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2016.11.4 世界が脱炭素社会に進む中で、日本が迷走する理由は何か (2016年11月5、8、9、10日、2017年6月2、4日に追加あり)
   
 1人当たりCO2排出量  世界のCO2排出量総計  各国の削減目標 エネルギー由来排出量

(図の説明:CO2の総排出量は中国、米国、インド、日本、ロシアの順だが、一人当たりCO2排出量となると米国、韓国、ロシア、日本の順であり、これらの国での節減効果は大きい。しかし、日本の削減目標は2013年比で26%にすぎず、他国と比較しても環境意識が低い。また、エネルギー由来のCO2排出量は、EV・太陽光発電などの再エネ・燃料電池で0にすることが可能だが、これについても日本は出遅れており、このように環境意識が低いのは、憲法に環境に関する規定がないことが理由ではなく、日本のリーダーに先見の明がなく、生態系や国民の命・健康への意識が低いことによると思われる)

(1)世界が脱炭素・再エネ導入を猛スピードで行っているのに、日本政府は・・
 2015年12月に国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で採択されたパリ協定に、*1-1のように、大排出国の中国と米国が2016年9月に締結し、インド・欧州連合(EU)加盟国などが続いて、10月には発効条件である総排出量の55%以上、55カ国以上という要件を満たし、2016年11月2日には94の国と地域が協定を締結して、2016年11月4日に発効する。

 日本は、1997年12月に京都市で開かれた第3回気候変動枠組条約締約国会議で、地球温暖化防止に関する「京都議定書」の採択に尽力したにもかかわらず、現在の政府・経済界のリーダーは環境意識が低いため、「実現可能性がない」などとして2013年度比で26%減という低い目標しか出さず、*1-2のように、国益にならないTPPの批准ばかりを急いで、パリ協定には対応していなかった。

 しかし、「実現可能性」は政府がどう対応するかによって異なり、*1-2のように、世界は、欧州はじめ北米、中国、インドでも太陽光・風力といった再エネの導入を加速しているが、日本政府は、再エネを電気料金を上げる経済の足かせと捉え、原発再稼働・石炭火力依存を主軸とする時代錯誤状態にある。

 そのため、日本は、*1-3で独シュタインマイヤー外相が述べているように、決して請求書をよこさない再エネという資源の少ない国の産業への福音とも言えるビジネスから取り残され、最初に太陽光発電や本格的な電気自動車を発明した国であるにもかかわらず、*1-4のように蓄電池等の技術革新を外国に譲ることになった。しかし、ドイツ自動車部品最大手ボッシュのフォルクマル・デナー社長は、「電池の航続距離の倍増、価格半減は可能」と述べているのだ。

 また、農山村では、*1-2のように、太陽光、風力、小水力、木質バイオマス、地熱などの活用が十分できるにもかかわらず、農機が電動化しておらず燃油を使っているため、外国に高い燃油代金を支払わなければならない状態が続いている。しかし、早急に再エネ立国に転換し、農業者の発電に補助して農家を電力供給源と位置づければ、再エネ由来の電力が増えるとともに、農家に副収入が得られて、その他の農業補助金を削減することが可能だ。

 なお、*1-5-1で、日経新聞がやっと「日本企業はビジネスモデル転換が不可欠になったが危機感が乏しい」と書き、大成建設が横浜市内に、断熱性や通気性を高めてビルのエネルギー消費量を75%削減し、建屋壁面につけた薄膜太陽光発電設備などで必要なエネルギーを賄って外部調達エネルギーをゼロにする「ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)」を建てたことを紹介している。ZEBは、1995年頃、(私が)太陽光発電の提案をした時から視野にあったことで、技術開発が遅すぎたが、これで日本は建築資材も輸出可能になるだろう。

 今、日本では、ガソリンを使うハイブリッド車はエコカーと看做されているが、そろそろ排ガスゼロの電気自動車(EV)や化石燃料を原料とせずに作った水素を使う燃料電池車を環境車にすべきことは誰が考えても明らかだ。そのため、パリ協定を前倒しする規制強化が世界で始まっているのはよいことだ。

 また、*1-5-2のように、家庭用燃料電池「エネファーム」が日本で開発され、「オール電化」とあわせて実用に供されるのはよいことだが、化石燃料を原料としない水素を使用するのが本当のエコである。また、設備の定価が172万8千〜216万円というのは、「少し良いと著しく高い価格設定」の例になっている。そのため、家庭に普及させCO2の削減に貢献するには、化石燃料を原料としない水素を燃料とするエネファームを「瞬間湯沸器+α」程度の価格にすべきで、そうなれば国内での普及と輸出が可能だ。

(2)原発に関する日本政府の迷走
 経産省幹部は、*2-1のように、「新潟県民にここまで原発再稼働アレルギーがあるとは」と嘆いたそうだが、2004年10月23日にM6.8の直下型地震である新潟県中越地震を経験し、原発に怖い思いをさせられた新潟県民の意識を軽く見すぎている。新潟県にも医師はじめ専門家がおり、政府高官が「安全」等々と言えばそれを信じると考えるのは、民間人をあまりにも馬鹿にしている。

 そして、「知事には原発を止めたり稼働を指示したりする法的権限はない」とも書かれているが、知事選は地元自治体の意志表示であるため、経産省の先見の明のなさによって発生した国民負担額を、特定の地域を原発事故のリスクに晒すことにより解決してよい筈がない。

 また、*2-2に、「進まぬ再稼働と燃料高で東電ホールディングスの脱国有化への道筋が不透明になった」と書かれているが、これはまさに、*1-2に書かれている日本政府の時代錯誤の結果である。

 さらに、*2-3には、「志賀原発に雨水6トン流入して安全機能を失う恐れもあった」「これほどの雨が流入するのは想定外だった」と書かれているが、万が一の事故も許されない原発で、また次元の低い想定外かと思われる。

(3)国民への廃炉費用・事故処理費用のつけ回しで、せっかくの電力自由化が骨抜き
 *3-1に、「①フクイチの廃炉にいくらかかり、その費用をだれが負担するかの答えを出す作業が経産省の有識者会議で本格化しているが、その会議は非公開である」「②廃炉費用総額の見通しが示されていない」「③経産省は2回目の会合で、年800億円程度から数千億円に膨らむ可能性があると説明しただけだった」とのことである。しかし、少しでも国民の税金で負担するのなら、工法の妥当性や費用の抑制可能性を検討するために、先に試算結果を示すべきだ。

 なお、原則として、東電が過去に原発で発電した時のコスト(事故処理や廃炉費用も含むのが当然)を、その時発電された電力と無関係の国民が税金で負担する理由はないため、私は、東電自身が資産の売却や費用節減で資金を確保するか、それで足りなければ金融機関の債権放棄などを含む法的整理をするのが筋だと考える。

 その上、*3-2のように、 経産省は11月2日の有識者会議で、フクイチの賠償や他の原発の廃炉にかかる費用の一部を電力自由化で参入した新電力にも負担させる案を示したそうだが、原発のコストをすべての電力利用者で負担する理由はなく、原発を使ったことがない新電力に原発のコストを負担させて電力自由化を骨抜きにしようとするのは、これも迷走としか言えない。

 さらに、経産省が2030年度時点で発電全体の20~22%を原発で賄うとしたのも、その間にコスト低減して普及が進む再生エネを疎かにしすぎており、経済の原則にも反し、先見の明がなく、いくら原発の必要性を説明しても納得する人は少ないだろう。そもそも、再生可能エネルギーの導入コストは、全ての電気利用者が負担するのではなく、最初は税金から補助するのが筋である(原発は、40年間も税金で莫大な補助をしてきて、これからも金食い虫なのだ)。

(4)新たな放射能の安全神話
 福島県は、*4-1のように、フクイチ事故の避難区域だった場所に国内最大規模の建築用CLT(直交集成板)生産工場を整備し、東京五輪・パラリンピックの関連施設で製品が活用されるよう国と調整するそうだが、原発事故後、5年も経過して放射性物質を吸い上げた近隣の木材内部は2000ベクレルもあるそうだ。そのため、この建材で作られた建物の中にいる人の健康を心配するのは当たり前で、それを福島県産材の風評被害だとすることこそ、新たな放射能の安全神話である。

 文系、特に法学部系の人は、「疑わしきは罰せず」という意識のためか、健康被害があると証明されていないものは使ってよいと考える人が多いが、食品や薬は「害がないことが証明されていないものは、食べない、使わない」のが原則であり、放射性物質は0に近い方が望ましい。何故なら、被害が出てからでは遅いからである。

 また、*4-2のように、フクイチ事故に伴う除染で出た汚染土も、環境省の検討会が「法定の安全基準まで放射能濃度が減るのに170年かかる」という試算を示しながらも再利用の方針を決め、長期管理の可否判断を先送りしていたそうだ。私は、汚染土も、コンクリートで密閉した中に入れて上に盛り土や植栽などを行えば、避難区域近くの堤防などに使うのは可能だが、市街地の道路のように掘り返すことのある構造物に使うのは不適切だと考える。

 なお、原子炉等規制法は原発解体で生じる金属などの「安全に再利用できる基準(クリアランスレベル)」を放射性セシウム1キロ当たり100ベクレル以下と定めているのに、事故後成立した放射性物質汚染対処特別措置法は、8000ベクレル超を指定廃棄物とし、8000ベクレル以下なら問題なく廃棄処理できると規定したのも、人の健康被害を無視した放射能の安全神話である。

 その上、*4-3のように、フクイチ事故後5年半が経過しても、汚染水対策は予算ばかり使って足踏み状態であり、「海への放出が低コストで処分時間も短い」などとされているそうだが、これを実害がないのに悪評が立つ“風評被害”と決めつけるのは環境意識が低すぎ、この調子では、トリチウム以外はすべて除去されているかどうかも疑わしくなる。

<世界の動向>
*1-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12641667.html (朝日新聞 2016年11月4日) パリ協定、きょう発効 排出ゼロへ新ルール 温暖化対策
 パリ協定は、昨年12月、国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で採択された。2大排出国の中国と米国が9月に締結、インドや欧州連合(EU)加盟国などが続き、10月に発効の条件となる総排出量の55%以上、55カ国以上の締結を満たした。30日後の11月4日に発効する。国連によると、2日時点で94の国と地域が協定を締結。出遅れた日本は4日にも国会で協定締結を承認する見通しで、その後閣議決定して国連に提出する。世界の温室効果ガス排出量はCO2換算で年間約370億トンに上る。日本はこのうち約14億トン(2013年度)で世界5位。各国は削減計画をたてることになっており、日本も30年度に13年度に比べて26%減らす目標を提出している。7日からは、モロッコのマラケシュで第22回締約国会議(COP22)が開かれ、パリ協定を実行するための詳しいルールを決める交渉を始める。パリ協定採択後、国際的な温暖化対策の仕組み作りが進んでいる。10月に航空機国際線のCO2排出規制や、高い温室効果がある代替フロンの生産規制で合意。国際海運でも18年までに、排出削減戦略を作ることを決めた。

*1-2:https://www.agrinews.co.jp/p39346.html (日本農業新聞 2016年11月2日) パリ協定発効 温暖化防止 日本出遅れ
 地球温暖化防止の新たな枠組み「パリ協定」が4日、発効する。気温上昇を抑えるため、世界各国が今世紀後半には二酸化炭素(CO2)など温室効果ガス排出の実質ゼロを目指す。半端な「低炭素」ではなく究極の「脱炭素」への決意は、人類生存の危機感の表れである。日本は協定批准ができておらず完全に出遅れた。失地回復には再生可能エネルギー立国への大転換しかない。熱波、洪水、海面上昇、生態系破壊、感染症まん延、食料不足・・・。温暖化の脅威は日増しに高まっている。世界の平均気温は上がり続けており、わが国も異常気象に見舞われている。温暖化防止は待ったなしだ。昨年末合意のパリ協定は2020年以降の枠組みだが、各国は米中の9月批准を皮切りに早期発効に動いた。発効は協定ルール整備後との見方が覆ったのは、多くの国が温暖化防止の政治的優先度を高めたからだ。それなのに安倍政権は何をやっているのか。大企業優先で真の国益にかなうはずもない環太平洋連携協定(TPP)の批准ばかり急ぎ、肝心のパリ協定は後回しだった。安倍晋三首相主宰の5月の伊勢志摩サミットでは、パリ協定の年内発効努力を宣言した。その日本が未批准とは失態と言うほかない。モロッコで7日に始まる国連気候変動第22回会議(COP22)に合わせ、パリ協定第1回締約国会議が15日から4日間予定される。日本は批准遅れのためオブザーバー参加しかできない。温暖化防止に「熱意なき国」を印象付け、環境外交での地位低下は免れない。世界では今、欧州や北米、中国、インドなども太陽光、風力といった再エネ導入を加速する。原発もCO2を排出しないが、廃炉・廃棄物処理を含めた総経費が高く、安全性懸念もあって敬遠がち。だが、安倍政権は再エネを電気料金を上げる経済の足かせと捉え、福島原発事故を忘れたかのような原発再稼働と、脱炭素化とは逆の石炭火力依存を主軸にしている。日本はその時代錯誤性から、再エネという新ビジネスからも取り残されていく。農山村に目を向ければ太陽光、風力に限らず小水力、木質などのバイオマス(生物由来資源)、地熱の活用は十分できる。早急に再エネ立国へ転換すべきだ。パリ協定は、今世紀末の気温上昇を産業革命以前と比べ2度未満(極力1.5度未満)に抑える目標を設定している。だが、現在の各国の温室ガス排出削減目標は不十分で、2.7度の上昇を許すとされる。日本の目標も、50年までに「80%削減」の閣議決定(12年)がありながら、30年までに「26%削減」(13年比)では緩過ぎる。協定発効によって、2年後に各国は最初の目標見直しを迫られる。わが国は再エネ推進による大幅排出削減を率先して主導しないと、環境先進国への復帰はできそうにない。

*1-3:http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/201610/CK2016102902000142.html (東京新聞 2016年10月29日) 【国際】太陽や風は決して請求書をよこさない 独シュタインマイヤー外相 本紙寄稿
 脱原発政策を進めるドイツのシュタインマイヤー外相(60)が本紙に寄稿した。原子力発電の「高い潜在リスク」を指摘、再生可能エネルギーへの転換を訴え、温室効果ガス削減に向けた「新たな道」を共に切り開いていくよう、日本に呼び掛けている。タイトルは「世界規模のエネルギーシフト(転換)-太陽や風は決して請求書をよこさない-」。エネルギーシフトは、原子力に頼らず、再生可能エネルギーで供給を賄う政策だと説明。ドイツでの萌芽(ほうが)は、一九八六年の旧ソ連、チェルノブイリ原発事故(現ウクライナ)にさかのぼるとした。放射性物質の降下を恐れ、雨の日に屋外で遊べず、牛乳が飲めなくなるなど不安が広がり、環境に配慮したエネルギーへの転換を求める意識が高まった。東日本大震災の直後に起きた二〇一一年三月の東京電力福島第一原発事故で「決定的な影響」を受け、脱原発の表明に至ったと、経緯を振り返った。二二年末までに全ての原発の稼働を停止し、五〇年までにエネルギー消費を半減させ、再生可能エネルギーとスマートグリッド(次世代送電網)への移行を目指すとの目標を確認した。再生可能エネルギーの研究開発により、ドイツでは三十七万人超の雇用を創出し、エネルギーの効率化で産業界のコスト削減につながったと、経済効果も強調した。国際的にも、地球温暖化対策の新たな枠組み「パリ協定」への合意が広がり、エネルギーシフトの潮流は勢いを増していると主張。日本でも、多くの自治体でエネルギーシフトへの関心が高く、対話が望まれていると指摘し、「全力を尽くして支援していきたい」と述べた。外相の寄稿に関連したドイツのエネルギーシフトや日本との協力を考える「日独シンポジウム 温暖化対策と地方創生」(在日ドイツ大使館など主催)が来月二日午前九時半から、東京都港区赤坂のドイツ文化会館で開かれる。参加無料。申し込みはドイツ日本研究所のホームページ=https://www.dijtokyo.org/ja/=から。
<フランクワルター・シュタインマイヤー外相> 1956年1月、ドイツ西部デトモルト生まれ。大学で法学と政治学を学び、司法試験に合格。75年、中道左派の社会民主党に入党。シュレーダー前首相の側近となり、首相府長官を務め、メルケル首相率いるキリスト教民主同盟との大連立政権で2005年11月から09年10月まで外相。連邦議会社民党院内総務を経て、13年12月から外相再任。
<パリ協定> 京都議定書に代わる地球温暖化対策の新たな枠組み。昨年12月に採択された。今世紀後半に二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス排出を「実質ゼロ」にし、産業革命前からの気温上昇を2度未満に抑えるのが目標。各国が自主目標を掲げ互いに検証する。批准国が55カ国以上、排出量の合計が世界の55%以上との要件を満たし、11月4日の発効が決まった。協定の第1回締約国会議が同15日に開かれる。日本は批准手続きが遅れ、正式メンバーとして参加できない。

*1-4:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161101&ng=DGKKZO09009150R31C16A0FFB000 (日経新聞 2016.11.1) 電池の「破壊的」技術革新 石油需要減、到来早く
 「石油生産者は予期せぬ技術進歩にさらされている」。英格付け会社フィッチ・レーティングスは10月半ばのリポートでこう指摘した。近年の業界で技術進歩の代名詞といえば「シェール革命」。これで原油生産がいずれ限界を迎えるとする「ピークオイル論」は遠のいた。だがフィッチが指摘するのは電池の「破壊的」技術革新だ。石油会社の収益に影響を及ぼし、電力、自動車にも余波が押し寄せるという。フィッチは電気自動車(EV)が競争力を増し、石油需要が想定より早く落ち込むと警鐘を鳴らす。国際エネルギー機関(IEA)によれば、世界の石油需要の55%は車で使うガソリンなどの輸送部門。フィッチは極端なシナリオとして欧州の新車販売の5割がEVの状況が10年続けば、域内ガソリン需要は25%減ると試算する。電池の価格下落は進む。米エネルギー省(DOE)によると2015年の1キロワット時あたりの価格は268ドル(約2万8千円)と過去7年で73%下落。22年までに125ドルまで下げ、ガソリン車並みの競争力を持たせるのがDOEの目標だ。量産効果と、素材改良など技術革新が背景にある。電池メーカーでは近年、欧州で工場の建設ラッシュが続く。韓国のLG化学はポーランドに17年、サムスンSDIはハンガリーに18年に欧州初の工場を稼働する。EVシフトを進める欧州メーカーがターゲットだ。象徴が内燃機関に誇りを持ってきたドイツ。10月24日、独ダイムラーが電池第2工場の着工式を開いた。19年から発売する航続距離500キロEVを支える基幹拠点だ。トーマス・ヴェーバー取締役は「電池技術は当社だけでなく、ドイツにとっても重要」と指摘。自動車部品最大手の独ボッシュも合弁や買収で電池開発に乗り出し、「電池の航続距離の倍増、価格半減は可能」とフォルクマル・デナー社長は説く。電気をためる電池は出力変動が大きい再生可能エネルギーとの相性がよい。IEAによると、15年の世界の電池の投資は100億ドルに達した。だが「電力系統につながっているのはわずか0.4%で、これから接続が本格化する」(ファティ・ビロル事務局長)。一方、15年の再生エネ発電容量の増加分は1億5300万キロワットと、原油安でも過去最高になり、容量で石炭火力を抜いた。IEA再生エネ部門を率いるパオロ・フランクル氏は「再生エネの発電量のシェアは14%にとどまるが、5年で20%を超える」とみる。車は買い替え期間が長く、一朝一夕で石油需要が減るわけではない。だが欧米石油大手には気候変動対策による業績への影響「カーボンリスク」の開示を求める株主からの声が高まる。株主の関心はピークオイルではなく「ピークデマンド」に移りつつある。9月28日、石油輸出国機構(OPEC)はアルジェでの緊急会合で減産に合意したが、その後も油価の戻りは限定的。翌29日に開幕したパリ国際自動車ショーでは欧州勢がEVシフトを鮮明にした。11月4日には地球温暖化対策の新たな国際枠組み「パリ協定」が発効する。電池を軸とする地殻変動は始まっている。

*1-5-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161104&ng=DGKKASGG31H3V_R31C16A0M10900 (日経新聞 2016.11.4) パリ協定特集ビジネスモデル転換が不可欠に 日本企業、危機感乏しく
 日本企業は省エネ技術に優れているといわれてきた。だがパリ協定は低炭素ではなく脱炭素社会の実現を企業に要請する。これまでの技術やサービスの延長線上では世界で取り残される。日本企業はビジネスモデルの転換が求められる。「2年間実証して、エネルギー収支がゼロのビルは実現可能だとわかった」。大成建設の今酒誠環境本部長は、横浜市内に建てた実験ビルに手応えを感じている。地上3階建てのビルは「ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)」と呼ばれる。断熱性や通気性など高めた建屋の設計でエネルギー消費量を従来より75%削減。必要なエネルギーは建屋壁面につけた薄膜太陽光発電設備などで賄うことで、外部調達するエネルギーは年間通じてゼロを実証できた。太陽光発電だけで必要な電力は確保できるため、温暖化ガス排出量もゼロだ。20年にはZEB市場が本格的に立ち上がるとみて実用開発を急ぐ。パリ協定は温暖化ガス排出量の実質ゼロを目標としている。「炭素を出さない新たな経済社会システムの実現を定めた条約だ」。世界の温暖化問題に詳しいNPO気候ネットワークの平田仁子理事は語る。企業は事業活動や製品で排出ゼロに向けた知恵が求められる。パリ協定が早期発効したことで「自動車の燃費基準はより強化されるだろう」。日産自動車の川口均専務執行役員は身構える。電気自動車(EV)販売で先行する同社だが「危機感を持って(排ガスゼロの)ゼロエミッション車の開発を加速させたい」(川口専務)。米カリフォルニア州は自動車メーカーに販売車の一定比率以上をエコカーと定める環境規制で17年秋以降、ハイブリッド車がエコカーとみなされなくなる。パリ協定を前倒しするような規制強化が世界で始まっている。世界の潮流をにらみ、トヨタ自動車は50年までにエンジンだけで走る車をほぼゼロとする目標を定めた。グローバル企業はこれまでの技術やノウハウに固執しない挑戦に動き出している。だが危機感を持って挑戦する企業は日本はまだ少ない。運用総額100兆ドルを超える世界の有力機関投資家の支援で企業の温暖化対策を調査する国際NPO、英CDP。16年の調査で日本企業の回答率は53%と、65%前後の欧米より低かった。特に、国内温暖化ガス排出量の4割を占める電力業界は、対象10社で回答したのが東京電力ホールディングスだけだった。パリ協定の発効で、世界の投資家の注目を集めている調査だが「日本企業は対応がまだ二極化している」(英CDPの森沢充世ジャパンディレクター)。世界では温暖化対策は経営問題として取り組み始めている。日本企業は意識改革が求められる。

*1-5-2:http://qbiz.jp/article/97308/1/ (西日本新聞 2016年11月3日) エネファーム 販売攻勢 西部ガスの家庭用燃料電池
 西部ガス(福岡市)が、都市ガスを使った家庭用燃料電池「エネファーム」の普及を加速させている。エネルギー自由化で競争が激化する中、九州電力の「オール電化」に対抗し、環境への優しさもPRする。今後、既存住宅や新築マンションへの営業を強化する。西部ガスは2009年度、福岡市や北九州市など都市ガス供給エリアでエネファームの販売を開始。13年度は1283台(設置ベース)と初めて年千台を突破した。15年度は2600台に倍増し、累計で約7400台に上る。営業面では、日頃からガスの顧客に接するグループ会社の販売店23店舗に、西部ガスの営業社員が出向。大阪ガスから講師を招くなど、販売店の営業社員約340人が提案型の営業を磨いている。本社の社員も、新築を手掛ける大手住宅メーカーに売り込みを図っている。来年4月のガス自由化を控え、同社は新築マンションへの販売も進める。第1弾として福岡市中央区で今年1月に完成した分譲マンションに設置。近隣地区の5物件への導入も決まった。床暖房などで付加価値を高めたい高級マンションに人気だという。エネファームの特徴は、環境性能の高さと光熱費の安さ。最新機種の場合、一戸建ての4人家族の購入電力量を66%削減。ガスの従量料金単価も約6割下がり、年間約7万3千円の節約になるという。九電がオール電化で攻勢に出ている中、西部ガスの平島孝三郎副社長は「家で電気を起こし、お湯も沸かす先進性が強み。料金も対抗できる」と強調する。ただ、設備の標準モデルの定価が172万8千〜216万円と初期費用がかかるなど課題も多い。国は20年に全国で140万台の普及を目指しており、同社営業計画部の松本大さんは「全国のガス会社で販売量を増やし、メーカー3社が量産することで、価格を下げていきたい」と意気込んでいる。
■エネファーム 都市ガスから取り出す水素を、空気中の酸素と化学反応させて発電する家庭用燃料電池システム。その際に発生した熱を給湯にも利用する。住宅の近くで発電と給湯を同時に行うため、エネルギー利用効率が高く、95%に上るという。環境面では、西部ガスの試算で年間の二酸化炭素(CO2)排出量を4人家族で1・3トン削減できる。

<原発での日本の迷走>
*2-1:http://digital.asahi.com/articles/ASJBJ5JN4JBJULFA003.html
(朝日新聞 2016年10月16日) 新潟知事選、国と東電の誤算 再稼働のシナリオ揺らぐ
 経済産業省の幹部は16日夜、「新潟県民にここまで原発再稼働アレルギーがあるとは」と嘆いた。経産省は、福島第一原発事故の賠償や廃炉に責任がある東電について、柏崎刈羽原発の再稼働を前提に新たな支援策を練ってきた。この秋には省内の有識者会議が、年内にまとめる報告書の議論を始めた。だが、今回の知事選で、県民が柏崎刈羽の再稼働に強い抵抗感を持っていることが明確になった。7月の鹿児島県知事選でも、稼働中の九州電力川内原発(薩摩川内市)の一時停止を公約に掲げた三反園訓氏が当選。全国の原発再稼働を進めたい経産省のシナリオは狂い始めている。経産省にとっては、柏崎刈羽の再稼働こそ東電再建の「前提」と考えていただけに衝撃は大きい。東電は2016年3月期に営業利益3722億円の黒字を出した。ただ、原油安で火力発電などの燃料費が前年より1兆円減ったのが主因。被害者賠償や廃炉に無限責任を負っており、費用は自らの利益で賄う。原油価格が上がれば、それがおぼつかなくなる。東電が14年1月に公表した再建計画では、福島第一の処理費は総額11兆円だった。廃炉・汚染水対策に2兆円、被害者賠償や放射性物質の除染、中間貯蔵施設の整備などに9兆円かかると試算。これらを、ほかの大手電力会社の協力や国の無利子融資で立て替える仕組みも整えた。ところが、費用は膨らみそうだ。経産省の内部資料によると、少なくとも廃炉で4兆円、賠償で3兆円は増える。東電の広瀬直己社長は「合理的に見積もると債務超過になる可能性がある。倒れると(廃炉や賠償が)いかんともしがたい」と国に支援を求めた。いま、原子力規制委員会は柏崎刈羽の6、7号機を審査中だ。東電はこの再稼働で営業利益が年2千億円増えるとはじく。経産省幹部は「その分を廃炉や賠償に充てられる」という。知事には原発を止めたり稼働を指示したりする法的権限はないが、再稼働には地元自治体の同意を得るのが慣例だ。米山氏が新知事に選ばれたため、再稼働のハードルは高まった。ただ、再稼働が遠のくと、別建てで検討が進む東電救済シナリオの現実味が増しかねない。有識者会議の議題にもなっている新たな国民負担だ。今春の電力小売り全面自由化で参入した「新電力」の利用者も含めて広く電気料金に上乗せし、福島の賠償費なども織り込もうとしている。米山氏の当選を受け、経産省幹部は「新知事にも粘り強く理解を求めていくが、これから4年間、再稼働は難しいだろう」と言う。経産省は年内に、柏崎刈羽が早期に再稼働した場合と、しなかった場合の国民負担額を有識者会議に示す見込みだ。

*2-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161101&ng=DGKKASDZ31I5E_R31C16A0TI1000 (日経新聞 2016.11.1) 東電、再建に三重苦、福島廃炉 進まぬ再稼働 燃料高、4~9月 7割最終減益
 東京電力ホールディングス(HD)の脱国有化の道筋が不透明になってきた。収益改善効果が大きい柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働はメドが立たず、今後は原油高による燃料費上昇も懸念材料だ。さらに福島第1原子力発電所の廃炉費用がのしかかる、いわば三重苦。広瀬直己社長は31日の記者会見で、廃炉費用を自前で賄う方針を改めて強調したが、当事者能力は一段と低下している。この日発表した2016年4~9月期連結決算は事業環境の厳しさを浮き彫りにした。純利益は941億円と前年同期比7割弱減った。今年4月に始まった電力小売りの全面自由化で、東電は半年で100万件以上の顧客を新電力などに奪われた。そんな中、経営陣が期待をかけるのが業績改善効果の大きい原発再稼働。しかし、柏崎刈羽原発がある新潟県では慎重姿勢をとる米山隆一氏が知事に就任し再稼働は当面、困難になったとの見方が多い。下期にかけては原油高の逆風も強まる。燃料コストが上がるなか、原発なしで火力発電所をフル稼働させなくてはならない。加えて福島第1原発の事故処理にかかる金額は従来想定を大きく上回りそうだ。広瀬社長は「非連続の改革を断行し、国民に負担をかけず廃炉費用を捻出する覚悟だ」と強調、福島事故に対する責任を果たす姿勢を示したが、「まだ総額はわからない」(広瀬社長)状況だ。経済産業省の専門家委員会は10月、廃炉費用は現在の年800億円から数千億円に拡大する可能性があるとした。廃炉作業は今後、何十年にもわたって続く見込みで、東電が本当に自力でコストをカバーし、国民負担を回避できる確証はない。東電は根本的な経営改革を進めるため、様々な事業分野で他社と連携する考えを示している。だが、その具体策は経産省が委員会を設けて検討を始めたばかり。広瀬社長も会見では「委員会で議論してもらえる」と何度も繰り返した。経産省が掲げた原子力事業の分社についても「今は差し控える」と明言を避けた。東電は16年度中に社債の発行を再開する計画だが、実現できるかは不透明だ。17年初めに新たな再建計画を策定し、国の経営評価を経て脱国有化するというシナリオの行方はみえない。

*2-3:http://digital.asahi.com/articles/ASJBM4K37JBMULBJ00D.html (朝日新聞 2016年10月20日) 志賀原発に雨水6トン流入 「安全機能、失う恐れも」
 停止中の北陸電力志賀原発2号機(石川県)の原子炉建屋に6・6トンの雨水が流れ込み、非常用照明の電源が漏電する事故が9月に発生し、原子力規制委員会は19日、北陸電に原因究明と再発防止を求めた。田中俊一委員長は「これほどの雨が流入するのは想定外だった。安全上重要な機能を失う恐れもあった」として、新規制基準に基づく再稼働の審査を見直す可能性を示唆した。北陸電の報告によると、雨水の流入は9月28日に発生した。原子炉建屋の横にある排水路が道路工事で一部ふさがれていたため、雨水が道路にあふれ出た。仮設ケーブルを通すためふたが一部開いていたケーブル配管に流れ込んだ。雨水は配管を通って原子炉建屋の1階に流入。非常用照明の電源設備などが漏電した。さらに床のひび割れなどを通って地下2階まで達した。地下1階には、地震などで外部電源が失われた際に使われる最重要の蓄電池があるが、その真上の場所にも水が来ていたという。気象庁によると、当日の雨量は1時間あたり最大26ミリだった。東京電力福島第一原発は、津波で非常用電源が失われて事故につながった。このため、新基準は防潮堤で津波を防ぎ、建屋に水密扉をつけて浸水を防ぐなどの対策の強化を求めている。しかし、配管から雨水が流れ込むことは重視されてこなかった。志賀原発は近くに川などがないため洪水対策は不要とされ、配管は密封されていなかった。規制委は今後、志賀2号機の再稼働に向けた審査で対策を求めていく方針。また、今回の問題が志賀原発固有の問題か、他原発の審査にも広げる必要があるかどうか、北陸電の報告を待って検討するという。北陸電の金井豊社長は19日、規制委の臨時会で「現場周辺は標高が高く、止水対策が後手に回っていた。当直の危機意識も薄く、警報への対応も遅れた」と陳謝した。

<国民への廃炉費用・事故処理費用のつけ回し>
*3-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12628010.html
(朝日新聞社説 2016年10月27日) 福島廃炉費用 これで議論できるのか
 未曽有の事故を起こした東京電力福島第一原発の廃炉にいくらかかり、その費用をだれがどう負担するのか。この問いに答えを出す作業が経済産業省の有識者会議で本格化している。国民負担にもかかわる難題だが、今の議論の進め方には納得しがたい点が多い。まず疑問なのは、会議が非公開であることだ。議事要旨が後に公表されるが、概要にとどまり、誰の発言かもわからない。廃炉作業を担う東電の経営は柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働の有無に左右されるが、会議のメンバーには原発推進を支持してきた財界の首脳が名を連ねる。先の知事選の結果が示す通り、地元では再稼働への反対が強い。そのなかで再稼働をあてにした形で検討が進むのでは、という懸念がぬぐえない。廃炉費用の総額の見通しがまだ示されていない点も、理解に苦しむ。初会合で早く示すよう出席者が求めたが、先日の2回目の会合で経産省は「足元の年800億円程度から数千億円に膨らむ可能性がある」と説明しただけだった。具体的な試算結果は、今年末にも東電の経営改革の姿や国の対応とセットで示すという。だが、この手順はおかしい。廃炉にいくらかかりそうかを見極めることが、議論の出発点のはずだ。溶け落ちた核燃料の実態がはっきりしない現状では、正確な見積もりは確かに難しい。しかし、工法が妥当なのか、費用を抑える工夫ができないかをしっかり検討するためにも、先に試算結果を示すべきだ。費用のまかない方について、有識者会議は、金融機関の債権放棄などを伴う法的整理のほか、国が税金で肩代わりする案や、今の公的管理を長く続ける案を退け、東電自身が経営改革で資金を確保する道を選んだ。柏崎刈羽原発を分社化し、他社の原発事業と再編する方向性を示したのも、「自助努力」を強調するのが狙いなのだろう。東電が改革を徹底し、税金投入や電気料金値上げといった国民負担を避ける努力を尽くすのは当然だ。ただ、問われるのは、それだけで最低でも数兆円とみられる巨額の費用を東電がまかなえるかどうかの見極めである。途中で自力路線が行き詰まり、廃炉作業に影響が出れば、福島の復興が遅れることにもなりかねない。公開の場で、拙速を避けて、費用や負担について検討を尽くす。福島第一の廃炉は国民的な課題だけに、幅広い納得を得る姿勢が欠かせない。

*3-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161103&ng=DGKKASFS02H5S_S6A101C1EA2000 (日経新聞 2016.11.3) 新電力にも原発コスト、賠償・廃炉費 大手で賄えず 消費者に負担転嫁も 経産省案
 経済産業省は2日に開いた有識者会議で東京電力福島第1原子力発電所事故の賠償や、福島第1を除く原発の廃炉にかかる費用の一部を電力自由化で参入した新電力にも負担させる案を示した。膨らみ続ける賠償などの費用を東電や電力大手だけで賄うのは難しいためだ。原発のコストをすべての電力利用者で負担する仕組みづくりをめざすが、反発も広がる。有識者会議が年内に結論を出し、経産省は来年の通常国会に関係法の改正案を提出する方針だ。福島第1原発事故の賠償費用は現在、東京電力ホールディングスと他の電力大手など11社が原子力損害賠償・廃炉等支援機構(原賠機構)に負担金を支払っている。2015年度は総額で1630億円(東電の特別負担金は除く)。電力大手はほかに、福島第1以外の原発の廃炉に伴う減価償却費や解体費の積み立ても負担している。経産省が提示した案は、こうした原発に関連するコストの一部を新電力にも担ってもらうというものだ。新電力が電力大手に支払う送電線利用料への上乗せを想定している。新電力がその分を小売料金に転嫁すれば、利用者に負担が回る。新電力にどのくらい負担を求めるかは、これから検討する。新電力の利用者も自由化前は大手の客で、原発の電気を使っていた。経産省幹部は「大手に残った人だけ負担するのは不公平だ」と話す。福島第1原発事故の賠償費用はすでに被災者への支払いが6兆円に上り、さらに兆円単位で膨らむ見込みだ。一方、事故後の新規制基準の導入などで再稼働は全国で遅れている。稼働しているのは九州電力川内原発(鹿児島県)と四国電力伊方原発(愛媛県)だけだ。司法判断で停止した関西電力高浜原発(福井県)のような例もあり、原発は収益性を見通しにくくなった。大手の負担余力が限られるなか、新電力にも一部を補ってもらった方が原発を安定的に維持できる、との見方がある。いまも原発関連のコストのなかで使用済み核燃料の再処理費用は、原発を持たない新電力が一部を負担している。賠償費用や廃炉費用もこれに続くかたちになる。2日の有識者会議では日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会の大石美奈子委員が「新規参入者が競争意欲を失うのでは」と指摘した。東大教授の松村敏弘委員は「上乗せするとしても何らかの歯止めが必要だ」と述べた。政府は2030年度時点で発電全体の20~22%を原発で賄う計画だ。二酸化炭素(CO2)の削減やエネルギー安全保障の観点から原発は有効とみており、その必要性を説明していく考えだ。太陽光など再生可能エネルギーの導入コストは、再生エネを好むかどうかにかかわらず全ての電気利用者が負担している。標準家庭で電気料金に月675円を上乗せしてでも、その普及が国益になるとの判断がある。有識者会議でSMBC日興証券の円尾雅則委員は「再生エネと同じように原子力が必要だからみんなでコストを回収すると整理すればすっきりする」と指摘した。この日は福島第1原発の廃炉費用について東電1社に負担させる案も示した。利益を優先的に廃炉に回しながら、原賠機構に基金をつくって支払いを支える仕組みだ。

<放射能安全神話>
*4-1:http://blog.goo.ne.jp/flyhigh_2012/e/b76853de83e1a746f9ba8d3ff7eeaa90 (福島民報 2015/6/20) CLT生産拠点 県来年度にも着工 大熊が有力
 県は東京電力福島第一原発事故に伴う避難区域に、国内最大規模となる建築用のCLT(直交集成板)生産工場を整備する。被災地の産業振興と県内全域の林業再生を目指した取り組みで、東京五輪・パラリンピックの関連施設で製品が活用されるよう国と調整する。大熊町が復興拠点に位置付ける同町大川原地区が工場の設置場所として有力視されており、平成28年度にも着工する。
■東京五輪活用目指す
 19日に開かれた6月定例県議会本会議の代表質問で、柳沼純子議員(自民党、郡山市)の質問に小野和彦県農林水産部長が答えた。東日本で初のCLT生産工場となり、国内最大級の年間5万立方メートルの出荷を目指す。県は7月中に産学官による検討会を設け構想を具体化する。県内の建設業者などでつくる県CLT推進協議会、原発事故に伴い避難区域が設定された12市町村、復興庁、木材を扱う民間企業などが参加する予定で、27年度は工場の設置・運営主体を決め、設置場所を選ぶ。国内外で需要調査に取り組む。設置場所として浮上している大熊町大川原地区は居住制限区域だが、30年度に開設予定の常磐自動車道大熊インターチェンジ(仮称)に近く、高速道路を使い県内全域からCLTの原料となる木材を集めやすいというメリットがある。早ければ29年度内の完成を目指す。東京五輪・パラリンピック選手村の宿舎などに活用するよう政府に求める。災害公営住宅での導入も検討する。県は原発事故に伴う県産材への風評対策として、生産工場に木材のモニタリング設備を設ける方針だ。国内林業の成長産業化を目指す国土交通省と林野庁は昨年11月、CLT普及のロードマップを発表。36年度までに、CLTの国内年間生産量を現在の1万立方メートルから50万立方メートルまで増やす方針を掲げている。県CLT推進協議会は今年2月、湯川村に東日本初となるCLT共同住宅を建設した。竹下亘復興相や今井敏林野庁長官らが相次いで視察し、本県での取り組みを支援する考えを示した。県林業振興課は「CLT産業の先進地を目指し、林業再生につなげたい」としている。国内では岡山など西日本の3県でCLT生産工場が稼働している。

*4-2:http://mainichi.jp/articles/20160627/k00/00m/040/085000c (毎日新聞 2016年6月27日) 汚染土、「管理に170年」…安全判断先送り、再利用方針
 東京電力福島第1原発事故に伴う除染で出た汚染土を巡り、環境省の検討会が再利用の方針を決めた際、法定の安全基準まで放射能濃度が減るのに170年かかるとの試算を非公開会合で示されながら、長期管理の可否判断を先送りしていたことが分かった。環境省は汚染土を道路の盛り土などに再利用し、コンクリートで覆うことなどで放射線を遮蔽(しゃへい)するとしているが、非公開会合では盛り土の耐用年数を70年と提示。道路の供用終了後も100年間の管理が必要で、専門家は「隔離もせずに計170年もの管理をできるはずがない」と厳しく批判している。この非公開会合は「放射線影響安全性評価検討ワーキンググループ(WG)」。汚染土の減容や再利用を図るため環境省が設置した「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会」の下部組織で、メンバーは一部重なる。毎日新聞が入手したWGの内部資料によると、1〜5月に6回開かれ、放射線の専門家ら委員8人と環境省や日本原子力研究開発機構(JAEA)の担当者ら計20人余が出席した。原子炉等規制法は原発解体で生じる金属などの「安全に再利用できる基準」(クリアランスレベル)を放射性セシウム1キロ当たり100ベクレル以下と定める一方、事故後成立した放射性物質汚染対処特別措置法は8000ベクレル超を指定廃棄物とし、同ベクレル以下を「問題なく廃棄処理できる基準」と規定。WGはこの8000ベクレルを汚染土再利用の上限値とするための「理論武装」(WG委員長の佐藤努北海道大教授)の場となった。環境省は汚染土をコンクリートで覆うことなどで「放射線量はクリアランスレベルと同程度に抑えられる」として道路の盛り土や防潮堤など公共工事に再利用する計画を発案。1月27日の第2回WG会合で、委員から「問題は(道路などの)供用後。自由に掘り返していいとなると(再利用の上限は)厳しい値になる」との指摘が出た。JAEAの担当者は「例えば5000ベクレル(の汚染土)を再利用すれば100ベクレルまで減衰するのに170年。盛り土の耐用年数は70年という指標があり、供用中と供用後で170年管理することになる」との試算を提示した。その後、管理期間を巡る議論は深まらないまま、上部組織の戦略検討会は8000ベクレルを上限として、コンクリートで覆う場合は6000ベクレル以下、植栽した盛り土の場合は5000ベクレル以下など用途ごとに目安を示して再利用を今月7日に了承した。環境省は年内にも福島県内の仮置き場で濃度の異なる汚染土を使って盛り土を作り、線量を測る実証実験を始めるとしている。戦略検討会の委員を兼ねるWGの佐藤委員長は管理期間170年の試算を認めた上で、「議論はしたが何も決まっていない。今回は再利用の入り口の考え方を示したもので、(170年の管理が)現実的かどうかは今後検討する」とした。環境省除染・中間貯蔵企画調整チーム長だった小野洋氏(6月17日異動)は、「最後どうするかまでは詰め切れていないが、そこは環境省が責任を持つ」と述べた。同じ検討会の下に設置され土木学会を中心とした別のWGでは汚染土再利用について「トレーサビリティー(最終段階まで追跡可能な状態)の確保は決して容易ではない」との見解が示されている。
●捨てているだけ…熊本一規・明治学院大教授(環境政策)の話
 汚染管理は、一般人を立ち入らせないことや汚染物が埋まっていることを知らせるなどの要件を満たすことが必要だ。道路など公共物に使いながら170年間も管理するのはあまりに非現実的。70年の耐用年数とも矛盾する。このような措置は管理に当たらないし、責任を取らないと言っているに等しい。実態としては捨てているだけだ。
●除染による汚染土
 住宅地などの地表面をはぎ取った汚染土はフレコンバッグなどに入れ現場の地下に埋設保管されているほか、自治体などが設置した仮置き場で集積保管されている。推計で最大2200万立方メートル(東京ドーム18個分)とされる福島県内分は双葉、大熊両町に整備中の中間貯蔵施設で最長30年間保管後、県外で最終処分する方針だが、処分先などは未定。福島県外では栃木、千葉など7県で計約31.5万立方メートルが昨年9月末時点で保管されているが、今後の取り扱いは決まっていない。

*4-3:http://mainichi.jp/articles/20160907/ddm/003/040/044000c
(毎日新聞 2016年9月7日) クローズアップ2016、福島原発事故5年半 汚染水対策、足踏み
 東京電力福島第1原発事故の発生からまもなく5年半経過するが、政府や東電の汚染水対策が足踏みしている。地中に「氷の壁」を造り、地下水流入を防ぐ「凍土遮水壁」(全長約1・5キロ)は効果が表れず、放射性のトリチウムが残る処理水の行き先も宙に浮いている。政府は東京五輪イヤーの2020年中に、原子炉建屋内の汚染水処理を完了させる方針だが、黄信号が点灯している。
●溶ける凍土遮水壁
 「大雨の影響で、地下の2カ所で温度が0度以上に上がってしまった」。東電の広報担当者は台風10号が通過した直後の1日の記者会見で、大雨によって地下水が大量流入し、凍土遮水壁の2カ所が溶けたことを明らかにした。凍土遮水壁は今年3月に凍結を開始したが、一部では地質の関係で地下水の流れが速く、凍結できない状況が続いていた。さらに今回の大雨で凍結部分が溶けるという弱点も明らかになり、専門家からは計画の破綻を指摘する声が上がる。第1原発の原子炉建屋周辺には、山側から大量の地下水が流入し、これが溶けた核燃料に触れるなどして高濃度の放射性汚染水が1日約400トン発生している。東電はこの流れを断つため、13年に凍土遮水壁の建設を決定。建屋周囲の地下30メートルまで1568本の凍結管を打ち込み、氷点下30度の冷却液を循環させて氷の「地下ダム」を造った。東電は汚染水対策の切り札と位置付け、今年3月から海側での凍結を開始し、6月からは山側の大半で凍結させた。先月時点で海側は99%、山側は91%凍結したとしている。しかし、凍結を開始して5カ月が経過しても汚染水の発生量はほとんど変わらないまま。先月18日にあった原子力規制委員会の検討会でも、専門家から「いつ効果が出るのか」「遮水効果が高いとの東電の説明は破綻している」などの意見が相次ぎ、東電が答えに詰まる場面もあった。凍土遮水壁は、20年開催の東京五輪への思惑も絡む。政府は13年9月に、凍土遮水壁などの汚染水対策へ国費を投入することを決定。その4日後に開かれた五輪招致のプレゼンテーションで、安倍晋三首相が「汚染水による影響は第1原発の港湾内の0・3平方キロの範囲内で完全にブロックされている」と国際公約し、東京招致を勝ち取った。政府は凍土遮水壁の建設費として国費345億円を投入しており、計画が「破綻」すれば国民からの批判を招きかねない。世耕弘成経済産業相は先月の記者会見で「凍結しづらいのは事実だが、凍結は進みつつある」と強調したが、効果は見えないまま。政府と東電は20年までに、建屋内の汚染水処理を終えるとの廃炉工程表も掲げており、凍土遮水壁は「国際公約」の成否も握る。凍土遮水壁の効果を上げるため、東電は6月から、温度の下がりにくい部分に特殊なセメントを注入し、凍らせやすくする追加工事を実施している。東電は今後「全面凍結」させる方針だが、効果が表れるかどうかは見通せない。地盤力学が専門の浅岡顕・名古屋大名誉教授は「凍土壁は『壁』ではなく、すき間のある『すだれ』のようなものでしかない」と指摘。「凍土壁の遮水性が低いことは明らか。早急に別の種類の壁を検討すべきだ」と話している。
●2020年完了に黄信号
 汚染水対策は「入り口」で地下水の流入を防ぐ凍土遮水壁だけでなく、「出口」も課題を抱え、20年の完了目標の壁になっている。放射性物質の大半を除去した後に出る処理水の処分方法が決まっておらず、貯蔵タンクの容量が逼迫(ひっぱく)しているためだ。経済産業省は今秋に専門部会を設置し、処分方法を検討する方針。現時点で海への放出が低コストで処分時間も短いとされるが、風評被害を懸念する地元が反対している。東電は原子炉建屋などにたまった汚染水をくみ上げ、62種類の放射性物質を除去する多核種除去設備「ALPS(アルプス)」で浄化しているが、トリチウム(半減期約12年)は除去できずタンクにためている。トリチウムは、原子核内の陽子数が水素と同じで中性子の数が異なる水素の同位体。トリチウムを含む水は沸点などの物理的性質が普通の水とほとんど変わらず、分離が難しい。国際原子力機関(IAEA)は13年公表の報告書で「トリチウムは海洋生物の体内に蓄積されず、人体への影響は非常に限定的」と指摘。海に流すことも含めて検討するよう提言した。通常の原発の運転でも、トリチウムを含む排水が国の基準に従って海に放出されており、原子力規制委員会の田中俊一委員長も「海洋放出すべきだ」との考えを示す。経産省は、トリチウムを含む処理水の処分方法について、海洋放出▽水蒸気化▽電気分解で水素化して大気放出▽セメントなどで固めて地下埋設▽パイプラインで地下に注入−−の5方法を比較。トリチウム水の総量を80万トン、流す量を1日400トンなどと仮定すると、海洋放出の処理期間は7年1カ月〜7年4カ月と最も短く、コストも18億〜34億円で最低になるとの試算を4月に発表した。ただし、これは濃度を国の基準の上限値(1リットル当たり6万ベクレル)に希釈して流す場合の試算。より低い濃度で放出する場合、放出量を増やさなければ長期化する。国と東電は山側でくみ上げた地下水を海に流す際、トリチウム濃度を同1500ベクレル未満に設定しており、仮にこの濃度で放出すれば、1日400トンの放出量では最大293年かかる計算だ。一方、福島県漁業協同組合連合会は風評被害を懸念し、トリチウム水の海洋放出に反対している。経産省が試算を発表した4月に開かれた政府と地元との協議会で、野崎哲会長は「慎重に進めてもらいたい」と異議を唱え、タンクで保管を続けるよう促した。事故後、県漁連は沿岸での操業を自粛。国の出荷制限指示もあり、県内漁港の水揚げ額は15年現在、事故前(10年)の約6%まで激減した。鈴木正晃副知事も協議会で「社会的影響も含め、総合的に議論してほしい」と述べ、海洋放出などについて拙速に判断することがないようクギを刺した。

PS(2016年11月5日追加):*5の海上保安庁の耐用年数を超えた巡視船・巡視艇を次第に新造していくのはよいと思うが、現代の新造船は化石燃料ではなく、水素による燃料電池か電動にして、海流の速い海域に停泊していると充電できるような新システムにすると、これも輸出可能だろう。

   
 2016.11.5佐賀新聞   巡視艇やまゆり      巡視船こがね

*5:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/373606
(佐賀新聞 2016年11月5日) 海保船艇の35%が耐用年超過、2百カイリ設定時の建造影響
 海上保安庁の巡視船と巡視艇計366隻のうち、昨年度末までに耐用年数を超えた船が35%の129隻に上ることが5日、分かった。1977年の領海拡大と漁業水域設定を受けて大量建造した船の更新が進んでいないのが理由。沖縄・尖閣諸島周辺での中国船への対応などで海保の役割の重要性は増しているが、予算の制約の中で必要な船舶をどう確保するかや、効率的な運用方法が課題となっている。海保は船体の摩耗や金属疲労の度合いを考慮し、外洋で活動する比較的大型の巡視船の耐用年数を25年、主に沿岸を警備する小型の巡視艇を20年としている。


PS(2016.11.8追加):*6のように、送電網の利用料に上乗せする形で廃炉費用を新規参入した新電力に負担させるのは、大手電力会社の原発関連の負債を、原発を使ったことがない新会社に押し付けるもので、全く筋が通らない。このようなことをすれば、公正な市場で伸ばすべき新分野の芽を摘むので、送電網の利用料は中立でなければならないが、それができないようなら、ガス会社や地方自治体が送電網を埋設するなど、送電網を複数作って選べるようにした方がよいと考える。なお、長距離送電には、例えば、鉄道の敷地を利用して超電導電線を設置し、鉄道会社が送電料もとる方法がある。

*6:http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/ann?a=20161108-00000000-ann-bus_all (テレビ朝日 2016.11.8) 孫社長「根底からおかしい」 原発廃炉費用負担で
 福島第一原発の廃炉費用などを電力自由化で参入した新電力にも負担させる案が政府内で検討されていることについて、ソフトバンクグループの孫正義社長が批判しました。ソフトバンクグループ・孫正義社長:「考え方は根底からおかしいのではないかと思う。古い業界を守るために過去の遺産を新しいところに押し付けることを意味していて、新しく伸びるべき分野の芽を摘んでしまうのではないかと危惧する」。政府は現在、兆円単位で増えることが予想される福島第一原発の廃炉費用に加え、他の原発の廃炉費用についても送電網の利用料などに上乗せする案を検討しています。原発を保有していない新電力も廃炉費用を負担することになるため、孫社長は真っ向から反論しました。


<原発のコストと環境への悪影響>
PS(2016年11月9日追加):*7-1のように、原発の建設費や地元補助金を除く原発費用として、フクイチの事故処理、廃炉、最終処分場建設、核燃サイクルに最低でも総額30兆円かかるそうだが、経産省はこれまで「原発のコストは安い」と強弁し、その反省もなく財界人らと作った「東電改革1F問題委員会」で東電で賄えない分は電気代等を通じて国民負担を求めるそうだ。しかし、そのために、年金・医療・介護・教育・保育など社会保障の同じ財布から出される部分が削減されたりしている。
 また、*7-2のように、経団連の榊原会長がパリ協定の承認を受け、「①原発の早期再稼働が必要」「②日本にとっては非常に高い目標を国際公約した」「③安全審査を通った原発は地元の理解をいただき、早期に再稼働することが絶対に必要だ」などと述べたそうだが、①は今では根拠のない時代遅れの見解であり、②は日本企業の経営者は環境意識が低すぎるということであって、③も(事故を起こさない)100%安全な原発はないと規制委員会が明確に述べているため、環境と財政に悪影響を与えるのはCO2よりも原発の「放射性物資+原発温排水」の方が大きく、日本の産業界の“リーダー”は経済にも自然にも弱すぎるということだ。

*7-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201610/CK2016102002000131.html?platform=hootsuite (東京新聞 2016年10月20日) 原発処理に総額30兆円 既に国民負担14兆円 本紙調べ
 原発政策を進めるには原発建設費、地元補助金を除き、関連処理費用として東京電力福島第一原発の事故処理、廃炉、最終処分場建設、核燃サイクルに最低でも約三十兆円かかることが本紙の調べで分かった。十九日には、経済産業省が有識者会合の作業部会を開き、規制変更によって廃炉が決まった原発の廃炉費用を電気料金に上乗せする方針を固めた。高速増殖炉もんじゅの行き詰まりなど原発政策の矛盾が拡大する中、政府が国民負担を増やそうとする論議が本格化する。すでに国民は電気料金や税金で十四兆円を負担しており、今後、さらに十六兆円以上の負担を迫られる可能性がある。新潟県や鹿児島県知事選で原発慎重派の候補が当選するなど原発への厳しい民意が強まる中で、政府が国民負担を増やしながら原発を推進するかが問われそうだ。福島第一原発の処理に必要なお金は、二〇一三年時点の見積もりを超過。二・五兆円を見込んでいた除染費が来年度予算の概算要求では三・三兆円に、被災者への賠償金がすでに六・三兆円にのぼっている。廃炉費用の見込み額も二兆円となっており、総額で十二兆円以上かかりそう。東電は自力で払うのは困難とみて政府に支援を求めた。経産省が財界人らとつくった「東京電力改革・1F(福島第一原発)問題委員会」で検討しているが、東電の経営努力で賄えない分は、電気代などを通じ国民に負担を求める方針だ。東電を除く原発の廃炉費用問題では、福島第一原発の事故後、原発の規制基準が変わったため関西電力美浜原発1号機など六基が廃炉を決定。予定より早い廃炉決定などで計三百二十八億円の積み立て不足(一三年三月末時点)が生じている。経産省は原発による電力を販売していない新電力の契約者も含めすべての利用者の電気料金に上乗せし、回収する意向だ。他の原発も合わせると合計二・九兆円(福島第一などを除く)の廃炉費用が必要だ。また、使用済み核燃料をリサイクルする計画の柱だった高速増殖炉「もんじゅ」の廃炉方針に伴い、経産省は代わりの高速炉を開発する。政府はすでに核燃サイクルに十一兆円(最終処分場を除く)を費やし、電気代や税金で国民が負担している。もんじゅの後継が決まれば、さらに国民負担は膨らみそうだ。核のごみの最終処分場は場所が決まっていないが、政府試算では最低三・七兆円かかる。このうち積み立て済みは国民が支払った電気代をもとにした一兆円だけ。政府は年末にかけ候補地選定作業を急ぐ予定で具体化すればさらに国民負担が増える可能性がある。政府は福島第一原発の処理問題やもんじゅの後継問題でも、年末までに方針を決める意向だ。

*7-2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12649167.html (朝日新聞 2016年11月9日) 「原発の早期再稼働、必要」 経団連・榊原会長が見解 パリ協定承認受け
 経団連の榊原定征会長は8日、「パリ協定」の承認案が衆院本会議で承認されたのを受け、「日本にとっては非常に高い目標を国際公約したことになる。安全審査を通った原発は地元の理解をいただき、早期に再稼働することが絶対に必要だ」と金沢市での会見で述べた。榊原会長は「原発の安全性に対する懸念は国民感情として当然ある」としたうえで、「安全審査をパスした原発は再稼働を認めることを期待したい」と述べた。


PS(2016.11.10追加):*8-1の原発事故の賠償に関する「原子力損害補完的補償条約(CSC)」は、原発事故が起こった際には、電力会社などの原子力事業者が過失の有無にかかわらず賠償責任を負い、事故を起こした原発メーカーの製造物責任が免除されるというものだ。しかし、インドの国内法では原発メーカーにも事故の賠償責任を求めることができ、これが日本や米国など海外の原発メーカーの進出の妨げとなっていたが、CSCが発効すれば「国内法は事実上骨抜きとなり、外国企業が進出しやすくなる(インドの専門家)」そうで、インドは2016年2月4日、CSCに批准している。しかし、メーカーの製造物責任は通常の商慣行であるため、原子力損害補完的補償条約(CSC)が発効していても、原発メーカーに瑕疵があると認められればメーカーに製造物責任が認められるだろう。その時、実質的に日本国民が損害賠償責任を負うなどという内容が日印原子力協力に特別に含まれていないかどうかは、日本国民にとって重要な問題である。
 なお、*8-2は、「①インドのエネルギー問題が原子力発電の増加で解決できるか疑問」「②インドの送配電ロス率は23%程度で、エネルギー効率に問題がある」「③インドの製造業の17.9%のエネルギー効率改善は、既存の省エネルギー技術導入で可能」「④広大な国土に点在する村落部への電力供給を大規模集中型の火力発電所や原子力発電所によって行うには長距離送電網が必要で、効率が悪くコスト高」「⑤このような地域への電力供給は、地域の持続可能な小規模分散型エネルギーによるべき」「⑥インドの原子力委員会委員長と原子力省長官は同一人物で、原子力委員会による原子力省の監督はできない」「⑦原発建設予定地および建設された地域に極めて根強い原発反対運動がある」と述べており、日本の経験から尤もだと考える。つまり、原発は、世界で卒業すべきエネルギーであり、日本は卒原発をリードすべき国なのだ。


 インド、ヒマラヤ インド、タージマハル インド、ニューデリー インド、カシミール
    (どの国にも、かけがえのない街と自然と住民の生活があるのだから)

*8-1:http://mainichi.jp/articles/20160206/k00/00m/030/098000c
(毎日新聞 2016年2月5日) 賠償責任は電力会社に…原発条約を批准
 インドは4日、原発事故の賠償に関する国際的なルールとなる「原子力損害補完的補償条約」(CSC)を批准した。インドは昨年12月の日印首脳会談で、日本の原発輸出を可能とする原子力協定の締結で原則合意するなど、原発増設に取り組んでいる。事故時の賠償に関する国際的な枠組みに参加することで、日本や米国など海外の原発関連企業の進出加速につなげる狙いがあるとみられる。CSC加盟国は、過失の有無にかかわらず電力会社などの原子力事業者が賠償責任を負うとされる。インドの国内法では原発メーカーにも事故の賠償責任を求めることができるとされ、米企業などの進出の妨げとなっていたが、CSCが発効すれば「国内法は事実上骨抜きとなり、外国企業が進出しやすくなる」(インドの専門家)と指摘されている。ただ、国民から反発を招く可能性もあり、今後、議論になりそうだ。CSCは日米などが批准しており、昨年4月に発効した。事故の際は発生国が一定額まで賠償責任を負い、その額を超えた部分については締約国の拠出金で補う仕組み。また、賠償訴訟はすべて発生国が管轄する。インドは2010年にCSCに署名したが、批准しておらず、米国などが早期の加盟を求めていた。インド外務省は批准について「決定的な一歩だ」としている。インドで発効するのは、批准から90日後の5月4日となる。

*8-2:http://www.cnic.jp/wp/wp-content/uploads/2015/11/201511_CNIC_Japan_India_nuclear_agreement.pdf#search='%E6%97%A5%E5%8D%B0%E5%8E%9F%E5%AD%90%E5%8A%9B%E5%8D%94%E5%AE%9A+%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%89%E3%81%AE%E5%8E%9F%E7%99%BA%E4%BA%8B%E6%95%85%E6%90%8D%E5%AE%B3%E8%B3%A0%E5%84%9F' (日印原子力協力協定の締結による世界の核拡散への影響 2015年11月 原子力資料情報室 松久保肇より抜粋)
 インドはエネルギー対策、そして温室効果ガス排出量削減手段として、原子力発電の増加を志向している。しかし、インドのエネルギー問題が原子力発電を増加させて解決できる問題であるかについては大きな疑問がある。第一に、インドのエネルギー効率の問題がある。例えば、インドの送配電ロス率はおおよそ23%程度で推移しているが、2011年のOECD諸国の送配電ロス率の平均は6.15%13であり、インドの配送電システムの改善余地は極めて大きい。また、シーメンス・フィナンシャル・サービスは、インドの製造業において、17.9%のエネルギー効率改善が既存の省エネルギー技術を導入することにより可能だと報告している。このように、インドのエネルギー効率の改善余地は極めて大きい。第二に、インドでは、都市部や工業地帯の電力需要増加と、木質バイオマスなどに依拠している村落部のエネルギー供給を両立させる必要がある。とくに広大な国土に数多く存在している村落部への電力供給を、大規模集中型の火力発電所や原子力発電所によっておこなうことは、長距離の送電網の開発などが必要となるため、効率性が低く、コストも高くなる。よって、こうした地域へのエネルギー供給は、地域にとって持続可能な形での小規模分散型エネルギーによっておこなうべきだと指摘されている。第三に、インドの原子力規制の独立性への懸念がある。原子力委員会委員長と原子力省長官は同一人物であり、原子力委員会による原子力省の監督には疑念がある。さらに、インド会計監査局は2012年の報告で、原子力規制委員会は規制の決定権を持たないことや、原子力省に予算や組織の維持等を依存していることなどから、独立性に懸念を示していることからも分かる通り、インドでは原子力分野における規制と推進が分離されていないのだ。そして、最大の問題として原発建設予定地および建設された地域における極めて根強い原発反対運動がある。インドの原発反対運動は、広大な国土、多様な民族や言語、宗教、社会階層によって分断され、なかなか全国規模の問題としては認識されていないが、新規の原発建設予定地とされるすべての地域で、広範な住民の支援のもと展開されている。こうした運動には徹底的な非暴力運動、民主的な集団的指導体制、政治的にオープンな立場であり積極的に政府機関や政党と討議をおこなう、という3つの大きな特徴がある。一方、インド政府はこうした運動に対して、安全対策の強化を図るとしながらも、時には暴力的な弾圧もおこない、原発建設方針については変更の余地を見せない。


PS(2016.11.10追加):*9のように、フクイチ事故で自主避難した生徒を、「①菌」「②賠償金もらってるだろう」などといじめる生徒がいたのは、それが小中学生だったとしても思いやりがなさすぎる。そして、①については、放射能汚染は「菌」ではないため他の人に伝染することはなく、放射能に曝露されると遺伝子が変異して癌や白血病になる危険性があるから避難するのだということを、小中学校には生物が専門の先生もいるのに、この機会をとらえて生徒に説明できなかったのは実力不足だ。また②についても、そのような理由で不本意ながら故郷を捨てなければならなかった人に損害賠償金をもらっているなどと羨むのは見当はずれで、このような場合に慰謝料や損害賠償金をもらうのは当然であることを、社会科が専門の先生も説明できなかったとすれば、先生のレベルが問題なのだ。さらに、遊ぶ金として万単位の金を10回も支払うことができるほど親が小5の生徒に金を渡すのも教育に悪く、学校・市役所・議員などにいじめの問題を指摘すべきだった。そのため、カウンセリングを受けるべきは生徒ではなく、このような行動を続けていた大人たちの方で、教育の崩壊が甚だしい。まして、「だから自主避難しない方がよい」とか「放射能汚染を言うのは福島への差別に繋がる」などと言う大人がいるのは狂っている。

*9:http://www.sankei.com/life/news/161109/lif1611090036-n1.html (産経新聞 2016.11.9) 原発避難の生徒がいじめで不登校 「菌」「賠償金もらってるだろう」 横浜市
 横浜市教育委員会は9日、東京電力福島第1原発事故で福島県から横浜市に自主避難した市立中1年の男子生徒が不登校になっており、いじめ防止対策推進法に基づく調査の結果、市教委の第三者委員会がいじめを認定していたことを明らかにした。報告書では、「積極的に教育的支援をしなかったのは、教育の放棄に等しい」などと学校や市教委の対応を厳しく批判している。報告書によると、生徒は小学2年だった平成23年8月、横浜市立小学校に転校。直後から「菌」を名前につけられるなどのいじめを受けた。小5のときには、同級生に「(東電から原発事故の)賠償金をもらっているだろう」と言われ、遊ぶ金として5万~10万円を計10回ほど払わされたと証言したとしている。生徒はカウンセリングを受けているという。第三者委は、学校の対応について、一昨年に生徒側から相談を受けていたにも関わらず、適切に対応しなかったことを「教育の放棄に等しい」と批判した。市教委に対しても、重大事態と捉えず、調査の開始が遅れ、生徒側への適切な支援が遅れたとした。生徒側が昨年12月、調査を求める申し入れ書を市に提出。推進法に基づき、市教委の諮問で第三者委が調査していた。林文子横浜市長は同日の定例記者会見で、「非常に深く受け止める。申し訳ない」などと述べた。また、岡田優子横浜市教育長は「報告書で指摘されている学校、教育委員会の課題や再発防止策にしっかり対応したい」とした。


<アメリカも迷走>
PS(2017年6月2日追加): *10-1のように、「①トランプ米大統領は米国第一を優先してパリ協定からの離脱判断を表明した」「②世界最大の温暖化ガス排出国中国の李克強首相は、中国はパリ協定を履行する決意を表明した」「③李氏はパリ協定支持の共同声明を発表する方向」とのことである。そして、中国だけでなくインドも、*10-4のように、将来的に国が運営する主要12港湾で使用するすべての電力を再生可能エネルギーによる発電に切り替えるそうで、19年までに太陽光15万キロワット(kW)、風力5万kWの発電設備を設置し、数年で50万kWまで増強するそうだが、旧産業の抵抗が少ない新興国の方が新産業への転換が速やかなようだ。
 なお、私は、CO2だけが地球温暖化の原因ではないにしても、化石燃料車が環境を汚して自動車の不快感を増していることは間違いなく、中国やインドなどの人口の多い新興国が自動車社会になってきた現在では、これは見過ごすことのできない大きな問題だと考え、1990年代中頃からアクションしてきた。しかし、日本は、ドイツよりもずっと早い1990年代後半から市場投入するEVや蓄電池を開発してきたにもかかわらず、何故か「航続距離が短い(改善しようと思えばすぐできる問題)」等の足を引っ張る論調ばかりが多くて普及が妨げられ、*10-5のように、中国市場で市場の陣取合戦が始まってようやくEV充電器の規格を巡って本格的な競争を始めたような馬鹿げた国なのである。そして、トップランナーだった日産は、*10-6のように、電池子会社を中国ファンドに1100億円で売却することになった。そのため日本は、このような愚鈍な意思決定になる背景を、徹底して変えなければならない。
 また、トランプ米大統領のパリ協定離脱についての米国民の反応は、*10-1に書かれているように、69%がパリ協定への残留を支持して離脱派は13%に留まるそうで、米産業界ではアップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)がホワイトハウスに電話して残留を要請し、化学大手ダウ・ケミカルのアンドリュー・リバリスCEOは協定を支持する主要30社首脳の書簡をまとめ、石炭業界にも離脱に否定的な声があり、イーロン・マスク氏は離脱を決断すれば委員会をやめると言い、トランプ大統領の長女イバンカさんは、ゴア元副大統領をトランプ氏に引き合わせて翻意を迫ったそうだ。また、*10-2のように、石油メジャー首脳も冷ややかで、ドイツ・フランス・イタリアの3国政府は、*10-3のように、「パリ協定は不可逆的で再交渉できない」とする共同声明を発表している。
 私は、ここで環境規制を緩めて古いエネルギー産業を護ることによりアメ車の進歩を妨げれば、アメ車はどこの国にも受け入れられない旧式なものとなり、輸出を伸ばすどころか米国の産業を遅れさせて、環境だけでなく経済でも米国第一どころではなくなると考える。そのため、米国は、州ででも環境規制した方がよいだろう。

 
 2017.6.2日経新聞  2015.12.15西日本新聞    2016.10.6    2016.10.6  
                                    毎日新聞

*10-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170602&ng=DGKKASDC01H1D_R00C17A6EA2000 (日経新聞 2017.6.2) トランプ氏「米国第一」優先 パリ協定離脱判断、表明へ 中国・EU 協定推進で連携
 トランプ米大統領は1日午後3時(日本時間2日午前4時)、地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」からの離脱判断を表明する。米メディアは同氏が離脱を決断したと一斉に報じた。内外の反対を押し切り「米国第一」の看板公約を実行する公算が大きい。米政権とロシアとの不透明な関係を巡るロシアゲート疑惑が強まるなかで支持者のつなぎ留めを優先し、政権浮揚を狙う。世界最大の温暖化ガス排出国、中国の李克強首相は1日、ドイツでメルケル首相と会談した。会談後の共同記者会見で「中国は国際的な責任を全うする」と述べ、パリ協定を履行する決意を表明。メルケル氏も李氏の発言を歓迎した。李氏は2日、欧州連合(EU)のトゥスク大統領らとも会談。「EUと中国はパリ協定を歴史的な成果と認識している」といった協定支持の共同声明を発表する方向だ。「パリ協定に関する私の判断を木曜日(1日)に発表する。米国を再び偉大に!」。トランプ氏は5月31日、ツイッターにこう投稿した。5月に中東や欧州を巡る初外遊をしたトランプ氏に、各国首脳らはパリ協定にとどまるよう求めた。安倍晋三首相は主要国首脳会議(タオルミナ・サミット)で「米国が引き続き気候変動の問題にリーダーシップを発揮していくことが重要だ」と呼びかけた。主要国のほとんどの首脳も慰留。ローマ法王フランシスコは環境保護の重要性を説いた自著を贈り、残留を促した。トランプ氏は態度を保留し続けた。ロシア疑惑で政権に逆風が吹くなかで、トランプ氏が重視するのは国内の支持基盤だ。その一つが炭鉱労働者。大統領選では、接戦だったペンシルベニアやオハイオなど石炭産出州で勝ったことが大きかった。パリ協定離脱の看板公約を有言実行することで、脱石炭に歯止めをかけ、炭鉱労働者の雇用を維持すると支持者に訴える意向だ。ロシア疑惑は、与党・共和党からも解明を求める声が強まっている。捜査の進展によっては、共和党の姿勢が政権の命運を握る。パリ協定離脱は、マコネル上院院内総務ら党指導者も求めていただけに、トランプ氏は公約実現で挙党一致を演出したいところだ。ただ、米国民の多くはパリ協定残留を求めている。米エール大が5月8日に発表した世論調査では、69%が残留を支持、離脱派は13%にとどまった。共和党支持者に限っても51%が残留派だ。米産業界でも反発が相次ぐ。アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)は、ホワイトハウスに電話して残留を要請。化学大手ダウ・ケミカルのアンドリュー・リバリスCEOは、協定を支持する主要30社首脳の書簡をまとめた。石炭業界にも離脱に否定的な声がある。国際的な温暖化対策の議論が米国を除いた欧州の主導で進めば厳しい規制を招きかねないとの警戒論もある。産業界の大統領助言委員会に参加する著名起業家のイーロン・マスク氏は5月31日、離脱を決断すれば「委員会をやめる」と語った。政権内は分裂する。バノン首席戦略官・上級顧問やプルイット米環境保護局(EPA)長官が離脱を主張。プルイット氏はエネルギー業界とつながりが深く、環境規制の撤廃を求め、EPAを10回以上も訴えた筋金入りの反対派だ。一方、残留派の筆頭は長女イバンカさん。環境保護に熱心なゴア元副大統領をトランプ氏に引き合わせ、翻意を迫った。

*10-2:http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ01H7H_R00C17A6000000/?dg=1&nf=1 (日経新聞 2017/6/1) 米国のパリ協定離脱 石油メジャー首脳は冷ややか
 トランプ米大統領が地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」からの離脱を近く表明する見通しとなった。中国と並ぶ温暖化ガス排出国の米国が離脱すれば、企業活動にも影響が出そうだ。やや意外だが、温暖化ガス排出のおおもとである石油・天然ガスを開発するメジャー(国際石油資本)の間では「パリ協定支持」が支配的だ。トランプ氏の姿勢には冷ややかな視線が目立つ。
■石油出身の国務長官は協定支持
 「パリ協定に関する決断を発表する。木曜日の午後3時(日本時間2日午前4時)だ」。トランプ氏は31日、ツイッターでこうつぶやき、最後にお決まりの「米国を再び偉大にする!」で締めくくった。離脱となれば政権内で難しい立場に立つのがレックス・ティラーソン米国務長官だ。同氏は直前まで米石油最大手エクソンモービルの最高経営責任者(CEO)を務めた。エクソンは業界屈指の高収益体質で知られるが、コストが先立つ温暖化対策には後ろ向きだとして長く環境団体の攻撃対象だった。だがティラーソン氏はエクソンCEOのとき、時代の流れにあらがえないとパリ協定支持を表明。「あのエクソンが」と業界でも驚きがあったほどだ。同氏は政権入りしてからもパリ協定にとどまるよう主張してきた。ティラーソン氏の判断に影響を与えたとみられるのが欧州の競合の動きだ。英蘭ロイヤル・ダッチ・シェル、英BP、仏トタルなどは2020年以降の温暖化対策の枠組みづくりをにらみ早い段階から連携した。CEOが連名で枠組みをつくるよう主張。具体論として温暖化ガス排出量に応じたコストを課す「炭素価格」の枠組みを国境を越えて導入するよう国連などに求めてきた。
■欧州勢、したたかに仕組み作りに動く
 もちろん各社の狙いは慈善活動ではない。鉱区で出る副次ガスを減らせば事業の採算は上がる。さらに近年のメジャーは、燃やした際の温暖化ガス排出量が石炭の6割程度で済む天然ガスに力を入れてきた。石炭依存度が高いアジアでガス転換を促す事業拡大の好機だ。温暖化対策から距離を置くより制度作りに関与することで、長期にわたり自らにも優位な仕組みをつくろうとの思惑がある。「米国第一」で孤立主義に走るトランプ氏の手法とは真逆だ。シェルのベン・ファン・ブールデンCEOは5月、英紙フィナンシャル・タイムズで米国の協定離脱の結果起こる事態として、「米国が基本的に自分で多くの(交渉)テーブルに招かれないようにして自らの立場を弱めてしまう」と指摘している。北欧の石油の巨人、スタトイル(ノルウェー)のエルダー・サトゥレCEOもトランプ氏の姿勢に冷淡だ。2月に日本経済新聞の取材に対し、「我々は(大統領の任期である)4年単位でビジネスはしていない。10年以上先を見据えている」と強調した。スタトイルは洋上風力発電にも積極的で、トランプ政権になっても米東海岸での洋上風力事業をやめる予定はない。サトゥレ氏は洋上風力のコストは大幅に下がると見通す。長い目でみれば、トランプ氏が守りたがる石炭の火力発電より、洋上風力の方が競争力を持つという自信があってのことだ。
■株式市場も圧力強める
 欧州連合(EU)が先行した排出量取引制度は中国でも似た制度が導入される。中国は大気汚染対策の必要もあり、脱石炭など低炭素型ビジネスへのシフトが続く見通しだ。株式市場も同様だ。長期投資をする年金基金などは近年、温暖化対策の遅れが企業の業績に及ぼす影響「カーボンリスク」の開示圧力を強める。31日に開かれたエクソンの株主総会では、カーボンリスクの開示を求める株主提案に62%の支持が集まった。石油の世紀である20世紀を代表したエクソンはより「グリーン」に動く。21世紀の代表格になりそうな米テスラのイーロン・マスクCEOは31日、米国が協定から離脱すれば、トランプ氏への助言組織の委員を辞任する考えを示した。企業は一つのベクトルに向かって動き出した。米国の最高指導者は最終的にどう判断するだろうか。

*10-3:http://digital.asahi.com/articles/ASK622VS3K62UHBI014.html?iref=comtop_8_02(朝日新聞 2017年6月2日)パリ協定「不可逆的で再交渉できない」 独仏伊が声明
 トランプ米大統領がパリ協定からの離脱を発表したのを受けて、ドイツとフランス、イタリアの3国政府は1日、「再交渉はできない」とする共同声明を発表した。声明は米国の決定を「残念に思う」としたうえで、パリ協定について「不可逆的であり、再交渉されるべきものではないと信じている」と表明。さらに「すみやかに実行することを再確認し、気候変動と闘う行動を加速させることをすべてのパートナー国に促す」としている。また、ドイツ首相府によると、メルケル首相はトランプ氏に個別に電話し、遺憾の意を伝えたという。メルケル氏はツイッター上で「地球を守るための政策に引き続き全力を尽くす」としている。欧州議会のタヤーニ欧州議長は同日、「合意は守られなければならない。これは信頼とリーダーシップの問題だ。(トランプ大統領の)決定は米国と地球を傷つけることになるだろう」とツイッターで批判した。

*10-4:http://qbiz.jp/article/110920/1/ (西日本新聞 2017年6月1日) インド 主要12港湾、使用電力すべて再生可能エネに
 インド政府は、国が運営する主要12港湾への電力供給について、将来的にすべて再生可能エネルギーによる発電に切り替える計画だ。エコノミック・タイムズ(電子版)が5月31日伝えた。19年までに太陽光15万キロワット(kW)、風力5万kWの発電設備を設置する。その後、数年で50万kWまで増強し、主要12港湾で使用するすべての電力を再生可能エネルギーによる発電で賄う。当面の投資額として、50億ルピー(約86億円)が予定されている。政府が運営する港湾の電力をすべて再生可能エネルギーに切り替える試みは世界初という。主要12港湾には、西部グジャラート州のカンドラ港や東部オディシャ(オリッサ)州のパラディープ港、西部マハラシュトラ州のムンバイ港、同州ジャワハルラル・ネルー港、南部アンドラプラデシュ州のビシャカパトナム港などが含まれる。主要12港湾の貨物取扱量は国内全体の6割を占める。

*10-5:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12965954.html (朝日新聞 2017年6月1日) EV充電器、陣取り激化 日本と欧米、規格の普及巡り
 電気自動車(EV)の普及に欠かせない急速充電器の規格をめぐり、日本と欧米勢の主導権争いが続いている。規格は新興国に広がるEV競争にも影響する。製品規格の国際標準化で後れをとりがちだった日本勢は、技術供与で味方を広げ、優位を保とうとしている。
■中国市場、最大焦点
 EVはフル充電で走れる「航続距離」が短いのが弱点で、普及には充電インフラの整備がカギを握る。日本勢は2010年、EVを量産している日産自動車と三菱自動車、東京電力などを中心に「CHAdeMO(チャデモ)協議会」を設立し、独自の急速充電規格「チャデモ方式」を世界に先駆けて広めることを目指してきた。これに対し、独フォルクスワーゲン(VW)や米ゼネラル・モーターズ(GM)など欧米勢は独自規格「コンボ」で対抗。ただ、現状では、日産のEV「リーフ」で先行したチャデモの充電器が、世界で約1万5千カ所と最も多い。欧米でも、チャデモとコンボの両方を使えるようにした充電器が主流になっている。しかし、新興国などでは今後、ゼロからの整備が始まる。日独などのメーカーは自国の規格が採用されればEVの輸出もしやすくなる。規格の「縄張り争い」はまだこれからの様相だ。VWは昨年、エコカー開発の軸足をEVへと大胆に移す戦略を打ち出した。昨年11月には、VWグループ、BMW、ダイムラーのドイツ勢と米フォード・モーターが協力し、高出力の急速充電器を20年までに欧州の数千カ所に普及させると発表。「コンボ」規格の巻き返しをアピールした。最大の焦点は、世界最大級のEV市場、中国だ。独自の充電規格を持つが、日本が長く技術協力を進め、チャデモと主要部分が共通する。31日、チャデモ協議会の年次大会で、吉田誠事務局長は「チャデモが生き残るため、中国との親和性を高め、インドにも惜しみなく技術を開示して普及を図った」と述べた。歩み寄りの気配もある。日独政府は3月、「ハノーバー宣言」を出し、モノとインターネットを融合させる技術分野の協力で合意。充電インフラの分野でも連携を促進するとした。チャデモとコンボの互換性を高めることも検討していく。

*10-6:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170527&ng=DGKKZO16933470W7A520C1TJ2000 (日経新聞 2017.5.27) 日産、電池子会社を中国ファンドに売却 1100億円、最終調整
 日産自動車が売却を検討していた車載用電池子会社について中国の投資ファンド、GSRグループと最終調整に入ったことが26日、明らかになった。売却総額は1100億円前後とみられる。日産は外部調達に切り替えて電池のコストを引き下げ、次世代エコカーの本命と位置付ける電気自動車(EV)の価格競争力を高める狙いだ。売却対象となっているのは2007年に設立したオートモーティブエナジーサプライ(AESC、神奈川県座間市)。日産が51%、NECグループが49%を出資し、主力EV「リーフ」向けの車載用リチウムイオン電池などを生産する。15年の車載用電池の世界シェアはパナソニックに次ぐ2位。日産は米英に持つ車載用電池の生産設備についてもGSRと売却交渉を進めているもよう。現行のリチウムイオン電池技術を使った電池の生産からは撤退する方向だ。一方で新素材を使う次世代電池は自前での研究開発を続ける。GSRはIT(情報技術)や環境分野に強みを持つファンドで、米国や中国の車載用電池メーカーにも投資実績がある。AESCが持つ設計・生産ノウハウを取り込み、環境規制を背景にEV市場が拡大する中国で車載用電池の供給体制を構築する狙いがあるようだ。


PS(2017年6月4日追加):トランプ大統領の「パリ協定」からの離脱表明に対し、*11のように、ニューヨーク・カリフォルニアなどの州政府ほか百八十市がパリ協定履行への支持を表明し、ニューヨーク・シカゴ・サンフランシスコなど大都市の市長も相次いでパリ協定の目標達成に向け再生可能エネルギーへの投資拡大などを表明したそうで、アクションが迅速だ。

*11:http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/201706/CK2017060402000107.html (東京新聞 2017年6月4日) 【国際】10州180市 パリ協定支持 離脱表明の米で反発広がる
 トランプ米大統領が地球温暖化防止の国際的な枠組み「パリ協定」からの離脱を表明したのに対し、反対する州知事や市長が相次ぎ、全米に広がっている。米メディアによると、州や自治体がパリ協定の目標達成に向けた独自の政策を採用しているなか、トランプ氏の離脱表明後、少なくともニューヨークやカリフォルニアなど十の州政府のほか百八十市が協定履行への支持を表明した。報道によると、米国ではすでに二十州と首都ワシントンが温暖化の原因のひとつとされる二酸化炭素(CO2)排出を削減する独自策を実施。協定に基づく連邦政府が定めた目標を上回る水準を設定した所もある。トランプ氏の離脱表明を受け、連邦政府の方針とは関係なく自治体レベルで取り組む動きが広がった形だ。ニューヨーク州のクオモ知事は「パリ協定からの離脱は重大な間違いだ。壊滅的な影響をもたらす」とトランプ氏の決定を批判。二日には太陽光発電などに最大十五億ドル(約千六百五十億円)を拠出すると発表した。同州と「米気候連盟」を結成したカリフォルニア州のブラウン知事はパリ協定の目標達成に取り組む国や自治体が集まる会合に参加するため中国に出発する。ニューヨークやシカゴ、サンフランシスコなど大都市の市長も相次いでパリ協定の目標達成に向け、再生可能エネルギーへの投資拡大などを表明した。こうした動きはトランプ政権の支持者が多い南部の州にも波及。テキサス州ヒューストンやルイジアナ州ニューオーリンズなどにも広がっている。


PS(2017年6月5日追加):*12のように、全農地でソーラーシェアリングすれば、原発1840基分になるそうだ。もちろん、「①ソーラーシェアリングした方がよいかどうかは作物による」「②景観を壊さない機器にすべき」などの問題はあるが、私は、農業に再生可能エネルギー機器の導入を補助することによって、永久に農家に補助金を支払うのを回避することが可能であり、エネルギー代金が地域で循環するため、一石三鳥だと考える。


 2017.6.4     2016.12.4   従来のソーラーパネル 有機薄膜型ソーラーパネル
 東京新聞      農業新聞

(図の説明:現在行われているソーラーシェアリングは一番左の写真のようなものが多いが、これは景観を悪くするとともに、左から2番目のような大型機械を導入する際には使いにくい。それに対し、①従来のソーラーパネルでも右から2番目のもので温室型にする ②一番右の有機薄膜型ソーラーパネル《緑近傍の光だけで発電するため、作物が光合成で使う光は使わない》を温室で使う などの日本ならではの進化形もある)

*12:http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201706/CK2017060402000129.html (東京新聞 2017年6月4日) 【経済】ソーラーシェアリング脚光 「全農地導入なら原発1840基分に」
 太陽光発電などの可能性を話し合う「再生可能エネルギー・フォーラム」が三日、東京都内で開かれた。社会科学の研究者らが参加する「関東政治社会学会」が主催し、田畑に太陽光パネルを設置して農業と発電を両立するソーラーシェアリングの実践例などが報告され、約三十人が熱心に耳を傾けた。会合で城南信用金庫の吉原毅(つよし)相談役(62)が基調講演し、「日本の農地四百六十万ヘクタールすべてでソーラーシェアリングを導入すれば、原発千八百四十基分の電力をまかなえる計算だ」と訴えた。太陽光発電の買い取り価格は年々下がっているが、吉原氏は「太陽光パネルや工事の費用が下がっており、十分に採算が取れる」と語った。ソーラーシェアリングは農林水産省の規制緩和で二〇一三年度から可能になった。作物の収穫量や品質の維持などが許可の条件。許可件数は増加傾向にあり、一五年度には累計七百七十五件になった。
◆田畑に太陽光パネル設置
 農業と発電の両方に太陽光を活用する取り組み「ソーラーシェアリング」が少しずつ広がっている。電気を売った収入が得られることに加え、太陽光パネルの設置で農地に適度に日陰ができて農作物の収穫量が増えるケースもある。農家の収益向上に貢献している。千葉県市原市の民家が点在する田園風景の一角。計七百五十平方メートルの畑に高さ三メートルの支柱で組んだ台に太陽光パネル(縦五十四センチ、幅百二十センチ)が三百四十八枚設置されている。二五度の傾きで固定されたパネルの間から日光が降り注ぎ、その下でサツマイモやサトイモなどの葉が伸びる。「サトイモは収穫量が10%アップした」。両親の農地をこの先、継ごうと考えている会社員の高沢真(まこと)さん(54)は笑顔で語った。パネルを設置したのは二〇一三年。固定価格買い取り制度に沿って東京電力と二十年間、一キロワット時当たり四十二円で売却する契約を結んだ。年間の発電量は四万キロワット時で、東電に電気を売った収入は年百六十万~百七十万円になる。設置にかけた千三百万円は十年足らずで回収できる見込みだ。高沢さんの試みは、収入面などから実家の農地を引き継ぐかどうか悩んでいる人たちの関心が高いという。高沢さんは「ソーラーシェアリングは農業に挑戦することを躊躇(ちゅうちょ)している人を後押しする仕組みだ」と話している。

| 資源・エネルギー::2015.5~2016.12 | 03:37 PM | comments (x) | trackback (x) |

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