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2015.2.9 農協改革について (2015.2.10に追加あり)
     
    2014.1.4    2015.2.5   2015.2.5 2015.1.14   2014.11.7
    日経新聞     朝日新聞              農業新聞 

(1)農協改革の必要性は何か(私が考える最適解)
 日経新聞は、2015年1月4日、上の左図のようにピラミッド型に農協組織を表現し、①JA全中は3年後に任意団体に転換 ②JA全農は株式会社化 ③都道府県毎の地方中央会は原則5年で任意団体に転換 ④全国700の地域農協の競争促進 を行うべきだとしている。

 しかし、私は、この図から、金融部門の農林中金と保険部門のJA共済連は、他の事業と経理をごっちゃにしてはならないため、中央会の下にあってもよいが、それぞれを別会社にして監査法人の外部監査を受ける必要があると考える。一方、JA全農をどういう形態にするかは、JAが業務をやりやすく、組合員に最大の利益があがるようにすればよいのであり、JA自身が決めるべきことだ。また、協同組合は、組合員が出資者で一番上であるため、この図を逆にした逆三角形が正しい図であり、日経新聞は議論の出発点を誤っている。

 組織で情報が上下左右に正確に伝達され、迅速かつ的確な対応を可能にするためには、なるべくフラットで伝達経路が短い方がよく、適正規模というものもある。そのため、朝日新聞の2015年2月5日の香川県の役割分担事例と比較して考えれば、営農指導等の実業を行っているJA香川県とは別にJA香川中央会とJA全中があるが、JA全中の監査部を監査法人として独立させ、JA全中と各県中央会は合併して、ここに情報提供、経営指導、全国レベルの方針決定のすべてを任せるのがよいと考える。なお、監査は独立性を要するため、監査法人は法律上、経営指導を行うことはできない。その理由は、自分が経営指導したものに不適正意見は書けないため、監査の独立性を害するからである。また、業務についても、外部の人には不確実性が高く何とも言えない場合が多いため、監査法人は業務監査もできない。

 そのため、これまで監査機構で経営指導をしていた農協監査士の多くと公認会計士の何人かはJA中央会に残って内部監査部を作り、内部監査(業務監査を含む)と経営指導に従事することができるよう農協法で定めるのがよいと考える。何故なら、内部監査や業務監査をしっかり行っていれば、組織に規律を持たせる効果があるとともに、外部監査のコストを抑えることができ、多くの外資系企業や日本企業にも内部監査部門はあるからだ。

 また、*1-1、*1-2で、安倍首相が、「①このままでは農業が衰退するから抜本改革を断行する」「②地域農協を主役とし、創意工夫を生かして農業を 成長産業に変える」「③競争力ある農家を育てるには、中央会が持つ指導・監査権の廃止が不可欠」「④JA全中は脇役に徹していただきたい」とされていることについて、①は農業の衰退は製造業重視の国策によるところが大きく農協の責任ではない上、②は地域農協を主役にしさえすれば創意工夫ができるとは思えず、日本全国や国際競争という視野を持つためには③も当たらず、④は真中のグラフのように今までやりにくかったとする地域農協が殆どないことから見て言いがかりのように思われる。そして、全国に700近くある地域農協同士を競争させても国際競争に勝つことはできず、大切なのは地域の特性を活かし、近隣地域は協力し、情報を駆使して、コストダウンとブランド化を進める経営戦略を実行することなのである。

 *1-3に、日経新聞は佐賀県知事選の結果を受け参院自民党で農協改革への慎重論が相次いだと書いているが、農協の力を甘く見すぎているのは、その選挙力だけではなく実行力もである。何故なら、佐賀県の農協には、2005~2009年の私が衆議院議員だった期間、役に立つ最前線の情報を送り続けていたため、日本でも早くから農協のイニシアティブで大規模化によるコストダウンや転作、農産物のブランド化が行われていたからで、よい経営戦略を立てるには、質の良い情報の入手が重要なのだ。

 日本農業新聞は、*1-4のように、「全中の指導・監査権、准組合員制度などの抜本見直しは『農協解体』につながり断じて容認できない」としている。私は、監査については、前述の通り、中央会(全国+都道府県)に内部監査(業務監査を含む)を行う内部監査部を作って、その内部監査を農協法で規定すれば、内部統制がしっかりした組織の外部監査は費用を安くでき、よりよくなると考える。

 また、「①全中監査がJAの経営の自由度を奪っている実態はあるのか」「②公認会計士監査だとなぜ農業所得向上につながるのか」「③准組合員の利用制限は、むしろJA事業の総合力を弱め地域振興に逆行するのではないか」「④JA全農の株式会社化でどの共同経済行為が独占禁止法の違反になるか」のうち、①については、監査は利害関係者に必要な正確さを求めるものであり、大きな不正や過誤を行う自由は奪うが組織には必要なものであり、監査が経営の自由度を奪うという指摘は不適切である。また、②については、農林中金(金融)とJA共済連(保険)を別会社にして監査法人の外部監査を受けることにより、破綻して預金者や共済参加者に損害を与えるのを防ぐことができ、預金者の安心感が増せば預金量も増えるからである。さらに、事業部門である全農や地域農協も、一般監査法人の監査を受けることにより同業他社の管理方法に関する情報を得たり、製造業やサービス業の水準まで管理水準を上げたりすることも可能になる。しかし、③は顧客や組合員構成に国が口を出すのは、農協及び農業にとってマイナスでしかなく、④の独占禁止法違反なら電力会社の地域独占、郵便局の親書配達の独占、航空会社の寡占の方が重要であるにもかかわらず、全農にのみ言うのは変であり、根拠にも乏しい。

 そのため、*1-5の意見もあり、ここに長くは引用しないが、読んでおくべきだ。そして、農業者の所得増大、農業生産の拡大、地域活性化の3つの基本目標に向けて自主自立の協同組合として「農業と地域のために全力を尽くす」とするJAグループの11月6日の「JAグループの自己改革」は重視すべきだ。そのためにも、*1-6の合意は、上述のように対応するのがよいと考える。

 まだ、この文章をブログにアップしないうちに、日経新聞から*1-7の「農協改革 JA全中、受け入れ決定へ 社団法人に転換」という記事が入ったが、JA全中に内部監査(業務監査を含む)、経営指導を行う部門を作り、都道府県毎の地方中央会と合併するという提案に変更はない。このようにして、外部監査と内部監査・経営指導は分けるべきで、中央会は内部監査等の適正な費用を徴収してよいと考える。

    
    2015.2.7農業新聞             2015.2.7  2015.2.9  2015.2.6
                                  日経新聞        農業新聞
(2)農協改革、その他の論点
1)準組合員の制限は、私的組織に対する無用な口出しである
 *3-1のように、朝日新聞が「全国農業協同組合中央会が、農協への監査権を廃止する政府の農協改革案を受け入れる方向で最終調整に入り、准組合員を制限する改革案には反対する」としている。

 しかし、准組合員の制限に関することは、何かを譲るから認めるというような「条件闘争」にすべきものではなく、よそから口出しすべきものでもない。ただ、農林中央金庫や共済保険は、全中の支配下にあっても、組合員や準組合員など加入している人の資産保全のために、それぞれ別会社にして外部監査を受けるべきなのである。

 *3-2の日経新聞にも、「政府は全中が改革を拒んだ場合、農家でない准組合員が農協に大量加入している問題に切り込む姿勢を示していたが、全中も歩み寄ったことで、規制の導入は見送る」と書かれているが、このように関係のないことを交換条件にするなどというのは、人の一生をかけた営業努力をゲームの論理で遊びのように考えており、幼稚すぎて話にならない上、とうてい許されるものではない。

2)全農の株式会社化も自己判断でよい
 *4のように、自民党は1月23日、全国農業協同組合連合会(JA全農)の株式会社化を現時点では見送る方針を表明したそうだが、どういう組織形態で事業を行うかは、政治的に決めるべきではなく、組合員にとって最も使いやすいようにすべきである。そして、経済界との連携は、取引したい企業が全農や目的の農家に取引条件を示してアクセスすればよいのであり、全農の営業形態は全農に任せるべきだ。

 なお、「農業に詳しい人でなければ(監査は)難しいのではないか」という指摘については、日本以外(アメリカ、オーストラリア、ヨーロッパ、その他)では、農業に関する国際会計基準を使っており、通常の監査法人と公認会計士が農業主体の監査を行っていることを付け加えておく。

3)農地に関する権限移譲について
 *5-1、*5-3のように、地方団体が農地転用権限を市町村に移譲するよう求めているが、地方に権限を移譲すれば、どの地域も製造業の誘致や宅地開発を行いたがり、日本全体としては必要以上に転用されて、その結果、必要な農地の確保にも支障が出ると、私も考える。

 また、*5-2の企業の農地取得についても、2009年の農地法改正で、リース方式による農地集積を加速させていくと明確にしているため、私はリース方式で十分だと考える。何故なら、西鉄が悪いわけではないが、一例として、*5-4のように、営農されずに耕作放棄地になれば、結局は不可逆的に市街地や住宅地が広がるからである。しかし、我が国では、人口減、空き家、食料自給率の低さが問題なのだ。

(3)農産品の輸出入とTPPについて
 アベノミクスの第3の矢は、これから需要が伸びるフロンティアの領域で生産を増やすことである。その点、農林漁業は、①これまで製造業ほどには生産性を上げていなかったこと ②世界では人口増で日本の農産物の輸出可能性は大であること ③技術が進歩したこと などから、有力な第3の矢であり、現在の制度でも製造業よりも輸出が伸びているのだ。そのため、*6-1のように、農林水産物や食品の輸出促進などの施策を行うのは有益だが、*6-2のように、日本で余っている米をTPPでアメリカから輸入拡大して備蓄にまわすなど、気配りのない稚拙な外交の尻拭いとして無駄遣いするにもほどがある。

 つまり、アベノミクスの第3の矢である農林水産物の輸出は、TPPの変な妥協でこれまでの努力を台無しにされ、農協や農家の自助努力も政争の具にされ踏みにじられた感があり、情けない限りなのである。

<農協改革の必要性はあるのか>
*1-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11555227.html
(朝日新聞 2015年1月17日) 首相「全中は脇役に」 全中「組合員は支持」 農協改革めぐり応酬
 安倍晋三首相は16日、成長戦略の目玉に据える農協改革について「このままでは農業が衰退する。抜本改革を断行していく決意だ」と強い意欲を示した。政府の改革案に反対する全国農業協同組合中央会(全中)を名指しで批判。一方、全中側も簡単には引かない姿勢で両者に大きなあつれきが生じている。安倍首相は中東への外遊に出発する直前、羽田空港で「農業を成長産業に変えていく。中央会には脇役に徹していただきたい」と記者団に語った。政権はアベノミクス「第3の矢」として農業などの「岩盤規制」改革を掲げる。競争力のある農家を育てるには、中央会が持つ指導・監査権の廃止が不可欠と考え、26日召集の通常国会に改革関連法案を提出する方針だ。これに対し、全中の万歳章会長は15日の記者会見で「JA監査は農協を支える最も効果的な監査制度で、多くの組合員から支持されている」と主張。さらに「(政府の改革案で)どう農家の所得向上につながるのか説明がつかない」とも批判した。

*1-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=31664
(日本農業新聞 2015/1/17) 「抜本改革断行する」 与党、JAの慎重論けん制 首相
 安倍晋三首相は16日、農協改革について「抜本改革を断行する決意だ」とあらためて強調した。首相官邸主導の急進的な改革に反発する与党やJAグループをけん制する狙いとみられる。ただ、焦点となっているJA全中による監査廃止には問題点が多い。政府と与党による激しい綱引きになるのは避けられない。安倍首相はこの日、農協改革について「抜本改革を断行していく決意だ。地域の農協を主役とし、創意工夫を生かして農業を 成長産業に変えていくため 全力投球できるようにしていきたい」と強調。JA全中について「脇役に徹してもらいたい」とも語った。中東歴訪に先立ち、羽田空港で記者団の取材に語った。政府は農協法改正案を通常国会に提出する方針。官邸側は農協を岩盤規制の象徴とみなして抜本改革にこだわり、特に全中による単位農協の監査権限の廃止を強く迫っている。こうした方針に変わりがないことをあらためて強調した格好で、菅義偉官房長官も同日の会見で「まさに抜本的な改革を行っていく」と語った。西川公也農相も同日の会見で、与党やJAグループとの丁寧な協議を重ねる考えを示した一方で「監査法人、これが非常に望ましい形だ」と述べ、全中の監査権限を廃止し、公認会計士による監査を導入すべきとの考えをあらためて示した。農協改革をめぐっては自民党は来週からプロジェクトチームの会合を集中的に開き、農協法改正案の議論を本格化させる。安倍首相らの発言には与党内の慎重論を抑え込みたい思惑もありそうだが、与党側の反発は依然として強い。全中監査廃止には単協の経済的負担が増すなどの課題が多い上、なぜ廃止するのか目的がはっきりしない。政府は農政の大目標に農業所得向上を掲げるが、「全中監査の廃止がどう農業所得向上に結び付くのか見えない」(自民党農林議員)。これまで政府側から明快な説明はなく、この日も「地域農協が主役となって農業の成長産業化に全力投球できるように」(菅氏)などと抽象論にとどまり、今後の議論で大きな論点の一つになりそうだ。西川農相も、同日の会見で全中の監査権限廃止が農業の所得向上につながる理由を問われたが、明快な説明はなかった。

*1-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150116&ng=DGKKASFS15H5E_V10C15A1PP8000 (日経新聞2015.1.16)農協改革 参院自民に慎重論、統一選での票離れ危惧
 安倍晋三首相が進める農業協同組合(農協)改革を巡り、参院自民党を中心に慎重論が広がってきた。JAグループの推薦候補が与党推薦候補を破った先の佐賀県知事選を踏まえ、4月の統一地方選や来夏の参院選での農業票離れを危惧する声が出ている。自民党は20日から農協法改正案のとりまとめに向けた党内調整を本格化させるが先送り論も浮上している。
◆佐賀敗北「甘く見すぎ」 「しっかり問題意識を持って党の議論に加わらないと禍根を残す」。15日の参院自民党の有志会合では、農協改革への慎重論が相次いだ。「農協改革をやれば統一地方選はぼろ負けする」と、法案とりまとめの先送りを求める意見も出た。参院自民幹部は佐賀県知事選の敗北について「農協の力を甘く見すぎた」と述べ、農協改革を断行する官邸や党執行部の対応を批判した。JAグループは昨年12月の衆院選の公示前、候補者に「JAグループの自己改革案を尊重する」との誓約を求める踏み絵を迫った。党三役経験者の一人は「今後も同じような政治的手法を使ってくるかもしれない」と警戒する。公明党は「色々な声を謙虚に受け止め、今後の対応に生かすことが重要だ」(山口那津男代表)と、性急な改革には距離を置く。一方、官邸サイドは「佐賀県知事選の敗北は影響ない。改革は進める」(首相周辺)と強気だ。首相は26日召集の通常国会を「改革断行国会」と位置づけており、農協改革はその目玉。党内外の反対を受け、修正や先送りをすれば「改革後退」と受け取られかねない。
◆党幹部「必ず通常国会で」 首相に近い稲田朋美自民党政調会長は15日、都内での講演で「農協改革は反対論が多く、党内ではほとんど孤立無援だ」と改革の難しさを吐露しつつも「必ず通常国会で通していきたい」と意気込んだ。農家らに理解を深めてもらうため、稲田氏は17日に地元福井で農協改革の説明会を開く。改革に反対する全国農業協同組合中央会(JA全中)や県中央会を通さず、地域農協などと直接交渉してこの場を設けた。「地域農協の創意工夫を促し販売力を強める」という改革の利点を訴える。農協改革を巡る党内議論は、20日に開く党政調会の作業部会から本格化する。農林族が積極的にかかわる作業部会は2月中の取りまとめを目指し、連日開催する。政府は4月の統一地方選前に農協法改正案を通常国会に提出する方針だ。ただ自民党内には「農家の所得向上策とセットで改革すべきだ」と、予算対応を改革の見返りに求める意見や「改革の一部を参院選後に法案化しては」との声もある。

*1-4:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=31864
(日本農業新聞 2015/1/31) 農協改革攻防 解体招く法改正許すな
 農協改革の骨格づくりが週をまたぎ最終局面を迎える。論点はまだ多岐にわたり、政府は合理的な説明ができていない。全中の指導・監査権、准組合員制度などの抜本見直しは「農協解体」につながり断じて容認できない。当事者の理解と納得が得られない法改正に正当性はない。政府は結論ありきの態度を改め、JAグループの自己改革を踏まえ、事実と実態に基づき虚心に与党協議に臨むべきだ。農協改革をめぐっては政府の前のめりな姿勢が際立つ。安倍晋三首相自ら予算委員会で、農協法に位置付けられた中央会制度に疑問を示すなど、急進改革に意欲を見せる。2月12日の施政方針演説で、農協改革に切り込む政治姿勢をアピールするため、法改正作業を急いでいるとしかみえない。政府・与党は論点整理を基に、来週中にも決着を図る意向だとされるが、与党内、農業団体の反論を封じ込め、拙速に決めるなら国会、国民軽視と言わざるを得ない。熟議の民主主義と程遠く、農業現場のさらなる不信を招く。この間の与党協議、国会審議でも論点への疑問は解けていない。全中監査がJAの経営の自由度を奪っている実態はあるのか。公認会計士監査だとなぜ農業所得向上につながるのか。准組合員の利用制限は、むしろJA事業の総合力を弱め地域振興に逆行するのではないか。JA全農の株式会社化でどの共同経済行為が独占禁止法の違反になるのか、などだ。JA理事会構成など未消化な重要論点も多く、見切り発車は許されない。政府はこれらの疑問に明解に答えていない。いや根拠がなく答えられないのではないか。全中監査権や准組合員制度に議論を矮小(わいしょう)化するのは、JAグループの一体性を分断し、総合力を弱体化させることで政治的・経済的影響力をそぎ、アグリビジネスや外資による農業市場への一層の参入を促す狙いがあるのではないか。事実、政府の規制改革会議と歩調を合わせるかのように、在日米国商工会議所がJA改革の意見書を提出し、JA金融事業への金融庁規制の適用を求め、員外利用規制、准組合員制度、独禁法適用除外などの見直しを迫っている。安倍政権の成長戦略と規制改革は一体のものである。その典型が准組合員の事業利用制限で、事実上の「信用・共済事業分離」につながる。こうした文脈で農協改革を捉えれば、行き着くところは「農協解体」で、JAグループの金融、共済事業などをグローバル資本市場に差し出すことになるだろう。JAグループはいま、農業者の所得増大と豊かな地域社会づくりを掲げて、自己改革に取り組んでいる。総合事業の展開には、中央会の指導・監査など農協法上の位置付けが欠かせないことを実証し、理解を求める努力も必要だ。JAの特質、事業実態を踏まえ、自己改革に沿った法案づくりを求める。

*1-5:http://www.jacom.or.jp/proposal/proposal/2014/proposal141125-25884.php
【農業・農協改革、その狙いと背景】組合員目線から批判を 規制改革会議の改革論 増田佳昭・滋賀県立大学教授・「地方創生」を担う地域のための農協
  ・地域農業の困難増す「農業者だけの農協」
  ・決して甘くない自治監査
  ・組合員は喜ばない乱暴な改革明らか
 JAグループは11月6日、「JAグループの自己改革」を決定し公表した。農業者の所得増大、農業生産の拡大、地域の活性化の3つの基本目標に向けて自主自立の協同組合として「農業と地域のために全力を尽くす」改革を打ち出した。これに対して政府の規制改革会議は12日「意見」を公表、農協法から中央会規定を削除するなどの提起を行った。規制改革会議の意見はいまだ政府としての方針ではないがその問題点を徹底的に検証する必要がある。今回は滋賀県立大学の増田佳昭教授に緊急に問題点を執筆してもらった。増田教授は農業、農村の実態に生きる「組合員目線」からの検証が重要と説く。
<誰のためにもならない現実離れした形式論>
◆「地方創生」を担う地域のための農協
 11月6日、総合審議会の「中間とりまとめ」を受けて、全国農協中央会は「JAグループの自己改革について」を発表した。12日には規制改革会議が、「農業協同組合の見直しに関する意見」を発表、両者は中央会のあり方を中心に、「ガチで」ぶつかり合う様相だ。焦点は中央会問題に絞られているようにみえるが、農業協同組合のあり方に関する理念の対立は明確である。規制改革会議(いや農水省というべきか)は、農業協同組合を「農業者の組合」に純化する方向で大幅な制度の「刈り込み」を志向しているようだ。准組合員の利用率制限しかり、信用・共済事業分離しかりである。これに対して、JAグループの描く農協の姿は「食と農を基軸として地域に根ざした協同組合」であり、その姿勢は「農業と地域のために全力を尽くす」である。いま、存亡の危機にある「地域」のために、農業者、組合員とともに役に立つ存在になろうというわけである。この点では、客観的にみてもJAグループに理があると思う。高齢化と人口減少の本格化で、地方の経済、社会は息も絶え絶えである。政府でさえ「まち・ひと・しごと」、「だれもが安心して暮らすことができる地域づくり」を掲げて、「地方創生」に取り組まざるをえない今日である。これまで、農村地域に多様な組合員組織を重層的に持ち、ライフライン的店舗を構え、地域の福祉や文化、仕事づくりに実績を上げてきた農協から非農業分野を切り離してしまって、いったい誰が現場の「地方創生」を担うのだろうか。規制改革会議答申は「生協」や「社会医療法人」への移行をあげているが、いかにも官僚的形式論である。そもそも、農業はそれぞれの地域の社会や経済と密接な関係を持っている。だからこそ、1999年の食料・農業・農村基本法は、従来の「農業」の枠を拡大し、「農業者を含めた地域住民の生活の場で農業が営まれていることにより、農業の持続的な発展の基盤たる役割を果たしている」として、「農業の生産条件の整備、生活環境の整備その他の福祉の向上」という「農村振興」の課題を掲げたのである。そうした基本法の理念や方向に対して、いま進められようとしている農協法の農業純化志向がいかにずれていることか。
◆地域農業の困難増す「農業者だけの農協」
 それでは、農水省の考える農協の農業純化の先に、輝ける日本農業の姿が描けるのだろうか。正直に言えば、他国に比べても大幅に見劣りする現下の農業政策の下で明るい未来など描きようもない。「農業・農村所得倍増」、「輸出倍増」だのと威勢のいい言葉が並べ立てられるその下で、日々の農業経営の存立に必死に努力しているのが大多数の農業者の実情だ。農業協同組合のもともとの姿は、そうした農業経営が力を合わせて自らを防衛するためにつくったいわば自主的な「自衛組織」である。そんな自衛組織に対して、「しっかり儲けて利益を組合員に還元しなさい」などとお説教するのは、そもそも間違っているのである。ましてや、農業政策の責任を放棄し、農業がうまくいかないのは農業者と農協が努力しないからだとばかりに、責任を農協に押しつけるなど、為政者として恥を知るべきであろう。そもそも、農水省は農協の構成員を農業者に絞り込み、いったい何を農協にやらせようというのだろうか。そのような新しい農協に結集する農業者に助成を集中しようというのだろうか。あるいは「農業者の農協」に対して何らかの優遇措置を講じようというのだろうか。いや、昨今の農政を見れば、そんなことはとてもありえないだろう。 とすれば、農業純化した農協に対して、あとは勝手にやりなさいとばかりに、これまた「自助努力」を促すだけではないのか。何のことはない、農協法第1条の目的をたてに、農協組織と事業を「刈り込む」だけの形式論理の「改革」に終始するのではないか。農協の組合員を農業者に絞り込んだからといって、農業者組合員は喜ばないし、現在農協未利用の法人等が喜んで農協を利用するとも思えない。農業者組合員にとっては、准組合員利用制限と信共事業分離で専門農協化した経営基盤薄弱な農協経営を押しつけられることになり、営農指導事業の弱体化も明らかだ。そんな農協を組合員は望むのだろうか。現に農協を利用している農業者組合員が本当に求めているのは何か。それは、農業者組合員が抱えている営農上の課題にしっかりと応えてくれる農協だ。それは「農業者の組合」に純化したからできるというものではない。それぞれの農協が組合員とともにしっかりと考え、努力するべきことなのである。為政者が描く「農業者だけの農協」では、むしろ農業者の困難が増すと考えるべきだ。組合員の期待には、農業者の経営を守るための政策、制度要求も当然含まれる。米価暴落、乳価はじめ各種農産物価格の低迷、それらに対して、個々の農業者ができることは限られている。力を合わせて制度環境の改善を求めることは、大事なことだし当然のことだ。中央会組織の解体、連合組織否定の単協主体論、農協組織解体論は、本来必要な農業者の政治力を決定的に弱めることになるだろう。
◆決して甘くない自治監査
 中央会監査についてふれておきたい。中央会による監査は独立性を欠くとか、真の意味での外部監査といえないというのだが、本当にそうだろうか。グループ自治としておこなわれる中央会監査において、もしも身内に甘い監査をしたならばその影響は中央会のみならずグループ全体の信頼を毀損することになる。その意味で、自治監査は「甘い監査」に対して抑制的にならざるを得ないのである。これに対して規制改革会議が主張する「外部監査」はどうか。外部の会計監査人は市場に多数存在しており、会社はそれらを自由に選択することができる。さらに、会計監査人は監査対象から監査報酬を得るのであるから、完全な第三者として監査に臨むわけではない。会社側は厳しい指摘をしない監査人を選任し、監査人は来年度の契約を得るために、監査に手心を加えるという可能性は存在する。外部監査だから独立性を有するというのも、これまた形式論理なのである。ドイツ協同組合法においても、協同組合への監査連合会による監査の義務づけを一時廃止したことがあるが、その際に連合会監査を受けない「野生の協同組合」の経営破綻が頻発し、再び協同組合の監査連合会への強制加入を復活させて現在に至っている(多木誠一郎『協同組合における外部監査の研究』)。中央会監査は、協同組合という特質を踏まえて会計のみならず組織運営にまで及び広範な監査が可能である。しかも、単協に中央会監査を義務づけることで、中央会は単年度契約の外部監査人と違って、安定的な立場で組合に適切な監査を実施することが可能なのである。それに加えて、平成8年の農協法改正ですでに公認会計士による中央会監査への関与が法定化されており、公認会計士が中央会監査に関わる方式が作られている。これまでの法改正経過や実際の監査の現実に目をつぶって、何が何でも中央会監査を否定しようというのは、乱暴な議論だろう。
◆組合員は喜ばない乱暴な改革明らか
 規制改革会議の主張を一言で表せば、空虚な形式論理の羅列である。農業純化論自体も農協法第1条から形式的に導かれたものであって、実際の農協の姿や地域のニーズといった現実から乖離した観念的な形式論理である。また、上述のように外部監査の絶対視も形式論理に過ぎない。さらに、今回の中央会解体論の根拠となっている「単位農協の自由な活動を促進するため」という大義名分さえも現実離れした形式論理である。単協の自由な活動を保障するために、中央会を農協法から削除し、「単協が自主的に組織する純粋な民間組織」にし、「全中監査の義務づけを廃止」するというのだが、実情を知る立場からいえば、中央会がそれほどの統制力を有しているか、大いに疑問である。中央会の存在ゆえに単協が自由に活動できないなどというのは、ほとんど虚構に近い。かりに中央会に統制力があるとしても、その統制力の根源は監督官庁による統制であり、中央会はその代位、代行が中心である。規制改革をいうなら、事細かに口を出してきた監督官庁のそれを問題視すべきだとの意見もむべなるかなである。はっきり言って、今回の規制改革会議の農協改革論は、担い手農業者も含めて、組合員が喜ぶような改革でないことは明らかである。いわば農協批判者による農協批判者のための改革論でしかない。何よりも組合員目線で、この乱暴な改革案を批判していく必要があるだろう。

*1-6:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=31988
(日本農業新聞 2015/2/8) 農協改革で最終調整 政府・自民
 農協改革をめぐり、政府・自民党は8日、JA全中の萬歳章会長と東京都内で会談するなどし、法制度の骨格づくりに向けて最終調整した。関係者によると、准組合員の事業利用規制の導入については、今回は見送る方向が固まった。全中の監査部門(JA全国監査機構)を分離して公認会計士法に基づく監査法人を新設する案などでは調整が続いているもようだ。全中は9日に理事会を開き、対応を協議する。自民党は9日に農協改革等法案検討プロジェクトチーム(PT、吉川貴盛座長)の会合を開き、法制度の骨格案について了承を得たい考えだ。

*1-7:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150209&ng=DGKKZO82976590Z00C15A2MM0000 (日経新聞 2015.2.9)農協改革 JA全中、受け入れ決定へ 社団法人に転換
 安倍晋三首相が意欲を示す農業協同組合(農協)改革を巡り、政府・自民党と全国農業協同組合中央会(JA全中)の折衝が大筋で決着した。全国約700の地域農協に対するJA全中の監査・指導権を廃止し、2019年3月末までに一般社団法人に転換する。JA全中は9日午後の理事会で正式に受け入れを決める見通しだ。自民党の農林関係議員とJA全中の万歳章会長、農林水産省幹部が8日夜に都内で会談。万歳会長は政府の改革案を大筋で受け入れる考えを伝えた。自民党は9日午後、全所属議員が参加できる農林部会など合同会議を開く。谷垣禎一幹事長や稲田朋美政調会長も出席して最終的な党内手続きを進め、同日中にも了承する。公明党も9日にも容認する運びだ。首相は12日に予定する国会での施政方針演説で、農協改革案の骨格を表明する。政府は今国会に改革案を明記した農協法改正案を提出する。目玉は地域農協の自立に向けてJA全中の監査・指導権をなくすことだ。JA全中が一般社団法人になる19年3月末までは地域農協は試行的に公認会計士の監査も受けられるようにし、同年4月以降は全中の監査部門を監査法人として分離し公認会計士による外部監査に一本化する。地域農協は民間の監査法人と、JA全中を母体とする監査法人から選ぶようになる。法案には全中が一般社団法人になった後も地域農協の総合調整を担うと付則に盛り込む。農協の間の連絡や調整業務を担う点が盛り込まれる。

<JAの自己改革案>
*2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=30667 (日本農業新聞 2014/11/7)JAグループの自己改革具体策 中央会、農協法措置を 監査などに機能集約
 JA全中は6日の理事会で、JAグループ自己改革の具体策を決めた。農業者の所得増大と農業生産の拡大、地域の活性化を基本目標に据えた。中央会制度では、JAの自由な挑戦を後押しするよう機能を経営相談・監査など三つに集約し、この機能を責任を持って発揮するには「農協法上に措置することが必要」と明記した。JA改革では、担い手育成などを進める1000億円規模の支援策の創設を打ち出した。自らの改革とするため8月に全中会長の諮問機関、総合審議会で議論を開始。10月24日の中間取りまとめを踏まえて決めた。与党は年内に農協法改正案を取りまとめるもよう。JAグループはこれを基に政府・与党に働きかける。自己改革は中央会制度について、JAの定款を一律的に規制する模範定款例など農協法上の統制的な権限を廃止し、JAの意思で地方や全国段階に中央会を設置できる制度にすることを提起した。新たな中央会の機能として、JAの創意工夫を支えて経営相談や健全経営を保つための「経営相談・監査」、意見を取りまとめるなどの「代表機能」、JA間や連合会間の連絡・調整などの「総合調整機能」の三つに集約する。JA改革をめぐって、農家を支える職能組合とともに、地域社会を支える地域組合としての役割も発揮する考えを示した。こうした役割の農協法上への位置づけを検討するよう提案した。販売・購買事業は、組合員の多様な要望に応える方式に転換する。JAの業務執行体制の強化に向け、農業法人や若手、女性農家らの理事を増やしたり、販売や経営の専門家を事業に生かしたりすることも盛り込んだ。
●担い手育成へ1000億円
 全国連によるJA支援として「農業所得増大・地域活性化応援プログラム」を創設する。2018年度までの5年間で事業費は1000億円規模。JAが担い手に対して行う農機リース事業や経営相談、就農希望者を受け入れる農家への助成などに活用する。全農の株式会社化に ついては「会員総代の合意形成が前提」とした上で独禁法の適用除外が外れた場合の影響などを引き続き検討するとした。JA中央会・全国機関会長会議は同日、JAグループの自己改革の実現に向け決議した。
●必ずやり遂げる 全中会長
 JA全中の萬歳章会長は6日に開いた記者会見で、JAグループの「自己改革」について「自主自立の協同組合組織であるJAが、自らの組織改革を自らの手で必ずやり遂げる強い決意でまとめた」と強調した。「自己改革」を基に政府、与党へ働きかけ、農協法改正への意思反映を目指す考えも述べた。萬歳会長は、政府が農協改革の推進を含む規制改革実施計画の中で、JA系統の検討内容も踏まえるとしていることを指摘。「われわれの思いに理解を求めていく」と今後、政府、与党への働きかけに注力する考えを強調した。今後の対応では、「自己改革」を踏まえた政府、与党側の方針を受けて、全中会長の諮問機関である総合審議会を再開させる。審議会でさらなる課題などを検討し、今年度内に答申し、「自己改革」の改訂やその具体化につなげるとした。会見にはJA全農の中野吉實会長、JA共済連の市村幸太郎会長、農林中金の河野良雄理事長も出席した。

<準組合員制限は、無用な口出し>
*3-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11590501.html?_requesturl=articles%2FDA3S11590501.html&iref=comkiji_txt_end_s_kjid_DA3S11590501
(朝日新聞 2015年2月7日) 全中、監査権廃止容認へ 准組合員制限には反対 農協改革
 農協グループの司令塔である全国農業協同組合中央会(全中)は、農協への監査権を廃止する政府の農協改革案を受け入れる方向で最終調整に入った。農協の収益源である金融事業を守るため、農家ではない組合員(准組合員)を制限する改革案には反対する。週明けの決着をめざし、「条件闘争」に転換する。全中の万歳章会長は6日、自民党の農林関係の幹部議員らと会い、事務的に詰めるべき点を伝えた。事実上の方針転換だ。関係者によると、全中、全国農業協同組合連合会(全農)や農林中央金庫など、主要グループの首脳が集まった5日の会議で、全中の監査権の廃止は受け入れる代わり、組合員の利用条件などについては見直さないよう求める意見が多く出た。その後の都道府県代表者の会議で、全中幹部が「全中の監査権を維持するか、准組合員の利用制限を選ぶかを政府・与党が迫っている」と説明したのに対し「利用制限だけは避けるべきだ」との意見が多数を占めた。全中の法的位置づけなどについてはほとんど議論にならなかったという。准組合員は、住宅・自動車ローンや共済(保険)といった金融事業を利用する農家ではない組合員。農協がある地域に住んだり、働いていたりして、3千~1万円程度の出資金を払えば、准組合員としてサービスを利用できる。2012年度で農家である正組合員が461万人いるのに対し、准組合員は536万人にのぼる。全国の農協の事業総利益(約1兆9千億円)の7割近くを金融事業が占める。准組合員の資格が厳しくなると、ローンなどの利用が抑えられ、収益状況が大幅に悪化する可能性が高い。政府・与党と全中は週末も調整し、10日には農協改革案を決着させたい考え。全中は5年かけて一般社団法人になる公算が大きい。

*3-2:http://www.nikkei.com/article/DGXLASFK08H0N_Y5A200C1000000/?dg=1
(日経新聞 2015/2/8) 農協改革、大筋決着 JA全中が政府案容認
 全国約700の地域農協の競争と創意工夫を促す農協改革を巡り、政府・自民党と全国農業協同組合中央会(JA全中)の折衝が8日夜、大筋決着したことがわかった。地域農協を束ねるJA全中の監査・指導権をなくし、2019年3月末までに一般社団法人に転換する。1954年に始まった中央会制度をほぼ60年ぶりに見直し、地域農協の自立につなげる。自民党の農林系議員とJA全中の万歳章会長、農林水産省幹部が8日夜、都内のホテルで会談した。万歳会長は政府の改革案を大筋受け入れる考えを表明。9日午後に全中幹部が集まり、正式決定する段取りも示した。政府はいまの国会に農業協同組合法改正案を提出し、JA全中の監査・指導権をなくす。2019年3月末までに一般社団法人に移行させる。全中の統制をなくし、地域農協の組合長が経営感覚を磨き、競い合って生産性を高めるように促したい考え。JA全中は農協改革に反対の構えだった。だが、一般社団法人に転換した後も、農協法の付則に全中の役割を明記する譲歩案を政府側が示し、受け入れた。農協の間の連絡や調整業務を担う点が盛り込まれる。地域農協への事実上の統制につながらないか、注目点になりそうだ。全中が一般社団法人になると地域農協への監査権限がなくなり、全中の監査部門は新たに監査法人として再出発する。地域農協は既存の監査法人か全中を母体とする監査法人を選べるようになる。政府は全中が改革を拒んだ場合、農家でない「准組合員」が農協に大量加入している問題に切り込む姿勢を示していたが、全中も歩み寄ったことで、規制の導入は見送る。

<全農の株式会社化も不要>
*4:http://qbiz.jp/article/54394/1/
(西日本新聞 2015年1月23日) JA全農の株式会社化見送り表明 自民会合、対立鮮明
 自民党は23日、農協改革を議論する会合を開き、農協グループから意見を聞いた。全国農業協同組合連合会(JA全農)は、焦点の株式会社化を現時点では見送る方針を表明した。20日から続いた会合では、農協改革をめぐり推進派と慎重派の溝が一段と鮮明になった。自民党は来週も会合を開き、農業者へのヒアリングを実施。最大の論点である地域農協に対する全国農業協同組合中央会(JA全中)の監査について議論する。政府は2月上旬にも関連法改正案の骨格を固める考えだ。農産物の販売を手掛けるJA全農の在り方では、与党が昨年6月に経済界との連携をしやすくするよう、現在の協同組合組織から株式会社に転換できるよう法律を整備する方針を打ち出した。しかしJA全農は、企業との提携などに関して「現組織でもかなりの部分の対応が可能だ」として、当面は株式会社に転換しないとの考えを示した。出席議員からは「営業力強化のために株式会社になるべきだ」との発言があった。一方で「株式会社になってしまったら(特定組合員のための組織という)協同組合の論理が否定される」と反対する意見も出た。4日間続いた議論では、JA全中による農協監査をめぐり賛否が激突した。「現行監査が優れているのなら(公認会計士監査を導入して)自由にしても選ばれる」として、JA全中の監査を義務付けるのをやめるべきだとの声が上がった。だが「農業に詳しい人でなければ難しいのではないか」と、制度の維持を求める意見も多かった。JA全中の万歳章会長も「改革の真の目的は何なのか、現場で混乱が生じている」と強気の姿勢を崩さなかった。一方、農家でなくても農協事業を自由に活用できる准組合員の利用規制に関しては、23日の会合でも「正組合員だけでは経営を維持できない」といった慎重な意見が相次いだ。

<農地権限移譲について>
*5-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=30431
(日本農業新聞 2014/10/24) 農地権限移譲に慎重 総量確保で影響懸念 地方6団体と農相面会
 農地に関する権限の地方移譲をめぐり、西川公也農相は23日、東京・霞が関の農水省で全国知事会など地方6団体の代表と面会した。地方団体側は転用権限を市町村に移譲するよう求めたが、西川農相は必要な農地確保に支障が出る懸念があることから慎重に対応する考えを伝えた。政府は年内に結論を出す方針で、同省と地方団体側の綱引きは今後、さらに激しくなりそうだ。農地制度見直しについて、政府は昨年12月に方針を閣議決定した。2009年の改正農地法付則に沿い、14年をめどに地方分権と農地確保の観点から検討し、必要な措置を講じるとし、内閣府の専門家部会が議論を重ねている。総合的な街づくりの中で農地を商業向けなどにも開発したい地方6団体は、4ヘクタール超は農相としている農地転用の許可権限を市町村に移譲するよう要望。国が設定する農地総量確保目標を市町村が決める仕組みに見直すことも求めている。農水省は農地総量確保目標については、より市町村の意向をくんで設定する仕組みに見直す方針。ただ、農地転用の許可権限移譲は、地元の地権者や進出企業の意向の影響を受けにくい国や都道府県が判断する必要があるとして慎重で、議論の焦点となっている。この日、西川農相と面会した全国知事会の鈴木英敬三重県知事、全国市長会の小林眞青森県八戸市長、全国町村会の杉本博文福井県池田町長は、全国6団体の要望への理解を求めた。西川農相は「原則は昨年12月の閣議決定で進んでいかざるを得ない」と強調。閣議決定にある農地確保の観点から、転用権限移譲などには慎重に対応する考えを示した。一方で農村での6次産業化を促進するための農地転用には柔軟に対応したい意向も示した。食品産業などを念頭に、税制面などで優遇措置を講じる農村地域工業導入促進法や工業再配置法を活用して「周辺産業を農村に呼び込みたいといま検討している」と述べた。

*5-2:http://image.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=29055
(日本農業新聞 2014/7/31) [規制改革の論点 11] 法人(2)要件再検討 企業農地取得慎重に
 政府の規制改革実施計画では、農業生産法人の見直しで今回見送った要件緩和などについて、あらためて検討することを明記した。企業の農地取得をめぐる議論が再燃する恐れがある。今回の政府決定で、企業の農地取得は認めなかった。2009年の農地法改正で、リース方式による農地集積を加速させていくと明確にしているからだ。今年度に創設した農地中間管理機構もリース方式を土台にしており、安倍政権もこの方向性を踏襲、発展させている。ただ、経済界などからは企業の農地取得にこだわる声が依然強い。規制改革会議の農業ワーキング・グループが5月に打ち出した提案では、リース方式で参入した企業を念頭に、農業生産を継続している実績が一定あれば、農地を所有できる農業生産法人になれるようにすべきだと求めていた。産業競争力会議の農業分科会も4月の提案で「新しい農地改革」が今後の農政改革の最重点事項だと指摘。「企業がより集積した農地を取得しやすいような制度的枠組みを構築」する必要性を強調している。規制改革実施計画では、農地中間管理機構法の5年後見直しに合わせ、一層の農業生産法人要件の緩和や農地制度の見直しを検討、結論を得るとした。企業の農地取得には、撤退や転用で農地が耕作放棄や産廃置き場にされる懸念を払拭(ふっしょく)できないことから、国による農地没収など現状回復手法を確立することが前提だとしている。ただ、リース方式でも最長50年間借りることができる。リースに比べ農地の取得代金は高くつき、農業分科会の新浪剛史主査自ら「企業が農地を保有すると資本効率が低くなる」と認める。農地取得でなければならないとする理由には疑問が残るだけに、5年後見直しでも極めて慎重な検討が求められる。

*5-3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=31651
(日本農業新聞 2015/1/16) 対応方針、月内閣議決定へ 農地制度は保留 地方分権会議
 政府は15日、地方分権改革有識者会議に分権改革の対応方針案を示し、了承された。与党との調整を経て1月中の閣議決定を目指す。法改正が必要なものについては26日召集の通常国会に一括法案を提出する。ただ、全国知事会など地方6団体が強く要望していた農地制度に関する権限委譲への対応は、農水省と折衝中だとして示さなかった。今後、同会議の下に設置した農地・農村部会で結論を出し、閣議決定までに方針案に加える。現行の農地制度では、4ヘクタールを超える農地転用には農相の許可を要し、2ヘクタール超4ヘクタール以下は農相との協議が必要。地方6団体は、許可権限の市町村への移譲や農相との協議廃止を強く求めているが、農水省は、食料の安定供給を担う立場から権限委譲に慎重で、調整が難航している。会議では、富山市の森雅志市長が「農地制度の見直しは『まち・ひと・しごと創生』のための地方分権改革の最重要課題だ」として地方6団体の要望実現を求める意見を提出。鳥取県の平井伸治知事や愛媛県松前町の白石勝也町長らも同様の要求をしたという。この日示した対応方針案には、保安林の指定・解除権限の都道府県への一部移譲や、農業委員の公選制の廃止など、農林水産業関連で約40の案件への対応を盛り込んだ。農家レストランの農用地区域内への設置については「(規制改革を先行して行う)国家戦略特区制度の下で、可能な限り速やかに効果を検証し、全国適用を検討する」とした。また、これらを含め全国の自治体から寄せられた提案への対応結果を公表した。535件の提案のうち、実現・対応できるとしたのは15日時点で283件(52.9%)だった。

*5-4:http://qbiz.jp/article/52980/1/
(西日本新聞 2015年1月3日) 西鉄、耕作放棄地に住宅団地 大牟田線沿線で開発事業
 西日本鉄道(福岡市)が、福岡県の天神大牟田線沿線にある耕作放棄地の宅地開発事業に乗り出すことが分かった。営農されずに荒廃が進む土地に一戸建て住宅の団地を建設し、周囲の環境保全と沿線のにぎわい創出を目指す。農地所有者の要請を受け、宅地への転用手続きから販売まで一貫して手掛ける。農林水産省などによると、放棄地から住宅団地を開発する事業は全国的にも珍しい。福岡市・天神と福岡県大牟田市を結ぶ大牟田線(95・1キロ)の沿線で、住宅地としての人気が高い筑紫野、太宰府、小郡の3市の水田地帯などが候補地。農地として今後利用される見通しが乏しい中小規模の土地を複数の所有者から購入し、これらをまとめて50戸(1万5千平方メートル)から500戸(15万平方メートル)の住宅団地開発を目指す。農地法などで定められた転用の法的手続きや地元との協議・調整、宅地造成、住宅建設、販売などを一貫して担う。地元自治体や周辺住民と道路や公園などの整備計画についても協議し、県知事の許可を得て開発する。すでに地元不動産業者から放棄地の情報提供を受ける体制を整えた。第1弾となるのは、3市内にあるかつての水田約3万平方メートルに100戸程度の住宅団地を造成する事業。所有者十数人から相談を受け、地元自治体などと農地転用に向けた協議を進める。2015年度に造成工事に着手、16年度に区画販売を始める計画だ。西鉄はこれまで一戸建て宅地約1万2千区画を販売してきた。耕作放棄地の宅地開発は「通常の開発より時間と労力がかかり利益は少なくなるが、地元に根ざした鉄道会社にしかできない事業だ」(幹部)としており、今後5年以内に5カ所程度の開発を目指す。耕作放棄地は全国で増加し、都市部でも深刻化。病害虫や鳥獣害の発生、廃棄物不法投棄、火災発生などで周辺住民にも悪影響を与える恐れがある。中村学園大の甲斐諭学長(農業経済学)は「大牟田線沿線は農家ではない土地持ちが多い。また、米価下落で経済的にも営農が厳しくなっている」と指摘。放棄地の宅地化は「人口が過密になる福岡市だけでなく、沿線の街の発展にもつながるので意義がある」と評価している。

<農産品の輸出入とTPPについて>
*6-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=31652
(日本農業新聞 2015/1/16) 検疫協議を加速へ 重点品目中心に輸出促進 農水省
 農水省は15日、攻めの農林水産業実行本部の第4回会合を開いた。2014年度補正予算案、15年度予算案が閣議決定されたことを受け、農林水産物・食品の輸出促進など攻めの農林水産業の施策を実行し加速させる。輸出解禁に向けた各国との動植物検疫協議については、同省の国別品目別輸出戦略に位置付けられた重点国・品目を中心に加速させることを確認した。政府は20年までに輸出額を1兆円に増やす目標を立てており、輸出の壁になっている検疫問題の解決が課題だ。会議では、これまでの検疫協議で米国向け温州ミカンやオーストラリア向けブドウ、欧州連合(EU)やインドネシア向け牛肉の輸出が解禁されたと報告。今後はタイ向けかんきつ類、ベトナム向けリンゴ、台湾やオーストラリア 向け牛肉などについて 積極的に検疫協議を進めることを確認した。この他、宮崎、山口両県で鳥インフルエンザが発生したことを受けて、同病のまん延を防止するために、香港やシンガポールなど各国が、発生県や日本全体からの家きん肉・卵の輸入を停止しているとの報告があった。日本はこうした国との検疫協議を行い、輸出再開を目指している。同本部では、政府・与党の「農林水産業・地域の活力創造プラン」を実行に移して、農家所得を向上させる具体策を検討する。本部長を務める西川公也農相は、同日の会議で「それぞれの品目や分野が持つ課題をしっかり議論し、課題解決に向けた施策を整理した上で、農業者の 皆さんに分かる言葉で伝えてほしい」と出席した省幹部に呼び掛けた。

*6-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=31789
(日本農業新聞 2015/1/26) 米輸入拡大を 調製品含め20万トン規模 TPPで米国
 環太平洋連携協定(TPP)交渉の日米協議で、米側が同国産米の輸入拡大を20万トン規模で求めていることが分かった。日本は拒否しているが、国内需給への影響を抑えることを前提に、一定量の輸入を増やす案も検討しているもようだ。だが、米は数万トン程度の需給緩和でも大きく値下がりする。政府には国会決議を踏まえた交渉が強く求められる。米側は、昨年11月にオバマ大統領が安倍晋三首相に輸入拡大を直接求めるなど、米に強い関心を示し続けている。日本は現在、年間77万トンのミニマムアクセス(最低輸入機会=MA)米のうち、36万トン程度を米国から既に輸入している。だが交渉筋によると、米国は売買同時入札方式(SBS)で輸入する主食用米を中心に、調製品なども含め 20万トン規模の輸入拡大を要求。日本側は「法外な水準」(政府関係者)として拒否し、(1)国内で主食 用米の生産調整を行っている(2)生産数量目標は 減り続けている――ことなどを説明して理解を求めている。ただ政府内では、譲歩案も検討している。主食用米の需給への影響を抑える措置を前提に、数万トン程度の受け 入れが可能か探っているもようだ。牛肉や豚肉をはじめ他の重要品目の関税率とセーフガード(緊急輸入制限措置)、自動車の安全基準や自動車部品の関税といった要素と合わせ、米側と交渉を続けている。


PS(2015.2.10追加):*7のように、2014年の農林水産物輸出額(速報値)が前年比11・1%増の6117億円となったというように、農林水産物の輸出が過去最高を更新できたのは、時系列から見ても明らかに、全中の力を弱めることが目的の農協改革があったからではなく、これまで農協が農産品の品質を管理して「日本産農産物」の安全性と質の高さをブランド化してきたからであり、これに大きく水を差したのが、フクシマ原発事故による放射性物質汚染であったという事実を決して忘れてはならない。ちなみに、私も外国産の牛肉を買う時は、原発がなく、BSEが発生したこともないオーストラリア産にしている。
 また、「農産物の輸出=和食の優秀さ」というのも日本人独特の島国根性的な自意識過剰であり、有明海で邪魔ものにしていた「くらげ」も、干クラゲにして中国に輸出することにより立派に稼いでいる。つまり、和食だけではなく、相手国の食生活に合った食品の生産も可能であり、これも輸出に貢献するのだ。

*7:http://qbiz.jp/article/55605/1/
(西日本新聞 2015年2月10日) 農林水産輸出が最高更新、14年 初の6千億円台、輸入規制緩み
 農林水産省が10日発表した2014年の農林水産物の輸出額(速報値)は、前年比11・1%増の6117億円となった。過去最高だった13年の5505億円を上回り、初めて6千億円台に達した。円安の影響や海外での和食ブームに加え、東京電力福島第1原発事故後に各国で導入された日本産食品の輸入規制が徐々に緩和、撤廃されたことも貢献した。安倍政権は、農林水産物の輸出額を20年までに1兆円にする目標を掲げており、農協改革などと一体で国内農家の競争力を強化していく方針だ。原発事故後、放射性物質による汚染を懸念し、50カ国・地域以上が日本産食品に対する規制を強化。11年の輸出額は前年比8・3%減の4511億円に落ち込み、12年も4497億円だった。その後、日本の要請に応じて、オーストラリアが輸入規制を撤廃するなど規制緩和の動きが拡大。円安で日本産食品の割安感が強まったこともあり、輸出額は13年から増加に転じた。14年の輸出額の内訳は、農産物が13・8%増の3570億円、木材などの林産物が38・5%増の211億円、水産物は5・4%増の2337億円だった。国・地域別では、中国やカナダ、米国、欧州連合(EU)向けが大幅に増加。リンゴや牛肉、緑茶、真珠などが引き続き好調だった。中国などで需要がある丸太は約2・2倍と大きく伸びた。加工品も集計対象に含まれており、14年は和食を象徴するみそやしょうゆも増加。EUで日本産の人気が高まっているウイスキーは47・0%増だった。農水省は、官民のPR活動で和食が海外メディアで取り上げられる機会が増えたことも貢献したとみており「円安の影響だけでなく、日本産食品への実需が高まった」と分析している。

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