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2018.2.8 辺野古移設から見た日米安全保障条約・尖閣防衛・日本国憲法の変更について (2017年2月11、12、13、14、15、18、21日追加)
 
                      2017.5.14琉球新報
(図の説明:1番左のグラフのように、防衛費はうなぎ上りに増えているが、費用対効果は疑わしい。また、沖縄は、本土復帰後、米軍基地面積は65%に減っているが、自衛隊基地面積が2倍近くに増えている)

    
     尖閣諸島      沖縄の自衛隊基地   沖縄の米軍基地  2018.2.6日経新聞

(図の説明:1番左の写真の尖閣諸島対応には、下地島、石垣島などの基地を使った方が近くて便利なため、沖縄本島の米軍基地・自衛隊基地は異常に多すぎ、速やかに減らしてもっと稼げる有効な土地利用をした方が良いと考える。また、1番右の図の自民党憲法改正案は、基本的人権や民主主義を疎かにしそうなものが多い)

(1)普天間基地の辺野古移設について
1)名護市長選
 任期満了に伴う名護市長選は、*1-1のように、稲嶺陣営は新基地建設阻止を前面に掲げ、渡具知陣営は辺野古問題にはほとんど触れずに経済振興をアピールする戦術に徹し、*1-3のように、2018年2月4日に、約3500票差での渡具知氏の勝利で終わった。

 そのため、*1-4のように、安倍首相は5日朝、辺野古移設について、「市民の皆様のご理解をいただきながら、最高裁判決に従って進めていきたい。市街地に囲まれている普天間基地の移設についてはその方針で進めていきたい」と述べられたそうだが、渡具知氏は移設問題への言及や争点化を避けて当選したのだから、*1-5のとおり、名護市民が辺野古新基地の建設を容認したと解釈するのは行き過ぎだ。また、*1-2のように、「移設先の理解が得られない」のは辺野古も同じであり、日本の国土面積の0.6%しかない沖縄に在日米軍専用基地の70%が置かれている事実も変わっていない。

 しかし、米軍キャンプ・シュワブ沖で護岸工事が進む辺野古新基地が不要であることについて、米軍属女性暴行殺人事件やヘリ部品落下問題だけでは足りないため、私は、2)に「米国海兵隊が沖縄に基地を持っていても、日本の国境防衛には役立たないこと」について述べる。

2)沖縄基地の役割と尖閣諸島の防衛
 尖閣諸島防衛は、*2-1のように、自衛隊がまず対応し、米軍はその「支援」「補完」をすることになっている。そして、辺野古に移設しようとしている米海兵隊は、防衛ではなく攻撃部隊であるため、中谷元防衛相には、尖閣諸島防衛のために沖縄の島嶼部に自衛隊基地を増やしながら、さらに米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設の必要性を力説する根拠を明確に説明してもらいたい。

 また、中国公船の尖閣諸島周辺海域への侵入については、それ自体が既に有事であるにもかかわらず、現在は日本側だけで情けない対処をしており、2015年4月改定の日米防衛協力の指針でも自衛隊が一義的な責務を負うとしており、米軍が最初から軍事攻撃に加わることは想定されていない。また、トランプ大統領は、「米国ファーストで、米国は世界の警察ではない」としているが、これは米国民の立場から見れば当然のことである。

 そして、仮に尖閣諸島が中国に占領された場合、*2-2のように、総理大臣が防衛出動を発令すると陸海空3自衛隊が一気に動き、最後は陸上自衛隊の島嶼防衛部隊が奪還する予定だそうで、元航空幕僚長の田母神氏は、宮古島の隣の下地島に3000m級の滑走路があるので、ここに整備支援力を展開すれば、尖閣上空まで10分でF-15やF-2を飛ばして制空権を握ることができ、下地島空港で地対空ミサイル部隊や基地防空部隊で防御も固められるとしていた。防衛による尖閣対応は、「それ+α」で十分ではないのか?

 しかし、*2-3のように、2016年3月時点で沖縄自衛隊は、施設数41、施設面積694.4haになったそうだ。2016年3月には先島初の陸上自衛隊の基地が与那国島にでき、今後は宮古島、石垣島にも新基地が建設される計画があるそうだが、島嶼防衛をネタに自衛隊が大宴会を開いているようでやりすぎだ。施設数は、自衛隊・米軍合わせて5指以内、島の数も2つくらいまでにすべきで、米軍と同様、自衛隊も沖縄を占有すべきではないだろう。

(2)安保法と憲法
 自民党は、*3-1のように、昨年末、「憲法改正に関する論点取りまとめ」を作成して議論の方向性を示し、①自衛隊 ②緊急事態 ③合区解消等 ④教育無償化の4項目について憲法改正の発議に向けて議論を進めていくとしたそうだ。しかし、これだけに絞るとすれば、まず平成24年4月27日に決定した自民党憲法改正草案(https://jimin.ncss.nifty.com/pdf/news/policy/130250_1.pdf 参照)を撤回すべきだ。何故なら、この自民党憲法改正草案は、主権者である日本国民(注)が定めた形の現行憲法を日本国という抽象的な主体が定める形に改め、国民の基本的人権に制限を加えて民主主義に逆行するものだからである。
(注:日本国憲法の日本語訳は、現在は「日本国民は」と訳されているが、前は「われわれ日本国民は」と訳されていた。英語の原文は「We,the Japanese people,」 であるため前の訳の方が正しく、原文は、国民が定めた憲法であり主権者は国民であることを明確に表しているのだ)

 また、②の緊急事態条項も、「緊急事態が発生した場合には、国民の権利を制限することができる」としており、「緊急事態」は政府の都合によってどこまでも拡大解釈可能であるため、決して認めるべきでない。さらに、③の合区解消は、一票の価値を同じにしながらより賢い方法があるため改悪だ。④に至っては、憲法が教育無償化を阻害していたのではなく、教育・福祉を軽視する政府の政策が阻害していた面が大きいため、憲法変更はかえって憲法を頂点とする全体の法体系の整合性を壊して見苦しくする。

 そして、①の自衛隊の明記についても、*3-2のように、まともに議論すれば違憲となる存立危機事態を安全保障関連法で定め、これを改憲で合憲化しようとするのはあまりにも危険な政府である。そのため、私は、*3-1の「理論的な体系性や整合性に配慮が必要」という主張に賛成で、つぎはぎでも何でもいいから憲法を変更することのみが党是であるかのように言う理念のなさは問題だと考える。

 私は、日本国憲法については、裁判所も含め、なるべく影響を小さくしようと努力してきた人々がいると考える。裁判所は、直接的に訴えの利益がある人以外は違憲立法を申し立てられないという不要な制限をつけ、*3-2のように、一審の東京地裁は、提訴した自衛官に対し「出動命令が出る具体的な可能性はない」と述べて、踏みこんだ審理をしないまま訴えを却下した。また、国は、安全保障関連法の立法時とは異なり、裁判では存立危機事態の発生は想定できないとの立場を終始とり続けたそうである。

 つまり、このような人たちの議論を真に受けて憲法を変更することは、国民が第二次世界大戦で多大な犠牲を払って得た理想憲法を自ら投げ捨てることになるのだ。

(3)日本国憲法と基本的人権の尊重
1)緊急事態条項
 自民党憲法改正推進本部は、*4-1のように、大規模災害時の緊急事態条項について議論し、私権制限を求める声が続出したそうだ。しかし、大災害や武力攻撃を受けた際に、どういう私権を行使してその対処に反対する人がいると言うのだろうか。私は、緊急事態条項は、他に目的があって行う制限のための制限だと考えている。また、自民党内でも、2012年の自民党改憲草案が理想だと考えている人が何人いるのか、自民党議員の正確なアンケート調査をして公表すべきだ。その結果によっては、国民は経済や景気だけを考えて選べばよいわけではない。

2)特定秘密保護法
 *4-2の特定秘密保護法も、何が特定秘密かわからず、罪の予想はできないが、逮捕されることのある人権侵害の法律だ。衆参両院に常設される情報監視審査会は秘密会にもかかわらず、政府側は回答を拒む場面が目立ち、これでは北朝鮮を批判するどころか、よく似た国である。

3)個人データの移転
 日本政府は、*4-3のように、個人データを柔軟に使用できるようにするそうだ。EUは、個人情報保護について十分な対応をしていると認定する国や地域以外へのデータ持ち出しを原則として禁じており、ある程度は信頼できるが、日本がEUから認定されていないのは尤もである。何故なら、個人情報保護法のせいにして仲間内の同窓会名簿さえ明らかにしないような誤った運用をしながら、ビッグデータと称すれば企業は自由かつ無責任にどこまでも個人情報を利用できるからだ。日本企業が競争上不利になるのは、人権に対するこの節度のなさからである。

4)部落差別
 昭和22年5月3日施行の日本国憲法は、第14条1項で、「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と定めている。従って、この日から、人種差別・女性差別は憲法違反であり、認められないものになっている。

 しかし、*4-4のように、部落差別がなくならなかったので、2016年12月16日に部落差別解消推進法が公布・施行された。しかし、「部落差別禁止法」として差別を禁止したのではなく、「部落差別解消推進法」として罰則のない理念法にしたのは、差別の是非を曖昧にしている。差別は、差別される側に問題があるのではなく、差別する側に問題があるため、とっつきにくい云々ではなく、禁止してなくさなければならないものなのだ。

<名護市長選>
*1-1:http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/204719 (沖縄タイムス社説 2018年2月4日) [名護市長選投開票]地域の将来この1票に
 任期満了に伴う名護市長選は4日、投開票される。前回2014年の選挙とは多くの点で様相を異にしており、予断を許さない激戦となっている。立候補しているのは無所属現職の稲嶺進氏(72)=社民、共産、社大、自由、民進推薦、立民支持=と、前市議で無所属新人の渡具知武豊氏(56)=自民、公明、維新推薦=の2人。米軍普天間飛行場の辺野古移設問題と地域の活性化が最大の争点だ。稲嶺陣営が相次ぐ米軍ヘリ事故などを取り上げ、新基地建設阻止を前面に掲げているのに対し、渡具知陣営は辺野古問題にはほとんど触れず、経済振興をアピールする戦術に徹した。選挙期間中、辺野古移設の是非を正面から戦わせることはなく、両者が公の場に同席し有権者に対立軸を提示する場面もなかった。日米両政府が普天間飛行場返還に合意した1996年以降、市長選は今度で6回目。政府が埋め立て工事に着手してからは初めてである。有権者の思いは複雑だ。「反対しても工事は止められない」とのあきらめムードが広がっている一方、相次ぐ米軍ヘリ事故に対する怒りや、政府高官が言い放った暴言への反発は根強い。「決定権は与えられていないのに、自分たちだけが何度も選択を迫られるのはおかしい」と、現状への不満をぶつける市民もいる。選挙によって地域が分断され、ぎすぎすした空気が広がるのを懸念する声は多い。
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 いくつかの注目点を挙げたい。政府は「辺野古が唯一」と繰り返すだけで、「なぜ自分たちだけが…」という市民の切実な疑問に答えたことがない。政府の姿勢に対する疑問が投票行動にどう表れるか。選挙人名簿登録者数は1月27日現在4万9372人で、前回からおよそ2700人増えた。今度の市長選は18歳選挙権が施行されてから初めての市長選でもある。新たに有権者の仲間入りをした若者票がどこに流れるかも大きな注目点だ。前回選挙で自主投票だった公明党は今回、渡具知氏を推薦し、積極的に集票活動を行っている。公明党の推薦は渡具知陣営にとって大きなプラス要因である。ただ公明党県本は普天間問題について「県外・国外移設」の方針を堅持しており、組織票をどの程度まとめ切れているか未知数の部分もある。
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 選挙結果は、秋の知事選に連動し、辺野古埋め立て工事にも直接影響する。一市長選にもかかわらず、政府自民党が相次いで大物を投入し、総力を挙げて新人候補を支援しているのは、そのためだ。オール沖縄勢力にとっては、取りこぼしの許されない象徴的な選挙である。翁長雄志知事も危機感をあらわにし、現職候補の応援に全力を挙げた。市長選は地域の将来を決める大事な選挙。政策をよく吟味し、自分自身の考えで1票を行使してほしい。

*1-2:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-658830.html (琉球新報社説 2018年2月4日) 「本土理解困難」発言 いつまでも捨て石なのか
 安倍晋三首相が衆院予算委員会で、沖縄の基地の県外移設が実現しない理由について「移設先となる本土の理解が得られない」と述べた。裏を返せば沖縄県民の理解を得ることは全く念頭にないことを意味する。これが本音だろう。同じ国民に対する二重基準を放置することはできない。沖縄の基地負担軽減策のほとんどが県内移設だ。政府は米軍普天間飛行場の移設に伴い、名護市辺野古への新基地建設を進めている。琉球新報が昨年9月に実施した世論調査では80・2%が普天間飛行場の県内移設に反対した。沖縄の理解など得られていない。それにもかかわらず安倍政権は基地建設を強行している。国土面積の0・6%しかない沖縄に在日米軍専用基地の70%が置かれている。沖縄への基地集中は米統治下の1950~60年代に日本各地の基地が移転したためだ。56年に岐阜、山梨両県から海兵隊第3海兵師団が移転し、69年には安倍首相の地元・山口県岩国基地から第36海兵航空群が普天間飛行場に移転した。本土住民の反対運動に追いやられる形で、沖縄に基地が移転したのだ。しかし防衛省は冊子「在沖米軍・海兵隊の意義および役割」の中で「沖縄は(中略)朝鮮半島や台湾海峡といった潜在的紛争地域に近い(近すぎない)位置にある」と記し、沖縄の基地集中は地理的な理由だと主張していた。今回の安倍首相の見解で、それが欺瞞(ぎまん)であることが一層明白になった。これまでも閣僚らから沖縄の米軍基地駐留の根拠は軍事上ではなく政治的な理由であるとの見解が示されてきた。森本敏防衛相(当時)は2012年に普天間飛行場の移設について「軍事的には沖縄でなくてもよいが、政治的に考えると沖縄が最適地だ。許容できるところが沖縄にしかない」と述べた。中谷元・元防衛相も14年、沖縄への基地集中について「分散しようと思えば九州でも分散できるが(県外の)抵抗が大きくてなかなかできない」と述べている。73年前に沖縄で繰り広げられた地上戦は沖縄の住民を守ることではなく、国体護持、本土防衛のための捨て石作戦だった。政府は現在も本土への基地駐留を回避するために、沖縄を日米安保の捨て石として扱い、沖縄ばかりに犠牲を強いている。差別以外の何ものでもない。安倍首相には05年に小泉純一郎首相(当時)が述べた言葉を突き返したい。「沖縄以外のどういう地域に移転すればいいか。そういう点も含め、沖縄の過重負担は日本全体で考える問題だ」。政府は辺野古新基地建設を即座に中止すべきだ。そして沖縄にこれまで押し付けてきた基地の県外移設を進める必要がある。これ以上、沖縄を捨て石として扱い続けることは許されない。

*1-3:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-659269.html (琉球新報 2018年2月5日) 名護市長選「市民の選択の結果」 稲嶺さん、声絞り出す
 「残念ながら、辺野古が争点とならなかった」。2期8年の実績と沖縄県名護市辺野古の新基地阻止を訴えた稲嶺進さんは、約3500票差で3選に届かなかった。午後10時28分、渡具知武豊さんの当選確実がテレビで流れると、市大中の選挙事務所は沈黙に包まれ、カメラのシャッター音だけが響いた。稲嶺さんは報道陣のインタビューに「市民の選択の結果だ。真摯に受け止めないといけない」と言葉少なに話した。米軍キャンプ・シュワブ沖での護岸工事が進む中、今回の市長選は過去2回と比べものにならないほど厳しかった。新基地建設の是非に触れず、経済振興を前面に押し出す相手候補。選挙期間中、稲嶺さんは「基地で栄えても、裏には人の犠牲がある」「市民の良識を信じている」と強調し、建設阻止を懸命に訴えた。陣営には毎日、多くの人が訪れ、メッセージや手紙を寄せた。米軍属女性暴行殺人事件の被害者の父親からも、応援の差し入れが届けられた。「子どもたちに安心と安全を届ける」と勝利を信じて闘った。気温11度まで冷え込む中、稲嶺さんは翁長雄志知事や地元選出の国会議員、多くの支持者らと事務所の外で開票を見守った。落選が伝えられると、鼻を赤くし、涙を拭うしぐさを見せた。インタビューで「工事はまだ予定の1%にも満たない。止めることはできる。諦める必要はない」と強調すると、支持者は「そうだ」と声を上げ、拍手と指笛で応えた。

*1-4:https://digital.asahi.com/articles/ASL252SY7L25UTFK004.html (朝日新聞 2018年2月5日) 辺野古移設、首相「進めていく」 名護市長選の結果受け
 安倍晋三首相は5日朝、沖縄県名護市長選で、米軍普天間飛行場移設計画を事実上容認する新顔の渡具知(とぐち)武豊氏が現職の稲嶺進氏を破ったことについて「最も強いと言われている3選目の現職市長。破るのは難しいと思っていたが、本当に勝ってよかった」と述べた。首相官邸で記者団の取材に応じた。普天間飛行場の名護市辺野古への移設計画については「市民の皆様のご理解をいただきながら、最高裁判決に従って進めていきたい。市街地に囲まれている普天間基地の移設についてはその方針で進めていきたい」と述べた。今後は「落ち着いた政治」を求めるとし、「教育や福祉や環境にしっかりと力を入れてもらいたいという市民の声に応えていってもらいたい。市長が公約したことは国としても責任をもって応援する」とも強調した。

*1-5:https://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=90241 (南日本新聞社説 1018/2/6) [名護市長選] 新基地の容認ではない
 沖縄県名護市長選は、新人の渡具知武豊氏が3選を目指した現職稲嶺進氏を破って初当選した。一地方自治体の首長選挙が全国の注目を集めたのは、名護市辺野古への米軍普天間飛行場(宜野湾市)移設が最大の争点とみられていたからだ。稲嶺氏は移設反対を訴え、同じ立場の翁長雄志知事が全面支援した。渡具知氏は移設を推進する安倍政権の支援を受けた。渡具知氏が約3500票の差をつけて勝利したことで、移設に弾みがつくとの見方もあろう。だが、基地建設を容認する地元の民意が示されたと捉えるのは早計だ。稲嶺氏は2010年に初めて市長選に立候補した時から一貫して移設反対を主張しており、今回の選挙戦でも揺るがなかった。これに対し、渡具知氏は学校給食や医療費の無償化など生活支援を掲げ、移設問題への言及を避けた。安倍政権は今秋の知事選の前哨戦と位置付け、与党幹部や閣僚を相次いで応援に送り込んだ。地方選としては異例の総力戦である。その一方で争点をずらす戦術をとった渡具知陣営自身が、移設の是非を正面から問われれば勝ち目はないことを理解していたはずだ。共同通信の出口調査では、渡具知氏に投票した人のうち、3割超が辺野古移設に反対の立場を示した。稲嶺氏への投票者は反対派が87.5%を占めた。市民の意向は明らかだ。渡具知氏は当選後、移設に関し「国と県が係争中なので注視していく」と述べた。政府は昨年4月、辺野古沿岸部の埋め立て護岸工事に着手したが、県は差し止めを求めて法廷闘争に発展している。渡具知氏は裁判の行方同様に、市民の声にも十分に耳を傾けなければならない。渡具知氏は選挙戦で、「移設阻止にこだわり市民生活が放置されている」と稲嶺氏を批判した。この主張が一定程度受け入れられたのは事実だ。反対を続けても工事が進むことへの失望感や疲労感が、市民の間に漂っているとの指摘もある。浮かび上がるのは、米軍基地問題で市民が分断され、街づくりや行政サービスの議論が後回しにされている沖縄の自治体の姿だ。在日米軍専用施設の7割超を沖縄県に押しつけている日米安全保障体制のひずみであり、目をそらすわけにはいかない。政府は移設反対派の敗北で勢いづき、辺野古の工事を加速させる可能性がある。反対の声を踏みつぶすような強引な進め方をすれば、激しい反発が全国に広がることになろう。

<沖縄基地の役割>
*2-1:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-244831.html (琉球新報 2016年3月24日) <沖縄基地の虚実2>自衛隊まず対応 米軍は「支援」「補完」
 2015年5月、県庁で翁長雄志知事と初会談した中谷元・防衛相は、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設の必要性を力説し、中国公船の尖閣諸島周辺海域への侵入を挙げた。米海兵隊の重要性を説くものだった。現状では日本側だけで中国船に対処していると説明した上で「自衛隊や海上保安庁もこの対応が大変だ」と述べている。そして中谷氏はこう続けた。「先日の日米防衛相会談でも尖閣諸島でも安全保障条約におけるコミットをすると再確認した。沖縄は戦略的に極めて重要な位置にある」。つまり仮に現在よりも緊迫した尖閣有事が起きれば、米軍が即座に自動的に海兵隊を派遣し、奪還作戦を行うことを念頭に置いたとも受け取れる発言をしている。インターネット上などでは、尖閣有事が発生すれば海兵隊員が尖閣に急行し、中国軍を撃破、島を奪還する筋書きが示され、米海兵隊を沖縄に置き続ける根拠として挙げられている。一方、15年4月に改定された日米防衛協力の指針(ガイドライン)では、日本に対する陸上攻撃への対応をこう明記している。「自衛隊は島嶼(とうしょ)に対するものを含む陸上攻撃を阻止し、排除する作戦を行う一義的責務を負う。必要が生じれば、自衛隊は島嶼を奪還する作戦を実施する」。つまり他国から尖閣への武力侵攻に対しては自衛隊が一義的な責務を負うとしており、米軍が最初から軍事攻撃に加わることを想定していない。むしろ指針では米軍について「(自衛隊を)支援し、補完するための作戦を実施する」と定めている。13年4月、米議会上院が設置する米中経済安全保障調査委員会で「東・南シナ海における海洋紛争」に関する公聴会が開かれた。参考人の一人に米海軍シンクタンク「海軍分析センター」のマイケル・マクデビット上席研究員が招かれた。同氏は退役海軍少将で主にアジア太平洋の安全保障に精通し、ブッシュ政権時には国防総省でアジア政策を統括した。尖閣をめぐる日中の紛争を問われたマクデビット氏は、米政府が尖閣諸島を日米安保条約の対象だと公式に説明したことに触れ、「米国はこれらの島をめぐる防衛では日本側を『支援する責務』がある」と述べた。だが続けて、安倍晋三首相がその2カ月前に首都ワシントンでの講演で「尖閣について日本は米側にあれやこれをしてほしいと頼む意図はない。自国の領土は今も将来も自分で守るつもりだ」と述べたと強調し「ホワイトハウスは、尖閣防衛では日本が主導的役割を果たすことを明確にすべきだ」と続けた。その後、マクデビット氏はより露骨な考えを示した。「尖閣には元来住んでいる住民もおらず、米国にとって地理的な戦略的価値も、本質的な価値もない。ワシントンは無人の小島のことで中国軍と銃弾を交えることを強く避けるべきだ」。昨年改定された日米防衛協力の指針(ガイドライン)で、島嶼(とうしょ)防衛における米軍の役割が自衛隊の「支援」と定められる中、支援の具体的な内容は米政府から示されておらず、あいまいだ。尖閣問題で「米政府は無人の小島のことで中国軍と銃弾を交えることは強く避けるべきだ」との見解を示した米海軍分析センターのマイケル・マクデビット上級研究員(元海軍少将)は米側が担う「支援」の具体例として「監視、補給、技術指導」を挙げている。「抑止力」の意味について政府見解はこう定義している。「侵略を行えば耐え難い損害を被ることを明白に認識させることで、侵略を思いとどまらせる機能」。一方、元防衛官僚で内閣官房副長官補を務めた柳沢協二氏は「離島防衛は陸上自衛隊が主体で、米軍の役割はその支援に限られる。日本政府は『海兵隊は抑止力だから沖縄に必要だ』としているが、米国は日本の離島防衛で海兵隊を出す気はない。つまり抑止力じゃない」と指摘する。日米両政府が尖閣諸島を日米安保条約第5条の対象だと確認した際、日本政府は米国の支援という約束を「引き出した」(外務省幹部)と成果を強調した。一方、同条項は日本の施政権下の地域で日米いずれかに対する武力攻撃があれば「自国の憲法上の規定と手続きに従い共通の危険に対処する」と規定する。米国憲法の手続きに沿えば、大統領は例外措置があるものの、武力行使に際しては議会承認が必要だ。他国の「無人の小島」をめぐり、米国と並ぶ大国となった中国と戦火を交えることについて大統領が議会に承認を求めることが現実として起こり得るのか。米側ではその政治決断に一定の時間を要することは想像に難くない。県辺野古新基地建設問題対策課は「米海兵隊が尖閣に派遣される可能性が全くないとは言わない。ただ仮にその場合も、まずは海上保安庁や自衛隊による対応、外交交渉など長いプロセスを経てからになる」と指摘する。実際、森本敏防衛相(当時)は2012年に尖閣問題への対応はまず海保や自衛隊が行うとし「尖閣諸島の安全に米軍がすぐ活動する状態にはない」と明言している。県は「政府は普天間飛行場を県外に移設した場合、(日本本土から尖閣に飛行する)数時間の遅れが致命的な遅延となり得ると主張するが、実際のシナリオを考えれば、数時間では即応力は失われない」として、尖閣問題への対処は普天間を県内移設する理由にはならないと強調する。14年4月に東京で開かれた日米首脳会談。オバマ米大統領は安倍晋三首相との共同記者会見で、尖閣は日米安保条約の適用範囲だと表明し、併せて日本側に「この懸案の平和的解決の重要性を強調した。事態がエスカレートし続けるのは重大な誤りだ」と伝達したことも明らかにした。オバマ氏の“真意”を確かめる米メディアの記者から「明確にしたい。中国がこれらの島に侵入すれば、米国は武力行使を検討するのか」と質問を浴びせた。オバマ氏は気色ばみ、こう答えた。「他国が国際法や規則を破るたびに、米国は戦争しなければならないのか。そうじゃないだろう」

*2-2:http://www.news-postseven.com/archives/20121205_156435.html (NEWSポスト 2012.12.5) 中国尖閣占領も最後は陸上自衛隊の島嶼防衛部隊が奪還の予測
 漁民を装った人民軍兵士が上陸するなどして尖閣諸島が中国に占領された場合、日本の自衛隊はどのように動くのか。魚釣島を奪還できるのか。総理大臣が防衛出動を発令すると、陸海空3自衛隊が一気に動く。まず日中の尖閣攻防は航空戦で始まる可能性が高い。先陣を切るのは西部航空方面隊と南西航空混成団だ。元航空幕僚長の田母神俊雄氏は、こう予測する。「最初に出撃するのはF-15戦闘機。同機は世界で最高レベルの要撃戦闘機で、制空権の確保が主な任務。同時にF-2戦闘機が出撃する。こちらは強力な対艦ミサイルで中国海軍の艦艇を迎撃するのが役目だ。宮古島の隣の下地島には3000m級の滑走路があり、ここに整備支援力を展開すれば、尖閣上空まで10分でF-15やF-2を飛ばして制空権を握ることができる。下地島空港は当然地対空ミサイル部隊や基地防空部隊で防御も固められることになる。さらに半径400km以上先までの探知能力を持つ早期警戒管制機E767を投入して中国側の動きを先にキャッチする。戦闘機の戦闘能力を決めるのは、現代戦においては空中におけるリアルタイムの情報収集能力であり、E767を中心とする組織戦闘能力だ」。襲来する中国機はSu-27やJ-10などの最新戦闘機、早期警戒管制機KJ2000などが考えられるが、『尖閣を獲りに来る中国海軍の実力』(小学館刊)著者で元統幕学校副校長の川村純彦氏は、こう見る。「中国空軍は早期警戒管制機の機数が十分ではない上に、管制能力も空自より劣っており、実戦的経験も乏しい。強力な防空体制を構築して待ち構えている日本に航空戦を挑んでも勝ち目はない」。中国空軍は最近になって福建省寧徳市に秘密基地を作り、戦闘機を配備しているが、それでも専門家の見方は、この緒戦では日本が有利という声が多い。一方、海上自衛隊は8隻の護衛艦からなる第2護衛隊群(佐世保)を尖閣周辺海域に差し向ける。沖縄本島周辺で作戦展開中だった最新鋭の潜水艦2隻も南下。第5航空群(那覇)、第1航空群(鹿屋)からは、P3C対潜哨戒機各20機が一斉に飛び立つ。尖閣周辺では中国の漁業監視船に代わって中国海軍の艦隊が展開するだろう。だが、海自の優位は揺るがない。前出・川村氏はこう分析する。「艦艇の戦闘能力、乗組員の練度、情報指揮通信管制能力などでは、海上自衛隊が格段に優れている。特に海自の対潜水艦作戦能力は極めて高く、世界最高レベルにある。中国海軍の潜水艦は昔に比べて格段に静粛性を増しているが、それでも海自は発見できるだろう。東シナ海という海域の特性を考えても、海自が圧倒的に勝っていると断言できる」。海自の潜水艦が発射した魚雷が中国のフリゲート艦に命中。F-2の空対艦ミサイルも精度が高く、駆逐艦数隻から水しぶきと黒煙が上がるそのようにして自衛隊は中国艦隊をじりじり西側に押し返していくと予測される。そうなれば魚釣島に上陸した“漁民”は完全に孤立する。そこから先は陸上自衛隊の出番となる。沖縄を拠点とする第15旅団、特殊部隊を擁する中央即応集団などの精鋭部隊が続々と石垣島、宮古島や与那国島に結集する。魚釣島に逆上陸してとどめを刺すのは西部方面普通科連隊(佐世保)の約600名。島嶼(とうしょ)防衛のスペシャリスト部隊だ。「夜間、密かにゴムボートなどで接近、上陸、暗視スコープを携帯して奇襲する。小銃や機関銃のほかに迫撃砲なども携行。狙撃銃で遠方の敵を狙い撃つヒットマン顔負けの隊員もいる。ただし生身の人間がぶつかり合う陸戦なので、かなりの死傷者が出ても不思議ではない」(前出・田母神氏)。戦闘は1日で終わる。自衛隊の死傷者に比べ、中国側の死傷者が多いと予想される。

*2-3:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-495454.html (琉球新報 2017年5月14日) 自衛隊面積は復帰後4倍に 沖縄、先島諸島で新設の動き加速
 沖縄では1972年の復帰を境に、それまで配備されていなかった自衛隊が駐屯するようになった。記録に残っている1972年5月時点では施設数3、施設面積は166・1ヘクタールだったが、2016年3月時点では施設数41、施設面積は694・4ヘクタールとなり、面積は4倍に拡大した。隊員数も増加傾向にあり、特に防衛省が旧ソ連を念頭に置いていた「北方重視」戦略から、北朝鮮や中国を重視した「南西シフト」に転換して以降、沖縄での自衛隊基地の機能強化が一層鮮明になっている。陸上自衛隊那覇基地は10年3月にそれまでの混成団から旅団に格上げされ、隊員も1800人から2100に増員した。航空自衛隊那覇基地でも09年に、従来使用していた戦闘機をF4からより機動性の高いF15に切り替え、さらに16年には20機を追加し、計40機体制へと強化した。さらに近年では、先島での自衛隊基地新設が加速している。16年3月、先島で初となる陸上自衛隊の基地が与那国島にできた。レーダーによる沿岸監視活動を主任務とする「沿岸監視部隊」の約160人が常駐する。今後は宮古島でも、有事の際に初動を担う警備部隊とミサイル運用を担う部隊など計700~800人規模の陸上自衛隊が配備される計画があるほか、石垣島にも500~600人規模の新基地が建設される計画がある。県内米軍基地での自衛隊による共同使用も重ねられており、沖縄が日米双方の防衛力強化の拠点とされつつある。

<安保法と憲法>
*3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180206&ng=DGKKZO26526210V00C18A2KE8000 (日経新聞 2018.2.6) 経済教室憲法改正の論点を探る(上)統治構造改革の議論必須、国に継続的な議論の場を 曽我部真裕・京都大学教授(1974年生まれ。京都大修士(法学)。専門は憲法、情報法)
〈ポイント〉
○理論的な体系性や整合性にも配慮が必要
○専門的知識や議論の透明性確保欠かせず
○議論の場として憲法審査会の活用も一案
 自由民主党は昨年末、「憲法改正に関する論点取りまとめ」を作成して議論の方向性を示した。自衛隊、緊急事態、合区解消等、教育無償化(教育の充実等)の4項目について憲法改正の発議に向けて議論を進めていくとしている。こうした方向性に対してはまず、既に定着していたり法律で対応可能だったりすることから、憲法を改正する必要はないとの批判がありうる。確かにその通りである一方で、自衛隊の問題のように憲法の規定に曖昧な点があり、それを巡り長年争われてきた末に一定の収束をみた場合には、明文化のために改正すること自体がおかしいとは言えないのではないか。もっとも、この種の改正には性質上緊急性はないから、こうした改正論を提起することの政治的動機には注意が必要だろう。同じく法律により実現可能な教育無償化も、憲法に明記するからには純粋に象徴的な意味合いを超えて、将来にわたり一定の拘束力を確保するようなものにすべきだろう。曖昧な文言で、しかも別途無関係に無償化論議が進んでいるような現状では、別の政治的動機によるものでないことの説明が特に求められる。次に憲法改正にあたっては理論的な体系性・整合性についてもより一層の配意が必要だ。およそ法というものは内的な一貫性が求められる。憲法改正は国民主権の発露だからといって、この点が軽視されてはならない。とりわけ合区解消の項目は、参議院での一票の価値の大きな不平等を容認する一方で、参議院の権限が現状のままであることの不整合については、多くの論者の指摘するところだ。さらに改正の影響を十分に考慮する必要がある。この点、9条は現在のような文言であるからこそ、自衛隊の権限や規模の拡大に対する一定の歯止めになってきたのであり、現状を追認する文言改正がなされれば、それを起点としてさらなる拡大が危惧されるとの意見がありうる。現状を変えないという大前提で改正するのであれば、改正時の意思としてその点を明確にすべきだろう。改正原案の審議の際に明確にしたり、発議の際の付帯決議で明記したりするなどの工夫が求められる。これらの観点を踏まえれば検討の進め方についても現状には問題が多い。憲法改正論議に政府が表立って関与していないのは、憲法改正の発議権が国会にあること(憲法96条1項)が理由だろうが、それにより検討のための人材が不足することになっていないか。また議員立法に共通する問題だが、改正原案の柱になる内容が政党内あるいは政党間で議論される結果、国会の場では議論の経緯が十分に説明されず、前述の懸念が払拭されないことにならないか。専門的知識の調達と議論の透明性確保が求められる。以上、自民党の議論に即して筆を進めてきた。より視野を広げると、憲法に加え、国会法、内閣法などの憲法を具体化する法律(憲法付属法と総称される)、さらには慣習などで形成されている政治の仕組み(統治機構)については、様々な改革の論点がある。今回の改正論議が筋の良くないものであったとしても、これを契機に少なくとも統治機構についてはより良いものに向かって、憲法改正も含めて不断に改革を議論できるような変化が求められる。課題を大まかに示せば、まずは主に1990年代にそれなりの一貫性をもって進められた統治構造改革のフォローアップがある。これにより首相のリーダーシップが強化された。しかし一方で「ねじれ国会」の問題などリーダーシップの限界、他方で首相が権限をフル活用することに対する制度的な備えの脆弱性などが明らかになっている。これらの課題をどう受け止め、どのように改革を進めるのか。「統治構造改革2.0」が求められる。そこでの問題は、統治のエンジンとブレーキをどう最適配置するかだ。「ねじれ国会」の問題のほか国会改革が求められることはもちろん、裁判所、中央銀行、公共放送といった独立機関を制度的に強化することなども重要な課題となる。こうした文脈では、政界でも解散権の制限や憲法裁判所の設置問題などが実際に提案されている。解散権の行使に制限のないことは比較憲法的にみて異例であり、政党間競争の観点からは正当化の余地がないことも確かだ。他方で、解散権行使のメッセージにより与党議員の造反を抑制するといった機能も考慮すべきであり、要は統治機構全体の観点からの検討が必要だろう。ほかにも21世紀の日本社会の状況や各国の統治機構改革の水準に合わせて、どうアップデートしていくかが問われている。例えば(1)各国で「代表制の危機」が叫ばれる中で、選挙以外に国民意思を反映する回路をどう構築していくか(2)財政や環境の問題も含めて将来世代の利益を制度上どのように考慮すべきか(3)多様化し続ける個々人を国民として統合しつつ、各人が自分らしい人生を送れるような枠組みをどう構想するか――といった大きな問題を統治機構論の文脈でどう受け止めるのか考えていかなければならない。最後に、これまで述べてきたような憲法論議の改善に向けて、継続的な議論の場の重要性を強調したい。議論の枠組みや質は、議論の場のあり方にも左右される。憲法については日本国中の様々な場で議論されるべきなのは当然だが、こうした国民の声や専門家による問題提起を受け止めて制度改革のための憲法・法律の改正プロセスに入力したり、国民的な議論を喚起したりする場が、国の側に設けられる必要があろう。実は、行政府には憲法全体を所管する省庁はない。周知のように内閣法制局は9条をはじめとする政府の憲法解釈に決定的な役割を果たしてきたが、所掌事務上憲法を所管しているわけではない。前述のような意味での「場」に近いものでありうるのは、衆参各院に設けられた憲法審査会だ。憲法審査会は憲法改正原案などの審査のほか、日本国憲法のみならず、それに「密接に関連する基本法制」について「広範かつ総合的に調査を行」うことを任務とする(国会法102条の6)。憲法改正問題だけでなく、法令レベルの制度も含めて統治機構に関して海外諸国の動向や学界その他国内での問題提起を受け、現状を調査し論点を整理し、場合によっては改革案の問題提起をするといった役割を、憲法審査会のようなところで担うことも考えられてよいのではないか。もちろん、そのためには多くの課題があろう。例えば(1)前述のような国会法の規定がこうした活動の根拠として十分かどうか(2)専門性を持つスタッフや十分な活動を展開するための予算を確保できるかどうか(3)各議院の他の委員会との関係はどうか(4)党派的に利用されるのではないか――など枚挙にいとまがない。だが日本の統治機構改革は90年代の政治改革がリクルート事件を発端としたように、不祥事などを受けて偶発的に行われるのが常だ。より効率的にであれ、民主的にであれ、統治機構を改善しようとする不断の取り組みは軽視されてきた。今回の改憲論議を通じてこの問題点に光が当たり、こうした仕組みあるいは「場」が統治機構にビルトインされる必要性の認識が広がるのであれば、それなりの意義があったと言えるだろう。

*3-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13343426.html (朝日新聞社説 2018年2月3日)「安保法」訴訟 あぜんとする国の主張
 安全保障関連法をめぐる訴訟で、国が驚くような主張をして裁判所に退けられた。安保・防衛論議の土台にかかわる問題である。国民に対する真摯(しんし)で丁寧な説明が必要だ。舞台になったのは、安保法の成立をうけて現職の陸上自衛官が起こした裁判だ。自衛官は、集団的自衛権の行使は違憲との立場から、法が定める「存立危機事態」になっても、防衛出動の命令に従う義務がないことの確認を求めていた。一審の東京地裁は「出動命令が出る具体的な可能性はない」などと述べ、踏みこんだ審理をしないまま訴えを却下したが、東京高裁はこれを否定。「命令に反すれば重い処分や刑事罰を受ける可能性がある」として、自衛官が裁判で争う利益を認め、審理を差し戻した。あぜんとするのは、裁判で国が、存立危機事態の発生は想定できないとの立場を終始とり続けたことだ。安倍首相が北朝鮮情勢を「国難」と位置づけ、衆院選を戦った後の昨年11月の段階でも「国際情勢に鑑みても具体的に想定しうる状況にない」「(北朝鮮との衝突は)抽象的な仮定に過ぎない」と述べた。説得力を欠くこと甚だしい。ならばなぜ、長年の憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認し、強引な国会運営で安保法を成立させたのか。広範な疑問の声を抑えこみ、「国民の平和と安全なくらしを守り抜くため不可欠だ」と法の成立を急いだのは安倍内閣だ。ところが裁判になると、自らに有利になるよう「存立危機事態は想定できない」と主張する。ご都合主義が過ぎる。高裁が、国の言い分を「安保法の成立に照らし、採用できない」と一蹴したのは当然だ。どんな場合が存立危機事態にあたり、集団的自衛権の行使が許されるのか。安保法案の国会審議を通じて、安倍内閣は納得できる具体例を示さなかった。首相が当初、象徴的な事例としてあげたホルムズ海峡の機雷除去も、審議の終盤には「現実問題として具体的に想定していない」と発言を一変させた。一方で小野寺防衛相は昨年夏、米グアムが北朝鮮のミサイル攻撃を受ければ日本の存立危機事態にあたりうると、国会で前のめりの答弁をした。裁判での国の主張とは相いれない。ただ共通するのは、存立危機自体の認定が、時の政府の恣意(しい)的な判断に委ねられている現状の危うさである。判決を機に、安保法がはらむこの本質的な問題を改めて問い直す議論を、国会に望む。

<人権と憲法>
*4-1:https://www.jiji.com/jc/article?k=2018013100155&g=pol (時事 2018.1.31) 私権制限求める声続出=緊急事態条項-自民改憲本部
 自民党憲法改正推進本部は31日午前、今年初の全体会合を党本部で開き、大規模災害時の緊急事態条項について議論した。国会議員任期の延長などに加え私権制限も検討すべきだとの意見が相次いだ。推進本部幹部の間では、任期延長に限るべきだとの見解が大勢となっており、根本匠事務総長は全体会合後、「まだ議論が必要だ」と記者団に述べた。会合では「大災害や武力攻撃の事態を真剣に想定しないといけない」「理想は2012年の党改憲草案だ」などの意見が続出した。一方、野党などの理解を得るため、「党改憲草案が理想だが(改憲を)実現しないといけない」との声も上がった。

*4-2:https://www.nishinippon.co.jp/nnp/syasetu/article/380219/ (西日本新聞 2017年12月14日) 秘密保護法3年 監視機能の強化を早急に
 国民の知る権利を侵害しかねない特定秘密保護法が施行されて10日で3年が経過した。特定秘密に指定され、国民には知らされない文書や写真などは時間の経過とともに増え続ける。一体何が指定されているのか、指定は正しいか、運用に誤りはないのか-監視機能は弱いままだ。内閣府によると、指定された特定秘密は2014年末に382件18万9千点だったのが、15年末には443件27万2千点、16年末には487件32万6千点に増えた。特定秘密に指定される情報は防衛▽外交▽スパイ活動防止▽テロ防止の4分野で、漏らしたり不正に取得しようとしたりすると最高で懲役10年が科せられる。北朝鮮情勢の緊迫化などを背景に件数の増加は当然との見方もあろう。ところが、15年末までに指定された特定秘密の37%に当たる166件は件名だけで具体的な文書や写真がなかった。担当者の「頭の中」(知識や記憶)を指定した-などずさんな運用もあった。衆参両院に常設される情報監視審査会は秘密会にもかかわらず政府側が回答を拒む場面が目立つという。審査会は過半数の賛成で特定秘密の開示を求めることができるが、政府は拒否できる。運用改善を勧告しても強制力はない。そもそも審査の手掛かりとなる特定秘密指定管理簿は「開催した会議の結論に関する情報」など抽象的な表記が並び、どんな情報なのか想像もつかない。審査会は具体的表記への改善を求めているが、政府はゼロ回答を繰り返す。内閣府には独立公文書管理監が室長の情報保全監察室がある。官房長官あるいは法相が委員長の内閣保全監視委員会もあるが、「身内のチェック」には限界がある。特定秘密ではないが、森友・加計(かけ)学園問題や防衛省の日報隠蔽(いんぺい)問題など政策決定に関わる重要情報の開示を政府が拒んだり早々に廃棄したりする実態は目に余る。国の情報は国民のものであり、政府の独占物ではない。国会の監視機能を強化するとともに、第三者機関の設置を検討すべきだ。

*4-3:http://qbiz.jp/article/124575/1/ (西日本新聞 2017年12月14日) 日EU、データ移転で大枠合意 企業、域外持ち出し容易に
 政府と欧州連合(EU)が、互いの進出企業が現地で得た個人データを柔軟に域外に持ち出せるようにすることで大枠合意したことが14日、分かった。地域を越えた情報の自由なやりとりが可能となり、新サービスの創出が期待される。日欧は今月、経済連携協定(EPA)交渉も妥結しており、日欧間のビジネスが一層活性化しそうだ。政府の個人情報保護委員会と来日している欧州委員会のそれぞれの委員が14日に協議。来年3月までに最終合意を目指すことを確認した。日欧は15日午後に合意文書を公表する見通しだ。インターネットが普及する中で、膨大な個人データが国境を越えて行き交うが、EUは個人情報保護について十分な対応をしていると認定する国や地域以外へのデータ持ち出しを原則として禁じている。現状、日本はEUから認定されていないため、EU域内に支社や子会社を持つ日本企業が、住所や電話番号、クレジットカード番号などを含む顧客リストを日本の本社に送るのには煩雑な手続きが必要だった。今回合意すれば、簡単な手続きだけで従業員や顧客のデータを送ることができる。昨年夏に本格的に協議入りしたが、EU側は当初、法制度の違いを指摘するなど、早期合意は困難だとみられていた。14日の協議で、日本側がEU市民の個人データを慎重に取り扱うように配慮するガイドラインをつくることで折り合った。EUはスイスやアルゼンチンなど11の国・地域を認定済み。このままでは日本企業が競争上不利になるとして、産業界から対応を求める要望が出ていた。

*4-4:http://www.saga-s.co.jp/articles/-/160774 (佐賀新聞 2017.12.17) 部落差別解消推進法の周知を、施行から1年
 「部落差別解消推進法」の施行から1年となった16日、部落解放同盟大阪府連合会などの人権団体が「法律が十分浸透していない」として、大阪市北区のJR大阪駅前で、法律の概要を解説したチラシなどを配り周知を図った。インターネット上に同和地区の地名が書き込まれたりしている実態も訴えた。同法は「現在もなお部落差別が存在するとともに、情報化の進展に伴って部落差別に関する状況の変化が生じている」と明記。すべての国民が、部落差別解消への理解を深めるよう努めるとする基本理念を定めた。解放同盟大阪府連の村井康利書記長は「(差別解消への)具体化が課題。部落差別の問題はとっつきにくい印象を持たれるので、貧困対策などの地域・福祉活動と一体で取り組んでいきたい」と話した。

<軍事技術と基地>
PS(2018年2月11日追加):私も、*5のように、久間元防衛相の「①軍事技術の進展で現状の基地の存在について疑問」「②あんな広い飛行場もいらない」「③日米地位協定も改定すべき」という意見に賛成で、もっと小さな費用で合理的な防衛をすべきだと考える。なお、返還される広い敷地は、温暖で、近くに資源が眠り、宝石のように美しい自然に囲まれた島として、使い道はいくらでもある。

*5:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-663195.html (琉球新報 2018年2月11日) 「辺野古 基地いるのか」 久間元防衛相、軍事技術進展理由に
 米軍普天間飛行場返還を巡り、SACO最終報告やキャンプ・シュワブ沿岸部案の合意時に防衛庁長官を務めた久間章生元防衛相が8日までに琉球新報のインタビューに応じ「辺野古でも普天間でもそういう所に基地がいるのか。いらないのか」と必要性を疑問視した。を呈したものだが、新基地建設を推進してきた当事者として極めて異例の発言となった。普天間飛行場移設を巡っては、これまでも森本敏防衛相(当時)が2012年に「軍事的には沖縄でなくてもよいが、政治的に考えると沖縄が最適地だ」と述べるなど、閣僚から「政治的な理由」で沖縄に基地を押し付ける発言が展開されてきた。久間氏の発言は補強する格好で、波紋を広げそうだ。久間氏は軍事技術が向上しており、ミサイル防衛態勢の強化や無人攻撃機といった防衛装備品も進歩しているとして「辺野古でも普天間でもそういう所に基地がいるのか。いらないのか。そういう議論をしなくても安保は昔と違ってきている」と指摘した。その上で「」と面積の大きい飛行場建設も疑問視した。同時に自主防衛能力が高まっている現状を念頭にと主張した。在沖海兵隊の存在についても異議を唱えながらとの持論も展開した。辺野古新基地の現行計画にも理解を示した。一方、辺野古新基地について埋め立て方式に決まった理由について、外部からの攻撃を想定し「防衛庁(現・防衛省)で検討した」と証言した。当時の橋本龍太郎首相は撤去可能なメガフロート案を検討していたが、防衛省が基地を固定化する案を提示していたことになる。久間氏は1996年11月~98年7月、06年9月~07年1月に防衛庁長官、07年1月~同年7月まで初代の防衛相を務めた。


<踏みにじられた言論の自由>
PS(2017年2月11日追加):このブログを書いた途端、*6-1のメールが日経新聞読者応答センターから私のところに送られてきた。内容は、私がこのブログに掲載している日経新聞及びグループ各社の記事が、著作権の侵害に当たるということだった。しかし、私は日経新聞及び日経電子版の読者であるため、その記事を見ることができるのであり、ブログに掲載する日経新聞の記事には必ず新聞名と掲載日を記載しており、新聞記事を自分の著作と偽った事実は皆無だ。そして、私のブログ記事は、私が見ることのできる範囲の別の新聞記事も比較し、問題点を把握し、真実の所在を明らかにして、私が考える処方箋を書いているものだ。そのために掲載した記事は、記事・メディア・行政に対する批判やディスカッションのための参考資料もしくは証拠であり、記事の比較で私が使っているのは、公認会計士として培ってきた監査の手法であるため、ブログ全体の内容は私の著作物である。にもかかわらず、著作権法違反などとして私の言論を封じようとするのは、日本国憲法第21条1項「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」のうちの「言論の自由」に反する。なお、憲法は、あらゆる国内法の上位に立つため、憲法違反の法律をいくら作っても、それは違憲立法であり無効だ。
 さらに日経新聞は、*6-2のように、SNSやブログは政治のもろ刃の剣などとしているが、真実から遠い記事を書き続けて世論操作を行うため弊害が多いのはメディアの方であり、政治家は言われっぱなしで反論するツールがなかったが、インターネットの登場で反論の場を得たという方が正しい。また、仮に私のブログ記事を大衆迎合や世論操作だと言うのであれば、自分の記事の価値をどのくらいだと思っているのかと呆れてモノが言えない。まず、メディアが、真実ではなく、真実と認める相当の理由もない低レベルで興味本位の記事を書くのをやめ、20年後に読まれても恥ずかしくない記事(私が25年前に書いたアドバイスレターは、今でも通用する)を書いていれば、いちゃもんをつけて私のブログをあわてて消させる必要はなく、国民の意識も高まる筈なのだ。

*6-1:From: ◇読者応答センター
Sent: Friday, February 9, 2018 11:27 AM
To: hirotsu@hirotsu-motoko.com
Subject: 著作権侵害の件について
広津様
http://hirotsu-motoko.com/weblog/index.php
 広津様が運営されている上記ページに、日本経済新聞社及び日経グループ各社等が、著作権を有するコンテンツが数千件規模の多数、長期間にわたり転載されていることを、2018年2月までに把握いたしました。日経電子版の記事、写真、グラフイメージ等のデータは全て、日本経済新聞グループ各社および筆者が、著作権を有しております。弊社には、当掲示板設置者に記事転載を許諾した記録がございません。したがって同ブログ上での行為は、弊社著作権の侵害に当たると、認識しております。弊社が読者との契約に基づき、提供している製品・商品であるコンテンツが大量に無断転載され、無償での送信・複写が可能な状態となっていることは、弊社にとり大きな損失となります。貴台におかれましては、当該掲示板による弊社コンテンツ無断転載等の著作権侵害に関して、所要の対応をお願いします。具体的には全転載記事を速やかに削除していただけるよう請求いたします。対応がみられない場合、弊社としてもさらに踏み込んだ措置を、とらざるを得なくなりますことを、ご承知おきいただきたく存じます。以上、宜しくお願い申し上げます。

*6-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180210&ng=DGKKZO26746610Z00C18A2TM1000 (日経新聞 2018.2.10) SNSやブログ 政治のもろ刃の剣、「真意」発信/世論操作の危うさ ネット台頭(6)
 平成に入って普及したインターネットは、政治の風景も大きく変えた。誰もが気軽に発信し、共感し合える社会――。それは国境や人種、宗教の壁を超えた世界を切り開くとともに、政治の大衆迎合や意図的な世論操作を助長する危うさもはらんでいる。村山内閣の発足から間もない1994年8月、首相官邸が公式ホームページを開設した。通信できるパソコンの本格的な普及は翌年に基本ソフト「ウィンドウズ95」が発売されてからで、当時は永田町でもネット利用者はまだ少数に限られていた。現在では首相官邸のネット発信はユーチューブ、ツイッター、LINE、フェイスブックへと広がり、今年1月からインスタグラムでの写真や動画の配信も始まった。これとは別に安倍晋三首相も自身の名前で交流サイト(SNS)で積極的に発信している。立憲民主党の幹部は「野党もネットの活用に力を入れているが、残念ながら政府への注目度にはかなわない。海外を訪問して沿道の市民に大歓迎を受ける首相の動画などは確かにアピール力がある」と悔しげに語る。大手メディアは伝統的に権力の監視に力を入れ、時の政権幹部の言動に批判的な立場で報道する機会も多い。政府の直接発信は首相や閣僚らの生の姿を国民に伝えるのが売りだが、権力側に都合がよい場面だけを公表する要素があるのは間違いない。日本では選挙で物を言うのは「地盤(後援会)、看板(知名度)、カバン(資金力)」と長く言われてきた。政治活動とネットとの親和性はもともと高くなく、政党や国会議員らが90年代後半から公式サイトを立ち上げはじめても党の綱領や政策、プロフィルなどを掲載するだけの簡素なものが目立った。だが21世紀に入るとネット利用は次第に広がっていく。特に後援会組織が弱い都市部の政治家にとって、最近の活動を有権者に報告するのにホームページやメールマガジン、ブログは手間や経費がかからない便利なツールとして定着していった。こうした動きを一気に加速させたのが、2013年夏の参院選でのインターネットを使った選挙運動の解禁だ。街頭演説や選挙カーでの選挙区回りが主な活動なのは不変だったが、日ごろからのこまめな発信とフォロワー数の拡大が得票に結びつくことに気づいた政治家が多かった。日本の先をいく米国には、多くのヒントと教訓がある。08年の米大統領選でオバマ氏はネットを積極活用した。ボランティアへの呼びかけなど既存の組織に頼らない選挙戦術を展開し、献金をクレジットカードで「広く薄く」集める手法も導入した。16年の前回の大統領選では、トランプ氏が自身に批判的な既存メディアを攻撃し、自分の「真意」を伝える手段としてツイッターなどを活用した。大統領就任後も続く品位を欠いた発信には眉をひそめる米国人も多い。日本でもネットの台頭が政治にもたらす負の影響が目立ち始めている。野党の女性議員は自身のホームページに「デマについて」とのコーナーを設けた。自身の健康問題や家族関係、果ては東日本大震災の支援物資流用から北朝鮮との親密な関係まで事実に反する中傷が飛び交った。放置すると情報がどんどん拡散していくため、第三者の見解などを付けて反論することにした。ネットでは中国や韓国、在日外国人、社会的弱者らを過激な言葉で非難し、違う考えの個人や政治家、マスメディアを「反日」「売国奴」などと決めつけて一方的に非難する論調も飛び交っている。立教大学社会学部の木村忠正教授は「過激な言動を繰り返しているのはごく一部。ただ、それを見ている多数も『少数派の権利が過剰に守られている』といら立ちを感じている面がある」と指摘する。同時に「ネットという手段そのものに問題があるわけではなく、大事なのはどう利用するかという使い手の意志だ。今後は他国がサイバー攻撃的に日本の世論を誘導するような動きにも気をつけないといけない」と語る。自宅のパソコンで行政や政治家に関する情報を集めたり、自分の考えを表明したりする手段としてネットはすでに重要な役割を果たしている。「ふるさと納税」などを活用して特定の自治体を応援する仕組みも、ネット無しでは広まらなかっただろう。言論の自由、開かれた政治活動や公正な選挙は、民主国家を支える基盤だ。民意をつかみ、異なる意見にも耳を傾けて調整する政治の役割は、次の時代にも決して変質させてはならない。そのためにはネットが持つ長所と短所をよく理解し、上手に活用するための社会的なルールを確立していく必要がある。

<原発再稼働は高コストの不用な挑戦>
PS(2018年2月11、12、13、14日追加):*6と時を同じくして、*7-1のように、原子力規制委員会の更田委員長が佐賀県唐津市を訪れ、「阿蘇山の巨大噴火が起きる可能性は十分に低い」と述べられたそうだが、「十分に低い」というのは「0でない」ということである。しかし、原発が事故を起こせば、第一次産業は壊滅し、そこに住むこともできなくなるため、事故の確率は0でなければならない。従って、原発再稼働は、他のあらゆるエネルギーよりも高コストで、近くに住む人の人権・財産権を脅かす不用な挑戦だ。なお、この論調を「風評被害」「世論操作」などと言う人がいれば、そちらの方がリスク管理に欠ける人である。
 なお、*7-2には、更田委員長が、①「再稼働を判断する主体は規制委とは別」としていること ②「少しでもリスクを語る方向に向けたい。私にあのような質問が出るのは、経済産業省、九電の努力が理解されていない表れだ」と述べたこと などが記載されているが、②のように仮に経産省や九電が努力したとしても、リスクが0にならなければ意味がない上、①のように再稼働判断の主体と安全性判断の主体は別として無責任体制にしている点は、地域の安全や産業等の広い意味でのリスクを真剣に考えている人から見ると、経産省・規制委・九電の形だけのごまかしに過ぎない。そのため、伊万里市長の欠席は、再稼働に反対して佐賀県知事らとけんかしたくないことが理由だと思われ、ここは広島県同様、長崎県の住民に頑張って欲しい。
 なお、埼玉県も原発事故の被害を受けており、それを忘れて原発再稼働を求める意見書を可決・提出したというのはあまりに愚かで、私も、*7-3の意見に全く同感だ。

*7-1:https://ryukyushimpo.jp/kyodo/entry-663519.html (琉球新報 2018年2月11日) 玄海原発の火山灰対策視察 規制委員長、知事と会談
 原子力規制委員会の更田豊志委員長は11日、九州電力玄海原発(佐賀県玄海町)を訪れ、火山灰の対策設備などを視察した。佐賀県の山口祥義知事らと視察後に会談し、熊本県・阿蘇山の影響について「巨大噴火が起きる可能性は十分に低い」と述べた。九電は3号機を3月、4号機を5月に再稼働させる方針だ。更田氏は非常用ディーゼル発電機の吸気口に取り付けた火山灰の侵入を防ぐフィルターや、3、4号機の中央制御室などを見て回った。会談は佐賀県唐津市で実施し、同原発の半径30キロ圏に含まれる福岡、長崎の両県幹部や市町の首長らも出席したほか、九電の瓜生道明社長が同席した。

*7-2:https://mainichi.jp/articles/20180212/k00/00m/040/094000c?fm=mnm (毎日新聞 2018年2月11日) 玄海原発:3首長、規制委に反対訴え「リスク説明不十分」
 原子力規制委員会の更田(ふけた)豊志委員長が11日、九州電力玄海原発(佐賀県玄海町)から半径30キロ圏内にある佐賀、長崎、福岡3県の8市町の首長らと意見交換をした。16日に核燃料の装着が始まる予定の3号機は3月中旬以降、再稼働の見通し。再稼働に反対する4市長のうち、出席した3市長が「リスクの説明が不十分」と改めて反対を訴えた。意見交換は、立地自治体や周辺地域との意思疎通を強化する目的で、全国の原発で初めて実施。更田委員長らが同原発の火山灰対策などを視察後、佐賀県オフサイトセンター(佐賀県唐津市)で開催した。自治体側は佐賀県の山口祥義(よしのり)知事と岸本英雄・玄海町長の他、再稼働に反対してきた長崎県の松浦、平戸、壱岐の3市長も参加。黒田成彦・平戸市長が「ゼロリスクではないと住民に説明しても理解されない。避難道路の整備を国に要望しても無視されている」と指摘した。出席しなかった佐賀県伊万里市長も反対している。更田委員長は「再稼働を判断する主体は規制委とは別」と回答。終了後、報道陣に「少しでもリスクを語る方向に向けたい。私にあのような質問が出るのは、経済産業省、九電の努力が理解されていない表れだ」と述べた。

*7-3:http://www.kahoku.co.jp/editorial/20180213_01.html (河北新報社説 2018年2月13日) 原発再稼働意見書/目に余る住民軽視、議論軽視
 東京電力福島第1原発事故の風化もついにここまで来たか。誰もがそう感じたに違いない。埼玉県議会が原発再稼働を求める意見書を可決、提出した一件だ。地方議会が機関意思を表明することに異論はない。それでもなお、国民議論が生煮えの再稼働問題で真っ先に一方へとかじを切ったのが埼玉県議会であることには、驚きと落胆を禁じ得ない。原発被災者の多くが埼玉県の人々に感謝しているからこその率直な感想だ。事故直後から原発避難者を官民一体で支援してきたのが埼玉県だった。加須市には福島県双葉町の行政機能と住民が丸ごと身を寄せた。県内では今も福島から3300人が避難生活を送っている。手続きそのものに瑕疵(かし)はなかったとはいえ、議論は十分だったのだろうか。自民党系会派を中心に議員11人が意見書案を提出したのは、昨年12月の定例会最終日だった。即日採決が行われ、賛成多数で可決された。県民からすれば、住民排除の密室で意に沿わない決定がなされたに等しい。定例会が閉じてから初めて意見書可決の事実を知った人々が、連日のように抗議行動を続けているのが何よりの証拠だ。地方自治法は、地方公共団体の公益に関する事項について国会や関係行政庁への意見書提出を認めている。つまり地方自治に資するかどうかが意見書の眼目となる。法の趣旨に従えば、意見書はその内容も不可解だった。原発再稼働と同時に「避難のための道路や港湾の整備や避難計画の策定支援」を求めているからだ。事故に備えた港湾整備や避難計画策定は、少なくとも海も原発もない埼玉県には無関係の事項だろう。また意見書は、原発再稼働を求める理由に経済効率の向上を挙げた。経済効率こそが埼玉県にとっての「公益」であり、そのために他県は原発を再稼働すべきなのか。暮らしの便利を謳歌(おうか)するだけで、「コンセントの向こう側」で起きた過酷事故の現実や、原発立地自治体の苦悩を理解しようといない埼玉県議会の不見識を問いたい。意見書を取りまとめたという議員は、総合経済誌の取材に対して「そもそも(意見書を)提出してどうなるのかという疑問もある」と述べていた。自治体の議決機関として驚くべき自覚の欠如と言わざるを得ない。確かに関係行政庁に応答の義務はないのだが、一方で提出したら撤回できないのが地方議会の意見書だ。それ故、徹底した議論や世論の賛否が割れる事項では慎重な取り扱いが求められる。しかし今回は、意見書提出を端緒として県民の抗議行動が起こった。事の順序が逆であり、この混乱を埼玉県議会はどう収束させるつもりなのか。住民軽視、議論軽視の代償は、あまりにも大きい。

<日本におけるEV普及の遅れについて>
PS(2018年2月13日追加):*8に、「①インド政府は、2030年までにすべての自動車販売をEVにするとの目標を掲げた」「②インド・タタ自動車のブチェックCEOは、スマート・エナジー・ゾーンに小型セダンやバスなどEVを6台展示し、年内にもEVの発売を始めたいと語った」「③EV販売で先行するマヒンドラも様々なEVの試作車を公開した」等が書かれており、インド政府は合理的な判断を行って自国の自動車産業を育てようとしていることがわかる。
 それに対する朝日新聞のコメントは、「i. 広い国土で充電設備の整備が必要」「ii. インドでは停電が多く石炭火力発電の割合が6割と高いので、EV拡大で石炭火発が増えれば二酸化炭素排出量は減らない」「iii. EVは高価になりがちなので、成長途上のインドで販売が増えるかも未知数」である。しかし、充電設備の整備はガソリンスタンドの整備よりずっと安価で何処にでも設置でき、インドは太陽光が豊富なので住宅・駐車場等への太陽光発電の設置で石炭火力は減らすことすらできる。また、EVは、HVよりずっと部品点数が少ないため安価に製造できる。従って反論が非論理的すぎ、このような反論を続けてスズキがHVの量産に資金を投入すれば、原発への固執と同様、無用な寄り道をして各国の自動車会社に敗退することになるだろう。


    インド、グレーターノイダの「オートエキスポ」で展示されているEV

*8:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13356989.html (朝日新聞 2018年2月13日) インド、国策EVの風 普及へ税制優遇で後押し
 拡大するインドの自動車市場で電気自動車(EV)への注目が集まっている。首都ニューデリー郊外のグレーターノイダで開かれている自動車ショー「オートエキスポ」では、EVの普及を掲げるインド政府の意向を受け、各社が試作車などを次々と公開。普及への期待は強まるが、課題も多い。
■広い国土、充電設備課題
 「今こそ、インドがEV大国となるようあらゆる推進策に注力していく」。ショーの会場を訪れたインド・タタ自動車のブチェック最高経営責任者(CEO)はこう語り、EV化を進める姿勢を強調した。タタは会場に「スマート・エナジー・ゾーン」を設け、小型セダンやバスなどEVを6台展示。ブチェック氏は「年内にもEVの発売を始めたい」と語った。オートエキスポは2年に1回開かれ、部品メーカーも含めて1300社が参加するインド最大の自動車ショーだ。インドの2017年の新車販売は400万台を超え、ドイツを抜き世界4位。成長市場で各社はEVに注目する。EV販売で先行するインドのマヒンドラ・アンド・マヒンドラも様々なEVの試作車を公開。バスやSUV(スポーツ用多目的車)、三輪車のほか、渋滞をすり抜けられる超小型車など8台を展示した。韓国の現代自動車は19年にもEVをインド市場に投入予定で、EV「アイオニック」を展示した。背景にはインド政府の方針がある。昨年、2030年までにすべての自動車販売をEVにするとの目標を掲げた。昨年7月から税制優遇でEVを後押しし始めた。電気モーターで走るEVの税率は12%に抑え、モーターとエンジンを併用するハイブリッド車(HV)は43%に引き上げられた。ニティン・ガドカリ道路交通相は、朝日新聞の取材に「インドにとって原油の輸入に依存するのは財政的に大きな問題だ。大気汚染も深刻で、排出のないEVが最適だ」と話す。ただ、EV普及には課題も山積みだ。広い国土での充電設備の整備が必要で、そもそもインドでは停電が多い。石炭火力発電の割合が6割と高く、EV拡大で石炭火発が増えれば、二酸化炭素の排出量は減らない。さらにEVは高価になりがちで、成長途上のインドで販売が増えるかも未知数だ。インド自動車工業会は、新車販売に占めるEVの割合は30年時点で3~4割にとどまるとみる。政府内でも、30年までの目標達成は不可能だとして見直しを求める声がある。
■日系はHVも重視 目前の規制に対応
 HVで先行する日系メーカーは、インド政府のEV推進策への対応を迫られる。新税導入後、HVの売れ行きは軒並み落ちている。ただインドでは20年以降相次いで、排ガス規制や燃費規制が強化される。目先の規制をクリアするには「HVが現実的な解」(自動車アナリスト)として、当面はHVを重視する構えだ。インド最大手でスズキ子会社のマルチ・スズキはショーにEV試作車を出品し、20年に市販する。HVの量産も急ぐ。モディ首相の地元州に工場を建て、20年からHVを生産する。マルチ・スズキの鮎川堅一社長は「EVは突然の動きで、国も業界もまだ地に足がついていない」としたうえで、「インド政府の強い考えには応えていくが、EV化がすべてではない。HVも一つのソリューションだ」と話した。トヨタは昨年12月、20年代前半にインドでEVを売り出す方針を発表した。トヨタの17年のインドでの販売台数は前年比6・7%増の14万台。台数はまだ少ないが、今後も成長が見込めるとみて環境規制にも対応する方針だ。EVやHVが注目されるが、市場の中心はエンジン車で、各社は戦略車を投入している。ホンダは八郷隆弘社長がショーに出席。「インドはホンダにとって重要な市場の一つ」と述べ、新型の小型セダン「アメイズ」を世界で初公開した。バイクから自動車への乗り換え需要をねらう。2017年の新車販売は17万9千台で前年比10・9%増。アメイズをてこにさらなる飛躍をねらう。成長市場での競争は激しい。韓国の現代自動車グループ傘下の起亜自動車と中国の上海汽車集団は、いずれもインドに参入することを表明。生産準備を進めている。

<鉄軌道について>
PS(2018年2月13、18日追加):*9-1のように、今まで鉄道のなかった沖縄で、「那覇⇔浦添⇔宜野湾⇔北谷⇔沖縄⇔うるま⇔恩納⇔名護」のルート案を、有識者の検討委員会が推奨決定したそうだ。私は、鉄道を導入するのなら、那覇市内などの既開発地域は地下鉄がよいとしても、それ以外は、海が見えるように鉄道を作って景色を眺めながら走れるようにするのがよいと考える。しかし、乗用車だけでなくバスやトラックも電動化するため、道路を3階建てにして最上階はバスなどの公共交通機関のみ走らせれば、鉄軌道でなくても環境汚染や渋滞はなくなるし、3階部分に鉄道を敷設することも可能だ。また、沖縄は太陽光が豊富で自然が売りの離島であることから、スイスのマッターホルンの麓の町ツェルマットのように(https://www.zermatt.ch/jp/zermatt-matterhorn 参照)、自然エネルギーとEVの導入を素早くやれば、それを見て感心する国内外の観光客は多いだろう。
 このような中、*9-2のように、JR九州は鉄路削減をしようとしているが、どうしても貨物や乗客を増やすことができず、送電線を敷設して収益を上げることもできず、数人の高校通学者のためだけにがら空きの電車を走らせているのなら、廃線にしてバス会社が必要な時間帯に小型EVバスを走らせる方法もある。しかし、収益は全体として上がるものであるため、「“鉄道カンパニー”が大赤字のままでは、鉄道以外の事業の発展もない」というのは正しくない。なお、*9-3のような自動運転が在来線やバスに導入されれば損益分岐点はさらに下がるが、それらをどう組み合わせるかは、何をどこに配置して何で稼ぐのかという近未来の総合計画があって初めて決定できることだ。
 なお、*9-4の琉球新報2月18日に、「大手スーパーの複合商業施設拡張展開にあたり、県道38号をまたぐ空中通路構想が浮上している」と書かれているが、県道38号を3階建にし、2階を乗用車・トラック、3階を公共交通機関専用道にして、大手スーパーの駐車場を2階部分、公共交通機関の停車駅を同3階部分に設置すれば、既にある土地を有効に利用して渋滞をなくすことができ、水害に強くて便利な街づくりができる。東京では渋谷駅ビル内の東急百貨店がそうで、私は東急百貨店はそこしか行かない。そして、県道の1階部分は、歩行者・二輪車専用道と、ブーゲンビリアなど本土から見れば珍しい沖縄の花咲く緑地公園にするのがよいだろう。


台湾の鉄道と地下鉄路線  台湾の高速鉄道        2018.2.12西日本新聞 

*9-1:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-655103.html (琉球新報社説 2018年1月29日) 鉄軌道の推奨ルート 総合交通体系の視点必要
 沖縄本島の鉄軌道導入に向けて、県が設置した有識者の検討委員会が推奨ルート案を決定した。那覇から浦添、宜野湾、北谷、沖縄、うるま、恩納を通り、名護に至る「C派生案」だ。過度に自動車に依存した沖縄の交通体系は、もはや限界に来ている。鉄軌道だけではなく、バスやモノレール、タクシーなどと連携した総合的な公共交通体系の観点から包括的に議論し、今後の計画を進めていくべきだ。沖縄鉄軌道計画検討委員会(委員長・森地茂東京大名誉教授)は那覇と名護を1時間で結ぶ七つのルート案を比較検討してきた。(1)利便性(2)採算性(3)事業費と建設期間(4)施工性と環境への影響-を基に、推奨ルートを絞り込んだ。事業費は約6100億円と最安ではないものの、集客地域の広さや乗客数から最良と判断した。慢性的な渋滞は沖縄が抱える積年の課題だ。経済的損失、時間的損失に加えて、観光イメージの悪化、環境や健康への負荷など多方面に悪影響を及ぼす。本紙が今月から始めた連載「交通改革-未来への地図」では、渋滞による弊害が多角的に報じられている。那覇市の混雑時の自動車の走行速度(2012年度)は時速16・9キロと全国ワーストで、14年度はさらに悪化した。車社会は加速しており、17年の自動車保有台数は113万台と30年間で2倍以上に増えた。レンタカーも年々増え3万5千台に達している。一方で、鈍化したとは言え、バス離れも深刻だ。16年度の輸送人員は約2600万人。30年間で3分の1に減った。陸上交通全体に占める鉄道・バスの人員輸送の割合は沖縄はわずか3・2%で、全国平均29・9%の10分の1だ。自家用車が9割と極端に高い。鉄軌道の整備には渋滞解消への期待も大きい。そのためには他の交通機関との有機的な連結も欠かせない。検討委は基幹の鉄軌道から分かれる支線は路線バスの活用を提言している。次世代型路面電車(LRT)やバス高速輸送システム(BRT)なども同時に考えるべきだ。推奨ルートで懸念されるのは、大半が地下トンネル方式になっている点だ。用地買収期間の短縮という利点はあるかもしれないが、建設コストが膨らみ、実現性が遠のいてしまうのではないか。国は採算性の厳しさを理由に沖縄の鉄軌道整備に慎重姿勢だ。しかし、国などの公共予算で整備し、鉄道会社は運行に専念する「上下分離方式」がある。検討委の試算では、上下分離だと開業後30年で黒字化できる見通しだ。整備新幹線は上下分離で進められている。沖縄は戦後、国鉄の恩恵も受けていない。戦後補償の一環として、上下分離で国が関わるべきだ。検討委は2月から意見を公募する。多くの県民の声を反映した鉄軌道にしてほしい。

*9-2:http://qbiz.jp/article/127888/1/ (西日本新聞 2018年2月12日) 鉄路削減に諦めと困惑 JRダイヤ改正 対象列車ルポ 「慣れた学校通いたい」「乗客少なく仕方ない」
 3月17日のダイヤ改正で、1日117本の運行本数削減などを計画するJR九州。沿線自治体から改正見直しの要望を受け一部の修正方針を固めたが、削減の大枠は変わらない見込みだ。運行取りやめが予定されている列車に乗車し現状を見るとともに、利用者や沿線住民の声を聞いた。1日午後9時半すぎ、宮崎県都城市のJR都城駅。待合室に利用客の姿はまばらだ。「最終列車がなくなったらどうすればいいのか…」。吉都線の列車を待っていた都城工業高2年の柿木大地さん(17)は戸惑いを隠さない。バレーボール部の練習後、帰りはいつもこの時間だ。ダイヤ改正で列車がなくなれば親の迎えが必要になる。「困ったなという感じ」とつぶやき、列車に乗り込んだ。午後9時45分、記者を含めて17人を乗せた2両編成の列車は、吉松駅に向けて動きだした。車内は多くが制服姿の学生で、飲み会帰りとみられるサラリーマンの姿もちらほら。乗客の1人に声を掛けると、都城泉ケ丘高の定時制に通う男子生徒(16)だった。通学に利用しており、この列車がなくなれば、通信課程がある宮崎市内の高校への転校も視野に入れなければならないという。「親は深夜に働いており送迎は難しい。環境が変わるのは不安だし、慣れ親しんだ学校に通い続けたい」と訴えた。JR九州はこの最終列車について、定時制高校生の通学を考慮し、学校のある平日のみ、運行を継続する方針に転換した。小林駅で大半の乗客が降り、車内は記者を含め3人に。えびの駅で塾帰りの女子高生が下車すると、終着駅の吉松まで乗車したのは記者だけだった。
   §    §
 翌朝、午前10時5分吉松発の都城行き減便対象列車にも乗車した。通院で利用する高齢女性、近隣の街に遊びに出かける女子高生5人組、パチンコをしに行くという高齢男性…。車内には空席が目立つ。入院中の妹の見舞いに行くという鹿児島県霧島市の境田タエ子さん(80)は「いつもは夫の運転する車で行く。こんなに乗客が少ないのでは、減便も仕方ないのかなと思う」と話した。鉄道は生活の足だけでなく、観光資源としての役割も大きい。吉松−鹿児島中央を1日2往復する観光列車「はやとの風」は平日の定期運行を取りやめる計画だ。午後3時1分の吉松発列車の乗客は、2両編成の車内に老夫婦や訪日外国人客など記者を含めて18人。停車駅のJR嘉例川駅周辺で町おこしに取り組む団体の山木由美子委員長(70)は「1日1往復でもいいから、平日も維持してもらいたい」としつつも、「『はやとの風』に頼らずに観光客に来てもらえる取り組みも考えないといけない」と前を向いた。
●鉄道部門の効率化が必要 古宮洋二・JR九州常務鉄道事業本部長
 ダイヤ改正の狙いや見直しの方針などについて、JR九州の古宮洋二常務鉄道事業本部長に聞いた。
−大規模な減便を含むダイヤ改正の狙いは。
 「JR九州発足後、列車本数は1・8倍に増えたが利用者は1・3倍にとどまる。線区別に見ると利用者が減っているところもある。各エリアでのローカル線の意義を確認しながら、効率的に列車を動かすように検証した結果だ」
−不動産など好収益事業で補填(ほてん)し、鉄道を維持すればよいとの意見もある。
 「“鉄道カンパニー”が大赤字のままでは、鉄道以外の事業の発展もない。株式上場が全く関係ないとは言わないが、民営化後30年間ずっと効率化に取り組んできた。増収施策や効率化で鉄道部門を良くしていく役目がある」
−自治体などからは見直しを求める声が大きい。
 「必要であれば検討する。(ダイヤ改正後の)時刻表の発表時期を考えると今の時点で大きな見直しは難しく、一部修正になると思う。改正後も足りない部分は対応する」
−自治体とのコミュニケーション不足だったようにも映るが。
 「沿線自治体それぞれに多様な意見があり、非常に難しいところ。最大公約数を見つけるのがダイヤ改正であり、どこに重点を当てるかは会社の判断だ」
−どう理解を得るか。
 「定期的に地元の方々とつながりを持っていくことは必要と思っている」

*9-3:http://qbiz.jp/article/127896/1/ (西日本新聞 2018年2月13日) JR九州が自動運転研究に着手 19年度にも試験運行 大量退職に備え
 JR九州が在来線への自動運転の導入に向けた研究を進めていることが分かった。早ければ2019年度中の試験運行を目指す。自動運転技術の活用で乗務員の負担を軽減し、人材不足や将来的な大量退職などに対応したい考えだ。同社によると、部署を横断したプロジェクトチームを1年ほど前に編成し、メーカーも交えながら自動運転技術について研究。発車から停車までを自動で行い、乗務員は安全の確保などを担う仕組みを想定している。導入線区については「検討中」としているが、投資効果が期待できる都市部を視野に入れているとみられる。背景には人材確保が厳しさを増していることや、旧国鉄時代に採用した社員の大量退職を控えていることがある。自動運転の導入により、高齢の運転士や運転士の資格を保有しない社員の活用が期待できるという。事故や故障など異常時の対応や、国が省令で定めた技術基準との整合性など課題はあるが、古宮洋二常務は「チャレンジすることが社員の意欲向上にもつながる」と期待を寄せる。国内では東京の新交通システム「ゆりかもめ」や神戸新交通の「ポートライナー」などが既に無人化。九州でも福岡市営地下鉄が自動運転を導入しているが、JR各社が実施した事例はない。

*9-4:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-667384.html (琉球新報 2018年2月18日) サンエー西原シティに「空中通路」構想 県や町などと議論
 2020年9月の完成に向けて関係自治体などが協議している沖縄県内最大手スーパー、サンエーの複合商業施設「西原シティ」(西原町)の拡張展開について、既存の施設に隣接して増築する0・45ヘクタールの部分と西原町役場跡地に新築する1・64ヘクタール部分を、県道38号をまたぐ「空中通路」でつなぐ案が持ち上がっている。14日に那覇市の県市町村自治会館であった2017年度第3回県都市計画審議会で県から中間報告があった。ただ道路規制上の問題もあり、空中通路の実現について県都市計画・モノレール課の担当者は「あくまで構想段階」との認識を示している。8月の県都市計画審議会で拡張展開の妥当性が承認されれば、事業者側が増築に向けて着工できるよう県や西原町は各種手続きを進める。

<長所を活かした沖縄の発展>
PS(2018.2.15追加):*10-1のように、久間元防衛相や森本元防衛相が、辺野古や普天間基地の必要性を疑問視しておられ、私も海上にある日本の国境を護るためであれば、それに近い離島や半島に陸海空の自衛隊を配置するのが合理的だと考える。そして、現在、日本海は対馬に陸海空1セットあり、東シナ海は、(反対も多いが)宮古・与那国・石垣島に自衛隊基地が整備されようとしている。従って、沖縄本島にある広大な米軍基地や自衛隊基地は必要最小限まで整理・統合し、その跡地を使って、*10-2のような翁長知事の「アジアの中心に位置する地理的優位性とソフトパワーを生かした味諸国(東南アジア諸国)との経済交流や連携」「教育の充実」を行うのが最もよいだろう。そして、*10-3のようなスマートシティーを作るためにも、既存施設のない広い敷地の存在は好条件である。
 なお、沖縄の長所は、*10-4のように、平均寿命が女性7位と長いことだ。男性が36位に落ちたのは、死因別の死亡率で肝疾患が全国一高い値を示していることから、夜中に集まって泡盛などを飲む習慣が原因で、糖尿病が多いのは地元産の砂糖をよく食べるからだろう(女性の平均寿命が最も長い長野県は、食生活の改善や健康診断に本気で取り組んできたのだ)。そのため、私は、沖縄は、東南アジア諸国や日本国内を視野に、空港近くに、温暖で環境の良い沖縄で人間ドック・医療・リハビリなどを行うことができるような施設を作ってはどうかどうかと考える。それには、*10-5に書かれているような介護人材はじめ医療関係の専門人材を確保することが課題となるが、沖縄なら、国内だけでなく海外の人材も広く使えるのではないだろうか。


              2017.12.13琉球新報        2018.2.15日経新聞
                平均寿命          スマートシティーの可能性

*10-1:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-664764.html (琉球新報社説 2018年2月14日) 久間元防衛相発言 新基地の正当性揺らいだ
 米軍普天間飛行場返還を巡り、名護市辺野古の新基地建設の正当性を揺るがす発言である。普天間飛行場の返還合意時に防衛庁長官を務めた久間章生元防衛相が「辺野古でも普天間でもそういう所に基地がいるのか。いらないのか」と必要性を疑問視した。琉球新報のインタビューに応えた。久間氏は軍事技術が向上し、ミサイル防衛態勢の強化や無人攻撃機といった防衛装備品の進歩などを挙げ「あんな広い飛行場もいらない」と飛行場建設に疑問を投げ掛けた。重い問い掛けだ。「辺野古が唯一」と繰り返し、別の選択肢を検討しない日本政府の硬直した姿勢が沖縄との対立を生み、解決を遅らせている。思考の転換が求められる。例えば、民間のシンクタンク「新外交イニシアティブ(ND)」は、米軍の運用を見直せば、新基地を建設する必要はないと提言している。これまで政府は、普天間飛行場を県外ではなく県内に移設する理由として地理的、軍事的理由を挙げていた。しかし、2012年に森本敏防衛相(当時)はまったく違う発言をしている。「例えば、日本の西半分のどこかに、三つの機能(地上部隊、航空、後方支援)を持っているMAGTF(マグタフ=海兵空陸任務部隊)が完全に機能するような状態であれば、沖縄でなくてもよい。軍事的に言えばそうなる」と述べている。軍事的理由から県外移設は可能という認識を示した。だが、森本氏は「政治的に考えると沖縄が最適地だ」と述べている。返還合意時の官房長官だった故梶山静六氏は、普天間飛行場の移設先が沖縄以外だと「必ず本土の反対勢力が組織的に住民投票運動を起こす」との書簡を残している。今国会で安倍晋三首相も「移設先となる本土の理解が得られない」と答弁した。これらの発言から、政治的な理由で沖縄に基地を押し付けていることは明白である。他府県の意見は聞くが、沖縄の民意は無視するというなら差別でしかない。一方、久間氏は、普天間返還交渉で米側が「辺野古に造れば(普天間を)返す」と提案し、政府もこれに「乗った」と証言している。なぜ辺野古なのか。米側は1966年に辺野古周辺のキャンプ・シュワブ沖に飛行場と軍港、大浦湾北沿岸に弾薬庫建設を計画していた。辺野古の新基地はV字滑走路、強襲揚陸艦が接岸できる岸壁が整備され、辺野古弾薬庫の再開発を加えると、過去の計画と酷似している。普天間飛行場の移設に名を借りて、基地機能を再編・強化しているのである。政治的理由で辺野古に新基地を押し付け、基地の整理縮小で合意した日米特別行動委員会(SACO)最終報告に反する行為に、正当性があるはずがない。

*10-2:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-664933.html (琉球新報 2018年2月14日) 「県民に大きな不安と衝撃」 米軍機トラブル頻発受け 翁長知事が県政運営方針
 沖縄県議会2月定例会が14日開会し、翁長雄志知事が2018年度の県政運営方針を発表した。米軍機の不時着や部品落下が頻発していることに触れ、「県民に大きな不安と衝撃を与えている。事件や事故、それに対する日米両政府の対応は今後の日米安全保障体制に大きな影響を与える恐れがある」と指摘した。米軍普天間飛行場の移設に伴う辺野古新基地建設について「辺野古に新基地は造らせないということを引き続き県政運営の柱に全力で取り組んでいく」と語った。普天間飛行場について「固定化は絶対に許されない。残り約1年となった『5年以内の運用停止』を含めた危険性の除去を政府に強く求めていく」と強調した。経済面では「アジアの中心に位置する地理的優位性と沖縄が誇るソフトパワーなどの強みを生かし、味諸国との経済交流に向けた連携を強化する」とした。子どもの貧困対策については「基金を活用し、市町村における就学援助の充実などを促進し、国と連携し、県立高校内の居場所設置などを引き続き取り組む」と語った。

*10-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180215&ng=DGKKZO26889260U8A210C1MM8000 (日経新聞 2018.2.15) ベトナムにスマート都市 官民で中国に対抗、住商など、生活インフラ4兆円開発
 日本の官民がベトナムで最先端技術を結集したスマートタウン(総合2面きょうのことば)を建設する。自動運転バスや、IT(情報技術)を活用した省エネルギー機器を備えた街を2023年までに完成させる。住友商事、三菱重工業など20社以上と経済産業省が参画。交通渋滞や大気汚染に悩むアジア各国に新たな都市のモデルを示す。中国の影響力が高まる東南アジアで、親日ぶりが際立つベトナムとの関係も深める。日本企業が発電所や鉄道のような個別の大型インフラだけでなく、身近で最先端の生活インフラを「街ごと」輸出できることを示す。住商が中心となり、地元不動産大手のBRGグループと提携して開発。日建設計が街全体をデザインする。首都ハノイの中心地から北に車で15分ほどの土地310ヘクタールを開発する。第1期は18年10月にも着工し、19年末までに7000戸のマンションと商業施設などを整備する。中間所得層を対象に1戸1000万~1500万円程度で販売する。このほど地元当局から40億ドル(約4400億円)の投資認可が下り、まず住商やBRGが10億ドルの初期投資をする。排ガスを出す自動車とバイクの利用を減らすため、三菱重工が自動運転バスを提供するほか、電気自動車の充電基地を設ける。パナソニックがスマート家電、KDDIがスマートメーターなどのITシステムを導入し、省エネにつなげる。住宅には太陽光発電設備や生ごみのリサイクル装置も設置する。第1期の周辺の土地も開発する。計画地にはハノイの都市鉄道2号線が25年をめどに延伸される見込み。鉄道などの交通インフラや駅ビルを含む事業規模は「4兆円近くに達する」(日本企業関係者)とされ、日本企業を中核とした海外の都市開発で最大規模となる。各社が調達する資金に加え、日本の政府開発援助(ODA)やベトナムの補助金を活用する。ベトナムは世界有数の親日国。中国と南シナ海の島々の領有権を巡って対立しており、日本に接近しているため、日本企業は投資しやすい。日本政府にとっても、アジアへの影響力を拡大する中国に対抗するうえで、ベトナムとの関係を強化する意味は大きい。中国は広域経済圏構想「一帯一路」を掲げ、価格競争力を強みにアジアでインフラ受注を拡大している。これに対し、安倍晋三政権は安全や環境にも配慮した「質の高さ」で受注する考えで、今回のハノイのスマートタウンも安倍政権の方針に合わせた開発とする。アジアでは都市への人口集中が急速に進んでいる。国連によると、都市人口は15年までの10年間で30%増と世界全体の伸び率(24%)を大幅に上回る。25年までの10年間でも21%増と高水準の伸びが続く見込みだ。交通渋滞や劣悪な住環境などの問題を抱え、各国では先端技術を活用したスマートタウンへの関心が高い。シンガポールの官民もマレーシアなどでスマートタウンの開発を手掛けている。日本企業はアジア各地で都市開発に参入している。インドネシアで事業費約2兆3千億円に上る大規模開発の一部に三菱商事が参加するといった例が出てきたが、多数の有力企業が先端技術を持ち寄る例はなかった。

*10-4:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-630080.html#prettyPhoto (琉球新報 2017年12月13日) 〝長寿沖縄〟復活遠のく 平均寿命、沖縄は女性7位、男性36位 順位後退に歯止めかからず 厚労省発表
 厚生労働省は13日、平均寿命などをまとめた「2015年都道府県別生命表」を発表した。沖縄県の平均寿命は女性が87・44歳となり、全国7位で前回調査(10年)の3位(87・02歳)から順位を落とした。男性も全国36位の80・27歳で、前回の30位(79・40歳)から下がった。男女とも全国と比較した平均寿命の延びが鈍く、順位後退に歯止めがかかっていない。「健康長寿・沖縄」の面影はすっかり薄れている。平均寿命は厚労省が人口動態統計や国勢調査などを用いて5年ごとにまとめている。最も高かったのは男性が滋賀県(81・78歳)、女性が長野県(87・67歳)だった。最も低いのは男女とも青森県で、男性78・67歳、女性85・93歳。男女とも全都道府県で前回より平均寿命が延びた。沖縄県は日本復帰後の1975年調査からデータがあり、女性が05年調査まで全国1位を維持したが、前回の10年調査で3位となり初めて順位を落とした。男性も2000年調査で4位から26位に急落し、その後も下降傾向が続く。順位後退の理由に挙げられるのが、平均寿命の延び悩みだ。10年と比較した寿命の延びは全国平均が男性1・18、女性0・66だったのに対し、沖縄は男性0・87(都道府県別41位)、女性0・42(同42位)と全国値を下回った。死因別の死亡率では、沖縄の男女の肝疾患が全国一高い値を示したほか、女性の糖尿病も全国一だった。同様な傾向は一貫して続いており、過度のアルコール摂取や肥満率の高さとの関連などが指摘されている。前回調査の結果を受け、沖縄県は14年に「健康長寿おきなわ復活県民会議」を立ち上げるなど、長寿日本一の復活を掲げてきたが、道のりは険しくなっている。

*10-5:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-656400.html (琉球新報社説 2018年1月31日) 介護報酬改定 専門人材確保が課題だ
 高齢者の自立を促して生活の質を高め、介護費用の抑制を図る。理想的な一挙両得策に見えるが、国の狙い通りに高齢者の要介護度の改善を促すには、自立型を支援する介護施設と専門知識を備えた職員が必要だ。人材の確保は大きな課題である。厚生労働省が3年に1度の介護報酬の見直しの内容を公表した。リハビリによって高齢者の自立支援や重度化防止を進める事業所に配分を重点化するのが特徴だ。終末期の高齢者が増えていることを背景に「みとり」へ対応する介護施設への報酬を加算する。高齢者の自立支援に努力した事業所に報いる狙いは評価できる。現在の仕組みでは要介護の状態が悪化すれば費用も増える。逆に質の高いサービスで高齢者の状態が改善すると、事業所は減収となる。これはおかしいとの指摘は以前からあった。実際に福井県や岡山市など一部自治体は、成果を上げれば報酬を払う独自の仕組みを既に導入している。ただ、今回の「報酬」加算は1人当たり月30~60円で、認定も複雑だ。即、効果が出るとは考えにくい。さらに高齢者の生活を支える介護予防やリハビリ、状態の回復には、自立支援型ケアの手法の確立が必要となる。それにはさらに専門性を持つ人材が必要だ。しかし、介護分野の人材不足は深刻化している。介護職員の平均給与は月約22万円と全業種より10万円以上安く、離職率も高い。人手不足が職員の負担増を招く悪循環になっている。逆に家事代行などの生活援助サービスは報酬を引き下げる。ただ、独居などでヘルパーらによる家事援助で生活を維持できている高齢者も多い。個々の事情に応じた援助も必要だ。今改定では訪問介護のうち生活援助について、研修を受けた幅広い人材の参入を図る。介護福祉士など専門性のある職員は身体介護に集中してもらうためだ。介護の質を維持するための研修なども欠かせない。介護報酬は介護サービスを提供する事業者に支払われる報酬で、いわば価格表だ。利用者の自己負担は1~2割で、残りを40歳以上が支払う保険料と国、地方の税金で賄っている。報酬を引き上げるとサービスの充実が期待される半面、利用料や保険料は上がる。今年4月の改定では全体で0・54%の引き上げが決まり、国の必要財源は約140億円増える。現役世代や国、自治体の財政を圧迫することになる。団塊の世代が全て75歳になる2025年の超高齢社会に向けて、いかに介護費用の膨張を抑えつつ、介護ニーズの増加に対応するかは難しい課題だ。しかし、介護保険の趣旨が社会全体で介護を支えることである以上、知恵を絞って持続可能な介護制度へ向け、対策を模索するしかない。

PS(2018年2月21日追加):*11-1のように、沖縄県では農畜産業の労働力に関して約6割の自治体が労働力不足としており、農業特区の外国人材は活動範囲の広さなどで関係者の期待が大きく、JA沖縄中央会の担当者は「特区の導入は必要で、特区に期待している」と述べたそうだ。一方で、*11-2のように、ロヒンギャ難民約5300人は、バングラデシュとの国境地帯に留まっており、赤十字やUNHCRが支援物資の配布を始めているそうだが、あの状態でミャンマーに帰れるわけがない。そのため、私は、農畜産業・林業・食品加工・織物などは、適切な指導者の下では、教育がなく日本語を話せなくてもできることも多いため、これらの難民を受け入れて雇用すればよいと考える。子は日本の法律に従って義務教育から始め、親子とも望む人には中等・高等教育を受けさせられる準備が、*11-3のような国際大学の設置や教育の実質無償化によって既にできつつある。

*11-1:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-669143.html (琉球新報 2018年2月21日) 経済:労働力不足、農業も深刻 沖縄、6割の自治体「不足」 花卉、野菜、キビ…外国人受け入れに期待も
 沖縄県内の農業・畜産業の労働力に関して都市部以外の市町村を中心に、約6割の自治体が「労働力が不足している」と認識していることが、県の調査で20日までに分かった。品目別では花卉(かき)、野菜、サトウキビなどで不足し、12月~3月の冬春期に不足人数が多かった。他の期間にも常に100人以上が不足するなど、農業の労働力不足の深刻さが浮き彫りとなっている。県が導入を検討する国家戦略特区の農業の外国人材の受け入れに関し、県農林水産部が調査した。調査は昨年12月から今年1月、県内41市町村と農業関係11団体を対象に実施。市町村の労働力不足については、29市町村が回答し、18市町村(62%)が「不足している」と答えた。農業団体の調査で農業生産に関わる労働力不足人数を月別に見ると、12月から3月までの冬春期に最大282人が不足していた。沖縄は県外が寒くなる冬春期に農業生産が活発で、とりわけ季節性があり通年雇用が困難なことから労働力の確保が難しいとみられる。年間を通じて100人以上が不足していた。花卉や野菜・キビなどの「耕種分野」は145の経営体で外国人材の雇用を要望しているが、一方で「畜産分野」の要望は8経営体にとどまった。畜産では海外の伝染病などの侵入を懸念し、受け入れに慎重な声もある。アンケートでは他に、外国人材の採用に関し、言語や生活習慣の違い、農業技術の流出などの課題が挙がった。労働力の確保には前向きな意見もある半面、国内の若手就労者、後継者などへの支援充実に注力すべきとの指摘もあった。現在、県内で受け入れが進む外国人技能実習生と比較して、農業特区の外国人材は活動範囲の広さなど関係者の期待も大きい。JA沖縄中央会の担当者は本紙の取材に「(特区の導入は)当然、必要だ。かなりの人数で労働力が必要となり、特区に期待している」と述べた。別の農業関係者は「外国人材に慎重な人もいるだろうが、潜在的な需要はまだまだある」と話した。

*11-2:https://ryukyushimpo.jp/kyodo/entry-669168.html (琉球新報 2018年2月21日) ロヒンギャ5千人が国境に 支援なく取り残されとUNHCR
 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)報道官は20日、ミャンマーでの迫害から逃れたイスラム教徒少数民族ロヒンギャ約5300人が隣国バングラデシュとの国境地帯にとどまっていると明らかにした。昨年8月以降、65万人以上のロヒンギャが難民としてバングラデシュに逃れた。帰還への準備作業も始まったが、国境地帯のロヒンギャには支援が行き届かず、事実上、取り残された状態だという。UNHCRによると、バングラデシュ南東の国境の無人地帯に約1300世帯がとどまっているのを確認。女性や子どももおり、赤十字やUNHCRが支援物資の配布を始めたという。

*11-3:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-663617.html (琉球新報 2018年2月12日) 初の式典、伝統織物が花を添え 沖縄科学技術大学院大の学位授与式に「読谷山花織」 アカデミックドレスフードに
 2012年の開学後、24日に初めての学位授与式を開く沖縄科学技術大学院大学(OIST、沖縄県恩納村)はこのほど、読谷山花織事業協同組合(池原節子理事長)と共同で、学位を授与される学生が身に着けるアカデミックドレスのフード部分を製作した。フード部分を織った我喜屋さんは「アカデミックドレスはなじみが薄く、製作イメージが湧きにくかった」と振り返りつつ、羽織った学生たちの姿を見て「素晴らしいドレスになり、感激した」と喜んだ。フードは、学位授与式で学長が学生に掛け、修了証書と同様の役割を果たす。学生がデザインし、同組合に所属する我喜屋美小枝さん(63)が織って完成させた。池原理事長は「読谷山花織は海外から600年前に伝わってきたと言われている。これを身に着け、世界を股にかけて活躍してほしい」と激励した。9日、フードをデザインしたOIST学生自治会のレショドコ・イリーナさん(30)=カザフスタン出身、ブリエル・山土林(サンドリン)さん(40)=フランス出身、渡辺桜子さん(30)=東京都出身=が読谷村役場に石嶺伝実村長を訪ねて、報告した。学位授与式の式典を担当する大学院事務局マネージャーのウィルソン・ハリーさんは「OISTは40カ国から学生が来ている。沖縄の伝統を入れたかった」と話した。学生側からも「卒業後も沖縄との絆をずっと持っていきたい」(レショドコさん)などの声が上がった。フードはOISTカラーの赤い糸で織り、読谷山花織の特徴の「金花(じんばな)」、「風車花(かじまやーばな)」と科学の象徴「正弦波」が織り込まれている。

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