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2024.10.28~ 核と日本
 衆議院議員選挙期間中であり、私が他の事で忙しくもあったため、しばらくブログを書きませんでしたが、再開します。

・・工事中・・

(1)日本被団協のノーベル平和賞受賞と核兵器禁止条約
 *1は、①日本被団協のノーベル平和賞受賞決定 ②衆院選公示を控え、日本記者クラブの党首討論会で安全保障をめぐる議論が白熱 ③核兵器をめぐる議論で自民党と他党の立場の違いが浮き彫り ④首相(≒自民党)は核抑止力を重視している ⑤立憲の野田代表は、日本は唯一の被爆国で、被爆の悲惨さを語り継ぎ、核廃絶、平和の尊さを発信し続けてきた」「そんな時に、核共有、核持ち込みを許容する発言をしている日本のトップでいいのか」「核兵器禁止条約にせめてオブザーバー参加すべき」と述べた ⑥共産党の田村委員長は「核兵器禁止条約を批准すべき」「核抑止は核兵器を使う脅しで、被爆者の願いを踏みにじるもの」とした ⑦公明党の石井代表は、「核兵器国と非核兵器国との橋渡しを担っていくことが日本にとって非常に重要な役割」とオブザーバー参加に賛成 等としている。 

 日本は、2度も原子爆弾を落とされた唯一の被爆国で、その上、戦後に「原子力の平和利用」として作られた原発では、自然災害に起因する世界最悪の福島第一原発事故を起こし、未だに解決の道筋も見えない国である。そのため、人類に被爆(外部被曝・内部被曝を含む)という著しい危険をもたらす核兵器の廃絶や脱原発の推進こそが日本に与えられた天命だと、私は思う。

 そのような中、①のように、日本被団協のノーベル平和賞受賞が決まったことは、大変、喜ばしいことだった。しかし、②③④⑤⑥のように、日本政府は、安全保障上の“核抑止力”を理由として、核兵器禁止条約に批准するどころか、オブザーバー参加すらしてこなかった。しかし、「核兵器を持つことに依る抑止力」というのは、核兵器を持ちたいと思う人の希望にすぎず、むしろ現実的でないと私は考える。

 そして、本当の核抑止力は、戦後の長期にわたって被爆の悲惨さを語り継ぎ、核廃絶や平和の尊さを発信し続けたことによって培われ、それがノーベル平和賞を通じてヨーロッパの国によって橋渡しされつつあるのではないだろうか?そのため、⑦のように、日本政府が“橋渡し(具体的に何をしたのか?)”した形跡はないと思うのである。

(2)長崎原爆の被爆者と日本政府の対応

  
2022.7.29民医連   2024.8.7朝日新聞       2024.9.3朝日新聞

(図の説明:左図の黄色部分は爆心地から半径12km圏内だが被爆地とされず、ここで被爆した人は「被爆者」ではなく「被爆体験者」と呼ばれてきた。そして、中央の図の○の「被爆体験者」が、今回の訴訟の原告である。また、右図のように、「被爆体験者」の症状は、「被爆者」と違って放射線の影響ではなく、被爆体験による不安が原因の精神疾患とされてきた。しかし、精神疾患が原因で白血病や癌になるのでないことは常識だ)

1)地元紙の記事から
 長崎原爆に近いエリアの佐賀新聞は、*2-2のように、①長崎地裁は被爆体験者の一部を被爆者と認める判決を出した ②岸田首相は全被爆体験者に医療費助成を拡充して被爆者と同等にする救済策を発表 ③同時に判決を不服として控訴 ④被爆体験者の医療費以外の各種手当は被爆者との差が大 ⑤救済策・訴訟対応とも被爆体験者の反発は強く法廷闘争は続く ⑥国が被爆者認定の在り方を見直す以外に解決はない ⑦国は「被爆体験者に精神的な悩みは認めるが、被爆者と違って放射線の影響はない」という立場を堅持し、被爆体験者への現行医療費助成は精神疾患とその合併症や胃癌など7種類の癌に限定した上、申請時と年1回の精神科受診を義務化している ⑧広島高裁が援護区域外で「黒い雨」を浴びた84人全員を被爆者と認め、国がこの司法判断を受け入れて新基準に基づく被爆者認定を進めている広島と差が残り、差の原因は「長崎には客観的な降雨記録がないため」とされていたが、長崎地裁判決は長崎市の証言調査の結果等を根拠に一部援護区域外に「黒い雨」が降ったと判断、そこで原爆に遭った原告15人に限り被爆者と認めた ⑨長崎では1957年に旧長崎市全域を中心に被爆地域が指定され、その後、周囲に特例区域が追加されて全体として援護区域は広がったが、線引きは旧行政区画に沿って行われた ⑩原爆由来の放射性物質の影響が行政区画通りに広がる筈がなく不合理であることは明らか ⑪国は画一的線引きではなく、援護区域外にいた人の証言や当時の状況を調査結果等と突き合わせて精査し判断すべき ⑫被爆体験者は約6300人に上り、平均年齢は85歳を超えるが、長崎訴訟の原告44人のうち4人は判決を聞くことなく亡くなった と記載している。

 また、長崎原爆地元の長崎新聞は、*2-1のように、⑬長崎原爆の爆心地から半径12kmの同じ円内であっても、原爆投下時に国が定める地域の中にいれば「被爆者」、外にいた場合は「被爆体験者」と分けられている ⑭違いは国が「原爆放射線による健康被害」を認めるかどうかで、被爆者には「原爆放射線による健康被害」を認め、被爆体験者には被爆体験に起因する「精神的疾患」のみを認めている ⑮被爆者は、被爆者健康手帳を交付され、ほぼ全ての医療費が公費で負担され、状況に応じて健康管理手当(月3万6900円)や介護手当・葬祭料等の各種手当も受けられる ⑯被爆体験者は、2002年度開始の支援事業で精神科受診を前提に精神疾患やその合併症(癌7種が昨年度追加)の医療費支給に留まる ⑰長崎で原爆投下後の黒い雨や灰などに遭った体験者は多いが、黒い雨被害者を被爆者と認める国の基準は広島のみに適用され、長崎は対象外になっている 等としている。

ポイント1:被爆エリアについて ← 黒い雨が降った地域だけを加えても不十分である
 日本政府は、⑨⑩のように、1957年に旧長崎市全域を中心に被爆地域を指定し、その後、周囲に特例区域を追加したが、旧行政区画に沿って線引きした。しかし、原爆由来の放射性物質が行政区画通りに広がるわけがないため、被爆エリアの定義自体が不合理なのである。また、⑪のように、被爆エリア(≒援護区域)外にいた人の証言・当時の状況・健康被害の状況を疫学的に調査して統計処理したものは、客観的・科学的な根拠そのものなのだ。

 また、⑧の広島高裁は被爆者と認めたものの、本当に「“黒い雨”を浴びた人のみが被爆者か?」と言えば、原発事故で明らかになったとおり、被曝には内部被曝もあるため、放射線量の高い地域で収穫された作物を食べた人やその地域で呼吸していた人も被曝者になる。

 つまり、これまで、日本政府は、i)原爆で焼け死んだ人(熱による焼死) ii)被爆直後に著しい放射線障害を起こした人(強い外部被曝) のみを被爆者として認定していたが、実際は、iii)黒い雨を浴びた人(緩やかな外部被曝) iv)黒い雨が降ったため放射線量の高くなった地域で収穫された作物を食べた人(内部被曝) v) 放射線量の高い地域で呼吸していた人(内部被曝)も健康被害を受けるため、被爆者なのである。

 従って、⑰のように、長崎で原爆投下後の黒い雨や灰などに遭った多くの体験者は被爆者であり、広島のみに黒い雨被害者を被爆者と認めたのは片手落ちであると同時に、直接、黒い雨にあった人のみを被爆者としているのも、未だ不足なのである。

 ちなみに、長崎原爆が投下された時、佐賀市の飛行機工場で尾翼を作っていたという私の母は、真っ青な空にモクモクと黒いキノコ雲が上がり、女学生の友人と「あれは何だ。何だ」と言っていたところ、しばらくして「新型爆弾だ」という情報が入ってきたのだそうだ。従って、佐賀市からでも見えた長崎原爆による「灰(粉塵)」や「黒い雨」は、かなり広い範囲で降ったと推測でき、狭い行政区画や⑬のような爆心地から半径12kmの同心円内に収まっていたわけがない。また、現在、90~100歳代のこのような多くの人たちの貴重な証言は、広く集めて記録しておく必要がある。

ポイント2:被爆者と被爆体験者の定義について
 国は、⑨⑬のように、爆心地から半径12kmの同心円内にいても原爆投下時に国が定める地域(旧長崎市全域と特例区域)の中にいれば「被爆者」、外にいた場合は「被爆体験者」に分け、⑭のように、被爆者には、「原爆放射線による健康被害」を認め、被爆体験者には、被爆体験に起因する「精神的疾患」のみを認めているのだそうだ。

 違いの根拠は、国は上のi)ii)しか「原爆放射線による健康被害」のある被爆者と認めず、iii)iv)の人は、被爆の影響はないのにうるさく言う「精神的疾患」だとしているからである。

 その結果、⑮⑯のように、被爆者は被爆者健康手帳の交付を受けてほぼ全医療費が公費負担・状況に応じ健康管理手当(月3万6900円)や介護手当・葬祭料等の各種手当が支給されるが、被爆体験者は2002年度開始の支援事業で精神科受診を前提に精神疾患やその合併症(癌7種が昨年度追加)への医療費支給に留まっているのである。そして、これは⑧の広島高裁判決との不均衡や長崎地裁判決の分断による公平性の問題以前に、緩やかな外部被曝や内部被曝の健康への悪影響を認めないという国の頑なな態度の問題なのである。

ポイント3:被爆(外部被曝・内部被曝を含む)の健康への影響について
 国は、⑦のように、「被爆体験者に精神的な悩みは認めるが、被爆者と違って放射線の影響はない」という立場を堅持しているが、それが医学的に正しいのかと言えば、緩やかな外部被曝や内部被曝の影響を無視しているため、正しくない。また、内部被曝による胃癌等発生が精神疾患によるものであるわけがないため、被爆体験者への現行医療費助成に精神科受診を義務化しているのは、賠償費用を抑えるために意図的にやっているとしか思えない。

 従って、①のように、長崎地裁が被爆体験者の一部を被爆者と認める判決を出したのは、少しは良かったし、②のように、岸田首相が全被爆体験者に医療費助成を拡充して被爆者と同等にする救済策を発表したのは何もしないよりは良かったのだが、被爆者や被曝者の定義を、国は最新の科学に従って見直すことが重要だ。そうすれば、④⑫のように、生存者の数が減っても賠償金額は増えるが、被害者を犠牲にする不公正を続けるよりは、ずっとましであろう。

 そして、③⑤⑥のように、国が被爆者認定の在り方を科学的に見直す以外に納得は得られず、裁判は続き、国の不作為による被害者は増える。そのため、裁判所も、黒い雨が降ったか否かだけではなく、緩やかな外部被曝や内部被爆の健康影響を認め、日本政府に心の問題(≒精神的疾患)などと言わせてはならないのである。

2)全日本民医連(https://aequalis.jp/feature/cherish.html)の見解について

  
    2024.9.9NHK        Radio Active Pollution     玄海原発
                               プルサーマル裁判の会

(図の説明:左図の黄色と黄緑色のエリアが、爆心地から半径12km以内で「被爆体験者」とされた人の住んでいた地域だ。しかし、半径12kmで小さすぎることは、中央の図の福島第一原発事故によって著しく汚染された地域から明らかで、地形・風向き・降雨によって放射性物質の広がり方は異なる。これを、長崎県と風向きが近い玄海原発でシミュレーションした地図が右図であり、半径80kmでも汚染される地域がある。ちなみに、チェルノブイリ原発事故では、移住義務ゾーンが右図の赤・橙・黄緑の地域、移住権利ゾーンが右図の緑色までの地域となっている)

 全日本民医連による*2-3の記事は、①原爆の熱線や黒い雨を浴びながら行政区分の線引きで被爆者と認定されない人たちが“被爆体験者”で、放射能の影響ではなく原爆体験のストレスで病気になったとされている ②長崎の被爆地は2度にわたって範囲が広がったが、国が市町村の境界線に沿って線引きしたため、爆心地から南北12km、東西約5~7kmの楕円形 ③図の黄色部分は爆心地から半径12km圏内だが被爆地ではなく、ここで被爆した人は「被爆者」ではなく「被爆体験者 ④被爆者には「被爆者健康手帳」が交付され、健康管理手当の支給に加え医療費の自己負担はない ⑤被爆体験者には「被爆体験の不安が原因で病気になった」と書かれた「被爆体験者精神医療受給者証」が交付される ⑥こんなおかしな仕組みは放射能の影響をできるだけ狭い範囲に限定したい政府の意向でできた ⑦被爆体験者は精神疾患に伴う合併症のみ自己負担はなく、放射能の影響が考えられる癌などは対象外で、例えば「睡眠障害」で「胃潰瘍」なら自己負担はないが、「胃癌」になった途端、医療費助成が打ち切られるという矛盾した制度 ⑧長崎民医連は2012~13年に被爆体験者194人を調査し、約6割に下痢・脱毛・紫斑等の放射線による急性障害があった ⑨長崎県連事務局次長は「被爆者の認定指針はじめ、国の被爆者援護行政全般が予算の枠ありきで物事を決めており、根本的に間違っている」と指摘 ⑩被爆体験者とされる鶴さん(85歳)は、爆心地から東へ7.3kmの旧矢上村で被爆し、同じ村内の隣の集落は被爆地になったが、山の尾根の反対側の鶴さんの集落は被爆地と認められなかった ⑪1945年8月9日、爆風で舞い上がったすすで空が暗くなり、当時8歳の鶴さんは肉眼で太陽を見たが「梅干みたいに赤黒かった」 ⑫父は54歳、姉は27歳、弟は42歳で亡くなり、鶴さん自身も脳梗塞や胃潰瘍で入院した 等としている。

 全日本民医連の記事は、①③④⑤⑦のように明確に書いてあるため、よくわかった。そして、⑥⑨は、私の推測と同じだが、これは、水俣病でも福島第1原発事故でも行なわれたことであり、今後起こる原発事故や公害による被害者に対しても行なわれるだろうから、国民は、それも折り込んで意志決定しなければならないのである。

 さらに、長崎民医連は、⑧のように、2012~13年に被爆体験者194人を調査して、その約6割に下痢・脱毛・紫斑等の放射線による急性障害があったことを確かめているが、これは、世界の学会誌に掲載された論文だろうか? もしそうでなければ、速やかに体裁を整えて、世界の学会誌に論文を掲載した方が良いと思う。

 なお、被爆体験者とされている⑩⑪の鶴さんは、爆風で舞い上がった大量の放射性物質を含む粉塵がそのまま降ったり、雨に混じって黒い雨となって降ったりすれば、山の尾根の反対側の集落であっても緩やかに外部被曝し、内部被曝もする。そのため、⑫のように、全員ではないが、家族が早逝しているのだろう。

 従って、②の長崎の被爆地は、爆心地から南北12km、東西約5~7kmの楕円形というのは、円形でないから正しくないとは思わないが、あまりに範囲が狭すぎるため、被爆者全員の健康管理をしていないことが明らかだ。ただし、戦争による被害は原爆による被爆だけではないため、被害者全員に補償していたら際限が無く、殆ど補償されていないとも言えるのだ。

(3)衆議院議員選挙におけるエネルギー政策への審判


 2023.8.1東京新聞  2024.9.25西日本新聞     資源エネルギー庁

(図の説明:左図が全国の原発の状況で、再稼働済が11基あり、その中には使用済核燃料貯蔵率が80%以上のものが多い。また、中央の図は、再稼働審査に合格した原発の使用済核燃料保管状況だが、殆どが80%以上である。そして、右図が高濃度放射性物質を陸地で最終処分する方法で、地上から300m以上離れた地下深くで、1000年~数万年も管理しなければならない《https://www.jaero.or.jp/sogo/detail/cat-02-11.html 参照》わけだが、誰の金で、誰が管理するのか、無責任極まりないのだ)

   
  2022.8.21東京新聞   2023.7.27日経新聞    2024.10.29NOTE

(図の説明:左図は、フクイチ事故原発の汚染水《トリチウムを含む処理水》を海に放出する議論だが、トリチウム濃度が国基準の1/40未満であっても、分量は優に40倍を超えるため総量では基準を超え、第一次産業に損害を与えていることは明白だ。そのような中、中央の図のように、“脱炭素電源オークション”として、原発の新設・建て替え・既存原発の安全対策費やアンモニアを使う火力など、将来性のない電源に対して電気料金から支援金を出す仕組を作ったのは無駄に国民負担を増やすものでしかない。そのようなことの積み重ねが、右図の今回の衆議院議員選挙の結果であり、原発地元の新潟県・佐賀県では全選挙区で立憲民主党が勝ち、福井県・鹿児島県でも自民党の原発推進派が落選する結果となったのである)

1)衆議院議員選挙における候補者の態度
 *3-1-1は、①3年前の前回衆院選から十分な議論もなく原発政策は大きく変化 ②岸田前政権は次世代型原発へのリプレース・最長60年としてきた既存原発の運転期間延長など、福島第一原発事故(以下、“フクイチ事故”)を受けて進めた「脱・原発依存」から大きく舵を切り、なし崩しで原発回帰が進む ③今回の衆院選で議論は低調 ④原発利用については、自民党・日本維新の会・国民民主党が推進の立場で、共産党・れいわ新選組が脱原発、立憲民主党は公約では触れず党綱領に原発ゼロを明記 ⑤薩摩川内市を含む鹿児島3区から立候補する自民・立憲の候補者は発言内容は違えど運転延長には容認 ⑥原発利用とセットで語る必要のある「核燃料サイクル」も実現が見通せず ⑦高レベル放射性廃棄物を地下に「地層処分」する最終処分場建設のメドもなし ⑧選定を進める原子力発電環境整備機構(NUMO)が2002年に公募を始めたが、調査を受け入れたのは北海道の寿都町と神恵内村、玄海町の3自治体のみ としている。

 衆議院議員選挙の立候補者が、③のように、脱原発を口にしない理由の第1は、自民党の場合は大手電力会社から寄付だけではなく選挙協力も得ているから、国民民主党・民主党の場合は、大手電力会社の労組から選挙協力を得ているからである。

 また、理由の第2は、経産省はじめ原子力エネルギーを維持したい人の発言力が強く、政治家・候補者・メディアはじめ国民の多くが、これに対抗できる知識や力を持っていないからだ。そのため、政権批判と言えば、国民に賛成されやすい「政治とカネ」論争ばかりになるのだが、これは国民を馬鹿にしすぎているだろう。

 そのような事情から、①②のように、自民党の岸田前政権は選挙で審判を仰ぐことなく、フクイチ事故を受けて進めた「脱原発依存」から、なし崩しで原発回帰を進め、④のように、立憲民主党は党綱領に原発ゼロを明記しているが、公約では触れなかった。

 それでは、よく言われるように原発はコストが安いのかと言えば、後で詳しく述べるとおり、⑥⑦⑧の如く、高レベル放射性廃棄物の処理はできず、リスクが高いのに使用済核燃料を各原発に溜め込んでおり、国が無駄金をばら撒かなければ一歩も前に進まない金食い虫なのである。

 なお、⑤のように、薩摩川内市を含む鹿児島3区から立候補する自民・立憲の候補者が運転延長に容認している理由は、選挙は票数の勝負であるため、候補者の主張に反対の人が多いと得られる票数が減って不利になるからであろう。

 しかし、選挙結果を見ると、*3-1-4のように、原発地元である新潟県・佐賀県では立憲民主党がすべての小選挙区を制し、福井2区でも原発推進派で自民党系の高木氏が落選した。そして、従来は自民党が強かった鹿児島県も、1区立民・2区野党系無所属・3区立民が小選挙区を制し、4区の森山氏(自民党幹事長)だけが自民党なのである。そして、この結果については、「政治とカネ」問題が大きいと言われてはいるが、原発の地元は、他の地域と違って真剣に原発のリスクについて考えていることを忘れてはならない。

 なお、日本の経済団体は、*3-1-5のように、経団連の十倉会長が、⑨自民党・公明党を中心とする安定的な政治態勢を構築し、政策本位の政治を進めることを強く期待 ⑩与党の敗因は政治資金を巡る問題への国民の厳しい判断 ⑪待ったなしの重要課題に原子力の最大限活用を含む とし、日本鉄鋼連盟の今井会長は、⑫安全を大前提とした新設・リプレース(建て替え)を含めた原子力の活用を強く期待する としている。

 また、日本商工会議所の小林会頭は、⑬連立与党の枠組みがどうであれ、デフレからの完全脱却に不退転の決意で臨むべき とし、経済同友会の新浪代表幹事は、⑭与野党問わず現実を直視してしっかりと議論を尽くし、必要な政策を前に進めて欲しい としている。

 つまり、経産省の意向を強く受けている経団連の十倉会長は、⑨⑩⑪のように、問題は「政治とカネ」だけなので、自民党・公明党を中心とする安定的な政治態勢で政策本位の政治を進めることを期待し、原子力の最大限活用は待ったなしの重要課題だ としている。また、日本鉄鋼連盟の今井会長も、⑫のように、原発の新設・建て替えを含めた原子力の活用を強く期待する としているのだ。

 しかし、このように日本の経済界の大企業が安定のみを追求して、イノベーションを軽んじた結果、日本は「失われた30年(https://toyokeizai.net/articles/-/325346 参照)」を経験したのだということを、決して忘れてはならない。

 そして、あまりにもパッとしない発言だったため、十倉氏の経歴を調べたところ、1974年東京大学経済学部卒の74歳(学生運動が盛んで、学生が勉強していない時期)で、現在は住友化学株式会社代表取締役会長であり、経団連会長である。しかし、積水化学はペロブスカイト太陽電池を2025年に事業化する(https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2111/12/news047.html 参照)のに対し、住友化学は大分工場で購入電力を100%再エネ化しただけで、次の大きな利益機会であるペロブスカイト型太陽電池には参入していない。

 また、日本鉄鋼連盟会長で日本製鉄社長の今井氏は、1988年東大院金属工学研究科修士修了、1997年マサチューセッツ工科大博士修了で、旧新日本製鉄出身初の技術系社長で脱炭素化対応(≒電炉推進)にあたってきた人なので、脱炭素の安定電源として原発の新設・建て替えを含めた原子力の活用を強く期待するのもわからなくはないが、原発は高コストで温排水を出す電源であるため、SDGsの役に立たない上、コストダウンも難しい。そのため、もっとスマートな代替案を考えて欲しいと思ったのである。

 なお、AGCは、建築用ガラスの性能(遮熱・断熱性)と太陽光発電の性能を併せ持つ建物のガラス部位で発電することによって、カーボンニュートラルに貢献しようとしており、私も使える限り使いたいと思うのだから、これは当たるだろう。

 また、日本商工会議所の小林会頭は、⑬のように、デフレからの完全脱却を求めておられるが、原発等への無駄で膨大な補助金を削らずに新しい財源を確保するためとして国民負担を増やし続ければ、国民の可処分所得が減るためデフレからの脱却などできるわけがないのである。さらに、経済同友会の新浪代表幹事の⑭の発言は、「何が無視できない重要な現実なのか」を知力を尽くして議論していないため、何も言っていないのと同じである。

2)原発は採算性が悪く、巨額で不透明な補助金によってのみ成り立っていること
 *3-1-2は、①原発コストは陸上風力・太陽光より高くなり、海外では採算を理由に廃炉も ②日本政府の試算でも原発コストは上昇 ③年度内に予定されるエネルギー基本計画改定で原発活用方針が盛り込まれれば国民負担増 ④日本政府はフクイチ事故後、原発依存度を可能な限り低減する方針を掲げたが、岸田政権がGX基本方針で「原発の最大限活用」に転換 ⑤エネルギー安全保障・CO₂排出抑制を理由に掲げても、事故の危険性とコスト高騰あり ⑥米国ラザードが発電所新設時の電源別コストを発表し、建設・維持管理・燃料購入費用を発電量で割って算出する原発のコストは陸上風力・太陽光発電の3倍以上 ⑦経産省作業部会の計算でも2030年新設原発の単純コストは11.7円/kwhで、陸上風力・太陽光と同じ ⑧実際には単純なコストだけでなく補助金等の政策経費を含めて算出すべき ⑨太陽光・風力は大量生産で安くなるが、原発は量産効果が働かない ⑩原発活用でも電気代が下がるとは考えられない としている。

 原発は、安価で安定的な電源だと言われ続けてきたが、原発のコストは、本当は、⑧のとおり、電力会社が支払う単純コストだけではなく、国が支払う補助金等による膨大なコストも含めて算出するのが正しい。

 しかし、補助金を加えない単純コストだけを比較しても、①⑥⑨のように、原発は大量生産することができず、太陽光・風力は大量生産できるため、普及して量産効果が出れば出るほど太陽光・風力の方が安くなり、これは最初からわかっていたことである。

 そして、原発を推進したい経産省の作業部会でも、⑦のように、やっと2030年新設原発の単純コストが11.7円/kwhで陸上風力・太陽光と同じになるとしているが、この日本の遅れは、原発には膨大な補助金をつけて推進し、太陽光・風力の普及には消極的だった結果なのである。

 なお、②③⑤⑩のように、原発のコストは、日本政府の試算でも事故の危険性とコスト高騰で上昇している上に、再エネと比較してエネルギー安全保障に資さず、CO₂排出は抑制するが地球温暖化抑制にも公害防止にも資さず、原発の活用で電気代が下がるわけでもなく、エネルギー基本計画の改定で原発活用の方針が盛り込まれれば、むしろ国民負担は増すのである。

 それでも、④のように、岸田政権は、十分な議論もなく、GXを理由として、「原発依存度を可能な限り低減する」という方針を掲げたのだが、思いつきのこじつけで1人前の大人を説得することはできない。

 また、*3-1-3は、⑪CO₂等の温室効果ガス排出を減らす発電所の改修・新設を対象として発電会社が国の補助金を受け取る「長期脱炭素電源オークション」が始まった ⑫補助金原資には電気料金も含まれる ⑬発電会社への補助額等の内訳は開示されず、原発を含めた電源への資金の流れは把握できない ⑭発電会社は施設等の維持費を積算し、経産省が所管する電力広域的運営推進機関の入札に応じて落札できた場合に維持費に相当する国の補助金を受け取れる ⑮個々の落札価格や受取期間は公表されず、資源エネルギー庁の担当者曰く「必要な時が来たら情報提供を求めるが、現時点では作成も取得もしていない」 ⑯原発対象の補助金を受ける中国電力も「経営戦略上、回答を控える」とした ⑰初回2023年度は新設・建て替えに補助対象が絞られ、今月手続きが始まった2024年度から「新規制基準へ安全対策工事が必要な原発」も対象 ⑱龍谷大の大島教授は「発電会社への新たな補助制度で、支払いを拒めないものを市民は負担させられる。どの電源に、どれだけの期間、いくら支払わされるのかを公開するのが当然」と語る ⑲NPO法人「情報公開クリアリングハウス」の三木理事長は「落札価格が公表されなければ、応札の基本ルールが機能しているのかどうかもチェックできない」と指摘 ⑳国は原発も脱炭素電源に含めるが、落札した52電源で落札容量が最大の中国電力島根原発3号機がどれだけ補助金を得るのかを、NPO法人「原子力資料情報室」が、「公表されている落札総額を落札総容量で割り、1kw当たり平均落札価格を5万8254円と計算し、これに同原発の容量を乗じて766億円とはじいた ㉑「原子力資料情報室」の松久保事務局長は「殆ど知らされることなく極めて複雑かつ不透明な制度の下で負担を強いられることに、国民の理解が得られたとは到底考えられない」と指摘 等としている。

 そもそも、大量の温排水を出す原発を温室効果ガス排出を減らす発電所と認定すること自体が奇妙だが、これは、⑪⑫⑭のように、国民が支払う税金を使った補助金と電気料金から拠出させる支援金を「長期脱炭素電源オークションを通したから」と正当化して、主に原発に配ることが目的だったのだろうと、公認会計士として外部監査の経験を持つ私は推測する。

 そして、再エネを普及させるための補助金は著しく少ないため、⑬のように、補助額の内訳を示すことはできず、⑮のように、資源エネルギー庁の担当者は、個々の落札価格や受取期間を公表せず「資料の作成も取得もしていない」とし、⑯の中国電力もそうするのであろう。⑰の「新設・建て替え」「新規制基準へ安全対策工事」は、原発が対象であることが明らかであることから、私の推測は、さらに裏打ちされたわけである。

 このように、時代に合わなくなったことに対する補助金をなくさずに、時代が求める新しいことをする度に「財源は?」と称して国民負担を増やせば、そのうち国民負担を100%にしても新しいニーズを満たすことはできなくなるだろう。そのため、必要なことは、情報開示した上で国民の審判を受けることだが、国民を馬鹿にしているのか、それが行なわれていないのだ。

 従って、私は、⑱⑲の意見に全く賛成であるし、⑳のように、NPO法人「原子力資料情報室」が、限られた情報からできるだけのことをして、中国電力島根原発3号機に766億円の補助金が渡されたであろうことをはじき出したのはアッパレだと思う。

 さらに、㉑のように、簡単なことを複雑化して国民が事実を把握できないようにし、不透明にしてやりたい放題やることこそ、民主主義から大きくはずれている。そして、こういうことができないようにするためには、国の会計を複式簿記・総額表示に変更して迅速に決算を行ない、政策毎にかかる金額の内訳を示して行政評価できるようにする以外にはないのだ。もちろん、そうされると都合の悪い人は抵抗するだろうが、これは既に殆どの国でやっていることなのである。

3)女川原発の再稼働にかかった費用と再稼働の是非


   2024.10.29Yahoo      2024.10.29毎日新聞  2024.10.29Nippon.Com

(図の説明:左図は、現在の女川原発の様子で、中央の図が、同原発の安全対策のために行なった工事だ。そして、右図が、2024年10月末時点の原発の稼働状況である)

 *3-1-6は、①東北電力が、13年半ぶりにに女川原発2号機を起動 ②事故を起こしたフクイチと同じ「沸騰水型」初 ③被災地及び東日本の原発再稼働初 ④女川原発2号機は東日本大震災で敷地内震度6弱を観測し、約13mの津波が押し寄せて外部電源の多くが失われ、港にあった重油タンクが倒壊し地下室が浸水 ⑤その後、想定される最大クラスの津波に備えて防潮堤の高さを海抜29mにかさ上げし、地震被害を抑えるため原子炉建屋内にある配管や天井などの耐震補強を行って、2020年に原子力規制委員会の審査に合格 ⑥震災後の安全対策工事費用約5700億円 ⑦テロ等に備える「特定重大事故等対処施設」は再稼働に必要な原発工事計画の認可から5年以内の設置が義務で、期限の2026年12月までに約1400億円かけて建設予定 ⑧政府は脱炭素社会実現・エネルギー安定供給に向けて原発最大限活用方針 ⑨電力各社は、新潟県柏崎刈羽原発・茨城県東海第二原発等の東日本を含む各地の原発も地元の理解を得た上で再稼働を目指す ⑩女川町長は「継続的な安全性向上を求める」 ⑪宮城県知事は「東北電力は安全最優先で作業を進めてほしい」「住民の避難計画は訓練しながら常にブラッシュアップし、見直しを進めていくことが重要」 ⑫地震・津波と原発事故が同時に起きる「複合災害」の場合、宮城県の牡鹿半島に位置する女川原発2号機で重大事故が起きれば住民が安全に避難できるか課題 ⑬東北電力は再稼働で600億円/年程度のコスト削減見通しだが、電気料金の値下げに慎重 ⑭武藤経産大臣は「大きな節目になる」 ⑮使用済核燃料は原発建屋内の燃料プールで一時的保管されているが、既に79%に達し、再稼働に伴って今後4年程度で満杯 等としている。

 東北電力女川原発再稼働のためにかかる費用は、⑤⑥のように、i)想定される最大の津波に備える防潮堤の海抜29mへのかさ上げ  ii)地震被害を抑える原子炉建屋内の配管・天井等の耐震補強 iii)テロ等に備える「特定重大事故等対処施設」であり、i)ii)の安全対策工事に約5,700億円かけたところで、原子力規制委員会は審査に合格させている。また、iii)のテロ等対策費には約1,400億円かかるそうだが、再稼働に必要な原発工事計画の認可から5年以内に設置すればよく、建設期限は2026年12月なのだそうだ。

 そこで疑問に思うのは、イ)いつも甘い“想定”の最大津波は本当に29mが上限なのか ロ)実際に29mの津波(ものすごい分量で、勢いのある水の塊)が何度も押し寄せた時に、防潮堤の薄い壁は耐えられるのか ハ)津波が来た時、海水が逆流する内水氾濫は起きないのか である。「津波や巨大地震はない」という甘い“想定”で、原発を低い場所に建てた上に、重要な施設を地下に置いたため、ほんの13年前にフクイチ事故は起き、①②③④のように、女川原発も危ういところだったのだから、忘れたわけはない筈だ。

 その原発に、電力の全消費者が支払う電気料金から支出される支援金を約5,700億円もかけて弥縫策のような工事を行い、さらに約1,400億円かけるテロ等対策は未完成で、完成したところで武力攻撃には無力なのに、原子力規制委員会は審査に合格させたのである。そのため、消費者である国民は、二重・三重に馬鹿にされ踏みにじられているのであり、政策をチェックして選挙に行くこともなく、ぼんやり(or熱狂して)野球ばかり見ている場合ではない。

 そして、政府は、電力の全消費者が支払う電気料金から支援金を支出する理由として、⑧のように、「脱炭素社会実現・エネルギー安定供給に向けて原発を最大限活用する方針」「生成AIの普及による電力消費の増大」等を掲げているが、前にも書いたとおり、原発は、脱炭素は実現できても海に温排水を排出しているため地球温暖化防止の役には立たず、漁業に多大な迷惑をかけて食糧自給率を落とし、集中電源は、北海道胆振東部地震やウクライナ戦争で明らかになったとおり、エネルギー安定供給にもむしろ資さないのである。

 しかし、「電力の全消費者が払う電気料金から安全対策費に関わる支援金が出る」などといううまい話は滅多にないため、⑨のように、電力各社は新潟県柏崎刈羽原発・茨城県東海第二原発等の東日本を含む各地の原発でも再稼働を目指しているが、いくら安全性を重視しても「事故0」はなく、原発事故は巨大事故に繋がるため、地元が理解しないのは当然なのだ。

 そのような中、⑩⑪の女川町長・宮城県知事の「継続的な安全性向上を求める」「東北電力は安全最優先で作業を進めてほしい」というのは、原発維持や安全対策工事の経済効果を見ているのかも知れないが、無理な要求である上に視野が狭くもある。

 また、宮城県知事は「住民の避難計画は訓練しながら常にブラッシュアップし、見直しを進めていくことが重要」としているが、住民が避難して何処へ行き、どういう生活をし、誰が生活の面倒を見て、原発事故の収拾費を出すのは誰かを考えるべきだし、⑮のように、原発建屋内の燃料プールで“一時(本当は長期)”保管されている使用済核燃料は、既に容量の79%に達しており、再稼働すれば4年程度で満杯となるのであり、これは原発のリスクをさらに増している。

 その上、⑫のように、地震・津波と原発事故が同時に起きる「複合災害」の場合、宮城県の牡鹿半島に位置する女川原発2号機で重大事故が起きれば住民が安全に避難できないのは能登半島地震で経験済で、そもそも事故や災害が起きたら避難しなければならないような場所に住宅地等があること自体、「一寸先は闇」なのである。

 なお、⑬のように、東北電力は再稼働で600億円/年程度のコスト削減の見通しだが、電気料金の値下げはせず、⑭のように、武藤経産大臣は「大きな節目になる」と言われているが、どういう節目になると言うのだろうか。 

4)再エネ・EVのエネルギー自給率向上・食糧自給率向上・地方創生との相乗効果

  
 2022.1.13MoneyPost        Panasonic        PRTimes
 
(図の説明:左図のように、建物を透明な太陽電池で覆うと、太陽光のエネルギーが電力に変換される分だけ環境への放熱が減るため、発電と温暖化防止の両方を実現できる。しかし、建物に無様な太陽光発電装置をつけるわけにはいかないため、中央の図のように、ガラス建材一体型のペロブスカイト太陽電池が開発された。また、右図のように、瓦型の太陽電池もあるため、伝統的な建物で使うと面白いだろう)

  
         AGC         トヨタイムス  2019.7.20日経BP

(図の説明:左図のように、AGCもサンジュールという建材一体型太陽光発電ガラスを生産し始めており、様々なデザインがある。また、中央の図のように、トヨタは、街の景観に馴染ませながらビル壁面等で発電できる、レンガや板の模様を出せる太陽光パネルを発明した。さらに、右図のように、駐車場や道路で発電できる太陽光発電もある)

  
  アグリジャーナル   国際環境経済研究所       ナゾロジー

(図の説明:左図は、農業と風力発電のコラボレーションで、様々な設置方法が考えられる。また、中央の図は、温室に設置した透明な太陽光発電だが、日本のガラス室やハウスの設置面積は42,000haあるため、コストが見合って太陽光発電できればかなりの発電規模になるそうだ。さらに、右図は、シリコン型太陽光パネルの下で放牧されている羊だが、パネルが太陽光をエネルギーに変換しながら太陽光を遮るため、その分涼しくなって羊の成育がよくなったそうだ)

イ)ペロブスカイト型太陽電池について
 *3-2-1は、①日本発のペロブスカイト型太陽電池の投資ラッシュが中国で開始 ②中国の新興6社が工場建設の計画で内外から流入する投資マネーが生産を後押し ③中国各社は量産体制をいち早く整え、新市場での覇権獲得を狙う ④中国・江蘇省無錫市で極電光能が30億元(約600億円)を投じた工場完成が近づき、「世界初のGW(100万キロワット)級の生産基地」へ ⑤福建省アモイ市では大正微納科技が100MW級の工場を建設中で2025年に量産開始、発明した桐蔭横浜大学宮坂特任教授の教え子、李鑫氏が最高技術責任者 ⑥日本発の技術だが宮坂教授は技術の基本的な部分に海外で特許取得しておらず、量産で中国企業先行 ⑦太陽光から電気への変換効率は2009年の発明当時は3.8%で実用化に遠かったが、現在は最高26%台まで上昇し理論変換効率(33%)上限に近い ⑧カナダの調査会社プレシデンス・リサーチによると「ペロブスカイト型太陽電池セルの市場規模は2032年に24億ドル(約3400億円で2022年の26倍) ⑨日本勢は積水化学工業が25年の事業化を目指してシャープ堺工場の一部取得を検討 ⑩パナソニックホールディングスは2026年に参入方針 ⑪中国企業は日本勢に比べて投資の規模が大きく、先手を打ってシェアを確保する意志 ⑫ペロブスカイト型は、曇天・早朝・夕暮れ等の弱い光でも発電できるため、発電効率もシリコン型と比べて優位 ⑬大正微納の馬晨董事長兼総経理は「ペロブスカイト型が普及すれば、都市部の建物の外壁などで発電する分散型に代わる」と話す 等としている。

 上の図のように、様々に工夫された太陽電池は、⑬のとおり、都市部の建物の外壁・ガラス・瓦などの建材や道路・駐車場と一体化させれば、街そのものを発電所に変化させることができる。そして、太陽光エネルギーのうち電力エネルギーに変換された分は、熱エネルギーとして放射されないため、二重に地球温暖化防止に役立つと同時に、電力の自給率向上・防災・分散型発電にも資するのである。

 そのため、上の図の瓦型やガラス型だけでなく、トヨタの板目模様やレンガ模様を印刷したペロブスカイト型太陽電池のようなものをビルやマンションの壁面に貼り付ければ、街の景観を保ちながら、スマートに太陽光発電をすることが可能である。

 しかし、日本という国は、仮に研究で先を行っても、⑥⑦のように、「太陽光から電気への変換効率が悪い」等々の思いつく限りの欠点を並べられて、「世界特許をとらない」「市場投入が遅い」「大規模生産できない」「製品が高い」などの結果となるのであり、世界競争時代に勝つための製造業の基本がわかっていない。しかし、欠点は、⑫のように、ペロブスカイト型は曇天・早朝・夕暮れ等の弱い光でも発電できるので発電効率もシリコン型と比べて優位であったり、設置可能面積が広かったり、製品を改良したりして、解決が可能なのである。

 その点、中国は、①②③④⑤のように、可能性を見いだせば、短所を改良しながら、大規模投資・大規模生産・市場投入するため、手頃な価格で販売することが可能で、近年は、日本人も中国製の製品を使うようになっている。特に、EVと太陽光発電は、米国が過去の製品を護るための保護主義に陥っている中で、中国の1人勝ちになりそうだ。

 なお、カナダの調査会社プレシデンス・リサーチは、⑧のように、「ペロブスカイト型太陽電池セルの市場規模は2032年に24億ドル(約3400億円で2022年の26倍)としているが、スマートな建材一体型太陽電池の種類が増えれば、世界中で現在の建材に替えて使えるため、24億ドル(約3400億円)どころではないだろう。

 このような中、⑨⑩のように、積水化学が、2025年の事業化を目指してフィルム型ペロブスカイト太陽電池を開発中で、パナソニックは、建材としてのガラスの代替を目指して建材ガラス基板にペロブスカイト層をインクジェット塗布して作る手法を使って2026年に参入するそうだ。しかし、日本政府も、過去の製品に固執して腰が重いため、⑪のように、中国企業の方が、日本勢に比べて投資の規模が大きく、先手を打って世界シェアを確保しそうなのである。

・・以下、工事中・・

・・参考資料・・
<日本被団協のノーベル平和賞受賞と核兵器禁止条約>
*1:https://digital.asahi.com/articles/ASSBD3QDFSBDUTFK004M.html (朝日新聞 2024年10月12日) 核禁条約、際立つ消極姿勢 「核共有」言及で問われる被爆国のトップ 衆院選公示を15日に控え、与野党の政策論議が熱を帯びてきた。日本記者クラブの12日の党首討論会では、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)のノーベル平和賞受賞が決まったことを受け、安全保障をめぐる議論が白熱。とくに核兵器をめぐる議論では、自民党と他党との立場の違いが浮き彫りになった。相手を指名して質問する討論会の前半。立憲民主党の野田佳彦代表は石破茂首相を指名し、議論の口火を切った。「昨日、日本被団協がノーベル平和賞を受賞した。日本は唯一の被爆国であり、被爆の悲惨さを語り継ぎ、核廃絶、平和の尊さを発信し続けてきた」。そして、こうたたみかけた。「そんな時に、核共有、核持ち込みを許容するような発言をしている日本のトップでいいのか」
●地位協定改定、野田氏「後押ししてもいい」
 野田氏が突いたのは、核抑止力を重視する首相の持論だ。首相は就任直前の9月下旬に米シンクタンクに寄稿した論文で、日本を取り巻く安全保障環境の厳しさを踏まえ、「米国の核シェア(共有)や核の持ち込みも具体的に検討せねばならない」と強調した。野田氏はこの主張に疑問を示し、「(核兵器の保有や使用などを全面的に禁じる)核兵器禁止条約にせめて、オブザーバー参加するべきだ」と訴えた。共産党の田村智子委員長も首相を指名して「条約を批准するべきだ」と迫った。首相は「核廃絶の思いは全く変わらない。そこに至るまでの道筋をどうやって現実にやっていくか」と説明。だが、過去にウクライナが核兵器を放棄したことがロシアのウクライナ侵略を招いた背景にあるとの主張を展開し、「核抑止力から目を背けてはいけない。現実として抑止力は機能している」と強調した。核禁条約への態度をはっきりと示さない首相に対し、田村氏は「核禁条約に背を向けている」と批判。「核抑止は、いざとなれば核兵器を使うという脅しで、被爆者の願いを踏みにじるものだ」と指摘した。安倍、菅、岸田政権は核禁条約を批准せず、オブザーバー参加も見送ってきた。しかし、自民党と連立を組む公明党は「核兵器国と非核兵器国との橋渡しを担っていくことが日本にとって非常に重要な役割」(石井啓一代表)とオブザーバー参加に賛成の立場。今回、日本の条約批准を訴えてきた日本被団協のノーベル平和賞受賞が決まったことも、オブザーバー参加すら拒む自民党の消極姿勢を際立たせている。自民中堅は「政府は核禁条約から逃げ続けている。被団協とは正反対の姿勢で、政権浮揚には全くならない」と手厳しい。首相は討論会で「今までの政府の立場との整合性もあり、政府の長として軽々なことは言わない。抑止力を認めながら、核兵器の廃絶が本当に両立可能なのか。検証は必要だ」と述べるにとどめた。一方、首相は、就任後トーンダウンさせていた持論の日米地位協定の改定について「必ず実現する」と踏み込んだ。この日の討論会でも、自身が防衛庁長官だった2004年の沖縄国際大での米軍ヘリ墜落事故について改めて言及。「あの時の衝撃を忘れられない。沖縄県警が全く触れられず、機体も全部回収された」と振り返った。地位協定改定に消極的な米国との交渉を念頭に「相手のある話なので、どんなに大変かよく分かっている」としつつも、「これから党内で議論し、各党とも議論を進める」と意欲を見せた。野田氏も日米地位協定改定については「石破さんもおっしゃっているならば、私どももそれは後押しをしてもいいと思う」と協力する姿勢を示した。首相はもう一つの持論の「アジア版NATO」については「仕組みとして機能しないと思わない」と強調。「まず議論から始めなければ、何を言っても結実はしない」と述べ、自民党内での議論を進める考えを示した。
●「減税」「給付」主張の野党 財源は語らず
 各党が力を入れる経済政策についても論戦が交わされた。立憲の野田氏は、アベノミクスの「副作用」を克服していく必要があると主張。その点をどう認識しているか、首相に問うた。首相は「実質GDPはほとんど上がらず、実質賃金は下がりすらしたこともある。突き詰めれば、コストカット型の経済ということだった。これから先は、付加価値をつけて、それにふさわしい対価をきちんと得られ、個人消費が上がっていかない限り、デフレ脱却はあり得ない」と強調した。国民民主党の玉木雄一郎代表は、首相が「倍増する」とした地方創生の交付金の効果を疑問視した。首相は「全く効果を発現しなかったものもある。徹底して検証し、効果的な地方創生に使っていく」と答えた。各党の党首からは、負担減を軸とした政策を掲げる発言が相次いだ。共産の田村氏は中小企業への直接支援を訴えた。立憲の野田氏は、税金控除と現金給付を組み合わせた「給付付き税額控除」(消費税還付制度)の導入を掲げ、「本当に困っている方に的を絞った対策だ」と主張。国民の玉木氏は、賃金上昇が継続するまで「金融緩和と積極財政を続ける」と明言し、ガソリン税に上乗せされている旧暫定税率の廃止も訴えた。一方、こうした施策の裏付けとなる財源や負担について、各党首とも積極的には語らなかった。公明の石井氏は、日本維新の会が公約に掲げる高齢者医療費の負担増について、「後期高齢者の窓口負担が3割になると、急激な負担増になる」と指摘した。維新の馬場伸幸代表は、すべての国民に一定額を支給する「ベーシックインカム」制度の導入を挙げ、「いろんな形で所得補償をしていく」と述べた。れいわ新選組の山本太郎代表は、首相に対して「消費減税に踏み切るべきだ」と迫った。首相は「消費税は景気にほとんど影響されない。社会保障の財源にあてなければいけない」と述べ、消費減税は「今のところ考えていない」と明言した。経済界からも早期導入を求める声が上がる「選択的夫婦別姓制度」についても議題になった。導入の是非を問われた首相は「議論を引き延ばすつもりはない。自民党内できちんと結論を得たい」と述べた。法案を党議拘束を外して採決することには「あまり賛成ではない」と述べた。維新の馬場氏は「戸籍制度をきちんと守っていくことを前提に賛成だ」と、家族同姓制度は維持したうえで、旧姓の通称使用を広げる考えを示した。
●自民非公認候補、推薦の公明「地元の判断」と釈明
 自民派閥の裏金事件を受け、「政治とカネ」の問題にどう向き合うのかも論戦になった。首相の後ろ向きな姿勢を浮き彫りにしようと、党から議員に渡され使途公開の義務がない政策活動費について、国民民主の玉木氏が切り込んだ。「政策活動費を使わない、使う、の方針を示していただきたい」と切り出し、自民党の公約を逆手に取って、こう追及した。「公約には廃止を念頭に見直すという言葉がある。廃止を公約に掲げた選挙で政策活動費を使うのはあまりにも矛盾だ」。これに対し、首相は「政策活動費自体は合法だが、どう見ても違法の疑いがある使い方はしない」と強調し、使途公開にも難色を示した。廃止については「遠い先のことではなく」としつつ、「国会においてもきちんと議論したい」と具体的な時期は示さなかった。煮え切らない首相の答弁に、玉木氏は「使い道を公開しない限り、違法か適法に使ったかはわからない」と、過去に刑事事件になった元自民議員の例を挙げて、首相の姿勢を批判した。政治とカネの問題への姿勢をめぐっては、自民と連立を組む公明にも疑問の目が向けられた。公明は公約で「クリーンな政治の実現」を前面に打ち出しているにもかかわらず、自民が非公認とした裏金問題に関与した2人を推薦。その矛盾を突いたのが、関西の小選挙区で公明党との「すみ分け」を解消し、初めて全面対決する維新の馬場氏だ。推薦した理由を問われた公明の石井氏は「当初は自民が公認しない方については、自民からの推薦の要請がないから、推薦は多分ないとの前提で考えていた」などと説明し、司会者が「発言をまとめてください」と促される場面も。その後の主催者との質疑でも「党本部が『この人はだめだ、あの人はだめだ』と上から命令をするわけではない」と、あくまでも地元の判断だと強調するなど苦しい釈明に追われた。公明が候補を擁立する小選挙区や、比例区での票を積み上げるため、推薦したとの見方がもっぱらだ。与党が防戦に追われる中、追い風に乗り切れない野党の姿も露呈した。政権批判票をまとめるためには、野党の候補者一本化が必要だが、公示日まであと3日と迫っても党同士の協議は進んでいない。それでも立憲の野田氏は「限られた時間だが、最後まで粘り強く、対話のチャンスがある限りはやり続けていきたい」と語るのみ。これに対し、共産の田村氏は、いらだちをのぞかせてこう訴えた。「裏金を暴いて追及の先頭に立ってきたのは共産だ。共産の候補者を降ろすことを前提として、裏金議員との対決というふうに話が進むのはいかがなものか」


<被爆者の定義>
*2-1:https://nordot.app/1210406327982293009 (長崎新聞 2024/9/22) 「新たな救済策」で何変わる? 長崎の被爆体験者…手当など被爆者と大きな格差 広島との分断も
 長崎原爆の爆心地から半径12キロの同じ円内であっても、原爆投下時に国が定める地域の中にいれば「被爆者」、外にいた場合は「被爆体験者」と分けられている。根本的な違いは、国が「原爆放射線による健康被害」を認めるかどうか。被爆者には認める一方、体験者については否定し、被爆体験に起因する「精神的疾患」だけを認める形だ。このため救済策に大きな格差がある。被爆者には被爆者健康手帳が交付され、ほぼ全ての医療費が公費で負担される。状況に応じて健康管理手当(月3万6900円)や介護手当、葬祭料など各種手当も受けられる。一方で、体験者は2002年度開始の支援事業により、精神科受診を前提に、精神疾患やその合併症(がん7種が昨年度追加)の医療費支給にとどまる。手当は一切ない。こうした被爆者との差に加え、体験者は原爆由来の「黒い雨」を巡る広島との分断にも直面。長崎で原爆投下後の黒い雨や灰などに遭った体験者も多いが、黒い雨被害者を被爆者と認める国の基準は広島だけに適用され、長崎は対象外だ。岸田文雄首相が今回示した救済策によって体験者も精神科受診が不要となり、医療費助成の対象疾病が被爆者とほぼ同じになる。一方で手当はないままだ。被爆80年近くがたち、全国の被爆者は約10万7千人で、最も多い37万人台(1980年代)から3割弱に減った。これに伴い国の被爆者援護費も減少。当初予算ベースで2023年度は約1188億円と、ピーク時の01年度から約470億円減った。一方、県内の被爆体験者(第2種健康診断受診者証所持者)は今年7月末現在で5111人。体験者への医療費助成については、23~25年度予算の概算要求で毎年12億円程度となっている。

*2-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1327282 (佐賀新聞 2024/9/26) 「被爆体験者」救済策 これが「合理的解決」か
 国が指定した援護区域外で長崎原爆に遭ったため、被爆者と認められない「被爆体験者」の救済策を岸田文雄首相が自ら発表した。年内に全ての体験者を対象に医療費助成を拡充し、被爆者と同等にするという。現状より前進ではあるが医療費に限った措置であり、各種手当も支給される被爆者との格差は依然として大きい。そもそも体験者の願いは、戦争の「特殊の被害」(被爆者援護法)を受けた被爆者認定そのものであることを忘れてはならない。首相は同時に、体験者の一部を被爆者と認めた長崎地裁判決を不服として控訴する方針も表明、期限の24日に実行された。首相は「長崎原爆の日」の8月9日、現地で体験者と初めて面会し「合理的に解決するよう指示する」と明言した。これが「合理的解決」なのか。程遠い。救済策、訴訟対応ともに体験者側の反発は強く、法廷闘争はこれからも続く。国が被爆者認定の在り方を根本から見直す以外に、解決への道筋はないことを知るべきだ。被爆体験者に対する現行の医療費助成は、精神疾患とその合併症や、胃がんなど7種類のがんに対象を限定。しかも申請時や毎年1回、精神科を受診することが必要だ。救済策では、対象疾病の制限や精神科の受診要件を撤廃する。その点では被爆者並みとなるが、放射線に起因する疾病に罹患(りかん)していることなどを条件に、被爆者に支給される各種手当は対象外のままだ。これは国が、被爆体験者には精神的な悩みは認められるが、被爆者と違って放射線の影響はないとの立場を堅持しているからだ。その姿勢を改めて鮮明にしたと言え、体験者側の反発も当然だ。これでは、広島高裁が3年前、援護区域外で「黒い雨」を浴びた84人全員を被爆者と認め、国がこの司法判断を受け入れて、新基準に基づく被爆者認定を進めている広島との格差は残り続ける。この差は、長崎には客観的な降雨記録がないためとされていたが、長崎地裁判決は長崎市の証言調査の結果などを根拠に、一部ではあるが援護区域外に「黒い雨」が降ったと判断、そこで原爆に遭った原告15人に限って被爆者と認めた。長崎の援護区域は、爆心地から南北約12キロ、東西約7キロの極めていびつな形だ。爆心地から遠くにいた人が被爆者認定され、より近くにいた人が体験者にとどめられたという例も少なくない。もともとの国の区域指定に問題があると言わざるを得ない。長崎では、1957年に旧長崎市全域を中心に被爆地域が指定された。その後、周囲に特例区域が追加され、全体として援護区域は広がったが、こうした線引きは旧行政区画に沿って行われた。原爆由来の放射性物質の影響が、行政区画通りに広がるはずがなく、不合理であることは明らかだ。国は画一的に線引きするのではなく、援護区域外にいた人の証言や当時の状況を、これまでの調査結果などと突き合わせて精査し、個別に判断すべきだ。長崎県によると、体験者は約6300人に上り、平均年齢は85歳を超える。長崎訴訟の原告44人のうち4人は判決を聞くことなく亡くなった。時間がない。体験者に「国に見捨てられた」と感じさせてはならない。

*2-3:https://www.min-iren.gr.jp/?p=45956 (全日本民医連 2022年7月29日) 被爆体験者ってなに?
 長崎には“被爆体験者”という聞き慣れない言葉がある。原爆の熱線や黒い雨を浴びながら、行政区分の線引きで被爆者と認定されない人たち。放射能の影響ではなく、原爆体験のストレスで病気になったというのだ。「被爆体験者の“体験”って、いったいなに?」と話すのは長崎市香焼町の津村はるみさん(76歳)。1945年8月9日の原爆投下、生後19日の津村さんは布団ごと吹き飛ばされた。庭で洗濯物を干していた曾祖母は熱線を浴び、背中が真っ赤になった。母は乳がんや子宮がんを患い、津村さん自身も50歳の時に甲状腺がんを手術。「少しでも体調が悪いと、がんではないかと不安になる」と言う。長崎の被爆地は当初、旧長崎市と隣接する村の一部だった(図のピンク)。2度にわたって範囲が広がったが(青と緑)、国が市町村の境界線に沿って線引きしたため、爆心地から南北12km、東西約5~7kmの楕円形だ。図の黄色部分は爆心地から半径12km圏内だが被爆地ではない。ここで被爆した人は「被爆者」ではなく「被爆体験者」と呼ばれる。被爆者には「被爆者健康手帳」が交付され、健康管理手当の支給に加え医療費の自己負担はない。一方、被爆体験者に交付されるのは「被爆体験者精神医療受給者証」で、受給者証には「被爆体験の不安が原因で」病気になったと書いてある。放射能の影響をできるだけ狭い範囲に限定したい政府の意向で、こんなおかしな仕組みができた。被爆体験者は精神疾患に伴う合併症のみ自己負担はないが、放射能の影響が考えられるがんなどは対象外。例えば「睡眠障害」で「胃潰瘍」なら自己負担はないが、「胃がん」になった途端、医療費助成が打ち切られる矛盾した制度だ。津村さんは爆心地から南へ約9・7kmの旧香焼村で被爆したが、被爆地ではないため被爆体験者。「受給者証をもらうためには精神科の受診が必要だが、抵抗がある。そもそも私たちは精神病なのか。どうして被爆者と認めてくれんとかな」。
●こんなこと許されるか
 爆心地から半径12km圏内で被爆した全ての人を被爆者として認めてほしいー。「長崎被爆地域拡大協議会」(以下、協議会)は2001年から、長崎民医連や長崎健康友の会と協力して、国や県、市に要望してきた。長崎民医連は12~13年、被爆体験者194人を調査、約6割に下痢、脱毛、紫斑など放射線による急性障害があった。県連事務局次長の松延栄治さんは「被爆者の認定指針をはじめ、国の被爆者援護行政全般が予算の枠ありきで物事を決めている。これは社会保障政策も同様で根本的に間違っている」と指摘する。同じ被爆地でも、広島に被爆体験者はいない。広島高裁は昨年7月、広島で放射性物質を含む黒い雨を浴びた原告84人全員を被爆者と認める判決を出した。原告には爆心地から30km圏内の人もいた。厚労省は判決を受け被爆者認定指針を見直す方針だが、長崎の被爆体験者は対象外とした。協議会副会長の池山道夫さん(80歳)は長崎健康友の会副会長も務める。「広島も長崎も同じ原爆。何が違うのか。こんなことが法治国家として許されるのか」と怒る。協議会は高裁判決を踏まえ、12km圏外の原爆被害の実態調査を始めることを決めた。
●梅干みたいな太陽
 長崎市平間町の鶴武さん(85歳)は、爆心地から東へ7・3kmの旧矢上村で被爆。同じ村内の隣の集落は被爆地だが、山の尾根の反対側に当たる鶴さんの集落は認められなかった。「祭りも運動会も一緒にやってきた。なぜ分断されるのか」と言う。8月9日、爆風で舞い上がったすすで空が暗くなり、当時8歳の鶴さんは肉眼で太陽を見た。「梅干みたいに赤黒かった」。父は54歳、姉は27歳、弟は42歳で亡くなり、鶴さん自身も脳梗塞や胃潰瘍で入院した。「緑の手帳ばもらっているが、ピンクをもらえれば人として安心する。※ 広島は認めて、なぜ長崎は認めないのか、不思議か。私たちには先がない。生きているうちに原爆手帳を」と訴える。
●「壁を突破したい」
 協議会会長の峰松巳さんは95歳。長崎市深堀町に一人で暮らしている。「高齢化で子どもを頼って引っ越す会員も増えているが、県外に移住すると受給者証は返還しなければならない。こんな酷い制度を変えるために活動している」と語る。峰さんの11人の兄弟姉妹のうち、4人は幼くして早逝。その後も白血病や肺炎で3人が亡くなったが、誰も被爆者とは認められなかった。「放射能の影響を小さく見せたい米国の意向で、日本政府は被爆地域を狭く限定している」と憤る。協議会の山本誠一事務局長(86歳)は、原爆で一緒に吹き飛ばされ9歳で亡くなった友人が忘れられない。この友人は原爆投下から下痢が続き、60日後に突然亡くなった。一緒に運動してきた仲間が、受給者証を交付された半年後にがんになり「手帳は使えない」と無念のうちに亡くなったことも。「何度打ち砕かれても、多くの人の支えで運動を続けてきた。民医連や友の会をはじめ、皆さんと一緒に壁を突破したい」と山本さん。4年前に心筋梗塞の手術をし、3本のステントが体内に残る。「まだ、死ぬわけにはいかないのです」。
※被爆者に交付される被爆者健康手帳の表紙はピンク色、被爆体験者精神医療受給者証は緑色

<衆院選と原発・エネルギー政策>
*3-1-1:https://news.yahoo.co.jp/articles/224cf2459efb29b2e698decc9df4c9aa11c37c8f (Yahoo、毎日新聞 2024/10/23) 議論深まらぬ原発政策 原発立地でも「選挙戦では触れもしない」
 3年前の前回衆院選から原発政策は大きく変わった。岸田前政権は次世代型原発へのリプレース(建て替え)や、最長60年としてきた既存原発の運転期間の延長を認めるなど、十分な議論がないまま、福島の事故を受けて進めてきた「脱・原発依存」から大きくかじを切った。なし崩しで進む原発回帰だが、今回の衆院選でも議論は低調なままだ。「原発の20年延長の話は、もう夏前には終わった感じ。衆院選では話題になっていない気がする」。九州電力川内原発が立地する鹿児島県薩摩川内市で飲食店を経営する40代女性は振り返る。川内原発では、1号機は7月に原則40年とされる運転期間を超え、国内で4基目となる最長20年の延長期間に入った。2025年11月には2号機も40年を超える。運転延長を巡っては、20年の知事選で「安全性の検証」を訴えた塩田康一氏が初当選。22年に九電が原子力規制委員会に運転延長を申請すると、23年10月には市民団体が約4万6000人の署名を集め運転延長の是非を問う県民投票条例制定を求める直接請求をするなど議論の盛り上がりを見せた。だが、県議会は条例案を否決。同年11月には原子力規制委が延長を認可し、翌12月には、薩摩川内市の田中良二市長や塩田氏が相次いで容認した。今年7月の知事選では、原発について目立った議論が交わされることなく、産業振興などを訴えた塩田氏が延長反対を掲げた新人に大差を付けて再選。今月20日には薩摩川内市長選が告示されたが、田中氏以外の立候補はなく、あっけなく無投票再選が決まった。衆院選では、原発の利用について、自民党、日本維新の会、国民民主党などが推進の立場なのに対し、共産党、れいわ新選組は脱原発を掲げる。立憲民主党は、公約では触れていないが党綱領に原発ゼロを明記する。だが、薩摩川内市を含む鹿児島3区から立候補する、自民と立憲の候補者は発言内容は違えど、いずれも運転延長に容認の立場で、大きな争点となっていない。市民団体「川内原発建設反対連絡協議会」の鳥原良子会長は「立地する地元では、原発関連の仕事に就いている人も多く、争点にしたくないだろうけど、選挙でしっかり考えを示すべきだ」と注文する。福島の事故後、玄海原発(佐賀県玄海町)の2基を含め原発4基が再稼働している九州電力管内は、全国でも電気料金が低く抑えられている。ただ、原発賛成の立場を取る市民からも「安全性について『わかりにくい』『不安だ』という声はある。市民に理解してもらうよう説明してほしい」との声が上がる。一方、原発利用とセットで語る必要がある「核燃料サイクル」も、実現が見通せないままだ。原発から出る使用済み核燃料を再処理し、核燃料として再び原発で使う計画だが、青森県六ケ所村に建設中の再処理工場ではトラブルが続き、1997年の完成予定だったのが27回も延期されている。再処理工場が稼働できたとしても、再処理の過程で出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)を地下に「地層処分」する最終処分場建設のメドも立たない。最終処分場に絡んでは5月、玄海町が原発立地自治体として初めて、選定調査の第1段階である「文献調査」受け入れを表明。脇山伸太郎町長は「国民的議論の喚起」を求めた。だが、安全性や風評被害への懸念は強く、どの自治体も簡単に手を挙げられないのが現状だ。選定を進める原子力発電環境整備機構(NUMO)が02年に公募を始めたが、調査を受け入れたのは北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村、玄海町の3自治体にすぎない。国内で原発が稼働して半世紀超。使用済み核燃料は各地にたまっており、原発利用の賛成、反対を問わず最終処分場整備は避けては通れない問題だ。だが、脇山氏の願いとは裏腹に、県内の選挙区でも議論は深まっているとは言い難い。玄海町の調査受け入れに積極的に関わった町議会原子力対策特別委員会の岩下孝嗣委員長は「選挙戦では政治資金の話ばかりで原発政策には触れもしない。(放射性廃棄物の処理など)『バックエンド対策』はまだ国民全体がよそ事のような感じだ。エネルギー安全保障など、本来国にとって大事な政策をもっと訴えてほしい」と求めた。

*3-1-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/348660 (東京新聞 2024年8月21日) 原発コストは太陽光発電の何倍?アメリカの最新試算でわかった驚きの数字 次期基本計画でどうする日本政府
 原子力発電のコストが上昇している。米国の最新の試算では、既に陸上風力や太陽光より高く、海外では採算を理由にした廃炉も出ている。日本政府の試算でもコストは上昇傾向だ。年度内にも予定されるエネルギー基本計画(エネ基)の改定で、原発を活用する方針が盛り込まれれば、国民負担が増えると指摘する専門家もいる。
岸田文雄首相(資料写真)
◆岸田政権は「原発を最大限活用」
 政府は福島第1原発事故後、エネ基で原発の依存度を「可能な限り低減」する方針を掲げてきた。しかし岸田文雄政権発足以降、2023年のGX基本方針などで「原発を最大限活用」と転換。エネルギー安全保障や二酸化炭素の排出抑制を回帰の理由に掲げるが、事故の危険性に加え、コスト高騰のリスクもはらむ。米国では23年、民間投資会社ラザードが発電所新設時の電源別コスト「均等化発電原価(LCOE)」を発表。原発のコストの平均値は、陸上風力や太陽光発電の平均の3倍以上だった。経年比較でも原発のコストは上がり続け、14年以降、太陽光や陸上風力より高くなった。均等化発電原価 発電所を新設した場合のコストを電源種類別に比較する指標。建設、設備の維持管理、燃料購入にかかる費用を発電量で割って算出する。日本では、1キロワット時の電力量を作るのに必要な金額で比較することが多い。経済協力開発機構(OECD)や国際エネルギー機関(IEA)の国際的指標として使われる。単純なコストだけでなく、補助金など政策に関連する費用を含めて算出する場合もある。国内では、経済産業省の作業部会がLCOEを計算。21年の調査では30年新設の想定で、原発のコストは1キロワット時あたり最低で11.7円。前回15年、前々回11年を上回った。一方、陸上風力や太陽光のコストは21年でみると、原発とほぼ変わらなかった。
◆専門家「再稼働でも再エネ新設と同程度」
 東北大の明日香寿川(あすか・じゅせん)教授(環境政策論)は、「原発の建設費用は1基あたり1兆~2兆円」と説明。コスト上昇の要因として、事故対策費用がかかる上、量産が難しいことを挙げる。「最近の原発は事故対策を強化した新型炉が中心で、技術が継承されておらず、高くつく。太陽光と風力は大量生産で安くなったが、この効果が原発では働きにくい」と指摘する。経産省はエネ基の改定に合わせ、年内にも最新のLCOEを発表する見通し。明日香氏は「今年は21年と比べ、原発新設のコストが上がるのが自然。再稼働でも再エネ新設と同程度という調査もある。政府は原発の活用を進める上で、はっきり『安いから』とは言わないだろう」とみる。
◆原発活用でも「電気代下がるとは考えにくい」
 海外でも日本と同様に、原発推進にかじを切る国は増えている。しかし、原子力資料情報室の松久保肇事務局長は「近年はコスト高で原発の廃炉や計画断念、建設遅延が相次いでいる」と指摘。実際に国内の原子力研究者らでつくる研究会のまとめでは、米国で11年以降、13基が経済的な理由で閉鎖された。松久保氏は「国内も、原発の活用で電気代が下がり、国民の負担軽減になるとは考えにくい」と話している。

*3-1-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/360944 (東京新聞 2024年10月18日) 「原発も対象」巨額の新補助金、詳細なぜ「黒塗り」…集めた電気料金も原資 島根3号機に年700億円試算も
 二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス排出を減らす発電所の改修や新設を対象に、発電会社が補助金を受け取れる国の制度が今年から始まった。補助金の原資には市民が払う電気料金も含まれる。しかし発電会社への補助額など内訳は開示されず、原発を含めた電源への資金の流れは把握できないようになっている。
◆23社の52電源に総額4102億円が
 この制度は「長期脱炭素電源オークション」。1月に入札が行われた。発電会社は施設などの維持費を積算し、経済産業省が所管する電力広域的運営推進機関(OCCTO)の入札に応じる。落札できた場合、維持費に相当する補助金を受け取れる。補助額は各社の落札価格が基になる。OCCTOによると、初年度の2023年度の募集は最大1000万キロワットで、23社計52電源が総額4102億円で落札した。水力発電やバイオマス発電、蓄電池のほか、原発では唯一、中国電力の島根3号機(131万キロワット)が含まれる。
◆価格の情報公開請求には「非開示」
 個々の落札価格や受取期間は公表されていない。東京新聞は個別の落札価格などについてOCCTOに情報公開請求をしたところ、「非開示」となった。「事業者の経営方針や事業活動の情報と考えられ、公表対象ではない」とした。制度を設計した経産省資源エネルギー庁への情報公開請求では、文書不存在を理由に「不開示」だった。同庁の担当者は「必要な時が来たら(OCCTOに)情報提供を求めるが、現時点では作成も取得もしていない」とする。原発を対象に補助金を受ける中国電力にも尋ねたが「経営戦略上、回答を控える」とした。
◆支払いを拒めないのに負担させられる
 初回の2023年度は新設や建て替えに補助対象が絞られたが、今月手続きが始まった2024年度からは「新規制基準への安全対策工事が必要な原発」も対象となる。龍谷大の大島堅一教授(環境経済学)は「発電会社への新たな補助制度で、支払いを拒めない税金のようなものを市民は負担させられる。どの電源に、どれだけの期間、いくら支払わされるのかが分かるよう公開するのが当然だ」と語る。NPO法人「情報公開クリアリングハウス」の三木由希子理事長は「落札価格が公表されなければ、応札価格が低い順から落札するという基本ルールが機能しているのかさえチェックできない」とも指摘。この懸念について、エネ庁の担当者は「OCCTOを信頼するしかない」と話した。長期脱炭素電源オークション 発電した電気(キロワット時)を売買する卸電力市場に対し、発電能力(キロワット)を取引する容量市場の一つ。再生可能エネルギー拡大の影響で、卸電力市場での電気価格が低下し、大手発電会社が保有する大規模電源の投資回収見込みが不確実になったことが導入の背景にある。発電会社が電源維持のために必要な金額をキロワット単価で応札し、低い順から落札。2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出実質ゼロ)実現に向け、毎年400万〜600万キロワットを調達し、化石燃料から脱炭素電源への移行を目指す。ただ初回は将来の脱炭素化を条件にLNG火力も参加した。
  ◇
◆落札すると人件費など20年間保証
 脱炭素電源の発電会社を対象とする補助金で、個別の落札価格などが公表されておらず各社が得る金額は不明だ。国は原発も脱炭素電源に含めるが、落札した52電源で落札容量が最大の中国電力島根原発3号機はどれだけの補助金を得るのか。NPO法人「原子力資料情報室」が公開情報で試算すると、年間700億円を超えた。この制度では、発電会社はまず年間の固定費(建設費や人件費など)に当たる金額をキロワット単価で応札する。落札すると、固定費分が収益の一部として原則20年間保証される。ただ実際の売電収入と合わせると収益の二重取りとなるため、売電後の利益の9割を還付する。
◆「国民の理解が得られるとは到底…」
 同NPOは今回、公表されている落札総額を落札総容量で割り、1キロワット当たりの平均落札価格を5万8254円と計算。これに同原発の容量を乗じ、766億円とはじいた。補助金を受け取れる「制度適用期間」も非公表のため、原則通り20年だと計1.5兆円。OCCTOによると、落札電源の3分の1が20年を超える受け取り期間に設定している。ここから還付金が発生するが、補助が巨額なのは変わりない。同NPOの松久保肇事務局長は「ほとんど知らされることなく、極めて複雑かつ不透明な制度の下で負担を強いられることに、国民の理解が得られたとは到底考えられない」と指摘する。

*3-1-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241028&ng=DGKKZO84404960Y4A021C2EAF000 (日経新聞 2024.10.28) 自民独占 8県どまり 小選挙区、前回より6県減、新潟・佐賀は立民が独占
 自民党は27日に投開票した衆院選の小選挙区で、山形、群馬、熊本など8県の議席を独占した。前回2021年衆院選の14県から6県減らした。自民党派閥の政治資金問題などが影響した。立憲民主党が新潟、佐賀両県、日本維新の会が大阪府のすべての小選挙区を制した。自民が独占したのは、山形、群馬、富山、鳥取、山口、徳島、高知、熊本の8県。徳島、熊本両県は今衆院選で新たに加わった。独占が崩れたのは、青森、石川、福井、山梨、岐阜、滋賀、島根、愛媛の8県だ。滋賀県は維新、そのほかの選挙区はすべて立民が議席を奪った。岐阜4区では立民の元職、今井雅人氏が自民前職を破った。福井2区は政治資金収支報告書に不記載があり、自民から公認されずに無所属で出た高木毅元復興相が落選した。滋賀1区は前原誠司元外相とともに国民民主党を離党した後、教育無償化を実現する会を経て維新に移った斎藤アレックス氏が議席を得た。島根1区は細田博之元衆院議長の死去に伴う24年4月の補欠選挙で当選した立民前職の亀井亜紀子氏が議席を維持した。和歌山1区は自民新人、山本大地氏が競り勝った。23年補選では維新の林佑美氏が当選していた。2区は今回無所属で出馬した旧安倍派「5人衆」のひとりで、参院からくら替えした世耕弘成元経済産業相が議席をとった。党が追加公認をすれば和歌山県も自民の独占県になる。立民は新潟県5小選挙区すべてで前職と元職が議席を得た。同県2区では政治資金問題を巡り自民から公認を得られず無所属で出馬した細田健一氏が議席を逃した。佐賀県も前回衆院選に引き続き立民がすべての議席を独占した。維新は大阪の全19選挙区で勝利した。維新は21年衆院選まで公明党が議席を持ってきた大阪府と兵庫県の6選挙区で初めて候補者を立てた。大阪府の4選挙区はすべて維新、兵庫県の2選挙区は公明が議席を獲得した。維新はこれまでの党の看板政策である「大阪都構想」への協力を得るため公明現職のいる小選挙区への擁立を見送ってきた経緯がある。23年4月の統一地方選で大阪府議会に加え、大阪市議会でも過半数を獲得し、候補者の擁立に踏み切った。

*3-1-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241029&ng=DGKKZO84423330Y4A021C2EP0000 (日経新聞 2024.10.29) 経団連「政策本位の政治期待」 自公中心、安定訴え
 経団連は28日、自民党と公明党の与党が過半数を割った衆院選の結果について十倉雅和会長の談話を発表した。「自民党・公明党を中心とする安定的な政治の態勢を構築し、政策本位の政治が進められることを強く期待する」と訴えた。与党の敗因に関して「政治資金を巡る問題に国民が厳しい判断を下した」との認識を示した。「待ったなしの様々な重要課題に直面している」と主張し、成長と分配の好循環や原子力の最大限活用、賃上げへの環境整備などに迅速に取り組むよう求めた。日本商工会議所の小林健会頭は談話で「連立与党の枠組みがいかなるものであれ、デフレ経済からの完全脱却などに不退転の決意で臨むべきだ」と唱えた。経済同友会の新浪剛史代表幹事は「与野党問わず現実を直視した上でしっかりと議論を尽くし、必要な政策を前に進めてほしい」と要求した。業界団体では日本鉄鋼連盟の今井正会長(日本製鉄社長)が「安全を大前提とした新設・リプレース(建て替え)を含めた原子力の活用を強く期待する」とのコメントを発表した。石破茂首相は連立政権の枠組みの拡大など野党の協力を引き出す道を探る。自民党内で連携を模索する声がある日本維新の会や国民民主党は衆院選で消費税の減税を提起した。経団連の十倉氏は22日の記者会見で「暮らしをよくするために消費税を下げるというのはやや安直な議論ではないか」と批判した。

*3-1-6:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241029/k10014622291000.html (NHK 2024年10月29日) 宮城 女川原発2号機が再稼働 福島第一原発と同タイプで初
 東北電力は29日夜、宮城県にある女川原子力発電所2号機の原子炉を起動し、東日本大震災で停止して以来、13年半余りを経て再稼働させました。事故を起こした東京電力福島第一原発と同じタイプの原発で、このタイプでは初めての再稼働となり、被災地の原発が再稼働したのも初めてです。東北電力女川原発2号機は、13年前の巨大地震と津波により外部電源の多くが失われ、地下の設備が浸水するなどの被害が出ましたが、その後、防潮堤を海抜29メートルの高さにかさ上げするなどの安全対策を講じて、2020年に原子力規制委員会による再稼働の前提となる審査に合格しました。その後、安全対策の工事や国の検査などが終わったことを受けて再稼働することになり、女川原発2号機の中央制御室では、29日夜7時に、東北電力の運転員が核分裂反応を抑える制御棒を引き抜く操作を行い、原子炉を起動させました。東北電力によりますと、作業が順調に進めば夜遅くにかけて原子炉で核分裂反応が連続する臨界状態になり、11月上旬には発電を開始する見通しだということです。女川原発2号機は、事故を起こした東京電力福島第一原発と同じBWR=「沸騰水型」と呼ばれるタイプで、このタイプの原発では東日本大震災のあと初めての再稼働となり、被災地の原発が再稼働したのも初めてです。また、国内でこれまでに再稼働した12基の原発はすべて西日本に立地していて、東日本にある原発の再稼働は初めてです。政府は、脱炭素社会の実現やエネルギーの安定供給に向け原発を最大限に活用する方針で、12月には同じ「沸騰水型」の中国電力島根原発2号機の再稼働が計画されています。また、電力各社は、新潟県にある東京電力の柏崎刈羽原発や、茨城県にある日本原子力発電の東海第二原発など東日本を含む各地の原発についても、今後地元の理解を得た上で再稼働することを目指しています。
●女川町長 “緊張感と責任感持って慎重に対応を”
 女川原発が立地する自治体のひとつ、女川町の須田善明町長は「原子炉の起動は一番の大きな山とは言えるが、送電接続をもって再稼働であり、プロセス全体の安全面の確認が完了するまで状況を注視していく。東北電力に対しては営業運転の段階までしっかりと工程を進め、作業では点検などを着実に実施し、安全上の不備がないよう緊張感と責任感を持って慎重に対応するよう求めている。引き続き進捗状況などの分かりやすい情報提供や、現在の枠組みにとどまることのない継続的な安全性向上を求める」とするコメントを発表しました。
●宮城県知事 “安全最優先で作業を”
 女川原発2号機が再稼働することについて、宮城県の村井知事は午前中に開かれた定例の記者会見で「東北電力は安全最優先で作業を進めてほしい。少しでも異常があった場合にはためらうことなく作業を止めて、県民に積極的に情報公開をしてほしい」と述べました。そして、「事故後被災した原子炉としては初めての再稼働で、他の原発と違って非常に注目度が高いと思っている。私もこの前、視察をしてきたが、本当にここまでやるのかと驚くほどの対応をしていた。安全度は極めて高まったと思っているが、なお油断することなくしっかり対応していただきたい」と述べました。その上で事故が起きた場合に備えてまとめた住民の避難計画については「いざというときに計画のとおり住民が動いてくれるのか、動作がちゃんとするのか。訓練をしながら常にブラッシュアップし、見直しを進めていくことが重要だと思っている」述べました。
●13年前の被害とその後の対策
 女川原発2号機は、東日本大震災の際に、敷地内で震度6弱の揺れが観測され、約13メートルの津波が押し寄せました。周辺環境に放射性物質が漏れることはありませんでしたが、原発に電気を送り込む外部電源の多くが鉄塔の倒壊などで失われたほか、敷地の下の港にあった重油タンクが倒壊したり、「熱交換器」と呼ばれる設備がある地下室が浸水したりするなどの被害が出ました。このため、東北電力は再稼働に向けて、2013年から地震や津波などの際の事故に備えた安全対策工事を進めてきました。具体的には、想定される最大クラスの津波に備えて、防潮堤の高さを海抜29メートルにかさ上げしたほか、地震による被害を抑えるための原子炉建屋内にある配管や天井などの耐震補強を行いました。さらに、事故が起きても、原子炉を7日間冷やし続けられる量に当たるおよそ1万トンの水をためられる貯水槽の設置や、ケーブルを入れる管を燃えにくい素材で覆う工事など、さまざまな面で安全対策を講じてきたということです。こうした対策で、東北電力は13年前のレベルの地震や津波にも耐えられるとしています。安全対策工事をめぐっては、東北電力は当初、完了時期を2016年3月と発表していましたが、追加工事などを理由にその後7回の見直しが行われ、ことし5月下旬にようやく完了に至りました。震災後の安全対策工事にかかった費用は、約5700億円にのぼるということです。また、テロなどに備えるための「特定重大事故等対処施設」は、再稼働に必要な原発の工事計画の認可から5年以内の設置が義務づけられていて、期限となる再来年12月までに、約1400億円かけて建設する予定だということです。
●再稼働で600億円程度のコスト削減か
 東北電力によりますと、82万5000キロワットの出力がある女川原発2号機が発電を再開することで、年間で一般家庭の約162万世帯分の電気を賄うと試算されています。東北電力が供給する電力量の構成は、火力発電が67%を占めていますが、今回の再稼働で火力発電所で使っていた燃料費の削減につながり、来年度は、今年度の燃料価格に基づく試算で600億円程度のコストが抑えられる見通しだということです。ただ、東北電力では再稼働に伴って電気料金の値下げをするかについては慎重な姿勢を示しています。昨年度、最終的な利益が2261億円と過去最高となりましたが、その前年度までの2年間はロシアによるウクライナへの侵攻で、天然ガスなどの燃料価格が高止まりしたことなどから赤字となり、自己資本比率が低い水準が続いています。このため東北電力は悪化した財務基盤の立て直しが必要だとしていて、経営の効率化の進捗などを総合的に判断したうえで、電気料金が値下げできるか検討するとしています。
●武藤経産相「大きな節目になる」
 女川原発2号機が再稼働することについて、武藤経済産業大臣は29日午前、「大きな節目になる」と述べました。11月上旬には発電を開始する見通しについては、「東日本における電力供給構造のぜい弱性や電気料金の東西格差、経済成長機会の確保という観点からも、再稼働の重要性は極めて大きい。東日本としては震災後、初めての原子炉起動で大きな節目になり、安全最優先で緊張感をもって対応してほしい」と述べました。そのうえで、新潟県にある柏崎刈羽原発の再稼働については、「地元の不安の声や地域振興の要望を踏まえながら、再稼働への理解が進むよう政府をあげて取り組んでいきたい」と述べました。
●再稼働の背景
 脱炭素社会の実現やエネルギーの安定供給に向け、政府は原子力発電を最大限に活用する方針で、安全性の確保を前提に地元の理解を得た上で、東日本大震災のあとに運転を停止している原発の再稼働を進めていくことにしています。再稼働の背景にあるのは、1つは日本の化石燃料への依存です。国内の電力供給は約7割が火力発電に依存していて、ロシアによるウクライナ侵攻でエネルギー価格が高騰し、サプライチェーンの混乱によって供給不安の問題も出ました。政府としては、原発の活用で化石燃料への依存度を下げ、エネルギーの安定供給につなげたい考えです。もう1つは、2050年に温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする目標を掲げる中で、脱炭素電源を増やしていく必要があるためです。今後、国内でも電力需要が増加していく可能性も指摘されています。生成AIの普及が急速に進む中で、不可欠なデータセンターや、半導体の製造工場などの建設が拡大するとみられ、こうした施設は大量の電力を消費します。全国の電力需給を調整しているオクト=電力広域的運営推進機関によりますと、東日本大震災後、省エネや節電の進展などを背景に、全国の電力需要は減少傾向にありました。しかし今後、電力需要は上昇に転じ、9年後の2033年度にはデータセンターなどの新増設によって約537万キロワットの需要が増える見込みだとしていて、政府はこうした需要に応えるためにも、原発の再稼働を進めていく必要があるとしています。
●使用済み核燃料 4年程度で満杯に
 原発の運転で出る使用済み核燃料は、青森県六ヶ所村にある再処理工場に運ばれる計画となっていますが、完成時期が遅れているため、全国の原発に留め置かれた状態が続いています。用済み核燃料は、原発の建屋の中にある燃料プールで一時的に保管されていますが、東北電力によりますと、女川原発2号機ではすでに燃料プールの管理容量の79%に達していて、再稼働に伴って今後4年程度で満杯になる見通しです。このため、東北電力は使用済み核燃料を女川原発から搬出するまでの間、金属製の容器に入れて保管する乾式貯蔵施設を敷地内に設置し、2028年3月に運用を開始する計画です。ただ、原発の立地自治体からは、再処理工場の完成が遅れる中で、施設内に長期間にわたって使用済み核燃料が留め置かれるのではないかという懸念も出ています。
●原子力規制委も態勢強化
 国内で初めて「BWR」=「沸騰水型」の原発が再稼働するのにあわせて、検査を行って運転を監視する原子力規制委員会も、態勢を強化しています。これまで再稼働してきた「PWR」=「加圧水型」とは内部の設備が異なるほか、運転操作にも異なる部分があるため、検査官には、検査や運転の監視にあたってそれぞれのタイプに合わせた対応が求められるということです。検査官の中には「BWR」の検査に携わった経験のない職員もいて、原子力規制委員会では、検査官に改めて知識を確認してもらおうと、研修を増やして態勢を強化しています。2023年秋以降、原発の中央制御室を模したシミュレーターを使って、トラブルが起きやすい起動の手順を確認する研修をこれまで9回開催し、約30人の検査官が受講したということです。原子力安全人材育成センター原子炉技術研修課の白井充課長は「BWRとPWRはシステムの構成や動きが異なるため、検査官がそれぞれに対応できるようにしている。起動やトラブル対応などを重点的に学習してもらった」と話していました。
●「PWR」と「BWR」 全国の稼働状況は
 東京電力福島第一原発の事故のあと新たに作られた規制基準の審査に合格し再稼働したのは、女川原発2号機で13基目です。国内には33基の原発がありますが、これまでに再稼働した12基はいずれも西日本に立地しているほか、事故を起こした福島第一原発とは異なる「PWR」=「加圧水型」と呼ばれるタイプでした。一方、福島第一原発と同じ「BWR」=「沸騰水型」と呼ばれるタイプは国内に17基あり、東北電力や東京電力など東日本にある原発の多くがこのタイプですが、再稼働したのは女川原発2号機が初めてです。女川原発以外では、柏崎刈羽原発6号機と7号機、東海第二原発、島根原発2号機がすでに新しい規制基準の審査に合格していて、このうち島根原発2号機は12月に再稼働する計画となっています。ただ、柏崎刈羽原発は地元の了解が得られておらず、東海第二原発は避難計画の策定などが課題となっていて、「BWR」の再稼働がどこまで進むかは見通せない状況です。
●専門家に聞く「PWR」「BWR」の ”違い”
 「PWR」と「BWR」。なぜこうした違いが生じているのか。経緯や安全性について、原子力規制庁の元幹部で長岡技術科学大学の山形浩史教授に聞きました。
Q.「BWR」と「PWR」は安全性に違いはあると考えていますか。
 『BWR』は、原子炉を覆っている格納容器が『PWR』に比べて小さいという特徴があります。福島第一原発の事故では、炉心が溶けるという、設計では考えていなかったような事態が起こりました。小さい格納容器では余裕がなくて、事故で発生した蒸気の圧力に耐えられなくなって、蒸気と一緒に放射性物質が放出されました。福島第一原発の事故以前の対策では、炉心が溶けるというような事態を考えた場合には、格納容器が小さい『BWR』は不利であったということになります
Q.福島第一原発の事故後に行われてきた対策について、どのように考えていますか。
 事故で発生した蒸気の圧力に耐えられなくなりそうになったら、弁を開けて蒸気を放出させるという対策を新しく要求しています。ただし、そのまま放出すると蒸気と一緒に放射性物質が放出されてしまいますので、水などに放射性物質を吸着させます。こうした対策を『BWR』には特別に要求をしています。ですから、新しい規制基準を満足していれば、『PWR』と同等、またはそれに近いレベルまで安全性を高められたということになります
Q.世界では「PWR」が主流、国内では「BWR」と「PWR」が半々となっています。「BWR」と「PWR」は、コスト面で違いがあると考えていますか。安全面、コスト面ともに大差ないと思います。原子力発電所はもともと原子力潜水艦の技術が使われています。原子力潜水艦が『PWR』だったので、地上も同じ『PWR』から始まりました。先行したものが技術や審査の実績が積み上がってくるので、電力会社としてもそちらのほうが経営面でのリスクが少ないということになるかと思います。日本の場合は『PWR』と『BWR』の両方ありますが、電力会社が、昔からPWR系のアメリカのメーカー、BWR系のアメリカのメーカーのどちらとつきあいがあったのかで分かれたのだと思います。
Q.なぜ「BWR」のほうが再稼働が遅くなったのでしょうか。
 新規制基準が施行された日に電力各社が『PWR』の審査の申請をしました。『PWR』はフィルター付きベントの設置が求められていなかったため、新しい検討要素がなく対応が早くなったのではないかと考えられます。最初に鹿児島県の川内原発の審査が進み、1つ前例ができるとほかの『PWR』の審査も進むようになりました。少し遅れて『BWR』の申請が出され、技術力のある東京電力の柏崎刈羽原発の審査が進みました。しかし、テロ対策の不備があり、東京電力の事情で大きく遅れたということだと思います。東京電力を追うように審査が進んだ東北電力の女川原発、中国電力の島根原発が再稼働することになったのだと思います。
Q.「BWR」の再稼働にあたって、事業者にはどのようなことが求められますか。
 『BWR』にはフィルター付きベントという安全装置がありますが、これ使う時は放射性物質が少なからず出ます。そういうことがあるかもしれない。それを起こさないために今何をするのか。そういうことをしっかり考えてほしいです。周辺地域に対しての影響というのは大きなものがあります。これを肝に銘じて安全対策に取り組んでいただきたいと思います。
●避難計画の課題
 宮城県の牡鹿半島に位置する女川原発2号機で重大な事故が起きた際には、住民を安全に避難させることができるかが課題となります。元日に起きた能登半島地震は、地震や津波と原発事故が同時に起きる「複合災害」となった場合の課題を改めて突きつけました。1つ目は住民の避難路の確保です。能登半島地震では地震による土砂崩れなどの影響で道路が通行止めになって避難できず、孤立した集落も多く見られました。宮城県によりますと、牡鹿半島では住民が避難に使う3つの県道には、あわせて92か所で土砂崩れなどの危険性がある「土砂災害警戒区域」や「土砂災害特別警戒区域」があります。さらに、巨大津波が発生した場合には、2つの県道であわせて14か所が、津波による浸水で通行できなくなるおそれもあります。課題の2つ目は、被ばくを避けるため、まずは自宅など建物の中にとどまる「屋内退避」についてです。国の指針では原発で重大な事故が起きた際、原則、半径5キロ圏内の住民は即時に避難し、5キロから30キロの住民は自宅などに屋内退避するとされています。しかし、能登半島地震では住宅をはじめ多くの建物が倒壊しました。専門家からは仮に倒壊しなかった場合でも、巨大地震のあとは、倒壊の危険性がある自宅にとどまり続けることは困難だと指摘されています。こうしたことについて宮城県は、国や関係機関などと連携してヘリコプターや船などあるゆる手段を使って住民を避難させるなどとしていますが、「複合災害」が起きたときの避難計画の実効性を、いかに高めていくのかが問われることになります。
●再稼働反対の人たちが抗議活動
 29日午前中、女川原発のゲート前には、再稼働に反対する団体などから約30人が集まりました。プラカードや横断幕を掲げ、「周辺住民の被ばくや生活の破壊を全く顧みず、私たちの声を全く無視した再稼働を許すことはできません」などと訴えました。また、東北電力の樋口康二郎社長への申し入れとして、能登半島地震から避難への不安が大きくなり、避難計画を示されても安心できないことや、東京電力福島第一原発の事故の復旧に見通しが立たず立ち入ることができないふるさとがある状態で、同じようなことがあってはならないなどと訴えました。そして、ゲートの方向に向かって「再稼働するな」などと声をあげていました。抗議を行った団体は申し入れ書をゲート前で提出したいと東北電力側に打診しましたが断られたため、郵送したということです。女川から未来を考える会の阿部美紀子代表は「原発は避難を強いるほど危険な代物で必要ない。東北電力は地元の人に聞くと逃げることは大変困難だと身をもって感じるはずだ」と話していました。
●住民“安全に避難できるのか“
 原発周辺の住民からは、地震や津波と原子力災害が重なる複合災害が起きた時に安全に避難できるのか、心配する声があがっています。女川原発がある牡鹿半島の牡鹿地区の行政区長会、会長を務める鈴木正利さんは29日の再稼働について「すでにそこにできていて、動いたことのある原発なので、今さらどうすることもできないし、賛成でも反対でもない」と話しました。その上で原発が半島部分にあるため、東日本大震災やことしの能登半島地震の経験も踏まえて、もし事故が起きた時に住民が安全に避難できるかが重要だと話します。震災では、鈴木さんが住む牡鹿半島の先端にある鮎川地区には8メートルを超える津波が襲い、半島のあちこちが土砂崩れや津波による浸水などで通行止めとなりました。このため車による避難は難しく、震災の時、港が流されてきたがれきなどで使えなくなった経験から、国や自治体が考える船を使った避難も簡単ではないと指摘します。また、天候によってはヘリコプターによる避難も難しく、現実的なのは地区にあるコンクリート造りの集会所に退避することだと言います。東日本大震災の時には集会所に最大300人の住民が避難したということで、鈴木さんは放射線から身を守れるよう気密性を高めた防護施設に改修するよう求めています。鈴木さんは「震災では港は転覆した船や養殖いかだ、魚網などであふれ使えなかった。この集会所は地域の中心にあり、お年寄りも歩いて来られる場所にある。放射線から身を守る施設に改修してもらえれば、ここで何日か安全に避難できる」と話していました。
●経団連 十倉会長“エネルギー自給率向上などに貢献を期待”
 経団連の十倉会長は「安全性の確認と地元の理解が得られ、原子炉が起動し、再稼働への大きな一歩が踏み出されたことを歓迎する。ここに至るまでの関係者のご尽力に心から敬意を表したい。引き続き、円滑に営業運転が開始されるよう、準備を着実に進めていただきたい」というコメントを発表しました。そのうえで「国際的に遜色のない価格での安定した電力供給は国民生活と企業活動の基盤であり、女川原子力発電所2号機が、エネルギー自給率の向上とカーボンニュートラルの双方に資する電源として、大いに貢献することを期待する」としています。
●同友会 新浪代表幹事“経営者として 再稼働を心から歓迎”
 経済同友会の新浪代表幹事は、「震災によって多大な被害を受けた立地地域の自治体をはじめ、関係各位の尽力に敬意を表する。半導体事業、データセンター、生成AIなどにより、今後、電力需要の大幅な増加が見込まれる。また、わが国のエネルギー自給率向上や脱炭素化の取り組みに際しては原子力発電は非常に重要な手段の一つでありわれわれ経営者としても再稼働を心から歓迎する」というコメントを発表しました。そのうえで「世界で最も厳しいとされる新規制基準の審査に合格した原子力発電所については、立地地域を含め、広く社会のステークホルダーに対して丁寧でわかりやすい説明と信頼醸成に努め、早期に再稼働が進むことを期待している。第7次エネルギー基本計画策定の議論が進められているが原子力発電所の再稼働を含め、安定的なエネルギーの確保はわが国の未来にかかわる重要なテーマである。この取り組みを進めるため、さまざまなステークホルダーとの熟議を含め、経済同友会としても責任ある対応を進めていきたい」としています。
●日商 小林会頭“電力価格安定や脱炭素などに向け再稼働不可欠”
 日本商工会議所の小林会頭は「立地地域をはじめ関係者の尽力に深く感謝と敬意を表するとともに大いに歓迎したい。東北電力におかれては、安全の確保を最優先に再稼働、営業運転再開に向けた取り組みを進めていただきたい」というコメントを発表しました。そのうえで「電力の価格安定と需要増加への対応、脱炭素の推進に向けて、原子力発電所の再稼働は不可欠である。女川原発2号機に続き、東京電力柏崎刈羽原子力発電所6・7号機など安全が確保された原発の早期再稼働に向け、地元理解の促進など政府が前面に立った取り組みを期待する」としています。

*3-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240920&ng=DGKKZO83568530Z10C24A9FFJ000 (日経新聞 2024.9.20) 日本発の次世代太陽電池、中国が量産先手、「ペロブスカイト」新興6社が工場計画、新市場覇権狙う
 日本発の次世代太陽電池「ペロブスカイト」の投資ラッシュが中国で始まった。少なくとも中国の新興6社が工場を建設する計画で、国内外から流入する投資マネーが生産を後押しする。中国各社は量産体制をいち早く整え、新市場での覇権獲得を狙う。中国・江蘇省無錫市で、極電光能が30億元(約600億円)を投じた工場の完成が近づく。2023年4月に着工し、同社によるとペロブスカイト型として「世界初のギガワット(GW、100万キロワット)級の生産基地」となる。敷地面積は約1153平方メートルで、生産ラインのほか研究センターや倉庫なども備える。ここから南へ約1000キロメートルに位置する福建省アモイ市では大正微納科技が100メガワット(MW)級の工場を建設中で、25年には量産を始める。ペロブスカイト型を発明した桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授の教え子である李鑫氏が最高技術責任者(CTO)を務める。各社の公式発表によると、中国では少なくとも6カ所でペロブスカイト型の建設プロジェクトが進行中だ。江蘇省昆山市では、中国太陽電池大手の協鑫集団(GCLグループ)傘下の昆山協鑫光電材料が23年12月に起工した工場の建設が進む。急速な技術発展と市場拡大を期待してマネーが流入している。太陽光から電気への変換効率をみると09年の発明当時はわずか3.8%で、実用化に程遠い水準だった。これが試作品レベルとはいえ現在は最高26%台まで上昇し、理論変換効率(33%)の上限に近づく。カナダの調査会社プレシデンス・リサーチによると、ペロブスカイト型太陽電池セルの市場規模は32年に24億ドル(約3400億円)と22年の26倍に成長する。協鑫光電には寧徳時代新能源科技(CATL)、騰訊控股(テンセント)、シンガポールの政府系投資会社テマセク・ホールディングスなどが出資した。大正微納には、みずほフィナンシャルグループと深圳力合科創集団が共同設立したベンチャーキャピタル(VC)の瑞穂力合基金などが資金を投じた。瑞穂力合の高級投資総監、張一欧氏は「当社の出資を通じて日本と世界市場の開拓につなげてほしい」と語る。日本勢では、積水化学工業が25年の事業化を目指し、シャープ堺工場(堺市)の一部取得を検討している。パナソニックホールディングス(HD)は26年に参入する方針だ。自社開発したペロブスカイト型太陽電池と、住宅の建材を組み合わせ「発電するガラス」としての用途を開拓する。日本発の技術だが、発明した宮坂教授は技術の基本的な部分について海外で特許を取得しておらず、量産では中国企業が先行した。中国企業は日本勢に比べて投資の規模が大きく、先手を打ってシェアを確保しようとしている。「曲がる」点が最も注目されるペロブスカイト型だが、発電効率でも一般的なシリコン型と比べた優位性が高い。大正微納の試験では、ペロブスカイト型は年間の合計発電量でシリコン型を大幅に上回った。曇天や早朝、夕暮れなどの弱い光でも発電できるためだ。同社の馬晨董事長兼総経理は「中国では広大な土地に太陽光電池を敷き詰める集中型が一般的だった。ペロブスカイト型が普及すれば、都市部の建物の外壁などで発電する分散型に代わるだろう」と話す。課題は山積している。生産面ではパネル基板に太陽光を吸収するペロブスカイト層を薄く均一にコーティングする難易度が高く、大型パネルを安定的に量産するのが難しい。このためフィルムに比べて表面に付着させやすいガラス基板の量産が先行する見通しだ。ただガラス基板では「軽く」「薄く」「曲がる」というメリットが失われる。フィルムを使ったパネルを大型化することが開発の焦点となる。
▼ペロブスカイト型太陽電池 太陽光を吸収するためにペロブスカイトと呼ぶ薄膜材料を使う太陽電池のこと。ペロブスカイトは八面体の結晶構造を持つ化合物。ロシアの科学者ペロブスキー氏が天然鉱物から発見し、その名前にちなんで命名された。

*3-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241024&ng=DGKKZO84313960U4A021C2MM8000 (日経新聞 2024.10.24) テスラ、蓄電池を全国販売 ヤマダと連携、1000店規模 家庭の再エネ需要に布石
 米テスラはヤマダホールディングスの店舗で家庭用蓄電池(総合2面きょうのことば)を販売する。全国1000店の家電量販店で蓄電池の注文を受け付け、ヤマダの住宅や太陽光発電設備と組み合わせる。蓄電池と量販の大手が連携し、家庭での再生可能エネルギーの需要を取り込む。太陽光発電は家庭で発電した電力を国が決めた価格で買い取る固定価格買い取り制度(FIT)を契機に導入が一気に広まった。2023年度までの日本の住宅用太陽光の設置件数は累積で330万件ある一方で、蓄電池の累計出荷台数は産業用を含めても93万台にとどまっていた。国は30年度に再生エネの普及率で36~38%の目標を掲げ、太陽光発電は14~16%程度を占める主要な電源だ。天候によって発電量が変わる太陽光の供給と電力需要を調整するには蓄電池を増やす必要がある。家庭に蓄電池が普及すれば再生エネの安定供給につながる。テスラが家庭用蓄電池「パワーウォール」を全国規模の小売店経由で売るのは初めて。これまでは同社が認定する施工店経由の販売が中心だった。ヤマダは全国に約1000店の直営店を展開しており、まずは25日に開店する神奈川県平塚市の店で販売を始める。年内にヤマダの大阪市内や松江市の店でも実機を展示して販売を始め、沖縄を除く全国に順次広げる。施工はテスラの認定施工会社が担う。テスラの蓄電池は、容量が平均家庭の1日分の消費量に当たる13.5キロワット時と大きく、競合の国内メーカーと比べて容量当たりの価格が安い。ヤマダでの販売価格は工事費などを含めて208万7800円。シャープやニチコンなど競合の大容量商品(工賃込み)の市場価格と比べて、容量当たりの価格は3割以上安い。日本で現在販売している家庭用蓄電池は米国で生産したものを輸入している。ヤマダは国内の家電市場が伸び悩むなか、電気自動車(EV)や住宅、家具といった非家電領域を開拓し、再成長を目指している。蓄電池を巡っては日本で新たな市場が拡大する見通し。米欧ではすでに複数の家庭に設置した蓄電池を束ねて制御する「仮想発電所(VPP)」と呼ばれる電力ビジネスが広がっている。太陽光パネルを設置した家庭の電力が余っているときに充電しておき、電力が足りない時にためた電気を販売して収入を得る仕組みだ。市場に余剰電力があるときには蓄電して、電力の需給バランスも調整できる。テスラも米国ではVPPを展開し、世界の設置台数は累計で75万台超ある。日本では沖縄県の一部でサービスを導入しており、設置台数が増えれば全国への展開も視野に入れる。

*3-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240930&ng=DGKKZO83771040Z20C24A9NN1000 (日経新聞 2024.9.30) 再エネ・蓄電池の併用支援 経産省、補助金を増額
 経済産業省は2025年度にも、再生可能エネルギーの発電と蓄電池を併用する事業者への支援を拡充する。発電量に応じて上乗せして交付する補助金の額を現状の2倍程度に増やす。海外に比べて遅れる蓄電池の普及を後押しして、再生エネの有効活用を広げる。日本の再生エネは太陽光の普及が特に進んでいる。昼間に電気が余る傾向があるため、発電を停止する事態が頻発している。電気をためるのが解決策だが、蓄電池の導入コストが高く再生エネの発電事業者の多くが活用できていない。経産省はこうした状況を踏まえ、蓄電池を活用する「FIP」と呼ばれる再生エネの発電事業者を対象に、交付する補助金の額を現状から増やす。他の事業者に比べて発電量1キロワット時あたり1円程度上乗せしている交付額を、2円程度に増額する。FIP事業者に対する現在の上乗せ額は初年度が1円程度で、徐々に支援規模を縮小しながら数年間上乗せが続く仕組みになっている。初年度を含めて3~5年程度、現状の金額から倍増する案がある。詳細は24年度末までに専門家の意見を踏まえて詰める。例えば2018年度に事業用の太陽光発電を始めていた場合、国のベースの支援額は1キロワット時あたり18円だが、陸上風力は20円、洋上風力は36円だった。ベースの支援額は再生エネの種類や事業開始年度で異なる。 

*3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241109&ng=DGKKZO84687330Y4A101C2EA3000 (日経新聞 2024.11.9) 政府、地方創生に5本柱 閣僚会議が初会合 東京一極集中是正やデジタル活用 首相「付加価値を創出」
 政府は8日、首相官邸で地方創生策を検討する閣僚会議「新しい地方経済・生活環境創生本部」の初会合を開いた。石破茂政権は地方創生を看板政策に掲げる。人口減や社会的な基盤の維持など地方が抱える課題の解消をめざす。2025年度予算案で関連交付金を倍増する計画だ。首相が本部長を務め、全閣僚で構成した。副本部長には林芳正官房長官と伊東良孝地方創生相が就いた。25年6月にもまとめる経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に、今後10年間を見据えた具体的な施策を盛り込む見通し。(1)安心して働き、暮らせる地方の生活環境(2)東京一極集中のリスクに対応した人や企業の地方分散(3)付加価値創出型の新しい地方経済(4)デジタル・新技術の徹底した活用(5)「産官学金労言」のステークホルダーの連携と国民的な機運の向上――を柱に据えて議論する。首相は商工会議所や行政、教育機関、金融機関、労働組合、地方新聞社・テレビ局からなる有識者会議の立ち上げを表明した。地方が直面する問題などを検証して政策立案に生かす。11月中にまとめる経済対策に関し「農林水産業、観光産業などの高付加価値化、日常生活に不可欠なサービスの維持向上、新技術を活用した付加価値創出などの取り組みを支援する」と強調した。倍増方針を示した地方創生の交付金については「金額だけ増やしては何の意味もない。重点化し、ばらまきという批判を受けないようにしたい」と語った。地方創生は首相にとって思い入れのある政策だ。14年9月に発足した第2次安倍晋三改造内閣で初代の地方創生相を務めた。同年12月に決定した長期ビジョンには「2060年に1億人程度の人口を確保する」と盛り込んだ。東京一極集中を是正し、地方の人口減少に歯止めをかけようとしたが、地方を取り巻く環境は依然として厳しい。首相は8日の会合で「10年間の成果と反省を生かさなくてはならない。反省は何なのか検証しなければこの先の展望はない」と述べた。「地方創生2.0」を掲げて改めて政策をてこ入れする。10月28日の記者会見では「日本創生」を訴え「地方と都市が結びつくことにより日本社会のあり方を大きく変える」と呼びかけた。国立社会保障・人口問題研究所が23年に発表した将来推計人口によると、56年には1億人を割って9965万人になり、70年には8700万人になる見通しだ。総務省の住民基本台帳人口移動報告によると、23年の東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)は転入者数が転出者数を上回り、28年連続で転入超過を記録した。地方の人口流出が続く。首相は10月の所信表明演説で「若年世代の人口移動をみると10年間で全国33の道県で男性より女性の方が多く転出した」と説明した。婚姻率の上昇を念頭に、若者や女性に選ばれる地方の実現を訴えた。経済産業省は閣僚会議の設置を受けて各地域の経済産業局長らが出席する会議を開き、地方企業の声を集める。8日の会議で設備投資などの現状を報告した。

<先端技術と教育>
*4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240930&ng=DGKKZO83766580Z20C24A9TB2000 (日経新聞 2024.9.30) スマホ、高級カメラのみ込む、小米やiPhone、画質大幅アップ 加工技術の「リアル」争点
 中国の小米集団(シャオミ)や米アップルのスマートフォンのカメラ機能が大幅に向上している。レンズの改良と画像補正技術を磨き、数十万円するような高級コンパクトカメラに匹敵する写真が撮れるようになった。ただ、日本経済新聞が複数機種で撮り比べをしたところ、リアルと加工の境目はどこかという課題も見えてきた。「驚異的な新しいカメラで魅力的な写真の体験ができる」。日本時間9月10日にアップルが開いた新製品の説明会で、ティム・クック最高経営責任者(CEO)は新型iPhoneのカメラ機能の向上についてこう強調した。新機種「iPhone16 Pro」ではアップル史上最長の焦点距離をもつ光学5倍の望遠カメラを搭載した。画像処理を活用し、撮影後の細かな色調の編集を実現した。スマホ各社はカメラ性能を高めた新機種を国内で相次ぎ発売している。2023年のスマホ出荷台数で世界3位のシャオミは5月、旗艦モデル「Xiaomi14 Ultra」を発売した。独高級カメラメーカーのライカと共同開発した4つのレンズを搭載し、光学で5倍、デジタルズームで最大120倍のズームができる。韓国サムスン電子は4月に発売した旗艦モデル「Galaxy S24」は、撮影後の背景を簡単に加工できる機能を売り物とする。ソニーグループ傘下のソニーが6月に発売した「Xperia 1 6」は暗所でもきれいに撮影できるのが強みだ。7月発売のシャープの「AQUOS R9」もライカ製のレンズを搭載する。各社がカメラ機能に力を入れる背景にはスマホ市場の成熟化がある。データ処理速度など基本性能の差異化が難しいなか、カメラはインスタグラムなどSNSに写真を投稿する層をつなぎとめるのに欠かせない機能として重要度を増している。米調査会社IDCによるとスマホ本体の台数は28年に24年比で8%の成長にとどまる見通し。それでもスマホ向けカメラモジュール市場は、調査会社のグローバルインフォメーションとマーケッツアンドマーケッツによれば、同期間で47%の成長が見込まれる。キヤノンやニコンなどカメラメーカーにとってはスマホの進撃は脅威だ。カメラ映像機器工業会(CIPA)によればデジカメの総出荷額は08年の2兆円超から、足元では7000億円台に沈む。国内では08年にアップルが初めてのスマホを発売し、市場シェアを奪ってきた。調査会社のMM総研(東京・港)は「人工知能(AI)など技術向上でスマホのカメラ機能の向上は間違いなく続いていく」と指摘。コンパクトデジカメに続き、高級デジタル一眼などカメラメーカーの主力の領域をのみ込む可能性もある。実際にスマホカメラの性能はどれだけ高性能なのか。日本経済新聞では今回、シャオミとアップルの最新機種と、比較対象としてユーザーの評価が高い日本の大手カメラメーカー製の高級コンパクトデジカメ(19年発売、価格20万円前後)を使い、東京都千代田区の日経本社ビルから直線距離で約5キロメートル離れた東京スカイツリーを撮り比べした。スマホ、デジカメともスカイツリーの全景は新聞の印刷には十分すぎる高い水準の写真が撮れた。こだわりのあるカメラ愛好家やプロのカメラマンでなければ、3枚に大きな違いを感じないだろう。次に、ズームアップして撮影したところ、明らかな差が出た。シャオミのスマホでは地上450メートルに位置する「天望回廊」とその下の鉄骨部分がクッキリと写った。それと比べるとデジカメはコントラストが低く、ややかすみがかって見える。アップルはデジカメに比べ色合いで青みが薄れた。何をきれいと感じるかは人それぞれだが、SNSを活発に利用する高校生10人に3枚の印象を聞いたところ、10人全員が「シャオミの写真が一番きれい」と答えた。シャオミのズーム写真の秘密を探るため、別の対象も撮影してみた。最大ズームで路上にいる人物に焦点をあてたところ視覚障害者用の黄色のブロックの凹凸が塗りつぶされたように平たんになった。ビル屋上の看板は絵の具で描いた絵画のようになった。シャオミ日本法人でスマホなどの製品開発に携わる安達晃彦プロダクトプランニング部本部長は「実用的に撮影できるのは30倍まで。最大120倍まで撮影が可能だが、デジタル処理感が強くなる」と加工感を認める。一般的にデジタルズームでは画像を引き伸ばす際に解像度の低下が起きる。それをなんらかの機能で補うのがメーカー各社の技術の見せどころになるが、そこには「現実を写しているのか、現実を作り替えているのか」という問題が内在している。楽しむことを優先するなら加工は積極的に肯定されるが、記録を優先するなら不安が残る。そして、リアルと加工の揺れ幅はAIの普及で大きくなっている。シャオミやアップルなどのスマホメーカーに限らず、カメラメーカーの最新デジタルカメラにもAIによる補正機能が搭載されるようになっている。プロの写真家で組織する日本写真家協会では、生成AIによる作成物は写真ではなく「画像」と見なしているが、ノイズ処理や色の補正を含めたAIのテクニックまでは線引きできていないという。会長の熊切大輔氏は「業界で議論されないまま技術だけが発達してしまった。ルールを決めていく必要がある」と話す。

*4-2:https://www.agrinews.co.jp/farming/index/260594 (日本農業新聞 2024年9月24日) 果樹産地の担い手確保 優良事例を発表 中央果実協会
 中央果実協会は24日、果樹産地での担い手育成などに関する事例発表会をオンラインで開いた。大分県農林水産部は、2023年までの10年間で200人が新規就農者したと紹介。園地の確保や未収益期間の長さが就農の壁となる中、県主導で園地の基盤整備や技術習得の支援を同時並行で進め、成果を上げているとした。同協会は、果樹の担い手は、20年までの20年で半減し、60歳以上が8割を占めていると説明。一方、果樹の価格や輸出の攻勢などに魅力を感じている人らが増えているとし、反転攻勢へ大きな好機を迎えているとの考えを示した。大分県農林水産部の河野雅俊氏は、07年から行う基盤整備の取り組みを紹介した。果樹の新規就農者の確保へ「積極的な誘致が重要」として、ダイレクトメールなどを活用して働きかけを展開し、特に農家以外の人や異業種の法人などの参入が増えていると報告。経営展開のシミュレーションを示して、参入を円滑に進めているとした。就農者が1、2年間、小規模な園地で経験を積む間、並行して育苗や園地整備を推進。その後、その園地に加えて、整備された園地も渡すことで、未収益期間の削減につなげているとした。就農者に渡すための園地を集約するには、地権者らへの説明などを丁寧に進める地道な取り組みも不可欠として、「最低でも1、2年は必要」とも指摘。同じ目標を持ったチームを県や市町村、JAや生産者で作り上げることも重要とした。世羅幸水農園(広島県世羅町)の光元信能組合長は、47ヘクタールの大規模な梨園を維持する仕組みを紹介。ジョイント仕立てを導入し、リモコン式草刈り機の活用なども進めているとした。

*4-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241024&ng=DGKKZO84307860T21C24A0TB3000 (日経新聞 2024.10.24) 陸上養殖サーモン大量出荷 NTT、エビ国内大手に、丸紅など4商社でノルウェー輸入に迫る
 海ではなく陸地で魚介類を人工的に育てる陸上養殖が日本で大規模な商業化の段階に入る。丸紅が販売するサーモンが10月中にも店頭に並ぶほか、NTTグループは2025年3月にもエビを出荷する。技術力と資金力を持つ大企業による大量生産で、水産のサプライチェーン(供給網)が変わり始めた。9月下旬、富士山の麓にある静岡県小山町の養殖場では出荷を1カ月後に控えた数百匹の魚が遊泳していた。丸紅がノルウェー企業のプロキシマーシーフードと共同で取り組んできた国産アトランティックサーモンが、いよいよ首都圏のスーパーなどで生鮮食品として販売される。プロジェクトの起点は2020年に遡る。プロキシマーはオスロ証券取引所に上場する水産企業で、高い養殖技術を持つ。丸紅は販売代理について協議。22年に10年間の国産陸上養殖サーモンの独占販売契約を結んだ。まずは25年末までに計4700トンを富士山麓から出荷する計画で、27年には国内最大規模の年5300トンに増やす。全てすしネタに使うと仮定すると3億貫分に相当する量だ。
●資本力生かす
 なぜ陸上養殖なのか。天然魚は地球温暖化や乱獲の影響で水揚げが安定しない。海面養殖は水温や寄生虫といった自然環境の影響があるほか、漁業権が必要で新規参入が難しい。大手企業が資本力を生かして大規模に生産するには陸上養殖が最適なのだ。環境負荷の軽減に寄与する利点も大きい。プロキシマーは今回、「閉鎖循環式」と呼ぶ仕組みを採用した。餌やふんで汚れた水をそのまま排水せず、バクテリア分解と散水で浄化し再利用し続ける。さらに航空輸送を伴わない分、サーモン1キロあたり12キログラムの二酸化炭素(CO2)排出削減効果も見込める。施設の運営に必要な電力の15%は敷地内の太陽光発電設備で賄う予定だという。単純な生産コストは海面養殖に比べて割高だが、大規模生産による効率化や消費地までの輸送時間短縮による鮮度の向上、環境負荷軽減などを総合的に考慮すると、十分に収益性を確保できる。プロキシマーのヨアキム・ニールセン最高経営責任者(CEO)は「想定通りの魚の質に仕上がっている。数年後には同規模の養殖場を新たに建設したい」と、既に日本での増産が視野に入っていることを明かす。国内の陸上養殖サーモン事業は三井物産、三菱商事、伊藤忠商事もそれぞれ別のパートナーと組み参入。いずれも今後3年程度で本格出荷が始まる見込みだ。各社が公表する年間生産量(計画値)は4商社合計で2万1300トンと、今の主要供給元のノルウェーからの輸入量(約3万トン、生鮮・冷蔵)に迫る。自給率向上に一役買うだけでなく、追加の設備投資で生産量がさらに上乗せされれば輸出産業に育つ可能性もでてくる。大手商社だけではない。通信各社も陸上養殖に注目する。大企業としての資本力を生かせるだけでなく、情報サービスで既に生産者や卸売・小売事業者と接点があり、有利な立ち位置にいるためだ。「水産業の工業化と標準化をなし遂げたい」。NTTグループ子会社で陸上養殖を手掛けるNTTグリーン&フード(東京・千代田)の久住嘉和社長は意気込む。静岡県磐田市にある敷地面積1万3000平方メートルのスズキの部品工場跡地に巨大なエビ養殖場を建設中だ。12月稼働、来年3月にも初出荷を見込む。8月に関西電力から買収した磐田市内のエビ養殖場と合わせ26年度には年産約200トンとなる。水産大手のニッスイが年産110トンの陸上養殖施設を稼働済みだが、それを超えてエビ陸上養殖で国内最大手に浮上するとみられる。陸上養殖のエビは臭みがなく、病気などを防ぐ薬品の使用量が少なくすむ。また、NTTグループの研究所ではCO2を効率的に吸着する藻の研究を進めている。将来、この藻を飼料に使って環境負荷の軽減につながる養殖事業に育てる考えだ。ソフトバンクはあらゆるものがネットにつながるIoT技術を駆使して養殖が難しいとされるチョウザメの養殖実証に乗り出した。日常の食卓には上らないが、卵のキャビアは高値で取引される。
●世界市場9割増
 世界の漁業・養殖業生産量は22年に2億2322万トンで10年前に比べ25%増えた。天然魚などの海面漁業の生産量はほぼ横ばい。海面養殖業は48%増と急増しているが、適地が限られるため中長期な今後の拡大は難しいとされる。人類の胃袋を満たす伸びしろは陸上養殖だ。調査会社のグローバルインフォメーションによると陸上養殖の世界市場は29年に23年比88%増の99億9000万ドル(約1兆5千億円)に急増する。日本にとっては、食の安全保障の観点からも陸上養殖の重要性は増している。政府は食用魚介類の自給率を32年度に94%に引き上げることを目指している。23年度は50%台だった。背景には中国など近隣諸国・地域との漁獲競争が激しくなっているほか、気候変動でサンマやスルメなど身近な水産物がとれにくくなっている危機感がある。これまでの日本の養殖は小規模事業者が多く、生産性の向上が課題だった。大企業の本格出荷で構図が変わる。消費者の選択肢が広がるだけでなく、水産大国ニッポンの復活も見えてくる。

<災害とリスク管理>
*5-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1326448 (佐賀新聞 2024/9/24) 能登豪雨、浸水想定域の仮設被害、死者8人に、捜索続く
 石川県能登半島の記録的豪雨により、元日の地震で自宅が被災した人が入る仮設住宅団地6カ所で床上浸水の被害が発生、うち輪島市の4カ所が大雨による洪水リスクが高い想定区域に立地していることが24日、分かった。これまでに指摘されていた立地のリスクが現実になった形だ。避難誘導が十分だったかなどの検証が求められそうだ。度重なる被災で入居者の生活再建の遅れが懸念され、県と市は今後の住まいに関する意向を確認する。他の団地でも床下浸水の被害があった可能性があり、県や地元自治体が調査する。輪島市は、浸水した団地の住民らをホテルや旅館などに2次避難させる方向で、県と調整している。県や消防によると、珠洲市大谷地区の土砂崩れ現場で新たに1人が見つかり死亡が確認され、豪雨による死者は8人となった。行方不明者は2人。県によると、連絡が取れなくなっている安否不明者は24日時点で5人。生存率が急激に下がるとされる発生72時間が経過する中、警察や消防などが捜索を続けた。県などによると、24日時点で床上浸水が確認されている仮設団地6カ所は輪島市5カ所と珠洲市1カ所。このうち輪島市の宅田町第2団地、宅田町第3団地、山岸町第2団地、浦上第1団地は洪水浸水想定区域にある。宅田町の2カ所は、付近を流れる河原田川が氾濫して団地一帯が浸水、住宅内にも泥水が流れ込んだ。24日、県のボランティアによる泥掃除や家財片付けが始まった。浸水した団地では、被害拡大後に救助される住民が相次いだ。輪島市幹部は取材に「入居者への注意喚起や避難の呼びかけが不十分だった可能性がある」として、対応を検証し、適切な避難誘導に努める考えを示した。県によると、24日午後4時時点で輪島市、珠洲市、能登町の計46カ所の集落で少なくとも367人が孤立状態になっている。輪島市門前町七浦地区では仮設住宅の住民約70人が取り残されている。また、輪島市、珠洲市、能登町で計5216戸が断水している。

*5-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16046569.html (朝日新聞 2024年9月30日) (災害大国)浸水リスク地域に2594万人 居住者、20年間で90万人増
 大雨で河川が氾濫(はんらん)した際に浸水の恐れがある地域に住む人は、全国で約2594万人(2020年)と、過去20年間で約90万人増えたことが朝日新聞のデータ分析で分かった。気候変動の影響で大雨が増える中、全人口の約2割が水害リスクのある土地に住み、専門家は安全な地域への居住誘導の必要性を訴える。分析したのは、全国の3万以上の河川のうち、主に流域面積や洪水時の被害が大きな約3千河川で、河川整備の目標とすることが多い「100年に1回程度」の大雨により浸水が想定されるエリア内の人口。国土交通省の国土数値情報に掲載されている「洪水浸水想定区域」(23年度版)と、国勢調査の人口データ(00~20年)を元に推計した。それによると、20年の日本の全人口は最多だった10年から約1・5%(約191万人)減った一方、浸水想定エリアの人口は20年までの過去20年間で約3%増え、約2594万人となった。うち浸水想定3メートル以上の地域の人口は約257万人で約7万人増えた。浸水5メートル以上の地域の人口は約26万人に上る。浸水想定エリア内の人口が最も多いのは東京都の約415万人で、都民の3割弱を占める。埼玉県(約277万人)、神奈川県(約170万人)、愛知県(約160万人)、兵庫県(約140万人)と続き、20年間で20都道県が増加した。高度経済成長期以降、治水対策により、浸水リスクがある低地の開発が進み、相対的に地価も安価なため、人口が流入した。また、現在は一部規制が強化されたものの、00年の都市計画法の改正で、住宅の建設が原則禁止される市街化調整区域でも、自治体が条例で定めた地区は例外扱いとされたことも影響した。日本大学の秦康範教授は「人口流出を懸念して浸水想定エリアの開発抑制に消極的な自治体がある一方、毎年のように水害が起きるなか、安全な場所にある空き家を活用して居住誘導するなど、災害リスクを踏まえた土地利用を進めるべきだ」と話す。
◇市区町村ごとのデータ分析は、デジタル版からアクセス出来ます。

*5-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16046472.html?iref=pc_shimenDigest_sougou2_01 (朝日新聞 2024年9月30日) (災害大国)浸水リスクより利便性? 多摩川周辺…近い都心、氾濫後も新築
 水害が多発するなか、浸水の恐れがある地域に住む人が増えている。2020年には全人口の約2割の約2594万人に達し、その1割は命の危険が高まる浸水3メートル以上の想定エリアに住んでいる。なぜリスクのある場所に人は集まるのか。21日に能登半島北部を襲った豪雨では、元日の地震で大きな被害が出た石川県で計27河川が氾濫(はんらん)し、多くの住宅が水に浸(つ)かった。地震で焼失した「輪島朝市」にほど近い輪島市河井町では、近くを流れる河原田川が氾濫。介護職員の50代女性の自宅は地震で壊れ、1カ月前にリフォームを終えたばかりだったが、約1・5メートル浸水し、1階は泥だらけになった。一帯は最大で3~5メートルの浸水が想定され、女性によると、65年ほど前にも約2メートル浸水した。ただ、堤防工事が進んだことや、自宅を50センチかさ上げしたことで安心し、「(浸水想定は)あまり気にしたことがなかった。まさか自分が生きているうちにまた来るとは思わなかった」と振り返った。朝日新聞の分析では、浸水想定エリアの人口は20年までの20年間で石川県を含む20都道県で増えた。特に増加が目立つのが、人口が密集する都市部だ。百貨店などが立ち並び、「にこたま」の愛称で知られる二子玉川駅(東京都世田谷区)から、多摩川を隔てた川崎市の一角。全国で90人以上の死者・行方不明者が出た19年の東日本台風では、多摩川の支流が氾濫し、多くの住宅が水に浸かり、マンション1階の60代の住民が亡くなった。近くに住む60代の男性の自宅も1メートル浸水した。玄関ドアや床下収納から水が一気に入り込み、1階のリフォーム代には総額で約1200万円かかった。この地区は3~5メートルの浸水が想定されている。男性は「50年以上住むが初めてのことで、まさかだった。最近異常な雨が増えているので怖い」。一方、近所では水害後に新しいアパートや戸建てが複数建った。2年前に夫婦で住み始めた女性(38)は、二子玉川で働き、「水害リスクは知っているが、利便性や家賃の安さから選んだ」と話す。東日本台風ではタワーマンションが林立する市内の武蔵小杉駅周辺で、地下が浸水したタワマンもあった。水位の上がった多摩川の水が排水管を逆流してあふれる内水氾濫が原因だったが、被災直後の同駅周辺の住宅地の公示地価(20年1月時点)は前年比約2~5%上昇。不動産鑑定士の藤田勝寛さんは「水害などの災害が起きると取引は鈍くなるのが一般的だが、利便性が良ければ影響は一時的にとどまるケースが多い」と話す。川崎市は都心へのアクセス性が高く、人口も増加し続けている。朝日新聞の推計では神奈川県内で浸水リスクのある地域に住む人は同市を中心に過去20年間で約25万人増えた。18年7月の西日本豪雨で、災害関連死を含めて75人が亡くなった岡山県倉敷市。推計では浸水リスク地域に住む人は過去20年間で約3万人増えた。多数の犠牲者が出た同市真備地区は川沿いに浸水3メートル以上のエリアが広がり、過去に何度も水害に見舞われてきた。ただ、70年代ごろから市中心部のベッドタウンとして水田の宅地化が進んで人口が急増。水害後に人口が1割ほど減ったが、スーパーなどの商業施設は整っている。地元の不動産業者は「水害によって土地の価格は下落し、価格に魅力を感じて新たに移り住む人はいる」と話す。
■国は住宅建築を制限、地域は衰退懸念
 浸水の恐れがある地域での人口増は、2000年の都市計画法の改正も一因とされる。住宅などの建築が原則禁止される市街化調整区域でも、自治体が条例で指定したエリアは例外扱いとなった。
市街化調整区域は街の開発を抑制する区域で、低湿地帯など浸水リスクをはらむ場合も少なくない。19年の東日本台風で洪水被害が発生した場所の約8割を占めたとする国土交通省の調査もある。同省によると、既存集落の維持などを目的に22年度時点で全国で180自治体が条例を制定。地価が比較的安いことなどから居住者が増えている。熊本市中心部まで車で20分ほどの同市南区富合町もそのひとつ。1級河川の緑川や支流の流域にあり、12年に一定の住宅が集まる地域が条例でエリア指定された。一方で、各地で甚大な水害が相次ぎ、国は20年に法改正し、浸水などの災害リスクが高い場所は原則除外するよう規制を強化。当時、富合町自治協議会の会長だった男性(82)は「除外対象になる場所は多く、開発制限されると人口が減って地域が衰退する」と、条例エリアの維持を求める要望書を市に出した。結果的に、市は条件付きで開発を認め、来年4月以降、一部地域で家を建てる場合は浸水しない高さの部屋を設けることを義務づけた。男性は「次々に戸建てが建っているが、垂直避難できる2階建てが増えている」と話す。国も水害対策を進めるために21年に同法など九つの法律を一括改正。ハード事業の促進に加え、避難場所の整備推進や、浸水リスクが高い場所を都道府県が「浸水被害防止区域」に指定し、住宅や高齢者施設の建設を許可制とする仕組みなどを導入した。
■保険料、リスク別に
 水害による被害は拡大傾向にある。国交省の水害統計によると、13~22年までの10年間の水害被害額は計7兆3千億円で、その前の10年間の約1・4倍に膨らんだ。特に19年は東日本台風の影響で約2兆1800億円となり、統計開始以来で最悪となった。浸水リスクエリアで人口が増えたことで、住宅などの資産もより集中し、面積当たりの被害額も増えている。東京理科大マルチハザード都市防災研究拠点の二瓶泰雄教授の調査によると、水害被害額(前後5年、計10年間の平均)は、1960年代は浸水面積1平方キロメートルあたり2億~3億円だったが、2010年は20億円、18年には30億円に増加。さらに、死者・行方不明者数(同)についても、1960~2000年は0・1~0・2人だったが、18年には0・52人と、最大5倍ほどに増えた。二瓶教授は「高齢化が進み、人的被害はさらに増える可能性がある」と指摘する。また、水害の多発などを背景に、火災保険の水災保険料が高リスク地域ほど高くなる仕組みが10月から導入される。これまでは住む地域にかかわらず全国一律だったが、水害リスクに応じて市区町村別に五つに細分化する。

*5-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1179657 (佐賀新聞 2024/1/19) 【小中学校の授業時間数】過密時間割を放置するな、子どもの視点不可欠
 全国の学校が、過密な時間割にあえいでいる。ある小学校長から「毎日6時間授業でもこなし切れないよ」と聞き、6時間目はいつも憂鬱になっていた昔を思い出した。文部科学省が定める小4~中3の年間の標準授業時間数は1015時間(1時間=1こま、小は45分、中は50分)。学級閉鎖などに備えて積み増している学校が多く、2021年度の小4の全国平均は1060時間に上った。多くの学校は長期休暇などを除く年間35週で授業計画を立てており、週当たりに換算すると30時間を超える計算だ。この“過密ダイヤ”が最近、教員の働き方改革の妨げになっているとして関心を集めている。授業時間数を決める権限は校長にあるが、24年度は教育委員会から時数を減らすよう暗に迫られる校長も出てきた。多忙の要因として、部活動や書類作成業務などはやり玉に挙げられてきたが、教職の本分であるためか授業時間を問題視する声は控えめだった。しかし、1人で多くの教科を受け持つ小学校教員は特に持ちこま数が多く、放課後に授業の準備を繰り越すなど長時間労働の一因になっている。過密ダイヤは教員の労働問題にとどまらず、子どもたちの心と体にも影響を及ぼす。東京学芸大の大森直樹教授(教育学)は、学習指導要領の改定と連動して示される標準時数の変遷を検証した。(1)1989年(週6日授業・週当たり27時間、小4の場合で特別活動の時間を除く)(2)98年(週5日26時間)(3)2008年(週5日27時間)(4)17年(週5日28時間)―の4回の指導要領改定を経験した約500人の教員に「子どもの生活に合っていたか」「子どもの学習は充実していたか」を尋ねた結果、ともに最高評価は(1)、最低評価は(4)だった。大森教授は「時代が下るに従って子どもの生活実態から離れ、学習の充実度も下がっていることが読み取れる。今の指導要領は平日1日の時数で言えば、最も肥大な教育課程だ」と分析する。回答した教員からは「6時間目になると明らかに子どもの集中力が落ちる。授業に身が入らず非効率だ」「不登校の増加は過密な時間割と無関係ではない」と現状を危惧する声が上がっている。文科省は昨年「標準時数を大幅に上回る必要はない」とする通知を出した。だが、問い直されるべきは、学校5日制における現在の標準時数そのものではないのか。学校の管理職は「学力低下と批判されるのが怖く、標準時数を上回るよう無言の圧力がかかっている」と本音を漏らす。やむを得ず運動会や遠足の時間、夏休みなどを短縮して時間を捻出している学校もあるが、現場任せの小手先の対応は既に限界に達している。「できるだけ多くの内容を学ばせたい」という“親心”は、子どもにとってはありがた迷惑になっている恐れがある。教員の働き方改革はもちろん大切だが、標準時数の議論には、子どもの実態を踏まえた視点が欠かせない。

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