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2020.1.11~12 まともな議論ができない立法府、議論の土台となる正確な資料を作れない行政府、不勉強なくせに傲慢な検察のゴーン氏逮捕と日本の司法の闇について (2020年1月13、14、17日に追加あり)
(1)日米貿易協定発効


 2019.9.26   2019.10.19     2019.11.19      2019.11.16
日本農業新聞   日本農業新聞      Yahoo        東京新聞

(図の説明:さくら国会であまり話題に上らなかったが、日米貿易協定では、左の2つの図のように、農業への影響が大きいにもかかわらず、右の2つの図のように、本質を突いた議論があまりなされなかった。これは、日本では、感覚の遅れた行政が調整して政策を決め、国会はそれに追随しているだけで、民主主義がうまく機能していないことを意味する)

 2020年1月1日に、*1-1のように、日米貿易協定が発効したが、TPPは2018年末に、EUとのEPA2019年2月に発効しているため、これによって日本の農業生産額は減少すると思われる。国会議決の際に与党が賛成、野党が反対だったのは、実際には貿易自由化を進めたのが経産省だからだ。

 一方、日本は自動車及びその部品をの攻めの分野として“カード”として使おうとしたが、関税撤廃は継続協議となり、得たものはなかった。

 そして、農業に関しては、いつも生産基盤強化や農業者の支援のためとして予算がつけられるが、これまでも同様の政策がなされてきたのに離農者が多いため、その費用対効果は検証する必要があり、効果が低いのなら「桜を見る会」どころではない額の選挙目的のバラマキであるため、政策を根本的に考え直す必要がある。従って、費用対効果を正確に把握できる国の会計処理と正確な統計が必要なのである。

 なお、*1-2のように、政府は、「①日米貿易協定が発効しても日本の農家の所得や生産量は一切減らない」「②万全の国内対策を打つ」と述べているそうだが、①はあり得ないので「③日本農業が受ける影響はどの程度か」を正確に見積もらなければ、②の万全の対策は打てない筈だ。このように、日本の立法・行政は理論的で建設的な議論を行わず、感情的な言葉だけが飛び跳ねているわけである。

(2)日本の自動車産業は本当に強いのか?

   

(図の説明:左図のように、2018年11月逮捕時のゴーン氏の容疑は、役員報酬の過少記載による金融取引法違反だったが、「これだけでは罪にならない」と見て、検察は2019年4月に会社資金の私的流用による会社法違反を罪状に加えた。しかし、日産と司法取引して逮捕したのなら、最初から容疑はすべてわかって書面によるバクアップもあった筈なので、こういうところからもゴーン氏を有罪に陥れるためにない頭を絞って罪を探していることがわかり、これが人権侵害なのである。さらに、中央の図のように、日産と司法取引しながら、たったこれだけの容疑を整理するのに2年もかかっているのはのろく、これでは最高裁まで闘ったら高齢になっても結論が出ておらず、人権侵害も甚だしいわけである。この際、一人の人間が築き上げた人生を台無しにするのに、「忙しいから時間がかかった」などというのは言い訳にもならない)

1)ゴーン氏逮捕事件の本質
 私は、このブログの2018年12月4日・2019年4月6日などに記載したとおり、「ゴーン事件の本質は、経営上の争いに司法取引を用い、“私利私欲にまみれた独裁者”というレッテルを張って実績あるリーダーを追い出したことだ」と最初から見ていた。

 そのため、先見の明を持ってリーダーシップを発揮していた(こうすると日本では“独裁者”と言われることが多いのだが)ゴーン氏をなくした日産が、経済産業省出身で社外取締役の豊田氏が薦めるガバナンス改革を行えば、漂流し始めることは予測できたので、*2-2のように、日産の業績が悪化し、*2-1のように、西川氏が辞任することになったのは想定内だった。

 また、2010年にオランダに設立された子会社「ジーア社」は、法務部門を所管する外国人の専務執行役員の告発によると、リオデジャネイロやベイルートでゴーンが使う住宅の購入費・改修費を支払っていたそうだが、「イ.その告発は正確なのか」「ロ.刑事事件に相当する違法行為なのか」についても検討する必要があった筈だ。

 東京地検特捜部はゴーン氏に、「①役員報酬の未払い分を隠した金融商品取引法違反」「②日産の資金を不正送金した会社法違反」という容疑を示したが、①は本来ゴーン氏が受け取れる筈の役員報酬をメディアが多すぎると叩いてできた法律で、株主が納得していれば問題ない性格のものである。そして、このような経営者叩きを続けていれば、外国人のみならず日本人でも有能な人は日本で会社を作らず上場もしなくなる。また、②は、日本人にはなじみのないやり方でも、販促であって不正でない場合もあるため、短絡的な解釈は禁物だ。

 そして、ゴーン氏は、2019年6月24日に東京地裁で行われた公判前整理手続きにケリー氏とともに主席し、保釈中、弘中弁護士の事務所に通って弁護団と議論を重ね、弁護団はゴーン氏の認識や記憶を前提に公判での主張を組み立てて公判で予定する主張内容を、2019年10月17日、既に裁判所に提出しているので、日本の検察や裁判所はいつでもそれを参照できる。しかし、それ以上の証明や反論は、日本の司法の支配下にいてはできない事情があるのである。

2)ゴーン氏の出国
 検察が容疑者としてメディアに発表した途端、日本のメディアは、*3-1のように、「ゴーン被告」と呼んで犯罪人扱いをし、殺人犯かレイプ犯ででもあるかのような保釈条件を求めた。つまり、ここでは「無罪の推定」は働いておらず、日本のメディアは「有罪の推定」を働かせ、「言論の自由」「表現の自由」と称して無節操なイメージ操作をしてきたのである。

 そのため、無断ででも出国しなければ、日本メディアのしつこい情報操作に負ける上、検察が書類を押収して都合の悪い証拠は出さず、このままでは本人が無罪の証拠を出すこともできないため、ゴーン氏は出国を選んだのだろう。私は、出国に成功してよかったと思う。

 日本の検察は、有罪が確定する前からまるで有罪が確定しているかのようにメディアに知らせ、メディアは疑問も持たずに裁判抜きで人を貶める報道をいっせいにしたのだから、ここでゴーン氏が日本のメディアを外して他国を中心としたメディアと自由にコミュニケーションを取ったのは当然である。

 また、ゴーン氏は、*3-5のように、プロの力を借り、プライベートジェットを使って、出国に際しては楽器箱に隠れて関西空港からトルコ経由でレバノンに入り、*3-2のように、「有罪が前提の政治的な迫害を逃れた」という声明を発表し、*3-4・*3-6のように、「事件は自らを引きずり下ろすクーデターだ」等々と記者会見で述べているが、これを批判するのは当たらないと思う。

3)今度は「違法出国」が罪とは・・
 このように、ゴーン氏の容疑内容は、2019年6月24日の公判前整理手続きで既に行われており、出国するにはそれだけの理由があったため、*3-3のように「違法出国が法秩序を踏みにじる行為だ」などという主張をする前に、ゴーン氏の刑事事件としての逮捕と長期の拘束が日本国憲法に定められた人権侵害にあたらないのかを反省すべきだ。

 森雅子法相は、*3-3のように、「刑事裁判そのものから逃避し、許されない」と批判し、東京地検の斎藤次席検事は「日本の刑事司法制度を不当におとしめる主張で到底受け入れられない」とコメントしているが、刑事裁判に当たる事案か否かも含め、日本の司法の公正性が信頼できないので避けたのだから、この根本を忘れずに日本国憲法に沿った司法に改めるべきだ。

 上記が、*3-7の琉球新報社説への私の説明でもあり、さらにゴーン氏の場合は、大切な人を人質にとられたのではなく自分が不当に長く拘束され、権利を大きく制限されたのだから、「人質司法」というよりは「拷問」「人権侵害」と言う方が正しい。

 また、日本では検察が起訴した途端に「推定有罪となり、検察のメンツのために無罪の人が刑務所に入れられ、有罪率が99.4%で、反証は殆ど取り上げられない」ため、その本質を改革すべき森雅子法相が、「(逃亡は)どの国の制度でも許されない」と批判したのは本質を理解しておらず、*3-8のように、ゴーン氏が「法相の発言は愚か」と言うのは理解できる。

 なお、法務省は、森雅子法相が「潔白だと言うのなら、(日本の)司法の場で正々堂々と無罪を証明すべきだ」と発言したことを3カ国語でHPに掲載したそうだが、刑事裁判では「推定無罪」の原則が働き、逮捕するにあたっては逮捕時に逮捕理由を説明し、検察官が有罪を立証しなければならないのであるため、森雅子法相は弁護士の割には知らなすぎる。

(3)単なる情報戦ではなく、人権を求める戦いである
 ゴーン氏の出国については、*4-1・*4-2のように、海外メディアは好意的だそうだが、私は中国でもとっくの昔に卒業した“文化大革命”のようなことを言っている日本のメディアの方がおかしいと思っていたため、ゴーン氏の出国が成功してよかったと思う。また、レバノンと日本の間に“犯罪人”引渡条約がないのは幸いしたが、今後は、レバノン政府が日本の圧力に屈しないことが必要だ。

 また、ゴーン氏は、これだけ負のイメージを擦りつけられたのだから、*4-3のように、ハリウッド映画化して、ビジネス界・自動車革命の時代背景・各国の世論・日産社内の経営権争いに司法が介入した日本の事情などをリアルに表現すれば、これまでにないものすごいビジネス映画になると考える。ただし、命に気を付けて行動して欲しいくらいの真剣勝負になる。

 このような中、日経新聞は社説で、*4-4のように、「日本の法廷の場なら議論が深まったかもしれない」などとありもしない嘘を書いているが、司法制度が違っても人権が大切なことは普遍であるのに、それがない日本の司法を改革しなければ、そうはならない。ゴーン氏がSECとは争わずに100万ドルの課徴金を支払ったのは、同時に多くの敵を作らないためだろう。

 なお、日本は特殊な国であるという日本の立場の説明は、言い訳としていろいろな分野でよく聞かれるが、グローバルな世界でそれは通用しない。また、プライベートジェットには不特定多数の人は乗らないため、手荷物チェックが緩いのは当然である。

(4)日本はこうして遅れていく
 「日本の自動車産業は今後も強いか」については、結論から言って「危うい」というのが私の見方だ。その理由は、ゴーン氏が率いていた日産・三菱・ルノー組を、将を捕えることによって漂流させて護ったのは、*5-1のトヨタだからである。トヨタは、EVではなくハイブリッド車に妥協した会社で、国を挙げてEVを推進していた中国の環境規制も緩めさせるように働いた。

 そのため、*5-2のように、欧州の自動車大手が事業活動に伴うCO2の純排出量もゼロにする「カーボンニュートラル」を相次いで宣言し、2019年11月4日には、独フォルクスワーゲン(VW)がEVを量産し始め、メルケル首相が「独自動車産業の未来の礎石となる」と述べ、VWのディース社長が「VWの新しい歴史が始まる」としているのは希望が持てる。私は、次に自動車を買うなら、高すぎなければポルシェかベンツのEVにしたいと思っているくらいなので、外国人労働者と組み合わせて九州のどこかで工場誘致したらどうかと考える。

 そのような中、*5-3のように、日経新聞は社説で「①2018年度に国内で消費した1次エネルギーの約9割は化石燃料に支えられている」「②化石燃料から水素を取り出して使う」「③千代田化工建設などのグループは、天然ガスから取り出した水素を別の化学物質に変えて日本に持ち込む計画」「④資源国にとっても保有資源を有効に使い続ける道になるはずだ」「⑤水素利用技術の確立に向けて、資源国と連携した取り組みを加速していかねばならない」などと、馬鹿なことを書いている。

 何故なら、①は、先見の明のなさによるものであり、②③④については、化石燃料から水素を作るなど愚の骨頂で、⑤については、「日本には資源がないから、資源は輸入しなければならない」という先入観から抜けられない頭だからだ。こうして日本はどんどん遅れて行き、国民は貧しくなっていくが、私は、このようにして作られた水素は使わないつもりだ。

 なお、*5-4のように、地球温暖化対策のパリ協定に関する目標や政策の評価で、日本は、六段階評価で下から二番目の「極めて不十分」と判定されたそうだが、全体として尤もである。

・・参考資料・・
<日米貿易協定>
*1-1:https://www.agrinews.co.jp/p49413.html (日本農業新聞 2019年12月5日) 日米協定“拙速”承認 来年1月1日発効へ 参院
 日米貿易協定は4日、参院本会議で与党などの賛成多数で可決、承認された。来年1月1日に発効する見通し。牛肉、豚肉などは環太平洋連携協定(TPP)と同様に関税を削減。生産額の減少は過去の大型協定に匹敵する。昨年末に発効したTPP、今年2月に発効した欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)に続き大型協定の発効が迫り、日本農業はかつてない自由化に足を踏み入れる。同協定を巡る交渉は4月に開始。9月に最終合意し、10月に署名した。合意内容の公表から協定の国会審議までは1カ月足らず。TPPなど過去の大型協定と比べても異例の短さで、情報開示や国民的な議論の不十分さが目立った。同日の採決では、自民、公明両党と日本維新の会などが賛成。立憲民主党、国民民主党などの共同会派や共産党は反対した。政府は今後、関連する政令改正などの国内手続きを終え、米国に通知する。米国側は国内法の特例に基づき議会審議を省く方針。両国の合意で発効日を決められ、米国の要望に応じて1月1日の発効となる見通しだ。発効後、日米は追加交渉に向けた予備協議に入り、4カ月以内に交渉分野を決める。政府は関税交渉について「自動車・自動車部品を想定しており、農産品を含めてそれ以外は想定していない」(茂木敏充外相)としているが、具体的な交渉範囲は協議次第だ。協定では、牛肉は関税率を最終的に9%まで削減する。セーフガード(緊急輸入制限措置=SG)を設定した一方、発動した場合、発動基準をさらに高くする協議に入る。TPPのSGと併存し、低関税で輸入できる量がTPPを超えるため、政府は加盟国との修正協議に乗り出す。今後、追加交渉での農産品の扱いやSGの発動基準数量の引き上げの動向などが焦点になる。日本の攻めの分野の自動車・同部品の関税撤廃は継続協議となった。政府の影響試算では、農林水産物の生産額は、米国抜きのTPP11の影響も踏まえると最大2000億円減る。国会審議で野党は、日欧EPAなど発効済みの他の貿易協定も含めたより精緻な試算を求めたが、政府・与党は応じなかった。政府・与党は現在、中長期的な農政の指針となる食料・農業・農村基本計画の見直しの議論を進めている。一連の大型協定による農産品の自由化にどう対応するか具体策が問われている。
●国内対策 農家規模問わず
 政府は4日、日米貿易協定に伴い、国内対策の指針となる「TPP等関連政策大綱」改定案を自民、公明両党に示し、了承された。農業分野では、中山間地を含めた生産基盤強化の必要性を強調し、「規模の大小を問わず、意欲的な農林漁業者」を支援する方針を明記。新たに肉用牛や酪農の増頭・増産対策などを盛り込んだ。政府は5日に正式決定し、2019年度補正予算に農林水産業の対策費として3250億円程度を計上する。改定案では、国内外の需要に応え、国内生産を拡充するため農林水産業の生産基盤を強化する必要性を指摘。畜産クラスター事業による中小・家族経営支援の拡充や、条件不利地域も含めたスマート農業の活用も盛り込んだ。規模要件の緩和や優先採択枠の設置で対応する。自民党TPP・日EU・日米TAG等経済協定対策本部(本部長=森山裕国対委員長)などの会合で、西村康稔経済再生担当相は「(農業の)国内生産を確実に拡大するため、中山間地域も含めた生産基盤を強化していく」と述べた。森山本部長は会合後、「(家族経営を)政策の横に置くのではなく、中心に据えてやっていくことが大事だ」と記者団に語った。改定案には輸出向けの施設整備、堆肥活用による全国的な土づくりの展開、家畜排せつ物の処理円滑化対策、日本で開発した農産物の新品種や和牛遺伝資源の海外流出対策なども盛り込んだ。農林水産分野の対策の財源について、既存の農林水産予算に支障のないよう「政府全体で責任を持って」確保する方針は改定案でも維持した。TPPの牛肉SGの発動基準見直しを巡っては、「日米貿易協定の発効後の実際の輸入状況などを見極めつつ、適切なタイミングで関係国と相談を行っていく」との記述にとどめた。
●日米協定国会承認 期限ありき審議不足 再協議規定 農業扱い不透明
 日米貿易協定は、踏み込んだ議論には至らないまま、国会審議が終結した。来年1月1日発効を目指す政府・与党は、野党側の資料請求にも応じず、議論がかみ合わないまま審議が進展。野党も最終的には4日の参院本会議での採決に応じたため、農産品の再協議の可能性をはじめとした懸念を掘り下げることなく、協定は承認された。衆参両院の委員会審議は22時間余り。過去の経済連携協定を大きく下回る。参院本会議では、これまでの委員会審議と同様に、農産品について、米国が「特恵的な待遇を追求する」と明記した再協議規定への懸念が続出。採決の最終盤となっても不明瞭な部分が残っている実態が改めて浮き彫りになった。国民民主党の羽田雄一郎氏が再協議規定について「米国の強い意志を感じる」と指摘。大統領再選を目指すトランプ氏の強硬姿勢を警戒した。協定に賛成した日本維新の会の浅田均氏も「米国がさらに強気の姿勢で交渉に臨んでくるのは不可避。積み残しになった自動車・同部品の関税撤廃の確定も含め、交渉は一筋縄ではいかない」と警鐘を鳴らした。ただ、野党側は採決を容認。会議場内では「反対」などの声が出たが、賛否の投票作業は淡々と進んだ。衆参両院を通じて、審議不足は否めない結果となった。衆院では、自動車の追加関税の回避の根拠となる議事録など示さない政府・与党に対し、主要野党が反発して退席。与党側が審議時間の消化を優先。質問者不在のまま割当時間を消化する「空回し」を含めても、審議時間は22時間余りにとどまる。一方、環太平洋連携協定(TPP)は2016年、衆参両院に特別委員会を設けて計130時間以上審議。日米協定の審議時間は短さが際立つ。さらに衆院では、協定の審議が「桜を見る会」の説明責任を巡る与野党の駆け引き材料になった部分も多い。野党内からも「政争の具にせず、審議の充実を追求していくべきだった」(幹部)と審議運営を批判する声が出ている。

*1-2:https://www.agrinews.co.jp/p49059.html (日本農業新聞 2019年10月24日) 日米影響試算 審議の材料たり得ない
 日米貿易協定が発効しても、万全の国内対策を打つので日本の農家の所得や生産量は一切減らない──。政府がそんな影響試算を発表した。現実離れしていると言わざるを得ない。これでは国会審議の材料になるはずもない。政府は納得感の得られる試算を出し直すべきだ。日米協定の承認案は24日から衆院本会議で審議が始まる。審議を進める上で重要な材料の一つとなるのが、日米協定によって日本農業が受ける影響試算だろう。日米協定発効に伴い、日本農業が受ける打撃はどの程度か。影響をしっかり試算した上で必要な国内対策を考える。これこそが本来あるべき姿のはずだ。だが、政府が先週発表した影響試算は、そうした期待に沿う内容とは言い難い。試算によると、日米協定発効に伴い、安い米国産農林水産物が日本に押し寄せた結果、国産の価格も低下。国内の農林水産物の生産額は600億~1100億円減る。減少額がとりわけ大きいのが牛肉で、最大約474億円に達するという。不思議なのはここからだ。生産額が減るにもかかわらず、国内の農家の所得、生産量は一切減らないという。コスト低減や経営安定につながる万全な国内対策を措置するからで、食料自給率も変わらないという。そもそも国内対策の検討が始まるのはこれからで、まだ決まっていない。にもかかわらず、なぜ日本の農家所得や生産量に影響なしと言い切れるのか。首をかしげたくなる農家も少なくないだろう。環太平洋連携協定(TPP)や欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)に合意した際も政府は影響試算を発表。今回同様に国内対策の効果で、日本の農家所得や生産量に影響なしという内容だった。政府には、農家の不安を大きくしたくない気持ちがあるのかもしれない。だが、貿易自由化に伴う打撃に目を背けたままでは、十分な国内対策が出来上がるとは思えない。今回の影響試算には、国内対策を考える以外にも、もう一つ重要な意味合いがある。来年3月の策定に向けて議論が本格化している新しい食料・農業・農村基本計画だ。同計画は今後10年間の農政の指針となる。10年後と言えば、日米協定やTPP、日欧EPA発効に伴う関税削減が、今よりずっと進んでいる時期。その時に日本農業が受ける打撃はどの程度か。それをきちんと踏まえて新たな基本計画を策定する必要がある。「農家の不安にもしっかり向き合い、生産基盤の強化など十分な対策を講じる」。安倍晋三首相は臨時国会冒頭の所信表明演説で力強く宣言した。ならば、まずは現実離れした一連の影響試算を見直すべきだ。このまま国会審議に突き進んでも議論は深まらず、生産基盤強化という首相の決意にも疑問符が付きかねない。

<日本の自動車産業は強いか>
*2-1:https://digital.asahi.com/articles/ASMCK71NCMCKULFA00L.html?iref=comtop_favorite_01 (朝日新聞 2019年11月18日) ゴーン氏追放、西川氏の大誤算 主導した改革は己の身に
 日産自動車前会長のカルロス・ゴーンを東京地検特捜部が電撃的に逮捕してから19日で1年になる。世界に衝撃を与えた事件の裁判は来春にも始まる。ゴーンはすべての事件で無罪を主張している。弁護側は捜査の手続きそのものが違法だとして争点化する方針で、検察側と弁護側の全面対決となる。ゴーンに代わって経営トップにのぼりつめた社長の西川(さいかわ)広人も、自らの報酬不正の責任を問われて今年9月に辞任に追い込まれた。極秘に進めた社内調査をもとに特捜部の捜査に全面協力し、ゴーンを「追放」した日産にとっても、この1年は想定外の連続だった。
     ◇
 「おかしな会社があるぞ」。日産自動車が「ベンチャー投資」目的で2010年にオランダに設立した子会社「ジーア」に対し、社内では疑問の声がたびたびあがっていた。「投資活動を全然していない」「休眠法人ではないか」。設立の数年後にはこうした指摘が上層部に寄せられ、役員が「すぐ調査を」と指示していた。だが実態がつかめない。「その下にまた会社があって、仕組みが複雑すぎるんです」(当時の役員)。調査に関わった監査役(当時)も「手を尽くして調べても、よくわからなかった」と振り返る。暗礁に乗り上げた調査の突破口は「有力な内部告発だった」と複数の日産関係者は明かす。前会長カルロス・ゴーンの部下で法務部門を所管する外国人の専務執行役員が「これ以上、不正につきあわされるのはごめんだ」とジーア社の実態を監査役に打ち明けたというのだ。ベンチャー投資をするはずのジーア社は、リオデジャネイロやベイルートでゴーンが使う住宅の購入費や改修費を支払っていた。この専務執行役員はその後、司法取引に応じ、東京地検特捜部の捜査に全面協力することになる。監査役らは昨年春から、米法律事務所レイサム&ワトキンスと組んでゴーンの不正の調査に本格的に着手した。ゴーンはもちろん、社長の西川(さいかわ)広人にも知らせずに動き出した。それは、ゴーン側近の西川に知らせたら「どう反応するかわからない」(幹部)と警戒していたからに他ならない。監査役が証拠を示してゴーンの不正を西川に初めて説明したのは昨年秋。ゴーンが電撃的に逮捕された11月19日の1カ月前だった。すでに特捜部との間で司法取引の協議が進んでいた。幹部らは「全てが整った段階で説明した」と明かす。西川はこのころ、仏政府の要求を受け、連合を組む仏ルノーと日産の経営統合に意欲を示すようになったゴーンと対立。ゴーンに疎まれ、社長の座を追われそうになっていた。「窮鼠(きゅうそ)猫をかむ」のたとえ通り、「西川はゴーン降ろしに最後に乗っかった」(幹部)。11月19日午後10時。横浜市の日産本社で緊急記者会見に1人で臨んだ西川は「当然、解任に値する」と強調し、ゴーンとの決別を宣言した。それから1年足らず。自らも報酬不正で社長の座を追われることになろうとは、西川は思いもしなかった。この1年は多くの日産関係者にとっても誤算続きだった。
●旗振った改革、辞任迫られる誤算
 「会社の仕組みが形骸化し、透明性が低い。ガバナンス(企業統治)の問題が大きい」。ゴーンが逮捕された昨年11月19日夜の記者会見で、日産自動車社長(当時)の西川(さいかわ)広人はゴーンの不正を長年見抜けなかった理由をそう説明した。その後の日産の動きは素早かった。3日後に臨時取締役会を開いてゴーンの会長職を解任。12月17日の取締役会で「ガバナンス改善特別委員会」を設置し、外部有識者から改善策の提言を受けることを決めた。逮捕直後から、ゴーンの不正を止められなかった西川の責任を問う声が社内外でくすぶっていた。カリスマのゴーンを「追放」して経営トップに就いた西川にとって、自らの求心力を高めるにはガバナンス改革という旗が必要だった。特別委は今年3月にまとめた報告書で、人事・報酬の決定権のゴーンへの集中が不正を招いた原因だと指摘。社外取締役の権限を強める「指名委員会等設置会社」への移行を提言し、日産は6月の株主総会で移行に必要な議案を提案した。仏ルノーが一時、この議案への投票を棄権する意向を示すと、西川は強く反発。改革の頓挫を避けたい日産はルノー出身者のポストを増やして人事面で譲歩し、なんとかルノーの賛成をとりつけた。経済産業省も、同省OBで社外取締役の豊田正和を通じて改革の実現を促した。だが、会社の形を大きく変える改革には「副作用」も伴う。「自分たちの思い通りの人事をすることができなくなりますよ」。日産から水面下で相談を受けた法務アドバイザーは「移行は危険だ」と伝えていた。懸念は現実のものとなる。ゴーンの不正を追及する急先鋒(きゅうせんぽう)だった西川自身の報酬不正が社内調査で判明。9月9日の取締役会では、取締役11人のうち7人を占める社外取締役の多くが西川に辞任を迫った。この時点での辞任を否定していた西川の外堀は一気に埋まった。旗を振って進めたガバナンス改革が機能した結果、自らが辞任に追い込まれたとは皮肉だ。社外取締役は「ポスト西川」選びも主導した。首脳人事の決定権を握る指名委員会が次期社長に指名したのは専務執行役員の内田誠。社内では西川の辞任後に暫定的に社長代行を務める山内康裕の昇格を期待する声が多く、取締役でもない内田の起用に驚く声もあった。指名委も6人中5人を社外取締役が占め、残る1人はルノー会長のジャンドミニク・スナール。スナールは他の社外取締役と水面下で人選を調整し、トップ人事に積極的に関わった。経営トップを自らの手で決められないもどかしさに、「結局、日産への影響力を強めたのはスナールではないか」と幹部は嘆く。来月1日に発足する内田新体制の前途は多難だ。今月12日に2020年3月期の業績予想を下方修正。ゴーンが進めた拡大路線の修正は難しく、純利益は前年比65・5%の大幅減益になる見込みだ。日産三菱・ルノーの3社連合に安定をもたらしていた「ゴーン1強」体制が崩れたいま、ルノーが経営統合を求めて再び圧力を強める可能性もある。「将来の展望や野心的な戦略がない。3社の関係がゆがんで成長が滞っている」。ゴーンは最近、知人にこう漏らし、日産の行く末を案じたという。=敬称略
●来春にも公判、全面対決の構図鮮明
 ビジネスジェット機で羽田に到着した日産自動車のカルロス・ゴーン前会長を東京地検特捜部が電撃的に逮捕してから19日で1年。世界に衝撃を与えた事件は、来春にも始まるとみられる公判に向けた手続きが進む。検察、弁護側双方の大まかな主張が出そろい、全面対決の構図が鮮明となっている。ゴーン前会長は今年4月までに計4回逮捕され、役員報酬の未払い分を隠したとする金融商品取引法違反事件と、日産の資金を不正送金したなどとする会社法違反事件で起訴された。今月11日に記者会見した弁護団の弘中惇一郎弁護士によると、保釈中のゴーン前会長は弘中氏の事務所に通って裁判の記録を読むなどし、週に何回も弁護団と議論を重ねている。弁護団は前会長の認識や記憶を前提に、公判での主張を組み立てているという。弁護側は公判で予定する主張内容を10月17日に裁判所に提出した。すべての事件で無罪を主張するだけでなく、捜査の手続きそのものが違法だと争点化し、公訴(起訴)棄却を申し立てる方針を示した。裁判で公訴棄却が認められて確定した例はまれだが、主任弁護人の河津博史弁護士は「過去に例のないほど違法な捜査が行われた。単なる戦術ではない」と強調する。焦点の一つが、特捜部が日産幹部2人と交わした司法取引の違法性だ。本来は部下がトップの不正を明らかにする代わりに罪を減免されるようなケースが主に想定されている。弁護側は、日産の経営陣がゴーン前会長を失脚させる目的だったとし、「実質的な当事者は日産だ」と指摘。「2人は業務命令で司法取引したにすぎず、法の趣旨に反する」と主張する。これに対し、検察幹部は「弁護団の筋書きは根拠がなく妄想だ」と一蹴。「裁判所が違法性を認めるとは思えない」と自信を見せる。今後も公判に向けて証拠や争点を絞り込む公判前整理手続きが進められるが、弁護側は検察側が提出する供述調書の大半について、証拠採用に同意しないとみられる。このため、検察側は司法取引に応じた2人を含め多くの日産幹部を証人申請することが予想される。弁護側は西川前社長も一連の行為に関与したとして証人申請するとみられ、状況によっては公判が長期化する可能性もある。地裁は、金商法違反事件について初公判を来年4月にも開きたいとの意向を示している。審理は来年いっぱいは週3日のペースで隔週行う案も示しているという。ただ、会社法違反事件の審理については未定になっており、公判のスケジュールはなお流動的だ。

*2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191203&ng=DGKKZO52882830S9A201C1MM8000 (日経新聞 2019.12.3) 日産、ルノー連携で事業再建 新社長、中計見直し
 日産自動車の内田誠社長兼最高経営責任者(CEO)は2日、就任後初めて記者会見し、仏ルノー、三菱自動車との関係について「アライアンスの活動を通して利益を上げていくことに注力する」と語った。日産は値引き頼みの販売が重荷となり業績悪化が深刻だ。世界主要市場の縮小や次世代技術対応など事業環境が厳しさを増すなか、日仏連合をテコに業績回復を目指す考えだ。内田氏は「私が指揮を執って新たな事業計画を策定する」と述べ、中期計画を見直す方針も示した。日産に43%出資する筆頭株主の仏ルノーは仏政府の意向を受ける形で19年春、日産に経営統合を打診。内田社長は経営統合の協議について「ルノー会長とも今は全くしていない」と述べ、少なくとも当面は進めない考えを示した。ただ、将来の関係については言及しなかった。西川広人前社長は「ネガティブなインパクトが大きく、否定的だ」と明確に反対していた。日産の業績は大きく悪化している。20年3月期の連結純利益は1100億円と前期比66%減る見通しだ。立て直しに向けて日仏連合での協力を拡大する。拡大路線を進めるために過大な目標を設定して無理を重ねた反省から、企業風土の改革も進めると表明した。内田氏は1日付で就任した。元会長カルロス・ゴーン被告の後を継いだ西川前社長が報酬問題で辞任したのを受けたものだ。

<ゴーン氏の出国>
*3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200101&ng=DGKKZO54007910R00C20A1MM8000 (日経新聞 2020.1.1) ゴーン元会長、レバノンへ無断出国 保釈条件違反
 日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告(65)が日本を出国し、中東レバノンに入ったことが31日、分かった。元会長は保釈条件で海外渡航が禁じられており、無断出国とみられる。日本とレバノンの間に犯罪人引き渡し条約はなく、4月にも始まる見込みだった元会長の刑事裁判は事実上、困難になった。元会長はレバノン国籍を持っており、「私は今、レバノンにいる。有罪が予想される日本の偏った司法制度の下でのとらわれの身ではなくなった」などと声明を出した。同国外務省は元会長が30日に合法的に入国したとの声明を出した。東京地裁は31日、東京地検の請求を受けて元会長の保釈を取り消す決定をした。保釈保証金計15億円は没収される。現地メディアなどによると、元会長はプライベートジェットを使い、トルコ経由でレバノンに入った。出国に際して元会長が楽器箱に隠れたとし、レバノン入国後、同国大統領と面会したとの報道もある。日本の出入国在留管理庁関係者によると、元会長名での出国記録はなく、日本で正規の出国手続きを経ていない可能性がある。外務省関係者は事実関係や出国の経緯について「現地の日本大使館などを通じて確認中」と語った。元会長の弁護人を務める弘中惇一郎弁護士は31日、東京都内で報道陣の取材に「事実とすれば保釈条件に違反している」と話した。

*3-2:https://digital.asahi.com/articles/ASMD04H87MD0UHBI00J.html (朝日新聞 2019年12月31日) ゴーン被告「有罪が前提、政治的な迫害逃れた」声明全文
 日産自動車のカルロス・ゴーン前会長の広報担当者は米東部時間30日夜(日本時間31日昼)、取材に対してゴーン前会長の英文の声明を発表した。全文の訳は以下の通り。
     ◇
 私は現在レバノンにいます。もうこれ以上、不正な日本の司法制度にとらわれることはなくなります。日本の司法制度は、国際法・条約下における自国の法的義務を著しく無視しており、有罪が前提で、差別が横行し、基本的人権が否定されています。私は正義から逃げたわけではありません。不正と政治的な迫害から逃れたのです。やっと、メディアのみなさんと自由にコミュニケーションを取ることができます。来週から始められることを、楽しみにしております。(原文は英語)
●レバノン大使館の関係者?は無言
 東京都港区の駐日レバノン大使館が入るビルの前には、31日午前から報道陣が集まった。ビル入り口のインターホンはスイッチが切られているのか呼び出し音は鳴らず、レバノン大使館の関係者とみられる男性が出入りしたが、記者の問いかけには一切応じなかった。

*3-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14317743.html (朝日新聞社説 2020年1月7日) ゴーン被告逃亡 身柄引き渡しに全力を
 世界を驚かせた逃走劇から1週間が過ぎた。情報が交錯し、経緯にはいまだ不明な点が多いが、保釈中の日産自動車前会長カルロス・ゴーン被告が、国籍をもつレバノンに違法に出国したことは間違いない。法秩序を踏みにじる行為であり、断じて許されるものではない。森雅子法相はきのう記者会見し、国際機関などと連携して、日本での刑事手続きが適正に行われるよう、できる限りの措置を講じる考えを示した。会社法違反などの罪に問われたゴーン被告は無罪を主張し、東京地検が日産関係者と交わした司法取引についても違法だと訴えていた。被告が不在のままでは裁判は開かれず、事件は宙に浮くことになりかねない。レバノン政府とねばり強く交渉するのはもちろん、日本の司法制度について丁寧に情報を発信するなど、あらゆる外交努力を尽くし、ゴーン被告の身柄の引き渡しを実現させる。それが政府の責務だ。あわせて、前代未聞の逃走を許してしまった原因は何か、究明を急ぐ必要がある。ゴーン被告はプライベートジェット機を使って関西空港から出国した可能性が高いとみられる。一連の審査手続きに不備や緩みはなかったか。国民に対する説明と適切な改革が求められるのは言うまでもない。ゴーン被告は起訴・保釈・再逮捕などの曲折を経て、昨年4月末から身体拘束を解かれていた。住居玄関への監視カメラ設置、パソコンや携帯電話の利用制限など、弁護側が示した条件を裁判所が認めた。にもかかわらず、結果として今回の事態を防げなかったことを、関係者は重く受け止めねばならない。15億円という保釈保証金は、富豪であるゴーン被告に対するものとして適切だったか。弁護士にすべて預けるはずだった複数の旅券を、途中から1冊に限ってとはいえ、被告が携帯することを認めたことに問題はなかったか――。他にも点検すべき事項はあるはずだ。日本では容疑を認めない人を長く拘束する悪弊が続き、国内外の批判を招いていた。それが裁判員制度の導入などを機に見直しが進み、保釈が認められるケースが増えてきている。ゴーン被告の処遇は象徴的な事例の一つであり、運用をさらに良い方向に変えていくステップになるべきものだった。その意味でも衝撃は大きいが、だからといって時計の針を戻すことはあってはならない。捜査・公判の遂行と人権の保障。両者のバランスがとれた保釈のあり方を模索する営みを続けるためにも、今回の逃走の徹底した検証を求める。

*3-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200109&ng=DGKKZO54192030Z00C20A1MM8000 (日経新聞 2020.1.9) ゴーン元会長「無実」強調 レバノンで会見 逃亡経緯語らず
 保釈条件に違反して逃亡した日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告は日本時間の8日午後10時から、レバノンで記者会見した。一連の事件について「日本の検察や日産の経営陣が画策したもの」と無実だという従来の主張を繰り返した。事件は自らを引きずり下ろすクーデターだとしたが、検察など日本の関係者は事実と異なると反論した。ゴーン元会長が会見するのは、2018年11月に逮捕されて以来、初めて。元会長は会見で「日本の司法は非人道的。公正な裁判を受けられないと判断した」などと述べ、自らの逃亡を正当化。勾留の長さを強調するなど日本の刑事司法制度の批判を展開したが、逃亡方法などについては一切話すつもりはないとした。ゴーン元会長は起訴された一連の事件について「検察や日産の経営陣によるもの」とし、西川広人前社長兼最高経営責任者(CEO)ら日産の元幹部ら6人の名前を挙げた。元会長は逃亡後、米メディアの取材に対し日本政府の関係者の名前を会見で挙げる意向も示していたがレバノン政府への配慮を理由に見送った。森雅子法相は9日未明に会見し「刑事裁判そのものから逃避し、許されない」と批判。東京地検の斎藤隆博次席検事は「日本の刑事司法制度を不当におとしめる主張で到底受け入れられない」とのコメントを出した。日産の広報担当者は「当社はすでに(反論の)声明を出しており、新たなコメントは必要ない」と述べた。ある日産幹部は「茶番劇だ」などと反論。別の幹部も「不正の証拠もたくさんあり、ゴーン元会長の主張は議論のすり替えにすぎない」と厳しく指摘した。

*3-5:https://digital.asahi.com/articles/ASN142T3QN14UHBI00F.html?iref=comtop_8_05 (朝日新聞 2020年1月4日) ゴーン被告、プロが逃がす?元グリーンベレーの名前浮上
 日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告(65)がレバノンに逃亡した問題で、米紙ウォールストリート・ジャーナルは3日、ゴーン前会長が米陸軍特殊部隊出身とみられる男性ら2人の助けを借り、音響機器を入れる箱に隠れて日本を出国したと報じた。同紙によると、ゴーン前会長は12月29日、プライベートジェットで関西空港を発ち、30日にトルコ・イスタンブールに到着。大雨の降る中、車で約90メートル移動してより小型のジェット機に乗り換え、レバノンにたどり着いた。いずれも機内にはゴーン前会長ら乗客の他にパイロット2人、乗務員1人が乗っていたという。トルコの航空会社は、ゴーン前会長の逃亡に際して記録を改ざんしたとして、従業員を刑事告訴。同紙はトルコ当局の捜査に詳しい関係者らの話として、この従業員が、ゴーン前会長が関空で飛行機に乗り込むまでに箱がどのように使われたかを捜査員に証言したと伝えている。同紙が写真で確認したこの箱は、角が金属で強化されており、機体後部近くの通路に押し込まれていた。もう一つの箱にはスピーカーが入っていたという。同紙はまた、関空からイスタンブールへの飛行計画書には、米国のパスポートを持つ男性2人だけが乗客として書かれていたと指摘。2人はその後、ゴーン前会長が乗った小型機ではなく民間機でレバノンまで向かったという。この米国人のうち1人は陸軍特殊部隊グリーンベレーの出身者で、2009年にアフガニスタンで武装グループに拉致された米紙ニューヨーク・タイムズの記者を救出したことで知られる人物と同姓同名。民間警備業界では著名だという。もう1人は、この男性と関係のある会社の従業員として働いたことがある人物だという。ゴーン前会長の米国の広報担当者は、朝日新聞の取材に「ゴーン氏の日本出国をめぐるいかなる報道についても、現時点ではコメントはしない」と回答した。

*3-6:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200109&ng=DGKKZO54192800Z00C20A1EA2000 (日経新聞 2020.1.9) ゴーン元会長、司法・日産批判に終始 日本メディア大半排除
 日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告は8日のレバノンでの記者会見で改めて無実を主張した。事件は当時の日産経営陣の「策略」とし、日本の司法は「非人道的」だと非難。会見では日本メディアの大半を排除し、一方的に主張を展開した。国際手配を受けるなど不安定な立場が続くなか、国際世論を味方に付けたいとの思惑が透けた。ゴーン元会長は会見で、自身が日本で罪に問われた内容について「中傷のキャンペーンに過ぎず、想像の産物」「検察が日産の幹部と画策したものだ」などと批判した。元会長は、中東の知人側に資金を流出させるなどして日産に損害を与えた会社法違反(特別背任)の罪と、役員報酬の「未払い分」約91億円を有価証券報告書に記載しなかった金融商品取引法違反の罪で起訴された。元会長は特別背任罪に問われた資金の支出について、社内の適正な手続きを経ていたなどと主張。報酬の過少記載については「支払われていない報酬が容疑とは理解に苦しむ」と述べた。元会長が日本に戻らなければ裁判は始まらず、事件の真相解明は宙に浮く。元会長は「公正さが確保されればいかなる所でも裁判に臨む」としたが、「(日本は)有罪率が99%を超え、公正な裁判は受けられない」などと話した。この日の会見は元会長側の意向により「過去に関係を築いたメディア」だけを招待する形で行われた。フランスや中東のメディアが大半を占め、日本メディアの参加は数人にとどまった。元会長は会見で事件に関する日本メディアの報道も批判し、日本メディアの多くを排除した理由を問われると「客観的な見方ができると判断した人を選んだ」と答えた。日本の捜査当局は国際刑事警察機構(ICPO)を通じて元会長を国際手配し、7日に駐レバノン大使がアウン大統領と面会して協力を求めた。だが、元会長はレバノンの政財界に太いパイプを持ち、同国政府はこれまで一貫して元会長を擁護する立場を取ってきた。捜査関係者は「レバノン政府が元会長を日本に引き渡すとは思えない」と悲観的な見方を示す。元会長はレバノンに長期間滞在する考えを示し、「数週間以内に全ての証拠を開示し、嫌疑を晴らしたい。真実を明らかにしたい」とした。安倍晋三首相は8日夜、都内で自民党の河村建夫元官房長官らと会食した。河村氏によると、首相はゴーン元会長を巡る問題について「本来、日産の中で片付けてもらいたかった」と述べたという。

*3-7:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1052965.html (琉球新報社説 2020年1月7日) ゴーン被告国外逃亡 裁判で無罪主張すべきだ
 まるでスパイ映画を見ているような衝撃的な事件だからこそ、冷静に問題を見極める必要がある。会社法違反罪などで起訴され保釈中の前日産自動車会長カルロス・ゴーン被告が日本を出国し、国籍があるレバノンに逃亡した。保釈の条件として海外渡航は禁止されていた。東京地裁は保釈を取り消し、保証金15億円を没収する。ゴーン氏は逃亡後、次のような声明を出した。「私はもはや有罪が前提で、差別がはびこり、基本的人権が否定されている不正な日本の司法制度の人質ではなくなる。日本の司法制度は、国際法や条約に基づく法的義務を著しく無視している。私は裁きから逃れたのではなく、不正と政治的迫害から逃れた」。否認すれば勾留が長引く「人質司法」は日本の司法制度の問題点として、かねて批判されてきた。早く解放されたいがために、やってもいない罪を認めてしまうなど冤罪の温床ともいわれる。裁判で有罪が確定するまで罪を犯していないものとして扱う「無罪の推定」原則にもとる人権上の問題も指摘されている。その意味でゴーン氏が指摘する「人質司法」の問題は、日本の司法制度の欠陥として改善すべき点が多い。その点は指摘を真摯(しんし)に受け止めるべきである。しかしその問題と、今回ゴーン氏が違法と知りつつ企てて実行した国外逃亡の責任は別の問題だ。ゴーン氏は日本の制度下で保障された権利でもって経済活動をし、多大な報酬と高い地位を得ていた。その中で日本の刑事法により罪に問われた以上、法の手続きにのっとって裁判で主張すべきだ。それが義務である。そうせずに国外に逃亡した責任は厳しく問われるべきだ。法的責任だけではない。金さえあれば違法行為もまかり通るという悪印象を世界に与えた責任も重い。逃亡の過程では、米国の警備会社やトルコの航空会社職員を含め組織的に違法行為を重ねた疑いがある。日本では入管難民法違反の疑いがあるだけでなく、出入国を巡る国際的な司法への挑戦とも受け取れる。ただ、今回の事件を保釈条件の厳格化につなげてはならない。国際的に批判を浴びている身柄拘束の在り方を是認する意見が強まることを危惧する。日本の保釈率は最近10年、わずかに上がる傾向にある。人権に配慮する流れを止めてはならない。重要なのは、ゴーン氏がなぜ国外へ逃亡できたかを詳細に検証することだ。関係当局にとっては、映画のような逃亡劇を現実に許した大失態である。重大に受け止め、再発防止を徹底する必要がある。ゴーン氏は、自身が「無罪だ」と主張するのなら、日本の裁判の場で身の潔白を証明すべきだ。そうしてこそ、日本の司法制度の欠陥に対する自身の指摘に説得力を持たせることもできる。国外逃亡は道理から外れた道だ。

*3-8:https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/202001/CK2020011002000256.html (東京新聞 2020年1月10日) 森法相「誤った喧伝看過できない」 ゴーン被告「法相の発言は愚か」
 レバノンに逃亡した前日産自動車会長カルロス・ゴーン被告は九日、森雅子法相が被告の記者会見を受けて「わが国の法制度や運用について誤った事実を殊更に喧伝(けんでん)し、到底看過できない」などと批判したことに対し「非常に愚かだ」と反発した。レバノンのテレビインタビューに答えた。ゴーン被告は八日の記者会見で、日本の司法制度について「『推定有罪』の原則がはびこっている」と非難。森氏も九日に二回にわたって記者会見し「適正な手続きを定め、適正に運用されている」と反論するなど、非難の応酬となっている。被告は森氏の記者会見を受けた九日のテレビインタビューで「日本の司法制度は時代遅れだ」と主張。「有罪率は99・4%で、司法制度が腐敗している。(罪のない)多くの人が刑務所に入れられている」と述べた。法相が個別事件に関して会見すること自体が極めて珍しい。保釈がなかなか認められないとするゴーン被告の主張に欧米やレバノンの一部メディアが同調。日本政府は国際社会に被告への賛同が広がるのを打ち消そうと躍起になっている。
◆3カ国語でHP掲載 法務省
 法務省は九日、ゴーン被告のレバノン逃亡をめぐる森雅子法相の記者会見でのコメントを、日本語のほか、英語、フランス語でもホームページに掲載した。ゴーン被告が八日に開いた記者会見を受け、森氏は九日に会見を二回開催。「(逃亡は)どの国の制度でも許されない」などと批判した。
◆被告が「無罪証明すべき」 法相、発言を訂正
 森雅子法相は九日、日本の司法制度に対するゴーン被告の批判に反論するため、同日未明に開いた記者会見での発言内容の一部を訂正したとツイッターで明らかにした。「無罪を主張」と言うべきところを「無罪を証明」と言い間違えたとしている。森氏は会見で「潔白だと言うのなら、(日本の)司法の場で正々堂々と無罪を証明するべきだ」と発言。刑事裁判では、あくまで「推定無罪」の原則があり、その中で検察官が有罪を立証する仕組みになっているため、インターネット上で批判が出ていた。

<単なる情報戦ではなく、人権を求める戦いである>
*4-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/202001/CK2020010102000104.html (東京新聞 2020年1月1日) ゴーン被告逃亡 海外報道は好意的 レバノンや仏メディア
 日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告の国外逃亡について、逃亡先のレバノンや国籍を持つフランスのメディアはおおむね好意的に伝えた。レバノン紙によると、ゴーン被告は三十日に首都ベイルートの国際空港に到着。大手紙アンナハル記者は「レバノン市民として合法的に入国した。アウン大統領と面会した」としているが、真偽は不明。レバノン政府は今のところ正式なコメントを出していない。両親の出身地で被告が少年時代を過ごしたレバノンでは、立身出世の「英雄」として被告を擁護する声が多い。友人の一人は「新年に訪れた奇跡だ」と歓迎し、「彼はいま、適切な保護下にある」と明かした。別の友人は本紙取材に「彼はレバノンだけではなく、日仏にとって偉大な経営者。母国で無実を証明すればいい」と話した。「ゴーン氏の華々しい新展開」と伝えた仏経済紙レゼコーは、未確認情報ながら「警戒が厳しい大きな空港を避け、人目につく機会が少ない小さな空港からプライベートジェット機で飛んだようだ」と解説。仏高級紙ルモンドは、再保釈された四月から監視下に置かれ「妻と会い、話す権利すらなかった」と一定の理解を示した。一方、仏左派紙リベラシオンは「裁判所による禁止に違反して出国した」「脱獄」などと表現するなど批判的な論調で伝えた。
◆レバノンと引渡条約なし 外務省幹部「逃げ得の可能性」
 外務省幹部は三十一日、前日産自動車会長カルロス・ゴーン被告が日本から逃亡し、国籍があるレバノンに入国したと表明したことに関し「事実関係を確認中だ」と取材に答えた。政府関係者は身柄引き渡しについて「さまざまな方策を考える必要がある」と述べ、レバノン政府への要請も視野に検討する考えを示した。外務省幹部は、日本とレバノンは犯罪人引渡条約を結んでいないとして「基本的には相手国の理解を得ないと被告人は引き渡されない」と説明。「現段階で、レバノン政府が協力的かどうかは不明だ」と語った。別の外務省幹部は一般論と断った上で「法務省と協議し、外交ルートを通じて引き渡しを求めることになるだろう。ただ、レバノン政府が応じず、『逃げ得』になる可能性がある」と述べた。自民党の葉梨康弘元法務副大臣は取材に対し「公的機関は被告人を監視できるわけではなく、信義則が破られた。想定外で、結果は言語道断だ」と強調した。
◆楽器箱に隠れ日本脱出?
 レバノンの主要テレビMTV(電子版)は三十一日、カルロス・ゴーン被告が楽器箱に隠れ、日本の地方空港から出国したと報じた。出国に際し、民間警備会社のようなグループの支援を受けたとしている。情報源は明らかにしておらず、信ぴょう性は不明。レバノン紙アフバルアルヨウムも「警備会社を使い、箱に隠れて密出国した」と報じた。MTVによると、このグループはクリスマスディナーの音楽隊を装ってゴーン被告の滞在先に入り、楽器箱に隠して連れ出した。映画のような脱出劇で、日本の当局者は気付かなかったとした。その後に出国し、トルコ経由でレバノンに入国したが、その際はフランスのパスポートを所持していたと伝えた。

*4-2:https://digital.asahi.com/articles/ASN142HVZN14UHBI007.html?iref=comtop_8_06 (朝日新聞 2020年1月4日) ゴーン被告逃亡「正しかった」8割 仏紙読者アンケート
 仏紙ルモンドは3日、日産自動車と仏自動車大手ルノーの会長だったカルロス・ゴーン被告(65)のレバノン逃亡についての論評を掲載し、「本当に汚名をすすぎたかったのなら、裁きから逃れた理由がわからない」として、日本で裁判を受けるべきだったと主張した。ゴーン前会長が声明で、逃亡の理由を「不正な日本の司法制度」から逃れるためとした説明に反論した形だ。同紙は「民主主義国家での裁きを拒み、裁かれる場所をもっとも自分の都合のいいように選ぶ可能性を不当に手に入れた」と前会長の逃亡を批判。「西欧人はゴーン氏の事件を通じて、日本の司法の特殊性、ある意味においてはその厳しさに気づくことになった」と伝えつつ、「彼が逃げ出せたのは、批判されていたほどは(保釈条件が)厳しくなかったからだ」とも指摘した。日本の犯罪率の低さといった要素を踏まえずに「中世のような(遅れた)司法システム」と非難するのは、「日本の文化の正しい理解にもとづかない」ものだと論じた。ただ、日本の司法システムを批判する論調が支配的なフランスでは、ゴーン前会長の逃亡容認論が根強い。仏紙フィガロが2日、「ゴーン氏が日本から逃げ出したのは正しかったか」と読者に尋ねたところ、そうだと応じた人が77%に上った。同紙は毎日、主要ニュースについてのアンケートを実施している。紙面にその日の質問を載せて同紙のサイトで投票してもらい、翌日の紙面で結果を伝える仕組みだ。ゴーン前会長の逃亡問題には、8万6798人が投票した。投票ページに寄せられたコメントには「有罪がまったく証明されていないのに非人間的な扱いをする日本人の爪から抜け出した。見事だ」「ゴーン氏は何年間もフランスの最も主要な企業の一つ(ルノー)に奉仕した偉大な人物だ」「日本の司法は全く偏っている。逃げ出せてようやくゴーン氏は説明の場を持てる」など、逃亡を肯定する書き込みが並ぶ。「この逃亡は、フランスのイメージを悪くするだろう。日本人は、どこかフランスを体現しているこの男(ゴーン前会長)の恥ずべき逃避を忘れないだろう」といった声も寄せられている。

*4-3:https://digital.asahi.com/articles/ASN132TS1N13UHBI009.html?iref=comtop_8_04 (朝日新聞 2020年1月3日) ゴーン被告、ハリウッド映画プロデューサーと面会 米紙
 米紙ニューヨーク・タイムズは2日、レバノンに逃亡した日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告(65)が昨年12月、東京都内の住居で、ハリウッドの映画プロデューサーと面会していたと報じた。ゴーン前会長は日本の司法制度への不満を語っていたといい、同紙は「2人の会話が、ゴーン前会長の当時の思考の一端を知るヒントになるかもしれない」としている。同紙によると、ゴーン前会長が面会したのは、米アカデミー賞作品賞などを受賞した「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(2014年)のプロデューサーを務めたジョン・レッシャー氏。ゴーン前会長はレッシャー氏に対して日本の司法制度を批判し、無実の証明に苦心していることを説明。映画をつくれば、人びとがより自らに同情的になってくれるかどうかを気にしていたという。ゴーン前会長を知る複数の人物の話として同紙が報じたところでは、ゴーン前会長は日本での初公判に向けた手続きが進む中、著名人の裁判について調べていた。極めて高い確率で有罪になる日本では、公正な裁判が受けられないと確信するようになったという。楽器を入れる箱に隠れ、プライベートジェットを使ったなどといわれるゴーン前会長の逃亡をめぐっては、欧米メディアが「スパイ映画のよう」などと報道。同紙も「ハリウッドらしい要素は全てそろっている」と伝えている。ただ、レッシャー氏との面会が、ゴーン前会長の逃亡方法に影響を与えたかは定かではない。レッシャー氏は、日本の新聞社に在籍していた米国人記者の体験記をもとにしたドラマの制作陣に名を連ねている。朝日新聞は、レッシャー氏が代表を務める米カリフォルニア州のプロダクションに連絡したが、2日夜時点でコメントは得られていない。

*4-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200110&ng=DGKKZO54227140Z00C20A1EA1000 (日経新聞社説 2020.1.10) ゴーン元会長の「情報戦」に有効な反論を
 特別背任などの罪で起訴され、保釈中に密出国した日産自動車の元会長、カルロス・ゴーン被告が逃亡先のレバノンで記者会見した。日本の刑事司法を批判し、逮捕は検察と日産の共謀によるもので自分は無実などと、これまでとほぼ同じ主張を繰り返した。これが日本の法廷の場であれば議論が深まったかもしれない。そう思うと残念だ。世界を驚かせた日産をめぐる事件の裁判は開かれず、真相は分からないままになってしまう可能性が高い。歴史、文化や国内の治安情勢が違うのだから、日本とレバノン、フランスなどとでは司法制度もそれぞれ異なる。異なる制度のもとで刑事訴追されたことへの驚きや失意は理解できなくもない。だが元会長が繰り返す日本異質論には誤解や一方的な思い込みが多い。自身の報酬に関する虚偽記載についても無実であれば、なぜ米証券取引委員会(SEC)からの同様の指摘には、争わず100万ドルの課徴金を支払ったのか。納得できるような説明はなく、一方的主張との印象が強い。保釈中に妻と会えなかった点も繰り返し批判している。だが捜査関係者によれば、妻は日産の資金が元会長側に流れたとされる企業の代表を務めていた。通常は「事件関係者」ということになり、接触の禁止は十分ありうる措置だ。東京地検は妻に対しても偽証の疑いで逮捕状を取っている。ゴーン元会長はこの先も、同じような批判をいろいろな場面で繰り返すだろう。元会長に共感する海外メディアも多く、「情報戦」に敗れれば誤ったイメージが定着し、日本の信頼を大きく傷つける。ひいては海外の人たちが、日本で生活することをためらうような事態さえ招きかねない。ゴーン元会長が会見した直後、森雅子法相が未明に会見を開いてすぐに反論したことは評価したい。だが国内だけでなく、あらゆる手段を使って海外に向け、日本の立場や考え方を正しく伝えていく必要がある。今回の問題では、日本の空港でのチェック体制に穴があることが明らかになった。出入国在留管理庁や税関、国土交通省などは深刻に受け止めるべきだ。今年は夏に東京五輪・パラリンピックの開催を控え、テロや不法行為の危険性が高まる。事件を受けて対策を講じたというが、本当に大丈夫なのか。一から見直すべきである。

<日本はこうして遅れていく>
*5-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191123&ng=DGKKZO52522790S9A121C1EA1000 (日経新聞 2019.11.23) トヨタ、中国2位に、1~9月新車販売、GM抜く
 中国の1~9月の新車販売台数(乗用車)でトヨタ自動車が米ゼネラル・モーターズ(GM)などを抜き、前年同期の5位から2位に浮上した。中国政府との関係を強化し、環境技術の協力や販売店の整備などで攻勢をかけるなど中国を重視してきた戦略が実を結びつつある。「中国は国を挙げて電気自動車(EV)を推進している。需要にこたえる重要なモデルだ」。22日に開幕した広州国際汽車展覧会(広州モーターショー)で、トヨタのレクサス部門トップの沢良宏執行役員は力を込めた。レクサス初のEVを世界に先駆けて公開し、中国を重視している姿勢を印象づけた。トヨタと中国の合弁会社は多目的スポーツ車(SUV)の中国専用車も発表した。SUVは中国の乗用車市場の4割を占め、メーカーの勢力図を左右する。戦略車で現地の若者らを取り込む。トヨタの中国での勢いは著しい。英調査会社のLMCオートモーティブによると、1~9月の新車販売台数(乗用車)シェアは前年同期の5位(6.4%)から2位(7.8%)に浮上した。中国全体の新車販売台数は1~9月に1837万台と10.3%減った。好調だったEVを中心とする新エネルギー車も7月から前年同月比マイナスに転じ、10月は5割近く減った。政府が6月下旬から補助金を減らした影響が大きい。主要メーカーは規制対応で新エネ車の投入を増やしており、競争は激しさを増す。GMや同社と組む上海汽車集団の独自ブランド、民営最大手の浙江吉利控股集団などが販売台数を落とすなか「シビック」が若者をつかんだホンダは13%増、「カローラ」が人気のトヨタも8%増だった。LMCオートモーティブの康軍アナリストはトヨタは「現地の若者向けのデザインが成功し、販売価格や豊富な品ぞろえが顧客獲得につながった」という。足元では年間約50店のペースで販売店を増やし、販売店網も「レクサス」を含め約1300店舗(2019年1月時点)に広がった。また、中国系メーカーが7月に都市部などで施行された新排ガス規制「国6」対応で出遅れたのに対し、日本車の燃費の良さなどが評価されてきたことも大きい。米中貿易摩擦で米国車のイメージが悪化したという敵失もあった。

*5-2: https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191203&ng=DGKKZO52875480S9A201C1EA1000 (日経新聞 2019.12.3) 欧州車、生産も「CO2ゼロ」、VW、EV部品会社に義務付け 排出枠取得、新たな負担に
 欧州の自動車大手が事業活動に伴う二酸化炭素(CO2)の純排出量をゼロにする「カーボンニュートラル」を相次いで宣言している。欧州連合(EU)が義務付けを目指し、消費者の環境意識も高まる中での各社の危機感が背景にある。自動車大手は部品や物流も含む排出ゼロをめざすが、部品などのサプライヤーには波紋が広がる。11月4日、独フォルクスワーゲン(VW)の電気自動車(EV)「ID.3」の量産が独東部ツウィッカウ工場で始まった。式典でメルケル首相が「独自動車産業の未来の礎石となる」と述べ、VWのヘルベルト・ディース社長は「VWの新しい歴史が始まる」と応えた。VWが自賛する理由は欧州最大のEV工場というだけではない。生産する車種はVW初のカーボンニュートラルだ。VWは使用電力に再生可能エネルギーを購入、車両輸送などで減らせないCO2分はインドネシアの熱帯雨林保存プロジェクトに投じ相殺する。走行時にCO2を出さないEVには「不都合な真実」がある。火力発電が多い地域では、走行のための電気や電池をつくる際にCO2を出す。生産やエネルギー生成、リサイクルまでを評価するライフサイクル評価(LCA)で見ると、ガソリン車より多くCO2を排出することもある。
●「悪玉論」広がる
 そこで企業は行動に移した。VWは全体で2050年にカーボンニュートラル達成を目指して工場投資を決め、独ダイムラーも39年の実現を打ち出した。欧州以外の企業に先んじ、動いたのは2つ理由がある。一つはEUの欧州委員会が50年にEU全体でのカーボンニュートラル義務付けに向け動いていることだ。石炭火力発電に頼る東欧の加盟国は反発するが、西欧でコンセンサスになりつつあり企業は今から対応が必要だ。もう一つは「自動車悪玉論」の広がりだ。9月のフランクフルト国際自動車ショーでは環境団体「ザンド・イン・ゲトリーベ」が「自動車は悪」と訴え、会場の入り口のひとつを封鎖する過激な行動に出た。別の団体は自転車で1万2500人が会場に乗り付けるデモを実施した。自動車大手の中には将来の販売減につながるとの危機感も出始める。VWのディース社長は「ザンド」との対話にも乗り出し、負のイメージ払拭に躍起だ。もっとも自社だけでニュートラル達成は難しい。VWはID.3に部品を供給する企業から初めてカーボンニュートラルを義務付ける契約を結んだ。車載電池は韓国LG化学が再生エネを使い生産しているという。だがほとんどの部品メーカーが排出枠の購入などで辻つまを合わせているとみられる。環境の名の下の新たな負担だ。VWは手綱を緩めない。調達担当のシュテファン・ゾンマー取締役は「持続可能性は(サプライヤーとの)取引を決める要素となる」と述べ、義務化の対象を他の車種、工場に広げる計画だ。
●素材産業厳しく
 5月に車部品世界首位の独ボッシュが唐突に20年のニュートラル達成を宣言したのも、こうした背景があるもよう。同社はまず排出枠を購入し、30年までに2400億円超を省エネや再生エネに投資して実現する考えだ。独部品大手コンチネンタルも9月、40年に実現するとの目標を掲げた。苦しいのがCO2を多く排出する素材産業だ。樹脂大手の独コベストロは25年に09年比50%削減の目標を掲げるが、マルクス・シュタイレマン社長は「今はここまでしか宣言できない」と努力の限界を指摘する。電源構成や電力料金など外部要因に依存する部分が大きいからだ。鉄鋼もCO2を排出しない生産は基礎研究段階だ。EUでは車業界に対し、LCAで規制する議論が進む。世界で最も厳しい環境規制を導入し、他地域より企業の競争力を高めるのがEUの施策だった。日本では「夢物語」とも思われる話が現実のビジネスに影響を与え始めている。日本企業も無視できない。

*5-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200112&ng=DGKKZO54325530R10C20A1EA1000 (日経新聞社説 2020.1.12) 化石燃料を使い続けるなら
 地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」の本格運用が2020年から始まった。温暖化ガスの排出削減に向けた取り組みの強化が求められる中で、排出量が多い石炭火力発電所を使い続ける日本に向けられる視線は厳しい。国が掲げる中長期のエネルギー目標は脱炭素の要請に応えられているか、改めて点検が必要だ。ただし、18年度に国内で消費した1次エネルギーの約9割は、石炭を含む化石燃料だった。私たちの暮らしや経済活動はこれに支えられている現実がある。太陽光や風力など再生可能エネルギーは最大限伸ばしたい。だが再生エネだけでは需要を賄いきれないとすれば、温暖化対策を講じながら、化石燃料を効率的に使い続ける方法を考える必要がある。手掛かりの一つが、化石燃料から水素を取り出して使う技術だ。石炭や石油を、水素と二酸化炭素(CO2)に分離し、温暖化の原因となるCO2は地中に埋め戻したうえで水素を発電燃料などに使う。こうした活用法の実用化に向けた活動が始まっている。川崎重工業などの企業グループは、オーストラリアの低品位炭から水素を取り出し、これを液化して日本に運ぶサプライチェーンの構築に向けた実証事業を進めている。世界初となる液化水素の運搬船も19年12月に進水した。千代田化工建設などのグループは、天然ガスから取り出した水素を別の化学物質に変えて日本に持ち込む計画だ。国際石油開発帝石や日立造船は、CO2と水素を合成して都市ガスの主成分のメタンをつくる実証試験を開始した。実用化には水素の製造費用を大幅に下げるなど、高いハードルがある。燃料電池車の普及やCO2を出さない発電への転換に弾みをつけるためにコスト低減を急がなければならない。資源国にとっても保有資源を有効に使い続ける道になるはずだ。水素利用技術の確立に向けて、資源国と連携した取り組みを加速していかねばならない。

*5-4:https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2019121290135411.html (東京新聞 2019年12月12日) 温暖化対策 日本に厳しい目 パリ協定目標「極めて不十分」
 海外の研究機関でつくる「クライメート・アクション・トラッカー」は、開催中の気候変動枠組み条約第二十五回締約国会議(COP25)の会場で、地球温暖化対策のパリ協定で三十余りの国や地域が掲げる目標や政策の評価を公表。日本については、国内外で石炭火力発電所を推進していることなどを理由に六段階評価で下から二番目の「極めて不十分」と判定した。パリ協定は産業革命前からの気温上昇を二度未満、できれば一・五度に抑えることを目指しているが、各国の目標の水準では今世紀末に約三度上昇すると予測。目標の引き上げを求めた。世界全体では、再生可能エネルギーが順調に普及しているものの、天然ガスの利用が拡大。二〇一七~一八年に化石燃料の燃焼で増加した二酸化炭素排出量の三分の二近くが天然ガスによるとして、歯止めをかけるよう警鐘を鳴らした。最高評価の「見本になる」に当たる国はなかった。それに次ぐ「一・五度に整合」がガンビアとモロッコ、「二度に整合」にインドやコスタリカなど六カ国が入った。天然ガスの利用が増えている欧州連合(EU)やオーストラリアなど十一カ国・地域は「不十分」と評価。それより低い評価の「極めて不十分」は日本や中国、韓国、ドイツなど十カ国だった。担当者は「日本は石炭や天然ガスへの依存から早急に脱却し、海外援助も中止するべきだ」とコメントした。パリ協定離脱を国連に正式通告した米国は、ロシアやサウジアラビアなど五カ国とともに最低の「決定的に不十分」とされた。

<意思決定と教育>
PS(2020/1/13追加):*6-1のように、国連環境計画(UNEP)が、2008年から2017年までの10年間を「失われた10年だった」と厳しく総括する報告書をまとめたが、日本は国内で石炭火力発電所の新設を進め、海外でも石炭火力発電所の建設支援を続けている。日本には再エネ資源が豊富なのに、日本の意思決定権者が一昔前の化石燃料や原発から脱却できないのは何故かと考えると、科学的・論理的に思考して実行するための勉強(≒教育)ができていないからだ。そして、これはEVを世界最初に実用化したゴーン氏と、それにケチをつけることしかできなかった日本のメディア・行政との違いでもある。
 日本は、1980年代に「ゆとり教育」と称する勉強しない方向への教育改革を進めたので、社会を構成する人々の知的判断力が低くなった。*6-2に書かれている思考力・判断力はもちろん重要だが、それには知識や論理的思考訓練が必要なのである。また、論理的思考には理数系科目の理解が不可欠であるため、「ゆとり教育」で理数系の内容を削減したのも間違いだった。
 なお、何かしようとすると、*6-2・*6-3のように、「教員に時間的余裕がない」「長時間労働を是正すべき」「働き方改革が必要」という声が必ず聞かれるが、合理的に自分たちの問題を解決して必要な教育を遂行することのできない学校や教員が、生徒に思考力・判断力・問題解決力などを教えられる筈がなく、教員の質の低下は既に起こっているのではないかと思う。もし、教員の質が高く、教科に興味をわかせる教育ができたら、モンスターになる生徒や保護者はもっと減ると思われる。
 世界は、*6-4のように、新たな「学歴社会」に突入しており、高度な知識や技能を要する仕事が多くなった。そのため、教員にも修士号・博士号を要求してよいのかもしれないが、日本は、“専門性より人間性”を重視する雇用慣行を維持したままである。しかし、実際には、専門性と人間性は二者択一の性格ではないため、これらを二者択一であるかのように言う文化が問題なのであり、専門性や技術力がなければ競争以前なのである。

*6-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/475644 (佐賀新聞 2020/1/12) 温室ガス排出量、増加続く、「失われた10年」と国連総括
 2008年から17年までの10年間に世界の温室効果ガス排出量がほぼ一貫して増え続け、国連環境計画(UNEP)が「失われた10年だった」とこの間の地球温暖化政策を厳しく総括する報告書をまとめていたことが12日分かった。各国の削減対策は不十分としており、18年も排出量は増加。パリ協定の温暖化抑制目標を達成するには石炭火力発電所の新設中止など思い切った対策が急務だと指摘している。国内で石炭火力発電所の新設を進め、海外の建設支援も続ける日本に方針転換を求める圧力がさらに強まりそうだ。報告書によると、UNEPが世界の排出量の分析を始めた08年から17年までに世界の温室効果ガス排出量は平均で年1・6%増加し、17年には過去最高の535億トンに達した。約10年前に「目立った削減対策が取られず、成り行きのまま排出量が増える」とのシナリオで予測された排出の伸びとほぼ等しかった。18年はさらに増えて553億トンに上ったとみられている。それでも各国政府が再生可能エネルギーや省エネの大幅拡大、森林破壊の防止や植林などの対策を大幅に強化すれば「産業革命以来の気温上昇を2度より十分低くし、1・5度になるよう努力する」とのパリ協定の目標達成はまだ不可能ではないと分析した。一方で現在、建設中の石炭火力発電所が全て稼働すると気温上昇を1・5度に抑えることは不可能で「新設をやめ、既存の発電所も徐々に減らすことが目標達成に欠かせない」と指摘した。UNEPは08年から毎年、温暖化の被害防止に必要な温室効果ガスの削減量と実際の排出状況に関する調査報告をまとめている。今回、10年間の変化を改めて分析した。

*6-2:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/573435/ (西日本新聞社説 2020/1/6) 教育再生元年 学ぶ喜びを知ってほしい
 新学習指導要領がこの4月から、小中高で順次実施され、戦後教育の転換点ともいわれる大改革がいよいよ本格化する。学年を問わず「主体的・対話的で深い学び」という新たな指導理念が導入される。知識を蓄えるだけでなく、それを活用する思考力や判断力、表現力などを育むことが主眼である。小学高学年では外国語(英語)が教科となる。論理的思考を学ぶプログラミング教育も始まる。グローバリズムやIT社会に対応するためとされる。高校ではいずれ、大規模な教科・科目再編も行われる予定だ。負担が確実に増えるだけに、子どもが「学ぶ喜び」と「考える楽しみ」を体得できるよう、教員は指導に知恵を絞ってほしい。学習の原動力は、何よりも知的好奇心である。
■読解力向上が課題だ
 戦後、日本の教育行政は「詰め込み」と「ゆとり」の間を振り子のように揺れてきた。米国流の自由で余裕のある教育から始まり、1960年代以降は学習量が増え、カリキュラムも過密化した。これが詰め込み教育と批判され、国は80年代に学習量を減らすゆとり教育を進めた。しかし、2000年代に入ると潮目が変わる。15歳の応用力や読解力を問うため、経済協力開発機構(OECD)が実施する学習到達度調査(PISA)で03年、日本は大きく順位を下げた。いわゆる「PISAショック」だ。この結果を受け、文部科学省は前回の指導要領改定で「脱ゆとり」にかじを切った。今回の改定はその流れを踏襲し、さらに深い思考力などの育成を目指している。昨年末発表されたPISA18年調査では、科学と数学の応用力は上位に踏みとどまったものの読解力は15位と低迷した。この順位に一喜一憂する必要はないが、読解力は学力の土台だ。読解力が伸び悩む要因に、若者に広がる会員制交流サイト(SNS)が短文中心である影響を指摘する識者もいる。授業で長文に親しむ機会を増やす工夫を求めたい。授業で新聞を活用するNIE(教育に新聞を)の推進も後押しになるだろう。家庭でも、SNSのルールをつくり、読書習慣を生活に定着させてほしい。
■現場の声に耳を傾け
 「主体的・対話的で深い学び」の実現には、教員にも授業を練る余裕が欠かせない。公立小学校の18年度教員採用試験の倍率は2・8倍で過去最低だった。九州では福岡県の1・3倍を筆頭に2倍未満が4県もある。定年による大量退職時代の到来と相まって、教育の質の低下を招きかねない深刻な事態と言えよう。民間への就職の堅調さが背景にあるようだが、教員という仕事を敬遠する風潮も広がってはいないか。深刻な長時間労働を是正するため、働き方改革を急ぐべきだ。まずは、各学校で教員が担う膨大な業務の削減に本気で取り組んでほしい。一連の改革は政府の教育再生実行会議が起点となってきた。大改革だけに、政治主導による強いリーダーシップが必要な場面もあろう。ただ議論が生煮えのまま「改革ありき」で強行しては、教育の現場に混乱を広げてしまう。大学入試改革を巡る騒動に、それは明らかだ。英語民間検定試験と国語・数学への記述式問題を導入する方針を検討した二つの会議の内容が昨年末公開された。16年の時点で、昨年問題となった地域格差や採点ミスの可能性は指摘されていた。文科省は仕切り直しの議論の中で、現場や識者の声に誠実に耳を傾けるべきだ。今年は「教育再生元年」とも呼ばれる。主体的に行動し、よく考えて判断する。異なる意見を持つ人と話し合い、問題を解決する-そんな力を養える教育環境を着実に整えたい。

*6-3:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1055817.html (琉球新報社説 2020年1月12日) 教員の長時間労働 働き方改革の道筋付けよ
 長時間労働などで学校現場が疲弊し、教員にゆとりや将来への希望が見えなくなっている現状が改めて浮き彫りになった。県教職員組合(沖教組)が40歳未満の若手教職員に行ったアンケートで、定年まで現在のような働き方を続けられないとする人が55%に上った。月平均の時間外労働は平均55・7時間となり、持ち帰りの仕事も10・6時間あった。働き方改革関連法の施行によって、民間企業では時間外労働は原則月45時間と定められたが、それを大きく超える実態だ。教育現場はいじめや不登校などの課題が山積している。「モンスターペアレント」の対応に神経をすり減らす例があるのも事実だ。教員が多忙故に疲れ切っていては適切な対処ができない恐れがある。教員の残業を減らし、ゆとりある教育現場にするための具体的な対策が求められる。本紙が昨年12月に市町村の教育委員会へ聞いたアンケートでも、公立小中学校で月100時間を超える残業をした教員が延べ810人、「過労死ライン」とされる80時間超は少なくとも延べ2329人だった。学校現場の長時間労働は常態化している。文部科学省は昨年1月、働き方関連法に沿う形で公立校の教員の残業が月45時間を超えないようにする指針を出した。しかし、指針に罰則規定はなく、「臨時的な特別の事情」の場合は月100時間を超えない範囲で延長できるとしている。そもそも県内の公立小中学校でタイムカードやICカードなどで客観的に勤務時間を把握していたのはおよそ半数の21市町村だった。その他は教員自身がエクセルデータに記入したり、出勤簿に押印したりする方法で勤怠を管理していた。労働時間が正確に管理されず、月45時間の指針を守らなくても罰則もない状況では、指針が形骸化しているのも無理はない。沖教組のアンケートによれば、教員が本来時間をかけたいのは教材研究や補習指導、学年学級運営など子どもたちを指導する業務だが、時間外勤務が発生する理由は報告書作成や校務分掌などが上位となり、生徒と向き合う時間が取れていない実態も見えた。経済協力開発機構(OECD)の国際教員指導環境調査で日本の中学校教員の週当たりの仕事時間は56時間と世界最長だ。にもかかわらず、生徒が自ら考える力を育む授業を実践する教員は各国平均に比べて低い水準にある。多忙さが子どもの指導に向けられていないのだ。いま、学習指導は暗記中心の授業から表現力や深い思考を養う方向へ転換している。教員の指導法がより高度になるよう、授業の準備を充実させる時間が必要だ。教員の仕事の在り方を抜本的に見直し、働き方改革の道筋を付けたい。

*6-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191208&ng=DGKKZO53006550V01C19A2MM8000 (日経新聞 2019.12.8) 「博士」生かせぬ日本企業、取得者10年で16%減 世界競争、出遅れも
 世界は新たな「学歴社会」に突入している。経営の第一線やデジタル分野では高度な知識や技能の証明が求められ、修士・博士号の取得が加速する。主な国では過去10年で博士号の取得者が急増したのと対照的に、日本は1割以上減った。専門性よりも人柄を重視する雇用慣行を維持したままでは、世界の人材獲得競争に取り残されかねない。「日本人だけでは定員を埋められない。経済学の修士課程は6割が留学生だ」。データ分析を駆使したミクロ経済学を研究する、東京大学の渡辺安虎教授は危機感を募らせる。今夏まで米アマゾン・ドット・コム日本法人で経済学部門長を務めた経験から「社会的なニーズは必ずある」と断言するが、日本人の大学院への進学意欲は乏しい。科学技術・学術政策研究所によると、米国や中国では2016年度までの10年間に博士号取得者が2割超増えた。修士号でも傾向は同じ。企業などで上級ポストを射止めるには高い学位が必要になる。グーグルなど米IT大手に先端分野の技術者として入社するには、修士・博士号が求められる。トランプ政権がビザ発給を厳格化するまで、中国からは年数千人が渡米して博士号を取得。民間企業の成長のけん引役になっていた。一方、日本の博士号取得者は16年度に1万5000人と10年間で16%減った。少子化は関係ない。この間に4年制大学の入学者は一貫して増えている。学生が専門課程への進学をためらい、日本は世界の中で相対的な「低学歴化」に沈んでいるのが実情だ。大学などの研究者の収入が不安定な面は否めないが、企業の機能不全も深刻だ。博士課程で人工知能(AI)を専攻した大山純さん(仮名)は今、国内電機大手でインフラ分野の営業と開発に従事する。採用面接では専門知識はほぼ問われず、逆にこう求められた。「学位取得より入社を優先してほしい」。結局、博士号は取らなかった。経団連は毎年、加盟各社が「選考時に重視した点」を調べている。上位を占めるのは「専門性」ではなく、「コミュニケーション能力」など人柄に関する項目ばかりだ。入社後も専門性は評価されにくい。30歳前後の平均年収を比べると、日本の学部卒人材が418万円なのに対し、修士・博士の大学院卒は524万円。その差は1.25倍だ。米国の修士の平均年収は763万円で、学部卒の1.4倍を稼ぐ。博士では915万円と1.68倍まで開く。高学歴者に高収入で報いるのは、世界の常識だ。社会学者の小熊英二・慶応義塾大学教授は「グローバルの人材評価基準から日本市場は隔絶されている」と指摘する。倍以上の年収で外資に転じる博士が後を絶たないのは、国内企業の待遇の悪さの裏返しだ。「社会」に出ても稼げないため、日本では博士号を保持する研究者の75%が大学などに所属する。日本では1990年代に政府主導で博士を増やしたが、雇用が不安定なポスドク問題を生み出した。科学技術振興機構の永野博研究主幹は「企業に採用される人材を、大学側が育ててこなかった面もある」と話す。米国では博士の4割が企業で働き、イノベーションの原動力になっている。高度人材の育成と確保は、国家の競争力も左右する。雇用慣行と教育現場。2つのアプローチで改革を急ぐ必要がある。

<警察の呆れた優先順位>
PS(2020年1月14日追加):ゴーン氏の場合は刑事事件になるか否かもわからないようなことで長期間拘束したが、40代の女性を人質にとって立てこもった20代の日本人男性に対しては、*7のように、10時間経っても警察官が事務所内で男の説得を続けているのに呆れた。単独の現行犯なのだから、その男を拘束すると同時にさっさと女性を解放しなければ、その女性はたまったものではないだろう。つまり、警察は、日産のような組織は護るが、40代の女性のような個人はどうでもよいという価値観を持っているらしく、この価値観がおかしいのである。これなら、被害者になった場合でも、日本の警察に頼むより元グリーンベレーの人に頼んだ方が早そうだ。

*7:https://digital.asahi.com/articles/ASN1G571VN1GPTIB00D.html?iref=comtop_latestnews_02 (朝日新聞 2020年1月14日) 立てこもりの男が軽いけが 女性が人質、説得続く 出雲
 14日午後2時半ごろ、島根県出雲市神西沖町(じんざいおきちょう)の運送会社「上田コールド」の従業員から「立てこもりたいという男が来て部屋の外に出された」と110番通報があった。島根県警によると、男は刃物のようなものを持っており、同日午後10時現在、事務所2階で40代の女性従業員を人質にとって立てこもっている。女性にけがはないが、男は軽いけがをしているという。県警によると、男は「社長に会わせろ」という趣旨の話をしており、警察官が事務所内で男の説得を続けている。男は階段に通じる廊下にいて、比較的落ち着いた状態だが、ブラインドをおろす時にけがをしたと話しているという。女性従業員は廊下の奥の部屋に入れられているという。県警によると、男は午後2時20分ごろ、事務所を訪れ、「今から立てこもる」と言って女性従業員を人質にとった。当時、7人ほどの従業員がいたが、ほかの従業員は外に出されたという。県警は、男は20代で、同社との雇用や取引の関係はないとみている。現場は、JR山陰線の出雲神西駅から北西約1・5キロで、周囲には住宅や田畑が広がる。40代の男性従業員は「配送から戻ってきたら事件が起きていた。会社ともめて辞めたような人は聞いていない。女性が心配だ」と話した。同社のホームページによると、同社は生鮮品の冷凍・冷蔵輸送に特化した運送会社。1973年の創業で出雲市や鳥取市に物流センターがある。上田コールド出雲物流センター(出雲市長浜町)の従業員によると、本社では普段、10人前後が働いているという。

<ゴーン氏の主張は正当である>
PS(2020年1月17日追加):*8のように、日産は、ゴーン氏の不正を許してきたガバナンスの改善などに関する報告書を東京証券取引所に提出して、CEOリザーブ(CEOの交際費の筈)を利用した支出、仏ルノーとの統括会社を使った会社資金の私的流用等の不正に関する社内調査結果を新たに盛り込み、「ゴーン氏が事実を隠したため、取締役は不自然さを探知できず、監査役も是正できなかった」とし、ゴーン氏の方は、「CEOリザーブは多くの役員がチェックするもので、私のサインだけで支払われたCEOリザーブは1ドルもない」と主張しているそうだ。
 しかし、①CEOリザーブを設けること自体 ②その金額 ③使い方 などについては、役員が了承し監査役もチェックしている筈で、チェックする立場の人は疑問があれば質問して妥当性を調べるのも仕事のうちであるため、「不自然さを探知できなかった」「ゴーン氏のすることに反対できなかった」と言うのは「仕事をしていなかった」と言うのと同義である。一方、ゴーン氏だけのサインで支払われたCEOリザーブが1ドルもないのであれば、思いついたように後付けでゴーン氏のみを批判するのは妥当ではない。

*8:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14329752.html (朝日新聞 2020年1月17日) 日産、東証に不正調査を報告 「ゴーン前会長への反論」
 日産自動車は16日、カルロス・ゴーン前会長による不正を許してきたガバナンス(企業統治)の改善などに関する報告書を東京証券取引所に提出した。CEO(最高経営責任者)の裁量で使える予算「CEOリザーブ(予備費)」を利用した支出や、仏自動車大手ルノーとの統括会社を舞台にした会社資金の私的流用など、前会長の不正に関する社内調査結果を新たに盛り込んだ。逃亡先のレバノンで開いた会見で「無実」を主張した前会長と真っ向から対立する内容だ。報告書では、前会長がCEOリザーブを使って、海外の知人が経営する企業や、販売代理店に計4670万ドル(約51億円)の不正な支出をしたと認定。前会長をめぐる特別背任事件で、東京地検特捜部が起訴した内容に重なる。ルノーとの統括会社「ルノー・日産BV(RNBV)」を通じて、パリ郊外のベルサイユ宮殿でのパーティー費用やカンヌ映画祭への知人の招待費用などの私的な支出を含め、少なくとも計1137万ユーロ(約14億円)の不正支出があったとも認定した。これらの調査結果は、昨年6月に東証に提出した「改善報告書」の内容に付け加える形で盛り込んだ。日産幹部は「会見への反論にもなっている」と話す。ゴーン前会長はベイルートで8日に開いた会見で、CEOリザーブについて「多くの役員がチェックするものだ。私のサインだけで支払われたCEOリザーブは1ドルもない」と主張。日産は報告書でこうした支出の背景について、前会長が「事実を隠したため、取締役は不自然さを探知できず、監査役も是正できなかった」と指摘した。

| 司法の問題点::2014.3~ | 09:01 PM | comments (x) | trackback (x) |

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