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2021.2.8~15 経済から見た日本の医療・介護制度は、重荷ではなく成長産業である (2021年2月18、19、20、22、24、27日、3月1、4、5日に追加あり)
 
2019.12.21毎日新聞 2020.4.8 2020.5.27時事   2021.1.29北海道新聞 

(図の説明:1番左の図のように、2020年度の本予算は102兆6,580億円で、消費税を増税したのに、9兆2,047億円は債務純増だった。さらに、左から2番目の図のように、新型コロナ対策として第1次補正予算が16兆8,057億円組まれたが、そのうち9兆5,000億円あまりは国民に自粛を求めたため成り立たなくなった企業の救済資金だった。また、右から2番目の図のように、第2次補正予算が31兆9,114億円組まれ、そのすべてが自粛による倒産危機に備える支出だった。さらに、一番右の図のように、19兆1,761億円の第3次補正予算が組まれて、2020年度の支出合計は170兆5,512億円になった。しかし、しっかり検査と隔離をし、新型コロナ関係の機器・治療薬・ワクチンの開発をした方が、少ない支出でその後の経済効果が大きかっただろう)

  
  2020.12.21時事      2020.12.21毎日新聞   2020.12.21毎日新聞

(図の説明:現在、審議中の2021年度予算案は、左図のように、5兆円の新型コロナ対策予備費を計上して、総額106兆6,097億円となっており、このうち43兆5,970億円を新規国債発行で賄っている。また、中央の図は、2020年度第3次補正予算と合わせて、もう少し詳しく使途と財源を記載したグラフだが、より詳しい内訳があった方が本当の姿が見えやすい。しかし、これらの歳出の結果、右図のように、2020年度は歳出と国債残高が跳ね上がり、2021年度の財政も赤字続きになりそうである)


    FeelJapan         2021.2.1時事      2019.10.16みんなの介護   

(図の説明:左図のように、日本の名目経済成長率の大きな流れは、低賃金を武器に加工貿易で欧米先進国に輸出しながら戦後の荒廃した国土を復興していた第1期の9.1%から、オイルショックを境に第2期の4.2%に下落し、バブル崩壊を境に第2期の4.2%から第3期の1.0%に下落したことがわかる。これは、まずエネルギー価格が日本経済の大きな弱点であり、バブルで膨らませていた名目経済成長率もバブルが消えると1.0%前後になったということを示す。それに加え、中央のように、消費税増税による物価上昇や非正規化・高齢化による低所得者割合の増加があり、近年の実質経済成長率は0%近傍だった。しかし、右図のように、実質所得が減少しているのは日本だけで他の先進国は大きく増加しており、その理由は、日々、製品の高付加価値化や本物の生産性向上に取り組んでいるからである)

(1)医療崩壊の理由は、政治・行政・メディアの不勉強と無知にあること
1)2021年度当初予算の肥大と税収源
 現在、予算委員会で議論している2021年度当初予算案は、*1-1のように、2020年度補正予算と連動し、歳入の40・9%を新規国債発行(借金)に依存しながら肥大化している。これは、新型コロナ禍で歳出拡大圧力が強まり続けたせいとのことだが、コロナ対策として強制的に休業させ損害を出させた上に税収を落とし、日本経済の起爆剤などとして生産年齢人口に対するばら撒きを続けるのはあまりに愚かだ。

 また、「日本における財政事情の悪化は、高齢化に対する社会保障費の伸びによる歳出拡大の影響が大きい」などと必ず言われるが、これは予測可能で現在の高齢者が保険料を支払っていた期間に引当金を積んでおくべきだったのに、国は現金主義会計を変更せずにひたすら浪費してきたために起こった国の責任なのである。そのため、政治・行政・メディアが、まるで高齢者に責任があるかのようなことを言うのは、いっさい止めるべきだ。

 さらに、日本経済が低迷して税収が回復しないのは生産年齢人口の生産性の低さによるのであり、そうなった理由は、①エネルギー ②資源 ③賃金 等の高コスト構造をいつまでも変えずに現状維持に汲々としていたことが原因だ。私は、①②については、1990年代から解決策を提示していたが、外国だけが2000年代から本気で始めて日本を追い抜いた事実があるのだ。

 なお、③の賃金は、イ)付加価値を上げるか ロ)生産性を上げるか ハ)賃金を下げるか しか選択肢はないので、例えば新型コロナを例にとれば、イ)については、役に立つ期間内に検査法・治療薬・ワクチンを開発・実用化・販売する方法があるが、先進諸外国はそうしているのに日本は大学への立入を禁止して試験研究を行えなくしたという政治・行政の愚かさがある。

 ロ)についても、新型コロナを例にとると、米国の地方大学が唾液を使った検査法の開発を行い、唾液の方がウイルスを多く含むという結果を出したにもかかわらず、いつまでも唾液では結果が疑わしいかのような非科学的な報道をメディアが行い、日本における検査の生産性を低いままにしておく世論形成を行ったのは生産性の向上に逆行していた。

 ハ)については、日本では物価を上げて実質賃金を下げており、このようにして実質賃金を下げている国は日本だけなのだが、これは政治・行政の失敗を国民に皺寄せしているということだ。このような事情があるため、消費が減って法人税・所得税の税収が減るのは当然で、それをカバーするために消費税で薄く広く課税すれば所得に反比例して課税することになって、さらに消費が減る。従って、私は、消費税増税のような筋の悪い法案に賛成したことは一度もない。

2)新型コロナの影響による税収大幅減
 1)で述べた通り、日本の新型コロナ対策は問題を解決するための努力をせず、時短や休業を進める宣伝ばかりをこぞって行ったため、*1-2のように、所得が減少したのに応じて各税収が大きく減少し、2020年度は63・5兆円見込んでいた税収が50兆円台前半に落ち込むそうだ。

 しかし、それだけではなく、国の愚策によって国民に人為的にもたらされた減収は、全額を国が負担して還付すべきで、2020年度の法人税や2020年の所得税申告書とそれ以前(前年又は過去3年分で既にある)の申告書、同期間に受けた支援金額をまとめた書類を準備すれば、要還付額の計算は正確で容易なのである。

 また、減収分の全額が還付されることが明らかになれば、銀行から借り入れを行うこともでき、「GoToキャンペーン」などで不公平に特定の業種だけを支援する必要はなくなる。そして、そのくらいのことを要求しなければ、国の不作為とその結果の国民への皺寄せは、今後も続くと思われるのだ。

3)医療崩壊は、なぜ起こったのか
 新型コロナ感染拡大の第3波で医療提供体制逼迫・医療崩壊の危機という声が、*1-3はじめ知事会やメディアで大きかったが、医療提供体制逼迫・医療崩壊の危機が本当に新型コロナ感染拡大によって起こったのかと言えば、そうではない。

 具体的には、*1-3に、①緊急事態宣言が出された都府県でコロナ用病床の使用率が高止まり ②重症者の多い東京都で入院先や療養先が決まらない人が多い ③救急患者の搬送困難事案が多発 ④コロナ患者受け入れに伴って通常医療の入院・手術を減らした医療機関も ⑤日本の人口当たり病床数は世界のトップ水準でコロナ患者数は欧米に比べて圧倒的に少ないのに医療崩壊が危惧される原因の1つは、コロナ患者の受け入れが公立・公的病院に偏っている ⑥民間病院は中小規模が多く感染症対応が難しいという事情あり ⑦中小民間が回復期の患者を引き受けるといった役割分担に積極的に取り組んでほしい ⑧軽症・無症状者は自宅や宿泊施設で療養するが、容体が悪化し死亡する事例が昨年末から増え、自宅療養中だった男性の容体が急変して死亡した と書かれている。

 このうち①②③④は、軽症者・無症状者の隔離に病院を使っていることが原因であり、⑧の軽症者・無症状者は医師・看護師の関与の下、宿泊施設で隔離・療養させる必要があるのだ。また、家庭の事情があって軽症以上でも自宅療養する場合には、その人は患者であって(電話の繋がらない)保健所への連絡や家事は負担になるため、訪問介護(家事支援)・訪問看護・往診などのサポートを受けることができなくてはならないのである。

 また、⑤⑥⑦については、(文科省管轄の)大学病院は大規模でエリア分けが可能であるため、中小の民間病院より先に大学病院で中等症・重症の患者を受け入れるようにすべきで、そうした方が研修医の経験にも資する。さらに、疾病は新型コロナだけではないため、「病院に入院したら新型コロナに感染した」という状態では困るのであり、病院の得意分野に応じて役割分担すべきなのだ。

 なお、感染症は新型コロナだけではないのに、病気になると大部屋で空気や共同トイレから感染しやすい入院施設に入らなければならないのでは、免疫力の強い人しか入院できない。しかし、病気になると誰でも免疫力が落ちるため、入院施設はすべて陰圧の個室にし、酸素吸入機器等の必要な設備をつけておけば、新型コロナでもこれほど大騒ぎする必要はなかった筈である。

 つまり、⑤の「日本の人口当たり病床数は世界のトップ水準で、コロナ患者数は欧米に比べて圧倒的に少ないのに、医療崩壊が危惧された」というのは、異なる診療科なので感染症に対応できなかったり、病室が粗末でスタッフも少ないため感染力の強い感染症患者を受け入れられなかったりしたということで、普段からやっておくべき地域医療計画ができておらず、いざという時の入院施設がお粗末だったということなのである。

4)本来やるべきだった新型コロナ対策と検査
 広島県の湯崎知事は、1月29日、*1-4-3のように、広島市中心部4区の全住民と就業者合わせて最大80万人を対象とする新型コロナウイルスの無料PCR検査を実施すれば死者や重症者の発生が減り、結果として11~19億円の医療費を節約できるとの試算を発表されたそうだが、私もそのとおりだと思う。

 この検査は、無症状者・軽症者が対象で任意だが、少なからぬ死者・重症者・中等症者の発生を予防でき、「プール方式」を利用すれば比較的迅速かつ安価で検査を行うことができる。他の地域も、同様に検査を行って無症状の陽性者に一定期間の自宅待機を要請すれば、早めに感染拡大の芽を摘み取り、経済的な損失を最小限に抑えることができると、私も考える。

 そのような中、*1-4-1のように、医師・歯科医師・薬剤師・看護師・理学療法士等の国家資格を持つ国会議員が参加する自民党新型コロナ対策医療系議員団の本部長を務めておられる冨岡衆議院議員が、「①コロナによる医療体制の逼迫は、東京はじめ3大都市圏はパンク状態で限界」「②人工心肺装置(ECMO)をつけると必要な人手が倍になる」「③過重労働で人手が足りず、勤務日程が組めない事態が危惧される」「④感染拡大状況は地域によってバラツキがある」「⑤全体を見渡して空いているところに素早く患者さんを搬送するシステムが必要」「⑥全国各地の自衛隊病院を専門病棟として活用する工夫も必要」「⑦経済状況の悪化に伴う自殺者の増加も起きる可能性がある」「⑧LAMP法(*1-4-2参照)などの短時間検査を導入し、検査数を増やして無症状の若年感染者の発見に全力をあげるべき」「⑨オゾン・紫外線・高機能フィルターなどで汚染された空気の除菌をすべき」等と言っておられる。

 しかし、⑧の導入も含め、早急になるべく簡便で早く結果の出る検査を充実していれば、①②③④⑤⑥⑦の状態は防げた筈なので、「まだこんなことを言っているのか」と私は思った。また、⑨は世界で需要があるのに、日本にはこれを作れる会社がないのだろうか? そして、②のECMOや酸素吸入は対症療法でしかないため、抗体医薬を含む治療薬を素早く承認すれば治療期間が短くなり、ECMOを使わなければならない患者は増えず、助かる人が増えて、病院の負担は減った筈である。

 さらに、⑤の空いているところに素早く患者さんを搬送するシステムは、私が衆議院議員だった2005~2009年に、夫(脊椎・脊髄外科医)のアドバイスを受けて全国にドクターヘリのシステムを導入したため、既にある。従って、搬送時の工夫さえすれば、都会・離島・山間部を問わず④⑤はすぐできる筈で、⑥の自衛隊病院も使えばよいため、何故、迅速にそういう対応をしなかったのか不思議なくらいだ。

5)物質を介する感染と変異株
 島津製作所が、*1-5のように、ノロウイルス向けの検査キット技術を応用して物質の表面に付着した新型コロナウイルスを検出する試薬キットを発売し、PCR検査法により100分でパソコン・ドアノブ・水道の蛇口などを調べて衛生管理に役立てられるそうでよいことだ。

 ウイルスの変異株はウイルスが存在する限り常に発生しており、多くの人がマスクをして混雑を避けていれば、空気感染は減少するので物質に付着して長く生存する能力がウイルスの感染力になり、その方向に変異した株が増えることになるだろう。そのため、物質の表面に付着した新型コロナウイルスを検出する試薬キットはより重要になると思われる。

 また、私は、外国に行った時は、その国の人の生活を感じられる市場やデパートに必ず行くのだが、欧米で日本よりも新型コロナの感染者が多い理由の1つに、食品の売り方があると思う。例えば、果物などを沢山積み誰もが触って選べる売り方は普段なら豊かな感じがするが、ここに新型コロナウイルスが付着して感染する確率は高い。その点、日本のスーパーはパッケージに包装して販売しているため、洗剤で洗えない食品にウイルスが付着する機会が少ないのである。

(2)社会保障は無駄遣いではなく、他に多額の無駄遣いをしながら社会保障給付を抑制することこそ愚策である
1)国の会計処理について
 国立社会保障人口問題研究所は、*2-1-1のように、2018年度の社会保障給付費(社会保険料と税金を主財源とした医療・年金・介護等の給付合計)が121兆5408億円で過去最高を更新したと発表したそうだ。

 しかし、まず、2020年10月16日に書かれた記事に利用できる財務情報が2019年度のものではなく2018年度のものだという事実が、国民が支払った金に対する政府のAccoutability(説明責任ではなく受託責任)と使途に関する開示が如何に軽視されているかを示しているのである。

 一般企業の決算なら、各国に多数の子会社を持つ多国籍企業でも、2019年度(2019年4月~2020年3月)の決算なら3カ月以内の2019年6月末までに終了して株主総会まで終わっていなければならない。また、法人税申告書の提出期限は決算日から2カ月後の5月末で、延長可能な期間は最大でも4カ月であるため、遅くとも9月末が提出期限になる。

 また、内訳を細かく書かずに単に総額が増えた減ったと言っているにすぎないため、①当然増えるべくして増えた金額 ②政策の誤りによって支出した金額 ③運用時に無駄遣いをして支出した金額 の区別がつかない。これは、為政者にとっては責任逃れに都合がよいが、国民にとってはいくら負担しても「足りない」と言われる不都合な状態を作っており、一般企業なら、財務管理ができずに必要な支出と放漫経営による支出を混同しながら倒産していくケースだ。

2)年金について
 年金については、*2-1-2のように、0.8%増の55兆2581億円などと増えたこと自体を問題視し、高齢者への給付削減という「痛み」を伴う改革への踏み込みの甘いのが大きな課題とするメディアの論調が多い。

 そして、その帰結として、政府は、*2-3-2のように、「マクロ経済スライド」と称する年金支給額の伸びを物価や賃金の伸びより抑制する仕組みを作り、実額年金額を国民に気付かれないように次第に目減りさせるという悪知恵を働かせて、*2-3-1のように、厚労省が現役世代の賃金水準を年金受給額に反映させるルールを適用し、2021年度の公的年金受給額を20年度比で0.1%引き下げると発表したのだ。

 さらに、その理由を「日本の公的年金は現役世代の保険料を高齢者の給付に充てる仕送り方式で、少子高齢化が進むと現役世代の負担が増えるから」などとしているが、定年年齢は55歳だったころから60歳・65歳へと上昇しているため、その高齢者が働いていた間に引当金を積んでいれば寿命が10年くらい伸びても全く問題はなかった筈だ。にもかかわらず、いつまでも賦課課税方式を改めず、付加価値や生産性を上げる努力もせずに、大きな無駄遣いをしながら、働かないことを推奨してきた政府の責任は重く、その結果を高齢者に皺寄せしようなどというのは筋違いも甚だしいのである。

 なお、*2-1-2に、「2018年度に121.3兆円だった年金・医療・介護等の社会保障給付費は、団塊世代が全員75歳以上になる25年度には140兆円を超え、2040年度には190兆円近くまで膨らむ見通しだ」などと書かれているが、ある年の出生数はその年が終ればわかるため、これらは、今初めてわかることではない。

 だからこそ、現役世代が支払った保険料を引退世代の給付に充てる賦課課税方式ではなく、自分のために積み立てる積立方式に変更しておかなければならないと私は1990年代から言っており、民間企業は退職給付会計を導入して積立不足額の積み立てもとっくに終わっているのだが、日本政府は賦課課税方式を維持して無駄遣いを続けつつ現在に至り、「高齢者への給付と負担を見直さなければ現役世代の負担が重くなる」などと未だに言っているのだ。ちなみに、米国で退職給付会計が導入されたのは1980年代であり、国際会計基準もすぐに採用している。

 そして、高齢者に皺寄せする現在の日本のやり方は、高齢者に低所得者の割合を増やすため、高齢者割合が増すにつれて、生産年齢人口で賃上げしても日本経済の需要が減ることになる。そのため、悪知恵に基づく変な変更をせずに、真の需要であり今後は世界でも需要が増える高齢者向けのサービスを充実すべきだったのだ。

 また、少子化がよく理由に挙げられるが、年金等の高齢者への支出が削られれば、子どもを増やせば自分たちの老後の準備ができず、ますます惨めな老後を過ごさなければならないことになる。そのため、高齢者に対する社会保障の減額という老後不安は、生涯所得と生涯支出を考えれば出生数を減らすことになり、女性はそこまで考えて行動しているのである。

3)医療費について
 *2-1-1に書かれているとおり、2018年度は医療費が0.8%増の39兆7445億円だったが、診療報酬をマイナス改定して伸びを抑えたために医療機関はゆとりがなくなり、消費税増税分はすべて医療機関の負担になっていた。さらに、合理的な地域医療計画もできていない地域が多かったためか、欧米と比べてほんの少しの感染者数で医療が逼迫し、緊急事態宣言を発して国民に迷惑をかける事態となった。これらは全て政治・行政の責任であり、一方で厚労省が定める薬価が国際価格より高すぎたり、よりよい治療法への変更が行われていなかったりなど、官製市場に起因する無駄遣いも多い。そのため、保険診療と自由診療との併用は不可欠なのである。

 なお、*2-2-1のように、(生活保護給付程度の)200万円以上の所得がある75歳以上の医療費窓口負担は2割に引き上げることになり、これに加えて資産の多い(具体的にいくらを言うのか不明)高齢者にも一定の負担を求める案が出ている。しかし、一つの課税所得に対して何重もの負担を課すのは不公平で非常識な政策で、そのためにマイナンバーカードを使おうというのだから、マイナンバーカードは危険なのである。

4)介護について
 *2-1-1によれば、介護を含む「福祉その他」が2.3%増の26兆5382億円だったそうだが、金額だけが大きくても介護サービスは未だ必要な人に十分に届いているわけではなく、例えば新型コロナで自宅療養する人に介護の手は届かなかった。そして、家事を担う人(主に女性)に過重労働の負担をかけながら、40歳未満の人は介護保険制度に加入不要などという変則的な制度にしているが、これこそ全世代型社会保障にして働く人全員で負担すべきなのである。

 また、医療保険・介護保険等の社会保険料から補填される部分は、税金から支出される社会保障給付費とは区別して考えなければならないが、これも故意か過失か、ごっちゃになっている。

 なお、*2-2-2には、「当事者・事業者・研究者、識者3人に聞く」として、「①家族支える視点を大切に」「②現場の魅力を高めて人材確保(=賃金を上げる必要性)」「③サービスと負担の議論必要」「④65歳以上の保険料の全国平均は月5,869円。2040年度には9,200円に達するという推計」「⑤2015年度に一律1割だった利用料が一定円以上の所得のある人は2割、2018年度からは特に所得の高い層は3割に上がった」と書かれている。

 ここで大きく抜けているのは、「介護の当事者は被介護者であって被介護者がQOL(Quality of life)を下げずに療養できなければならない」という介護の理念だ。しかし、①は「家族を支えるべき」とするに留まり、②は「介護スタッフの賃金を上げるべき」としか言っておらず、③は④⑤のように、これまで「介護サービスの削減と高齢者の負担増」ばかりを言ってきており、介護の理念からほど遠いものだったのである。

 しかし、(あなたを含めて)誰もが被介護者になる可能性があり、高齢になって驚くほど少ない年金から毎月5~9千円も取られた上、少ない所得を高所得と言われてサービスの値段を上げたり、サービスの内容を制限されたりしたら、あなたならどう思うだろうか。その時の被介護者の驚きと落胆を、相手の身になって思いやるべきだ。

(3)中途半端で妥協したため、金ばかり使って意味のない政策になった事例
1)東日本大震災のかさ上げ造成について
 2011年の東日本大震災で、岩手県大槌町の中心部は、*3-1のように、10mを超す津波にのまれて壊滅状態となったが、町は161億円かけて2.2mかさ上げした。しかし、町が土地取得や住宅建設に200万円以上の補助金を出しても空き地が埋まらないそうで、当然のことである。

 何故なら、10mを超す津波に襲われた地域での2.2mのかさ上げは、次の津波の備えにならず、就労先となる産業や住宅を作れないからで、岩手・宮城・福島3県のかさ上げ地域は総事業費が2020年6月時点で4,627億円に上り、ほぼ全額が復興交付金等の国費で賄われたにもかかわらず、活用不能で未活用となってしまったのだそうだ。

 しかし、このように安全対策が不十分で住めないような場所なら、震災後に内陸部に移った地権者の多くが戻らないのは当たり前であり、「右肩上がりの時代に確立された復興のあり方が、現状にそぐわない」のではなく、安全対策が不完全なら日本人だけでなく難民を誘致することすらできないのである。

 そのため、2013年~2037年までの25年間にわたり、納税者が「復興のためなら」と黙って所得税の2.1%を納税した復興特別所得税の多くを無駄遣いにしてしまったわけだが、このように不完全な造成工事を、同調して進めてしまうのは男性の発想ではないのか? 

 私は、東日本大震災後、被災地で話をするのは男性ばかりで女性は後ろにいて意見を言わず、東北はジェンダー平等に遅れていることに気がついていたのだが・・。

2)エネルギーの選択について
イ)原発について
 東日本大震災後、納税者が黙って支払っている復興特別所得税や電気料金に含まれる原発関連費用は、*3-2に書かれている原発事故の後処理にも使われている。

 しかし、根拠もなく30~40年で完了するとされた廃炉作業は限界に近づいており、屋根を解放したまま800~900tもそのままにしている燃料デブリ(溶け落ちた核燃料)の取り出しすらできないとは呆れる。国と東電が2011年12月に廃炉工程表を掲げてから工程が遅れを重ねているのは、新型コロナよりも過度な楽観主義に基づく非科学的な対応に原因があるだろう。

 このように、散々無駄遣いしながら懸命につなぎとめてきたという目標について、原子力損害賠償・廃炉等支援機構の山名理事長は、「1年の遅れは、全体の遅れに比べたらたいしたことはない」「今の時点で『40年は無理』なんてとても言えない」「40年を目指して全力でやること自体が、難しい仕事を進める一つの原動力」などと述べているが、そこまで何もできないのに原子力発電などよく始められたものだ。

 その上、再稼働・新型原子炉などと言っているのだから、生活や安全を軽視して遊びのようなことばかりしている男性の極楽とんぼには、呆れ果てる。

ロ)発電用アンモニアについて
 それに加えて、東電ホールディングスと中部電力が出資するJERAが、*3-3-1のように、「CO2を出さない」という理由でアンモニアを発電燃料とするのも、不合理で筋が悪い。

 何故なら、排気ガス公害はCO2だけではないのに、「CO2排出量の削減だけが課題で、2050年までにCO2排出量さえ実質0にすればよい」などと公害を小さく考え、*3-3-2のように、着火しにくく、燃焼速度も遅く、燃焼時にNOxを出すアンモニアを、わざわざ海外から輸入して発電燃料にしようとしているからである。

 日本は再エネが豊富な国であるため、この試みは、エネルギーの自給率を下げて環境だけでなく安全保障の役にも立たず、もちろん地方創成の役には立たず、事故原発の後処理と同じように無駄が多く、後ろ向きで馬鹿なガラ系の寄り道にしかならない。

3)森林環境税について

   春の森   森林育成会社もあるが・・         2月の梅林


  水仙の咲く森      北アルプスの春     わさび田の春    所沢ゆり園

 2019年3月に成立・公布された「森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律」により、*3-4のように、日本の森林の保護・保全・活用に必要な財源を確保するためとして、年額1000円/納税者が各市町村を窓口として国税として2024年から徴収され、一旦国へ納められた後、国から都道府県・市町村に「森林環境譲与税」として交付されるのだそうだ。

 その「森林環境譲与税」は、2019年度から都道府県を経由して市町村に既に交付されており、①人口比率 ②木材使用施設・公園などの木材利用率 で交付額が決められるため、実際に森林の維持管理を生業にしている市町村に少なく、人口の多い都市部の市町村に多く支払われるというおかしな結果となっている。

 しかし、私は2005~2009年の衆議院議員時代に、国で環境税を導入するように提唱したが国では導入できず、最初に森林環境税が日本の資源でCO₂吸収源でもある森林の手入れをするために地方自治体で創られたのであり、これは木材の利用促進のために創られたものではない。

 そして、木材利用の推進は、森林の手入れを促すために副次的に行っているのであり、森林を手入れすることもない人口の多い都市部に多額の「森林環境譲与税」が支払われるのは、はげ山を増やすだけなので本末転倒である。

 さらに、森林の間伐のみを目的としてそれに費用をかけ、間伐した木材を打ち捨てておくなどというのは、あまりにもったいなく、その傲慢さは山の神様の怒りを買うだろう。そのため、間伐材を有効利用したり、植林の際に苗を詰め過ぎて植えないようにしたりして、間伐費用そのものは削減を考えるべきだ。

 もちろん林業活性化は重要だが、森林の育成・維持管理には、ボランティアではなくプロの森林・林業専門家が関わる必要がある。また、地方が森林環境税を新たな財源として森林の育成・維持管理以外の目的に目的外使用をしないようにしなければ、森林環境税の本来の目的が達せられないため、国民は一人当たり年額1000円の森林環境税を支払う理由がないのだ。

 つまり、遊びや無駄遣いではなく、まじめに森林の育成・維持管理という本来の目的に合った使い方をしないのであれば、国民が森林環境税を払う理由はなくなるので、これを絶対に忘れず使途を開示してもらいたいわけである。

(4)女性差別の政策への悪影響
1)オリ・パラ関連団体と五輪33競技中央競技団体の女性理事割合と日本社会
 「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」とした森氏の女性蔑視発言を受け、毎日新聞が、国内のオリ・パラ関連団体と五輪で開催される33競技の各中央競技団体における女性理事の比率を調べたところ、*4-1-1のように、五輪選手の5割前後が女性であるにもかかわらず、競技団体の全理事に占める女性割合は、3割超えはテコンドーのみで、女性理事ゼロの団体もあり、女性が会長を務めるのは日本バスケットボール連盟のみであり、全体の平均は16.6%だったそうだ。

 また、日本オリンピック委員会(JOC)と森氏が会長を務めるオリ・パラ組織委員会には女性理事が20%いるものの、森氏の差別発言があったJOC評議員会には3.2%しかいなかった。

 そして、そういう状況を変えるために、2019年6月にスポーツ庁が、中央競技団体向けの運営指針で各組織の女性理事割合を40%以上と設定し、女性評議員の目標割合を設定することなども提示していた中、女性の発言機会を制限するような森氏の女性蔑視発言「女性を増やしていく場合は、発言時間をある程度、規制を促しておかないとなかなか終わらないので困る」が飛び出したのだそうだ。

2)森氏の女性蔑視発言に対する周囲の反応
イ)スポーツ界トップの空気
 東京オリ・パラ組織委員会の森氏の女性蔑視発言に周囲から笑いが起こり、それを報じると、*4-1-2のように、複数のスポーツ関係者が「森会長の冗談じゃないか」と言ったそうだ。

 しかし、冗談なら面白くなければならないが、この発言は誰にとって面白いのか? 答えは明らかで、同じような女性蔑視の価値観を持つ人(多くは男性だが、女性にもいる)にとっては面白いが、事実でもないのに批判された人は侮辱を感じつつ笑ってごまかしていただけだ。そのため、そんなことも推測できないような人に調整役ができていたのは、一重に日本女性の忍耐の賜物なのである。

ロ)組織委の対応
 国際オリンピック委員会(IOC)は、最初、「森会長は発言について謝罪した。これで、IOCはこの問題は終了と考えている」と言っておられたが、*4-2-2のボランティアの大量辞退・*4-2-3の小池東京都知事の対応・協賛する企業からの苦言を受けて、*4-1-1のように「東京大会組織委員会も会長の発言を不適切と認め、ジェンダー平等に向かう決意を再確認した」という公式声明を発表し、森氏は2月12日の組織委の臨時会合で辞任を表明した。

 しかし、*4-3のように、IOCのバッハ会長は森会長に対し、森会長と並ぶ女性の共同会長を置く案を提案しておられたのだそうで、森氏の辞任後は、川淵氏が東京オリ・パラ組織委員会の新会長に就任する見通しと伝えられたが、さすがに、これはなくなった。

 私は、森氏の女性蔑視発言がきっかけで会長が変わる以上、会長は女性でなければならないと思う。しかし、政治家が会長になると、東京オリ・パラが政争の具にされて失敗する可能性が高くなるので、会長は政治と無関係な人がよい。

 そのため、既に大枠は決まっており、副会長などの補佐が複数いれば具体的な活動は可能であるため、雅子妃殿下に会長になっていただき、東京オリ・パラでは日本語だけでなく英語等の外国語を交えて、オリ・パラ精神にのっとった今後の世界を見渡す挨拶をしてもらってはどうかと思う。雅子妃殿下なら、世界の人が見たいと思っている顔である上、先輩のおじさま方も協力して支えることができるのではないだろうか。

ハ)自民党政治家の反応
 自民党政治家の反応は、萩生田文科相が、「『反省していないのではないか』という意見もあるが、森氏は最も反省しているときにああいう態度を取るのではないかという思いもある」と言って森氏をかばったが、苦しい弁解だった。

 また、二階幹事長は、*4-2-1で「①森会長には周囲の期待に応えてしっかりやっていただきたい。辞任は必要ない」「②ボランティアの辞退は、即座にそういう反応もあっただろうが、お互い冷静に考えたら落ち着いた考えになっていくんじゃないか」「③どうしてもおやめになりたければ新たなボランティアを募集する」と言っておられ、さらに、*4-2-2では「④男女平等で一貫して教育を受けてきた。女性は心から尊敬している」と言っておられた。

 しかし、①は森氏の女性蔑視発言を軽く考えすぎている。また、②は「ボランティアが瞬間的に感情的な行動をとったのだから、落ち着けば変わる」という意味で、「(女性の多い)ボランティアが、軽率な行動をとったのだ」と言っているのだから、やはり女性蔑視だ。その上、③は、「ボランティアなんか、いくらでも集まる」と言っているのだから失礼だ。

 それでは、④の「女性は心から尊敬している」という言葉は、本当であれば女性の何を尊敬していると言うのか? 森氏に抗議している女性は、優しさや忍耐強さで尊敬されたいとは思っておらず、公正かつ正当に評価された上で尊敬されたいのだということを忘れてはならない。

二)政財界、メディアの遅れ
i)スポーツ・政治・メディアの遅れ 
 スポーツ・政治・メディアで意思決定層に女性が少ない理由を、*4-1-1は、①女性への家事労働負担の偏在 ②社会に根付く強固な性別役割分業意識 ③その中での女性のキャリア蓄積の困難 と記載しているが、どの分野であっても第一線にいる女性は既に①②③をクリアしているのに(そうでなければ第一線にいられない)、このようにして割り引いて考えられるから意思決定層に行けないのであり、決して日本女性に人材がいないわけではない。

 なお、*4-2-4に、クリエーティブディレクターとして社会派の広告やイベントの企画などで活躍する辻愛沙子さんの話として、「④この発言を薄めたような出来事は、社会に多い」「⑤森さんの発言は言葉のあやではなく、価値観の根底に根付いている本音だ」「⑥勝手に作られた想像上のヒエラルキーがある」「⑦いつの時代にも『わきまえない女』がいたから、今の私たちに参政権があり仕事もできる」「⑧黙っている方が楽で声を上げる人にヤジを飛ばす方が簡単だけど、連帯したいアクションに対して賛意を伝える言葉を選ぶ人が多かったのはポジティブな動きだった」と記載されており、賛成だ。

 これに付け加えれば、短期的には黙っている方が楽かもしれないが、声を上げて社会を変えなければ意思決定層に女性は増えず、そのことは長期的には自分に降りかかってくるのである。

ii)国・地方自治体における女性登用の遅れ
 沖縄タイムスは、2月10日の社説で、*4-4のように、「①市民のニーズを把握し地域の実情に応じた政策に取り組むべき地方自治体職員も管理職が男性ばかりでは女性の利益が反映されにくい」「②沖縄県内41市町村の管理職に占める女性割合は14.0%と低く、全国平均の15.8%を下回る」「③部局長・次長級は11.7%(全国10.1%)と1割程度」「④政府が掲げていた『指導的地位に占める女性の割合を2020年までに30%程度」とする』という目標からほど遠い」「⑤『幹部候補になるまで育っていない』『昇進に消極的』といった声を未だに聞くが、そもそも候補となるための経験やチャンスを男性と同じように与えていない」「⑥昇進への尻込みは、家事や育児の負担が女性だけに偏っている現状や残業を前提とした長時間労働の問題でもある」「⑦地域による登用率のばらつきもある」「⑧政治・行政分野では30%がクリティカルマスとされている」などを記載しており、心強い。

 このうち①は全くそのとおりで、保育・介護などのサービスを女性に押し付けて、女性を過重労働にしながら社会のニーズを汲み取らなかった経緯がある。また、女性が関わることの多い教育・医療・年金等の社会保障も同様で、これだけの無駄遣いをして借金を積み重ねながら改善どころか改悪してきたのであり、その責任は長く(実質的)権力の座にいた人ほど重いだろう。

 また、⑧については、政治だけでなくどこでも最低30%は必要で、その理由は、10人の会議体に女性が1人しかいないのに女性のニーズを口にすれば、残りの9人から「会議が予定どおりに進まない、変わっている」等と言われるが、女性が3人いて女性のニーズを言えば、残りの7人(それでも女性の2倍以上いる)も「そうか」ということになるからだ。しかし、30%というのは、女性が⑥の理由で仕事からドロップアウトしがちである(何を重要と考えるかの問題なので、それも自由)ため謙虚に設定した数字で、本来は50%いても不思議ではないのだ。

 そのため、②③は、女性の割合が低すぎるため沈黙する女性もいるだろうし、④のように目標を達せられずに取り下げるなどというのは論外なのである。そして、⑤は昔から言われていたため、(私が提案して)1997年に男女雇用機会均等法を改正して採用・配置・昇進・退職に関する差別を禁止し、それが1999年4月1日から施行されて20年以上も経過しているため、未だに女性の幹部候補が育っていないのなら、20年以上も法律違反をしていたことになる。

 なお、⑥については、仕事を続けている女性は解決しているケースが多いにもかかわらず、これを理由に幹部候補の道を閉ざされた上、「昇進しないのは本人の希望」とされているケースが少なくない。そして、⑦は、女性に能力がないからではなく、受け入れ体制が不備であるため意思決定する立場の女性割合が低くなっている証拠なのである。

・・参考資料・・
<医療崩壊の理由は政治・行政・メディアの無知にあること>
*1-1:https://mainichi.jp/articles/20201221/k00/00m/010/225000c (毎日新聞 2020年12月21日) 肥大予算、さらに借金依存 歳入の40.9% 財政再建目標、絶望的に
 菅義偉首相にとって初となる2021年度当初予算案は異例ずくめの編成作業をたどった。「菅カラー」の打ち出しに腐心したが、新型コロナウイルス禍で歳出拡大圧力は強まり続け、補正予算と連動した「15カ月予算」は肥大化した。時限的な政策の財源を手当てする補正と違い、当初予算は暮らしやビジネス活動に直結する国家の絵姿。コロナ後の日本経済の起爆剤となるか、それとも将来に禍根を残す結果を招くのか。新型コロナウイルス対応で借金が膨らんだ2020年度に続き、21年度当初予算案も歳入の40・9%を新規国債発行(借金)に依存する編成となったことで、日本の財政悪化は一層、厳しい状況に追い込まれた。政策経費を税収などでどれだけ賄えるかを示す基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)の赤字規模は、20年度当初段階から10兆円超増えて20兆3617億円。政府は25年度にPBを黒字化させる目標を掲げているが、実現は絶望的な状況だ。日本の財政事情は、高齢化による社会保障費の伸びに伴い歳出の拡大が続く一方、経済の長期低迷で税収の回復は鈍く、歳入不足を国債で補う構図が続いてきた。10年代は税収が徐々に持ち直し、PBの赤字幅も縮小傾向にあったが、コロナ禍で状況が一変した。20年度は3回にわたる補正予算を通じ、歳出総額が175兆円に膨張。一方、歳入は税収が当初見込みより8兆円超下振れして55兆1250億円にとどまったこともあり、国債を大量発行。20年度の新規国債発行額は112兆円に達し、それまでで最悪だった09年度(52兆円)の倍以上に肥大化した。国と地方の長期債務残高は、20年度末に1200兆6703億円となる見込みで初めて1200兆円に到達。国民1人あたり960万円程度に上る危機的な状況にある。政府は「経済再生なくして財政健全化なし」として、まずは経済を回復して税収を増やし、PBの赤字幅を縮小させる従来型の財政改善策を維持する方針だ。しかし、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの小林真一郎主席研究員は「政府の方針はあまりに楽観的だ」と警告する。政府は一連の経済対策の効果も織り込み、21年度は4・0%程度の経済成長を達成し「経済をコロナ禍前の水準に戻す」としている。だが、「第3波」の拡大など経済への逆風は強まっており、民間シンクタンクの21年度予測は平均3・42%とより慎重な見方が強まっており、税収の回復には時間がかかる恐れもある。これまで積み上げてきた債務のため、21年度当初歳出の22・3%に当たる23兆7588億円は借金の利払いなど「国債費」に消えていく。借金が急増した20年度分の影響は22年度予算から反映される見通しで、国債費はさらに1兆円以上増える見通しだ。小林氏は「将来的には金利上昇のリスクもあり、債務拡大はいつか限界が来る。コロナ終息後は世界的に財政再建の流れが強まることが予想され、日本もたがを緩めず、予算の使い道をしっかりチェックしていくべきだ」と指摘している。

*1-2:https://mainichi.jp/articles/20201127/k00/00m/020/003000c (毎日新聞 2020年11月27日) 国の財政運営にコロナ直撃 税収大幅減 「緊急事態」再発令ならさらに下振れ
 新型コロナウイルスの影響で国に入ってくる税金(税収)が大きく減りそうだ。2020年度は63・5兆円の税収を見込んでいたが、民間からは50兆円台前半に落ち込むとの予測も出ている。コロナ対策で今後も歳出の拡大は避けられず、借金頼みに拍車がかかるのは確実。社会のあり方を大きく変えた新型コロナは財政運営の形も変えようとしている。現在、国に入ってくるお金は、税金が約6割、国の借金である公債金などがその他を占める。コロナ禍で経済が失速する中、政府はこれまでに2度の補正予算で計57兆円超を支出した。財源は借金で賄っており、当初予算から合わせた20年度の新規国債発行額は過去最大の90兆円超。政策経費を税収などでどれだけ賄えるかを示す「基礎的財政収支(プライマリーバランス)」の赤字は当初予算段階の9兆円余から66兆円に増えている。税収は時の経済状況に大きく左右される。リーマン・ショック時は51兆円(07年度)から38・7兆円(09年度)へ、ショックの前後2年間で25%近くも下がった。企業業績や雇用情勢に左右される法人税と所得税が減少したためだ。その後は景気回復に伴い、18年度に過去最高の60・4兆円に到達したものの、19年度は米中貿易摩擦による世界経済の減速に加え、年度末になってコロナショックが深刻化。結局、税収は58・4兆円にとどまった。20年度は4~5月に緊急事態宣言が発令され、4~6月期の国内総生産(GDP)は戦後最悪の前期比28・8%減(年率換算)を記録した。その後も経済の持ち直しは緩やかで、7~9月期のGDP(速報値)は年率換算で21・4%増と大幅なプラス成長になったが、コロナ前の水準には戻っていない。第一生命経済研究所の星野卓也副主任エコノミストは、税収は50兆円台前半まで落ち込む可能性があると推計しており、「法人税の下振れが最も大きな要因。緊急事態宣言が再度発令されるようなことになれば、見通しがつかなくなる」と指摘する。国に入ってくる税収は財務省が毎月公表しており、9月末時点での20年度税収実績は、前年同期比0・3%増の16・8兆円。見かけ上は前年と同じ水準を維持しているが、これには法人税のコロナ禍の影響が反映されていない。法人税や消費税には、事業年度の途中に税金を分割前払いする中間納付制度がある。分割・前払いしておいて払い過ぎた分を後から払い戻しを受ける仕組みだ。3月期決算法人の中間納付は11月に集中するため、財務省は「影響が出始めるのはそれからだろう」とみる。税収の内訳をみると、すでにコロナ禍の影響が顕在化している税目もある。外出自粛の影響でガソリン消費が減った結果、揮発油税は10月時点で前年同月比13・6%減。航空需要が蒸発した航空機燃料税は96・2%減となった。酒税(12・4%減)とたばこ税(3・9%減)も低調に推移。消費量の低下で、ただでさえ税収減が続いていたところに、コロナ禍で嗜好(しこう)品を楽しむ機会が減ったことが追い打ちをかけた形だ。政府は「経済再生なくして財政健全化なし」の方針の下、当面は積極財政で景気の下支えを優先する構えだが、足元では感染拡大が再び進行。頼みの需要喚起策「GoToキャンペーン」も運用の見直しを迫られており、財務省幹部は「税収の見通しを立てるのが非常に難しい」と頭を抱える。星野氏は「政策の下支え効果が今後切れてくると、来年以降、所得税収の落ち込みも本格化する恐れがある」と警告する。政府は追加の経済対策のために20年度3次補正予算案を年末に編成する方針だが、税収が減る中でいつまで歳出を増やし続けるのか。厳しい財政運営を迫られている。

*1-3:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/685121/ (西日本新聞社説 2021/1/27) 医療崩壊の危機 病床確保に民間と連携を
 新型コロナウイルス感染拡大の第3波はピークを越えたようにも見えるが、警戒を緩めるわけにはいかない。特に医療提供体制は依然として逼迫(ひっぱく)した状況が続いている。命を救う態勢を早急に立て直す必要がある。緊急事態宣言が出された福岡県を含む11都府県の多くで、コロナ用病床の使用率は高止まりしている。深刻なのは重症者が多い東京都だ。調整が難航し、入院先や療養先が決まらない人が大勢いる。九州では病床使用率の高い水準が継続している熊本県なども心配だ。病床逼迫を背景に救急患者の搬送先がすぐに決まらない搬送困難事案が多発しており、九州も例外ではない。コロナ患者受け入れに伴い、通常医療の入院や手術を減らした医療機関もある。甚大な影響が医療全般に広がっていると考えるべきだ。日本の人口当たりの病床数は世界のトップ水準にある。一方でコロナ患者数は欧米に比べて圧倒的に少ない。なのに、なぜ医療崩壊が危惧されるのか。原因の一つに、コロナ患者受け入れが公立・公的病院に偏っていることが指摘されている。日本は民間病院は中小規模が多く、感染症対応が難しいという事情はある。だが民間の力も結集しなければ、国全体のコロナ対応は立ちゆかなくなる。厚生労働省や専門家は以前から把握していた課題のはずだ。日本医師会や日本病院会など医療関係6団体が先日、コロナ患者の病床確保に向けた対策会議を開いた。今後は公立、民間を問わず協力するという。中小民間が回復期の患者を引き受けるといった役割分担に積極的に取り組んでほしい。コロナ専門病院を指定するのも一策だ。迅速に実効性のある対策を打ち出すことが肝要だ。民間病院が患者受け入れに慎重なのは、院内感染防止の負担や風評被害などで収益の悪化が懸念されることも一因だ。政府の感染症法改正案は国などが医療機関に受け入れの協力を「勧告」できる内容だが、まずは財政支援のさらなる拡充などで受け入れを促すべきだろう。軽症者や無症状者は自宅や宿泊施設で療養する。限られた医療資源を有効活用するにはやむを得ない面もあるが、容体が悪化し死亡する事例が昨年末から増えている。福岡県でも自宅療養中だった男性の容体が急変して死亡した。自宅療養者へのケアは大きな課題だと言える。冬場の患者増は、昨年から多くの専門家が指摘してきた。にもかかわらず、医療崩壊の危機を招いた国の責任は重い。政府は現状の問題点を洗い出し、あらゆる策を尽くして患者の受け皿を増やすべきだ。

*1-4-1:https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20210201/pol/00m/010/003000c?cx_fm=mailpol&cx_ml=article&cx_mdate=20200207 (毎日新聞 2021年2月2日) コロナ社会を考える医療従事者の重い負担 医療崩壊防ぐ支援を、冨岡勉・衆院議員
 医師の経験、知識を生かし、自民党の新型コロナウイルス対策医療系議員団本部の本部長を務めている。国会議員であると同時に、医師、歯科医師、薬剤師、看護師、理学療法士など国家資格を持つ専門家が参加している。2020年3月初旬にスタートし、これまで35回の研究会を行った。各種学会長、製薬・医療機器メーカーなどからヒアリングを行ってきた。政府や専門家会議と党の間をつなぐことが我々の役割だ。
●「もう限界」
 コロナによる医療体制の逼迫(ひっぱく)は、実感としては東京をはじめとする3大都市圏はパンク状態、日本医師会の先生たちの言葉を借りれば「もう限界」だと言える。病床数のような数字からは見えない部分がある。一般の人の目には入りにくい部分に相当、エネルギーの負荷がかかっている。
たとえば防護服の着用一つとっても、勤務時間の前後、あるいは休憩をとるごとに医療用帽子、マスク、手術衣、すべて着替えなければならない。汗もかくし、時間もかかるし、その上なんとしても自分が感染してはならないと思い、非常に神経を使う。通常ならば3日も耐えられないようなことが、毎日続く。
人手の部分でも、勤務日程が組めない事態が危惧されている。救急患者は昼夜問わずやってくるので、過重労働に陥ってしまう。人工心肺装置の「ECMO(エクモ)」がよく知られるようになったが、これをつけるとそれだけで必要な人手は倍にはねあがる。重症者数の増加は現場の人手不足に直結する。医療従事者が持たなくなれば医療は破綻する。手厚い支援体制が必要だ。また感染拡大の状況は地域によってかなりバラツキが出ている。私の地元の長崎では指揮系統を一本化している。通常の医療体制では重症者が周囲の病院から集まる中核病院に負担がかかってしまう。作戦会議場の地図上のランプではないが、全体を見渡して空いているところに素早く患者さんを搬送するシステムが必要だ。自衛隊からの医師や看護師の派遣は行われているが、全国各地の自衛隊病院を専門病棟として活用する工夫も必要だ。ロックダウンなどの厳しい措置をとれば感染拡大防止には有効だが、経済に深刻な影響が出ることが危惧される。経済状況の悪化に伴う自殺者の増加も起きる可能性がある。放任すれば経済は回復するかもしれないが、感染は拡大する。政治は常にこの相反する政策のバランスをいかにとるかを迫られている。重症化を防ぎ、医療崩壊を防ぐことで経済活動を止めないようにするしかない。今回の緊急事態宣言の発令は遅きに失した感は否めないが、1都3県に限定せず、大阪、京都、兵庫、愛知、岐阜、栃木、福岡の7府県を追加し、計11都府県に対象を広げた。現時点では第1回目の緊急事態宣言を解除した際のような急激な感染レベルの低下は見られず、さらなる延長をする必要がある。
●短時間検査の導入を
 検査体制の充実も必要だ。PCR検査は時間がかかることが問題だ。より簡易で短時間で終わる「LAMP法」などをドライブスルー方式や専門外来病棟などで導入し、検査数を増やし、無症状の若年感染者の発見に全力をあげて取り組むべきだ。検査時間が短ければ再検査も容易だ。東京オリンピック・パラリンピックでも活用できる。体操の内村航平選手の場合は、2日後に3カ所で別々に行ったPCR検査で陰性となり、大会に参加できるようになった。仮に選手が偽陽性だった場合でも、再検査や再々検査に時間がかかると試合に参加できない場合も出てくる。短時間で結果が出る検査法を用いて早く再検査できれば、影響を最小限にできる可能性がある。
●空気の除菌と「ゾーニング」に関する法改正
 手洗いをしたり、机の上を消毒したりはしているが「空気」の除菌については何もしていないのが現状だ。無症状感染者が大声を出したり、せきやくしゃみをしたりして、エアロゾル化した飛沫(ひまつ)粒子が部屋のなかに蔓延(まんえん)する。「オゾン」「紫外線」「高機能(HEPA)フィルター」。主にこの三つを使って、汚染された空気の対策もしなければならない。これまで現代都市のウイルス等感染症に対する対策は非常に脆弱(ぜいじゃく)で、無関心、手を抜いてきたと言わざるを得ない。例えば高層マンションビルの地下飲食店街でクラスターが発生した場合、以後その地下街に客は行くことを敬遠する。場合によっては地下街全体の除菌を考える必要が出てくる。

*1-4-2:http://loopamp.eiken.co.jp/lamp/index.html (栄研科学株式会社) LAMP法とは
 LAMPとはLoop-Mediated Isothermal Amplificationの略であり、栄研化学が独自に開発した、迅速、簡易、精確な遺伝子増幅法です。
標的遺伝子の6つの領域に対して4種類のプライマーを設定し、鎖置換反応を利用して一定温度で反応させることを特徴とします。サンプルとなる遺伝子、プライマー、鎖置換型DNA合成酵素、基質等を混合し、一定温度(65℃付近)で保温することによって反応が進み、検出までの工程を1ステップで行うことができます。増幅効率が高いことからDNAを15分~1時間で109~1010倍に増幅することができ、また、極めて高い特異性から増幅産物の有無で目的とする標的遺伝子配列の有無を判定することができます。
特徴
◆2本鎖から1本鎖への変性を必ずしも必要としない。
◆増幅反応はすべて等温で連続的に進行する。
◆増幅効率が高い。
◆6つの領域を含む4種類のプライマーを設定することにより標的遺伝子配列を特異的に増幅できる。
◆特別な試薬、機器を使用せず、Total コストを低減できる。
◆増幅産物は同一鎖上で互いに相補的な配列を持つ繰り返し構造である。
鋳型がRNAの場合でも、逆転写酵素を添加するだけでDNAの場合と同様にワンステップで増幅可能。

*1-4-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/627740 (佐賀新聞 2019.1.29) 医療費19億円節約と試算、広島、大規模PCR検査で
 広島県の湯崎英彦知事は29日、広島市中心部4区の全住民と就業者合わせて最大80万人を対象とする新型コロナウイルスの無料PCR検査について、実施すれば死者や重症者の発生が減り、結果として11億~19億円の医療費を節約できるとの試算を発表した。検査は原則として無症状者や軽症者が対象で、任意。県は実際に検査を受けるのは約28万人と想定している。これまでの市内の陽性率などを参考に、最大3900人の感染者が新たに判明すると推定。30~50人の死者と50~80人の重症者、110~190人の中等症者の発生を予防できると見積もった。複数の検体を同時検査する「プール方式」を利用し、2月中旬から数週間で終わらせたい考え。予算は10億3800万円と見込み、国の地方創生臨時交付金を充てる。広島市内の新規感染者数は減少傾向にあり、専門家や県議会から大規模検査を疑問視する声も上がる。湯崎氏は記者会見で「市中感染は継続している」と反論。「早めに感染拡大の芽を摘み取ることで、経済的な損失を最小限に抑えることができる」と強調した。

*1-5:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/631023 (佐賀新聞 2021.2.8) 島津製作所、物質表面コロナ検出、試薬キット、100分で作業完了
 島津製作所は8日、物質の表面に付着した新型コロナウイルスを検出する試薬キットを発売した。PCR検査法でパソコンやドアノブ、水道の蛇口などを調べ、衛生管理に役立てる。検出作業は100分で完了する。こうした試薬キットの発売は世界初としている。物質の表面を拭った綿棒を生理食塩水などに浸し、専用濃縮液を加えて検査装置でウイルスの有無を調べる。ノロウイルス向けの検査キットの技術を応用した。公共交通機関や商業施設、介護施設から検査を受託する事業者や、医療機関への提供を想定している。1キットで100回の検査ができ、価格は30万2500円。年間千キットの販売を目指す。島津製は唾液から新型コロナウイルスを検出する試薬キットを既に販売している。担当者は「今回の試薬キットと合わせて総合的に感染対策を提供したい」と述べた。米国立衛生研究所の実験によると、新型コロナウイルスが感染力を維持する最長時間は付着した物質によって異なる。プラスチックは72時間、ステンレスは48時間、段ボールは24時間という。

<社会保障は無駄遣いか>
*2-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65123410W0A011C2EA4000/ (日経新聞 2020/10/16) 社会保障給付費,過去最高の121兆円 2018年度
 国立社会保障・人口問題研究所は16日、2018年度の社会保障給付費が121兆5408億円だったと発表した。前年度から1.1%増えて過去最高を更新した。国内総生産(GDP)に対する比率も22.16%で最も高くなった。金額は社会保険料や税金を主な財源とした医療や年金、介護などの給付の合計。患者や利用者の自己負担は含まない。高齢化や医療の高度化に加え、子育て支援策の充実もあって増加が続く。18年度は医療が0.8%増の39兆7445億円だった。診療報酬のマイナス改定で伸びが抑えられた。年金は0.8%増の55兆2581億円。介護を含む「福祉その他」は2.3%増の26兆5382億円だった。GDPに対する社会保障給付費の比率は09年度に20%を超えた。18年度は前年度より0.21ポイント高まり22.16%になった。

*2-1-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63348940S0A900C2EE8000/ (日経新聞 2020/9/3) 社会保障給付の抑制進まず 賃上げ推進も将来不安
 先進国最速で進む少子高齢化にどう対処するか。第2次安倍政権は働き方改革によって働く女性や高齢者を増やし、社会保障の支え手を増やすことに注力した。ただ高齢者への給付削減という「痛み」を伴う改革への踏み込みは甘く、大きな課題を残している。若年人口の減少で日本は2010年代に入ると構造的な人手不足が強まった。こうした背景から安倍政権は就業者を増やす働き方改革を推進。残業規制の強化、仕事と育児の両立支援、女性の活躍推進などに取り組んだ。女性の就業率は19年に52.2%となり、在任中に右肩上がりで上昇した。65歳以上の就業者も増え、60歳代後半は約半数、70歳代前半でも約3分の1の人が働くようになった。12年12月の安倍政権誕生時に4.3%だった失業率は2%台まで低下。政権が産業界に賃上げを強く促す「官製賃上げ」の効果もあり、大手企業は14年から7年連続で2%台の賃上げとなった。20年5月に成立した年金改革法で、501人以上の企業で働く人に限定されていたパート労働者の厚生年金適用を50人超の企業に拡大していくことを決めた。また60~64歳で働く人に支給する在職老齢年金について、支給が停止される賃金と年金の合計額の基準を現在の月28万円から22年4月に47万円に上げる。働くことで年金が減る仕組みを見直し、より長く働きやすくする。働き手を増やして社会保障の基盤を強くする改革で一定の進展があった一方で、負担増という「痛み」を国民に求める動きは鈍かった。18年度に121.3兆円だった年金、医療、介護などの社会保障給付費は、団塊の世代が全員75歳以上になる25年度には140兆円を超える。40年度には190兆円近くまで膨らむ見通しだ。医療や年金などは現役世代が払った保険料を引退世代の給付に充てる仕送り方式が基本。高齢者への給付や負担を見直さなければ現役世代の負担はどんどん重くなる。会社員の健康保険料率(健康保険組合平均)は政権発足前の11年度に年収の8.0%(これを労使折半)だったが18年度には9.2%まで上がった。いくら賃上げが続いても保険料のアップで相殺されれば現役世代の将来不安は払拭されない。19年12月にとりまとめた全世代型社会保障検討会議の中間報告には、一定以上の所得がある75歳以上の医療費窓口負担を2割に引き上げる案を盛り込んだが、所得の線引きなど制度の具体的な設計は終わっていない。年金や介護で年収や資産の多い高齢者に一定の負担を求める案も議論を避けた。大正大の小峰隆夫教授は安倍政権下の社会保障政策について「高齢者の給付と負担の見直しが手つかずだったことが問題だ」と指摘する。現役世代の将来不安は少子化につながる。19年の出生数は最少の86万人台に落ち込んだ。結婚・出産をしない選択をする若年層が増えている。高齢者から若年層へと給付の配分を見直さなければ少子化のスパイラルは止まりそうにない。新型コロナウイルスの影響で足元の雇用情勢は悪化し始めており、今後は就業者の裾野を広げてきた改革の効果にも影を落としかねない。巨額の政府支出で財政も悪化しており、税金で社会保障の給付を支える力も弱くなることが懸念される。与野党の議論は有権者の受けの良い給付の充実に集中しやすい。日本総合研究所の西沢和彦主席研究員はポスト安倍に対し「国民に対し、社会保障全体のビジョンを自ら語り、粘り強く受益と負担の関係を説明する必要がある」と要望する。

*2-2-1:https://digital.asahi.com/articles/ASNDG5TP9NDGUTFL008.html (朝日新聞 2020年12月14日) 75歳以上の医療負担増や児童手当で結論 政府検討会議
 政府の全世代型社会保障検討会議(議長・菅義偉首相)は14日、最終報告となる「全世代型社会保障改革の方針」をまとめた。75歳以上の医療費の自己負担割合について、単身世帯は年間の年金収入200万円以上(夫婦2人世帯は計320万円以上)を対象に、2022年度後半から2割に引き上げることなどを明記した。報告は基本的考え方として「現役世代への給付が少なく、給付は高齢者中心、負担は現役世代中心というこれまでの社会保障の構造を見直す」とした。菅首相は「少子高齢化が急速に進む中にあって、現役世代の負担上昇を抑えながら、全ての世代が安心できる社会保障制度を構築し、次の世代に引き継ぐことが我々の世代の責任だ」とあいさつした。15日にも方針を閣議決定し、必要な法案を来年の通常国会に提出する。医療費窓口負担の2割引き上げの対象は約370万人。窓口負担を増やすことで、75歳以上の医療費の4割(自己負担を除く)を負担する現役世代の負担軽減につなげる。実施後3年間は、1カ月あたりの負担増が3千円を超えない経過措置を講じる。75歳以上の自己負担額は平均すると今より3・4万円多い年間11・5万円となるが、経過措置の期間は年間10・6万円に抑えられるという。待機児童対策として21年度から4年間で約14万人の保育の受け皿を整備し、財源として児童手当の高所得者向けの特例給付を縮小する。子ども2人の専業主婦家庭の場合、いまは夫の年収が960万円以上なら月5千円の特例給付が支給されているが、22年10月分以降は年収1200万円以上だと、特例給付が支給されなくなる。一方、所得基準の算定基準を現在の「世帯で所得が最も高い人」から「世帯合算」に変更する見直しについては、世代間の公平性の観点などから「引き続き検討する」とした。22年度から不妊治療を保険適用とすることも明記し、20年度中にいまの助成制度の拡充を始める、とした。所得制限の撤廃や毎回30万円といった助成の増額を行う。男性の育児休業取得を促進するため、企業に休業制度の周知を義務化することなどを検討する。
●全世代型社会保障の方針(要旨)
・不妊治療を2022年度から保険適用。実現までの間、20年度内に今の助成制度を拡充
・待機児童解消へ21~24年度の4年間で保育の受け皿を約14万人分整備
・児童手当を22年10月から縮小し、待機児童解消策の財源に。子ども2人世帯なら年収1200万円以上の場合、特例給付の対象外に
・男性の育児休業取得へ、出生直後の休業を促す新たな枠組み導入
・22年度後半から75歳以上の医療費窓口負担を1割から2割に。単身世帯の場合、年金収入200万円以上が対象
・紹介状なしで大病院を受診する場合、定額負担(5千円)を2千円以上引き上げ

*2-2-2:https://www.chugoku-np.co.jp/living/article/article.php?comment_id=628548&comment_sub_id=0&category_id=1124 (中国新聞 2020/3/31) 介護保険20年、増える高齢者 制度を維持するには
▽当事者・事業者・研究者、識者3人に聞く
 2000年に始まり20歳を迎えた介護保険制度は、支える高齢者の数が膨らみ続け、このままでは立ちゆかなくなりそうだ。制度を維持していくためには、どんな視点が必要なのだろう。家族、事業者、研究者として介護に向き合ってきた3人に聞いた。
▽家族支える視点を大切に NPO法人家族介護者 サポートネットワーク・はぴねす 北川朝子代表(60)=広島市安佐北区
 介護する家族としては、介護保険制度があって大変ありがたかったと感じています。要介護5の母と2人暮らしでした。最期まで自宅で一緒に過ごせたのは、通所介護や訪問介護のサービスを使えたからです。ただ制度は十分ではありません。要支援1や2では、使えるサービスが限られてしまう。要介護3以上でないと、特別養護老人ホームにも入れなくなった。この20年間、私たちが負担する保険料や利用料は増える一方で、使えるサービスは絞られる方向に進んでいるように感じます。「認定が軽ければ介護は楽」という見方は間違っています。介護は育児と違って、入学や卒業のような区切りがない。介護する側、される側は大人同士で、互いに疲弊する。社会保障費が膨らむ中、在宅介護にシフトする政策が進むのは仕方がないし、施設に入るよりも最期までわが家で過ごしたい人は多いでしょう。それならもっと、介護する家族を支える視点を大事にするべきです。その対策も社会の意識も不足しています。例えば介護離職の問題。私自身、介護のために正社員の職を手放さざるを得なかったし、復職もできなかった。介護しながら仕事を続けられる環境づくりが必要です。介護者が多様化した実態にも目を向けてほしい。介護保険ができて「お嫁さん」に負担が集中することは少なくなりました。でも、家族介護が前提なのは変わっていません。男性の介護者が増え、老老介護は当たり前。声を上げにくい人も多く、支援につながらずに高齢者の虐待や殺人に至った事例も少なくありません。一人親世帯の増加などで、10代の「ヤングケアラー」も増えています。厚生労働省が2018年にようやく家族介護者支援マニュアルを作り、条例で人材育成など支援の仕組みをつくる自治体も出てきました。この動きが広がってほしい。私たちは介護者がやり場のない思いを吐き出せるよう、安佐北区に常設のケアラーズカフェを開いています。こういった居場所が学区ごとにあるのが理想です。
▽現場の魅力高め人材確保 全国老人福祉施設協議会 平石朗会長(65)=尾道市
 介護の現場が抱える一番の問題は人材不足です。全国では、介護施設のベッドは空いているのに、職員を確保できずに入居を断ったり、人手の減った施設に職員を回すためにヘルパーステーションを閉めたりすることが起きています。職員を確保できない最も大きな理由は、働く世代の人口の減少です。介護保険がスタートしたときは、急激な人口減少社会が来るという想定が欠けていました。低賃金で重労働という仕事のイメージも拭い去れていません。でも実際は、大変さもありますが、人生終盤の生活を支える素晴らしい仕事です。経験を積めば給料も上がるようになってきました。ただ、これから人手がもっと足りなくなることを考えると、さらに賃金を上げる必要があります。介護現場の魅力を高める革新も求められています。私が理事長を務める尾道市の法人では、トヨタの元社員の指導で業務改善を進めました。介護に生産性はそぐわないと思うかもしれませんが、合理化が進むと、時間や気持ちの余裕が生まれます。職員の離職を防ぐことにつながり、利用者の満足度も高まります。介護職員がくたびれるのは夜間です。情報技術を活用した利用者の見守りがあれば安心して働けます。専門性を生かした仕事に専念するため、地域の高齢者らに食器洗いやシーツ交換などの仕事で活躍してもらうのも一つの方策です。外国人材の活用も進めるべきですが、日本人と同じように能力に応じて給料を支払うのが正しい姿でしょう。これからも高齢者は増え、介護にかかる費用はさらに膨らんでいくでしょう。放っておけば介護保険制度は破綻し、低所得や身寄りのない人の安全網でなくなってしまう。それは避けるべきです。介護ニーズの的確な把握が欠かせません。安易に「箱物」を増やすと、間違いなく将来の重荷になります。持続可能にするためには、現在の利用料の1割負担を見直し、経済力のある人には負担していただくという考えが必要ではないかと思います。
▽サービスと負担、議論必要 県立広島大 地域医療経営プロジェクト研究センター 西田在賢センター長(66)
 介護保険にかかる費用は制度開始から20年で3倍に膨らみました。これで終わりではありません。高齢者の数がピークになる2040年度にはさらに、今の2倍以上になる見通しです。平均寿命が延びて高齢者の数が増え続けているためです。ただ高齢者を支えていくためには、介護の支出が増えるのは避けられません。一方で、国の借金は昨年末の時点で1110兆円に達し、介護保険制度が始まった00年の2倍になりました。介護や医療にかかる社会保障費が国の借金を押し上げています。このまま「将来へのツケ」が際限なく増え続けていいわけがありません。サービスと負担について議論を進める必要があります。では、どうすればいいでしょうか。医療と介護を一体として考える必要があります。医療費の無駄を削減し、介護にお金を回すという発想が欠かせません。日本の病床数は今も英国の5倍、米国の3倍もあります。医療をほとんど必要としない人が、コストが掛かる病院に入院しているケースがまだ多いのです。その費用を削減し、自宅や介護施設で訪問医療を利用しながら過ごす方に、もっとお金を振り向けることが必要でしょう。医療と介護はもともと連続したものです。関連した保障として社会が理解するべきです。国も「医療と介護を切れ目なく」という政策を打ち出しています。地域ごとに異なる医療と介護の資源をどうやりくりし、高齢者を含む地域住民の生活をどう支えていくかを考えなければいけません。また、介護保険制度を維持していくためには、市民の発想の転換も重要です。サービスは費用がかかるので、あればあるほどいいというわけではありません。住み慣れた地域の中で暮らし続けるためにどんな医療や介護の保障が必要かを考えてほしい。そのために、誰がどれだけ負担をすればいいのかも意識してほしい。現在は40歳以上が介護保険料を払っていますが、医療を支える健康保険と合わせて20歳以上に広げるべきでしょう。
■財政厳しく見直し重ね 予防重視への転換/右肩上がりの保険料
 家族頼みから、社会全体で支える介護へ―。そんな理念で介護保険が誕生してから20年が経った。高齢者が増えて介護保険財政が厳しくなるにつれ、サービスの縮小や、保険料の引き上げを繰り返し、紆余曲折の道のりを進んできた。最初に制度を見直した2005年度には、健康寿命を延ばし、介護サービスに頼らなくていい期間を長くしようと「介護予防の重視」に舵を切った。食費・居住費は保険給付の対象外となった。07年度には、訪問介護大手のコムスンによる介護報酬の不正請求事件が発覚し、事業者の在り方が問われた。15年度は特別養護老人ホームの入居は原則、要介護3以上に狭まった。さらに、要支援1、2の人向けの訪問介護とデイサービスを市町村の事業とし、地域住民の協力を求めるようになった。介護の総費用が増える中で、保険料は右肩上がりを続けている。65歳以上の保険料の全国平均は月2911円から5869円と倍増。40年度には9200円に達するという推計もある。15年度には、利用者の自己負担の公平化も打ち出された。一律1割だった利用料は一定以上の所得のある人は2割に。18年度からは、特に所得の高い層は3割に上がった。

*2-3-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODF221L30S1A120C2000000/ (日経新聞 2021/1/22) 21年度の年金0.1%減額 4年ぶりマイナス、賃金下落反映
 厚生労働省は22日、2021年度の公的年金の受給額を20年度比で0.1%引き下げると発表した。現役世代の賃金水準を受給額に反映させるルールを適用したもので、減額は4年ぶり。厚生年金を受け取る夫婦2人のモデル世帯では228円減の月額22万496円になる。4月分から適用する。自営業者らが入る国民年金は40年間保険料を納めた満額支給の場合で66円減の月額6万5075円になる。年金の受給額は物価や賃金の変動を反映させる形で毎年度見直している。物価は前年の消費者物価指数の「総合指数」が参考指標で、20年は前年と同水準だった。2~4年前の変動率を元に計算する賃金水準は0.1%のマイナスだった。21年度からは賃金変動率が物価変動率を下回って下落した場合、賃金変動率に合わせて年金額を改定する新ルールが導入される。このため、賃金に合わせて年金額が0.1%の減額となる。また人口動態を反映し、年金額の伸びを物価や賃金の伸びよりも低く抑えるマクロ経済スライドは、年金の改定率がマイナスになったため発動しない。20年度までは2年連続で発動していた。

*2-3-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63400350T00C20A9PPE000/ (日経新聞 2020/9/6) 年金「実質目減り」続く マクロスライドで給付抑制、人生100年お金の知恵(22)
「単純に『年金が増えた』と思っている人は少なくない」。年金セミナーで講師を務める機会が多い社会保険労務士の森本幸人氏はこう話す。セミナーで毎年度実施される年金改定を取り上げると、実額は増えても「実質目減り」になっていることを知らない人が目立つという。
■物価や賃金より伸びを抑制
 年金の実額は確かに増えている。2020年度の受給額は前年度比プラス0.2%の改定だった。厚生労働省がモデルとして示した夫婦世帯の厚生年金(夫婦2人の基礎年金を含む)は月22万724円と458円、国民年金は満額で月6万5141円と133円増えた。実額が増えても実質目減りなのは、物価や賃金の伸びより年金の支給額を抑える「マクロ経済スライド」が適用されたからだ。年金額は物価や賃金の変動率に応じて決まる。20年度の改定率は本来であればプラス0.3%だが、マクロスライドの発動で0.2%になった。森本氏の概算によると金額ベースで厚生年金は約688円、国民年金は200円増えるはずだった。日本の公的年金は現役世代の保険料を高齢者の給付に充てる「仕送り方式」だ。少子高齢化が進むと現役世代の加入者が減る一方で、年金を受け取る人は増える。物価や賃金の上昇率に合わせて年金額を引き上げていくと年金財政が行き詰まりかねないため、マクロスライドが04年の制度改革で導入された。マクロスライドは賃金や物価に基づく本来の改定率から、現役の加入者数と平均余命をもとに算出したスライド調整率を差し引く。景気拡大期などは調整率をフルに差し引くが、原則として年金の名目額を前年度より減らさないという条件がある。
■「マイナス改定でも発動」議論も
 このため物価や賃金が下落するデフレ下では実施しない。景気後退期など物価や賃金の上昇率が小さいときは年金額が前年度と同じになるように調整率を一部差し引く。未調整分は翌年度以降に繰り越し、景気回復期などに調整率に上乗せして差し引く。「キャリーオーバー制度」といい18年度に導入された。年金の専門家の間では「マイナス改定となってもマクロ経済スライドを無条件で実施できるよう制度を見直すべきだ」(大和総研の是枝俊悟主任研究員)との声は多い。デフレや低インフレが続けば年金財政が行き詰まる懸念が高まるためだ。年金受給者からの反発が予想されるためマイナス改定が導入されるかどうかは不透明だが、老後の生活設計ではマイナス改定の議論があることも頭に入れておいた方がよさそうだ。
■ここがポイント
高齢者就労、調整率抑制も
 20年度のスライド調整率は0.1%と低い水準だった。「60歳を超えても年金に加入して働く人が当初の想定を上回ったことが一因」(社労士の井戸美枝氏)という。加入者の増加は保険料収入の増加を意味する。1961年4月2日生まれ以降の男性は65歳になるまで公的年金を受け取れない。企業の雇用延長や再雇用など制度も整いつつあり、60歳以降の加入者増加は続く公算が大きい。「加入者の増え方によっては調整率が当面抑えられる可能性がある」と森本氏は指摘している。

<その他の中途半端にして意味がなくなり、無駄遣いになった事例>
*3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210210&ng=DGKKZO68992370Q1A210C2MM8000 (日経新聞 2021.2.10) 東日本大震災10年 検証・復興事業(3) かさ上げ造成、3割空き地 まち再建、定石のその先に
「176平方メートル、795万円」「217平方メートル、990万円」――。岩手県大槌町の「空き地バンク」のサイトに載った町役場周辺の区画図に、売却・賃貸物件の赤い印が30個近く並んでいる。町は土地取得や住宅建設に200万円以上の補助金を出すが「住宅再建のニーズは一段落し、空き地はなかなか埋まらない」と担当者はこぼす。2011年の東日本大震災で町の中心部は高さ10メートルを超す津波にのまれ、壊滅状態となった。前年に過疎地域に指定されていた町は、役場周辺の地区を震災前の半分以下に集約し、161億円かけて2.2メートルかさ上げした。
●原点は関東大震災
 その間にも人口減は加速し、20年春の段階で造成地の3分の1は使う当てがないままとなっている。15年まで町長を務めた碇川豊氏は「町内に就労先となる産業が少なかったことも影響した」と話す。岩手、宮城、福島3県の津波被災地では、浸水した地域をかさ上げし、土地や道路の形を整える「土地区画整理事業」が広く行われた。対象は沿岸部の21市町村、計1890ヘクタールで東京都新宿区の面積に匹敵する。総事業費は20年6月時点で4627億円に上り、ほぼ全額が復興交付金などの国費でまかなわれた。区画整理による「復興」の原点は1923年の関東大震災に遡る。震災で旧東京市の4割強の面積が焼失した後、帝都復興院総裁に就いた後藤新平を中心に、復興事業として初めて大規模な区画整理が行われた。靖国通りや昭和通りなどの幹線道路と共に街並みが整備され、東京は10年足らずで近代都市に生まれ変わった。そのノウハウは戦後、空襲で焼けた各地の市街地整備にも生かされ、区画整理は復興事業の定石となってきた。国土交通省の2020年5月時点の調査によると、3県で区画整理が行われた65地区の宅地の32%は未活用の状態だった。未活用が5割を上回る地区も6つあり、岩手県陸前高田市の今泉地区では7割近かった。
●止まらぬ人口減
 岩手県沿岸部の12市町村の人口は、震災前年から20年までで17%減少。震災後に内陸部に移った地権者の多くは、仕事や子どもの通学を理由に戻っていない。固定資産税の負担などを懸念して土地を売りに出すケースも相次ぐ。「右肩上がりの時代に確立された復興のあり方が、現状にそぐわなくなっている」と、日本大の大沢昌玄教授(都市計画)は指摘。「将来像を複数の自治体で共有し、広域的な視点で復興事業の対象を精査すべきだ」と話す。今回も区画整理によって街の魅力が高まった例はある。宮城県名取市の閖上地区では区画整理とともに小中一貫校や保育所が重点的に整備され、宅地の分譲希望者が殺到して若い世代も増えた。震災の痛手を乗り越え、かさ上げによって安全性を高めた土地をどう生かすか。国全体が人口減に直面するなか、定石にとらわれない新しい街づくりの模索はこれからも続く。

*3-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14796615.html (朝日新聞 2021年2月11日) (東日本大震災10年 3・11の現在地)40年で廃炉、無理と言えず 前提のデブリ除去、年内の着手断念
 あと1カ月で事故発生から10年を迎える東京電力福島第一原発。敷地内の放射線量はかなり下がったが、廃炉作業は大幅に遅れ、30~40年で完了する目標はかすんできた。廃炉の最終的な姿を語らずに時期だけを掲げるこれまでのやり方は、限界に近づいている。「目標通りできないのはじくじたるものがある」。国と東京電力は昨年12月24日、福島第一原発で2021年中に予定していた溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)の取り出し着手を1年程度延期すると発表した。東電の廃炉部門トップの小野明氏は、記者会見で無念さをにじませた。直接の理由は新型コロナウイルスだった。英国で開発中の専用ロボットアームの動作試験が、工場への出勤制限などの影響で滞った。英国では変異ウイルスも猛威を振るい、日本へ運ぶめどもたたなくなった。未曽有の原発事故を受けて、国と東電が11年12月に廃炉工程表を掲げてから、工程は遅れに遅れを重ねてきたが、今回の延期には特別な意味がある。「30~40年後に廃炉完了」と並んでずっと堅持してきた「10年以内のデブリ取り出し着手」という重要目標を断念したことになるからだ。デブリは、溶けた核燃料が周りの金属などと混ざりあって固まった物質。強い放射線を放ち、ロボットすら容易に近づけない。硬さも成分も、どこにどれだけあるかも詳しくは分からない。1~3号機に残る総量は推定で約800~900トン。その取り出しは、前人未到の最難関の事業だ。当初の工程表では、取り出し前に遠隔でデブリを切断・掘削して性状を調べることも想定していた。だが、カメラ調査すら予定通り進まず、進むほどに困難さがみえてきた。国と東電は改訂にあわせ、着手時の取り出し規模を「小規模」から「試験的」へと後退させたが、「10年以内」だけは変えなかった。「30~40年」の全体シナリオを守るための一線だったからだ。今回延期された「2号機での試験的取り出し」で取るデブリの量は数グラム程度。実際の作業は、長さ約22メートル、重さ約4・6トンの特殊鋼製ロボットアームの先端に付けた金属ブラシでデブリの表面を拭ったり、小さな真空容器でチリを吸い取ったりするだけだ。懸命につなぎとめてきた目標が、コロナ禍でついに取り繕いきれなくなったのが実情だ。それでも、廃炉を技術面で率いる原子力損害賠償・廃炉等支援機構の山名元・理事長は「1年の遅れは、全体の遅れに比べたらたいしたことない」と話す。廃炉完了の時期を見直す気もない。「今の時点で『40年は無理』なんてとても言えない。もうちょっと調べさせて欲しい。40年を目指して全力でやる。これ自体は、難しい仕事を進める一つの原動力なんです」

*3-3-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODZ05C4L0V00C21A2000000/ (日経新聞 2021年2月8日) 発電用アンモニア自社生産 東電・中電系JERA、脱炭素へ
 東京電力ホールディングスと中部電力が出資するJERAは、二酸化炭素(CO2)を出さない発電燃料であるアンモニアの生産に乗り出す。マレーシアの国営企業と提携し、水力など再生可能エネルギーを使って製造する。2040年代にはアンモニアだけを燃料とする発電設備を稼働させる考え。CO2排出量削減が課題の電力業界で、燃料から脱炭素化する流れが広がりそうだ。JERAは国内最大の発電事業者でガスや石炭を燃料とする火力発電所を持ち、国内のCO2総排出量の1割強を占める。2050年までにCO2排出量を実質ゼロにする目標を掲げており、発電燃料としてアンモニアに加え、水素を段階的に活用する方針だ。発電事業者が自ら脱炭素燃料の製造に乗り出すのは珍しい。このほどマレーシアの国営石油大手ペトロナスと協業に向けた覚書を締結した。生産場所や規模は今後詰める。アンモニアは天然ガスから水素を取り出して製造するが、その過程で大量のCO2が発生する。JERAはCO2排出をなくすため、再エネ由来の電力によるアンモニア製造に取り組む。将来的に水素燃料の製造も目指す。21年度には石炭とアンモニアを混ぜて燃料とする実証実験を愛知県の火力発電所で始める。知見を蓄えながら40年代にはアンモニアだけで燃焼する発電設備を実用化する計画。水素についても、ガス火力の燃料として活用することを目指す。アンモニアは需要の8割ほどが肥料向けに利用されている。CO2を出さない燃料として期待が高まっているが、発電向けの新規需要が増えると供給不足に陥る恐れもある。JERAは発電事業者として自ら燃料開発・製造を手掛けることで、必要量を確保したい考えだ。課題は採算性だ。アンモニアを発電燃料として利用すると、石炭より5割ほどコストが高くなるとみられる。アンモニアを再生エネで製造した場合はさらに割高になる可能性が高い。水素ではアンモニア以上にコストは膨らむとされる。JERAでは開発から調達、発電まで一括で担うことでコストを引き下げることを狙う。政府が50年に目標とする温暖化ガス排出量の実質ゼロに向けては、国内のCO2排出量の4割近くを占める電力分野での脱炭素化が不可欠になっている。アンモニアや水素燃料の活用は、再生エネの導入と並んでCO2排出量の削減効果が大きい。発電事業者が自ら次世代燃料を開発・製造する動きが広がれば、脱炭素化の道筋も見えてきそうだ。

*3-3-2:https://www.keyman.or.jp/kn/articles/1412/17/news169.html (キーマンズネット 2014年12月17日) CO2排出ゼロの新エネルギー「アンモニア発電」とは?
 強い刺激臭を持つアンモニアが燃料の「アンモニア発電」はエネルギーに革命を起こすのか。次世代クリーンエネルギー最先端に迫る。
今回のテーマは、CO2を排出しないアンモニアを利用した直接発電技術「アンモニア発電」だ。産業技術総合研究所(産総研)が世界で初めてアンモニアをガスタービンで燃焼させて発電に成功した。化石燃料や原子力への依存から脱却を目指す、低環境負荷の新エネルギー創出への現実的な第一歩だ。
●「アンモニア発電」とは?
 食物に含まれるタンパク質などを微生物が分解する際に発生するアンモニア。アンモニア発電とは、この強い刺激臭を持つアンモニアを燃料とする発電技術のことだ。現在は、アンモニアを直接燃焼させる発電技術と、アンモニアの熱触媒接触分解反応と燃料電池を組み合わせた発電技術とが研究される。今回紹介するのは前者のアンモニアを燃焼させる技術だ。アンモニアは着火しにくく、燃焼速度も遅く、さらに燃焼時に有害なNOx(窒素酸化物)を発生するため、発電に用いる燃料としては不向きとみなされた。しかし2014年9月、産総研 再生可能エネルギー研究センター(福島県)の水素キャリアチーム、辻村拓研究チーム長、壹岐典彦研究チーム付および東北大学との共同研究チームが、定格出力50キロワットのガスタービン発電装置を用い、灯油とアンモニアを燃料にして、約40%の出力にあたる21キロワットの発電に成功した。灯油の約30%相当をアンモニアに置き換えて燃焼させたところ、灯油だけを用いた場合とほぼ同じ出力で発電でき、しかもアンモニアを燃焼させるときに排出される有害なNOx(窒素酸化物)を、やはりアンモニアを使用する触媒(脱硝装置)により10ppm未満にまで抑制することに成功し、環境基準に照らして十分低い環境負荷でのアンモニア発電に見通しが立った。これはアンモニアを利用したガスタービン発電として世界初の成果だ。

*3-4:https://forest-journal.jp/market/23067/ (Foest Journal 2019/11/18) 2024年スタートの“森林環境税”って? 意外と知らない“森林環境譲与税”との違いとは?
 国税として2024年から徴収が決まっている森林環境税。あまり話題に上がらないこの税金の正体は何か?林野庁の発表資料を基にわかりやすくまとめてみた。
●1000円を森林のために負担?
 2019年3月に新しく成立、公布された「森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律」によって、日本の国土を覆う森林の保護、保全、活用に必要な財源を確保するために納税者一人ひとりから徴収されることになる。環境保護や市町村の森林活用、木材利用を促すことが目的だ。林野庁の発表によると徴収開始記事は2024年から、各市町村が窓口となり国税として納税者一人あたり年額1000円が徴収される。林野庁の発表によると、徴収した森林環境税は一旦国へ納められ、国から都道府県と各市町村に「森林環境譲与税」となり交付される。
●森林環境税の仕組みと使いみち
 実は2019年度からすでに、「森林環境譲与税」は各都道府県を経由して市町村に交付されている。人口比率や木材の使用施設、公園などの木材利用率から交付額が決められたようだが、森林を生業にする市町村に交付金割合が低く、人口の多い都市部の市町村に交付金が多く支払われるなど、まだまだ問題も多いのが現実だ。また、交付を受けた市町村はその使用目的を明確に自身のホームページに公開しなければならない。筆者の住んでいる市では森林の間伐費用や、間伐林の管理委託費などにあてられており、財源が確保されているため概ね好評であると市の土木課の担当者は話してくれた。他にも、使いみちが森林の管理、運営やボランティアへの慰労費に当てられている市町村もあるようだ。使用目的を国が定めるのではなく、市町村が独自で決められるという動きは、林業の活性化にも繋がるだろう。
●森林を身近に感じるチャンス
 交付は2019年度より始まっており、納税義務は2024年から始まる。先にも述べたが森林の管理運営だけがこの税金の目的にあらず、地方は新たな財源として地域活性化のために使うことができる。例えば森を使った生涯学習は森林そのものを学習の場としてワークショップや間伐体験を市民向けに発信する財源にあてることができる。森林管理にきちんとお金を掛けることができればレンジャー隊員を養成できて、もしもの災害に備えることもできる。新たな雇用がそこで生まれ、これまで見向きもされなかった事業に陽の光を当てることも可能だ。木材を活用して公園を新たに作ったり、鉄の遊具から木の遊具への交換の財源にしてもいい。使いみちを市町村に託すことで、アイディア次第でできる選択肢が増える。納税する我々はイベントや森林政策に「税金を払っているから参加する」ではなく、近所の森や林業とは何かを知る機会を得るチャンスだと捉えるのが良いだろう。「また増税か?」とうんざりした目で見るのではなく、その使いみちに注目してほしいと切に願う。

<女性蔑視の政策への悪影響>
*4-1-1:https://mainichi.jp/articles/20210211/k00/00m/040/081000c?cx_fm=mailyu&cx_ml=article&cx_mdate=20210213 (毎日新聞 2021年2月13日) 声をつないで 女性理事わずか16.6% 森氏発言があぶり出す社会のいびつさ
 東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長(83)=12日に辞任表明=による女性差別発言を受けて、毎日新聞は、国内のオリ・パラ関連団体と、五輪で開催される33競技の各中央競技団体における女性理事比率を調べた。各競技団体の全理事に占める女性の割合は、平均16.6%にとどまり、女性理事ゼロの団体もあった。「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」などの森氏の発言の背景に、女性が意思決定の場に参加することが難しいスポーツ界と社会全体の課題が浮かび上がる。3月8日は「国際女性デー」。この記事を皮切りに、国内外の女性が置かれた状況について幅広く考えたい。(文末に各団体の女性理事割合の一覧を掲載)【塩田彩、藤沢美由紀/統合デジタル取材センター】
●3割超えはテコンドーのみ、女性理事ゼロは……
 調査は2月6~9日、国内オリ・パラ関連の中央団体3団体と五輪開催競技の中央競技団体35団体に電話とメールで実施した。日本オリンピック委員会(JOC)の女性理事は25人中5人で20%。森氏が会長を務めるオリ・パラ組織委員会でも20%だった。一方、森氏の差別発言があったJOCの評議員会)は、女性は63人中2人で、3.2%にとどまった。中央競技団体の中で女性理事が3割を超えたのは全日本テコンドー協会のみで36.4%。次いで日本体操協会28.6%、日本バレーボール協会27.8%――だった。女性理事がゼロの団体は日本サーフィン連盟で、13人の理事全員が男性だった。女性の競技者割合が比較的高い陸上や水泳の低さも目立ち、日本陸上競技連盟は7.1%、日本水泳連盟は13.8%。リオデジャネイロ五輪で女子選手4人が金メダルを獲得したレスリングは女性理事が1人でわずか4%だった。ソフトボールは五輪競技としては女子種目しかないが、女性理事は24人中5人で20.8%にとどまった。会長職を女性が務めるのは日本バスケットボール連盟のみだった。森氏に「今までの倍時間がかかる」と名指しされた日本ラグビーフットボール協会は、女性競技者が比較的少ないものの、2019年に女性理事が5人に増え20.8%だった。ジェンダーの視点からスポーツ史を研究する中京大の來田(らいた)享子教授は、毎日新聞の調査結果について「少しずつ改善されてきてはいるが、女性の競技人口を考えると、まだまだ不十分。人材が不足し、特定の女性が複数の団体の役職を兼務する状況もある」と指摘する。
●五輪選手の5割は女性なのに
 男女共同参画白書によると、日本の五輪出場選手に占める女性の割合は、04年のアテネ大会(54.8%)で初めて半数を超え、北京大会(49.9%)、ロンドン大会(53.2%)、リオ大会(48.5%)と5割前後で推移している。にもかかわらず、なぜ女性理事の割合は、多くの中央競技団体で2割にも届かないのか。來田教授は、要因の一つとして、指導者としての経験を積む機会が男性と比べて限られることを挙げる。「女子選手を男性指導者が指導するケースは多くありますが、逆はほとんどありません。『女性には男子選手の指導はできない』という偏見がある。けれど、年配の指導者が多く存在するように、指導者には選手と同等のパフォーマンスは求められていないはずです」。中央競技団体には、指導者を経て理事となる人も多い。キャリアを積み上げる際の機会の不平等が、意思決定層に女性が少ない大きな要因となっているのだ。こうした状況の中、スポーツ庁は19年6月、中央競技団体向けの運営指針「ガバナンスコード」で、各組織の女性理事の割合を40%以上と設定し、女性評議員の目標割合を設定することなども提示した。「女性を増やしていく場合は、『発言の時間をある程度、規制を促しておかないと、なかなか終わらないので困る』と言っておられた」など、女性の発言機会を制限するような森氏の差別発言は、この目標に言及する中で飛び出した。実は、国際オリンピック委員会(IOC)はこれまでも、女性参画に向けたさまざまな提言を各国に示してきた。20年以上前の00年にはすでに、「05年までに意思決定層における女性の比率を20%にする」という目標が掲げられている。18年3月には「ジェンダー平等に関する報告書」を発表し、ジェンダー平等促進への取り組みに財源を割り当てることや、「排除のない組織文化を維持、導入すること」などの必要性を指摘した。來田教授は「組織委は報告書を受け、東京大会に向けて具体的に踏み込んだ施策を実施する必要がある。スポーツ界だけで達成できないなら、社会や政府に協力を仰ぎ、社会全体でこの問題と向き合おうと声をかけなければならなかった」と語る。一方、そのIOCも、メンバーリストを見る限り103人のうち女性は38人で36.9%。「平等」には遠いのが現状だ。
●「森会長の発言は不適切」と組織委が声明
 「多様性と調和」を掲げる東京大会の組織委の長が発した女性差別発言。謝罪記者会見を開いて以降も、国内外から批判はやまず、森氏は2月12日の組織委の臨時会合で、辞任を表明した。組織委は7日、公式サイトで「森会長の発言はオリンピック・パラリンピックの精神に反する不適切なものであり、会長自身も発言を撤回し、深くお詫(わ)びと反省の意を表明致しました」とする声明を発表。その中で「『多様性と調和』は東京大会の核となるビジョンの一つ」「ジェンダーの平等は東京大会の基本的原則の一つであり、東京大会は、オリンピック大会に48.8%、パラリンピック大会では40.5%の女性アスリートが参加する、最もジェンダーバランスの良い大会となります」としていた。來田教授は「森氏の発言を『不適切』とするだけでなく、ジェンダー平等のためにどのような施策を講じてきたのか、今後さらに何が必要なのか、組織委やJOCは明示すべきです」と指摘する。「スポーツ界の意思決定層に女性を増やすことは、同質的な集団によって物事が決定される状況を変化させます。女性も男性も一枚岩ではないし、障害のある人やセクシュアルマイノリティーなど、あらゆる人を排除しないスポーツが目標とされている。男性だけの構成を変えることは、より小さな声に気づく組織の入り口になるはずです」
●政財界、メディアでも女性登用遅れ
 さらに來田教授は「スポーツ界は社会を映す鏡。社会との関係性の中で改善していく必要性がある」と指摘する。指導者になれば試合や合宿での遠征がついて回る。女性にだけ家事労働の負担が偏っていたり、強固な性別役割分業意識が社会に根付いていたりする状況のまま、女性がキャリアを積むことは難しい。これは社会全体に共通する課題だ。意思決定層に女性が少ない現状は他分野でも同様だ。国会議員に占める女性割合(20年6月時点)は、衆議院9.9%、参議院22.9%。上場企業の女性役員比率(20年7月時点)は6.2%にとどまる。森氏の発言を追及するメディア業界も取り組みが遅れている。新聞労連の調査によると、全国の新聞社38社の役員319人中、女性はたった10人(19年4月時点)。毎日新聞社の役員も女性0人。新聞労連などのメディア労組は9日、業界団体と加盟各社に対し、女性役員比率を3割以上に上げることを要請したと明らかにした。
●オリンピック・パラリンピック関連中央団体/役員(理事)・委員に占める女性比率
 日本オリンピック委員会 20%
 日本オリンピック委員会評議員会 3.2%
 東京オリ・パラ組織委員会 20%
 東京オリ・パラ組織委員会評議員会 16.7%
 日本パラリンピック委員会 18.2%
 国際オリンピック委員会 36.9%
●五輪開催競技の中央競技団体で会長以下理事職に占める女性比率
 陸上競技 7.1%
 水泳競技 13.8%
 サッカー 16.7%
 テニス 21.2%
 ボート 17.9%
 ホッケー 13%
 ボクシング 4.5%
 バレーボール 27.8%
 体操競技 28.6%
 バスケットボール 25%
 レスリング 4%
 セーリング 25%
 ウエートリフティング 13.6%
 ハンドボール 18.5%
 自転車 10%
 卓球 17.4%
 馬術 20%
 フェンシング 15%
 柔道 13.3%
 ソフトボール 20.8%
 バドミントン 10%
 射撃(ライフル) 19.2%
 射撃(クレー) 10.5%
 近代五種 5.3%
 ラグビー 20.8%
 スポーツクライミング 8.7%
 カヌー 20.8%
 アーチェリー 15.8%
 空手 13%
 野球 11.1%
 トライアスロン 27.6%
 ゴルフ 21.9%
 テコンドー 36.4%
 サーフィン 0%
 スケートボード 26.1%

*4-1-2:https://digital.asahi.com/articles/ASP2F54QYP2FUTQP008.html?iref=comtop_7_04 (朝日新聞 2021年2月13日) 「森会長の冗談じゃないか」 スポーツ界トップの空気感
 「83歳の会長の冗談じゃないか」。東京オリンピック(五輪)・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長の女性蔑視発言を報じたとき、複数のスポーツ関係者からいわれた言葉だ。今も、そう考えている人はいると思う。問題に感じたのは、一般企業の感覚と離れた「冗談」が公の場のあいさつで通用してしまうスポーツ界トップの会議の空気感だ。背景には、競技団体の意思決定に女性や若い世代が関わりづらかった構造がある。この発言があった3日の日本オリンピック委員会(JOC)臨時評議員会はまさに、「女性理事を40%以上にする」などの方針を確認しあう場だった。なのに、最後にあいさつをした森会長の言葉は、JOCが進める方向とは正反対だった。「これはダメだよな」。一緒に発言を聞いていた同僚記者も、私と同じ受け止めだった。JOCが女性役員を増やす方針を示したのは17年4月。スポーツ庁などと「ブライトン・プラス・ヘルシンキ宣言」に署名した。女性枠を設けた日本セーリング連盟など、一部では意識も変わったように思う。それでも、昨年11月の笹川スポーツ財団の調査では女性役員は15%にとどまる。背景はさまざまだ。
 ・出産などのライフプランを支える仕組みが確立されておらず、女性が競技から離れて
  しまう。女性指導者もまだ少ない。
 ・そもそも幹部が男性中心で、関わりづらい。
 ・子育てや企業で働く若手は休日にある会議や仕事の負担が大きい――など。
 JOCをはじめ、これまでの日本の競技団体が選んできた「スポーツを理解している人材」の定義は狭かった。JOC理事を選ぶ選考委員が「選びたいけど、女性がいない」と嘆くのを聞いたことがある。候補に並ぶのは、元金メダリストなど選手時代の肩書や「結果を出した元監督」という強化の実績。自戒を込めていえば、我々メディアも、この構造をあおってきた。もちろん、スポーツ界の「顔」は必要だ。だけど、強化や肩書を重視するあまり、「バリバリとスポーツをしてきた人、続けられる環境にある人」しか関われない世界になっていなかっただろうか。建設的な意見を言える若手や外部の人材を「経験不足」と遠ざけ、社会と離れた特殊な世界になっていなかったか。組織委は辞任を表明した森会長の後任を選ぶため、候補者検討委員会を設置した。「透明性の高いプロセス」をうたうのであれば、検討委が複数の候補者を挙げたうえで、候補者の「公開討論会」をオンラインなどで開き、見識を世に問えばいいと思う。会長を決める権限は理事会だけにある。討論会での発言や、発言に対する社会からの反応が、理事の判断の一助になればいい。「女性だから」「アスリートだから」という固定観念でくくらず、会長にふさわしい能力をもった人を選ぶべきだ。それができて、今後のスポーツ界に浸透するのであれば、今回の問題も意味がある。

*4-2-1:https://www.asahi.com/articles/ASP296F00P29UTFK01G.html?iref=comtop_ThemeLeftS_01 (朝日新聞 2021年2月9日) 森会長発言、二階氏が火に油 若手「公然と批判できず」
 東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長の女性蔑視発言をめぐり、批判の声が相次いでいる。政府・与党は沈静化を図るが、二階俊博幹事長が会見で森氏を擁護し、火に油を注いだ格好となった。与党内にも発言への批判はあるものの、強い影響力を持つ2人の責任を正面から問う声は出ていない。萩生田光一文部科学相は9日の閣議後の記者会見で、こう言って森氏をかばった。「『反省していないのではないか』という識者の意見もあるが、森氏の性格というか、今までの振る舞いで、最も反省しているときに逆にああいう態度を取るのではないかという思いもある」。しかし、森氏の発言が引き起こした批判の嵐を沈静化しようという政府・与党の狙いはむしろ裏目に出ている。最大派閥出身の森氏や幹事長として権勢をふるう二階氏の影響力を恐れる声もあります。自民党の二階俊博幹事長は8日の会見で、「森会長には周囲の期待に応えてしっかりやっていただきたい」と語り、辞任は必要ないと強調。さらに森氏の発言を受けたボランティア辞退の動きを「瞬間的」とし、「どうしてもおやめになりたいということだったら、また新たなボランティアを募集する、追加するということにならざるを得ない」と語った。この二階氏の発言は、SNS上などで激しい反発を浴びる。共産党の志位和夫委員長は「どこまで国民をなめたら気がすむのか」とツイッターに投稿した。それでも二階氏は9日の会見で、自らの前日の発言について「特別深い意味はない」。改めて森氏の発言は不適切か問われたが、「内閣総理大臣を務め、党の総裁であられた方のことをあれこれ申し上げることは適当ではない」と答えるにとどめた。森氏や二階氏の発言については、政府・与党内からも苦言が出ている。麻生太郎財務相は9日の衆院予算委員会で、森氏の発言について「国益に沿わないことははっきりしている」と指摘。橋本聖子五輪担当相も同じ委員会で、二階氏の発言について「不適切だった」と述べた。とはいえ、野党などから出ている森氏の辞任要求について、政府・与党内に同調する動きは見えない。世耕弘成参院幹事長は9日の会見で「五輪が直前に迫っている。森会長でなければなかなか(難しい)」と語り、森氏の続投を支持。二階氏についても「適切、不適切という立場にありません」と述べた。最大派閥出身の森氏や幹事長として権勢をふるう二階氏の影響力を恐れる声もある。ある自民党若手議員は「本当は森氏は辞任した方がいい」と漏らすものの、公に発言することは避けているという。「党内の立ち位置を考えると、自分が公然と批判するのはこわい」と明かす。閣僚経験者の一人は「森さんや二階さんにお世話になった人ばかりだから、みんな何も言えないんだろう」と話す。こうした姿勢に対し、立憲民主党の辻元清美衆院議員は9日、記者団に与党側から、進退を問う声があがらないことを批判したうえで、「政治が根っこまで腐ってきているように私には見えた」と語った。

*4-2-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/84974 (東京新聞 2021年2月10日) 二階氏、閣僚からの苦言「論評しない」 ボランティア大量辞退招いた森会長発言で
 自民党の二階俊博幹事長は9日の記者会見で、東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長の女性蔑視発言がボランティアの大量辞退を招いたことを巡り、「静かになったら、その人たちの考えも変わるだろう」と表現したことについて「特別深い意味はない」と釈明した。閣僚から苦言が相次いだことには「いちいち論評を加える必要はない」と語った。
◆性差別への意識問われ「女性は心から尊敬」
 二階氏は、ボランティア辞退への自身の発言に関して「即座にそういう反応もあっただろうが、お互い冷静に考えたら、また落ち着いた考えになっていくんじゃないかということ」だったと真意を説明。性差別への意識を問われて「男女平等で一貫して教育を受けてきた。女性は心から尊敬している」と強調した。二階氏の発言を巡り、橋本聖子五輪相は衆院予算委員会で「ボランティアの不快な思いを真摯しんしに受け止めなければいけなかった。不適切だった」と指摘。麻生太郎財務相も「ボランティアは大会に必要な大きな力。敬意を欠いているのではないか」と苦言を呈した。二階氏は8日の記者会見で、森氏の発言を受けたボランティア辞退の動きについて「そんなことですぐ辞めると瞬間には言っても、協力して(大会を)仕上げましょうとなるのでは。どうしても辞めたいなら新たなボランティアを募集、追加せざるを得ない」と話した。党はその後、「そんなこと」という表現を「そのようなこと」に訂正すると発表した。

*4-2-3:https://mainichi.jp/articles/20210210/k00/00m/050/236000c (毎日新聞 2021年2月10日) 森氏発言に4者協議欠席で「ノー」 小池劇場再び 自民は警戒
 東京オリンピック・パラリンピックの開催都市である東京都の小池百合子知事の発言が波紋を呼んでいる。国際オリンピック委員会(IOC)が提案した4者協議を欠席する意向を表明し、女性蔑視発言をした大会組織委員会の森喜朗会長の対応にノーを突き付けた。小池氏の動きに、政府や自民党、組織委関係者には動揺が走る。
●遺恨ある森氏との綱引きに「デジャブ」
 「きちんと落ち着いて進めていく方が良いのではないかと考えております」。小池氏は10日夜の退庁の際、報道陣にこう述べ、4者協議は状況が落ち着いてから開くべきだと指摘した。都幹部は「いま出席したら現在の状況を容認していると受け取られかねない」と説明する。森氏の女性蔑視発言に対する世論の反発は大きく、都幹部の間では「問題が収まらないうちは出席は見合わせた方がいい」というのが共通認識だった。国や組織委にもこうした考えを伝えていたといい、10日朝に「17日開催で調整」とのニュースが流れ、立場を明確にするために欠席の発言をしたとみられるという。女性蔑視発言に対する抗議が都庁に殺到していることも影響している。10日までに寄せられた抗議の電話やメールなどは計1690件、都市ボランティアの辞退が126件。都オリンピック・パラリンピック準備局の担当者が「まさかここまで抗議が来るとは想像以上だ。(森氏について)都に言われてもどうしようもないが、傾聴に徹するしかない」と驚くほどで、4者協議への出席はリスクが極めて高いと判断したとみられる。これまで小池氏は、森氏の会長辞任を求めるかについては「誰がふさわしいかは組織委員会の判断も必要だ」などと述べるにとどめていた。2019年に五輪のマラソン・競歩の札幌移転案が浮上した際、森氏は水面下で国内調整をし、根回しは自民党都議にまで及んだともされるが、直前まで小池氏には知らされなかったなど遺恨がある。それでも都議の一人は「小池さんにとっては、森さんがこのままの状態でいてもらった方がいい。引きずり下ろすメリットは何もない」との考えを示す。ただ、開催都市トップが森氏の発言に厳しい態度を取ったことは重く、大会関係者からは「辞任」圧力になるとの見方が出ている。組織委幹部は「辞任を求めているようなものだ」と語り、政府関係者は「森さんが辞めるしかないという雰囲気になるかもしれない」と警戒を強める。ある都議は「ここで意思を表明するのは衝撃的。知事らしいカードの切り方だ」と話した。大会関係者の間では、森氏の続投はこれまで揺るがなかった。政府や都などの各自治体、IOCとの交渉が求められる組織委の会長職には確かな政治的手腕が求められるためだ。調整や根回しを得意とする森氏が最も手を焼いたのが小池氏で、五輪競技会場の見直しや経費負担の問題では綱引きを繰り返してきたこともあり、五輪関係者の間では「またか」との思いもある。ある政府関係者は「まるでデジャブ(既視感)」と表現しつつも、こう続けた。「小池知事が表に出てきたことで、森会長も簡単に引き下がれなくなった。徹底抗戦するだろう」。(以下略)

*4-2-4:https://digital.asahi.com/articles/ASP2471QPP24UTIL057.html?iref=pc_rellink_04 (朝日新聞 2021年2月5日) 女性蔑視発言、ごまかす笑いが社会の現実 辻愛沙子さん
 東京オリンピック(五輪)・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長(83)による女性蔑視発言に、強い批判が集まっています。クリエーティブディレクターとして社会派の広告やイベントの企画などで活躍する辻愛沙子さん(25)は、この発言に「見覚えがある」と言います。記者は4日午後、音声型のSNS「Clubhouse(クラブハウス)」を通じ、辻さんに「公開取材」。一時は1千人を超えるリスナーがその様子を傍聴しました。辻さんが取材に語った内容は次の通り。
     ◇
 今回の発言はあまりにひどいですが、これを水で薄めたような出来事は社会にたくさんあり、思い当たる光景がいくつもあります。「これ、ちょっとやばいな」と思ってもごまかすための笑い―。記事の後半では、今回の問題が映した「社会の現実」について語ります。例えば、年上の男性ばかりの会議で女性は私だけだった時。疑問や意見を口にすると、話を途中で遮られ「若いから分からないかもしれないけど」と内容を聞く前に否定される。でも、私と同じことを別の男性が発言したら手のひらを返して称賛される。若い女性は「教える対象」で、対等な議論ができる相手とは思っていないのだと感じました。役職とはまた別に、勝手につくった想像上のヒエラルキーがあるのでしょう。森さんの発言は、ただの言葉のあやではなく価値観の根底に根付いているリアルな本音なんだろうと思います。思っていたとしてもせめて心の中でとどめるのが普通で、それを公の場で言うところに感覚のズレがある。今回の発言があった時、笑いが起こったと聞きます。いまの社会の現実だなと思いました。「これ、ちょっとやばいな」と思ってもごまかすための笑い。そもそも危機感すらないのかもしれません。森さん自身の問題でもありますが、あんな浮世離れした発言を許容してきた側近、メディア、世論も学び、変わっていかなければいけない。4日の謝罪会見で「発言を撤回する」とおっしゃいましたが、「謝罪」はできても、一度発した言葉は事実として多くの人の記憶に残りますから、本当の意味で撤回なんてできません。今回は失言や言葉の選び方のミスではなく、思想そのものから生まれた蔑視発言。もちろん一度の間違いですぐにアウト、とは思っていません。人は誰しも無自覚な偏見を持っていますから、私自身も常々、人はいつからでも気づけるし、学べると肝に銘じています。でも、謝罪会見では記者の言葉を遮ったり、笑いながら答えたり。自身の失言を謝罪する場のはずが「あの場で一番偉い人」として振る舞っていた。間違いに気づき、学び、何もアップデートする気などないんだなという印象でした。一方でツイッター上では3日夜から、森氏が組織委の女性理事について述べた「みんなわきまえておられて」という言葉を逆手に取り、「#わきまえない女」というハッシュタグが盛り上がっています。単なる言葉遊びではありません。いつの時代にも「わきまえない女」がいたから、今の私たちには参政権があり仕事もできる。それに対するリスペクトとシスターフッド(女性同士の連帯)の表れです。黙っている方が楽だし、声を上げている人にヤジを飛ばす方が簡単だけれど、人を黙らせる言葉よりも、連帯したいアクションに対して賛意を伝える言葉を選ぶ人が多かったのは、すごくポジティブな動きでした。今回の発言は、スポーツ界のジェンダーギャップを表したものであり、社会を反映した問題でもあります。スポーツ界は外から見ているととても閉鎖的。中からのアクションだけでなく、外からも変えていけるように声をあげていきたいと思います。

*4-3:https://digital.asahi.com/articles/ASP2C7GYCP2CUTQP01Q.html?iref=comtop_7_02 (朝日新聞 2021年2月11日) バッハ氏が女性共同会長提案 川淵氏「森氏から聞いた」
 東京オリンピック(五輪)・パラリンピック大会組織委員会の新会長に就任する見通しとなった川淵三郎氏は11日、「森会長から聞いた話」として、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長が森会長に対し、森会長と並ぶ女性の共同会長を置く案を提案していたと明らかにした。また、「菅(義偉首相)さんあたりは、もっと若い人を、女性はいないか、と言ったそうだ」とも語った。森会長はどちらの提案も受け入れず、川淵氏に就任を要請した。川淵氏は「菅さんが若い人を、というのは当然の話だと思う」とした一方で、「森さんが83(歳)、俺は84、またお年寄りかと言われるのは不愉快。年寄りだろうが、何だろうが、良い仕事ができるぞ、といいたい」と話した。

*4-4:https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/705266 (沖縄タイムス社説 2021年2月10日) [市町村女性登用14%]積極的に不均衡なくせ
 市民ニーズを把握し、地域の実情に応じた政策に取り組むのが地方自治体の職員だ。管理職になると、意思決定に関わる機会が増える。その幹部が男性ばかりでは、女性の利益は反映されにくい。内閣府によると2020年4月1日現在、県内41市町村の課長相当職以上の管理職に占める女性割合は14・0%と低かった。全国平均の15・8%を下回っている。さらに部局長・次長級では11・7%(全国10・1%)と1割程度だった。政策に多様な視点を反映させる重要性が増す中、最も住民に身近な自治体で女性の登用が進んでいないことが分かる。政府が最近まで掲げていた「指導的地位に占める女性の割合を20年までに30%程度」とする目標からも、ほど遠い数字だ。なぜ女性管理職は少ないのか。「幹部候補になるまで育っていない」「昇進に消極的」といった声をいまだに聞くことが多い。もちろん女性自身が力をつけることは大事だが、「適材適所」で片づけるのは、必ずしも的を射ていない。そもそも候補となるための経験やチャンスを男性と同じように与えてきたのか。昇進に尻込みするのは、家事や育児の負担が女性だけに偏っている現状や、残業を前提とした長時間労働の問題でもある。男女共同参画社会づくりに関する県民意識調査で、職場での男女の待遇について「平等」と答えた人は約5割にとどまった。 
   ■    ■
 地域による登用率のばらつきも気になる。市町村の課長級以上の割合は南風原町の30・0%がトップで、浦添市の22・8%と続き、一方、いまだゼロが8村もあった。県レベルでは鳥取県の20・9%が最も高く、沖縄県は13・3%、全国平均は11・1%だった。南風原町の赤嶺正之町長は「実力本位で選んだら、女性が多かった」と話している。正規職員の男女比がほぼ半々というのも、女性が活躍する土台となっているのだろう。都道府県で全国一の鳥取県は、約20年前から知事が登用に積極的な姿勢を示し、その結果、女性の視点を生かして働く幹部が次々と生まれているという。不均衡是正に向けては、指導力を発揮すべき自治体トップの意識も問われてくる。
   ■    ■
 集団の中で変化をもたらすために最低限必要な数を「クリティカルマス(臨界質量)」と呼んでいる。政治・行政分野では30%が急激に影響力を及ぼす分岐点とされている。政府は第5次男女共同参画基本計画で「20年までに30%」とする女性登用目標を後退させ、「20年代の可能な限り早期」に先送りした。コロナ禍による影響は女性や子どもなど立場の弱い人たちにより深刻に表れている。行政分野での女性の視点はますます重要になっており、不均衡をなくすことが急務である。

<再エネの時代へ → 原発立地自治体へのアドバイス>
PS(2021年2月18、20、27日、3月2日追加):*5-1-2のように、運転開始から40年過ぎて停止中の関西電力高浜1、2号機と美浜3号機で、再稼働に必要な地元自治体の同意手続きが進んでいるが、耐用年数を延長して運転するのは、原子力規制委員会が承認したとしても同委員会の感覚がおかしいという証明にしかならず、原発建設当時より安全に無関心になっているということだ。核燃料サイクル政策は既に破綻し、原発敷地内に保管する使用済核燃料の中間貯蔵施設は県外に確保する約束をしていたそうだが、そもそも中間貯蔵と最終処分を分けて放射性物質を何度も移動させるのは金とリスクが二重にかかり、この費用も国民が負担しているのだ。
 佐賀新聞は、*5-1-1のように、「①原発立地23市町村で老朽化する公共施設・インフラの維持管理や建て替えに今後40年間で計約4兆円が必要になる」「②玄海町は660億円見込んでいる」「③フクイチ事故後の原発再稼働・新増設停滞で立地自治体は収入減に直面し、さらなる財政悪化の懸念がある」「④原発誘致による町づくりは転機を迎えている」としている。私は、最終処分方法を早急に決めて原発を卒業するのがBestだと思うので、原発立地自治体がどうすればよいかについて玄海町の例で説明すると、既に交通の便はよくなっているため、i)再エネ関連の産業を誘致する ii)EVやFCVの部品工場を誘致する  iii)近隣の農林漁業地帯で行った再エネ発電の電力で水素を作る iv)バイオ産業を誘致する v)西日本新聞や佐賀新聞の印刷部門を誘致する などが考えられる。しかし、それには環境整備が必要で、速やかに廃炉を終えて使用済核燃料も最終処分し、その土地の安全性に懸念のなくなることが必要条件であるため、国の協力が必要だ。また、既に建設されているインフラを有効利用するには、唐津市と合併して玄海町側の施設を使ったり、民間に売却したりするのがよいと思う。
 なお、*5-2-1のように、再エネは地域再生の旗手となり得るのであり、日本生命などの機関投資家は2021年4月からすべての投融資判断に企業の環境問題や社会貢献への取り組みなどを考慮するそうだ。そのため、再エネ利用がさらに高まることは確実で、投資家や消費者が選別する時代も近づきつつあり、経産省は「エネルギー基本計画」を早急に見直して再エネを主電源とする政策に変換すべきなのだ。ここで、温室効果ガスの排出を抑制するという名目で原発の再稼働や新増設を後押しするのは、「温暖化や公害の原因はCO₂だけである」と矮小化して考える非科学的で筋の悪い発想だ。
 さらに、所沢・飯能・狭山・入間・日高の埼玉県西部5市は、*5-2-2のように、地球温暖化防止に向けて二酸化炭素(CO2)排出を2050年までに実質ゼロにすることを目指す「ゼロカーボンシティ」を共同で宣言し、森林の活用や再エネ普及で連携し、再エネの利用・促進に関する啓発活動や豊かな森林資源を生かした環境学習などに取り組むそうだ。また、埼玉県内では、他に、さいたま市・秩父市・深谷市・小川町が「ゼロカーボンシティ」を宣言している。そして欧州では、*5-2-3のように、ダイムラーAG社のトラック部門とバス部門が2039年までに欧州・日本・北米の主要3市場で全ての新型車両をCO₂ニュートラルにする目標を発表し、「我々は大型トラックの電動化に初めて真剣に取り組み、今では顧客が使用するEVの全てでパイオニアとなっている」としているが、日本はどうか? 
 このように、*5-3-1の再エネ拡大のための送電網強化は重要で、私も電力は再生エネで100%を賄えるため、くだらないばら撒きはやめてそのためのインフラ整備を行うべきだと考える。また、*5-3-2のように、バイデン次期大統領は環境インフラに4年間で2兆ドル(2021年2月18日現在の1$≒106円で換算すれば約212兆円)投じる公約を掲げたため「ブルーウエーブ」ができているが、日本の有権者・投資家・消費者はどう考えるだろうか?
 なお、*5-4に、「⑤自動車がガソリン車からEVに切り替わると、国内部品メーカーの雇用が30万人減る」「⑥メーカー各社は新たな事業創出に向け研究開発を加速している」「⑦バッテリーや駆動用モーターなどのEV化で新たに必要となる部品もあり、各社はその開発に力を入れている」「⑧地方自治体も雇用を維持するため、中小企業のEV化対応を支援する動きが出ている」等が書かれている。⑤については、同じ機能の製品を作るなら少人数で作れる方が生産性が高く、排気ガスを出さないのでEVの方が付加価値も高い。そのため、⑥⑦は当然の方向性なのだが、⑧についても、日本にはEV・自動運転・再エネに関する特許が多く、中小企業も参入しやすいため、地方自治体が本気で支援して輸出も視野に大量生産できる体制を整えれば、ピンチに見えた情景はチャンスに替わると思う。
 再エネには、*5-5のように、佐賀市が清掃工場から出るごみ焼却熱を利用して年間約3万2千メガワット時を発電しているように、これまで廃棄していたエネルギーを電力に変えるものもある。佐賀市は、2023年度以降は7~8円/kwhになる余剰電力をどうするか考えているそうだが、九電の業務用電力は最安値でも10円以上するため、9円で市の財政に寄与する重要な産業に販売すればよいだろう。例えば、市内の企業や農業などの産業に販売すれば、電力料金が地元で廻り、産業も電力料金が安い分だけ競争上有利になる。これは、ゴミ発電だけでなく、既存ダム等の市有財産に水力発電機を設置して発電しても同じことで、送電線を水道管に沿って埋設し他の再エネ発電事業者の電力も送電すれば、送電料を徴収することも可能だ。そして、多くの市町村がこれを行えば、原発はすぐに廃止でき、化石燃料や原発由来でない確かな再エネ由来の電力を送電することで消費者も選択しやすくなる。さらに、電線の地中化も進むが、これらが電力自由化の効果であり、いつまでも電力安定供給を振りかざしてニーズにあった電力供給を行わず、エネルギー代金を高止まりさせてきた大手電力へのよい刺激になる。
 また、送電網は、現在は大手電力のものを使っており、大手電力の都合によるため、独立性も競争もない。そのため、個別の企業や住宅への配電は地方自治体が水道管の近くに電線を埋設して行うのが最も中立的でコスト削減になるだろう。また、地域間融通は、鉄道や高速道路に沿って(なるべく超電導)電線を設置するのが、最低コストになると思われる。送配電設備を持つ組織が配電料や送電料を徴収することができるのは、もちろんのことだ。
 そして、COP26の議長国である英政府は、*5-6のように、再エネやEVのインフラ投資を進めるために個人投資家と機関投資家向けに環境債を発行して脱炭素化を加速させるそうだ。環境債は右肩上がりの環境分野への資金調達に限定した債券で、比較的高い利子率に設定できるため、佐賀市のような地方自治体が公債として発行しても支持されると思う。

 
2020.10.31、2020.12.14    次世代の太陽光発電機       各種風力発電機
   日経新聞

(図の説明:左2つの日経新聞の図のように、地方では再エネ電力が余っているのに送電網が不十分で他のエリアに送電できていないが、送電網ができれば、自然エネルギー財団の見解どおり、再エネ100%で電力供給ができる。また、中央の2つの図のように、太陽光発電機器も進歩して軽さ・機能性・美しさを兼ね備えたものができている。さらに、右図のように、風力発電機も進歩して従来型の欠点を克服したものも多く出ている)


燃料電池トラック   EVトラック   燃料電池都バス   EVバス  全自動木材運搬EV


   
 燃料電池航空機   燃料電池船  燃料電池漁船   燃料電池列車   EV列車

(図の説明:上段のように、交通機関も燃料電池・EVによるトラック・バス・木材運搬機などができており、下段のように、燃料電池・EVによる航空機・船舶・列車もできた。後は、大量生産によってコストと価格を落としながらラインナップを増やすことが課題だが、作って使い始めなければ改良もない)

*5-1-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/631470 (佐賀新聞 2021.2.10) 原発立地23市町村、公共施設維持に4兆円 玄海町は660億円
 原発や関連施設が立地するか建設計画がある全国23市町村で、老朽化する公共施設やインフラの維持管理、建て替えに今後40年間で計約4兆円が必要になることが9日、各自治体への取材で分かった。原発関連の交付金や税収を原資に建設されたものが多く、住民1人当たりの負担額は全国平均を大きく上回る。東京電力福島第1原発事故後の原発再稼働や新増設の停滞で、立地自治体は収入減に直面している。さらに財政が悪化する懸念があり、施設の統廃合や建設抑制などで負担軽減を目指している。原発誘致による町づくりは転機を迎えている。各自治体は2015年以降、維持更新費用を試算。総額は市町村の規模により異なるため、住民1人当たりの負担額を見た。総務省がまとめた全国平均は年6万4000円。これに対し、23市町村のうち福井県おおい町が46万7000円と最も多く、17市町村は平均の2倍を超え、最も少ない茨城県東海村でも6万9000円と平均を上回った。学校や医療機関などの公共施設や道路や水道などのインフラの保有量について、19市町村は「過大」「やや過大」と回答。保有量が増えた原因として、9市町村は原発関連の収入増と関係があると答えた。松江市や鹿児島県薩摩川内市などは原発とは関係なく、市町村合併の影響を挙げた。23市町村ごとに、規模の大きい公共施設10施設について原発関連交付金の活用の有無を尋ねると、全230施設のうち136施設が該当。過剰な施設を抱える一因となったことがうかがえる。維持更新費は、18市町村で通常の建設投資の予算額を超え、他の分野の予算にしわ寄せが及びかねない。ほとんどの市町村が施設の統廃合などで負担軽減を進める方針を示した。今回の集計で、第1原発事故の影響で維持更新費を試算していない福島県大熊町と双葉町は対象外とした。費用総額は茨城県東海村が60年間、福井県美浜町が30年間で計算している。
●玄海町は660億円見込む
 九州電力玄海原子力発電所が立地する東松浦郡玄海町は、公共施設やインフラの維持管理などに今後40年間で660億4000万円を見込む。住民1人当たりの年間負担額は29万4000円と、全国平均を23万円上回った。公共施設の保有量は「やや過大」と回答した。保有量と原発関連の収入増とは関係があるとみている。規模が大きい10施設のうち、原発関連交付金を活用したのは8施設に上った。維持更新費については試算していない。

*5-1-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14803656.html?iref=comtop_Opinion_03 (朝日新聞社説 2021年2月18日) 老朽原発延命 無責任の上塗りやめよ
 核燃料サイクル政策の破綻(はたん)から目をそらし、「原発の運転は原則40年まで」というルールの骨抜きに突き進む。そのうえ電力会社と立地自治体の長年の約束をうやむやにしようとする動きを後押しする。とりわけ国の無責任ぶりが目に余る。運転開始から40年を過ぎ、現在は停止中の関西電力高浜1、2号機と美浜3号機で、再稼働に必要な地元自治体の同意手続きが進んでいる。原子力規制委員会の審査を終えた後、既に高浜、美浜両町の町長と議会は同意し、福井県の知事と議会の対応が焦点となっている。関電は1990年代末、福井県知事の要求に応え、原発の敷地内に保管する使用済み核燃料の中間貯蔵施設を福井県外に確保することを約束した。しかし、いまだに果たせていない。最近では18年、20年と期限を区切りながら実現できず、福井県側は「再稼働に向けた議論に入れない」と反発していた。ところが、である。関電の森本孝社長がこのほど福井県の杉本達治知事を訪れ、23年を最終期限としつつ青森県むつ市を候補地としてあげた。同市には東京電力などが整備する中間貯蔵施設があり、電力各社からなる電気事業連合会が昨年末、それを業界で共用すると表明。関電はそこへの参画を選択肢の一つにするという。むつ市が関電の考えに「あり得ないこと」と激しく反発しているにもかかわらず、杉本知事は「覚悟が示された」と評価し、県議会に議論を促した。一連の動きは、福井県民に示してきた方針を先送り・あいまいにする対応と言うほかない。関電と福井県のトップ会談には、経済産業省資源エネルギー庁の保坂伸長官が同席し、支援を表明。オンラインで参加した梶山弘志経産相は再稼働への協力を知事に要請した。原発政策が「国策民営」と評されるのを地でいく構図である。核燃サイクルは、使用済みの燃料を再処理して再び発電に使う仕組みだが、計画は行き詰まっている。このままでは使用済み核燃料は行き場を失いかねず、その現状への不安が、むつ市や福井県の姿勢の根底にはあろう。そうした根本的な問題に向き合わず、原発の温存へ再稼働を急がせる国の対応は、無責任に無責任を重ねるものだ。原発の40年ルールは、東電福島第一原発の事故を受けて設けられた。電力不足などに備えるため「1回だけ、最長20年延長可」とされたが、その例外規定が次々と適用されている。先行きのない政策に見切りをつけ、現実的な解を探る。その決断と実行が、国と電力会社、自治体のすべてに求められる。

*5-2-1:https://www.jacom.or.jp/column/2020/10/201021-47242.php (JAcom 2020年10月21日) 再生可能エネルギーで地域再生
<日本生命保険は2021年4月から、すべての投融資の判断に、企業の環境問題や社会貢献への取り組みなどを考慮した「ESG」の考え方を採用する。独自に策定した評価基準を用い、経営の透明性や持続可能性の高い企業などへの投資を増やすことで、利回り向上とリスク低減を目指す。(読売新聞10月20日付)、ESGとは、投資環境(Environment)・社会貢献(Social)・企業統治(Governance)に配慮している企業を重視・選別した投資>
●再生可能エネルギーの利用高まる
 西日本新聞(10月17日付)は、国連が掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)」や、環境や社会的責任を重視する「ESG投資」が注目を集める中、二酸化炭素(CO2)排出量を減らす取り組みで企業の社会的評価を高めるため、使用電力をすべて再生可能エネルギー(太陽光、風力、水力、バイオマス、地熱など)で賄うことを目指す企業が増えてきていることを報じている。そして「電気を使う企業も、CO2削減の取り組みによって投資家や消費者から『選別』される時代が近づきつつある」とする。日本農業新聞(10月18日付)の論説も、「農地に支柱を立てて架台を載せ、農地の上で太陽光発電をしながら農業生産にも取り組む営農型太陽光発電の面積が増えている。当初の設備に資金が必要なため、農家が単独で発電事業に参入するのは難しい。優良な連携相手を仲介する仕組みづくりが求められる」と、営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)の広がりを取り上げている。
●「エネルギー基本計画」の見直しと再生可能エネルギー
 国の中長期的なエネルギー政策の指針となる「エネルギー基本計画」について、経済産業省が見直しに向けた議論に着手した。これを受けて、山陽新聞(10月18日付)の社説は、「二酸化炭素(CO2)を出さず環境に優しい再生エネを最大限活用し、主力電源として機能するよう意欲的な目標に見直すことが求められる」とし、「再生可能エネルギーの拡大」をそのポイントとする。しかし18年度の再生エネ比率は16.9%で、脱炭素で先行する欧州各国は30%前後と比べると、「日本の立ち遅れは否めない」とし、事業者への支援の必要性を訴えている。また、固定価格制度による買い取り費用が電気料金に上乗せされ、家庭や企業の負担が増大していることから、「再生エネの強化と国民負担とのバランスを考慮した議論」を求めるとともに、「原発に対する国民の不信や不安は根強い」ことから、「将来的に原発比率を下げていく道筋を示すべきだ」とする。期せずしてこの7月に「経済同友会」から出された『2030年再生可能エネルギーの電源構成比率を40%へ』と、「自然エネルギー協議会(会長 飯泉嘉門 徳島県知事)」から出された『自然エネルギーで未来を照らす処方箋』が、30年に再生エネの比率を40%まで引き上げることなどを提言していることを紹介し、「天候に左右されがちな再生エネが主力電源となるには、蓄電池の性能向上や送電線網の拡充なども必要となる。技術開発を促し、設備投資の呼び水となるよう、政府は野心的な目標を掲げ、政策誘導することが欠かせない」とする。
●原発の再稼働、さらには新増設までも後押しする読売新聞
 読売新聞(10月17日付)の社説は、「温室効果ガスの排出を抑制しながら、電力の安定供給を確保するという課題にどう対処するか。冷静な議論を通じ、現実的な道を探るべきだ」と、再生可能エネルギーの利用促進にくぎを刺す。再生可能エネルギーの問題点として、「買い取り費用が転嫁された結果、家庭や企業の電気代の負担」が増えることと、発電量の不安定性を指摘する。その不安定性を補うための電源として、「原子力の活用が最も有効だろう」とする。そして、「政府は、新計画で原発の必要性を国民に説明し、責任を持って再稼働を後押しせねばならない。同時に、国民の原発に対する信頼を取り戻すため、官民で安全を一段と高める技術開発を加速させるべきだ。古くなった施設も多く、原発の新増設についても、論議を深めてもらいたい」とまで述べている。
●中国新聞の見識
 中国新聞(10月21日付)の社説は、18年度の電源構成実績が6.2%の原発を、30年度に20~22%程度とした18年7月の閣議決定を取り上げ、「福島の事故を受けて安全対策費がかさみ、『安い』というメリットも失われた。(中略)原発ゼロを望む国民の多さを考えると、そもそも達成不可能な目標だったのではないか。依存度の引き下げが進む国際社会の潮流にも逆行している」と、指弾する。「脱炭素を進めるためにも、再生エネルギーの大幅拡大が必要だ」が、日本は後れを取っている。「発電量が天候に左右されるほか、ドイツなどに比べコスト低減も進んでいない」と、問題点を読売新聞同様認める。だが、「政府の意識は経済界より遅れているようだ」とし、前述の経済同友会提言が、30年の再生エネルギーの比率を、太陽光・風力で30%、水力や地熱などで10%と具体的に示したことを、「欧州各国にも引けを取らない高い目標」と評価する。実現に向けた、政府による明確な意思表示と政策誘導、積極的で継続的な民間投資等々の条件がそろえば、「国民の意識変革や行動変容がさらに進み、道筋も見えてこよう。エネルギー自給率の引き上げや、温暖化対策の国際公約達成にもつながるはずだ」として、新たな基本計画で、再生エネルギーの拡大へと大きくかじを切ることを政府に求めている。その背景として、「私たちは、風水害や地震が頻発する災害列島に住んでいることも忘れてはならない。甚大な被害が懸念される南海トラフ巨大地震や首都直下地震が、30年以内に70%前後の確率で起きると予測されている」ことをあげ、「災害に備えて、小規模分散型発電の可能性も各地域で考え」ることを、我々に訴えている。
●再生可能エネルギーで地球も地域も持続する
 「化石燃料のほぼ全量を輸入に頼る我が国では、温室効果ガス削減のためだけでなく、エネルギーの安定供給と自給率向上のためにも、再エネの大量導入と主力電源化が有効有益であることは論を俟たない。その実現に向けては、さまざまな課題があり、また一朝一夕で解決できるものではない。しかしながら、再エネの主力電源化は、地球の持続可能性の確保、そして日本の経済発展のために、官民が一体となって知恵を絞り、課題解決に取り組むべき最優先課題である」で、経済同友会の提言は終わっている。ソーラーシェアリングが、十数年間耕作放棄地だったところを発電所と優良農地に変えた事例を最近見学した。再生可能エネルギーは、地域再生のエネルギー源となる可能性も秘めている。「地方の眼力」なめんなよ

*5-2-2:https://digital.asahi.com/articles/ASP2H7FHYP2HUTNB006.html (朝日新聞 2021年2月16日) 県西部5市が「ゼロカーボンシティ」共同宣言
 所沢、飯能、狭山、入間、日高の埼玉県西部5市は15日、地球温暖化防止に向けて二酸化炭素(CO2)排出を2050年までに実質ゼロにすることを目指す「ゼロカーボンシティ」を共同で宣言した。歴史的、地理的に関係が深い近隣5市が、森林活用や再生可能エネルギーの普及などで連携していくという。所沢市役所で宣言文に署名する際、市長らは「自然環境、産業、文化、歴史などそれぞれの市の特長を生かしながら、互いに協力していく」と表明。市ごとの取り組みや、目指す方向性にも言及した。連携する具体的な取り組みは、5市で構成する「県西部地域まちづくり協議会」にプロジェクトチームを設置して、今後検討していく。再生可能エネルギーの利用・促進に関わる啓発活動や、飯能市や日高市が抱える豊かな森林資源を生かした環境学習などを想定しているという。所沢市は昨年11月に市単独で「ゼロカーボンシティ」を宣言しており、他の4市がこれに歩調を合わせた。県内ではほかに、さいたま市、秩父市、深谷市、小川町が、それぞれ宣言をしている。

*5-2-3:https://www.lnews.jp/2019/10/l1028307.html (Lnews 2019年10月28日) ダイムラーAG/2039年までにトラック・バスのCO2排出ガス0へ
 ダイムラーAG社のトラック部門とバス部門は10月28日、2039年までに欧州、日本及び北米地域の主要3市場で全ての新型車両をCO2ニュートラル(燃料タンクから走行時まで)化する目標を発表した。両部門は2022年までに主要市場である欧州、日本及び北米地域において、車両ポートフォリオにバッテリー式電気自動車(EV)の量産車を含める計画を立てている。また、2020年代の終わりまでに、水素駆動の量産車により航続距離の拡大を目指。第46回東京モーターショーでは、三菱ふそうトラック・バスのブランドであるふそうの燃料電池小型トラックのコンセプトモデル「Vision F-CELL」を世界初公開し、水素分野における活動強化をアピールした。さらに、2022年までに欧州の生産工場をCO2ニュートラル化し、その後他のすべての工場にも拡大する計画を掲げた。ダイムラーAG社のマーティン・ダウム取締役兼トラック、バス両部門代表は、ベルリンで開催した国際サプライチェーン会議の基調講演で「ダイムラーのトラックとバス部門は、パリ協定の目標に明確にコミットしており、業界の脱炭素化に取り組んでいる。2050年までに道路上でCO2ニュートラルの輸送を実現することが、究極の目標。これはコストとインフラの両方の観点において、顧客にとって競争力のある商品の提供を実現出来た時初めて達成できる」。「2050年までに全ての車を完全に刷新するには約10年を要するが、私たちの目標は、2039年までに欧州、日本そして北米地域にて、”燃料タンクから走行まで(Tank to Wheel)”CO2ニュートラルの新しい車両を提供すること。真のCO2ニュートラルの輸送は、バッテリー式電動運転システムまたは水素ベースの運転システムだけの場合に実現する。我々は、大型トラックの電動化に初めて真剣に取り組んだメーカーであり、今日では、顧客が使用する電気自動車の全てのセグメントでパイオニアとなっている」と述べている。なお、「メーカーのあらゆる努力の一方で、2040年時点でも、電気駆動のトラックとバスの総所有コストは、ディーゼル車よりも依然高いことが予想されるため、CO2ニュートラルのトラックとバスの誕生だけでは、普及拡大には至らない。したがって、CO2ニュートラルなトラックとバスの競争力を高めるには政府によるインセンティブが必要。CO2ニュートラルの車両が大幅な救済を得るためにはCO2値に基づいてヨーロッパ全体の通行料を変換、調整することが必要であり、バスに対する補助金プログラム、また全国的な充電および水素インフラ構築、ならびに水素の輸送および燃料補給のための統一基準を構築する補助金プログラムがとりわけ必要」としている。

*5-3-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODF143CB0U0A211C2000000/ (日経新聞 2020年12月14日) 再エネ拡大へ送電網の強化を 排出ゼロで研究機関提言
 総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)の分科会は14日、官民の研究機関の報告を交えて再生可能エネルギーの普及に向けた課題や方策を議論した。各機関とも2050年の温暖化ガス排出量実質ゼロに向けて再生エネの導入拡大の重要性に触れたが、不安定な発電量への対応や送電網の強化などが必要になるとした。報告をしたのは国立環境研究所、自然エネルギー財団、日本エネルギー経済研究所、電力中央研究所の4機関。最も意欲的な目標を示したのは自然エネルギー財団だ。人口減や省エネで50年までにエネルギー需要が20~30%減るなどと見込んだ上で、電力は再生エネで100%をまかなえるとした。導入拡大には広域的な送電網を整備することで発電量の変動や事故に対応することが必要になると主張した。日本は欧米に比べて再生エネの設置に適した場所が少ないという見方に対し、耕作放棄地や空き地などを考慮すれば、地上設置型の太陽光だけでも原発や大型火力およそ100基分にあたる1億キロワット超の設備を置く土地があると指摘した。国立環境研究所は、脱炭素社会を目指す上では自動車や産業部門の電化と再生エネの最大限の活用が必須だと強調した。太陽光と風力は設置の余地が大きいものの、資源が地域的に偏在していることや天候による出力変動を踏まえ、高度なエネルギー需給の調整の仕組みが必要になるとした。再生エネの大量導入に向けた課題を指摘したのが日本エネルギー経済研究所だ。大量に導入された場合、発電している時間帯の電力価格が低下し、投資回収の見込みが立ちづらくなる可能性を指摘した。極めて高い再生エネ比率を目指す場合は、電力供給の途絶リスクに対処するために数十年以上の気象データを使った分析が必要になるほか、適切な導入量は設置の可能性や地元合意、環境への配慮などを評価して決めることが重要になると主張した。電力中央研究所は再生エネの導入拡大は「極めて重要」としたが、排出量の実質ゼロは再生エネ比率100%が前提ではないと指摘。原子力などの既存電源に加えて、水素や温暖化ガスの回収・貯留などの技術も組み合わせて費用の最小化を目指す必要があるとした。その上で陸や海で法規制による設置への影響が少ない地域で優先的に導入が進む場合、50年に発電量に占める再生エネ比率は38~50%になると指摘した。

*5-3-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZASFL06HRM_W1A100C2000000/ (日経新聞 2021年1月7日) <米国>太陽光発電関連が急伸、バイデン政権で環境投資拡大に期待
 6日の米株式市場で太陽光発電関連株が急伸している。ソーラーエッジ・テクノロジーズは一時、前日比18.4%高の375.00ドルを付けた。ジョージア州の上院決選投票で民主党が2議席とも獲得し、上院で過半数を握るとの見方が強まった。同党が大統領と上下両院を制する「ブルーウエーブ」となり、太陽光関連株は公約に掲げる環境インフラ投資の恩恵を受けるとの見方が広がった。住宅用太陽光発電パネルのサンランは13.6%高の83.00ドル、太陽光電池のファースト・ソーラーは8.3%高の99.85ドルまで買われる場面があった。民主党のバイデン次期大統領は環境インフラに4年間で2兆ドルを投じる公約を掲げる。太陽光など再生可能エネルギーへの設備投資を促進し、2050年までに温暖化ガスの排出ゼロを目指す。ブルーウエーブが誕生すれば政策の実現性が高まると市場でみなされた。

*5-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/635489 (佐賀新聞 2021年2月20日) EV普及で雇用30万人減も、部品減で、メーカー苦境
 自動車がガソリン車から部品数の少ない電気自動車(EV)に切り替わることで、国内の部品メーカーの雇用が大きく減少する恐れがあることが20日、明らかになった。現在300万人程度とされる関連雇用が30万人減るとの試算もあり、メーカー各社は新たな事業創出に向け研究開発を加速。地方自治体も雇用維持するための支援を模索している。EVはモーターでタイヤを駆動して走るため、エンジンなどに関係する部品が不要となり、部品数はガソリン車の3万点から2万点程度に減るとされる。一方でバッテリーや駆動用モーターなどEV化で新たに必要となる部品もあり、各社はその開発に力を入れる。トランスミッションメーカー、ジヤトコ(静岡県富士市)の現在の主力商品はエンジン車向け無段変速機(CVT)だ。「エンジン車があっという間になくなることはない」(中塚晃章社長)としつつ、「イーアクスル」と呼ばれるEVの高速性能を高める新製品の開発を進めている。トヨタ自動車系の部品メーカー、デンソーは昨年、電動化に関連する研究開発などを行う「電動開発センター」を愛知県内に新設した。地方自治体でも中小企業のEV化対応を支援する動きが出ている。静岡県や浜松市でつくる浜松地域イノベーション推進機構が2018年に立ち上げた「次世代自動車センター浜松」は、大学や完成車メーカーなどと連携し、中小企業にEVなどの次世代技術を提供している。担当者は「準備は1年や2年では間に合わない。会員企業が脱ガソリン車に対応できるよう支援したい」と話す。アーサー・ディ・リトル・ジャパンの経営コンサルタント祖父江謙介氏は、自動車部品に関連する雇用は国内で300万人程度とした上で、EV化で1割の約30万人の雇用減少につながる恐れがあると指摘。「海外メーカーはEV開発に経営資源を集中している。日本メーカーが負ければ海外で日本車が売れなくなり、それ以上の雇用減が起こる」と警鐘を鳴らす。

*5-5:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/636772 (佐賀新聞 2021.2.27) 佐賀市清掃工場電力の利活用を調査 固定買い取り終了で
 再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度が2023年度に終了することを受け、佐賀市は4月から、市清掃工場(高木瀬町)のバイオマス発電の利活用策を検討する。現行の売却価格が半額近くになることが見込まれており、対応策の調査研究を民間に委託する。関連予算1170万円を盛り込んだ新年度当初予算案を、3月1日開会予定の定例議会に提案する。調査研究の期間は7月から来年2月までの予定で、4月に業者を公募する。先進事例も踏まえ、一定程度の価格で販売できる仕組みづくりを22年度から計画する。バイオマス発電は、ごみ焼却の熱を利用した蒸気でタービンを回し、年間約3万2千メガワット時を発電する。電気は、焼却炉の運転や隣接する健康運動センタープールの温水などに使っている。余った電力約1万8千メガワット時は現在、東京都の新電力会社に1キロワット時当たり最大17円で販売しているが、23年度以降は7~8円になるという。市循環型社会推進課は「地域内で電力を回す方法、売り先などを幅広く検討していきたい。脱炭素社会に向けた取り組みにもなれば」と話す。

*5-6:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/639156 (佐賀新聞 2021/3/1) 英政府が個人投資家向けに環境債、脱炭素化加速、年内発行へ
 英政府が個人投資家向けに、環境債を発行することが1日までに明らかになった。ジョンソン政権が掲げる脱炭素化の動きを加速させるもので、年内の発行を目指す。環境債は欧州を中心に既に各国で発行されているが、政府が個人を対象に販売するのは珍しい。英メディアは「世界初」の取り組みと伝えている。ロイター通信によると、英政府は調達した資金を活用し、再生可能エネルギーや電気自動車(EV)のインフラ投資などを進める。個人向け環境債の発行は英国の公的金融機関、国民貯蓄投資機構(NS&I)が担う。3日に正式に発表する。同時に、機関投資家向けの環境債発行も明らかにする見通しだ。英国は11月に開かれる気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)の議長国。既にガソリン車の新規販売を2030年までに禁止することも発表しており、新たな環境債発行で、脱炭素化の議論をリードしたい思惑があるとみられる。環境債は使い道を環境分野への資金調達に限定した債券で、企業を中心に世界で発行する動きが広まっている。

<オリ・パラは普通に開催すべきで、できるのだが・・>
PS(2021年2月19日、3月4日追加):*6-1-1に、「①タクシー運転手が自費でPCR検査を受けて『陰性証明』を取るまで職場復帰させないと会社に言われた」「②家族を含め全員が陰性にならないと復帰させないと会社から言われた」「③日本渡航医学会・日本産業衛生学会は『感染者は発症後1週間程度で感染性がほぼ消失する』と考えられている」「④光永弁護士は労災保険の申請を提案している」等が記載されている。不特定多数の客に接する職業は、頻繁にPCR検査をして陰性証明書がなければ就業できないというのは正しいし、①②は妥当だと思う。ただし、発症した運転手本人は、④のように労災を申請すべきだし、発症していない場合もPCR検査費用は接客によるリスクを課している会社負担で行うのが当然だが、③は不確実である。
 なお、*6-1-2のように、新型コロナウイルスのワクチン接種も始まっており、ワクチンを接種した人の接種済証明書はPCR検査をした人の陰性証明書に代替できる。そして、これは医療関係者・介護職員・公共交通の運転手だけでなく、不特定多数の客と接する美容師・理容師・宅配配達員・スーパー店員なども同じ状況であるため、職場でまとめてワクチン接種やPCR検査をするのが有効だと思う。
 なお、*6-2-1のように、日本医師会の中川会長が、「⑤東京オリ・パラ開催時の外国人受け入れは不可能」「⑥外国の選手団だけでも大変な数で、外国から多くの客が来る」「⑦緩みをつくる政策があったかもしれないが、現状のまま感染者が増えると助かる命に優先順位を付けなければならなくなる」と述べられたそうだ。また、*6-2-2のように、「⑧島根県の丸山知事が、島根県内で実施予定だった東京五輪の聖火リレーに中止の意向を表明」「⑨新型コロナウイルス感染拡大を封じ込めるための政府や東京都の対応に不満があり、中止を引き合いにして改善を促すのが狙い」とされている。また、国民も、*6-2-3のように、「⑩東京オリ・パラは中止・延期すべきとの回答が世論調査で全体の7割超を占めた」「⑪世界中から人が来るのは感染拡大に繋がるという理由が最も多かった」とのことだ。
 これらのうち、医師会会長の⑤⑥⑦の意見については、不完全な上に外国人差別に繋がる現在の検疫制度を改めさせることも可能な立場の人であるため、何を言っているのかと思った。また、⑧⑨の島根県知事の発言は察するところがあり、知事が国(特に厚労省)に物申すにはこういう言い方しかないのかもしれない。⑩⑪の世論は、メディアの報道を通して形づくられたものであるため、メディアの責任が大きい。
 現在、外国から日本に到着した際は、*6-3のように、「⑫日本への入国時は、国籍を問わず出国前72時間以内の検査証明書の検疫所への提出が必要」「⑬検査証明書を提出できない人は検疫所が確保する宿泊施設等で待機」「⑭待機後、入国後3日目に改めて検査」「⑮検査証明書を提出できなかった人は陰性と判定された後も位置情報の保存等について誓約を求める」「⑯検査証明書を提出できなかった人は、陰性と判定された後、検疫所が確保する宿泊施設を退所し入国後14日間の自宅等での待機を求める」「⑰緊急事態宣言解除まで、全ての対象国・地域とのビジネストラック・レジデンストラックの運用を停止し、両トラックによる外国人の新規入国は認めない」「⑱ビジネストラックによる日本人・在留資格保持者も、帰国・再入国時の 14 日間待機の緩和措置は認めない」となっている。
 このうち、⑫は、出国前72時間以内の検査証明書ではなく、陰性証明書の提出が必要なのだ。しかし、⑬のように、陰性証明書の提出ができない人が航空機に搭乗していれば搭乗前に陰性だった人にも感染する可能性が高いため、陰性証明書を提出できない人を航空機に搭乗させてはならないのである。そのため、航空会社が搭乗前に空港で検査して陰性証明書を提出できるようにもすべきで、これができていれば、⑭⑮⑯のように、屋上屋を重ねる不要な規制をして外国人を差別的に扱う必要はない。なお、⑰⑱のように、平時はビジネストラック・レジデンストラックによる日本人・外国人の新規入国者を例外としているのであれば、屋上屋を重ねる規制をして外国人を差別的に扱っている反面、一部はザルになっているのである。
 そのため、緊急事態宣言解除後も、ビジネストラック・レジデンストラックによる日本人・外国人にも陰性証明書かワクチン接種証明書の提出を義務付けるべきで、これらを徹底していれば、外国人が大量に来日しても問題はないため、オリンピックを通常通り開催できる。また、オリ・パラ選手に母国もしくは日本でワクチンを優先接種しても、リスクの高さとイベントの重要性から考えて不公平にはならないだろう。このような中、日本では、できない理由を並べてワクチンの開発・生産・接種が遅れ、未だに「数が足りない」「オリンピックも完全な形では開けない」等と言っているのは、非科学的で情けない。そのため、何故こういうことになったのかを、全員でまじめに反省すべきである。
 なお、*6-4のように、日本航空が、3月15日から6月20日まで国内線に搭乗する希望者に2千円で新型コロナのPCR検査サービスを始めるそうだ。しかし、海外の航空会社とも協力して、航空機への搭乗前にワクチン接種者と感染回復者が持つ抗体保持証明書かPCR検査の陰性証明書のどちらかを提示することを義務付ければ、オリンピックに外国人客が来ることに何の問題もない。そのため、無策の対応をしながら、オリンピックから外国人客を締め出そうと考えるのは、開発途上国でもやらない驚くべき発想だ。

*6-1-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/693719/ (西日本新聞 2021/2/17) 職場復帰にPCR検査必要? 会社と国で割れる見解
 「自費でPCR検査を受けて『陰性証明』を取るまで、職場復帰はさせられないと会社に言われた」。新型コロナウイルスに感染した福岡市のタクシー運転手の男性から戸惑いの声が、西日本新聞「あなたの特命取材班」に届いた。厚生労働省は「職場復帰に検査や証明は不要」と通知するが、会社側は「従業員の安心」を理由に検査を求めている。取材班は1月下旬、事案の概要をウェブで公開し、意見を募った。運転手、会社側双方に理解を示す投稿が集まった。果たして専門家の見解は-。ウェブには30件以上の投稿が寄せられた。「会社から、家族を含めて(全員が検査で)陰性にならないと、復帰させないと言われた」。家庭内感染の経験をこう語る投稿名「ぱぱぱぱぱ」さん。「国の通知をもっと広めてほしい。保健所からは再検査しないようきつく言われた」という。一方、会社側に理解を示す意見も。「狭い車内でお客さんと接点があるし、安心のためにも陰性証明はあった方がいい」と「匿名」さん。会社側は男性に検査費用の自己負担も求める。「の」さんは「会社が負担すべきではないか。仕事復帰の条件にするなら、当たり前だと思う」との考えだった。
                   ◆
 国の見解はどうか。感染症法はまず、新型コロナの患者や無症状病原体保有者に対し、就業を制限している。退院基準について、厚労省は「発症日から10日間経過し、かつ症状が軽快(解熱剤を使用せず熱が下がり、呼吸器の症状が改善傾向にある状態)となり、さらに72時間経過した場合」などと説明している。原則、ホテルでの宿泊療養や自宅療養も同じ。この時点で就業制限も解除となり「PCR検査は必須ではない」とされている。日本渡航医学会と日本産業衛生学会は「感染者は発症2日前から発症直後が最も感染性が高く、発症後1週間程度で感染性がほぼ消失すると考えられている」との見解を示す。
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 陰性証明を求める会社の姿勢をどう考えるべきか。労働問題に詳しい福岡市の光永享央(たかひろ)弁護士は「従業員らの安全衛生を考えると、必ずしも不当な要求とは言えない」とみる。国は「必須ではない」とするが、会社側にも証明を求める理由がある。こうした場合、光永弁護士は労災保険の申請を提案している。国は感染拡大に伴い、仮に経路がはっきりしなくても、リスクの高い業務であれば特例的に労災認定するよう通達。厚労省によると、全国で医療従事者やサービス業など約2千件がコロナ関連で認定され、タクシー運転手も含まれる。光永弁護士は「認定されれば休業補償が得られ、『治癒』と診断されるまでは、検査や診断書に関わる費用が労災保険の対象となる」と解説する。仮に会社が申請に協力しなかったり、当事者が退職したりしていても、労働基準監督署に相談し、自ら申請することが可能という。
【事案の概要】意見の相違、復職果たせぬまま
 男性は1月上旬に38度の発熱があり、感染が判明。直前までタクシー乗務を続けており、保健所や医師からは「勤務中に乗客から感染した可能性がある」と言われている。軽症だった男性は保健所の指示通りに自宅療養し、10日間の経過観察が終わった。保健所から「職場復帰しても問題ない」と言われ、勤め先に報告した。ところが、会社側は復帰前にPCR検査による陰性証明の提出を指示。費用は自分で負担するよう求めてきた。男性が保健所の担当職員にあらためて相談すると、「経過観察期間を過ぎており、職場復帰前の検査は不要。仮に陽性反応が出ても、人に感染させる恐れはない」と説明された。保健所職員も見解を会社側に伝えたが、会社側は「社内で感染者が出ればバッシングを受けるかもしれない。従業員の安心のためにも必要」と認めなかったという。「保健所が不要と言うのに、自費の検査を強要されるのはおかしい」と男性。今も職場復帰は果たせていない。

*6-1-2:https://www.pref.saitama.lg.jp/a0710/covid-19vaccination.html (埼玉県) 
●新型コロナウイルスワクチン接種について
 新型コロナウイルスワクチンの接種に関する情報を随時掲載していきます。
《留意事項》
 「やさしく解説!大野知事の新型コロナ対策」で県民の皆さんからの新型コロナに関する様々な疑問に、大野知事が分かりやすくお答えしています。「やさしく解説!大野知事の新型コロナ対策」
1 接種スケジュール
 国がワクチンを準備し、接種の順番を定めることとなり、まずは医療従事者、次いで65歳以上の高齢者、基礎疾患を有するかた、高齢者施設等の従事者、一般の県民のかたの順に接種します。2月の中旬から医療従事者のかたの接種が開始される予定ですが、接種は市町村が、その支援と副反応などの相談は県が受け付けることとなっています。65歳以上の高齢者のかたに対しては、3月にお住いの市町村から接種券が届き、4月から接種が開始される予定です。それ以外のかたには、4月以降に接種券が届く予定です。具体的な接種時期についても追ってお住いの市町村からお知らせが届く予定ですので、いましばらくお待ちください。なお、接種費用は、全額国が負担します。自己負担はありません。
2 ワクチンや副反応について
 新型コロナウイルスワクチンのうち、最初に接種を行うことになるファイザー社のワクチンは筋肉内注射のため、接種後に接種部位の痛みや腫れなどの軽い副反応が頻繁に出現するとされています。これらの症状が出たときは、慌てず様子を見ていただければと思います。 他の予防接種と同様、まれに、接種後にけいれんなどのアナフィラキシーショックを起こすことがありますが、その場合は接種会場の医師がすぐに応急処置を行います。また、接種会場から帰宅した後、その日の夜などにショック症状が出現した場合には、24時間対応の県の専門相談窓口にお電話いただければ、看護師と医師が対応いたします。さらに、接種後、徐々に麻痺やしびれ症状などが出現し、かかりつけ医等に受診しても対応が難しい場合には、専門医療機関にスムーズにつなぐ体制を整えています。県民のみなさまに安心して接種していただけるよう、ワクチンの安全性や相談・受診体制に関する情報を広く周知します。(「専門相談窓口」の設置と「専門医療機関」の指定について、3月1日頃に開始を予定しています。)

*6-2-1:https://www.jiji.com/jc/article?k=2021012200902&g=pol (時事 2021年1月22日) 外国人受け入れ、現状では困難 東京五輪、「医療崩壊が頻発」―日医会長
 日本医師会の中川俊男会長は22日、東京都内で開かれた内外情勢調査会で講演した。新型コロナウイルスの感染者数が高止まりする中、「医療崩壊が頻発している」と強い危機感を表明。その上で、東京五輪・パラリンピック開催時の外国人受け入れについて、「受け入れ可能かというと可能ではない」と述べ、現在の感染状況では困難との認識を示した。中川氏は「外国からたくさんのお客が来て、選手団だけでも大変な数だ」と指摘し、患者数のさらなる増加を懸念。五輪開催の可否については明言を避けた。また、年末年始以降の感染者数の急増にも言及。政府の「Go To キャンペーン」などを念頭に「いろいろな緩みをつくる政策があったかもしれない」とした上で、「現状のまま感染者が増え続けると、助かる命に優先順位を付けなければならない状態になる」と警鐘を鳴らした。

*6-2-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/86465 (東京新聞 2021年2月17日) 「協力難しい」島根県知事が東京五輪の聖火リレー中止の意向 政府や都のコロナ対策に不満…大会開催も反対
 島根県の丸山達也知事は17日、県内で実施する予定だった東京五輪の聖火リレーについて、「開催すべきでない」と中止の意向を表明した。県の聖火リレー実行委員会で明らかにした。五輪のリレーは5月15、16日に実施し、パラリンピックは日程調整中だった。「今の時点で中止をお願いするわけではない。状況を見て、(政府と東京都の対応が)改善するかどうかあらためて判断したい」とも述べた。委員会終了後の記者会見で、五輪自体の開催にも反対する考えを表明した。丸山氏は委員会に先立ち、取材に「新型コロナウイルス感染拡大を封じ込めるための政府や東京都の対応に不満がある」などと理由を明かした。中止を引き合いに、改善を促すのが狙い。丸山氏は記者会見で「五輪と聖火リレーの開催に協力していくことは難しい」と語った。丸山氏は10日の記者会見でも政府や都を批判していた。丸山氏は2019年4月の知事選で初当選した。

*6-2-3:https://www.jiji.com/jc/article?k=2021012400086&g=soc (時事 2021年1月24日) 東京五輪「中止・延期」が7割 感染拡大を懸念―新聞通信調査会
 公益財団法人「新聞通信調査会」(西沢豊理事長)は23日、今夏の東京五輪・パラリンピックに関し、「中止、延期すべきだ」との回答が全体の7割超を占めたとする世論調査の結果を公表した。理由は「世界中から人が来ることは感染拡大につながる」が最も多かったという。調査は昨年10月30日~11月17日、18歳以上の男女を対象に実施し、約3000人から回答を得た。五輪・パラリンピックの開催については、「中止すべきだ」との回答が37.9%で最も多かった。「さらに延期すべきだ」が34%で続き、「開催すべきだ」は26.1%だった。「開催すべきだ」とした理由(複数回答)は、「選手が出場に向けて準備している」(67.3%)、「選手の活躍や五輪の活気に元気づけられる」(49.3%)、「誘致や会場建設などの準備が無駄になる」(44.8%)などの順だった。中止や延期すべきだと回答した理由(複数回答)のうち、最も多かったのは「世界中から人が来ることは感染拡大につながる」で83.4%。次いで「コロナ流行が収束する見込みがない」(64.3%)だった。

*6-3:https://www.iace-usa.com/pcr_test (厚労省 2021年2月5日最終更新より抜粋) 日本到着時の最新の検査状況
※検疫措置の内容・所要時間は流動的であり、予告なく変更となる場合があります。
日本ご帰国のお客様へ 重要なお知らせ
・国籍を問わず、日本への入国に際し(入国・再入国・帰国する者全てに対し)、検疫所へ「出国前72時間以内の検査証明書」の提出が必要です。
・「出国前72時間以内の検査証明書」が提出できない場合、検疫所が確保する宿泊施設等で待機となります。(検疫官の指示に従わない場合は、検疫法に基づく停留措置の対象となる場合がございます。) さらに、入国後3日目に改めて検査を行い、陰性と判定された場合、位置情報の保存等(接触確認アプリのダウンロード及び位置情報の記録)について誓約が求められるとともに、検疫所が確保する宿泊施設を退所し、入国後14日間の自宅等での待機が求められます。
・緊急事態解除宣言が発せられるまでの間、全ての対象国・地域とのビジネストラック及びレジデンストラックの運用は停止され、両トラックによる外国人の新規入国が認められません。また、ビジネストラックによる日本人及び在留資格保持者についても、帰国・再入国時の 14 日間待機の緩和措置は認められません。
その他の関連情報、詳細は外務省ホームページまで。

*6-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/639074 (佐賀新聞 2021/3/1) 日航、希望者に2千円でPCR、国内線の客、15日から
日本航空は1日、国内線に搭乗する希望者向けに2千円で新型コロナウイルス感染の有無を調べるPCR検査サービスを始めると発表した。日航が費用の一部を負担する。対象となる搭乗期間は今月15日から6月30日まで。搭乗日の7日前までの申し込みが必要。春にかけて転勤や進学で人の移動が多くなるため、安心して飛行機を利用してもらうのが狙い。日航の公式サイトで申し込むことができ、マイレージ会員の登録が必要となる。旅行会社などを通じた団体旅行は対象外。自宅に検査キットが届き、採取した唾液を指定の検査機関に返送する仕組み。返送費用は自己負担となる。結果はメールで本人に通知する。陽性判定が出た場合は搭乗できず、予約した航空券は手数料なしで取り消すことができる。日航は国際線の全乗客を対象に、渡航先で新型コロナの陽性と判定された際の検査や治療、隔離にかかった費用を補償するサービスも無償で提供している。

<女性蔑視の結果である日本の遅れ>
PS(2021年2月22日):*7-1に、九電が経産省と同じ見解の原発の必要性を記載しており、「①エネルギーセキュリティ:日本のエネルギー自給率はわずか7%程度しかなく、殆どを海外からの輸入に頼っているため、エネルギーの多様性が重要」「②地球温暖化対策:原発はウラン燃料が核分裂した時に発生する熱を利用して発電しており、発電時にCO₂を排出しない」「③資源の安定供給:ウランは世界各地に分布しているので安定確保が可能で、使い終わったウラン燃料も再処理して燃料として再使用可能」「④地球環境への影響:発電時にCO₂を発生しない」「⑤太陽光は悪天候時・夜間は発電できず、風力は無風時には発電できないなど出力が不安定」「⑥安定的出力を見込めない電力は、ベース電源である原子力の代替として考えることが難しい」「⑦九電はエネルギーの長期安定確保・低炭素社会の実現に向け、国のエネルギー政策の動向を踏まえてバランスのとれた電源開発を行う」としている。
 このうち、①②③④は、再エネこそ100%国産化可能で国富を失わずに安定供給でき、CO₂は排出せず、発電時に原発のように温排水や放射性物質を排出することもないため、環境にも地球温暖化にも原発より優れている発電方法だ。その上、原発のような電源地域への交付金の必要性や廃炉・最終処分場等の問題もないため、国民負担が非常に少ないのである。さらに、⑤⑥はスマートグリッドの使用・蓄電技術・広域送電等によって簡単に解決できるため、⑦の結論は発電時にCO₂を排出しないことだけを掲げて原発維持を主張しているにすぎない。
 一方で、経産省や電力会社は意思決定層に女性が殆どおらず、非常に狭い視野に基づく理由を並べて現状維持(何も考えなくてよいため最も簡単な政策)を意図してきた。この傾向は、*7-2の森前会長の女性蔑視発言に「日本社会の本音が出た」などと述べた経団連会長にも現れており、再エネ推進・脱原発を主張してきた私に、日本の経済社会は「経済・物理に弱い女は黙っていろ」という馬鹿にした態度の人が少なくなかったのである。しかし、戦後の男女共学の下で同じ勉強をし仕事で経験を積んできた女性を馬鹿にしていたことが、日本の再エネ・電動化技術を遅れさせた原因であり、*7-3の経済同友会の桜田代表幹事は、「⑧女性側にも原因がないことはない」「⑨チャンスを積極的に取りにいこうとする女性が多くない」「⑩多様性を重視しない企業は存続すら危うい」等と言っておられるが、⑧⑨については、このように女性の能力を割引いて考え、女性の実績を認めない日本社会で、チャンスを積極的に取りに行くのはハイリスク・ローリターンもしくはハイリスク・ノーリターンなのである。そのため、⑩を徹底した上でも女性が尻込みしていれば、初めて「女性の側にも原因がある」と言えるわけだ。
 そして、このような経験は、どの女性も持っており、それぞれのやり方で解決してきたため、*7-4の東京オリ・パラ組織委員会の森前会長の女性蔑視発言に多くの女性が怒ったのだが、これまで「わきまえて」きた女性は、女性の能力を割引いて考え、女性の実績を小さく評価する日本社会の“常識”を覆すのには貢献しなかったと言える。

*7-1:http://www.kyuden.co.jp/notice_sendai3_faq_necessity.html (九州電力より抜粋) 原子力発電の必要性
●原子力発電は、なぜ必要なのですか。
 原子力発電については、エネルギーセキュリティ面や地球温暖化対策面などで総合的に優れていることから、安全・安心の確保を前提として、その重要性は変わらないものと考えています。
・エネルギーセキュリティ面
 日本のエネルギー自給率はわずか7%程度しかなく、エネルギー資源のほとんどを海外からの輸入に頼っています。その輸入元を見ても、一次エネルギー供給の約40%を占める石油は政情が不安定な中東に大きく依存しているなど、日本のエネルギー供給構造は極めて脆弱な状況にあります。エネルギー供給構造が脆弱な日本では、特定のエネルギーに依存せず、エネルギー資源の多様性を確保しておくことが重要です。日本は2度のオイルショックの経験から、省エネルギーに努めるとともに、原子力や石炭・天然ガスなど、石油に代わるエネルギーの開発・導入を進めてきました。エネルギー資源の多様性を確保する観点からも、原子力発電は必要な電源です。
・地球温暖化対策面
 CO2などの温室効果ガスは、地球温暖化の原因と言われています。原子力発電は、ウラン燃料が核分裂した時に発生する熱を利用して発電しているため、発電時にCO2を排出しません。原子力発電は地球温暖化防止の観点で、優れた発電方法の一つです。
●原子力発電所の特長は。
・資源の安定供給
 燃料となるウランの供給先が、カナダ、オーストラリアなど世界各地に分布しているので安定した確保が可能です。一度使い終わったウラン燃料は、再処理して再び燃料として使うことが可能です。石油資源の節約になります。ウランは少ない量で大きなエネルギーを発生します。輸送・貯蔵も容易です。原子炉に一度入れた燃料は、1年間は取り替えずに発電できるので、燃料を貯蔵しているのと同じ効果があります。
・地球環境への影響
 発電時にCO2が発生しません。
●風力や太陽光発電を推進すれば、原子力発電は必要ないのではありませんか。
 当社は、国産エネルギーの有効活用、並びに地球温暖化対策面で優れた電源であることから、太陽光・風力・バイオマス・水力・地熱等の再生可能エネルギーを積極的に開発、導入しています。しかしながら、太陽光は悪天候時及び夜間は発電できず、風力は無風時には発電できないなど、気象状況や時間帯によって出力が左右される不安定な電源です。また、太陽光・風力は、雲の状況や風況により、時々刻々の出力変動が大きいことから、その変動を吸収する調整電源が必要です。一方、原子力は、年間を通じてフル出力で運転が可能な電源です。従って、安定的な出力を見込めない太陽光・風力は、ベース電源である原子力の代替として考えることは難しいと考えており、原子力・火力・水力などの電源と組み合わせることにより、電力の安定供給を確保していきます。
●九州電力における電源開発の考え方は。
 当社は、エネルギーの長期安定確保及び低炭素社会の実現に向けて、安全・安心の確保を前提とした原子力の推進や、風力や太陽光などの再生可能エネルギーの積極的な開発・導入、および火力の高効率化などを推進してきました。当社の今後の電源開発計画については、国のエネルギー政策の動向などを踏まえ、バランスのとれた電源開発を検討していきます。

*7-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14794861.html (朝日新聞 2021年2月9日) 経団連会長「日本社会の本音出た」 森会長の女性蔑視発言
 経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)は8日の会見で、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長の女性蔑視発言について問われ、「コメントは差し控えたいなと思います」と断った上で、「日本社会っていうのは、そういう本音のところが正直言ってあるような気もします。(それが)ぱっと出てしまったということかも知れませんけど、まあ、こういうのをわっと取り上げるSNSってのは恐ろしいですよね。炎上しますから」と語った。問題になっている森氏の発言は「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかります」というもの。中西氏は「本音」の意味を問われると、「まず、女性と男性と分けて考える、そういう習性が結構強いですね」とし、「長い間、男は男、女は女で育てられてきましたし、それ以外のいろんな意味でのダイバーシティー(多様性)に対する配慮ってのは、まだまだ日本は課題があるんだろうなっていうのは思っていますが、それが、ぱっと出るか出ないか、そんな意味で申し上げました」と説明した。

*7-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/86349?rct=economics (東京新聞 2021年2月16日) 積極的な女性「まだ多くない」 経済同友会の桜田代表幹事
 経済同友会の桜田謙悟代表幹事は16日の定例記者会見で、企業で女性の役員登用が進んでいない理由を問われ「女性側にも原因がないことはない」とし、「チャンスを積極的に取りにいこうとする女性がまだそれほど多くないのではないか」との認識を示した。一方「生産性向上のための技術革新には人材の多様性が必要だが、経営者にはその危機感が足りない」とも指摘。多様性を重視しない企業は「存続すら危うい」と警鐘を鳴らした。辞任表明した東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長の女性蔑視発言については「コメントするまでもなく論外」と批判した。

*7-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14806227.html?iref=comtop_Opinion_02 (朝日新聞 2021年2月19日) 森前会長発言、女性たちに広がった怒り 性差別の社会へ「もうわきまえない」 伊木緑
 東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長(83)による女性蔑視発言があった翌日。「女性が入ると会議に時間がかかる」実例として挙げられた日本ラグビー協会で、女性で初めて理事を務めた稲沢裕子・昭和女子大特命教授(62)に取材した。発言の報道に触れた時、「私のことだ、と思った」と言う。発言の後に起きた笑いについて尋ねた時の答えに、胸が締め付けられた。「私も笑う側でした」。稲沢さんが読売新聞記者になったのは、1985年の男女雇用機会均等法の制定前だ。「男社会の中で女性は自分だけという場が多く、笑うしか選択肢がなかった。笑いを笑いで受け流していた」。今回の発言を受け、ツイッターでは「#わきまえない女」のハッシュタグを添えた投稿がわき起こった。森氏が言った「組織委員会に女性は7人くらいおりますが、みなさん、わきまえておられて」にちなんだものだ。稲沢さんも「わきまえて」きたのだろう。ツイッターの声も「わきまえてなんかいない」という反論よりも、「わきまえてしまったこともあったが、もうわきまえない」という決意が目立った。怒りと共感が広がったのは、大きな組織の役員に就くような女性に限った話ではないからだ。たとえば新型コロナウイルス対策の給付金が世帯主にまとめて振り込まれたために自分で手にできなかった人。勤め先の客が激減し、補償もなくシフトを大幅に減らされた人。結婚後も自分の姓を名乗りたかったのに周囲を説得しきれずあきらめた人。いずれも最近、取材した女性たちの声だ。疑問や怒りを感じながらも、声を上げられなかったり、上げても聞き入れられなかったりして、結果的に「わきまえ」させられた経験のある女性は多い。男性だって同じだ、と思うかもしれない。でも考えてみてほしい。官民ともに意思決定層の大半を男性が占める社会で、女性たちの声が軽んじられ、意見しようものなら疎まれてきたことを。ジェンダー格差を意識せずに生きてこられたこと自体が特権であると、男性はまず自覚するべきだ。

<「うーまんちゅ《Woman衆》応援宣言」は有難い>
PS(2021年2月24日追加):日本弁護士連合会会長も、*8-1のように、東京オリ・パラの組織委員会の前会長発言について、「①性別による差別を禁止する憲法14条1項違反」「②女性差別撤廃条約違反」「③男女共同参画違反」「④オリンピック憲章の精神違反」「⑤東京オリ・パラの多様性と調和という基本コンセプト違反」「⑥政府や民間企業が取り組んでいる男女共同参画社会の推進に逆行」「⑦日本社会に厳然と存在する性に基づく偏見、差別、不平等な取扱いを露呈」「⑧さらに女性に『わきまえる』ことを求め、意見表明を控えよと言わんばかりだが」「⑨意思決定過程において多様な意見が忌憚なく述べられ反映されることは国内外で広く推進されつつあるガバナンスの根本原理」「⑩少数者が意見を述べることを制止するような風潮は健全な民主主義にも疑問が呈される」と、国際条約・法律・オリンピック精神・民主主義の理念からパーフェクトな批判をしておられる。今後は、裁判官・検事・弁護士・警察官・法律自体に潜む女性蔑視や女性差別にも注目して変えていただきたい。
 また、組織や社会の意識改革を行い、幅広い分野で女性登用を推進するために、*8-2のように、沖縄県が「うーまんちゅ応援宣言」に賛同する企業を募集しておられるそうで有難い。さらに、少子化で“生産年齢人口”が減る中、年齢や性別で差別すればそれだけ有能な人材を逃すため、高齢者や女性を公平・公正に登用する機会均等は必要条件であることを加えたい。
 なお、*8-3は、「⑪女性蔑視を批判する人からも女性蔑視を感じる」「⑫女性蔑視は、それを見過ごしてきた社会全体の問題である」「⑬舛添前東京都知事の『気配りの達人だからこそ失言も多くなる』という擁護はズレている」「⑭別の属性を根拠とした抑圧を持ち出すのは女性蔑視問題の矮小化だ」「⑮『女性が生きやすい社会は男性も生きやすい』という説明は男女間に存在する量的・質的な抑圧の差を矮小化し、女性の人権や尊厳に理解が及んでいない」「⑯男性中心社会は女性たちが訴える機会を散々奪ってきた」等と記載された掘り下げた記事だ。⑪⑫⑭⑮⑯は全くそのとおりで、そこまで言及できるようになったのかと思うが、舛添氏はキャリア・ウーマン好みだそうで私は女性蔑視を感じたことがないので、⑬は苦しい擁護だと思う。



(図の説明:左図のように、女性の賃金は2019年でも男性の74.3%で、中央の図のように、格差が縮まっているといっても、あらゆる勤続年数で女性の平均給与は男性より低い。また、学歴別に比較しても、あらゆる学歴で女性の年収は男性の年収より低く(70%超程度)、人生の後半に行くほど差が大きい。これにより、女性差別は、女性を低賃金労働者に据え置き、女性から搾取する手段として使われてきたのだということがわかる。これは、女性にとっては「心を傷つけられた」という精神的被害だけではなく、経済的損失という大きな実害があるのだ)

*8-1:https://www.nichibenren.or.jp/document/statement/year/2021/210219.html (2021年2月19日 日本弁護士連合会会長 荒 中) 性差別を許さず、男女共同参画の実現を推進する会長談話
 2021年2月3日、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下「組織委員会」という。)の会長(当時)は、公益財団法人日本オリンピック委員会(以下「JOC」という。)の臨時評議員会において、スポーツ団体ガバナンスコード(スポーツ庁・2019年6月10日策定)が設定した女性理事の目標割合(40%以上)の達成に関連して、「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」、「私どもの組織委員会…(の女性は)みんなわきまえておられて」などと発言した。全世界が注目する東京オリンピック・パラリンピックの組織委員会の長であり、しかもかつて我が国の内閣総理大臣の立場にあった人物が、公式の場で平然と女性蔑視・差別を内容とする発言を行ったことは社会に大きな衝撃を与え、国内外から厳しい非難の声が上がった。かかる一連の発言が、性別による差別を禁止する憲法14条1項及び日本が批准する女性差別撤廃条約の理念に反し、男女共同参画の理念にも悖ることは、改めて指摘するまでもない。さらに、オリンピック憲章は「権利および自由は人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治的またはその他の意見、国あるいは社会のルーツ、財産、出自やその他の身分などの理由による、いかなる種類の差別も受けることなく、確実に享受されなければならない。」と定め、2020年東京オリンピック・パラリンピック大会は多様性と調和を基本コンセプトとしている。上記発言は、オリンピック憲章の精神にも真っ向から反するものである。また、JOC及び組織委員会は、本件に対し、直ちに問題点を明らかにするとともに、差別を許さない組織への具体的な改善策を示す等すべきであった。しかし、適時に適切な対応が取られることはなく、むしろJOC会長は「(謝罪、撤回したのだから会長職を)最後まで全うしていただきたい」などと述べ、擁護の姿勢さえ示していた。性差別解消や健全な民主主義発展のため、意思決定過程により多くの女性が関与すべきことは、現代社会における普遍的価値である。上記一連の事象は、政府や民間企業が挙げて取り組んでいる男女共同参画社会の推進に逆行することはもちろん、今なお日本社会に厳然と存在する性に基づく偏見、差別、不平等な取扱いの露呈にほかならない。さらに、同会長の発言は、女性に「わきまえる」ことを求め、意見の表明を差し控えよと言わんばかりであるが、意思決定過程において多様な意見が忌憚なく述べられ反映されることが必要であることは、国内外で広く推進されつつあるガバナンスの根本原理である。女性に限らず少数者が意見を述べることが制止されるような風潮があるならば、多様性と調和を基本コンセプトとする東京オリンピック・パラリンピックの存在意義が問われるだけでなく、ひいては我が国の健全な民主主義にも疑問が呈される問題である。当連合会としても、かかる事態を座視することはできない。当連合会は、JOC及び組織委員会に対し、多様性と調和の実現を目的としつつ、効果的な再発防止策の作成と実施、ガバナンスの見直し、前掲のスポーツ団体ガバナンスコード(女性理事の目標割合40%)達成等に向けて、いち早く取り組むことを望む。当連合会も、「第三次日本弁護士連合会男女共同参画推進基本計画」を策定し、性別による差別的取扱いを厳しく禁止するとともに、男女共同参画実現のための目標を定めて取組みを続けているが、今後も性差別を許さず、男女共同参画社会の実現に向けた活動を積極的に展開していく所存である。

*8-2:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1276386.html (琉球新報 2021年2月23日) 女性登用促進、沖縄県が賛同企業募集「うーまんちゅ応援宣言」
 組織内の改革や社会の意識改革を図り、幅広い分野での女性登用を推進するため、県は県内の企業や団体から「Womanちゅ(うーまんちゅ)応援宣言」を募集している。来年度の第6次県男女共同参画計画策定に先駆けてジェンダー平等の実現に取り組むのが狙い。宣言者は女性活躍を推進する県内各分野のリーダーが対象。県女性力・平和推進課が郵送やメール、ファクシミリで受け付けている。申請書は県ホームページ(HP)からダウンロードできる。企業や団体の宣言内容は県ホームページ(HP)などで公開する予定。

*8-3:https://webronza.asahi.com/culture/articles/2021021100002.html?iref=comtop_Opinion_06 (朝日新聞 2021年2月12日) 辞任表明、森喜朗氏的な女性蔑視は、男性誰もが持っているのだから、批判する人々からも感じる女性蔑視を掘り下げてみた
 東京オリンピック・パラリンピック組織委員会会長の森喜朗氏が、「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかります」「私どもの組織委員会にも、女性は(中略)7人くらいおられますが、みんなわきまえておられて」などと女性蔑視発言をしたことが、大きな問題となりました。これに対して抗議の意を込めた「#わきまえない女」がTwitterのトレンド1位になったり、各国の在日大使館が「#don't be silent」というハッシュタグを付したムーブメントを展開するなど、連帯も生まれています。その後、「逆ギレ」とも言われた森氏の会見や、「余人をもって代えがたい」(自民党の世耕弘成参院幹事長)といった言語道断な擁護論もありましたが、国内外からの厳しい批判を受けて、2月12日、森氏はとうとう辞意を表明するまでに追い込まれました。女性蔑視は発言した本人だけではなく、それを見過ごしてきた私たち社会全体の問題でもあるという認識も広がりつつあるように思います。多くの世論調査で、「辞任すべきだ」という声が多数を占めたように、女性蔑視に関する社会の問題意識が、確実に変化しているように感じます。
●森氏を批判しつつもどこかズレている人たち
 その一方で、森氏を批判する著名人(主に男性)の中には、女性に矛先を向けたり、「ズレている」と思われる意見も散見されます。舛添要一前東京都知事は、自身のTwitterで「森会長の女性蔑視発言は批判に値する」と言いつつも、「気配りの達人だからこそ失言も多くなる」と擁護したり、アメリカの女性参政権運動を模倣して野党の女性国会議員が白いスーツを着用した「ホワイトアクション」に対して、「失笑を禁じえない」と見下すような投稿もしていました。衆院予算委で東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長発言に抗議の意を表すため、白いジャケットを着る立憲民主党の女性議員ら=2021年2月9日
●「#わきまえない男」は「#わきまえない女」と対にはならない
 ここまであからさまではなくとも、「#わきまえない女」の波に乗るように一部の男性著名人が投稿した「#わきまえない男」も誤った批判だと思います。彼らはおそらく自分よりも権力を持つ者から「わきまえろ」と言われて忸怩たる思いをした経験があり、「自分もそのような権威主義的抑圧には反対だ!」と言いたいのでしょう。それにNOを言うこと自体は大切です。しかし、森氏の発言で問題になったのは、あくまで女性蔑視です。確かに、男性にも「わきまえろ」という圧力はあるものの、それは主に「年下のくせに」「役職が低いくせに」「新参者のくせに」といったように、別の属性を根拠とした抑圧であって、「男のくせに」という性を理由とした抑圧は、この男性中心社会にはほぼ存在しないのではないでしょうか。つまり、彼らが言いたいのはあくまで「わきまえない年下」「わきまえない部下」「わきまえない新参者」であり、それを「#わきまえない女」と並列するのは不適切です。むしろ、「#わきまえない女」を“中和”させ、「女性」を理由とする強烈な抑圧という今回の問題の本質を見えなくしています。それは女性蔑視問題の矮小化に他なりません。仮に、ここで「#わきまえない女」と対にするのであれば、「#女性に対して性別を理由にしたわきまえる態度を一切求めも期待もしないし、そのような男性を公然と批判できる男」だと思います。
●「男性の利益」を根拠に説得してはいけない
 次に、「女性が生きやすい社会は、男性も生きやすいのです(なので、森氏は辞任しなければならない)」といった発言も、問題を同様に矮小化する危うさがあります。「男性の生きづらさ」という問題は確かにあるものの、それは量・質ともに女性の問題とは大きく異なります。確かに、両者に等しく圧がかかる部分もありますが、基本的には非対称なはずです。つまり、正確に言えば、「女性が生きやすい社会=男性も生きやすい社会」ではなく、「女性が生きやすい社会∩男性も生きやすい社会(両者に共通する部分がある)」です。それにもかかわらず、まるで片方が成立すればもう片方も成立するかのように規定すれば、男女間に存在する量的かつ質的な「抑圧の差」を見えにくくしてしまいます。このような主張は、その正当性を訴えるために、「男性の利益」を根拠としています。ですが、「あなたにも利益があるから」という形で説得をして、仮に森氏のような人たちが賛成に回ったとしても、彼らは自分の利益目当てで賛成したに過ぎません。女性の人権や尊厳の問題には何も理解が及んでいないのです。それでは意味がありません。環境や非正規雇用の問題も含め、企業や自分たちの利益ベースで物事を判断してきことが様々な社会問題を招いてきたのです。ですから、なるべく利益を根拠とした説得は行わないほうがよいでしょう。
●わきまえない女を「わきまえた女」にしたいのか?
 では、なぜ彼らはわざわざ「男性の利益」を持ち出すのでしょうか? おそらく、「男性と女性が対立している今の状況が嫌だから、女性にわきまえた態度を求める男性たちにも、彼女たちを受け入れてほしい」と思っているのでしょう。その解決策を考えた時に、「男性のメリットにもしっかりと配慮できる女性なんです!とアピールすれば受け入れてもらえるに違いない!」と考えた結果のように思います。ですが、「男性のメリットにもしっかりと配慮できる女性」というのは、結局「“わきまえた女”」に他なりません。「私たちはわきまえない女です」と言っている女性たちのすぐ横で、「彼女たちはわきまえた女です!」と否定しているわけで、結局森氏の女性蔑視と大きなくくりでは同類に思えて仕方ありません。もちろん、絶対に「男性の利益」を持ち出してはいけないとは思いません。ですが、その際は「両者の利益には共通する部分“も”ある」と正確な言い回しをすべきであって、「女性の主張を男性に受け入れてもらえるための説得材料」としては用いるべきではないでしょう。
●男性を出すことで女性をまた“バーター”扱いしている
 そもそも、私たちが暮らす男性中心社会は、これまで女性たちが訴える機会を散々奪ってきました。そしてようやく議題として取り上げられたとしても、結局「男性が抱える課題と抱き合わせにされる」という、まるで“バーター”のような扱いが少なくありません。いつまでたっても一人前の主張として単独では扱われなかったわけです。日本の行政が低用量ピルを何年も認可しなかったにもかかわらず、バイアグラはすぐに認可され、それが批判されるとようやくピルが認可されたという歴史に残る女性差別は、まさにその典型例でしょう。そのような歴史を振り返れば、今回の森氏の件についても、いま「男性の生きづらさ」の問題を同列に机上に乗せるタイミングではありません。まずは当事者である女性の問題に限定するべきだろうと思います。
●「娘のために」という父親はなぜ「妻のために」とは言わない?
 3つ目は、記者会見で森喜朗氏に鋭い切り込みを入れて、多くの人から称賛されたTBSラジオの澤田大樹記者の発言についてです。彼の権力者と対峙する姿勢はとてもすばらしかったのですが、彼がその後にTwitterに投稿した「自分の娘たちが大人になったときに『わきまえろ』と言われたら、どう思うか」という発言には、少々違和感を覚えました。というのも、母親だって、妻だって、(場合によっては)姉や妹だって、同世代の女性の友人たちだって、「わきまえろ」という抑圧の言葉を既にたくさん浴びせられてきたはずだからです。それなのに、どうして真っ先に思いを馳せた対象が娘さんだったのでしょう?確かに、「娘のために」という父親は少なくありません。でも、娘が受けるであろう「未来の不利益」は想像できるのに、自分の周りにいる大人の女性が既に受けた(or受けている)であろう莫大な「過去や現在の不利益」に対して、今なぜ想像力が向かないのでしょうか。そこに、森氏のような女性蔑視の残滓が残っていないか、「娘のために」と言う男性たちは自身に問うて欲しいのです。
●自分の周りにいる女性に「わきまえろ」と思っていないか
 娘という存在は否応なしに親に庇護されている立場であり、多少の口答えをしても、子として“わきまえた女”にならざるを得ない存在です。一方で、大人になれば、個としての意思や論理を持ち、精神的にも経済的にも自立をして、時として男性たちと利害が対立し、批判や非難の矛先を男性に向けることもあります。そのような“わきまえない態度”に対する嫌悪感や忌避感がどことなく存在している男性は少なくないのではないでしょうか。「自分に矛先を向けられるのは嫌だから、彼女たちにはわきまえていて欲しい」と期待している部分があるのかもしれません。このように、男性中心社会で暮らしている私たち男性には、多かれ少なかれ、森氏のような女性蔑視が心の中に潜んでいるように思います。人によって、“大森”なのか、“中森”なのか、“小森”なのかは分かれるでしょう。森氏の発言のような酷いケースには批判を加えつつも、合わせて自らを顧みるきっかけにしたいところです。もちろん私自身も含めて。

<投資は、ESG企業に行うべき>
PS(2021年3月5日追加):*9-1のように、ドイツでは、メルケル首相が2011年に日本で起こったフクイチ原発事故を受けて即断した脱原発が支障なく進み、2022年末には全17基の原子炉廃止が計画通り実現するそうだ。日本は、再エネが豊富であるのに、事実ではないできない理由を並べて原発活用を推進し、*9-5のように、アンモニアの輸入まで行おうとしているのだから、エネルギーの高コスト化で経済の停滞を招き、エネルギーの自給率を下げて国力を落とすことを望んでいるかのようである。
 また、*9-2のように、①世界の資産運用会社は投資先の温暖化ガス排出量を2050年までに実質ゼロにする目標を掲げ始めており ②2050年排出ゼロの達成に向けて新たな運用商品の提供を始め ③「排出ゼロ」を目指すマネーは約2000兆円と世界の投資マネーの2割に達して ④排出削減に消極的な企業は投資対象から外されるリスクが一段と高まったそうだ。また、米カリフォルニア州職員退職年金基金などは「ネットゼロ・アセットオーナー・アライアンス」を設立し、スウェーデンの公的年金AP4は2040年までの排出実質ゼロを打ち出し、米ニューヨーク州退職年金基金も2040年までの排出ゼロを掲げているが、日本勢の動きは鈍いのだそうで、日本の対応には相変わらずキレがない。
 世界最大の年金基金である日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、*9-3のように、2019年度運用実績は4期ぶりとなる損失(8兆2831億円の赤字)を計上し、赤字幅はリーマン・ショックのあった2008年度以来の大きさを記録している。GPIFは、国民年金と厚生年金の積立金を国内外の株式や債券に分散投資しており、運用実績は国民の年金資金を直撃するため、有望企業に投資して儲かってもらわなければ困るのであって、ゾンビ企業の救済に使われるのは目的外使用である。有望企業の要件が、ESG(環境:Environment、社会:Social、ガバナンス:Governance)を考慮した経営を行う企業であることは既に間違いないため、投資家は投資先の決定にあたってESGを考慮すべきことになっている。
 なお、国際エネルギー機関(IEA)が、*9-4のように、日本政府が掲げる2050年の温室効果ガス排出実質ゼロ実現に向け、2030年までに脱炭素電源の比率を現行計画より一段と引き上げる必要性を指摘しており尤もだが、この脱炭素電源に原発やアンモニアが含まれないのは当然のことである。

*9-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/89289 (佐賀新聞 2021年3月3日) ドイツ、来年末に脱原発を実現 環境相、再生エネルギーへ集中
 ドイツのシュルツェ環境相は3日までに、2011年の東京電力福島第1原発事故を受けて決めた脱原発が「全く支障なく進んでいる」と強調、22年末に全17基の原子炉廃止が計画通り実現するとの自信を示した。事故から10年になるのを前に共同通信の書面インタビューに応じた。事故で原発の危険性を確信し、現在は再生可能エネルギー拡大に集中しているとし、「原子力は危険かつ高コストで、各国に利用中止を呼び掛けたい」と指摘。原発活用政策を維持する日本と一線を画した状況が浮き彫りになった。シュルツェ氏は原発の安全対策を統括している。

*9-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGD292C30Z21C20A2000000/?n_cid=NMAIL006_20210302_Y (日経新聞 2021年3月2日) 世界の投資マネー、2割が脱炭素へ 投資先の選別厳しく
 資産運用会社の間で投資先の温暖化ガス排出量を2050年までに実質ゼロにする目標を掲げる動きが広がっている。世界最大の運用会社ブラックロックも目標設定を検討。「排出ゼロ」を目指すマネーは約2000兆円と世界の投資マネーの2割に達する見通しだ。排出削減に消極的な企業は投資対象から外されるリスクが一段と高まってきた。運用資産8.7兆ドル(約930兆円)の米ブラックロックは2月、脱炭素社会の実現に向けた取り組みを公表した。気候変動に影響を与える主要企業など世界1100社を対象に対話や議決権行使を通じて一段の対策を求める。50年排出ゼロの達成に向け新たな運用商品の提供も始める。ブラックロック・ジャパンの有田浩之社長は「ネットゼロ社会に向かうのを投資の面でサポートするのが使命」と語る。ブラックロックはネットゼロ・アセット・マネジャーズ・イニシアチブへの参加も検討する。同組織は投資先全体の温暖化ガス排出量を50年までに実質ゼロにすることを目指す運用会社の団体。20年12月に仏アクサ・インベストメント・マネージャーズやアセットマネジメントOneなど30社が共同で設立し、運用資産合計は9兆ドルにのぼる。約1.3兆ドルの運用資産を持つ米インベスコやニッセイアセットマネジメントなども参加を検討中。排出ゼロを明確に目指すマネーは少なくとも約19兆ドルにのぼり、今後もさらに増えるとみられる。投資先の排出実質ゼロをめざす動きは、年金基金や保険会社など資金の出し手(アセットオーナー)が先行してきた。米カリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)や独保険大手アリアンツなどは19年に「ネットゼロ・アセットオーナー・アライアンス」を設立。参加は当初の12社から33社に広がり、運用資産は合計5.1兆ドルにのぼる。スウェーデンの公的年金AP4は今年2月、40年までの排出実質ゼロを打ち出し、米ニューヨーク州退職年金基金も40年までの排出ゼロを掲げる。投資家の脱炭素志向が強まり、排出削減に消極的な企業は投資対象から外されるリスクが高まっている。45年までに投資先の脱炭素化を目指すスウェーデンの公的年金AP2は2020年12月、外国株式と社債運用で新たに約250社からの投資撤退(ダイベストメント)を決めた。ブラックロックも温暖化ガス排出量が多く気候変動対応が不十分な企業を、運用担当者が投資先を選ぶアクティブ運用の投資対象から外す可能性に言及した。ネットゼロ・アセットオーナー・アライアンスは20年11月、投資先に対して石炭火力発電所の新規建設に加え、すでに決まった建設計画もすべて撤回するよう要請した。こうした世界的な潮流の中で、日本勢の動きは鈍い。国内の運用会社で排出ゼロ目標を打ち出したのはアセットマネジメントOneのみ。ニッセイアセットマネジメントなどが検討中だが、出遅れ感は否めない。年金や保険など運用会社の顧客であるアセットオーナーは排出ゼロの方針を明確にしていないところが多い。国内で排出ゼロ方針を明らかにしたオーナーは日本生命保険のみ。運用会社は顧客の意向をつかみ切れていない。機関投資家はESG(環境・社会・企業統治)の観点から投資先企業に排出削減を求めてきた。だが、それで削減量が大きくなったわけではない。対策が遅れれば2100年に世界の国内総生産(GDP)の25%が失われるとの試算もある。脱炭素目標を掲げた投資家の動きが企業をどう変えるかに注目が集まる。

*9-3:https://moneyworld.jp/news/05_00029063_news (Quick Money World 2020/7/6) 世界最大の年金基金・GPIFが高めるESG投資の比率
世界最大の年金基金である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が7月3日発表した2019年度運用実績は厳しいものだった。4期ぶりとなる損失(8兆2831億円の赤字)を計上し、赤字幅はリーマン・ショックのあった08年度以来の大きさを記録。期間損益率は-5.20%(前期は+1.52%)で過去3番目に悪い数字となった。コロナ禍が直撃した運用成果となったが、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資のウエイトが大幅に上昇していることに留意したい。
■四半期として過去最大となる損失
 GPIFは19年4~12月期に9兆4241億円の黒字を計上していたが、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた20年1~3月期に17兆7072億円の赤字(損益率-10.71%)に転落し、四半期として過去最大となる損失・損益率の計上を余儀なくされた。1~3月期は外国株式が10兆2231億円の赤字、国内株式が7兆4185億円の赤字と国内外株式の急落が収益を圧迫した。
■ESG投資のウエイト上昇
 GPIFは国民年金と厚生年金の積立金を国内外の株式や債券に分散投資している。運用資産額は20年3月末時点で150兆6332億円となり、19年3月末(159兆2154億円)に比べて約5.4%減少した。積立金全体の資産構成は、国内株が22.9%(前年同月は23.6%)となり、基本ポートフォリオの中央値(25%)を大きく下回ったが、ESG投資の割合が増加していることが特筆されよう。国内株式に占めるESG投資の割合は11.3%(前年同月は6.0%)にほぼ倍増し、スマートベータや伝統的アクティブ運用の割合を上回った。GPIFは17年度に日本株の3つのESG指数(FTSE RussellによるESG全般を考慮に入れた総合型指数である「FTSE Blossom Japan Index」、MSCIによる総合型指数「MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数」、MSCIによる性別多様性に優れた企業を対象とする「MSCI日本株女性活躍指数」)を選定し、同指数に連動したパッシブ運用を開始した。さらに、18年度にはESGのうちE(環境)に特化したS&Pダウ・ジョーンズ・インデックス社による炭素効率性等に優れた企業を対象とする「S&P/JPXカーボンエフィシエント指数」に連動するパッシブ運用も開始。これら4つの指数に連動する運用残高は20年3月末時点で4兆155億円(前年同月比1兆7060億円増)となった。野村証券によれば、20年3月末時点でGPIFの保有比率が高い業種は銀行、建設、電気機器などで、資金純流入が大きかった個別銘柄として東京精密(7729)、ニフコ(7988)、ネットワン(7518)、島忠(8184)などを挙げた。19年度にGPIFがESG投資を積極的に進めたことを踏まえると、これらの銘柄に向けられた資金の多くがESG投資によるものだった可能性があると指摘している。
■その他年金でもESG投資開始
 ESG投資に関して、短期的に運用収益の向上につながるか懐疑的な見方が少なくない。ただ、GPIFの年金運用は、長期的な観点から安全かつ効率的に行うことが求められていることから、長期のリスク管理としてESGを考慮した投資活動が行われている。GPIFが19年度に運用リスク管理ツールを新たに選定するなど、リスク管理を一層強化しており、しばらくは国内株に占めるESG投資の割合が高まる傾向が続くきそうだ。また、GPIF以外の年金ではESGに消極姿勢が目立っていたが、地方公務員の年金を運用する地方公務員共済組合連合会は20年度にも日本株のパッシブ運用でESG投資を開始するもよう。今後もESG関連の動きから目が離せなそうだ。
<金融用語>GPIFとは
 正式名称は年金積立金管理運用独立行政法人。日本の公的年金の積立金の管理・運用を行う独立行政法人のこと。世界最大規模の運用資産(2016年末時点で約145兆円)を保有し、英語表記「Government Pension Investment Fund」の頭文字をとって「GPIF」と呼ばれる。 国内債券中心に運用を開始したが、デフレ脱却後の経済環境の変化に対応し収益向上を目指すため、2014年に基本ポートフォリオを見直した。 2017年7月時点の基本ポートフォリオは、国内債券35%、国内株式25%、外国債券15%、外国株式25%。また2017年7月からは国内株式運用の一環としてESG投資を開始した。 前身は1961年に設立された年金福祉事業団で、2001年の特殊法人改革により年金資金運用基金が設立。2006年には年金積立金の運用改革で年金積立金管理運用独立行政法人へ改組した。

*9-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/640544 (佐賀新聞 2021/3/4) 日本、一段の脱炭素電源増が必要、30年までに、IEAの報告書
 国際エネルギー機関(IEA)は4日、日本のエネルギー政策に関する審査報告書を公表した。日本政府が掲げる2050年の温室効果ガス排出実質ゼロの実現に向け、30年までに脱炭素電源の比率を現行計画より一段と引き上げる必要性を指摘した。現行計画は30年度の発電量に占める比率について、再生可能エネルギーが22~24%程度、原発が20~22%程度、火力が56%程度と設定。夏ごろに政策指針「エネルギー基本計画」の改定を予定している。報告書は、日本が依然として二酸化炭素(CO2)を排出する化石燃料に大きく依存していると説明。排出実質ゼロの実現には低炭素技術の普及の大幅な加速や、規制緩和が必要だとした。原発再稼働が想定より遅れた場合の電力不足分を埋める方法の検討も訴えた。CO2に課税する炭素税などの活用も選択肢の一つだと指摘。企業の技術開発を促すことにつながるとした。ビロルIEA事務局長はテレビ会議方式で資源エネルギー庁の保坂伸長官と会談し「エネルギーの転換を進め、持続可能な経済成長をしてほしい」と述べた。IEAは加盟国のエネルギー政策を審査しており、日本の報告書の発表は16年9月以来、約4年半ぶり。IEAは4日、排出実質ゼロに関する国際会議を31日に開催し、米国のケリー大統領特使(気候変動問題担当)や梶山弘志経済産業相らが参加予定だと明らかにした。

*9-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210305&ng=DGKKZO69681670V00C21A3MM8000 (日経新聞 2021年3月5日) 大電化時代(5)サウジからアンモニア 再生エネ輸入に熱視線
 国土の狭い日本で再生可能エネルギーをかき集めても限界がある。ならば国境を越え、世界の力を借りる。輸入がカーボンゼロのカギを握る。2020年秋、サウジアラビアを出た貨物船が日本に到着した。積み荷は40トンのアンモニア。国営石油会社サウジアラムコの関連設備で、天然ガスから作った。国内3カ所の施設に運び込み、火力発電での燃焼実験をした。石炭や天然ガスに混ぜても、アンモニアだけでも燃やせた。「既存の火力発電所を使えて大きな追加投資もいらない。アンモニアは脱炭素の切り札になる」。実験に関わった三菱商事の松宮史明・石化事業統括部長は話す。
●グリーン水素に
 アンモニアは燃やしても二酸化炭素(CO2)を出さない。石炭や液化天然ガス(LNG)に混ぜた分だけCO2を減らせる。肥料や冷媒として広く流通し、貯蔵や輸送も容易。政府は30年に年300万トンのアンモニア燃料を導入することにしている。石炭火力で燃料の20%に混ぜると、100万キロワットの大型設備6基分に相当する。オーストラリアでは風力や太陽光で水を電気分解し、CO2を排出しないグリーン水素を作る。日本に運び、燃料電池車や水素発電に生かす。岩谷産業は水素の製造や輸出で豪クイーンズランド州の州営電力会社スタンウェルと提携した。30年代初頭までに年間28万トンの水素を生産する計画。約30万トンの水素があれば、原子力発電所1基分にあたる100万キロワットの発電所を動かせる。スタンウェルのリチャード・バン・ブレダ最高経営責任者(CEO)は「シンガポールなどからも引き合いがある」と話す。水素やアンモニアの国際争奪戦が始まり、日本も国を挙げた対応を迫られる。
●地元理解難航も
 政府は50年までに再生エネが電源に占める比率を現状の3倍近い50~60%に高める。障害は地理的な制約だ。太陽光パネルを置ける森林を除く土地面積はドイツの半分。洋上風力も適した海の面積は英国の1割強だ。あつれきも出始めた。九電工などが長崎県佐世保市の離島で進める太陽光発電。一般家庭約17万世帯に電気を供給する「日本最大規模」の計画だが、地元の合意形成が難航する。目標の年度内の着工は難しそうだ。千葉県銚子沖の洋上風力事業では、地元が設置する漁業振興などの基金への拠出を事業者に求める。輸入に活路を見いだすのは資源小国・日本の伝統でもある。戦後の高度経済成長も、原動力は原油の輸入にあった。物価上昇や労使紛争の増加で石炭に見切りをつけ、石油にカジを切った1950年代。中東の油田開発にも関与し、エネルギーの安定供給につなげた。エネルギー自給率は1割程度で、輸入依存は国家の安全保障を危うくしかねない。環太平洋経済連携協定(TPP)などをテコに国際協調を進め、供給網を整える努力が欠かせない。原油や天然ガスと同じく、再生エネもまた戦略的な海外調達の腕が問われる。「80%まで再生エネを導入すると、太陽光パネルを日本中の建築物に設置し、船の航行に支障があるところにも洋上風力を設置することになる」。政府が昨年末にまとめたグリーン成長戦略。できない理由を並べたようで、さすがに政府も消去したが、当初はこんな表現が検討された。世界の視線は異なる。エネルギー調査会社を営むヤラン・ライスタッド氏は「ダムに太陽光パネルを浮かべ、田んぼにパネルを並べる。日本で再生エネを増やす方法はまだある」と話す。限界まで導入し、足りなければ海外に頼る。輸入は再生エネ不足を埋める最後のピースになる。

| 年金・社会保障::2019.7~ | 03:40 PM | comments (x) | trackback (x) |

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