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2014,05,31, Saturday
*3-1より 日本の大豆畑 日本の麦畑 日本の水田 (1)自己目的化しているTPP決議 *1には、「日米協議の詰めを急ぎTPP交渉決着を」と題して、「交渉12カ国による共同声明は交渉妥結に何が必要かの見解を共有し、決着を目指す機運が高まった」と記載されているが、具体的なことは何も書かれていない。そして、私が、このブログで何度も記載したとおり、TPP条約が締結されると、既に貿易自由化や現地生産が進んでいる日本の製造業にとってはメリットがなく、規制に関して主権を失うディメリットの方が大きい。それに加えて、食品の安全基準緩和や農産品の関税引き下げ、医療保険、ISD条項等の問題によるディメリットが大きいため、全体として、TPP条約の締結はわが国の誰にどういうメリットがあるのか不明であり、日本にとってはマイナスの方が大きいように見える。 このような中、「日米が2国間協議で膠着状態に陥った」「日米間の協議が前進し、障壁だった対立の構図が薄れた」などとして、いかにもシビアな交渉をしているかのような報道をするのは、TPP決着努力を自己目的化しており、見かけだけの交渉努力に思える。 (2)農業や地方を知らない人が作った農業改革案は適切ではない 1)農協法に基づく中央会制度の廃止はよいことではない *2-1に書かれているように、農業を強くするためとして、規制改革会議は、「①農家や地域の農協が独自に経営強化に取り組むには、全中が持つ権限を弱める必要があり、全中の『指導権』を廃止することを求める」「②各地の農協が、上部団体に納めてきた『上納金」といえる賦課金は、グループの方針を国の政策に反映させる陳情活動などに使われ、『負担が大きい』『使い道の情報開示が不十分』などと批判があるため、廃止して農協ごとの農家支援策に使えるよう改める」としている。 しかし、全中が強いから農家や地域の農協が経営強化できないというのは、経団連、弁護士会、司法書士会、税理士会、公認会計士協会、医師会、看護連盟、労働組合など、どの業種も業界全体の利益を纏める組織を持っていることから考えておかしい。また、全体が纏まって初めて政治にモノが言えるため、そのやり方も、農協の組合員が民主的な方法で決めるべきだ。 さらに、「約700ある地域の農協が自由に活動できるようにするため、全中の『指導権』を廃止して、全中、県団体、農協というタテの『指揮系統』を見直す」というのはいわれなき強者叩きであり、軍隊と官僚機構以外の組織は、現場の方が事情に通じていて行動しやすいことと、それらの諸事情を統合してより高い見地から意思決定や交渉を行うべきことが混在しているため、内容によってトップダウンだったり、ボトムアップだったりするのが普通である。そのため、*3-1に、「中央会廃止論も中央会指導が単協の独自性をそいでいるかのような誤った認識に基づいている」「JAグループは、現場の実践を最大限尊重し、優良事例は横展開し相互に高め合う柔軟な組織構造で、上意下達のような指揮系統にはなっていない」と書かれているのであり、これは本当だ。そして、これについては、*3-1、*3-2、*3-3、*3-6、*3-7など、現場を知る学者の反対意見が多く、横の連携も、まとめ役があって初めて効率的に機能するものであるため、規制改革会議のこの提案は、農業や一般の組織を知らない人の作文である。 なお、*2-1に、「農協関係者が、全中は利益を重視した革新的な取り組みより、グループの秩序を壊さない伝統的な運営方針を好む傾向があると言うので、改革案で、農家や地域の農協が独自に経営強化に取り組むには全中が持つ権限を弱める必要があるとして全中の『指導権』を廃止することを求める」と記載されているが、*3-1、*3-2等に書かれているとおり、JAグループは、現在、主体的に自己改革に取り組んでおり、環境次第で、全中も先進的で強力なリーダーシップを持つことができるのは明らかであるため、組織を弱めることを目的とする“改革”はマイナスである。 2)農協の配当率制限をなくすのは、どういう意図か? *2-1に、「農協は出資の配当が7~8%に制限されており、こうした制限もなくす」と書かれているが、配当率7~8%というのは、日本国内では、現在、高い配当率である。しかし、配当率は組織で決めるのが本来の姿であるため、法律上の制限を無くして組織決定にしてもよいと思う。しかし、これは、出資者である組合員のためになる改革なのか否か、この記述からは不明だ。 3)農協の役員制限緩和について *2-1に、「農協の役員に登用できる外部の人材は定員の3分の1未満だが、この規制も緩和し、民間から経営感覚のある人材を登用できるようにする」と書かれているが、農協に必要な経営上の見識は、民間の経営感覚とは異なる。わかりやすく言えば、NHKの○○会長のようになっては取り返しがつかないため、農協は3分の1未満という制限をつけながら外部人材も入れているのだ。そして、私も、「民間の経営感覚」は補助的にあればよいと考えるが、認定農業者だけでなく、その他の農業に従事した経験のある人、川下の食品産業やサービス産業に従事した経験のある人など、多様な役員が、経営意思決定権のない50%未満くらいはいてよいかも知れない。 4)全農自体を株式会社に転換するのはよいことではない *2-1に、「農産物の販売などを手がける全農は、将来の『株式会社化』を提案する。農協法に株式会社化を選択できる新たな規定を設け、生産や流通、販売段階の効率化や大規模化に向けて、様々な資金調達の手段を確保するねらいだ」と書かれている。 しかし、*3-1のように、そもそもJAや連合会の目的は、弱い立場の農家が、「協同組合」として集まることで、組合員農家の所得向上と国民への食料安定供給を図ることであり、主役は組合員である農家であって株主ではない。もし、全農や経済連が株式会社になれば、農家の所得向上のために共同行為を行うよりも、株主の利益のために、取引相手として農家と対峙しなければならなくなる。つまり、何でも株式会社にしさえすれば問題解決できるという発想は拙い。 そして、農業の6次産業化などで、株式会社にした方が製造・販売・資金調達などがスムーズにいく製品を全農が生産する場合には、農家の協同組合である全農が支配権を持てる子会社にして行うのがよいと考える。 5)准組合員の事業利用制限はよいことではない 農業地帯では、農協の正組合員の農家だけではなく、消費者である地域住民を準組合員として、地域全体で農業や農協を支える仕組みを作っている。そして、地域住民も農協のサービスにより支えられている面が大きく、地方では農業は税金を支払っている重要な産業だ。そのため、准組合員に制限を設けるか否かなどは、経営手法として農協が決めればよいことであり、都会で種々のサービスを選択できるが、地域との繋がりの薄い人が決めた改革案は当たっていない。 6)単位JAの信用事業を、農林中金・信連に移管することは必要か? 規制改革会議は、「単位JAの信用事業を、農林中金・信連に移管することが必要」としているが、それに対して、*3-1は、「単協の信用・共済事業切り離しも、世界の協同組合のモデルとなっている日本の総合事業の優位性を無視した暴論である」としている。今までの実績で見れば、地域の農業のニーズに合わせた融資は、窓口でニーズを把握し、ニーズに近い融資を行い、地元の人の預金を地元に還元してきた分だけ、単位JAの方が、農林中金や信連よりも優れていたと言える。 一方の農林中金は、集めた資金を農業ではなく、日本の他の銀行と同様、アメリカのサブプライムローンなど質の悪いローンに融資して消失させてしまったのだから、日本の金融界は使命を果たしていないと言わざるを得ない。しかし、「単位JAが、金融事業で他の事業の赤字を埋めている」というのは、金融における前近代的な管理であり、これでは預金者の預金を守れない。 農業地帯の資金需要に対応するためには、一般銀行や信用金庫から農業者への融資もやりやすくしなければならない。しかし、単位JAの金融事業を、預金者の預金を守れるように農林中金に移管するとしても、地方銀行と同様に、管轄地域を区切り、集めた資金はその地域で、地域のニーズにあった運用をしてもらいたいというのが、貯めた資金を都会に持って行かれ、どこかで消失させられてしまって開発が遅れている地方の要望である。 7)企業の農業生産法人への出資比率の緩和について *2-2には、「国内農業を強化するため、上限を25%に制限している企業の出資比率を高めるほか、農作業への従事を義務付ける役員の割合を減らすことを検討する」と書かれている。「農業生産法人の改革では、規制改革会議が農業関係者以外の出資できる比率を50%未満まで高めるよう提言した」ということだが、50%未満であれば経営の決定権は農家に残るので問題ない。しかし、過半数の役員が農業に従事していなければ、農業生産法人とは言えないだろう。 8)企業の土地所有について *3-4に書かれているように、「担い手」への農地集積は2009年の農地法改正で「所有」から「貸し付け(リース)」へと本格的に移り、リース方式で既に約1300件の企業が農業に参入し、農地中間管理機構(農地集積バンク)の整備でその流れはさらに強まっているため、農業をするのに土地所有は必要条件ではない。それにもかかわらず、規制改革会議が農地を所有できる「農業生産法人」の要件緩和を提案し、農業生産法人の事業用件を廃止して、農業生産法人の土地所有を許せば、*3-4に書かれているとおり、「農業生産法人」に「抜け道」を準備して、農業以外の事業を許すことになるのでよくない。農業以外の事業を行いたいのなら、「農業生産法人」としてではなく、「一般企業」としてやるべきである。 また、農地は、長い年月をかけ、多くの人の貢献によって築き上げてきた国富であるため、*3-5に書かれているように、「農業委員会は選挙制度を残した最後の行政委員会であり、農地の移動には、その土地に精通した人が選挙で選ばれる必要がある」というのが正しく、その時点の所有者の意思のみで農地の転用がなされて良いものではないと考える。 じゃがいも畑 梅畑 みかん畑 梨畑 *1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140523&ng=DGKDZO71644900T20C14A5EA1000 (日経新聞社説 2014.5.23) 日米協議の詰めを急ぎTPP交渉決着を シンガポールで開いた環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の閣僚会合で、大筋合意に向けた道筋がようやく見えてきた。日米など交渉12カ国による共同声明は「交渉妥結に何が必要か、見解を共有した」と記し、残る課題が絞られてきたことを示した。決着を目指す機運が高まったことを歓迎したい。前回の2月の閣僚会合では、自由化を主導すべき日米が2国間協議で膠着状態に陥り、他の10カ国に「模様ながめ」の空気が漂っていた。今回の会合で各国が積極姿勢に転じたのは、日米間の協議が前進し、障壁だった対立の構図が薄れたからだ。交渉の勢いを維持しなければならない。そのためには日米が最終的な詰めを急ぎ、日米合意の内容を堂々と各国に示す必要がある。具体的にどこまで合意したのか分からない曖昧な状態のままでは説得力に欠け、交渉全体を力強く推し進める力にはならない。これから先は時間との戦いになる。推進役の米国が、11月に議会の中間選挙を控えているからだ。オバマ政権の通商政策は、ますます議会や特定業界の意向に左右されやすくなる。労働組合や自動車産業など保護主義的な勢力は、個別議員への影響力が大きい。日本への輸出を増やしたい豚肉業界なども、強硬姿勢を求めて強い声を上げている。中間選挙が近づくほど、オバマ政権は譲歩しにくくなる。日米に残された時間は多くない。日米両国の経済規模はTPP交渉国の約8割を占める。日米協議で決まる措置は、TPP域内の自由化の実質的な水準の目安となるだろう。牛肉・豚肉、乳製品などの関税の引き下げ幅や、自由化にかける期間、セーフガード(輸入制限措置)などが日米間で具体的にどう決着するかによって、各国の対応は変わってくる。日米の交渉担当者は「21世紀型の自由貿易協定」というTPPの看板に恥じない中身で、合意を築いてほしい。見かけ上の関税率の数字でなく、経済的に意味がある実質的な市場開放が重要だ。関税による保護に頼らない強い農業を築く改革の実行が、安倍政権の急務だ。一時的に不利益を被る農家や企業を支援する移行措置が必要になる場合もあるだろう。TPP交渉が大詰めを迎えた今こそ、こうした国内対策を含めて、通商政策と農業政策の知恵の絞りどころである。 *2-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11131782.html (朝日新聞 2014年5月13日) 全中の「指導権」廃止提言 規制改革会議、「上納金」制度も ●JAの仕組みと改革案 政府の規制改革会議が検討している農協(JA)グループの改革案がまとまった。グループを束ねる全国農業協同組合中央会(全中)の「指導権」を廃止し、全中、県団体、農協というタテの「指揮系統」を見直す。約700ある地域の農協が自由に活動できるようにするねらいだ。改革案は、JAグループの役割や運営方法を規定する農業協同組合法(農協法)の改正も提言し、14日にも公表する。農協法には、全中などが組織、事業、経営について指導するとあり、全中が農協などを指導・監督する根拠とされてきた。グループで活動目標を3年ごとに定めることになっており、全中は取り組み状況を定期的にチェックしている。農協関係者によると、全中は利益を重視した革新的な取り組みより、グループの秩序を壊さない伝統的な運営方針を好む傾向があるという。改革案では、農家や地域の農協が独自に経営強化に取り組むには、全中が持つ権限を弱める必要があるとして、全中の「指導権」を廃止することを求める。農協などが、上部団体に納めてきた「賦課金制度」も廃止するよう求める。「上納金」ともいえる賦課金は、グループ方針を国の政策に反映させる陳情活動などに使われ、2014年度は77億円の見込み。「負担が大きい」「使い道の情報開示が不十分」などと批判があり、農協ごとの農家支援策に使えるよう改める。農産物の販売などを手がける全農は、将来の「株式会社化」を提案する。農協法に株式会社化を選択できる新たな規定を設け、生産や流通、販売段階の効率化や大規模化に向けて、様々な資金調達の手段を確保するねらいだ。協同組合では出資の配当が7~8%に制限されているが、こうした制限もなくす。農協の役員に登用できる外部の人材は定員の3分の1未満だが、この規制も緩和し、民間から経営感覚のある人材を登用できるようにする。今回の改革案に全中は強く反発しそうだ。農協改革をめぐっては、自民党も改革案を検討している。政府は規制改革会議案や自民党案を見極め、6月にも政府の改革案をまとめる。 ■農業改革、待ったなし 《解説》規制改革会議が全中の権限を弱める改革案をまとめた背景には、農家と直接つながる地域の農協に芽生えてきた改革意欲を積極的に生かし、成功事例を全国に広げるねらいがある。代表例がJA越前たけふ(福井県越前市)だ。地域農協の多くは、コメなどの経済事業が赤字続きなのを悩んでいる。物価下落が続くデフレや、企業との激しい競争のためだ。「たけふ」はこれらの事業を株式会社化し、黒字化した。コメは、グループでコメ事業を手がける全農などに頼らず、もうけが多いグループ外に売っている。だが、全中は「たけふ」を問題視し、成功事例として広めようとはしなかった。これを認めると、全国の地域農協が、全農などを通さずに外部に売るようになる。全農の仕事が減り、農薬や肥料の売り上げにも影響する。これまでの農協改革は、全中の圧力を受けた政治家らの反対で踏み込めずにきた。今回も全中の猛反発は避けられない。しかし、関税の原則撤廃を目指す環太平洋経済連携協定(TPP)や、農家の高齢化などで農業そのものの改革は待ったなしの状況だ。国内農業を再生する最後のチャンスとして取り組む必要がある。 *2-2: http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/66987 (佐賀新聞 2014年5月24日) 企業の農業参入促進へ本格調整、出資25%の緩和検討 政府、与党は24日、国内農業を強化するため、農業生産法人の規制を緩和して企業参入を促す改革案の策定に向け本格調整に入った。規制改革会議の提言をたたき台にする。上限を25%に制限している企業の出資比率を高めるほか、農作業への従事を義務付ける役員の割合を減らすことを検討する。有識者でつくる規制改革会議が22日に決定した改革案には与党内の反発が強い。だが、安倍晋三首相の強い改革姿勢を受け、農業を成長産業に育てていくには企業の参入拡大が不可欠との判断に傾いた。自民、公明両党が5月中にもそれぞれ改革案を出して与党案として取りまとめ、規制改革会議が6月半ばにまとめる首相への答申に反映させる。政府はこれらを盛り込んだ「規制改革実施計画」を6月中に閣議決定する予定だ。農業生産法人の改革では、規制改革会議が農業関係者以外の出資できる比率を50%未満まで高めるよう提言したが、農家側が上限の引き上げをどの程度まで受け入れられるかが焦点となる。役員の過半が農業に常時従事するなどとの現在の要件に関しても、規制改革会議は大幅に緩和するよう求めており、重要な検討課題となる。ただ、政府が今年になって立ち上げた「農地中間管理機構」は、土地の売却に抵抗の強い農家に配慮して、農地の貸し出しを基本としているなど、企業による土地買収につながる農業生産法人の規制緩和には慎重な意見が根強い。農協の改革では、規制改革会議の改革案に全国農業協同組合中央会(JA全中)を頂点とする中央会制度の廃止が盛り込まれた。しかし、与党の農林関係議員が激しく反発しており、調整の最大の焦点となる。安倍首相は19日の産業競争力会議で農協、農業生産法人、農業委員会の3点セットで改革を断行すると表明した。これを受けて与党内では「こちらからも一定程度踏み込んだ改革案を示す必要がある」との声が強まっている。 *3-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=27699 (日本農業新聞 2014/5/15) 不当な農業改革 農協解体を総力で阻止 政府の規制改革会議が農業改革提言を公表し、農業委員会、農協、農業生産法人の見直しを掲げた。農業への全面的な企業参入に道を開き、JAグループを事実上解体に追い込む極めて不当な内容だ。とりわけ民間の協同組織であるJAに対する改革案は、無知と無理解に基づき到底容認できない。JAグループは今まさに主体的に自己改革に取り組んでいる。与党の議論も見据えながら、総力を挙げJAつぶしに抗していこう。これは、明らかに規制改革に名を借りたJA解体論であり、民間の独立組織への政治的介入である。そして、全ての協同組合セクターへの攻撃でもある。こうした提言を、政府が6月にまとめる成長戦略の改訂版に反映させることは断じて許されない。 農協改革提言は、中央会制度の廃止、JA全農の株式会社化、単協信用事業の農林中金・信連への移管、准組合員の事業利用制限、理事会役員構成の見直しなどを盛り込んでいる。これをまとめた同会議農業ワーキンググループは、協同組合組織の歴史的成り立ちや基本的意義が理解できているのか。いうまでもなくJAや連合会の目的は、経済的に弱い立場にある個々の農家が「協同組合」に結集することで、農家組合員の所得向上と国民への食料の安定供給を図ることである。その主役は組合員であり、JAは組合員の負託を受けて最大奉仕するための自主・自立の組織だ。株主の意向に左右される株式会社とは異なる。だから農協法によって利用者本位の事業運営を法的に措置しているのだ。 全農や経済連が株式会社になったら、農家の所得向上のための共同経済行為はできなくなり、農機や肥料の価格交渉力は弱まるだろう。販売面で大手量販店などの買いたたきに対抗できるのも協同の結集力があるからだ。また、県域を越えた需給調整機能が、営利主義の株式会社にできるだろうか。 中央会廃止論も、中央会指導が単協の独自性をそいでいるかのような誤った認識に基づいている。中央会は協同組織の指導機関として法的に位置付けられている。JAグループは、現場の実践を最大限尊重し、優良事例は横展開し相互に高め合う柔軟な組織構造を持っている。萬歳章JA全中会長が8日の記者会見で「中央会の本来的な役割はJA・連合会の総合力発揮の推進力になること」と述べたように、上意下達のような指揮系統にはなっていない。単協の信用・共済事業切り離しも、世界の協同組合のモデルとなっている日本の総合事業の優位性を無視した暴論である。 与党には現実に即した建設的な改革論議を期待したい。JAグループは今、農業者の所得増大に向けた革新プランに取り組んでいる。不当な介入をはね返すには、正しい情報発信と自己改革が不可欠だ。組織一丸となって攻撃に立ち向かおう。 *3-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=27869 (日本農業新聞 2014年5月23日) 農業改革 廃止ありき 浮き彫り 中央会で内閣府 現場から意見なし 規制改革会議の農業ワーキンググループ(WG)が農協改革の提言に中央会制度の廃止を盛り込んだことについて、事務局の内閣府は22日の参院農林水産委員会で「(担い手農業者やJAなどへのヒアリングで)当事者から中央会制度の廃止などの直接の意見はなかった」と説明した。公明党の平木大作氏、共産党の紙智子氏への答弁。農業WGは中央会制度を廃止する理由として、地域のJAの独自性を発揮するためとしている。しかし、現場の当事者の声を踏まえてないことが国会審議でも明らかになり、“廃止ありき”だった可能性が高まっている。また、環太平洋連携協定(TPP)交渉について林芳正農相は同日の衆院農林水産員会で、「重要5品目などの聖域確保を最優先する」と述べ、衆参両院の国会決議を踏まえて国益を守るとの考えをあらためて強調した。公明党の石田祝稔氏への答弁。19、20日の両日にシンガポールで開かれた閣僚会合では、首席交渉官会合を7月に開催することで合意した。これを受け、林農相は今後の見通しを「残された課題の解決に向けて、各国と精力的に交渉を進めていくことになる」と説明。牛肉・豚肉などの重要品目について、関税撤廃などの対象から除外または再協議とするとした決議を守る考えを示した。また、TPP政府対策本部の渋谷和久内閣審議官は、日米間の協議について「(関税率について)お互いに幅を狭めていくということにはならない」と述べ、「仮説としていろいろな議論はしているが、幅が特定されたということではない」とした。「関税率はある程度の幅で合意しているのではないか」とした石田氏に答えた。 ●参考人質疑で担い手農家 JAの役割を評価 農協とは今後も太いパイプでやっていきたい――。22日の参院農林水産委員会に参考人として出席した担い手農家が、JAの役割を評価する場面があった。営農に主軸を置くためJAの経済事業を活用していることを紹介。政府の規制改革会議は急進的な農協改革案を打ち出したが「他の所でどうこう言ってもらう筋合いはない。農家の要望に合わせていくのが農協の在り方だ」と強調した。担い手の声だけに、今後の政府・与党の議論にも影響を与えそうだ。発言したのは島根県の(株)勝部農産社長の勝部喜政氏。米と麦、大豆を手掛け、地域の農地55ヘクタールを借り入れながら、30ヘクタールの作業受託もこなす。農産物の販売について勝部氏は、大消費地が遠いことを挙げ「自分は生産に一生懸命。販売は農協に任せており、代金は必ず集金してもらっている」と農協出荷の利点を指摘した。6次産業化についてもJAの活躍に期待を寄せた。農家側の考えとして「手間や時間を取られる。軸足は生産に置きたい。個人の労働力や資金では大変だ」と述べた。その上でJAと連携した6次産業化に意欲を見せた。 ●農政改革法案賛否分かれる 参院農水委参考人質疑 参院農林水産委員会は22日、政府提出の農政改革法案について、担い手農家や研究者、農業団体関係者による参考人質疑をした。経営所得安定対策の見直しをはじめとする政府・与党の農政改革には賛否が分かれた。兼業農家らの離農が増え、担い手への農地集積が進む中、面積拡大に対応するための担い手側の体制づくりも課題に浮かび上がった。参考人は東京大学大学院准教授の安藤光義氏、(株)勝部農産(島根県)社長の勝部喜政氏、北海道農民連盟書記長の山居忠彰氏、愛媛大学客員教授の村田武氏。勝部氏は水田作の法人代表で、現場の実態として2013年度までの農地集積協力金などを背景に「兼業農家の離農が増えている」と報告。地域の担い手として、離農する農家の農地を「(自らが)限界でも引き受け」ており、作期分散などで工夫しているとした。安藤氏は、経営所得安定対策のうち畑作物の直接支払交付金(ゲタ)と米や麦、大豆などの収入減少影響緩和対策(ナラシ)に面積要件を設けず、多面的機能支払いでは農業者だけの活動も対象とした点などを挙げ、「方向性は原則、評価できる」と述べた。今後は現場の意見をくみ上げ、改善点を検証するよう提起した。山居氏は、担い手経営安定法案の修正を要求。米の直接支払い交付金を10アール当たり7500円に半減し、5年後に廃止する方針に対し「大規模農家、規模拡大に向けて投資をしてきた担い手ほど打撃は大きい」と主張。主食用米をゲタ対策の対象とするよう求めた。村田氏は農政改革法案について「構造改革に逆行する施策を一掃するという位置付け。しかし戸別所得補償制度は構造改革に逆行するものではなかった」と指摘。今回の見直しでゲタ、ナラシ対策の対象を認定農業者らとすることには「農村に差別を持ち込む」と懸念を示した。 *3-3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=27885 (日本農業新聞 2014/5/24) 中央会制廃止 東京農業大学名誉教授 白石正彦氏 規制改革会議の農業ワーキンググループ(WG)の提案には、農業協同組合の見直しの一つに農協の連合組織である中央会制度の廃止が盛り込まれている。 ●世界的潮流から逸脱 教育と監査で機能の強化へ 国際協同組合同盟(ICA)は、1995年に21世紀の協同組合原則を採択し、その第4原則「自治と自立」の中で「政府を含む他の組織と取り決めを行う場合は、組合員による民主的管理を保証し、協同組合の自治を保持する条件のもとに行う」と明示している。国連や国際労働機関(ILO)はこの原則を尊重し、政府による協同組合への干渉を厳しく戒め、2012年国連国際協同組合年も含め、世界の協同組合の自主的発展を支援している。世界の潮流と異なるこのような干渉を許すとJAの准政府機関化への変質が危惧される。WGの提案にある「中央会主導から単位JA中心へ」という記述も協同組合であるJAの本質的理解の中核に位置付けられるべき「組合員による民主的管理」が欠けている。日本のJAを含む世界の協同組合は組合員自らが共通する経済的、社会的、文化的なニーズと願いをかなえるために単位協同組合を組織し事業経営を行い、その機能を補完するために連合組織、さらにICAに結集している。このように人々の結合体である非営利の協同組合と資本の結合体である株式会社には本質的差異があり、それぞれ共に役割分担を図っており、リーマン・ショック時には協同組合の経済社会の発展への貢献が注目された。グローバル化時代は、協同組合人らしい国際的見識と専門的知識が求められる。ドイツの協同組合連合組織は、協同組合の的確な監査機能の発揮や協同組合アカデミーでの大学と連携した博士学位の授与をしており、国内外の協同組合役職員の高度な協同組合教育・研修に熱心である。日本のJA中央会は、今後このような監査機能や協同組合教育・研修で、より高度な機能発揮が求められる。中央会制度廃止という見解は世界的潮流とは異次元と言わざるを得ない。欧州連合(EU)の政府や農協などは連携して、14年国際家族農業年の意義を重視し、「欧州と世界のより持続可能で活力ある農業のための意見交換会議」を開催した。家族農業の重要性の確認と若手農業者らによる実践、未来のための挑戦・革新、家族農業支援の最適手段としての農協の役割、消費者と農業者のネットワーク、直接契約の草の根組織の役割などを論議している。WGの提案には「非連続な農業改革を断行することを提言する」とあるが、例えば米国中西部の農協では、自ら生産したバイオエタノール85%含有を明示した自動車燃料用をガソリンスタンドで販売(日本では3%以内に規制)している。むしろこのような分野の規制改革で、バイオ資源米・飼料米定着化による水田フル活用や高付加価値型農業化を支援するべきである。 <プロフィル> しらいし・まさひこ 1942年山口県生まれ。九州大学大学院修了。農学博士。ICA協同組合原則・宣言検討委員、日本協同組合学会長などを歴任。現在は東京農業大学総合研究所農協研究部会会長、日本農業労災学会副会長。 *3-4:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=27963 (日本農業新聞 2014/5/29) [農業改革 言うことあり 6] 企業の農地取得 農山村地域経済研究所長 楠本雅弘氏 「担い手」への農地集積は2009年の農地法改正で「所有」から「貸し付け(リース)」へと本格的に移った。リース方式では既に約1300件の企業が農業に参入しており、農地法改正前の7倍以上に増えた。農地中間管理機構(農地集積バンク)の整備でその流れがさらに強まる。 ●目的外使用に道開く 集落営農こそ最善の仕組み 今回、規制改革会議が農地を所有できる「農業生産法人」の要件緩和を提案した。これは経済界が求める企業の農地所有を進める狙いがあり、「所有から借地へ」という農地利用の流れに逆行するものだ。また、一定期間、(借地で)農業をすれば要件を満たさなくても農業生産法人として農地所有を認める、という「抜け道」も提案し、執拗(しつよう)に企業の農地所有を目指している。最長40年間借りられる農地を、経営リスクを負ってまで購入しようとするのはなぜか。農業経営上は農地を所有する必要はないのだから、農業生産以外に目的があるのだろう。所有権を持てば、目的外使用や処分を規制するのは困難。過去に耕作放棄されたり、産業廃棄物の捨て場になったりした事例は少なくない。このような批判をかわす狙いで規制改革会議の案には、参入した法人は農業委員会の許可を得なければ退出できない、という旨の規制を設けるとある。しかし、撤退する法人はわざわざ許可申請するより耕作放棄に走る懸念の方が大きい。かねて経済界は「農業への参入は原則自由にして、農地利用の義務を厳格に規制すればよい」との主張を繰り返してきたが、実際には農地を守れない空論であることは、農地に関する農水省の検討会など過去何回もの政府内の議論でも論証済みだ。農業委員の公選制を廃止して首長の任命制にするとか、農地の権利移動を原則届け出制に改めるといった提案を認めれば、国民の公共財である農地を安定的に維持するために、現場の英知を積み上げて築かれてきた農地法を骨抜きにし、農地を企業の営利活動に委ねてしまうことになる。短期の利潤追求を使命とする企業が30年、50年にわたって地域の資源や環境保全の共同活動といった義務を果たし続けられるのか、大いに疑問だ。農地は地域の共同資源であり、地域社会が成り立つための基盤だ。だから住民自らが主体的に管理・活用しなければならない。農地を保全・活用する最善の仕組みは集落営農だと考えている。地域住民の英知を結集して皆で意思決定し、得意分野で生涯現役で参加できる。元気な農業と活力ある地域を両立させる大きな可能性がある。農地を有効活用するために、農家以外に所有権が移っている農地を地域で共同管理できる仕組みづくりの方が優先すべき課題だ。 <プロフィル> くすもと・まさひろ 1941年愛媛県生まれ。一橋大学経済学部卒。農林漁業金融公庫を経て山形大学教養部・農学部教授。2007年から農山村地域経済研究所を主宰。島根、熊本、大分、徳島、宮城など全国で集落営農塾を開講している。 *3-5:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=27850 (日本農業新聞 2014年5月22日) [農業改革 言うことあり 1] 北海道大学名誉教授 太田原高昭氏 JA弱体化 規制改革会議の農業ワーキンググループがまとめた文書は、現政権が目指しているという「農業・農村の所得倍増」にとって有益だとはとても思えない。地域農業の担い手のメリットになるかも極めて疑問だ。 ●農家利益 確保できぬ 歴史と現実に学ぶ態度必要 JAが事業展開する上で、地域の単位組織、県域・全国域の連合会という枠組みが欠かせない。これらが一体となって販売・購買事業を展開しており、これを分断することは組合員である農業者の利益確保に逆行する。また、JA全中はJAのナショナルセンター(全国中央組織)だ。全国的組織はどこでも、合意形成や運動のために必要だからナショナルセンターを持っている。中央会の指導で単位JAの自由がないなどという批判は、およそ現場の感覚から離れている。都市部にも農村部にも、そこで役割を発揮している優れたJAはたくさんある。JAグループも改めるべき部分はあるが、互いに情報を共有し自ら改革すべきことだ。 信用事業と共済事業の代理店化は、信共分離そのものとみることができる。JAは経済事業の専門農協になれということかもしれない。かつて畜産や果樹などで専門農協が元気だった。その時は「総合農協から専門農協の時代だ」といわれたが、総合農協に吸収された。かんきつや畜産物の自由化で成長農産物がつぶされたことの影響が大きいが、金融事業を持っていなかったということもある。総合農協ゆえに危機に対する耐性があるのだ。わが国ではなぜ総合農協が発達したのか、もっと歴史と現実に学ぶ態度が必要だろう。JAグループが、農産物の供給により国民生活のインフラを支えていることからすれば、JAの弱体化で国民が失うものは大きい。この案を作った人たちは協同組合についての見識がほとんどないのではないか。協同組合は、小規模事業者らが大資本と対峙するために存在している。だからこそ独占禁止法の適用除外もある。農業だけでなく中小企業なども同様だ。小規模事業者が大資本と対等な関係になるという、戦後改革の“経済民主主義”の原点を忘れてはならない。政府は農業基本法以来、自立した家族農業をつくることを目的にしてきた。それがうまくいっていないとして、これまでの外的環境の変化の検証もないままに企業を参入させようとしているように見える。しかし、それで本当に国際化に耐えられるのかというと、そんな保証はない。企業の方が逃げ足が速いということだけだろう。農業委員会は選挙制度を残した最後の行政委員会だ。選挙制度や農業団体による推薦制度をなくし、上から選任された人が間に立って農地の移動が進むのか。その土地に精通した人が選挙で選ばれてこそ、正統性があるのだと思う。 <プロフィル> おおたはら・たかあき 1939年福島県生まれ。北海道大学大学院農学研究科農業経済学専攻博士課程修了。同大学農学部長、同大学大学院農学研究科長、道地域農業研究所長などを歴任。日本農業経済学会長、コープさっぽろ会長も務めた。 *3-6:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=27870 (日本農業新聞 2014年5月23日) [農業改革 言うことあり 2] 信州大学・大阪府立大学名誉教授 桂 瑛一氏 株式会社化 政府の規制改革会議が示したJA全農の株式会社化は乱暴な提言だ。やるべきことが十分できていないからといって協同組合の存在自体を否定するというのは極端過ぎる。 ●協同否定、共販に制約 役割明確化し経済事業強く 株式会社になったのでは、全農とJA・組合員は買い手と売り手の間柄になってしまう。また独占禁止法の適用除外から外れ、無条件委託を前提とした現在の共同販売に制約が生じる恐れが強い。組合員がJAの力を借りて協同の力で売っていくのがJAグループの販売事業だ。現に協同の力により、市場メカニズムの重要な担い手として競争力と交渉力を強化し、品質の一定した農産物を安定供給したり、効率的に農産物を流通させたりして、農家の所得向上と食料の安定供給を目指し、成果を上げている。大規模農家や農業法人の直販などの個別対応がもてはやされている。しかしそれができるのは、JAグループが農産物を安定供給するといった流通基盤を整えたからこそ、注目が高まっているという側面を見逃してはならない。とはいえ、JAの強みを生かした十分な取り組みがなされていない現実が提言の背景になって いることは明らかだ。そこは謙虚に受け止めなくてはならない。いかにも消極的で内向きの共販三原則((1)無条件委託(2)共同計算(3)特定の取引先に集中させない平均販売)ではあるが、うやむやにするのでなくきちんと総括をして、それに代わる販売事業の理論武装が必要な時だ。組合員とJA役職員は一緒に意見を出し合い、時には批判や文句を言い合って事業を担うことこそが販売力強化への道なのだ。いま一度、JA、経済連(全農県本部)、全農の役割分担を明確にして販売事業を展開する必要があるのではないか。世界に冠たる長寿を支えてきたとされる食文化は、長年の試行錯誤の中で築き上げられたもので、消費者ニーズそのものである。その基本は素材の持ち味にこだわり、品質にこだわる点にある。日本の農業はコストを掛け、技を駆使して曲がりなりにもそれに応えてきた。全農は日本の食料、農業そして農村のすごさを国民に訴えて正しい評価を得る必要がある。農産物に対する値頃感を正す取り組みも重要だ。1本130円の缶コーヒーを毎日買うのに対し、数カ月間かけて生産されたキャベツが1玉300円になると「野菜が高騰した」と大騒ぎする。こうした風潮を正す必要もある。天候不順で農産物が高騰した際に、スーパーが安く売る行為に対しては、「需給バランスを無視した商行為」とスーパーに質問状を出すぐらいの気概があってもよい。特に全国レベルの全農は、単位JAでは対応が難しい農産物の消費拡大や食文化の発展につながるダイナミックな活動を展開してほしい。 <プロフィル> かつら・えいいち 1939年旧満州(中国東北部)生まれ。京都大学農学部農林経済学科卒業。農学博士。専攻は農産物流通学。地域農林経済学会副会長や放送大学客員教授などを務め、現在は農業開発研修センター理事。 *3-7:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=27885 (日本農業新聞 2014年5月24日) [農業改革 言うことあり 3] 東京農業大学名誉教授 白石 正彦氏 中央会制廃止 規制改革会議の農業ワーキンググループ(WG)の提案には、農業協同組合の見直しの一つに農協の連合組織である中央会制度の廃止が盛り込まれている。 ●世界的潮流から逸脱 教育と監査で機能の強化へ 国際協同組合同盟(ICA)は、1995年に21世紀の協同組合原則を採択し、その第4原則「自治と自立」の中で「政府を含む他の組織と取り決めを行う場合は、組合員による民主的管理を保証し、協同組合の自治を保持する条件のもとに行う」と明示している。国連や国際労働機関(ILO)はこの原則を尊重し、政府による協同組合への干渉を厳しく戒め、2012年国連国際協同組合年も含め、世界の協同組合の自主的発展を支援している。世界の潮流と異なるこのような干渉を許すとJAの准政府機関化への変質が危惧される。WGの提案にある「中央会主導から単位JA中心へ」という記述も協同組合であるJAの本質的理解の中核に位置付けられるべき「組合員による民主的管理」が欠けている。日本のJAを含む世界の協同組合は組合員自らが共通する経済的、社会的、文化的なニーズと願いをかなえるために単位協同組合を組織し事業経営を行い、その機能を補完するために連合組織、さらにICAに結集している。このように人々の結合体である非営利の協同組合と資本の結合体である株式会社には本質的差異があり、それぞれ共に役割分担を図っており、リーマン・ショック時には協同組合の経済社会の発展への貢献が注目された。グローバル化時代は、協同組合人らしい国際的見識と専門的知識が求められる。ドイツの協同組合連合組織は、協同組合の的確な監査機能の発揮や協同組合アカデミーでの大学と連携した博士学位の授与をしており、国内外の協同組合役職員の高度な協同組合教育・研修に熱心である。日本のJA中央会は、今後このような監査機能や協同組合教育・研修で、より高度な機能発揮が求められる。中央会制度廃止という見解は世界的潮流とは異次元と言わざるを得ない。欧州連合(EU)の政府や農協などは連携して、14年国際家族農業年の意義を重視し、「欧州と世界のより持続可能で活力ある農業のための意見交換会議」を開催した。家族農業の重要性の確認と若手農業者らによる実践、未来のための挑戦・革新、家族農業支援の最適手段としての農協の役割、消費者と農業者のネットワーク、直接契約の草の根組織の役割などを論議している。WGの提案には「非連続な農業改革を断行することを提言する」とあるが、例えば米国中西部の農協では、自ら生産したバイオエタノール85%含有を明示した自動車燃料用をガソリンスタンドで販売(日本では3%以内に規制)している。むしろこのような分野の規制改革で、バイオ資源米・飼料米定着化による水田フル活用や高付加価値型農業化を支援するべきである。 <プロフィル> しらいし・まさひこ 1942年山口県生まれ。九州大学大学院修了。農学博士。ICA協同組合原則・宣言検討委員、日本協同組合学会長などを歴任。現在は東京農業大学総合研究所農協研究部会会長、日本農業労災学会副会長。
| 農林漁業::2014.2~7 | 11:45 AM | comments (x) | trackback (x) |
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