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2014,04,30, Wednesday
キャリア・ウーマン 銀行員 一級建築士 警察官 (1)本物の先駆者は誰か 1)男女雇用機会均等法に関する記述の間違い *1には、男女雇用機会均等法の説明として、「1986年の施行で、企業に対して募集や採用、昇進などで性別を理由に差別することを禁じた。妊娠や出産により女性を降格したり、不当な配置換えをしたりすることも禁じている。職場に残る男女間の格差をなくすため、政府に対しても、企業が女性の登用を増やすことを後押しするよう求めている」と書かれている。 しかし、この中には、事実を報道すべき新聞にあってはならない故意の間違いが2箇所ある。故意だと考える理由は、改正の経緯はちょっと調べればわかる筈で、この間違いにより男女平等を推し進めたのが実際には反対していた人たちであったかのような誤解を与えているからである。最近のメディアは、研究者のデータ改ざんがあったとして、世紀の発見をした研究論文のあら探しをして些細なことで研究者に謝罪させて喜んでいるが、最も大きな罪は内容で嘘を書き、国民をミスリードすることだ。そのため、朝日新聞は、データ改ざんよりも重要な意図的な内容の間違いについて、真摯に謝罪すべきである。 その間違いは、「http://wol.nikkeibp.co.jp/article/column/20091207/105154/」に書かれているように、1)1986年に施行された男女雇用機会均等法は、周囲の抵抗が強くて性別を理由に差別することを禁じることができず、努力義務になったこと 2)禁止規定になった改正男女雇用機会均等法は、1997年に成立して1999年4月1日から施行された ということだ。 そして、その最初の男女雇用機会均等法を作ったのは、東大が女性の入学を許した最初の頃に東大法学部に入学して卒業し、厚生労働省の婦人少年局長(後に文部科学大臣)をした赤松良子さんであり、男女雇用機会均等法をまとめるのには苦労したと聞いている。また、1997年の改正は、私が、当時の通商産業省・経済企画庁を通して行ったもので、この時は、「日本経済のためにも女性の登用は不可欠」という切り口で進めたため、赤松良子さんが、「最初に比べれば、とても信じられなかった」と言われたほど、すんなり通った。私は、公認会計士として多くの機会をもらって真剣勝負で働いていたが、同時に社会のジェンダーによるやりにくさも感じていたため、男女雇用機会均等法の改正を進めたのだ。 なお、*1には、「安倍政権も女性の登用を促している」と書かれているが、安倍首相に最初に各国の調査資料を添付して手紙を送り、女性の登用を促してもらっているのも私だ。 2)すでに存在する制度の中で頑張っただけの人を先駆者とは言わないだろう *1のように、「大手の銀行や証券会社で、この春、女性役員が相次いで生まれている」というのは結構なことだが、これを「均等法第1世代が先駆者」と言うのは言いすぎだろう。何故なら、まだ努力義務だったとはいえ、1986年に男女雇用機会均等法が施行され、「男女の機会均等があるべき姿だ」と法律で定められた中では、働く女性に対してあからさまな差別はなかったからである。もちろん、巧妙に行われる差別はそれ以後もずっとあるが、「先駆者」という言葉は、男女雇用機会均等法を作った赤松良子さんや、与謝野晶子、市川房江などのように、すこぶる先進的な発想で道なきところに道をつけ、後世のためになった人に使うべきである。 *1には、旧住友銀行の工藤禎子さんのことも記載されている。日本の銀行は1986年以降も女性の登用に消極的で女性管理職はおらず、ケミカルバンク(1986年頃、私はプライス・ウォーターハウスでここの監査を担当していた)の女性管理職が、取引先である日本の銀行に電話をすると、「上の人を出せ(女の子の相手はしないという意味)」と言われるので、「うちは、どこまで行っても女です」と返したことが語り草になっていたくらいである。つまり、せっかく女性を登用する会社があっても、取引相手の理解がないとやりにくいのであり、金融機関が今頃やっと最初の女性役員を出しているようでは、銀行の女性経営者に対する融資に偏見があることは推して知るべしだ。 (2)女性上司に対する部下のあるべき態度 *1に、「課長に昇進した年、男性中心の職場で部下への接し方に悩むこともあった」等々が書かれているが、私の場合は、悩むことなく男性上司と同じ行動をした。その時の男性部下の苦情には、「お母さんみたいにやさしくない」「威張っていて女らしくないから嫌い」というものがあった。 しかし、部下の方が、男性上司には望まない「やさしさ」や「細かい気配り」や「謙虚さ」を女性上司に求めるべきではない。何故なら、女性上司にはこれらを求め、男性上司には「厳しさ」や「決断力」や「リーダーシップ」を求めるのはジェンダーそのものであり、女性を上司としてやりにくくするからである。 (3)日本が1%台の理由 1)省庁、建設、警察では、2015年から本格的に取組み 1986年に最初の男女雇用機会均等法が施行されたにもかかわらず、*2のように、首相官邸は2015年度採用で、キャリア組と呼ばれる総合職の事務系の女性比率を30%以上とする目標を各省に指示したそうだ。30%は、採用者の割合であり、管理職の割合ではない。 また、*3のように、建設業に占める女性の割合は約3%で、国土交通省と日本建設業連合会など業界5団体が、人手不足が深刻な建設業で女性が就労しやすい環境を整備していくことで一致したそうだ。しかし、ビル・住宅の設計や街づくりは、女性の感性を生かせば、もっと環境によくて住みやすく、無駄のないものができたはずであり、一級建築士の女性も多いにもかかわらず、今までその能力が活かされなかったのは残念だ。 さらに、*4のように、警察庁では、安倍政権の掛け声で、今年度からキャリア官僚の採用は3割が女性となるが、管理職は昨年1月で女性が3%もいない。「被害者が女性のときは、同じ女性のほうが心情を理解しやすいこともあるし、相手も心を開いてくれるかもしれません」と書かれているが、容疑者が女性の場合も、現在の警察の事件に関するストーリーがステレオタイプで稚拙なのは、捜査官に女性が多ければ変わると思う。 (4)何故、日本の主な企業の役員に占める女性の割合は1%台なのか *1には、「日本の主な企業の役員のうち女性が占める割合は1%台にとどまる。女性総合職の採用がまだ少ないからだ」としか記載されていないが、正確には、1986年(今から30年くらい前)に、男女雇用機会均等法が施行されたにもかかわらず、官庁を始めとする日本企業が、女性を採用、教育、配置、昇進で差別して、戦力としないための工夫をしてきたからである。そのため、採用が少なかっただけでなく、その女性を採用した後も、女性が働き続けて管理職となるのに適した環境を与えなかったが、決して候補者が少なかったわけではないのだ。そして、これが、女子差別撤廃条約締結以来、まともな努力をした諸外国との差となっているわけである。 (4)では、差別したがるのは誰だったのか *5で、東京大学教授 大湾秀雄氏が、女性の活躍に向けた大きな障害で、女性の管理職が少ないことに繋がる理由として、単なる長時間労働ではなく、「遅い昇進」と「ラットレース均衡」を挙げているのは、本当に管理職候補者である女性を知って言っていると思う。 私のケースでは、東大卒の夫や東大関係者、公認会計士関係で私を知っている人などは、女性である私の実力を評価して協力してくれたが、何としても自分の方が優位に立ちたいが自分の方が劣っていると考えている人が、差別という卑怯な手を使ってそれをやり遂げようとしたという経験がある。 *1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11108361.html?ref=nmail (朝日新聞 2014年4月28日) 女性役員、先駆者たちは 金融大手、均等法「第1世代」を登用 大手の銀行や証券会社でこの春、女性役員が相次いで生まれている。男女雇用機会均等法の「第1 世代」が実績をつみ、社員を束ねる力が認められてきたからだ。安倍政権も女性の登用を促しているが、海外と比べると、企業で活躍する管理職の女性はまだ少ない。 ■適応力に評価/専門分野切り開く 厳しいノルマを課され、転職する人が多かった証券界で、真保(しんぽ)智絵さん(48)は最大手の野村証券で25年働き、この4月からグループ子会社の野村信託銀行の社長に就いた。国内の銀行では初めての女性トップだ。真保さんは1989年、雇用機会均等法の施行4年目に入社した。日々の仕事を補助する「一般職」ではなく、将来の幹部候補とされる「総合職」での採用だった。証券市場はバブル最盛期の活況で、連日長時間の残業が当たり前だった。「結果を残さないといけないと、肩ひじ張って仕事をしていた」という。課長に昇進した01年、男性中心の職場で部下への接し方に悩むこともあった。だが、同僚との話し合いを重ねて仕事をこなすうちに「女だから、ということは考えなくなった」。05年には社長秘書に昇格し、グループ全体の経営を見渡す仕事にたずさわった。社内では「どの部門でも結果を残す適応力の高さは抜群」と評価される。部下への細やかな気配りもできるとして、432人を抱える野村信託銀のトップに抜擢(ばってき)された。この春、大手金融機関でトップや役員に登用された女性4人は、均等法ができた直後に入った「第1世代」だ。入社当時は、受け入れ側もまだ試行錯誤だった。旧住友銀行(現三井住友銀行)に女性総合職の1期生として入った工藤禎子(ていこ)さん(49)は、目標にできる女性行員の先輩がいなかったため、どうやって仕事を続けていけばいいか不安だった。そこで、だれにも負けない専門分野をつくろうと考えた。海外の大型事業などに貸す「プロジェクトファイナンス」(事業融資)を担当したとき、「専門性が高いこの分野が、自分の居場所だ」と道が開けた。今年4月、同期入行のトップで執行役員になったのも、銀行の成長を引っ張る注目事業として専門分野が認められ、「第一人者」としての力量を期待されたからだ。みずほ銀行の有馬充美さん(51)は、子育てをしながらM&A(企業の合併・買収)事業で専門性を磨き、生え抜きでは初の執行役員になった。経験を生かし、「女性が働きやすい職場になるようにしたい」。 ■日本、わずか1%台 だが、日本の主な企業の役員のうち女性が占める割合は1%台にとどまる。女性総合職の採用がまだ少ないからだ。長時間労働が当たり前になっているため、育児を担うことが多い出産後の女性が離職せざるをえなかったり、責任のある仕事をまかせてもらえなかったりすることも背景にある。野村信託銀の真保さんは、これまで職場では旧姓の鳥海(とりうみ)の名で通してきた。だが、社長になると会社登記の際には旧姓を使えなかったという。女性の昇進には、こうした制度上の問題もある。安倍政権は昨年6月、成長戦略の柱の一つに「女性の活躍」を据え、2020年までに管理職などに就く女性の割合を3割にする目標を掲げた。まずは上場企業すべてに女性役員を最低1人置くよう求めている。金融界で女性役員が相次いだのはこれも影響している。女性の職場環境に詳しい関西学院大学経営戦略研究科の大内章子准教授は「育児をしながら働く女性の仕事を適正に評価する体制づくりが急務だ」という。 ■ノルウェー、4割超える 割り当て制、義務化で成果 女性役員の比率が世界トップクラスのノルウェーは、出産後も仕事を続けられる仕組みが整っている。 オスロ郊外の広告会社のオフィス。夕方4時になると社員が一斉に帰路につく。市場分析部門長を務めるビョルグ・カリ・パウルセンさん(41)も同じ時間に毎日仕事を終え、小学校と保育園へ2人の男の子を迎えに行く。「男性も女性も管理職も午後4時に帰るのが普通」とパウルセンさんは言う。残業を極力なくすよう政府が促し、子育てと両立できるようになっている。ノルウェーでも、10年ほど前までは女性役員の比率が8%台にとどまっていた。そこで2004年、上場企業で取締役会に出る役員の4割以上を女性にする「クオータ(割り当て)制」を世界で初めて導入した。06年には法律で義務づけ、女性役員の比率は直近の国内調査では40%を超えている。ノルウェーのように具体的な女性役員の比率を企業に割り当てる制度は、フランスやオランダ、スペイン、イタリアなどにも広がっている。情報公開を通じ、女性の登用を促す国もある。豪州では12年から上場企業に、従業員や役員の女性の割合や男女別の賃金を報告するよう義務づけた。日本と同じく登用が遅れている韓国でも、実態を政府に報告させ、女性登用率が大幅に低い企業には改善を促す仕組みがある。日本でクオータ制の議論は本格化していない。女性管理職の比率や目標について企業に公表を義務づけるよう求める声は与党などから出ている。 ◆キーワード <男女雇用機会均等法> 1986年の施行で、企業に対して募集や採用、昇進などで性別を理由に差別することを禁じた。妊娠や出産により女性を降格したり、不当な配置換えをしたりすることも禁じている。職場に残る男女間の格差をなくすため、政府に対しても、企業が女性の登用を増やすことを後押しするよう求めている。 *2:http://www.nikkei.com/paper/article/?ng=DGKDZO70346220U4A420C1KE8000 (日経新聞 2014.4.25)公務員制度改革を読む 「女性の活躍」阻む官の事情 国会改革も不可欠 改革と並行して議論が本格化しているのが、安倍晋三首相が旗を振る「女性の活躍」をお膝元の官でどう推進するかだ。首相官邸は2015年度採用で、キャリア組と呼ばれる総合職の事務系の女性比率を30%以上とする目標を各省に指示した。「男社会」の印象が強い財務省もこの4月、22人中で女性を過去最多の5人入省させている。女性がキャリアと家庭・子育ての両立を目指せる職場環境の見直し論議も各省で始まっている。文部科学、国土交通、厚生労働各省に続き、他省でも保育所新設の検討が進む。入省年次で横並びにしがちな人事も出産・育児期を考慮に入れ、柔軟なキャリアパスを用意する役所も出てきた。未明でも明かりが消えない霞が関の「不夜城」。深夜、休日も問わない長時間労働が常態化してきたことも「女性の活躍」の壁の一つだ。厚労省出身の中野雅至神戸学院大教授は「予算編成、法令審査、国会待機が構造的な三悪」と指摘する。予算編成は秋から年末に実務が集中する。査定する財務省は、時間外や休日は各省からの説明聴取を控える原則を申し合わせ、改善に努める。だが官だけで変えられないのが国会議員の質問に答弁書を用意するための夜間待機だ。議員は前日夕までの審議を見てから質問を通告するのが実態で、各省の作業が深夜にずれ込む。佐々木毅東大名誉教授らは「質問通告は2開庁日以前とする原則の徹底」などの国会改革を提言。自民党は23日、通告期限を前々日の午後6時とする新ルールを決めた。 *3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140425&ng=DGKDASDF24017_U4A420C1EE8000 (日経新聞 2014.4.25) 女性の建設就労倍増へ 国交省と業界、夏メドに行動計画 国土交通省と日本建設業連合会など業界5団体が24日に会合を開き、人手不足が深刻な建設業で女性が就労しやすい環境を整備していくことで一致した。女性の技術者や技能労働者を5年以内に現状の2倍にあたる約18万人へ増やすのが目標で、夏ごろに行動計画を取りまとめる。太田昭宏国土交通相は会合で「女性の感性が生かせる造園だけでなく、土木など多くの業種で活躍してほしい」と述べた。計画には建設現場の女性用トイレの設置や、研修の充実などが盛り込まれる見通し。建設業に占める女性の割合は約3%で、製造業(約30%)など他産業に見劣りしている。 *4:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11082966.html (朝日新聞 2014年4月13日) (政治断簡)「女には向かない職業」…ホント? 政治部次長・秋山訓子 岩手県警本部長の田中俊恵さんが26年前、大学4年生だったときのことだ。国家公務員を志し官庁訪問をしていたら、ある女性官僚からこう言われた。「女性は男性以上に頑張らなくては駄目ですね」。それを聞き、田中さんはあえて、それまで男性しか採っていなかった警察庁を訪問する。「そのほうが逆にやりやすいかなと思って」。警察庁の女性キャリア第1号となり、滋賀県警防犯少年課長、埼玉県警捜査第2課長を務めて事件捜査の指揮も執った。そして、今の立場になった。 * 安倍政権の掛け声で、今年度からキャリア官僚で採用の3割が女性となる。とはいえ幹部になった女性はまだ少なく、昨年1月で管理職のうち女性は3%もいない。警察庁、そして防衛省は女性管理職が少ない代表的な省庁だ。事件捜査や災害対応といったハードな現場を最前線で担っているせいか、女性を採用し始めた歴史も浅い。霞が関は別にして、そもそもそういう現場は、女性にはふさわしくないと思われているのだろうか。英国の推理小説家P・D・ジェイムズのロングセラーに「女には向かない職業」がある。探偵事務所に勤めるコーデリアという女性が主人公。あちこちで「探偵は女には向かない」と言われ、困難にぶつかりながらも事件に取り組む物語だ。捜査は女性に向いていないのか。田中さんは言う。「被害者が女性のときは、同じ女性のほうが心情を理解しやすいこともあるし、相手も心を開いてくれるかもしれません。でも最終的には男女という問題ではないと思います」。防衛省でも今年初めて生え抜きの女性キャリアの課長職が誕生した。広瀬律子さん。自衛隊の最前線で活動することはないが、自衛隊員の規律の維持や表彰などの仕事をする。「東日本大震災では自衛隊が注目されましたが、女性自衛官が現地に行くと、被災者の女性も安心して話してくれますし、きめ細かい支援が可能になります」と言う。 * 男性に向いていることも、女性に向いていることもあれば、男女関係ないことだってある。女性が無理して男性のように、それ以上に頑張らないといけないのも変だ。でも、私たちは気づかないうちに、自分たちで勝手に設けた前提条件で物事を考えていないだろうか。これは男性向きとか女性向きとか。男女の問題に限らないが、立ち止まって考えてみれば、前提が間違っていることも結構あるのではないか。一線の捜査も、官僚組織を統率することも。田中さんに、仕事を辞めたいと思ったことはありますか?と尋ねると、「一回もありません」と明快だ。いま、警察庁を志しながらも、性差を気にする女子学生に相談されると、躊躇(ちゅうちょ)なくこう答えるそうだ。「大丈夫。女性でもまったく問題ありません」。もちろん、小説のコーデリアも最後には見事、事件を解決する。 *5:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140424&ng=DGKDZO70291530T20C14A4KE8000 (日経新聞 2014.4.24) 良い組織・良い人事(8) 女性の昇進を阻む制度 東京大学教授 大湾秀雄 安倍晋三政権は成長戦略の中で女性の活躍支援をうたい、指導的地位に占める女性の割合を2020年までに30%程度とする政府目標を掲げています。目標達成に向けた大きな障害は何でしょうか。日本の「遅い昇進」と、必要以上に長時間労働するという意味のラットレース(ネズミの競走)均衡は、女性の管理職が少ないことにもつながります。昇進してから出産・育児を経験できれば、高い給料で保育園やベビーシッターを確保できます。会社もせっかく投資した優秀な社員の離職を防ぐ努力をするため、出産からの職場復帰が比較的スムーズとなり、キャリアと家庭の二者択一を迫られることもないでしょう。しかし現状は「遅い昇進」制度の下、多くの女性が管理職に上がる前に出産・育児を経験します。管理職昇進のために要求される長時間労働をすることは難しく、女性は昇進競争からの離脱を余儀なくされます。ラットレース均衡が社会全体で生じると、女性が家庭内労働に専業し、夫は会社に尽くすという家庭内分業を個々の夫婦の判断としては合理的なものにします。総務省の社会生活基本調査によると、子供のいる共働き家庭で1日のうち、妻が家事・育児に費やす時間は5時間弱なのに対し、夫は40分弱にすぎません。こうした家庭内分業が社会的な規範になると、女性に家庭内労働の負担が重くのしかかるため、男性のように長時間労働することは不可能となり、ビジネスの世界で女性が排除されてしまいます。実際、企業の中のどういう部署で女性が管理職に昇進しているか見ていくと、他部署との調整が少ない専門職が多いようです。しかし、経営陣に参加するためには、幅広い職務経験が有利であることを過去の研究が示しています。専門職で課長まで昇進する女性を増やせても、役員にまで多くの女性が進めるようにするためには、現在の均衡を変える必要があるのかもしれません。 PS(2014.5.3追加):*6のように、黒人がサルに似ているとして侮辱をこめてバナナの皮を投げ込んだ観客を批判せず、それを拾って皮をむき一口ほおばってこともなげに競技を続けた選手を褒める日本のメディアがあるが、その思慮の浅さには眉をひそめざるを得ない。観客を相手にして、サッカー選手ができる抗議行動はそれ以外になかったのだろうが、日本女性の場合も、差別されたことを抗議すると、それを「大人気ない」と言う日本人がおり、本末転倒である。 「差別」は、された側が抗議しなければ決してなくならないものであるため、抗議することは重要なのだ。日本の男性が「差別される側の気持ち」を理解しないのは、国内では差別する側として心地よくやっているからだと思うので、ここでわかりやすい例を出して説明しよう。★あなたは、侮蔑をこめて「JAP」と呼ばれたら、「はいはい、そのとおりです。みんなそうです。」と皆で言ってへらへら笑い、そうするのがよいことだと思っているのか?★ 大人なら、自分がその立場になったらどう思うかを考えればすぐにわからなければならないし、わからず屋が多い場合は、自由と平等の敵を法律で定めなければならないだろう。 *6:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11116824.html?ref=pcviewpage (朝日新聞 2014年5月3日) (天声人語)広がる「バナナの輪」 「バナナの輪」が世界に広がっている。先月末、サッカー・スペインリーグの試合で、観客がブラジル人選手に向けてバナナを投げ込んだ。サル扱いを意味する侮辱であり、人種差別である▼当の選手はこともなげに拾って皮をむき、一口ほおばって競技を続けた。そのクールな態度が称賛を呼んだ。ブラジルのスター、ネイマール選手はバナナを手にした自分の画像をネットに掲げ、「俺たちは皆サルだ」と書いて抗議の意思を示した▼元日本代表監督のジーコさんやインテル・ミラノの長友佑都選手も輪に加わった。誰に指図されたのでもないだろう。差別反対を訴えるうねりの、あっという間の広がり方は爽快ですらある。この世界にはまだ希望があると感じさせる▼最近の我が世相を顧みる。サッカー競技場に「日本人のみ」の横断幕が出現した。四国の遍路道でも外国人排斥の貼り紙が現れた。ヘイトスピーチの当事者は、憲法が保障する表現の自由を盾に正当性を主張する▼もとより差別は自由を奪う。例えばナチスの記憶を受け継ぐドイツは、自由の敵には自由を与えない。ヘイトスピーチは法で罰せられる。不寛容を許さない姿勢は「たたかう民主制」と呼ばれる▼ただ、そこには、誰が敵かを権力が恣意的に決める危険性も潜む。だから、日本国憲法は自由の敵を初めから排除はしていない。この場合、敵にまず立ち向かわなければならないのは社会であり、個々人ということになる。そう、あのバナナの輪のように。
| 男女平等::2013.12~2014.6 | 03:02 PM | comments (x) | trackback (x) |
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