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2018.9.23 ふるさと納税・返礼品・税収の使途について (2018年9月24、25、26、29、30日、10月4、8日追加)

                                 218.9.20西日本新聞

(図の説明:左の図のように、ふるさと納税寄付額は、2008年の制度導入以降、大きく増加した。また、中央の図の佐賀県みやき町の返礼品に電気製品があったのは、都会では考えられないかも知れないが、地元の電気屋さんを残すためだったそうで、佐賀県上峰町の場合は、返礼割合は普通だが気合の入った質のよい返礼品が送られて来る。なお、佐賀県唐津市は唐津市出身の人が社長であるDHCに原料として唐津産のオリーブを使ってもらったり、宣伝してもらったりしているようだ。他はよく知らないが、それぞれ苦心の後が見えるのはよいと思う。さらに、右の図の部活動については、専門家が指導しなければ時間を使う割には根性論に陥って上達しないため、どうせやるのなら、給料を払ってオリンピックメダリストやオリンピックを目指したような選手をコーチとして雇い、時間の無駄なくうまくなれるようにした方がよいと思う)

(1)ふるさと納税に対するクレームについて
1)クレームの内容と反論
 私が提唱してでき、多くの方のアイデアと協力で大きく育った「ふるさと納税」が、*1-1のように、「①返礼品の抑制が広がる中でも増えた」「②ガソリン税に匹敵する規模で自治体の主要な収入源になった」「③幅広いアイデアが寄付を押し上げた」というのは嬉しいことだ。

 これに対し、*1-2のように、645億円の流出超過となった東京都などが、「待機児童対策に響く」等と指摘しているが、東京など企業の本社・工場が多い地域で多く徴収される仕組みになっている法人住民税や生産年齢人口の割合が高い都会で多く徴収される個人住民税などによる税収格差を是正するために、私は「ふるさと納税」を作ったので、都市から地方の自治体に税収が流れるのは最初から意図したことだった。

 なお、私は大学時代から30代後半まで東京都内に住んでいたのでよく知っているが、東京都の待機児童対策がふるさと納税制度制定前に進んでいたかと言えば全くそうではなく、莫大な無駄遣いが多いことは誰もが知っている事実だ。そのため、東京都が「待機児童対策に響く」などと指摘しているのは、持ち出しにクレームを言うための耳ざわりのいい口実にすぎない。

 さらに、「ふるさと納税」を集めるチャンスはどの自治体も平等に持っており、魅力的な製品やサービスを発掘(もしくは開発)して返礼品にした自治体が多くのふるさと納税を集めるられるのは、単なる税金の分捕合戦ではなく、地方自治体が自らの地域の長所を見つけて魅力ある産物を増やす工夫をすることに繋がっている。つまり、「うちには、何もない」と思っていた地方の人たちが、自らの産物に対する消費者の人気を肌で感じ、ネット通販やクラウドファンディングのノウハウを習得する機会になったのである。

 にもかかわらず、*1-3のように、日経新聞は、「ふるさと納税は原点に戻れ」と題して、「①寄付額の3割を超える高額な返礼品が増えた」「②地元の特産物以外の商品を送る市町村も多い」「③総務省の要請には法的な拘束力はないが、ルールに従う地域からみれば不公平」「④ふるさと納税は、富裕層に有利」「⑤ふるさと納税が日本の寄付文化を育んでいる面もあるが、自然災害の被災地には返礼品がなくても多額の寄付が集まっている」「⑥ふるさと納税は、故郷や気になる地域を個人の自由意思で応援する制度だ」「⑦見直しで高額な返礼品がなくなり、寄付額が減ったとしても仕方ない」などの批判をしている。

 しかし、私がふるさと納税制度の創設を提唱したのは、純粋な寄付文化を育むためではなく、育った地方に税源を与えつつ、地方を刺激するためであるため、⑤⑥⑦は、あまり努力しなかった自治体のクレームにすぎない。また、①③は、特に条文がないので、日本国憲法から導きだされる租税法律主義から考えて自由であり、それよりも、法律に根拠のないルールを勝手に作って「ルールだから守れ」と言う方が問題である。

 ただ、②のように、地元の特産物以外の商品を多額の返礼品にすれば、地元の産業を育てるチャンスを失い、税収も増えないため、総務省より地元住民がクレームを言うべきだろう。

2)控除限度額の計算
 上の④の「ふるさと納税は、富裕層に有利」というのは、税法の知識のない人が“富裕層(範囲も不明)”さえ叩けば批判になると勘違いしているお粗末な例で、このようなワンパターンの批判は止めるべきである。

 ふるさと納税の控除限度額は、*1-4のように、所得税からの控除限度額が「a)+b)」で、住民税からの控除限度額が「c)」であるため、「a)+b)+c)」の金額である。そして、返礼品がなければ2000円分はどこからも戻ってこず、寄付をしない人より多く税を納めることになるので、この2000円の方が問題だ。
  a)所得税からの控除額=(寄付金-2000円)×所得税率
  b)復興特別所得税から控除額=所得税からの控除額×復興特別所得税率2.1%
  c)住民税からの控除(基本分)=(寄付金-2000円)×住民税率10%

 つまり、所得が大きい人の控除限度額が大きくなるのは当然で、所得が大きい人は累進課税により多額の所得税・住民税を支払っているということなのだ。そして、ふるさと納税に対する批判の多くが、この所得税・住民税の仕組みを理解しておらず、もっともらしく感情論に終始しているのは問題である(「論理的→男性、感情的→女性」というジェンダーは成立しない)。

3)返礼品の発祥と規制の非妥当性
 そのため、この2000円をカバーしようとして考えだされたのが、ふるさと納税を受けた地域からのお礼の品であり、香典を持って行って香典返しをもらうことに例えられる。また、地元の産品であればもちろん産業振興になり、地元産には原料が地元産の場合もあるし、地元の電気屋さんがなくなったら困るため、そこの商品だったりする場合もある。従って、よく事情を聞かなければ妥当性は不明だ。

 ただ、「香川県直島町の担当者が、特産品が少なく簡単にはいかない」と言っているのは、役所の人が返礼品を考えるからで、地元の農協・漁協・商工会などと相談して魅力的な産品(米・レモン・オリーブ油・魚でもよい)を作って返礼品にすれば、それこそ地域振興に繋がる。

 従って、私は、総務省が、返礼品を寄付額の3割以下にすることや地元の農産品に限ることを強制する根拠は法律にはないし、地方自治体は工夫して、「廃止されそうな鉄道の維持」や「送電線の敷設・地中化」に使うというような使用目的を出してもよいと考える。

(2)総務省の対応と自治体
 総務省は、*2-1のように、ふるさと納税の返礼品は地場産品だけにするように通知を出し、*2-2のように、特産品の少ない自治体はこれに困惑しているそうだが、地域の人が「何もない」と思っている地域に優れた農林水産物があったりするため、それこそ地域振興のために知恵を絞るべきだ。

 また、*2-3の埼玉県毛呂山町は、農家の高齢化が進んで収穫されないユズ畑が増えているそうだが、ゆずジュースにしたり、レモンやオレンジに転作したりと、畑や作物の利用余地は大きい。また、*2-5のように、イノシシの皮で起業する人もおり、このような時に、ふるさと納税を「ガバメントクラウドファンディング」として使うのもよいと考える。

 なお、*2-4のように、総務省は、2017年4月に、寄付金に対する「返礼率」を3割以下にし、家電・金券類を扱わないよう求める通知を出し、2018年4月に、返礼品は地場産品に限るよう新たに求め、2018年7月に、ルールを守っていない寄付額の規模が大きな自治体を公表し改善を求めたそうだが、その“ルール”は法律で決まっているものではないため、租税法定主義から強制はできない。

 ただ、無茶なことをしてふるさと納税を集めても地域のためにならないため、それについては地域の人が苦情を言ったり、よりよいアイデアを出したりすべきだろう。

 なお、*2-6のように、JA全中は、准組合員のJAへの意思反映や運営参画促進に向けた具体策を提起するそうだが、6次産業化を進めるには、加工やサービスを行って貢献してくれる人を准組合員にしたり、理事にしたりすると、アイデアが集ってよいと考える。そのため、農業従事者以外を農協から排除する方が営業センスがない。

(3)問題の本質
 問題の本質について、*3のように、西日本新聞が「①返礼品の過当競争といわれても、ふるさと納税の寄付金に頼らざるを得ない地方財政の窮状がある」「②30%という線引きの基準は妥当か」「③税収格差が広がる中で、自治体同士が寄付という名の税金を奪い合う構図に陥っている」「④地方分権改革による国から地方への税源移譲こそが問題解決の本筋だ」「⑤原材料から製造・流通まで複雑に絡む『地元産品』を具体的にどう定義するのか」と記載している。

 私は、①④には賛成で、地方分権と言っても財源がなければ何もできないため、例えば企業の偏在とは関係のない消費税を全額地方税にするなどの税源移譲があってよいと考える。しかし、高所得者になる人を教育して都会に出した地方に見返りがあるのは自然であるため、ふるさとへの貢献をするふるさと納税があるのはよいことだと思う。

 また、②の30%基準は、まあそのくらいだろうという意味しかない。さらに、③については、単に自治体同士が税金を奪い合っているのではなく、それぞれの自治体の役所が、頭を絞って魅力的な産物を作ろうとしていることにも意味があり、新しい産物を軌道に乗せるため「ガバメントクラウドファンディング」を行って応援するのも名案だ。

 ⑤についても、確かに地元とはいろいろな関わり方があり、地元の産業振興に貢献してくれる企業は多いため、定義は困難だろう。

(4)ふるさと納税の使途
 ふるさと納税は、返礼品目的だとして批判されることが多いが、どの自治体も使途を選択できるようになっている。つまり、納税者が使途を指定することができるのが、他の税金とは異なるよい点で、自分が住んでいる地域に使途を指定してふるさと納税することもできる。
 
 例えば、*4-1のような産業スマート化センターの開設・IT導入を応援したり、*4-2のような剣道・体操・ヨット・バレーボール・化学などの部活指導を専門家に任せる資金を作ったり、*4-3のような障害者・高齢者のケアを充実する費用に充てたり、市長にお任せしたりと、地域も魅力的な使途を工夫するようになる点で意義深い。その時、単なる景気対策のバラマキような無駄遣いの使途に、ふるさと納税をする人はいないだろう。

<ふるさと納税に対するクレーム>
*1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO30385930R10C18A5EA3000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2018年9月11日) ふるさと納税、3000億円視野 返礼品抑制でも伸び
 ふるさと納税が返礼品の抑制が広がるなかでも増えている。日本経済新聞が全国814市区を調査したところ、6割が2017年度の寄付額が増えると見込む。市区分だけでも2014億円と前年度より10%伸びており、都道府県や町村分を含めると3000億円の大台を突破する勢い。自治体の歳入としてはガソリン税に匹敵する規模で、主要な収入源になってきた。17年度の自治体別の増額幅をみると、最も多かったのは1億円未満で全体の45%を占める。5億円以上は3%にとどまっており、1億~5億円未満が11%だった。ふるさと納税が特定の自治体に集中するのではなく、利用の裾野が広がり多くの自治体で厚みを増している構図が浮かび上がる。総務省によると16年度の実績は2844億円。市区の合計額はふるさと納税全体の64%を占めていた。都道府県は1%で町村は35%だった。市区と町村の伸び率はこれまでほぼ同じ水準で推移しており、17年度は全国の総額で3000億円の大台を超える見通しだ。総務省は17年4月に資産性の高い返礼品などを自粛し、返礼割合も3割以下に抑えるよう各自治体に通知。18年4月には返礼品の見直しの徹底を改めて求める追加の通知を出している。通知後も高い返礼割合の自治体は残るが、集め方や使い道の工夫が広がっている。北海道夕張市はあらかじめ使途を明示した。インターネットで不特定多数の人から少額の寄付を募るクラウドファンディングの手法を採用。少子化に悩んでいた地元の高校を救うプロジェクトなどが共感を呼び、寄付額が3000万円増えた。青森県弘前市は重要文化財である弘前城の石垣修理や弘前公園の桜の管理といった街づくりに参加できる仕組みが人気を集め、前年度より1億6000万円上積みした。「高額」の返礼品だけでなく、幅広いアイデアが寄付を押し上げている。一方で16年度にトップ30だった市区のうち、6割が17年度は減少すると見込む。家電を返礼品から外した長野県伊那市(16年度2位)は66億円減少。パソコンの返礼品をやめた山形県米沢市(同5位)も17億円減った。ただ、全体では17年度も16年度より10%伸びる見通し。上位の減少分を幅広い自治体の増加分でカバーしている形だ。自治体の最大の歳入は約4割を占める地方税。16年度は約39兆円だったが、人口減時代を迎え今後の大幅な増収は見込みにくい。3000億円規模の歳入は自治体にとって、ガソリン税や自動車重量税の地方分と並ぶ規模になる。ふるさと納税が地方税の収入を上回る例も出ており、自治体の「財源」としての存在感は高まっている。16年度首位の宮崎県都城市を抑え、17年度の見込み額でトップになったのは大阪府泉佐野市(同6位)。関東、関西を中心に約130億円を集め、16年度より約95億円増えた。ふるさと納税の額は同市の16年度地方税収入の約6割にあたる。返礼品を大幅に増やして1000以上を用意。黒毛和牛などが人気で、3月までは宝飾品や自転車もそろえていた。返礼割合は17年度で約4割と総務省が求める基準より高かったが、18年度は約3割まで下げる方針だ。一方、税収が「流出」している自治体からは不満の声も漏れる。東京23区では16年度だけで386億円が流出。世田谷区では52億円減った。自治体によっては「既存事業や新規の事業計画に影響が出る可能性がある」と懸念するところもある。調査は2月下旬から4月下旬に実施。802の市区から回答を得た。
▼ふるさと納税 生まれ育った故郷や応援したい自治体に寄付できる制度。納税者が税の使い道に関心を持ったり、寄付を受けた地域を活性化させたりする目的で2008年度に導入された。寄付額から2000円を差し引いた金額(上限あり)が所得税と個人住民税から控除される。15年度から控除上限額を2倍に引き上げ、確定申告せずに税額控除の手続きができる特例制度を導入して利用が広がった。

*1-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO33497750X20C18A7EA1000/?n_cid=SPTMG022 (日経新聞 2018年9月11日) ふるさと納税、東京都から645億円の流出に
 総務省は27日、ふるさと納税で控除される住民税が2018年度に全国で約2448億円になると発表した。前年度に比べて37%増えた。都道府県別では、東京都内の控除が約645億円で最も多い。その分だけ、都内の自治体の税収が他の道府県に流出していることになる。待機児童対策などに響くとの指摘もあり、大都市圏の自治体にとっては頭の痛い状況だ。ふるさと納税は故郷や応援したい自治体に寄付できる制度で、原則として寄付金から2千円を引いた額が所得税や住民税から控除される。今回は18年度分の課税対象となる17年の寄付実績から、地方税である住民税の控除額を算出し、都道府県別に集計した。ふるさと納税による寄付の伸びを反映し、住民税の控除額も軒並み増えている。最大の東京都からの「流出額」は約180億円増えた。第2位の神奈川県は257億円と約70億円膨らんだ。こうした大都市圏の自治体からは「行政サービスに影響が出かねない」との声が漏れる。ふるさと納税を巡っては、自治体が高額な返礼品を用意することでより多くの寄付を集めようとする競争が過熱した問題がある。総務省は17年4月、大臣通知で各自治体に「良識のある対応」を要請し、返礼品を寄付額の3割以下にすることなどを求めた。子育て支援や街づくりなどに使い道を明確にするなど、既に多くの自治体は対応を見直している。返礼割合が3割を超える市区町村は、18年6月時点で1年前の半分以下の330自治体に減った。それでも制度自体の人気は根強い。ふるさと納税は17年度には初めて3千億円を突破した。一方、税収の流出に悩む大都市圏でも地域資源の活用などの工夫で、寄付を集める取り組みが広がる。大阪府枚方市は市長が案内する文化財見学ツアーを用意し、17年度に2億8000万円を受け入れた。東京都墨田区は「すみだの夢応援助成事業」と銘打って、農園開設などの民間プロジェクトを選んで寄付できるようにしている。

*1-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180920&ng=DGKKZO35549490Z10C18A9EA1000 (日経新聞社説 2018年9月20日) ふるさと納税は原点に戻れ
 野田聖子総務相がふるさと納税制度の見直しを表明した。過度な返礼品を送っている自治体への寄付は税制優遇の対象から外す方針だ。これを機に同制度の本来の趣旨を再確認したい。ふるさと納税は制度ができて今年で10年になる。当初、年間の寄付額は100億円前後で推移していたが、2013年度ごろから増え始め、17年度は3653億円と前年度よりも3割増えた。寄付が増えた最大の理由は高額な返礼品だ。ネット上で仲介する民間サイトが増えて比較しやすくなったこともあって、自治体間の返礼品競争が過熱した。総務省は17年4月に、返礼品の金額を寄付の3割以下にすることなどを要請したが、今年9月時点でも全国の約14%の自治体が従っていない。地元の特産物以外の商品を送る市町村も多い。総務省の要請には法的な拘束力はないが、ルールに従う地域からみれば納得できないだろう。現状では不公平感がぬぐえない。17年度に全国で最も寄付を集めた大阪府泉佐野市は、地元産品以外も含め肉やビール、宿泊券など1千種類以上の返礼品をそろえ、返礼率も最大で5割にのぼるという。もはやカタログ通販だ。こうした自治体がある以上、優遇税制を見直すのはやむを得ない。過度な返礼品以外にも、ふるさと納税には様々な批判がある。例えば富裕層に有利な点だ。所得が多い人ほど税金の控除額が増えるためだ。ふるさと納税が日本の寄付文化を育んでいる面もあるが、自然災害の被災地には、返礼品がなくても多額の寄付が集まっている。特産品の代わりに故郷にある墓を掃除したり、同制度を使って資金を募って過疎地での起業を後押ししたりする市町村もある。ふるさと納税はその名の通り、故郷や気になる地域を個人の自由意思で応援する制度だ。今回の見直しで高額な返礼品がなくなり、寄付額が減ったとしても、それは仕方がないのではないか。

*1-4:https://zuuonline.com/archives/165336 (抜粋) ふるさと納税の控除額の計算方法
 ふるさと納税には「納税」という言葉がついているが、寄付金控除のひとつだ。各自治体に寄付をすることで、原則として寄付額から2000円を差し引いた金額が、所得税と住民税から控除される。例えば1万円を寄付すると、2000円を差し引いた8000円が所得税と住民税から控除される。住民税の控除は、さらに基本分と特例分に分かれる。住民税控除の特例分はふるさと納税特有のもので、他の寄付金控除にはない。寄付金の額から2000円を引いた金額の全額を控除できるように、特別に考え出されたのが特例分なのだ。ただし、住民税の特例分には一定の上限(個人住民税所得税割の2割)があるので、注意が必要だ。ふるさと納税全体の計算式は以下のとおり。
  ふるさと納税控除=所得税控除(+復興特別所得税控除)+住民税控除(基本+特例)
●所得税からの控除
 ふるさと納税は原則、所得税と住民税からその控除額を計算する。所得税の確定申告における寄付金控除には、所得税率を掛ける前の所得から差し引かれる「所得控除」と、所得税率を掛けた後の税額から直接差し引かれる「税額控除」があるが、ふるさと納税は所得控除に該当する。そのため、ふるさと納税をした金額から2000円を引いたものに所得税率を掛けた額が、所得税からの控除額になる。2037年12月31日までは、所得税のほかに所得税率の2.1%の税率の復興特別所得税がかかり、ここからもふるさと納税の控除がおこなわれる。所得税等から差し引かれる控除額は、以下の算式の合計額となる。
  ①所得税からの控除額=(寄付金-2000円)×所得税率
  ②復興特別所得税から控除額=所得税からの控除額×復興特別所得税率2.1%
 所得税率は以下の表で確認できる。
   <所得税速算表>
   課税される所得金額      税率     控除額
   195万円以下          5%       0円
   195万円超 330万円以下    10%   9万7500円
   330万円超 695万円以下    20%    42万7500円
   695万円超 900万円以下    23%   63万6000円
   900万円超 1800万円以下    33%  153万6000円
   1800万円超 4000万円以下   40%  279万6000円
   4000万円超 45% 479万6000円
 ※課税される所得金額は、所得金額から所得控除を差し引いた後の金額。
●住民税からの控除(基本分)
 ふるさと納税は所得税だけでなく、住民税からも控除される。住民税は基本分と特例分にわかれるが、基本分はふるさと納税だけでなく、寄付金控除すべてに共通の基本的な計算方法だ。ふるさと納税をした金額から2000円を引いたものに、住民税率を掛けた額が住民税からの控除額(基本分)になる。計算式は以下の通り。
  ③住民税からの控除(基本分)=(寄付金-2000円)×住民税率10%
 ※住民税の内訳は道府県民税の税率が4%、市町村民税の税率が6%。
●住民税からの控除(特例分)
 住民税控除の特例分は、ふるさと納税をした金額から2000円を引いたもの全額が控除できるように考え出された、いわば「ふるさと納税のための控除」だ。所得税や住民税からの控除基本分から控除しきれなかったものを、特例分で控除するイメージとなる。計算式は以下の通り。
  ④住民税からの控除(特例分)=(寄付金-2000円)-所得税からの控除分
                            -住民税からの控除(基本分)
 ふるさと納税控除に占める特例分の割合は以下の式で求められる。
  ⑤特例分の税率=100%-「所得税の税率」×(100%+復興特別所得税率2.1%)
                         -「住民税からの控除(基本分)10%
 所得税率が5%の場合なら、ふるさと納税控除に占める特例分の割合は100%-5%×102.1%-10%=84.895%となり、所得税率が20%なら100%-20%×102.1%-10%=69.58%となる。所得税率が異なっていても、特例分の割合を調整することで誰もが「寄付金-2000円」の控除を受けることができるようになっている。ただし、特例分には上限があり、個人住民税所得税割の2割と決まっている。ふるさと納税の金額から2000円をマイナスした金額が、個人住民税所得割額の20%を超える場合の特例分は、上記の計算式に関係なく個人住民税所得割額×20%となる。寄付額を考える際に考慮してほしい。

<総務省の対応と自治体>
*2-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO28778380Q8A330C1MM0000/?n_cid=SPTMG053 (日経新聞 2018年9月11日) ふるさと納税、返礼品は地場産品だけに 総務省通知
 総務省はふるさと納税の返礼品を地場産品に限るよう自治体に求める。4月1日付で通知を発送する。海外のものなど「ふるさと」とは関係がなかったり、縁遠かったりするものを返礼品にする自治体がある。本来の目的から外れていることを問題視、自治体どうしの過剰な競争を防ぐ狙いだ。通知に強制力はないが、変更を迫られる自治体も多そうだ。ふるさと納税は2016年度の寄付額が15年度比72%増の2844億円と最高を更新。一方で、制度の趣旨に沿った運用ができるかがかねて課題になってきた。一部の自治体で、海外産のワインやシャンパン、関係のない地域の調理器具やフルーツなどを取り扱っているケースがある。今回の通知には「区域内で生産されたものや提供されるサービスとすることが適切」と明記する。「制度の趣旨に沿った良識のある対応」として地場産品に限るよう自粛要請する。たとえば岐阜県七宗町は民間のギフトカタログを返礼品にしている。町内の商店街に返礼品のアイデアを募り、ギフトカタログを返礼品に加えていた。町の担当者は今回の通知に「特産品の多い豊かな自治体と格差が広がるだけだ」と話した。総務省は17年4月にも寄付額のうち返礼品が占める価格を3割以下に抑え、家電や宝飾品などの換金性の高い品もやめるよう通知している。これに対しては、多くの自治体が返礼品の分量や寄付額を変更するなどして対応した。今回の通知では具体的な基準は示さないが、対応を迫られる自治体も多いとみられる。総務省は自治体のふるさと納税活用事例も公開し、地域振興に生かした事例を紹介。改めて高額返礼品の自粛を求めるなどして、ふるさと納税で起業や産業振興などを支援するよう自治体に促す。野田聖子総務相は30日の閣議後の記者会見で「結果として都市に本社を持つ企業の収益につながる事態になっている。新しい地場産品を作るという発想を持ってほしい」と話した。
■戸惑う自治体、モノからコトへ模索
 自治体側からは戸惑いの声が漏れる。輸入品のホーロー鍋を返礼品にしていた福島県南相馬市は「どう対応するか考えなければいけない」。東日本大震災の生活基盤再生を手掛けるNPOをふるさと納税で支援する形だが、総務省の通知に抵触するおそれもある。関西地方の自治体は別の自治体とふるさと納税で返礼品を融通する協定を結んだ。日用品などが割安で手に入るとして寄付額を伸ばした。「震災の被災地支援」としてこうした協定を結ぶ自治体も多く、「自治体の自主性を奪いかねない」との懸念もくすぶる。昨年の返礼率の引き下げを背景に、寄付金を起業や地域振興にいかそうという動きが相次ぐ。総務省は寄付金の使途を明確にして、ふるさと納税をクラウドファンディングのように募る「ガバメントクラウドファンディング」といった手法を促す。岐阜県池田町はローカル線の「養老線」の存続活動に寄付金を使う。鹿児島県霧島市は集めた寄付金で商店街のテナントを使った起業を支援する事業を始めた。ふるさと納税サイト「ふるさとチョイス」を運営するトラストバンク(東京・目黒)によると、同社が立ち上げたガバメントクラウドファンディングの本数は2017年に111件と前年の約2倍に増えた。須永珠代社長は「地域の自立を促す有効な制度となるよう、一定のルールを設けることが大切だ」と指摘する。ふるさと納税は返礼品を競う「モノ」から、「コト」へと比重を移しつつある。もっとも、16年度の寄付金受け入れ額では宮崎県都城市を筆頭に上位は牛肉など食品の人気が高い自治体が占めており、模索が続く。

*2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180915&ng=DGKKZO35411780U8A910C1EA5000 (日経新聞 2018年9月15日) 総務省、ふるさと納税見直し、特産品少ない自治体、困惑
 総務省が「ふるさと納税」の見直しに動き始めた。目先の寄付金を集めようと豪華な返礼品をそろえる競争が過熱。地域と関係の薄い家電製品や高級酒などが返礼品になる例まで出ていた。自粛要請しても一部自治体は従わず、業を煮やした総務省は11日、過度な返礼品を用意する自治体への寄付を税優遇から除外する抜本策を表明した。2019年度税制改正での実現を目指す。「ふるさと納税は存続の危機にある。ショッピングではない」。11日の閣議後の記者会見。野田聖子総務相はいつになく厳しい表情で苦言を呈した。「制度の趣旨をゆがめているような団体については、ふるさと納税の対象外にすることもできるよう見直しを検討する」。ふるさと納税が始まったのは2008年度。自治体への寄付金に応じて税金を控除する制度で、故郷や災害の被災地などを応援するのが本来の狙い。都市部の住民が田舎の故郷や災害で傷ついた地域などを寄付金で応援するというわけだ。原則として寄付金から2千円を引いた額が住民税や所得税から控除される。当初は年100億円にも満たなかった寄付額は17年度には3653億円にまで拡大した。だが、理想と現実はかけ離れている。いびつな光景はそこかしこに広がる。ビールやギフトカードに化粧品、海外ホテルの宿泊券、都内料亭の食事券。ふるさと納税のインターネットサイトや自治体のホームページをのぞくと、そんな返礼品がズラリと並ぶ。寄付するお金とは別に原則2千円の自己負担で好みの返礼品を手に入れられる。その行為は買い物とかわりない。控除される税金は本来、寄付者の居住地で何らかの行政サービスに充てられるはずのものだ。それが別の地域に流れていく。その先で地場産品の消費拡大など地域振興につながるならまだしも、返礼品が地場産品ではないケースも目立つ。日本全体として貴重な税財源が嗜好品のお取り寄せに使われているとの見方もできる。総務省も問題を黙って見過ごしてきたわけではない。17年度には大臣通知で全国の自治体に「良識のある対応」を呼びかけた。具体的な目安として返礼品の調達価格を寄付金の3割以内に抑えることを求めた。地場産品以外の扱いも控えるよう要請した。18年度にも同様の大臣通知を改めて出した。この7月には、地場産品以外の過度に高額な返礼品で10億円以上の寄付を集める全国12市町の具体名を公表。警告の意味も込めた。ゆがみは徐々に是正されてはいる。返礼割合が3割を超える自治体は16年度で1156と全体の65%を占めていたが、直近の9月1日時点では246(14%)に減少した。民間のカタログギフトを返礼品にしていた岐阜県七宗町は総務省の通知を受けた今春に除外した。秋田市は10月までに3割超の返礼品を取り下げる予定。クルーズ船の乗船クーポン券はすでに申し込みサイトから削除した。一方で見直しに消極的な自治体も少なくない。香川県直島町の担当者は「見直さないわけにはいかないが、特産品が少なく簡単にはいかない」とこぼす。今後、見直す時期や意向が決まっていない自治体は174(10%)。ビールなどを返礼品として17年度に135億円と全国最多の寄付を集めた大阪府泉佐野市は総務省の調査に回答していない。それぞれの事情や言い分はあるにせよ、一定の税収を確保したいのが自治体の本音。通知を順守する自治体からは「正直者がバカをみないようにしてほしい」との声も上がる。制度の創設から丸10年。原点を改めて問い直す時期に来ている。

*2-3:https://digital.asahi.com/articles/CMTW1809211100003.html?iref=pc_ss_date (朝日新聞 2018年9月21日) 毛呂山のユズ「収穫して」
◇ボランティアと農家募集■高齢化で放置される畑増え
 古くからユズの産地として知られ「桂木ゆず」を特産する埼玉県毛呂山町は10月から、「収穫してほしい」農家と「収穫したい」ボランティアをそれぞれ募集する。農家の高齢化が進み、実がなっても収穫されないユズ畑が増えているため。ジュース製造など6次産業化を進めるなか、もったいないユズを減らして収量を増やすねらいだ。町では近年、11月中旬~12月下旬ごろの収穫期を過ぎ正月明けになっても、実を付けたままの木々が目立つようになった。町の高齢化率は今年8月1日に32・5%で、10年前から11・5ポイントも上昇。ユズ畑の多くは山の斜面にあり、木にはしごを掛けるなどして実をもいで、斜面を運び下るのは重労働だ。町の担当者によると、収穫を続ける農家からも「体がきついので、年々、とれる範囲が狭まっている」という声が上がっている。町内の栽培面積は計約10ヘクタールあり、150トンはとれるはずが、昨年度の出荷量は約100トン。「差のほとんどは、放置されている畑の分とみられる」うえ、収穫しないと木に新しい実がならなくなってしまうという。応募した農家は、募集に応じた摘み手「ゆず採り隊員」に収穫してもらい、出荷する。町は「隊員に収穫物の一部など若干の謝礼あり」としている。ともに募集期間は10月1日~31日。町産業振興課(049・295・2112)へ。

*2-4:https://dot.asahi.com/wa/2018082200060.html?page=1 (週刊朝日 2018.8.24) 過熱する「ふるさと納税」競争 “国と闘う”自治体の本音
 好きな自治体に寄付すれば、特産品などがもらえるふるさと納税。自治体間の競争は激しく、寄付金に対する「返礼率」が3割を超える商品も多数ある。家電や商品券など地場産品以外もあり国は改善を求めてきたが、従わないとして公表された自治体が複数ある。あえて“国と闘う”本音は?ふるさと納税のメリットは、地方の農林水産物や特産品などいろんな返礼品をもらえることだ。寄付金を集めるための返礼品競争が過熱する中で、総務省は引き締めを図ってきた。昨年4月には寄付金に対する「返礼率」を3割以下にすることや、家電や金券類を扱わないよう求める通知を出した。今年4月には、返礼品は地場産品に限るよう新たに求めた。7月にはルールを守っていない寄付額の規模が大きな自治体を公表し、改善を求めた。返礼率が3割以上で、地場産品以外を返礼品にしているにもかかわらず、通知に従わない12自治体だ。総務省は通知は強制ではないとしているが、自治体が受け入れないのは極めて異例だ。どんな事情があるのか。「うちは肉や米など人気を集める地場産品がない。“アイデア力”で勝負しなければ、自治体の格差が広がってしまうだけです」。こう主張するのは泉佐野市(大阪府)の担当者だ。2017年度の寄付額は135億円で全国トップ。前年度の約4倍と大きく伸びている。返礼品を紹介するサイトをのぞくと、「黒毛和牛切落し1.75キログラム」「魚沼産コシヒカリ 15キログラム」などが並ぶ。和牛は鹿児島県産などで、米は新潟県のものだ。格安航空会社(LCC)のピーチ・アビエーションの航空券に換えられるポイントといった、金券類に相当するものもある。品数は前年度から約400品増やして1千品以上になり、返礼率は全体で45%に達する。まるで大手通信販売のサイトのようだ。やり過ぎではないかとの批判もあるが、担当者はこう話す。「市内に本店、支店がある事業者に返礼品を提供してもらっている。和牛は地元の老舗が目利きしたお肉。航空会社のポイントは市内の関西空港の活性化につながった」。総務省の通知に従わない背景には、市の厳しい財政状況もある。関西空港へつながる道路や駅前整備などの費用がかさみ、04年に財政非常事態宣言を出し、09年には「財政健全化団体」に陥った。職員を6割減らすなどして14年に健全化団体から抜け出してはいるが、今後の地域活性化にはふるさと納税の寄付金に期待を寄せる。「財政難で市内の大半の小中学校でプールがない。ふるさと納税のおかげで新しくプールが一つ設置でき、これからも順次整備していく予定です」(担当者)。みやき町(佐賀県)は72億円と寄付額が全国4位。佐賀牛など地場産品もあるが、他にも人気の返礼品がある。タブレット端末iPad(アイパッド)や、旅行大手エイチ・アイ・エスのギフトカードだ。返礼品を選ぶサイトでは、この二つは8月上旬の時点で、人気のため数カ月待ちとなっている。担当者は返礼品の意図をこう説明する。「ギフトカードの使途は限定されていないが、みやき町への里帰りに使ってもらいたい。iPadには町の映像が見られるアプリがついていて、町内出身者には地元を思い出してもらい、町外の人にはPRになります」

*2-5:http://www.tokyo-np.co.jp/article/ibaraki/list/201809/CK2018092102000148.html (東京新聞 2018年9月21日) イノシシの皮で起業目指す 城里町の地域おこし協力隊員・瀬川さん
 城里町の地域おこし協力隊員として活動する瀬川礼江(ゆきえ)さん(26)が、食害が深刻なイノシシの皮を加工・販売する起業に向け、インターネットのクラウドファンディングで出資を募っている。「革製品の選択肢にイノシシを入れてもらえるようにしたい」と意気込む瀬川さん。田畑を荒らす「厄介者」を、資源として利用する文化を根付かせるための応援を呼び掛ける。瀬川さんは土浦市出身。東京で就職したが「地域や人とのつながりを持ち、人生の実になる仕事がしたい」と、町の地域おこし協力隊員に応募。二〇一六年四月の採用後すぐに町職員に誘われ、狩猟免許と散弾銃所持の許可を取得した。猟友会に同行すると、仕留めたイノシシの皮は、利用されることなく捨てられていた。他地域を調べると、西日本で加工・販売が事業として成り立っていることが分かった。イノシシ革の特徴について「なめすと牛革より柔らかい。傷も付きにくく、お手入れもほとんどいらない」と瀬川さん。野生のため、最初から傷が付いている場合もあるが「それも味だと思う」と話す。協力隊員の任期が切れる一九年四月の起業を目指して皮の加工方法を学び、工房として使える物件を探した。町内の元鮮魚店を借りられる目途が立ち、改装や設備に必要な七十五万円を集めるべく、クラウドファンディングサイト「Makuake」に登録した。クラウドファンディングの期間は十月十五日まで。出資してくれた人には、金額に応じてコースターや小物入れなどを贈る。二十日現在、目標額の三割強が集まっている。町農業政策課によると、町内で捕獲されたイノシシは一七年度に約二百五十頭に上り、一八年度も前年を上回るペース。瀬川さんは「捨てられていた物が、ちょっとした工夫で日常に彩りを加えてくれる。県の魅力も伝えていけるような物作りの場にしたい」と話している。

*2-6:https://www.agrinews.co.jp/p45246.html?page=1 (日本農業新聞 2018年9月20日) 准組参画の仕組みを JAごとに要領策定 全中が具体策提起
 JA全中は、准組合員のJAへの意思反映や運営参画促進に向けた具体策を提起した。今年度中に各JAで要領を策定し、仕組みを整備した上で来年度から実践する。対象者の選定や具体的な手法など検討のポイントを示した。准組合員モニターや准組合員総代制度などの例を参考に、JAごとに取り組みを進める。JAの准組合員は約608万人(2016年度)と正組合員を上回り、増加を続けている。ただ、協同組合でありながら、多くの准組合員にJAへの意思反映、運営参画への道が開かれていないとの課題があった。一方で2016年4月に施行された改正農協法では、施行後5年後までに准組合員の利用規制の在り方検討に向けた調査を行い、結論を得るとされる。准組合員の位置付けの明確化も重要になる。JAグループでは15年度の27回JA全国大会決議で、准組合員を「農業振興の応援団」と位置付け段階的に意思反映・運営参画を進めることを盛り込んでいた。来年3月の28回大会・県域大会の議案策定に向けた基本的考え方でも意思反映・運営参画の強化を明記。こうした方針を踏まえ、今回具体策をまとめた。全中はまず、各JAで正組合員も含めたJA自己改革の対話運動を通じた組合員の意思反映を重視する。その上で、各JAで准組合員の意思反映や運営参画を促す要領の策定を提起。全中によると、全国平均で准組合員のうち3、4割は農家出身者で、JAへの意思反映が一定にできているとみられる。事業利用などで加入した残りの6、7割を対象に、意思反映などができる仕組みを目指す。JAごとの実態に合わせて、准組合員の位置付け、意思反映などの手法を要領にまとめる。意思反映の希望の有無や事業利用量、接点の多さなどで対象を選定する手法も考えられるとした。具体例として、准組合員の集いや人数を限定したモニター、支店ふれあい委員への選出、准組合員総代制度などを挙げる。さまざまな仕組みを組み合わせて、段階を踏んで参画ができる仕組みが望ましいとした。こうした取り組みは既に実践しているJAもあり、全中は事例集や導入マニュアルも整備している。全中は「何らかの意思反映ができている准組合員の割合や現在設けている仕組みによって、取り組みは変わってくる。JAの実態に合わせて声を聴く機会を設けていくことが重要だ」(JA改革推進課)と強調する。

<問題の本質>
*3:https://www.nishinippon.co.jp/nnp/syasetu/article/450066/ (西日本新聞 2018年9月16日) ふるさと納税 高額返礼品だけの問題か
 野田聖子総務相が、ふるさと納税制度の抜本的な見直しを表明した。寄付金に対する自治体の行き過ぎた「豪華返礼品」などを排除して制度本来の趣旨を取り戻すのが狙いという。高価な返礼品で寄付金を集める手法は問題である。国が自粛を求めても応じようとしない自治体の姿勢も問われよう。ただ、法律を改正して強制的に排除する手法が妥当かどうかは議論の余地がある。同時に、返礼品の過当競争といわれても、ふるさと納税の寄付金に頼らざるを得ない地方財政の窮状にも目を向けたい。出身地の故郷や応援したい市町村など好きな自治体に寄付をすれば、自己負担の2千円を除く金額が所得税や住民税から差し引かれる。ふるさと納税制度は2008年4月に始まった。控除される寄付額の上限を2倍にするなど制度が拡充される一方、常に問題視されてきたのが自治体の返礼品だった。返礼品に関する法令上の規定はない。だが、制度が普及するにつれて一部の自治体は返礼品の豪華さを競い合うようになる。商品券や旅行券のように換金できるものや、地場産品とは無縁と思われる物品などで返礼するケースも続々と出てきた。総務省の調査(今月1日時点)によると、九州の64市町村を含む全国246の自治体が寄付額の3割を超す返礼品を贈っていた。これは、全国の自治体の13・8%に相当するという。総務省は寄付額の30%超の高額品や地元産以外の物品を除外するよう総務相通知で要請してきたが、これを法制化する。要請に応じている自治体は現状は不公平と訴えており、野田総務相は「一部自治体の突出した対応が続けば、制度自体が否定される」という。確かに一理ある。だが、他方で30%という線引きの基準は妥当か。原材料から製造・流通まで複雑に絡む「地元産品」を具体的にどう定義するのか。地方が納得する議論が必要だ。地方自治に関わる問題である。地方が国の言うことを聞かないから-という理由で法改正まで持ち出すのはいかがなものか。素朴な疑問も禁じ得ない。もちろん返礼品とは無関係にふるさと納税をしている人は、たくさんいる。自然災害の被災地にこの制度を活用した寄付が集まるようになったのも、望ましい効用の一つと評価したい。問題の核心は、税収格差が広がる中で、自治体同士が寄付という名の税金を奪い合う構図に陥っていることだ。地方が全体として豊かになるためにはどうすべきか。地方分権改革による国から地方への税源移譲こそが問題解決の本筋であろう。

<ふるさと納税の使途>
*4-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/277384 (佐賀新聞 2018.9.20) 佐賀県産業スマート化センター開設へ、10月、IT技術導入を支援
 人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)など最新テクノロジーを企業に積極的に導入してもらうとともに、IT産業の成長を支援しようと、佐賀県は10月1日、佐賀市の県工業技術センター内に「県産業スマート化センター」を開設する。県内外の企業のソフトやデバイスなど約20種類を無料で使うことができる。アドバイザーを配置し、相談対応や導入支援も行う。10月22日にオープニングイベントを開く。センターは工業技術センターの生産技術棟内に開設する。ショールームを設け、AIやIoTなどの最新技術を気軽に体験できる。他に人材育成やセミナーなど多彩なメニューを予定している。本部機能は県工業技術センター内に置くが、教育機関やコワーキングスペース(共有オフィス)、IT企業などの協力を得て、セミナー開催やソフトウエアの体験を行うサテライト拠点を県内に設置する展望も描いている。また、同センターの運営や、最新技術の体験・展示に協力するサポーティングカンパニーも県内外から多数参画する予定だ。県産業労働部の担当者は「最新技術を導入したい県内企業のニーズはあったが、IT事業者との接点がほとんどなかった。センターが両社をつなぐ役目を担えれば」と話す。

*4-2:http://qbiz.jp/article/141042/1/ (西日本新聞 2018年9月20日) 【あなたの特命取材班】「ブラック部活変えよう」教諭が発信 顧問は強制、休日返上 「苦しみ」共有 全国へ
 休みもなく、長時間化する部活動の練習が「ブラック部活」ともいわれ、学校現場を疲弊させている。西日本新聞あなたの特命取材班は5月に現状を報じたが、その後も変わらぬ状況に悲痛な声が絶えない。一方で、悩みを抱えるのは生徒だけではない。多くの学校で部活動の顧問が「強制」となっている中、部活の在り方に異議を唱え、発信する教諭が福岡にいる。「先生も生徒もみんな苦しんでいる」。思いは全国へ広がっている。福岡県の公立中学校に勤務する体育教諭、中村由美子さん(39)=仮名=は2014年、会員制交流サイト(SNS)上でつながった全国の教員仲間6人で「部活問題対策プロジェクト」を立ち上げた。インターネット上で(1)教諭に対する顧問の強制(2)生徒に対する入部の強制(3)採用試験で部活顧問の可否を質問すること−に反対する署名を集め続け、署名数は現在、延べ6万を超える。中村教諭は体育教諭だが本年度、部活の顧問を受け持たない。初めて「拒否」したのは15年。きっかけは自身の子どもの異変と病気だった。それまで長年、部活の指導を求める保護者や学校の期待に応えてきた。ソフトテニス、剣道、バレーボールなど、全て運動部の正顧問を受け持ち、平日の帰宅は午後9〜11時。土日は毎週練習試合を引率し、年間を通しての休みは盆と正月の数日のみ。帰宅後も、保護者から相談などの電話が自宅にかかってくる。その間、家庭に割く時間はなく、子どもの世話は両親頼み。10年前、ストレスをためた当時小学生だった長女の異変に気付けず、担任から、もっと長女に目を向けるよう指摘された。14年、次男の出産時に1歳だった長男の血液の病気が分かり、働き方を見直そうと決めた時、SNS上で同じような悩みを抱える教諭らと出会った。
   ■    ■   
 長時間化する部活は教員の多忙化の大きな原因だ。文部科学省の16年の調査では、中学教員が土日に部活指導に費やす時間は2時間10分と、10年前より1時間4分増えた。昨年のスポーツ庁の全国調査でも、公立中の平日の活動日数は休みなしの5日が52%で最も多く、土曜の活動は「原則毎週」が69%。本来は強制できないが、全教員が顧問になるのを原則としているのが6割で、顧問を担当する教員の半数以上が疲労や休息不足などの悩みを抱えていた。福岡都市圏の公立中学の50代男性教諭は「たくさん練習試合に連れて行ってくれるのがいい先生だという、保護者からのプレッシャーもある」と話す。
   ■    ■   
 中村教諭は部活の顧問を断った15年以降、これまで以上に生徒指導と授業研究に力を注ぐ。16、17年は副顧問として、保護者対応を受け持ち、顧問のサポート役に徹した。正式に部活を持たないからといって、保護者や生徒との関係に支障はなく、これまでできなかった新しい授業スタイルを考え、実践することもできるようになった。部活を熱心に指導する教諭については「すごいと思うし、ありがたい」。一方で、専門知識を持たずに顧問を受け持たされる教諭が多い現状に一番問題があると感じてもいる。「部活指導のスペシャリストはごく一部。最新の指導法や知識を学ぶ時間も与えられないまま指導にあたることが、長時間の練習や試合の詰め込みにつながっているのではないでしょうか」。教諭が黙っていては何も変わらない。教諭、生徒、保護者、それぞれの部活に対する温度差に悩みながらも、中村教諭はこれからも発信を続けるつもりだ。

*4-3:http://qbiz.jp/article/140099/1/ (西日本新聞 2018年9月2日) 【あなたの特命取材班】障害者施設切られる冷房 熱帯夜続きでも「午後9時半まで」 福岡近郊「熱中症が心配」
 岐阜市の病院で、エアコンが故障した部屋に入院していた患者5人が相次いで死亡する問題が発覚して2日で1週間。福岡市近郊の障害者支援施設に親族が入所中という女性から、特命取材班にSOSが届いた。「施設の冷房が午後9時半から朝まで消される。半身不随で感覚が鈍く体も不自由なので、熱中症が心配です」。こうした施設の暑さ対策はどうなっているのか。女性が情報を寄せた施設は福岡県が設置主体で、社会福祉法人に経営を委託している。女性によると、親族は脳梗塞で倒れ、リハビリのために入所している。この8月、夜に冷房がついたことは一度もなく、夜間は「送風」に設定されている。「熱い風が吹いている。窓を開けても風通しが悪くて涼しくならない。相部屋の人も『暑い』と言っており、冬場は寒くても暖房が切られるので毛布を着込まないといけない、と聞いた」。冷房を入れるよう施設側に頼んではと思うが、女性の親族は「やっと入れた施設に感謝している。苦情のようなことを言いたくない」と話しているという。施設がある自治体に気象台の観測地点がないため、近隣である福岡市の8月の気温を調べてみた。午後11時の月間平均気温は29度。夜の最低気温が25度以上の熱帯夜でなかったのは1日だけだった。施設に取材した。担当者は「確かに午後9時半〜午前7時半は冷房は効いていない」と認めた上で「窓は網戸付きで暑ければいつでも開けられる。扇風機の持ち込みも可能」と説明。夜間に冷房を切る理由を聞くと「以前からそう運用している。この夏も苦情などはなく、暑さで体調を崩した人もいない」と強調した。
      ■
 九州各地の障害者支援施設に尋ねてみると、対応には「温度差」が浮かぶ。熊本県社会福祉事業団の「県身体障がい者能力開発センター」(熊本市)は「毎日午前6時半から午前2時までエアコンをつけており、それ以降も暑ければ午前4時まで稼働する」。鹿児島県社会福祉事業団の「ゆすの里」(同県日置市)では「常時エアコンをつけ、湿度や温度に応じて職員が調整する」という。長崎県佐世保市の施設は昼夜問わず廊下だけ冷房を入れ、居室は入所者の希望に応じてつけたり、部屋の湿度や温度によって職員が調整したりしている。担当者は「1〜2人部屋で狭いため、冷えすぎて風邪をひく人もいる」と室温調整の難しさを語った。一方で、経済事情もちらつく。ある障害者施設の職員は「経営が苦しく、電気代節約のため夜間はなるべくエアコンを切るよう指示された」と打ち明けた。
      ■
 空調管理に関する国の基準はないのか。厚生労働省によると、障害者自立支援法に基づく通知で「空調設備等により施設内の適温の確保に努めること」と定めている。同省障害福祉課は「エアコン稼働などは施設の判断」とした上で、「利用者の状況を踏まえて空調など適切な生活環境を支援するのは、基本の基本」と指摘した。福祉サービスの苦情を受け付ける福岡県社会福祉協議会の運営適正化委員会の担当者は「施設利用者や家族、職員から『エアコンの効きが悪い。蒸し暑い』という相談がこの夏、数件あった。それでも夜間にエアコンを切るという施設は聞いたことがない」という。気象庁が「命の危険がある災害」と表現した猛暑。意思表示が難しい障害者もいるだけに、家族の心配は尽きない。女性が情報を寄せた冒頭の施設について、福岡県障がい福祉課は、本紙の取材をきっかけに「熱中症などの事故が起きないよう、必要に応じて冷房をつけるよう指導した」としている。

<美味しい冷凍総菜は必ず当たる>
PS(2018年9月24日追加): *5の農商工連携はよいと思う。これに関して、私は、昼間、日清の「食卓便」という冷凍おかずを食べることがあり、その理由は、①電子レンジ4分半の加熱で簡単に食べられる ②管理栄養士が栄養バランスを考えている ③一つ一つの惣菜は少ないが全体として満足感がある ④一食でもバランスよく食べておくと他の食事で少々偏っても何とかなる からだ。また、「低糖質」というジャンルもある。これらは、まずくはないが美味しいとも言えないため、このような栄養バランスを考えて作られた冷凍総菜がもっと美味しければ、当たると思う。そのため、農協・漁協・商工会・森林組合が協力し、採れたての新鮮な材料を使って作るとよいと考える。現在は、ネット通販で産地まで指定してモノを売買できる時代で、地方にもチャンスがあり、ガリバーなども使えば中国への輸出も容易になる。なお、駅弁で鍛えた九州の弁当は美味しいので、管理栄養士の企画・監修があれば、すぐ良い商品ができるだろう。

*5:https://www.agrinews.co.jp/p45295.html (日本農業新聞 2018年9月24日) 「共創の日」 農商工連携で地域振興
 きょう24日は「共創(きょうそう)」の日。JA全中と森林、漁業、商工の全5団体が互いの連携を通じて地方創生につなげようと、東京都内で初の大規模イベントを開く。地域に根差した各団体が手を組み、商品開発や販路開拓などで互いを身近なパートナーと認め合う契機としたい。5団体は、全中と全国森林組合連合会、全国漁業協同組合連合会、全国商工会連合会、日本商工会議所。2017年5月に全国・地域段階の団体同士の連携を通じて、地方創生につなげようと協定を結んだ。「共創」という言葉には、農林漁業と商工業で新たな産業を「共に創造していく」との思いを込めた。例えば商品開発。和歌山県のJAわかやまは、和歌山商工会議所と連携して、地元産ショウガを使ったジンジャーエールを開発している。きっかけとなったのは市を含めた3者の連携協定。商工会議所は飲料販売業者や卸先の小売店の紹介などで協力し、17年には160万本を売り上げる人気商品となった。商品開発の事例が多いが、山林を手入れした際の間伐材を森林組合が買い取る際に、一部を商工会の発行する商品券で支払うといったユニークな取り組みも生まれている。大企業にはまねのできない地域に根差した団体の連携は、国も着目する。今回のイベントは内閣官房が18年度に新設した「多業種連携型しごと創生推進事業」を活用した。業種の枠を超えた地域の民間団体が連携を深め、新たな事業を生み出し、成功例を広めるのが狙いだ。地方では少子高齢化に伴う人口減少、労力不足で産業衰退が大きな課題となっている。JAだけでこうした課題に立ち向かうには限界がある。このため自治体や地域運営組織、他の協同組合、商工団体と幅広く連携する必要がある。特に大きな可能性があるのは商工団体との連携だ。商工会は主に町村にあり、比較的小規模な会員が多く全国に1653ある。会員数は約80万。主に市にある商工会議所は全国に515あり、会員となる事業者数は125万に上る。地域に根差した産業を担い、地域の振興を目的とする団体でJAと相通じる部分は多い。会員企業は、販路や商品開発などのノウハウも持っている。連携は既に進んでいる。全国の商工会議所のうちJAが加入しているのは約半数。農林水産資源を活用した事業を手掛ける商工会議所のうち、3割がJAと連携している。ただ、JA側から積極的に連携を呼び掛ける例は少ないという。連携によって収益が増え、商品化に結び付くケースは多く、双方が「地域振興に向けたパートナー」と改めて認識する必要がある。まず成功例を共有しよう。地方の民間団体の底力を発信し、各地で「共創」が広がることを期待したい。

<北海道ブラックアウトと原発再稼働>
PS(2018年9月25、26、30日追加): *6-1のように、北海道地震があった日、太陽光発電施設も風力発電施設も壊れなかったが、北電が送電を停止したため全道で停電した。これに関して、①再エネ発電の不安定性 ②送電線の容量制限 などの言い訳がされるが、東日本大震災から既に7年半も経過しており、①②とも解決する技術がある。にもかかわらず、技術が活かされずに停電させた理由は、安定的な電力と主張する原発の再稼働を求める声が北海道に広がるのを待ったからではないのか。そもそも、電力自由化に伴って送配電会社の中立性は不可欠であるため、2020年にようやく大手電力の発電と送配電部門を切り離す発送電分離が始まるのでは、遅すぎて再エネ事業者には被害が続出している。つまり本気ではなかったということで、2020年に送配電部門を切り離したとしても、電力会社の支配下にあれば同じだ。従って、別の送電線を準備することが必要なのだ。
 そのような中、*6-2のように、佐賀県議会が本会議で、九電の玄海原発に貯蔵されている使用済核燃料に課税対象を拡大する条例を可決し、これによって税収は現行と合わせて5年間で約187億円になるそうだが、可能性が0ではない原発事故がいったん起これば、佐賀県の農林漁業は壊滅的打撃を受け、住民も長く住めなくなるため、もっと大きな損失になる。従って、原発は、使用済核燃料まで含めて、早々に手じまって欲しいわけだ。
 さらに、北海道ブラックアウトと時期を同じくして、*6-3のように、広島高裁が仮処分決定で2017年12月に運転差し止めを命じていた四電伊方原発3号機は、仮処分が取り消されて再稼働可能になったそうだ。しかし、万一でも事故が起こった場合に迷惑するのは、周辺の広い地域に及ぶため、高松高裁、山口地裁岩国支部、大分地裁でも係争中であり、大分地裁が9月28日に決定を出すそうなので、国土を大切にする判断をして欲しいものである。
 伊方原発3号機再稼働容認の広島高裁判決について、*6-4のように、佐賀県内の市民団体も批判しており、「原発なくそう!九州玄海訴訟」原告団の長谷川団長が「破局的噴火の可能性に関し、分からないことを安全だと思うのは間違っている。それを社会通念とは言わない」とされたのは正しい。司法では、人権保護のために「疑わしきは罰せず」だが、これは犯罪の場合であり、安全性については、安全かどうかわからない飛行機は飛ばせないのと同様、「疑わしきは行わず」が社会通念であり、これも人権の観点からである。
 なお、*6-5のように、広島高裁判決は、「①9万年前の阿蘇山(伊方原発から130km)破局的噴火を想定して火砕流が及ぶ可能性を検討」「②ガイドに従えば原発の立地は認められない」「③原発以外では巨大噴火に備える規制や対策はなく、国民の不安や疑問も目立たないので巨大噴火リスクは受け入れるのが社会通念」としているそうだが、①②は正しいものの、③については、原発や核燃料があったか否かでその後の復興に大きな違いが出るため、原発については特に慎重になるべきだと考える。また、国民の不安や疑問による“社会通念”は、東日本大震災級の地震や津波・活断層・地球温暖化等に対しても甘かったので、新しい知見に従って“社会通念”の方を修正すべきである。

   
               2018.9.29西日本新聞 

*6-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180925&ng=DGKKZO35694020U8A920C1MM8000 (日経新聞 2018年9月25日) エネルギー日本の選択 再生エネ、なぜ生かせず? 北海道地震が問う危機(中)
 海道が地震に見舞われた6日、太陽光発電事業者のスパークス・グリーンエナジー&テクノロジーの谷脇栄秀社長は釧路市にある大規模太陽光発電施設(メガソーラー)に異常が無いとの報告に胸をなで下ろした。しかし、それもつかの間、別の問題が浮上した。北海道電力が送電再開を認めなかったのだ。一般家庭で約7000戸分の電力を発電しても送電できない状況が約1週間続いた。
●風力増加があだ
 北海道は地価が安く、広い土地を確保できるため、再生可能エネルギーを高値で買い取る制度(FIT)が始まった2012年以降、メガソーラーの新設が相次いだ。風況にも恵まれ、風力発電施設は国内の1割超が北海道に集まる。17年末時点で道内の太陽光や風力の発電容量は合計160万キロワット前後と、仮にフル稼働すれば道内の電力需要の半分をまかなえる計算だ。地震直後、停電で電力変換装置などが壊れるのを防ぐための安全装置が働き、太陽光や風力発電施設は送電を停止した。北海道電は停電を解消するため、老朽化した発電設備を再稼働したり、自家発電設備を持つ企業から電力をかき集めたりした。一方、送電再開をなかなか認められなかったのが太陽光や風力。天候で発電量が変動する「不安定電源」である点がネックとなった。通常は太陽光や風力の発電量に合わせて火力発電の出力を調整して需給バランスをとる。主力の苫東厚真火力発電所が停止した北海道電は本州から電力を送る「北本連系設備」をフル活用したが、調整余力は限られた。再生エネからの送電を再開すると天候などで出力が急低下した場合に対応できず、再びブラックアウトになる恐れがあった。
●電力補完に難題
 電気事業連合会の勝野哲会長(中部電力社長)は「(今回の停電を)検証し、再生エネのデメリットを打ち消せるような運用にしたい」と語る。国は新しいエネルギー基本計画で再生エネを「主力電源化」する方針を打ち出した。地震で浮かび上がったのは、再生エネが主役となる時代に避けて通れない課題だ。緊急時に機動力を欠く石炭火力から液化天然ガス(LNG)などへのシフトを進めないと再生エネとの補完関係を築くことは難しい。大手電力は地域間で予備電力を融通し、太陽光や風力の発電量の急変に備える体制作りを急いでいるが、今回の地震で電力を融通する送電線容量が小さいことが浮き彫りになった。欧州の電力システムは再生エネ仕様に姿を変えつつある。ドイツでは北部で発電した風力由来の電力を南部の消費地へ送る送電線建設の計画が進む。国境をまたいで調整力を融通し合っており、欧州の送電会社連合は30年までに約20兆円を投じて送電線を増強する計画を公表している。天候に左右される太陽光の発電量を予測しながら全体の需給を調整する仕組みもある。国内では10電力会社の地域独占が長く続き、それぞれが閉じた世界で需給のバランスをとってきた。20年にようやく大手電力の発電と送配電部門を切り離す発送電分離が始まり、再生エネ事業者がさらに参入しやすくなる可能性がある。今のうちに使いこなす仕組みを考えないと、「宝の持ち腐れ」は変わらない。

*6-2:http://qbiz.jp/article/141253/1/ (西日本新聞 2018年9月25日) 玄海原発への燃料税拡大条例可決 佐賀県議会、5年間で21億円
 佐賀県議会は25日に開いた本会議で、九州電力玄海原発(同県玄海町)で貯蔵されている使用済み核燃料に課税対象を拡大する条例を可決した。課税期間は2019年度から5年間で、総務相の同意が得られれば実施する。貯蔵期間が5年を超えた使用済み核燃料1キログラム当たり500円を課すもので、5年間で約21億円の税収を見込む。税収は現行の項目と合わせ、5年間で計約187億円になる。避難の際に使う道路や港の整備費などに充てる。県はこれまで、原子炉の出力や、使用される核燃料の価格に応じて課税してきた。東京電力福島第1原発事故を踏まえ、玄海原発でも全基が運転停止となったことや、玄海1号機の廃炉決定で税収が減ったため、使用済み核燃料も課税対象とするよう九電に求め、今年8月に合意に達した。九電は県議会での審議に当たり、核燃料税に関する情報発信強化や、歳出抑制に努めることなどを求める意見書を提出。これに対し、一部県議や市民団体から「県民の安心安全をないがしろにしている」「傲慢だ」など批判の声が出ていた。玄海原発は、6月までに3、4号機が再稼働し、1号機では既に廃炉作業が始まっている。2号機だけが再稼働か廃炉か扱いが決まっていない。

*6-3:https://mainichi.jp/articles/20180925/k00/00e/040/242000c (毎日新聞 2018年9月25日) 広島高裁 :伊方原発3号機、再稼働可能に 四電異議認める
●運転差し止めを命じた12月の仮処分決定取り消し
 四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町、停止中)の運転差し止めを命じた昨年12月の広島高裁仮処分決定(野々上友之裁判長=当時)を巡る異議審で、同高裁(三木昌之裁判長)は25日、四電が申し立てた異議を認め、仮処分決定を取り消した。高裁段階で初めて示された差し止め判断は9カ月で覆り、3号機は法的に再稼働が可能になった。昨年12月13日の広島高裁仮処分決定は、原子力規制委員会の内規を厳格に適用し、原発から半径160キロの範囲にある火山に関しては噴火規模が想定できない場合、過去最大の噴火を想定すべきだと指摘。その上で、伊方原発から約130キロ離れた阿蘇カルデラ(阿蘇山、熊本県)について、9万年前の破局的噴火で火砕流が伊方原発の敷地に到達していた可能性に言及し、「立地として不適」と断じた。ただ、広島地裁で別に審理中の差し止め訴訟で異なる判断がされる場合を考慮し、差し止め期限を今年9月末までとした。四電の申し立てによる異議審は2回の審尋が開かれた。四電側は「阿蘇カルデラには大規模なマグマだまりがなく、3号機の運転期間中に破局的噴火を起こす可能性は極めて低い」と強調。さらに「9万年前の噴火でも火砕流は原発の敷地内に到達していない」とした。一方、住民側は「火山噴火の長期予測の手法は確立しておらず、破局的噴火が起こる可能性は否定できない」と改めて反論。「四電の実施した調査は不十分で、9万年前の噴火で火砕流が原発に到達していたとみるのが常識的」と訴えた。また、仮処分決定が「合理的」とした基準地震動についても争点となり、四電側は「詳細な調査で揺れの特性などを十分把握した」、住民側は「過小評価」と主張した。3号機は2015年7月、規制委が震災後に作成した新規制基準による安全審査に合格。16年8月に再稼働し、昨年10月、定期検査のため停止した。四電は今年2月の営業運転再開を目指していたが、運転差し止めの仮処分決定で停止状態が続いている。3号機の運転差し止めを求める仮処分は、住民側が10月1日以降の運転停止を求め新たに広島地裁に申し立てている。高松高裁、山口地裁岩国支部、大分地裁でも係争中で、このうち大分地裁は9月28日に決定を出す。

*6-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/279902 (佐賀新聞 2018年9月26日) 県内の市民団体 稼働容認を批判 伊方原発3号機
 昨年12月の稼働差し止めの仮処分決定から一転、広島高裁が四国電力伊方原発3号機(愛媛県)の稼働を容認する決定を出した25日、九州電力玄海原発(東松浦郡玄海町)の運転差し止めを求めている原告団などは「論理的に破綻している」「三権分立の体をなしていない」と批判の声を強めた。今年3月に佐賀地裁で運転差し止めの仮処分申請が却下され、福岡高裁での抗告審開始を待つ「原発なくそう!九州玄海訴訟」原告団の長谷川照団長(79)は「破局的噴火の可能性に関し、分からないことを安全だと思うのは間違っている。それを社会通念とは言わない」と憤った。「玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止める裁判の会」の石丸初美代表(67)は「同じ裁判所で真逆の判断が出るとは。原発の裁判では司法の主体性が失われている」と嘆いた。

*6-5:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13702384.html (朝日新聞社説 2018年9月30日) 原発と火山 巨大噴火から逃げるな
 火山の噴火、とりわけ1万年に1回程度という巨大噴火が原発にもたらす危険とどう向き合うのか。安全審査を担う原子力規制委員会を中心に検討を続けねばならない。四国電力の伊方原発3号機(愛媛県)の運転再開を巡り、阿蘇山(熊本県)噴火のリスクに関して広島高裁の2人の裁判長が正反対の判断を示した。昨年末には運転差し止めを求める住民の申請が認められたが、四電からの異議を受けた今月の決定は運転にお墨付きを与えた。原子力規制委には「火山影響評価ガイド」という審査の内規がある。原発から160キロ以内の火山を対象に、噴火に伴う危険性を評価する手順を定める。伊方から130キロの阿蘇山について、広島高裁はガイドに沿って9万年前の破局的噴火を想定し、火砕流が及ぶ可能性を検討。今月の決定も昨年末と同様に「ガイドに従えば原発の立地は認められない」とした。それにもかかわらず結論が分かれた根底には、「社会通念」への姿勢の違いがある。原発以外では巨大噴火に備える規制や対策は特になく、国民の不安や疑問も目立たない。巨大噴火のリスクは受け入れるのが社会通念ではないか――。昨年末の決定は、こうした考えに理解を示しつつ、福島第一原発事故後に発足した規制委の科学的・技術的な知見に基づくガイドを重視した。今月の決定は、噴火の予測が困難なことなどからガイドは不合理とし、社会通念から結論を導いた。あいまいさを伴う社会通念を前面に出した司法判断には疑問が残る。放射能に汚染された地域への立ち入りが厳しく制限される原発事故の深刻さは、福島の事故が示す通りだ。原発を巡る「社会通念」とは何か、議論を尽くす必要がある。まずは規制委である。規制委は3月、事務局を通じて「巨大噴火によるリスクは社会通念上容認される」との考えを示した。今月の広島高裁の決定も触れた見解だが、「委員会の使命である科学的評価を放棄した」との批判が出ている。その広島高裁決定が「火山ガイドは不合理」としたことについては、更田豊志委員長が会見でガイドにわかりにくさがあることを認め、修正に言及した。表現の手直しにとどめず、自らの役割を含めて「原発と火山」を問い直さねばならない。火山噴火が懸念される原発は伊方に限らず、九州電力の川内原発(鹿児島県)など各地にある。国民的な議論の先陣を切ることを規制委に期待する。

<新技術の日本社会への導入の遅れ>
PS(2018年9月29日、10月4日追加): *7-1のように、トヨタがやっとレクサスをEV化するそうだが、これは中国で2019年以降はEVやPHVなどの一定割合の販売が義務付けられ、他国に尻を押された形だ。そして、2020年に中国への輸出を開始し、同年夏ごろから欧州でも販売するそうだが、EV技術は最初に日本で開発されたにもかかわらず汎用化が他国より遅れたのは、*7-2のように、日本では理系が開発した技術を社会に落とし込む際に問題があるからだ。そのため、文理融合を視野に入れた九大の“知の拠点”づくりは一歩先に出たことになる。
 そのような中、*7-3のように、日米新通商交渉として、まるで1980年代かのように「車か農業か」という交渉をしている。しかし、今後は日本産の自動車に価格競争力があるわけはなく、環境車技術も中国や欧州に後れをとりそうであるため、移転可能な自動車工場をアメリカに移転し、食糧生産している農業を疎かにせず、食料自給率を上げる方が重要だろう。
 なお、*7-4のように、米テスラが社運をかける新型EVの量産は軌道に乗ったが、イーロン・マスクCEOが8月に公表した後に撤回した株式非公開化計画を巡る混乱が続いているそうだ。私は、マスク氏の先見性・目標設定・迅速さは大変よいと思うが、EVの生産が軌道に乗らないうちに他の先進分野に手を出しすぎて経営が悪化しているのではないかと思うので、優秀な財務専門家をつけ、EVは大量生産して市場投入することに慣れた会社と組むのがよいと考える。また、米国の環境規制に関する緩和が逆風になっているのは気の毒だ。
 また、日本のホンダと米GMが、*7-5のように、自動運転技術で提携して次世代技術を共同開発するそうで結果が楽しみだが、既存の自動車会社は運転に関する膨大なデータと大量生産の仕組みを既に持っているため、適切な会社と提携すれば、販売市場(ニーズは国によって異なる)を見据えた技術開発を行うことができる。また、交通系は、飛行機から船まで、早く電動か水素燃料と自然エネルギーの組み合わせにして欲しい。

*7-1:http://qbiz.jp/article/141561/1/ (西日本新聞 2018年9月29日) レクサス初のEV、九州で生産 20年にも中国、欧州投入 トヨタ
 トヨタ自動車は、高級ブランド「レクサス」としては初となる電気自動車(EV)の生産を、子会社のトヨタ自動車九州(福岡県宮若市)で始める方針を固めた。2020年にも中国と欧州に先行投入する。新型の小型スポーツタイプ多目的車(SUV)「UX」をベースに開発し、当初は年間計1万5千台前後を輸出する。UXのEVは20年春ごろにも中国への輸出を開始し、同年夏ごろからは欧州でも販売する。UXは車高が比較的高く、蓄電池などを搭載するスペースが確保しやすいほか、車体がコンパクトで1回の充電による航続距離を伸ばしやすい利点もある。生産を手掛けるトヨタ九州は、国内外のレクサス工場の中でも高い技術力を誇る。永田理社長は従業員をトヨタ本体の設計開発部門に派遣し、EVを含む新分野への対応に向けた準備を進めていることを明らかにしていた。中国では19年以降、自動車メーカーにEVやプラグインハイブリッド車(PHV)など新エネルギー車の一定割合の販売が義務付けられる。トヨタは20年春ごろ、小型SUV「C−HR」をベースにしたEVの現地生産にも乗り出す。一方、トヨタの欧州向けEVの量産計画が明らかになるのはUXが初めて。現地ではコンパクトタイプのSUVが人気で、EVの投入でレクサスの競争力の強化を図る。トヨタは20年代前半に、全世界で10車種以上のEVの販売を計画。国内向けでは20年の東京五輪に合わせて小型EVの市販も検討している。レクサスは富裕層が台頭する中国と欧州で販売が好調で、UXは世界的に人気が高まるSUVの小型タイプ。今年11月末の日本での発売を皮切りに海外でも順次、エンジン車とハイブリッド車(HV)を販売することが決まっている。

*7-2:http://qbiz.jp/article/141563/1/ (西日本新聞 2018年9月29日) 九大、伊都キャンパスへ移転完了 AIバス、自動運転、水素研究…「未来」実験場に
 九州大の伊都キャンパス(福岡市西区)への移転事業が完了し、29日に記念式典が開かれる。箱崎キャンパス(同市東区)から文系の学部と農学部が28日までに引っ越しを終え、単一では国内最大規模の広さ272ヘクタールのキャンパスに、学生と教職員計約1万8700人が通うことになる。建物の老朽化や航空機の騒音に加え、箱崎や六本松(同市中央区)に分散したキャンパスを統合することを目的に、1991年に移転が決まった。2000年6月に着工し、05年の工学部から移転が始まった。大学周辺の開発も進み、05年にJR筑肥線の九大学研都市駅が開業。翌06年には同駅前に大型の複合商業施設がオープン。伊都キャンパスが広がる同市西区・西部地域と福岡県糸島市の人口は、1999年の約13万9千人から現在は約17万人に増加した。29日は式典のほかにアカデミックフェスティバルも開催され、学生や教員らによるトークショーや研究成果の発表、キャンパスツアーなども行われる。
   ◇   ◇
●文理融合、企業と連携  
 九州大の伊都キャンパスは、ヤフオクドーム約40個分、箱崎キャンパスの約5・8倍という広大な面積を持つ。九大はこのキャンパスを存分に生かし、未来を見据え、「文理統合型の伊都キャンパスがアジアの“知の拠点”になれるよう、研究成果を世界に発信し続けたい」と意気込む。今月中旬、車体に「AI運行バス」と記されたワゴン車が伊都キャンパス内を走っていた。福岡市から出向しているキャンパス計画室の山王孝尚助教によると、NTTドコモが行っている「オンデマンド交通」の実験という。バスに時刻表はない。スマートフォン内の専用アプリで、行き先と乗り場を選んで送信すると予約完了。わずか1分足らずでバスが到着した。「今は夏休みで利用は少ないですが、授業があっている時期でも待ち時間は10分以下です」。乗客のニーズを人工知能(AI)が集約し、最適な道順を検出する仕組み。学内の乗降場19カ所は、10月から41カ所に増える。同社の担当者は「客がいなければ走らないから、決められたバス停を必ず巡る路線バスより、はるかに効率的。公共交通機関に乏しい地方で力を発揮する」。すでに鹿児島県肝付町や福島県会津若松市などで公道実験が行われ、本年度中の商用化を目指すという。「伊都キャンパスは少し先の社会の実験装置」。移転担当理事の安浦寛人副学長は、新たな九大をこう位置付ける。NTTドコモ以外にも日産自動車やディー・エヌ・エー(DeNA)が自動運転の実験を行った。新エネルギーとして期待される水素研究は「世界の最先端を行く」(安浦副学長)分野だ。移転に合わせ、本年度には文理融合の「共創学部」を新設した。「理系が開発した技術を、文系の視点でどう社会に落とし込むか。統合型キャンパスで文理の連携は加速するだろう」。安浦副学長は強調する。ただ、研究施設の整備や充実度が増す一方で、九大が2月に公表したアンケート結果ではキャンパスと周辺施設に不満を持つ学生は55・6%に上った。交通手段やスーパー、飲食店などの充実を求める声が目立ち、学生の生活環境の向上も喫緊の課題といえる。キャンパス計画室副室長の坂井猛教授(都市計画)は「ゼロからつくった伊都キャンパスは、まだまだ発展途上。民間や地域と協力して、魅力あるキャンパスにしなければならない」。九大の“知の拠点”づくりが本格始動する。

*7-3:http://qbiz.jp/article/141477/1/ (西日本新聞 2018年9月28日) 「車の代わりに農業犠牲か」 日米新通商交渉 九州の生産者広がる懸念 
 日米が2国間の新たな通商交渉入りで合意したことに対し、九州の農業関係者には懸念と憤りが広がった。「日本政府は自動車を守る代わりに、農業を犠牲にするつもりではないか」と指摘するのは福岡県農政連委員長で、同県久留米市でコメやキュウリなどを生産する八尋義文さん(51)。農林水産品は環太平洋連携協定(TPP)で合意した水準までしか関税引き下げを認めないとの日本の立場を米国は尊重する考えだが「安倍晋三首相はトランプ大統領に逆らえない感じなので今後、どう転ぶか分からない」と危惧する。生乳やチーズを生産するミルン牧場(佐賀市)の横尾文三社長(70)も「日本は工業製品の輸出を増やすために国内農業を犠牲にしてきたが、今回もそれを繰り返す懸念がある」と厳しい表情。豚肉と牛肉の生産や販売などを手掛ける南州農場(鹿児島県南大隅町)グループの石松秋治会長(63)は「日本政府が工業製品重視のスタンスであるのは自明のことで、仕方がない面がある。そうしないと日本経済が成り立たないからだ」とした上で、農産物の関税引き下げについて「TPPの水準内にとどめてほしい」と要望、「農業保護の施策もしっかりとやってほしい」と注文する。JA福岡中央会の倉重博文会長は「交渉において農林水産物が工業製品の犠牲とならないか強い懸念がある」とのコメントを発表した。

*7-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181004&ng=DGKKZO36070470T01C18A0TJ3000 (日経新聞 2018年10月4日) テスラEV、量産軌道に 「モデル3」7~9月計画を達成 資金面など懸念なお
 米テスラが社運をかける新型電気自動車(EV)「モデル3」の量産が軌道に乗ってきた。2日に発表した2018年7~9月期の生産実績は5万3239台と計画(5万~5万5千台)を達成した。8月に公表しその後撤回した株式非公開化計画を巡る混乱は続くがイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が「生産地獄」と例えた危機は脱しつつある。モデル3はこれまで高級車に特化してきたテスラにとって初めての普及価格帯の車種だ。最も安価なグレードは3万5千ドル(約400万円)に抑えた。納車は2年待ちとなる見通しにもかかわらず、16年3月末の予約開始直後には1週間で32万5千台を超える注文が殺到した。ただ、量産実績が乏しいことから生産現場ではロボットによる生産自動化などが難航。当初は17年末としていた「週産5千台」の目標達成時期を2度延期した。先行投資が膨らんだことで資金流出も拡大し、18年春ごろから金融筋では倒産危機説まで公然と語られるようになっていた。マスク氏は組み立て工程を含む完全自動化によって自動車生産に革命をもたらすと息巻いていたが、18年4月ごろからは「行き過ぎた自動化は間違いだった」と発言するようになる。一部の工程では自動化を一時的に断念し、人手を活用することで生産を上積みする方針に転換した。量産のボトルネックとなっていた車両の組み立てラインを2本から3本に増設したことで、7~9月期の週当たり生産台数は約4100台で安定するようになった。ライン改修のためにたびたび生産を中断していた4~6月期に比べ、生産ペースはほぼ倍増した。モデル3の納車先は北米に限られており、世界最大のEV市場となった中国市場などへの販路拡大が今後の課題となる。ただ、貿易戦争のあおりで米国から中国に輸出するテスラ車には7月から40%の関税が課されるようになり、競争上の不利を強いられている。突破口と位置づけるのが、18年7月に表明した上海市への新工場建設計画だ。電池から車両までを一貫生産する方針で、早ければ19年にも着工する。生産車種は明らかにしていないものの、テスラは「モデル3の立ち上げから学んだ多くの教訓を生かして、迅速に効率的な生産体制を構築する」と説明する。懸念はやはり資金調達だ。マスク氏はこれまで20億ドルに上る中国新工場への初期投資は地元の金融機関からの借り入れによって賄うと主張しているが、具体的な説明はない。株式非公開化の情報開示をめぐり米証券取引委員会(SEC)とは和解したものの米司法省の捜査は続いているとみられる。金融機関などとの交渉に影響を及ぼす可能性は残っている。

*7-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181004&ng=DGKKZO36096900T01C18A0MM8000 (日経新聞 2018年10月4日) ホンダ、GMと自動運転提携、3000億円拠出、技術開発 IT大手含めデータ争奪
 ホンダと米ゼネラル・モーターズ(GM)は3日、自動運転技術で提携すると発表した。ホンダは同日、自動運転分野のGM子会社に7億5千万ドル(約850億円)を出資した。事業資金の提供も含め合計3000億円規模を投じて次世代技術を共同開発する。自動運転ではIT(情報技術)大手などを含めて業種を超えた開発競争が激しくなっている。規模を追求してきた自動車業界の再編はデータの収集や活用を軸とする新たな段階に入った。ホンダが出資したのはGMクルーズホールディングスだ。GMが2016年に約10億ドルで買収した企業が母体で、18年にソフトバンクグループが自社で運営するファンドを通じて約2割を出資している。ホンダの出資比率は5.7%で、GM、ソフトバンクに次ぐ3位の株主になった。ホンダは今後12年で20億ドルの資金も提供し、無人タクシーの専用車両をGMと共同開発する。無人タクシーサービスを事業化して世界展開することも視野に入れている。GMのメアリー・バーラ最高経営責任者(CEO)は3日の記者会見で「まずはサンフランシスコで無人タクシーの実証実験を行い実用化にこぎ着けたい。安全が一番大切な要素だ。実用化すれば効率的に展開していく」と述べた。ホンダとGMは13年にまず燃料電池車(FCV)で提携した。基幹部品を米国で共同生産することを決めている。電気自動車(EV)開発でも18年6月に高効率の新型電池の共同開発を発表した。今回、自動運転が加わったことで、次世代車に関しては包括的に提携したことになる。自動運転の技術開発は米グーグルや米アップルなどIT大手がリードしてきた。一方、自動車大手は運転に関する膨大なデータを持つ。ホンダとGMを合わせた17年の世界販売台数は1400万台を超える。提携には自動車メーカー主導の開発を狙う面もありそうだ。次世代の自動車では「CASE」(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)と呼ばれる新領域での技術開発が競争力を分ける。特に自動運転は歩行者ら周囲の認識や複雑な走行の制御技術などが必要となり、開発費の負担が大きい。米ボストン・コンサルティング・グループは無人タクシーの開発に35年までに1.8兆ドルの投資が必要と予測する。GMは世界の自動車大手の中では先行している。19年には限られた条件下で完全自動運転が実現する「レベル4」の量産車を初めて実用化する方針だ。一方のホンダが劣勢にあるのは否めない。自動運転技術はグーグル系のウェイモと共同開発してきたがこれまでのところ成果は乏しい。3日の記者会見でウェイモとの関係を問われたホンダの倉石誠司副社長は「他社については回答を控える」と述べるにとどめた。トヨタ自動車や米フォード・モーターも外部連携を通じ自動運転技術の開発を進めている。ただ、ホンダとGMのように自動車大手同士が手を組むのは事実上初めてだ。

<男女とも持っているジェンダー>
PS(2018年10月8日追加): *8-1のように、ノーベル医学・生理学賞に京都大特別教授の本庶さんが選ばれたのは喜ばしいことで、本庶さん夫妻が会見された内容のうち、本所さん自身が語られたことには賛成する部分が多かった。しかし、妻の滋子さんは、(大学で理系を専攻し、研究の大変さを理解していたとしても)自分が研究してノーベル賞をとったわけではないので、世間知らずのおしゃべりがすぎたようだ。例えば、「①主人は何でもあきらめず、とことん極める」「②そういう態度が、この結果につながったと思う」「③亭主関白は若い頃の話で、定年後は優しくなった」などだ。①②については、*8-2のような東京医大の「男子優遇」は、リーダー・管理職・研究者などへの選別時にはさらに激しくなり、諦めたのではなく諦めさせられた女性も多い上、③については、働く女性や女性研究者は、家庭の細かいことを自分以外の人に丸投げして仕事や研究に邁進することなどできない中で社会を変えながら頑張ってきたため、家庭で夫を支えただけの旧来型の女性に偉そうなことを言われる筋合いはないからだ。
 また、*8-3の「無意識の偏見を克服しよう」という記事は賛成する部分も少なくないが、「無意識の偏見」には、「女性は家庭優先なので、仕事は疎かだ」という先入観や女性がリーダーになることを志すと「傲慢」「生意気」「自分を知らない」などと批判する日本社会の“常識”も含まれる。また、女性自身が「高下駄を履かせてもらっている男性より自分の方がリーダーや管理職に向かない」などと本気で思っているわけではなく、現在の家事の配分状況や上記の「傲慢」「生意気」「自分を知らない」などという世間からの批判をかわす意味が大きいため、*8-3の記事も、女性自身の性格の責任にしている点で女性蔑視を含んでいる。

*8-1:https://www.sankei.com/west/news/181002/wst1810020035-n1.html (産経WEST 2018.10.2) 「充実した人生」「あきらめない性格が受賞に」 本庶さん夫妻で会見
 ノーベル医学・生理学賞に決まった京都大特別教授の本庶佑(ほんじょたすく)さん(76)は、受賞発表から一夜明けた2日、妻の滋子(しげこ)さん(75)とともに京大で記者会見した。本庶さんが「こういう人生を2度やりたいというと、ぜいたくだといわれるくらい充実した人生」と独特の表現で喜びの心境を語り、滋子さんは「主人のあきらめない姿勢が結果につながった」とたたえた。2人はこの日午前8時50分ごろ、会見に向かうため京都市内の自宅を出発。約10分後、京大百周年時計台記念館に到着し、関係者から花束を受け取ると笑みを見せた。紺のスーツに水色のネクタイ姿の本庶さんと、おそろいの水色のスーツで会見に臨んだ滋子さん。本庶さんは「本当に幸運な人生を歩いてきた」と関係者に改めて感謝した上で、「家庭の細かいことはタッチせず、僕は典型的な亭主関白として研究に邁進してきた。家族にも感謝したい」と話した。滋子さんは、「(これまで)あっという間の時間だったがノーベル賞を受賞する結果になり、大変うれしい」と喜んだ。滋子さんも大学で理系を専攻しており、研究の大変さは理解していたという。大勢の報道陣を前に緊張した様子で応じる滋子さんに、本庶さんは時折、心配そうなまなざしを向けていた。米国や東大、阪大、京大と研究の場を求める本庶さんに長年寄り添ってきた滋子さんは、素顔も披露。「主人は何でもあきらめない。とことん極める。家の中でも中途半端な話をしないといったそういう態度をみてきた」と明かした上で、「この結果につながったのではないかと思う」と語った。本庶さんは自他ともに認めるゴルフ好き。夫婦でプレーすることもあるといい、「ゴルフについても研究熱心」と趣味でも突き詰める夫の性格を披露した。さらに会見で「亭主関白」だと語った本庶さんについて、「若い頃の話で、定年後はかなり優しくなった」と話した。

*8-2:http://qbiz.jp/article/140103/1/ (西日本新聞 2018年9月3日) 外科医不足 解消遠く 若手、女性 敬遠鮮明に 志願者増へ取り組みも
 手術室で華麗にメスをさばき、患者の命を救う−。漫画「ブラック・ジャック」に象徴されるような外科医が花形だった時代も今は昔。きつい勤務や訴訟リスクから、若手医師が外科を敬遠する傾向が続いている。高齢化が進み、がんなど外科手術が必要な患者の増加が予想される中、担い手不足が深刻化している。「針先を自分の方に向けないとうまくいかないよ」。8月31日夜、九州医療センター(福岡市中央区)が若手医師を対象に開いた外科技術を競うコンテスト。ベテランの指導を受けながら、医師1、2年目の研修医ら若手11人が、縫合や切開など外科医に求められる繊細な作業に挑戦した。若手に外科への興味を持ってもらおうと、今回初めて企画。自身も心臓外科医の森田茂樹院長は成績上位者に表彰状を渡し「ぜひ外科に来て」と呼び掛けた。日本外科学会によると、医師全体の数は毎年増加しているのに外科学会入会者は減少。30年ほど前は入会者が2千人を超える年もあったが近年は800〜900人台にとどまっている。3年目以降の若手医師が希望の診療科と研修場所を選ぶ「専門医養成制度」で今年、外科を選んだ人数は福岡39人(定員127人)▽佐賀3人(同12人)▽長崎6人(同25人)▽熊本12人(同20人)▽大分8人(同11人)▽宮崎3人(同12人)▽鹿児島11人(同29人)−など、全都道府県で定員を大きく下回った。学会内では「今は中堅・ベテランに支えられているが、10年、20年後に外科医不足が深刻になる」との危機感が広がっている。コンテストに参加した研修1年目の田中里佳さん(25)は「外科は格好よくてやりがいがある一方で、大変だというイメージもある」。病院に勤務する外科医は、緊急の患者に対応するための当直や呼び出しがあり、他の診療科よりも長時間勤務になりがちだ。患者の命を左右する手術の重圧にもさらされる。福岡市のベテラン外科医は「かつては命を救いたいという単純な思いで外科を目指す若手が多かった。毎晩病院に泊まり込んで1件でも多く手術を任せてもらい、経験を積もうと必死だったが、働き方改革の風潮で今の若手は勤務時間が終わると帰るし、無理強いもできない」と嘆く。外科医が少ない傾向は、特に女性医師に顕著だ。厚生労働省の調査によると、2016年末時点で全国の医師のうち女性の割合は約21%だったが、外科に限ると約9%。長時間労働と出産・子育ての両立の難しさが要因とみられる。女性が外科など特定の診療科目を敬遠せざるを得ない現状が、東京医科大で明るみに出た「男子優遇」問題の背景にあるとも指摘される。コンテストを企画した九州医療センターの竹尾貞徳統括診療部長は「外科医が減れば一人一人の負担が増え、労働環境がさらに過酷になる悪循環に陥ってしまう。昔のように根性論で教育するのではなく、子育て支援など若手が働きやすい環境づくりを進める必要がある」と話している。

*8-3https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180930&ng=DGKKZO35929050Z20C18A9EA1000 (日経新聞社説 2018年9月30日) 「無意識の偏見」を克服しよう
 働く女性の数は増え、仕事と子育ての両立支援も充実してきた。真の活躍につなげるうえで、欠かせないことがさらにある。「無意識の偏見」を克服することが、その一つだ。無意識の偏見とは、誰もが気づかずに持っている、考え方、ものの見方の偏りのことだ。育った環境や経験などから培われたもので、必ずしも悪いものではない。だがときとしてそれが多様な人材の育成を阻害することがある。例えば「女性はリーダーに向いていない」「男性は常に仕事優先」などだ。管理職が先入観を持っていると、男性か女性かで部下への仕事の割り当てや期待のかけ方に違いが生じやすくなる。とりわけ育児期には最初から「女性は家庭が優先。負担の重い仕事はかわいそう」となりがちだ。一つ一つは小さなことでも、積み重なって女性の成長機会を奪い「自分は期待されていない」などと、意欲がそがれることがある。男性にとっても、管理職の思い込みが本意でないこともあろう。大事なのは、誰もが無意識の偏見を持っていると自覚することだ。意識すれば慎重に判断できるようになる。属性ではなく一人ひとりにきちんと目を向けること、コミュニケーションを密にし、ときに背中を押すことも必要だ。一方、女性自身も「自分には管理職は無理だ」などと、最初から萎縮してしまうのは、良くない。これもまた、無意識の偏見の一つだ。日本企業の管理職に占める女性の比率は、まだ1割ほどだ。女性の育成・登用を着実に進めるには、職場をあげての意識改革が欠かせない。先駆的な企業の一つ、ジョンソン・エンド・ジョンソンは複数の研修を開いている。少子高齢化が進む日本では、性別はもちろん、年齢、病気や障害の有無などにかかわらず、誰もが自分の力を発揮できる環境を整えることが大切だ。多様な人材を生かす土壌をどうつくるか。誰もがまさに当事者として考えたい。

| 経済・雇用::2018.1~2018.11 | 03:51 PM | comments (x) | trackback (x) |

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