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2023.7.6~19 日本の経済・財政とジェンダー平等 (2023年8月7、16日に追加あり)
(1)日本経済の現状 ← 経常黒字半減・物価上昇・実質賃金減少
1)家計苦境の実態
 *1-1-1は、①国の2022年度一般会計税収が71兆1,373億円と過去最高を記録 ②理由は円安の重なった物価上昇による消費税増収と所得税・法人税の増収 ③多額の防衛費や少子化対策費を歳出する岸田首相にとっては好材料 ④税収増は家計苦境の裏返しでさらなる負担は受け入れ難い ⑤2022年度消費者物価指数は前年度比3.2%増で食品・電気・ガス、サービス関連まで値上げが及んだ ⑥それと連動して2022年度の消費税収は過去最高の23兆792億円に達した ⑦景気に左右されにくく物価の影響を受けやすい消費税の特徴が表れ、税収の確かさから社会保障を支える消費税の役割を再認識できた ⑧家計から見れば物価上昇に消費課税増のダブルパンチ ⑨消費税は逆進性があり、家計の重荷は深刻 ⑩多くの人は収入増がインフレに追い付かず、実質賃金は13ヶ月連続で減少 ⑪2022年度は円安による輸出企業の業績上振れで法人税も14兆9,397億円と増収 ⑫岸田政権による血税の使途と財政運営が厳しく問われるのは当然 等と記載している。

 このうち①②④⑤⑥⑧⑩は、日銀が「2%の物価目標」を達成しようと低金利政策を続ける理由だが、「物価目標」とは、(欧米先進国を見ればわかるとおり)過熱したインフレを抑制して国民の生活を護るために上限として設定するものであるため、日銀の物価目標は本来の使い方とは逆なのである。

 にもかかわらず、日銀が「2%の物価目標」を継続する真の目的は、③のような際限のない政府歳出によって積みあがった多額の国債(国債の所有者から見れば財産)を目減りさせ、⑪のように、輸出企業の業績を上振れさせ、実質賃金を減少させることなのだ。少し考えればわかるとおり、金融緩和を続けて名目賃金が上がっても、構造改革して生産性を上げなければ実質賃金を上げることはできず、次第に円の価値が下がって円安になるのは明白である。

 また、⑦は「消費税は、景気に左右されにくく、物価の影響を受けやすいから、税収が確かで社会保障を支える役割を再認識できる」とするが、所得税・法人税等の所得に応じて増減する税は、ビルト・イン・スタビライザー(財政自体に備わっている景気を自動的に安定させる装置)の役割を備えているが、景気に左右されない消費税は、その逆だ。また、⑨のように、逆進性があることで、所得が低くて消費性向の高い層ほど重い税となるため、家計の重荷がより深刻になる税である。

 従って、所得の低い層に恩恵の多い社会保障を支える税として消費税を挙げること自体が目的と矛盾しており、⑫のように、既得権を振りかざした無駄の多い税の使途こそ厳しく検証すべきだが、これはずっと前からそうだったのであり、岸田政権に限った話ではない。

2)社会保障・消費税・医療費など
イ)社会保障と消費税について
 *1-1-2は、①岸田首相が消費税等の議論を封印し、政府税調も「中期答申」で増減税等の具体的改革の方向性を示さなかった ②終身雇用や専業主婦世帯が主体と考えられた旧態から働き方や人生設計が多様になった ③デジタル化やグローバル化が進んだ ④税制も経済成長を促す発想で組み直す必要がある ⑤社会保障や財政の持続可能性にも配慮して負担や歳出を見直すことは妥当 ⑥「消費税は社会保障給付を安定的に支えるため、果たす役割は今後とも重要」とだけ記した ⑦税調では現行10%からの引き上げが必要とする議論も出たが、答申は税率や時期等の具体論を避けた ⑧所得税は働き方の違いで不公平が生じないよう給与・退職金・年金への税負担のバランスをとるよう促したが、具体的手法の言及がない ⑨問題は政治が与野党とも次の選挙に影響するとして税や社会保険料など安定財源の確保で真剣な議論から逃げていること ⑩財源を曖昧にして給付だけを増やすのは将来世代に対して無責任 等と記載している。

 ①⑤⑥⑦⑨のように、(新聞には消費税がかからないためか)新聞は消費税増税を進める論調が多いが、本当は記者も生活者で社会保障の受給者でもあるため、社会保障の不適切な見直しや消費税増税は自らにも負担になる筈なのである。

 また、②の終身雇用が保障されたのは、ずっと前から大企業に勤めている男性正社員だけだった。さらに、専業主婦世帯が主体だったわけでもなく、正社員として働いている女性の割合が少なかったとしても、少ないからと言って不公正・不公平を無視してよいわけではなく、その少人数の女性が苦労して切り開いたからこそ現在があるため、言葉には気を付けるべきである。

 デジタル化やグローバル化は、③のとおり、確かに進んで生産性向上がやりやすくなったが、「税法」や「出入国管理及び難民認定法」が、デジタル化・グローバル化・少子高齢化に合い、④の経済成長を促すものになっているとは言い難い。

 なお、⑧の所得税等は働き方の違いで不公平が生じないようにすべきだが、現在はまだ過渡期で、女性に専業主婦を強要する社会システムや終身雇用を前提とした賃金体系が残っているため、具体的手法の言及は難しかっただろうとお察しする。

 しかし、⑩の「財源を曖昧にして給付だけを増やすのは将来世代に対して無責任」というのは、日本国憲法第25条「第1項:すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。第2項:国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」や同第26条「第1項:すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。第2項:すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする」等の憲法に記載されていることについては、他を削り優先順位を高くして行うべきであるため、負担増という話にはならない筈である。

ロ)医療費と消費税について


   世界の専門医年収比較    日本の医療系専門職年収  日本の平均年収トップ10

(図の説明:左図は世界の専門医年収比較だが、日本は決して高い方ではない。また、中央の図は医療系専門職の年収で、《どうやってこの数値を出したのかは不明だが》さほど高くない。そして、右図の記者と比べて医師は間違ったことをすると取り返しのつかないことになるリスクを常に引き受けている割には高くない。そのため、医療系の人は、職種や業態別の平均年収を把握し、それを他の職種の同等の人材と比較したデータを自分たちで作って公表した方がむしろ有利だと思われる)

 *1-1-3は、①年間45兆円に上る医療費が物価高を反映させる形で一段と膨らむ可能性 ②物価高で医療機関の経費が増えているのは確かだが、医療費を増やせば患者負担や国民の保険料負担が重くなる ③政府は医療の持続性確保から、丁寧かつ慎重に検討して欲しい ④保険医療は診療報酬という公定価格のため、光熱費・設備費・委託費等の経費増加分を医療費に転嫁できない ⑤2022年4月改定の診療報酬はその後の物価上昇分を勘案しておらず、日本医師会等は2023年度中に補助金で緊急措置を実施した上、2024年4月の次期改定で物価水準を反映するよう求めた ⑥産業界の労使交渉では賃上げと生産性向上をセットで議論するのが一般的で医療従事者の賃上げを考える際も業務効率化の方策を同時に検討すべき ⑦岸田政権は社会保障等の改革で国民負担を抑制して新たな少子化対策に要する負担増分を相殺する方針を閣議決定 ⑧この施策との整合性から国民負担を増やす診療報酬増額は安易に行うべきでない ⑨医療従事者の賃上げはデータに基づく議論も必要 ⑩医師や看護師、事務員等の職種別給与データ提出を医療法人に求め、処遇実態を把握した上で賃金水準のあり方を検討して欲しい 等と記載している。

 このうち①②③は、産業界には「物価上昇に見合った賃上げを」と言いつつ、医療費については「患者負担や国民の保険料負担が重くなる」等として反対するのは変である。何故なら、物価を上げれば、それ以上の賃上げをしなければ実質賃金が下がるのは、誰でも同じだからだ。

 また、医療は消費税について非課税取引であるため、支払消費税をすべて事業者がかぶっており、それも苦しくなった原因の1つだ。その上、④のように、保険医療は公定価格であるため、光熱費・設備費・委託費等の著しい経費増加分を医療費に転嫁することができないわけである。

 そのため、⑤の日本医師会の要望は尤もと思われるし、⑥の医療界の生産性向上は、マイナンバーカードにひもづけてセカンド・オピニオンもとれなくすればよいというものではない。そのため、これらは第三者が勝手に決めるのではなく、その専門家が検討すべきことなのである。

 ⑦⑧の「社会保障等の改革で国民負担を抑制」「国民負担を増やす診療報酬増額は行うべきでない」ということについては、高齢者の割合が増えて今までどおりの治療をすれば医療・介護費が増えるのは当然であるため、治療方法や職務分担を合理化したり、薬価を下げる仕組みを入れたりするしか方法はないだろう。

 なお、⑨⑩は、「医師・看護師・事務員等の職種別給与データ提出を見て医療従事者の賃金水準のあり方を検討したい」ということだろうが、上の左図の通り、日本の医師の賃金水準は世界の中で高い方ではないため、賃金水準をこれ以上低くすると優秀な人が日本で働かなくなり、その結果、日本の医療の質が落ちて国民が困る事態になるのである。

3)企業物価と消費者物価の上昇

  
 2022.6.24日経新聞      2023.6.23日経新聞      2023.5.16日経新聞

(図の説明:左図は、1990~2022年の消費者物価指数前年同月比変動率、中央の図は、2022年5月~2023年5月の生鮮食品を除く消費者物価指数の前年同月比変動率で、どちらも前年同月比で2~3%の物価上昇になっている。そのため、1990~2023年の累積消費者物価上昇率は著しく大きい。また、右図は、2018~2023年の輸入物価指数と企業物価指数の前年同月比であるため、累積物価上昇率はこれよりずっと大きい)

イ)企業物価の上昇
 *1-2-1は、①日銀が発表した2023年4月の企業物価指数は前年同月比5.8%の上昇で公表された品目の8割超で価格が上昇し、②食品等の川下品目での価格転嫁が当面続き ③円相場は136円/ドル程度で円安による直接的押し上げ圧力は一服して、輸入物価指数のうち石油・石炭・天然ガスはマイナス9.0%、金属・同製品もマイナス7.5%だが ④電力・都市ガス・水道の前年同月比上昇率は25.8%で(それでも、電力・ガス料金は2月以降は政府の価格抑制策が効いて、0.7%程度全体の上昇率を押し下げた) ⑤これまでのコスト高で複数回に分けて値上げに踏み切る企業もあり価格転嫁による押し上げ圧力は継続しており ⑥消費者物価指数(生鮮食品を除く)も前年同月比3.1%上昇と高水準で推移している ⑦日銀は物価上昇率が23年度半ばに2%を下回るとの見方を示し ⑧植田総裁は「(2%の物価目標を達成すると)安心して言えるところまで到達していない」として大規模緩和を維持する方針 等としている。 

 このうち①③④に示される数字は、2022年4月との比較であるため、2020年4月と比較すればかなりの上昇率になる。そして、②⑤のように、生活必需品である食品等の価格転嫁や複数回に分けた値上げで価格上昇は当面続き、⑥のように、最も上昇率の高い生鮮食品を除いても消費者物価指数は前年同月比3.1%上昇と高水準で推移しているのだ。

 にもかかわらず、⑦⑧のように、物価上昇率が2023年度半ばに2%を下回るとの見方から「2%の物価目標を達成すると安心して言えるところまで到達していない」として、植田日銀総裁は大規模緩和を維持する方針だそうだが、実質所得を下げ、実質資産を目減りさせて国民を貧しくしながら、日銀は「2%の物価目標」を何のために設定しているのか、それと日銀の役割との整合性はどうなのかについて明確に説明すべきだ。

ロ)消費者物価の上昇
 *1-2-2・*1-2-3は、①2023年5月の消費者物価指数は生鮮食品を除き104.8(2020年を100とする)で1981年の第2次石油危機4.5%以来の高い上昇率 ②生鮮食品を除く食料は9.2%プラスで1975年の9.9%以来の上昇幅 ③食品・日用品の店頭価格の上昇が続いてPOSデータによる日次物価の前年比上昇率は6月28日時点で8.7% ④大手が価格改定して中堅企業が続く追随型値上げの傾向 ⑤原材料価格・物流コスト上昇で、アイスクリーム10.1%・ヨーグルト11.3%・洗濯用洗剤が19.9%・宿泊料9.2%上昇 ⑥日銀の物価目標2%を上回る状況が続いている ⑦原材料高を商品価格に反映する動きはウクライナ危機をきっかけに広がり ⑧値上げしてもPOSでみた売上高は大きく落ちないメーカーもある ⑨インフレが定着しつつあり、値上げによる客離れは深刻化していない可能性 ⑩2023年6月は28日までの平均で生鮮卵42%・ベビー食事用品26%・水産缶詰21%上昇など幅広い商品で2桁の値上げ ⑪日本は米欧に比べて価格転嫁が遅れ気味だと指摘されてきた 等と記載している。

 まず、⑪のように、日本は米欧に比べて価格転嫁が遅れ気味だと指摘したり、値上げを「物価の伸び」と表現したりして、コストプッシュインフレであっても良い物価上昇であるかのような表現が目につくが、日本は食料・資源・エネルギー等の自給率が低いため、輸入物価の上昇は富の海外流出増にほかならないことを忘れてはならない。

 その中で、①②の原油の輸入単価が上がって他の財・サービスに波及した「第二次石油危機以来の高い物価上昇率」は、政府にとっては名目税収増と実質債務減という大きなメリットがあるが、国民にとっては実質収入減と債権や預金の目減りに加え、物価上昇というマイナスの効果しかない。さらに、物価上昇は消費性向の高い低所得層にほど重いステルス課税になるのである。

 例を挙げれば、③⑩の食品・日用品等の生活必需品は、値上がりしても買わないわけにはいかない。そのため、裕福でも貧乏でもさほど購入金額の差が出ないが、収入以上の支出はできないため、⑧のように、値上げしても売上高は落ちないが、それは節約によって販売数量が減り、売上金額全体はさほど変動がない状態なのである。そして、「節約せざるを得ない状態になった」というのは、「国民を前より貧しくした」ということなのである。

 にもかかわらず、④⑤⑨のように、物価上昇がまるで良いことであるかのような書き方が散見されるが、この物価上昇は、⑦のように、ウクライナ危機と円安により輸入物価が上がったことによって起こったコストプッシュ・インフレである。そのため、値上げ分の富は海外に支払ってしまって国内で廻すことができなくなるのであり、欧米のディマンド・プル・インフレのように景気が過熱して起こったものではないのだ。

 従って、⑥の日銀の「物価目標2%」を上回ったからといって全くめでたいわけではないのに、(故意か過失か)メディアはこれを完全に無視している。そもそも「物価目標2%」というのは、ディマンド・プル・インフレが過熱して困る場合に、金融を引き締めて(=公定歩合を上げて)物価上昇を2%以内に抑制するためのものである。

4)実質賃金の減少と実質消費支出の減少
イ)実質賃金の減少
 *1-3-1は、①厚労省の2023年4月の毎月勤労統計調査(従業員5人以上の事業所)によると、名目賃金(現金給与総額)は1.0%増、物価変動を考慮した実質賃金/人は前年同月比3.0%減少 ②実質賃金の減少は13カ月連続で、物価の伸びに賃金上昇が追いつかない ③物価上昇率が4.1%に達し実質賃金のマイナス幅は3月より広がった ④厚労省は「まだ交渉中の労使があるから結果が十分に反映されていない」と言う ⑤就業形態別現金給与総額は正社員等の一般労働者1.1%増で36万9468円、パートタイム労働者1.9%増で10万3140円 等としている。

 日本政府は、「国民は名目賃金しか意識しないため、物価が上昇しても名目賃金が上がれば喜んでいるだろう」と思ったようだが、国民は激しいインフレを第二次世界大戦後とバブル期の2度経験し、賃金が上がってもそれ以上に物価が上がれば生活が苦しくなることがわかっているため、そうはいかない。

 また、金融緩和による円安とウクライナ危機をきっかけとした輸入物価上昇によるインフレであれば、それはコストプッシュ・インフレにほかならず、日本の場合は海外に支払う金が増えるため、物価上昇分の全てが賃金に回るわけがない。従って、①②③は、日本の経済構造から見て必然で、④のように厚労省がいくら待っても物価上昇以上の名目賃金上昇はないのである。

 従って、名目賃金上昇も、⑤のように物価上昇と比較すれば小さいが、第二次世界大戦後やバブル期よりも深刻なのは、2022年10月1日現在の65歳以上の人口割合は29.0%、75歳以上の人口割合は15.5%になっており、年金支給額が“物価スライド”で減らされた上に医療・介護関係費用が負担増で可処分所得が減っているため、人口の3割近い人がさらなる節約を強いられ、景気がよくなるどころではないことなのである。

ロ)実質消費支出の減少
 このようにして、*1-3-2のように、①総務省の4月の家計調査で2人以上の世帯の消費支出は30万3076円と実質で前年同月比4.4%減少し ②マイナスは2カ月連続で ③食料、通信など生活関連の品目や教育への支出が減って消費を押し下げた そうだ。

 しかし、①②③の数字は、より生活の苦しい1人暮らしの高齢者世帯を除いているため、まだ甘く出ている方なのである。

(2)G7とジェンダー平等
1)G7男女共同参画・女性活躍担当相会合について
 G7の男女共同参画・女性活躍担当相会合が2023年6月24、25日に日光市で開かれ、*2-1のように、①企業の女性役員登用や成長分野への就業を進めて賃金格差を解消することで女性の経済的自立を進める方向で一致した そうだ。

 その共同声明では、②女性役員登用 ③成長分野や報酬の高い分野への女性の労働移動促進 ④女性の起業支援 等を具体策で示し、⑤家事・育児・介護等の女性に偏る無償労働は「女性がフルタイムで働く能力や指導的地位に就く能力を損なう」と指摘し ⑥家族への公的支援を強化し ⑦男性の無償労働への参加を増やすための施策を求め ⑧女性や性的少数者(LGBTQIA+LGBTを含めた多様な性)の人々の人権と尊厳が完全に尊重・促進・保護される社会の実現に向けた努力を継続する」 とのことである。

 しかし、ジェンダー平等や賃金・男女格差の解消をテーマに取り上げた時、日本では⑧のように、必ず“性的少数者の尊重”を持ち出すが、これは間違っている。何故なら、②③④の女性が高い地位に就いたり、報酬の高い分野で働いたりするのは、働く以上は当然のことだが、これと生物学的性と性自認間に相違のある障害者としての性的少数者とは次元が異なるからである。

 もちろん障害者の人権も無視してはならないが、男女差別と性自認の問題を混同するような文化自体が、日本のジェンダーギャップ指数が146ヶ国中125位と下から数えた方が早く、男女間賃金格差は22.1%と大きく、企業の女性役員比率は11.4%と小さく、無償労働が女性に偏っている状況を作った理由だからでもある。

 また①については、「まだそんなことを言っているのかな」と思うくらい当たり前のことだが、⑤⑦は、(男性がやろうと女性がやろうと)体力を決して簡単ではない無償労働にとられ、フルタイムで働いて指導的地位に就いていく能力を損なうのは同じである。そのため、⑥の保育所・学童保育・学校教育の充実・介護の社会化・家事労働の担い手確保等の公的支援が最も重要なのだ。

 なお、会合に参加した他国の担当相や団体の代表者9人はすべて女性で、日本だけが男性だったことについては私も変な感じがしたが、女性なら誰でもいいわけではなく、男女平等の強い信念とリーダーシップを持つ女性の方が指摘が的確になってよいと思われた。

2)日本の「ジェンダー・ギャップ指数」について
 *2-2・*2-3は、①日本は世界経済フォーラムのジェンダー・ギャップ指数で146ヶ国中125位で過去最低 ②政治分野138位・経済分野123位と長年指摘されている両分野で指数が悪化 ③「教育」は47位、「健康」は59位 ④政治分野における男女平等はサウジアラビア(131位)を以下で世界で最も低い圏内 ⑤経済分野も女性管理職比率(133位)が低く、男女の所得格差・昇進を阻む「ガラスの天井」が存在 ⑥リーダー層になるにつれ働く女性が減る構造 ⑦政府は東証プライム上場企業の女性役員比率を2030年までに30%以上にする目標を掲げた ⑧教育は大学以上の進学率が加わって前年の1位から47位に大きく下がり、全体の順位を下げた ⑨多様性がイノベーションを生むのは世界の共通認識で、投資家は組織の意思決定者に多様性を求め、取締役会が男性ばかりの日本企業にノーを突きつける と記載している。

 このうち⑨の「多様性がイノベーションを生む」は、需要の主役抜きで議論しても多角的な意見が出ないため正しい結論に至らないことは日本の政策を見れば明らかだ。また、日本企業は国内に洗練された消費者を持ちながら、(既に存在する製品の製造過程を細かく改善するのは得意だが)需要に合わせて最終製品を企画し製造するのは不得意であることからも実証済である。
 
 そして、これは、発言権や意思決定権のある女性(製品によっては高齢者)が組織内にいることでしか解決できないため、世界の投資家が組織の意思決定者に多様性を求めるのは尤もだ。

 ③⑧の「教育は大学以上の進学率が加わって前年の1位から47位に大きく下がった」というのは、今まで大学以上の進学率を加えていなかったのかと残念に思うが、同じ大学でも学部によって男女の割合が偏っており、製造・経済・経営等のビジネスに必要な学部に女性が少ないことは、⑤⑥の女性管理職比率の低さやリーダー層になるにつれて女性割合が減る構造を変えるべき母集団に女性が少ないことを意味するため、初等・中等教育の進路指導から変える必要がある。

 そのため、⑦の「政府が東証プライム上場企業の女性役員比率を2030年までに30%以上にする目標を掲げた」は悪くないが、女性の多くは中小企業で働くため、東証プライム上場企業の女性役員比率だけでは不足で、会社法にも女性役員比率に関する規制を入れた方がよいと思う。

 また、②④の「政治分野は138位でサウジアラビア(131位)以下の世界で最も低い圏内」というのは、日本の政策が生活や環境を軽視しており、エネルギー・食糧の自給率は低く、社会保障は必要なものも作らず、既にある有用なものも削ることしか考えつかない一方で、無駄なバラマキが多いため世界最高水準の債務残高を抱えたという結果を出したわけである。

 ④については、サウジアラビア等の資源国は、これまでは資源の輸出により、女性を活用しなくても財政が潤っていたが、今後、最終製品の製造によって世界市場で勝つためには、やはり女性を教育して意思決定権のある場所につけていく必要があると思われる。

 このように、①の世界経済フォーラムのジェンダー・ギャップ指数で日本は146ヶ国中125位と過去最低になったが、その理由は、他国はまともに女性活躍の素地づくりに取り組んできたが、日本はやっているふりが多かったからだと言える。

3)女性役員比率について
 *2-4は、①政府は東証プライム市場へ上場する企業に2025年をめどに女性役員を最低1人選任するよう促す女性活躍・男女共同参画の重点方針を決定し ②女性役員比率を2030年までに30%以上とする目標も盛り込んだが ③いずれも努力義務で罰則は設けない ④岸田首相は女性活躍と男女共同参画に関する会議で「全ての人が生きがいを感じられ、多様性が尊重される持続的な社会の実現のため取り組みを進める」と述べ ⑤年内に東証の上場規則に数値目標に関する規定を設けることを想定している と記載している。

 このうち①②は悪くないが、もともとは「202030」と言って、2003年に政府が「2020年までに社会のあらゆる分野で指導的地位に女性が占める割合が30%になるようにする」と女性管理職比率の数値目標を定めたが達成できず、断念したものだ。

 202030を達成できなかった理由は、「社会構造等の阻害要因」「現行女性活躍推進法は努力目標で罰則がないこと」「強制力がなく実効性のない法律で企業が目標を達成することは難しいこと」などが挙げられている(https://www.qualia.vc/glossary/203030.html 参照)。

 しかし、①は「東証プライム市場に上場する企業」という狭い範囲のみの規制であり、②③は、女性役員比率を2030年までに30%以上にするという先延ばしした目標を盛り込んではみたものの、やはり努力義務で罰則を設けないため達成は期待できそうにない。

 そのため、④の「全ての人が生きがいを感じられ、多様性が尊重される持続的な社会の実現のため取り組み」を進めるためには、私は、⑤の東証の上場規則に数値目標を設けるだけでなく、会社法の役員構成にも女性役員比率に関する規制を設ける必要があると思う。

4)年収の壁について

  
  2023.3.16静岡新聞       2023.2.21朝日新聞     2023.6.28Yahoo

(図の説明:左図の103万円・106万円・130万円・150万円が年収の壁である。実は、住民税が発生する100万円の壁もあるが、住民税は税率が低いため世帯の手取りは下がらないそうだ。中央の図は、年収500万円で妻が所得税非課税の103万円まで1.7万円/月の配偶者手当をもらえる夫と2人暮らしの妻の年収が変化した時の世帯の手取りの変化を示したグラフだが、扶養手当の停止や社会保険料負担の開始で妻の年収が138万円になるまで世帯の手取りはむしろ減少している。そのため、右図のように、政府が従業員に手当を払った企業に助成して手取りの減少を抑えようとしているが、これは不公平に不公平を重ねるバラマキであろう)

     
               2023.6.29読売新聞

(図の説明:上図のように、政府が意図しているのは社会保険料の発生によって起こる106万円の壁の緩和だが、社会保険料の支払いは将来の年金受給額増加や労災保険・失業保険の受給権発生など見返りのある支払いであるため、手取りの減少がすべて払い損になるわけではない。また、他の労働者は女性も含めて応能負担しているため、その人たちが支払った税金から助成金を出すのは不公平の上塗りにしかならない)

 *2-5は、①配偶者に扶養されるパート従業員が社会保険料負担の発生を避けるため働く時間を抑える「年収の壁」に関する政府の対策案が分かった ②保険料穴埋めの手当を払った企業に対し最大50万円/人助成する ③従業員の負担を解消し労働時間を延長しやすくして、人手不足緩和を狙うため ④飲食業・観光業を中心にコロナ禍後も働き手が戻らず、営業に支障が出ている所もあるので、個人の収入確保と経済を円滑に回す環境整備である ⑤「年収の壁」見直しは人手不足に悩む企業側が求めた ⑥抜本対策は、先送りして2025年の法案提出を目指す年金制度改革で議論する ⑦現在、従業員101人以上の企業で働くパートは年収106万円以上になると配偶者の扶養を外れ、厚生年金等の保険料を負担して手取りが減るが、扶養されている間は国民年金の「第3号被保険者」として保険料を払わずに将来の年金が受け取れる ⑧対策案では所定労働時間の延長などで生じた保険料の全部または一部を、企業が手当として従業員に払うことができる仕組みを作り、手当は賃金に含めない特別扱いとするため、手当による保険料増は生じない ⑨手当の仕組みを後押しするため、政府は既存の助成金を拡充して企業に支給する ⑩それを、手当・賃上げ原資・企業が負担する社会保険料に充ててもらう ⑪扶養に入っている従業員だけでなく単身者も対象とする ⑫企業が3年以内に労働時間を延長する計画を策定し、実際に延長した従業員も助成対象に加える 等としている。

 このうち①②③⑧⑨⑩⑪は、上の図の説明に書いたとおり、社会保険料の支払いは将来の年金受給額増加や労災保険・失業保険受給権の発生など見返りのある支払いであるため、手取りの減少がすべて払い損になるわけではなく、他の労働者は女性も含めて応能負担しているため、その人たちが支払った税金から助成金を出すと、不公平を上塗りしてバラマキすることになる。

 第1の不公平は、男女雇用機会均等法が施行され、男女共同参画・女性活躍を推進している時代に、女性が働かないことを奨励する配偶者手当を出す企業があることだが、これは従来からの慣習を変えていないだけだろうから、配偶者手当を廃止して個人の基本給を上げればよい。

 第2の不公平は、女性が働こうと思えば働ける現在でも、⑥⑦の国民年金3号被保険者が存在することである。何故なら、日本年金機構は「配偶者である2号被保険者が加入している被用者年金制度(厚生年金保険・共済組合等)の保険料・掛金等の一部を基礎年金拠出金として毎年度負担しているから、3号被保険者は自分で保険料を納付する必要はない(https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/hokenryo/sango.html 参照)」と記載しているが、共働きの2号被保険者は2人とも保険料や掛金を支払っており、家事労働は共働きの2号被保険者も同様に行っているからである。

 第3の不公平は、社会保険料の負担が生じる年収が企業規模によって異なる点で、これでは国民の安全を支える保険の役割を果たさない。そのため、社会保険料は所得税が発生する年収からすべての人が負担するように所得税と一致させ、所得税が発生する年収を基礎控除を物価上昇に伴って引き上げることによって変えればよいと考える。

 しかし、現在でも、女性であることによって働こうと思ってもうまく働けなかったり、賃金を低く抑えられたりするという第4の不公平が確かに存在する。しかし、それこそ、1947年施行の日本国憲法「第27条1項:すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う」や1986年施行の男女雇用機会均等法に従って変えるべきなのである。

 なお、④⑤⑫のように、この施策は、飲食業・観光業を中心にコロナ後も働き手が戻らず営業に支障が出ているため、人手不足に悩む企業が求めて労働時間を延長しやすくするために行うそうだが、人手不足に悩んでいるのなら、思い切って賃金を上げたり、正規雇用に変更したりするまたとない機会だ。そのための生産性向上のツールは出揃ってきており、日本人労働者が足りなければ外国人労働者を雇用すれば、誰にも迷惑をかけないばかりか、むしろ感謝される。

(3)気候変動と国土利用計画
1)気候変動について

   
      2021.10.27Amita      2023.3.21毎日新聞  2023.3.21日経新聞

(図の説明:左図のように、世界の平均気温は1850年以降に急速に上がり始め、特に高度経済成長期の1970~1980年以降の上昇が著しい。そのため、右図のように、IPCC報告書は「人間活動による温暖化は疑う余地がない」としている。そして、中央の図は、「世界平均気温上昇による極端な気象現象の発生回数が多くなる」としているが、まさにそのとおりになっている。しかし、今は極地の氷が残っているため、海水温の上昇はまだ緩やかに抑えられているのだ)

 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が、2023年3月、*3-1のように、第6次統合報告書をまとめ、温暖化対策の緊急性を強く訴えたそうだ。

 内容は、①温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」は産業革命前に比べた地球の平均気温の上昇を1.5度以内に留める目標を掲げたが ②気温は既に1.1度上がって2030年代前半にも1.5度に達する ③そのため気温が目標を超える期間を短く留めて下降に向かわせることが重要 ④それには世界の温暖化ガス排出を2025年までに減少に転じさせ、2035年の世界の排出量を2019年比で約60%減らす必要 ⑤IPCCのホーセン・リー議長は対策の遅れがもたらす熱波や洪水などの被害拡大に警鐘を鳴らした 等である。

 確かに、⑤のように、近年は世界で熱波・干ばつ・洪水などの異常気象による被害が拡大しているが、日本では、*3-2-1・*3-2-2に書かれているとおり、梅雨前線に暖かく湿った空気が大量に送り込まれて線状降水帯が発生し、それが停滞して集中豪雨となったり、観測史上最大の降水量となったりする頻度が増した。

 これによって、川の氾濫・がけ崩れ・ダムの緊急放流が起こったり、それが終わったら観測史上最高の気温になったりもしているため、①②③④は喫緊の課題なのだが、日本政府は、目標なき妥協が多く、気候変動への対応を急いでいるようには見えないし、被害を最小にするための土地利用計画の見直しも行っていない。

2)国土利用計画について
1)サウジアラビアの未来都市

 
2023.7.19西日本新聞  「ザ・ライン」      2029年冬季アジア大会誘致地域  

(図の説明:左図が、日本・サウジアラビアと日本・アラブ首長国連邦首脳会談のポイントだが、アンモニアをクリーンエネルギーの中に入れたことで、日本の意識の遅れがわかる。中央と右の図は、サウジアラビアが構想している未来都市だ)

 岸田首相が訪問されたサウジアラビアは、*3-3-1のように、①世界最大の石油輸出国でも脱炭素時代を見据えた大改革を進め ②サウジ北西部砂漠地帯にスマートシティー(長さ170km、幅200m、高さ500m)「ザ・ライン」を建設中で ③これが一つの街になって将来は900万人が住み ④このスマートシティーは道路も車もなく高速鉄道で移動し ⑤石油ではなく再エネですべて賄い ⑥未開発の山岳地帯を会場に2029年冬季アジア大会を招致し ⑦岸田首相はサウジのムハンマド皇太子との会談で2016年合意の「日・サウジ・ビジョン2030」へのさらなる支援を表明し ⑧日本はクリーンエネルギー・脱炭素技術で協力し ⑨日本企業の投資への関心も高く、1ヵ月前に同行の呼びかけをしたが約30社集まった のだそうだ。

 このうち①⑤は、未来を考えれば当然と言えるが、②③④の長さ170km・幅200m・高さ500mの砂漠地帯に一直線に建設されているスマートシティーは私の想像を超えるもので、i)人間の自然な欲求を満たさないと思うが、どうして一直線にするのか ii)どうして500mの高さが必要なのか iii) どうして道路も車もなく、高速鉄道で移動するのか iv) 2022年のサウジアラビアの人口は3,218万人だが、そのうち900万人をこのスマートシティーに住まわせるのか など疑問が尽きない。しかし、仮に海水面が60~100cm上がるとすれば、現在の平野部は海に沈む地域が多いため、都市の移転か建物による対応が必要になることは確かである。従って、⑥のように、未開発の山岳地帯を有効活用することも重要だろう。

 また、⑦の日本がサウジアラビアに支援を表明するのは良いし、⑨の日本企業のサウジアラビアへの投資の関心が高いのも良いと思うが、その内容が、⑧の脱炭素技術協力と称してアンモニアの利用を推奨したり、中国の影響力を意識して負けずに接近するだけというのであれば、サウジアラビアとは桁違いに日本の構想は小さいと言わざるを得ない。

2)中国、深圳の未来都市
 *3-3-2は、①中国広東省深圳西部の宝安を走る高速道路「G107」周辺の再開発に向けてドローン専用高速道路が提案され ②プロジェクトは「サステナビリティ」「テクノロジー」「グリーン建築」等をテーマに、ドローン・自動運転等の最先端テクノロジーと自然を融合させた近未来の都市を提示し ③排気ガスを出した12車線の高速道路は4車線ずつの2つの道路として筒状の空中トンネルに格納して大気汚染を解決し ④人々はその空中トンネルの上の緑の歩道を歩いて都市と自然が一体化した暮らしを実現し ⑤こうした環境に配慮したスマートシティ構想は深圳以外の世界中で進んでおり ⑥ドローンを活用した新たな空中物流インフラを構築できれば地上のトラック輸送・物流を大幅に削減でき、オフィスビルを貫くドローン専用高速道路が人々の目を引く ⑦ドローンが安全・効率的に飛び回って輸送インフラとしての機能を果たすには、ドローン輸送を前提とする都市計画が必要 等と記載している。

 私も、⑥⑦のように、ドローンを安全・効率的に使用して物流改革を行うには、ドローンの通り道となる高速道路とドローン輸送を前提とする都市計画が必要だと考えていた。つまり、誤って落下しても、間違っても下を通る人や物の上に落下しない仕組みにすべきなのである。

 また、①②③④⑤の排気ガスを出していた道路は、筒状の空中トンネルに格納しなくても、EVかFCVに置き変えれば排気ガスは出ない。それを筒状の空中トンネルに入れてしまえば、移動中に周囲の景色を見ることができなくなって、精神的にむしろマイナスだろう。また、道路を高架にして建物の中も通し、その高速道路の上をドローンが飛んで、人・車椅子・自転車などは緑豊かに都市計画された地上を歩いた方が良いと、私は思う。

 しかし、ダイナミックにドローン専用高速道路等を提案し、そこから改良を重ねていくのも、長期的には無駄遣いにしかならない対症療法ばかりしているよりはずっと良い。

3)日本の未来都市は? ← みんなで考えよう


      2021.8.14日経新聞      2021.11.6日経新聞   2021.9.7論座

(図の説明:左図のように、都道府県別農業産出額は北海道・栃木県・鹿児島県・青森県・千葉県・熊本県・宮崎県が頑張っている。また、中央の図のように、漁業産出額は1980年前後をピークに低下の一途を辿り、右図のように、林業も低迷しているが、これらは、日本政府が第1次産業を軽視してきた結果である。これによって、日本の食料自給率やエネルギー自給率は著しく低くなり、恵まれた国土を十分に活かすことなく、地方自治体の税収や自立力が低下している)

   
2021.7.2日経新聞     2021.7.10日経新聞       2021.5.21日経新聞

(図の説明:左図は、2009年と2019年を比較した場合の個人住民税の増減比較で、20%以上増加している県に沖縄県・宮城県・熊本県・北海道などの大都会以外も入っているが、正確に比べるには、法人住民税・事業税・地方消費税を加えた住民1人当たりの地方税収額の比較が必要だ。住民1人当たりの地方税収額を比較すると、法人の本社・工場がある地域の法人住民税・事業税が多く、そこで働く従業員等の個人住民税も多いため、その地域の地方税収が大きくなる。従って、既に国家資本を集中投下し、法人の本社・工場が多数存在する地域が潤沢な税収を得ることになるが、そういう地域は食料やエネルギーを殆ど生産していないと言っても過言ではない。また、中央の2つの図は、全国のごみ処理費用がうなぎ上りであるのに対し、1人あたりのごみ排出量が少ない市町村があるという話だが、そうなる理由が大切である。右図は、脳卒中が少なく老衰による死亡が多い都道府県で医療費が少ないという表だが、これに介護費を加えるとさらに著しい差が出る。しかし、「老衰」とされるものには、病気の見逃しや放置も含まれるため、少なくさえあればよいという見方は禁物だ)

 このような中、*3-3-3は、①戦後から今日まで東京圏へ人口・企業の集中 ②2022年都道府県別転入超過率は埼玉県0.35%・神奈川県(0.30%)・東京都(0.27%)・千葉県(0.14%)で、東京圏全体では10万人弱転入超 ③東京都の所得/人は575.7万円(19年度)で全国平均の約1.7倍で2位の愛知県366.1万円を引き離しており ④東京都の上場企業本社数(22年7月)は2122社で全国の約54% と記載している。

 このうち①④については、上の図の下の段に書いたとおり、国家資本を集中的に投下した首都圏に企業の本社・工場が多数存在しており、その結果、②のように、生産年齢人口の勤労者が多く流入するため、③のように、東京都の所得/人は全国平均の約1.7倍と高くなり、この地域が潤沢な税収を得ることになるのである。

 しかし、2019年の県庁所在地公示地価は、東京23区601,300円/㎡、名古屋183,100円/㎡、福岡150,100円/㎡、佐賀39,200円/㎡と著しく異なり、これは住居費のみならず、すべてのコストに反映されるため、東京都の生活コストは全国平均の約1.7倍どころではない筈だ。

 また、*3-3-3は、⑤小中学生時点で東京圏以外に居住し調査時点で東京圏に居住する回答者は他のタイプと比べて所得水準が高く、人的資本水準の高い人材が経済合理的判断から都市に移動 ⑥近年、先進国で人口や産業の集中度と経済成長がマイナスないし非有意の関係となる研究が目立つ ⑦「労働年齢人口」の伸び率の低さは「1人当たり県内総生産」の伸び率の低さと関連 ⑧日本の地域及び全国の経済成長には社会移動だけでなく人口構造変化への対策が重要 とも記載している。

 このうち⑤については、地域内で比較的人的資本水準の高い人材が都市に移動する傾向は確かにあるが、所得水準は同一勤務先の同一職階であれば同じ筈であるものの、女性にはガラスの天井(もしくは、コンクリートの天井)が用意されている上、高校の同窓生を優遇する習慣があるため、地方出身者は職階を上がるのも大変になるのだ。

 また⑥については、先進国で人口や産業の集中度と経済成長がマイナスないし非有意の関係となるのは、既に人口や産業が集中しすぎているため、土地をはじめとするすべてのコストが上がっていて高コスト構造になり、中国はじめ新興国における生産コストにかなわないからである。

 さらに、既存の都市にはまとまった空地が少ないため、サウジアラビアのように、未利用の砂漠や山岳地帯に未来都市を作るようなダイナミックな構造改革はできず、日本ではちょっと変えるのに数十年もかかることになる。そのため、首都移転したり、新しい産業都市を作ったりする先進国や新興国が多いのだ。

 しかし、⑦の「『労働年齢人口』の伸び率の低さは『1人当たり県内総生産』の伸び率の低さと関連するから」といって、「高齢者は早く逝くことを推奨する」というのは、文明の進歩に逆行しており、先進国や福祉国家の名にも値しない。もし生産年齢人口が足りなければ、女性・高齢者の使用に加えて、生産年齢人口の外国人労働者も招けばよい。つまり、⑧の社会移動に、国内移動だけではなく、国際間移動を加えればよいのである。

 *3-3-3は、⑨「まち・ひと・しごと創生法」は「地方創生」を国の重要な政策として位置づけ、自治体に様々な取り組みを求め、自治体が計画を立案して、国がその計画を支援する形だが ⑩自治体の自主財源比率が低く ⑪財政面での国と地方の関係も人口の東京一極集中を助長した ⑫地方版総合戦略策定にあたって多くの自治体が国からの地方創生関連交付金を基に東京都に本社がある業者に外部委託した ⑬税収の地域間格差が比較的少ない地方消費税率引き上げなどでの自主財源強化が検討に値する とも記載している。

 このうち⑨⑫の地方版総合戦略策定に多くの自治体が、国からの地方創生関連交付金を基に、東京都に本社がある業者に外部委託したというのは、東京に本社のあるコンサルティング・ファームなら国内の他地域だけでなく海外の事例も容易に参照できるという点で優れているが、その地域の事情に詳しいわけではないため、地方自治体が主体となってコンサルティング・ファームや地域の大学を使うのがよいと思う。そして、それもできないのであれば、地域主体の地域創生などとてもできないため、⑪は仕方がないということになろう。

 地方財政についても、⑩のように、自主財源比率が低すぎることはよくわかるが、⑬のように、地方消費税率を引き上げただけでは、大きな財源にはならない。そのため、農林漁業・再エネ発電・企業誘致など、地域の特色を活かして法人住民税・事業税及びそれにかかわる個人住民税を確保する必要がある。

 なお、*3-3-3は、⑭町村などの過疎地域では既に高齢化が進み、実際の人口分布以上に地方議員の年齢階層が高齢者に集中し ⑮地域の現場で長期的展望に立って政策を進める若手政治家が不足 ⑯日本の地方議員は大企業で働く会社員や常勤公務員と比較して経済的に恵まれず、人口減少が進む町村で成り手不足が一層深刻化 ⑰勤め人が地方選挙に出る選択は、家族を養うこととの両立が難しく就労世代が政治に関わりにくい ⑱議員定数に年齢枠や女性枠を設ける「クオータ制」導入や地方議員の報酬増を検討すべき ⑲中長期的には東京以外にも様々な人材・産業が集積する拠点を整備する方向性が望ましい としている。

 確かに、地方創生をこなし、教育・保育・医療・介護などの諸制度を的確に運用するには、地方議員の質と量が重要である。そのため、⑮ほど「若手でなければ、長期的展望に立てない」とは思わないが、⑭のように、人口分布に比例した男女比・年齢層になるのが多面的なニーズをくみ取るためには必要だと思う。

 そのためには、⑯⑰は事実であるため、⑱のように、地方議員定数に年齢枠や女性枠を設けたり、議員の報酬増を検討したりすることは不可欠である。しかし、それにもまして重要なのは、くだらないことで誹謗中傷したり、足を引っ張って喜んだりするのも止めることで、そうでなければ有用な人材を議員にして住民のために継続的に働いてもらうことはできない。

 最後に、⑲については、過密で高コスト構造で不便になった東京以外の地域にも、中長期的視点で産業や人材が集積する場所を作ることは重要である。それには、自然条件・災害・気候変動・海面上昇なども考慮して、これまでは人口の少なかった地域に首都機能を移転したり、スマートシティーを作ったりするのが、恵まれた国土を無駄なく使う方法であると、私は考える。

・・参考資料・・
<日本経済の現状 ← 経常黒字半減・物価上昇・実質賃金減少>
*1-1-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1065635 (佐賀新聞 2023/7/4) 税収過去最高 家計の苦境に目を向けよ
 国の2022年度の一般会計税収が、71兆1373億円と過去最高を記録した。円安の重なった物価高で消費税が増え、所得税、法人税も伸びたためだ。防衛費や少子化対策に多額の追加歳出を計画する岸田文雄首相にとっては、政権運営の好材料かもしれない。しかし税収増は家計の苦境の裏返しであり、さらなる負担は受け入れ難い点に目を向けねばならない。政府の当初予算時点の税収見積もりは65兆2350億円だった。70兆円台は初めてで、3年続けて過去最高を更新した。税収を押し上げた大きな要因は物価上昇だ。22年度の消費者物価指数は、石油や輸入原材料の高騰に円安が拍車をかけ、前年度比3・2%と約30年ぶりの伸びとなった。値上がりは食品から電気・ガス、サービス関連にまで及び、連動して消費税額も膨らんだ結果、22年度の消費税収は過去最高の23兆792億円に達した。19年10月に税率を10%へ引き上げた効果などが続き最高だった前年度に比べ、約1兆2千億円も多かった。景気に左右されにくい一方で、物価の影響を受けやすい消費税の特徴が表れた形だ。税収の確かさから、社会保障を支える消費税の役割を再認識することができよう。だが消費税収の好調を喜んではいられない。家計にしてみれば、物価上昇に課税増のダブルパンチとなったからだ。新型コロナウイルス禍からの経済回復があり単純比較はできないものの、前年度からの増収分は0・5%程度の税率引き上げに匹敵する。消費税は所得の低い世帯ほど負担感の重い「逆進性」がある点を考えれば、家計の重荷は深刻ととらえるべきだろう。基幹税では所得税も22年度は伸び、前年度より1兆円超多い22兆5216億円だった。物価高に伴う賃上げや、企業から株主への配当増が税収につながったとみられる。ここで留意すべきは十分な賃上げが大企業などに限られ多くの人は収入増がインフレに追い付かない状況である。物価動向を反映した実質賃金は、4月まで13カ月連続で減少している。22年度はコロナ禍からの立ち直りや円安による輸出企業の業績上振れで、法人税も14兆9397億円と増収だった。物価高が収まらない中で、配当など株主還元に比べて見劣りする賃上げの充実が引き続き課題である。岸田政権による血税の使途と財政運営が厳しく問われるのは当然だ。税収増の結果、22年度は2兆6294億円の決算剰余金が生じた。政府は防衛力強化の財源の一つに年7千億円の剰余金を想定しているが、多額の剰余金の発生は、もう一つの財源であり与党に抵抗感の強い増税の先送り論につながる可能性があろう。しかし議論すべきは「先送り」でなく、今以上の家計負担が困難な点である。防衛増税を実施するにしても課税余地のある企業向けを軸にすべきだし、財源に不安のない規模へ防衛費を縮減するのが理にかなっている。税収増を受け政府、与党で歳出拡大の声が高まることも戒めたい。今年の「骨太方針」はコロナ沈静化を受けて歳出を「平時に戻していく」と明記。国と地方を合わせた基礎的財政収支を25年度に黒字化する財政健全化の目標を維持した。歳出増はその方針を揺るがしかねない。

*1-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230701&ng=DGKKZO72407730R00C23A7EA1000 (日経新聞社説 2023.7.1) 政府税調まで消費税論議から逃げるのか
 中長期を見据えた税制の提言というには、看板倒れの内容だ。政府税制調査会(首相の諮問機関)が4年ぶりにまとめ、岸田文雄首相に提出した「中期答申」のことだ。前回の10倍の約260ページの分量ながら、増減税など具体的な改革の方向性を何ら示さなかった。答申を受け取る立場の岸田首相が少子化対策の財源を巡り、消費税などの議論を封印している。だが、各界の有識者から税制の将来について率直な意見を集める政府税調は、政治への忖度(そんたく)と一線を画すべきだ。逃げ腰と言わざるを得ない。中期答申は昭和・平成時代の税制改革を回顧し、最近の経済と社会の構造変化を総括した。終身雇用や専業主婦世帯が主体と考えられた旧態から働き方や人生設計が多様となり、デジタル化やグローバル化が進む。税制も経済成長を促す発想で組み直す必要がある。新型コロナウイルス対策などで悪化した財政の立て直しにも目配りが欠かせない。政府税調は「公平・中立・簡素」の原則に加えて、税の「十分性」の重視を掲げた。社会保障や財政の持続可能性にも配慮し、負担や歳出を見直すことは妥当といえる。だが、個別の税制をどう変えるかの記述はない。消費税に関しては社会保障給付を安定的に支える観点で「果たす役割は今後とも重要」とだけ記した。税調では現行10%からの引き上げが必要とする議論も出ていたが、答申は税率や時期などの具体論を避けている。所得税を巡っては働き方の違いで不公平が生じないよう、給与や退職金、年金への税負担のバランスをとるよう促した。そこは適切な指摘としても、具体的な手法への言及はない。「基幹税としての財源調達機能を適切に発揮する」と、原則論の確認にとどまる。税制改正の具体像を決めるのは政治家であり、中期答申は議論の下地となる考え方を提示するというのが政府税調の認識という。問題は、政治が与野党そろって、次の選挙に影響するとして税や社会保険料など安定財源の確保で真剣な議論から逃げていることだ。財源を曖昧に給付だけを増やすのは将来世代に対して無責任だ。専門家の立場から将来の負担のあり方で見識を示し、踏み込んだ議論を喚起する。それが政府税調に求められる役割ではないか。問題先送りを続ける政治に、あえて歩調を合わせる必要は全くない。

*1-1-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230702&ng=DGKKZO72416970R00C23A7EA1000 (日経新聞社説 2023.7.2) 医療費の物価反映は慎重に
 年間45兆円に上っている医療費が物価高を反映させる形で一段と膨らむ可能性が出てきた。政府が6月に閣議決定した経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に「次期診療報酬改定で必要な対応を行う」と明記された。物価高で医療機関の経費が増えているのは確かだが、医療費を増やせば、患者負担や国民の保険料負担が重くなることを軽く見るべきではない。政府は医療の持続性を確保する観点から、丁寧かつ慎重に対策を検討してほしい。保険医療は診療報酬という政府が定める公定価格で提供されるので、医療機関や薬局は光熱費や設備費、委託費など経費の増加分を患者の医療費に転嫁できない。2022年4月に改定された今の診療報酬にはその後の物価上昇分が勘案されていないため、日本医師会などは23年度中に補助金で緊急措置を実施した上で、24年4月の次期改定で物価水準を反映するよう求めている。賃上げが重要なのは医療従事者も例外ではない。ただその原資や経費の増加分すべてを診療報酬の増額で賄う考え方で国民の理解を得られるだろうか。産業界の労使交渉では賃上げと生産性向上をセットで議論するのが一般的だ。医療従事者の賃上げを考える際も、業務効率化の方策を同時に検討すべきだ。岸田文雄政権は社会保障などの改革で国民負担を抑制し、新たな少子化対策に要する負担増分を相殺する方針を閣議決定している。この施策との整合性を考えても、国民負担を増やす診療報酬の増額は安易に行うべきではない。医療従事者の賃上げにはデータに基づく議論も必要だ。医師や看護師、事務員など職種別給与データの提出を医療法人に求め、処遇実態を把握した上で賃金水準のあり方を検討してほしい。新型コロナウイルス対策の病床確保料などで医療機関の収支が改善した点にも留意が要る。物価反映が国民の理解を得るにはプロセスを踏んだ議論が欠かせない。

*1-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230516&ng=DGKKZO71023830V10C23A5EP0000 (日経新聞 2023.5.16) 企業物価上昇、なお5%台、4月、食品などで価格転嫁続く 資源高・円安の影響は一服
 日銀が15日発表した4月の企業物価指数は前年同月比5.8%の上昇だった。伸び率は4カ月連続で鈍化し、1年8カ月ぶりに5%台まで低下した。資源高や円安の影響が和らいだことで、市場には「今夏には5%を割る」との見方もある。ただ食品などの川下の品目での価格転嫁は当面続きそうだ。輸入物価指数(円ベース)は2年2カ月ぶりに前年同月比でマイナスになった。足元で円相場は1ドル=136円程度で推移しており、円安の直接的な押し上げ圧力には一服感が出ている。輸入物価指数の石油・石炭・天然ガスはマイナス9.0%、金属・同製品もマイナス7.5%になった。電力やガス料金には2月以降、政府の価格抑制策が効いている。企業物価指数の電力・都市ガス・水道の前年同月比上昇率は、25.8%と3月の26.8%から鈍化した。日銀によれば抑制策で0.7%程度、企業物価指数全体の前年同月比上昇率を押し下げている。SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは「早ければ(企業物価指数の前年同月比上昇率が)6月に5%台を割り込む可能性がある」と話す。ただこれまでのコスト高を受け、「複数回に分けて値上げに踏み切る企業もあり価格転嫁による押し上げ圧力は継続している」と指摘する。輸送用機器や生産用機器では、部品などの材料価格や物流費の上昇を価格に反映する動きが目立った。飲食料品は小麦などの原材料高を価格転嫁する動きが続いている。鉄鋼もこれまでのエネルギーコスト高が影響し前年同月比で上昇した。政府の抑制策で価格が抑えられている一方、事業用電力では燃料価格の上昇や託送料金の引き上げなどを価格に反映する動きもみられた。日銀は「コスト上昇分も含めた川下への価格転嫁の動きなどを注視していく」としている。4月分は公表されている品目のうち8割超で価格が上昇した。足元では消費者物価指数(CPI、生鮮食品を除く)でも前年同月比3.1%上昇と高水準での推移が続く。企業物価指数はCPIの先行指標ともされる。高止まりが続けば、CPIにも上振れの要因として波及しやすくなる。日銀は物価上昇率が23年度半ばには2%を下回るとの見方を示している。植田和男総裁は「(2%の物価目標を達成すると)安心して言えるところまで到達していない」として大規模緩和を維持する方針だ。価格転嫁が継続してCPIを押し上げれば、先行きの物価動向や政策運営にも影響を与える可能性がある。

*1-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA2274H0S3A620C2000000/ (日経新聞 2023年6月23日) 消費者物価、5月3.2%上昇 食品や宿泊が伸び高止まり
 総務省が23日発表した5月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が104.8となり、前年同月比で3.2%上昇した。プラスは21カ月連続で、高水準での推移が続く。食品といった生活必需品や宿泊料の値上がりが全体を押し上げ、物価上昇の品目も増えた。QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値の3.1%を上回った。再生可能エネルギー発電促進賦課金の引き下げや燃料価格の下落があった電気代が押し下げ、4月の3.4%からは伸び幅が縮小した。日銀の物価目標である2%を上回る状況が続く。生鮮食品を含む総合指数は3.2%上昇した。生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は4.3%上昇し、プラス幅が前月から0.2ポイント拡大した。伸びの拡大は12カ月連続となる。第2次石油危機の影響で物価が上昇した1981年6月の4.5%以来41年11カ月ぶりの高い上昇率となった。品目別では生鮮食品を除く食料が9.2%プラスだった。75年10月の9.9%以来47年7カ月ぶりの上昇幅となる。原材料価格や物流コストの上昇で、アイスクリームが10.1%上昇した。4月に価格改定のあったヨーグルトも11.3%伸びた。日用品も値上げが続き洗濯用洗剤が19.9%上がった。宿泊料は9.2%伸びた。政府の観光支援促進策「全国旅行支援」の効果が続く一方で、新型コロナウイルス禍からの経済社会活動の正常化で観光需要が増えて価格が上昇した。17.1%マイナスだった電気代を中心にエネルギーは8.2%低下した。都市ガス代も1.4%上昇と4月の5.0%プラスから伸びが縮小した。総務省の試算では、電気・都市ガス料金の抑制策と全国旅行支援をあわせた政策効果は、生鮮食品を除く総合の前年同月比伸び率を1.0ポイント押し下げた。単純計算すると、政策効果がなければ前年同月比で4.2%の上昇だったことになる。生鮮食品を除く総合を構成する522品目のうち前年同月より上がったのは438品目、変化なしは43品目、下がったのは41品目だった。4月は433品目が上昇しており、物価上昇の裾野が広がっている。日本経済研究センターがまとめた民間エコノミスト36人の予測平均では4〜6月期の生鮮食品を除く総合の前年同期比が3.24%プラスで、前回調査から0.31ポイント引き上げた。2024年4〜6月期も同2.01%伸びると予測する。足元では再び進行する円安が輸入価格の上昇圧力にもつながり、物価は高止まりが続く可能性がある。

*1-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230703&ng=DGKKZO72422720T00C23A7NN1000 (日経新聞 2023.7.3) 食品・日用品の大手値上げ、中堅に波及 店頭価格8.7%上昇、原材料高の転嫁広がる
 食品や日用品の店頭価格の上昇が続いている。POS(販売時点情報管理)データに基づく日次物価の前年比伸び率は6月28日時点で8.7%となった。昨年秋以降、業界大手を中心に価格改定に踏み切り、中堅企業などが追いかける「追随型値上げ」が多くの商品で広がっている。デフレが長く続く日本では値上げで売り上げが落ち込むリスクが強く意識され、価格転嫁を避ける傾向があった。ウクライナ危機をきっかけに原材料高を商品価格に反映する動きが広がり、潮目が変わりつつある。日経ナウキャスト日次物価指数から分析した。この指数はスーパーなどのPOSデータをもとにナウキャスト(東京・千代田)が毎日算出している。食品や日用品の最新のインフレ動向をリアルタイムに把握できる特徴がある。217品目のうち価格が上昇したのは199品目、低下は16品目だった。ロシアによるウクライナ侵攻が始まった2022年2月に価格が上昇していたのは130品目にとどまっていた。全体の前年比伸び率も当時は0.7%だった。足元ではヨーグルトや冷凍総菜などの値上げ幅が拡大している。ヨーグルトの値段は22年夏までほぼ横ばいだったが、11月に6%上昇し、今年4月以降はその幅が10%となった。この2回のタイミングでは業界最大手の明治がまず値上げを発表し、森永乳業や雪印メグミルクなどが続いた。その結果、江崎グリコなどシェアが高くないメーカーも値上げしやすい環境になり、業界に波及した。冷凍総菜も昨年6月は4%程度の上昇率だったが、11月に9%まで加速し、23年6月は15%まで上がった。味の素冷凍食品が2月に出荷価格を上げたことが影響する。ナウキャストの中山公汰氏は「値上げが大手だけでなく中堅メーカーに広がっている」と話す。ナウキャストによると、値上げをしてもPOSでみた売上高は大きく落ちていないメーカーもみられる。インフレが定着しつつあり、値上げによる客離れがそこまで深刻化していない可能性がある。品目の広がりも鮮明だ。ウクライナ侵攻が始まった直後は食用油が15%、マヨネーズが11%と、資源価格の影響を受けやすい商品が大きく上昇する傾向にあった。23年6月は28日までの平均で生鮮卵が42%、ベビー食事用品が26%、水産缶詰が21%の上昇になるなど幅広い商品で2ケタの値上げがみられる。日本は米欧に比べて価格転嫁が遅れ気味だと指摘されてきた。食品価格の上昇率を日米欧で比べると米国は昨年夏に10%強まで加速したが、足元は6%台に鈍化した。ユーロ圏は今年3月に17%台半ばまで高まり、5月は13%台に鈍った。日本は昨夏が4%台半ば、昨年末は7%、今年5月に8%台半ばと上げ幅が徐々に高まってきた。直近では瞬間的に米国を上回る伸び率になった。帝国データバンクが主要食品企業を対象に調査したところ7月は3566品目で値上げが予定されている。昨年10月が7864件と多かったが、その後も幅広く価格改定の表明が続く。昨年、一時的に10%を超えた企業物価指数は足元で5%台まで伸びが鈍化しており、資源高による川上価格の上昇は一服しつつある。それでも昨年からの仕入れ価格上昇や足元の人件費増を十分に価格転嫁ができているとは限らず、値上げに踏み切るメーカーは今後も出てくると予想される。日本のインフレも長引く様相が強まっている。

*1-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230606&ng=DGKKZO71652180W3A600C2MM0000 (日経新聞 2023.6.6) 4月実質賃金、3%減 13カ月連続マイナス 物価高続く
 厚生労働省が6日発表した4月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上の事業所)によると、1人当たりの賃金は物価変動を考慮した実質で前年同月比3.0%減った。減少は13カ月連続となる。名目にあたる現金給与総額は1.0%増の28万5176円だった。物価の伸びに賃金上昇が追いつかない状態が続いている。実質賃金のマイナス幅は3月の2.3%減から広がった。実質賃金の算出で用いる物価(持ち家の家賃換算分を除く総合指数)の上昇率が4.1%に達しており、3月の3.8%から拡大した影響が出た。現金給与総額の増加は22年1月から続いており、16カ月連続となる。新型コロナウイルス禍からの経済活動の正常化に伴う動きだ。現金給与総額のうち、基本給にあたる所定内給与は1.1%増、残業代などの所定外給与は0.3%減だった。今年の春季労使交渉では物価高を背景に賃上げ率は30年ぶりの高水準となっている。4月の速報段階では「まだ交渉中の労使があることなどから結果が十分に反映されていない」(厚労省)という。就業形態別に現金給与総額を見ると、正社員など一般労働者は1.1%増の36万9468円、パートタイム労働者は1.9%増の10万3140円だった。1人当たりの総実労働時間は0.3%減の141.0時間だった。業種別では不動産・物品賃貸業が14.3%増となったほか、飲食サービス業も6%を超える伸びだった。

*1-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230606&ng=DGKKZO71652190W3A600C2MM0000 (日経新聞 2023.6.6) 消費支出、4月4.4%減 2カ月連続マイナス
 総務省が6日発表した4月の家計調査によると、2人以上の世帯の消費支出は30万3076円と、物価変動の影響を除いた実質で前年同月比4.4%減少した。マイナスは2カ月連続。食料、通信など生活関連の品目や教育への支出が減り、消費を押し下げた。下落幅は21年2月の6.5%減以来2年2カ月ぶりの大きさとなった。

<G7とジェンダー平等>
*2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15670995.html (朝日新聞 2023年6月26日) 賃金、男女格差「解消を」 性的少数者尊重も言及 G7担当相声明
 主要7カ国(G7)男女共同参画・女性活躍担当相会合が24、25日に栃木県日光市で開かれ、企業の女性役員登用や成長分野への就業を進め、賃金格差を解消することで女性の経済的自立を進める方向で一致した。ジェンダー平等で遅れる日本にとって、議論を踏まえた取り組みが急がれる。男女間の賃金格差はG7共通の課題で、共同声明は「是正には包括的アプローチが必要」と強調。女性役員の登用▽成長分野や報酬の高い分野への女性の労働移動の促進▽女性の起業支援――などを具体策で示した。また、家事や育児、介護など女性に偏る無償労働は「女性がフルタイムで働く能力や指導的地位に就く能力を損なう」と指摘。家族への公的支援を強化するほか、男性の無償労働への参加を増やすための施策を求めた。今月公表された各国の男女格差を数値化した「ジェンダーギャップ報告書」で、日本は146カ国中125位。男女間の賃金格差は22・1%、企業(東証プライム上場)の女性役員の比率は11・4%でともにG7各国では最下位。無償労働時間は女性が男性の5・5倍長く、男女差はG7で最大との統計もある。会合の議長を務めた小倉将信・男女共同参画相は今後の対応について、会見で「女性起業家の支援などを着実に進める。男性の家事育児への参画促進のための施策に取り組みたい」と述べた。会合に参加した他国の担当相や団体の代表者9人はすべて女性。日本だけが男性だったことについて、小倉氏は「女性だけが主張しても実現しえない。非常に強い熱意を持つ男性リーダーが一緒に行動を起こさないと実現しない、というのが共通認識だった」とした。また、共同声明では性的少数者に関して、女性や「LGBTQIA+(LGBTを含めた多様な性)の人々の人権と尊厳が完全に尊重され、促進され、保護される社会の実現に向けた努力を継続する」とした。LGBT法連合会の神谷悠一事務局長は「LGBTQIA+の問題がジェンダーの課題であると強力に示された。政府は今後、国内での平等に向けた取り組みを具体的に進めていくべきだ」と話した。

*2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230621&ng=DGKKZO72075270R20C23A6MM0000 (日経新聞 2023.6.21) 男女平等、日本125位 過去最低 政治や経済分野悪化
 世界経済フォーラム(WEF)は21日、男女平等がどれだけ実現できているかを数値にした「ジェンダー・ギャップ指数」を発表した。調査した146カ国のうち、日本は過去最低の125位だった。政治や経済分野での指数が悪化し、前年調査(116位)より順位を落とした。主要7カ国(G7)では最低水準となった。調査は「経済」「教育」「健康」「政治」の4分野で男女平等の現状を指数化している。完全に実現できている場合は1、まったくできていない場合をゼロとして各分野ごとに指数化し、総合評価のランキングを毎年発表している。日本の順位を分野別にみると「政治」が138位、「経済」が123位となった。改善の必要性が長年指摘されている両分野で指数が悪化した。国内での教育格差が相対的に小さいことや、男女の健康に大きな差がないと判断されたことから「教育」は47位、「健康」は59位となった。日本の評価が特に低いのは政治における男女平等だ。女性の議員数や閣僚数が他の国・地域と比べて大幅に少ないことに加え、これまでに女性の首相が誕生していないことなどが指数や順位に織り込まれた。女性の権利を制限していると指摘されるサウジアラビア(131位)を下回り、世界で最も低い圏内にある。経済の項目でも低い評価が目立つ。女性管理職の比率が低いことや、男女の所得に依然として差があることなどが響いた。政府は東証プライム市場に上場する企業の女性役員の比率を2030年までに30%以上にする目標を新たに掲げ、多様性の確保を急ぐ。WEFは教育における日本の男女平等は99%以上達成できていると分析した。ただ、今回は大学以上の進学率が加わったことで、順位は47位と前年(1位)から大きく下がった。全体の順位が下がった一因にもなったと考えられる。総合評価が高かったのはアイスランドやノルウェー、フィンランドなどだ。アイスランドでは男女平等の達成率が90%を超えた。最下位はアフガニスタンだった。WEFは世界で男女平等が実現されるのは131年後の2154年だと試算する。男女平等の度合いは新型コロナウイルス感染拡大前の水準までには回復した一方で、「進展のペースは鈍化している」としている。

*2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230622&ng=DGKKZO72100240S3A620C2EA1000 (日経新聞 2023.6.22) 男女平等、達成率68% 政治・経済の壁なお 世界の格差指数 日本、過去最低の125位
 世界経済フォーラム(WEF)が21日発表した2023年の男女平等の度合いを示すジェンダー・ギャップ指数で、日本は146カ国中125位と過去最低になった。政治分野の低さが変わらず、経済分野は女性管理職比率の低さが足を引っ張る。世界全体でも格差はなお残り、WEFはこの差を埋めるにはあと131年必要だと指摘する。調査は経済、教育、健康、政治の4分野に関する統計データから算出する。男女が平等な状態を100%とした場合、世界の達成率は68.4%。WEFは現状では世界での男女平等実現は2154年になると指摘する。格差が目立つのは経済、政治の両分野。差を埋めるには経済で169年、政治で162年かかるという。国別にみると、首位は14年連続のアイスランドで91.2%。日本は64.7%、最も低い146位のアフガニスタンは40.5%だ。地域別では欧州や北米が高く、WEFは東アジア・太平洋地域の歩みが10年以上停滞しているとみる。ニュージーランドなどは上位だが、韓国(105位)や中国(107位)などは課題を抱える。リポートでは労働人口に占める女性の割合が4割を超す一方、上級指導職の女性割合が10ポイント近く低い点も指摘。昇進を阻む「ガラスの天井」が依然存在するとした。日本も政治(138位)や経済(123位)の低さが目立つ。経済は女性管理職の比率が133位にとどまるのが大きく影響している。働く女性がリーダー層になるにつれ減る構造がある。23年版男女共同参画白書によれば、日本の就業者に占める女性の割合は45%で米国(46.8%)と大差なく、韓国(43.2%)より高い。だが管理職に占める女性比率は12.9%で米国(41.0%)を下回り、韓国(16.3%)より低い。民間企業の場合、係長級で24.1%いる女性が課長級で13.9%、部長級は8.2%に減る。キャリアの階段が細くなる背景に何があるか。ロールモデルが身近にいないことや硬直的な働き方、家事・育児負担の偏りなどが指摘されるが、そのままでは企業の成長は期待できない。政府は女性活躍・男女共同参画の重点方針(女性版骨太の方針)で、東証プライム上場企業は25年をめどに女性役員を最低1人起用、女性役員比率は30年までに30%以上の目標を掲げる。ヒントはある。キリンホールディングスは入社後10年ほどまでに多くの業務を担当し、プロジェクトリーダーなどに挑戦する「早回しキャリア」で女性管理職育成を急ぐ。各段階で切れ目なく支援をし、「管理職手前」の層を厚くする。結果的に改善への早道になる。経済で多様性がイノベーションを生むのはすでに世界の共通認識だ。投資家は組織の意思決定者に多様性を求め、取締役会が男性ばかりの日本企業にノーを突きつける。ジャパン・インターカルチュラル・コンサルティングのロッシェル・カップ社長は「欧米に比べて日本は政策や慣行、法律などを変えるのに消極的だ。リーダーは具体的な行動を起こす必要がある。現状維持優先の態度はますます遅れにつながる」と強調する。

*2-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA128CD0S3A610C2000000/ (日経新聞 2023年6月13日) 女性役員比率30%目標に 政府「女性版骨太の方針」決定
 政府は13日、女性活躍・男女共同参画の重点方針(女性版骨太の方針)を決定した。東証プライム市場へ上場する企業に2025年をめどに女性役員を最低1人選任するよう促す。女性役員比率を30年までに30%以上とする目標も盛り込んだ。いずれも努力義務で罰則は設けない。岸田文雄首相は同日の女性活躍と男女共同参画に関する会議で「全ての人が生きがいを感じられ、多様性が尊重される持続的な社会の実現のため取り組みを進める」と述べた。近くまとめる経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に反映する。目標達成のためプライム上場企業に行動計画をつくるよう推奨する。年内に東証の上場規則に数値目標に関する規定を設けることを想定している。東証プライム上場で女性役員比率が30%を超える企業は22年7月末時点で2.2%にとどまる。女性役員が1人もいない企業の比率は18.7%だった。優良なスタートアップ企業に占める女性起業家の比率を33年までに20%以上とする目標も掲げた。「Jスタートアップ」と呼ばれる新興企業が対象で、経済産業省を中心に23年5月時点で選定した238社の女性起業家比率は8.8%だった。

*2-5:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1062235 (佐賀新聞 2023/6/28) 年収の壁、企業助成50万円、従業員の保険料穴埋め、年内にも
 配偶者に扶養されるパート従業員が、社会保険料負担の発生を避けるため働く時間を抑える「年収の壁」に関する政府の対策案が分かった。保険料を穴埋めする手当を払った企業に対し、従業員1人当たり最大50万円を助成。従業員の負担解消につなげ、労働時間を延長しやすくすることで人手不足緩和を狙う。関係者が28日明らかにした。飲食業や観光業を中心に、新型コロナウイルス禍後も働き手が戻らず、営業に支障が出ている所もある。個人の収入確保とともに、経済を円滑に回す環境整備を進める。政府内の調整を経て最終決定し、年内にも対策を開始。時限措置とする。「年収の壁」見直しは人手不足に悩む企業側が求め、岸田文雄首相が2月に「対応策を検討する」と踏み込んだ。抜本的な対策は先送りし、2025年の法案提出を目指す年金制度改革の中で議論する。現在は、従業員101人以上の企業で働くパートの場合、年収106万円以上になると配偶者の扶養を外れる。厚生年金などの保険料を自ら負担し、手取りが減る。扶養されている間は国民年金の「第3号被保険者」として、保険料を払わず、将来の年金が受け取れる。対策案では、所定労働時間の延長などで生じた保険料の全部または一部を、企業が手当として従業員に払うことができる仕組みをつくる。手当は賃金に含めない特別扱いとし、手当による保険料増は生じない。手当の仕組みを後押しするため、政府は既存の助成金を拡充し、1人当たり最大50万円を企業に支給。手当や賃上げ原資、企業が負担する社会保険料に充ててもらう。基本給を増やしたかどうかで助成額が変動する。扶養に入っている従業員だけでなく、単身者も対象とする。企業が3年以内に労働時間を延長する計画を策定し、実際に延長した従業員も助成対象に加える。年収の壁 会社員や公務員の扶養に入る配偶者がパートなどで働くと、一定以上の年収で社会保険料が発生したり税の優遇が小さくなったりする。この額の境目が「壁」と呼ばれる。保険料の場合、勤め先の従業員数規模などに応じて106万円や130万円が境となり、手取りが減る。106万円の壁では、年収が約125万円になると手取りが106万円に戻る。税は、年収が150万円を超えると所得税の配偶者特別控除の満額を受けることができない。

<気候変動と国土利用計画>
*3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230326&ng=DGKKZO69601710V20C23A (日経新聞社説 2023.3.26) IPCC報告が示す温暖化対策の緊急性
 温暖化による気象災害や食料危機、紛争などの悪化を防ぐための時間は、わずかしか残されていない。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)がまとめた第6次統合報告書は、温暖化対策の緊急性を強く訴えた。報告書は気候変動をめぐる今後の国際交渉の土台となる。日本は主要7カ国(G7)議長国として真剣に受け止め、中国を含む20カ国・地域(G20)とも連携して対策を加速する必要がある。温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」は、産業革命前に比べた地球の平均気温の上昇を1.5度以内にとどめる目標を掲げる。だが、報告書によると気温は既に1.1度上がっており、2030年代前半にも1.5度に達する可能性がある。気温が目標を超える期間を短くとどめ、下降に向かわせることが重要だ。それには世界の温暖化ガス排出を25年までに減少に転じさせ、35年の世界の排出量を19年比で約60%減らさねばならないという。パリ協定のもと、各国は25年までに35年の新たな削減目標を提示することになっている。報告書の数値は重要な指標となろう。日本の現行目標は30年度の排出量を13年度比で46%減らし、50%減をめざすというものだ。国際社会から一層の上乗せを求められる可能性がある。見直しの検討を怠ってはならない。報告書は21年10月までのデータに基づいており、ロシアのウクライナ侵攻の影響は含まない。現実にはエネルギーの安定供給を確保するため、化石燃料の利用減を先延ばしする動きもある。石炭火力発電への依存度が高いアジアの途上国などでは、再生可能エネルギーへの転換や省エネの投資が不足している。パリ協定の目標達成は困難を伴う。だが、諦めるわけにはいかない。IPCCのホーセン・リー議長は対策の遅れがもたらす熱波や洪水などの被害拡大に警鐘を鳴らすとともに「報告書は希望へのメッセージでもある」と強調した。再生エネルギーや蓄電池のコストは劇的に下がった。水素製造・利用技術や、火力発電所から出る二酸化炭素(CO2)を吸収・貯留する技術の開発も進む。日本は化石燃料依存を減らしつつ、こうした技術の普及へ積極的な役割を果たすべきだ。実績を積み上げ、被害や損害の軽減につなげることが大切だ。

*3-2-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE102J80Q3A710C2000000/ (日経新聞 2023年7月10日) 停滞した梅雨前線に水蒸気が流入、九州の大雨の要因に
 九州北部では7月に入ってから断続的に線状降水帯が発生し、10日は土砂崩れによる家屋被害や河川の氾濫が相次いだ。梅雨前線が九州付近に長くとどまり、太平洋高気圧の縁を回るように大量の水蒸気が流れ込んでいることが要因とされる。この時期は同様のメカニズムで豪雨が起こりやすく、気象庁は注意を求めている。気象庁気象研究所によると、7月に「3時間降水量が130ミリ以上」の豪雨が起きた頻度は、2020年までの45年間で約3.8倍に増えた。梅雨の時期に起きた集中豪雨の多くは、積乱雲が発達して連なる線状降水帯を伴うものだという。6月下旬〜7月上旬の梅雨時期は、日本の南側から張り出した太平洋高気圧の縁を回るようにして暖かく湿った空気が大量に梅雨前線に送り込まれやすくなる。とくに今年は上空の偏西風が弱いことなどから梅雨前線が九州付近に停滞。7日午後からは九州北側の対馬海峡の周辺にとどまり、雨雲のもととなる大量の水蒸気が流入し続けた。17年の九州北部豪雨でも九州の北側に梅雨前線が停滞し、線状降水帯が発生した。

*3-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE151YT0V10C23A7000000/ (日経新聞 2023年7月15日) 秋田大雨で河川氾濫 秋田駅前が冠水、16日新幹線運休
 発達した梅雨前線の影響により秋田県で15日、記録的な大雨となった。秋田市ではJR秋田駅前など市街地が冠水した。夜時点で14市町村に避難指示が出され、最高の警戒レベル5に当たる「緊急安全確保」も6市町村で発令された。秋田市添川地区の住宅が土砂崩れに巻き込まれ、4人が軽傷を負った。同市には避難所が開設された。秋田県は同日、15市町村への災害救助法の適用を決定した。秋田新幹線は運休が相次ぎ、16日は盛岡-秋田間で始発から終日運転を見合わせる。17日も見合わせる見通しだ。大雨で川の水位が上昇し、同県五城目町の内川川や秋田市内の太平川などで氾濫が発生した。八峰町の水沢ダムと秋田市の旭川ダムでは午後、大雨により貯水しきれなくなった水を下流に流す「緊急放流」が始まった。同県内での午後5時時点までの24時間降水量は秋田市で最大287.5㍉、男鹿市で244.0㍉、藤里町で237.0㍉、八峰町で219.0㍉など7カ所で観測史上最大となった。八峰町では既に7月の平年1カ月分を超えた。朝鮮半島から東北を通って日本の東に延びる前線に暖かく湿った空気が流れ込み、前線は16日にかけて東北に停滞し、活発な状態が続くとみられる。16日午後6時までの24時間予想雨量は多いところで東北北部で120ミリ、東北南部で100ミリの見込み。

*3-3-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15690019.html (朝日新聞 2023年7月17日) 脱・石油、サウジが見る夢 首相中東歴訪
 岸田文雄首相の中東3カ国歴訪が始まった。いずれも日本が石油やガスの供給元として依存するペルシャ湾岸諸国だが、「脱石油」時代に向けて、国の姿を変え始めている。湾岸諸国は、日本に何を期待しているのか。日本は、この地域にどう関与するのか。
■全長170キロスマートシティー・外交で存在感
 岸田首相がまず訪れたサウジアラビア。世界最大の石油輸出国ながら、脱炭素時代を見据えた大改革を進めている。サウジ北西部の赤茶けた砂漠地帯に、うっすらと浮かぶ1本の直線。衛星写真がとらえた線は長さ170キロ。幅200メートル。道路ではない。これ自体が一つの街になるという。サウジの国政を取り仕切るムハンマド皇太子が2021年に発表したスマートシティー「ザ・ライン」の建設現場だ。将来的に900万人が住み、道路も車もなく、高速鉄道などで移動。石油ではなく、すべてを再生可能エネルギーでまかなう計画だ。ムハンマド氏は「自然を守り、人類の生存可能性を高めるモデルを作る」と語った。サウジでは、石油依存からの脱却を図る社会改革が進行中だ。その指針が、ムハンマド氏が副皇太子時代の16年に発表した「ビジョン2030」。産業の多角化や教育・医療改革、女性の社会参加などを含む野心的な内容だ。世界が脱炭素へ向かう中、良くも悪くも原油価格次第という産業構造の転換は、サウジにとっての喫緊の課題だ。振興を目指す新産業は再生可能エネルギーや観光、文化、スポーツなど多岐にわたる。すでに観光ビザの発給を始め、自動車ラリー、eスポーツなどの国際イベントを誘致。未開発の山岳地帯を会場に29年冬季アジア大会も招致した。サウジは中東地域で唯一のG20(主要20カ国)メンバーで、アラブ圏、イスラム圏の盟主的な存在だ。近年はその枠を超えて、外交面での影響力も高まっている。ウクライナ侵攻では、昨年3月の国連総会でロシア非難決議に賛成しつつ、ロシア制裁を強める欧米とは距離を置く。主要産油国でつくる「石油輸出国機構(OPEC)プラス」のメンバーであるロシアとの関係を重視し、親米国家ながら、米バイデン政権の原油増産要請をはねつけた。一方、ロシアとウクライナの間で捕虜交換も仲介するなど、バランスをとる姿勢が目立つ。3月には、中国の仲介で、敵対関係にあったイランと7年ぶりに外交関係の正常化で合意。敵対から和解へ、中東各地で進む流れを主導する。安全保障面で後ろ盾となってきた米国は、中東での存在感を低下させている。サウジは外交攻勢によって独自に安保環境を整え、脱炭素時代に向けた国造りに資源を集中させたい考えとみられる。新構想には、すでに中国や韓国が投資や技術面での協力を表明しているが、日本への期待も高そうだ。
■日本、支援に前のめり 中国の影響力警戒
 日本の首相のサウジ訪問は、20年1月の安倍晋三元首相以来で約3年半ぶり。岸田首相は昨夏に中東訪問を模索したが、新型コロナ感染で見送った。外務省幹部は「突出した国力を持つサウジを含む中東への訪問は、これ以上遅らせることはできなかった」と話す。背景には、中東での中国のプレゼンスの高まりがある。岸田氏はサウジのムハンマド皇太子との会談で、16年に合意した両国の協力に関する「日・サウジ・ビジョン2030」へのさらなる支援を表明する。その柱に掲げるのが、クリーンエネルギーや脱炭素技術の協力だ。首相周辺によると、日本企業の投資への関心も高く、同行の呼びかけが1カ月前だったにもかかわらず、約30社が集まったという。岸田氏は16日、日本を発つ前に「グローバルなエネルギー安全保障と現実的なグリーン・トランスフォーメーション(脱炭素化)の実現に向け、緊密な連携を確認したい」と記者団に語った。会談では、アニメなどの日本文化、観光、教育などでの交流の推進で一致する見通し。岸田氏は両国間の幅広い分野での連携強化により、サウジの中国への接近に歯止めをかけたい考えだ。ただ、中東情勢の専門家のなかには「サウジとの連携を強める国際社会の中で日本は周回遅れだ」と指摘する人もいる。中国の影響力がさらに高まれば、日本のエネルギー政策にも影響しかねないと懸念する。岸田氏はまた、法の支配に基づく「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた協力を呼びかける。日本は今年、主要7カ国(G7)の議長国を務めており、首相周辺は「日本は中東やグローバルサウスと西側をつなぐポジションにあり、それを生かすことが重要だ」と話す。ムハンマド氏との信頼関係の構築も重視する。サウジは「中東全体を動かすパワーを持つ」(外務省幹部)ため、現在37歳の同氏との関係は、将来にわたる日本の国益につながると踏む。ただ、18年にトルコで起きたサウジ人記者殺害事件をめぐっては、ムハンマド氏の関与が疑われ、米国が問題視している。
■<考論>存在感低下、技術や投資で関与を 日本エネルギー経済研究所理事・保坂修司氏
 日本の石油輸入量の9割以上を占める中東の安定は、日本の経済安全保障という観点から重要だ。ウクライナ戦争を引き金にしたエネルギー危機で、世界的に中東の重要性は高まっているが、近年、中東での日本の存在感は低下している。湾岸諸国は、石油依存からの脱却をめざす。石油を売ったお金を石油以外の分野に投資し、経済を多角化すべく、急速に改革を進めている。首相が訪れる3カ国が日本に期待するのも、「脱炭素」に向けた協力や投資だろう。注目されている水素技術は、日本にも先端技術がある。こうした分野で協力関係を構築していくべきだ。安く安定的に石油やガスを供給できる地域は、今後も中東以外は考えにくい。首脳レベルでの関係強化は欠かせない。中東の人口は増加が見込まれ、経済的にも潜在力を秘めている。紛争が多く、政情不安に陥りやすい地域であるため、(企業が進出に)二の足を踏むのもわかる。ただ他国や他国企業も、一定のリスクをとって関与し続けている。日本側にもそうした姿勢が必要だ。

*3-3-2:https://ideasforgood.jp/2016/09/14/drone_baoan/ (Ideas For Good 2016年9月14日) 世界初、ドローン専用の高速道路?深圳が描く未来都市
 約1,500万人の人口を抱え、今や中国はおろか世界を代表する経済都市として「中国のシリコンバレー」と呼ばれるまでになった中国広東省の深圳で、また新たな一大プロジェクトが始まろうとしている。深圳の西部にある宝安(Bao’an)を走る高速道路、「G107」周辺地域の再開発プロジェクトにおいて、その全容は明らかにされた。宝安地区の再開発に向けてAvoid Obvious Architectsらが提案したのは、世界で初めてとなるドローン専用の高速道路だ。ニューヨークのマンハッタンよりも長く、30kmに渡って宝安地区を横切るG107は、同地域を都市化が進むウォーターフロントエリアと自然が残されたままの内陸エリアに分断し、都市の持続可能な発展を妨げる要因となっている。都市における高速道路の役割を再定義するところから始まった同プロジェクトは、「サステナビリティ」「つながり」「テクノロジー」「シェアリングエコノミー」「社会創造」「グリーン建築」の6つをテーマに置き、ドローンや自動運転といった最先端のテクノロジーと自然を融合させた近未来の都市の在り方を提示するものとなっている。大量の排気ガスを排出していた12車線の高速道路は、4車線ずつに分かれた2つの道路として筒状の空中トンネルの中に格納され、大気汚染の問題が解決される。そしてその空中トンネルの上に敷き詰められた緑の歩道を人々は歩き、都市と自然が一体化された暮らしを実現する。こうした環境に配慮されたスマートシティ構想は深圳以外にも世界中で進んでいるが、今回提示された都市ビジョンの中でひと際人々の目を引いたのは、何といってもオフィスビルを貫くドローン専用の高速道路の存在だ。現在、ドローンは産業分野での活用が期待されているテクノロジーの一つだが、その中でも特に関心が寄せられているのが、輸送・物流分野における革命だ。ドローンを活用した新たな空中の物流インフラを構築することができれば、地上のトラック輸送・物流を大幅に削減することができ、利便性はもちろん環境面におけるプラス効果も期待できる。しかし、ドローンが空中を安全かつ効率的に飛び回り、輸送インフラとしての機能を果たすためには、ドローン輸送を前提とする都市計画が必要となる。そこで今回提案されたのが、ドローン専用の高速道路なのだ。ドローンの輸送導線を考慮したビル設計を行うことで、効率的な輸送インフラが実現し、テクノロジーと利便性、環境へ配慮が一体化した都市が実現するというわけだ。今回プロジェクトを提案した香港とニューヨークに拠点を置く建築デザイン会社のAvoid Obvious Architectsは、今回のプランを段階的に実現し、2045年までにこの自然とテクノロジーが融合した未来都市を完成させる計画だ。今から約30年後の2045年、世界の都市はテクノロジーと共にどのような進化を遂げているのか。そして、そこで私たちはどのような暮らしをしているのか。想像するだけで夢は膨らむが、その未来を現実にするための最初の一歩は、既に始まろうとしている。

*3-3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230628&ng=DGKKZO72254030X20C23A6KE8000 (日経新聞 2023.6.28) 地方経済をどうするか(下) 自治体財源・議会の改革カギ、浦川邦夫・九州大学教授(うらかわ・くにお 77年生まれ。京都大学博士(経済学)。専門は応用経済学、福祉政策)
<ポイント>
○過度な都市集積は成長にプラスと限らず
○地方消費税率上げなどで自主財源強化を
○地方議会での年齢枠・女性枠導入も一案
 戦後から今日に至るまで程度の差はあるが、日本の地域格差のほぼ一貫した特徴として、東京圏、とりわけ東京都への人口・企業の集中の傾向が挙げられる。総務省の「住民基本台帳人口移動報告」を基に、2022年の人口移動の状況を確認すると、都道府県別の転入超過率は埼玉県が0.35%と最も高く、神奈川県(0.30%)、東京都(0.27%)、千葉県(0.14%)が続く。東京圏全体で10万人弱の転入超過だった。東京都の転入超過率は前年に比べて最も大きく上昇(0.23ポイント)しており、コロナ禍でやや沈静化していた東京一極集中の傾向が再び鮮明になりつつある。政府統計によると、東京都の1人当たり所得は575.7万円(19年度)と全国平均の約1.7倍で、2位の愛知県の366.1万円を大きく引き離す。東京都の上場企業本社数(22年7月)は2122社で、全国の約54%を占める。東京都の高い所得水準や多様な企業の存在は地方から多くの人材を引きつける。筆者は10年代前半に9千人規模の調査を用いた共同研究で、回答者の幼少期以降の地域移動のパターンと現在の所得水準の関係を検証した。小中学生時点で東京圏以外の地域に居住し、調査時点で東京圏に居住する回答者(地方から都市への移動経験を持つ回答者)は、他の移動タイプ(移動経験なしを含む)の回答者と比べ、一般に所得水準が高い傾向が確認された。これは、もともと人的資本の水準が高い優秀な人材が自己の選択により経済合理的な判断から都市に移動するとしたトルコ・コチ大学のインサン・ツナリ氏らの分析を支持する結果だ。都市の最適な人口規模を考えるうえで「ヘンリー・ジョージの定理」が知られる。住民の効用を最大化させるような最適な人口規模がどのような条件下で達成されるかについて、都市集積のベネフィットとコストの差に注目した定理だ。東京圏など特定地域に労働や資本が集まることは、規模の経済や集積の経済を通じて日本全体の平均的な生産性を高める効果が期待される。一方で、過度の集積は混雑や騒音などによる地域住民の生活環境の悪化をもたらし、出生率の低迷や福祉水準の低下につながりうる。大規模災害や環境汚染に対する脆弱性への対応も重要な論点だ。立正大学の西崎文平氏は、20世紀後半以降のデータを基に大都市集中と経済成長の関係に関する各国の先行研究を調べた。その結果、近年は主に先進国で人口や産業の集中度と経済成長がマイナスないし非有意の関係となる研究が目立つと指摘した。すなわち経済規模が一定水準を超えて成熟した国については、大都市への集中が成長にポジティブな影響を与え続けるとは一概にはいえない。「県民経済計算」を用いたアジア成長研究所の戴二彪氏の分析は、「労働年齢人口」の伸び率の低さが「1人当たり県内総生産」の伸び率の低さと関連している点を指摘する。このことは、日本の地域経済成長および全国の経済成長に対し、社会移動に加え、出生数の減少や高齢化など人口構造変化への対策が本質的に重要なことを示唆する。14年制定の「まち・ひと・しごと創生法」は、人口減少・高齢化・労働力不足などの地域的課題を解決すべく「地方創生」を国の重要な政策として位置づけ、自治体に様々な取り組みを求める。具体的には、各自治体が地方創生に関する計画を立案し、国がその計画を支援する形が採られた。だが現状の社会経済指標(人口移動、経済成長など)を踏まえると、全体としての取り組みには課題が残る。ここでは、必要とされる視点やとるべき方策について主に2点指摘したい。第1に地域のあり方を決める主役はその地域の住民であることから、地方創生に向けた取り組みは自治体ができる限り自主財源(地方税など)を駆使して実施する形が望ましい。しかし現行の自主財源比率は7割を超える自治体もある一方で、過疎地では2割を割り込む自治体もある。財源の多くが国の判断に左右されやすい状況下で、毎年の歳入・歳出規模が決定される構造が自治体には定着している。財政面での国と地方の関係性も、人口の東京一極集中を助長した一因だ。宮崎雅人・埼玉大教授は地方版総合戦略の策定にあたり、多くの自治体が国からの地方創生関連交付金を基に、東京都に本社がある業者に外部委託した点を指摘する。地域政策の経済効果が地元の経済にどの程度還元されているかを検証する手法として産業連関分析があるが、使用財源を明確にした形での経済効果の検証が求められる。自主財源を高める措置としては、税収の地域間格差が比較的少ない地方消費税の税率引き上げなどが検討に値する。第2に町村など人口が少ない地域では既に高齢化が相当進んでいるが、実際の人口分布以上に政治家(地方議員)の年齢階層が高齢者に集中しているという問題への対応が必要だ。総務省の「地方選挙結果調」によると、19年4月実施の統一地方選で当選した全国約1万5千人の地方議員のうち、39歳以下は7%で、町村議に限れば3%を下回る(表参照)。地域の現場で長期的な展望に立って政策を進める若手政治家が非常に不足しているといえる。他方、無投票で当選・再選を果たす地方議員は増加傾向にある。19年統一地方選の無投票当選率は市議選では2.7%にとどまるが、町村議選では23.4%にのぼる。人口減少が進む町村では成り手不足が一層深刻化しており、立候補者が定数に至らないこともある。日本の地方議員は、大企業で働く会社員や常勤の公務員に比べて必ずしも経済的に恵まれているとはいえない。会社員の立候補者が選挙運動のための休暇をとることや、議員に就任した一定期間後に従前の職または同等の給与が得られる地位に復職できる制度は海外諸国と比べて不十分だ。企業の勤め人が地方選挙に出るという選択は、家族を養うこととの両立が難しく、結果として就労世代の住民が政治の現場に関わりにくい状況にある。地方創生にかかる政策の推進を正面から支援するには、議員定数の中に年齢枠や女性枠などを設ける「クオータ制」の導入や地方議員の報酬増を検討すべきだ。東京圏への人口・産業集中をさらに進めるべきか、あるいは地方分権を進めて自立した経済圏を持つ複数の都市を中心とした多極化を目指すべきか、国と地域の望ましい将来像に対して様々な議論がある。短期的には人口が集中する東京圏の生活環境(子育て、教育など)の改善が重要な課題だが、中長期的には東京以外にも様々な人材・産業が集積する拠点を整備する方向性が望ましい。特にコンテンツ、ソフトウエア・システム開発、研究開発、デザイン、芸術などの創造的な産業は、IT(情報技術)を駆使して空間的な距離を克服しやすいことから、地方での立地のさらなる増加を目指すべきだ。

<原発は温暖化対策にならないこと>
PS(2023年8月7日追加):*4-1のように、東京・埼玉・千葉・横浜・水戸・静岡等で危険な暑さが続き、宇都宮・前橋も厳重警戒だが、内陸である埼玉県の暑さは東京・千葉・横浜を上回る。この極端な高温増加の背景にはCO₂の排出など人間活動による地球温暖化の影響が大きいが、コンクリートとアスファルトで覆った街やエアコンが吹き出す熱も影響が大きいだろう。
 CO₂排出による地球温暖化を阻止するには再エネが一番だが、政府は脱炭素化に向けた基本方針として原子力基本法で「原発事業者が安全投資と安定的な事業ができる環境を整備する施策を国が講じる」と決め、*4-2-1・*4-2-2のように、電力会社が既存原発の再稼働に投じた巨額の安全対策費を再エネ由来の新電力と契約している消費者にまで負担させる制度導入を検討するとのことである。しかし、原発のコストは、原発にかかる全ての支出を合計して出すべきであるため、いつまでも政府や再エネ事業者から拠出を受けなければならないような原発のコストはとんでもなく高いのである。また、大手電力会社を護るために再エネ事業者に犠牲を強いているため、イノベーションも進まない。さらに、原発は大量の温排水を出して海水温を上げているため、地球温暖化阻止に役立っているかどうかも、本当は疑わしいのである。
 このような中、*4-3のように、1974年に運転を始めた関西電力高浜原発1号機が、「原則40年」の運転期間を延長して12年ぶりに再稼働し、事故時の避難計画の実効性や使用済核燃料の扱いなど課題は残ったまま、設計は古く、コンクリートやケーブルの劣化も懸念されるのだそうだ。関電の大飯・美浜原発、日本原電の敦賀原発が林立する福井県の若狭湾沿いは、もともとは好漁場だったのだが、事故が起こればフクイチどころではない日本海沿岸の汚染になるにもかかわらず、そこで40年ルールを形骸化させたことは住民の安全と食糧自給率を無視した対応だ。仮に避難路が使えたとしても、どこにどれだけの期間避難し続けたらよいと思っているのか。それに加えて、使用済核燃料の中間貯蔵施設や最終処分場確保も見通せないのである。
 なお、*4-4-1のように、フクイチのアルプス処理水を海洋放出するにあたり、“風評対策”として300億円が2021年度補正予算に計上されたそうだが、これも国民の税金から支出する原発のコストだ。そして、これは水産物の販路拡大支援のために使われるぞうだが、サバ・イワシ等の冷凍しても市場価格が落ちにくい水産物は買い取って冷凍保管し市況が回復してから販売、マダイ・ヒラメ等の冷凍に向かない水産物はネット販売経費助成や企業の食堂で提供する補助金に使うそうだ。しかし、この政策は、「国民が忘れるのを待つ」という意味で国民に対して不誠実であることこの上ない。仮に「基準値以下なら蓄積することなく、全く無害である」と主張するのなら、国の補助金など使わず、無害だと主張する東電はじめ原発関連企業や経産省の食堂で毎日提供すればよいだろう。処理水排出期間中、それを続けても他の国民と比較して癌や心疾患の発生率に有為の差がなければ無害だったと言える。なお、魚介類は、人間と違って超多産多死で生存期間が短いため、抵抗力のある個体だけが生き残り、蓄積も少ない。そのため、処理水を流しても平気な魚介類がいるからといって、人間もそうとは限らない。
 このような中、中国電力と関西電力は、*4-4-2のように、山口県上関町に「中間貯蔵施設」建設を検討し始め、2011年のフクイチ事故後に原発建設が中断して財政逼迫している上関町と6基が稼働して使用済核燃料貯蔵プールが5~7年でいっぱいになる関電との思惑が一致し、経産省も政府の方針に沿ったものであることを示唆しているそうだ。つまり、原発を立地すれば国の交付金などの原発マネーが入り、使用済核燃料の中間貯蔵や最終処分にも税金を使うのだ。しかし、四国沖の広い領域で南海トラフ地震が予想されているのに、活断層そのものである瀬戸内海の入り口にあたる上関町に原発関連施設を作るというのは安全性に疑問があり、町が10年持たないのなら周辺市町村と合併して地域振興を考えるのが町民や国民に迷惑をかけない方法だ。なお、空冷式であれば温排水は出ないが、その熱は空気中に発散するのである。


    2023.8.7毎日新聞          埼玉県汗        上関町

(図の説明:左図のように、地球温暖化によって猛暑や豪雨の頻度が上がり、中央の図のような対応策が考えられている。そのような中、原発は地球温暖化対策の解にはならず、右図の山口県上関町は原発の立地だけでなく、中間貯蔵施設の立地でさえ危ない場所である)

*4-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/268361 (東京新聞 2023年8月7日) <熱中症予報・7日>「危険」は東京都心、さいたま、千葉、横浜、水戸、静岡 「厳重警戒」は宇都宮と前橋
 首都圏では7日、熱中症について、東京都心とさいたま、千葉、横浜、水戸、静岡の各市で「危険」、宇都宮、前橋の両市で「厳重警戒」と予測されている。「危険」は「外出はなるべく避け、涼しい室内に移動する。運動は原則中止」とされ、高齢者の熱中症は「安静状態でも発生する危険性が大きい」と警告されている。各地の熱中症予報は、本紙が前日夜に環境省熱中症予防情報サイトを確認し、時間帯別の暑さ指数のうちで最も高い水準を選んだ。予測は定期的に修正され、情報サイトで公開されている。
◆予防には冷房、水分・塩分補給、休憩を
 熱中症は、汗をかくなどの体温の調整機能のバランスが崩れ、どんどん身体に熱が溜まってしまう状態で、最悪の場合、死に至る。気温や湿度が高いときや、脱水、二日酔いや寝不足、激しい運動などによって引き起こされる恐れがある。予防には、暑い場所を避け、水分・塩分をこまめに補給し、積極的に休憩をすることが大切だ。屋内で熱中症になるケースも多いため、エアコンで十分に室内を涼しくすることが重要。省エネとの両立では設定温度は28度が目安になるが、状況次第では実際の室温が28度まで下がらないこともある。室温を測りながら、体調に合わせて快適な温度まで下げることが望ましい。
◆極端な高温、背景に地球温暖化
 熱中症の発症リスクは35度以上の猛暑で特に高まる。地球温暖化によって極端な高温の起きやすさや深刻さは増している。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2021年に公表した最新の評価報告書では、人間の活動によって起きた気候変動で、極端な高温の頻度や強度が増加してきたとの見方が示されている。発電所や車、工場などあらゆる分野で温室効果ガスを出し続けてきたことの影響が既に現れているという。日本では、熱中症による死亡が1000人を超えた2018年7月の記録的な猛暑について、気象庁気象研究所などの研究チームは、温暖化の影響がなかった場合に発生した確率は「ほぼ0%」と推定。世界の気温上昇を1.5度に抑える国際的な目標を達成しても、日本の猛暑日の観測は今の約1.4倍になると予測した。

*4-2-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/265526 (東京新聞 2023年7月26日) 原発再稼働費を消費者が負担 電気料金で新電力と契約でも
 経済産業省は26日、電力会社が既存原発の再稼働のために投じた巨額の安全対策費を、電気料金を通じて消費者から回収できるようにする制度の導入を検討すると明らかにした。脱炭素に貢献する発電所の新設を支援する制度の対象に、既存原発を加える。導入されれば、再生可能エネルギー由来を売りにする新電力と契約している消費者も、再稼働費用を負担することになる。政府は2月、原発の「最大限活用」を盛り込んだ、脱炭素化に向けた基本方針を決定。5月に改正した原子力基本法は、原発事業者が安全投資と安定的な事業ができる環境を整備する施策を、国が講じるとした。制度は「長期脱炭素電源オークション」で、脱炭素化と電力安定供給の両立を目指し、来年1月に導入する。電力小売事業者から拠出金として集めたお金を発電事業者に分配し、運転開始から20年間の収入を保証することで、投資を促す。再生可能エネルギーや、CO2の排出を新技術でゼロにする火力発電所のほか、原発の新設や建て替えなどを対象としている。

*4-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230727&ng=DGKKZO73083220W3A720C2EP0000 (日経新聞 2023.7.27) 経産省、原発安全対策費を支援 再稼働後押し 原資は電気代
 経済産業省は26日の有識者会議で、原子力発電所の再稼働に欠かせない安全対策費の支援策を検討する方針を示した。温暖化ガスの排出削減につながる新規の発電所への支援制度の対象に追加する方向だ。電力会社の巨額負担を減らし、政府が目指す原発の活用促進につなげる。政府は2024年1月に、原則20年にわたって電力会社などに固定収入を保証する「長期脱炭素電源オークション」という新制度を始める。これまで支援対象を水素やアンモニアを燃料に使う火力発電所や大規模蓄電池、新設・建て替えの原発などと定めていた。経産省は26日に開いた会合で、この対象に既存の原発を含めることを検討する方針を示した。実現すれば、大手電力が進める原発の再稼働に向けた安全対策費用の負担が減る。原発の安全対策費は電力11社の総額で5兆円超が必要とされる。例えば関西電力は安全対策に1兆円程度かかるとみており事業者にとって巨額の費用負担がのしかかる。こうした支援の原資は電力の小売会社から集める。国の認可法人の電力広域的運営推進機関がオークションを開いて小売りから資金を集め、発電企業に配る仕組みだ。電力会社が消費者の電気料金を通じて捻出する仕組みが想定される。結果として、幅広い利用者が再稼働の費用を負担することになる。6月には東電など大手電力7社が家庭向け電気料金を値上げしたが、さらなる負担増につながる可能性がある。再生可能エネルギーの導入が進むなか、火力発電所は再エネのバックアップとしての役割が強まっている。ただ火力の採算性は悪化しており、将来供給力が不足する恐れがあった。経産省は必要な電源投資が不足しかねないとの問題意識から、支援対象の拡大を目指す。岸田政権は原発再稼働を掲げているが、現在までの再稼働実績は10基にとどまる。資源エネルギー庁によると30年度に原発で電源の2割程度をまかなう目標の達成には少なくともさらに15基の再稼働が欠かせず、ペースを加速する必要がある。

*4-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15704188.html (朝日新聞社説 2023年7月31日) 高浜原発稼働 不安と疑問、抱えたまま
 1974年に運転を始めた関西電力高浜原発1号機(福井県高浜町)が、12年ぶりに動き出した。「原則40年」の運転期間を延長しての再稼働であり、事故時の避難計画の実効性や、使用済み核燃料の扱いなど、重い課題は残ったままだ。不安と疑問を禁じ得ない。高浜1号機は、定期検査中に東日本大震災が起き、運転停止が続いた。東京電力福島第一原発事故を踏まえて原発の運転は原則40年とされ、「1回だけ最長20年延長可」の例外規定が設けられた。高浜1号機にもこれが適用され、原子力規制委員会の審査を経て、16年に延長が認可されていた。だが、半世紀前につくられた原発は設計自体が古い。原子炉の停止期間を含め、コンクリートやケーブルの劣化も懸念される。40年ルールには、原発依存度を低下させることに加え、そうした老朽化に伴うリスクを減らす意味もあったはずだ。しかし、政府は20年延長の例外規定を次々と適用してきたうえに、前国会の法改正では60年を超える運転を可能にし、ルール自体を形骸化させている。事故の教訓を投げ捨てる姿勢と言わざるをえない。「原発復権」の中での再稼働は、老朽化以外にも様々な未解決の難題を突きつける。高浜原発がある福井県の若狭湾沿いは、関電の大飯、美浜両原発、日本原電の敦賀原発も立地する「原発銀座」だ。事故の想定と対応は複雑になる。地形上も避難路が限られるなかで、計画通りに退避できるのか。住民の不安は根強い。「発電後」の問題もある。関電は福井県に対し、県内3原発にたまり続ける使用済み核燃料について、県外に中間貯蔵施設を確保すると約束してきた。最終的に今年末を期限としたが、候補地のメドが立っていなかった。ところが関電は先月、高浜原発分の一部を再処理工場があるフランスに搬出すると公表し、それをもって「約束はひとまず果たされた」と説明した。だが、この搬出分は3原発にある総量の5%に過ぎず、関電の詭弁(きべん)に驚く。県民から反発がでるのも当然だ。しかも、関電は9月にも高浜2号機を再稼働する。さらに同3・4号機の20年間の運転延長も申請中だ。無責任と言うしかない。問題の構図は、すべての原発に共通する。背景には、使用済み燃料を再処理する核燃料サイクル政策の行き詰まりがある。さらに、最後に残る高レベル放射性廃棄物などの最終処分場の確保も見通せていない。電力業界と政府は、高浜原発が示す現状を直視すべきだ。

*4-4-1:https://mainichi.jp/articles/20211126/k00/00m/040/252000c (毎日新聞 2021/11/26) 福島第1原発処理水 海洋放出の風評対策に300億円 補正予算案
 東京電力福島第1原発でたまり続ける処理水の海洋放出を巡り、経済産業省は26日、水産物の風評被害に対応する基金のために、2021年度補正予算案に300億円を計上すると発表した。水産物の販路の拡大などを支援する。原発事故による風評被害への対策に国費が投入されることになる。政府と東電は23年春から処理水を海に流す方針を示している。経産省は、補正予算案が成立すれば、基金の管理や運営を担う団体を公募し、22年3月までに基金を創設したい考えだ。基金の事業では処理水の海洋放出に伴う風評被害が起きた場合、漁協などがサバやイワシなど冷凍しても市場価格が落ちにくい水産物を買い取って冷凍保管し、市況が回復してから販売することを想定している。その際、冷凍保管にかかる費用や買い取り資金を借りた場合の利子を補助する。一方、マダイやヒラメといった冷凍に向かない水産物では、ネット販売にかかる経費を助成したり、企業の食堂で提供するのに補助金を出したりすることなどを検討している。基金の対象は福島県産だけでなく、全国の水産物になる。経産省は、基金の費用を22年度の当初予算に計上する方針だったが、放出前から風評被害が生じる可能性があることから、前倒しした。風評被害による損害そのものへの賠償は、東電が別の制度で実施する。経産省の担当者は「基金の運用益だけで事業が回るとは想定していない。政府には風評の影響に対応する責務があり、国費を投入することになる」と説明する。処理水の放出には30~40年かかるとみられており、経産省は基金の残高が不足すれば追加の拠出も検討する。一方、漁業関係者らは、海洋放出に反対している。

*4-4-2:https://digital.asahi.com/articles/ASR826R2LR82PLFA00G.html?iref=pc_extlink (朝日新聞 2023年8月2日) 背水の関西電力、「原発マネー」に頼る町 両者を結んだ中国電力
 中国電力と関西電力が共同で山口県上関(かみのせき)町で検討をはじめた「中間貯蔵施設」の建設。施設確保に苦戦する関電、財政が逼迫(ひっぱく)する町など、それぞれの思惑がうずまく。一方、国が描く核燃料サイクルにとっては、急場しのぎの面も垣間見える。中国電が関電と中間貯蔵施設の共同開発に踏み切ったのはなぜか。「事業者間でしっかり連携してほしいということは、国もずっと言い続けていることだ」。原発政策を担う経済産業省の幹部は、今回の動きが政府の方針に沿ったものであることを示唆する。原発を保有する大手電力はそれぞれ使用済み燃料の保管場所を確保する必要がある。だが、中間貯蔵施設をつくるには地元との調整や費用など課題が多い。用地確保は特にハードルが高い。「全国にそう何個もつくれるわけがない」(同幹部)ため、政府は共同利用するなど融通策をとるよう促してきた。大手電力でつくる電気事業連合会も「事業者間の連携・協力をより一層強化する」との方針を掲げている。複数の関係者は、こうした背景に加えて、中国電と関電の利害が一致したとも指摘する。中国電は大手電力の中でも経営規模は中位。中間貯蔵施設を単独で建設し、運営するのは「財務面で難しい」(大手電力関係者)ともされる。隣接地域の九州電力や四国電力と組もうにも、両社は自前で原発敷地内に貯蔵場所を確保している。一方の関電は、経営規模が売上高ベースで中国電の倍以上。福島第一原発事故で事実上国有化されている東京電力に代わって、電力業界の盟主となったが、中間貯蔵施設の確保に苦戦していた。施設の規模は未定だが、中国電は、関電の使用済み核燃料の貯蔵量の方が多くなることも「可能性としてはある」とする。6基が稼働している関電の原発では、使用済み核燃料を貯蔵する原発内のプールがあと5~7年でいっぱいになる見通しだ。関電は2030年ごろに2千トン規模の中間貯蔵施設の確保を目指すが、実現の糸口はつかめていなかった。「確保できていないとあふれる。貯蔵しきれない、というわけにいかない」。ある関電幹部は、差し迫った状況をこう語る。関電は自社の3原発が立地する福井県に対して、県外に中間貯蔵の施設を確保すると約束してきたが、先送りを繰り返してきた。21年には約束の「最終期限」を23年末とし、守れなければ、稼働中の美浜3号機と高浜1号機、9月にも再稼働予定の同2号機の計3基を運転しないとする方針を示した。背水の関電は6月、高浜原発で出た使用済み核燃料のごく一部をフランスへ搬出すると表明。関電側は「約束はひとまず果たされた」との認識を示した。しかし、約束が果たされたかどうかの「ボール」は福井県側の手中にある。県議会では「詭弁(きべん)だ」「小ばかにしている」と反発が広がった。杉本達治知事は「総合的に判断したい」と態度を留保している。知事の判断次第では、ようやく再稼働にめどをつけた原発3基を止めざるを得なくなる。関電は上関町の中間貯蔵施設について、調査前であることなどから「まだ正式に中間貯蔵の計画地といえるものではない」とする。保守系のベテラン県議は「候補地に手を挙げてくれればありがたい」と取材に述べた。一方、杉本知事はこの日、記者団の取材は受けないと回答した。(岩沢志気、小田健司、吉田貴司)
●原発マネーに期待した上関町の財政逼迫
 中間貯蔵施設を町内に建設する計画を提案された山口県上関町。報道陣の取材に応じた西哲夫町長は、「町議会の判断を仰ぎたい」と受け入れの是非の明言は避けたが、前向きな姿勢は随所ににじんだ。「このまま何もせずに町が10年もつかと言ったら相当厳しい」「交付金や固定資産税が入れば、町の財政が安定するのは間違いない」「安心できる施設だと思う」。そもそも、この日の中国電幹部の町訪問のきっかけを作ったのは、町側だ。町では、1982年に上関原発の計画が浮上し、2009年に中国電が敷地造成などの準備工事に着手。だが、11年の東京電力福島第一原発事故後、建設は中断した。町税収入が2億円に満たず、国の交付金や関連税収など「原発マネー」に期待していた町の財政は逼迫(ひっぱく)した。昨年12月、西町長は中国電力幹部に着工の見通しを尋ねたが、今年2月の返答は「現時点で着工の見通しは立っていない」だった。「原子力が1ミリも前に進まず、町を生かさず殺さずの状態でええんか」。こう考えていた西町長は今年2月、西村康稔経済産業相と面会。上関原発の建設について「早く目鼻をつけてほしい」と求め、交付金の増額を要望した。西村経産相は「上関町には長年ご迷惑をおかけしている。重く受けとめている」と語ったが、原発建設が進む確約は得られなかった。そうした中で、西町長が頼ったのが中国電だった。今年2月、中国電に新たな地域振興策を要請。この日がその「回答」だった。地域振興策として、中間貯蔵施設を提案されたことに、西町長に驚きはなかった。実は、かつて町側にも誘致案があったからだ。「中間貯蔵施設を選択肢の一つとして考えたい。議員も勉強しておいてもらえんか」。19年、当時の柏原重海町長が町議らに伝えた。当時、町議長だった西町長らは使用済み核燃料が乾式貯蔵される日本原子力発電の東海第二原発(茨城県)を視察した。「よその核燃料を受け入れるなんてとんでもない」。視察前、原発推進の議員らの間にも否定的な見方があったが、貯蔵施設を見て「なんだ、倉庫じゃないか」と懸念が消えたという。中間貯蔵施設の核燃料は空冷式のため温排水も出ない、との説明も受けた。「まさしく百聞は一見にしかず」と、西氏は当時の柏原町長に報告していた。この40年で人口が3分の1ほどの2310人に減り、高齢化率が6割に迫る町は、中国電に何度も頼ってきた。中国電は07~10年度に24億円、震災後の18年に8億円、19年に4億円を町に寄付している。一方、中国電の経営は急速に悪化している。同社は火力発電に大きく依存しており、ウクライナ危機や円安による燃料費高騰などで赤字を計上。カルテル問題も重なり、町への寄付金や支援は見こめない状況だ。中間貯蔵施設を建設する自治体には、建設に向けた調査段階から交付金が出る。調査から知事の同意まで最大で年1・4億円、知事の同意後の2年間は最大で年9・8億円だ。建設や運転段階では貯蔵量などに応じて交付金が出る。ある町議は言う。「中間貯蔵施設なら、まだ原発をあきらめていないという理屈も成り立つし、国の交付金や核燃料税による財源も確保できる。中国電も町も、良い落としどころを見つけたということではないか」。ただ、原発計画の賛否を巡る対立は40年超に及び、中間貯蔵施設への激しい反対運動も予想される。2日朝、町役場前で中国電幹部の進入を阻止しようと住民らが集まり、「町の分断を続けるのか」と訴えた。

<高レベル放射性廃棄物の最終処分場について>
PS(2023年8月16日追加):原発の使用済核燃料から出る高レベル放射性廃棄物は、最終処分場で地層処分(人間の管理に委ねなくて済むよう地下深くの安定した岩盤に閉じ込めて人間の生活環境から隔離して処分すること)になっており、日本では「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」で地表から300メートル以上深い地層に処分すると定められている(https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/nuclear/rw/hlw/hlw01.html 参照)。
 そして、現在、最終処分場はなく、文献調査の候補地になるだけで最大20億円の交付金が国から入るため、*5の長崎県対馬市などのように、①土建業等の4団体が文献調査の推進を求める請願を市議会に提出し ②市民団体・漁協が出した反対の請願は不採択になり ③市議会特別委員会が国の「文献調査」を推進する請願を賛成多数で採択して市長に国に応募するよう迫ったりしている。市長は、これまで文献調査について慎重な姿勢を崩さず、「手をあげて『20億円もらったからもうやめる』という考えはない」と定例議会で述べていたが、④政府やNUMOは歓迎し ⑤岸田政権は「核のごみ」最終処分場の選定に全面関与する方針を打ち出し ⑥改正原子力基本法は「国が地方公共団体その他の関係者に対する主体的な働き掛けをする」と明記し ⑦経産省幹部は「北海道の寿都町と神恵内村に加えて対馬でも一歩進んだのは大きく、この動きが他の自治体にも広がってくれればいい」とし ⑧NUMO関係者は「これで市長が反対したら、請願で示された『民意』はどうなるのか。国家のエネルギー政策は重い。『入り口』である文献調査は受け入れるべきではないか」と言っているそうだ。
 しかし、①の文献調査候補地になっただけで最大20億円の交付金をもらえるというのは、原発がいかに高コストかを示しており、②の土建業の積極性も国からの文献調査費や最終処分場建設費の流れが明らかだ。しかし、対馬市は対馬海峡の流れの速さに鍛えられた魚が美味しく、養殖マグロも肉質がよくて美味しいと高評価を得ている地域であり(https://nagasaki-keizai.jp/report/report-report/1270 参照)、国境離島でもある。そのため、ここに高レベル放射性廃棄物の最終処分場を作ることは、地域の長所を打ち消すと同時に、セキュリティー上も問題が多いのである。従って、④⑤⑥⑦は税金を無駄遣いしながら地域資源を台無しにする行為であり、予算も人材も不足している食料自給率の小さな国で税金を使うのなら、このような無駄遣いではなく活きた使い方をすべきなのである。活きた使い方とは、例えば再エネ開発や送電線の敷設、漁業・観光の振興であって、間違ってもそれを邪魔する行為ではない。
 なお、最終処分場は、国境離島ではない無人島で既に施設のある場所(例えば「軍艦島」など)もしくは排他的経済水域内の数千m以上の深海などが安価でかつ必要な条件を満たしているが、それを可能にするためには、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」で地表から300メートル以上深い地層に処分するという規定を、まず変更する必要があるだろう。

*5:https://digital.asahi.com/articles/ASR8J5645R8JTIPE00L.html?iref=comtop_7_04 (朝日新聞 2023年8月16日) 核のごみを問う、長崎・対馬市議会、「核のごみ」最終処分場の調査「推進」請願を採択
 原発の使用済み核燃料から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)最終処分場をめぐり、長崎県の対馬市議会特別委員会は16日、国の選定プロセスの第1段階「文献調査」を推進する請願を賛成多数で採択した。市議会が比田勝尚喜市長に対し、国に応募するよう迫った形だ。北海道2町村に続く応募自治体となるか、注目される。特別委では、土建業などの4団体が6月に議会に提出した、文献調査の推進を求める請願について採決し、9票対7票の賛成多数で採択した。風評被害などを懸念する漁協などが出した、反対の請願は不採択となった。最終処分場の選定プロセスは3段階あり、文献調査は過去の論文などから処分場の候補地にふさわしいかを調べる。応募した自治体には、約2年間で最大20億円の交付金が国から入る。対馬市は人口減が進み、基幹産業の漁業や土建業は衰退が続く。このため、地元経済界などから、交付金がもらえる文献調査への応募を求める声が上がった。これに対し、市民団体や漁協が反対の請願を6件出して対抗するなど、島を二分する事態に陥っていた。今後の焦点は、比田勝市長の判断に移る。文献調査は、市長が応募を決めなければ始まらないからだ。市議会は9月12日に開会予定の定例会で、正式に推進の請願を採択する見通し。市長は16日、「特別委での議論・採決を踏まえて、さらに熟慮する」とコメントするにとどまった。早ければ9月議会で判断を示すとみられる。市長はこれまで文献調査について慎重な姿勢を崩していない。5月の定例会見で「手をあげて『20億円もらったからもうやめる』という考えはない」と述べていた。一方で、6月の市議会一般質問では「市議会での議論や市民の意見を参考にして判断する」と語った。
●NUMOは歓迎
 一方、今回の結果について、政府や処分場計画を進める原子力発電環境整備機構(NUMO)は歓迎する。岸田政権は「核のごみ」最終処分場の選定に全面関与する方針を打ち出している。5月末に成立した改正原子力基本法では、国が「地方公共団体その他の関係者に対する主体的な働き掛け」をすると明記された。経済産業省幹部は「(すでに文献調査を受け入れている)北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村に加えて、対馬でも一歩進んだのは大きい。この動きが他の自治体にも広がってくれればいい」と話す。ただ、対馬市については世論が二分していることから、「まずは地域で丁寧に議論を深めていただくのが重要」(西村康稔経産相)との姿勢を保ってきた。NUMO関係者は、市議会特別委の結論を強調し、「これで市長が反対したら、請願で示された『民意』はどうなるのか。国家のエネルギー政策は重い。『入り口』である文献調査は受け入れるべきではないか」と話す。

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