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2018,05,23, Wednesday
(1)皇后の養蚕と現代科学の融合はいかが?
2014.11.3産経新聞 2016.2.25毎日新聞 できた光る繭と絹糸 日本の絹のスカーフ 絹シフォン、友禅染のスカーフ 明治時代の養蚕は、良質の生糸を大量に輸出して「外貨獲得産業」となり、日露戦争の軍艦はじめ近代兵器は絹糸の輸出による外貨で購入されたといっても過言ではなく、日本の近代化(=富国強兵)の礎を築いた。そのため、皇居の養蚕は、*1-1のように、明治天皇の后だった昭憲皇太后が産業奨励のために始められ、歴代の皇后に受け継がれて、現在は美智子皇后がやっておられ、来年の天皇陛下の退位後は、雅子妃殿下に引き継がれるそうだ。 しかし、雅子妃殿下に引き継がれるのなら、明治時代と同じやり方を引き継ぐのではなく、この際、*1-2の「遺伝子組み換えの光るカイコ」を、*1-3のような飼育方法で年間を通じて飼育し、品質が高くて色あせしない生糸から、上品でおしゃれなスカーフを作り、「Empress Masako」というブランドで皇居に来た人に差し上げると、記念になってよいと思う。 外国の賓客や日本に赴任して挨拶に来た外交官やその婦人などは、驚いて世界にこの生糸を宣伝してくれることは間違いなく、単に同じことを続けるのではなく日本の産業を振興することが、昭憲皇太后はじめ明治時代の人が意図したことだったと思われる。そして、もちろん紅型・友禅染・江戸小紋・その他の柄で、他の一般業者も暗いところでライトが当たると光るスカーフなどを、高すぎない価格で、オリンピックまでに作れば、売れる大きなチャンスになるだろう。 (2)種子や製造方法の特許権について 上の蚕の品種や育て方に特許権があることには誰も異論がないと思うが、*2-2のように、種子法が廃止されたのには驚いた。何故なら、これまで作られた種子には特許権があり、日本の農業の50%以上は良質な種子で支えられており、良質な種子は国民の財産だからだ。 しかし、品種改良を国主導ではなく民間が行うようになると、地域毎に異なる気候に合わせた種子ができる筈はない。何故なら、佐賀県のコメが高温障害でできにくくなった時に種子を改良して2~3年で特A評価を得られる品種ができたのも、近年のトマトやカボチャやとうもろこしが非常に美味しいのも、地域の地道な品種改良があってのことで、地域ブランドになる少量品種の品種改良を民間企業はやらないからである。 さらに、*2-3のように、種苗の自家増殖を原則禁止するなど、農水省は種苗会社の利益のために農家をやりにくくしているように見える。何故なら、例えば、みかん農家は、より美味しい品種を作ろうと工夫を重ね、農家が作った美味しい品種も多数あるからで、優良品種の海外流出を防ぐことが狙いなら、新品種を作った人が特許権をグローバルにとりやすくすればよいからだ。そのため、農水省は世界特許を容易に取れるシステムを世界で作るべきなのであり、種苗の自家増殖を原則禁止するのは、日本の農家をやりにくくする逆の政策である。 また、*2-1のように、日本の平均気温はこの100年で1.19度上昇したそうで、日本農業新聞は「温暖化への備えに、新技術や資材を生かそう」と呼び掛けている。確かに、新品種の開発やヒートポンプ・ハウス内環境制御装置の利用などの資材の進歩は素晴らしいが、私は気温が高くなることは日本の農業にとってはマイナスばかりではないと考える。何故なら、東北の冷害はなくなり、北海道の米も美味しくなったし、高温でこれまでの作物が作れなくなった地域はより暖かい地域の作物に転作したり品種改良したりすれば、獲れる作物の種類と量が増えるからだ。消費者は、多種の作物が近くで獲れた方が嬉しいのである。 (3)農業と環境 森林を壊してコンクリートの工業地帯を作ると、光合成をしないためCO₂(二酸化炭素)を吸収してO₂(酸素)を作る機能がなくなり、土壌がないため保水力もなくなり、環境に悪いことは明らかだ。それに対し、森林を壊して農業地帯を作った場合は、生物多様性は少なくなるが、光合成をするためCO₂を吸収してO₂を作る機能は残り、土壌があるので保水力も維持される。これが、工業と農業の環境に与える負荷の差である。 さらに、*3-2のエコファーマーのように、田んぼの生き物調査を行い、天敵を活用する農業を普及し、有機肥料を使って、農薬や化学肥料を減らして土づくりを進める農業者は、より生物多様性を保全し、環境を壊さない農業を行うことができ、生産物の味や栄養にも深みがある。そのため、エコファーマーの認定を受けると交付金が支払われる制度になっていたのだが、今回の農薬や化学肥料の削減を求めない「グローバルGAP」への誘導は、この点で後退なのだ。もちろん、輸出するにはグローバルGAPの認証が必要だが、環境保全型で価値ある農産物を作るエコファーマーも優遇すべきだろう。 そして、*3-1のように、持続可能な社会づくりを促すためには、産業における農業の役割は重要で、そのゴールとなる目標は「飢餓と貧困をなくす」「全ての人に健康と福祉を」「質の高い教育をみんなに」「陸と海の豊かさを守る」「クリーンなエネルギーを」「つくる責任・つかう責任」などで、直面する課題への共通認識がある。私も、これらは大切なことだと思うが、日本政府の農協改革は事業弱体化の方向で進められており、改悪政策は問題だと考える。 また、メディアは「新自由主義」を批判の言葉としてよく使うが、「新自由主義」の明確な定義は不明だ。現代では、日本国憲法にも記載されているとおり、「自由」は紛れもなく重要で、不自由や拘束される方が良いと思う人はいない。また、市場原理は、競争に基づく現在の経済現象を説明するツールであり、これを批判すれば共産主義や配給制がよいのかということになるが、これらは頑張って働く動機付けをなくすため歴史的に失敗してきた経済制度である。さらに、「格差」のみを取り上げて問題視する人もいるが、全員が上に合わせることは不可能であるため、全員が下に合わせて貧乏になれば格差はなくなるが、それでよい筈はない。 なお、市場原理の中にあっても、原発などで環境を破壊すれば、*3-3のように、取返しのつかない大きな損失を負って持続可能でなくなり、経済は破綻する。従って、環境は、市場原理と併立して、(“外部不経済《経済学用語》”にしておかず)環境維持コストを経済に組み込んで維持すべきなのである。 <皇后陛下の養蚕と現代科学の融合> *1-1:http://www.yomiuri.co.jp/national/20180521-OYT1T50073.html (読売新聞 2018年5月21日) 皇后さま、最後の「給桑」…雅子さまが引き継ぎ 皇后さまは21日、皇居内の紅葉山御養蚕所で、蚕に桑の葉を与える「給桑きゅうそう」をされた。養蚕所では日本純産種の「小石丸」など3種類の蚕を飼育。皇后さまは小石丸に桑の葉を与え、葉を食べる音に耳を澄まされていた。この日は、蚕が繭を作る場所となる「藁蔟わらまぶし」を編む作業が公開され、皇后さまは「リズムが出ると楽しいですね」と話されていた。皇居の養蚕は明治天皇の后きさきだった昭憲皇太后が始め、歴代の皇后に受け継がれており、来年の天皇陛下の退位後は皇太子妃雅子さまが引き継がれる。 *1-2:https://www.sankei.com/life/news/141103/lif1411030034-n1.html (産経新聞 2014.11.3 16:40) 遺伝子組み換えカイコ 「光るドレス」、医療に応用も 養蚕業の再興へ研究本格化 カイコの遺伝子を組み換えて、従来の絹糸に代わる新たな需要を創出する研究が本格化している。「光るドレス」や医療材料など幅広い分野で応用が期待されており、大量飼育を目指す実験も始まった。衰退の一途をたどってきた養蚕業が、遺伝子組み換え技術で再興する可能性が出てきた。 ◆日本に強み カイコは「カイコガ」というガの仲間。幼虫は桑の葉を食べて体長7センチほどに成長し、口から長さ計1・2キロほどの絹糸を出して繭を作る。野生の「クワコ」が先祖で、約5千年前に中国で家畜化されて分かれた。絹糸は高級品として重用され、明治以降に日本の主要な輸出品となり近代化を支えた。だが戦後は化学繊維の普及や安価な中国製の台頭で養蚕業は衰退を続けている。こうした中、農業生物資源研究所(茨城県つくば市)は2000年、卵に穴を開け、他の生物の遺伝子を注入することでカイコの遺伝子組み換えに初めて成功した。遺伝子が生殖細胞に組み込まれると、次世代の一部は全ての細胞に目的の遺伝子が組み込まれたカイコとなり、その性質が代々、受け継がれる。カイコは餌を探す能力がなく、成虫は飛べないので逃げ出すことはなく、扱いやすい。短期間で成長し、タンパク質でできた絹糸を効率よく作るため、目的の遺伝子を組み込めば、優れた性質の絹糸やタンパク質を大量に得られると期待される。同研究所の瀬筒秀樹ユニット長は「日本は養蚕業が盛んだったので、飼育のノウハウや研究の蓄積があるのが強み」と強調する。 ◆11色の絹糸 同研究所ではクラゲやサンゴなどの蛍光タンパク質の遺伝子をカイコに組み込むことで、緑、赤、オレンジなど11色の光る絹糸を作製。青色発光ダイオード(LED)などの光を当てると美しく光るのが魅力で、婚礼用や舞台用などのドレスが試作された。また、遺伝子組み換えで光沢のよい極細の絹糸を開発。クモの遺伝子を注入することで、切れにくいクモの糸のような強い絹糸を作ることにも成功した。組み換え技術の手法も改良が進んでいる。従来は目的の遺伝子をゲノム(全遺伝情報)のどこに入れるか制御できず、効率が悪かったが、近年は特定の遺伝子を破壊したり、別の遺伝子に置き換えたりする「ゲノム編集」の研究が進展し、多様なカイコを効率良く作れるようになった。遺伝子組み換え動物は生態系に影響を与える恐れがあるため通常、厳重に閉鎖した環境でしか飼育できない。これでは農家への普及は難しく、大量生産できない。このため同研究所は国の承認を得て今年7月、組み換えカイコを養蚕農家と同様の状態で飼育し、問題がないかを確かめる実験を始めた。 ◆麻薬も探知? 組み換えカイコは絹糸から取り出したタンパク質の利用も進んでおり、血液検査薬や化粧品が既に実用化している。細くて血栓ができにくい人工血管や手術糸などの開発や、電子部品のコンデンサーに使ってオーディオ機器の音質を高める構想もある。成虫を生きたまま利用することも考えられる。雌のフェロモンに反応する雄の遺伝子を別の遺伝子に置き換えると、雄は臭いや光、熱に反応して羽をばたつかせる。この性質を利用すれば、例えば麻薬の探知に役立つ可能性がある。麻薬探知犬のような訓練や世話は不要だ。食品のカビや有害物質を検知したり、人間の呼気をかがせて病気を見つけたりするアイデアも。マウスなどに代わる実験動物として、ヒトの遺伝子を入れたカイコを使う研究も進んでいる。養蚕農家は数が減少している上、高齢化で後継者難を抱えている。瀬筒氏は「養蚕業を再興させるには、組み換えカイコの実用化を急ぐ必要がある」と指摘する。米国や中国の研究水準も高く、競争は激化しているという。今年6月には旧富岡製糸場(群馬県富岡市)が世界文化遺産に登録された。日本の絹産業が見直される中、養蚕が最先端の技術で復権できるか注目される。 *1-3:https://www.sankei.com/region/news/160728/rgn1607280005-n1.html (産経新聞 2016.7.28) 山鹿市で無菌の大規模養蚕工場起工式 無菌状態で蚕を育て高品質のシルク原料を生産する養蚕工場の起工式が27日、熊本県山鹿市で開かれた。熊本市の求人広告会社「雇用促進事業会」が養蚕事業に新規参入した。同社は「大手商社を通じてシルク生地にし、欧州の高級ブランドへの売り込みも図りたい」としている。国内最大の産地である群馬県の生産量に匹敵する年間約50トンの繭の出荷を目標とする。雇用促進事業会は参入に当たり新会社「あつまる山鹿シルク」(熊本市)を設立した。23億円をかけて約4200平方メートルの平屋建て工場を建設する。来年3月に完成予定で、飼料に使う桑の畑約25ヘクタールも確保した。蚕は病気に弱いが、この工場では温度と湿度を蚕に最適な状態にした無菌室で飼育する。桑を原料にした人工飼料を成長段階に応じて量を調整しながら与えると、年間を通じて品質の高い繭が生産できるという。あつまる山鹿シルクの島田俊郎社長は記者団に「この工場の繭からは、色あせしない生糸ができる。熊本からのシルクロードを世界につなげていきたい」と述べた。 <種子・製造方法の特許> *2-1:https://www.agrinews.co.jp/p44130.html (日本農業新聞論説 2018年5月21日) 温暖化への備え 新技術や資材生かそう 気象庁によると、日本の平均気温はこの100年で1・19度上昇した。特に1990年代に入り、高温の年が増えた。温暖化の影響をどの産業よりも大きく受ける農業。地球規模で加速する温度上昇を見据え、環境制御など最新の技術や装置、品種などを駆使して対抗できる生産基盤を整えたい。2017年の年平均気温は、1981~2010年の平均に比べ0・26度高かった。わずかな上昇幅に見えるが、温度で栄養成長や生殖成長を切り替える植物にとっては大きな変化だ。また、農作物の収穫時期や収量には積算温度が大きく影響する。わずかな温度上昇でも積もり積もれば収穫の前倒しなど生産計画の狂いを生む。今春の野菜価格の下落も、気温の変動にうまく対応できなかったことが大きな要因だ。夏の暑さが際立つ温暖化だが、最も気候変動が激しいのは冬だという指摘もある。狭い範囲で大雪が降る地域があれば、積雪が減った地域も増えている。厳しい寒波の到来もあるが、長期的には冬の気温が高まりつつあるため、一定の低温が必要な果樹で休眠打破がうまくいかない、施設園芸やトンネル被覆の開閉の見極めが難しく作物の生育不良を招くといった影響が出ている。地球規模で起きる気候変動を抑えることは難しい。一方で、施設園芸を中心に環境制御技術が大きく進化している。重油高騰を受けて、導入が進んだヒートポンプは冷房機能があるため、夏の遮熱対策に有効だ。熱を吸収する被覆フィルムや、保温効果の高いフィルムなども市販化されている。ハウス内の温度、湿度、日射量、かん水量などを総合的に管理する環境制御装置も、スマートフォンの利用で扱いやすくなってきた。露地でも遮熱効果や保湿効果の高い被覆資材が相次いで開発された。耐暑性や耐寒性など機能性を強めた品種も多く育成されている。10年前と比べて、異常気象への対抗策は増えたといえる。篤農家と呼ばれている人に共通しているのは、気象を読み取る力だ。天候の変化を誰よりもいち早く感じ取り、栽培管理に生かしている。気象では、“観測史上最高”という言葉をよく耳にするようになった。温暖化の影響でこれまでの常識を超えた異常気象が頻発する時代である。天候の変化をいち早く察知し対応する力が農業者に求められる。篤農家が経験と技で身に付けた天候の予測は、気象や栽培データの「見える化」で補うことが可能になってきた。気象庁が出した7月までの季節予報では、気温は高く推移するとみられる。目前に迫る夏を乗り切る対策も重要だが、長期的な視野に立って、環境制御技術の深化や品種開発など総合的な対策が望まれる。指導機関やJAも一体となって、最新技術や資材などの活用を進めたい。 *2-2:https://www.agrinews.co.jp/p44066.html (日本農業新聞 2018年5月14日) 種子法廃止への懸念 品種改良は危機管理 農林中金総合研究所客員研究員 田家康 米や麦、大豆の優良種子の安定供給を都道府県に義務付けてきた主用農作物種子法(種子法)が4月1日をもって廃止され、70年近い歴史に幕を下ろした。規制改革の一環で、品種改良を国の主導ではなく、民間活力を利用して官民一体で行う趣旨という。だが、米などの品種改良は農業におけるセーフティーネット(安全網)であり、国家の危機管理からの視点も必要ではないだろうか。米の品種を巡る歴史は長い。『万葉集』編さんに関わった歌人の大伴家持が「早田」という表現で、早稲を歌っている。平安時代中期の『倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』には早稲(わせ)・中稲(なかて)・晩稲(おくて)という登熟期による区分けもある。 ●用途別に多様化 天候への耐久性、酒造などの用途別といった品種の多様化は鎌倉時代以降から見ることができる。中国から渡来した「大唐米(たいとうまい)」は干ばつに強いとされ、山陽地方を中心に普及した。国内産では酒造用の早稲や多収性の品種など用途別に多様化が進んだ。良い品種といっても、干ばつや冷害に強い品種、収穫量の多い品種、食味の良い品種などさまざまある。そして、こうした性質は往々にして相いれない。江戸時代に東北地方を中心に天明の飢饉(ききん)、天保の飢饉などの大冷害が起きたが、その背景には品種の選択があった。津軽では味が悪いものの冷害に強い赤米があったが、領主も農民も作況が良ければ豊作が約束される晩稲の「岩山」の栽培にこだわった。明治時代以降も冷害が何度も繰り返され、耐冷性があり、収穫量の多い品種の開発は国家的な課題であった。冷害に強い「陸羽132号」は1921年、秋田県にあった国立農事試験場陸羽支場で育成された日本初の人工交配による優良水稲で、戦後まで長年、作付面積トップの座を占めた。「陸羽132号」をさらに改良して誕生したのが「水稲農林1号」。「水稲農林1号」と「水稲農林22号」を掛け合わせて育成された「コシヒカリ」は、偶然にも良食味品種の代表になり今日に至っている。 ●進行する温暖化 大気中の温室効果ガス増加による温暖化は、今世紀末には一層進行するだろう。登熟期に高温になると背白粒が増え、1等米比率の減少が見込まれるため、新品種開発が課題となっている。農水省は研究プロジェクトを公募しているが、委託先のほとんどが国立大学や県の試験場である。収量が多く食味が優れる品種であれば、すぐにビジネスとして成り立つだろう。だが、年々の気温の上下動は大きく、地球温暖化による気候の変動はいつどのような形で顕在化するかも分からない。品種改良とは、将来の異常気象に備える農業生産におけるセーフティーネットであり、危機管理の視点が必要となる。これは民間の知恵で解決できる問題ではない。種子法の廃止が、品種改良への国や各県などの関与を緩めることがないよう心から願うばかりだ。 <プロフィル> たんげ・やすし 1959年生まれ。農林中央金庫森林担当部長などを経て、農林中金総合研究所客員研究員。2001年気象予報士資格を取得し、日本気象予報士会東京支部長。日本気象学会所属。『気候で読み解く日本の歴史』などの著書。 *2-3:https://www.agrinews.co.jp/p44074.html (日本農業新聞 2018年5月15日) 種苗の自家増殖 「原則禁止」へ転換 海外流出食い止め 法改正視野、例外も 農水省 農水省は、農家が購入した種苗から栽培して得た種や苗を次期作に使う「自家増殖」について、原則禁止する方向で検討に入った。これまでの原則容認から規定を改正し、方針を転換する。優良品種の海外流出を防ぐ狙いで、関係する種苗法の改正を視野に入れる。自家増殖の制限を強化するため、農家への影響が懸念される。これまで通り、在来種や慣行的に自家増殖してきた植物は例外的に認める方針だが、農家経営に影響が出ないよう、慎重な検討が必要だ。自家増殖は、植物の新品種に関する国際条約(UPOV条約)や欧米の法律では原則禁じられている。新品種開発を促すために種苗会社などが独占的に種苗を利用できる権利「育成者権」を保護するためだ。一方、日本の種苗法では自家増殖を「原則容認」し、例外的に禁止する対象作物を省令で定めてきた。その上で、同省は育成者権の保護強化に向け、禁止対象を徐々に拡大。現在は花や野菜など約350種類に上る。今後は自家増殖を「原則禁止」し、例外的に容認する方向に転換する。そのため、自家増殖禁止の品目が拡大する見通しだ。同省は、今回自家増殖の原則禁止に踏み込むのは、相次ぐ日本の優良品種の海外流出を食い止めるためと説明。自家増殖による無秩序な種苗の拡散で、開発した種苗業者や研究機関がどこまで種苗が広がっているか把握できないケースも出ているという。中国への流出が問題となったブドウ品種「シャインマスカット」も流出ルートが複数あるとされる。民間企業の品種開発を後押しする狙いもある。2015年の品種登録出願数は10年前と比べると、中国では2・5倍に伸びているが、日本は3割減。日本の民間企業は野菜や花の品種開発を盛んに行うが、1本の苗木で農家が半永久的に増殖できる果樹などへの参入は少ない。このため同省は、育成者権の保護強化で参入を促す。仮に自家増殖を全面禁止にすれば、農業経営に打撃となりかねない。同省はこれまで、農家に自家増殖の慣行がある植物は禁止対象から外し、農業経営への影響も考慮してきた。今回の原則禁止に当たっても、一部品種は例外的に自家増殖を認める方針だ。自家増殖の原則禁止は品種登録した品種が対象。在来種のように農家が自家採種してきたものは対象外で、これまで通り認められる。昨年政府がまとめた知的財産推進計画では、自家増殖について「農業現場の影響に配慮し、育成者権の効力が及ぶ植物範囲を拡大する」と掲げている。 <農業と環境> *3-1:https://www.agrinews.co.jp/p44040.html (日本農業新聞論説 2018年5月11日) 国連・持続可能目標 協同活動で貢献しよう 地球と人類がこの先も続くように、国連が各国に産業や暮らしの変革を呼び掛けている。食・農・環境・教育・福祉などの分野で17目標を設定し、持続可能な社会づくりを促す。どれも日本の協同組合が取り組む課題だ。国際協同組合同盟(ICA)も目標達成に全面的な貢献を約束する。協同活動の今日的意義と役割を再認識しよう。正式名は「持続可能な開発目標」(SDGs=エスディージーズ)。2015年の国連サミットで採択された。30年を期限とし「2030アジェンダ」とも呼ばれる。ゴールとなる目標は17分野169項目。「飢餓と貧困をなくそう」「全ての人に健康と福祉を」「質の高い教育をみんなに」「陸と海の豊かさを守ろう」「クリーンなエネルギーを」「つくる責任・つかう責任」など直面する課題への共通認識から生まれた。世界を変え、救う処方箋といえる。注目すべきは、協同組合活動との親和性の高さだ。国連教育科学文化機関(ユネスコ)が、協同組合を無形文化遺産に登録した主な理由は、社会的問題への解決能力であった。中でも日本の協同組合、とりわけ総合事業を展開するJAは、その先駆的な役割を果たしてきた。昨年11月のICA総会では、SDGsに積極的に取り組むことを確認し、「協同組合の存在感を高めていく」(グアルコ会長)とした。また、今年の国際協同組合デー(7月7日)のテーマを「持続可能な消費と生産」に設定し、国連目標へのより積極的な貢献を打ち出す。SDGsで日本の推進役を担うのが、JAや生協、労協などの協同組合を横断的につなぐ連携組織として今春生まれた「日本協同組合連携機構」(JCA)だ。先日の公開研究会でもこのテーマを取り上げ、協同組合の果たす役割と意義を再確認した。特に、国連目標をそれぞれの協同組合組織の活動に落とし込み進化させること、協同組合間同士の連携を深めることが再確認された。同研究会でJAふくしま未来の菅野孝志組合長は「農業を基軸とする持続可能な地域づくり」を提起。「JAの活動は国連の定めた17目標に全てつながっている」とし、地域、農業、暮らしを守る運動の重要性を訴えたが、同感である。まさに総合事業だからこそできる地域貢献の姿がそこにある。残念なのは日本政府の取り組み方針だ。協同組合との連携に触れているが位置付けが弱い。しかも一連の農協改革は総合事業を弱体化させる方向で進んでおり、世界の潮流と逆行する。市場原理優先の農政改革、原発依存のエネルギー政策、企業視点の働き方改革にも共通する。そこには今日の貧困や格差、環境破壊が新自由主義に起因していることへの反省や洞察はない。持続可能な社会づくりへの大胆な政策転換、強欲な金融資本主義に代わる新たな経済モデルの構築が求められる。 *3-2:https://www.agrinews.co.jp/44059?page=2 (日本農業新聞 2018年5月13日)エコファーマー 環境支払い除外なぜ? 農家疑問の声 GAPありきか ハードル高まる 「見直しはおかしい」。宮城県大崎市で有機栽培や特別栽培による水稲3ヘクタールを経営する佐々木陽悦さん(71)は、方針転換に納得がいかない。田んぼの生き物調査を行い、天敵を活用する農業を普及してきた。エコファーマーで交付金を受けてきたが、現場の努力が後退しかねないと危ぶむ。環境支払いは、地球温暖化防止や生物多様性保全の営農活動を支援する制度。11年度に創設した。交付額は10アール最大8000円。エコファーマー認定が要件の一つだった。今年度から国際水準GAPの研修を受けた上でGAPを実施し、「理解度・実施内容確認書」を提出しなければならない。国際水準GAPには第三者認証の「グローバルGAP」「ASIAGAP」「JGAP」がある。グローバルGAP認証を取得したエコファーマー、北海道洞爺湖町の佐伯昌彦さん(63)は「GAPは否定しないが要件とするには違和感があり、無理やり誘導している感がある」と断じる。GAPは労働安全、食品安全、環境保全など幅広く規定している。だが、農薬や化学肥料の削減は求めていない。一方、エコファーマーは持続農業法に基づき農薬や化学肥料を減らし、土づくりを進める農業者。直接支払いの趣旨と合致する。全国エコファーマーネットワークの香取政典会長は「GAPに取り組むかどうかは農家の経営判断だ」とし、肝心の環境保全型農業が置き去りになりかねないかと心配する。自治体も悩ましい。宮城県登米市は3月末に生産者を集め、制度変更の説明会を開いた。17年度の環境支払い水田は約1200ヘクタール、37組織に上る。市は「制度のハードルが高くなり、そこまでやるのかと身構えてしまう農家が出そう」と、不安を口にする。 ●農水省「導入へ研修など支援」 農水省は要件からエコファーマーを外した理由について、生産者の高齢化などでエコファーマーの認定期間の5年を終えると更新しないケースが増えてきたためとし、「持続可能で環境保全型農業の拡大のためにはGAP導入の方が有益」(生産局農業環境対策課)と強調する。環境支払いは昨年6月、農水省の行政事業レビューで交付要件の見直しが指摘された。同省は「質の高い経営レベルに誘導していくためにGAPに取り組んでもらいたい」とし、GAP研修の予算措置や無料オンライン研修を用意していく。 *3-3:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201805/CK2018052102000239.html (東京新聞 2018年5月21日) 【社会】福島農業、遠い再建 避難指示地域 農家4割「再開断念」 東京電力福島第一原発事故から七年が過ぎ、福島県では避難指示解除とともに農業再開の動きも広がる。しかし避難中に田畑は荒れ、人手不足や高齢化といった課題は山積している。国などの調査に被災地の農家の四割以上が「再開するつもりはない」と回答し、今後の見通しは厳しい。「先祖代々の田畑が台無しになった。一からのやり直しは考えられない」。南相馬市小高区の横田芳朝(よしとも)さん(73)は、雑草が生えた荒れ地を前にため息をついた。事故前は約五百本のナシの木が茂っていたが、避難中にほとんどが病気になり、昨年すべて切り倒した。「七十五歳までは農業を続けようと思っていたが、これから除染をして、土を耕さなければならない。風評も厳しいし、再開しても見合わない」。かつてはコメも作っており、田植えや稲刈りは隣近所で手伝い合った。しかし事故はそのようなコミュニティーも破壊した。近所で帰還した農家はまばらで「農業は一軒だけではできない」とこぼす。横田さんも長女が暮らす埼玉県に避難中で、戻るかどうか、決心がつかないでいる。農業を再開しても苦労は絶えない。福島県富岡町で仲間と米作りに取り組む渡辺康男さん(67)は「元の景色を取り戻したい一心でやってきた」と話す。避難先の同県西郷村から片道約二時間かけて通う。今年の作付けは約五ヘクタールで、事故前の四分の一にとどまる。悩みはイノシシなどの鳥獣による被害。避難中に人里に慣れ、人間を恐れることなく田畑を荒らし回る現状は「動物天国」だという。電気柵で囲ってもイノシシは侵入し、平気で田んぼで水浴びをしたり、稲を引っこ抜いたりする。困難続きの日々だが「自分の経験を伝えることで、再開を迷っている人を少しでも後押しできれば」と願う。国や県、地元企業でつくる合同チームの調査によると、事故で避難指示が出た十二市町村の農家約千人のうち、42%が「再開するつもりはない」と回答している。高齢化や地域の労働力不足、古里への帰還を諦めたことが理由に挙がった。チームの担当者は「若い担い手の帰還が見込めず、再開に踏み切れない農家が多い」と分析している。 <農業の近代化とその資金> PS(2018年5月25日追加):農業は、*4のように、集落営農組織の法人化が進んでおり、高齢化してもそれぞれの構成員に役割を与えながら持続可能な経営体でいられる準備ができつつある。法人化のメリットは、①多数決でよいため意思決定が早く ②規模拡大して ③人材や資金の確保がしやすい ことである。法人化のメリットは、水産業についても同じだろう。 *4:https://www.agrinews.co.jp/p44061.html (日本農業新聞論説 2018年5月13日) 集落営農の法人化 総力挙げて経営安定を 集落営農組織の法人化が進んでいる。農水省の調査によると、法人率は34%で10年以上伸び続けている。しかし法人化がゴールではない。経営を軌道に乗せることが重要だ。地域農業を担う持続可能な経営体の育成に向け、JAや行政が継続的に支援すべきだ。2018年2月現在で集落営農数は1万5111。地域別では水田農業の比重が高い東北3344件が最も多く、九州2415件、北陸2383件と続く。数はほぼ前年並みだが、農事組合法人などの法人数は5106件、前年より413件増えた。法人化率は初めて30%台を突破した17年を上回った。法人化が進む背景の一つとして、人材確保の有利性が挙げられる。同省の調査では、30ヘクタール以上を集積する法人は全体の4割を占める。高齢化でリタイアする人たちの農地の受け皿役を果たしている。だが、オペレーターと呼ばれる作業者の高齢化も進む。将来に渡って組織を存続させるには次世代の人材が必要だ。そのためには社会保障などの雇用条件を整えることが必須で法人化を選ぶ。法人化には農地集積への合意形成や登記、定款策定など、やらなければならない事務作業が多い。行政やJAのサポートも法人増加の背景にある。しかし、法人化が済めば地域農業の抱える課題が解決するわけではない。経営内容を充実させ、将来に渡って組織が存続するようにしなければならない。秋田県大仙市の農事組合法人・新興エコファームは、水稲にエダマメなどの園芸品目や野菜加工を組み合わせて収入を確保し、地元農家から引き受けた50ヘクタールを維持する。作業が重複する品目もあるが、農家間で人員を融通するなど工夫を凝らす。農地集積が進み、経営面積は設立当初と比べて20ヘクタール増えた。同法人の役員は「今後も農地は集まる」との考えから、若手の人材育成を重視。20~40代の3人を雇い入れた。法人経営の安定には役員の手腕が大きいが、当事者任せにしてはならない。経営を長持ちさせるためには、高齢の農地提供者も何らかの形で経営に関わり、「自分たちの組織」という意識を持たせることが重要だ。「少数精鋭」では限界がある。野菜作りや直売所、加工品などの多角化を進める上でも女性活用がポイントになる。だからこそ国や県、市町村、JAによる経営支援への期待は大きい。宮城県のJA南三陸は「担い手サポート班」を設け、作物ごとに担当を配置。法人や若手農家らへの支援を充実させ、頻繁に通うことで「あの人に相談すればいい」という関係を築き、経営を下支えしている。技術指導はもとより、労務、税務面の管理や資金調達、実需者とのマッチング、6次産業化の相談・助言など、行政やJAが法人に対し、できることは多い。地域農業の将来像を描く端緒が開けるはずだ。 <農業の6次産業化> PS(2018年5月26、28日追加):*5-1のように、「海外で原材料を安く仕入れて安価な製品を流通させるのではなく、現地が持続的に潤う生産体制を」という考えに基づくファッションブランドがあるそうで、よいことだと思う。そして、これは農林漁業の6次産業化と同様、原料を安く販売するよりもそれに加工を加えて販売(輸出)すれば、そのための雇用が発生し、技術が育ち、特に女性の賃金獲得に貢献する。しかし、これを持続的に行えるためには、善意や倫理だけではない本当の市場ニーズを満たす商品を作る必要があり、それには、①デザイン ②品質 ③コスト で世界と勝負できる製品を作らなければならない。 それには、バッグや小物なら、単に流行にとらわれないだけではなく、本当によいデザイン(エチオピアの製品なら、アフリカの太陽の下での明るい原色を使った製品やアフリカの自然を思い出させる図案など、現地の人がデザインしたものの方がエキゾチックで面白いだろう)と品質を追究すべきだ。そして、これは、鹿・山羊・羊等の皮がある日本も同様である。 また、中米グアテマラの極彩色で緻密な手織りである「コルテ」なら、それを自動織機で生産して、新しくデザインの良いものを高すぎない価格で販売できるようにした方が、現地の人のためにもよいと思われる。これは、日本各地に伝承された優れた織物や染色についても同じだ。 なお、日本では、*5-2のように、これまで保護してきた野生鳥獣が増えて、農林業への鳥獣害が深刻化する状況になったため、狩猟ビジネス学校もでき始め、良質の肉や皮を手に入れることが可能になりつつある。 2018.5.25西日本新聞 スキッとおしゃれなスペイン製 フランス製 かわいいイタリア製 アフリカの色使いとファッション *5-1:http://qbiz.jp/article/134586/1/ (西日本新聞 2018年5月25日) 「持続可能なファッションを」 2ブランドが福岡市・大名で展示販売会 海外で原材料を安く仕入れて安価な製品を流通させるのではなく、現地が持続的に潤うような生産体制を――。こんな考え方に基づく二つのファッションブランドが、福岡市で26日まで展示販売会を開いている。実用性とデザイン性、そして倫理性(エシカル)を備えた製品が並んでいる。エチオピアで育ったヒツジの皮を使ったバッグや小物を並べているのは「andu amet(アンドゥ・アメット)」(東京)。福岡での展示販売は初めてだ。柔らかくて軽い上に丈夫な「エチオピアシープスキン」は世界有数の高品質な皮革とされる。ただ、現地に加工技術や商品化のノウハウがなく、これまでは欧米の有名ブランドに原皮を提供するのが主だった。青年海外協力隊でエチオピアに赴任した経験を持つ鮫島弘子さんは、「それでは現地に雇用が生まれず、技術も残らない」と2012年、現地で生産体制を整える形でアンドゥ・アメットを立ち上げた。現在、直営の現地工場で働くのは10人。給与はエチオピアの平均的な労働者の3倍程度という。「大量消費の競争に巻き込まれないように、流行にとらわれないデザインを意識している」と鮫島さん。今後も、地方での展示販売会を企画していく方針だ。 ◇ ◇ ◇ もう一つのブランドは、中米グアテマラの民族衣装を再利用した巻きスカートなどを制作している「ilo itoo(イロイト)」。福岡市出身のデザイナー大久保綾さんが12年に設立。今年4月に法人化した。グアテマラの女性が身に着ける巻きスカート「コルテ」は緻密な手織りで、極彩色の模様と丈夫さが特長。大久保さんは服飾を学んだ大学生時代にコルテを知り、グアテマラを訪問。技術力の高さの割に経済的な対価を受け取っていない現地の状況を知った。使われなくなったコルテを現代風に仕立て直して販売すれば、現地が潤う上に技術も継承されると考えたという。「自分たちが織ったコルテが外国で売れることを知ると織り手の女性たちもすごく喜んでくれる」と大久保さん。イロイトが仕立てる巻きスカートは体型を気にせず着られ、妊婦も着やすいという。「一過性ではなく、年月を重ねても着られる。幅広い世代に使ってもらいたい」。目指す姿はアンドゥ・アメットの製品と共通している。 ◇ ◇ ◇ 展示販売の会場は福岡市中央区大名1丁目3−7のサウスステージ1。26日は午前11時〜午後7時。 *5-2:https://www.agrinews.co.jp/p44189.html (日本農業新聞 2018年5月28日) 狩猟ビジネスで学校 捕獲から開業みっちり 千葉県君津市 農林業への鳥獣害が深刻化する千葉県君津市で、次代の捕獲者を育てようと「君津市狩猟ビジネス学校」が始動した。2018年度の1年間、受講者は鹿やイノシシ、キョンの解体、くくりわなの仕掛け方、ジビエ(野生鳥獣の肉)料理店の運営などを総合的に学ぶ。4、5月の入門編を終え、6月から人数を絞り込んで専門編が始まる。同市周南公民館で今月、2回目の講習があった。50人の募集に対し受講者は60人に上り、県外からが3割ほどを占めた。年齢も20~70代と幅広い。市内から参加した春木政人さん(36)は兼業農家で、イノシシの被害に悩まされてきた。「猟や止め刺しをする人が足りない現状で、自分も動かないとまずいと思った。市がいい機会で学校を始めてくれた」と動機を語った。隣接する木更津市でレストランを営む野口利一さん(36)は、一般的な洋食の他に季節のジビエ料理を出す。「店でイノシシや鹿を扱うが、猟師としての視点も欲しい」と、弟の晃平さん(29)と受講した。今回の講習はイノシシの解体。当日朝、公民館近くに仕掛けた箱わなに子どものイノシシがかかり、内臓を取り出す「腹出し」作業から実習した。午後は林業について学んだ。講習を取り仕切る原田祐介さん(45)は「もちろん技術も教えるが、メインではない。いかにお金にするかだ。ビジネスに特化した狩猟学校は初めてではないか」と話す。狩猟に農業や林業を組み合わせ地域で生計を立てられる人材を育てるため、実技だけでなく座学にも時間を割く。原田さんが代表を務める「猟師工房」は、埼玉県飯能市を拠点に狩猟や野生鳥獣の調査研究などを手掛ける。君津市にも解体処理場を置く縁で、市から学校の開校に際して声が掛かった。同市の農作物被害は、16年度で4900万円を超え県内最多。捕獲者の高齢化、担い手不足で駆除が追い付かない。市内には全国的に珍しく獣肉処理施設が3カ所あるが、捕獲物の活用にも限界がある。そこで市は、地方創生交付金を生かし同学校を立ち上げた。来年3月まで全12回を予定する。1、2回目の入門編は50人を募集。6月からの専門編では30人に絞り込む。過去2回の参加者から回収したアンケートなどを基に“本気度”を見定めて人選。プロレベルの解体法や野外活動の知識などを身に付けてもらう。市外からの移住を含めた捕獲従事者をはじめ、多彩な狩猟ビジネスの担い手を育てる構想だ。市農政課鳥獣対策係の岡本忠大係長は「学校で学んだ人がジビエレストランを目指し、市内で取れる肉を使ってもらえれば、有効利用の一つになる」と期待。捕獲増に伴う販路拡大も見据える。 <中食産業について> PS(2018年5月28日追加):共働き世帯・高齢世帯では家事の合理化が必要であるため、全自動洗濯機・乾燥機・食洗機・掃除ロボットなどが役に立っているが、それらをうまく使うには、家・家具・食器・衣類の適応も重要だ。また、コンロも自動調整機能がついて便利になったものの、原材料を買って調理するのは時間と労力を要し、高齢者は火事や怪我のリスクもあるため、中食産業が拡大しているわけである。そのため、*6の中食食品は、単身者・共働き世帯・高齢世帯のいずれの需要も拡大しており、生産者にとっては、加工の雇用が生まれる上、品種改良された穀物・野菜・果物などのタネが出回らないというメリットもある。 *6:https://www.agrinews.co.jp/p44191.html (日本農業新聞 2018年5月28日) 17年中食市場 10兆円突破、過去最高 共働き増え需要拡大 総菜や弁当といった中食市場の拡大が続いている。2017年の市場規模は初めて10兆円を突破。共働き世帯の増加などで、調理済み食品を自宅で手軽に食べるニーズが高い。コンビニエンスストアやスーパーは国産原料などのこだわり商品を投入し、需要を盛り上げる。原料農産物を手掛ける国内産地の仕向け先として、中食が存在感を高めている。 ●共働き増え需要拡大 日本惣菜協会の調査によると、17年の市場規模は前年比2%増の10兆555億円で過去最高を更新。この10年で2割強増えた。業態別に最も伸びが大きいのは「コンビニ」で前年比4%増の3兆2300億円。全体の3割強を占める。店舗数が多く営業時間も長いため、働く女性から高齢者まで、幅広く支持を受けている。「専門店」が1%増の2兆9200億円、「食品スーパー」は3%増の2兆6200億円で、コンビニに比べると伸びは小幅だった。購入品目別では、おにぎりや弁当など「米飯類」が1%増の1兆9800億円で最大。おにぎりはコンビニ各社が新潟「コシヒカリ」を使うなどこだわり商品を投入しながら、値上げに踏み切ったことも背景にある。サラダなど「一般総菜」は2%増の1兆800億円。健康を気遣う人が手軽に野菜を取れるとして、注目している。特に伸びが大きいのは、肉じゃがやハンバーグ、豚のショウガ焼きなどをパックした「袋物総菜」。前年比22%増の4200億円となった。中食市場が伸びる背景に消費者の生活様式の変化がある。厚生労働省によると17年の共働き世帯は1188万世帯で10年で2割近く増え、単身世帯も増加傾向。そのため家庭で調理することが減り、手軽に食べられる総菜需要が広がっている。日本惣菜協会は「国内の人口が減る一方、小売各社は国産素材や機能性を押し出した付加価値商品を売り込んでいる。今後も中食市場の成長は続く」と指摘。国産農畜産物の売り先として、注目度は高まる一方だ。 <運輸業の対応> PS(2018年5月31日追加):「配達が夜に集中すると残業を増やすだろう」と忖度し、なるべく昼の時間帯に荷物が着くように指定すると、受け取り先が留守で再配達になったりする。つまり、女性が普通に働いている時代、「昼間は誰も家にいない」という前提で動かなければ二度手間になるだけであるため、*7のヤマト運輸が、夜間中心の配達要員の確保を急いでいるのは合理的だ。さらに、遠慮なく夜の時間帯を指定できるような「注意書き」が送り状に書かれている方が良いだろう。なお、疲れるため誰もが嫌がる時間帯に勤務する人は、同じ給与でも勤務時間が短いのは当然である。 *7:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180531&ng=DGKKZO31149580Q8A530C1EA1000 (日経新聞 2018年5月31日) 「朝だけ」「夜だけ」勤務OK、JR東が運転士も育児・介護に、ヤマトは再配達に5000人確保 JR東日本は2018年度末をめどに、運転士や車掌が朝のラッシュ時だけ短時間乗務できるよう制度を改める。ヤマトホールディングス傘下のヤマト運輸も12月までに、宅配便の再配達が多い夜だけ働く社員を約5千人確保する。介護などで特定時間帯だけ働きたい社員の希望と、業務が集中する時間帯の人手を確保したい企業のニーズをマッチさせ、人手不足を乗り越えようとする動きが広がってきた。厚生労働省の29日の発表によると、輸送業の4月の有効求人倍率は2.37倍と高く、深刻な人手不足が続く。鉄道乗務員や宅配運転手は資格や経験が必要なためすぐに大量採用するわけにいかず、人手確保のため一歩進んだ働き方の見直しに踏み込む。 ●車掌も対象 JR東は運転士や車掌の勤務体系を見直す一環として、「朝だけ勤務」ができるようにする。親の介護や育児が必要な乗務員を対象とする。今後、労働組合と交渉する。通常、運転士や車掌は平均9~10時間の勤務時間がある。介護や育児などの理由があれば6時間に短縮できるが、電車に乗務できるのは日中だけなどと働き方が限られていた。これを柔軟にする。例えば昼すぎに退社を希望する日は、早朝に出社した上で、ラッシュ時の2~3時間に乗務し、その後、事務作業などをしてから退社できるようにする。夕方だけ、など乗務可能な時間帯も増やす。過去に運転士や車掌を経験した社員も、乗務できるようにする。JR東日本は現在、1日に約1万2千本の列車を走らせており、運転士と車掌が合計で約1万1千人いる。今後、旧国鉄時代に採用した55歳以上の社員約1万4千人の退職が相次ぐが、東京圏への人口流入が続き鉄道利用が増えるため、運行本数は減らしにくい。女性社員の積極採用など、可能な対応策を進める。国会では多様な働き方の実現を目指す働き方改革関連法案の審議が大詰めを迎えているが、深刻な人手不足を背景に企業では先行して取り組みが進む。ヤマト運輸は「アンカーキャスト」と呼ぶ夜間中心の配達要員の確保を急ぐ。19年度までに1万人規模にする計画だ。同社の現在の配達体制は、朝~夕方に配達や集荷、営業を同時にこなす運転手が主力。だが近年はインターネット通販の利用者が不在の場合の再配達が増え、夜間業務に偏り、残業を迫られている。 ●分業で対応 そこで既存のパート・契約社員からの転換や新規採用で夜間配達員を確保し、運転手と分業することで再配達をこなす考え。今春時点では数百人規模だった。12月は歳暮やクリスマス、年末年始の贈答需要で荷物が増える繁忙期となるため、それまでに計画の約半数に上る5千人超まで増やして体制を整える。人手が足りない時間帯を短時間勤務などで乗り切る取り組みは、資格などが必要ない業種や職種で先行している。外食業界では、タリーズコーヒージャパンが17年に2時間から働ける制度を導入。すかいらーくは1日の労働時間を4時間から12時間まで5つのパターンから選べるようにした。4月の全体の有効求人倍率(季節調整値)は前の月と同じ1.59倍で高止まりしている。企業がとくに採用を増やしている正社員は1.09倍と過去最高を更新した。 <欠点を克服せよ> PS(2018年6月3日追加):加賀友禅の色留袖に佐賀錦の帯を締めると、上品で華やかな和装となり、外国で開かれた国際色豊かなパーティーで着たら、ファッションの国フランスの人にも感心された(ただし、私の佐賀錦の帯は母からの借り物)。しかし、現在、これを買うと数百万円などという途方もない金額になり、買うことが困難なほど高価で、手入れも大変な和装は、衰退しつつある。そこで、着物や帯の価値は価格や手間にあるのではなく、ファッションにあるという原点に戻れば、*8のように、①糸を1色しか使わないシンプルな布でも1日に織れるのは7〜8センチで ②使う色の種類が多く、模様が複雑な布になると1日に1センチも織れない というのでは、できあがりがよくても生産性が低すぎて現代の賃金体系では産業として成立しない。が、コンピューター制御の自動織機を使えば、同じパターンを繰り返す織物などは得意中の得意で、模様が「菱」「網代」「亀甲」「鳳凰」などの複雑なものでも、プログラムさえ組んでしまえば色やパターンを変えて迅速かつ正確にいくらでも織れる。私は、佐賀錦や博多帯の糸に光る絹糸などを使って、新しい時代の帯を品質を落とさず安価に作れば売れると思う。 現在の佐賀錦の帯 現在の博多織の帯 光る絹糸 *8:http://qbiz.jp/article/134866/1/ (西日本新聞 2018年6月3日) 繊細 金銀織りなす「佐賀錦」 旧福田家で手織り体験 鮮やかな絹糸と金銀の糸が織りなす模様が、光を反射して滑らかな布に浮かび上がる。佐賀市内の土産物店で、県指定伝統的地場産品の「佐賀錦」を使った小物に目を奪われた。キーホルダー、入れ、ペンダント…。繊細で整然とした模様の全てが、手作業で織られているという。「どのように作るのだろうか。近くで見てみたい」。佐賀市松原4丁目の「旧福田家」で手織り作業の見学や体験ができると知り、訪ねてみた。 ●地道な作業 模様は無限 旧福田家は今年で築100年を迎える和風住宅。近くの「旧古賀銀行」や「旧牛島家」などの歴史的建造物とともに市歴史民俗館として一般公開されている。玄関の引き戸を開けると、畳敷きの部屋に置かれたガラスケースの中に、佐賀錦で作られたバッグや人形がずらり。淡く光沢を放つ作品たちは、家屋の重厚な雰囲気によく映えていた。「佐賀錦はとにかく時間がかかる工芸で、一日に数センチずつしか織り進められない。大きな作品では完成まで1年以上かかるものもあり、大量生産はできません」。この家を拠点に技術の継承や新商品の開発などに取り組む佐賀錦振興協議会の会長、松本美紀子さん(68)が、佐賀錦の歴史や作り方などを教えてくれた。佐賀錦は江戸時代末期、鹿島藩鍋島家の第9代藩主夫人が病床で天井の模様「網代(あじろ)組み」を見て「この模様で日用品を作れないか」と側近へ相談したのを始まりとする説が有力という。城中の女性たちの手習いとして伝承され、明治初期に一度は衰退したが大隈重信の奨励で再興。1910年には英国ロンドンで催された日英大博覧会で「佐賀錦」の名で出品されて有名になった。材料は金銀の箔(はく)や漆などを貼った和紙を1ミリほどの細さに裁断した経(たて)糸と、カラフルに染色した絹の緯(よこ)糸。木製の台に経糸を張り、方眼紙を使った図案通りに経糸を竹のへらで浮かしたり、押さえたりしながら、緯糸を通していく。糸を1色しか使わないシンプルな布でも、1日に織れるのは7〜8センチほど。使う色の種類が多く、模様が複雑な布になると1センチも織れないという。「菱」や「網代」、「亀甲」など伝統の模様はあるが、色やパターンを変えることで模様は無限にできると松本さん。「地道な作業だけど、図案を考えて自分だけの作品ができる。色の組み合わせを変えるだけでも違う趣になるし、変化に富んだ見応えのある作品になります」。手織りを体験させてもらった。会員の女性に教わりながら、細い和紙の経糸をへらで1本ずつ慎重にすくう作業を繰り返す。しかし、へらを通すべき糸と糸の境目すら分からず苦戦。パターン通りになどとても織れない。「そんなに力を入れなくても大丈夫」。アドバイスをもらうが、集中すればするほど手に力が入って糸を切りそうになってしまう。気付けば2〜3段を織るのに40分ほどが経過。やっとのことで数ミリ織った布の目は粗く、模様もばらばらになってしまった。こんなに細かい作業は、相当に器用な人でないとできないのではないか。尋ねると、「手間はかかるが、慣れれば繰り返しの作業。感性や根気があるかどうかの方が大切だと思います」と松本さん。「織り上がれば、作業の苦労が全て報われます」と話す笑顔に、見る人を魅了する佐賀錦のあの輝きは織り手一人一人の情熱と絶え間ない集中のたまものだ、と実感した。月曜日と祝日の翌日、年末年始を除いた日の午前10時〜午後3時に手織り体験を開いている。手織り体験のみは無料、キーホルダーやアクセサリー作りができる有料のコースもある。5人以上での参加は3日前の午後4時までに予約が必要。同協議会=0952(22)4477。 <一般企業の従業員と農作業> PS(2018年6月4日追加):*9のようなボランティアではなくても、一般企業の従業員が農作業を受託すると、食品関係の会社なら原料の製造過程を知る機会になったり、その農家と取引関係ができたり、その他の業種なら普段と異なる体験ができたりするのでよいと思われる。一般企業には余剰人員がいる場合もあるし、人を集める力もあるのではないだろうか?さらに、農水省・経産省・環境省のお役人は、自然や農林水産業の現場を知って改善策を考えるため、農業・林業・水産業の作業を必須の研修科目にすべきだ。 *9:http://qbiz.jp/article/134648/1/ (西日本新聞 2018年6月4日) 「棚田ボランティア」企業が汗 人手不足の農家で従業員が農作業 佐賀県、16年度からの試み広がる 農業の後継者不足が深刻な佐賀県内の棚田で、生産者が地場企業の人手を借りて農作業をする「棚田ボランティア」の試みが広がっている。勾配がある棚田は平地に比べて作業効率が悪く人手が必要なため、企業の従業員に田植えや草刈りを手伝ってもらう。企業側にとっても従業員のリフレッシュや社会貢献につながり、歓迎されているという。7・7ヘクタールの棚田が広がる多久市西多久町の平野地区。19日、多久ケーブルメディア(同市)とIT企業のプライム(佐賀市)の従業員ら約20人が集まり、地元農家から手ほどきを受けて田植えを手伝った。プライムの一番ケ瀬博史総務部長は「屋外で体を動かして気分転換になり楽しかった。社員同士や生産者との親睦が深まった」と話した。棚田ボランティアは、県や市町、生産者でつくる「さが棚田ネットワーク」(事務局・県農山漁村課)が2016年度に始めた。同ネットワークが橋渡し役となり、これまでに25企業・団体と13地域が協定を締結。17年度は延べ426人が計39回活動をした。県農山漁村課によると、05年の調査で、県内の水田に占める棚田の割合は13%。棚田は水田が狭くてあぜが多く、草刈りに手間がかかる。勾配での農作業は「平地に比べて2倍以上の労働力が必要」(同課)という。平野地区の農家でつくる振興協議会の小園敏則会長(71)は「働き手の高齢化が深刻で、棚田での作業は体力の消耗がきつい」と吐露。「若者や子どもがにぎやかな雰囲気で手伝ってくれると元気をもらえるし、棚田米のアピールにもなる」と喜ぶ。さが棚田ネットワークは試みを広げたい考えだが、一部の地域は企業側と連絡や調整をするリーダーがいないなど課題もある。同課の川路勝係長は「市町や生産者の協力を得ながら取り組みを広げていきたい」と話す。 <女性の活躍> PS(2018/6/7追加):政府が、*10-1のように、中小企業に女性が働きやすい環境を整えるため、従業員数101人~300人の企業に女性登用の数値目標を盛り込んだ行動計画を作る義務付けをするのはよいが、食品・織物・保育・介護・家事サービスなどの中小企業で働く女性は多いので、2016年施行の女性活躍推進法が301人以上の企業にのみ行動計画づくりを義務付けたのは変だった。また、役員を含む課長相当職以上の管理職に占める女性比率が2016年度に1割に満たないというのも、人材という資源の無駄遣いであるため、「女性は採用したくない」「女性を男性と同様には昇進させたくない」と答える企業や「働きたくない」と答える女性には、その本当の理由を聞き、そうなった背景を改善することが重要である。 なお、*10-2のように、封建的と思われている農業分野でも前から女性農業者は活躍していたが(10人以下の企業や家族労働が多い)、JA役員や農業委員で女性登用を増やすためには組織リーダーである男性の意識改革をさらに進めなければならないし、女性の能力発揮には、地域をはじめとする社会全体の理解が必要だ。 人口ピラミッド 2018.6.8日経新聞 農業女子 大島紬 2018.5.7西日本新聞 (図の説明:人口構成は次第に細長い逆台形になるため、高齢者や女性もできるだけ働く方が健康に良いだけでなく、支える側にいることができる。しかし、女性の場合、左から2番目のグラフのように、努力に比して昇進が遅かったり、職場で不快な思いをしたりすることも多いため、その状況を改善すべきだ。また、農業は機械化すれば女性がカバーできる範囲を増やすことができ、織物も自動化や先端技術の導入で、生産性と付加価値の両方を上げることが可能だろう) *10-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31498220X00C18A6MM8000/?n_cid=NMAIL006 (日経新聞 2018/6/7) 女性の登用計画、中小にも義務付け 政府検討、活躍推進法改正へ 政府は従業員数101人以上300人以下の企業に女性登用の数値目標を盛り込んだ行動計画をつくるよう義務付ける検討に入った。人手不足が深刻な中小企業に女性が働きやすい環境を整えるよう促すのが狙いだ。2019年にも女性活躍推進法を改正し、20年の運用開始をめざす。日本の労働力の見通しは厳しい。15~64歳の生産年齢人口は40年度に18年度比で約1500万人減る見込み。政府は高齢者や外国人が働きやすい環境づくりにも取り組む。女性の15~64歳の就業率は17年に67.4%となり、比較可能な1968年以降で最高となった。将来に向けて女性の労働力はさらに重みを持つ。16年4月に施行した女性活躍推進法は301人以上の企業に行動計画づくりを義務付けた。厚生労働省によると、301人以上の企業のうち届け出た企業は今年3月末時点で1万6千社あまり。全体の99.6%に達した。従業員数30人以上の企業のうち、役員を含む課長相当職以上の管理職に占める女性比率は16年度に1割に満たないが、前年度比で0.9ポイント上がった。上場企業に占める女性役員の比率は17年に3.7%と前年と比べて0.3ポイント上昇し、1500人を上回った。行動計画づくりの義務付けは罰則はないものの、効果は徐々に上がっている。一方、行動計画づくり義務付けの対象外だった300人以下の企業の届け出は約4500社にとどまった。中小企業全体の1%未満だ。日本の企業は中小が99.7%。政府は300人以下の企業にも義務付けの対象を広げ、女性が働きやすい環境づくりを後押しする。行動計画には女性の採用や管理職への起用、育児休業の取得率の向上など数値目標と実現のための取り組みを盛り込む。計画とは別に企業は厚労省が省令で定める14項目のうち1項目以上について、現状の数値を公表しなければならない。女性管理職の比率や、採用者数に占める女性の割合、男女別の育児休業の取得率などだ。みずほ総合研究所の堀江奈保子上席主任研究員は「中小企業にも女性登用の意識は広がりつつあるが、企業によって差がある」と指摘。「一定規模の中小にも義務付ければ、全ての経営者が意識せざるを得なくなり、取り組みが一歩進む可能性がある」と評価する。安倍晋三首相は女性や高齢者など誰もが活躍できる「一億総活躍社会」の実現を政権の重要課題として掲げる。政府や企業などで20年までに指導的地位に占める女性の割合を30%にする目標を打ち出す。中小が行動計画を作成すれば、女性の働きやすい環境ができるわけではない。政府が達成状況を検証し、その時々で改善を求める作業も必要になる。 *10-2:https://www.agrinews.co.jp/p41934.html (日本農業新聞論説 2017年9月18日) 女性農業者の活躍 能力発揮へ地域の理解 農水省の農業女子プロジェクトのメンバーが9月下旬から、香港でイベントを開く。日本の農産物や加工品をアピールし、輸出の足掛かりになると期待される。こうした女性農業者の活躍が最近、目覚ましい。農業に夢を描き、その実現へ奮闘する彼女たちをもっと支援しよう。家族に加え、地域の理解が欠かせない。思う存分能力を発揮できる環境を整えたい。香港のイベントは27日から10月31日まで。今年1月に続く2回目だ。百貨店やスーパーでの試食PR・店頭販売の他、農業女子が講師となり、自ら生産した農産物を使った料理レッスンを開き、現地レストランで特別メニューを提供する。初回のフェアをきっかけに香港への輸出を始めたメンバーもおり、販路開拓の意気込みは盛んだ。女性農業者の活躍が求められる背景の一つに、農業の6次産業化がある。農業者自身が生産・加工・販売に取り組む形は、これまでの「作れば売れる」から「売れるものを作る」発想への転換が必要となる。女性農業者は、生産者であると同時に家庭を切り盛りする生活者・消費者の視点を持つ。買い物好き、ネットワークづくりに優れた人も多い。そんな彼女たちの感性が、6次産業化を進める上で不可欠だ。生産物の品質はもちろん、消費者ニーズを捉えた加工品開発、見栄えのいい包装、直売やカフェに売り場を広げるなどして顧客の心をつかみ、起業家や経営者としての手腕を発揮する。一方、男性を中心とした農村社会の構図は依然として残る。「夫が経営の収支を教えてくれない」「妻は労働力としか思われていない」といった意見をいまだに聞く。農業女子からさえも「自治体からの通知がないと会合に外出しづらい」との声が出る。活躍する姿の裏に、こうした課題が潜んでいることを見逃してはならない。女性農業者はかつて無報酬労働が当然とされ、子どもの服を買う小遣いすらままならなかった。彼女らは思い切って義父母に要望したり、こっそりと内職をしたりして、わずかでも自由になる小遣いを稼いできた。そんな中で生活改善を進め、家族経営協定を結び、少しずつ地位向上を果たしてきた歩みがある。支えたのは義父母や夫、子どもたちなど家族の理解だ。現在、農業者の高齢・減少化が深刻さを増し、女性農業者の活躍が農村社会の活性化に欠かせなくなっている。これを後押しするには、家族の理解だけでなく、農村社会の中軸であり地域農業に従事する男性の協力が必要だ。JA役員や農業委員で女性登用を増やすため、こうした組織リーダーである男性の意識改革をさらに進めなければならない。政府が女性活躍推進へ積極的に取り組む今こそ、真の意味で女性が輝ける仕組みをつくり上げるべきだ。農業発展の鍵を握る女性たちが、活躍する“芽”を育てていこう。 <補助金頼みは他の国民に迷惑> PS(2018年6月9日追加):*11に、「所有者不明農地が山林化して、現場はお手上げだ」と書かれているが、所有者が死亡して子孫が分からない土地の固定資産税(納税義務者=所有者)は誰が払っているのだろうか?まさか都道府県は、固定資産税が不納になっても放置するような不作為を行っているわけではないだろう。従って、固定資産税が不納になったら督促状を出し、それでも納付されなければ、その土地で物納させれば、その土地は公有財産になる。そのため、九州を上回る推計約410万ヘクタールもの所有者不明の土地を、知事の判断で期限付きなら公益目的で使える特別措置法を作ったというのは、ぬるま湯すぎる。 さらに、方針が決まらなければインフラ整備も進まないので、借り手農家がなければ農業生産法人に貸し、産出物があるのなら道路も作ればよいだろう。つまり、「中山間地の実態とは懸け離れているから・・(補助金を出せ)」というのは他の国民に甘えすぎであり、249ヘクタールもの耕作放棄地をどう利用するかはまず地元が方針を決めるべきなのだ。そして、選択肢は、①放置して林野に戻す(=住民も税収もなくなる) ②放牧する ③みかん・レモン・オリーブ・アーモンドなど適地適作をする など多岐にわたり、規模拡大だけが経営方法ではなく、経営体や労働力の確保にも選択肢は増えたが、経営方針を決めるのは経営者と地元が主体なのだ。 *11:https://www.agrinews.co.jp/p44299.html (日本農業新聞 2018年6月9日) 所有者不明農地が山林化 現場「お手上げ」 所有者不明の農地が増え続け、近隣農家や農業委員会に重い負担となっている。中山間地では山林化した土地が多く調査は難航、所有者が死亡し子孫が分からないケースも多い。農水省は所有者不明の耕作放棄地を知事裁定で農家に貸し出す仕組みを始めた。ただ、開墾が必要な農地も多く「誰が管理するのか」「活用できない農地こそ問題」と切実な声が出る。条件の厳しい中山間地で、所有者不明の農地の問題が深刻さを増す。 ●借り手農家少なく 静岡県東伊豆町 急傾斜地の農地が点在する静岡県東伊豆町。軽トラック1台がやっと通れる細い山道を上り、ミカンを作る楠山節雄さん(69)は「規模拡大や集約化と盛んに言われるが、伊豆の山間地の実態とは懸け離れている」と険しい表情を見せる。同町の耕地面積は249ヘクタール。大半は車が通れない山奥にあり、農家は消毒タンクを背負い山道を何往復も“登山”する。収穫も重労働だ。同町では毎年、農家と役場職員が農地の利用状況を調査する。対象農地は7300筆を超え、地図と照らし合わせる確認作業は時間を要する。登記上は農地でも、山林化した耕作放棄地は相当数ある。その面積は把握できず、多くは所有者も分からない。「現場から言うとお手上げ」(同町農林水産課)の状況だ。同町は2017年、所有者不明の農地889平方メートルを全国で初めて知事裁定し、農地中間管理機構(農地集積バンク)を通じて農家に貸し付けた。同町が戸籍をたどると、所有者は戦後間もなく死亡し、5人の子どもも孫も亡くなっていた。ひ孫まで調べたが、所有者がつかめなかったことから知事裁定に至ったという。雑草どころか雑木が生え、花のハウスの日照を阻害していた耕作放棄地は現在、借りる農家が、かんきつ栽培に向け農地に復元する作業を進める。ただ同町によると、金と手間をかけて耕作放棄地を解消したいとする農家は一握り。農業委員会会長も務める楠山さんは「脚立を真っすぐ立てられないほどの急傾斜の農地ばかりで、高齢で耕作を諦める人が多い。農地を相続するメリットが乏しく、所有者不明の農地は増えるばかり」とみる。政府は6月、登記の義務化や、所有者が土地を放棄する制度を検討する方針を示した。8日に閣議決定した土地白書でも、8割が土地の所有権を「放棄を認めても良い」と回答する。ただ、同町農業委員会の梅原巧事務局長は「放棄後に費用をかけて農地に復旧しても、誰が管理するのか」と不安を募らす。 ●九州超す410万ヘクタール 民間調査によると、16年時点の所有者不明の土地面積は九州を上回る推計約410万ヘクタール。6日の参院本会議では、所有者不明の土地を知事の判断で、期限付きで公益目的で使える特別措置法が成立した。農水省は14年の農地法改正で、所有者が不明の耕作放棄地に知事裁定による利用権を設定し、農地集積バンクを通じて貸し出す仕組みを導入した。同省によると、これまでに4市3町1村で11件4・6ヘクタールの農地を貸し出している。静岡県内では、公示後に所有者が名乗り出た自治体もある。 ●中山間地でより深刻に 中山間地では、活用しにくい所有者不明の農地こそ深刻な課題だ。鹿児島県指宿市の農業委員会会長で、オクラなどを栽培する諏訪園一行さん(78)は「相続未登記農地の追跡調査を重ねてきたが、解決は難しい。法制度を整備しても、解決するのは現場感覚では非常に厳しい」と話す。青森県五戸町農業委員会会長でリンゴ農家の岩井壽美雄さん(67)は「誰も使いたがらない、機械が入らないような狭い農地こそ所有者不明になる。こうした農地を今後どうするのかが問われている」と指摘する。 <ビワ好きからの一言> PS(2018年6月12日追加):私は、高校を卒業するまでは九州に住んでいたため、ビワの季節には毎日のようにビワを食べられたが、大人になって関東に住むようになってからは、高価で年に一度くらいしか食べられなくなった。しかし、果物を食べるのに遠慮しなくてはならない国民は、世界でも少ないだろう。そのため、*12は何とか労働力を確保してビワ作りを続けてもらいたいわけだが、ビワの産地でない地域の人には「ビワは種が大きくて、食べるところが少い」と言われることもある。確かにそうなので、美味しさはそのまま、種なしや種の小さな品種のビワを作れば、さらにビワのファンが増えると考える。 *12:https://www.agrinews.co.jp/p44316.html (日本農業新聞 2018年6月12日) ビワ日本一 でも高齢化進み収量半減 産地どう守る 長崎県 100年の歴史を誇るビワのトップ産地・長崎県で生産基盤の弱体化が深刻だ。生産者の高齢化などで出荷量は10年前の約半分。80歳を超える農家が産地を支えるが、近年は気候変動の影響で1年置きに寒波が襲い、収量減で意欲を削がれた人が徐々にリタイア。瀬戸際にある産地を救おうと県やJA全農ながさきなどが対策に乗り出した。産地復活は、急傾斜地での栽培という課題を克服できるかが鍵を握る。 ●傾斜きつく作業困難 1年置きの寒波追い打ち 県内最大の産地、長崎市茂木地区。急傾斜の園地に高さ3メートル以上のビワの木が並ぶ。農家は脚立を使い、一つずつ幼果に袋を掛けて栽培する。白い袋に包まれた実が出荷を待つ一方、管理されず放置された“裸ビワ園”が増えている。JA長崎せいひ長崎びわ部会の山崎繁好部会長は「放置した木では果実が木の養分を使ってしまい、次期作に影響が出てしまう」と指摘。悪循環に陥る危険性を訴える。同県の出荷量は全国の約3割を占め、全国トップ。しかし急傾斜で作業負担が重く、多い時は700人を超えた部会員は500人まで減った。さらに近年、2年に1度の頻度で低温が襲う。今年1月の寒波では14センチの積雪を観測。直後は大きな被害は確認されなかったが2月以降、幼果の種子が凍死し肥大が進まない果実が多発した。同JAは「肥大せず階級が計画より1、2段階下がった」と肩を落とす。全農ながさきは「今季は豊作だった17年産の8割を予定したが、6割ほどしかない」という。 ●ジュース用に買い取り JAやシェフ活用応援 ビワ産出額の減少を食い止めようと、県は簡易ハウスの導入と優良品種「なつたより」への改植支援、果樹共済の推進を強化。同品種に改植する場合、国が半額助成する改植費に県が1割上乗せする。100年続く産地をどう守るのか。山崎部会長は「寒波の克服には、簡易ハウスの導入が必要。ただ、段々畑でハウスの施工費は高い。共済金の導入や安価な資材を充実してもらわないと産地が消えてしまう」と危機感を募らせる。農家の収入減を食い止めようと、全農ながさきは今季から放任園の果実をジュース用として買い取る考え。腐敗果や未熟果、虫食い以外の果実を1キロ100円で買い取り、系統工場で加工する予定。山﨑部会長は「低木にし果汁専用木を作るなど継続的に出荷できる仕組みを作り産地を守りたい」と力を込める。市内の料理店のシェフらも、産地を支援する。14店舗が協力し、旬に合わせ「びわスイーツフェスタ」を実施した。イタリア料理店「Muggina」のシェフ、鈴木貴之さん(42)が企画。鈴木さんは畑に何度も足を運び、高齢化で荒れた園地を見て心が動いた。「料理人は食材を作る農家あっての仕事。傷物やはねものなどを有効活用していきたい」(同)と意気込む。鈴木さんは、クリームチーズとビワを混ぜたアイスケーキ「茂木びわのカッサータ」を考案した。試作用のビワは同JAなどでつくる「長崎びわ産地活性化推進協議会」が無料で提供した。 ●千葉・鹿児島も2~4割減 農水省によると全国の栽培面積は過去10年で3割減、出荷量は4割減。長崎に次ぐ主産地、千葉や鹿児島でも2~4割減り、各地で荒園や放任園が目立つ。千葉県のJA安房によると急傾斜地で作業する後継者が不足。袋掛けができない荒地にはイノシシが入り、高齢農家を悩ませる。JAは「台風や低温の影響で今季は過去10年で最も少ない」と話しており、情勢は深刻だ。 <外国人労働者とその家族> PS(2018年6月14日):*13-1のように、沖縄県は農業に外国人労働者を受け入れるため国家戦略特区が認定される見通しになったそうだが、*12のビワ農家はじめ、労働力がネックとなって産業の衰退が起こりつつある他の地域や産業にも同じニーズがあると思われる。そして、外国人労働者を受け入れた場合、本人や家族が日本語や日本で必要になる知識を習得するためには、*13-2のような夜間中学・夜間高校などの教育支援が必要であり、このニーズは戦中・戦後の混乱で義務教育を修了できなかった日本人にだけあるのではない。さらに、*13-3の結城紬の「糸取り」など伝統工芸の担い手は、日本人だけでなく外国人労働者の妻もできそうで、この場合、祖国の多様性が魅力的な新製品を生み出すかも知れない。 *13-1:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-728694.html (琉球新報 2018年5月30日) 沖縄県、農業支援に外国人 国家戦略特区 計画認定の見通し 30日に都内で開かれる国家戦略特区会議で、沖縄県が申請する農業支援外国人受け入れ計画が審議される。計画は認められる見通し。特区会議の後、近く開かれる国家戦略特区諮問会議の答申を経て、首相が認定する。特区になれば、外国人の農業就労が認められ、成長基調にある沖縄の農業分野で即戦力人材の確保につながり、関係者は農業基盤の確立や発展に貢献すると期待している。農業支援外国人の受け入れは、即戦力となる技術や語学力を持つ外国人を農業現場に受け入れ、農家経営を支援することを目的とした事業。今年3月に愛知県、京都府、新潟市の3区域が特区に認定された。沖縄県は今年2月に県内で外国人材が必要な品目や時期を調査するなど、準備してきた。県農林水産部の島尻勝広部長は「生産現場の強い要望で申請した。事業を活用して、さらなる農業の成長産業化や競争力の強化が期待できる」とコメントを出した。特区が認定されれば、県は、沖縄総合事務局や入国管理局、労働局を交えた「適正受け入れ管理協議会」を早期に設立。外国人材の受け入れを希望する企業などの「特定機関」を公募する。外国人材は特定機関と雇用契約を結び、特定機関と派遣先の農業経営法人などは労働者派遣契約を結ぶ。外国人は通算3年の期間で、農作業や製造、加工などと付随する作業に従事できる。特区導入を求めてきたJA沖縄中央会の砂川博紀会長は「認定されれば、今後の農業振興・発展に弾みがつくと大いに期待している」と述べた。 *13-2:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-735609.html (琉球新報社説 2018年6月10日) 夜間中学支援再開 教育確保は行政の責務だ 県教育庁は2017年度で打ち切ったNPO法人珊瑚舎スコーレの自主夜間中学校に対する支援について、18年度内に再開する方針を決めた。多くの人々が支援継続を求めており、署名は2万305筆に上った。県がこうした声に耳を傾け、支援再開に踏み切ることを高く評価したい。県教育庁は戦中・戦後期の混乱で義務教育を修了できなかった人の学びを後押しするため、11年度から支援事業を開始した。講師の手当や光熱費、施設の賃借料の一部を補助していた。支援対象者は1932年~41年生まれの今年86歳から77歳になる人たちだ。17年度時点で珊瑚舎スコーレなど3事業所が支援を受けていた。2事業所は17年度までに対象者の受け入れを終えていたが、珊瑚舎スコーレは7人の対象者のうち、5人は18年度も在籍予定となっていた。珊瑚舎スコーレの17年度支援額は395万円だった。ところが県教育庁は事業の当初終了予定が15年度だったことを理由に、この年度に入学した対象者が卒業する17年度で支援を打ち切った。理由について「事業の成果はある程度出た」と説明していたが、5人の在籍者がいる中での打ち切りは拙速な判断だったと言わざるを得ない。珊瑚舎スコーレは現在、義務教育未修了の人は無料、学び直しの人には年額3万円で授業を提供している。その理由を星野人史代表は「貧困のために義務教育を諦めなければならなかった人たちに、お金で再び学問を諦めさせるわけにはいかない」と説明する。運営費は寄付などに頼らざるを得ず、行政の支援は不可欠だ。教育基本法の4条は「すべて国民は、ひとしく、その能力に応じた教育を受ける機会を与えられなければならず、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない」とうたっている。国と地方公共団体には、経済的理由による修学困難者への支援を講じるよう定めてもいる。教育の機会を等しく確保することは行政の責務だ。夜間中学は戦後の混乱や不登校などを理由に、義務教育を修了できず学齢期を過ぎた人たちが学び直しをしている。全国8都県に市町村立の夜間中学が31校ある。しかし県内には公立の夜間中学は1校もない。珊瑚舎スコーレなどの民間が受け皿となってきた。県は現在、公立中学校夜間学級等設置検討委員会を設置して、課題を洗い出し、需要調査を進めている。15年度に発表した県子どもの貧困対策計画でも夜間中学の設置検討を挙げている。文部科学省も全都道府県での夜間中学の設置方針を掲げている。県は公立設置までは、民間の夜間中学への支援事業を継続すべきだ。現在設けている支援対象の年齢枠も取り払い、支援を拡大してほしい。 *13-3:http://www.tokyo-np.co.jp/article/ibaraki/list/201806/CK2018061402000162.html (東京新聞 2018年6月14日) 結城紬の未来を紡ぐ 「糸取り」養成に本腰 日本を代表する高級絹織物で、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産にも登録されている結城紬(ゆうきつむぎ)の生産の先行きが危ぶまれている。材料の糸を紡ぐ職人「糸取り」が減少し、高齢化も著しいためだ。産地・結城市の関係者が、後継者の養成に乗り出した。「糸がなくなれば、結城紬もなくなる。絶やさないためには、一人でも多くの方の力添えが必要だ」。結城市で二月上旬に開かれた会合で、本場結城紬卸商協同組合の藤貫成一副理事長(56)がそう訴えた。会合は、初めて糸を紡ぐ人向けの道具や糸の見本、解説DVDなど一式を「スターターズキット」として貸し出すための説明会だ。キットを借りた人は、一定期間内に決められた量の糸を納め、対価を受け取る。定期的な講習会でスキルアップを促し、職人として定着してもらう。参加者は二十六人。関東だけでなく、山形県や山梨県の人もいた。結城市の森律子さん(41)は、幼い長女を連れて参加。母親が糸取りで、以前から興味があったという。「糸が足りなくなりそうだとは知らなかった。地元の伝統工芸に少しでも貢献したい」と力を込めた。結城紬には、糸取りが真綿から手で紡いだ撚(よ)りのない無撚糸(ねんし)が使用される。軽い上に暖かく、肌触りも良い特有の風合いは、この工程が鍵を握る。作業を担う職人が「糸取り」。従来は主に農家の女性たちが副業的に担ってきた。本場結城紬原料商共同組合の鈴木孝一理事長(62)によると、昭和五十年代は七千~八千人ほどがいたが、生活を保証するほどの収入にならず働き口が多様化する中、担い手は年々減少。今では三百~四百人程度で平均年齢は七十五歳を超えているとみられる。鈴木理事長は「毎年二十人くらいずつ養成していかないと行き詰まる」と危機感を口にする。結城紬の生産量は、ピークだった昭和五十年代の二十分の一以下ともされるが、二〇一〇年の無形文化遺産の登録などで復活の兆しもあり、約一年前から糸不足が深刻化してきた。そこで原料供給、生産、卸など、結城紬に関わる五つの組合が連携し、糸取りの後継者養成に本腰を入れることになった。説明会で糸紡ぎの実演を披露した国認定の伝統工芸士の植野智恵さん(下妻市)は「地域だけでは担い手が足りなくなる。一人でも多くの後継者をつくりたい」と、産地外からの参加者を歓迎した。 ◇ 卸商協同組合によると、一八年度は筑西、下妻の二市でも新たに糸取り説明会を開く予定という。スターターズキットも四十セットほど貸し出したため、追加で五十セット用意する。 <結城紬> 結城市と栃木県小山市を中心に生産されている絹織物。全工程が手作業で、起源は奈良時代とされる。作業で重要な3工程の糸紡ぎ、絣(かすり)くくり、地機(じばた)織りは1956年に国の重要無形文化財に登録。結城市では、市長や市議らが結城紬の着物で議会に臨む「紬議会」も開催している。 <農林漁業地域の自然は美しくて有益> PS(2018年6月16日追加):*14-1のように、九州北部には雄大な山や美しい海がある。*14-1で紹介されているのは九大の演習林だが、*14-2の水力発電の水源かん養目的で九電が所有している社有林のように、美しさと実益を兼ね備えた森林も多い。また、長崎県五島市にある福江島の本土最西端の灯台付近も美しいようだ。「イルカと海に帰る日」を書いたジャック・マイヨールは、この近くの玄界灘で初めてイルカと出会い、その後、一緒に海に潜っている。そこで、これからの100年を見据えて森林や藻場の設計についてアドバイスするのは、九大はじめ地域の大学の役割だろう。 2018.6.16西日本新聞 玄海灘 2017.10.1朝日新聞 宗像大社の「みあれ祭」での漁船のパレード *14-1:http://qbiz.jp/article/135387/1/ (西日本新聞 2018年6月16日より抜粋) 心ふるえる感動トリップへ!一度は見ておきたい、九州北部の夏絶景5選 雄大な山々や美しい海。九州には、自然が織りなす絶景スポットが多くある。神秘的な水辺の森はじめ、九州本土最西端の灯台で眺める夕日や、自然と融合したデジタルアートなど、今回は6月から夏休みシーズンに楽しめる九州北部の夏絶景を紹介する。 ●神々しい雰囲気に包まれる水辺の森 九州大学が所有する演習林(えんしゅうりん)で、同敷地の西端に位置する「篠栗九大の森」。都市近郊に残存する森の一部を、同大学と篠栗町が共同で整備し、2010年より一般公開を始めた。17ヘクタールの森は、自然の回復力を主体とする最低限の管理に留め、今もなお約90種類の樹木や野生の動物が生息している。森の中心にある池を一周する約2kmの遊歩道は、高低差が少なく、気軽に森林浴を楽しめるコースとなっている。見どころはなんといっても“水辺の森”。樹齢を重ねた落羽松が、その根を水辺にひたしながら立ち並ぶ姿はまさに幻想的だ。 ●“九州本土最西端”で眺めるロマンチックな大瀬崎灯台の夕日 長崎県・五島市の福江島に、九州本土最西端に位置する「大瀬崎灯台」がある。歴史がある灯台自体も見どころだが、なにより素晴らしいのはそこから見える風景。昼は真っ白な灯台、周囲の青い海、崖に打ち付ける荒波と、鮮やかかつ壮大な景色に感動する。日没15分前ごろからは、灯台のバックに沈む美しい夕日が見られる。“九州本土最西端”ということは、九州本土で最後に夕日に出合える場所ということ。そのロマンチックな事実とともに、この夕日はぜひ大切な人と一緒に楽しみたい。昼間は駐車場から遊歩道を進んで灯台まで行けるが、日没後は真っ暗なため、展望台から観賞しよう。 *14-2:http://qbiz.jp/article/135646/1/ (西日本新聞 2018年6月14日) 新国立競技場に九電産のスギ材 大分の社有林から伐採 九州電力は13日、東京都新宿区で建設が進む新国立競技場の屋根材に、大分県の社有林で伐採したスギが使われたと発表した。契約上の問題で使用量や価格は公表していない。九電は水力発電の水源かん養を目的に、同県九重町や由布市で約4447ヘクタールの社有林を管理している。伐採したスギやヒノキは市場に出荷しており、2017年度は15万立方メートルを販売した。新国立競技場は19年11月完成予定。20年東京五輪・パラリンピックの開閉会式や陸上競技の会場となる。「杜(もり)のスタジアム」を掲げ、国内各地の木材を多く使用する。 <シルクの魅力> PS(2018年6月18日追加):*15-1の緑色に光るシルクは、実需者の関心が高く、養蚕農家の飼育頭数が2年目で2.6倍の31万頭に増加したそうだが、これは先端技術による付加価値増加の典型例であり、これが日本だけでなく世界の織物(例えば、ペルシャ絨毯など)に使われるようになると面白いと思われる。そのほか、蛍光だけではなく、太刀魚の銀色やオオゴマダラの金色のシルクができると、銀糸・金糸を使う必要がなくなるので魅力的だ。 また、日本は、エネルギー・賃金・不動産などの高コスト構造により種々の産業を国内では成り立たなくして外国に追い出し、残った伝統産業も存続の危機に瀕しているため、*15-2のように、受け入れ環境を向上させて外国人の就労を促しつつ生産性を高めることによって、本当は必要なのだが成り立たなくなってしまっている産業を復活させるべきだ。 *15-1:https://www.agrinews.co.jp/p44355.html (日本農業新聞 2018年6月16日) 群馬県内新開発蚕の飼育頭数増加 光るシルク世界で輝け 2年目2・6倍、31万頭 実需者からの関心高く 緑色に光るシルクをつくる蚕の飼育頭数が増えている。世界で初めて昨年から群馬県で実用生産が始まった。開発した農研機構が実需者と契約を結び、県内の養蚕農家に蚕の生産を委託しており、今後は衣料やインテリア素材など幅広い分野での利用が想定されている。海外産の安いシルクの流入で押され気味だった養蚕業だが、日本だけの新たな素材で盛り上げたいと産地は意気込む。緑色に光るシルクをつくる蚕は、農研機構が遺伝子組み換えの技術を使って開発、群馬県蚕糸技術センターと共同で実用化に向けた研究を行ってきた。国の承認を受け、昨年から群馬県内の農家の施設で実用生産が始まっていた。2年目の飼養頭数は、昨年の2・6倍に当たる31万5000頭に増えることが明らかになった。外部への逃亡や近縁野生種との交配など、自然界に影響を与えないよう、施設の側面に網を張るなどの対策を取り、細心の注意を払って飼育するため管理に手間がかかる面はあるが、縮小する養蚕業にあって農家の期待は大きい。飼育する農家は生産量が増えたことに「需要が出ている」と受け止めている。昨年は、農研機構が京都市にある西陣織の老舗、細尾と契約した。生産農家で組織する前橋遺伝子組換えカイコ飼育組合が飼育を、長野県の宮坂製糸所が操糸を、それぞれ委託されていた。細尾は、インテリアやアート作品に利用する方向だ。今年産については、農研機構が新たな実需者と契約し、需要の広がりを見せている。契約先は今のところ非公表。飼育は、県技術センターが蚕の卵をかえし、4齢まで育成してから前橋遺伝子組換えカイコ飼育組合に渡し、同組合の農家が飼育して繭を生産する流れ。蚕期は、昨年は10月5日にスタートした初冬蚕だけで、飼育頭数は12万頭だった。これに対し、今年は計4蚕期で31万5000頭になる予定。5月18日から春蚕が7万5000頭で始まり、6月の夏蚕と9月の晩秋蚕が6万頭ずつ、10月の初冬蚕が12万頭の予定だ。蚕を供給する群馬県蚕糸技術センターは「使いたいという業者は多く、需要はある。世界のどこにもない繊維素材で、若い人が憧れる養蚕業をつくれれば」と期待する。 ●高単価に期待農家「夢ある」 緑色に光るシルクを吐き出す蚕は、一般の蚕に比べて繭の収量は低いものの取引価格が高いことから、今の価格で取引されれば経営上はやや有利になる。「なにより夢がある」と養蚕農家は話している。前橋遺伝子組換えカイコ飼育組合によると、1箱(3万頭)当たりの収繭量は一般の蚕が50キロ以上になるのに対し、緑色の蛍光シルクを吐き出す蚕だと40~45キロと1、2割少なかった。一般的な生繭の取引価格は1キロ当たり2200円ほど。これに加え、群馬県の場合、県から最大1キロ900円、さらに市町村から200~1200円の助成金が出る。緑色に光る繭の取引価格は明らかにされていないが「県や市の助成がなくても、一般の繭より高い」と同組合。1キロ6000~7000円程度になるとみられ、コスト分を勘案しても、収益は一般の蚕より高くなる。同組合の松村哲也組合長は「価格だけでなく、(緑色蛍光シルクには)夢がある」と、新しい素材生産に魅力を感じている。 *15-2:https://www.agrinews.co.jp/p44357.html (日本農業新聞 2018年6月16日) 外国人就労の緩和 受け入れ環境向上が鍵 政府は外国人の就労規制を緩和する方針を打ち出した。農業を含めて人材難に苦しむ業界からは“即戦力確保”への期待が高い。一方で、本当に人手不足解消につながるのか、治安の悪化を招かないかといった不安も少なくない。関連法制度の整備に当たり、解決すべき課題は多い。農業界も受け入れ環境の向上へ自己努力が求められる。15日に閣議決定した経済財政運営の基本方針(骨太方針)に、外国人の新たな在留資格を作る方針を盛り込んだ。技能実習制度や国家戦略特区での外国人受け入れに加えて今回、新たな仕組みを設けるのは、産業界が外国人材の受け入れ拡大を強く要望しているためだ。新たな制度は農業、介護、建設、宿泊、造船の5業種を対象にする見込みだ。技能実習制度の修了者や、それと同等の技能・日本語能力を問う試験に合格した外国人に就労を認める。報酬は日本人と同等以上、就労期間は通算5年を上限とする。詳細は政府が今後詰める。今回の規制緩和に農業界の期待は大きい。だが、狙い通り即戦力を確保し、労働力不足を解消できるかは未知数だ。人不足は日本に限った問題ではない。アジア労働人材の争奪戦には、韓国、台湾なども参入する。賃金や待遇面で必ずしも日本に優位性があるわけではない。さらに、就労先に日本が選ばれたとしても、農業で働くとは限らない。国境を越えた人材獲得競争、国内での業種間競争の二つが待ち構える。農業の人手不足は今後、一段と深刻化するのは必至だ。法人経営体の推進や規模拡大が進むほど、雇用労働力への依存度は高くなる。既に多くの産地では、人不足のために潜在生産力をフルに発揮できない問題に直面する。まさに「人の確保こそ最大の成長戦略」である。二つの競争に勝ち抜けるかは、優位性のある賃金水準や労働環境を実現できるかにかかる。「安い労働力」という意識では結局、虎の子を失う事態になる。一方で、農業経営体は他の業態に比べれば中小零細であり、経営体力に限界もある。今月上旬、関連農業団体と農水省が「農業技能実習事業協議会」を設立した。実習生の失踪や受け入れ側の不正行為などの改善策を考え、実習生が安定的に従事できる環境整備に取り組む。こうした自己努力が重要である。例えばファンドをつくって技術研修や初期渡航費に助成するなど踏み込んだ対策も考えられる。国への支援要望をまとめる必要もあろう。スピーディーな検討がポイントだ。政府は今回の規制緩和について、移民政策と一線を画すとの立場だ。ただ、欧米ではこの問題が国家の深刻な分断の震源と化している。安い労働力への過度の依存は、日本人の低賃金化や技術革新を活用した労働生産性向上に水を差すとの指摘もある。国家の将来像と絡めて国民的な議論を深める時である。 <農業の法人化と設備投資> PS(2018年6月19日追加):*16-1のように、農業の規模拡大で資金需要が高まり、農業法人投資育成制度を活用した農業法人への出資件数が5月末時点で累計500件を超えて、出資先の売上高が平均で4割増えたそうだが、返済する資金計画があるのなら大変よいことである。しかし、農産物は付加価値の高いものだけでなく普通のものも作らなければならないため、利益率が高いとは限らない。このような中、*16-2のような地域の新電力会社が、農業地帯で再エネ発電した電力を買い取って地産地消の電力を供給するようにすれば、農業に副収入ができて経営が容易になる。 牧場の風力発電 畑の風力発電 茶畑の風力発電 *16-1:https://www.agrinews.co.jp/p44383.html?page=1 (日本農業新聞 2018年6月19日) 法人出資500件超え JAが窓口機能 所得増大後押し アグリ社 JAグループと日本政策金融公庫(日本公庫)が設立したアグリビジネス投資育成(アグリ社)は18日、農業法人投資育成制度を活用した農業法人への出資件数が5月末時点で累計500件を超えたと発表した。農林中央金庫によると、同社の出資件数は制度全体の約9割を占める。規模拡大で資金需要が高まる中、JAが窓口機能を果たした。出資先の売上高は平均で4割増えており、所得増大に貢献している。アグリ社は2017年度、計74件に10億2000万円を出資。02年度の創設から5月末時点までの累計では出資件数が512件、出資額は83億4000万円となった。累計の品目別では野菜(32%)が最も多く、畜産(23%)、稲作(17%)が続く。農林中金によると、規模拡大に伴う設備投資資金の調達が多い。農業法人は増えているが、自己資本が脆弱(ぜいじゃく)で資金調達が課題。農業法人投資育成制度はこれを支援するもので、民間金融機関が専門の投資組織を立ち上げて出資する。出資は、資金の使い道に制約がなく、対外信用力の向上で融資が受けやすくなるメリットもある。投資組織はアグリ社の他に17組織あるが、農林中金によると、17組織の出資件数は全て合わせても累計80件程度。アグリ社が群を抜くのは「JAが持つ地域のネットワークが強み」(農林中金食農法人営業本部)のためだ。JAが農業者への訪問活動で得た情報を、農林中金を通じて同社につなぎ出資につなげるなど、地域の窓口機能を果たしている。出資は、JAグループが自己改革で目指す農業者の所得増大や農業生産の拡大にも貢献する。アグリ社が10年度から16年度の出資先の343社の売上高を調べたところ、出資前に比べて平均で1億100万円(42%)増えた。利益が増え、配当を支払う出資先も増加傾向にあるという。農林中金は「(同社を通じて)出資に加え、法人の従業員向けのセミナーなど経営支援にも取り組み、農業の成長産業化に貢献したい」(同)としている。 *16-2: http://qbiz.jp/article/135540/1/ (西日本新聞 2018年6月18日) 「くるめエネルギー」始動 新電力「住みよい街へ貢献」 収益の一部 防犯カメラや公園整備へ 福岡県久留米市の久留米商工会議所青年部を母体とする地域新電力会社「くるめエネルギー」(安丸真一社長、同市)の事業開始式典が11日、市内のホテルであった。安価な電力供給とともに、収益の一部を市内の防犯やインフラ整備に充てる地域還元型のビジネスモデルを目指す。同社は、青年部の有志14社が昨年6月に設立した。市内の電気利用者が、市外資本の電力会社に支払う電気料金を「地域資産の流出」と位置付け、電気利用をくるめエネルギーに切り替えてもらうことで流出を食い止め、地域還元や活性化の観点から、収益の一部を街灯や防犯カメラの設置、公園整備に充てる。地元事業者から出資を募ったところ、132社から応募があった。くるめエネルギーの契約者が、出資店舗や事業所を利用した場合には、割引などのサービスを提供する。2月には、大手商社丸紅グループの「丸紅新電力」と業務提携の基本合意を交わしており、丸紅側のノウハウを今後の事業展開に生かすという。この日の式典では、地域新電力の先輩に当たる「やめエネルギー」の本村勇一郎社長が「競合相手ではなく、互いの地域を尊重しながら、共存できる活動ができたら」とあいさつ。安丸社長は「住みよい街づくりに貢献したい。1人でも多くの人が久留米に住みたいと思う環境をつくっていく」と決意を語った。九州電力より2〜5%安い価格で電力を供給する。初年度の契約目標は、工場やオフィス向けの高圧100件、一般家庭や商店向けの低圧2300件。3年後には、高圧350件、低圧7300件、年間売り上げ10億円を目指す。くるめエネルギー=0942(80)5968。
| 農林漁業::2015.10~2019.7 | 11:12 PM | comments (x) | trackback (x) |
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