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2014.6.9 規制改革会議の農協改革案の妥当性について
   
  2014.6.7農業新聞より              2014.6.9日経新聞より

(1)“改革”の目的は何で、手段は目的を達成するために有意義か否かを検証すべきだ
 *1-1により、農協改革の主な論点は、1)中央会制度の廃止 2)全農の株式会社化 3)准組合員の利用規制になったそうだが、“改革”の目的を明確にしている記事は少ない。

 しかし、*6-1で、日経新聞が「①兼業脱却」「②小規模兼業農家の影響の排除」「③一人一票制という農協の意思決定の仕組み打破」「④組合員農家のほとんどは兼業のコメ農家」「⑤成長する農業法人は、規模は大きくても兼業と比べると数が少なく、農協の方針を左右するのは難しい」「⑥いまの制度では、JA全農が非農協系の農業法人の農産物を中心に売れば是正の対象になるが、株式会社になれば、JA全農は事業の拡大を目指し、有力な農業法人と本格的に組むことが可能になる」「⑦農村票の力で政治を揺さぶってきたJA全中の廃止は、兼業農家の政策への影響を弱めることにつながる」として、本音らしき目的を述べている。

 それによれば、この“改革”の目的は、①②③のように、小規模農家が相互扶助するための組合制度を否定して小規模農家の排除を奨めており、その前提には、古くて誤った認識がある。例えば、夫が別の職業に就くと兼業農家(=農業に熱心でない農家)として、妻がよい農業経営をしている農家は無視する。また、④の「組合員農家の殆どは兼業のコメ農家」というのは、転作が進んでいる現在、一部の地域を除いて誤っている。さらに、農村は、大規模農家だけでなく、小規模農家もあって初めて成り立つ。

 その上、⑤のような成長する農業法人や、⑥のような非農協系の農業法人は、商社や大規模小売店、大規模製造業などと直接取引する機会があり、JA全農と取引しなくても有利な販売先を見つけることができるため、既にそうしているところが多い。つまり、小規模農家こそ、まとまって産地でブランドを作ったり、販売先や販売方法を得るために農協が必要なのだ。また、⑦の「JA全中は農村票の力で政治を揺さぶってきた」というが、これは、労働組合と同じく適法であり、民間組織がどの政党(もしくは誰)を応援しようと、政府から苦情を言われる筋合いはない。

 そして、*6-1で、「今回の農協改革はこうした構図を変える一歩となりえ、規制改革会議の提案は、こうしたJA全中の役割を縮小し、シンクタンクのような組織にすることを狙っていた」というのは、目的と手段が間違っており、大規模法人の利益のために組合を潰すというのだから、それは違法行為である。

(2)中央会制度の廃止について
 *1-1に、規制改革会議が農協法に基づく中央会制度の廃止を提案したことについて、①2011年の東日本大震災で被災した複数の組合長が、農業やJAの復興に都道府県中央会や全中などが貢献したことを報告し、単位JAや県域をまたぐ問題が発生した場合の役割は大きい ②中央会は監査で検出した問題をJAバンクと共有して経営改善指導を行うことでJAの経営破綻の未然防止に寄与している ③全中が廃止されれば「監査」と「経営指導」の両輪が機能せず、指導の実効性が失われる ④全国監査機構の監査から公認会計士監査になればJAのコストも増える可能性が高い などと書かれている。

 私は、①の主張はもっともだが、これは農協法に基づかなくても、農協組織の内部規則で決めればよいことで、完全な自主組織になった方が、政治に翻弄されずに自由にやれるメリットがあると考える。また、*1-2では、「実質的なJAグループの解体につながりかねない」としているが、それは、JAの組合長や会長が会議を開き、自主組織になっても司令塔機能を持つ中央会制度をいただくことを、団結して決議すればよいことである。

 但し、監査については、監査の専門家から見て、全国監査機構を通じて中央会が行う監査は、内部監査であって独立性のある外部監査とは言えず、出資している組合員数や資産・負債の額から考えて公認会計士の外部監査も必要であり、長くは書かないが、これはコストが増えるよりもメリットの方が大きい。

(3)全農の株式会社化について
 *6-1によれば、規制改革会議は、大規模農業法人の利益に資するために全農の株式会社化を提案しているが、そうなると小規模農業者が組合を通じて地域として闘うことができなくなるため、私は全農の株式会社化には反対である。そして、*3-2、*3-3に書かれているように、現在の農業の実態を踏まえず、協同組合の意味も目的も知らず、改革を行うのに株式会社化しか思いつかないような人は、”有識者”と名乗っても、改革を提言する資格はない。

 しかし、全農が協同組合であっても、独占禁止法の適用除外はなくすべきだ。なぜなら、その方が組合員である農業者も、販売・購買ルートを自由に選択でき、組合で共同販売や共同購入をしたければそうするし、他の取引先の方が有利な条件を提示する場合はそちらを選択して、市場経済による切磋琢磨ができるからである。それでも、農協と包括取引した方がよいと判断する農業者は、農協と取引する筈だ。

(4)准組合員の事業利用制限について
 *1-1のように、規制改革会議は、「准組合員の事業利用は、正組合員の事業利用の2分の1を超えてはならない」と提案したそうだが、そういうことは、それぞれの組織が決めることであり、准組合員にも支えられているJAにとって、規制改革会議の根拠なき提案は営業妨害でしかない。

 また、*4-1、*4-2、*4-3の活動を見ればわかるように、「ただ安いものを買えばよい」とか「その時、儲かればよい」と考えている人たちと異なり、農業・漁業地帯は、安全で高品質な食品を生産するために協同組合を核として地域全体で意識を高め、農協の準会員になっている人も多いため、農協の崩壊は地域社会にもよくない。

参考資料:
<農協制度見直し全般に関する記事>
*1-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28141
(日本農業新聞 2014/6/7) 農協制度見直し 課題を追う
 政府・与党で調整が続く農業改革に関する議論。政府の規制改革会議が示した農協制度の見直しで焦点となっている中央会制度の廃止、全農の株式会社化、准組合員の利用規制についてあらためて整理した。
●指導と監査の役割重要視を
<中央会制度>
 規制改革会議は農協法に基づく中央会制度の廃止を提案した。こうした指摘に対し、2日に開かれた全JA組合長・会長緊急会議で、2011年の東日本大震災で被災した複数の組合長は、農業やJAの復興に都道府県中央会や全中などが貢献したことを報告した。単位JAや県域をまたぐ問題が発生した場合の役割は大きいということだ。また、中央会は監査で検出した問題をJAバンクと共有、経営改善指導を行うことでJAの経営破綻の未然防止に寄与している。全中が廃止されれば「監査」と「経営指導」の両輪が機能せず、指導の実効性が失われることになる。全国監査機構の監査から公認会計士監査になればJAのコストも増える可能性が高い。2007年に当時の若林正俊農相は参院農林水産委員会で「中央会における農協指導と監査は車の両輪となって有効に機能している」と答弁している。
●不採算部門の切り捨て懸念
<全農の株式会社化>
 「農業者の利益増進に資する観点から」、規制改革会議は全農の株式会社化を提案した。その目的とは裏腹に生産現場には、農業者の所得減少につながるのではないか、という危機意識が広がっている。協同組合でなくなることで、独占禁止法の適用除外がなくなるからだ。農業者のリスクを分散する共同販売、資材のコスト低減のための共同購入ができなくなる。利益だけを追い求めることになれば、不採算部門の切り捨てなどを迫られ、離島や山間部でサービスの低下を招くことになる。また、税制上の軽減措置がなくなることで、組合員や組合の負担が大きくなるといった不利益もある。
●条件不利地のライフライン
<准組合員>
 組合員の在り方について規制改革会議は「准組合員の事業利用は、正組合員の事業利用の2分の1を超えてはならない」と提案した。准組合員数が正組合員数を上回ったことは事実だが、北海道のような農業地帯では構造改革の結果、1戸当たりの経営規模が拡大することに伴い正組合員が減って准組合員比率が高まっているという側面がある。こうした地域や、人口減少によって民間企業が撤退する地域でJAは、ライフラインを担っている。実態を無視して准組合員の利用を制限すれば農業者の営農・生活だけでなく地域社会にも影響が及ぶことになる。JAによって准組合員に市民農園や直売所の利用を促すことで販売事業の増加につなげる例も多いが、利用制限で水を差すことになりかねない。

*1-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28092
(日本農業新聞 2014/6/5) 農協改革3大焦点 「改悪」許せば地域崩壊
 農業改革をめぐり、政府、与党の協議が大詰めを迎えた。急進的な規制改革会議の提案は到底受け入れらない。「改悪」そのもので、特に農協改革は実質的なJAグループ「解体」につながりかねない。大きな争点は(1)中央会制度の廃止(2)JA全農の株式会社化(3)准組合員の事業利用制限――の三つだ。いずれも強行すれば地域経済の崩壊につながりかねない。提案は全く生産現場の意見を反映していない。2日に約1000人が一堂に会した異例の全JA組合長・会長緊急会議で、組合長からはJAグループ全体の「解体」につながるとの意見が相次いだ。東日本大震災の被災県の組合長は「全国の組織の仲間が駆け付け、復興の一歩にめどが付いた。他にそうした組織はない」と、協同の力が農業再建に貢献したことを指摘。北海道十勝地方で大規模畑作を営み、担い手の代表でもあるJA全青協の黒田栄継会長は「提言は逆に農業者を窮状に追い込む。改革は自らの意思で行うべきだ」と強調する。政府・与党の農協改革論議は、こうした不安と不信感を踏まえ現場の声に率直に耳を傾けるべきだ。各地方知事会の緊急提言は、行政責任者としての危機感の表れだ。政府、与党の調整は難航しており、取りまとめは週明けにずれ込む見方も強い。それだけ、農協、農業生産法人、農業委員会の抜本改革は大きな課題を抱えている。自民党は農林幹部が連日、内部協議を続けている。だが全議員が参加できる合同会合は5月21日以降、2週間開かれていない。この時は100人以上が参加し、農協改革提言に対しさまざまな懸念と注文が相次いだ。国会議員一人一人は投票を通じて選ばれ地域を代表する存在だ。農協改革は地域経済そのものの盛衰に結び付く問題だけに、各自が地方の思いを代弁した。早急に全議員の会合を再開し、開かれた議論を通じいま一度、農協改革の疑問点、課題、自民党全体として譲れないぎりぎりの一線を確認すべきではないか。三大争点は、どれも対応を一つ間違えれば地域農業に取り返しのつかない打撃を与えかねない。司令塔機能を持つ中央会制度で県中を存置する一方で全中の社団法人化などの一部報道は、組織の「分断」以外の何物でもない。全中、県中一体での中央会制度である。全農の株式会社化は独占禁止法適用と表裏一体で、経済事業の根幹である共同販売が困難になる。さらに問題なのは准組合員の事業利用制限だ。提案は正組合員の2分の1を超えてはならないとした。准組合員はJAにとって農業・地域に貢献するパートナーと位置付けている。農業の構造改革が進む北海道では全体の8割が准組合員だ。過疎化が進む中で、JAはなくてはならない組織だ。利用制限は地域の生活基盤崩壊にもつながる。

*1-3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28058
(日本農業新聞 2014/6/3) JA自己改革を決議 農家所得増大へ 全組合長・会長緊急会議
 JA全中は2日、政府の規制改革会議がJAグループの解体につながる農協制度の見直しを提言したことを受け、東京都内のホテルで全JA組合長・会長緊急会議を開いた。JAと連合会などが連携し、自らの意思で改革に取り組むことを確認する決議を満場一致で採択した。参加した組合長からは、組織の力を結集して自己改革に取り組み、農業・農村の振興に役割を発揮し続けることの重要性を訴える声が相次いだ。規制改革会議は、(1)事実上の信用・共済事業の分離であるJAの代理業方式(2)准組合員の利用制限(3)JA全農の株式会社化(4)農協法に基づく中央会制度の廃止――などを提言。決議はこれらの提言について、「組織全体の結集力を弱め分断を図り、JAグループ全体の解体につながる」として強い危機感を示した。その上で、JAグループの改革は自らの意思で行うことが「民間の自治組織である協同組合としての大原則」と強調。JA・連合会・中央会が一体となって組織・事業を改革することで、農家組合員の所得増大を実現し、JAの事業を利用する地域住民の期待に応えていく決意を示した。出席した組合長からはJAグループの改革は自ら行い、農業や地域の振興に役割を果たすべきだとの意見が相次いだ。規制改革会議の提言については「生産現場や地域のためにならない」という意見が出た。また、2011年の東日本大震災で被災した複数のJA組合長が、農業やJAの復興に都道府県中央会や全中などが貢献したことを強調。非常事態から、農家組合員の経営を守る機能を発揮することの重要性を指摘した。会議では、中央会の指導について、JAがこれまで以上に地域の創意工夫を発揮できるよう、経営指標などに基づく一律的な指導から、JAの販売力強化に向けたチャレンジを後押しする個別指導にできるだけ転換する方針をあらためて整理した。JAの信用事業の代理業務化については、全国一律で強制するのではなく、組合員が適切な事業の態勢を選べるよう、代理業の実施方式などについて農林中金などが明確化することも確認した。
●JAグループの組織に対する攻撃をはねのけ自らの意思に基づく改革の実践に関する決議
 JA全中が2日開いた全JA組合長・会長緊急会議で採択した決議は次の通り。われわれ、農業協同組合組織は、これまで一貫して、地域の農業者、地域住民と共に歩みを進め、常に自らの改革を実践することで環境の変化に対応し、今日の姿を築き上げてきた。農業と地域に根差した協同組合であるJAグループは、次代においても引き続き環境変化に対応し、自ら組織・事業の改革・革新に取り組まなければならない。こうした中、規制改革会議は、事実上の信共分離であるJAの代理業方式、准組合員の利用制限、全農の株式会社化、中央会制度の廃止などを打ち出した。規制改革会議の意見は、全ての項目が組織全体の結集力を弱め分断を図り、JAグループ全体の解体につながる内容となっており、われわれ自らの意思による改革を無視したもので断じて受け入れることはできない。改革は、自らの意思に基づいて行うものであり、民間の自治組織である協同組合としての大原則である。われわれは、農家組合員の所得増大やJAの事業を不可欠とする地域住民の思いに応え、これからもそれぞれの地域で総合事業を基本に、組合員の負託に応え責任を持って事業を展開していく覚悟である。そのためにも、組合員への最大奉仕という目的を貫徹し、JA・連合会・中央会が一体となって、われわれ自らの組織・事業の拡大・革新に果敢に取り組んでいく所存である。以上、決議する。

<中央会制廃止に関する記事>
*2-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=27717  (日本農業新聞 2014/5/15)  「農協解体」の危機 総合事業、中央会制廃止 規制改革会議が農業改革案
 政府の規制改革会議は14日、農業改革案を公表した。農協については、中央会制度の廃止、准組合員の利用制限、信用・共済事業の移管などを提言し、組織・事業の解体につながりかねない見直しに踏み込んだ。これらを実行すればJAの経営を揺るがし、改革の本来の目的である農業者の所得向上に逆行しかねず、生産現場や与党から強い反発の声が上がるのは確実だ。「農業改革に関する意見」と題し、同会議農業ワーキンググループ(WG、金丸恭文座長)が同日の会合でまとめた。この内容がそのまま実現するわけではない。政府は今後の与党の議論も踏まえ、6月に改訂する成長戦略に盛り込む。現場の実態に見合った内容に押し戻せるか、与党が6月初めにまとめる対案が鍵を握る。今回の改革案は農協、農業生産法人、農業委員会の3テーマについて35項目に及ぶ提言を列挙した。農協については農協法に基づく中央会制度の廃止を提言し、農業振興のためのシンクタンクなどとして再出発するよう促した。准組合員の利用制限も新設し、事業利用額が正組合員の2分の1を超えないようにする。事実上のJAの信用・共済事業の分離も盛り込み、農林中金や全共連に移管し、JAはその代理・窓口業務を行うとした。農委については「自主性・主体性を強化する」として、法律に基づく都道府県農業会議・全国農業会議所制度は廃止する。農委の選任は選挙制度を廃止し、市町村長が人材を選ぶとした。これらは農協や農委などの影響力を弱め、農業者の所得向上というよりも企業のビジネスチャンスを拡大しようという色彩が濃い。企業による農地所有の解禁も提言した。農業を一定期間継続しているなどの条件を満たし、さらに農委の許可を得れば、企業は要件を満たしていなくても、企業が農地を所有できる農業生産法人になれるようにする。農業生産法人の要件も大幅に緩和する。事業要件は廃止し、常時農業従事者が過半などとしている役員要件は、役員または重要な使用人の1人以上が従事していればよいようにする。25%以下に制限している企業による出資割合も50%未満に引き上げる。
●全中会長強く反論 組織の自主性無視
 JA全中の萬歳章会長は14日、規制改革会議農業WGがまとめた改革案について「総合農協の解体、組合員への新たな利用制限の導入、JA全農の株式会社化、中央会制度の廃止など、組織の理念や組合員の意思、経営や事業の実態と懸け離れた内容であり、JAグループの解体につながるものだ」と述べ、強く反論した。また、JAグループは民間の協同組合組織であり、組合員の意思と負託に基づいて事業 の改革などを進めていることを強調し、「自主・自立の組織運営の根幹を揺さぶることはあってはならない」と強い危機感を示した。今後は、JAグループが農業所得増大に向けてまとめた自己改革「営農・経済革新プラン」について国会議員らの理解を得るとともに、現場の実態を踏まえたJA改革の実現に向け、全力を挙げる。

*2-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28101
(日本農業新聞 2014/6/5) 農協制度見直しで自民 中央会制めぐり攻防 廃止なら 農政改革に水差す
 大詰めを迎えた自民党の農協制度の見直し論議で、中央会の在り方をめぐる攻防が激しくなってきた。論点は農協法に基づく中央会制度を廃止するか否か。廃止すれば中央会は法的根拠を失って機能を十分果たせず、農政改革にも水を差すだけに慎重論は根強い。ただ、廃止論も党内で勢いを増している。農業者の所得向上という本来の目的より、規制改革の実績としてアピールするといった政治的思惑を優先した形で決着する恐れもある。
●慎重論根強く
 政府の規制改革会議は5月中旬、農協法に基づく中央会制度の廃止などを盛り込んだ農協制度の見直し案をまとめた。これを受け自民党は農林幹部が連日会合を重ねており、近く独自案を示す。これを踏まえて政府は最終案を固め、月内にも閣議決定する方針だ。同党農林幹部による議論でとりわけ意見集約が難航しているのが、農協法に基づく中央会制度の廃止の是非だ。廃止した場合、中央会は農協法に位置付けられた「特別な法人」ではなくなる。一般社団法人など任意団体として存続できるが、懸念が強い。農水省がまとめた中央会を一般社団法人化した場合の影響によると、(1)法律に規定された「JAの指導」の根拠がなくなる(2)法定の独自の会計監査ができなくなる(3)独占禁止法の適用除外がなくなる(4)課税が強化される場合があり組合員やJAの負担が大きくなる――といったデメリットがある。半面、目立ったメリットは見当たらない。農政改革でも旗振り役となる中央会の影響力が弱まれば、飼料用米の推進などはより困難になる。農林幹部には「(廃止は)農業・農村の所得向上にどう結び付くのか」「メリットは少ない」といった意見があり、同党の「新農政における農協の役割に関する検討プロジェクトチーム」の森山座長も廃止に慎重な立場とされる。ただ、ここにきて廃止論も勢いを増す。農林幹部や農水省政務三役の一部議員らが強く主張し、同党の石破茂幹事長も3日のテレビ番組で「農協のためであるならば、それは社団法人でもできるのではないか」と廃止容認とも受け取れる発言をした。廃止論の後ろ盾になっているとみられているのが首相官邸だ。見栄えのする内容で改革姿勢を印象付けるとともに、中央会の政治力をそぐ狙いとみられる。ただ、廃止派の中には「全中は廃止だが、都道府県中央会は残すべきだ」「廃止に当たって数年の猶予期間を設け、再来年の総選挙より先送りする」といった意見も出ているもようだ。

*2-3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28118
(日本農業新聞 2014/6/6)  中央会の役割強調 規制改革提案 全中が反論資料
 JA全中は5日、JAの経営のリスクを監査で把握し、改善を指導することでJAの経営破綻を防ぐといった中央会の役割を列挙し、農協法に基づく中央会制度の廃止を求めた政府の規制改革会議の提言に反論する資料を公表した。全中と都道府県中央会が一体的に、JAの経営安定や事業の垣根を越えた総合的なサービスなどに取り組み、農業と地域の振興に貢献する決意を示した。全中の冨士重夫専務が同日の会見で東京電力福島第1原子力発電所事故後、都道府県中央会と全中が連携し、損害賠償請求の窓口を一本化して農業者やJAの期待に応えたことなどを説明し、「東日本大震災のような数県にまたがる問題が発生した場合は、(中央会の)ナショナルセンターである全中が補完機能を果たす」と述べ、中央会制度の重要性を強調した。全中は同制度の機能として、(1)監査でつかんだJAの問題を検証し、指導を通じて経営を健全化する経営指導機能(2)JAグループの事業や組織間の調整、また農政、広報のような対外的な活動を行う代表・総合調整機能――を挙げた。その上で、全中が廃止された場合の影響として、全中と県中央会が一体でJAの問題解決を支援できなくなることや、破綻防止のための全国的な自主ルールを運用できなくなることを挙げた。中央会監査から公認会計士監査に切り替わると、監査と指導が結びつかなくなり、破綻を防止する経営指導の実効性が損なわれる。JAが負担する監査のコストも6割ほど増えるという。また、全中が廃止になると、農業政策に現場実態を反映できず、飼料用米の増産といった政策を生産現場に浸透させることも難しくなる。JAグループの組織、事業間の調整機能が弱まれば、農業者を総合的に支援できなくなる懸念もある。一方、全中は、経営指標などに基づく一律的な指導から、JAの農産物の加工や輸出などを後押しする個別指導にできるだけ転換する方向性をあらためて示した。
●農業の将来に貢献 萬歳会長会見 JAの必要性訴え
 JA全中の萬歳章会長は5日、理事会後の会見で、政府の規制改革会議の農業改革案が、JAグループの解体につながる提言であることをあらためて指摘した。その上で、「世界に類を見ない総合JAというシステムはこれからも必ず日本農業の将来に貢献すると信じる」と述べた。農協法に基づいた中央会制度の廃止や、JA全農の株式会社化については「JAは地域の農家にとってなくてはならない組織だが、その事業活動を支えてきたのが連合会であり、中央会だ」と述べ、JAグループの組織が一体となって総合事業を行うことの重要性を強調した。この他萬歳会長は、次期全中会長選への対応については、立候補の受け付けが締め切られる19日までに判断する考えを示した。

*2-4:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28056
(日本農業新聞 2014/6/3) 指導の根拠なくす 行政関与は限定的 中央会の社団化 農水省が影響精査
 政府の規制改革会議が農協法に基づく中央会制度の廃止を提起したことを受け、農水省がJA中央会を一般社団法人にした場合の影響を精査していることが2日、分かった。メリットとデメリットをまとめ、自民党内での議論にも参考資料として提出した。ただメリットについては、同党内から「農家の所得増大にどう結び付くのか分からない」などの異論が出ている。農水省が挙げる中央会を一般社団法人にした場合のメリットは(1)行政庁による監督(常例検査や定款変更の認可など)がない(2)会員の範囲を定款で自由に定められ、農業法人協会や経済団体を正会員にできる(3)事業の範囲を定款で自由に定められ、農業法人への経営指導などが直接できる(4)JAグループ内の他の一般社団法人などとの合併が可能になり、効率的な再編ができる――の4点。だが、現行でも農業関係団体は准会員にでき、農協法を改正すれば事業範囲の追加もできる。JAグループ内の一般社団法人にはJC総研や家の光協会などがあるが、合併の必要性は乏しい。
 一方で、デメリットとしては(1)法律で特別に規定された「JAの指導」の根拠がなくなる(2)法定の独自の会計検査が実施できない(3)独占禁止法の適用除外がなくなる(4)課税が強化される場合があり、組合員やJAの負担が大きくなる――の4点を示した。
 JAへの指導については、法的根拠がなくなれば指導力が低下し、効果的な指導ができなくなるとも指摘。これを防ぐために行政の関与を強めても、指導の内容は限定的で、官から民の流れにも逆行するとしている。ただ「一般社団法人でも、会員(JA)が必要と認めれば、会則や契約などを根拠に、現在のような形で経営指導や業務監査などを行うことはできる」ともしている。監査については、「会計監査をJA全中に代わって公認会計士が行うことになる」「指導と監査が切り離され、指導力の低下や(破綻などの)予防的措置が取れない」「JAによっては監査コストが増える」とも指摘した。
 農水省はこれらをまとめた資料を、JAなどの在り方をめぐる自民党内での議論に提出。だが党農林幹部からは「(同党が目指す)農業・農村所得の倍増にどう結び付くのか」「デメリットに比べメリットが乏しい」との異論が出ている。ただこれらも参考に、中央会の在り方についても慎重に検討していく構えだ。規制改革会議は5月に示した農業改革案の中で、農協法に基づく中央会制度の廃止とともに、「組織形態の弾力化」として、JAや連合会組織の社団法人などへの転換を可能にするよう提起している。

*2-5:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28066
(日本農業新聞 2014/6/4) 中央会の意義 廃止は成長戦略に逆行
 政府の規制改革会議が進める農協改革で、特に看過できないのが「中央会制度の廃止」である。総合調整や経営指導機能を持つ中央会が、なぜ法的に認められているのか。その根本的な理解が欠如している。JAグループが司令塔機能を失えば農政改革や農業の成長産業化が円滑に進まないことは明白だ。批判や不要論を封じ込めるためにも、これまで以上にJAの意欲的な取り組みを支援・指導する中央会改革を加速させたい。 規制改革会議は、中央会廃止の理由として、単協が独自性を発揮し、自主的に地域農業の発展に取り組むことができるようにするためだと明記。中央会主導から単協中心へ、系統組織の抜本的な再構築を求めている。そもそも中央会の一律的な指導が単協の発展をそいでいるという認識が誤っている。JAグループの自己改革「営農・経済革新プラン」でも示したように、中央会は、6次産業化や販売強化などJAの挑戦を後押しする個別指導への転換を明確に打ち出し、実践している。廃止論は、現場起点でJAの事業展開を支援するという中央会の役割を理解していない暴論だ。あらためて中央会制度の機能と役割に触れておこう。一つは、JAグループ間の総合調整機能であり、農家組合員の要望をくみ上げ対外発信する農政・広報活動も欠かせない。もう一つの柱は、監査を通じた経営指導機能である。これらが一体的に機能することで、JA経営の健全性が保たれているのだ。都道府県中央会と全中は、密接不可分の関係にあり、法的にも県中の全中への加入が措置されている。JAグループの司令塔である全中を廃止すれば、指導や調整の法的根拠を失い中央会制度の崩壊に直結する。そうなれば、JA経営破綻の未然防止、農業政策への農業者の意思反映、新農政の推進、東日本大震災など災害時の県域を超えた支援活動、原子力発電所事故の損害賠償請求支援など、さまざまな中央会機能の発揮は困難になるだろう。総合事業体であるJAは、農業者の営農と暮らしを守るだけでなく、広く地域社会のライフラインを担っている。だからJAの指導機関として中央会も重い社会的使命を負っているのだ。会員だけに指導を限定した一般社団法人になれば、到底そのような機能や役割は発揮できなくなる。中央会制度の廃止は、地域社会の振興に逆行するばかりか、政府の目指す農業の成長戦略にも反する。JAは「自主・自立・民主的運営」を綱領に掲げる独立した民間組織である。JAグループは今、自ら課題を洗い出し、農家組合員、地域住民のために何をすべきか実行策を定め、JA・連合会・中央会一体となって事業・組織改革にまい進している最中だ。不断の自己改革でJAへの信頼と存在価値をより高め、農協解体につながる不当な攻撃を封じ込めていこう。

<全農の株式会社化に関する記事>
*3-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140607&ng=DGKDAS7TL2L01_W4A600C1EA2000 (日経新聞 2014.6.7) JA全農の株式会社化促す、農政改革で政府が骨格 全中は5年内廃止、与党と詰めへ
 政府は6日、今月まとめる農政改革の骨格を固めた。全国約700の地域農協を指導してきた全国農業協同組合中央会(JA全中)は3~5年でなくす。農産物の集荷・販売を事実上、一手に引き受けてきた全国農業協同組合連合会(JA全農)は株式会社への転換を促す。農業に参入する企業との連携をしやすくし、日本の農業の競争力を高める狙いだ。週明けから与党内で調整のうえ、月内にまとめる成長戦略に盛り込む。今秋に見込む臨時国会か来年の通常国会に、農業協同組合法の改正案を提出する。最大の柱はJA全中が地域農協を経営指導したり、監査したりする権限をなくす点だ。農協法から根拠規定を削除する。3~5年の移行期間を設ける案が有力だ。複数の農協がつくる「連合会」として改組する案があり、組織そのものは残る可能性はある。JA全中は戦後の混乱期に赤字に陥った地域農協を立て直すために1954年に設立された。当時は農協の数が1万前後あったが、今は合併が進み、約700。今後の再編はすでに大規模化した農協に委ねるべきだとの声が強まっている。JA全中の政治力が農政の停滞を招いたとの指摘もある。2つ目の柱は、JA全農の株式会社化。JA全農は地域農協が出資する相互扶助組織で、組合員である農家から農産物を集荷し、まとめて販売したり、肥料・農機具など農家の生産資材を共同購入したりする役割を担ってきた。こうした行為は本来、独占禁止法に抵触する可能性があるが、協同組合として適用除外を受けている。株式会社になると、こうした恩恵が受けられなくなる。税制上の恩典もなくなる。この結果、民間企業との資本・業務提携など農業の競争力強化に取り組む機運も高まると政府は判断した。規制改革会議は農産物市場のグローバル化をにらみ、JA全農を株式会社に強制転換するように提言した。政府は強制転換は求めないが、「本体の組織形態の見直しに道筋がつけば、全農は株式会社化する」とみている。すでに全農の事業のうち、物流やコメの販売、青果物の加工など50近くの事業は株式会社化し、事業の効率化を進めているからだ。地域農協が手がける住宅ローンなどの金融事業はこれまで通り認める。ただ現状では融資が焦げ付いた場合の責任も地域農協が負っているだけに、一部で撤退を模索する動きもあるという。農林中央金庫の代理業として窓口業務にとどめることもできるようにする。政府はすでに骨格案をもとに与党と最終調整に入った。自民党内にはJA全中の廃止に慎重論がくすぶるが、石破茂幹事長は受け入れる考えを示している。来週、自民党農林部会などで了承を求める段取りだ。政府は昨年まとめたコメの生産量を減らして米価を維持する生産調整(減反)の廃止に続く、農政改革第2弾として位置づけている。環太平洋経済連携協定(TPP)の妥結をにらみ、農業競争力の強化を急ぐ。

*3-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28111
(日本農業新聞 2014/6/6) 全農 株式会社化 「農家利益と相反」 自民議論で強い懸念
 農協制度の在り方などを検討している自民党の議論で、JA全農の株式会社化の是非が焦点の一つとなっている。規制改革会議は株式会社化が「農業者の利益増進」につながるとしているが、同党内では「農家の利益と相反する」との懸念が強い。同会議の改革案は「全農がガバナンス(統治)を高め、グローバル市場における競争に参加するため」に株式会社への転換を提起した。全農は「株式会社化は受け入れられない」との立場だが、農水省は全農を株式会社化した場合の影響を精査。員外利用制限や農協法に基づく事業範囲の制限がなくなり、「経営の自由度が高まる」ことなどがメリットだと分析している。だが自民党農林幹部による議論では、異論が相次いでいる。株式会社の目的は利益の追求であるため、「もうけるために農家から農産物をできるだけ安く仕入れるようになる」「売れそうにないものは引き取らなくなる」など、農家の利益と相反する恐れがあるからだ。また利益追求のため、「不採算部門が切り捨てられる」「地域の違いで公平なサービスが受けられなくなる」との懸念も出ている。需要の多さや配送のしやすさといった条件によって、肥料や資材などの価格が大きく変わる可能性があるためだ。特に、離島や山間部では、サービスが低下する可能性が高い。こうした悪影響を防ぐために「JAグループが全農の株を保有すればいい」との指摘もある。だが単位JAだけで全国に約700あり、地域の事情が異なったり産地間競争もあったりするため「あるJAの利益は、別のあるJAの不利益」(同党農林幹部)となる恐れがある。事業規模が大きいため、将来的に上場を求められる可能性もある。党農林幹部は、JAの経済事業の改革は必要との考えで一致している。買い取り販売の強化などを検討しているが、議論は難航している。

*3-3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28107
(日本農業新聞 2014/6/6) 全農の株式会社化 農業者の不利益に直結
 政府の規制改革会議が提案した「JA全農の株式会社化」に生産現場では不安が広がっている。独占禁止法の適用で協同組合の根幹である共同販売や共同購入ができなくなり、農業者の不利益に直結する恐れがあるためだ。全農はこうした協同組合による事業展開の否定論に打ち勝つためにも、農業者の所得向上に向けた販売力をこれまで以上に強めていかなければならない。規制改革会議は、全農の株式会社化の理由として、農業者の利益増進の観点からガバナンス(統治)を高め、グローバル市場における競争に参加するためだと明記。付加価値を獲得できる組織への再構築を求めている。ガバナンスの強化やグローバル市場への事業展開は、協同組合の仕組みでも十分に可能だ。実際に全農は川中・川下に積極的に進出している。昨年12月には消費が拡大するカット野菜を製造・販売する合弁会社をキユーピーと設立した他、JA・6次化ファンドを使った外食企業との新会社設立、和牛輸出などを展開。必要に応じてJA全農青果センターなどの株式会社も設立している。法人の設立・出資に関する定款も変え、迅速な経営判断ができるように整えている。そもそも株式会社が最も優れた法人形態という認識が誤っている。専門家は株式会社化に対し「乱暴だ。協同組合の存在を否定するのは極端過ぎる」と指摘する。協同の力で品質の一定した農産物を安定供給したり、効率的に農産物を流通させたりして、農家の所得向上と食料の安定供給に成果を挙げてきた。株式会社化は農家だけでなく、消費者にもマイナス面が大きい。全農は、JA単独では難しい広域での事業を効率化するための組織だ。小規模で立場の弱い農業者がJAに出資し協同組合を立ち上げ、それを補う形で県組織、全国組織があり、JAと全農は協力関係にある。協同組合だからこそ、独占禁止法の適用除外の措置が講じられている。株式会社になれば独占禁止法の適用除外から外れ、販売事業では共同販売、購買事業では共同購入が同法に抵触し、できなくなる恐れがある。JAと全国本部・県本部との関係も壊れかねない。農産物販売では、売り手と買い手の関係になりJAグループの結集力は弱まりかねない。共同購入も事業規模の減少で効率化が難しくなり、生産資材が従来よりも高値になるかもしれない。協同組合だからこそ山間部など条件不利地にも他地域と同じサービスを提供しているが、株式会社では利益が優先され、こうした地域に悪影響が出るのは必至だ。生産現場からは、安倍政権の掲げる農業者の所得倍増に逆行する、との声が上がる。JAグループは営農・経済革新プランで全農の組織、事業の改革を進めている。協同の強みを生かしてこそ農業の成長産業化と地域活性化は図れる。

*3-4:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28077 (日本農業新聞 2014/6/4) [農業改革 言うことあり 現場発] 全農 株式会社化 独禁法で共販困難
 規制改革会議が提起した「JA全農の株式会社化」は農業者の所得の減少につながる――との危機意識が、生産現場に広がっている。独占禁止法の全農への適用で全国本部・県本部を通じた共同販売・共同購入ができなくなり、JAグループ(系統)の価格形成力が弱まる懸念があるためだ。「JA全農が株式会社になり共同販売の仕組みが崩れれば、これまで以上に小売りなどの実需主導の価格形成になってしまうのではないか」。長野県のJA信州うえだ管内でリンゴやブドウなどの果実を1ヘクタール栽培する川上満男さん(61)は、規制改革会議が提案する「全農の株式会社化」の影響を心配する。川上さんは生産物の全てをJAを通じてJA全農長野に委託、販売代金は共同計算で得る共同販売を活用している。「安定出荷できるよう、生産に専念したいから」だ。株式会社化で全農に独占禁止法が適用になるのは、同法の適用が除外されている協同組合でなくなるからだ。これによりJAグループの農産物販売事業で当然となっている全農を通じた共同販売が同法に抵触し、できなくなる恐れがある。長野県では20JAが全農長野に委託し、「全農長野」としてブランドを構築。全農長野が卸や小売りへの売り込みや商談といった販売活動を展開し、安定供給のために県内のリレー出荷体制なども整えている。
●系統の交渉力低下
 全農長野を通じた共同販売ができなくなれば、JAは個別での販売活動を余儀なくされ、大型化するスーパーなどのバイイングパワーで販売条件や価格が悪化、リレー出荷にも支障が出て供給が不安定になることが懸念されている。また無条件委託を前提としたJAと全農長野との関係も壊れかねない。農産物の売り手と買い手の関係になり、JAグループの結集力は弱まりかねない。同JAの塩川壽友常務は「農産物の価格と供給の安定を目指して取り組む共販体制の崩壊は、農家だけでなく、消費者にもマイナス面が大きい」と指摘する。全農が株式会社になれば、農業機械や肥料などの生産資材の共同購入も独禁法に抵触する恐れが生じ、JAグループの農機や肥料などのメーカーとの価格交渉力が低下、生産資材が高値になりかねない。株式会社は利益を最優先する組織で、生産資材を全農がJAに供給する際に、取引量の多寡で価格を変えるようになることも想定される。
●「所得倍増」に逆行
 同JAの芳坂榮一組合長は指摘する。「安倍首相は農業者の所得倍増、規制改革会議は農業者の利益の増進を図ると言っているが、全農の株式会社化はJAグループの販売力と購買力を弱め、農業者の“所得の半減”につながる恐れが強い」。宮城県有数の穀倉地帯、登米市。市内にある東和町域の11ヘクタールで水稲を栽培する農家、丸山祐亀さん(59)は、約8割をJAみやぎ登米が進める「環境保全米」として栽培し、収穫した米をほぼ全量、JAに出荷する。「営農をしながら、生産者自身が米卸など販路を開拓するのは難しい」と丸山さん。全農を通じた共同販売体制を壊しかねない「全農の株式会社化」には首をかしげる。
●崩れる協同の輪
 丸山祐亀さん(59)が暮らす浅草集落では、約80戸の大半が兼業農家。集落の生産者の高齢化も進み、耕せなくなった水田を丸山さんらが引き受ける機会が増加。また宮城県・JAみやぎ登米の稲作部会連絡協議会の委員長の経験者で集落の農業の担い手となっている。その丸山さんが、「全農の株式会社化」で心配するのは、「宮城県産米」として品質向上などに一丸で取り組んできた米作りの輪、協同組合の輪が崩れることだ。「これまで通り各地の米を集めて販売してくれるのか。全農が利益優先になれば販売する米を絞り込み、最終的には組合員のための全農ではなくなるのではないか。(県内でも産地により価格差が生じ)産地間の関係にもひびが入るのではないか」と指摘する。集荷する同JAも疑問の声を上げる。主食用米としてここ数年、環境保全米を含めて年間約3万7000トンを集める。このうち7割を全農通じて米卸に販売する系統出荷に取り組む。小回りが利く単位JAの利点を生かし3割は小規模な卸などに直売しながらも、系統出荷を主軸に位置付ける。理由についてJAは「実需の要望を踏まえてJA全農みやぎなどと共に開拓し、築いてきた看板がある」(米穀販売課)と説明。単位JAでの販売活動では、実需の要求量を調達できないなどで信用を落とし取引先を失ったり、価格交渉力が弱まったりすることを危惧する。JAの小野寺裕幸専務も「例えば、全農の買い取り販売になれば県内JAが取り組んできた共同計算が崩れ、グループの歩調が合わなくなる。場合によっては組合員の安定的な手取り確保には結び付かない可能性もある」と指摘する。榊原勇組合長は「協同組合として全農はこれまで、万が一の時のセーフティーネット(安全網)の役割を果たしてきた。株式会社化でそれが壊れるのが最も怖い」と強調する。
●危険な利益優先構図 
 JA全農は販売・購買事業を広く展開する。農業者のリスクを分散するための共同販売や資材コストの低減のための共同購入は、協同組合の強みだ。規制改革会議は全農について、農業者の利益増進に資する観点からガバナンス(統治)を高め、グローバル市場における競争に参加するため株式会社に転換する、と提案した。しかし、株式会社になれば「独占禁止法の除外には該当しなくなる」(後藤田正純内閣府副大臣)。独禁法の対象になることでこうした共同行為ができなくなり、生産者の不利益に直結することが懸念される。現在は協同組合として山間部など条件不利地域でも他地域と同等のサービスを提供している。利益追求が最優 先となれば一定の利益を確保できない事業を続けるのが難しくなり、こうした土地の農業者に悪影響を及ぼす恐れもある。販路拡大や価格形成力の強化に向けて全農は、川中・川下に積極的に進出し、バリューチェーン(価値連鎖)の構築に取り組みだした。具体的には、キユーピーとの合弁会社設立や、JA・6次化ファンドを使った外食会社との新会社設立、和牛輸出などだ。法人の設立・出資に関する定款も変更し、迅速な経営判断ができるように整えた。

<準組合員の制限に関する記事>
*4-1:http://www.saga-s.co.jp/news/saga.0.2661736.article.html
(佐賀新聞 2014年4月12日) 食農教育教材本 小学校約180校に贈る
 JAバンク佐賀は15日から、小学5年生を対象とした補助教材本『農業とわたしたちのくらし』を県内の小学校と特別支援学校約180校に贈る。2008年から毎年作成しており、今回は林業と漁業の現状も新たに盛り込んだ。食農教育の一環。地域のJAが通常版1万冊、特別支援教育版100冊を各学校に配る。教材本は農作物の生産流通や価格形成の仕組み、里山が果たす環境保全機能を分かりやすく紹介。国産木材の自給率低下、漁業資源を守る活動にも触れている。社会科や家庭科、理科などの資料に使われる。県庁で開かれた贈呈式では、JA佐賀信連の堤秀幸理事長が県市町教育長会連合会の中川正博会長に本を手渡した。

*4-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28091  (日本農業新聞 2014/6/5) [JA自己改革 所得アップへ わが戦略 中] 加工産地形成を主導 JAグループ宮崎
 宮崎県西都市。かつて葉タバコ栽培が盛んだった県内屈指の畑作地帯が今、ホウレンソウをはじめとする加工・業務用野菜の産地に変貌を遂げている。その中心にあるのがJA宮崎経済連の子会社「(株)ジェイエイフーズみやざき」の冷凍・カット工場だ。地元のJA西都と連携して生産者を組織化。種まきから収穫までの基幹作業を受託し、機械で行う効率的な生産支援体制をつくり上げた。実需者の信頼を得て、有利販売を実現。農業者の所得向上につなげている。
●作業受託し経営後押し
 主力のホウレンソウは現在、西都・児湯地域を中心に約80戸の農家と栽培契約を結ぶ。作付面積は3年で約90ヘクタールまで拡大、冷凍ホウレンソウの年間製造量は約1400トンに上る。工場は2011年8月に稼働を始めた。急速冷凍装置を備え、収穫後、24時間以内に処理することで鮮度を保ち、実需者から高い評価を得ている。同工場が1日に冷凍処理できる量は約30トン。処理量に合わせた計画出荷が求められる中で、迅速な産地形成を可能にしたのが、同社が独自に開発した「生産管理システム」と、これに基づくJAとの新たな協力体制だ。衛星利用測位システム(GPS)を使って圃場(ほじょう)ごとに栽培面積を把握、生育予測に基づいて種まきなどの日程を割り振る。さらに「フィールドコーディネーター」と呼ばれる担当者が各圃場を巡回し、生育状況を逐次、更新することで、正確な出荷日と出荷量を割り出す。一方、JAは専任職員を配置し、生産者間の調整や加工・業務用野菜に特化した技術指導に当たる。種まきや防除、中耕、収穫といった主な作業は、JAが出資する農業生産法人「(株)アグリさいと」が受託し、農家の労力軽減と計画出荷を両立させた。ホウレンソウを1.1ヘクタールで栽培する青山章三さん(52)は昨年度、10アール2トンを超える収量を挙げた。委託料と肥料代などの物財費を差し引いても同10万円以上が手元に残り「収穫までやってくれるので、栽培に手間は掛からない。農家は土づくりに専念でき、収量を上げれば、安定した所得が得られる」と話す。ジェイエイフーズみやざきは、ホウレンソウの他にも小松菜やサトイモなどの産地化と冷凍加工を手掛け、量販店や加工メーカーなど約50社と取引する。内野宮由康専務は「(量販店やメーカーといった)エンドユーザーに品質の良さをじかに訴えていくことで、まだまだ国産の価値が入り込む余地は大きい」と手応えを語る。こうした中、宮崎経済連も12年、「法人・加工推進課」を設置、大口の農業生産法人への対応を強化するとともに、加工メーカーなどへの営業に駆け回る。既にコンビニ向けのおでん用ダイコンや長期貯蔵用抑制カボチャなど、新たな商品と産地が生まれている。

*4-3:http://www.hokkaido-np.co.jp/news/chiiki2/542168.html
(北海道新聞 2014/5/29) コープさっぽろ、函館市の大間訴訟を支援 理事長が意向
 コープさっぽろ(札幌)の大見英明理事長は28日、函館市内で北海道新聞の取材に答え、同市が国などを相手に起こした電源開発大間原発(青森県大間町)の建設差し止め訴訟を支援する意向を明らかにした。大見理事長は「店舗などで組合員に募金を呼び掛け、訴訟費用に充ててもらうのも一案」と具体例を挙げた上で「生協としてどんな協力ができるのか、市の要望を聞いてみたい」と述べた。支援方法について、近く函館地区本部を通じて市側と話し合いたい考えだ。コープさっぽろは2012年の総代会で「脱原発」を求め決議。脚本家の倉本聰さんらが呼び掛ける「脱原発『全道100万人』署名」では組合員約30万人が署名したという。大見理事長は同日、函館市民会館での函館地区総代会でも「大間の建設を止めることには意味がある」と訴訟を支援する考えを組合員に説明した。コープさっぽろの3月末現在の組合員数は149万人で世帯加入率(全世帯に対する組合員数の割合)は55・4%、うち函館市内は9万360人で同63・4%。(浜中淳)

<与党の対応に関する記事>
*5-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140609&ng=DGKDASFS09007_Z00C14A6MM0000 (2014.6.9) 農協改革案、自民容認へ
 自民党は政府が検討している全国農業協同組合中央会(JA全中)の廃止を柱とする農協改革案を大筋認める。全国約700の農協を経営指導し、監査するJA全中の農協法に基づく権限をなくすことを容認。どのような新組織に移行するかはJAグループの自己変革を踏まえる立場を示す。9日夕にも決定する党の考え方に盛り込む。農協改革は、支持組織の弱体化を懸念する自民党側の出方が焦点になっていた。党の取りまとめ役である森山裕総務会長代理ら関係議員が8日に都内で協議し、政府案の大筋容認で一致。政府の規制改革会議(議長・岡素之住友商事相談役)が6月中旬に示す答申に反映させる。関連法案は2015年の通常国会に提出される見通しだ。自民党は党の考え方で今後5年を改革集中期間と位置付ける。JA全中については「自律的な新しい組織への移行」を明記。地域農協への指導権限はなくなるものの、複数農協が集まる連合会などに改組して組織を存続できる余地を残す。

*5-2:http://qbiz.jp/article/39421/1/
(西日本新聞 2014年6月9日) JA全中、新組織に移行へ 来年の通常国会に法案提出
 自民党は9日、全国農業協同組合中央会(JA全中)を新たな組織に移行するとした農協改革案を固めた。どのような組織に変えるかはJAグループ内の議論を踏まえて決める。政府は来年の通常国会に農協法などの改正案を提出する方向で調整に入った。地域の農協の経営を指導するなどJAグループの司令塔を務めていたJA全中の役割の大幅な見直しは避けられそうにない。自民党幹部は9日午後に開く農林関係の会合に農協の改革案を提示し、理解を求める。自民党案はJA全中を頂点とする中央会制度に関し、「自律的な新しい制度への移行を検討する」と明記した。当初は「5年後をめどに中央会制度を廃止する」方向で調整していたが、党内の反対論に配慮し、表現を変えた。ただ、政府は「JA全中の廃止」を求めており、政府が農協改革案を最終決定する6月下旬までに曲折も予想される。

*5-3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28142
(日本農業新聞 2014/6/7)  中央会制度は必要 週明けに与党協議 公明
 政府・与党で議論が大詰めを迎えている農業改革案をめぐり、公明党は6日、JAの中央会制度を存続させる方向で党内の考えを固めた。農政改革などを進めるに当たって、総合調整機能を持つ組織が、全国段階も含めて必要と判断した。指導権限などの一部機能は見直す必要があ るとの認識だが、農協法上の位置付けは残すべしとの考えが強まっている。週明けにも自民党と の与党協議に臨み、最終的な政府案に反映させたい考えだ。同日の農林水産部会(石田祝稔部会長)で党内の意見を集約した。政府の規制改革会議がまとめたJAや農業委員会、農業生産法人の見直し案について、個別論点で結論は出さなかったが、「重大な改革にもかかわらず拙速な進め方で、極めて遺憾」との認識で一致。最終案の取りまとめは井上義久幹事長と石井啓一政調会長、石田部会長に一任した。JA改革では、中央会制度廃止には否定的な考えが大勢を占めた。JA全中については、全国的に総合調整する機能は必要との認識で、一般社団法人ではなく、農協法上の位置付けを残すべしとの意見が強い。だが、一定の改革は不可欠で、指導権限の強さをどうするかなどを引き続き検討するとしている。JA全農の株式会社化に対しても慎重な姿勢を示す。判断に時間をかけるべき中長期的課題として、3~5年の年数を経て検討するべしとの考えだ。信用・共済事業の分離については、農産物販売などの経済事業だけでは単位JAの運営が困難として認めない方針。准組合員の利用制限も、JAが地方の生活インフラを担っていることから、拙速に進めることは難しいとの考えが党内で支配的だ。農業委員会の選任制度をめぐっては、意見集約が難航しているものの、選挙による公選制が望ましいとの立場。市町村の首長による選任に一元化する場合も、政治的中立性を担保する機能が必要とみる。農業生産法人では、企業の参入拡大につながる事業要件や役員要件の見直しに対して慎重な考えで、規制改革会議の案をそのまま受け入れることは難しいとの立場だ。

<組合に関する記事>
*6-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140607&ng=DGKDASFS06034_W4A600C1EA2000 (日経新聞 2014.6.7) 「兼業のため」脱却へ一歩
 政府・与党が最終調整に入った農協改革は、日本の農業と農政のあり方を大きく変える可能性をはらんでいる。狙いは「規模の小さい兼業農家」の影響の排除だ。問題の核心は「一人一票制」という農協の意思決定の仕組みにある。株式会社とは違い、出資額に関係なく、組合員である農家がひとしく意思決定に参加できる。そのほとんどは兼業のコメ農家。成長する農業法人は、規模は大きくても兼業と比べると数が少なく、農協の方針を左右するのは難しい。この構造を支えてきたのが、各地の農協からJA全農にいたる販売ルートだ。農協はいまもコメ流通の半分近くを握る。コメ卸が「JA全農の提示する値段を動かすのは難しい」と嘆く交渉力を武器に、小規模な農家を温存させてきた。一方、JA全中は県ごとの下部組織と連携して政治に圧力をかけ、強い農家への支援に政策が傾くことに抵抗してきた。例えば農林水産省は2007年に大規模農家に助成を集中する制度を実施したが、農協の巻き返しで翌年撤回した。今回の農協改革はこうした構図を変える一歩となりえる。いまの制度だと、JA全農が非農協系の農業法人の農産物を中心に売れば是正の対象になる。だが株式会社になれば、JA全農は事業の拡大を目指し、有力な農業法人と本格的に組むことが可能になる。農村票の力で政治を揺さぶってきたJA全中の廃止は、兼業農家の政策への影響を弱めることにつながる。問題はJA全中の機能をどんな組織に担わせるかにある。現行制度でJA全中は農協への指導や監査、政府への提言などの機能を持つ。規制改革会議の提案は、こうしたJA全中の役割を縮小し、シンクタンクのような組織にすることを狙っていた。政府・与党はJA全中を農協の連合会に衣替えすることを検討中。この組織が監査権限で農協をしばり、政府に提言する役割を法律で保証されれば、本当の意味で「廃止」とはいえない。農業は高齢化と担い手不足で危機的な状況にある。安倍政権はこうした状況を打破し、「農業を成長産業にする」と宣言する。そのために昨年、担い手の農家に農地を集める「農地バンク」の創設と、生産調整(減反)の廃止を決めた。いずれも目的は強い農業の実現にある。農協改革はこれに続く課題。その先に持続可能な農業の姿が見えてくる。

*6-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=27895
(日本農業新聞 2014/5/26) 農協解体論と与党 地域再生へ力発揮の時
 政府の規制改革会議の農業改革案は、いったい誰のための改革なのか。特に中央会制度の廃止などを柱とした農協改革は、実質的にJAグループの解体を意味する。これでは改革の名に値しない「改悪」である。今後の議論は与党にかかっており責任は重い。農業者の所得向上による地域活性化という農業改革の基本線に立ち戻り、与党案をまとめ政府に迫るべきだ。林芳正農相は23日の閣議後会見で、農業改革案での与党との協議に当たり「農協は農業者が自主的に設立した民間機関で自己改革が基本だ」と強調した。言葉の意味合いをかみしめたい。農業改革はいったい誰のために、何のためにやるのか。その基本を忘れ現場の実態を無視した「言葉遊び」は許されない。角を矯めて牛を殺すことになりかねない。農業活性化に向け自民党が公約した「農業・農村所得倍増」とも逆行する。懸命に営農に励む担い手を中心とした農業者へ混乱と先行き不安を募らせるばかりではないか。これでは生産意欲を喪失させかねない。JA全中を「司令塔」とした中央会制度は指導・監査、代表・調整といった単位JAでは果たせない重要で基本的な機能を担い、全国の組織を束ねる。だからこそ、JAが一丸となって農業生産を支援し、国民生活に欠かせない安全で安心な国産農産物を安定的、持続的に提供できる仕組みが担保されている。JAごとに対応したのでは、農業者の所得に直結する米生産調整も実効ある対応ができなくなる。地域農業振興の鍵は地域現場のJAが握っている。その調整を担い、代表するのが中央会だ。原発事故対応の農業補償でも全中、中央会がなければ対応できなかった。改革案は現場の実態を無視し「廃止」「見直し」そして「株式会社化」などの言葉が続く。自民党は反発を強め、現実的な案を6月初旬にもまとめ、政府に実現を迫っていく方針だ。改革案を受けた21日の同党プロジェクトチームでは反発が相次いだ。当然である。この中で「改革ごっこはやめてほしい」「当事者でもない人間が国民の代表である国会議員を差し置いて物事を決めようとするのは納得できない」などの意見が出た。的を射た指摘だ。「政高党低」といわれる官邸主導の手法で、今回の地域つぶし、農協解体論を許すことは絶対にできない。農業者、JAのためだけでなく、国産農産物の安定供給という意味で国民全体にとっても不利益となる。稲田朋美規制改革担当相は「決して農協を解体するという改革ではない」と強調する。それなら「解体」に直結する中央会制度廃止や全農株式会社化などを即刻撤回すべきだろう。国民に選ばれた国会議員、特に与党が力を発揮し、再び「党主導」で地域再生に道筋を付ける改革案を提示すべきだ。議員一人一人が具体的な行動を起こす時である。

*6-3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28139
(日本農業新聞 2014/6/7) JAへの支援約束 全中副会長と意見交換 欧州農業団体 
 国際協同組合同盟(ICA)グローバル理事会に出席するためベルギーの首都、ブリュッセルを訪れているJA全中の村上光雄副会長は5日、欧州連合(EU)農業団体連合会(COPA)・EU農業協同組合連合会(COGECA)本部事務所を訪問、日本政府の規制改革会議 が示した農協制度の見直し 提案などについて意見を交わした。全中によると、村上副会長は、中央会制度の廃止やJA全農の株式会社化、信用・共済事業の分離といった規制改革会議が提起した農協に関する制度改革の内容を説明。JAグループの取り組みなどに理解を求めた。両団体共通事務局の事務局長であるペッカ・ペソネン氏は「日本の皆さんの懸念はよく理解できる。両団体として支援をしていきたい」と述べ、JAグループの取り組みに対する支持を約束した。村上副会長は「皆さまから支援を頂けることはJAグループ組合員・役職員にとって大きな励みになる」と述べた。

*6-4:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28014
(日本農業新聞 2014/5/31)  農業改革に強い懸念 日本協同組合連絡協など声明
 日本協同組合連絡協議会(JJC)は30日、政府の規制改革会議がJAの総合事業や中央会制度の廃止を盛り込んだ農業改革案を示したことについて、自主・自立、民主的運営を基本にする協同組合の在り方を考慮していないとして「強い懸念」を表す共同声明を発表した。JJC加盟団体の他、趣旨に賛同した協同組合6団体も加わり、計20団体が声明に名を連ねている。共同声明は、「時代の変化に対応し、常に改革の努力は必要だが、あくまでも組合員の立場に立った協同組合自身による自己改革が基本」と強調。農業改革案について「一方的に制度改変を迫るものであり、強い懸念を感じる」と訴えている。声明は、JJC加盟の全団体の他、趣旨に賛同した生活クラブ事業連合生協連やワーカーズ・コレクティブネットワークジャパン、労働者福祉中央協議会など、6団体も参加した。JJC会員の一つ、日本労協連の永 戸祐三理事長は「これはJAグループに限らない、協同組合全体に対する攻撃だ。われわれ が目指す協同労働の協同組合の 法制化にも影響を与える」と懸念。「規制改革会議の農業改革案は撤 回すべきだと考える。他の協同組合と連携しながら、取り組みを進める」とした。会員外で賛同した生活クラブ生協連の加藤好一会長は「農業改革案は結果的にJAの解体を意味し、とても認められない」と批判。「協同組合として危機感を持つ。共同声明は第一歩であり、今後も具体的な行動につなげていきたい」と語った。JJC幹事長を務める谷口肇JA全中常務は「多くの協同組合が意を一つに懸念表明していただいたことは、ありがたいことだ。この事実に政府は、しっかりと目を向けてほしい」と訴えた。また、「JA・組合員目線で自らの改革に努力していきたい」と述べた。
<ことば> JJC
 国際協同組合同盟(ICA)に加盟する国内の協同組合組織で構成。日本生協連や全漁連、日本労協連、JAグループなど14団体が加盟する。

<農村について>
*7-1::http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=27949
(日本農業新聞 2014/5/28) 30年後の市町村人口 農業地帯ほど減少 13年度白書で推計
 農林漁業に従事する人の割合が高い市町村ほど人口減が顕著に進むとする推計が、政府が27日に閣議決定した2013年度の食料・農業・農村白書に盛り込まれた。就業人口の10%以上を占める農業が盛んな地域では、30年後の人口が現在の7割弱に落ち込むと推測。経営体力のある担い手の確保を急がなければ、農業生産の弱体化や農村地域が崩壊する恐れのあることが、あらためて浮き彫りになった。同白書が農村部の人口推計を取り上げるのは初めて。林芳正農相は同日の閣議後会見で「農林漁業従事者の割合が高い自治体ほど人口減少率が高くなっている。こういうことを踏まえ、今後どうしていくかを考えなければならない」と強調した。推計は、15歳以上の就業人口のうち農林漁業就業者が占める割合で市町村を三つに区分。人口が10年から40年の間にどう推移するか、国立社会保障・人口問題研究所の推計などに基づき試算した。それによると、農林漁業就業者が10%以上の市町村は、30年間で66.8%に落ち込む。2~10%だと80.0%、2%未満だと89.9%に減ると見込んだ。白書は、農村地域の人口減が今後加速すると予想。「農業生産活動や共同活動の弱体化、地域資源や定住基盤の崩壊」を懸念している。今回の白書は、現在進められている食料・農業・農村基本計画の見直し議論も踏まえた。「人口減にどう対応するか」が大きなテーマになっており、課題認識で足並みをそろえた格好だ。また、将来の食料消費を見通すため、今後増える見込みの「65歳以上の単身世帯」の実態もまとめた。食料消費の支出を13年と03年とで比較。生鮮食品は6.8%減ったが、サラダや天ぷら、フライなどの調理食品は9.5%増えた。農水省は「簡便な食事が好まれている」と分析。「単身・高齢者世帯のニーズにかなった食品、農産物の生産を推進することが重要」と指摘した。

*7-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28076
(日本農業新聞 2014/6/4) 農業・農村衰退を危惧 農協制度見直しで緊急提言 四国知事会
 四国知事会は3日、徳島県神山町で開いた会議で、農業政策についての緊急提言を発表した。政府の規制改革会議が示した農協制度の見直しについて、農業・農村の衰退につながることを危惧し「地方の意見も十分に聞き、拙速な見直しとならないよう」強く求めた。各県知事は「唐突だ」「勢いで進めるのは危険」など、地方を置いて進む議論に違和感を表明。緊急提言は早急に政府に提出し、対応を求めていく。会議は4県知事が参加し、四国地域の財政や振興策を幅広く話し合った。喫緊の課題を多く抱える農業分野では、農協制度の見直しへの意見の他、環太平洋連携協定(TPP)交渉での要望や農業の振興・国際競争力の強化など4項目を緊急提言としてまとめた。緊急提言を提案した高知県の尾﨑正直知事は「(規制改革会議の)唐突な提案に、早速地域の農業者から不安の声が強く上がっている。緊急提言が必要だった」と説明。「農協制度は地域の暮らしを守ってきた。改革案には、しっかり地方の声を反映するべきだ」と強調した。愛媛県の中村時広知事は「根本的に変えたらどうなるか考えないまま、勢いで進めようとしている」と危機感を表明。「時代の変化に対応しようとする農協が出てきており、それには中央会の指導が重要だ。初めに(結論)ありきの議論は乱暴だ」と指摘した。緊急提言は4知事の賛成で採択され、できるだけ早い段階で政府に提出する。緊急提言では、TPP交渉について、重要品目の聖域確保などを求めた国会決議の順守、情報の開示、国民の合意の上での参加判断などをあらためて要望。中山間地域の農業振興として施設園芸や露地野菜、かんきつ栽培などの支援と、2015年度から始まる第4期の中山間地域等直接支払制度で超急傾斜地区分を設けることなどを求めた。

*7-3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28122
(日本農業新聞 2014/6/6) 現場の意見踏まえよ 政府に緊急要望書 北海道東北地方知事会
 北海道東北地方知事会は5日、政府の規制改革会議の農業改革案に対する緊急要望書をまとめた。JAなどが地域農業の振興や農村地域の生活基盤を支えてきたことを踏まえるべきだと強調。農協制度などの見直しでは、農家や農業関係者の意見を広く聞き、慎重に議論を尽くすよう求めた。東日本大震災被災地の復興加速への配慮も必要だとした。要望書は同日、内閣府と農水省、自民党に提出した。JAなどが中山間地の実情なども配慮した農業振興や生活支援などを行っていることを重視。政府の成長戦略への反映では「地域の農業・農村振興や食料供給等を通した国民生活に十分な機能を果たすような見直しになること」を求めた。また、東日本大震災からの復興には関係団体が一丸となった取り組みが必要であることから「復興の途上にある被災地の活力を決して低下させることがないよう、十分に配慮すること」とした。同知事会は北海道と東北6県、新潟県で構成する。

*7-4:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=28121
(日本農業新聞 2014/6/6) 農協制度見直し案 知事から疑問相次ぐ
 政府の規制改革会議が示した農協制度の見直し案について、各地の知事が疑問を呈している。地域農業・社会に果たすJAの役割を認める発言や、改革の必要性を認めながらも議論の進め方が性急過ぎるといった指摘だ。知事会も提言などをまとめている。農業地帯、条件不利地を問わずJAグループの役割を評価する意見があった。北海道の高橋はるみ氏は「農協が、専業性の高い北海道農業の発展の中で大きな役割を果たしてきてもらったし、もらっている」と述べた。宮城県の村井嘉浩氏は「農協が農業振興に果たしてきた役割や生活基盤を支える機能を発揮している実態を踏まえた議論が極めて重要」とコメント。島根県の溝口善兵衛氏は「中山間地が多い島根県では農協の果たす役割が大きい」、高知県の尾﨑正直氏も「農協は地域の暮らしを守ってきた」と語る。茨城県の橋本昌氏は「原子力発電所事故後の損害賠償も、農協組織があったからうまくいったと思っている」と中央会の機能を含めて評価。熊本県の蒲島郁夫氏は「JA全中は全国組織として農業に大事な役割を果たしてきた」とし、「制度改革が全てではない」と述べた。議論が性急過ぎる、現場の声を踏まえるべきだという意見も多い。山形県の吉村美栄子氏は「改革の本質が見えず、現場の混乱を招いている」と指摘。愛媛県の中村時広氏も「結論ありきの議論は乱暴だ」と語る。愛知県の大村秀章氏は「自主的な協同組織を変えるのであれば、国民に分かりやすい説明がなければいけない」とした上で、「なぜ中央会を廃止するのか説明しきれていない」と言う。鳥取県の平井伸治氏と広島県の湯﨑英彦氏は、十分な時間をかけて現場の意見を取り入れて議論すべきだと要望。和歌山県の仁坂吉伸氏は「力のある農協の全国組織や県組織を解体し、弱くすると世の中が良くなる、という発想が間違いではないか」と述べた。規制改革や規制緩和自体を疑問視する意見もある。長野県の阿部守一氏は「いろいろな改革をすること自体がいいことだという話ばかりではない」、宮崎県の河野俊嗣氏も「これまで(規制改革の)弊害も出ており、慎重な議論が求められる」と語った。中国地方知事会、四国知事会、北海道東北地方知事会が共同アピールなどをまとめている。日本農業新聞が会見やインタビューなどから主な発言をまとめた。
●規制改革会議 農協改革案 根拠なく違和感当然 
 急進的な農協改革を提言した政府の規制改革会議に対する各県知事らの反応や本来のJAの役割について滋賀県立大学の増田佳昭教授に聞いた。
●滋賀県立大学教授  増田佳昭氏に聞く
 複数の知事らが性急な改革や現場実態と乖離(かいり)した規制改革会議の提言に疑問を呈しているのは、規制改革会議が「地方」も「現場」も素直に見ようとしないからだ。提言に対して、生産現場や地方が違和感を持つのは当たり前だ。同会議農業ワーキンググループ(WG)が行ったヒアリングの記録を見れば、現場のJAが組合員の農業経営と地域のために頑張っているのが分かる。何のためのヒアリングだったのか疑問だ。WGでの議論の経過と懸け離れた結論ありきの提言で、驚きを通り越して不快感さえ感じる。何かを変える場合、合理的な理由や根拠が必要だ。提言にある農協法に基づく中央会制度の廃止やJA全農の株式会社化、信用・共済事業の分離といった改変の合理的根拠はほとんど示されていない。誰のための改革なのか。提言は、政治的な背景や動機、あるいは一部の人たちの功名心に基づいているように感じる。大事なのは、組合員のための、地域農業振興のための改革の視点だ。需要に見合った米生産や交付金の申請手続きの支援など、農業の現場はJA抜きに語れない。だが、JAは行政の下請け組織ではない。農業者を中心とする組合員の自主的な自助・共助の組織だ。政府がJAを自分たちにとって都合のいい組織と捉え、組織の根幹に関わることに介入してもいいと考えているなら、それはおごりではないか。日本農業は過渡期にある。農業を支えてきた高齢者はリタイア段階にあり、着実に次の世代の農業者が育っている。その人たちを励ますことこそが農政の課題だ。規制改革会議が求めるような、野放図な企業の土地所有を認めることが農業を発展させるとは思えない。これからも農業は家族経営が中心であることは間違いないし、地域に根差した農業者こそが日本の農業を支える。こうした実態の中では必ず農業者の協同が必要になる。協同を否定する動きは、地域農業の発展にとって百害あって一利なしだ。JAも協同組織としての特性を自覚し、次世代の農業者としっかり腕を組んで頑張ってほしい。それぞれのJAが組合員と共に、組合員と地域社会のための改革にしっかり取り組めば怖いものはない。

| 農林漁業::2014.2~7 | 08:06 PM | comments (x) | trackback (x) |

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