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2014,05,21, Wednesday
日本の経済成長率推移 *1-1より *1-3より (1)日本の経済成長率が低くなっていった理由 このブログの2014.5.5(年金・社会保障のカテゴリー)に記載したように、わが国の経済成長率は、上の左のグラフのとおり、1955年体制から20年経過した1975年にオイルショックで下落し、異次元の金融緩和によってもたらされたバブルで何とか雇用を維持しながら20年経過した1995年のバブル清算時に、さらに落ちた。その理由は、バブル時の金融緩和で、次の時代に向けての変革と投資をしなかったからで、その状況は、このブログの2012.5.18(経済のカテゴリー)に、詳しく書いた。 そして、金融緩和に依る低金利は日本企業の利益率を低下させ、物価高騰による貨幣価値の低下と相まって、年金や貯蓄で暮らしている老人の財産や年金資産・保険資産に被害を与えた。つまり、生産性を上げ、新たに必要となったサービスに転換するという当然のことをせず、雇用維持のみに汲々とし、それを是としたわが国の文化がこの低成長率の原因なのだ。そのため、現在も行われている同じ行為を、(2)と(3)で説明しよう。 (2)中国・米国もEV(電気自動車)にシフトしている時、環境技術を提供してエンジンの燃費削減(!?) *1-1、*1-2のように、中国政府はEV購入への補助金を拡大し、排気ガス削減に取り組んでいる。日産自動車(ゴーン社長)はこの流れに乗り、EVの販売を拡大し、20%のシェアを占めようとしており、ヴェヌーシアブランドの新型車『R30』について「5万元(約80万円)よりもっと下の価格で出せる」と言っている。これは、環境と価格の両方の要請に対応した商品だ。 また、環境に関心が薄かったガソリン車の国、米国でも、フランスのEVシェアリング事業者が、米国トップクラスのカーレースイベントの開催地であるインディアナポリスに、EV500台、充電ステーション1200か所を投入して、EVシェアリング事業を始めるそうだ。 *1-4より *2より ヨーロッパでは、*1-4のように、スイスのマッターホルン山麓にあるツェルマットで、20年以上も前からEVが利用されており、ツェルマットの市街地は自治体の条例でEVしか走れないため、市街地を走るのはEVと観光用の馬車のみだ。私は、1998年にここを訪れ、バスに乗った時に、運転手さんに「電気自動車で坂道を走るのは馬力が足りないのではありませんか?」と聞いたことがある。これに対し、運転手さんは、「環境を守るというそれよりも大切なことのためには、我慢しなくちゃね」と答えたので感心し、日本なら十分に馬力があって不便のないEVが作れるだろうと思って経産省に提案し、EVの開発が始まった。そのため、日本で先頭を切ってEVが走っていても不思議はないのだ。 しかし、*2のように、トヨタやホンダなどの国内自動車8社は共同で、環境負荷の少ないディーゼルエンジンの研究を行い、二酸化炭素(CO2)排出量を2020年までに10年比3割減らす燃焼技術などを開発し、成果は各社がガソリン車も含めて実用化するという志の低さだ。これは、排気ガス0を目指して、世界がEVや燃料電池車を開発している時に、日本が先んじて開発した環境技術を世界に供与しながら、自らは過去にこだわって投資費用、研究費用をどぶに捨てているようなもので、このような意志決定とそれが行われる土台こそが、国民を犠牲にしながら経済成長率を上げられなかった理由である。 (3)発電技術も同じ *3-1のように、福島の子どもの甲状腺がんは、がんの診断が「確定」した人が50人、「がんの疑い」とされた人が39人になったそうだが、環境省は、これでも放射線の影響を否定している。また、*3-2のように、フクシマで原発所員は9割撤退し、その後、衝撃音がして原子炉圧力抑制室の圧力がゼロになった(爆発した)ことも隠されたままだった。 そして、*3-3のように、太陽光発電等の自然エネルギーによる発電機器も日本が一番進んでいたにもかかわらず、「火力発電用燃料の輸入増で国富は日々流出し、料金再値上げで国民の負担は増大する」という理由で国は原発の再稼働を急いでいるという、つきあいきれない先見の明のなさなのだ。 これらは、古いシステムにしがみついて、せっかく日本で最初にできた技術を世界で遅れさせてしまう行為だ。その根底には、役所のシステムや当面の雇用と既得権益者を守ればよいとする考え方があり、最初に日本で開発された技術が他国で開花したのを見て、バスに乗り遅れまいと、あわてて導入するという情けなさなのである。 (4)問題の解決法 先日のSTAP論文に対する報道を見ても、文科系の人でも科学的思考ができるようにすべきであり、同情論や妬みの論理しか言えないような人は作らず、他人の成功を祝福できる国民性を育てることが必要である。また、新しい複雑な事象が発生してそれにあった合理的なルールが必要な時に、既存の基準(ルール)を守ってさえいればよいとしか言えない人も作ってはならない。 これは、日本が低賃金労働で比較優位となる開発途上国を卒業して先進国となり、従順に上の指示を実行して他国を真似して一丸となって進めばよい時代から、他国の手本は無く、多くの人が頭脳を持って現在のニーズにあった付加価値の高いものを作るべき時代になったことに対する教育の対応である。 *1-1:http://qbiz.jp/article/38012/1/ (西日本新聞 2014年5月19日) 中国がEV補助金を拡大、日産はEV販売に本腰 中国政府は電気自動車(EV)購入への補助金を拡大しており、排気ガス削減に取り組んでいる。日産自動車はこの流れに乗り、EVの販売を拡大し、20%のシェアを占めようとしている。米ブルームバーグの5月14日の報道を引用し、環球網が伝えた。EVは「ゼロ排出」車であるが、価格が高額で、航続距離が限られており、充電スタンドが少ないことから、普及が進んでいない。アナリストは、2017年もしくは2018年までに、中国でのEV販売台数が10万台に達すると予想した。最も楽観的な予測によると、その販売台数は40万台に達する見通しとなっている。日産の中国合弁である東風汽車有限公司の関潤総裁は、「中国政府は新エネ車の普及を重視しており、他国では比にならぬほどの補助金を支給している。販売台数の増加に伴い、充電スタンドも増加するだろう」と語った。日産のリーフは、中国で最も売れているEVだ。リーフは昨年、値下げと航続距離の延長により、販売台数が76%増の7547台に達した。日産はその一方で、現地ブランド「ヴェヌーシア」によって、中国のEVの需要を満たすことを決定した。ヴェヌーシア初のEV「e30」が、今年度中に発売される。日産は大連、広州、襄陽などで協力を展開し、自社製EVの魅力を高めている。 *1-2:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140514-00000041-rps-bus_all (YAHOOニュース 2014年 5月14日) 日産関専務、ヴェヌーシアR30「もっと安くできる」 日産自動車の関潤専務執行役員兼東風汽車有限公司総裁は、近く中国で受注を開始するヴェヌーシアブランドの新型車『R30』について「本当に5万元以下でやっていけるのかとよく聞かれるが、実は我々、もっと下で出すつもりだった」と明かした。R30は4月に開催された北京モーターショーで初公開され、5万元を切る価格で、今後2か月以内に受注を開始することが伝えられた。関総裁はR30の価格について「探りの5万元」と表現した上で、「造れる量もいろいろ限られているので、造れる量とお客様の反応をみて、どれくらいでだそうかなと考えた。ポテンシャルではもっといけると思っている」と述べた。具体的なコストダウンに関しては「造りを少しリーズナブルにしたところはある。たとえばヘッドレストの分割をやめているとか、リアのハッチゲートをハッチガラスにするなど、シルエットを極端に変えないところで、競合他社がすでに安くした部品を、そのまま我々も導入して安くしている。またすでに償却が終わっているものを流用して安くしている」と説明。その一方で「中国のお客様が、この価格帯で要望されているものをちゃんと織り込んで喜んでもらうというのがポイントになるので、単純にビジネスでみていくというのではなく、そういったところから車をまず描いて、そうしたテクニックを織り込んで実現した」とも語った。 *1-3:http://www.afpbb.com/articles/-/2949802?pid=10888290 【AFP 2013年6月12日】 EVシェアリング、米インディ500開催市に進出 フランスの電気自動車(EV)シェアリング事業者が、米国トップクラスのカーレースイベントの開催地に目を付けた──インディアナポリス(Indianapolis)だ。パリ(Paris)でEVシェアリング事業を成功させた仏ボロレ(Bollore)は来年初め、EV500台、充電ステーション1200か所を、インディアナポリス500(Indianapolis 500)の開催地に導入する計画を立てている。総額3500万ドル(約34億円)の同プロジェクトは、ボロレ初のフランス国外での自動車シェアリング事業で、米国の各都市に進出する第一歩となる。ニューヨーク(New York)やシカゴ(Chicago)、サンフランシスコ(San Francisco)などの大都市と異なり、自動車シェアリングプログラムや公共交通機関の発達していない米中西部の広大な都市にとって、より良い公共交通機関には切迫したニーズがあり、インディアナポリスで始まる同プロジェクトはその要望に応えることができるだろう。プログラムは短距離の片道のEVレンタルが基本で、目的地の最寄りの充電ステーションに車載GPS(全地球測位システム)を通じて駐車スペースを予約しておくというもの。プログラム名はまだ決まっていない。 ■インディアナポリス皮切りに全米に広がるか 物流大手で、EV用電池と「スマート」電力システムを開発するボロレは、インディアナポリス市長が昨年、市の公用車を全台EVに変える計画を発表したことを受けて、同市に目を付けたという。また政治方針だけでなく、同市には、自動車シェアリングを活用できるような「非常にダイナミックなビジネス社会」と、大規模な学生人口が存在すると、プロジェクトを運営するボロレ子会社のゼネラルマネジャー(GM)は語る。充電ステーションは自家用のEVでも利用可能で、これによりインディアナポリスは米国有数の電気自動車都市となる。ボレロは米国の複数の都市とすでに接触しており、ボロレ子会社のGMによると、どの都市もEVシェアリングプログラムに関心を示しているという。「問題は、その関心をどうやったら実際のプロジェクトに変換できるかだ」と同GMは語った。 *1-4:http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1002/03/news010.html [松田雅央Business Media] 電気自動車と馬車しか走れない スイス・マッターホルン山麓にある「ツェルマット」は高級リゾート地として知られているが、市街地を走れるのは電気自動車(EV)と馬車のみ。最新技術のEVと前時代的な馬車が混在する街とは一体どのようになっているのか。現地をリポートする。 スイス・マッターホルン山麓にあるツェルマットは高級リゾート地として世界にその名を知られている。夏は登山、冬はウィンタースポーツを楽しむ人々でにぎわい、三角錐(さんかくすい)の頂を持つ名峰マッターホルンをはじめとした4000メートル級の山や氷河へ通じる山岳鉄道の基地でもある。 最寄の都市ヴィスプからツェルマットまでは道路も通じているが、主要交通機関は鉄道だ。雪深い土地のため狭い渓谷を縫うようにして走る道路は不便であり、またエンジン自動車の多用は排気ガスによる大気汚染を引き起こしてしまう。 特筆すべきはツェルマットの特異な「EV交通政策」だ。ツェルマット市街地は自治体の条例によりEV(電気自動車)しか走れない決まりになっており、市街地を走るのはEVと観光用の馬車のみ。最新技術のEVと前時代的な馬車が混在する光景は正直いって奇妙だが、環境と都市交通をテーマとしている筆者にとっては刺激的な組み合わせでもある。 ●EVが500台 EVの実用化に対する世界的な関心が盛り上がってきたのはここ数年なのに対し、ツェルマットがEV利用に取り組みだしたのは20年以上も前のこと。ツェルマット交通局のEV路線バス運行責任者ベアート氏もいつからEV交通政策が始まったのか正確には分からないそうだ。現在、ツェルマットを走るEVは計500台(EV路線バス6台)。にわかにEV利用を始めた都市とは歴史の長さが違う。ヴィスプからおよそ1時間ほどで列車は終点のツェルマットに到着する。タクシー、バス、配送用のクルマを含め、駅前に停まっているクルマはすべてEVだ。ただし、除雪車やブルドーザーなど、高いパワーを長時間要する作業用EVはまだ実用化されていないため、通常のエンジン車両が利用されている。住民がエンジン自動車を持つことは制限されていないが、市街地に乗り入れることはできないので市街地の端にある公共駐車場に停めなければならない。そこから自宅までは徒歩かEV路線バスを利用する。EVはタクシーや業務用に限られており、基本的に個人のEV所有はできない。さらに観光バスや観光客の自家用車の規制はもっと厳しく、ツェルマット市街地から数キロ離れた駐車場までしか乗り入れることができない。 (松田雅央プロフィール:ドイツ・カールスルーエ市在住ジャーナリスト。東京都立大学工学研究科大学院修了後、1995年渡独。ドイツ及び欧州の環境活動やまちづくりをテーマに、執筆、講演、研究調査、視察コーディネートを行う。記事連載「EUレポート(日本経済研究所/月報)」、「環境・エネルギー先端レポート(ドイチェ・アセット・マネジメント株式会社/月次ニュースレター)」、著書に「環境先進国ドイツの今」、「ドイツ・人が主役のまちづくり」など。ドイツ・ジャーナリスト協会(DJV)会員。公式サイト:「ドイツ環境情報のページ」) *2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140518&ng=DGKDASDZ1702M_X10C14A5MM8000 (日経新聞 2014.5.18) 日本車8社で新エンジン、欧州勢対抗へ研究 CO2を3割減 トヨタ自動車やホンダなど国内自動車8社は共同で、環境負荷が少ない自動車用エンジン(総合・経済面きょうのことば)の基礎研究に乗り出す。ディーゼルエンジンの二酸化炭素(CO2)排出量を2020年までに10年比3割減らす燃焼技術などを開発し、成果は各社がガソリン車も含めて実用化する。国際競争には燃費改善につながるエンジンの革新が欠かせない。大学などとも連携し、環境性能で競合する欧州勢に対抗する。東京大学や早稲田大学とも協力する。自動車への環境規制の強化は世界的な流れで電気自動車(EV)などの需要も拡大するが、エンジンは当面、動力源の主役であり続ける。20年の段階でも、世界で造る車の9割以上がエンジン車という予測もある。国内各社は基礎研究の成果をそれぞれのエンジン開発に生かす体制で国際競争に臨む。共同研究に参画するのはトヨタ、ホンダ、日産自動車、スズキ、マツダ、三菱自動車、ダイハツ工業、富士重工業。国内の乗用車メーカー8社すべてがそろう。技術者と資金を出し合い「自動車用内燃機関技術研究組合」を設立し、理事長にはホンダ子会社の本田技術研究所の大津啓司常務執行役員が就いた。各社は単独では取り組みにくい高度な技術課題としてディーゼルエンジンを選んだ。同組合を通じ、大学の研究室に技術者を派遣する。実務経験を持つ技術者と大学の研究者が共同で基盤技術の開発にあたる。ディーゼルが出す白煙の低減や排ガスからススを取り除く触媒装置のシミュレーション技術などを研究テーマとして検討する。研究プロジェクトに投じる資金は14年度からの3年分だけで20億円規模に達する可能性がある。初年度は3分の2を国の補助金で賄う。各社は研究成果をそれぞれのエンジン開発に生かす。この段階では、エンジンの最終的な性能や完成時期を競い合う関係になる。研究成果はガソリンエンジンの改良にも活用する。日本車メーカーは低公害・低燃費エンジンで長く優位を保ってきた。ただしBMWやフォルクスワーゲン(VW)などドイツ勢の猛追を受け、ディーゼルでは先行を許したとの見方が強い。マツダがエンジンなどの低燃費技術「スカイアクティブ」を開発するなど、日本メーカーは独自にエンジン開発を手がけてきた。競争環境の変化を受け、基礎研究での協力を通じ、業界のエンジン技術を底上げする。世界の自動車業界は中国市場の伸びや北米市場の回復を受け、日欧米韓の有力メーカーの主導権争いが激しくなっている。新興国市場では価格が高めのハイブリッド車(HV)や充電インフラが必要なEVの普及には時間がかかるもよう。エンジンの技術革新は成長市場の開拓に欠かせない。国内では環境分野を中心に、競合する車メーカーが足並みをそろえる動きが出てきている。トヨタ、日産、三菱自、ホンダの4社は国内でEVやプラグインハイブリッド車(PHV)の普及をめざし、充電インフラ整備を担う新会社を共同出資で近く設立する。 *3-1:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10208/64578 (佐賀新聞 2014年5月18日) 福島の子ども甲状腺がん50人に 県、放射線の影響調査 福島県の全ての子どもを対象に東京電力福島第1原発事故による放射線の影響を調べる甲状腺検査で、対象者の約8割の結果がまとまり、がんの診断が「確定」した人は県が今年2月に公表した数より17人増え50人に、「がんの疑い」とされた人が39人(前回は41人)に上ることが17日、関係者への取材で分かった。検査は県内の震災当時18歳以下の約37万人を対象に県が実施。今年3月までに1巡目の検査が終わり、4月から2巡目が始まっている。チェルノブイリ原発事故では4~5年後に子どもの甲状腺がん増加が確認された。このため県は1巡目の結果を放射線の影響がない現状把握のための基礎データとし、今後、2巡目以降の検査でがんが増えるかどうかなどを確認、放射線の影響の有無を調べる。1巡目では、1次検査として超音波を使って甲状腺のしこりの大きさや形状などを調べ、大きさなどが一定以上であれば2次検査で血液や細胞などを調べた。3月までに約30万人が受診、全対象者の約8割に当たる約29万人分の1次検査の結果がまとまった。2070人が2次検査に進み、がんと診断が確定した人は50人、疑いは39人だった。手術で「良性」と判明した1人を加えた計90人は、震災当時6~18歳。このうち34人は、事故が起きた2011年3月11日から4カ月間の外部被ばく線量が推計でき、最も高い人は2・0ミリシーベルト以上2・5ミリシーベルト未満で、21人が1ミリシーベルト未満だった。国立がん研究センターによると、10代の甲状腺がんは100万人に1~9人程度とされてきた。一方で、環境省は福島県外の子どもの甲状腺検査を実施し、約4400人のうち、1人ががんと診断。「福島と同程度の頻度」として、福島での放射線の影響を否定している。 *3-2:http://digital.asahi.com/articles/ASG5L51KCG5LUEHF003.html (朝日新聞 2014年5月20日) 福島第一の原発所員、命令違反し撤退 吉田調書で判明 東京電力福島第一原発所長で事故対応の責任者だった吉田昌郎(まさお)氏(2013年死去)が、政府事故調査・検証委員会の調べに答えた「聴取結果書」(吉田調書)を朝日新聞は入手した。それによると、東日本大震災4日後の11年3月15日朝、第一原発にいた所員の9割にあたる約650人が吉田氏の待機命令に違反し、10キロ南の福島第二原発へ撤退していた。その後、放射線量は急上昇しており、事故対応が不十分になった可能性がある。東電はこの命令違反による現場離脱を3年以上伏せてきた。 ■所員9割、震災4日後に福島第二へ 吉田調書や東電の内部資料によると、15日午前6時15分ごろ、吉田氏が指揮をとる第一原発免震重要棟2階の緊急時対策室に重大な報告が届いた。2号機方向から衝撃音がし、原子炉圧力抑制室の圧力がゼロになったというものだ。2号機の格納容器が破壊され、所員約720人が大量被曝(ひばく)するかもしれないという危機感に現場は包まれた。とはいえ、緊急時対策室内の放射線量はほとんど上昇していなかった。この時点で格納容器は破損していないと吉田氏は判断した。午前6時42分、吉田氏は前夜に想定した「第二原発への撤退」ではなく、「高線量の場所から一時退避し、すぐに現場に戻れる第一原発構内での待機」を社内のテレビ会議で命令した。「構内の線量の低いエリアで退避すること。その後異常でないことを確認できたら戻ってきてもらう」。待機場所は「南側でも北側でも線量が落ち着いているところ」と調書には記録されている。安全を確認次第、現場に戻って事故対応を続けると決断したのだ。東電が12年に開示したテレビ会議の録画には、緊急時対策室で吉田氏の命令を聞く大勢の所員が映り、幹部社員の姿もあった。しかし、東電はこの場面を「録音していなかった」としており、吉田氏の命令内容はこれまで知ることができなかった。吉田氏の証言によると、所員の誰かが免震重要棟の前に用意されていたバスの運転手に「第二原発に行け」と指示し、午前7時ごろに出発したという。自家用車で移動した所員もいた。道路は震災で傷んでいた上、第二原発に出入りする際は防護服やマスクを着脱しなければならず、第一原発へ戻るにも時間がかかった。9割の所員がすぐに戻れない場所にいたのだ。その中には事故対応を指揮するはずのGM(グループマネジャー)と呼ばれる部課長級の社員もいた。過酷事故発生時に原子炉の運転や制御を支援するGMらの役割を定めた東電の内規に違反する可能性がある。吉田氏は政府事故調の聴取でこう語っている。「本当は私、2F(福島第二)に行けと言っていないんですよ。福島第一の近辺で、所内にかかわらず、線量が低いようなところに1回退避して次の指示を待てと言ったつもりなんですが、2Fに着いた後、連絡をして、まずはGMから帰ってきてということになったわけです」。 第一原発にとどまったのは吉田氏ら69人。第二原発から所員が戻り始めたのは同日昼ごろだ。この間、第一原発では2号機で白い湯気状のものが噴出し、4号機で火災が発生。放射線量は正門付近で最高値を記録した。 ◇ 〈吉田調書〉 政府事故調が吉田氏を聴取した内容を一問一答方式で残した記録。聴取時間は29時間16分(休憩1時間8分を含む)。11年7月22日から11月6日にかけ計13回。そのうち事故原因や初期対応を巡る聴取は11回で、事務局に出向していた検事が聴取役を務めた。場所はサッカー施設Jヴィレッジと免震重要棟。政府事故調が聴取したのは772人で計1479時間。1人あたり約1・9時間。原本は内閣官房に保管されている。 ◇ ■全資料公表すべきだ 《解説》 吉田氏が死去した今、「吉田調書」は原発事故直後の現場指揮官が語る唯一の公式調書だ。肉声がそのまま書き残され、やりとりは録音されている。分量はA4判で400ページ超。事故対応を検証し、今後の安全対策にいかす一級の歴史的資料だ。ところが、政府事故調は報告書に一部を紹介するだけで、多くの重要な事実を公表しなかった。中でも重要な「9割の所員が待機命令に違反して撤退した」という事実も伏せられた。事故の本質をつかむには一つひとつの場面を具体的な証言から再現・検証する必要がある。国は原発再稼働を急ぐ前に、政府事故調が集めた資料をすべて公表し、「福島の教訓」を安全対策や避難計画にいかすべきだろう。吉田調書にはこのほかにも国や東電が隠している事実が多く含まれ、反省材料が凝縮されている。私たちは国や東電の事故対応の検証を続けていく。 *3-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140220&ng=DGKDASFS1903B_Z10C14A2EA2000 (日経新聞 2014.2.20) 長引く判断に終止符を 昨年7月に始まった原子力発電所の安全審査は長引き、再稼働のメドがたたない状態が続いてきた。火力発電用燃料の輸入増で国富は日々流出し、料金再値上げで国民の負担は増大する。東京電力福島第1原子力発電所の事故を経て、全国の原発は選別の局面に入った。まず安全な原発から稼働させるための施策が急務だ。「その手の要望は地方からこれくらい集まっている」。19日の記者会見で立地自治体からの原発稼働の要望についてたずねられた田中俊一規制委員長は、両手を大きく広げた。主要産業が動かない地方は疲弊が激しい。北海道電力は17日、再稼働の見通しが立たないとして家庭向け電気料金を再び引き上げる意向を示した。原発1基を動かせないと発電コストは1日2億~3億円増す。終わりの見えない審査に関係者は焦りを募らせる。原発の規制基準は全面的に見直され、規制委は申請のあった原発について並行して審査を進めてきた。だが膨大な作業を伴う審査は予想外に手間取るうえに、別の原発の申請が加わった。審査終了の先行きの見通せないなか規制委は重い腰を上げ、有望な原発を優先し、早期の合格を目指す方針を打ち出すに至った。早ければ春にも規制委の審査に合格する原発が出てくる。その後、立地自治体や国民を説得し再稼働にこぎ着けられるかどうかは政府の仕事だ。だが日本の将来のエネルギーで原発をどう位置付けるかが東京都知事選で争点になるのを避けるため、政府はエネルギー基本計画づくりも先送りした。原子力問題について、与党もはれものに触るような扱いだ。原発の必要性と安全性について、政府・与党は納得のいく説明をする覚悟が必要だ。いまの日本にこれ以上時間を空費する余裕はない。
| 経済・雇用::2013.7~2014.6 | 11:19 AM | comments (x) | trackback (x) |
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