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2019.11.25 自民党の改憲案と護憲論について ← 護憲が保守で改憲が革新の筈だが・・ (2019年11月27、28、29日、12月1、2、3、5、6、9、10、12日に追加あり)
 
                大日本帝国憲法との比較 2018.3.22朝日新聞

(図の説明:1番左は、日本国憲法成立時の原本で、左から2番目は、大日本帝国憲法との要点の比較である。また、右から2番目は、2018年の自民党改憲案で、1番右は、日本国憲法が成立から72年間改憲していないとする図だが、「長く改憲していないから」というのは「連合国から押し付けられた憲法だから」というのと同様、改憲する理由にはならない)

 私が表題に、「護憲が保守で憲法変更勢力が革新の筈だが・・」というコメントをつけたのは、現在、「保守」を標榜する人々が改憲を主張し、現行憲法を護ろうとする人々を「革新」と呼ぶ逆の事態になっているからで、これは、現在では、「保守」「革新」という言葉で国民を色分けすることが無意味になっていることを意味すると同時に、現行憲法が少なからず無視されてきたことを意味している。

(1)自民党改憲案について
1)憲法9条(戦争放棄)に、9条の2を創設する案
 *1-1の自民党改憲案は、9条全体を維持した上で、次に9条の2を追加して、「①1項:前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する」「②2項:自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する」としている。

 しかし、①は9条と比較して冗長で、目的と行動に論理的整合性があるとは言えない。また、②は、内閣総理大臣が戦争を始めてしまった後では、戦争反対や自衛隊の行動制限は国益に反するため国会も言い出しにくくなり、追認せざるを得ないだろう。

 太平洋戦争の時は、戦争に反対する内閣総理大臣は殺されたり、失脚させられたりして、戦争に反対しない人が内閣総理大臣になるまで交替させられた。外務省の重要ポストも、戦争推進派が占めるまで人事異動が続いたそうだ。つまり、それらの反省の上に立っている現行憲法の方が、より平和を担保している上に、文章としてもずっとスマートなのである。

 そのため、「時代とともに状況が変わったから」「現行憲法は外国の押し付けだから」などとして改憲を主張するだけでなく、*1-2-1・*1-2-2・*1-2-3・*1-2-4・*1-2-5等の根源的な問いに論理的に答えた上に、現行憲法よりも改憲案の方が優れている理由を明快に説明できなければ、改憲の提案はできないと考える。

2)73条(内閣の職権)に、73条の2・第64条の2の緊急事態条項を新設する案
 *1-1の自民党改憲案は、内閣の事務を定める第73条の次に第73条の2「①1項:大地震その他の異常かつ大規模な災害により、国会による法律の制定を待ついとまがないと認める特別の事情があるときは、内閣は、法律で定めるところにより、国民の生命、身体及び財産を保護するため、政令を制定することができる」「②2項:内閣は、前項の政令を制定したときは、法律で定めるところにより、速やかに国会の承認を求めなければならない」を追加している。

 しかし、①は、「特別の事情がある時は、内閣は国会による法律の制定によらずに、政令を制定することができる」としているのであり、自然災害によるものだけに限定される保証はない。これは、*1-3-1のように、緊急事態条項が、大規模災害や戦争など国家そのものの存立が脅かされる可能性がある場合に、全体の利益のために個人の権利を抑制する考え方である「国家緊急権」の思想に基づいていることから明らかだ。

 緊急時とは、2012年の自民党改憲案では「外部からの武力攻撃」「内乱」なども入っていたため、次第に拡大解釈されたり、強制になったりすることが想定内だ。これは、*1-3-2のマイナンバーカードが、最初は個人情報保護の観点から「取得は自由だ」と言って導入されながら、今では国民監視の目的を現し始めて次第に取得を強要しだしており、同じような流れであるため要注意なのである。

 さらに、*1-1の自民党改憲案は、国会の章の末尾に、特例規定として64条の2「③大地震その他の異常かつ大規模な災害に議員より、衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の適正な実施が困難であると認めるときは、国会は、法律で定めるところにより、各議院の出席議員の3分の2以上の多数で、その任期の特例を定めることができる」を追加している。

 しかし、*1-3-1のように、2011年の東日本大震災では被災地の地方選を延期した経緯があり、改憲しなくても災害時には臨機応変に対応できる。それよりもむしろ、国会の審議を経ない緊急の政令により、国民の権利が堂々と損なわれる状況を作る方が危いのである。

3)参院選「合区」解消のために、47条を変更する案
 *1-1の自民党改憲案は、「参院選における合区を解消するため」として、47条を「①1項:両議院の議員の選挙について、選挙区を設けるときは、人口を基本とし、行政区画、地域的な一体性、地勢等を総合的に勘案して、選挙区及び各選挙区において選挙すべき議員の数を定めるものとする。参議院議員の全部又は一部の選挙について、広域の地方公共団体のそれぞれの区域を選挙区とする場合には、改選ごとに各選挙区において少なくとも1人を選挙すべきものとすることができる」「②2項:前項に定めるもののほか、選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める」と変更しようとしている。

 しかしながら、現行憲法の47条は、「選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める」としか書かれておらず、詳細は公職選挙法で定められているため、改憲ではなく公職選挙法を変更すれば済む上、憲法としては現行憲法の方が簡潔で読みやすく、スマートでもある。また、選挙制度の変更なら、民主主義を実効あるものにするために、参議院議員の合区解消だけでなく、衆参両議院の選び方を総合的に考慮する必要があると考える。

4)地方自治の基本原理である第92条を変更する案
 *1-1の自民党改憲案では、92条を「地方公共団体は、基礎的な地方公共団体及びこれを包括する広域の地方公共団体とすることを基本とし、その種類並びに組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律でこれを定める」と変更することになっているが、この文章にも憲法にそぐわない稚拙さがある。

 現行憲法の92条は「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律でこれを定める」とだけ書いてあり、その法律が地方自治法であるため、変更した方がよい点があるのなら地方自治法を変更すればよい。そして、現在では、重要なことは、既に定められている憲法や地方自治法を護っているかどうかになっているのだ。

5)教育の充実のためとして、26条3項、89条を変更する案
 *1-1の自民党改憲案は、教育の充実のため、26条1、2項は現行のまま、3項を加えて「①3項:国は、教育が国民一人一人の人格の完成を目指し、その幸福の追求に欠くことのできないものであり、かつ、国の未来を切り拓く上で極めて重要な役割を担うものであることに鑑み、各個人の経済的理由にかかわらず教育を受ける機会を確保することを含め、教育環境の整備に努めなければならない」と変更し、さらに89条を「②公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の監督が及ばない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない」となっている。

 しかし、①は、憲法には書かれていないが、教育基本法には既に書かれていることであり、それでも足りない部分があれば教育基本法を変更すればよいため、改憲する必要はない。さらに、②は、現行憲法では「公の支配に属しない」とされている文言を「公の監督が及ばない」としてむしろ支出の制限を甘くしており、これは私立学校や私立の幼稚園・保育所に補助するための変更だろうが、その意図とそれによって生じる結果をしっかり議論して明確にすべきだ。

(2)主権在民を徹底するために、やるべき改憲はこれである
 *2の日本国憲法の第7章の財政を見ればわかるとおり、予算に関しては、第83条~第89条まであるが、決算に関しては、90条の「①国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。会計検査院の組織及び権限は、法律でこれを定める」と91条の「②内閣は、国会及び国民に対し、定期に、少くとも毎年一回、国の財政状況について報告しなければならない」しかない。

 そして、①によれば、毎年会計検査院が検査し、内閣が次年度に検査報告とともに国会に提出しなければならないのは国の収支だけで、国の財政状況については提出する必要がなく、国民への報告も義務付けられていない。また、②によれば、内閣は、国会や国民に対して少なくとも年に1回、国の財政状況について報告しなければならないが、会計検査院の検査は義務付けられておらず、収支の報告はしなくてよい。つまり、これは、条文数の問題ではなく、内容の不十分さの問題であり、政府の非効率な支出(無駄遣い)と国民負担増の温床となっているものだ。

 そのため、90条は「1項:国の財政状態及び収支の状況は、複式簿記で記帳した上で、毎年決算を行って財務諸表を作成し、会計検査院が検査するとともに、監査法人がこれを監査しなければならない。」「2項:会計検査院の組織及び権限は、法律でこれを定める。」と変更し、91条は「内閣は、国の財政状態及び収支の状況を示す財務諸表を、その検査報告書、監査報告書とともに、次年度には国会及び国民に提出しなければならない。」と変更すべきだ。これに伴って、*2-2の財政法も、当然、現金主義・単年度主義から発生主義に変更しなければならない。

 これを一般企業に例えれば、会計検査院は内閣総理大臣の支配下にあるため内部監査人の位置づけで、監査法人が外部監査人の役割を果たすことになり、国の会計情報に本物のチェックが働いた後に、毎年、納税者である国民に開示されることになる。そして、予算は、前年度の決算書を見ながら議論すべきであり、それは可能だ。

・・参考資料・・
<自民党改憲案>
*1-1:http://www.sankei.com/politics/news/180325/plt1803250054-n1.html (産経新聞 2018.3.25) 【自民党大会】「改憲4項目」条文素案全文
【9条改正】
第9条の2
(第1項)前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。
(第2項)自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。
(※第9条全体を維持した上で、その次に追加)
【緊急事態条項】
第73条の2
(第1項)大地震その他の異常かつ大規模な災害により、国会による法律の制定を待ついとまがないと認める特別の事情があるときは、内閣は、法律で定めるところにより、国民の生命、身体及び財産を保護するため、政令を制定することができる。
(第2項)内閣は、前項の政令を制定したときは、法律で定めるところにより、速やかに国会の承認を求めなければならない。
(※内閣の事務を定める第73条の次に追加)
第64条の2
 大地震その他の異常かつ大規模な災害により、衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の適正な実施が困難であると認めるときは、国会は、法律で定めるところにより、各議院の出席議員の3分の2以上の多数で、その任期の特例を定めることができる。
(※国会の章の末尾に特例規定として追加)
【参院選「合区」解消】
第47条
 両議院の議員の選挙について、選挙区を設けるときは、人口を基本とし、行政区画、地域的な一体性、地勢等を総合的に勘案して、選挙区及び各選挙区において選挙すべき議員の数を定めるものとする。参議院議員の全部又は一部の選挙について、広域の地方公共団体のそれぞれの区域を選挙区とする場合には、改選ごとに各選挙区において少なくとも1人を選挙すべきものとすることができる。
 前項に定めるもののほか、選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。
第92条
 地方公共団体は、基礎的な地方公共団体及びこれを包括する広域の地方公共団体とすることを基本とし、その種類並びに組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律でこれを定める。
【教育の充実】
第26条
(第1、2項は現行のまま)
(第3項)国は、教育が国民一人一人の人格の完成を目指し、その幸福の追求に欠くことのできないものであり、かつ、国の未来を切り拓く上で極めて重要な役割を担うものであることに鑑み、各個人の経済的理由にかかわらず教育を受ける機会を確保することを含め、教育環境の整備に努めなければならない。
第89条
 公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の監督が及ばない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。

*1-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180503&ng=DGKKZO30115360S8A500C1M10900 (日経新聞 2018年5月3日) 自衛隊明記、与野党で対立、自民改憲案、衆参憲法審へ
 与野党による今後の憲法改正論議は、自民党が3月にまとめた改憲案がたたき台になる。柱は(1)自衛隊の明記(2)緊急事態条項(3)参院選の「合区」解消(4)教育充実――の4項目。自民党は衆参両院の憲法審査会で説明し、各党と議論する。自衛隊の明記などで与野党が対立する構図だ。自民党案のポイントを読み解いた。自民党憲法改正推進本部がまとめた9条の改正条文案は、現在の9条を維持して、「9条の2」を新設する内容だ。新たな条文を追加する「加憲」とすることで、公明党の理解を得たい考えだ。自民党にとっての最大のポイントは「自衛隊」の保持を明記することだ。憲法に「自衛隊」を明確に位置付けて、自衛隊違憲論を解消する狙いがある。政府はこれまで、自衛隊は国の自衛に必要な必要最小限度の実力組織であり、2項で保持を禁じる「戦力」には当たらないと解釈してきた。しかし、一部の憲法学者はこの解釈を疑問視し、安倍晋三首相は「ほとんどの教科書に自衛隊は違憲の疑いがあるという記述がある」と指摘する。自衛隊については「我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織」と定義した。首相が自衛隊の「最高の指揮監督者」と明記。自衛隊の行動は「国会の承認その他の統制に服する」とも記し、自衛隊の任務や予算が国会の管理の下にあることも盛り込んだ。自衛隊法の規定を引用する形で、文民統制(シビリアンコントロール)の考え方を明示した。今後の与野党協議では、自衛隊の任務と活動範囲が論点になりそうだ。首相は自衛隊を明記しても、これまでの自衛隊活動に関する憲法解釈を変える考えはないと説明する。野党は自民案にある「自衛の措置」との表現が曖昧であり「集団的自衛権の行使拡大につながる」と懸念する。「後法は前法に優越する」という法解釈の基本原則を念頭に、戦争放棄や戦力不保持の今の規定が「空文化する可能性は排除できない」(立憲民主党の福山哲郎幹事長)との批判もある。そもそも自民党改憲推進本部が当初示した条文案は「必要最小限度の実力組織」として「自衛隊を保持する」と表現していた。党内から「誰が『必要最小限度』を判断するのか」などと異論が相次ぎ、最終案では「必要最小限度」の文言を削った経緯がある。これまでの政府解釈を踏襲した表現を削除したことで「公明党が乗りづらい案になった」(党幹部)との見方も出ている。

*1-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180503&ng=DGKKZO30115480S8A500C1M10900 (日経新聞 2018年5月3日)9条の扱い焦点 問われる専守防衛
 自民党がまとめた4項目の憲法改正案のうち焦点となるのが9条だ。条文の書きぶり次第で、自衛隊に認められる武力行使の範囲や保有できる防衛装備品が際限なく広がりかねないからだ。日本が掲げる「専守防衛」との整合性が問われる。政府は現行の9条に基づく専守防衛のもと、防衛力を自衛のための必要最小限度に限っていた。自衛権は、日本が直接攻撃を受ける「個別的自衛権」だけを認めてきた。2015年成立の安全保障関連法で、日本が直接攻撃を受けていない場合の「集団的自衛権」も使えるようにした。年末に改定する防衛大綱の議論も絡む。自民党案は「必要な自衛の措置をとることを妨げず」と明記する。これまで保有していなかった空母や爆撃機といった攻撃型兵器も「必要な自衛の措置」とみなして解禁する可能性を野党は警戒する。政府は護衛艦を事実上の空母として使えるよう改修する案を検討する。防衛省幹部は「防御目的の空母なら専守防衛の範囲内。現行の9条のままでも保有は認められる」と語る。

*1-2-3:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/561422/ (西日本新聞 2019/11/21) 憲法と安保法  司法は逃げずに判断示せ
 安全保障法制の大転換、それも違憲性を帯びた政策の是非を問う訴訟である。裁判所が内閣や国会の立場を忖度(そんたく)して及び腰になる必要はなかろう。正面から憲法判断に踏み込み、司法の独立性を示してこそ、国民の信頼が得られるのではないか。集団的自衛権の行使を認めた安全保障関連法は違憲として、市民約1500人が国家賠償を求めた訴訟で東京地裁は請求を全面的に棄却した。原告側はきのう、これを不服として東京高裁に控訴した。九州を含め全国22地裁・支部で提起された同種訴訟では、今春に札幌地裁で初の判決(原告敗訴)が示され、原告側が同じく控訴している。残念なのは東京、札幌両地裁が肝心の憲法判断を避けたことだ。原告側は3年前に施行された安保関連法により(1)憲法の前文や9条に基づく平和的生存権が侵害された(2)自衛隊の活動領域の拡大でテロや戦争に巻き込まれる危険も増した‐ことで精神的苦痛を受けたとして、1人10万円の賠償を求めていた。判決は、平和について「抽象的概念で個人の思想や信条で多様な捉え方が可能」「手段も国際情勢に応じて多岐多様にわたる」とし、平和的生存権は国民に保障された法的権利とは言えないと断じた。また「戦争やテロの切迫した危険は認め難い」「原告の苦痛は受忍限度内で義憤ないし公憤とみるほかない」と述べ、安保関連法の違憲性に関する判断は示さなかった。日本の司法は違憲審査について消極的といわれる。一般に具体的な権利の侵害がない場合や外交・防衛などの統治行為に関しては判断を避ける例が多い。国民の代表で構成する立法府の決定は民意の反映でもあり、極力介入しないという立場だ。しかし、今回の訴えをこの論理で退けるのは疑問だ。安保関連法は一内閣の独断による憲法解釈の変更に端を発し、国会では与党が憲法学者らの違憲の指摘を半ば無視するように成立させた。その結果、専守防衛の理念は揺らぎ、国の行く末に不安を抱く人は原告だけにとどまらない。であれば、司法がここで厳しいチェック機能を果たしてこそ、三権分立は成り立つ。判決は、戦争やテロの恐れを否定したが、仮に危険が切迫した段階で司法が機能しても、もはや手遅れになりかねない。全国の訴訟原告7千人余りの中には多くの戦争体験者や自衛官を家族に持つ人も含まれている。憲法前文は「政府の行為で再び戦争の惨禍が起こることがないよう決意し、主権が国民に存することを宣言する」としている。司法はこの重みを踏まえ、今後も続く審理や判決で、真摯(しんし)に役割を果たしてほしい。

*1-2-4:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/562371/ (西日本新聞 2019/11/25) ローマ教皇、長崎で核廃絶訴え 「核なき世界は実現可能」
 ローマ・カトリック教会の頂点に立つ教皇(法王)フランシスコが24日、被爆地・長崎市を訪れた。教皇として初めて爆心地に立ったフランシスコは原爆落下中心地碑を背に演説し「核兵器のない世界は実現可能であり、必要不可欠であると確信している」と発言。各国の指導者に対し「核は安全保障への脅威から守ってくれるものではないと心に刻んでください」と訴え、長崎を最後の被爆地にするため、核廃絶に向けて動くよう求めた。教皇の長崎訪問は38年前の故ヨハネ・パウロ2世以来2度目。24日午前、教皇は爆心地公園に到着し、被爆者から受け取った花輪を碑にささげた。演説では長崎を「核が破滅的な結末をもたらすことの証人である町」と表現。核兵器の製造や改良を「テロ行為」と非難し、大量破壊兵器によって実現させようとする平和や安全を「恐怖と相互不信を土台とした偽り」と言い表した。元首を務めるバチカンが批准した核兵器禁止条約を挙げて「国際法の原則にのっとって迅速に行動し、訴えていく」と宣言、米国の「核の傘」に依存し条約に参加しない日本などをけん制した。歴代教皇と同様に、フランシスコも核について繰り返し発言してきた。これまでにも広島と長崎の被爆の歴史から「人類は何も学んでいない」と述べ、2017年末には被爆後の長崎での撮影とされる写真「焼き場に立つ少年」を広めるよう教会関係者に指示。この日も教皇のそばにはこの写真のパネルが置かれた。激しく雨が降る中、参列者約千人は雨がっぱ姿で教皇の声に耳を傾けた。爆心地に続き、国内でキリスト教信仰が禁じられた時期に宣教師や信者が処刑された日本二十六聖人殉教地に足を運び、午後は長崎県営野球場で3万人規模のミサを執り行った。夕方からは、もう一つの被爆地・広島市に移動し、平和記念公園で集いに出席。原爆ドームの前で、戦争を目的とした原子力の利用を「犯罪以外の何ものでもない」と指弾した。教皇は26日までの滞在中、東京都内で東日本大震災被災者との交流を行い、天皇陛下との会見や安倍晋三首相との会談を予定している。

*1-2-5:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14269133.html?iref=comtop_shasetsu_01 (朝日新聞社説 2019年11月25日) ローマ教皇 被爆地からの重い訴え
 平和の実現にはすべての人の参加が必要。核兵器の脅威に対し一致団結を――。核軍縮の国際的な枠組みが危機にある中、被爆地から発せられた呼びかけをしっかりと受け止めたい。13億人の信者を抱えるローマ・カトリック教会のトップ、フランシスコ教皇が長崎と広島を訪れ、核兵器廃絶を訴えた。教皇は2年前、原爆投下後の長崎で撮られたとされる写真「焼き場に立つ少年」をカードにして教会関係者に配った。今回、長崎の爆心地に立って「核兵器が人道的にも環境にも悲劇的な結末をもたらすと証言している町だ」と語り、「記憶にとどめるこの場所はわたしたちをハッとさせ、無関心でいることを許さない」と力を込めた。ローマ教皇の来日は1981年以来、38年ぶり2度目だ。前回来日したヨハネ・パウロ2世が平和外交を展開して東西冷戦の終結に影響を与えるなど、教会は核廃絶を含む平和への取り組みを重ねてきた。フランシスコ教皇も米国とキューバの国交回復で仲介役を務める一方、自らが国家元首であるバチカンは、核兵器の製造や実験、使用を禁じる核兵器禁止条約が2年前に国連で採択された後、いち早く条約に署名・批准した。ただ、国際協調より自国第一主義が優先される現実のなかで、核軍縮への取り組みは後退している。米ロの中距離核戦力(INF)全廃条約は8月に失効。2021年に期限を迎える両国間の新戦略兵器削減条約(新START)も存続が危ぶまれる。来年には核不拡散条約(NPT)再検討会議が開かれるが、核保有国と非保有国の溝は深まる一方だ。「わたしたちの世界は、手に負えない分裂の中にある」「相互不信の流れを壊さなければ」。そう危機感を訴え、世界の指導者に向かって「核兵器は安全保障への脅威から私たちを守ってくれるものではない」と説いた教皇の思いにどう応えるか。唯一の戦争被爆国である日本の責任と役割は大きい。安倍政権は、日本が米国の「核の傘」に守られていることを理由に核禁条約に背を向け続けているが、それでよいのか。核保有国と非保有国の橋渡し役を掲げるが、成果は見えない。政府の有識者会議は10月、日本がとりうる行動を記した議長レポートをまとめたが、非保有国が多数賛同した核禁条約を拒否するだけでは実践は望めまい。教皇は広島でのスピーチで「戦争のために原子力を使用することは犯罪」「核戦争の脅威で威嚇することに頼りながら、どうして平和を提案できようか」と述べた。この根源的な指摘を無駄にしてはならない。

*1-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180503&ng=DGKKZO30115540S8A500C1M10900 (日経新聞 2018年5月3日)緊急事態条項 災害時、内閣が政令
 緊急事態条項は「国家緊急権」の思想に基づく。大規模災害や戦争など国家そのものの存立が脅かされる可能性がある場合に、全体の利益のために個人の権利を抑制できるとする考え方だ。緊急時とは「大地震その他の異常かつ大規模な災害」を想定する。2012年の自民党改憲案に盛った「外部からの武力攻撃」「内乱」などは外し、対象を絞った。64条の2で国会議員の任期延長、73条の2で政府の緊急政令を規定する。国会議員の任期延長は、選挙の「適正な実施が困難であると認めるとき」が対象。11年の東日本大震災では被災地の地方選を延期した経緯があり、国政選挙でも同様の事態を想定したものだ。緊急政令の制定は供給が不足する生活物資の買い占めを禁じて配給制にしたり、災害復旧に必要な物資の価格を統制したりすることを想定する。野党からは憲法改正をしなくても緊急時に対応できるとの指摘が出ている。緊急政令で国民の権利が損なわれる可能性を懸念する。

*1-3-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14269201.html (朝日新聞 2019年11月25日) マイナンバーカード「取得強要だ」 省庁全職員の家族まで調査
 国家公務員らによるマイナンバーカードの取得を進めるため、各省庁が全職員に対し、取得の有無や申請しない理由を家族(被扶養者)も含めて尋ねる調査をしている。内閣官房と財務省の依頼を受け、氏名を記入して上司に提出するよう求めている。職員からは、法律上の義務でないカード取得を事実上強要されたと感じるとの声が出ている。政府はカードを2021年3月から健康保険証として使えるようにする計画で、6月に閣議決定した「骨太の方針」に、公務員らによる今年度中のカード取得の推進を盛り込んだ。22年度末までに国内のほとんどの住民が保有するとも想定し、「普及を強力に推進する」としている。朝日新聞は各省庁などに送られた7月30日付の依頼文を入手した。内閣官房内閣参事官と国家公務員共済組合(健康保険証の発行者)を所管する財務省給与共済課長の役職名で、各省庁などの部局長から全職員に、家族も含めてカード取得を勧めるよう依頼。10月末時点の取得状況の調査と集計・報告、12月末と来年3月末時点の集計・報告を求めている。調査用紙には個人名の記入欄、家族を含む取得の有無や交付申請の状況、申請しない場合は理由を記す欄があり、「部局長に提出してください」ともある。財務省給与共済課によると、調査対象は国家公務員ら共済組合員約80万人と被扶養者約80万人。同課は「回答に理由を記載するかは自由で、決して強制ではない。人事の査定に影響はない」と話している。調査は取得に向けた課題を洗い出すためで、今後は各省庁などを通じて取得率の低い部局に取得を促すという。マイナンバー法で、カードを取得するかは任意だ。経済産業省の関係者は「公務員は政府の方針に従い、カードを持つべきだというのは分かるが、記名式で家族の取得しない理由まで聞かれ、強要と感じた」。財務省の関係者は「取得を迫るようなやり方に違和感を覚える。ほぼ全住民が保有すると閣議で風呂敷を広げたせいで、普及に必死になっている」と漏らす。マイナンバーカードは16年1月に交付が始まった。利便性の低さや個人情報の漏洩(ろうえい)への懸念などから、交付枚数は約1823万枚、取得率は14・3%にとどまる。総務省所管の団体は7月、普及が進むとの政府の想定に基づいて5500万枚分の製造を発注している。

*1-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180503&ng=DGKKZO30115600S8A500C1M10900 (日経新聞 2018年5月3日) 「合区」解消 参院、都道府県単位で
 参院選の「合区」は、隣接県を1つの選挙区にすることだ。「1票の格差」を是正するため、2016年から「鳥取・島根」と「徳島・高知」で導入した。地元出身者を送り出せない県ができ地方の声が国政に届きにくくなったとして改憲による解消をめざす。衆参両院議員の選挙の選挙区や投票の方法の根拠となっている47条に新たな規定を追加した。参院の選挙区は改選ごとに各都道府県から少なくとも1人を選出できるように改める。参院議員を「都道府県代表」と位置づければ国会議員を「全国民の代表」と定めた43条と矛盾しかねないという指摘もある。公明党は「参院の大幅な権限見直しにつながる」と慎重だ。

*1-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180503&ng=DGKKZO30115660S8A500C1M10900 (日経新聞 2018年5月3日) 教育充実 環境整備に努力義務
 自民党の改憲案は「教育充実」について、教育を受ける権利を定めた憲法26条に3項を設け「国は教育環境の整備に努めなければならない」とする努力義務を明記した。「各個人の経済的理由にかかわらず教育を受ける機会を確保する」と書き込み、家計負担の軽減を打ち出した。かねて憲法への「教育無償化」明記を目指してきた日本維新の会への配慮がにじむ。同党の改憲原案の一部を取り込むことで改憲に賛同を得たい考えがある。ただ、財源確保が難しいことなどから自民党案は「無償化」の明記は見送った。幼児教育から大学までの教育無償化を訴える維新の協力が得られるかは不透明な状況だ。私立学校に補助金を出す「私学助成」が合憲であることも明確にする。憲法89条が公の財産の支出を禁じる「慈善、教育、博愛の事業」の対象について「公の監督が及ばない」事業とする。

<財政>
*2-1:http://www.japaneselawtranslation.go.jp/law/detail_main?id=174 (日本国憲法 昭和21年11月3日 抜粋)
第七章 財政
第八十三条 国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければ
      ならない。
第八十四条 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の
      定める条件によることを必要とする。
第八十五条 国費を支出し、又は国が債務を負担するには、国会の議決に基くことを
      必要とする。
第八十六条 内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け
      議決を経なければならない。
第八十七条 予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基いて予備費を設け、
      内閣の責任でこれを支出することができる。すべて予備費の支出については、
      内閣は、事後に国会の承諾を得なければならない。
第八十八条 すべて皇室財産は、国に属する。すべて皇室の費用は、予算に計上して
      国会の議決を経なければならない。
第八十九条 公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益
      若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の
      事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。
第九十条  国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、
      次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。
      会計検査院の組織及び権限は、法律でこれを定める。
第九十一条 内閣は、国会及び国民に対し、定期に、少くとも毎年一回、国の財政
      状況について報告しなければならない。

*2-2:https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=322AC0000000034 (財政法  昭和二十二年法律第三十四号)
第一章 財政総則
第一条 国の予算その他財政の基本に関しては、この法律の定めるところによる。
第二条 収入とは、国の各般の需要を充たすための支払の財源となるべき現金の収納をいい、
    支出とは、国の各般の需要を充たすための現金の支払をいう。
○2 前項の現金の収納には、他の財産の処分又は新らたな債務の負担に因り生ずるものをも
   含み、同項の現金の支払には、他の財産の取得又は債務の減少を生ずるものをも含む。
○3 なお第一項の収入及び支出には、会計間の繰入その他国庫内において行う移換による
   ものを含む。
○4 歳入とは、一会計年度における一切の収入をいい、歳出とは、一会計年度における一切の
   支出をいう。
第三条 租税を除く外、国が国権に基いて収納する課徴金及び法律上又は事実上国の独占に
   属する事業における専売価格若しくは事業料金については、すべて法律又は国会の議決に
   基いて定めなければならない。
第四条 国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。
   但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内
   で、公債を発行し又は借入金をなすことができる。
○2 前項但書の規定により公債を発行し又は借入金をなす場合においては、その償還の計画を
   国会に提出しなければならない。
○3 第一項に規定する公共事業費の範囲については、毎会計年度、国会の議決を経なければ
   ならない。
第五条 すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入に
   ついては、日本銀行からこれを借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合に
   おいて、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない。
第六条 各会計年度において歳入歳出の決算上剰余を生じた場合においては、当該剰余金の
   うち、二分の一を下らない金額は、他の法律によるものの外、これを剰余金を生じた
   年度の翌翌年度までに、公債又は借入金の償還財源に充てなければならない。
○2 前項の剰余金の計算については、政令でこれを定める。
第七条 国は、国庫金の出納上必要があるときは、財務省証券を発行し又は日本銀行から一時
   借入金をなすことができる。
○2 前項に規定する財務省証券及び一時借入金は、当該年度の歳入を以て、これを償還しな
   ければならない。
○3 財務省証券の発行及び一時借入金の借入の最高額については、毎会計年度、国会の議決を
   経なければならない。
第八条 国の債権の全部若しくは一部を免除し又はその効力を変更するには、法律に基く
   ことを要する。
第九条 国の財産は、法律に基く場合を除く外、これを交換しその他支払手段として使用し、
   又は適正な対価なくしてこれを譲渡し若しくは貸し付けてはならない。
○2 国の財産は、常に良好の状態においてこれを管理し、その所有の目的に応じて、最も
   効率的に、これを運用しなければならない。
第二章 会計区分
第十一条 国の会計年度は、毎年四月一日に始まり、翌年三月三十一日に終るものとする。
第十二条 各会計年度における経費は、その年度の歳入を以て、これを支弁しなければ
   ならない。
第十三条 国の会計を分つて一般会計及び特別会計とする。
○2 国が特定の事業を行う場合、特定の資金を保有してその運用を行う場合その他特定の
   歳入を以て特定の歳出に充て一般の歳入歳出と区分して経理する必要がある場合に
   限り、法律を以て、特別会計を設置するものとする。
第三章 予算
第一節 総則
第十四条 歳入歳出は、すべて、これを予算に編入しなければならない。
第十四条の二 国は、工事、製造その他の事業で、その完成に数年度を要するものについて、
   特に必要がある場合においては、経費の総額及び年割額を定め、予め国会の議決を経て、
   その議決するところに従い、数年度にわたつて支出することができる。
○2 前項の規定により国が支出することができる年限は、当該会計年度以降五箇年度以内と
   する。但し、予算を以て、国会の議決を経て更にその年限を延長することができる。
○3 前二項の規定により支出することができる経費は、これを継続費という。
○4 前三項の規定は、国会が、継続費成立後の会計年度の予算の審議において、当該継続
   費につき重ねて審議することを妨げるものではない。
第十四条の三 歳出予算の経費のうち、その性質上又は予算成立後の事由に基き年度内に
   その支出を終らない見込のあるものについては、予め国会の議決を経て、翌年度に繰り
   越して使用することができる。
○2 前項の規定により翌年度に繰り越して使用することができる経費は、これを繰越明許費
   という。
第十五条 法律に基くもの又は歳出予算の金額(第四十三条の三に規定する承認があつた金額を
   含む。)若しくは継続費の総額の範囲内におけるものの外、国が債務を負担する行為を
   なすには、予め予算を以て、国会の議決を経なければならない。
○2 前項に規定するものの外、災害復旧その他緊急の必要がある場合においては、国は毎会計
   年度、国会の議決を経た金額の範囲内において債務を負担する行為をなすことができる。
○3 前二項の規定により国が債務を負担する行為に因り支出すべき年限は、当該会計年度以降
   五箇年度以内とする。但し、国会の議決により更にその年限を延長するもの並びに外国人
   に支給する給料及び恩給、地方公共団体の債務の保証又は債務の元利若しくは利子の補
   給、土地、建物の借料及び国際条約に基く分担金に関するもの、その他法律で定めるもの
   は、この限りでない。
○4 第二項の規定により国が債務を負担した行為については、次の常会において国会に報告
   しなければならない。
○5 第一項又は第二項の規定により国が債務を負担する行為は、これを国庫債務負担行為
   という。
第二節 予算の作成
第十六条 予算は、予算総則、歳入歳出予算、継続費、繰越明許費及び国庫債務負担行為
   とする。
第十七条 衆議院議長、参議院議長、最高裁判所長官及び会計検査院長は、毎会計年度、その
   所掌に係る歳入、歳出、継続費、繰越明許費及び国庫債務負担行為の見積に関する書類を
   作製し、これを内閣における予算の統合調整に供するため、内閣に送付しなければなら
   ない。
○2 内閣総理大臣及び各省大臣は、毎会計年度、その所掌に係る歳入、歳出、継続費、繰越
   明許費及び国庫債務負担行為の見積に関する書類を作製し、これを財務大臣に送付しな
   ければならない。
第十八条 財務大臣は、前条の見積を検討して必要な調整を行い、歳入、歳出、継続費、繰越
   明許費及び国庫債務負担行為の概算を作製し、閣議の決定を経なければならない。
○2 内閣は、前項の決定をしようとするときは、国会、裁判所及び会計検査院に係る歳出の
   概算については、予め衆議院議長、参議院議長、最高裁判所長官及び会計検査院長に
   対しその決定に関し意見を求めなければならない。
第十九条 内閣は、国会、裁判所及び会計検査院の歳出見積を減額した場合においては、国
   会、裁判所又は会計検査院の送付に係る歳出見積について、その詳細を歳入歳出予算
   に附記するとともに、国会が、国会、裁判所又は会計検査院に係る歳出額を修正する場合
   における必要な財源についても明記しなければならない。
第二十条 財務大臣は、毎会計年度、第十八条の閣議決定に基いて、歳入予算明細書を作製
   しなければならない。
○2 衆議院議長、参議院議長、最高裁判所長官、会計検査院長並びに内閣総理大臣及び
   各省大臣(以下各省各庁の長という。)は、毎会計年度、第十八条の閣議決定のあつた
   概算の範囲内で予定経費要求書、継続費要求書、繰越明許費要求書及び国庫債務
   負担行為要求書(以下予定経費要求書等という。)を作製し、これを財務大臣に送付しな
   ければならない。
第二十一条 財務大臣は、歳入予算明細書、衆議院、参議院、裁判所、会計検査院並びに
   内閣(内閣府を除く。)、内閣府及び各省(以下「各省各庁」という。)の予定経費
   要求書等に基づいて予算を作成し、閣議の決定を経なければならない。
第二十二条 予算総則には、歳入歳出予算、継続費、繰越明許費及び国庫債務負担行為に
   関する総括的規定を設ける外、左の事項に関する規定を設けるものとする。
一 第四条第一項但書の規定による公債又は借入金の限度額
二 第四条第三項の規定による公共事業費の範囲
三 第五条但書の規定による日本銀行の公債の引受及び借入金の借入の限度額
四 第七条第三項の規定による財務省証券の発行及び一時借入金の借入の最高額
五 第十五条第二項の規定による国庫債務負担行為の限度額
六 前各号に掲げるものの外、予算の執行に関し必要な事項
七 その他政令で定める事項
第二十三条 歳入歳出予算は、その収入又は支出に関係のある部局等の組織の別に区分し、
   その部局等内においては、更に歳入にあつては、その性質に従つて部に大別し、且つ、
   各部中においてはこれを款項に区分し、歳出にあつては、その目的に従つてこれを項に
   区分しなければならない。
第二十四条 予見し難い予算の不足に充てるため、内閣は、予備費として相当と認める金額を、
   歳入歳出予算に計上することができる。
第二十五条 継続費は、その支出に関係のある部局等の組織の別に区分し、その部局等内に
   おいては、項に区分し、更に各項ごとにその総額及び年割額を示し、且つ、その必要の
   理由を明らかにしなければならない。
第二十六条 国庫債務負担行為は、事項ごとに、その必要の理由を明らかにし、且つ、行為を
   なす年度及び債務負担の限度額を明らかにし、又、必要に応じて行為に基いて支出を
   なすべき年度、年限又は年割額を示さなければならない。
第二十七条 内閣は、毎会計年度の予算を、前年度の一月中に、国会に提出するのを常例
   とする。
第二十八条 国会に提出する予算には、参考のために左の書類を添附しなければならない。
一 歳入予算明細書
二 各省各庁の予定経費要求書等
三 前前年度歳入歳出決算の総計表及び純計表、前年度歳入歳出決算見込の総計表及び
   純計表並びに当該年度歳入歳出予算の総計表及び純計表
四 国庫の状況に関する前前年度末における実績並びに前年度末及び当該年度末における
   見込に関する調書
五 国債及び借入金の状況に関する前前年度末における実績並びに前年度末及び当該年度
   末における現在高の見込及びその償還年次表に関する調書
六 国有財産の前前年度末における現在高並びに前年度末及び当該年度末における現在高
   の見込に関する調書
七 国が、出資している主要な法人の資産、負債、損益その他についての前前年度、前年度
   及び当該年度の状況に関する調書
八 国庫債務負担行為で翌年度以降に亘るものについての前年度末までの支出額及び支出
   額の見込、当該年度以降の支出予定額並びに数会計年度に亘る事業に伴うものについ
   てはその全体の計画その他事業等の進行状況等に関する調書
九 継続費についての前前年度末までの支出額、前年度末までの支出額及び支出額の見込、
   当該年度以降の支出予定額並びに事業の全体の計画及びその進行状況等に関する調書
十 その他財政の状況及び予算の内容を明らかにするため必要な書類
第二十九条 内閣は、次に掲げる場合に限り、予算作成の手続に準じ、補正予算を作成し、
   これを国会に提出することができる。
一 法律上又は契約上国の義務に属する経費の不足を補うほか、予算作成後に生じた事由に
   基づき特に緊要となつた経費の支出(当該年度において国庫内の移換えにとどまるものを
   含む。)又は債務の負担を行なうため必要な予算の追加を行なう場合
二 予算作成後に生じた事由に基づいて、予算に追加以外の変更を加える場合
第三十条 内閣は、必要に応じて、一会計年度のうちの一定期間に係る暫定予算を作成し、
   これを国会に提出することができる。
○2 暫定予算は、当該年度の予算が成立したときは、失効するものとし、暫定予算に基く
   支出又はこれに基く債務の負担があるときは、これを当該年度の予算に基いてなした
   ものとみなす。
第三節 予算の執行
第三十一条 予算が成立したときは、内閣は、国会の議決したところに従い、各省各庁の長に
   対し、その執行の責に任ずべき歳入歳出予算、継続費及び国庫債務負担行為を配賦する。
○2 前項の規定により歳入歳出予算及び継続費を配賦する場合においては、項を目に区分
   しなければならない。
○3 財務大臣は、第一項の規定による配賦のあつたときは、会計検査院に通知しなければ
   ならない。
第三十二条 各省各庁の長は、歳出予算及び継続費については、各項に定める目的の外に
   これを使用することができない。
第三十三条 各省各庁の長は、歳出予算又は継続費の定める各部局等の経費の金額又は
   部局等内の各項の経費の金額については、各部局等の間又は各項の間において彼此
   移用することができない。但し、予算の執行上の必要に基き、あらかじめ予算をもつて
   国会の議決を経た場合に限り、財務大臣の承認を経て移用することができる。
○2 各省各庁の長は、各目の経費の金額については、財務大臣の承認を経なければ、目の
   間において、彼此流用することができない。
○3 財務大臣は、第一項但書又は前項の規定に基く移用又は流用について承認をしたときは、
   その旨を当該各省各庁の長及び会計検査院に通知しなければならない。
○4 第一項但書又は第二項の規定により移用又は流用した経費の金額については、歳入
   歳出の決算報告書において、これを明らかにするとともに、その理由を記載しなければ
   ならない。
第三十四条 各省各庁の長は、第三十一条第一項の規定により配賦された予算に基いて、
   政令の定めるところにより、支出担当事務職員ごとに支出の所要額を定め、支払の計画に
   関する書類を作製して、これを財務大臣に送付し、その承認を経なければならない。
○2 財務大臣は、国庫金、歳入及び金融の状況並びに経費の支出状況等を勘案して、適時に、
   支払の計画の承認に関する方針を作製し、閣議の決定を経なければならない。
○3 財務大臣は、第一項の支払の計画について承認をしたときは、各省各庁の長に通知する
   とともに、財務大臣が定める場合を除き、これを日本銀行に通知しなければならない。
第三十四条の二 各省各庁の長は、第三十一条第一項の規定により配賦された歳出予算、
   継続費及び国庫債務負担行為のうち、公共事業費その他財務大臣の指定する経費に
   係るものについては、政令の定めるところにより、当該歳出予算、継続費又は国庫債務
   負担行為に基いてなす支出負担行為(国の支出の原因となる契約その他の行為をいう。
   以下同じ。)の実施計画に関する書類を作製して、これを財務大臣に送付し、その承認を
   経なければならない。
○2 財務大臣は、前項の支出負担行為の実施計画を承認したときは、これを各省各庁の長
   及び会計検査院に通知しなければならない。
第三十五条 予備費は、財務大臣が、これを管理する。
○2 各省各庁の長は、予備費の使用を必要と認めるときは、理由、金額及び積算の基礎を
   明らかにした調書を作製し、これを財務大臣に送付しなければならない。
○3 財務大臣は、前項の要求を調査し、これに所要の調整を加えて予備費使用書を作製し、
   閣議の決定を求めなければならない。但し、予め閣議の決定を経て財務大臣の指定する
   経費については、閣議を経ることを必要とせず、財務大臣が予備費使用書を決定すること
   ができる。
○4 予備費使用書が決定したときは、当該使用書に掲げる経費については、第三十一条
   第一項の規定により、予算の配賦があつたものとみなす。
○5 第一項の規定は、第十五条第二項の規定による国庫債務負担行為に、第二項、第三項
   本文及び前項の規定は、各省各庁の長が第十五条第二項の規定により国庫債務負担
   行為をなす場合に、これを準用する。
第三十六条 予備費を以て支弁した金額については、各省各庁の長は、その調書を作製して、
   次の国会の常会の開会後直ちに、これを財務大臣に送付しなければならない。
○2 財務大臣は、前項の調書に基いて予備費を以て支弁した金額の総調書を作製しなけれ
   ばならない。
○3 内閣は、予備費を以て支弁した総調書及び各省各庁の調書を次の常会において国会に
   提出して、その承諾を求めなければならない。
○4 財務大臣は、前項の総調書及び調書を会計検査院に送付しなければならない。
第四章 決算
第三十七条 各省各庁の長は、毎会計年度、財務大臣の定めるところにより、その所掌に係る
   歳入及び歳出の決算報告書並びに国の債務に関する計算書を作製し、これを財務大臣に
   送付しなければならない。
○2 財務大臣は、前項の歳入決算報告書に基いて、歳入予算明細書と同一の区分により、
   歳入決算明細書を作製しなければならない。
○3 各省各庁の長は、その所掌の継続費に係る事業が完成した場合においては、財務大臣
   の定めるところにより、継続費決算報告書を作製し、これを財務大臣に送付しなければ
   ならない。
第三十八条 財務大臣は、歳入決算明細書及び歳出の決算報告書に基いて、歳入歳出の
   決算を作成しなければならない。
○2 歳入歳出の決算は、歳入歳出予算と同一の区分により、これを作製し、且つ、これに
   左の事項を明らかにしなければならない。
(一) 歳入
一 歳入予算額
二 徴収決定済額(徴収決定のない歳入については収納後に徴収済として整理した額)
三 収納済歳入額
四 不納欠損額
五 収納未済歳入額
(二) 歳出
一 歳出予算額
二 前年度繰越額
三 予備費使用額
四 流用等増減額
五 支出済歳出額
六 翌年度繰越額
七 不用額
第三十九条 内閣は、歳入歳出決算に、歳入決算明細書、各省各庁の歳出決算報告書及び
   継続費決算報告書並びに国の債務に関する計算書を添附して、これを翌年度の十一月
   三十日までに会計検査院に送付しなければならない。
第四十条 内閣は、会計検査院の検査を経た歳入歳出決算を、翌年度開会の常会において
   国会に提出するのを常例とする。
○2 前項の歳入歳出決算には、会計検査院の検査報告の外、歳入決算明細書、各省各庁
   の歳出決算報告書及び継続費決算報告書並びに国の債務に関する計算書を添附する。
第四十一条 毎会計年度において、歳入歳出の決算上剰余を生じたときは、これをその翌年
   度の歳入に繰り入れるものとする。
第五章 雑則
第四十二条 繰越明許費の金額を除く外、毎会計年度の歳出予算の経費の金額は、これを
   翌年度において使用することができない。但し、歳出予算の経費の金額のうち、年度内に
   支出負担行為をなし避け難い事故のため年度内に支出を終らなかつたもの(当該支出
   負担行為に係る工事その他の事業の遂行上の必要に基きこれに関連して支出を要する
   経費の金額を含む。)は、これを翌年度に繰り越して使用することができる。
第四十三条 各省各庁の長は、第十四条の三第一項又は前条但書の規定による繰越を必要
   とするときは、繰越計算書を作製し、事項ごとに、その事由及び金額を明らかにして、
   財務大臣の承認を経なければならない。
○2 前項の承認があつたときは、当該経費に係る歳出予算は、その承認があつた金額の
   範囲内において、これを翌年度に繰り越して使用することができる。
○3 各省各庁の長は、前項の規定による繰越をしたときは、事項ごとに、その金額を明らか
   にして、財務大臣及び会計検査院に通知しなければならない。
○4 第二項の規定により繰越をしたときは、当該経費については、第三十一条第一項の規定
   による予算の配賦があつたものとみなす。この場合においては、同条第三項の規定に
   よる通知は、これを必要としない。
第四十三条の二 継続費の毎会計年度の年割額に係る歳出予算の経費の金額のうち、その
   年度内に支出を終らなかつたものは、第四十二条の規定にかかわらず、継続費に係る
   事業の完成年度まで、逓次繰り越して使用することができる。
○2 前条第三項及び第四項の規定は、前項の規定により繰越をした場合に、これを準用する。
第四十三条の三 各省各庁の長は、繰越明許費の金額について、予算の執行上やむを得ない
   事由がある場合においては、事項ごとに、その事由及び金額を明らかにし、財務大臣の
   承認を経て、その承認があつた金額の範囲内において、翌年度にわたつて支出すべき
   債務を負担することができる。
第四十四条 国は、法律を以て定める場合に限り、特別の資金を保有することができる。
第四十五条 各特別会計において必要がある場合には、この法律の規定と異なる定めを
   なすことができる。
第四十六条 内閣は、予算が成立したときは、直ちに予算、前前年度の歳入歳出決算並びに
   公債、借入金及び国有財産の現在高その他財政に関する一般の事項について、印刷物、
   講演その他適当な方法で国民に報告しなければならない。
○2 前項に規定するものの外、内閣は、少くとも毎四半期ごとに、予算使用の状況、国庫の
   状況その他財政の状況について、国会及び国民に報告しなければならない。
第四十六条の二 この法律又はこの法律に基づく命令の規定による手続については、行政
   手続等における情報通信の技術の利用に関する法律(平成十四年法律第百五十一号)
   第三条及び第四条の規定は、適用しない。
第四十六条の三 この法律又はこの法律に基づく命令の規定により作成することとされている
   書類等(書類、調書その他文字、図形等人の知覚によつて認識することができる情報が
   記載された紙その他の有体物をいう。次条において同じ。)については、当該書類等に
   記載すべき事項を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚に
   よつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報
   処理の用に供されるものとして財務大臣が定めるものをいう。次条第一項において
   同じ。)の作成をもつて、当該書類等の作成に代えることができる。この場合において、
   当該電磁的記録は、当該書類等とみなす。
第四十六条の四 この法律又はこの法律に基づく命令の規定による書類等の提出については、
   当該書類等が電磁的記録で作成されている場合には、電磁的方法(電子情報処理組織を
   使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて財務大臣が定めるものを
   いう。次項において同じ。)をもつて行うことができる。
○2 前項の規定により書類等の提出が電磁的方法によつて行われたときは、当該書類等の
   提出を受けるべき者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルへの記録がされた時に
   当該提出を受けるべき者に到達したものとみなす。
第四十七条 この法律の施行に関し必要な事項は、政令で、これを定める。
附 則 抄
第一条 この法律は、昭和二十二年四月一日から、これを施行する。但し、第十七条第一項、
   第十八条第二項、第十九条、第三十条、第三十一条、第三十五条並びに第三十六条の
   規定は、日本国憲法施行の日から、これを施行し、第三条、第十条及び第三十四条の
   規定の施行の日は、政令でこれを定める。
○2 第四条及び第五条の規定は、昭和二十三年度以後の会計年度の予算に計上される
   公債又は借入金について、第七条、第三章の規定(第十七条第一項、第十八条第二項、
   第十九条、第二十八条、第三十条、第三十一条並びに第三十四条乃至第三十六条の
   規定を除く。)及び第四章の規定は、昭和二十二年度以後の会計年度の予算及び決算
   について、これを適用する。
第一条の二 内閣は、当分の間、第三十一条第一項の規定により歳入歳出予算を配賦する
   場合において、当該配賦の際、目に区分し難い項があるときは、同条第二項の規定に
   かかわらず、当該項に限り、目の区分をしないで配賦することができる。
○2 前項の規定により目の区分をしないで配賦した場合においては、各省各庁の長は、
   当該項に係る歳出予算の執行の時までに、財務大臣の承認を経て、目の区分をしな
   ければならない。
○3 財務大臣は、前項の規定により目の区分について承認をしたときは、その旨を会計
   検査院に通知しなければならない。
第三条 この法律施行前になした予備費の支出並びに昭和二十年度及び同二十一年度の
   決算に関しては、なお従前の例による。
第四条 従来予算外国庫の負担となるべき契約に関する件として帝国議会の協賛を経た
   事項は、日本国憲法施行後においては、国庫債務負担行為となるものとする。
   但し、この場合においては、改正後の第十五条第三項の規定は、これを適用しない。
第五条 左に掲げる法令は、これを廃止する。
明治四十四年法律第二号(公共団体に対する工事補助費繰越使用に関する法律)
明治五年太政官布告第十七号(政府に対する寄附に関する件)
附 則 (昭和二四年四月一日法律第二三号) 抄
1 この法律は、昭和二十四年四月一日から施行する。但し、第二十三条及び附則第一条の
   二の改正規定は、昭和二十四年度の予算から適用する。
附 則 (昭和二四年五月三一日法律第一四五号) 抄
1 この法律は、昭和二十四年六月一日から施行する。
附 則 (昭和二五年三月三一日法律第六〇号) 抄
1 この法律は、公布の日から施行し、昭和二十五年度の予算から適用する。
附 則 (昭和二五年五月四日法律第一四一号) 抄
1 この法律は、公布の日から施行する。
附 則 (昭和二六年六月一日法律第一七三号) 抄
1 この法律は、公布の日から施行する。
附 則 (昭和二七年三月五日法律第四号) 抄
1 この法律中継続費、歳出予算及び支出予算の区分並びに繰越に係る部分は、公布の日
   から、その他の部分は、昭和二十七年四月一日から施行する。但し、改正後の財政法、
   会計法等の規定中継続費、歳出予算及び支出予算の区分並びに支出負担行為の
   実施計画に係る部分は、昭和二十七年度分の予算から適用する。
附 則 (昭和二七年七月三一日法律第二六八号) 抄
1 この法律は、昭和二十七年八月一日から施行する。
附 則 (昭和二九年五月八日法律第九〇号) 抄
1 この法律は、公布の日から施行する。
2 改正後の財政法の規定は、昭和二十九年度分の予算から適用する。
附 則 (昭和三七年五月八日法律第一〇八号) 抄
1 この法律は、公布の日から施行する。
附 則 (昭和四〇年四月一二日法律第四六号)
   この法律は、公布の日から施行し、改正後の附則第七条の規定は、昭和四十年度分の
   予算から適用する。
附 則 (昭和五三年五月二三日法律第五五号) 抄
(施行期日等)
1 この法律は、公布の日から施行する。
附 則 (平成三年九月一九日法律第八六号) 抄
(施行期日)
1 この法律は、公布の日から施行する。
附 則 (平成九年一二月五日法律第一〇九号) 抄
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から施行する。
附 則 (平成一一年七月一六日法律第一〇二号) 抄
(施行期日)
第一条 この法律は、内閣法の一部を改正する法律(平成十一年法律第八十八号)の施行の
   日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
一 略
二 附則第十条第一項及び第五項、第十四条第三項、第二十三条、第二十八条並びに
   第三十条の規定 公布の日
(委員等の任期に関する経過措置)
第二十八条 この法律の施行の日の前日において次に掲げる従前の審議会その他の機関の
   会長、委員その他の職員である者(任期の定めのない者を除く。)の任期は、当該会長、
   委員その他の職員の任期を定めたそれぞれの法律の規定にかかわらず、その日に
   満了する。
一から十三まで 略
十四 財政制度審議会
(別に定める経過措置)
第三十条 第二条から前条までに規定するもののほか、この法律の施行に伴い必要となる
   経過措置は、別に法律で定める。
附 則 (平成一一年一二月二二日法律第一六〇号) 抄
(施行期日)
第一条 この法律(第二条及び第三条を除く。)は、平成十三年一月六日から施行する。
   ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
一 第九百九十五条(核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律の一部を
   改正する法律附則の改正規定に係る部分に限る。)、第千三百五条、第千三百六条、
   第千三百二十四条第二項、第千三百二十六条第二項及び第千三百四十四条の規定 
   公布の日
附 則 (平成一四年一二月一三日法律第一五二号) 抄
(施行期日)
第一条 この法律は、行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律(平成
   十四年法律第百五十一号)の施行の日から施行する。
(その他の経過措置の政令への委任)
第五条 前三条に定めるもののほか、この法律の施行に関し必要な経過措置は、政令で
   定める。
附 則 (平成一八年六月七日法律第五三号) 抄
(施行期日)
第一条 この法律は、平成十九年四月一日から施行する。

<主権在民を侵害する報道とその理由>
PS(2019年11月27、28、29日、12月1日追加):これだけ多くの政治的事象が起こっているのに、TVは全局で、*3-1の「桜を見る会」を政治家のスキャンダルに仕立てあげ、*3-2の沢尻エリカさんの「大麻中毒」もまた、全局でしつこく報道している。しかし、「桜を見る会」の予算は、過去5年間は約1766万円、来年度予算の概算要求も約5700万円と、他の無駄遣いに比べると重箱の隅をつついたような数字で重要性が低い。野党は、国会議員70人余りからなる追及本部を立ち上げ、不法行為にはならないことについて「安倍首相や昭恵夫の推薦だった」と追求しようとしているが、「お友達だけを大切にしている」と言うのは、生徒が「先生がえこひいきする」と言っているのと同じレベルで情けない。それとも、政策に関する議論もしているのだが、TVがスキャンダルしか取り上げないのだろうか?さらに、沢尻エリカさんたちの薬物中毒のしつこい報道も「国民がいかにくだらないか」を国民に印象付けている。
 しかし、それらは、「国民が選挙で選んだ政治家はろくなことをせず、国民も愚かなので、民主主義(主権在民)はやめて天皇を元首とし、官が主導するのがよい」という結論を導き出す前哨戦となるため、メディアが真に民主主義の媒体として機能しなかった代償は大きい。だから、メディアは真実かつ倫理的でまともな報道をすることが求められるのである。
 また、*3-3のように、週刊文春が「安倍首相の事務所スタッフが『桜を見る会』のツアーに参加する地元支援者らに同行して上京する旅費を政治資金で支払った疑いがあり、事実なら事務所や後援会に『収支が発生していない』と説明した首相の説明と矛盾する可能性がある」などと報じているが、事務所スタッフが後援会の人に付き添って同行するのは仕事による出張であるため、これらのスタッフに政治資金から出張旅費を支払うのは何の問題もなく、むしろ必要なことで、いちゃもんが過ぎるのである。なお、事務所スタッフが後援会の人に付き添っても、後援会の人は旅行会社やホテルに旅費等の支払いをしているため、何ら問題はない。
 このような中、*3-4のように、佐賀新聞が「10兆円規模の経済対策は過剰だ」と指摘しているが、私は、これらの中身を精査して災害対策や景気対策名目のその場限りの支出を排除したり、より低コストで将来性の高いものに変更したりする必要があると考える。何故なら、これらは、結局は、さまざまな形で国民負担に繋がるからである。
 さらに、東京新聞はじめメディアが、*3-5のように、内閣府が共産党の宮本衆議院議員による関連資料要求の後に安倍首相主催の「桜を見る会」の招待者名簿を廃棄したと書いているが、①どこに行ったか ②選挙で誰を応援したか については個人情報であるため、名簿を廃棄していなかったとしても本人の同意なく開示すれば個人情報保護法(https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=415AC0000000057)違反になる。にもかかわらず、しつこく廃棄の時間を調べたり、「デジタルデータを復元せよ」「情報開示は・・」などと言っているのは、与野党・メディアとも個人情報保護の意味がわかっていない。さらに、招待者の中に“反社会的勢力(定義が疑問)”が入っていたそうだが、首相が招待者の1人1人をチェックするわけもなく、首相はもっと大きな仕事をするものだ。
 なお、*3-6に、佐賀新聞が既に私が上記で答えたこと以外に、「①後ろめたいことがないのなら、なおさら国会に出て可能な限り関係書類を示して野党の質問に答えるべき」「②安倍首相が、各界において功績・功労のあった方々という招待基準を無視し、後援会関係者というだけで招いていたとすれば公費を使って後援会関係者をもてなしたことになる」「③できるはずの潔白の証明をしようとしないのは、自ら潔白ではないと認めたことになる」などを記載しているが、このうち①③については、安倍首相を辞めさせるために野党が追及しているため、いろいろ説明して合理的であったとしても、別の事案を探して汚いかのように言うと思われる。また、②についても、叙勲(これにはおかしな基準が多いと思うが)ではあるまいし、「(どこにでも咲いている)桜を見る会」に、それほど厳格な招待基準が必要とは思われず、招待客に会を主催するホストの好みが入るのは自然だろう。また、価格はホテル側と合意していれば問題なく、立食パーティーなら人数分の食事を準備しているケースの方がむしろ少ない上、価格交渉するのも普通だ。つまり、国の正確な財務諸表やその明細書がないため、金額や性格の重要性に応じて予算委員会・決算委員会で質問時間を割り当てることができず、重箱の隅をつついて政権闘争するのが野党ということになっているのが国民にとって最大の不幸なのである。

*3-1:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191125/k10012190551000.html (NHK 2019年11月25日) 「桜を見る会」野党側が追及本部立ち上げ 山口県訪問し調査へ
 総理大臣主催の「桜を見る会」をめぐり、野党側が追及本部を立ち上げ、ことしの招待者のうち1000人程度が安倍総理大臣からの推薦だったことなどについて、地元の山口県下関市を訪れるなどして調査を進めることになりました。立憲民主党、国民民主党、共産党など野党側は25日、「桜を見る会」の追及チームの体制を強化して国会議員70人余りからなる「追及本部」を立ち上げ、初会合を開きました。本部長に就任した立憲民主党の福山幹事長は、「真相究明を進め、倒閣に向けた運動を進めていく。安倍政権は、自分たちのお友達だけを大切にして、国民生活はほったらかしだ。追及の手を緩めず一致結束して頑張りたい」と述べました。
そして、ことしの招待者のうち1000人程度が安倍総理大臣からの推薦だったことや、昭恵夫人からの推薦もあったこと、それに招待者名簿が野党議員が資料請求したのと同じ日に廃棄されたことなどについて、8つの班に分かれて調査を進めることを決めました。今後は、安倍総理大臣の地元の山口県下関市などを訪れて関係者から話を聞きたいとしているほか、引き続き安倍総理大臣に国会で説明責任を果たすよう求めていくことにしています。

*3-2:https://www.chunichi.co.jp/chuspo/article/entertainment/news/CK2019111602100052.html (中日新聞 2019年11月16日) 過去に「大麻中毒」など薬物使用疑惑報道 逮捕された“エリカ様“沢尻エリカ容疑者の横顔
 東京都内の自宅で合成麻薬MDMAを所持したとして、警視庁は16日、麻薬取締法違反容疑で女優の沢尻エリカ容疑者(33)を逮捕した。沢尻容疑者は、2005年に出演した映画「パッチギ!」で日本アカデミー新人賞をはじめ、映画賞に多数輝き、フジテレビ系ドラマ「1リットルの涙」での演技も高く評価され、一躍人気女優の座に上り詰めた。だが、07年9月、自身が主演した映画「クローズド・ノート」の舞台あいさつで、「別に…」と答え、自由奔放な振る舞いが批判されるなど話題になり、“エリカさま”と呼ばれた時期もあった。小学6年でモデルとして芸能界デビュー、少女ファッション誌「ニコラ」のモデルも務めた。03年、TBS系「ホットマン」で連続ドラマに初出演し、04年に「問題のない私たち」で映画初出演を果たした。演技力が買われ、以降映画出演が続き、「シュガー&スパイス 風味絶佳」(06年)「手紙」(同)、「新宿スワン」(15年)、「不能犯」(18年)などで主演した。12年の主演作「ヘルタースケルター」ではヌードを披露。転落していく女優を演じ話題になった。「億男」(18年)、「人間失格 太宰治と3人の女たち」(19年)でも存在感のある役を演じたばかりだった。プライベートでは、09年にはクリエイター高城剛さんと結婚したが、その後、夫婦関係をめぐり、迷走の末、13年に離婚した。女優としてのキャリアを重ねていく一方、薬物との接点もこれまで指摘され、「大麻中毒」など薬物使用疑惑が週刊誌などで報じられていた。

*3-3:https://www.hokkaido-np.co.jp/article/369062 (北海道新聞 2019/11/27) 首相事務所、桜見る会旅費を政治資金から支出か 週刊文春報道
 2015年の「桜を見る会」を巡り、安倍晋三首相の事務所スタッフがツアーに参加する地元支援者らに同行して上京する旅費を、政治資金で支払った疑いがあると、週刊文春が27日、ウェブサイトで報じた。事実なら事務所や後援会に「収支が発生していない」とする首相の説明と矛盾する可能性があり、野党が追及を強めそうだ。ウェブサイトなどによると、ツアーには地元事務所のスタッフが多数同行しており、約89万円はスタッフの旅費だった疑いがあるとしている。首相はこれまで、旅費や宿泊費などは参加者が直接旅行代理店に支払ったと説明。違法ではないとの考えを示している。

*3-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/458775 (佐賀新聞 2019年11月27日) 経済対策:10兆円規模は過剰だ
 政府は来週にも経済対策を取りまとめ、2019年度補正予算、20年度当初予算にその経費を計上する。20年早々から切れ目なく執行する「15カ月予算」として、自然災害からの復旧・復興を加速させ、海外経済の下振れリスクへ備える方針だ。与党幹部らの要請も背景に、総額は10兆円規模に膨らむ見通しとなっている。堤防の強化や被災者の生活再建に向けたケアなど台風などによって大規模な被害を受けた地域への迅速な支援は必要だ。日米貿易協定による米国産牛肉の輸入増に直面する畜産農家への補助なども、一定程度は考えなければならないだろう。米中貿易摩擦による企業業績への圧力も高まってきた。英国の欧州連合(EU)離脱問題も企業活動を萎縮させている。こうした情勢に対する警戒は強めなければならない。しかし、広範囲に景気を喚起する大型対策が急務となっている局面ではない。実際、政府の景気認識も「緩やかに回復している」との判断を維持している。そんな中で、経済対策に10兆円を費やすのは過剰と言うしかない。むしろ、景気の安定を利用して、後退を続けてきた財政再建に向けた取り組みを立て直す方が、政策の方向性としては合理性があるだろう。消費税増税の負担軽減に向けた追加対策は既定路線だが、そのほかの対策は、対策名目の「間口」の広さに乗じて、詰め込んでいる感さえある。自動ブレーキなどの先端的な安全機能を備えた「安全運転サポート車(サポカー)」普及に向けた助成、小学5年生から中学3年生がパソコンを1人1台使える環境の整備、ドローンなど先端技術を使ったスマート農業の促進など、政府が盛り込もうとしている対策は、政策自体としては今の経済社会情勢に合致したものだろう。反対する理由はない。しかし、経済対策として直ちに予算計上して迅速に実施していく必要性については首をかしげざるを得ない。この間、幹事長ら自民党幹部らが相次いで補正予算を巡り10兆円規模を求めて発言、不要不急と思える事業が次々と対策に紛れ込んでいった。2閣僚辞任や「桜を見る会」問題で政権に対する逆風が強まっていることが背景にあると見るのは、うがちすぎだろうか。政府は対策に盛り込む予定の全ての政策について、早急な予算計上が必要かどうか改めて点検し、必要性が薄ければ採用を見送り、規模を絞り込むべきだろう。経済対策を盛り込む19年度補正、20年度当初予算は国会で審議に付される。政府が説明責任を果たすのは当然だが、政府を追及する野党の責任も重いことは指摘しておきたい。今回の対策では、財政投融資も活用される。成田空港の新滑走路や新名神高速道路の6車線化などに少なくとも3兆円を投じるという。財投は一般会計予算と違い、政府が財投債を発行して市場から資金を調達、それを長期間、低利で貸し付ける制度だ。国債のように税収で償還する仕組みではなく、国の借金には含めないため、対策規模を拡大する手段としては使い勝手がいいのかもしれない。だが、資金が計画通りに返済されなければ、国民負担につながることは言うまでもない。

*3-5:https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201911/CK2019112702000148.html (東京新聞 2019年11月27日) 桜を見る会 名簿廃棄、資料要求後 「別の担当課、知らず」
 安倍晋三首相が主催した「桜を見る会」の今年の招待者名簿を巡り、内閣府は二十六日、野党の追及本部が国会内で開いた会合で、五月九日に名簿を廃棄した時間帯が、共産党の宮本徹衆院議員による関連資料要求よりも後だったことを明らかにした。廃棄と資料要求を担当した課が別だったため「廃棄の時点で、資料要求は知らなかった」と説明した。野党は「証拠隠滅だ」と改めて批判した。内閣府によると、名簿の廃棄は大臣官房人事課が担当し、五月九日午後の早い時間帯に行った。一方、宮本氏の資料要求は同日正午すぎに大臣官房総務課が把握した。総務課は資料要求について速やかに人事課に伝えず、人事課の担当者が要求を知らないまま名簿を廃棄したという。今年の招待者名簿については、内閣府が宮本氏から資料要求があった五月九日に廃棄したことを明らかにしていたが、廃棄の時間帯が資料要求よりも前か後かには言及していなかった。自民党の二階俊博幹事長は二十六日の記者会見で招待者名簿について「後々の記録、来年の参考にもなるから、いちいち廃棄する必要はない」と苦言を呈した。菅義偉(すがよしひで)官房長官は記者会見で、桜を見る会の招待客を巡り、首相や官房長官らの推薦が二〇一四年の約三千四百人から今年は約二千人に減っているのは過少説明との野党の指摘に対し「招待者名簿を既に廃棄しており、確認できていない」と釈明した。菅氏は、首相や官房長官らの推薦について「自民党関係者からの推薦も多く入っていたのではないか」との見方も示した。 

*3-6:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/460110 (佐賀新聞 2019年11月30日) 桜を見る会、首相は国会で説明を
 安倍晋三首相主催の「桜を見る会」を巡る問題がなかなか収束しない。新たな疑問点が次々と指摘される一方、政府側の説明は納得できるものではなく、公的行事を私物化していたのではないかという疑いは深まる一方だ。特に、真相解明に必要な招待者名簿が、共産党議員から提出を求められると、開催から1カ月もたっていないのにもかかわらず、大型シュレッダーで細断、破棄された事実は、公的行事私物化の事実を隠そうとしたのではないかとの深刻な疑念を生んでいる。招待者推薦の内訳から後援会が「桜を見る会」の前日に開いた前夜祭の収支、そして名簿破棄に至るまでの詳細を把握でき、また説明する責任があるのは当事者でもある安倍首相以外にいない。後ろめたいことがないのであれば、なおさら国会に出て、可能な限り、関係書類を示して野党の質問に答えるべきだ。次から次に疑わしい新事実が出てきて、「桜を見る会」を巡る問題は拡散気味だが、大きく三つに分類することができる。まず焦点になったのは安倍首相が「各界において功績、功労のあった方々」という招待基準を無視して、後援会関係者を招いていたのではないかという問題だ。桜を見る会は公費で賄われ、酒食も振る舞われる。仮に後援会関係者というだけで招いていたのだとすれば公費を使って後援会関係者をおもてなししていたことになり、まさに私物化に当たる。次が、桜を見る会前日に後援会関係者向けに開いた「前夜祭」の夕食会とその会費の金額だ。会場が東京都内の高級ホテルだったにもかかわらず会費が相場より安い5千円だったことから、安倍首相の議員事務所が実費不足分を補った公選法違反の可能性や政治資金収支報告書への不記載の疑いが指摘されている。桜を見る会を私物化したとの批判に対して安倍首相は11月20日の参院本会議での答弁で、「招待者の基準が曖昧で、結果として招待者の数が膨れあがった」と主張したが、厳格に解釈すべき基準を曖昧に解釈していたのが実態で、答弁は論点をすり替えている。また、前夜祭については「夕食会を含め、旅費、宿泊費など全ての費用は参加者の自己負担で支払われている。安倍事務所や後援会としての収入、支出は一切ないことを確認した」と強調。金額に関しては「(参加者の)大多数がホテルの宿泊者という事情を踏まえ、ホテル側が設定した価格との報告を受けている。毎年使っているとか、規模であるとか、宿泊をしているかをホテル側が総合的に勘案して決めることだ」と述べたが、根拠となる資料は示されなかった。さらに深刻で、説明に説得力がないのは招待者名簿を破棄してしまったことだ。共産党議員の提出要求の1時間後に大型シュレッダーで細断されており、名簿に安倍首相にとって都合の悪い部分があり、国会に提出されないよう「証拠隠滅」したのではないかとみられている。通常は可能なはずの電子データの復元についても菅義偉官房長官は「事務方からできないと聞いている」と説明にならない答弁を繰り返すだけだ。できるはずの潔白の証明をしようとしないのでは自ら潔白ではないと認めていることになる。

<憲法が守られていない事例(その1)-健康で文化的な生活>
PS(2019年11月28日追加): *4-1・*4-2のように、パートなど非正規で働く人たちの厚生年金の加入要件は、現在は「従業員501人以上の企業に勤務し、週20時間以上働いて、月給8万8千円以上」に限られているが、2022年10月に「101人以上の企業」、2024年10月に「51人以上の企業」に順次引き下げる案が有力だそうだ。対象拡大を目指す背景には、国民年金だけの人が低年金に陥らないようすることと、現在の年金保険料収入を増やす狙いがあるが、労働時間や賃金要件は現状を維持し、50人以下の企業も対象から外れ、政府は「中小企業の負担感や生産性向上に配慮し、助成金等の支援策も検討する」としている。
 しかし、*4-3のように、日本国憲法では「25条:すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」「27条:すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める」と規定されており、要件に満たない労働者は不十分な社会保障でよいとしてきたのが誤りである上、いつまでも専業主婦世帯をモデルとするのも、憲法27条及び男女雇用機会均等法違反だ。
 さらに、中小企業(定義不明)の生産性が低いとは限らず、むしろ厚労省始め役所の生産性の方が低そうで、社会保険料くらいは負担できるシステムにするのが筋であるし、その方が誰にとっても福利が増すわけである。

*4-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/458871 (佐賀新聞 2019年11月27日) 厚生年金加入要件、2段階で拡大、22年に101人以上の企業
 パートなど非正規で働く人たちの厚生年金で、政府、与党が加入対象となる企業要件を2段階で拡大する検討を始めたことが27日、分かった。現在、加入が義務付けられている企業の規模は「従業員501人以上」。これを2022年10月に「101人以上」、24年10月に「51人以上」に順次引き下げる案が有力だ。厚生年金の保険料は労使折半。51人以上に引き下げれば新たに65万人が加入対象となる一方、企業の保険料負担は1590億円増える見通し。政府は将来的な企業要件の撤廃を目指しているが、中小企業の経営面への配慮などから、今回の制度改正では撤廃の時期は明記しない方向。これまで一度に51人以上に引き下げる方向で検討してきたが、経営への打撃を最小限に抑えたい中小企業が慎重な対応を求めていた。来年の通常国会に関連法案を提出する。対象拡大を目指す背景には、国民年金だけの人が将来、低年金に陥らないよう年金額を手厚くする狙いがある。パートやアルバイトで働く人は現在、(1)従業員501人以上の企業に勤務(2)労働が週20時間以上(3)月給8万8千円以上―などの要件を満たせば、厚生年金の加入対象となる。今回の制度改正では企業要件を引き下げる一方、労働時間や賃金の要件は現状を維持する。26日に開かれた政府の全世代型社会保障検討会議では、議長を務める安倍晋三首相が「中小企業の負担感や生産性向上に配慮しつつ、厚生年金の適用範囲を考える」と述べていた。

*4-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14274047.html (朝日新聞 2019年11月28日) パート厚生年金、2段階拡大 従業員51人以上に 厚労省調整
 厚生労働省は、厚生年金が適用されるパートらの範囲を2段階で広げる方向で調整に入った。今は勤め先の企業規模が「従業員501人以上」であることが条件だが、2022年10月に「101人以上」、24年10月から「51人以上」に引き下げる。新たな保険料負担が生じる中小企業に配慮し、一定の準備期間を設けて理解を得たい考えだ。厚生年金には、正社員などフルタイムで働く人のほか、「501人以上の企業で週20時間以上働き、月収8万8千円以上」などの条件を満たすパートらも加入できる。今は約40万人だが、厚労省の試算では、適用対象の企業規模を51人以上にすると約65万人増える。政府は、厚生年金の方が国民年金よりも年金額が高いため、適用拡大によって低年金・無年金になる人を減らせるとしている。保険料収入が増え、年金財政が改善する効果も見込む。厚労省によると、企業規模を51人以上にした場合、モデル世帯の将来の年金水準は0・3ポイント上がる。一方、厚生年金の保険料は労使折半で払う。パートの加入者が1人増えると、一緒に生じる健康保険料とあわせて、年約25万円の負担増になるとの厚労省の試算もある。中小企業側は、最低賃金の引き上げなども課題になる中、保険料負担まで増えれば「経営に大きなインパクトを及ぼしかねない」などと慎重論を展開。また、パート自身が保険料負担を避けようと働き方を調整すれば、人手不足が加速する恐れもあると指摘している。ただ、政府は来年の通常国会に適用拡大の法案を提出する方針。中小企業側の理解を得るため、助成金などの支援策も検討している。

*4-3:http://www.japaneselawtranslation.go.jp/law/detail_main?id=174
(日本国憲法より抜粋)
第25条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
     国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上
     及び増進に努めなければならない。
第27条 すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。
     賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。

<憲法が守られていない事例(その2)-違憲立法審査権>
PS(2019年11月29日、12月5日追加):日本国憲法は、「81条:最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である」と定めており、これは最高裁判所が違憲法令審査権を有する終審裁判所であることを規定したものであるため、違憲立法か否かを判断するには、(よく必要と言われる)憲法裁判所は不要だ。
 さらに、民事訴訟・行政訴訟など下部の法律で要求される当事者適格(特に原告適格)や訴えの利益などの訴訟要件を満たした訴訟でなければ違憲立法を提訴する資格がないとし、訴えの利益を狭く解釈しているのも、実質的に国民が違憲立法審査権を行使するのを困難にしている。
 そのような中、*5-1のように、戦後の憲法裁判記録が多数廃棄され、自衛隊や基地問題に関する当初の議論が検証不可能になったのは、大きな問題だ。
 また、日本政府は、*5-2のように、米国主導の「有志連合」には参加しないが、国会承認がいらず防衛大臣の判断のみで派遣可能な「調査・研究」という名目で、もともとは日本と友好関係を持っていた中東イランに自衛隊を派遣するそうだ。しかし、危機の迫った日本の船舶を護衛するわけでもないのに、単なる情報収集態勢強化のために自衛隊を遠方に派遣するのは、違憲の可能性が高い安全保障関係法令からもはみ出している。そのため、敵を増やす結果しか招かなそうなこの自衛隊派遣について、国会はその理由・目的・結果をよく検討すべきだが、この件に関しては「桜を見る会」ほどにも議論できないのが、我が国の深刻な問題なのである。

*5-1:https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2019080401001662.html (東京新聞 2019年8月4日) 戦後憲法裁判の記録を多数廃棄 自衛隊や基地問題、検証不能に
 自衛隊に一審札幌地裁で違憲判決が出た長沼ナイキ訴訟や、沖縄の米軍用地の強制使用を巡る代理署名訴訟をはじめ、戦後の重要な民事憲法裁判の記録多数を全国の裁判所が既に廃棄処分していたことが4日分かった。代表的な憲法判例集に掲載された137件について共同通信が調査した結果、廃棄は118件(86%)、保存は18件(13%)、不明1件だった。判決文など結論文書はおおむね残されていたが、歴史的裁判の審理過程の文書が失われ検証が不可能になった。裁判所の規定は重要裁判記録の保存を義務づけ、専門家は違反の疑いを指摘する。著名裁判記録の廃棄は東京地裁で一部判明していた。

*5-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14281400.html (朝日新聞社説 2019年12月4日) 中東へ自衛隊 国会素通りは許されぬ
 緊張が高まり、不測の事態も想定される中東に自衛隊を派遣することの重みを、安倍政権はどう考えているのか。政府・与党だけの手続きで拙速に決めることは許されない。国会の場で、派遣の是非から徹底的に議論すべきだ。中東海域への自衛隊派遣について、政府が年内の閣議決定をめざしている。早ければ年明けにも、護衛艦1隻を向かわせるほか、海賊対処のためソマリア沖で活動中のP3C哨戒機1機の任務を切り替える。米国のトランプ政権が核合意から一方的に離脱し、米国とイランの対立は深まるばかりだ。政府は米国が主導する「有志連合」への参加を見送り、独自派遣を強調することで、イランを刺激しまいとしている。だが、有志連合とは緊密に情報共有を進める方針であり、状況次第で、米国に加担したと見られても仕方あるまい。朝日新聞の社説は、関係国の対話と外交努力によって緊張緩和を図るべきだと、繰り返し主張してきた。米国の同盟国であり、イランとも友好関係を保つ日本が、積極的に仲介役を果たすことも求めてきた。こうした取り組みに逆行しかねない自衛隊派遣には賛同できない。法的根拠にも重大な疑義がある。日本関係の船舶を護衛するわけではなく、情報収集態勢の強化が目的として、防衛省設置法の「調査・研究」に基づく派遣だという。国会承認がいらないだけでなく、防衛相の判断のみで実施可能だ。自衛隊の活動へのチェックを骨抜きにする拡大解釈というほかない。政府が今回、閣議決定という手続きをとることにしたのは、公明党などにある懸念に応え、政府・与党全体の意思統一を図る狙いがあるのだろう。しかし、先に派遣ありきの議論で、数々の問題が解消されるとは思えない。政府は現地の情勢について、船舶の護衛がただちに必要な状況ではないと説明している。それなのに、派遣の決定を急ぐのはなぜか。活動を始めた有志連合と足並みをそろえ、米国への協力姿勢をアピールする狙いがあると見ざるをえない。だが、いったん派遣すれば、撤収の判断は難しくなる。立ち止まる機会は、今しかない。この節目に、国会論議を素通りすることは許されない。9日に会期末を迎える今国会では、いまだ中東派遣を巡る突っ込んだ質疑が行われていない。だとすれば、国会の会期を延長し、日本が採るべき選択肢を議論すべきではないか。そのことこそ、政治に課せられた国民への責任である。

<無駄のない安価で本質的な公共事業をすべき>
PS(2019年12月1、2、3日追加):*6-1のように、気候変動による海面上昇で、ガンジス川下流のインド・バングラデシュ国境地帯にある汽水域のマングローブが浸食され、この地域の鹿が減ってベンガルトラも姿を消す恐れがあるそうだ。また、人間も海面上昇で海辺の自宅に海水が入ってくるようになり、人間を含む生態系全体が内陸に移動せざるを得なくなった。しかし、*6-2のように、日本の標高は東京湾の平均海面が基準となっており、日本水準原点の高さは明治6年6月(1931年)から明治12年12月(1937年) までの東京湾の平均海面を見て決められたままだそうで、標高は海面上昇とともに一律に下がった筈なので、“歴史”“伝統”“前例”と称して惰性で同じことをやり続けるのは、日本の非科学的な点である。
 なお、近年は、*6-3のように、気候変動によって豪雨が増加し、水位超過が年を追うごとに増えて「氾濫危険水位」を超える事例が、2018年に日本全国で474件に達するそうだ。この原因には、海面上昇・気温の上昇による頻繁で強い豪雨・長期にわたる河川管理の不適切・住宅適地選定の誤りなどが考えられ、さんざん無駄遣いをしてきた上げ挙句の予算不足は言い訳にならない。そのような中、日頃からの治水対策はもちろん重要だが、人口減にもかかわらず海に面した大都市に人口を密集させ、土地価格の高騰から地下鉄・地下街さらには地下貯水池などの地下施設を作り、浸水すれば莫大な被害が生ずるという都市計画自体を考え直す必要がある。
 では、どういう土地の使い方をするのが合理的かと言えば、*6-4及び東日本大震災の津波被害を参考にすれば、「①人は高台に住む」「②工場もゆとりを持つ高台に移動する」「③農地を低い土地に作って遊水地の働きを持たせ、遊水地部分には水害にあっても1年で回復できる作物を植え、水害復旧には国から補助をする。トラクター・コンバイン・大型乾燥機などの農機具は十分な高さのある場所に保管する」などが考えられる。そのため、以前どおりに復旧したり、むやみに仮設住宅を立てたりするのは、無駄遣いの中に入るわけだ。
 ただ、*6-4に書かれている大町町の灰塚さんの場合は、順天堂病院周辺の農地約6haであるため、県・町・順天堂病院・その他の適切な会社が買い取って介護等のサービスを受けやすいマンションや公営住宅を建て、高齢者や病院のスタッフはじめそのような住宅に住みたい人を住まわせるのが便利だと思う。そのため、灰塚さんは、この土地を耕作者のいなくなった他のよい土地と交換すればよいのではないか?
 佐賀県には、*6-5のように、九州新幹線長崎ルートが開業すると並行在来線が不便になるという問題があるが、これはJR九州に依存しすぎているからかもしれない。何故なら、埼玉県ふじみ野市(私の自宅)は、東武東上線・有楽町線(地下鉄)・東急東横線・みなとみらい線が相互乗り入れして直通運転になったため、池袋・永田町・有楽町がもともと直通だったのに加えて新宿・渋谷・横浜・元町中華街などが直通で繋がり、便利になった。*6-5のケースなら、並行在来線の運行を他の鉄道会社に移管してJR九州と相互乗り入れさせたり、ディーゼル車両ではなく蓄電池電車や燃料電池電車にしたりなど、もっと希望が持てる前向きな案が考えられる筈で、私鉄は九州にこだわらず東急など沿線の街づくりが得意な会社の方がよいかもしれない。

*6-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14274014.html (朝日新聞 2019年11月28日) (世界発2019)気候変動、ベンガルトラ窮地 200頭生息のガンジス川下流、海面上昇
 絶滅が心配されるベンガルトラの最大の生息地の一つで、インドとバングラデシュの国境地帯にあるマングローブが、気候変動による海面上昇の打撃を受けている。50年後にはベンガルトラが姿を消してしまう恐れがあるという。
■飲み水・えさピンチ、絶滅危惧に追い打ち
 野生生物の宝庫と言われ、ベンガル語で「美しい森」を意味するシュンドルボン。青森県とほぼ同じ総面積、約1万平方キロメートルのマングローブは世界最大級で、ガンジス川下流のデルタ地帯にある。数千の川や入り江が複雑に入り組む。海水の混じった汽水がマングローブの生育に適し、ベンガルトラのほか、ワニや鹿、カワイルカなど様々な生物が生息する。主要部分は国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界自然遺産に登録されている。だが、約100の島からなる現地を小型船でめぐると、豊かだったはずの自然環境は変わり果てていた。岸辺の木々は消え、泥が積み上がっている。高さ2メートルほどの急ごしらえの堤防も、少しずつ浸食されている。海面上昇が進んでいるのだ。「年間約550ヘクタールの土地が失われている。海面上昇で土中に海水が混じり降雨量の減少も加わって、土中の塩分の濃度が上がっている。ベンガルトラの飲む淡水が少なくなってしまう」。ベンガルトラの保護活動に取り組んでいる地元NGOのアニル・ミストリ代表はそう心配する。すでに二つの島が沈んだ。えさとなる鹿にも影響が出ている。世界自然保護基金(WWF)によると、世界で生存するトラは1900年からの100年間で密猟の影響などで95%減り、4千頭を切った。インドやバングラデシュ、中国などに生息するベンガルトラは、昨年時点でシュンドルボンに202頭いることが確認されている。バングラデシュ・インディペンデント大学のシャリフ・ムクル氏は、環境変化で「2070年までにベンガルトラはシュンドルボンから完全に姿を消してしまう可能性がある」と予測している。
■家・田畑に海水、1万人移住/トラ襲撃被害
 シュンドルボンには人が住む集落が50カ所ほどあるが、海面上昇で生活も脅かされている。農家のブロゲン・マンダルさん(44)は「米の収量は昨年の600キロから180キロも減った」と嘆いた。海水が森林や田畑に入り込み、土壌を変えてしまったためだ。一帯の水も海水が混じる量が増え、取れる魚の量が減っている。モハン・マンダルさん(56)一家は、海辺の自宅に海水が入ってくるようになったため、地元政府がつくった堤防の内側に移住した。「5年後には堤防が壊れてしまうかもしれない。そうなったらどこに住めばいいのか」。この数年、暑い夏が長くなり、冬が来るのが遅く短くなったと感じる。「夏は暑すぎて、太陽が地上にあるようだ」。地元報道によると、一帯では海面上昇などですでに約1万人が移住を余儀なくされている。シュンドルボン一帯は雨期になるとベンガル湾の方角からサイクロンが直撃する。島の一つで、約4万人が暮らすバリ島にはサイクロンによって大量の海水が流入することもしばしばで、土壌の塩分が多くなってしまった。住民は生活や農業のため地下30メートルほどから水をくみ上げ続け、すでに枯渇してしまった地域が相次いでいる。シュンドルボンの巨大マングローブは、04年のインド洋大津波で大きな被害を防いだこともあり、自然災害から人間を守る天然のフェンスだった。マングローブが失われれば、植物や野生動物だけでなく、人間の生活も危うい。地元NGOのミストリ氏は「人間もこの自然の一部だという認識で生態系を守らなければならない」と話す。トラが人間を襲う事故も頻発する。生息域が狭まり、えさが減っているのが原因とみられている。インド・西ベンガル州政府はトラの生息地にネットを張り巡らせ、トラの封じ込めに努めている。それでも事故は起きてしまう。蜂蜜を採集していた夫をベンガルトラに殺されたというコイシャラさん(60)は「トラは私たちにとって恐ろしい存在だったが、安全を願って共に生きてきた。その調和が壊れてしまった」と話す。

*6-2:https://www.jk-tokyo.tv/zatsugaku/107/ (東京さんぽ) 日本の標高を決める水準原点
 日本の標高は東京湾の平均海面が基準となり、それが標高ゼロメートルと決まっているそうです。その正確な高さを定めた水準原点は東京湾にあるのではなく、湾岸より地盤のよい国会議事堂前の憲政記念館(東京都千代田区永田町1-1)の庭にあります。この日本水準原点の高さは、明治6年6月(1931年)から明治12年12月(1937年) までの東京湾霊岸島で測定した東京湾の平均海面を見て決められました。水準原点は小豆島産の花崗岩でつくられた原点標石に水晶板が埋め込んであり 、この水晶板の目盛ゼロの線(法令では零分画線の中点)が基準となります。
○標高は24.4140m。
 明治24年(1891年)この場所に日本水準原点が初めて設置されたときの標高は 24.5mでしが、1923年の関東大震災によって日本水準原点の地盤が86.0mm沈下したため、その標高が24.4140mと改められました。水準原点を保存している建物は工部大学校(東京大学工学部前身)。第1期生佐立七次郎(さたち・1856~1922)さんの設計で、建物は石造りで平屋建になります。建築面積は14.93㎡で軒高4.3mローマ風神殿建築にならい、トスカーナ式 オーダー(古典建築の構成原理)をもつ本格的な模範建築で、明治期の数少ない近代洋風建築として貴重なものだそうです。また、建物正面には「大日本帝国」「水準原点」の凝った文字が右から横書きで書かれてあり、「大日本帝国」の文字が残っている建物としても貴重であり 、現在は東京都指定有形文化財(建造物)に指定されています。

*6-3:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/563324/ (西日本新聞 2019/11/28) 「氾濫危険水位」超過河川4年で5.7倍 18年474事例、28%が九州
 河川の水位がいつ氾濫してもおかしくない「氾濫危険水位」を超える事例が2018年に全国で474件に達し、うち3割近い136件を九州7県が占めたことが、国土交通省への取材で分かった。水位超過はこの数年で顕著に増加しており、都道府県が管理する河川での発生が大半を占めた。台風の強大化や豪雨の頻発が背景にあるとみられ、国交省は気候変動を見据えた治水対策の検討に乗り出した。国交省によると、水位超過は年を追うごとに増えており、全国の件数は14年(83件=うち九州8件)の5・7倍に増え、九州7県が28%を占めた。国交省は「気候変動による豪雨の増加で、河川の安全度が相対的に低下している恐れがある」と分析。九州は他地域より豪雨が多かったため、全国に占める割合が高まった可能性が高い。河川の管理主体別では、都道府県が全国で86%(412件)、九州7県で82%(112件)を占めた。九州の県別の内訳は、福岡29件▽佐賀14件▽長崎4件▽熊本16件▽大分25件▽宮崎18件▽鹿児島6件。都道府県管理は、洪水時などに甚大な被害が想定されている国管理と比べ、氾濫対策が遅れているとみられる。関東や東北で甚大な被害が出た今秋の台風19号でも、堤防が決壊した71河川140カ所のうち64河川128カ所が都道府県管理だった。群馬大大学院の清水義彦教授(土木工学)は「都道府県管理河川は予算不足などで対策が遅れがちで、(降雨時間や範囲の)規模が小さい豪雨であふれる河川もある」と指摘。水位低下につながる遊水池の設置や河道の掘削といった対策について「早急に進める必要がある」と訴える。気象庁によると、1時間に50ミリ以上80ミリ未満の降雨量を示す「非常に激しい雨」の回数は、約30年前の約1・4倍に増えた。気候変動が豪雨増加の要因と指摘され、国交省の有識者検討会は気温が2度上昇すれば洪水頻度が2倍になるとの試算をまとめ、7月末に対策強化を提言した。国交省は、社会資本整備審議会(国交相の諮問機関)の小委員会で気候変動を踏まえた治水対策の見直しの検討に入っており、国管理河川の治水計画を改定する方針。自治体にも温暖化の影響を考慮するよう促しており、都道府県管理河川の計画見直しにつながる可能性がある。

*6-4:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/563318/ (西日本新聞 2019/11/28) 「つらい」臭う田畑、油に奪われた実り…農家の無念 九州大雨3カ月
 九州北部を襲った8月の記録的大雨から28日で3カ月。鉄工所から流れ出た油混じりの水に田畑が漬かった佐賀県大町町の農家灰塚晃幸さん(64)は今季、収穫と作付けを断念した。県は土壌調査を終えて来春の営農再開を目指す方針を打ち出したが、灰塚さんの田畑には油の臭いが残り、農機具修復の見通しも立たない。「精魂込めて長年向き合った農業を奪われた」と無念さを募らせる。「今ごろは田んぼを耕して、麦をまく時期やったのに」。灰塚さんは、稲の切り株が残る田んぼを見つめた。近くのブロッコリー畑には雑草が生い茂る。4トンの収量を見込んでいた大豆は立ち枯れしたままだ。会社勤めから専業農家になって約35年。亡くなった父、安清さんが広げた順天堂病院周辺の農地約6ヘクタールを耕してきた。この夏、病院周辺の田畑の大半が大雨で冠水し、油が作物と土に付着した。自宅も床上1・3メートルまで浸水。大雨から1カ月間、避難所に暮らしながら、いても立ってもいられずに田畑を回った。10月、茶色に変色した稲穂を廃棄するために刈り取った。トラクターとコンバイン、大型乾燥機など農機具は全て修復不能に。「米に触れる部分は油が付着したらだめ。使ったら風評被害を生む」と諦めた。今月25日、大町町役場で開かれた被災農家の説明会。県と町の土壌調査では、農地153カ所のうち4カ所で水稲の生育に影響を及ぼすレベルの油を検出したと報告を受けた。灰塚さんの農地15カ所は、自然分解や石灰散布で営農再開できるレベルだった。それでも不安は消えない。「油はゼロではなく今も臭いがする。来年6月に田植えができるかどうか」。農機具の損失は4千万円相当に上る。国などの補償を受けても4割程度は自己負担になる。自宅の再建も見通しは立っていない。「全壊」判定の母屋には住めず、隣の農業小屋2階に家族3人で寝泊まりしている。いつもなら年末が近づくと自家栽培のもち米を蒸して、餅をつき、親戚に配っていた。今年のもち米は、捨てるしかなかった。正月には親戚一同が自宅に集まってカラオケ大会でにぎやかに過ごしてきたが、すでに断りを入れた。「3カ月たっても、状況は何も変わらん。何の作業もできんのがつらい」。農家の営みを失った重さが日々のしかかる。
   ◇    ◇
●罹災証明受け付け2300件
 8月の記録的大雨で被災した佐賀県。全20市町にあった避難所は10月20日までに全て閉鎖されたものの、自宅の浸水被害で戻れない人々が公営住宅67戸で仮住まいを続け、民間物件を借り上げて公費負担する「みなし仮設住宅」14戸の入居も決まっている。罹災(りさい)証明書の申請受け付けは13市町で2302件に上る。県によると、県内6市町に設置された災害廃棄物の仮置き場のうち、大町町と白石町は廃棄物を全て搬出。福岡、長崎両県の施設などと連携して広域処理が進んでいる。今月26日時点で住宅被害は全壊87棟、大規模半壊106棟など。農林水産関係や商工業など被害総額は約355億円に上る。

*6-5:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/461153 (佐賀新聞 2019年12月3日) 並行在来線ディーゼル化、速度遅く長崎線に乗り入れできず? <新幹線長崎ルート>肥前山口で乗り換えか
 九州新幹線長崎ルートの2022年度暫定開業に伴い、並行在来線となる肥前山口-諫早間を走る普通列車が、佐賀方面の長崎線に乗り入れできない可能性があることが分かった。並行在来線の一部区間は経費削減で非電化となり、速度が遅いディーゼル車両で運行するため、肥前山口駅での乗り換えが必要になる見通し。佐賀県は利便性が損なわれるとして、JR九州との協議で現行の乗り入れ本数の維持を求めている。肥前山口-諫早間は、佐賀、長崎両県が鉄道施設を維持管理し、JR九州が運行を担う「上下分離」方式を採用する。2016年の6者合意で、長崎ルートの暫定開業から23年間は普通列車を「現行水準維持」することが決まった。ただ、特急が走る肥前鹿島までは電車で運行できるが、肥前鹿島-諫早は経費を抑えるため、非電化区間となる。普通列車はディーゼル車両になり、肥前山口-諫早間で運行する。県によると、JR九州は速度が遅いディーゼル車両の長崎線への乗り入れはダイヤ編成上、困難との見方を示しているという。現行で1日に上下約30本程度の普通列車が運行し、半数以上が乗り換えを必要とせずに佐賀駅や鳥栖駅まで走っている。沿線住民の通勤通学の足として重要な役割を果たしているが、暫定開業後は一切乗り入れできなくなる可能性が出てきた。佐賀県は、JR九州や長崎県と進めている並行在来線の協議の中で、普通列車の在り方について問題提起している。JR九州が試験走行しているスピードが出る新型ディーゼル車両の導入を提案するなどしている。県交通政策課は「6者合意の『現行水準維持』は本数だけでなく、利便性も含まれる。通勤通学の時間帯の乗り入れを実現できるよう申し入れていきたい」と話す。JR九州は取材に対し、「ダイヤは需要や経営資源を考慮し、可能な限り利便性を確保するよう開業直前に決めるもので、現時点のコメントは差し控える」と回答した。

<発生主義会計採用の必要性を示す重大な事例(その1)-年金>
PS(2019/12/6追加): 政府は、公的年金制度に関し、消費税を引き上げ、金利を下げてマネーサプライを増やすというインフレ政策をとりつつ、物価スライド制を導入して、公的年金の実質受給額を減らすことに熱心だった。長寿命化により、*7-1のような中小企業で働く非正規労働者の厚生年金加入や高齢者の就業促進のための改革は必要だが、メディアや日本総研の西沢氏が、「①将来世代に目配りする改革が不十分」「②高齢者から反発が出るような制度改革がなければ、若年層からの信任は得られない」「③マクロ経済スライドの強化策を見送ったので、世代間の格差縮小という点で課題が多い」などとしているのは不適切だ。
 何故なら、③は、年金や介護保険制度が不十分だった時代に親の生活の世話や介護を行った現在の高齢者とそれを社会に任せることのできる若者との世代間格差の方がずっと大きいことを無視しており、①②は、現在の日本を造ってきた高齢者に感謝するどころか高齢者を馬鹿にする発言で、このような良識のない発言が「オレオレ詐欺」のような高齢者にたかる若者を作る温床となっているからだ。そして、現在の高齢者に対するこのような扱いが続けば、将来の年金制度は、制度が持続しても価値の小さなものになるだろう。なお、介護保険制度も介護保険料の支払者・受給者とも、全世代の働く人にすべきだ。
 それでは、「年金については、どうすればよかったのか」と言えば、厚生省(当時)が積立方式だった年金制度を1985年に賦課課税方式とし、単年度主義にしてその年の収支しか気にしなくなったため、*7-2のように、公的年金の給付水準が現役世代の負担に依存することとなり、散々、無駄遣いした上で「積み立てられた厚生年金の運用資産総額が200兆円に達している」などと呑気なことを言うようになったのが問題なのである。従って、積立方式を変更する必要はなかったのだが、今からなら発生主義に基づいた積立金を準備する必要があり、その金額の計算方法は民間企業が使っている退職給付会計と同じだ。現在の積立金と発生主義に基づいて計算された積立金の差額については、国民には全く責任がないため痛み分けする必要はなく、国債を発行して長期間で返済するしかない。

*7-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO52982720V01C19A2EA1000/ (日経新聞 2019/12/5) 75歳から受給も可能 政府の改革案まとまる
 政府が検討を進めてきた公的年金制度の改革案が5日、固まった。中小企業で働くパート労働者も厚生年金への加入を義務づけるほか、75歳から受け取り始めると月あたりの年金額を最大で84%増やせる仕組みに変える。制度の支え手拡大や高齢者の就業促進に重点を置く。ただ現在の高齢者への給付を抑え、将来世代に目配りする改革はなお不十分だ。自民党が5日開いた社会保障制度調査会を受け、まとめた。2020年1月から始まる通常国会への改正法案の提出をめざす。公的年金改革は5年に1度実施する将来見通し(財政検証)を受け、19年夏から本格的な議論が始まった。議論の土台になる財政検証で示されたのは経済が順調に推移しても、将来の給付水準は今より2割弱下がるという先細りの将来像だ。政府は厚生年金の支え手拡大で、年金制度の持続性を高めることを重視した。高齢になるとパートや嘱託など短時間勤務に切り替える人も多く、働き方が変わっても厚生年金に加入できるようにする。現状は(1)従業員501人以上の企業に勤務(2)週20時間以上働く(3)賃金が月8.8万円以上――などの条件を満たす短時間労働者が対象。政府案では企業規模の要件を見直し、まず22年10月に従業員101人以上の企業に対象を拡大。24年10月には51人以上まで基準を下げる。厚生年金には18年度末で4440万人が加入するが、厚生労働省の試算では新たに65万人が加入する見通しだ。企業規模の要件を101人以上に見直すと、将来世代の所得代替率(現役会社員の手取りに対する高齢夫婦世帯の年金額の割合)は約0.2%改善する。対象を51人まで拡大すると改善幅は約0.3%まで広がる。将来不安に備えるには65歳を過ぎても健康な間はできるだけ長く働いて、公的年金はいざという時まで取っておけるようにもする。その中核になるのが年金の受け取り開始年齢の引き上げだ。今は原則65歳が受給開始年齢で、60~70歳の間で時期を選べる。これを75歳まで延ばす。受取時期を1カ月遅らせるごとに月あたりの年金額は65歳で受け取るより0.7%増える。75歳まで遅らせると84%増だ。19年度の厚生年金は夫婦2人のモデル世帯で月22万円。賃金や物価などの変動を考慮しなければ、75歳まで繰り下げた際の年金額は40万円強に増える。海外では平均寿命の延びに合わせて支給開始年齢を遅らせる国もあるが、選択肢の拡大で対応する。働く高齢者の年金を減らす「在職老齢年金」も見直す。今は60~64歳の場合、厚生年金と賃金の合計が月28万円を超えると年金の一部が支給停止になる。働いても収入が変わらず、就労意欲をそぐとの批判があった。この基準額を47万円に上げる。19年度末の試算では、新たに46万人に対して約3000億円の財源が必要だ。公的年金の支給額を抑えて制度の持続性を高める「マクロ経済スライド」の強化策は見送った。物価や賃金が低迷している時は機能せず、04年の導入から発動したのは2回のみ。調整が機能しなければ、高齢者の年金は維持されるが将来世代の給付水準は下がる。日本総合研究所の西沢和彦氏は「高齢者から反発が出るような制度改革をしなければ、若年層からの信任は得られない」と指摘する。世代間の格差縮小という面でみると課題は多い。

*7-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191204&ng=DGKKZO52929710T01C19A2EN2000 (日経新聞 2019.12.4) 厚生年金のあるべき資産構成
公的年金について、5年に1度の財政検証が行われた。これに伴い、厚生年金の運用資産構成の見直し、すなわちモデルポートフォリオの新たな検討が進んでいる。現在、厚生年金の運用資産総額は200兆円に達しつつある。公的年金の給付水準維持が現役世代の負担に依存するとはいえ、現時点で積み立てられた膨大な資産とその運用収益がクッションとなる。この意味で、資産運用の枠組みとしてのモデルポートフォリオは重要である。それにもかかわらず、モデルポートフォリオに関する議論が密室で行われているようだ。専門家にしか理解できない議論なのか。そうだとしても、素人からも意見がある。第1に、各資産の収益率に関して。今後の国内債の利率がほぼゼロであり、当面その上昇は期待薄だ。だとすれば、ポートフォリオでの国内債割合を低くし、その分を他の資産に移すべきだろう。第2に、資産を移管する先としての株式について。ひとつに、株式を国内と海外に分ける意味である。国内で元気な企業は、海外でも元気であり、利益の相当部分を外で稼いでいる。これは国内企業の海外化であり、株式を内外に分ける合理性を消滅させている。さらに、海外株の投資パフォーマンスが国内株を上回って久しい。海外経済の成長率が日本を上回っているためである。以上からすれば、内外の株式の区分をなくし、株式全体としての資産配分を考えるのが正しい。第3に、株式投資のベンチマークとしてのインデックスの再考である。国内株式について、上場区分とともに、インデックスの構成企業を見直そうとの議論が本格化する。これまで公的年金が信奉してきた東証株価指数(TOPIX)が絶対ではなくなった。第4に、50年、100年に一度のリスクへの対応である。公的年金のそもそもの目的は国民の安定的な老後生活にある。このことから、経済的な変動だけではなく、自然災害への目配りが必須となる。とくに、間近に迫っていると政府が注意喚起している南海トラフ大地震である。ポートフォリオの基本は分散投資である。大地震のリスクにさらされた日本に置くべき資産を調整するのは当然だろう。密室であってもいいが、以上に留意した議論を期待したいものだ。

<発生主義会計採用の必要性を示す重大な事例(その2)-固定資産>
PS(2019/12/9追加):*8-1・*8-2のように、国や地方公共団体のインフラ老朽化が進んだとして、事故が起きてからあわてて維持・管理を議論し、予算の獲得合戦をし、原因を専門スタッフの不足・無駄な公共事業の削減・人口減などに結び付けて誤った“解決策”に導かないためには、固定資産台帳を整備して存在する固定資産は網羅的に取得価額・耐用年数・減価償却・修繕等の状況を把握し、物理的・金額的に管理しておく必要があった。しかし、地方公会計の統一基準が採用された地方公共団体の固定資産台帳でさえ、現在は整備済17.9%、整備中35.9%、未整備46.2%であり(新地方公会計統一基準の完全解説P51~93など参照)、国はもちろん未整備である。そして、漏れなく重複なく金額の重要性に応じて必要な維持管理を行うには、複式簿記による会計を行って資産・負債・引当金などを正確に把握していることが必要であり、民間企業は、皆そうしているのだ。そして、それらの正確な資料を基に、例えば上下水道・ごみ処理・道路・橋などのインフラの維持管理をどう効率化するか、広域化して地方公共団体が所有するか、民営化するか、どのくらい国の助成を求めるかなどを議論する必要があるわけだ。
 なお、中央自動車道笹子トンネルで、ずさんな点検により老朽化を見落とし、天井板が崩落して9人が死亡した事故は、目視や音で老朽化の診断をしていたというので驚いた。医療に例えれば、年齢も考えず、顔色を見て聴診器で音を聞いただけで、検査はしなかったのと同じで、21世紀の維持管理や検査からはほど遠い。つまり、固定資産のメンテナンスは、鉄道会社や工場と同様、それを獲得した瞬間から効率的に行っておくべきものなのである。


  地方公会計の導入経緯     地方公会計の完成度       国の会計

(図の説明:左図のように、2020年3月末までに、統一基準による地方公会計が全国の地方公共団体で適用されるが、中央の図のように、複式簿記による発生主義会計は、単式簿記による現金主義会計の補完という位置づけだ。その理由は、日本国憲法及び財政法が、単式簿記による現金主義会計を前提としているからだそうで、これが計画性のない無駄遣いの原因になっている。しかし、膨大な資産・負債や収支を伴う国の会計基準は、右図のように、未だ単式簿記による現金主義会計のみであり、税金と保険料や収入と借入金などをごっちゃにしている状況だ)

*8-1:https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20190718-OYT1T50341/ (読売新聞 2019/7/19) 地方のインフラ 進む老朽化への対策急ぎたい
 老朽化が進む地方のインフラ(社会基盤)をどのように維持・管理していくか。重い課題の克服へ有効策を探りたい。全国の道路や橋、トンネル、水道管などは高度成長期に集中的に整備された。このため、多くが一斉に耐用年数を迎えつつある。地方自治体は人口減などで財政が厳しく、更新や補修に十分対応できていない。自民党は参院選の公約で、防災や減災のための「国土強靱きょうじん化」を掲げる。ただ、老朽化への対応策は具体性を欠く。立憲民主党や国民民主党は、地方インフラの維持に言及していない。喫緊の問題で論戦が低調なのは残念だ。2012年に起きた中央自動車道・笹子トンネルの天井板崩落事故を受け、国と自治体はインフラの点検を強化している。読売新聞が今年、国と自治体に行った調査では、点検で損傷度合いが最も深刻だと判定された580か所のうち、4割近くで修繕や撤去の見通しが立っていない。大きな事故が起きてからでは遅い。優先順位を付け、効率的に改修したい。損傷前にこまめに補修する「予防保全」が有効となる。ドローンなどの先端技術による点検の省力化も進めるべきだ。水道管は、総延長の約15%が40年の耐用年数を過ぎている。多額の更新費用が重荷となる。現状でも、水道事業の経営は危機的だ。全国の公営上水道事業は、約3割が赤字である。さらに人口が減れば収益は先細りとなる。水道法改正で、今秋から運営権を民間に売却する「コンセッション方式」が導入しやすくなる。民間ノウハウを活用して効率化を図る狙いだが、安全面の不安などを理由に自治体は消極的だ。利用者の理解なしには実施できまい。事態を打開する方策として、公営事業の広域連携がある。給水人口の少ない公営事業者が、施設の共有や工事の一括発注などを進めれば、経費を削減できる。積極的に取り組んでもらいたい。すでにゴミ処理や消防、公立病院の再編などで広域化の動きが広がっている。利害を調整しつつ、共助の動きを広げるには、都道府県の役割が重要になる。人口減少への対策では、中心部に都市機能を集約する「コンパクトシティー」の推進も有力な選択肢といえる。住居や商業施設などに加え、公共施設などのインフラも集中させることで、行政のコストを抑えることができる。各地方の実情に合わせ、具体策を練り上げる必要がある。

*8-2:https://www.sankei.com/west/news/170710/wst1707100006-n1.html (産経新聞 2017.7.10) 迫りくる崩壊(1)老朽化「いずれ橋は落ちる」20年後、7割が建設50年超
 高度経済成長期に整備が進んだインフラが老朽化している。人命に関わるこの危機に国や自治体などがどう立ち向かおうとしているのか、その現状を探る。1967(昭和42)年12月、米国のウェストバージニア州とオハイオ州を結ぶ吊り橋「シルバー橋」が突然崩壊し、46人が犠牲となった。約40年前に建設されたこの橋は補修や点検が十分に行われず、老朽化に伴う金属疲労が進んだことが原因だった。日本より30年早く1920~30年代に急速に道路や橋の整備が進んだ米国。しかし、十分な維持管理費が投入されなかった結果、耐用年数の目安とされる50年が経過した80年代には道路や橋の老朽化によって事故が相次ぐようになる。「荒廃するアメリカ」といわれ、社会問題になった。「米国再興のためインフラ整備に1兆ドル(約113兆円)を投じる」。昨年の大統領選では、そんな公約を掲げたドナルド・トランプ氏が当選を果たした。
■   ■   ■
 日本でも平成24(2012)年12月、恐れていた事故が起きた。山梨県の中央自動車道笹子(ささご)トンネルで、ずさんな点検によって老朽化を見落とした結果、約140メートルにわたって天井板が崩落。車3台が下敷きとなり、9人が死亡した。米国での事故と日本での惨事。国土交通省の徳山日出男・道路局長(26年当時)は部下にこう檄を飛ばした。「いずれ必ず橋も落ちる。住民が巻き込まれて自分が刑事被告人になったつもりで書け」。26年4月、国交省の社会資本整備審議会道路分科会で「道路の老朽化対策の本格実施に関する提言」がとりまとめられた。「最後の警告-今すぐ本格的なメンテナンスに舵(かじ)を切れ」との副題がついたこの提言の前文にはこうある。「今や、危機のレベルは高進し、危険水域に達している。ある日突然、橋が落ち、犠牲者が発生し、経済社会が大きな打撃を受ける…そのような事態はいつ起こっても不思議ではない」。戦後から高度成長期にかけて多くの整備が進んだ道路や橋、トンネル、上下水道。それらのインフラが耐用年数の目安である50年を経過しつつある今、かつて米国で起きた落橋事故も現実味を帯びる。もし、同様の重大事故が発生すれば一体誰が責任を負うのか。
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 笹子トンネルの事故では、責任追及の矛先は道路を管理する中日本高速道路と子会社に向けられた。犠牲者9人のうち20代の男女5人の遺族らが原告となった訴訟では、横浜地裁が「目視だけの点検を選択した過失があった」として会社側の過失を認め、総額4億4千万円余りの賠償を命じる判決を言い渡した。この事故では高速道路会社が責任を負ったが、国道や都道府県道、市町村道などの道路や、それらにかかる橋の場合、管理者の国や自治体が責任を負うことになる。
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 危機感を募らせた国交省は、26年から自治体などに対し5年に1度の定期点検を義務づけた。その結果、28年3月までに点検を終えたもののうちトンネルの46%、橋の12%で修繕が必要と判断された。建設50年を超える割合は、今から20年後にはトンネルが57%、橋が71%にまで達する。昭和45年の大阪万博前後にインフラ整備が進んだ近畿地方でも今から20年後には橋の約7割(約4万4千橋)が建設50年を超えるが、全国の橋の7割以上を管理する市町村では慢性的な財政難に陥っている。同省が平成28年、全国の自治体に現在の予算規模で修繕が可能か尋ねたところ、約6割の市町村が「不可能」と答えた。さらに、人口減に伴う技術者不足が追い打ちをかける。同省の調査では、市町村の土木部門の職員数は8年度から25年度までに約3割減少。特に道路の維持・管理業務を担当する職員が「5人以下」の市は全体の約2割、村では9割以上にも及んでいる。「このままでは対応しきれない」。衝撃的な数字に同省幹部らは頭を抱えた。

<発生主義会計採用の必要性を示す重大な事例(その3)-原発>
PS(2019/12/10、12追加):*9-1のように、原発の本当のコストは、電力会社が支払う建設費のほかに、フクイチ事故後の損害賠償・廃炉・除染等の費用を国が支えて国民負担になっているが、一般企業の場合は、汚染物質は外に出さず、外に出したらその企業が回収するのが原則だ。さらに、汚染土の放射能濃度が8千ベクレル/kg以下なら公共事業の盛り土などに使えるようにするというのも、該当する地域の住民を犠牲にする行為だ。また、原発立地地域には、電源三法交付金制度(1974年制定:電源開発促進税法・電源開発促進対策特別会計法・発電用施設周辺地域整備法、https://www.fepc.or.jp/nuclear/chiiki/nuclear/seido/index.html)により、国民から集められた資金が政府から約3500億円(2015年のケース)配賦されており、使用済核燃料の保管場所も未だ決まっていないが、いずれも国民負担になるものだ。なお、これらは、本来は発生主義で費用を認識し、負債性引当金を積んでおかなければならないものである。
 一方、*9-2のように、2020年に「パリ協定」の本格始動を控える中、日本はCO₂を排出する石炭火力発電所の建設計画が10基以上あり、開発途上国に石炭火力発電所の輸出も行っているため、「化石賞」を贈られる事態となっている。しかし、「化石燃料を燃やす代わりに原発にする」というのは、海水温の上昇を促進させる上、原発事故による深刻な環境汚染とも隣り合わせであるため、薦められないわけだ。
 そのため、環境問題解決のためのエネルギー革命期を迎えている現在、*9-4のノーベル化学賞受賞者の吉野さんが記念講演で述べられたとおり、再生可能エネルギーと電池がエネルギー革命の中心になることは明らかだ。日本は、化石燃料もウランも乏しい国だが、再生可能エネルギーは豊富で、これに電気自動車を組み合わせれば、環境・経済・利便性・エネルギー自給率の向上という要件をすべて満たして発展することが可能で、いずれも日本発の技術なのである。
 なお、水素はロケット燃料として使われているエネルギーで、再生可能エネルギー由来の電力で水を電気分解すればCO₂を出さずにいくらでもできるので、*9-3のように、「①川崎重工が世界初の液化水素運搬船の進水式を実施し」「②オーストラリアで採った安価な石炭から水素をつくって日本に輸入する予定で」「③JXTGホールディングスはLPGを原料に水素を生産してFCV向けに水素を供給している」「④水素で発電するよりLNGや石炭で発電した方がコストが安い」などと言っているのには呆れる。何故なら、日本は水と再生可能エネルギーは豊富な国で、海の水を電気分解すれば水素・酸素・塩が同時にでき、その時にCO₂その他の排気ガスは全く出さず、液化水素運搬船は水素の輸出用に使った方がよいくらいだからだ。なお、水素による燃料電池も、自動車だけでなく航空機・船舶・列車等々に応用可能な日本発の技術である。

  

(図の説明:左図のように、2017年の日本のエネルギー自給率は7.4%で、他の先進国と比較して著しく低い。また、中央の図のように、世界の発電コストは、2018年には原子力が最も高く、風力・太陽光が安くなっている。このほか、日本は、右図のような地熱も豊富だ)

*9-1:https://digital.asahi.com/articles/ASM1L4W0PM1LULFA013.html (朝日新聞 2019年1月23日) 原発の本当のコストは? 経産省の「安い」試算に異論
●エネルギーを語ろう
 日立製作所が英国での原発計画を凍結したことは、原発がもはや安い電源と言えなくなった現実を私たちに突きつけました。原発や事故処理のコストをどう考えたらいいのでしょうか。電力のコスト分析に詳しい大島堅一・龍谷大教授に聞きました。
●経産省のコスト試算「甘すぎ」
―経済産業省が2015年に示した2030年時点の発電コスト(1キロワット時)で、原発は10・3円となっていて、天然ガス火力(13・4円)や石炭火力(12・9円)より安く試算されていました。
 「原発の建設費の想定が甘すぎます。福島の事故以前に建設されたような原発を建てるという想定で建設費を1基4400億円とし、そこに600億円の追加的安全対策を加算するというものです。設計段階で安全性の高い原発を想定しないという非常に奇妙な試算です」
―試算に使われた事故の発生確率にも疑問を呈していますね。
 「経産省の試算では、追加的な安全対策を施すので、(福島第一原発のような)『過酷事故』が起きる発生確率は半分になるとしています。素朴な疑問ですが、なぜ、半分になるのでしょうか?」
●原発建設費 2基で3・5兆円も
―原発の建設費は世界的にみても高騰しています。
 「英国で計画中の『ヒンクリーポイントC原発』(160万キロワット級×2基)の建設費245億ポンド(欧州委員会の14年の想定。直近の為替レートで日本円に換算すると約3・5兆円)です。それが大事なファクトです。メルトダウンした核燃料を受け止めるための『コアキャッチャー』や、大型航空機の衝突に耐える二重構造の格納容器など、安全性能を高めたためです。経産省の試算のように安くできるはずがありません」
―こうした状況を踏まえた場合、原発の発電コストはいくらになるのですか?
 「私は、原発の1キロワット時あたりの発電コストは17・6円になると試算しています。米電力大手エクセロンの経営幹部は昨年4月、『新しい原発は米国内では高くてもう建てられない』と発言しています。日立製作所も想定した収益が見込めないとして、英原発輸出計画を凍結しました。そんな現実からしても17・6円は外れていないと思います。もはや原発にコスト競争力はありません。斜陽産業として、いかに『たたむか』を考える時です」
●重い国民負担 東電の責任は
―福島第一原発事故後、当時の民主党政権は東京電力を潰さずに国有化し、損害賠償の支払いなどを国が支える枠組みをつくりました。この枠組みをどうみますか?
 「残念なのは、東電の責任について議論を尽くさず、あいまいにしてしまったことです。それで国がずるずると事故費用を出す形になり、結果的に国民負担を大きくしています。環境汚染の費用は汚染者が負担する『汚染者負担原則』がありますが、それから逸脱しており、大問題だと思います」
―損害賠償に加え、廃炉や除染などの費用が膨らんだ結果、事故費用の総額が21・5兆円に倍増したとして、経産省は16年に新たな負担の割り振り策をまとめました。
 「これも大問題です。経産省は賠償費用の新たな増大分についても電気料金から払うことにしました。福島の事故以前に電気料金の中にその費用を組み込んでいなかったので、国民にはそのツケがある、という理屈ですが、それは違います。東電のツケですよ。もしJRが事故を起こしたら、国民にツケがあるといって運賃から事故費用を徴収しますか?」
―廃炉費用は東電の送電部門の合理化益を充てる、除染費用は東電株の将来の売却益を充てる、ということになりました。
 「これもおかしな仕組みです。(電力会社がコストを電気料金に上乗せする)『総括原価方式』の理念からすれば、仮に送電部門で合理化益が出たら、料金を下げるべきです。除染費用でアテにする東電株の売却益も、元々は国費を使っているので、売却益が出たら国庫に戻すべきです」
―では、どのように事故費用を捻出すればいいのでしょうか。
 「『汚染者負担』が原則ですが、もしそれでは対応できないということなら、国会で東電の責任問題をしっかり議論し、『国にも責任があった』と見える形にして、税金でまかなうという判断はあってもいいと私は考えます。しかし今の負担の割り振り策では、事故費用を電気料金から、『こっそり』取るようなやり方だと言わざるを得ません」
●実態に合ってない「復興」
―一方、政府は放射能濃度が1キロあたり8千ベクレル以下となった汚染土を公共事業の盛り土などに使えるようにしました。
 「汚染土の最終処分の量を減らしたいからでしょう。それは、ひいては東電の費用負担を減らすことになります。さらに新たな除染を国の公共事業とみなす措置もできました。これも東電が支払うべき費用を軽くしているのです」
―政府が進めている避難者の帰還政策をどう見ていますか。
 「避難指示の解除を受けて避難者が帰ったかというと、実際には様々な理由で帰れない方が多いのです。でも解除したので賠償は打ち切ります、と。実態に合っていないのです。復興の実態が伴っていないのに『問題はもうなくなりました』とされてしまうことを私は恐れています」
     ◇
大島 堅一(おおしま・けんいち)龍谷大学教授(環境経済学)。1967年福井県生まれ。一橋大大学院経済学研究科博士課程単位取得。著書に「原発のコスト」(岩波新書)、共著に『原発事故の被害と補償』(大月書店)など。脱原発社会に向けた政策提案を続けるシンクタンク「原子力市民委員会」の座長も務める。

*9-2:https://www.fnn.jp/posts/00049284HDK/202001311454_reporter_HDK (FNN PRIME 2019年12月6日) 「地球は大幅に温暖化」の衝撃報告書!日本は“批判の的”…小泉大臣は何を語る?COP25開幕 
・「パリ協定」の本格始動を2020年に控える中、「COP25」開幕
・各国の削減目標では大幅な気温上昇は不可避
・石炭火力推進の日本は批判の的…積極的な発信ができるか
●「大幅な気温上昇不可避」報告書 国連事務総長は危機感あらわ
 地球温暖化対策を話し合う国連の会議「COP25」が12月2日からスペイン・マドリードで開幕した。
△国連 グテーレス事務総長;今のままの努力では不十分なのは明らかだ
 国連の事務総長は、開幕を前にした記者会見で各国に対し、温室効果ガスの削減目標を引き上げるなど対策の強化を表明するよう求めた。この発言のもととなったのは、COP25開幕前に公表された、国連環境計画(UNEP)の衝撃的な報告書。各国が、パリ協定で目標として現在提出している温室効果ガスの排出削減量を達成したとしても、『世界の気温は産業革命前から3.2度上昇する』というのだ。つまり現在の各国の削減目標では、大幅な気温上昇は避けられない危機的な事態だという。仮に、気温を1.5度上昇に抑えるためには、現在年1.5%ほど増えている排出量を、毎年7.6%減らす必要があると分析している。パリ協定では各国に対し、2020年2月までに、現在提出している削減目標を引き上げたうえでの再提出、もしくは更新することを求めている。一方で、数値目標の引き上げも再提出も義務ではなく、求められているだけという状況がある。そのためグテーレス事務総長は、COP25の会合のなかで、各国が温室効果ガスの削減目標の引き上げを表明することで、気候変動問題の機運を世界全体で高めていくことを求めているのである。
●”日本は温暖化対策に消極的”国際的な批判も・・・
では、日本はどうなのか。国連環境計画の報告書では、各国の取り組みに対しても言及していて、日本についての記述もある。「石炭火力発電所の建設を中止するほか、再生可能エネルギーを利用することで石油の利用を段階的にやめていくこと」。日本では、二酸化炭素を排出する石炭火力発電所の建設計画が現在も10基以上ある。そのうえ、途上国へ石炭火力発電所の輸出を行っていることで、国際的な批判を受けている。しかし、梶山経済産業大臣はCOP25が開幕した後の12月3日の会見でこう述べた。
△梶山経済産業大臣;石炭火力発電など、化石燃料の発電所は選択肢として残していきたい
 国際的な環境NGOのグループは、温暖化対策に消極的だと判断した国や地域に、皮肉をこめて「化石賞」を贈っている。梶山大臣の発言を受けて、早速 日本は12月3日、COPの会場内で「化石賞」を贈られる事態となってしまった。
●日本の発信に世界が注目 ギリギリの調整続く
 日本は、国際的な批判をどのように巻き返せるのか。「気候変動問題は、クールでセクシーに取り組むべきだ」と発言して、国内外から注目された小泉進次郎環境大臣もCOP25に出席する。そして、11日には閣僚級会合でスピーチを行う予定だ。ここで日本の石炭火力発電所に対する姿勢、そして数値を引き上げたうえでの削減目標の再提出について言及があるのか、世界は注目している。小泉大臣はこれまで、会見で「数値目標の引き上げは検討していきたい」としながらも、「関係機関の調整があるので、数値の引き上げ以外の方法も考えたい」とも話している。11日のスピーチについても、石炭火力発電についても言及する方向で調整しているが、どこまで発言できるのか。政府内の調整がギリギリまで行われているのが現状だ。2020年からパリ協定が本格的に始まるのを前に、アメリカは正式に離脱を通告。世界的な機運に水を差しかねない状況の中、気候変動問題で日本が孤立しないためにも、今回のCOP25で積極的な発信・行動力を求めたい。

*9-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191212&ng=DGKKZO53243570R11C19A2TJ2000 (日経新聞 2019.12.12) 川重、世界初の水素運搬船 進水 来秋に完成 豪で液化し日本に
 川崎重工業は11日、世界初となる液化水素運搬船の進水式を実施した。2020年秋に完成させる。同社は丸紅やJパワー、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルなどと組み、オーストラリアで採った安価な石炭から水素をつくり、日本に輸出するプロジェクトに取り組んでいる。今回の運搬船を使い、オーストラリアで生産した水素を日本に運ぶ実証を20年度に始める。11日、川重の神戸工場(神戸市)で行われた進水式にはリチャード・コート駐日オーストラリア大使や、トヨタの内山田竹志会長らの関係者を含め計4千人程度が出席。「すいそ ふろんてぃあ」号と名付けられた全長116メートルの運搬船は今後、水素を格納するタンクなどをつける。水素はセ氏マイナス253度まで冷して液化すれば体積を800分の1に圧縮でき、大量に輸送できる。水素はこれまでロケットの推進燃料などとして使われてきたが、用途は広がっている。トヨタ自動車は10月に水素を使う燃料電池車(FCV)「ミライ」の新モデルを公開。国内石油元売り最大手のJXTGホールディングスは横浜市の拠点で液化石油ガス(LPG)を原料に水素を生産。全国41カ所のステーションでFCV向けに水素を供給している。調査会社の富士経済は、30年度の水素関連市場は18年度比50倍以上の4085億円に膨らむと試算。燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出しない水素は、低炭素社会を実現する切り札として期待が高まっている。中東情勢が緊迫化する中、化石燃料に依存するリスクが浮き彫りになっていることも背景にある。課題はコストだ。現状では水素で発電するよりも、液化天然ガス(LNG)や石炭で発電した方が大幅に安い。LNGと同じくらいのコスト競争力を実現するには、国際的な供給網(サプライチェーン)の確立と大量輸送の実現がカギを握る。川重は30年ごろの商用化を目指し、大型船の開発も進める方針だ。

*9-4:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53100260Y9A201C1I00000/ (‪日経新聞 2019/12/8) ノーベル賞吉野彰さん講演 「電池がエネ革命の中心に」
 ノーベル化学賞を受賞する吉野彰・旭化成名誉フェローは8日午前(日本時間8日夜)、ストックホルム大学で記念講演した。授賞理由となったリチウムイオン電池の開発経緯や展望を紹介。環境問題解決のためのエネルギー革命の時代を迎えていると説明し、「リチウムイオン電池がその中心になる」と話した。記念講演は「ノーベルレクチャー」と呼び、10日夕に開く授賞式の関連行事になっている。吉野氏は「リチウムイオン電池の開発経緯とこれから」というタイトルで、化学賞を同時に受賞する3氏の中で最後に講演した。吉野氏は、過去の発火の危険を調べる実験の映像などを映し出しながら、「電極に炭素を使う実験がうまくいき、安全な電池として市場に出せると確信した」と語った。リチウムイオン電池は環境問題の解決に重要な役割を果たすとし「特に電気自動車が世界の市場を大きく変えていく」と力を込めた。「環境、経済、利便性が同じように発展していくことが重要だ」と訴え、電気自動車や人工知能(AI)が人々の生活を支える未来社会の映像を流した。「これからのエネルギー革命にリチウムイオン電池が中心的な役割を果たす」という言葉で講演を締めくくると、会場からは大きな拍手が起こった。終了後にはノーベル化学賞を受賞する3氏が壇上に並び、会場からの祝福に応えた。

| 日本国憲法::2019.3~ | 09:45 PM | comments (x) | trackback (x) |

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