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2018.8.30 日本は人権を大切にしない国である ← 精神障害者・教育・技術開発の視点から (2018年8月31日、9月1、2、4、5、7、8、9、11日に追加あり)

               正規分布のグラフ(小中学校で勉強済)

(図の説明:左は正規分布のグラフで、身長・体重でも成績でも運動能力でも、だいたいこういうグラフになる。このうち「普通」というのは、標準偏差が1σもしくは2σ以内の人で、1σ以内に68.27%、2σ以内に95.45%までの人が入る。しかし「普通でない」には、2σより右側と2σより左側の人がおり、右側は普通ではなく特に優れた人と言える。また、中央のグラフのように、集団によって山の位置や広がりが異なるが、多くの集団を合成するとやはり正規分布になる。さらに、右のグラフのように、2次元以上(多次元)の比較をすることもでき、誰でも多次元の要素を持っている。しかし、大切なことは、基礎学力がないと共通言語を持たないので、これを使った論理的な話をしても受けとれないということだ)

(1)「精神障害者≒犯罪者or潜在的犯罪者」とする科学的根拠はないこと
 *1-1のように、群馬県の医師が「①米国の病院では武装した警備員が精神疾患の患者を拘束したり、拳銃を発砲したりして、欧米の患者はテロ実行犯と同等に扱われるようになっている」と話したのを受け、日本精神科病院協会の山崎会長が「②精神科医にも拳銃を持たせてくれ」「③医療提供者もかけがえのない人たちだ」という意見を主張したのは、時代が50~60年も逆行したように感じられた。

 これに対し、「精神科医療の身体拘束を考える会」が、日本の精神科医療のトップが患者を危険な存在と差別しており、許されないとする集会を国会内で開催したのは、やはり現代である。

 外国では、テロの実行犯は犯罪者として逮捕したり、逮捕する際に射殺したりするため、①②③のように、「テロ実行犯を精神疾患の患者として拘束する」と言うのは、いかにも日本的な発想だ。また、テロの定義は、「政府または革命団体が、暴力を使用したり、組織的・集団的に威嚇したりして政治目的を達成する手段」であり、ある集団にとっては「テロ」であっても、他の集団からみれば「自由や解放を求める戦い」ということもあるため、テロは外国の内政に関わって戦争を行った国では起こり易いが、日本では原則として起こらない。

 なお、地下鉄サリン事件をテロと呼ぶ人もいるが、あれは、松本サリン事件の後、被害者の夫を加害者に仕立て上げずに、正確に犯人を特定して逮捕していれば防げた犯罪である。

 それでは、何故、日本には「精神障害者≒犯罪者or潜在的犯罪者」という誤った意識があり、精神障害者に対する時代遅れの拘束を推奨することになったのかと言えば、*1-2のように、明治13年に制定された刑法39条で「心神喪失者の行為は罰しない」「心神耗弱者の刑は減軽する」と規定されており、精神障害者がその主な対象になっているからだ。これは古い規定で、「心神喪失者」「心神耗弱者」という曖昧な用語を使っており、実際には「精神障害者は犯罪を起こしやすい」という科学的根拠があるわけではなく、精神障害者こそテロとは無関係だろう。

 ただ、統計データを採れば、犯罪者の刑を軽くするために「精神障害で責任能力がなかった」という論法が採られることが多いため、犯罪者に精神障害者が多いような結果が出ているかも知れない。そのため、日本精神科病院協会の山崎会長の発言は、精神医療の専門家としての科学的根拠に基づいた発言ではなく、これらの総合的効果で「精神科医にも拳銃を持たせてくれ」ということになったのだと推測される。

(2)精神障害の定義について
1)広がった精神障害の定義と人権侵害
 それでは、精神障害者はどういう病気の人かと言えば、私が習った1976年頃は、「統合失調症・躁うつ病・てんかん」が3大疾病で、特定の原因と結び付いているわけではなく、症状が似ている症候群だと言われていた。

 現在、これに発達障害・PTSD・パーソナリティー障害・適応障害・摂食障害・依存症・睡眠障害・認知症・性同一性障害まで加えて精神障害の範囲を広くしているが、原因があって起こる摂食障害・睡眠障害・PTSD・認知症・依存症・性同一性障害は、精神を病んでいるのではなく、原因を取り除けばなくなるものが多いと考える。

 また、私が誹謗中傷として言われたことのある“発達障害”“アスペルガー症候群”“パーソナリティー障害”などは、「自分と異なり理解できないから、普通ではなく異常だ」と主張する浅薄なもので人格権の侵害であるし、雅子妃殿下が言われている適応障害は、「ああいう家に嫁いで、キャリアのあることを悪意ある国民から叩かれるような事実があり、それに反論することもできなければ、適応障害というより当たり前だろう」と同情に値する局面が多い。

 つまり、正常範囲の人をパーソナリティー障害や適応障害と認定したり、成長過程の子どもを発達障害やPTSDと認定したりして、機会を奪ったり抗精神病薬を投与したりするのは、立派な人権侵害なのである。

2)発達障害の過大認定と人権侵害
 発達障害は、*2-2のように、「①生まれつきの脳機能発達のアンバランス」「②その人が過ごす環境や周囲の人とのかかわりのミスマッチから、社会生活に困難が発生する障害」と定義され、ADHD・自閉症スペクトラム障害(ASD)・学習障害(LD)などがあるとされている。

 しかし、①は、脳機能の発達が誰と比較してどうアンバランスで、それがどういう支障を生んでいるのかと言えば「普通と異なる」という程度であり、もともと人には個性があって工業製品のように同じではないため、基礎的な知識や思考力をつけた上で、その人の個性を伸ばすことこそ学校や家庭の役割である。そして、そういう個性ある個人が新発見をし、始めは周囲の人に変わった人だと思われているが、結果が出ると評価されてノーベル賞をもらったりするわけだ。

 また、*2-1の発達障害の1つとされるアスペルガー症候群は最近になって言われ始めたものだが、「③コミュニケーションの問題」「④対人関係の問題」「⑤限定された物事へのこだわり・興味」などが特徴とのことで、⑤だからこそ1つの事に集中できるのであり、③④は相手が狭量だったり、理解力がなかったりすれば成立しない相互関係なのである。

 なお、*2-3のように、“伝説”として、東大医学部出身者の2割近くが「発達障害(アスペルガー症候群)」だと書かれたブログもあり、「⑥集団の中で人に合わせることができない」「⑦相手の感情や場の雰囲気を読むことが不得手」「⑧どの局面でも人に合わせる能力が問われる現代社会で彼らは非常に生きにくい」「⑨IQは高い」などと書かれている。しかし、⑥⑦⑧ばかり気にしている人は、新発見や変革をすることなどできないし、⑨だからこそ、⑥⑦⑧を無視して自分を信じ自分の興味や信念に没頭できるわけだ。そのため、これらの文章を読んで、私には、歪んだ劣等感を持つ人の自己正当化による優越感の発露のように見えた。

 ただ、東大はじめ優秀な大学に入る人の割合が、私立の男女別学校に偏りすぎているのは問題だ。何故なら、男女別学は、多感な時期に男女の友人が机を並べて普通に話したり競争したりする機会を奪い、それぞれに空想上のジェンダー意識を持たせて、無意識の女性差別の原因になるからだ。また、私立校は、出自や家庭環境の似た人が集まっており、世の中全体のばらつきある人々と知り合いになる機会が少ないため、公立校は、もっと頑張らなければならない。

(3)教育と科学技術について
1)日本の研究力は、何故低下したのか
 *3-2のように、日本発の科学論文が減り、博士を目指す若者も少なくなっており、研究者を大切にしないと未来の日本の豊かさを支える科学技術が育たないことがクローズアップされている。では、日本は、研究者に報いる研究しやすい国なのか、徒労が多くて成果の出にくい国なのかについては後者であり、科学技術を担ったり、評価したりするための基礎学力も足りない。

ア)コマツ会長、元経済同友会副代表幹事 野路氏の意見について
 コマツ会長で経済同友会副代表幹事も務められた野路氏が、「①大学研究者の高齢化が進んだ」「②若い研究者の多くが有期雇用」と述べておられるが、①については、これから増える高齢者のニーズは高齢者の方が把握しやすいため、貢献度は年齢とは関係がなく個人差がある。また、②については、努力してきた研究者が他産業より待遇の悪い有期雇用の職しか得られないのは論外であるため、日本人の男性に下駄を履かせることなく、正確に実力評価を行い、民間の研究所も優秀な研究者を雇って先進的な研究をするポストを増やせばよいと考える。

 しかし、最も重要な問題点は、自然エネルギー・EV・自動運転のような新しい技術ができた時に、経営者や行政が先見の明を持って速やかにそれを育てる判断をできず、従来の技術を護ろうとした意思決定だ。何故なら、その意思決定により、実践段階で書くべき論文は、中国や欧米に譲らねばならないことになったからである。

イ)東京工業大学栄誉教授 大隅氏の意見について
 東京工業大学栄誉教授の大隅氏は、大学院生が減れば論文は減るが、数が減った以上に質の面でも日本の存在感が国際的に下がっているのが問題だとされている。誰にでも研究費をばら撒くわけにはいかないが、確かな評価の下、研究者が自分のやりたいことを続けられるポストを与えることは、最初にすべきことだろう。

 なお、グローバル化の中で、企業が中国やインドの学生の方が日本の学生よりいいと考える理由はあるのである。それは、日本人の学生よりも勉強しているからだ。にもかかわらず、女性と同様、優秀な外国人留学生をポストで冷遇したのは、日本の研究力を削いだ一因である。

ウ)財務省主計局次長 神田氏の意見について
 財務省主計局次長の神田氏は、「①国際的に注目される質の高い研究で日本のプレゼンスが下がり、特に新領域や学際分野で劣後して研究力が低下している」「②日本の研究現場は、閉鎖性・同質性が高いため生産性が低い」「③英オックスフォード大は、外部から資金を集める魅力と競争力をもち世界ランキングトップの評価を維持している」「④大学内の新陳代謝を進めて、若手に正規ポストを空けることも必要」と述べておられる。

 しかし、①はまさに、エネルギー・バイオテクノロジー・癌の免疫療法などで、政治や行政が変な選択をして邪魔をした分野で起こっていることを忘れてはならない。また、②を解決するためには、財務省は、先見の明を持ち、日本人男性に下駄をはかせることなく選抜された優秀な研究者が、やりたい研究テーマを研究できるポストを十分に与えられるようにすべきだ。

 さらに、③については、大学や中心となる人物への敬意がなければ外部からの資金は集まらないため、*2-3のような根拠なき誹謗中傷は止めさせるべきである。また、④については、新陳代謝して若返りしさえすればよいわけではなく、若手研究者にも正規のポストを与えた上で、実績を出した研究者を年齢・性別・国籍などによって差別することなく引き上げ、優秀な頭脳を集めて残していくべきだ。

2)外国人留学生の就職について
 *3-3に、就活の早期化が学業を優先する外国人留学生に逆風となっており、7月時点で内定(内々定を含む)を得た人の比率が4割強で、日本人学生の半分程度だったと書かれている。

 外国人留学生が学業を優先するのは、高い学費を払っても勉強しないで平気な日本人学生とは根本的に意識の差があるからだ。また、日本のように卒業前に就職が決まっていなければ有利な就職ができない国も他にはない。さらに、日本企業や研究所も、本当は外国人の登用に対する差別があるのではないだろうか。

3)何をするにも基礎学力は重要であること
 このような中、*3-1のように、朝日新聞が社説で、大阪市長が「小6と中3を対象とする全国学力調査の成績を校長や教員の人事評価とボーナスに反映させ、学校への予算配分も結果にあわせて増減させる」という決定をしたことについて、「学力を底上げするのが狙いだというが理解できず、成績が振るわない学校・地域を置き去りにして格差を広げかねない」と書いていた。

 しかし、公立校の基礎教育レベルが低いと、公立校の信頼度が低くなり、親の所得格差や家庭環境格差を子に承継する原因となるため、市長が動機付けとして校長や教員の人事評価・ボーナスに反映させたり、全国学力調査の結果にあわせて学校への予算配分を増減させたりするのは理解できる。ただ、校長や教員の頑張りとは関係のない地域による学力格差もあるため、それをどう解決していくかの対策を考えるためにも学力調査とその速やかな結果の開示は重要だ。

 なお、日本の子どもが外国の子どもと比べて勉強しない理由は、「学力調査で把握できるのは学力の1つの側面にすぎない」などという勉強しないことへの合理化論がまかり通っているからだ。先生が誤答している児童に合図をしたり、障害児の成績を集計から外したりする不正を行うのは論外だが、多様な子どもたちと粘り強く向き合ったから、正規の基礎学力を伸ばすことができなかったというのは言い訳にすぎないだろう。

(4)最初は相手にされなかった科学の事例
1)大陸移動説と地震・火山について

  

(図の説明:左のウェゲナーの大陸移動説は、最初は少数説だったが、現在のテクノロジーで証明されている。また、中央と右の日本近海の地図を見れば、プレートが沈み込んでいる少し先で火山が噴火していることがわかる)

 私は、高校時代に、地理か地学でウェゲナーの大陸移動説を習ったが、その時は、まさか地面が動くわけはないと思われていたので、少数説だった。しかし、東日本大震災の後、日本近海の海図や火山の分布、GPSで示された陸地の移動方向を見たところ、それはプレートの沈み込みと地面の移動を前提とする大陸移動説で、驚くほど筋を通してすべてを説明できた。

 そのため、*4-1のウェゲナーの大陸移動説は長く受容されなかったが、現在のテクノロジーで証明され、プレートテクトニクス理論で受け入れられたと考えている。

2)免疫チェックポイント阻害薬と攻めの免疫療法について
 *4-2-1の攻めの免疫療法を開発された中村教授は、2012年3月までは東大で研究しておられたが、日本では逆風が強すぎるため、2012年4月にシカゴ大学に籍を移して研究を続けられた人だ。そこまでして研究を続けられるのはすごい人だけで、成果が出ればノーベル賞ものだが、日本における逆風は情けない限りである。

 日本における逆風とは、*4-2-2のように、厚労省が「がん免疫療法」の有効性を認めず、地域の癌診療連携拠点病院では「標準治療(標準≠理想)」以外の治療を「科学的根拠が確立していない」として臨床研究以外では認めない方針にしていることだ。しかし、「標準治療」の効果と副作用の関係はお粗末なもので、「がん免疫療法」を専門家が行うのは、それだけの理論的・科学的根拠があるからだ。

 つまり、行政官のこのような誤った判断が、日本の頭脳を海外に流出させ、特許権を外国で取得させ、研究者本人にも嫌な思いをさせ、医療を国民のためのものから遠ざけているのである。

(5)“空気を読んで(?)”出遅れた事例
 太陽光発電は、1995年前後に私が経産省に提案してすぐ始まったので、日本が世界初で、公害のない油田を発見したのと同じ効果があった。そのため、ドイツは2000年代から普及に力を入れたが、日本の経産省は、*5-1のように、今でも再エネは国の補助政策や天候変動に左右されるとし、原発には莫大な国の補助を何十年もし続けているにもかかわらず、温暖化につながるCO₂を出さない電源だとして、再エネの普及を妨げているのだ。この理由は、空気を読んだ結果なのか、論理的・科学的思考に欠けているのか不明だが、国民の福利から程遠い。

 また、EVも、1995年前後に私が経産省に提案してすぐ始まったもので、日本が世界初なのだが、純粋なEVを作ったのはゴーン氏率いる日産自動車だけだった。そして、*5-2のように、中国に出遅れて初めて、トヨタやホンダもEVの中国投入を急いでいる始末なのである。

<「精神障害者≒犯罪者or潜在的犯罪者」と見る習慣の存在>
*1-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201806/CK2018062202000250.html (東京新聞 2018年6月22日)「精神科医に拳銃を」病院団体会長が機関誌で引用
 全国の精神科病院でつくる「日本精神科病院協会」の山崎学会長が、協会の機関誌に「(患者への対応のため)精神科医に拳銃を持たせてくれ」という部下の医師の発言を引用して載せていたことが分かった。患者団体などでつくる「精神科医療の身体拘束を考える会」が問題視する集会を国会内で開催。「日本の精神科医療のトップが患者を危険な存在と差別し、許されない」と批判が出ている。山崎氏は機関誌の「協会雑誌」五月号の巻頭言で、自身が理事長を務める群馬県高崎市の病院医師が朝礼で話した内容を「興味深かった」と紹介した。この医師は、米国の病院では武装した警備員が精神疾患の患者を拘束したり、拳銃を発砲したりしており「欧米の患者はテロ実行犯と同等に扱われるようになってきている」と指摘。その上で「僕の意見は『精神科医にも拳銃を持たせてくれ』ということです」と主張している。患者団体は集会で、協会に対し質問状を出したと明らかにした。協会からは電子メールで「不快な思いをされた方がいたのであれば、今後は気を付けたい」と回答があった。一方で「対策を検討してほしいという願いを言いたかった。医療提供者もかけがえのない人たちだ」としている。

*1-2:https://keiji-pro.com/columns/164/#%E5%88%91%E6%B3%95%E7%AC%AC39%E6%9D%A1%E3%81%AE%E5%AF%BE%E8%B1%A1%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%82%8B%E4%BA%BA (心神喪失及び心神耗弱 抜粋)
第39条 心神喪失者の行為は、罰しない。
   2  心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。
●刑法第39条の対象になる人
刑法第39条が適用されるのは、次のような人たちです。
①精神障害者
 精神障害者の中でも、行為の善悪の判断がまったくつかない人は“心神喪失者”として、判断能力が著しくつきにくい状態の人は“心神耗弱者”として扱われます。
②泥酔状態者・薬物乱用者
 精神障害を持っていなくても、上と同様に、行為の善悪の判断がまったくつかない人や判断能力が低い人ならば、刑法39条の適用対象になります。しかし、自らの意思で泥酔状態に陥ったような場合は、完全な刑事責任を問われる可能性もあるでしょう。

<精神障害者の過大な定義>
*2-1:https://h-navi.jp/column/article/136 (発達ナビ 2016/1/18) アスペルガー症候群(AS)とは?症状と年齢別の特徴を詳しく解説します。
 アスペルガー症候群は発達障害のひとつで、コミュニケーション能力や社会性、想像力に障害があり、対人関係がうまくいきづらい障害のことです。アスペルガー症候群は比較的最近になって理解され始めた発達障害であり、言語障害や知的障害の症状はないので、周りからは「変わった人」と思われがちです。アスペルガー症候群には大きく分けて3つの症状があります。「コミュニケーションの問題」「対人関係の問題」「限定された物事へのこだわり・興味」。これら詳しい症状や、年齢別の症状の現れ方、診断基準や相談先について解説します。

*2-2:https://h-navi.jp/column/article/134 (発達ナビ 2017/8/30) 発達障害とは?発達障害の分類・症状・特徴・診断方法はどのようなもの?
 発達障害とは、生まれつきの脳機能の発達のアンバランスさ・凸凹(でこぼこ)と、その人が過ごす環境や周囲の人とのかかわりのミスマッチから、社会生活に困難が発生する障害のことです。発達障害は見た目からは分かりにくく「本人の努力不足」や「親のしつけの問題」などと誤った解釈や批判を受けたりすることも少なくありません。この記事では、ADHD、自閉症スペクトラム障害(ASD)、学習障害(LD)などの障害別の特徴について詳しく解説するとともに、医療機関での診断方法などもふまえ、発達障害について詳しくお伝えします。

*2-3:https://gendai.ismedia.jp/articles/-/35409?page=5 (週刊ゲンダイ 2013.4.10) 【大研究】どこまで難しい? 東大理Ⅲのテスト 東大医学部に合格した人たち、日本でトップ0.01%の「頭脳」でも彼らは本当に幸せなの?
 その先輩は嫌われてはいなかったんですけど、サークル内ではなんとなく敬遠されていました。その場の空気に関係なくニヤニヤしたり、生年月日トークをしてきたり、かと思ったら急に女子に告白して、ストーカーまがいのことをしたりしたので……」(文学部3年女子)。東大医学部にまつわる、一つの伝説がある。「実は医学部出身者の2割近くが『発達障害』だと言われているんです。実感としてはもっと多いかもしれません」(医学部4年)。もちろん、明確なデータが存在するわけではない。しかし、東大OBでもある精神科医の吉田たかよし氏はこう断言する。「東大に発達障害が多いというのは事実です」。吉田氏は東大の本郷キャンパスの真ん前、本郷赤門前クリニックで発達障害に悩む受験生のカウンセリングを行う。氏は、相談に来た発達障害の学生に、東大受験を勧めている。理由は、東大生はお互いを尊重する傾向が強く、低レベルないじめは起きにくい、というのがひとつ。そしてもうひとつが、「東大の入試は、実は発達障害の生徒に向いているから」(吉田氏)だというから驚きである。なぜ発達障害の生徒に東大入試が向いているのか、それを記す前に発達障害についておさらいしておく。発達障害とは、落ち着きがなく、注意力に欠けるADHD(注意欠陥・多動性障害)や、コミュニケーション能力や社会性に難がある自閉症やアスペルガー症候群、あるいは読み書きが困難なLD(学習障害)などの総称だ。生まれつき、あるいは幼児期の段階において脳の発達が損なわれることで、前述のような様々な症状が現れる、脳機能障害である。'06年の厚労省の調査によれば、5歳児の8・2%~9・3%に発生し、近年では大人になって発達障害に気づく「大人の発達障害」が社会問題化している。特に有名なのがアスペルガー症候群だ。「アスペルガー症候群の人たちは、集団の中で人に合わせることができません。相手の感情や、その場の雰囲気を読むことが不得手だからです。どの局面でも人に合わせる能力が問われる現代社会では、彼らは非常に生きにくい」(吉田氏)
●IQが高いアスペルガー
 その一方で、アスペルガー症候群の人々には、IQが高い傾向がある。一般人のIQの正常値は85以上115未満と言われる。だがアスペルガー症候群の人々には、115以上のIQを示す人が少なくないのだ。
本題に戻る。なぜ発達障害の人は東大に向いているのか。吉田氏が説明する。
「まず東大受験において最重要科目とされる数学。知能の高い発達障害の人は論理思考が得意な傾向があるので、数学を苦にしません。それに2ちゃんねるが好きで、どんなに受験勉強が忙しくても、最低でも一日2時間は2ちゃんを見る、ということにしていて、センターや二次試験前日も欠かさず見ていました。それがいい精神安定剤になっていたんじゃないかな、と思います」。「趣味」を続ける余裕を持ちながら、軽々と理Ⅲに合格してしまったAさんは、少なくとも「受験勉強レベル」で見れば十分、天才の部類に入る人である。一方で、理Ⅲ生にもう一つ多いのが、「根っからの勉強好き、競争好き」タイプの人間だ。西の名門、灘高校出身の理Ⅲ合格者Bさんは、勉強マニアと言っていいほどの勉強好きだった。「一日の平均勉強時間は8時間くらいだったと思います。1月に入ってからは10時間以上やってました。勉強はやったらやった分点数が伸びるので、面白い。ただ自分の中では中学受験のほうがよく勉強したような感覚ですね。小学4年生から希学園という塾に通っていて、夜遅くまで勉強していた記憶があります。6年になると、授業が23時頃まであって、帰って風呂に入って、寝るのはいつも24時過ぎでした。灘中・高では、鉄緑会という塾に入って膨大な宿題をこなしました。6年間モチベーションを保つのは大変でしたが、高校に上がるときに、『高校から灘に入ってくる40人は学力が高いから、下から上がる奴らの順位は例年がくんと落ちる』という噂が流れてきたときは燃えました。やっぱり同じ面子で競っているよりは、新しい敵が来たほうが刺激になります」。今年の東大理Ⅲ合格者は、灘27名、開成8名。これに女子のトップ校・桜蔭高校の4名を加えれば39名に達する。年によってはこの3校だけで4割を超すこともある。開成の卒業生で東大医学部OBの作家・石井大地氏が語る。「東大理Ⅲの最大の特徴は、都市圏の中高一貫校出身者が7~8割程度を占めるということです。他の学部では合格者の母数がもっと多いので、地方の県立トップ高校の学生の割合が高く、ここまで寡占状態になることはありません」。理Ⅲ合格者のインタビュー集『天才たちのメッセージ 東大理Ⅲ』の昨年版で行ったアンケートによれば、理Ⅲの出身高校割合は「私立」が88・7%と、圧倒的だった。「こうした学校は、多くが男女別学です。別学の進学校というのは、どこも空気が似ていて、必然的に理Ⅲにはその別学進学校のムードが持ち込まれます。ですから大多数の理Ⅲ生にとって理Ⅲは、そのまま高校の延長線上にあり同じノリで生きられてしまうわけです」(石井氏)。中高の6年間、そして大学の6年間、あわせて12年間、同じような環境で生きることになる。裏を返せば、地方の公立校などで抜群に勉強ができる高校生でも、彼らと競って理Ⅲの入学テストを突破するのは、まさに至難の業ということになる。ある開成卒の東大医学部生は、研修医として外の病院に出たときにはじめて「世界は灘と開成だけじゃないんだと悟った」という。つまり、理Ⅲおよび東大医学部とは、それほどに同質的で、閉鎖的な世界なのである。(以下略)

<教育と科学技術>
*3-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13653441.html (朝日新聞社説 2018年8月28日) 大阪市長 学力調査を乱用するな
 小6と中3が対象の全国学力調査の成績を、校長や教員の人事評価とボーナスに反映させる。各学校への予算配分も、結果にあわせて増減させる。大阪市の吉村洋文市長が、こんな方針を打ち出した。学力を底上げするのが狙いだというが、理解できない。成績が振るわない学校・地域を置き去りにし、格差を広げかねない。子どもの弱点をつかんで授業の改善に役立てるという調査の趣旨を逸脱し、過度な競争や序列化を招く恐れが強い。市長は方針を撤回すべきだ。大阪市は、全国20の政令指定都市のなかで、学力調査の平均正答率が2年続けて最下位だった。市長は危機感を示し、順位を上げると宣言。人事評価の具体的な仕組みは市教育委員会とともに協議するとしているが、数値目標を示し、達成したかどうかを目安にする考えだ。あまりに短絡的で乱暴だ。子どもの学力は家庭の経済状況と強い関係があることが、学力調査に伴う研究でわかっている。行政による支援は、貧困や不登校といった問題を抱える児童・生徒が目立つ学校や地域にこそ手厚くする必要がある。大阪市は昨年度、学力調査で課題があると判断した小中70校を対象に、独自の支援策を始めた。それを改善・充実させていくことに集中するべきだ。そもそも、学力調査で把握できるのは学力の一つの側面にすぎない。結果を絶対視すれば、さまざまなゆがみを生む。かつて東京都足立区では、都や区の試験中に先生が誤答している児童に合図をしたり、障害児の成績を集計から外したりする不正が生じた。その背景には、学校同士を競わせ、成績の伸び率を各校への予算配分に反映させる仕組みがあった。吉村市長は「結果に責任を負う制度に変える」「市長の予算権をフルに使って意識改革したい」と語った。しかし、テストの点数で先生を競争させるような仕組みを入れると、先生は教科指導に集中できる学校に赴任したがり、様々な課題に直面している学校を嫌う風潮を強めかねない。多様な子どもたちと粘り強く向き合う、そんな数値では測りにくい努力を軽視すれば、教育の根本が危うくなる。市長の方針に対し、学校の現場からは懸念や反発が噴き出している。当然だろう。まずはその声に耳を傾ける。学力調査の目的を再確認した上で、必要な対策を検討するよう指示する。それが市長の役割だ。

*3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180828&ng=DGKKZO34637750X20C18A8TCR000 (日経新聞 2018年8月28日) 日本の研究力 どう再興
 日本の研究力の低下が深刻だ。日本発の科学論文が減り、博士を目指す若者も少なくなっている。研究者が自由に力を発揮できる環境を整えないと、未来の日本の豊かさを支える科学技術の屋台骨が揺らぐ。大学・企業・政府の連携はどうあるべきか。「科学技術立国」の再生の道筋を探る。
   ◇  ◇
●産業界が若い人支援を コマツ会長 野路国夫氏 (のじ・くにお 1969年大阪大学卒、コマツに入社。社長兼最高経営責任者(CEO)などを経て2013年から現職。経済同友会副代表幹事も務めた。71歳。)
 博士課程に進学する若者が減り、日本が発表する科学論文が減少している。大学の研究者の高齢化が進み、若い研究者の多くが有期雇用にとどまり人事がよどんでいる。データを見ると日本の研究力は明らかに落ちてきている。知り合いの大学教授らの話を聞いても心配な状況だ。問題は複雑であり一つの課題を解けばすべてがうまくいくという性格のものではない。大学の問題は大学だけにとどまらない。政府と産業界も役割分担してこの複雑な方程式を解く必要がある。そのためには思い込みや誤解を捨て、みんなが歩み寄る必要がある。
大学との共同研究は企業にとって役に立つ。同時に大学側にもメリットがある。コマツではCTO(最高技術責任者)室を設け、自社の強みであるコア技術を磨くための技術戦略をつくった。技術革新が急速で、ひとつの課題解決にたくさんの異分野の知識が必要だ。コマツだけで取り組むには限界がある。いまは研究本部を廃止し国内外の約30大学との共同研究を進めている。自前主義をやめてオープンイノベーションにカジを切ったのだ。例えば、大阪大学とはキャンパス内の共同研究所で、若手の博士研究者(ポスドク)ら5人がコマツの研究者とともに働いている。その人件費はコマツの負担だ。大学にとってはその分だけ運営費交付金(政府から配分される経常的な資金)からの人件費支出を減らせ、独自の研究に回せるお金を増やせる。私たちが出す資金の半分ほどは「間接費」として大学の収入となり、一部は学長の裁量で使える。大学自身の判断で、企業から支援を受けるのが難しい基礎研究にも充てることができるはずだ。科学の新発見を成し遂げ、世界に存在していなかった新技術を編み出す基礎研究は、国民や産業が長期的に豊かになるうえで大事であり、それは大学が担うべきだ。人工知能(AI)の研究でも既存のAIを使ってイノベーションを起こすのは産業界の仕事だが、10年、20年先を見た研究をするのが大学だ。イノベーションはいま存在する技術の組み合わせで起こすものだ。インターネットは米国防総省の研究から生まれたが、ひとたび誕生すればマイクロソフトやグーグルなどがそれを活用して大きなビジネスをつくりだした。そうした産学連携ができればいい。政府の研究開発プロジェクトを通じて年間約1500億円を産業界は政府から受け取っている。私は大企業が政府から資金をもらう必要はないと思う。政府のお金はベンチャー企業育成と大学の研究費に回す方がよい。大学の先生たちは学生を自分の研究の手伝いに使い、学生たちに自分の頭で考え問題を解く機会を与えてこなかった。しかし、大学が困窮し、学生が研究者の道を選ばない事態は望ましくない。研究を続ける最低限の資金は必要だ。産業界全体で若い人たちのために行動しようという機運がほしい。産官学の関係者が互いに歩み寄り、好循環を生みたい。
   ◇  ◇
●「やりたいこと」こそ大事 東京工業大学栄誉教授 大隅良典氏 (おおすみ・よしのり 1974年東京大学大学院で博士号取得。自然科学研究機構基礎生物学研究所教授などを経て現職。2016年ノーベル生理学・医学賞受賞。73歳。)
 大学の研究を支える(博士課程の)大学院生が減れば、論文は必然的に減る。数が少なくなるという以上に問題なのは、質の面でも日本の存在感が国際的に下がっている。多くの生物系の学会で学生会員が減り大学院生の発表が少なくなった。博士課程に進学せず修士での就職が目標になると発表の意欲が減退するからだ。学会発表は一人前の研究者への一里塚だったが、今はそうでない。若い人が育たないのは、その人の能力の問題ではなく日本のシステムの問題だ。研究費を取るには、はやりの研究や短期間で成果の出る研究をせざるを得ない。私は効率とサイエンスは対極にあると考える。効率を求められる中で評価を厳しくすると、そうした評価における優秀な人しか育たない。長い時間を要することや他の人と違ったことをやる人が、どこかで花開くということがなくなる。はやりのテーマへの集中に頼っていると研究の裾野が広がらず、日本で独自に切り開く新しい研究が育たず、ノーベル賞を得るような成果が生まれてこなくなる。研究はすべてうまくいくことはあり得ない。科学は多くの人がチャレンジし、一見成功しなかった取り組みも含めて全体として進歩することを社会に理解してほしい。わがままに聞こえるかもしれないが、研究では研究者が自分のやりたいことを続けられることが一番大事だ。日本の研究者は来年は研究を続けられないかもしれないという恐れやプレッシャーにさいなまれ、やりたい研究ができていない。研究費申請や評価のための書類づくりなどがたくさんあって、論文執筆までもが後回しになっている。そんな苦労をしている教授をみると、学生たちの博士課程への進学意欲はさらに薄らいでしまう。研究に関する私の意見に共感してくれる企業のトップも多い。一方、今叫ばれている産学連携には安易に期待はできない。連携する以外に生き残れない状況に大学を追い込み、大学の研究室が企業の下請けとなるのを助長するのはよくない。大学でどんな研究をすべきか、企業と大学の役割分担を明確にせず、お金がもらえればいいという発想では大学の研究は破綻する。大学が基礎的な研究をし、その成果を企業の目利きが選んで活用するという仕分けが必要だ。米国では企業の連合体が資金を集めて優秀な研究者たちに自由に研究させ、その成果から必要なものを選別する試みが始まっている。基礎研究は必ずしも国が支えるものではなく、社会全体で支えるという認識が広がる必要があると思っている。企業に望むのは、政府があつらえたプロジェクトに横並びで加わるのではなく、大学と組んで本気でやってみたいと考えるテーマに大胆に資金を投じてほしい。そうした企業が1社、2社と現れることで今の閉塞状況が変わるかもしれない。グローバル化の波で、企業は手っ取り早く役に立つ中国やインドの学生の方が日本の学生よりいいと思うかもしれない。しかし100年後を考えて日本の大学を大事にしてもらいたい。
   ◇  ◇
●閉鎖性が生産性下げる 財務省主計局次長 神田真人氏 (かんだ・まさと 1987年東京大学卒、大蔵省(現在の財務省)入省。91年英オックスフォード大学大学院修了。主計官として科学技術予算などを担当し2017年から主計局次長。53歳。)
 研究力の低下を危惧している。国際的に注目される質の高い研究で日本のプレゼンスが下がり、特に新たな領域や学際分野で劣後している。その原因を公的支出に求める見方があるが、日本の科学技術予算はドイツと同水準で英仏より多く、国内総生産(GDP)比では米国と同レベルだ。多額の血税を投じても成果に結びつかないのは、研究の生産性にも原因がある。国際的に評価が高い論文1件当たりに投じられた研究開発費をみると、ドイツの340万ドル(約3億8千万円)に対し、日本は660万ドル(約7億3千万円)と2倍近い。生産性の低さは日本の研究現場が依然として閉鎖性、同質性が高いサイロ的構造を残していることにある。講座や学部、研究領域や大学間などに高い壁がある。それらが活力を奪い、オープンイノベーションや新分野開拓に不利な環境をもたらしている。学位を得た同じ大学で研究を続け、そのまま教授となる慣行は国際的には異例だ。官民連携や国際化を通じ、開放性や多様性の向上に努める研究者や組織を政府は資金、制度面で応援してきた。今後も強化する。地方大学でも世界最高水準の研究は少なくなく、過去にない5億円超の研究費がつく例もある。科学研究費補助金(科研費)は分野横断的に配れるようにし、研究の多様化を進めている。運営費交付金は国立大学法人化(2004年度)以降、激減したという声を聞くが、特殊要因を除くと約400億円の減少にとどまる。優れた研究を選んで支援する競争的資金などの補助金を増やした結果、国立大学の研究費は600億円以上増えて約1兆2800億円(16年度決算)に達する。教員1人当たりの研究費も417万円から653万円まで6割増えた。問題はその配分だ。大学での改革の進捗や研究者の努力と成果に公平に報いるため、補助金の傾斜配分は強まる。納税者への説明責任を果たすためにも当然だ。大学は民間資金や学長裁量経費などを生かし、真に必要とする研究に学内で適切に資金を再配分すべきだ。横並びや既得権益の維持に陥ってはいけない。大学は政府が出す研究費がどの学部にいくらいくかという基礎的な情報さえ公開していない。この点も改めてもらいたい。英オックスフォード大も国立だが、運営費交付金の依存度は15%。外部から資金を集める魅力と競争力をもち世界ランキングトップの評価を維持している。博士課程進学者は減少傾向にあるが、20歳代の人口も減り、人口比では減っていない。社会人からの進学が増え、博士課程の在籍者は7万人以上で高止まりしている。社会人の増加は大学の多様性や流動性を高める。大学内の人事の新陳代謝を進めて、若手に正規ポストを空けることも必要ではないか。日本企業が保有する現預金は210兆円超。企業の研究開発費のうち国内大学へ投じる割合は0.7%にすぎず、海外より著しく低い。日本の大学への投資を大きく増やしたい。日本の研究力は強化すべきだし、できるはずだ。

*3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180828&ng=DGKKZO34658610X20C18A8TJ1000 (日経新聞 2018年8月28日) 外国人留学生、就活出遅れ 内定率、国内学生の半分 学業を優先
 就活の早期化が外国人留学生に逆風となっている。就職情報大手のディスコ(東京・文京)が27日に発表した調査では、7月時点で内定(内々定を含む)を得た人の比率が4割強と日本人学生の半分程度だった。留学生は学業を優先し、卒業までに就職先が決まればいいという考え方が強く、早期に活動を始める日本人学生に後れを取る傾向があるという。調査は同社の新卒就職情報サイト「キャリタス」で6月28日~7月18日に実施し、2019年春に卒業予定の外国人留学生モニター277人から回答を得た。出身国・地域は中国が6割以上で、東南アジア、韓国、台湾が続いた。7月時点での内定(内々定を含む)の有無を聞いたところ、42.6%の学生が「内定あり」と回答した。前年調査より4.4ポイント上昇した。内定社数は平均で2.0社と、前年(1.6社)を上回った。国内の日本人学生と同様に昨年よりも売り手市場の恩恵を享受しているともいえる。ただ国内の日本人学生の内定率(81.1%)と比べると半分ほどにとどまる。既に内定を得た人も含めて外国人留学生の71.8%が就活を継続していた。就職活動の難易度を聞いたところ、「とても厳しい」「やや厳しい」の合計は80.7%に上り日本人学生(39.8%)の倍以上に達した。留学生が就活を始める時期が国内の学生に比べ遅いことが原因の一つとみられている。経団連加盟企業の個別説明会が解禁となる3月以降に就活を始めた留学生は56.3%を占める。このうち「4年生の4月」が25.3%と最も多い。日本人学生の9割以上が「3年生の12月」までに始めるなど就活は早期化し、情報格差が広がっている。ディスコの担当者は「留学生は卒業時までに決まればいいという考えが主流で国内学生に比べ早く決めようという意識が薄い」と指摘する。大学院から留学する場合、来日して間もないころから就活に直面するため、早期化に対応しづらい面もあるという。日本の大学を卒業・修了して日本で就職する留学生は15年度で8367人。留学生全体の国内就職率は約35%にとどまる。政府は16年にまとめた「日本再興戦略」で留学生の日本企業への就職率を5割に高める目標を明記した。ディスコが17年12月に実施した調査では企業の57.8%が18年度に「採用する予定」と答えた。人手不足に加え、グローバル化を進める日本企業にとって留学生への期待は大きい。一方で17年度に採用実績のある企業は35.4%にとどまる。ディスコは「留学生の意欲が高くても日本語能力や出身国・地域のバランスを考慮して結果的に採用を見送るケースも多い」と分析している。中小企業が採用しようとしても、留学生の大手志向が強く、マッチングが難しい実情もあるようだ。

<最初は相手にされなかった科学の事例>
*4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180121&ng=DGKKZO25899390Z10C18A1MY1000 (日経新聞 2018年1月21日) 大陸移動 100年越しの宿題、なぜ動く? 理論検証へ掘削
 ドイツの気候学者ウェゲナーが大陸が動くという大陸移動説を1915年に公表してからほぼ100年。それを裏付けるプレートテクトニクス理論が登場して50年の節目を迎える。大陸の移動を説明するだけでなく、巨大地震がどのように発生するかなどの研究に大きな進展をもたらした。何が大陸を動かしているのかなど未解決の宿題にも答えを出しつつある。プレートテクトニクスの基本原理は単純明快だ。地球の海底や大陸はいくつかのブロックにわかれていて、それぞれ1枚のプレート(岩板)として振る舞う。プレートの動き方は球面上の回転運動として表せる。例えば海洋プレートの動きは回転軸からの距離と角度の変化率を示す角速度で説明でき「わかりやすかったことが世界に普及した原因」と東京海洋大学の木村学特任教授は説明する。ウェゲナーが欧州やアフリカと、大西洋をはさんだ南北アメリカの地形がパズルのように一致することから大陸移動説を思い付いたという話は有名だ。大西洋の両側で地質や化石の分布などが共通していることも根拠とされた。過去に1つの大陸だったものが分裂し、大陸が移動してその間隔が広がることで大西洋ができた、と考えた。しかし弱点があった。なぜ、どのように大陸が動くのかを説明できないことだ。このため、ウェゲナーの死後、大陸移動説を巡る議論は停滞する。この宿題に答え、大陸移動説を復活させたのが、大陸がどのようなしくみで動いているかを説明するプレートテクトニクス理論の登場だ。同理論によると、大陸は分裂と合体を繰り返し、再びパンゲアのような超大陸ができる。動き方を説明するだけでなく、どのような力が大陸を動かしているのか、といった宿題にも答えつつある。最も有力と考えられているのが、大陸の下に沈みこんだ海洋プレートの重みでプレートが引きずられて動くというものだ。沈みこんだプレートが長い場所ほど、プレートの動きが速いことなどが証拠とされる。海洋プレートが造られる海嶺(かいれい)と呼ばれる海底山脈は周囲に比べて高く、できたプレートが山頂から滑り落ちる力もプレートを押し出していると考えられている。これ以外の力が働くとする考えもある。地殻の下のマントルとよばれる部分が長い時間かけて液体のように動き、この対流がプレートを動かすというマントル対流説だ。海洋研究開発機構の小平秀一上席研究員らは北海道南東沖の海底を調べ、1億2000万年前にプレートが海嶺周辺で生まれた際、マントルが海洋プレートを引きずって動かしている証拠をみつけた。海底のプレートが動いたときにできる割れ目の方向がマントルがプレートを引きずったと考えられる向きと同じだった。沈むプレートの重みで動く場合、プレートがマントルを引きずるため割れ目の方向が違う。こうした場所は米西海岸などでも見つかっている。少なくとも海嶺近くの一部ではマントルによる駆動が上回っているのではないか、というわけだ。海洋機構は地球深部探査船「ちきゅう」などを使って地殻を掘り進み、マントルを直接調べる計画だ。「プレートを動かす原動力を明らかにするのは大きなテーマだ」と小平上席研究員は話す。プレートテクトニクスでは、大陸はマントルの上に浮かび、海洋プレートに押される形で動いている。全地球測位システム(GPS)の発達で陸地の動きを詳細に観測できるようになった。従来考えられている以上に複雑な動き方をしていることがわかり、「大陸は海洋プレートのように一枚岩と考えてはいけない」と木村特任教授は話す。当初は地球全体で十数枚のプレートに分かれると考えられていたが、最近では50枚以上のプレートに分かれているとする研究もある。プレートテクトニクスはこの50年で大きく進歩したが、大きな宿題も残っている。「プレートテクトニクスがどのようにして始まったのかはわかっていない」。プレートテクトニクス理論の創始者のひとり、英ケンブリッジ大学のダン・マッケンジー名誉教授はこう指摘する。何がきっかけで大陸が分裂し、新しい海洋プレートが生まれて動き出すのかは依然として謎だ。約46億年の地球の歴史の中で、40億年ほど前にはすでにプレート運動は始まっていたと考えられている。しかし当時の海洋プレートはすでに地球の中に沈みこんでいて、調べることはできない。始まりの謎は、プレートテクトニクスは地球以外の惑星でも起こる一般的な現象なのか、といった問題の解明にもつながっている。

*4-2-1:https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/mag/btomail/18/07/03/00398/ (日経BP 2018.7.4) 中村教授が見据える、癌プレシジョン医療の可能性
 癌の治療成績は劇的に向上し、以前いわれた「死の病」ではなくなりました。しかし、癌と診断された人の半分は癌が原因で命を落とすという現実があります。幸いにして手術(治癒的切除)できる段階で見つかった癌患者でも、再発の問題がついて回ります。画像検査を頻繁に受けることは、日常生活を送る上で非常な困難がつきまといます。米Chicago大学の中村祐輔教授は、先日東京ビッグサイトで開催されたBIOtech2018の講演の中で、リキッドバイオプシーが5年以内に日常診療に導入されると展望しています。リキッドバイオプシーの良いところは、採血で済むために侵襲性が低く、簡便に検査できることです。しかも、最近の研究では画像で視認される6から9カ月も前に再発を検出できたという報告もあります。「定期的な画像検査を受けてきたが、発見時に進行していた」という悲劇的な事例を減らすことができます。早期の再発ならば、効果的な対応も可能です。中村教授は、攻めの免疫療法の必要性も力説しました。免疫チェックポイント阻害薬はあくまで免疫のストッパーを外す治療法です。奏効率が2から3割しかない背景には、患者の免疫力が弱体化していることが挙げられます。ストッパーを外しつつ、免疫そのものを増強する必要があります。ネオアンチゲン、オンコアンチゲンを標的にした治療の重要性を指摘しました。同教授は、最新の癌免疫治療を日本で大胆に導入するために、「がんプレシジョン医療プロジェクト」を発足させます。2018年7月13日に、ホテルニューオータニ(東京都・千代田区)で発足式典があります。プロジェクトの目的は、「プレシジョン医療ネットワーク」の構築です。リキッドバイオプシー、全エキソン解析、分子標的治療、ネオアンチゲン、オンコアンチゲンワクチンに加え、癌特異的TCRのクローニングをもとにしたTCR導入T細胞療法など、「ゲノム情報などを利用した医療を発展させるために必要な全ての分野・領域を包括的に組織化する」ことにあります。実現するためには人工知能の活用が欠かせません。癌の制圧に向け、プレーヤーは出そろっています。あとはそれを効率的に、経済的に組み合わせることが課題です。それが各要素技術の革新にフィードバックされ、より洗練されたものへと進歩していくはずです。
*バイオ研究者やバイオ産業に携わる方、約5万人に向けて月曜から金曜まで週5回配信している日経バイオテクONLINEメールに、水曜日と金曜日に掲載している記者によるコラムを掲載します。

*4-2-2:https://digital.asahi.com/articles/ASKCY7QGBKCYUBQU01H.html (朝日新聞 2017年11月29日) がん拠点5病院で研究外の免疫療法 厚労省調査
 地域のがん医療の中心となるがん診療連携拠点病院5カ所で、有効性が認められていない「がん免疫療法」を臨床研究以外の枠組みで実施していたことが29日、厚生労働省の調査でわかった。治療費が全額患者負担となる治療が、標準治療の提供が求められている拠点病院で確認された。厚労省は今後、科学的根拠が確立していない免疫療法は原則、臨床研究で実施するよう求めていく方針だ。
●がん免疫療法の実態調査へ 400の拠点病院で
 厚労省は、一部の拠点病院が科学的根拠のない免疫療法を実施しているという指摘を受け、全国の434拠点病院を調べた。今年9月1日時点で、84施設が保険適用外の免疫療法を実施。うち79施設は、科学的根拠を集めるため、治験などの臨床研究として行っていた。残り5施設は臨床研究ではなく患者の求めに応じるなどして実施し、うち1施設は治療法が妥当かチェックする院内の倫理審査委員会で審査していなかった。研究目的の臨床試験でなければ治療費は全額患者負担となる。免疫療法は、体内の異物を攻撃して排除する免疫のしくみを利用して、がんを治すことを目指すもの。オプジーボなどの「免疫チェックポイント阻害剤」という新しいタイプの薬は、一部の進行がんで保険適用されているが、多くは科学的な効果が確立されていない。

<“空気を読んで(?)”出遅れた事例>
*5-1:http://www.saga-s.co.jp/articles/-/199389 (佐賀新聞 2018年3月31日) 再エネ、50年の主力電源に、経産省が戦略素案
 経済産業省は30日、2050年の長期エネルギー政策の課題を話し合う有識者会議で、再生可能エネルギーについて「主力化の可能性が拡大している電源」とする戦略素案を示した。原発も「脱炭素化の選択肢」として活用余地を残す。温暖化対策を強化する狙い。再生エネや原発の発電割合は数値目標の設定を見送る方針だ。4月にも最終的に取りまとめる。素案は、太陽光や風力といった再生エネは世界的な価格低下やデジタル技術の進展を考慮して、主力化を目指すべき電源だと指摘した。余った電気を蓄電池にためたり、水素に変換してエネルギー源として使用したりすることで、国の補助政策や天候変動に左右されない自立した電源に成長させるとの方針を示した。原発は、温暖化につながる二酸化炭素(CO2)を出さない電源として、安全性向上やコスト改善の観点から、技術開発や人材育成の強化が重要になるとした。一方で、東京電力福島第1原発事故の反省を踏まえ、原発の依存度を可能な限り低減する従来方針は今後も変えない考えを示した。現在、発電の中核を担っている火力発電は非効率的な石炭火力を廃止し、比較的CO2の排出が少ないガス火力に移行させることが重要になると指摘した。日本は温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」で、50年に温室効果ガスを8割削減する目標を掲げている。政府は今夏に30年ごろの中期目標を中心にした新しいエネルギー基本計画を決める予定で、50年を見据えた戦略も一部反映させる。会議では、委員から再生エネを主力電源として強力に推進すべきだとの意見が出たが、特定の電源を重視するのは避けるべきだとの主張もあった。

*5-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180828&ng=DGKKZO34656450X20C18A8TJ1000 (日経新聞 2018年8月28日) 日産、中国でEV生産開始
 日産自動車は27日、中国の東風汽車集団との合弁会社が運営する花都工場(広東省)で電気自動車(EV)「シルフィ ゼロ・エミッション」の生産を始めた。日産ブランドとして中国に投入する初のEVとなる。現地の売れ筋セダン「シルフィ」にEV「リーフ」の技術を盛り込んで開発した。中国政府はEVなど一定数の新エネルギー車の生産を2019年に義務付ける。トヨタ自動車やホンダも現地でEVの投入を急いでいる。

<障害者雇用における役所の水増し>
PS(2018年8月31日、9月7日追加): *6-1のように、中央省庁が発表した約6,900人の障害者雇用数のうち3,460人が水増しで、その方法が障害者手帳等で確認もせずに「視力が弱い」「糖尿病」などの職員を勝手に障害者に算入していたことは問題だ。しかし、安倍首相に関しては、*6-2の2014年公布の「障害者の権利に関する条約」が安倍政権下で高村外務大臣によって調印され、2016年障害者雇用促進法強化も安倍政権下で行われ、首相が行政の細かい人事まで指示する立場にはないことから、行政の長だからといって責任はないと考える。むしろ、何があっても政治家に責任を負わせ、政治家が謝罪したり辞任したりして終わらせるという発想は、政争の具として利用されるだけで、現状を改善することはない。
 なお、*6-2の国連による「障害者の権利に関する条約」の理念は、「障害者は全ての人権及び基本的自由を差別なしに完全に享有することを保障する」「障害者の多様性を認める」「障害者にとって個人の自律及び自立(自ら選択する自由を含む。)が重要であることを認める」「障害者の大多数が貧困の状況下で生活している事実を強調し、貧困が障害者に及ぼす悪影響に対処することが真に必要であることを認める」等々としており完璧に近いので、中央省庁及び地方自治体は理解して守るべきである。
 また、障害者手帳を持っている障害者でも、配置によっては残っている機能で健常者と同様以上に働ける場合が多いため、「障害者1人1人に向き合ったフォロー」などと過度に言い立てて、女性労働者と同様、「区別」を「差別」の代替語にしないよう気を付けるべきだ。
 なお、*6-3のように、裁判所や国会も障害者雇用の半分超を不正算入して水増ししており、機会を奪われた障害者は訴える場所もなさそうだ。しかし、加藤厚労相が特定の組織だけをスケープゴートにして問題を終わらせるのではなく、都道府県・市区町村・独立行政法人・国立大学法人まで含めて全体の障害者雇用率を実態調査することにしたのは評価できる。

  
             日本国憲法27条             2018.8.29毎日新聞

    
   2018.9.7佐賀新聞           障害者雇用の推移

(図の説明:上の左図の日本国憲法27条に定められた「勤労の権利」や「勤労条件」でも、障害者を不利に扱うことは許されていない。しかし、上の右図及び下の図ように、障害者雇用は低迷しており、今回、裁判所も含む役所の水増しが明るみに出たわけだ)

*6-1:http://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/687754 (福井新聞 2018年8月30日) 障害者雇用水増し問題、働く機会奪った罪は重い
 中央省庁が障害者雇用数を水増ししていた問題で、昨年だけでも行政機関の8割となる27機関で3460人にも上っていた。法令無視は制度開始の1960年から横行していたとされる。膨大な数の障害者の働く機会を奪った罪は重いと言わざるを得ない。水増しは多くの地方自治体でも次々と発覚。県内では鯖江市や県警、新たに福井市でも判明した。相次ぐ発覚にいまだ全容はつかめないままで、故意に数字を操作したのか、法令解釈の誤りなのかも判然としない。政府は第三者の検証チームに原因究明を委ねるとしたが、国会は閉会中審査で真相解明に当たるべきだ。身体障害者雇用促進法は60年に制定され、76年に民間企業に雇用が義務付けられた。その後、対象に知的障害が加えられ、今年4月には精神障害にも拡大。法定雇用率は徐々に引き上げられ、現在は国や地方自治体で2・5%、企業で2・2%だ。雇用率に算入できる障害者は厚生労働省のガイドラインでは、各障害者手帳で確認するのが原則で、例外として指定医による診断書も認められている。政府の調査結果によると、昨年雇用していたと発表した約6900人のうち半数が水増しで、雇用率は法定を大きく下回る1・19%だった。この数字に障害者から怒りや不満の声が上がったのは当然だ。雇用率達成にまじめに取り組み、未達成時には納付金を納めるなどしてきた企業にすれば、冷水を浴びせられたとの思いだろう。手帳の確認を怠っただけでなく「視力が弱い」「糖尿病」といった職員を障害者として算入していたことが判明。さらには、健康診断など申告のあった資料を基に、本人に確認もせずに算入していた例もあったという。歴代の担当者らにこうした手法が受け継がれてきたとみられる。厚労省のガイドラインの分かりにくさを指摘する声もあるが、法令順守を第一とする公務員の弁とは思えない。障害者雇用促進法は、働く喜びを通じ、障害のある人の自立を支えることを理念に掲げる。範を示すべき「官」の背信は、障害者の萎縮、民間企業の雇用意欲減退にもつながりかねない。水増しは国税庁1022人、法務省539人に上った。国民の納税、人権意識への影響も懸念される。政府は今年中に雇用率に満たない人数を雇用するとしているが、これこそ実態を軽視するものだ。障害者一人一人に向き合った職場環境やフォロー体制などが整わない状態では、職場への定着が困難なことを理解していないのではないか。安倍晋三首相が表に出てこないのも不自然だ。財務省の文書改ざんなどでは「行政の長として責任を痛感している」などと弁明した。今回は安倍政権に起因するものではないと、ほおかむりするつもりなのか。4年前の厚労省所管の独立行政法人で水増しが発覚した際に省庁を含めた調査を行っていれば、との指摘がある。その時の行政の長は誰だったのか。

*6-2:http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/rights/adhoc8/convention131015.html#ARTICLE5 (障害者の権利に関する条約 2014年1月20日公布 抜粋) 
前文
この条約の締約国は、
(a)国際連合憲章において宣明された原則が、人類社会の全ての構成員の固有の尊厳及び価値並びに平等のかつ奪い得ない権利が世界における自由、正義及び平和の基礎を成すものであると認めていることを想起し、
(b)国際連合が、世界人権宣言及び人権に関する国際規約において、全ての人はいかなる差別もなしに同宣言及びこれらの規約に掲げる全ての権利及び自由を享有することができることを宣明し、及び合意したことを認め、
(c)全ての人権及び基本的自由が普遍的であり、不可分のものであり、相互に依存し、かつ、相互に関連を有すること並びに障害者が全ての人権及び基本的自由を差別なしに完全に享有することを保障することが必要であることを再確認し、
(d)経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約、市民的及び政治的権利に関する国際規約、あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約、女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約、拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約、児童の権利に関する条約及び全ての移住労働者及びその家族の構成員の権利の保護に関する国際条約を想起し、
(e)障害が発展する概念であることを認め、また、障害が、機能障害を有する者とこれらの者に対する態度及び環境による障壁との間の相互作用であって、これらの者が他の者との平等を基礎として社会に完全かつ効果的に参加することを妨げるものによって生ずることを認め、
(f)障害者に関する世界行動計画及び障害者の機会均等化に関する標準規則に定める原則及び政策上の指針が、障害者の機会均等を更に促進するための国内的、地域的及び国際的な政策、計画及び行動の促進、作成及び評価に影響を及ぼす上で重要であることを認め、
(g)持続可能な開発に関連する戦略の不可分の一部として障害に関する問題を主流に組み入れることが重要であることを強調し、
(h)また、いかなる者に対する障害に基づく差別も、人間の固有の尊厳及び価値を侵害するものであることを認め、
(i)さらに、障害者の多様性を認め、
(j)全ての障害者(より多くの支援を必要とする障害者を含む。)の人権を促進し、及び保護することが必要であることを認め、
(k)これらの種々の文書及び約束にもかかわらず、障害者が、世界の全ての地域において社会の平等な構成員としての参加を妨げる障壁及び人権侵害に依然として直面していることを憂慮し、
(l)あらゆる国(特に開発途上国)における障害者の生活条件を改善するための国際協力が重要であることを認め、
(m)障害者が地域社会における全般的な福祉及び多様性に対して既に貴重な貢献をしており、又は貴重な貢献をし得ることを認め、また、障害者による人権及び基本的自由の完全な享有並びに完全な参加を促進することにより、その帰属意識が高められること並びに社会の人的、社会的及び経済的開発並びに貧困の撲滅に大きな前進がもたらされることを認め、
(n)障害者にとって個人の自律及び自立(自ら選択する自由を含む。)が重要であることを認め、
(o)障害者が、政策及び計画(障害者に直接関連する政策及び計画を含む。)に係る意思決定の過程に積極的に関与する機会を有すべきであることを考慮し、
(p)人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的な、種族的な、先住民族としての若しくは社会的な出身、財産、出生、年齢又は他の地位に基づく複合的又は加重的な形態の差別を受けている障害者が直面する困難な状況を憂慮し、
(q)障害のある女子が、家庭の内外で暴力、傷害若しくは虐待、放置若しくは怠慢な取扱い、不当な取扱い又は搾取を受ける一層大きな危険にしばしばさらされていることを認め、
(r)障害のある児童が他の児童との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を完全に享有すべきであることを認め、また、このため児童の権利に関する条約の締約国が負う義務を想起し、
(s)障害者による人権及び基本的自由の完全な享有を促進するためのあらゆる努力に性別の視点を組み込む必要があることを強調し、
(t)障害者の大多数が貧困の状況下で生活している事実を強調し、また、この点に関し、貧困が障害者に及ぼす悪影響に対処することが真に必要であることを認め、
(u)国際連合憲章に定める目的及び原則の十分な尊重並びに人権に関する適用可能な文書の遵守に基づく平和で安全な状況が、特に武力紛争及び外国による占領の期間中における障害者の十分な保護に不可欠であることに留意し、
(v)障害者が全ての人権及び基本的自由を完全に享有することを可能とするに当たっては、物理的、社会的、経済的及び文化的な環境並びに健康及び教育を享受しやすいようにし、並びに情報及び通信を利用しやすいようにすることが重要であることを認め、
(w)個人が、他人に対し及びその属する地域社会に対して義務を負うこと並びに国際人権章典において認められる権利の増進及び擁護のために努力する責任を有することを認識し、
(x)家族が、社会の自然かつ基礎的な単位であること並びに社会及び国家による保護を受ける権利を有することを確信し、また、障害者及びその家族の構成員が、障害者の権利の完全かつ平等な享有に向けて家族が貢献することを可能とするために必要な保護及び支援を受けるべきであることを確信し、
(y)障害者の権利及び尊厳を促進し、及び保護するための包括的かつ総合的な国際条約が、開発途上国及び先進国において、障害者の社会的に著しく不利な立場を是正することに重要な貢献を行うこと並びに障害者が市民的、政治的、経済的、社会的及び文化的分野に均等な機会により参加することを促進することを確信して、次のとおり協定した。
第一条 目的
 この条約は、全ての障害者によるあらゆる人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有を促進し、保護し、及び確保すること並びに障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的とする。障害者には、長期的な身体的、精神的、知的又は感覚的な機能障害であって、様々な障壁との相互作用により他の者との平等を基礎として社会に完全かつ効果的に参加することを妨げ得るものを有する者を含む。
第二条 定義
 この条約の適用上、
○「意思疎通」とは、言語、文字の表示、点字、触覚を使った意思疎通、拡大文字、利用しやすいマルチメディア並びに筆記、音声、平易な言葉、朗読その他の補助的及び代替的な意思疎通の形態、手段及び様式(利用しやすい情報通信機器を含む。)をいう。
○「言語」とは、音声言語及び手話その他の形態の非音声言語をいう。
○「障害に基づく差別」とは、障害に基づくあらゆる区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のあらゆる分野において、他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を認識し、享有し、又は行使することを害し、又は妨げる目的又は効果を有するものをいう。障害に基づく差別には、あらゆる形態の差別(合理的配慮の否定を含む。)を含む。
○「合理的配慮」とは、障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。
○「ユニバーサルデザイン」とは、調整又は特別な設計を必要とすることなく、最大限可能な範囲で全ての人が使用することのできる製品、環境、計画及びサービスの設計をいう。ユニバーサルデザインは、特定の障害者の集団のための補装具が必要な場合には、これを排除するものではない。(以下略)

*6-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/271391 (佐賀新聞 2018年9月7日) 裁判所、国会も4百人水増し、障害者雇用、半分超を不正算入
 中央省庁の障害者雇用水増し問題で、厚生労働省は7日、全国の裁判所や国会でも国のガイドラインに反して計約440人を不正に算入していたと公表した。昨年は計約730人を雇用していたと発表しており、半分以上が水増しに当たる。裁判所と国会は当時の法定雇用率(2・3%)を達成したとしていたが、それぞれ0・97%、1・31%と激減した。加藤勝信厚労相は7日の記者会見で、独立行政法人や国立大学法人の計337機関についても昨年の障害者雇用率を調査すると明らかにした。今月末までに報告を求め、10月中に都道府県や市区町村への全国調査と併せてとりまとめる方針だ。

<大学入試の公正性とアファーマティブ・アクション>
PS(2018年9月1日追加): *7-1に書かれているように、「公平な入学選考を求める学生たち」が「ハーバード大は『曖昧な個人評価の基準』で、アジア系米国人の入学を妨げている」としてハーバード大を相手取って訴訟を起こし、司法長官が「誰も人種を理由に入学を拒否されるべきではない」として、「ハーバード大の入学選考は、アファーマティブ・アクションによってアジア系米国人を不当に排除している」ということになったそうだ。アファーマティブ・アクションは、これまでの歴史的背景から不利益を受け続けている集団を優遇するために必要な場合もあるが、*7-1の議論は、日本の大学入試論議よりもずっと先を行く話である。
 しかし、*7-2の「医学部人気の裏側で、大学側は適性や意欲も重視」というのは、それこそ『曖昧な個人評価の基準』で優秀な学生の入学を妨げて、入学者の質を落とすことになりかねない。何故なら、「理系ができる」というのは入学後の授業を理解するための必要条件であり、「患者に接する高いコミュニケーション能力」は知識・経験・理解力などを総合した説明力・受容力である上、免疫学・再生医療等の研究者になる場合には優先順位が低いため、東大の場合は、(将来ではなく)現在の第1線にいる教授が、偏見の入りやすい曖昧な基準で意図的に振り分けるのはやめた方がよいからである。

*7-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13659683.html (朝日新聞 2018年9月1日) 「ハーバード大、アジア系を排除」 米司法省が意見書 少数優遇措置に波及も
 米国の名門私立大学ハーバード大の入学選考は、アジア系米国人が不当に排除されている―。米司法省は30日、こう指摘する意見書を提出した。セッションズ司法長官は「誰も、人種を理由に入学を拒否されるべきではない」と唱えるが、もともと少数派優遇に批判的なトランプ政権のもくろみが透けて見える。意見書は、NPO「公平な入学選考を求める学生たち」(SFA)がハーバード大を相手取って2014年にボストンの連邦地裁に起こした訴訟に提出された。同団体は、白人の保守系活動家が代表を務める。司法省は意見書で、SFAの主張を支持。ハーバードが「曖昧(あいまい)な個人評価の基準」で、アジア系米国人の入学を妨げているとした。米メディアによると、ハーバード大の13年の学内調査で、学業成績だけならアジア系米国人の割合は全入学者の43%になるはずが、他の評価を加えたことで19%まで下がったという。また、アジア系米国人がハーバードのような名門校に合格するには、2400点満点の共通テストで白人より140点、ヒスパニック系より270点、アフリカ系より450点高い点数を取る必要があるとの09年の調査結果もあるという。ここで問題となるのが、アファーマティブ・アクション(少数派優遇措置)だ。1960年代の公民権運動から生まれた考えで、黒人など少数者に優先枠を設けることで差別是正を試みる。米国の大学の入学選考では、学内の人種の多様性を確保するために広く実施されている。ただ「逆差別」ととらえる白人は多く、大学入試を巡ってはこれまでも訴訟に発展してきた。最高裁は03年に「措置そのものは合憲」と決定している。今回の訴訟では、本来は少数派であるアジア系がとりあげられた。だが白人の不満を背景にして、アファーマティブ・アクション撤廃への議論が拡大するのは必至だ。トランプ政権下では最高裁判事の多数を保守派が占めるとみられ、これまでの決定が覆される可能性もある。司法省の意見書に対し、ハーバード大は声明で、不公正との指摘を否定し、「大学は多様なコミュニティーを作るための自由や柔軟性を持たねばならない」と反論した。また同大のアジア系などの卒業生や在校生でつくる複数の団体は意見書を出し、「人種考慮を排除した入学許可が第一に利益をもたらすのは白人だ。アジア系ではない」と指摘した。

*7-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13659697.html (朝日新聞、東洋経済 2018年9月1日) 医学部人気の裏側で 大学側は適性や意欲も重視
 文部科学省の元局長が、私大支援事業をめぐって受託収賄容疑で逮捕、起訴された汚職事件。息子の東京医科大への入学と引き換えに大学側に便宜を図ったというもの。医学部人気を改めて世に知らしめることになりました。7月に都内で開かれた医学部受験セミナーは、真剣なまなざしの高校生や保護者でいっぱいでした。高校でも医学部への進学実績を競う風潮があり、進路指導で「理系のできる子」に医学部受験を勧めることが多いそうです。一方、大学側は受験生の増加で喜んでいるかといえば、必ずしもそうではありません。「医者になれば食いっぱぐれがない」「親に言われて何となく受験する」。こうした受験生がどうしても一定数いるそうです。ある私立医科大の学長が内情を打ち明けます。「医師に向いていない子、意欲の低い子は、本人のためにも、社会のためにも早く方向転換させてあげたほうがいいのだが」。適性や意欲を確かめるのに、東京大は今春、主に医学部へ進む理科3類の前期日程試験から11年ぶりに面接を復活。学科の得点にかかわらず、面接の結果次第では不合格にする場合もあるそうです。医学部に入学できても、6年間に及ぶ厳しい勉強が待っています。卒業後も研修が続き、医師として一本立ちできるのは30歳近く。医学の進歩は速く、人の命を預かるには一生勉強を続けないといけません。患者に接するのに高いコミュニケーション能力も欠かせません。その覚悟を持った受験生がどれほどいるのか。いまの医学部人気には一抹の不安を覚えます。

<環境税と教育改革のあり方>
PS(2018年9月3日追加):*8-1に、新たな温暖化対策として炭素税の本格導入に向けた議論を環境省が審議会で始めたそうだが、公害を、出した者が得する外部経済のままにしておくべきでないため、炭素だけでなく環境を汚す物質に対してかける環境税ならよいと思う。しかし、環境税は森林環境税を包含しなければCO₂排出に対する二重課税になるし、排出量取引は形式的な取引をするだけで、全体の排出量を抑える効果はない。*8-1によると、日本では異論を言っている団体が多いということだが、欧州では1990年代から排気ガスを出す燃料には、それを理由として課税されていることを忘れてはならない。
 なお、*8-2のように、文科省が理数系科目の得意な高校生を地域の中核的大学に積極的に受け入れる入学枠を設けるなどの高校・大学一貫教育を行う新制度を始める方針を決めたそうだ。しかし、それより大切なことは、日本は主権在民の国であるため、無知によって科学技術の進展を妨げてしまうような阿保な人を無くすために、高校までは理系・文系を分けることなく理数系科目や法律学・経済学などをしっかり教えておくことが重要だ。

   

(図の説明:1番左の図のように、日本のCO₂削減目標は決して多い方ではない。また、左から2番目の図のように、炭素の排出価格は国によって異なり、科学的・論理的な算出方法ではなく政策によって決められている。しかし、右から2番目の図のように、原油を100%近く輸入している日本のガソリン課税は非常に小さく、1番右の図のように、環境税はまだ導入されていない)

*8-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13662101.html (朝日新聞社説 2018年9月3日) 温暖化対策 「炭素課金」の検討急げ
 地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)は、ただで出すことはできない。そんな仕組みを日本でも真正面から考える時期に来ているのではないか。新たな温暖化対策として、CO2の排出に課す炭素税や企業間の排出量取引の本格導入に向けた議論を、環境省が審議会で始めた。排出に伴う社会的なコストをエネルギーなどの値段に反映し、関係者に負担させて排出の削減を促す仕組みだ。「カーボンプライシング(炭素の価格化)」と呼ばれる。長年、経済産業省や産業界は慎重論を唱えてきた。「企業の負担を増やし、競争力をそぐ懸念が強い」などと強調する。しかし世界では、市場メカニズムを使って効率よく社会や産業の転換を誘導する政策として、存在感が強まっている。ここ数年で先進国からアジアなどの新興国にも広がり、導入済みや導入を検討中の国・地方政府は、70ほどまで増えた。パリ協定発効で脱炭素化の機運が高まるなか、日本もいつまでも後ろ向きではいられない。環境省だけでなく政府全体で、具体策の検討を急ぐべきだ。国内では、CO2排出量に応じて石油や石炭などに課す「地球温暖化対策税」が12年に導入され、排出量取引は東京都と埼玉県が実施している。ただ、税率が低いことや対象が限られることから、排出抑制の効果は小さいとみられている。カーボンプライシングを本格的に導入し、きちんと機能させるには、多くの工夫を要する。税で言えば、さまざまなエネルギー関連の税制全体を見直し、排出量ベースの課税を広げるべきだ。化石燃料を多く使うメーカーの負担増や電気料金の上昇といった副作用をどうやわらげるかも、検討課題だろう。日本にとって、再生可能エネルギーの普及は大きな課題だ。CO2を出さない再エネの競争力を底上げする効果が、炭素税や排出量取引にはある。これらを恒久的な制度として拡充し、その代わり、再エネ支援のために発電コストを電気料金に上乗せする「固定価格買い取り制度(FIT)」を縮小していくという発想も、国民負担を抑えるうえで有用ではないか。温暖化対策は、税制やFITのような直接的な補助、規制など、数多くのやり方で進められている。カーボンプライシングの検討に当たっては、既存の施策も見直し、政策全体としての効果を高めるという視野が欠かせない。関係省庁に、いっそうの連携を求めたい。

*8-2:http://www.tokyo-np.co.jp/article/education/edu_national/CK2018082702000251.html (東京新聞 2018年8月27日) 理系 高校大学で一貫教育 文科省、19年度に新制度
 文部科学省が、理数系科目の得意な高校生を地域の中核的な大学に積極的に受け入れる入学枠を設けるなど、高校と大学で一貫した専門的な教育を行う新制度を始める方針を決めたことが二十七日、分かった。研究費不足などで「科学技術立国」の地盤沈下が指摘される中、日本の科学界を担う研究者の卵を育成することを目指す。初年度は全国から参加校を募り、モデルケース一カ所を選ぶことを想定。その後は大都市圏に偏らないよう配慮しながら、数年かけて数カ所に拡大する方針だ。関連予算を二〇一九年度概算要求に盛り込む。将来は優秀な生徒が高校卒業前に大学に入る「飛び入学」につながる可能性もある。一方、大学間や高校間で格差が広がる恐れもあり、多くの生徒が機会を得られるバランスの取れた運用が課題になりそうだ。新制度は、重点的に理数系教育を行う現行の「スーパーサイエンスハイスクール」の枠組みの一部として運用し、高校と大学が連名で申請する。私立も含めた理系教育で実績のある大学を中核に、地域の高校五校前後が集まって協議会をつくり、一貫教育のプログラムを決めてもらう。高校から大学まで切れ目のない専門教育を実現するため、大学教員が高校で出前授業をしたり、高校生が大学の研究室を訪問したりすることも可能になる。一貫教育に対応する新たな課程を、高校と大学にそれぞれ設置することも認める。大学と各高校が共通の評価基準を作り、優秀な生徒向けに進学枠を設けることもできる。一般的な試験だけに頼らないAO入試や、推薦入試のような形の選抜も想定している。今回の制度は、これまで特定の大学と高校が個別に行ってきた「高大連携」を大幅に拡張する形。大学にとっては早い段階から活躍が見込める優秀な研究者の卵を受け入れられる利点が生じる。

<就活ルールの廃止について>
PS(2018年9月4日追加):*9-1、*9-2のように、経団連の中西会長が「就活ルール」の廃止に言及されたのはよいことだ。何故なら、人材は、国籍・性別・年齢を越えて優秀な人を獲得しなければ企業も生き残れない時代となり、日本企業のように、新卒男子を優先して採用し年功序列で昇進させればよいわけではなくなったからだ。また、新卒男女の学生も、合わない会社に入っても我慢しなければならないのではなく、別の会社にハンディーなく就職し直すことができ、出産退職した女性も非正規雇用のような不利な条件ではなく、能力を認めてくれる会社にならハンディーなく正規雇用で再就職できるようになる。この時、大学が学業への配慮を求めるのはおかしく、企業から求められる能力を身につけた学生を育てておかなければ、就職できない学生が増えるということだ。
 なお、*9-3のように、「売り手市場」が続く就職活動でも女子が苦戦しており、金融機関などが女子学生に人気のある一般職の採用を絞ったことが一因ではないかと言われている。しかし、AIや機械で代替可能な仕事しかできない人は、男女にかかわらず、今後は就職難になるだろう。ただ、日本の金融機関は特に男女差別が大きく、後ろに立っているだけの男性社員より接客している女性社員の方が仕事ができるじゃないか思われる場面もよくある。そのため、女性も大学時代に、銀行で顧客が相続の相談をしたらすぐに必要事項のアドバイスができる税理士・司法書士の資格をとったり、個人の相談に乗れるFPの資格をとったり、銀行の担保となる固定資産の査定ができる不動産鑑定士の資格をとったり、企業経営の診断やアドバイスができる公認会計士・中小企業診断士などの資格をとったりして金融機関に応募すれば、労働の付加価値が高くなっているため、採用されやすいと考える。

*9-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180904&ng=DGKKZO34913280T00C18A9EA1000 (日経新聞 2018年9月4日) 経団連会長、就活ルール廃止に言及 首相は維持求める
 経団連の中西宏明会長は3日に開いた記者会見で、就職活動の時期などを定めた「就活ルール」の廃止に言及した。国境を越えた人材の獲得競争が広がり、経団連が個別企業の採用活動をしばるのは現実に合わないとの意識がある。一方で安倍晋三首相は同日夜、採用のルールを守るよう改めて要請。学業への配慮を求める大学側との調整が進みそうだ。「経団連が採用の日程に関して采配すること自体に極めて違和感がある」。中西氏は会見で、経団連が主体となってルールを定める現状に疑問を呈した。経団連がルールをなくせば自由な採用活動が一段と広がり、新卒一括採用を前提とする雇用慣行の転機となる。経団連は会員企業が新卒採用する際に参考とするルールとして「採用選考に関する指針」を定めている。現行のルールでは、2020年春入社の学生までは前年の6月1日に採用面接を解禁し、10月1日に内定を出すという日程を示している。21年以降のスケジュールは決まっていない。中西氏は会見で21年以降を対象としたルール策定状況を問われ「経団連としてまだ決めていないが、困ると言ってくる人がいないので、個人的に(廃止と)思っている」と語った。指針には会員企業に対する拘束力はない。発言の背景にあるのが、世界的な人材獲得競争だ。特に世界的に不足しているIT(情報技術)関連の人材は中国企業などが好待遇で囲い込んでいる。三菱ケミカルは同日、「通年採用を早く開始すべく検討を始めている。新卒採用は学業に影響のない方法があわせて検討されるべきだ」とのコメントを発表した。中西氏は会見で、学生を新卒で同時期に一括で採用し、ひとつの企業のなかでキャリアを積んでいくことを前提とした日本型の雇用慣行を見直す必要性にも触れた。「問題意識は共有する経営者も多い」とも話し、企業の人材確保について議論を詰める考えを示した。就活ルールについては自由な採用に縛りをかけたくない企業と、学生への影響を心配する大学側との調整が続いてきた。現在は面接を6月に解禁しているが、多くの企業は早期に事実上の採用活動を始めている。経団連に参加していないベンチャー企業などは有望な学生を早期に囲い込み、ルールが形骸化しているとの指摘は多い。安倍首相は3日夜、東京都内の自民党会合で「採用活動は6月開始というルールを作った。このルールをしっかり守っていただきたい」と語った。就活ルールは13年に、首相が学業への配慮を求めて経団連など経済界の首脳に繰り下げを申し入れた経緯がある。経団連は榊原定征前会長だった18年3月に、21年春入社以降の学生を対象とする新しい就活ルールの策定に着手した。就活の現状に合わせて解禁時期を3月に前倒しし、会員企業の一部にある早期化の意見に配慮することなどを検討していた。新しいルールは今秋に公表する予定だった。一方で大学側には採用面接が早期に始まることへの心配も多い。学生が3年生のうちから就活の準備に追われてしまうためだ。日本私立大学団体連合会(私大団連)は6月下旬に、21年春入社の学生について企業説明会を3月、採用面接を6月解禁とする経団連の指針を堅持すべきだとする考え方を公表している。

*9-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13663291.html (朝日新聞 2018年9月4日) 就活、無制限は困る 学生「長引けば勉強に影響」 就活指針廃止表明
 経団連の中西宏明会長が、就活指針を取りやめる意向を示した。長年続いてきたルールだったが、急な撤廃の動きに大学の現場には戸惑いが広がる。一方、企業側では、経団連に加盟しているかどうかで、反応に温度差も見られた。「学生はどう動けばいいか悩むだろうし、現場は混乱するだろう」。経団連の中西会長が、就職活動にかかわる指針を廃止する方針を打ち出したことを受け、法政大キャリアセンターの内田貴之課長はこう心配する。現在の指針は、3月に説明会などの広報活動を、6月に面接などの選考を解禁すると定めている。大学の団体でつくる「就職問題懇談会」の昨年の調査では、5月までに選考を始めた「解禁破り」の大企業は56・4%に上り、39・7%が内々定を出すなど形骸化が指摘されているが、内田課長は「目安があったほうが、大学側も学生も動きやすい」と指摘する。就活塾「就活コーチ」(東京都)代表の広瀬泰幸さんは、人気企業の採用が終わらないと、他の企業の採用も終わらない可能性があるとみる。「学生は就活をいつスタートし、いつ終えればいいのかわからなくなるのでは」と話した。就活の長期化による学業への影響も懸念される。東京都の私立大3年の女子学生(20)は「目安があったおかげで就活スタートまでは学業に専念できる」と語る。ただ、3年生になってからは準備も含め就活が忙しく、勉強に支障が出ている学生も周囲にいる。「就活が長期化すると、もっと影響が出てしまう」と話す。文部科学省も学業への影響を考慮し、就活のルールについて経団連と話し合いながら決め、企業側に指針順守を要請してきた。それだけに、同省幹部は中西会長の発言について「事前に何も聞かされていない」と驚きを隠さなかった。「指針がなくなれば、就活が無期限に延長され、大学側も講義日程が組みにくくなる。大学側の意向も聞いて議論してほしい」と注文した。
■企業、評価も不安も
 企業側の意見は分かれている。経団連の指針がなくなれば人材の獲得競争にプラスになると評価する声がある一方、唐突な方針転換が採用現場に混乱をもたらすと不安視する声も出た。次世代車の開発競争が激化する自動車業界は、経団連に非加盟のIT企業とも人材の争奪戦を繰り広げている。ある自動車大手の担当者は「自由度があがり、自社の魅力をアピールする機会が増える」と好意的だ。一方、すでに指針に縛られていない企業は静観する構えだ。2011年に経団連を脱退した楽天は、エンジニアを通年で、その他の職種も4月・10月入社で採用活動をしていて「現時点で特段の影響はない」(広報)。ヤフーの広報担当者も「新卒、既卒ともに通年採用をしているため大きな影響はない」と話した。当惑や心配も広がった。日用品メーカーの採用担当者は、指針がなくなって採用活動が早まれば、内定を複数得た後に断る学生も増えるとみて、「採用活動を抜本的に変えないと良い人材を取れない」と危機感を口にした。飲料メーカー大手のキリンは「学生の混乱が想定される。産学で連携しながら戦略を練りたい」(広報)と慎重だ。中小企業の採用選考が本格化するのは例年、経団連に加盟する大企業の採用選考が進んだ後。中小企業の加盟が多い日本商工会議所の幹部は「大企業の動きはおそらく早くなるのでは。中小はそれ次第だ」と影響に気をもむ。
■解禁日変遷、形骸化目立つ
 就職活動の日程は頻繁に変わってきた。「朝鮮戦争特需」で新卒学生の定期採用が本格化した1953年、企業側と大学側が「就職協定」を結んで採用時期を定めたのがルール化の始まり。だが、高度成長期やバブル期に企業が協定を破って早期に内定を約束する「青田買い」が問題化し、協定は97年に廃止された。日経連(現経団連)は、早期の採用自粛を求める倫理憲章を定めたが、歯止めがかからず、2011年に説明会と選考活動の解禁日を設定した。賛同企業だけが対象で実効性はなかった。13年には安倍政権が「学業の時間確保」を求めて解禁日の後ろ倒しを経団連に要請。経団連加盟企業が対象の「指針」を新設した。それでも経団連に加盟しない外資系などが自由な採用活動を展開。加盟企業も解禁日前のインターンシップ(就業体験)を選考に使うなどルールの形骸化が目立っていた。
■何でもあり懸念
 児美川(こみかわ)孝一郎・法政大キャリアデザイン学部教授の話 守らない企業の方が多いとはいえ、指針があるのと、ないのとでは全く異なる。大学生は、企業が事実上選考に活用するインターンシップのため、3年生の夏前から準備を迫られる。歯止めがなくなることで何でもありになり、1年生から採用情報に追われることにならないか心配だ。
■ミスマッチ減る
 人材情報サービス会社アイデム「人と仕事研究所」の岸川宏所長の話 数年ごとに就活の「解禁」時期が変わり、企業も学生も対応が大変だった。選考は事実上前倒しされていた。形骸化した指針を取りやめるのは理解できる。学生がより早く業界研究や企業研究に取り組むようになれば、企業とのミスマッチが減るのではないか。
■経団連会長「個社の方針、大事に」
 経団連の中西宏明会長との記者会見での主なやり取りは以下の通り。
―指針についてどんな考えですか。
 「経団連が採用の日程について采配すること自体には違和感があると、ずっと感じていた。それは経団連の責任ですか、と。経団連が日程を決めて批判を浴びるのは、ほかのことは采配していないのに、おかしな話。何月解禁とは経団連としては言わない」
―指針は廃止するということですか。
 「ええ。それじゃ困ると誰も言ってきていない」
―当事者にとっては影響が大きいのでは。
 「(企業は)個社の方針を大事にしていく。違いがあってしかるべきだ。制度を作り直すには時間がかかるが、やっていくべきだ」
―指針も目安も出さないということですか。
 「今はそういうつもりだ。経団連としてはまだ決めていないが、各方面とそういう話をして誰も反対していないので、意見が通ると思っている」
―就職活動の日程は政府も関わってきました。
 「政府が多岐にわたる議論をするのであれば徹底的に付き合わなければと思う」
―学生への配慮は必要ではないですか。
 「そう思う。でも学生の混乱を経済団体がすべて収束するように動けるわけではない」
―機関決定していなくても会長発言は重い。
 「守っていない企業が圧倒的に多い。経団連以外は先にやっている。おかしい」

*9-3:https://digital.asahi.com/articles/ASL8061J4L80UTIL054.html (朝日新聞 2018年9月1日) 就活で苦戦する女子たち メガバンク採用、900人減少
 学生優位の「売り手市場」が続く就職活動で、女子が苦戦している。来年春に卒業する大学生の内定率は、女子だけが7月、8月と前年同月を下回った。人工知能(AI)の導入など業務の効率化を進める金融機関などが、女子学生に人気のある一般職の採用を絞ったことが一因ではないか、と専門家はみる。就職情報大手リクルートキャリアによると、8月1日の大学生の内定率は男子が89・8%で前年同月を7・7ポイント上回った一方、女子は86・0%で同0・8ポイント減った。女子は7月も前年を2・7ポイント下回る。前年を下回るのは3年前にこの採用日程が始まってから初めてだ。同社就職みらい研究所の増本全・主任研究員によると、女子に人気がある一般職は6月半ば以降に内定を出す企業が多いといい、「メガバンクを中心に一般職の採用が減った影響があるのでは」とみる。みずほフィナンシャルグループ(FG)は19年卒の採用計画を700人とし、前年の1365人からほぼ半減。うち一般職は約7割減らした。三菱UFJ、三井住友銀行も一般職を中心に採用を絞り、メガバンク3社で計900人の採用減。あるメガバンク関係者は「銀行業界では業務の自動化や効率化が進んでいる。その分、一般職の採用が減った」と話す。金融業界では、AIの導入も進んでおり、地方銀行や保険業界でも採用人員の削減が広がる可能性がある。昭和女子大(東京)は、上位就職先でみずほFGが3年連続で1位となるなど、金融機関の一般職が多くを占める。18年卒は34人もいたが、今年は内定が大幅に減る見込みという。磯野彰彦キャリア支援センター長は「AIの導入などによって一般職の採用基準も変わってきている。英語力や留学経験などを求める企業もあり、基準に答えられる人材を育てていきたい」と話す。リクルートキャリアの調査では、「AIの発達により、なくなる可能性のある職業」を意識して就職活動をした学生は、46・9%に上った。「なくなる可能性がある」業種を複数回答で聞いたところ、「銀行・信用金庫」が59・4%で1位。「生命保険・損害保険」が31・2%、「証券」が29・0%と続き、金融業界が上位を占めた。一般職を希望していた成城大4年の女性(21)は、ある地銀の説明会で「一般職も営業をするし、非常に厳しいノルマもある」と説明を受けた。「窓口で接客するだけのイメージがあったが、覆った」と話す。大手行で転勤のないエリア総合職に内定をもらい、営業もするという。「AIが騒がれているけど、どう思う?」。地銀の一般職で内定をもらった文京学院大4年の女性(22)は、複数の地銀の面接でこう聞かれた。「単純な仕事はなくなるかもしれないけど、お金を扱うには人との信頼関係がなくてはいけない」と答えた。3年ほどの窓口業務の後、営業などもするという。就職みらい研究所の増本主任研究員は「金融機関も含めて今後、一般職の採用が増えるとは考えにくい。変化への対応が必要で、女子の志望先もIT分野などに広がっていくだろう」とみる。

<ゲノム編集された作物に関するルールについて>
PS(2018年9月5日追加):*10の「ゲノム編集された作物に関するルール」は、①消費者の安全性 ②生態系への影響 の両方で決める必要がある。①の安全性は、食物の場合と光る絹糸や手術用絹糸の場合は異なり、食物の場合は殺虫成分を作りだす作物になっている場合に、それが人にとっては安全なのか否かを厳しくチェックしなければならない。しかし、蚕に外部遺伝子を挿入して光る絹糸や手術用糸を作る場合は、それが人の身体に接した時にアレルギーなどを起こさないかは調べる必要があるものの、大量に食べる食物よりは緩やかな基準になるだろう。
 もちろん、人工の生物を自然の中にばら撒いて生態系を壊してはいけないため、私は、EU司法裁判所の「従来と同様の規制対象にすべし」という判断に賛成だ。そして、食物ではなく自然にばら撒かれることもない場合には、別種の遺伝子を外部から組み込んでもよいと思われるが、消費者への開示は食品原材料に限らず徹底すべきである。
 なお、*10には、「ゲノム編集は、標的とする部分だけを切る技術だ」と書かれているが、外から遺伝子を挿入するのもゲノム編集であり、「病気に弱い特定の遺伝子を切断して病気に強くする」よりも「病気に強くなる遺伝子を挿入する」場合が多いだろう。また、「標的とする部分だけを切りとれば無害か?」と言えば、それまでその部分で抑えていた有害な蛋白質の生成を始めることもあるので、必ずしもそうは言えない。

*10:https://www.agrinews.co.jp/p45096.html (日本農業新聞 2018年9月5日) ゲノム編集 国民的な議論を尽くせ
 動植物の遺伝子を改変する「ゲノム編集」のルールづくりが各国で進んでいる。環境省は今秋にも取り扱い方針を決めるが、生態系への影響や安全性など国民的論議は不十分だ。遺伝子組み換え(GM)と同等の規制を求める声もある。拙速な推進の前に、生産者はどう見るのか、意見を積み上げることが先決である。環境省の諮問機関である中央環境審議会の専門委員会は8月30日、ゲノム編集について「別の種の遺伝子を外部から組み込まない場合は規制しない」との方針を了承した。GMと比べて生態系に影響を及ぼすリスクが少ないと判断したためで、環境省は国民からの意見を募り、今秋にも方針を策定する。ゲノムとは遺伝情報の全てを指す。ゲノム編集は、はさみの役割の遺伝子を導入し、標的とする部分だけを切る技術だ。切断後、導入したはさみの遺伝子は取り除くため、変えた跡は残らないのが特徴。その結果、従来の育種方法で開発した作物と区別がつかない。病害虫に弱い作物の場合は、病気に弱い特定の遺伝子を切断すれば、病気に強くもできる。従来の育種に比べて迅速にできるとあって、国内の研究機関や民間企業などもゲノム編集の研究を進める。国際的なルールづくりも始まっている。議論に一定の影響を与えそうなのが、欧州連合(EU)の司法裁判所の判断だ。7月に、ゲノム編集で開発した作物については「従来のGMと同様、規制の対象とすべし」との判断を示した。一方で、米国農務省は3月、「ゲノム編集は自然に起こり得る突然変異と区別できず、規制しない」との立場を明らかにしている。日本はどう見るのか。環境省は8月上旬、ゲノム編集についてDNAの一部を切り取って消す技術は、米国と同様「従来のGM技術に該当しない」との見解を示した。不安を募らせるのは、日本消費者連盟などの消費者団体だ。環境省の見解を受け、ゲノム編集技術などの新しい遺伝子操作技術について規制と表示を求める意見書を環境相、農相らに提出した。意見書では「ゲノム編集などの新技術は、従来のGM技術よりも安全とは認められない」と主張、GMと同等の規制と表示を求めている。日本では、GM農産物について消費者の多くが「きちんと表示をして非GMと区別してほしい」と厳格化を求めている。これに対し、米国ではGM農産物は一般の農産物と区別しないで流通している。日本の消費者は食の安全・安心に関心が高いことの現れだ。環境省は2018年度中に産業利用する場合のルールをまとめる方針だ。ルールができてしまってから意見を述べても手遅れだ。ゲノム編集という新技術はGMに該当しないのか、GMと同等に扱うべきなのか──。まずは生産者をはじめ国民の理解を深めることが先である。

<先進科学技術に移行しないと、日本の産業は遅れること>
PS(2018年9月8日追加):*11-1のように、トヨタが中国でHVの仲間作りを急いでいるそうだが、中国政府は、ガソリンエンジン技術が未熟だからではなく、あらゆる方向から検討した結果、EVへの移行を決断して環境規制を行っているため、中国でHVに参入する企業はないだろう。また、「仲間作りを足掛かりにHV比率を少なくとも3~4割までを引き上げる」というのは、中国にとっては迷惑でトヨタにとっては徒労だ。もし、どうしてもHVを販売したければ、中東のように原油が豊富な国なら可能かもしれないが、世界では、*11-2のように、アフリカ無電化地域の一般家庭に太陽光発電パネルと蓄電池を貸し出して、蓄電池やEVを通じて再生可能エネルギーの活用を促している状況であるため、過去から脱却できずに変化に時間ばかりかけている日本の産業は、アフリカより遅れるかも知れない。
 なお、*12-1のように、九州電力は、「今秋にも太陽光や風力発電事業者に出力制御を求める可能性が高まった」として発電事業者を困らせているが、未だに「電気は需要と供給のバランスが崩れると、発電設備が自動停止して大規模停電に繋がる」などと言いわけし、蓄電池や地域間融通の送電線も整備せず、電力の広域融通というビジネスチャンスを逃しているのは呆れるほかない。一方で、*12-2のように、震度7を観測した北海道地震では北海道全域で停電が起こり、「地震発生時に北海道電力の苫東厚真発電所が域内の約半分の電力需要を賄っていたから」などと理由にならない理由を説明しているが、①エリアを小さく分けたり配線を二重にしたりしていないセキュリティーの甘さ ②病院・学校・畜舎などの自家発電によるバックアップ体制の欠如 ③北海道・本州の連系線が交流変換装置の停電で使えなかったという緩み などの積み重ねが本当の理由であるため、停電は人災だ。
 さらに、北海道地震で台風の被害はすっかり影が薄くなったが、*13のように、台風21号の被害により和歌山・京都などの約3万1千戸がまだ停電しているのだそうだ。しかし、いつまでも明治時代と同じように電柱を立てて復旧するのではなく、道路や鉄道に沿って送電線を地下に埋設するなど、安全性と景観に配慮した投資価値のある復興をすべきだ。

*11-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180908&ng=DGKKZO35116600X00C18A9TJC000 (日経新聞 2018年9月8日) トヨタ、中国勢にHV技術、吉利に供与へ協議 EV普及に時間、燃費規制で需要
 トヨタ自動車が中国でハイブリッド車(HV)の仲間作りを急いでいる。現地大手の浙江吉利控股集団と、同社へのHV技術の供与に向け協議に入った。中国では今後、電気自動車(EV)の導入を促す規制が始まるが、当面は環境配慮型の車としてHVの需要が高まるとみている。トヨタは足元のHVと将来のEVの両にらみの戦略を迫られている。吉利は民営自動車大手で、スウェーデンのボルボ・カーの親会社となっている。トヨタは7日、吉利との協議について「(HVなどの)電動化技術についてはオープンポリシーで取り組んでいる」とコメント。一方で、具体的なことは決まっていないと説明した。トヨタは中国で、第一汽車集団など現地の自動車メーカー2社と合弁会社を設けてHVを生産している。吉利と協力関係を結べば中国重視の姿勢が一段と鮮明になる。具体的な協業の内容は今後詰める。モーターや電力変換装置、電池といったHV技術のライセンス供与やアドバイスになるとみられる。吉利はトヨタ系の部品大手、アイシン精機と自動変速機の生産合弁を設ける計画を持つなど、トヨタグループとつながりがある。トヨタは2030年に、HVやEVなど電動車の世界販売を全体の半分の550万台以上とすることを表明している。うちHVとプラグインハイブリッド車(PHV)が450万台で、主軸の位置付けだ。トヨタはHVの技術をマツダやSUBARU、スズキに提供してきた。米フォード・モーターと多目的スポーツ車(SUV)用のHVシステムの開発で覚書を結んだこともある。現在、この提携関係は終了している。次世代車のひとつとして世界の自動車メーカーがEVの開発を進めている。ただトヨタ幹部は「環境車は普及してこそ意味がある」と繰り返す。現行プリウスは最低グレードの車両価格が約240万円。部品会社も含めてコスト削減に努めてきたという自負がある。HVの仲間作りの主戦場とする中国で、カギになるのが「CAFE規制」だ。自動車メーカーごとに、販売した全車の平均燃費に規制をかける内容で、HVや小型車の販売が多いと有利になる。米国や欧州、中国などが採用、20年に30カ国ほどに広がる見通しだ。中国では20年までに、平均燃費の基準が100キロメートル当たり5リットルと、日本同等の水準まで段階的に引き上げられる。この達成のためにHVの需要があるとみている。中国では別の規制として19年、一定量の新エネルギー車の生産・販売を義務付ける「NEV規制」が始まる。同規制ではHVが新エネルギー車として認められておらず、メーカーはEVやPHVの扱いを増やす必要がある。トヨタは20年、新型EVを世界に先駆けて中国で発売する計画を持つ。吉利を巡っては今年2月、1兆円近くを使ってドイツ・ダイムラーの株式の10%近くを持つ筆頭株主になったことが明らかになった。狙いは、EVの電池を中心とする最新技術の取得にある。今回のトヨタとの協力にも、次世代の車の基盤技術を急いで手に入れたい考えがある。トヨタの中国での17年の新車販売台数は129万台。このなかにEVはなく、中国の合弁企業のブランド名で現地生産を始めたばかりだ。一方、販売の1割程度はHVが占めており、現地生産と日本からの輸出を含んでいる。仲間作りを足掛かりに少なくとも3~4割まで比率を引き上げる考え。ただ、EVを巡る各国政府の規制強化の流れは急で、メーカーの開発競争も激しい。中国で予想以上に普及が速まれば、HVを伸ばす戦略の見直しが必要になる。

*11-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180908&ng=DGKKZO35106920X00C18A9EA6000 (日経新聞 2018年9月8日) 仏社と蓄電池リース 三菱商事、アフリカ無電化地域で
 三菱商事は仏電力公社(EDF)と組み、海外で蓄電池関連のリース事業を始める。アフリカの無電化地域で一般家庭に太陽光発電パネルと蓄電池を貸し出すほか、欧州では自治体向けに電気自動車(EV)バスをリースする。蓄電池やEVなどを通じて、再生可能エネルギーの活用を広く促していく。EDFと共同でフランスに蓄電池関連のビジネスを手掛ける合弁会社を設立した。蓄電池を活用したサービスを企画し、案件ごとに出資者を募って事業を展開する。まず西アフリカのコートジボワールで一般家庭に太陽光パネルと蓄電池、家電をセットにして貸し出す事業を始める。同国では100万世帯が無電化地域に暮らす。月額10ユーロ(約1300円)から電気を使えるようにする。料金はモバイル決済による先払い式にして、未回収をなくす。5年内に数十万世帯への導入を目指す。年間数十億円の売上高を見込む。アフリカには約6億人が無電化地域に住むとされる。EDFが強いフランス語圏の西アフリカで事業を拡大する。アジアでの展開も検討する。欧州ではEVバスの車体と動力用の蓄電池、充電設備を地方自治体などにリースする。欧州は環境配慮でディーゼルエンジンのバスからEVバスへの転換が進んでいる。自治体が少ない初期負担でEVバスに切り替えられるようにする。EDFはフランスで既に自治体などに対するエネルギー関連のコンサルタント事業を手掛けている。三菱商事が英国やオランダに持つネットワークを生かして、他の欧州諸国にも売り込む。蓄電池を充電するための電力供給も担う考えだ。太陽光や風力などの再生エネは天候によって発電量が一定にならないという課題がある。電力をためられる蓄電池は再生エネの普及に欠かせない。調査会社の富士経済は電力貯蔵用と動力用の蓄電池の世界市場規模が、30年に17年比2.6倍の約3兆3000億円に拡大すると予測する。

*12-1:http://qbiz.jp/article/140426/1/ (西日本新聞 2018年9月8日) 太陽光・風力発電出力制御ヘ 九電が準備本格化 対象2万4000件にDM
 九州電力は7日、今秋にも太陽光・風力発電事業者に一時的な稼働停止を求める「出力制御」の可能性が高まったとして、対象事業者(契約件数約2万4千)に事前周知のダイレクトメール(DM)を発送したと発表した。自社ホームページ(HP)に出力制御の見通しに関するコーナーも開設するなど、離島以外では全国初となる出力制御に向け準備を本格化させている。出力制限の対象は、太陽光発電が約2万4千件、風力発電が約60件。今秋は、主に住宅に設置している出力10キロワット未満の太陽光発電は対象から外す。HPには天気予報や電力需要などを加味した向こう3日間の見通しを掲載する。電気は需要と供給のバランスが崩れると、発電設備が故障防止のため自動停止し、大規模な停電につながる可能性がある。九電は火力発電所の出力抑制や、揚水発電所の水をくみ上げる「揚水運転」などを実施しても電力供給が需要を上回る場合、太陽光と風力の出力制御に踏み切る。九州の太陽光と風力の発電能力は全国の約2割。太陽光は月5万キロワットのペースで増加しているのに加え、川内原発(鹿児島県薩摩川内市)と玄海原発(佐賀県玄海町)が再稼働するなど、供給力が高まっている。

*12-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180908&ng=DGKKZO35115090X00C18A9EA2000 (日経新聞 2018年9月8日) 電力網、災害時に弱点 北海道全域で停電、広域融通に制約 火力更新も後手
 北海道で震度7を観測した地震では北海道の電力がほぼすべて止まる「ブラックアウト」が発生した。東日本大震災後に電力を広域融通する仕組みをつくってきたはずなのに、なぜ域内全域で長時間の停電が起きる事態になったのか。欧州ではもっと広域かつ風力など多様な電源を融通しており、一つの火力発電所に電力を大きく依存していた北海道電力だけの問題とは言い切れない。地震発生時、北海道電力の苫東厚真発電所(厚真町)は域内の約半分の電力需要をまかなっていた。これが大規模停電が起きた原因とされる。依存度が高まったきっかけは、東日本大震災後の2012年に泊原子力発電所を停止したことだ。北海道や国は依存度の高さに危機感を覚え、18年度内にガス火力発電所を新設する計画を進めていた。「対策が間に合わなかったのは大変残念だ」。7日、世耕弘成経済産業相はこう語った。1カ所の火力発電所への電力依存度が大きい電力会社はほかにもある。例えば東北電力は東新潟火力、北陸電力は富山新港火力がそれぞれピークの電力需要の3割程度をまかなっている。こうしたところでは北海道電のようなリスクを抱えている可能性もある。停電する地域を限定できなかったことにも疑問が残る。東電も福島第1原発が停止した際、電力の需要が供給を上回る事態に陥った。この時は電力システムを保護する装置が自動で作動。一部の地域を停電させて需要と供給を一致させることで大規模な停電を防いだ。こうしたシステムは北海道電にもある。だが同社で送配電線を管理する橋本聡工務部長は「あまりに強い揺れで急激な供給力の喪失があったため、(送電網からの切り離しが)間に合わなかった。制御の現場がどうなっていたかも含め、調査する」と説明している。東北電力からの電力融通も動きが遅かった。7日朝までに30万キロワットの送電を始め、7日夜に計60万キロワット規模になったが、機能すれば影響を小さくできた可能性がある。北海道と本州をつなぐ「連系線」と呼ぶ送電線は直流で電力を送るが、実際に電力を使うには交流に変換する必要がある。この施設が停電で使えなかったという。大阪府立大の石亀篤司教授は「交流に変換する装置が稼働しなかったことが問題」と指摘する。北海道は東北としか連系線を結んでおらず、容量も小さい。こうした特殊性から経産相は電力融通の不調が「他の地域では起きない」とみる。だが欧州ではもっと広域で電力をうまく融通する仕組みができており、全体的に送電網の独立性が高い日本の仕組みが脆弱なのは否めない。欧州の送電網は「メッシュ(網の目)型」と呼ばれる。大陸の国々を網の目のように結ぶ広範な送電網がある。一地域で電力が不足しても素早く周辺国から調達できる。系統規模は約3.8億キロワットと日本の2倍超だ。北海道と本州とつなぐ送電線には容量を60万キロワットから90万キロワットに増やす計画があったが、これも間に合わなかった。経産省幹部は「原発にこだわらず、早めに手を打つべきだったのかもしれない」と漏らす。北海道電に限らず、電力各社は原発再稼働を目指すあまりに、火力など既存の電力設備への投資が後手に回っている可能性もある。北海道の再生可能エネルギーで現時点で電力系統に接続されているのは、電力供給が復旧した地域での家庭用の太陽光発電だけ。事業用の太陽光や風力発電は系統に接続されていない。

*13:https://digital.asahi.com/articles/ASL98549VL98PTIL009.html?iref=comtop_8_05 (朝日新聞 2018年9月8日)台風21号の停電、3万戸超が長期化の恐れ 和歌山など
 近畿地方を4日に襲った台風21号による大規模停電について、関西電力は8日、停電が長期化する恐れがあるのは和歌山や京都など6府県の約3万1千戸と発表した。復旧作業が進み、7日午前の約5万1千戸からは減ったが、道路上の倒木で現場に近づけないなどの理由で時間がかかっている。多くが山間部のため、通行ルートが限られているという。関電によると、管内の停電は延べ約219万1千戸にのぼり、1995年の阪神・淡路大震災に次ぐ規模となった。強風で飛来物や倒木も電線にひっかかり、電線が切れたり、電柱が折れたりして配電機能を失ったのが主な原因とみられる。電柱の強度を超える力が加わったという。8日午後10時50分時点で近畿では約3万3千戸が停電しているが、電柱の変圧器の故障や各家庭への引き込み線の切断などによる停電戸数は、把握しきれていないという。長期停電の恐れがある地域は7日午後5時時点で、和歌山(伊都郡、有田郡、日高郡など)2万10戸▽京都(京都市右京区、左京区、北区など)5030戸▽大阪(泉佐野市、箕面市など)2440戸▽奈良(吉野郡と五條市)2040戸▽滋賀(高島市、犬上郡など)1250戸▽兵庫(尼崎市)210戸。現場への立ち入りが可能になり次第、修復作業に着手するという。

<北海道ブラックアウトについて>
PS(2018/9/9追加):*14に、北海道地震でブラックアウトが発生した理由として、「①1つの火力発電所に大きく依存していた」「②ガス火力発電所新設計画が間に合わなかった」「③電力は需要が供給を上回ると電力システムを保護する装置が作動して自動停止する」「④連系線で送られる電力を交流に変換する施設が停電で使えなかった」「⑤北海道の特殊性があるので、経産相は電力融通の不調は『他の地域では起きない』とみている」「⑥欧州では広域で多様な電源を融通しており、送電網はメッシュ(網の目)型だ」と書かれている。
 このうち、①②については、原発か火力しか思い浮かばない点に落胆させられ、③については、自動的にすべての火力発電所が停止すると、その後は本当に人間が手も出せないのかと呆れた。また、④については、広域送電を本気でやろうとしていたのか疑われ、⑤については、東日本大震災後も楽観的な想定をする癖が抜けていないように見える。さらに、⑥については、セキュリティーと最短距離での送電を考えれば網目状に配線するのが最も合理的であり、単細胞生物の粘菌の栄養分輸送経路でさえ同じ網目状で、人間では血管網・鉄道網・道路網などの輸送ネットワークがこれに近いわけである。


2018.9.6時事    粘菌の輸送経路     日本の道路網     日本の鉄道網

*14:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO35115090X00C18A9EA2000/?n_cid=NMAIL006 (日経新聞 2018/9/8)電力網は災害時に弱点 北海道停電、広域融通も不発
 北海道で震度7を観測した地震では北海道の電力がほぼすべて止まる「ブラックアウト」が発生した。東日本大震災後に電力を広域融通する仕組みをつくってきたはずなのに、なぜ域内全域で長時間の停電が起きる事態になったのか。欧州ではもっと広域かつ風力など多様な電源を融通しており、一つの火力発電所に電力を大きく依存していた北海道電力だけの問題とは言い切れない。地震発生時、北海道電力の苫東厚真発電所(厚真町)は域内の約半分の電力需要をまかなっていた。これが大規模停電が起きた原因とされる。依存度が高まったきっかけは、東日本大震災後の2012年に泊原子力発電所を停止したことだ。北海道や国は依存度の高さに危機感を覚え、18年度内にガス火力発電所を新設する計画を進めていた。「対策が間に合わなかったのは大変残念だ」。7日、世耕弘成経済産業相はこう語った。1カ所の火力発電所への電力依存度が大きい電力会社はほかにもある。例えば東北電力は東新潟火力、北陸電力は富山新港火力がそれぞれピークの電力需要の3割程度をまかなっている。こうしたところでは北海道電のようなリスクを抱えている可能性もある。停電する地域を限定できなかったことにも疑問が残る。東電も福島第1原発が停止した際、電力の需要が供給を上回る事態に陥った。この時は電力システムを保護する装置が自動で作動。一部の地域を停電させて需要と供給を一致させることで大規模な停電を防いだ。こうしたシステムは北海道電にもある。だが同社で送配電線を管理する橋本聡工務部長は「あまりに強い揺れで急激な供給力の喪失があったため、(送電網からの切り離しが)間に合わなかった。制御の現場がどうなっていたかも含め、調査する」と説明している。東北電力からの電力融通も動きが遅かった。7日朝までに30万キロワットの送電を始め、7日夜に計60万キロワット規模になったが、機能すれば影響を小さくできた可能性がある。北海道と本州をつなぐ「連系線」と呼ぶ送電線は直流で電力を送るが、実際に電力を使うには交流に変換する必要がある。この施設が停電で使えなかったという。大阪府立大の石亀篤司教授は「交流に変換する装置が稼働しなかったことが問題」と指摘する。北海道は東北としか連系線を結んでおらず、容量も小さい。こうした特殊性から経産相は電力融通の不調が「他の地域では起きない」とみる。だが欧州ではもっと広域で電力をうまく融通する仕組みができており、全体的に送電網の独立性が高い日本の仕組みが脆弱なのは否めない。欧州の送電網は「メッシュ(網の目)型」と呼ばれる。大陸の国々を網の目のように結ぶ広範な送電網がある。一地域で電力が不足しても素早く周辺国から調達できる。系統規模は約3.8億キロワットと日本の2倍超だ。北海道と本州とつなぐ送電線には容量を60万キロワットから90万キロワットに増やす計画があったが、これも間に合わなかった。経産省幹部は「原発にこだわらず、早めに手を打つべきだったのかもしれない」と漏らす。北海道電に限らず、電力各社は原発再稼働を目指すあまりに、火力など既存の電力設備への投資が後手に回っている可能性もある。北海道の再生可能エネルギーで現時点で電力系統に接続されているのは、電力供給が復旧した地域での家庭用の太陽光発電だけ。事業用の太陽光や風力発電は系統に接続されていない。

<ふるさと納税制度とその使い方>
PS(2018年9月11日追加):私が提唱してでき、多くの方のアイデアと協力で大きく育った「ふるさと納税制度」が、*15-1のように、「①返礼品の抑制が広がる中でも増えた」「②ガソリン税に匹敵する規模で、自治体の主要な収入源になった」「③幅広いアイデアが寄付を押し上げている」というのは喜ばしいことだ。
 これに対し、*15-2のように、645億円の流出超過となった東京都が「待機児童対策などに響く」などと指摘しているが、私は、東京のように企業の本社・工場が多い地域で多く徴収される法人住民税や生産年齢人口を大量に吸収している地域で多く徴収される個人住民税による税収格差を是正するために「ふるさと納税制度」を作ったので、商工業地帯の都市から税収のあがりにくい農林漁業地帯の地方に税収が流れるのは、最初から意図していたことである。また、東京都の待機児童対策がふるさと納税制度の制定前には進んでいたかと言えば全くそうではなく、莫大な無駄遣いが多いことは誰もが知るところだ。
 さらに、「ふるさと納税」を集めるチャンスはどの自治体も平等に持っており、魅力的な製品(農水産物に限らない)やサービスを発掘して返礼品にした自治体が多くのふるさと納税を集めることができる。そのため、ふるさと納税は単なる税金の分捕合戦になっているのではなく、地方の自治体が地域の長所を見つけて魅力に繋げ、生産を増やす努力をすることにも繋がっている。従って、私は、総務省が、返礼品を寄付額の3割以下にすることや地元の農産品に限ることを強制するなど、地方自治体の箸の上げ下ろしにまで口を出しすぎて、地方自治体の工夫に水をさすのはよくないと考える。なお、地方の自治体は、「廃止されそうな鉄道の維持」や「送電線の敷設・地中化」に使うというような使用目的を提示してもよいと思う。

 
 ふるさと納税額の推移       2018.9.11東京新聞

(図の説明:ふるさと納税制度の利用は、地方自治体の工夫によって大きく伸びているが、機会は均等になっている。それを結果平等にすると、頑張る人が馬鹿を見て誰も努力しなくなり、ぶら下がる人ばかりになるので、規制には注意すべきだ。なお、地場産品でないものの中に、「スリランカ特産品」「人間ドック」「航空券割引」が入っているが、スリランカと姉妹都市だったりスリランカを応援していたりする場合もあるため、理由を聞かなければわからない。また、人間ドックの利用権を返礼品にするのは、地元の病院であれば地場産のサービスに当たるし、家族が重病になった時のために地元の拠点病院個室優先利用券などを返礼にすると、重病にならなければ利用されないので原価が小さくてすむ。さらに、「航空券割引」も、佐賀空港を使って神崎に帰省する人が増えればりっぱな返礼品になるため、見かけだけでは判断できない)

*15-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO30385930R10C18A5EA3000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2018年9月11日) ふるさと納税、3000億円視野 返礼品抑制でも伸び
 ふるさと納税が返礼品の抑制が広がるなかでも増えている。日本経済新聞が全国814市区を調査したところ、6割が2017年度の寄付額が増えると見込む。市区分だけでも2014億円と前年度より10%伸びており、都道府県や町村分を含めると3000億円の大台を突破する勢い。自治体の歳入としてはガソリン税に匹敵する規模で、主要な収入源になってきた。17年度の自治体別の増額幅をみると、最も多かったのは1億円未満で全体の45%を占める。5億円以上は3%にとどまっており、1億~5億円未満が11%だった。ふるさと納税が特定の自治体に集中するのではなく、利用の裾野が広がり多くの自治体で厚みを増している構図が浮かび上がる。総務省によると16年度の実績は2844億円。市区の合計額はふるさと納税全体の64%を占めていた。都道府県は1%で町村は35%だった。市区と町村の伸び率はこれまでほぼ同じ水準で推移しており、17年度は全国の総額で3000億円の大台を超える見通しだ。総務省は17年4月に資産性の高い返礼品などを自粛し、返礼割合も3割以下に抑えるよう各自治体に通知。18年4月には返礼品の見直しの徹底を改めて求める追加の通知を出している。通知後も高い返礼割合の自治体は残るが、集め方や使い道の工夫が広がっている。北海道夕張市はあらかじめ使途を明示した。インターネットで不特定多数の人から少額の寄付を募るクラウドファンディングの手法を採用。少子化に悩んでいた地元の高校を救うプロジェクトなどが共感を呼び、寄付額が3000万円増えた。青森県弘前市は重要文化財である弘前城の石垣修理や弘前公園の桜の管理といった街づくりに参加できる仕組みが人気を集め、前年度より1億6000万円上積みした。「高額」の返礼品だけでなく、幅広いアイデアが寄付を押し上げている。一方で16年度にトップ30だった市区のうち、6割が17年度は減少すると見込む。家電を返礼品から外した長野県伊那市(16年度2位)は66億円減少。パソコンの返礼品をやめた山形県米沢市(同5位)も17億円減った。ただ、全体では17年度も16年度より10%伸びる見通し。上位の減少分を幅広い自治体の増加分でカバーしている形だ。自治体の最大の歳入は約4割を占める地方税。16年度は約39兆円だったが、人口減時代を迎え今後の大幅な増収は見込みにくい。3000億円規模の歳入は自治体にとって、ガソリン税や自動車重量税の地方分と並ぶ規模になる。ふるさと納税が地方税の収入を上回る例も出ており、自治体の「財源」としての存在感は高まっている。16年度首位の宮崎県都城市を抑え、17年度の見込み額でトップになったのは大阪府泉佐野市(同6位)。関東、関西を中心に約130億円を集め、16年度より約95億円増えた。ふるさと納税の額は同市の16年度地方税収入の約6割にあたる。返礼品を大幅に増やして1000以上を用意。黒毛和牛などが人気で、3月までは宝飾品や自転車もそろえていた。返礼割合は17年度で約4割と総務省が求める基準より高かったが、18年度は約3割まで下げる方針だ。一方、税収が「流出」している自治体からは不満の声も漏れる。東京23区では16年度だけで386億円が流出。世田谷区では52億円減った。自治体によっては「既存事業や新規の事業計画に影響が出る可能性がある」と懸念するところもある。調査は2月下旬から4月下旬に実施。802の市区から回答を得た。
▼ふるさと納税 生まれ育った故郷や応援したい自治体に寄付できる制度。納税者が税の使い道に関心を持ったり、寄付を受けた地域を活性化させたりする目的で2008年度に導入された。寄付額から2000円を差し引いた金額(上限あり)が所得税と個人住民税から控除される。15年度から控除上限額を2倍に引き上げ、確定申告せずに税額控除の手続きができる特例制度を導入して利用が広がった。

*15-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO33497750X20C18A7EA1000/?n_cid=SPTMG022 (日経新聞 2018年9月11日)ふるさと納税、東京都から645億円の流出に
 総務省は27日、ふるさと納税で控除される住民税が2018年度に全国で約2448億円になると発表した。前年度に比べて37%増えた。都道府県別では、東京都内の控除が約645億円で最も多い。その分だけ、都内の自治体の税収が他の道府県に流出していることになる。待機児童対策などに響くとの指摘もあり、大都市圏の自治体にとっては頭の痛い状況だ。ふるさと納税は故郷や応援したい自治体に寄付できる制度で、原則として寄付金から2千円を引いた額が所得税や住民税から控除される。今回は18年度分の課税対象となる17年の寄付実績から、地方税である住民税の控除額を算出し、都道府県別に集計した。ふるさと納税による寄付の伸びを反映し、住民税の控除額も軒並み増えている。最大の東京都からの「流出額」は約180億円増えた。第2位の神奈川県は257億円と約70億円膨らんだ。こうした大都市圏の自治体からは「行政サービスに影響が出かねない」との声が漏れる。ふるさと納税を巡っては、自治体が高額な返礼品を用意することでより多くの寄付を集めようとする競争が過熱した問題がある。総務省は17年4月、大臣通知で各自治体に「良識のある対応」を要請し、返礼品を寄付額の3割以下にすることなどを求めた。子育て支援や街づくりなどに使い道を明確にするなど、既に多くの自治体は対応を見直している。返礼割合が3割を超える市区町村は、18年6月時点で1年前の半分以下の330自治体に減った。それでも制度自体の人気は根強い。ふるさと納税は17年度には初めて3千億円を突破した。一方、税収の流出に悩む大都市圏でも地域資源の活用などの工夫で、寄付を集める取り組みが広がる。大阪府枚方市は市長が案内する文化財見学ツアーを用意し、17年度に2億8000万円を受け入れた。東京都墨田区は「すみだの夢応援助成事業」と銘打って、農園開設などの民間プロジェクトを選んで寄付できるようにしている。

| 民主主義・選挙・その他::2014.12~2020.9 | 01:05 PM | comments (x) | trackback (x) |

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