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2019.4.6 日本は人権を大切にしない国である ← ゴーン氏逮捕事件から日本の司法を評価する (2019年4月8、9、10、11、12、13、15日に追加あり)
    
2019.4.4朝日新聞 2018.12.19    2019.1.6産経新聞     2019.4.5Yahoo
          東京新聞
(図の説明:左図のように、最初のゴーン氏の逮捕・拘束は108日間続き、10億円もの保釈金を払って保釈されたのに、保釈から1か月後に再逮捕された。しかし、検察が指摘する罪状は、日産が協力しているにもかかわらず、まだ「ゴーン氏に証拠隠滅の恐れがある」と言っているほど証拠を押さえられていないらしい。さらに、ゴーン氏の罪の内容は、左から2番目、右から2番目、1番右と、実力派経営者の高額報酬にケチをつけたり、とにかくゴーン氏個人の不正を探したりしているもので、批判している人の方が見苦しいのである)

(1)刑事事件に関する日本国憲法の規定
 日本国憲法は、*1のように、「①33条:理由となる犯罪を明示する裁判所の令状によらなければ逮捕されない」「②34条:理由は直ちに告げられ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ拘禁されず、要求があれば、理由は直ちに本人と弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない」「③37条:すべて刑事事件で、被告人は公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する」「④38条:不当に長く拘禁された後の自白を証拠とすることはできず、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合は、有罪とされたり刑罰を科せられたりしない」と規定している。

 これを、ゴーン氏の逮捕と勾留に当てはめると、①については、裁判所の令状があったので満たされているが、②については、有価証券報告書虚偽記載という逮捕理由は告げられたものの逮捕するような罪ではなく、ゴーン氏のみを悪人に仕立てるにも都合が悪かった。そのため、検察は、ゴーン氏の特別背任罪を言い立てるために不正捜しを行い、直ちに本人と弁護人の出席する公開の法廷で逮捕理由を示すどころか、逮捕から半年たっても証拠隠滅の恐れがあるなどとして再勾留した。しかし、逮捕は証拠を揃えてからすべきものであるため、これは憲法違反である。

 また、③についても、被告人は公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有するにもかかわらず、裁判もせずに懲罰的拘束を行っているので、人権侵害が甚だしい。これに加え、日本の司法は、④の「不当に長く拘禁された後の自白を証拠とすることはできない」「自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合は、有罪とされたり刑罰を科せられたりしない」という日本国憲法の規定を無視している。

(2)日本の司法の問題点
 東京地裁は、2019年1月15及び22日、*2-1・*2-2のように、証拠隠滅の恐れがあるとしてゴーン氏の保釈請求を却下した。しかし、日産の代表取締役社長兼最高経営責任者は西川氏(1953年11月14日生まれ、開成高校・東京大学経済学部卒業、1977年日産入社)で、現在の日産はゴーン氏ではなく西川氏の指示で動くため、ゴーン氏は既に日産内外で影響力は持っておらず、証拠隠滅の恐れはない。だからこそ、2018年4月頃から、ゴーン氏を日産の会長職から追い落とすための証拠集めができたのだ。

 それどころか、*2-3-4のように、「ゴーン氏が中東の子会社からオマーンの販売代理店に『販売促進費』として送金させた資金は不要な支出だった」と日産関係者が証言しているように、現在は、西川氏をトップとする日産が組織的に口裏合わせをする方が容易だ。また、中東日産に100億円規模の販売奨励金があって半分ほど余っていたとしても、例えば権力者にエコカー優遇の働きかけをするために、販促費をゴーン氏がCEOリザーブから支出していても全くおかしくなく、CEOリザーブはルーチンワークではないCEOの判断で使ってよい金であるため、不正ありきでステレオタイプの論理を組み立てるのは、無知と悪意の両方が原因のように見える。

 また、検察が日産との司法取引で最初にゴーン氏を逮捕(2018年11月19日)してから既に2カ月も経っているため、検察は(あるのなら)既に書面で証拠を入手しているのが当たり前であり、今さら、ゴーン氏が口裏合わせによって証拠を隠滅できる可能性はない筈だ。

 さらに、特別背任罪起訴内容の「①私的通貨取引のスワップ契約の日産への移転」「②サウジアラビアの知人に日産子会社から約12億8千万円支出させた」というのは、①は実際には日産に損をさせていないし、②は販促費として支出されているわけである。

 そのため、検察は、①②だけでは特別背任罪として弱すぎると考えたのか、*2-3-1・*2-3-2のように、ゴーン氏が中東オマーンの販売代理店に送金した約5億6300万円の日産の資金を自らに還流させたとして特別背任容疑で再逮捕した。これについて、ゴーン氏は、「CEOリザーブは、各国の幹部がサインしており、ブラックボックスではない」「容疑に根拠はなく無実だ」としている。

 そして、*2-3-3のように、ゴーン氏は「真実をお話しする準備をしています。4月11日に記者会見をします」という記者会見予告をした途端に再逮捕された。これについて、ゴーン氏の弁護士は「普通に追起訴すればよく、何のために身柄を取るのかわからない。非常に不適当な方法だと思う」と批判しており、ゴーン氏の再逮捕は、2019年4月11日のゴーン氏の記者会見の妨害であるように思える。

(3)ルノー・日産の行動からわかるゴーン氏逮捕の背景
 ゴーン氏は、倒産しかかった日産自動車をルノーの資金援助で立ち直らせ、電気自動車を最初に市場投入し、世界第二位の自動車メーカーに育てた。その実績と環境車の縁があったからこそ、日産・ルノー組は、水素燃料電池車を最初に開発した三菱自動車と連合を組むことができたのだと、私は考える。

 そこで、仮にゴーン氏がいなかったら、日産は電気自動車を最初に市場投入したかと言えば、「決してしなかった」と私は明確に言える。私は、佐賀県唐津市にある日産のショールームに行って、「リーフを見せて下さい」と言ったことがあり、そのショールームのスタッフは「ああ、リーフね。ないよ」と吐き捨てるように言ったからだ。そして、バルセロナでゴーン氏が宣伝に出ていた動画は「Tecnology is Excellent!」として、電気自動車と自動運転車をアピールしていた。ゴーン氏と日産の一般スタッフはそれだけの意識の違いがあり、ゴーン氏は強力なリーダーシップを発揮したと思われ、これは日本に多い調整型のサラリーマン経営者にはできないからこそ、ゴーン氏は価値があったのである。

 しかし、*3-1のように、保釈されたゴーン氏が取締役会への出席を要求すると、裁判所は「証拠隠滅の恐れがあるから」として、ゴーン氏の取締役会への出席要求を退けた。そして、検察幹部は「関係者だらけの取締役会に出ていいわけがない。出席を希望するなんて、どこまで思い上がっているのか」と批判したそうだが、この状況でゴーン氏が証拠隠滅などできるわけがなく、それでもゴーン氏の話に感じ入ってゴーン氏側につく取締役がいるとすれば、それは人間力の差である。そのため、そんなことしか言えない検察の方がよほど思い上がっており、「検察は、そこまで経済や経営に疎いのに、なぜ威張っているのか?」と思う。

 なお、ゴーン氏逮捕の背景には、ルノーの大株主である仏政府がルノーと日産の経営統合を求めており、それを恐れる人が日産にいたことがある。そして、ゴーン氏逮捕後、仏ルノー、日産、三菱自動車を統括するための新組織を近く立ち上げ、新組織はルノーのスナール会長とボロレCEO、日産の西川社長兼CEO、三菱自の益子会長兼CEOが率いるそうだ。そして、日産は、4月8日の臨時株主総会で、ルノーと三菱自動車は6月の株主総会でゴーン前会長を取締役からも外して経営から全面的に排除する予定だったわけである。

 さらに、*3-2のように、日産が設置した企業統治改革の専門委員会は、日産の経営体制の見直しのため、①取締役会議長に社外取締役をあてる等の執行と監督の分離 ②取締役会の過半を、独立性を持つ社外取締役にする ③人事の決定権集中を防ぐため過半を社外取締役で占める指名委員会を設置する ④経営陣の報酬を決める報酬委員会は全員を社外取締役で構成する3~5人の組織を作る ⑤特別委は各取締役が経営会議体に関するすべての資料やデータにアクセスできる体制の構築 ⑥日産会長職の廃止 などを提言し、日産の西川社長兼CEOは同日夜、「大変重い提言だった。これから取締役会で検討し、できる限り実現したい」と述べたそうだ。

 しかし、取引相手である東レに入社して現在は東レ相談役である榊原氏が提言を出すと、日産に有利な提言が出るとは思えない。また、①③⑤は、経営戦略・特許戦略・販売戦略が外部に漏れ漏れになり、日産は私企業として成立しなくなる。さらに、社外取締役だから独立性を持てるとは言えないため、②は誤りである。そして、③④は、経営戦略に従って柔軟に人をスカウトできず、硬直した組織になる。また、⑥の会長職は、会長の権限の強さにもよるが、会長がいてもいなくてもあまり変わらない企業が多い。そのような提言に、西川社長兼CEOが賛同し、西川氏の責任論が早々に封印されたのは、日産にとってプラスではないと思う。
 
 そして、*3-3のように、ルノーは取締役会を開き、ゴーン氏に対して昨年の業績連動型報酬と年間約77万ユーロ(約9600万円)の年金支給を認めないことを決めたそうだが、懲戒解雇の場合以外は年金受給権はあるのが当然だ。また、退職に伴う報酬の支給は認めない方針ということなので、退職金は受領するまで確定債務でないことが、再度、明らかになっただろう。

 なお、*3-4のように、ゴーン氏は「イ.私は無実だ」「ロ.大量の間違った事実や恣意的な解釈によって絶えず名誉毀損が起きている」「ハ.日産自動車の一部の人間が日本でもフランスでも私をおとしめようと働きかけた」「ニ.2018年の4月か5月に、日産の会長職から追い落とせる証拠を集める動きが起きた」「ホ.日産内部での陰謀が背景にある」「ヘ.アライアンスは3、4人で行うクラブではないので、日産、ルノー、三菱自動車のアライアンスの将来を心配している」「ト.利害の対立で重要な決定がなされなくなり、あっという間にアライアンスが消え入ってしまうのを恐れている」という見解を語ったそうだ。

 このうち、ヘ. ト.について、私企業の経営は、サークル活動ではないため、私はゴーン氏と同じ意見だ。また、ロ. ハ.については、報道を見ていれば賛成できるし、*3-5のサッカー日本代表監督であったハリルホジッチ氏が解任された時と同じだ。つまり、名誉を剥奪する数々の行為を行って解任し、それまでの実績に対するリスペクトが全くないのだ。そして、この一部の日本人の性癖は、人間として本当に失望すべきものである。

 また、ニ.の2018年4月、5月に日産の会長職から追い落とせる証拠を集める動きが起きたのは、その時にはゴーン氏が怖くなくなっていたからで、ゴーン氏に権力が集中していたという説明は嘘である。また、ホ.の日産内部での陰謀が背景にあったのも、ゴーン氏逮捕後のあらかじめ計画されていたように速やかなゴーン氏追い出しの経緯を見ればよくわかる。

 さらに、イ.の無実かどうかは、私は証拠資料を見ていないので何とも言えないが、このように日産の権力闘争と一緒になって日本の司法が動いている以上、日本の司法に公正で迅速な裁判は期待できない。そのため、仏政府は仏市民を護るために動いた方がよいし、このような恣意的な司法では日本人も困るわけである。

・・参考資料・・
<日本国憲法>
*1:http://www.japaneselawtranslation.go.jp/law/detail_main?id=174 (日本国憲法抜粋) 昭和二十一年十一月三日
第三十二条 何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。
第三十三条 何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。
第三十四条 何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。
第三十六条 公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。
第三十七条 すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。
第三十八条 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。
第三十九条 何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。
第四十条 何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。

<日本の司法の問題点、ゴーン氏の長期勾留から>
*2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190116&ng=DGKKZO39997400V10C19A1EA2000 (日経新聞 2019年1月16日) ゴーン元会長の保釈認めず 地裁 勾留さらに長期化も
 日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告(64)を巡る一連の事件で、東京地裁は15日、ゴーン元会長の保釈請求を却下する決定をした。証拠隠滅の恐れがあるなどと判断したもようだ。弁護人は不服として準抗告するとみられる。勾留は2018年11月19日の最初の逮捕から2カ月近くに及んでおり、さらに長期化する見通しとなった。海外メディアなどの批判の声が高まる可能性もある。弁護人はゴーン元会長の公判が始まるまで少なくとも半年程度かかるとみており、準抗告が退けられても保釈請求を続けるとみられる。公判前整理手続きで争点や証拠が絞り込まれた段階、初公判で罪状認否が終わった段階で、裁判所が「証拠隠滅などの恐れが低下」と判断すれば保釈が認められる可能性はある。東京地検特捜部は11日、ゴーン元会長を会社法違反(特別背任)と金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の罪で追起訴。弁護人は即日、保釈を請求した。ゴーン元会長はいずれの起訴内容も否認し、8日の勾留理由開示手続きでも「私は無実です」と意見陳述。従来、特捜部の事件で起訴内容を否認する被告については早期の保釈が認められないケースが多い。地裁は18年12月、ゴーン元会長と共に金商法違反罪に問われた元代表取締役、グレッグ・ケリー被告(62)の保釈を認めた。ゴーン元会長については、特別背任罪にも問われた点、日産内外で大きな影響力を持っている点などを重視し、証拠隠滅の恐れが強いと判断したとみられる。特別背任罪の起訴内容は▽08年10月、私的な通貨取引のスワップ契約を日産に移転し、評価損約18億5000万円の負担義務を負わせた▽09~12年、サウジアラビアの知人側に日産子会社から約12億8千万円を支出させた――の2つの行為で日産に損害を与えたとされる。金商法違反罪の起訴内容は、18年3月期までの8年間、退任後に受け取る予定の報酬計約91億円を有価証券報告書に記載しなかったとされる。

*2-2:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2019012201001706.html (東京新聞 2019年1月22日) ゴーン被告保釈再び認めず 証拠隠滅の恐れ理由か、東京地裁
 東京地裁は22日、会社法違反(特別背任)などの罪で起訴された日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告(64)側の保釈請求を認めない決定をした。理由は明らかにしていないが、証拠隠滅の恐れがあると判断したとみられる。弁護人が18日に2回目の請求をしていた。勾留はさらに長期化する。最初の保釈請求は15日に却下され、準抗告も17日に退けられていた。ゴーン被告は昨年11月19日に金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の疑いで東京地検特捜部に逮捕されて以降、2カ月余り東京拘置所に勾留されている。特別背任罪と金融商品取引法違反罪のいずれも無実だと訴えている。

*2-3-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO43283380T00C19A4CC1000/ (日経新聞 2019/4/3) ゴーン元会長立件へ オマーン・ルート、特別背任容疑
 日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告(65)が同社の資金をオマーンの知人側に不正流出させた疑いが強まったとして、東京地検特捜部が会社法違反(特別背任)容疑での立件に向け、詰めの捜査を進めていることが3日分かった。関係者が明らかにした。最高検などと協議し、最終的に判断するとみられる。関係者によると、資金の流出先とされるのはゴーン元会長の知人がオーナーを務めるオマーンの販売代理店「スヘイル・バウワン・オートモービルズ」(SBA)。同社には2009年以降、日産の「CEO reserve」(CEO予備費)から、販売促進費名目で計約35億円が支払われた。CEO予備費は当時、日産の最高経営責任者だった元会長が使途を決めることができた。一方で、ほぼ同時期にゴーン元会長が、このオーナーから約30億円を借り入れていたことを示す文書が残っている。SBAの別の幹部が、元会長の妻が代表を務める会社のクルーザー購入代金約16億円を負担していた疑いも浮上している。特捜部は1月のゴーン元会長の追起訴後も捜査を継続。中東各国に捜査共助を要請するなどしていた。SBAに支払われたCEO予備費は販売促進費ではなく、元会長個人のための不正な支出だったとみている。ゴーン元会長は1月30日に勾留先の東京拘置所での日本経済新聞との単独インタビューで、CEO予備費について「各国の幹部がサインしており、ブラックボックスではない」と主張。「他の地域でも同じように予備費からインセンティブが支払われているのに問題視されていない」などと説明していた。ゴーン元会長は▽退任後に受け取る予定の報酬計約91億円を有価証券報告書に記載しなかった金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)▽サウジアラビアの知人側に日産子会社から約12億8千万円を支出させるなどした特別背任――の罪で起訴されている。3月6日に保釈され、現在は事前に裁判所に届け出た東京都内の住居で生活を送っている。

*2-3-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13965319.html (朝日新聞 2019年4月5日) ゴーン前会長、4回目逮捕 5.6億円、自らに還流容疑 保釈から1カ月
 日産自動車の前会長カルロス・ゴーン容疑者(65)が、中東オマーンの販売代理店に送金した約5億6300万円の日産資金を自らに還流させたとして、東京地検特捜部は4日、ゴーン前会長を会社法違反(特別背任)容疑で再逮捕した。関係者によると、前会長は販売代理店の口座から、自身が実質的に保有する「GFI」社(レバノン)の預金口座に送金させ、自身に還流させていたという。前会長の逮捕は4回目。特捜部の事件で、保釈中の再逮捕は異例だ。弁護団の弘中惇一郎弁護士は記者会見を開き、「合理性も必要性もなく逮捕に踏み切ったのは暴挙だ」と批判した。弘中氏によると、特捜部はこの日早朝、前会長が3月6日の保釈後に暮らしてきた東京都内の住居内で逮捕状を執行。家宅捜索で、裁判準備のための書類や前会長の妻の携帯電話、パスポートなどが押収されたという。弘中氏は「明らかな防御権侵害で弁護権侵害だ」と訴えた。ゴーン前会長も米国の代理人を通じて「容疑に根拠はなく無実だ」などとする談話を公表した。特捜部などによると、ゴーン前会長は2015年12月~18年7月、日産子会社「中東日産」(アラブ首長国連邦)からオマーンの販売代理店「スヘイル・バウワン・オートモービルズ」(SBA)に計1500万ドル(当時のレートで約16億9800万円)を送金。うち計500万ドル(同約5億6300万円)をGFIに送金させていた疑いがある。特捜部は、前会長がGFIを実質的に保有していたとみて調べている。SBAのオーナー、スヘイル・バウワン氏はゴーン前会長の長年の友人。SBAのインド人幹部がGFIの大株主となっている。GFIは15~18年、前会長の息子が米国で起業した会社に計2750万ドル(現在のレートで約30億円)を資金援助していたという。特捜部は1月、サウジアラビアの実業家に日産の資金を不正送金した特別背任罪で前会長を追起訴した。サウジに加えて「オマーンルート」も立件することで疑惑の全容解明をめざす。
■オマーンルート、友人無言 「送金先」に現地で接触
 2月上旬、中東オマーンの首都マスカット。民族衣装を身につけた老齢の男性が建物から出てきた。「日産からどういうお金を受け取ったのですか?」「ゴーン氏個人とはどういう金のやり取りがあったのですか?」。男性は歩きながら、そう質問を投げかける朝日新聞記者をちらっと見ただけで一切答えなかった。運転手に促されてドイツ製の高級車に乗り込み、去った。スヘイル・バウワン氏。現地の富豪で、日産と仏ルノーの販売代理店のオーナーを務める。中東レバノン育ちのゴーン前会長の長年の友人。今回の事件の「オマーンルート」で不正資金の送金先になったとされる。記者は代理店や関連会社、自宅などを訪ねたが一切取り次いでもらえなかった。地元の有力者から、ようやく同氏が訪れる場所と時間を聞くことができた末の接触だった。関係者によると、バウワン氏は、1月に起訴された「サウジアラビアルート」でゴーン前会長から不正送金を受けたとされる富豪ハリド・ジュファリ氏らとともに、日産社内で中東の「GF」(ゴーン・フレンズ)と呼ばれている。オマーン関連の会議を、中東諸国ではなくゴーン前会長がいるパリで開催し、ともに夕食を取るなど親密な関係だったという。オマーンで1970年代から日産代理店だった会社関係者によると、2004年ごろに契約を突然打ち切られたという。不可解に思っていたところ、バウワン氏の会社が新たに代理店となった式典にゴーン前会長が出席した。「ゴーン氏が来るなんて」と驚いたといい、「それほど個人的なつながりがあるのだろう」と感じたという。

*2-3-3:https://digital.asahi.com/articles/ASM4435GCM44UTIL00F.html?iref=comtop_8_01 (朝日新聞 2019年4月4日) 弁護団「意味わからない」 ゴーン前会長、異例の再逮捕
 108日間の勾留後に保釈され、作業着姿で東京拘置所から出て30日目。東京地検特捜部が4日、日産自動車の前会長、カルロス・ゴーン容疑者(65)の4度目の逮捕に踏み切った。前日にゴーン前会長自ら記者会見を予告した矢先の再逮捕に、弁護団は「意味がわからない」と特捜部の対応を批判した。4日午前6時前、東京地検の係官らがゴーン前会長が保釈後に過ごしていた都内の制限住居に入った。住居前に集まった報道陣は約50~60人。現場での混乱を避けるため、東京地検は規制線を敷く異例の対応を取った。約50分後、ゴーン前会長を乗せたとみられるワゴン車が住居を出発。車の窓はカーテンで覆われ、車内の様子を確認することはできなかった。車は午前7時ごろに東京・霞が関の東京地検の敷地に入った。その約30分後、特捜部は前会長を再逮捕したと発表した。特捜部の捜査対象は、政治家や企業の経営者などが多く、早朝の逮捕は極めて異例だ。ゴーン前会長の弁護人を務める弘中惇一郎弁護士は午前8時50分ごろ、事務所前で報道陣の取材に応じ、「普通に(再逮捕せず)追起訴すればいいわけであって、何のために身柄を取るのか意味がわからない。非常に不適当な方法だと思う」と批判した。弘中氏は、前夜までに特捜部からゴーン前会長への聴取要請はなかったとし、今回の再逮捕容疑についてゴーン前会長とは「突っ込んだ話をしたことがない」と明かした。ただ3日に「再逮捕へ」「立件へ」などとする報道を目にしたゴーン前会長は、不愉快そうな様子だったという。ゴーン前会長は3日に自身のツイッターのアカウントを開設し、「真実をお話しする準備をしています。4月11日木曜日に記者会見をします」と発信。弘中氏はその会見について、「逮捕はされたが、裁判所が勾留を認めるかどうかわからないので、勾留されなければ予定通り11日にやろうと思っている」と話した。再逮捕の発表から約3時間後の午前10時15分ごろ、ゴーン前会長を乗せたとみられる車が、昨年11月の逮捕から3月6日まで108日間過ごした東京拘置所に入った。制限住居を家宅捜索した東京地検は、関係する資料を押収したとみられる。

*2-3-4:https://digital.asahi.com/articles/ASM462T3GM46UTIL002.html?iref=comtop_8_04 (朝日新聞 2019年4月6日) ゴーン前会長送金「不要な支出」 中東日産、奨励金余る
 日産自動車の前会長カルロス・ゴーン容疑者(65)をめぐる特別背任事件で、前会長が中東の子会社からオマーンの販売代理店に「販売促進費」として送金させた資金について、日産関係者が「不要な支出だった」と証言していることが関係者への取材でわかった。前会長は自分の裁量で使える予備費から支出していたが、子会社の予算は余っていたことが判明。東京地検特捜部は、前会長が資金の還流を隠すために送金目的を偽ったとみている。特捜部の調べでは、ゴーン前会長は2015~18年、アラブ首長国連邦にある日産子会社「中東日産」からオマーンの販売代理店「スヘイル・バウワン・オートモービルズ(SBA)」に約17億円を送金。そのうち約5億6千万円を、自らが実質的に保有するレバノンの投資会社「GFI」に還流した疑いがあるという。原資はCEO(最高経営責任者)の裁量で使える「CEOリザーブ(予備費)」で、ゴーン前会長は「販売促進費」名目で支出していた。一方、複数の関係者によると、中東日産には、自分たちで予算化した100億円規模の販売奨励金があったという。各国の販売店と決めた年間の販売目標などに基づき、中東日産の判断で支出するが、使い切れずに半分ほど余るような状況だったという。日産関係者は特捜部にこうした実態を説明。ゴーン前会長からのCEOリザーブについて「自分たちの裁量で出す奨励金が余っており、不要だった」と指摘し、SBAへの送金は「中東日産の判断ではない」と供述しているという。一方、関係者によると、ゴーン前会長は、CEOリザーブは正当な販売促進費で「問題ない」と主張しているという。

<ルノー・日産の行動からわかるゴーン氏逮捕の背景>
*3-1:https://digital.asahi.com/articles/ASM3C5JJ6M3CUTIL01T.html?iref=comtop_8_02 (朝日新聞 2019年3月12日) 日産が恐れた取締役会出席 検察は「思い上がり」と批判
 保釈された勢いそのままに、取締役会に乗り込んで反転攻勢に出るのではないか――。日産関係者が恐れた前会長カルロス・ゴーン被告(65)の取締役会への出席要求は退けられた。裁判所は今回、証拠隠滅の恐れを重視した模様だが、前例のない判断が続くことになりそうだ。「(日産に)ここまで強く反対されるとは思わなかった。非常に残念だ。取締役の責任を果たしたいというつもりであり、証拠隠滅する意思なんて全くない」。ゴーン前会長の弁護団の弘中惇一郎弁護士は、検察の意見書に添付されていたという日産の「反対」意見書に不満をにじませた。検察側は、地裁の判断を「妥当」と評価する。一連の事件では、勾留延長の却下や公判前整理手続きが始まる前の保釈と、検察の意に反する判断が続いていただけに、「もはやどんな判断でも動揺はしない」(検察幹部)と構えていた。この幹部は「前会長の発言が取締役個人にどう影響するか分からない。裁判所もさすがにまずいと思ったのだろう」と語った。取締役会には、保釈の条件として接触禁止となっている「事件関係者」とされる西川(さいかわ)広人社長らが出席。事件も議題になる可能性がある。別の検察幹部は「関係者だらけの取締役会に出ていいわけがない。出席を希望するなんて、どこまで思い上がっているのか」と批判した。日産幹部の一人は、東京地裁の判断に「正直言ってひと安心」と胸をなで下ろした。ゴーン前会長が取締役会に出席すれば、他の日産幹部の疑惑への関与などについて、持論を展開する可能性があったからだ。元刑事裁判官の水野智幸・法政大法科大学院教授は「ゴーン前会長に敵対的な人がいる中で簡単に証拠隠滅はできないと思うが、影響を受ける人もいると地裁は懸念したのだろう」と指摘する。一方で、テーマによって判断は変わりうるとし、「取締役会の都度、許可を求めれば、出席が実現することもあるのではないか。前例がなく、裁判官も手探りだろう」と述べた。日産と同様、取締役の職にとどまる三菱自動車や仏ルノーは「事件との関係は希薄になってくる」(弘中氏)。両社の取締役会への出席を求めた場合の判断も注目される。
●3社連合、新組織設立へ
 仏ルノーは11日、3社連合を組む同社と日産、三菱自動車を統括するための新組織を近く立ち上げる方針を明らかにした。新組織の設立により、ゴーン前会長との決別と、3社の連携が強固であることを社内外にアピールする狙いがあるとみられる。新組織はルノーのジャンドミニク・スナール会長とティエリー・ボロレCEO(最高経営責任者)、日産の西川(さいかわ)広人社長兼CEO、三菱自の益子修会長兼CEOが率いる。新組織のトップにはスナール氏が就任する方向で調整している。4人は12日、横浜市の日産本社でそろって記者会見し、新組織などについて説明する。ルノーは11日に出した声明で、新組織の設立はルノーと日産の持ち株比率の変更や、両社のアライアンス(提携)に関する合意文書「RAMA(ラマ)」には影響しないとも明らかにした。ただ、ルノーの大株主の仏政府は両社の経営統合を求めており、今後の協議の行方はなお不透明だ。新組織の設立に伴い、オランダにある統括会社「ルノー・日産BV」と「日産・三菱BV」は機能を停止させる。日産・三菱BVからゴーン前会長が非公開の報酬約10億円を受け取っていたことが判明するなど、二つの統括会社を巡る不透明な資金の流れが問題視されていた。日産は4月8日の臨時株主総会で、ルノーと三菱自も6月の株主総会で、それぞれゴーン前会長を取締役からも外して経営から全面的に排除する予定だ。

*3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190328&ng=DGKKZO43006590Y9A320C1MM8000 (日経新聞 2019年3月28日) 日産会長職「廃止を」 経営体制見直し 特別委提言、監督・執行分離促す
 日産自動車が設置した企業統治改革の専門委員会は27日、経営体制の見直しへ提言をまとめた。元会長のカルロス・ゴーン被告に権限が集まり不正を防げなかった反省から、取締役会の議長に社外取締役をあてるなど執行と監督の分離を明確にするよう求めた。仏ルノーとの間で指名を巡り対立点になった日産会長職は廃止を提言。日産は提言を基に新たな体制作りに着手する。有識者らで組織する「ガバナンス改善特別委員会」の榊原定征共同委員長らは27日夜、横浜市内で記者会見した。榊原委員長は「(経営の)執行と監督の長が同じ人物であることが不正を招いた。執行の長は最高経営責任者(CEO)、監督機関の長は議長とすべきだ」と述べ、会長職の廃止など経営体制の見直しを求めた。特別委は報告書の中で、カルロス・ゴーン被告に権限が集まった反省から、取締役会の議長に社外取締役をあてるなど執行と監督の分離を明確にするよう提言した。取締役会は過半を独立性を持つ社外取締役にした上で、今年6月末までに「指名委員会等設置会社」に移行するよう促した。具体的には、人事の決定権が集中するのを防ぐため、過半を社外取締役で占める指名委員会を設置。経営陣の報酬を決める報酬委員会については、全員を社外取締役で構成する3~5人の組織をつくるよう求めた。日産では意思決定の権限がゴーン元会長に集中していた。特別委は各取締役が経営会議体に関するすべての資料やデータにアクセスできる体制の構築も提言した。特別委は27日、日産の取締役会に提言内容を説明した。日産の西川広人社長兼CEOは同日夜、「大変重い提言だった。これから取締役会で検討し、できる限り実現したい」と述べた。
●西川氏の責任論、早々に封印
 企業統治(ガバナンス、総合2面きょうのことば)改革の専門委員会の焦点は経営の監督と業務執行の分離が主なテーマになった。約100日に及んだ議論を検証すると、ゴーン元会長の暴走を許した西川広人社長兼最高経営責任者(CEO)ら現経営陣の個人の責任には当初から踏み込まない方向が決まっていた。日産の現経営体制の安定を優先した面が浮かび上がる。「ガバナンス改善特別委員会」の発足は2018年12月。日産がゴーン元会長の一連の問題の原因を分析し、企業統治の改善策を提言してもらうのが目的だった。筆頭株主の仏ルノーが日産会長職の指名を要求し対立が激しくなる中、日産が19年3月末に設定した特別委の提言まで時間稼ぎする効果もあった。「ルノーとの関係を含め考えないといけない。まず第三者の観点から問題を明確に指摘してもらう」。12月17日に記者会見した西川社長は特別委に幅広く議論してもらう考えを示した。「ルノーとの資本関係がいびつ」「現経営陣の責任をどう考えるか」。各委員らは1月に開いた会合で何を討議の対象とするか意見を交わした。共同委員長に就いた榊原定征・前経団連会長が議論を主導し、「この委員会は個人の責任追及のためにあるわけではない。人が代わっても企業統治で問題が生じないようなシステムにしないと意味がない」との意見で一致。早々に、ゴーン体制を支えた西川社長ら個人の責任論は議論の対象から除外された。当初は一部委員から「ルノーとの資本関係についても言及すべきだ」との意見が出たが、「ルノーを刺激する必要はない」との意見が多数派を占めた。議論はいかに権限を分散させるかが中心で、日産の現体制を安定させる方向で進んだ。紛糾したのが日産会長職の扱いだ。「取締役会の議長でない会長職は欧州では聞いたことがない」。本格的な討議が始まり会長と議長の分離が議論になった2月15日の会合。委員の一人であるルノー出身の日産社外取締役、ジャンバプティステ・ドゥザン氏から強い異議が出された。欧米で会長は監督トップを指す議長とほぼ同義。議長と分離しては会長の役割が曖昧になる。別の委員は反論する。「ルノーは権限集中を続けたいと思われていいのか」。ある委員は「監督と執行が同じなんて警察と泥棒が同じようなものだ」と例える。理由はある。ゴーン元会長時代の日産取締役会の平均会議時間は20~30分で短いときは9分。「これで異議はないですね」。ゴーン元会長が鋭いまなざしで取締役メンバーを一瞥(いちべつ)し発言すると周囲はうなずく。議論は深まらない。監督機能の不全に対する委員の問題意識は強く、公表された報告書がその一端を示している。「ゴーン氏は取締役会において質問や意見が出ることを嫌い、意見などを述べた取締役や監査役を会議後自室に呼んだり、いわゆる『うるさい監査役』については再任しなかった」。一方、紛糾した2月の会合後、委員は非公式の会合を重ね「日産に会長はいらない。取締役会議長は社外から」との認識でまとまった。この話を聞いたルノーは会長職の指名にこだわらない方針に傾く。ジャンドミニク・スナール会長は3月12日の記者会見で「日産の会長になろうとは思っていない」と明言した。特別委は日産がルノーの要求をかわし、結果的に両社の直接の対立を緩和する役割も果たした。ルノー側もスナール氏が日産の代表権を持つ取締役に就き、副議長という新設ポストに就く実利をとった。報告書は「活動は社内では不可侵領域化していた」とゴーン元会長を批判した。だが元会長は強力なリーダーシップで「ぬるま湯」だった日産の系列解体を迫り、業績をV字回復をさせたのも事実。日産に来た当初は現場の意見を拾い上げ改革プランを実行したが、途中から独裁的に振る舞うようになった。西川社長らの責任を不問にしたまま新体制に動く日産に対し、業界内では「不正を見逃した人物が新体制の中心にいることには違和感がある」との批判が残る。企業統治を機能させながら迅速に意思決定する必要もある。仕組みはできても、経営幹部らがどう運用するかが重要だ。27日にルノーとの提携合意から20年の節目を迎えた日産。カリスマ退場後の道筋はまだ見えない。

*3-3:https://ryukyushimpo.jp/kyodo/entry-898421.html (琉球新報 2019年4月3日) ルノー、年金と一部報酬を不承認 ゴーン前会長巡り
 フランス自動車大手ルノーは3日、取締役会を開き、ロイター通信によると、前会長カルロス・ゴーン被告に対し、昨年の報酬のうち業績などに応じた分の支払いや年間約77万ユーロ(約9600万円)の年金支給を認めないことを決めた。フランス・メディアによると固定給100万ユーロは既に支払われているという。公共ラジオ、フランス・アンフォは、前会長が1月に辞任した際、年金受給権を主張したと報道。生涯受け取れることになっているとしていた。ルノーは2月の取締役会で、退職に伴う報酬などは支給を認めない方針を既に決定していた。

*3-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13966549.html (朝日新聞 2019年4月5日) 資金還流、複数口座を経由 ゴーン前会長、隠す意図か 14日まで勾留決定
 日産自動車の前会長カルロス・ゴーン容疑者(65)がオマーンの販売代理店に不正に支出させた日産資金を私的に流用したとされる会社法違反(特別背任)事件で、販売代理店からレバノンの投資会社「GFI」に送金する際、複数の口座を経由させていたことが関係者への取材でわかった。東京地検特捜部はこの投資会社を前会長が実質的に保有していたとみており、資金の還流を隠すための偽装工作だったとみている。関係者によると、還流した資金の一部は、GFIからゴーン前会長の息子が起業した米国の会社に流れていたとみられる。特捜部は、米国司法当局に捜査共助を要請し、検事を派遣。米当局を通じて息子の会社の口座を解析するなどし、資金の流れを調べるとみられる。特捜部などによると、前会長は2015年12月~18年7月、日産子会社「中東日産」(アラブ首長国連邦)からオマーンの販売代理店「スヘイル・バウワン・オートモービルズ」(SBA)に計1500万ドル(当時のレートで約16億9800万円)を送金させ、そのうち計500万ドル(同約5億6300万円)をGFIに還流させていた疑いがある。関係者によると、SBAからGFIへの送金は、複数の口座を経由。資金の流れを複雑にし、送金先がわからなくなるようにしていたという。GFIは15~18年、ゴーン前会長の息子が米国で起業した会社に計2750万ドル(現在のレートで約30億円)を資金援助していたという。SBAのインド人幹部がGFIの大株主となっていた。前会長は、GFIの株主や役員に名前を連ねていない。自身とGFIの関わりも隠そうとしていたとみて、特捜部はGFIの実態解明を進めている。ゴーン前会長は「容疑に根拠はなく、無実だ」などと主張。弁護人も、前会長に証拠隠滅や逃亡の恐れはなく、逮捕は不当だと主張している。
     ◇
 東京地裁は5日、ゴーン前会長に対する特捜部の勾留請求を認め、14日まで10日間の勾留を決定した。弁護側は決定を不服として準抗告する方針。
■仏政府に権利擁護求める 「日本人、外国からどう言われるか気にする」仏民放に語る
 仏民放ニュース局LCIは4日、ゴーン容疑者に対し、再逮捕直前に行ったとするインタビューを放映した。ゴーン前会長は日本の弁護士事務所から、インターネット電話を通じて記者の質問に約20分間、応じたという。
ゴーン前会長はインタビューで、「私は無実だ」と強調し、「外国で恐ろしい状況に巻き込まれている」と訴えた。「大量の間違った事実や(恣意〈しい〉的な)解釈によって絶えず名誉毀損(きそん)が起きている」と主張した。また、「日産自動車の人間が、日本でもフランスでも(ゴーン前会長をおとしめようと)働きかけてきた」と述べ、「2018年の4月か5月に、日産の会長職から追い落とせるような証拠を集める」動きが起きたと振り返り、日産内部での陰謀が背景にあるという見解を語った。被告として臨む裁判については「どう展開するのか、疑問を持っている」と語った。「日本人は外国からどう言われるかをとても気にする」とし、「仏市民としての私の権利が擁護されるよう、仏政府に訴えた」と述べた。日産、ルノー、三菱自動車のアライアンス(提携)にも触れ、その「将来を心配している」と話した。自身が3社の会長として束ねた体制に代わり、合議制が採用されたことを「アライアンスは3、4人で行うクラブではない」と語り、利害の対立で重要な決定がなされなくなる可能性に言及。「あっという間にアライアンスが消え入ってしまうのを恐れている」と語った。

*3-5:https://www.jiji.com/jc/v4?id=201804vahid0001 (時事 ) サッカー日本代表監督解任 ハリルホジッチ氏会見
●「誰とも何の問題もなかった」
 サッカー日本代表前監督のバヒド・ハリルホジッチ氏(65)が4月27日、東京都内の日本記者クラブで会見し、2018年ワールドカップ(W杯)ロシア大会開幕2カ月前の電撃解任について「日本をこんな形で去ることになるとは考えたことはなかった。私自身が考えつく限りの最悪の悪夢。リスペクトがないのではないか。人間として深く失望している」と語った。同氏が記者会見するのは、今月7日にパリで解任通告を受けてから初めて。会見には報道関係者約330人が集まり、同氏は予定を30分上回り、約1時間半語り続けた。会見の主な内容は次の通り。
 ◇ ◇ ◇
 (解任を通告された)7日以来、初めて私の口から話す機会となった。日本という素晴らしい国を初めて体験してきた。いろいろな物を敬う日本という素晴らしい国に来たのは、観光客、物見遊山ではない。私の手で日本のサッカーに何かをもたらせるのではないか、という気持ちで来た。日本をこんな形で去ることになると考えたことはなかった。人間として、深く失望した。日本にW杯の準備のために来て、しっかり予選を通過させた。ハイレベルなサッカーの世界で45年仕事をしてきて、監督という職業ははかないもので、どんな時だろうと何が起こるか分からない。私に通告されたことに対しては、大変失望した。私に対するリスペクトがなかった。3年間、日本代表チームのためにいろいろな仕事をしてきた。それを説明したい。しっかり誇りを持って仕事をしてきた。(就任)最初の日に、日本サッカー協会のJFAハウスに行った時、こう聞いた。「どこにオフィスがありますか?」と。「あなたのオフィスなんてありませんよ」ということなので、すぐにお願いした。日本のサッカーの歴史で初めてだったようだ。毎日オフィスに出勤した。代表チームのセレクションだけでなく、毎日ミーティングをしたり、テクニカルスタッフと選手の試合の視察もした。選手一人一人の報告書、レポートをつくる。毎週月曜日は、スタッフ全員とミーティングをした。故障した選手とはすぐ連絡を取り、どういう状況かを聞いた。一人一人に、3年間ありがとうと言いたい。私の人生で、ここまでやる気があって、みんなが規律正しくやってくれるのを見たことがない。練習の中身も、選手の集中度、質の高さも本当に素晴らしく、ビッグなブラボー、ビッグなメルシーを申し上げたい。3年前から、私は誰とも何の問題もなかった。特に、選手との問題はなかった。常にコンスタントに選手たちと連絡を取り合っていた。何度、海外組の選手と電話で話しただろうか。国内組もそうだ。合宿、公式戦でもオフィスをしつらえてもらって、選手たちに来てもらって、話し合いができる場をつくった。皆さんは証人になってもらえると思うが、人前で誰か一人の選手を批判したことは一度としてない。いつも「悪いのは私、批判するならハリルを批判してくれ」と言っていた。実際、ピッチで選手たちと1対1で話す時は、ちょっと違っていた。私が何かを言いたい時は、ちゃんと面と向かって言うようにしている。こんなにストレートな物言いに慣れていない選手もいたかもしれない。でも、私はこの選手、チームに対する思い入れは強かった。

<日本版司法取引について>
PS(2019年4月8日追加):ゴーン氏逮捕事件で日産の他の関係者が罪に問われない理由は、*4-1のように、司法取引を導入した改正刑事訴訟法が2018年6月1日に施行され、日産がそれを使ったからである。司法取引とは、共犯者が犯罪解明のため警察官・検察官に対し、供述や証拠提出などの協力をすると、その見返りに検察官が、①起訴見送り ②起訴取り消し ③より軽い罪での起訴 ④より軽い求刑 等ができる制度だ。しかし、誰かを陥れるために虚偽の供述を行って冤罪を生む危険性も孕んでおり、日本の裁判所は迅速で公正な裁判を行わないため、最後に冤罪であることが証明され無罪が確定したとしても、既に数年~数十年間の不名誉な期間が経過して取返しがつかなくなっており、重大な人権侵害を引き起こす。この刑事訴訟法改正は、もともとは厚労省局長であった村木氏の無罪が確定した文書偽造事件を機に議論が始まり、冤罪を防ぐことが目的だったが、それとは逆行した改革になったものである。
 そして、*4-2のように、日本版司法取引の最初の適用事例は、三菱日立パワーシステムズと東京地検特捜部間で行われた「タイの発電所建設事業をめぐる不正競争防止法違反(外国公務員への贈賄)に関し、会社が刑事責任を免れる見返りに賄賂を支払った社員への捜査に協力する」というものだった。私は、受注に贈賄が必要な国もあるため、受注で利益を得た会社が賄賂を支払った社員を刑事罰に処する司法取引を行い、日本の検察や裁判所が国内法や国内の“社会通念”に照らして捜査や審判を行うのは、理不尽が過ぎると思う。

*4-1:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-728536.html (琉球新報社説 2018年5月30日) 司法取引導入 冤罪防止目的に逆行する 
 司法取引を導入する改正刑事訴訟法が6月1日に施行される。逮捕された容疑者や起訴された被告が共犯者らの犯罪解明のために警察官や検察官に対して、供述や証拠提出などの協力をした見返りに、検察官は(1)起訴の見送り(2)起訴の取り消し(3)より軽い罪での起訴(4)より軽い求刑―などができる。罪を犯した人は適正に処罰されるべきである。他人の犯罪を明かしたからといって、償うべき罪を軽減されるなどの恩恵を与えられるのはどう考えてもおかしい。対象となる犯罪は改正法で定めている薬物・銃器関連、詐欺、横領、贈収賄などのほか、3月に閣議決定した政令で独占禁止法違反や金融商品取引法違反などを加えた。薬物事件など組織犯罪捜査での効果が期待される一方、虚偽の供述で冤罪えん(ざい)を生む危険性がある。逮捕された後、刑を逃れたり、軽減させたりするために、虚偽の供述をすることは十分あり得る。検察官がうそを全て見破ることができるとも限らない。実際、共犯者とされた人物の虚偽供述が重要な証拠となり、身に覚えのない罪に問われた例がこれまでもあった。名古屋市発注の道路清掃事業を巡る談合事件で2003年、名古屋地検特捜部に逮捕、起訴された男性は虚偽の証言によって巻き込まれた。業者に予定価格を漏らしたとして逮捕された男性の部下が男性に報告し、了承を得ていたとのうその供述をしたため逮捕された。無罪が確定し、男性が非常勤顧問として職場に戻ったのは逮捕から7年が経過してからである。09年に東京都内の民家に男2人と共に押し入り、現金を奪ったとして、強盗致傷罪などに問われた男性は「身に覚えがない」と否認した。だが、共犯者とされた男が「男性から話が持ち込まれた」と供述したため逮捕された。男性が無罪を勝ち取るまでに6年もかかった。司法取引の導入によって自らの罪が軽減されることが期待されれば、冤罪の危険性がこれまで以上に高まることは否定できない。そもそも刑事訴訟法などの改正は、大阪地検特捜部が押収したフロッピーディスクの内容を改ざんし逮捕した厚生労働省元局長の無罪が確定した文書偽造事件を機に議論が始まった捜査・公判改革の一環である。冤罪を防ぐことが大きな目的だったはずだが、司法取引はそれに逆行する。検察が起訴権限を独占し、容疑者らに対して圧倒的な影響力を持っている現状で、司法取引を導入するのは危険である。検察の意に沿うストーリーを受け入れれば、起訴しないと誘導する捜査手法につながる恐れがあるからだ。司法取引はあまりにも問題点が多い。新たな冤罪を生みかねないとの懸念を払拭できない以上、司法取引制度は廃止すべきだ。

*4-2:https://www.huffingtonpost.jp/nobuo-gohara/mhps-20180718_a_23484212/ (HUFFPOST 2018年7月18日) (2018年7月17日郷原信郎が斬る!より転載) 「日本版司法取引初適用事例」への“2つの違和感” ~法人処罰をめぐる議論の契機となる可能性
 今回の事例には、二つの面で違和感を持たざるを得ない。タイの発電所建設事業をめぐる不正競争防止法違反(外国公務員への贈賄)事件で、事業を受注した「三菱日立パワーシステムズ」(MHPS)と、捜査している東京地検特捜部との間で、法人の刑事責任を免れる見返りに、不正に関与した社員への捜査に協力する司法取引(協議・合意)が成立し、今年6月に施行された刑訴法改正で導入された「日本版司法取引」(捜査公判協力型協議合意制度)の初適用事件になったと報じられている。MHPSは、三菱重工業と日立製作所の火力発電事業部門が統合し2014年2月に設立した会社であり、事業を受注したのは、統合前の三菱重工業だったとのことだ。「日本版司法取引」は、検察官と被疑者・被告人およびその弁護人が協議し、被疑者・被告人が「他人」の刑事事件の捜査・公判に協力するのと引換えに、自分の事件を不起訴または軽い求刑にしてもらうことなどを合意するものだ。導入の目的については、「組織犯罪の末端の関与者に刑事責任の軽減の恩典を与えることで、組織の上位者の犯罪について供述しやすくすること」と説明されてきた。ところが、その初適用事例が、「外国公務員贈賄」という犯罪に関して、事業上の利益を得る「会社」が免責されるのと引き換えに、犯罪行為に関わった「社員」の刑事責任を追及する方向での「取引合意」だった。「想定とは逆」であることに、違和感が生じるのも当然と言えよう。今回の事例には、二つの面で違和感を持たざるを得ない。
●法人免責が「取引合意」の対象となったことへの「違和感」
 第一の「違和感」は、MHPSと検察官との間で、「法人」の刑事責任を免れることと引き換えに、贈賄行為に関わった「社員」が刑事処罰されることに協力するという「合意」が行われたことだ。日本での法人処罰は、刑法以外の法律の罰則に設けられた「両罰規定」に基づいて行われる。両罰規定とは、「法人の役職員が、その業務に関して、違反行為を行ったときは、行為者を罰するほか、法人に対しても各本条の罰金刑を科する」という規定に基づき、行為者個人だけではなく、法人も処罰されるというものだ。この「法人の処罰」は、法人の役職員が法人の業務に関して犯罪を行った場合に、法人にも刑事責任を問うもので、行為者の責任とは別個のものと考えられている。理論上は、法人にとって、その役職員の刑事事件を「他人の刑事事件」ととらえることは可能だ。しかし、その前提は、あくまで、行為者の役職員「個人」について犯罪が成立する、ということであり、アメリカのように、行為者が不特定のままでも「法人の行為」について犯罪成立を認め、法人を処罰するというのではない。自然人個人に対する「道義的非難」が中心の日本の刑事司法では、「意思も肉体も持たない抽象的存在」の「法人」に対する処罰は、重要視されてはこなかった。日本法での法人処罰は、法人の役職員個人について犯罪が成立することを前提に、副次的に行われるものに過ぎず、法人に対する罰金の上限も、3億円から5億円程度にとどまっている(昔は個人の上限と同じ500万円程度だったが、90年代から、独禁法等でようやく「行為者個人と法人との罰金額の上限の切り離し」が行われ、数億円への引き上げが進められていった)。法人に対して数百億円、時には数千億円もの罰金が科されることもある米国などとは大きく異なる。今回問題になっている「外国公務員贈賄」の不正競争防止法違反の法人に対する法定刑の上限も3億円に過ぎない。「法人処罰」を、行為者個人の処罰とは独立したものと位置付けるのであれば、当然、その責任の根拠も異なるはずである。従来の見解では、法人の責任の根拠は、行為者に対する選任監督上の過失とされてきたが、実際に、行為者の犯罪行為が認められた場合に、法人については選任監督上の過失がないとして免責された例はほとんどない。実際には、両罰規定がある罰則によって役職員が処罰されると、ほぼ自動的に法人も処罰されてきたのである。つまり、「個人処罰」中心の考え方の日本法による「法人処罰」は、独立した制裁としての位置づけが十分なものではなく、それ自体の制裁機能も、決して十分なものではなかった。「司法取引」によって処罰が軽減されることの理由は、他人の犯罪への捜査・公判に協力することで、その責任が軽減されるということであろう。「法人」としてのMHPSが捜査・公判に協力することで法人の責任が軽減され、一方で行為者「個人」が処罰されるというのであれば、MHPSの捜査・公判への協力を、「法人自体の責任を軽減する要素」として評価したことになる。そのような「法人固有の責任の評価」は、少なくとも、これまでの法人処罰では、ほとんど行われて来なかった。このような日本法による「法人処罰」の実情からは、法人の処罰を免れることと引き換えに、行為者たる役職員「個人」の刑事責任の追及に協力する「取引合意」が成立するというのは、想定し難いことだった。しかし、今回の件は「両罰規定によって処罰され得る『法人』」が、役職員「個人」の処罰に協力することの見返りに、法人の処罰を免れさせてもらうという取引だ。MHPS側が、法人に対する処罰を免れることを優先したのは、僅か上限3億円に過ぎない法人処罰自体より、法人が処罰されることに伴って国際協力銀行(JBIC)等の融資が停止されるなど、他の制裁的措置がとられることを恐れたからだと考えられる。しかし、そのような「企業そのものが被る事業上の不利益」を免れるために、行為者の役職員「個人」が刑事処罰を受けることに積極的に協力する「取引合意」を行うことが、果たして、企業として適切な対応と言えるのだろうか。
●外国公務員贈賄の処罰をめぐる特殊な問題
 もう一つの「違和感」は、法人に対する処罰を免れさせる見返りに、行為者たる社員の側の刑事責任を追及することに協力する「取引合意」が、「東南アジアの国での外国公務員贈賄」という「特殊な事情から発生することが多い犯罪」について行われたことだ。東南アジア諸国では、古くから、公務員が公務の受益者から直接報酬を受け取る慣習がある。それは、米国等でのレストラン等で従業員が客からチップを受け取るのが慣習化しているのと同様に、その国の公務員制度に深く根差しているもので、それを禁止する法律があっても容易に解消できるものではない。そのような慣習が存在するところで行う事業のために現地に派遣される社員は、事業を進める中で、現地の公務員から賄賂を要求された場合に、極めて辛い立場に立たされることになる。要求どおり賄賂を支払わなければ、有形無形の不利益が課され、事業の大幅な遅延というような事態に追い込まれることは必至だ。海外での事業では、契約時に「履行遅延の場合の損害賠償の予定」(リキダメ)が合意されていることが多く、事業が遅延すると、そのリキダメの発生が予想されることで、その会計年度末に多額の損失引当金を計上せざるを得ないことになる。現地に派遣されている社員は、事業の遅延を生じさせないよう、本社側から強く要求され、一方で、現地の公務員から賄賂を要求され、それに応じないと事業が遅延するというジレンマに立たされることになる。社員に「コンプライアンスの徹底」を指示しても、社員を窮地に陥れるだけだ。贈賄リスクを低減するために、現地のコンサルタントを活用して、「賄賂の支払」が直接的にならないようにする弥縫策がとられることもあるが、それは、根本的に問題をなくすものではない。結局のところ、そのような東南アジアの国で事業を行う場合には、公務員側から賄賂を要求されるリスクが相当程度あることを前提に事業を行うか否かの意思決定を行わざるを得ないのである。今回のMHPSの事件に関しては、2013年に、三菱重工業が、タイの民間の発電事業者から発電所建設事業を受注し、その後、同社と日立製作所の火力発電事業部門が統合されて2014年にMHPSが設立された後、同社の社員が、現地の公務員から現金を求められ、担当社員らが数千万円を支払ったということのようだ。まさに、タイという東南アジアの国で、そのような事業を行うのであれば、意思決定を行う際に、当然、現地公務員による賄賂要求のリスクを認識した上で決定する必要があったのであり、事件は、そのような当然のリスクが顕在化したものに過ぎない。発生することが分かっていたリスクにさらされ、ジレンマに悩んだ末に、賄賂を贈った社員を処罰することと引き換えに、会社に対する制裁を免れさせるというのは、納得できることではない。今回の「取引合意」によって、今後、贈賄の実行行為者の社員側に対する捜査が行われることになるが、最終的にどのような刑事処分が行われるか、現時点ではわからない。担当取締役も贈賄を承認していたという報道もあり【(日経)海外贈賄疑惑、元取締役が承認か 納期遅れ回避で】、「末端の社員」ではなく、取締役クラスが処罰されることになるかもしれない。「トカゲのしっぽ切り」にはならない可能性もある。しかし、担当取締役が承認したとしても、それも、上記のようなジレンマに悩んだ末で判断したことは同様であり、その取締役も、贈賄行為によって個人的利益を受ける立場ではないはずだ。本来処罰すべきは、利益が帰属する法人自体であるのに、逆に役職員個人が処罰されることに問題があるのである。
●日立製作所の南アフリカでのFCPA違反との関係
 MHPSがこのような「取引合意」を行ったことの背景に、経営統合前に日立製作所が起こした南アフリカでのFCPA(Foreign Corrupt Practices Act、海外腐敗行為防止法)違反の事件の影響が考えられる。外国公務員贈賄問題の専門家である北島純氏の【北島 純の「外国公務員贈賄罪研究会」ブログ】によると、この事件は、日立製作所の南アフリカ法人が、南アフリカの与党「アフリカ民族会議」(ANC)のフロント企業と合弁で現地子会社を設立し、その後、日立製作所は二つの発電所建設を政府系企業から受注することに成功、フロント企業に「配当」として500万ドル、「成功報酬」として100万ドルを支払った。このうち「consulting fees」名目で計上した「成功報酬」分は、実質的には「外国政党」への支払いであったのに、適切に会計処理をしなかったということで、FCPAの会計条項違反で日立製作所は起訴され、1900万ドル(約23億円)の制裁金を払う和解に合意したというものだ。この日立製作所の事業を引き継いだのが、三菱重工業の発電事業部門との経営統合で設立されたMHPSだった。この事件は、「企業の外国の政党への支払」がFCPAの会計条項違反とされたもので、日本の「外国公務員贈賄罪」には当たらない。ただ、今回のタイでのMHPSの贈賄事件も、その支払の会計処理が、FCPAの会計条項違反となる可能性もあり、同社としては、FCPA違反も含めて企業としての責任追及を最小限にするため、日本法での法人処罰を免れようとした可能性もある。しかし、今回の「取引合意」で法人が処罰を免れることができるのは、あくまで日本法に関するものであり、FCPA違反も含めて免責されるのではない。日本法で役職員が起訴された場合、それを受けて米国司法省の捜査が行われ、法人がFCPA違反で起訴される可能性は残る。
●「司法取引」初適用事件の「法人処罰」をめぐる議論への影響
 今回、MHPSが検察官との「司法取引」に応じたことが、企業の利益を優先して社員を検察に売り渡したようなイメージを持たれたことで、社会にマイナスのイメージを与えたことは否定し難い。そして、それによって守ろうとした「企業の利益」も、FCPA違反も含めて考えた場合に、最終的に、本当に利益になるのかは疑問だ。また、検察にとっても、今後の捜査の結果が、懸念されているような「トカゲのしっぽ切り」で終わった場合には、経済界にも注目されて導入した「日本版取引」のデビュー戦としては、お粗末極まりないものとなり、制度自体のイメージダウンにつながりかねない。しかし、一方で、今回、「日本版司法取引」の初適用事例で「法人処罰」が対象となったことは、これまで、ほとんど注目されて来なかった日本法における法人処罰に初めて焦点が当たるという面では、大きな意義を持つものと言えよう。前述したように、「法人処罰」は、自然人個人に対する道義的責任が中心の日本では、これまで、あまり注目されて来なかった。個人の行為を離れた「法人自体の犯罪行為」は認められず、法人固有の責任を評価することも殆ど行われて来なかった。そうした中で、今回の「司法取引」で「法人が免責された」ということは、まさに、法人が自社の事業に関して発生した犯罪について積極的に内部調査を行って事実を明らかにし、その結果に基づいて捜査当局に協力することが法人の責任を軽減するものと評価されたことになる。それは、「法人処罰」に対する従来の運用を大きく変える可能性につながるものと言える。本来、違法行為や犯罪行為に対する制裁・処罰は、全体として、その責任の程度、悪質性・重大性のレベルに応じたものでなければならない。しかし、日本では、企業や法人に対する制裁は、「行政上の措置としての課徴金」と「刑事罰」が併存し、その関係についての理論的な整理も必ずしも十分ではなく、制裁の在り方についての総合的な研究は、これまで殆ど行われて来なかった。(行政上の制裁を含む法人に対する処罰の在り方についての殆ど唯一の著作と言えるのが、刑法学者の佐伯仁志教授の【制裁論】(有斐閣2009年))。
●「組織罰」としての「業務上過失致死傷罪」への両罰規定の導入をめざす動き
 今回の事件が、法人に対する制裁の在り方についての議論の契機になるとすると、そこで避けては通れないのが、従来、特別法犯に限定されてきた「両罰規定」を、刑法犯にも導入することの是非の検討である。例えば、「談合罪」など、刑法犯の中にも「法人の利益」のために行われることが多い犯罪があるが、それらについても法人を処罰する規定がないことが、かねてから問題とされてきた。それに関して、既に、具体的な動きとなっているのが、重大事故の遺族の方々が中心となって行っている、「業務上過失致死傷罪」に対する「組織罰」実現をめざす活動である。2005年の福知山線脱線事故、2012年の笹子トンネル事故など、多くの重大事故の遺族の方々が中心になって、当初、イギリスで導入された「法人故殺罪」のような「法人組織自体の行為についての刑事責任」を問うことをめざして、2014年に「組織罰を考える勉強会」が立ち上げられた。2015年10月、その会に私が招かれた際、日本の刑法体系からは実現が容易ではない「法人処罰」ではなく、現行法制上可能な、業務上過失致死傷罪についての「両罰規定」を導入する刑事立法を行うことを提案したところ、その趣旨が理解され、それ以降の会の活動が、「両罰規定」によって重大事故についての企業の責任を問うことをめざす、「組織罰を実現する会」に発展していった。現在も、立法化をめざす積極的な活動が続けられている。この「業務上過失致死傷罪」への「両罰規定」の導入に関して最も重要なことは、法人の業務に関する事故について、法人役職員に同罪が成立する場合には、法人にも両罰規定が適用されるが、「当該法人における安全確保のためのコンプライアンス対応が事故防止のために十分なものであったにもかかわらず、予測困難な逸脱行為によって事故が発生した場合には、法人を免責する」ということである。事故防止のための安全コンプライアンスが十分に行われていたことを、法人側が立証した場合には免責されるとすることで、刑事公判で、企業の安全コンプライアンスへの取組みが裁かれることになるのである。今回の司法取引初適用事例での法人の免責は、内部調査によって犯罪事実を明らかにし、捜査・公判に協力するという「法人の事後的なコンプライアンス対応」を評価し、責任の軽減を認めるものであり、法人の固有の責任を独立して評価するという発想に基づくものだ。それは、事故に至るまでの加害企業の安全コンプライアンスへの取組みを実質的に評価して法人の責任の減免を決するという、「組織罰を実現する会」がめざす両罰規定の導入にとって、追い風になるものと言えよう。今回の司法取引初適用事例が、あらゆる面で「法人処罰」をめぐる議論を活性化することにつながることを期待したい。

<監査のビッグ4について>
PS(2019年4月9日追加):「マッケソン・ロビンス会社事件(米国で1938年に発覚した巨額粉飾決算事件)」は、これを機に現金等の実査、棚卸資産の立会、売掛金の確認等の外部証拠の入手を法定監査に義務付けた監査史に残る事件で、この会社の法定監査を行っていた監査人はPW(PwCの合併前の名称)だった。英国発祥のPWはそれだけ歴史と由緒のある老舗監査法人で、私はフィーリングも一致したので公認会計士二次試験合格後にPWに入ったが、現在は、グローバルネットワーク世界158カ国・721拠点、従業員250,930人、業務収入41,280百万米ドルの大法人となっている。また、ずっと昔、ある銀行がPWに監査を依頼したところ、監査が厳しいので自らは翌年から監査法人を変更し、PWにはその銀行の貸出先を次々と紹介したため、PWの関与先には製造業が多く、KPMGの関与先には銀行が多いというエピソードもある。
 そのような中、*5に「①『監査ビッグ4』の解体論が英で浮上」「②企業の会計監査からコンサルティングまで幅広く手掛ける巨大法人の寡占が監査不信や会計不祥事の一因」「③監査と非監査業務を完全な別法人として解体することを提言」「③大手4グループの寡占が問題なので占有率に上限を設けるなどの競争政策を提言」 「④外部監査人KPMGが『無限定適正意見』を出し続けながら経営破綻した建設大手カリリオン事件が改革論に火を付けた」「⑤こうした動きの背景には利益相反のリスク軽減や監査レベルの向上に厳しい競争が不可欠という視点がある」「⑥経営サイドに立って経営や税務戦略を支えるコンサルティングを同時に行えば、外部からのチェック役であるべき財務監査が甘くなる」などが書かれている。
 このうち①②③については、ビッグ4は日本でも世界でも監査・税務・コンサルティングサービスは別会社で行っており、出資者兼経営者のパートナーも別の人であるため、誤った指摘だ。また、私自身は、監査・税務・コンサルティングの全部を経験したが、これは勉強のために別会社間を移動して経験させてもらったからであり、こういう公認会計士はむしろ少ない。
 また、④については、KPMGが何らかの理由で甘かったのかもしれないが、それとPwCなど他の監査法人とは別であるため、全体を改悪するのは止めるべきである。例えば、⑤については、分割して競争が激しくなれば監査レベルの向上に繋がるわけではなく、小さくて被監査会社との間の力関係が弱く、少ない被監査会社に利益を依存している監査法人ほど、被監査会社を失いたくないため、監査が甘くなるという実情がある。
 さらに、⑥については、債権者・株主・投資家に向けて財務諸表を作成する責任は経営者にあり、監査は経営者が作成した財務諸表がお手盛りでないことを証明して被監査会社から報酬をもらうもので、その産業の背景・経営者の考え方・組織の動きなどがわかっていなければ、監査上のリスクもよくわからない。そのため、経営者はじめ担当者とのコミュニケーションや経験の積み重ねは大変重要であり、それと監査が甘くなることとは別なのである。

*5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190406&ng=DGKKZO43418360V00C19A4DTA000 (日経新聞 2019年4月6日) 「監査ビッグ4」 英で解体論、議会が寡占問題視 質向上へ競争促す
 「ビッグ4」と呼ばれる巨大監査法人の改革論議が英国で山場を迎えている。英議会の委員会はこのほど監査と非監査業務を完全分離する「解体」に踏み込んだ提言をまとめた。大手4グループの寡占を問題視し、占有率に上限を設けるなどの競争政策への支持も表明した。相次ぐ企業の大型破綻や会計不祥事を踏まえて抜本改革に動く。英国の方針は世界の監査業界に影響を与えそうだ。「監査と非監査事業の分離へ、ビッグ4の完全な組織的解体を推奨する」。英下院の民間企業・エネルギー・産業戦略委員会は、改革を提言するリポートで言い切った。企業の会計監査からコンサルティングまで幅広く手掛ける巨大法人による寡占が、監査不信や会計不祥事の一因になっていると指弾した。英国で改革論に火を付けたのが建設大手カリリオンの経営破綻だ。2017年7月、通期決算の発表から約4カ月で巨額損失が表面化し、18年1月に破産申請した。財務諸表に注意喚起なしのお墨付きである「無限定適正意見」を出し続けた外部監査人のKPMGに対して批判が噴き出た。同社を含む4大法人をめぐっては、日本の公正取引委員会にあたる英競争・市場庁が、寡占を問題視する報告書を18年12月に発表。組織内で監査・非監査業務を分離したり、大企業に2社以上の監査を義務付けたりする改善案を挙げた。今回の英下院委の発表は、分離についてより強く踏み込んだのが特徴だ。競争・市場庁はグループ内で財務や報酬などを切り分け、運営面も分離する形態を提言した。下院委は完全な別法人として解体することも視野に入れるべきだとした。こうした動きの背景には利益相反のリスク軽減や、監査レベルの向上に厳しい競争が不可欠という視点がある。経営サイドに立って経営や税務戦略を支えるコンサルティングを同時に行えば、外部からのチェック役であるべき財務監査が甘くなるとの疑念は根強い。解体論のカギは、監査業務より非監査業務の方が総じて採算が良いという、大手グループの収益構造にある。コンサルでの稼ぎを前提として、採算割れで監査を受注していることが質の悪化や競争阻害につながっていると問題視している。英下院委の調べによると、PwCの場合、17年の英事業収入30億200万ポンド(約4400億円)のうち、監査は6億7600万ポンドと約2割にとどまる。予算比で約1割の採算割れを承知で受注した監査は約5割に上ったという。英メディアによると競争・市場庁は今後数週間で監査法人の寡占問題に関する最終報告書を公表する見通し。それを基に政府が法制化に動く。議会は大手監査法人の「解体」が今回見送られる場合も、3年後をめどに状況を見極めて再検討すべきだと提唱した。監査法人側は質を高める必要性は認めつつ、完全分離論には反発している。PwCは分離は英国の競争力をそいで「かえって監査の質の低下につながる」との声明を出した。各社は同じ企業に監査・非監査を同時に提供しないなど自主的に信頼回復に努める構えだが、当局側には自助努力は限界との認識が広がっている。日本では規制で大手監査法人は税務や戦略的なコンサルティングなどを別法人で展開している。日本での議論は監査法人の説明責任などに向けられることが多い。東芝の不正会計などを受けて金融庁は有識者の懇談会を設置。今年1月にはその提言を公表するなど監査の質向上に向けた取り組みが続いている。

<ゴーン氏の映像を見て>
PS(2019年4月10日追加):再逮捕された場合に備えてゴーン氏がとった映像を、弁護団が2019年4月9日に公開し、その動画が掲載されているHP(https://www.youtube.com/watch?v=zLRsvAjW1bI 参照)は多い。そして、①現経営陣のビジョンのなさ ②ゴーン氏逮捕は、日産・仏ルノー統合に向けた動きを恐れた幹部による「陰謀」「謀略」「中傷」であること ③現在の3社連合のリーダーシップの欠如 ④リーダーシップは必要で、妥協か独裁のどちらかしかないと考えている人はリーダーシップを理解していないこと 等が述べられ、納得できた。
 しかし、従来のメディアは、*6のように、必ず④を述べず、故意にゴーン氏に悪いイメージをつけようとしている。そして、映像を見た日産幹部は「相次ぐ不正発覚にもかかわらず一度も記者会見に出なかった」としているが、本当に必要な検査要件を無視したのなら技術部門トップと工場長の責任であり、必要でない要件を国から課されているのなら国交省・経産省に交渉してその要件をなくしてもらうのが社長と技術部門トップの仕事である。つまり、トップが頭を下げる係になり下がり、トップが頭を下げるのを見て民衆が喜ぶ姿は日本の悪しき特徴なのだ。

*6:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13971856.html (朝日新聞 2019年4月10日) ゴーン前会長、経営陣批判 「ビジョンない。悲しくうんざり」
 日産自動車の前会長カルロス・ゴーン容疑者(65)=会社法違反(特別背任)容疑で再逮捕=の弁護団が9日公開した映像で、ゴーン前会長は発言の大半を日産の現経営陣への批判に費やした。事件は、日産と仏ルノーの統合に向けた動きが進むと恐れた幹部による「陰謀」「謀略」「中傷」だと主張。日産の業績低迷や株価下落、三菱自動車を交えた3社連合のリーダーシップの欠如を嘆いた。
■日産幹部「業績低下の責任棚上げ」
 ゴーン前会長は、逮捕前の昨年9月の日産の取締役会で、3社連合の「アライアンス(提携)を深める議論を進めていきたい」と発言。これを機に日産側は独立性を脅かされることへの危機感を強めたとされる。ゴーン前会長は映像で「統合、すなわち合併に向けて進むことが、ある人たちに確かな脅威を与え、それがゆくゆくは日産の独立性を脅かすかもしれないと恐れたのです」と分析し、この「恐れ」が「陰謀」につながったと主張した。約7分半の映像のほぼ半分、約3分50秒を費やして日産の現経営陣への批判を展開。「この2年で3回の業績の(下方)修正があり、何度も不祥事(検査不正問題)があった」とも指摘し、「現経営陣に問題があった」からだと断じた。「株価の下落と業績の低迷を目にしながらも、幹部たちは『あれはしない、これはしない』と言って、今後何をするのかも言わない」「業績を向上させるビジョンもなく、自らを誇っている幹部たち。それを見ることは非常に悲しい。うんざりさせられる」と嘆く一方で、自らを「20年かけて企業価値を創造し、ブランドを強化してきた人間」だと表現。経営陣が「退廃して無頓着になっているのを目にすることは本当につらい」とも述べた。撮影時には経営幹部の実名を挙げて批判していたが、映像では「自分勝手な恐れを抱いたために、会社の価値を毀損(きそん)している人たち」と述べるにとどめた。3社連合はゴーン前会長に権限が集中していた統治を改め、3社連合を統括する新組織を設立して12日にパリで初会合を開く。3社の首脳の合議による運営に移行することに対し、「テーブルを囲んでコンセンサス(合意)で意思決定していくのは、自動車業界ほど競争の激しい産業においては何らのビジョンも生み出さない」と述べ、リーダーシップの必要性を訴えた。映像を見た日産幹部は「想定の範囲内で影響はゼロ。業績低下の責任はゴーンにもあるのに、それを棚上げするあたりが、いかにも言いたいことだけ話すゴーンらしい」と冷ややかに受け止めた。検査不正に触れた発言にも反論。相次ぐ不正発覚にもかかわらず一度も記者会見に出ず、「対応に追われている最中に、レバノンの高級住宅の改装費用を早く送れと幹部にメールしていた。批判する資格はない」と憤った。
■ゴーン前会長の発言のポイント
 ・全ての嫌疑について私は無実だ
 ・事件は、日産とルノーの経営統合に恐れを抱いた日産経営陣による「陰謀」だ。数人の
  幹部が「汚いたくらみ」を実現させた
 ・日産の業績低下を心配している。経営陣には業績を向上させるビジョンがない
 ・3社連合の提携を強化するビジョンもない。合議による意思決定はビジョンを生み出さ
  ない。リーダーシップの発揮が必要だ
 ・公正な裁判を強く望む。裁判で無実を証明したいと切に願っている

<乗り物は電動化すること>
PS(2019年4月11日):日本の批判的世論は、①報酬が高すぎるからいけない ②ヨットを持っているからいけない ③ヴェルサイユ宮殿で挙式したからいけない など、「個人の生活が質素でないからいけない」という価値観に端を発したものが多い。
 しかし、①の報酬は成果に連動するのが世界の常識で、その人の実績に応じて決めるのが当たり前であるため(そうでなければ勤務年数や学歴で報酬を決めざるを得なくなる)、高報酬や好待遇を求めるのに実績を主張するのは当然であり、報酬がその人の評価なのである。また、(サラリーマンには覚えがあると思うが)従業員毎に報酬を開示すれば会社がひっくりかえるのと同様、取締役の報酬を個人毎に開示するのも有害な面が多いと、私は考える。
 そして、②については、ルノー・日産・三菱グループなら、会社所有の航空機・ヨット・船舶を持ち、取締役や技術者を載せて、それらを電動化しながら乗り心地をよくするよう、センスを磨いて頭を絞れば、次の人気商品になって世界で売れるだろう。そのため、日本の一般人にとって贅沢に見えることでも、商品開発に有意義なことは多々ある。
 なお、③については、特にプライバシーであり、めざしを食べようとヴェルサイユ宮殿で再婚の挙式をしようと個人の自由であるため、報道する必要もない。つまり、誰にでも「質素がよい」というワンパターンの価値観を押し付けるのはよくないと思うのである。


中国のEVタクシー BMWのEV  ジャガーのEV  ホンダのFCV   日産リーフ

(図の説明:左の写真は、整然と並んでいる中国の現役EVタクシーで、日本も営業車は早くEVにすべきだ。また、中央の2つのように、BMWやジャガーもスマートなEVを出しているし、右から2番目のように、ホンダもFCVを出した。しかし、1番右の日産リーフは、いつまでも後部が短く、エコなだけでスマートではない。さらに、このような中、「ツール・ド・九州2019 in 唐津」が開催されるそうだが、ラリーも排気ガスを出すガソリン車ではなく、EVかFCVの競技にすべき時代だ。そのため、夏に世界のEV・FCVを招いて北海道の名勝を周るラリーを行い、世界に放映したらどうかと思う)


   EVバス       燃料電池航空機   蓄電池電車  ゴーン氏のシャチョウ号

(図の説明:1番左は、既に実用化されているEVバスである。また、左から2番目は、IHIが米ボーイング社と共同で開発した燃料電池航空機で、右から2番目は、蓄電池電車で電車の脱電線化を実現できそうなのだが、今一つデザインが悪い。一方、1番右のゴーン氏所有のクルーザーはイタリアのアジムット・ベネッティ社製で、動力は軽油だがデザインは完璧だ。そのため、このようなクルーザーを燃料電池や蓄電池で動くようにすると、ヨーロッパ・アメリカ・オーストラリアはじめ世界で売れそうだ)

*7:https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201904/CK2019040902000126.html (東京新聞 2019年4月9日) 還流資金で私的投資か ゴーン前会長 息子の投資会社利用?
 日産自動車の資金約五億六千万円を自身に還流させたとして、会社法違反(特別背任)容疑で再逮捕された前会長カルロス・ゴーン容疑者(65)が、自身のペーパー会社を介して日産資金を流入させたとされる息子の投資会社(米国)の資金で、私的な投資をした疑いがあることが関係者への取材で分かった。東京地検特捜部は、実質的に日産の資金で個人的な投資をしたとみている。ゴーン容疑者は、日産子会社「中東日産」から二〇一五~一八年、中東オマーンの販売代理店「SBA」に千五百万ドル(約十七億円)を支出し、うち五百万ドル(約五億六千万円)を自身が事実上保有するレバノンのペーパー会社「GFI」に還流させ、日産に損害を与えたとして逮捕された。関係者によると、SBAから別の複数のペーパー会社を経由してGFIに還流された資金は、息子が最高経営責任者(CEO)を務める米投資会社「ショーグン・インベストメンツ」や、妻が代表を務める英領バージン諸島の会社「ビューティー・ヨット」などに流れたとされる。ビューティー社の資金は高級クルーザー「SHACHOU(社長号)」の購入費に充てられた疑いが持たれている。ショーグン社の資金の一部は、ゴーン容疑者の投資に充てられていた可能性があるという。特捜部は経緯を把握するため、息子に説明を求める検討をしているが、米国在住で日本の司法権は及ばない。そのため米国に捜査共助を要請し、任意で事情聴取をしてもらいたい意向だが、実現は不透明という。

<リーダーもワンパターンではないこと>
PS(2019年4月12日追加):*8は、「①ゴーン氏が強欲で自己中心的だとして、推定無罪の慎重性に欠けている点」「②リーダーは、自己中心的かサーバント型の二者択一しかないとしている点」「③会社によって、必要なリーダーシップは異なることを無視している点」「④日本企業は世界の中で、社員の経営参加や従業員の支援をよく行っている方であることを知らない点」「⑤自分の結論を導くために、状況の異なる外国の大家の理論を都合よく引用し、引用する際に歪めた解釈をしている点」で誤っている。
 このうち①については、これまで述べてきたとおりなので詳細を省くが、こんなことも知らないとは見識が低い。また、③については、専門能力の高い社員を活用する知識生産型のビジネスで、構成メンバーが意見を聞くに足る人である場合には重要だが、業種・メンバー構成・その時の状況によってこの加減は異なり、それを判断するのも経営者やリーダーの能力だ。
 そのため、②の「リーダー(経営者)は、自己中心的かサーバント型の二者択一」としているのは全くの誤りで、経営者は生産物の付加価値を上げ、従業員に相応の給与を支給しつつ利益も挙げ、会社が存続できるようにすることが重要で、すべてはそのために行われるのである。
 従って、④のように、単に社員の経営参加や部下の支援を提唱すればよいのではなく、これらは会社の製品の付加価値と生産性を上げるために行われなければならないし、日本企業は基本的には参加型である。そして、自動車産業などの製造業には階層の多すぎないヒエラルキーが必要で、ヒエラルキーがあっても現場との情報のやりとりは重要なのである。これは、公務員にはピンとこないかも知れないが、経営学の基本だ。
 なお、⑤は、「日本では上意下達傾向が強いが、新たなリーダー像には部下の支援が不可欠で、経営に参加し支援する従業員で業績が向上するので、浸透に工夫が必要だ」という自分の結論を合理化するために、日本の現状や企業毎に異なる実態を無視し、これまでトップダウンの傾向が強かった外国の大家の理論を都合よく引用している。しかも、歪んだ解釈をしているので科学的とは言えず、私に反論したければ、日本企業に関してどういう調査を行い、外国企業とどう比較してこの結論を導き出したかを明らかにすべきだ。何故なら、私は経営学・経済学を勉強した上で、日本の大中小企業や外国企業を数多く見て言っているからだ。そのため、もし「女は経済・経営・ビジネス・リーダーシップについて知らず、論理に弱くて感情的だ」などと思っていたとすれば、それは女性蔑視そのものである。
 さらに、有能な個人は上から一方的に指導するというのも変な決めつけであり、再生医療・電気自動車・ネットなどの新しい事業は最初は一人の思いつきから始まったもので、思いついた人は各方面の勉強をし情報も収集した筈だ。が、そのシーズを日本は育てられず、外国に持って行かなければ形にならないのは、このような変な言動が足を引っ張るからにほかならない。

*8:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190412&ng=DGKKZO43619610R10C19A4KE8000 (日経新聞 2019年4月12日) 従業員視点の新リーダー像、京大教授 若林直樹氏
○新たなリーダー像には部下の支援不可欠
○経営に参加し支援する従業員で業績向上
○日本では上意下達傾向強く浸透に工夫も
 昨今の経営者の不祥事を見るにつけ思うのは、リーダーは有能であれば、自己中心的で良いのだろうかということだ。事実、研究の世界でも経済や社会の変化の中でリーダーシップのあり方について反省が進んでいる。有能な個人が上から一方的に指導するスタイルから、社員の参加や支援を求めるスタイルへと関心が変わってきているのだ。英ダーラム大学教授のロバート・ロード氏らによると、リーダーシップ研究としては従来型は多くはなく、社員の経営参加や部下の支援を求める参加型・支援型リーダーシップへの注目が高まってきている。
背景には、先進国での産業が大量生産型から知識集約型へと転換する中で、企業組織も構造転換を迫られている現実がある。米アリゾナ州立大学名誉教授のロバート・クレイトナー氏らは、リーダーシップの見直しを促す組織変化の要因として3つを挙げる。第一に、チームで行う業務が増えてきたため、チーム全体として業績を上げる仕組みが重要になった。第二に、事業がヒエラルキー組織ではなくプロジェクト組織で行われるようになり、社員や関係者の関与が重要になった。第三に、専門能力の高い社員を活用する知識生産型のビジネスが増えてきた。コンサルティングビジネスや製造業のサービス化はその典型である。そのため、部下や同僚たちが創造性や専門性を発揮し、経営や事業、製品・サービスの革新に主体的に取り組むことを勧めるリーダーシップへの関心が高まっているのだ。参加型・支援型のリーダーシップの研究者は、従来型のリーダーシップが個人に頼りすぎていると問題視している。表のように、従来型リーダーの研究では有能な個人の特性や能力、働きに注目しているが、個人の価値観で意思決定することや上意下達であることは前提条件となっていた。そこでは、リーダーの動機付けが利己主義的であることも暗に認められてきた。そもそもリーダーの機能は、目的達成のために組織やチームをまとめて動かすことにある。だがリーダーがあまりに強い利己主義を表した場合、社員も会社も本当についていくだろうか。参加型・支援型のモデルはこうした反省から、フォロワーシップ研究と関連して、従業員視点に立つ水平的なリーダーシップのあり方を示そうとしている。米デポール大学准教授のグレース・レモン氏らは、リーダーは本来、組織や社員の能力の発揮や成長を推進するという利他的な動機を持っているとする。その上で社内コミュニティーの発展に貢献するような行動分析の重要性を指摘した。これはリーダーが社員から支持を得て、自分のリーダーシップに正統性を得る仕組みの検討でもある。参加型・支援型の典型的なリーダーシップ理論として、シェアード・リーダーシップ、サーバント・リーダーシップの二つのモデルがある。それぞれの研究を検討しながら、水平的で利他的なリーダーシップのモデルの特徴を見てみよう。シェアード・リーダーシップは、チームのメンバーに意思決定や貢献への積極参加を促す、参加型リーダーシップの代表的モデルである。もともとはチーム、特に自己管理型チームの業績を上げるメカニズムの研究から発展してきた。経営コンサルタントであるクレイグ・パース氏らによると、チームのメンバーが組織やチームの目的達成のために、チーム内で相互に導き合うように影響し合う活動の仕組みであるとする。米ワシントン大学教授のブルース・アボリオ氏らによれば、集団の結束力、組織におけるメンバーの利他的貢献(組織市民行動)、チーム業績への貢献を引き出すことができる。米サザンメソジスト大学客員教授のジェイ・カーソン氏らは、こうした参加型リーダーシップがチームの業績を上げる条件として、チームを指導する外部の上司の役割も重視する。内部で目標の共有や相互支援、発言を促進するだけではなく、チームを管理する外部の経営者や管理職のコーチングも業績に影響する。近年の経営者や管理職の不祥事の多発は、リーダーの態度の個人中心性、利己性、独善性の批判につながっている。こうした態度のリーダーは、トラブルの際に、自己保身のために粉飾決算、社内不正、品質偽装を積極的に進めてしまう誤った姿勢を取りがちだ。国際団体である公認不正検査士協会の2006年の調査によると、社内不正の2割が経営者であるが、その1件の損失額は極めて大きく深刻である。また経済広報センターの調査でも、経営者の自己中心的な態度・発言が、消費者や市民の企業イメージ悪化に影響している。経営者がリーダーとして、会社や社会に貢献する意識が期待されるゆえんである。一方、サーバント・リーダーシップは自己よりも社員や他者に対する配慮を優先する利他的リーダーのモデルである。米AT&T出身の経営者であるロバート・グリーンリーフ氏が主唱したリーダーの経営倫理から始まる。米国でもエンロン疑惑など企業不祥事が多発した反省から、実務家を中心に発展した。このモデルでは、リーダーは従業員に対して、意見に耳を傾け、共感、配慮をするだけではなく、従業員の能力や幸福増進を支援するための積極的な取り組みを行い、社会や会社のコミュニティーづくりに貢献する。1970年代以降、米ハーバード大学などでの経営倫理の講演活動を通じて発展してきたが、近年、利他的リーダーシップモデルとして再注目されている。サーバント・リーダーシップの研究は21世紀に入り本格化している。主に、従業員の成長を支援することを通じて、組織やチームの業績を上げる効果が重視されている。米イリノイ大学准教授のジョン・ピーチー氏らの研究では、組織活動へのメンバーの利他的貢献を促進する面や、経営品質の向上、長期的な視点、部下の創造性の活性化、従業員の幸福感促進といった効果が検証されている。米ビラノバ大学教授のジョナサン・ドーハ氏らによると、サーバント型のリーダーは、利己的なリーダーよりも株主や会社の外部利害関係者への配慮が強くなるとの指摘もある。さらにピーチー氏らによると、米国だけではなく中国やインドネシアにおいても同モデルは受容可能であり、国際的な期待も高い。参加型・支援型リーダーシップは日本企業にも定着するのだろうか。国際比較組織調査のグローブによると、日本での参加型リーダーシップ浸透は世界平均より低い。コーチング会社コーチ・エィの国際リーダーシップ調査でも、米国に比べると日本と中国での上司と部下のコミュニケーションは上意下達傾向が強い(図参照)。定着には工夫が必要であろう。

<脱原発・再エネへの転換を解くのを感情論とは!>
PS(2019年4月13日追加):*9-1のように、日本がWTOに提訴していた韓国の水産物禁輸撤廃要求は逆転敗訴だったが、日本政府関係者は「①韓国の禁輸措置がWTO協定に整合的だと認められたわけではない」「②WTOの上級委は日本産食品の安全性について一審の判断を変更していない」「③一審の判断の仕方に瑕疵があったと上級委が認定したのである」「④日本産食品は科学的に安全で、日本の食品の安全性を否定したものではない」等と述べている。
 しかし、④の「科学的に安全」の根拠は、「食品に含まれる放射性物質が基準値以下」という意味しかなく(https://www.r-info-miyagi.jp/r-info/kiseichi/ 参照)、基準値以下ならいくら食べても安全と言える根拠は科学的に示されていないため、今度は“基準値以下”が安全神話を作っている。そのため、国民の安全を第一に考えれば韓国の禁輸措置は妥当で、その禁輸措置がWTO協定違反だとして提訴したり、政府高官が敗訴後に①②③④の弁を発したりするのは、日本産食品全体の安全性に関して世界の信用をなくし、国民の安全をも脅かす。つまり、原発事故を起こせば付近の農林漁業が壊滅するのも、原発のコストに入れるのが当然なのである。
 このような中、*9-2のように、経団連の中西会長は「i)感情的な反対をする人たちと議論しても意味がない」「ii)原発と原爆が結びついている人に違うというのは難しい」「iii)再エネだけで日本の産業競争力を高められればいいが、技術開発が失敗したらどうするのか。いろんな手を打つのがリーダーの役目だ」などと語られたそうだが、i)については、民間企業だけでは採算すらとれず、国の予算を湯水のように使わなければならない原発に固執する方がよほど非論理的かつ感情的である上、それでも原発に固執するのはii)以外には考えられない。また、iii)の再エネは日本は資源豊富で、エネルギー自給率を100%にしながら産業競争力を高められるので、「何をおかしなことを言っているのか」と思うわけである。
 そこで、2019年4月11日、*9-3のように、原発立地県の佐賀新聞が、「脱原発を志向する流れは変わらない」として国民的議論を呼びかけている。経産省は、エネルギー基本計画で原発を「重要なベースロード電源」と位置づけ、2030年度の電源構成における割合を20~22%としているが、これこそ理念も根拠もなく決めた国民の安全を犠牲にする机上の“エネルギーミックス”にすぎず、原発論争は、既に「神学論争」から「安全神話の崩壊」にかわったため、時間と金の無駄使いをしてまた世界に後れを取る前に、早々に終わるべきである。



(図の説明:1番左の図のように、太陽光発電設備の価格は普及とともに下落している。また、左から2番目の図のように、薄膜型太陽光発電設備もできたため、設置可能な場所が増えた。さらに、右から2番目の図のように、駐車場に太陽光発電設備を設置してEVと組み合わせれば、燃料代が0になる。にもかかわらず、右図のように、急速充電器もできているのに、いつまでも価格を高くしていたり、設置が難しいと言っていたりするのは理解不能だ)

*9-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190412&ng=DGKKZO43659910S9A410C1MM0000 (日経新聞 2019年4月12日) 韓国へ水産物禁輸の撤廃要求 日本、WTO逆転敗訴で
 河野太郎外相は12日未明、韓国による福島など8県産の水産物輸入禁止措置をめぐる世界貿易機関(WTO)の判決を受け談話を発表した。「韓国の措置がWTO協定に整合的であると認められたわけではないが、わが国の主張が認められなかったことは誠に遺憾だ」と表明。「韓国との協議を通じ措置の撤廃を求めていく」とした。韓国は東京電力福島第1原子力発電所の事故を受け、放射性物質の漏出を理由に福島県など8県産の水産物の輸入を禁止してきた。日本は韓国の輸入禁止は不当だとしてWTOに提訴した。WTOは一審の紛争処理小委員会(パネル)では日本の主張を認め、韓国に是正を求めた。だが最終審にあたるWTOの上級委員会は11日、一審の判断を取り消し、韓国の措置を妥当とする最終判決を下した。WTOの紛争処理は二審制のため、上級委員会の決定が「最終審」の判断となり、韓国の禁輸措置は継続する。一審の判断を取り消した理由について、政府の担当者は同日、「一審の判断の仕方に瑕疵(かし)があったと上級委が認定した」と説明した。一方で「上級委は日本産の食品の安全性について、一審での判断を変更していない」とした。河野氏は12日午前、外務省内で韓国の李洙勲(イ・スフン)駐日大使と会い、輸入規制の撤廃に向けた2国間協議を呼びかけた。吉川貴盛農相は12日の閣議後の記者会見で「復興に向けて努力してきた被災地を思うと誠に遺憾だ」との認識を示した。その上でWTOの今回の判断は「日本の食品の安全性を否定したものではない」と語り、風評被害の払拭に取り組む考えを述べた。菅義偉官房長官は同日の閣議後の記者会見で「日本産食品は科学的に安全で、韓国の安全基準を十分クリアするとの一審の事実認定は維持されている。敗訴という指摘は当たらない」と強調した。輸入規制をかける他国にも緩和を働きかけ続ける考えを示した。

*9-2:https://digital.asahi.com/articles/ASM3C663FM3CULFA01Q.html?iref=comtop_8_06 (朝日新聞 2019年3月11日) 経団連会長「感情的な人と議論意味ない」原発巡る議論に
 経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)は11日、自ら必要性を訴えていたエネルギー・原発政策に関する国民的な議論をめぐり、「エモーショナル(感情的)な反対をする人たちと議論をしても意味がない。絶対いやだという方を説得する力はない」と語った。原発の早期再稼働を求める立場から国民的議論を呼びかけた中西氏は2月、脱原発を求める民間団体から公開討論を求められたのに対し、「反原発を通す団体で議論にならない。水と油だ」などとして断った。「原発と原爆が結びついている人に『違う』ということは難しい」とも発言し、釈明に追われている。11日の定例会見で中西氏は、記者団から「東日本大震災以降、原発に関する国民の意識が変わったのでは」と問われたのに対し、「再生エネルギーだけで日本の産業競争力を高めることができればいいが、技術開発が失敗したらどうするのか。いろんな手を打つのがリーダーの役目だ」と指摘。「多様なエネルギー源を確保しなければ日本は立ちゆかなくなる。福島の事故から何年たとうが変わらない」と話し、電力業界への積極的な投資を呼びかけた。

*9-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/360766 (佐賀新聞 2019年4月11日) 平成と原発 次代へ責任ある政策論議を
 新元号「令和」が決まり、5月1日の新天皇即位まで3週間となる中、紙面では「平成」を振り返る企画が続く。歴史を時間の連続性で考える時、「一世一元」の元号で区切ることへの異論もあろう。ただ、明治、大正、昭和、と改めて時代に思いをはせると、その時どきの国家、社会像が浮かんでくる。それは次代への教訓となり、指針となる。平成の31年間で強く印象に残る出来事を聞いた世論調査の結果(3月31日付)では「東日本大震災と福島第1原発事故」が70%(複数回答可)で最も多く、「オウム真理教事件」(50%)、「阪神大震災」(40%)と続いた。後年、回顧する時、震災と原発事故はどう教訓化されているのだろうか。原発立地県で暮らす私たちにとっても大きな命題だ。被爆国日本の原子力政策は戦後10年をおかず「核の平和利用」のかけ声で始まり、高度経済成長以降、需要予測をもとに各地に原発が建設された。その後、スリーマイル島原発事故などで世界は停滞期に入るが、日本は拡大路線を続けてきた。しかし8年前の2011年、福島第1原発事故が発生し「安全神話」は根底から崩れた。玄海原発3号機再稼働から1年の3月、県内の首長に聞いたアンケート調査では7割超が運転継続を是認しつつ、6割超が「将来的に廃止」と答えた。再稼働という現実を前にしてか、前回「即時に廃止」と答えた2人の首長はトーンダウンしたが、脱原発を志向する流れは変わらないと言えよう。そこで気になるのは国民を巻き込んだ幅広い議論がないことだ。政府はエネルギー基本計画で原発を「重要なベースロード電源」と位置づけ、2030年度の電源構成における割合を20~22%とする。そのためには新増設が必要とされるが、具体的な言及はない。一方、経団連は原発の再稼働や新増設、リプレース(建て替え)を真剣に推進すべきとする政策提言を発表した。エネルギーは生活と経済の基盤であり、安定供給と経済性、そして温暖化など環境への対応が不可欠だ。提言は進展なき現状への危機感の現れだろう。ただ、どういうエネルギーを選ぶかは、私たちがどのような社会、どのような未来を選ぶかという、社会設計そのものである。だからこそ中長期的な視点が必要だ。平成は55年体制が終焉しゅうえんした時代でもある。戦後の保守と革新のイデオロギー対立の中で原発をめぐる議論は堂々巡りの「神学論争」とも言われたが、東日本大震災と福島第1原発事故を経験した今、諸課題を正面から見据えた国民的議論が必要だ。政府が具体的な政策を提示し、多面的な観点からエネルギー構成を考え、最大限の合意点を見いだしていく。平成から令和を生きる私たちの責務である。

<日本の産業が劣化した理由は?>
PS(2019年4月15日追加):*10-1のように、仏紙が「日本の経産省が2018年春、日産・ルノー間の経営統合を阻止しようと関与を試みていた」と報道したそうだ。西川社長の経歴から、経産省・法務省にも同窓生が多く歩調を合わせやすいと想像できるが、この面からの指摘は日本メディアはやりにくいため、外国メディアが活躍すべきだ。経営統合については、ゴーン氏は動画で「私は、持株会社方式を支持していた」「独立的に運営するかどうかは実績により、独立的に運営することが目的になってはいけない」と言っておられたが、私もそう思う。
 なお、*10-2のように、日立、東芝、ソニーの事業を統合した「日の丸液晶連合」のJDIが中国と台湾の企業連合の傘下に入り、日本の液晶産業が消滅するそうで困ったことだが、一瞬の売上高最大化を目指す政府主導の統合はうまくいかないことが明らかになったわけだ。
 うまくいかなかった理由は、①内部の主導権争いにエネルギーを使い ②巨大化・官僚化で、課題を先送りして変化の遅い経営になり ③政府の関与で意思決定が遅れ ④顧客ファーストでなくなり ⑤日本経済全体の物価上昇でさらに国際競争力をなくした などが挙げられるが、②③④は、まさに共産主義経済が遅れた原因であり、中国・ロシア・東欧が1990年代に日本を含む西側諸国の援助を受けながら修正したことなのである。

*10-1:https://digital.asahi.com/articles/ASM4H26J6M4HUHBI004.html?iref=comtop_8_03 (朝日新聞 2019年4月15日) 日産・ルノーの統合案、経産省が阻止へ関与か 仏紙報道
 仏日曜紙「ジュルナル・デュ・ディマンシュ」は14日、日本の経済産業省が2018年春、日産自動車と仏ルノーの間で持ち上がっていた経営統合案を阻止しようと関与を試みていた、と報じた。日本政府はこれまで、両社の提携について「政府が関与するものではない」との立場を表明していた。同紙は同年4~5月に日産の幹部が、当時両社の会長だったカルロス・ゴーン容疑者(65)=会社法違反(特別背任)容疑で再逮捕=らにあてた電子メールを入手したとしている。同年4月23日に日産幹部がゴーン前会長にあてたメールでは、経営統合をめぐって同社と仏政府で直前に行われた議論を報告していた。日産側は統合への慎重論を表明したほか、ルノーが日産に43%を出資する一方、日産のルノーへの出資は15%にとどまる関係の見直しを優先するよう求めたことを報告。仏政府側の意見として、「日産の経営統合に向けた歩みが確かでない以上、(日産の要求は)ルノーにとってあまりに大きな犠牲を払うことになる」と反発があった様子を伝えている。5月21日に別の日産幹部がゴーン前会長や西川広人社長に送ったメールには、経産省が準備したという「覚書案」が添付され、そこには「両社のアライアンス(提携)強化は、日産の経営自主性を尊重することによってなされること」などと、日産の懸念に沿って、統合を阻むような文言が並んでいた。ただ、この幹部は同じメールの中で「日本政府の支持はありがたいが、これは民間企業の問題だ」とも指摘。経産省の関与を必ずしも歓迎していなかったという。両社の関係をめぐっては安倍晋三首相が18年12月、マクロン仏大統領と会談した際に「民間の当事者で決めていくもので、政府が関与するものではない」との考えを伝えていた。

*10-2:https://www.kochinews.co.jp/article/269288/ (高知新聞 2019.4.14) 【日本の液晶消滅】国策再編の検証が必要だ
 国内電機産業の衰退を改めて印象付ける出来事だ。中小型液晶パネル大手、ジャパンディスプレイ(JDI)が中国と台湾の企業連合の傘下に入る。JDIは日立製作所、東芝、ソニーの事業を統合した「日の丸液晶連合」。これにより日本の液晶産業は事実上消滅することになる。日の丸連合の立ち上げを主導したのは経済産業省だ。その見通しの甘さも問われかねない頓挫である。2012年に発足したJDIは、中小型液晶の出荷額で世界首位となった。ところが海外勢との価格競争が激化。主要顧客の米アップル社の需要低迷も響いた。液晶より薄く画質が鮮明な有機ELの開発も後手に回り、業績は急速に悪化。19年3月期まで5年連続の連結最終赤字となる見込みだ。この間、経産省の意を受けた官民ファンドの産業革新機構(現INCJ)が出資や融資などで計約4千億円を支援してきた。さらに支援を続ければ、本来淘汰(とうた)されるべき「ゾンビ企業」の救済と批判されよう。一方で税金も投入されている以上、破綻させれば国民負担の議論は避けられなくなる。海外へ日本の技術が流出する恐れがあるにしても、外資による再建に委ねるのはやむを得ない。かつて日本企業が世界市場をけん引したテレビやパソコンも、現在は韓国や中国などのメーカーが上位を占めている。産業界に「栄枯盛衰」はつきものだ。ただしそれとは別に、日の丸連合によって液晶産業を再興しようとした官製シナリオはなぜ狂ったのか。そこはきちんと検証しなければならない。JDIは3社の寄り合い所帯であることから内部で主導権争いが起きたり、課題を先送りにしたりする経営体質が問題視されていた。「政府の関与によって意思決定が遅れるなど、経営が振り回された面もある」といった指摘もある。実際、JDI同様の「国策再編」は失敗続きだ。公的資金を投入した半導体大手のエルピーダメモリは12年に破綻し、外資傘下となった。エルピーダも三菱電機、NEC、日立の事業の寄せ集めだった。同じ3社の半導体部門を統合したルネサスエレクトロニクスも13年に産業革新機構が出資。こちらも人員削減や工場閉鎖を重ねるなど苦戦している。こうした事例が今後もなくならなければ、国の産業政策の失敗を指摘する声はますます強まるだろう。現在のINCJも経営陣の報酬水準を巡って政府と対立し事実上、機能停止に陥っている状態だ。組織を立て直すのであれば官民ファンドの在り方や政府の関与の度合いなど、根本的な議論が欠かせない。日本の電機産業の復権は喫緊の課題だ。なぜ世界市場で埋没してしまったのか。ニーズを見極めることができていたか。顧客ファーストの原点に戻って考える必要がある。

| 司法の問題点::2014.3~ | 07:20 PM | comments (x) | trackback (x) |

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