンマ漁船2隻のうち1隻を震災で焼失したが、その後5隻を新造し事業を拡大してきた。ところが昨年、半世紀ぶりの不漁に直面し、水揚げ量は例年の約3分の1に沈んだ。単価の上昇はあったが、水揚げ金額は3割減。イワシなど他の魚種の扱いを増やして補ったという。全国さんま棒受網漁業協同組合によると、震災前に約20万~30万トンあった全国のサンマ水揚げ量は、直近5年間は10万トン前後に低迷。昨年はさらに4万トンまで落ち込んだ。不漁対策として水産庁は昨年、公海での通年操業を解禁。鎌田水産も9億円を投じて遠方で操業できる漁船を建造中だ。鎌田社長は「サンマをやめる選択肢はない。ただ、他の魚の扱いを増やすとか、柔軟に対応していかないといけない」と話す。全国一の生産量を誇った宮城県のホヤも苦しい。震災前、ホヤは年間約1万5千トンの水揚げがあり、7割を韓国に輸出していた。だが、原発事故の影響で、韓国は2013年から輸入を禁止。日本は世界貿易機関(WTO)に提訴したが昨年敗訴し、韓国による輸入再開の見通しは立っていない。県や漁業者らは首都圏などで消費拡大のキャンペーンを進めてきた。国内消費量は震災前の2倍となる5千トンまで増えたが、それでも消費し切れず、県漁協は16年から3年続けて計1万5千トンを焼却処分した。東京電力からの補償も20年度で終わる。石巻市のホヤ漁師は「出荷先が少ないために生産量を制限し、東電の補償で食いつないでいるようなもの」と話す。 ■水産加工業、人手足りず販路も失う 沿岸部の経済を支える水産加工業は、国が震災後に新設したグループ補助金などを活用して再起を図った。中小企業が工場などを再建する費用の75%を国と県が負担する制度だが、自己負担分を賄うために県の無利子貸付制度を利用した事業者も多い。宮城県石巻市にある水産加工会社は今年2月、事業承継のため同業者に株式譲渡した。震災の翌年、グループ補助金と県の無利子貸付制度を使い、被災した工場を約2億円かけて再建。13年には別の補助金で計6億円かけて本社と新工場を造った。ところが、従業員を募っても復興特需が続く建設業などに流れた。売り上げの7割を占めたイカの不漁に加え、ホヤも韓国の禁輸措置で行き場を失った。売り上げは震災前の半分ほどに低迷し、2年連続の赤字。男性社長(67)は昨年夏、金融機関の支店長にM&A(企業合併・買収)の意向を伝えた。県の貸付金など1億円を超す借金返済が数カ月後から順次始まる予定だった。社長は「人より早く再開すれば客はついてくると思ったが、現実は違った」と振り返る。岩手県宮古市の水産加工会社「須藤水産」は約6億円のグループ補助金を使って冷凍・冷蔵設備を再建したが、全容量の1割の約100トンしか使っていない。昨年、仕入れができたサンマは例年の1割の約400トン。不漁で、仕入れ価格が2倍近くにはね上がったためだ。昨年の売り上げは例年の3割減の約10億円。3年ほど前からコンビニに土地を貸し、賃料収入で売り上げを補う。須藤一保専務(47)は「魚屋だけでやっていくのが難しくなっている」と訴える。福島を含む3県によると、今年1月末現在、グループ補助金を利用した事業者のうち74事業者が倒産しており、業種別では水産加工が3割と最も多い。 ■経営モデル、転換課題 水産加工業は岩手、宮城のなりわい再生の核だ。生鮮冷凍水産物の生産量は宮城が全国3位、岩手が8位(いずれも2018年)と上位に食い込む。食料品製造業に携わる事業所のうち、水産加工業の割合は宮城が45%、岩手も25%を占める。長年、売り上げを支えてきた手法は、近くの港に豊富に水揚げされる魚を安値で大量に仕入れて冷凍。高値になる時期に、大手の流通業者や量販店に販売するものだった。だが、冷凍したり切り身にしたりする程度で加工度は低く、別の地域の事業者でも代替しやすかった。震災で休止している間に、流通業者は海外や国内の別の地域の加工業者と取引を結んでいったという。再開しても、不漁と人手不足で出荷量が安定せず販路を取り戻せていない。国は首都圏などのスーパーや百貨店のバイヤーなどを三陸に招き、100社以上の水産加工業者と引き合わせる商談会の開催を支援。経営コンサルタントによる事業計画見直しや海外輸出の後押しをしてきた。宮城県石巻市の水産加工会社「ヤマナカ」は、19年度から韓国系商社と組み、ホヤを米国のコリアンタウン向けにサンプル供給するほか、ベトナムへの輸出も始めた。だが、震災前のビジネスモデルから転換できた業者は一部にとどまる。福島を含む3県の沿岸37市町村に朝日新聞が行ったアンケートでは、回答があった30市町村のうち、水産加工業の業況が「震災前の水準まで回復していない」と答えた自治体が8割を超えた。東北大地域イノベーション研究センター長の藤本雅彦教授(経営学)は「専門家の助言や事業者同士の連携で、加工度が高く付加価値がある独自商品の開発を、長い時間をかけて進めるべきだ」と指摘。「海外も含めて市場開拓していこうという意欲ある経営者を、育てていく必要がある」と話している。 <日本は、なぜ合理的な判断ができないのか?> PS(2020年3月18日追加):*17-1のように、米国カリフォルニア州の米産地で水をためた冬の水田でサケを育て、3月末に数千のキングサーモンの稚魚を河川に放流して太平洋に向かわせる計画が進んでいるそうだ。日本も一毛作地帯なら冬の水田で何かをできるだろうに、いつまでも工夫がないのは不思議である。さらに、*17-2のように、政府は再エネ普及に使い道が限られている金をフクイチ事故の処理費用にも使えるようにしたいそうだが、(事故を起こした電力会社を清算して財産を充当し、脱原発してからならまだわかるが)「原発・化石燃料のコストが安く、再エネは高い」などと言いながら再エネ促進費を原発事故処理に転用するなど論外だ。 さらに、*17-3のJAの経営基盤強化をするには、農地や農業設備を活用した発電を進め、JAが電力を集めて販売する仕組みにすれば、農業補助金も削減でき、金利の低い今なら設備投資がやりやすいだろうが、従来と同じスキームから決して抜け出せないのが不思議だ。 また、*17-4のように、大分県日田市はJR日田彦山線の不通区間で「次世代モビリティ」導入に向けた実証実験を行うそうだが、そのEVはゴルフ場を走るカートのようなおもちゃで、これでは住民生活には使えない。*17-5の2010年2月3日の記事に紹介されているように、スイスのマッターホルン山麓にあるツェルマットでは、1990年代から排気ガスによる大気汚染防止のための自治体条例によってEVか観光用馬車しか走っておらず、私も1998年にツェルマットでこのEVに乗った時は感心したものの、EVの運転士に「馬力が足りなくないですか」と尋ねたくらいだったが、運転士の答えは「大気汚染防止のためだから、我慢しなくちゃ」というものでさらに感心したのである。日本なら大手自動車会社も多いので、不便なく走れるEVもすぐ作れると思って経産省に提案したのだが、社会保障を減らして外国に多額の燃料費を払うのが目的としか思えないような行動しかしておらず、未だにEVは希少車種である。これらは、太平洋戦争という航空戦の時代に、日露戦争の巨艦主義から抜け出せなかったのと同じであり、これでは何をやっても決して勝てないと思う。 このような中、ゴーン氏が1999年に社長として就任した日産自動車だけが、*17-6のように、批判を浴びながらEVを発売した。ゴーン氏の「リバイバルプラン」は、調整型の日本人社長にはできない系列部品会社の淘汰や資本提携の解消を伴っており、これはコストカットしたり、通常のガソリン車からEVや自動運転車に転換する場合に必要なのだが、恨まれるので誰もやりたくない仕事だ。そのため、私は、ゴーン氏の逮捕理由や新社長のメッセージを聞いただけで、優秀なリーダーを失った日産の現在の漂流と低迷は予測できたのである。 なお、日本は、*17-7のように、地価の上昇をよいことだとして地価上昇を促す金融緩和策を採っているが、これは人件費の高騰とあいまって産業の空洞化を招いている。何故なら、地価の上昇分は製品原価に加えられて製品価格を高くすると同時に、製品に占める人件費の割合を低くするからだ。そのため、このカンフル剤は、不動産業以外の産業にとってはディメリットであり、ゴーン氏が地価や人件費の安い新興国で生産体制の増強を進めたのは、多くのグローバル企業が行っている正攻法の経営手法なのだ。それでも日本に製造業を誘致したい地域があれば、工場用地を安く貸し出したり、外国人労働者の導入などで他国と競争力のある人件費にしなければならない。生産性の向上は、他国もすぐ追いつき、これまで基盤のなかった国・地域の方が整理の時間がかからない分だけ早いかもしれないのである。 2020.3.10東京新聞 2018.11.5朝日新聞 (図の説明:左図のように、日本は豊富にある再エネを使わず、衰退期にある原子力と化石燃料に執着している。また、中央の図のように、農業は継承者が少なく、既にある資産の農地も1/3に減少させたが、これは《長くは書かないが》今までの農業政策の誤りによる。さらに、右図のように、資源が豊富な林業も1/3に減らしており、これらの理由は工夫がないことに尽きる) (図の説明:左図のように、水産業もピーク時の1/3程度の漁獲高になっており、右図のように、GDPに占める製造業の生産高や製造業就業者割合も低下の一途を辿っている。残りは、サービス業と無職であり、日本のモノづくりは猛烈な勢いで衰退していると言える) *17-1:https://www.agrinews.co.jp/p50312.html (日本農業新聞 2020年3月16日) 冬の水田サケ養殖 多面的な機能PR 放流で資源回復 米・カリフォルニア米産地 米国カリフォルニア州の米産地では、水をためた冬の水田でサケを育てる計画が進んでいる。3月末には丸々と太った数千のキングサーモン稚魚が河川に放流され、サンフランシスコのゴールデンゲートを通って太平洋に向かう。自然保護に熱心な地元住民に水田の多面的機能を訴えるのが狙いだ。「昨年の試験は洪水で(稚魚の成育が)理想的な環境にならなかった。2年目となる今年は、改善を加え成育は順調。期待している」と語るのは、カリフォルニア州米委員会(CRC)のジム・モリス部長。30年以上も米業界を見守っている専門家だ。放流される稚魚のうち1000匹には無線発信装置を付け、放流後の行動を調べる。これまでの試験で、暖かい水田で育つため、稚魚は自然界を上回る成育ぶりを示している。試験が成功すれば、商業化の道を模索するという。ただ、サクラメント市周辺に広がる約20万ヘクタールの水田で、河川と結んでたん水状態にできるのはごく一部。全ての水田で稚魚を育てるのは難しい。並行して計画するのが、水田を利用した大量のプランクトンの供給だ。稚魚は川を下りながら餌を探すが、河川は浄化が進みプランクトンが少ない。冬の間、水田でプランクトンを育て、稚魚の通過のタイミングに合わせ、水田の水口から必要なプランクトンをたっぷりと与える。米産地がサケ対策に動き始めたのは8年前。環境保護団体などによると、サンフランシスコ湾に流れ込む河川流域は、かつてキングサーモンなどが成育する場所だったが、ダム建設や水不足で匹数が激減している。そこで上流にあるカリフォルニア米の冬水田んぼに目を付けた。サケの稚魚を養殖しそのまま放流できれば、資源回復につながる可能性があるとして研究プロジェクトが始まった。同州は大気汚染を理由に、2001年ごろから稲わらの焼却を厳しく規制。農家の多くが冬場のたん水で稲わらを分解させるようになった。冬場に餌を求めて数百万羽の野鳥が集まり、観光客やハンターが詰めかけるようになった。思わぬ好展開に、米業界は「水田の多面的な機能」を大々的に宣伝し始めた。自然保護の象徴でもあるサケの資源回復で“二匹目のどじょう”を狙う。 *17-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14406691.html (朝日新聞 2020年3月18日) 原発事故処理に再エネ財源 目的外使用、可能に 政府法案 政府は、再生可能エネルギーの普及などに使い道が限られているお金を、東京電力福島第一原発事故の処理費用にも使えるようにする。処理費用が想定よりさらに膨らむ恐れがあり、財源が逼迫(ひっぱく)することに備えるという。使ったお金は将来、返すとしているが、一時的でも原発政策の失敗を別の目的で集めたお金で穴埋めすることになる。原発のお金を今の仕組みでは賄えなくなってきている。政府は一般会計予算とは別に、エネルギーの関連予算を「エネルギー対策特別会計」(エネ特)で管理している。さらにエネ特の中で目的別に財布を分けていて、原発の立地対策など主に原子力政策に使う「電源開発促進勘定」(電促勘定、年3千億円ほど)、再生エネや省エネの普及、燃料の安定供給などに使う「エネルギー需給勘定」(エネ需勘定、年8千億円ほど)などがある。電促勘定の財源は、電気利用者の電力料金に上乗せされている電源開発促進税で、エネ需勘定は石油や石炭を輸入する事業者などから集める石油石炭税となっている。両税はいずれも、それぞれの勘定の目的にしか使えない特定財源だ。ところが、政府は今月3日、エネ需勘定から「原子力災害からの福島の復興及び再生に関する施策」に使う資金を、電促勘定に繰り入れられるようにするための改正特別会計法案を閣議決定し、国会に提出した。エネ特で勘定間の繰り入れを可能にする変更は初めてという。背景には、電促勘定の苦しい台所事情がある。同勘定の収入は例年大きく変わらない。ただ、東電が負担するはずの原発事故の処理費用について、2013年12月の閣議決定で一部を政府が負担することになり、14年度から汚染土などの廃棄物を保管する中間貯蔵の費用を電促勘定から毎年約350億円計上してきた。その処理費用は当初想定より膨らんでいる。経済産業省が16年末に公表した試算で、中間貯蔵事業は1・1兆円から1・6兆円になり、電促勘定からの支出は17年度から年約470億円に増えた。政府関係者によると、今後さらに増える可能性があり、財源が足りなくなりかねないという。政府は改正法案を今の国会で成立させ、来年4月の施行をめざす。法案では繰り入れた資金は将来、エネ需勘定に戻すことも定めているので問題ないとする。ただ、再エネ普及などのために集めたお金を一時的にでも、国民の間で賛否が割れる原発のために使えるようにする変更には反発も予想される。青山学院大学の三木義一・前学長(税法)は「特別会計は一般会計に比べ、国会で審議される機会が少なくチェックが利きにくい。今回の変更の内容は原発に関わるだけに重大で、異論を唱える国民もいるのではないか。適切な改正なのかどうか、政府は国民にわかりやすく説明する必要がある」と話す。 *17-3:https://www.agrinews.co.jp/p50288.html (日本農業新聞 2020年3月13日) 進むJA経営強化 グループ挙げ強み発揮 全国のJAで経営基盤強化に向けた動きが活発化している。店舗再編や経済事業の見直しなど、具体策に既に着手しているJAも多い。JAグループの強みは総合事業と全国ネットワークだ。単に人員や施設の合理化だけでしのぐのではなく、地域や組合員のニーズに応えた事業を広げることが重要だ。 金融機関を巡る環境は厳しい。農林中央金庫は2019年から信連やJAの預金に対する金利(奨励金)の引き下げを始めた。共済事業も苦戦しており、JA経営は難しさを増す。しかし、JAの対策は既に始まっている。1月にJA全中が全国6カ所で開いた「自己改革実践トップフォーラム」では、11JAが主に経営基盤強化に向けた実践内容を報告した。各JAでは、店舗再編や施設集約といった効率化戦略と、農業生産の拡大などにつながる経済事業をはじめとした成長戦略を併せて進めている。埼玉県のJAあさか野は、08年ごろから支店再編を検討し、昨年までに17店舗を9店舗にした。同時に相談機能を強化し、相談件数や貸出金を伸ばす。岩手県のJA新いわては、支所や施設の再編、園芸品目の生産・販売強化など13の具体策をまとめた。具体的な効果を金額で示し、事業利益の確保を目指す。農村では、過疎化や高齢化、労働力不足など多くの課題が出ている。情報通信技術(ICT)などを活用し、組合員の暮らしを総合的にサポートするといった新たな事業も構想したい。総合事業を手掛けるJAとして、事業間連携強化の工夫も考えられる。自動車事業と自動車共済、ローンを結び付け事業を安定させているJAもある。JAグループの強みのもう一つが、全国ネットワークだ。600のJAがあり、県域、全国域に連合会がある。連携した事業展開やノウハウの共有、専門性の発揮などができる。県域によって体制は異なるが、経営基盤強化でも、全中・中央会と農林中金・信連、全農・経済連が連携してJAを支援。財務分析や経済事業改革の提案などを進める。先に挙げたJA新いわては、全国連・県連が連携して支援し、具体的な計画を策定した。JAグループ全体の基本方針は4月にも決める。全中の中家徹会長は6日の記者会見で、経営基盤強化は経済事業の収支改善や店舗再編をはじめとする効率化が柱となると指摘。「JAが多様化している中で、現場実態に合わせた取り組みになる」として、JAごとの工夫を重視する。信用・共済事業に依存しがちだったJAの収益構造はこの機に見直す必要があるだろう。大事なのは事業を縮小するのではなく、総合事業を手掛ける協同組合として、いかに営農と地域を支えていくかという視点だ。組合員や住民のニーズに応えつつ、収益の上がる事業モデルを探っていく必要がある。 *17-4:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/591722/ (西日本新聞 2020/3/13) 日田彦山線不通地区でEV実験 日田市、住民の足確保へ利便性検証 大分県日田市は今秋、同市大鶴地区と夜明地区で新たな移動手段「次世代モビリティ」導入に向けた実証実験を行う。九州豪雨で被災したJR日田彦山線の不通区間の両地区は過疎化、高齢化が進んでおり、住民の足確保だけでなく復興の象徴にもしたい考え。市は、路線バスの充実していない市周辺部の新たな交通手段としてコスト面や環境面を考慮し、ゴルフ場を走るカートのような電気自動車(EV)の導入を検討。昨年3月には国土交通省も同市大山町で低速のEVを走らせる実験を実施したが渋滞が発生したため、市は交通量が比較的少ない両地区の市道で効果を調べることにした。EVの定員は運転手を含め7人で、時速20キロ未満。バスに比べ小型で小回りが利き、細い路地まで乗り入れられるため、住民の自宅そばまで送迎が可能。バス停まで歩くことが難しい高齢者の利用を想定している。実証実験は、JR今山駅を中間地点にした市道約7キロを中心に実施する。2台のEVを大鶴地区方面、夜明地区方面からそれぞれ発車し、運行する。運行方法は今後詰めるが、前日までの事前予約に基づき、ルートを決定し、乗車希望者の自宅近くまで送迎する予定。今山駅付近では国道を走る日田彦山線の代行バスとの乗り継ぎも試し、採算性や利便性を確認する。約1カ月実施し効果が認められれば、2021年度に両地区で本格導入する。認知度が高まれば、別の地域での導入も検討する。EVは窓がなく開放感があり、景色を楽しめるのが特徴。日田彦山線は、車窓からサクラや菜の花など季節の花々が楽しめたことから、ゆっくり走るEVでのどかな風景を楽しんでもらい復興も印象づける狙い。原田啓介市長は記者会見で「新しい切り口での観光につなげられないかと思っている」と期待を込めた。 *17-5:https://www.itmedia.co.jp/makoto/articles/1002/03/news010.html (2010.2.3) 電気自動車と馬車しか走れない――ある観光都市の交通政策 スイス・マッターホルン山麓にあるツェルマットは高級リゾート地として世界にその名を知られている。夏は登山、冬はウィンタースポーツを楽しむ人々でにぎわい、三角錐(さんかくすい)の頂を持つ名峰マッターホルンをはじめとした4000メートル級の山や氷河へ通じる山岳鉄道の基地でもある。最寄の都市ヴィスプからツェルマットまでは道路も通じているが、主要交通機関は鉄道だ。雪深い土地のため狭い渓谷を縫うようにして走る道路は不便であり、またエンジン自動車の多用は排気ガスによる大気汚染を引き起こしてしまう。特筆すべきはツェルマットの特異な「EV交通政策」だ。ツェルマット市街地は自治体の条例によりEV(電気自動車)しか走れない決まりになっており、市街地を走るのはEVと観光用の馬車のみ。最新技術のEVと前時代的な馬車が混在する光景は正直いって奇妙だが、環境と都市交通をテーマとしている筆者にとっては刺激的な組み合わせでもある。 ●EVが500台 EVの実用化に対する世界的な関心が盛り上がってきたのはここ数年なのに対し、ツェルマットがEV利用に取り組みだしたのは20年以上も前のこと。ツェルマット交通局のEV路線バス運行責任者ベアート氏もいつからEV交通政策が始まったのか正確には分からないそうだ。現在、ツェルマットを走るEVは計500台(EV路線バス6台)。にわかにEV利用を始めた都市とは歴史の長さが違う。ヴィスプからおよそ1時間ほどで列車は終点のツェルマットに到着する。タクシー、バス、配送用のクルマを含め、駅前に停まっているクルマはすべてEVだ。ただし、除雪車やブルドーザーなど、高いパワーを長時間要する作業用EVはまだ実用化されていないため、通常のエンジン車両が利用されている。住民がエンジン自動車を持つことは制限されていないが、市街地に乗り入れることはできないので市街地の端にある公共駐車場に停めなければならない。そこから自宅までは徒歩かEV路線バスを利用する。EVはタクシーや業務用に限られており、基本的に個人のEV所有はできない。さらに観光バスや観光客の自家用車の規制はもっと厳しく、ツェルマット市街地から数キロ離れた駐車場までしか乗り入れることができない。 ●EVは町工場製 さて、ツェルマットを走るEVには外観の共通点がある。シンプルな小型車が多く、平面と直線で構成されている車体はかなり角ばった印象だ。通常、大手メーカーが製造するエンジン自動車は曲線の組み合わせによって美しいボディーラインを作るので、それとは対照的なデザインである。そう言えば昔テレビで観たアニメ「サンダーバード」に登場するクルマが、ちょうどツェルマットを走るEVのような形をしていたように思う。「レトロなSFに出てくるクルマ」とでも表現できそうな前衛的デザインである。ツェルマットのEVがこのような形となるのには理由がある。地元の町工場が手作業で製造しているため、複雑な形状の車体を作るのが困難なのだ。作ろうと思えば作れないことはないはずだが、そうするとただでさえ高い価格(1台300万円程度)がさらに高くなってしまう。(そういったわけで「前衛的」という印象は筆者の勝手な思い込みである)。EVを製造する町工場は3つほどあるそうだ。シャシーは専門メーカーの製品を取り寄せ、モーターやバッテリー、制御装置、運転装置も市販の製品を利用する。早い話が組み立て工場であり、数人の従業員がいれば事業として成り立つ。もちろん、それぞれの町工場がノウハウを持っており、特に制御システムに独自の技術が必要という。これまでの自動車は何万人という従業員を抱えた巨大工場で製造されるものだったが、小さな町工場でも作れてしまうのがEVだ。自動車コンツェルンにとっては都合の悪い話かもしれないが、EV製造は地場産業として育成できる可能性がある。もちろん大手メーカーがEVの大量生産を始めれば小さな町工場の存続は脅かされるが、今のところ競合相手はいない。ツェルマットの厳しい自然条件が地元の町工場の味方をしているのだ。ツェルマットは標高1600メートルの高地にあり、冬の寒さが厳しく雪も多い。これだけ過酷な条件に耐え得るEVを製造できるメーカーはまだ存在しない。 ●鉛蓄電池が最適 寒冷地におけるEV利用の最大のネックはバッテリーだ。EV用バッテリーの主流となっているリチウム電池は、低温では出力が低下し凍結にも弱く、しかも価格が高い。そのためツェルマットのEVは、あえて昔ながらの鉛蓄電池を使っている。市街地とその周辺を走るEV路線バスも同様で、車体後部に巨大なバッテリーを搭載し、充電は最寄のバスステーションで行う。路線の長さは数キロ程度と短いが坂の多い土地のため電力消費が多く、夜間の充電だけで1日走ることはできない。観光のメインシーズンには運行回数が多くなるため、場合によってはバスステーションでバッテリーごと交換してしまう。交換作業に要する時間は運転手一人ならば5分程度、補助がいれば2分程度で済む。ツェルマットは「(エンジン)自動車のない山岳リゾート地」を掲げ、それを売りにしているわけだが、中にはEVを見て「聞いていた話と違う。クルマが走っているではないか?」と戸惑う観光客もいるそうだ。「EVも含めたクルマが一切ない」と誤解されてのことである。ツェルマットが徹底したEV交通政策を進める理由を交通局ベアート氏は次のように語っている。「観光のためです。きれいな空気を求めてツェルマットを訪れる観光客の期待を裏切りたくはありませんから」。この点はすべての観光客の期待を裏切らないはずだ。ツェルマットにEVがうまく「はまった」のは特殊条件があったからこそであり、すべての国と地域に当てはまるものではない。しかしながら、例えば離島の観光地などでも同様の手法をとれるかもしれない。やる気と工夫さえあればいろいろな応用が期待できる事例である。 *17-6:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200319&ng=DGKKZO56938890Y0A310C2EA1000 (日経新聞社説 2020.3.19) 日産見えぬ「ゴーン」後(3)「隠れケイレツ」も岐路 3月初め、日産自動車と取引する部品会社の幹部数名が日産本社の会議室で社長の内田誠を囲んだ。各社の幹部らは内田に対し、「部品会社とのコミュニケーションがうまくとれていない」などと詰め寄った。日産元会長のカルロス・ゴーンは1999年に「リバイバルプラン」を掲げ、部品の調達費削減を進めた。一部の取引先は厳しい値引きに応じ、後の日産車の販売拡大の恩恵も受けた。しかし、今では肝心の新車販売が低迷し、部品会社の経営は厳しさを増す。内田は「調達を含め、今までのやり方を変えていきたい」とその場を収めた。ゴーン時代、日産と取引が多い系列部品会社は資本提携の解消や淘汰に見舞われたが、日産への依存度が高い「隠れケイレツ」はいまだ多い。彼らが気をもむのは一段の値引きと、ゴーンが新興国などで進めた過剰な生産体制の整理の行方だ。かつて日産との資本提携を解消した足回り部品のヨロズ。なお売上高の7割が日産グループ向けの隠れケイレツの一社だ。「日産の稼働の延期が決まりました」。2月9日夕、ヨロズの常務執行役員、春田力は中国・広東省広州市の駐在員から電話を受けた。新型コロナウイルスで止まっていた広州工場では翌10日の稼働に向け、従業員を迎え入れる準備の最中だった。広州でつくる部品の6割以上を納める日産が延期を決めたことで、ヨロズも歩調を合わせるしかなかった。後日、広州は再稼働したが、日産頼みの構造が改めて浮き彫りになった。日産向けが多いある部品会社の幹部は「日産への依存を減らすべきだとは思うが簡単じゃない」と話す。脳裏をよぎるのは米ゼネラル・モーターズ(GM)の新規受注を逃し、昨年に私的整理の事業再生ADR(裁判以外の紛争解決)を申請した曙ブレーキ工業だ。日産、トヨタ自動車とも取引し、GM向けの売上高比率は3割近くでそこまで高くなかった。取引先を分散する独立系でさえ厳しい。それなら日産にどうしがみつくかを考えた方が現実的とみる。「内田なら直言しやすい」との雰囲気が漂うが、安易な協調路線は双方に必要な改革の妨げになる可能性もある。自動運転など「CASE」時代に向け、日立製作所系とホンダ系の部品会社が統合を決めるなど業界は揺れている。良くも悪くも部品会社を巻き込んで改革を進めたゴーンはいない。部品会社もまた岐路に立っている。 *17-7:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200319&ng=DGKKZO56952070Y0A310C2EA1000 (日経新聞社説 2020.3.19) 地価の先行きを注視したい 緩やかな上昇を続けてきた地価の先行きに不透明感が強まっている。新型コロナウイルスの感染拡大で地価を支えてきた訪日客需要が急減しており、不動産マネーの動向も気がかりだ。国土交通省が18日まとめた公示地価は、調査時点が新型コロナが広がる前の1月1日とあって全国平均は5年連続で上昇した。上昇地点が地方中小都市に広がり、地方圏はバブル崩壊後の1992年以来、28年ぶりに上昇に転じた。県庁所在都市などでは、高齢化で郊外の戸建てを手放し、再開発で利便性が高まった中心部のマンションに移り住む動きが広がる。これに訪日客向けのホテル需要も重なって地価を押し上げた。地価に災害リスクが反映されるケースも目立ってきた。こうした情報を、災害に強い安全な街づくりに生かしたい。一方、三大都市圏の地価は頭打ち傾向だ。上昇率をみると東京圏はわずかに伸びたが、名古屋圏は鈍った。不動産マネーは収益性を求めて投資対象を選別する動きを強めている。地価上昇は金融緩和による低金利が支えてきた。オフィスビルなどに投資した利回りから長期金利を差し引いた利回りで、東京はロンドンやニューヨークより有利とされ、資金が流入してきた。こうした環境に金融市場の混乱がどう影響するか見極めたい。すでに不動産投資信託(REIT)は訪日客の急減でホテルなどの収益が見通せず、指数が急落した。株価の下落は富裕層の不動産投資を慎重にさせ、不動産価格に波及する可能性がある。日銀は追加緩和策でREITの購入目標を年1800億円に倍増した。今後も市場動向には十分に目配りしてほしい。都市部でオフィス需要を支える企業の人材確保意欲は根強い。ただ、テレワークの広がりはオフィス需要にも変化をもたらす可能性がある。東京五輪の行方も都心の再開発に影響する。地価の先行きを注視したい。 <ニーズに合ったサービスを迅速に行うべき> PS(2020年3月20日追加):*18-1のように、日経新聞が「①厚労省が新型コロナ感染者だけを受け入れる病院や病棟の設置を検討するよう各都道府県に通知する」「②これは感染が急拡大した時に診療を効率化し、他の患者への院内感染を防ぐ狙い」「③感染者を診療しない病院も設定して診療する医療機関を明確化」「④厚労省の推計では感染防止策を全く行わない最悪のケースで、東京都ではピーク時に入院が必要な患者が2万人、重症者が700人発生する」等としている。しかし、①②は既に治療薬が出始めており、新型コロナ感染者だけを受診する病院を作れば診療も不効率になるだろう。もちろん、②の院内感染防止は重要で小さな診療所への感染症患者の受診も制限が必要だろうが、それには基幹病院が感染症患者専用の入り口や入院病棟(もしくは階)を作ればすむことだ。イタリアは社会保障をカットしすぎたため、医療破綻が起きて死亡率も高くなっているが、日本は普段から栄養をとって健康意識も高くしているため、(欧米は生物兵器も視野に入れて防御しているようだが)ウイルスを使って意図的に健康弱者を攻撃しない限り、④のような蔓延はないと思われる。 そのため、*18-2のように、地域医療の中核として命や健康を支えている公的病院を効率化の論理だけで再編する方が問題で、普段から余裕のあることが感染症患者専用の入り口や入院病棟(もしくは階)を作るために必要なのだ。なお、感染症は、コレラ・結核・はしか・水疱瘡・インフルエンザなど医師にとっては基本的疾患であるため、国家試験を通った医師なら必要なことはわかっている筈であり、厚労省の方がどこか変である。 なお、*18-3の介護保険についても、厚労省は負担増・給付減に余念がないが、日頃の負担ばかり重くていざという時に役立たないようではしようがない。私は、高齢者は1階やエレベーターの近くに優先的に住まわせた方がよいと思うが、自宅療養するのに生活介助は欠かせない。さらに、今回の新型コロナ感染者も「軽症の人は自宅療養」としているが、自宅療養中は全く自宅を出なくてよいという人は、自宅では何もしなくても食事が出てくる人であり、それは多くの人にとって不可能なことで、自宅療養するには介護者が必要な筈なのである。 2020.3.18、2020.3.19東京新聞より (図の説明:65歳以上を特に介護が必要な高齢者とするのは実態に合っておらず、何歳であっても介護が必要な人はいるし、90歳で元気な人もいる。しかし、左図のように、介護保険は年齢で制度をわけており、特に65歳以上の負担が大きいという変な制度になってしまった。中央の図は、介護が必要になった時の初期費用と月々の費用のイメージで、費用がかさむことは間違いない。なお、介護の社会的負担は、右図のように、施設に入った場合の方が大きく、在宅の方が小さくなっているが、本来は同じ障害でも在宅の方が生活が変わらず快適なかわりに、訪問介護になる分だけ手間がかかって高いのが当たり前なので、誰のための介護かわからなくなっている) *18-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200320&ng=DGKKZO57042550Z10C20A3CC1000 (日経新聞 2020.3.20) 新型コロナ専門病院設置 検討を 厚労省、自治体へ通知 厚生労働省は19日、入院が必要な新型コロナウイルスの感染者だけを受け入れる病院や病棟の設置を検討するよう、各都道府県に通知すると発表した。今後、感染が急激に拡大したときに診療を効率化するとともに、ほかの患者への院内感染を防ぐ狙いがある。感染者を診療しない病院も設定するなど各医療機関の役割を明確にする。厚労省の患者推計によれば、感染防止策を全く行わない最悪のケースの場合、東京都ではピーク時に入院が必要な患者が2万人、重症者が700人発生する。厚労省はこの状況に対応できる病床数や、重症者向けの人工呼吸器などの整備を求めている。今回の通知で整備すべき医療体制をより具体化した。厚労省は各都道府県に対し、新型コロナの患者だけを受け入れる病院の検討を求める。感染症の治療経験が豊富な医師や看護師を集約するなどして効率化を図る。さらに重篤患者向けの人工肺も扱える病院などを、外来も行わずに入院に特化した病院として指定する。医療機関ごとの受け入れ調整を担う組織を都道府県ごとに設置するほか、各地方ごとに広域調整本部もつくり、都道府県内で受け入れきれなくなった患者を周辺に搬送する。持病がある人や妊産婦など感染すると重症化する恐れがある人が安心して受診できるよう、新型ウイルスの患者を診療しない病院の指定も求める。 *18-2:https://www.agrinews.co.jp/p49069.html (日本農業新聞 2019年10月25日) 公的病院の再編 実態即し丁寧な議論を 地域医療の中核的存在である公立・公的病院は、命や健康を支える最重要のインフラだ。住民が置き去りの拙速で乱暴な再編統合論議は許されない。厚生労働省は、全国の公立病院と赤十字や済生会といった公的病院のうち、再編統合の議論が必要と位置付けた424医療機関の実名を公表。全国に105あるJA厚生連病院も3割に当たる31病院が対象となった。同省が、救急やがん、脳卒中などで診療実績が少なく、近隣に当該病院の機能を代替できる病院があることなどを勘案して公表した。424医療機関の内訳は公立が257、公的が167。見直しの権限は自治体側にあり、強制力はない。再編の手法も統廃合に限定しない。病床数の削減や機能の集約化なども含め、地域の実情を踏まえて検討することになる。だが、来年9月までに具体的な結論を出すこととなっており、残された時間は少ない。このため、農村部からは「身近な病院がなくなる」「地域の事情を考えていない」など不安や不満を訴える声が上がっている。北海道帯広市で開かれた日本農村医学会学術総会でも、厚生連病院関係者から今回の公表や議論の在り方に疑問を投げ掛ける意見が出された。ある関係者は、調査が2017年6月の診療実績に基づき行われたことについて「6月は農繁期で農村部なら患者が減る時期。恣意(しい)的と感じる」と指摘する。その上で、各病院は医師不足に悩んでいるとして、「病院名の公表でさらに医師確保が困難になるのでは」と懸念する。全国知事会でも「リスト返上」を求める意見が出た。全国市長会からも批判が相次いでいる。JA全厚連は、「議論は必要」としながら「一部データを基準に再編・統合ありきにしてはいけない」とくぎを刺し、地域住民の意見に耳を傾けた丁寧な議論を求める。今回の公表の背景には、医療費を抑制したい国の考えがあるとみられる。17年度の国民医療費は43兆710億円だったが、団塊世代が75歳以上となる25年には56兆円にまで増えるとの見込みもあるためだ。とはいえ、17年6月という一時期の単純なデータで機械的に評価し、再編を促す議論の進め方は乱暴過ぎる。公立・公的病院は地方で医療を提供する重要な役割を担ってきた。特に民間病院が少ない離島などで、病院がなくなったり、機能が一部失われたりした場合、そこに住み続けられなくなる恐れもある。国はこれまでも、医療費が膨らむ要因として病床数の削減を促してきた。だが、病床数が議論の根底なのか。医師不足の問題はどう考えるのか。命と健康に関わる問題だけに効率化だけで議論すべきではない。公立・公的病院なくして地方創生は成り立たない。地域医療を担っている現実をもっと認識し、住民本位の医療供給体制について議論すべきだ。 *18-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/202003/CK2020031802000178.html (東京新聞 2020年3月18日) <支え合う 介護保険20年>(1)給付外し 負担増し減るサービス 介護保険が始まり、四月で二十年。社会で介護を支えることを目指して始まった制度は生活に定着し、欠かせないものになった。だが、高齢化の進展に伴い、費用も急増。そのひずみも表れている。安心して暮らし続けるために「支え合う」仕組みの今と、これからを考える。(介護保険取材班)。しょうゆの入った一リットルのペットボトルは、ずっしりと重い。持病で腰や膝を曲げられず、シンクの縁に手をかけ、ゆっくりと下の棚に収める。東海地方に住む女性(83)は週一回、ヘルパーが買ってきてくれた食品を棚や冷蔵庫に収める。以前はヘルパーが収納してくれたが、昨年十月から業者が代わり、サービス時間が十五分少ない四十五分に。収納まで行う余裕がなくなった。「脚が痛く、冷蔵庫に入れるだけでも大変」。エレベーターのない市営住宅の三階に一人暮らし。背骨の病気を患い、長時間は歩けない。畳のへりにもつまずく。腰や膝が痛くて曲げられず、床に落ちたものを取るのも難しい。若いころに夫を亡くし、二人の子を育て上げた。だが、近隣に住む娘は仕事が忙しく、あまり頼れない。五年ほど前から介護保険を使い、ヘルパーに買い物と部屋の掃除を依頼。週二回の訪問が女性の生活を支えてきた。生活にどれだけ介助が必要かを示す要介護度では要支援2。七段階のうち軽い方から二番目だが、「ヘルパーが頼り」という。事業者が代わった原因は、二〇一五年度の制度改正。要支援の人への在宅サービスの中で、女性も受ける生活援助など介護予防の「訪問介護」と、「通所介護(デイサービス)」が保険の給付対象から外され、市区町村の事業になった。給付対象だと、事業所の基準や報酬などを国が決め、全国一律だ。だが、市区町村事業では、自治体が事業費の範囲で決める。女性の市では改正後も経過措置で保険給付時と同じ水準の報酬を支払っていたが、昨年九月末で終了。ヘルパー資格がない人もサービスができるようになり、報酬も八割に引き下げた。これに伴い、四十七事業所のうち八事業所が撤退した。女性が昨年まで依頼していた事業者もその一つ。ヘルパーに八月、突然「十月から来られない」と言われ、途方に暮れた。スーパーに行くにも手押し車を三階から一人で下ろすのは難しい。週一度の通院にはタクシーを使うが、月六千円はかかる。収入は一カ月八万五千円の年金だけ。「これ以上タクシー代がかさめば生活できない」。夜も眠れず、泣いた。利用計画を作るケアマネジャーが奔走し、別の事業所が見つかったのは九月中旬だった。減った十五分は大きかった。以前はヘルパーと会話する時間もあり、話し相手がいない女性には貴重だった。一方、保険料は年金から天引きされるなどし、毎月二千円以上の利用料もかかる。「保険料も利用料も払っているのにサービスが減るなんて」。低所得者向けの減免措置は受けているが、負担感は増している。市の担当者は「今後団塊の世代が七十五歳を超え、訪問介護を利用する人が増える。ヘルパーの確保も難しく、経過措置から切り替えた」。民間が国の補助で行った一八年度の調査では、保険給付時の基準が緩和され、報酬などが下がったサービスについて調査に応じた全国千六百八十六市町村の六割が「実施主体や担い手がいない」と答えた。別の市で生活援助を提供する事業者は嘆く。「利用者が多いほど赤字。事業者がいなくなれば、『保険あってサービスなし』になりかねない」 ◆相次ぐ改正 揺らぐ理念 高齢化の進行で、介護保険の要介護認定者数や総費用、保険料は制度の始まった二〇〇〇年度から右肩上がりに伸び続けている。国は制度の維持に向け、給付の削減と、合理化を進めてきた。その結果、制度開始前に掲げられた「必要なサービスを自由に選べる」「家族の負担を軽減」などの理念は大きく揺らいでいる。厚生労働省によると、要介護認定者は制度開始時の二百十八万人から一九年四月は六百五十九万人に。総費用は三兆六千億円から膨らみ続け、二〇年度当初予算案で十二兆円を超えた。六十五歳以上の保険料の全国平均は改定のたびに上がり、第七期(一八~二〇年度)は月額五千八百六十九円と一期の二倍超に。団塊ジュニアが六十五歳以上になる四〇年度には九千二百円に達する試算もある。標的になったのが、在宅で掃除や調理、洗濯などの家事を行う生活援助だ。一九九六年に制度創設を答申した老人保健福祉審議会は、要支援の人への生活援助について「寝たきりの予防や自立支援につながる形でサービス提供を給付の対象にすべきだ」と明記。だが、開始後は審議会などで「ヘルパーを家政婦代わりに使っている」「家事代行型のサービスは高齢者の能力を奪う」などと批判され、時間や介護報酬が削減されてきた=年表。一五年度には要支援の人の生活援助を含む訪問介護とデイサービスを保険給付から外し市区町村の事業に移した。介護保険は保険給付により全国一律で同じ水準のサービスを受けられるようにしたはずだった。だが、自治体の財政力による地域格差が生まれている。ヘルパー不足に加え、報酬単価が切り下げられ、「採算が取れない」と事業者が相次いで撤退。同居家族がいる場合には、生活援助を認めない自治体もある。一八年には月に一定回数以上の生活援助を組み込む場合はケアマネジャーに市区町村への事前の届け出を義務付け、事実上の抑制策に。今年の法改正では要介護1と2の人への生活援助を給付から外す案が出た。「在宅介護を続けられない人が続出する」などと批判が噴出し、受け皿の住民ボランティアなどの態勢が整わず見送られたが、介護関係者は危機感を募らせる。一方、施設サービスでも〇五年から居住費や食費は自己負担に。特別養護老人ホームの入所は一五年四月から原則要介護3以上に制限された。制度開始前、当時の厚生省は「家族の負担軽減」「サービスを自由に選べる」などとアピール。だが、今も年間十万人の介護離職者がおり、介護者による殺人や虐待も続いている。 ◆介護保険の給付抑制の動き 2000年 介護保険制度スタート 厚生省(当時)が「生活援助の不適切事例」として家族の調理、洗濯、 買い物などを例示 2005年 施設の居住費・食費を自己負担に 2006年 要支援の人の訪問介護は時間単位の従量制から、月単位の定額制に 2012年 生活援助で、1回当たりの提供時間を15分減らして45分(20分~45分 未満と45分以上)を基本とし、介護報酬を引き下げ 2015年 要支援の人への訪問介護とデイサービスが給付対象から外れる ▽特養への入居は原則要介護3以上に ▽「一定以上の所得」がある人の利用料は2割に 2018年 「特に所得の高い層」の利用料を3割に <介護保険制度> 介護が必要と認定された高齢者らに介護サービスを提供する公的保険。市区町村が保険者で、保険料は65歳以上の高齢者は原則年金から天引き、40~64歳は健康保険料と一緒に徴収される。要支援1から要介護5まで(7段階)の認定を受けると、要介護度に応じて使えるサービスの限度額が決まる。利用料は所得に応じ、費用の1~3割。残りが保険から給付され、財源は税金が50%(国25%、都道府県と市区町村が12・5%ずつ)、保険料50%。 <政策が的外れで遅い理由は何か?> PS(2020年3月22、23、25、26日):*19-1のように、介護は担い手不足で廃業や休床の事業所が出ているそうだが、サービスの需要があるのに取りこぼしている工夫のなさは、介護の100%を国の制度に依存しているからかもしれない。そのため、自由診療ならぬ自由介護を同時に行えば、経営に工夫の余地が大きくなると思うが、慢性的なヘルパー不足であるのに、介護士になろうとして来てくれた外国人を日本人介護士の賃金が下がらないように、日本語能力の不十分性を建前として国が追い返しているのはどうしようもない。しかし、介護制度は、介護サービスを行う人に高い賃金を払うために行っているのではなく、介護を受ける人に不便がないように行っているものであるため、この本末転倒の考え方が何をやっても失敗に終わらせているのである。 さらに、日本には使っていない資源が多く、木材もその一つで、国有林の木材は国の資産・自治体林の木材は自治体の資産であるため、*19-2のように、国産材の利活用を進めれば、それぞれの税外収入になるにもかかわらず、これも人手が足りない等と言って利用しない。建材はもちろん、買い物袋も減プラして強い紙を使用することはでき、そうすれば税外収入・環境・原料の自給率向上など、あらゆる面でプラスになるのに、である。 そして、*19-3のように、新型コロナの治療に、インフルエンザ薬「アビガン」とエボラ出血熱薬「レムデシビル」が有望視されており、アビガンは2014年3月に製造販売承認を取得して備蓄もあるのに使わず、「レムデシビル」「ギリアド」は他国では4月にも臨床試験(治験)の結果が出るのに、日本では数カ月先しか使わず、*19-4のように、30兆円規模の緊急経済対策を行って赤字国債を検討しているのだそうで、これでは、いくら国民に現金を配っても老後の心配が大きいため老後のための貯蓄にいそしむしかない。つまり、ポイントを外したことばかり行いながら、(選挙のためか)大きな無駄遣いをしているのである。 また、*19-6のように、日本の製薬会社「富士フイルム富山化学」が開発し、国内では未だ臨床試験中のインフルエンザ薬「アビガン」が、軽症者に限れば投与後7日以内に新型コロナ肺炎患者の回復率7割超で治療に有効だとする研究成果を中国の武漢大等のチームが23日までにまとめ、中国は既にアビガンを政府の診療方針に採用すると表明したそうだ。「新型コロナには経済対策より治療薬」と言われており、相変わらずの日本のとろさにはがっかりする。 このような中、*19-5のように、北九州市や地元企業等が出資する電力小売業「北九州パワー」などが、国のFITを終了した家庭用太陽光発電(出力10キロワット未満)の余剰電力を九電の買取価格(7円)よりも高い価格(7.5円)で買い取って公共施設に供給し、エネルギーの地産地消を目指すそうだ。太陽光も地域資源であり、クリーンエネルギーでもあるため、これによって地域を豊かにしながら次に進むのはよいと考える。 しかし、日経新聞が、*19-7のように、「①大阪医科大元講師の男性医師が無許可施設で人の脂肪幹細胞を培養して40代女性に国に無届けで投与し再生医療を行った」「②再生医療安全性確保法違反の罪で略式起訴され、罰金30万円の略式命令を受けた」「③その背景には研究資金のメドが立たずに成果を焦ったことがある」「④日本再生医療学会は『認定医』の資格を持つ大阪医科大の元講師を除名する方針」「⑤再生医療安全性確保法が14年に施行され、医療機関に対し専門家による委員会の審査を経た再生医療の提供計画を国に提出するよう規定して、計画に基づかずに医療行為を実施した医師には懲役や罰金を科すと定めている」としている。再生医療は、これまでは治療できなかった病気やけがから回復させることを期待できる治療法で、例えば、*19-8の首の骨が曲がる大けがをして重い身体障害者となった木村参院議員のような脊髄損傷も治すことができると考えられる。私は、脊椎・脊髄の専門家である夫の学会に随行した時に、南米の大先生が「脂肪幹細胞を使って脊髄損傷を既に治療した」と話しているのを聞いたことがあり、日本では再生医療と言えばiPS細胞しか認めていないのがむしろおかしいと思っている。また、対象が「アンチエイジング」だったとしても、治験しなければ効果はわからないため、研究するにあたっては、⑤のような競争相手になる専門家の審査を要するようにしたことが問題で、④の対応もおかしいだろう。つまり、治療法の確立には、幅広いアイデアを取り入れた治験を速やかに行い、最善の結果を迅速に出せるよう、資金を投入すべきなのである。 一方、中国は、*19-9のように、科学で世界一になることを目指し、この20年間、外国で活躍した研究者を呼び戻し、多額の資金を投じて高給で迎え、そこに若い優秀な中国人学生が集まって在学中に1~2年の欧米留学をして共同研究し、欧米で学位を取得する体制も確立しており、中国のトップレベルの学生は意欲と自信に満ちて貪欲に研究するそうだ。その理由は、中国政治家のトップがほぼ理科系出身で占められ、科学・技術の発展を通じて中国を世界一の大国にするという意思が共有されているからだそうで、中国はその歴史からか、確かに普通の人まで「世界一になる」という意識を持っている国である。そして、研究投資は、既に成功した人だけではなく可能性を秘めた者に広く厚く行っているところが日本とは逆であり、これが質の高い技術の醸成を通じてGDPの成長に繋がるのは間違いない。 なお、私は1992年に中国に進出した日本企業のコンサルティングで深圳に行ったことがあるためよく知っているのだが、1990年代の中国は、*19-9のように、まだ衛生状態を疑う店やホテルが多く、従業員も不愛想で官僚的だった。これは共産主義経済の名残であり、共産主義経済でそうなる理由は、客(需要・消費者)あっての営業という認識がなく、労働自体に価値があると考えすぎて労働者が官僚のようになり、報酬と努力に相関関係がないため努力と工夫の動機づけに欠けるからである。その反省が、1980年代に鄧小平政権が改革開放路線として始めた社会主義市場経済体制の採用で、当時の日本は、大国が共産主義経済体制をとって市場に参入していなかった千載一遇の幸運のおかげで経済発展し、アドバイスする立場にあったのだ。 しかし、その後の油断と努力不足によってその優位性を維持することはできず、*19-10のように、今では「全日本造船構想(オールジャパン造船)」などという国内では競争のない造船会社を作ろうとしているが、このような官主導の大規模化が産業や経営を弱めることは、共産主義経済下の企業を見ればわかることだ。具体的には、日本の造船業は、大規模な船舶を作るためだけにあるのでも他国の造船会社と規模による競争で一瞬勝つためだけにあるのでもなく、本当に便利で快適な船を作って競争力で勝ち、自然とシェアを上げることが必要なのだ。そして、「本当に便利で快適な船」は目的によって異なり、漁船・採掘船・病院船・運搬船・観光船等々の種類によって必要な最新装備は違うのであって、これらの多様な要請に応えるためには多様な主体が存在することが必要なのである。しかし、今後、エネルギーの変換・魚群探知・自動運転・衛生等の技術は必要な装備になるため、産業を超えた互いの技術供与が役立つだろう。 2018.1.25、2018.10.14産経新聞 (図の説明:1番左の図のように、科学技術に関する論文数は、中国と米国は40万件台だが、日本は10万件にも満たず、6位になっている。また、左から2番目の図のように、労働力不足による倒産も増えた。しかし、右から2番目の図のように、外国人労働者の雇用には未だ厳しい制限があり、物価だけが上がった結果、1番右の図のように、日本の購買力平価に基づくGDPはインドより低い4位になってしまった) *19-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/202003/CK2020032002000189.html (日本農業新聞 2020年3月20日) <支え合う 介護保険20年>(3)担い手不足 廃業、休床の事業所も 「本当に心苦しいのですが、経営は限界でした」。社会福祉法人「宮城厚生福祉会」(仙台市)法人事務局長の大内誠さん(39)は言葉を絞り出した。同法人は昨年十月、同市宮城野区で十五年間運営してきた訪問介護事業所を閉じた。きっかけは土日の訪問介護を引き受けていた七十二歳の女性ヘルパーからの「もう体力的に無理」との申し出だった。当時、事業所は約四十人の利用者がおり、ヘルパー七、八人で対応。ヘルパーの平均年齢は六十歳を超え、入浴介助などの身体介護は体力的に厳しくなっていた。女性の退職で勤務が回らなくなり、閉鎖を決断。利用者は近隣の複数の事業所に懇願して引き継いでもらった。「受けてもいいけどヘルパーをよこして、と言われた」。同じころ、隣接する宮城県多賀城市の社会福祉協議会が、一九九七年から運営する訪問介護事業所を年度内で閉じると利用者に通知。社協は地域福祉を担う公的性格の強い民間団体で、「まさか」と地元の福祉関係者に衝撃が走った。同社協事務局長の菅野昌彦さん(62)は「ヘルパーが集まらず、年間赤字が約一千万円に達したため」と話す。東海地方のある市の社協も昨年四月、訪問入浴サービスを廃止。ヘルパー数人と看護師一人がチームで行っていたが、利用者が少なかったことに加え、必要な人数のヘルパーも集まらなかった。担当者は「人手がかかり、収支が合わなくなった」と話す。東京商工リサーチによると、二〇一九年の介護サービス事業者の倒産件数(負債額一千万円以上)は百十一件で、過去最多の一七年に並ぶ。このうち、訪問介護事業者が半数以上の五十八件を占めた。担当者によると、事業所間でヘルパーの奪い合いが起きており、募集をかけても集まらなかったり、給料を上げて赤字になったりして倒産に追い込まれるケースが多い。慢性的なヘルパー不足は、介護保険のサービスを根底から崩し始めている。在宅だけでなく、施設サービスも深刻だ。宮城厚生福祉会が一六年四月に多賀城市に新設した小規模特別養護老人ホーム「風の音サテライト史(ふみ)」は、介護職不足のため定員の二十九人に対応できず、開設以来、十九人の入所に制限。約十人の介護職が二つのユニットを回すのにぎりぎりの体制で、施設長も日常的に夜勤に入る。残り一ユニットは真新しいまま一度も使われていない。同会によると、職員を確保できない懸念は当初からあった。だが、同市内には特養が少なく、行政側の強い要請もあり開所。県内の高校や東北六県の介護福祉士養成校を訪問して奨学金制度や就職祝い金をアピールするなどして募ったが、効果は薄かったという。特養に入りたくても入れない待機者は同市と近隣一市三町で約百五十人。既に四、五年待っている人もいるといい、「入りたい人がいるのになぜ、閉めているのか」という声も。厚生労働省によると、全国の待機者は、昨年四月一日時点で約三十二万六千人に上る。一方、独立行政法人「福祉医療機構」(東京)が昨年、全国の特養に実施した介護人材に関する調査で、八百五十三施設(回答率24%)の73%が「不足」と回答。13%が利用者の受け入れを制限していた。人材確保が難しい理由で最も多かったのが「近隣施設との競合」で六割に上った。 介護問題に詳しい淑徳大の結城康博教授(社会福祉学)は「このまま人材不足が進めば、地域の介護が崩壊する」と危惧する。 ◇ 記事への感想や介護にまつわる体験談をお寄せください。住所、氏名、年齢、電話番号を書き、下のあて先へ。ファクス、Eメールでも可。 〒100 8525 東京新聞生活部 ファクス03(3595)6931、seikatut@tokyo-np.co.jp *19-2:https://www.agrinews.co.jp/p50357.html (日本農業新聞 2020年3月22日) 民間で「木造」広がる 7階建てビル、コンビニ 建築物に国産材を利用 需要確保へ推進継続 林野庁 林野庁は、民間建築物への木材利用促進を目指す懇親会「ウッド・チェンジ・ネットワーク」の会員企業の進捗(しんちょく)状況を取りまとめた。国産材を積極的に使う動きが広がり、純木造高層ビルの建築計画も動きだしている。利用期を迎えた国内の人工林の需要確保に向けて、公共建築物だけでなく民間建築物も取り込むため、引き続き働き掛ける方針だ。政府は、林業の成長産業化を目指し、2017年に約3000万立方メートルだった国産材の供給・利用量を25年までに4000万立方メートルに伸ばすことを目標に掲げる。都市部の建築物に国産材を積極利用する「木質化」を成長産業化の柱の一つに据えており、木材の需要拡大へ民間も取り込みたい考えだ。そのため19年に同ネットワークを設立した。現在は、31の企業・団体が参加しており、3月中旬に開いた会合で、各企業が進捗を報告した。木造建築のシェルター(山形市)は、木質耐火部材を開発。中高層ビルへの利用が可能となったことを受け、21年春、純木造7階建てビルを仙台市のJR仙台駅東口エリアに竣工(しゅんこう)する予定だ。主要構造部には主に東北の杉材を使用する。同社は「製材での高層ビル建設で、新たな木材利用の提案ができる」と展望する。住宅建材のナイス(横浜市)は、地域産材を使った建材が流通しやすくなるよう、木材を規格化した。今後、地域の木材販売業者や施工業者を通じ、脱プラ・木質化を提案していく方針だ。コンビニエンスストア大手のセブン―イレブン・ジャパン(東京都千代田区)は環境配慮の観点から、木造店舗を複数展開する計画を立てている。実用化に向けて、コストや工期の効率化などを検討する。同ネットワークに参加する森林研究・整備機構森林総合研究所の原田寿郎氏は「どれだけ木材を使えば地域に還元できるかという観点が必要」と指摘する。同庁は、民間建築物の木造化を加速させるには「さらに施主に働き掛ける必要がある」(木材利用課)とし、同ネットワークを通じて導入実績を増やしたい考えだ。 *19-3:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56948630Y0A310C2MM8000/?n_cid=NMAIL006_20200318_Y (日経新聞 2020/3/18) コロナ治療薬 米社製、4月にも治験結果 新型コロナウイルスの治療に既存の抗ウイルス薬が有望だとわかり、早期に使える可能性が出てきた。インフルエンザ薬「アビガン」とエボラ出血熱薬「レムデシビル」が特に有望視されている。レムデシビルは4月にも臨床試験(治験)の結果が出る見通しだ。実用化できれば世界規模の死者増加を抑え、経済への打撃を緩和することにもつながる。アビガンは国内では2014年3月にインフルエンザ薬として製造販売承認を取得し、16年に中国製薬会社の浙江海正薬業(浙江省)にライセンスを供与していた。浙江海正薬業は2月に中国当局から生産認可を得ており、量産を本格化する。日本でも医師の判断によって新型コロナの患者に投与されている。政府はアビガンを200万人分備蓄しており、富士フイルム側は「政府から増産を検討するように要請を受けている」と説明する。実際の増産には原材料の確保などの課題もありそうだ。エボラ出血熱の治療用に開発されていた米ギリアド・サイエンシズのレムデシビルは各国で未承認だが、中国で新型コロナの患者に投与したところ効果が確認され、同社は日米中などでの治験を始めた。1千人程度の患者で効果を見ている。ギリアドは「まず中国で4月にも結果が出る」と説明。厚生労働省が緊急措置として審査を急ぎ、条件付きの仮承認を出すなどすれば、日本でも数カ月のうちに医療現場で使えるようになる可能性がある。商業生産されている薬ではないため、大量供給するには新たに製造体制を構築する必要がある。米アッヴィの抗エイズウイルス(HIV)薬「カレトラ」も中国でコロナ治療に使われ、他の薬剤と組み合わせた治験が進む。日本では2000年に承認されてエイズ治療に広く使われており、新型コロナで有効性が確認された場合、早期の大量供給も可能とみられる。いずれの薬剤も副作用のリスクがあり、軽症患者の治療には向かない可能性が高い。アビガンは動物実験で胎児への影響が確認され、妊婦への使用は厳禁だ。重篤な肝障害などの副作用も報告されている。カレトラは膵炎(すいえん)や肝障害が報告されている。レムデシビルの副作用はまだ不明で、低血圧障害などの可能性が指摘される。国内ではこのほか、ぜんそく薬「シクレソニド」で解熱などの効果が見られたとして症例研究が進んでいる。東京大学の井上純一郎教授らは18日、急性膵炎の治療薬「ナファモスタット」を試験投与して効果を調べると発表した。 *19-4:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200321-00000055-kyodonews-bus_all (Yahoo 2020/3/21)緊急経済対策、赤字国債を検討 補正予算財源、借金さらに増加 新型コロナウイルスの感染症拡大に伴う緊急経済対策で、政府が必要な財源として新たな借金となる赤字国債の発行を検討していることが21日、分かった。与野党から30兆円規模の経済対策を求める声が上がっており、経済対策を反映する2020年度補正予算の財源として活用する可能性がある。新型コロナの日本経済への影響は、08年のリーマン・ショックを超えるとの指摘も出ている。国民に現金を配る現金給付のほか、売り上げが落ち込んだ観光業への支援策が検討されている。赤字国債の発行で国の借金は増えることになり、財政健全化の目標達成はさらに厳しくなる。 *19-5:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/593911/ (西日本新聞 2020/3/22) エネルギー地産地消へ 太陽光余剰電力買い取り公共施設に 北九州市 北九州市や地元企業などが出資する電力小売業の「北九州パワー」(同市)などが、国の固定価格買い取り制度(FIT)適用が終了した家庭用太陽光発電(出力10キロワット未満)の余剰電力を買い取るサービスを始めた。市内で生み出した「卒FIT」電力を九州電力より高く買い取り、小倉城など地域の公共施設に供給してエネルギーの地産地消を目指す。電力はNTTスマイルエナジー(NTTSE、大阪市)が市民から買い取り、北九州パワーを通じて区役所や市立美術館などの公共施設に供給。1月から買い取りサービスを始めた。家庭用太陽光発電など再生可能エネルギーの普及を目的としたFITは2009年に始まり、昨年11月から順次、家庭用で10年間のFIT期間が終了した世帯が発生。FITでは当初、買い取り価格が1キロワット時当たり40円代だった。九電の買い取り価格は同7円だが、NTTSEは7・5円に設定している。市は07年度から6年間、太陽光発電の導入に補助制度を設け、約5千世帯(総出力約2万キロワット)が補助を受けた。このうち本年度にFIT適用が終了する約500世帯に同市がNTTSEへの切り替えを促す文書を送付したという。市は昨年5月、クリーンエネルギーの普及を目指しNTTSE、北九州パワーなどと連携協定を締結。市地域エネルギー推進課は「地域の太陽光エネルギーを地域で使う全国的にも珍しい取り組み。補助金世帯の半分に当たる1万キロワット分を切り替えてもらうのが目標だ」としている。 *19-6:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/503400 (佐賀新聞 2020.3.23) 「アビガン」、7日で7割回復、軽症者に中国チーム インフルエンザ薬「アビガン」が新型コロナウイルスに感染した肺炎患者の治療に有効だとする研究成果を中国・武漢大などのチームが23日までにまとめた。軽症者に限ると投与後7日以内の回復率が7割を超えた。多くは4日間で症状が消えた。チームは「高血圧や糖尿病など持病がある人には、早期の症状改善が重要だ」として、有望な薬剤だとしている。中国は既にアビガンを政府の診療方針に採用することを表明している。チームは2月から3月にかけ、同大病院など三つの病院で18歳以上の116人の患者に対しアビガンを投与。1日当たりの用量はインフルエンザ治療と同じにして、熱やせきなど症状が出てから12日以内に錠剤を飲んでもらった。1週間後の状態でみると、98人いた比較的軽い患者では70人(71%)が、18人いた重症者の中でも1人が回復した。全体では61%の回復率だった。副作用は37人で出たが、尿酸値の上昇や肝機能の数値の異常などで深刻なものはなく、退院時には正常に戻ったという。アビガンは日本の製薬会社「富士フイルム富山化学」(東京)が開発。日本国内でも臨床試験が進められている。 *19-7:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200323&ng=DGKKZO57054110Q0A320C2CR0000 (日経新聞 20200323) 無許可再生医療、功を焦った末に、大阪医科大元講師に罰金命令 学会、動画で「注意を」 大阪医科大(大阪府高槻市)元講師の男性医師(52)が、無許可施設で人の幹細胞を培養する再生医療をしたとして再生医療安全性確保法違反の罪で略式起訴され、罰金30万円の略式命令を受けた。背景には研究資金のメドが立たずに成果を焦ったことがあるとみられている。再生医療をめぐるトラブルを防ぐため、学会は受診者向けの動画などを公開して注意を促している。「人に投与して効果や安全性が確認できれば、新治療薬が視野に入る」。大阪府警に逮捕された元講師は調べにこう供述したという。府警や大学によると、元講師は2019年3~5月、無許可施設で4人から採取した脂肪幹細胞を培養。4人のうち40代女性に対して培養した脂肪幹細胞を国に無届けで投与したとされる。元講師は略式起訴され、簡裁は2月28日付で罰金30万円の略式命令を出した。脂肪幹細胞は骨や筋肉などの細胞や組織になる能力を持つ。元講師は脂肪幹細胞に薬剤を取り込ませて能力を高める技術を開発し、大学も16年以降、特許を申請した。培養にはその技術を用いていたとされるが、効果はマウスでしか確認されていない。元講師は府警の調べに「培養施設の新設には膨大なコストがかかる」と供述。一連の施術は医療設備のない研究棟の廊下で行われており、捜査関係者は「実現したい研究計画に対して資金が足りず、委員会の審査にかけても通らないと思っていたのだろう」とみる。再生医療はこれまで治療できなかった病気やけがの回復が期待される。一方で、保険適用外の自由診療として安全性や効果が不透明なまま治療が行われている実態があった。京都市の民間クリニックで治療を受けた外国人男性が死亡したとの報告例もある。こうした状況を改善するため再生医療安全性確保法が14年に施行された。医療機関などに対し、専門家による委員会の審査を経た再生医療の提供計画を国に提出するよう規定。計画に基づかずに医療行為を実施した医師などには懲役や罰金を科すと定めた。同法施行後の17年には、他人の臍帯(さいたい)血を国に無届けで投与したとして、東京都内のクリニックの医師ら4人が有罪判決を受けている。アンチエイジングなどの治療を目的に安全性が確立されていない方法で投与したとされる。日本再生医療学会は今後、「認定医」の資格を持つ大阪医科大の元講師を除名とする方針だ。同学会理事長の澤芳樹・大阪大教授は「再生医療安全性確保法は研究者の安易な臨床研究を防ぐ抑止力にもなっている。法令順守を徹底させる仕組みの議論が必要になるのではないか」と話す。同学会は事件後、再生医療を受けることを検討している人向けに、国に届けられた全ての提供計画を見ることができる同学会のポータルサイトを確認するよう注意を促した。3月には再生医療を受ける際の注意事項をまとめた動画も公開し、自由診療を受ける際に「届け出がなされているか」「予期される効果や危険」などを確認するよう呼びかけている。 *19-8:https://digital.asahi.com/articles/ASN3B5WR9N32UTFL01G.html?ref=weekly_mail_top (朝日新聞 2020年3月15日) 障害ある子生まれ「おめでとう」と言えますか 木村議員 相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で利用者19人の命が奪われるなどした事件の判決が、16日に予定されている。元職員である被告の言葉をどうみるか。事件が繰り返されないためには――。重い身体障害があり、18歳までの大半を施設で暮らした、れいわ新選組の木村英子参院議員(54)は、障害のある子の誕生に「おめでとう」と言える社会かどうかを問う。どういうことなのか。 ●殺されていたのは私かも 彼の言葉は心の傷に触れるので、集中して公判の報道を見ることができませんでした。施設にいたころの傷ついた自分の気持ちに戻っていくのです。 △裁判で被告は「意思疎通のとれない人は社会の迷惑」「重度障害者がお金と時間を奪っている」などと語った 彼が言っていることはみなさんにとっては耳慣れなくて衝撃的なのでしょうが、同じような意味のことを私は子どものころ、施設の職員に言われ続けました。生きているだけでありがたいと思えとか、社会に出ても意味はないとか。事件は決してひとごとではありません。19歳で地域に出ていなければ、津久井やまゆり園に入所していたかもしれない。殺されていたのは私かもしれないという恐怖が今も私を苦しめます。私は横浜市で生まれ、生後8カ月のときに歩行器ごと玄関から落ち、首の骨が曲がる大けがをして重い身体障害を負いました。小学5年から中学3年の5年間を除き、18歳までの大半を施設で暮らしました。入所は親が決めました。重い障害のある私に医療や介護を受けさせたいという責任感と、施設に預けなければ家族が崩壊しかねなかった現実からです。私には24時間の介護が必要です。親は疲弊し、一家心中をしようとしたことも何度かあった。親が頼れるのは施設でした。やさしい職員もいましたが、私にとっては牢獄のような場所でした。施設が決めた時間に食事をしてお風呂に入って、自分の暮らしを主体的に決めることがない。食事を食べさせてもらえないことも。一番嫌だったのは「どうせ子どもを産まないのに生理があるの?」という言葉です。全ての施設がそうだとは思いませんが、私がいたのはそういう施設でした。時代が変わっても施設とはそういうものだと私は思っています。プライバシーも制限され、自由のない環境で希望すら失い決まった日常を過ごす利用者を見た人たちが、「ともに生きよう」と思えるでしょうか。偏見や差別の意識が生まれたとしても不思議ではありません。私は、被告だから事件を起こしたとは思えない。 ●公園で浴びた排除の視線 △裁判では、新たな事実が明るみに出たものの、事件に及んだ動機や真相は十分には解明されなかった。同じような事件を繰り返さないためにどうすればいいのか 被告を罰しただけでは社会は変わらない。第2、第3の被告を生まないためには、子どものころから障害者とそうでない人が分け隔てなく、地域で暮らせる環境をつくることが必要です。私が望むのは、障害のある子どもが生まれたとき、「おめでとう」と言える社会。私は親から施設に捨てられた、歓迎されない命だという思いを抱いて生きてきました。うしろめたい存在だと思うことも、絶望感のなかで仕方のないことだとあきらめていた。歓迎されない命などない、と気づいたのは19歳で地域に出てからです。23歳で結婚し、息子を出産しました。不安だったのは、子どもをかわいいと思えるかでした。母に抱かれた記憶があまりない私は、母に対する愛情が持てなかった。でも出産した時は、子どもへのいとおしさがこみあげました。公園デビューをしたときのことです。息子と子どもたちが砂場で遊んでいるのを、車いすに乗った私が近くで見ていました。だれも私が母親だとは思っていない。私が息子に声をかけ、私が母親だとわかった瞬間、周りのお母さん方が自分の子どもを抱き上げて帰ってしまった。自分の子どもが私に近づくと「そっち行っちゃダメ」。小学校の授業参観でも教室が狭くて、他のお母さんたちが入れないので「詰めていいですよ」と言っても、半径1メートル以内には近寄ってこない。私と関わると厄介なことになる、巻き込まれたくない、といった意識が働くのでしょう。本人たちは差別とは思っていませんが、あからさまな差別です。障害のある人とそうでない人を分けることによってお互いが知り合う機会を奪われることから差別は生まれます。社会から排除することそのものが差別なのです。地域で暮らして35年。福祉サービスは増えましたが、重度訪問介護が就労中などに公的負担の対象外だったり、移動支援が自治体により差があったり。普通学校への入学が重度障害を理由に認められない例もある。こうした課題をみんなで解決できたとき、障害のある子が生まれて「おめでとう」と言える社会になる。それが事件を乗り越えることになるのではないでしょうか。 *19-9:https://webronza.asahi.com/science/articles/2017122900002.html (論座 2018年1月5日) 中国が科学で世界一になる時代、上海から日本の未来を考える 須藤靖 東京大学教授(宇宙物理学) 2017年12月に、太陽系外惑星に関する上海の国際会議に出席した。すでに様々なところで繰り返し述べられていることではあるが、中国の発展の凄まじさを改めて実感したので、その体験をいくつか紹介してみたい。私が初めて中国を訪れたのは今から20年前の1998年。ドイツのマックスプランク協会が上海天文台に宇宙論のグループを設立することになり、その準備を兼ねた国際会議を開催した。当時、私の研究室で博士研究員をしていた景益鵬氏が2年後にそのグループリーダーに抜擢されることになったので、その会議に招待されたのだった(彼はその後も優れた研究を継続し、数年前に中国科学アカデミー会員に選出されたほどの大活躍をしている)。 ●研究レベルは着実に進歩 正直なところ、当時の中国の天文学研究レベルはかなり低かった。その会議でも、中国側の研究発表は年長者ばかり。すでにあまり意味がないような古いテーマを、しかもほとんど聞き取り不能な英語でしゃべるのみであった。もちろん優れた中国人研究者も参加してはいた。しかし、彼らはほぼ例外なしにアメリカやヨーロッパで学位を取得し、外国にとどまって研究を続けていた。当時は、特に優秀な層ほど、中国に帰って研究するという発想など論外だったのだ。この会議のみならず、初めて上海を訪れた際に私が受けた印象はかなり強烈であった。信じられない数の自転車が道路を占拠している。バスや車の運転は荒く、信号が赤になり歩行者が道路を横断し始めようと、止まる気配はない。横断歩道では緊張しながら全力で走った。街中の至る所でビルが建設中で、土埃だらけ。そのなかを、自転車の荷台に生肉を平気でくくり付けて配達中の人々をしばしば見かけた。にもかかわらず、衛生状態を疑うようなお店であろうと、驚くほど美味しい料理をしかも日本の20分の1から30分の1の値段で提供してくれた。観光客向けの店で、お土産を買おうとしたところ、女性がレジの前の机に顔を伏せたまま眠りこけていて起きる気配がない。何度も声をかけたあげく、ようやくその奥でおしゃべりをしていた別の女性が近づいてきて、のろのろと対応してくれた。しかし、支払いの際にはお釣りを投げつけるように返された。客などありがたいどころか、逆に労働をさせられる邪魔な存在だったのだろう。19世紀後半から20世紀前半における外国人居留区であった外灘は、上海の有名な観光地の一つである。川を隔てた向こう側には当時からすでに多くの高層ビルが立ち並ぶ、近代的エリアとなっていた。景氏によれば、船で5分もあれば向こう岸に渡れるというので、行ってみることにした。改札は無人だったので購入した切符を投入口に入れると、どこからか「謝謝」という声がする。しかしどこにも人がいる気配はない。驚くべきことに切符を投入すると自動的に音声が流れる近代的仕組みだったのだ。景氏と一緒に「上海で親切なのは機械だけだ」と大笑いしたことをよく覚えている(むろん、今や中国のサービスのレベルは著しく向上しており、さすがに日本ほどではないにせよ、欧米の平均レベル程度にはなっている。)。その後、今回を含めて中国には5回訪問した。そのたびに、研究レベルが着実に進歩していることを実感した。過去20年間にわたり、中国政府は景氏のように外国で活躍した研究者を呼び戻す方針を立て、多額の資金を注入した。高給で迎えられた彼らは、新たなグループを次々と立ち上げ、そこには若い優秀な中国人学生が集まった。しかも彼らは在学中に1、2年間、ヨーロッパやアメリカの大学に滞在して共同研究をし、場合によってはそこで学位を取得する体制まで確立している。おかげで、中国国内の学生や博士研究員の研究と英語のレベルが著しく向上した。そもそも、中国のトップレベルの学生は、意欲と自信に満ちており、熱心というよりもむしろ貪欲に研究する。その迫力は、少なくとも私の周りの日本人(私自身も含めて)とは雲泥の差である。実は、太陽系外惑星の研究グループはまだ中国にはほとんど存在していない。一方、この分野には、中国出身でアメリカの主要大学の教授として活躍している研究者が数多い。彼らは、中国の大学の客員教授を兼任しながら、多くの中国人学生や博士研究員を指導し、さらにアメリカで受け入れることで、最先端の研究を展開している。この分野は、歴史的には日本の研究レベルがかなり高いのだが、外国で活躍する中国人による研究まで合わせれば、中国はすでに日本を凌駕してしまった感すらある。 ●世界の覇権を握る戦略 さて、過去20年間でなぜ中国の科学がここまで飛躍的発展を遂げることができたのか。これはすでに数多く議論が展開されているはずなので、ここでは私が直接見聞きした現場からの印象に限って紹介してみたい。 【A 政策】 中国政治家のトップはほぼ理科系出身で占められている。そのためかどうかはわからないが、科学・技術の発展を通じて、中国を世界一の大国にするという意思が確立し共有されている。つまり科学を発展させることは良いことだ、などといった甘い価値観ではなく、それ自身が国家にとって本質的な「投資」だとみなされている。巨額の予算を要する科学プロジェクトが比較的容易に認められる。特に、「世界一」というスローガンをもつプロジェクトは最優先である。科学・技術の発展を通じて中国を世界一にするための人材を育成する大学には、過去10年以上、毎年の中国の経済成長率以上の割合で予算が増額され配分され続けている。この間、大学の運営交付金が1割以上削減された日本とは雲泥の差である。 【B 予算】 さらに科学・技術研究には中央政府のみならず、市からも独自に巨額の予算措置がなされる。特に大都市にある有名大学は、中央政府からの交付金と同額以上をそれぞれの市からも支給されている。北京大学や上海交通大学には北京市や上海市に居住していない学生の入学定数が厳しく決められている(実は、東京大学に入学する中国人学生のかなりの割合は、中国のトップ大学に入学が制限されている地方出身の優秀な学生層なのである)。これには不公平であるとの批判も多い一方、大学がそれぞれの市の多額の税金によって援助されている事実の反映でもある。このように、大学や科学・技術研究には、企業はもとより、様々なレベルの公的組織や団体から手厚い財政的サポートがなされている。これもまた、基本的には政府機関に財布の紐をきつく縛られている日本の大学とは雲泥の差である。 【C 報酬】大学教員の給料が高い。過去数年間で平均的に5割以上は増額されている上、最近中国で高騰している住宅が格安で提供される(かつては5年以上勤務すると、借りていたアパートの所有権を得ることもできた。上海や北京の中心部にあるそれらは今では一億円以上の資産価値となっているものもあるらしい)。さらに、研究者の給料は、論文の出版数はもとより、どの雑誌に出版されたか、どれだけ引用されたか、などの具体的数値指標によって大きく左右される。特に、NatureやScienceなどのいわゆる一流雑誌に掲載されると、1年分の給料に相当するボーナスが与えられることもある。その結果、研究者がこぞって良い論文を良い雑誌に出版しようとやっきになっているのだ。北京のある有名な天文学研究所に就職した米国人研究者から、中国ではあまりに競争が激しいため自分もまた他の同僚も疲弊しきっているという話を聞いた。しかし、研究者の絶対数が多いおかげで、そのような自然淘汰が適者生存につながり、トップの研究レベルが飛躍的に向上し続けているのも事実である。日本から見ると、【A】と【B】は羨ましい限りである。しかも、科学・技術は最終的には人類平和のためとかいった「哲学的」あるいは「倫理学的」論理ではなく、中国が世界の覇権を握るためになすべき最大の投資との透徹した明確な戦略のもとに進められている点も、ある意味では清々しいほどだ。仮に日本で【C】のような行き過ぎた業績主義が提唱されれば私は断固反対する。それは長い目で見れば、深い科学の発展を阻害するに違いないからだ。しかしながら、私のような牧歌的科学感をよそ目に、日本ではありえないほどの成果主義を取り入れた結果、過去20年間で中国の科学がトップに躍り出たことは紛れもない事実である。少なくとも、極めて低い研究レベルを短期間に引き上げる政策としては、もっとも効率の高いやり方であったことは認めざるを得ない。今後、日本でもこの業績主義が議論される可能性が高いのであえて付け加えておくならば、優れた研究者に相応の報酬をという点は必ずしも否定するものではないが、それは中国のように単純に総額もプラスの場合である。日本の場合は、ゼロサムルール、さらにはネガティブサムルールが前提なので、結果として、次世代を担う若手研究者を減らすあるいは冷遇することになる。これでは中国の場合とは全く異なり、全体としては百害あって一利なしである。研究者は決して高給をめざして研究しているわけではないからだ。 ●「資金に制限無し」 ところで、現在の中国はインターネット閲覧規制が厳しい。グーグル、日本経済新聞、讀賣新聞などのサイトには全く接続できない(朝日新聞、毎日新聞には問題なくアクセスできる。これは何となく分かる気もするのだが、産経新聞も同じくサクサク読めてしまうので、いかなる基準で判定しているのか、個人的には興味深い)。私は通常、gmailを使用しているので、とても困った。結局ある方法でなんとかアクセスできるようになり事なきを得た。おかげで、自分の日常が、いかにある特定の組織に依存、というか支配されているのかを思い知ることとなった。外国人が中国に行くと、グーグル検索ができないことで、中国では思想や自由が制限されていると、違和感を抱き、当然批判する。しかし、中国には、百度というグーグルに対応する検索サイトがあるので、中国人はまったく困っていない。中国政府の方針に沿った活動をしている限り、全く不自由はないのだ(しかも、自由に外国のインターネットサイトにアクセスするための方法も存在するので、必要な人々は外国からほしい情報を得ている)。その意味で、科学・技術研究に没頭している限り、現在の中国は世界で最も恵まれた国といえる。科学者に限らず、今回の滞在を通じて、大半の中国人は現在の体制に満足しているという印象をもった(むろん、少数民族や地方の労働者など、政府の方針を支持しない、あるいは大都市以外に住む人々はその限りではないのだろう。私の知っている中国人が、ある意味では現代中国の方針とうまく適合している層に偏っているのも事実ではある)。今回の会議は、新しく設立されるT.D.Lee研究所(T.D.LeeはC.N.Yangとともに、弱い相互作用におけるパリティーの非保存を理論的に予言し、それが実験的に確かめられたことで1957年のノーベル物理学賞を受賞した素粒子物理学者)に、天体物理学グループを立ち上げるお披露目会をも兼ねていた。上海市の完全な資金援助のもと、上海国際空港の近くの浦東市に広大な敷地を提供され、高層ビルを建築中である。会議冒頭の挨拶では、景氏が「この研究所では、実質的にスペースも資金もunlimitedである。優れた研究者を大歓迎する」と述べて、出席者をどよめかせた。このような状況では、今後、日本が中国に一層差をつけられるのは避けようがなかろう。科学・技術において世界のトップに立つべしとの価値観が正しいかどうかは別としても、やはり投資なくして成果はありえない。しかも投資は、すでに成功した人にではなく、これからの可能性を秘めた若者に広く厚く行うべきである。教育と研究に関する人的および財政支援を削減し続けておきながら、成果主義を振りかざして研究者に責任を押し付ける日本政府にこそ、中国政府の透徹した科学・技術戦略を少しは学んでほしいものだ。 *19-10:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200326&ng=DGKKZO57237170V20C20A3TJ1000 (日経新聞 2020.3.26) 動き出す「全日本造船」構想、今治・JMU提携を端緒に浮上 大再編 中韓勢に対抗 造船業界で再編が加速している。27日には首位の今治造船(愛媛県今治市)と2位のジャパンマリンユナイテッド(JMU)が共同で開発・営業会社を設立し資本提携を発表する。三菱重工業も造船事業の大幅縮小を決めた。背景にあるのが韓国・中国勢との競争だ。切り札として国内の主要15社の造船会社を集約し「オールジャパン造船」をつくる構想も水面下でくすぶる。日本のものづくりの象徴だった造船は、生き残りに向けた最終段階に入った。「韓国にやられてきた状況で、さらに受注がストップしている。底が見えない」JMU幹部は危機感を募らせる。造船業界では受注残を示す手持ち工事量が1800万総トンを割り、20年ぶりの低水準に達した。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で造船の国際見本市は相次ぎ中止となり、欧州などの船主と商談すらできない。世界の造船は大型再編へと突き進んでいる。中国首位の中国船舶工業集団(CSSC)と2位の中国船舶重工集団(CSIC)が経営統合し、韓国は現代重工業が大宇造船海洋と統合作業を進める。両陣営だけで世界の建造量で4割のシェアを占めるが、日本は中小造船所が乱立している。「受け皿を一本化しないと入札すらできなくなる」。国土交通省の関係者は語る。大型船では韓国メーカーが4~5隻を一気に大量受注して傘下の造船所で分担建造する動きがある。規模に乏しい造船所はいまや受注そのものに参加できない。こうした中、国交省主導で業界と共に模索が始まったのが造船の「オールジャパン構想」だ。日本には約50カ所の造船所があるが、まずは開発や設計・受注などの上工程を一本化し、建造業務を分担。最終的には造船所の閉鎖や集約を目指す。国内造船は総合重工系と独立系に大別できる。JFEホールディングスとIHIが造船事業を統合したJMUのほか、三井E&Sホールディングス(旧三井造船)や三菱重工業が総合重工系の代表格。独立系は今治造船、大島造船所(長崎県西海市)、常石造船(広島県福山市)などがある。これらを含む主要15社が仮にまとまると建造量シェアは世界で2割と、中韓の首位グループに並ぶとみられる。試金石はJMUと今治が折半出資で設立する開発・営業新会社だ。中韓勢と同じ土俵で競うことが業界共通の課題となるなか「同陣営への集約も視野に、造船所の再編が始まる」とみる関係者は多い。航空事業などへのシフトを進めるなか、重工系は造船事業の縮小に乗り出している。三菱重工は創業の地である長崎造船所・香焼工場(長崎市)を大島造船所に売却する。IHIは愛知工場(愛知県知多市)を閉鎖したほか、三井E&Sは千葉工場(千葉県市原市)の造船からも撤退した。そんな中、大再編の主役に躍り出たのが今治造船だ。丸亀事業本部(香川県丸亀市)にある全長610メートルのドックを中心に、瀬戸内海の造船所を取りまとめる。描くのは「複数の部品を受け持ちし、瀬戸内海全体を1つの巨大な造船所とみなして受注を獲得する戦略」(造船大手幹部)。「瀬戸内海連合」は韓国を追う手立ての一つだ。その今治造船とJMUが手を組むことで連合が全国規模に広がる。これまでもオールジャパン構想は浮かんでは消えていたが「受注が枯渇し、今回こそは業界を変えようという危機感が強い」(大手造船会社役員)。布石はすでに打たれている。国交省などは造船の協業・提携に必要な投資などを補助する策を検討している。再編の引き金になりそうなのが環境規制への対応だ。国際海事機関(IMO)は20年からの硫黄酸化物規制に加え、50年に08年比50%の二酸化炭素排出削減を迫る。「まず環境技術で日本勢同士の協力が必要」(日本造船工業会の斎藤保会長)との声は強まっている。造船各社の受注残は1年半分ほど。JMUは20年3月期の純損益が360億円の赤字を見込むほか、三井E&Sも同期の連結最終損益が3期連続で赤字の予想だ。業界再編のタイムリミットはすぐそこに迫っている。 <グローバルで勝つためには?> PS(2020.3.27追加):*20-1のように、新型コロナの感染拡大によってヒト・モノが国境を越えられなくなったことで、世界の株式時価総額が1月に比べて米国・日本のGDP合計を上回る30兆ドル近くも吹き飛んだそうだが、株式時価総額は将来性に関する気分が影響する数字であって実体経済ではないため、多いからと言って生活に役立つわけではない。また、外国の製品に依存しすぎている現在、技術維持のために自給率向上や国産化を志向するのは当然であり、島国化を志向しているわけではない。それより、国際協調を叫んでみても、独立して力強く生きられる国が協調するのではなく、他者に依存しなければ生きていけない国が集まっても、力強い協調にはならないので、むしろ邪魔者扱いされるだろう。そのため、「独立して力強く生きられる国になれば、生活水準を落とす」という状態を変えなければならないのである。なお、多くの日本企業は、千載一遇の幸運があったおかげで、グローバル化の担い手になる実力を持っているが、強いままでいられるためには、合理的な経営を続けることが不可欠である。そして、合理的なグローバル経営は、①市場の大きな国で ②市場に合った製品を安価に作り ③できるだけ税金の安い国で利益を出して利益を最大化し ④次の有望な投資に繋げること であり、日本は②③が劣っている上、変な規制や不合理な邪魔が多いため、④の有望さもなくしているわけだ。 なお、*20-2は、「⑤2018年度の日本企業の内部留保が金融・保険業を除く全産業で463兆円となり過去最高を更新した」「⑥しかし、設備投資は2001年度がピークでその後は5%近く減少したままである」「⑦従業員への賃金支払い減少で国内市場は縮小し、企業は海外に出ていくという悪循環が生まれた」「⑧そのため内部留保課税すべき」としている。しかし、2000年以降は従業員への賃金支払いも減少したかもしれないが、年金支給額も減ったため、日本は①の市場がしぼみ、それでも②③は新興国と比較して高いため、④の有望な投資先でなくなるという悪循環に陥っている。つまり、国民から高い税金をとり社会保障を削減して、国が生産性の低い事業(原発・辺野古埋立等々)につぎ込めばつぎ込むほど、全体の生産性が低くなり、さらに有望な市場ではなくなって、企業・産業・金を追い出すことになるわけだ。 *20-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200327&ng=DGKKZO57276300W0A320C2MM8000 (日経新聞 2020.3.27) コロナ危機との戦い(5)「島国化」は繁栄生まぬ 世界の株式時価総額は一時、1月に比べて30兆ドル近くも吹き飛んだ。失われた富は、米国と日本の年間国内総生産(GDP)の合計を上回る。新型コロナウイルスの感染拡大で、ヒトやモノが国境を越えられなくなることが、どれだけ深刻かが目の当たりになった。人は、旅行にも出張にも、出稼ぎにも留学にも行けない。外国の製品を注文しても届かない。企業は、外国からの部品の調達も有能な人材の採用も難しい。経営者は業績の見通しすら語れず、雇用を減らし、株安で人々が保有する財産の価値を傷つけている。「悪いのはウイルス」。確かにそうだが、混乱はいずれ起きていたのではないか。それほど世界の分断は進んでいた。起点は2016年にある。英国が欧州連合からの離脱を決めた「ブレグジット」と、米国第一主義を掲げるトランプ氏が大統領選を制した年だ。それ以降の世界は貿易戦争の連鎖など内向きの姿勢だけが目立った。世界は「島国化」、つまり外国との交流を好まない島国の集合体にすら例えられるようになった。コロナ危機は今、「16年体制」に共感した人々に問いかけている。「生活の水準を落としてでも島国化を進めたいのか」と。「もちろん」と自信を持って答えられる人は激減しているだろう。焦点は強制的な分断が解ける「コロナ後」だ。内向きの根底にある人々の不満を抑え、今度こそグローバル化を持続的にできるかどうか。覇権主義と結びついたグローバル化は反発を受けるだけだ。中国が「ワン・チャイナ」を押しつけたからこそ、香港人は大規模デモで逆襲した。大企業のエゴも障害だ。低コストのみを追った途上国での劣悪な労働環境、地元での雇用や納税を軽んじる姿勢での海外進出……。ゆがんだグローバル戦略への批判は世界的な資本主義の見直し論議に発展している。多くの日本企業にはグローバル化の担い手になるチャンスがある。欧米企業と異なり、海外企業を買収する豊富な現金がある。国内の人口減で課題だった海外市場の開拓を進めるときだ。2008年のリーマン危機で、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は破綻寸前の米モルガン・スタンレーに出資した。モルガンはその後、MUFGの連結利益を年平均1000億円以上押し上げてきた。株価の暴落は、それ以降の世界を変える。リーマン危機の際、世界は保護主義への誘惑を断ち、逆に20カ国・地域(G20)が新たに連携して危機を封じ込めた。1929年10月24日の米株価大暴落「暗黒の木曜日」は、世界恐慌を招いた。保護主義が経済のブロック化を経て第2次世界大戦につながった。収まらない米中の緊張や、原油産出量の調整に背を向けたサウジアラビアやロシアの姿勢には、当時のきな臭さがある。大強気相場の死と繁栄の時代の終わり――。フレデリック・アレンは20年代の米国の熱狂と終幕を描いた「オンリー・イエスタデイ」で、29年の暴落をこう位置づけた。強気相場は去ったが、繁栄まで終わりにしてはならない。 *20-2: https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200305&ng=DGKKZO56376870U0A300C2KE8000 (日経新聞 2020.3.5) 積み上がる内部留保(下)年間増加分に課税も一案 小栗崇資・駒沢大学教授(おぐり・たかし 1950年生まれ。中央大法学部卒、明治大博士(商学)。専門は会計学・経営分析) <ポイント> ○00年度までは売上高増を設備投資に充当 ○人件費削減と法人減税で内部留保が急増 ○設備投資や賃上げに活用なら控除可能に 財務省「法人企業統計」によると、2018年度の日本企業の内部留保は金融業・保険業を除く全産業ベースで463兆円となり、過去最高を更新した。本稿では、なぜ内部留保は増え続けるのか、その活用は可能なのかを考えたい。内部留保とは当期純利益から配当を差し引いた残りの利益で、企業内に蓄積された分をいう。利益剰余金として開示されるのが「公表内部留保」だ。さらに法人企業統計は、引当金・準備金やその他資本剰余金などを付加したものも内部留保としており、これに資本準備金を加えたものを「実質内部留保」とする。内部留保は企業にとっては設備投資などに活用可能な内部資金となる。内部留保の形成過程や使途をみることは、日本経済の資金面の状況を明らかにするのに重要な手掛かりとなる。ここでは資本金10億円以上の約5千社(金融業・保険業を除く)の内部留保をみる。大企業は全法人の2%に満たないのに、その内部留保は234兆円(利益剰余金)と日本全体の半分を占めており、内部資金の動態を決定づけている。図は内部留保の歴史的推移を、経済の節目ごとに区切って示したものだ。1971~85年度は通貨危機や石油危機の影響で高度成長が減速し、景気回復を経てバブル直前に至る段階だ。内部留保の要因となるのは大幅な売上高の増加(4.7倍)で、公表内部留保は28兆円増えている。実質内部留保や借入金も加わり、使途としては設備投資が71兆円増加している。1986~2000年度はバブル経済の隆盛と崩壊後の不況に陥る段階だ。売上高が1.5倍増となったのを要因に、公表内部留保は52兆円増えている。実質内部留保も加わり、使途としては設備投資が115兆円増加している。不況下でも内部留保が積み上がり、設備投資がかつてなく増大した。2つの段階の共通した特徴は、内部留保の主たる要因が売上高の大幅な増加にあった点と、その使途が設備投資だった点にある。だが2001年度以降の段階は様相が一変する。2001~18年度はかつてなく膨大な内部留保が形成され、1986~2000年度と比べて3倍近くに激増した。それ以前の段階と異なり、主たる要因は売上高増加ではない。売上高は1.1倍程度とほとんど伸びていないのに、なぜ多額の利益が生まれ、内部留保は急増したのだろうか。要因は2つある。一つ1990年代末から始まった非正規雇用の拡大や賃金削減による人件費削減だ。福利厚生を加えた従業員1人当たりの給付は2001年度の763万円をピークに減り続け、2009年度には668万円まで落ち込んだ。ここ数年上昇がみられるが、現在も700万円を切る状態にある。人件費削減により売上高が増えなくても利益が増える仕組みがつくられた。仮にピーク時の763万円が毎年、従業員全員に支払われたと仮定し、実際の給付額との差を計算すると、18年間の差額合計は82兆円にのぼる。そうした人件費削減分が内部留保に回ったとみることができる。もう一つの要因は法人税減税だ。法人税率は1997年度まで37.5%だったが、段階的に引き下げられ現在では23.2%にまで低下している。住民税、事業税を加えた法人3税の実効税率(東京)でみると1997年度の49.98%から大幅に低下している。仮に49.98%の実効税率が続いていたとすると、2001~2018年度の18年間で実際の税額との差額合計は46兆円となる。税負担にならなかった分がやはり内部留保に回ったとみることができる。海外子会社からの配当なども加わるが、公表内部留保増加分149兆円の大半(128兆円)は2つの要因から生み出されている。さらに実質内部留保増加分44兆円も加えた内部資金は何に使われたのだろうか。2001年度以降の内部留保の主な使途は設備投資ではない。設備投資は2001年度がピークで、それ以降は5%近く減少したままだ。それ以前は、内部留保は設備投資に回っていたが、2001年度以降は主に金融投資や自社株買い、子会社投資、M&A(合併・買収)に投入されている。なお、海外子会社での設備投資については別途検討が必要だ。このように内部留保の構造は大きく変化している。21世紀に入って以降、日本企業は売り上げ増でなく、人件費削減や法人税減税から得た利益を内部留保に回し、設備投資ではなく金融投資や子会社投資に投入している。その結果、従業員への賃金支払いの減少により国内市場は縮小し、企業は海外に出ていくという悪循環が生まれている。内部留保が設備投資に投入され雇用が生まれるのを「良い内部留保」とすれば、金融投資などに回るだけで雇用や市場拡大につながらない内部留保は「悪い内部留保」と言わざるを得ない。膨大な内部留保は、不況やグローバル化に対する恐怖心を契機に生まれたが、国内に投資先が見いだせないまま今日では「金余り」の状態にある。それは富の偏在を通じて格差を生み出す結果をもたらしている。それでは、内部留保をどのように社会的に活用すべきだろうか。有効活用を求める声は高まっているが、残念ながら個々の企業の自主性には期待できない。そこで考えられるのが内部留保への課税だ。日本の税制は法人擬制説に立っており、利益はすべて株主に配当されることを建前とする。利益には1段階目で法人税が課され、2段階目で株主に回った配当に所得税が課される。内部留保課税は「二重課税」という批判があるが、日本企業は配当よりも内部留保の割合が高く、2段階目の多くの部分に課税されていない。内部留保課税は、2段階目の所得課税を補完するものであり「二重課税」ではない。米国では1930年代のニューディール政策の一環として内部留保課税が導入され、現在まで続いている。配当を支払わず合理的な必要なしに留保された利益に課税される(税率20%)。日本での同族会社(資本金1億円以上)への内部留保課税と狙いは同じだが、全法人に適用される。近年では、台湾でも98年から実施され(現行税率5%)、15年からは韓国でも実施されている(現行税率22%)。いずれもフローベースで、毎期の内部留保の増加分に課税される。台湾では全法人が対象となり、未配当利益に控除なしに課税される。韓国では自己資本500億ウォン(約45億円)超の約4千社が対象となり、設備投資や賃上げに活用した場合は控除される。台湾では配当を促進する効果、韓国では設備投資や賃上げを促すインセンティブ(誘因)を持つと考えられる。日本では個人株主が少なく配当促進効果が期待できないので、韓国型の内部留保課税が参考になる。仮に資本金1億円以上の法人の内部留保増加分(20兆円)に控除を経て税率20%で課税した場合、毎期3兆円の税収が見込まれる。内部留保の社会的活用を目的とし、教育や研究、社会保障などのために利用することで、企業や国民の同意を得られるのではないか。
| 経済・雇用::2018.12~2021.3 | 09:26 PM | comments (x) | trackback (x) |
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