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2016,08,31, Wednesday
ドクターヘリ(埼玉県) ドクターヘリ(神奈川県) ドクターヘリ(宮崎県) ドクターヘリ(沖縄県) 電線が危険 ドクターヘリの ドクターヘリの関東での広域連携 パイロット不足 熊本地震での 出動状況(群馬県) 2015.7.22公明新聞 高速道路通行止め *1-3より (*パイロットは、自衛隊をリタイアした 経験者に研修すればいいのでは?) (1)ドクターヘリについて 私が衆議院議員をしていた2005年~2009年の間に地元佐賀三区で有権者の意見を聞いて廻ったところ、特に離島の人に医療へのアクセスに関する心配が多かったことや、いざという時には誰でも短時間で先端医療にアクセスできるようにしたかったことから、前半の2006~2007年に、*1-1のドクターヘリによる救急医療体制を作った。 しかし、*1-2のように、福岡、長崎両県のヘリを共同運航してきて、佐賀県独自のヘリが導入されたのが2014年1月というのは、佐賀県が他県に一方的に頼っており情けない。 また、*1-2によれば、ドクターヘリが要請を受けたにもかかわらず出動できなかったケースが49件あり、その理由は、①要請の重複14件 ②時間外11件(運航時間:午前8時半~日没30分前まで) ③天候不良10件だったそうだ。 このうち①はヘリ不足で仕方がないとはいうものの、*1-4で国立病院機構長崎医療センター救命救急センター長の髙山氏が提言されているとおり、北関東のように、まず他県と広域連携してこのようなことが少なくなるようにするのがよいと考える。 ②③については、晴れの日の昼間以外は危険だから飛べないということで、それはヘリの操縦が人の視界のみに頼っているからだろうが、航空機だけでなく自動車でさえ自動運転できる時代に遅れている。また、フライトドクターやフライトナースはヘリに乗っている時間に比例して墜落に遭遇するリスクも高くなり、ドクターヘリに乗る重篤な患者はじめ乗る時間が長くなるドクターやナースにもヘリの振動や騒音は身体に悪いため、ヘリの性能を向上させるべきである。 さらに、*1-3のように、ドクターヘリは災害時に「隠れた医療ニーズがあった」と、熊本地震の道路状況が悪くなった地域で災害医療派遣チーム(DMAT)の一員として活動し、患者の受け入れやその後の支援活動で指揮を執った久留米大病院高度救命救急センター教授の山下氏が証言しておられる。 このように、ドクターヘリを使った医療システムは、比較的少ない拠点病院と少ない医師で広域をカバーできるため、ドクターヘリを使う広域医療ネットワークを構築すれば、最も安あがりで高品質の医療システムをつくることができるだろう。そして、それは、日本国内だけでなく、アジア・アフリカのように離島や山間部が多く医師の数が少ない地域で必須アイテムになると思われる。 (2)再生医療について 2014.10.24日経新聞(癌治療) 毛髪の再生医療 皮膚の再生医療 私は、1995年前後にJETROが開いた会合で、ヨーロッパのDNAに関する研究成果に触れる機会があり、遅れていた日本での再生医療の可能性について通産省(当時)に言って進めた経緯がある。そして、衆議院議員をしていた2005年~2009年の間に、日本は、文科省・厚労省・経産省が協力して再生医療の研究と産業化を進める体制になった。しかし、その後、日本では、iPS細胞以外は再生医療と認めないようなところがあったため、iPS細胞以外では外国に抜かれたように思う。 つまり、新しい研究をしている時には何が成果を上げるかわからないため、既にノーベル賞をもらったか否かにかかわらず、あらゆる可能性を排除せずに筋の良いものは残してバックアップしていくべきで、国内で邪魔されながら世界で勝つことなどは到底できないということを、政治家も官僚もメディアも肝に銘じておくべきなのだ。 1)免疫療法 小野薬品は、*2-1のように、免疫を使って癌細胞を攻撃する新たな治療薬「抗PD―1抗体」を実用化したが、仕組みがわかってから治療薬候補が完成し治験が始まったのは、米国で抗PD―1抗体の治験が始まった2006年からで、開発から実用化までに15年もかかっており、その間に亡くなった方は多い。また、メルク、ロシュなども、既に同じ仕組みの抗PD―1抗体の治験を拡大している。 しかし、厚労省は、今でも公的医療保険が適用される標準治療は、外科療法(手術)・放射線療法・化学療法(抗癌剤)として免疫療法(http://camiku.kyushu-u.ac.jp/about/clinic/immune-cell-therapy 参照)は公的医療保険外というスタンスをとっている。この鈍さも、チャレンジして研究開発した先端企業にロイヤルティー収入を得にくくして、日本を研究開発に向かない国にしているのだ。 2)幹細胞を利用した再生医療 再生医療に利用できる細胞には幹細胞もあり、加工していない本人の細胞であれば、自らの免疫で攻撃されることがなく癌化もしないという意味で、他人の細胞やiPS細胞を使うより優れている。 そのような中、*2-2のように、「外傷性脳損傷」の患者に加工した他人の骨髄由来の幹細胞(細胞医薬品)を脳に直接注入して機能回復を試みる治験を東京大病院が近く始め、これは米国では先行して進められて脳梗塞患者の治験で運動機能や言語機能の向上が既に報告されており、回復が難しい脳損傷の新たな治療法になるそうだ。 この幹細胞は、健康な他人の骨髄から採取した間葉系幹細胞を加工・培養したもので、移植した細胞は、約1カ月で脳内から消えるそうだ。米スタンフォード大などの研究チームが、この医薬品の安全性確認のために脳梗塞患18人に実施した治験結果を米医学誌に発表したが、それによると、ほぼ全員の運動機能が回復して目立った副作用はなかったとのことである(すごい!)。 そのほか、外国では自分の脂肪由来の幹細胞で脊髄損傷を治したという報告もあったが、*2-3のように、日本では札幌医大が幹細胞で脊髄損傷を治療する国内初の治験をしており、これを適用すると自民党の谷垣元幹事長の頸髄損傷も治すことができそうだ。 つまり、何にでも分化できる幹細胞はKeyであり、保険適用にして治せば患者の福利が増すのはもちろんのこと、介護がいらなくなり社会復帰できるため、社会全体では医療・介護のコストが節減できる。 3)毛髪・皮膚・心臓の再生医療 i)毛髪の再生 命にかかわる病気ではないが、*2-4のように、京セラが理研と組み、患者から採取した健康な毛髪細胞を加工・増殖して患者に移植し、毛髪再生装置の試作機を開発するそうだ。事業化には細胞の精密加工技術や大量に培養する量産技術が必要で、これは日本のお家芸だ。毛髪の再生医療も公的保険が適用されない自由診療での実用化になるそうだが、この需要は多いと思われる。 ii)肌の若返り *2-5のように、自分自身の肌細胞を採取し、抽出して培養したものをシワやたるみなどが気になる部位に注射器で移植する「肌の再生医療」もあるそうで、実用化されれば需要は多いだろう。 iii)ハートシート 実用化された再生医療製品では、テルモの心不全治療に使う「ハートシート」の標準治療価格が1400万円強と高かったところ、保険適用となって患者の自己負担は治療費の1~3割で済み、高額療養費制度の対象にもなるそうだ。そして、これも数を多く生産すればコストが下がることは間違いない。 4)iPS細胞を利用した再生医療 iPS細胞は、*2-6のように、皮膚や血液の細胞から作れる万能細胞で無限に増え、体の様々な種類の細胞に変化できるが、移植した細胞が狙った細胞に変化し損なって腫瘍(=癌)になる危険がある。日本眼科学会総会は、「安全性に関するエンドポイント(評価項目)は達成した」としており、国もiPS細胞を全面的に支援しているが、心臓シートや角膜シートは自分自身の他の細胞からすでにできているため、リスクとコストをかけてiPS細胞から作成しなければならないかについて、私は疑問に思う。 (3)ワクチン *3のように、「第4のがん治療法」とされる癌ワクチンによる治療の実用化を目指す研究・診療拠点「久留米大癌ワクチンセンター」が開設から1年を迎え来院する患者も増加傾向で、中国等の海外からも患者が来ているそうだ。ワクチンは、それぞれの患者に適した四つのワクチンを選んで投与する「テーラーメード」や進行癌の患者に20種類のワクチンを混ぜて早期に打つ方法も進んでいるとのことである。 私は、虫歯や歯周病も口内の雑菌に対する抵抗力を高めればよいため、ワクチンで予防できるのではないかと考える。 (4)予防の重要性 *4-1のように、クボタやヤンマーが農業用のドローンに参入するという記事がある。私は、技術革新、省力化、コスト削減を同時に可能にするドローンに反対するつもりはないが、ドローンが墜落してプロペラが人に当たれば、身体がばっさりと切れてしまうことは間違いなく、それからでは再生医療を使っても回復できないケースが多くなる。そのため、通りがかった人や農業者の事故を防ぐように、ドローンはプロペラが人に当たらない徹底した安全設計にすべきだ。 また、*4-2のように、自動車が公道で無人運転できたり、ドローンで設備点検したりするとのことだが、事故時の自動車の壊れ方も乗っている人を護れるものではない。さらに、ドローンでの設備点検時には労災が起こりそうである上、第三者も巻き込まれることがあるため、事故が起こって犠牲者が出てから「想定外でした」と言うのではなく、事前に安全第一の設計にすべきである。 <ドクターヘリ> *1-1:http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H19/H19HO103.html 救急医療用ヘリコプターを用いた救急医療の確保に関する特別措置法 (平成十九年六月二十七日法律第百三号、最終改正:平成二三年八月三〇日法律第一〇五号) (目的) 第一条 この法律は、救急医療用ヘリコプターを用いた救急医療が傷病者の救命、後遺症の軽減等に果たす役割の重要性にかんがみ、救急医療用ヘリコプターを用いた救急医療の全国的な確保を図るための特別の措置を講ずることにより、良質かつ適切な救急医療を効率的に提供する体制の確保に寄与し、もって国民の健康の保持及び安心して暮らすことのできる社会の実現に資することを目的とする。 (定義) 第二条 この法律において「救急医療用ヘリコプター」とは、次の各号のいずれにも該当するヘリコプターをいう。 一 救急医療に必要な機器を装備し、及び医薬品を搭載していること。 二 救急医療に係る高度の医療を提供している病院の施設として、その敷地内その他の当該病院の医師が直ちに搭乗することのできる場所に配備されていること。 (救急医療用ヘリコプターを用いた救急医療の確保に関する施策の目標等) 第三条 救急医療用ヘリコプターを用いた救急医療の確保に関する施策は、医師が救急医療用ヘリコプターに搭乗して速やかに傷病者の現在する場所に行き、当該救急医療用ヘリコプターに装備した機器又は搭載した医薬品を用いて当該傷病者に対し当該場所又は当該救急医療用ヘリコプターの機内において必要な治療を行いつつ、当該傷病者を速やかに医療機関その他の場所に搬送することのできる態勢を、地域の実情を踏まえつつ全国的に整備することを目標とするものとする。 2 前項の施策は、地域の実情に応じ次に掲げる事項に留意して行われるものとする。 一 傷病者の医療機関その他の場所への搬送に関し、必要に応じて消防機関、海上保安庁その他の関係機関との連携及び協力が適切に図られること。 二 へき地における救急医療の確保に寄与すること。 三 都道府県の区域を超えた連携及び協力の体制が整備されること。 (以下略) *1-2:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/242909 (佐賀新聞 2015年10月25日) 県ドクターヘリ出動322件 隣県依頼時から倍増、導入1年目 佐賀県のドクターヘリは昨年1月の導入開始から1年間で322件出動した。導入前の福岡、長崎両県のヘリに出動依頼していたころに比べ、2倍近くに増えている。基地病院の佐賀大学医学部附属病院は「ヘリでなければ救えなかったケースもあり、県内の救急医療レベルが向上した」としている。佐賀県独自のドクターヘリは昨年1月17日に運航を開始した。佐賀大病院だけでなく、連携病院として県医療センター好生館からも週2日離着陸している。佐賀大病院救命救急センターによると、現場で対応したうち、ただちに医療介入しなければ危ない重篤患者は10%、生命に関わる可能性がある重症が37%、中等症43%、軽症10%だった。センターは「厳しく見積もっても、ヘリだからこそ助けられたケースが10%はあった」とみている。唐津市七山で発生したバイクの単独事故で運転していた男性は多発外傷で大量に出血していた。佐賀大病院から救急車では片道50分ほどかかり、ヘリでなければ助からなかったとみられるケース。ヘリは要請から5分程度で近くの休耕田に着陸し、救命措置を施しながら搬送した。男性は歩けるほどに回復したという。出動要請のあった消防別にみると、杵藤地区が最も多く116件、次いで佐賀地区が92件、唐津地区73件、伊万里有田地区37件、鳥栖地区20件となり、県西部への出動が多かった。出動の内訳は現場出動が236件(73・3%)、病院間の転院搬送が62件(19・3%)、出動後のキャンセルも24件(7・5%)あった。要請を受けたものの出動できなかったケースも49件あり、その主な理由は要請の重複が14件、時間外11件、天候不良10件などだった。通報から要請、出動までの時間は全国平均とほぼ変わらなかった。定期的にドクターヘリの症例検討会を開き、医師や看護師、消防、行政、運航事業者らと協議している。センター長の阪本雄一郎教授は「ヘリを通して医療機関や消防、行政による地域救急医療のチームワークが強固になった。今後は福岡、長崎と北部九州のより良い救急体制の構築を目指していきたい」と手応えを語る。 ■佐賀県のドクターヘリの運航 福岡、長崎両県のヘリを共同運航し、佐賀県内への出動件数に応じて費用負担してきたが、2014年1月に県独自のドクターヘリを導入した。年間経費は2億1000万円で半額は国の補助金。現在、県内は3県のヘリが飛ぶ珍しい地域となっている。臨時に離着陸するランデブーポイント(離着陸指定地)は公園や学校の運動場など162カ所あり、ケースによっては指定以外の広い場所に離着陸する。県内全域を15分以内でカバー。運航時間は午前8時半から日没30分前となっている。 *1-3:http://qbiz.jp/article/87753/1/ (西日本新聞 2016年6月6日) 「隠れた医療ニーズがあった」、災害派遣医師が証言 熊本地震では被災地から地理的に近く、医師数や施設が充実する筑後地区から、医療支援が実施された。久留米大病院高度救命救急センター教授の山下典雄医師(55)は、同大病院の災害医療派遣チーム(DMAT)の一員として熊本県で活動し、患者受け入れやその後の支援活動でも指揮を執った。被災地の現状や災害時医療の課題を聞いた。 −被災地での活動は。 「前震が起きた4月14日の翌15日未明、DMAT1次隊として久留米を出発した。益城町で活動し、避難所では打撲や擦り傷などけが人を搬送した。道路状況が悪く、移動に30分ほど余計にかかった。16日未明の本震以降は、DMATを2次隊まで組織し、現地で活動した。その後、急性期、救命期の医療支援から慢性期医療に移行し災害医療チーム(JMAT)を組み、今月6日まで9次隊にわたって派遣した」 −久留米大病院としての医療支援は。 「大学病院では、被災地から広域搬送される患者受け入れのため、災害対策本部を立ち上げ、100人超の医師を招集して態勢を取った。被災地からは要請のあった透析患者や新生児ら三十数人を受け入れた。ドクターヘリも熊本県の指揮下に入り、広域搬送を支援した」 −被災地の現状をどう見ているか。 「熊本市内の医療態勢は回復に向かい、今後は避難所や車中泊をしている人のエコノミークラス症候群予防、高齢者の口腔ケア、感染症予防のための生活指導が重要になっている。梅雨が近づくので、食中毒など衛生面でも注意する必要がある」「一方、阿蘇地域では電力や水道などライフラインの復旧が遅れ、医療機関も厳しい状況が続いている。南阿蘇村では唯一の救急指定病院が使用できなくなり、仮設の救護所で診療を受ける人も依然としていた。土砂崩れによる阿蘇大橋の崩落や、国道57号が通れなくなり、村内も分断され、交通状況も良くない。車が使えなくなり、移動手段がなくなった住民も少なくないと聞く。村内の巡回診療など今後も、医療支援が必要になると思う」「久留米大病院のチームは村内の介護施設を回った。道路が寸断された上、高齢などで移動が難しい入所者を抱えており、飲まず食わずの対応に追われた職員の疲弊も色濃かった。支援する側は、避難所などに集まってくる人たちに注意が行き、外側まで手が回っておらず、隠れた医療ニーズがあった」 −患者受け入れなど支援に当たって感じた課題は。 「現場には混乱が起きた。被災地の病院から直接、患者受け入れ要請があり、熊本県に調整を依頼したが、なかなか連絡が来ない。しびれを切らした病院が、自ら患者を搬送してきた。こちらは受け入れ可能と伝えたが、勝手には動けずもどかしい思いをした」 −今後、筑後地区で大規模災害が起こる可能性もある。備えは。 「災害医療は、日ごろの救急医療の延長線上にある。混乱を避けるには、地域医療機関同士の横のつながりと、行政、消防との連携が不可欠だ。NPO法人筑後地域救急医療研究会を中心に、救急に携わる人たちの間で顔の見える関係を築いてきた。救急指定病院ならベッドの空き具合や、医師の氏名から対応できる疾患まである程度、頭に浮かぶ。今回、被災地の患者受け入れで、聖マリア病院(久留米市)や他の医療機関と密に連絡が取り合えたのは成果だと思う」「筑後地区が被災地になった時、県外の医療機関やDMATにどう支援してもらい、受け入れるのかを想定した訓練は今後、より充実させていく必要がある。被災地ではコーディネーター役の地元の医師がリーダーシップを取り、続々と到着する支援組織を割り振っていた。人材育成も急務だ」「災害時には病床を空けるため状態の良い入院患者に同意を得て転院、退院、手術延期をお願いすることもある。理解を求めたい」 *1-4:http://www.qsr.mlit.go.jp/suishin/cgi/070516/08takayama.pdf#search='%E4%B9%9D%E5%B7%9E%E3%81%AE%E3%83%89%E3%82%AF%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%98%E3%83%AA+%E9%81%8B%E7%94%A8' 広域救急医療体制(救急ヘリコプターの共同利用)と高速交通網に関する提言 独立行政法人国立病院機構長崎医療センター 救命救急センター長 髙山 隼人 (1)広域救急医療体制への提言(救急ヘリコプターの共同利用) 1.はじめに 慢性的な疾患に関しては、国民は希望する医療機関まで行くことによって受診することができるが、救急疾患や急病、外傷に関しては、近くの救急医療機関に搬送され治療を受けることになる。九州は、山間部や半島、離島など多く、三次救急医療機関まで60 分以上かかる地域が多く存在しており、医療に関しても地域格差を生じている。急性疾患の発症時間や外傷の発生時間より、60 分以内に適切な治療を受けることにより救命率を向上させることができることやドクターヘリにより交通事故による死亡を39%削減し重度後遺症を13%削減できることを踏まえ、広域救急医療体制を整備する。 2.提言 九州圏内に住む国民の救命率を向上させることを目標として、救急ヘリコプター(ドクターヘリ)にて30 分以内に救急医よる治療を開始し適切な医療機関へ搬送して、60 分以内に適切な治療を受けることができるようすることを提言する。 3.方法 ①救急用ヘリコプター(ドクターヘリ)を九州本土内に、県境を区別せず半径70km ごとに展開する。 根拠:ヘリコプターは、巡航速度200-240km/hr であり、覚知から要請・離陸の時間を考慮して飛行時間20 分以内であれば、受傷・発症から30 分以内に治療が開始できる。 ②外海離島においては、小型固定翼や自衛隊救難ヘリコプターなども共同して運航する。 根拠:固定翼がヘリコプターより巡航速度が速く、離島からの遠距離搬送に適している。外界離島の場合は、離島医療機関で初期治療を行い高次搬送ができる体制を整えることにより対応する。 ③基地病院形式もしくは、複数医療機関連携した基地形式にて医療を提供する。 ④複数県が実施主体となり、共同運航する。 ⑤着陸ポイントとして、道の駅など道路付属施設や公園・広場、居住地域に点在する小学校のグ ランドなどを積極的に活用する。 ⑥夜間の運航は、安全運航を確認するため、夜間照明のある場外離着陸場を旧町村ごとに設置して、受入病院近くの夜間照明付のヘリポートに搬送することで、搬送時間の短縮を図る。 4.現状の問題点 ①ドクターヘリの県を越えた運用 運用にあたり協定等の困難感があるが、救急医療用ヘリコプターを用いた救急医療の確保に関する特別措置法案(平成19 年6 月19 日)3)もふまえて、隣県での調整が可能になってきた。 ②フライトドクターの確保困難 基地病院で、フライトドクターを確保することが一番良いが、九州圏内の救命救急センターは、現在の救急医療活動を提供するのにぎりぎりの人数のところが大半である。しかし、救急医療やフライトドクターなどに興味を持つ若手医師も少しずつ増えてきているので、段階的に養成していくことが可能と思われる。代案として、複数の医療機関が連携してフライトドクターを提供して基地に待機して365 日出動態勢を整える方法もある。 5.その他 新臨床研修制度により、医局からの派遣体制の崩壊が起こり、専門医から総合医の養成に方向転換がなされてきた。離島や中山間地域のみならず地方都市の医師不足が顕著になってきている。派遣体制整備は今後の国の施策に期待するが、離島・中山間・地方都市の医療体制のバックアップのため、重症患者の搬送などに救急ヘリコプターを活用することも支援となりうる。このため、昼夜を問わず搬送できるハード面の充実も必要である。 <参考文献> 1)Cowley RA, その他. J Trauma 1973; 13: 1029-1038 2)益子邦洋、その他.ドクターヘリによる交通事故死/重度後遺症の削減効果.平成17 年度厚生労働科学、研究費補助金「新たな救急医療施設のあり方と病院前救護体制の評価に関する研究 ドクターヘリの実態と評価に関する研究」 3)参議院議事情報http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/gian/16607166003.htm (2)高速交通網に関する提言 1.はじめに 九州内各県の主要な高度医療施設への救急車搬入の実態調査(日本救急医学会九州地方会2007 年プロジェクト「救急車搬送患者の搬送時間と転帰に関する検討」)より、急性心筋梗塞や急性大動脈解離、重症多発外傷などで、40 分以内での搬送時間と生存率や自宅退院率などの相関が認められている。長時間すなわち長距離搬送により、状態の悪化が予後を左右することがわかる。九州圏には3次医療機関まで、60分以上かかる地域が多数ある。 2.現状と問題点 ・ 搬送時間の延長 ・ 道路線形の不良 ・ 交通量の増加 ・ 救急医療機関の減少 ・ 高速道路の未整備 3.課題 ・ 消防署と救急医療機関の配置 ・ 道路整備 ・ 救急ヘリコプターが着陸できる道路整備 4.課題 ・ 居住人口に合わせた救急車両の配置 ・ 消防本部の統廃合により本部機能の一元化による人員を分署の再配置 ・ 医療機関の統廃合(救急医療も担う地域の基幹病院とかかりつけ医の役割分担) ・ 国道整備:カーブなどの改善(ゆれや振動の低減) ・ 高速道路整備により3 次医療機関までの搬送時間の短縮 ・ 電柱の地中化、中央分離帯の構造変更(救急車の走行できる車線とするなど) 5.まとめ 物流対策のみではなく、救急医療への支援も考慮にいれ、高速道路や国道整備を検討する。道路 整備による搬送時間の短縮に伴う死亡率の改善は、社会的損失の軽減として経済効果は十分に大き いと考える。 <再生医療> *2-1:http://www.nikkei.com/article/DGXMZO78790300T21C14A0X11000/ (日経新聞 2014/10/24) 15年間諦めなかった小野薬品 がん消滅、新免疫薬 日本人の死因のトップであるがん治療には、外科的手術や放射線治療、最後の手段として化学療法があるが、今この構図が大きく変わる可能性が出てきた。免疫を使ってがん細胞を攻撃する新たな免疫治療薬「抗PD―1抗体」が実用化されたからだ。世界に先駆けて実用化したのが関西の中堅製薬、小野薬品工業だ。画期的な免疫薬とは――。 ■「オプジーボは革命的なクスリ」と高評価 「がん研究、治療を変える革命的なクスリだ」。慶応義塾大学先端医科学研究所所長の河上裕教授は9月から日本で発売が始まった小野薬の抗PD―1抗体「オプジーボ」(一般名ニボルマブ)をそう評価する。ニボルマブは難治性がんの1つ悪性黒色腫(メラノーマ)の治療薬として小野薬と米ブリストル・マイヤーズスクイブ(BMS)が共同開発した新薬だ。がんは体内の免疫に攻撃されないように免疫機能を抑制する特殊な能力を持つ。ニボルマブはこの抑制能力を解除する仕組みで、覚醒した免疫細胞によってがん細胞を攻撃させる。世界的な革命技術として、米科学誌サイエンスの2013年の「ブレークスルー・オブ・ザ・イヤー」のトップを飾った。今や米メルク、スイスのロシュなど世界の製薬大手がこぞってこの仕組みを使った免疫薬の開発を加速させている。悪性度が高いメラノーマは5年後の生存率は1割前後という極めて危険ながんだが、米国、日本での臨床試験(治験)では「増殖を抑えるだけでなく、がん細胞がほぼ消えてしまう患者も出た」(河上教授)。米国での他の抗がん剤と比較する治験では既存の抗がん剤を取りやめ、ニボルマブに切り替える勧告も出たほどだ。肺がんや胃がん、食道がんなど他のがん種に対する治験も進んでいる。世界の製薬大手が画期的な新薬開発に行き詰まるなか、なぜ小野薬が生み出せたのか。1つは関西の1人の研究者の存在がある。「PD―1」という分子を京都大学の本庶佑名誉教授らの研究チームが発見したのは1992年だ。小野薬もこの分子に目をつけ、共同研究を進めた。PD―1が免疫抑制に関わっている仕組みが分かったのは99年で、創薬の研究開発が本格的に始まるまでにおよそ7年。実際の治療薬候補が完成し治験が始まったのは2006年で、開発から実用化までにおよそ15年かかったことになる。当時は「免疫療法は効果が弱い」「切った(手術)方が早い」など免疫療法に対する医療業界の反応は冷ややかだった。医師や学会だけでなく、数々の抗がん剤を実用化した製薬大手も開発に消極的だった。そんな中で小野薬だけが“しぶとく”開発を続けてきた背景には「機能が分からなくても、珍しい機能を持つ分子を見つけ、何らかの治療薬につなげるという企業文化があった」(粟田浩開発本部長兼取締役)という。もともと小野薬は極めて研究開発志向の強い会社だ。売上高(14年3月期は1432億円)に対する研究開発比率は国内製薬メーカーでは断トツの30%台だ。しかもがん治療薬は初めて参入する分野で、「かならず成果を出す」という研究者の意欲も高かった。小野薬は血流改善薬「オパルモン」とアレルギー性疾患治療薬「オノン」の2つの主要薬で高収益を維持した。だが、特許切れや後発薬の攻勢で陰りが出てきたところでもあった。免疫療法に対する風向きが変わり始めたのは米国で抗PD―1抗体の治験が始まった06年からだ。一般的な抗がん剤はがんの増殖を抑える仕組みのため数年で耐性ができ、結局は延命効果しかない。しかし抗PD―1抗体で「がんを根治できる可能性も出てきた」。 ■年間数百億円のロイヤルティー効果 副作用が少ないうえ、がんの増殖を止める、小さくする、消滅させる――。そうした治験結果が出始めたことで、国内外の研究者、製薬企業の免疫療法に対する見方が大きく変わった。ただ、効果が出ていない人も一定の割合で存在する。その場合は「他の抗がん剤や免疫療法と組み合わせれば、効果が上がる可能性がある」(粟田本部長)という。足元の業績が低迷するなか、ニボルマブ効果で小野薬の市場評価は高まっている。昨年10月時点で6000円前後だった株価は今年に入って急騰。23日の終値は9340円とわずか1年足らずで3000円以上伸びた。アナリストも「今後数年でロイヤルティーだけで年数百億円は堅い」と分析する。小野薬の相良暁社長も「10年先を支える薬になるだろう」と自信をみせる。ただメルク、ロシュなどが同じ仕組みの抗PD―1抗体の治験を拡大しており、国際競争に巻き込まれる可能性も高い。一方で他の製薬大手から小野薬がM&Aの標的となる懸念もある。その意味で同社が置かれている環境は必ずしも楽観視できない。がんの新たな治療法の扉を開けた小野薬。日本発の免疫薬に世界の目が注がれている。 *2-2:http://mainichi.jp/articles/20160814/k00/00m/040/129000c (毎日新聞 2016年8月14日) 治験へ 幹細胞注入、米で成果 頭のけがなどで脳の神経細胞が死んだり傷ついたりし、体のまひや言語障害などが出た「外傷性脳損傷」の患者を対象に、加工した骨髄由来の幹細胞(細胞医薬品)を脳に直接注入して機能回復を試みる治験を東京大病院が近く始める。米国で先行して進められている脳梗塞(こうそく)患者での治験では運動機能や言語機能の向上が報告されており、回復が難しい脳損傷の新たな治療法になる可能性がある。この細胞医薬品は、健康な人の骨髄から採取した間葉系幹細胞を加工・培養したもので、再生医療ベンチャー「サンバイオ」(東京都中央区)が開発した。免疫反応を抑える働きもあり、他人の細胞を移植するにもかかわらず、免疫抑制剤を使う必要がない。移植した細胞は、約1カ月で脳内から消えるという。米スタンフォード大などの研究チームは6月、この医薬品の安全性確認のために脳梗塞患者18人に実施した治験結果を米医学誌に発表した。これによると、ほぼ全員の運動機能が回復し、目立った副作用はなかった。サンバイオによると、治験前は動かなかった腕が頭まで上げられるようになったり、車いすが必要だった患者が少し歩けるようになったりしたという。機能が回復する詳しいメカニズムは不明だが、東大病院での治験を担当する今井英明特任講師(脳外科)によると、傷ついた脳の神経細胞の修復を促す栄養分が移植した幹細胞から分泌されると考えられるという。東大病院の治験の対象は、脳に損傷を受けてから1〜5年が経過し、現在の医療では回復が見込まれない患者。移植する細胞の数を変えて四つのグループに分け、運動機能の回復状態を1年間、追跡調査する。 *2-3:http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK1000G_Q4A110C1000000/ (日経新聞 2014/1/10) 脊髄損傷、幹細胞で治療 札幌医大が国内初の治験 札幌医科大は10日、脊髄損傷患者の骨髄から取り出した幹細胞を培養し、患者の静脈に投与して脊髄の神経細胞を再生させる治療法の効果や安全性を確かめる臨床試験(治験)を始めると発表した。10日から被験者の募集を始める。発症してから時間が経過していても治療効果が期待でき、患者自身の細胞を使うため拒絶反応の心配が少なく、安全性が高いとされる。神経となる「間葉系幹細胞」を使い、静脈に投与する薬剤として認可を目指す試験は、国内初という。チームを率いる山下敏彦教授は「脊髄損傷は事実上、有効な治療法がないが、この方法は多くの患者への効果が期待できる」と話している。チームによると、患者の腰の骨から骨髄液を採取し、間葉系幹細胞を分離。約2週間で約1万倍に培養し、約1億個の細胞が入った40ミリリットルの薬剤を静脈に点滴する。投与された細胞は脊髄の損傷部位に移動し、神経細胞に分化したり、タンパク質を分泌して傷ついた神経細胞を再生させたりする。神経が再生されると、手足が動かせるようになると見込まれるという。試験は損傷から14日以内で、脊髄のうち主に首の部分を損傷した20歳以上65歳未満の患者が対象。希望者は主治医を通じて大学に連絡する。2016年10月までに30人を目標に実施する。 *2-4:http://www.nikkei.com/article/DGXLZO04775060S6A710C1TJC000/ (日経新聞 2016/7/13) 京セラ、理研と毛髪再生医療 20年実用化目指す 京セラは理化学研究所などと組み、脱毛症を再生医療技術で治療する共同研究に乗り出す。患者から採取した健康な毛髪の細胞を加工、増殖した後に患者に移植する手法で、理研がすでに動物実験で実証している。京セラは電子部品で培った微細加工技術を生かして細胞の自動培養装置を開発し、2020年に細胞の受託製造事業への参入をめざす。脱毛症に悩む人は国内で男女あわせて1800万人以上いるという。将来の臓器再生につながるとされる毛髪再生での手法確立をめざす。12日、理研のほか、再生医療ノウハウを持つベンチャーのオーガンテクノロジーズ(東京・港)と組み、18年3月までに装置の試作機を開発すると発表した。20年までにヒトを対象とした臨床研究をする計画だ。理研は毛がないマウスに加工・増殖したヒトの細胞を移植し、発毛させる実験に世界で初めて成功している。皮膚内で毛髪を生む「毛包」と呼ぶ部分の2種類の幹細胞を分離し、加工して作った再生毛包を移植する手法をヒトに応用する。現在も後頭部など正常な毛包を脱毛部に移植する手術はある。だが頭皮の切除面積が大きくなる課題があった。理研の手法は毛髪細胞を100~1千倍に増やせるため切除部が小さくて済む。自らの細胞を使うので、人体への危険性は実用化済みの皮膚や軟骨の再生医療製品と同程度に抑えられるという。事業化には細胞の精密加工技術や大量に培養する量産技術が必要だ。京セラは精密部品の加工技術のほか、人工関節などの医療事業も手掛ける。業務用インクジェットプリンターでインクを精密に射出する技術も生かす。医療機関から患者の頭皮組織を預かり、約3週間かけて加工・培養したうえで医療機関に出荷する製造受託事業を20年をめどに始める計画だ。ただ今回の毛髪の再生医療は保険が適用されない自由診療での実用化をにらむ。実用化された再生医療製品でみると、テルモの心不全治療に使う「ハートシート」は標準治療の価格が1400万円強と高い。だが保険適用となったため患者の自己負担は治療費の1~3割で済み、高額療養費制度の対象にもなる。量産効果が効かない初期段階では、毛髪の再生医療の自己負担は高額になる可能性がある。 *2-5:http://wpb.shueisha.co.jp/2016/06/29/67245/ (週プレニュース 2016年6月29日) ヤケドの治療から始まった! 肌の再生医療の第一人者が手がける最新アンチエイジング 最近、老けてきた気がして。特にこのほうれい線、すごい深いよね…?」とため息をつくのは「週プレNEWS」の貝山弘一編集長。実年齢49歳とは思えぬ若いルックスに見えるが、本人は老化をひしひしと感じているらしい。そんな悩めるアラフィフのもとに気になるニュースが。なんと自分の細胞を培養して移植することで、肌が若返るという画期的なアンチエイジング治療法があるという。 従来の美容外科とは異なるアプローチで、安全かつ自然に若返りを可能とする手法とは? 最新医療レポート第1弾! ■薬も糸も使わない、若返りの最先端治療 老けたな~…と誰しも感じるのは、ふと鏡を見た自分の顔に白髪や顔のシワが増えたのを目の当たりにした時。気になり出すと、ますます老化が進みそう…。シワやたるみ、ほうれい線など男性は毎日のひげ剃りでも目について仕方ないハズだ。本格的にケアするにはヒアルロン酸やボトックス注射を打つか、金の糸を入れてリフトアップするなど美容外科手術に頼るしか解決方法はなかった。ところが、これまでとは全く異なるアプローチで若返りを実現させる革新的技術が開発されているという。それが「RDクリニック」で手がける「肌の再生医療」。そもそも米国FDA(日本の厚労省にあたる)が認可したれっきとした医療である。それを医学博士・北條元治(ほうじょう・もとはる)先生がわが国でいち早く始めた、最先端医療だ。北條先生「簡単にいうと『肌の再生医療』は臓器のパーツのコピーと同じです。皮膚が必要であれば、皮膚の細胞そのものをコピーする。コピーした元気な細胞を本人に移植すれば、その細胞が組織を修復するということです」 ■自身の細胞で肌を若返らせる! 「肌の再生医療」は【自分自身の肌細胞を採取し、抽出して培養したものをシワやたるみなどが気になる部位へ注射器を使い移植】する治療方法。自分の細胞で肌の若返りを促すということだが、どういう仕組みなのか?表皮と真皮の2層構造になっている肌だが、シワやたるみは真皮にある肌細胞が減少することで起こる。「肌の再生医療」は自分の皮膚から肌細胞を抽出・培養して気になる部位に移植することで、減少した肌細胞を増やして肌のハリを取り戻す。 *2-6:http://digital.asahi.com/articles/ASJ5D24XMJ5DUBQU005.html (朝日新聞 2016年5月12日) iPS細胞10年 進む再生医療・創薬研究、ハードルも 皮膚や血液の細胞から作れる万能細胞、iPS細胞が開発されて今年で10年。無限に増え、体の様々な種類の細胞に変化できる性質を生かし、再生医療や創薬に向けた研究が急速に進んでいる。一方、複雑な組織ほど体外で作り出すことは難しく、越えなければならないハードルも見えてきた。 ■心筋、網膜…再生医療への研究進む 大阪府吹田市にある大阪大の実験室。直径約2センチの培養皿に入った、人のiPS細胞から作ったシート状の心筋細胞を見せてもらった。シートには心筋のほか、血管をつくる細胞などが含まれている。容器に収められた半透明のシートを顕微鏡で拡大すると、全体が連動してリズムを刻む様子がはっきり見える。まさに「拍動」だ。心臓に貼れば、一体となって動くと見込まれている。澤芳樹教授(心臓血管外科)らは、このシートを虚血性心筋症など、現在は心臓移植が必要になる心臓病の患者らに使う研究を進めている。「人に使うために安全性を確認する最終段階まで来ている」。京都大iPS細胞研究所(CiRA)の山中伸弥教授が作り出したiPS細胞は、ES細胞のように受精卵を使う必要がないため、倫理的な問題がなく、作りやすいことから、再生医療への利用が期待されてきた。先頭を行くのは理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダーのグループだ。加齢黄斑変性という目の病気で臨床研究を始め、14年には患者のiPS細胞から作った網膜の色素上皮細胞のシートを患者の目に移植した。移植した細胞は約12万6400個。ねらった細胞に変化し損なったiPS細胞が体に入ると腫瘍(しゅよう)になる危険があるが、今のところ異常はないという。手術を担った栗本康夫・先端医療センター病院眼科統括部長は先月、日本眼科学会総会で「安全性に関するエンドポイント(評価項目)は達成した」と強調した。国も全面的に支援する。iPS細胞を含む再生医療関連の今年度予算は文部科学、厚生労働、経済産業の3省合わせて約148億円。文科省は昨年、iPS細胞研究のロードマップ(工程表)を改訂し、計19の細胞や器官で、実際に患者で研究を始める目標時期を掲げた。京大が進めるパーキンソン病患者への神経細胞の移植や血小板の輸血、阪大の角膜の移植は、早ければ今年度の開始とされている。 ■費用が課題、自家移植は準備に1億円 ただ、細胞の培養や品質のチェックに膨大なコストと時間がかかる。高橋さんの1例目では、細胞の準備から移植までに1年近く、約1億円を費やしたとされ、山中さんも「(患者自身の細胞を使う)自家移植は考えていた以上に大変だ」と口にする。腫瘍化などの危険性を懸念する研究者の声も依然として強い。このため、CiRAではあらかじめ品質を確認したiPS細胞を備蓄し、配るプロジェクトを開始。細胞は、多くの日本人に移植しても拒絶反応が起きにくいタイプの健康な人から提供してもらう。高橋さんらは2例目以降の移植にこの細胞を使う研究を準備している。高橋さんは「色素上皮なら一つの皿で何十人分も作れ、コストを減らせる。将来は普通の治療としていけるぐらいになる」と話す。一方、iPS細胞が国外で再生医療に広く使われるかは不透明だ。すでに欧米ではES細胞を使った研究が根付いており、加齢黄斑変性など、数十人の患者にES細胞から作った細胞による臨床応用も進んでいる。iPS細胞の研究に詳しい黒木登志夫・東京大名誉教授は「再生医療は競争が激しい。ES細胞が世界の標準になる可能性がある」と指摘する。 ■創薬研究、技術確立に課題も 再生医療への応用のほかに近年、注目を集めているのが創薬の研究だ。理研の六車恵子・専門職研究員らのグループはCiRAと共同で、ES細胞の研究で培ってきた大脳や小脳の組織を体外で作る技術を応用する。アルツハイマー病や筋萎縮性側索硬化症、小脳変性症などの患者の細胞からiPS細胞を作り、脳神経に変える。培養皿でこの神経を調べると、患者ごとに薬に対する反応が違ったり、特定の細胞がストレスに弱かったりすることがわかった。「患者自身の脳組織を研究で使えるのは、iPS細胞ならではの手法」と六車さんは話す。CiRAの妻木範行教授らのグループは、遺伝子変異が原因の軟骨の難病で薬の候補を見つけた。患者のiPS細胞から作った軟骨は正常な組織に培養できなかったが、高脂血症治療薬のスタチンを加えると正常になった。こうした手法を使えば、薬の開発にかかる時間やコストを大幅に削れると期待される。ただ、複雑な組織になるほど体外での培養は難しく、細胞に酸素や栄養を供給し続けて成長させる仕組みも必要になる。さらに、現状では培養できた細胞や組織の多くが未熟な状態で、成熟させる方法も未確立だ。腎臓の組織づくりに取り組む熊本大の西中村隆一教授は「病気を調べるためには、まず正常な組織を作る必要がある。ただ、できたものがどこまで体内の状態を再現しているか確認が難しい」と指摘。マウスのiPS細胞を使い、毛包や皮脂腺など皮膚の器官をまとめて再生することに成功した理研の辻孝チームリーダーも「立体的な組織を作るには、培養技術の革新が必要だ。iPS細胞の潜在力をまだ引き出しきれていない」と話している。 《iPS細胞(人工多能性幹細胞)》 無限に増やせ、体の様々な細胞に変化できる能力を持った細胞。同様に万能性を持ち、受精卵を壊して作るES細胞(胚(はい)性幹細胞)と異なり、体の細胞から作ることができる。山中伸弥・京大教授が2006年、マウスの皮膚の細胞に四つの遺伝子を働かせて作製に成功した。特定の種類に変化し終えた細胞でも受精卵に近い状態に「リセット」できることを初めて示し、07年には人でも成功した。12年にノーベル医学生理学賞に選ばれた。 <ワクチン> *3:http://qbiz.jp/article/43196/1/ (西日本新聞 2014年8月3日) 久留米大がんワクチンセンター、海外からも患者来院 「第4のがん治療法」とされるがんワクチン治療の実用化を目指す研究・診療拠点「久留米大がんワクチンセンター」(福岡県久留米市国分町)が7月、開設から1年を迎えた。医師などスタッフは約60人と、開設当初の態勢から倍に増え、来院する患者も増加傾向という。「がんペプチドワクチンの医薬品承認に向けた申請時期のめどを付けたい」と話す伊東恭悟センター長に、活動の進展と2年目の目標を聞いた。 −診療態勢を一本化したセンターができて、患者の動きに変化はあったか。 「患者は増えている。開設前は1日10〜20人だったが、今は平均30人前後来院する。55人だった日もあり、一時期は重症度の高い人だけに診療を制限しなければならないこともあった」「患者は全国各地だけでなく中国からも来ている。これまでは福岡市内のホテルに泊まる人が多かったが、最近は半数以上が久留米に泊まっているようだ」 −患者が増えた要因は。 「若手の医師などスタッフが増えて受け入れ態勢が充実できた。センター開設後、メディアで多く取り上げられた影響も大きい」 −診療の成果は。 「診療も研究も順調だ。それぞれの患者に適した四つのワクチンを選んで投与する「テーラーメード」型だけでなく、進行がんの患者に20種類のワクチンを混ぜて、早期に打つ方法も順調に進んでいる」「抗がん剤治療を受けている患者に対して、いったん抗がん剤をやめてワクチン投与だけにして、その後抗がん剤を再開した結果、長生きできたという症例については論文化した」 −センター開設時、前立腺がんと悪性脳腫瘍である膠芽腫(こうがしゅ)の治療に使うワクチンは3〜5年内の実用化を目指すと話していたが。 「最後の検証段階にあるいくつかの試験も、一つずつ着実に進んでいる。特に抗がん剤が使えない高齢の前立腺患者向けのワクチンについては、医薬品として承認申請する時期のめどを2年目のうちにつけたい」 −強化したいことは。 「ワクチンの効果を上げて、より長生きできるようになるため、副作用のない漢方薬を活用する臨床試験にも力を入れていきたい」「がんワクチンの発展と実用化をにらんで8月に初の研究会を開く。全国の医師たちと交流する場として今後も年1回、開きたい」 <予防> *4-1:http://qbiz.jp/article/93139/1/ (西日本新聞 2016年8月29日) クボタが農業ドローン参入 農薬散布のコスト軽減 クボタは29日、空中から農薬を散布する農業用ドローン事業に参入すると発表した。2017年中ごろに販売を開始する。手間やコストの軽減メリットを大規模農家に売り込み、20年度には売上高20億円規模の事業に育てる。大規模農家の農薬散布は、大型機器に乗って陸上から散布したり、産業用の無人ヘリコプターを使って空中から散布したりする方法がある。クボタはドローンを200万円程度で販売する方針で、無人ヘリコプターの1千万円規模に比べ割安で済む。記者会見した飯田聡専務執行役員は「超省力で農作業するニーズが高まっている」と指摘。ドローンメーカーのプロドローン(名古屋市)と農業機器メーカーの丸山製作所(東京)と共同開発する。将来的にはインターネットを使った管理システムと連動させるほか、農薬散布以外の用途にも対応させる。農業でのドローンの参入は増えており、ヤンマー(大阪市)もコニカミノルタなどと共同で、カメラを搭載したドローンで田んぼの状況を監視するシステムを開発中だ。 *4-2:http://qbiz.jp/article/91781/1/ (西日本新聞 2016年8月3日) 北九州市、戦略特区に4案 公道無人運転、ドローンで設備点検… 地域限定で規制を緩和する国家戦略特区の指定を受けている北九州市は1日、新たな規制改革案として、公道での無人運転を可能にする案や、ドローン(小型無人機)を使って橋などの点検ができるようにする案など4案を内閣府に提案したと発表した。政府は今後、各特区などからの提案を取りまとめ、実現の可否を検討する。市によると、公道での自動車の無人運転は、運転者の操作を義務付けている道交法により現在、認められていない。一方、同市では自動運転の研究開発に向けた産学官の連携が進んでおり、公道を使った実験を可能にすることで、実用化へ弾みをつけたい考え。目視による確認が求められているトンネルなどの交通インフラの点検に関し、カメラやセンサーを搭載したドローンで代替する案も提出。国際的なスポーツ大会や会議で、人材確保が難しいタイ語やインドネシア語などの通訳を留学生が担えるよう、就労時間の緩和も求めた。また、海外のアマチュアスポーツ選手のチーム加入に際し設けられている大会実績の条件を緩める案も盛り込んだ。市は1月に戦略特区に指定。現在、50代以上の就労を支援するシニア・ハローワークの設置や介護ロボットの実証実験などが進められている。 PS(2016年9月2日追加):*5のように、救急医療の視点からオスプレイを利用する実験を速やかに行ったのは評価できるが、ヘリもオスプレイも、これまで救急医療用には使ってこなかったため、安全性、乗り心地、離着陸時の騒音・風圧など改善すべき点が多い。しかし、日本人は改善(海外でも「カイゼン」という日本語が通用する)は得意なので、本気でやればよいものが作れるだろう。 かなり改良すれば使えそうなヘリ 現在のドクターヘリ (*5より) (滋賀県) (奈良県) *5:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/351493 (佐賀新聞 2016年9月2日) オスプレイ運用に思い交錯 医師評価、実効性疑問の声、佐世保市防災訓練 佐世保市の防災訓練に米海兵隊オスプレイが参加した1日、訓練参加者や見学者からは、災害時の運用に期待する声と、訓練そのものの実効性を疑問視する声が交錯した。2機の米オスプレイは、訓練で想定した地震発生から15分後に佐世保市の陸上自衛隊相浦駐屯地に姿を現した。プロペラで航空する「ヘリモード」で駐屯地に近づき、風圧で草や土ぼこりを巻き上げながらゆっくりと着陸した。医師らを乗せた機体は宇久島へ飛び、約45分でけが人役を乗せて再び駐屯地に姿を見せた。「スピードがあり、航続距離も長い。広域になればなるほど有力な搬送手段と言える」。医師として同乗した佐世保市総合医療センターの澄川耕二院長(69)は、救急医療の視点からオスプレイを評価する。患者を運ぶ簡易ベッドで5人ほど搬送できると見ており、「結構揺れるので、物資の輸送には適しているが、救助の場合はベッドの固定など工夫が必要」と感じた。米海軍佐世保基地のマシュー・オヴィアス司令官は「災害時に互いに連携することが大切で、今回の訓練で協力関係を示すことができた」と米軍参加の意義を強調した。駐屯地内で訓練を見学した市民団体リムピース佐世保の篠崎正人さん(69)は「災害時に偶然、佐世保近くに米オスプレイがいた設定など合理性に欠ける」と指摘する。「日米政府の協議を経て運用されるはずだが、どのような手続きで運用に至るのか想定が曖昧だ。市民には情報も不足している」と今回の訓練を批判した。 PS(2016年9月6日追加):腎臓病で透析しなければならない状態になると、生涯、その状態から抜け出せない人が多いが、透析は時間がかかって患者に不便である上、医療費もかかる。そのため、透析しなくてよい状態まで治せると、患者さんの福利が増す上に医療費負担が下がるのだが、現在、その方法は他者からの腎臓移植しかない。しかし、今後、3Dプリンターを使って自分の細胞で腎臓の補修部品を作ったり、「腎臓細胞シート」を貼って治すことができるようになったりすると、回復できる。 *6:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10105/352611 (佐賀新聞 2016年9月5日) 在宅医療の市民講座に300人 理解深めて ■多職種メンバー事例発表 医師、ケアマネージャーら多職種のメンバー約300人でつくる「在宅ネット・さが」(満岡聰代表)の第9回市民公開講座が3日、佐賀市兵庫北のメートプラザであった。市民ら300人が事例発表や創作劇などを通し、在宅でのケアや医療について理解を深めた。南里泌尿器科医院(佐賀市)の南里正之副院長は現在、国内には32万人の透析患者がおり、高齢化が進んでいると指摘。治療の一つに自宅で行える腹膜透析を紹介した。介護が必要となった場合、血液透析では施設への受け入れが困難になる場合もあり、通院医療よりも在宅医療での腹膜透析が適していると説いた。また、矢ケ部医院(同)の矢ケ部伸也院長は「がん末期の自宅ケア」について40代男性の在宅医療を紹介。医師、看護師らのチームであたった医療や心理面のサポートなどを挙げ、佐賀でも在宅ケア・医療を支える施設が増えていると説明した。また、同ネットのメンバーによる「劇団くまくま」が創作劇を上演。在宅医療をテーマに佐賀弁で熱演、会場をわかせた。
| 教育・研究開発::2014.8~2016.11 | 09:13 AM | comments (x) | trackback (x) |
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