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2015.6.7 まとめて法案を出すのは、国民や議員の検討・理解を妨害するもので、この方法は “憲法改正”にも使われようとしているため、注意すべきである。(2015年6月9、11、12、14日に追加あり)
    
     体系       全体像    新しい日米防衛協力指針と安保法制  集団的自衛権  

(1)安保法案に関する報道について
 *1のように、集団的自衛権の行使を認めた閣議決定で、武力行使の3要件が新しくなり、一定の「歯止め」はあるものの、日米両政府は防衛協力のための指針を改定し、自衛隊と米軍の地球規模の協力を打ち出した。 ぎょ

 これらの安保関連法案に関する衆院での質疑は一部TV中継されたが、重要な安全保障政策を転換しそうな局面であるため、それぞれの言葉の定義と法律の変更理由、外交防衛委員会等の関連質疑などもTV中継して国民に報道すべきだ。これは、公共の電波を使って、一日中、野球・アメフト・サッカーの試合を中継したり、商業スポーツの不正を暴く報道ばかりしているより、よほど重要なことである。

 その理由は、①各党の方針 ②議員個人の意見 ③質疑内容 ④政策決定過程等を国民が知っておかなければ、国民が選挙で自らの意志に沿う選択をすることはできず、少数の人の意志で政治が動かされてしまうからである。つまり、*5のように投票率の向上のみを叫んでみても、政策内容やそれを主張している議員を正確に把握しておかなければ、主権在民や民主主義は有効に機能しないのだ。

 なお、私も現在は、報道からしか安保関連法案の内容を知ることができないため、これまで法案の全体像や用語の定義が明確でなく論理的に議論できないため、このブログに自分の見解を書かなかった。しかし、このようにして国民の目をくらますことが、大量の法案を一括して提出した本当の意図だろう。

(2)日本政府の説明における集団的自衛権について
1)「存立危機事態で集団的自衛権の行使が可能」というのは正しいか?
①国際法から見た日本政府の説明
 集団的自衛権は、*4で示される国際法上の権利で、その性質は、i)他国の権利を防衛する正当防衛、ii)個別的自衛権の共同行使を行う自己防衛、iii)攻撃を受けた他国の安全と独立が自国にとって死活的に重要な場合に防衛行為をとることが可能 とする3つがあり、現在の通説はiii)だが、国際司法裁判所は、1986年のニカラグア事件判決において、集団的自衛権を行使するためには、iv)攻撃を受けた国による攻撃事実の宣言、v)他国に対する援助要請 が必要としており、これはもっともなことである。

 一方、日本政府は、*2-2のように、2015年5月11日に法案の全体像が示された安全保障法制の中で、i)、ii)、iii)の3要件を満たせば、集団的自衛権による武力行使が憲法上も認められるとしている。しかし、国際法上、集団的自衛権の行使と認められるためには、これに加えて攻撃を受けた国による攻撃事実の宣言と日本への援助要請が必要だ。

②存立危機事態の定義とその妥当性
 日本政府は、存立危機事態を、「i)日本と密接な関係にある他国への武力攻撃が発生し、ii)日本の存立が脅かされ、iii)国民の生命・自由・幸福追求権が根底から覆される明白な危険がある事態」と定義し、この場合、iv)他に適当な手段がなく、v)必要最小限の武力行使に留まる範囲で、武力による反撃を可能とした。
 
 しかし、日本と密接な関係にある他国への武力攻撃が発生して、日本の存立が脅かされたり、日本国民の生命・自由・幸福追求権が根底から覆されたりする危険性は考えにくく、日本政府は、ホルムズ海峡の機雷除去を例として挙げた。そして、*2-3のような電力不足や、*2-4のような天然ガス、原子力発電の燃料、食料、生活物資の不足なども含まれるのだとも言うが、もしそうなら、自国のための物資確保を目的として他国に侵略した太平洋戦争と同じであり、それから進歩も改善もなかったことになる。

 そもそも、*2-5のように、ホルムズ海峡への機雷敷設や食料輸入のストップなどで日本の存立が脅かされ、国民の生命や幸福が覆されたりすることがないように、普段から食料自給率や再生可能エネルギーの割合を高めておくのが、本当の危機管理であり、安全保障だ。

2)政府が説明する集団的自衛権は、日本国憲法の前文や9条の平和主義に適合しているか?
 *3-1のように、我が国は、日本国憲法の前文及び9条で平和主義を定めており、これまで海外での武力行使はせず、平和主義を実行してきた。そして、私は、日本国憲法が健在である限り、自衛隊は、個別的自衛権の行使であれ集団的自衛権の行使であれ、自国の領土・領海・領空を守ることがあっても、外国の領土・領海・領空で武力行使を行うことはできないと考える。

 そのため、*3-2に書かれているとおり、衆議院の憲法審査会で、6月4日に招かれた憲法学者3人の参考人は、今回進められている安全保障法制について全員が憲法違反だと明言したそうだ。そのうち小林氏は「憲法9条2項で軍隊と交戦権が与えられていない。仲間の国を助けるために海外に戦争に行くことは憲法9条違反だ」と強調し、9条改正を訴えたとのことである。

 しかし、札幌弁護士会は、*3-3のように、会長声明で「新安保法制は、我が国が攻撃されていない場合でも、自衛隊による実力行使を認め(自衛隊法、武力攻撃事態及び存立危機事態安全確保法)、周辺事態に当たらない場合でも米軍及び米軍以外の他国軍隊に対する支援を可能とし(重要影響事態安全確保法)、一部の活動については現に戦闘行為が行われている現場での実施も可能にする(国際平和支援法等)ため、恒久平和主義を定める憲法前文や第9条及び立憲主義に反するもので違憲無効であると明確に述べている。

 自民党は、*3-4のように、日本国憲法の変更に関し、緊急事態条項(定義不明)、環境権(現行憲法で読めるため不要であり、実行が必要なのである)、財政規律条項(同)の中で緊急事態条項を衆院憲法審査会などで最優先に議論する方針を固めて違憲状態を合憲にするつもりだが、憲法の前文や9条は、我が国が先の大戦や侵略・植民地支配で国内外に多大な惨禍を与えたことに対する反省と教訓に基づいて戦争や武力行使を放棄しているものであるため、このような戦争を可能にすることが本音の憲法変更は改正ではなく改悪であると、私は考える。

 なお、日本政府は「後方支援は戦争行為ではない」とも説明しているが、後方支援の定義は「兵站=Military logistics」であり、戦闘地域の後方で物資の配給、兵員の展開、施設の構築・維持などを行うものであるため、戦争の重要な一部だというのが国際常識だ。

<安保法制と憲法>
*1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150528&ng=DGKKASFS27H4L_X20C15A5EA2000 (日経新聞 2015.5.28) 安保法案攻防、首相が歯止め強調
 自衛隊の海外活動を拡大する安全保障関連法案の実質審議が27日、衆院平和安全法制特別委員会を舞台にはじまった。法案成立後に行使可能になる集団的自衛権を使い、自衛隊はどこまで行動できるのか。武力行使の「歯止め」をめぐり、各党の党首級が論戦を繰り広げた。(1面参照)
■海外派兵の例外「中東の機雷掃海のみ」
●自民党の高村正彦副総裁「海外派兵の例外にあたるのはペルシャ湾の機雷掃海くらいだ」
●安倍晋三首相「現在、他の例は念頭にない」
 海外派兵とは、武力行使の目的で武装部隊を他国の領土、領海、領空に派遣することだ。一般に自衛のための必要最小限度を超えるため、憲法上許されない。横畠裕介内閣法制局長官は見解に変更がないと答弁した。ただ、憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を認めた昨年7月の閣議決定で、武力行使の3要件は新しくなっている。密接な関係国が攻撃されて日本の存立を脅かす状況にあり、必要最小限度の実力行使にとどまる、などだ。安保法案にも3要件は明記されている。3要件を満たす「例外」の海外派兵が今後増えていくかもしれない。首相はかねて中東のホルムズ海峡での機雷掃海を挙げるが、野党側は例外の拡大を警戒する。高村氏の質問にはそんな疑念を晴らす狙いがあった。首相がさらに「歯止め」を強調したのが、安保法案の採決時の協力を期待する維新の党、松野頼久代表への答弁だ。「相当な危険を伴う。実際のオペレーションは戦闘行為がないときしか行わない」。機雷掃海の実施は事実上の停戦合意後だとして理解を求めた。しかし、海外派兵の例外拡大がなくなったとはいえない。首相は日本人を輸送している米艦を防護するような場合、他国領域で集団的自衛権を行使するかと問われ「慎重な当てはめをしていく」と含みを持たせた。横畠長官も「誘導弾等の基地をたたく以外に攻撃を防ぐ方法がない場合、他国の領域における武力行動は許されないわけではない」と、敵基地攻撃の可能性に触れた。
■「先制攻撃、支援せず」国際法に反すると指摘
 民主党の岡田克也代表「米国が先制攻撃をするとき(日本が)集団的自衛権を行使することはないか」
 首相「ある国がなんら武力攻撃を受けていないのに違法な武力行使をするのは国際法上、認められていない。日本が支援することはない」
 日米両政府は4月に防衛協力のための指針(ガイドライン)を改定し、自衛隊と米軍の地球規模の協力を打ち出した。岡田氏は、日米同盟が深まった結果、米国のしかけた戦争に巻き込まれるのでは、と疑問を投げかけた。「米国は先制攻撃を否定していない国だ。ある国と戦争状態になったとき集団的自衛権行使を認めるのか」。こう迫る岡田氏に、岸田文雄外相は「先制攻撃は国際法に違反する。集団的自衛権で支援することは全くありえない」と答えた。その直後の首相答弁とはニュアンスに若干の違いが出た。首相は「国連憲章上、違法とされる先制攻撃」を支援しないとした。先制攻撃が違法とみなされるかどうかで判断が変わることを示唆したかのようにみえる。岡田氏は「新3要件さえ満たしていれば先制攻撃でも侵略行為でも認めるのか」と詰めた。首相は「違法行為を支援することはない」と繰り返した。

<存立危機事態と武力攻撃切迫事態の定義>
*2-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11779496.html (朝日新聞 2015年5月29日) 「事態」論議、答弁あいまい 存立危機・攻撃切迫・重要影響 安保法制
 民主党の辻元清美氏は、日本の存立が脅かされる「存立危機事態」と、日本への直接攻撃が差し迫る「武力攻撃切迫事態」との違いなどを追及。他国への武力攻撃であっても政府が存立危機事態と認定すれば武力行使を認める一方で、武力攻撃切迫事態では武力行使を認めない法律上の根拠を問いただした。中谷元・防衛相は「他国に武力攻撃が発生したかどうかと、我が国が直接武力攻撃を受けたときの判断基準に違いがある」といった説明を繰り返した。辻元氏が中谷氏に同じ質問をたたみかけると、安倍晋三首相が自ら答弁席へ。「総理待って、中谷大臣に聞いている。ダメです」と遮る中、首相がそれぞれの事態を説明。辻元氏はなお、「基準があいまいで、時の政府によって何とでも判断できる」と問題点を指摘した。また、同党の緒方林太郎氏は、政府が他国の領域では集団的自衛権の行使を一般に認めないとする根拠について質問。「武力行使の新3要件」のうち存立危機事態に該当しないためか、それとも自衛のための必要最小限度を超えるためかと問うと、中谷氏は「新3要件から論理的に導かれている」などと答弁。緒方氏は「質問に答えていない」として再度、説明を求めた。日本のために活動する米軍などを地球規模で支援するという「重要影響事態」について、公明党の北側一雄副代表は「どんな基準で判断するのか」と質問。首相は、日本に戦禍がおよぶ可能性など状況に応じて「客観的、合理的に判断する」と答えた。維新の党の江田憲司前代表は、重要影響事態の具体例を迫った。だが、首相は具体的には答えず、江田氏は「地球の裏側まで行けるようにしたいのか。国民が納得しない」と批判した。
■<視点>定義、分かりやすい説明を
 国会論戦で定義があいまいな「事態」が飛び交うのは、安全保障法制の分かりにくさを象徴している。これまで自衛隊に出動を命じる前提となる「事態」は、日本有事を起点に考えられてきた。安倍政権が集団的自衛権の行使を認め、自衛隊の海外派遣の拡大を決めたことで、武力を行使したり他国の戦争を支援したりできる範囲が広がり、それぞれの事態が重なり合うことで、その線引きが不明確になっている。政府与党は状況に応じて判断基準や手続きを定めようと事態を細分化したが、その定義をめぐり混乱が生じることは与党協議の時から懸念されてきた。政権側にあえて事態の定義を明確にせず、政策の選択肢を広げようとする思惑があるとすれば許されない。事態の認定は日本が戦争に関わるかどうかを決める重大な判断であり、国会のチェックや国民の理解が欠かせない。国会論戦で浮上した矛盾や疑問点に対して、政府は具体的な事例で答え、国民に分かりやすい定義を示すべきだ。

*2-2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11748068.html (朝日新聞 2015年5月12日) 行使、政権の裁量次第 集団的自衛権 国会事前承認、あくまで「原則」
 11日に法案の全体像が示された安全保障法制の中で、中核的な柱のひとつが、武力攻撃事態法改正案に盛り込まれた集団的自衛権の行使だ。改正法案には、安倍内閣が昨年7月に閣議決定した、行使の前提となる新3要件が明記された。与党幹部は厳しい「歯止め」をかけたと自賛するが、行使の判断基準にはあいまいさが残る。政権の裁量次第で、海外での武力行使に道を開くものだ。そもそも集団的自衛権の行使は、国連憲章が加盟国に認めている国際法上の権利だ。日本政府はこれまで「持っているが、使えない」との立場を取ってきた。だが、憲法解釈を変えて行使を可能にしたことで、他国の戦争にどう関わるか、新たな判断が問われることになる。世界的に見れば、集団的自衛権の行使が、後にその是非を問われたケースも多い。米国がベトナム戦争に参戦したり、北大西洋条約機構(NATO)がアフガン戦争に加わったりした根拠も、集団的自衛権の行使だった。個別的にせよ、集団的にせよ、自衛権は各国の判断で行使できる。つまり自衛権を掲げて戦争に加わるかどうかについては、国連決議などは必要ない。今回の安全保障法制では、米軍など他国軍を後方支援する国際平和支援法案や国連平和維持活動(PKO)協力法改正案については、国連決議など国際法上の正当性を保つ「歯止め」が取り入れられた。しかし、武力攻撃事態法改正案による集団的自衛権の行使には、国連決議などは必要とされず、国会の事前承認もあくまで「原則」とされている。
■3要件、判断基準あいまい
 与党協議をリードした両党のトップは11日の会見で、集団的自衛権の行使を可能にした武力攻撃事態法改正案にも触れた。だが、法制化を成し遂げた責任者の言葉としては、奇異なものだった。「集団的自衛権行使の局面が、世界中であるかというと、あるとはとても思えない」。公明党の北側一雄副代表が強調すると、自民党の高村正彦副総裁も「思い浮かばない」と歩調を合わせた。法案に盛り込んだのに「行使の局面はほぼない」と口をそろえたのだ。その念頭にあるのは、今回の改正案に明記された、自衛隊の武力を使う際の「新3要件」の存在だ。日本にとって密接な関係にある他国が攻撃された時に、自衛隊が集団的自衛権を使って侵略国などに反撃する際も、日本の存立に関わるような明白な危険がある事態(存立危機事態)▽外交努力など他に手段がない▽必要最小限度の行使にする――の3点の成立を前提条件とするものだ。昨夏の閣議決定に書かれた文言が、そのまま法案にも踏襲された。2人が強調したかったのは、この3要件を厳格に適用すれば、自衛隊が海外で武力を使えるような事態はめったに発生しないという理屈だ。しかし、自公両党や外務・防衛両省に加え、憲法解釈を担う内閣法制局も絡んで、その利害や思惑を積み木細工のように重ねた新3要件と、それを反映した改正案の条文表現は、様々な解釈が成り立つ。「密接な関係にある国」とはどこか、「存立が根底から覆される事態」とはどんな事態か、「他の手段がない」とはどう判断するのか……。安倍晋三首相はこれまで、中東のホルムズ海峡が機雷で封鎖されたケースを想定例として再三言及。中東に多くを頼る原油輸入がストップするような事態になれば、国民の生活が行き詰まり、集団的自衛権を使える「存立危機事態」に当たるとの見解を示している。公明党はこの見解に一貫して反発している。だが、存立危機事態という法の根幹をめぐる解釈が一致しないまま法制化されることこそ、集団的自衛権を使う判断基準が、時の政権に委ねられた実態を示している、と言えそうだ。
■「存立危機」微妙な定義
 存立危機事態をどの法案に反映させるかについても、ご都合主義的な対応が目立つ。これまで認められてきた個別的自衛権では、日本が直接攻撃にさらされ、国民が少なからず被害を受ける武力攻撃事態が前提だった。このため、武力攻撃事態法と合わせて、国民の権利を制限しても緊急時の避難などを優先する国民保護法がセットで適用されることになっている。一方、今回の存立危機事態については、国民の権利を制限するまでの状況とは考えられないとして、それに合わせた法改正は見送られた。「国民の権利が根底から覆される」ほど危険な状況だから集団的自衛権を行使すると言いつつ、国民の権利制限が必要なほど切迫はしていない、というわけだ。存立危機事態は、そんなあいまいで微妙な定義の上に成り立っている。
◆キーワード
<集団的自衛権> 同盟国などが攻撃されたとき、自国への攻撃と見なし、反撃できる権利。国連憲章など国際法で認められている。日本の歴代内閣は「保有しているが、憲法9条との関係で行使できない」との解釈を示していたが、安倍内閣は昨年7月の閣議決定で、解釈を変更。(1)日本と密接な関係にある他国が武力攻撃され、日本の存立が脅かされる明白な危険がある事態(存立危機事態)(2)我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がない(3)必要最小限度の実力行使――の新たな3要件を満たせば、集団的自衛権による武力行使を憲法上可能とした。

*2-3:http://qbiz.jp/article/62377/1/
(西日本新聞 2015年5月18日) 電力不足も危機事態の要件に該当 首相、参院本会後で表明
 安倍晋三首相は18日の参院本会議で、集団的自衛権の行使要件である存立危機事態について、日本と密接な国が攻撃を受け、国内で電力不足などが発生した場合も該当し得るとの見解を示した。存立危機事態の例として「生活物資の不足や電力不足によるライフラインの途絶が起こるなど、国民生活に死活的な影響が生じる場合」を挙げた。日本の原油輸送ルートである中東・ホルムズ海峡が機雷により封鎖された場合の、機雷掃海のための自衛隊派遣が念頭にあるとみられる。維新の党の小野次郎氏に対する答弁。

*2-4:http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2015052002000120.html
(東京新聞 2015年5月20日) 集団的自衛権 「原発燃料不足でも」 防衛相、適用拡大狙う
 中谷元・防衛相は十九日の参院外交防衛委員会で集団的自衛権の行使要件となる「存立危機事態」に関し、日本と密接な他国への武力攻撃で「天然ガスや原子力(発電の燃料)」の輸入が途絶する状況も該当する場合があるとの考えを示した。「食料が確保されない」場合も例に挙げた。安倍晋三首相は十八日の国会答弁で「電力不足」や「生活物資の不足」による影響が要件になり得ると表明した。中谷氏の発言は、首相答弁に沿った形で集団的自衛権の適用範囲を幅広く確保しておきたい狙いがありそうだ。維新の党の小野次郎氏が首相答弁に即して「生活物資」の対象を質問。中谷氏は「日常生活や生命に関する」ものと説明した。「食料も含まれるのか」との問いには「食料が確保されない事態も起こり得る」と答えた。小野氏が「石油以外の電力原料も考えているか」とただすと、中谷氏は「天然ガスや原子力とかそういった部分」と応じた。「天然ガスとかウラニウム(ウラン)もプルトニウムも含まれるのか」と畳み掛けると「その通りだ」と答えた。一方で、中谷氏は、経済活動や通信活動の途絶が該当するかには「金融措置などで国民生活や国家経済に打撃を受けても(要件に)当たらない」と述べた。

*2-5:http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2015060702000158.html (東京新聞社説 2015年6月7日) 週のはじめに考える 原発と二つの安保
 安保論議が盛んです。今は安全保障法案が注目ですが、少し前はエネルギー安保でした。どちらも原子力が関係しますが、原発ゼロが国益のようです。安倍晋三首相は安保法案提出の理由として「北朝鮮は弾道ミサイルを数百発、持っている」「緊急発進が十年前に比べて七倍も増えている」と、日本を取り巻く安全保障環境が厳しくなったとの認識を繰り返し説明しています。エネルギー安保に関しては、安倍首相は「電力不足も存立危機事態」とし、中谷元・防衛相は「石油だけでなく、ウランやプルトニウムの輸送も含まれる」と述べています。
◆余る核燃料
 古い話になりますが、安全保障と原発に関して岸信介首相(当時)は一九五七年、国会答弁で「自衛のための核保有は合憲」との考え方を示しました。福島第一原発事故後、保守派の論客とされる人たちは「原発は安全保障上、必要だ」として再稼働を求めています。残念なことに、これらの話には誤解や矛盾があります。まず、エネルギー安保からみてみましょう。政府は原発が停止し、エネルギーの自給率が5%程度であることを問題にしています。最近、決めた二〇三〇年の電源構成では、純国産エネルギーである再生可能エネルギーを22~24%とし、準国産エネルギーともいわれる原発を20~22%にしました。三〇年には40%程度まで“自給”できるというのです。中谷防衛相が心配した燃料はどうでしょうか。関西電力のホームページには「万が一ウランの輸入がストップしても、原子力発電所に加え、国内の燃料加工工場にあるウランを使えば、約二・四年間原子力発電所の運転を継続できます」と説明があります。
◆世界一危険な原発
 東京電力は先月十九日、新潟県の柏崎刈羽原発にウラン燃料を運び込みました。理由は「燃料メーカーの倉庫がいっぱいになったから」と報道されています。政府は電力にこだわりますが、すでにウラン燃料が国内で余っていることはご存じないようです。次に原発と安全保障の問題を考えてみましょう。その前にクイズを一つ。世界で一番危険な原発はどこでしょう。答えはイランです。理由は、いつ空爆されるか分からないからです。荒唐無稽な話ではありません。イスラエルは一九八一年、イラクにあった完成間近の原発を空爆したことがあります。一方、イスラエルの原発は昨年、パレスチナからロケット弾攻撃を受けました。原発は狙われやすいのです。常に核兵器の開発が疑われるイランですが、自らは「平和利用」と言い続けています。攻撃の口実を与えないためです。直接の攻撃だけではありません。イランでは二〇一〇年、原発などのコンピューター約三万台が「スタックスネット」というウイルスに感染しました。このウイルスはインターネットに接続していないコンピューターにも感染する新種で、米国とイスラエルの共同開発とうわさされています。「科学」四月号によると、ヤツコ元米原子力規制委員会委員長は「アトムズ・フォー・ピース(平和のための原子力)から、今はピース・フォー・アトムズ(原子力のための平和)になった。最大の脅威はサイバーテロだ」と話しているそうです。サイバーテロについては、日本年金機構のお粗末な対応が明らかになったばかりですが、電力会社も意識が高いとは言えません。東電は昨年、経費節減を理由に、危険だと警告されていたウィンドウズXPを使い続けると発表。その後、会計検査院の指摘を受けて、更新計画を前倒ししました。実質国営企業で黒字経営、しかも首都圏の電力供給を担う会社でこれです。東電に対しては福島第一原発事故直後、国際ハッカー集団「アノニマス」がサイバー攻撃を呼び掛けたこともあります。こういう相手には、日米同盟をいくら強化しても抑止力にはなりません。万一、日本が攻撃対象になるような事態が起きたら、国内に原発があるのは、国民の生命や財産にとって明白なリスクです。原発は全基停止を強いられ、一挙に20%もの電源を失うことになります。
◆安保には再生エネ
 二つの安保を重視するなら、原発ではなく、再生可能エネルギーを推進すべきです。コストが問題になりますが、太陽光や風力は原発と同じで、初期投資が大きく、ランニングコストは比較的小さいのです。安全保障のためですから、建設費に防衛費の一部を充てればどうでしょう。反対する国民はあまりいないと考えますが。

<日本国憲法との関係>
*3-1:http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S21/S21KE000.html (日本国憲法 要点のみ)
前文
 日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。われらは、いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。
第二章 戦争の放棄
第九条  日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
02  前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

*3-2:http://www.jiji.com/jc/zc?k=201506/2015060400318&g=pol
(時事ドットコム 2015/6/4) 集団的自衛権行使「違憲」=憲法学者3氏が表明-衆院審査会
 衆院憲法審査会は4日午前、憲法学者3氏を参考人として招き、立憲主義などをテーマに意見聴取と質疑を行った。民主党委員から集団的自衛権の行使容認について見解を問われた3氏全員が「憲法違反だ」と明言した。招かれたのは早大教授の長谷部恭男氏と笹田栄司氏、慶大名誉教授の小林節氏。長谷部氏は、安倍政権が進める安全保障法制整備について「憲法違反だ。従来の政府見解の基本的な論理の枠内では説明がつかないし、法的な安定性を大きく揺るがすものだ」と批判した。小林氏も「憲法9条2項で軍隊と交戦権が与えられていない。仲間の国を助けるために海外に戦争に行くことは憲法9条違反だ」と強調し、9条改正を訴えた。笹田氏は、従来の憲法解釈に関し「ガラス細工で、ぎりぎりのところで保ってきていた」とした上で、集団的自衛権行使については「違憲だ」と述べた。

*3-3:https://www.satsuben.or.jp/info/statement/2015/01.html (札幌弁護士会会長声明 2015年5月3日)集団的自衛権行使等を定めるいわゆる新安保法制に反対する会長声明
 政府・与党は、今通常国会において、集団的自衛権の行使を可能とするために、自衛隊法等を改正するとともに、新法を制定しようとしている(以上を包括して「新安保法制」という。)。新安保法制は、これまで憲法に違反するとして認められていなかった自衛隊の活動を可能とするものである。すなわち、新安保法制は、我が国が攻撃されていない場合にも自衛隊による実力の行使を認め(自衛隊法、武力攻撃事態及び存立危機事態安全確保法)、周辺事態に当たらない場合であっても米軍及び米軍以外の他国軍隊に対する支援を可能とし(重要影響事態安全確保法)、一部の活動については現に戦闘行為が行われている現場での実施も可能にするものである(国際平和支援法等)。そもそも、憲法前文及び第9条は、我が国が先の大戦とそれに先行する侵略と植民地支配によりアジア諸国をはじめ内外に多大な惨禍を与えたことに対する深い反省と教訓に基づき、戦争及び武力行使を放棄し、軍隊を保持せず、交戦権も認めないという徹底した恒久平和主義に立脚している。当会は、昨年7月1日になされた「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」との閣議決定(以下「本閣議決定」という。)について、恒久平和主義を定める憲法前文や第9条及び立憲主義に反するもので違憲無効であるとの会長声明を発し、本閣議決定を前提とする立法の成立阻止に向け取り組むことを表明した。新安保法制は、集団的自衛権の行使を認め、周辺事態以外の事態においても米軍及び米軍以外の他国軍隊の支援を可能にし、自衛隊による戦闘現場での活動などを可能にする点で、まさに本閣議決定を前提とし、その具体化を図るものである。したがって、新安保法制は、これらの点において、本閣議決定と同様、憲法前文や第9条に反し、許されないものである。68回目の憲法記念日に当たって、当会は、社会正義の実現と基本的人権の尊重を使命とする弁護士会として、人権保障の前提である恒久平和主義に抵触する新安保法制の制定に強く反対し、戦後70年を迎えた今、政府・与党が深い反省と教訓に基づき、平和憲法の理念の下に、他国との対話による平和構築に向けた積極的な取り組みをなすことを強く求めるものである。

*3-4:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2015052301001447.html
(東京新聞 2015年5月23日) 緊急事態条項を最優先 憲法改正、自民党方針 
 自民党は憲法改正に関し、他党の賛同が得やすいとみる緊急事態条項、環境権、財政規律条項の中で緊急事態条項を衆院憲法審査会などで最優先に議論する方針を固めた。自民、公明両党内に慎重論がある他の2項目に比べ、合意形成が見込めると判断した。自民党幹部が23日、明らかにした。26日に審議入りする安全保障関連法案をめぐり与野党対立の激化が予想され、審査会での改憲議論は停滞する可能性もある。緊急事態条項は、大災害や他国からの武力攻撃の際、首相の権限を強化することなどが柱。

<国際法>
*4:http://www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/refer/200901_696/069604.pdf#search='%E9%9B%86%E5%9B%A3%E7%9A%84%E8%87%AA%E8%A1%9B%E6%A8%A9+%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E6%B3%95'
(松葉 真美) 集団的自衛権の法的性質とその発達
―国際法上の議論―
① 我が国政府は、集団的自衛権(right of collective self-defense)を「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利」としている。これまで政府は、日本が集団的自衛権を保有していることを
認めつつ、その行使は日本国憲法第9条により禁じられていると解釈してきた。
② 集団的自衛権は、国際連合憲章第51条に規定された国家の国際法上の権利である。国連憲章は、集団安全保障体制の構築を規定する一方で、個別的又は集団的自衛権の規定を置
いている。集団的自衛権は、国連憲章において初めて認められた権利であるが、国連憲章はその意味については特に規定しておらず、学者や各国の間に一定の共通理解が確立して
いるものの見解は分かれる。
③ 集団的自衛権の制定経緯を振り返ってみると、この権利が、大国の拒否権によって集団安全保障機能が麻痺し、地域的機構の自立性が失われることに対する中小国の危惧から生
み出された権利であることがわかる。集団的自衛権が国連憲章に規定されて以来、これに基づいて数多くの二国間または多国間の集団防衛条約が締結され、集団防衛体制が構築さ
れてきた。
④ 集団的自衛権は、しばしば集団安全保障と混同される。集団安全保障が1つの集団の内部の秩序維持に向けた制度であるのに対し、集団的自衛権は外部の敵による攻撃から自ら
を防衛する権利である。国連憲章下で、集団安全保障と集団的自衛権は、本質的に異なる概念ながら密接な関係を有している。
⑤ 集団的自衛権の法的性質については、⑴他国の権利を防衛するとする正当防衛論、⑵個別的自衛権の共同行使とする自己防衛論、⑶攻撃を受けた他国の安全と独立が自国にとっ
て死活的に重要な場合に防衛行為をとることができるとする議論の3つに分けられる。現在の通説は⑶であるといえるが、攻撃を受けた国と集団的自衛権を行使する国の関係が具
体的に明らかではなく、軍事介入を幅広く認める結果となる恐れがある。
⑥ その点、国際司法裁判所が、1986年のニカラグア事件判決において、集団的自衛権を行使するためには、攻撃を受けた国による攻撃事実の宣言及び他国に対する援助要請が必要
であると判断したことは注目される。
⑦ 実際に集団的自衛権が行使された事例を見てみると、やはりその濫用が疑われてきたことは否めない。そこでは、外部からの武力攻撃の発生の有無と、被攻撃国による援助要請
の正当性が常に論点となってきた。国際秩序の維持のためには、これらを正しく見極めた上での集団的自衛権の行使が必要であり、我が国も集団安全保障体制との整合性を意識し
て今後の議論を進めていくことが望まれる。

<投票率とメディア>
*5:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/135854
(佐賀新聞 2014年12月15日) 推定投票率52%、戦後最低に、前回から7ポイント低下
 衆院選の投票率は、共同通信の15日午前1時現在の推計で52・38%となり、戦後最低だった2012年の前回衆院選(小選挙区59・32%、比例代表59・31%)を7ポイント程度下回る見通しだ。期日前投票者数は前回から9・23%増の1315万1966人だったが、14日に投票した有権者が大幅に減った。北日本から西日本の日本海側を中心に大雪が降った影響もあるとみられる。都道府県別の投票率(推定を含む)で最高は島根の59・24%。2位以下は山梨59・18%、山形59・15%が続いた。最低は青森の46・83%で、徳島47・22%、富山47・46%の順だった。


PS(2015.6.9追加):日米安全保障条約は集団的自衛権の行使ではないのか調べたところ、*6-1のように、3条に「締約国は、個別的及び相互に協力して武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を、憲法上の規定に従うことを条件として、維持し発展させる」等が書かれており、まさに個別的自衛権・集団的自衛権双方の行使だった。また、日米安全保障条約には、自国の憲法に従つて共通の危険に対処することも明記されているが、*6-2のように、早急な憲法改正を主張するグループもあるため、平和主義国家の日本を維持するためには、憲法を護るための活動をすることが必要であることを強く認識した。

<日米安全保障条約>
*6-1:http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/hosho/jyoyaku.html (外務省)
日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約
 日本国及びアメリカ合衆国は、両国の間に伝統的に存在する平和及び友好の関係を強化し、並びに民主主義の諸原則、個人の自由及び法の支配を擁護することを希望し、また、両国の間の一層緊密な経済的協力を促進し、並びにそれぞれの国における経済的安定及び福祉の条件を助長することを希望し、国際連合憲章の目的及び原則に対する信念並びにすべての国民及びすべての政府とともに平和のうちに生きようとする願望を再確認し、両国が国際連合憲章に定める個別的又は集団的自衛の固有の権利を有していることを確認し、両国が極東における国際の平和及び安全の維持に共通の関心を有することを考慮し、相互協力及び安全保障条約を締結することを決意し、よつて、次のとおり協定する。
第一条
 締約国は、国際連合憲章に定めるところに従い、それぞれが関係することのある国際紛争を平和的手段によつて国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決し、並びにそれぞれの国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎むことを約束する。
 締約国は、他の平和愛好国と協同して、国際の平和及び安全を維持する国際連合の任務が一層効果的に遂行されるように国際連合を強化することに努力する。
第二条
 締約国は、その自由な諸制度を強化することにより、これらの制度の基礎をなす原則の理解を促進することにより、並びに安定及び福祉の条件を助長することによつて、平和的かつ友好的な国際関係の一層の発展に貢献する。締約国は、その国際経済政策におけるくい違いを除くことに努め、また、両国の間の経済的協力を促進する。
第三条
 締約国は、個別的に及び相互に協力して、継続的かつ効果的な自助及び相互援助により、武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を、憲法上の規定に従うことを条件として、維持し発展させる。
第四条
 締約国は、この条約の実施に関して随時協議し、また、日本国の安全又は極東における国際の平和及び安全に対する脅威が生じたときはいつでも、いずれか一方の締約国の要請により協議する。
第五条
 各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。
 前記の武力攻撃及びその結果として執つたすべての措置は、国際連合憲章第五十一条の規定に従つて直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執つたときは、終止しなければならない。
第六条
 日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。
 前記の施設及び区域の使用並びに日本国における合衆国軍隊の地位は、千九百五十二年二月二十八日に東京で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定(改正を含む。)に代わる別個の協定及び合意される他の取極により規律される。
第七条
 この条約は、国際連合憲章に基づく締約国の権利及び義務又は国際の平和及び安全を維持する国際連合の責任に対しては、どのような影響も及ぼすものではなく、また、及ぼすものと解釈してはならない。
第八条
 この条約は、日本国及びアメリカ合衆国により各自の憲法上の手続に従つて批准されなければならない。この条約は、両国が東京で批准書を交換した日に効力を生ずる。
第九条
 千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約は、この条約の効力発生の時に効力を失う。
第十条
 この条約は、日本区域における国際の平和及び安全の維持のため十分な定めをする国際連合の措置が効力を生じたと日本国政府及びアメリカ合衆国政府が認める時まで効力を有する。
 もつとも、この条約が十年間効力を存続した後は、いずれの締約国も、他方の締約国に対しこの条約を終了させる意思を通告することができ、その場合には、この条約は、そのような通告が行なわれた後一年で終了する。

 以上の証拠として、下名の全権委員は、この条約に署名した。千九百六十年一月十九日にワシントンで、ひとしく正文である日本語及び英語により本書二通を作成した。
日本国のために
 岸信介
 藤山愛一郎
 石井光次郎
 足立正
 朝海浩一郎
アメリカ合衆国のために
 クリスチャン・A・ハーター
 ダグラス・マックアーサー二世
 J・グレイアム・パースンズ

*6-2:http://www.sankei.com/region/news/150609/rgn1506090009-n1.html
(産経新聞 2015.6.9) 早急な憲法改正を 新潟市で300人集まり結成式
 憲法改正を進める「美しい日本の憲法をつくる新潟県民の会」の結成式が新潟市中央区下大川前通の新潟グランドホテルで開かれた。式には国・県会議員ら約300人が参加。活動方針として、(1)平成28年参院選に合わせた国民投票を目指す(2)県内の賛同者を28年3月末までに12万人集める(3)県市町村議員の賛同署名を総議員の過半数を目指す(4)「国会に憲法改正の早期実現を求める」地方議会議決を目指す-などを決めた。代表委員となった石崎徹衆院議員(自民)は「憲法改正に過半数の賛同を得るには啓蒙(けいもう)・普及活動が大切だ」、塚田一郎参院議員(同)は「現在の北東アジア情勢下で美しい日本を残すには憲法改正しかない」と呼びかけた。式後、杏林大名誉教授の田久保忠衛氏が「憲法改正、最後のチャンスを逃すな!」と題する記念講演を行った。田久保氏は、中国が膨張主義を取る一方、オバマ米大統領は軍事力を使いたくないと考えていると指摘。この状況下では、アメリカと協調しながら、「憲法9条の枠内でできることはやった。憲法を改正して軍の保持を明記しなくてはならない」と訴えた。


PS(2015.6.9追加):*7のように、自民党の村上衆院議員と木村参院議員が自民党内で反対しておられるのは立派であり、他にも同じような考えの人は多いと思われる。私も、「景気回復」「電力自由化」「女性の活躍」などを前面に出して多数を得た政党が、この安保法案で党議拘束をかけるのは、別のテーマで支持されて得た多数の力を使った強引な行為であり、筋が通らないと考える。

*7:http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2015060902000250.html
(東京新聞 2015年6月9日) 自民内部からも異論 憲法学者「違憲」「無視は傲慢」
 自民党総務会で九日、衆院憲法審査会に参考人として出席した憲法学者三人がそろって他国を武力で守る集団的自衛権の行使容認を「憲法違反」と明言したことをめぐり、安全保障関連法案に対してあらためて疑問の声が上がった。谷垣禎一幹事長は、法案採決にあたっては党議拘束をかける意向を示した。総務会では、村上誠一郎衆院議員が「憲法学者の言うことを自民党だけは聞かなくていいという傲慢(ごうまん)な姿勢は改めるべきだ」と指摘。法案採決では党議拘束を外すよう、執行部に求めた。木村義雄参院議員は、砂川事件の最高裁判決を根拠に集団的自衛権の行使を認めるという憲法解釈に対して「短絡的すぎる。そういう主張をしていると傷口を広げるので、これ以上言わない方がいい」と忠告した。一方、谷垣氏は安保法案が国会提出に先立つ事前審査で了承されていることを踏まえ、「党としてばらばらの対応は取れない」と強調した。二階俊博総務会長はその後の記者会見で、党議拘束をかけるかどうかについて、「大きな問題でもあり、国会審議の状況を見ながら方向を定めていきたい」と述べるにとどめた。


PS(2015.6.9追加):*8-1のように、政府・自民党は、「集団的自衛権行使を可能とする安全保障関連法案は、これまでの政府の憲法解釈との論理的整合性や法的安定性を保っており、憲法違反ではない」とする見解を文書で野党に提示したそうだが、日本弁護士連合会は、会長声明で、*8-2のように、「自衛隊が、地理的限定なく、武力の行使、戦争国の支援、停戦処理活動等を行うことの問題点は多岐にわたるが、次に指摘する点は特に重大だ」として、ポイントをついた指摘をしている。

*8-1:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/195798
(佐賀新聞 2015年6月9日) 政府「合憲」見解を提示、安保関連法案
 政府は9日、集団的自衛権行使を可能とする安全保障関連法案について「これまでの政府の憲法解釈との論理的整合性や法的安定性は保たれている」として、憲法に違反しないとする見解を文書で野党に提示した。4日の衆院憲法審査会で参考人の憲法学者全員が「違憲」と指摘したことに反論した。政府は違憲論争の収束を図り、審議を促進したい意向。だが見解は行使容認へ憲法解釈を変更した昨年7月の閣議決定の論理構成の踏襲にとどまり、野党の理解が得られるか見通せない。政府見解は民主党が要求した。

*8-2:http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2015/150514.html (日本弁護士連合会会長 村越進 2015年(平成27年)5月14日)
安全保障法制改定法案に反対する日弁連会長声明
 本日、政府は、自衛隊法、武力攻撃事態法、周辺事態法、国連平和維持活動協力法等を改正する平和安全法制整備法案及び新規立法である国際平和支援法案(以下併せて「本法案」という。)を閣議決定した。本法案は、昨年7月1日の閣議決定を受け、また本年4月27日の新たな日米防衛協力のための指針の合意に合わせて、自衛隊が、平時から緊急事態に至るまで、地理的限定なく世界のどこででも、切れ目なく、自らの武力の行使や、戦争を遂行する他国の支援、停戦処理活動等を広汎に行うことを可能とするものである。本法案の問題点は極めて多岐にわたるが、次に指摘する点は特に重大である。まず、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされる等の要件を満たす事態を「存立危機事態」と称し、この場合に、世界のどこででも自衛隊が米国及び他国軍隊とともに武力を行使することを可能としている。しかし、これは、憲法第9条に違反して、国際法上の集団的自衛権の行使を容認するものである。次に、我が国の平和と安全に重要な影響を与える「重要影響事態」や、国際社会の平和と安全を脅かす「国際平和共同対処事態」において、現に戦闘行為が行われている現場でなければ、地理的限定なくどこででも、自衛隊が戦争を行っている米国及び他国軍隊に、弾薬の提供等まで含む支援活動を行うことを可能としている。これでは、従前禁止されてきた他国との武力行使の一体化は避けられず、憲法第9条が禁止する海外での武力行使に道を開くものである。さらに、これまでの国連平和維持活動(PKO)のほかに、国連が統括しない有志連合等の「国際連携平和安全活動」にまで業務範囲を拡大し、従来PKOにおいてその危険性故に禁止されてきた安全確保業務や「駆け付け警護」を行うこと、及びそれに伴う任務遂行のための武器使用を認めている。しかし、この武器使用は、自己保存のための限度を超えて、相手の妨害を排除するためのものであり、自衛隊員を殺傷の現場にさらし、さらには戦闘行為から武力の行使に発展する道を開くものである。その危険性は、新たに自衛隊の任務として認められた在外邦人救出等の活動についても同様である。これらに加え、本法案は、武力攻撃に至らない侵害への対処として、新たに他国軍隊の武器等の防護を自衛官の権限として認めている。これは、現場の判断により戦闘行為に発展しかねない危険性を飛躍的に高めるものである。以上のとおり、本法案は、徹底した恒久平和主義を定め、平和的生存権を保障した憲法前文及び第9条に違反し、平和国家としての日本の国の在り方を根底から覆すものである。また、これらの憲法の条項を法律で改変するものとして立憲主義の基本理念に真っ向から反する。さらに、憲法改正手続を踏むことなく憲法の実質的改正をしようとするものとして国民主権の基本原理にも反する。よって、当連合会は、本法案による安全保障法制の改定に強く反対するとともに、基本的人権の擁護を使命とする法律家の団体として、本法案が成立することのないよう、その違憲性を強く訴えるものである。


PS(2015.6.11追加):与党は、*9-1のように、安全保障関連法案の整備理由を「国際情勢の変化」と説明しているが、それは具体的に何か? テロへの対応なら、相手は国でないため、その国の警察が主体となるべきで、それで足りない場合にのみ依頼された国が応援することになる。また、テロと原発を同時に考えれば、危機管理意識の低い日本が戦争に参加して敵を作れば作るほど、国民のリスクは高まる。さらに、ITの進歩による変化では、*9-2のように、インターネットに繋いだパソコンで守秘義務のある情報を扱い、事故が起きてもトップが頭を下げれば水に流すという日本人の甘さが問題なのだ。つまり、技術進歩への対応や危機管理の甘い日本政府とその関係機関が、最も国民の人権や幸福追求の権利を害しているのであり、そういう人権意識の低さを残す“文化”を持つ日本政府の武力行使を安易化するのは非常に危険なことなのである。

*9-1:http://www.sankei.com/politics/news/150517/plt1505170006-n1.html
(産経新聞 2015.5.17) 安保法案 稲田政調会長「必要な法整備」 
 与野党幹部は17日のNHK番組で、自衛隊の役割拡大を図る安全保障関連法案について議論した。自民党の稲田朋美政調会長は、国際情勢の変化に伴う必要な法整備だとした上で、歯止め策も明記されていると強調。一方、民主党の細野豪志政調会長は、自衛隊の安全確保に問題点があると懸念を示した。稲田氏は集団的自衛権について「憲法9条の中で、日本の存立が根底から脅かされている時に行使する。海外でどこへでも行って武力行使できるというのは違う」と指摘。他国軍への後方支援を随時可能とする恒久法「国際平和支援法案」をめぐり、自衛隊が戦闘に巻き込まれるとの批判に対しても「危険だということになれば中止する。自衛隊員の安全確保が規定されている」と述べた。公明党の石井啓一政調会長は「政府は丁寧な説明をしてほしい。今国会成立を期す」とした。

*9-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150609&ng=DGKKZO87851170Z00C15A6EA1000 (日経新聞 2015.6.9) 狙われた年金情報(1)何でこんなに遅いんだ
 6日午後、東京都心のオフィス街にある日本年金機構の年金事務所。明かりを半分だけつけた部屋で、休日出勤の職員が自分の年金情報が漏れていないか、確認に来た人の対応に追われていた。「あまりにずさんだ。インターネットにつないだ端末で個人情報を扱うなんてあり得ない」。怒鳴る男性に職員は「その通りです。申し訳ありません」と頭を下げた。旧社会保険庁時代から約30年働くこの職員はぼやく。「人事交流も少なく、本部のことはよく分からない。でも本部のミスでも謝るのはいつも我々現場の職員だ」。125万件もの個人情報が流出する非常事態にあっても、本部と現場の一体感は見えない。
 □   □
 発端は福岡市だった。5月8日、JR博多駅近くにある機構の九州ブロック本部。午前10時半ごろ、公開メールアドレスに1本のメールが届いた。「厚生年金基金制度の見直しについて(試案)に関する意見」。実在する文書と同じ表題に職員は疑いを抱かず、メールの末尾にあったアドレスをクリックした。その直後、首相官邸に近い内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)の室内は慌ただしくなった。「厚生労働省が関係するサーバーから異常な量のデータが通信されています」。NISCは同省に「不審通信あり」と通報。ウイルス感染が確認された。機構が解析を依頼したウイルス対策会社は15日に「外部に情報漏洩するタイプではない」と報告。だがその後も攻撃は続いた。18日に東京を中心に大量の不審メールが届き、22日には九州で不審な通信をしているパソコン2台が発覚。NISCは厚労省に2度目の通報をした。それでも機構がネット接続を遮断したのは該当地域だけだった。19日時点で機構は都内の高井戸警察署に捜査を依頼したが、厚労相の塩崎恭久(64)に一報が入ったのは警視庁が情報流出の可能性を指摘した28日になってからだった。「なんでこんなに遅いんだ」。29日昼、個人情報流出の報告を受けた塩崎は周囲にいらだちをぶつけた。「原因究明と再発防止策をしっかりやれ」との号令が国会内の控室にむなしく響く。首相官邸に報告し、NISCから情報セキュリティ緊急支援チームの派遣を受け入れた塩崎は6月1日夕、記者会見を開き、事実を公表した。
 □   □
 「警告」は実は4年前から発せられていた。2011年6月、東京都杉並区の日本年金機構本部。有識者でつくる運営評議会で、ネットを通じた個人情報の漏洩対策が議題になった。「(国内外の組織で)最近、外部からの攻撃で個人情報が流出した例が相次いでいる。セキュリティー対策にご尽力いただきたい」。座長で東大教授の岩村正彦(58)らの問題提起に、機構本部の幹部は「考え得るリスクにしっかり対策を取っていく」と応じた。だがこの後、本部が約1万人の職員に厳しく注意喚起した形跡はない。機構を監督する厚労省にも、対策を強化する機会はあった。今年3月18日、政府は12省庁対抗のある競技会を都内で開いた。サイバー攻撃を想定し、情報漏洩の有無や被害端末特定の優劣を競う。厚労省は目標をクリアできなかった6省庁の中でも見劣りし、表彰式で「残念な結果だった役所は猛省してほしい」と官房長官の菅義偉(66)にくぎを刺された。その1カ月半後、今回の問題は起きた。4年前からの警告を素通りし、場当たり的な対応を繰り返した年金機構。政府首脳や自民党の幹部には、持ち主が分からない約5000万件もの年金記録が見つかった07年の第1次安倍政権での悪夢がよぎる。ずさんな実態がさみだれ式に判明。追及を強める民主党に押され、09年の政権交代につながった。「年金機構は旧社会保険庁そのもの。そこを議論しないと根本的な解決にならない」。6月4日、自民党本部で開いた会議で元厚労相の尾辻秀久(74)は力説した。記録問題に直面した当時の首相、安倍晋三が社保庁を「解体」して年金機構をつくったように、今回も怒りをぶつけるような組織論が浮上するのか。塩崎は8日、衆院決算行政監視委員会でこう宣言した。「機構の組織を徹底的に見直す。そのために厚労省の監督も強化する」(敬称略)。
 ◇
 125万件もの個人情報が政府機関から流出した。その舞台裏を探る。


PS(2015年6月12日追加):現在62歳の私は、1992年(39歳)頃から、外国のオフィスと英語でメール会議をしていたので、2005年に唐津でスタッフを雇おうとしたら、パソコンを使えない人が多かったのにはまいった。しかし、ネットを使えるか使えないかという話をしているようでは、*9-2のように、セキュリティーの話にはならず、*10が本当なら日本人ホワイトカラーの生産性が低い理由の一つである。

*10:http://qbiz.jp/article/64351/1/
(西日本新聞 2015年6月12日) 60歳以上、ネット未利用67% 高齢社会白書
 政府は12日午前の閣議で、2015年版「高齢社会白書」を決定した。60歳以上の日常生活に関する調査では、インターネットやスマートフォンなどの情報端末を「全く利用していない」「あまり利用していない」が合わせて67.2%に上り、高齢世代には浸透していない実態が浮き彫りになった。情報端末を「利用したい」と答えた人は60〜64歳が59.2%。70〜74歳は30.4%、80〜84歳は16.2%で、年齢が高くなるにつれて割合が下がる傾向にあった。調査担当者は「現役時代にネットを利用したことのない世代は、なじみがないのではないか」と分析している。


PS(2015年6月14日追加): 警察が行ってよいとされる通信傍受は、これまで組織ぐるみの薬物犯罪、銃器犯罪、集団密航、組織的殺人の4分野に限られていたが、現在の国会で審議中の改正案で、詐欺、傷害、放火、児童ポルノ事件などの9分野を加えるそうだ。しかし、本当にそれしか傍受しないという保証などなく傍受結果も何とでも言えるため、政府に都合の悪い主張をする人を戦前のように変な罪で陥れることが容易になる。そのため、全体の流れとしての戦前回帰に注意が必要だ。

*11:http://qbiz.jp/article/64440/1/ (西日本新聞 2015年6月14日) 通信傍受、当事者への通知は半数どまり 291人中150人「人物特定できぬ」
 2014年に全国の警察が犯罪に関係する電話を傍受したのは291人で、このうち傍受の事実を通知したのは約半数の150人にとどまることが、警察庁への取材で分かった。通信傍受法は捜査機関に対し、犯罪と関係があった場合は傍受した当事者への通知を義務付けている。警察庁によると、通知しなかった理由の9割は「人物が特定できない」だった。通知を義務付けているのは、行き過ぎたプライバシー侵害を防ぐため。当事者は通知によって傍受された事実を知り、裁判所に記録の消去を求める不服申し立てができる。警察庁によると、14年に傍受した事件は薬物7件、銃刀法違反3件で、いずれも携帯電話のやりとりだった。この10事件の今年4月1日時点の通知状況を集計したところ、未通知だった141人のうち、人物が特定できなかったのは129人。特定できたものの所在不明だったのは5人、捜査の妨げになるため通知を延期したのは7人だった。警察庁刑事企画課は「未通知者の大半は、容疑者と電話をしていた相手。他人名義の携帯電話が使われていることもあり、個人の特定が難しい」と説明した。13年以前の通知状況は集計していないという。法務省は通信傍受の件数や容疑の罪名などを毎年国会に報告しているが、通知状況の報告義務はない。通信傍受法が施行された2000年以降、傍受の実績は約8万8千回に上るが、85%は事件と無関係だったことが判明している。犯罪と無関係の場合は当事者に通知されない。通信傍受法は傍受の対象を組織ぐるみの薬物犯罪、銃器犯罪、集団密航、組織的殺人の4分野に限定しているが、国会で審議中の改正案が可決すれば、詐欺、傷害、放火、児童ポルノ事件など9分野が加わる。
▼第三者チェックを
 内田博文九州大名誉教授(刑事法)の話 法改正によって通信傍受の対象犯罪が詐欺などの身近な犯罪に広がれば、市民のプライバシーが侵害される恐れは格段に高まる。通知するかどうかを捜査機関が恣意(しい)的に判断することがないように、第三者がチェックする仕組みを導入すべきだ。

| 外交・防衛::2014.9~2019.8 | 04:36 PM | comments (x) | trackback (x) |

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