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2021.6.12~23 差別は人権侵害を生み出し、憲法違反でもあること (2021年6月24、25、28、30日、7月1、3、4、6、7日に追加あり)

    2021.3.31Huffintonpost       2021.5.10日経新聞  2021.5.31東京新聞

(図の説明:左図のように、2021年のジェンダーギャップ指数は156ヶ国中120位で、政治・経済は3桁代、教育は辛うじて2桁代、医療も65位と新興国以下だった。また、中央の図のように、日本は、女性の就業率が上がってM字カーブの底は浅くなったが、出産・育児後は労働法で護られない非正規労働者の割合が高くなるため、正規雇用率はL字カーブだ。そして、非正規労働者は専門職の公務員女性にも多いとのことである)

(1)女性差別による人権侵害
 差別によって不平等な条件を突きつけたり、人生の可能性を狭めさせたりすることは、そもそも人権侵害である。

1)ジェンダーギャップ指数が156か国中120位の理由と日本の現状
 世界経済フォーラムの「ジェンダーギャップ指数」の発表によれば、*1-1-1のように、日本は156か国中120位でG7では最下位、アジアの主要国よりも下位で、順位を下げる要因となったのは、経済分野117位、政治分野147位と経済・政治分野の順位の低さだそうだ。

 経済分野は、男女間の賃金格差、管理職の男女差、専門職・技術職の男女比が、いずれも100位以下で、中でも管理職の男女差は139位と前年の131位から順位を下げた。日本政府は女性活躍促進を政策に掲げていたのだが、政治分野は世界のワースト10に入り、政治分野のジェンダー不平等は、多様な視点を欠いた政策に繋がっている。

 私も、政治分野のジェンダー平等は、個人を尊重し、多様性の確保された社会を実現し、民主主義を発展させ、あらゆる分野で女性の地位を向上させるための必須条件だと思う。しかし、今なお日本社会に厳然と存在する女性に対する偏見・差別・不平等な取扱いによって起こる男性より高いハードルによって、男性より実力がある人でも選挙で公認されにくかったり、公認されて立候補しても当選しにくかったりすることは多いため、その不利を帳消しにするためクオータ制を法制化することは「逆差別」にはならないと考える。

 このような中、*1-1-2のように、政治分野の女性参画拡大を目指すためとして男女共同参画推進法が改正され、女性議員の増加のため女性の立候補を妨げる要因であるセクハラ・マタハラ防止策を国や地方自治体に求める条文が新設されたそうだ。2018年に制定された男女共同参画推進法は、地方選挙や国政選挙の候補者数を「できる限り男女均等」にするよう各政党に促したが、努力義務だったため既得権のある男性候補者に阻まれて進まなかった。これにセクハラ、マタハラ防止の規定を入れたら政治分野の女性参画が進むかと言えば、もともとセクハラ・マタハラくらいは跳ね除けられる人しか議員になろうとは思わないため、影響は小さそうだ。

2)女性に多い非正規雇用
 *1-1-3・*1-1-4のとおり、女性活躍の機運の高まりを背景に「M字カーブ」は解消が進んだが、子育て後に再就職するには非正規雇用が主な受け皿で、女性の正規雇用率は20代後半をピークに右肩下がりで減っていく「L字カーブ」が新たな課題として浮上している。

 そして、内閣府の有識者懇談会が「①正社員に加えて短時間勤務の限定正社員等の選択肢を拡大し、出産後の継続就業率を高める必要がある」と指摘しているように、「②正規雇用以外の働き方が『仕事と育児を両立できる働き方』であり、本人の希望だ」と説明されることが多い。

 しかし、「③都内の公立学校の図書館で司書として働く女性も非正規」「④自治体の非正規公務員の大半は女性」「⑤1年毎の採用で気持ちを安定させて働けない」「⑥全国の自治体で働く非正規公務員は約69.4万人で、9割を会計年度任用職員が占め、その3/4以上が女性」「⑦専門性があっても給与は手取りで月約16万円」「⑧契約更新で理由も分からず職場を去らざるを得なかった人もいた」「⑧声をあげにくい人が多く、問題が覆い隠されている」等の現状がある。

 非正規雇用労働者が増えたのは、1997 年に男女雇用機会均等法が改正され、1999 年に施行された後であり、「女子差別撤廃条約(黒船)」批准のために国内法を整備するために1985 年に成立した旧均等法が「パート・女性のみ」「一般職・女性のみ」というようなコース別の募集・採用することを均等法違反ではないとしていたのを、改正法は違反としたからである。

 つまり、旧均等法ではパートや一般職として女性のみを募集することが許されており、1997 年改正でそれをできなくしたため、「非正規雇用」という労働法で護られない労働者を作って年改正法をザル法化したのだ。そのため、もともと「非正規雇用」は女性に照準を当てており、このように、日本は女性差別を禁止する度にザル法化してきた経緯があるのだ。

 なお、1997 年の主な改正点は、「募集・採用・配置・昇進等の雇用におけるすべての場面で直接差別を禁止」「積極的な差別是正措置に対する国の援助を規定」「セクシャルハラスメント防止のための事業主の配慮義務を規定」「均等法違反企業の企業名公表など一定の制裁措置を講じた」などであり、それまではこれらが堂々と行われていたのだ(https://core.ac.uk/download/pdf/229188692.pdf 参照)。

3)女性の自立を応援しなかった日本社会
 *1-1-5のように、日本国憲法は「個人の尊重と幸福追求権を定める13条」「法の下の平等に基づき性差別を禁じる14条」「両性の本質的平等を保障する24条」を持っているが、それに反して、正規労働者を護るために、解雇しても支障の出ない労働契約になっている非正規労働者を容易に解雇する。そして、非正規労働者に女性をあてていることが多いため、日本は働く女性を応援せず犠牲にしている社会なのである。

 つまり、「非正規労働」は合法的に差別される労働契約であるため、決して自ら好んで選ぶべきではないが、日本政府は出産後の継続就業率を高められる選択肢として推奨しているのだ。

 なお、私自身は、差別される側の労働力になるつもりはなかったため、キャリアを積み男性と同じく働いた上で言うべきことは言い、「仕事は自分で選ぶ」「それができるためのキャリアを積む」「空気は読むのではなく作る」ということをやっているのだが、それについて「女のくせに生意気だ(←女性蔑視)」「性格が悪い(←女性差別)」「変わっている(←女性差別)」「夫婦仲は悪いに違いない(←憶測にすぎず、大きなお世話)」等と言われることがあり、要するに「活躍する女性が幸福な姿は見たくない」と思う差別意識の強い人がいるのだ。

4)女性差別によって享受させられた女性の不利益
 東京都立高校の普通科一般入試は、*1-2-1のように、募集定員を男女に分けて設定しているため性別によって合格ラインが異なり、対象校の約8割で女子の合格ラインが最終的に高かったそうだ。都立高は全国の都道府県立高校で唯一男女別定員があるためこのようなことが起こるが、埼玉県の場合は男女別定員ではなく受験できる公立高校自体が男女で異なるため、どちらも憲法違反であり、ひどい。

 また、合否を中学校が提出する内申点と筆記試験の合計で決めるのも、中学教諭の偏見や先入観が内申点に出やすく、教諭の判断基準は教諭の時代の常識であったとしても(それも疑わしいが)、生徒たちが活躍する時代や場所の常識であるとは限らず、公平・中立にもなりにくいため、私は、内申点を(参考に留めるのではなく)筆記試験と合計することに反対である。

 このように、意図的な選抜を繰り返していると、より優秀な人、より努力する人を合格者にすることができないため、時間が経つにつれて選抜の誤謬が結果として現れる。そして、それが、日本の現在の状況を作っているのではないかと思う。

 しかし、*1-2-2のように、マイケル・サンデルのように「①成功は努力の結果ではない」「②入学を手助けした親や教師、そもそもの才能や素質があるので本人の功績とは言い切れない」と言ったり、上野千鶴子氏のように「③自分が頑張ったから報われたと思えること自体、環境のおかげだ」として、能力や努力に問題提起する人もいる。

 女性に関しては、米国は日本より男女にかかわらず能力を基準として公正に評価する傾向が強いため、日本ほどの女性差別はない。それでもマイノリティーが上昇して成功するには、成功を助ける力より成功を妨げる力の方が大きく、成功にはかなりの努力を要するため、①②は当たらないと思う。さらに、日本は、女性は強い意志と努力がなければ成功できないほど女性が成功するのを妨げる力の大きな環境であるため、環境と才能だけで成功できた女性はいないだろう。

5)結果として変な政策が決まる
イ)少子化自体を問題とする政策の誤り

  
 主要国の人口推移と人口     地域別世界人口     人口ピラミッドの形状

(図の説明:左図は、主要国の人口推移と現在の人口で、日本は1960年代後半に1億人を超えたのであり、ドイツは今でも8千万人代であるため、経済成長率には人口以外の要素が大きく関わっていることを示している。中央の図は、地域別世界人口の推移で、中国・インドが属するアジア地域で人口増加率が大きく、世界人口に占める割合も大きい。右図は、人口ピラミッドの形状で多産多死型から少産少死型に替わる時に釣鐘型からツボ型となり、多産多死型の間はピラミッド型をしているのだ)

 *1-3-1のように、日本では、男性が育児休業をとりやすくする改正育児・介護休業法が成立し、①男性は子の誕生後8週間まで最大4週間の育児休業を取れる ②業務を理由に育休取得に二の足を踏む男性も多いので労使の合意があれば育休中もスポットで就労可 ③休業の申し出は2週間前までに短縮 などが加わったそうだ。しかし、私は、男性がちょっと育児を手伝うには至れり尽くせりだと思った。

 何故なら、②の業務が理由で育休取得が困難であるのは女性も同じであるため、出産後に(1)2)の女性の「M字カーブ」ができるのであり、「M字カーブ」の底が浅くなったとしても出産後の女性の就職は非正規雇用が多いため、女性の正規雇用率は20代後半をピークに「L字カーブ」になっているのである。そのため、女性の多くに「『出産しなければ正規雇用として得られた筈の報酬+社会保障』-『出産したため非正規雇用として得られる報酬+社会保障』」という出産・育児による生涯所得の損失があり、非正規になるため労働法による保護もなくなる上、莫大な子育て費用がかかるのである。

 このような中、第一生命経済研究所の試算では「③出生率の低下は将来の労働力の減少等を通じて中長期の経済成長力を押し下げる」「④2030年代後半に日本は潜在成長率が0.2%程度のマイナスになる」としているが、③④については、女性・高齢者を含めた労働力を100%利用しているわけではなく、日本の成長率が低いのは成長分野に投資しないからなので、少子化のせいでないことは明らかだ。

 ニッセイ基礎研究所の調査では、「⑤持ちたい子どもの数が減った理由で多かったのは、子育てへの経済的な不安」だそうだが、実際には経済的不安・仕事の安定に関する不安・子育てに対する不安・自己実現に対する不安がある。そのため、3・4歳児の教育や大学生向けの奨学金拡充で子育てや教育に対する親の過重負担を軽減するのも大切だが、女性が出産・子育てをしても仕事や研究で自己実現でき、経済的不利益を被らない社会にしなければ出生率は上がらない。

 また、*1-3-2も、「⑥新型コロナの影響で、2020年の合計特殊出生率が1.34で5年連続の低下」「⑦2005年の1.26を底に緩やかに上昇し、2015年に1.45となったが、その後は低下基調」「⑧女性の年代別では20代以下の低下が目立ち、30~34歳で最も高く、40歳以上の出生率も少し上がったが、全体として20代以下の落ち込みを補えなかった」「⑨2021年の出生数は80万人割れの可能性が高い」などと出産競争を促す書きぶりだが、文明の進歩によって女性も高学歴化し、出産・子育てによる自己実現の犠牲を嫌って、晩婚化や生涯未婚化したのが最も大きな理由だと思う。

 さらに、*1-3-3は、「⑪出生数が最少の84万人になったため、急減の流れを止めたい」「⑫このままだと将来の働き手が減少し、社会保障の担い手不足がさらに深刻になる」「⑬雇用情勢悪化による解雇や給料カットで経済的余裕を失ったカップルが多いことも出生数減少に響いた」「⑭政府は結婚や出産を後押しする観点での新たな支援に乗り出すべきではないか」「⑮出生数最多は第1次ベビーブームの1949年の269万人超で、2019年に90万人を割り込んで第1次ブームの1/3に落ち込んだ」「⑯近代以降、乳児死亡率が下がって子どもを多く産む動機が薄れた」「⑰文明の発展に連れて『多産多死』から『少産少死』へ変化する大きな流れに抗えない」「⑰出生数急減を何とか乗り越えたい」等と記載している。

 しかし、現在は⑬の状態なのであり、特に非正規労働者に皺寄せが行っているので、⑫は、まず男女とも正規労働者として100%近い本物の雇用を達成し、本当に人手不足になって初めて移民などの外国人労働者の活用も含めて考えればよいと思う。何故なら、⑭は支援の内容にも依るが、景気対策のバラマキや支援でやっと生活できる人ばかりになると国が潰れるからである。

 また、⑮については、このように出生数が1/3に落ち込み、学校や職場は増えているにもかかわらず、第1次ベビーブーム世代と同じく教育や仕事で不利な状況を与えて女性を活躍させず、競争を著しく減らしたことが、日本の働き手の質を落としたのだ。

 さらに、⑯⑰は、多く産んでも大人になるまで育つ子が少かった不幸な時代から、殆ど全員が大人になるまで育つため少し産めばよい時代になっても、一般の人がその変化を認識して出産数を減らすという生物的行動をとるまでに1~2世代かかることを意味している。そのため、増えすぎる人口を調整するための出生率低下を超える出生率低下は止めるべきだが、⑰のように、「とにかく出生数急減を乗り越えよう」と呼びかけると、地球が人口を支え切れなくなるのだ。

 つまり、日本は、食料・エネルギーを100%以上自給し、これから人口爆発するアフリカ諸国にも輸出できるようにしながら、100%近い本物の雇用を達成し、それでも人手不足があればいろいろと考えるべきである。そのため、教育は、重度障害者でもないのに働くことのできない大人を作らないようにすべきだ。

ロ)遅すぎる対応←「骨太の方針」から
 政府は、*1-3-4のように、経済財政諮問会議で今年の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」原案を公表し、グリーン(脱炭素)、デジタル、地方創生、子育て支援の4分野に予算を重点配分する方針を明記したそうだ。

 このうち、2025年度に国・地方の基礎的財政収支の黒字化をめざすとする財政再建目標は、現在は国の財政が現金主義であるため、目標を守ったとしても公正ではなく問題解決もしない。そのため、財政改革の1丁目1番地は、国・地方の財政(年間収支と資産・負債)を複式簿記で把握して発生主義で物を考えられるようにすることで、これをやられると困る人がいるのか、一向に進まないのが現状だ。そして、財政再建と言えば高齢者に対する社会保障費が無駄だから抑えるというのは、今でも社会保障は不十分であるため、高齢者いじめの歪んだ政策である。

 また、脱炭素化に向けて、基金や優遇税制で企業の投資を後押しし、炭素を出さないEV・FCVの普及を進め、「再エネの主力電源化に最優先して最大限の導入を促す」としたのはよいが、もともとトップランナーだった日本のEV・FCV・再エネを、環境を軽視して主要国が軌道に乗せ終わるまで応援せず、ここまで遅れさせたのはまずい政策だった。

 さらに、デジタル化については、マイナンバーカードの健康保険証や運転免許証との一体化等でカードの普及を加速させる意図があるとのことだが、①個人情報を商業目的で売ることに違和感を感じない ②個人情報もビッグデータなら流通させてかまわないと考える ③民間委託を繰り返すことによってデータ保護に責任を持たない体制を作る など、国民の福利を主にして物を考えない姿勢であるため、マイナンバーカードに多くの情報を連結させるのは危険である。

 なお、子育ての良いインフラとなるべき幼保一体化は進まず、2006年10 月1日に施行された認定こども園は、未だ幼稚園と保育所が温存されているため3制度併存となっている。そのため、「子ども庁」を作っても、せっかく省庁再編で減らした省庁をまた増やして予算を増加させ、幼稚園・保育所はそのままにして役所のポストを増やすだけになりそうなので、期待薄だ。

 最低賃金の引き上げについては、地域によって異なる物価水準や人によって異なる生産性に見合わなければ、賃金引き上げは改悪になってしまうため、全国加重平均を1000円以上にする必要はないと思う。

 最後に、コロナ対策で失敗したのは厚労省はじめ政府であり、その無思慮・無能力を補うため、日本の国民は強制力なしでも自粛したのだ。そのため、「④感染症有事の体制強化で、法的措置を速やかに検討」「⑤緊急時対応のより強力な体制と司令塔を持つ」などというのは本末転倒であり、能力も資格もない所に強力な権限を与えて国民の私権を制限できるようにすれば、基本的人権の尊重や主権在民(民主主義)から外れ、日本国憲法違反になる。

ハ)遅すぎた再エネと地熱発電開発


              2021.6.10日経新聞より
(図の説明:1番左の図のように、日本は火山帯の上にある国なので、地熱資源が多い。また、左から2番目の図のように、2015年で日本企業が作る地熱発電設備は世界シェアの6割をしめ、日本企業が関わる海外プロジェクトも、右から2番目の図のように多い。それにもかかわらず、1番右の図のように、日本国内の発電量にしめる地熱のシェアが著しく小さいのは、無尽蔵に近い豊富な資源を使わずにいるということだ)

 「世界でホットな地熱発電 出遅れ日本も『地殻変動』」とする*1-3-5の見出しは面白いが、発電の安定性に優れ、燃料費は無料で、資源量の豊富な地熱を使用した発電を、日本政府は世界で評価され機運が盛り上がって始めて2030年に発電所を倍増させる方針を掲げたのだから、これも無思慮・無能力の一例である。それどころか、天文学的高コストの原子力発電を安価だと強弁して優先してきたため、これによる財政の損失は著しく大きかった。

 これは、地熱資源量で世界第3位の日本の発電量が2020年時点で55万kwに留まり、日本企業のタービンの世界シェアは6割強に達するという対照的な結果を産んでいる。つまり、「政府は、環境も考慮しながら、4の5の言わずに10ットとやれよ」と言いたいのである。

 このような中、*1-3-6のように、全国知事会議によって「デジタル化を進める」「5G移動通信システムに対応する通信網を基礎的インフラとして全国に普及させる」「脱炭素社会の実現を再エネ豊富な地方への分散型国土創出のチャンスとする」などの提言がなされたのは注目に値する。

二)非科学的なコロナ対応
 政府(特に厚労省とその専門家会議)は、検査・ワクチン・治療薬などのコロナ対応で失敗したことは言うまでもないが、限られたワクチン接種の優先順位でもおかしなことが続いた。そもそも、接種会場に行けないような寝たきりに近い高齢者にワクチンを接種するのは、ワクチン接種による健康リスクが高い上、そういう高齢者が新型コロナを他人に感染させるリスクは低いため、そういう人に接する人(介護士や家族)にワクチンを接種した方が効果的なのだ。

 また、ワクチンが十分に供給された後も、*1-3-7のように、64歳以下の接種に優先順位をつけ、無駄に煩雑化して時間の浪費をしている。そのため、市区町村ごとに独自に優先対象枠を設定するのはよいが、なるべく多くの人に素早く接種することが感染を広げないためには最も重要なので、20~30代を優先するというのもおかしいのである。

 さらに、五輪は「中止だ」「無観客だ」と騒いでいるメディアが多いが、免疫パスポートを持っている人と直近の陰性証明書を持っている人だけが入場できるようにすれば何の問題もないし、日本なのだから、客席の下に航空機レベルの強力な換気扇を設置しておけば、観客の中に少し陽性者が混ざっていたとしても感染リスクはかなり軽減されるのである。

 にもかかわらず、「ワクチン接種が進めば、何となく政権に好感が持たれる」「10~11月にかけて、すべての接種を終える」などのボヤっとした政治的意見が出るのには呆れる。そのため、企業・学校などの職域接種をできるだけ早く始め、終わったところは一般の人にも開放した方がよいと思う。このような場合に、「五輪は特別か」「自治体毎に差が生じるではないか」「免疫パスポートの提示は差別に繋がる」などの悪平等を奨める議論をするのは筋が悪すぎる。

(2)年齢差別による人権侵害


  *2-3(図表1)     *2-3(図表2)     *2-3(図表3)

(図の説明:左図のように、65歳の健康余命は、男14.43年・女16.71年であり、75歳でも男7.96年・女9.24年である。また、中央の図のように、平均余命も健康余命も、男女とも伸びている。さらに、右図のように、健康上の理由で日常生活に影響のある人は、85歳未満では50%以下で、85歳くらいから増え始めている)

1)“高齢者”に定年は必要か
 “高齢”になった時、頭脳や身体の機能がどのくらい衰えるかは、生物年齢によって一律に決まるのではなく、個人差が大きい。そのため、一定年齢になると全員を退職させる「定年」というシステムは、余剰人員があって若い世代の出番がなかなか回ってこないような企業には便利かもしれないが、人材不足の企業にはむしろ不都合なのである。また、年齢を理由に解雇される被用者にとっては、これまでより悪い条件の職場に移動して勤務しなければならず、年齢による差別であると同時に人権侵害でもある。

 さらに、65歳以下の従業員しかいない会社は高齢者のニーズを把握できず、ここでも多様性のなさが利益機会を逃す結果となっている。

 そのため、健康状態に合わせて負荷を軽くしながら、健康で働ける限りは働いた方が経済的にも健康維持にもプラスであり、同じ生活を続けられた方が被用者にとって精神的負荷が少い。

イ)定年の廃止
 現在の一般的定年年齢である65歳は、*2-3のように、仕事、家事、学業などが制限されない健康余命が男性14.43年、女性16.71年(80歳前後まで)残っており、75歳でも男性7.96年、女性9.24年残っているそうだ。

 そのため、*2-1-1ように、YKKが正社員の定年を廃止して、本人が希望すれば何歳までも正社員として働けるようにし、生涯現役時代に備え始めたのは妥当である。しかし、これらがうまく機能するためには、役割に応じて給与が決まる役割給(≒能力給・成果給)を採用し、同じ能力・成果なら年齢に関係なく同じ給与になる仕組みが必要だ。そして、「年齢だけを理由に処遇を変えたり、退職させたりするのは公正でない」というのは正しい。

 三菱ケミカルは2022年4月に現在60歳の定年を65歳に引き上げ、将来は定年廃止も検討しているそうだが、給与制度は能力・経験に基づく職能給と、仕事の成果・役割に基づく職務給で構成していたのを、2021年4月から職務給に一本化したそうだ。

 三谷産業の場合は、2021年4月から再雇用の年齢上限をなくして65歳以上は1年ごとの更新制としたそうだが、これは年齢だけを理由に雇用条件を変えており、公正とは言えない。

ロ)70歳定年制
 ダイキン工業は、*2-1-1のように、希望者全員が70歳まで働き続けられる制度を始め、少子高齢化で人手不足が続く中、企業がシニアの意欲と生産性を高める人事制度の整備に本格的に乗り出したそうだ。しかし、これまで定年が60歳で65歳まで希望者を再雇用していたのは、やはり年齢だけを理由に処遇を変えたり、退職させたりしており、公正ではなかった。

 各社が対応を急ぐ背景には、年金の支給開始年齢が段階的に引き上げられ、所得の空白期間をなくすため、2021年4月に施行された改正高年齢者雇用安定法があり、従来、企業は従業員が希望する限り65歳まで雇用を継続する義務があったが、法改正で70歳まで就業機会確保の努力義務が課されたからだそうだ。

 大半の企業は再雇用期間の単純延長などで対応し、多くは現役時代に比べて2~5割程度給与が下がってシニアのやる気と生産性の低下が課題になっているため、定年を廃止する企業は成果に応じた賃金制度を導入したりして給与の減少を一定程度に留めるそうだ。私は、成果や能力に応じた賃金制度を導入した方が、年齢に関わらず誰にとっても公平でやる気が出ると思う。

 世界では定年制は一般的でなく、米国・英国は年齢を理由とする解雇を禁止・制限しているが、日本は定年のない企業の方が2.7%に留まる。その理由は、正社員に対して年功序列型賃金体系を採用し解雇規制も厳しいため、定年を延長・廃止しただけでは生産性に見合わない人への人件費が増加するからだ。ただ、職務を十分に果たせない理由は年齢ではないため、公正な雇用環境とは、成果主義・能力主義による賃金体系にほかならない。

 ちなみに、年功序列型賃金や解雇規制によって護られた正規雇用を維持するため、出産後の女性(もしくは多くの女性)に非正規雇用の職しかないのは、雇用の調整弁にされているからである。そのため、女性は、もともと、非正規雇用の職を押し付けられるよりは、(年功序列よりは厳しいかもしれないが)能力主義・成果主義賃金体系の中、正社員として企業間移動も容易である方がずっと公平・公正になるという環境下にあるのである。

ハ)中小企業の対応
 *2-1-2のように、70歳まで働く機会の確保を企業の努力義務と定める改正高年齢者雇用安定法が4月に施行されたのを受けて、日本商工会議所が中小企業に対応を聞いたところ、必要な対応を講じているのは約3割に留まることがわかったそうだ。

 新型コロナで企業の業績が悪化し、余剰人員が増えて人件費の負担増に繋がる施策の導入は難しそうだが、中小企業に熟練労働者は貴重であるため、もともと定年のない企業も多い。そのためか、必要な対応を講じている企業の具体策は、70歳までの継続雇用制度の導入(65.8%)、定年制の廃止(20.2%)と定年制の廃止も少くない。

2)高齢者医療←“公平”とは何か
 *2-3に書かれているとおり、平均寿命は0歳の人の平均余命で、64歳以下でなくなる人の死亡時年齢も加えた平均であるため、65歳まで生きた人の平均余命は平均寿命より長い。

 そのため、平均寿命を目安にして老後生活のための資産形成をしたのでは不十分な上、健康寿命を過ぎた後は医療・介護の世話になることになる。これは、若い世代が医療・介護保険料を支払っても殆ど医療・介護の世話にならないのと対照的だが、このサイクルはすべての人に起こるものである。

 従って、人口構成が変わる国は、若い時代に支払った医療保険料・介護保険料を発生主義で積み立てておかなければ、国民が高齢になった時に医療・介護費を負担できず、まさに現在の日本のような状態になる。しかし、このライフ・サイクルは、今になって初めてわかったことではなく、保険制度を作った時からわかっていたことであるため、適切な対応をしなかった管理者に全責任がある。

 そのような中、*2-2-1・*2-2-2は、「①高齢化に対応するため、全ての世代に公平で持続可能な医療保険制度の構築を急ぐべき」「②75歳以上の後期高齢者で一定以上の所得がある人の医療費窓口負担を1割から2割に引き上げる医療制度改革関連法が成立」「③一定収入とは年収が単身で200万円・夫婦世帯で計320万円以上」「④後期高齢者医療費のうち自己負担分を除く約4割は現役世代の保険料で賄っている」「⑤政府はこの改正が現役世代の負担増を抑える一歩にすぎないことを認識し、さらなる改革を急ぐべき」「⑥厚労省は負担引き上げによる受診減で75歳以上の医療費が年約900億円減少するとみる」「⑦実際の負担は、高額療養費制度の活用で軽減を図れる」「⑧政府の説明は『受診行動の変化のみで健康への影響を分析するのは困難』と繰り返すだけ」「⑨健康診断受診率を高め、疾病を早期発見する環境整備も必要」「⑩今後は資産に着目した制度設計が不可欠なので、高齢者の収入・資産状況を把握するマイナンバーを使った改革を急ぐべき」などを記載している。

 このうち、①については、ライフ・サイクルを考慮した時、i) 殆ど医療・介護のニーズがない若い世代が入る保険 と、ii) 医療・介護のニーズが高くなる定年後に入る保険 を分けたことが、保険の原理に反しており、不公平を作っているのだ。その不公平の一部を解消するため、④のように、自己負担分を除く約4割を現役世代の保険料で賄うという恣意的割合での補助を行っているのだが、若い時代に支払った保険で定年後も面倒を見るのが本来の保険の姿である。従って、現在の仕組みなら、若い世代だけが入っている医療保険は大きな黒字になっている筈だ。

 また、②③の一定以上の所得を単身で200万円・夫婦世帯で計320万円以上と定めたのは、医療費が0の生活保護家庭と同レベルの所得でも、後期高齢者は医療費窓口負担2割としている点で不公平だ。何故なら、健康寿命を過ぎると、医療・介護を継続的に利用し続けなければならなくなるため、医療・介護費、水光熱費を除いた可処分所得が少なくとも食費・住居費・交際費を支払える程度に残らなければ、最低生活ができないからである。そのため、⑦は最低生活を保障できる金額でなければならないのである。

 なお、⑥⑧は、科学的根拠はないが、とにかく高齢者は邪魔だと考える行政の言いそうなことだ。⑨に反対する人はいないと思うが、いくら健康診断をしても最後は誰しも健康寿命が尽きて亡くなるため、かかる医療費・介護費は変わらないと思う。違いは、それが早いか遅いかだけであろう。

 ⑤⑩については、高齢者の資産はその人が働いて所得税を引かれた後の税引後所得から貯めたものであるため、ここに課税すれば二重課税になる。また、多くの資産を子孫に残す人は相続税で課税されるため公平性が保たれており、マイナンバーを使って高齢者の資産に手を突っ込もうなどと考えるから、政府に信用がなくなって、マイナンバーカードも普及しないのである。

 なお、*2-2-3に、「⑪負担能力を判断する収入に、貯金などの金融資産を含める意見もあるが、稼働所得が少ない高齢者に負担増を求めるのは極力避けなければならない」と書かれているのは本当で、「⑫高齢化がピークに近づく2040年に向け、抜本的な社会保障制度改革は避けて通れない」というのは、私が上に書いた変更を行い、積立金の不足する分は、バラマキの無駄遣いをやめ、日本に豊富に存在する資源の開発を行ってその収益を充てたり、それこそ国債で賄ったりすべきなのである。

(3)外国人差別による人権侵害
1)日本の難民受け入れと「入管法改正案」
 *3-1・*3-2のように、政府・与党は、「①現行の出入国管理法では、外国人が難民としての認定を日本政府に申請している間は強制送還できず」「②その結果、施設収容が長期化している」として、「③難民認定申請を2回までに制限して退去命令に従わない際の罰則を設け」「④繰り返し申請する人を送還可能にする規定を盛り込んだ」改正案を、入管施設に長期収容されていたスリランカ人女性が死亡したのをきっかけに、今国会での成立を断念した。しかし、筋の悪いこの改正案は廃案にすべきである。

 何故なら、この改正案は、迫害から逃れてきて帰国できない事情のある人への配慮に欠け、国連難民高等弁務官事務所や国連人権部門から懸念を示されていたものであるため、国際水準に沿った入管法改正を行うことが必要なのだ。例えば、日本の2019年難民認定率は0.4%で、米国29.6%やドイツ25.9%より著しく少なく、外国人労働者は労働力の調整弁として受け入れてきた経緯があるため、人権を尊重した抜本的な制度改正が必要なのである。

 さらに、出入国在留管理庁は、「退去回避や就労目的が相当数含まれていた」と主張するなど、(母国にいるため外国人より優位な立場にある筈の)日本人労働者の職を護るため外国人の就労を著しく厳しく制限しており、外国人は悪人であるかのような偏見を持って管理している。この行為は、祖国で迫害されて脱出し、日本で保護されるべき外国人を送還して危険にさらす恐れがあるため、人権侵害であるとともに、日本国憲法にも違反している。

 しかし、紛争や差別、迫害から逃れてきた難民申請者には高学歴の人も多く、2つの祖国を持つ人は両方の文化を理解して懸け橋になったり、日本企業のグローバル展開に貢献できたりしやすい。さらに、従業員の出身国もまた、多様性があった方が、新しい製品やサービスを開発する機会が増えるので、外国人も排除するより認定基準を変えて活用した方が、双方にってプラスなのである。

2)自分が差別される側だったら、看過できないにもかかわらず・・
 日本で、「差別はいけない」と言って男性はじめ多くの人に賛成してもらうには、人種差別を例に出すのが最もピンとくるらしくて早いというのが、私の経験だ。

 そのような中、*3-3は、「新型コロナが中国から世界に広がったことがきっかけで、米国でアジア系の人を標的にしたヘイトクライムが目立つようになり、日本人まで巻き込まれているので差別解消に向けて日本から声を上げるべきだ」という抗議をしているが、アジア出身の人への差別は、(3)1)のように、日本人も行っている。にもかかわらず、多くの米国民に中国人・韓国人・日本人が同じに見えて出自が中国でないアジア系移民まで襲撃対象にされていることを不満に思うのは自分勝手すぎる。

 欧米人には、中国・韓国・日本の人は同じに見えるようで、私は台湾の人と米国人の家を訪問した時に「貴女たちは、お互いに言葉が通じるの?」と聞かれて、2人同時に「No!」と答えたことがある。その人は、標準語と関西弁くらいの違いだと思っていたらしい。

 もちろん、外交・安全保障で近隣国に毅然として言うべきことは言わなければならないが、それとは別に、アジア人であれ、アフリカ人であれ、人を差別すべきではない。幸運が重なることによって、日本の経済力が長い歴史から見れば瞬間的により進んでいたからといって、日本に住む1人1人が、より優れているわけではないことを心すべきだ。

(4)雇用形態について
 正規雇用と非正規雇用の社員間にある“不合理”な格差の解消を目指す「同一労働同一賃金」のルールが、*4-1のように、2021年4月から中小企業にも適用されたそうだが、合理的な待遇差は認められている。しかし、①厚労省は、基本給では能力・経験、業績・成果、勤続年数に応じて支給する場合は同一の支給、違いがあればその違いに応じた支給を求め ②最高裁は、賞与と退職金などについて格差を認める判断を示し 何が合理的な待遇差の範囲かは曖昧だ。

 しかし、①の能力・経験の違いについては、日本は年功序列(勤続年数による評価)の企業が多かったため、能力・経験、業績・成果などを公正かつ正確に評価して報酬に結び付ける文化がなく、合理的な待遇差か否かが客観的ではなく恣意的な説明になるのが問題なのである。

 また、②は、企業が非正規雇用を使う目的から、「賞与・退職金・福利厚生に違いがあるのは当然だ」ということになる。また、非正規雇用は短期の雇用になりがちで、労働生産性を高める研修も受けにくく、これは職務を限定せずジョブローテーションを繰り返して専門性の高い人材を育てない正規雇用と相まって、日本の労働生産性を低くする原因となっている。

 私も、欧米型の「ジョブ型」雇用の方が労働生産性を高めるとは思うが、ジョブ型雇用は、そのジョブで必要がなくなれば、正規か非正規かに拘らず配置転換ではなくクビにするものだ。そのため、日本のように、社員を正規と非正規に分ける必要はなく、正社員でも成果さえあがれば短時間勤務でもOKで、休職した後でも不利なく復職することができる反面、これらがうまく機能するためには、辞めた従業員の能力・経験を評価して労働者に不利益を与えることなく受け入れる企業の多い労働市場が必要なのである。

 日本は、ジョブ型雇用、能力や実績を報酬と結び付けるための評価システム、辞めた従業員の能力や経験を評価して不利益なく受け入れる労働市場に乏しいため、*4-2のように、パート・派遣などの有期労働契約が5年を超えて繰り返し更新され本人が希望すれば、無期雇用契約に切り替えられる「無期転換ルール」ができたわけだ。

 しかし、無期契約は昇給制度を作る必要がなくても人件費が重荷になるため、対応にあたって、③契約更新の回数に上限を設けて5年を超えない運用にする ④無期転換した人材は、特定の仕事には力を発揮するが配置換えをすると能力不足を感じることが多い とする企業もある。

 ③は、ザル法化で、④は、*4-3のように、正規雇用の労働者でも専門外の仕事に配置換えすればやる気も生産性も落ち、度重なる配置換えによって専門性も育たなくなるという悪影響がある。そのため、有期労働者の不安定な状況を改善するには、長期の雇用保障や年功賃金で正社員が手厚く保護され、コスト抑制策として非正規雇用が活用されている労働市場の構造を変える必要があるのだ。

 そのためには、労働者を犠牲にするのではなく、転職しやすいジョブ型雇用の労働市場を作り、解雇規制の緩和とセットにする金銭補償は会社都合退職金を自己都合退職金の3倍にするなどを行う必要がある。この「会社都合退職金を自己都合退職金の3倍にする」というのは、事業縮小のために希望退職を募っていたオランダ銀行日本支店が行っていたことで、監査に伺っていた私は、その筋の通った徹底ぶりに感心した次第だ。

(5)不合理な政策が通る理由は何か
1)新型コロナワクチンについて
 加藤官房長官は、*5-1-1のように、6月17日の閣議後会見で、①新型コロナワクチンの接種を公的に証明する「ワクチン証明書」の交付を市区町村が7月中下旬から始める ②まず書面で交付し、電子交付も見据えて検討を進める ③ワクチン接種の有無による国内での差別を防ぐため、同証明書は海外との往来を主な目的とする という方針を明らかにした。

 しかし、①②は、接種券に「新型コロナワクチン予防接種済証」が付いており、接種時にワクチンの種類・接種日・接種場所が記録されるため、ワクチン接種後はすぐに書面による交付ができている。そのため、電子証明は、接種済証を所定の場所に持っていけばできるようにすればよいのである。また、③は、「糖尿病や肥満の人に食事制限するのは差別にあたるので、家族全員が食事制限すべきだ」と言うのと同じくらい不合理で馬鹿げている。

 そのため、ワクチン接種済証か直近の陰性証明書の提示を条件にすれば、*5-1-2のような入場者制限・飲食店の時短・酒類の提供制限も不要であり、恩着せがましく少しずつ緩和していただく必要はない。にもかかわらず、「五輪は、中止か、無観客で」などと言っていた新型コロナ対策分科会の“専門家”が、五輪の開催方法については「人の流れを止める」以外の助言もできず、役割を果たしていない。これは、「“専門家”の選び方が悪い」というほかないのである。

 さらに、*5-1-3のように、ファイザー製ワクチンの接種対象が12~15歳に広がっているのを受け、小児科学会等が、「③(かかりつけ医による)個別接種が望ましい」「④感染予防策としてワクチン接種は意義があるが、副反応の説明や接種前後の健康観察を入念にするように求める」「⑤基礎疾患がある子どもは、健康状態をよく把握している主治医との相談が望ましい」という見解を発表したそうだ。

 しかし、④⑤については同意するものの、③については、健康な子どもは学校で集団接種して問題ないだろう(私たちの世代は普通に集団接種していたが、近年はしないのか?)。それより、日本の場合は、体重に比例してワクチン接種量を加減しないため、体重45kgの痩せた女性が体重90kgの米国人男性と同じ分量のワクチンを接種すれば副反応が強く出るのは当たり前だ。まして、体重30kgの子どもなら分量は1/3程度でよい筈だが、それこそ日本の“専門家”は何も調べておらず、意思決定権者もそれを求めていない点で、勉強不足である。

 なお、東京五輪・パラリンピックに合わせて来日する外国メディアの行動を、*5-1-4ように、スマートフォンのGPSを使って管理する方針は、確かに、⑥ジャーナリストのプライバシー権を完全に無視しており ⑦報道の自由を制限するもの であるため、国際ジャーナリスト連盟(IFJ)が強く反発するのは当然で、このような規制をしようと思つくこと自体が恥である。安全を維持するためなら、ジャーナリストはじめ関係者の入国時に免疫パスポートの提示を義務付ければよく、性犯罪者ででもあるかのようにGPSで追いかける必要はない。

 最後に、五輪で入場者数の制限・飲食店の時短・酒類の提供制限等をして世界のお祭りに水をかけたりせず、来られた方を「おもてなし」できるためには、*5-1-5の職域接種を五輪までに関係者全員(の希望者)に完了するための経済界の活躍が期待される。新型コロナで損害が大きく、世界標準も知っている航空会社が前倒しでワクチン接種を始めたのは尤もだが、ほかにも政府が職域接種の目安とする従業員千人に満たない中小企業が素早くワクチンを接種できる工夫はあった。そのため、顧客企業が素早く立ち直ることこそが貸付金の返済に繋がる都市銀行・地方銀行・信用金庫等も、顧客企業の従業員や家族まで対象にしたワクチンの集団接種を行い、地域の安全・安心を作り出すのがよいと思う。

2)社会保障について
 一定所得(単身:200万円以上、複数世帯:320万円以上)以上の75歳以上の後期高齢者医療費窓口負担を、1割から2割に引き上げる医療制度改革関連法が、*5-2-1のように、自民・公明両党などの賛成多数で成立した。田村厚労大臣は、その目的を「①若い人の負担の伸びを抑える目的だ」と述べられ、持続可能な医療保険制度に向けて税制(消費税)も含めた総合的な議論に着手することも明記しているそうだ。ちなみに、現役並所得(単身:年収383万円、複数世帯:520万円以上)とされる人は、雇用の不安定さにかかわらず現在も3割負担である。

 これについては、厚労省の杜撰な資金管理を改善することもなく、国民の負担増・給付減ばかりを決めており、日本国憲法25条の「1項:すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。2項:国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」に違反している(https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/shiryo/dl-constitution.htm 参照)。そして、これは人口構成とは関係のない問題だ。

 さらに、全世代型社会保障はよいし、若い世代も介護保険制度に加入して負担すると同時に給付も受けられるようにすべきだと思うが、保険制度はリスクの高い人と低い人が混ざっていて初めて成立するものなので、高齢者を労働していた現役時代とは別の保険制度に入れ、「②財源は窓口負担を除いて5割を公費で負担し、残り4割は現役世代からの支援金、1割を高齢者の保険料で賄う」「③75歳以上の人口が増えて医療費が膨らめば現役世代の負担も重くなる」などと言うのは恩着せがましいし、これまで制度の基盤を固めてきた人に対して恩知らずで失礼でもある。

 なお、*5-2-2のように、「④高齢者の中には、所得が少なくても金融資産を多く持っている人もいるので、資産も合わせて判断するようにすべきだ」などと、課税済所得から蓄積した金融資産まで考慮して給付を減らすべきだという不公正な理論を展開している人もおり、「高齢者は日本国憲法で護るべき国民のうちに入らないから、理屈はともかく犠牲を払ってもらいたいし、資産だけはもらいたい」という考えが丸見えで、どういう教育をするとこういう利己的な考え方をする人間ができるのか、親の顔を見て苦情を言いたいくらいである。

3)まとめ
 私は、東大医学部保健学科卒なので、医療システム・疫学・地球環境・公衆衛生学・母子保健・栄養学・解剖学・人体の健康維持システム・精神衛生・成人病等について大学で習った。しかし、仕事のために公認会計士資格(経済学・経営学・会計学・原価計算・財務諸表論・商法・監査論等が必須だった)をとり、監査で外資系の薬剤会社・医療機器メーカー・銀行・保険会社などを担当し、税理士としては税務申告や金融商品にまつわる税務コンサルティングを行った。そして、国会議員時代は、社会調査を兼ねて佐賀県の地元を1件1件挨拶廻りしながら話を聞き、地方の課題を洗い出して解決法を考えた。

 その結果として得た総合力でこのブログを書いているのだが、その目で日本で専門家として意見を述べている人たち(殆ど男性)を見ると、専門の範囲が狭く、丸暗記型で、他分野のことに疎く、小さな範囲の部分最適しか述べていない。それにもかかわらず、女性が意見を言うと、「非科学的」「感情論」等の女性に対する偏見に満ちた理解をするため、始末が悪いのだ。

 そのような中、(5)1)の新型コロナについては、下の指摘ができる。
  ①中国は当初から「無症状者にも感染力のある人がいる」と指摘していたため、厚労省は
   クラスターだけを追いかけて武漢ウイルスと呼ぶのではなく、万難を排してPCR検査を
   徹底し、蔓延を防止すべきだったのに、それをしなかった。
  ②検疫もいい加減だったため、島国であるにもかかわらず水際で止められなかった。
  ③医療システムに感染症対応が抜けており、治療すらまともにできないという、日本では
   考えられない事態を起こして、日本医療の評価を著しく下げた。
  ④政府が治療薬やワクチンの開発・承認を遅らせたため、膨大な金額の支援金で国費を
   無駄遣いしたのみならず、新薬や新ワクチンで得られる筈の利益機会も逸した。
  ⑤ロックダウンやまん延防止措置など、中学校の校則のように杓子定規な規制を一斉に
   かけ、それを乱発して、国民の私権を制限した。そして、行政は、これを「断固とした
   対応」などと言っている点で質が悪い。
  ⑥さらに、日本国憲法に「緊急事態宣言を入れ、大っぴらに国民の私権を制限できるよう
   にせよ」と言っているのは、憲法改悪の第一である。

 また、(5)2)の社会保障については、下の指摘ができる。
  ①「社会保障が高齢者に手厚すぎる」などと呪文のように唱え、高齢者への負担増・
   給付減をやり続けて生活を脅かしているのは、家計の分析すらできない人のする
   ことで、憲法25条違反である。
  ②介護保険制度を軽視し続けているのは、自らは家事や介護にあたらないと思って
   いる男性が大多数の政治だからである。
  ③人口減自体を問題視する愚かな論調が多いのも、「子育ては女性の仕事」と信じ、
   自らは家計すら考えたことのない男性が大多数の政治だからであろう。
  ④「課税済所得から蓄積した金融資産まで考慮して給付を減らすべきだ」などという
   理論を展開している人が少くないのは、二重課税の弊害もわからずに政策提言を
   しているからであり、不公正を招いている。

 しかし、国民にも責任はある。何故なら、主権在民の国である日本で議員や首長を選んでいるのは国民だからで、メディアが変な論調を続けてもまともな批判ができず、それに引きずられた意見形成をしているのも国民だからである。

(6)教育と人材

   
2019.8.1福井新聞  2019.8.1西日本新聞 2020.4.25毎日新聞    Resemom

(図の説明:1番左の図のように、小学6年生と中学3年生の全国学力テストは、福井・秋田など北陸・東北の平均が高く、東高西低になっている。また、左から2番目の図のように、九州7県は全国平均以下の地域が殆どで、公立は私立より低いため、何故こうなるかの原因分析が必要だ。また、右から2番目の図のように、教育用PCの普及は2人に1台《これでも自由には使えない》の佐賀県が最も多く、1番右の図のように、電子黒板整備率は佐賀県が突出して高いが、これには、ふるさと納税制度も利用した県を挙げての努力が見える)

 先端技術の開発や生産、サービスの提供など、どんな仕事をするにも教育を受けた質の高い人材が行えば、質の高い仕事ができる。ここでいう“質の高い”にはいろいろな要素があり、知識・思考力・体力だけでなく倫理観・勤勉・真面目などの性格を備えていることが必要だが、話を複雑化させないため、以下では、知識と思考力に絞って記述する。

イ)大学入試について
 国立大学協会入試委員会が、これまでの「国語」「地歴・公民」「数学」「理科」「外国語」の5教科7科目に「情報」を上乗せして、*6-1-1のように、2025年の大学入学共通テストから、国立大学の受験生に原則として「6教科8科目」を課す案を検討しているそうだ。

 プログラミング等を学ぶ情報Ⅰもデータサイエンスによる分析を学ぶ情報Ⅱも大切ではあろうが、私たちの世代は、理系の人でも、プログラミングは大学の教養で、データサイエンスは大学の専門や大学院で学んだため、大学入試で必須科目として高校までの履修を不可欠にするのなら、義務教育を3~18歳にしてゆとりを持って学べるようにしなければ消化不良になりそうだ。それでも、分析するには影響しそうなファクターをあらかじめ予想しなければならないため、知識と経験が必要であり、学校での限られた経験しか持たない生徒には難しそうだ。

 また、「義務教育終了段階での高い理数能力を、文系・理系を問わず大学入学以降も伸ばしていく」ことも重要だが、それには、高校では文系も数Ⅲを履修しておく必要がある。何故なら、大学で学ぶ経済学やデータ解析には、個の行動を統計的に集計して全体の行動にする過程があり、それには数Ⅲの微分・積分の理解が必要だからである。

 なお、情報を教える態勢は地域によって差があって、教員の確保が急務となっており、文科省の調査では、情報担当教員の2割が「情報免許状保有教員」ではない「免許外教科担任」や「臨時免許状」を持つ教員で、今のままでは新指導要領の内容をきちんと教えることができない学校が出るそうだ。ただし、教育用PCの普及は、むしろ地方の方が進んでおり、電子黒板整備率は佐賀県が突出して高い。さらに、私立と公立のPC整備率を比較すると私立の方が高いので、公立も頑張ってPCを整備し、教えられる人材を教員に採用しなければ教育格差は広がるだろう。

ロ)全国学力テストについて
 2019年4月に行われた全国学力テストの結果は、*6-1-3のように、福井県は「①中3は、英語で東京都等と並んで1位、数学も1位、国語は2位」「②小6は、国語2位、算数4位」「③小中とも調査開始以来12年連続で全国トップクラスを維持」「④県教委は授業や家庭学習に熱心に取り組む子どもと教員らの努力の成果と評価」「⑤目的や意図に応じて自分の考えを明確に書いたり、複数の資料から必要な情報を読み取って判断したりするのが苦手な傾向は変わらなかった」「⑥文科省は、学力の底上げ傾向は続いていると指摘した」とのことである。

 ①②③は立派な成績で、まさに④のとおりだろう。⑤は、日本人は大人も、自分の考えを明確に述べることを嫌ったり、分析が苦手だったりする人が多い上、TVもまともな意見を出し合って議論する設定の番組が少ないため、子どもも訓練される機会がないのだと思う。そのため、全体の底上げは重要で、⑥は正しい。

 一方、全国学力テストについて、*6-1-2は、「⑥全国学力テストの結果をより重視する学校もある」「⑦過去問を解くなどの事前準備が常態化し、本来の調査目的から逸脱している状況もある」「⑧研究者は『学力の一部しか測れないにもかかわらず、現場だけが結果責任を問われ、追い詰められている』と訴える」「⑨学校側が意識するのは県教育委員会が各公立小中に作成を求める学力向上プランで、全国学力テストの目標点を示した上で、課題の分析や授業の改善を促している」「⑩とにかく結果を優先せざるを得ない状況になっている」等と記載している。

 私は、⑨は全体の底上げのために正しいと思う。そのため、⑥⑦⑧の弱点は改善すればよく、⑥⑦については、生徒が初めて受ける形式の試験で何を答えればよいのかわからなければテストする意味がないため、少しは過去問を解く練習も必要だ。また、⑧は、確かに英語・数学・国語しかテストしていないので学力の一部しか測っていないが、それなら科目数を増やせばよい。そのため、「現場だけが結果責任を問われ、追い詰められている」というのは、責任のある人が責任を果たさず、言い訳しているように見える。現場以外に責任があるのなら、それもまた明確にして改善していくべきで、⑩については、結果が出なければやる意味はないと心得るべきだ。

 なお、子どもの実力を正しく把握する上で、学校内や狭い地域内だけでなく、全国規模で比較し検討する意味は大きい。また、公立校のレベルが低ければ、親の資金力が子どもの学力を決め、貧困の連鎖が生まれる。その上、外国人労働者を差別したり、景気対策と称するバラマキをしたりしなければ日本人労働者の雇用を守れず、国際競争に勝てない大人を大量に作り出したりもする。そのため、学力テストを使って子どもの学力を伸ばそうとしていることは重要で、これは、世界でも日本だけではないことに留意すべきだ。

ハ)私立と公立の差
 新型コロナの緊急事態宣言中、都立高校は、*6-2-1のように、校内の生徒数を3分の2以下に抑える分散登校を続け、登校しない生徒はオンラインを活用した自宅学習としているが、学校の通信環境や取り組みに差があって出欠確認だけの都立高もあり、生徒や保護者からは「学習が遅れていないか」と不安の声が漏れているそうで、当たり前である。

 また、*6-2-2のように、IT・ネット分野専門のミック経済研究所が学校の無線LAN普及率を調査し、「①2015年5月の無線LAN平均普及率は、私立59.3%(中学56.3%・高校61.2%)・公立42.6%(中学40.2%・高校35.0%)だった」「教室数等単位では、私立17.8%・公立16.4%で、特に公立高等学校が2.6%と低い」と発表した。

 PC・タブレットを使う時間が長いと、物事を理解したり覚えたりする時間はむしろ短くなり、深く思索することも少なくなるため、成績がよくなるとは限らない。しかし、辞書・参考書・筆記用具・電話と同じ文房具として使いこなせば、今までできなかったことができるし、今はそれをやるべき時代であろう。そのため、私は、教育に使うPC・タブレットは、ゲーム等の無駄な機能を搭載しない教育用の機種を1人1台支給して、通常の授業で使いこなすのがよいと思う。

 使いこなし方は、①英語の練習として英語圏のニュースを見る ②地学や歴史に関する映像を見る ③理科の内容を動画で見る ④音楽で本物の演奏を視聴する ⑤美術で国内外の美術館・博物館をリモートで訪れる ⑥体育でダンス等の動画を見ながら練習する など、紙の教科書と担任だけでは不十分になりがちな内容を視聴したり、国内外の同学年の生徒とリモートでディスカッションしたりなど、さまざまに考えられる。そのため、これらに沿う動画を紙の教科書以外に副読本として作成する必要はあるが、一度作成すれば国内外の多くの生徒が使うことができるため、決して高価なものにはならないと思う。重要なのは、本物を見せることだ。

 なお、最近、私は中国政府が国家の威信をかけて作ったという「三国志(完全版)、全5巻、日本語字幕付」のDVDを買って、まだ1巻の始めだけだが見た。すると、高校時代に漢文で習った内容が多く入っており、中国の有名な俳優が当時の服装で出ているため中国の歴史が目に見え、中国語の美しさにも触れることができた。これは、日本や欧米の歴史についても行っておけば、世界の人がその国の言葉を感じながら、その国の歴史や文化の由来を理解できると思う。

二)誤った教育をいつまで続けるのか


           2021.6.22日経新聞            2021.5.24日経新聞

(図の説明:年代別の接種方針は、1番左の図のようになっている。大学は、左から2番目の図のように、2021年6月21日に集団接種を開始した。また、ワクチン接種の注意点は、右から2番目の図のようになっているが、「注意すべき人」の範囲を広く取りすぎており、誤解や差別を生む。さらに、ワクチンの副作用を、1番右の図のようにしており、大げさだ)

 文科省は、*6-3-1のように、高校での「①集団接種を現時点では推奨しない」とする指針をまとめて全国の自治体に通知し、中高生は個別接種を基本とすることになった。その理由を、「②学校で集団接種をすれば、接種への同調圧力を生む恐れがある」「③副作用が出た場合に対応できる医療従事者の確保が困難」とし、「④集団接種する場合は、いじめ・差別を避ける配慮を要請する」「⑤接種を学校行事への参加条件としない」としている。

 しかし、①は、子どもを個別に医者に連れて行かなければならない保護者の負担が大きい。また、③で言われている“副作用”のうち、「注射部位の痛み」などは副作用のうちに入らないし、その他も十分な栄養と睡眠をとって1日程度休めば治るものである。さらに、持病があってかかりつけ医のいる人は、かかりつけ医に相談するか、そこで接種すればよいし、②④については、「同調圧力をかけてはならない」「接種できない事情のある人を、いじめたり差別したりしてはならない」と、きちんと生徒に教えるのが学校の役目であり、そのためのよい機会でもあろう。

 そして、⑤については、陰性証明書か免疫パスポートを学校行事への参加条件とするのは、教育を継続するために必要なことであり、全く差別には当たらない。

 配慮が必要な持病については、*6-3-2のように、厚労省はワクチンを接種できない人に「⑥明らかな発熱」「⑦重い急性疾患」「⑧ワクチン成分に対するアナフィラキシーなどの重度の過敏症の経験」などを挙げているが、⑥⑦は当然だが治ってから接種すればよいし、⑧は、米疾病対策センターが、ポリエチレングリコールに重いアレルギー反応を起こした人への接種を推奨していないだけで、そのアナフィラキシーも接種100万回あたり13件が確認されているのみだ。そのため、根拠もなくワクチンにアナフィラキシーを起こしているのは厚労省の方である。

 なお、他に注意が必要な人として、「⑨過去に免疫不全の診断を受けた人」「⑩過去に痙攣を起こした人」「⑪心臓、腎臓、肝臓などに疾患がある人」などを挙げているが、⑨⑩は過去にそうでも現在そうでなければ問題ないし、⑪も疾患の重症度によって異なるため、「注意が必要な人」として指定することでむしろ科学的根拠に基づかない差別を生んでおり、国民のワクチンへのアナフィラキシーを増加させてもいる。そのため、国民に無駄な心配をさせぬよう、(あるのなら)科学的根拠となるデータを速やかに開示すべきだ。

 大学の方は、*6-3-3のように、慶応大学などの全国17大学が、ワクチン接種を職場接種として本格的に始め、今後、大学を拠点とした接種がさらに広がりそうとのことである。対面で授業を受けるにも、イベントを行うにも、帰省するにも必要なことなのだ。それにもかかわらず、「中高生には集団接種を推奨しない」というのは、おかしな話である。

・・参考資料・・
<女性差別>
*1-1-1:https://www.nichibenren.or.jp/document/statement/year/2021/210422.html (日本弁護士連合会会長 荒 中 2021年4月22日) 世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数に対する会長談話
 2021年3月31日、世界経済フォーラム(WEF、本部・ジュネーブ)は、世界各国の男女平等の度合いを指数化した「ジェンダーギャップ指数」を発表した。日本は前回よりも1つ順位を上げたものの156か国中120位と過去2番目に低い順位であり、主要7か国(G7)中最下位で、アジアの主要な国々よりも下位であった。ジェンダーギャップ指数は、女性の地位を、経済、政治、教育、健康の4分野で分析し、ランク付けをしている。例年、経済分野と政治分野が日本の全体順位を下げる要因となっているが、今回、経済分野は117位、政治分野は147位となり、前回から更に順位を下げた。経済分野は、男女間の賃金格差、管理職の男女差、専門職・技術職の男女比のスコアが、前回と同様、いずれも100位以下である。中でも管理職の男女差は139位と前年の131位から順位を下げた。日本政府は女性活躍促進を政策に掲げているが、経済分野でのジェンダー不平等は一向に解消されていない。そして、前回に引き続き、最も深刻な状況にあるのが政治分野である。前回、その前年から19も順位を下げて世界のワースト10に入ったが、今回は更に順位を3つ下げた。国会議員の男女比は140位、閣僚の男女比は126位と低位のままである。このような政治におけるジェンダー不平等は、ジェンダーの視点を欠いた政策につながり、いまだに社会的・経済的に弱者である女性にとって日々の生活に直結する悪影響を及ぼしている。例えば、新型コロナウイルス感染症の拡大による混乱は、雇用環境の悪化、DV(ドメスティックバイオレンス)や児童虐待の増大、母子家庭の一層の貧困化、女性自殺者の急増などをもたらしたが、これらに対する適切な施策がなされず、むしろ、全国の小中学校に対する突然の臨時休校の要請により、事実上育児の大半を担う女性が就業困難な状況に陥ったり、特別給付金の受給権者が世帯主とされたことにより、DV被害者の受給が困難となったりした。また、国連女性差別撤廃委員会からの勧告や国民意識の変化にもかかわらず、選択的夫婦別姓制の導入は遅々として進まない。女性の政治参画は、あらゆる分野における女性の地位向上のための必須条件である。女性の政治参画なくして、個人が尊重され、多様性が確保された社会の実現や、日本の民主主義を発展させることは不可能であり、女性議員数、女性閣僚数を増加させることは喫緊の課題である。日本の現状は、もはや一刻の猶予も許される状況になく、クオータ制の法制化も含めた具体的取組は急務である。当連合会は、日本の置かれている状況を懸念し、ジェンダーギャップ指数に対し毎年談話を発表しているが、状況は依然として改善されない。2021年2月の公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の会長(当時)の発言と、同会長を擁護するかのごとき同組織委員会や公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)の対応は、今なお日本社会に厳然と存在する性に基づく偏見、差別、不平等な取扱いを露呈した。日本社会の男女不平等状態は、国際的な信用さえ失墜させ得るレベルであり、社会の閉塞感にもつながっている。当連合会は、日本政府に対し、日本社会の現状を直視し、個人が性別にかかわらず閉塞感なく生き生きと暮らせる社会を実現するため、職場における男女格差を解消し、女性活躍を更に促進する施策を実施するとともに、女性の政治参画の推進を喫緊の重点課題と位置付け、より実効性ある具体的措置、施策を直ちに講じるよう強く要請する。

*1-1-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/689591 (佐賀新聞 2021.6.10) 女性の政治参画拡大、改正法成立
 政治分野の女性参画拡大を目指す改正推進法は10日の衆院本会議で可決、成立した。女性議員の増加に向けて、セクハラやマタニティーハラスメント(マタハラ)の防止策を国や地方自治体に求める条文を新設。政党や衆参両院に加え、地方議会を新たに男女共同参画の推進主体として明記し、積極的な取り組みを求めた。2018年に制定された推進法は、地方選挙や国政選挙の候補者数を「できる限り男女均等」にするよう各政党に促している。改正法には、女性の立候補を妨げる要因とされるセクハラ、マタハラへの対応が盛り込まれた。国と自治体の責務として、問題発生を防ぐための研修実施や相談体制整備を新たに規定。防止策や問題の「適切な解決」に関し、自主的な取り組みを政党の努力義務として課す。基本原則にも1項を加え、地方議会を含めて推進主体を列挙した。議会を欠席する要件として妊娠や育児を例示し、国や自治体に両立支援の環境整備も求めた。制定当時の付帯決議を踏まえ、超党派で改正案をまとめた。

*1-1-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/107671?rct=life (東京新聞 2021年5月31日) 非正規公務員 新制度から1年 女性たち、苦境改善へ連携 「公共サービスの危機」懸念
 DVや児童虐待の相談業務といった仕事の増加に伴い、増える自治体の非正規公務員。大半は女性で、非正規の地位を安定させようと昨年四月に導入された会計年度任用職員制度によって一層つらい立場に追いやられている。期末手当(ボーナス)の支給対象にはなったが、一年ごとの採用が厳格になったためだ。そうした中、苦境に立つ女性たちが、自ら現状を発信、改善を求めていこうと動き始めた。「気持ちを安定させて働きたいけれど、来年のことを考えると…」。都内の公立学校の図書館で非正規の司書として働く女性(44)は不安げだ。現在働く自治体に採用されたのは十二年前。契約を更新しながら、購入図書の選択や本の整理にとどまらず、子ども一人一人の個性や状況に配慮して接し、図書館が安心できる場になるよう心掛けてきた。若手の教員から授業のテーマに沿った本の相談をされることも。新型コロナウイルス禍の今は、本や館内の消毒が新たな仕事として加わった。図書館の使い方などの指導も、密を避けるため、子どもを少人数に分けて何度も繰り返す必要がある。総務省の二〇二〇年の調査によると、全国の自治体で働く非正規公務員は約六九・四万人。うち九割を会計年度任用職員が占め、さらにその四分の三以上が女性だ。期末手当の支給で、女性の年収は百九十万円から二百三十万円に増えた。一方で、更新はあるが、年度ごとの採用が基本となり、雇用の不安定さは増した。「教員と違う立場で子どもと接し、本を手渡すには経験の積み重ねや継続した関係が大事なのに」。専門性を生かせ、やりがいはあるが、給与は手取りで月約十六万円。「夫と共働きで何とか子育てできるが、司書仲間にはダブルワークをするひとり親もいる」と話す。年度ごとの契約で賃金は低く、昇格もない。三月下旬、当事者がSNSなどで参加を募って開いたオンラインの緊急集会「官製ワーキングプアの女性たち」では、さまざまな仕事に携わる非正規職員が窮状を訴えた。DV対応などに当たる婦人相談員の「コロナ禍で相談が増え、やる気だけでは無理」、ハローワーク職員の「コロナで混乱する中で契約更新があり、理由も分からないまま職場を去らざるを得なかった同僚がいた」など内容は多岐にわたった。「住民サービスに不可欠なエッセンシャルワーカーが、こうした状態にあることを、社会全体が課題としてとらえるべきだ」。非正規公務員の問題に詳しいジャーナリストで和光大名誉教授の竹信三恵子さんは訴える。最近はさらなる経費削減のため、官が担ってきた仕事を民間に委託する例も増加。自治体の非正規職員ではないが、そこにも低待遇の働き手がいる。竹信さんは「相談業務などは、従事する側も利用する側も経済的、精神的に余裕がなく、声をあげにくい人が多い。そのため問題が覆い隠されてきた」と指摘する。こうした流れを変えようと、集会の企画者や参加者らは四月、「公務非正規女性全国ネットワーク(はむねっと)」を結成した。今後は、問題解決に向けた調査や提言に加え、当事者同士の交流や学習会などを進める予定だ。中心メンバーの瀬山紀子さん(46)は「このままでは公共サービスが崩れてしまう。私たち女性がまとまって動くことで、非正規公務員全体の問題を解決したい」と話す。まずは六月四日まで、当事者から現状を聞きとるアンケートをネット上で実施中。既に八百件以上の声が寄せられているという。回答は、ホームページ=「はむねっと 非正規」で検索=から。集計結果は同月中に公表する予定だ。

*1-1-4:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO71693340Z00C21A5CT0000/ (日経新聞 2021年5月10日) 女性の雇用、「L字」課題、出産後、正社員比率低く
 出産や育児で仕事を辞めることで30代を中心に就業率が下がる「M字カーブ」は長年、女性の労働参加が進んでいない象徴とされてきたが、近年は解消が進んでいる。女性活躍の機運の高まりを背景に仕事と育児を両立できる働き方が広がった結果とみられ、2019年には就業者数が初めて3000万人を突破した。新たな課題として浮上したのが「L字カーブ」だ。子育てが一段落した後に再就職しやすくなったとはいえ、非正規雇用が主な受け皿で、女性の正規雇用率は20代後半をピークに右肩下がりで減っていく。最近はコロナの影響も大きい。内閣府の有識者懇談会「選択する未来2.0」は「正社員に加え、短時間勤務の限定正社員など、選択肢を拡大し、出産後の継続就業率を高めることが求められる」と指摘している。

*1-1-5:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14891821.html (朝日新聞 2021年5月3日) (憲法を考える)男女平等の理念、遠い日本 「女性の自立、応援しなかった社会」
 日本国憲法は、「男女平等」を完全に保障した条文をもつ。しかし、新型コロナウイルス禍のもと、制度や社会におけるジェンダー格差が改めて浮き彫りになっている。施行から74年経った今なお、憲法がめざす理念に日本社会が近づけていないのはなぜなのか。緊急事態宣言下の3月半ば。どしゃ降りの雨の中、東京・新宿の区立公園にたてられたテントに女性たちが吸い込まれていく。弁護士や労組関係者らが開いた「女性による女性のための相談会」。コロナで生活に困る女性を対象としたところ、2日間で20~70代の125人が訪れた。
■コロナ禍で顕著
 関東地方に住む40代の女性は、野菜やお菓子、生理用品を受け取った。昨年6月、新型コロナの影響で仕事を失った。派遣で2年近くコールセンターに勤めてきたが、突然契約を打ち切られた。コロナ対策の1人10万円の特別定額給付金は、支給先は世帯主で、別居する親に配られた。中高生の頃から暴力を受けて疎遠になっていた。年末に失業給付が切れ、何も食べられない日もあった。所持金は1万3千円だった。「立場の弱い女性のほうが安定した仕事がなかったり、支援が届かなかったり。コロナはそんな現実を浮き彫りにした」。個人の尊重と幸福追求の権利を定める13条。法の下の平等をうたい性差別を禁じる14条。そして、両性の本質的平等を保障する24条――。憲法は三つの条文によって男女平等を保障する。しかし、雇用における差別は残り、支援制度も世帯単位で作られ、個人に重きが置かれていない。総務省発表では昨年、非正規雇用の働き手は75万人減ったが、うち女性は男性の倍を占めた。厚生労働省によると、昨年の女性の自殺者は7026人。前年より男性の数は減少したが、女性は935人(前年比15・4%)も増えた。
■選んでいいの?
 相談会スタッフ、吉祥(よしざき)真佐緒さんは「相談を受けて痛感したのは、夫婦間や職場で、空気を読んで口答えせず、自分のことは後回しにする生き方を強いられてきた女性が、本当に多いということだった」と話す。吉祥さんは、DV(家庭内暴力)被害者の相談も受けるが、昨春以降に件数は急増した。「自分が好きなものを飲んで」。相談に来た女性にはまず、日本茶やコーヒー、紅茶を選んでもらう。多くの女性が「え、私が選んでいいの?」と戸惑うという。だから、吉祥さんはこう問いかける。「私たちが持つ当たり前の権利ってなんだろう」と。「彼女たちは家の中で娘として妻として嫁として役割を背負わされてきた。自分にも権利があると考えられる人が多くないのは、女性の自立を応援してこなかった国の、社会の責任ではないか」

*1-2-1:https://news.yahoo.co.jp/articles/aa55ec861ba9ef03e6ad714d3df5127d3b1dd3cb (Yahoo、毎日新聞 2021/5/26) 都立高入試、男女の合格ラインで最大243点差 8割で女子が高く
 東京都立高校の普通科の一般入試は、募集定員を男女に分けて設定しているため性別によって合格ラインが異なる。都教委は毎年30~40校を対象に是正措置を講じているものの、2015~20年に実施した入試では、対象校の約8割で女子の合格ラインが最終的に高かったことが、都教委の内部資料で判明した。1000点満点で最大243点上回るケースや、男子の合格最低点を上回った女子20人が不合格とされた事例もあった。毎日新聞の調べでは、都立高は全国の都道府県立高校で唯一、男女別の定員があり、各校とも都内の公立中学の卒業生の男女比に応じて決まる。合否は中学校が提出する内申点(300点満点)と、国数英理社の筆記試験(700点満点)の合計で決めるが、合格ラインは男女で異なる。著しい格差を防ぐため、都教委は1998年の入試から、特に差が大きい傾向にある高校を対象に是正措置を行っている。定員の9割までは男女別に合否を判定し、残り1割は男女合同の順位で合格者を決めるもので、近年は普通科高校(約110校)のうち30~40校程度で実施している。都教委はその効果を確認するため合格ラインの変化を毎年調査している。毎日新聞が調査結果の資料などの情報公開を求めたところ、都教委は今年3月、15~20年入試の是正措置の対象校(延べ199校)の回答用紙について、校名の特定につながる情報を伏せる形で開示した。このうち無回答や明らかに誤記と考えられるものを除く184校の男女差を毎日新聞が分析した。是正前は約9割の170校で女子の合格最低点が高く、男子との差は、①100点以上=27校②50~99点=41校③40~49点=31校④30~39点=27校⑤20~29点=26校⑥10~19点=8校⑦9点以下=10校。最大で女子の方が426点高い学校もあった。残り1割は男女が同水準か、男子の合格最低点の方が高かった。是正後も約8割の153校で女子が上回った。男子との差は、①5校②14校③5校④13校⑤34校⑥36校⑦46校と全体的に縮小したものの、それでも最大で243点の差がみられるなど是正につながっていないケースもあった。毎日新聞は、是正措置を講じていない高校の男女別の合格最低点についても情報公開請求したが、都教委は「学校の順位付けが可能となり、競争が助長される」などとして不開示にした。男女で合格ラインに差がある現状について、都教委の担当者は「入試が男女別であることは周知しているので、受験生は合格ラインが異なることを理解した上で受けているはずだ」と制度自体に問題はないとの認識だが、「現在の是正措置が完璧ではないことは認識している。世の中の情勢に合わせて改善策を考えていきたい」と話した。文部科学省は「一般論としては、合理的な理由なく性別によって異なる扱いを受けるのは望ましくない」としつつ、「男女別定員制は東京都が『合理的』と判断して採用しているものと考えている」と静観する。
   ◇
 今回明らかになった東京都立高校の合格ラインの男女差を含め、入試を巡るジェンダー問題について、ご意見を募集します。毎日新聞東京社会部(t.shakaibu@mainichi.co.jp)まで。

*1-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210605&ng=DGKKZO72585360U1A600C2MY5000 (日経新聞 2021.6.5) 実力も運のうち 能力主義は正義か? マイケル・サンデル著 成功は努力の結果ではない 《評》東京大学教授 宇野重規
 『これからの「正義」の話をしよう』や『ハーバード白熱教室』で知られるマイケル・サンデルの新著である。現代社会に広がる能力主義の支配に対して問題を提起し、「機会の平等」を超えた共通善の実現を目指すサンデルの議論は、そこであげられている数々の事例の豊富さもあって読むものを飽きさせない。読んでいて、思い起こしたのは一昨年の東京大学入学式における、上野千鶴子名誉教授による祝辞である。その祝辞はいささか型破りのものであった。入学者に対する単なる祝辞にとどまらず、入学者における女性比率の低さや、女子学生の入りにくさに対する厳しい指摘を含むものであった。さらに入学者が、自分ががんばったから報われたと思っているとすれば、そう思えること自体が、「あなたがたの努力の成果ではなく、環境のおかげだった」という発言は大きな波紋を呼んだ。入学者の努力自体は否定していない上野氏に対し、サンデルはよりストレートである。ハーバードの学生における「自分の成功は、自分の手柄、努力の当然の結果」とする能力主義的な信念の拡大に警鐘を鳴らすサンデルは、入学を手助けした親や教師の存在を指摘し、さらにはそもそもの才能や素質すら本人の功績とは言い切れないと強調する。大切なのは感謝と謙虚さであり、社会の共通善に対する貢献であると説く。それでも現実には、能力主義の信念に歯止めがかからない。格差が拡大する中、成功者はどうしてもそれを自分の努力の結果と思いたがるし、貧困に苦しむものは、単なる経済的苦境のみならず、道徳的な屈辱と怒りに苛(さいな)まれる。難しいのは左派やリベラル派にも、この信念が見られることである。米国のオバマ元大統領もまた、「努力が報われるのが米国」と繰り返した。逆にトランプ大統領は、「才能と努力の許すかぎり出世できる」とはあまり言わなかったという対比は面白い。現実の米国の社会的流動性は低く、金持ちやエリートの世襲の貴族社会が能力主義の名の下に固定化しているとサンデルは指摘する。その批判の鋭さを思うと、処方箋があまり明確ではないことが惜しまれるが、それだけ問題が難しいということだろう。

*1-3-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA034E00T00C21A6000000/ (日経新聞 2021年6月3日) 迫る少子化危機、育児支援急ぐ世界 持続成長のカギ
 世界各国・地域が少子化対策・育児支援策の拡充を急いでいる。日本では3日、衆院本会議で男性が育児休業をとりやすくする改正育児・介護休業法が可決、成立した。米国でもバイデン政権が10年間で1.8兆㌦規模(約198兆円)を投じる対策を打ち出した。背景には新型コロナウイルス危機が加速させた世界的な出生数の減少がある。子育て環境の整備に加えて、出産への経済的な不安を和らげる対策が肝となる。3日に成立した改正育児・介護休業法は従来の育児休業制度に加えて、男性は子の誕生後8週間まで、最大4週間の育児休業を取れるようにする。業務を理由に育休取得に二の足を踏む男性も多いため、改正法では労使の合意があれば育休中もスポットで就労できる仕組みも盛り込んだ。休業の申し出も従来は1カ月前までに必要だったが、2週間前までに短縮した。機動的に取得できる仕組みに目を配った。厚生労働省がまとめている妊娠届などを基に推計すると、21年の出生数は80万人を割り込む可能性が高い。16年に100万人を割り込んでから約5年で年間20万人程度も新生児が減る。出生率の低下は将来の労働力の減少などを通じて中長期の経済成長力を押し下げる。第一生命経済研究所の星野卓也氏が人口の推移などを基に試算したところ、30年代後半に日本は潜在成長率が0.2%程度のマイナスになる。「出生数の急減が続いて少子高齢化が加速すれば、40年代以降も成長率が低迷を続ける可能性がある」と指摘する。今回成立した改正法はあくまで男性の育児参加を促す環境づくりがメーンで、財政支援なども繰り出して国を挙げて支援する海外の各国・地域との差は大きい。バイデン政権が打ち出した少子化対策「米国家族計画」に盛り込まれた対策は幅広い。子育て世帯の生活を支援するため、最長で12週間取れる有給の家族・医療休暇などを提供。低中所得層の家庭へのチャイルドケアの公的支援も増やす。子育て世帯への税額控除を使った実質手当の給付も拡大する。21年に限って導入した同制度では子ども1人につき年最大3000ドル(6~17歳の場合)を給付するとしていたが、これを5年間延長する。教育ではすべての3・4歳児への無償の幼児教育の提供や2年間のコミュニティーカレッジの無償化、中低所得者向けの児童保育の補助やマイノリティー向け奨学金の拡大などをメニューに並べた。米疾病対策センター(CDC)によると20年の米国の出生数は前年比4%減の約360万5000人だった。早めの対策で少子化が少子化を招く負の連鎖を防ぐ。フランスも少子化対策を強化する。7月から男性の育児休暇を従来の14日から28日に延ばす。会社側は最低でも7日分の取得を認める必要がある。男性の育休は子どもの生後4カ月以内に1度で取る必要があったが、生誕後6カ月で2回に分けて取得できるようにもする。日本以上に少子化が深刻な韓国も22年度からは出産時に200万ウォン(約20万円)のバウチャー(サービス利用券)を支給する計画など、財政出動もからめた支援強化を急ぐ。産児制限を40年以上続けてきた中国も少子化から目を背けられなくなっている。5月末には1組の夫婦に3人目の出産を認める方針を示した。出産にからむ休暇や保険も整える。ニッセイ基礎研究所の調査で、コロナ禍で将来的に持ちたい子どもの数が減った40歳以下の回答者が挙げた理由で最も多かったのは「子育てへの経済的な不安」だった。少子化に対抗するには、育児休暇をとりやすくするなど今回の改正法のような子育て環境の支援に加えて、出産や結婚をちゅうちょさせるような経済不安を和らげる必要もある。政府の子育て関連支出を国内総生産(GDP)比でみると日本は1%台で、欧州諸国の3%台を下回る。省庁横断で取り組む「子ども庁」創設論議が本格化するが、財政支援も含めた少子化対策に各国・地域が本腰を入れるなか、後手に回ればコロナ後の世界経済で存在感を失うリスクをはらむ。

*1-3-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA043NS0U1A600C2000000/?n_cid=BMSR3P001_202106041436 (日経新聞 2021年6月4日) 20年出生率1.34、5年連続低下 13年ぶり低水準
 厚生労働省が4日発表した2020年の人口動態統計によると、1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率は1.34だった。前年から0.02ポイント下がり、5年連続の低下となった。07年(1.34)以来の低水準となっており、新型コロナウイルス禍の影響も重なり21年には一段と低下する可能性が高い。出生率は団塊ジュニア世代が出産適齢期に入ったことを背景に、05年の1.26を底に緩やかに上昇し15年には1.45となった。その後、晩婚化や育児と仕事の両立の難しさなどが影響し、再び低下基調にある。20年の出生率を女性の年代別にみると20代以下の低下が目立つ。最も出生率が高かったのは30~34歳で、0.0002ポイント前年を上回った。40歳以上の出生率もわずかに伸びたものの、全体として20代以下の落ち込みを補うことはできなかった。20年に生まれた子どもの数(出生数)は過去最少の84万832人で、前年から2.8%減った。婚姻件数は12%減の52万5490件となり、戦後最少を更新。コロナ禍による経済不安や出会いの機会の減少などで、若い世代が結婚に踏み切りにくくなっている。厚労省がまとめている妊娠届の減少などをもとに日本総合研究所の藤波匠・上席主任研究員が試算したところ「21年の出生数は80万人割れの可能性が高い」という。20年の死亡者数は137万2648人となり、前年から8445人少なくなった。高齢化で死亡者数は増加基調が続いていたが、前年の水準を割り込むのは11年ぶり。死因別ではコロナで3466人が亡くなる一方、肺炎で亡くなる人が前年より1万7073人少なくなった。手洗いやマスク着用、接触機会の減少などコロナの感染対策が他の感染症などによる死者数を減らしたとみられる。死亡者数から出生数を引いた自然減は53万1816人と過去最大の減少となった。

*1-3-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/689885 (佐賀新聞 2021年6月11日) 出生数最少84万人、急減の流れを止めたい
 2020年生まれの赤ちゃんは統計開始以降最少の84万832人となった。女性1人が生涯に産む子どもの推定人数「合計特殊出生率」は1・34。婚姻件数も52万5490組と戦後最少だった。新型コロナウイルス流行で結婚、妊娠を避ける男女が増え少子化が加速。21年の出生数は従来推計より10年早く70万人台に落ちることが濃厚だ。このままだと将来の働き手減少、社会保障の担い手不足がさらに深刻となる。近隣アジア諸国も同じ状況に危機感を強める。この流れを止めるため、政府、自治体は子どもを産み育てやすい環境を早急に整える政策を具体化しなければならない。コロナ禍で母子への感染不安が高まり、立ち会い出産、里帰り出産も難しくなった。行政側は相談態勢強化、里帰りできない人の育児支援、さらには妊婦が感染の不安なく通院でき、感染した場合でも十分なケアの下で出産できる医療体制整備に一層力を注ぐべきだ。雇用情勢悪化による解雇や給料カットで経済的余裕を失ったカップルが多いことも出生数減少に響いている。今彼らを支えなければワクチン接種が進んでも出生数回復が難しくなる。政府は困窮世帯に3カ月で最大30万円の支給などを行うが、結婚や出産を後押しする観点での新たな支援に乗り出すべきではないか。父親の家事育児参加を促すため、子どもが生まれて8週間以内に計4週分休みを取れるようにする「男性版産休」を盛り込んだ改正育児・介護休業法が成立した。こうした基本的な子育て環境の整備も官民一体で引き続き推進する必要がある。出生数最多は第1次ベビーブームの1949年の269万人超。71~74年の第2次ブームも年200万人を超えた。その後減少し2019年に初めて90万人を割り込み、第1次ブーム当時の3分の1程度に落ち込んだ。移民など国境を越えた人の移動を除けば国の人口増減は出生数と死亡数で決まる。近代以降、母子の栄養、健康状態が改善し乳児死亡率が下がった。そうなれば昔のように子どもを多く産む動機が薄れる。医学の進歩で平均寿命は大きく延びた。感染症流行という突発要因がなくても、こうした「文明の発展」に連れ人口構造が「多産多死」から「少産少死」へ変化する大きな流れにはあらがえない。が、何とかその進行速度は抑えたい。一足早く人口減少期に入った日本のみならず中国、韓国も思いは同じだろう。コロナ禍に見舞われた20年の中国の合計特殊出生率は1・3と日本を下回り、共産党は16年の「一人っ子政策」廃止に続き第3子まで容認する方針を決めた。韓国も20年の出生数が前年比10%減で初めて人口が自然減になった。出生率は0・84と極端に低い。少子化は東アジア全域で加速している。少子高齢化がピークに近づく40年ごろの日本は、ただでさえ不足する就業者の5人に1人が医療・福祉の仕事に取られる社会となることが予想される。それに向け日本政府は、国内の介護事業の要員にアジア諸国からの技能実習生を呼び込む。一方、アジアの高齢化をビジネスの好機と捉え日本式介護事業を輸出する構想も進む。各国の少子化は東南アジア諸国も巻き込む人材争奪を呼び日本の高齢者介護を揺るがしかねない。出生数急減を何とか乗り越えたい。

*1-3-4:https://digital.asahi.com/articles/ASP697453P69ULFA010.html?iref=comtop_7_06 (朝日新聞 2021年6月9日) 脱炭素など4分野重視、財政目標見直しに含み 骨太原案
 政府は9日の経済財政諮問会議で、今年の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」の原案を公表した。グリーン(脱炭素)、デジタル化、地方創生、子育て支援の4分野に予算を重点配分する方針を明記。2025年度に国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)の黒字化をめざす財政再建目標は、今年度内にコロナ禍の影響を踏まえて検証するとし、目標時期の見直しに含みを持たせた。骨太の方針は、政府の経済財政運営や来年度予算案の基本となる。昨年9月に発足した菅政権としては初めての方針で、与党などとの調整を経て、6月中旬に閣議決定する予定だ。原案によると、重点4分野のうち、政権がめざす脱炭素化に向けては、2兆円規模の基金や優遇税制などで企業の投資を後押し。炭素を出さない電気自動車や燃料電池車の普及を進める。再生可能エネルギーの主力電源化にも「最優先の原則」で取り組むとした。デジタル化では、9月に発足するデジタル庁を中心に行政手続きのオンライン化を5年以内に進める一方、マイナンバーカードの健康保険証や運転免許証との一体化などでカードの普及を加速させるとした。子育て支援では、児童手当などの既存の施策を総点検し、具体的な評価指標を定めた「包括的な政策パッケージ」を年内につくるとした。与党内で浮上する「子ども庁」については、子どもの問題に対応する行政組織を創設するため、「早急に検討に着手する」と記すにとどめた。地方関連では、都市との賃金格差を埋めるため、菅首相がこだわる最低賃金の引き上げについて、「より早期に全国加重平均1千円とすることを目指し、本年の引き上げに取り組む」と書き込んだ。財政再建については、25年度のPB黒字化をめざす目標を「堅持する」と記し、22~24年度も、社会保障費の伸びをその年の高齢化による範囲におさえるなどの歳出抑制を続けるとした。しかし、目標については、コロナ禍による経済や財政への影響を今年度内に検証し、その結果を踏まえて「目標年度を再確認する」としている。巨額のコロナ対策で財政悪化は加速しており、検証の結果次第では、目標時期が先送りされる可能性もある。
●「骨太の方針」原案の主なポイント
〈グリーン〉
・再生可能エネルギーを最優先し、最大限の導入を促す
・成長に資するカーボンプライシングはちゅうちょなく取り組む
・電気自動車や燃料電池車の普及を促進
〈デジタル化〉
・行政手続きの大部分を5年以内にオンライン化
・22年度末までにマイナンバーカードをほぼ全国民に
〈地方創生〉
・都市部と地方の二地域居住・多拠点居住を促進
・最低賃金はより早期に全国加重平均千円を目指し、本年の引き上げに取り組む
〈子育て支援〉
・包括的な政策パッケージを年内に策定
・子どもの課題に対応する行政組織創設の検討に着手
〈コロナ対策〉
・緊急時対応はより強力な体制と司令塔の下で推進
・感染症有事の体制強化で、法的措置を速やかに検討
〈財政〉
・25年度の基礎的財政収支黒字化目標を堅持。年度内にコロナ禍の影響を検証し、目標年度を再確認
・社会保障費の伸びをおさえる歳出抑制策などを22~24年度も続ける
・歳入面での応能負担を強化する
〈その他〉
・経済安全保障の取り組みを強化

*1-3-5:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC06D5C0W1A400C2000000/ (日経新聞 2021年6月10日) 世界でホットな地熱発電 出遅れ日本も「地殻変動」
 脱炭素の流れを受け、世界で地熱発電が盛り上がっている。再生可能エネルギーの中でも、太陽光や風力のように天候に左右されない安定性が評価され、発電容量は10年で4割増えた。世界3位の潜在量を持ちながら原子力優先で出遅れた日本も、政府が2030年に発電所を倍増させる方針を掲げ、にわかに「地殻変動」が起きている。
●地熱発電所、2030年に倍増
「地熱は稼働までの期間が長いが(温暖化ガスの排出量を13年度比で46%減らす30年度に)間に合わせたい。環境省も自ら率先して行動する」。小泉進次郎環境相が4月下旬に開発加速を宣言した地熱発電。6月1日には、河野太郎規制改革相が30年に地熱発電施設を倍増する目標を掲げ、脱炭素電源の有力な選択肢として浮上してきた。地熱発電は地下から150度を超す蒸気や熱水を取り出してタービンを回し発電する。昼夜ほぼ一定の出力で発電でき、再生エネ電源の中で安定性は群を抜く。設備利用率は70%強と太陽光、風力の10~20%程度をはるかに上回る。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、20年末の発電容量は1400万キロワットを超え、10年で約4割増えた。直近5年で伸びが著しいのがトルコだ。00年代から政府系の地質調査所が資源量の調査を進め、国策として事業者の参入を促した。英BPなどによると、10年時点で9万キロワットだった発電容量は20年に154万キロワットへ急増した。東アフリカのケニアでも、発電容量が119万キロワットと過去10年で6倍に増えた。国際エネルギー機関(IEA)統計などによると同国の発電容量の半分近くを占める。干ばつで発電量が安定しづらい水力発電所の代替手段として地熱発電が盛んだ。地熱のエネルギー源は地下のマグマの熱で、資源量が多いのは環太平洋火山帯に位置する地域と、アフリカの一部地域やアイスランドなどとなっている。潜在する資源量は米国が3000万キロワットと首位に立ち、インドネシア、日本が続く。世界3位の日本は潜在する資源量2340万キロワットに対し、実際の発電導入量は20年時点で55万キロワットにとどまる。10年前からほぼ横ばいだ。米国やインドネシアが事業者への税制優遇や政府支援などで、20年の導入量をそれぞれ10年比12%増の370万キロワット、同92%増の228万キロワットまで伸ばしたのとは対照的だ。
●日本の開発コスト高く
 日本市場が低調な理由はいくつかある。まず、開発コストの高さが挙げられる。西日本技術開発(福岡市)の金子正彦・特別参与が経済協力開発機構(OECD)の資料などで調べたところ、日本は地熱発電所を建設してから稼働を終えるまでに1キロワット時当たり税抜き10~18円の費用がかかる。これに対し米国は5~9円、ニュージーランドは3~5円と低い。山間部が多い日本は平地主体の海外と比べ工事費が膨らみがちだ。掘削技術や大型の重機をもつ企業も限られる。地熱開発は油田と同じで掘ってみないと正確な資源量が分からない。国内では資源量の調査から稼働まで、平均15年近くかかる。実際の成功率は3割程度といわれ、1本に5億円強かかる井戸を当てるまで複数、掘り続ける必要がある。こうした事業リスクをのんで長期投資できるような民間企業はごく一部に限られる。石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の安川香澄・特命審議役は「ある程度まで地熱開発が進んで民間任せになった途端、開発が止まるのはよくあるケース」と指摘する。地熱開発には国の後押しが不可欠なのだ。国内ではオイルショックの起きた1970年代から地熱開発の機運が盛り上がったが、90年代に入ると原発政策に押されて勢いを失った。これが2つ目の理由だ。出力1万キロワットを超す地熱発電所の新設は96年稼働の滝上発電所(大分県九重町)を最後に冬の時代に突入。19年の山葵沢発電所(秋田県湯沢市)まで23年間なかった。業界関係者からは「塩漬けの20年」などと呼ばれる。
●タービンの世界シェア6割
 国内市場が低調な半面、日本企業の技術は世界で求められている。地熱発電用タービンでは、東芝や三菱重工業など日本勢の世界シェアが6割強に達する。「この数年でインドネシアや東アフリカからの引き合いが強まった」と話すのは東芝エネルギーシステムズ海外営業戦略部の川崎博久氏。同社は建設中の発電所を含めて米国やケニアなど11カ国でタービンを納入した。海外メーカーと比べ出力が低下しづらく、長期の使用にも耐えられる点が特長だ。低い温度でも1000キロワットから発電できる小型地熱発電を商品化するなど、この分野では世界の先頭を走る。三菱重工も13カ国にタービンを納入し、特にアイスランドではシェアが55%に達している。同国は地熱発電所の温排水を利用した温泉リゾート「ブルーラグーン」で知られ、自国の電力を全て再生エネでまかなう。三菱重工は地熱開発の初期段階で国営電力と取引が生まれ、その後の連続受注に繫がった。設備の設計や調達、建設まで一括で請け負う点も評価されている。商社も海外企業とEPC(設計・調達・建設)契約を結び、海外でノウハウをためる。豊田通商は現代エンジニアリングと共同で世界最大規模のケニア・オルカリア地熱発電所(最大出力28万キロワット)を受注した。伊藤忠商事と九州電力はインドネシア・サルーラ地区の地熱プロジェクトに開発段階から参加。18年までに3基が稼働し、総出力は33万キロワットにのぼる。脱炭素の流れを受け、日本でも地熱発電は見直されつつある。北海道では環境省が15年に国立・国定公園の「第1種特別地域」の地下で域外から斜めに穴を掘って開発できるよう規制を緩和し、企業の進出構想が相次ぐ。22年に北海道函館市でオリックスが道内40年ぶりとなる大型地熱発電所を稼働。出光興産がINPEXと組んで北海道赤井川村で計画中の地熱発電所は、国内最大級の出力との観測もある。小泉環境相は関係法令の運用見直しなどで、地熱発電の稼働にかかる時間を最短8年まで縮める方針も明らかにした。技術もポテンシャルもあるのに、導入量は低調――。そんな状況を覆す素地が整いつつある。

*1-3-6:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/690450 (佐賀新聞 2021年6月12日) 全国知事会議、コロナ後の地方像を
 今後1年の活動方針を決める全国知事会議が新型コロナウイルス感染症の流行のため2年連続オンライン方式で開かれた。「新型コロナ感染抑制に向けた行動宣言」「ポストコロナに向けた日本再生宣言」などがまとめられたように、コロナ対策が議論の柱となった。会議では多くの知事が、10月から11月にかけ必要な国民のワクチン接種を全て終えるとの菅義偉首相の目標に対し意見を述べている。いつどの種類のワクチンが自治体に供給されるのか早急にスケジュールを示すべきだと強く求めた。さらに千人以上の大企業などから始める職場接種には、地方の中小企業が置き去りにされるとの批判もあった。迅速な接種には、自治体が発送する接種券の有無をどうするかも含めて、地元に接種体制を任せる柔軟な対応が必要ではないか。第5波の可能性、特に感染力が強いデルタ株(インドで確認された変異株の一つ)流行への懸念も強く示された。国の検査体制の充実を求める声が出たのも当然と言える。知事らもワクチンがコロナとの闘い方を大きく変える「ゲームチェンジャー」と認識する。だが、国からのワクチン供給の見通しが立ちにくく、都道府県や市区町村は、態勢づくりに苦労してきた。菅氏が4月に高齢者の接種を「7月末をめどに終了」と表明してからは、達成するよう国から強い圧力を受けている。国と地方の関係は対等ではなく、昔の上意下達に戻った雰囲気である。会議では「まん延防止等重点措置」の適用を知事が要請して政府が決定するまで時間がかかり過ぎるとして、手続きの簡素化を求める意見もあった。緊急事態宣言の対策では、自治体が選べるよう求める声もあった。感染の状況を分かっている自治体が、自ら対策を組み立てられるよう自由度を上げるべきである。病床の逼迫(ひっぱく)に備えて、都道府県境を越え広域搬送する仕組みをつくるべきだとの提案もあった。これらの実現に関係法の改正が必要であれば、今国会を延長してでも国は迅速に対応してほしい。本来なら昨年のうちにコロナ対策や迅速な接種の在り方を広く議論し、必要な態勢を整えておくべきだった。それを政府は怠った。対策に国の戦略性が乏しいのもそのためだ。感染症と最前線で向き合う医療関係者や自治体が、つけを払わされていると指摘できる。コロナ禍は、給付金の支給やワクチン接種での「行政のデジタル化の遅れ」を浮き彫りにし、地域経済を支える飲食や観光、交通などの事業者に大きく影響した。今後の地方活性化の方向性として知事会は、デジタル化を進めるとともに、第5世代(5G)移動通信システムに対応する通信網を基礎的なインフラとして全国普及させるよう提言した。オンラインでの診療や遠隔手術も可能となり都市との医療格差も縮小する。リモートワークの普及にもつながると期待したい。2050年に脱炭素社会を実現するには、再生可能エネルギーの普及が不可欠である。土地や風、バイオマスなどが多い地方には有利だ。知事会が提案する「新次元の分散型国土」を創出するチャンスである。国の地方創生策に手詰まり感があるだけに、コロナ後の国土の在り方、地方重視の国土政策を地方から打ち出すべきである。

*1-3-7:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14937001.html (朝日新聞 2021年6月12日) 64歳以下の接種、誰を優先 各自治体、独自で判断 高齢から順番・20~30代・職種別 コロナワクチン
 新型コロナウイルスワクチンについて、1回目の接種を終えた65歳以上の高齢者らが3割となる中、「64歳以下」への接種に乗り出す市区町村が目立ち始めた。感染拡大を防ぎ、接種ペースを加速させるため、市区町村ごとに独自に優先対象枠を設定する動きも広がっている。ワクチン接種について、政府は当初、供給量が限られることなどから、(1)医療従事者ら(2)高齢者(3)基礎疾患のある人、高齢者施設などで働く人、60~64歳の人などと順番を決めていた。だが、ワクチン供給が本格化した5月以降、方針を修正。64歳以下の接種は各市区町村に判断を委ねることとした。各市区町村がこれまで明らかにしている方針をみると、政府が当初示した通りの60~64歳や、教育関係者を対象とするところが目立つ。一方で、独自の優先対象枠を設けるところも。大まかに分類すると、「年代」と「職種」に分かれている。例えば東京都新宿区では、59歳以下の集団接種については20~30代の予約を優先するとしている。都内では7日までの1週間の新規感染者のうち、20~30代が5割近くを占める。こうした状況を踏まえ、新宿区は行動範囲が広く比較的症状が出にくいとされる20~30代にいち早く接種することで、他の世代への感染を防ぐ狙いだ。一方、夏の観光シーズンを前に、沖縄県では観光業界に携わる人を対象とする動きも。沖縄本島北の2島からなる伊平屋(いへや)村では、宿泊業やダイビングショップ、飲食店従業員、島外との唯一の交通手段であるフェリーの船員らの優先接種を始めた。村の担当者は「小さな島の中でも行動範囲が広く、多くの人に触れあう可能性がある人に先に接種してもらうことにした」と説明する。
■1日100万回、急ぐ政権
 政府が64歳以下にも対象を拡大するのは、菅義偉首相が掲げる「1日100万回接種」を、できるだけ早く実現させたいからだ。官邸幹部の一人は「ワクチン接種が進めば、なんとなく政権に好感が持たれる。五輪への雰囲気も徐々に変わってくる」と期待する。「7月末までに高齢者接種を終わらせる」「10月から11月にかけて、必要な国民、希望する方、すべて(の接種)を終える」。首相自らがこうした具体的な目標を掲げることで、コロナ対策が進んでいることを国民にアピールするとともに、自治体などの接種現場を動かす「圧力」とする狙いがある。さらに一般の人も対象にした企業や学校などでの「職域接種」は21日からで、先に準備が整った企業では来週にも始まる。予約に空きの目立つ自衛隊による大規模接種センターについては、対象年齢を64歳以下に引き下げることを検討する。接種機会の公平性をどう担保するかなどの課題も多いなか、政府関係者はこう説明する。「自治体ごとに差が生じるとの意見はあるが、できるだけ早く接種を進めるということこそが、一番大事だ」

<年齢差別>
*2-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODZ202BP0Q1A320C2000000/?n_cid=NMAIL006_20210419_Y (日経新聞 2021年4月19日) YKK、正社員の定年廃止 生涯現役時代に企業が備え
 日本企業が「生涯現役時代」への備えを急いでいる。YKKグループは正社員の定年を廃止。ダイキン工業は希望者全員が70歳まで働き続けられる制度を始めた。企業は4月から、70歳までのシニア雇用の確保が求められるようになった。少子高齢化に歯止めがかからず人手不足が続く中、企業がシニアの意欲と生産性を高める人事制度の整備に本格的に乗り出した。YKKは4月、国内事業会社で従来の65歳定年制を廃止し、本人が希望すれば何歳までも正社員として働けるようにした。同社は職場での役割に応じて給与が決まる役割給を採用している。今後は会社が同じ役割を果たせると判断すれば、65歳以上でも以前の給与水準を維持できるようにした。「従来も年齢だけを理由に処遇を変えたり、退職させたりするのは公正でないという考えが強かった」と同社幹部は説明する。同社は今後5年間で約800人が従来定年の65歳に到達する見通しだった。その大半が正社員としての雇用継続を希望するとみられる。定年廃止による新規の採用抑制はしない。人件費が増える可能性があるが、人手不足の中、熟練技能者などシニア活用のメリットは大きいと判断した。三谷産業も21年4月から再雇用の年齢上限をなくし、65歳以上は1年ごとの更新制とした。再雇用者になかった昇給制度も設ける。専門知識や人脈を生かし、社内外の技術指導や営業先の開拓など本業以外の仕事で貢献した場合、別途報酬を支払う「出来高払いオプション制度」も新設した。実力あるシニアが現役に近い報酬を得られるようにする。ダイキンの定年は60歳で従来は65歳まで希望者を再雇用していた。今回、再雇用の期間を5年延長した。原則一律だった再雇用者の賞与も成果に応じて4つの段階を設け、最大1.6倍の差がつくようにした。シニアの働く意欲を引き出す。三菱ケミカルも22年4月、現在60歳の定年を65歳に引き上げる。将来の定年廃止も検討している。給与制度は能力・経験に基づく職能給と、仕事の成果・役割に基づく職務給で構成していたが、21年4月から職務給に一本化した。各社が対応を急ぐ背景には21年4月に施行された改正高年齢者雇用安定法がある。従来制度で企業は従業員が希望する限り65歳まで雇用を継続する義務があるが、法改正で70歳まで就業機会確保の努力義務が課された。年金の支給開始年齢が段階的に引き上げられるなか、所得の空白期間をなくすための措置だ。大半の企業は再雇用期間の単純延長などで対応するが、多くは現役時代に比べて2~5割程度給与が下がる。シニアのやる気と生産性の低下が課題だ。定年を廃止する企業は、成果に応じた賃金制度を導入するなどして給与の減少を一定程度にとどめる。企業がシニアに期待する役割はさまざまだ。20年10月に60歳定年を廃止したシステム開発のサイオスグループは、IT(情報技術)人材が不足するなか、案件遂行で経験豊富な中高年の技術者取り込みを狙う。成果に応じた評価をシニアでも徹底する。製造業では生産管理部門などでベテラン技術者のニーズがある。一方、専門性のない一般管理職などはシニアのニーズは少ない。三谷産業などは、新たな再雇用制度の開始に合わせ、全社員にキャリア面談を義務付け、定年後を見据えたスキル習得を支援する。定年は世界では一般的でない。米国や英国などは年齢を理由とする解雇は禁止・制限されている。一方、厚生労働省の20年の調査では国内で定年のない企業は2.7%にとどまる。日本の賃金は年功色が強く解雇規制も厳格なため、単純に定年を延長・廃止すれば、人件費増加に歯止めがかからなくなる。みずほリサーチ&テクノロジーズが再雇用などで70歳まで働く人が増えた場合の影響額を20年に試算したところ、65~69歳の従業員にかかる企業の人件費は30年時点で19年比6%増の5.5兆円に、40年時点で同29%増の6.7兆円に増える。定年を廃止する場合、高齢になり職務を十分に果たせなくなったシニアを解雇する仕組みも必要になる。話し合いを通じた双方の合意で契約を終える形を想定している企業が多いが、合意に至らないケースも考えられるからだ。金銭補償などを伴う解雇ルールの策定も求められる。

*2-1-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14894047.html (朝日新聞 2021年5月5日) 70歳まで働く機会、中小の対応まだ3割 コロナ禍、人件費増も重荷
 70歳まで働く機会の確保を企業の努力義務と定める改正高年齢者雇用安定法が4月に施行されたのを受けて、日本商工会議所が中小企業に対応を聞いたところ、必要な対応を講じているのは約3割にとどまることがわかった。新型コロナウイルスの感染拡大で企業の業績悪化が目立つ中、人件費の負担増につながる施策の導入は難しい。中小企業にとって、法改正への対応はハードルが高いことがうかがえる。日商が4月14~20日に全国の会員企業2752社を対象に調査し、76.2%から回答を得た。4月30日に発表した調査結果によると、「必要な対応を講じている」企業が32.6%あった一方、「具体的な対応はできていない」は31.9%。「具体的な対応を準備・検討中」は10.6%だった。日商は「就業規則や労働環境の整備も必要で、コロナ禍で対応が遅れた面もあるのでは」(産業政策第二部)とみている。必要な対応を講じている企業の具体策(複数回答)は、70歳までの継続雇用制度の導入(65.8%)、定年制の廃止(20.2%)の順に多かった。「対象の社員がいない」「対象の社員はいるが、努力義務である」ことを理由に「対応予定はない」と答えた企業も計24.9%にのぼった。「専門職の技術者の再雇用には同一労働同一賃金の対応が課題で、なかなか検討が進まない」との声もあったという。日商は30日、4月から中小企業に適用された「同一労働同一賃金」への対応について、適用直前の2月に実施した調査結果も発表した。回答のあった全国の中小企業約3千社のうち、「対象になりそうな非正規社員がいる」のは445社。このうち「対応のめどがついている」のは56.2%にとどまった。昨年2~3月の前回調査より9.5ポイント増えたが、対応が遅れている企業も多い。

*2-2-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/747686/ (西日本新聞社説 2021/6/1) 高齢医療負担増 公平で持続可能な制度に 急速に進む社会の高齢化に対応するため、全ての世代に公平で、持続可能な医療保険制度の構築を急がねばならない。75歳以上の後期高齢者で一定収入がある人を対象に、医療費の窓口負担を1割から2割に引き上げる医療制度改革関連法案の参院審議が大詰めを迎えている。今国会で成立の見通しだ。年収が単身で200万円、夫婦世帯で計320万円以上の約370万人に、2022年度後半から新たな負担が加わる。現役世代並みの所得がある人は既に3割負担になっている。年収には年金も含まれ、負担増は後期高齢者の約2割に当たる。改革の眼目は現役世代の負担軽減だ。後期高齢者の医療費のうち自己負担分を除く約4割は現役世代の保険料から支援金という形で賄われている。本年度は総額6兆8千億円(1人当たり6万4千円)に上る。このままでは団塊の世代が全て後期高齢者となる25年度の支援金は8兆1千億円(同8万円)に達すると厚生労働省は試算する。法案審議でも現役世代の負担軽減に異論はなく、論点は対象の線引きと受診控えによる健康悪化の懸念にほぼ絞られた。厚労省の試算は負担引き上げに伴う受診減を織り込み、75歳以上の医療費が年約900億円減少するとみる。一方、実際の負担については、当初の3年間は外来受診の負担増を月3千円以内に抑える経過措置を設けるほか、高額療養費制度の活用でも軽減を図れるとしている。医療費の膨張を考えると、本来必要がない受診の抑制は重要だ。ただし、本当に必要な受診を我慢した結果、健康が悪化してしまうことがあってはならない。政府の説明は「受診行動の変化のみで健康への影響を分析するのは困難」と繰り返すばかりで、不安は拭い切れない。高齢者側にとって、所得は同程度でも貯蓄の有無や必要な支出の多寡などで経済事情はさまざまだろう。所得ごとの受診記録などを基に健康の悪化につながっていないか、検証を続けることが必要だ。現在3割弱にとどまる健康診断受診率を高めるといった疾病を早期に発見する環境整備も求められる。今回の改革でも、現役世代の負担軽減効果は25年度で1人当たり800円程度にすぎない。法案の付則には、速やかに社会保障制度改革と少子化対策の総合的な検討に着手するよう書き込まれた。大きな宿題だ。後期高齢者医療制度の導入から既に13年になる。来年から団塊の世代が75歳に達し始めることは自明の理だったはずだ。必要な負担を国民に説くことは政治の責務である。改革本丸の先送りはもう許されない。

*2-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210607&ng=DGKKZO72637810W1A600C2PE8000 (日経新聞社説 2021.6.7) 高齢者医療の見直し続けよ
75歳以上の後期高齢者で一定以上の所得がある人の医療費窓口負担を2割に引き上げる医療制度改革関連法が成立した。政府はこの改正が現役世代の負担増を抑える小さな一歩にすぎないことを認識し、さらなる改革を急ぐべきだ。75歳以上の窓口負担は原則1割だが、今回の改正で単身世帯で年収が200万円以上、夫婦とも75歳以上の世帯では年収が320万円以上あると2割に上がる。約1870万人いる後期高齢者の2割が対象となる。実施日は2022年10月から23年3月までの間で政令で今後定められる。ただ現役世代が背負う荷を軽くする効果はごくわずかだ。後期高齢者の医療費を支えるために、現役世代は20年度に1人あたり6万3000円の支援金を労使で支払った。少子高齢化の進展で10年で1.4倍に増えている。25年度時点では1人あたり7万9700円まで増える見込みで、今改正の抑制効果は年800円程度しかない。新型コロナウイルス禍を理由に法改正を見送らなかったことは評価できるが、これで改革を打ち止めにしては困る。まずは2割負担の対象をもっと拡大し、これを原則とすべきだ。今回の改正だけでは、2割以上を負担する後期高齢者は、現役世代並みの所得があって3割負担になっている約7%の人を含めても全体の約27%にとどまる。22~25年には「団塊の世代」が75歳以上に到達し、現役世代の荷はさらに重くなる。高齢者を一律に弱者と位置づけて手厚く支える従来型の社会保障制度でこの難所を乗り切ることはできない。窓口負担は年齢と所得で線引きしているが、今後は資産に着目した制度設計が不可欠だ。高齢者のなかには所得は少なくても金融資産を持っている人もいる。収入・資産状況を把握するマイナンバーを使った改革を急ぐべきだ。若くても生活に困っている人は支えなければならない。年齢に関係なく、余裕がある人は支える側に回る制度にしたほうがいい。

*2-2-3:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1334324.html (琉球新報社説 2021年6月7日) 75歳医療費2割負担 社会保障の在り方改革を
 一定の収入がある75歳以上の医療費窓口負担を1割から2割に引き上げる医療制度改革関連法が、参院本会議で成立した。人口の多い団塊の世代が2022年から75歳以上になり始め医療費が急増するため、高齢者に手厚い給付を見直し財源を賄う現役世代の保険料負担を抑える狙いがある。しかし、現役世代の負担軽減効果は限定的だ。逆に高齢者への負担増によって経済的理由から受診控えを招き、健康を損なうことになりかねない。小手先の見直しでなく、社会保障制度の在り方について、徹底的に論議する時期に来ている。21年度の75歳以上の医療費総額は18兆円(予算ベース)で、うち6兆8千億円を現役世代が「支援金」という形で負担している。22年度に高齢者の負担引き上げを1年間実施したと仮定すると、現役世代の支援金は720億円抑制されるが、1人当たりでは年700円、企業負担分を除くと月額約30円にすぎない。一方、2割負担の対象は、単身では年金を含む年収が200万円以上の人か、夫婦の場合は年収が合計320万円以上の世帯の約370万人。都道府県別にみると、沖縄県は15・2%が2割負担の対象になる。厚生労働省の試算によると、3年間の緩和措置を講じても窓口負担の年間平均額が約8万3千円から約10万9千円となり、2万6千円増える見込みだ。負担増による受診控えなどの影響について田村憲久厚労相は「受診行動はさまざまな要因で変わる。分析できない」と述べ、調査予定はないと国会答弁した。想定される影響を試算せず、所得基準を設定して負担増を求めるやり方は不誠実だ。実施後に受診控えの影響を調査すべきだ。日本福祉大の二木立名誉教授(医療経済・政策学)は「能力に応じて負担する考え方は保険料を徴収する時に用いるべきで、医療が必要となった段階では所得にかかわらず平等に給付を受けるのが社会保険の原則だ」と指摘し2割引き上げを批判している。それでは、どういう解決策があるのか。立憲民主党は、2割枠を新設せず窓口負担を原則1割のままとし、代わりに75歳以上の高所得者の保険料上限を引き上げることで、政府案と同等の財政効果を得られると主張する。負担能力を判断する「収入」に、貯金などの金融資産を含める意見もある。しかし、稼働所得が少ない高齢者に負担増を求めるのは極力避けなければならない。高齢化がピークに近づく40年に向け、抜本的な社会保障制度改革は避けて通れない。保険料や税の負担の在り方を議論する必要がある。同時に、結婚したくてもできない若者の貧困解消、子育てしやすい労働環境の改善、先進国の中で最低水準の教育支出の増額など少子化対策に一層力を入れなければならない。

*2-3:https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=66966?pno=2&site=nli (ニッセイ基礎研究所 2021年2月16日) 2019年における65歳時点での“健康余命”は延伸~余命との差は短縮傾向、保険研究部 准主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子
(1)65歳時点の健康余命も延伸
1)65歳の男性/女性の健康余命は14.43/16.71年
 現在、一般的に使われている「健康寿命」は厚生労働省の基準によるもので、“健康”とは、「健康上の問題で日常生活に影響がない」ことを言う1。「日常生活」とは、たとえば「日常生活の動作(起床、衣服着脱、食事、入浴など)」、「外出(時間や作業量などが制限される)」、「仕事、家事、学業(時間や作業量などが制限される)」、「運動(スポーツを含む)」等、幅広い。この定義による2019年の健康寿命は、前稿2で示したとおり男性/女性それぞれ72.68/75.38年だった(筆者による概算)。65歳以上の各年齢の健康余命は、65歳時点で14.43/16.71年、75歳時点で7.96/9.24年だった(図表1)。平均余命は、65歳時点で19.83/24.63年なので、余命から健康余命を差し引いて、不健康な期間は男女それぞれ5.40/7.92年となる計算だ。「65歳時点の余命」は「寿命 – 年齢(65)」より長い。これは、平均寿命(=0歳児の余命)が65歳未満で亡くなる人の寿命を含んだ平均であるのに対し、65歳の平均余命は65歳まで生きた人のみで計算した余命だからだ。では、「65歳時点の健康余命」は?というと、やはり「健康寿命-年齢(65))」ではない。これは、健康寿命(=0歳児の健康余命)が65歳未満の不健康な期間も差し引いて計算しているのに対し、65歳の平均健康余命は65歳以降の不健康な期間のみを差し引いているからだ。
2)65歳の健康余命は延伸。平均余命との差は短縮の傾向
 2001年以降の65歳時点の平均余命と健康余命の推移を見ると、いずれも延伸している(図表2)。その差は、調査年による差が大きいものの、平均余命と健康余命の差(65歳以上の不健康期間)は、男女ともどちらかと言えば縮小している。2019年は、2004年(15年前)と比べると、男女それぞれ平均余命は1.62年/1.35年、健康余命は96年/2.13年延びており、平均余命と健康余命の差は、それぞれ0.34年/0.78年短縮していた。
(2)健康上の問題で日常生活に影響がある割合は12年間で5ポイント程度低下
 では、健康度状態はどの程度改善しているのだろうか。健康寿命の計算に使われているのは、「国民生活基礎調査」の「あなたは現在、健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか」という設問である。2019 年の結果は、全体の13.4%(男性12.0%、女性14.6%)が「健康上の問題で日常生活に影響がある」と回答していた。65歳以上の健康上の問題で日常生活に影響がある割合を年齢階層別にみると、男女とも年齢が高いほど健康上の問題で日常生活への影響がある割合が高い(図表3)。この割合は、時系列でみると、男女とも各年齢層で低下しており、2007年と2019年を比較すると、70~84歳で男女ともそれぞれ日常生活に影響がある割合は5ポイント程度低下している。こういった健康状態の改善が、平均余命の延伸を上回る健康余命の延伸につながっている。
(3)国全体では改善傾向。加齢や健康上の問題があっても制限なく日常生活を送ることができる社会の構築も重要
 「健康寿命」という言葉は、高齢期における健康や生活に不安を感じている中、広く使われるようになった。2019年の健康寿命は男女それぞれ72.68/75.38年、65歳時点での健康余命は14.43/16.71年であり、いずれも延伸している。健康上の問題で日常生活に影響がある割合が、近年減少していることから、65歳以上では余命の延伸を上回って健康余命が延伸している。こういった健康状態の改善は、喜ばしいことである。しかし、この計算は、もともとは都道府県による健康格差を縮小することを目的として、保健医療に関する取り組みの計画や評価のために行われた。したがって、ある集団において同様の条件で計算し、諸外国や都道府県、時系列で比較するのに適している。一方で、その集団を構成する個人の健康状態は様々な状況にある。概算結果を、個人の生涯設計に適用するとすれば、寿命も健康寿命も「寿命 ‐ 年齢」よりも「ある年齢における余命」の方が長い傾向があること、および、今後、各種健康政策によって健康寿命を延伸したとしても日常生活に影響がある期間は一定期間生じるということだろう。65歳まで生きている人は、平均寿命より長生きすることが予想されるため、平均寿命を目安に老後の生活のための資産形成をするのでは不十分である可能性がある。また、健康上の問題で日常生活に影響がない期間も、健康寿命より長いことが予想される。また、国の政策としては、健康状態の改善と同時に、加齢や健康上の問題があっても、なるべく自立して日常生活を送ることができる社会を構築することも、重要となるだろう。

<外国人差別>
*3-1:https://mainichi.jp/articles/20210519/ddm/005/070/039000c (毎日新聞社説 2021/5/19) 入管法の改正見送り 人権重視の制度が必要だ
 非正規滞在となった外国人の帰国を徹底させる入管法改正案について、政府・与党が今国会での成立を断念した。各種世論調査で菅内閣の支持率が下がる中、採決を強行するのは困難だと判断した。廃案となる見通しだ。当然の対応である。改正案には人権上の問題が多く、国内外から批判の声が上がっていた。政府は、国外退去処分を受けた人が帰国を拒み、入管施設に長期間収容される状況の解消が法改正の目的だと説明していた。しかし、難民認定申請を事実上2回までに制限し、退去命令に従わない際の罰則を設ける内容だ。帰国できない事情がある人への配慮に欠けていた。政府は、国際水準に沿った形で入管法の改正案をつくり直す必要がある。日本の入管制度には、問題点が多い。昨年6月末時点で入管施設に527人が収容され、うち232人は半年以上が経過している。収容は入管当局だけで決められる。期間の制限もなく、国連の人権部門などが繰り返し懸念を表明してきた。金銭的に困窮したり、労働環境が劣悪だったりして在留資格を失うケースもある。非正規滞在になっても一定の条件の下、社会で生活できる仕組みが欠かせない。世界的に見て厳しい難民認定も見直すべきだ。審査基準が明確に示されていないことが問題だ。野党は、難民認定の権限を法相から独立組織に移し、収容に裁判所の許可を義務づける対案を出していた。参考にすべきだろう。国会審議では、名古屋市の入管施設に半年あまり収容されていたスリランカ人女性が死亡した経緯が問題視された。施設内で体調が悪化したにもかかわらず、必要な医療を受けられなかった疑いが出ている。入管当局の対応が適切だったかどうか検証することは、入管制度を考えるうえで重要だ。政府には真相を解明する責任がある。非正規滞在者が生まれる背景には、外国人を労働力の調整弁として受け入れてきた政策がある。人権を尊重した抜本的な制度改正が求められる。

*3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210603&ng=DGKKZO72533050T00C21A6EA1000+ (日経新聞 2021.6.3) 難民受け入れ、なお慎重 「入管法改正案」成立を断念、送還強化に海外から懸念
 政府・与党は出入国管理法改正案の今国会での成立を断念した。現行法では、来日した外国人が難民としての認定を日本政府に申請している間は強制送還ができない。結果的に施設収容が長期化しているとして、改正案は繰り返し申請する人を送還可能にする規定を盛り込んだが、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)などは懸念を示していた。難民申請者らは安堵するものの、認定率が低い「難民鎖国」を脱する道筋は依然見えない。5月18日、政府が改正案を取り下げたと聞き、埼玉県川口市在住のトルコ国籍のクルド人男性(23)は「よかった」と目を潤ませた。9歳で家族と来日し、4回目の難民申請中。改正案が成立すれば送還の恐れがあった。就労は許されず、県外に出るにも入管の許可が必要だ。「それでも日本に残りたい。クルド人が迫害されるトルコに戻ればどんな目に遭うか分からない」と訴える。
●一時2万人申請
 難民申請中は強制送還されない現行制度について、改正案は3回目以上の申請なら効力を停止できるとの見直しを予定していた。出入国在留管理庁には、申請が乱用されているとの思いがある。申請から6カ月後に一律に就労を認める運用を始めた2010年に約1200人だったのが17年には2万人近くに達した。一方、運用を厳格化すると18年は半減。同庁は「退去回避や就労目的が相当数含まれていたことを示す」と主張する。ただ送還の強化で、本来保護すべき外国人を危険にさらす恐れもある。「非常に重大な懸念を生じさせる」。UNHCRは4月、改正案に強い表現で警鐘を鳴らした。生命や自由が脅かされかねない人の入国拒否や追放を禁止する国際法上の「ノン・ルフールマン原則」を損なうリスクがあるとの主張だ。弁護士らが「監理人」となり、その監督下で入管施設外で生活できる「監理措置」の新設にも批判が相次いだ。300万円以下の保証金支払いを条件に認める仕組みだが、逃亡の恐れがある場合などに監理人が入管側に届け出る義務を課しており、日本弁護士連合会などが「弁護士として依頼者の秘密を守る義務と両立しない」と反対した。日本は難民受け入れに後ろ向きだとして批判されてきた。NPO法人「難民支援協会」(東京)がUNHCRや法務省のデータに基づき作成した資料では、19年に日本で難民認定を受けたのは44人で認定率は0.4%。ドイツ(約5万3千人、25.9%)、米国(約4万4千人、29.6%)などと大きな開きがある。元UNHCR駐日代表の滝澤三郎・東洋英和女学院大名誉教授は「日本では難民に否定的なイメージが強く、政治家も難民問題に消極的だ」と話す。国は認定基準を厳格に運用してきた。中東やアフリカの紛争地から遠く現地の政治情勢などの情報が乏しいことも背景にあると滝澤氏はいう。
●企業に活躍の場
 一方で、紛争や差別、迫害から逃れてきた人を活用する動きもある。
ヤマハ発動機に、アフリカと日本を行き来する西アフリカ出身の30代の男性社員がいる。政治的迫害から逃れるため来日。難民認定を申請中だった19年に、中国留学中の起業経験などが評価され嘱託社員として採用された。今は別の在留資格に切り替えアフリカでの新規事業を担う。「文化や国民性の違いを越えてチームを束ねられる」。同社の白石章二フェローは高く評価する。男性と同社を仲介したNPO法人「WELgee」(東京)によると、16年の設立以来関わった難民申請者ら170人の53%が大学・大学院卒。医師や弁護士の経験者もいる。担当者は「日本企業のグローバル展開に貢献できる人材は少なくない」と説明する。出入国在留管理庁は法改正と別に、海外事例やUNHCRの立場を参考に難民認定のあり方を見直す方針だったが、送還強化を先行しようとし「排除より認定基準を変えるのが先だ」(難民申請に詳しい渡辺彰悟弁護士)と反発を受けた。難民政策の全体像を巡る議論は仕切り直しとなる。

*3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210502&ng=DGKKZO71562630R00C21A5EA1000 (日経新聞社説 2021.5.2) アジア系差別は看過できない
 米国でアジア系の人々を標的にしたヘイトクライム(人種差別によって起きる犯罪)が目立っている。新型コロナウイルスが中国から広がったことへの反感がきっかけだが、現地の日本人まで事件に巻き込まれており、海の向こうの話では済まされない。差別解消に向けて、日本から、もっと声を上げるべきだ。3月にジョージア州であったマッサージ店銃撃事件では、アジア系女性6人が亡くなった。米世論調査会社ピュー・リサーチ・センターによると、コロナ感染が広がった昨年初め以降、アジア系住民の81%が危害を加えられる機会が増えたと感じているという。中国からの移民への差別は前からあったが、コロナに加え、米中関係の悪化も影響し、あつれきに拍車がかかった。多くの米国民には中国人も韓国人も日本人も同じに見えるため、出自が中国でないアジア系移民まで襲撃対象にされている。在米邦人を守る最良の方法は「よく見分けてくれ」ではなく、「ヘイトクライムはよくない」と広く自制を促すことだ。移民問題でよく話題になるヒスパニック(中南米系)の米国流入はこの20年間で70%増えた。実はアジア系は81%伸びている。米国民の中国嫌いを放置すれば、いずれアジア系全般への敵対心を助長しかねない。これは、外交・安全保障政策において、中国に毅然と対峙するのと別の話である。4月の日米首脳会談で、菅義偉首相がバイデン大統領にアジア系差別への懸念を伝えたことは評価できる。内政干渉と受け止められるのではないかと心配する声があったそうだが、菅首相は共同記者会見で「人種による差別はいかなる社会でも許容されないとの認識を共有した」と明言した。米国にもの申したからには、日本における人種差別にも厳しい目を向ける必要がある。すべての人が暮らしやすい世界をつくる一翼を担う気概を持って取り組んでもらいたい。

<雇用形態>
*4-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/679481 (佐賀新聞論説 2021年5月21日) 同一労働同一賃金
 正社員と非正規社員との間にある不合理な格差の解消を目指す「同一労働同一賃金」のルールが、4月から中小企業にも適用された。新型コロナウイルスの感染拡大の影響は企業経営に暗い影を落としており、中小企業の対応は決して万全とは言えないのが現状だ。日本商工会議所が2月に全国の中小企業約6千社を対象に実施した調査では、同一労働同一賃金について「対応のめどがついている」としたのは56・2%。前年同期に比べ9・5ポイント上昇したものの、4割強の企業がルール適用開始直前の時期に対応の見通しが立っていないとした。制度は不合理な格差の解消を求めているが、「不合理ではない」と具体的に説明できれば待遇差が認められる。ここに対応の難しさがある。厚生労働省が示すガイドラインは、通勤手当や出張旅費、慶弔休暇などでは正社員と同一の対応を求めている。一方で基本給では、能力や経験、業績・成果、勤続年数に応じて支給する場合は同一の支給を求めているが、「一定の違いがあった場合、その相違に応じた支給」を求める。こうした記述は賞与などでも見られ、あいまいな表現が目につく。さらに昨年10月には、非正規労働者と正社員の待遇格差を巡る訴訟で、最高裁が賞与と退職金などについて格差を認める判断を示しており、こうした事情も関係者を戸惑わせている。企業からは「何が不合理な待遇格差に当たるのか分からない」との声も聞こえる。厚労省は「働き方改革推進支援センター」を各地に設けて企業の相談に対応しており、県内にも佐賀市に設置されている。さらに、佐賀労働局では、昨年6月から同一労働同一賃金特別相談窓口を開設しており、本年度も継続している。相談窓口では、企業が対応の見通しを立てやすいよう細やかで具体的な助言、指導が必要だ。一方、企業側にも人事、賃金、福利厚生など各種制度の見直しへの本気度が問い掛けられている。そもそも同一労働同一賃金は働き方改革の看板政策と位置づけられ、労働人口が減少する中、労働生産性の向上と労働者の生活の質向上を両立させる狙いがある。2019年の日本の時間当たりの労働生産性は47・9ドルと経済協力開発機構(OECD)加盟37カ国中21位で、先進7カ国では最下位。低い労働生産性の要因の一つとして挙げられるのが、「メンバーシップ型」と呼ばれる日本特有の雇用形態だ。職務を限定せずジョブローテーションを繰り返しながら企業に貢献する人材を育成する。年功序列型賃金、終身雇用もこの特徴だ。報酬が勤続年数や労働時間に依存する側面がある、専門性が高い人材が育ちにくい、などの課題が指摘される。労働生産性向上の手だての一つとして注目されているのが、欧米型の「ジョブ型」雇用だ。正社員か非正規かにかかわらず、職務ごとに賃金を規定するスタイルで、メンバーシップ型を「就社」とするなら、業務内容に人を当てはめるジョブ型は「就職」といえる。「ジョブ型」は欧米でも各国で形態が異なるとされる。企業が今抱える課題を踏まえた上で、どのような形態が適しているのか。検討を重ねながら、改善への歩みを着実に進めたい。

*4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210609&ng=DGKKZO72695450Y1A600C2TCR000 (日経新聞 2021.6.9) 「無期転換」より正社員改革を 上級論説委員 水野裕司
 労働法の目的は、企業との力関係で弱い立場にある個人を保護することだ。賃金や労働時間など労働条件の決定を企業と個人の自由な交渉にゆだねた場合に、個人は不利な条件を強いられることがある。そこに歯止めをかけるのが労働法の役割だ。労働基準法は残業の制限や時間外労働への割増賃金などの規定を設ける。最低賃金法はこの額は下回れないという賃金の基準を定める。働き手が健康を維持し、生活していけるだけの収入を得られるよう、労働条件決定に程度の差はあれ干渉する側面が労働法にはある。そのなかで介入の度合いの強さが際立つのが、2013年4月施行の改正労働契約法で新設された「無期転換ルール」だ。パート、派遣などの有期労働契約が5年を超えて繰り返し更新された場合、本人が希望すれば期間の定めのない無期雇用契約に切り替えられるようになった。有期から無期へという労働契約の枠組み自体を変更する権利を、一定の条件のもとで有期契約労働者に与えた点が特徴だ。契約の内容は当事者の自由な意思で決まり、国家は干渉しないという「契約自由の原則」を、正面から修正したものといえる。改正労契法には成立時、施行から8年後に無期転換ルールの利用状況を踏まえて必要な措置を講じるとの規定がおかれた。厚生労働省は今年3月、学識者による検討会を設置。有期労働者への周知や無期転換を申し込む機会の確保など、ルールの普及策を今秋以降まとめる予定だ。気になるのは、企業からみれば強引に無期契約の締結を迫られることの影響だ。労働政策研究・研修機構が企業に無期転換ルールへの対応を聞いたところ、通算5年を超える前も含め、何らかの形で無期契約に切り替えるという企業が6割を占めた。一方、契約更新の回数に上限を設けるなどで、「5年を超えないよう運用」という企業も1割近くあった。無期契約は昇給制度を必ずしもつくる必要がないが、正社員と同様に長期雇用なので人件費が重荷になり得る。人手不足を背景に無期契約に抵抗のない企業が多い半面、コスト増を嫌い、契約更新しない「雇い止め」を辞さない企業もあるのが実態だ。雇用を不安定にする要因になる。無期転換した人材の活用が壁にぶつかる例もある。「特定の仕事には力を発揮するが、配置換えをすると能力不足を感じることが多い」(建設会社)。有期のときと違い、長期雇用が前提になれば職務の柔軟な変更も珍しくなくなる。雇用する側もされる側も負担になる可能性がある。有期労働者は契約更新が企業の裁量による面があり、労働条件の交渉力がとりわけ弱い。その不安定な立場を改善するという無期転換ルールの考え方自体は理解できる。だが、負の影響が少なくないなかでルールの普及を図ることに無理はないのか。無期転換ルールは企業の「採用の自由」の制限にあたる。労働市場の需給調整機能もゆがめる。有期契約で雇用しようと考えている企業を萎縮させることは大きな問題だ。有期労働者の不安定な状況を改善するには、その根本原因に目を向ける必要がある。長期の雇用保障や年功賃金で正社員が手厚く保護され、コスト抑制策として非正規雇用が活用されている構造だ。企業は正社員に転勤や職種転換などを命令できる半面、採用後は解雇が厳しく制限される。正社員の雇用や賃金を雇われて働く人全体の4割近い非正規従業員が支えている。正規・非正規の格差是正には世界でも特殊な正社員システムの改革が不可欠だ。現実には長期雇用は縮小する方向にある。デジタル化の進展で企業はイノベーション力のある人材を外部からも集めなければならない。人材の新陳代謝が求められる。金銭補償とセットにした解雇規制の緩和や転職支援などの政策で、雇用の流動化を推し進めるときに来ている。無期転換ルールも特権的な正社員のあり方も、行き過ぎた労働者保護という点が共通する。日本の労働法制の問題点を象徴している。

*4-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210505&ng=DGKKZO71581610U1A500C2CC1000 (日経新聞 2021.5.5) 職歴尊重の判決 「ジョブ型」映す、高裁、専門外への配転「無効」 一般職種も保護の流れ
 運送会社で運行管理などを任されていた社員に倉庫勤務を命じた人事異動を無効とする司法判断が注目されている。名古屋高裁が1月、保護するキャリアの対象を高度なIT技術者や医師など専門職から一般的な職務にまで広げた。労働者が積み重ねた職歴と本人の意向を重視した雇用のあり方を後押しするのではないか――。働く人々の期待は大きい。「職種=事務職員(運行管理業務)、職務内容=事務所内での配車など」。東海地方に住む50代の男性は2015年、ハローワークで愛知県内の運送会社の求人を見つけて応募した。男性は「運行管理者」の国家資格を持ち、運転手への乗務の割り振りや疲労度を把握するといった経験を複数の会社で重ねていた。採用面接の際、以前の勤務先を辞めた理由について「運行管理などをしたかったが、夜間の点呼業務に異動させられたから」と説明すると、会社側は「夜間点呼への異動はない」と応じ、男性を採用した。入社後は運行管理や配車を任され、3カ月もたたない16年1月、運行管理者の統括役に任命された。しかし、程なくして「配車方法に偏りがある」という運転手の苦情や高速道路料金の増加などを会社側が問題視するようになる。男性は17年5月、「業務の必要により社員の配置転換を行う」との就業規則に基づき倉庫部門の勤務を命じられた。納得できない男性は「採用時に職種を限る合意があった」として会社を提訴。会社側は訴訟で「職種を限る合意はなかった」とした上で「会社が業界で生き残るために拡大していた倉庫業務の新たな担当者として適性を検討した結果だった」と合理性を主張した。意に沿わない配置転換は多くの働き手にとって避けては通れない。配転命令の合理性については、最高裁が1986年の判決で▽業務上の必要性▽動機や目的の正当性▽労働者が被る著しい不利益――といった判断枠組みを示している。19年11月の一審・名古屋地裁判決は、職種を限定する合意はなかったとしながらも、配転先の業務内容は「運行管理者として培ってきた能力や経験が生かせるという(男性側の)期待に大きく反する」と指摘。業務上の必要性が高かったとは言えず、不慣れな肉体労働を命じられる可能性なども踏まえて「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせた」として配転命令を無効と認めた。二審・名古屋高裁判決も一審判決を支持し「能力や経験を生かせない業務に漫然と配転した。権利の乱用に当たる」と言及。会社側は上告を見送り、判決は確定した。培ったキャリアなどを考慮して配転無効を認める司法判断は、ここ10年ほどで広がってきた。大手企業から転職しプロジェクトリーダーを務めた後に倉庫係への配転を命じられたIT技術者や、外科医が臨床の現場から外された例がある。ただ、これまで法的保護の対象は高度な技能を持った労働者に限られており、名古屋高裁判決は、より一般的な業務も保護すべきキャリアと明確に判断した。この間、人口減少を前提に、限られた人材でいかに成長力を高めていくか、雇用を巡る企業の模索が続いてきた。経団連は20年の春季労使交渉で、職務と職責を明示する「ジョブ型雇用」を高度人材の確保に「効果的な手法」だと指摘。今年1月に公表した調査では、回答した会員企業の25.2%が、正社員に職務・仕事別の雇用区分を設け、このうち35%がジョブ型を導入していた。東京大の水町勇一郎教授(労働法)は「判決はジョブ型雇用など専門性を生かした働き方が浸透する社会情勢を反映している」と評価する。「法的に保護される可能性がある労働者の幅を大きく広げたといえ、個人のキャリア形成の意向を尊重する流れが加速しそうだ」と話している。

<不合理な政策が通る理由は何か>
*5-1-1:https://digital.asahi.com/articles/ASP6K3VS4P6KULFA00W.html?iref=comtop_7_03 (朝日新聞 2021年6月17日) 「ワクチン証明書」を発行へ 7月から、交付は市区町村
 加藤勝信官房長官は17日の閣議後会見で、新型コロナウイルスワクチンの接種を公的に証明する「ワクチン証明書」の発行を7月中下旬から始める方針を明らかにした。当面は、日本からの海外渡航者向けに発行するという。加藤氏は「予防接種法に基づくワクチン接種を実施し、記録を管理している市区町村において、発行していただく」と説明。そのうえで「まずは書面での交付とし、電子での交付も見据えて検討を進める」と述べ、早ければ来週にも自治体に対しての説明を始める考えを示した。政府は、加藤氏のもとに検討組織を設置していた。海外で入国時にワクチン接種の証明を求める動きがあることを踏まえたもので、ワクチン接種の有無による国内での差別を防ぐため、証明書は海外との往来を主な目的とする方針。

*5-1-2:https://www.yomiuri.co.jp/politics/20210616-OYT1T50211/ (読売新聞 2021/6/16) 「まん延防止」解除後、イベント制限を「1万人以下」に緩和へ…五輪観客数に適用も
 政府は16日、新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言と「まん延防止等重点措置」を解除した地域で、大規模イベントの参加人数制限を段階的に緩和する方針を固めた。これまで「5000人以下」としていた基準を「1万人以下」とする考えだ。宣言と重点措置の対象地域では、イベントの参加人数は「5000人以下」かつ「収容定員の50%以内」に限られている。今回の緩和は、宣言や重点措置を解除した日から約1か月間の「経過措置」となる予定だ。その後、問題がなければ、さらに人数制限を緩和する見通し。一方、宣言から重点措置に移行した地域では、これまで通り「5000人以下」の制限を続ける。政府は16日、専門家でつくる新型コロナ対策分科会に緩和基準案を示し、了承を得た。会合後、西村経済再生相は記者団に「東京五輪・パラリンピックの観客の上限のあり方を決めたわけではない」と述べた。ただ、7月23日に開幕する東京五輪の観客数上限にも適用される見通しだ。

*5-1-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14941581.html (朝日新聞 2021年6月17日) 子どもへ「個別接種が望ましい」 説明・健康観察「入念に」 小児科学会など コロナワクチン
 子どもに対する新型コロナウイルスのワクチン接種について、日本小児科学会は16日、保護者や子ども本人に丁寧な対応が必要だとして、「できれば(かかりつけ医による)個別接種が望ましい」との見解を発表した。感染予防策としてワクチン接種は「意義がある」としたうえで、副反応の説明や接種前後の健康観察を入念にするように求めている。学会の見解ではほかに、子どもに関わる仕事をしている人へのワクチン接種を終えることが重要だと指摘。基礎疾患がある子どもは、健康状態をよく把握している主治医との相談が望ましいとした。海外では、接種後の10代がごくまれに心臓の筋肉が炎症を起こす心筋炎や心膜炎を起こした例が報告されている。理事の森内浩幸・長崎大教授は「世界でも10代への接種は始まったばかり。データを継続的に集め解析したい」と話した。日本小児科医会も同日、同様の提言を発表した。集団接種、個別接種でそれぞれ配慮すべき点を挙げ、神川晃会長は、「痛みや発熱、だるさなどの反応は高齢者に比べ若い人に出やすい。接種時の緊張も含めてワクチンの成分とは関係の薄い、年齢特有の反応もある」と指摘した。また、個人の意思や健康上の理由から接種をしない子どもが差別を受けないように配慮すべきだとしている。当初16歳以上とされたファイザー製のワクチンの接種対象は、6月から12~15歳へも広がっている。高齢者らへの接種が進んだ一部の自治体では、子どもに対する接種券の配布など、手続きが始まっている。

*5-1-4:https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-06-16/QUSDK0T1UM1301 (Bloomberg 2021年6月16日) 東京五輪のGPS使った行動管理、外国メディアが非難-撤回を要求
●「プライバシーの完全な無視」-国際ジャーナリスト連盟
●安全を維持するための別の方法を議論するよう促す
 東京五輪・パラリンピックに合わせて来日する外国メディアの行動をスマートフォンの衛星利用測位システム(GPS)機能を使って管理する大会組織委員会の方針に、国際ジャーナリスト連盟(IFJ)が強く反発している。NHKによると、組織委の橋本聖子会長は先週、来日する外国メディアについて入国後14日間を念頭に厳格に行動管理をすると言明。菅義偉首相は、新型コロナウイルス対策のルールに違反した外国人記者を国外退去とすることも検討すると5月に述べていた。これに対し世界中のジャーナリスト60万人を代表するIFJは発表文で、「プライバシーの完全な無視」だとして組織委を非難。この規則を撤回し、安全を維持するための別の方法を議論するよう促した。IFJは「このような予防措置の導入はジャーナリストのプライバシー権を否定し、報道の自由を制限するものだ」と主張するとともに、この制約が課せられるのは来日するメディアに対してだけで、日本のメディアには適用されない点も指摘した。15日には組織委と国際オリンピック委員会(IOC)、国際パラリンピック委員会(IPC)が選手および関係者向けの新型コロナウイルス対策指針をまとめた「プレーブック」の最新版を発表し、ルールに従わない場合の罰則なども打ち出した。ただ、メディア向けのガイドラインはまだ示されていない。

*5-1-5:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14940351.html?iref=mor_articlelink02 (朝日新聞 2021年6月16日)職域接種、工夫する経済界 コロナワクチン
 航空会社などが前倒しで始めた新型コロナウイルスワクチンの職域接種をめぐり、15日も経済界の動きが続いた。地域の医療従事者への接種から始めたソフトバンクグループが、2回打ち終えればプロ野球の主催試合を半額で観戦OKにする方針を示すなど、自社以外にも接種を広げようとする取り組みも増えている。
■接種者、半額でプロ野球観戦OK ソフトバンク
 ソフトバンクグループは15日、東京都内に大規模接種会場を立ち上げ、首都圏の医療従事者への接種を始めた。その会場で孫正義会長兼社長は、職域接種などを含めてワクチンの接種を2回終えて2週間以上たった人は、福岡ソフトバンクホークスの試合を半額で観戦できるようにする計画を明らかにした。若い世代の接種率を高めるきっかけをつくり、経済活動の正常化につなげる狙いだ。同社は詳細は今後詰めるとしている。孫氏は今回の取り組みを機に、他社にも若者の接種を後押しする取り組みが広がることに期待を示した。職域接種の会場は全国15カ所に設け、1日1万人が接種できる体制を整える方針。対象人数は従来の計画より5万人多い15万人に広げ、地域住民10万人も受け入れるという。人数は、さらに追加で増やすことも検討する。
■ノウハウを系列企業に提供 トヨタ自動車
 伊藤忠商事の東京本社には15日、職域接種に使うワクチン1200回分が到着し、本社内に設置された冷凍庫に保管された。同社は21日から、東京と大阪の両本社で接種を始める予定。事業所内保育所の委託先「ポピンズ」の保育士約1500人も含め、約7500人への接種を見込む。接種会場の様子は22日以降、見学希望の企業に公開して参考にしてもらう予定という。ワクチン到着を見守った岡藤正広会長CEO(最高経営責任者)は「多くの人に接種し、早く明るい世の中にしたい」と話した。トヨタ自動車は15日、仕入れ先企業を含めた約8万人を対象に、21日から職域接種を始めることを明らかにした。ピーク時は一日8千人以上に接種し、9月10日までに2回の接種を終える計画。トヨタは車づくりで培った「トヨタ生産方式」を活用して、地元自治体の接種の効率を高めるサポートもしてきた。その成果を職域接種にも生かし、系列企業にもノウハウを提供するという。
■中小企業対象に集団接種へ 経済同友会
 経済同友会は15日、貸会議室大手のティーケーピー(TKP)の協力を得て、会員の所属企業の従業員と家族を対象に、21日から集団での職域接種を始めると発表した。スタートアップなど、従業員1千人未満の企業が対象。まずは希望があった118社の約4万3千人を対象に順次、接種を始める。政府が職域接種の目安とする従業員1千人に満たない、小規模の企業にも接種を広げる狙いだ。同友会の幹事を務めるTKPの河野貴輝(かわのたかてる)社長が、接種会場の無償提供を申し出た。河野氏は記者会見で「中小企業の方々への接種促進に貢献していきたい」と話した。

*5-2-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA03C310T00C21A6000000/?n_cid=NMAIL006_20210604_Y (日経新聞 2021年6月4日) 75歳以上医療費2割負担、関連法成立 年収200万円から
 一定の所得がある75歳以上の後期高齢者の医療費窓口負担を1割から2割に引き上げる医療制度改革関連法が4日の参院本会議で、自民・公明両党などの賛成多数で可決、成立した。単身世帯は年金を含めて年収200万円以上、複数世帯では合計320万円以上が対象になる。高齢者に収入に応じた支払いを求めて現役世代の負担を抑制する狙いだが効果は限定的だ。現在、75歳以上の大半は窓口負担が1割だ。現役並みの所得(単身で年収383万円、複数世帯で520万円以上)の人は3割を負担するが全体の7%にすぎない。2割負担の層をつくり、3段階とする。2割負担となるのは75歳以上の約20%で約370万人が該当する。田村憲久厚生労働相は4日の閣議後の記者会見で「若い人々の負担の伸びを抑えていく目的だ。法律の趣旨、意図を国民に理解してもらいながら周知に努めたい」と述べた。導入時期は2022年10月から23年3月の間で、今後政令で定める。外来患者は導入から3年間、1カ月の負担増を3千円以内に抑える激変緩和措置もある。関連法では育児休業中に社会保険料を免除する対象を22年10月から広げることや、国民健康保険に加入する未就学児を対象に22年4月から保険料を軽減する措置も盛り込んだ。3日の参院厚生労働委員会では付帯決議も採択した。窓口負担の見直しが後期高齢者の受診に与える影響を把握すること、持続可能な医療保険制度に向けて税制も含めた総合的な議論に着手することなどを明記した。高齢者に負担増を求める背景には人口の多い団塊の世代が22年から75歳以上になり始めることがある。医療費の急増が見込まれ、政府の全世代型社会保障検討会議が20年12月、改革案をまとめた。後期高齢者医療制度の財源は窓口負担を除いて5割を公費で負担し、残り4割は現役世代からの支援金、1割を高齢者の保険料でまかなう。75歳以上の人口が増えて医療費が膨らめば現役世代の負担も重くなる。厚労省の試算によると21年度の支援金総額は6.8兆円で、現状のままだと22年度に7.1兆円、25年度に8.1兆円と急速に膨らむ。2割負担を導入しても支援金の軽減効果は25年度で830億円にとどまる。現役世代の負担を1人あたり年800円軽減するにすぎない。事業主との折半などもあり、本人の軽減効果は月30円程度と試算される。今後も給付と負担の議論は避けて通れない。

*5-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210605&ng=DGKKZO72615300U1A600C2M10800 (日経新聞 2021.6.5) 所得のみで区別、見直しを 一橋大学教授 小塩隆士氏
 全世代型社会保障改革は支え手を増やし、年齢に関係なく能力のある人には負担してもらうという2本柱だ。後期高齢者医療制度の窓口2割負担導入はこれに沿っている。ただ、これだけで社会保障の抱える問題が解決できるわけではない。医療機関での窓口負担は所得のみで判断する。高齢者のなかには所得は少なくても金融資産を多く持っている人もいる。能力に応じた負担に向け、資産も合わせて判断するようにすべきだ。少子高齢化で医療費の伸びが続くなか、2割負担の人を限ったままでは別の方策が必要になる。例えば医療機関のネットワーク化を進めて効率化するなどが検討課題だ。負担引き上げの議論では、高齢者が受診を抑制して重症化し、医療費が膨らむという議論がある。今回の見直しで高齢者の受診行動が変化し、健康に影響を及ぼしたかデータを蓄積し、確認する必要がある。受診抑制の影響は深刻か限定的かはっきりしない。社会保障の支え手を増やすのに少子化対策は欠かせないが、大人になって財政面で貢献するのは時間がかかる。働く意欲のある高齢者の就労環境を整えていくべきだ。働く高齢者の年金を減らす「在職老齢年金制度」は65~69歳の減額基準を引き上げてはどうか。65歳から一律で支えられる側という区切りは非合理的だ。若くても生活に困っている人は支えないといけない。年齢に関係なく、余裕がある人は支える側に回るといった形にした方がいい。

<教育と人材>
*6-1-1:https://digital.asahi.com/articles/ASP5R4CQQP5KUTIL069.html?iref=comtop_7_01 (朝日新聞 2021年5月23日) 国立大受験生に「6教科8科目」案 「情報」を追加検討
 2025年の大学入学共通テストから、国立大学の受験生には原則として「6教科8科目」を課す――。国立大学協会の入試委員会(委員長=岡正朗・山口大学長)が、そんな案の検討を進めていることがわかった。従来の「5教科7科目」に、プログラミングなどを学ぶ教科「情報」を上乗せする案だ。各国立大は大学入試センター試験時代の04年から、国語▽地歴・公民▽数学▽理科▽外国語の5教科から7科目を課すことを原則としてきた。これに情報を加えた6教科8科目を原則とすることが決まれば、21年ぶりの科目増となる。情報は03年度から高校で全員が必ず履修する教科となり、22年度の高1から導入される新学習指導要領では情報Ⅰと情報Ⅱの2科目に再編される。プログラミングなどを学ぶ情報Ⅰが必ず履修する科目で、データサイエンスの手法を使った分析も学ぶ発展的な情報Ⅱは選択科目となっている。政府は18年に公表した成長戦略のなかで「義務教育終了段階での高い理数能力を、文系・理系を問わず大学入学以降も伸ばしていけるよう、大学入学共通テストで基礎的な科目として情報Ⅰを追加する」との方向性を打ち出した。今年3月には、共通テストの問題作成を担う大学入試センターが、25年実施の共通テストから出題教科に情報を追加する方針を発表。出題範囲は情報Ⅰの内容とした。国大協入試委の議論は、こうした流れのなかでスタートした。一連の議論は非公開で行われており、関係者によると、共通テストで情報を使いたい大学も不要だとする大学も、それぞれ一定数あるという。今月18日のオンライン会議では、25年から6教科8科目にすることについて「生徒の学習環境がまだ整っていない」と反対する声も出た。だが、「国を挙げてデジタルと言っている時に入試に入れないのは違うという意見が多く、引き続き議論することになった」(関係者)という。国大協事務局は取材に「入試委の内容は非公開」と回答した。大学入試をめぐっては、「教科・科目の変更が大きな影響を及ぼす場合には、2年程度前には予告・公表する」という文部科学省の定めた「2年前ルール」がある。国大協入試委が「25年の共通テストから6教科8科目を原則とする」と決めた場合、各大学はそれを踏まえ、遅くとも22年度にはそれぞれの大学の方針を正式に決めることになりそうだ。
●「『第三の失敗』にならないよう」
 情報を教える態勢は地域によって差があり、各地で教員の確保が急務となっている。文科省が47都道府県と、高校を設置していない神奈川県相模原市を除く19政令指定都市を対象に実施した調査では、昨年5月1日時点で、情報担当教員5072人のうち2割以上の1233人が、情報免許状保有教員ではなく、校内の他教科の教員が1年以内に限り教えられる「免許外教科担任」や「臨時免許状」を持つ教員だった。これまで情報は、「情報の科学」「社会と情報」のうち1科目を必ず履修する形で、プログラミングを学ぶ「情報の科学」を選ぶ生徒は約2割だった。だが新指導要領のもとでは、全員が情報Ⅰでプログラミングを学ぶことになる。ある公立高校の教員は「いまのままだと教員が不足し、新指導要領の内容をきちんと教えることができない学校が出る恐れがある」と話す。それだけに、そもそも共通テストで情報Ⅰの内容を出題すること自体に慎重な検討を求める声も根強い。全国高等学校長協会は昨年11月、大学入試センターに「出題科目とするには解決すべき事項が多い」として「課題を解決した上での実施」を要望した。大学関係者の間でも意見は一様ではない。情報処理学会の理事で、情報教育に力を入れてきた中山泰一・電気通信大教授は「情報Ⅰは文理問わず身につけるべき内容。国立大はぜひ課すべきだ」。一方、国立大教員の一人は「学習環境が整わず地域間格差も大きい現状のまま、国立大受験生に課すのは難しい」と語る。大学入試をめぐっては近年、目玉改革が相次いで頓挫した。共通テストでの英語民間試験の活用が19年11月、受験生の住む地域や家庭の経済状況による格差の問題から見送りに。さらに共通テストの国語と数学での記述式導入も翌月、採点の質の確保などの課題が解消し切れず見送られ、受験生や高校を混乱させた。ある県立高校の教員は「6教科8科目への移行が『第3の失敗』にならないよう、受験生の立場に立って検討してほしい」と話す。
    ◇
〈教科「情報」〉2022年度の高1から適用される新学習指導要領では、プログラミングも行う情報Ⅰ(必ず全員が履修する科目)、発展的な情報Ⅱ(選択科目)に再編された。情報Ⅰは、「情報社会の問題解決」「コミュニケーションと情報デザイン」「コンピュータとプログラミング」「情報通信ネットワークとデータの活用」の4領域からなる。すべての生徒がプログラミング、ネットワーク(情報セキュリティを含む)やデータベース(データ活用)の基礎などを学ぶことになる。
【大学入学共通テストへの「情報」導入をめぐる主な動き】
2018年3月   文部科学省、22年度からの高校の新学習指導要領を告示。教科「情報」は
         情報Ⅰと情報Ⅱの2科目に再編
    6月  政府が「未来投資戦略2018」を公表。「大学入学共通テストで基礎的な科目
         として情報Ⅰを追加」
2019年11月  共通テストでの英語民間試験の活用見送り
    12月  共通テストの国語と数学での記述式問題導入も見送り
2020年4月   小学校でプログラミング教育開始
2021年1月  第1回共通テスト
    3月   大学入試センター、25年の共通テストから情報を出題する方針を表明
2022年4月   高校の新学習指導要領スタート
2025年    新学習指導要領に基づく共通テスト実施(国立大受験生は6教科8科目受験が
         原則に?)

*6-1-2:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/745124/ (西日本新聞 2021/5/27) 全国学テ「結果」に追われる学校 「目的逸脱」事前準備が常態化
 小学6年と中学3年を対象とした全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)が27日に行われる。新型コロナウイルスの感染拡大で昨年は中止されたため、2年ぶりの実施。導入から丸14年が経過し、テスト結果をより重視する学校もみられる。過去問を解くなど事前準備が常態化し、本来の調査目的から逸脱している状況も。研究者は「学力の一部しか測れないにもかかわらず、現場だけが結果責任を問われ、追い詰められている」と訴える。「事前練習は当たり前。目標点を掲げて達成を要求する校長もいる」。福岡県内の公立小に勤める30代の女性教員はため息をつく。勤務校では歴代の小6の得点から「弱点」を分析し、市販の教材で何度も事前練習する。前任校では過去問が使われていた。学校側が意識するのは、県教育委員会が各公立小中に作成を求める「学力向上プラン」。2017年度から全国学力テストの目標点を示した上で、課題の分析や授業の改善を促す。計画的な改善につなげるのが目的だが、女性教員は「とにかく結果を優先せざるを得ない状況になっている」。佐賀県内の公立小中では毎年、全教員参加の校内研修で自校の得点を分析し改善点を話し合う。50代の男性教員が勤める公立小では週3日、1時限前の20分間をドリルやプリント学習に充てる。男性教員は「子どもの朝の様子を観察し、ケアする時間も大切なのに」と釈然としない。学校現場が対策に追われる現状を踏まえ、全国学力テストの在り方に疑問を呈する研究者は少なくない。国の専門家委員会委員で、福岡教育大の川口俊明准教授は「そもそも目的と手法にずれがある」と強調する。国は(1)学校現場の指導改善(2)国の政策に反映-という二つの目的を掲げる。川口准教授は「指導のためなら、学校で行う普段のテストで十分。政策に生かすためなら、子どもの実態を正しく把握する必要がある。事前準備などの対策を取る学校がある中で、全員対象の現行調査は結果が偏る可能性が高い」と説明する。世界各国の学力テストの状況を編著にまとめた福岡大の佐藤仁教授によると、日本では実施から約3カ月後に結果が学校現場に通知されるが、ドイツでは授業改善に特化したテストの結果が2~3週間後には教員に伝わる。ノルウェーでは学校ごとの得点を公表するが、子どもの家庭環境など数ある情報と一緒に示されるという。佐藤教授は「『学力』の一部しか測れないにもかかわらず、日本にはテスト結果に敏感に反応する文化があり、責任は学校が問われる。行政、保護者、地域が一緒に改善点を考えることが大切だ」と提起する。子どもへの評価がテストに偏る中、居場所を失う子どもたちもいる。熊本県の公立小で特別支援学級を担任する50代男性教員は、問題用紙をくしゃくしゃにした子を目の当たりにした。「解けない子には嫌な時間でしかない。学力の意味がテストに矮小(わいしょう)化されていることは分かっていても、学校では学力を問い直す議論はない」
*全国学力テスト:2007年、小6と中3の全員を対象に国語と算数(数学)の2教科でスタート。民主党政権が10年に抽出調査に切り替えたが、自民党政権下で13年に全員対象に戻った。現在は理科と英語(中3)も3年に1度行っている。18年8月には大阪市長が学力テストの成績を教員らの給与に反映させる意向を表明(後に撤回)し、学校現場への圧力や負担が問題となった。

*6-1-3:https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/905866 (福井新聞 2019年8月1日) 全国学力テスト福井は中3英語1位、2019年度、トップ級の順位維持
 文部科学省は7月31日、小学6年と中学3年の全員を対象に4月に行った2019年度全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の結果を公表した。公立校の平均正答率を都道府県別に見ると、福井県は、初めて実施された中3英語で東京都などと並び1位、数学も1位、国語は2位だった。小6は国語2位、算数4位。小中ともに調査開始以来12年連続で全国トップクラスを維持した。国語と算数・数学の2教科は、これまでの基礎知識を問うA問題、知識の活用力をみるB問題が統合され、知識活用力が一体的に問われた。中3の英語は「読む、聞く、書く、話す」の4技能をみる試験が行われ、機器がそろっていない一部の学校で未実施となった「話す」を除く3技能の結果が公表された。福井県は国公私立270校の1万3727人が参加。公立の平均正答率は中3の英語が59%(全国平均56・0%)、数学は66%(同59・8%)、国語は77%(同72・8%)だった。小6は国語が72%(同63・8%)、算数が69%(同66・6%)。県教委はテストや学習状況調査の結果を受け「授業や家庭学習に熱心に取り組む子どもと、熱心に指導する教員らの努力の成果」と評価。一方で、各教科で課題もあるとし、8月上旬に開く教員対象の研修会で結果の分析と授業改善策を伝えるとした。県内の市町別の結果は公表せず、各市町教委に判断や対応を委ねている。文科省は全国の小6、中3の計201万7876人分を集計。中3英語の4技能のうち「書く」では、2枚の図を比較して25語以上で考えを記す問題で正答率が1・9%にとどまり、基本的な語や文法を活用した表現ができていなかった。国語と算数・数学は小中とも、目的や意図に応じて自分の考えを明確に書いたり、複数の資料から必要な情報を読み取って判断したりするのが苦手な傾向は変わらなかった。平均正答率は従来と同様に秋田や石川、福井などが上位を占める状況が継続。ただ、下位も全国平均とは正答数で1問程度の差で、文科省は「学力の底上げ傾向は続いている」と指摘している。

*6-2-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/105934 (東京新聞 2021年5月23日) Wi-Fi未整備168校も…格差くっきり、都立高のオンライン授業 学習遅れ懸念の声
 新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言中、東京都立高校は、校内の生徒数を3分の2以下に抑える分散登校を続けている。登校しない生徒はオンラインを活用した自宅学習としているが、学校側の通信環境や取り組みに差があり、生徒や保護者から「学習が遅れていないか」と不安が漏れる。 (土門哲雄、松尾博史)
◆無人の教室からスマホで授業
 都教育委員会は4月29日~5月9日の大型連休中、授業のある日も全ての高校生を登校させず、自宅学習の「全面オンライン」とした。連休後の分散登校は、登校日や時間帯を学年ごとに分け、自宅学習ではオンラインの活用を促している。連休中の7日には、都立向丘むこうがおか高校(文京区)でオンライン授業が報道公開された。生徒がいない教室で、飯塚大貴だいき教諭(27)がスマートフォンを使って化学基礎の授業を配信し、1年生のクラス40人が自宅からタブレットなどで参加。同時双方向のライブ形式で行われ、生徒からも画面越しに質問が飛んだ。滝本秀人校長は「通信回線が命綱。オンライン授業は学校全体で取り組むことが大切」と強調。同校は連休後も自宅学習で同時双方向のオンライン授業を続けている。
◆未整備校では出欠確認だけ
 ただ、こうした学校ばかりではない。都教委の教育政策課によると、高校のほか特別支援学校なども含めた都立校のうち、無線LANのWi―Fiが全教室に整備されているのは2020年度末時点で87校で、全体の約3分の1にとどまる。通信環境が不十分な残りの168校は、当初の計画を1年前倒しして本年度中にWi―Fiを整備するという。未整備のある都立高は、大型連休中に同時双方向で各学年一斉に行ったのはホームルーム(HR)の出欠確認だけだった。生徒は事前に用意された授業動画を見たり、課題学習に取り組んだりした。副校長は「同時双方向のオンライン授業は通信環境が厳しく、できない」と打ち明ける。この高校は感染者が確認された昨年末以降、6限までの通常授業は行わず、4限で終え、感染リスクが高まる昼食前に生徒を帰宅させている。電車の混雑を避ける時差通学で始業も遅らせ、通常の50分授業を40分に短縮している。連休後は午前と午後で4限ずつに分け、学年ごとに分散登校を続けている。
◆都教委「本年度中に全校に」
 同校の3年の女子生徒は「本当なら授業がもっと進んでいるはずなのに。他の学校より遅れてないか」と不安を隠せない様子。母親も「感染拡大から1年以上たち、私立は通信環境も充実しているのに」と残念がる。こうした声に、都教委の担当者は「オンラインを活用した学習は同時双方向のライブ形式に限らず、繰り返し見られる動画配信のニーズも高い。本年度中にWi―Fiを全校に整備し、環境を改善する」と理解を求めている。

*6-2-2:https://resemom.jp/article/2015/09/25/27046.html (Resemom 2015/9/25) 学校の無線LAN普及率、私立と公立に差…MIC調査
 IT・ネット分野専門の市場調査機関であるミック経済研究所は、学校の無線LAN普及率などのアンケート調査結果を発表。無線LANの平均普及率(平成27年5月時点)は、私立学校が59.3%、公立学校が42.6%。アクセスポイントのメーカーシェアでは、バッファローがトップだった。ミック経済研究所の同調査は、2015年5~6月にアンケート調査で実施。無線LANの現在の普及率や導入無線LANアクセスポイントメーカーの掲出回数・シェアなどについて、私立中・高等学校の186法人、公立の小・中・高等学校を管轄する全国教育委員会229団体から回答を得た。また、遅れている無線LANの導入促進に役立つ調査レポートとして回答者にフィードバックしている。平成27年5月時点の無線LANの平均普及率(学校数単位)は、私立学校が59.3%(中学校56.3%、高校61.2%)であるのに対し、公立学校が42.6%(中学校40.2%、公立高校35.0%)。教室数等単位での平均普及率は、私立学校17.8%、公立学校16.4%。特に、公立の高等学校は2.6%と低い割合となっている。公立学校の中では小学校の普及率が比較的高く、学校数単位では45.8%、教室数等単位では17.7%だった。同社では、「無線LAN普及の決め手はタブレット端末で、私立学校の普及率の方が高いのはタブレット端末の活用がより進んでいるから」と分析している。平成29年度までの導入予定を調査しており、私立学校で73.6%、公立学校で53.1%と、文部科学省が平成29年度の目標数値に掲げる「普及率100%(教室等数ベース)」に及ばない状態となっている。無線LANのアクセスポイントのメーカーシェアのトップは、50.8%を占めるメルコグループのバッファロー。ついで、アライドテレシス9.8%、シスコシステムズ7.5%、富士通4.2%が続いた。同社では、各社を学校が選択した理由と各社の特長を解説。バッファローの選択理由では、バッファロの強みである「手頃な価格(予算の範囲)」が多くあがっており、私立学校では「システム開発・導入会社の推薦」も多かったという。2位のアライドテレシスの選択理由では、公立学校が「手頃な価格」、私立学校が「ICT関連製品の取引業者の推薦」をあげていた。

<行き過ぎた規制で台無しの五輪>
PS(2021年6月24、25日、7月7日追加):東京五輪の観客向けガイドラインは、*7-1のように、新型コロナを理由に「①祝祭感のあふれる会場にしてはならない」として、「②飲酒禁止(会場内販売・持ち込みの禁止)」「③直行直帰」「④接触・飛沫感染を防ぐため、観戦中もマスク着用・大声を出すなどの応援禁止」「⑤ハイタッチや肩を組んでの応援も禁止」などの多くのルール順守を観客に求め、守らなければ退場などの厳しい措置をとるそうだ。
 しかし、②③④⑤は、まるでイスラム教のラマダンのようで、①では、オリ・パラを行う意味がない。また、そのようなルールを作った理由が国内の飲食店などに合わせることだというのだから、馬鹿げている。しかし、ワクチン接種した人と陰性証明のある人しか会場に入れなければ、混雑したからといって感染するリスクは殆どない。また、国内の飲食店も従業員がワクチン接種を済ませ、「こういう時期ですから」と断って、ワクチン接種した人と陰性証明のある人しか入れないようにすれば普通に営業できるため、「飲酒規制」や「時短要請」などを行う必要がなくなり、五輪を稼ぎ時にしながら「おもてなし」することもできるのだ。
 そのため、*7-2のように、埼玉県は、「新型コロナ蔓延防止等重点措置が継続中で解除後も何らかの制限を設ける可能性があるから、さいたま市で実施される五輪のバスケットボールとサッカーの夜遅い競技を無観客とするよう大会組織委員会に要請された」とのことだが、大野知事が「考えにくい」からといって科学的根拠があるわけではないため、埼玉県民としては変なことをして世界に医療後進国であることを発信しないで欲しいと思う。そして、「自分は健康でないから危ない」と思う人は、その間、家でTVを見ていれば良いのである。
 一方、英政府と欧州サッカー連盟は、*7-3のように、観客が入場時に新型コロナの陰性証明かワクチンの接種証明を提示するルールを残し、7月にロンドンで開催するサッカー欧州選手権の準決勝と決勝に6万人超の観客入場を決めたそうだ。ドイツのメルケル首相はこれに反対しておられるようだが、この点については、私は英国政府に賛成だ。
 23日に公表されたデータによると、新型コロナワクチンの接種回数は、*7-4のように、累計3,438万回を超え、2回接種を終えた人も1,037万人になったそうだが、「⑥高齢者の1回目接種率が67%と最も高い佐賀県は、重症者の病床使用率が2%まで抑えられた」等の効果が明らかであるのに、「⑦希望する人への接種を10~11月までに完了させる目標」というのは遅すぎる。さらに、「⑧厚労省内で『接種率と新規感染者数減少との因果関係は証明が難しい』」という声がある」というのは呆れるほかなく、河野規制改革相が、「⑨申請が殺到して、1日に可能な配送量が上限に達し、モデルナ製ワクチンを供給できる量の上限にも達しそうなので、企業での職場接種の新規受け付けを一時休止する」と発表したのも驚きで、むしろ佐川急便等の民間にワクチンの入荷・保存・管理・配送までを一括して任せた方が、厚労省よりスムーズに行ったのではないかと思った。
 *7-5のように、政府が、7月12日~8月22日の間、東京都に4度目の新型コロナ緊急事態宣言を発令し、東京五輪の都内会場は無観客にすると伝えられている。これには、五輪を政治利用した政党やメディアも悪いが、ワクチンや治療薬の開発・承認・接種が遅く、五輪を中止か無観客にするという非科学的な選択しかできないのに、「東京の感染増を万全の態勢をとって抑えていく」などと述べている点で、政府も情けない。私自身は、スカスカの会場で行われる感動の伝わらない五輪など見たくもないし、五輪の主役は選手だけでなく観客も含まれるため、仮に私が五輪の会長だったら「今後は絶対に日本で開催しないように」と言い残すだろう。

  
 2021.6.24日経新聞       2021.5.12News24      2021.6.5日経新聞

(図の説明:左図のように、観客に直行直帰・飲酒禁止などを求めているのは小中学校の校則のようだし、「37.5度以上は入場不可」としているのは、無症状感染者のいることがわかっているため「ワクチン接種証明書か陰性証明書の提示」に変更するのが正しい。また、ワクチンは変異株に効きが悪いという弁解もよく聞くが、有効性が中央の図に示されており、これを否定するには同レベルの調査に基づく科学的根拠が必要である。さらに、ワクチン接種は、右図のように、職場でSpeedyに行われているため、政府は、これに全面協力すべきだ)

*7-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210624&ng=DGKKZO73197860U1A620C2EA1000 (日経新聞 2021.6.24) 五輪観戦、違反なら退場も 酒禁止決定・ハイタッチNG・応援は拍手
 東京五輪・パラリンピックの観客向けガイドラインが23日公表された。新型コロナウイルス禍で飲酒の禁止や「直行直帰」など過去大会と比べ観客に多くのルール順守を求め、守らなければ退場などの厳しい措置もとる。大会組織委員会の橋本聖子会長は「祝祭感のあふれる会場にはならない」と話す。東京大会では酒類を会場内で販売せず、持ち込みによる飲酒も禁止した。飲料大手が大会スポンサーで当初は同社の酒類を販売する計画だったが、酒類提供の検討が明らかになるとSNS(交流サイト)などを中心に反発が広がった。組織委は専門家の意見を踏まえスポンサーとも協議。橋本氏は23日、記者会見で「少しでも国民に不安があるようなことがあれば、断念しなければいけない。スポンサーからも同意を得た」と説明する。接触や飛沫感染を防ぐため、コロナ禍五輪の観戦方法は大きく変わる。ガイドラインは観戦中もマスクを着用し、大声を出したりタオルを振り回したりする応援は行わないよう明記した。周囲の観客とハイタッチや、肩を組んでの応援も禁止となる。好プレーには声援ではなく拍手を促す。他の観客と距離を確保し、会場内を不必要に移動しないことなどで協力を求める。組織委は一部の競技会場について、トイレや売店の混雑状況をスマートフォンで確認できる仕組みを導入する。競技が終われば密を回避するために分散退場し、どこにも立ち寄らず自宅や宿泊先に直帰するよう求める。座席番号が分かるようにチケットの半券やデータは最低14日間保管することも要請する。観戦後に陽性が確認されれば保健所に観戦日時や座席位置を申告できるようにする。組織委は、ガイドラインの実効性を高めるために、順守しない観客に入場拒否や退場措置をとることもあるという。

*7-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/3cb34625693b1917401ccdaad767cf944db9afcf (Yahoo 2021/6/22) 夜遅い競技、埼玉県「無観客で」 バスケとサッカー、組織委に要請
 埼玉県は22日、さいたま市で実施される東京五輪のバスケットボールとサッカーに関し、夜遅い試合を無観客とするよう大会組織委員会に要請したと明らかにした。同市では新型コロナウイルスまん延防止等重点措置が継続中で、解除後も何らかの制限を設ける可能性があり、大野元裕知事は記者団に「観客有りは考えにくい」と述べた。県によると、さいたまスーパーアリーナで実施予定のバスケットボールは一部の試合が午後9時~11時。埼玉スタジアムでのサッカーも午後11時終了の試合がある。特例で無観客とするよう大野知事が組織委の橋本聖子会長に要請し「検討する」と回答があったという。

*7-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210624&ng=DGKKZO73190060T20C21A6FFJ000 (日経新聞 2021.6.24) 英、観客6万人超に拡大 サッカー欧州選手権、インド型流行で感染増、独伊首相が懸念
 英政府と欧州サッカー連盟(UEFA)は7月にロンドンで開催するサッカー欧州選手権の準決勝と決勝について、6万人超の観客入場を決めた。世界が注目する試合をテコに、新型コロナウイルスからの復活をアピールする。足元では感染力の強いインド型(デルタ株)が流行し、欧州では懸念も広がる。東京五輪の開幕を控え、コロナ禍での大規模イベント開催に関心が集まる。UEFAが22日に発表した。準決勝は7月6、7日、決勝は11日に「サッカーの聖地」とされるウェンブリー競技場で開催する。収容可能人数(9万人)の75%まで入場させる計画だ。UEFAのチェフェリン会長は「この大会は、人々の暮らしが通常に戻りつつあることを確信させるための希望の光だ」とした。同競技場で開催中の予選では収容可能人数の25%に絞っており、準決勝と決勝では一気に3倍に増やす。観客は入場時に新型コロナの陰性証明か、ワクチンの接種証明を提示するルールは残す。米国では大リーグやフットボールで観客の収容数を緩和する動きが広がるが、欧州でこの規模で入場させるのは珍しい。これに対し、欧州首脳は相次いで懸念を表明した。ドイツのメルケル首相は22日、「スタジアムを埋めることが、良いことだとは思わない」と述べたと公共放送ZDFが伝えた。イタリアのドラギ首相も21日の記者会見で「感染リスクが非常に高い国で開催しないことを支持する」と語り、決勝をローマで代替開催することを示唆した。念頭にあるのが、英国で流行するデルタ株だ。感染力が従来型よりも40~80%強いとされる。足元ではデルタ株の影響で感染者数が再び拡大し、1日に1万人を超える日が続く。政府はワクチン接種を急ぐことで重症者や死者を抑える考えだが、大勢が集まるイベントでの感染増への懸念はぬぐえない。主要7カ国首脳会議(G7サミット)が開かれた英南西部コーンウォールでは、開催中に感染者が増えていたことが分かった。英紙ガーディアンによると、コーンウォール地方の10万人当たりの感染者数は3日時点で約5人だったが、16日には約131人に急増した。G7サミットでは小さなリゾート地に要人警備などで6500人の警察官が集まった。ブラジルで開催中のサッカー南米選手権では各国の選手やスタッフらの感染も確認された。AP通信によると、22日までに140人が感染した。感染対策を徹底しないと、新型コロナの収束が遠のく可能性もある。東京五輪では、競技会場の収容人数を最大1万人とすることが決まっている。大会組織委員会などによると、1日あたりの観客数は、最も多い日で約20万人を見込む。欧州選手権は五輪の直前に開かれるだけに、収容人数の論議は当面注目を集めそうだ。

*7-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA2351H0T20C21A6000000/ (日経新聞 2021年6月23日) ワクチン2回完了、1000万人超 職場接種は受け付け休止
 政府は23日、新型コロナウイルスワクチンに関し、2回の接種を終えた人が1037万人になったと発表した。累計の接種回数も3438万回を超えた。65歳以上の高齢者のうち1回目を終えた割合も5割に迫る。接種率の高い一部地域で新規感染や重症化を抑えられている事例が出ている。1日あたりの接種回数も政府目標の100万回に近づく。23日公表のデータによると、9日が99万回で最多だった。14日は101万回だったが、同日は月曜日で、集計の仕組み上、土日に接種した医療従事者分を一度に計上している。政府は希望するすべての人への接種を10~11月までに完了させる目標を掲げる。まずは重症化しやすいとされる高齢者からワクチンを普及させ、感染拡大防止の効果を期待する。国のワクチン接種記録システム(VRS)への入力の集計によると、22日時点で1回目の接種は高齢者向けで1748万9340回となり、全体の49.2%に達した。2回目まで終わったのは566万5012回と15.9%だった。米ファイザー製は3週間、米モデルナ製は4週間の間隔を空けて2回目を打つため、7月中旬には半数を超す高齢者が2回の接種を終える見込みだ。菅義偉首相は23日、首相官邸で開いた新型コロナ対策の進捗に関する閣僚会議で「1回接種した高齢者の人口は半数程度となっている」と説明した。「新規陽性者に占める高齢者の割合は、先月末の17%台から直近では11%台まで低下した」とも語った。接種が先行する地域で感染状況が落ち着いてきた例が出ている。高齢者1回目が67%と最も接種率が高い佐賀県は重症者の病床使用率が2%まで抑えられ、新規感染者は4日以降で5人以下を維持している。高齢者の1回目接種率が59.7%の和歌山県は接種の進捗と並行して新規感染者は減り、2ケタとなったのは5月29日の17人が最後だった。6月22日には県民向けに1万円を上限に県内での旅行代金を割り引くキャンペーンを始めるなど、経済活動の正常化をめざす。厚生労働省の専門家組織「アドバイザリーボード」も23日の会合でワクチンの効果を分析した。同会合の資料によると2月から先行して医療従事者への接種を始めたのに伴い、クラスター(感染者集団)の発生場所のうち医療機関が占める割合は2月15日で3割ほどだったのが、6月21日時点で3%まで下がった。感染状況は緊急事態宣言や飲食店の時短営業、クラスター対策など複合的な要因があり、ワクチンの効果がどの程度かが分析されているわけではない。厚労省内でも各種のデータを分析し「接種率と新規感染者数の減少との因果関係は証明が難しい」との声はある。全国で多くの人が免疫を持って感染しにくくなる「集団免疫」を得るには課題がある。なかでも懸念されるのはより感染力が強いインド型(デルタ株)の拡大だ。インド型が新規感染者の9割ほどを占める英国は21日時点で成人の1回目接種が82%、2回目は60%に上ったものの、感染は再び広がっている。京大の西浦博教授がアドバイザリーボードで示した試算では、日本でも東京五輪が開幕する7月23日時点でインド型が新型コロナの68.9%を占める。世界保健機関(WHO)の研究者は昨年8月に新型コロナの感染を断ち切るには少なくとも60~70%の人が免疫を持つ必要があるとの見方を示した。感染力が強い変異ウイルスの広がりで、こうした割合の想定も上がるとの指摘が出ている。アドバイザリーボードは23日の会合で、ワクチン接種で高齢者の重症化抑制に期待を示す一方で「今後リバウンドが懸念される」との見解も示した。感染拡大を急速に招けば「結果的に重症者数も増加し、医療の逼迫につながる」と指摘した。ワクチン接種に関連し、河野太郎規制改革相は23日の記者会見で、企業での職場接種の新規受け付けを25日午後5時で一時休止すると発表した。申請が殺到し、モデルナ製ワクチンを供給できる量の上限に達しそうだと判断した。「相当な勢いで申請をいただいている。1日に可能な配送量は上限に達しているので一度ここで申請を休止したい。このままいくと供給できる総量を超えてしまう」と述べた。同じくモデルナ製を使う自治体の大規模接種会場向けも23日で新規の受け付けを止めた。すでに1回目を接種した人の2回目分は確保している。モデルナ製を使う自衛隊の大規模接種センターや大学での接種分は別枠で確保しており運用に支障はないという。厚労省はモデルナ社からワクチンを6月末までに4000万回分、9月末までにさらに1000万回分の供給を受ける契約を結んでいる。河野氏によるとこれまでの申請で、企業と大学と合わせて3300万回分、自治体の大規模接種会場で1200万回分をそれぞれ超えた。当面の対応は「若干、綱渡りのようなオペレーションになるかと思う」と話した。

*7-5:https://www.tokyo-np.co.jp/article/115172 (東京新聞 2021年7月7日) 東京に緊急事態宣言を発令へ、8月22日まで 東京五輪、都内は無観客で調整 
 政府は7日、東京都に4度目の新型コロナウイルス緊急事態宣言を12日から発令する方針を固めた。まん延防止等重点措置を延長する当初方針から転換した。23日に開会式を迎える東京五輪の都内の会場を無観客とする方向で調整する。沖縄県の緊急事態宣言は延長する。埼玉、神奈川、千葉、大阪の各府県のまん延防止等重点措置は延長する見通しだ。いずれも8月22日が期限。政府対策本部を8日に開いて正式決定する。緊急事態宣言下で開催される異例の五輪となる。東京都に宣言を発令すれば6月20日に解除して以来。北海道と愛知、京都、兵庫、福岡各府県に適用中の重点措置は期限の11日までで解除する方向だ。政府は宣言の対象地域では酒類を提供する飲食店への休業要請を引き続き行う。条件付きで午後7時まで容認していた重点措置の地域での酒類提供は原則停止とする。ただ知事の判断で緩和措置も可能とする。菅義偉首相は7日、10都道府県に発令している重点措置を巡り、西村康稔経済再生担当相や田村憲久厚生労働相ら関係閣僚と協議した。その後、東京の感染増を「万全の態勢をとって抑えていく」と記者団に述べた。五輪観客数の扱いについては、東京などの重点措置の対応を決定した上で、東京都、大会組織委員会、国際オリンピック委員会(IOC)などの代表による5者協議で決まると強調。「地方においては全体的に下げ止まりの傾向だ」とも語った。

<非科学的な政策(その1:新型コロナ対策)>
PS(2021年6月28日、7月1日追加): 公衆衛生学が専門で英国キングス・カレッジ・ロンドンの教授だった渋谷さんが、*8-1のように、「感染症対策の基本は、①感染経路の遮断(マスク・手洗い・三密回避) ②検査による感染者の把握と隔離 ③ワクチン」だが、「日本では①がメインで、国民の自主的努力に頼ってきた」「②の検査は抑制された」「③のワクチン承認プロセスが何カ月も遅れた」と言っておられるのに、私は全く賛成だ。つまり、政府(特に厚労省)は、国民の努力のみに頼り、邪魔こそすれ応援しなかったのである。
 その上、ワクチンを接種していない日本の一般人の方がずっとリスクは高いにもかかわらず、*8-2のように、来日前にワクチン接種し陰性証明を持っているウガンダ選手団の2人に「デルタ株」の感染があり、空港検疫を「すり抜けた」として、練習もさせずにホテルで待機させ、市の職員4人を濃厚接触者に認定しているのは非科学的だ。何故なら、選手は健康な人であり、「デルタ株」であってもワクチン接種で本人の重症化は防がれており、短期間で陰性に戻ることができる筈で、他人への感染力は小さいので、関係した人にPCR検査を行って陰性であることを確かめればすむからだ。そして、このような簡単な理屈もわからない人は、愚鈍であると同時に国籍による差別をしている。
 また、*8-3のように、東京五輪のプレーブックは、「④2回の陰性証明」「⑤大会期間中、検査を毎日選手に受けてもらう」「⑥日本の一般市民との接点を極力減らし、社会へのリスクを減らす」「⑦特定の場所の間を公共交通を使わずに移動」「⑧食事は競技・練習会場、宿泊施設レストラン・ルームサービス等の限定された形」「⑨五輪期間中の選手村での滞在は、各選手の競技開始5日前から終了2日後まで」というルールを決めたそうだが、④⑤はまあよいとしても、⑥⑦は、現在のワクチン接種率なら「日本の一般市民との接点を極力減らし、選手の感染リスクを減らす」と書き替えるべきである。さらに、⑧は、検査で陰性同士の人が接しても全く問題ないため、世界から集う選手の交歓という五輪の核となる特性を感染症対策を理由に過度に制限しており、⑨は、「競技が済んだらさっさと国に帰れ」という規定で、それでは選手も日本に来た意味が半減するだろう。そのため、私は、日本に来た選手に専用バスかはとバスを使ったオプションを企画し、日本の工場や観光地を巡るコースを準備したらよいと思う。この時、「おもてなし」をする日本人が全員ワクチン接種済であることが必要なのは言うまでもない。
 なお、*8-4のように、「五輪を無観客にすべき」というメディア等の大合唱で与党政治家も無観客開催の方向になびいているそうだが、感染者数だけ発表して「命が一番大切」などと粋がっていても意味がない。それより重要なことは、①中等症・重症の人が何人いるか ②それが首都圏や全国の医療をひっ迫させる数か ③その数で医療が逼迫するとすれば、その理由は何か ④ワクチン接種を全力で行って感染者数を減らす などである。「国民一丸となって」「総力戦で」など、まるで太平洋戦争中のように、非科学的で無責任な政策の責任を国民に押し付けるのは止めてもらいたい。

   
 2021.4.26毎日新聞      2020.10.29東京新聞      2021.6.23日経新聞

(図の説明:左図のように、日本全体の重症者数は最も多かった1月でも1000人程度であり、中央の図のように、重症化率は高齢者ほど大きい。また、右図のように、ワクチン接種率が高い地域ほど重症者の病床使用率は小さい。そのため、健康で若いワクチン接種済のオリンピック選手や関係者に重症者が出る確率は非常に低く、病床逼迫の理由とはならないだろう)

*8-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14953444.html (朝日新聞 2021年6月28日) (新型コロナ)現場から 日本の感染対策、国民の努力頼み 渋谷健司さんに聞く
 公衆衛生学が専門で、英国キングス・カレッジ・ロンドンの教授だった渋谷健司さんは5月に帰国し、福島県相馬市で新型コロナウイルスワクチンの接種事業を支援しています。日本のコロナ対策をどうみるか。オンラインで話を聞きました。
―日本の対策はどうですか。
 感染症対策の基本は三つです。一つ目が感染経路の遮断、つまりマスクや手洗い、三密を避けること。二つ目が検査をして感染者を見つけ隔離する。三つ目が免疫をつけるワクチン。日本では一つ目がメインで、国民の自主的努力に頼ってきました。敬服するほど皆さん努力してきたと思います。二つ目の検査は、ずっと抑制されてきた。社会経済を回すための検査がもっと必要だと私は主張してきましたが、なかなか増えません。多くの人が安心を求めて民間検査をしているのも日本の特徴だと思います。
―三つ目のワクチンは?
 ワクチンの承認プロセスは何カ月も遅れました。日本人での治験をせずに緊急承認する選択もあったのに、そうしなかった。緊急時ではない平時のプロセスでやっているようにみえます。
―福島県相馬市の新型コロナウイルスワクチン接種メディカルセンター長に就任しました。
 今は国難の時期で、ワクチンは最も優先順位が高い医療問題。貢献したいという思いで来ました。英国ではワクチン接種が進むにつれ感染者が減り、日に日に社会が明るくなってきました。日本でもワクチンの効果が数字に表れてくると、どんどんよい方向に変わっていくと思います。ただし集団免疫がつくには時間がかかります。接種したからといって安心せず、感染症対策の基本を継続していく必要があります。
―相馬モデルと呼ばれる方法の特徴は?
 接種する日時を地区ごとに決めた集団接種を基本としています。予約は不要で、その日に会場にくればいい。7月中旬には、16歳以上の希望者への接種がほぼ終了する見込みです。新型コロナに打ち勝つにはスピード勝負で、総力戦になります。会場設営の仕方や、どうやって滞在時間を短くするかなど、ノウハウをほかの自治体とも共有できたらいいと思います。

*8-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/96d397fe797163dfa4349f7bb0ca9c997b3a4cef (Yahoo 2021/6/26) 検疫「すり抜け」感染発覚……来日前にワクチン接種のウガンダ選手団、「デルタ株」に感染
 東京オリンピックへの出場で来日したウガンダ選手団で新型コロナウイルス感染が確認された2人について、デルタ株(インド型)だったことが分かりました。選手らは来日前にワクチンを接種していましたが、2人目は検疫をすり抜ける形で発覚しました。
■空港検疫「すり抜け」対策は
 東京オリンピックのため来日したウガンダ選手団の1人が、成田空港の検疫で新型コロナウイルス陽性が確認されましたが、感染していたのはインドで確認された「デルタ株」だったことが25日、分かりました。他の選手らはホストタウンの大阪府泉佐野市に移動した後、ホテルで待機していましたが、そのうちの1人も23日に陽性が判明しました。市の職員4人も濃厚接触者に認定されました。選手らは全員、来日前にワクチンを接種していました。大阪府の吉村知事は25日、「空港で陽性がもうすでに分かったのであれば、周りの一緒に行動している選手団に広がっている可能性は十分あるわけだから、その段階で止めておかないと、より広がってくる可能性が高いのではないか」と述べました。吉村知事は、ホテルで待機していた1人についても、スクリーニング検査でデルタ株(インド型)だったことを明らかにしました。空港検疫をすり抜け、感染が発覚したケースとなりました。厚生労働省は、検疫で選手らの感染が判明した場合、濃厚接触の疑いがある人を別の専用バスで合宿先まで運ぶことを検討しているといいます。
■ホストタウン「計画」変更で…
 25日夜、セルビア選手団のホストタウンになっている埼玉県富士見市では、ボランティアへの説明会が行われ、遵守事項や、「おもてなしの心」をいつも意識することの大切さが伝えられました。市のオリパラ担当課長が案内してくれた体育館では、7月20日からセルビアのレスリング選手の合宿が行われる予定で、国際基準のレスリングマットを(今後)2面ほど用意するということです。「当初はレスリングの実際の競技の体験を、(市民が)一緒に選手と交わってやろうということも企画はしていたのですが、残念ながらそういう状況がつくれなくて」と残念がります。選手には毎日のPCR検査や、移動の制限が求められます。市民は選手たちと距離を取った観覧席からのみ練習を見学できるよう、計画しているといいます。
*担当課長
「『市民に(感染の)影響が出るのか』と心配されている市民の方も多いですが、セルビア共和国の方もしっかりとした心構えで来ていただけるということで、無事最後まで成功できるような形を取りたいとは思っています」

*8-3:https://www.yomiuri.co.jp/column/henshu/20210511-OYT8T50056/ (読売新聞 2021/5/14) 「プレーブック」が語る「安心・安全」な東京五輪の開催とは
 新型コロナウイルス感染症は収束する気配が見えず、今夏の東京五輪・パラリンピック開催に向けた世論の懸念が高まっている。大会組織委員会、国際オリンピック委員会(IOC)などは4月28日以降、大会期間中の感染症対策指針をまとめた「プレーブック」第2版を公表したが、「安心・安全」な大会開催に、どこまで迫れるのだろう。
●変異型ウイルスの拡大受け、対策レベルを向上
 2月に初版が公表された「プレーブック」は、日本政府や国内外の感染症専門家などの知見を得て、選手、役員、報道関係などの対象ごとに、コロナ対策の指針をまとめたものだ。6月に最終版を出す予定という。第2版の特徴は、変異型ウイルスという新たな課題を意識し、対策のレベルが上がったことだ。選手や関係者が日本入国時に提出を義務づけられる「陰性証明」は、各国で受ける検査が1回から2回に増やされた。入国直後のフォローも厳格化。大会期間中選手に受けてもらう検査も、4日に1度程度としていたものが、原則毎日に引きあげられた。より感染が広がりやすいとされる変異型ウイルス。検査の網の目を細かくして早期に捉え、リスクを抑える狙いだろう。検査頻度を上げて大会参加者の安心を確保するだけではなく、日本の一般市民との接点を極力減らす「バブル」と呼ばれる考え方も徹底、社会へのリスクも減らす方針だ。選手・関係者は入国後、14日間の自己隔離を免除される代わりに、事前に提出・承認を受ける「行動計画」に従い、宿泊施設と練習・競技会場など特定の場所の間を、公共交通を使わずに移動することを求められる。感染リスクが高まりやすい食事についても、競技・練習会場、宿泊施設のレストランやルームサービスなど、限定された形で取ってもらうという。「バブル」は各国で開催されてきた国際競技大会でも採用された手法で、状況によっては参加者に、かなりの負担をかけることになり得る。五輪期間中の選手村での滞在は、各選手の競技開始5日前から終了2日後までと、世界から集う選手の交歓という五輪の核となる特性も、感染症対策が最優先される中ではお預けだ。ただ、選手は「コロナ陽性」となれば大会参加の夢を絶たれてしまうため、バブルの中で行動することが自分やチームを守るための方策ともなる。IOCのクリストフ・ドゥビ五輪執行局長は、選手団によるプレーブックの順守に自信を見せる。

*8-4:https://www.tokyo-np.co.jp/article/113820 (東京新聞 2021年6月30日) 4都県まん延防止延長検討 五輪無観客の可能性浮上
 政府は、新型コロナウイルス対応のまん延防止等重点措置を7月11日までの期限で適用している10都道府県のうち、東京など首都圏4都県について延長も視野に検討に入った。政府関係者が30日、明らかにした。感染再拡大(リバウンド)が続いており、感染状況を注視した上で来週中に判断する。政府内には緊急事態宣言発令に言及する声もある。重点措置延長や宣言発令がされれば、7月23日に開幕する東京五輪と重なり、無観客開催の可能性も浮上している。先週末に「東京が下げ止まるかが重点措置の延長の可否に影響する」と指摘していた首相周辺は「厳しい状況になってきた」と述べた。

<非科学的な政策(その2:開発を妨害するのはよくない規制と過去の常識)>
PS(2021年6月30日追加):*9-1に、富士フイルムHDが、「①900億円投じてバイオ医薬品の開発製造受託拠点を増強」「②ワクチン原薬の生産能力を米国で2倍に増強し、英国でも遺伝子治療薬の原薬の生産能力を高める」「③富士フイルムはバイオ薬のCDMOに注力して事業買収や設備増強を積極的に進めてきた」「④富士フイルムは、CDMO分野でデンマーク工場の設備を増強し、米ノースカロライナ州に新工場の稼働計画がある」「⑤写真フィルムで培った技術を活用してバイオ薬のCDMO事業に参入した」「⑥AGCは英製薬大手アストラゼネカから米国工場を約100億円で買収し、デンマーク工場は約200億円投じて生産能力を増強」と書かれている。
 このように、今まで培ってきた技術を活かして日本企業がバイオ医薬品産業に力を入れているのだが、投資先は欧米であって日本ではなく、その理由は、i)日本国内では承認を得にくいため、医薬品開発をすれば外国に負けること ii)希望者に治験を行うことすらメディアの批判に晒されること iii)そのため実用化や普及に絶望的時間を要すること iv)開発後の知的所有権もままならないこと v)従って、欧米で承認されたものを輸入した方が早いという判断になること 等が挙げられる。つまり、今の日本のやり方では、医薬関係のハイテク化に遅れるのである。
 それでも、*9-2は、「⑦苦い教訓から政府はワクチン開発・生産体制強化戦略を閣議決定」「⑧国家としてのワクチン戦略が不在だった」「⑨モデルナには米政府の手厚い支援があり、米政府は感染症を重大な安全保障の問題と位置付けている」「⑩ワクチン市場は米欧メーカーが席巻している」「⑪癌・高血圧・糖尿病等の薬は安定した需要が見込めるが、感染症は事前に分からない」「⑫そのため、民間企業だけでワクチン開発に取り組むのは経済合理性に乏しく、政府との二人三脚が欠かせない」「⑬先立つものはカネで、ワクチン敗戦を語る識者は費用負担の構えができているだろうか」などと記載している。しかし、⑪のような「ワクチンのニーズが事前にわからない」会社にワクチンの企画・開発は無理であるため、⑫⑬のように政府が予算をつぎ込んでも公共事業化するだけである。そのため、日本人の科学力を上げ、よいアイデアを持つ人に資金的バックアップをすることが必要なのであり、その際には、i)、ii)、iii)、iv)、v)をまず解決して、関係する周囲からの妨害がないようにすべきなのだ。
 このような中、立憲民主党の議員が、*9-4のように、「⑭東京オリ・パラの選手が新型コロナに感染して重症化したらベッド不足にならないか」「⑮選手・関係者に多数の感染者が出れば、東京都民のベッドが不足し、医療が逼迫するのではないか」と質問し、内閣官房のオリパラ推進本部事務局の担当者が、「⑯毎日検査をして行動管理・健康管理も行うし、選手から陽性者が発生した場合でも殆どは無症状か軽症であることが想定されている」「⑰一般の集団に比べ、選手は若い人が多いため、重症化して入院病床が埋まることは考えにくい」としたそうだ。
 しかし、⑭⑮は医療の逼迫を盾にして五輪中止か無観客に追い込むための批判のように思う。何故なら、EUでは、*9-5のように、2021年7月1日からワクチン接種完了と新型コロナからの回復データを空港等で提示すれば、事前の検査や隔離期間が免除され、こちらの方が科学的だからである。その上、五輪の選手はワクチン接種証明か陰性証明を持って来るとりわけ健康な人で、(日本政府の想定だから信じられないという不幸はあるものの)⑯⑰は妥当な判断と言えるからだ。それでも、「医療逼迫」を心配する人がいるのなら、選手村を租界のように扱って、可能な国には選手団に医師を随行させればよいだろう。その理由は、随行してくるドクターも健康管理や感染症の初期治療はでき、日本の医療に負担をかけることが著しく減るからである。

*9-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210630&ng=DGKKZO73398500Z20C21A6TB1000 (日経新聞 2021.6.30) 富士フイルム、バイオ薬900億円追加投資 米英拠点に、ワクチン原薬を増産
 富士フイルムホールディングスは900億円を投じ、バイオ医薬品の開発製造受託(CDMO)の拠点を増強する。米国でワクチン原薬の生産能力を2倍に引き上げ、英国でも遺伝子治療薬の原薬の生産能力を高める。新型コロナウイルスの感染拡大を受けワクチンなどの需要は伸びている。同社はCDMO向けの投資を積み増し、この分野のシェア拡大を目指す。バイオ薬は細胞培養や遺伝子組み換えなどのバイオ技術を使ってつくる。バイオ薬の製造設備は投資負担が重く、高い生産技術が求められるため、製薬会社が外部の企業に製造を委託する動きが広がっている。富士フイルムはこのバイオ薬のCDMOに注力している。事業買収や設備増強を積極的に進めており、今回の900億円の投資により、この分野への累計投資額は6000億円程度にのぼることになる。富士フイルムは29日、900億円の投資を発表した。三菱商事との共同出資会社、フジフイルム・ダイオシンス・バイオテクノロジーズが米国に持つ生産拠点に細胞培養タンクなどを導入する。「遺伝子組み換えタンパク質ワクチン」の原薬の生産能力が約2倍に増える。このワクチンは遺伝子組み換え技術を使ってウイルスのタンパク質をつくり、これを投与して免疫反応を引き出すもので、新型コロナ向けの利用も見込まれている。英国工場でも、遺伝子を体内に入れて病気を治す遺伝子治療薬の生産開発棟を新設し、同拠点での原薬生産能力を10倍以上に拡大する。バイオ薬の一種である抗体医薬品向けでも中小型の培養タンクを追加し、生産能力を3倍に増やす。今回の投資に先立ち、富士フイルムはCDMO分野で、デンマークの工場の設備増強や、米ノースカロライナ州に新工場を稼働させる計画を打ち出してきた。さらなる積極投資に踏み込む。富士フイルムは写真フィルムで培った技術を活用し、2011年にバイオ薬のCDMO事業に参入した。世界で十数%のシェアを持つとみられ、ロンザ(スイス)に次ぐ2位グループに入る。バイオ薬のCDMO市場は年平均10%程度で成長している。足元ではコロナ用ワクチンや治療薬の生産で、市場の需給も逼迫している。富士フイルムのバイオ薬のCDMO事業は米バイオ医薬品大手バイオジェンから事業を買収した効果もあり、21年3月期の売上高が1000億円超と前の期から7割増えた。25年3月期には売上高を2000億円に引き上げ、その後も年率20%の成長を目指している。バイオ薬のCDMOは投資競争の様相だ。2位グループの一角、韓国サムスンバイオロジクスは20年に約1550億円を投じる新工場の建設を決めた。AGCは英製薬大手アストラゼネカから米国工場を約100億円で買収し、デンマーク工場では約200億円を投じて生産能力を増強する。

*9-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210622&ng=DGKKZO73109490R20C21A6EN8000 (日経新聞 2021.6.22) ワクチン開発、カネの覚悟を
 新型コロナウイルスのワクチン開発で米英に後れを取った日本は、ワクチンを入手するために涙ぐましい努力を払った。日本への帰国直前の杉山晋輔駐米大使(当時)が、米ファイザーのブーラ最高経営責任者(CEO)と直談判で供給を確保するなど、異例の交渉を余儀なくされた。苦い教訓を基に政府は6月1日、ワクチン開発・生産体制強化戦略を閣議決定した。文書には従来の開発・製造体制の問題点が率直につづられている。一読して明らかなのは、国家としてのワクチン戦略が不在だったことである。日本でファイザー製と並んで接種されている米モデルナ製。モデルナはバイオベンチャーと紹介されることが多いが、日ごろから開発には米政府の手厚い支援がある。同社は2013年から米国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)から2500万ドル(約27億5000万円)の支援を受けている。保健省からは16年に最大1億2500万ドルの研究資金を得た。緊急時である今回のコロナ禍に際し、ワクチン開発のために追加で9億5500万ドルの政府資金が注ぎ込まれた。米政府が感染症を重大な安全保障の問題と位置付けていることがハッキリする。モデルナの創業時に遡ると、マサチューセッツ州のベンチャーキャピタルから資金と人材が提供されている。日ごろからの力の入れようの差が、コロナ禍で浮き彫りになったといえる。次の感染症に備えて日本も開発を強化すべし。外野席から説教するのは簡単だが、経済的条件を直視する必要がある。国内のワクチンの市場規模は、コロナ前の19年で3200億円。10兆円の医薬品全体の3%あまりにすぎない。世界のワクチン市場4兆円の約8%を占めるが、市場は米欧メーカーが席巻している。しかもワクチンは製薬会社にとり経営リスクが大きい。がんや高血圧、糖尿病などの薬は安定した需要が見込めるが、感染症はいつ、どれだけ発生するか事前には分からない。民間だけでワクチン開発に取り組むのは経済的な合理性に乏しい。モデルナの例が物語る政府と企業の二人三脚が欠かせないのである。日本政府はその方向を模索しようとしているが、先立つものはカネ。ワクチン敗戦を語る識者は費用負担の構えができているのだろうか。

*9-3:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO73398810Z20C21A6TB1000/ (日経新聞 2021年6月30日) 東芝、再生医療で新会社、独立し意思決定を迅速化
 東芝は、再生医療向けの装置・ソフトウエア事業を新会社として独立させる。研究開発を主導していた研究者2人が新会社に出資し、代表取締役となる。2人が議決権の過半を握り、東芝の出資比率は2割未満に抑える。東芝から独立した企業となることで、意思決定のスピードを速め、拡大が見込まれる再生医療の市場を取り込む。新会社のサイトロニクス(川崎市)は細胞を培養する際の管理を効率化できる機器とシステムを提供する。資本金(資本準備金含む)は1億9000万円で、7月1日から営業を始める。東芝のほか、ベンチャーキャピタル(VC)のビヨンドネクストベンチャーズ(東京・中央)が出資する。東芝は同事業に関わる知的財産を譲渡する。再生医療は、やけどの治療として皮膚の細胞を培養して患者に投与するなどする。サイトロニクスが開発する装置は、再生医療向けに培養する細胞が入った容器を設置するだけで微細な画像を自動で取得し解析できる。従来品に比べて5分の1程度に小型化し、無線通信を活用できる。機器を置く装置内部の温度や湿度を一定に保てる。研究機関や医療関連企業など向けに売り込み、2030年をメドに年間の売上高100億円を目指す。早期の新規株式公開(IPO)も検討する。

*9-4:https://digital.asahi.com/articles/ASP6Z6FQBP6ZUTFK01D.html?iref=comtop_7_03 (朝日新聞 2021年6月30日) 五輪選手、陽性でもほぼ無症状か軽症? 政府が想定説明
 東京五輪・パラリンピックの選手が新型コロナに感染して重症化したらベッド不足にならないかという疑問に対する政府側の答えは、「選手に陽性者が出てもほとんど無症状か軽症」だった。30日にあった立憲民主党の会合でのやりとり。出席した国会議員からは「希望的観測だ」と懸念する声が上がった。立憲議員が「選手・関係者に多数の感染者が出れば、東京都民のベッドが不足し、医療が逼迫(ひっぱく)するのではないか」と質問。内閣官房のオリパラ推進本部事務局の担当者は「日々、検査をし、行動管理も健康管理も行う。仮に選手から陽性者が発生した場合でも、ほとんどは無症状、あるいは軽症であることが想定されている」と説明。「地域医療に支障を生じさせないよう対応する」と述べた。これに対し、議員からは「命の選別が起きる事態をどう想定するのか」といった厳しい意見も出た。この担当者は会合後、朝日新聞の取材に、大会組織委員会の医療の専門家から、管理が行き届いた選手について「仮に陽性者が出ても、症状が出る前に陽性と分かるだろう」との見解を得ていると語った。そのうえで「一般の集団に比べ、選手は若い人が多い。重症化し、入院病床が埋まるということは考えにくい」との認識を示した。

*9-5:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR25EXU0V20C21A6000000/ (日経新聞 2021年6月30日) EUがワクチン証明本格稼働へ 1日から、感染増リスクも
 欧州連合(EU)で新型コロナウイルスのワクチン接種を証明するシステムが7月1日から本格稼働する。夏のバカンス期に観光などを目的とした多くの人の移動にお墨付きを与え、景気浮揚につなげる考えだ。EUでも変異ウイルスの感染が広がりつつあり、人の移動の正常化と感染抑制の両立の取り組みが成功するか注目を集めている。EUが導入する「デジタルCOVID証明書」には、ワクチン接種完了や新型コロナ感染からの回復といったデータが記録され、QRコードのついた形でデジタルや紙で発行される。空港などで提示することで、事前の検査や隔離期間が免除される。EUの欧州委員会の提案に基づいて、加盟27カ国が5月までに証明書の共通書式や技術面の仕様で合意した。6月からギリシャやドイツなど7カ国が先行導入して以降、準備が整った加盟国からシステムに接続してきた。30日時点で27加盟国中21カ国が導入済み。EU非加盟のノルウェーやアイスランドなども加わっている。証明書の狙いは、人の移動を活発にし、新型コロナで打撃を受けた経済の再生につなげることだ。EU統計局によると、外国人による宿泊回数は2020年で約4億回と前年から7割減った。なかでもギリシャ(77%減)やスペイン(79%減)、キプロス(83%減)など南欧諸国の落ち込みが目立つ。EUでは、新型コロナを機に加盟国が相次ぎ国境管理などの制限措置を導入した。域内の移動を自由化した長年の欧州統合の成果が長期間損なわれれば「EUの結束に悪影響が出る」(EU高官)との懸念も強い。20年はEU全体でマイナス成長になったが、観光業への経済依存度が大きい南欧諸国が受けた打撃はとりわけ大きい。観光立国のギリシャはEU規模の証明書の導入を当初から主張してきた。同国のホテル協会の関係者は「観光客は戻り始めたが、まだとても不安定な状況だ。本格的な観光復活には証明書が不可欠だ」と語る。加盟国は移動規制や店舗の営業制限の緩和に動き出している。スペインなど南欧の一部では屋外でのマスクの着用義務も解除され、市民生活は平時に戻りつつある。EU復興基金の資金も7月には加盟国への分配が始まる見通しで、景気には好材料が多い。ユーロ圏の成長率が20年の6.6%減から21年は4.5%増に改善すると予測する独コメルツ銀行は「21年末には景気はコロナ危機前の水準に戻る」と分析する。「絶えず警戒し続けねばならない。変異ウイルスが急速に広がっている」。フォンデアライエン欧州委員長は6月25日の記者会見で油断を戒めた。足元では感染力の強いインド型(デルタ株)の感染が広がっている。EUの専門機関、欧州疾病予防管理センター(ECDC)は23日、8月末までにデルタ株の感染が全体の9割に達するとの予測を公表した。当初遅れていたワクチン接種の速度は上がっている。ECDCによると、少なくとも1回の接種を終えた成人は28日時点で59%に上る。だが、より高い効果を得られる2回目の接種を終えた人は36%にとどまる。このまま多くの人が移動する夏のバカンスシーズンを迎えることへの不安はくすぶっている。

<非科学的な政策(その3:不要な規制・外国人に対する差別と人権軽視)>
PS(2021年7月3、6日追加):*10-1のように、大会組織委員会が国立競技場で実施する開閉会式を無観客とする方向で検討しているそうだが、「接種を受けていない人への不公平な扱いや不当な差別に繋がる」などという馬鹿なことを言わずに、*10-3のワクチンパスポートを活用すれば、「50%以内で1万人が上限」「50%以内で5千人が上限」「無観客」などの科学的根拠のない規制を行って経済に迷惑をかけず、五輪も有観客で行うことができたのだ。
 また、*10-2のように、五輪の取材のために来日するワクチン接種済の記者に、「①GPSで行動確認」「②水際対策アプリのダウンロード要求」「③観客への取材制限」等の行動制限を設けたことに対し、アメリカの有力紙12社が「④個人のプライバシーと技術上の安全面を軽視している」「⑤制限が来日する記者に限られることは不公平」「⑥報道の自由を侵害しないよう再検討を求める」と連名で大会組織委員会に抗議文を送ったのは全く尤もであり、私も外国人差別が過ぎると思って呆れていたところだった。
 さらに、そのワクチンの職場接種は、*10-4のように、「ワクチン供給が追いつかなくなったため」として政府が新規申請受付を停止しているが、職場接種した人は自治体で接種する必要がないため、年齢を問わず接種券を素早く発行し、既接種者を自治体が直ちに把握できるようにして、1人の人にワクチンを二重に準備することがないようにすればよかったのだ。その理由は、接種券なしで職場接種を行えば接種済の入力に手作業の時間を要するため、既接種者をすぐ把握することができないからだ。そして、合理的にやってもワクチンが足りないのであれば、英アストラゼネカ製や米ジョンソン&ジョンソン製を使えばよいのである。
 なお、*10-5の「⑦政府が自治体等の接種実態を正確に把握できずにいる」というのは、(申し訳ないが)デジタル庁を作ると言いながら、どこまでアホかと呆れさせられる。何故なら、「⑧どこで」「⑨誰に」「⑩どれだけの数量を接種したか」「⑪それぞれの場所の在庫と不足数量はどれだけか」は、ポスシステム(1980年代からスーパーやコンビニで使っているシステム)を使えば、何カ所で接種してもすぐ把握できるからだ。しかし、行政による代理登録はしてよいものの、手作業を入れずに集計できるよう、接種券を発行して番号管理をする必要はあった。そのため、「国がどんどん打てと急がせた」などと文句を言うのは、まるで自治体はやりたくなかったのにやっているようで感心しない。実際には、必要以上に年齢制限をして接種券を発行しなかった自治体にも責任があるだろう。

*10-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE025TZ0S1A700C2000000/ (日経新聞 2021年7月2日) 五輪開閉会式、無観客で検討 8日にも5者協議
 東京五輪の観客数を巡り、新型コロナウイルス対策で東京都などに発令中の「まん延防止等重点措置」が延長される場合、大会組織委員会が国立競技場(東京・新宿)で実施する開閉会式を無観客とする方向で検討していることが2日、関係者への取材で分かった。収容定員の「50%以内で最大1万人」としていた観客上限を見直す。その他の大規模会場や夜間の一部試合を無観客にする案も浮上している。組織委は8日にも政府や都、国際オリンピック委員会(IOC)、国際パラリンピック委員会(IPC)と5者協議を開き、観客上限の見直しについて検討する。前回6月21日の協議で五輪の観客を最大1万人などに決める一方、都などへの重点措置が今月12日以降も続くなどした場合、無観客も含め対応を検討するとしていた。現在の政府基準では、重点措置下でのイベントの観客は「50%以内で5千人」が上限となっている。過労で一時静養していた小池百合子東京都知事は2日、都庁で公務復帰後初めての記者会見に臨み、都内で新型コロナ感染が再び広がっていることから「無観客も軸に考えていく必要がある」との認識を示した。組織委の橋本聖子会長は同日の定例記者会見で「政府が示す基準にのっとって5者協議を行いたい。無観客も覚悟しながら対応できるようにしていきたい」と述べた。組織委は観客上限を超過した販売済みチケットの再抽選を行い、6日に結果を公表する予定だった。上限の見直しが必要になる公算が大きく、延期を検討している。

*10-2:https://news.goo.ne.jp/article/fnn/world/fnn-204309.html (Goo 2021/7/2) 米有力紙が組織委に抗議文 来日記者の取材制限に
 東京オリンピック・パラリンピックの取材で来日する記者らに設けられた行動制限に対して、アメリカの有力紙12社が、連名で大会組織委員会に抗議文を送ったことがわかった。来日する記者は、GPS(衛星利用測位システム)での行動確認が設けられるほか、水際対策アプリのダウンロードが求められ、観客への取材も制限される。これに対し、6月28日、ニューヨーク・タイムズ紙など有力紙12社が、連名で「個人のプライバシーと技術上の安全面を軽視している」と、大会組織委員会に抗議文を送った。制限が、来日する記者に限られることは不公平だとし、報道の自由を侵害しないよう再検討を求めている。

*10-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/114256?rct=politics (東京新聞 2021年7月2日) ワクチンパスポートを今月下旬に発行 経済活性化への期待の半面、接種受けない人への差別招く恐れも
 政府は、新型コロナウイルスワクチンの接種歴を公的に証明する「ワクチンパスポート」を7月下旬に書面で発行する。外国への渡航時だけでなく、国内でもコロナの感染拡大で落ち込んだ経済効果への期待も高いが、接種を受けない人への差別を招く恐れもある。政府は当面、国外での利用のみを想定している。欧州連合(EU)では夏休みの時期を前に、1日から域内共通のコロナワクチン接種のデジタル証明書の運用を本格的に開始した。日本での発行について、加藤勝信官房長官は1日の記者会見で「システムの試行などを行った上で、具体的な発行を開始したい」と説明。デジタル化は「検討を進めている」と話した。
◆申請、発行は市区町村
 ワクチンパスポートは、仕事や留学で外国へ入国する際、隔離や検査などの措置が緩和されることが期待される。正式名称は「新型コロナウイルスワクチン接種証明書」となる予定で、氏名や旅券番号、ワクチンの種類や接種日などを日本語と英語で記載する。当面は国外での利用に限定し、日本への入国時で活用するかは今後検討する。早期に交付するため、まずは紙による申請・交付を行い、A4サイズの偽造防止用紙に印刷する。費用は国が負担する。申請先、発行主体は市区町村になる。
◆経団連は早期活用を提言
 経団連は6月24日、ワクチンパスポートの早期活用を求める提言を政府へ提出。国内での活用として(1)飲食店などでの各種割引、特典の付与(2)国内移動、ツアーでの活用(3)イベント会場での優先入場(4)介護施設や医療機関での面会制限の緩和ーなどを挙げた。
◆国内での活用は「検討が必要」と官房長官
 ワクチン接種については、持病など健康上の理由などから受けられない人や副反応を心配して希望しない人もいる。パスポートの活用は、接種を受けていない人への不公平な扱いや偏見が生じるとの指摘もある。加藤氏は2日の記者会見で「国内での接種の事実は、接種済証で証明できる」とした上で、ワクチンパスポートの国内での活用に関しては「接種の有無で不当な差別的扱いを行うことは適当でなく、検討が必要」と話した。

*10-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/700570 (佐賀新聞論説 2021.7.3) 職場接種申請停止、ワクチン供給に全力を
 企業、大学を対象とする新型コロナウイルスワクチンの職場接種は、ワクチン供給が追いつかなくなったため本格開始の2日後に政府が新規申請受け付け停止を発表した。再開の見通しはつかず、このまま打ち切りになる可能性もある。自治体や自衛隊による接種を補う職場接種は、菅義偉首相が掲げた10~11月までに全希望者へ打ち終える目標に向け、作業加速化の切り札だった。しかしスピードを優先するあまり、需要見通しを甘く見た上、過大な量の申請をチェックする態勢なども未整備だった。大企業は早く申請して接種が進む一方、医療従事者確保など準備に時間を要した未申請の中小企業は、はしごを外された形だ。前例のない大規模ミッションとはいえ、やみくもな「強行軍」では国民の命と健康を守り切れない。市区町村による接種向けのワクチンも滞り始めた。政府はワクチン供給を軌道に戻すことに全力を挙げてほしい。政府は、若者を含む現役世代の接種率を一気に上げようと、同一会場で最低千人程度に2回打つことを基本に職場接種を開始した。使うのは5千万回分の供給契約を結んだ米モデルナ製ワクチンで、うち3300万回分を職場接種に割り当てた。だが早々に申請が供給を上回るペースとなり受け付けを止めざるを得なくなった。現場を混乱させる朝令暮改の対応だと言わざるを得ない。河野太郎行政改革担当相は原因に関し、従業員約千人の企業がワクチン5千回分を求めるなど過大な申請が散見されると述べた。実際に多すぎた例もあるだろうが、家族や取引先、近隣住民まで接種対象を広げるよう求めたのは政府だ。民間のやる気を駆り立てながら、過大請求を指摘するのはちぐはぐな対応と言わざるを得ない。企業や大学には反発、戸惑いが広がる。受け付け停止直前に駆け込み申請したが、予定する複数会場のうち一部にワクチンが回らない企業もある。経済同友会は地方で計画していた中小企業対象の集団接種を取りやめた。打ち手や会場を確保しながら申請できなかった企業は、それまでの手間やコストが無駄になる。この混乱の責任は重い。政府はモデルナ製の逼迫ひっぱくを受け、都道府県などが新たに開設する大規模接種会場向けをモデルナ製から米ファイザー製に切り替え、余ったモデルナ製500万回分を職場接種に回す方針だ。異なるワクチンのすみ分けがきちんと管理できるなら、こうした融通を利かせて危機を乗り切りたい。ただ、市区町村による個別・集団接種に従来使用されてきたファイザー製も現場に十分届かなくなっている。大阪市は、医療機関からの申請に追いつかないとして7月から個別接種向けのファイザー製供給を制限した。自治体や医療機関の一部に在庫が滞留し、必要な地域に回らないのが原因とされる。政府は自治体と連携し、早急に在庫の実態を調べて配分先を再調整してほしい。また政府は英アストラゼネカ製1億2千万回分も調達契約済みだが、まれに血栓症の副反応があるため使用を見送っている。だが海外では十分な接種実績と効果が報告されている。ワクチン供給の逼迫解消には、リスクを慎重に見極めた上、比較的安全とされる60歳以上に限定して使う選択肢もあり得るのではないか。

*10-5:https://digital.asahi.com/articles/ASP757H8DP75ULFA024.html?iref=comtop_AcsRank_05 (朝日新聞 2021年7月6日) 「どんどん打て」急かされた結果…接種記録遅れ現場混乱
 新型コロナウイルスのワクチン接種をめぐり、政府が自治体などの接種実態を正確に把握できずにいる。接種回数や自治体の在庫量は、国のワクチン接種記録システム(VRS)で一元的に管理するが、接種の入力が煩雑で遅れるケースが相次ぐ。ワクチン不足を訴える自治体が出ているなか、今後の配送計画にも影響を及ぼしかねない。
「VRSの作業は煩雑で負担になる。接種に注力させてほしい」。大阪市はこうした大阪府医師会からの要請を受け、診療所などから個別接種がすんだ人の接種券を回収し、登録作業を代行している。国は接種券の情報を瞬時に読み取る専用端末を全国に配布。医療機関や自治体が接種の際に登録する仕組みだが、個別接種を行う市内約1800の診療所などのうち、9割がVRSの端末の利用を希望しなかった。このため、接種日から登録まで平均1カ月のタイムラグが発生。市の集団接種会場では、当日のうちにVRSの登録を済ませるのとは対照的だ。松井一郎市長は、「VRSの作業に手間がかかり、(診療所などでの)接種人数が抑えられるなら本末転倒」と、登録より接種を優先してきた事情を強調する。ただ、市の人口は大阪府内の3割を占め、府全体の接種率に大きく影響する。吉村洋文知事からの要請もあり、7月以降は接種券をこまめに回収するなどして登録遅れを1週間に縮める対応を取っている。行政による代理登録は、大阪市だけでなく、東京都世田谷区でも行われている。VRSの入力遅れは、地域ごとにさまざまな事情で生じており、政府が掲げた「1日100万回接種」の目標達成も実際の達成と発表まで最大15日間の遅れがあった。そもそも、VRSは国がリアルタイムに接種記録を管理するためにつくり、ワクチンの在庫把握にも利用される。ところが、「国がどんどん打てと急がせた」(官邸関係者)ことで、自治体の入力が追いつかず現実とシステム上の数字にギャップが生まれた。こうした状況に、政府内の調整を担う河野太郎行政改革相は、7月からVRSへの登録実績に応じてワクチンの一部を傾斜配分する方針を表明。接種登録の作業が遅れている自治体は、システム上は接種が進んでおらずワクチンが余っていると見立てた。自治体側からは反発が出ており、7月の自治体へのワクチン配送量が6月より約3割減になるところにこの傾斜配分が加わったことで、全国の自治体に「ワクチンが足りなくなる」との懸念が広がった要因の一つとなった。さらに接種状況の把握を難しくさせたのが、6月から始まった企業や大学の職域接種だった。自治体での接種と異なり、接種券がなくても従業員名簿や学生簿で管理することで接種を可能にした。後日、自治体から本人に接種券が届けば企業や大学に提出して、VRSに登録してもらう。このため、自治体からすれば、住民の誰が職域接種を済ませたのかすぐに分からず、接種計画が立てづらくなった。官邸関係者は「職域接種により、自治体全体での接種が早いのか遅いのか見えなくなる。ブラックボックスになってしまった」と説明する。自治体接種で使われる米ファイザー製と、職域接種で使われる米モデルナ製は、年内に計2億4400万回分(1億2200万人分)が供給される見通し。接種対象となる約1億1千万人分のワクチンは確保されているが、7月以降は自治体への配送量が減る。今後、ワクチンの配分を「最適化」させるには、正確な接種状況や迅速な在庫量の把握が欠かせない。河野氏は6月23日の記者会見で、今後のワクチンの配送計画について「目をつぶって綱渡りをするようなオペレーションにならざるを得ない」と漏らした。そのうえで、在庫を減らして必要なものを必要な時につくるトヨタ自動車の生産方式を引き合いに見通しを語った。「自動車工場のようにジャスト・イン・タイムというわけにもいかない。すぐにVRSで(職域の)数字が見えないので、正直ちょっと厳しいと思っている」

<不合理な政策(外国人への不公平・不公正な規制と人権侵害)>
PS(2021年7月4日追加):*11-1のように、米国務省が世界各国の人身売買に関する2021年版報告書で日本の外国人技能実習制度の悪用を問題視した。具体的には、「①手取り13万5000円と聞いていた給与は8万円ほどだった」「②社長の従業員に対する暴力や嫌がらせがあった」「③実習制度は劣悪な職場でも仕事を変えられない職場移動の自由がない仕組み」「④多くの実習生が劣悪な環境でも働き続けるしかない」「⑤2019年に7割以上で労働時間や残業代支払いなどでの違反があった」などで、技能実習の建前の下で、搾取・パワハラ・人権侵害が横行しているため、私も技能実習制度を廃止して人権を守る受け入れ制度をつくるべきだと思う。
 また、*11-2の上毛新聞(群馬県の地方紙)によると、「⑥2020年に県警が摘発した在日外国人は、433人と過去10年で2番目に多かった」「⑦日本人を含めた全摘発数に占める割合は前年比0.5ポイント上昇の10.9%で2年連続全国最高だった」「⑧新型コロナの影響で失職した外国人がコミュニティーを頼って群馬県に集まっていることが影響した」「⑨罪は、窃盗95人、傷害・暴行66人、詐欺8人、薬物事犯26人、入管難民法違反187人(過去10年最多)」「⑩国籍別では、ベトナム212人、ブラジル41人、中国34人、フィリピン33人、ペルー18人でベトナム人増加に伴って摘発も増えた」とのことだ。しかし、このうち、⑨の入管難民法違反は、日本人にはない罪で不合理なほど厳しい上、窃盗は⑧の新型コロナの影響で失職した外国人が生きるための最後の手段として行ったものと考えられる。そのため、この2つを除けば、県警が摘発した在日外国人は151人(=433-95-187)・4.1%(151/《433/0.109-95-187》)となって、日本人の犯罪率と変わらないのではないかと思う。つまり、いかにも外国人が悪いことをする人であるようなイメージを作っているが、その罪の多くは外国人に課された不公平・不公正な待遇に起因するものと言える。
 また、*11-3の難民保護でも、相手の立場に立って考えない人権侵害が多く、具体的には「⑪10年代には紛争激化で世界の難民数が増え」「⑫紛争や人権侵害のため母国に住めず、日本に難民申請する人が増加した」にもかかわらず、「⑬法務省は申請増に歯止めをかけようと、2018年に難民に当てはまらない申請者の在留や就労の制限を強化し」「⑭2020年の難民認定率を0.4%に留めたため先進国の中で極めて低い水準になった(カナダ56%、英国46%)」。さらに、「⑮在留期限が切れて不法残留者となった人は2021年1月時点で8万2868人に達して、摘発され帰国するまで入管施設に留めおかれ」「⑯名古屋出入国在留管理局で死亡したスリランカ人女性は半年以上施設に収容され、仮放免を求めてハンガーストライキを起こし体調を崩した収容者も多い」という状況だ。つまり、日本が好きで日本に来てくれた人をひどい目に合わせて追い返すことによって、その一族を根っこからの日本嫌いにするという愚策を行っているわけだ。

    
     2021.2.7上毛新聞      2021.5.28日経新聞   2021.5.28日経新聞

(図の説明:左図のように、群馬県警における在日外国人の摘発数が上がったそうだが、その内訳は、外国人に課された不公平・不公正な待遇に起因するものが半分以上である。また、中央の図のように、日本への難民申請者の数は高水準が続いているのに、日本は難民認定を厳格化して認定割合を0.4%に留めている。そのため、右図のように、第三者機関による審査制度は必要だが、そもそも先進国並みの認定水準にして人材鎖国をやめることが必要不可欠だ)

*11-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/114281 (東京新聞 2021年7月2日) 「搾取」の汚名負った外国人技能実習制度 米国務省の人身売買報告書が指摘
 米国務省が1日発表した世界各国の人身売買に関する2021年版の報告書で日本の外国人技能実習制度の悪用が問題視されたのは、多くの実習生が劣悪な環境でも働き続けるしかない状況に追い込まれているからだ。日本の技術を母国に持ち帰ってもらう「国際貢献」の理念は色あせ、逆に「搾取」の汚名を負った。
◆「手取り月13万5千円」、実際は8万円
 「稼げないし、職場のいじめが怖くて逃げ出すしかなかった」。元実習生のベトナム人男性(30)は2日、本紙に2018年の実習先での経験を明かした。125万円を借金して来日したが、手取り13万5000円と聞いていた給与はわずか8万円ほど。社長の従業員に対する暴力や嫌がらせから、「次は自分かも」と不安に陥り、半年ほどで逃げ出した。
◆7割以上の事業所で労働時間などの違反
 いったんは入管施設に収容され、今は仮放免中。働くことは認められない。コロナ禍で航空便がないため帰国もできず、生活に窮して支援団体に保護された。そもそも実習制度は劣悪な職場であっても簡単に仕事を変えられない仕組みだ。この男性のような失踪者は19年、9000人近くに上り、その後も後を絶たない。厚生労働省によると、技能実習生は毎年増え、昨年10月で40万2356人。外国人労働者の23・3%を占める。賃金は月平均16万1700円で、外国人労働者全体の同21万8100円を大きく下回る。19年に実習先約1万事業所を調べると、7割以上で労働時間や残業代の支払いなどで違反があった。
◆指宿弁護士は「制度廃止を」
 人身売買と闘うヒーローに選ばれた指宿昭一弁護士は2日、「実習生はブローカーへの手数料などで多額の借金を背負い、職場移動の自由はなく、低賃金やパワハラなどがあっても働き続けなければならない。実習制度はまさに人身取引的な労働の根源だ」と指摘。「制度を廃止し、中間搾取されず、人権も守られる受け入れ制度をつくるべきだ」と話す。

*11-2:https://www.jomo-news.co.jp/news/gunma/society/272265 (上毛新聞 2021/2/7) 在日外国人の摘発数 2020年は433人 群馬県警 半数がベトナム人
 2020年に県警が摘発した在日外国人(永住者、特別永住者などを除く)は433人と過去10年で2番目に多かったことが6日、群馬県警のまとめで分かった。このうちベトナム人が212人と国籍別で最多。日本人を含めた全摘発数に占める割合は前年比0.5ポイント上昇の10.9%となり、2年連続で全国最高となった。新型コロナウイルスの影響で失職した外国人がコミュニティーを頼って群馬県に集まっていることなどが影響したとみられる。国籍別では、ベトナムがほぼ半数を占めたのをはじめ、ブラジル41人、中国34人、フィリピン33人、ペルー18人と続いた。刑法による摘発は196人(前年比15人減)で、このうち窃盗が半数近い95人に上った。次いで、傷害や暴行などの粗暴犯が66人、詐欺などの知能犯が8人。特別法での摘発は237人(11人増)。入管難民法違反が187人で過去10年で最多となり、覚醒剤取締法違反などの薬物事犯は26人などだった。昨年9月に発生した前橋市のホテルで女性経営者が刺殺された強盗殺人事件で県警はベトナム人の男を逮捕。10月には、北関東で家畜や果物が相次いで盗まれた事件に絡み、入管難民法違反容疑でベトナム人の男女13人を逮捕した。群馬県によると、県内の外国人住民は昨年12月末時点で6万1461人で、県人口の約3%。県警組織犯罪対策課によると、在日外国人の摘発は16年256人、17年338人、18年368人、19年437人と増加傾向にある。県警による全摘発人数に占める割合も16年5.2%、17年7.4%、18年8.4%、19年10.4%と上昇が続いている。同課は、県内に住むベトナム人の増加に伴い、摘発も増えていると指摘。「犯罪が減るよう適切に取り締まるとともに、多文化共生への対策にも取り組む」とした。

*11-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA2334E0T20C21A5000000/ (日経新聞 2021年5月28日) 難民保護、政策手薄の10年 日本の認定率は0.4%
 オーバーステイ(超過滞在)などの理由で在留資格のない外国人の保護のあり方が注目を集める。政府・与党は入管施設での長期収容を防ごうと出入国管理法の改正を目指したが野党が反発し今国会での成立を見送った。難民認定をはじめ入管行政は効果的な政策が打たれないままだ。「きょう食べるものにも困っている」。NPO法人の難民支援協会(東京・千代田)には、生活や就労などの支援を求める外国人からの連絡が年間4000件近く寄せられる。最近は新型コロナウイルス禍で困窮した人からの相談が急増しているという。紛争や人権侵害のため母国に住めず日本に難民申請する人は増加傾向にある。申請者数はピークの2017年に1万9629人となり10年に比べ16倍に達した。協会は「難民は仲介人らを通じ国を探す。入国できそうな国の航空券を取り入管などで保護を求めることが多い」と指摘する。難民が日本を訪れるのは多くの場合「偶然、査証(ビザ)が発給された」ためだ。日本に来る難民はもともと、ベトナム、ラオス、カンボジア人が中心だった。ベトナム戦争の「ボート・ピープル」が典型例として知られる。02年に中国の日本総領事館に北朝鮮の脱北者が駆け込む事件が発生。それを機に、難民の申請要件を緩和し、認定前の仮滞在を可能にした改正入管法が04年に成立し申請がしやすくなった。政府は10年、申請者の就労も一律で認めた。年間1000人程度だった申請者数は14年には5000人に。入管の人手不足もあり「就労目的で申請を悪用したとみられる事例が増え審査期間も長くなった」(出入国在留管理庁)。10年代には紛争の激化で世界の難民の数も増えた。日本は観光客の誘致へビザの発給要件を緩和したこともあり難民が来日する事例も増えた。法務省は申請増に歯止めをかけようと、18年、明らかに難民に当てはまらない申請者の在留や就労の制限を強化した。支援団体は日本の認定率を問題視する。19年は1万375人の申請に対し認定は44人と、0.4%にとどまった。56%のカナダ、46%の英国に比べ低水準が際立つ。在留期限が切れて日本に残る不法残留者は今年1月時点で17年に比べ3割多い8万2868人に達する。そうした人は摘発され帰国するまで原則として入管施設にとどまる。3月に名古屋出入国在留管理局で死亡したスリランカ人女性は半年以上施設に収容されていた。仮放免を求めハンガーストライキを起こし体調を崩す収容者も多い。難民申請を繰り返す人が多く入管施設は逼迫する。「送還忌避者」は20年12月時点で3100人にのぼる。「入管法改正の背景には送還忌避があとをたたない状況がある。迅速な送還の実施に支障が出て収容が長期になることの要因となっていた」(上川陽子法相)。法務省は入管法改正案で長期収容の問題解決を目指した。3回目以降の申請は強制送還の対象になるとの規定を設けた。現在は認定申請すると回数や理由に関係なく送還できない。強制送還が可能になると収容者は減るが帰国先で迫害を受けかねない。野党は「人権侵害のスリーアウトルール」と呼び反対の論拠にした。法務省は外国人の受け入れを広げるため難民に準じた新資格「補完的保護対象者」を提案した。母国が紛争中の人を念頭に難民と同じように定住者の資格で在留を認める。筑波大の明石純一准教授は法改正の必要を強調する。それだけでは長期収容の問題は解決せず「難民認定などを審査する入管の体制強化が必要だ」と話す。支援団体などは難民認定を入管当局ではなく専門性の高い独立機関がすべきだと主張する。日本の入管行政はこの10年間、申請の急増に対応する政策が手薄だった。改正案の成立は見送りになったが長期収容の問題は残る。入管法改正案の今国会成立が見送られた背景には、スリランカ人女性の死亡事案がある。死亡の経緯を巡り野党が法務省の説明不足を指摘し、事実関係の提示がなければ採決に応じない姿勢を示した。法務省は遺族が求めた女性の映像の公開に消極的だ。遺族は「真実で公正な答えが欲しかった」と訴えた。出入国在留管理庁によると、収容中の外国人が施設で死亡した例は2007年以降17件起きている。現在の入管行政は難民申請者の増加に追いついていない。生活が苦しく就労も不安定で、申請にいたるケースも多い。外国人の人権保障を巡り、世界から日本に向けられる視線は厳しい。スリランカ人女性の死亡事案についても世界が納得する説明がないと、日本への不信感は高まるだろう。

| 男女平等::2019.3~ | 04:56 PM | comments (x) | trackback (x) |

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