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2013,04,26, Friday
(1)金融緩和の本質
この頃、*1、*2のように、「デフレ脱却のため、2%の物価上昇が目的で、大胆に金融緩和を行う」というフレーズをよく聞くようになったが、これは目的がおかしい。金融は、実物経済の裏側であり、金融が実物経済を誘導することはできないのだ。確かに、MV=PY(M :貨幣供給量 、v :貨幣の所得流通速度 、P :価格水準、Y :産出物の数量)という現象はあるが、これは、現象を数式で説明したものにすぎず、「貨幣供給量が増えれば、産出物の数量が増える(=景気がよくなる)」という因果関係を示したものではない。そして、実物経済が発展して産出物の数量が増加している時には、それに見合った通貨量を供給しなければ経済がうまくまわらないことを説明している式にすぎないのである。 そのため、簡単な例で説明すれば、円の量が2倍になれば、物価が2倍になり、円の購買力が1/2になるため、株価や外貨が2倍になるということで、現在、円安、株高になっているのはそのためである。これは、誰でも、机の上に金を積まれたからといって、国内に有効な投資先がなければ、土地か株か外貨を買って目減りしないようにするのと同じことが、ミクロの行動を足し合わせたマクロでも起こっているということだ(*3参照)。これが行き過ぎると、バブルになる。 よく言われるように、「足し合わせれば変質する」ということはないと、私は考える。金融緩和による上記の現象が起こる中で、何か変質するものがあるとすれば、為替や株で儲けたような気になって散財する人がいるので、土地や高級品が売れるということである。また、円安になるので、輸出企業の円換算後の利益が増える。しかし、同時に、預金や収入の購買力は1/2になっているため、通常の消費者は節約しなければやっていけず、通常の消費財販売高は減る。これにより、多数の年金需給者や低所得労働者から、どこかへ所得移転が行われる。それはどこかと言えば、借入金の価値も1/2になるため、借入れしていた人は1/2しか返さなくてよいという徳政令が出たのと同じ効果があって、借入金が多いのは政府と企業なのである。 (2)金融緩和のもう一つの影響 *4のように、給与所得者の収入が物価と連動して上昇しないのは、明らかである。一部、賃金を上げた会社もあるようだが、それは正社員の給料にすぎない。全労働者の給与所得が、物価上昇と比較してどれだけ上昇したかは、来年、統計をとらなければわからないが、単に金融緩和をしただけでは生産性が上がるわけではないので、給料を上げるわけにはいかないのが道理だ。もし、①緩和された資金で電力改革を進めて国産の安い電力を供給できるようにする ②農業改革を進めて農業の生産性を上げられるようにする ③東日本大震災後の東北を、革新的な形で復興して今までとは異なる高い生産性を上げられるようにする など、実物経済で本当に意味のある投資が行われ、実物経済での生産性が上がれば、初めて経常的に労働者の所得を上げることができるのである。景気対策と称する単なるばら撒きを幾ら続けても、同じことが繰り返され、国民を豊かにしないということを、改めて言っておきたい。 さらに、バブルで土地の値段が上がれば、都市部はさらに住みにくく、事業もしにくい場所となるのは、前回のバブルで経験済みである。 (3)1ドル=100円の為替レートは円安か では、1ドル=100円の為替レートは円安かと言えば、リーマンショックの後、アメリカも中国も金融緩和を行って、景気を下支えした。しかし、日本は、財政健全化を行って金融緩和は行わなかったため、円が強くなり、2013年3月には、1ドル=70円台まで行ったのである。しかし、直近5年では、1ドルは100円前後で推移しており、1ドル=70円台では、輸出企業がどんどん日本を離れ、部品メーカーには生き残るところが少なくなる。そのため、私は、1ドル=100円程度が日本の実力だと思っている(http://www5.cao.go.jp/keizai3/getsurei/2013/04shihyou/shihyou3-2.pdf#search='%E7%9B%B4%E5%89%8D3%E5%B9%B4%E3%81%AE%E5%86%86%E3%83%89%E3%83%AB%E7%82%BA%E6%9B%BF%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%88%E6%8E%A8%E7%A7%BB' 参照)。もちろん、輸入企業には、円安では困るというところが多いが、日本の実力以上の円高は単なるボーナスだったにすぎないため、1ドル=100円程度の為替レートには耐える、輸出企業がやってきたような企業努力はするべきである。 PS(2013.4.27追加):なお、*5のように、インフレターゲットの設定を主張している人は、「日銀がインフレ目標を設定して大量にお金を供給すれば、人々がインフレを予想して早めに買い物をするため、景気が良くなる」と言う。しかし、インフレを予想したから早めに買えるような物は、家や車など緊急性のないものであり、全体として最も消費金額の大きな毎日消費する消費財は、早めに買ったり先に延ばしたりすることはできず、インフレ状況下では多くの人が節約して消費を控えるものである。そのため、この仮説は当たっていないと思う。それにもかかわらず、このような仮説が出て信奉される理由は、日本では、政策を決定したり、経済について論じたりする人の殆どが男性であり、家や車などの耐久消費財には関心があっても、毎日の消費財については奥さんに任せて家計すら見たことがなかったり、金持ちで毎日の消費について考慮する必要もない人が政治家に多かったりするからである。 *1:http://www.nikkei.com/article/DGXNASGC04009_U3A400C1MM0000/?df=2&dg=1 (日経新聞 2013/4/4) 日銀が新緩和策 資金供給2年で倍 日銀、大胆な政策転換 黒田総裁初の決定会合 政策転換を訴えるため新たな政策の枠組みの導入も話し合う。黒田総裁は国会答弁で「資産買い入れ基金」と「通常の国債購入枠」の統合を明言している。「物価上昇率が2%に達するまで緩和を続ける」などと約束することも議題となる。詳細な制度設計には時間を要する場合もあるため、議題によっては4月26日の次回会合に結論を持ち越す可能性もある。市場では4日朝から緊迫した空気が漂った。あるメガバンクの外国為替取引を担当する部署では朝の会議で、想定される緩和策と相場の動きを念入りに点検。為替ディーラーは「どのような緩和策が出るにしろ、相場の反応は未知数だ」と緊張気味に語った。新たな枠組みの詳細設計が次回会合に持ち越しになるとの見方もあり、4日午前の日経平均株価は急落。「これで向こう1、2週間は荒っぽい展開が避けられない」。大和証券の成瀬順也チーフストラテジストは目先の相場の波乱を警戒していた。「外国人投資家からは小口の売りが出ている。ただ『日銀の会合で何か好材料が出るかもしれない』という期待は残っており、様子見ムードも強い」。ソシエテジェネラル証券で株式売買の仲介を担当する小原章弘ディレクターはこう話した。 *2:http://www.nikkei.com/article/DGXNASFL150KY_V10C13A4000000/?dg=1 (日経新聞 2013/4/15) 日銀総裁、物価目標「2年程度で」 支店長会議 日銀は15日、東京・日本橋の本店で各地の経済情勢を報告する支店長会議を開いた。挨拶で黒田東彦総裁は4日に導入した「量的・質的金融緩和」を巡り、「2%の物価安定目標を2年程度の期間を念頭に、できるだけ早期に実現していく」と改めて示した。金融緩和策の波及経路として長期金利の低下や資産価格の上昇を挙げ、「市場や経済主体の期待を抜本的に転換させる効果が期待できる」と強調。「実体経済に表れ始めた前向きな動きを後押しするとともに、高まりつつある予想物価上昇率を上昇させ、日本経済を15年近く続いたデフレからの脱却に導くものと考えている」と述べた。足元の景気動向については「下げ止まっており、持ち直しに向かう動きもみられている」と説明。先行きに関しては、内需と海外経済の回復を背景に「緩やかな回復経路に復していく」との認識を示した。また市場について「グローバルな投資家のリスク回避姿勢の後退や国内の政策期待によって、金融資本市場の状況は好転している」と語った。 *3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20130408&ng=DGKDASGC0700D_X00C13A4NN1000 (日経新聞 2013年4月8日) 三菱UFJ、海外強化 米で不動産融資買収、優良資産増やす 三菱UFJフィナンシャル・グループがドイツ銀行から米国の不動産融資事業を買収するのは、強みを持つ米国を伸ばして海外展開を加速させる狙いだ。欧州銀は金融危機や債務問題の影響で資産売却を進めており、財務基盤が強い邦銀が受け皿になってきた。優良資産を積み増して収益力を押し上げる動きが続きそうだ。3メガ銀の2013年3月期決算は最終利益が2兆円に達し、7年ぶりの高水準となる見通し。ただ、国債売買益頼みの収益構造となっており、日銀の新たな量的緩和で貸し出し利ざやの低下も必至。各行とも海外事業の拡大が課題となっている。三菱UFJは高い成長が見込めるアジアと、もともと強みを持つ米国を強化する方針だ。アジアでは昨年末にベトナム大手銀への出資を決めた。米国は3メガ銀の中で唯一、米地銀を傘下に持ち、非日系企業など顧客基盤が厚い。将来的には規模や収益で全米トップ10入りを目指している。欧州銀行の資産売却は規模拡大をめざす邦銀にとって好機といえる。国際通貨基金(IMF)は昨年、欧州銀の資産圧縮規模が13年末までに最大で4.5兆ドルに上ると予想した。いったん落ち着いた欧州債務問題がキプロスを巡る混乱などで再燃の兆しもあり、今後も売却案件が出てきそうだ。 *4:http://www.47news.jp/CN/201304/CN2013042101001767.html (共同通信 2013/4/21) コメント「所得増えない」69% 共同通信世論調査 共同通信が20、21両日に実施した全国電話世論調査によると、金融緩和など安倍政権の経済政策「アベノミクス」で所得が増えると思うとの回答は24・1%にとどまった。増えないと思うとの答えが69・2%に上り、期待が広がっていないことが分かった。景気好転を「実感できない」との声が81・9%に達し、「実感できる」は13・7%。一方、安倍内閣支持率は72・1%と、前月の71・1%からほぼ横ばい。内閣不支持は16・0%で0・7ポイント減った。憲法改正の発議要件を過半数へと緩和することには42・7%が賛成し、46・3%が反対した。前回と賛否が逆転した。 *5:http://www.nikkei.com/article/DGXNASGH24009_U3A420C1000000/?dg=1 (日経新聞 2013.4.27)アベノミクスがよく分かる GWに読みたい経済書 安倍晋三首相が打ち出した経済政策「アベノミクス」が国内外で話題になっている。アベノミクスの効果で円安・株高が進み、日本経済に明るさが広がりつつあるとの評価がある一方で、副作用を懸念する声もある。アベノミクスとはどんな政策で、何が問題になっているのか。ゴールデンウイークの読書向けに、押さえておきたい「アベノミクス本」をご紹介する。(=文中一部敬称略) ■リフレ派の主張をおさらい アベノミクスは、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の「3本の矢」からなる。その中でも特に注目を集め、賛否両論が分かれているのが金融政策である。大胆な金融政策とは、金融緩和のこと。世の中に出回るお金の量を増やして経済を活気づかせ、日本経済の足かせとなっているデフレから脱却する狙いがある。お金の量を増やしてデフレからインフレにする政策をリフレーション(通貨再膨張、略称リフレ)政策と呼ぶ。リフレ政策の導入を早くから唱えていたのが岩田規久男・元学習院大教授、浜田宏一・米エール大名誉教授、伊藤隆敏・東大教授らの経済学者。リフレ派の主張を取り入れて昨年の総選挙で政権交代を果たした安倍首相のもとで岩田は日銀副総裁、浜田は内閣官房参与に就任した。リフレ派の経済学者の主張、論点をおさらいするのに役立つのは岩田の『日本銀行 デフレの番人』と伊藤の『インフレ目標政策』。「日銀がインフレ目標を設定して大量にお金を供給すれば、人々がインフレを予想して行動するようになる」という仮説がリフレ派に共通の基盤である。浜田の『アメリカは日本経済の復活を知っている』も同じ土俵で議論を展開している。いずれか1冊を読めばリフレ派の主張のポイントをつかめるが、リフレ派が展開する「日銀批判」の辛らつさに面食らう読者もいるだろう。
| 経済・雇用::2012.9~2013.6 | 07:50 PM | comments (x) | trackback (x) |
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