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2016,10,27, Thursday
発展段階別 $と購買力平価による アジアの購買力平価による 日本の 一人当たりGDP成長率 GDPの比較 一人当たりGDP推移 平均世帯所得 (グラフの説明:既にGDPが大きくなっている先進国ほど「一人当たりGDP成長率(「一人当たりGDP」ではない)」は低い。また、物価の高い日本では購買力平価によるGDPの順位は$ベースの順位より低くなっており、アジアの中で比較しても日本の購買力平価による一人当たりGDPは高くない。さらに、日本の平均世帯所得は減少しており、特に高齢者世帯で低い) ASEAN諸国の人口ピラミッド 世界の人口推移 日本の人口推移 (グラフの説明:ASEAN諸国をはじめとするアジアの他国では、まだピラミッド型の人口構成をしており、次第に日本に近いつぼ型になるだろう。そして、開発途上国で人口増加が止まるまで世界人口は増え続け、2011年の世界人口は70億人で、2050年には93億人になりそうだ。どの国も産業革命後に急速に人口が増加し始めたのは、物資が豊富になって栄養が行きわたり、衛生状態がよくなるとともに、医療が普及したからだと言われているが、人口がピークになっている現在の日本と同様、人口増加の終息後は各国とも人口減に転じ、次第に高齢化社会になっていくと考えられる) (1)日本の経済学者がノーベル経済学賞を獲得するには・・ 1)私がこの解を書ける理由 私は人間の遺伝や進化(今で言う生命科学)に関心を持って東大理科Ⅱ類に入り、女性が結婚しつつやりたい研究をして大学で昇進できる可能性の低さに愕然としながら医学部保健学科(今から40年以上前に環境の研究をしていた)に進学し、人類生態学・環境・疫学等を勉強し卒業した後に、公認会計士・税理士に転向して仕事を続けてきたので、本気で生物系と経済学・法律の勉強をした経験がある。そのため、両方のアプローチを比較して、日本人がノーベル経済学賞を受賞できない理由を書けるので書く。 例えば環境を例にとると、ヒトが生きる環境を悪化させる要因は多く、複数の物質が反応し合って複合汚染を起こす化学物質や単体でも人体に重大な害を与える放射性物質・有機水銀のような物質もあり、特定するのは一苦労だ。そのような中、ヒトに与えている害の原因を求めるには、注目する要因と背景となる要因の相関関係を多変量解析して発生している事実と比較する方法があるが、考慮すべき要因が多いためすっきりした解が得られないことが多い。 一方、経済学は、人間の意思決定と行動から生じる社会現象を簡単な数式やグラフで説明しており、私はそれを初めて勉強した時には理論の美しさに感動したが、不変と看做して無視する“与件”が多すぎて、実際の社会現象を実証的に説明することはできていない。それが、現在、日本で語られている経済学の欠点で、つまり科学になっていないのだ。 そのため、「①マクロ経済はミクロの経済行動の総計である」「②公害・環境は無視できない重要な要素となった」「③技術進歩を無視することはできない」「④食料・資源・地球環境は、地球上での人口増加・経済拡大の限界を意味する」などを前提とし、これまでの経済学では無視していたものも考慮し、社会調査に基づいて日本で起こっている現象を実証主義によって数式で説明すれば、課題先進国である日本の経済学者は、世界の課題に大きく貢献し、ノーベル経済学賞候補になれると考える。 2)日本人がノーベル経済学賞を獲得できない理由 産経新聞は、*1-1で、経済学賞は日本人が獲得したことのない唯一のノーベル賞だが、ノーベル賞受賞者は「①米国の有名大学を拠点に活動している」「②ノーベル賞を受賞するには米国で論文を積極的に発表し、その論文を世界の研究者が頻繁に引用する必要がある」「③功績に追随する人が一派をなしている」「④日本人は米国の主流派に大きな影響力を持つ研究者が少ない」などとしている。しかし、ノーベル経済学賞の選考はスウェーデン王立科学アカデミーが行うため、英語で論文を発表し、それを世界の研究者が読んで頻繁に引用する必要はあるが、米国の主流派か否かは関係ないと思われる。そのため、他分野の日本人ノーベル賞受賞者が日本で活動した人も多いことを考えれば、①②③④は泣きごとにすぎない。 また、日経新聞も、*1-2で「英語力の壁」「インパクト不足」を上げているが、世界の研究者がその論文の存在を知って引用するためには英語で記載されていることが必要条件ではあるが、内容が先進的で新しい解を導いており魅力的でなければ、世界の研究者が引用する理由がなくインパクトも小さい。しかし、日本の経済学者には、それがないのである。なお、アメリカの文化・歴史・社会背景を理解していない日本人がアメリカで研究した経済学は、それらを理解しているアメリカ人がアメリカで研究した経済学よりも背景に詳しくない分だけ考察が浅く、インパクトのある内容にはなりにくいと思われる。 そこで、私は、「経済学の新分野を開拓した、あるいは既存の分野に新しい視点を取り入れて経済学を革新したと多くの経済学者が認識する理論を造る」には、課題先進国日本で、社会調査に基づいた実証主義により問題を解明して経済学の理論を造れば、地球に貢献する大きな流れができ、評価力のある人から評価され得ると考える。 なお、東京大学経済学研究科でゲーム理論の人気が高いそうだが、観念的で単純化しすぎた理論だけでは実際の経済事象を説明することができないため、その功績は限られるだろう。 (2)GDPの算出方法による歪んだ実態把握 1)GDP(国内総生産)について GDPは、国内で新しく生産された財・サービスの合計で、経済活動の規模や動向を総合的に示す指標として用いられる。また、GDPには名目と実質があり、実質GDP(名目GDP/《1+物価上昇率》)は、名目GDPから物価変動の影響を除いたものだ。 また、GDP等の経済実態を把握する方法は経済統計だが、*2のように、GDP統計の把握の仕方が古く、実際に生産しているものがGDPに入っていなかったりして、GDP統計に基づいた政策決定を誤らせるという問題点が指摘されている。そのため、総務相の高市早苗氏が個人消費の新指標を開発する研究会を立ち上げられたのはよいことだ。 私自身は、日本のGDPは製造業中心で、医療・介護・保育・教育・ハウスキーピングなどの20~21世紀型サービスが十分に算定・評価されておらず、このことが政策におけるこれらのサービスの軽視に繋がっていると考える。しかし、2014年の統計では、日本のGDPの構造は、第三次産業(サービス業)が74%と最も大きく、次に第二次産業(製造業)24.9%、最後に第一次産業(農林水産業)1.2%となっており、日本はモノを作って輸出するのに適した国ではなくなっているのだ。 2)GDP成長率(いわゆる経済成長率)について GDP成長率とは、GDPの変化率(g=GDP、t=時間として、dg/dt)のことで、変化率であるため、本来、プラスの場合もマイナスの場合もありうる。しかし、経済を語る文系の人は、微分・積分を知らない人が多く、GDP成長率と名付けたこともあって、GDPの成長に子の成長のような特殊な積極的意味を付加している。しかし、感情の入らない科学用語としては、「GDP変化率」が適切だ。 また、「GDP変化率」と表現すると、人口が減少してGDPの総計が減っても、一人当たりGDPが増え、一人一人がより豊かな生活を送れるようになっていれば問題ないことがわかる。 (3)伊勢志摩サミットで世界に向けて語られた日本の政策の誤り 1)財政出動 日米欧の主要7カ国(G7)が4月26、27日に、*3-1のように、首脳会議(伊勢志摩サミット)を三重県で開き、その最大のテーマを「マクロ経済政策の協調」とし、「①原油価格の下落」「②中国をはじめとした新興国の経済低迷」を理由に、財政出動での内需拡大を求めたそうだ。 しかし、原油価格下落は日本にとってはマイナスではなく、中国のGDP成長率の鈍化はリーマンショック後に金融緩和して世界経済を支えた中国の出口戦略によるものであるため、外国のせいにして新たな財政出動を合理化するのは正しくない。 むしろ、日本は東日本大震災、熊本地震、鳥取地震等からの復興や東京オリンピックの準備などで既に莫大な財政出動を余儀なくされているため、景気対策のためにこれ以上の財政出動をしなければならない理由はなく、*3-2のように、無駄な財政支出をやめ財政出動に慎重なメルケル独首相の見解の方が正しいと、私は考える。 2)金融緩和 日本は結論ありきの消費税率10%への引き上げのため、*2のように、デフレ脱却と称する金融緩和のインフレ政策を行い、貨幣価値を下げることによって国の借金を実質で目減りさせ、株価や土地の価格を上げ、グローバル企業の利益を増やしたが、これによって国民は実質賃金や実質債権価値が下落し、実質賃金下落の効果として雇用は増えたものの生産年齢人口でも生活の苦しくなった人が多い。まして年金生活者は、年金給付の実質目減りと介護保険料の負担増で生活できない人も出ている。 これは、日本の政治が経済学のマネタリズムを御都合主義で利用して過度の金融緩和というインフレ政策を行い、声の小さな国民にしわ寄せした結果であるため、私は、これを日本国憲法(第11条基本的人権、第25条生存権、第29条財産権)違反だと考える。 また、*3-3のように、先進国の金融緩和政策の長期化に伴う低金利の副作用への警戒感が急浮上しているが、いくら金融緩和したり低金利にしたりしても、最終需要者の国民から消費財の購入資金を奪っているため、それを供給する企業の健全な投資も起こらないのが当然だ。ただし、低金利を利用して本当に必要なインフラに投資すれば、その後の生産性向上に資するし、ゼロ金利を利用して政府が国債を借り換えすれば、年間20兆円に及ぶ国債の利払いを抑えることが可能だ。 3)生産性の上昇 麻生財務相は、*3-4のように、「生産性上昇で低成長克服を」と述べておられるが、確かに生産性を高める技術進歩と構造改革は重要だが、電力自由化後も原発への国費の無駄遣いが続いたり、新電力に原発の廃炉費用を負担させようとするなど、国内での自由競争を阻害する政策が多すぎる。そのため、「経済成長(GDPの変化率をプラスにすること)が善である」と述べているが、どういう状態をゴールとして、いかなる方法で、何のためにGDPを拡大させたいのかという最も重要な展望を考え直すべきだ。 私自身は、日本国憲法に書かれていることが、まさに日本が目指すべきゴールであり、これは条文を読めばわかることで、日本国憲法が外国から強制されたか否かは問わないと考える。 (4)年金削減と介護サービスの削減は伸ばすべき消費を抑えたのだということ 1)年金について 年金は高齢者の生活の糧であり、これを不当に侵害しなければ、高齢者が必要とするものを購入することによって、人口における高齢者の割合が著しく増加する課題先進国日本で、新たに起こる需要に対応する供給が確立してきた筈のものである。 そのため、*4-1のように、年金を受け取るのに必要な加入期間(受給資格期間)を25年から10年に短縮し、無年金となっていた64万人を新たに年金を受け取れるようにしたことは、公正な方向への変更であり歓迎だが、本当は、年金保険料を支払ったことのある人なら加入期間にかかわらず誰にでも受給資格を与え、年金加入期間と保険料支払い額に応じて支給額を調整するのが公正だと私は考える。 なお、*4-2のように、厚労省は年金の試算において、会社員の夫と専業主婦のモデルケースで2013年度の厚生年金の所得代替率を62.6%と過大に試算していたが、賃金と年金をいずれも手取りで計算し直すと所得代替率は53.9%に低下し、税・社会保険料を含めて計算すると所得代替率は50.9%にまで下がるとのことだ。しかし、まだ夫と専業主婦の2人世帯のモデルケースしか試算しておらず、どちらか1人になれば年金額はさらに減少する上、高齢者は生産年齢人口の50%程度の収入があれば生活できるとしているのも不可解であり、今後、高齢者が生活できない状況は頻繁に起こりそうだ。 2)介護制度について 介護制度も、高齢化・核家族化が進んだ現在、生存権を護るために必要なもので、高齢者や障害者にとっては生きるために必要不可欠なものであるため、介護制度を改悪すれば介護制度の存在意義が怪しくなる。もう一方の見方をすれば、高齢化・少子化した日本では、介護サービスは真に必要とされるサービスであり、これを抑制することは、本物の需要を抑えて真に必要なサービスの供給を発展させるのを妨げたものだ。 そのため、*4-3のように、介護と言えばサービスを縮小して現役世代の負担を減らすことばかりを主張するのではなく、現役世代は介護を自分でしなくてよくなった分だけ確実に負担軽減されていることを考慮し、まだ十分に供給されたこともない介護サービスの削減ばかりを唱えずに、必要な需要は供給できるよう、働く生産年齢人口は全員、医療保険と同様に介護保険料を負担するようにすべきである。 <日本人がノーベル経済学賞を獲得できない理由> *1-1:http://www.sankei.com/politics/news/161011/plt1610110054-n1.html (産経新聞 2016.10.11) 日本人はなぜノーベル経済学賞を獲得できないのか…米主流派、英語が壁? 2016年のノーベル経済学賞は米国の経済学者2人が受賞し、日本人で最有力視された米プリンストン大の清滝信宏教授(61)は今年も受賞を逃した。経済学賞は日本人が獲得したことのない唯一のノーベル賞。米国の学界が「主流派」として幅をきかす中、英語力のハンディもあり、日本人は受賞の“地歩”を築けていないのが実情だ。ノーベル経済学賞は、市場の役割を重視する米国主流派の系譜を引く学者が相次ぎ受賞している。2010~16年の受賞者14人中12人が米国の大学教授や名誉教授だ。背景には現代経済学の主流派の多くが、米国の有名大学を拠点に活動していることがある。このため、ノーベル賞を受賞するには、米国で論文を積極的に発表している▽その論文を世界の研究者が頻繁に引用している▽功績に追随する人が一派をなしている-などの条件が必要とされる。日本人に関しては「米国の主流派に大きな影響力を持つ研究者は少ない」(内閣府経済社会総合研究所の堀雅博上席主任研究官)。語学力の壁もあって説得力ある論文の執筆や人脈作りが難しく、受賞の条件を満たせないとの見方がある。この点、毎年候補に名前の挙がる清滝氏は米国に足場を持つまれな存在だ。また14年に死去した宇沢弘文・元東大名誉教授も数理経済学の業績で受賞に近いとされた。ただ、米国から日本に帰国後の1970年代、社会運動にのめりこみ、主流派に批判的となったことが受賞を最終的に不可能にしたといわれる。日本人の受賞を目指すのであれば、若手研究者が米国で腰を据えて研究できる環境整備や、米国から優秀な指導者を招き、日本の学界を底上げする取り組みが求められそうだ。 *1-2:http://www.nikkei.com/article/DGXLASGH05H0Y_V01C16A0000000/?dg=1&nf=1 (日経新聞 2016/10/10) ノーベル経済学賞、日本人が受賞する条件 今年のノーベル経済学賞は、米ハーバード大学のオリバー・ハート教授、米マサチューセッツ工科大学(MIT)のベント・ホルムストロム教授の受賞が決まった。ノーベル賞の歴史の中で、日本人が受賞していないのは経済学賞だけで、今年も受賞を逃した。日本人の経済学者が世界で評価され、ノーベル賞を受賞するためには何が必要なのか。 ■「英語力の壁」やインパクト不足 昨年夏に死去した青木昌彦氏(米スタンフォード大名誉教授)の生前の活躍ぶりを示す著書が9月、書店に並んだ。タイトルは「比較制度分析のフロンティア」(青木昌彦・岡崎哲二・神取道宏監修)。世界各国の経済学会の連合体である国際経済学会連合(IEA)の会長を2008年から11年まで務めた青木氏が企画し、11年に北京で開いた世界大会での発表の中から、青木氏が厳選した論文を邦訳した。IEAの初代会長はジョセフ・シュンペーター。以来、ポール・サムエルソン、ケネス・アロー、アマルティア・セン、ロバート・ソローら世界を代表する経済学者が会長を務めてきた。ちなみに青木氏の後任はジョセフ・スティグリッツ米コロンビア大教授(11~14年)である。青木氏は、人々の行動を左右する慣習などを「制度」と定義し、ゲーム理論の手法を使って各国の経済構造の違いを解明した。歴史や文化の中ではぐくまれる「制度」と、経済学の中でもとりわけ「純粋理論」の色彩が濃い「ゲーム理論」。対極にあるようにもみえる両者を結びつけて独自の理論を展開する、斬新な着想が世界の経済学界で高く評価された。人脈づくりにも熱心で、青木氏を中心に世界の研究者の強力なネットワークができあがっていた。「ノーベル経済学賞を受賞する資格があり、本人も狙っていた」(今井賢一・スタンフォード大名誉シニアフェロー)と評される青木氏のような存在は、残念ながら現在の日本には見当たらない。「比較制度分析のフロンティア」には、清滝信宏・米プリンストン大教授の「金融制約へのメカニズムデザイン・アプローチ」と題する論文も収録されている。引用された論文数を基準にノーベル賞候補を毎年発表している米トムソン・ロイターは10年、清滝氏を経済学賞の候補に選んだ。日本人が初受賞するなら清滝氏と関係者は口をそろえる。清滝氏の名前がよく挙がるのは、世界で認められている日本人がごく限られているためでもある。世界で評価される条件は何か。日本人の経済学者たちに尋ねると、ほぼ同じ回答が返ってくる。 (1)アメリカン・エコノミック・レビュー、エコノメトリカ、ジャーナル・オブ・ポリティカル・エコノミーなど「トップジャーナル」と呼ばれる論文誌に投稿し、多くの論文が掲載される。 (2)論文が世界の経済学者の間で注目され、他の論文に引用される。 (3)論文に関連するテーマに取り組む研究者が増え、経済学界に大きな流れができる。 (4)経済学の新分野を開拓した、あるいは既存の分野に新しい視点を取り入れて経済学を革新したと、多くの経済学者が認識する。何をすればよいのかは十分わかっていても、実行できないのはなぜか。依田高典・京大教授は「英語力の壁」を挙げる。数理経済学が全盛だった頃は、数学が得意な日本人学者が活躍する余地が大きく、ノーベル経済学賞の有力候補と呼ばれた宇沢弘文氏(東大名誉教授)らのスターが生まれた。応用経済学が主流となった現在、トップジャーナルのレフェリーを納得させる論理を展開するのは難しいとみる日本人学者は多い。岡崎哲二・東大教授が日本人学者に欠けているとみるのは「新しい問題を発見し、大きな流れをつくっていく力」。トップジャーナルへの掲載を目指してこつこつと努力し、成果を上げている学者は増えてきたものの、経済学界に大きなインパクトを与えるほどの勢いはない。 ■海外との人材交流も乏しく この点でよく指摘される問題が、特定の分野への研究者の集中だ。例えば東京大学の場合、経済学研究科の大学院生の間で最も人気が高いのはゲーム理論。ゲーム理論が専門でトップジャーナルへの論文掲載の実績がある教授陣が在籍しているため、世界で活躍したいと考える若手研究者がゲーム理論に殺到している。論文を量産しないと大学に職を得にくいという就職事情も影響しているようだ。ゲーム理論は確かに最先端分野の一つではあるが、今後も「成長分野」であり続けるのかどうか。「ゲーム理論の論文を積み上げても、経済学の革新に貢献したと評価されるのは難しいのではないか」と懸念する声もある。 <政府統計> *2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160920&ng=DGKKASFS16H0X_W6A910C1PE8000 (日経新聞 2016.9.20) 統計大論争(1)GDP信用できない ふたりの“教授”が霞が関を震撼させている。やり玉にあげるのは政府統計。追及の手が緩む気配はない。ふたりの教授は毎週金曜日、午後3時からみっちり2時間、官僚とゼミを開く。物価変動の影響をみるデフレーターの算出方法をただし、生産性の分析の仕方を問う。専門用語が飛び交う。「自分が呼び出されるのはいつだ」。統計を扱う官僚は戦々恐々とする。ゼミの教授は大阪学院大教授の三輪芳朗(68)。もうひとりの「教授」は所属する自民党岸田派でついた異名、行政改革相の山本幸三(68)だ。ふたりは東大教授だった経済学者、小宮隆太郎(87)の門下生。1年先輩の三輪が後輩である山本の大臣補佐官を引き受けた。勉強会で統計の不備をただすのは主に三輪の役回りだ。三輪が書いた「よりよい政策と研究を実現するための経済統計の改善に向けて」は官僚必読の論文。ふたりの教授は正確な統計を生かし、誤りのない政策決定に導くという思いを共有する。勉強会には若手国会議員も顔を出す。教授を中心にした統計論議は騒がしさを増している。 □ □ 山本は旧大蔵省出身で、宮沢喜一の蔵相秘書官も務めた。政界入り後は日銀にデフレ脱却を迫ってきた。筋金入りのリフレ派だ。やや異端視される存在だったが、旧民主党政権時、今の首相、安倍晋三(61)に金融緩和の必要性を説いた。安倍は首相復帰後、アベノミクスの第1の矢に「大胆な金融政策」を据えた。山本がアベノミクスの「生みの親」と主張するゆえんだ。そんな山本が閣僚に就くや、真っ先に矛先を向けたのが政府統計だった。就任2日目の8月4日。「ぜひやりたいのは、政府の経済統計の整理統合」「日本のGDP(国内総生産)統計はどこまで信用していいかわからない」。消費統計の不備などから経済の実情がつかめないと持論をぶった。「景気がいまひとつなのを統計のせいにするのか」。内閣府は真意をいぶかった。だが、この夏、異論を唱えたのは山本だけでなかった。日銀職員2人が7月、GDPの算出方法に疑問を投げかける論文を公表したのだ。2014年度の名目GDPが内閣府の公表額(490兆円)より約30兆円多い519兆円だったと指摘。実質成長率は内閣府のマイナス0.9%でなく、2.4%と主張した。内閣府内には反論文書を出すべきだとの意見も出たが、最後は「論評に値しない」と切って捨てた。一部の研究者やエコノミストが援軍に回った。「消費増税があったのに、14年度のプラス成長はにわかに信じがたい」。内閣府を勇気づけた。内閣府も統計の機能不全を否定しない。実質GDPは15年7~9月期に速報値のマイナスから改定値でプラスに転じるなど、数字のぶれが信頼性を下げている。消費統計もネット販売を加味せず、若年層の購買行動を捕捉できていない。それでも「今ある統計を作るのに精いっぱい。改善の人手も予算も足りない」(内閣府)。 □ □ 統計への厳しい視線を感じ、重い腰をあげたのは総務省だ。9月15日夕、総務相の高市早苗(55)は大学教授やエコノミストら約15人を集め、個人消費の新指標を開発する研究会を立ち上げた。高市は「政府統計が新たな地平をひらくための挑戦の場」と意気込んだ。1時間半の会議終了後にはみずから参加者を見送る熱の入れようだった。これまでも消費統計の刷新を探る動きはあったが、めぼしい成果はない。研究会では有識者から総務省の本気度を問う声もあがった。「(すべてのものがインターネットでつながる)IoT時代に沿った、新たな政府統計を作りたいと思います」。総務省消費統計課長の阿向泰二郎(46)は退路を断った。日本最初の政党内閣を組織した大隈重信。総務省は統計の礎を築いたとたたえる。大隈は1916年、全省庁に発した内閣訓令第1号で統計の重要性を訴えた。「其の調査は、迅速精確にして実用に適するものたるを要す」。正確なデータが国の政策づくりに不可欠と喝破した。今、100年前の大隈の訓示をかみしめる時が来ている。 ◇ 経済の実態をつかむのは難しい。統計という物差しが古び、精度が低ければ、なおさらだ。愚直に数字を積み上げるだけで日本の今はとらえられない。(敬称略) <世界経済と伊勢志摩サミット> *3-1:http://www.nikkei.com/article/DGXLZO00288580Q6A430C1970M00/?dg=1&nf=1 (日経新聞 2016/5/3) 世界経済占う「伊勢志摩」 サミットの焦点と歴史 日米欧の主要7カ国(G7)は26、27両日、各国首脳が一堂に会する主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)を三重県で開く。日本で開くサミットは8年ぶり6回目。首脳同士が同時通訳を介して直接、さまざまな世界の難題を話し合う首脳外交のひのき舞台だ。議長として安倍晋三首相の力量も問われる。 ■最大のテーマは マクロ経済政策の協調探る サミットは主要国の首脳が世界の重要課題を話し合うため年1回開く国際会議だ。初会合は1975年11月。石油ショックへの対応を話し合うため、先進6カ国首脳がフランス・パリ郊外のランブイエ城に集まった。メンバーは日本、米国、英国、フランス、西ドイツ、イタリア。76年にカナダが加わり「G7」(Group of Seven)と呼ばれるようになった。98年にロシアを加えて「G8」になったが、2014年にクリミア半島の併合を強行したロシアを外し、この年からG7の枠組みに戻った。毎年の議題は大きく政治と経済に分かれる。今年は世界経済の先行きに不透明感が増すなか、G7が一致してマクロ経済政策で協調姿勢を打ち出せるかが最大の焦点だ。原油価格の下落を引き金に、昨年来、これまで世界経済をけん引していた中国をはじめとした新興国の経済が低迷。収縮しつつある世界経済を下支えするには、G7や新興国に財政出動での内需拡大が求められている。ただ財政規律を重視するドイツは財政出動に慎重だ。サミットでの世界経済の議論が、17年4月に迫った消費税率10%への引き上げを延期するかどうかの安倍晋三首相の判断に影響するとの声も多い。内需拡大で一致するなら、消費増税は消費や投資拡大の足かせになるとの見方だ。富裕層や有力政治家らのタックスヘイブン(租税回避地)での節税の実態を明らかにした「パナマ文書」を巡る問題を受け、課税逃れ対策の取り組み強化も話し合う。政治分野では、過激派組織「イスラム国」(IS)による相次ぐテロや、シリア内戦による欧州への難民流出問題が大きなテーマになる。G7がどこまで具体的な処方箋を示せるかが注目点だ。4月に広島で開いたG7外相会合では、サミットで「具体的な施策を含むテロ対策行動計画を作成する」とした。テロリストやテロ組織の資金の流れに関する情報や、航空機の乗客情報を共有する仕組みづくりなどが課題だ。日本政府としては「アジアで8年ぶりに開くサミット」(安倍首相)で、アジア地域の問題も重点的に取り上げる。特に核実験や弾道ミサイル発射を強行した北朝鮮への対応や、人工島造成など南シナ海での海洋進出を強める中国への対応が焦点だ。G7外相会合では中国の活動を念頭に「挑発的な一方的行動に強い反対を表明する」と明記した声明をまとめた。首脳宣言でけん制のトーンをどう強めるかが注目だ。議長国の日本としてはサミットを通じ、安倍政権が国際協力の柱に据えるアジアでの「質の高いインフラ投資」の促進や、目玉政策である「女性活躍の推進」も国際社会にアピールしたい。エボラ出血熱や中南米でジカ熱が流行していることを踏まえ、感染症対策など保健衛生分野での貢献策も打ち出す。サミットに先立ち、財務相・中央銀行総裁など計8つの閣僚会合を開き、各分野でグローバルな課題を話し合う。サミット閉幕後に発表する「首脳宣言」に反映する。 ■なぜ「G7」で開催 民主主義など価値観共有 サミットの主要議題は、その時々の国際情勢を映す。1975年の初会合は経済問題が議題で、当初は経済政策が中心だった。ソ連のアフガニスタン侵攻を受けた80年のベネチア・サミットから「西側の結束」を確認する政治討議に比重が移った。地域紛争や環境問題など議題は広がり、2000年代以降は地球温暖化やテロ対策といったグローバルな課題が目立つ。ロシアは冷戦終結後に加わったが、2014年からG7がロシアの参加を停止。再び自由や民主主義などの価値観を共有する国だけの集まりとなり「話し合いは格段にスムーズになった」(外務省幹部)。その分、G7の結束力が高まったと言える。共通の価値観を土台にすることで、中国の挑発行為も話しやすくなった。南シナ海や東シナ海への海洋進出で「法の支配」に反するような動きは、どの国も賛意を示せない。かつては中国をサミットに加える構想も浮かんだが、いまは消えている。世界でみると裕福なG7のテーマは、新興・途上国が今後直面する課題にもなる。高齢化や医療、女性活躍など課題を先取りして世界の議論をリードする役割もある。サミットは国際社会の中で常に存在意義を問われてきた。最近では08年のリーマン・ショックの後。世界経済を揺るがす事態の発信源が米国だったことに加え、日本や欧州各国の経済も大きく傷み、国際社会への影響力を一時は失った。代わりに存在感を高めたのが20カ国・地域(G20)。G7にブラジル、中国、インド、ロシア、韓国、インドネシアなどを加えた枠組みだ。首脳会議はリーマン・ショック後にブッシュ前米大統領の呼びかけで始まった。金融規制や監督など危機の再発防止策をまとめ、ギリシャ危機を受けた10年には財政健全化策を議論した。ただ先進国と新興国の利害が対立することも多く、協調はなかなか難しい。現在は新興国経済が軒並み伸び悩む。G20だと発言する人数が多すぎて突っ込んだ議論ができない問題も明確になり、再びG7に注目が集まっている。 ■国際社会への影響力は 閉幕の「首脳宣言」カギ サミットがどこまで国際社会に影響力を与えられるかは、閉幕時に打ち出す首脳宣言がカギを握る。そろって具体的なメッセージを打ち出せば、その後の国際社会の流れに道筋が付く。逆にいかにG7とはいえ、打ち出すメッセージがバラバラでは影響力は維持できない。例えば1979年の東京サミットは第2次石油ショックへの対応で、石油消費・輸入上限目標を国別に具体的数値で示すことで合意した。83年のウィリアムズバーグ・サミットは、米国による西欧へのミサイル配備の是非が議題になり、激論の末に中曽根康弘首相が必要性を主張。ソ連への対抗姿勢を示した。2008年の北海道・洞爺湖サミットでは、50年までに世界全体の温暖化ガスを半減する長期目標に合意。目標設定に慎重だった米国を巻き込み、環境問題を前進させた。今回のサミットでは、欧州で社会不安の原因となっている中東からの難民問題で、欧州の緊迫感を日米が共有できずにいるとの見方は多い。ロシアや中国との距離感でも温度差を抱える。G7の結束を打ち出せるかどうかは議長である安倍晋三首相の力量次第だ。かつて1年ごとに首相が交代し、「日本の首相は毎回サミット初参加」という時代と異なり、安倍氏は今回でサミット参加が5回目と経験も豊富だ。G7が再び結束を強められるか。安倍氏の役割は大きい。 *3-2:http://www.nikkei.com/article/DGXMZO01960380V00C16A5I00000/?dg=1&nf=1 (日経新聞 2016/5/5)メルケル独首相、財政出動にゼロ回答、日本との対立避け、温和な表現 ドイツが日本の期待に応えて財政出動に踏み切るかが焦点となっていた4日の日独首脳会談。安倍晋三首相との話し合いを終えて共同記者会見に臨んだメルケル独首相は成長戦略について「詳細は日本で議論する」と語った。文字通りに受け止めれば、ドイツが新たな景気刺激策を講じることに理解を示したかに見える。だが発言を丹念に追えばゼロ回答なのは明かだ。わざわざベルリンを訪れた安倍首相のメンツをつぶさないように温和な表現に終始し、日本との対立を避けるという配慮を見せた。会見で安倍首相は「機動的な財政出動が求められている」と語った。これをメルケル首相は否定しなかったどころか「投資、構造改革、適切な金融政策の3つが必要だ」と呼応した。だが新たな補正予算を組んで、景気刺激に乗り出すつもりはない。ドイツ政府が4日夜に公表したプレスリリースを読めば真意が分かる。「主要7カ国(G7)首脳会議の準備=メルケル首相、訪独の安倍首相と会談」と題された報道資料で、財政政策には一言も触れなかった。具体的に書き込まれたのは日本と欧州連合(EU)の自由貿易協定(FTA)やテロ対策。肝心の財政は素通りしたのである。共同会見の発言からもゼロ回答がにじみ出た。「大勢の難民がドイツに流入したことで内需が刺激された。さらにFTAで成長を高め、世界経済に貢献する」。行間から読み取れるのは、難民対策やFTAというのがドイツの成長戦略で、新たな景気対策は検討しないというメッセージである。なぜメルケル首相は頭ごなしに財政出動を拒否しなかったのか。理由はいくつかある。ひとつはドイツの政治情勢だ。ドイツは財政黒字だが、難民対策で歳出は膨らんでいる。しかも来秋に連邦議会(下院)選挙を控え、教育など重点政策には予算を厚めに配分せざるを得ない。外から見れば緊縮派でも、実際にはドイツなりに財政拡大しているのである。このタイミングで財政政策を「不要」とは言えない。ふたつ目は日本への配慮。わざわざ訪独し、構造改革にも言及した安倍首相を追い返すようならドイツの度量が疑われる。「大人の対応」で亀裂を目立たなくしたということだろう。メルケル首相は2013年にアベノミクスを公然と批判し、昨年3月は日中韓で争う歴史認識問題に注文をつけた。今回は対立する政策があっても事を荒立てず、無難にやり過ごした。裏返すと真正面から議論し、G7を舞台に財政・経済政策で協調するという発想はない。対日政策の優先順位も低い。英国のEU離脱や難民危機、それに極右の台頭をどう抑え込むかという域内の問題でメルケル首相は手いっぱい。日独首脳会談について地元メディアは小さく報じただけだった。 *3-3:http://qbiz.jp/article/95611/1/ (西日本新聞 2016年10月8日) 低金利の副作用警戒が浮上 IMFC開幕 国際通貨基金(IMF)の運営方針を決める国際通貨金融委員会(IMFC)が米首都ワシントンで7日午後(日本時間8日午前)に開幕し、世界経済が直面する課題を議論した。6日の20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議に続く一連の国際会議で、先進国の金融緩和政策の長期化に伴う低金利の副作用への警戒感が急浮上している。資金の運用で利益を十分に上げるのが難しくなり、銀行の経営不安や年金の収益悪化を招く恐れがあるためだ。各国の金融政策頼みは岐路を迎えている。会議に出席した日銀の黒田東彦総裁は7日の記者会見で「金融政策だけではバランスの取れた成長につなげるのは難しい」と述べた。IMFのラガルド専務理事は6日の記者会見で「銀行や保険会社、年金ファンドのビジネスモデルを見ると、ゼロ金利近辺での運用で苦しい事態に陥っている」と述べ、金融政策への過度な依存に警鐘を鳴らした。日米欧は長らく緩和策を継続してきたが、成長率は低迷する。「経済の体温」である物価は上がらず、緩和の限界と低金利の弊害が指摘され始め、6日のG20でも、低金利が銀行や年金基金に及ぼす悪影響の度合いを巡って議論が交わされた。銀行は顧客から集めたお金をより高い金利で運用することで利益を得ており、低金利で利ざやが縮小する弊害を無視できなくなってきた。日本では、年金に収入を依存する高齢者の暮らしを脅かしかねない。IMFCでも、低金利の長期化が世界経済や銀行に与えるリスクを議論。オーストラリアはIMFCに提出した声明で「低金利で金融は脆弱さを増す。過度に金融政策に頼るのは避ける必要がある」と強調した。一方、アルゼンチンは低金利で調達した資金をインフラ投資などに充てれば経済が底上げできると主張。G20やIMFCを契機に、低金利の評価を巡る議論が国際社会で活発になりそうだ。 *3-4:http://qbiz.jp/article/95613/1/ (西日本新聞 2016年10月8日) 生産性上昇で低成長克服を 世界経済で麻生財務相 麻生太郎財務相は7日夜(日本時間8日午前)、米首都ワシントンで記者会見し、「世界経済には不確実性が存在するが、過度な悲観論に陥ることなく適切に対処することが重要だ」と述べ、低成長克服へ生産性を高める構造改革に取り組む重要性を強調した。ルー米財務長官との会談では「世界経済や為替市場など幅広いテーマについて意見交換した」と説明。財務省同行筋によると、環太平洋連携協定(TPP)の重要性を強調し、臨時国会で成立させると伝えたという。米財務省によると、ルー財務長官も米議会でのTPPの速やかな承認と発効に向けて努力すると強調。麻生氏に対して、輸出増を狙って通貨価値を意図的に引き下げる通貨安競争を回避するとした20カ国・地域(G20)の合意を守ることが重要だと伝えたという。麻生氏は会見で世界貿易の減速に関して「要因をしっかり把握し対処することが大事だ」と指摘した。保護主義の台頭を念頭に「自由貿易の障害を除去する行動が求められる」と語った。米大統領選が世界経済に与える影響については「うかつに言えない」と言及を避けた。同席した黒田東彦日銀総裁は日銀が金融政策の枠組みを変更したことに対する他国の反応を問われ「日銀の政策は以前から十分な理解が得られており、新たな政策枠組みについて特段の意見は聞かれなかった」と述べた。 <年金・介護> *4-1:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/368667 (佐賀新聞 2016年10月21日) 無年金64万人を救済、法案、今国会成立へ 無年金の人を救済するため、年金を受け取るのに必要な加入期間(受給資格期間)を25年から10年に短縮する年金機能強化法改正案は21日、今国会で成立する見通しとなった。同日に衆院厚生労働委員会で審議入りした。野党も賛成の意向のため、早ければ来週にも衆院を通過する。成立すれば、来年10月にも約64万人が新たに年金を受け取れるようになる。一方、支給額の抑制を強化する年金制度改革法案には、民進党が反発を強めており、審議入りのめどが立たない状況が続いている。 *4-2:http://digital.asahi.com/articles/ASJBP73Z4JBPUTFK01S.html?iref=comtop_favorite_03(朝日新聞 2016年10月21日)年金試算、不適切な計算式を使用 塩崎厚労相が認める 厚生労働省が年金の試算で不適切な計算方式を使い、現役世代の平均的な収入に対する年金額の割合(所得代替率)が高く算出されるようになっていた。塩崎恭久厚労相が21日の衆院厚労委員会で明らかにした。政府は厚生年金の所得代替率について「50%以上を維持」と公約しているが、将来的に割り込む可能性が高くなった。年金の試算は5年に1度、時々の経済情勢に応じて年金制度を見直す財政検証で行う。厚労省は所得代替率を計算する際に、分母となる現役世代の収入は税や社会保険料を除いた手取りとし、分子の高齢者の年金は税や社会保険料を含めた収入としていた。21日の衆院厚労委では、民進党の長妻昭氏の質問に対し、塩崎氏は年金の試算について「役割を果たしていないこともありうる」と述べ、不十分だと認めた。その上で「次期財政検証に向けて議論する」として、2019年度の財政検証の際に新しい計算方式を検討する考えを示した。会社員の夫と専業主婦の2人のモデルケースでは、13年度の厚生年金の所得代替率は62・6%とされている。厚労省によれば、仮にいずれも手取りで計算すれば53・9%に低下。いずれも税や社会保険料を含めると50・9%になるという。実質賃金が上がり続け、経済成長率が実質0・4%のプラスが続くという前提では、43年度の所得代替率は50・6%と試算されている。厚労省は計算方式を変えた場合の試算を明らかにしていないが、13年度の再計算後の下げ幅から見ると50%を割り込みそうだ。所得代替率は欧米では税や社会保険料を両方含めるか、両方除外して算出するのが一般的だという。安倍晋三首相は1月の衆院本会議で「新たに年金を受給される方の所得代替率は50%が確保されることを確認している」と強調している。 ◇ 〈所得代替率〉 現役世代の平均的な収入に対する年金額の割合。最新の財政検証では、厚生年金に入る会社員と専業主婦の「モデル夫婦」が14年度に65歳になった場合、年金を受け取り始めるときは月21万8千円と試算。現役世代の平均的な収入の62・7%とした。43年度に65歳となる夫婦は50・6%になると見込んでいる。 *4-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161022&ng=DGKKZO08673770S6A021C1EA1000 (日経新聞社説 2016.10.22) 将来を見据えた介護保険の改革いそげ 介護保険制度の改革議論が難航している。介護が必要な度合いの低い軽度者向けサービスの縮小が焦点だったが、厚生労働省は大きな改革を見送る方向だ。大きな改革は利用者にいたみをもたらす。改革案を議論している厚労省の審議会でも、選挙が近いのではと浮足立つ与党内でも、反対意見が強い。厚労省はそうした声に配慮したようだ。ただ、介護が必要な高齢者は増え続ける。2025年には団塊の世代が、要介護状態になりやすいとされる75歳以上の後期高齢者になる。このままでは莫大な介護費用が必要になりかねない。コストを抑えて持続可能な仕組みを整えるのに残された時間は、実は少ない。その場しのぎではない改革の議論を急ぐべきだ。在宅の要介護者向け訪問介護サービスには、身体介護と生活援助の2種類がある。身体介護は食事や排せつの世話などだ。生活援助は調理や掃除、洗濯などを指す。軽度者はこのうち生活援助を多く利用する傾向がある。生活援助サービスがないと困る人はいるだろう。その一方で「がんばれば自分でできることまでヘルパーにやってもらうので、かえって状態が悪くなっている」といった指摘も絶えない。14年の前回改革では、要介護状態になる手前の要支援者に対するサービスの一部について、介護保険による全国一律の給付から市町村独自のものに切りかえることが決まった。生活援助的なサービスは各自治体の判断でボランティアやNPOなどを活用し、効率化しようとの考えだった。今回の議論でも、軽度者の生活援助サービスについては市町村の独自事業に切りかえる案が出された。しかし「自治体の態勢が整わない」ことなどを理由に見送る方向が、早々と固まりつつある。代わって、生活援助サービスを提供する事業者に支払う報酬を引き下げる案などが浮上している。だが、報酬引き下げだけで増え続ける軽度要介護者に対応していけるのか、疑問だ。自治体へのサービス移管も視野に、さらなる効率化は避けられないのではないか。保険を使わず自費で生活援助サービスを購入しやすい環境も、整えたい。社会保障制度のなかで最も急激に費用が膨らむと予想されているのは介護だ。改革の手をこまねいてはならない。 <中高年人口の増加と需要構造の変化> PS(2016年10月29日追加):第三次産業(サービス業)が74%と最も大きい日本の需要構造(=供給構造)はどう変わったのかと言えば、*5-2のように、65歳以上の高齢者が住民の半数以上を占める集落が、2015年4月には1万5568に上っている。また、*5-3のように、女性の3割超が65歳以上となり、ネットの活用が60代に広がっており、ネットショッピングを利用した65歳以上の世帯は13.6%となって過去最高を更新し、購入した商品・サービスはパック旅行、食料品、健康食品・サプリメント・贈答品等で、本当かどうかはわからないが64歳以下の世帯より多く支出しているそうだ。これは、現在の65歳以上は高卒以上が多く、職場で普通にパソコンを駆使していた購買意欲の高い層だからだろう。 一方で、*5-1のように、井筒屋の社長(男性)が、「流行のボタンを押せていないから、消費が振るわない」と述べておられるが、実際は、中高年人口の割合が高い時代に消費の対象を若い女性のみに据え、人口の多い中高年世代を無視しているのが販売が振るわない原因だと考えられる。購買経験を積んだ中高年女性は、流行や面白いだけのものは買わず、質のよいものを選ぶため、本来は百貨店に販売機会が多い筈だが、私の経験でも百貨店の品揃えは細身・小型の若年女性中心で中高年女性の魅力を引き出す衣料品が少なく、あっても野暮ったかったり、少し良いと非常に高い価格設定になっていたりする。そのため、顧客の大半が女性で女性従業員が多い小売やデパートは、女性を馬鹿にせず女性管理職や女性社長を増やして、本物のニーズを発掘するのが良いと思う。なお、中高年者のニーズを察して満たせるためには、接客する従業員にも同世代の経験豊富な人がいた方がよい。 *5-1:http://qbiz.jp/article/96279/1/ (西日本新聞 2016年10月21日) 「流行のボタンを押せていない」 井筒屋・影山英雄社長(10月11日) 消費が振るわない。しかし、それは、小売り側が需要を喚起できていない表れではないか。そんな流通の「心構え」を示すような一言を、全国の政令市で最も高齢化率(1月1日現在で28・6%)が高い北九州市に本拠を置くデパート、井筒屋のトップが発した。中間期としては8年連続の減収となった井筒屋。主力の衣料品が振るわず、関連商品も含めて前年に比べ8億円の減少と足を引っ張った。高齢化や人口減に歯止めがかからず、地域経済の先行きが見通せない。さらに、ライバルの福岡都市圏は商業集積が進むばかり。そこに、天候不順も重なった。不振の理由を挙げれば、枚挙にいとまがない。そんな厳しい環境下でのことだった。4月下旬〜5月上旬にかけ、小倉井筒屋(北九州市小倉北区)であるイベントを開いたところ、商品が飛ぶように売れ、完売も相次いだという。その商品とは、マスキングテープ。スマートフォンのケースに独自のデザインをあしらうなど、若い女性に人気のアイテムだ。売れ筋の単価は1個200〜300円と安いながらも、1カ月にも満たない期間中の売り上げは2千万円に上った。10月11日。2016年8月中間決算の記者会見に臨んだ影山英雄社長は、こう語った。「面白いものには人が来てくれる。(われわれは)まだ流行のボタンを押せていないということ」。期待か、自省か。潜在需要を感じさせつつ、それを引き出せていない地場デパートトップの重みのある一言だった。井筒屋が今後、どんな流行のボタンを押すのか。「百貨店といえば衣料品」という従来の枠から脱した発想が必要かもしれない。 *5-2:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/358375 (佐賀新聞 2016年9月21日) 高齢者半数の集落1万5千、15年、5年で1・5倍 65歳以上の高齢者が住民の半数以上を占める過疎地域の集落は、2015年4月時点で1万5568に上ることが21日、国土交通、総務両省の調査で分かった。10年度の前回調査から約5千の増加。調査対象の集落全体に占める割合も15・5%から20・6%に上昇した。過疎地域の高齢化が進行し、共同体の維持が困難な「限界集落」とも呼ばれる集落が増えている実態が浮き彫りになった。調査は、過疎法の指定地域などがある1028市町村にアンケートを実施。調査対象の集落は7万5662で、今回から離島なども加わったため前回(6万4954)から大幅に増えた。 *5-3:http://qbiz.jp/article/94318/1/ (西日本新聞 2016年9月19日) 女性の3割、65歳以上に 敬老の日、総務省推計 敬老の日を前に総務省が18日発表した人口推計によると、女性の総人口に占める65歳以上の高齢者の割合が9月15日時点で30・1%となり、初めて3割を超えた。男性は24・3%。男女を合わせると前年から0・6ポイント増の27・3%だった。65歳以上人口は73万人増の3461万人で、割合、人数とも過去最高を更新した。女性の総人口に占める65歳以上の割合は2001年に20%を上回り、09年に25%を超えた。今年の65歳以上人口は、女性が前年より38万人増えて1962万人、男性は35万人増の1499万人だった。後期高齢者医療制度の対象となる75歳以上は1697万人で総人口の13・4%。女性が1037万人、男性は660万人だった。推計は、15年国勢調査の人口速報集計を基に、その後の出生・死亡者数から算出した。日本の高齢者の割合は欧米主要6カ国との比較でも最も高く、22・7%のイタリア、21・4%のドイツを上回った。1995年以降の伸び幅も日本は12・7ポイントに達した。イタリアの6・2ポイント、ドイツの6・0ポイントを大きく引き離しており、日本の高齢化が急速に進んでいることを改めて示した。また労働力調査によると、15年に職に就いていた高齢者は730万人と12年連続で増え、過去最多を更新した。約半数の360万人が企業などに雇用されていて、このうち74・2%に当たる267万人がアルバイトやパートといった非正規雇用だった。就業率は21・7%で、米国18・2%、カナダ12・8%を上回るなど、欧米6カ国より高かった。男女別では男性が30・3%、女性が15・0%だった。 ◇ ◇ ●ネットの活用 60代に広がり 総務省の家計調査によると、世帯主が60〜69歳の2人以上世帯が、2015年にインターネット接続料として使った金額は年間で約2万5千円だった。5年前より約5千円多く、29歳以下の世帯と肩を並べた。ネット普及の世代格差が縮小していることがうかがえる。またネットを旅行予約や食品購入などに活用していることも分かった。家計消費状況調査では、ネットショッピングを利用した65歳以上の世帯(単身を除く)も15年に13・6%となって過去最高を更新。05年の3・8%から大きく伸びている。ネットで購入した商品・サービスのうち、パック旅行などに使った金額の割合が最も高く、全体の22・5%。次いで食料品の16・4%だった。健康食品やサプリメント、贈答品も、64歳以下の世帯より支出した金額の割合が高かった。総務省の担当者は「レンタカーやホテルの予約など、レジャーの手配にネットを活用している実態がうかがえる」と説明している。 PS(2016年10月29日追加):*6のように、ドイツのメルケル首相がフクシマの惨状を目にして脱原発に転換したのも、安価でクリーンなエネルギーを開発・普及するための英断だと私は考えるが、それに対して日本人が、「なぜそんなに福島の事故を恐れるの?」と問うのは、無知で恥ずかしすぎる。何故、それに気がつかないのだろう? *6:http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016102902000192.html (東京新聞 2016年10月29日) 【社説】ドイツの大転換 民意こそエンジンだ ドイツでは電力消費量の三割をすでに、再生可能エネルギーで賄っている。シュタインマイヤー外相の手記は訴えてくるようだ。「エネルギー大転換」のクリーンなエンジンは「民意」であると。3・11の年。ちょうどハロウィーンのころにドイツを取材した。「原発はいらない」と書かれた黄色い旗が、カボチャの飾りとともに目についた。フライブルクやミュンヘンの街頭で手当たり次第に聞いてみた。「なぜこんなに、福島の事故を恐れるの?」。異口同音に問い返された。「福島は日本じゃないの?」。ドイツの反核、反原発の歴史は深い。東西冷戦の最前線で核ミサイルを目の前に突きつけられた恐怖は、国民的トラウマ(心的外傷)と言っていい。そして一九八六年のチェルノブイリ原発事故。千二百キロ離れたドイツにも放射能が降り注ぎ、食卓から牛乳やキノコが消えた。「母親が沈み込んでいた。あんなの、もうたくさんだ」とミュンヘンの青年が吐き捨てるように言った。ドイツは原発事故の当事者にはなっていない。だが、ドイツ市民には原発事故の当事者という自覚が強い。二〇〇〇年にはすでに、時のシュレーダー政権が脱原発の方針を打ち出していた。3・11の前年、メルケル首相は運転寿命延長による原発の再浮上を図ったが、フクシマの惨状を目にして急転換。原子力の専門家以外で構成する倫理委員会の意見を優先させて、二二年までに全原発の段階的廃止を決めた。メルケル首相が恐れたのは、チェルノブイリやフクシマの再来を正しく恐れる民意である。一方、欧州では、日本とは段違いに温暖化への危機感が強い。昨年末のパリ協定は、石油、石炭など化石燃料の時代の終わりを予言した。とはいえ原発はそれ以上に恐ろしい。生命が大切ならば、再生可能エネなのである。環境や倫理だけではない。福島や温暖化への危機感をバネにした再生可能エネへの大転換には、やがてそれが巨大な世界市場を形成するとの読みもある。だから大手電力を含む経済界も、連邦政府の方針を受け入れざるを得ないのだ。「国民の八割以上が再生可能エネルギーの拡大に賛同しています」。シュタインマイヤー外相の手記の行間、浮かんできたのはやはり、あの言葉。「福島は日本じゃないの?」 PS2016年10月31日追加):*7-1のように、高島と池島で若者がハッサクやヤギを利用しているそうだ。離島は、海・田畑・山が近くにあり、海も本土とは比べ物にならないくらい美しいため、シチリア島のようにハッサクをレモン・オリーブ・アーモンド・ブドウに変えたり、山羊を羊・牛に変えたり、カレイだけでなくウニ・アワビも養殖したりすれば、稼げる事業を行うことができる。現在は、*5-2のように、日本全体では高齢者が半数以上を占める集落が1万5千もあり、若者が住み着いて何かを始めるのに協力する人も多い。また、デザイン・染色・絵画・音楽なども、美しい日本の風景を写し取った方が、都会のコンクリートの中で醜いアニメに興じているよりも世界の人々に訴えられる作品を作り出すことができ、自己実現する方が仮装して初めて自己表現できる状況にいるよりもずっと面白いだろう。 そこで、*7-2のハロウィンだが、発祥地の外国ではかわいい子どもの祭りであるにもかかわらず、日本では成人が醜いおばけ姿の仮装大会に興じている(同じことはディズ二ーランドでも起こっている)。これは、普段、一人の大人として発言することのできない人が、仮装して初めて何かに反抗して自分を出したつもりになっている幼稚さとこれまで触れてきたものの貧しさによる美意識の退化に見える。 佐賀県馬渡島 春の北アルプス 渋谷でのハロウィン仮装姿 *7-1:http://qbiz.jp/article/97053/1/ (西日本新聞 2016年10月31日) 閉山の島再生、若者が一歩 長崎 懸命の荒れ地対策 世界文化遺産の高島炭坑がある高島(長崎市)と九州最後の炭鉱があった池島(同)で、急速な人口減少のため荒れ地が増えている状況を打開しようと、魚や動物を活用した取り組みが始まった。雑草刈りや間伐の人手が不足する中、知恵を絞り出したのは30歳前後の若手たち。「何とか島の荒廃に歯止めをかけたい」と力を込める。 ●高島…未利用のハッサク餌に 1986年に閉山した高島は、68年のピーク時に約1万8千人が暮らしていたが、現在は384人(今年9月末)。閉山後、当時の高島町が地域振興策として「島民や観光客が収穫できる果樹を植えよう」と炭鉱住宅跡など広範囲にハッサクを植えた。だが、過疎化がさらに進んで通路などに草木が生い茂り、多くのハッサクが収穫も管理もされていなかった。市と漁協が出資する長崎高島水産センターに昨春入社した永田晋作さん(27)は高島出身。幼少期に親がハッサクを取って食べていたことを思い出し、昨秋から伐採を兼ねて収穫した。果汁を飼料に混ぜて養殖ヒラメに与え続けると、臭みが消え、ハッサクの香りが付いたため、今月17日から一般に売り出した。「収穫するためには間伐が必要で、結果的に荒れ地対策になる。『はっさくヒラメ』がヒットし、島民や観光客に草刈りをしようという機運も高まってほしい」と生まれ育った島への思いを強くする。 ●池島…ヤギ飼い除草に一役 池島炭鉱は2001年11月に閉山した。1970年に約7700人だった島の人口は、今年9月で159人に。こちらも除草作業が追いつかず、荒れ地の拡大やイノシシの繁殖が懸念された。そこで有志が同7月、ヤギ2匹を飼い始めた。発案したのは、池島を含めた長崎市外海地区の地域おこしに関わる嶋田純人さん(37)。島民が小屋などを準備し、生い茂る雑草を食べさせたところ、少しずつ減っているという。嶋田さんは東京都出身。都の職員だった昨年夏に旅行で訪れ、人の良い土地柄を気に入った半面、地方の厳しい現実を知った。「地方に支えられて都市がある。行政サービスに携わってきた者として助けたい」と昨年秋に移住してきた。島では道路や建物の老朽化など課題も多い。それでも「ヤギは餌代がかからないし、島民や観光客の癒やしの存在にもなっている」と前を向く。2匹の名前は「けん」と「めい」。島民らの「懸命」な思いを込めた。 *7-2:http://digital.asahi.com/articles/ASJBV72XMJBVUTIL049.html (朝日新聞 2016年10月28日) ハロウィーン、渋谷厳戒 初のホコ天・更衣室設置… ハロウィーンの「本番」10月31日が近づいてきた。今年はイベントが開かれる期間が4日間と長く、この間のイベントは、最も盛り上がる東京・渋谷だけで100件近くある。一方で、ゴミやトイレ、騒乱など年々、規模とともに問題も増えており、地元や警視庁は厳戒態勢。今年初めて渋谷駅近くを歩行者天国にし、混乱を防ぐ。 ■4日で催し100件 31日は月曜日にあたるため、ハロウィーン関連のイベントは前の週の金曜日から予定されている。 渋谷区の担当者は「人がいつ集まるか読めない」と嘆く。区は28日から11月1日まで、仮装のための更衣室や仮設トイレを渋谷駅周辺に設け、案内などのため、駅周辺に職員やボランティアを計120人置く。特に、トイレは深刻だ。昨年の10月31日前後、区には「トイレに入れない」「街中で尿のにおいがする」といった苦情が相次いだ。百貨店などのトイレで若者が仮装するために着替えたり、メイクしたりしたため、買い物客がトイレを使えなくなったからだ。外で用を足す人もおり、繁華街一帯では異臭が漂ったという。区は今年、渋谷駅周辺の3カ所に仮設トイレを置き、ゴミ集積所も増やす。さらに人だかりを分散させようと、区観光協会は駅から少し離れた代々木公園で31日、イベントを開く。参加者が放置するゴミも難題だ。区と地元商店街などは11月1日の朝に、約500人で繁華街のゴミ拾いをする。区によると、昨年のハロウィーンに関連する一般ゴミの収集量は2・3トンにのぼった。 ■DJポリス出動 多くの人出を見込む警視庁は28~31日の4日間、混雑に応じて渋谷駅近くの車道を開放し、歩行者天国にする。ハロウィーンの警備で車の通行を制限するのは初めてだ。大勢の若者が歩道からあふれ、事故につながることを防ぐためで、仮装した人が集まり始める午後7時以降を想定している。歩行者天国は、駅前のスクランブル交差点の先からファッションビル「SHIBUYA109」をはさんだ文化村通りの約300メートルと、道玄坂の約250メートル。交差点と地下鉄の出入り口は規制しない。駅周辺の3カ所で検問も行う。不審な車の侵入や暴走行為を阻止するためだ。渋谷署員に加え、機動隊の爆発物処理班や銃器対策部隊も出てテロを警戒。現場の警察官は頭に小型カメラをつけ、映像を警視庁本部に送る。英語、中国語、韓国語に自動翻訳できる拡声機を使い、集まった人が転ばないように誘導する。車上からマイクで呼びかける「DJポリス」も出動する。昨年の10月31日は土曜日で、夜に数千人が渋谷駅周辺に殺到し、警視庁は交差点周辺を数百人態勢で警備した。痴漢のほか、機動隊員に殴りかかったり、商店街のガラスを割ったりした容疑で計3人が現行犯逮捕された。警視庁は今年も最大で数百人規模を動員し、土曜、日曜にあたる29、30日の夕方以降を中心に警戒を強める。鎌谷陽之警備1課長は「集まる人数が予測しにくく、チャレンジングな警備になる」と話す。(池田良、小林太一) ◇ 〈日本でのハロウィーン〉 ハロウィーンは古代ヨーロッパのケルト民族の収穫祭が起源。米国では10月31日、仮装した子どもたちが「トリック・オア・トリート」と菓子をもらいにまわる習慣が文化となった。日本では2010年ごろから、仮装して「非日常」を楽しむ意味合いで人気が高まった。「日本記念日協会」によると、今年のハロウィーンの推計市場規模は前年比約10%増の約1345億円。バレンタインの約1340億円を初めて上回るとみられる。マーケティング会社「マクロミル」が首都圏の10~40代の1千人を対象に調査したところ、「仮装する」は28%。「仮装してお出かけする街」では渋谷が40%、2位の六本木は17%だった。 PS(2016年11月1日追加):主権者が政治を理解せず幼稚でいるのは、自分の利益のために政治を利用しようとする人にとっては願ってもないことで、例えば介護される立場になりながら現役並みに所得の高い高齢者はいないにもかかわらず、*8-1のようなヒューマニズムと根拠に欠けた政策を提案する人もいる。なお、介護される人が配偶者であったとしても、介護されるようになれば家事負担が困難になるため世帯が困窮するのは同じだ。そのような中、*8-2のように、「コストが安くて安全だ」と主張してきた原発が起こした事故の損害賠償や除染費用の超過分を国費で負担するよう、電気事業連合会の元気な人たちが政府に要望しているのは、税金の使い方の優先順位に関する認識が間違っているだろう。これまで、大手電力会社は総括原価方式で優遇されて莫大な資産を形成してきているので、電力自由化に向け送電会社を作って株式を上場するなど、独自の資金調達方法やビジネスがいくらでもあり、そんなことも自分で考えつかないようでは社会貢献できる企業にはなれない。 *8-1:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2016103101002294.html (東京新聞 2016年11月1日) 介護保険、3割負担案が浮上 高所得の高齢者対象に 介護保険制度の見直しで、現役並みに所得の高い高齢者を対象に、サービス利用時の自己負担を3割に引き上げる案が政府内で浮上していることが31日、分かった。増え続ける介護給付費の抑制が目的。実施する場合、来年の通常国会に提出予定の介護保険法改正案に盛り込むことになる。ただ、介護保険の自己負担は制度スタートから一律1割で、昨年8月から一定以上の所得(単身で年金収入だけの場合年収280万円以上)がある人を対象に2割にしたばかり。浮上しているのは、2割負担の人の一部をさらに引き上げる内容。高齢者からの反発は必至で、調整は難航しそうだ。 *8-2:http://mainichi.jp/articles/20161004/k00/00e/020/174000c (毎日新聞 2016年10月4日) 福島原発、8兆円負担増 電事連、国費求める 電力業界団体の電気事業連合会(電事連)が、東京電力福島第1原発事故の損害賠償・除染費用について、東電を含む大手電力各社の負担額が当初計画を約8兆円上回るとの試算をまとめ、超過分を国費で負担するよう政府に非公式に要望していることが4日明らかになった。政府はこれまで「賠償・除染費用は原則的に原発事業者の負担」との立場を取ってきており、慎重に検討するとみられる。福島第1原発事故の賠償・除染費用は、(1)国がいつでも現金に換えられる「交付国債」を原子力損害賠償・廃炉等支援機構(国の認可法人)に渡す(2)東電は機構から必要な資金の交付を受け、賠償・除染に充てる(3)機構は後に東電を含む大手電力から負担金を受け取り、国に返済する−−という仕組み。賠償分は東電と他の大手電力が分担▽除染費用は機構が持つ東電株の売却益を充当▽中間貯蔵施設の費用は電源開発促進税で賄うことになっている。政府は2013年、賠償費用5.4兆円▽除染費用2.5兆円▽中間貯蔵施設の建設費などを1.1兆円と見込み、機構への資金交付の上限を9兆円とした。だが、関係者によると、電事連は、賠償費用が見通しより2.6兆円増の8兆円、除染費用が4.5兆円増の7兆円になると試算。また、東電株売却益も株価下落で1兆円減少し、合計で8.1兆円の資金が不足すると見積もっている。大手電力各社は「除染費用は東電株の売却益で賄えず、最終的に電力各社が負担を迫られる」とみている。一方、原発再稼働の停滞や、電力小売り自由化による競争激化などから大手電力の経営環境が悪化したとして、賠償・除染費用の超過分の政府負担を求めた。福島第1原発の廃炉費用を巡っては、東電が2兆円を工面しているが、数兆円規模の財源不足も予想される。東電ホールディングスは7月、廃炉費用などの負担支援を政府に求めている。今回の電事連の要望に廃炉費用は含まれていない。政府は福島第1原発の賠償や廃炉費用の負担について、5日から始める「東京電力改革・1F問題委員会」などで議論することにしており、電事連の要望も今後協議される可能性がある。 ●解説 事故つけ回し「無責任」 電気事業連合会が東電福島第1原発事故の賠償・除染費用の超過分を国に負担するよう要望した。だが、大手電力各社はこれまで「原発のコストは安い」と説明してきた。事故のつけを国に求める姿勢は、「無責任」との批判が免れない。電力各社には「原発は『国策民営』で推進されてきたのに、事故が起きたときは事業者が責任を取らされる」との不満がある。東電以外の大手には「東電の事故の責任を負わされるのは理不尽」との思いもある。だが、大手電力は原発稼働で巨額の利益を上げてきた。原発の「安全神話」に寄りかかり、事故対策を怠ってきた面は否定できない。福島第1原発事故に伴う賠償・除染費用が膨大な額に達する見通しになったからといって、国に負担を押しつけるのは筋が通らない。国が負担を引き受ければ、最終的に税金が投入され、国民負担につながる。福島第1原発事故の処理費用は、国が原子力損害賠償・廃炉等支援機構を通じていったん立て替えるが、最終的に電力各社が負担する仕組みだ。この制度の趣旨にも大きく反する。 PS(2016.11.2追加):*9-1に書かれているように、日銀は金融政策決定会合で、物価上昇率2%の目標達成時期の見通しを「2018年度頃」に先送りし、黒田総裁は、2013年4月に始めた大規模な金融緩和で2%の物価上昇目標(生鮮食品を除く)を達成することを目指したが断念し、達成できなかった原因を「①消費増税後の景気低迷」「②原油安」「③新興国経済の減速」といった環境変化によるものとした。しかし、②は原油高でコストプッシュインフレーションが起き、国民資産が海外に多く流出して国民生活が困窮しても物価さえ上昇すればよいという逆の発想であるし、①は消費税率に影響されない(結果として売り手が消費税を負担する)生鮮食品を除けば、消費増税後に物価が上がり、それに伴って需要が減るのは当然のことだ。また、③は景気を下支えしていた中国の金融緩和が出口に向かったため支えが弱くなったということで、文句を言いながらの中国頼みだったのだ。 一方、物価上昇・年金削減・介護負担増などで消費者の可処分所得を減らし、原発再稼働のために電力自由化という大改革を骨抜きにして自然エネルギーが普及するのを妨げたことは、エネルギー改革や民間投資による技術進歩と生産性向上を阻害した。そのかわりに、投資1円当たりの生産性向上が低い公共投資を増やしたため、全体の生産性は上がらなかったのである。つまり、国民には、気分でモノを買えるような人が少なくなっているので、需要増による物価上昇がなかったのは当然だったのである。 なお、*9-2の日銀法第二条に定められているように、本来、日本銀行は物価の安定を通じて国民経済を健全に発展させることを理念としている。しかし、その日銀が物価上昇(インフレ)目標を持って金融緩和を続けたことにより、実質資産や実質収入が減り、国民は将来にも不安を感じたので、消費を増やすどころか節約してできるだけ貯蓄せざるを得なかったのだ。そして、これは経済学の原則どおりであるため、やってみなくてもわかることだった。 実質家計収入と消費支出 2015.6.12日経新聞 2016.11.2日経新聞 2016.10.20東京新聞 *9-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12638027.html (朝日新聞 2016年11月2日) 物価2%目標、任期中断念 黒田日銀「18年度ごろ」 日本銀行は1日の金融政策決定会合で、物価上昇率2%の目標達成時期の見通しを「2017年度中」から「18年度ごろ」に先送りした。黒田東彦総裁は13年4月に始めた大規模な金融緩和で、2%の2年程度での達成を目指したが、18年4月までとなる任期中の達成を事実上断念することになった。物価目標の達成時期の先送りは今年3度目で、大規模緩和開始からは5度目となる。日銀は会合で、3カ月に1度まとめる「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」の物価上昇率(生鮮食品を除く)の見通しを下方修正した。16年度平均は7月時点の見通しのプラス0・1%からマイナス0・1%に、17年度は1・7%から1・5%に、18年度は1・9%から1・7%にそれぞれ引き下げた。黒田総裁は記者会見で、目標を達成できなかったことは「残念ではある」とし、任期中に達成できない責任は「物価がどうなるかということと私自身の任期に特別な関係はない」と言及を避けた。日銀は13年に政府と2%の早期達成を約束したとして、「早期実現に適切な政策を決定し実行することに尽きる」とし、任期中に達成できなくても、日銀として目標実現を目指す必要性を強調した。日銀は9月の会合で、物価目標が達成できなかった原因は、消費増税後の景気低迷や原油安、新興国経済の減速だったと検証し、政策の重点を、市場に流すお金の量の拡大から長期金利の操作に切り替えた。黒田総裁は会見で、目標が達成できなかった理由は「検証に詳しく書いている」と繰り返し、「世界共通の事象が影響している。欧米の中央銀行の予測も後ずれしている」と主張した。また、追加の金融緩和は見送った。黒田総裁は「企業や家計の両部門で、所得から支出への前向きなメカニズムは維持されている」と説明した。 <解説>異次元緩和の「敗北宣言」 日本銀行が「2%インフレ目標」を黒田総裁の5年間の任期中には達成できない、と初めて認めた。事実上、異次元緩和の「敗北宣言」に等しい。2年間で2%の目標を達成し、デフレから脱却する――。黒田総裁は3年半前、そう高らかに宣言して登場し、アベノミクスの第1の矢を担った。「今後は物価が上がる」というインフレ期待を生めば、早めに投資や消費をしようとする動きが広がって経済が活性化し、賃金も上がるというシナリオを描いた。しかし現実はそうはならなかった。最近は物価上昇率はマイナスが続き、経済成長率も低水準にとどまる。相変わらず消費はさえず、賃上げも期待通りには広がっていない。日銀は物価が上がらない原因を、(1)原油価格の下落(2)新興国経済の不調(3)消費増税の影響といった環境変化によるものとしてきた。とはいえ、5年間でも無理だとしたら、もはや環境を理由にはできないのではないか。政策手法に問題があるか、目標自体が間違っていると考えるべきだ。黒田総裁は記者会見で、今の政策を続ければ今後物価は上がると主張した。緩和策を支持する安倍晋三首相に配慮せざるをえない事情もあるのだろう。日銀の金融緩和の規模はケタ外れだ。市場への資金投入量は国内総生産(GDP)比で8割に達し、2割ほどにとどめている米欧をはるかに上回る。将来、緩和を縮小する「出口」では、金利の急上昇などの副作用が予想され、日銀はそうしたショックにも備えなければならない。黒田総裁は目標を任期中に達成できず、政策の正常化は「ポスト黒田」も視野に入れた、日本経済の長期的な課題となっている。 *9-2:http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H09/H09HO089.html 日本銀行法 (平成九年六月十八日法律第八十九号、最終改正:平成二三年六月二四日法律第七四号) 第一章 総則 (目的) 第一条 日本銀行は、我が国の中央銀行として、銀行券を発行するとともに、通貨及び金融の調節を行うことを目的とする。 2 日本銀行は、前項に規定するもののほか、銀行その他の金融機関の間で行われる資金決済の円滑の確保を図り、もって信用秩序の維持に資することを目的とする。 (通貨及び金融の調節の理念) 第二条 日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする。 (日本銀行の自主性の尊重及び透明性の確保) 第三条 日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性は、尊重されなければならない。 2 日本銀行は、通貨及び金融の調節に関する意思決定の内容及び過程を国民に明らかにするよう努めなければならない。 (政府との関係) 第四条 日本銀行は、その行う通貨及び金融の調節が経済政策の一環をなすものであることを踏まえ、それが政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない。 (業務の公共性及びその運営の自主性) 第五条 日本銀行は、その業務及び財産の公共性にかんがみ、適正かつ効率的に業務を運営するよう努めなければならない。 2 この法律の運用に当たっては、日本銀行の業務運営における自主性は、十分配慮されなければならない。 (以下略)
| 経済・雇用::2016.8~2017.12 | 10:00 PM | comments (x) | trackback (x) |
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