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2021.11.28~12.13 ビジョンなきバラマキばかりでは、日本は破綻するしかないこと (2021年12月16、18、30日に追加あり)
   
      2021.11.27日経新聞    2021.11.27毎日新聞 2021.11.27京都新聞   

(図の説明:1番左の図のように、2020年からコロナ対応を理由として通常予算と補正予算の上積みが続いた。そして、衆議院議員選挙後の2021年度補正予算は、左から2番目と3番目の図のように閣議決定されたが、これは本当に必要な予算なのか、賢い支出なのか、積み上がった国債残高は誰がどう支払うことになるのかについて、下に記述したい。なお、右から2番目の図が、補正予算による経済対策で実施される個人給付で、1番右の図は、各組織が試算した経済対策によるGDP押し上げ効果である)

  
      財務省          財務省          Kabuzen
(図の説明:左図が、一般会計における歳出と税収の推移で、平成2年《1990年》以降、次第に乖離が大きくなっており、歳出と税収の差は借金である国債発行で埋めている。現在、日本は、右図のように、0%近傍という世界でも非常に低い利子率を続けている国であるため、中央の図のように、国債費のうちの利払費が比較的少なくて済んでいる。が、利子率が高くなれば歳出に占める国債の利払費が格段に大きくなるため、国であっても返済計画のない借金は成立しない)

(1)2021年11月の補正予算について
1)使途の点検・監視が不可欠な国の予算
 政府が閣議決定した2021年度補正予算案に関して、*1-1は、「①財政法で補正予算編成は当初予算作成後に生じた事由に基づいて特に緊要となった経費に限って認められるが、査定が甘くなる補正で予算を大幅に上積みする手法が常態化した」「②成長に繋がるか否か不透明な事業や緊急性のない事業も補正に盛り込まれた」「③予算の使い道の点検・監視が欠かせない」「④補正予算案は12月6日召集の臨時国会で審議される」等を記載している。

 このうち①は確かにそうだが、夏の豪雨被害やCOP26で「待ったなし」になったこともあるため、補正予算に織り込みながら、次期以降の通常予算で長期的視点から計画的に歳出していく必要のある事業もあるだろう。しかし、それには具体的事象とそれを解決するためのビジョンを示し、最低コストで最大効果を挙げる必要がある。また、予算全体がそうなっているか否かについては、③の点検・監視を網羅性・正確性を持って行う必要があり、④の国会はそのために開かれるべきだ。ただ、賢い支出か否かの判断は、②の成長に繋がるか否かも重要な視点ではあるが、それだけではないだろう。

 なお、健全な財政状態であっても、具体的な事象と解決のための道筋を示して、最低コストで最大効果を挙げる予算編成をするのが、納税者で社会保険料の支払者でもある国民への受託責任(説明責任ではない)である。しかし、日本は、*1-2のように、経済成長もせず、景気は悪い状態が続き、賃金も上がらず、社会保障は心もとなく、税金と社会保険料ばかりが上がって、経済は停滞したまま、21年度末時点の国債残高は1004.5兆円となる見通しだ。これは、長期ビジョンに乏しく、経済活性化に繋がらない莫大な支出を繰り返してきたからにほかならないが、これに屋上屋を重ねるのが新しい資本主義や分配を重視した政策とは、まさか言わないだろう?

 国際通貨基金(IMF)によると、日本の国内総生産(GDP)に対する政府債務残高は、2021年は米国の約2倍の257%でG7最悪である。そうなった理由は、日本は物価上昇やインフレ目標といった誤った経済政策を行ったため、実質2%の経済成長をしたのは2013年度だけで、大規模な財政出動と異例の金融緩和で何とか景気を下支えしたにすぎないからだ。しかし、生産年齢人口にあたる人を財政出動で下支えなければならないのなら、誰がこの国を支えるのか情けないにも程があり、いい加減にしてもらいたいのである。

2)賢い支出とはどういう支出か
 *1-1は、「⑤病床確保支援金に2兆円を盛り込んだ」「⑥成長戦略向け支出比率は約2割で、半導体の国内生産拠点の確保に6170億円、経済安全保障で先端技術を支援する基金に2500億円等を積んだ」「⑦低所得世帯向け10万円給付1.4兆円」「⑧18歳以下への10万円相当の給付に21年度予備費からの拠出も含めて1.9兆円」「⑨最大250万円の中堅・中小事業者向けの支援金2.8兆円、資金繰り支援1400億円等」とも記載している。

 また、*1-4によると、政府は財政支出が過去最大の55.7兆円で民間資金も入れた事業規模が78.9兆円になる補正予算を決め、岸田首相は赤字国債発行も含めて財源を確保するそうだ。

 しかし、これらの中には、私にも未来の成長を促す「賢い支出」とは思えない項目が多く、「成長」は達成できないと思う。例えば、⑧の1.9兆円は、義務教育の給食費を継続的に無料にしたり、希望者には無償で朝食も出したり、教材費を無料にしたり、公立高校・公立大学の授業料負担額が年間12万円を超えないようにしたり、奨学金を充実したりなど、子育てを教育で支援すれば将来の成長が見込めるが、中途半端な金額を経済対策としてばら撒いて子育て世帯の親に消費を促しても、成長には結び付かず、少子化対策にもならない。

 また、⑦は、困っている人には足りない金額で、そもそも継続的に失業保険か生活保護費を支払うべきだった。そして、失業保険すらもらえないような非正規社員を作るのはやめるべきであり、正規社員の中に「時間限定勤務社員」を作ることは全く可能である。

 さらに、⑨や飲食店への時短協力金6.5兆円の支払いも中規模以上の事業者には焼け石に水であり、それより飲食店に営業停止や時間短縮を強制したことによる感染拡大防止効果を検証すべきだ。何故なら、新型コロナの予防は、水際対策・PCR検査・感染者隔離の徹底を行えば、やみくもに全飲食店に営業停止や時間短縮を行わせる必要はなく、費用もずっと安くすんだ筈だからである。0.26兆円のGoToトラベル事業も、しっかり感染症対策をしていれば不要だった。

 そして、未だにワクチン接種体制の整備・接種の実施に1.3兆円も充当されており、オミクロン株という新しい変異株が発見されたと大騒ぎしているが、少し変異すれば効かなくなるワクチンは良いワクチンではない。短時間で量産するにはmRNAワクチンが良かったのかもしれないが、もし3度目の接種をするのなら、私は少しの変異では効果を失わない不活化ワクチンの方を選びたい。そもそも、「抗体価が減る=抵抗力が下がる」ではない上、治療薬もできているため騒ぎ過ぎはやめるべきで、⑤のように、今から病床確保に2兆円充当するのも不要だと思う。それよりも、日頃から基幹病院を中心とした病院ネットワークを整備しておくべきである。

 なお、マイナンバーカード新規取得者5,000円、健康保険証・給付金受取口座登録者7,500円のマイナポイントを付与するのに1.81兆円もかけるそうだが、マイナンバーカードに多くの情報を紐づけると後で政府にどう使われるかわからないこと、情報を集約し過ぎると個人情報の盗用にも便利であることから、セキュリティー対策として紐づけないのであるため、そういう根拠ある心配を無くすべきなのである。

 つまり、上の約18兆円は、より効果的で賢い使い方があったり、既に不要になっていたり、過大であったりするもので、この金額は(別の場所で詳しく述べる)国会議員1カ月分の文書交通費を465人の衆議院議員全員が返還したとしても4億6,500万円(100万円X465人)にしかならないため、数桁異なる大きさなのである。

 ⑥の科学技術立国、デジタル化、経済安全保障は成長戦略になると思うが、これまで政府が足を引っ張るなどという失敗が多すぎたため、どうも期待が持てないのが実情で、最も変えるべきはここだろう。

(2)今回の補正予算を具体的に論評すると・・
1)18歳未満への一律10万円給付について
 *2-3は、「①18歳以下の子に一律10万円相当を配る必要はあるのか、景気浮揚だけでなく困窮者支援の点でも経済の専門家から効果を疑問視する声がある」「②困窮者支援が目的なら、コロナで収入が減少した世帯に絞るべきで、子どもを基準にするのはコロナ対策としては意味不明」「③子育て世代の富裕層が対象となり、生活が苦しい子のいない世帯が外れる」「④一時的な所得の増加は貯蓄に回る傾向が明確」としている。

 私は、②③には賛成だが、そもそも④のように、貯蓄することが悪いことででもあるかのような論調がまかり通っているのが間違いだと思う。何故なら、ミクロ経済学的には、コロナで経済を停止させても、すぐには破綻しない企業や個人が多かったのは、平時からいざという時のために貯蓄をしていたからで、マクロ経済学的には貯蓄が投資の原資だからである。また、(1)でも述べたように、子育て費用を高止まりさせておきながら、10万円相当をばら撒いても少子化対策にはならず、経済成長を後押しすることもないと思う。

2)ポイントを付与してのマイナンバーカード取得促進について
 *2-4も、「①マイナンバーカード取得等で最大2万円分のポイントを付与する事業費として、1.8兆円が計上された」「②政府の狙いは普及率の向上だが、個人情報漏洩等の懸念に向き合わず、『アメ』で取得を促す手法に、識者から本末転倒との疑問の声が出ている」「③予算はカードの利便性・セキュリティーの向上に使うべきで、ポイントに充てるのは本来のあり方ではない」と記載している。

 (1)にも書いたとおり、、マイナンバーカードに多くの情報を紐づけると政府に悪用されかねないこと(後で詳しく記載する)、情報を集約し過ぎると個人情報の盗用にも便利であることから、セキュリティー対策としては情報を集約しすぎないことが重要であるため、②③は正しい。また、①は商店街がやることであって、政府がやることではない。

3)防衛費について
 政府は、*2-1-1のように、2021年度補正予算案に防衛関係費7,738億円を計上し、当初予算と合わせて6.1兆円、GDPの1.09%にしたそうだ。

 その内容は、日本周辺で軍事活動を続ける中国への対応として哨戒機(3機で658億円)・輸送機(1機で243億円)等の装備取得、北朝鮮によるミサイル発射対策として能力向上型地対空誘導弾PAC3の取得441億円、沖縄県米軍普天間基地の辺野古移設801億円で、戦闘機に搭載する空対空ミサイルや魚雷などの弾薬の確保にも予算を投じるとのことである。

 その野古移設801億円は、*2-1-2のように、沖縄県は名護市辺野古の新基地建設に関する変更承認申請を不承認としたが、国は工事継続の方針を示し、岸防衛相も「日米同盟の抑止力維持と普天間飛行場の危険性除去を考え合わせた場合、辺野古移設が唯一の解決策」と述べられたものである。

 しかし、*2-1-3・*2-1-4のように、奄美大島・宮古島・与那国島等の空港のある国境離島では既に陸自駐屯地が開設され、石垣島が南西諸島では最後になる状況であるため、陸上自衛隊だけでなく必要に応じて他の自衛隊や米軍とも共用すれば、日米同盟の抑止力維持と普天間飛行場の危険性除去は両立できる。そうなると、「辺野古移設が唯一の解決策」などという合理性のない繰り言はできなくなり、自衛隊駐屯地を景気対策や経済効果だけで作りまくる防衛予算の無駄遣いも減り、日米地位協定は自然消滅するのだ。

 沖縄県の玉城知事は、岸防衛相と面会して「宮古島市・石垣市で進む自衛隊基地の建設工事について「地域の理解を得るため折々に工事を止めて、住民の皆さんに丁寧に説明をして頂きたい」と述べ、岸氏は「いろいろ地元のご意見があることはよく承知している」「必要があれば住民の皆さんに説明していけるよう努力する」「これからも対話の場を作っていけるよう努力する」と述べるにとどめられたそうだ。

 が、合理的かつ首尾一貫性のある外交・防衛政策がなく、理由は後付けで無制限に新基地建設を行い、同じ説明ばかりされても対話する時間の方がもったいないため、国は早急に最小のコストで最大の効果をあげ得る防衛方針を決めるべきである。

 なお、離島の住民で基地のリスクや騒音を嫌う人には、いざという時に避難できる別宅を希望する場所に提供する補償をした方が、辺野古の埋め立てを強行するよりずっと安上りである。

4)省エネ住宅購入への補助等、気候変動危機対策について
 国交省は、*2-2のように、2021年度補正予算案に関連費用で542億円を盛り込み、18歳未満の子を持つ世帯か、夫婦いずれかが39歳以下の世帯を対象に、断熱性能に優れた戸建てやマンションを買う際に最大100万円を補助し、省エネ性能を高める改修工事に対しても最大45万円を補助するそうだ。

 この対象は、不公正・不公平で年齢による差別も含んでいるが、ないよりはあった方がよい制度だろう。しかし、この対象に入らない人には、省エネを奨励しないようだ(皮肉)。

 一方、*3は、「①アメリカのバイデン大統領が、1兆2000億ドル(約140兆円)規模のインフラ投資法案に署名し」「②インフラ投資法は、一世一代の大型財政支出と位置づけられ」「③このうち約5500億ドル(約642兆円)を今後8年間で、高速道路や道路、橋、都市の公共交通、旅客鉄道などの整備にあて、清潔な飲料水の提供、高速インターネット回線、電気自動車充電スポットの全国的なネットワーク整備に取り組み」「④財源に新型コロナ対策で使い残した予算や暗号資産に対する新規課税の税収等の様々な収入を充て」「⑤育児・介護、気候変動対策、医療保険、住宅支援等の充実を図る大規模な社会福祉法案も検討しているが、これは成立の見通しがまだ立っていない」としている。

 私は、①②③は、自動車革命が起きており、インフラの更新時期でもある現在は必要なことであり、同時に整備することによって一貫性のある整備を行うことができ、整備することによって生産性が向上し、景気対策・雇用対策にもなるという意味で無駄遣いではないと思う。さらに、④は、困っている人から消費税を巻き上げて調達する財源ではないことも理に適っている。

 また、⑤については、米国がどのような育児・介護、医療保険、住宅支援等の充実を図る大規模な社会福祉法案を作るか関心を持って見ているが、気候変動対策は社会福祉というよりは地球環境維持のための経済構造改革だと考える。

(3)国家ビジョン不在の予算編成はどうして起こるのか
        ← Plan Do Check Action(PDCA)の循環がができていないからである

   
 2020.12.21   2021.11.27   2021.11.27  ROA国際比較 ROE国際比較
  毎日新聞     毎日新聞    西日本新聞       Ronaldread 

(図の説明:1番左の図は、2021年度一般会計予算106.6兆円の内訳で、国債発行が40.9%を占め、税外収入は5.2%しかない。また、左から2番目の図が、2021年度補正予算36.0兆円の内訳で、国債発行が62.7%を占め、税外収入は3.8%しかない。そして、中央の図の新型コロナ感染拡大防止18.6兆円とGotoトラベル事業0.3兆円は、不合理なコロナ対応のつけであり、その気になれば防げたものである。また、日本は利子率が低いため、右から2番目と1番右の図のように、民間企業のROA・ROEも国際的に見て低いが、日本政府の省庁は分捕り合戦をして使うことしか考えない風潮があるため、資本生産性が低いだけでなくマイナスのことも多い。そのため、民間から資金を取り上げて国が使う大きな政府(新しい資本主義?)にすれば、国家財政は破綻への道しかなく、これは、共産主義で既に実証済である。従って、修正資本主義ならよいが、これは戦後ずっとやってきたことであり、特に新しいことではない)

 佐賀新聞が、*1-3のように、「①岸田首相が、新型コロナ禍を受けて分配政策を柱に据えた経済対策を決定」「②子育て世帯や所得が低い家庭などを幅広く支援する」「③『Go To トラベル』の再開も明記した」「④3回目のワクチン接種も無料にする」「⑤財源の不足分は新たな借金に頼る」「⑥売り上げが急減した中小事業者には最大250万円の事業復活支援金を配り」「⑦住民税非課税世帯に1世帯10万円を給付し」「⑧雇用調整助成金の特例措置を延長し」「⑨ガソリン価格を抑える原油高対策も盛り込み」「⑩『新しい資本主義の起動』に18歳以下の子どもを対象とした10万円相当の給付し」「⑪マイナンバーカードの新規取得者や保有者に対する最大2万円分のポイント付与し」等と記載している。

 しかし、その論調は、⑤のように財源不足分は国債に頼ることを認識していながら、③⑨を喜び、①の実現可能性については不問にし、②④⑥⑦⑧⑩⑪の妥当性は評価していない。

 また、*1-3は「⑫保育士、介護職、看護師の賃上げを明記し」「⑬経済安全保障の一環で先端半導体工場の国内立地を後押しし」「⑭国内の温室効果ガス排出を実質0にする2050年の脱炭素社会実現に向けて『政策を総動員する』とした」「⑮安全・安心の確保では、大規模災害に備えるため防災・減災を強化し、防衛力を増強する方針を示した」「⑯来年夏の参院選をにらみ30兆円超の補正を求める与党の声に配慮した」「⑰2022年度当初予算案では前年度と同じ5兆円の新型コロナ対策予備費を手当てし、2023年3月までの『16カ月予算』として切れ目なく景気をてこ入れする」とも書いている。

 私は、⑫⑬⑭⑮は必要な歳出だが、補正予算より通常予算で対応すべきものが多い上、⑯は衆議院議員選挙支援の代償で、⑰は状況の変化を無視した無駄遣いだと思う。

 そのため、*1-5の「⑱これで日本は変わるのか」「⑲未来を切り開くのか、過去に戻るのか、どちらを向いているのか分からない経済対策だ」というのに、私は賛成だ。これは何度も見てきた光景で、これによって日本は借金だけが膨らみ、経済成長はせず、世界から置いていかれたのである。そして、今回も世界は既に新型コロナ後を見据えた成長競争に入っているのに、日本は新型コロナ対策を名目に無駄遣いの大宴会を楽しんでいるようなのだ。

 なお、*1-6は、「⑳来夏の参院選を意識するあまり、大盤振る舞いが過ぎる」「㉑国民が期待する経済対策とはいえ、規模を追うのではなく質を高めることにもっと注力すべきだ」「㉒与野党ともに『ばらまき合戦』の様相を呈した衆院選で勝利した与党の要請で規模優先になったとみられる」等と記載している。

 私も、⑳㉒に賛成であり、㉑については、国に国際基準による公会計制度を導入し、予算全体を見てその合理性を国民や国会がチェックできるようにし、最小コストで最大成果を上げるよう、継続的に行政をチェックできるシステムにすべきだと考えている。

(4)年金・医療・介護制度と“高齢者”の軽視

 
    2021.12.1日経新聞           2021.4.19日経新聞

(図の説明:1番左の図のように、2020年には(定義がこれでよいとは思わないが)15~64歳の生産年齢人口が総人口に占める割合が60%以下となり、そのうち女性の正規労働者は割合が低いため、少ない人数で多くの人を養わなければならなくなった。また、左から2番目の図のように、移動・職業選択・恋愛の自由によって核家族が増えた結果、単身高齢者が一貫して増え、老いたら子に養ってもらうという人は著しく少なくなっている。しかし、右から2番目の図のように、賃金は50代をピークとして大きく減少し、1番右の図のように、定年を廃止したり、80歳まで雇用したりする会社はまだ少ないため、年金は重要な生活原資になっている)

  
      Gen Med          2021.8.23日経新聞

(図の説明:左図のように、“高齢者”人口の割合は、2015年までは指数関数的に伸びているが、ベビーブームの次の世代が65歳以上になり始めた2018年くらいから伸びが鈍化し、2020年時点では28.7%である。ただし、「支える側にいる人」とは、働いて付加価値を作り出し社会保険料を支払っている人のことであるため、この数字がそのまま「支えられる側の人」を現すわけではない。なお、中央の図のように、日本は超高齢社会となっているが、右図のように、米欧に続きアジアでも少子高齢化で生産年齢人口が減り、しばらく生産年齢人口が増加し続けるのはアフリカだけだそうである)

1)あの手この手を使った“高齢者”の可処分所得減額
 身体的要因であれ、社会的要因であれ、働くことができない“高齢者”の収入は、①預金利息 ②有価証券の配当 ③公的年金 ④私的年金 ⑤預金の取崩し ⑥その他(不動産所得etc) しかない。

イ)低金利政策が高齢者に与えた影響
 このうち、①②は、2000年代以降、低金利政策によって著しく小さくなり、それと同時に、物価上昇やインフレも収まっている。

 また、④も、生産年齢人口の時から積み立てていた金額を金融市場で運用して増やすことが前提であるため、低金利政策によって運用益が減っている。つまり、景気対策とされてきた低金利政策は、“高齢者”の金融資産運用益を奪ってきたと言える。

ロ)公的年金制度の歪みと年金給付水準の減額
 さらに、③も、金融市場で運用して増やすことを前提として年金定期便に書かれていた金額の受け取りを約束していた筈だが、*4-1のように、少子高齢化を理由として、2014年の年金制度改正で「マクロ経済スライド(現役人口の減少と平均余命の伸びに対応して年金給付水準を減らす仕組み)」なるものを導入し、その範囲内でしか給付しないことにしたため、年金の所得代替率が低下して年金受給者の生活を直撃している。
 
 が、公的年金は、もともとは自分のために積み立てる積立方式だったのに、1985年に最初の男女雇用機会均等法が制定された時、同時にサラリーマンの専業主婦だけを“3号被保険者”とし、他の女性から見れば不公平な制度を作って賦課課税方式に変更したものだ。さらに、この年に、米国ではFASB83が定められ、正味現在価値を計算することによって退職金要支給額を理論的に計算する会計処理方法が確立していたのである。

 つまり、日本は20~50年も遅れているのに、年金保険料を支払っていた人にまで“仕送り方式”などという恩着せがましい呼び方をしているのだ。仮に、積立方式のまま自分のために運用する方式を採ってまともな運用をしていれば、このように不公正な減らし方をされる必要はなかった筈である。

 なお、所得の再分配は所得税や相続税で行っているため、医療保険料・介護保険料はじめ医療費・介護費・保育費等の負担割合にまで所得で差をつけると、所得に対する負担割合が不自然でおかしなカーブを描き、かえって不公平になる。そのため、保険は契約として負担やサービスの利用費に所得で差をつけないのが、正しいやり方なのである。

 しかし、2021年度には年金の改定ルールがさらに見直され、実質賃金が下落した場合は賃金下落に合わせて年金額を改定することが徹底され、2021年度は年金額がマイナス改定になったのだそうだ。その上、*4-2は、「将来の年金のため、マクロ経済スライドの名目下限措置は撤廃を」などと述べているが、現役世代の人が「働き方改革」と称する「働かない改革」ばかりを主張し、政府は景気対策のバラマキばかりで生産性向上に必要な変革のための投資を怠ってきたのだから、実質賃金下落の責任は現役世代にあり、精一杯働いて日本を復興し経済成長させてきて引退した高齢者には全くない。

ハ)金融緩和による物価上昇(=実質所得の下落)
 現在、*4-3のように、金融緩和で円安になったことが主な原因で、原油価格や輸入原材料が高騰してコストプッシュ・インフレーションになっており、このコスト高は企業間取引の段階で販売価格に転嫁することは可能でも、最終消費財にまで転嫁することは不可能だ。

 何故なら、イ)ロ)に記載したように、著しく所得の低い65歳以上の“高齢者”が、下の段の左図のように、30%近くを占めていて高くなったものは買えないからである。また、生産年齢人口の実質賃金も下がり、全体としてさらに落ちていくという悪循環になっているのだ。

 これを解決するには、経済学的視点・国際価格・将来性を見通す目を持って国の実態を分析し、的確な産業政策を決めていくことが必要なのだが、「少子化だから産めよ増やせよ」「最終財に価格転嫁してさらに物価上昇させ、年金や賃金の実質価値を減らして個人消費を弱めよ」という政策を採っているのは、馬鹿としか言いようがない。

 また、中央銀行の役割は通貨価値の安定(お金の量や金利は物価の安定を図る目的でコントロールするもの)であり、そのツールが金融政策なのである。そのため、「2%の物価上昇目標」をかざして異次元緩和と呼ぶ大胆な金融緩和で物価を上げ、国民が知らないうちに実質賃金や実質年金の金額を減らそうとするのは、日銀の本来の役割とは逆のことをやっているわけである。

 さらに、物価が上がれば預金の実質価値も減るため、上の⑤の“高齢者”の実質可処分所得も密かに減らしているのである。そのため、何故、こういうことをするのかについて正しく原因分析して解決しなければ、今後も、この(政府にとって便利で無責任な)方法は続けられるだろう。

 なお、金融緩和して物価を上げるとお金の価値が下がるため、預金の多い人から借金の多い人への密かな所得移転となる。借金の多い国や企業には、この効果も嬉しいのだろうが、このようにして資本生産性の低いところに密かに所得を移転して本物の最終需要を抑えれば、公正性がなく国民を豊かにできないだけでなく、課題先進国の長所を活かした本物の製品開発ができずに他国への追随を繰り返さざるを得ないのである。

2)働くシニアと女性
 1)に、「身体的要因であれ、社会的要因であれ、働くことができない“高齢者”の収入は、公的年金に大きく依存する」と記載したが、これまでは社会的要因で働けない人を作りすぎていたと思う。例えば、「少子化で支える人が足りない」と言いながら、働くことを希望しても労働力にカウントされない人を作っているのは矛盾している。

 そのため、イ)“高齢者”の定義を「65歳以上」とせず、個人差はあるが人生100年時代の身体的能力を考えて“高齢者”の定義を「75歳以上」とする ロ)身体的には働ける人を社会的に働けなくする定年制を廃止して引退時期を自分で決められる社会保障制度にする などの方法が考えられる。また、生産年齢人口の定義を「15~64歳」とするのも、高卒が99%を超えている日本社会では実態に合わないため、高校卒業後の「18~75歳」に変更すべきだろう。

 そのため、*4-4にも、「女性や高齢者の就業が進んでいることに合わせて、年金制度を変更する」として、2022年4月から年金制度改正法が施行されると記載されている。今回の改正では、「①パートなどの短時間労働者への年金適用拡大」「②繰り下げ受給の上限引き上げ」「③確定拠出年金の要件緩和」などが含まれ、①は短時間労働者の働き方に影響を与え、②③はシニアの退職時期に影響を与えそうだ。

 しかし、①については、そもそも女性を正規雇用ではない悪い労働条件で働かせてきたのは、非正規労働者にして男女雇用機会均等法の1997年改正をすり抜けるためで、女性の労働市場での活躍を社会的要因で制限してきた女性差別そのものなのである。そして、その社会的要因は、男女の十分な雇用を作れないという理由で女性に道を譲らせたものであるため、少子化で支える人が足りないのであれば、まず女性にも100%近い正規雇用を準備すべきなのだ。短時間勤務の正規雇用労働者を作るのは契約の自由であり、全く問題ないのだから。

 また、②については、繰り下げ受給の上限を引き上げて年金受給開始時期の選択肢を拡大することによって、希望により60~70歳の間で受給開始時期を自由に決められるようになるが、私は65~75歳の間で受給開始時期を自由に決められるようにして、役所や企業に定年制度を設けるなら65歳以上を義務付けるのがよいと思う。しかし、65歳をすぎると年収が減るという事実がある以上、在職中の年金支給停止の基準額を47万円(十分?)に緩和することは必要だ。

 なお、「女性や高齢者の労働者が増加しているので、多様な働き方に対応しなければならない」として、「短時間労働→非正規労働者→不安定な労働者」という雇用形態を強制される場合が多い。そのため、建前と本音の異なる雇用形態を許さない労働規制も必要である。

3)高齢者の介護保険料負担増加と介護サービスの削減


                             2021.11.15東京新聞
(図の説明:介護保険の財源は、左図のように、40~64歳の人が支払う保険料27%、65歳以上の人が支払う保険料23%で、残りの50%は公費《国25%、県12.5%、市12.5%》だ。この配分でおかしいのは、40~64歳と65歳以上の人口割合は毎年変わるのに負担割合を事前に決めていること、若い人口は都市に多いのに年齢構成を加味せず県・市などにも負担させているため、地方の高齢者は介護保険料は高く介護サービスは受けにくい状態になることである。また、中央の図のように、40歳以下の人は被保険者になっていないため介護保険料を支払わなくてよいが、訪問介護サービスも受けられない。しかし、若い人や子どもでも介護サービスのニーズはあるため、不便なのである。なお、収入の高い人は高い介護保険料を支払い、同じ介護サービスの利用料負担割合が収入によって異なるというのは、保険として根本的におかしい。このように歪んだ制度の中で、所得の少ない高齢者が介護保険料を滞納したからといって差し押さえするのは、共助・公助のどこから考えてもおかしいのである)

イ)介護保険制度の目的は何だったか?
 介護保険の財源は、上の左図のように、40~64歳が支払う保険料27%、65歳以上が支払う保険料23%、残りの50%は公費《国25%、県12.5%、市12.5%》で賄われている。この配分は、40~64歳と65歳以上の人口割合は毎年変わるのに負担割合を事前に決めていること、生産年齢人口の割合は都市で高いのに年齢構成を考えずに県・市などにも負担させているため、地方の高齢者は介護保険料は高いのに介護サービスを受けにくくなっている点で不合理だ。つまり、潜在を含む要介護者・要支援者のニーズを第1に考えた制度になっていないのである。

 また、上の中央の図のように、40歳以下は被保険者になっていないため介護保険料を支払わなくてよいが、介護サービスも受けられない。しかし、新型コロナ等の感染症で浮き彫りになったように、若い人や子どもにも介護サービスのニーズはあるのに除外されており、不便なのだ。

 なお、所得の多い人は介護保険料が高く、同じ介護サービスの利用料負担割合も所得によって異なるのは保険制度としておかしい。そのため、訪問看護・訪問介護は、サービスの利用料負担割合を所得によって大雑把に変えるのではなく、負担割合は同じにして医療費負担額と合計し、1カ月の合計支払額に対して所得で上限を設けるのが合理的である。

 このように歪んだ制度の下、*5-3のように、介護保険制度が始まった約20年前と比べて保険料が倍以上となり、高齢世帯の家計への負担が増加して2万人超もの所得の少ない高齢者が介護保険料を滞納したからといって差し押さえするのは、共助・公助の精神から考えて変である。

 さらに、*5-4のように、1人暮らしの世帯が増加しているが、高齢者は生涯単身の人より核家族化して子とは別の街に住み、配偶者を亡くした人が多い。そのため、2020年の国勢調査で単身高齢者は5年前と比較して13.3%増の671万6806人に増えたのだ。特に女性の場合は、働いたら生涯単身を強いられたという人もいれば、夫を亡くして1人残ったという人も多いため、要介護・要支援になった場合は介護制度が不可欠であり、介護を社会化した費用は働いている国民全体で負担すべきである。

ロ)看護・介護・保育の場で働く人の賃金について
 政府の経済対策で、*5-1・*5-2のように、看護・介護・保育の場で働く人たちの賃金を来年2月から引き上げることが決まったそうだ。「女性が主として働く職場の平均賃金は安く、男性が主として働いていた職場に女性が入っていくと、ガラスの天井がある」というのは、1980年代に米国で言われたことだが、日本は40年遅れの2020年代でもそうなのである。

 従って、労働量と責任に見合った賃金にしなければ人材が集まらないのは当然のことだが、「さらなる高齢者の負担増・サービス減になるのなら本末転倒なので、どういう財源を使って賃上げするのか」と、私は思っている次第だ。介護保険制度に基づく介護や支援については、働く人全員が支払うようにする形で薄く広く国民負担増を行うのが、歪みを是正しながら労働量と責任に合った賃金を支払い、高齢者の負担増・サービス減に陥らない唯一の方法だと、私は思う。また、介護は、介護保険制度に基づくサービスと全額自己負担によるサービスの両方を提供できるようにする方法もある。

 しかし、*5-5のように、日本は、労働力確保の有力な選択肢であり、人口対策でもある外国人労働者の割合が、諸外国に比べて著しく少ない。そのため、私もせっかく日本で技術を覚えた外国人材を冷遇するのは、人権侵害であるのみならず、日本の国益にも反していると思う。

ハ)日本の設備投資が停滞した理由は何か
 *5-6は、①この20年間で米・英の設備投資は5~6割伸びたが、日本は1割弱しか増えなかった ②日本企業は海外で積極的にお金を使い、利益を国内投資に振り向けない ③設備の更新が進まなければ労働生産性が高まらず、人口減の制約も補えない ④成長の壁としてよく指摘されるのは人口減少や少子高齢化だが、設備投資の停滞も低成長の構造要因として直視する必要がある ⑤就業者は10年間で378万人増え、特に女性や65歳以上の働き手が多くなった 等と記載している。

 しかし、どの国の企業であっても、ROAやROEの高い場所で投資しなければ継続できず、日本は、(3)の図にある通り、ROAやROEが高くないのが①②の原因である。そうなる理由の1つは、人件費・不動産コスト・水光熱費等のコストが高いため、製造しても利益率が低いからだ。それなら、優れた新製品を開発して付加価値を上げればよさそうだが、再エネやEVを開発しても政府は火力や原発に固執して後押しするどころか妨害する始末だったし、ワクチンや治療薬の開発もやりにくいのである。そのため、日本で新技術に投資するのはリターンよりもリスクの方が大きく、これらは政府や省庁のセンスの悪さに起因するものではあるが、メディアもその一部を担っていることは否めないだろう。

 また、③の設備更新は、今後、何をどういう方法で製造するのか、それを日本でやると稼げる仕事になるのかが明確になって初めて行えるものであるため、その環境が整っていなかったということだ。さらに、④の「人口減少や少子高齢化が成長の壁」などと指摘する人は、1人1人が豊かになることは目指しておらす、1人1人は貧しいまま国民の数を増やして需要を増やそうと考えているのであるため、やはりセンスが悪い。

 なお、⑤については、女性や高齢者の働き手が多くなることは、その人たちの人権や職業選択の自由のために必要なことであるため、それを無視してよいかのような言動はおかしい。また、機械の設備更新は少なかったかもしれないが、介護・保育・学童保育など必要性が明確な施設への設備投資は行われてきたため、従来型の設備投資の定義が狭すぎるのではないかと思う。

(5)合理性のある家族の所得合算と世帯人数での分割


 2020.11.14中日新聞    2021.5.21朝日新聞   2020.12.16Huffingtonpost

(図の説明:左図のように、児童手当の支給基準は「夫婦のうち年収の高い方が960万円以下」であるため、共働きのケースが有利だと指摘された。また、現在の児童手当は、中央と右図のように、年収の高い方が960万円超の家庭に特例給付が支給されているが、2022年10月以降は特例給付も1200万円以下までとなり、1200万円超の家庭にはなくなるそうだ)

 18歳以下の子を対象にした10万円相当給付の所得制限に、夫婦の年収の高い方が960万円以下か否かで支給対象を判定する児童手当の仕組みを利用するため(https://www.ipss.go.jp/publication/j/shiryou/no.13/data/kaidai/14.html 参照)、*6-1・*6-2のように、「高収入の共稼ぎ夫婦にも支給されることが起こりうる」と与党内からも指摘があるそうだ。

 2020年には共働き世帯数が専業主婦世帯の2倍を超え、世帯合算を導入している制度には、低所得世帯向け大学授業料の負担減・返済不要の奨学金支給・私立高校の授業料支援・0~2歳児の保育所利用料等があり、児童手当への世帯合算導入も話題になっているとのことである。

 しかし、世帯合算を導入するのなら、配る時だけでなく所得税等を徴収する時にも世帯合算を選択できるようにしなければ、政府は都合がよすぎる。ちなみに、米国は1948年に所得税の徴収に2分2乗方式の世帯合算選択制を導入し、フランスは1946年にn分n乗方式の世帯合算制を導入している。

 金額を入れ単純化して世帯単位課税を説明すると、A)夫1人だけで1,000万円の収入があり、子が2人の世帯は、米国の2分2乗方式では、500万円(1,000/2)を1人あたり世帯所得基準として累進課税を行う世帯単位課税を選択できる。一方、フランスのn分n乗方式では、333万円(1,000/《1+1+2/2》)を1人あたり世帯所得基準として累進課税を行う。何故なら、n分n乗方式では、子も1/2人としてカウントするからで、私は、フランス方式の方が所得のない配偶者や子に対して低額の配偶者控除や扶養控除を認めるよりも生活実態にあっていると思う。

 一方、B)夫600万円、妻400万円、合計1,000万円の収入があり、子が2人の世帯は、米国の2分2乗方式では500万円(《600+400》/2)を1人あたり世帯所得基準とし、フランスのn分n乗方式では、333万円(《600+400》/《1+1+2/2》)を1人あたり世帯所得基準として累進課税を行うので、A)と変わらず公平である。しかし、合算した方が実態にあっている夫婦ばかりではないため、個人課税と合算課税を選択できることとし、合算した場合の累進税率を有利にすることで、結婚や子育てを支援した方がよいと思う。

 この税制を採用すると、A)のケースでは、今まで1,000万円を基準として所得税の累進税率を決めていたのに、米国方式なら500万円・フランス方式なら333万円を基準として累進税率を決めることになるため、税率が低くなって国の歳入が減るという反対論が必ず出る。しかし、これが真の生活実態であり、原因は女性を働きにくくさせている社会制度にあるため、税収を増やすには女性も働いて同一労働・同一賃金で所得を得られる仕組みに変更することが必要なのである。そして、これは時代の要請でもある。

 さらに、女性が働く時、家事をすべて家族内でこなすことを前提とするのは、職場での責任と家事の労働量・責任負担の両方を過小評価しすぎており、これらを両立させたことのない人の発想だと、前から思っていた。私は、家事を外部委託した場合のコストは、収入から差し引かれる経費として控除できるようにすべきだと思うし、収入に応じて高い保育料を徴収するというのは論外だと思っている。

 従って、*6-3のように、改正児童手当法が、高い方の年収が1200万円以上の世帯に支給している月5千円の「特例給付」も廃止するというのは、やはり世帯の生活実態を反映しておらず、小手先の小さな財源確保策にしかなっていないので考え直すべきである。

(6)こども庁は必要か


2021.4.10朝日新聞  2021.4.13日経新聞       2021.9.23Yahoo

(図の説明:中央の図の上に書かれているように、3府省にわかれている縦割りを廃し、子どものためになる施策を行うべきではあるが、左図のように、新しい庁を作って慣れない人が担当すると、サービスの内容はむしろ後退する。そのため、幼保一元化をすればよく、そのモデルが認定こども園なのだ。なお、右図のように、新しい庁を作っても予算と人員が増えて縦割りと根回しすべき相手が増えるだけでは生産性や効率がさらに落ちるので、これまで子ども政策の何が不十分だったのかを徹底的にチェックし、正確に原因分析してそれを解決する方が重要である)

1)子ども庁は2元制を3元制にしそうであること
 2001年1月施行の中央省庁再編の目的は、①縦割り行政による弊害をなくし ②内閣機能を強化し ③事務・事業を減量・効率化することで、1府22省庁から1府12省庁に再編された。

 このうち、②の内閣機能の強化は少しは進んだが、①は全くできていない。また、③は、「小さな政府」にして政府の無駄遣いを排除し、国民負担を軽減することを意図していたのだが、「『小さな政府』とは夜警国家のことで、社会保障が無駄遣いである」と意図的に間違った解釈をし、次に「『小さな政府』や『新自由主義』がいけない」と言い始め、その結果、改革努力もむなしく大きな政府に戻す流れになっているのだ。従って、Planはよかったが、Doの段階で元に戻す力が働いたため、「何故、こうなるのか」についてCheckしながら考察する。

 なお、私は、「産業側に立つ省ではなく、消費者側に立つ省が必要だ」という理由で消費者庁の創設は進めたが、「こども庁」の創設意義については不明だと思う。そのため、庁と人員を増やして予算を無駄遣いするだけで、2001年1月施行の中央省庁再編の意義が問われるのではないかと考えているのだ。

 そのような中、*6-5は、④政府は子ども政策の縦割りを排し、政策立案や強力な総合調整機能を持たせる『子ども庁』を内閣府の外局として新設して担当閣僚を置く ⑤これによって、少子化・貧困・虐待などの問題を解決する ⑥幼保一元化は進んでおらず、厚労省所管の保育所と内閣府所管の認定こども園は子ども庁に移すが、幼稚園は文科省に残す ⑦原案は文科省と子ども庁が相互に内容に関与しながら「教育は文科省」を強調しており、現場の分断を深める恐れがある ⑧子どもの問題は組織をつくれば解決するものではなく、大切なのは具体的施策と裏付けとなる財源 ⑨それには高齢者に偏る社会保障の財源を子どもに振り向けるなど、痛みをともなう改革も必要 というようなことを記載している。

 しかし、⑤のうちの虐待は、情報収集力や強制力のある組織(学校・病院・児童相談所・警察等)が連携してしっかり見守り、危機を察知したら行動に繋げられる仕組みでなければ機能しないため、これらの組織の機能不全が何故起こったのかについての原因分析をして改善しないまま、民間人等の強制力のない人が子の意見を聞いてもたいしたことはできない。

 また、⑤のうちの貧困は、親の教育や雇用環境などの政府がこれまで行ってきた政策の付けであって、親子の心の問題ではないため、カウンセラーが話を聞けば解決できるようなものではない。さらに、⑤のうちの少子化は、上で示したような時代に合わない政策の結果であるため、解決するには原因を取り除かなければならず、新しい組織や器を作って二重・三重に予算をつければ解決するものではないのである。

 さらに、⑥の認定こども園は、幼保一元化するために作った制度なので、認定こども園ができると同時に保育所と幼稚園は認定こども園に衣替えして幼保一元化が進んで縦割りはなくなるのかと思っていたら、両者とも併存したため二元制度が三元制度になったのだ。これは、各省が既得権を守ったものであるため、④のように、「子ども庁」設置して担当閣僚を置けば、子ども政策の縦割りが排され、強力な総合調整機能が持てるかについても、大いに疑問なのである。

 つまり、*6-4の「『器』より中身が重要だ」というのに私は賛成だ。ただ、「こども庁」を内閣府の下部に創設して保育所に関する部署は厚労省から内閣府に移し、保育所はすべて認定子ども園としたり、幼稚園は文科省に残して小学校の義務教育期間を3歳からにし、幼稚園を小学校と合併するのなら時代のニーズにあっているため、⑦も含めて賛成である。

 なお、「子ども庁」を“少子化対策”のために創設するというのもセンスが悪いと思うが、これまでの政策が少子化を促進してきたのなら、その原因の一つ一つを取り除かなければならないのであり、えいやっと「子ども庁」を創って予算をつけたら改善するわけではない。

 そして、財源論となると、⑨のように、「高齢者に偏る社会保障を子どもに振り向けるなど、痛みをともなう改革も必要」とし、社会保障は高齢者に偏っているという誤った前提の下、生産年齢人口に対する膨大な無駄遣いは無視したまま、本物の産業振興はせずに、厚労省内の予算の奪い合いに帰着させ、高齢者に痛みを押し付ければよい改革であるかのように言っている点で稚拙で勉強不足なのである。

 また、「子どもまん中」というのは、「子ども以外は従である」という意味であるため、日本国憲法「第11条:基本的人権の尊重」「第14条:法の下の平等」「第25五条:生存権(*参照)」等に違反している。そのため、そういうことを言うのは情けない限りで(https://www.city.amakusa.kumamoto.jp/kiji003833/3_833_3_up_i1gdnvnk.pdf 参照)、子に対してこういう教育をしていれば、日本国憲法を無視し、他人を軽視する人を再生産することになる。

*日本国憲法 第25五条
   ①すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
   ② 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上
     及び増進に努めなければならない。

2)中国の産業高度化と成長戦略について
 日本は、比較的技術力の低い製造業は新興国に移され、技術力の高い製造業に変換することにも失敗している(https://www.meti.go.jp/press/2019/06/20190611002/20190611002_07.pdf 参照)。しかし、経済成長や産業高度化のためには、そうなってしまった原因を分析して変革することが重要で、前だけ見ていては原因分析もできない。

 そのような中、*6-6によれば、①中国の地方都市は競い合うように人材誘致を進めて世界中の研究者を引き込もうとしており ②72歳以下の引退した教授なら、国籍や学科を問わず、A級ランクで給料120万元(約2,100万円)以上、住居購入費350万元(約6,200万円)、赴任手当110万元(約2千万円)、研究費等毎年200万~1,000万元(約3,600万~1億8千万円)、合計780万~1,580万元(約1億4千万~2億8千万円)以上で ③医療保険・交通費を準備され配偶者も同伴可で ④勤務先は中国の大学・研究機構・大企業の研究所等で ④日本の専門家への期待は、日本が競争力を持つ素材・自動車・産業機械分野で日本語で募集している そうであるため、該当する人なら行きたくなるのも無理はない。
 
 また、⑤帰国する中国人留学生も過去10年で約5倍に膨らんで年間58万人(2019年)となり ⑥研究開発費は過去20年で約27倍(人民元建て)にもなって米国に次ぎ ⑦米国の大学で理系博士号を取得した中国人は5,700人(2020年)で、10年で7割近く増え ⑧引用回数が上位10%に入る「注目度の高い論文」(2017~2019年平均)で、中国は米国を抜いて初めて世界首位になった そうで、これらは、産業の高度化と成長戦略として正攻法である。

 一方、日本は、早めの定年制で熟練技術者を新興国に供給して新興国の技術力を高めたが、自国の競争力は弱めたし、教育・研究も環境整備を疎かにしてきたため人材が多くは育たず経済停滞の原因になっている。そのため、情報管理の強化は必要だろうが、「技術流出の懸念」と言える時代は既に過ぎてしまったことの方が大きな問題なのである。

・・参考資料・・
*1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211127&ng=DGKKZO77947650X21C21A1EA4000 (日経新聞 2021.11.27) 補正で膨らむ予算、常態化、緊急性低い事業も相次ぎ計上、使途の点検・監視不可欠
 政府が26日決めた2021年度補正予算案では、査定が甘くなりがちな補正で予算を大幅に上積みする手法の常態化が鮮明となった。成長につながるかどうか不透明な事業や補正で緊急に手当てする必要性が乏しい公共事業なども盛り込まれている。予算の使い道の点検・監視が欠かせない。補正予算案は12月6日に召集される見通しの臨時国会で審議される。経済対策に計上した31.5兆円超の約6割弱は新型コロナウイルスの感染拡大防止に充てる。病床確保の支援金に2兆円を盛り込んだ。成長戦略向けの支出の比率は約2割で、半導体の国内生産拠点の確保に6170億円、経済安全保障の一環で先端技術を支援する基金に2500億円などを積んだ。低所得世帯向けの10万円給付には1.4兆円、18歳以下への10万円相当の給付は21年度予備費からの拠出を含め1.9兆円を充てる。このほか最大250万円の中堅・中小事業者向けの支援金2.8兆円、資金繰り支援の1400億円などを盛り込んだ。看護師・介護士・保育士らの処遇改善には2600億円を投じる。本来、補正予算の編成は財政法で「(当初)予算作成後に生じた事由に基づき特に緊要となった経費」に限って認められている。それが近年は補正を抜け穴に予算を膨らませるのが当たり前のようになっている。社会保障や公共事業など恒常的に必要な経費を積み上げる当初予算の規模は、翌年度以降の目安となりやすい。このため財務省はできるだけ厳しく査定する。補正予算の査定は比較的甘いとされる。一時的な措置であることが建前上の理由だ。一橋大の佐藤主光教授は「財務省が当初予算をむりやり絞るため、穴の空いたバケツとなり、補正予算が要求の主戦場となっている。構造的に必要な支出であれば、本来は税を確保して当初予算で対処すべきだ」と指摘する。「中小企業の構造転換を進める補助金を打ち出す一方で、転換を阻害しかねない減収企業への支援金も盛り込んでいる。本当に成長につながる投資になるのかも精査する必要がある」とも話す。今回の補正でまかなう経済対策は、成長と分配の両立に向けた産業構造や社会構造の変革が「喫緊の課題」とうたう。実際の中身は必ずしも「緊要」「喫緊」と言えないような事業も目立つ。例えば防災・減災対策として国土強靱(きょうじん)化計画の関連事業に1.2兆円を割いた。この計画は20年末に閣議決定し、5年間で15兆円を投じてダムや堤防などを集中的に整備する目標を掲げた。このタイミングの補正で改めて扱う理由は明確ではない。国土交通省は22年度予算案の概算要求にも関連事業を盛り込んだ。治水や高速道路網の整備などの内容はほぼ同じで、補正予算に前倒しする趣旨は曖昧だ。国交省内でさえ「本来は経済対策ではなくて当初予算で措置すべきものだ」とささやかれる。総務省は高齢者らのオンライン行政手続き利用を支援する事業に3億3000万円を計上した。内閣府も「デジタル田園都市国家構想推進交付金」の事業費として200億円を計上する。使途の一部は高齢者らにスマートフォンの使い方を指南する「デジタル推進委員」の全国展開などで、重複感は否めない。コロナが広がった20年度は3度にわたる補正で一般会計の歳出総額が175兆円を超え、過去最大となった。危機対応の財政出動や柔軟な予算編成はもちろん必要だ。問題は実態だ。補正が無駄なバラマキを招いていないか、検証が欠かせない。

*1-2:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20211127&c=DM1&d=0&nbm=・・ (日経新聞 2021.11.27) 国債残高1000兆円突破へ 10年で1.5倍、財政悪化の底見えず
 政府は2021年度補正予算案の財源として国債を22兆円追加発行する。21年度末の残高は初めて1000兆円を突破する見通しとなった。規模ありきで成長の芽に乏しい予算づくりを見直さなければ、経済が停滞したまま債務だけが膨らむ状況に陥りかねない。21年度の国債発行額は当初予算から5割増の65兆円超に膨らむ。3度にわたる補正予算編成で112兆円を超えた20年度に次ぐ規模となる。リーマン・ショック直後の09年度の52兆円を2年続けて上回る。税収で返済しなければならない赤字国債や建設国債など「普通国債」の残高は今回の補正予算案による上積みで、21年度末時点で1004.5兆円となる見通し。21年度当初予算の段階では990兆円と見込んでいた。10年度の636兆円から10年あまりで1.5倍以上に膨らんだ。財政の悪化は底が見えない。国際通貨基金(IMF)によると、日本の国内総生産(GDP)比の政府債務残高は21年は米国のほぼ2倍の257%に達する。主要7カ国(G7)で最悪の水準が続く。日本は12年末に発足した第2次安倍政権以降、経済成長によって財政健全化をめざす姿勢を鮮明にしてきた。実際は目標の実質2%成長が実現したのは13年度だけ。大規模な財政出動や異例の金融緩和で景気をなんとか下支えしてきたのが現実だ。結果として、低成長のまま債務が増大する流れが続いている。財政頼みの構図は簡単に変わりそうにない。「追加的な対応なくしては、来年度にかけて公的支出が相当程度減少することが見込まれる」。政府は19日に決めた経済対策で、財政出動の息切れによる「財政の崖」が景気を下押しすることに懸念を示した。家計や企業の目先の支援に追われるコロナ対応の危機モードがなお続き、中長期の成長力を底上げする「賢い支出」の視点は乏しい。これから編成作業が本格化する22年度当初予算案では、経済対策に盛り込んだコロナ対応予備費5兆円も計上する方向だ。予備費は政府が国会の議決を経ずに使い道を決める。本来は安易な予備費の計上は避けるべきだ。巨額の枠が縮小できずに残り続ければ財政のさらなる重荷となる。

*1-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/771250 (佐賀新聞 2021/11/19) 「分配」柱に78・9兆円、子育て支援、GoTo再開も
 政府は19日、新型コロナウイルス禍を受けた経済対策を臨時閣議で決定した。岸田文雄首相が掲げる「分配政策」を柱に据え、子育て世帯や所得が低い家庭などを幅広く支援する。地方の活性化につながる観光支援事業「Go To トラベル」の再開も明記した。国と自治体の財政支出は過去最大の55兆7千億円、民間の支出額などを加えた事業規模は78兆9千億円に上った。財源の不足分は新たな借金に頼る。裏付けとなる2021年度補正予算案を26日に決め、12月中旬の成立を目指す。首相は臨時閣議前の経済財政諮問会議で「経済を立て直し、一日も早く成長軌道に乗せていく」と述べた。対策は4分野で構成した。「新型コロナ感染拡大防止」では、3回目のワクチン接種も無料にすることを打ち出した。売り上げが急減した中小事業者に最大250万円の「事業復活支援金」を配り、住民税が非課税の家庭に1世帯10万円を給付。企業の休業手当を国が補う「雇用調整助成金」の特例措置の延長や、ガソリン価格を抑える原油高対策も盛り込んだ。「社会経済活動の再開と危機への備え」としてGoTo事業を再開し、国産ワクチンの研究開発・生産体制を強化する。「『新しい資本主義』の起動」には、18歳以下の子どもを対象とした10万円相当の給付、マイナンバーカードの新規取得者や保有者に対する最大2万円分のポイント付与、保育士、介護職、看護師の賃上げを明記した。経済安全保障の一環で先端半導体工場の国内立地を後押しし、国内の温室効果ガス排出を実質ゼロにする50年の脱炭素社会実現に向け「政策を総動員する」とした。最後の「安全・安心の確保」では、大規模災害に備えるために防災・減災を強化し、防衛力を増強する方針を示した。21年度補正予算案には幅広い政策に使うお金を管理する一般会計と、使い道を限定した特別会計の合計で31兆9千億円を計上する。来年夏の参院選をにらみ「30兆円超」の補正を求める与党の声に配慮した。22年度当初予算案では、前年度と同じ5兆円の新型コロナ対策予備費を手当てし、23年3月までの「16カ月予算」として切れ目なく景気をてこ入れする。経済対策の財政支出は、安倍政権が20年4月に策定した48兆4千億円がこれまでの最大だった。

*1-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211120&ng=DGKKZO77759050Q1A121C2MM8000 (日経新聞 2021.11.20) 経済対策、見えぬ「賢い支出」 最大の55兆円、分配重視、首相「赤字国債など総動員」
 政府は19日の臨時閣議で、財政支出が過去最大の55.7兆円となる経済対策を決めた。岸田文雄首相は日本経済新聞などのインタビューで、赤字国債発行も含めて財源を確保すると説明した。未来の成長を呼び込む「賢い支出」とは言いがたい項目が目立ち、目標とする「成長と分配の好循環」につなげられるかは見通せない。民間資金も入れた事業規模は78.9兆円と経済対策としては過去2番目に膨らんだ。内訳をみると、分配を重視する岸田政権の方針が色濃い。18歳以下の子どもへの1人10万円相当の給付や、低所得の住民税非課税世帯への10万円の支給はその代表例だ。一時的な消費拡大にしかつながらないこれらの個人向けの給付はざっと5兆円に及ぶ。新型コロナウイルスで減収に陥った事業者には最大250万円を支援する。規模ばかりが先行し、財源の裏付けは万全とは言えない。今回は2021年度補正予算案に一般会計で31.6兆円を計上する。首相は「赤字国債はじめあらゆるものを動員する」と言明した。消費税に関しては「触ることを考えていない」と述べ、増税には慎重な姿勢を示した。大型の財政支出は財源と一体で議論するのが世界の潮流だ。米国で15日に成立したインフラ投資法では道路・橋の修復など5500億ドルの歳出を既存のコロナ関連予算の振り替えなどでまかなう。雇用計画や教育支援などの家族計画には、法人税の引き上げや所得税の最高税率上げを盛り込んでいる。首相はインタビューで「経済の再生を行い、そして財政についても考えていく。これが順番だ」と語り、当面は経済の立て直しを優先する姿勢を鮮明にした。肝心なのは経済対策をどう中長期的な成長に結びつけるかだ。首相は成長戦略として、科学技術立国、地方からのデジタル化、重要な物資確保や技術開発といった経済安全保障の3本柱を挙げた。「国の予算が呼び水になり、民間の投資や参加につなげていく方向性が重要だ」と訴えた。具体例として米国の半導体メーカーの誘致にふれた。人工知能(AI)や量子分野といった先端技術支援の基金などに5000億円規模を盛り込んだが、力不足は否めない。首相は規制改革についても「成長戦略を進める上で必要なものはしっかり考えていく」と強調した。ただ、コロナ感染を調べる「抗原検査キット」のインターネット販売の解禁は今回の対策から外れた。業界の反対論を打破できなかった。コロナ対策では、病床確保のための補助金を積む。今夏の第5波では病床確保料を受け取りながら、すぐに患者を受け入れない「幽霊病床」が問題になった。首相は「ポイントは見える化だ」と指摘し、病院別の病床使用率や地域のオンライン診療の実績公表に取り組む考えを示した。

*1-5:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20211120&c=DM1&d=0&nbm=・・・ (日経新聞 2021.11.20) これで日本は変わるのか
 未来を切り開くのか、過去に戻るのか。どちらを向いているのか分からない経済対策だ。岸田文雄首相が「数十兆円規模」といっていた対策は、ふたを開ければ財政支出だけで55兆円に膨らんだ。「過去最大」という見かけにこだわり、使い道をよく考えないまま額を積み上げたとしか思えない。かつて何度も見てきた光景のような気がする。バブル崩壊後、歴代政権は繰り返し巨額の経済対策を打ち出してきた。どれもうまくいったとは言えない。日本が歩んだのは「失われた20年」という停滞の時代だ。デフレ下では、借金を重ねてでも財政を通じて需要を底上げする必要がある。問題は使い道だ。過去の経済対策は無駄な公共事業や一時的な消費喚起策に偏っていた。将来の成長につながる「賢い支出」に知恵を絞ってきたとは言いがたい。今回も同じ轍(てつ)を踏んでしまったのか。対策の柱として目立つのは、家計や企業への給付金ばかりだ。一部が消費に回ったとしても、一時的な需要をつくり出すにすぎず、持続的な成長にはつながらない。本来やるべきは、生産性を高めるデジタル化や世界が競う脱炭素の後押しだ。人への投資や規制緩和を通じ、成長分野に人材が移動しやすくする改革も急がなければならない。今回の対策で、そうした分野に十分なお金が回るとは思えない。世界はすでに新型コロナウイルス後を見据えた成長競争に入っている。米中対立が収まる気配を見せないなか、日本はそのはざまで独自の強みを持たなければ生き残っていけない。日本はやはり変わらないのか。成長せずに借金だけが膨らむ。先祖返りしたかのような規模ありきの対策は、次の世代にそんな日本を引き継ぎかねない。

*1-6:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/834990/ (西日本新聞社説 2021/11/21) 新たな経済対策 規模を追わず質を高めよ
 来夏の参院選を意識するあまり、大盤振る舞いが過ぎるのではないか。岸田文雄政権が19日に閣議決定した経済対策のことである。国と地方が支出する財政支出が55兆7千億円に膨らみ、過去最大となった。民間支出分などを加えた事業規模は78兆9千億円に達している。安倍政権時代に新型コロナウイルス感染症が急拡大し、国民に一律10万円の支給を決めた昨年4月の経済対策の財政支出が48兆円超だった。この際も議論を呼ぶ規模だったが、今回はそれをさらに大きく上回る。当時に比べ国内の感染状況はかなり落ち着いてきた。国民が期待する経済対策とはいえ規模を追うのではなく、質を高めることにもっと注力すべきだ。与野党ともに「ばらまき合戦」の様相を呈した衆院選で勝利した与党の要請は無視できず、規模優先になったとみられる。「成長と分配の好循環」の議論が影を潜め、既視感の強いメニューが並んだのは残念だ。対策の4本柱は、新型コロナ対策、次の危機への備え、新しい資本主義起動、安全・安心の確保だという。医療提供体制の拡充が最優先なのは論をまたない。感染者が自宅待機を強いられ、そのまま亡くなるような悲劇を繰り返してはならない。欧州などでは感染が再び拡大している。医療機関の受け入れ体制強化など第6波への備えは不可欠だ。コロナ禍に苦しむ生活困窮世帯などに必要な支援を急がねばならず、日本経済の立て直しや潜在成長率を引き上げる取り組みも重要である。製造業などの業績が急回復する一方、コロナ禍で厳しい状況の中小事業者は多い。事業継続のための支援を早急に届ける必要があろう。公明党が衆院選公約に掲げた18歳以下への10万円相当の給付も盛り込まれた。子育て支援策としても経済対策としても効果は限定的との見方が大勢だ。所得制限が設けられたとはいえ、その基準は緩い。選挙目当てのばらまきとの批判は根強い。対策の財源は、2020年度の決算剰余金と21年度の補正予算、22年度予算で手当てされるが、結局は赤字国債である。日本経済の回復は欧米や中国などより遅れている。今年7~9月期の実質国内総生産(GDP)は年率3・0%減のマイナス成長だった。民間調査機関によれば、21年度の成長率は政府年央試算の3・7%を下回る見通しだ。昨年来のコロナ禍で繰り返された巨額の経済対策には、政府が想定した効果があったのか。その点をしっかりと見極める国会での審議を求めたい。

<具体的には>
*2-1-1:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20211127&c=DM1&d=0&nbm=・・ (日経新聞 2021.11.27) 防衛費、最大の7700億円 当初と合わせ6.1兆円、GDP比1%超
 政府は26日に決定した2021年度補正予算案で防衛関係費に7738億円を充てた。補正予算で計上する額としては過去最大となった。当初予算とあわせると6.1兆円で、当初と補正をあわせた防衛費は国内総生産(GDP)比で1%を超して1.09%となる。当初予算と補正予算を単純合算した額がGDP比1%を超えたのは2012年度以降の10年間で8回あった。21年度のGDP比の水準は10年間で最も高い。哨戒機や輸送機といった装備の取得計画を前倒しし、自衛隊の警戒監視や機動展開の能力向上を急ぐ。日本周辺で活発な軍事活動を続ける中国への対応を念頭に置き、防衛力を強化する。不審な船舶や潜水艦の監視に使うP1哨戒機の3機の取得に658億円を計上した。自衛隊員や物資の大規模輸送に使うC2輸送機も243億円で1機導入する。ともに22年度予算の概算要求に盛り込んでいた。前年度の補正予算で発注することで納期を3カ月から半年程度前倒しし、早期に部隊に配備する。北朝鮮による相次ぐミサイル発射の対策も推進する。地上から迎撃する地対空誘導弾パトリオットミサイル(PAC3)について、これまでより防御範囲が広い能力向上型の取得を進める。441億円を措置する。沖縄県の米軍普天間基地(宜野湾市)の名護市辺野古への移設に801億円を充てる。戦闘機に搭載する空対空ミサイルや魚雷など、弾薬の確保にも予算を投じる。

*2-1-2:https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/869702 (沖縄タイムス 2021.12.2) 沖縄県が不承認した新基地建設 国は工事継続 変更承認申請の対象外で 801億円補正予算
 松野博一官房長官は26日の記者会見で、名護市辺野古の新基地建設を巡り、県が不承認とした変更承認申請の対象外の工事について継続する方針を示した。不承認に対する政府の対抗措置は「不承認処分の理由の精査を進める」と述べるにとどめた。岸信夫防衛相も「辺野古移設が唯一の解決策」と現行の工事を進める考えを示した。防衛省は2021年度補正予算案に、辺野古の埋め立てに801億円を計上。辺野古側海域のかさ上げ工事が予定より早く進んでいるとして、作業ペースを加速させる。
岸氏は同日の会見で、日米同盟の抑止力の維持と普天間飛行場の危険性除去を考え合わせた場合、「辺野古移設が唯一の解決策」と述べ、着実に工事を進めるとした。現行計画を再検証する考えについては「今の計画が唯一」と述べた。同省は行政不服審査法に基づく審査請求などの対抗措置を検討している。補正予算案について同省は「補正の活用は辺野古移設を前に進めたいという意識の表れ」と説明。少しでも建設を早めることで、普天間飛行場の固定化につながらないよう基地負担軽減を図るとした。埋め立てている辺野古側の区域「(2)」と「(2)-1」は陸地化が完了し、高さ4~7メートルまでのかさ上げ工事に入っている。同省によると、4メートルまでの埋め立ては予定よりも約6カ月早く終えた。4~7メートルまでの埋め立ての進捗(しんちょく)(10月末現在)は「(2)」が2割、「(2)-1」が5割で、年度内の完了を目指す。最終的には最も高い地点で10メートルまでかさ上げする計画。松野氏は会見で、現在進めている工事は「すでに承認されている事案で進めていく」と説明。政府としては「地元の理解を得る努力を続けながら、普天間飛行場の一日も早い全面返還を実現するため全力で取り組んでいく」と述べた。政府として対抗措置を取るかどうかは「沖縄防衛局において不承認処分の理由の精査を進めていく」と述べ、慎重な姿勢を示した。

*2-1-3:https://news.yahoo.co.jp/articles/5f6744ddce1e1f4cafbe531903e61fa81143f639 (Yahoo、八重山日報 2021/11/9) 石垣島駐屯地22年度開設 作業員宿舎建設に着手 プレハブ11棟、最大500人宿泊
 石垣島平得大俣地区の陸上自衛隊駐屯地建設に向け、防衛省は8日、宮良地区で仮設作業員宿舎の建設に着手した。島外から来島する作業員が宿泊する施設となる。駐屯地は2022年度の開設を予定しており、今後、隊庁舎などの建設作業が急ピッチで進む。防衛省は19年3月から駐屯地の用地造成工事に着手し、順次、隊庁舎などの建物の建設工事に着手している。沖縄防衛局は8日の八重山日報の取材に対し、駐屯地開設時期について「2022年度に開設する計画」と明示した。関係者によると、仮設作業員宿舎は宮良地区で民間企業が所有する旧パチンコ店敷地内に設置する。2階建てのプレハブ11棟を設置し、最大500人の宿泊が可能。旧店舗は改修し、食堂として利用する。8日には建設業者らが現場を訪れ、今後の作業工程などを協議する姿が見られた。沖縄防衛局は「施設が完成し次第、新型コロナウイルス防止対策と作業員に対する交通安全教育を行った上で、利用を開始する予定」としている。市幹部は「コロナも落ち着きつつある。500人が来島すれば一定の経済効果が期待できる」と話した。近年、八重山での大型公共工事は島内だけで作業員を確保するのが困難で、建設業者に渡航費や宿泊費を支払って島外から作業員を来島させるケースが増えている。防衛省が駐屯地外に設置する隊員宿舎の建設も本格化する。建設場所は市有地2カ所と旧民有地3カ所を予定しており、旧民有地の隊員宿舎建設に向け既に建設業者と工事請負契約を締結。このうち2カ所は工事に着手した。残る1カ所も「準備が整い次第着手する」としている。沖縄周辺で中国の脅威が増大する中、防衛省は南西諸島防衛強化の一環として石垣島への自衛隊配備計画を進める。警備部隊、地対艦ミサイル部隊、地対空ミサイル部隊を配備し、総勢500~600人規模を想定している。奄美大島、宮古島、与那国島でも陸自駐屯地が開設されており、南西諸島での駐屯地新設は現時点で石垣島が最後となる。

*2-1-4:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1203719.html (琉球新報 2020年10月7日) 宮古、石垣の自衛隊基地建設「工事止め丁寧に説明を」 玉城沖縄知事が防衛相へ要請
 玉城デニー知事は7日午前、岸信夫防衛相と大臣就任後初めて面会し、宮古島市や石垣市で進む自衛隊基地の建設工事について、地域の理解を得るため「折々に工事を止めて、住民の皆さんに丁寧に説明をして頂きたい」と述べ、説明のため工事を一時停止するよう求めた。岸氏は先島への自衛隊配備計画について「いろいろ地元のご意見があることはよく承知している。宮古島市、石垣市ともしっかり調整し、今後も必要があれば住民の皆さんに説明していけるよう努力する」と述べるにとどめたという。米軍普天間飛行場の移設問題で玉城知事は「辺野古移設によることなく、普天間飛行場の1日も早い危険性の除去と閉鎖・返還」を訴えるとともに、県と国による対話の場を設けるよう求めた。岸氏は「これからも対話の場を作っていけるよう努力する」と話した。辺野古移設への言及はなかったという。会談は非公開で行われた。

*2-2:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20211127&c=DM1&d=0&nbm=・・ (日経新聞 2021.11.27) 省エネ住宅購入に最大100万円補助 国交省、子育て世帯向け
 国土交通省は省エネルギー住宅の購入を支援する制度をつくる。子育て世帯を主な対象とし、断熱性能に優れた戸建てやマンションを買う際、最大100万円を補助する。住宅取得にかかる費用負担を和らげながら、省エネ住宅の普及を促す。2021年度補正予算案に関連費用で542億円を盛り込んだ。18歳未満の子どもを持つ世帯か、夫婦いずれかが39歳以下の世帯が新制度の対象になる。新築住宅の省エネ性能に応じて60万円、80万円、100万円の3区分に分けて補助。ZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)の基準を満たせば100万円となる。新規購入の契約をした住宅について22年以降、工務店やハウスメーカーから補助の申請を受け付ける。着工して一定の工事が進んでいることが条件となり、22年10月末までが期限となる。同じ世帯を対象に省エネ性能を高める改修工事に対しても最大45万円を補助する。国交省は22年度当初予算にも一般向けの省エネ改修補助金を要求しており、対象要件など詳細を調整する。

*2-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/141877 (東京新聞 2021年11月10日) 18歳未満に一律10万円「基本的には必要ない」 専門家ら効果に疑問 与党のコロナ対策
 与党が検討する新型コロナウイルス経済対策として、18歳以下の子どもに一律で10万円相当を配る必要はあるのか―。景気浮揚だけでなく困窮者支援の点でも、経済の専門家から効果を疑問視する声が出ている。「困窮者支援が目的なら、コロナで収入が減少した世帯に絞るべきだ。子どもを基準にするのはコロナ対策としては意味がわからない」。野村総研の木内登英氏は、18歳以下を対象とした一律給付をこう批判する。子育て世代の富裕層が対象となる一方、生活が苦しい子どもがいない世帯が外れてしまうからだ。経済対策としても、効果は高くなさそうだ。コロナ禍にもかかわらず、家計の現預金は増加。日銀によると、6月末に1072兆円で過去最高を更新した。経済活動の制限で、お金を使う機会が失われたことが大きい。新たな現金給付も使われずにさらに貯蓄に回る可能性がある。実際、全ての国民に10万円を給付した昨年の特別定額給付金は7割が貯蓄に回ったという分析がある。一時的な所得の増加は貯蓄に回る傾向がはっきりしており、余裕のある世帯はなおさらだ。このため、木内氏は景気対策として「無駄金になりかねない」とみる。第一生命経済研究所の熊野英生氏も「基本的には必要ない政策。やるなら当然所得制限は設けるべきだ」と指摘する。その上で「コロナで最もダメージを負ったサービス業などへの支援を優先すべきだ」とする。財務省の調査によると、2020年度の企業の純利益は、飲食や宿泊、運輸などの一部を除き、前年並みを保つか、前年を上回った。感染者数の減少で経済環境は回復期にある。特に製造業が好調など一律に苦しいわけではない。給付政策を巡っては、公明党はマイナンバーカードの新規取得者や保有者への3万円分のポイント付与の実現も目指す。ただ、既に実施していた最大5000円分のポイント還元では、カード普及に想定した効果が見られず、財務省が衆院選前に、ポイント付与事業の見直しを求めていた経緯がある。衆院選では、与野党が現金給付や減税など大型の経済対策を競った。政府関係者は「各党はバラマキ合戦に終始し、社会保障や税制など国民の暮らしの安定につながる抜本的な政策はほとんど議論されなかった」と批判する。

*2-4:https://www.tokyo-np.co.jp/article/144976 (東京新聞 2021年11月27日) マイナカードの取得促進に1.8兆円 ポイント付与の「アメ」ちらつかせ  補正予算案 
 2021年度補正予算案には、マイナンバーカードの取得などで最大2万円分のポイントを付与する事業費として、1兆8134億円が計上された。政府の狙いは40%程度にとどまる普及率の向上だが、個人情報漏えいなどの懸念に向き合わず、「アメ」をちらつかせて取得を促す手法に、識者から「本末転倒だ」と疑問の声が出ている。この事業では、マイナンバーカードの取得で最大5000円分、健康保険証としての利用登録と、預金口座の事前登録でそれぞれ7500円分を付与する。政府がポイントを使った普及促進を図るのは「成功体験」があるからだ。19年度補正予算以降、約3000億円を投じ、今年4月までの申請者に最大5000円分を付与する事業を行ったところ、新たに約2500万人が申請。カード保有者は約5000万人に倍増した。政府は今回の補正予算でさらなる取得者の増加のほか、登録が伸び悩む保険証としての利用や、預金口座との連携を進めたい考えだ。
◆乏しい利用機会 情報漏えいへの不安も根強く
 ただ、普及率が上がらない背景には、利用機会の乏しさがある。カードを保険証として使おうとしても、専用の読み取り機を設置して利用できる医療機関や薬局は全国で約7%にとどまっている。加えて、個人情報が適切に管理されるのかという不安や抵抗感も根強い。健康や資産といったプライバシーに関わる情報を把握されかねないと懸念する人は少なくない。SMBC日興証券の丸山義正氏は「予算はカードの利便性を高めたり、セキュリティーを向上させたりすることに使うべきで、ポイントに充てるのは本来のあり方ではない」と指摘する。

<アメリカの対策>
*3:https://www.bbc.com/japanese/59300401 (BBC 2021年11月16日) バイデン米大統領、1兆2000億ドル規模のインフラ投資法案に署名・成立
 アメリカのジョー・バイデン大統領は15日、総額1兆2000億ドル(約140兆円)規模のインフラ投資法案に署名した。この大規模法案の成立は、支持率が低下するバイデン政権にとって、重要な立法上の成果となる。「私たちは今日ついに、これを達成する」と、ホワイトハウスで開かれた法案署名式でバイデン氏は、与党・民主党と野党・共和党の双方の連邦議員に語った。バイデン氏はさらに、「アメリカの人たちに伝えたい。アメリカはまた動き出しました。そして皆さんの生活は、もっと良くなります」と国民に呼びかけた。「一世一代」の大型財政支出と位置づけられるこのインフラ投資法は、総額約1兆2000億ドルのうち約5500億ドルを今後8年間で、高速道路や道路、橋、都市の公共交通、旅客鉄道などの整備にあてる。加えて、清潔な飲料水の提供、高速インターネット回線、電気自動車充電スポットの全国的なネットワーク整備などにも連邦予算で取り組む。アメリカの国内インフラ投資として数十年来の規模となり、バイデン政権にとっては重要な内政上の成果と受け止められている。財源には、新型コロナウイルス対策で計上した緊急予算の使い残し分のほか、暗号資産(仮想通貨)に対する新規課税の税収など、様々な収入が充てられる。この法案については、財政規律を重視する民主党中道派と、より進歩的な施策の導入を求める党内急進派とが対立。結果的に、野党・共和党から一部議員が賛成に回ることで議会を通過した。民主党内のこの対立と混乱が、今月初めのヴァージニア州知事選での民主党敗北につながったとも言われている。連邦議会では現在、ほかに大規模な社会福祉法案が検討されている。「Build Back Better Act(より良く再建法案)」と呼ばれるこの社会福祉法案は、育児や介護、気候変動対策、医療保険、住宅支援などの充実を図るものだが、成立の見通しがまだ立っていない。民主党の進歩派は今回のインフラ投資法案との同時成立を強く求めていたが、民主党中道派はこれに反対した。財政規律を重視する中道派は、この社会福祉法案で財政赤字がどれだけ増えるのか、議会予算局(CBO)にまず予測を報告するよう要求した。CBOは近くその試算を発表する見通し。(英語記事 Biden signs 'once-in-a-generation' $1tn infrastructure bill into law)

<年金制度と“高齢者”の軽視>
*4-1:https://www.mhlw.go.jp/nenkinkenshou/finance/popup1.html (厚労省) マクロ経済スライドってなに?
 マクロ経済スライドとは、そのときの社会情勢(現役人口の減少や平均余命の伸び)に合わせて、年金の給付水準を自動的に調整する仕組みです。
●マクロ経済スライド導入の経緯
 平成16年に改正する前の制度では、将来の保険料の見通しを示した上で、給付水準と当面の保険料負担を見直し、それを法律で決めていました。しかし、少子高齢化が急速に進む中で、財政再計算を行う度に、最終的な保険料水準の見通しは上がり続け、将来の保険料負担がどこまで上昇するのかという懸念もありました。そこで、平成16年の制度改正では、将来の現役世代の保険料負担が重くなりすぎないように、保険料水準がどこまで上昇するのか、また、そこに到達するまでの毎年度の保険料水準を法律で決めました。また、国が負担する割合も引き上げるとともに、積立金を活用していくことになり、公的年金財政の収入を決めました。そして、この収入の範囲内で給付を行うため、「社会全体の公的年金制度を支える力(現役世代の人数)の変化」と「平均余命の伸びに伴う給付費の増加」というマクロでみた給付と負担の変動に応じて、給付水準を自動的に調整する仕組みを導入したのです。この仕組みを「マクロ経済スライド」と呼んでいます。
●具体的な仕組み
(1)基本的な考え方
 年金額は、賃金や物価が上昇すると増えていきますが、一定期間、年金額の伸びを調整する(賃金や物価が上昇するほどは増やさない)ことで、保険料収入などの財源の範囲内で給付を行いつつ、長期的に公的年金の財政を運営していきます。5年に一度行う財政検証のときに、おおむね100年後に年金給付費1年分の積立金を持つことができるように、年金額の伸びの調整を行う期間(調整期間)を見通しています。その後の財政検証で、年金財政の均衡を図ることができると見込まれる(マクロ経済スライドによる調整がなくても収支のバランスが取れる)場合には、こうした年金額の調整を終了します。
(2)調整期間における年金額の調整の具体的な仕組み
 マクロ経済スライドによる調整期間の間は、賃金や物価による年金額の伸びから、「スライド調整率」を差し引いて、年金額を改定します。「スライド調整率」は、現役世代が減少していくことと平均余命が伸びていくことを考えて、「公的年金全体の被保険者の減少率の実績」と「平均余命の伸びを勘案した一定率(0.3%)」で計算されます。
(3)名目下限の設定
 現在の制度では、マクロ経済スライドによる調整は「名目額」を下回らない範囲で行うことになっています。詳しい仕組みは、下の図を見てください。
※平成30年度以降は、「名目額」が前年度を下回らない措置を維持しつつ、賃金・物価の範囲内で前年度までの未調整分の調整を行う仕組みとなります。
(4)調整期間中の所得代替率
 マクロ経済スライドによる調整期間の間は、所得代替率は低下していきます(所得代替率について詳しくは、「所得代替率の見通し」をご覧ください)。調整期間が終わると、原則、所得代替率は一定となります。

*4-2:https://www.dir.co.jp/report/research/policy-analysis/social-securities/20210210_022084.html (大和総研 2021年2月10日) 2021年度の年金額はマイナス改定、将来の年金のために、マクロ経済スライドの名目下限措置は撤廃を
◆2021年度の公的年金の年金額は、2020年度比で0.1%の引き下げとなった。4年ぶりのマイナス改定である。
◆マイナス改定となったのは、2021年度より改定ルールが見直され、賃金の変化率が物価の変化率を下回った場合(つまり実質賃金が下落した場合)には、賃金変動に合わせて年金額を改定することが徹底されたためだ。改正前のルールに従えば、0%改定(年金額は据え置き)だったから、ルールの変更により現在の受給者の給付水準が0.1%分抑えられた。その効果は将来の年金水準の確保に及ぶことになる。
◆年金給付額を実質的に引き下げる仕組みであるマクロ経済スライドは、2021年度は発動されなかった。2004年の制度改革以降、それが実施されたのは3回で、本来求められる給付調整は思うように進んでいない。年金額が前年度の名目額を下回らないようにするというマクロ経済スライドの名目下限措置の撤廃を、改めて検討すべきである。

*4-3:https://news.yahoo.co.jp/byline/kubotahiroyuki/20211109-00267190 (Yahoo 2021/11/9) 物価が上昇に転じなかった背景は2007年も今も変わらず、それでも金融緩和を修正する理由は全くないのか
 原油価格や輸入原材料が高騰しており、企業はコスト増に直面している。企業間取引の段階では、コスト高を販売価格へ転嫁する動きがみられる。一方、最終消費段階の財にまでは転嫁はされてこなかった。この記述は最近のものではない。2007年に内閣府が出したレポートから抜粋したものである。「日本「経済2007 第1節 物価が上昇に転じなかった背景( https://www5.cao.go.jp/keizai3/2007/1214nk/07-00301.html )
企業物価指数をみると、素原材料、中間財は中期的に大幅な上昇傾向にある一方、最終財では上昇がみられない。原油高等のコスト増は、川上、川中の生産財(素原材料+中間財)の価格にまでは転嫁されているが、川下の最終財にまでは転嫁が進んでいない。最終財は、品質向上が著しく下落基調にある電気機器のウェイトが大きい面もあるが、それらを考慮しても生産財と最終財の間の物価上昇率の差は大きい(内閣府の日本経済2007より)。直近の企業物価指数は前年比でプラス6.3%となり、伸び率は2008年9月の6.9%上昇以来、13年ぶりの高さとなっていた。ちなみに2008年9月の消費者物価指数は前年比プラス2.3%となっていた。この際の物価上昇の背景には原油高があったことで、消費者物価指数も一時的に2%を超えていたが、企業物価との乖離は大きい。その背景の説明が上記であり、これは現在でも変わっていない。この内閣府のレポートでは、原油価格や素原材料価格が高騰する中、企業取引段階では転嫁がある程度進んでいる一方で最終消費段階への転嫁が進まないことは、国内で生み出す名目付加価値の縮小につながっているとの指摘もあった。そして物価が上昇に転じないことや、個人消費が弱いことの背景として、賃金が伸び悩んでいることが挙げられるとの指摘もあった。今月8日に発表された日銀の金融政策決定会合における主な意見(2021年10月27、28日開催分)では、次のようなコメントがあった。「日米インフレ率の差は主にサービス価格であり、その大部分は賃金である。賃金引き上げには労働市場が更に引き締まることが必要である。家計・企業の待機資金の支出を後押しするためにも、所得と賃金の引き上げを目指すことが望ましい。どうして賃金の引き上げが困難なのか。賃金を引き上げれば物価が上がるとすれば、大胆な金融緩和策によって能動的に賃金を引き上げることは可能なのか。すでに異次元緩和と呼ばれた日銀の量的質的金融緩和策を決定してから8年半が過ぎたが、物価を取り巻く環境は2007年時点となんら変わることはない。[「金融政策の正常化とは、他国の政策動向にかかわらず、わが国での物価安定の目標を安定的に達成することであり、目標に達していないもとでは金融緩和を修正する理由は全くない。この点は、対外的に丁寧に説明すべきである。」との意見が「主な意見」にあった]。そもそも2%という物価目標が適正なのか。どんな金融緩和策をとっても物価を取り巻く環境に変化はないのに、目標に達していないもとでは金融緩和を修正する必要はないと言い切ることに正当性があるとは思えない。異次元緩和の副作用、債券市場の機能不全、金融機関の収益性への問題、そして日本の財政悪化を見にくくさせるなどの副作用も考えれば、少なくとも極端な緩和策から柔軟な対応に戻す格好の金融政策の正常化はむしろ必要とされよう。

*4-4:https://www.somu-lier.jp/column/pensionsystem-amendment/(Somu-Lier 2021.2.20)【2022年4月以降施行】年金制度改正法によって変わるシニア層の働き方とは
 女性や高齢者の就業が進んでいることに合わせて、年金制度を変更するため、2022年4月より年金制度改正法が施行されます。今回の改正ではパートなどの短時間労働者への年金適用拡大や繰り下げ受給の上限引き上げ、確定拠出年金の要件緩和などが含まれます。特にシニアや短時間労働者の働き方に影響を与えるため、正しく理解し、該当する労働者に説明しましょう。今回は、年金制度改正法の4つの変更点の詳細とそれぞれの施行時期、シニア層と企業への影響について解説していきます。
●年金制度改正の4つの変更点と施行時期
○厚生年金の適用範囲の拡大
 今回の改正で厚生年金の適用範囲が拡大しました。具体的には、常勤者の所定労働時間または所定労働日数の4分の3未満の短時間労働者であっても、一定の要件を満たせば加入できるようになり
・1週間の労働時間が20時間以上であること
・雇用期間が1年以上見込まれること
・賃金が1ヶ月8.8万円以上であること
・学生でないこと
 現行制度において、上記の要件を満たした短時間労働者を社会保険に加入させる義務があるのは、被保険者となる従業員が501人以上の事業所のみでした。しかし今回、段階的に適用範囲を広げていくという改正がなされました。具体的には、2022年10月からは101人以上の事業所、2024年10月からは51人以上の事業所までが適用になります。また、今回の改正では、上記のうち「雇用期間が1年以上見込まれること」という要件は撤廃され、フルタイムと同様に2ヶ月以上となります。なお、5人以上の個人事業所で強制適用とされている業種(製造業、鉱業、土木建築業、電気ガス事業、清掃業、運送業など)に、弁護士や税理士などの士業も追加されます。
○受給開始時期の選択肢の拡大
 現在、公的年金の受給開始年齢は原則として65歳ですが、希望により60歳から70歳の間で受給開始時期を自由に決めることができます。65歳より前に受給を繰上げた場合、一年繰り上げにつき0.5%減額された年金(最大30%減)が支給され、支給開始年齢を66~70歳に繰下げた場合は一年繰り下げにつき0.7%増額された年金(最大42%増)を、生涯受給することになります。しかし、近年では健康寿命が延びたことにより高齢者の就労期間も長くなっていることから、年金の受け取り方にも多様な選択肢を設ける改正が行われました。今回の改正では、繰り上げ受給の減額率は0.4%に引き下げられ、60歳で年金を受給開始した場合は24%の減額になります。繰下げ受給の場合の増額率は変わらず0.7%のままですが、受給開始年齢の上限を70歳から75歳に引き上げ、75歳まで受給を繰り下げると年金額は最大でプラス84%になります。この改正は、2022年4月に施行され、対象となるのは2022年4月1日以降に70歳になる方です。
○在職中の年金受給についての見直し
 現行制度では、年金の支給繰り上げをしながら働いている60~64歳までの方は、賃金などと年金受給額の合計が月額28万円を超えると、超過分の年金の支給が停止されてしまいます。改正後はこの制度が見直され、年金の支給停止の基準額が月額28万円から47万円に緩和されることになりました。65歳以上で働きながら年金を受給している方は、もともと基準額が47万円となっており、変更はありません。また、現行制度では65歳以上で在職中の場合、退職時に年金額が改定されるまでは年金受給額が変わりませんでした。しかし、今回の改正で、65歳を過ぎてからも働いている場合、毎年10月に保険料の納付額をもとに年金受給額を見直し、年金額の改定が行われることになりました。これを在職定時改定といいます。在職定時改定制度があることで、長く働くメリットを感じることができるでしょう。
なお、これらの制度改正は、2022年4月に施行されます。
○個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入要件の緩和
 確定拠出年金(DC)とは、基礎年金や厚生年金のほかに掛金を積み立てて運用し、その積立額と運用収益をもとに支給される年金のことです。企業型DCと個人型DCがあり、企業型DCは企業が掛金を支払うもの、個人型DC(iDeCo)は個人が掛金を支払うものです。毎月の掛金を所得控除することができる、運用中の利益が非課税になる、年金受給時の税負担も軽くなるなどの、税制上の優遇措置があります。これまで、企業型DCに加入している方がiDeCoに加入したい場合、各企業の労使の合意が必要でしたが、2022年10月にはこの要件が緩和され、原則加入できるようになります。また、受給開始時期の選択範囲については、これまでは60~70歳の間だったところ、2022年4月からは60~75歳に拡大されます。
○年金制度改正が与える影響
 今回の年金制度改正は、女性や高齢者の労働者が増加していることを受けて、多様な働き方に対応できる年金制度を目指したものです。例えば、短時間労働者を厚生年金に加入させるべき企業の適用範囲を広げることにより、より多くの短時間労働者が社会保険制度を利用できるようになります。これにより、育児や介護でフルタイム勤務が難しい方やシニア世代の働き方にとって、短時間労働という選択肢が加わるでしょう。また、受給開始時期の選択範囲の拡大や、在職中の年金支給停止の基準額の緩和により、シニア世代が仕事を続けやすくなります。今後、健康寿命が延びることによって老後の経済的な不安を抱える人が増える可能性があります。これからは、従来の「定年」という言葉に縛られず、生きがいとして仕事を続けることで金銭的不安を解消し、生き生きとした老後を目指す姿勢が必要なのかもしれません。今回の改正は年金制度の面からこのような生き方を応援していく試みがされているのではないでしょうか。また、企業にとっても、働く意欲のある人材を雇用形態にとらわれずに得ることができたり、経験豊かなシニア世代を採用したりすることによって、生産性の向上を期待することができます。

<介護制度と介護負担>
*5-1:https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2021111300099 (信濃毎日新聞社説 2021/11/13) 介護職ら賃上げ 負担増に国民の理解を
 介護職や保育士の賃金が来年2月から月額3%程度引き上げられる方向になった。地域の救急医療を担う看護師らも同様の対応になる。19日に決定する政府の経済対策に盛り込まれる。少子高齢化で重要度が増す社会保障の担い手だ。ボーナスを含めた昨年の平均月収は、全産業平均の35万2千円に対し、介護職が5万9千円、保育士が4万9千円低い。看護師は4万2千円高いが、医師の4割にとどまる。仕事の大変さに比べ低賃金で離職者が多く、人材不足が深刻化している。賃上げによる処遇改善は待ったなしの課題だ。人件費には安定した財源が要る。政府は、2~9月分を交付金として支給し、10月以降は報酬改定などで対応する方針を示す。医療や福祉分野のサービスに伴う価格は、政府が定め、診療報酬や介護報酬などとして事業者に支払われている。原資は、税金や保険料、利用者負担だ。報酬の引き上げ改定は、それぞれの増額につながる。国民の負担増が避けられない。財源の確保策を明確にし、国民の理解を得るべきだ。政府は、新たに立ち上げた公的価格評価検討委員会で、賃上げに向けた協議を進め、公的価格のあり方も見直す意向だ。開かれた分かりやすい議論を求めたい。報酬改定などがただちに賃上げに結び付くかは不透明だ。報酬に加算する仕組みを導入しても、事務作業が煩わしく利用が進まない事例もある。収入をどう分配するかは経営者の裁量だ。実態を踏まえた議論にしなければならない。確実に個々の賃上げに充てる運用が大切になる。社会保障制度全体の中で考える必要もある。65歳以上が支払う介護保険料は今年、全国平均で月6千円を超えた。介護利用料の自己負担が増えたり、公的年金の受給額が減ったりした人も多い。75歳以上の医療費2割負担も来年度始まる。保険料を滞納し預貯金などを差し押さえられた高齢者は年2万人に上っている。さらなる負担増に耐えられない人が続出する恐れはないか。社会保障制度は近年、小手先の見直しを積み重ねてきた。年金収入だけで老後を過ごせる状況になく、十分な医療や介護も望めなくなりつつある。制度全体を見渡し、給付や負担のあり方を抜本的に見直すことが急務だ。賃上げもその中で位置づけなくてはならない。

*5-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15126050.html?iref=comtop_Opinion_03 (朝日新聞社説 2021年11月29日) 介護等の賃金 中長期見据えた議論を
 政府の経済対策で、看護や介護、保育の現場で働く人たちの賃金を来年2月から引き上げることが決まった。「春闘に向けた賃上げの議論に先んじて実施を」という岸田首相の意向を受けた当面の措置で、さらなる取り組みも有識者会議で議論し、年内に方向性を示すという。新型コロナや少子高齢化への対応の最前線に立つ人たちに、政権として報いる姿勢を示すとともに、政府が介入しやすいこれらの分野をテコに、広く民間の賃上げにつなげたいという思惑があるのだろう。だが、本来目を向けるべきは、中長期を見据えたサービスの担い手確保と、そのために必要な財源の負担をどう分かち合うかの議論であることを、忘れてはならない。どこまでの賃上げを目指し、それを賄うためには税や保険料がどう変わるのか。国民に分かりやすく示し、理解を得ながらしっかりと進めてほしい。来年2月の賃上げは、介護職員や保育士などで収入の3%程度(月額約9千円)、コロナ医療などの役割を担う医療機関に勤務する看護職員で1%程度(月額約4千円)という。人手不足が深刻なのもこれらの分野で、高齢化でこれから需要が大きく膨らむと見込まれる介護では、40年度に65万人が不足すると推計されている。ただ、現在の賃金水準は看護師の月平均39・4万円に対し、介護職員は29・3万円、保育士は30・3万円で、今回の引き上げが実現しても全産業平均の35・2万円に及ばない。一方、これらのサービスを支えているのは税金や保険料、利用者負担だ。継続的な賃金引き上げのための財源を確保するには、既存の予算や保険財政の中で他の費目を削るか、負担増を考えねばならない。政府はこれまでも介護職員や保育士の賃上げに取り組んできたが、こうした事情のもと、成果は限定的だった。まずは、思い切って財源を投入する方針を明確にする必要がある。保育所や介護サービスのための予算の大幅な拡充や保険料の引き上げなど、「財布」を大きくする議論に向き合うべきだ。低所得の人にとって過度な負担とならないよう、税金による軽減措置も検討課題になるだろう。賃金の引き上げだけでなく、長く働いてもらえるように職場環境を整えることや、専門性を高めてキャリアアップできるよう後押しすることも重要だ。仕事は大変なのに待遇が悪いからと、資格を持ちながら他の分野で働く人も少なくない。職務に見合った処遇への改善は急務だ。看板倒れは許されない。

*5-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/142863 (東京新聞 2021年11月15日) 差し押さえ高齢者、初の2万人超 介護保険料滞納で過去最多
 介護保険料を滞納し、市区町村から資産の差し押さえ処分を受けた65歳以上の高齢者が、2019年度は過去最多の2万1578人に上ったことが15日、厚生労働省の調査で分かった。2万人を超えるのは初めて。厚労省の担当者は「自治体が徴収業務に力を入れている結果だ」と分析する。介護保険制度が始まった約20年前と比べ、保険料が倍以上となり、高齢世帯の家計への負担が増していることも要因とみられる。65歳以上が支払う介護保険料は原則、公的年金から天引きされる。一方、年金受給額が年18万円未満の場合は自治体に直接納める。

*5-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211201&ng=DGKKZO78038950R01C21A2EA2000 (日経新聞 2021.12.1) 1人暮らし世帯拡大、5年で14.8%増 高齢者では5人に1人 介護や安全網が課題に
 総務省が30日に公表した2020年の国勢調査は、日本全体で世帯の単身化が一段と進む現状を浮き彫りにした。一人暮らしが世帯全体の38.0%を占め、単身高齢者は5年前の前回調査に比べ13.3%増の671万6806人に増えた。中年世代の未婚率も上昇傾向にある。家族の形の多様化を踏まえた介護のあり方やまちづくり、セーフティーネットの構築が急務となっている。日本の世帯数は5583万154となり、前回調査に比べて4.5%増えた。1世帯あたりの人員は2.21人で、前回調査から0.12人縮小。単身世帯は全年齢層で2115万1042となり、前回調査から14.8%増えた。3人以上の世帯は減少しており、特に5人以上の世帯は10%以上減った。65歳以上の一人暮らし世帯の拡大が続いており、高齢者5人のうち1人が一人暮らしとなっている。男女別にみると、男性は230万8171人、女性は440万8635人で、女性が圧倒的に多い。藤森克彦・みずほリサーチ&テクノロジーズ主席研究員は「一人暮らしの高齢者は同居家族がいないので、家族以外の支援が重要になる」と指摘する。「財源を確保しつつ介護保険制度を強化し、介護人材を増やす必要がある」と語る。単身世帯の増加の背景には「結婚して子供と暮らす」といった標準的な世帯像の変化もある。45~49歳と50~54歳の未婚率の単純平均を基に「50歳時点の未婚率」を計算すると、男性は28.3%、女性は17.9%となった。00年のときには男性が12.6%、女性は5.8%だった。この20年間で価値観や家族観の多様化から、中年世代になっても独身というライフスタイルは珍しくなくなった。単身者向けに小分けした商品の開発・販売など新たなビジネスの機会が生まれる面もある。ただ、複数人で暮らすよりも家賃や光熱費の負担比率が高まるほか、1人当たりのごみの排出量などが増え、環境負荷が高まることも考えられる。高齢者であれば孤独死などにつながる懸念もある。高齢化とともに単身世帯が増える中で、通院や買い物を近場でできるようコンパクトなまちづくりも課題となる。体調を崩したり、介護が必要だったりする高齢者が増えれば社会保障費の膨張にもつながる。単身世帯数の拡大にあわせた社会のあり方を追求していく必要がある。

*5-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211201&ng=DGKKZO78039040R01C21A2EA2000 (日経新聞 2021.12.1) 外国人43%増、最多274万人に
 総務省が30日に公表した2020年の国勢調査では、外国人の人口が過去最多の274万7137人となり、5年前の前回調査に比べ43.6%増と大きく拡大した。日本人の人口は1億2339万8962人で1.4%減った。外国人の流入により、少子化による人口減少を一定程度緩和している。新型コロナウイルスの感染が拡大する中でも、日本に住む外国人は減少に転じなかった。日本の総人口に占める外国人の割合は2.2%で、5年前の前回調査(1.5%)から上昇。国連によると20年に世界各国に住む外国人は3.6%だ。日本でも外国人は増えているが、諸外国に比べるとまだ少ない。岡三証券グローバルリサーチセンターの高田創理事長は外国人を巡り「人口対策の現実的な選択肢」としたうえで「就労ビザなど対応を増やしてきた流れの継続が肝要だ」と話す。国籍別にみると中国が66万7475人と最も多く、外国人全体の27.8%を占めた。

*5-6:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211205&ng=DGKKZO78170820V01C21A2MM8000 (日経新聞 2021.12.5) 日本の設備、停滞の20年 総量1割増どまり、投資抑制、低成長招く
日本の設備投資の低迷が続いている。この20年間で設備の総量を示す資本ストック(総合2面きょうのことば)は1割たらずしか増えなかった。米国や英国が5~6割ほど伸びたのと差がついた。企業が利益を国内投資に振り向けていないためだ。設備の更新が進まなければ労働生産性は高まらず、人口減の制約も補えない。低成長の構造要因として直視する必要がある。2001年から新型コロナウイルス危機前の19年までの日本の経済成長率は年平均0.8%にとどまる。米国(2.1%)や英国(1.8%)に水をあけられた。成長の壁としてよく指摘されるのは人口減少や少子高齢化だ。目をこらせば別の問題が浮かぶ。一橋大学の深尾京司特任教授は「設備投資の停滞も大きい」と指摘する。新たな機械やソフトウエアの導入は生産性を高め、成長力を押し上げる。経済学の成長理論では成長率と資本増加率は一定の関係がある。深尾氏の試算によると、主要先進5カ国で日本だけが資本増加の実績が理論値に及ばない。経済協力開発機構(OECD)の「生産的資本ストック」のデータが実態を示す。日本はハードとソフトを合わせた資本ストックが00~20年に9%しか伸びなかった。米国は48%、英国は59%増えた。日本はフランス(44%)やドイツ(17%)も下回る。日本企業は稼ぎを減らしてきたわけではない。財務省の法人企業統計調査によると、経常利益の直近のピークは18年度の84兆円。アベノミクスが始まった12年度から73%増えた。この間、設備投資は42%しか増えていない。投資は減価償却で目減りした分こそ上回るが、キャッシュフローの範囲内で慎重にやりくりする姿勢がはっきりしている。日本は10年代、人口減にもかかわらず労働供給は拡大した。就業者は10年間で378万人増え、特に女性や65歳以上の働き手が多くなった。「企業は割安な労働力の投入を増やし、労働を節約するロボット投入などを遅らせた可能性がある」(深尾氏)。教育訓練など人的資本投資も伸び悩んだ。OECDによると、企業が生む付加価値額に対する人材投資の比率は英国が9%、米国が7%に達する。日本は3%にすぎない。ヒトとモノにお金をかけて成長を目指す発想が乏しい。底堅かった労働供給にしても、人口が総体として減り続ける以上、いずれ頭打ちになるのは避けられない。本来、どの国よりも自動化などの取り組みが必要なのに投資に動けずにいる。日本企業は1990年代のバブル崩壊後、過剰な設備・人員・負債に苦しみ、厳しいリストラに生き残りをかけてきた。過剰な設備への警戒感が今なお残る。日本企業も海外では積極的にお金を使う。対外直接投資はコロナ前の19年に28兆円と10年前の4倍に膨らんだ。コロナ後も流れは変わらない。日立製作所は米IT(情報技術)大手のグローバルロジックを1兆円で買収した。パナソニックも7000億円超でソフトウエア開発の米ブルーヨンダーの買収を決めた。20年度の設備投資は日立が連結ベースで3598億円、パナソニックが2310億円にとどまる。各社が成長の種を外に求める結果、投資が細る国内市場は成長しにくくなる。海外で稼いだお金を海外で再投資する傾向もある。もちろん企業も世界に投資を広げる一方で国内に抱える雇用の質を高める取り組みは怠れないはずだ。学び直しなどの支援と同時に仕事を効率化するデジタル化も加速する必要がある。企業を動かし、資本ストックが伸び悩む悪循環を断てるような賢い経済政策こそが求められている。

<合理性のある所得の家族合算と分割>
*6-1:https://digital.asahi.com/articles/ASPCK6GC3PCKUCLV00Y.html?iref=comtop_list_02 (朝日新聞 2021年11月17日) 10万円給付家庭、なぜ共働き有利に 背景に半世紀変わらぬ児童手当
 18歳以下の子どもを対象にした10万円相当の給付で、所得制限をめぐる政府方針に対して、与党内から異論が噴出している。なぜこうした状況になったのか。背景には、半世紀にもわたって変化していない「児童手当」の仕組みがあった。政府は、10万円相当の給付にかかる時間を短くするため、児童手当の仕組みを使う。児童手当は中学生までの子どもを育てる世帯に、基本的に1万~1万5千円を支給する。対象世帯から市区町村に振込先の口座が届けてあるため、申請の手間を省くことができる。コロナ禍だった2020年にも児童手当の受給世帯に1万円を上乗せ支給した成功体験もある。自治体が先行した児童手当は、国が制度化した1972(昭和47)年1月の支給当初から所得制限があった。夫婦なら二人の年収を比べ、高い方で支給対象かを判定する。所得制限を超えると、今の仕組みでは月額5千円になる。今回の10万円相当の所得制限として持ち出された「年収960万円」は子どもが2人で、一方の配偶者は収入がない、といったモデル家庭の所得制限だ。夫婦合わせた世帯全体の収入は考慮しないため、高収入の共稼ぎ夫婦にも支給されることが起こりうる。仮に夫婦2人とも800万円の年収があり、世帯年収で計1600万円あっても、今回の10万円相当の給付を受けられる。だが、夫婦どちらか一方しか収入がなく、世帯年収が960万円なら10万円相当の給付はもらえない。児童手当に当初、世帯の合計所得でみる「世帯合算」が取り入れられなかった理由は、時代背景にありそうだ。内閣府の担当者は「制度ができた当時は、世帯主の男性が世帯収入の大半を稼いでいた時代だったからでは」と話す。
●共働き世帯数は専業主婦世帯の2倍超
 71年2月。時の佐藤栄作首相は、児童手当法案の趣旨を説明する本会議で、児童手当を「我が国の社会保障の体系の中で欠けていた制度」と称した。「長年の懸案」(当時の内田常雄・厚生相)だっただけに、衆参の本会議や社会労働委員会(当時)の議事録には活発な国会審議の跡が残る。ただ、審議では支給対象から外れた第1子や第2子も含めるべきだといった論点や、月額3千円という金額の根拠を問う議論が中心だった。所得制限については修正もなく、男性の働き手を念頭に1人の収入で判断する考え方への異論は少なかったとみられる。社会の実情はその後、大きく変わる。独立行政法人「労働政策研究・研修機構」の資料によると、80年に専業主婦世帯の半数程度だった共働き世帯は、90年代半ばには専業主婦世帯を上回った。2020年には専業主婦世帯の2倍を超えている。児童手当ができた当時と、現実とのギャップは、財務省をはじめ政府内で意識されてきた。昨年末の予算編成では、菅義偉首相(当時)のもと、児童手当への世帯合算の導入が、自民党と公明党の間での政策協議で話題となった。ただし、この時の議論は保育所整備に必要な財源を捻出するため、児童手当を支給する世帯を少なくする理屈として財務省などが持ち出したものだった。このため、児童手当の創設以来、拡充に力を入れてきた公明の強い反発に遭った。自公両党はこの時、収入の多い方が年収1200万円以上あれば、22年10月分から月額5千円の児童手当の特例給付を打ち切ることで合意した。一方で、世帯合算の導入は見送った。その課題は「引き続き検討する」(昨年12月の全世代型社会保障改革の方針)とされたまま、今回の議論を迎えていた。児童手当以外の国の仕組みで世帯合算を導入している制度もある。低所得世帯向けに、大学の授業料などの負担を減らしたり、返す必要のない奨学金を支給したりする「修学支援新制度」や、私立高校の授業料支援の仕組みがその例だ。0~2歳の保育料も、無償化の対象となる低所得世帯を除き、世帯合算で利用料負担が決まる。17日の自民党の会合で高市早苗政調会長は、児童手当の所得制限で世帯合算を取り入れることを視野に見直しの必要性に改めて言及。「世帯合算でやった方がいいんじゃないかという声もある。今後、同様の事態が起きた時に迅速かつ公平に給付できるように整備をしたい」と語った。具体的には衛藤晟一・元少子化担当相をトップに、党の少子化対策調査会で議論する考えを示した。

*6-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/143290 (東京新聞 2021年11月17日) 世帯年収1900万円でも子ども2人分…なのに働く低所得層に届かぬ懸念 政府の現金給付案 大筋了承
 自民党は17日の党会合で、18歳以下の子どもや住民税非課税世帯、困窮学生への10万円給付を含む経済対策案を大筋了承した。党内手続きを経て19日に閣議決定する。与党協議開始から約10日間の議論で決まった給付金制度は、所得制限のかかる世帯より収入の多い共働き世帯にも支給される一方で、住民税を納めながらも生活が苦しい低所得層に給付金が渡らないなど、国民の間に不公平感が生じる懸念がぬぐえないまま。与野党からも疑問視する声が上がっている。
◆子どもへの給付
 子どもへの給付は、迅速な支給を理由に児童手当の仕組みを利用。夫婦でより高い収入(社会保険料や税金が引かれる前の金額)を得ている方が所得制限の対象になるが、与党は「対象の9割をカバーできる」(自民党の茂木敏充幹事長)としている。だが、18歳以下の子ども2人の夫婦の場合、片方が年収961万円でもう片方が無収入だと給付を受けられず、共働きで夫婦それぞれが年収950万円なら子ども2人分が給付される。児童手当の対象は15歳以下で、今回対象に含まれる16~18歳への給付手続きには結局、時間がかかりかねない。自民党の高市早苗政調会長は17日の会合で「世帯合算ではなく、主たる所得者の金額で判断すると、不公平な状況が起きる」と指摘。福田達夫総務会長も16日、「個人的には(世帯で)合算した方が当然だと思う」と異論を唱えた。日本政策金融公庫の調査によると、19歳以上の大学生がいる家庭は在学費用だけで年間1人100万円以上の負担がかかるのに、子ども向け給付の対象外。政府・与党は困窮学生にも10万円を給付するとしているが、基準は未定だ。政府が昨年実施した学生向け緊急給付金では、家庭から自立しアルバイトで学費を賄っていることや「修学支援制度」を利用していることなど厳しい要件が課された。対象者は大学生や短大生らの1割にも満たなかったとみられ、十分な支援だったとは言い難い。
◆低所得者層への給付
 住民税非課税世帯には10万円が給付される一方、住民税を課されていても年収100万~200万円程度にとどまり、全国で数100万世帯あるとされる「ワーキングプア」層には給付が行き渡らない懸念もある。立憲民主党の長妻昭氏は「コロナ禍で格差が急拡大して困難な状況に陥っている人には子どもでもそうでなくても、緊急に支援しないといけない」と指摘している。

*6-3:https://digital.asahi.com/articles/ASP5P5VF9P5PUTFL00D.html (朝日新聞 2021年5月21日) 年収1200万円以上の児童手当廃止 改正法が成立
 中学生以下の子どもがいる世帯が対象の児童手当のうち、年収1200万円以上の世帯に支給している月5千円の「特例給付」を廃止する改正児童手当法などが21日の参院本会議で、賛成多数で可決、成立した。いまの制度では子ども2人の専業主婦家庭で夫の年収が960万円未満の場合、子どもの年齢に応じて1人当たり月1万~1万5千円の児童手当が支給され、夫の年収が960万円以上なら月5千円の特例給付がある。成立した改正法は特例給付の支給対象を狭め、夫の年収が1200万円以上の世帯は2022年10月分から支給を取りやめる。昨年末に自民、公明両党が合意した。対象となる世帯の子どもは児童手当をもらう全体の4%で、約61万人と見込まれる。見直しで生じる年約370億円の財源は、待機児童解消に向けた保育所などの整備費用に充てる。待機児童解消に向け、政府は24年度までに約14万人分の保育の受け皿整備をする目標を掲げている。野党からは子育て関連の予算の中での組み替えでしかなく、子育てにかける予算全体を増額するべきだといった反対論が出ていた。

*6-4:https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/687262 (京都新聞社説 2021年12月2日) こども庁方針案 「器」より中身が重要だ
 子ども関連政策の司令塔を目指す「こども庁」の政府基本方針案が明らかになった。創設は2023年度のできる限り早い時期と明記した。一元的な取り組みの推進に向け、焦点だった所管分野については、保育所に関わる部署を厚生労働省から移す一方、幼稚園は文部科学省に残す見通しとなった。小中学校の義務教育の権限の移管も見送られる方向だ。新組織づくりで各省庁の足並みがそろっているとは言い難い。縦割り行政の弊害を取り除き、子ども最優先の施策運営ができるかどうかが問われよう。基本方針案では、こども庁は首相直属の内閣府の外局として、各省庁への勧告権を持つ専任閣僚を置く。政策立案と子どもの成育、支援の3部門を設け、子どもの意見を反映させるモニター制度の導入や、民間人材の積極登用を打ち出している。新型コロナウイルスの感染拡大で、経済的な困窮や家庭内暴力の増加など、子どもを取り巻く環境は厳しさを増している。これらの問題への総合的な対処を強化する必要がある。ただ、方針案でこども庁に統合されるのは、厚労省の保育のほか、虐待防止や障害児支援、内閣府の少子化や貧困対策の関連部署で、文科省からの移管は一部にとどまる。このままでは、就学年齢を境に貧困、虐待対策が分かれるなど新たな問題が生じかねない。いじめや非行の対応では、地域や学校の連携が課題となろう。こども庁は、菅義偉前首相の肝いりの政策として当初は22年度中の創設を目指していた。だが、関係省庁間の調整などに手間取り、目標が先送りされた形だ。言うまでもなく、子ども政策の推進に重要なのは、「器」よりその中身だ。こども庁が扱う分野に、どういった少子化対策を含めるのか、対象となる年齢をどこで区切るのかなど現時点ではあいまいだ。政府は来年の通常国会への関連法案の提出を目指すというが、こども庁の創設でどんな効果を目指すのか、その全体像をはっきりと示すべきだ。政府の有識者会議がまとめた報告書は、子ども施策の具体的な実施を担う自治体の役割を強調している。各家庭の状況を把握できるデータベースの構築などを提言しており、積極的な現場での支援に生かしてほしい。

*6-5:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD106XI0Q1A211C2000000/ (日経新聞社説 2021年12月11日) 子ども政策は幼保一元化と財源が肝心だ
 政府はこのほど、子ども政策の充実に向けた基本方針の原案を示した。子ども政策の司令塔となる「子ども庁」を内閣府の外局として新設し、担当の閣僚を置く。縦割りを排し、子ども政策の立案や強力な総合調整機能を持たせるという。年内に閣議決定し、2023年度のできる限り早い時期の子ども庁設置を目指す。少子化、貧困、虐待など、子どもを巡る環境は厳しさを増している。子ども政策を充実させることの大切さは論をまたない。子どもの健やかな成長は、日本の明日を左右する大きなカギとなる。ただ課題は多い。ひとつは、幼保一元化が進まないことだ。就学前施設のうち、保育所(所管は厚生労働省)と認定こども園(内閣府)は子ども庁に移すが、幼稚園は文部科学省に残すという。この3つは根拠法などは違えど、カリキュラム内容の整合性は図られてきた。保育所も幼児教育の一翼を担う。一元化によって地域の人材や施設がより有効に活用でき、内容も充実するだろう。幼保一元化は長年、課題とされながら、幼稚園団体の反対などで見送られてきた。原案は、文科省と子ども庁が相互に内容に関与するとしながらも「教育は文科省」を強調している。かえって現場の分断を深める恐れがある。また、子どもの問題は組織をつくれば解決するものではない。大事なのは具体的な施策であり、裏付けとなる財源だ。日本の家族関係の社会支出は、国内総生産の1%台にとどまる。欧州では3%前後が多い。基本方針は財源確保について「幅広く検討を進め、確保に努める」という表現にとどまった。早急に具体策を示し、思い切って増やす必要がある。それには高齢者に偏る社会保障の財源を子どもに振り向けるなど、痛みをともなう改革も必要になろう。なぜいま、子ども政策の充実なのか。国民に十分納得できるメッセージを発し、合意を得る。それだけの覚悟とリーダーシップを岸田文雄首相に求めたい。政府の原案に先立ち、どんな政策が必要か、有識者会議が報告書をまとめている。子どもの視点に立った政策立案やプッシュ型の支援、データの活用など、多くの施策が並ぶ。財源の裏付けがなければ、実現はおぼつかない。子ども庁の創設議論にかかわらず、今すぐできるところから、実効性ある対策を急ぐべきだ。

*6-6:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15141080.html?iref=pc_shimenDigest_sougou2_01 (朝日新聞 2021年12月12日) 厚遇、人材引き込む中国 1億円超す報酬、学者人脈も活用
 中国は世界中の研究者をどのように引き込もうとしているのか。朝日新聞が入手した浙江省政府系組織「浙江省中南科技創新合作中心」の求人書類から見えてくるのは、資金力と人脈を利用した手法だ。72歳以下の引退した教授らの場合、国籍や学科を問わない。A級のランクを受けた場合、給料は120万元(約2100万円)以上で上限はない。350万元(約6200万円)の住居購入費、110万元(約2千万円)の赴任手当、毎年200万~1千万元(約3600万~1億8千万円)の研究費など計780万~1580万元(約1億4千万~2億8千万円)以上がもらえる。医療保険や交通費も準備され、配偶者も同伴できる。勤務先は中国の大学や研究機構、大企業の研究所など。仕事の内容として第一に挙げるのは、中国と出身国の教育分野の協力強化と両国の大学間の協力強化だ。招致した学者の人脈をテコに、外国の研究機構との協力を強めようという意図がうかがえる。1年のうち6カ月間、中国にいればよいとしており、拘束は強くない。浙江省が日本の専門家に期待するのが、日本が競争力を持つ素材と自動車、産業機械の分野で、同省関係の108件の求人を一覧にまとめ、日本語で募集をかけている。中国政府は、改革開放を加速させた1990年代半ばから「百人計画」に着手。研究環境を厚遇し、主に外国に流出した優秀な中国人研究者の呼び戻しを始めた。2008年からは「千人計画」と呼ばれる「ハイレベル海外人材招致計画」に拡充。日本人など外国人研究者も招き入れた。日米などの警戒が強まり、最近は中国政府は「千人計画」という名称を使わなくなったが、地方都市は競い合うように人材誘致を進める。帰国する中国人留学生も過去10年で約5倍に膨らみ、年間58万人(19年)を数える。中国政府は資金と人材の投入を進め、技術力も米国を追い上げる。研究開発費は過去20年で約27倍(人民元建て)となり、米国に次ぐ。全米科学財団によると、米国の大学で理系博士号を取得した中国人は5700人(20年)。10年で7割近く増えた。今年8月に発表された、研究者による引用回数が上位10%に入る「注目度の高い論文」(17~19年平均)で、中国が米国を抜き、初めて世界首位に立った。8分野のうち、材料科学や化学、工学、計算機・数学、環境・地球科学の5分野で首位だった。
■日本、情報管理の強化を大学に要請
 国外への技術流出の懸念を受け、日本政府は大学への働きかけを強めてきた。経産省と文部科学省は共催で毎年、主に大学を対象に安全保障に関するセミナーを開いている。大学の国際化が進む中、機微技術やデータの流出を防ぐための知識を共有する狙いがある。留学生の受け入れの際に研究目的と経歴に矛盾はないか調べたり、学内でアクセスできる情報の範囲を管理したりするよう求めるほか、研究者の海外出張時の情報管理にも注意を呼びかける。文科省も今年から技術流出対策を担当する参事官を設けた。大学には、安全保障(輸出管理)担当部門の設置を求めてきた。同省によれば、国立大学は全校、公立・私立も6割以上が応じたという。ある国立大学の教授は言う。「大学がチェックできるのはあくまでも公表されている経歴。うそを重ねて悪意を持って入ろうとする人物を探し出して排除するには限界がある。米国が安全保障上の理由から受け入れを拒んだ学生周辺の情報を共有するなど、政府として対応してほしい」。政府・自民党は準備中の法案で、先端技術など機密情報を共有できる研究者らを保証する資格にあたる「セキュリティークリアランス(適性評価)」制度の導入を議論している。類似の制度が欧米にあるが、大学の独立や研究の自主性、民間人のプライバシーにもかかわる問題だけに、慎重な検討を求める意見が強い。一方で、中国人は日本の大学の研究や経営を支える存在でもある。国内で少子化が進む中、大学は留学生の受け入れや国外の大学との共同研究を増やすなど、国際化を進めざるを得ない。文科省によると、中国人留学生は約12万人(2020年5月現在)で、日本が受け入れた留学生の約4割を占める。中国の有名大学に移った中堅の日本人研究者はこう指摘する。「日本の政府や政治家は日本の情報が流出することばかり警戒しているようだが、中国の方が研究環境に優れ、水準も高い領域は少なくない。経済安保の重要性は理解しているが、日本政府が人材を引き留めたければ、自らの研究環境を整えるのが先決ではないか」
■摘発は「人種差別」、米で反対の動き
 中国との技術覇権争いが先鋭化する一方、米国では、人材を通じた情報漏洩(ろうえい)への警戒を強めてきた前政権からの反動も出始めている。米司法省はトランプ政権下の2018年から中国の技術盗用の摘発などを担う「チャイナイニシアチブ」を開始。司法省のサイトには、助成金の不正受給、技術盗用など中国系の研究者や企業関係者らの摘発事例が並ぶ。バイデン政権下も摘発は続き、中国による知的財産盗用に厳しい姿勢をとり続ける。一方で、揺り戻しも起き始めた。今年1月、マサチューセッツ工科大学(MIT)の中国系の教授が中国政府などからの資金提供を開示していなかったとして、虚偽の納税申告容疑などで司法省に逮捕された。これに対し、MITは学長名で「これは大学間の協定で、個人的な受給ではない」と容疑を否定し、中国人学生や研究者らへの全面支持を表明した。スタンフォード大やプリンストン大でも司法長官に「チャイナイニシアチブ」の中止などを求める署名運動が広がっている。指摘される問題の一つが、取り締まりの線引きの「あいまいさ」だ。11月下旬、米ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)は、「チャイナイニシアチブ」の一環で中国のスパイと疑われ、18カ月間自宅軟禁された末に無罪となった研究者の話を報じた。その中で「中国との結びつき」を示す情報開示の明瞭なルールがないことを指摘。「無関係の標的を見つけて手軽に成果を上げようとしている」という元捜査当局者の見方も紹介した。この問題は、米国の人種問題に発展する危うさもはらむ。全米の研究者や研究機関などが、アジア系の人種に絞った捜査だとして「チャイナイニシアチブ」の停止を求めて署名活動を展開。今年7月には、連邦議員約90人が「人種で対象を絞るのは差別であり、違法だ」との書簡に署名した。この手法では優秀な中国系人材が米国から流出し、中国を利するだけではないか――。NYTはそんな大学関係者の声も伝えた。米国に留学する外国人留学生の数は09年度、中国が01年度以来、再びインドを抜いてトップになり、コロナ下になるまで毎年増加。19年度には留学生全体の35%(約37万人)を占めた。「留学生たちを米国に引きつけ、とどまらせることが中国に勝つ方策だ」。米政府諮問機関「人工知能(AI)に関する国家安全保障委員会」の委員長として、今春、最終報告を出したグーグルのエリック・シュミット元最高経営責任者(CEO)は、そう強調する。大手IT企業が集まる西海岸のシリコンバレーは人口の39%が外国生まれ(米国全体では14%。投資会社調べ)。世界からいかに優秀な人材を集められるかが、米国経済を牽引(けんいん)するこの地域の隆盛の鍵だ。AI研究の大家で、中国の李克強(リーコーチアン)首相に大学の評価基準などを助言してきた、米コーネル大のジョン・ホプクロフト教授(82)は「優秀な中国人学生が米国に留学し、とどまってくれれば、米国の成長につながる。世界最大の経済大国になる中国とのつながりをいかに維持するか、戦略的に考えなければならない」と話す。

<日本の原発・火力・ガソリンエンジンへの固執は非科学的・感情的であること>
PS(2021年12月16日追加):経産省は、*7-1のように、太陽光・風力による発電の膨大な出力制御が2022年度には北海道・東北・四国・九州・沖縄の5地域で発生するという試算をまとめ、その理由として、①再エネは不安定なので火力発電のバックアップが必要 ②火力発電の出力を50%以下(来春以降の見直しで20~30%)に引き下げる検討を進めている そうだ。
 しかし、①は、2000年頃から20年以上も同じ説明をしており、「工夫がない」を超えて愚かと言わざるを得ず、解決もせずに言い訳にできるのは3年が限度と認識すべきだ。また、②は、*7-2のように、EUは温暖化ガスの排出ゼロに向けて天然ガスの長期契約ですら2049年までに禁止することを打ち出し、公共施設や商業ビル(2027年以降に新築するもの)と一般住宅(2030年までに)は、原則「ゼロエミッション」にすることを義務づけようとしているのに、再エネ由来の電力を捨てて火力発電を続けようと考えるのは科学的思考が全く感じられない。
 その上、*7-3は「次世代原子力『小型モジュール炉』は、既存の原発より工期が短く、炉が小さく、建設費も安く、理論上は安全性が高い」として、脱炭素時代の電源として期待すると記載している。しかし、“理論上は安全性が高い”というのは科学的説明のない神話にすぎず、火山国・地震国の日本で地熱を利用せずに原発に依存したがるのは、短所をカバーしながら長所を活かすことのできない愚策である。また、*7-4のように、四電の伊方原発3号機も再稼働したが、中央構造線の真上にあり、南海トラフ地震による大津波の影響も受けそうな場所にある原発を稼働させるのは危険であると同時に、再エネを優先的に導入する方針にも反している。
 このような中、*7-5のように、「国内電源は7割以上が化石燃料由来の火力発電が占め、その電気を使って走るEVは間接的にCO₂を出すEVは脱炭素の切り札と言い切れない。そのため、再エネへの転換が進まなければCO₂を減らせない」と言い訳しながら、トヨタはHV・PHVに固執してきたが、グリーンピースが世界の自動車大手10社の気候変動対策の評価でトヨタを最下位にしたのを受けて、EV化を加速するそうだ。豊田社長は、「EVの2030年の世界販売目標を350万台でも消極的というのなら、どうしたら積極的と言われるのかアドバイスして欲しい」とも言われたので、アドバイスを列挙すると下のとおりである。
  イ)日本は1995年頃からEV化を始めているので、自動車産業のリーダーであり続けたけれ
   ば、各国政府の脱炭素宣言前に、各国政府にEV化・FCV化をロビー活動すべきだった。   
  ロ)PHVはエンジン付きで部品が多く、生産コスト・販売単価が高くなるため不要だった。
  ハ)「敵は炭素で、内燃機関ではない」などのEV化に対する批判をするより、EV・FCV化
   に適した電池・モーター・充電器の開発、車体の軽量化等に資本を集中すべきだった。
  二)水素エンジン・EV・HV・PHV・FCVという「全方位」ではなく、資金の余裕がある
   うちに競争上優位な製品の開発に資金を集中すべきだった。
  ホ)「EVシフトが進めば部品の多さから多くの雇用を吸収してきたエンジン関連産業が
   要らなくなる」と書かれているが、それは一般消費者が不必要に高い価格で自動車を
   買わされ、それだけ販売数量も減り、不便を強いられているということである。
  へ)そのため、水素エンジンは航空機・船舶・列車等に使うよう資金の余裕があるうちに
   それらの新分野に進出し、失業・倒産を最小限に抑えつつ、産業高度化すればよかった。
   また、商用・製造・農業用等の機械をEV・FCV化させるのもよいと思う。
  ト)そうすることによって、日本のエネルギー自給率を飛躍的に向上させ、国民経済や
   経済安全保障に貢献することが可能だったし、国家財政にも寄与できた筈だ。

*7-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211216&ng=DGKKZO78476850V11C21A2EP0000 (日経新聞 2021.12.16) 再生エネ発電の出力抑制、来年度5地域に拡大 経産省が試算
 経済産業省は15日、太陽光と風力による発電を抑える出力制御が2022年度に北海道、東北、四国、九州、沖縄の5地域で発生するとの試算をまとめた。各地域の電力供給が需要を上回ると停電してしまうため、再生可能エネルギーによる発電を抑える。出力制御は太陽光発電の多い九州だけで起きていたが、広がる可能性がある。同省が電力会社の翌年度の出力制御の見通しをまとめたのは初めて。抑制する最大電力量は、九州は7億3000万キロワット時で地域の再生エネ発電量の5.2%に相当する。四国は5388万キロワット時で1.1%、東北は3137万キロワット時で0.33%、北海道は144万キロワット時で0.35%、沖縄は97.6万キロワット時で0.2%と試算した。経産省は再生エネの出力を抑える状況になった場合、火力発電所の出力を50%以下にするよう求めている。これを来春以降に見直し、20~30%に引き下げる検討を進めている。火力の出力を抑えればそのぶん再生エネの発電を増やせる。

*7-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211216&ng=DGKKZO78476750V11C21A2EP0000 (日経新聞 2021.12.16) EU、ガスの長期契約禁止、49年までに、CO2排出ゼロに向け 水素利用の拡大狙う
 欧州連合(EU)の欧州委は15日、気候変動とエネルギー関連の法案を公表した。温暖化ガスの排出ゼロに向け、化石燃料を減らしてクリーンなエネルギー源を拡大する。柱の一つとして2049年までに原則として天然ガスの長期契約を禁止することを打ち出した。水素の利用拡大やビルの脱炭素に向けたルールも提案した。EUは50年に域内の温暖化ガスの排出を実質ゼロにする目標を掲げる。中間点として30年には90年比55%減らす計画だ。11月に英グラスゴーで開かれた第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)では各国が一段の排出減に取り組むことで合意した。EUは先陣を切って具体化に動き出す。天然ガスは石炭よりはクリーンなものの、二酸化炭素(CO2)は排出する。欧州委は49年までに長期契約を原則として終えるよう提案。安定供給などを目的とした1年未満の短期契約は認める。CO2の回収装置をつけている発電所なども例外になるようだ。法案の成立には曲折もありそうだ。足元ではガス不足でエネルギー価格が高騰している。ドイツはロシアと結ぶパイプライン「ノルドストリーム2」が完成したばかりだ。加盟国から反対の声が出る可能性がある。16日のEU首脳会議でも議論される見通しだ。欧州委は目標達成にはほとんどの化石燃料の利用をやめる必要があると主張する。ロシアへのエネルギー依存を減らせばEUが自立できるとみる。天然ガスに代わるエネルギーの主力になるとみるのが水素だ。いまはコストや規制がネックとなっている。普及拡大に向けて国境を越えるガス配送管に5%を上限に水素を混ぜることも認める方向だ。足元のエネルギー価格の高騰に対応した短期の対応策も示した。緊急時には有志国がガスを共同で備蓄したり、調達したりできるように制度を整える。EUでは一部の大国はガスを貯蔵しているものの、小国は関連施設を持っていない。各国が協力してガスを購入し、指定した場所に貯蔵できるような仕組みを設ける。欧州委は建物部門の脱炭素化に関する改革案も公表した。住宅や商業ビルなどから出る温暖化ガスは全体の4割弱を占める。公共施設や商業ビルを27年以降に新築する場合は原則として「ゼロエミッションビル」にすることを義務づける。ゼロエミッションビルはエネルギー消費が少なく、そのエネルギーも再生可能エネルギーなどでまかなえる建物だ。一般の住宅は30年までに義務づける方針だ。既存の建物の脱炭素化にも取り組む。EU域内で最もエネルギー効率が悪い分類は15%ある。公共施設や商用の建物は27年まで、住宅は30年までに最も悪い分類からの改善を求める。14日には輸送部門のグリーン化を進める対策を発表した。温暖化ガスの排出が少ない鉄道網の充実に力を入れる。欧州委によると、域内の国境を越えた旅客輸送で鉄道を使うのは7%にすぎない。30年には長距離鉄道の交通量を2倍にし、50年には3倍にする目標を掲げた。欧州委は22年にまとめる法案で、加盟国ごとにばらばらの長距離鉄道の予約方法の改善策を盛り込む。国境を越えた鉄道旅行に課す付加価値税の免除も検討する。主要都市を結ぶ路線は40年までに時速160キロ以上で走行できるようにする。

*7-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC032VF0T01C21A2000000/?n_cid=BMSR3P001_202112031238 (日経新聞 2021年12月3日) 日立が小型原子炉を受注 日本勢で初、カナダ企業から
 日立製作所と米ゼネラル・エレクトリック(GE)の原子力合弁会社、GE日立ニュークリア・エナジーは2日、次世代原子力の「小型モジュール炉(SMR)」をカナダで受注したと発表した。日本勢の小型の商用炉の受注は初めて。既存の原発よりも工期が短く、炉が小さく理論上は安全性が高いとされる。世界が脱炭素にカジを切るなか、温暖化ガスを排出しない電源として期待されている。電力大手のカナダ・オンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)から受注した。受注額は非公表。2022年内に建設許可を申請し、最大4基を建設する。早ければ28年に第1号機が完成する。日立が強みを持つ軽水炉の技術を活用した出力30万キロワット級の「BWRX-300」と呼ばれる小型原子炉を納入する。小型原子炉は現在商用化している出力100万キロワット級の原子炉に比べて出力が小さい。工場で部品を組み立てて現場で設置する方式で品質管理や工期の短縮ができるため、建設費が通常の原発より安くすむとされる。各国で研究開発が進むが、日本国内での導入には原子力発電所への信頼回復や耐震性など課題も多い。

*7-4:https://www.kochinews.co.jp/article/detail/526079 (高知新聞 2021.12.3) 【伊方原発再稼働】安全を重く受け止めよ
 四国電力の伊方原発3号機(愛媛県)がきのう、約2年ぶりに再稼働した。東京電力福島第1原発事故以来、原発への不信感は根強い。運転に前のめりになっては管理機能を低下させかねない。万全の安全対策と説明責任を求めたい。3号機は定期検査のため、2019年12月に停止した。この間、20年1月には広島高裁が運転差し止めの仮処分を決定した。これを不服とした四電の異議申し立てで、ことし3月に運転が容認されている。運転を禁じた決定は、地震や火山リスクに対する四電の評価や調査を不十分とした。異議審では、安全性の評価は不合理ではないと四電の主張をほぼ認める結果となった。一連の判断の前にも、3号機では運転差し止めの仮処分決定と異議審での取り消しが行われている。大規模自然災害の予測や備えを巡り、司法の見解さえ分かれる状況にあることを十分に認識する必要がある。福島第1原発事故は、原発でひとたび過酷事故が起きれば長期にわたり重大な被害をもたらすことを強く認識させた。専門家の見方さえ定まらない問題ならばなおさら、住民の不安と丁寧に向き合わなければ理解は得られはしない。安全性を揺るがせるのは災害ばかりではない。四電はことし7月、宿直者が原発敷地外へ無断外出を繰り返し、保安基準上必要な待機人数を満たさない時間帯があったことを発表している。10月の運転再開予定の延期につながるほどの事案を長く見逃してきたことにも驚く。再発防止策として、宿直者全員に衛星利用測位システム(GPS)付きスマートフォンを持たせるという。そうしたことが役立つにしても、決定打とはならないだろう。緊張感が乏しいのはなぜなのか。労務管理の在り方はもとより、安全意識の徹底が求められる。定期検査中には、制御棒を誤って引き抜き、また一時的にほぼ全ての電源が喪失されるなどのトラブルが相次いだ。原子力を扱う事業者としての適格性が問われたことを肝に銘じなければならない。3年ぶりに政府が改定した「エネルギー基本計画」は、30年度の電源構成に占める原発の割合を従来目標で据え置いた。近年の実績を大きく上回る数値で、今ある原発のほぼ全てを再稼働しないと達成は難しいとされる。新増設や建て替えの見通しは立たない。福島第1原発事故後、原発の運転期間は「原則40年、最長で延長20年」となり、それにのっとった動きも出ている。基本計画は、脱炭素化の達成へ再生可能エネルギーを優先的に導入する方針を示す。しかし、電力の安定供給や巨額投資に困難が伴う。原子力は可能な限り依存度を低減させる意向は維持し ているが、それへ向けた強い姿勢はうかがえない。脱炭素を原発の長期的な運転につなげたい思いもあるようだ。それを住民がどう受け止めるのかに関心を向ける必要がある。

*7-5:https://digital.asahi.com/articles/ASPDG5R69PDCOIPE00J.html (朝日新聞 2021年12月14日) EV化加速を迫られたトヨタ 市場拡大、慎重派イメージ転換狙い
 トヨタ自動車が電気自動車(EV)の2030年の世界販売目標を350万台に引き上げた。これまで、「脱炭素」の切り札としてEV一辺倒に偏りがちな政策の潮流と距離を置いてきた。それが、積極的な普及をアピールする方向に転じた。本格的なEV競争に入る。東京・お台場のショールームにはスポーツ用多目的車やスポーツカーなど、トヨタが今後投入するEVの開発車両が16車種並んだ。豊田章男社長は車両を披露しながら「私たちは長い年月をかけて、様々な領域で取り組みを進めてきた」と強調。「EVならではの個性的で美しいスタイリング、走る楽しさのある暮らしを届けたい」と力を込めた。トヨタは30年までに30車種のEVを販売する方針も明らかにした。トヨタは今回、EVへの積極姿勢をアピールしたが、これまではEVの急速な普及に慎重な見方を示してきた。政府が昨年10月、50年までの脱炭素を宣言し、今年1月には35年までに乗用車の新車販売で純粋なガソリン車をゼロにする目標を掲げた。トヨタにとって、早期のEV化を強く迫るものと映り、警戒心を抱かせた。トヨタが描く脱炭素時代の戦略は、水素エンジンの開発も進め、EVやハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド(PHV)、燃料電池車(FCV)と「全方位」でエコカーをとりそろえ、国や地域の事情に応じて柔軟に車種を投入する考え方だ。5月には、30年の世界販売1千万台のうち800万台を、車載電池の電気エネルギーを動力に使う「電動車」にする目標を公表。電動車800万台のうち、EVは、水素を使う燃料電池車(FCV)を含めて200万台。HVが電動車の主力で、PHVとあわせて600万台とした。これらの数字は、世界の実情にあわせて緻密(ちみつ)に積み上げた目標だ。そして豊田社長みずから記者会見の場などで、「敵は炭素で、内燃機関(エンジン)ではない。技術の選択肢を狭めないでほしい」などと、EVに偏りがちな政策の潮流をたびたび牽制(けんせい)してきた。会長を務める日本自動車工業会の記者会見でも今年9月、「一部の政治家からは、すべてEVにすればよいんだとか、製造業は時代遅れだという声を聞くことがあるが、違うと思う」と批判した。実際、EVは脱炭素の「切り札」と言い切れない。国内の電源は7割以上が化石燃料由来の火力発電が占める。その電気を使って走るEVは間接的に二酸化炭素(CO2)を出す。再生可能エネルギーへの転換が進まなければ、CO2を減らせない。レアメタルが必要な車載電池の生産には大量のエネルギーを使う。製造から走行、廃棄といった「車の生涯」で見ると、EVでもCO2を簡単には減らせない。一方、EVシフトが進めば、部品の多さからたくさんの雇用を吸収してきたエンジン関連産業が要らなくなる。失業や倒産も増える心配がある。豊田社長が「脱炭素は雇用問題だ」と主張する背景だ。ただ、こうしたトヨタの「正論」は、気候変動対策に後ろ向きだとみられるようになっていった。米紙ニューヨーク・タイムズは今夏、「クリーンカーを主導したトヨタが、クリーンカーを遅らせている」と、批判的に論評。環境保護団体のグリーンピースは11月、世界の自動車大手10社の気候変動対策の評価で、トヨタを最下位にした。「EVの全面移行に対する業界最大の障壁」と酷評した。一方、市場では「EV銘柄」が急成長だ。販売規模でトヨタの10分の1ほどのEV専業の米テスラは、株式の時価総額が1兆ドル(113兆円)を超えている。トヨタの3倍超の水準だ。自動車部品のデンソーは、EVに不可欠な技術が評価され、株価は2年で2倍に上昇。トヨタ株もこの2年で3割余り上昇したが、デンソーの勢いははるかに上回る。東海東京調査センターの杉浦誠司シニアアナリストは、「トヨタはEVについてのメッセージが少なく、市場では戦略が劣っているとみられかねない」と分析する。11月にあった9月中間決算の記者会見で、長田准執行役員は、「トヨタはハイブリッドの擁護派、EVの反対派ではないかといわれるが、思ったことが伝わらない。EVをどう伝えるか悩んでいる」と話していた。そして今回、トヨタはEV化を加速させる方向に転じた。「全方位」の手堅い電動化戦略は、資金に余裕のあるトヨタだからこそできる手立てだ。主力市場でHVの販売は好調で、FCVの技術でも世界をリード。EV開発も進めてきたが、「全方位」を主張すればするほど、EV戦略が評価されにくくなっていた。そして何よりも、世界や日本勢もEV化に向けてかじを切り始めた。豊田社長は説明会で「各国のいかなる状況や、いかなるニーズにも対応し、カーボンニュートラルの多様な選択肢を提供したい」と強調した。トヨタはいよいよEV専用車を来年から世界で販売する。車載電池への巨額投資も決めている。「EVにも強いメーカー」へと脱皮できるか。巻き返しを本格化させた。

<日本は、既にオリ・パラ・万博で国威発揚しなければならない開発途上国ではない>
PS(2021年12月18日追加):*8-1のように、2030年の冬季オリ・パラ招致を目指す札幌市が、競技会場を2カ所減らして既存施設の改修・建替を進め、経費を最大900億円圧縮する開催概要計画の修正案を公表したそうだが、2,800~3,000億円もの巨費を投じる大会を気候変動で積雪すら危惧される札幌で再度開催することに、私は疑問を感じる。
 もちろん、私は、東京大会についても、「同じ場所で二度も開催する必要はないだろう」と思っていたが、やはり経費が増大し、収支には国の大きな補助金を必要とすることになった。さらに、東京大会は、(IOCが独善的だったのではなく)日本政府が非科学的で失敗の多かった新型コロナ政策を、メディアが「コロナ禍」と呼んで中止・無観客開催を大合唱し、誘致しない方がよほどよかったような大会になってしまったのである。そもそも、イベントでもしなければ世界から顧みられないような発展途上国ならオリ・パラ・万博を開催し、新しい施設を造って国威発揚するのは有効な経済政策になろうが、世界第3位の経済大国ともなれば世界の競争市場で勝ち続けなければならないのであり、イベント頼みで国威発揚をする段階ではない。
 そのような中、*8-2のように、「北京五輪の『外交的ボイコット』を表明する国が相次ぐ」そうだが、IOCは、*8-3のように、「五輪の政治化に断固反対」と宣言した。五輪はもともと政治の場ではないため、「外交的ボイコット」を表明すること自体が五輪を政治利用しているということであり、褒められる行為ではないため、政府関係者や閣僚を派遣しない国は静かに自国の選手を送り出した方がよいと思われる。
 なお、アメリカ・オーストラリア・イギリス・カナダ等が、北京五輪を外交的ボイコットする理由を、「中国による新疆ウイグル自治区での大量虐殺や人権侵害」としているが、中国は「大量虐殺は世紀の嘘で事実ではない」としている。「どちらの主張が本当か?」については、*9-1のように、国際人権団体アムネスティは、ウイグル族などのイスラム教徒が多く暮らす中国北西部新疆地区で、中国政府が①人道に対する罪を犯している ②ものすごい人数が収容所で洗脳・拷問などの人格を破壊する扱いを受けている ③何百万人もが強大な監視機関におびえながら暮らしている ④人間の良心が問われている とする報告書を公表した。
 しかし、*9-2のように、BBCは、⑤中国の人口政策でウイグル族の出生数が数百万減少し ⑥少数民族が暮らす南部4地区で出産年齢の女性の8割以上に避妊リングや不妊手術による出産防止措置を実施する計画を立てた とも指摘しており、欧米各国は中国の出産制限措置をジェノサイド(集団殺害)と批判しているのだ。これに対し中国は、⑦まったくのナンセンス、出生率の低下は出産数の割り当てが実施されたこと・収入増加・避妊具が入手しやすくなったこと等が原因 としている。私は、中国の人口政策は、イスラム教徒の多い新疆ウイグル自治区の女性を解放する変化の過程で起こることで、欧米や日本の主張は(意図的か否かは不明だが)誤解ではないかと思う。ユニクロの柳井会長兼社長も、*9-3のように、⑧人権問題というより政治的問題だ ⑨すべての取引先工場について第三者による監査を実施し、ウイグル人を含むいかなる強制労働も発生していないことを確認した と言っておられ、そちらの方が本当だと思われるので、人権侵害を指摘する人は、具体的に何が強制労働や人権侵害に当たるのかについて証拠に基づいて指摘すべきだ。さらに、*9-4のように、グンゼも強制労働の疑いをかけられ、新疆ウイグル自治区産の綿花使用を中止せざるを得なくなったそうだが、⑩生産工程で人権侵害は確認されていない としている。従って、新疆ウイグル自治区産の綿花使用を中止させる行為は、かえって新疆ウイグル自治区の女性から彼女たちにできる仕事を奪って自立を阻害する結果になっている可能性があると思うのである。

  

(図の説明:左図のように、冬季オリンピックの開催国は13カ国に集中しているが、現在は開催可能な国が増えている筈である。右図のように、北京冬季五輪は「冬」という文字をデザインに入れているが、冬という文字が共通なのは当然ではあるものの面白い)

*8-1:https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2021120200872 (信濃毎日新聞社説 2021/12/3) 札幌五輪招致 東京の総括がなされねば
 2030年の冬季五輪・パラリンピック招致を目指す札幌市が、開催概要計画の修正案を公表した。一昨年に示した経費を最大で900億円圧縮する。競技会場を2カ所減らすほか、既存施設の改修や建て替えを進めるという。東京五輪・パラは運営経費が当初計画から大幅に膨らんだ。自治体の財政が厳しい中で、経費を極力抑えるのは当然だ。ただ、それで市民の不安が和らぐとみるのは早計だろう。まず示されねばならないのは、2800億~3千億円もの巨費を投じる大会を地元で開くことの意義と課題だ。東京大会組織委員会の橋本聖子会長は、パラ閉幕時の会見で早くも札幌の招致実現に強い期待を語っていた。招致に向けて国会議員連盟を発足させる動きもある。東京大会の収支決算も済んでいない。経費増大の要因、大会が残したさまざまな教訓を総括する前に、次の招致に傾斜している。東京大会では国際オリンピック委員会(IOC)の独善的とも言える姿勢があらわとなった。五輪憲章は原則としてIOCが開催に財政的責任を負わないと明記する。開催都市契約では、不測の事態で組織委が変更を求めても対応する義務を負わない。コロナ禍で開催を危ぶむ声が高まっても顧みられることはなかった。巨額負担を嫌う各国の「五輪離れ」を受けて、IOCは従来の選定方式を変更。興味を示す都市と個別に交渉を重ね、開催地を早めに確保しようとしている。30年には複数の都市が名乗りを上げている。国際大会の実績などから札幌は本命視される。地元住民の支持は得られるのだろうか。市は来年3月をめどに道民の意向調査を予定する。市長は結果に縛られず、市議会や他都市の意向も踏まえて招致の可否を判断する考えを示している。「開催ありき」で走りだせば将来に禍根を残す。地域振興どころか、財政負担ばかり次世代に押しつけることになりかねない。経費の積算も透明性が欠かせない。納得し、大会を迎える機運を高められるか。それとも再考すべきか。住民が冷静に是非を判断できる材料がなくてはならない。2千億円余の運営費はチケットやスポンサー収入で賄う。東京大会で宣伝効果が得られなかった企業の五輪離れも懸念される。製氷を止めた長野市のスパイラルが、そり競技会場として大会概要案に盛り込まれた。長野県民も行方を注視していきたい。

*8-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/6176f97f8dd654ebd435427b86840d3820f60ef5 (日テレNEWS 2021/12/9) 北京五輪“外交的ボイコット”相次ぐ 日本の方針は?“ある人物”を派遣する案も
 北京オリンピック開幕まで2か月を切る中、“外交的ボイコット”を表明する国が相次ぎ、中国と各国の対立が浮き彫りになっています。何が問題なのか、日本はどうするのか、詳しくみていきます。
■4か国が北京五輪“外交的ボイコット”
 東京大会に続く、コロナ禍2度目のオリンピックとなる冬の北京オリンピックは来年2月4日に開会式、20日に閉会式が行われます。来年は日中国交正常化50周年の節目になりますが、日本政府は今、難しい対応を迫られています。それがオリンピックに政府関係者や閣僚を派遣しない“外交的ボイコット”です。選手が出場できなくなるのではなく、政府関係者などを派遣しないということです。外交的ボイコットを表明したのは、アメリカ、オーストラリアと続き、新たにイギリス、カナダもボイコットを表明しました。これに対して中国側はすぐに反発し、それぞれの国の中国大使館の報道官は「中国政府はイギリス政府関係者を招待していない」、「国際社会と多くの選手の反対にあうだろう」、「カナダはスポーツを政治化せず、北京オリンピックを妨害する誤った言動をただちにやめなければならない。さもなければ、自ら恥をかくだけだ」と声明を出しています。これら4つの国がボイコットする理由は、中国の人権侵害です。アメリカ・ホワイトハウスのサキ報道官は「中国による新疆ウイグル自治区での大量虐殺や人権侵害」を理由にあげ「人権のために立ち上がるのはアメリカのDNAだ」と話しています。一方の中国側は、大量虐殺について「世紀の嘘で事実ではない」、「嘘とデマに基づいて北京冬季五輪を妨害しようとすることは、アメリカの道義と信頼を喪失させる」と主張しています。さらに、「断固とした対抗措置をとる」と猛反発しています。中国側の思惑について、北京で取材を続けるNNN富田徹総局長は「北京オリンピックは習近平政権の威信をかけた国家イベント。本音ではバイデン大統領を招待するなどして、華々しく盛り上げたかったはず。そのため、先月の米中首脳会談の後にアメリカが外交的ボイコットを発表したことは本当に痛手で、このままボイコットドミノが広がることを強く警戒しているとみられる」と話しています。
■日本の方針は?
 日本の方針についてですが、7日、岸田総理は「オリンピックの意義とか、我が国の外交にとっての意義等を総合的に勘案し、国益の観点から自ら判断していきたい」としています。同盟国のアメリカがボイコットするけれども、日本は日本で判断するということです。現時点でどうするかは、まだ決まっていません。一方、中国は先月、日本を「中国は東京五輪を全面支持した。日本は信義を守るべきだ」とけん制しています。この夏の東京大会は、コロナで開催が危ぶまれていた時も「中国は全面的に支援した。その義理を返しなさいよ」ということです。安倍元総理は9日、自身の派閥の会合で次のように発言しました。「ウイグルで起こっている人権状況については、政治的な制度、メッセージを出すことが我が国には求められているんだろう。日本の意思を示すときは近づいているのではないかと考えている」。日本の意思を示す時、つまり、日本も“外交的ボイコット”をするよう政府側に促したとみられます。また8日、自民党の高市政調会長も日本政府は“外交的ボイコット”を行うべきとの認識を示しました。政府関係者は「アメリカから同調圧力がないわけではない。日本が動かなかったら、西側諸国からの目が厳しくなる」との声もあります。アメリカがボイコットを表明して2日ほど経ちますが、日本がどのような決断をするか、世界も注目しています。
■政府内ではある作戦が
 政府内では、良さそうな作戦があるということです。それが、室伏スポーツ庁長官を派遣する案が持ち上がっているということです。政府関係者は「東京五輪に中国から来てくれた返礼は必要。中国から来た人と同じような立場の室伏長官の派遣でも問題ない」と話しています。東京大会には、中国の体育総局の責任者が来ました。スポーツ庁の様なところの責任者の方です。室伏長官はスポーツ庁のトップで金メダリスト。政府関係者ではあるけど、閣僚でも政治家でもありません。そうすれば、中国には「東京大会を応援してくれてありがとう。代表として長官を派遣します」、アメリカには「閣僚などの政治家は派遣していない」とどちらにも顔が立ちます。中国で起きている様々な人権問題は、うやむやにされることがあってはならない問題です。日本時間の9日夜、アメリカ主催で日本を含む110か国が参加する民主主義サミットが開かれ、中国を念頭にした人権問題が話し合われます。オリンピックを舞台とした政治の駆け引きは、ますます激しくなるといえます。

*8-3:https://digital.asahi.com/articles/ASPDD65XBPDDULZU001.html?iref=comtop_Sports_01 (朝日新聞 2021年12月12日) IOC「五輪の政治化に断固反対」 相次ぐ外交ボイコット受けて宣言
 国際オリンピック委員会(IOC)は11日、五輪に関わるスポーツ界の代表を集めた「五輪サミット」をオンライン形式で開き、「五輪とスポーツの政治化に断固として反対する」との共同宣言を発表した。会議はトーマス・バッハIOC会長を座長を務め、米国、中国、ロシアの国内オリンピック委員会の会長や、IOC委員でもある渡辺守成・国際体操連盟会長はじめ主要競技の国際連盟会長、世界反ドーピング機関のウィトルド・バンカ委員長らが出席した。米国、英国、豪州などは来年2月の北京冬季五輪をめぐり、中国の人権問題への懸念を理由に、大会に政府首脳を派遣しない「外交ボイコット」を表明している。会議ではこの動きを受けて、「IOC、五輪、そしてオリンピックムーブメントの政治的中立の必要性を強く強調する」と訴え、スポーツ界の団結をアピールした。宣言ではこのほか、国連総会で北京冬季五輪・パラリンピック期間中の休戦決議案が採択されたことを歓迎し、173カ国が共同提案国になったことにも触れた。新型コロナウイルスの感染拡大が続く中で開かれた今夏の東京五輪については「世界的な大成功であることに感謝する」とし、「アスリートたちは前例のない挑戦にもかかわらず大会が開かれたことに強い満足感を示した」と称賛した。テレビとインターネットを通じたデジタル配信の視聴者はあわせて30億人を超し、五輪史上で最も多くの人に届いた大会になったと総括した。

*9-1:https://www.bbc.com/japanese/57437638 (BBC 2021年6月11日) 中国のウイグル族弾圧は「地獄のような光景」=アムネスティ報告書
 国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは10日、ウイグル族などイスラム教徒の少数民族が多く暮らす中国北西部の新疆地区で、中国政府が人道に対する罪を犯しているとする報告書を公表した。
報告書でアムネスティは、中国政府がウイグル族やカザフ族などイスラム教徒の少数民族に対し、集団拘束や監視、拷問をしていたと主張。国連に調査を要求した。アムネスティ・インターナショナルのアニエス・カラマール事務局長は、中国当局が「地獄のような恐ろしい光景を圧倒的な規模で」作り出していると非難した。「ものすごい人数が収容所で洗脳、拷問などの人格を破壊するような扱いを受け、何百万人もが強大な監視機関におびえながら暮らしており、人間の良心が問われている」。カラマール氏はまた、BBCの取材に対し、国連のアントニオ・グテーレス事務総長が「責任を果たしていない」と批判した。「(グテーレス氏は新疆の)状況を非難せず、国際調査も指示していない」。「国連がよって立つ価値を守り、人道に対する罪に対して声を上げる責務が彼にはある」
●報告書の中身
 報告書は160ページからなり、かつて拘束されていた55人への聞き取り調査を基にしている。中国政府について、「少なくとも以下の人道に対する罪」を犯していたとし、「国際法の基本ルールに違反する、収監など厳格な身体的自由の剥奪」、「拷問」、「迫害」を挙げている。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチも、4月に同様の報告書を発表。中国政府は、人道に対する罪に対する責任があるとした。欧米の一部の国や人権団体も、中国が新疆地区で、チュルク系民族に対するジェノサイド(集団殺害)を進めていると非難している。ただ、中国の行為をジェノサイドとしていることについては、反論も出ている。今回のアムネスティの報告書をまとめたジョナサン・ロウブ氏は10日の記者発表で、報告書について、「ジェノサイドの犯罪が行われたすべての証拠を明らかにはしたものではない」、「表面をなぞっただけだ」と説明した。中国は新疆地区で人権侵害はないと、一貫して主張している。
●拘束や拷問の疑い
 専門家らは、中国が新疆地区で少数民族への弾圧を始めた2017年以降、約100万人のウイグル族などのイスラム教徒が拘束され、さらに数十万人が収監されているとの見方でほぼ一致している。報道では、刑務所や収容所で身体的、心理的拷問が行われているとされている。人口管理のため、中国当局は強制不妊手術や中絶、強制移住を実施しているとも言われている。宗教や文化に基づく伝統の破壊を目的に、宗教指導者を迫害しているとの批判も出ている。中国はそうした指摘を否定。新疆地区の収容所は、住民らが自発的に職業訓練を受けたり、テロ対策として過激思想を解いたりするためのものだと主張している。アムネスティは、テロ対策は集団拘束の理由にならないと報告書で反論。中国政府の行動は、「新疆の人口の一部を宗教と民族に基づいてまとめて標的にし、イスラム教の信仰とチュルク系民族のイスラム教文化の風習を根絶するため厳しい暴力と脅しを使うという明らかな意図」を示しているとした。アムネスティは、新疆地区で収容所に入れられた人が「止まることのない洗脳と、身体的かつ心理的拷問を受けている」とみられるとした。拷問の方法としては、「殴打、電気ショック、負荷が強い姿勢を取らせる、違法な身体拘束(「タイガーチェア」と呼ばれる鉄製のいすに座らせ手足をロックして動けなくするなど)、睡眠妨害、身体を壁のフックにかける、極めて低温の環境に置く、独房に入れる」などがあるとした。タイガーチェアを使った拷問は、数時間~数日にわたることもあり、その様子を強制的に見せられたと証言した人もいたという。アムネスティはまた、新疆地区の収容制度について、「中国の司法制度や国内の法律の管轄外で運営されている」とみられると説明。収容所で拘束されていた人々が刑務所に移されたことを示す証拠があるとした。
●中国へのさらなる圧力
 今回の報告書の内容の多くはこれまで報道されてきたものだが、新疆地区での行動をめぐって、中国に国際的な圧力をかけるものになるとみられる。米国務省はこれまでに、ジェノサイドが行われていると表現。イギリス、カナダ、オランダ、リトアニアの議会も、同様の表現を含んだ決議を採択している。欧州連合(EU)、アメリカ、イギリス、カナダは3月、中国当局者に制裁を課した。これに対し中国は、それらの国の議員や研究者、研究施設などを対象に報復的な制裁を実施した。中国は国際刑事裁判所(ICC)の署名国になっておらず、同裁判所の権限が及ばないため、国際機関が中国を調査する可能性は高くない。一方、国連の国際司法裁判所(ICJ)が事件として取り上げても、中国は拒否権を発動できる。ICCは昨年12月、事件として取り上げないと発表した。ロンドンでは先週、一連の独立した聞き取り調査が実施された。イギリスの著名法律家サー・ジェフリー・ナイスが中心となり、ジェノサイドの訴えについて調べるものだった。

*9-2:https://www.bbc.com/japanese/57395457 (BBC 2021年6月8日) 中国の人口政策で、ウイグル族の出生数が数百万減少も=研究
 中国政府の産児制限の影響で、南部・新疆地区で暮らすウイグル族などの少数民族の20年後の人口が、当初の予測より最大3分の1ほど少なくなる可能性があると、ドイツ人研究者が指摘している。中国の新疆政策に関する世界的な専門家で、共産主義犠牲者記念財団(米ワシントン)の研究員であるエイドリアン・ゼンズ氏は、現地の状況を新たに分析。その結果、20年後の少数民族の出生数は、当初の予測より260万~450万人少なくなる見込みであることがわかったという。中国政府の少数民族に対する弾圧が、新疆の人口に及ぼす長期的な影響について、査読を受けた学術研究が出されるのはこれが初めて。ゼンズ氏によると、中国政府が弾圧を強める以前は、新疆地区の少数民族の人口は、2040年に1310万人に達すると予測されていた。しかし現在では、860万~1050万人になるとみられるという。ゼンズ氏は、「ウイグル族の人口に対する中国政府の長期計画の意図が今回(の調査と分析で)はっきりした」と、この分析を最初に報じたロイター通信に話した。同氏は分析報告書で、新疆当局が2019年までに「少数民族が暮らす南部の4地区で、出産年齢の女性の8割以上に、避妊リング(IUD)や不妊手術による出産防止の措置を実施する計画を立てていた」とも指摘した。欧米各国は、中国が出産制限の措置を強制することで、ジェノサイド(集団殺害)を実行していると批判している。中国はそうした訴えを「まったくのナンセンス」だと否定。出生率の低下は、出産数の割り当てが実施されたことや、収入の増加、避妊具が入手しやすくなったことなどが原因だとしている。
●漢族の比率が大幅増か
 ゼンズ氏の研究によると、中国政府は新疆地区に主要民族の漢族を移住させ、ウイグル族などを転出させる施策も進めている。新疆地区の漢族の人口比率は現在8.4%だが、2040年までには約25%に増える見通しだという。中国の公式統計では、新疆地区の少数民族が暮らすエリアの出生率が、2017~2019年に48.7%下落した。中国は先週、夫婦に3人まで子どもをもうけることを認める方針を発表した。しかし、新疆地区では反対の方針が取られている様子が、流出文書や証言などからうかがえる。出産数の割り当てに違反した女性は、拘束や処罰されているとみられる。今回のゼンズ氏の研究とその手法は、ロイター通信が人口統計や人口抑制政策、国際人権法などの専門家十数人に示し、妥当だとの反応を得たという。ただ、専門家の一部は、数十年先の人口予測について、予測不可能な事態の影響を受ける場合があると指摘している。

*9-3:https://digital.asahi.com/articles/ASP4S730RP4RULFA02M.html?iref=pc_rellink_03 (朝日新聞 2021年4月25日) ユニクロも無印も…新疆綿で板挟み「何言っても批判が」
●経済安保 米中のはざまで
 中国・新疆ウイグル自治区は、世界でも良質な「新疆綿」の産地として知られる。世界のアパレル企業が供給網として依存する一方、中国によるウイグル族などの強制労働があるとして欧米が問題視。「人権」をめぐる米中対立の先鋭化に、日本企業も揺さぶられている。8日、衣料品チェーン大手「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの記者会見。柳井正会長兼社長は「出店のペースを上げ、アジアで圧倒的ナンバーワンになる」と力強く宣言した。中国に展開するユニクロの店舗数は2月末時点で800店で、日本国内の807店を近く抜く見通しだ。コロナ禍からいち早く抜けた中国は21年1~3月期、前年同期比で18・3%の経済成長を遂げた。同社にとって中国は衣類の主要な生産拠点であり、最重点市場でもある。だが、海外メディアを含む3人の記者が立て続けにウイグルに関する強制労働と綿花使用の質問をすると、表情を曇らせてこう語った。「政治的な質問にはノーコメント」「人権問題というより政治的問題だ」「我々は政治的に中立だ」。豪シンクタンク「豪戦略政策研究所(ASPI)」が昨年3月に発表した報告書は、グローバル企業82社が、ウイグル族を強制労働させた中国の工場と取引していると指摘。報告書にはユニクロなど日本企業14社の名前があった。ファーストリテイリングは朝日新聞の取材に「すべての取引先工場について第三者による監査を実施し、ウイグル人を含むいかなる強制労働も発生していないことを確認した」と内容を否定した。報告書では「無印良品」を展開する良品計画も名指しされた。同社はウイグルの農場で綿を調達しているとしながらも、朝日新聞の取材に「(取引先の第三者による監査で)法令または弊社の行動規範に対する重大な違反は確認していない」と回答した。ウイグル問題で企業に対応などを求めてきた国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」の佐藤暁子弁護士は、柳井氏の発言を「『政治的に中立だからコメントしない』というのは全く的外れだ。特定民族に対して課す強制労働の問題は、国際的な人権上の問題であって、『内政干渉』になるから何も言わないという話ではない」と批判する。また、強制労働そのものを否定する中国にある企業に、強制労働の有無を問い合わせても、正直に答えるはずもなく、どれほど実態を把握できるのかといった、「監査」の実効性を疑問視する指摘もある。報告書で指摘された日本企業には、アパレルだけでなく玩具や電化製品の企業も含まれる。企業が関与を否定しても、株価の下落などの影響が広がる。12日にはフランスのNGOなどが「供給網を通じてウイグル族の強制労働に関与している疑いがある」としてユニクロなどのアパレル企業を告訴した。「中国と米国でビジネスを行っている以上、どちらかにだけ良い顔をするわけにはいかない」。ファーストリテイリングなどと共に、ASPIの報告書で名前を挙げられた別の企業の関係者はそう話す。「法令に沿ってビジネスをしているはずなのに、今は何を言っても批判されてしまう」として、米中、そして世論とビジネスの板挟みとなっている苦悩を吐露する。バイデン米政権は中国の行為を「ジェノサイド(集団殺害)」と断じ、欧州連合(EU)などと連携して対中制裁を発動。対中強硬姿勢を強めている。中国も防戦一方ではない。人権侵害を懸念するとともに、新疆綿を調達しないと発表したスウェーデンの衣料品大手「H&M」を、中国の共産党系団体が批判し、不買運動が起きた。経済的な報復措置で米欧の人権外交に反撃する構えを見せる。主要7カ国(G7)で唯一、対中制裁に踏み切っていない日本だが、16日の日米共同声明では、香港やウイグルの人権状況について「深刻な懸念を共有する」と明記した。政府関係者はこう語る。「対応を誤れば、企業は中国の巨大市場を失う。かといって米国の呼びかけは無視できない。政府や日本企業には厳しい踏み絵だ」

*9-4:https://digital.asahi.com/articles/ASP6J6G18P6JPLFA00F.html (朝日新聞 2021年6月16日) グンゼ、新疆綿の使用中止へ 人権侵害への懸念で
 下着大手のグンゼ(大阪市)は16日、中国・新疆ウイグル自治区産の綿花の使用を中止することを明らかにした。新疆綿をめぐっては、中国側がウイグル族に強制労働をさせた疑いがあるとして、特に欧米が問題視している。同社は生産工程で人権侵害は確認されていないとするが、国際的に懸念が広がっている状況を考慮したという。同社によると、靴下の「ハクケア」シリーズの一部に新疆綿が使われていることがわかり、使用の中止を決めた。今後は別の産地の原料に切り替える方針という。在庫分は販売を続ける。新疆綿を使った衣料品をめぐっては、ファーストリテイリングが展開する「ユニクロ」のシャツが米国で輸入を差し止められるなど、各国からの視線が厳しくなっている。一方、中国政府は強制労働の事実を否定。新疆綿の使用中止を発表したスウェーデンの衣料品大手「H&M」は、中国で不買運動を受けた。衣料業界のサプライチェーン(供給網)は複雑で、最終的な商品を販売する会社が全てを把握するのは困難との声もあり、各社が難しい判断を迫られている。

<日本における再エネとEVの停滞は何故起こったのか>
PS(2021年12月30日):*10-1のように、ドイツはフクイチ事故後「脱原発」を着々と進めているのに、日本のメディアは、*10-2のように、「電力の安定供給と気候変動対策を両立するため、フランスや英国が主導して欧州で再び原子力発電所を活用する動きが活発になっている」などとして、原発活用に向けた議論が停滞していることがよくないような書き方をしている。しかし、フクイチの事故処理も汚染水の処理もまともにできず、放射性廃棄物の最終処分場も決まっていないのに、脱炭素に原発が必要であるかのように言うのには原発を推進したい意図がある。しかし、このようにして、再エネやEVを不当に過小評価した結果、進んでいた日本の再エネやEVは周回遅れとなり、再エネ関連の新興中小企業はつぶされ、EVも育たず、日本の国益が害されたのである。そのため、矛盾したことばかり書かないようにすべきだ。
 このような中、*10-3のように、独ヘルティ・スクール・オブ・ガバナンス教授のデニス・スノーワー氏が、①温暖化防止はグローバルな目標 ②COP26では国益を対立させる交渉がみられた ③一部企業のグリーンビジネスなどが実施されても、他企業の脱炭素化に反する行動を許してしまう ④報酬と制裁で全企業が環境に責任を持つよう政府が介入しなければならない ⑤専門家は効率的な脱炭素化実現にパリ協定の目標に沿った世界的な炭素価格が必要だとしている ⑥CO₂はどこで排出されても環境に及ぼす被害は同じで、すべての人が同じ炭素価格を負担するのが望ましい 等と記載している。私は、①~⑤に賛成だ。また、⑥については、近い将来に放射性物質の放出を含む公害のすべてに環境税をかけるのが経済の環境中立性を護るのに必要だと思うが、まずCO₂排出量に応じて環境税をかけ、森林・田園・藻場の育成によるCO₂吸収に応じて世界ベースで同じ金額の補助金を出すのがよいと思う。

*10-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15155646.html (朝日新聞 2021年12月27日) ドイツ、「脱原発」一本道 来年末、全基停止へ
 地球温暖化対策として、欧州で原子力発電を再評価する動きが出るなか、ドイツが「脱原発」を着々と進めている。10年前、日本の原発事故をきっかけにかじを切った。原発の負の側面を直視し、再生可能エネルギーの普及に注力している。
■福島の事故後、一転/欧州に延命論でも
 今月末、1基の原発が営業を終える。「笛吹き男」の伝説で有名な西部ニーダーザクセン州ハーメルンから南に約8キロ。人口1万人弱の町エンマータールにある「グローンデ原発」だ。高さ約150メートルの冷却塔2塔から、白い蒸気が上る。加圧水型炉で、出力は1360メガワット。1984年に稼働後、何度も年間発電量で世界一になったという。1日の記者会見でリース州環境エネルギー相は「地域で一つの時代が終わる。脱原発は政治的な正しい決断だった」と述べた。ドイツでは、メルケル前首相が前任のシュレーダー政権の脱原発の方針を覆し、原発の「延命」を決めた。ところが約半年後の2011年3月、東京電力福島第一原発事故が起きた。メルケル氏は方針を百八十度転換し、17基あった原発を段階的に止めることにした。現在、稼働するのは6基。発電量の約14%を原発が占める。今月中に3基が停止し、22年末までにすべて止まる予定だ。今月発足したショルツ政権も、脱原発の方針を引き継ぐ。さらに脱石炭火力のペースも前政権より速め、電源に占める再生可能エネルギーの比率を現状の40~50%から30年までに80%に上げる方針だ。一方、脱原発を支持する市民は少しずつ減っている。アレンスバッハ世論調査研究所によると、「脱原発は正しい」との回答は12年には73%あったが、21年は56%。中高年ほど原発を支持する傾向が強かった。気候変動問題への対応で、各国が温室効果ガスの排出が少ない原発を再評価し始めている影響もあるとみられる。電源の約7割を原発に頼るフランスは温暖化対策や資源高への対応として最新型の原発を新たに導入する方針だ。今は原発のないポーランドも、40年代をめどに導入をめざす。こうしたなか、欧州連合(EU)の行政機関・欧州委員会は、原発を持続可能で温暖化対策に資する当面のエネルギー源とみなす方向だ。EUが掲げる「50年に温室効果ガスの実質排出ゼロ」を実現するには、避けられないとの判断だ。
■おひざ元、再エネの街に変化
 ドイツでも、同様の理由で原発の延命を訴える声が根強くある。これに対し、グローンデ原発のおひざ元、エンマータールのドミニク・ペタース町長(32)は「電力会社も行政も誰も再開は考えていない」と言う。行政も企業も廃炉に向け着々と準備を進めており、いまさらすべてをひっくり返すのは「非現実的」との考えだ。町は長年、原発によって潤い、町民の多くが原発関連の仕事を得た。電力会社からの豊富な税収で学校や消防署、道路などのインフラが整備された。当面は廃炉作業のための雇用が期待されるが、町は原発以外の生き残り策を探ってきた。約20年前に太陽光発電の研究所を誘致し、太陽光関係の製品開発などを続けている。原発のすぐそばには複数の風車も回る。ペタース町長は「私たちはエネルギーの町として、旧来型から新型へ変化を遂げている」と胸を張る。グローンデ原発のある地区選出の与党・社会民主党のヨハネス・シュラプス連邦議会議員(38)は「原発が気候に中立とは全く言えない」と話す。燃料調達時の環境汚染や、超長期的に影響が残る放射性廃棄物の最終処理のめどがたっていないからだ。「原発と石炭火力を同時にやめていくのは野心的だが、できる。ドイツは他国の手本になるだろう」

*10-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211228&ng=DGKKZO78829810Y1A221C2MM8000 (日経新聞 2021.12.28) 欧州、原発回帰の流れ、仏英主導、脱炭素・エネ安保対応 日本は議論避け停滞
欧州で再び原子力発電所を活用する動きが活発になっている。フランスや英国が主導する。電力の安定供給を保ちつつ気候変動対策を進める。欧州連合(EU)域外からの天然資源に依存しない、エネルギー安全保障の観点からも重視している。東日本大震災から10年を迎えた日本では原発に関する真正面の議論を避け、原発の位置づけは定まらないままだ。EUのフォンデアライエン委員長は10月に「我々には安定的なエネルギー源である原子力が必要だ」と述べた。EUは経済活動が環境に配慮しているか判断する基準「EUタクソノミー」で原発を「グリーン電源」に位置づけるか、加盟国間で激しい議論が続く。マクロン仏大統領は11月、国内で原発の建設を再開すると表明し、英国も大型炉の建設を進める。両国は次世代の小型炉の開発にも力を入れる。オランダは12月半ば、総額50億ユーロ(約6500億円)を投じる、原発2基の新設計画をまとめた。原発回帰の最大の理由は気候変動対策だ。EUは2030年の排出削減目標を1990年比40%減から55%減に積み増した。原発は稼働中の二酸化炭素(CO2)の排出がほとんどない。風力や太陽光と異なり、天候に左右されない。EUは19年時点で総発電量の26%を原発が占める。11年の日本の原発事故を受け、EUは原発の安全規制を強化してきた。17年には原発を安全に運用するには50年までに最大7700億ユーロの投資が必要との文書を作成。認可基準の擦り合わせや、原子炉の設計標準化などの対応を求めている。ドイツは他の加盟国と一線を画し、メルケル前政権が22年末までの「脱原発」を掲げる。新政権もこの方針を堅持するものの、ロシアへの天然ガス依存やガス価格高騰で脱原発方針を延期するよう求める声もある。日本は原発活用に向けた議論が停滞している。エネルギー基本計画では、30年度に電源に占める原発比率は20~22%を目標とする。ただ、達成には再稼働済みの10基に加えて再稼働をめざす17基を動かす必要がある。日本は長期の戦略を欠く。9月の自民党総裁選では次世代原発の小型炉などの新増設を進めるべきだとの意見も出たが、政策の変更も含めて活用の是非の議論すら封じる流れは変わっていない。日本では事故を受けて国民の反発も根強く、政府はより丁寧な説明が求められる。事故処理や放射性廃棄物の最終処分場も決まっていない。日本は再生可能エネルギー導入でも周回遅れだ。政治が責任を持って議論を主導せず先送りを続ければ、脱炭素の取り組みは遅れるばかりだ。

*10-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211230&ng=DGKKZO78845690Y1A221C2TCR000 (日経新聞 2021.12.30) 気候変動対策、報酬と制裁で 独ヘルティ・スクール・オブ・ガバナンス教授 デニス・スノーワー氏
 11月に閉幕した第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)では、気候変動対策の国際枠組み「パリ協定」を実行するうえで必要な規則が確定した。産業革命前に比べた気温上昇を1.5度以下に抑えるという目標の達成を目指している。だが実際の拘束力に乏しいことなどから、達成には疑問符がつく。現在の経済体制では、企業は株主価値の最大化を探り、政治家は有権者の支持を最大限に得ようとしている。社会は、表層的な環境重視を含むポピュリズム(大衆迎合主義)などに翻弄される。経済的な繁栄や政治的な成功は、社会の安定や環境の健全性と切り離されてしまった。こうした状況をみる限り、グリーンビジネスや脱炭素に向けた投資活動に簡単に勇気づけられるべきではないだろう。すべての企業が環境に責任を持つように政府が介入しなければ、一部の企業のグリーンビジネスなどが実施されたとしても、他の企業による脱炭素化に反する行動を許してしまう。気候変動との戦いには、政府と企業の意図的な協力が求められるということになる。共有資産の管理については、2009年にノーベル経済学賞を受賞したエリノア・オストロム氏の研究がある。共有資産の関係者がルールづくりに参加し、執行することで、管理できている例を示した。まず、問題の認識と目的を共有することが不可欠だ。温暖化の防止は、本質的にグローバルな目標といえる。温暖化ガスはどこで排出されても、あらゆる人々に影響を与える。従って、目標に対する共通の認識を持つことが必要になる。だがCOP26では、国益を対立させるような交渉がみられた。次に、気候変動対策のコストと見返りを、すべての当事者にとってよりよい状態になるよう分配することだ。専門家は、効率的な脱炭素化の実現には、パリ協定の目標に沿った世界的な炭素価格が必要だとしている。二酸化炭素(CO2)はどこで排出されても環境に及ぼす被害は同じなので、理論上はすべての人が同じ炭素価格を負担するのが望ましい。企業が生産拠点を規制の緩い海外に移してしまう「カーボンリーケージ」の問題を防げる。もっとも貧困層や中間層は、炭素集約型の商品やサービスの価格が上昇し、購入できなくなってしまう可能性がある。炭素集約型の産業の雇用が減少すれば、失業者が増え、地域社会が経済基盤を失ってしまうかもしれない。気候変動対策を成功させるには、意思決定を公正で包括的にする必要がある。意思決定には、すべての当事者が参加できるようにすべきだ。COP26の交渉では、差し迫った気候変動の壊滅的な影響を最も受ける人々が除外されたと、多くの人が主張する。権力を持つ人々は、既得権を維持したいと考える傾向がある。明確な成果を測定することで、有益な行動に報酬を、不利益をもたらす行動には制裁を段階的に与える必要がある。信頼できる調停者が関与した、迅速で公正な紛争解決の仕組みは欠かせない。最後に、多極的な統治が必要だ。国際機関や国、地域、地方が相互に影響し合う。首尾一貫した合意を結び、実施する。COP26の提言には法的な拘束力がないうえ、気候変動対策で各国の主権は認められているものの、多極の統治システムは不在といえる。あらゆるレベルで気候変動政策は無視され、一貫性に欠ける。こうした要件を満たすのは難題で、一夜にして実現するものではない。だが次の世代には、気候変動対策を成功させるための社会や経済、政治的な条件を整える努力を、我々に期待する権利がある。

| 経済・雇用::2021.4~2023.2 | 10:10 PM | comments (x) | trackback (x) |

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