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2024.3.7~4.11 歳出改革の理念から見た予算について(2024年4月15、21日追加)
  
     梅林       アーモンドの花       レンゲの花     蜜蜂

(図の説明:この章を書いているうちに、「梅→アーモンド→レンゲ」の花と季節が進みました。蜜蜂を飼っている友人に言わせると、「蜜蜂は、自分で餌を採ってくるし、巣も自分で掃除するので、犬猫より飼うのが簡単で、蜂蜜もくれる」とのことです。また、「蜜蜂の行動範囲は巣から1~2kmなので、花を選んで蜂蜜を採ることも可能」だそうです)

(1)地球環境及び食料・エネルギー自給率の理念から見た歳出改革について
1)研究開発・イノベーション力とヒト・モノ・カネの関係
 *1-1-1は、イ)「生産性向上のための構造改革が置き去り」として、①「国民経済計算」確報版で示された日本の2022年名目GDP/人はOECD加盟国中21位でG7最低 ②日本生産性本部「労働生産性の国際比較2023」では、2022年の労働生産性/人はOECD加盟国中31位 ③GDP全体でも人口が日本より3割以上少ないドイツに抜かれて4位 ④労働生産性が2022年に31位まで後退した理由は、日本は就業者比率が高く、欧州はユーロの評価以上に生活水準の高い国があるから ⑤労働生産性の順位こそ深刻に受け止めるべき ⑥日本でGDP/人や労働生産性/人の低迷が起きた理由は、財政・金融政策頼みの経済運営で生産性向上のための構造改革が置き去りにされてきたから 等としている。

 このうち①③は事実で、1人当たりGDPはOECD加盟国中21位と決して高い方ではなく、G7で見れば離れて最低なので、日本は先進国とは言えない状態だ。また、総GDPも人口が日本より3割以上少ないドイツに抜かれて情けない限りだが、こうなる理由は、規制で既得権益を守ってイノベーションをやりにくくしている政府や“日本文化”の責任が大きいのである。

 また、②④⑤の労働生産性はOECD加盟国中31位で、その理由は「就業者比率が高いから」と説明されているが、生産年齢人口の割合が減少すれば就業者比率は高くなるのが当然であるため、日本は、力仕事やルーチンワークの機械化・生産性の高さに報いる給与体系・組織のフラット化などの生産性を上げるシステムへの移行ができていないのが本質的な原因であろう。

 このような中、⑥のように、日本政府は、漫然と莫大な予算を使って国債残高を増やしつつ財政・金融政策頼みの経済運営をして経済にカンフル剤を打っただけで、教育・研究開発・実用化に向けた規制改革をしてイノベーションを起こし易くし、生産性を向上させる取り組みが少なかっただけでなく、部分的には後退までさせていたのだ。

 また、*1-1-1は、ロ)「良質なヒト、モノ、カネが国外流出の恐れ」として、⑦良質なヒト、モノ、カネが国を見捨てて流出していく ⑧教育水準の高い人や才能のあるスポーツ選手が実力を発揮した場は欧米 ⑨実際に人口減少の中で日本人の海外永住者数は増加中 ⑩イノベーション不足の国はモノへの投資も海外へ向かう ⑪カネに関しても、日本は0金利を維持して資金流出と円安を招いた ⑪良質のヒト・モノ・カネの流出はさらなる貧困化を招き、一層政府への依存度を高める ⑫既得権益や規制の壁も大きい としている。

 このように、生産性の高さに報いない給与体系で、規制により既得権益を守ってイノベーションをやりにくくしていれば、日本で研究しても報われないため、⑦⑧⑨⑩⑪⑫のように、良質なヒト・モノ・カネが国を見捨てて流出し、日本人の海外永住者数が増加している。

 実際、⑧のように、教育水準の高い人や才能あるスポーツ選手が実力を発揮した場所は、人の能力を小さく規定せずに能力を存分に発揮させる欧米であり、⑪のように、良質のヒト・モノ・カネが流出する結果、政府への依存度の高い人ばかりが残って国内はさらに貧しくなる。これは、数十~百年単位では、次世代への生物的遺伝も加わるため、大きな違いとなるのだ。

 さらに、*1-1-1は、ハ)生活の豊かさまで含めたビジョンが必要 として、⑬生活を豊かにするサービスを市場経済から供給されるサービスに限らず、環境を含む市場外サービスまで拡張し ⑭それらを提供する民間資本・社会インフラ・自然資本・人的資本等の組み合わせを政策目標とし ⑮単なる過去への回帰でない「豊かさ」への戦略を練る必要 等と記載している。
 
 しかし、⑬のように、環境は「市場外サービス」と考えること自体、「昭和的」というより「戦後復興期」の日本の開発途上国時代の発想だと、私は思う。

 例えば「生活を豊かにする環境」とは、住居の場合なら、i)都市計画の行き届いた自然が多くて文化的な都市 ii)ゆとりある個人住宅や庭 iii)住宅の断熱性能 iv)水だけでなく湯の出る環境 v)職住接近による可処分時間の確保 など、欧米では市場経済で供給されているが、日本では市場に存在しなかったり、存在しても著しく高価で可処分所得を圧迫するため購入できなかったりするものだ。そのため、同じ名目所得を得ても、欧米の方が生活を豊かにする環境で生活でき、日本は今でも開発途上国の住環境にあるのである。

 従って、⑭のうちの自然資本と社会インフラは、国や地方自治体がこれまでに整備しておくべきだったもので、それらが整備されて後に、そこで民間資本や人的資本が活躍できるのだ。そのため、⑮の「単なる過去への回帰でない豊かさ」が必要なのは当然だが、それは公的部門も漠然と前例を踏襲したり、多額の予算をつけたりしていればできるものでは決してないのである。

2)生活の豊かさを増す政策(その1) ← 省エネと再エネの導入
 日本は再エネが豊富な国で、エネルギー自給率向上にも役だち、国富の海外流出を抑えられるにもかかわらず、様々な屁理屈をつけて再エネ利用に消極的で、化石燃料や原子力等の従来型集中発電方式を優先してきたため、日本初の技術である再エネの実用化や商用化が遅れた。

 そのような中、*1-1-2は、①経産省は2025年度にビル壁や窓等でも発電できるペロブスカイト型太陽光発電を再エネ電力固定価格買取制度(以下“FIT”)に加える ②現行太陽光向け水準を上回る10円/kwh以上に優遇する ③それにより、民間投資を促して日本の再エネ拡大に繋げる ④日本発の技術で開発段階では日本勢に優位性があったが、中国企業は量産を始めて商品化で先行 ⑤ペロブスカイト型普及で都市を発電所にできる 等としている。

 このうち①②のように、経産省がペロブスカイト型太陽光発電をFITに加え、現行の太陽光発電以上に優遇して、③のように、民間投資を促して日本の再エネ拡大に繋げるのはよいと思う。しかし、2025年度まで待たなくても2024年度からやればよく、④のように、量産を始めて商品化で先行している中国企業と同じ以下のコストにしたり、断熱窓と組み合わせたり、ビルの壁面らしい色に印刷したりなどして、速やかに高付加価値の製品を作るべきである。

 そうすることによって、⑤のペロブスカイト型太陽電池を自然な色や形で都市の色調にマッチさせて普及することができ、電力消費量の多い都市自体を発電所にすることができるのである。

 このほか、*1-1-3は、⑥高断熱や複層ガラスによる省エネ性能の高い窓への交換が急増 ⑦背景に冷暖房コスト増で断熱性の高い窓に交換して電気代を抑える需要 ⑧立川市のマンションは、2022年に修繕工事の一環として全136戸の窓ガラスを日本板硝子の省エネガラス「スペーシア」に交換 ⑨スペーシアは2枚のガラス間に0.2ミリメートルの真空層を作って熱の伝導や対流を抑えるもので、厚さは1枚ガラスとほぼ同じで4倍の断熱効果 ⑩夏の電気代が2〜3割減少 ⑪AGCの複層ガラスも4〜5月の販売数が前年比5割増で6月は2倍 ⑫政府は2023年度から省エネ性能の高い窓ガラスや窓枠の交換費用のうち1戸あたり上限200万円まで補助する「先進的窓リノベ事業」を展開しており、政府の補助金も追い風 としている。

 化石燃料の輸入を減らし、国富が国外流出するのを防いで、エネルギー自給率を高める方法には省エネもあり、断熱性の高い住まいは国民の生活の豊かさも増す。そのため、⑥⑦は実需であり、⑧⑨⑩⑪のように、中古マンションの大規模修繕工事の際に全戸の窓ガラスを「スペーシア」や「複層ガラス」に交換して電気代を抑えるのは良いし、その際に住民に反対が出ないためには、⑫のように、政府が「先進的窓リノベ事業」として補助するのがよいと思う。

 そのため、*1-1-4のように、⑬政府は戸建て・集合住宅のリフォーム工事を対象として住居の窓を断熱性の高いものに改修する工事へ支援制度を延長する方針 ⑭工事にかかる費用の半分(1戸最大200万円)を国が負担 ⑮登録した事業者が施工する場合に適用 ⑯環境省は2024年度予算の概算要求で1170億円を求めた というのは、2023~2024年だけでなく2032年までの10年間くらいは続けて良いと思う。

3)生活の豊かさを増す政策(その2) ← 地球環境と藻場、漁業
イ)大阪湾湾奥部の藻場再生について
 *1-2-1は、①大阪府が2023年8月にBOIと事業連携協定を締結した ②藻場はCO2を吸収して長期貯留してSDGsに寄与する ③藻場はO₂の供給など水質改善効果も期待でき、魚類など生き物のすみかとなる ④大阪湾全体の湾奥部だけがコンクリート等でできた人工護岸のため「ミッシングリンク」だった ⑤大阪府は「大阪湾MOBAリンク構想」を掲げたが、i)船舶等の港湾利用に影響を及ぼさない藻場創出技術 ii)海面下の海藻の生育状況確認 iii)企業の所有地に面した護岸と海藻を育成したい人の少なさ が課題だった ⑥大阪湾奥部は大都市圏から流入する河川等の影響で汚濁物質が溜まりやすく水質改善も課題 ⑦2021年12月に大阪市が管理する「大阪南港野鳥園」の護岸にある消波ブロックにワカメを育てる30センチ四方のパネルを設置し、2022年4月にはワカメの繁茂を確認していた としている。

 上の②③のように、藻場は、光合成によって水中のCO2を吸収してSDGsに寄与し、同時に水中にO₂を供給し、水中の養分を吸収して、水質を改善する。そのため、藻場は、貝類や魚類の餌場・すみか・産卵場所となり、「港は魚の保育園」とも言われている。

 しかし、大阪湾の湾奥部は、④⑥のように、大都市圏から流入する河川等の影響で汚濁物質が溜まり易い上、コンクリート等でできた人工護岸のため藻場がなかったため、大阪府は、⑤のように、「大阪湾MOBAリンク構想」を掲げたのだそうだ。

 そして、2021年12月には、⑦のように、大阪市管理の「大阪南港野鳥園」護岸にある消波ブロックにワカメを育てる30センチ四方のパネルを設置し、2022年4月にはワカメの繁茂を確認していたが、⑤iii)のように、企業の所有地に面した護岸は近づけないため藻場の再生ができていなかったとのことである。本来は、波消ブロックやコンクリート護岸設置で藻場を喪失させた企業は、(それも公害であるため)企業自身が藻場の復元を行なうことを国は義務化すべきだ。

 また、⑤i)の船舶等の港湾利用に影響を及ぼさない藻場創出の技術は、海藻の種類を選べば可能であるし、⑤ii)の海面下の海藻生育状況確認は、①のように、大阪府が2023年8月に事業連携協定を締結したBOIのメンバーであるスタートアップが保有する海洋ドローン等で調べるそうだが、近年はカメラも安価になっているため、24時間、毎日、複数のカメラで撮影して画像を送信し続ければ、海藻の生育状況と魚介類の増加状況が時間の経過とともに記録され、有用なデータになると思われる。

ロ)唐津アカウニの資源回復について
 *1-2-2は、①藻場の磯焼けでアカウニの資源が大きく減少していた ②唐津ブランド・アカウニ資源を回復するため、唐津市内の漁業者とNPO法人「浜-街交流ネット唐津」が長崎県産アカウニの大型種苗を放流した ③これまで佐賀県産の小型アカウニ種苗を放流していたが、小型種苗は生残率が低かった ④今後、収穫までの生残率を定期的に調べて効果的なアカウニ種苗の放流を検証する ⑤NPO代表理事は「アカウニの資源が減り、危機的状況。資源回復の効果を確認していきたい」と語る としている。

 しかし、①~⑤については、藻場が減ってアカウニの餌となる海藻が減り、その結果、アカウニが減少しているのであるため、藻場を回復しなければアカウニの種苗を放流しても生残率が低かったり、売り物にならない痩せたウニになったりする。

 従って、アカウニの資源回復のためには、餌の海藻を増やす必要があり、餌の海藻は、i)地球温暖化による海水温上昇 ii)原発の温排水による海水温上昇 でこれまでの海藻が育ちにくくなり、残った海藻をウニが食べ尽くして磯焼けになったのであるため、何らかの方法で藻場を再生してウニの餌を増やすか、ウニの種苗を養殖するかしなければ、良質のアカウニを出荷することはできないのである。

 このような中、*1-2-3は、⑥唐津市は、唐津市沖に誘致を検討している洋上風力発電事業の有望区域指定を進めるため、副市長をトップとして経済部・漁業・港湾振興部等の横断的体制を立ち上げた ⑦市長は「事業の早期実現は、地域振興・経済波及効果が大いに期待できる」としている ⑧国は、2021年9月に唐津市沖を「一定の準備段階に進んでいる区域」にした ⑨住民からは観光地の景観や沿岸漁業への懸念の声が出ている としている。

 洋上風力発電は原発と違って温排水を排出しないため、洋上風力発電機の存在が磯焼けを起こしたり、漁獲物を減らしたりすることはない。むしろ、洋上風力発電機周辺の設計によっては、風力発電機周辺を藻場にして海藻を収穫したり、ウニを放流したりすることも可能である。

 しかし、景観(これも重要な環境である)は、洋上風力発電機の設置場所にもよるが、悪くなる可能性が高い。また、洋上風力発電機は洋上に設置するため、建設や維持管理が陸上風力発電機より複雑で高コストになる。そのため、私は、離島・半島はじめ山林・農地等の陸地に設置した方が、低コストで同じ電力を生み出せるのではないかと考えている。

ハ)養殖について
 *1-2-4は、①ニッスイはサステナブルな食のために養殖技術開発に力を入れ、養殖事業の拡大を長期ビジョンの成長戦略の1つに位置づけている ②任意の時期に産卵させる技術と優れた特性を持つブリを育種で選別し、1年を通して育成スピードが速く高品質なブリの出荷を可能にした ③国内ではギンザケの養殖にも注力し ④環境負荷を低減する研究もして収益安定化に繋げた ⑤2020年には地下海水を利用したマサバの陸上循環養殖の実証実験を開始し、2023年にはバナメイエビの陸上養殖も事業化した ⑥日本は長年天然の水産物の恩恵を受けてきたが、近年縮小する漁業生産を補う養殖の重要度は高まっている 等と記載している。

 農業で品種改良や栽培技術の発達があったように、同じ生物である水産物も品種改良や栽培技術の発達ができる筈で、これが軌道に乗れば第五次産業革命と言える(第一次~第四次産業革命については「https://spaceshipearth.jp/fourth-industrial-revolution/」参照)。そして、上の①~⑥は、その重要な過程を示している。

 一方、*1-2-5は、⑦有明海の海況悪化で赤潮の発生が長期化し、ノリ養殖の不作が続いている ⑧環境改善のため赤潮発生原因となる植物プランクトンを捕食するスミノエガキの養殖に、佐賀県有明海漁協新有明支所(白石町)の青年部が取り組んだ ⑨スミノエガキは、河口域の低塩分に強く成長も早いため、漁業者の収益向上も期待できる ⑩その取り組みが全国青年・女性漁業者交流大会で資源管理・資源増殖部門最高賞の農林水産大臣賞に選ばれた ⑪スミノエガキは、国内では有明海にのみ生息し、淡水流入による河口域の低塩分化に強く、単年出荷可能(マガキは2年かかる) ⑫カキをかごに入れて海中につるすと、干満に関係なく常時捕食して身入りが良くなった ⑬海況を改善し食べられて収入になるので『一石三鳥』で、マガキと出荷時期が違うため、需要・価格面でも期待できる と記載している。

 ⑦~⑬は、確かに頭を使って考えれば、ピンチもチャンスにできる良い例で、有明海の海苔養殖は既に軌道に乗っていたが、有明海の富栄養化も副産物(ここではスミノエガキ)との同時生産で収入増に繋げることができそうだ。

二)農業について
i) 政府は基本法改正・食料供給困難事態対策法案・農地法改正案
 *1-2-6は、①政府は地球温暖化・国際紛争・物流途絶等を挙げ、食料供給量が大幅に不足するリスクが増大していると指摘 ②国内の食料供給システム強化の新たな農業政策を閣議決定 ③基本理念は「食料安全保障」 ④日本農業は担い手の減少・高齢化の進展・農地の減少等で足腰が弱い ⑤農業を魅力ある産業として若者や都市在住者らの新規就農を促す必要 ⑥IT活用によるスマート農業進展や農地のさらなる集約 ⑦輸出環境整備等による現場の活性化 ⑧生産基盤の一層の強化が不可欠 ⑨日本のカロリーベースの食料自給率は38%で先進国の中で最低 ⑩相対的経済力の低下で、影響世界市場での食料買い付け力も落ちた ⑪政府は基本法改正に併せて食料供給困難事態対策法案と農地法改正案も決定 ⑫困難事態対策法案は、深刻度に合わせて農業者への生産拡大要請など3段階の対応を規定 ⑬国民が最低限必要とする食料が不足する恐れがある場合は、生産転換や割り当て・配給を実施し、罰則も設けた ⑭極端な例は、花卉類を生産している農家にイモ等のカロリーの高い農作物を栽培するように強制するケースも想定 ⑮稲作は国内需要を上回る供給力を持ちながら、減産で価格を下支えしてきた ⑯食料供給の大幅不足が懸念されるというのなら、コメ生産能力のフル活用も考えたい ⑰国内で消費できない分は輸出に回し、いざというときは国内に戻す構想は検討に値するため、日本米のさらなる海外市場開拓に官民の知恵を絞りたい としている。

 このうち①⑨⑩は事実であり、③の「食料安全保障」は重要だが、②の食料供給システム強化に関する農業政策は、⑪⑫⑬⑭のように、政府が強制的に花卉類からイモ等への生産転換や割当・配給実施のような第二次世界大戦中や戦後日本に戻ったような政策であるべきではない。

 現在、日本の農業は、④⑤のように、高齢化の進展によって担い手が減少し、それに伴って農地も減少して生産力が落ちており、都市在住者・若者だけでなく、女性・外国人労働者・企業の新規就農を促し、農業を(儲かる)魅力ある産業にしていく必要がある。

 しかし、日本に耕作放棄地が増えて農業生産力が落ちた理由には、⑮のような減反政策があった。それは、戦後の食糧難時代は米の増産が国全体の問題で、昭和40年代に肥料・農機の導入が進んで技術革新が起こり、米の生産量が大きく伸びたが、食卓の欧米化に伴って米消費量/日本人が減って余剰米が生じるようになり、当時の食管制度による米価調整では農家からの買取価格よりも市場への売渡価格の方が安くなるという逆ザヤが頻繁に起こるようになった。そのため、日本政府は1970年に新規開田を禁止し、耕作面積の配分を行う生産調整を開始したが、この単純な米の減産に補助金を出した政策が失敗だったのだ。

 つまり、余剰している米ばかり作らず、ニーズに応じて輸入割合の高い小麦・大豆・野菜・果物・畜産等を行うのは、⑨のようなカロリーベースだけではなく、栄養バランス良く食料自給率を高める方法であるため、私は、水田でも麦や大豆などを作れば、「3万5000円/10アール」の補助金を出したり、加工用米や家畜の飼料米に補助を出したりするのはまあ良いと思うが、⑮のように、単純な米の減産に補助金を出した減反政策は農家のやる気をなくさせ、耕作放棄地を増やしたと思う。

 なお、農業の生産力向上には、⑥のIT化によるスマート農業の進展や大規模農機を使うための農地の集約が必要なことは言うまでもなく、⑧の生産基盤の強化も不可欠だ。

 従って、⑯⑰の「(i)食料供給の大幅不足が懸念⇒(ii)コメ生産能力フル活用⇒(iii)国内消費できない分は輸出し、いざという時は国内に戻す」という構想は、(i)の食料供給の大幅不足が懸念されるのは米ではないため、(ii)のコメ生産能力フル活用では栄養バランス良く国民の食料自給率を高めることはできない。また、(iii)の輸出は良いが、日本米を食べたい人にしか売れないことを忘れてはならず、輸出できる農産物は米とは限らないため、ニーズのある製品を作って売るために、⑦の輸出環境整備を考える必要がある。

 根本的には、「米はじめ穀物を作って腹を満たしさえすればよい」という発想ではなく、栄養学の知識を持って農水産物の本当のニーズを発掘できる人が、農業政策を行う必要があるのだ。

ii) 賢い農業へ

 
 無肥料で作った蓮根     パクチー   パクチー使用のラーメン パクチーサラダ 
  
(図の説明:左図は、無肥料で作ったレンコンで、富栄養化したクリークならレンコンを作って毎年収穫すれば、次第に通常の状態に戻るだろう。また、左から2番目はパクチーで、1度植えれば折れた茎からでも根が出て繁茂するたくましいハーブであるため、クリークの縁に植えて定期的に収穫すれば他の植物は生えず料理の使い道も多くて便利だ)

 肥料や家畜の餌を輸入して日本で生産したものは、国内の食料自給率に加えるべきではないが、38%といわれる日本のカロリーベースの食料自給率には、それが含まれていることが明らかになった。

 そこで、*1-2-9は、①化学肥料の原料価格が高騰 ②化学肥料の主な原料となるリンを含むリン鉱石は、中国・モロッコなどからほぼ全量輸入 ③国と東京都は巨大都市から大量に出る「下水汚泥」からリンを採り出す実験を開始 ④東京都は全国普及を目指して国やJA全農と連携 としている。

 上の③④は、これまで邪魔者として捨てて海を富栄養化させていた資源を利用して良質の肥料を作る技術を開発し全国に広げる意図であるため、肥料の国産化にも資して賢い。これによって、①②のように、ほぼ全量を海外依存して交際情勢や円安の影響を受け易く、簡単に高騰していた化学肥料の原料価格が抑えられれば、食料自給率とコストの両面から有用である。

 *1-2-7は、⑤佐賀市は清掃工場から出るCO₂を活用し、魚の養殖と野菜の水耕栽培を組み合わせた新しい農業「アクアポニックス」の事業化を目指している ⑥アクアポニックスは魚の養殖と植物の栽培を組み合わせた資源循環型型農業 ⑦魚を養殖した水を水耕栽培で再利用して溶け込んだ窒素やリンを植物が養分として吸収する ⑧水は養殖で再利用するため水槽に戻す ⑨化学肥料をやったり、土を耕したりする必要はない ⑩4月下旬からマスを2千匹規模で養殖し、約40平方メートルの水耕ベッドで葉物野菜を育てる ⑪CO₂を利用することで脱炭素社会への取り組みを強化しつつ野菜の生育促進に役立てる としている。

 上の⑥~⑩は、農業と漁業を組み合わせて水を循環させ、化学肥料を不要にする方法で、これならどの地域でもできそうである。また、⑤⑪のように、清掃工場から出るCO₂を活用して脱炭素社会への取り組みを強化しつつ、野菜の生育促進に役立てるのは、これまで捨てていた邪魔者を有用なものとして利用し尽くす点が本当に賢い。

 このような中、*1-2-8のように、⑫特定外来生物で水生植物の「ナガエツルノゲイトウ」や「ブラジルチドメグサ」が、爆発的な繁殖力で佐賀市内のクリークや河川で繁茂を続ける ⑬茎の切れ端からでも再生・繁殖し、長期間の乾燥にも耐え、一度除去しても残った部分から再生する ⑭農地に侵入すれば農地を覆い、農作物の収量・」品質・作業効率の低下を招く ⑮樋門や排水ポンプなどの機能に支障が出かねず、市は水面や根から除去し続けている ⑯対策費は2022年度に7154万円と、この5年間で倍増 等と記載している。

 上の⑫~⑯は、市の予算を使って人力で除去しようとした点で賢いとは言えない。しかし、それだけ水生植物が繁茂するというのは、佐賀市内のクリークや河川が富栄養化している証拠であるため、(i)富栄養化を利用して有益な植物(例:ハス)を育てる (ii)除去した「ナガエツルノゲイトウ」や「ブラジルチドメグサ」を焼却して肥料に使う (iii)「ナガエツルノゲイトウ」や「ブラジルチドメグサ」を食べる有用生物をクリークに放す 等の人手や予算をできるだけ使わず、富栄養化したクリークや河川を利用する方法を考えた方が良いと思われた。

3)膨大すぎる原発のリスクとコスト
イ)フクイチの廃炉・汚染水・処理水について


   2023.8.21東京新聞    2023.8.24日経新聞    2023.8.21西日本新聞  

(図の説明:1番左と左から2番目の図のように、ALPS処理水を汲み上げた海水で薄めてトリチウム濃度を基準値以下にし、海水に放出するのが処理水放出の流れだ。そして、右から2番目の図のように、今後数十年に渡ってこれを続け、予算措置を続けるそうだが、リスクを風評と断じる点や膨大な予算を使っても平気な点が、原発に対する場合の異常性なのである。一方、1番右の図のように、漁業者は、IAEAの包括報告書でALPS処理水の安全性への理解が深まったそうだが、下に記載したとおり、それで科学的安全性が担保されたとは言えないのである)

 *1-3-1は、①2011年のフクイチ事故で、2号機取水口付近のピットから高濃度汚染水が海へ流出 ②おがくず・新聞紙・吸水性ポリマー等が大量に投入したが止水できず、乳白色の入浴剤で流れる経路を調べるなどの「ローテク」ぶり ③放射能の脅威を前に日本の土木技術やロボット技術は敗北し、この技術レベルでは安全神話なくして地震国での原発推進は難しい ④東電は2024年1月末、2023年度内としていたフクイチのデブリ取り出し開始を三たび延期すると発表 ⑤1~3号機に推計880トンものデブリがあるが、どこにどのような状態で存在するかもわからず ⑥廃炉の「最終形」に関わる議論は進まず、多額の金を投じて「全量取り出す」前提で技術開発 ⑦世界的な核融合フィーバーだが、発電技術は進化したか としている。

 また、*1-3-2も、⑧フクイチで“処理水”の海洋放出が始まったが、廃炉作業の終わりが見えない ⑨「処理水」とは汚染水をALPSに通して大半の放射性物質を取り除き、トリチウム濃度を500ベクレル/リットル(国の放出基準の1/40)未満となるように海水で希釈したもの ⑩東電はALPS処理水を分析してトリチウム以外の29の放射性物質濃度が放出基準を下回っているか確認 ⑪さらに海水で希釈してトリチウム濃度を薄めて基準未満かを確認 ⑫この水を蒸留させるなどして測定の邪魔になる不純物を取り除いた後に、放射線を受けると発光する試薬を使って光量から濃度を換算 ⑬東電・国・福島県が周囲の海水をモニタリングし、トリチウム濃度が放水口近くで700ベクレル/リットル、沖合10㎢で30ベクレル/リットルを超えると放出停止 ⑭水産庁が放水口の南北数キロに設置した刺し網で捕獲したヒラメなどのトリチウム濃度を測定し、放出停止する異常値は確認されていない ⑮東電によると処理水放出は30年ほど続く見込みで年間22兆ベクレルを上限に廃炉完了の目標時期である2051年までに終える見込み ⑯廃炉作業の「本丸」である燃料デブリは計約880tあるが事故から13年が経っても1gも取り出せていない 等としている。

 このうち、①②③や事故時の説明については、私も意外なほどローテクで知識が乏しいのに驚かされたし、③の安全神話は現在でも形を変えて存在しており、「裏付けのないことでも、信じれば救われる」と考える日本人が多いのにも呆れたが、何故、そうなっているのだろうか?

 そして、⑤⑯のように、やっと推計約880tあることがわかったというデブリは、どこにどのような状態で存在するのか未だわからず、事故から13年経っても1gも取り出せずに、④のように、東電は2023年度内としていたフクイチのデブリ取り出し開始を三度延期している。

 また、燃料デブリを冷やして汚染水となり、⑧⑨⑩⑪のように、ALPSに通して大半の放射性物質を取り除いてトリチウム濃度を500ベクレル/リットル(国の放出基準の1/40)未満となるように海水で希釈した “処理水”の放出は、⑮のように、年間22兆ベクレルを上限に廃炉完了(目標:2051年)まで30年ほど続くとのことだが、事故から13年経ってもデブリ取り出しができない状況で、⑥のように、多額の金を投じて「全量取り出す」前提の廃炉では、膨大な予算の無駄遣いと海の汚染による水産業への打撃がひどくなりすぎるのである。

 これに対しては、⑬⑭のように、「東電・国・福島県が周囲の海水をモニタリングして、トリチウム濃度が放水口近くで700ベクレル/リットル、沖合10㎢で30ベクレル/リットルを超えると放出を停止するから大丈夫」「水産庁も放水口の南北数kmに設置した刺し網で捕獲したヒラメ等のトリチウム濃度を測定して異常値は確認されていないから大丈夫」等の主張がされる。

 しかし、私は、中国政府の「『基準値を満たすこと』『検出下限値未満であること』と『存在しないこと』は別である」という主張の方が科学的に正しく、希釈した分だけ体積の増えた“処理水”に含まれる核種の総量は変わらないため、「海洋放出によって海洋環境や人体に予期せぬ被害がある」とする方が保守的な安全性評価だと思う。また、原子力の平和利用での協力を進める中心機関であるIAEAは、特別な利害関係があり第三者ではないため、独立性を持ってモニタリングできていない可能性が高いと考えるのが監査の常識である(https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press1_001548.html、https://www.unic.or.jp/info/un/unsystem/specialized_agencies/iaea/ 参照)。

 このような中、廃炉に膨大な無駄遣いをし、水産業に打撃を与え、中国から海洋汚染の賠償金請求までされては、日本国民の暮らしはますます貧しくなるため、廃炉の「最終形」に関わる議論を海洋も含む環境を壊さない形で早急に進めるのが、科学的で現実的である。

 なお、⑫の「ALPS処理水を蒸留させるなどして測定の邪魔になる不純物を取り除いた後に、放射線を受けると発光する試薬を使って光量から濃度を換算する」というのは、蒸留した水は核種も含めて何も含まないため、科学的どころか意味がない。

 このように、非科学的で核種や放射線に対して無神経な国が、「核融合なら、環境や人の健康を守りながら扱うことができる」と考えるのは甘すぎるため、⑦の世界的な核融合フィーバーに日本が乗るのは、無駄使いが多すぎる上に危険極まりないのである。

ロ)能登半島地震と志賀原発について


        2024.3.25東京新聞         2024.1.25日経新聞 2021.1.21
                                     中日新聞
(図の説明:左図のように、能登半島地震で志賀原発の敷地は12cm動き、3.96~4.74cmの沈下も起こったが、今回は原発事故にはならなかった。しかし、中央の図のように、避難路を含む道路が寸断され、全半壊した住宅も多かった。東日本大震災では、右図のように、原子力災害からの復興に2020年までに既に6~7兆円かかっており、これからも大きな金額がかかる予定だ)

 *1-3-4は、①北陸電力は、能登半島地震後に志賀原発敷地が地震前と比べて平均4cm沈下と発表 ②測量した11カ所の沈下幅は4.74~3.82cmで隆起した地点はない ③原子炉を冷却する海水の取水口に近い物揚げ場は3.96cm沈下 ④敷地全体が西南西方向に平均12cm移動 ⑤敷地内の地面に段差や割れを約80カ所で確認、担当者は「舗装が変形したためで敷地内の断層が動いた形跡はない」と説明 ⑥能登半島地震で半島北側の沿岸一帯が隆起し、輪島市西部では最大4m隆起 ⑦志賀原発から1km北の岩ノリの漁場が数十cm隆起 ⑧志賀2号機は新規制基準適合性審査中で、北陸電は「地震で原発北側の輪島市付近の断層が動いた場合20cm以下の隆起が起きるが、冷却水の取水に影響はない」と主張 としている。

 また、*1-3-5は、⑨志賀原発が立地する半島西側は活断層が存在 ⑩今回動いたエリアの脇にある半島西側の志賀町沖断層で、地震が発生し易くなった ⑪今回の地震で北陸一帯の断層帯に地震を起こしやすくする力がかかり、マグニチュード7クラスの大地震発生リスクが高くなった ⑫次の地震で心配なのが志賀原発だが、北陸電の広報担当者は「原子炉建屋は基準地震動600ガルまで耐えられ、今回の地震による地盤の揺れは600ガルよりも小さく、2号機については1000ガルまで耐えられるので原子力施設の耐震安全性に問題はない」と説明 ⑬現行技術水準では活断層の全容が捉えがたく安心もできない ⑭原発に及ぶ地震の脅威は揺れ以外にもあり、メートル単位で上下・水平方向にズレが生じれば、計算するまでもなく原発はもたない ⑮志賀原発は2012年に直下に断層があると指摘されたが、原子力規制委員会は直下断層の活動性を否定する北陸電の主張を妥当と判断 ⑯原発が止まっていても核燃料がプールで保管されているため、災いの元凶になる核燃料の扱いを早急に議論すべき 等としている。

 上の①②③のように、北陸電力の発表では、「能登半島地震後、志賀原発の敷地が地震前と比べて平均4cm(3.82~4.74cm)沈下し、隆起した地点はない」とのことだが、⑥⑦のように、能登半島北側の沿岸一帯は隆起し、志賀原発から1km北の岩ノリの漁場で数十cm、輪島市西部では最大4mの隆起が確認されている。

 また、④⑤のように、北陸電力の敷地全体が西南西方向に平均12cm移動し、敷地内の地面に段差や割れを約80カ所で確認されているが、北陸電力の担当者は、「舗装が変形したためで敷地内の断層が動いた形跡はない」と説明しており、影響に関する過小評価が目立つのである。そして、このような小さな安全神話の積み重ねが大きな安全神話となって、⑧のように、「新規制基準に適合」と判断されるのが危ないのだ。

 さらに、北陸電力の広報担当者は、⑫のように、「原子炉建屋は基準地震動600ガルまで耐えられ、今回の地震による地盤の揺れは600ガルよりも小さく、2号機については1000ガルまで耐えられるため、原子力施設の耐震安全性に問題はない」と説明し、⑮のように、「直下に断層がある」と指摘されても直下の断層の活動性を否定し、原子力規制委員会も北陸電力の主張を妥当と判断しているのだ。

 しかし、⑨⑩⑪のように、志賀原発が立地する能登半島西側に活断層が存在し、今回動いたエリアの脇にある志賀町沖断層で地震が発生し易くなっており、今回の地震で北陸一帯の断層帯に地震を起こしやすくする力がかかってマグニチュード7クラスの大地震発生リスクが高くなっている上に、⑬のように、現行技術水準では活断層の全容が捉えがたいため、活断層に関しても北陸電力は過小評価になっており、これでは、科学的とも安全側に保守的とも言えないのである。

 そのため、当然、⑭のように、原発直下でメートル単位の上下・水平方向にズレが生じれば、計算するまでもなく原発はもたず、数十cm単位のズレでも、⑯の核燃料プールが傾いたり、ひびが入ったりして水がこぼれ、保管されている大量の使用済核燃料が爆発する等の災いが起きるため、早急な議論が必要であることは間違いないのだ。

ハ)政策決定手法の転換へ
 *1-3-3は、①未だ被災者に大きな影響を与え続けているフクイチ事故から13年 ②この間に世界のエネルギー状況は大きく動いた ③化石燃料依存リスクが鮮明になった ④発電コストや建設費の増大で原子力発電は停滞 ④価格低下した太陽光・風力発電は急拡大 ⑤目指すべきは高コスト・高リスクの大規模集中型電源から低コストの再エネを主とする分散型システム ⑥自公政権のエネルギー政策はこの流れに逆行 ⑦日本政府や電力会社は、水素やアンモニアを利用して「CO₂を出さない火力」を目指すことに注力しているが、高コストの手法は気候変動対策にならない ⑧日本は限られた資金や人材の多くを原発や不確実な将来の新技術に投じ、日本国内の再エネ市場は他国に比べて大きく見劣り ⑨今になって大規模な洋上風力発電の開発を進めようにも風車は輸入 ⑩経産省が指名した委員による委員会で、役所のシナリオに沿って政策を決める非民主的な手法を見直して、科学とデータに基づき、多くの市民や専門家の意見を聞いて民主的政策議論を進める「政策決定手法の大転換」も重要 としている。

 この記事には、必要な論点がすべて書かれていると、私は思う。例えば、①については、原発事故さえなければ既に回復できていた筈の農林漁業地域に未だに帰還困難区域を作らざるを得ず、超長期避難者も多い。また、②③④⑤は、私が1995年前後に初めて再エネ推進を提言した時から言っていたことだが、それを世界はやっと現実として認識したのだ。

 にもかかわらず、⑥のように、自公政権のエネルギー政策は世界の流れに逆行し、⑦のように、日本政府や電力会社は水素やアンモニアを利用して「CO₂を出さない火力」を目指しているが、この方法は化石燃料より高コストになることが避けられない。従って、⑧⑨のように、使えない技術の開発に限られた資金や人材を投入して再エネ技術を疎かにしたのは、日本の経済成長を低め、円安を促進する効果しかなかった日本政府の誤った政策判断なのである。

 なお、このような誤った政策が進められた背景には、⑩のように、経産省がやりたいことを先に決め、経産省が指名した委員からなる委員会で、経産省のシナリオに沿って政策を決めてきたことがある。その中で、民主的に選ばれた筈の政治家は、自分の頭では考えられなかったためか、経産省の言いなりになった方が身の安全を守れるためか、ともかく経産省の言いなりになったのだ。そのため、このような手法を見直して、多くの市民や専門家の意見を集め、科学とデータに基づいて政策を決定するという当たり前の手法への大転換が必要なわけである。

二)日本列島の成り立ち・断層・玄海原発


          2023.7.23現代ビジネス             BS朝日

(図の説明:左図は、ユーラシア大陸の一部だった日本列島が、太平洋プレートの沈み込みに伴って大陸から引き剥がされ、島を形作っていく様子だ。このように、大陸が切り離されて間に海ができる様子は、現在では、右図のアフリカ大陸の大地溝帯に見ることができる。つまり、日本海や瀬戸内海は、地溝帯に海水が流れ込みながら、次第に広がったものだろう)


 2021.9.6Economist    国土地理院   2024.1.15長州新聞 2024.3.30佐賀新聞

(図の説明:1番左の図は、太平洋プレートがユーラシアプレートに沈み込み、フィリピン海プレートや北米プレートとせめぎ合いながら、日本列島に力をかけている様子だ。この力によって、日本列島の各地点は、左から2番目の図のように、2011~2022年に矢印の方向に移動し、矢印の長さが移動距離・矢印の方向が移動方向を示している。このように、測定地点により移動距離や移動方向が違うため、歪みが蓄積して耐えられなくなった時に地震が起こって地形を変化させる。また、右から2番目の図は、現在わかっているとされる日本列島とその周辺海域の活断層及び原発の位置だが、「海底の活断層はわかっていない」として殆ど表示されていない。なお、1番右の図は、佐賀県と周辺の活断層を示したもので、海底の断層は表示されていないが、名護屋浦・串浦・外津浦・仮屋湾・伊万里湾は、地形から見て断層そのものではないかと思う) 

 *1-3-6は、①九電は3月8日に原子力規制庁との会合で、玄海原発3、4号機の基準津波を修正する方針 ②政府の地震本部が2022年に公表した日本海南西部の海域活断層長期評価を踏まえて検討した結果、想定される津波が既存値を上回ることが分かったから ③日本海南西部海域活断層長期評価では対馬南西沖断層群と第1五島堆断層帯が連動したケースで想定される津波の高さ6.37m、低さマイナス2.65mで、現行基準津波(高さ3.93m、低さマイナス2.6m)を超えるが、基準地震動への影響はない ④玄海原発は高さ約11m、取水位置の低さ(マイナス13.5m)で想定される津波に対して余裕があり、追加工事はない としている。

 上の①~④は、津波に関して余裕があってよかったとは思うが、地震については不明だ。

 *1-3-7の佐賀県内首長原発アンケートでは、i)玄海原発の運転継続について、玄海原発立地町の脇山玄海町長だけが「賛成」・15市町長が「条件付き賛成」・反対0 ii)原発の今後に在り方については、16市町長が「将来的に廃止」 iii)原発から出る高レベル放射性廃棄物の最終処分場を受け入れる市町長は0 とのことである。

 運転継続について「どちらともいえない」とした深浦伊万里市長は、「事故が発生すれば取り返しがつかないことになるため基本的に反対だが、電力は企業活動や市民生活を支える基礎的なインフラで安定的な供給は不可欠であり、原発を止められない現実がある」とされている。しかし、太陽光発電による電力は既に余剰が出て捨てており、大規模集中型発電より分散型発電の方が大規模停電のリスクも小さいため、電力の安定供給は既に原発稼働の口実にはならなくなっている。それより、原発事故時は、どこにどれだけの期間、避難しなければならないのか、それは可能なのかを検討すべきであろう。

 また、「条件付き賛成」を選んだ首長は、条件として「電力事業者・国の責任で安全性を追求し、可能な限り情報公開に努める(村上嬉野市長)」、「使用済核燃料の処理方法について国の責任で対策を講じる(江里口小城市長)」などを挙げられたそうだが、原発には大きなリスクがあり、100%の安全を保証した人は1人もいないし、使用済核燃料の処理は1mmも進んでいないことを思い出すべきである。

 さらに、原発の今後で「将来的に廃止」を選択した首長は、「カーボンニュートラルの実現に向けて取り組む(向門鳥栖市長)」「再エネ導入を進めて原子力への依存度を下げていく(松尾有田町長)」「能登半島地震を踏まえ、南海トラフ地震を含めた対策を一から見直すことも重要課題で、代替エネルギーの研究も加速させるべき(岡みやき町長」」などの見解を示されたそうだが、再エネは遠い未来に実現可能な技術ではなく、既に実用化されている原発よりずっと安価な技術であり、街作りと一緒に行なえばモダンで効果的な街ができるのである。

 能登半島地震では北電志賀原発周辺で道路の寸断・家屋倒壊等が相次ぎ、避難と屋内退避の実効性が問われたため、*1-3-8では、佐賀県内の首長に原発重大事故時の避難ルートについて質問し、iv)7市町長が現行の避難計画を「見直す必要がある」と回答、他の12首長は「(規制委の)今後の議論を注視したい(坂井英隆佐賀市長)」という意見が多かった v)松尾鹿島市長は「避難が現計画で対応できるかなど再検討の必要がある」とされた とのことである。

 日本の“避難”は、我慢しても1週間しかいられないような体育館や公民館等の劣悪な環境であるため、原発事故時の長期間の避難には全く向かない。そのため、「原発事故に遭いたくなければ、原発立地地域やその周辺には住まない方が良い」という悪循環の選択になりそうだ。

(2)人口構成と高齢化社会対応から見た歳出改革→高齢者への給付減・負担増ではない
1)公的年金目減りの原因であるマクロ経済スライドについて


    2023.9.30日経新聞    2022.6.25日経新聞    2024.1.19時事わ

(図の説明:左図のように、物価上昇率の体感と統計には11.4%の差があるが、これは、中央の図のように、食料品などの単価は安いが頻繁に買わざるを得ない必需品の物価上昇が激しいからである。しかし、「マクロ経済スライド」が適用され、右図のように、年金改定率が2.7%に抑えられたため、所得が低いので食料品等の購入割合が高くなっている年金受給者の体感物価との差は12%以上になるのだ)

 *2-1-1は、①物価と賃金の上昇で2024年度の公的年金額は前年度比で2.7%増だが、0.4%分目減り ②年金財政の安定のための「マクロ経済スライド(直近1年間の物価変動率と過去3年度分の実質賃金変動率を元に改定し、物価と賃金の伸びよりも年金支給額を抑える)」で物価と賃金の伸びに届かず ③マクロ経済スライドの影響で、国民年金は実質年3600円、厚生年金は同1万1500円ほど目減り ④厚労省の審議会では財政に余裕のある厚生年金が基礎年金に資金支援して給付水準抑制を前倒しで終了する案が出た ⑤就労を促進して高齢者の手取り収入を増やす方向の改正も議論 ⑥一定の所得のある高齢者の年金支給を減額する在職老齢年金制度も見直しを求める声が強い 等としている。

 また、*2-1-2も、⑦公的年金の2024年度支給額は、マクロ経済スライドで実質価値減少 ⑧名目賃金上昇率3.1%が、前年の物価上昇率3.2%より低く、労働者数の減少と高齢化の影響により「マクロ経済スライド」が2年連続で発動され、0.4%分を差し引いた2.7%のプラス改定 ⑨本来は物価が上がっても買えるものが減らないように給付(支出)を引き上げる必要があるが、保険料(収入)は賃金が上がれば増え下がれば減るため、物価上昇が賃金上昇を上回ると支出が収入を上回って年金財政が悪化するため、物価上昇率と名目賃金上昇率の低い方を改定率計算に使用 ⑩少子高齢化の日本で将来世代の年金を確保するには、さらなる措置が必要で、その影響を織り込んで給付を抑える仕組みが「マクロ経済スライド」としている。

 このうち、①②⑦⑧⑨⑩は、「マクロ経済スライド(尤もらしい名称だが、経済学にこの言葉はない)」によって、年金財政が悪化しないように物価上昇率と名目賃金上昇率の低い方と労働者数の減少を年金改定率の計算に使い、年金のプラス改定分は「物価上昇率3.2%>名目賃金上昇率3.1%」より0.4%低い2.7%となるということである。

 その結果、③のように、ただでさえ所得代替率の低い国民年金・厚生年金の実質価値は目減りし、さらに所得代替率(年金を受け取り始める時点《65歳》の年金額が、現役世代男性の平均手取り収入額《ボーナス込み》と比較した時の割合)が下がるのである。

 しかし、前年の物価上昇率3.2%は、上の左図の2023年9月30日における3.3%に近いが、この時の体感物価指数は14.7%であり、体感と統計との間に11.4%の差がある。その理由は、上の中央の図のように、食品等の頻繁に買うものの物価上昇が大きいからであり、年金生活者が買うのは耐久消費財ではなく食品等のエンゲル係数に直結する品目の割合が高いため、年金生活者の体感物価指数は14.7%以上で、年金プラス改定分より12%以上高い。そして、これが、「マクロ経済スライド」と呼ぶ、反対運動を起こさせずにこっそり年金を引き下げるやり方なのだ。

 それでは、「マクロ経済スライド」を導入しなければ年金財政が悪化して年金制度を維持できないのかと言えば、支払われた保険料を積立方式できちんと積立てて運用し、保険料を支払った人にのみ、支払額に応じて年金を支給すればそのようなことはなかった筈だ。しかし、日本政府はそれをせず、団塊の世代が受給する段になって慌てているというお粗末さなのである。

 また、「少子高齢化≠労働力の減少」であるにもかかわらず、少子高齢化を年金支給額引き下げの口実にしているが、女性に対する結婚罰・妊娠罰・子育て罰を1970~80年代に廃止しておけば、著しい少子化は起こらなかった筈で、政府の政策は40~50年遅れているのだ。

 そして、④のように、厚生年金に入って高い保険料を支払った人の積立金を基礎年金に流用するなどという議論を厚労省の審議会で行なっているそうだが、保険であれば流用は禁物で、足りなければ税金から支出すべきである。

 その税金を原資とする財源は、エンゲル係数が高くて食べるものまで節約している高齢者からむしりとるのではなく、*2-1-5のように、経産省が最先端半導体の量産を目指すとしてラピダスに税金から2024年度までに累計9200億円もの支援をするようなことをやめて作るべきである。何故なら、半導体という30年以上も前から必要性が言われてきた産業に、今頃、国が多額の支援を行なわなければならないような企業に将来性はなく、仮に将来のニーズを満たす企業なら、税金ではなく民間銀行の貸し付けや社債・株式の発行で資金調達すれば良いからだ。

 従って、労働者数の減少と年金の所得代替率の低さから、⑤のように、高齢者の就労を促進したり、年金保険料の支払期間を延ばしたりするのは良いが、⑥のように、(著しく低く、いつなくなるかわからないけれども)一定の所得があるからといって高齢者の年金支給額を減らすのは、結局は高齢者層の購買力を無くさせ、次の時代に本当に必要とされる製品の開発を妨げることになるのだ。

2)物価上昇と賃上げについて
 *2-1-3は、①2023年7月の消費者物価指数は変動の大きな生鮮食品を除く総合指数で前年同月比3.1%上昇、エネルギーも除けば4.3%上昇 ②物価の上昇圧力が続き、食品・日用品の値上がりが家計を圧迫して消費を下押し ③16カ月連続で日銀が掲げる2%の物価目標を上回る ④7月にはハンバーガー前年同月比14.0%上昇、プリン27.5%上昇、宿泊料15.1%上昇、携帯電話通信料10.2%上昇 ⑤外食は1.8%増とプラスを維持したが、5月(6.7%増)から伸びを縮めた ⑥サービス消費は新型コロナ禍からの正常化で回復期待が高かった割に動きが鈍い ⑦値上げが目立つ品目ほど消費が減少し、総務省の家計調査で2人以上世帯の6月の消費支出は実質前年同月比4.2%減で経済成長に水 ⑧2023年4~6月期実質GDPは季節調整済前期比年率6.0%増と高い成長率だが、牽引役は復調した輸出等の外需で、個人消費は物価高で前期比0.5%減 ⑨2023年の賃上率は30年ぶり高水準だったものの物価上昇に追いつかず、2024年以降に賃上げが息切れすれば家計の購買力低下を通じて再びデフレ圧力 ⑩実際、コロナ禍前の2019年10~12月期と足元を比較すると雇用者報酬は実質3.5%減と物価上昇に賃金が追いつかず消費は伸びていない ⑪日米欧では米国だけが賃金と消費を伸ばしている 等としている。

 上の①については、変動が大きいからといって生鮮食品を除いたり、エネルギーを除いたりすれば、それらの購入割合が高い世帯(低所得でエンゲル係数が高く、政府が最も注視しなければならない世帯)の体感消費者物価指数が、統計とはかけ離れた数値になる。

 また、②⑦のように、総務省の家計調査で2人以上の世帯の2023年6月の消費支出が実質前年同月比4.2%減だったのは、物価が4.3%上昇し、賃金・年金を含む国民全体の所得が増えなかったことを考慮すれば当然の結果である。

 私も、④⑤⑥のように、著しく物価上昇した商品やサービスは、どうしても仕方のない場合を除いて購入しないよう工夫したが、そもそも前年度はコロナ禍で経済を止めていたため、前年同月と比べれば少しは伸びる状態だったのである。

 にもかかわらず、日銀は、③のように、2%の物価上昇目標を掲げて国民の資産と政府や企業の債務を目減りさせている。そして、これによって、政府や企業の実質借入金額を物価上昇分だけ目減りさせ、それと同時に金利も「名目金利 - 物価上昇」であるためマイナスにしている。つまり、実質預金は物価上昇分だけ目減りすると同時に、実質金利もまたマイナスになっており、これは、通貨の安定を通して国民の財産を護るべき中央銀行として、おかしな行動なのである。

 しかし、これらの政策の結果、⑧のように、2023年4~6月期の実質GDPは季節調整済で前期比年率6.0%増と高い成長率になったが、その牽引役は復調した輸出等の外需で、物価高によって実質で貧しくなった国民の個人消費は前期比でも0.5%減となっているのだ。

 「物価を上げれば、それ以上の賃上げができるのか?」と言えば、物価上昇分をすべて賃上げに充てても、生産性向上がなければ最大で物価上昇分までの賃上げしかできない。そのため、⑨⑩のように、コロナ禍前の2019年10~12月期と足元を比較すれば、雇用者報酬は実質3.5%減と賃金上昇は物価上昇に全く追いつかず、2023年の賃上率は30年ぶりの高水準でも物価上昇に追いつかず、2024年以降に賃上げが息切れすれば家計の購買力低下を通じて再びデフレ圧力となるのだ。そして、これも、こっそり賃金を引き下げる政策の一環なのである。

 なお、⑪によれば、「日米欧では米国だけが賃金と消費を伸ばしている」そうだが、米国は生産性の高い産業に労働移動し易いシステムで、外国人や移民も加わって新技術を作ったり、新技術によるイノベーションを起こしたりするのが早い。これは、政府主導で、外国を模倣しながら、30~50年遅れのイノベーションもどきを起こそうとしている日本とは、気質と土壌が全く違うと言わざるを得ないのだ。

3)医療・介護について

    2023.12.6山陰中央新報    2023.12.26日経Xテック 2023.6.9東洋経済

(図の説明:左図は、政府が社会保障分野で検討する“改革”項目だが、「介護のケアプラン作成の有料化」は見積もりを有料化するのと同じく社会常識からかけ離れており、「金融資産を考慮した支払能力判定」が行なわれれば金融資産は日本で所有すべきでなくなる。また、中央の図は、2024年度の診療報酬改定の基本方針だが、時代のニーズが変わっているのだから、持続可能性は厚労省管轄の予算内だけで考えるべきではない。さらに、右図は、令和2年度に支出される医療費の推計で、70歳以上の人が医療費の51%《半分以上》を使い、特に75~85歳の医療費が高くなっている。この図は、世代毎の医療費支出と人口を掛け合わせて産出したものだが、個人についても、75歳以上の退職後高齢者になってから生涯医療・介護費の半分以上を支出するのが普通であるため、在職中に入る医療保険は大幅な黒字の筈である)

   
    2024.4.3日経新聞    2024.4.3日経新聞     経済産業研究所

(図の説明:左図は、内閣府による医療・介護費のGDP比予測だが、高度医療が医療・介護費を膨らませると仮定している点が誤りであるし、出生率を上げれば実質成長率が上がると仮定している点も、世界を見ればわかるとおり事実ではなく少子化対策への流用を誘導しているにすぎない。中央の図は、2020年と2060年の各国の実質GDP/人の予測だが、日本より人口の少ないスイス・ノルウェー・スウェーデン・ドイツの実質GDP/人《国民1人1人の豊かさを示す》は日本より高く、これらは研究開発に熱心で社会保障も整っている国だ。また、右図は、OECD各国の政府債務残高《GDP比》と実質経済成長率の関係で、単なるバラマキによって政府債務残高を増やした日本は、政府債務残高が多い割に実質経済成長率が低いという当然の結果が出ている)

 
 社会実情データ          保団連            ダイアモンド

(図の説明:人生の終盤に年金・医療・介護費が増えるため、高齢化すれば社会保障費が増えるのは当然で、左図が、65歳以上の人口割合と社会保障支出/GDPの関係だが、日本は他国と比較して高齢化の割に社会保障支出が少ない国である。また、中央の図のように、1980年と比較して直近の社会保障支出/GDPが減っているのは日本だけであり、先進国中最低になっている。さらに、右図のように、先進国中、日本だけが「社会保障支出/GDP<公共事業支出/GDP」であり、日本の社会保障支出/GDPは現在でも決して大きくない。つまり、「全世代型社会保障」と称して高齢者に負担を押しつける政策は、根本的に間違っているのである)

 *2-1-4は、①医療・介護給付費は65歳以上人口がピークアウトする2040年度頃から急激に増加 ②医療・介護利用の多い85歳以上人口が継続的に増すため ③2025~60年度の平均実質成長率は、i)0.2%の「現状維持」 ii)1.2%の「長期安定」 iii)1.7%の「成長実現」で試算 ④医療・介護給付費のGDP割合は、「現状維持」で2060年度13.3%と2019年度より6割贈、「成長実現」で9.7%と2割弱増 ⑤社会保障制度維持にはデジタル化による効率化やGDP成長率の引き上げが急務 ⑥医療技術革新が加速すれば給付費は一段と膨らみ、高額医薬品の登場による医療費拡大が従来の2倍ペースだとGDP比は「現状維持」で2060年度に16.1%で 2019年度の2倍 ⑦岸田首相は「実質1%を上回る成長で力強い経済を実現し、医療・介護給付費のGDP比上昇に対する改革に取り組む」と強調 ⑧政府は2023年12月公表の改革工程素案に介護サービスを利用する際の2割負担の対象者を2024年度に拡大すると盛り、与党からの反対等で見送った ⑨政府は社会保障の歳出改革で少子化対策による実質的負担増を回避すると主張するが、介護負担拡大の先送り等が続けば実現は遠のく ⑩実効性ある社会保障改革に繋げるには試算の妥当性検証も必要 等としている。

 上の右図のように、普通の人は75歳以降に生涯医療費の半分以上を使い、特に85以上で医療・介護関係の支出が増えるが、これは誰にでも言えることである。

 そのため、①②は事実だが、③の成長率の試算については、iii)の1.7%の「成長実現」が合計特殊出生率1.8程度まで回復、「全要素生産性(TFP)」がバブル期並みの1.4%の上昇という条件を設定していることに、私は意図的なものを感じた。

 何故なら、女性の教育や能力が向上して職業選択の自由度が高まれば、結婚・出産・子育てのみを人生の最終目標にする女性割合は著しく減るため、いくら児童手当を支給したり、教育を無償化したりしても、外国人を閉め出して日本人だけでやる限り、合計特殊出生率が1.8程度まで回復することはないからである。また、金融緩和をしただけのバブル期に、「全要素生産性(TFP)」が1.4%上昇したというのも疑わしい。

 そのような中、④のように、医療・介護給付費の対GDP比を下げようとすれば、⑤⑦のように、GDPを増やすためGDP成長率を上げることは重要だ。しかし、GDP成長率の引き上げ方法は、デジタル化による効率化だけではなく、⑥の先進的な医療・介護機器や医薬品の開発による医療技術の革新を国内で起こし、それを世界市場に投入する方法もある。そうすれば、それを使用することによって、一時的には医療給付費が膨らむが、日本のGDPが増えたり、医療・介護費の合計が減ったりする効果もある。その良い例が、米国のコロナワクチンだ。

 にもかかわらず、政府見解にはいつも優れた医療・介護機器や医薬品の開発とその世界市場投入によるGDP成長率向上・国民の福利増進の視点が抜けている。効果が高く副作用の少ない優れた新薬のために医療費給付が一時的に高額になっても、副作用が大きく効果の薄い旧来型の治療法を保険適用から外せば、国民は先端医療を享受しながら、医療・介護費用の節減を正攻法で行なうことができて歳出改革に繋がるのに、である。つまり、現在は、政府(厚労省・財務省)自身がそれを邪魔して、GDP成長率向上を阻害していることになる。

 また、⑧のように、政府は2023年12月公表の改革工程素案に介護サービスを利用する際の2割負担の対象者を2024年度に拡大すると盛ったが、確かに高齢になっても働いて現役並みの所得を得ている人もいれば、年金のみで生活しなければならず食費やエネルギー代にも事欠いている人もいる。そのため、「原則は全員3割負担で、所得に応じて医療・介護費の自己負担額合計が一定上限額を超えない範囲」とするのが公平で適切だろう。

 しかし、日本政府は、現在は高齢者に関しては生活保護程度の所得でも高所得と看做しているため(ここが大きな問題)、1年間の医療・介護費支払上限額は、医療・介護費が生活費を圧迫しないよう所得の5%以下と低く設定し、いろいろな意味で個人情報保護の怪しい「マイナ保険証」で受診しなくても、窓口で自己負担分だけ支払えば済むようにすることが条件になる。

 なお、⑨のように、政府は、高齢者に対する医療・介護給付の削減を社会保障の歳出改革と称しているが、医療保険料・介護保険料として支払った保険料を少子化対策に使うのは目的外の流用である上、日本の医療・介護制度を支えるのは“生産年齢人口”に当たる15~65歳の日本人男性だけでなくても良い。そのため、いくら屁理屈をこねても流用は合理化できないし、現役世代の負担が重いといっても、殆どの人が同じ経過を辿って死ぬため不公平はなく、高齢者はいつまで現役並みの所得を得られるかわからないので貯蓄は必要なのである。

 さらに、⑩については、政府がこれまで行なってきた政策を正当化するためか、原因分析や予想が甘すぎる点が散見され、確かに仮定・原因・試算等の妥当性の検証も必要だと思われる。 

 上のほか、*2-1-6も、⑪バラマキをやめ財政を「平時」に戻す必要 ⑫「賢い支出」を追求して財政健全化と成長の両立をめざすべき ⑬内閣府は2060年度までの社会保障費と財政状況の長期推計を初めてまとめ、社会保障費の急増で財政が持続可能でなくなる危うい未来が浮かんだ ⑭毎年度の社会保障費を高齢化による伸びの範囲内に収め、給付の抜本改革や消費税を含めた負担の議論もすべき ⑮新型コロナウイルス禍の危機対応で膨張した財政の規律を取り戻す必要 ⑯歳出改革で4兆円削り、税収が5.3兆円上振れしても、基金の乱立等で新たな歳出が3年前の試算に比べて7.5兆円増え、効果を薄める ⑰首相は財政健全化の決意を行動で示すべき ⑱成長を実現し、将来の歳出を減らすため、DX等で生産性を高める賢い支出は欠かせない 等としている。

 このうち⑪⑫⑮⑰は賛成だが、⑬⑭のように、歳出改革と言えば、「持続可能性のため社会保障費を削減するか、消費税増税が必要」と主張するのは、国民不在・省益優先の行政の代弁であり、日経新聞の悪い点である。しかし、こういうことを言うメディアは、ほかにも多い。

 特に、社会保障のうちの医療・介護保険制度は、*2-1-7のように、高齢化社会のニーズに対応して作った優れた制度であり、中身を濃くしながら充実することはあっても、数値だけを見て削減するような数合わせに終始してはならないものだ。

 日経新聞は、日頃から、著しい金食い虫である原発は熱心に推進し、⑱のように、ラピダスのようなDX企業への補助金も兆円単位であっても成長を促す「賢い支出」としているが、関連性まで含めた経済の仕組みがわかっていないのではないか? また、生産に資するのではなく、破壊に資する武器を作る兆円単位の支出が「賢い支出」とは、どう考えても言えないと思う。

 つまり、首尾一貫した主張をすべきなのは、政治家だけではなく、メディアも同じであり、責任ある大人であれば、誰でも同じなのである。なお、⑯については、複数年での予算の使用を可能にし、毎年、費用対効果を検証しながら翌年の予算を決められるシステムにすれば、基金の乱立は不要であり、国会議員始め国民にとって透明で賢い使い方になる。

4)少子化対策について
 *2-2-1・*2-2-2は、①政府は、児童手当や育児休業給付など少子化対策の拡充のため、2024年度からの3年間で年3.6兆円の予算を確保する ②「医療保険料からの支援金制度」で初年度6000億円、段階的に金額を増やし2028年度には年1兆円集める ③他は歳出改革で1.1兆円、既定予算の活用で1.5兆円確保する ④首相は「2028年度拠出額は加入者1人当たり月平均500円弱」「社会保障の歳出改革で保険料の伸びを抑え、今春以降の賃上げで負担率の分母が増えるため、実質的な負担増にならない」とする ⑤支援金は、サラリーマンの場合は給料から天引きされる医療保険料に上乗せし、75歳以上の後期高齢者も含む全世代が負担する ⑥実際の1人当たり負担額は個人毎に差が出て所得の高い人ほど負担額が増える としている。

 また、*2-2-3は、⑦野党から、「支援金は事実上の子育て増税」と批判 ⑧立憲の山井氏は「所得階層別の負担額を出してほしい」と迫り、加藤こども政策相は「年収別拠出額は数年後の賃金水準等に依るため、現時点では一概に申し上げられない」と繰り返した ⑨少子化対策の最大の争点は財源確保策 ⑩立憲の早稲田氏は「給付と負担の関係が明白な社会保険の考え方に到底見合わない。租税でまかなわれるべき」と指摘し、加藤氏は「(医療保険等の)社会保険制度はともに支え合う仕組み。支援金制度も少子化対策で受益のある全世代・全経済主体で支える仕組み」と答弁 ⑪岸田首相も衆院本会議で「少子化・人口減少に歯止めをかけることで、医療保険制度の持続可能性を高める」と強調 ⑫本会議では国民の田中氏が「こども誰でも通園制度を拡大していく考えはあるのか。保育士等の賃金・労働条件を改善し、質の高い保育の提供に必要な人材を確保すべき」との指摘 としている。

 しかし、日本の最高法規で法体系の頂点に立つ日本国憲法は、第25条で「1項:すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する 2項:国は、すべての生活部面について社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と定めている。

 また、第 26 条で「1項:すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、等しく教育を受ける権利を有する 2項:すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。 義務教育は、これを無償とする」と定めている。

 そして、それらに使うために、第30条で「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ」と定め、国民から税を徴収しているのだ。

 つまり、子育ての中の保育や義務教育の無償化や(年齢を問わず)すべての国民に対する医療・介護・公衆衛生の増進は、憲法で保障された国民の権利であり、国はそれを実現するために国民から税を徴収しているのだ。そのため、優先順位の低い事に無駄使いした挙げ句、「少子化対策のためだから、国民負担を増やす」とか「財源を探す」などという議論にするべきではなく、③のように、優先順位の低い歳出をカットして必要な財源を確保し、憲法で定められた国民の権利を保障すべきなのである。

 従って、子育てのための支援を増やしたり、教育無償化したりするのは良いが、それを①のように、少子化対策と位置づけるのはそもそも問題の本質から外れているし、②のように、その財源の一部を医療保険料から流用すれば、全国民に対する公衆衛生の向上・増進を阻害して憲法違反となるのである。

 なお、④⑤⑥のように、首相は「2028年度拠出額は加入者1人当たり月平均500円弱」「社会保障の歳出改革で保険料の伸びを抑え、今春以降の賃上げで負担率の分母が増えるため、実質的な負担増にならない」等とされたそうだが、「500円弱」というのは働いていない人まで含む人口で割って出した金額で実際の負担額は人によって異なるため誤解を生み、社会保障の歳出改革で社会保険料の伸びを抑えれば、医療・介護はさらに疎かになって、国民の健康や公衆衛生の増進に逆行するのである。

 そのため、⑦⑧のように、野党が「支援金は事実上の子育て増税」「所得階層別の負担額を出すべき」と反論するのは尤もだが、優先順位が高いにもかかわらず、これまでサボっていたことをするのに追加負担を求めるのは、どの所得階層の国民であっても許し難いのだ。

 従って、⑨の財源は、⑩のように、税で賄われるべきであり、加藤氏の説明はこれまで明確だった事をわざと混同させて煙に巻いている。また、⑪の岸田首相の「少子化・人口減少に歯止めをかければ、医療保険制度の持続可能性を高める」というのも、児童手当や育児休業給付で少子化が止まるという証拠はなく、現在いる人材も本当に必要な場所で有効に使っているわけではない上、医療保険等の社会保障を支えるのは日本人の生産年齢人口(15~65歳とされる)の男性でなければならないとも決まっていないため、その場しのぎの言い訳にすぎないのである。

5)外国人労働者について


(図の説明:左図は、外国人労働者の在留資格・在留可能期間・在留者数を示したもので、在留期間を短く区切って滞在者数を制限し、医師・看護師・介護福祉士・保育士・美容師等の資格の相互承認はしておらず、生産年齢人口に対して雇用機会が不足している時の体制のままになっている。また、中央の図のように、外国人労働者の給与は技能実習を終えた特定技能でも日本人の高卒非正規程度で外国人差別が存在しており、日本が「選ばれる国」になるのを妨げている。このように、熟練した頃には強制的に母国に返すため、右図のように、特定技能や技能実習の外国人は限られた数になり、人手不足が補えないのだ)



(図の説明:そこで、左図のように、日本政府は特定技能の受入上限を「2024~28年に82万人」と増やしたが、職種は殆ど男性で日本人ばかりの政治家・行政官が思いつく範囲に留まるため不十分だ。このような中、中央の図のように、自国の所得水準との差が縮まれば日本で働く魅力は薄れるため、所得水準の差の大きな国が外国人労働者の供給源として有望なのだが、右図のように、日本の難民受入数は2023年に300人程度と先進国の中で桁違いに低く、他国を批判する割には困っている時に助けない「《大金を払わなければ》好かれない国」となっている)

 まず、日本国憲法は前文で、「全世界の国民が、等しく恐怖と欠乏から免れ、平和の内に生存する権利を有することを確認する」「いずれの国家も自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって、政治道徳の法則は普遍的なものであり、この法則に従うことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立とうとする各国の責務であると信ずる」と定めている。

 そして、*2-3-1は、①政府は外国人労働者の在留資格「特定技能」の受け入れ枠を提示し、2024年度からの5年間で現行の2倍以上の82万人を受け入れる ②内訳は国交省所管分18.2万人・経産省所管分17.3万人・厚労省所管分17.2万人 ③数字は業界毎に成長率・需要等から不足人数を出し、人材確保や生産性向上の努力で解決できる分を差し引いて算出 ④急速な少子高齢化に見舞われる地方からは悲痛な声が上がっていた ⑤厚労省発表の2023年10月の外国人労働者は約200万人で、JICAは年平均1.24%の成長を2040年に達成するには674万人の外国人労働者が必要と推計 ⑥政府は特定技能だけでなく技能実習に代わる「育成就労」と合わせて受け入れ数を増やす方針 ⑦円安や低下した賃金水準は日本が「選ばれる国」になる足かせ ⑧外国人の職場への順応や生活環境の支援策を整えることが重要 ⑨移民統合政策指数の2020年版の総合評価で日本の順位は56カ国中35位で、韓国に後れをとる 等としている。

 このうち③の「業界毎に成長率・需要等から不足人数を出し、人材確保や生産性向上の努力で解決できる分を差し引いて外国人労働者の必要数を算出する」というのは、国内のイノベーションを計りながら、雇用との調和を維持しようとするするもので良いと思う。

 しかし、外国人労働者が必要な分野は、②の国交省・経産省・厚労省だけではなく、文科省・農水省・環境省・防衛省等の分野にも及ぶため、人手不足が経済の足をひっぱらないためには、①の82万人ではなく、④⑤を考慮して必要とされる分野は躊躇なく追加すべきである。

 また、⑥の2019年に始まった特定技能制度は、人手不足が著しいとされた特定分野に限って一定の専門性と日本語能力を持つ外国人材を受け入れる制度だが、それでも「1号」の在留期間は最長5年で家族は帯同できず、「2号」になって初めて家族を帯同できるが、就労している限り更新の上限がないという条件の悪さである(https://global-saponet.mgl.mynavi.jp/visa/2685 参照)。

 そして、特定技能1号の取得方法には、i)分野毎に用意された技能試験と日本語能力試験に合格 ii)職種と作業内容に関連性のある技能実習を良好に3年間終了する の2つがあるが、技能実習制度には問題が多発しているため、日本政府が2024年2月9月に技能実習制度廃止と育成就労制度(特定技能への移行を目指す制度)創設を決定したものの、改正法施行は2025年~27年と消極性をあらわにするゆっくりした進展なのである。

 このように雇用条件が悪ければ、⑦のように、円安や低下した賃金水準で他国との賃金格差が縮まれば日本は「選ばれる国」にならない。また、⑧のように、外国人のみに職場や生活環境への順応を求めれば、外国人の日本での生活しにくさは著しいものになる。これらの結果として、⑨の2020年版移民統合政策指数総合評価で日本の順位は56カ国中35位になり、言葉の特殊性は日本と同レベルの韓国にも後れをとっているのである。

 難民については、*2-3-2が、⑩出入国在留管理庁が自国で迫害を受ける恐れがあるとして2023年に303人(申請者数のわずか2.2%)を難民認定したと発表 ⑪内訳は、2021年の政変後に退避したJICA職員が多いアフガ二スタン237人、軍政による弾圧が続くミャンマー27人、エチオピア6人など ⑫難民認定申請者数は1万3823人で、スリランカ3778人、トルコ、パキスタンの順 ⑬難民認定制度とは、難民を「人種・宗教・国籍・政治的意見・特定の社会的集団の構成員であることを理由に迫害される恐れがあって国外に逃れた人」と定義し、出入国在留管理庁の調査官が面接等で審査 ⑭日本の難民認定数は年間1万人超の国がある欧米と比べて著しく少なく、基準が厳しすぎるため「難民鎖国」との批判がある と記載している。

 このうち⑩⑪⑫⑬は事実だが、⑭のように、日本の難民認定数は欧米先進国と比較して著しく少なく、基準が厳しすぎて「難民鎖国」そのものである。しかし、気候変動等によって食料や土地の支配権を巡る争いが頻発するようになれば、移住を余儀なくされる人も増えて難民は増加する。その時に、難民を軽蔑して排除するような国が「国際貢献している国」と評価されるわけはなく、大金を払わなければ「好かれる国」にも「選ばれる国」にもならないだろう。

 それでは、難民になる人は労働者としてレベルが低いのかと言えばそうではなく、いろいろな点で日本人より優れた人も多い。そのため、私は、難民鎖国は早急に止めた方が良いと考える。

 わかり易い例を挙げれば、*2-3-3の日本を代表する指揮者で“世界のオザワ” の小澤征爾氏は、満州国奉天に生まれ、大陸で生まれ育ったことが日本人離れした活躍の源で、戦後は立川に住まいを移して中学3年生の時に齋藤秀雄(桐朋学園で多数の著名指揮者や弦楽器奏者を育てた大功労者)に弟子入りし、23歳でブザンソン国際指揮者コンクールで優勝し、1961 年にニューヨーク・フィルハーモニックの副指揮者に抜擢された。

 その後、輝かしい活躍をされたのだが、最初は敗戦後の開発途上国であった日本の一青年が国際指揮者コンクールで優勝できる先進国のFairな審査があり、その結果を受けて機会を与えたボストンフィル、ニューヨーク・フィル、ウィーン・フィル、ベルリン・フィルなどがあって、小澤征爾氏は世界をはじめとして日本でも活躍できたのである。そして、このような人は多い。

 そのため、日本もFairな態度で広い母集団から人材を選ぶことが必要不可欠であり、そうすれば、結果として日本だけでなく世界のためにもなるだろう。

 そして、*2-4は、⑮職に就いていないが仕事を希望する「働き手予備軍」は2023年に411万人と15歳以上の3.7%に留まり、その割合は20年で半減 ⑯予備軍が減ったのは景気回復で女性・高齢者の働く環境整備が進んだため ⑰一般労働者は1.0%増でパートの伸びが際立ち、女性・高齢者の労働参加が進んで人材プールが細った ⑱国立社会保障・人口問題研究所によれば、生産年齢人口はピークの1995年と比較して2023年に15%減だが、その間に就業者は約400万人増 ⑲「M字カーブ現象」もほぼ解消 ⑳日本は1960年代後半に「ルイスの転換点」を過ぎたが女性・高齢者を含めて新たな転換を迎える可能性 ㉑人手不足で採用できず、非正規の時給引き上げが続けば、低採算の事業は撤退をせざるを得ない 等としている。

 このうち⑮⑯⑱⑲は良かったと思うが、⑰⑳については、女性・高齢者が短時間勤務を希望したとしても、短時間の正規雇用として雇用を安定化させつつ、社会を支えることもできるのに、未だパート中心で「ルイスの転換点」にも達していないことには落胆させられる。

 しかし、㉑の低採算で人手不足の産業が不要な産業ばかりでは決してないことは、高くて必要なものも買えなかったり、必需品の多くを輸入依存していたり、日本企業でさえ安価な労働力を求めて海外に生産拠点を移し国内の産業が空洞化していたりする状況を見れば明らかだ。

 そのため、本格的に外国人労働者を受け入れ、安価に国内生産できる製品を増やし、さまざまな製品やサービスを開発・提供すべき時であることは間違いないだろう。

・・参考資料・・
<歳出改革の理念1←地球環境と食料・エネルギー自給率>
*1-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240221&ng=DGKKZO78623090Q4A220C2KE8000 (2024.2.21 日経新聞) 生産性停滞 要因と対策(上) 「豊かさ」への新たな戦略探れ 宮川努・学習院大学教授(56年生まれ。東京大経卒、一橋大博士(経済学)。専門はマクロ経済学) 木内康裕・日本生産性本部上席研究員(73年生まれ。立教大院修了。専門は生産性に関する統計作成・経済分析)
<ポイント>
○生産性向上のための構造改革が置き去り
○良質なヒト、モノ、カネが国外流出の恐れ
○生活の豊かさまで含めたビジョンが必要
 2023年末、日本の国内総生産(GDP)や生産性に関する国際的順位が公表された。「国民経済計算」確報版で示された22年の1人当たり名目GDPは、経済協力開発機構(OECD)加盟国中21位と主要7カ国(G7)で最低となった。また日本生産性本部の「労働生産性の国際比較2023」では、22年の1人当たりの労働生産性はOECD加盟国中31位となった。円安が要因とはいえ、GDP全体でも人口が日本より3割以上少ないドイツに抜かれ、4位に転落した。日本の経済的地位の低下を嘆く報道は恒例行事と化した感がある。しかし当面の順位にこだわるだけでは、日本が直面している問題の解決にはならない。本稿では日本経済の国際的地位を念頭に置きながら、労働生産性の向上を含めた日本の選択肢について述べたい。1人当たりGDPや労働生産性などの経済的豊かさに関する指標の国際順位が調査により異なるのはなぜか。1人当たりGDPも労働生産性も分子はGDPだが、それを割る分母の指標が異なる。1人当たりGDPでは人口、労働生産性では労働者数や労働時間数で割っている。さらに影響が大きいのはドルに換算する際の為替相場の違いで、内閣府の順位ではその時々の為替レートを使うため最近の円安が大きく影響する。一方、日本生産性本部の指標ではドル換算時に購買力平価を使う。購買力平価は日米の生活水準を同じくするレートで計算されており、00年は1ドル=155円、22年は同98円とむしろ円高になっている。つまり現在の日本の財・サービスは品質が良く、米国ではより高く売れるということだ。それでも労働生産性が22年に31位まで後退しているのは、日本の就業者比率が高く、欧州でユーロの評価以上に生活水準の高い国があるからだ。従って労働生産性の順位こそ深刻に受け止めるべきだろう。長年にわたる1人当たりGDPや生産性の低迷はなぜ起きたのか。筆者らは21世紀初頭から生産性の国際比較をしてきたが、この間アベノミクスに代表される財政・金融政策頼みの経済運営により、生産性向上のための構造改革が置き去りにされてきたと感じる。かつて政府は「世界最高水準のIT(情報技術)社会の実現」という目標を掲げた。だが依然マイナンバーの普及が十分でなく、ライドシェア一つ実現できていない社会を世界最高水準のIT社会と呼べるだろうか。実際、労働生産性の順位は10年代半ばごろから急落している(図参照)。構造改革を労働強化とする批判も生産性向上が進まない一因だが、新技術の習得に努めなければ経済的な豊かさどころか安全性も維持できなくなりかねない。筆者らが日本経済の課題の一つとして生産性向上を唱え始めたころは、日本経済はいずれリバウンドするという期待があった。だが当初の予想を上回る長さの低迷から考えると、この流れを直線的に延長していけば、予想される未来は「緩やかなアルゼンチン化」だ。地球の反対に位置しながら、経済成長の分野で両国は奇妙な縁がある。産業革命を経て先進国化した欧米諸国の次に先進国入りをするのはどの国かということが議論された際に、候補として挙げられたのが日本とアルゼンチンだ。その後は大方の予想を裏切り日本がアルゼンチンよりも経済的に成功したが、21世紀に入り日本はアルゼンチンの後を追うように坂を転がり続けている。世界銀行のデータでは、1995年から22年の労働生産性順位の変化を見ると、日本は28位から45位、アルゼンチンは44位から55位へとともに順位を落としてきた。アルゼンチン化の特徴の一つは、良質なヒト、モノ、カネが国を見捨てて流出していくことだ。ヒトに関しては、日本の教育水準の高さは先進国でも群を抜いている。スポーツでも、両国とも野球の大谷翔平やサッカーのメッシという百年に一度ともいわれる才能のある選手を輩出している。しかし彼らが実力を発揮した場は欧米だ。日本であれば二刀流というイノベーション(革新)は十分に許容されなかったのではないか。実際、人口が減少するなかでも、日本人の海外永住者数は増え続けている。イノベーション不足の国ではモノへの投資も海外へ向かう。従来型ビジネスで稼ぐには、日本企業は低金利で調達し収益性の高い海外で投資した方が有利だ。最後のカネに関しては、アルゼンチンは何度も資本流出により経済危機に見舞われた。日本でもその兆候は見え始めている。22年から欧米が金利を引き上げたのに対し、日本はゼロ金利を維持しており、資金の流出と円安を招いている。良質のヒト、モノ、カネの流出はさらなる貧困化を招き、皮肉にも人々は一層政府への依存度を高めることになる。だが政府自身に経済を活性化する機能はない。最終的にアルゼンチンのように肥大化して身動きがとれなくなった政府に徹底した「ノー」を突き付けるような状況が日本に訪れる可能性は否定できない。「緩やかなアルゼンチン化」から逃れる方法はあるのか。一つは従来型の成長戦略をより強い形で実行していくことだろうが、実現性が低いかもしれない。既得権益や規制の壁も大きな理由の一つだ。加えて長年の経済低迷の影響で、90年代までに社会人としての経験がない世代には、改革後の成長のイメージが浮かばず説得力に欠けるのだ。いわゆる氷河期世代以降は成長期の体験が乏しく、停滞する日本経済だけを見てきた。彼らにとって、日本は経済活力や科学技術の面で世界的に優れた国ではない。こうした世代には、経済的豊かさを優先した世代のシナリオは魅力的でなく、生活の豊かさまで包含したビジョンが必要だろう。1月18日付本欄で滝澤美帆・学習院大教授が紹介した日本生産性本部の生産性を含む包括的な豊かさの指標を探る試みも昭和的な成長志向の修正を企図している。だがより経済学的、政策的なアプローチは、パーサ・ダスグプタ英ケンブリッジ大名誉教授が「生物多様性の経済学」で示した「資本アプローチ」だ。資本アプローチは、人々の生活を豊かにするサービスを市場経済から供給されるサービスに限らず、環境を含めた市場外のサービスにまで拡張してとらえ、それらを提供する基盤となる民間資本、社会インフラ、自然資本、人的資本などの組み合わせを政策目標として考える。このアプローチが定着するには時間がかかるだろうが、これまで経済的豊かさの指標として君臨してきたGDPも将来はより包括的な豊かさを取り入れたものへと変化していくだろう。GDPや生産性の低迷をきちんと受け止めることは大切だが、単なる過去への回帰ではない「豊かさ」への戦略を練る必要がある。

*1-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240308&ng=DGKKZO79073400Y4A300C2MM8000 (日経新聞 2024.3.8) 曲がる太陽電池を優遇 経産省、電力買い取り額上乗せ
 経済産業省は再生可能エネルギーの電力を高く買う固定価格買い取り制度(FIT)で、軽くて曲がる次世代の太陽光発電装置「ペロブスカイト型」を優遇する。2025年度にも同型による発電をFITに加え、通常の太陽光発電より高く買い取る。新技術への民間投資を促し、日本の再生エネの拡大につなげる。経産省はペロブスカイト型の買い取り額を、現行の太陽光向けの水準を上回る1キロワット時あたり10円以上で調整する。ペロブスカイト型の太陽電池はビル壁や窓など今まで設置できなかった場所でも発電できる。日本発の技術で、耐久性といった開発段階の品質では日本勢に優位性がある。一方、中国企業は量産を始めており商品化で先行する。FITでの優遇で、日本勢の関連ビジネスの競争力を高める。国土の狭い日本では太陽光パネルを設置できる余地が狭まっており、各地で林地開発のトラブルも相次ぐ。ペロブスカイト型が普及すれば、都市部のビルの壁面といった新たな発電場所を開拓できる。

*1-1-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC231FM0T20C23A5000000/ (日経新聞 2023年8月17日) 省エネ窓にリノベ、家計守る 高断熱ガラス売り上げ2倍
 省エネ性能の高い窓に交換する世帯が急増している。大手メーカーの高断熱や複層ガラスの売り上げは前年比2倍の伸びで、冬場に向けて増産の動きもある。背景には冷暖房コストが増すなか、断熱性に優れた窓に交換して電気代を抑えたい需要の高まりがある。修繕工事の一環で全136戸の窓ガラスを日本板硝子の省エネガラス「スペーシア」に、2022年に交換した東京都立川市のマンション。住民の後藤和夫さんは「夏の電気代が2〜3割減った」と語る。スペーシアの3月以降の売り上げは、前年同期比約2倍と好調だ。スペーシアは2枚のガラスの間に0.2ミリメートルの真空層をつくることで、熱の伝導や対流を抑える。厚さは1枚ガラスとほぼ同じだが、4倍の断熱効果がある。施工費用などを除いたガラスのみで、1平方メートルあたり約5万円で注文できる。スペーシアは1997年の開発以来、通常のガラスと比べて価格が数倍高いこともあり、販売は思うように伸びなかった。電気代の上昇が家計を圧迫するなか、断熱性能の高い窓ガラスへの交換需要が増えている。東京電力ホールディングスや中国電力など大手7社は6月、火力発電所に使う液化天然ガス(LNG)価格の上昇などを理由に家庭向け電気料金を1〜4割程度値上げした。7月から電気料金は下がっているが、依然として高水準のままだ。AGCの複層ガラスも4〜5月の販売数が前年比で5割増え、6月は2倍に伸びている。工場の稼働はフル生産しているが、納期は1カ月以上先になる場合もあるという。秋以降に設備投資して、最大15%程度の増産を検討する。建築ガラスアジアカンパニー日本事業本部の古賀潔氏は「節電のために窓を交換する世帯が増えている」と指摘する。政府の補助金も追い風となっている。政府は23年度から省エネ性能の高い窓ガラスや窓枠の交換費用のうち、1戸あたり上限200万円まで補助する「先進的窓リノベ事業」を展開している。予算枠は約1000億円で、3月31日から交付申請を受け付けている。8月16日時点で申請額は予算の5割を超える。22年度の補助制度と比べて補助額の上限が大きいため、高額でも断熱性に優れた窓ガラスへの交換を後押ししているとみられる。「補助金の枠を使い切ってしまう可能性は十分ある」。LIXILの瀬戸欣哉社長は指摘する。同社では想定の6〜8倍の注文があり、4月の取替窓の販売は10倍に伸びた。瀬戸社長は「断熱性のある窓に交換する需要はこれからも大きくなるだろう」とみる。記録的な猛暑が続く中、より手軽に窓回りの断熱性能を高めるグッズを購入する消費者も増えている。ホームセンター大手のカインズでは、「断熱カーテンライナー」の販売が好調だ。ニトリでも通販サイト内の節電グッズ特集で遮熱性能のあるレースカーテンや遮熱窓シートなどを紹介している。

*1-1-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA0641G0W3A001C2000000/ (日経新聞 2023年10月8日) 断熱窓への改修補助金、経済対策で延長へ 政府
 政府は住居の窓を断熱性の高いものに改修する工事への支援制度を延長する方針だ。工事にかかる費用の半分ほどを国が負担する仕組みで、エネルギー消費が増える冬場を見越して対応を促す。10月中にまとめる経済対策に盛り込む。制度は2023年度から始まった。戸建て・集合住宅のリフォーム工事が対象で、登録した事業者が施工する場合に適用する。事業者を通じて手続きする。断熱窓は窓枠を二重にしたりガラスに熱を通しにくく加工したりしたものを指す。補助額は1戸あたり最大で200万円で、窓の性能やサイズなどで変わる。10月上旬時点での申請額は予算規模のおよそ7割に達した。この秋に取りまとめる経済対策で国内投資の促進策として制度延長を打ち出す。環境省は24年度予算の概算要求で1170億円を求めた。予算が足りなくなる可能性があると判断し前倒しで23年度補正予算案に計上する見通しだ。住宅内の熱の出入りは7割が窓を通じているとされる。断熱にすれば冬場で3割ほどの電力を抑えられる効果があるという。

*1-2-1:https://bizgate.nikkei.com/article/DGXZQOLM113VK011092023000000 (日経新聞 2024/1/31) NIKKEIブルーオーシャン・フォーラム:SDGs 海洋保全 脱炭素:大阪湾護岸に「藻場」創出 大阪府、海洋保全で官民連携、ブルーオーシャン・イニシアチブと事業連携 兵庫県とアライアンス設立
 大阪府が大阪湾の護岸に海藻などの「藻場(もば)」を創出するため、民間企業との連携を強めている。一般社団法人ブルーオーシャン・イニシアチブ(BOI)と2023年8月に事業連携協定を締結。2024年1月には兵庫県と「大阪湾ブルーカーボン生態系アライアンス(MOBA)」を設立した。2025年の大阪・関西万博で藻場創出の取り組みを国内外に発信する。藻場は海の生物多様性を増すほか、二酸化炭素(CO2)を吸収して長期で貯留できるため、持続可能な開発目標(SDGs)達成に寄与するとして注目を集めている。官民連携を通じて藻場を生み出すための様々な課題を解決する。
●「ミッシングリンク」解消目指す
 海藻類が育つ藻場はCO2の吸収源となるほか、魚類など生き物のすみかとなる。酸素の供給など水質改善の効果も期待できる。しかし、大阪湾のうち北は大阪市から南は貝塚市までの「湾奥部」(海岸線延長約180㎞)は大半がコンクリートなどでできた人工護岸で藻場はほぼ存在しない。一方、泉佐野市以南の湾南部や西部には海藻が自生しており、淡路島や兵庫県南部を含めた大阪湾全体で見ると「湾奥部だけが藻場がない『ミッシングリンク(連続性が欠けた部分)』になっている」(大阪府環境農林水産部環境管理室環境保全課の田渕敬一課長補佐)という。大阪府は湾奥部に藻場を創出することで、大阪湾全体を藻場や干潟などの回廊でつなぐ「大阪湾MOBAリンク構想」を掲げ、その実現には主に3つの課題があるとみている。第1の課題は船舶などの港湾利用に影響を及ぼさず藻場を創出する技術だ。第2の課題は海藻が海面下にあるため生育状況を確認するための費用がかかる点だ。第3の課題は護岸の多くは企業の所有地に面していて近づけないうえ、海藻を育成したい人が限られること。大阪府はこれらの課題を解決するための事業に着手した。
●湾奥部でワカメを育成
 大阪湾奥部は大都市圏から流入する河川などの影響で汚濁物質がたまりやすく、水質改善が課題となっている。そこで傾斜型の護岸に海藻が定着しやすい技術を確立して藻場を創出し、そこから周辺の護岸に広げていくことを目指している。2021年12月には大阪市が管理する「大阪南港野鳥園」の護岸にある消波ブロックにワカメを育てる30センチ四方のパネルを設置した。徳島県鳴門市産のワカメの胞子がパネルについて大きくなる仕組みで、漁礁工事の日本リーフ(兵庫県南あわじ市)が公募で事業者に選ばれた。府はこの事業にかかった経費の半額を補助金として支給。ワカメは順調に育ち、2022年4月にはワカメが繁茂していることを確認できた。護岸に面した事業所を所有する企業とも連携する。2022年にENEOS堺製油所(堺市)の護岸で環境省のモデル事業として海底にブロックを設置してワカメを育てた。波が想定より小さく、ワカメは育たなかったが、府は知見を生かして他の方法で藻場創出を支援する。
●スタートアップなどの技術に期待
 大阪府は2023年8月に一般社団法人のBOIと事業連携協定を締結した。2022年12月に設立されたBOIは海のサステナビリティ(持続可能性)実現に向け、産官学民の関係者が協力して活動している。具体的には、①長崎県対馬市と連携した海洋プラスチックごみ削減②魚類などの海洋資源保全と関連事業の活性化③ブルーカーボンクレジットの推進など海洋に関する気候変動対応――の3分野を中心に、「海の万博」といわれる2025大阪・関西万博を経て、SDGsの期限である2030年を目指し活動を推進する。大阪府は連携を通じてBOIに「MOBAリンク構想」に参画してもらい、海藻などの生態系に関する技術やノウハウを有する企業とのネットワークを構築し、湾奥部における藻場創出を加速する。例えば、BOIのメンバーであるスタートアップが保有する海洋ドローンなどの技術を活用して海中を「見える化」し、海藻の生育状況を調べることなどを想定。国内の他の地域で実績がある海藻の育成技術などの提供にも期待する。BOIのメンバーであるNPO法人ゼリ・ジャパンが2025大阪・関西万博で設けるパビリオンやイベントでMOBAリンク構想を国内外に発信する。例えば、来場者が大阪湾の海藻の周りに魚などが生育している様子を水中ドローンの映像で体感するイベントなどを想定する。
●兵庫県とのアライアンスで会員募集
 大阪府は2024年1月、兵庫県と「大阪湾ブルーカーボン生態系アライアンス(MOBA)」を設立した。具体的な活動内容として①取り組み状況の情報発信や普及啓発②ブルーカーボン生態系創出の取り組みを活性化③会員の連携による新たな事業の創出④藻場の創出が生物多様性などに与える影響の把握――などを予定。大阪湾MOBAリンク構想の実現に向けて、MOBAの活動に賛同する企業や団体、研究機関、行政機関などの会員を募る。2025年の大阪・関西万博で事業の認知度を高め、2026年度からSDGsの達成期限である2030年にかけて藻場の創出を加速させる。

*1-2-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1195380 (佐賀新聞 2024/2/17) アカウニの資源回復へ大型種苗放流 唐津市の漁業者とNPO法人、収穫までの生存率を検証
 唐津ブランド・アカウニの資源を回復しようと、唐津市内の漁業者とNPO法人「浜-街交流ネット唐津」が6日、アカウニの大型種苗を放流した。生残率を検証するため、今回は種苗を小型から大型に変えた。魚やウニのすみかとなる藻場の磯焼けで、近年はアカウニの資源が大きく減少している。これまでは佐賀県内で生産されている小型アカウニの種苗を放流してきたが、小型種苗は魚の食害を受けやすく、生残率が低いという。山口県の報告書によると、放流して1年後の平均生残率は殻径1センチ以下で9・5%、1・6センチ~2センチで52・4%、2センチ以上で80・5%。今回は長崎県の種苗センターから3センチサイズを調達し、市内の沿岸に放流した。今後は収穫までの生残率を定期的に調べ、効果的なアカウニ種苗の放流を検証していくという。NPOの千々波行典代表理事は「唐津を代表するアカウニの資源が減り、危機的な状況が続いている。資源回復の効果を確認していきたい」と語る。

*1-2-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1205735 (佐賀新聞 2024/3/7) 洋上風力発電推進へ庁内組織立ち上げへ 唐津市
 唐津市は7日、佐賀県が唐津市沖に誘致を検討している洋上風力発電事業を巡って、有望な区域への指定を進めるため副市長をトップとした庁内組織を立ち上げる方針を示した。経済部、漁業や港湾振興の部署など横断的な体制を立ち上げていくという。同日の市議会一般質問で伊藤泰彦議員(清風会)が質問した。峰達郎市長は「事業を早期に実現することは地域振興、経済波及効果が大いに期待できる」とし、「『一定の準備段階に進んでいる区域』から『有望な区域』へ整備されるよう推進体制を構築し、地元の理解を賜り、早期に次のステップに進めるよう尽力したい」と答弁した。国は2021年9月、唐津市沖を第1段階の「一定の準備段階に進んでいる区域」に整理した。次の段階として、利害関係者を特定した上で、法定協議会の設置について了解を得る必要がある。県と市は候補海域と隣接した五つの離島や相賀、湊地区などで説明会を開く一方、住民からは観光地の景観や沿岸漁業への懸念の声が出ている。峰市長は取材に対し、「待ったなしの状況で、集中的にアクションを起こしていきたい。地元住民の不安に対し、一歩踏み込んで説明していかないといけない」と語った。

*1-2-4:https://bizgate.nikkei.com/article/DGXZQOLM21AEA021122023000000 (日経新聞 2024/1/9) NIKKEIブルーオーシャン・フォーラム:ニッスイ、積み重ねた養殖技術への誇り、水産資源を守り未来につなげる
 ニッスイは、2022年4月に長期ビジョンを発表し、中期経営計画に着手、同年12月には社名を変え、新たな成長に向けてスタートを切った。ミッションに掲げる「新しい"食"の創造」の実現のひとつとして、養殖技術開発に力を入れる。ニッスイが目指す持続的な水産業の未来とは。中央研究所大分海洋研究センターの取り組みを追った。
●天然資源への負荷を低減する サステナブルな養殖技術
ニッスイは、2022年4月にミッション(存在意義)を「海で培ったモノづくりの心と未知を切り拓く力で、健やかな生活とサステナブルな未来を実現する新しい"食"(Innovative Food Solutions)を創造していく」と定義した。時代や環境の変化に応じて"食"の新たな可能性を追求し、社会課題を解決していくことがグループの使命であると宣言した。環境負荷を抑えて高品質な養殖魚を持続的かつ安定して出荷するには、養殖技術を高めることが欠かせない。ニッスイが養殖事業の研究開発を担う中央研究所大分海洋研究センターを設置したのは、1993年のことだ。大分県佐伯市にあるこの研究所では、現在、養殖に関する基礎研究から事業化に向けた応用研究まで、約30人の研究員と支援員がそれぞれの研究分野に取り組んでいる。
●人工種苗・育種技術の高度化により 年間を通じて高品質ブリを提供
大分海洋研究センター研究員の山下量平氏は、現在ブリ養殖の中心メンバーとして基礎研究から事業化に向けた応用研究までを担っている。ニッスイのブリ養殖の歴史は、04年にブリの養殖会社を事業譲受して黒瀬水産を設立したことから始まった。翌05年には、大分海洋研究センターで親魚から採卵し、受精卵から一貫して人の手で管理するブリの人工種苗の開発に着手した。一般的なブリの養殖では、「モジャコ」と呼ばれる天然の稚魚を取り、大きく育ててから出荷しているが、産卵後成熟後期の夏以降にブリがやせてしまい、周年にわたって品質の良いブリを生産するのは困難だった。そこで、ブリの産卵時期は年1回だが、任意の時期に産卵させることができれば、周年を通して安定したサイズ・品質のブリができると考え、成熟誘導技術の開発を進めた。この任意の時期に産卵をさせる成熟誘導技術と、育種による優れた特性を持つブリを選別し次世代につなげることの組み合わせで、1年を通して育成のスピードが速く高品質のブリの出荷が可能となった。22年度には、黒瀬水産が出荷する「黒瀬ぶり」の全量が人工種苗によるものとなり、23年には年間200万尾の出荷を目指している。山下氏は「長年蓄積してきた高度な養殖の知見・技術によって、高度な養殖が実現するとともに、成熟誘導や種苗生産技術の開発により時期をずらしながら種苗を生産することで、完全養殖ブリの周年出荷が実現しました。世界を見てもこの養殖技術はニッスイの強みだといえます」と話す。ただ、生き物が相手なだけに、研究は困難の連続だ。現在は完全養殖を始めてから5世代目の育成を進めているが、養殖環境下で遺伝的な多様性を確保しながら改良を続けているという。「人工種苗100%の完全養殖を実現したことで、現在では年5回、時期をずらしながら種苗を生産できるようになりました。今後は成長性や安定した品質はもちろん、環境負荷の軽減も考えていかなくてはなりません」と山下氏は話す。その解決のために、飼料や魚の性質の改良を進め、環境負荷を低減する研究にも取り組んでいる。選抜育種と人工種苗の技術を磨いたことで、高品質なブリを夏場でも出荷できる強みにもなった。差別化した安定供給できる商品を増やしていくことは、水産市況の変動の影響を低減して、収益の安定化にもつながっている。
●養殖技術を拡大し 新しい"食"の創造に貢献
 ニッスイは養殖事業の拡大を長期ビジョン・中計の成長戦略のひとつに位置づけており、国内ではブリ以外にはギンザケの養殖にも注力している。ギンザケの場合は、淡水で約1年稚魚を育成してから、生育に適した海水温になった時期に海上のいけすに収容し、半年間飼育してから出荷される。大分海洋研究センターでは、ギンザケの稚魚が早く海水に適応できるようにする研究などにも取り組んでいる。また、ニッスイでは近年注目度が高まっている陸上養殖にも着手しており、20年に地下海水を利用したマサバの陸上循環養殖の実証実験を開始している。23年4月には「閉鎖式バイオフロック法」を用いたバナメイエビの陸上養殖を事業化した。世界的には人口増加や健康志向の高まりなどを受け、水産物の需要は右肩上がりに増加しているが、漁獲量自体は増えておらず、その増加分を補っているのが養殖だ。日本はかつて水産大国といわれ、長年天然の水産物の恩恵を受けてきたが、近年縮小する漁業生産を補う養殖の重要度は高まっている。水産資源の枯渇や持続可能性への懸念が指摘されるなか、効果的な漁業管理など適切な処置による漁業資源の維持や再生が重要になっている。食の安全や環境負荷の低減などの観点からも、ニッスイが養殖の研究開発を続ける意義は大きい。「ニッスイが取り組む以上、高いレベルの品質を維持して安全・安心を提供しないといけない。新しい"食"を創造するために研究開発を重視する方針を会社として守り続けているからこそ、今の養殖事業があります。養殖の研究は私にとってライフワークであり、人生を懸けて取り組むことにやりがいを感じています」と山下氏は語った。

*1-2-5:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1210627(佐賀新聞 2024/3/16)スミノエガキ養殖、海況改善へ 基幹のノリ漁不作で取り組み 佐賀県有明海漁協新有明支所青年部
 有明海の海況が悪化して赤潮の発生が長期化するなどし、基幹漁業のノリ養殖の不作が続いている。環境改善へ、赤潮の発生原因となる植物プランクトンを捕食するスミノエガキの養殖に、佐賀県有明海漁協新有明支所(白石町)の青年部が取り組んでいる。河口域の低塩分に強く成長も早いため、漁業者の収益向上も期待できるという。取り組みが評価され、3月上旬の全国青年・女性漁業者交流大会で資源管理・資源増殖部門最高賞の農林水産大臣賞に選ばれた。スミノエガキは国内では有明海にのみ生息し、夏に大雨が降った後に産卵するなど淡水の流入による河口域の低塩分化にも強いとされる。成長が早く、マガキの養殖が一般的に出荷まで2年かかるのに対し、単年出荷が可能という。昭和30年代ごろまで養殖が盛んだったが、ノリ養殖の発展とともに衰退していた。有明海のノリ養殖は海況の悪化で生産が不安定になっており、新有明支所では色落ち被害が起き、2021、22年度の生産量は例年の半分以下に落ち込んでいる。同支所青年部(15人)はサルボウなど二枚貝の減少が要因の一つと考え、県有明水産振興センターからの提案を受け、スミノエガキの養殖に着手した。22年度は天然のスミノエガキを10~12月の2カ月半、はえ縄式の養殖施設でかごに入れて海中にカキを垂下したところ、むき身の肥満度が5%向上し、グリコーゲン量も1・3倍に増加した。海底では干潮時にプランクトンを捕食するが、海中につるすと潮の干満に関係なく常時捕食でき、身入りが良くなった。年明けにも再度養殖し販売した。23年度は単年養殖に取り組み、塩田川河口域で天然採苗にも成功して、間もなく収穫期を迎える。24年度は作業を軽減する機器を導入して、さらに養殖に取り組む予定という。取り組み開始時に部長を務めた木下祐輔副部長(35)は「海況を改善し、食べられて、収入にもなり『一石三鳥』。3、4月が旬で、3月中旬に終わるマガキと出荷時期が違うため、需要や価格面でも今後期待できるのでは」と話している。

*1-2-6:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1208602 (佐賀新聞 2024/3/13) 農業基本法改正 有事対応と活性化同時に
 国際紛争の激化や気候変動などに対応する新たな農業政策を展開するため、政府は農政の在り方を示す食料・農業・農村基本法の改正案を閣議決定した。今国会で成立させ、食料供給システムの強化を図りたい考えだ。1999年の同法施行から実に25年になり、この間、国内外の情勢は大きく変化した。時代にふさわしい内容にするのは当然だ。打ち出した基本理念は「食料安全保障」。具体的には「良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、かつ国民一人一人がこれを入手できる状態」と定義した。有事に対応した備えは重要だ。だが足元を見ると、担い手の減少や高齢化の進展、農地の減少などによって日本農業の足腰が弱っていることは明白だ。ここを修復しない限り、どんな理念を掲げても内容を伴うことは難しいのではないか。農業が魅力ある産業となり、若者や都市在住者らの新規就農が促されなければならない。ITの活用によるスマート農業の進展や農地のさらなる集約、輸出環境の整備などによって現場を活性化させ、生産基盤の一層の強化に取り組むことが不可欠だ。これまでも取り組んできたが、今回の改正を機に改めてその重要性を認識し、取り組みを加速させたい。政府は今回の農政転換の背景として、地球温暖化の進行や、物流の途絶などを挙げ、食料供給量が大幅に不足するリスクが増大していると指摘した。確かにウクライナ危機による穀物相場の高騰や中東情勢の緊迫化による海運の混乱は、海外依存度が高い日本のアキレス腱(けん)をまざまざと見せつけた。日本のカロリーベースの食料自給率は38%で先進国の中で最低だ。専門家の間では相対的な経済力の低下などが影響し、世界市場での食料買い付け力が落ちてきたとの指摘もある。政府は基本法改正に併せて、食料安保政策を具体的に進める食料供給困難事態対策法案と農地法改正案も決定。困難事態対策法案は、気候変動に伴う穀物類などの主要産地の生産不安定化などを想定し、深刻度に合わせ、農業者への生産拡大要請など3段階の対応を規定した。国民が最低限必要とする食料が不足する恐れがある場合は、生産転換や割り当て・配給を実施し、実効性を担保するために違反や拒否には罰則も設けた。極端な例としては、花卉(かき)類を生産している農家に、イモなどカロリーの高い農作物を栽培するように強制するケースも想定できる。こうした対応を取らざるを得ないような状況は緊急事態だろうが、私権を制限することになるだけに、必要性や具体的な内容を丁寧に説明しなければならない。なぜここまでの想定をしなければならないのか、国会で十分に議論を尽くしてほしい。日本農業は潜在力を十分に発揮できているだろうか。稲作は国内需要を上回る供給力を持ちながら、減産で価格を下支えしてきた。食料供給の大幅不足が懸念されるというのなら、コメ生産能力のフル活用も考えたい。国内市場は縮小しているが、国内で消費できない分は輸出に回し、いざというときは国内に戻す構想は検討に値するのではないか。まずは日本米のさらなる海外市場開拓に官民の知恵を絞りたい。

*1-2-7:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1210513 (佐賀新聞 2024/3/16) 魚の養殖×野菜栽培、新たな農業模索 水を循環、CO2も活用 熊谷組が佐賀市で実証事業
 佐賀市は、市清掃工場(高木瀬町)周辺で、ゼネコンの熊谷組(本社・東京)が実証事業を始めると明らかにした。清掃工場から出る二酸化炭素(CO2)を活用しながら、魚の養殖と野菜の水耕栽培を組み合わせた新しい農業「アクアポニックス」の事業化を目指す。アクアポニックスは、魚の養殖と植物の栽培を組み合わせた循環型農業。魚を養殖した水を、水耕栽培で再利用し、溶け込んでいる窒素やリンを植物が養分として吸収する。水は再び、養殖で使用するため水槽に戻す。化学肥料をやったり、土を耕したりする必要もなく、資源循環型のシステムとして注目を集めている。市バイオマス産業推進課によると、同社は既に佐賀市などから2人を雇用。4月下旬からマスを2千匹規模で養殖し、約40平方メートルの水耕ベッドで葉物野菜を育てる。CO2を活用することで脱炭素社会への取り組みを強化しながら、野菜の生育促進に役立てる。実証事業は6人体制で、少なくとも3年間実施する。量や質の確保、他社との差別化、販売ルートの確保などの観点で検証する。市は「資源循環の取り組みとして互いに共感することが多く、佐賀市のフィールドを選んでいただいたと感じている」と話す。

*1-2-8:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1205171 (佐賀新聞 2024/3/7) 爆発的繁殖力の外来水生生物 佐賀市、除去作業に苦慮 5年間で対策費倍増、農業被害も
 爆発的な繁殖力で農業被害などをもたらす特定外来生物で水生植物の「ナガエツルノゲイトウ」や「ブラジルチドメグサ」が、佐賀市内のクリークや河川で繁茂を続けている。水位を調整する樋門や排水ポンプなどの機能に支障が出かねず、市は水面や根から除去し続けているが抜本的な解決策はない。対策費は2022年度に7154万円と、この5年間で倍増。一度除去しても残った部分から再生する力があり、堂々巡りの状況に市は苦慮している。ナガエツルノゲイトウは南米原産の多年生の浮遊植物で、長く折れやすい茎を持っている。河川やクリークに群生し、茎の切れ端からでも再生、繁殖するほか、長期間の乾燥にも耐える。一度農地に侵入すれば、農地を覆い、農作物の収量や品質、作業効率の低下を招く恐れもある。市内では2010年に初めて確認された。ブラジルチドメグサは15年に初確認。南米産の多年生の浮遊植物で扁平(へんぺい)な葉が特徴で、ナガエツルノゲイトウ以上に生育が速い。生育面積は把握できる農業用水路だけでも約10万平方メートルに拡大。ブラジルチドメグサが本年度初めて高木瀬地区で確認されるなど、まちなかにも広がっている。市農村環境課には農家から「ポンプの周りに繁茂し、支障が出ている」との相談が寄せられている。市は重機や人力で除去を行ったり、繁茂の激しい地区では、水路ののり面にコンクリートを張り付けたりと対策を行っている。一見、きれいに片付いたと思っていても、翌年にはびっしり繁茂したケースも。繁殖力の強さが、担当者を悩ませる。対策費も膨らんでいる。事業費(決算額)は、18年度の3540万円が22年度は7154万円と倍以上になった。市幹部の一人は「小中学校の給食費値上げ分を補助する費用を上回る額」とし、厳しい財政状況の中で対策事業が大きな負担となっていると指摘する。除去の相談が増えるのは例年、春先から。市は地元の協力も広げていこうと、「切れ端を回収する」「根から取り除く」といった市民への周知も始めた。市環境政策課は「繁茂が小規模な段階で、効果的に除去できるよう考えていきたい」とする。

*1-2-9:https://www.asahi.com/articles/ASS316T7WS29OXIE058.html (朝日新聞 2024年3月3日) 首都の「下水」が化学肥料に 東京都、全国普及へ国やJA全農と連携
 化学肥料の原料価格が高騰し、国内農業に影を落としている。ほぼ全量を輸入に頼っている現状から抜け出そうと動き出した実験の現場は、農業に縁遠そうな東京。国と東京都は、巨大都市から大量に出る「下水」に目を付けた。農林水産省によると、化学肥料の主な原料となるリンを含むリン鉱石が国内では産出されないため、中国やモロッコなどからリン酸アンモニウムなどの形で必要量のほぼ全てを輸入している。しかし、ウクライナ危機や世界的な穀物需要の増加を受け、2022年に国際価格が急騰した。財務省貿易統計によると、リン酸アンモニウムの輸入価格は、同年7月には前年同時期の2・4倍に。23年以降、いったん下落したが、なお不安定な状況が続く。安定確保策として国が目を付けたのが、東京の「下水汚泥」だった。
*国と東京都は、下水汚泥から化学肥料の原料を取り出す実証実験を始めました。記事では、東京都が民間と共同開発した独自技術や、JAと組んで目指す全国普及について紹介します。

*1-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240225&ng=DGKKZO78735540U4A220C2TYC000 (日経新聞 2024.2.25) <サイエンスNextViews>危ういテクノロジー頼み 廃炉・温暖化、現実直視を 編集委員 矢野寿彦
 原子炉3基が立て続けに炉心溶融(メルトダウン)した2011年の東京電力福島第1原子力発電所の事故。今も脳裏に焼き付く1枚の画がある。2号機取水口付近のピット(作業用の穴)から高濃度汚染水がじゃばじゃばと海へ流れ出る様子を伝えていた。おがくずや新聞紙、おむつに使われる吸水性ポリマーなどが大量に投入されるが、なかなか止水できない。流れる経路を調べるために使ったのは乳白色の入浴剤。あまりの「ローテク」な対応にあぜんとした。放射能の脅威を前に日本が誇ってきたはずの土木技術やロボット技術は敗北した。有事にはまったく使い物にならなかった。原子力ムラが築いた「安全神話」はもってのほかだが、この技術レベルでは安全神話なくして地震国での原発推進は難しかったともいえる。あれからまもなく13年。東電は24年1月末、23年度内に予定していた福島第1原発のデブリ(溶け落ちた核燃料)取り出し開始を三たび延期すると発表した。原子炉への貫通部が堆積物で埋め尽くされており、現状では英社と開発中のロボットアームが使えないことが判明したという。解せないのは3度目の延期ではない。釣りざお式という別の方法で24年10月ごろに数グラムの試験採取を目指すとしたことだ。過去に炉内調査で実績があるとはいえ、この方式は本格的な採取に移行できた場合に使うことを想定していないという。工程表にある「デブリ採取に着手」ありきと批判されても仕方ないだろう。1~3号機には推計880トンものデブリがあるという。どこにどのような状態で存在するかもわかっていない。すべてを取り出すことが技術的に可能なのか。無理だとしたら廃炉の「最終形」をどうするか。根幹に関わる議論が一向に進まないまま、多額のお金を投じて「全量取り出す」を前提に技術開発が進む。「地球沸騰」なる言葉がしっくりくるほど深刻化する気候変動の対策において、テクノロジーの進化で困難は乗り越えられると楽観するのも危うい。ここ数年、世界的な核融合フィーバーだが、発電に向けて技術は進化したのだろうか。それほどのブレークスルーは見当たらない。20年ほど前、日本とフランスが繰り広げた国際熱核融合実験炉(ITER)の誘致合戦を取材した。その際、核融合の世界にはこんなジョークがあることを知った。「あと50年、あと50年と言われ続けて50年」。太陽が膨大なエネルギーを生み出す核融合反応を地上で再現し安定的に発電するのは、永遠に「夢の技術」というわけだ。テクノロジーには原罪のように未知なる災禍の種子が蓄積されており、不可避的に突如はじける。仏思想家のポール・ヴィリリオ氏は著書「アクシデント 事故と文明」で技術文明が事故を発明する、と説いた。技術がもたらした危機は技術の力によって克服できる。こうしたテクノロジーの万能性への信仰は、廃炉にしろ温暖化対策にしろ、リスク回避の本質から目を背けていることになる。

*1-3-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15880553.html (朝日新聞 2024年3月7日) (東日本大震災13年)原発 処理水、安全どう保つ
 東京電力福島第一原発では処理水の海洋放出が始まり、敷地内のタンクが増え続ける状況が変化した。だが廃炉作業は足踏みが続き、終わりは見えないままだ。
■放出作業、完了まで約30年 専門家「外部のクロスチェック必要」
 処理水の海洋放出は、昨年8月24日に始まった。初年度の2023年度は、敷地内で保管しているタンクの水3万1200トンを4回に分けて放出する計画。24年度は、7回にわけて約5万4600トン分を流す。処理水は、汚染水を多核種除去設備(ALPS〈アルプス〉)に通し、大半の放射性物質を取り除いた後、トリチウムの濃度を1リットルあたり1500ベクレル(国の放出基準の40分の1)未満となるよう海水で希釈したもの。海底トンネルを介して沖合約1キロにある放水口から海に流す。処理水として放出するには、含まれる放射性物質が基準未満であることを確認する必要がある。ALPSではトリチウムを除去できないため、東電はまず、ALPSに通した後の水を分析し、トリチウム以外の29の放射性物質の濃度が放出基準を下回っているか確認する。さらに海水で希釈してトリチウムの濃度を薄める。放出直前の分析では、トリチウム濃度が基準未満かを確認。この水を蒸留させるなどして測定の邪魔になる不純物を取り除いた後、放射線を受けると発光する試薬を使い、光量から濃度を換算するという。第三者による分析は、日本原子力研究開発機構(JAEA)が担う。放出後も、東電や国、福島県が周囲の海水のモニタリングをする。東電は、トリチウム濃度が放水口近くで1リットルあたり700ベクレル、沖合10キロ四方で同30ベクレルを超えると放出を止めることにしている。これまでの分析結果は同22ベクレルが最大値で、すべて下回っている。海産物については、水産庁が放水口の南北数キロに設置した刺し網で捕獲したヒラメなどのトリチウム濃度を測定している。これまで、放出を停止するような異常な値は確認されていない。福島第一原発周辺の放射線測定を続けている小豆川勝見・東京大助教(環境分析化学)は、放出開始後の昨年10月に沿岸の海水や魚について、トリチウムを含む複数の核種の測定をして、異常値は検出されなかったという。「処理水の放出は1、2年で終わることではなく、これから何十年と続く。いつまで緊張感を維持して作業を続けていけるかが課題。外部の専門家などによるクロスチェックが必要ではないか」と話す。東電によると、処理水の放出は30年ほど続く見込み。年間22兆ベクレルを上限に、廃炉完了の目標時期とする51年までに終えるよう放出のシミュレーションを示している。今も福島第一原発には、汚染水をALPSに通した後の水を保管するタンクが1千基以上ある。処理水の放出によって保管する水の量が減り始めたとはいえ、溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)を冷やす水に地下水や雨水が加わることで汚染水は発生し続けている。汚染水対策はこれからも続く。
■停滞する廃炉、見通し立たず 燃料デブリ取り出し、3回延期
 今年度の廃炉作業では、汚染配管の撤去などは進んだものの、原子炉建屋の内部について大きな進展はなかった。作業の延期もあり、先行きはまだまだ見通せない。最も難航しているのは、廃炉作業の「本丸」といわれる溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)の取り出しだ。1~3号機で計約880トンあると推計されているが、事故から13年が経とうとしている今も、1グラムも取り出せていない。まず2号機で数グラム程度の試験的な取り出しを始める予定だが、東電は今年1月、今年度中の着手を断念すると発表した。デブリを取り出すロボットアームの動作精度不足などが理由で、延期は3回目。当初は2021年の予定だった。改良に時間がかかることから、今年10月までに「釣りざお式装置」を使って取り出しをはじめる方針に切り替えた。ただ、釣りざお式で採取できるのは限られた範囲だけで、大規模な取り出しには役に立たない。ロボットアームを使った取り出しも24年度末までに着手するとしているが、不透明だ。本格的なデブリの取り出しについては、使用済み燃料の移動が済んでいる3号機から始める計画。廃炉のための研究や技術開発、助言をする原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)が工法を検討している。NDFはこれまで、現状のままデブリ取り出し作業を進める「気中工法」と、原子炉建屋全体を鋼鉄の構造物で囲って建屋ごと水没させてから取り出す「冠水工法」を検討していたが、コンクリートなどの「充填(じゅうてん)材」を流し込み、固めてから掘削装置を使って削り出す「充填固化工法」を新たに検討するという。専門家でつくる小委員会が、三つの案の実現可能性などを整理した提言を近くまとめる予定だ。1号機については、使用済み燃料の取り出しに向け、建屋全体を覆う大型カバー設置の準備を進めているが、設置完了目標は23年度中から25年夏ごろに延期された。1号機では、原子炉圧力容器を支える台座の下部が全周にわたってコンクリートが失われ、鉄筋がむき出しになっていることが判明している。東電は、耐震性は保たれており、仮に原子炉圧力容器が沈み、格納容器に穴が開いたとしても敷地境界での被曝(ひばく)線量は「極めて軽微」と評価する。ただ、時間とともに老朽化が進むため、楽観はできない。

*1-3-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1205783 (佐賀新聞 2024/3/8) 福島原発事故13年 原発のリスク再認識を
 いまだに被災者に大きな影響を与え続けている東京電力第1原発事故から13年になる。この間に大きく動いた世界のエネルギーを取り巻く状況を見つめ、原発が抱えるリスクを改めて心に刻む日としたい。目指すべきは、高コスト、高リスクの大規模集中型電源から、しなやかで低コストの再生可能エネルギーを主とする分散型システムへの転換だ。この間のエネルギーを巡る動きを特徴付けるものの一つは化石燃料依存のリスクが鮮明になったことだ。石炭などからの二酸化炭素(CO2)がもたらす気候危機は「地球沸騰時代」と言われるまでに深刻化した。ロシアのウクライナ侵攻の影響で化石燃料価格は急騰、エネルギー関連の輸入額は三十数兆円に上り、多くの企業や市民が高騰の影響を受けている。一刻も早い脱炭素電源の実現が求められる。もう一つの特徴は急速に価格が低下している太陽光や風力発電の急拡大と発電コストや建設費の増大が招いた原子力発電の停滞だ。国際シンクタンクの調査によれば、原発の電力が世界の総発電量に占める比率は1996年の17・5%をピークに減少傾向が続き、2022年には9・2%で過去40年間で最低だった。多くの国が低コスト、低リスクで、導入までの時間が短い再生可能エネルギーを増やし、変動する電源を安定的に利用する技術や政策の実現を急いでいるのは当然だ。だが、自公政権のエネルギー政策はこの流れに逆行してきた。岸田文雄首相は気候変動対策としての原発推進を打ち出した。だが、気候危機対策では短期間に大幅なCO2排出削減が求められ、「今後10年が気候危機の将来を左右する」といわれる。新設はもちろん再稼働にも長期間を要する原発を重視する気候危機対策は非合理的だ。1基で100万キロワットを超える大規模な電源が自然災害によって一瞬にして失われることの影響の大きさを原発事故は教えた。能登半島地震で北陸電力志賀原発の再稼働の見通しがまったく立たなくなったことからも、原発が電力の安定供給に貢献するとの言説も疑わしい。日本政府や電力会社は、水素やアンモニアを利用して「CO2を出さない火力」を目指すことに注力している。だが、高コストで技術的課題が山積するこの手法が有効な気候変動対策となり得ないと指摘されている。限られた資金や人材の多くを原発や不確実な将来の新技術に投じたため、日本国内の再エネ市場は、他国に比べて大きく見劣りする結果となった。今になって大規模な洋上風力発電の開発を進めようにも、風車は輸入に頼るほかない状況で、小さな日本の市場が海外の投資家や企業から見向きもされなくなる懸念が示されている。政府は間もなく、エネルギー基本計画の見直しに着手する。世界の主流から後れを取った日本のエネルギー政策を根本から見直し、大転換を実現する最後のチャンスと言えるかもしれない。そのためには、経済産業省が指名した委員による委員会で、役所のシナリオに沿って政策を決めるという非民主的な手法を見直し、科学とデータに基づき、多くの市民や専門家の意見を聞きながら民主的な政策議論を進める「政策決定手法の大転換」も重要だ。

*1-3-4:https://www.tokyo-np.co.jp/article/317278 (東京新聞 2024年3月25日) 志賀原発の敷地が平均4センチ沈んでいた 能登半島地震で 北陸電力は「影響はない」と説明
 北陸電力は25日、能登半島地震後に志賀原発(石川県志賀町)の敷地内を測量した結果、地震前と比べ平均4センチの沈下を確認したと発表した。北陸電はオンラインの記者会見で「変動は小さく(安全確保に)影響はない」と説明した。
◆隆起した地点はなかった
 北陸電によると、測量した11カ所の沈下幅は4.74センチ~3.82センチで、隆起した地点はなかった。原子炉を冷却する海水の取水口に近い物揚げ場は3.96センチの沈下だった。また、敷地全体が西南西方向に平均12センチ動いていた。敷地内の地面に生じた段差や割れを約80カ所で確認。ほとんどが土を盛ったり埋め戻したりした場所で発生していた。担当者は「舗装が変形したためで、敷地内の断層が動いた形跡はない」と話した。能登半島地震では半島北側の沿岸一帯が隆起し、輪島市西部では最大4メートルに上った。地元住民によると、志賀原発から1キロほど北の岩ノリの漁場が数十センチ隆起したという。志賀2号機は新規制基準への適合性の審査中。北陸電の申請内容では、地震で原発北側の輪島市付近の断層が動いた場合、20センチ以下の隆起が起きると想定し、その場合でも冷却水の取水に影響は出ないと主張している。

*1-3-5:https://www.tokyo-np.co.jp/article/307026 (東京新聞 2024年2月3日) 断層上にある志賀原発は「次の地震」に耐えられるか 能登半島地震で高まった巨大地震発生リスク
 マグニチュード(M)7.6を記録し、200人余が犠牲となった能登半島地震。発生から1カ月たつ中、拭い去れない危惧がある。次なる地震だ。先月、半島北側の断層が大きく動いた影響で、周辺の断層も動く可能性があると指摘されている。懸念が強まるのが北陸電力志賀原発(石川県志賀町)。立地する半島西側は活断層が少なからず存在する。現状にどう向き合うべきか。
◆震度5強以上の発生確率「平常時の60倍」
「いずれ志賀原発の近くでも大きな地震が来るんじゃないか」。能登半島の東端に位置し、先月の地震で甚大な被害が生じた珠洲市の元市議、北野進氏はそう語る。この3年ほど、能登半島は群発地震が活発化した。地震の規模が少しずつ大きくなっていたところに今回の大地震に見舞われた。そんな経緯がある中、志賀原発差し止め訴訟の原告団長も務める北野氏は「次の地震」に気をもむ。先の地震から1カ月を過ぎ、余震の数は減った。ただ気象庁は1月末に「今後2〜3週間程度、最大震度5強程度以上の地震に注意を」と呼びかけ、その発生確率は「平常時の60倍程度」と付け加えた。
◆周囲100キロ以内で「地震活動は活発に」
 研究者らも懸念を示す。先の地震は能登半島の北側で東西約150キロにわたって断層が活動したとされる。東北大の遠田晋次教授(地震地質学)が周辺の断層に与えた影響を計算したところ、今回動いたエリアの両脇、具体的には能登半島東側の新潟・佐渡沖、半島西側の志賀町沖の断層で今後、地震が発生しやすくなったという結果が出た。遠田氏は「佐渡島周辺や志賀町沖などで体に感じないほどの小さな地震が増えている。何らかのひずみが加わったサインだ」と解説する。「今後の地震の発生時期や規模は分からないが、陸地を含めて周囲100キロ以内の地震活動は活発になっており、しばらく警戒が必要だ」と説く。
◆「流体」今回の地震のトリガーに?
 「流体」の存在も気にかかるところだ。能登半島で起きた近年の群発地震は、地下深くから上昇した水などの流体が原因とされる。断層帯にある岩盤の隙間に流体が入り込み、潤滑油のように作用することで断層がずれやすくなったと考えられてきた。「流体が今回の地震のトリガーとなった可能性がある」と話すのは金沢大の平松良浩教授(地震学)。
今後も流体が断層活動を引き起こすのか。
◆「地震を起こしやすくする力がかかった」
 平松氏は「現時点では分からない」との見方を示す一方でこう続ける。「今回の地震によって、能登半島の西側を含め、北陸一帯の多くの断層帯に地震を起こしやすくする力がかかったことが分かっている。マグニチュードで7クラスの大地震発生のリスクは相対的に高くなった」。次なる地震で心配なのが志賀原発だ。立地するのは能登半島の西側。地震が起きやすくなったとも。原発の周辺は、活動性が否定できない断層が少なくない。北陸電の資料を見ると、原発の10キロ圏に限っても陸に福浦断層、沿岸地域に富来(とぎ)川南岸断層、海に兜岩沖断層や碁盤島沖断層がある。次なる地震に原発は耐えられるか。北陸電の広報担当者は、地震の揺れの強さを示す加速度(ガル)を持ち出し「原子炉建屋は基準地震動600ガルまで耐えられ、今回の地震による地盤の揺れは600ガルよりも小さかった。さらに2号機については1000ガルまで耐えられると新規制基準の審査に申請している。原子力施設の耐震安全性に問題はない」と話す。
◆「想定を超えた」北陸電の言い分
 北陸電の言い分はうのみにしづらい。そう思わせる過去があるからだ。同社が能登半島北側の沿岸部で想定してきた断層活動は96キロの区間。だが先の地震では、政府の地震調査委員会が震源の断層について「長さ150キロ程度と考えられる」と評価した。なぜ想定を超えるのか。「海底の断層を調査する音波探査は、大型の船が必要。海底が浅い沿岸部は、調査の精度が落ちる。近年は機器が改良され、小型化されたが、特に日本海側は調査が行き届いていない」
◆現行の技術水準では全容捉えがたく
 こう指摘するのは新潟大の立石雅昭名誉教授(地質学)。陸の断層も「地表に見える断層が数キロ離れていても、地下で一つにつながっているかもしれない」。現行の技術水準では捉えがたい活断層の全容。それだけに安心もできない。志賀原発周辺で注目すべき一つは、北に約10キロの距離にある富来川南岸断層。この断層の全容は見方が割れる。北陸電の資料では陸域を中心に長さ9キロと書かれる一方、研究者からは、海まで延びる可能性を指摘する声が上がってきた。脅威の程度が捉えづらいこの断層。再評価を求めるのが名古屋大の鈴木康弘教授(変動地形学)だ。
◆地表のずれとたわみ、志賀町内に点在
 先の地震後に志賀町内を調べ、富来川南岸断層とみられる地表のずれやたわみが点在しているのを確認した。「1970年代から推定されていたが、今回の痕跡でより確度が高まった」。鈴木氏は「今後の活動が必ずしも迫っているとは思わない」と慎重な見方を示しつつ、「先の地震では、能登半島北西部の沿岸の断層がどのような動きをしたのかは分かっていない。今までの知見に頼らず、断層の評価を検討し直す必要がある」と語る。志賀原発の近くにあり、多大な影響を及ぼしかねない富来川南岸断層。同様に再検証が必要なのが、原発の西4キロの海域で南北に延びる兜岩沖断層という。北陸電の資料によれば、「活動性が否定できない」とされ、長さは4キロとある。
◆「計算するまでもなく原発はもたない」地盤がズレたら…
 鈴木氏は「本当にこの長さか。今回の地震で、沖合に長い断層があることで隆起が起きることが改めてわかった。原発付近も海岸に同様の隆起地形があることから、長い断層がないと説明できない」と訴える。原発に及ぶ地震の脅威でいえば、揺れ以外にも思いを巡らせる必要がある。地盤のズレもだ。元東芝原発設計技術者の後藤政志氏は「メートル単位で上下や水平方向にズレが生じたら、計算するまでもなく原発はもたない」と指摘する。原発は、揺れの大きさに対して耐震設計基準が示されている一方、地盤のズレなどにより「原子炉建屋が傾いたり、損壊したりすれば壊滅的な被害となる」。配管にズレが生じると取水できず、核燃料を冷却できなくなる可能性もある。
◆手放しで安心できぬ規制委の判断
 志賀原発は2012年、直下に断層があり、これが動いて地盤のズレが生じうると指摘された。原子力規制委員会は昨年、直下断層の活動性を否定する北陸電の主張を妥当と判断した。ただ、手放しで安心できるかといえば、そうではないと後藤氏は説く。「周囲の断層が起こす地震によって、直下断層の動きが誘発される恐れもある」。地震リスクの懸念が拭い去れない志賀原発。いま、何をすべきか。龍谷大の大島堅一教授(環境経済学)は「原発が止まっているとはいえ、核燃料がプールで保管されている。金属製のキャスクに移すなどの対策が必要ではないか」と述べ、災いの元凶になりうる核燃料の扱い方について早急に議論するよう求める。地震リスクは他の原発にも潜むとし「現状で動いている原発も止めた上で断層の再評価など規制基準の見直しが必要だ」と訴える。
◆デスクメモ
 被災した方々を考えると、次の地震が起こらないよう願うばかり。ただ核燃料は、まだ志賀原発に。プールは揺れやズレに耐えられるか。搬出すべきか。それは可能か。事が起きた時、被災地に残る方々が避難できるのか。願うばかりでは心もとない。どう備えるかの議論も必要では。

*1-3-6:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1206413 (佐賀新聞 2024/3/8) 玄海原発3、4号機 基準津波を修正へ 九州電力が政府の調査結果を反映
 九州電力は8日、原子力規制庁との会合で、玄海原発3、4号機(東松浦郡玄海町)の基準津波を修正する方針を明らかにした。政府の地震調査研究推進本部(地震本部)が2022年に公表した日本海南西部の海域活断層長期評価を踏まえて検討した結果、想定される津波が既存値を上回ることが分かったという。7月をめどに原子炉設置変更許可を申請する見通し。地震本部が公表した日本海南西部の海域活断層長期評価では、九電が玄海原発3、4号機の再稼働に当たって検討したものとは異なる断層の評価が指摘されている。このうち、対馬南西沖断層群と第1五島堆断層帯が連動したケースでは、想定される津波の高さが6・37メートル、低さはマイナス2・65メートルとなり、現行の基準津波(高さ3・93メートル、低さマイナス2・6メートル)をいずれも超える値となった。一方、基準地震動への影響はないという。今後は、基準津波の修正に関する原子炉設置変更許可を申請するが、玄海原発の敷地の高さは約11メートルであることや、取水位置などの低さ(マイナス13・5メートル)も想定される津波に対して余裕があることから、現時点で設備面での変更や追加工事は発生しない見通しだという。

*1-3-7:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1206983 (佐賀新聞 2024/3/10) <佐賀県内首長原発アンケート>玄海原発運転継続、15市町長「条件付き賛成」 最終処分場は全員「受け入れず」
 佐賀新聞社が佐賀県内の知事と市町の首長を対象に実施した原子力政策に関するアンケートで、玄海原発(玄海町)の運転継続について15市町長が「条件付きで賛成」と回答した。反対はゼロだった。原発の今後に在り方に関し、「将来的に廃止」としたのは16市町長だった。原発から出る高レベル放射性廃棄物の最終処分場は全員が受け入れない考えを示した。玄海原発の立地町の脇山伸太郎玄海町長は、運転継続に唯一「賛成」と回答した。「国のエネルギー基本計画にのっとって、エネルギーミックスによる原発の割合を維持していくべき」という認識を示した。山口祥義知事は賛否の選択肢は選ばなかった。「原発への依存度を可能な限り低減し、再生可能エネルギーの導入を進める取り組みを積極的に行うべき」としつつ「一定程度、原発に頼らざるを得ない現時点においては、県民の安全を何よりも大切に、玄海原発と真摯(しんし)に向き合い続けていく」と回答した。「条件付き賛成」を選んだ首長は、その条件として「電力事業者、国の責任で安全性を追求し、可能な限り情報公開に努めてもらうこと」(村上大祐嬉野市長)、「使用済み核燃料の処理方法について国の責任で対策を講じること」(江里口秀次小城市長)などを挙げた。「どちらともいえない」とした深浦弘信伊万里市長は「事故が発生すれば取り返しがつかないことになるため基本的に反対の立場だが、電力は企業活動や市民生活を支える基礎的なインフラで安定的な供給は不可欠であり、原発を止められない現実がある」との認識を示した。原発の今後で「将来的に廃止」を選択した首長からは、「カーボンニュートラルの実現に向けて取り組む」(向門慶人鳥栖市長)、「再生可能エネルギーの導入を進めて原子力への依存度を下げていく」(松尾佳昭有田町長)などの見解が示された。原子力政策全般の課題に関し、岡毅みやき町長は能登半島地震を踏まえて「南海トラフ地震を含めた対策を一から見直すことも重要課題。代替エネルギーの研究も加速させるべき」と回答した。「住民の不安払拭(ふっしょく)のためにより一層の情報公開」(松田一也基山町長)「住民や近隣市町に課題を丁寧に説明し、安心して生活を送れるように努めてほしい」(永淵孝幸太良町長)といった注文もあった。アンケートは、官製談合事件で内川修治市長が逮捕、起訴されて不在の神埼市を除く20首長が回答した。

*1-3-8:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1206979 (佐賀新聞 2024/3/10) <佐賀県内首長原発アンケート>7市町長、玄海原発の避難計画見直し「必要」 能登半島地震で課題浮上
 東京電力福島第1原発事故から13年になるのに合わせ、佐賀新聞社は佐賀県の山口祥義知事と各市町の首長に、九州電力玄海原発(玄海町)の在り方や原子力政策に関するアンケートを実施した。元日の能登半島地震を受けて原発の重大事故時の避難ルートなどが課題に挙がる中、7市町長が現行の避難計画を「見直す必要がある」と回答した。他の自治体の首長も、見直しの動きを注視している姿勢がうかがえた。アンケートには首長20人が回答した。官製談合事件で内川修治市長が逮捕、起訴された神埼市は、市長不在として無回答だった。能登半島地震では北陸電力志賀原発(石川県志賀町)の周辺で道路の寸断や家屋倒壊などが相次ぎ、避難と屋内退避の実効性が改めて問われた。原子力規制委員会は、住民避難などをまとめた原子力災害対策指針の見直しに着手している。アンケートで避難計画の見直しを「必要」としたのは、多久、武雄、鹿島の3市長と吉野ヶ里、みやき、有田、江北の4町長。横尾俊彦多久市長は「あらゆるリスクや課題を想定し、万全を期した対策を充実することが最重要」、松尾勝利鹿島市長は「避難が現計画で対応できるかなど再検討の必要がある」とした。他の12首長は「その他」を選び、原子力災害対策指針の見直しの動向を踏まえて「(規制委の)今後の議論を注視したい」(坂井英隆佐賀市長)といった意見が多かった。「現行の計画のままでよい」はゼロだった。武広勇平上峰町長は選択しなかった。玄海原発が立地する玄海町の脇山伸太郎町長は「新たな指針などが示された後、検討を加え計画の見直しが必要な場合は修正する」との考えを示した。隣接自治体の峰達郎唐津市長は「必要性に応じ、市民の生命と財産を守るために速やかに対応する」と答えた。山口知事は「(規制委の)議論の結果など、能登半島地震から得られた意見や気付きを検証し、避難計画の実効性を高めていく」と回答した。

<歳出改革の理念2←人口構造と高齢化社会≠高齢者への給付減・負担増>
*2-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240120&ng=DGKKZO77825980Z10C24A1EA1000 (日経新聞 2024.1.20) 公的年金、来年度2.7%増 0.4%分目減り 物価伸びより抑制
 物価や賃金の上昇を受けた2024年度の公的年金額は前年度比で2.7%増額となり、1992年度以来32年ぶりの伸びとなった。年金財政の安定のために支給額を抑える「マクロ経済スライド」により、物価の伸びには届かなかった。同スライドはデフレ下で何度も発動が見送られており、抑制の長期化で将来の給付額が想定より減る懸念が高まっている。厚生労働省が19日、24年度の支給額を発表した。4、5月分をまとめて支給する6月の受け取り分から適用する。自営業者らが入る国民年金は40年間保険料を納めた場合、68歳以下の人は1人当たり1750円増の月6万8000円になる。厚生年金を受け取る夫婦2人のモデル世帯は、6001円増の月23万483円になる。モデル世帯は平均的な収入(賞与を含む月額換算で43万9千円)で40年間働いた夫と専業主婦のケースを指す。年金額は直近1年間の物価変動率と過去3年度分の実質賃金の変動率をもとに、毎年4月に改定する。23年度は厚生年金で月22万4482円、同年度に67歳以下の人の国民年金で月6万6250円だった。支給額は2年連続で増えたが物価や賃金の上昇分に届いていない。物価や賃金の伸びよりも支給額を抑えるマクロスライドの影響で、国民年金は実質年3600円ほど、厚生年金では同1万1500円ほど目減りする。24年度の物価や賃金を反映した改定率は3.1%だった。23年の物価上昇率(3.2%)と20~22年度の名目賃金変動率(3.1%)を考慮し賃金が物価を下回ったため賃金の変動率を採用。そこからマクロスライドによる0.4%分の抑制分を差し引き、最終的な改定率は2.7%となった。公的年金は現役世代から集めた保険料を高齢者に給付する仕組みのため、少子高齢化が進むと年金財政の維持が難しくなる。このためマクロスライドで支給額を抑えている。だが物価や賃金が下落するデフレ下では発動しないルールのため、2004年に導入されてからの20年間で4回しか発動されていない。支給額の抑制が想定より遅れると、マクロスライドを発動させる期間が長期化し、将来の給付水準が過度に低下する。特に基礎年金の抑制は現行のままなら、46年度まで続く見通しだ。この結果、現役男性の平均手取り収入に対する年金額の比率を示す基礎年金の「所得代替率」は、19年度の36.4%から46年度には26.5%と約3割も低下する見通しだ。25年は5年に1回の年金制度改正の年にあたり、24年中に具体的な改革案が示される。厚労省の審議会では財政に余裕のある厚生年金が基礎年金に資金支援して、給付水準の抑制を前倒しで終了する案が出た。就労を促進して高齢者の手取り収入を増やす方向の改正も議論されている。一定の所得のある高齢者の年金支給を減額する在職老齢年金制度も見直しを求める声が強い。老後の収入を充実させるために、個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)など私的年金の活用促進も重要になる。ニッセイ基礎研究所の中嶋邦夫上席研究員はマクロスライドについて「抑制期間の長期化を防ぐために、賃金や物価の下落局面でも毎年スライドを発動させるための議論が必要だ」と指摘する。

*2-1-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15842823.html (朝日新聞 2024年1月20日) 公的年金、実質目減り 物価上昇率下回る2.7%増 来年度
 公的年金の2024年度の支給額は、物価や賃金の上昇を反映して23年度より2・7%増えることが19日、決まった。増額は2年連続。ただし、物価上昇率よりは低く、将来世代に向けて今の年金を抑制する措置も2年連続で発動され、実質的な価値は下がる。年金額は毎年度、物価や賃金の変動を反映して、改定される。今回は、名目賃金の上昇率3・1%が、前年の物価上昇率3・2%より低く、賃金の変動幅に応じて改定される。さらに労働者数の減少や高齢化の影響による「マクロ経済スライド」も2年連続で発動されるため、0・4%分を差し引いた2・7%のプラス改定となる。上昇率は1992年度の3・3%に次ぐ高さとなった。支給額は人によって異なるが、自営業者やパート・アルバイトの人らが入る国民年金の月額(40年加入の1人分)だと、前年度より1750円増えて6万8千円。24年度中に69歳以上になる人なら、1758円増えて6万7808円。年額で初めて80万円を超えた。会社員や公務員などの厚生年金では、「平均的な給与で40年間働いた夫と専業主婦の妻の2人分」のモデル世帯で計算すると、前年度より6001円増えて、23万483円になる。本来、年金はインフレで物価が上がっても、買えるものが減らないように給付(支出)を引き上げる必要がある。ただし、年金の「お財布」に入る保険料(収入)は、賃金が上がれば増え、下がれば減る。もし物価上昇が賃金上昇を上回ると、支出が収入を上回り、財政が悪化してしまう。今回の改定では、物価の上昇率(3・2%)と、名目賃金の上昇率(3・1%)を比べ、低い方の賃金を改定率計算に用いた。少子高齢化の日本で、将来世代の年金を確保するには、さらなる措置が必要になる。保険料を払う現役世代は減り続ける一方、年金を受け取る人たちの高齢化が進む。その影響を織り込んで給付を抑える仕組みが「マクロ経済スライド」だ。今回の改定では、この分で0・4%マイナスになる。この仕組みは04年の年金改正で導入されたが、デフレ下では十分に機能せず、今回がようやく5回目の発動となった。

*2-1-3:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?R_FLG=1&b=20240120&be=・・=DEA2000 (日経新聞 2023/8/19) 続く物価高、消費に影 生鮮・エネ除く指数4.3%上昇、食品高止まり、宿泊料伸び拡大 賃上げは追いつかず
 物価の上昇圧力が続いている。7月の消費者物価指数は生鮮食品とエネルギーを除く総合指数が前年同月比4.3%上昇し、伸び率は再拡大した。食品や日用品の値上がりは家計を圧迫し、消費は伸び悩む。物価上昇と賃上げの好循環はなお遠く、景気回復の勢いも弱まりかねない。総務省が18日発表した7月の消費者物価指数は、変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が前年同月比3.1%上昇した。伸び率は6月の3.3%から縮んだものの、日銀が掲げる2%の物価目標を16カ月連続で上回る。価格が変動しやすい品目をさらに除いた指数をみると、物価上昇はむしろ勢いを増す。生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は前年同月比4.3%プラスで、2カ月ぶりに伸びを拡大した。消費者物価は2023年度の後半にかけて鈍化するとの見方もあるが、現時点ではまだピークアウトしたとは言えない状況にある。最大の要因は、全体の6割を占める食料の高止まりだ。7月はハンバーガーが前年同月比で14.0%上昇した。10%超えは13カ月連続。プリンは27.5%プラスで、6月の12.6%から伸び率が拡大した。米欧に遅れた価格転嫁の波が続いている。宿泊料は15.1%プラスと、6月から10ポイントほど伸び率を拡大した。インバウンド(訪日外国人)の回復などによる需要の高まりに、政府の観光支援策「全国旅行支援」が今夏以降に各都道府県で順次終了したことが重なった。ほかのサービスも上昇に弾みがついた。携帯電話通信料は10.2%プラスと統計上さかのぼれる01年以降で過去最高の伸び率となった。NTTドコモが7月から新料金プランを投入したことが背景にある。日銀は7月、23年度の生鮮食品を除く物価上昇率の見通しを2.5%に引き上げた。4月の段階では1.8%とみていた。物価上昇率が11カ月連続で3%を超えて推移するなど、物価高が想定を超えて続いている。SMBC日興証券の宮前耕也氏は「日銀も市場関係者もウクライナ侵攻による輸入物価上昇のインパクトを読み違えた」とみる。過去の物価高局面と異なり「一度ではコストを転嫁しきれず、複数回値上げする動きを読み切れなかった」と説明する。長引く物価高で消費への下押し圧力は強まっている。総務省の家計調査によると、2人以上の世帯の6月の消費支出は実質で前年同月比4.2%減った。マイナスは4カ月連続だ。品目別に見ると、物価上昇の大きな要因となっている食料が3.9%減で、9カ月連続のマイナスとなった。プリンやハンバーガーといった値上げが目立つ品目ほど消費は細っている。6月の実質消費支出はそれぞれ15.4%、13.5%減った。逆に、電気代は燃料価格の低下や政策効果による価格下押しで支出が5.9%増えている。外食は1.8%増とプラスを維持するものの、5月(6.7%増)から伸びを縮めた。サービス消費は新型コロナウイルス禍からの正常化で回復期待が高かったわりには動きが鈍い。勢いを欠く消費は経済成長に水を差す。23年4~6月期の実質国内総生産(GDP)は季節調整済みの前期比年率6.0%増と高い成長率となったものの、けん引役は復調した輸出などの外需だった。個人消費は物価高を受けて前期比0.5%減に沈んだ。23年の春季労使交渉の賃上げ率は30年ぶりの高水準だったとはいえ、物価の伸びには追いついていない。24年以降に賃上げが息切れすれば、家計の購買力の低下を通じて再びデフレ圧力が強まるとの懸念がにじむ。実際、コロナ禍前の19年10~12月期と足元を比較すると、雇用者報酬は実質で3.5%減っている。高止まりする物価に賃金が追いつかず、消費はほとんど伸びていない。日米欧では米国だけが賃金と消費を伸ばす。秋以降は物価上昇が加速する恐れもある。政府が実施しているガソリンや電気・都市ガスの価格抑制策は延長措置がなければ、ともに9月分で終了する予定だ。第一生命経済研究所の新家義貴氏はガソリン価格抑制の補助金事業が終われば、10月以降の生鮮食品を除く消費者物価指数を0.5ポイント押し上げるとみる。総務省は電気・都市ガスの価格抑制策が7月の物価の伸びを1ポイントほど押し下げたと推計する。対策が終われば、単純計算で1.5ポイントの上昇圧力となるリスクがある。高い物価上昇率は金融政策の議論にも影響を与える。日銀は物価の安定には「まだまだ距離がある」(植田和男総裁)とみて、金融緩和を続けている。ただ、物価上昇の勢いがこのまま衰えなければ、現状の金融緩和策の見直しが焦点となる。

*2-1-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240403&ng=DGKKZO79748190S4A400C2EA2000 (日経新聞 2024.4.3) 医療・介護費、40年以降急増 60年度にGDP比6割増、政府が初試算、DXで効率化急務
 内閣府は2日、2060年度までの社会保障費と財政状況の試算を公表した。医療と介護の給付費の国内総生産(GDP)に対する割合は40年度以降に上昇ペースが速まる。社会保障制度を維持するにはデジタル化による効率改善や成長率引き上げなどが急務となる。内閣府によると社会保障と財政に関する60年度までの長期推計をまとめたのは初めて。同日の政府の経済財政諮問会議に資料を提示した。岸田文雄首相は会議で「実質1%を上回る成長により力強い経済を実現するとともに、医療・介護給付費のGDP比の上昇基調に対する改革に取り組む」と強調した。試算結果をみると医療・介護の給付費は65歳以上人口がピークアウトする40年度ごろから増加の勢いが増す。高齢者人口の全体数が減少に転じても、医療や介護の利用が多い85歳以上の人口は継続的に増えるためだ。国立社会保障・人口問題研究所による最も実現性が高いケースの推計では40年の1006万人が60年には2割弱多い1170万人になる。試算は25~60年度までの平均実質成長率について(1)0.2%ほどの現状維持ケース(2)1.2%ほどの長期安定ケース(3)1.7%ほどの成長実現ケース――の3シナリオに分けてまとめた。給付費は現状維持ケースで最も高くなる。医療と介護を合わせた名目GDPに対する割合は60年度に13.3%と19年度より6割上がる。成長実現ケースでも60年度に9.7%と2割弱の増加が避けられない。医療の技術革新が加速すれば給付費は一段と膨らむ。試算では高額医薬品などの登場による医療費の拡大が従来の2倍ペースにあたる年率2%で進む場合、GDP比は現状維持ケースで60年度に16.1%まで高まり、19年度の2倍近くなる。経団連の十倉雅和会長ら諮問会議の民間議員は試算を基に成長率などの数値目標を定め、実現に必要なこの先3年程度の政策パッケージをまとめるよう求めている。社会保障制度の健全性を保つには歳出改革が必須条件となる。内閣府は毎年度の社会保障費を高齢化による伸びの範囲に収め、医療の高度化による増加をカットする改革を実施した場合の姿も示した。この改革を徹底する前提で成長実現ケースにあてはめると、60年度の給付費はGDP比8.2%と19年度と同水準には抑えられる。歳出改革は足元でもおぼつかない状況で、将来も続けられるかは見通せない。政府は23年12月公表の改革工程素案に介護保険サービスを利用する際の2割負担の対象者を24年度に拡大すると盛ったものの、与党からの反対などを受けて見送った。政府は社会保障の歳出改革を通じて少子化対策による実質的な負担増は回避すると主張する。介護負担拡大の先送りのような事例が続けば実現は遠のく。現役世代の負担が重いままでは結婚や出産をためらわせる要因にもなりえる。歳出抑制につながる施策の一つはデジタルトランスフォーメーション(DX)による医療・介護サービスの効率化だ。マイナンバー保険証での受診を促して投薬情報を共有しやすい体制をつくることなどが挙げられる。社会保障費の削減につながる民間投資の後押しも欠かせない。介助ロボットや認知症予防策などが普及すれば長期的な介護費抑制につながる。内閣府は成長実現ケースを達成すれば1人当たりの実質GDPは60年に9.4万ドルと米国や北欧に肩を並べられるとの試算も示した。逆に現状維持ケースでは6.2万ドルと先進国で最低水準に落ち込む。社会保障改革は日本の豊かさを左右する。試算の前提には甘さも見える。成長実現ケースは合計特殊出生率が1.8程度まで回復し、企業の技術進歩や労働者の能力向上などを示す「全要素生産性(TFP)」がバブル期並みの1.4%の上昇を続けるという条件ではじき出した。出生率が1.8を上回っていたのは1984年が最後だ。2022年は1.26と17年ぶりの低水準まで落ち込んだ。TFPは内閣府の推計で13年度以降、一度も1%に達していない。11月の米大統領選でトランプ前大統領が再選すれば対中関税の引き上げなど保護主義的な政策が広がって目先の成長率も落ち込みかねない。実効性のある社会保障改革につなげるには試算の妥当性を点検する作業も必要になる。

*2-1-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240403&ng=DGKKZO79743040S4A400C2TB1000 (日経新聞 2024.4.3) 〈TODAY〉ラピダス、AI半導体注力、「後工程」に補助金535億円 素材・装置と連携
 最先端半導体の量産を目指すラピダスは、人工知能(AI)半導体向けに次世代の「後工程」技術を開発する。複数の異なる機能を持つチップを集約し、性能を高める。経済産業省がラピダスの後工程の技術開発に535億円を補助する。国内の装置メーカーや素材メーカーとも連携し、官民で半導体の技術開発を進める。組み立て作業である後工程の技術開発では、日本が競争力を持つ素材や製造装置の技術が不可欠だ。台湾積体電路製造(TSMC)などに回路の微細化では先行されるが、後工程の分野でリードできれば国内半導体産業の底上げにつながる。小池淳義社長は2日に開いた記者会見で「日本には優れた装置や素材メーカーがあるが、(研究開発の)出口となる半導体メーカーがなかった。力を合わせて日本から世界に貢献できる半導体をつくりたい」と語った。経産省は同日、2024年度にラピダスに対し最大5900億円を支援すると発表した。ラピダスは25年4月に試作ラインを稼働させ、27年から線幅2ナノ(ナノは10億分の1)メートルの最先端半導体を量産する計画だ。国の支援は回路をつくるための「前工程」向けが中心だったが、今回、後工程を初めて支援する。半導体はこれまで回路線幅を微細化して性能を高めてきたが、コストや物理的な課題から限界に近づいている。ラピダスは機能の異なる複数のチップを1つの基板に集積する「チップレット」などの技術開発を進める。小池社長は「コスト低減と性能向上の2つを実現できる」と話す。ラピダスが後工程に注力する背景には、AI向けの半導体の需要拡大がある。AI向け半導体には演算や記憶といった機能が求められる。複数の半導体を1つの基板に収めることができれば、効率よく相互に連動させられる。必要な機能を担うチップを入れ替えるだけで性能を高められる。同社はドイツの研究機関、フラウンホーファー研究機構と連携し、ウエハーの研磨技術やチップの接合、素材開発などの要素技術を取り込む。省電力素材に優れる国内の素材メーカーや装置メーカーとも連携する。試作品開発ではラピダス工場に隣接するセイコーエプソンの小型液晶パネルの製造拠点を活用する。後工程分野は台湾や韓国メーカーも注力している。TSMCは独自技術を使って、米エヌビディアのAI半導体の製造を受託。世界の素材メーカーと技術を開発し、性能改善を図る。韓国サムスン電子も24年度に横浜市に先進後工程の研究拠点を設置する予定だ。経産省はラピダスへの支援を経済安全保障上、重視している。半導体はサプライチェーン(供給網)が途絶するリスクがあり、日本で最先端品を生産できれば国内産業の安定につながる。斎藤健経産相は2日の記者会見で「日本産業全体の競争力の鍵を握る。経産省としても成功に向けて全力で取り組む」と話した。ラピダスは27年の量産開始までに5兆円の資金が必要だとしている。国からは24年度までに累計で最大9200億円を受けるが、追加の資金調達が必要となる。同社幹部は「中長期的には民間の金融機関からの資金調達や、新規株式公開(IPO)を検討する」と話す。

*2-1-6:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240404&ng=DGKKZO79769220T00C24A4EA1000 (日経新聞社説 2024.4.4) 「賢い支出」で財政健全化と成長の両立を
 ばらまきの発想をやめ、一刻も早く財政を「平時」に戻す必要がある。一方で、将来に向けた投資まで絞り込めば成長の芽を摘んでしまう。「賢い支出」を追求し、財政の健全化と成長の両立をめざすべきだ。内閣府は2日、2060年度までの社会保障費と財政状況の長期推計を初めてまとめた。そこから浮かび上がるのは、社会保障費の急増で財政が持続可能でなくなる危うい未来だ。実質でみた25~60年度の成長率が現状と同じ平均0.2%ほどで推移した場合、名目の国内総生産(GDP)に対する医療と介護を合わせた給付費の割合は13.3%に達する。19年度の8.2%を6割も上回る水準だ。医療の技術革新が給付費をさらに膨らませる可能性がある。内閣府は高額医薬品などの登場で、GDP比が60年度に16%超まで上昇するケースも想定する。このままでは社会保障制度を維持できなくなる。いまから手を打たねば間に合わない。毎年度の社会保障費を高齢化による伸びの範囲内に収めるだけでなく、給付の抜本改革や消費税を含めた負担の議論からも逃げるべきでない。なによりまず、新型コロナウイルス禍の危機対応で膨張した財政の規律を取り戻す必要がある。政府の有識者会議が3月末に示した25年度の国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)に関する見通しでは、基金の乱立などで新たな歳出が3年前の試算に比べ7.5兆円増える。せっかく歳出の改革で4兆円削ったり、税収が5.3兆円上振れしたりする見込みなのに、その効果を薄めてしまう。25年度にPBを黒字化する目標を達成できるかどうかはなお微妙だ。岸田文雄政権の危機感は乏しい。コロナ後の23年度も大型の補正予算を組み、6月には効果がはっきりしない所得税減税に踏み切る。首相は財政健全化への決意を行動で示すべきだ。もちろん、支出を抑えるだけでは経済全体が縮む。成長を実現し、将来の歳出を減らすためにも、デジタルトランスフォーメーション(DX)などで生産性を高める賢い支出は欠かせない。その際に必要なのが、根拠に基づく政策立案(EBPM)の視点である。しっかりとしたデータで効果を検証する仕組みを日本にも根づかせなければならない。

*2-1-7:https://toyokeizai.net/articles/-/677510?display=b (東洋経済 2023/6/9) 医療・介護費が減る「公的制度」意外に知らぬ活用術、せっかくの制度をきちんと利用しない手はない
 定年後に必要となる生活費の中で、人によって大きく異なるのが医療費と介護費です。そのため、将来設計を考えるときに心配になりがちですが「公的制度を優先して、足りない分は貯金で補う」方針をすすめるのが、経済ジャーナリストの頼藤太希氏です。頼藤氏が医療費と介護費の公的制度について解説します。
●70歳未満は生涯の医療費の半分も支払っていない
これまで何度となく、病院や薬局のお世話になってきたことでしょう。しかしもし今70歳未満ならば、まだ生涯の医療費の半分も支払っていないといったら、驚く方もいるかもしれません。厚生労働省「医療保険に関する基礎資料」(2020年度)によると、1人あたりの生涯医療費はおよそ2700万円。そして、そのうち約半分は70歳未満、もう半分は70歳以上でかかっています。つまり、70 歳以上の医療費は1350万円くらいかかるのです。高齢になると、病気やケガをしやすくなるものです。入院・退院を繰り返したり、治療に時間がかかったりするのは、仕方のないことかもしれません。もっとも、1350万円をすべて自費で負担する必要はありません。健康保険があるため、70歳以上の医療費は原則2割負担、75歳以上の医療費は1割負担となるからです(所得によっては2割・3割負担もあり)。そのうえ、毎月の医療費が自己負担の上限を超えた場合は、高額療養費制度を利用することで超えた分が戻ってきます。また、医療費だけでなく介護費用がかかる場合もあります。自分の介護より前に、親の介護にお金がかかる人もいるでしょう。生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」(2021年度)によると、介護費用の平均は、一時費用が74万円、毎月の費用が8.3万円。また、平均的な介護期間は5年1カ月ですので、すべて合計すると約580万円かかる計算です。しかし、介護費用も公的介護保険によって1~3割の負担で済みます。さらに、介護費用が高額になった場合は「高額介護(予防)サービス費」や「高額医療・高額介護合算療養費制度」といった制度を利用することで抑えることができます。そして何より、親の介護の費用であれば親の収入・資産から出すこともできるでしょう。病気になったり、介護が必要になったりした際に保険金が受け取れる民間の医療保険や介護保険もありますが、公的な医療保険や介護保険は意外と充実しています。医療費や介護費はもちろんかかるのですが、一度に支払うお金はそれほど高額ではありません。普段から貯蓄をきちんとしていれば、十分まかなえる金額です。それに、民間の介護保険では、所定の要介護状態になっても保険会社独自の基準を満たさない場合には保険金が受け取れないケースもあるのです。いざ介護が始まったというときに介護保険が利用できないのでは、保険料の無駄です。まずは公的な制度を活用することを優先しましょう。
●「高額療養費制度」で自己負担を減らす
 日本では「国民皆保険」といって、原則すべての国民が健康保険制度に加入します。病気やケガで医療機関にかかるとき、保険証を提示すると医療費の自己負担額は最大でも3割で済みます。しかし、3割負担であっても、入院や通院が長引けば医療費の負担が大きくなってしまいます。この負担を減らせる制度が高額療養費制度です。高額療養費制度は、毎月1日から末日までの1カ月の医療費の自己負担額が上限を超えた場合に、その超えた分を払い戻してもらえる制度です。自己負担額の上限は、年齢が70歳未満か70歳以上か、所得の水準がいくらかによって変わります。例えば、年収180万円の70歳未満の方が入院・手術などをして、1カ月の医療費が100万円かかり、3割負担で30万円を支払ったとします。こんな場合でも、高額療養費制度の申請をすればこの方の自己負担限度額は5万7600円で済みます。残りの約24万円は、後日払い戻されます。さらに、過去12か月以内に3回以上自己負担額の上限に達した場合は「多数回該当」となり、4回目から自己負担限度額の上限が下がります。先の年収180万円の方なら、自己負担限度額は4万4400円になるのです。先に医療費を立て替えるのが厳しい場合は「限度額適用認定証」を申請することで、自己負担分だけの支払いだけで済ませることもできます。なお、マイナンバーカードを保険証として利用する「マイナ保険証」で受診すれば、限度額適用認定証の申請手続きをしなくても自己負担分だけの支払いですみます。
●対象外の費用もあるので要注意
ただし、高額療養費制度には対象外の費用もあります。例えば、入院中の食事代、差額ベッド代、先進医療にかかる費用などです。入院中の食事代は「標準負担額」といって、基本的に1食あたり460円です。もしも1カ月入院したら約4万円かかります。差額ベッド代とは、希望して個室や4人までの少人数部屋に入院した場合にかかる費用です。金額は人数や病院によっても異なりますが、中央社会保険医療協議会の「主な選定療養に係る報告状況」(令和3年7月)によると、差額ベッド代の1日あたり平均徴収額は6613円。個室は8315円と高いのですが、2人部屋は3151円、3人部屋は2938円、4人部屋は2639円と、金額に開きがあります。先進医療とは、厚生労働大臣が認める高度な技術を伴う医療のことです。先進医療の治療費は健康保険の対象外なので、全額自己負担です。もっとも食事代や差額ベッド代は確かにかかりますが、そこまで高い金額ではありません。貯蓄をしっかりしておけば、十分まかなえる金額です。また、先進医療の費用は、がんの陽子線治療や重粒子線治療などは数百万円しますが、数万円から数十万円で済む治療もあります。そして厚生労働省「令和4年6月30日時点で実施されていた先進医療の実績報告について」によると、先進医療を受けた患者数は2万6556人ですから、日本の人口(1億2500万人)で割ると先進医療が必要になる確率はわずかに0.02%です。この費用をあえて医療保険やがん保険で用意する必要はないと考えます。介護サービスを利用し、1カ月の自己負担額が一定の上限額を超えた場合に、その超えた部分が戻ってくる「高額介護(予防)サービス費」という制度があります。高額介護サービス費の上限額は住民税の課税される世帯(現役並み所得者がいる世帯)で14万100円、住民税非課税世帯で2万4600円となっています。高額療養費制度の医療費と同様に、介護費用の負担も一定の上限額までにできる、ありがたい制度です。
●高額医療・高額介護合算療養費制度も活用
 とはいえ、長期間にわたって医療費と介護費がかかり続けると、家計の負担が大きくなってしまいます。そんなときに利用したいのが高額医療・高額介護合算療養費制度です。高額医療・高額介護合算療養費制度は、同一世帯で毎年8月1日~翌年7月31日までの1年間にかかった医療費・介護費の自己負担額の合計額(自己負担限度額)が上限を超えた場合、その超えた金額を受け取れる制度です。高額療養費制度や高額介護サービス費制度を利用すれば自己負担は減りますが、ゼロになるわけではありません。高額医療・高額介護合算療養費制度を利用することで、その自己負担をさらに軽減できます。高額医療・高額介護合算療養費制度の自己負担限度額は、世帯の年齢や所得によって異なります。年間の医療費・介護費を計算して、制度が利用できるか確認しましょう。高額医療・高額介護合算療養費制度の申請は、公的保険の窓口で行います。国民健康保険や後期高齢者医療制度の場合はお住まいの市区町村、協会けんぽや健康保険組合などの場合は勤務先を通じて申請を行います。ただし、高額療養費制度・高額介護サービス費制度の対象外となっている費用は、高額医療・高額介護合算療養費制度でも対象外です。例えば、高額療養費制度では入院時の食事代や差額ベッド代、高額介護サービス費制度では要介護度別の利用限度額を超えた費用などは自己負担になります。高額介護サービス費の自己負担の上限額は、本人の所得で決まる場合と世帯の所得で決まる場合の2つのパターンがあります。そこで、同居している家族が住民票の世帯を分ける「世帯分離」をすることで、介護費用を削減できる場合があります。なお、世帯分離をしても、同居を続けてかまいません。世帯分離とは、同居している家族が住民票の世帯を分けることです。世帯分離をすることで、介護費用を削減できる場合があります。例えば、介護サービスを受ける親を世帯分離して、親単独の世帯にすれば、世帯としての所得が大きく減るため、高額介護サービス費の自己負担を大きく減らせる、というわけです。
●世帯分離をしても、別居する必要はない
 介護サービスを受けている親(住民税非課税)が、住民税の課税される世帯と同世帯にしていた場合、高額介護サービス費の負担限度額は月額4万4400円になります。しかし、世帯分離をして親だけの世帯になった場合、高額介護サービス費の負担の上限額は「世帯全員が住民税非課税」にあてはまるので、月額2万4600円となります。さらに、仮にこの親の前年の年金年収とその他の所得金額合計が80 万円以下だったとしたら、負担の上限額は月額1万5000円になります。同じ介護サービスを受けていても、負担が月約2万~3万円、年間で約24万~35万円ほど減らせることになります。高額介護サービス費は、最も負担の重い世帯で月額14万100円の負担になっています。ですから、高所得者の方こそ、世帯分離を検討するといいでしょう。なお世帯分離をしたからといって、別居する必要はありません。世帯分離は介護費用の削減にとても役立つ方法なのですが、高額療養費制度や高額介護サービス費の「世帯合算」はできなくなります。高額療養費制度や高額介護サービス費は、世帯ごとにかかった費用を合算して申請できます。しかし、たとえ同居していても、世帯分離をすれば親と子で別の世帯になりますので、合算できなくなります。とくに、2人以上介護している場合には、世帯分離がかえって損になる可能性があります。損得をトータルで考える必要がありますので、詳しくはお住まいの自治体にご相談ください。

*2-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240207&ng=DGKKZO78285980W4A200C2PD0000 (日経新聞 2024.2.7) 少子化支援金、首相「1人あたり月500円弱負担」、医療保険料に上乗せ 歳出改革・賃上げ推進
 岸田文雄首相は6日、少子化財源確保のために医療保険料に上乗せする新たな「支援金制度」の負担額が平均で1人当たり月500円弱になるとの見通しを表明した。実質的な負担増にならないとも強調した。個人ごとにみると負担は首相の説明通りにならない場合もある。政府は2024年度からの3年間で年3.6兆円の予算を確保して、児童手当の増額など少子化対策の充実に充当する。その財源のうち1兆円を「支援金制度」で賄う。首相は6日の衆院予算委員会で「粗い試算」として「支援金の総額を1兆円と想定すると、28年度の拠出額は加入者1人当たり月平均500円弱となると見込まれている」と語った。これまで1人当たりの負担水準を明らかにしていなかった。立憲民主党の早稲田夕季氏に答弁した。実際の1人当たりの負担額は個人ごとに差が出る。会社員らが加入する健康保険組合では定率で保険料を上乗せして支援金を集める見通し。加入する健康保険組合や年収によって個人の負担額は変わる公算が大きい。たとえば、22年度の医療保険料率は中小企業が主な対象となる全国健康保険協会(協会けんぽ)は平均で10%。大企業が中心の健康保険組合連合会(健保連)は9.26%と異なる。被保険者の平均年収も21年度時点で協会けんぽ272万円、健保連は408万円と差がある。日本総研の西沢和彦理事の試算によると、医療保険の加入者(家族を含む)1人あたりの支援金の平均額は協会けんぽでは月638円となる。健保組合は月851円、後期高齢者医療制度で月253円になるという。所得が高い人はこの負担額がさらに増える。予算委では野党から「組合の種類や所得によって、(支援金の負担額が)上がっていくということを言わないと不誠実だ」との批判が出た。首相は支援金を導入しても、社会保障分野の国民負担率を上げない方針を示す。社会保障の歳出改革で保険料の伸びを抑え、今春以降の賃上げにより負担率の分母が増えるとの訴えだ。6日の予算委でも「実質的な負担は全体として生じない」と語った。その実現は見通せない。歳出改革では政府が23年12月にまとめた28年度までの工程表で早くもほころびが見えている。介護保険サービスを利用した際の自己負担について、政府は24年度から2割負担の対象者を広げる方針だった。現行は原則1割となっている。対象拡大は自民党などの反発を受けて、27年度以降に先延ばしとなった。賃上げ頼みの仕組みも課題だ。国民民主党の玉木雄一郎代表は6日の予算委で「賃上げはどれくらいを見越しているのか」と首相に問いただした。仮に歳出改革が計画通りに進んでも、賃上げが実施されない企業で働く人は支援金の実質負担が発生するケースがあり得る。日本総研の西沢氏は「実質的な負担は生じないという説明は誤解を生む。『500円弱』の数字が独り歩きする説明では国民の理解が得にくいのでは」と指摘する。

*2-2-2:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20240207&c・・=DPD0000 (日経新聞 2024.2.7) 少子化支援金、首相「1人あたり月500円弱負担」 医療保険料に上乗せ 歳出改革・賃上げ推進、財源1兆円「支援金」で捻出 26年4月から徴収
 政府は24年度からの3年間で年3.6兆円の予算を確保し、児童手当や育児休業給付など少子化対策の拡充に充てる。その財源のうち1兆円を「支援金制度」で捻出する。そのほかは歳出改革で1.1兆円、既定予算の活用で1.5兆円を確保する。支援金はサラリーマンの場合は給料から天引きされる医療保険料に上乗せして集める。75歳以上の後期高齢者も含む全世代で負担する。低所得者には負担軽減策を設ける。26年4月から徴収が始まる。初年度は6000億円を集め、段階的に金額を増やし28年度に年1兆円の確保をめざす。使い道や政策への充当割合などを明記した関連法案を今の通常国会に提出する。

*2-2-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15903977.html (朝日新聞 2024年4月4日) 少子化対策、財源巡り攻防 徴収の「支援金」野党批判 政権、負担明示せず
 政権の少子化対策「子ども・子育て支援法等改正案」の国会審議が本格化している。3日の衆院特別委員会では、財源の一つで医療保険料とあわせて徴収する「支援金」について、「ごまかしで事実上の子育て増税」などと野党の追及が相次いだ。「(支援金の)所得階層別の負担額を出してほしい」。立憲民主党の山井和則氏がそう迫ったが、加藤鮎子こども政策相は「年収別の拠出額は数年後の賃金水準などによるため、現時点で一概に申し上げられない」と繰り返すばかりだった。2日に衆院で審議入りした法案。最大の争点は財源確保策だ。法案には児童手当の大幅な拡充などを盛り込んだ。少子化対策全体では年3・6兆円規模で、うち1兆円を支援金で賄う想定。ただ、政府は医療保険ごとの加入者1人あたりの平均額の試算を出した一方、所得に応じた負担は提示せず「2021年度の医療保険料月額の4~5%程度」という月額の「目安」を示すのみで、野党の批判が強まっていた。少子化対策の財源を、税ではなく医療保険とあわせた形で徴収することにも批判が殺到。立憲の早稲田夕季氏は「給付と負担の関係が明白である社会保険の考え方には到底見合わない。租税でまかなわれるべきものだ」と指摘した。加藤氏は「(医療保険などの)社会保険制度はともに支え合う仕組み。支援金制度も、少子化対策で受益がある全世代・全経済主体で支える仕組みだ」と答弁。岸田文雄首相も2日の衆院本会議で「少子化、人口減少に歯止めをかけることで医療保険制度の持続可能性を高める」と強調していた。論点には充実策の実効性も挙がる。保護者の就労要件を問わずに保育所などを利用できる「こども誰でも通園制度」については現在、子ども1人あたり月10時間までで試行的に運用中だ。2日の本会議では「今後拡大していく考えはあるのか。保育士などの賃金や労働条件を改善し、質の高い保育を提供するための必要な人材を確保すべきだ」(国民・田中健氏)といった指摘があった。首相は「試行的事業の状況等も踏まえながら、今後検討していく。引き続き、処遇改善も行っていく」と応じた。政府は今国会での法案成立を目指すが、「現段階ではこの法案にもろ手を挙げて賛成するということは極めて難しい」(維新・音喜多駿氏)などと意見が出ている。野党との対立がさらに激化する可能性もある。

*2-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240307&ng=DGKKZO79039740X00C24A3EA2000 (日経新聞 2024.3.7) 特定技能、窮余の拡大 人手不足で上限枠2.4倍82万人に 煩雑な申請など足かせ、待遇改善急務
 政府は外国人労働者の在留資格「特定技能」の受け入れ枠を自民党に提示した。2024年度からの5年間で現行の2倍以上の82万人を受け入れる。同じく人手不足に直面する他国との人材争奪はますます激しくなる。日本が「選ばれる国」となるための支援策を整えることが急務となる。政府が6日までに自民党の部会に受け入れ枠を広げる方針を示し、了承された。内訳は建設業など国土交通省の所管分で18.2万人となる。製造業など経済産業省の所管では17.3万人、介護を含む厚生労働省の所管を17.2万人とした。それぞれの数字は業界ごとに成長率や需要などから不足人数をはじき、人材確保や生産性向上の努力で解決できる分を差し引いて算出した。急速な少子高齢化に見舞われる地方からは悲痛な声が上がる。福岡県鉄構工業会は4日、特定技能に関する要望書を小泉龍司法相に提出した。「最先端技術の導入などの取り組みをしても必要な人材確保が困難な状況だ」と訴えた。厚労省が発表した23年10月の外国人労働者はおよそ200万人だった。国際協力機構(JICA)などは年平均1.24%の成長を2040年に達成するには、674万人の外国人労働者が必要だと推計する。政府は特定技能だけでなく、技能実習に代わる非熟練労働者の新制度「育成就労」などと合わせて受け入れ数を増やしていく方針だ。それでも日本社会の機能を維持するのには足りない。政府は特定技能制度が始まった19年に34.5万人の受け入れ枠を設定した。実際の在留者数は23年11月時点でおよそ20万人にとどまった。伸び悩んだのは新型コロナウイルス禍の影響が大きかった。介護や農業など海外で試験を受けて入国する労働者の受け入れが滞った。外国人雇用に詳しい杉田昌平弁護士は「コロナ禍で送り出し国での試験実施が遅れ、運用の確立や制度の浸透が不十分だった」と指摘する。コロナ禍のせいだけにもできない。行政側の対応や、受け入れ企業の負担が大きい現状にも課題がある。宿泊分野で外国人材紹介を手掛けるダイブ(東京・新宿)の菅沼基氏は入管への申請数の増加を要因に挙げる。「申請結果が出るまでの時間が長く入国待ちや変更待ちの人が多数いる」と話す。特定技能の場合、技能実習とは異なり受け入れ窓口である監理団体が存在しない。受け入れ企業が実習や日本語教育の支援を自社で賄うケースもある。日本は諸外国と外国人材の獲得を競わなければならない。オーストラリアや韓国は外国人労働者を獲得する政策を積極展開する。円安や相対的に低下した賃金水準は、日本が「選ばれる国」になるための足かせとなりつつある。賃金面で魅力を高める努力とともに、外国人の職場への順応や生活環境の支援策を整えることが重要だ。特定技能で来日した労働者を国籍別に見るとベトナムが最も多く、インドネシアやフィリピンなどが続く。文化や慣習の異なる東南アジアが中心になっている。勤務上のトラブルが発生した場合の支援体制や、日本語の学習環境の整備は欠かせない。日本人との共生には、自治体と地域の企業が一体となってバックアップに取り組む体制が求められる。各国の共生政策を比較する移民統合政策指数(MIPEX)の2020年版の総合評価で見た日本の順位は56カ国中35位にとどまった。スウェーデンが1位で、アジアでは18位の韓国に後れをとっている。
特定技能の受け入れ枠拡大を巡り、自民党の部会で目立った異論は出なかった。外国人材に頼らなければ地方経済が回らなくなりつつある現状を映している。
▼特定技能制度 一定の専門性と日本語能力を持つ外国人材を受け入れる制度で19年に始まった。海外から入国する場合は、技能と日本語の試験に合格すれば最長5年在留できる「1号」の資格を得られる。さらに条件を満たせば在留資格の更新に制限がない「2号」になれる。家族を帯同でき将来は永住権も申請できる。現在は人手不足が著しい12の分野が対象。政府は新たにタクシーやバスの運転手である「自動車運送」や列車乗務員の「鉄道」など4分野を追加し16分野とする計画だ。

*2-3-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1215816 (佐賀新聞 2024/3/26) 入管庁の難民認定、最多303人、23年、アフガンが大半
 出入国在留管理庁は26日、自国で迫害を受ける恐れがあるとして、2023年に303人を難民認定したと発表した。22年から101人増え、最多を更新。うち237人がアフガニスタン国籍で、関係者によると、21年の政変後に退避した国際協力機構(JICA)の職員らが多くを占める。難民認定申請者数は1万3823人で、22年の3倍超と大幅に増えた。入管庁によると、難民認定者303人の内訳は、アフガンが最多で、軍政による弾圧が続くミャンマーが27人、エチオピアが6人など。アフガンでは22年も日本大使館の元職員や家族らが多く認定されている。申請者数は、17年の1万9629人に次いで2番目に多い。スリランカが3778人で最も多く、トルコ、パキスタンが続いた。入管庁は「新型コロナウイルスの水際対策が終了し、来日者数の回復に伴い申請者も増えた」と分析している。23年に成立した改正入管難民法で新設され、紛争避難民らを難民に準じる形で在留を認める「補完的保護」は、申請を受け付けた23年12月から今年2月末までに1110人が申請。647人が認められ、ウクライナ避難民が644人、23年4月に軍事衝突があったスーダンが3人だった。「定住者」の在留資格を付与する。難民と認めなかったものの、23年に人道的配慮から在留を認めたのは1005人。ミャンマーなど本国の情勢を踏まえた許可が大半を占めた。難民認定を巡っては、年間1万人を超える国がある欧米と比べ、日本は認定数が少なく、基準が厳しいとの指摘がある。難民認定制度 外国人から申請を受け、難民条約が定義する難民に該当するかどうかを判断する。条約は人種や宗教、国籍、政治的意見、特定の社会的集団の構成員であることを理由に迫害の恐れがあり、国外に逃れた人を難民と定義し、出入国在留管理庁の調査官が面接などで審査する。認定されると「定住者」の在留資格を付与。不認定の場合は審査請求ができる。日本では、制度が開始した1982年から2023年までに1420人を条約上の難民と認定。欧米と比べ少なく「難民鎖国」とも批判される。

*2-3-3:https://www.nippon.com/ja/features/c03707/ (Nippon.com 2024.2.9) 小澤征爾:“人間力”で「世界のオザワ」に上り詰めたカリスマ指揮 柴田 克彦
《日本を代表する指揮者・小澤征爾さんが2月6日死去した。“世界のオザワ” の冥福を祈るとともに、敬意を込めて2018年に公開した記事を改めてお届けする》世界のクラシック音楽界で頂点に立つ指揮者の1人、小澤征爾。“音楽エリート” ではなく、苦労しながら努力と行動力、そして人間的魅力で世界に嘱望されるまでに至ったマエストロの軌跡を振り返る。
(2018年6月12日に公開した記事を再掲致します)
 2002年1月1日、小澤征爾はウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の「ニューイヤー・コンサート」に登場した。60年もの歴史を誇り、約60カ国にテレビ中継されるこの世界的風物詩を指揮する初めての日本人だった。彼は、米国ビッグ5の名門、ボストン交響楽団の音楽監督を約30年にわたって務め、この年の秋からオペラ界の頂点、ウィーン国立歌劇場の音楽監督に就任することになっていた。さらには、世界最高峰の2強、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団とウィーン・フィルの定期演奏会にレギュラーで登場する数少ない指揮者の1人だった。これらは全て、西洋の文化であるクラシック音楽の分野で日本人が達成するには、あまりにハードルが高い、正真正銘の偉業である。無論、小澤以外に成し遂げた日本人指揮者はおらず、裾野に近づいた者さえごく限られる。
●日本人離れの行動力の原点
 小澤征爾は、1935年9月1日、満州国の奉天(現・中華人民共和国の瀋陽)に生まれた。山梨の貧しい農家の出で、苦学の末に歯医者となった父・開作は23歳の時に満州へ渡り、長春で歯科医を開業。その地で征爾の母となる若松さくらと結婚した。だが開作は、アジア民族の一体化を理念とする政治活動に没頭し、政治団体「満州国協和会」の創立委員として奉天に移り住んだ。そこで生まれた三男は、開作が知遇を得た陸軍大将・板垣征四郎から「征」、関東軍参謀・石原莞爾から「爾」を取って「征爾」と命名され、6歳の年まで満州で過ごした。大陸で生まれ育ったこと、さらには父譲りの行動力が、小澤の日本人離れした活躍の源にあるのではないか…そう思えてならない。小澤はいわゆる “音楽エリート” ではなかった。音楽との出会いは5歳のクリスマスに母が買ってくれたアコーディオンで、ピアノを始めたのが10歳の時。一家は41年に帰国して立川に住まいを移していた。もちろん当時、家にはピアノがなく、後に親戚から譲り受けた際も、兄たちが横浜から立川まで3日かけてリヤカーで運んだ。ピアニストになる夢はあっても、スタートがあまりに遅い。そんな折の49年12月、日比谷公会堂における日本交響楽団(現・NHK交響楽団)のコンサートで、ロシア出身のピアニスト、レオニード・クロイツァーがピアノを弾きながら指揮をする演奏を聴いて、初めて指揮に強い魅力を感じた。そして母さくらの遠縁に音楽教育者・チェロ奏者の齋藤秀雄(1902~74年)がいることが分かり、弟子入りを志願する。中学3年生の時だった。
●生涯の師、友との出会いを経て2大巨匠の下へ
 人生とは巡り会い。小澤の道のりをたどるとそれを痛感させられる。齋藤秀雄は、桐朋学園で多数の著名指揮者や弦楽器奏者を育てた大功労者だ。彼は小澤の生涯の師となった。もう1人、齋藤の指揮教室で巡り会ったのが山本直純(1932~2002年)。後にコマーシャルの「大きいことはいいことだ」のフレーズで名をはせた指揮者にして、映画『男はつらいよ』のテーマ音楽を手がけた作曲家である。小澤は最初、兄弟子にあたる山本に指揮を教わった。1952年小澤は斎藤が開設に関わった桐朋女子高等学校音楽科に入学、55年桐朋学園短期大学に進学した。やがて、「音楽をやるなら外国へ行って勉強するしかない」と強く思うようになった小澤に向かって、山本は「音楽のピラミッドがあるとしたら、オレはその底辺を広げる仕事をするから、お前はヨーロッパへ行って頂点を目指せ」と言って後押しした。そしてそれは実現した。59年2月、持ち前の行動力を発揮し、スクーターと共に貨物船で単身渡仏した23歳の小澤は、同年ブザンソン国際指揮者コンクールに挑んだ。実は応募の締め切りを過ぎていたのだが、つてを頼って紹介してもらった米国大使館の職員の口利きで参加がかない、見事優勝。これが飛躍の第1歩となった。まずは審査員だった巨匠シャルル・ミュンシュの一言でボストン交響楽団が毎夏米国マサチューセッツ州で主宰するタングルウッド音楽祭に参加し(60年)、それを機に、61 年レナード・バーンスタイン率いるニューヨーク・フィルハーモニックの副指揮者に抜てきされた。またヘルベルト・フォン・カラヤンの弟子を選出するコンクールにも合格。そこで小澤は、20世紀後半の指揮界を二分するカラヤン、バーンスタイン両雄の薫陶を受けることができた。このような経験を持つ指揮者は、世界でも恐らく小澤しかいない。
●「N響事件」を経て新日本フィル結成へ
 小澤征爾は天才ではなく、努力の人である。「勉強、勉強、また勉強」が彼の生き方。そして小澤を知る者は、「彼ほど人懐っこく、人間に対する愛情が深く、義理固い人はいない」と言う。日々の努力にそうした人柄が加わったからこそ、良き巡り会いが生まれたに違いない。ただ日本では順風満帆ではなかった。1962年には、契約を結んだNHK交響楽団からボイコットされる「N響事件」が起きた。同年6月から半年間の指揮契約を結んでいたが、楽員から27歳の小澤に対し「生意気だ」「態度が悪い」などの感情的反発が生まれていたのだ。そこで翌年「小澤征爾の音楽を聴く会」が開催され、発起人に、浅利慶太、石原慎太郎、井上靖、大江健三郎、曽野綾子、武満徹、谷川俊太郎、團伊玖磨、中島健蔵、黛敏郎、三島由紀夫ら、驚きのビッグネームが並んだ。これも小澤の吸引力のなせる業だろう。しかし彼は事件を機に日本に見切りをつけ、世界にのみ目を向けた。事件は結果的に “世界のオザワ” 誕生を導いたといえる。72年には、縁あって首席指揮者を務めていた日本フィルハーモニー交響楽団が、フジサンケイグループからの支援を打ち切られる。急きょ米国から帰国した小澤は何とか存続を図ろうと奔走し、天皇陛下へ直訴までする。同年日本芸術院賞を受賞していたが、その授与式で「自分だけ賞をもらいましたが、今一緒にやっているオーケストラは大変な状況なんです」と思わず言ってしまったのだ。結局当時の “財団法人日本フィル” は解散(注:裁判闘争を続けながら自主運営団体として継続し、現在は公益財団法人として活動中)、小澤は山本直純と共に新日本フィルハーモニー交響楽団を結成する。その後長い間、日本では基本的に新日本フィルしか指揮せず、同楽団を起用した山本の公開テレビ番組「オーケストラがやって来た」に再三出演するなど、義理堅さを発揮した。
●クラシック界の頂点に駆け上がる
 世界における快進撃の始まりは、「N響事件」の翌年、1963年にシカゴ交響楽団が主宰する「ラヴィニア音楽祭」に急きょ代役で出演し、成功を収めたことだった。64年には同音楽祭の音楽監督に就任(68年まで)。65年にはトロント交響楽団の音楽監督に就任した(69年まで)。66年には「ザルツブルク音楽祭」ならびにウィーン・フィル、さらにはベルリン・フィルの定期演奏会にデビュー。70年には「タングルウッド音楽祭」の芸術監督(2002年まで)、サンフランシスコ交響楽団の音楽監督(76年まで)に就任した。そして73年、ボストン交響楽団の音楽監督に就任し、2002年まで約30年間に及ぶ米国では異例の長期体制を築いた。79年パリ・オペラ座、80年ミラノ・スカラ座、88年ウィーン国立歌劇場にデビューし、オペラでも世界最高峰の舞台で活躍。2002年のウィーン国立歌劇場の音楽監督就任(2010年まで)に至る。膨大なディスクも録音し、中でも冒頭で言及した「ニューイヤー・コンサート2002」のライブCDは、日本で80万枚(世界で約100万枚)というクラシック界では空前絶後のセールスを記録した。94年にはタングルウッドにその名を冠した「セイジ・オザワ・ホール」が建てられた。日本での活動も徐々に活発化した。87年に齋藤秀雄の門下生を主体とする「サイトウ・キネン・オーケストラ」の活動を開始。同楽団は世界から一流と目される存在となった。90年には水戸室内管弦楽団の芸術顧問に就任。92年には「サイトウ・キネン・フェスティバル松本」(2014年から「セイジ・オザワ松本フェスティバル」)の総監督に就任し、同音楽祭は垂涎の内容で人気を集めた。98年には長野冬季オリンピックの開会式で、世界5大陸を結ぶベートーヴェン「第九」を指揮。2000年には若手音楽家を育成する「小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクト」を始めた。
●“人間力”で最高の音楽を引き出す
 指揮者は、自ら音を出さない不思議な音楽家だ。実際に音を出すのは、おのおのが一家言持つ100名ものプロフェッショナル演奏家集団である。彼らに意を伝え、持てる能力を発揮させ、1つの音楽を形作るには、技術や知識以上に人間的な魅力やカリスマ性を必要とする。指揮法を体系化した齋藤秀雄譲りのバトン・テクニックは素晴らしい。しかし彼の本領は、人柄に努力と経験が加わった “人間力” に尽きる。小澤のカリスマ性を示すエピソードがある。2015年、新日本フィルの創設期を共にしたティンパニ奏者の山口浩一が亡くなる直前、小澤は彼を見舞いに訪れた。山口はほとんど意識がなく、周りで見守る人たちが「分かったら手を握って」と言うと、辛うじて握り返す程度だった。ところが小澤が声をかけると、パッと目を開け、会話までしたという。1986年2月13日、東京文化会館における小澤指揮/ボストン交響楽団によるマーラーの交響曲第3番は、筆者にとってこれまで経験した最高のコンサートだった。終始引き付けられた末の深い感銘を、30年以上たった今でもありありと思い出す。この体験は生涯まれな “ギフト” だった。小澤の音楽は熱い。彼はきっと同様の感銘を皆に与えてきたであろう。ここ数年は健康状態を鑑みながら活動している。今秋には83歳を迎える小澤。だがまだまだギフトを与え続けてほしいと願わずにはおれない。

*2-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240407&ng=DGKKZO79852220W4A400C2EA2000 (日経新聞 2024.4.7) 働き手「予備軍」、20年前から半減 昨年411万人に、女性・高齢者の就業進む 人手不足、事業再編迫る
 日本の働き手が枯渇してきた。今は職に就かず仕事を希望する働き手の「予備軍」は2023年に411万人で15歳以上のうち3.7%にとどまり、割合は20年で半減した。女性や高齢者の就業が進み、人手の確保は限界に近い。企業を支えた労働余力は細り、非効率な事業の見直しを迫られている。現場の人手不足を敏感に映すのが時給の動きだ。労働政策研究・研修機構が毎月勤労統計をもとに集計したパートタイムの時間あたり給与は、23年10~12月期に前年同期比3.8%増だった。新型コロナウイルスの影響があった時期を除くと15年以降で最も高い。一般労働者は1.0%増で、パートの伸びが際立つ。コロナの影響が薄れたことによる景気要因だけではない。より大きいのは、女性や高齢者の労働参加が進み、人材のプールが細ったという構造要因にある。総務省がまとめた労働力調査によると、15歳以上で職に就かず仕事を探していないが、就業を希望する人は23年に233万人と20年前に比べて297万人減った。職探しをしている完全失業者の178万人と合わせた「予備軍」は411万人で15歳以上の人口の3.7%にあたる。03年の8.0%に比べて半分以下の水準だ。予備軍が減ったのは景気回復とともに、女性や高齢者が働く環境整備が進んだためだ。国立社会保障・人口問題研究所によると、15~64歳の生産年齢人口はピークだった1995年に比べ23年は15%減ったが、就業者は20年間で約400万人増えた。足元では結婚や子育てで女性が職を離れ、30代の就業率が下がる「M字カーブ現象」もほぼ解消した。大和総研の田村統久氏は「働き手の減少を女性や高齢者で補うのは限界に近い」と指摘する。英国の経済学者、アーサー・ルイス氏は農村で余った労働力が工業部門に吸収されて成長する中で、ある時点で余剰労働力がなくなる「ルイスの転換点」の考え方を示した。転換点を過ぎれば賃上げの圧力が強まる。日本は1960年代後半に過ぎたと見られているが、女性や高齢者という観点で新たな転換を迎える可能性がある。企業も戦略の転換を迫られる。低金利による借り入れ負担の軽減と、非正規で働く女性や高齢者の活用はコスト低減の柱だった。低収益の事業でも存続しやすくなり、景気回復下でも賃金が上がらないデフレの色合いを強めた。日銀のマイナス金利解除に伴い、金利には上昇圧力がかかる。人手不足で採用ができず、非正規の時給引き上げが続けば、低採算の事業は選別し撤退をせざるを得なくなる。

<男女別学と教育について>
PS(2024年4月15日追加): 国連の女子差別撤廃条約を持ち出すまでもなく、日本国憲法が第3条で「すべて国民は、等しく、その能力に応ずる教育を受ける機会を与えられなければならないものであって、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない」と教育の機会均等を定めている。そして、西日本では、男女別学だった公立校は日本国憲法施行と同時に男女共学に変更され、その恩恵によって私の今がある。
 しかし、*3-1・*3-2のように、未だに男女別学の公立高校が存在する埼玉県で、市民グループ「共学ネット・さいたま」が、①公立校としての公共性 ②ジェンダー平等 ③性の多様性 の三つの観点から県立高校の共学化を求め ④埼玉県男女共同参画苦情処理委員が2023年8月に埼玉県教育長に対して共学化を勧告したところ、埼玉県教育委員会は「名門2校(浦高と浦和第一女子)」の卒業生に対し聞き取りを実施し ⑤i)伝統維持 ii)選択肢の確保 を強調する反対意見が多数を占め、男女の機会均等などを訴える賛成派はわずかだった とのことである。
 具体的な反対意見には、⑥男子校の埼玉県立浦和高校同窓会は「浦高」は埼玉唯一の全国ブランドで別学を維持しないと文化が壊れる」と別学維持を求めて大野元裕知事に意見書を渡した ⑦女子側“トップ校”の浦和第一女子高同窓会は事前に集めた卒業生アンケートで「500件のうち483件が共学化に反対」「女子校出身者の方が理系選択が多い」「女子校は男女の性差にとらわれることなく能力や個性を発揮できる」などの意見があった ⑧勧告後に始まった共学化反対のインターネット署名は2万件を超えた としている。
 しかし、④のように、卒業生に聞き取りを行えば、男女共学高校で教育を受けた経験がなく、自らの過去を肯定したいという動機も重なって、反対意見が出るのは当然だが、卒業生(過去の在学生)の意見を根拠に男女別学を維持するのは、日本国憲法に反して意図的であり、本末転倒だ。また、⑤の伝統維持についても、その長い伝統は男女の性別役割分担や女性差別・女性蔑視に基づく伝統であるため、女子差別撤廃条約・日本国憲法及び①②に反しており、「伝統維持=女性差別・女性蔑視の維持」になっている。そのため、このような教育制度・社会意識の下では埼玉県に赴任する子育て家庭は父親だけの単身赴任になり、埼玉県の人口10万人あたり医師数は全国最下位で、人口の割に高校のレベルも上がらない。ちなみに、私は、子供を作らないと決めてから埼玉県にマンションを買ったが、その理由は東京・神奈川と比較してかなり安かったからで、住民(男性だけでなく女性も)にも女性蔑視があるのは不愉快に感じている次第だ。
 なお、⑥については、その“全国ブランド”の恩恵に預かるのは男子生徒だけであり、このようにして男女別学かつ男性優遇の中で育った男性が女性の能力を過小評価して職場や社会でも女性を差別し、社会進出を阻んでいることを忘れてはならない。また、簡便のために東大で比較すると、浦和高校は、文I:4人(浪人3)・文II:9人(浪人6)・文III:5人(浪人3)・理I:13人(浪人6)・理II:13人(浪人7)・理III:0・合計:44人(浪人25)など、理系や職業に結びつく学部への合格者が多い(https://www.inter-edu.com/univ/2024/schools/336/jisseki/ 参照)が、女子側“トップ校”の浦和第一女子高校は、文I:1人(浪人1)・文II:2人(浪人2)・文III:3人(浪人2)で、文系でも現役で法律・経済学部に合格した女子生徒はおらず、理系学部に合格した女子生徒は現役・浪人合わせて全くいないため、⑦は根拠なき主張だ(https://www.inter-edu.com/univ/2024/schools/374/jisseki/ 参照)。さらに、浪人割合が高いのは、高校までの勉強では東大に入れず、予備校での浪人生活があって初めて東大に合格したということである。これに加えて、卒業生が“全国ブランド”と考えている浦和高校も理IIIの合格者は0で、これは高校だけで頑張っても中高一貫校で勉強した人には追いつけないことを意味する。その中高一貫校は男女別学の私立が多く、学費も高いため、東大合格者は所得や出身校で偏り、地方出身者が減って、多様な視点の源であるリーダーの多様性もなくなった。国・埼玉県及び他の地方自治体は、これでよいのだろうか?

*3-1:https://digital.asahi.com/articles/ASS4B420XS4BUTNB004M.html (朝日新聞 2024年4月11日) 男女別学県立高の共学化を 市民団体が改めて早期実現訴え
男女別学になっている県立高校の共学化を求める市民グループ「共学ネット・さいたま」が10日、県庁で会見し、改めて共学化の早期実現を訴えた。共学ネットは、「公立学校としての公共性」「ジェンダー平等」「性の多様性」の三つの観点から、県立別学校の問題点を指摘。「別学は選択肢の一つ」という代表的な反対意見に対し、「別学と共学の選択肢がある生徒は事実上学力の高い一部の生徒だけで、大半の生徒は選択していない」と反論した。県立の別学校をめぐっては、県男女共同参画推進条例に基づく苦情の申し出を受け、苦情処理委員が2023年8月、県教育長に対し、共学化を勧告。男子校の県立浦和高校の同窓会は別学維持を求め、大野元裕知事に意見書を渡している。

*3-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1209922 (佐賀新聞 2024/3/15) 県立高、共学化勧告に波紋、伝統か機会均等か、埼玉 「名門」卒業生が反対
 男女別学の県立高校は早期に共学化すべきだ―。昨年夏、埼玉県教育委員会が県の男女共同参画苦情処理委員から受けた勧告が波紋を呼んでいる。県教委は「名門」2校の卒業生への聞き取りを実施。伝統維持や選択肢の確保を強調する反対意見が多数を占め、男女の機会均等などを訴える賛成派はわずかだった。8月までの報告を求められた県教委の対応に注目が集まっている。「『浦高』は埼玉唯一の全国ブランド」「別学を維持しないと文化が壊れる」。今年1月、県内屈指の「名門男子高」とされる浦和高(さいたま市)での聞き取りには、大学生から80代までの約110人が参加した。議論は3時間に及び、反対意見が噴出。「選択肢を残すべきだ」と声が上がる中「優れた教育を受ける権利を否定するべきではない」といった賛成意見は少数だった。女子高側の「トップ校」浦和第一女子高(同市)では、同窓会の栗原美恵子会長ら約10人が出席し、事前に集めた卒業生のアンケートを紹介。500件のうち483件が共学化に反対した。集まった意見は「女子校出身者の方が(進路での)理系選択が多い」「女子校は男女の性差にとらわれることなく能力や個性を発揮できる」など。栗原会長は「伝統や愛着ではなく、女子校が男女共同参画に成果を上げている点を見てほしい」と訴えた。県教委によると、県立高137校のうち男女別学は男子校5校、女子校7校の計12校ある。勧告は別学があった宮城、秋田、福島3県で2016年度までに全校が共学になったことなどに言及し、対応を求めた。勧告した男女共同参画苦情処理委員は、知事が委嘱した弁護士らで構成。発端は22年4月に寄せられた「男子校が女子の入学を拒むのは、国連の女子差別撤廃条約に反する」との申し出だった。条約は女子に男子と平等の権利を確保することを目的に、女子に対する差別を撤廃するための適当な措置を取るよう求めている。日本も1985年に批准した。同様の勧告は2002年にもあった。県教委は報告書に「各校が特色ある学校づくりに向けて主体的に取り組む中で、共学化を検討する可能性もある。その場合は支援したい」と記載。ただ共学化は大きくは進まなかった。今回の勧告後に始まった共学化反対のインターネット署名は2万件を超えた。県内の共学校の関係者も賛同し、議論は広がりを見せている。県教委は全別学校で聞き取りを実施。日吉亨教育長は1月の記者会見で「意向に応じて場を設定した。中学生や在校生へのアンケートを交えながら、多角的に意見を聞きたい」と話した。

<政治資金の寄付とその恩恵は・・>
PS(2024年4月21日):*4-1-1・*4-1-2は、①自民・公明両党は自民派閥の政治資金問題を受けた再発防止策として、政治資金収支報告書のデジタル化と外部監査導入を打ち出す方針 ②公明党は、i)国会議員関係政治団体収支報告書のオンライン提出義務化 ii)政治資金の透明性向上のため外部監査・第三者機関活用 iii)収支報告書虚偽記入は政治団体代表者が会計責任者の選任や監督に関して「相当の注意」を怠れば50万円以下の罰金 iv)罰金刑を受けた議員は公民権停止 とした ③首相と与党は、i)議員本人を含め罰則強化 ii)収入を含めた外部監査充実 iii)デジタル化による透明性向上を打ち出す見通し ④公明党は今回の問題のきっかけとなった政治資金パーティーを巡り、パーティー券購入者の情報開示基準を現行の20万円超から5万円超に引き下げるよう求め、自民党内は「特定政党との繋がりを明かしたくない人もいる」との慎重論が根強く、野党はパーティーの廃止を主張 ⑤政党から政党幹部ら政治家に支出する政策活動費については、公明党は使途公開義務付けを主張し、自民党は使途公開を含めて反対論があがる ⑥公明党は国会議員の関係政治団体から寄付を受けた「その他の政治団体」の資金に関する透明性の確保策も盛り込んだ ⑦国会議員関係政治団体は1件1万円超の経常経費と政治活動費を政治資金収支報告書に明細まで記載しなければならず、資金管理団体等の「その他の政治団体」は経常経費の記載は不要で政治活動費も1件5万円以上と基準が緩い ⑧公明党案は批判に配慮して国会議員関係政治団体から年間で一定以上の寄付を受けた政治団体は、国会議員関係政治団体と同等の公開基準とするように要求 ⑨自民党の渡海政調会長は20日、政治資金規正法の今国会中改正の実現を巡って「会期を延ばしてもいいから徹底的にやるべき」と話し、自民党独自案は23日にも方向性を示すことになると言明したが、「公職選挙法の連座制と同じものは作れない」と述べた としている。
 国会議員の「事務所費問題」がクローズアップされた2007年に政治資金規正法改正法が成立し、その時は自民党衆議院議員として改正案の議論に私も参加していたため、政治資金を寄付した寄付者が裏切られたり、寄付を受けた議員が本当は他の意図があるのに政治資金規正法違反で叩かれたりしないように、「議員関係の政治資金収支報告書を複式簿記に変更して網羅性・検証可能性を確保し、適正性の意見表明ができる公認会計士監査(独立性のあるプロによる外部監査)を導入すること」を提案した。しかし、成立した改正法は、イ)国会議員関係の政治団体は「国会議員関係政治団体」と法律上明確に定義する ロ)この範囲の政治団体の収支報告の適正の確保及び透明性の向上のため一定の義務を課す という非常に限定されたものであったため、外部監査も政治資金規正法への準拠性の表明に留まった(https://www.soumu.go.jp/senkyo/seiji_s/pdf/35246.pdf 参照)。
 そして、イ)のように、国会議員関係の政治団体のみに限ったため、代表者が政党・派閥・地方議員・後援会長等の「その他の政治団体」は、⑦のように緩い基準になり、今回の不記載が合法的に起こったのである。これに対し、①②③⑤⑥⑧のように、自民・公明両党は、自民派閥の政治資金問題を受けた再発防止策として、i)国会議員関係政治団体収支報告書のオンライン提出義務化 ii外部監査・第三者機関活用 iii)収支報告書虚偽記入に対する代表者の罰金 iv)罰金刑を受けた議員の公民権停止等を検討しているそうだが、i)ii)iii)は、国会議員関係の政治団体収支報告書に限定している点で不足であるし、iv)は議員叩きのツールとして使われることもあるため注意すべきだ。
 また、国会議員関係政治団体収支報告書への限定では不足である理由は、例えば*4-2-1・*4-2-2・*4-2-3・*4-2-4のように、政権与党に寄付して政策を歪めることにより恩恵を受けたい企業や個人は、国会議員関係の政治団体に寄付しなくても、政党・県連・首長・地方議員等に寄付することも可能であり、それが政策を歪めていないことを証明するためには、その全てが網羅性・検証可能性のある複式簿記で記帳し、外部監査人の適正意見をつけて速やかに開示すると同時に、少なくとも7年間は保存して説明可能にしておく必要があるからである。
 なお、④のように、公明党は今回の問題のきっかけとなった政治資金パーティー券購入者の情報開示基準を現行の20万円超から5万円超に引き下げるよう求め、自民党内は「特定政党との繋がりを明かしたくない人もいる」との慎重論が根強く、野党はパーティーの廃止を主張しているそうだが、金額を細かくしても従業員の名前を使って小分けすれば匿名で寄付することもできるため、私は政治資金パーティーは廃止し、かわりに民主主義のコストとして国が議員秘書の数を増やし、議員個人に相当の交付金を出すのが良いと考える。何故なら、その方が歪んだ政策に何兆円も歳出してイノベーションを止められるよりも、国民にとって2~3桁安上がりだからだ。
 さらに、政権与党である自民党は情報も人材も豊富な筈であるのに、自民党の機関誌は赤旗のような資金源にはなれていない。そのため、自民党は機関誌の内容を充実して販売代金を収入に充てればよいと思うし、有権者や後援会員などで集まりたい人がいる場合は、飲み食いや権力の誇示が主体のパーティーではなく、報告会や研修会を開いて集まった人の意見を吸い上げつつ、それなりの会費を徴収すれば良いと思う。

*4-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240420&ng=DGKKZO80164480Z10C24A4EA3000 (日経新聞 2024年4月20日) 政治資金報告、デジタルに、規正法改正、与党で調整 外部監査を導入
 自民、公明両党は自民党派閥の政治資金問題を受けた再発防止策として政治資金収支報告書のデジタル化や外部監査の導入を打ち出す方針だ。政治資金規正法の改正案に盛り込むことをめざし調整する。与党で案をまとめたうえで野党と内容を詰める。公明党は19日の政治改革本部で規正法改正案の要綱を決めた。自民党幹部は来週初めにも規正法改正に向けた独自案をまとめる方針を示した。同党は当初取りまとめに慎重な見方もあった。公明党の要綱は国会議員が関係する政治団体の収支報告書のオンライン提出を義務付けると定めた。政治資金の透明性向上へ外部監査や第三者機関の活用を明記した。収支報告書の虚偽記入があった場合の対応も記した。政治団体の代表者が会計責任者の選任や監督に関して「相当の注意」を怠ったときは50万円以下の罰金を科す内容も加えた。罰金刑を受けた議員は公民権が停止され、選挙に立候補できなくなる。いずれの措置も岸田文雄首相(自民党総裁)が主張する方向性と一致する。首相は規正法の改正に関して(1)議員本人を含めた罰則強化(2)収入を含めた外部監査の充実(3)デジタル化による透明性の向上――を軸に議論を進めるよう党内に指示している。自民党幹部は首相が示す方針は与党案でも打ち出すとの見通しを示す。公明党の案のうち首相が立場を明らかにしていない項目は擦り合わせが必要になる。公明党は今回の問題のきっかけとなった政治資金パーティーを巡り、パーティー券購入者の情報開示基準を現行の20万円超から5万円超に引き下げるよう求めた。自民党内は「特定政党とのつながりを明かしたくない人もいる」などと慎重論が根強い。政党から政党幹部ら政治家に支出する政策活動費について公明党は使途公開の義務付けを主張する。自民党は使途公開を含めて反対論があがっている。立憲民主党など野党は廃止を主張する。公明党は国会議員の関係政治団体から寄付を受けた「その他の政治団体」の資金に関する透明性の確保策も盛り込んだ。国会議員関係政治団体は原則、1件1万円超の経常経費と政治活動費を政治資金収支報告書に明細まで記載しなければならない。一方で資金管理団体など「その他の政治団体」は経常経費の記載は不要で、政治活動費も1件5万円以上と基準が緩い。立民は自民党の茂木敏充幹事長の国会議員関係政治団体から別の政治団体に2022年までの10年間でおよそ3億2000万円が寄付されたと国会で追及した。新藤義孝経済財政・再生相についても同様の資金移動があり、使途の大半がわからないとただした。公明党案はこうした批判に配慮し、国会議員関係政治団体から年間で一定以上の寄付を受けた政治団体は、国会議員関係政治団体と同等の公開基準とするように要求した。次期衆院選をにらみ、透明性のハードルをあげる実績づくりを狙う。自民党はいまだ独自案をつくっていない。公明案をどこまで受け入れるかが与党案のとりまとめに向けた調整のポイントとなる。公明党の山口那津男代表は16日の記者会見で、衆院3補欠選挙の投開票日の28日までに与党の基本的な考え方をまとめるのが望ましいとの認識を示した。与党内の調整が終われば野党との協議に入る見込みだ。立民などは政策活動費の廃止や企業・団体献金の禁止など自民党にとってさらに受け入れにくい案を取り入れるよう主張する可能性が高い。与党協議に時間がかかると、それだけ野党との話し合いに残された時間が少なくなる。与党の調整のスピードは首相が掲げる今国会中の規正法改正を左右する。

*4-1-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA2028W0Q4A420C2000000/ (日経新聞 2024年4月20日) 政治資金規正法改正、23日にも自民案 渡海政調会長
 自民党の渡海紀三朗政調会長は20日、政治資金規正法の今国会中の改正の実現を巡り「会期を延ばしてもいいと思う。徹底的にやるべきだ」と話した。党の兵庫県連との会合後に記者団に話した。規正法の自民党独自案については23日にも方向性を示すことになると言明した。自民案について「原則は透明性と説明責任をどう担保していくかだと思う」と言及した。会計責任者だけでなく政治家自身も処分可能にする「連座制」を例に挙げて、「公職選挙法の連座制と同じものは作れない」と述べた。「議論し国民に理解してもらい、現実の政治活動に支障がないようにやっていかないとならない」と説明した。28日投開票の衆院補欠選挙の情勢は「たいへん厳しいと聞いている」と語った。「今回の政治資金にまつわる一連の不祥事が選挙に反映されている」と分析した。

*4-2-1: https://digital.asahi.com/articles/ASS4L3GMGS4LULFA012M.html?iref=comtop_7_01 (朝日新聞 2024年4月18日) 減税の恩恵受けた企業はどこ? 政府は非開示、法人コードは毎年変更
 政策減税で毎年8兆円超の税収が減っているにもかかわらず、減収に見合った効果が得られているか検証する仕組みは整っていない。総務省は毎年秋、所管省庁が新設や期限の延長を求めている租税特別措置(租特)の効果を点検する。昨年は36項目のうち、19項目でこれまでの効果について、32項目で将来の効果について、それぞれ説明や分析が不十分だと指摘した。とりわけ昨年末に「延長」と「拡充」が決まった賃上げ減税は、過去の減税効果が示されていないなどとして、「分析・説明の内容が著しく不十分」だと厳しい評価がくだった。財務省も昨秋、有識者を交えて賃上げ減税の政策効果を検証したが、減税が賃上げに寄与しているかどうか、はっきりとは確認できなかった。こうした事態に、上村敏之・関西学院大教授(財政学)は、「減税の政策効果を検証するために必要なデータが開示されていないことが一番の問題だ」と指摘する。賃上げ減税の効果を検証するには、減税が適用されなかった企業よりも、適用された企業の方が賃上げをしていることを示さなければならない。だが、どの企業が減税の恩恵を受けているかの情報は非開示となっている。財務省が法律に基づき、租特の適用状況を毎年まとめている報告書には、項目ごとに上位10社の適用額だけは示されているが、アルファベットと6桁の数字で作る「法人コード」で表されるだけで、具体的な企業名はわからない。しかも法人コードは、守秘義務を理由に過去の実績から企業名が推測できないよう、毎年変えられている。ほかに開示されているのは、業種ごとや資本金の規模ごとにまとめた減税の適用件数や合計額にとどまる。22年度の自民党税制改正大綱では透明性を高めようと、減税を受ける大企業に対して賃上げ方針の公表を義務づけたが、具体的な賃上げ額や減税額の公表までは求めなかった。かつては、抜本的な見直しを検討した時期もあった。10年に法人税関連の租特について定めた透明化法を策定した民主党の鳩山政権は、報告書に企業の実名を記す方向で検討を進めていた。当時、財務副大臣を務めた峰崎直樹元参院議員によると、経済界や経済産業省からの強い反発にあい、党内の意見集約もできず断念したという。峰崎氏は「どの企業が減税の恩恵を受けているかわからなければ、成果が出ているかもわからず、国会の審議などで追及もできない」と話す。そこで朝日新聞が、研究開発減税の適用額上位10社について、有価証券報告書などの公表資料と照らし合わせて分析した。22年度の適用額トップ企業は、トヨタ自動車とみられることがわかった。その額は914億9925万円で、研究開発減税全体の1割強を占める。トヨタの法人コード「DI07300」は、賃上げ減税も80億5209万円で、2番目に多く優遇を受けていた。研究開発費に毎年1兆円規模を投じるトヨタは減税規模も他企業を大きく上回り、22年度までの10年間で連結ベースの減税額は累計9千億円を超える。トヨタは朝日新聞の取材に「研究開発税制は日本企業のイノベーションを加速し、競争力強化を後押しする、一つの有効な制度だ」とコメントした。しかし、トヨタ以外の上位10社を公表資料から特定することはできなかった。

*4-2-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1228542 (佐賀新聞 2024/4/18) ガソリン補助金 「賢い支援」に転換急げ
 ガソリン補助金の出口が見えない。4月末に期限を迎えるが、政府は7度目の延長を決めた。
だがガソリン、灯油の価格を抑えるために投じた補助金は6兆円を超えている。持続可能性や効率の面から疑問が生じるのは当然だろう。所得、地域、業種にかかわらず一律に支援する方式から早く転換すべきだ。原油高は続いているが、財政資金は無尽蔵ではない。低所得世帯や過疎地に支援対象を絞り込んでほしい。生活を支える補助金だからこそ、効率的で長続きする「賢い支援」に切り替えねばならない。ガソリンなどの燃油価格を抑えるため、補助金が導入されたのが2022年1月のことだ。原油の国際市況が値上がりしたためで3月末までの時限措置のはずだった。しかし2月にロシアのウクライナ侵攻が始まり、資源価格は一層高騰した。ロシアのエネルギー資源を利用できなくなり、原油や天然ガスは中東、米国、オーストラリアなどからの調達に変更してきたが、円安や中東情勢の悪化の影響もあり、原油価格は依然高い。補助金は石油元売りに渡し、店頭の値段を一定水準に抑える仕組みだ。最近のガソリンの小売価格は175円程度だが、補助金がなければ200円近くになるという。生活に直結する補助金は導入よりも打ち切るタイミングが難しい。消費者にとっては負担増になってしまうからだ。縮小や廃止のタイミングをあらかじめ検討しておくべきだという意見は、導入前から政府内にもくすぶっていた。だが政府はいたずらに期限延長を繰り返してきた。ガソリン補助金は特定の業種や所得層に対象を限らない支援だけに影響も大きい。内閣支持率や選挙をめぐる思惑が働いたのだろうか。運送業の大半は中小企業であり、公共交通機関が少ない地域では家庭も車に頼らざるを得ない。ガソリン補助金は暮らしを支えてきた面がある。政府は5月の使用分を最後に、電気・ガス代への補助金を打ち切る。液化天然ガス(LNG)などの価格が落ち着いたためだという。ガソリン補助金も縮小や廃止の方向をできるだけ早く決め、車のユーザーや家庭に周知してほしい。見直しの基本は補助金の支援対象を農漁業や物流・運輸などに限定することだ。車に頼らざるを得ない地域と、交通網が張り巡らされた都市部で差があるのも当然だろう。灯油は寒冷地への支援に絞ったらどうか。零細企業や低所得層への配慮は欠かせないが、高級車に乗る富裕層には不要だ。業種の選定や所得による絞り込みの仕組みをつくるのに時間がかかるなら、一律支援の目安となるガソリン価格の水準を引き上げる移行措置を考えてほしい。補助金の規模を圧縮できるはずだ。補助金を漫然と続ければ、省エネやエコカーへの乗り換えに弾みがつかず、結果的に化石燃料への依存が続く負の効果を生みかねない。直接の恩恵が車のユーザーに限られる補助金を見直し、省エネや脱炭素を加速させる政策に財源を振り向けるべきではないか。エネルギー分野以外にも子育て、教育、奨学金など政府の手助けが必要な分野は多い。ガソリンの巨額補助金の見直しは、財政資金の公平で有効な使い道を考えることにほかならない。

*4-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240416&ng=DGKKZO80041660V10C24A4EP0000 (日経新聞 2024.4.16) 佐賀・玄海町の核ごみ調査、地元団体が受け入れ請願
 原子力発電所から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定に向けた文献調査を巡り、佐賀県玄海町の飲食・宿泊などの3団体が調査の受け入れを求める請願を町議会に提出した。町によると、原発立地自治体で文献調査に関する請願が出されたのは初めてという。
町議会は今後、原子力対策特別委員会で請願を審議する予定で17日に同特別委を開く。請願を提出したのは玄海町の旅館組合と飲食業組合、防災対策協議会の3団体で、4日付で受け付けた。脇山伸太郎町長は「重く受け止めている。まずは議会での議論を見守りたい」とのコメントを発表した。

*4-2-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1229932 (佐賀新聞 2024/4/20) 核のごみ最終処分場選定調査 原発立地自治体の責務か
 九州電力玄海原子力発電所が立地する東松浦郡玄海町で、地元3団体が高レベル放射性廃棄物(核のごみ)最終処分場選定に関する文献調査の受け入れを求める請願書を町議会に提出した。難問である核のごみ処分について議論をする上で「一石を投じた」意義は否定しないが、一部の請願書の「原発立地自治体の責務」という表現には強い違和感を覚える。過疎地がさらなる核のリスクを自ら背負う義務があるとは言い難い。核のごみは強い放射線を出し続けるため、国は地下300メートルより深い岩盤に埋める地層処分の最終処分場を国内1カ所に造る計画で、場所の選定を進めている。現在、北海道の寿都町(すっつちょう)と神恵内村(かもえないむら)の2町村が第1段階の文献調査に応じて作業が進み、今年2月、次の段階となる概要調査に進むことが可能とする報告書案が公表された。長崎県の対馬市議会は昨年9月、調査受け入れ促進の請願を採択したが、市長は反対し、応募しなかった。今回、玄海町議会で文献調査受け入れを求めた請願の審議は、原発立地自治体では初めてとなる。町議10人のうち過半数が賛同する見通しで、全議員で構成する25日の特別委員会、26日の本会議で採択される公算が大きい。これを受けて脇山伸太郎町長がどう判断するかが焦点となる。請願書は町の旅館組合、飲食業組合、建設業者でつくる防災対策協議会が個別に提出した。東日本大震災を経て、老朽化した玄海原発4基のうち1、2号機が廃炉となり、原発関連の作業員が減って需要が大幅に減り、コロナ禍も重なって経済的打撃を受けている現状を訴えている。長年、原発産業に依存してきた町は福島第1原発事故後、「脱原発依存」に官民さまざまに取り組んできた。原発関連施設の固定資産税収入などもあり、県内で唯一、国から地方交付税の配分を受けていない不交付団体で、町の財政は比較的安定している。文献調査を受け入れた場合、国から最大20億円が交付される。再び「原発マネー」による経済活性化の方策へと進むのが、長期的に見て地域のためになるのか。原発によらないまちづくりの障壁が何であるかはいま一度検証し、深い議論を望みたい。玄海町をはじめ、隣接する唐津市も日常的にリスクに向き合っている。原発による電力を生み出し、使用済み核燃料からの「核のごみ」を排出する責任を問われるなら、電力の大消費地である都市部にも受益者として責任の一端はあろう。立地自治体が原発の全てのリスクを背負う義務はなく、これ以上の負担を負わせるべきではないと考える。最終処分場の選定に関し、山口祥義知事は従来、玄海原発などエネルギー政策で「佐賀県は相当の役割を果たしている」と指摘し、「新たな負担を受け入れるつもりはない」と主張、県内での建設に反対の立場を示してきた。今回も同様の考えを表明している。原発に対する賛否を超えて、知事の考え方は一定支持を得られるのではないか。核のごみの放射能レベルは時間とともに減少するものの、数万年から10万年は生活環境から隔離する必要があるといわれている。当該世代はもちろん、人類として予測が難しい時間軸である。文献調査受け入れが最終処分場候補地決定とすぐになるわけではない。地震が頻発する日本列島でもある。今回の一石を重く受け止め、長期的に向き合わざるを得ない原発のありようをあらためて考える機会にもしたい。

| 財政 | 02:37 PM | comments (x) | trackback (x) |

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