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2019,09,09, Monday
2018.11.17・2018.12.21産経新聞 2019.8.31東京新聞・毎日新聞 (図の説明:1番左の図のように、日本の国家予算は増加の一途を辿り、左から2番目の図のように、2019年度予算は100兆円を超えて2/3は税収だが残り1/3は国債で賄われている。従って、国の財政状態と収支の状況を正確に知って合理的な管理をするため、国際会計基準に従った公会計制度を導入することが急務だ。さらに、2020年度については、右の2つの図のように、日本の国家予算は105兆円を超えそうだ) (1)日本の国家予算と公会計制度 1)国家予算総額とその決め方について *1-1・*1-2のように、2020年度の政府予算概算要求が出そろい、総額105兆円規模になるそうだ。多くのメディアや経済評論家は、総額30兆5千億円と支出額が最大の年金・医療を無駄遣い扱いしているが、本当は支出の内訳を見なければ、そのうちのどれが無駄で本当に必要なのかを判断することはできない。そして、これは民間では当然やっていることなのである。 また、国債費の支払いも借金を返済している部分と利子を支払っている部分がごっちゃになっているため、これによっては財政状態がよくなったのか悪くなったのかさえ判断できない。しかし、現在なら、借り換えして利子の支払を限りなく0に近づけることができる筈で、これも民間企業なら当然やっていることだ。 このように国の財政状態も歳出の効果も不明になる理由は、国が現金主義に基づく単式簿記を使っており(小使い帳方式)、発生主義に基づいた複式簿記によるコストセンター毎の会計(民間はすべてこちら)を行っていないからだ。そして、予算と言えば集団毎の分捕り合戦になるが、単に総額が大きいだけで「社会保障費が無駄遣いの根源だ」などと言うのは間違っており、私は単なる景気対策の支出こそが効果の薄い無駄遣いだと思う。 さらに、国の歳入も消費税を別枠にする国は他に無いし、消費税を上げて生産性の低い景気対策目的の支出を行っていては、いつまでたっても国全体の生産性が上がらない上、国の収支や財政状態も改善しない。私は、既に先進国となり、世界に先駆けて高齢化しつつある日本で最も効果的な成長戦略は、消費税を廃止又は低減させ、年金も減らさずに民間の可処分所得を増やし、市場で本当に必要とされ選ばれる製品やサービスに力を入れることだと考える。何故なら、これらは、後に他国でも必要とされ喜ばれるものだからだ。 そのため、消費税を増税して景気対策に支出するのは、①消費税増税が自己目的化している ②景気対策と称して選挙に有利な支出を増やしている ように見える。 2)農林水産業の補助金について (図の説明:1番左の図は改良型風力発電機で、2番目の図はハウスに設置した太陽光発電機だ。また、右から2番目の図のように、植物の生育に必要な青と赤の光を通し、不要な緑の光で発電するシースルー型太陽光発電機もできた。一番右の図のように、薄膜型太陽光発電機の応用分野は農業を含めて広い) 私も、*1-3に書かれているとおり、食料・農業・農村基本計画は、食料自給率向上を重視するとともに、農林水産業は地域の重要な産業であるため地域政策もあわせて考えるべきだと思う。そして、今までそうなっていなかった理由は、農水省等の中央省庁で政策を考えている官僚の多くが都会育ちで、地方の事情に無関心だからだろう。 そして、前に書いたとおり、人口減少と高齢化によって日本の食料自給率は向上するのが当然であり、世界の人口増加を考えれば日本の食料自給率を向上させておくことは必須で、それと同時に、高齢化・共働き化が加工食品のニーズを高めると考える。 また、生産基盤の再建や担い手不足等も課題だが、これらは、農林水産業が儲かる魅力的な職業になれば解決する。しかし、国は真っ赤な赤字であるため、再エネを農林水産業の副収入として所得を得つつ地域の金が外部流出しないようにしたり、農林水産業をスマート化したり、外国人労働者を入れたりなど、生産性向上に資する方向で補助金をつけるのがよいと思う。 なお、中山間地域等は、穀類生産には条件が不利でも他の作物でも不利とは限らない。そのため、TPPやEUとのEPAに対抗するには、徹底した適地適作と経営合理化の追及が必要だ。 3)本当に必要な防衛費はどこまでか ← 予算委員会でチェックすべき *1-2に、防衛省の要求も過去最高額を塗り替えたと書かれており、*1-4には、来年度予算の防衛省概算要求額は過去最大の5兆3223億円で、米国からの高額な兵器の購入が総額を押し上げたと書かれている。私も、TPPレベルのFTA妥結の見返りや日米同盟の見返りに不要な物まで高い価格で買わされているのではないかと思う。 そのため、国会の予算委員会では、防衛省の概算要求額の内訳をチェックし、憲法で定める自衛のための必要最小限度の実力を保持するのに必要十分かどうかを確認する必要があり、それまでに正確な前年度実績と次年度の予算案ができていなければならない。そして、これは会計期間・会計制度・国会の審議日程を少し変更すれば可能であり、民間企業は(海外に多くの子会社や支店があっても)期末から2カ月後に開催される株主総会で、これをやっているのである。 (2)鉄道の高架化と駅ビルの建設は、新しい街づくりを進めやすくするとともに、生産性向上に資する投資である *2-1・*2-2のように、神奈川県で京急の電車とトラックの衝突事故が起きたが、事故現場は「開かずの踏切」で、このような踏切は都市部に多く、踏み切りを渡るために長時間待たなければならない。また、道路も狭いため、渋滞を招き、大型車の運転には神業を要する。 そして、日本の都市には海外と比較してこのような踏切が多く、ストレスが多い上、生産性を低くしている。そのため、根本的な解決は、踏切を高架化して道路を拡幅し、駅ビルや駅近の踏切下に店舗や駐車場を作って時代にあった街づくりをすることだと思う。さらに、地方にも危険な踏切が多く、高架化して1階を道路の拡張に使ったらどうかと思う。 しかし、これらを行うには国や地方自治体は予算を要するが、日本の問題は、工事費が高いだけでなく工事に時間がかかりすぎ、他国なら3年ですむ重要な街づくりが30年かかってもできないという深刻な状況になっていることである。 (3)災害復興と防災投資 1)佐賀豪雨について 佐賀県をはじめとする北部九州地域で、*3-1-1・*3-1-2のように、記録的な大雨による浸水が起こった。近年は、1時間に100ミリを超す大雨が多く、それを聞いても驚かなくなったが、大町町で佐賀鉄工所大町工場から約5万リットルの油が流出したのは、周辺住民にも農業にも痛手だった。 佐賀鉄工所大町工場からの油の流出は約30年前にも発生し、油をためる油槽がある建物を数十センチかさ上げしたり、建物に高さ3.5メートルの重量シャッター3台を設置したりして対策はとっていたそうだが、その「想定」を超えるレベルの浸水だったとしている。しかし、想定にはゆとりを持ち、厳重な防護をしなければ意味がない。 農地への油の流出被害は推計で約82万5千平方メートルに及び、農作物被害は収穫間近の水稲25.8ヘクタール・大豆15.3ヘクタールと、天災と人災が重なり大変なことになってしまった。 なお、*3-1-2のように、農業用水路から六角川に排水するポンプを稼働させていたが、流出した油が川から有明海に広がることを恐れた町の指示を受けてポンプを停止したため、水は行き場を失って地域をのみ込み、家屋も油まみれになった。私は、確かに六角川や有明海に油が広がるとさらに被害が大きくなるため、川に排水しなかったのはまずは正解だと思う。 「どげんしたら地域を守れたのか」については、海上保安庁に海上流出油事故や有害液体物質・危険物の流出事故の対応を専門に行う海上流出油事故対応チーム(https://www.jstage.jst.go.jp/article/safety/45/6/45_445/_pdf/-char/ja 参照)があり、ナホトカ号やダイヤモンドグレース号の油流出事故などの油流出事故への対応・処理にあたった部署であるため、ポンプの停止や水門の閉門と同時に、ここに油の除去を依頼すればよかったと思う。 このような場合、海上保安庁が「私たちならできる」と手を挙げず、国土交通省・農水省・総務省もすぐに気付いて救援依頼をしなかったのは、セクショナリズムが原因だろう。 なお、*3-1-3のように、佐賀県の豪雨被害で、武雄市・多久市・杵島郡大町町が「局地激甚災害」に指定され、復旧事業の国庫補助率が引き上げられることになったのはよかったが、市民の生活再建への直接的な助成ではなく、市町の復旧事業を支える意味合いが強いそうだ。 しかし、「前に向かって進める基盤ができた」のはよかったが、何度も同じことを起こさず、災害を事前に予防できる街を造るには、復旧ではなく新しい区割りによる復興が不可欠である。 2)胆振東部地震について 胆振東部地震をきっかけとして、*3-2-1のように、北海道内全域の停電が発生し、これは、電力需要の約半分を担っていた北電苫東厚真火力発電所の発電機3基が相次ぎ損壊して電力の需給バランスが崩れて全電源が停止したからだった。 私も、広大な地域で使われる電力を少数の大型電源に依存する態勢はもろく、エネルギー代金を海外に吸い取られるため、再エネによる分散発電で停電リスクを減らし、同時に送電ロスも減らすのが最終的な解だと思う。そうするためには、「マイクログリッド」を進め、太陽光、風力、バイオガスなど地域の特性に合った再エネを活用して地域経済を活性化しつつ、余った電力は他の地域に販売するための送電線を鉄道や道路に付随して設置するのがよいと考える。 (図の説明:1番左の図は、牧場に設置された風力発電機、左から2番目の図は、山林に設置された風力発電機だ。また、右から2番目の図は、海の養殖施設に設置された風力発電機で、1番右の図が潮流発電機だ。どれも、野生生物を傷つけずに最大の出力を出す工夫が求められる) 3)宮古島台風について 台風13号が通過した宮古島市では、*3-2-2のように、市内の約8割を超える2万590戸が停電した。島も「マイクログリッド」の適地であるため、太陽光、風力、海流などの地域特性に合った再エネを利用して「マイクログリッド」を進め、経済を活性化するのがよいと思う。 4)東日本大震災について (図の説明:1番左と左から2番目の図は、津波が起こるメカニズムだ。津波は、普通の波と異なり、大きな水塊が迫ってくるので薄い防潮堤なら圧力で壊れる。右から2番目の図が、実際に堤防を乗り越えて岩手県田老町の漁協付近を襲った津波で、1番右の図は、岩手県宮古市の津波後の光景だ《http://www.bousai.go.jp/kohou/kouhoubousai/h23/63/special_01.html》。この写真から、どういう構造の建物が地震・津波に堪えるかわかる) *1-2に、2020年度の特別会計で扱う東日本大震災復興予算の要求は2兆242億円だったと書かれている。もちろん、東日本大震災は、原発事故という人災がなくても未曾有の自然災害だったが、その対策としてとられた措置は、復興税を払って復興に協力してきた国民が納得できるものだったかどうかについて、今後のためにも事実を開示してもらいたい。 i) かさ上げ地は本当に安全か? 東日本大震災では、過去の津波記録が残る神社は津波が到達しない高台に作られていたため被害を免れることができた。そのため、一定周期で訪れる大震災や大津波に対応するためには、高台に宅地を作らなければ同じ被害に遭うことがわかっている。 従って、*3-3-1のうち、高台に新しく街を造って移転する防災集団移転が最も安全な防災方法であり、高台に移転した住民を孤立させてはいけない。何故なら、土地をかさ上げして整備する土地区画整理は、かさ上げ高が十分でなければ同じ被害にあうことになるが、かさ上げされた高さは2011年に襲った津波高よりも低く、予算の関係からか十分な高さのかさ上げができていないからである。 しかし、漁業者や水産関係の食品加工会社が、海の近くのかさ上げした土地で営業したいのはわかるし、合理的でもある。その場合は、前回と同じ津波が来ても退避できる高さの階を持つビルを建設することが必要条件になる。最もやってはならないことは、元どおりに復旧することだ。そして、十分に整備された安全な宅地に住民が少なければ、人口過多の都会や海外からの移住を促す政策を考えればよいだろう。 ii) 巨大防潮堤は有益か、有害か? *3-3-2の巨大防潮堤は、白砂の浜と松林の風景を遮る醜いコンクリートの壁で、かつ高さ5メートルでは役立たない。私は、海から遠ざかる選択肢がなければ、海の近くで低層階は舟形にして津波をかわし、大津波から退避するに十分な高層階のある建物を作ればよいと思う。 しかし、395kmの高さが最大15.5mの防潮堤では、東日本大震災級の大津波を防げない上、景観を損ね、陸と海が遮断される結果、陸からの栄養塩が海に流れなくなる。そのため、このような公共事業ありきの防潮堤を作ってはならない。 私も、人工の構造物は自然の猛威の前にはひとたまりもないため、人間は自然に対して謙虚であるべきだと思うし、津波を一時的にせき止めて進行を遅らせる程度の構築物に莫大な予算を使うのは止めてもらいたい。巨大防潮堤は三陸海岸の景色や生態系という資産をなくし、無用の長物に膨大な金をかけたという意味で次世代の人にとってもマイナスだと私は思うし、巨大防潮堤を作るという判断の正否を、のんびりと歴史に任せて、あの世で審判を受けられても困るのだ。 5)熊本地震について *3-4のように、来春の熊本県知事選に、現職の蒲島氏が「熊本地震からの復興の流れを、今ここで止めるわけにはいかない」として、4選を目指して立候補する意向を固めたそうだ。 知事としての適否は勤めた期数で決まるわけではなく、これまでの実績と次への期待で決まるものだ。そこで、私は「創造的復興」に賛成であるため、蒲島現知事を応援したい。震災で街づくりをやり直さなければならない状態になったことは、見方を変えれば新しい街づくりの推進力ともなるため、一皮むけた便利な空港・港湾・道路と心地よい住宅・田園造りを進めて欲しい。 (4)社会保障給付削減と消費税増税への圧力 2018.3.19東京新聞 2018.11.15共同通信 (図の説明:左図のように、インフレ政策と消費税増税で物価が上がって実質年金額が減ったためエンゲル係数が上がり(=国民が貧乏になり)、悪影響を受けた人の多くは高齢者だ。また、中央の図のように、世界の中で日本は女性の活躍も進んでいない。そして、右図のように、支え手の増加には高齢者や女性のほか外国人労働者も考えられている) 1)3号被保険者制度は何のために作ったか? ← 1985年に初代男女雇用機会均等法ができたため、女性の社会進出を防ぐために専業主婦を優遇したのである 政府は、2015年に、*4-1のように、使い道が約30年間決まっていなかった専業主婦が国民年金に任意加入だった時代(1985年改正以前)に納めた保険料収入による年金積立金約1兆5500億円を、2015〜2024年度の公的年金給付に充てる政令を決定し、これを10年間にわたって給付財源として活用するとのことだった。 1985年の年金制度改正では、*4-1・*4-2のように、サラリーマンの夫を持つ専業主婦が「第3号被保険者」として保険料負担なしで国民年金に加入することになったのだが、それ以前は約7割の主婦が任意加入して保険料を納めており、積立金が7246億円、その後の約30年間の運用収益が8282億円あり、2014年3月末時点で総額1兆5528億円になっていたそうだ。 *4-2に、1985年改正で、「サラリーマンの専業主婦を国民年金制度に強制適用するため3号被保険者制度を創設し、これによって女性の年金権が確立した」と書かれているが、それまでは7割の主婦が任意加入して保険料を納め、働く女性は働く男性と同じく厚生年金・共済年金に強制加入して保険料を支払っていたので、専業主婦も強制加入にして保険料を納めさせるのがむしろ公平だった。また、全ての年金積立金を発生主義できちんと運用していれば、現在のような著しい年金積立金不足は起きなかった筈なのだ。 2)年金制度の「不都合な真実」は誰の責任(ここが重要)で起こったのか? 有権者の誰にとっても生活に直結する最も重要な政策は社会保障だが、*4-3は、年金について、「①年収500万~750万円未満の層は65歳までに3200万円必要」「②年収が1000万~1200万円未満の世帯の不足額は6550万円に上る」「③非正規雇用の比率が高い団塊ジュニア世代は、貧困高齢者になりそうな人が他世代より多い」 「④夫が働き、妻がずっと専業主婦の世帯を『標準』として将来の年金水準を見通すが、今の日本の世帯は共働きが主流」「⑤急務なのは現在の高齢者の年金給付を抑える『マクロ経済スライド』が発動しにくい仕組みを改めることだ」としている。 そのうち、①②は、年収が多い人ほど年金保険料の支払いも多いのに、年金支給額は働く世代全体の平均年収の50~60%に設定されるので、年収が多かった人は年金でカバーされる生活費の割合が低くなり、残りを貯蓄でカバーしなければならないために起こる現象だ。 また、パートやアルバイトなどの非正規雇用は戦前からあったものの、1990年代以降は新入社員にも非正規雇用が増え、これは労働基準法・男女雇用機会均等法等で護られない雇用形態であるため、③の問題が起きた。さらに、④のように、今でも、夫が働き妻はずっと専業主婦であり続ける世帯を「標準」と考えているのは、時代錯誤と言わざるを得ない。 そして、日経新聞はじめ多くのメディアや論客と言われる人々が、「高齢者の年金給付を抑えることが重要で、それに反対するのはポピュリズムだ」などと説いているが、これまで述べてきた通り、高齢者を犠牲にするよりも先に改善すべきことが山ほどあるのである。 3)社会保障の給付減と消費税増税しか思いつかないのは何故か? ← 国民をより豊かで幸福にしたいという発想がないからである *4-3は、「①団塊の世代が75歳以上になり始める2022年から高齢者医療費の伸びが加速し、会社員らの保険料負担はどんどん重くなる」「②超高額医薬品の使用は医療保険制度そのものを揺さぶる」「③介護の担い手不足は、2025年に55万人に上る」「④給付と負担のあり方に知恵を絞ることになる社会保障改革に『聖域』はないほうがいい」などと記載している。 そのうち①③④については、なるべく長く支え手の側において保険料収入と健康を維持し、②については、高額医薬品といっても医療保険での負担を加味して価格を高くしているものも少くないため、外国での販売価格と比較したり、新しい製品は自己負担での混合医療を認めて効くようなら速やかに同価格で医療保険からも負担するようにしたりし、④については、外国人労働者も活用する などの合理的な課題解決をすべきだ。 また、*4-4は、「⑤政府税調が中期的な税制の在り方をまとめる答申の骨子が判明し、現役世代を支え手とした社会保障制度や財政は少子高齢化で『深刻な課題』に直面している」「⑥制度維持には十分で安定的な税収基盤の確保が不可欠だ」「⑦10月の消費税率引き上げ後も何らかの増税策が必要」と記載している。 しかし、⑤については、少子高齢化するのは1980年代にはわかっていたのに対策も行わず、歳入に対してはきちんとした管理もせずに放漫経営をしてきたことに問題があるため、国に公会計制度を導入して歳出とその効果を正確に検証できるようにし、保険料は発生主義で積み立てるなどの改革をしなければ、負担増をしても放漫経営の規模が拡大するだけなのである。 さらに、⑥⑦については、「消費税は安定財源だからよい」という主張が多いが、景気が悪くても安定して入ってくるのでよいと言われる消費税は、景気調整のためのビルトインスタビライザー効果がないため、むしろ悪いのである。 4)支え手の拡大はすべき 厚労省は、*4-5のように、省内の全部局に「非正規」や「非正規労働者」という表現を国会答弁などで使わないよう求め、東京新聞がこのことを情報公開請求した後に撤回したそうだ。 本当は、労働基準法・男女雇用機会均等法等で護られない雇用形態である「非正規雇用労働」自体をなくさなければならないのであり、言葉を「有期雇用労働者」「派遣労働者」に変えれば問題が解決するわけではない。そして、労働基準法・男女雇用機会均等法等で護られない不利な雇用形態で働く人があってはならず、働き方の多様化は、年齢や性別にかかわらず正規労働の範囲内として、必要な条件を設定して行うべきなのである。 <国家予算と公会計制度> *1-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14159061.html?iref=comtop_shasetsu_02 (朝日新聞社説 2019年8月31日) 来年度の予算 ばらまき封じの徹底を 総額105兆円規模となる2020年度の政府予算の概算要求が出そろい、編成作業が本格的に始まる。年末に向けて削り込んでいくが、19年度に続き、100兆円規模の超大型予算が組まれる可能性が高い。年金や医療などの経費が30兆5千億円、借金の返済にあてる国債費が25兆円と、この二つで要求総額の半分を占める。税収を60兆円台と見込んでも、社会保障費だけで半分は使ってしまう。その他の政策経費をまかなう分だけでも、10兆円以上は新たな借金をしなければならない。厳しい懐事情をよそに、防衛費など、のきなみ増額の要求が並ぶ。消費税率が10%になって税収が増えるから、2年限りの消費税対策が別枠で認められるからと、絞り込みが甘くなっては困る。いまの暮らしに欠かせない政策や真の成長戦略に手厚く配分するのはもちろんだが、同時に将来世代も見据え、予算づくりに臨まねばならない。予算編成のルールとなる概算要求基準には、本格的な歳出改革に取り組み、施策の優先順位を洗い直し、無駄を徹底して排除すると書いている。19年度も同じ表現があったが、実行できたとは言い難い。今回こそ本気で取り組むべきだ。ところが各省の要求を見ると、不安が募る。防災事業や水産業の交付金、企業や文化事業を支援する補助金では、政策効果が不十分、経費がかかりすぎている、といった問題点がこれまでに政府内で指摘されていながら、今回も盛り込まれた事業がある。一つひとつの施策について、見直しの徹底が求められる。高齢化で増え続ける社会保障費も、聖域ではない。景気対策も、予算をふくらませる要因だ。確かに、米中の追加関税のかけあいや、英国の欧州連合(EU)からの離脱など、先行きには不透明感が漂う。10月の消費税増税後の消費の動きも、見極めなければならない。安倍首相は増税の影響について、19年度の予算で「十二分の対策を取っている」と強調する。世界経済の行方も踏まえた目配りは必要だが、増税対策や景気対策の名を借りたばらまきは、封じなければならない。どんな対策なら、より少ない費用で最大限の効果を引き出せるか、精査するべきだ。政権が掲げる25年度の財政健全化の目標は、新たな借金をできるだけ抑えなければ達成できない。次世代の負担を増やさぬよう、政策の費用対効果を見極め、ばらまき封じを徹底する。それが予算編成の課題だ。 *1-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201908/CK2019083102000157.html (東京新聞 2019年8月31日) 一般会計、105兆円規模 二〇二〇年度予算編成で財務省は三十日、各省庁からの概算要求を事実上締め切った。一般会計の要求総額は百五兆円規模に膨らみ、二年連続で過去最大を更新。年金・医療など社会保障を担う厚生労働省や防衛省の要求が最高額を塗り替え、災害対策費も全体を押し上げた。今年十月の消費税増税に伴う景気対策などは別枠で上積みするため要求には含んでおらず、査定で抑えても、十二月に組む予算案は一九年度の百一兆四千億円を超える可能性が高まった。安倍政権は景気後退を防ぐために歳出拡大を辞さない考えで、増税に踏み切っても財政健全化の進展は多難な情勢だ。要求総額の百兆円超えは六年連続。重点施策で上積みできる「特別枠」を各省庁が活用した結果、一九年度要求から約二兆円増えた。省庁別の最大は厚労省の三十二兆六千二百三十四億円。看板政策の就職氷河期世代支援に六百五十三億円を割いた。医療など社会保障の中核的な経費は、高齢化に連動した「自然増」を五千三百億円計上し、他省庁分を含む合計では三十三兆円程度に達した。防衛省は、高額装備品の取得により五兆三千二百二十三億円を計上。豪雨など災害対策を拡充する国土交通省は一九年度当初予算比18%増の七兆百一億円を求めた。他には子供が巻き込まれる事件・事故の防止、選手強化や警備といった東京五輪対策が目立った。自治体に配る地方交付税と特例交付金の合計は2・7%増の十六兆四千二百四十六億円。また借金返済に充てる国債費が全体の四分の一近くの二十四兆九千七百四十六億円に伸びている。特別会計で扱う東日本大震災復興予算の要求は二兆二百四十二億円だった。 *1-3:https://www.agrinews.co.jp/p48667.html (日本農業新聞 2019年9月7日) 基本計画見直し着手 食料自給率向上が焦点 地域政策も鍵 農水省は6日、農政の中長期的な羅針盤となる食料・農業・農村基本計画の見直しに着手した。吉川貴盛農相が食料・農業・農村政策審議会(会長=高野克己・東京農業大学学長)に計画変更を諮問。来年3月に新たな食料自給率目標などを示した計画を閣議決定する。生産基盤を再建し、自給率向上の道筋をどう描くかが焦点。担い手不足にあえぐ中山間地域を維持させる地域政策を打ち出せるかも課題だ。同計画は食料・農業・農村基本法に基づき、5年ごとに見直す。同審議会の企画部会は今後、「食料の安定供給確保」「農業の持続的な発展」「農村の振興」などのテーマで年内に計6回の会合を開き、議論する。11月には現地調査や地方での意見交換会も開く予定だ。現行計画は、カロリーベース自給率を2025年に45%に引き上げる目標を掲げた。だが、18年は37%と前年比1ポイント低下し過去最低となった。新たな計画では、どのような水準の自給率目標を設定するかがポイント。自給率下落に歯止めをかけ、上向きに転じさせる施策の検討が求められる。吉川農相は諮問に当たり、農業生産所得の増加や輸出拡大などについて、農政改革によって「成果が着実に現れ始めている」と強調。一方、人口減少や高齢化などを課題に挙げた。地域政策については「地域資源を活用して仕事を作り、人を呼び込むことで活力を向上させる必要がある」と強調した。審議会と企画部会の委員を務めるJA全中の中家徹会長は、近年は農業産出額や生産農業所得が増加しているものの「生産基盤が強化されたかといえば決してそうではないのでないか」と提起。現行計画の徹底した検証が必要だと訴えた。会合では、自給率向上への具体策や次世代への経営継承などの人材確保の必要性を指摘する意見が相次いだ。農村政策の充実、先端技術を活用した「スマート農業」の普及も課題に挙げた。 [解説] 難局打開へ徹底議論を 国内農業は今、生産基盤の縮小が加速する中、大型通商協定が相次ぎ発効するという、かつてない難局にある。食料安全保障が大きく揺らぐ事態も招きかねない。これまで以上に実効性のある対策が求められる。政府が設定した見直し期限は来年3月。検討に費やすことができる期間は6カ月程度しかない。打開策を導き出すための徹底した議論ができるかどうかが問われている。生産基盤の弱体化に歯止めがかからず、自給率向上には、その再建が欠かせない。18年度の基幹的農業従事者は145万人。10年間で2割以上減った。耕地面積442万ヘクタールも減少が続く。特に、中山間地域を含む条件不利地にはてこ入れが必要だ。規模拡大など、産業政策に偏る安倍政権の農政を見直し、地域政策を充実させる時期に来ている。日本にとって過去最大の農産物の市場開放を受け入れた環太平洋連携協定(TPP)、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)は、4月から2年目に突入した。日米貿易協定交渉も9月末に署名が見込まれる。現在講じている対策が足りているか検証が必要だ。2018年度のカロリーベース食料自給率は37%に落ち込み、目標との差はさらに開いた。目標未達成だった検証の徹底が必要だ。一層の下落を食い止めるためにも、新たな自給率目標の設定に当たっては、必要な施策をより踏み込んで示すべきだ。 *1-4:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-982455.html (琉球新報 2019年9月3日) <社説>防衛費要求過去最大 専守防衛逸脱チェックを 底が抜けたように歯止めがかからない。来年度予算に向けた防衛省の概算要求のことである。 要求額は過去最大の5兆3223億円。本年度当初予算比1・2%増で、2012年の第2次安倍政権発足以降7年連続の増額となった。米国からの高額な兵器の購入が総額を押し上げた。トランプ米大統領の要求に応え、不要な物まで買わされていないか。大いに疑問だ。政府は昨年策定した中期防衛力整備計画(中期防)で、19年度から5年間の防衛予算総額の目安を27兆4700億円と設定した。伸び率は従来の年平均0・8%から1%超に拡大し、中期防単位では14~18年度の約24兆7千億円から2兆円超の大幅増となった。一般会計全体の概算要求総額は過去最大を2年連続で更新する105兆円規模となった。高齢化に伴う社会保障費の増加に加え、この防衛費の膨張が要因となっている。国会で十分にチェックし、議論が尽くされた結果かどうか疑問だ。社会保障費を抑制し、消費税増税を10月に控える中、防衛費だけ特別扱いは許されない。青天井で増え続けている防衛予算に国民は注意を払うべきである。危惧するのは内容である。憲法で定める自衛のための必要最小限度の実力、いわゆる専守防衛を事実上、逸脱する様相を帯びているからだ。それを許してはいけない。新たな防衛力整備の指針「防衛計画の大綱」や中期防で位置付けた護衛艦「いずも」の空母への改修費に31億円を計上した。同艦で運用する米国製の最新鋭ステルス戦闘機F35Bの取得費に846億円を要求する。政府は「多機能・多用途の護衛艦」と説明しているが、運用によっては攻撃型空母になりかねない。今回、宇宙分野の能力向上策として「宇宙作戦隊」の新設も明記した。米宇宙軍から指導教官を招き、自衛隊員を同軍に派遣するという。米中ロが加速させている宇宙分野の軍事利用に参画する構えだ。強い疑問を覚えるのは、米国から購入される高額な兵器だ。F35Bのほか、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の発射装置取得費に103億円を盛り込んだ。秋田、山口県への配備計画を巡り、防衛省の調査にミスが相次いだことを踏まえて設置に伴う土地造成費や津波対策費の計上は見送った。しかし設置場所さえ決まっていないのに発射装置を購入するのは、地元合意よりも米国支援を優先したい姿勢の表れと言えよう。専門家からはミサイルの効果に疑問の声もある。南西諸島への陸自配備経費には237億円を計上した。尖閣有事などを想定した配備強化だが、中国を刺激し、お互いの軍拡につながる恐れがある。大切なのは、軍備に巨額の血税を投じることではなく、外交努力で紛争の火種を除去することだ。 <鉄道の高架化は、生産性向上策で街づくり投資である> *2-1:https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/keikyu-railway-accident/ (日経新聞 2019.9.5) 京急事故、踏切の危険性を探る 5日午前、京浜急行電鉄の神奈川新町ー仲木戸駅間(横浜市)で電車とトラックの衝突事故が起きました。事故現場になったのは、国土交通省が安全対策を主導してきた「開かずの踏切」の一つでした。通常の踏切に比べ、約4倍もの事故が起きるという首都圏鉄道網の鬼門です。衝突時、トラックは遮断機の間にいたとみられ、神奈川県警などが詳しい事故原因を調べています。事故現場は横浜市神奈川区の京浜急行電鉄「神奈川新町第1踏切道」です。踏切は神奈川新町駅と仲木戸駅の間にあり、神奈川新町駅のすぐ近く。周辺には商店や企業の事務所、工場、住宅などがあります。京急の線路には、並行してJRの線路や国道が走っています。 ●開かずの踏切の定義 国土交通省は40分以上の待ち時間がある踏切を開かずの踏切とみなし、2016年に全国532カ所を指定しています。事故が起きた「神奈川新町第1踏切道」もそのひとつ。ピークで48分もの待ち時間がある「緊急に対策の検討が必要な踏切」でした。カラー舗装で車道と歩道を分けて事故防止に配慮はしていましたが、立体交差などの対策は打てていませんでした。「交通量が少ない踏切のため優先度は低かった」(京急)としています。 ●開かずの踏切データ(開かずの踏切は全国532カ所のうち、7割の371カ所が首都圏に集中) 国土交通省は2016年6月に「緊急に対策の検討が必要な踏切」として全国の1479カ所を指定しました。このうち、長時間遮断機の降りた状態が続く「開かずの踏切」は全国で532あり、7割にあたる371カ所は首都圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)に集中しています。最多は東京都の245で、今回事故の起きた神奈川県が73で続きます。一方、関西圏は130カ所とそれほど多くありません。 全国的にみて、交通の集中する首都圏は踏切事故のリスクにさらされやすいといえます。 ●踏切の安全対策 踏切の安全対策には莫大な費用がかかります。線路と道路を分離する立体交差化には1カ所だけでも億単位の工事費が必要で、鉄道会社には負担が重くのし掛かります。そこで国土交通省などが「当面の対策」と位置づけるのが、自動車道と歩道を見分けやすくするカラー舗装です。100万円程度で済むため、多くの踏切で採用されています。ただ、開かずの踏切などで起こる事故防止の観点からは、抜本的解決になっていないのは言うまでもありません。 ●全国の踏切事故件数 ●これまでの主な踏切事故 ①1989/1/29 秩父鉄道 秩父線 西羽生駅〜新郷駅間、踏切道に進入してきた自動車に列車が衝突して脱線 ②1990/1/7 JR北海道 室蘭線 白老駅〜社台駅間、踏切道に進入してきた自動車に列車が衝突 ③1991/6/25 JR西日本 福知山線 丹後竹田駅〜福知山駅間、踏切道の高さ制限用固定ビームに荷台のパワーショベルが接触して踏切道内に停止していたトラックに列車が衝突 ④1991/10/11 阪急電鉄 京都線 正雀駅〜南茨木駅間、踏切道に進入してきた自動車に列車が衝突して脱線 ⑤1992/9/14 JR東日本 成田線 久住駅〜滑河駅間、踏切道に進入してきた自動車に列車が衝突して脱線 ⑥2007/3/1 JR北海道 石北線 美幌駅〜緋牛内駅間、踏切道に進入した大型トレーラーに列車が衝突し脱線 内閣府の交通安全白書によると、踏切事故の件数はこの20年で半減しました。2018年の事故件数は247件と、500件近かった2000年前後からは大きく減りました。国土交通省が鉄道各社に対して踏切の安全対策を求めてきた成果が出ているといえます。踏切に関連する重大事故は51人が負傷した2007年のJR北海道の事故以来、起こっていませんでした。今回の事故は比較的乗客の少ないお昼の時間帯で起こりましたが、通勤や帰宅の時間帯などに重なっていた場合にはより大きな影響が出ていた可能性があります。これまでの踏切の安全対策だけでは十分だったとは言えず、対策の見直しが必要になりそうです。 ●主な鉄道各社の開かずの踏切数 2016年6月時点で鉄道各社の開かずの踏切の数を調べると、京浜急行電鉄は7カ所と多くはありません。上位を見ると、西武鉄道が81で最多で、東日本旅客鉄道(JR東日本)が76で続きます。各社とも安全対策を施していますが、踏切がある限りは事故のリスクは残ります。 ●海外と比べて日本の都市部は踏切が多い(東京23区はパリの90倍) 海外と比較すると、日本の都市部は踏切の多さが目立ちます。例えば、フランスのパリは周辺3県を含めて踏切は7カ所しかありません。東京都は23区だけでパリの90倍の踏切があります。その他の主要都市と比べても多く、日本の鉄道に特有の問題と言えそうです。 *2-2:https://digital.asahi.com/articles/ASM967WK4M96UTIL064.html?iref=comtop_8_01 (朝日新聞 2019年9月7日) 京急事故、列車なぜ衝突 異常時に踏切前で止まれる設計 大型トラックとの衝突・脱線事故から2日ぶりに、京急本線が7日午後、全線で運転を再開した。踏切内で車が立ち往生するトラブルは、各地でしばしば起きている。今回の現場でも、立ち往生を想定した安全システムは整備されていた。それなのになぜ、ぶつかるまで列車は止まれなかったのか。5日昼前、横浜市神奈川区の神奈川新町駅に隣り合う踏切で、事故は起きた。京急の説明によると、トラックは警報機が鳴り始める前に踏切内に入り、立ち往生していた。現場の踏切には人や車などの障害物を検知する装置がある。装置は、警報機が鳴り出した時点で地上30センチ以上にある障害物をレーザーで検知。踏切から10メートル、130メートル、340メートルの地点に設けた3カ所の専用信号機が一斉に赤色に点滅して、運転士に異常を知らせる仕組みになっている。運転士は、踏切から少なくとも600メートル離れた地点でこの信号の点滅を確認できる。ここで非常ブレーキをかければ、最高速度の時速120キロで走っている快特列車でも、踏切の手前で止まれる設計だ。点滅を確認した場合、運転士は状況に応じて通常ブレーキか非常ブレーキをかける。途中で障害物を検知しなくなれば信号が消えるため、そのときは状況を確認しながら減速をやめて通常の運転に戻すという。事故当時、検知装置や信号は正常に作動したと京急は説明している。今回の運転士は京急の聞き取りに対し、「信号に気付いてブレーキをかけたが、間に合わなかった」と話しているという。運転士はどの時点でブレーキをかけたのか。京急は取材に「調査中」としており、国の運輸安全委員会や神奈川県警などが走行データを分析する。別の大手鉄道会社の元運転士によると、障害物検知装置が作動することは「しばしばある」という。「もともと運転中は赤信号に敏感になるが、検知装置の信号は複数の赤色灯が激しく点滅するため、かなり目立つ」と話す。事故を防ぐ仕組みは多様だ。障害物を検知した場合、自動でブレーキをかけるシステムを導入している鉄道会社もある。信号に応じて列車の速度を自動制御する「自動列車制御装置(ATC)」などの信号保安装置と、検知装置を連動させる仕組みだ。東急電鉄は、東横線や目黒線、大井町線などにこのシステムを導入。検知装置が作動した場合、踏切に接近してくる列車は自動的にブレーキがかかる。京王電鉄や小田急電鉄のほか、近鉄、東武東上線、JR京浜東北線も同様のシステムだ。西武鉄道は池袋線と新宿線の踏切のうち、見通しの悪い4カ所で、検知装置と自動ブレーキを連動させているという。ただ京急など、運転士が手動でブレーキをかける鉄道も多い。京急はその理由を「自動ブレーキで止まるようにすると、トンネル内や橋の上など、かえって乗客に危険が及ぶ場所に止まってしまうことも考えられる」と説明する。2017年9月には、小田急線の沿線であった火災現場に近い踏切で、消火活動のために非常ボタンが押され、自動ブレーキで現場の目の前に止まってしまった列車の屋根に火が燃え移った例もあった。今回の事故について、工学院大の高木亮教授(交通システム工学)は「システムの想定通りに障害物を検知できた事例だ」とし、「鉄道会社としては防がなければいけない事故だったと考えられる」と指摘する。「衝突事故を防ぐには、障害物を検知した時点で自動的にブレーキがかかるシステムの導入が必要だ。手動に任せて信号を見落とすのと比べれば、事故のリスクは小さくなる」 <災害復興と防災投資> *3-1-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/422825 (佐賀新聞 2019.9.5) <佐賀豪雨>鉄工所の油「想定超え」で流出 住民は「30年前と同じ」と憤り 記録的な大雨による浸水で、杵島郡大町町の佐賀鉄工所大町工場から約5万リットルの油が流出して1週間が過ぎた。県によると、工場や順天堂病院周辺では回収が進んでいるが、農地や宅地などでは油除去の見通しが立っていない。油流出は約30年前にも発生し、同社では建物のかさ上げなどの対策をとっていたが、今回はその「想定」を超えるレベルの浸水となり、被害が拡大した格好だ。「畳やタンスなど油が染みて処分せざるを得ない。思い出の写真もほとんど処分してしまうかも。言葉にならない」。周辺道路の冠水で一時孤立した順天堂病院の近くに住む岸川マサノさん(73)は肩を落とした。「油さえ来ていなければこんな状態になっていない。健康被害も心配」と今後への不安を吐露した。回収作業は、自衛隊や九州地方整備局、鉄工所社員らがオイルフェンスを六角川に5カ所設置したり、吸着マットを使って実施。油膜は六角川の六角橋から下流では確認されず、県は「有明海への油流出はない」「ノリ漁への影響はない」との見方を示している。県によると、油の流出範囲は大町工場から東と南東方向に約1キロに及んだ。農作物への被害は水稲25・8ヘクタール、大豆15・3ヘクタール。流出面積は推計で約82万5千平方メートルに及び、「国内でも類を見ない最大規模」と指摘する専門家もいる。大町工場では1990年7月の水害時に同様の油流出が発生。事故の反省から同社が講じた主な対策は、油をためる油槽がある建物の数十センチのかさ上げと建物への高さ3・5メートルの重量シャッター3台の設置だった。今回は、かさ上げした建物で最大60センチの浸水が発生するなど「想像を超える雨」(同社)だった。同社によると、油槽は八つで約10万リットルを保管。建物内で管理し、床下約3メートルに設置している。冷却し強度を高めるため、ベルトコンベヤーを使ってボルトを油槽に移動する。24時間稼働していて、油槽にふたはない。設備の構造上、密閉することは難しいという。浸水当時の8月28日は、午前4時半ごろに油槽がある建物の稼働を停止させたが、その30分後には油の流出を確認。浸水の勢いが激しく、午前5時半ごろには従業員は避難した。同社によると、三つの重量シャッターのうち、北東側と南西側のシャッターから水が入り込んだ。油槽に水が流れ、油が浮き上がる形であふれ出したという。今回の油流出を受け、杵藤地区広域市町村圏組合は、佐賀鉄工所大町工場の熱処理工場に対し、8月30日付で消防法に基づく使用停止命令を出した。「小学6年だった30年前も同じ被害にあった。反省を踏まえ打つ手があったのではないか。天災と人災が重なったと思う」。工場近くにある自宅に油が流れ込んだ野口必勝さん(42)は憤りが収まらない。同社では「新しい対策をとっていく必要がある」との考えを示す。同様の事業所にも今回のような事案が考えられることから、県工業連合会の吉村正会長は「近年は、いつ大きな災害が起きるかわからない。これを教訓に業界全体で対策を考えていきたい」と話した。 *3-1-2:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/540982/ (西日本新聞 2019/9/6) 排水ポンプ 苦悩の停止 佐賀・大町町の操作員 「油拡散防げ」町から指示 記録的な大雨に見舞われた佐賀県大町町に、水害から地域を守ろうともがいた町民がいた。町から排水機場の操作を委託されている牛島忠幸さん(62)は8月28日、農業用水路から六角川に排水するポンプを稼働させていたが、流出した油が川から有明海に広がることを恐れた町の指示を受けて停止。水は行き場を失い、地域をのみ込み、牛島さんの家屋も油にまみれた。「どげんしたら地域を守れたのか」。自問を続けている。牛島さんは周囲の冠水で孤立状態になった順天堂病院近くの下潟排水機場の向かいに暮らす。油混じりの水に漬かった自宅と会社事務所の片付けに追われる。「油でめちゃくちゃ。でも、大変そうな地域の人の姿を見るのがもっとつらい」。祖父の代から水門管理を担い、住民から「係さん」と呼ばれる。2000年に排水機場が開所し、父から「係さん」を継いだ。大雨が降れば、何時でも雨具を着て排水機場に向かう。あの日も、そうだった。しとしと雨が落ちる27日昼からポンプを動かした。夜通し排水機場の水位計に気を配った。強まる雨脚。28日午前6時、水位が4メートル近くに。2時間で2メートルも上がった。「排水が追い付かん。これまでと違う」。午前11時23分、携帯電話が鳴り、町の担当者が言った。「鉄工所の油が流れているのでストップしてくれ」。ポンプを止めれば住宅が水に漬かる。頭に浮かんだものの「町には逆らえん」。指示に従った。ただ、水位に応じて用水路から川に自然排水する水門は開けたままにした。既に水位は門の下部に達しており、水面に浮いた油は滞留すると考えた。わずかな望みを胸に家に戻った。ぐんぐん水位が上昇。黒い油水にのまれる一帯を、2階からただ見つめるしかなかった。ポンプは停止後に冠水し、故障。水門も国土交通省九州地方整備局職員の手で閉められていた。町は「油の拡散を防ぐには、この選択しかなかった」、九地整も「ポンプ車などで水位を下げる努力を続けた」と説明。ポンプ停止と閉門がどこまで増水に影響したか分からない。ただ、家が漬かった住民たちは「油拡散を防ぐために私たちが犠牲になったのか」と憤る。地域の暮らしを守るのか、油による広域被害を防ぐのか-。「係さん」として今も川と向き合う牛島さんの思いは晴れない。「国と町の判断が間違っていたとは思わん。でも、水門だけでも開けていれば、助かった家や畑もあったんじゃなかか」 *3-1-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/423970 (佐賀新聞 2019年9月7日) <佐賀豪雨>3市町局地激甚災害指定へ 武雄、多久、大町、局地激甚災害(局激) 山本順三防災担当相は6日の閣議後会見で、佐賀県の豪雨被害について激甚災害に指定する方針を明らかにした。地域を限定する「局地激甚災害(局激)」で、武雄、多久の2市と杵島郡大町町を指定する。国庫補助率を引き上げるなど市町への財政支援を手厚くし、復旧事業を加速させる。今後の被害額の調査によっては、別の市町も追加で指定される可能性がある。指定によって国庫補助率は1、2割かさ上げされる。農地などの災害復旧は3市町が対象で、公共土木関連では多久市と大町町、中小企業支援では武雄市と大町町が対象になる。市民の生活再建への直接的な助成ではなく、市町の復旧事業を支える意味合いが強い。過去5年間の自然災害で公共土木の復旧事業の補助率を平均すると、通常70%が指定後に83%に引き上げられている。農地は83・1%から96・0%になっている。激甚災害は、人的被害でなく経済的被害を基準に指定する。県市町が被害額を調査し、各省庁が査定する。地域を限定する「局激」の場合、市町の財政規模ごとに基準額が設定され、基準額を超えた時点で激甚災害指定の見込みが示される。内閣府は今回、被害額と市町ごとの基準額について「さまざまな数字が出て混乱する恐れがある」として明らかにしなかった。山本氏は会見で「被災地の復旧、復興を加速化させるため激甚災害に指定する見込みとなった」とした上で、「被害状況はまだ調査中のため、基準を満たす地域があれば追加して指定し、公表する」と述べた。指定される3市町以外が追加される可能性がある。菅義偉官房長官らに被災地支援を要望した後、都内で取材に応じた山口祥義知事は激甚指定の方針について「前に向かって進める基盤ができた」と話した。県によると、過去5年は西日本豪雨(2018年)や九州北部豪雨(17年)、熊本地震(16年)などで県内は毎年、激甚災害の指定を受けている。いずれも市町単位で指定する「局激」ではなく、地域を特定せずに災害そのものを指定する激甚災害(本激)だった。 *3-2-1:https://www.hokkaido-np.co.jp/article/342364 (北海道新聞 2019/9/7) 全域停電1年 供給網の在り方再考を 胆振東部地震をきっかけとする道内の全域停電(ブラックアウト)が発生してから、きのうで1年がたった。地震発生時、道内の電力需要の約半分を担っていた北海道電力苫東厚真火力発電所の発電機3基が相次ぎ損壊。需給バランスがたちまち崩れ、全電源が停止する未曽有の事態となった。この1年間、北電による設備増強でブラックアウトが再発するリスクはかなり低減した。それでも、広大な北海道で使われる電力を少数の大型電源に依存する態勢のもろさが完全に解消されたとは言えまい。道民生活がまひした1年前の経験を教訓に、より強靱(きょうじん)で安定した電力供給の在り方を考えたい。北電は2月、液化天然ガス(LNG)を使用する石狩湾新港火発1号機の営業運転を始めた。発電容量57万キロワットは、稼働している北電の発電所としては苫東厚真4号機(70万キロワット)と2号機(60万キロワット)に次ぐ規模だ。3月には、北海道―本州間の送電線「北本連系線」の容量も1・5倍の90万キロワットに増強された。さらに今後、全国の電力会社が経費を分担して120万キロワットまで増やす計画となっている。新たな大型電源の稼働と本州からの緊急送電機能の強化によって、災害時に大規模停電が発生する可能性は1年前に比べて相当小さくなったことは間違いない。とはいえ、胆振東部地震をはじめとする過去の大規模災害は、電力会社にとって「想定外」の被害をもたらしてきたことも事実だ。もうブラックアウトは起きないと楽観視せず、官民が協力し、より進化した電力供給の仕組みを目指すべきであろう。その意味で、災害時に再生可能エネルギーを使って地域の電力を賄う「マイクログリッド」(小規模送電網)構築の試みが、道内各地で始まっていることを大いに評価したい。経済産業省資源エネルギー庁の支援事業の1次公募で採択された全国5件のうち3件を道内(釧路市、十勝管内上士幌町、石狩市)の取り組みが占めた。マイクログリッドは、大規模停電が発生した際、北電の電力系統から特定地域の配電網を切り離し、その中で地元の再生エネ電力を供給する仕組みを基本とする。太陽光、風力、バイオガスなど地域特性に合った再生エネを有効活用し、地方経済を活性化する一助にもなるのではないか。 *3-2-2:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-985282.html (琉球新報 2019年9月7日) 宮古島、停電なお1万1000戸 台風13号 今夜復旧見込み 非常に強い台風13号は6日、久米島、宮古島を暴風域に巻き込みながら北上し沖縄地方を通過した。市内の約8割を超える2万590戸が停電した宮古島市では、6日午後11時現在、1万1140戸が引き続き停電している。宮古島市は7日朝から城辺、上野、下地の各支所と池間島公民館に携帯電話などの充電ができるように発電機を設置する。行政サービスを求める市民に対して上野支所を除く各支所で対応する。沖縄気象台によると、台風は久米島と宮古島を暴風域に巻き込みながら北上し6日朝までに暴風域を抜けたが、台風に流れ込む暖かく湿った空気の影響で大気が不安定になっている。沖縄本島地方と先島諸島では7日にかけて雷雨や竜巻が発生しやすい状況が続いており、警戒が必要だ。沖縄電力によると、沖縄本島や八重山支店からの応援作業要員も停電の復旧作業に当たっており、7日夜に復旧見込みとしている。台風は6日午後9時45分現在、東シナ海にあり、時速35キロで北上している。8日午後9時には温帯低気圧に変わる見込み。宮古空港では5日午後0時22分に観測史上最大となる最大瞬間風速61・2メートルを記録。住宅の床下浸水が1件確認されたほか、宮古島市で30~70代の男女5人が、宜野湾市で80代女性が、それぞれ強風にあおられて転倒するなどして負傷した。 *3-3-1:https://news.biglobe.ne.jp/domestic/0907/mai_190907_3527897284.html (毎日新聞 2019年9月7日) かさ上げ、高台移転1400ヘクタール 8%が空き地、利用未定 東日本大震災8年半 東日本大震災の被災者向けに自治体が復興予算を投じ整備した宅地約1291ヘクタールのうち、東京ドーム約23個分にあたる約107ヘクタールが空き地や利用未定地となっている。毎日新聞が被災自治体に実施したアンケートで明らかになった。全体の約8%に過ぎないが、これ以外にも宅地に自宅を再建できないまま断念する可能性がある住民も一定数いるとみられる。かさ上げした市街地の広範な利用未定地で住民がわずかだったり、高台移転先では住民が孤立したりして、復興に向けた課題となっている。アンケートは7〜8月、宮城、岩手、福島の被災3県の30市町村に実施し、全自治体から回答を得た。対象は、内陸や土地をかさ上げして整備する土地区画整理(区画整理)▽高台に移転先を整備する防災集団移転(防集)▽漁業者が多く暮らす地区でかさ上げを図る漁業集落防災機能強化(漁集)——の3事業。防集と漁集は空き区画を、区画整理は利用予定が未定の区画を尋ねた。面積では陸前高田市は一部農地を含む37・3ヘクタールで最大。区画ベースでは、回答があった宅地約1万7700区画のうち、空き区画や利用未定なのは約12%の約2160区画。一方で地区全体のうち、半数以上の空きが生じているのは12地区、5区画以上は39地区あった。宮城県石巻市や南三陸町、福島県いわき市、岩手県釜石市や山田町で目立った。 *3-3-2:https://www.sankei.com/photo/story/news/171120/sty1711200002-n1.html (産経新聞 2017.11.20) 東日本大震災:賛否分かつ巨大な壁 海岸に横たわる防潮堤 海辺に立つ宿の窓からおかみの岩崎昭子さん(61)が海をのぞく。岩手県釜石市の根浜海岸。白砂の浜と松林で知られる。視界の一部をコンクリートの壁が遮る。東日本大震災の復興工事で高さ5メートルの防潮堤が築かれた。震災で津波を受け、1階が水没した。地区住民が高台移転に踏み切る中、現地再建の道を選んだ。海の幸と水平線から昇る日の出を売りにした宿だ。海から遠ざかる選択はなかった。海の近くに残るということは防潮堤を受け入れることを意味する。震災から7年に迫る今も巨大防潮堤を巡る議論がくすぶる。395キロ。岩手、宮城、福島の被災3県の防潮堤の総延長だ。高さは最大15.5メートル。ビルの4階に匹敵する。数十年から百数十年に1度の津波に耐える規格で建造された。「圧迫感がある」。「景観を損ねる」。「海と遮断される」。賛否の応酬は否定的な声が優勢に見える。被災地を離れるほど反対意見が台頭する印象を抱く。行政が住民合意を取るのに丁寧さを欠いて賛成派と反対派の対立を招いたり、公共事業の利権構造がむき出しになったりし、負のイメージが増幅された。 ●良かったのか悪かったのか 「奥尻と同じ轍(てつ)を踏むな」。反対派が合言葉にする。平成5年の北海道南西沖地震で津波に遭い、198人が命を落とした。町は復興事業で全長14キロ、高さ10メートル級の防潮堤で島を取り囲んだ。そのせいで景観が台無しになって観光客の足が遠のき、海の生態系も乱れて主力産業の漁業が衰退したとささやかれている。28年度の観光客は2万7千人。地震前年の半分に落ち込んだ。環境変化の影響を受けやすいといわれるアワビの漁獲高も8分の1に低落している。人口も4700から2750に減少。地域の陰りを示す数字には事欠かない。だが、防潮堤が島の弱体化を招いたかどうかの因果関係ははっきりしない。「観光客の減少も漁業不振も人口減も地震前から顕在化していた」。島民の多くは、島が細ったのは複合的な理由で防潮堤だけをスケープゴートにするのは見誤っていると語る。北海道の同じ離島で人口規模も近い礼文島も似た傾向で人口と観光客を減らしている。島の衰えは防潮堤の有無にかかわらず、地域の共通課題である実態を裏付ける。. ●判断の正否は歴史が裁く 岩手県の旧田老町(宮古市)に「万里の長城」の異名を持つ防潮堤がある。全長2.4キロ。高さ10メートル。X字の二重構造を持つ。昭和8年の昭和三陸津波で911人の死者を出し、44年かけて建設された。東日本大震災の津波は堤体を乗り越え、全体の5分の1が破壊された。人工の構造物は自然の猛威の前にひとたまりもなく、人間は自然に対してもっと謙虚であるべきだ。巨大防潮堤は自然を征服したと思い上がった人間をたしなめる文脈で語られる。しかし、防潮堤が役立たずだったかと言えばそうではない。津波を一時的にせき止め、進行を遅らせた。避難の時間稼ぎができて難を逃れた人は少なくない。町の犠牲者は181人。隣接市町村より少ない。昭和三陸津波の時と比べても5分の1に減っている。人を死なせないこと。防災の最大の目的だ。景観も被災地の活性化も大事。生き延びた人を立ち直らせることも。ただ、これらは最優先ではない。防潮堤の適否は次世代の人を犠牲にしないことに有益かどうかで判断されるべきだ。防潮堤は人命を守ることに一定の効果がある。景観や地域活性化を理由にした反対論も傾聴に値するけれども、1番手ではない。命には命で対抗しないと釣り合わない。巨大防潮堤を造ることによって住民に依存心が芽生え、危機意識が薄まってかえって死の危険性が高まるというのなら、対等の議論として成立する。岩崎さんは防潮堤に目をやる。災害対策基本法は「行政は災害から国民の生命、身体、財産を保護しなければならない」と定める。5千人を超す死者を生んだ昭和34年の伊勢湾台風の惨劇が行政の責務を明確にした。目の前のコンクリートの塊が住民意思を置き去りにした役所の独断専行の産物だとは思いたくない。曲がりなりにも住民との合作なのだ。東日本大震災の被災地は巨大防潮堤と共に歩む運命を選んだ。その判断の正否は歴史に裁かれる。千年に1度の天災が再び起き、将来世代の命を守れなかったら。「われわれの先祖は愚かだった」と言われるのだろう。あの世で批判を受ける覚悟はできている。 *3-4:https://digital.asahi.com/articles/ASM973603M97TLVB003.html (朝日新聞 2019年9月7日) 蒲島・熊本県知事が4選出馬へ「地震からの復興進める」 来春の熊本県知事選に、現職の蒲島郁夫氏(72)が4選を目指して立候補する意向を固めた。7日、朝日新聞の取材に「熊本地震からの復興の流れを今ここで止めるわけにはいかない」と語った。9日の県議会代表質問で正式に表明する。蒲島氏の任期満了は来年4月。3選を決めた直後の2016年4月に熊本地震が発生。被災者の住まい再建に優先的に取り組む一方、「創造的復興」を掲げ、空港や港湾、道路の整備を推し進めてきた。熊本県ではこれまで、4期以上を務めた知事はおらず、蒲島氏も16年の立候補の際には「3期目で実を結ぶ」として、仕上げの任期と定めてきた。ただ、今年8月28日の定例会見で「熊本地震の被災者の住まいの再建を最優先に、取り組まなければならない復興の課題がまだ多くある」と語っていた。7日は取材に対し「地震からの復興をスピード感を持って進める必要がある」と述べ、知事として引き続き復興に取り組んでいく姿勢を示した。知事選には、前熊本市長の幸山政史氏(54)が立候補の意向を表明している。 <社会保障について> *4-1:http://qbiz.jp/article/73996/1/ (西日本新聞 2015年11月2日) 年金積立金1.5兆円配分 保険料塩漬け30年 給付財源 一元化受け割合決定 政府は1日までに、使い道が約30年間決まらなかった年金積立金約1兆5500億円について、2015〜24年度の公的年金給付に充てるとの政令を決定した。積立金は、専業主婦が国民年金に任意加入だった時代に納めた保険料の収入。分立する各年金制度への配分方法が決められず塩漬け状態だった。会社員が加入する厚生年金に公務員らの共済年金を10月に一元化したのをきっかけに、配分割合が決まった。政令では、積立金の半分を厚生年金(統合後の共済年金を含む)に振り向け、残り半分を自営業者などの国民年金と厚生年金(同)の加入者数に応じて分けると規定。今後10年間、給付財源として活用する。給付額に影響はないが、年50兆円規模の年金財政に少しだけゆとりが生まれそうだ。1986年4月の法改正で、サラリーマンの夫を持つ専業主婦は「第3号被保険者」として保険料負担なしで国民年金に加入することになった。それ以前は国民皆年金が整った61年度から、約7割の主婦が任意で加入し保険料を納めていた。85年度末までに積み上がった保険料は7246億円。その後、約30年間に運用収益8282億円も加わり、2014年3月末時点で総額1兆5528億円と倍以上に膨らんでいた。政府はこれを24年度まで、毎年約1500億円ずつ給付費に回す。15年度は運用収益見込みを含め1590億円を計上した。各制度への配分は厚生年金に1480億円、国民年金に110億円。問題の積立金をめぐっては、任意で保険料を納めた主婦の夫の何割が会社員で何割が公務員なのか確定できず、制度間の配分ルールが政府内で長年まとまらなかった。だが、厚生年金と共済年金の一元化を機に所管各省の調整が進み、給付費への投入が実現した。厚生年金と共済年金の一元化 国家公務員と地方公務員、私立学校教職員向けの共済年金を廃止し、会社員の厚生年金に統合する「被用者年金一元化法」が2012年に成立し、ことし10月1日に施行された。官民格差の是正と規模拡大による財政安定化が目的。共済独自の上乗せ給付「職域加算」を廃止し、両年金で異なる保険料率を段階的にそろえる。公務員ら約440万人の加入で厚生年金の加入者は4000万人弱に増えた。 *4-2:https://www.mhlw.go.jp/shingi/2002/04/s0419-3d.html (社会保障審議会年金部会 平成14年4月19日 抜粋) 公的年金制度の歩みとこれまでの主な制度改正 《制度の充実》 昭和40(1965)年 : 給付水準の改善、「1万円年金」の実現、厚生年金基金制度の創設 昭和41(1966)年 : 国民年金においても夫婦「1万円年金」の実現) 昭和44(1969)年 : 「2万円年金」の実現(標準的な厚生年金額2万円、国民年金も 夫婦2万円) 昭和48(1973)年 : 物価スライド制、賃金再評価の導入(「5万円年金」の実現) 《本格的な高齢社会の到来をにらんだ対応》 【昭和60(1985)年改正】 ○全国民共通で、全国民で支える基礎年金制度の創設 ○給付水準の適正化(成熟時に加入期間が40年に伸びることを想定して給付単価、 支給乗率を段階的に逓減) ○サラリーマンの被扶養配偶者(専業主婦)の国民年金制度への強制適用(第3号 被保険者制度の創設)、これによる女性の年金権の確立 ○障害年金の改善(20歳前に障害者となった者に対する障害基礎年金の保障) ○5人未満の法人事業所に対する厚生年金の適用拡大 ○女性に係る老齢厚生年金の支給開始年齢の引上げ(昭和75(2000)年までに55歳 →60歳) 【平成元(1989)年改正】 ○完全自動物価スライド制の導入 ○学生の国民年金制度への強制加入 ○国民年金基金制度の創設(地域型国民年金基金の創設、職域型国民年金基金の 設立要件の緩和) ○被用者年金制度間の費用負担調整事業の創設(平成9年度に廃止) 【平成6年(1994)年改正】 ○60歳台前半の老齢厚生年金の見直し(定額部分の支給開始年齢を平成25(2013)年 までに段階的に60歳から65歳まで引上げ) ○在職老齢年金制度の改善(賃金の増加に応じて賃金と年金額の合計が増加する仕 組みへの変更)、失業給付との調整 ○賃金再評価の方式の変更(税・社会保険料の増加を除いた可処分所得の上昇率に 応じた再評価) ○遺族年金の改善(共働き世帯の増加に対応し妻の保険料拠出も年金額に反映できるよう、 夫婦それぞれの老齢厚生年金の2分の1に相当する額を併給する選択を認める) ○育児休業期間中の厚生年金の保険料(本人分)の免除 ○厚生年金に係る賞与等からの特別保険料(1%)の創設 【平成8(1996)年改正】 ○旧公共企業体3共済(JR、JT、NTT)の厚生年金への統合 【平成12年(2000)年改正】 ○老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢引上げ(平成37(2025)年までに段階的 に60歳から65歳まで引上げ) ○年金額の改定方式の変更(既裁定者の年金(65歳以降)は物価スライドのみで改定) ○厚生年金給付の適正化(報酬比例部分の5%適正化、ただし従前額は保障) ○60歳台後半の厚生年金の適用拡大(70歳未満まで拡大。65~69歳の在職者に対する 在職老齢年金制度の創設) ○総報酬制の導入(賞与等にも同率の保険料を賦課し、給付に反映。特別保険料は廃止) ○育児休業期間中の厚生年金の保険料(事業主負担分)の免除 ○国民年金の保険料に係る免除等の拡充(半額免除制度の創設、学生納付特例制度の創設) *4-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190724&ng=DGKKZO47676130T20C19A7MM8000 (日経新聞 2019.7.24) 日本の針路(2)年金だけでは描けぬ安心 不都合な真実 直視の時 有権者が参院選で最も重視する政策にあげたのは社会保障だった。参院選での与党の勝利は社会保障のために消費税率を10%に上げる公約が信任を得たことを意味する。しかし「人生100年時代」にどう備えるかという国民の不安に、与党が選挙戦できちんと向き合ったとはいえない。「鋭意作業している」。根本匠厚生労働相は公的年金の将来像を示す「財政検証」の公表時期を聞かれるとこうかわし続けた。老後資金が2000万円不足するとの金融庁の報告書で国会が紛糾するのを見た政府は検証を選挙後に延期し、与党も早期公表を求めなかった。だが「不都合な真実」を隠したところで老後の安心は確保できない。「50代で最も多い年収500万~750万円未満の層は65歳までに3200万円必要になる」。ニッセイ基礎研究所は65歳以降も生活を変えないことを前提に、こんな試算を出した。年収が1000万~1200万円未満の世帯の不足額は6550万円に上るという。他の民間調査機関も老後資金の独自試算を次々と公表した。「公的年金のほかに必要な金額は月額4万円」「非正規雇用の比率が高い団塊ジュニアの世代は、貧困高齢者になりかねない人が他の世代よりも多い」。最もデータを持つ国が実態を示し、与党がこれを直視して人生100年時代の安心を描く作業に力を注がなければ、国民の不安は払拭できない。5年に1度の公的年金の定期健診にあたる財政検証のあり方にも課題がある。財政検証は100年先まで人口と経済を見通して年金の水準や財政の状況を確認するものだが、過去の検証では、年金制度の課題をとらえきれていない懸念がある。14年の前回検証では夫が働き、妻がずっと専業主婦という世帯を「標準」として将来の年金水準を見通した。こうした世帯では、現役世代の平均手取り年収と比べた年金の給付水準(所得代替率)が約30年後に50%超になることを示し、04年の年金改革で約束した水準を確保できるとした。しかし、今の日本の世帯は共働きが主流だ。国民年金のみで年金額が少ない単身世帯も増えている。いまの年金制度がこうした世帯の生活をどこまで支えられるのか。今回の検証では世帯の多様化を踏まえ、実態を評価することが欠かせない。その上で急務なのは、現在の高齢者の年金給付を抑え、将来の年金の目減りを抑える「マクロ経済スライド」が発動しにくい仕組みを改めることだ。そして、私的年金など自助努力と一体で老後に備える国民を支援する制度を整えていくことが、国民の不安を払拭する第一歩になる。年金よりも遅れた医療・介護の改革も課題だ。団塊の世代が75歳以上になり始める22年から高齢者医療費の伸びは加速し、会社員らの保険料負担はどんどん重くなる。投薬1回で数千万円になるような超高額の医薬品の登場は医療保険制度そのものを揺さぶる。人材急募――。都内の介護施設には決まって求人の貼り紙がある。部屋が空いていても人手不足で入居できない特別養護老人ホームは珍しくない。25年に55万人に上る介護の担い手不足を解決する知恵が要る。安倍晋三首相は10%後の消費税について「10年くらいは上げる必要はない」と述べた。だが給付と負担のあり方にぎりぎりの知恵を絞ることになる社会保障の改革を前に「聖域」はないほうがいい。 *4-4:https://ryukyushimpo.jp/kyodo/entry-982929.html (琉球新報 2019年9月3日) 社会保障維持へ安定税収を、税調 少子高齢化で「課題深刻」 政府税制調査会(首相の諮問機関)が中期的な税制の在り方について月内にまとめる答申の骨子が3日、判明した。現役世代を支え手とした社会保障制度や財政は少子高齢化で「深刻な課題」に直面しており、制度維持には「十分かつ安定的な税収基盤の確保が不可欠」だと指摘。10月の消費税率引き上げ後も何らかの増税策が必要との考えをにじませる。公的年金の受給水準の先細りを念頭に置き、老後の資産形成を後押しする環境整備なども促す。政府税調が中期答申を作るのは2012年の第2次安倍政権発足後、有識者主導で再始動してからは初めて。4日の総会で本格討議に入り、9月下旬に決定する方針。 *4-5:https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2019090190070550.html (東京新聞 2019年9月1日) 「非正規と言うな」通知撤回 本紙の情報公開請求後に 厚生労働省が省内の全部局に、根本匠厚労相の指示として「非正規」や「非正規労働者」という表現を国会答弁などで使わないよう求める趣旨の文書やメールを通知し、本紙が情報公開請求した後に撤回したことが分かった。同省担当者は撤回の理由を「不正確な内容が散見された」と説明。根本氏の関与はなかったとしている。厚労省雇用環境・均等局によると、文書は「『非正規雇用労働者』の呼称について(周知)」という件名で四月十五~十六日に省内に通知。当面の国会答弁などの対応では、原則として「有期雇用労働者」「派遣労働者」などの呼称を用いるとした。「非正規雇用労働者」の呼称も認めるが、「非正規」のみや「非正規労働者」という表現は「用いないよう留意すること」と注意を促している。各部局に送信したメールには、同じ文書を添付した上で「『非正規雇用』のネーミングについては、(中略)ネガティブなイメージがあるとの大臣(根本氏)の御指摘があったことも踏まえ、当局で検討した」と記載され、今回の対応が根本氏の意向であることがうかがえる。「大臣了」と、根本氏の了承を意味する表現も明記されていた。「非正規」の用語に関しては、六月十九日の野党の会合で、厚労省年金局課長が、根本氏から使わないよう求められていると説明。根本氏は同月二十一日の記者会見で「指示した事実はない」と課長の発言を否定した。その上で、働き方の多様化に関し「単に正規、非正規という切り分け方だけでいいのか、それぞれの課題に応じた施策を講じるべきではないかという議論をした記憶がある」と話していた。本紙は七月十二日付で文書やメールを情報公開請求した。雇用環境・均等局は同月下旬に文書やメールの撤回を決めたとしている。撤回決定後の八月九日付で開示を決定した。堀井奈津子同局総務課長は撤回の理由について、文書に単純な表記ミスがあったことを指摘。根本氏の意向に触れたメールについては本紙の情報公開請求後に送信の事実や内容を知ったとして「チェックが行き届かなかった」と釈明した。文書については「大臣に見せていないし、省内に周知するとも伝えていない。文書作成に関して大臣の指示も了承もなかった」と説明。メールにある「大臣の御指摘」や「大臣了」についても、メールを作成した職員の勘違いとしている。 ◆格差象徴に政府ピリピリ 正社員と非正規労働者の不合理な待遇差の解消は、安倍政権の重要政策になっている。安倍晋三首相自身も「非正規という言葉をこの国から一掃する」と強調してきた。厚生労働省が「非正規」との表現を使わないことを文書やメールで省内に通知したのは、それだけ表現に神経質になっていたためとみられる。総務省の労働力調査(詳細集計)によると、役員を除く雇用者に占める非正規労働者は、第二次安倍政権発足当初の二〇一三年で年平均約千九百十万人(36・7%)だったが、一八年には約二千百二十万人(37・9%)に増加した。非正規労働者は、正社員に比べて賃金や社会保障などの面で待遇が悪く、格差拡大や貧困の問題と結び付いている。企業には都合の良い「雇用の調整弁」とされ、否定的な意味合いで受け止められることが多い。労働問題に詳しい法政大の上西充子教授は、厚労省の文書について「非正規という言葉だけをなくしてしまえ、という取り組みに映る。正社員になれず社会的に不遇な立場にある非正規労働者を巡る問題の矮小(わいしょう)化につながりかねない」と指摘。「問題と向き合うなら、逆に非正規をちゃんと社会的に位置付けないといけない」と訴える。 <台風15号による停電と送電に関するセキュリティー> PS(2019年9月12、13日追加):*5-1・*5-2に、2019年9月8日に関東を直撃した台風15号の影響で、「①千葉県は9月12日午前零時現在でも、約39万2千戸が停電」「②停電で浄水施設も稼働できず、2万戸が断水」「③交差点の信号機も殆ど作動せず」「④携帯電話も不通」「⑤停電で給油にも時間がかかる」「⑥クリニックも停電」「⑦復旧に1週間はかからないが、全面復旧は13日以降」「⑧気温が30度を超え、熱中症とみられる症状で午後4時までに48人が搬送された」「⑨倒れた鉄塔の送電網が断たれただけで約10万戸が停電した」「⑩東電は他電力の支援も含め1万人以上を投入して復旧作業に当たっているが、鉄塔や電柱が倒れ電線の切断箇所が多い」「⑪南房総地域では現場に行き着けない場所もある」などが書かれている。 このうちの①②③④⑤⑥⑧⑨は、生命に関わるインフラを、たった1系統の脆弱な電力ネットワークに頼って予備電源を準備していなかったセキュリティーの甘さにも問題がある。つまり、ここは地震・津波などの大災害も予想される地域なので、送電網を二重にしたり、自家発電装置を持って分散発電したりしておく必要があるのだ。また、⑦⑩⑪は、壊れた個所を自動的に知らせる装置がついていない電力会社の機器の古さにも問題があり、作業している人数が多い割には進捗が遅いように見える。 酷暑の中で停電・断水にあっておられる方々には心からお見舞い申し上げるが、風力も太陽光も豊富な房総半島なら、今後は再エネ等の地域資源を使った分散発電を進めたらどうかと思う。そして、*5-5のように、政府は地熱発電の普及に向けて開発段階の支援制度を拡充するそうだが、房総半島は温泉が多く地熱資源も豊富であることが既にわかっている。 また、*5-3のように、大規模農業団地計画が埼玉県羽生市で動き出し、全体計画24haのうち9.5haに進出する3社が決定したそうだ。転作による適地適作や農業用ハウスへの薄膜型太陽光発電設備の設置、農地への風力発電設備の設置などで高収益を上げられれば、進出したい企業はさらに増えるだろう。 なお、2019年9月13日、朝日新聞が、*5-4のように、「⑫東電は復旧を急がねばならない」「⑬房総半島の山間部などで倒木の多さに手間取った」「⑭福島第一原発の事故で経営が苦しい東電は、送配電部門の投資を抑えてきた」「⑮長期的には電線の地中化が有効な対策で、国も電力会社も無電柱化に力を入れる時だ」と記載しているが、⑫は当然のこととして、⑬については、倒木や停電の存在は昼と夜に上空(宇宙も含む)から写真をとればすぐわかるため、自衛隊か米軍に頼めば早かったのにと思う。さらに、⑮については、地方自治体が国の支援を受けて、電気、電話、水道、ガス、光ファイバー等のライフラインを一緒に道路や鉄道などの地下に埋設する共同溝を作り、電力会社も共同溝を利用するのが電力自由化・発送電分離の時代にふさわしい。ここで、「共同溝は、1kmあたり○億円かかるから電柱にしよう」などと言うのは、(理由を長くは書かないが)日本独特の欠点だ。そうなると、発送電分離を徹底しやすく、⑭の問題は比較的安価に解決することができ、無駄な景気対策をせずに生産性を上げながら必要な事業を行うことが可能である。 2019.9.9WN 2019.9.12東京新聞 2019.9.10朝日新聞 2019.9.10Abema (図の説明:比較的狭い範囲に強風を吹かせた1番左の台風15号の影響で、中央の2つの図のように、送電線の鉄塔や電柱が倒れ、左から2番目の図のように、千葉県内で大規模な停電が広がった。また、右図のように、農業用ハウスも倒壊している) *5-1:https://digital.asahi.com/articles/ASM9C5QL3M9CUTIL06F.html (朝日新聞 2019年9月11日) 動かぬ信号、イオンに殺到、給油制限…停電続く千葉の今 台風15号の影響で、千葉県内では停電や通信障害が続く。停電で街の機能が失われた房総半島南部。開店した店やガソリンスタンドには長蛇の列ができていた。房総半島南端の千葉県館山市では11日も、交差点の信号機がほとんど作動していない。夜は暗闇のなか、車がライトの有無を確認して最徐行で通る。一方で昼は連日、30度を超える猛暑。冷蔵庫に閉じ込めていた冷気も消え、食品は異臭を放ち始めている。市内の飲食店やコンビニも大半が休業中で、開店した店に客が殺到。この日朝開店した同市八幡のイオン館山店では、カップ麺や電池を求める買い物客の列ができた。数十キロ離れた同県鴨川市の丸谷成三さん(76)は「停電で冷蔵庫が動かないのが痛い。一日も早く復旧してほしい」と訴えた。車への依存度が高い地域。館山市八幡の丸高石油は1台2千円を限度に、9、10日は約1千台ずつ、11日は早朝から約500台に給油した。だが、給油待ちの車列が数百メートルに伸びて交通を妨げたため、警察からの要請で販売を中止した。高橋浩二・取締役部長(46)は「ガソリンは用意できるが、人力で給油するのでスタッフが足りない」と声を落とす。隣の南房総市では携帯電話の不通が続く。携帯各社によると、停電で基地局が機能していないのが原因だ。携帯大手3社が急きょ、移動基地局車を南房総市役所に配備。11日、市役所の半径約100メートルの範囲で電波が入り、多くの市民がスマホを手に駆けつけた。農業の男性(44)は「取引先との連絡が取れず困っている。ネットもつながらないので、どこに何があるのかも分からない」と嘆いた。同市富浦町の「生方内科クリニック」は強風で看板が飛ばされ、手書きの紙で「診療中」と張り出していた。停電が続く中、生方英一院長(61)が懐中電灯を片手に診療している。11日午後、熱中症の症状で訪れた市内の男性を診察した。自宅の屋根を修復していた際、体調が悪くなり、足がけいれんし動けなくなったという。男性は生理食塩水の点滴を受けると「だいぶ良くなった。診療をやっていて本当によかった」と喜んだ。このほか、糖尿病の薬が切れた人など1日約10人が来院する。生方院長は「停電でまともな診療はできないけど、困っている人たちを見捨てて休むことなんてできない」と語った。今後も通常通りの時間で診療を続けるという。 *5-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201909/CK2019091202000162.html (東京新聞 2019年9月12日) 千葉の停電 全面復旧あす以降 台風15号による千葉県を中心とした大規模停電で、東京電力は十一日、全面復旧は十三日以降になると明らかにした。一週間はかからない見通し。千葉県では十二日午前零時現在、約三十九万二千戸が停電。船橋市などで新たに停電が発生した。断水も二万戸あり、市民生活への影響が長期化している。茨城、神奈川、静岡三県の停電は解消された。東電によると、今回の停電は台風によるものとしては戸数、期間とも同社で過去最大級。千葉市などを含む地域の復旧は十二日以降、成田市や木更津市などの地域が十三日以降になるという。千葉県では、十日に続き県内全域で気温が三〇度を超え、十一日は熱中症とみられる症状で午後四時までに四十八人が搬送された。断水が続いているのは君津市や南房総市など。県によると、停電により浄水施設などが稼働できなくなったのが原因とみられる。 ◇ 東電は当初、11日朝までに停電を約12万戸に減らす計画だった。他電力の支援も得て復旧作業に当たっているが、送電線をつなぐ鉄塔や電柱が倒れ、電線の切断箇所も多く、被害は東電の想定を大きく超えている。倒木や断続的な雷雨も復旧を長引かせている。房総半島南部の君津市の緑茂る丘の上で、鉄塔二基が根元から折れて横倒しになっている。高さは四十五メートルと五十七メートル。この鉄塔の送電網が断たれただけでも、約十万戸が停電した。電柱も南房総地域を中心に多数倒壊。東電パワーグリッドの金子禎則(よしのり)社長は十一日朝の会見で「過去に例のない風速、気圧で非常に多くの設備が被害を受けた。一つの現場で直す量が見込みより増えてしまった」と、硬い表情を見せた。作業には他電力も含め一万人以上を投入するが、南房総地域では現場に行き着けない場所も。君津市内では倒木や土砂崩れが二百五十カ所以上に及ぶ。断続的な雷雨も作業中断を余儀なくさせた。現場によっては一部設備の交換で済むという想定が外れ、損傷が確認された電線や電柱の交換が必要となったという。昨年九月の台風21号でも、関西全域で最大百六十八万戸が停電し、全面復旧には十六日を要した。十一日夕の東電の会見で、全面復旧の見通しを問われた技術部門の担当者は「一週間かかるとは思っていない」と歯切れが悪かった。復旧計画の見通しの甘さを報道陣から指摘され、「反省している」と述べた。停電復旧時には漏電が起き火災につながることもある。東電はアイロンやドライヤーなど電熱器具をコンセントから抜いておくことや、外出時はブレーカーを切るよう呼び掛けている。 *5-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190912&ng=DGKKZO49625090Q9A910C1L83000 (日経新聞 2019年9月12日) 「農業団地」企業が選ぶ理由 全国でも珍しい大規模農業団地計画が埼玉県羽生市で動き出した。全体計画24ヘクタールのうち先行する約9.5ヘクタールに進出する3社が決定。全都道府県に設けられた農地中間管理機構(農地バンク)を活用して農地を集積して企業に貸し出す。同様の取り組みは各地であるが行き詰まる例も多い。羽生ではなぜ順調なのか。群馬県との県境にある羽生市は東京から約60キロメートルでコメ作りが盛んだ。だが「後継者不足や耕作放棄地の増加が課題」(同市農政課)。そこで高収益農業を掲げ、農家の転作や市内外から農業への進出を促そうと、2018年3月に農業団地の構想を作成し、11月に公募を始めた。市が面積など企業の要望を聞いたうえで地権者と調整し、農地バンクが借り上げて貸し出す。農業団地は東北自動車道の羽生インターチェンジから車で5分と出荷や観光農園に有利だ。9.5ヘクタールに対して5件の応募があり、市への問い合わせは約40件あった。審査を経て進出が決まったのは、市内のスーパーと東京都内の農業資材メーカー、埼玉県内のハーブ農園の3社。いずれも20年の土地賃借契約を結ぶ。「これだけまとまった土地はめったにない」(進出企業の担当者)。羽生市役所には全国から視察も相次ぐ。農業問題に詳しいみずほ総合研究所の堀千珠主任研究員は「農業集積地の開発で最も重要なのは地権者との調整。知らない人や企業に貸すことに抵抗を感じる人は多い」と話す。また農地を相続した地権者が県外在住で連絡がつかないか、地権者が多すぎて調整がつかないことも多い。今回、農業団地全体の地権者は約80人。先行する9.5ヘクタールでは約35人で市内在住者が多いことが幸いした。しかも多くがすでに農地を貸した経験があり、貸すことに抵抗が少ないのもスムーズに運んだ理由だ。それでも「土地の利用方法を市が勝手に決めるな」と反発する人もおり、市の職員2人が説得に当たった。こういった農業団地開発では、企業などから進出の打診があってから農地を探し始める自治体もあるという。工業団地への誘致では考えにくい。「他地域では自治体の担当者と一緒に地権者まわりをしたこともある」(羽生に進出する企業)。こうした手間を企業に求めないことも企業が羽生を選んだ理由の一つだった。行政が求められることを的確に理解、遂行することが成功への第一歩のようだ。 *5-4:https://www.asahi.com/articles/DA3S14175820.html (朝日新聞社説 2019年9月13日) 停電の長期化 「想定外」ではすまない 命にかかわる事態である。政府は全力をあげて被災者を支援すべきだ。9日に上陸した台風15号による大規模停電で、千葉県を中心に深刻な影響が広がっている。当初、東京電力は11日中の復旧を目指すと発表したが、13日以降にずれ込んだ。厳しい暑さのなかで不便な生活が続き、熱中症の疑いによる死者も出た。停電にともなう断水なども起きている。東電は復旧を急がねばならない。停電は最大時で90万戸を超えた。東電管内で起きた台風によるものでは規模、期間とも過去最大級という。12日午後8時時点でも約29万戸が電気のない生活を余儀なくされている。台風が去った後も天候が不安定で、断続的な作業にならざるを得なかったうえ、房総半島の山間部などで倒木の多さに手間取ったというが、見通しが甘かったと批判されても仕方がない。きめ細かで、確実な情報発信の徹底が求められる。復旧後には、大規模停電の原因や、なぜ復旧作業に時間がかかったのかを、厳しく検証する必要がある。他の電力会社を含め、停電を起こさぬ努力だけでなく、よりスムーズに復旧できる態勢をつくるためだ。10万戸相当の停電につながった鉄塔2基の倒壊では、強度の想定を超える風が吹いた可能性がある。倒壊の状況を精査し、必要ならば「耐風性」の想定を見直さねばならない。福島第一原発の事故で経営が苦しい東電は、需要の伸び悩みもあり、送配電部門の投資を抑えてきた。電柱の交換や補強といった安全確保策に甘さがなかったかも、検証すべきだ。安倍首相は「復旧に全力を挙げる」と述べた。自治体からは電源車の継続的な手配や、さらなる給水支援を望む声が出ている。各省庁ができることを考え速やかに対応してほしい。心配なのはお年寄りや病人ら災害弱者だ。病院は非常用発電機で機能を維持しているが、燃料補給が欠かせない。介護施設の中には水洗トイレが使えず、職員が手動で流しているところもある。最優先でニーズをくみとり、支える必要がある。停電が解消しても、日常が戻るには時間がかかるだろう。強風で多くの屋根が損傷し、ブルーシートも相当いる。他の自治体や企業も支援の手をさしのべたい。昨年は北海道地震でブラックアウトが起き、台風21号でも関西でのべ約220万戸が停電した。長期的には電線の地中化が有効な対策である。コストはかかるが大規模停電の影響と復旧費用を考えれば、国も電力会社も無電柱化に力を入れる時だ。 *5-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190913&ng=DGKKZO49737160S9A910C1EE8000 (日経新聞 2019.9.13) 地熱開発 国が掘削調査 再エネ普及へ企業負担減 経済産業省は地熱発電の普及に向け、開発段階の支援制度を拡充する。これまで企業に任せていた有望地点を探す初期の掘削調査を、2020年度から国が石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)を通じて代行し、企業の負担を大幅に軽くする。リスクが大きい開発初期の調査を国が主導することで民間が積極的に参画できる環境をつくりたい考えだ。地熱開発は長期の官民の関与が必要だ。掘削して地下構造などをはかる「初期調査」に約5年、発電に必要な蒸気の噴出量をはかる「探査事業」などに約2年かかる。その後、事業化する判断をした後も、環境アセスメントや発電所の建設などに7年程度かかる。中でもリスクが大きいのが初期調査だ。地面に穴を開け、発電に適した地層の構造になっているか、企業が1回あたり数億円かけて入念に調べる必要がある。ただその結果、地層が発電に適していなければ失敗に終わる。調査はこれまでも国が費用の一部を補助していたが、企業側からは国がより関与すべきだとの声が多かった。JOGMECは初期調査のうち、地中に発電に不可欠な熱水や蒸気が十分に含まれているかの調査を代行する。期間は20年度から6年程度としたい考えで、企業が将来計画をたてやすくする。企業が掘削に慎重なのは、多方面との調整作業が難航しがちという事情もある。地熱に適しているとされる地域の多くは、国立公園や国定公園のなかにある。そこで掘削をしようとすると、近くの温泉などへの影響を懸念する地元自治体や、環境省、林野庁などとの難しい調整が必要になる。こうした調整を経産省やJOGMECが担うことで、開発に向けた調整がスムーズになる可能性がある。 <首都圏における災害とインフラ、人口密度など> PS(2019.9.14、15、16追加):*6-1のように、台風15号は千葉県で大規模停電を引き起こし、今後の対策として老朽インフラを新しいインフラに更新していくことに私も賛成だが、台風・豪雨だけでなく地震・津波が起こることも前提として街づくりは行う必要がある。 このような中、*6-2のように、日本の首都である東京は、大雨・台風の際には処理能力を超えるため下水処理されずに直接川に流された汚水が、お台場に到達して“トイレ臭”を発し、大腸菌の数も基準を超えるという不潔な状態であることが、先日の五輪テスト大会で明白になった。このように、古くて処理能力が不十分な下水道を使っているため東京の川はいつも汚いが、その汚水を入り江に張った膜で防御するという改善策を聞いた時にはさらに呆れて、オリンピックのお祭り騒ぎよりも、きちんとしたインフラ整備が先ではないかと思った。 今では東京に1300万人、東京・神奈川・埼玉・千葉の東京圏に3600万人(日本全体の人口の1/3)が住むようになり、下水道だけでなく上水道も質が悪かったり量が少なかったりして節水を強い、不潔な状態になっている。そして、地震・津波に襲われる危険がある東京で、さらにインフラを拡大をするのは金がかかりすぎる上、無駄遣いになるリスクもある。 そのため、私は、*6-3のように、国会議事堂やその関連施設などの主要な首都機能を安全な場所に移転(もしくは疎開)してはどうかと考える。移転する場所は、栃木県・福島県南部は原発事故の影響で適切でなくなり、岐阜・愛知地域や三重・畿央地域は既に人口が多いため、涼しくて地震・津波の心配がない長野県松本市付近にし、新しい国会議事堂は英国のように議論しやすい民主主義向きの設計にしてはどうかと思う次第だ。 一方で、*6-4の佐賀県三瀬地区のように、よい農産物を生産する重要な地域であるにもかかわらず、人口が少ないためバスの運行も採算が合いにくい地域もある。私は、将来、マイクロバスやジャンボタクシーも自動運転の電動車にすれば、さらにコストを減らして運行数を増やすことができると考える。 なお、敬老の日の2019年9月16日、徳島新聞が社説で、*6-5のように、「運転免許の返納が高齢者の生活の質の低下に繋がらないよう、『高齢者の足』の確保を」という記事を書いており、全くそのとおりだと思う。ただ、運転免許を返納しなければならないほど衰えてくると、自宅で家事(火や薬品を使う)をするのも心もとなくなるため、選択肢の1つとして、朝に迎えに来て、食事・風呂・運動・娯楽・文化活動を提供し、夕方に家に送り届ける宅老所を中心部に作ればよいと思う。ただし、8Kテレビで高齢者が若い頃に感動した映画を見ることができたり、多種の新聞・雑誌・本などが置いてあったり、書道・手芸・カラオケができたり、歩いて買い物や病院に行ったりなど、家にいるより便利で居心地が良い場所にしなければならない。 (図の説明:左の図は、人口の多い順に都道府県を並べたもので、中央の図は、上位と下位それぞれ10都道府県の人口・面積・人口密度を示したものだ。また、右の図は、日本地図に都道府県別の人口密度を示したもので、赤色の地域は人口密度が高い) *6-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190914&ng=DGKKZO49820850T10C19A9MM8000 (日経新聞 ) 老朽インフラ、日本の岐路に 、台風で停電、復旧あと2週間 送電網や道路橋、更新コスト重く 大規模停電を引き起こした台風15号は生活インフラが抱える災害リスクを浮き彫りにした。なお17万戸が停電し影響はライフラインに広がる。1970年代に整備が進んだ送電施設は更新時期が迫り老いるインフラは道路などにも共通する課題だ。国と地方を合わせた借金が1千兆円と財政が厳しく社会保障費も膨らむなか、巨額投資によりインフラをどこまで維持していくか、重い判断が迫られる。台風15号が首都圏を直撃した9日以降、千葉県南部を中心に停電が続く。東京電力パワーグリッドは13日夜、東京都内で記者会見し、「今後、2週間以内におおむね復旧見込み」と発表した。同社は当初、11日に全面復旧するとの見通しを発表していたが、会見で「過去の被害規模から過小な想定をしてしまった。複雑な難工事に直面している」と釈明した。房総半島の送電網は山林に張り巡らされており、倒木によって大規模に損傷しているという。台風による被害は広範囲に及び、停電の全面復旧は時間がかかる傾向にある。2018年に関西を襲った台風21号の被害は、全面復旧まで17日間を要した。停電はライフライン全体に影響を及ぼした。携帯電話の電波を飛ばす基地局が多くの場所で機能せず、スマートフォンの電源も確保できなくなったため、11年の東日本大震災の際には避難所や支援物資の情報共有で力を発揮したSNS(交流サイト)の効果も限定的なものになった。市役所などに設置された充電設備には電源を求める人で長蛇の列ができた。被害が広がった背景として、想定外の強風に加え、送電設備の老朽化も指摘されている。送電線の鉄塔は70年代に建てられたものが大部分を占める。倒壊し、10万戸の大規模停電につながった千葉県君津市の鉄塔は72年に完成したものだった。電力各社などでつくる電力広域的運営推進機関によると、15年度末の時点で約25万基ある送電鉄塔のうち、製造年が00年代のものは年約千基ペースなのに対し、70年代は年6千~8千基にのぼる。東京電力管内の鉄塔の平均使用年数は42年。設置場所や塗装などによって違いはあるが、老朽化は着実に進行している。広域機関は既存の設備を現在のペースで全て更新した場合、鉄塔で250年程度かかる計算としている。台風に有効とされるのが、電柱の地中化だ。だが、電柱は1キロメートル当たりの復旧費が2千万~3千万円で済むのに対し、地中化は同4億~5億円に上る。東京電力ホールディングスは東日本大震災の原発事故で経営危機に陥り、送電関連の設備投資を抑えることで収益を確保してきた。91年に送電や配電設備などに約9千億円を投じたが、15年に8割減の約2千億円まで減少。発送電分離など電力が自由化に進むなか、耐久性があると判断した設備は更新を先延ばしするなどして、できる限り投資を抑えているのが実情だ。インフラの老朽化は電力以外でも深刻だ。建設から50年以上が経過する施設の割合は18年3月時点で73万ある道路橋の25%、1万超のトンネルの20%、5千の港湾岸壁の17%に及ぶ。時間が経過すれば割合はさらに増える。33年には道路橋の6割超、トンネルでも4割が建設から50年を超える。国土交通相に就任した赤羽一嘉氏は、大規模自然災害について「発生のたびに100年に1度の規模だといわれるが、今後は毎年起きると思って対策を進める必要がある」と指摘する。国交省の推計では今後30年間で必要となる費用は最大で約195兆円に及ぶ。ただ、日本の財政状況は先進国で最悪だ。人口減少に備えて既存インフラの廃止や、住宅や商業施設を集約する「コンパクトシティー」も重要な選択肢だ。しかし名古屋大学の中村光教授は「住民の反発を恐れて自治体での議論はほとんど進んでいない」と警鐘を鳴らす。維持すべき施設を選別する方法論は専門家の間でも議論は深まっていないという。 *6-2:https://news.livedoor.com/article/detail/16921713/ (日刊ゲンダイ 2019年8月13日) 五輪テスト大会で選手から悲鳴 お台場の海“トイレ臭”を専門家が解説 1年後の東京五輪に向けて、水泳競技「オープンウオーター」のテスト大会が11日、東京・お台場海浜公園で開催されたが、参加選手から高水温や悪臭に対する不満の声が相次ぐ散々な結果だった。国際水連は競技実施の条件として会場の水温を16度以上31度以下と定めている。この日の水温は午前5時の時点で29・9度(競技中の水温はなぜか非公開)。そのため午前10時だった男子の開始時間を、女子とほぼ同じ午前7時に前倒しした。ロンドンとリオ五輪の日本女子代表の貴田裕美(コナミスポーツ)は「水温も気温も高く、日差しも強くて過酷だった。泳ぎながら熱中症になるんじゃないかという不安が拭えなかった」と悲鳴を上げた。ロンドン五輪金メダルのウサマ・メルーリ(チュニジア)も「今まで経験した中で最も水温が高く感じた」とヘトヘトだった。 ■「すぐに競技場所を変更すべき」 さらに、選手に酷だったのがニオイだ。約1時間泳いだ男性選手は「正直、くさいです。トイレみたいな臭いがする」と衝撃の証言をした。だが、お台場の海が“くさい”のは必然だという。元東京都衛生局職員で、環境・医事ジャーナリストの志村岳氏がこう言う。「お台場はゴミで埋め立てられた場所。海底のゴミが、海水を汚染しています。ただでさえ、隅田川などが運ぶ汚水が流れ込むうえ、大雨や台風の際は、下水の処理能力を超えた汚水が川に放出され、お台場に到達する。しかも、地形が入り組んでいるため、これらの汚水が外海に出て行かず、よどんでしまう。お台場は東京でもっとも泳いではいけない海なのです」。お台場はかつて、海水浴禁止だったが、2014年から港区が期間限定で海水浴場として開放。期間中、汚水の流入を防ぐ膜を設置して“泳げる海”にしている。今回のテスト大会でも、入り江口に約400メートルの膜を張った。苦情を受けて、本番では膜を3重に厚くするという。「焼け石に水です。例えば、いくら3重にしたところで、膜では、トイレ臭の原因と考えられるアンモニアの流入は防げません。都の職員も分かっているはずです。五輪開催1年前に問題が表面化したのに、小手先の対策でごまかせば、各国は黙っていないでしょう。すぐに、競技場所を変更すべきです」(志村岳氏)。東京五輪の暑さ対策で整備された「遮熱性舗装」は、空間気温がかえって上昇することが指摘されているが、今度は海水のトイレ臭。「くさいものにフタ」は許されない。 *6-3:https://www.excite.co.jp/news/article/B_chive_economics-politics-japanese-politics-capitaltransfer-candidate/ (エキサイト 2019年2月21日) 首都移転議論の候補地は? 首都移転は常に議論の俎上に載せられるテーマです。現在の首都である東京への一極集中が問題視されているためです。この首都はどこへ移転すべきと議論されているのでしょうか。 ●3つある 首都移転の候補地は大きくわけて3つあります。ひとつは栃木県や福島県南部のあたりです。東京から新幹線で1時間ほどでアクセスできることに加えて、夏場は比較的涼しい場所のため、候補地のひとつとされてきました。 ●岐阜、愛知地域 もうひとつが岐阜、愛知地域です。日本の3大都市と言える東京、名古屋、大坂において、中間点である名古屋の周辺に首都移転計画がありました。確かに日本のほぼ中央といえる場所にありますから、交通などにおいては便利かもしれません。さらに、東京と大阪の中間点といった位置づけにもなりますし、北陸方面からのアクセス回路も作ることができます。 ●三重、畿央地域 もうひとつの候補地が三重県や畿央と呼ばれる場所です。奈良県などを含むものでしょう。もともと平城京があり、史実の上でも日本の首都であったわけですから、原点回帰とも言えるかもしれません。さらに、リニア中央新幹線が名古屋から先の大坂まで通った場合には、名古屋と大坂の中間点くらいの場所に新たな首都が作られるといった可能性も考えられるでしょう。しかしながら、首都移転には莫大な費用がかかるため、実現に向けてはさまざまな問題点が山積みになっているというのが現状となっています。 *6-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/427543 (佐賀新聞 2019年9月15日) <昭和バス再編>代替にマイクロバス購入を 三瀬地区、運行案固まる 昭和自動車(唐津市)の路線バス再編に伴い代替交通手段を考える三瀬地区公共交通検討会議(会長・井上文昭三瀬自治会長)が13日夜、佐賀市三瀬支所で会合を開き、運行本数や料金体系などの案を取りまとめた。同一路線を利用する神埼市と協議していく。これまでの会合で、三瀬支所から横武(神埼清明高校前)まで中型バスかマイクロバスを定時定路線で運行する方針を決めていた。今回の案では、29人乗りのマイクロバスを購入し、乗客が少ない場合や点検時は神埼市脊振で使用するジャンボタクシーを併用する。平日が神埼行き7便、三瀬行き8便で、土曜が各5便、日曜・祝日が各4便と、現在の三瀬発着便とほぼ同じ規模にする。三瀬支所~横武の運賃を抑えるなど、神埼経由でJRを使い佐賀市街地の高校に通う生徒の負担が変わらないようにする。委員は「学生が安心して通学できる」と今回の案を評価しつつ「バス停は今まで通りでいいが、どこでも降車できるようにしてはどうか」と注文もしていた。 *6-5:https://www.topics.or.jp/articles/-/257805 (徳島新聞社説 2019年9月16日) 敬老の日 「高齢者の足」の確保を きょうは「敬老の日」である。本県の100歳以上は533人を数える。医療の進歩、食生活や公衆衛生の向上などにより、超長寿社会が実現したことは喜ばしい。一方で高齢化に絡む痛ましいニュースが少なくない。その一つが、自動車のアクセルとブレーキの踏み間違えが原因とみられる交通事故だ。誰しも年をとると、体力や視力が衰える。健康に不安を感じたら、運転免許証を自主返納することが望ましい。問題は、その後の「生活の足」をどう確保するかだ。県警によると、2018年の自主返納者は3082人で過去最高だった。今年は6月までで1791人と、昨年を上回るペースで返納されている。4月、母子が犠牲になった東京・池袋の事故が心理的に影響しているという。とはいえ、県内の公共交通機関は脆弱である。返納が高齢者の生活の質低下につながってはならない。近年、健康寿命を平均寿命に近づけることへの意識が高まってきた。介護に頼らず、いつまでも元気で生き生きしていたいと思うのは当然のことである。そのためには、生活習慣病の予防など健康に留意することはもちろん、積極的に社会参加し、日々、生きがいや喜びを感じながら暮らすことが大事だろう。だが遠出できず、買い物に行くこともままならないとなれば、食の偏りや低栄養を招きかねない。1人暮らしだと、孤独に陥ってしまうこともあろう。運転免許返納後の不自由をなくすため、過疎地の自治体などは、自主返納者らを対象に、さまざまな優遇措置を打ち出している。主なものは、運行するバスの運賃半額や割引、タクシー料金の一部助成などだ。バス会社も路線バスの運賃半額を実施している。料金を1割引きとするタクシー会社(個人を含む)も増えてきた。ただ、バスは本数が限られている。割引の区間やサービスの利用回数が限定されているケースも多い。求められるのは利便性の向上だ。そのためには鉄道、路線バス、貸し切りバス、コミュニティーバス、スクールバス、タクシー、福祉車両といった、あらゆる交通手段を柔軟に組み合わせることが欠かせない。国や県、市町村などは今、そうした方法を模索している。交通網の最適化が図られ、乗り継ぎや長距離移動が楽になれば、全体の利用者増も期待できよう。運行形態の抜本的な見直しによる交通機関の維持なくして、自主返納者を含む高齢者の足確保やサービス拡充はありえない。本県の高齢化率は33・1%に達している。3人に1人が高齢者である現実を直視し、地域の足を全員で支える意識を共有したい。 <全世代型社会保障とは> PS(2019年9月16、21、22日追加):*7-2のように、総務省が9月16日の敬老の日にあわせてまとめた9月15日の人口推計では、65歳以上の“高齢者”人口が総人口の28.4%で、後期高齢者医療制度の対象となる75歳以上は14.7%(7人に1人)になった。また、労働力調査によると、65歳以上の“高齢者”の就業率は非正規雇用が多いものの、2018年時点で24.3%であり、政府は70歳までの就労機会を拡大する法改正を準備しているそうだが、私は75歳を視野に入れた法改正をしてもよいと思う。ちなみに、埼玉県内の企業は、*7-3のように、65歳以降の雇用に87%が肯定的で、「熟練の技術や知見を持つ高齢者への期待が高まっている」とのことだ。 そのような中、日経新聞が社説で、*7-1のように、「①介護費用は2019年度予算で11.7兆円に達し」「②65歳以上の高齢者が支払う保険料は全国平均で月5869円、40~64歳の保険料も上昇して現役世代の大きな負担だ」「③高齢化が進む中で制度を維持するために介護保険の給付と負担の見直しが必須」「④厳しい現実を直視し、痛みを伴う改革に踏み込むべきだが、痛みはみなで分かちあいたい」「⑤給付を効率化することが欠かせず、掃除や料理を手伝う生活援助サービスは大きな課題」「⑥介護サービスを利用する際の自己負担は原則1割だが、原則2割にすべき」「⑦介護サービスのケアプランづくりも一定の負担が必要」などと記載している。 このうち、①については、2000年から始まった介護保険制度であり、始まった当初は足りないものだらけだったため増えるのが当然であり、増えたのは単なる景気対策と違ってニーズが高かったということである。また、②については、40歳未満の人は介護保険料を支払っていないため、働いている人すべてが介護保険料を支払うように制度改革し、合わせて介護制度は病児の介護も担うようにすべきだ。さらに、⑤は、男性には定年制を言いながら、家事・介護の労働負担を考慮しないドアホさであり、⑦は、家のリフォームの仕方を相談しただけで金をとるのと同じくらいあくどい。さらに、⑥は、以上のすべてを改善し、何事も無料はよくないため子どもの医療費負担も1割にしてから考えるべきである。そして、③④のように、事実を無視して痛み分けばかり述べるのは、高校まではゆとり教育、大学時代は麻雀づけ、就職してからは家事・育児・介護には関係ないと思っている人が記事を書いているからだろう。そのため、労働市場で高齢者が担う役割は大きいし、新聞社や役所などの幅広い視野を要する組織は、1年以上の長期育児休暇や介護休暇取得を義務付け、従業員に家事・育児・介護等を経験させるのがよいと思う。 これが、全世代型社会保障の輪郭で、*7-4の幼保無償化もよいし、地方自治体が独自財源で不足部分を補うのもよいとは思うが、正しい理念を持った政策にして欲しい。 なお、*7-5に、八田達夫氏が「⑦無償化で需要が増えて待機児童問題は悪化した」「⑧認可保育所の0歳児枠は基本的に廃止せよ」「⑨全員が保育士との要件を6割まで緩めよ」と書いておられる。そして、⑦の理由について、「⑩無償化は高所得世帯ほど恩恵が大きく、子の貧困を救うために使えた財源を中高所得者が奪う結果をもたらす」「⑪保育サービスの供給量は保育士の数がネック」としておられるが、これだけ無駄遣いをしている日本政府が幼保無償化と待機児童対策の二者択一を行う必要はなく、単なる景気対策を削減すべきだ。さらに、3~5歳児の全世帯無償化は義務教育の3歳開始を視野にしており、貧困対策ではないため、⑩は反論になっていない。従って、⑨⑪の保育士不足は、幼稚園・小学校の教員免許取得者・栄養士・外部講師・雑用係などでチームを組んで教育・保育を提供しながら埋めるのが適切だ。さらに、⑧については、「⑫0歳児保育を不必要に多く生み出しているから」と書かれているが、育児休業を取れるのは実際には職場である程度の実績を積んだ正規雇用の女性だけであるため、認可保育所の0歳児枠を廃止すれば子を持てない夫婦が増える。また、「⑬都会では認可保育所が足りない」と書かれているのは事実だが、地方には比較的広い教室や園庭を持つ認可保育所に空きがあるため、これが首都圏に過度に人口を集中させ地価をはじめ物価を上昇させた弊害なのである。 さらに、*7-6のように、国公私立大学・短期大学の97%にあたる1043校が住民税非課税世帯向けに開始される大学・短大の無償化対象となり、該当する学生には授業料の最大年70万円減免と給付型奨学金の最大91万円支給が行われるそうだ。住民税非課税世帯とは、独身者・単身者なら年収100万円以下、障害者・未成年者・寡婦(寡夫)なら年収約204万円以下の人で、対象はかなり絞られたがないよりはよくなった(https://www.amazon.co.jp/ref=dra_a_ms_hp_ho_xx_P1700_1000?tag=dradisplay0jp-22&ascsubtag=7e93be7451ad705a3c98e4f9e11c2625_CT# 参照)。しかし、子を大学まで出した上で2000万円以上の老後生活費を準備するのは、住民税非課税世帯でなくとも困難だ。教育は、(集団に埋没するのではなく)革新や生産性向上のために考えながら働くことのできる人材を創るために必要な国家的投資でもあるため、今後は、国立大学授業料の低減や対象者の要件緩和が必要だ。 日本の出生数・合計特殊出生率推移 介護産業の市場規模 年齢階級別平均所得 (図の説明:左図のように、戦後の1947~1949年に第一次ベビーブームが起こり、出生率が高くなって団塊の世代が生じ、その子が1973年前後に生まれて第二次ベビーブームとなった。そのため、団塊の世代が後期高齢者になる頃の社会保障が心配されているが、生産性向上と支え手の拡大で乗り切るべきだ。中央の図の介護保険制度は、女性の社会進出と核家族化の要請により日本で生まれた制度だ。しかし、2000年に始まったばかりの制度で実需でもあるため、増加するのは当然だ。その介護保険料は、日本では40歳以上しか納付していないが、右図のように所得の少ない高齢者に多く負担させるよりも、働く人すべてで負担するのが公正・公平である) *7-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190916&ng=DGKKZO49842270U9A910C1PE8000 (日経新聞社説 2019年9月16日) 介護保険は給付と負担の双方に切り込め 介護保険制度の見直しに向けた本格的な議論が、社会保障審議会の部会で始まった。高齢化がさらに進むなかで制度を維持するためには、給付と負担の見直しが必須だ。厳しい現実を直視し、痛みを伴う改革に踏み込むべきだ。介護保険は3年に1度、制度を見直している。今回の議論は2021年度からの実施に生かすためのものだ。介護保険の現状は厳しい。介護費用は19年度の予算ベースで11.7兆円に達した。制度創設時の00年度の3倍以上にあたる。65歳以上の高齢者が払う保険料も全国平均で月5869円で、00年度の約2倍に増えた。40~64歳の保険料も同様に上昇しており、現役世代の大きな負担だ。介護費用には税も投入されるが、過度に膨らめば、制度の持続が難しくなる。団塊の世代が全員75歳以上になる25年は、もう目前だ。介護予防の取り組みで健康寿命を延ばし、できるだけ介護が必要にならないようにするのは一つの手だが、今の給付を効率化することが欠かせない。なかでも掃除や料理などを手伝う生活援助サービスは、大きな課題だ。訪問介護の一種だが、介護の必要性が比較的低い軽度者については、自治体の事業に移すことを検討すべきだ。一方、一人暮らしの高齢者や老々介護の人は多く、現役世代の介護離職も防がねばならない。給付抑制だけでは限界がある。負担増をどう分かちあうか、正面から議論する必要がある。高齢者が介護サービスを利用するさいの自己負担は「原則1割」だ。収入の多い一部の人のみ、2、3割となっている。経済的に苦しい人には配慮しつつ、原則を2割にすることが望ましいだろう。介護サービスの利用計画(ケアプラン)づくりは現在は自己負担がないが、これも一定の負担が必要ではないか。そもそも介護は、人手不足が深刻だ。処遇改善を着実に進めることはもちろん、介護ロボットの活用などで働きやすい環境づくりを急がねばならない。高齢者、とりわけ75歳以上が増える一方、現役世代の人口は減少していく。改革の遅れは、将来への付け回しを増やすばかりだ。介護だけでなく、医療でも高齢者に一定の負担を求める改革を進める必要があろう。痛みはみなで分かちあいたい。 *7-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49851150V10C19A9MM8000/ (日経新聞 2019/9/15) 65歳以上人口が最高28.4% 7人に1人が75歳以上 総務省が16日の敬老の日にあわせてまとめた15日時点の人口推計によると、65歳以上の高齢者人口は前年比32万人増の3588万人だった。過去最多を更新し、総人口の28.4%を占めた。後期高齢者医療制度の対象となる75歳以上は53万人増え1848万人となった。総人口の14.7%とおよそ7人に1人に上り、超高齢化社会を支える制度づくりが急務だ。70歳以上の人口は98万人増の2715万人で、総人口に占める割合は21.5%に上った。ほかの年齢層に比べて増加数が多いのは1947~49年生まれの「団塊の世代」が含まれるためだ。同省によると65歳以上の割合は世界201の国・地域のうち最も高い。2位のイタリア(23.0%)を大幅に上回っている。国立社会保障・人口問題研究所の推計では今後も上昇し、2025年に30.0%、40年には35.3%に上る見込みだ。働く高齢者数も増加している。労働力調査によると、65歳以上の就業者数は18年、862万人と過去最多を更新した。15年連続で前年より増えた。約半数の469万人が企業などに雇用され、このうち76.3%にあたる358万人がパートなど非正規雇用だった。非正規職に就く理由は男女ともに「自分の都合のよい時間に働きたいから」が最多となった。日本の高齢者の就業率は18年時点で24.3%。男女別では男性が33.2%、女性が17.4%だった。主要国の中でも高い水準にあり、米国は18.9%、カナダは13.4%だった。政府は人手不足などの問題を解決するために、70歳までの就労機会を拡大する法改正を準備している。企業が深刻な人手不足に直面し、労働市場で高齢者が担う役割が拡大している。 *7-3:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO38911390T11C18A2L72000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2018/12/13)埼玉県内企業、65歳以降の雇用 87%が肯定的 埼玉りそな産業経済振興財団(さいたま市)が実施した埼玉県内企業の高齢者雇用に関する調査で、65歳以降の雇用に肯定的な回答は9割近くに上った。同財団は「企業の人手不足感が強まり、熟練の技術や知見を持つ高齢者への期待が高まっている」と分析している。65歳以上の高齢者を「積極的に雇用したい」「環境、条件などが整備されれば雇用したい」が合わせて87%だった。65歳以降の雇用が「ある」との回答は70%。政府は70歳までの就労機会の確保を目指しているが、多くの県内企業ですでに65歳以上の高齢者が働いている現状が浮き彫りになった。高齢者に期待することを複数回答で聞いたところ「熟練した技術や知見の活用、伝承」が88%で最多。次いで「人手不足への対応」(71%)、「若手の育成」(64%)の順だった。高齢者雇用の課題は「健康管理」(78%)が最も多かった。調査は10月中旬に実施し、236社から回答を得た。 *7-4:https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201909/CK2019091502000122.html (東京新聞 2019年9月15日) 幼保無償化「国以上」6割 さいたまや千葉 独自財源で拡大 幼児教育・保育の無償化に関し共同通信が県庁所在地など計百三自治体に行った調査で、国の基準では無償化とならない世帯に、独自財源で何らかの経済的支援を実施または検討している自治体が六十二市区と約六割に上ったことが十四日、分かった。国の制度以外に取り組む予定がないと答えたのは四十一市町だった。安倍政権は「三~五歳の全ての子どもを無償化する」と看板政策をアピールしてきた。しかし、実際には恩恵を受けられない家庭もある。待機児童問題も解消されない中、自治体が国の制度設計の不備を補う形で独自策を講じている実態が浮き彫りになった。調査は八~九月、県庁所在地と政令市、東京二十三区、昨年四月時点で待機児童が百人以上の計百三自治体を対象に実施。九月十三日時点の結果をまとめた。国の制度では、認可保育所や認定こども園などに通う三~五歳児の場合、保育料は無料となる。一方、認可外保育所などを利用する場合は全額無料とはならず、上限付きで利用料が補助される。ゼロ~二歳児は年収が低い住民税非課税世帯に対象が限られる。国を上回る取り組みとして最も多かったのは「利用料補助の上限額引き上げ」で、さいたま、千葉など二十市区。さいたま市では、市が一定の保育の質があると判断した認可外施設に限り、国より二万円上乗せし、実質的に月五万七千円まで補助できるようにした。鳥取や高知など十五市区は「対象外の世帯を一部無償化する」と回答。例えば大阪市や鳥取市は、母親が働いていないなど国基準では「保育の必要性が認められない世帯」も対象とする。山形、宇都宮など八市区は、住民税非課税世帯以外のゼロ~二歳児について保育料を値下げするなどとした。 *7-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190920&ng=DGKKZO49983690Z10C19A9KE8000 (日経新聞 2019.9.20) 経済教室幼保無償化の論点(上)待機児童の解消 最優先で、八田達夫・アジア成長研究所所長(1943年生まれ。ジョンズ・ホプキンス大博士(経済学)。専門は公共経済学) <ポイント> ○無償化で需要増え待機児童問題は悪化へ ○認可保育所の0歳児枠は基本的に廃止を ○全員が保育士との要件を6割まで緩めよ 政府は2019年10月から、幼児教育・保育の認可保育所の無償化を全面的に実施する。認可保育所に子どもを預ける場合、0~2歳児については住民税非課税の低所得世帯、3~5歳児については全世帯がそれぞれ無償化の対象となる。本稿では、この改革を政策目的の観点から評価する。 保育政策の重要な目的は、子どもを欲しい親が子どもを持てるようにすることだ。それができていない主因は以下の2つである。第1に低所得者の多くが子どもを健全に養っていくには貧困すぎる。結婚をためらう若者は多い。第2に都会の中所得者の場合は、子どもが待機児童になる可能性が子どもを産みにくくしている。待機児童になると、無認可保育所に入れるか、労働参画を諦めねばならない。入所の可否が極端に大きな差をもたらす仕組みは、若い夫婦が将来保育コストを予測することを不可能にしている。これらの問題は無償化では解消しない。まず生活保護世帯は現在も保育料が無償だし、低所得者に対する保育料軽減策は既にある。子どもの貧困対策には保育所だけを無償にしても役立たない。少なくとも所得税の給付付き税額控除(低所得者への所得水準に応じた補助金)を別途用意する必要がある。加えて今回の無償化は高所得世帯ほど恩恵が大きい。子どもの貧困を救うために使えた財源を中高所得者が奪う結果をもたらす。しかも中産階級にとっての障害である待機児童数は増えてしまう。認可保育所を無償にすれば認可保育サービスへの需要量は大幅に増えるが、供給量は保育士の数により制限されているからだ。その状況での無償化は入所選考で落とされた親に何の恩恵も与えない。待機児童をなくすことこそ、保育政策の喫緊の課題だ。最小の財政支出で実現し余裕の資金を低所得者の生活一般に使えるようにすることを基本とすべきだ。待機児童とは、認可保育所あるいは認証保育所などに入れない児童のことをいう。認可保育所とは、児童福祉法に基づき施設の広さや保育士数などの設置基準を満たし都道府県知事により認可された施設である。設置基準が厳しいため、児童1人あたり費用は高い。情報公開されている東京都板橋区では、1人あたり費用が0歳で月42万円、1歳で21万円、4歳以上で11万円だ。一方で多額の国費負担により保育料は極めて低く抑えられている。保護者の年収が500万円の場合、月額保育料は3万円未満(0歳と1歳)から2万円未満(4歳)の範囲だ。認可保育所に申し込んだ児童の入所選考は、自治体がその地域の児童福祉を必要とする人の数に合う保育サービス供給量を算定し、一定の入所基準に基づき提供する「配給制度」だ。従って認可保育所と保護者が直接に入所の契約をするのではなく、保護者は自治体が指定する認可保育所に子どもを預けねばならない。都会では認可保育所が足りないので、すぐに入所できないケースが多い。入所基準は、両親ともフルタイムで働いている場合は優先順位が高く、一方がパートタイムで働いている場合は低い。そのため例えば両親ともフルタイムで外資系企業で働く高所得世帯の子が認可保育所に入れる一方、パートタイムの職にしか就けない比較的低所得の親の子が入れない。仮に中高所得者の保育料を引き上げられれば、需給調整がなされ供給不足は解消するはずだ。経済学的には、待機児童とは「多額の国費がつぎ込まれている認可保育所の保育料を行政が需給均衡水準より過度に低く決めているために発生している認可および認証保育所サービスの供給不足のこと」だ。今回の無償化はもともと低く設定されている保育料をさらにゼロまで引き下げるのだから、待機児童問題を悪化させる。このダメージを和らげるには、無償化とは関係なく待機児童問題対策の王道を実施することだ。都会の中産階級が最も必要とする待機児童問題に有効な対策を提案したい。追加的な費用をかけずに実行できる。第1は現制度が生み出している0歳児保育への過剰な需要を減らすことだ。現在は0歳児を持つ母親の多くは、子どもが1歳に達するまで育児休業をとれる。しかし1歳になってから保育所に入れようとしても、保育所は0歳から入る子どもで埋まっている。そこで1歳からの枠を確保するために、0歳時点では育休を諦めて保育所に預け、出産後まもなく職場に復帰するという現象が起きている。0歳児保育を不必要に多く生み出している。国の0歳児に対する保育士配置基準は1歳児の2倍だ。0歳児保育の増加は1歳児以上の保育所収容数を減らし、待機児童全体を不必要に増やしている。この問題の解決策は認可保育所の0歳児枠を基本的に廃止することである。そうすれば保育士が0歳児保育から解放され、1歳からの入所に十分な枠を確保でき、親は0歳の時は家庭保育、1歳になったら復職という選択が可能となる。その一方で、育児休業をとれない母親については、保育ママやベビーシッターに対する費用を行政が支援すれば、月額40万円前後の0歳児認可保育費用に比べてコストを大幅に節約できる。この方策は基本的に東京都江戸川区で取り入れられ成功してきた。国の改革としても導入すべきだ。第2は認可保育所の全員が保育士でなければならないという現行要件を6割まで引き下げることだ。「東京都の認証保育所」は保育サービス提供者の総数では認可保育所と同等で、6割が保育士であることが要件だが、問題は生じていない。認可保育所の保育士要件をこの水準まで引き下げて、減少分を保育士以外の人で補えば、保育士が認可保育所から解放される。それにより認証保育所の増設が可能となり、差し引きで待機児童数を減らせる。1997年創設の横浜保育室や、01年創設の東京都認証保育所など認証保育所への国費投入はほぼないため、認可保育所より高い保育料と自治体からの補助で大半の財政を賄っている。東京都の場合、平均保育料は約6.5万円である。認証保育所は、認可保育所に劣らない高い評価を得ている。表で示したように、東京都江東区での保護者の評判が高い保育園ランキングでも明らかである。東京都全域での平均でみても、認証保育所の方が認可保育所より評価が高い。教育内容などで利用者の要望に応えているからだろう。認証保育所の緩やかな保育士要件が特段の質の低下をもたらしているわけではない。認可保育所の保育士要件をこの水準まで引き下げれば保育の質を下げることなく、待機児童数を減らせる。まずこれらの王道対策を実施しダメージを和らげた後で、低所得者以外の無償化を廃止し、認可保育所の保育料を認証保育所の水準以上に引き上げ、生み出された財源を保育士の待遇改善と給付付き税額控除の創設に投入すべきだ。 *7-6:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190921&ng=DGKKZO50021120Q9A920C1CR8000 (日経新聞 2019.9.21) 無償化、大学・短大97%の1043校が対象、低所得世帯向け、4月開始 31校は申請見送り 2020年4月に始まる低所得世帯を対象とした高等教育の無償化制度を巡り、文部科学省は20日、募集停止などを除いた国公私立の大学・短期大学1043校(全体の97%)が制度の利用を申請し、全校が要件を満たして対象になったと発表した。一方、私立の大学・短大31校と国公私立の専門学校1024校は自ら申請を見送るなどして対象外となった。無償化制度は住民税非課税世帯やそれに準じる世帯が対象。授業料を最大で年70万円減免するほか、生活費として返済不要の給付型奨学金を最大で同91万円支給する。大学などが制度の対象となるには、教育体制や経営・財務について一定の要件を満たす必要がある。文科省によると、国公立の大学・短大186校と、国公私立の高等専門学校57校はいずれも利用を申請し、全てが要件を満たした。私立の大学・短大は888校のうち857校が申請し、全校が要件を満たした。この中には留学生が行方不明になり不適切管理が指摘された東京福祉大も含まれる。31校は各校の判断で申請を見送った。文科省によると、このうち10校弱が経営上の要件を満たせないとみられる。ほかは「規模が小さく対象者が見込まれない」「独自の奨学金制度がある」などが理由で、医学部などは授業料が高く、支援額では大幅に不足するため利用を見送ったようだ。国公私立の専門学校は2713校中1696校が申請。1017校が見送った。申請したうちの7校は要件を満たさず、1校は審査継続中で、無償化対象となったのは全体の62%にとどまる。申請見送りは「社会人が多い」「準備が整わない」などが理由という。私大は今春で3割が定員割れに陥っているが、ほとんどが無償化対象になったことについて、文科省は「制度は低所得者に高等教育への道を開くことを第一にしている。一定程度(経営に)しっかり取り組んでいれば要件は満たせる仕組みだ」と説明する。無償化の対象校は同省のサイトで確認できる。一方、文科省は低所得世帯を対象とした今回の制度開始により、国立大の学部生のうち、中所得世帯などの1万9千人は授業料負担が増えると推計している。各大学独自の中所得世帯向けの支援制度がなくなる見通しであることなどが理由だ。同省は家計への影響を抑えるため、経過措置を検討する。無償化制度の財源は10月の消費増税で賄う。無償化で低所得世帯の高等教育進学率が将来的に8割まで上がった場合、年約7600億円が必要になると試算されている。桜美林大の小林雅之教授(教育社会学)は「学生が教育を受ける機会が広がったことは評価できる。低所得世帯の学生がより多く通う専門学校は、対象を増やしていく必要がある。制度を知らずに支援を受けられない学生が出ないよう、制度の周知も大きな課題になる」と話している。 <幼保無償化について> PS(2019年9月23日追加):1990年代に、仕事との両立が不可能なので子を作らないと決めた時から、私は「少子化の原因は、職住接近していないことと保育所の不備にある」と考えて、保育所の整備を主張してきた。また、私の東大の後輩は、学童保育がなかったため子を他人の家に預けて研究を続けながら、学童保育の必要性を主張してきた。それから、四半世紀後の現在でも保育や学童保育が不足しているが、その人の子は既に結婚し、これらは行政のアクションのトロさを示すものだ。そして、そういう私に「シニア民主主義」などと言った人は、権力(?)に対する建設的な批判をしたのではなく、高齢者差別を奨める罵詈雑言を言ったにすぎない。 そのような中、*8-1のように、日経新聞が、2019年9月23日、幼保無償化の論点として、①地方で虐待予防や女性活躍推進など意義 ②待機児童増で保育所受け入れ拡大圧力も ③保育の質低下回避へ無償化の制度修正を という記事を書いている。①のように、虐待予防や女性活躍推進などの意義を掘り下げて書いているのは「現在だからこそ」と評価できるが、②のように、いまだに「無償化によって保育所利用が増え保育所への受け入れ圧力が拡大する」「待機児童が増える」というのを無償化の欠点としているのは問題だ。何故なら、これらの潜在的ニーズは女性の犠牲によって潜在化しているだけなのであり、子育てにおける女性のストレスを増加させているからだ。さらに、保育所を利用するのに共働きが求められるというおかしさも、家庭生活に対する行政のいらぬ介入により子育てに関する女性のストレスを増やしている。しかし、これらの論点は、幼保無償化によって再度リスト化されたので、③のように幼保無償化を後退させるのではなく、前進させながら解決すべきだ。 また、*8-2も、④子どもの安全や保育の質の確保という課題が残されたまま ⑤幼稚園が無償化に必要な申請をしていない ⑥保護者は幼稚園に文句を言いづらい ⑦自治体の「保育の必要性」認定が一大作業 ⑧給食費をめぐって混乱 などと記載しているが、④⑧はこれまでもやってきたことを正確に行えばよいだけである。また、⑤⑥は、保護者の立場に立った運営をしていないため、地方自治体や幼稚園の方に問題がある。さらに、⑦は、ニーズのある人は誰でも利用できるようにすべきで、行政が勝手に「保育の必要性がない」と決めつけること自体に問題があるのだ。従って、政府の混乱というよりは、これまでの地方自治体や厚労省の不作為・不効率のツケが廻ってきたのだと思われる。 さらに、*8-3は、⑨制度を支える保育士の待遇が悪い ⑩潜在保育士が多い ⑪保育士の平均就業年数に対して支給される処遇改善費は平均10年以上に対する12%で頭打ちで、経験の長い保育士がいても昇給させにくい ⑫保育士不足は待機児童問題に直結している と書いている。⑨⑪の給与の決め方は、女性が多い保育士は10年程度働いた後は結婚して辞めることを前提としているようだ。さらに、女性が主体となる職業は、(女性差別のため)看護師・介護師なども平均給与が低く設定されているが、それが⑩⑫の結果を招いているため、経験や実力のある保育士はそれ相応の高給にすべきなのである。 2018.5.15帆足Blog 2018.6.1朝日新聞 2019.7.7朝日新聞 2019.9.15東京新聞 (図の説明:1番左の図のように、幼稚園は文科省の管轄、保育所は厚労省の管轄であるため、小学校の入学年齢を満3才として教育し始め、0~2歳と学童保育を保育とするのがよいと、私は考える。左から2番目の図のように、専業主婦の0~2歳児は「保育の必要性がない」として今回は無償化されていないが、専業主婦も求職活動・介護・第2子の出産などのさまざまな理由で保育の必要性が生じることはあるため、専業主婦を差別するのはよくない。また、右から2番目の図のように、認可外保育所の設置基準は緩いため、質の向上は重要だ。さらに、国の基準は最低を確保するものであるため、右図のように、自治体独自の基準や補助もあってよいが、どうしても国の基準にすべきと考えられるものは、現場からの要請で次第に改善していけばよいだろう) *8-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190923&ng=DGKKZO50033540Q9A920C1KE8000 (日経新聞 2019年9月23日) 幼保無償化の論点(中)上限額設定・所得制限検討を、柴田悠・京都大学准教授(1978年生まれ。京都大卒、同大博士(人間・環境学)。専門は社会学、社会保障論) <ポイント> ○地方で虐待予防や女性活躍推進など意義 ○待機児童増で保育所受け入れ拡大圧力も ○保育の質低下回避へ無償化の制度修正を 10月から幼児教育・保育無償化により、3~5歳は全員無償、0~2歳は住民税非課税世帯のみ無償となる(幼稚園と認可外保育施設は上限額まで無償化)。無償化には一定の意義があるが、課題も多い。第1の意義は地方で虐待予防が進むことだ。虐待などの不適切な養育は、幼児の脳を物理的に変形させ、その後の社会生活を困難にする。山口慎太郎・東大准教授らが全国調査データを分析した研究によれば、母親が高卒未満の家庭では不適切な養育が生じやすく、子どもの社会的発達が遅れやすいが、子どもが2歳半時に保育所に通っていると、不適切な養育が予防されやすく社会的発達が健全になりやすい。従って保育所定員に余裕のある地方では無償化により、社会経済的に不利な家庭の保育利用が増え、虐待予防が進むと期待できる。第2の意義は地方での人手不足緩和と女性活躍だ。無償化により認可保育所(認定こども園を含む)への申し込みが増えると見込まれる。岡山市が2018年に実施した保護者対象のアンケート調査によれば、無償化により認可保育所の利用希望者数が3歳児でも4歳児でも2割増える見込みだ。特に4歳児では幼稚園から保育所への需要の移動が見込まれる。5歳児は調査されていないが、おそらく4歳児と同様だろう。日経新聞と日経DUALが18年に実施した主要143自治体へのアンケート調査でも、約8割が「無償化により保育所への利用申し込みが増える」と回答した。保育所を利用するには、基本的に共働きが求められる。そのため保育所定員に余裕のある地方では無償化により母親の就業が増え、人手不足緩和や女性活躍が進むと期待できる。第3の意義として育児費用の減少により、産みたい人が産みやすくなるという少子化対策効果が挙げられるが、効果は限定的だろう。確かに全国の50歳未満有配偶女性を対象としたアンケート調査(15年国立社会保障・人口問題研究所実施)では「理想の子ども数を持たない理由」の第1位は「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」(56%)だ。しかし全国20~59歳男女対象のアンケート調査(12年内閣府実施)では「子育て全体にかかる経済的な負担として大きいと思われること」の第1位は「大学・専門学校などの高等教育費」(69%)、第2位は「塾などの学校外教育費」(49%)、第3位は「小・中・高の学校教育費」(47%)で、「保育所・幼稚園・認定こども園の費用」は第4位(45%)だった。つまり幼保無償化により「子育ての経済的負担感が減る」と感じる人は子育て世代の半分弱にすぎない。むしろ専門学校や大学などの高等教育費を軽減するほうが、子育て世代の約7割の負担感軽減につながる。多くの人々にとって産みやすい環境を整えるという意味では、幼保無償化よりも高等教育費軽減のほうが効果が大きそうだ。またより根本的な対策としては働き方の柔軟化こそが必要だ。一方、最大の課題は主に都市部で待機児童が増えることだ。野村総合研究所による18年実施の全国アンケート調査に基づく試算をみてみよう。女性の就業率が今後国の目標通りに上昇すれば、保育の定員は、18年度から20年度末にかけて32万人分増やす政府の計画が実現してもなお、23年には28万人分不足するという。政府の計画では「保育の申し込みをしたがかなわなかった数」(顕在的待機児童数)を基に32万人という将来需要を想定する。一方、野村総研の試算は「保育(幼稚園の預かり保育を除く)を希望していたが諦めて申し込みをしなかった数」(潜在的待機児童数)も含めて将来需要を想定しており、「待機児童の完全解消に必要な定員数」により近い。岡山市の調査でみたように、無償化により保育所の利用希望者はさらに増えると見込まれる。待機児童がいる都市部では待機児童が一層増える公算が大きい。待機児童が増えると何が問題なのか。第1に保育の質が低下し子どもの発達に悪影響が生じかねない。第2に職場復帰がかなわなかった母親は、孤立育児によるストレスが高まり、虐待リスクが高まりかねない。第3に職場復帰できなかった母親の持つスキルが職場で生かされず、人手不足にも拍車がかかり、企業経営や経済成長に悪影響が生じる。第4にそれらが総じて育児環境の悪化につながり少子化が一層進行する。以下では、第1の問題について詳しくみていこう。待機児童が増えると、厚生労働省から自治体に対して「国の基準ギリギリにまで児童を保育所に受け入れてほしい」という要請が、これまで以上に強まる可能性がある。厚労省は16年、待機児童の多い114市区町村などに対し「人員配置や面積基準について、国の基準を上回る基準を設定している市区町村では、国の基準を上回る部分を活用して1人でも多くの児童を受け入れる」よう要請した。いずれの自治体も「保育の質が下がる」との懸念から要請を退けたが、今後無償化により待機児童が増えた場合、同様の要請が強まり「国の基準ギリギリにまで児童を受け入れる」自治体が増える可能性がある。1人の保育士・幼稚園教諭が何人まで児童をみてよいかを示す日本の保育士・幼稚園教諭配置基準は、0~2歳については先進16カ国平均(0~3歳で7人)よりも手厚い(0歳で3人、1~2歳で6人)。しかし3~5歳については先進19カ国平均(3歳以上で18人)よりもはるかに悪く、先進19カ国で最悪だ(3歳で20人/保育士、4~5歳で30人/保育士、3~5歳で35人/幼稚園教諭)(12年経済協力開発機構報告)。また保育士の学歴は先進諸国の中で中程度だが、仮に保育所が3~5歳児童を国の基準ギリギリにまで受け入れれば、そこでの保育士の労働環境と保育の質は先進諸国の中ではかなり悪いレベルになるだろう。「幼児教育・保育の質が園児の発達に与える影響」に関する最新の国際比較研究によれば、質の低下した保育所に通った場合、子どもの発達(認知能力および非認知能力の短期的・長期的発達)は、通わない場合よりも悪くなる可能性が高い(図参照)。主に都市部では無償化により待機児童が増えることで、保育の質が低下し子どもの発達に悪影響が生じかねない。ではどうすればよいか。待機児童を減らすとともに保育士の給与・労働環境を改善し、保育の質を守る必要がある。そのための財源は無償化の制度を一部修正すれば捻出できる。幼稚園と同様に月2万5700円までを3~5歳保育無償化の上限額とすれば、約2千億円の財源が浮く。3~5歳幼保無償化を、0~2歳保育無償化と同様に住民税非課税世帯に限定すれば、約7千億円の財源が浮く。上限額設定や所得制限は虐待予防などの意義を大きく損なうことなく、待機児童の増加や子どもの発達の悪化も防止できる。政府にはぜひ検討してほしい。 *8-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14188766.html (朝日新聞 2019年9月23日) 準備、大丈夫? 幼保無償化 預かり保育「無償化辞退」各地で 幼児教育・保育の無償化が10月から始まる。すべての3~5歳児と、低所得世帯の0~2歳児が対象だ。安倍晋三首相が2年前の衆院選で打ち出した少子化対策だが、制度の検討や周知は十分ではなく、現場では混乱も起きている。子どもの安全や保育の質の確保といった課題も残されたままだ。関西のある自治体にこの夏、問い合わせの電話が入った。「近所の幼稚園の預かり保育が、無償化の対象にならないと聞いたが、どういうことか」。自治体職員が確認すると、幼稚園は無償化に必要な申請をしておらず、こう説明した。「預かり保育は希望者が多く、利用できない人もいる。利用者だけ無料では不公平になる」。保護者の一人は「仕事を続けるには、預かり保育を利用するしかないので、幼稚園に文句は言いづらい」と思い悩む。幼稚園が夕方まで行う「預かり保育」は無償化の対象だが、園側の申請が必要で、無償化するかどうかは各園の判断次第だ。内閣府や文部科学省によると、「申請手続きが手間」「無償化で利用者が増えれば職員増が必要になり、人件費がかさむ」などの理由で、こうした「無償化辞退」が各地で起きているという。また子どもを認可外施設などに預ける場合、利用者が無償化の対象になるには、自治体から「保育の必要性の認定」を受ける必要がある。この認定も自治体にとっては一大作業だ。子育て世代の転入が増えているさいたま市では、6月末から認定申請の受け付けを始めたところ、2週間近く、無償化の上限額などに関する問い合わせの電話が殺到。7月末の締め切りまでに2万件超の認定申請があり、結果の通知作業は委託業者の力を借りても9月後半までかかった。無償化の対象になれば、保育料は必要なくなったり減額されたりするため、施設側も混乱する。さいたま市内の複数の幼稚園では、金融機関への手続きが遅れ、10月分として従来と同額の保育料などを引き落とすという通知が保護者に届いた。市は全幼稚園に書面で注意を呼びかけた。岡山市は8月から庁舎内の会議室に専用の相談・対応窓口を置き、スタッフ3人が約370件の相談を受けた。専用コールセンターには「自分は対象か」「待機児童対策が先」などの問い合わせや意見が約820件も寄せられた。市は無償化を歓迎しつつ保育ニーズの増加に気をもむ。2020年度の認可保育所などの入所申し込み数を1万9424人と試算していたが、最大4千人増える可能性もあるとする。4月時点の待機児童数は全国で4番目に多い353人。19年度末の待機児童解消を掲げ、施設整備や保育士の処遇改善に取り組むが「達成は厳しくなっている」。 ■おかず代、実費化めぐりドタバタ 給食費をめぐっても混乱が起きている。これまで3~5歳児が認可保育所などに通う場合、主食代の月約3千円は実費で保育所に、おかず代約4500円は保育料の一部として自治体に払ってきた。10月分からは、保育料と一緒におかず代も無償になるのを避けるため、おかず代は実費で払うようになる。施設側などは支払い方法の変更について保護者に説明を進めたが、内閣府は8月22日付の自治体への通知で、これまで国と自治体が実際におかず代として施設側に渡してきたのは、物価調整分の約680円を足した約5180円だったと説明した。約4500円を実費でもらうだけでは、施設側の収入は差し引き約680円減ることになる。直前になって保護者に負担増を求めるのは難しく、保育所などの経営者は、施設側が約680円を負担せざるを得なくなると強く反発。自治体からも「680円は国が負担するべきだ」と批判の声が上がった。結局、内閣府は9月18日付で約680円は国と自治体で負担し、おかず代は約4500円のままにすると通知した。滋賀県内の認定こども園は「経営に直結する問題だった。政府の混乱ぶりが露呈した」とあきれる。 ■安全・保育の質、課題残したまま 無償化が動き始めたのは17年9月。安倍首相が衆院解散・総選挙に踏み切る際、消費税率10%への引き上げによる増収分の使い道を変え、無償化に充てると表明した。具体的な制度設計は後回しだった。政府は当初、無償化の対象は認可施設の利用者を想定していたが、認可外施設の利用者や与党から「不公平だ」と批判されると認可外も対象に。認可外は保育士の配置などの基準が緩いが、5年間は基準を満たさなくても対象にすることにした。今度は子どもの安全や保育の質が担保されないとの懸念が強まったが、自治体が条例で対象施設を限ることを認めるにとどめた。東京都杉並区は条例を定め、埼玉県朝霞市は検討中だが、こうした動きは一部にとどまる見通しだ。内閣府によると、保育施設で昨年起きた死亡事故は、認可保育所(約2万3500カ所)で2件、認可外施設(約7700カ所)で6件。04年からの累計では認可61件、認可外137件だ。都道府県などによる認可外への立ち入り調査は、17年度は対象施設の7割にとどまり、このうち4割超が国の基準に違反していた。ベビーシッターは立ち入り調査の対象外だ。全国保育団体連絡会の実方伸子副会長は「本当に心配。国が責任をもって、子どもの安全と保育の質の確保に向けた対応を早急に講じるべきだ」と訴える。無償化よりも、保育所整備や保育士の処遇改善で、待機児童の解消を優先すべきだとの声はやまない。企業主導型保育所では定員割れや休園などが相次ぎ、審査や指導監査の甘さが問題となっている。課題を残したまま、国と地方を合わせて年8千億円を投じる無償化がスタートする。 *8-3:https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/474227 (沖縄タイムス社説 2019年9月22日) [保育士の低賃金]待遇改善待ったなしだ 10月1日の幼児教育・保育無償化まで10日を切った。日本の保育制度の大きな変革だが、制度を支える保育士の待遇の問題が残されたままのスタートとなることに、危機感を覚える。〈沖縄の保育士のリアルな給料 自分は保育経験トータル7年目で(手取り)12万6千354円。生活できません〉県内の認可保育園で働く女性保育士は、総支給額17万1500円の給与明細とともにツイッターでそう発信した。保育士の賃金の低さはかねて問題視されてきた。2018年度の賃金構造基本統計調査によると、県内の保育士の月給は20万8千円。全国平均月給より3万1300円低く、県内全産業の平均を5万7300円下回る。手取りとなるとさらに減り、保育士がツイッターで訴えた「生活できない」はリアルな叫びといっていい。保育士の有効求人倍率は県平均の3倍を超え、仕事はあるが、なり手がいないのが現状だ。県内には保育士の資格を持つ人が2万人以上いるが、およそ半分が、保育士として働いていない「潜在保育士」となっている。子どもの命を預かり、成長を促す保育士。責任が重く、専門性が高い仕事に、賃金が見合っていないと感じる人が多いということだろう。保育士自身が日々の生活に不安を抱えていては、丁寧に子どもたちと関わることもままならない。 ■ ■ なぜ保育士の賃金は低いのか。認可保育園のほとんどを占める私立保育園は、地域や施設規模などを基に国が定め、支給する「公定価格」が運営費の原資になる。国はこれまで増額してきたがまだ低い。各園は公定価格に基づいた委託費を人件費や管理費、事業費に充てるが配分はその園の裁量に任されており、園の状況によって給料が異なる。保育士の平均就業年数に対して処遇改善費が支給されるが、平均10年以上に対する12%で頭打ちのため、経験の長い保育士がいても、園側は昇給させにくい。国は、例えば0歳児3人につき保育士1人などの配置基準を定める。より丁寧な保育をしようと基準以上の保育士を配置すると、1人当たりの人件費が少なくなる。公定価格は、公務員の給与水準を基に八つに地域区分されるが、沖縄は最低水準地域で、最高水準地域に比べ20%も公定価格が低く設定されている。しかも、沖縄の保育士の給与は、同じ地域区分の青森より3万円ほど低いという。沖縄の賃金が際立って低い原因は何か。県はしっかり調査し対策を取る必要がある。 ■ ■ ことし4月時点で、県内の認可保育園142園で314人の保育士が不足している。待機児童数は全国で2番目に多い1702人。保育士がいなければ、ハコがあっても子どもを預かれない。保育士不足は待機児童問題に直結している。無償化で保育ニーズはさらに高まる。子どもたちのため保育士の待遇改善が急務だ。
| 経済・雇用::2018.12~2021.3 | 04:47 PM | comments (x) | trackback (x) |
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