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2013.10.9 TPP推進論者の問題点は、状況を知らない人が「競争さえさせれば物事がうまくいく」という幼稚な発想で政策を作っている点である。
    
     *6より                       *5より

(1)企業の農地所有について(規制を壊して緩和しさえすればよいというものではない)
 *1の記事では、「規制改革の再起動で既得権打ち破れ」として、①医療分野での保険診療と自由診療の併用を認める混合診療の原則解禁 ②保育・介護分野での社会福祉法人と株式会社の競争条件対等化 ③農業分野で農地の所有規制を見直して農業生産法人の要件緩和 などが主張され、これらが岩盤規制の典型とされている。

 特に、*2で再度、企業による農地の直接所有につながる農業生産法人の条件を緩和して企業の所有を可能にすることが必要と書かれているが、企業は社会的責任を果たすよい企業ばかりではない。例えば、初めから商業地や宅地とすることを目的として「農地」を購入し、「農業では経営が成り立たないから」と耕作を放棄し、年取った社長が引責辞任して、「荒れてどうしようもないから」と使用目的を変更するケースが考えられる。このような場合には、食料自給率向上の観点から、返却してもらって他の農業従事者に貸し出すことを可能にするのがリース方式であり、そのために50年という長期間のリースにされており、連続してリースすることも禁止されていない。これで、何か不都合があるのか。

 また、*2には、「農協、農業委員会のあり方の見直し」も書かれているが、現在は20年前と異なり、資材を購入できる場所は農協だけではない上、地域農業の振興には、農業者の互助団体である農業協同組合は必要だ。農業委員会も、農地法に基づく売買・貸借の許可、農地転用案件への意見具申、遊休農地の調査・指導などを中心に農地に関する事務を執行する行政委員会として市町村に設置されているもので(http://www.maff.go.jp/j/keiei/koukai/iinkai.html 参照)、そのように地元の農地、農業、地域づくりに詳しい団体でなければ、適切な判断はできないだろう。もちろん、それぞれ、不十分な点は多いが、その不十分さも地域によって異なるため、改善のためには個別にコンサルティングを行うことが必要なのであって、全部を壊せば新たに生まれるものがよりよいとは思えない。

 逆に壊すことによって、*4、*5のように、それまで築き上げてきた人材や財産を失う。ただし、毎年高い高いと言いながら輸入飼料で飼う畜産は工夫がなさすぎ、食料自給率の向上にも貢献しないため、飼料の国産化とコスト低減を行うべきだ。

(2)混合診療の原則解禁について
 医療に関して、これは、TPPとは関係なく行えばよい。ただし、健康保険料を支払っているのだから、先進医療は健康保険の適用外などとされる理由はなく、速やかに健康保険適用にすべきなのである。

(3)保育・介護分野の事業を株式会社でやる必要があるのか
 社会福祉法人で行う事業には、それぞれ理由、規制、補助がある。これを企業が行いたい場合は、社会福祉法人の子会社を作ればすむ。それにもかかわらず、株主への配当を目的とする株式会社でやる理由はないだろう。もし規制に問題があるのであれば、その規制自体を変えるべきである。

(4)市販薬のインターネット販売は解禁すべきなのか
 *1には、「市販薬のインターネット販売を制限していた厚労省の裁量行政は違法だと最高裁判決が1月に断じた後、首相はネット販売の全面解禁を宣言したが、厚労省は解熱鎮痛剤「ロキソニンS」など28品目を数年間、ネット販売から外す規制を画策している」と書かれている。

 しかし、私は、市販薬であっても、ビタミンCやカルシウムのように食品に含まれているものではなく、解熱鎮痛剤をインターネットで販売するのはよくないと考える。何故なら、購入者の病気は、検査を受けた後に「解熱鎮痛剤の投与が適切だ」と医師から診断されたものではなく、背後に深刻な病気が潜んでいる可能性もあるからだ。その場合、薬局で買えば、薬剤師が顔を見て必要な話をしながら販売しているが、インターネットは、顔も見ない相手に無制限に販売するのである。つまり、安全規制をみだりに緩和してはならず、規制自体がそれでよいか否かは、毎年、見直すべきなのである。

(5)法曹人口を拡大すれば、質の高い法務サービスが提供されるのか
 *1に「法曹人口の拡大に対して日弁連は強く反対しているが、質の高い法務サービスを企業や個人に提供する弁護士はもっと増やす必要がある。弁護士同士が切磋琢磨し、利用者のニーズに応えられない弁護士が淘汰されるのは、やむを得まい」と書かれているが、数が増えれば切磋琢磨して質が上がるというものではない。むしろ、急激な新人の増加で、十分な研修を受けていない弁護士が増えれば全体の質は下がり、利用者は事前に他と比較することはできず利用した後にしか質はわからないため、正しい選択もできない。また、勉強して困難な試験を突破した人にそれなりの待遇が約束されなければ、困難な勉強をする人が減る上、少子化で、ただでさえ少ない優秀な人材の無駄遣いになる。医師や公認会計士にも同じことが言われて数を増やした結果、同様の弊害が出た。

 ここで、最も大きな問題は、関係のない人が、事情も分からないのに当事者の意見も聞かず、競争さえすればうまくいくという幼稚な発想の下、このような政策を進めることである。

(6)環太平洋連携協定(TPP)に参加すべきか
 *3では「環太平洋連携協定(TPP)への参加に反対する大学教員や弁護士、消費者団体が2013年9月14日、TPPの問題点を考えるシンポジウムを東京都内で開き、TPP交渉を止めるための国内外での連帯や危険性を国民に広く伝えていくことの重要性を指摘する意見が相次いだ」とのことで、頑張って欲しい。TPPは、それぞれの分野で多岐に渡っているため、反対する側も、分野毎にチームを作って検討するほかない。

 一方、*6では、「交渉参加は遅れたが、参加国から『交渉のスピードは落ちていない』と評価する声もある」として、現地で会見した甘利明TPP担当相が、他国から「大きな期待を感じた」と満足げだったそうだが、他国は、日本に農産物等を売り込むチャンスだから期待して評価するのであり、それと日本の立場は逆であることを忘れてはならない。

 つまり、環太平洋連携協定(TPP)参加の後、オーストラリアでは雇用が増えるかも知れないが、日本の地方では農業及びその関連産業が崩壊し、失業者、生活保護者があふれて福祉をさらに圧迫する上、食品の安全も相手国次第になってしまうのである。このような中、事業の存続は、できるか、できないかの二者択一であり、妥協はないのだから、日本がリードして国民を犠牲にし、他国によい顔をして妥結などされてはたまったものではないのだ。

*1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20130930&ng=DGKDZO60378440Q3A930C1PE8000 (日経新聞社説 2013.9.30) 規制改革の再起動で既得権打ち破れ
 安倍政権が規制改革会議の活動を再開させた。6月に改革会議が出した初の答申は雇用改革などに前進があったが、医療と農業の岩盤規制には踏みこまなかった。アベノミクスの3本の矢のなかで、日本経済を安定成長に導くのに最も効果があるのが第3の矢の成長戦略、とりわけ規制改革だ。
●医療・農業に踏みこめ
 改革は既得権益を守りたい勢力とそれを後押しする官庁や族議員との闘いだ。硬い岩盤を砕く力を蓄えられるよう改革会議を支えるのは、首相官邸の責任である。改革会議は2014年6月の第2次答申に向けて優先して取り組む案件を決めた。(1)医療分野で保険診療と自由診療の併用を認める混合診療を原則解禁する(2)保育・介護分野で社会福祉法人と株式会社などとの競争条件を対等にする(3)農業分野で農地の所有規制を見直す――の3つだ。
 混合診療は、厚生労働省が今も一部の自由診療にかぎって併用を認めている。先端医療技術は日進月歩の革新を遂げており、健康保険が利かなくとも安全で有効ならその恩恵に浴したいという患者は少なくない。混合診療を原則解禁に導くのが改革会議の責務だ。
 保育・介護分野は、たとえば用地難に悩む都市部で株式会社が運営する保育所や介護施設に国公有地の利用を認めるなどの改革を求めたい。規制面だけでなく、税制を対等にすることも必要だ。
 農業分野は、農地を集約して生産規模を広げる法案を次期国会に出すべく農水省が準備している。県単位で設ける中間管理機構が耕作放棄地などをまとめて整備し、希望者にリースするやり方だ。それは一歩前進だが、本丸は企業の農地所有に道を開く農業生産法人の要件緩和だ。農協の組織改革にもぜひ踏みこんでほしい。
 これら3分野はともに岩盤規制の典型だ。ほかの政権より改革に熱心だった小泉政権のときから取り組んできた案件だが、今なお顕著な実績をあげていな い。改革会議は3分野について、分野別の作業グループに解決を委ねるのではなく、改革会議の委員全員で早く結論を出す方針だ。議長がいかんなく指導力を発揮し、各委員が知恵と工夫を結集させ、既得権益団体や規制官庁の岩盤を打ち破れるよう稲田朋美担当相らがもっと前へ出るべきだろう。気になるのは、この3分野以外に新たに規制をつくったり、いったん緩めた規制を再強化したりする動きがしだいに強まってきたことだ。参院選後に巨大与党が誕生し、既得権益団体などの支援を受けた族議員が復活しつつあるのが背景ではないか。そうした動きに官邸が歯止めをかけようとしないのは問題だ。
 市販薬のインターネット販売を制限していた厚労省の裁量行政は違法だと最高裁判決が1月に断じた後、首相はネット販売の全面解禁を宣言した。だが同省は今になって解熱鎮痛剤「ロキソニンS」など28品目を数年間、ネット販売から外す規制を画策している。改革会議はネット販売と店頭販売に不合理な差を設けないことが消費者利便を高めるという内容の意見書を出した。正論だ。それでも厚労省が規制復活にこだわる場合は、首相が厚労相に指示してやめさせなければならない。
●復活・再強化の阻止を
 自公両与党は民主党と組みタクシー規制を再強化する法案を次の国会に出す。タクシーの台数が多いと認めた地域は新規参入と台数増を一定の期間、禁ずる内容だ。タクシー規制は緩和のたびに業界団体が再規制をもくろみ、国土交通省や運輸族議員に働きかける繰り返しだ。そこでは往々にして参入規制や台数制限を強めて競争を排除しようという供給側の論理が優先する。運転手として新たに職を得ようとする人や利用者の利便を高める視点を置き去りにしてよいはずがない。
 法曹人口の拡大に対して日弁連は強く反対している。しかし質の高い法務サービスを企業や個人に提供する弁護士はもっと増やす必要がある。弁護士同士が切磋琢磨(せっさたくま)し、利用者のニーズに応えられない弁護士が淘汰されるのは、やむを得まい。
ほかにも日本郵政が事実上、独占する手紙・はがき事業を宅配便業者などに開放するのが積年の課題だ。信書の秘密を守りつつ、より安く確実に届ける力を備えた企業には参入を認めてよい。改革会議の役割は事ほどさように多い。かつて首相は規制改革こそがアベノミクスの一丁目一番地だと語った。いま一度それを明確にすべきときだ。

*2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20131008&ng=DGKDZO60781470Y3A001C1EA1000 (日経新聞社説 2013.10.7) 規制改革で効率的な農地集約をめざせ
 政府は耕作放棄地などを地域ごとにまとめて整備し、意欲のある農家や企業に利用してもらうための法案を次の臨時国会に提出する方針だ。新たな制度が効率よく日本の農業強化に役立つように、政府は規制改革会議の議論を踏まえていっそうの農業規制の見直しを進めてほしい。2014年度の導入をめざす新制度は都道府県ごとに新設する農地の管理機構が中心的な役割を担う。農業委員会の許可を必要とせずに機構はまとまった規模の農地を動かせる。農地の情報を公開し借り入れ希望者の公募もできる。将来は耕作放棄地になりそうな農地の所有者にも貸し出しを促せるようになる。これらは前進だ。課題はある。まず、農林水産省が1千億円を求めた予算の規模だ。農地の所有者に貸し出しを促すための対策や、借り手が決まるまで機構が集めた農地を保有し、地域ごとにまとめて整備するための費用はたしかに必要だ。だが、無駄は徹底的に削らなければならない。そのためには整備しようとする耕作放棄地などが農地として本当に価値があるのかを見極める力が機構に求められる。借り手が見つからない場合、農地を所有者に戻す期限もきちんと決めて守る必要がある。規制改革会議は予算が効率よく使われ、農地が適正に貸し出されたかなどのチェック体制と公表を求めている。当然だろう。権限が集中する機構が、自治体の天下り組織になるようなことがあってはならない。民間企業の人材を積極的に登用してほしい。今回の新制度は農業分野の規制改革としては最初の一歩だ。政府も農地の貸出先については、一度決まったらそれで終わりということでなく、変更を繰り返して生産性の向上につなげる考えだ。農地集約を効率よく進めるために規制改革は欠かせない。企業による農地の直接所有につながる農業生産法人の条件の緩和や、農協、農業委員会のあり方の見直しなどに取り組んでもらいたい。食品や外食業界では農産物の生産をめざす企業が増えている。政府はこうした機運に弾みをつけるためにも、規制改革会議での論議をもとに思い切った改革を打ち出すべきだ。環太平洋経済連携協定(TPP)で貿易自由化がどのような形になるかにかかわらず、農業の競争力を高める取り組みは待ったなしだ。

*3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=23389
(日本農業新聞 2013/9/15) TPP阻止 国内外で連携を 大学教員、弁護士らシンポ
 環太平洋連携協定(TPP)への参加に反対する大学教員や弁護士、消費者団体は14日、TPPの問題点を考えるシンポジウムを東京都内で開いた。生産者や消費者、学者ら約400人が参加。会場からの発言を含めて、TPP交渉を止めるための国内外での連帯や危険性を国民に広く伝えていくことの重要性を指摘する意見が相次いだ。
 シンポジウムは、TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会と、TPPに反対する弁護士ネットワーク、主婦連合会が主催。「このまま進めて大丈夫なの? TPP交渉」と題し、主催団体や農業団体などの代表らが意見を交わした。TPPを含む規制改革による医療への影響について日本医師会の中川俊男副会長は、保険が適用される治療法や薬などの範囲が縮小し、高額な保険外診療が拡大する懸念を説明。「日本の質の高い国民皆保険制度が崩壊する」として、「医療が危ないということを言い続けなければならない」と決意を表明した。会場からも医師が「医療に携わる者の大同団結」を主張した。
 JA全中の小林寛史農政部長は「食料自給は健康と生命維持に不可欠」と指摘。高い水準の貿易ルールを目指すTPPでは「アジア・太平洋地域の農業の多様性は維持できない」とし、農業と工業は考え方を分けて交渉すべきだとの考えを強調した。北海道から「TPP問題を考える十勝管内関係団体連絡会議」代表の髙橋正夫本別町長が参加。30団体が参加する「オール十勝(で反対する)体制ができた」と報告。3月に4300人で集会を開いたことなどを紹介し、「地域を守り、暮らしを守るために立ち上がった」と述べ、全国的な連帯を求めた。
 開会に当たって主婦連の佐野真理子事務局長は「米国でもアジアでもTPP反対運動が高まっている。国際的な連携と団結が必要」と訴えた。主婦連の山根香織会長や弁護士ネットの杉島幸生弁護士、大学教員の会の鈴木宣弘・東京大学大学院教授らも発言した。

*4:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=23665 (日本農業新聞 2013/10/1) [崩れるモデル経営 緊迫TPP 4] 養豚 高度化努力 無駄に 愛知県幸田町
 規模拡大や生産の効率化で経営改善を進めてきた養豚業界。TPPで関税が無くなれば、国産豚肉のシェアは奪われ、飼養頭数の激減は避けられない。飼料価格の高止まりが続く中、飼養頭数の減少は生産性を再び下げる恐れがある。銘柄豚生産者にも「安い輸入豚肉との価格競争に加え、飼料の経費増に勝てるのか」との不安が付きまとう。愛知県幸田町で年間9000頭を出荷する(有)マルミファームはこの十数年、規模の倍増と液状飼料の自動給餌化に向けた投資を積極的に行い、無駄のない経営を進めてきた。獣医師資格を持つ社長の稲吉克仁さん(43)は、2001年に後継者として入社。欧米の最新設備を学び、経営拡大の最前線に立った。飼料コストの低減と良食味の両立のため、克仁さんの父で同社会長の弘之さん(73)が1998年から始めたビタミンE強化飼料の共同購入組織「やまびこ会」の取り組みに加え、液状飼料にエコフィードを使った省コスト化を実践。飼料全体の4割をエコフィード化し、全量配合に比べ価格を2、3割安く抑えている。「やまびこ会」は、愛知を中心とした6県の25戸で構成し、銘柄豚「夢やまびこ豚」を生産する。国のTPP試算では“生き残る”とされる銘柄豚だが、その定義は曖昧だ。何らかの基準を設けて販売される豚肉は、300種類以上にもなるといわれている。克仁さんは「低コストで生産し高付加価値で売らないと、飼料高さえ切り抜けられない。TPPとなれば、味でも差をつけてやっと銘柄として残れるのでは」と考える。だが、これまで積極的に進めてきた規模拡大には「慎重にならざるを得ない」と言う。TPPによる輸入豚肉の増大で国産枝肉価格が下がれば、日本全体の飼養頭数が減る。大量飼育による飼料コストの圧縮は難しくなり、高度化を進めてきた経営モデルを一から見直さざるを得ないからだ。養豚農家は2月時点で、10年前の6割に当たる5570戸まで減少した。高齢化や飼料高騰が要因だ。一方、規模拡大で経営の効率化が進み、飼養頭数は968万5000頭と、10年前の水準を保つ。豚肉の自給率は重量ベースで53%(12年度概算)で、何とか半数以上を堅持する状況だ。弘之さんは日本養豚協会の代表副会長として、マレーシア、ブルネイでのTPP交渉時に、現地で「国益がなければ即時脱退を」と訴えてきた。40年前に母豚36頭から始めた養豚は、社員6人の雇用をはじめ、地域経済を支える産業の一つになっている。「地域の活力をどうか奪わないでほしい」。弘之さんは声を絞り出すように語った。
●関連産業も空洞化
 政府統一試算は、関税が撤廃された場合、豚肉の生産量は70%、生産額は約4600億円減少すると見込む。残る豚肉の価格も下落を見込む。現行の豚肉の関税制度は、低価格品ほど高い関税率となる「差額関税制度」で安い海外産豚肉の過剰輸入を抑えている。関税を除く輸入価格(CIF=運賃保険料込み)が1キロ64.53円以下の場合、482円を関税として課し、64.53円より高く524円以下の場合は基準輸入価格(546.53円)との差額を関税として課す。524円を上回る高級部位の場合は4.3%と低い関税率が課される。関税がなくなれば、加工・業務向けの低級部位の輸入が急増する公算が大きい。東京の輸入業者は「ハムやソーセージの原料は1キロ300円程度で輸入可能になる」と強調。「国内養豚業は太刀打ちできない」とみる。人口や需要が増すアジアに食肉業者の進出が進み、「国内養豚業はほぼ壊滅する」と警鐘を鳴らす。

*5:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=23785
(日本農業新聞 2013/10/6)  [崩れるモデル経営 緊迫TPP 6] 肉用牛 繁殖・肥育 共倒れ 滋賀県東近江市
 全国屈指の和牛の一つである近江牛の産地、滋賀県。肉用牛の1戸当たりの飼養頭数は全国平均の4倍の168頭で、北海道に次ぐ全国2位の規模を誇る。このうち7割が近江牛となる黒毛和種だ。同県では、ブランド力強化に向けて一層の規模拡大や飼養頭数の増大、官民挙げての輸出促進に取り組んでいるが、TPPによる牛肉関税の撤廃という不安が関係者に重くのしかかる。「関税撤廃で和牛の販売価格が下がった場合、真っ先に打撃を受けるのは繁殖農家だ。政府はTPPの影響試算で、高品質な和牛は安い輸入牛肉と競合しないため生き残れるとしたが、和牛産地も生産縮小の負のらせんに陥りかねない」。同県東近江市で和牛を250頭飼養する田井中牧場の田井中龍史さん(37)は、そう指摘する。和牛販売価格が下がれば肥育農家は高い子牛を買えなくなり、繁殖農家の経営が立ち行かなくなる。繁殖農家が減れば、和牛産地は縮小に追い込まれるとの見立てだ。同牧場は交雑種(F1)を中心に肥育をしていたが、10年前から和牛への切り替えと繁殖の導入に乗り出した。繁殖肥育の一貫経営に取り組むのは子牛の価格変動の影響を最小限に抑えるためで、子牛価格が値上がりしている今はその効果が出ている。近江牛の繁殖肥育一貫経営は、後継者確保やブランド力向上の観点から県も支援している。一貫経営で、グリーン近江枝肉共励会1席など数多くの表彰を受けてきた同牧場は、県が目指す近江牛のモデル的な経営でもある。しかし、牛肉の関税撤廃で和牛枝肉と子牛の価格下落がらせん的に生じた場合、乗り越えることができるのか。龍史さんは「できる手立ては講じてきた。経営努力には限界がある」と強調する。61歳の父親が繁殖、龍史さんが肥育部門を担当し、年間販売高が1億円を超えるところまでこぎ着けた。TPPによる牛肉の関税撤廃を阻止し、和牛生産に励む姿を長男(10)や長女(9)に「ずっと見せたい」と願っている。県肉牛経営者協議会の古溝彰会長も「TPP交渉が若者の意欲を奪いかねない」ことを心配する。龍史さんが牧場を経営する東近江市を含めたJAグリーン近江管内は県内有数の肉用牛産地で、数年前から畜産農家の後継者が相次いで誕生しているためだ。20、30代の12人が昨年、研究会を立ち上げた。「近江牛には先人が築いた素地がある。全国屈指のブランド牛の地位を守り抜く」。古溝会長は、牛肉の関税撤廃は決して許さない決意を示した。
●畜産対策 縮小の恐れ
 政府統一試算では、関税が撤廃された場合、肉牛の生産量は68%、生産額は約3600億円減少すると見込む。3等級以下の国産牛肉の9割が外国産に置き換わり、残る国産の価格も下落する見通しだ。さらに年間約700億円に上る関税収入を失うとの見方がある。このため関税収入を財源とする肉用子牛生産者補給金など畜産対策の縮小につながる恐れもある。実際に課している関税率38.5%が撤廃され、無税で輸入可能になった場合、輸入品の平均価格は現在の1キロ700円程度から500円程度に下がる。国産との価格差が一層広がり、ホルスタインの雄と肉専用種の約半分の需要が奪われる可能性が大きいとしている。

*6:http://qbiz.jp/article/24970/1/
(西日本新聞 2013年10月09日) TPP首脳会合、年内妥結へ決意
 日本を含む12カ国で交渉を進める環太平洋連携協定(TPP)交渉は8日、インドネシア・バリ島で首脳会合を開き、「年内に妥結することを目的に、困難な課題の解決に取り組むべきであることに合意した」とする声明を発表、閉幕した。安倍晋三首相は終了後、関税を含む「市場アクセス」など難航分野の交渉を急ぐことで一致したとして、「年内妥結に向けて大きな流れができた」と評価した。安倍首相は、政府、与党が「聖域」とするコメや麦、牛肉・豚肉など農産品5項目の関税撤廃について「各国それぞれ重要項目があり、それに配慮しながら包括的で水準の高い結論を得るべく努力すべきだ」と述べた。声明は、冒頭で「交渉が完了に向かっている」と明記。「各国の新旧の貿易と投資の課題に対応し、雇用の維持・創出を支える」とし、新興国に対して投資に関するルール適用など一部の協定発効を先進国より遅らせるよう配慮した。さらに、TPP参加に関心を示す中国や韓国を念頭に「将来参加する可能性について関心を表明するほかのアジア太平洋諸国と接触している」と言及した。12カ国は年内合意に向け、難航分野の一つである「知的財産」の事務レベルの会合を日本で開催することに合意。他分野の詰めも急ぎ、年末に閣僚会合を開催して年内妥結を目指す。ただ、TPP交渉を主導してきたオバマ米大統領が政府機関の一部閉鎖などで動きが取りにくくなっており、交渉の流れが鈍化する恐れもある。首脳声明には、当初目指した「大筋合意」は盛り込まれなかったが、8日夕会見した甘利明TPP担当相は「全体として、そういう(大筋合意)評価だ」と述べ、交渉が前進したとの認識を示した。日本が掲げる重要5項目の関税撤廃問題については「党の点検作業を見守りたい」と述べるにとどめた。
◆「大筋合意」盛り込めず
 交渉結果は下方修正だった。8日終了した環太平洋連携協定(TPP)交渉会合は、首脳声明で当初目指した「大筋合意」を盛り込めず、「交渉が完了に向かっている」との表現にとどまった。安倍晋三首相は年内妥結に自信をみせたが、交渉を主導するオバマ米大統領が議会対応で参加できず、日本も関税問題で重要農産品5項目の「聖域」を守る決意のほころびが表面化。先行きは予断を許さない。「難しい問題は残ったが、閣僚や交渉官に解決に向けた指示を出すことで合意でき、大変有意義だった」。一連の交渉会合を締めくくる首脳会合はわずか1時間だったが、安倍首相は2回の発言を通して交渉を推進した自負をみせた。難航分野の一つ「知的財産」の事務レベル会合の日本開催が決まり、日本は今後の交渉を主導する決意を示した。交渉参加は遅れたが、参加国からは「交渉のスピードは落ちていない」と評価する声もある。現地で会見した甘利明TPP担当相は、会合をリードする日本に対し、他国から「大きな期待を感じた」と満足げだった。
□誤 算 
 誤算もあった。オバマ氏は、政府機関の一部閉鎖問題で首脳会合を急きょ欠席。オバマ氏は来年秋の議会中間選挙を控え、2010年春から続くTPP交渉の決着を急いでいた。首脳会合で「交渉作業を実質的に終えた」と強いメッセージを打ち出す考えだった。ただ、新興国には協議を強引に進める米への不信もある。マレーシアのナジブ首相は首脳会合前の6日、「年内妥結は困難」と表明。首脳声明は米以外の国の意見を反映した現実的な内容に落ち着いた。主導役不在で参加国の結束に微妙な陰りがうかがえた。
□影 響 
 日本の国内事情も今後の交渉に影響を与えそうだ。会合中にバリ島に入った自民党の西川公也TPP対策委員長は、農業分野5項目のうち、一部品目の関税撤廃検討に踏み込んだ。難航分野の交渉推進に向け、「日本も精いっぱい身を削っている」と演出する狙いだが、参院選などで「聖域」死守を掲げた党内に戸惑いや反発が広がっている。甘利氏は「党と意思疎通を図っていきたい」と、当面党の検討作業を見守る構え。安倍首相が目指す「高い水準の結論」に向け、国内世論もにらんだ交渉が、これから正念場を迎える。


| 環太平洋連携協定(TPP)::2012.11~ | 01:05 PM | comments (x) | trackback (x) |

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