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2014.6.10 自然を護り、漁業環境を壊さない海岸・河川・堤防工事のあり方について (2014.6.12追加あり)
  
                   *1-1より
(1)巨大な防潮堤の建設は、住民のためになるのか
 *1-1に書かれているように、現在、東北の被災地はじめ全国で、巨大な防潮堤の建設計画が進められている。防災対策と理由をつければ免罪符になる公共工事だが、海岸を巨大なコンクリート構造物で囲ってしまえば、砂浜が消え展望が悪くなるという意味で自然環境を失うだけでなく、陸地から海に流れ込む栄養による漁業環境も悪化させるため、地域の漁業資源と観光資源の両方を失うことになる。そのため、建設関連会社の一時的な利益のために、巨大防潮堤の建設を合理化するのは、あまりにも他産業と環境の軽視である。

 そのかわりに、*1-2のように、大規模地震に備え、防潮堤と防災林を一体化して津波の被害を軽くする「緑の防潮堤」を進めていたが、改正海岸法が6月4日の参院本会議で可決・成立して、「緑の防潮堤」も国の補助対象になることが明確化された。私は、緑の防潮堤と都市計画(街の高台移転)により、コンクリートの防潮堤は最小限にすべきだと考えている。

(2)それでは、街づくりで、どういう防災方法があるのか
 *1-1でパーフェクトに書かれているように、アメリカのハワイ州では、砂浜の自然観察から高波の最高到達ラインを調査し、住宅などの建造物を到達ラインより上に後退させる方法をとっており、これが最も安価で確実であるとともに、自然環境を壊さない。

 私も、東日本大震災直後の2011.4.19にこのブログで記載しているとおり、自然条件に合わせて土地の利用計画を立て、「巨大な堤防を作って自然と闘い、人工的に安全な住環境を作る」というコンセプトから、「人が海岸との距離や高さを考慮して土地を利用し、自然環境を活かしながら安全を保つ」というコンセプトに変えることが重要だと考える。何故なら、考えるべきことは多く、天災から身を守ることだけが重要なのではないからだ。

(3)まずい公共工事 ― その他の事例
 *2-1のように、唐津市でも海岸浸食が起こっているが、その原因は、西の浜や浜崎海岸で海岸浸食が起こり始めた時期から考えて、①埋め立てにより潮流が変わったこと ②河川に農業用水確保のため安易に堤を作ったり、コンクリートで固めたりしたため、河川から海に砂が供給されにくい構造になったこと と考える。このほか、沖合での海砂採取との因果関係を問う声もあるそうだが、海砂採取は、魚の産卵場所を荒らすことにより不漁に結びつくが、海岸浸食の原因ではないだろう。

 原因が、原発由来の海水温上昇や海砂採取による水揚げの減少、燃料費の高騰による採算割れのいづれであったにせよ、*2-2のように、長崎、佐賀両県を拠点にまき網漁業を営むまる川漁業(長崎県新上五島町)と丸福漁業(長崎市)、悠久漁業生産組合(佐賀県唐津市)が、破産申請準備に入ったそうだ。どれも、豊かな海の幸に恵まれている筈の地域のできごとであり、漁業に対する人間及び環境の影響が無視できないことは明らかだ。

(4)後で国民に付け回しされる政策ミスを、決して許してはならない
 *3のように、情けなくも「現役収入の半分以下」に設定しようとして、それすら危ういとされている年金について、厚生労働省が長期的な財政についての見通しをまとめたそうだが、(1)や(3)のような無駄遣いと自然破壊により、既存の産業を壊し、新たな産業の芽は摘みながら、バブルではない本物の成長率や利益率が高くなるわけがない。

 もちろん、女性の就労割合が増えれば、私や*1-1の九大工学研究院准教授の清野氏のように、人間活動と環境を両立させようとする人の割合も増えるだろうが、それにしても、現在の年金の惨憺たる状況も、これまでの厚生労働省の杜撰な管理や政策ミスの結果であることを、決して忘れてはならない。

参考資料:
*1-1:http://www.nacsj.or.jp/katsudo/kaiho/2013/07/1.html (清野 聡子:九州大学大学院工学研究院環境社会部門准教授。沿岸開発・保全の合意形成について、環境改変などの研究をもとに、地域会議の企画運営、計画作成、実施時の生態工学的な技術支援を行っている)
特集:このままでいいのか!? 防潮堤計画
 今、東北の被災地をはじめ全国各地で、巨大な防潮堤の建設計画が進もうとしていることをご存知でしょうか?防災対策が必要な一方で、巨大なコンクリート構造物に頼る方法で事業を進めてしまえば、地域の財産でもある自然環境を失うことになりかねません。沿岸の暮らしと自然環境の折り合いをどうつけていくのか、これからの地域の海辺の管理のあり方を考えます。
●東日本太平洋沿岸か砂浜が消える?! 東北3県だけで総延長約370km!
 現在、青森県から千葉県の東日本太平洋沿岸で進む巨大防潮堤建設計画。その規模は、岩手、宮城、福島の東北3県だけで総延長約370km、約8200億円。高さは既存のものを大きく上回る10m前後で、高い場所では14mを超えている。東北3県の自然海浜は、現時点ですでに全体の7%にまで減少している※。残された自然海浜とどう付き合うか、住民合意を置き去りにしたまま、計画の一部はすでに着工されている。
※環境省平成24年度東北地方太平洋沿岸地域自然環境調査海岸調査よりNACS-Jが算出
●防潮堤の形状は台形で、まるでコンクリートの山
 防潮堤の復旧にあたり国から示されているのが、越流したとしても直ちに全壊しない「粘り強い構造」。天端(防潮堤のてっぺんの幅)の3m以上の確保や、壁面の勾配を緩くする、といった基本的な方針を示す。これに従った標準断面では、仮に高さが10mの場合、底幅は43m以上となり、砂浜を広く覆いつぶす。
●建設計画は日本全国にある!
  「全国防災対策費」という予算をご存じだろうか。5年間で約19兆円を投じ東日本大震災からの復興を目指すものだが、このうち1兆円程度は被災地以外の防災・減災対策にも使用可能。また、「国土強靭化」を進める安倍政権が誕生させた2012年補正予算、2013年当初予算では、公共事業予算が増額され、議論のないまま新規事業に多額の予算がつけられた。さらに、今年5月に自民・公明両党から提出された「防災・減災等に資する国土強靱化基本法案」が成立すれば、全国を対象とした新規公共事業の根拠法がさらに増える。海岸や河口を埋める防潮堤計画は、決して被災地だけの話ではない。
●防潮堤に頼らない海岸のまちづくり
 防潮堤のような巨大な海岸構造物に頼らない防災計画・まちづくりは可能なのでしょうか。景観まちづくり、ビーチフロント計画(豊かな海岸地域形成)が専門の岡田智秀さんに伺いました。
■ずばり防潮堤に頼らないまちづくりは可能なのでしょうか?
 まず、始めに押さえるべきは、「防潮堤ありか、なしか」という議論ではなく、街としてどう防災対策を立てていくかを複眼的、総合的に考える必要があるということです。複眼的とは、さまざまな手段や方法について、総合的とは、地域全体を鳥瞰的・俯瞰的に見て検討するということです。
■「複眼的」に考える、とのことですが、防潮堤以外にどんな方法があるのでしょうか?
 参考となる事例としては、ハワイ州の「海岸線セットバックルール」があります。これは沿岸域には極力構造物をつくらず、住宅などの建造物を海岸線からセットバックさせることを定めたもので、1977年にハワイ州法のコースタルゾーン・マネジメント(CZM)沿岸管理計画で規定されました。セットバック距離の具体的な数値や基準は郡によって異なるが、基本的には、砂浜の自然観察を通じて高波などの最高到達ラインを調査し、その到達ラインから、10~15mほどの標準距離と、建物の耐用年数に見合った砂浜の自然浸食距離を合計した距離を後退させるという方法をとっている。それまでのハワイでは、今の日本と同じく構造物による海岸線の維持管理を行っていました。しかし一度構造物を入れたことで逆に構造物周辺の洗掘が進み、それを食い止めるために次々に構造物をつくらなくてはならないという悪循環に気づいたのです。ハワイ州は観光が主要産業ですから、構造物によって自然環境や景観を損ねるだけでなく観光資源である砂浜がなくなっては話になりません。そこで、思い切って海岸に構造物をなくし、街自体を海岸から離す制度づくりを決断しました。砂浜の消失は日本でも大きな課題となっています。構造物に頼らず経済的・効果的に、観光資源でもある海岸の自然を残し、防災に配慮したまちづくりを実現したこの事例には、日本も学ぶべき点がたくさんがあるでしょう。
■自然の条件に合わせて土地の利用方法を決めるのですか?
 そうです。ハワイでは、構造物を用いて人工的に安全な住環境を沿岸に生み出すのではなく、人の方が海岸線との距離を常に考慮し、土地の利用を制限することで街の安全性を保っています。今後は日本でも、堤防の高さという垂直方向での防御だけではなく、海から後背地にかけての「面」で受けていく発想が必要だと考えています。自然条件に合わせた土地利用が展開できれば、防潮堤の高さにこだわる必要はなくなるはずです。高台移転はその最たる事例ですが、すべてを移転することができなくても、例えば海への依存度別に土地利用を制限していくなどの方法も考えられます。災害時の避難先となる学校や市役所といった施設はできるだけ高台などに置き、水産加工業など海に依存する施設は、避難経路を確保したうえで沿岸に配置して防護範囲を最小化するといったものです。日本は今後人口減少が進むばかりですから、居住地の選択集中という点でも土地利用のあり方を再整理することは重要でしょう。
■なぜ日本ではハワイのような土地利用と合わせた計画がつくれないのでしょうか?
 日本では現行の制度上、沿岸域の管理者がいくつにも分かれていることが大きな要因です。海岸法での海岸保全範囲は海岸線を中心に100m足らず。それより陸側は都市であれば都市計画法、防災林があれば林野庁で、田畑なら農水省が所管していて、実際はこれらがモザイクのように入り乱れて存在しています。沿岸域の自然条件に合わせてまちづくりや防災計画を整備したいと思っても、管理者が異なり、総合的な視点で計画できないのが日本の現状なのです。今回の震災で、行政間で連携・調整して新しい流れができるかと思いましたが、結局何も変わらない。このままでは、何度でも同じことを繰り返します。
■ほかにも沿岸構造物に頼らないまちづくりの例はありますか?
 避難訓練や防災教育などソフト面の対策や、避難路・避難タワーの整備が重要なことは言うまでもありません。名古屋港周辺では、区域の条件に応じて建築物の1階の床の高さや構造などを規定する「名古屋市臨海部防災区域建築条例」を定めています。平野部に位置し高台の少ない静岡県袋井市では江戸時代の知恵を活かし(写真2)、津波発生時の避難場所かつ平時の憩いの高台にもなる「平成の命山」の築造が決定しました。さらに、砂丘や海岸林といった自然地形の存在を尊重し、積極的に防護施設として活用するという考え方もあります。大分県の中津干潟では住民が生態系保全の必要性について声を上げたことで、防潮堤の建設位置が干潟の後方に変更されました。これらは平時の豊かさや自然環境保全と防災を両立させた、いい事例と言えるでしょう。
■地域ごとにさまざまな工夫があるのですね。
 そうですね。先に紹介したハワイのセットバックルールを日本のすべての沿岸域で適用すべきだとは思いません。1mでも高い防潮堤が必要な地域もあれば、そうでない地域もある。ただここで留意すべき点は、「公共事業は地域の利益が最大になるものでなくてはならない」ということだと考えています。地域の利益とは何か、住民自身が考え、覚悟を決めていく過程が必要なのです。イカ漁の盛んな青森県むつ市の木野部海岸ではかつて、防災のために行政主導で磯を覆うようにつくられた緩傾斜護岸を、「海の豊かさを取り戻したい」と願う住民の声で撤去につなげていきました。撤去後、住民たちの発意で、防災効果を高めつつ昭和30年代の磯場の風景も取り戻そうと、沖合に自然石を撒いて、わが国初ともいえる「築堤」を実現しています。その後、一時落ち込んだ漁獲量も回復し、その築堤周辺は磯遊びの場や漁場にもなるなど、今や地域の財産になっています。公共事業は、地域の人が求める日常の暮らしの豊かさを一方的に奪うものであってはなりません。そのためには、住民と行政が協調して現行制度の壁を乗り越えていく勇気と実行力が必要になるでしょう。地域に合ったまちづくりを考える際には、地域の文化や伝統から学ぶ点もたくさんあります。神社やお寺などの宗教施設は高台に配置され、今回の震災でも、被災せず避難所となった場所も多くありました。伊豆地方では海岸線から神社へ続く参道が津波避難路にも指定されています。地名からも土地の特徴を見出すことができる。地域の人がつないできた先人の知恵を今一度学ぶことも重要です。これからの海岸まちづくりのキーワードは、平時の豊かさと災害時の防護の共存策です。
<岡田 智秀>
 日本大学理工学部まちづくり工学科准教授。景観まちづくり、ビーチフロント計画が専門。国交省・農水省・水産庁「防災・利用と調和した海岸の景観形成のあり方に関する検討委員会」委員などを務める。
・・・これからの海辺のまちづくりのために・・・
 ①海の猛威は、一線かつ限定的な位置で抑えようとすると海岸構造物の大型化を招くが、面的かつ
   複眼的な海岸防護策を講じることで海岸構造物の最小化を目指すことが可能。
 ②面的な海岸防護策を検討するためには、陸側の土地利用形態にも配慮する、新たな社会的しくみ
   が必要。
 ③砂丘や海岸林といった自然地形の存在を尊重し、積極的に防護施設として活用するための検討が
   必要。
 ④地域の海象や伝統文化を踏まえ、地域の利益を住民自身が考え、地域の将来像を描いていく合意
   形成の過程が重要。
●ココが問題! 巨大防潮堤
 現在、東日本太平洋沿岸域を中心に進められる巨大防潮堤建設計画には、どのような問題点があるのでしょうか。NACS-Jは今年2月、防潮堤復旧事業の問題し、生態系への配慮を求める意見書を出しました。意見書の内容(青字部分)とあわせて重要な問題を整理します。※上の画像をクリックする大きくなります。
●日本の沿岸管理のあり方を見直すために
 沿岸の保全管理には、なぜ地域の力が必要なのか、海岸の自然環境と暮らしのかかわり方をどう見直したらよいのか、NACS-J沿岸保全管理検討会委員の清野聡子さんに伺いました。
海岸の自然保護活動は防災活動でもあった
近年、津波被害を軽減する砂丘や砂浜の自然地形の存在が、改めて注目されています。砂丘の防災効果は、古くから戦後のころまでは、沿岸域に暮らす住民にはよく知られていました。多くの沿岸部の集落のお祭では、お神輿は山から下りて波打ち際を走ります。ウミガメが産卵する砂浜を海からのお使いが上陸する神聖な場と考えたり、沖縄では、来世への想いをつなぐ礼拝を砂浜で行ったり、さまざまな伝説や伝統によって海岸は神聖な場とされ、人のテリトリーが海に近づき過ぎないよう規制されていました。海の危険を予防するための適度なバッファーゾーン(緩衝帯)が維持されてきたのです。かつて沿岸の住民は、その地に合わせた住まい方を熟知していました。自然を観察することで、地形によって異なる波の上がり方や、砂丘の防災効果を知り、安全な場所に暮らす。動植物と同じく、人間もまた自然条件に即した場所にすみ、空間を使い分けてきたのです。自然の力が強い海岸は人間が近づきすぎると危険で、その境界となる砂丘に咲くハマヒルガオのような海浜植物群落は、限界線の象徴でした。コアジサシが営巣し、ハマヒルガオが咲き乱れ、ウミガメが上陸する浜を守ることは、人と海との適切な関係を保ち、防災効果を最大限に発揮する砂丘を守る防災活動なのです。しかしこの自然の防災効果を忘れ、海に近づきすぎた結果、巨大な防潮堤で海岸を囲むという選択をすることになりました。
▼砂浜に咲くハマヒルガオ
 「線」にこだわりすぎた日本の失敗
日本の沿岸管理の失敗は、海岸「線」を死守する管理に終始してきた点にあります。日本の制度では「大地は動かざるもの」を前提として、海岸線の変動を「国土の消失」と見なし、沿岸管理の現場には1㎝たりとも国土を減らすなという意識を持たせてきました。本来、海岸を地形的に守るには、背後の陸、川、沖の海まで含めて、全体がつながっている流域というシステムを「面」として統合的に把握しなくてはなりません。しかし、日本の海岸の管轄は、海岸四省庁と呼ばれる「河川」(国交省水管理・国土保全局)、「港湾」(同港湾局)、「漁港」(農水省漁港漁場整備部)、「農地」(同農村振興局)に分割され、後背地は林野庁などとさらに細かく分けられ、システム全体でとらえるという当たり前の概念を反映できない状態にありました。そして管轄ごとに海岸線を守るために、自然の変動を無視し、本来、波や潮、風によって時々刻々と姿を変える渚や海岸を人工構造物で固めてきたのです。海岸は常に変動する場であり、海岸線に構造物を設置するだけでは対処できないことは工学の分野でも明らかになりつつあります。世界を見ると、欧米ではイギリスをはじめ各国で構造物主義を大きく見直しつつあり、アジアの新興国は当初から動的な海岸の環境に配慮した制度設計を行おうとしています。日本は環境配慮のない中で制度をつくり、全体を見直す機会がないまま、付け足しや一部変更だけでとどまってきました。そして、海岸を構造物で固める事業は、国土と人命・財産を守る防災事業として民意にも支えられ、原因の精査が不十分なまま、護岸やブロック投入という対処療法的な対応が全国で続けられてきました。防災工事に異論を唱えることが地域において反社会的な行動とされ、国土保全のあり方の社会制度まで問う全国的な動きには至らなかったのです。東日本大震災では、大きな地盤沈下が生じました。従来通り、国土保全の原則にのっとったままでは海没個所を線で守るために強固な構造物をつくらなければ対応できなくなります。コンクリートの巨大防潮堤がスタンダードとして示されてしまうのは、従来の原則に基づいた結果です。
▼地域知を再発見し新たな沿岸管理計画を
 しかし今こそ、このような沿岸管理の歴史を実証的に調べ、制度に踏み込んだ変化を求める時機にきています。沿岸管理の問題は、決して東北沿岸の被災地だけの問題ではありません。海岸防災工事は、全国でこの数年間に急激に進みます。現在、太平洋岸をはじめ各地で計画段階に入っています。巨大防潮堤のような従来通りの方法ではない道を探るなら、今が意見を言う大事なタイミングです。そして、代替案の検討に入るならば、地域の海岸の歴史、地形、動植物などの情報を集中的にまとめていく必要があります。ここが、地域で長く自然観察をしてきた人の出番であることは間違いありません。大分県中津干潟、沖縄県嘉陽海岸、千葉県鴨川沿岸は、いずれも、根本を問い直す自然保護運動があり、海の自然環境に関するデータを蓄積したうえで、利害関係者が共に解決の道を探る場がつくられてきました。相互不信を脱却し、具体的なデータを持って共に未来をつくろうとする場ができて初めて、海岸の総合的な将来像を考える時間的、精神的な余裕が出てきます。日本の沿岸管理が多くの問題を抱えていることは行政も自覚してきています。だからこそ隘路を探る場が確保されれば、それぞれの人たちが持っている良さがかみ合ってくるでしょう。新たな沿岸管理計画を見出し、調整するために必要な苦労は多大なものになります。それを超えてでも、よりレベルの高い沿岸管理を目指す覚悟が、今、行政や地域住民、そして私たち一人ひとりに求められているのです。海岸を「線で守る」から「面で対応する」転換には、その場所に合わせた土地利用計画も欠かせません。現在は、海岸管理のあり方を「利用」「環境」「防災」と要素に分けて考えていますが、海辺に暮らした先人たちは自然を総合的にとらえ、自然条件に即して土地利用を行ってきました。この先人たちの知恵こそが「地域知」です。海岸の自然を見つめ続けてきた住民、自然に依存して生業を営む漁業や観光業、そしてナチュラリストたちによってこそ、この「地域知」は再発見され、新たな沿岸管理手法がつくられていくはずです。

*1-2:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10202/70657
(佐賀新聞 2014年6月4日) 「緑の防潮堤」国の補助明確化、改正海岸法が成立
 大規模地震に備え防潮堤と防災林を一体化して津波の被害を軽くする「緑の防潮堤」の整備を進めるための改正海岸法が4日の参院本会議で可決、成立した。通常の防潮堤と同様に海岸保全施設の一つに位置付け、地方自治体が整備する場合に国の補助対象になることを明確にした。緑の防潮堤は、通常の防潮堤の陸側などに土を盛って植林したもの。基礎部分が強化され倒壊しにくくなるほか、防潮堤を越える高さの津波が来ても防災林が勢いを弱めて、内陸への到達時間を遅らせる。またコンクリートがむき出しになった防潮堤に比べ、景観への影響を小さくできる。現状でも建設は可能で、宮城県岩沼市では国が整備を進めている。ただ海岸法に規定がないため、自治体が建設しようとしても国の補助が出るのか不明確だった。このほか改正法は、東日本大震災で水門の閉鎖に当たった消防団員が犠牲になったことを踏まえ、海岸を管理する都道府県などに対し、安全確保のため水門の操作規則を作ることを義務付ける。

*2-1:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/69448
(佐賀新聞 2014年5月31日) 唐津湾、海岸浸食で住民から聞き取り
 海岸浸食が問題となっている唐津湾を調査している検討委員会(委員長・小島治幸九州共立大名誉教授)は30日夜、唐津市で地元住民から浸食経過の聞き取りを行った。住民からは沖合での海砂採取との因果関係を問う声が相次いだ。佐賀県が今年初めに行った調査によると、西の浜と浜崎海岸で海岸浸食が進んでいるものの、湾全体は砂が堆積傾向にあるという。住民からは「沖合での海砂の採取量と海岸線の変化を検証すべき」との意見が出され、小島委員長は「海砂採取も原因の一つとして検討する必要がある」とした。一方、湾内で砂が堆積傾向にあるとの調査結果に対し、漁業者から「底引き網に石が引っかかり漁ができない状態が続いている」と疑問の声も上がった。

*2-2:http://qbiz.jp/article/38553/1/
(西日本新聞 2014年5月27日) 長崎・佐賀のまき網漁業、2社1組合が破産申請 負債計77億円
 東京商工リサーチ長崎支店によると、長崎、佐賀両県を拠点にまき網漁業を営むまる川漁業(長崎県新上五島町)と丸福漁業(長崎市)、悠久漁業生産組合(佐賀県唐津市)が、破産申請準備に入ったことが分かった。負債総額はまる川漁業が約44億円、丸福漁業が約23億円、悠久漁業生産組合が約10億円で、合計は約77億円と見られる。協業体制で再建を目指していたが、多額の債務を抱えたままでの再建は困難と判断。破産により債務整理を行い、2月末に設立された別会社に事業を継承する予定という。いずれも1948年から54年に設立された老舗だが、水揚げの減少などで経営が悪化。減船などで再建を目指していたという。

*3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140604&ng=DGKDASFS0304Z_T00C14A6MM8000 (日経新聞 2014.6.4)年金「現役収入の半分」以下、長期見通し 目標達成難しく
 厚生労働省は3日、公的年金の長期的な財政について8つのケースの見通しをまとめた。ほぼゼロ成長が続き、女性や高齢者の就労が増えない3つのケースでは、約30年後までに会社員世帯の年金水準は政府が目標とする現役会社員の収入の50%を下回る。50%を維持する5ケースも年金の運用利回りが4%台など強気のシナリオが前提だ。将来の年金が減るという若年世代の不安を和らげるには、女性の就労促進に加え、現在の高齢者への給付抑制など抜本対策も急ぐ必要がある。厚労省は経済成長率や働く人の数が異なる8ケースで、将来の給付を試算した。少子高齢化に合わせ給付額を抑える「マクロ経済スライド(総合2面きょうのことば)」は2015年度から発動する前提だ。ただ、現行の仕組みは物価が1%ほど上がらないと十分に効果が出ない。14年度に会社員の夫と専業主婦の妻が受け取る年金は合計で月額約21.8万円。現役会社員世帯の平均収入に対する年金の割合(所得代替率)は62.7%だ。政府は04年の年金改革で所得代替率は将来も5割以上を維持すると約束した。しかし今回の試算は働く人が増えず実質経済成長率がほぼ横ばいの3つのケースで41年度までに5割を下回った。最悪シナリオでは36年度に50%、55年度に39%まで下がり積立金は枯渇する。一方、所得代替率が50%を確保する5つのケースは働きに出る女性や高齢者が急増するという楽観的な前提だ。現在の日本は働きに出る女性の割合が子育て期の30代前半に下がるが、このへこみが消え、30年には86%と現在より16ポイントも上がると想定した。60代後半の男性も3人に2人が働きに出る。働きに出る割合が現在と同じ場合と比べ、全体で約600万人増える見通しだ。楽観的な5つのケースは経済シナリオも今後10年間は実質2%成長という政府の見通しに基づく強気の想定だ。120兆円を超える年金積立金が4%を上回る高い利回りで運用し続けられる。最も楽観的なケースの所得代替率は50.9%で下げ止まる。働く人が増え、高い経済成長を続け、運用で高い収益をあげ続ける――これらの前提が1つでも崩れれば所得代替率は50%を割り込む。今後20年間は団塊世代への年金給付で年金支出が急増する。8ケースのうち6ケースは物価が毎年1%超上昇し、マクロ経済スライドで給付の伸びを抑制できると想定した。だが、実際の物価上昇率は1%を下回ることもあり、現在の名目の年金額を減らさない条件付き発動では給付を抑える効果が薄れる。物価上昇率に関係なく必ずスライドを適用し支給を抑える仕組みを早急に導入しなければ、若年世代の将来の年金水準の低下を防ぐのは難しくなる。


PS(2014.6.12追加):*1-1に書かれているように、環境を破壊するコンクリートの巨大防潮堤をやめ、緑の防潮堤や高台移転などの街づくりに変更すれば、*4の幼児教育の無償化・義務化の費用くらいはすぐ出る筈だが、「福祉や教育の費用は、消費税からしか出せない」と言う人がおり、これがおかしいのである。しかし、このような馬鹿なことを無くすためにも、教育は重要だ。

*4:http://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20140612&c=DM1&d=0&nbm=DGKDASDG1103W_R10C14A6EA2000 
(日経新聞 2014.6.12) 幼児教育の無償化 財源メドなく
 教育再生実行会議が素案で示した小中一貫校の創設や幼児教育の無償化・義務化の検討を中心とする学制改革案。鎌田薫座長は11日の記者会見で「会議の委員から積極的に賛同する意見をいただいた」と述べたが、財源など課題もある。文部科学省内から「実現が最も難しい」との指摘があるのは幼児教育の無償化だ。試算では、3~5歳児の幼稚園と保育所の私費部分を無償化すると7840億円の国庫負担が必要。5歳児だけでも2610億円かかるが、素案は具体的な財源に言及しなかった。義務教育化のハードルも高い。検討対象とする5歳児は55%が幼稚園、42%が保育所に通う。公立が9割超を占める小・中学校とは異なり、運営主体は幼稚園の8割、保育所の6割が民間。全国で一定の教育水準を確保するのは簡単ではない。「小中一貫教育学校」(仮称)をめぐっては、先取りする形で、東京都品川区などの960校で小・中学校が連携する取り組みが特例として導入されている。中1ギャップの解消などの成果が報告されており、文部科学省は制度導入そのものについて大きな障害はないとみているが、学校関係者からは「通常の小中学校との間で転校すると、カリキュラムが異なり、子供が戸惑うのでは」と懸念する声もある。職業教育専門の高等教育機関の創設は、2009~10年に中央教育審議会でも議題にのぼったが、学生確保で競合する大学側からの反発に配慮し、見送られた。

| 農林漁業::2014.2~7 | 11:02 AM | comments (x) | trackback (x) |

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