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2022.3.5~9 日本人の非科学性・非論理性は、無意識の差別や人権侵害に繋がっていること (2022年3月10、11、12、13、14、17、19、21、22、30日、4月1、2、3日追加)

   2022.2.25スポニチ     2022.3.4西日本新聞   2022.3.30朝日新聞

 私も、戦争の最中に自分の祖国やその同盟国の批判をしたくはないが、これは、言わなければならないから、損得勘定抜きで言っているのである。そして、「言論の自由」というのは、こういう時に必要なものなのだ。

(1)誹謗中傷の嵐は攻撃である
 フィギュアスケート金メダル候補のワリエワ(15歳)から採取された検体から、2021年12月25日にトリメタジジン(心臓病の狭心症・心筋梗塞等の治療で使われる薬で、血管を広げて血流をよくし、アスリートの心肺機能を上げる効果があるとされる)が検出されたと、*1-1のように、2022年2月11日、ドーピング検査を管轄する国際検査機関(ITA)が明らかにした。

 トリメタジジンは“ドーピング薬”に入っているが、筋肉増強効果があるのではなく、リカバリー促進効果を狙う薬で、健康な成人に経口投与した場合は血中からの消失半減期が11.5時間なので、46時間(11.5X4)で6.25%(0.5⁴)まで減少する。そのため、2021年12月25日にワリエワの尿からトリメタジジンが検出されたとしても、オリンピックの時には効果は続いていない筈だ(https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/2171007F1210_1_02/2171007F1210_1_02?view=body&lang=ja参照)。

 にもかかわらず、ITAが、2022年2月11日に明らかにしたのは、世界中に「ロシアは闇が深く汚い」というイメージを刷り込むためではなかったかと、私は推測せざるを得ない。

 なお、トリメタジジンだけではワリエワの意図的な接種を断定できなかったためか、ニューヨーク・タイムズが、*1-2のように、「ワリエワからトリメタジジンのほかに、2つの薬物が検出された」と付け加えた。しかし、他の2つの薬物はドーピング防止当局によって禁止されているものではなかった。つまり、“ドーピング”の定義やルールにも問題があるのに、ルールを振りかざしてケチをつけた感があるのだ。

 また、朝日新聞は社説で、*1-3のように、「①スポーツの土台である公正・公平を揺るがす」「②他の選手も巻きこんで混乱を招いた罪は大きい」「③ロシア薬物問題を速やかに真相解明すべき」「④スポーツ仲裁裁判所は、ワリエワが引き続き試合に出ることを認める裁定をした」「⑤選手の健康を守ることが何より大切だ」「⑥2014年のソチ冬季五輪後、ロシアの大規模な薬物使用が発覚し、国家ぐるみの関与と隠蔽が認定された」「⑦ワリエワ問題を機に浮上した疑念と批判は、IOCに対する不信の表明でもある」等と批判し、日本のメディアは、一斉に同じような批判の嵐を吹き荒れさせた。

 しかし、⑤については、拍手喝采を浴びるために万難を排して練習してきた選手に対し、競技の最中に②③⑦を述べ立てて混乱させることこそ、精神の健康にとって最悪である上、危険でもある。そのため、④のように、スポーツ仲裁裁判所がワリエワの出場を認める裁定をしたのはよかったのだが、このような環境の下でのワリエワのフリーの出来は散々で、私は、このようにして金メダル候補を貶めた競技の結果が、①の公正・公平にあたるとは思えない。

 さらに、⑥のように、「2014年のソチ冬季五輪後、ロシアの大規模な薬物使用が発覚し、国家ぐるみの関与と隠蔽が認定された」として、ロシアの選手はROCとしてしか出場させず、金メダルをとっても国歌は演奏しないというロシア差別をしていた上、*1-4のように、ロシアは「全く悔い改めない」「五輪を複数大会欠場する必要がある」等と、IOCのパウンド氏(カナダ)やWADAのクレイグ・リーディ元会長(スコットランド)が語ったのは、明らかにロシアの選手に対する差別である。そのため、このような状況の下で、ロシアのプーチン大統領が怒りを覚えたとしても、全く不思議でも不自然でもない。

 なお、*2-3のように、アメリカのマルコ・ルビオ上院議員などが、「ウクライナに軍事侵攻したロシアのプーチン大統領の精神状態を疑問視する」としたそうだが、五輪の件だけでなく、何でもここまで悪く言われれば、怒るのが当たり前で正常だと思う。

 その証拠に、日本語が上手で普段は温厚かつ論理的でもあるガルージン駐日ロシア大使も、プライムニュース(BSフジ)でしつこく追及された時に、やはり顔を赤らめて怒っていた。日本のメディアは、コメンテーターを日本人に偏らせ、予定調和の結論ありきの見解ばかりを披露させる傾向があるが、相手国の専門家もバランスよく出演させて率直な意見を聞くべきである。

(2)戦争はいつ始まったのか?
1)反ロシアキャンペーンとロシアへの経済制裁が戦争の始まりであろう
 フランスのルメール経済相は、*2-1のように、「制裁は恐ろしいほど効果的で、ヨーロッパの決意を曖昧にしたくない。われわれはロシアとの経済、金融上の戦争に入る」と述べ、侵攻を続けるロシアに対する断固とした姿勢を示されたそうだが、私も、“経済制裁”は武力を使わない戦争開始だと思う。

 そのため、*2-2のように、中国が日米欧の対ロ制裁について「①あらゆる違法な制裁に断固反対する」「②制裁は問題を解決せず、争いをエスカレートさせるだけだ」「③中国とロシアは引き続き正常な貿易協力を進めたい」「④正常な金融取引を保つ」としているのはわかる。

2)ロシアのウクライナへの軍事侵攻
 ロシアがウクライナに対する軍事侵攻に踏み切って1週間経った現在も、*2-4のように、ロシア軍とウクライナ軍の戦闘が続き、多くの死者・負傷者・難民が出ていることには、私も心を痛めている。

 ロシアは停戦条件としてウクライナの「中立化」「非軍事化」を要求しており、その理由は理解できる。一方、ウクライナはEUやNATOへの加入を望んでおり、両者には隔たりがある。アメリカのブリンケン国務長官は、「われわれはウクライナ支援の用意がある」「ロシアの要求は度を越しており、交渉の対象にもならない」「われわれはロシアが見せかけの外交を行ってきたことを繰り返し見てきた」とし、アメリカはロシアとベラルーシに対して経済制裁を発表した。

 しかし、武力であれ、制裁であれ、ウクライナもロシアも脅されたから引き下がるような国ではない。そして、これは、どの国も基本的には同じだ。そのような中、松野官房長官が「ウクライナから避難した人の日本への受け入れに人道的観点から対応する」という考えを示されたのはよかったが、日本がロヒンギャなどのアジア人に冷たくし続けていることに対して、私は日本にも人種差別があると感じる。

 なお、「ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐって開かれていた国連総会の緊急特別会合では、ロシア軍の即時撤退等を求める決議案が欧米・日本等の141か国の賛成多数で採択され、ロシアの孤立がいっそう際立つ形となった」とも書かれているが、ロシア・ベラルーシ・北朝鮮など5か国は反対し、中国・インドなど35か国は棄権したそうだ。欧米や日本から見ていてもわからないが、インド・中国は、ユーラシア大陸の視野でロシアと普通に商取引してきた長い歴史があるからだろう。

3)原発への武力攻撃が想定外とは・・
 ロシア軍が、ウクライナで事故を起こしたチェルノブイリ原発に続いて、欧州最大規模のザポロジエ原発を制圧したそうだ。これについて、*2-5-1は「①稼働中原発への軍事侵攻は前例がない」「②国際社会に大きな衝撃」「③原発への軍事攻撃は、ジュネーブ条約で禁止」「④システム故障や電源喪失が起きれば破滅的な過酷事故にも繋がる」「⑤世界中の原発を攻撃でき、原子力安全の根本が揺らぐ」「⑥原発占拠で脅しや交渉材料になることが分かってしまった」「⑦ウクライナの電源構成の5割近くが原子力」「⑧核燃料は原子炉内に入ったままで使用済核燃料プールもある」「⑨日本の原発は軍事攻撃想定外」と記載している。

 しかし、③については、戦争になれば負けないためには何が起こるかわからず、④⑥は当たり前であるため、①②⑤⑦⑧⑨が、想定外と安全神話を繰り返す原発に関する甘い予想である。

 日本国内の原発に関しては、フクイチ事故後、テロ対策施設設置を義務化して安全対策を強化したとしているが、原子力規制庁幹部が「テロ対策はしたが、他国の軍隊による武力攻撃は想定していない」としている。これは、想定を最小限にして対応した形だけを作ったことの証明だが、これで「敵基地攻撃能力」などと言っているのだから、考えが甘いにも程があるのだ。

 つまり、日本の原発は、*2-5-2のように、テロ対策で義務付けられた設備も再稼働した原発の一部でしか完成しておらず、ミサイル攻撃等で原子炉建屋が全壊するような事態は想定さえしていないのだ。これについては、国会で何度も取り上げられたが、政府は「武力攻撃は手段、規模、パターンが異なり、一概に答えることは難しい」と逃げ、原子力規制委員会は「(電力会社に)弾道ミサイルが直撃した場合の対策は求めていない」と説明した。原発が事故を起こした場合は、人が短期間避難すればすむわけではなく、避難などできない田畑で食料生産をしているため、無責任も甚だしいのである。

4)中華人民共和国が中華民国を併合できる理由はない
 1721年に成立したロシア帝国は、ロシア革命で1917年にソビエト連邦となり、1991年のゴルバチョフ大統領によるペレストロイカでソビエト連邦が崩壊して、東欧の脱共産化・東西ドイツの統一などが一気に進んで、東西冷戦は終わった。

 それと前後して、ソビエト連邦からリトアニア共和国・ラトビア共和国・グルジア共和国・ウズベキスタン共和国・モルドバ共和国・ウクライナ共和国・ベラルーシ共和国・トルクメニスタン・アルメニア共和国・タジキスタン共和国・カザフスタン共和国が独立し、ロシア連邦がソ連邦の後継となったのは多くの人が知っているとおりだ。

 つまり、国は「現状維持して安定」どころか、時代に合わせて変化しているのであり、革命を起こした人は、既存の政府からは、テロリストとして追跡され、処罰されてきたのだということを忘れてはならない。

 一方、中華人民共和国の李克強首相は、*2-6のように、2022年3月5日に開幕した全人代の政府活動報告で、「武器や装備の現代的な管理システムをうちたて、国防科学技術のイノベーションを強化し、新時代の人材強化戦略を実施して、軍の質の高い発展を推進する」と述べた。

 具体的には、「経済成長率目標5.5%」とし、「2035年に人民解放軍の現代化をほぼ実現し、今世紀半ばに世界一流の軍隊にする目標で国防費予算の伸び率を7.1%とする」「『祖国統一を後押ししなければならない』と述べて台湾統一に意欲を示した」とのことだが、台湾は中華民国という中華人民共和国とは別の独立国であるため、武力で併合することが許される筈はない。

 これは、1991年前後に上記の地域を独立させたソ連邦とは全く逆の動きであるため、ロシアのウクライナ侵攻と台湾問題を似たものとして関係付けることは本末転倒である。しかし、日本政府は、「力による一方的な現状変更の試みを非難する」としているだけで、①力によらなければ変更してもよい(←制裁ならよい?) ②一方的でなければよい(←合意を強いることも可?) ③現状変更が悪く、現状がBestである(←よりよい方向なら変革すべき) というおかしなメッセージを発しているだけで、論理性ややる気のある準備を見せていないのである。

(3)日本のエネルギー政策について
 日経新聞は、2022年3月1日の時点で、*3-1のように、「①ロシアのウクライナ侵攻が、エネルギー供給でのロシアの存在感とロシア依存へのリスクをあらわにした」「②ロシアの天然ガス生産量は世界2位、石油は3位で、国際決済網からのロシア排除で、さらに高騰しそう」「③ロシアにエネルギーを頼る欧州は強く出られず、その自信がプーチン大統領を侵攻へと動かした」「④脱原子力発電を掲げたドイツは天然ガスのロシア依存を深めていた」「⑤消費国は脱炭素とエネルギー安全保障の両立を探らなければならない」「⑥フランスは原発への回帰に踏み出し、EUも原発を環境に貢献するエネルギーと位置付けた」「⑦日本は再エネの導入が遅れ、原発の再稼働は進んでいない」と記載している。

 しかし、①②は事実だが、③は誤りだ。何故なら、欧米諸国は論理的に重要性の順位を考え、ロシアのプーチン大統領もウクライナ侵攻にあたっては諸般の事情を総合的に考慮したに違いないからだ。

 また、日本政府の広報版と言われる日経新聞は、3月1日時点で、ロシアのウクライナ侵攻を基に、④⑤⑥⑦のように、「(EUが天然ガスと原発を環境に貢献するエネルギーと位置付けたのだから)原発回帰や原発再稼働を早く進めるべきだ」としているが、原発が原爆と同じかそれ以上に危険であることは、プーチン大統領によって示してもらった筈である。それでも、安全保障のためとして原発を推進するつもりか? こういうことを、事前に、総合的に考慮することもできないから、馬鹿としか言えないのである。

 また、ロシアのウクライナ侵攻による原油価格高騰への対応として、*3-2のように、政府はガソリン価格抑制のため石油元売りに配る補助金上限を25円/リットルに引き上げる方針としたが、これは地元からの要請に基づいた与野党国会議員の圧力によるものだろう。しかし、私が現職時代の2006年頃から同じことを言っていたため、15~16年間も同じことを言っているという生産性の低さなのだ。しかし、その間に省エネやエネルギー変換をする時間は十分あったため、補助金とトリガー条項の凍結解除はともに不要である。

 なお、地球人口の増加や1人当たりエネルギー消費量の増加は確実に起こるため、(環境や気候危機を考慮しなかったとしても)化石燃料価格の高騰は確実で、再エネへのエネルギー変換とエネルギーの国産化は急務だったのである。

 そのような中、*3-3のように、「時限的・緊急避難的激変緩和措置」とされたガソリン補助金を何かと理由を付けて延長し、トリガー条項の凍結まで解除するというのは、金を使って再エネへのエネルギーの変換と国産化を遅らせるものである。そのため、このようなバラマキをする金があったらさっさとエネルギーの変換と国産化のためのインフラ投資をすべきであり、これは、物流についても同じなのである。高い物流コストを上乗せして高価になりすぎた製品(それが市場価格)なら、消費者は買えないから買わない選択をするだけだ。

(4)気候危機とシベリア


 2020.6.23bbc    2020.6.23bbc    IEuras(シベリア鉄道:北京⇔モスクワ)

(図の説明:左と中央の図は、シベリアで38°Cという最高気温を記録し、森林が火災を起こしたというBBCのニュースだ。また、右図は、北京・モスクワ間を往復しているシベリア鉄道で、その車窓からは広大な草原が見えている)

 国連の専門機関である世界気象機関(WMO)が、2021年12月15日、*4-1のように、「①ロシアのシベリアで2021年6月に記録された気温38度が、北極圏の観測史上最高気温だったと認定し」「②当時はシベリア一帯から北極圏まで広がる熱波が到来中で、シベリアの北極圏の平均気温は通常よりも10度上がり、地球規模での気温上昇や山火事・海氷喪失に繋がった」「③この新たな記録は私たちの抱える気候変化問題について警鐘を鳴らしている」とした。

 北極圏は世界平均の2倍のペースで温暖化が進み、シベリアの永久凍土は凍土層が解けていると言われている。そして、私が、近年、航空機でヨーロッパに行った時、シベリアの上空を飛ぶと北極圏とは思えないような広大な草原が広がっていた。

 もちろん凍土が解けると困ったことが多いのだが、温暖化でできた草原は農地や再エネの宝庫として使える上、氷の解けた北極海は不凍港として使える。従って、ロシアは新たに広大な利用可能地域を得たことになるため、ウクライナとは中国を仲介役として早期に和解し、大人口を抱えて食料・エネルギーが不足しがちな中国と協力してシベリア開拓を行えばよいと思う。

 なお、IPCCの報告書には「①人為起源の気候変動は異常気象の頻度・強度を増し、広範囲にわたる悪影響と損失・損害を引き起こしている」「②生態系と33億~36億人の人間が気候変動に対し非常に脆弱な状況」「③短期的には、地球温暖化のレベルは1.5度に達して複数の気候災害が増加し、生態系と人間に複数のリスクをもたらして完全になくすことはできない」「④中長期的にも、気候変動は自然と人間のシステムに大きなリスクをもたらし、食糧不安はより深刻になる」「⑤一時的に1.5度を超える場合でも、(メタンなど)さらなる温室効果ガスの排出を引き起こし、温暖化を低減しても元に戻すことはできない」「⑥氷床・氷河の融解、加速する海面上昇で特定の生態系・インフラ・低地の沿岸集落等に回復不可能な影響」等が書かれていると、*4-2は記載しており、そのとおりだろう。

(5)日本国憲法で国民に約束された生存権と社会保障

  
  2020.1.6介護ワーカー    事業構想2020.12月号    2020.9.3日経新聞
   
(図の説明:左図は、自助・共助・互助・公助の考え方であり、家族間扶養は自助に入るとする。中央の図は、「全国47都道府県議会議事録横断検索」からの議会質問と答弁に出た「自助・共助・公助」という言葉の数で、1989年以前にはなく1990年から登場しており、2011・2012年の増加は東日本大震災が背景だそうだ。右図は、メディアが大合唱している「高齢化で社会保障費が膨らむ」というグラフだが、それは当然のことなので予算全体として「入るを計って出ずるを制す」べきであり、無理に社会保障費を減らせば生存権の侵害で憲法25条違反になる)

 日本国憲法は25条で、「①すべて国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。②国は,すべての生活部面について,社会福祉,社会保障,公衆衛生の向上と増進に努めなければならない」と定め、国民の生存権とそれを護るために国が保障することを規定している。

1)医療・介護について
イ)日本の新型コロナ対応
 「感染症は何よりもまず検査が重要であるのに、検査・隔離・診断・治療の4層体制が最初から繋がっていなかったことが日本の新型コロナウイルス対応の最大の失敗だ」と阿部知子衆院議員(東大医学部卒、小児科医)が、*5-1のように述べておられ、おおむね賛成だ。
 
 具体的には、「①ダイヤモンド・プリンセス号で陽性でも無症状の人がいることが明らかになったのに、無症状者の存在をふまえた検査体制が全く取られず」「②無症状者も含めた広範な社会的検査で対策の基礎データが得られるのに、政府のコロナ対策は基礎となるデータが全く不十分で」「③緊急事態宣言などで人の行動を縛ることばかりに意識が向いて感染症を扱う基礎が作られず」「④緊急事態宣言からワクチン接種まで現状を把握する検査データが無いまま政策を組み立てるので、感染が拡大するまで方針を決められなかった」「⑤従って、対策を取っても、国民に理由を説明できない」ということだ。

 このうち、①②については、新たな感染症を防ぐために経験を科学的に活かすことをせず、③のように、人の行動を縛ることばかりに専念し、新型コロナを口実に日本国憲法に緊急事態条項を入れる必要性にまで言及する人が出たのは、日本が医療を軽んじて人権侵害を行う方向に進んでいる証拠だと思った。

 また、④⑤については、日本の政策は何事もそうで、為政者が殆ど丸暗記型の文系で「科学的根拠を基に、理由を国民に説明しなければならない」という発想がなく、「他国と足並みを揃えて孤立さえしなければよい」と考えている面があるからだ。しかし、足並みを揃えることが重要なのは馬車馬のように決まった単純な仕事をやり続ける場合で、自分でモノを考え判断する人間のやるべきことではないため、根本的にはやはり教育の問題である。

 さらに、日本の公衆衛生は、「⑥明治時代の結核隔離政策から始まり」「⑦戦後はハンセン病のように医学上は不要なのに社会的に排除するために隔離した負の歴史があり」「⑧1980年代末ごろから『感染症はもう来ない』という前提の下に感染症病床が削減され」「⑨日本で検査数が少ないのは、感染症に対しては検査が基本であるという基礎が忘れられてしまったから」というのも、⑥はその頃の科学技術の水準から考えて仕方がなかったとしても、⑦⑧⑨は、科学的根拠もなく医療やそれを享受する人の人権を疎かにしてきた歴史そのものなのである。

 なお、「⑩水際の検疫も検査で陰性になれば市中に入るが、検査は完璧でないため変異株の侵入を防ぐには陰性でも一定期間は留め置くべき」「⑪PCR検査の利点は遺伝子解析ができることで、変異株対策はPCR検査で遺伝子的な特性を把握することが重要」「⑫その上で抗体検査も進めて遺伝子タイプによるワクチン効果の違いが把握できる」「⑬下水のコロナ検査も進んでおり、変異株も含めて地域的対応も可能となった」とも言われており、⑪⑫⑬はそのとおりだが、こうなった理由は、日本の厚労省と同専門家会議は一流の専門家を集めていないからだろう。

 そして、⑩の水際の検疫については、無駄に厳しいところがあった反面、ザルになっているところも多く、本当はしっかり防疫して国民を護る気がないのではないかと疑われた。

 「⑭ワクチン接種は、東京オリンピック・パラリンピックのため、集団免疫のため、国家のために接種しなければならないなどと言われたが、自分のためにするものだ」「⑮健康はその人にとって、最大、最高の主権だ」については全くそのとおりだと思うが、⑭には、政府・メディアの全体主義的発想があった。⑮は現行憲法で国民に保障された権利なのだが、国の理想を綴った日本国憲法さえ読んだことのない国民が多いのも教育の問題であろう。

ロ)日本が医療産業で二流三流なのは、今だけか?
 吉田統彦衆院議員(名大院卒、眼科医、ジョンズ・ホプキンス大学研究員)は、*5-2のように、「①コロナで日本の医療体制には余裕がないことがわかった」「②人材面では日本の頭脳が海外流出する流れを変え、優秀な研究者は巨額の資金をかけてでも国籍を問わず海外から集める必要があるが、報酬が低すぎて招聘できない」「③日本の大学教授は一人で医療と基礎研究の両方やるので、限界がきている」「④日本の医療が基礎研究で海外の後塵を拝している理由はここにある」としておられ、私も①②③④には賛成だ。

 しかし、「⑤国立感染研は、(疫学調査や検査だけでなく)ワクチンの開発や治療法の確立をする力が必要で、国民の危機を守ることができるナショナルセンターに生まれ変わらせるべき」「⑥それができる人材が必要」という点については、疫学調査や検査も十分にできなかった上、それを大学や民間の検査センターと手分けして行うこともせず、2年半も不十分な検査で済ませてきた国立感染研には厚労省管轄施設の限界を見た思いがしたため、国立感染研を大きくするよりは、大学・製薬会社等が研究・開発を行い、厚労省は治験に協力して承認を遅らせないための改革が必要だと思った。

 さらに、「⑦コロナの国産ワクチンが遅れた根本的問題は、医薬品・医療機器産業における日本のプレゼンスの低下」「⑧治療用の医療機器は世界から遅れている」については、日本の医薬品・医療機器産業は他の産業と比較して前から遅れており粗末でもあった。そして、「⑨生体吸収性ステントは京都医療設計が開発したが、日本より先にドイツで承認・販売された」というのも、最初に欧米で認められなければ日本で認められないという点で全く例外ではなく、そうなる理由は承認する側の人材の問題なのである。

 なお、「⑩日本の医療は、技術は一流だが、医薬品・医療機器産業はもう二流三流」「⑪遺伝子医療でも遅れるリスクが大きい」とも言われているが、日本の医薬品・医療機器産業が一流になったことはなく、遺伝子治療でもかなり遅れているが、そうなる理由も、その方面に進む人材・報酬・労働条件やその背景の問題であろう。

2)生活保護について
 毎日新聞は、2022年2月14日、*5-3のように、「①失職して生活に困窮した50代の男性が、住まいのある東京都杉並区で生活保護を申請したところ、区は『地方に暮らす80代の両親に扶養照会しなければ生活保護申請の手続きは進められない』と言った」「②路上生活者支援で80代以上の高齢者に出会うことは珍しくないが、親族に連絡が行くのを怖れて生活保護申請をしない人は少なくない」「③扶養照会が生活保護利用にあたっての最大のハードルとなっている」と記載している。

 この①②③は、上の中央の図のように、バブルがはじけ、人口の高齢化が言われ始めた1990年頃から議会で質問に登場した「自助・共助・公助」のうち、「自分や家族で対応する」自助を優先して公助を節約するという発想から来ているものである。

 しかし、「“扶養を頼める家族の範囲”はどこまでか」「高齢で扶養能力のない“家族”でも扶養義務を負うのか」等の問題から逃げて、公助を減らしたい一心であることがまる見えだ。そのため、これでは、「健康で文化的な最低限度の生活を送るために必要な社会保障」を行わずに、国民の生存権を危うくする。

 また、*5-3は、「④厚労省は各地方自治体に照会の範囲を限定した上で、申請者本人の意思を尊重することを求める通知を出した」「⑤生活保護法は親族の扶養は保護に優先すると規定している」「⑥そもそも扶養照会という法律に基づかない仕組み自体が必要なのか」とも記載している。

 ④は、何もしないよりはよいが、⑤については、“親族”がいても頼れない事情がある人は多い。そのため、親族の扶養が生活保護に優先するのはどういう親族の場合かを議論し、扶養義務のある“親族”の範囲を狭めるべきである。そのため、⑥については、本人が「“親族”には頼れない」と判断して扶養照会を拒んでいるのなら、その希望を優先すべきだろう。

・・参考資料・・
<誹謗中傷の嵐は攻撃そのものである>
*1-1:https://news.yahoo.co.jp/articles/1b2e8fd2ee8b9538b604e3a634cda0d2740971a3 (Yohoo 2022/2/14) ワリエワから検出されたトリメタジジン「リカバリー促進効果狙ったのでは」専門家
 フィギュア女子のカミラ・ワリエワ(15=ROC)から検出された、トリメタジジンとは、一体どんな物質なのか-。11日にドーピング検査を管轄する国際検査機関(ITA)が陽性反応を明らかにして表面化。北京オリンピック(五輪)代表選考試合の1つだったロシア選手権(サンクトペテルブルク)で12月25日に採取された検体から、持久力向上の効果があるとされる禁止薬物トリメタジジンが検出されたと発表した。トリメタジジンは、心臓の病気である狭心症、心筋梗塞などの治療などで使われる薬だという。血管を広げ、血流をよくしたり、血管の中で、液が固まることを防ぐ作用がある。アスリートが使用すると、心肺機能を上げる効果があるとされ、18年平昌五輪ではボブスレー女子のナジェジダ・セルゲエワ(OAR=ロシアからの五輪選手)が失格処分になった例がある。高島平中央総合病院スポーツメディカルセンター長の元島清香氏は「ドーピングというと、筋肉増強のイメージがありますが、今回のケースはリカバリーを促進する効果を狙ったのでは」と話す。「完璧な演技をするためには、いかに充実したトレーニングを持続するかが大事。たとえばハードトレーニングを3日に1回から2日に1回できるようになれば、当然、アスリートとしてはプラス。肉体疲労からの回復を促す効果を得た可能性もある」と推測した。

*1-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/beca1669dd072a2935d8b1506e36082864c73d67 (Yohoo 2022/2/16) ワリエワの体内からトリメタジジンのほかに2つの薬物検出 NYT紙「非常に珍しい」
 北京五輪フィギュアスケート女子に出場しているロシアオリンピック委員会(ROC)のカミラ・ワリエワ(15)を巡るドーピング違反問題で、陽性判定を受けたトリメタジジンのほかに心臓機能を向上させる2つの〝薬物〟が検出されたことが判明した。米紙「ニューヨーク・タイムズ」は「北京冬季五輪のドーピングスキャンダルの中心にいる15歳のロシアのフィギュアスケート選手のワリエワは昨年12月に行われたドーピング検査で心臓の状態を良くするために使用される3つの薬物について陽性だった」と報道。すでにトリメタジジンの陽性判定が明らかになっているが、さらに2つの薬物も検出されていたのだ。ただ「彼女のサンプルで見つかった3つの薬のうち、トリメタジジンだけがドーピング防止当局によって禁止されている」と説明。その上で「他に検出された2つの薬はハイポキセンとL―カルニチンで禁止はされていないが、ドーピング防止当局の関係者は若いエリートアスリートに3つの薬すべてが体内に存在することは非常に珍しいと語った」と指摘している。他の2つの成分は〝シロ〟ではあるものの、トリメタジジンと同様に心臓の機能を向上させ、それが持久力の強化や血液循環の改善を促す効果があるという。そして、すべての成分が同時に体内にあることは不自然だと同紙は追及。「いずれの効果も、高いレベルのフィギュアスケート選手に大きな競争上の優位性をもたらす可能性がある」と分析している。禁止薬物に加えて〝グレー〟の成分を摂取していたことも判明したワリエワ。ドーピング問題の闇は深そうだ。

*1-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15205616.html?iref=comtop_Opinion_03 (朝日新聞社説 2022年2月16日) ロシア薬物問題 速やかに真相の解明を
 スポーツを成立させる土台である公正・公平を揺るがし、他の選手も巻きこんで混乱を招いた罪は大きい。北京冬季五輪にロシアから参加したフィギュアスケート女子のカミラ・ワリエワ選手をめぐるドーピング問題だ。昨年末に採取された検体から禁止薬物が見つかった。資格の停止か解除か、判断が二転三転した後、スポーツ仲裁裁判所は引き続き試合に出ることを認める裁定をした。16歳未満を法的能力が十分でない「要保護者」とする規定があり、15歳の同選手はこれに当たることなどが考慮されたという。選手の権利を尊重した判断といえるが、いくつもの疑問が重なり、納得には遠い。まず薬物陽性の事実が、五輪が開幕し団体種目を終えた段階で公表されたことだ。通常は採取から10日ほどで結果が出る。検体がロシア国外の検査機関に運ばれたことや、コロナ禍で様々な動きが滞っていることを考えても、なぜ1カ月以上を要したか、理由は不明だ。万が一にも金メダルの最有力候補と目される同選手の参加を優先させるような思惑が働いたとしたら、とんでもない話だ。問題の薬物は狭心症や心筋梗塞(こうそく)の治療薬で、選手が使えば血流が増え、持久力を上げたり運動後の回復を早めたりする効果がある。食物などから誤って摂取する可能性は低いという。自分で飲んだのか、誰かが飲ませたのか。目的は何か。その解明もこれからだ。近年、一部の競技で低年齢の選手の参加・活躍が目立つようになった。裁定理由が悪用され、薬物使用の抜け道になることを恐れる。競技の公平性はもちろんだが、選手の健康を守ることが何より大切だ。世界反ドーピング機関を中心に徹底した調査を行い、事態の全容を速やかに明らかにすべきだ。国際オリンピック委員会(IOC)はワリエワ選手が絡むメダル授与などを実施しないことを決めた。すっきりしないまま試合が行われ、成績が定まらない可能性も高い。選手たちの動揺・落胆はいかばかりか。こうした状況を招いた大きな責任はIOCにもある。14年のソチ冬季五輪後、ロシアにおける大規模な薬物使用が発覚し、国家ぐるみの関与と隠蔽(いんぺい)が認定された。だがIOCは毅然(きぜん)とした対応をとらず、むしろロシア五輪委員会に対する資格停止処分を先んじて解除するなどした。薬物根絶を迫る機会を自ら放棄したに等しい。ワリエワ問題を機に浮上した疑念と批判は、この間のIOCに対する不信の表明でもある。五輪はまたも大きく傷ついた。

*1-4:https://hochi.news/articles/20220213-OHT1T51080.html?page=1 (スポーツ報知 2022年2月13日) IOCの最古参委員・パウンド氏、ロシアのドーピング問題に「全く悔い改めない。1、2、3大会五輪を欠場するべき」
 フィギュアスケート女子でロシア五輪委員会(ROC)のカミラ・ワリエワ(15)のドーピング違反報道を巡り、国際オリンピック委員会(IOC)の最古参委員であるディック・パウンド氏(79)=カナダ=が、「ロシアはオリンピックから“タイムアウト”する時かもしれない」と語った。12日にカナダの放送局「CBC」が報じた。CBCの電話インタビューに応じたパウンド氏は、ロシアの組織的ドーピング発覚後も「全く悔い改めない」と断じ、「ロシアは問題を抱えている。この問題を収拾できるまで、1、2、3大会五輪を欠場するべき」と語った。また、世界アンチドーピング機構(WADA)のクレイグ・リーディ元会長も、五輪を複数大会欠場する必要があると語ったと、露メディアが報じた。ワリエワは、昨年12月に採取された検体が陽性と判明。ロシア・アンチドーピング機構(RUSADA)は8日に選手資格を暫定的に停止し、ワリエワからの異議申し立てを受けて9日に処分を解除した。この決定を国際オリンピック委員会(IOC)とWADAが不服としてスポーツ仲裁裁判所に提訴。CASは12日、13日に公聴会を開き、14日午後に裁定を下すと発表した。露メディアによると、ワリエワのコーチのエテリ・トゥトベリゼ氏は12日、取材に応じ、「カミラは潔白だと確信している。それを証明する必要はない」と答えた。女子のショートプログラムは15日に行われる。

<経済制裁も攻撃である>
*2-1:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220302/k10013508931000.html (NHK 2022年3月2日) ロシアへの経済制裁 フランス経済相「経済 金融の戦争」
 フランスのルメール経済相は1日、ニュース専門チャンネルの番組に出演し、ロシアに対する欧米各国の経済制裁について「制裁は恐ろしいほど効果的で、ヨーロッパの決意をあいまいにしたくない。われわれはロシアとの経済、金融上の戦争に入る」と述べました。ルメール経済相は、「戦争」という表現はふさわしくなかったとしてその後撤回しましたが、侵攻を続けるロシアに対する断固とした姿勢を示しました。また、ウクライナ情勢をめぐる経済的な影響について「経済、金融上の力関係は完全にEU=ヨーロッパ連合が上回っている。崩壊するのはロシアの金融システムであり、ヨーロッパへの影響は、物価のわずかな上昇だ」と述べ、必要であれば制裁をさらに強化する考えを示しました。

*2-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/d380e39ed2a1b8c35378582a93026e92df63036e (Yahoo、ANN 2021/3/3) 中国が日米欧の対ロ制裁に“違法”と反発「ロシアと貿易進める」
 ウクライナへの軍事侵攻を受けて各国がロシアへの経済制裁に乗り出す中、中国政府は「ロシアと正常な貿易協力を進める」と制裁に反対する姿勢を表明しました。中国外務省は2日の会見で、欧米や日本などによる経済制裁について「あらゆる違法な制裁に断固反対する」とし、「制裁は問題を解決せず、争いをエスカレートさせるだけだ」と主張しました。そのうえで「中国とロシアは引き続き正常な貿易協力を進めたい」と述べ、天然ガスなどの購入を続ける考えを強調しました。また、金融監督当局のトップも2日の会見で、「金融制裁に賛成しない」と明言しました。国際的な制裁の動きには参加せず「正常な金融取引を保つ」としています。

*2-3:https://www.fnn.jp/articles/-/322893 (FNN 2022年3月1日) プーチン大統領の精神状態に疑問論 アメリカの有力議員らから
 ウクライナに軍事侵攻したロシアのプーチン大統領について、アメリカの有力議員らから精神状態を疑問視する声が上がっています。アメリカの情報機関と近い関係にある、マルコ・ルビオ上院議員は、ツイッターに詳細を明かすことはできないと断った上で、「今言えるのはプーチン氏は何かがおかしいということだ」と書き込みました。また別の書き込みでは、「昔のプーチン氏は冷血で緻密な殺人犯だったが、むしろ今のプーチン氏の方が危険」と警鐘を鳴らしています。アメリカメディアによりますと、ルビオ氏はプーチン氏の精神状態について政府報告を受けているということです。一方、ホワイトハウスのサキ報道官は2月27日、テレビのインタビューで「(プーチン氏は)コロナ禍で明らかに孤立している」としたうえで、「プーチン氏の言動を深く懸念している」と話しました。ただ、専門家の中には「冷静で抑制的な対応をしている」として、精神不安を前提にプーチン氏に対処すべきではないとも出ています。

*2-4:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220303/k10013510551000.html (NHK 2022年3月3日) ロシア ウクライナに軍事侵攻(3日の動き)
 ロシアがウクライナに対する軍事侵攻に踏み切って1週間。現地では、今もロシア軍とウクライナ軍の戦闘が続いています。戦闘の状況や、関係各国の外交など、ウクライナ情勢をめぐる3日(日本時間)の動きを随時更新でお伝えします。(日本とウクライナとは7時間、ロシアのモスクワとは6時間の時差があります)
●IPC ロシアパラリンピック委員会とベラルーシの選手出場認めない
 国際パラリンピック委員会はロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて、4日開幕する北京パラリンピックにRPC=ロシアパラリンピック委員会と、ロシアと同盟関係にあるベラルーシの選手の出場を一転して認めないことを決めました。
●ロシアとウクライナ きょうにも交渉か
 ロシアとウクライナは先月28日に続いて停戦に向けた2回目の交渉の実施を調整してきました。これについてロシアの代表団のトップ、メジンスキー大統領補佐官はウクライナ側との交渉が3日にベラルーシ西部のポーランドとの国境付近で行われると明らかにしました。一方、ウクライナ大統領府の高官も2回目の交渉がまもなく行われるという見通しを示しています。ただロシア側は停戦の条件としてウクライナの「中立化」や「非軍事化」を要求していて、ウクライナ側の立場とは隔たりがあります。ロシアは各地で攻撃を激化させるなど軍事的な圧力を強めながらウクライナとの交渉でも強硬な姿勢を貫くとみられ、停戦につながるかは依然、見通せない情勢です。
●アメリカ ブリンケン国務長官 ロシア側の交渉姿勢に否定的な見方
 3日にも行われる見通しのロシアとウクライナの停戦に向けた2回目の交渉について、アメリカのブリンケン国務長官は2日の記者会見で「問題は、ウクライナが自国の利益を保護し、戦争を終わらせるのに役立つと考えるかどうかであり、われわれは支援の用意がある」と述べました。そのうえで、ロシア側が停戦の条件としてウクライナの「中立化」や「非軍事化」を要求していることを踏まえ、「ロシアの要求は度を越しており、交渉の対象にもならない。われわれはロシアが見せかけの外交を行ってきたことを繰り返し見てきた」と述べ、ロシア側の交渉姿勢に否定的な見方を示しました。
●アメリカ ロシアとベラルーシに対する経済制裁を発表
 ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐりアメリカのホワイトハウスは2日、ロシアとベラルーシに対する経済制裁を発表しました。ロシアで軍用機や軍用車両、ミサイルなどを製造している合わせて22の軍事企業を対象にしたほか、石油や天然ガスの生産に使う設備のロシアへの輸出を規制し、主要産業に打撃を与えるとしています。
またロシア軍の侵攻拠点の1つベラルーシに対しては、ハイテク製品の輸出規制を実施し、こうした製品や技術がベラルーシを経由してロシアに流出するのを防ぐとしています。
●松野官房長官 日本受け入れ 人道的観点で対応も
 ウクライナから避難した人の日本への受け入れについて、松野官房長官は記者会見で、日本の在留資格を持つおよそ1900人のウクライナ人の親族や知人を想定していると明らかにしたうえで、そのほかの人も人道的観点から対応する考えを示しました。また、松野官房長官は、記者会見で「1日の時点で確認されている在留邦人はおよそ110人であり、現時点までに邦人の生命・身体に被害が及んだとの情報には接していない。松田大使ら大使館員は陸路を使い、一時的にウクライナを出国しモルドバに到着しているが、松田大使は近く、リビウの連絡事務所に戻る予定だ」と説明しました。
●アメリカ国防総省 ICBMの発射実験延期を発表
 ロシアのプーチン大統領が核戦力を念頭に抑止力を特別警戒態勢に引き上げるよう命じたのを受け、アメリカ国防総省は2日、今週予定していたICBM=大陸間弾道ミサイルの発射実験を延期すると発表しました。国防総省のカービー報道官は記者会見で「アメリカとロシアは核兵器の使用が壊滅的な結果をもたらすと長い間、合意してきた。アメリカとして誤解を招くような行動をする意図がないことを示す」と述べ、ロシアとの間で緊張を高めないよう冷静に対応する考えを示しました。一方で「われわれは自国や同盟国などを守る能力は損なわれず、準備ができていることに変わりはない」と述べて、発射実験の延期の影響はないと強調しました。
●アメリカ国防総省 首都キエフ侵攻のロシア軍 依然停滞の認識
 アメリカ国防総省のカービー報道官は2日、記者会見で、ウクライナの首都キエフに向けて南下しているロシア軍の部隊について、「依然として動きは停滞している」と述べ、この一日で大きな進展は見られなかったとの認識を示しました。理由についてカービー報道官は、ロシア軍がウクライナ側からの抵抗に加えて燃料などの物資の不足に直面していると指摘する一方、侵攻の遅れを取り戻すため部隊の再編成を行っている可能性があるとの認識を重ねて示しました。一方で、「ロシア軍は燃料だけでなく、食料の補給にも問題が出るなど複数の過ちを犯してきたが、今は克服しようと取り組んでいる」と述べて、ロシア軍は態勢が整いしだい、キエフへの攻勢を強めるという見方を示しました。またカービー報道官は、ロシア軍は人口の多い主要な都市はいずれも奪えていないとの認識を示しました。このうちロシア国防省が完全に掌握したと発表している南部の都市ヘルソンについては「激しい戦いがまだ続いていると見ている」としたうえで、南部の戦闘の状況について「北部と比べてウクライナ軍の抵抗が少ないようだ」と指摘しました。
●アメリカ ブリンケン国務長官 ヨーロッパ訪問へ
 ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続く中、アメリカ国務省は2日、ブリンケン国務長官が3日から8日までの日程で、ヨーロッパなどを訪問すると発表しました。ブリンケン長官は、ベルギーの首都ブリュッセルでNATO=北大西洋条約機構やG7=主要7か国の外相会合などに出席し、ロシアへの追加の経済制裁を含む今後の対応について意見を交わすとしています。5日には、ウクライナの隣国ポーランドでラウ外相と会談し、安全保障面での支援やウクライナから避難してきた人たちへの人道支援などをめぐって協議するということです。その後、同じくウクライナの隣国、旧ソビエトのモルドバでサンドゥ大統領などと会談し、避難民の受け入れなどについて意見を交わすとしています。さらにブリンケン長官はロシアの軍事侵攻に対し懸念を強めるバルト3国のリトアニアとラトビア、エストニアを訪問し、NATOの抑止力の強化やウクライナへの支援などをめぐって協議する予定です。
●国際刑事裁判所 戦争犯罪や人道に対する罪について捜査始める
 オランダのハーグにある国際刑事裁判所は2日、ウクライナで行われた疑いのある戦争犯罪や人道に対する罪について、捜査を始めると発表しました。国際刑事裁判所のカーン主任検察官の声明によりますと、フランスやドイツ、イギリスなど裁判所の39の加盟国からウクライナでの状況について捜査するよう要請があり、ウクライナも加盟国ではないもののすでに捜査に同意しているとしています。捜査の対象となるのは、2014年にロシアが一方的にウクライナのクリミア半島を併合した前後の時期から今回の軍事侵攻までの期間で、カーン主任検察官は先に発表した声明の中で「予備的な調査の結果、ウクライナで戦争犯罪や人道に対する罪が行われたと考える合理的な根拠がある」としていました。
●仏マクロン大統領 停戦に向けた仲介続ける考え
 フランスのマクロン大統領は2日夜、テレビ演説を行い、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐり、改めてプーチン大統領を非難したうえで「プーチン大統領に武器を捨てるよう説得するため連絡を取り続ける」と述べ、停戦に向けた仲介のためプーチン大統領との連絡を続ける考えを示しました。また「ヨーロッパは平和のために代償を支払うことを受け入れなければならない」と述べ、ヨーロッパ各国がロシアからの天然ガスへの依存度を下げエネルギー自給率を上げていくべきだという考えを示しました。そのうえでマクロン大統領は、今回の事態を受け浮き彫りになったヨーロッパのエネルギー面での課題や安全保障の在り方をめぐり、今月10日からパリ近郊で開かれるEU=ヨーロッパ連合の非公式の首脳会議で議論する考えを示しました。
●バイデン大統領 国連総会決議棄権の中国とインドを批判
 アメリカのバイデン大統領は2日、国連総会の緊急特別会合でロシアを非難し、軍の即時撤退などを求める決議案が賛成多数で採択されたことについて中西部ウィスコンシン州で行った演説の中で、「141か国がロシアを非難した。いくつかの国は棄権した。中国は棄権した。インドも棄権した。彼らは孤立している」と述べ棄権した35か国のうち中国とインドを名指しで批判しました。そのうえで「彼らはNATO=北大西洋条約機構やヨーロッパ、そしてアメリカを分断することができると考えているのだろう。そんなことは誰にもできないと世界全体に示そう」と訴えました。
●プーチン大統領 インド モディ首相と電話会談
 ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアのプーチン大統領は2日、関係強化を進めるインドのモディ首相と電話会談を行いました。ロシアとインドは伝統的な友好国で、軍事的な結び付きも強いことから先月25日に国連安全保障理事会でロシア軍の即時撤退などを求める決議案が採決にかけられた時にはインドは棄権し、ロシアに対する制裁にも慎重な姿勢を示しています。ロシア大統領府によりますと、会談ではウクライナ東部のハリコフで退避できずにいるインド人の留学生たちをロシアを経由して退避させる方策について話し合ったということです。ハリコフで1日、現地の大学に通っていたインド人の医学生が戦闘に巻き込まれて死亡し、インド国内でロシアの軍事侵攻への批判の声が強まることも予想されていたことから、プーチン大統領としては、インドへの配慮を示すことで良好な関係を維持するねらいがあるものとみられます。
●ロシア報道官 “ロシア軍兵士498人死亡”と発表
 ロシア国防省のコナシェンコフ報道官は2日、これまでの軍事作戦でロシア軍の兵士498人が死亡し、1597人が負傷したと発表しました。今回の戦闘でロシア側が自国の兵士の具体的な被害状況を明らかにしたのは初めてです。一方、コナシェンコフ報道官はロシア軍による攻撃でこれまでに2870人以上のウクライナ軍の兵士を殺害したほか、ウクライナ国内の1533の軍事施設などを破壊したとしています。
●ウクライナ東部ドネツク州 住宅などに大きな被害
 ロイター通信は2日、ウクライナ東部ドネツク州の親ロシア派が事実上支配している地域で、双方の戦闘で住宅などに大きな被害が出ていると伝えました。現地の映像では、砲撃で激しく壊れたアパートで地元の人たちが部屋の中に散乱するがれきを撤去する作業などに追われていました。地元に住む男性は「私のことばが責任ある人たちに届くのなら自分の親や子どもが戦火にさらされることがどれだけつらいものか分かってほしいです」と涙ぐみながら話していました。
●キエフでは多くの市民が地下での避難生活続ける
 首都キエフでは、多くの市民が安全を確保しようと地下での避難生活を続けています。2日の現地からの映像ではシェルターとなっている地下鉄の駅構内に多くの人が集まり、毛布にくるまったり、家族で肩を寄せ合ったりしながら不安な様子で過ごしていました。市内に住む女性は「地下には子どももたくさんいてひどい状況です。暴力と残酷な行為が早く終わることを願っています」と話していました。またウクライナ軍の兵士として戦う婚約者がいるという女性は「21世紀にこんなことが起きるなんて誰も想像できませんでした。彼としばらく連絡が取れない時はとても不安ですが、正しいことをしている彼を誇りに思います」と話していました。
●国連総会の緊急特別会合 ロシア非難決議 賛成多数で採択
 ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐって開かれていた国連総会の緊急特別会合で、ロシアを非難し、軍の即時撤退などを求める決議案が賛成多数で採択されました。決議案には、欧米や日本など合わせて141か国が賛成し、ウクライナ情勢をめぐるロシアの国際的な孤立がいっそう際立つ形となりました。採決は日本時間の3日午前2時前に行われ、賛成が欧米や日本など合わせて141か国、反対がロシアのほかベラルーシや北朝鮮など合わせて5か国で、3分の2以上の賛成を得て採択されました。中国やインドなど合わせて35か国は棄権しました。
●ウクライナ ゼレンスキー大統領「ロシア軍兵士 約6000人死亡」
 ウクライナのゼレンスキー大統領は2日、新たな声明を発表し「ロシアによる軍事侵攻が始まってから6日間で、およそ6000人のロシア軍の兵士が死亡した」と明らかにしました。そのうえで「ロシアはその代償に何を得たというのか。ロケットや爆弾、戦車、いかなる攻撃もウクライナを奪うことはできない」と述べました。また1日に首都キエフの中心部にあるテレビ塔がロシア軍の攻撃を受けたことについて、現場付近は第2次世界大戦中、ナチス・ドイツによって殺害されたユダヤ人を追悼する場所だとしたうえで「ロシア軍は私たちの歴史について何も知らない。ホロコーストの犠牲者を再び殺したのだ」と述べ、非難しました。

*2-5-1:https://mainichi.jp/articles/20220304/k00/00m/030/450000c (毎日新聞 2022/3/4) 原発が戦場 史上初、稼働中に攻撃 世界激震 「安全の根本揺らぐ」
 ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナで、今度は原発を舞台にした交戦という前代未聞の出来事があった。一体何が起きているのか。
●明確な国際法違反、常軌を逸した攻撃
 暗闇の中を激しい閃光(せんこう)が飛び交い、煙が立ち上ったーー。攻撃を受けたウクライナ南東部のザポロジエ原発。敷地内の監視カメラが捉えた映像は、インターネットなどを通して世界に広まった。稼働中の原発への軍事侵攻は過去に例がない。国際社会に大きな衝撃を与えた。AFP通信は、ウクライナ軍関係者の話として、火災が起きたのは敷地内の研修施設と研究所だと報じた。ウクライナ政府は国際原子力機関(IAEA)に対し、攻撃を受ける前後の放射線量に大きな変化は見られず、火災による「重要な設備」への影響はないと報告した。ウクライナの原子力規制当局は、同原発がロシア軍に制圧されたことを認めた。出力100万キロワットの原子炉を6基抱えるザポロジエ原発は、総出力で欧州最大規模の原発だ。このうち1~5号機は旧ソ連時代の1985年から89年にかけて営業運転を開始した。攻撃時には、検査などのため1基のみが運転中だった。ウクライナ政府は、クリミア半島から進撃する南部戦線のロシア軍が、同原発の制圧を目指しているとして危機感を強めていた。2日には原発の職員や周辺住民ら数百人が、原発に通じる道路を封鎖するバリケードを築いて侵攻に備えた。しかし、ロシア軍はこれを破って敷地に侵攻したとされる。原発への軍事攻撃は、ロシアも批准するジュネーブ条約で禁じられている。原子力の平和利用を目的にしたIAEA憲章にも反する。核問題に詳しい長崎大の鈴木達治郎教授は、「明確な国際法違反であり、ロシア軍は直ちに攻撃をやめるべきだ。システムの故障や電源喪失が起きれば、破滅的な過酷事故につながりかねない。これが許されるならば、世界中の原発が攻撃されることになり、原子力安全を巡る根本が揺らぐ」と危惧する。ウクライナのクレバ外相は4日、ツイッターで「もし爆発すれば、チェルノブイリ(原発事故)の10倍以上になる」と危機感をあらわにした。福島大環境放射能研究所の難波謙二所長は、この見方を「決して的外れではない」と指摘する。「(事故が起きれば)放射性物質による汚染はウクライナの国境を軽く越えて欧州全土や中東にまで広がる恐れがある。原発を占拠してしまえば、脅しや交渉の材料として使えるということが分かってしまった」。ロシア軍は2月24日には、86年に史上最悪の爆発事故を起こしたウクライナ北部のチェルノブイリ原発を占拠した。米ホワイトハウスなどによると、露軍は同原発で事故処理を続けていた職員らを人質に取っているとされる。IAEAはウクライナ政府の報告として、原発にとどまる職員らが「心理的重圧と精神的疲労」に直面しているとし、ロシア側に「重要業務を安全かつ確実に遂行できるよう休養と交代を認める必要がある」と警告した。IAEAによると、2020年時点でウクライナの電源構成の5割近くを原子力が占める。国内ではザポロジエを含む4カ所に15基の原子炉がある。ロシア軍の侵攻に備えて原子炉を停止すれば、全土の電力供給に支障が出る懸念もある。また停止した原子炉でも、外部電源を失って核燃料を冷やせなくなれば、東京電力福島第1原発事故のような炉心溶融(メルトダウン)が起きる。今後の判断は容易ではない。鈴木さんは、「ロシアのやっていることは常軌を逸している。今後何が起きるか分からない。今すぐできることは少ないが、ロシアに対して原発への攻撃をやめさせ、せめて施設の安全性確保に全力を尽くすことを保証させるしかない」と話した。
●私兵組織、露軍の統制利かず?
 砲撃のあったザポロジエ原発1号機は数日前から定期点検に入っていたが、同原発の広報担当者はウクライナのウニアン通信に対し、「核燃料はまだ原子炉内に入ったままで、取り出されていない。使用済み核燃料などを入れるプールもある」と話した。同原発の職員は、攻撃をしているのは「カディロフツィ」と呼ばれるロシア南部チェチェン共和国のカディロフ首長の私兵組織との認識を示し、「彼らは地雷を敷設しようとしている。全欧州を脅すつもりだ」と話したという。カディロフ氏の私兵組織はウクライナの首都キエフへの攻撃にも加わっているとみられ、ロシア軍の統制が十分に利いていない可能性もある。ロシア国防省のコナシェンコフ報道官は4日、「ウクライナの破壊工作グループ」が原発構内に侵入し、「恐ろしい挑発行為を試みた」と主張。警戒に当たっていたロシアの治安部隊と銃撃戦となった後、原発の訓練施設に潜んでいたこのグループが「撤収する際に放火した」と述べ、原発の火災はウクライナ側に責任があると訴えた。ロシアとウクライナの間では3日に2回目の停戦協議も開かれたが、ウクライナの非武装化や事実上の政権交代などを求めるプーチン露大統領は3日のマクロン仏大統領との電話協議で、「特別軍事作戦の任務は何があろうと達成する」と強硬姿勢を崩さなかった。停戦協議を長引かせるようなら「ウクライナにさらに追加の要求をする」と迫っている。2日にウクライナ南部の要衝ヘルソンを制圧したと発表したロシア軍は、黒海沿岸のオデッサ方面に向かうほか、ザポロジエ原発のあるドニエプル川沿いを北上し、ウクライナ中心部へも兵を進めている。ウクライナ国内の主要都市や重要インフラの制圧を進めることで、徹底抗戦を呼びかけるウクライナのゼレンスキー政権との停戦協議を有利に進める狙いもあるとみられる。
●日本の原発 「軍事攻撃は想定外」
 国内の原発は、東京電力福島第1原発事故を踏まえて安全対策が強化された。その一つが、テロ対策施設の設置の義務化だ。航空機の衝突などによるテロで原子炉建屋などが損傷した場合でも、放射性物質の周囲への拡散を防ぐ。しかし、原子力規制委員会の事務局を担う原子力規制庁の幹部は「軍隊による武力攻撃は想定していない」と話す。テロ対策施設は、原子炉を遠隔で制御するための「緊急時制御室」や、炉心を冷やすための「注水設備」、それらを動かすための「電源設備」などを備える。原子炉から十分に離れた所に設置できない場合、航空機を衝突させるテロ攻撃にも耐えられる頑丈さが必要になる。テロにより原子炉建屋などが損傷した場合、テロ対策施設からの遠隔操作や敷地内に配備した送水車による注水などで、原子炉格納容器を冷やして炉心溶融(メルトダウン)させないようにする。各原発のこうした施設はテロ対策の観点から、具体的な位置や設備の内容などは明らかにされていない。規制委の安全審査も非公開で実施されている。ただ、テロと軍事攻撃では被害の状況などが大きく異なる。「テロ対策施設にミサイルが撃ち込まれたら、多分だめだと思う。他国の軍隊が攻めてくるのは想定外だ」。規制庁の幹部はそう明かした。規制庁によると、テロ対策施設は現在、九州電力川内(せんだい)原発(鹿児島県)と関西電力高浜原発(3、4号機、福井県)、四国電力伊方原発(愛媛県)の計3カ所に設置されている。高浜原発(1、2号機)など4カ所では建設中だ。安全対策などの工事計画が認可されてから5年以内の設置が義務付けられており、期限内の完成が間に合わなければ、再稼働後でも運転を停止しなければならない。関西電力美浜原発3号機(福井県)などでは期限に間に合わず、運転を止めた。

*2-5-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/163720 (東京新聞 2022年3月4日) 原発に攻撃、日本の備えは…「ミサイルで全壊、想定していない」 テロ対策施設の未完成、再稼働した5基も
 ロシア軍によるウクライナ最大のザポロジエ原発への攻撃。日本の原発は2011年3月の東京電力福島第一原発事故以降、地震津波対策は厳しくなったが、大規模な武力攻撃を受けることは想定外だ。航空機衝突などテロ対策で義務付けられた設備は、再稼働した原発の一部でしか完成しておらず、外部からの脅威に弱い。「武力攻撃に対する規制要求はしていない」。政府が次の原子力規制委員長の候補とした山中伸介規制委員は4日、参院の議院運営委員会で原発が戦争に巻き込まれた際の対策を問われ、答えた。規制委事務局で原発の事故対策を審査する担当者も取材に、「ミサイル攻撃などで原子炉建屋が全壊するような事態は想定していない」と説明した。原子炉は分厚い鉄筋コンクリートの建屋にあり、炉も厚さ20センチの鋼鉄製だ。どの程度の攻撃に耐えられるかは、規制委も電力各社も非公表。しかし炉が難を逃れても外部電源を失えば、原発停止後に核燃料を冷やせず、福島第一原発のようにメルトダウン(炉心溶融)に至るリスクを抱える。航空機衝突などで中央制御室が使えなくなった場合は、テロ対策として秘匿された構内の別の場所に設置する「特定重大事故等対処施設(特重)」で炉内の冷却などを続ける。ただ再稼働済みの10基のうち、特重があるのは5基。5基は特重が未完成のまま稼働している。廃炉中を含め全国18原発57基の警備は電力会社、警備会社、機関銃などで武装した警察、海上保安庁が担う。自衛隊が配備されるのは「有事」となってからだ。
◆国会で何度も質問も、政府「一概に答えられない」
 日本国内の原発への「軍事攻撃」に対する危険性は過去の国会で何度も取り上げられたが、政府側は言葉を濁してきた。2015年の参院特別委員会で、参院議員だった山本太郎氏(現れいわ新選組代表)は、原発がミサイル攻撃に備えているか質問。原子力規制委員会は「(電力会社に)弾道ミサイルが直撃した場合の対策は求めていない」と説明。当時の安倍晋三首相は「武力攻撃は手段、規模、パターンが異なり、一概に答えることは難しい」とかわした。民進党(当時)の長妻昭氏は17年の衆院予算委で、原発がミサイル攻撃を受ければ事故以上に被害が大きくなり「核ミサイルが着弾したような効果を狙える」と指摘し、対応を質問。規制委は「そもそもミサイル攻撃は国家間の武力紛争に伴って行われるもので、原子力規制による対応は想定していない」と答えた。同年の参院審議でも、自民党の青山繁晴氏がミサイル攻撃があった場合の避難想定の不十分さを指摘。「地域住民の不安、社会的混乱もすさまじいと思われる」と対策を求めたが、政府側は「武力攻撃による被害は一概に答えられない」としていた。

*2-6:https://mainichi.jp/articles/20220305/k00/00m/030/257000c (毎日新聞 2022/3/5) 中国の国防費3年ぶり伸び率 李克強首相「祖国統一を後押し」
 中国政府が5日に公表した2022年の国防費予算(中央政府分)は、前年比7・1%増の1兆4504億5000万元(約26兆3500億円)で、伸び率は21年予算(前年比6・8%)を上回った。国防費の伸び率が前年比で7%を超えたのは19年以来、3年ぶり。国防費予算の伸び率7・1%は、経済の成長率目標の5・5%よりも高かった。中国は35年に人民解放軍の現代化をほぼ実現し、今世紀半ばに「世界一流の軍隊」にするとの目標を掲げている。ここ数年は、成長率目標より国防費予算の伸び率を高く設定する傾向が続いている。李克強首相は5日に開幕した全国人民代表大会(全人代)の政府活動報告で「武器や装備の現代的な管理システムをうちたて、国防科学技術のイノベーションを強化し、新時代の人材強化戦略を実施して、軍の質の高い発展を推進する」と強調。先進的な兵器・システムの研究開発などにより一層、力を入れる姿勢を示した。中国は極超音速滑空体(HGV)を搭載できる新型弾道ミサイル「東風17」などの先端兵器の配備を進めている。李氏はまた「祖国統一を後押ししなければならない」と述べ、改めて台湾統一に意欲を示した。中国は近年、台湾の防空識別圏(ADIZ)に戦闘機を繰り返し進入させるなど、台湾海峡周辺での軍事的な活動を強化している。ロシアによるウクライナ侵攻を受け、台湾では一部で中国による軍事的な圧力がさらに強まることへの懸念が出ている。ただ、国際社会がロシアへの非難を強める中で、中国政府はウクライナ侵攻と台湾問題を関連付けられることには一貫して反発している。今秋に共産党大会を控え、中国は国内外の安定を重視する。このため多くの専門家は、中国が台湾問題で極端な行動に出る可能性は低いとみている。

<日本のエネルギー>
*3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220301&ng=DGKKZO58649540R00C22A3MM8000 (日経新聞 2022.3.1) ウクライナ侵攻 危機の世界秩序(4)エネ安保、不作為に警告
 原油価格が米市場で7年7カ月ぶりに1バレル100ドルを超えた。未曽有の高値圏にある欧州の天然ガス価格も急騰した。
●力そがれる不安
 ウクライナ侵攻があらわにしたのは、エネルギー供給におけるロシアの存在感と同国に依存するリスクだった。天然ガス生産量は世界2位、石油は3位。国際決済網からのロシアの排除により、さらに高騰するのではないかと世界は身構えている。ロシアは脱炭素が進み、歳入の4~5割を占める石油・ガス収入を失えば、軍事強国の地位も危うくなる。一方、今なら石油とガスの需給は逼迫している。世界の開発投資が急減したからだ。ロシアにエネルギーを頼る欧州は強く出られないのではないか。そうした自信がプーチン大統領を侵攻へと動かした。世界はエネルギー過渡期の弱さを露呈した。2日に開かれる産油国の「石油輸出国機構(OPEC)プラス」閣僚協議。消費国は増産加速を期待するが、主導権を握るロシアが同意するとは考えにくい。原油価格は1バレル130ドルを超えるとの見方も出てきた。今回の行動が、欧州に「ならず者国家に頼って大丈夫か」との恐怖を想起させるのは当然だ。ジョンソン英首相は「石油やガスのロシア依存を集団的にやめなければならない」と語った。プーチン体制と欧州の関係が侵攻前に戻ることはあるまい。脱炭素に傾斜する市場や投資家がロシアの石油・ガス排除を求める圧力は強まり、ロシアは自らの首を絞めることになるだろう。消費国は脱炭素とエネルギー安全保障の両立を探らなければならない。脱原子力発電を掲げたドイツは、天然ガスのロシア依存を深めていた。2014年にロシアのクリミア併合という国際秩序を無視した行為を見ながら、同年から20年までにロシアからの輸入量を46%も増やしていた。フランスは原発への回帰に踏み出した。欧州連合(EU)も原発を環境に貢献するエネルギーと位置付けた。アジアも例外ではいられない。この冬、米国からアジアに向かった液化天然ガス(LNG)船が相次いで欧州に進路を変えた。需給の逼迫した欧州での価格がアジアを上回るという、前例のない事態が出現したからだ。
●東アジアも火種
 「米欧アジアのガス市場は一体化した」。JERAグローバルマーケッツの葛西和範最高経営責任者(CEO)は指摘する。欧州の危機は瞬時にアジアに波及する。日本は再生可能エネルギーの導入が遅れ、原発の再稼働は進んでいない。ロシアの侵攻によって、石油やLNGに頼る脆弱さを改めてつきつけられた。東アジアも台湾などを巡って紛争の火種を抱えている。エネルギーのほとんどを海上輸送で輸入する日本に思考停止は許されない。危機が起きてからでは遅い。ロシアの暴挙はエネルギー安保の不作為に対する警告だ。

*3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220226&ng=DGKKZO80495320V20C22A2EA3000 (日経新聞 2022.2.26) ガソリン補助、5倍の25円に、ロシアの軍事侵攻で高騰警戒、措置長引く可能性
 政府は3月からガソリン価格抑制のため石油元売りに配る補助金の上限を1リットルあたり25円に引き上げる方針だ。現行の5円の5倍になる。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けた原油価格の高騰に対応する。来週に詳細を発表する見通し。原油高が続けば措置が長引く可能性がある。岸田文雄首相は25日の参院予算委員会で「まず当面は今の激変緩和措置の拡充で対応したい」と述べた。ガソリン税を引き下げる「トリガー条項」の凍結解除については引き続き検討する考えを示した。「将来的にはさらなる原油高騰もありうるので、あらゆる選択肢を排除せず準備を進めたい」と語った。国民民主党の玉木雄一郎代表は2022年度予算案に賛成した理由として、トリガー条項を排除しない方針を示した首相答弁をあげている。補助金は毎週公表するガソリンの全国平均価格が基準に達したら元売りに支給して卸値の抑制に充てる仕組みをとる。ガソリン、軽油、灯油、重油の4種類が対象になる。支給額は発動開始から3週間目で現行の上限の5円に達した。2月21日時点のガソリン価格は172円。当初想定した170円に抑えられなくなった。野党が主張するトリガー条項を発動した場合の減税額は25.1円で、補助金の支給上限を25円に引き上げればほぼ同水準になる。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は24日に始まった。同日のニューヨーク市場のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物は一時、1バレル100ドル台に上昇した。1バレル100ドルは日本でのガソリン価格で1リットル180円台前半の水準に当たる。補助金の上限が25円になれば170円程度にまで抑えられる。現在は基準額を4週ごとに1円ずつ切り上げている。24日から基準額は170円から171円に改めた。今回の補助金の拡充にあわせ、切り上げを倍のペースに早める。3月に拡充すれば夏には180円を超える。3月中はエネルギー対策特別会計の剰余金を使うほか、一般会計の予備費から数千億円を支出する。5円の補助を1カ月続けると500億円程度、25円の補助を1カ月続けると2500億円ほどが必要になる。

*3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220226&ng=DGKKZO80495350V20C22A2EA3000 (日経新聞 2022.2.26) ばらまき色、一段と濃く
 ガソリン補助金はもともと2022年3月までの「時限的・緊急避難的な激変緩和措置」だった。日本政府にとってウクライナ情勢の悪化は想定外だったとはいえ、大幅な拡充で当初目的が揺らぐ。所管する経済産業省には「延長後、いつ終えるか明確に示すのは難しい」との声が目立つ。ばらまき色が一段と濃くなってきた。ガソリンや軽油の価格が上がれば物流コストはかさみ、寒冷地で灯油は生活必需品だ。ウクライナの動向次第ではさらなる急騰も懸念されるが、それでもレジャー目的の乗用車のガソリン代まで税金で補助する意義は乏しい。「ガソリンに補助金を出す先進国なんて日本ぐらいだ」。制度設計にあたった経産省の内部からもこんな声が漏れる。21年秋の第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)の成果文書は「化石燃料に対する非効率な補助金の段階廃止に向け努力する」と盛り込んだ。日本も同意した経緯があり、国際社会からの視線は一層厳しくなる。どのように制度を終えるかという道筋を巡っては、仮に3月末で終了すると4月から各地で一斉に5円値上げする事態が想定されてきた。駆け込みで購入する人が押し寄せれば給油所の混乱につながる。政府は延長にあたり、補助を出す基準額を引き上げるペースを速める方針だ。支給額が徐々に減れば給油所の混乱を避けられるというのが経産省の見立てだが、想定より原油が高ければ補助は続く。期限が不明確という粗い制度で価格への公的介入を続けても「賢い支出」にはならない。

<気候危機とシベリア>
*4-1:https://digital.asahi.com/articles/ASPDH2R7RPDHUHBI00H.html (朝日新聞 2021年12月15日) シベリアで気温38度を記録 北極圏の観測史上、最高と認定 国連
 国連の専門機関、世界気象機関(WMO)は14日、昨年6月にロシアのシベリアで記録された気温38度が北極圏での観測史上最高の気温だったと認定し、気候変動について改めて警鐘を鳴らす記録と位置づけた。AP通信が同日伝えた。WMOが「北極圏よりも地中海にふさわしい」とする気温は昨年6月20日、ロシア東部の町ベルホヤンスクで観測された。WMOによると、当時はシベリア一帯から北極圏まで広がる熱波が到来中だった。これにより、シベリアの北極圏の平均気温は通常よりも10度上がり、地球規模での気温上昇や山火事、海氷の喪失につながったという。WMOのペッテリ・ターラス事務局長は声明で「この新たな記録は私たちの抱える気候の変化(の問題)について警鐘を鳴らしている」と述べた。

*4-2::https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220301&ng=DGKKZO58648050Y2A220C2EP0000 (日経新聞 2022.3.1) 温暖化、元に戻らぬ恐れ IPCC報告書の要旨 湿地や山岳、適応限界に
A.イントロダクション 本報告書は気候、生物の多様性を含む生態系、人間社会の相互作用に着目している。これまでのIPCC評価よりも、自然科学や生態学、社会科学、経済学の知識を統合した。
 生物多様性の損失や天然資源の持続的でない消費、急速な都市化などが世界で同時に進行していることを前提に、気候変動に適応するための対策や気候変動の影響・リスクを分析した。
B.観測された影響および予測されるリスク
 気候変動による影響とリスクは損害、被害、経済的・非経済的損失の観点から示されている。リスクは短期(2021-40年)、中期(41-60年)、長期(81-2100年)で各温暖化の水準などを予測している。
(1)気候変動による影響の観測 人為起源の気候変動は異常気象の頻度と強度を増し、自然と人間に対し広範囲にわたる悪影響と損失や損害を自然の気候変動の範囲を超えて引き起こしている。最も脆弱な地域とシステムが不均衡に影響を受けている。小さな島国では避難を余儀なくされ、アフリカと中南米では洪水や干ばつに関連して食糧不安と栄養不良が増加している。自然と人間のシステムはその適応能力を超えた圧力を受け、不可逆的な影響をもたらしている。
(2)生態系と人間の脆弱性 気候変動に対する生態系、人間の脆弱性は地域などにより大幅に異なる。社会経済の発展の形態、持続可能でない海洋や土地の利用、ガバナンスなどによって引き起こされる。およそ33億~36億人が気候変動に対して非常に脆弱な状況で生活している。生物種の大部分は気候変動に対して脆弱だ。人間と生態系の脆弱性は相互に依存しており、人間による生態系の劣化や破壊は人間の脆弱性を高める。現在の持続可能でない開発のあり方によって生態系と人々はますます気候災害の危険性にさらされている。
(3)短期的なリスク 近い将来、地球温暖化のレベルは1.5度に達する。複数の気候災害は不可避的に増加し、生態系と人間に複数のリスクをもたらす。リスクの度合いは脆弱性、暴露、社会経済の発展水準などの同時期の短期的傾向に依存する。地球温暖化を1.5度付近に抑えるような短期的な対策は、より高い水準の温暖化に比べて人間と生態系に対する損失と損害を大幅に低減できるが、完全になくすことはできない。
(4)中長期的なリスク 40年より先、地球温暖化の水準に応じて気候変動は自然と人間のシステムにおびただしいリスクをもたらす。特定した127の主要なリスクの中長期的な影響は、現在観測されている影響に比べて最大で数倍になる。気候変動の規模と速度、それによるリスクは短期的な緩和策や適応策に強く依存する。気候変動の悪影響やそれに関連する損失、損害は温暖化が進展するにつれて拡大する。地球温暖化の進展は生物多様性損失のリスクを高める。雪解け水や地下水の利用可能性も脅かす。食糧不安はより深刻になり、サハラ以南のアフリカ、アジア、中南米、小さな島に集中して栄養失調などを引き起こす。
(5)複合、混合、連鎖的リスク 気候変動の影響とリスクはますます複雑化し、管理が難しくなっている。複数の気候災害の同時発生、リスクが相互作用して全体のリスクが結びつき、部門や地域を横断して連鎖的にリスクが生じる。気候変動への対応の中には新たな影響やリスクをもたらすものもある。
(6)一時的なオーバーシュートの影響 地球温暖化が今後数十年以内、あるいはそれ以降に一時的に1.5度を超える場合(オーバーシュート)、多くの人間と自然のシステムはさらなる深刻なリスクに直面する。その規模と期間に応じ、さらなる温室効果ガスの排出を引き起こし、温暖化を低減したとしても元に戻すことができなくなる。今世紀中に1.5度を超える温暖化が起きた場合、氷床や氷河の融解、加速する海面上昇によって特定の生態系、インフラ、低地の沿岸集落などに回復不可能な影響をもたらす。
C.適応策と可能にする条件 
 現在の気候変動に対する適応は主に既存システムの調整によってリスクと脆弱性を減らすというもの。多くの適応策が存在し利用されているが、実行はガバナンスと意思決定プロセスの能力と有効性に依存している。
(1)現在の適応とその効果 適応策の計画と実施はすべての部門と地域にわたって見られ、複数の便益を生み出している。少なくとも170の国と地域が適応策を気候政策と計画のプロセスに盛り込んだ。
しかし適応の進展は不均衡でギャップがある。多くの取り組みでは即時、短期的な気候リスクの低減を優先しており、そのため変革的な適応の機会を減らしている。今後10年間での長期的な計画と迅速な実施が必要だ。
(2)今後の適応策と実現可能性 人と自然に対するリスクを低減できる、実現可能で効果的な適応の選択肢がある。適応策の短期的な実行可能性は部門や地域によって差がある。気候リスクに対する適応策の有効性は特定の状況、部門、地域について文献に記載されており、温暖化が進むと効果が低下する。
(3)適応の限界 人間の適応にはソフトな限界に達しているものもあるが、財政面、ガバナンス、制度面、政策面などの様々な制約に対処することで克服できる。沿岸湿地、熱帯雨林、極域と山岳の生態系など、一部の生態系はハードな適応限界に達している。地球温暖化が進展すれば損失と損害は増加し、さらに多くの人間と自然のシステムが限界に達する。
(4)適応の失敗の回避 第5次評価報告書以降、多くの部門、地域で適応に失敗した証拠が増加している。気候変動への適応の失敗は脆弱性やリスクの固定化を引き起こす。その変更は困難で費用がかかり、既存の不平等を悪化させる可能性がある。多くの部門やシステムに便益がある適応策を柔軟、部門横断的に長期に計画し、実施することで適応の失敗は回避できる。
(5)可能にする条件 人間システムと生態系において適応の実施、加速、維持を可能とするには重要な条件がある。政治的コミットメントとその遂行、制度的枠組み、影響と解決策に関する知識、財源の確保、モニタリングと評価、ガバナンスなどがそれにあたる。
(注)適応とは、被害の低減や有効活用のために、気候変動やその影響に適応するプロセスと定義。人間の介入で促進できる。その限界とは行動をとっても防げなくなることを指す。
D.気候変動に強いレジリエントな開発
(1)条件 第5次評価報告書での以前の評価に比べてさらに緊急性が高まっている。
(2) 気候変動にレジリエントな開発は、国際協力や、すべてのレベルの行政機関が教育機関や投資家、企業と協業することで促進される。それを可能にするには政治的な指導力、制度、ファイナンスを含む資源などによって支援されると最も効果的だ。
(3) 世界的な都市化の傾向は、短期的に気候にレジリエントな開発を進めるうえで重要な機会となる。都市での開発は、都市周辺の地域の製品やサービスなどのサプライチェーン(供給網)や資金の流れを維持し、都市化がそれほど進んでいない地域の適応能力も支える。
(4) 生物多様性や生態系の保護は、気候にレジリエントな開発に必須だ。最近の分析だと、地球規模での生物多様性などの維持は現在の地球の陸域、淡水、海洋の約30~50%の保全に依存すると示唆している。
(5) 気候変動が人間や自然のシステムを破壊していることは明白だ。過去から現在に至るまで、世界的な気候変動にレジリエントな開発は進まなかった。今後10年間の社会の選択と行動で将来の開発がどの程度レジリエントになるか決まる。現在の温室効果ガス排出量が急速に減少しない場合、特に地球温暖化が1.5度を超えた場合、実現の見込みはより低くなる。

<日本の非人道性>
*5-1:https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20210719/pol/00m/010/002000c (毎日新聞 2021年7月20日) 感染症対策の基礎「検査」を忘れたデータなきコロナ対策、阿部知子・衆院議員
 感染症はなによりもまず検査が重要だ。検査、隔離、診断、治療、この4層体制が最初からつながっていないことが日本の新型コロナウイルス対応の最大の失敗だ。
●無症状者をふまえた検査体制がない
 ダイヤモンド・プリンセス号の問題で、陽性になっても全く症状が出ない人が一定程度いることが明らかになった。インフルエンザなどで経験してきたこれまでの常識を変えるものだった。ところが、無症状者の存在をふまえた検査体制はその後も全く取られなかった。医療には「エビデンス・ベースド・メディスン」という言葉がある。証拠(データ)に基づいた医療という意味だ。ところが現在の政府のコロナ対策には、基礎となるデータが全く不十分だ。無症状者の把握も含めた広範な社会的検査をすることではじめて、対策の基礎となるデータが得られる。緊急事態宣言などで人の行動を縛ることにばかり意識が向き、感染症を扱う基礎が作られなかった。緊急事態宣言からワクチン接種にいたるまで、現状を把握する検査、つまりデータが無いままに政策を組み立てているため、感染が拡大するまで方針を決められない。対策を取っても、国民に理由を説明できず、国民と対話ができない。だからすべて後手後手になり、混乱する。
●感染症の研究体制がない
 なぜこうなっているのか。日本の公衆衛生は、明治時代の結核に対する隔離政策から始まった。戦後になって結核が減り、一方でハンセン病のように、医学上は不要なのに社会的に排除するために隔離した負の歴史があり、感染症の政策が空白になっていた部分がある。感染症はもう来ない、という前提のもとに1980年代末ごろから、感染症の病床は急激に削減された。そしてほとんどの大学で感染症が研究の中心から外れていく。日本で検査数が少ないのは、感染症に対しては検査が基本であるという基礎が忘れられてしまったからだ。感染症対策を立案するためには、もろもろの検査のデータを研究と結びつけなければならない。しかし、今の大学は必ずしもその役割を果たせていない。感染症は一般診療の問題とされ、研究のなかに占める割合が非常に小さくなっている。大学が新興・再興感染症の問題を研究する体制を再構築しなければならない。
●水際の検疫に問題
 水際の検疫にも問題がある。検査で陰性になれば隔離もされずそのまま市中に入る。しかし検査は完璧ではない。変異株の侵入を防ぐためには、陰性であっても一定期間、留め置くべきだ。また、現在、水際の検疫は抗原定量検査によって行っているが、変異株かどうかが迅速に分からない欠陥がある。PCR検査の利点は、遺伝子解析ができることであって、変異株が早く判明する。変異株対策についてはPCR検査で遺伝子的な特性を把握することが重要だ。そのうえで抗体検査も進め、遺伝子タイプによってワクチンの効果にどのような違いがあるかなども把握していく。これらによってはじめて、変異株を含めた感染の先行きを見通すことができる。また、最近は下水のコロナ検査も進んでおり、変異株も含めて地域的対応も可能となっている。
●伴走しない政治
 私は小児科医なので、特に強く感じるが、医師と患者の情報格差は非常に大きい。さらに政治が関わると裏付けになる情報はすべて政府が持っているにもかかわらず、国民に説明をしないことが起きる。
日本のコロナ対策の最大の問題点は、リテラシー(情報を入手、理解、評価して適切に意思決定できる力)が欠けていることだ。上から命令するばかりで「何が起きているから、どうしなければならず、だからどのように協力してほしい、行動してほしい」ということがない。以前は医療も、「医者の言うことを聞け」だった。しかし今は、医師は専門家であると同時に、患者と一緒に伴走することが大事だと変わってきている。しかし、政治はいまだに相変わらず、情報の差を利用して国民に言うことを聞かせようとしている。
●自分で判断を
 背後に命に関わる恐怖感があるだけに、このことには特に注意しなければならない。自分の健康に関わるため、かえって、しっかり考える前に流されてしまう。ワクチン接種について言えば、東京オリンピック・パラリンピックが開催されるから、あるいは集団免疫を作るため、みんなのため、さらに言えば国家のために接種しなければならないと思いがちだ。しかし、接種の判断は自分のために、自分でしてほしい。健康はその人にとって、最大、最高の主権だ。自分の命、自分の体のことは、可能な限り自分で理解したうえで決めてほしい。

*5-2:https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20220222/pol/00m/010/010000c (毎日新聞 2022年2月24日) 医療産業で二流三流になりつつある日本、吉田統彦・衆院議員
 コロナ禍で日本の医療体制に余裕がないことが国民にもよく理解されたと思う。私も提案したコロナ診療の診療報酬の引き上げは重要なことだ。しかし診療報酬の引き上げは患者負担につながる。それだけでは日本の医療を守ることはできない。
●ネックになるのは人材
 大切なのは人材面だ。日本の頭脳が海外に流出する流れを変えていかなければならない。一度海外に出た日本人がまた戻ってくる「ブレーンサーキュレーション」(頭脳循環)が大切だ。先日、世界のがん治療でトップに立つテキサス大学MDアンダーソンがんセンターの日本人教授と話をした。日本に帰って働きたい気持ちはある、収入は減ってもいいと言う。しかしあまりにも減るようでは日本には行けない、年収5000万円なら、と言う。しかし、今の仕組みでは日本の政府や公的研究機関では5000万円の報酬で彼を招聘(しょうへい)することはできない。優秀な研究者を巨額の資金をかけてでも国籍を問わず海外から集め、短期間ではなく一定期間、日本で研究してもらう必要がある。これは国が真剣に取り組まないとできることではない。もう一つは日本の大学の構造的な問題がある。私が在籍していた米ジョンズ・ホプキンズ大学では、内科や外科など臨床系の教室でも、主任教授の下に複数の教授が存在し、もちろん医師の教授もいるが、医師免許を持たない研究者の教授もいる。ところが日本の大学教授は医療もやりながら基礎研究もする。スーパーマンだけれども、限界がきている。日本の医療が基礎研究で海外の後塵(こうじん)を拝している理由はここにある。
●国立感染研は抜本的改革が必要
 国立感染症研究所は、疫学調査や検査をやることも大事だ。しかし国立の研究機関に国民が期待している役割は、やはりワクチン開発や治療方法の確立ではないか。今回のコロナ禍ではそこまでの力は全然なかった。国民の危機を守ることができるナショナルセンターに生まれ変わらせるべきだ。これは国の安全保障の問題だ。ここでも人材の問題がある。定員を増やすだけではだめだ。ワクチンの開発ができるような技術があり、さらに開発チームの指揮をとって完成させることができる人材が必要だ。感染研はそうした人材を雇える態勢にない。発想の転換が必要だ。よく例にあげられる米国の疾病対策センター(CDC)には、政府の委託委員会で、CDCにワクチンに関する意見具申をするACIP(ワクチン接種に関する諮問委員会)がある。民主党政権時代に構想があったが、このような組織も必要だ。
●日本の医療産業のプレゼンス
 国民はなぜコロナの国産ワクチンがこれほど遅れたのかと疑問に思っている。根本的な問題は、医薬品、医療機器産業における日本のプレゼンスの低下にある。たとえばペースメーカーの国産品はない。診断用の機器は、胃カメラで使う内視鏡など分野によっては日本のシェアが高いものがある。しかし、治療用の医療機器は本当に世界から遅れている。なぜこんなことになるのか。金属製ではない画期的な「溶ける」(生体吸収性)ステント(血管などを内側から広げる器具)を京都医療設計という京都の会社が開発した。これが日本より先にドイツで承認され、販売された。象徴的だが、技術はあるのに、日本では生産できない、販売できないという状況がずっとあった。これが日本の医薬品、医療機器の開発能力が落ちた理由だ。ワクチン開発についても「もうすでに時遅し」になりつつあるのかもしれないが、そうは言いたくない。産官学が一体になって医薬品、医療機器産業を盛り上げていかないと本当に手遅れになる。日本の医療は技術としては一流だ。しかし、医薬品や医療機器の産業としてはもう二流三流になっている。
●遺伝子医療で「遅れる」リスク
 自公政権は患者の窓口負担割合を増やして医療費を浮かそうとしている。しかし、遺伝子医療にかんしては非常に高額な薬が出てきている。脊髄(せきずい)性筋萎縮症(SMA)の遺伝子治療薬「ゾルゲンスマ」の薬価は1患者あたり1億円を超えた。しかし遺伝子治療は大学や公的研究機関で完結することが可能な分野でもある。自分たちで作って、自分たちの医療機関で使えば、高品質なものが相当、安価で使える可能性がある。そうしたことを認めなければ、どんどん遅れていく。これからの遺伝子医療については、遅れると結局、国民負担がますます増えていく。そしてそれを保険で見ていくと医療財政が破綻する。これは非常に大きなリスクだ。

*5-3:https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20220210/pol/00m/010/003000c (毎日新聞 2022年2月14日) 「問答無用」で扶養照会を強行した杉並区 誤った制度の運用はいつになれば根絶されるのか、稲葉剛・立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授
●「どうしてもやる」
 「扶養照会はどうしてもやらなくてはならない。やるのは違法じゃない。ただでお金もらっているわけじゃないんだから」。昨年7月、失職して生活に困窮したAさん(50代男性)は、住まいのある東京都杉並区で生活保護を申請した。地方に暮らす80代の両親に心配をかけたくないと考えたAさんは、区に扶養照会(福祉事務所が親族に援助の可否を問い合わせること)を実施しないことを書面で求める申出書を事前に用意して、申請時に提出しようとしたが、対応した複数の職員は書面の受け取りをかたくなに拒否したという。「申出書をひっこめないと保護申請の手続きは進められない」とまで言われたAさんは、書面の提出を諦めざるをえなかった。生活保護が決定した後も、Aさんは担当となったケースワーカーに、親族に連絡をしないでほしいと口頭で伝えたが、それに対しての返答は冒頭に書いた言葉であった。Aさんが抗議すると、担当者は「ただでお金もらっているわけじゃない」という部分については謝罪したが、後日、親族への照会はAさんの意向を押し切る形で強行されてしまった。
●親族への連絡を恐れ申請をためらう
 生活困窮者支援の現場では、扶養照会が生活保護利用にあたっての最大のハードルとなっていることが問題視されてきた。路上生活者支援の夜回りの活動では、80代以上の高齢者に出会うことも珍しくないが、その中には親族に連絡が行くことを怖れて生活保護の申請をためらっている人が少なくない。
せめて、本人の意向を無視して「問答無用」で役所が親族に連絡をしてしまうことを止められないか。そう考えた私たち支援関係者は、昨年、扶養照会の運用改善を求めるネット署名に取り組み、厚生労働省に対して2度にわたる申し入れをおこなった。
●申請者の意思を尊重する厚労省の通知
 その結果、昨年3月末、厚労省から各地方自治体に対して、照会の範囲を限定した上で、申請者本人の意思を尊重することを求める通知が発出された。通知には、照会の対象は「扶養義務の履行が期待できる」と判断される者に限ること、生活保護の申請者が親族への照会を拒んだ場合、その理由について特に丁寧に聞き取りを行い、照会をしなくてもよい場合にあたるかどうかを検討するように、という内容が盛り込まれている。以前から厚労省は、「概(おおむ)ね70歳以上の高齢者」は「扶養義務履行が期待できない者」として扱ってよいとの解釈を示してきた。Aさんは申請時に、80代の両親が老老介護の状態にあることを職員に伝えており、区も彼の両親が援助を見込める状況にないことを承知していたはずである。本人の意向を尊重することなく、80代の両親に照会文書を送りつけることは、厚生労働省が示している方針に二重の意味で背くことになる。それなのに、なぜ杉並区は「問答無用」の照会を強行したのだろうか。区の姿勢の背後にある構造的問題には、ぜひ第三者による検証のメスを入れてほしいと願っているが、私はそもそも杉並区の担当者が法律や制度を正確に理解できていないのではないかと疑っている。
●扶養は保護の「要件」ではない
 生活保護法によると、親族の扶養は保護に「優先」するとされている。「優先」とはわかりにくい言葉だが、実際に親族からの仕送りが行われた場合にその金額の分だけ保護費が減額される、という意味であり、扶養は保護の「要件」や「前提」となっているわけではない。なお、法律には親族への照会に関する規定はなく、扶養照会は厚労省の局長通知に基づいて実施されているに過ぎない。だが、杉並区など一部の自治体のホームページでは、扶養が生活保護の「要件」や「前提」であるかのような記載が散見される。杉並区の場合、わざわざ生活保護に関するQ&A方式のページを作り、「保護を受けるための要件はありますか」という質問に対して、「保護を受ける前提」として「親・きょうだい・子どもなど扶養義務者からできる限りの援助を受けるようにしてください」と回答している。親族による扶養が保護の「要件」や「前提」であるという誤った解釈を披露するQ&Aは、杉並区が法律に反した制度運用を続けていることの証左となっている。「要件」や「前提」であるから、扶養照会は本人の意思を無視してでも実施されるべきだと区は考えているのだろう。
●区によって異なる対応
 ちなみに同じ東京都の特別区でも、足立区のホームページでは「親・子・兄弟姉妹等(民法に定める扶養義務者)から援助が受けられる場合には、可能な限り援助を受けてください」との文言はあるが、その下には「扶養義務者が扶養しないことを理由に生活保護を受けられないということはありません。『扶養義務の履行が期待できない』と判断される扶養義務者には、基本的には扶養照会を行わない取扱いとしています」との説明も併記されている。また、「扶養義務の履行が期待できない者」の例も列挙しており、その中には「概ね70歳以上の高齢者など」という記載もある。どちらの自治体が、法律や厚労省の通知に沿って制度を運用しようとしているかは明白だろう。
●一方的な扶養照会に歯止めをかける都の通知
 本人の意向を無視して扶養照会を強行した杉並区に対して、私たち支援団体は2月4日、申し入れを行った。私たちはAさんご本人を交えて話し合いの場を設定することを求めたが、区はコロナの感染拡大の影響で多忙であることを口実にして、話し合いに応じなかったため、「抗議・要請書」を書面で提出できただけであった。だが、その後、私たちが申し入れをしたのと同じ日に、区を指導する立場にある東京都が、都内の各自治体の福祉事務所に対して「生活保護に係る扶養能力調査における留意事項について」という保護課長名の事務連絡を発出していたことが判明した。都の保護課長はその通知の中で、「要保護者が扶養照会を拒否する書面を提出するケースが見受けられます」と「申出書」に言及した上で、「扶養が保護適用の前提条件であるといった誤解を与えないよう」にとくぎを刺し、「要保護者が扶養照会を拒否する場合は、理由を確認し、照会を一旦保留し理解を得るよう努めてください」と、従来の都の方針を再確認している。東京都の通知が私たちの申し入れに反応したものであるかどうかは不明だが、このタイミングでの通知発出は事実上、杉並区のように「問答無用」で扶養照会を強行する自治体に対して歯止めをかける効果をもたらすものだ。
●「本当に屈辱的」
 Aさんは扶養照会を拒否したいという意向を示すために「申出書」を作成して役所に持参したが、生活保護の申請手続きを進めてもらうために「背に腹は代えられない」との思いで、書面の提出をあきらめざるをえなかった。生活保護の申請に恣意(しい)的な条件を課す区の対応は申請権を侵害するものだが、その時の心境をAさんは「本当に屈辱的でした」と語っている。杉並区のAさんに対する対応は、厚労省や東京都の方針に幾重にも背くものであり、何よりAさんの尊厳を著しく傷つけるものであった。残念ながら同様の対応は他自治体でも散見されており、職員から「親族への照会はさせてもらう」と言われて、制度の利用を断念させられた人も少なくない。国や都も表向きは否定する「問答無用」の扶養照会は、いつになったら根絶されるのだろうか。そもそも扶養照会という法律に基づかない仕組み自体が必要なのか、という点も含め、国会や地方議会での活発な議論を期待したい。

<核と戦争>
PS(2022年3月10日追加):琉球新報が、*6-1-1のように、「①プーチン大統領は、ウクライナ侵攻を始めた2月24日の演説で『ロシアは世界で最も強力な核保有国の一つで、わが国を攻撃すれば悲惨な結果を招く』とした」「②核兵器を使用すれば核による報復の応酬で世界は破滅に向かう」「③ロシアは、1994年にソ連崩壊後のウクライナに残った約1800の核兵器放棄と引き換えにウクライナの安全を保障するとする『ブダペスト覚書』に米国や英国と共に署名し、それを反故にした」「④核兵器は、使えば互いの破滅を招くので実際には使えない兵器」「⑤核兵器禁止条約で世界の核軍縮に道筋を付けることが大国の役割」等と記載している。
 このうち①については、「核戦力を持っているぞ、持っているぞ」と言わなければ抑止力にもならないため言うのだろうが、②の理由で、④のように核兵器は使えない兵器だ。NATOが経済制裁で留めているのも、ロシアを相手に第三次世界大戦を引き起こしたくないからである。そのため、③のような『覚書』をもう一度締結し、同時に⑤の核兵器禁止条約を世界で強化して、使えない核兵器を世界から無くすべきである。しかし、核兵器を積まないミサイルでも同じ効果が出ることは、*6-1-2のように、ロシア軍がチェルノブイリ原発・ザポロジエ原発を占拠したことで、誰の目にも明らかになった。原発の中には使用済核燃料や未使用核燃料として大量の核物質が存在し、戦闘で冷却システムが破壊されたり、管理せずに放置されたりすれば自然に爆発する。従って、原発を使いながら核兵器禁止条約を強化しても意味がないのだ。
 そのような中、*6-2-1のように、中国の王毅外相は、2022年3月7日、ウクライナ情勢に関して「⑥必要な時に国際社会とともに必要な仲裁をしたい」「⑦我々は公正な態度で問題を判断する」「⑧問題解決に必要なのは冷静さと理性で、火に油を注いで食い違いを激化させることではない」「⑨矛盾が大きいほど腰を据えて話さなければならず、中国は建設的な役割を果たしたい」「⑩ロシアとは互いに最も重要な隣国で戦略的パートナーだ」「⑪国際情勢が危うくなっても、中ロ双方は戦略的なコントロールを維持し、新時代の全面的戦略パートナーシップを前進させていく」と述べておられる。ウクライナ・ロシア双方と戦争状態にない国しか仲裁はできないため、中国のスタンスは重要だ。また、*6-2-2のように、2022年3月10日、G20の議長国を務めるインドネシアのジョコ大統領は、「⑫途上国の再エネ転換を支援する方策を主要議題にする考えを示し」「⑬ロシアのウクライナ侵攻に深い懸念を示して『主権と領土の一体性はすべての当事者に守られるべきだ』と強調し」「⑭制裁は最善の解決策にならず市民が犠牲になる」「⑮すべての国が緊張を緩和し事態のエスカレートを避けて交渉に集中するよう努めることが重要」「⑯ウクライナとロシアはインドネシアの友人」「⑰互いの利益、価値観、国際法を尊重すれば、良い関係が維持される」「⑱ウクライナ侵攻したロシアに停戦を呼びかけ、交渉による解決を促した」等としている。
 ウクライナのゼレンスキー大統領の与党は、2022年3月8日、*6-2-3のように「⑲北大西洋条約機構(NATO)への加盟を当面棚上げし、ロシアを含む周辺国と新たな安全保障の取り決めを結ぶ構想を明らかにした」ということであるため、これで十分かどうかはわからないが、G20やNATO諸国の支持があれば交渉による解決が近づきそうだ。


  2022.2.19毎日新聞   2022.3.1読売新聞 2022.3.1日経新聞 2022.3.10日経新聞

(図の説明:ウクライナを巡るロシアと米国の立場の違いは、1番左の図のとおりだ。また、核兵器に関するプーチン大統領の発言は左から2番目の図のとおりで、ロシアのウクライナ侵攻後、各国政府や企業は右から2番目の図のような対応をしている。そして、ウクライナ・ロシア間の戦闘が激しくなり、G20議長国インドネシアのジョコ大統領が、仲裁しようと、1番右の図の発言をしている)

*6-1-1:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1479619.html (琉球新報社説 2022年3月4日) ロシア核使用威嚇 国際社会は暴走阻止を
 ウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領が「核の脅し」を続けている。ひとたび核兵器を使用すれば核による報復の応酬となり、破局に向かう。国際社会が結束してプーチン氏の暴走を止めなければならない。交渉戦術であろうと核使用をちらつかせることは断じて認められない。北朝鮮の非核化が遠のくなど、核不拡散体制を機能不全に陥らせかねない。核廃絶の意志を世界が一致して示すことが必要だ。プーチン大統領はウクライナに侵攻を始めた2月24日の演説で「ロシアは世界で最も強力な核保有国の一つだ。わが国を攻撃すれば壊滅し、悲惨な結果になることに間違いない」と強調し、核戦力行使の可能性を示唆した。同27日には核兵器を運用する部隊を高い警戒態勢に置くよう軍部に命令した。ウクライナの隣国ベラルーシでも同27日に国民投票が行われ、核兵器を持たず中立を保つという条項を削除する憲法改正が賛成多数で承認された。これによってベラルーシにロシアの核兵器が配備される恐れが出ている。ロシアは1994年、ソ連崩壊後のウクライナに残った約1800の核兵器を同国が放棄するのと引き換えに、ウクライナの安全を保障するとした「ブダペスト覚書」に米国や英国と共に署名した。覚書は冷戦後の一連の核軍縮に大きく貢献する歴史的な意義があった。プーチン大統領によるウクライナへの侵攻と核による威嚇は国際合意の違反だ。非核化を受け入れたウクライナの決断を反故(ほご)にするものであり、断じて許されない。ストックホルム国際平和研究所によると、ロシアの核弾頭保有数は6255発で、米国の5550発を上回って世界最大だ。その核大国のトップが核戦力の行使を持ち出すことは、核保有国が核軍縮に取り組む義務を規定した核拡散防止条約(NPT)に逆行する暴挙である。核兵器は使われれば互いの破滅を招くため、実際には「使えない兵器」と言われる。米中ロ英仏の核保有五大国は1月に、「核戦争に勝者はおらず、決して戦ってはならない」とうたう画期的な共同声明を発表したばかりだ。昨年1月には核兵器禁止条約が発効している。世界の核軍縮に道筋を付けることこそが大国の果たすべき役割だ。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチは、ロシア軍が非人道的な兵器として知られるクラスター(集束)弾を使用したと発表している。殺傷能力の高い燃料気化爆弾を使用した可能性も指摘されている。一刻の猶予もない。ロシアは直ちに軍を撤退させるべきだ。日本でも右派の政治家が米国との「核共有」の議論を持ち出すなど、危機に便乗したような言動が出ている。被爆国の日本は核廃絶の流れを絶対に後退させてはならない。

*6-1-2:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6420515 (Yahoo、ロイター 2022/3/10) ロシア占拠のザポロジエ原発、核監視データ停止=IAEA
 国際原子力機関(IAEA)は9日、ロシア軍が占拠したウクライナ南東部のザポロジエ原子力発電所について、核物質監視システムからの通信が途絶えていると発表した。IAEAは前日、ウクライナ北部のチェルノブイリ原発についても、放射性廃棄物施設からのデータ送信が途絶えたと明らかにしている。IAEAは声明で「(グロッシ事務局長は)使用済み、もしくは未使用核燃料などの形で大量の核物質がある両原発からIAEA本部へのデータ送信が突然途絶えたことを懸念している」と述べた。原因は定かでなく、データ送信が止まった機器の状態は不明とした。ウクライナの他の原発からのデータ送信は続いているという。IAEAによると、ザポロジエ原発からの報告では、外部の高圧電線4本のうち2本が損傷し、現在使用できるのは2本になっている。必要なのは1本で、5本目が待機しているほか、バックアップのディーゼル発電機もあるという。また、原子炉1基の変圧器について、同原発一帯で戦闘が起きた今月4日以降に冷却システムに損傷が見つかり、緊急修理が行われているとした。

*6-2-1:https://digital.asahi.com/articles/ASQ376H8VQ37UHBI02V.html?iref=pc_rellink_01 (朝日新聞 2022年3月7日) 中国の王毅外相「必要な時に必要な仲裁したい」 ウクライナ情勢巡り
 中国の王毅(ワンイー)国務委員兼外相は7日、北京で開催中の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)にあわせて記者会見し、ウクライナ情勢に関して「必要な時に国際社会とともに必要な仲裁をしたい」と述べた。ロシアに近い中国の貢献を求める国際社会の声に押された形だが、具体的にどう導くかは言及しなかった。中国はロシアともウクライナとも良好な関係にあり、ロシアのウクライナ侵攻後、王氏は双方の外相と電話で協議している。中国は、現在もロシアの行動を「侵攻」とは認めていない。これに関して、王氏は「中国の立場は何度も明らかにしている。我々は公正な態度で問題を判断する」と従来の説明を繰り返した。そのうえで、「問題解決に必要なのは冷静さと理性であり、火に油を注いで食い違いを激化させることではない」と訴えた。ロシアとウクライナの和平交渉には期待を表明しつつ、「情勢が緊迫するほど和平交渉は必要で、矛盾が大きいほど腰を据えて話さなければならない。中国は建設的な役割を果たしたい」と語った。市民を避難させる「人道回廊」などの動きについては「人道主義の行動は必ず中立の原則を守り、政治問題にしてはならない。国連が人道支援で役割を果たすことを支持する」とした。ウクライナからの自国民の退避遅れが指摘されていた問題については、「習近平(シーチンピン)総書記自ら関心を寄せ、安全確保を何度も指示している。現地の大使館などが火中に入り、中国人が避難する道を開いた」と十分な対応をアピールした。一方、ロシアとの二国間関係については、「互いに最も重要な隣国であり、戦略的パートナーだ。我々の協力は世界の平和と安定にも有益だ」と強調。「国際情勢がいかに危うくなろうとも、中ロ双方は戦略的なコントロールを維持し、新時代の全面的戦略パートナーシップを前進させていく」と述べ、ウクライナ問題は中ロ関係に影響しないとの見方を示した。

*6-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220310&ng=DGKKZO58946800Q2A310C2MM8000 (日経新聞 2022.3.10) 侵攻のロシアに停戦要求 インドネシア大統領インタビュー、G20議長 エネ転換支援を議論
 インドネシアのジョコ大統領は日本経済新聞の単独インタビューに応じた。ウクライナを侵攻したロシアに停戦を呼びかけ、交渉による解決を促した。2022年の20カ国・地域(G20、総合2面きょうのことば)の議長国として途上国の再生可能エネルギーへの転換を支援する方策を主要議題にする考えを示した。インドネシアは東南アジアで唯一、日米欧の先進国に加え、ロシア、中国、インドなどの新興国を含むG20に名を連ね、22年に初の議長国を務める。ジョコ氏がG20の議長として外国メディアのインタビューに応じるのは初めて。ジョコ氏はロシアのウクライナ侵攻について深い懸念を示し「主権と領土の一体性はすべての当事者に守られるべきだ」と強調した。「すべての国が緊張を緩和し事態のエスカレートを避け、交渉に集中するよう努めることが重要だ」と指摘。「戦争はやめよ」と訴えた。インドネシアが国際社会の対ロシア制裁網に加わるかに関し「制裁は最善の解決策にならず、市民が犠牲になる」と否定的な考えを表明した。同国は22年を通じてG20議長国として秋にバリ島で予定する首脳会議(サミット)など首脳や閣僚レベルの関連会議を開く。ジョコ氏は「G20は経済協力(の枠組み)だ」とし、ウクライナ侵攻を踏まえ会議からロシアを締め出すことには現時点で慎重な姿勢を示した。ジョコ氏がロシアに厳しい制裁を科す米国や欧州などと一線を画す根底には「非同盟」を軸にする同国の外交方針がある。「ウクライナとロシアはインドネシアの友人だ」と強調した。G20サミットでは資金面での支援を中心に途上国に再生可能エネルギーへの転換を促す方策を議論したい考えを示した。「革新的な財政支援のメカニズムと技術移転の促進が極めて重要だ」と語った。インドネシアは60年に温暖化ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」の目標を掲げる。ジョコ氏は同国を含め多くの途上国が発電を石炭に依存している現状に言及し「もし国際社会の財政支援があれば60年より前に目標を達成できる」と述べた。新型コロナウイルスの感染拡大を受けた世界的な保健医療体制の強化もG20サミットの主要議題に据える。医療機器や医薬品、ワクチンの製造など保健のサプライチェーン(供給網)の構築をめざす。このほか途上国経済のデジタル化の支援を議論する方針だ。ジョコ氏はクーデターにより国軍が権力を掌握するミャンマーの情勢に関し、自身が主導した21年4月の東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳特別会議の5つの合意を履行するよう、国軍に促した。合意を実現しない状況が続けば、改めて首脳会議を開く可能性に言及した。米国を中心とする民主主義の国々と、中国やロシアなどの権威主義の国々による対立が激化する国際情勢に関し「競争や対立をしている時期ではない」と世界はコロナ対応に集中すべきだとの考えを示した。「互いの利益、価値観、国際法を尊重すれば、良い関係が維持される」と指摘した。中国が実効支配を進める南シナ海の情勢については「インドネシアは平和で安定した海であることしか望まない」と強調。当事者が国際法を守るよう求めた。インドネシア領ナトゥナ諸島周辺の排他的経済水域(EEZ)では中国公船が動きを活発化させ対立が強まっている。インタビューは日本経済新聞の井口哲也編集局長が西ジャワ州のパティンバン港近郊で実施した。同港は日本が約1200億円の円借款を供与し整備が進んでいる。

*6-2-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15228898.html (朝日新聞 2022年3月10日) NATO加盟、棚上げ案 ウクライナ与党が構想 地元報道
 ウクライナのゼレンスキー大統領の与党「国民のしもべ」は8日、声明を出し、北大西洋条約機構(NATO)への加盟を当面棚上げし、ロシアを含む周辺国と新たな安全保障の取り決めを結ぶ構想を明らかにした。地元メディア「ウクライナ・プラウダ」などが報じた。声明は「(NATOが)ウクライナを最低15年は受け入れる用意がないことは明白だ」と指摘し、NATO加盟までは「ウクライナの安全を完全に保障するしっかりとした取り決め」を、ロシアを含む周辺国や米国、トルコと結ぶ必要があると主張した。声明に先立ち、ゼレンスキー氏は米ABCのインタビューで「ずいぶん前にNATOがウクライナを受け入れる用意がないと理解し、この問題に冷静になっていた」と加盟を求めないことを示唆。「(NATOは)ロシアとのもめ事や対立を恐れている」とも述べた。

<日本外交の不手際>
PS(2022年3月11日追加): ロシアによるウクライナ侵攻について、*7-1のように、衆議院は2022年3月1日、参議院は同年3月2日、「①ロシア軍の行動は、明らかにウクライナの主権および領土の一体性を侵害している」「②欧州にとどまらず、アジアを含む国際社会の秩序の根幹を揺るがしかねない」「③最も強い言葉で非難する」という決議案を採択した。
 そこまではかっこよかったかもしれないが、ロシアのプーチン大統領は、2022年3月9日、*7-2のように、北方領土と千島列島に進出する企業に、20年間税金を減免する等の優遇措置を与える法律に署名し、日本政府は「④ロシア側がこのような制度の導入に踏み切ったことは遺憾だ」「⑤北方四島に関する日本の立場や首脳間の合意に基づき日ロ間で議論をしてきた北方四島における共同経済活動の趣旨と相いれない」という日本側の立場をロシア側に申し入れただけである。しかし、④⑤の「遺憾」は「期待どおりにならず残念だ」という意味でしかなく、「①②③を行った日本は、ロシア側の期待どおりにならなかったので報復したまでだ」とロシアに言われれば返す言葉がない。また、「日本側の立場をロシア側に申し入れた」と言うのも、「日本はそういう立場だが、私自身はそう思っていない」と解釈できるため、本当に北方領土返還を求めている言葉とは言えない。このように、日本は自国の領土問題に関して曖昧な言い方に終始し、「そこは、日本の領土だ」という明確な証拠を示すために必要な手続きも行わず、形式的な抗議や非難を繰り返しているだけなのだ。そのため、「日本の男性は甘やかされて育ち過ぎて、考えの甘い人が多い」と言わざるを得ない。
 なお、*7-3は、「⑥ロシア軍は、2022年2月1日~15日、北海道に面する日本海とオホーツク海南部で、潜水艦やミサイル観測支援艦を含む24隻のロシア艦艇が連動するように航行し、軍事演習した」「⑦昨年10月には、中ロ艦艇が計10隻で隊列を組み、津軽海峡を太平洋側へ抜けて鹿児島県の大隅海峡を通り東シナ海へ向かう日本列島を周回する航行をした」「⑧中ロ機が編隊を組んで尖閣諸島に向け南下し、ロシア国防省が国営メディアで中ロで東シナ海と日本海上空で共同警戒監視活動を行ったとした」としている。しかし、そもそも、⑥⑦のように、外国の艦艇が津軽海峡を抜けて日本列島の近くを周回できるままにしておくのが、不作為で無防備である。また、⑧の尖閣諸島も、日本政府は「領土問題はない」「力による現状変更に抗議する」「航行の自由作戦」としか言っておらず、日本の領土であるか否かは曖昧にしているため、世界が中ロの行為を妥当だと理解しても不思議ではない状態なのである。

*7-1:https://www.sankei.com/article/20220301-K653CGDIIJOK7E36VTI6FC3TFQ/ (産経新聞 2022/3/1) 衆院、ロシア非難決議を採択「最も強い言葉で非難」
 衆院は1日の本会議で、ロシアによるウクライナ侵攻について「最も強い言葉で非難する」との決議案を採択した。力による一方的な現状変更は認められないと強調し、ロシアに「即時に攻撃を停止し、部隊をロシア国内に撤収するよう」強く求めた。参院も2日の本会議で採択する。決議では、ロシア軍の行動を「明らかにウクライナの主権および領土の一体性を侵害している」と指摘。「欧州にとどまらず、アジアを含む国際社会の秩序の根幹を揺るがしかねない」と懸念を示した。政府には、制裁を含む迅速で厳格な対応によりウクライナの平和を取り戻すよう要請した。衆院でウクライナ情勢をめぐる決議を採択したのは2度目。2月8日の前回は、ロシアがウクライナ国境周辺に大規模な部隊を結集させた段階で採択したため、ロシアを名指しで非難していなかった。

*7-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15230124.html (朝日新聞 2022年3月11日) 北方領土進出企業を優遇 ロシアが新法、日本政府反発
 ロシアのプーチン大統領は9日、極東のクリル諸島(北方領土と千島列島のロシア側呼称)に進出する企業などに、税金を20年間減免するなどの優遇措置を与える法律に署名した。ウクライナ侵攻をめぐり米欧や日本が厳しい経済制裁を科すなか、極東に国内外の投資を呼び込む狙いだ。ただ、日本政府は「遺憾だ」と反発している。対象は2022年1月以降、同諸島に進出した企業など。法人税や固定資産税の免除などが含まれる。プーチン氏が昨年9月、ウラジオストクで開かれた「東方経済フォーラム」で発表していた。当初、優遇措置は10年間としていたが、その後、20年間に延ばした。これに対し、松野博一官房長官は10日の記者会見で、ロシアの北方領土での税制優遇措置について「ロシア側がこのような制度の導入に踏み切ったことは遺憾だ」と批判した。松野氏は「北方四島に関する日本の立場や首脳間の合意に基づき日ロ間で議論をしてきた北方四島における共同経済活動の趣旨と相いれない」と主張。こうした日本側の立場について、あらためてロシア側に申し入れたと明らかにした。

*7-3:https://digital.asahi.com/articles/ASQ385VTNQ31UTIL05N.html?iref=pc_extlink (朝日新聞 2022年3月9日) ロシア軍が日本周辺でも 中国と歩調合わせ、防衛省内「不気味」
 ウクライナに侵攻したロシア軍は近年、日本周辺でも活動の活発化が確認されている。海洋進出を強める中国と歩調を合わせるような動きも目立ち、自衛隊が警戒している。今月1日。ウクライナ侵攻について、岸信夫防衛相は会見で「アジアを含む国際秩序の根幹を揺るがす行為であって、明白な国際法違反」と非難し、こう述べた。「我が国の安全保障の観点からも決して看過できない」。日本周辺でのロシア軍の異例の動きは、ウクライナ侵攻開始の直前にも確認された。2月1日~15日、北海道に面する日本海とオホーツク海南部で、24隻ものロシア艦艇が連動するように航行。軍事演習の一環とみられ、潜水艦やミサイル観測支援艦も含まれていた。ミサイル発射訓練が行われた可能性もある。岸防衛相は「異例」「ウクライナ周辺における動きと呼応する形で、東西で活動しうる能力を誇示するため活動を活発化させている」と指摘。自衛隊の哨戒機などが警戒に当たった。近年、日本周辺での動きが活発化しており、目立つのは、東シナ海や南シナ海で海洋進出を強める中国と歩調を合わせた動きだ。昨年10月には、中ロ艦艇が計10隻で隊列を組み、日本列島をぐるりと周回するような「異様」(政府関係者)な航行が確認された。津軽海峡を太平洋側へ抜け、鹿児島県の大隅海峡を通り東シナ海へ向かうルートだった。東シナ海には中国の公船が領海侵入を繰り返す尖閣諸島もある。岸防衛相は「我が国に対する示威活動を意図したもの」と非難。防衛省内では「不気味」「挑発だ」との声が漏れた。2019年夏には上空で緊張が走った。7月23日、島根県の竹島上空付近でロシア機と中国機が合流し、ロシア機が日本領空を侵犯。竹島を実効支配する韓国の戦闘機が、約360発の警告射撃を行った。中ロ機はそのまま編隊を組み尖閣諸島に向け南下。自衛隊機が緊急発進し警戒する中、尖閣の領空直前で二手に分かれ、去っていった。ロシア国防省はすぐに国営メディアを通じ、中ロで東シナ海と日本海の上空で初の共同警戒監視活動を行ったと明かした。同様の飛行は20年12月、21年11月にも確認されている。
●ロシア軍、規模感は?
 軍事大国とも言われるロシアの軍とはどんなものなのか。スウェーデンのストックホルム国際平和研究所の推計では、2020年度のロシアの軍事費の推計額は約617億ドル(約7兆円)で米中インドに次ぐ世界4位。核弾頭の保有数は米国(約5800発)を上回る世界最多の6375発に上る。日本の防衛白書によると、軍の総兵力は約90万人。国全体を四分割して管轄しており、日本に面する極東地域を管轄する「東部軍管区」の司令部は、札幌市の北西約800キロのハバロフスクにある。同管区の核戦力には、オホーツク海を中心に配置されている潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を搭載した潜水艦3隻や、約30機の爆撃機(TU95)がある。陸海空の戦力ごとに見ると、陸上戦力は約8万人で、変則的な軌道で飛翔(ひしょう)し迎撃が難しいとされる地上発射の短距離弾道ミサイル「イスカンデル」などの新型装備を保有。海上戦力はウラジオストクなどを拠点に主要艦艇約20隻、潜水艦約20隻を含む計約260隻が、航空戦力は戦闘機など約320機が配備されている。部隊は返還交渉中の北方領土にもあり、防衛省の資料によると、択捉、国後両島に約3500人を配置。ミサイル、戦車、戦闘機などが置かれ、地上から艦艇を狙うミサイル「バスチオン(要塞〈ようさい〉)」には、オホーツク海での原潜の活動を担保する役割があるとされる。ロシア軍の動向に詳しい小川和久・静岡県立大特任教授(安全保障)は、オホーツク海に連日、ロシアの原潜の情報をつかもうと米軍機が飛行し、ロシア軍が緊急発進を繰り返していると指摘し、「日本は米軍の戦略的な拠点で、当事国の一つと認識せざるを得ない」と話した。

<経済制裁はやはり戦争である>
PS(2022年3月12日追加):「①衣服は生活必需品」「②ロシアは日本のすぐそばなのに、ロシアの人が日本に悪感情を持つのはよいことか」として、3月4日時点で事業を継続する方針だったファーストリテイリングは、*8-1のように、50店を展開するロシア事業の一時停止を決めた。しかし、私は、①②とともに、「独立自尊の商人」とする柳井社長の見解は正しいと思うし、ファーストリテイリングの大損害に同情する。また、これに先立って、ファーストリテイリングは、*8-4のように、中国がウイグル族に対して強制労働や強制避妊させた「人道に対する罪」の隠匿の疑いでフランス当局の捜査も受け、「取引先の縫製・紡績工場では強制労働がなく人権が守られていると確認した綿のみを使っている」と説明していた。そのため、捜査の結果がどうだったかを是非知りたい。何故なら、これは、アフガニスタンと同様、女性には大した教育もせず、保護すると称して家に閉じ込め、多くの子どもを産ませるイスラム教に対する中国の過渡期の政策であり、日本における優性保護法による強制避妊とは異質だと思うからである。
 なお、このジェノサイド(集団殺害)や人権侵害という言葉は、*8-3のように、ロシアのウクライナ侵攻の理由としても使われたが、そう主張する根拠については、国際司法裁判所に提訴するのが筋であり、制裁や戦争という圧力で決めることではない。しかし、国際司法裁判所の使い勝手の悪さや公平性・公正性・強制力への疑問は残る。また、国の独立宣言は、独立される側の国が認めることは滅多にないため、独立する国が一方的に行うのが普通だが、ウクライナもそうやってロシアから独立したのではないだろうか?
 このようにして、制裁と武力行使が行われた結果、ロシア政府は、*8-2のように、「①ロシアから撤退する外資系企業の資産を差し押さえ」「②非友好国の資本が25%超などの企業を対象として外部から管理し」「③接収後、ロシア寄りの経営者に事業を委ねる」ことも想定して検討中だそうだ。しかし、ロシアのデフォルトを目的として行っている制裁もまた戦争の一つであるため、平時の国際法が通用しそうにはない。そのため、「非友好国」の民間企業は、資本が25%以下になるよう対応を迫られるわけだが、例えば、ファーストリテイリングの場合なら、i)ロシア国内の従業員に75%以上の株式を売却してロシア事業の独立性を高める ii)「友好国(例えば中国)」の子会社に75%以上の株式を持たせる などの選択肢があり、臨時株主総会を開いて対応を決定すればよい。グローバル企業は、現地でローカライズしてその国の優秀な人を雇用すれば、さらに多様な製品を作り出すことができ、出てきたアイデアを逆輸入することによって日本の製品も豊かにすることができるので、ローカライズした方がプラスになる場合が多い。

    
2022.3.1毎日新聞 2022.2.24日経新聞 2022.3.4西日本新聞 2022.3.12日経新聞

(図の説明:1番左の図のように、ロシアへの経済制裁はロシアのデフォルトを目的として行われており、左から2番目の図が、ロシアの「非友好国」が行っている対ロ制裁だ。そして、右から2番目の図のように、日本企業はロシアの「非友好国」として対応しており、「営業を継続する」としていたファーストリテイリングも変更を余儀なくされた。そのため、ロシアは1番右の図のような対抗措置を行いそうである)

*8-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220312&ng=DGKKZO59020360R10C22A3EA5000 (日経新聞 2022.3.12) ユニクロ、世界の目厳しく ロシア事業一時停止へ転換、政治・ビジネス不可分に
 ファーストリテイリングは「ユニクロ」50店を展開するロシア事業の一時停止を決めた。「衣服は生活必需品」(柳井正会長兼社長)との考えのもと、当初はロシア事業を継続する方針だった。しかしウクライナ情勢が混迷を深め、国際社会でロシアへの批判が強まるなか、修正を余儀なくされた形だ。「企業はそれぞれだと思う。そこに消費者がいる以上はサービスを提供する。当社がアップルのように米国企業ならすぐ止めるかもしれない。でもロシアは日本のすぐそば。ロシアの人々が日本に悪感情を持つことがいいことなのか」。柳井氏は2日に日本経済新聞の取材に応じ、ロシア事業を続ける意義についてこう語っていた。だが方針は一転し、21日から全50店と電子商取引(EC)サイトを休止することを決めた。ウクライナに侵攻したロシアに対して国際社会の批判は強まっている。ファストリの事業継続を巡る反応も、柳井氏の想像以上に厳しかった。駐日ウクライナ大使はユニクロのロシア営業継続方針について「残念だ」と名指しで批判していた。海外でも批判的な受け止めが多く、不買運動の動きも出ていた。休止決定後、米国のラーム・エマニュエル駐日大使はツイッターに「さすがファーストリテイリングとユニクロ、ロシアに英断を下しました。また一つの大企業が私たちとともに立ち向かっています。次に続くのは誰でしょう?」と投稿した。ファストリの2021年8月期の欧州事業の売上高は約1100億円。欧州の全117店のうちロシアは4割超を占め、欧州最大の店舗もモスクワにある。期待の成長市場だったことも、ファストリの事業継続の判断の背景にはあったようだ。しかし、侵攻開始から2週間以上がたち、ロシア軍は病院といった民間施設にまで攻撃を強めている。「一般のロシア国民の生活を助けるということが理解を得られなくなっている」(ファストリ関係者)。社内でも事業継続のリスクやレピュテーション(評判)リスクについて急速に議論が進み、社外取締役などから方針転換を求める声が出ていた。「独立自尊の商人」。柳井氏は自らをこう表現する。21年秋の会見では「自らの信念と現実が違っていたら、勇気を持ってそれは違うと言わないといけない」と強調した。「安易に政治的立場に便乗することはビジネスの死を意味する。これが商人としての私の信念」と語っていた。柳井氏は衣服は生活必需品との考えのもと、周囲の批判にも屈せず店を開け続けることを重視している。11年の東日本大震災では電力不足からの節電要請があっても、売り場の照明は落とさずに営業を継続した。また、20年春の新型コロナウイルスの緊急事態宣言下では多くの企業が営業自粛する中、商業施設に入るテナント店以外の自前店舗を開け続け、コロナ禍中に旗艦店も新規開業した。当時、多くの消費者はこうしたユニクロの行動を支持した。今回、「ロシアの人々にも生活する権利がある」(柳井氏)としたことは、これまでの姿勢とも一貫するものだ。ただ、政治とビジネスは不可分の関係になっている。欧米では企業やスポーツ選手も政治的なスタンスを示すことが当たり前だ。中立の立場を示しても、曖昧な姿勢ととられかねず逆に批判も受けやすい。ファストリは海外での売り上げが国内を上回る日本の小売業ではまれな存在だ。ファストリもウクライナに対しては、約11億5000万円と衣料品約20万点の寄付という日本企業で最大規模の支援を打ち出している。だが、ロシアでの事業継続ばかりが目立ち、評価する声は少ない。柳井氏の信念が世界には通じなかった格好だ。今回のユニクロの動きには、多くの日本企業にとって教訓が含まれている。

*8-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220312&ng=DGKKZO59029290S2A310C2EA2000 (日経新聞 2022.3.12) 対ロ経済封鎖、企業に試練、ロシア政府「撤退なら資産接収」 協定違反、法廷闘争も
 ロシア政府は、同国から撤退する外資系企業などの資産を差し押さえる検討を始めた。企業の撤退の動きを抑え、日米欧による経済制裁の影響を緩和する狙いだ。国際的な投資協定(きょうのことば)違反とみられる強硬策で、法廷闘争に発展する可能性もある。ロシアに進出する世界の企業は試練に直面する。ロシア政府は、ロシアでの事業停止や撤退を判断した外資系企業の資産を差し押さえるなどの草案を作成。プーチン大統領は政府幹部とのテレビ会議で「(事業を閉じる企業を)外部から管理」と発言した。現地報道によると「非友好国」の資本が25%超などの企業を対象とすることを検討中という。接収後にロシア寄りの経営者に事業を委ねることも想定される。ロシアは外資系企業の締め付けを急速に進める。3月に入り大統領令で1万米ドル超の外貨の国外持ち出しを禁じ、国内の保有資産の売却も制限。いずれも同国からの撤退を防ぐ狙いとみられる。資産接収策の検討は、その決定打ともいえる。既に英BPやシェル、米エクソンモービルなど多くの欧米企業がいち早くロシア事業からの撤退などを表明している。日本企業も事業見直しの検討を進めており、ソニーグループは映画やゲームなどロシアの全事業を停止した。ソニーは、ロシア政府が資産接収策を検討していることについて「コメントを控える」とした。事業の停止や撤退は難路が予想される。まず直面するのは合弁の解消などを巡って起こりうるロシア企業との訴訟リスクだ。こうしたビジネス紛争に備え、国際的な企業契約では公正を期すために第三国での国際仲裁で解決すると定めることが多い。だがロシアは2020年に民事訴訟法を改正。「制裁対象になっている場合などでは、契約の内容にかかわらずロシアの裁判所で紛争を解決しなければならなくなった」(小原淳見弁護士)。ロシア裁判所の判事は国家公務員で、外国企業に不利な判断が出る懸念がある。撤退に関する企業間の交渉が円滑に進んだとしても、ロシア政府が資産を接収する恐れがある。資産接収は、日ロ両国が相互の企業や投資財産を保護するために締結している「投資協定」に違反する可能性が高い。同協定の5条は投資家(企業)の財産に関し「補償を伴う場合を除き収用もしくは国有化の対象としてはならない」などと定めている。藤井康次郎弁護士は「協定違反の場合、日本企業はロシア政府を訴えることができる」と指摘する。この場合は米国など第三国での「投資仲裁」の手続きで争うことになるが、ロシア側の反論などで決着まで難航する可能性もある。企業は難しい判断を迫られる。政府と対立したまま撤退すれば、大きな損失を被るだけでなく将来の事業機会まで失う恐れもある。他方で事業を続ければ投資家や消費者の反発などを受け、企業の評判が落ちることも懸念される。ロシアの強硬姿勢は同国のカントリーリスクを高め、日米欧の企業を遠ざけることにつながりそうだ。ある大手商社は「民間企業の資産接収が進めば中長期的にロシア事業の大きなリスクとなる」と警戒している。対ロ投資が激減することも予想される。

*8-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220312&ng=DGKKZO59028000R10C22A3EA3000 (日経新聞 2022.3.12) 「住民保護のため」ロシアの常套句、08年ジョージア、14年クリミアでも 周辺国、危機感強める
 ロシアがウクライナ侵攻の口実に「住民保護」を掲げたことへの批判が国際社会で高まってきた。ロシア系住民を守るという理屈は2008年のジョージア(グルジア)紛争や14年のクリミア併合でも用いたが、その根拠は乏しい。ロシア系を多く抱える周辺国は懸念を強める。「特別作戦の目的は8年以上にわたりキエフ政権から大量虐殺を受けている人々を守ることだ」。ウクライナへの侵攻を始めた2月24日、ロシアのネベンジャ国連大使は国連安全保障理事会の会合でこう訴えた。人々とはロシアが一方的に独立を承認した「ルガンスク人民共和国」と「ドネツク人民共和国」に住むロシア系住民を指す。ウクライナ東部にあるルガンスク、ドネツク両州の親ロシア派が事実上支配してきた地域だ。慶大の広瀬陽子教授によると、両地域の住民の2割程度はロシアのパスポートを保有しているという。ロシアは19年、住民がロシアのパスポートを簡単に取得できるようにする措置を導入して地ならしを進めた。ブリンケン米国務長官は3月1日の国連人権理事会で「攻撃を無理やり正当化しようとするロシアの試みを拒否しなければならない」と述べた。神戸大の坂元茂樹名誉教授は「ロシアが主張する虐殺の事実は確認されておらず、武力行使は国際法違反だ」と断じる。ジェノサイド(集団殺害)があったとするロシアの主張にウクライナは全面的に反論しており、国際司法裁判所(ICJ)に提訴した。3月7日に始まった審理をロシアは欠席した。周辺国への軍事介入の際に住民保護を名目にするのはロシアの常套(じょうとう)手段だ。08年のジョージア紛争は同国領内の南オセチア、アブハジアの分離独立を主張する親ロシア勢力とジョージア政府が対立した。ロシアは「自国民保護」を打ち出して軍事介入し、南オセチアなど2地域を支援して独立を一方的に承認した。広瀬氏によるとロシアは南オセチアとアブハジアの住民にパスポートを付与し、08年時点で90%近くの住民が保有していたという。ロシアは14年、ロシア系住民が過半数を占めるウクライナ領クリミア半島に軍事介入した際も住民保護を掲げた。ロシアの圧力のもとで実施された住民投票を経て一方的に併合した。国際法上、自国民を保護するための自衛権に基づく武力行使は場合によっては容認される余地がある。日本政府も「ほかの救済手段がないような極めて例外的な場合」などを条件に認められる可能性はあるとの見解を示す。14年5月の参院外交防衛委員会で当時の外務省国際法局長が「保護、救出するために必要最小限度の実力を行使することが自衛権の行使として国際法上は認められることがあり得る」と答えた。ロシアは根拠に乏しいにもかかわらず国際法の論理を歪曲(わいきょく)して用い、正当な行為であるかのように強弁してきた。ロシアが住民保護を名目に武力によって国境変更を試みようとするのを周辺国は警戒する。旧ソ連の支配下にあった東欧や中央アジア諸国には主にロシア語を話したり、自らをロシア人と認識したりするロシア系住民が多く住む。バルト3国のエストニア、ラトビアはいずれもロシア系住民が2割強に上る。中央アジアに位置するカザフスタンは19%を占める。広瀬氏は「こういった国々ではロシアからの侵攻に対する恐怖が潜在的にある」と指摘する。バルト3国が携行型のミサイルを供与するなどウクライナ支援に乗り出しているのはこうした認識が背景にある。ロシアは住民保護に加え、ウクライナ侵攻は「ルガンスク人民共和国」と「ドネツク人民共和国」への集団的自衛権の発動との主張も展開している。ネベンジャ大使は国連安保理会合で両共和国から軍事支援の要請を受けたと説明し「(個別的・集団的自衛権を容認する)国連憲章51条に基づき決定した」と強調した。

*8-4:https://news.yahoo.co.jp/articles/986cf5be8d6a5ef5098604b7e1e180e56d068480 (Yahoo 2021/7/1) 仏当局、ユニクロなど捜査 新疆強制労働で利益と告発
 中国新疆ウイグル自治区での人権問題を巡り、フランス当局は、人道に対する罪の隠匿の疑いで、衣料品店「ユニクロ」のフランス法人を含む衣料・スポーツ靴大手の4社の捜査を始めた。フランスメディアが1日報じた。ニュースサイト、メディアパルトによると、中国の少数民族ウイグル族に対する強制労働など人権抑圧に関するフランス当局の捜査は初めて。捜査は6月末に始まった。ユニクロを展開するファーストリテイリングは、取引先の縫製・紡績工場では強制労働がなく人権が守られていると確認した綿のみを使っていると説明している。

<原発に対する地元の意識>
PS(2022年3月13、19、30日追加):佐賀新聞は、*9-1のように、「①ロシア軍のチェルノブイリ原発占拠やザポロジエ原発・核関連施設への攻撃により」「②フクイチ事故から11年後の3月11日に、原発の巨大リスクを再認識し、脱原発への歩みを速める機会としたい」「③大量の冷却水が必要な原発が直面する災害リスクも外部電源喪失の危険度が大きくなる一方だ」「④戦争や災害で原発が止まれば、膨大な量の電力が一挙に失われ、原発依存は電力の安定供給上も大きなリスクがある」「⑤これが戦時に原発が標的となる理由の一つで」「日本の場合は燃料のウラン資源が海外依存」としており、完全に賛成だ。
 また、「⑥再エネや蓄電池の価格は急激に低下しているため」「⑦今ある技術を最大限駆使して、国産資源である太陽光や風力、地熱などの再生可能エネルギーを増やして省エネを進めることが答えで」「⑧政策決定者は、今こそ勇気を持って政策の大転換に取り組まねばならない」としているのもそのとおりであり、これが玄海原発地元の新聞に記載されているのだということを、岸田首相は認識して欲しい。なお、これに先立ち、佐賀新聞は、佐賀県内21市町の首長にアンケート調査を行って下の左図のような回答を得ており、福井県・新潟県・福島県の首長がどう考えているかは興味深い。
 *9-2は、「①日本政府は、ロシア軍のウクライナ原発攻撃で、原発の安全を確保するため自衛隊の迎撃ミサイル配備や平時からの警護を検討する」と記載している。しかし、「②原発がミサイルなどで武力攻撃を受けた場合はどうするのか」という質問は、衆議院議員時代の2006年に、私が、九電・経産省・防衛省を招いて行った自民党の部会で既に行い、その時、九電は「③民間企業は対応できません」と言い、防衛省は「④すべてのミサイルを撃ち落とすことはできない」と言ったのである。そのため、それから16年経過した今でも「⑤日本の原発の安全対策は地震・津波などの自然災害とテロ対策に軸足を置いてきた」「⑥2国間の紛争による武力攻撃は想定していないので対策を要求していない」などと言い、「⑦原油・LNGの価格高騰で原発は火力発電を補完する選択肢の一つになる」としてリスクに目をつぶり、屁理屈を付けて原発を再稼働させ、当時より進歩したミサイル(敵は馬鹿ではない)を「自衛隊で護れる」などと言っているのは許せない。これでは「歴史は繰り返す」という言葉が真実になってしまうだろう。
 さらに、*9-3のように、「自衛隊が原発を守るには、原発周辺に陸自の駐屯地を作ることも検討課題だ」等と言っている人もいるが、そうすると「軍事施設を狙う」と言って遠慮なく原発周辺を攻撃できるため、リスクが高まる。つまり、原発や核の出る幕はもうないのだ。
 2022年3月30日、全国知事会の平井会長が、*9-4のように、首相官邸で磯崎官房副長官に原発へのミサイル攻撃対策強化を要請し、磯崎官房副長官は「自衛隊以外にも警察・海上保安庁とも連携して対策をとる」と説明されたそうだが、日本の自衛隊はミサイルを100%撃ち落とすことはできず、サイバー攻撃にも対応しておらず、ましてや警察や海上保安庁がミサイル攻撃に対応できるわけがないため、日本が原発にこれ以上の資金を投入するのは、自己満足のための無駄遣いの上積みにすぎない。

   
 2022.3.12佐賀新聞    EwaveTokyo      2021.11.8東京新聞

(図の説明:左図のように、佐賀県21市町の首長で原発の運転継続に賛成なのは玄海町長のみで、「条件付で賛成しながらも、将来的には廃止」を望む人が最も多く、最終処分場を受け入れる考えのある人はいない。中央の図は、半径100kmで描いた原発影響区域で、日本の多くの地域をカバーしているが、原発の多い福井県・福島県は特に色が濃くなっている。仮に原発を攻撃するとすれば、風向きや地形を考えながら効果的に行うだろうが、日本には甚大な被害を及ぼす。右図は、フクイチ事故後10年半が経過した2021年11月における山の恵みの汚染状況だ)

*9-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/823421 (佐賀新聞 2022.3.12) 原発事故から11年、リスクを再認識しよう
 ロシア軍によるウクライナの原発や核関連施設への攻撃、チェルノブイリ原発の占拠という異常事態が伝えられる中、東京電力福島第1原発事故から11年の3月11日を迎えた。人類史上初めて、多数の原発が稼働する国が本格的な戦場となり、原発が標的となった。原発が広範囲かつ長期間の放射性物質の汚染を引き起こすリスクは津波以外にも多い。11年後のこの日を、原発の巨大なリスクを再認識し、脱原発への歩みを速める機会としたい。事故後、原発が抱えるリスクは果たして小さくなっただろうか。答えは否だ。政情が不安定な中東で原発建設が進んでいる。ロシアの所業は原発が容易に戦闘の標的となることを明確にした。制圧されたザポロジエ原発は欧州最大級で大事故への懸念は大きい。建設コストの高騰で先進国の原発産業が衰退する中、新規の建設はロシアと中国が中心だ。いずれも平和利用に重要な「民主・公開」の原則とはほど遠い国だ。深刻な事故の際に、国際社会に迅速かつ十分な情報が提供されるとは思えない。ここ数年、気候危機が深刻化し、高潮や暴風雨、干ばつといった自然災害の規模が拡大している。沿岸や川沿いに立地することが多く、大量の冷却水の安定的な確保が必要な原発が直面する災害リスクも、外部電源喪失の危険度も大きくなる一方だ。戦争や災害で原発が止まれば、膨大な量の電力が一挙に失われるので、原発依存は電力の安定供給上も大きなリスクだ。11年前、多くの人が突然の計画停電で大きな影響を受けたことを忘れてはいけない。そして、これが戦時に敵国の原発が標的となる理由の一つだ。ウクライナ危機の中、天然ガスなど海外からの化石燃料の高騰が日本経済に大きな影響を与えている。エネルギー安全保障の観点からも、気候危機への対応からも、輸入化石燃料への依存度を下げることも急務だ。ここで聞こえてくるのが「脱炭素、脱化石燃料には原発が不可欠だ」という議論だ。だが、この間、気候危機対策としての原発の重要度は小さくなるばかりだ。福島事故の影響もあって、原発の建設コストは膨れあがり、工期も延びている。一方で、再生可能エネルギーや蓄電池の価格は急激に低下した。産業革命以降の気温上昇を1・5度に抑え、気候危機の影響を可能な限り小さくするためには2030年までに温室効果ガスの排出を大幅に減らすことが必要なのだが、この点への原発の貢献度は小さい。しかも日本の場合、燃料のウラン資源は海外依存だ。不安定化する世界と深刻化する気候危機の中、日本は多くのエネルギー問題に直面している。対応は急務だが、それは高価で高リスクの原発の再稼働や、化石燃料関連産業への補助金などといった安直な対策でも、アンモニアや水素といった未知の新技術への投資によっても解決できない。今ある技術を最大限駆使して、国産資源である太陽光や風力、地熱などの再生可能エネルギーを増やし、省エネを進めることが答えだ。日本ではこの11年間、既得権益に配慮する旧態依然としたエネルギー政策が続いてきた。政策決定者は今こそ、勇気を持って政策の大転換に取り組まねばならない。

*9-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA116HC0R10C22A3000000/ (日経新聞 2022年3月18日) 原発防衛に軍事攻撃も想定 政府、自衛隊活用を検討
 政府は原子力発電所の安全を確保するため、自衛隊を活用した迎撃ミサイルの配備や平時からの警護といった対策を検討する。ロシア軍によるウクライナ侵攻で、原発への国家による軍事攻撃が現実の脅威となったためだ。国家安全保障戦略など年内に改定する文書に反映する。日本の原発の安全対策は地震や津波などの自然災害とテロ対策に軸足を置いてきた。2013年に決定した現行の国家安保戦略は原発が他国軍から攻撃される場合の記述がない。「国際テロ対策の強化」に関する項目で「原子力関連施設の安全確保」に言及しているだけだ。原子力規制委員会の更田豊志委員長は原発の安全審査について「2国間の紛争による武力攻撃は想定していないので対策を要求していない」と説明する。国際人道法の一つであるジュネーブ条約第1追加議定書が原発への攻撃を禁止していたことが背景にある。ロシアによるウクライナ侵攻では国際法に反する原発攻撃が起こり得ると明らかになった。ウクライナ政府はロシア軍が4日に欧州最大級のザポロジエ原発を砲撃したと公表した。原子炉への被害はなかったが、原発は周辺の送電網や配管が損傷しただけでも重大事故が生じる恐れがある。原発が立地する福井県の杉本達治知事は8日、防衛省で岸信夫防衛相に会い、原発防衛に関する要望書を渡した。ミサイルの迎撃態勢に万全を期すことを求め、原発が集中立地する同県嶺南地域への自衛隊配備も要請した。岸田文雄首相は16日の記者会見で原発の防衛策について問われ「防衛力の強化が十分なのかを検討していく。国家安保戦略をはじめとする文書の見直しの中で具体的に考えていく」と言明した。国家安保戦略と同時に改定する防衛計画の大綱や中期防衛力整備計画に外国軍からの原発攻撃を想定した自衛隊の防衛体制を盛り込む方向だ。ウクライナ侵攻による原油や液化天然ガス(LNG)の価格高騰で、原発は火力発電を補完する選択肢の一つになる。絶対条件となる安全確保を強化する。懸念する事態の一つは弾道ミサイルや巡航ミサイルによる攻撃だ。飛来するミサイルを撃ち落とす地対空誘導弾パトリオットミサイル(PAC3)部隊を原発周辺に配備するなどの案が選択肢になる。相手のミサイル発射拠点をたたく「敵基地攻撃能力」の保有に関する議論も原発防衛につながる。中国や北朝鮮が開発を進める極超音速ミサイルは迎撃が難しく、反撃する能力を備えることが抑止になりえる。政府・自民党内には武力攻撃を受ける前段階の平時から自衛隊が警護する案もある。外国軍が原発施設に侵攻してから離れた場所で待機する陸上自衛隊が出動したのでは時間を要し、その前に制圧されかねない。現在も警察と自衛隊の共同訓練はあるものの、警察が対処しきれない重武装のテロリストが攻撃してきた場合などに限った出動を念頭に置く。こうした「治安出動」は政府内や都道府県との間で手続きも必要になる。自民党は13年、国会承認なしで自衛隊が動ける「警護出動」の対象に原子力関連施設を加える法改正を検討したことがある。現在の規定では自衛隊や在日米軍の施設などに限定されている。自民党の高市早苗政調会長は「ウクライナの問題で世の中の危機感が変わった。政府が原発警護に自衛隊を活用する方針なら賛同する」と話す。原発の防護に詳しい元陸上自衛隊陸将補の矢野義昭氏によると、米国は米原子力規制委員会(NRC)が一元的な警備基準をつくり、州兵や民間警備会社の従軍経験者が守る場合が多い。「どの国でも軍隊か準軍隊の組織が警備するのが常識だ」と指摘する。ミサイルだけでなく外国軍の特殊部隊やサイバー攻撃への対応も不可欠だと主張する。

*9-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA186NH0Y2A310C2000000/ (日経新聞 2022年3月18日) 平時から原発警護へ自衛隊法改正を 自民党外交部会長
 政府は原子力発電所の安全を守るために自衛隊の活用の検討に入った。陸上自衛隊出身の自民党の佐藤正久外交部会長に受け止めを聞いた。外交・防衛の基本方針である「国家安全保障戦略」など3文書に自衛隊による原発の警護を明記すべきだ。自衛隊が原発を守るには平時から警察や発電所と擦り合わせる必要がある。自衛隊法を改正し自衛隊の警護出動の対象に原発を加えたほうがいい。自衛隊の駐屯地と原発との距離が離れている地域は多い。部隊の常駐は難しいとしても、原発への攻撃の緊張が高まった時点で警備できるようにしなければいけない。有事になってから動くのでは手遅れだ。特殊部隊が原発に侵入したり、外部電源を狙われたりしたら極めて危険だ。警察では特殊部隊に太刀打ちできない。原発周辺に陸自の駐屯地をつくることも検討課題になる。

*9-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA3039K0Q2A330C2000000/ (日経新聞 2022年3月30日) 原発へのミサイル攻撃、対策強化を 全国知事会
 全国知事会の平井伸治会長(鳥取県知事)は30日、首相官邸で磯崎仁彦官房副長官と面会し原子力発電所へのミサイル攻撃の対策の強化を要請した。ロシアのウクライナへの侵攻で原発の安全を巡る懸念が高まる。平井氏は自衛隊による迎撃態勢や部隊の配備に万全を期すよう求めた。「政府として緊急事態、武力攻撃になった場合は原発と住民の安全を守ることを明確にしてほしい」と語った。磯崎氏は自衛隊以外にも警察、海上保安庁とも連携し対策をとると説明した。

<サハリン2と天然ガス>
PS(2022年3月14日追加):対ロシア制裁が強まる中で極東ロシアのガス開発事業「サハリン2」については、*10-1のように、英シェルは撤退を表明したが、日本の三井物産・三菱商事は追随しない方針を維持している。そして、「拙速な撤退は危険で、撤退はロシアや中国を利する」としているが、日本の国益から考えても「短期的には安定供給、中長期的には脱ロシア・脱海外依存」として次第に他国の天然ガスから手を引くチャンスでもある。
 何故なら、*10-2のように、新潟県上越沖等の日本海側で表層型の資源量が多いメタンハイドレートの採取が容易なガスチムニーが1742カ所あることが確認され、「ロシアなどの海外から天然ガスを購入したほうがコストが安い」という課題は、回収だけでなく地域経済の活性化や安全保障等の総コストを考慮すればクリアできるからだ。なお、エネルギー自体は再エネや水素に変換すべきであるため、メタンガスの使い道は化学工業における石油の代替になり、そうなるとメタンガスのパイプラインや輸送は不要で、必要最小限の貯蔵基地を作って採掘地付近で加工すれば地域でつける付加価値が増すわけである。
 なお、短期的(10年程度)な安定供給には、中立の立場をとっている国又はタックスヘイブン国(リベリア等)に特定目的会社を作り、そこからの投資に切り替える方法がある。

  
2022.3.13日経新聞  https://finding-geo.info/basic/methane_hydrate.htmlより

(図の説明:左図のように、サハリンで進めている天然ガスの開発が、対ロシア制裁が強まる中で暗礁に乗り上げそうだが、中央と右図のように、日本近海にはメタンハイドレートが多量に存在する。そのため、その採掘と加工による地域活性化と安全保障を両立できる日は近い)

*10-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220313&ng=DGKKZO59034860S2A310C2EA5000 (日経新聞 2022.3.13) サハリン2進退、2商社苦悩 「安定供給に支障」
 極東ロシアのガス開発事業「サハリン2」。2月28日に英シェルが撤退を表明したが、権益を持つ三井物産と三菱商事は追随しない方針を維持する。日本の液化天然ガス(LNG)輸入量の1割近くを占めるサハリン2を手放せば、安定供給やエネルギー安全保障への影響が避けられない。米欧の対ロシア制裁が強まる中、日本勢は板挟みの状態が続く。「サハリンの権益を巡る立ち位置は日本と欧米で大きく異なります」。3月初旬、商社のエネルギー担当は経済産業省の幹部に迫った。資料では「拙速な撤退は危険」「撤退はロシアや中国を利する」との文言が並ぶ。経産省幹部も「非常に重要な権益」と応じた。サハリン2はロシア初のLNGプロジェクトだ。ロシア国営ガスプロムが約50%、シェルが約27.5%、三井物産が12.5%、三菱商事が10%を出資する。2009年に出荷を始めた。年1000万トンの生産量のうち約6割は日本向けだ。ロシアからのLNG輸入量のほぼ全量に相当する。サハリン2のLNGは日本の電力やガス会社に供給される。長期契約で量やコストは安定。航路は3日程度で2週間の中東より短い。日本勢は自国の供給網として組み込んでおり、大半を極東やアジアで売るシェルとは重要性が異なる。政府と商社らは撤退時のリスクを分析した。撤退なら代替分の多くをスポット(随時契約)市場で調達する必要があり、現状で「2兆円近い追加コストが出る」(商社)。ただでさえ上昇基調の電気やガス料金への上昇圧力は一段と強まる。撤退なら「中国に権益を取られる」(政府関係者)懸念もある。日本が撤退してもサハリン2の操業は続くため、政府や商社は「権益を手放してもロシアへの制裁にならない」とみる。日本勢が抜け、中ロが極東の資源権益を独占すれば外交やエネルギーの安全保障上の急所になりかねない。経産省や伊藤忠商事、丸紅などが参画する原油開発事業「サハリン1」も事情は同じだ。原油輸入量の3.6%を占めるロシア産のうち約4割がサハリン1だ。一度権益を手放せば再び得るのは容易ではない。今のところ政府や商社では、サハリン撤退は選択肢にない。日本が注視するのが欧州連合(EU)の動向だ。EUは原油の3割弱、天然ガスの45%をロシアに頼り、エネルギー分野を制裁の例外にしたままだ。ただ仮にEUがロシア産の原油やガスの調達を止めれば日本も現状維持ではいられない。対ロの国際協調から外れてまで権益を優先すれば、台湾有事など東アジアの地政学リスクが表面化した際、友好国間の関係に影響しかねない。投資家の批判が強まり国際社会の信頼を落とす懸念もある。サハリン事業について、経産省幹部は「短期的には安定供給、長期的には脱ロシア戦略にかじを切らざるを得ない」と話す。撤退の損失と継続のリスク、どちらがより国益に響くか。てんびんにかける日々はしばらく続く。

*10-2:https://www.sankei.com/article/20210707-X4I36HCGAFNTZMG5AG4VK42L2Y/ (産経新聞 2021/7/7) メタンハイドレートで地域活性化 新潟県などで高まる期待と課題
 資源小国の日本で、自前のエネルギー資源の一つとして注目されているメタンハイドレート。日本海では新潟・上越沖が最も資源量が多いとみられ、新潟県は日本海沿岸の府県とともに開発推進への活動を展開している。ただ、低コストな生産技術の確立や、国が打ち出した2050年カーボンニュートラルとの整合性など、越えなくてはいけないハードルもある。
●有望な上越沖
 国の海洋基本計画では、メタンハイドレートの商業化に向けた民間企業主導のプロジェクトを令和5~9年度ごろに開始することになっている。国はこの計画に基づき、平成25~27年度にかけて日本海側の資源量調査を実施。メタンハイドレートの〝通り道〟とみられる箇所(ガスチムニー)が1742カ所あることが確認された。これらの中で資源量的に有望視されているのが新潟・上越沖である。長年メタンハイドレートの調査研究に携わっている東大名誉教授、松本良氏は「この調査により、上越沖のガスチムニーに400万立方メートルのメタンハイドレートが存在することがわかった。これはメタン量にして6億立方メートルに相当し、かなり高い濃集になっている」と指摘する。
●新潟県も活性化に期待
 地域経済の活性化が重要課題の新潟県もメタンハイドレートに期待を寄せる。「県内の企業とともにメタンハイドレートの回収技術で貢献したい。また、新潟県は国内の天然ガス生産の8割を占めており、メタンハイドレートを商業化できれば、エネルギー安定供給にも寄与できる」(県新エネルギー資源開発室)。県は29年、県内の企業に事業参入を促すため、県メタンハイドレート活用構想を策定。商業化が実現した場合、貯蔵基地やパイプライン、陸上輸送などの分野で、ガスや建設業など約50業種に参入可能性があるとみている。また、県内39の大学、企業、自治体からなる県表層型メタンハイドレート研究会では、最新情報の収集と共有を行い、参入に向けた環境整備を進めている。5月下旬には、新潟県など日本海沿岸の12府県からなる「海洋エネルギー資源開発促進日本海連合」が、経済産業省の江島潔副大臣とテレビ会議方式で会談し、生産技術開発や海洋調査などで地元の大学、中小企業を積極的に活用することや、来年度予算での調査費拡充などを要望。新潟県からは佐久間豊副知事が参加した。
●商業化への課題
 地域から大きな期待が寄せられる一方、商業化には課題も多い。最大のハードルは、海底からメタンハイドレートを回収し、メタンを生産する技術をどれだけ低コスト化できるかだ。海外から天然ガスを購入したほうがコスト的に安いとなれば、開発のメリットは薄れる。さらに政府が掲げる2050年カーボンニュートラルとの整合性も出てくる。50年に向けて脱化石燃料が進むとみられる中、化石燃料のメタンハイドレートに開発コストを投下することに、国民のコンセンサスが得られるのかという問題が頭をもたげる。壁を乗り越え開発を進めることになった場合、地元の新潟県は何をすべきか。松本氏は「沖合での資源探査と回収を進めるには漁業者との調整が必須。自治体として協力を取り付ける環境づくりが必要になる」と指摘する。
*【メタンハイドレート】 天然ガスの主成分メタンが水とともに氷状になったもので、〝燃える氷〟とも呼ばれる。海底の表層に存在する「表層型」と、海底下で砂とまじり合って存在する「砂層型」がある。前者は日本海側、後者は太平洋側を中心に存在する。

<ロシア・ウクライナはじめ欧米の食べ物について>
PS(2022年3月17日追加):*11-1のように、ロシアのウクライナ侵攻を受け、ロシアに850以上の店舗があり、関係企業を含めて約10万人の従業員がいるマクドナルドが、ロシア国内の全店舗の一時閉鎖を決め、最後の営業日には多くの人が惜しんだとのことだ。私も英語圏でない国に旅行した時は、メニューに何が書いてあるかわからないため、何が出てくるか予想できるマクドナルドや中華料理店を利用することが多いが、マクドナルドのメニューは健康によくない。
 ちょうど、*11-2に、WHOの統計で、平均寿命はウクライナ(男性68.0歳、女性77.8歳)・ロシア(男性68.2歳、女性78.0歳)はヨーロッパで4番目と3番目に短く、健康寿命はウクライナ(男性60.6歳、女性67.8歳)・ロシア(男性60.7歳、女性67.5歳)がヨーロッパで2番目と3番目の短さだと書かれていたが、(死亡原因をよく見なければわからないものの)癌や白血病が多ければ原子力の多用、心臓病が多ければ肥満などの生活習慣病が考えられる。一方、フィギュアスケートや体操でアジア系の人やワリエワのような大人の身体になる前の女性が有利な理由は、小さい方が激しい動きをしやすいからであり、大人になって体重の増加が著しすぎるのは食ベ物の影響だろう。そのため、マクドナルドの店舗を使わないのなら、従業員が独立してロシア国内で採れる作物から蕎麦・海鮮料理・中華料理などの動物性脂質が少なくて美味しい物を作って出したらどうかと思う。そもそも、血管を広げて血流をよくしたければ、トリメタジジンを飲まなくても、①風呂に浸かる(温泉ならなおよい) ②血流をよくする食べ物を食べる(ショウガ、玉ねぎ等)などの方法があり、これなら「ドーピング」などと言われることはない。つまり、現代栄養学だけでなく、*11-6のような東洋の「薬膳料理」も参考にできる。
 しかし、*11-3のように、ウクライナから戦火を逃れて国外脱出した避難民が、2022年3月15日までに300万人を超え、バランスのよい食事どころか食事を摂れるかどうかも危うい状況となり、大半の避難民をポーランド・スロバキア・ハンガリー・ルーマニア・モルドバが引き受け、国連は400万人に達するとの想定に基づいた人道支援を計画しているのだそうだ。避難後のことも考えれば文化や言語の近い近隣諸国にいた方が安心だろうが、夫はウクライナに残って母子家庭になりそうな困難は察するに余りある。しかし、*11-4のように、NATOは3月15日・24日に臨時の首脳会議をブリュッセルの本部で開き、バイデン大統領は同日のEU首脳会議にも出席して、ウクライナに侵攻したロシアの脅威が高まる東欧諸国などの防衛に関与する姿勢を明確にし、ウクライナ侵攻を続けるロシアへの対応や欧州の防衛について話し合うそうだ。ゼレンスキー大統領は、昨日、米議会でオンライン演説し(それは日本でも同時通訳で放送された)、「ロシアのミサイルと飛行機から我々の領空を守ることがどれだけ重要か理解してほしい」とし、米国は制裁等を通じたロシアへの圧力強化や武器供与等の支援を行うそうだ。
 日経新聞は、2022年3月17日、*11-5のように、「①ロシアのウクライナ侵攻は多くの人を不確実な状況に陥れたが、一つだけ確かなことはロシアと西側諸国は戦争状態にあることだ」「②欧米の当局者は、『NATOとロシアの戦闘機が直接衝突する事態は避けたい』と言っているが、史上最も厳しい経済制裁を科し、殺傷能力の高い武器をウクライナに供与し、ロシアを孤立させようする欧米は宣戦布告したに等しい」「③国連総会が3月2日に採択したロシアへの非難決議で、ロシアとともに反対票を投じたのはベラルーシと北朝鮮、シリア、エリトリアに留まる」「④中国の将来は経済成長できるかどうかにかかっているため、中国政府はロシアのウクライナ侵攻を非難はしないが、西側の制裁にある程度は従う可能性が高い」と記載している。私は、事実上の宣戦布告をどちらが先に行ったかは疑問である上、国連非難決議での「棄権」は「賛成できない」という意味であるため、棄権と反対を合わせると地球人口の半分が宣戦布告に賛成していなかったと思うのである。


  キエフの街   破壊されたオデッサの街  モスクワの街  2022.3.12西日本新聞

(図の説明:1番左がウクライナのキエフの街で、左から2番目が破壊されたウクライナのオデッサの街だ。右から2番目は、ロシアのモスクワの街で、1番右がロシアへの経済制裁の影響だ)

*11-1:https://www.fnn.jp/articles/-/330923 (FNN 2022年3月14日) ロシア マック最終日に大勢の客 ユニクロも混雑続く
 ロシアのウクライナ侵攻を受けて、ロシア国内の全店舗の一時閉鎖を決めたマクドナルドが、13日、最後の営業日を迎えた。1990年から営業を続けてきたマクドナルド1号店には、朝から多くの人が訪れた。「食べ納め」を惜しんで、テーブルクロスや花を用意し、ハンバーガーと一緒にワインを楽しむ客の姿も見られた。マクドナルドは、ロシアに850以上の店舗があり、関係企業を含めると、およそ10万人の従業員がいるが、給与などの支払いは継続するとしている。マクドナルドの客「時代が終わったと感じている」。ロシアで50店舗を展開するユニクロでも、事業の一時停止を発表した日から、大勢の利用客が訪れ、混雑が続いている。一方、モスクワ市内では13日、抗議デモで、これまでに1,000人近くが拘束されている。

*11-2:https://mainichi.jp/premier/business/articles/20220310/biz/00m/020/015000c?cx_fm=mailbiz&cx_ml=article&cx_mdate=20220315 (毎日新聞 2022年3月13日) 平均寿命が短い「ウクライナ」人口減が加速する危機
 ロシア軍によるウクライナ侵攻で、民間人に多数の死傷者が出ていると発表されている。ポーランドをはじめとする東欧のウクライナ隣接国は避難民を受け入れており、避難民の国外への動きは当分収まらないだろう。実はウクライナは1990年代以降、人口が大きく減少してきた。今回は、同国の人口減少に関するデータを見ていく。
●世界で最も人口減少の激しい国の一つ
 まず、ウクライナの近年の人口推移をおさえる。同国は、91年にソビエト連邦(ソ連)の崩壊で独立国となった。国連の統計(World Population Prospects 2019)によると、独立時の人口は約5146万人だったが、2020年には約4373万人に減少している。人口の年平均増減率は90~00年にマイナス0.5%、00~10年にマイナス0.6%、10~20年にマイナス0.5%で推移し、世界で最も人口減少の激しい国の一つとなっている。背景には、移民となって国外に人口が流出している問題もあるが、基本的には低い出生率と高い死亡率による自然減が強く影響している。国連や世界銀行などの分析によると、飲酒、喫煙、肥満、高血圧、エイズのまん延などが高い死亡率の原因とされている。
●平均寿命と健康寿命が短い
 世界保健機関(WHO)の統計(Global Health Observatory data)をもとにヨーロッパの平均寿命(19年)について見てみる。ウクライナは男性が68.0歳、女性が77.8歳だ。男性は、ヨーロッパでトルクメニスタンとタジキスタンにつぐ短さとなっている。同国を侵攻しているロシアの平均寿命は男性が68.2歳、女性が78.0歳で、いずれもウクライナにつぐ短さだ。今回の侵攻は、平均寿命の観点で見ると「ヨーロッパで4番目に男性平均寿命が短いロシアが、3番目に短いウクライナを攻めている」となる。また、健康寿命(健康上の理由で日常生活が制限されることなく過ごせる年齢寿命、19年)を見ると、ウクライナは男性が60.6歳、女性が67.8歳となる。ロシアは男性が60.7歳、女性が67.5歳だ。男性は、トルクメニスタンについでそれぞれ2位と3位の短さだ。ウクライナもロシアも平均寿命と健康寿命が短い。一方的な侵攻による激しい戦闘が起きていることは不幸としかいいようがない。
●ウクライナは男性の割合が低い
 もう一つ注目すべき点として、ウクライナは人口性比(女性100人に対する男性の数)が86.3(国連の統計、20年)で、ヨーロッパではラトビアとリトアニアについで低いことがあげられる。ロシアは86.4で、この点でもウクライナにつぐ水準だ。これは、両国で、飲酒などを原因とした男性の平均寿命の短さが、人口に占める男性の割合の低さとなってあらわれているものとみることができる。今回の侵攻を受けて、ウクライナ政府は18~60歳の男性の出国を禁じた。18~60歳の予備役を最大1年にわたって招集するとしている。今後、戦闘で多くの兵士の生命が失われれば、男性の割合はさらに低下する恐れがある。
●人口は50年までに19%以上減少の予測
 国連の人口予測(中位推計、19年)によると、ウクライナの人口は20年の約4373万人から、50年には約3522万人へと19%以上減少する。この予測は侵攻が起こる前のものだ。
今回の侵攻で多くの兵士や市民が犠牲となったり、国外への避難民が増え続けたりすれば、ウクライナの人口減少は加速する可能性がある。何より、戦闘によるこれ以上の人道上の悲劇をくいとめなければならない。即時停戦でロシア軍の侵攻が止まることを切望する。

*11-3:https://jp.reuters.com/article/ukraine-crisis-border-300-idJPKCN2LC22G (Reuters 2022年3月16日) ウクライナ難民300万人超、ポーランドが6割受け入れ=国連
 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の集計によると、ウクライナから戦火を逃れて国外に脱出した避難民が、15日までに300万人を超えた。ウクライナ西部リビウ近郊の軍事施設にも攻撃が行われた13日以降、これまで比較的安全とみられていた西部からも避難する人々が出始めたという。難民は300万0381人に上った。大半がウクライナと国境を接するポーランド、スロバキア、ハンガリー、ルーマニア、モルドバに滞在しており、中でもポーランドは6割の180万人を受け入れている。またUNHCRによると、これまでに30万人がさらに西の西欧諸国に移動したという。北東部ハリコフから逃れてきたジャンナさん(40)はポーランドのウクライナ国境近くのプシェミシル駅で「ロシア軍がリビウへの攻撃を始めるまでは、ウクライナ西部は安全だと誰もが思っていた」と話した。国内で避難するつもりだったがリビウなどへの攻撃が始まり、小さな子どもがいるため、国外への避難を余儀なくされたと語った。夫はウクライナに残ったという。国連はウクライナからの避難民が400万人に達するという想定に基づいた人道支援を計画しているが、近いうちに拡大する必要もあるとの見解を示している。欧州連合(EU)のヨハンソン欧州委員(内務担当)はウクライナからの難民受け入れについて「われわれがベストを尽くして団結すれば、(この難題にも)対処できる」と強調した。

*11-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220316&ng=DGKKZO59120000W2A310C2MM0000 (日経新聞 2022.3.16) 米大統領が訪欧 NATO臨時首脳会議に出席へ、24日、東欧防衛関与を明確に
 北大西洋条約機構(NATO)は15日、24日に臨時の首脳会議をブリュッセルの本部で開くと発表した。バイデン米大統領らが参加する。バイデン氏は同日の欧州連合(EU)首脳会議にも出席し、ウクライナに侵攻したロシアの脅威が高まる東欧諸国などの防衛に関与する姿勢を明確にする。両会議ではウクライナへの侵攻を続けるロシアへの対応や欧州の防衛について話し合う見通しだ。NATOのストルテンベルグ事務総長は声明で「この重要な時期に北米と欧州はNATOのもとでともに立ち向かわねばならない」と訴えた。米ホワイトハウスのサキ大統領報道官は15日の記者会見で、バイデン氏がNATO首脳会議に参加し「欧州の首脳と直接会い、ウクライナの現状を評価する」と説明。「ロシアによる不当なウクライナ攻撃に対する抑止力と防衛努力について議論し、NATOの同盟国への鉄壁の関与を再確認する」と述べた。NATOの根幹は集団安全保障を定めた北大西洋条約の第5条で、締約国への武力攻撃を「全締約国への攻撃とみなすことに同意する」と定める。非加盟のウクライナと異なり、防衛義務が生じる。米国防総省はポーランドやルーマニアなどNATO加盟国に米軍を増派しており、バイデン氏は「NATO諸国の領土を隅々まで守る」と繰り返す。ロシアの脅威に対峙する東欧などの抑止力を強化する狙いがある。EUは24~25日にブリュッセルで首脳会議を開く。バイデン氏は24日の討議に対面形式で参加する。EU首脳会議には、ミシェルEU大統領らEU首脳に加え、マクロン仏大統領やショルツ独首相ら27カ国の加盟国首脳が参加する予定だ。サキ氏は「ロシアに代償を科すための努力、影響を受けた人々への人道支援など共通の懸念を話し合う」と強調した。訪欧に合わせてウクライナのゼレンスキー大統領と会談するかを問われ、現時点で決まっていないとも話した。米メディアによると、バイデン氏がウクライナ西隣のポーランドを訪れる案も検討している。ゼレンスキー氏は15日、カナダ議会下院でオンライン演説し「ロシアのミサイルと飛行機から我々の領空を守ることがどれだけ重要か理解してほしい」と語り、NATO諸国にウクライナ上空に飛行禁止区域を設定するよう求めた。16日には米議会向けにオンラインで演説する。制裁などを通じたロシアへの圧力の強化や、武器供与などの支援を米国に求めるとみられる。

*11-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220317&ng=DGKKZO59124770W2A310C2TCR000 (日経新聞 2022.3.17) 後戻りできないロシアと世界 米ユーラシア・グループ社長 イアン・ブレマー氏
 ロシアのウクライナ侵攻は多くの人を不確実な状況に陥れたが、一つだけ確かなことがある。ロシアと西側諸国はいまや戦争状態にあるという点だ。欧米の当局者は、北大西洋条約機構(NATO)とロシアの戦闘機が直接衝突する事態は避けたいと言い続けている。しかしいままでで最も厳しい経済制裁を科し、殺傷能力の高い武器をウクライナに供与し、ロシアを孤立させようとする欧米の取り組みは宣戦布告に等しい。世界はいままさに転換点にある。NATOとロシア軍が直接の武力衝突を避けられたとしても、プーチン大統領の譲歩という、いまや想像しがたい事態が起きない限りロシアと西側は「新冷戦」に直面する。だが、こうした対立は多くの点で20世紀の冷戦ほど危険ではないだろう。ロシアの国内総生産(GDP)は米ニューヨーク州よりも小さく、低迷するロシア経済は制裁により今後1年間で10%以上縮小する可能性が高い。かつロシアの金融システムは崩壊の危機にひんしている。かつてソ連と東欧の衛星国の経済システムは西側と切り離されていたため、西側の経済的圧力の影響は(経済圏には)及びにくかった。いまや欧州は米国と結束し、足並みをそろえているのに対し、旧ソ連圏はプーチン氏の引力に逆らおうと抵抗もしている。ソ連には、世界の民衆や政治家を引き付けるイデオロギーの魅力もあった。いまのロシアには特にイデオロギーはなく、政治的価値観を共有する同盟国にも乏しい。国連総会が2日に採択したロシアへの非難決議で、ロシアとともに反対票を投じたのはベラルーシと北朝鮮、シリア、エリトリアにとどまった。キューバですらプーチン氏の軍事行動を支持せず、棄権に回った。ロシアとの関係強化が懸念されている中国はどうか。ロシアに理想的な選択肢があるとはいえない。中ロは米国の国際的な影響力をそぎ、欧州の強硬姿勢を抑えるという点では同じ考えを持つ。だが、中ロ関係ではロシアの立場が弱い。ロシアの10倍の経済規模である中国は、ロシアが西側に売れなくなった石油・ガス、鉱物などを買い、ロシア経済を支えるとみられる。一方で中国は、資源を買いたたこうともするだろう。中国の将来は経済成長できるかどうかにかかっており、欧米とつながり続けられるかがポイントになる。中国政府はロシアのウクライナ侵攻を非難しないだろうが、西側の制裁にある程度は従う可能性が高い。1980年代に中距離核戦力(INF)廃棄条約が発効するなど、欧米とソ連の首脳はアジアやアフリカ、中南米の紛争がエスカレートし、欧州に壊滅的な打撃が及ぶのを防ぐ壁を設置できていた。西側とロシアが新たな外交基盤と信頼回復を築くには、長い年月がかかるだろう。当事国と世界経済にとってはるかに危険な点もある。新冷戦下の武器はさらに強力になっている。両陣営の本当のサイバー能力はわからないが、いずれも金融システムや送電線など社会インフラを標的にし、壊滅的打撃を与えられるとみられる。サイバー兵器は20世紀後半の重火器よりもコストが低く、計画が容易で広範囲に使えるだろう。例えば、4月のフランス大統領選は新たな戦略を試すチャンスになる。11月の米中間選挙なども同様だ。ロシアは、ウクライナをプーチン氏の支配下に置くために攻撃を続けるだろう。だがロシア軍が全土を制圧したとしても、ウクライナ国民は戦いを止めず、西側の首脳はウクライナを支援し続けるだろう。史上最も厳しい制裁はさらに強化されることになる。新冷戦への道はもはや後戻りできない。

*11-6:https://www.yomeishu.co.jp/health/3371/ (Yomeishu) 薬膳とは? いつもの食材でできる薬膳の基本
●食の知識
 薬膳は手間がかかる、高そうな食材を使いそう...と思われがちですが、いつもの食材で簡単に作ることができます。昔から食材には薬と同じような効能があると考えられてきました。薬膳の知恵を使って、季節や自分の体質、体調に合った食材を組み合わせ、毎日を健やかに過ごしましょう。(中略)
●自然界を5つに分類する考え方「五行」
 薬膳で基本となるもう1つの考え方に「五行」があります。五行とは、自然界に存在する物質を「木・火・土・金・水」の5つの性質に分けたものです。
●自分の体と向き合うために「五味」を知る、5つの味でバランスよく
 「五味」とは「酸味・苦味・甘味・鹹味([かんみ]塩からい味)」のことです。それぞれに対応する五臓があり、その臓器に吸収されやすいといわれています。例えば「肝」の動きが過剰になってイライラしたり、頭痛があったりするときは、「肝」の働きを抑える「辛味」のものをとるとよいとされています。
●五味の作用と働き
 健康な人であれば、普段の生活のなかで、五味をバランスよく食べるようにすればよいでしょう。
食材の温める力・冷やす力を活かして
●体を「平性」に保ちましょう
 食材には体を温めたり冷やしたりする性質(五性)があり、5つのグループに分類されます。体を温める「温性」、体を極端に温める「熱性」、体を冷やす「涼性」、体を極端に冷やす「寒性」、体を温めも冷やしもしない「平性」です。うるち米など毎日食べている食材には平性の物が多くあります。とうがらしやトマトのように、熱性・寒性の物は合わせる食材を工夫してバランスを崩さないように調理し、それだけとることは避けましょう。また、旬の食材にはその季節にふさわしい性質をもつ物が多いのが特徴です。食は毎日のこと。そこに薬膳の考え方をプラスして、賢く料理をしませんか。毎日3回、美味しいと思う食事が365日続いたら、それは幸せな時間を積み重ねていることになります。そこに薬膳の知恵があれば、健康も積み重ねていくことができるのです。

<現在の“経済制裁”は効果より副作用の方が大きい>
PS(2022年3月21、22日追加):*12-1のように、日本メディアの多くは、「制裁の抜け穴にならないよう対ロ制裁でアジアの結束に一層の努力が必要」とし、岸田首相も率先して対ロシア政策で制裁に共同歩調をとるようインド・カンボジアに呼びかけられた。また、バイデン米大統領は、「中国がロシアを軍事・経済面で支援すれば、制裁を科す」と示唆されたが、“経済制裁”ではロシア・中国は参らないと思う。その理由は、ロシア・中国は冷戦後の30年間に西側企業を誘致して必要な技術や経営ノウハウを吸収し、既に自国生産が可能になっているからだ。そのため、原料・エネルギー・労働力を持つ国は自国生産に切り替えれば経済制裁に対抗できるが、それらを海外依存している国は物資不足になる。そのため、現在では、日本が“経済制裁”をすると、自国の経済への悪影響の方が大きいと思われるのだ。
 また、*12-2のように、バイデン米大統領が中国への制裁も念頭に、中国が対ロ支援した場合の影響と結果について警告すると、中国の習国家主席は「①制裁がエスカレートすれば、世界経済や貿易、金融、エネルギー、食糧、産業、供給網に深刻な危機をもたらす」「②既に低迷している世界経済をさらに麻痺させ、取り返しのつかない損失を引き起こす」と言われたそうで、私は①②が本当だと思った。また、「③制裁の切り札と見定めるのが、世界の基軸通貨としての米ドルが強い影響力を持つSWIFTからのロシアの締め出し」とも書かれているが、経済・金融を武器として使い続ければ、“制裁”される側もそれに対応して準備するため、基軸通貨としての米ドルへの信用が下がるのも否めないわけである。
 なお、*12-3についても、“経済制裁(=戦争)”しながら「平和条約交渉」はないため打ち切られるのが当然で、政府がメディアと一緒になって「日本には日本の国益がある」ということを考えず、適時に必要な手も打ってこなかったことに原因があるため、どうしようもない。

   
2022.2.23   2022.3.20  2022.3.20      2022.2.27TV朝日
 毎日新聞    福井新聞   毎日新聞  

(図の説明:1番左の図のように、2月21、22日には欧米と日本が相次いでロシアへの制裁を行い、左から2番目の図のように、3月19日に岸田首相はインドに対ロ非難を促した。また、右から2番目の図のように、バイデン米大統領は、3月19日に習近平中国国家主席と会談して対ロ支援した場合の対抗措置を警告している。さらに、1番右の図のように、ロシアをSWIFTから排除して決済困難にし、世界的に孤立させる制裁も早々に決定されている)

*12-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220321&ng=DGKKZO59262820R20C22A3PE8000 (日経新聞社説 2022.3.21) 対ロ外交でアジアの結束に一層の努力を
 岸田文雄首相とインドのモディ首相が会談し、ロシアのウクライナ侵攻を念頭に「力による一方的な現状変更はいかなる地域においても許してはならない」と確認した。国際社会で外交努力が加速しており、日本もアジア諸国などの結束に指導力を発揮すべきだ。日印両国と米国、オーストラリアは5月にも日本で「Quad(クアッド)」の首脳会談の開催を予定する。岸田首相がロシアと伝統的な友好関係にあるインドを今年初めての外国訪問先に選び、首脳間の信頼関係づくりに努めたのは評価できる。ロシアへの制裁措置をめぐり日米欧と一線を画すインドとの溝もあらためて浮き彫りになった。岸田首相が対ロシア政策での共同歩調を呼びかけたのに対し、モディ首相はロシアを名指しはせず、両首脳の共同声明にもロシアという言葉が入らなかった。国連総会のロシア非難決議でインドが棄権したのは極めて残念だ。印ロ首脳は昨年末に会談し、武器調達など軍事協力も進める。対ロ政策でインドと完全に足並みをそろえるのは難しくとも、制裁の抜け穴にならないよう民主主義陣営に引き付けておくのが肝要だ。岸田首相が次に訪れたカンボジアは、東南アジア諸国連合(ASEAN)の今年の議長国だ。日米が主導する「自由で開かれたインド太平洋」の実現に欠かせない地域であり、カンボジアなど中ロとの関係が深い国々にも粘り強く協調を働きかける必要がある。林芳正外相は同時期にトルコ、アラブ首長国連邦(UAE)を訪問した。トルコはロシア、ウクライナ両国と緊密な関係を保ち、今回も積極的な仲介外交を重ねる。原油市場の安定に向け、日本の原油輸入先で第2位のUAEとの協力強化も意義がある。こうしたなか米中首脳がテレビ会議形式で協議した。バイデン米大統領は、中国がロシアを軍事、経済面で支援すれば制裁を科すと示唆した。中国はロシアへ影響力が大きく、その対応次第では世界秩序を大きく左右しかねない。大事な局面を迎えている。権威主義国家の暴挙を許さず、東アジアへの波及を阻止しなければならない。民主主義や法の支配を守るのは日本の責任でもある。中国と歴史的、人的関係の深い日本が米国と連携し、中国を完全にロシア側に付かせないための巧みなアプローチが求められている。

*12-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15239690.html?iref=pc_shimenDigest_top01 (朝日新聞 2022年3月21日) (経済安保 米中のはざまで)米ドル覇権、制裁の効果左右 SWIFT、中国・ロシアは対策
 「制裁がエスカレートすれば、世界経済や貿易、金融、エネルギー、食糧、産業、供給網に深刻な危機をもたらす」。18日のテレビ電話による米中首脳会談。中国の習近平(シーチンピン)国家主席は、バイデン米大統領が中国への制裁も念頭に、中国が対ロ支援をした場合の「影響と結果」について警告すると、逆にこう切り返した。習氏はさらに「すでに低迷している世界経済をさらにまひさせ、取り返しのつかない損失を引き起こす」とも強調。あえて「世界経済」を持ち出し、米国が対ロ支援を理由に中国に制裁を科すことがないよう牽制(けんせい)した。一方、米国は中ロの接近を警戒。軍事介入を見送りつつ、経済・金融を「武器化」してロシア封じ込めを狙う。とりわけ、制裁の切り札と見定めるのが、世界の基軸通貨としての米ドルが強い影響力を持つ「国際銀行間通信協会(SWIFT)」からのロシアの締め出しだ。締め出しをくらえば、お金のやりとりが難しくなる。この制裁の厳しさを、ロシア側は「宣戦布告にあたる」(メドベージェフ元首相)とかねて牽制してきたほどだ。だが、中国がロシアを支援すれば、その制裁の効果は薄まる。米国の懸念の伏線は、2月の北京冬季五輪での中ロ首脳会談にあった。開会式出席のため、北京を訪問したロシアのプーチン大統領は、中国国営メディアに「一方的な制裁のマイナスの影響を取り除こうと、我々は自国通貨での決済を拡大し、システムを構築してきた」と寄稿。米ドル覇権が及ばない仕組みを構築してきたことを自負した。実際、外交筋によると、同月4日の習氏との会談で、SWIFTから排除された場合の対応策について協議したという。ドルは国際決済額の4割、各国政府が対外支払いのために持つ外貨準備の比率で6割を占める。米国が関わらない二国間の貿易でも、多くの取引で米ドルが使われる。仲介するのも米金融機関だ。制裁でドル取引が禁じられれば、貿易や投資は著しく滞る。米ドルの威力を最小限にとどめられないか――。ロシアはこれまでも外貨準備から米ドルの比率を減らし、2014年のクリミア併合による対ロ制裁を機に、ロシアの通貨ルーブル版SWIFTとして「SPFS」と呼ばれる組織を設立。外国からはカザフスタンなどの数十行しか参加せず、代替にはほど遠いのが現状だ。SWIFTからの締め出しでロシアの国内総生産(GDP)の5%が吹き飛ぶともいわれる。「備え」を着々と進めているのが中国だ。15年には、SWIFTを使わず、人民元で決済できるシステム「CIPS」を設立。参加国・地域は100を超える。世界的な金融産業の業界団体・国際金融協会(IIF)はウクライナ侵攻を受けた2月28日の報告書で、中ロの決済システムの連携を「運用可能なのかは不透明」としつつ、制裁が「ロシアを中国との関係強化へと押しやる無視できないリスクがある」と警告した。通貨は国家の安全保障の根幹を担い、経済安全保障の核心を握る。米ドルと人民元の力の差は、米国と中国の軍事力の差よりもはるかに大きい。だが将来、「米ドル覇権」が崩れるのか、通貨秩序は国際秩序にも影響する。

*12-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB2149G0R20C22A3000000/?n_cid=NMAIL006_20220322_A (日経新聞 2022年3月22日) ロシア、平和条約交渉打ち切り 日本の制裁に反発
 ロシア外務省は21日、日本が米欧と歩調を合わせて発動した対ロ経済制裁を巡り「日本との平和条約締結に関する交渉を継続するつもりはない」との声明を発表した。ロシアとの間で領土問題を解決して平和条約を締結するとの日本の一貫した立場が拒否された。ロシアはウクライナへの軍事侵攻を巡り、欧米諸国だけでなく日本からも厳しい制裁を受けた。ロシア外務省は「明らかに非友好的な立場を取り、我が国の利益に損害を与えようとしている」と反発した。ロシア外務省は21日の声明で、平和条約締結交渉を拒否するとともに、ロシアが実効支配する北方領土にビザなしで訪れることができる「ビザなし交流」の廃止も発表した。旧島民の簡素化された北方領土訪問もなくすとした。さらに日本との間で進めていた北方領土での共同経済活動の実現に向けた話し合いも放棄する考えを示した。黒海の周辺国でつくる黒海経済協力機構のパートナー国としての日本の資格延長にも応じないと明記した。声明では、こうした対抗措置を発表したうえ、日ロ関係悪化の責任は「反ロシアの方針を選択した」日本政府にあると一方的に非難した。日本とロシアの前身であるソ連は1956年、日ソ共同宣言に調印し、第2次世界大戦後の2国間関係の再建に着手した。同宣言では平和条約締結後に北方領土のうち歯舞群島と色丹島を日本に引き渡すと明記した。安倍晋三首相(当時)は2018年、プーチン大統領との会談で、同宣言を基礎に平和条約交渉を加速させることで合意していた。ロシアが日ロ平和条約の締結交渉を一方的に拒否したことは、戦後、両国が取り組んできた関係改善の道筋を閉ざすことを意味する。

<日本は化石燃料資源もないのに、外国の化石燃料にしがみつく国である>
PS(2022年4月1日追加):*13-1のように、ニューヨーク・マーカンタイル取引所では、米政府が大規模な戦略石油備蓄の追加放出を発表して、原油先物相場は1バレル100.28ドルと反落したが、日本では、*13-2-1のように、自民、公明、国民民主の3党が原油価格高騰対策として石油元売りへの補助金と、ガソリン税の「トリガー条項」凍結解除を政府に迫っているそうだ。また、*13-2-2のように、米欧と一緒になってOPECプラスに大幅な追加増産を要請し、今後も強い増産圧力を続けるそうだが、原油備蓄は日本も行っており、現在の相場は戦時の一時的なものでもあるため、備蓄を放出すればよい。また、1年前より7割高い程度なら、ガソリン車からHV・EVに変え、再エネや省エネ設備を導入すれば吸収できる筈で、そういう根本的な解決をしないから製造業の輸出競争力もなくなり、エネルギー・食糧を大きく輸入に依存しつつ補助金をばら撒いて現状維持に汲々とすることになるのであり、判断ミスも甚だしいのだ。
 さらに、*13-3のように、①電力会社の発送電分離は既に終え ②都市ガス会社のパイプラインを製造部門と小売部門とに分ける「導管分離」が4月1日に実施されるそうだ。しかし、①は、安定供給への責任という論理を振りかざして地域独占による無競争状態に胡坐をかいていた大手電力だけでなく、新電力にも電力市場を開放するのに必要不可欠だったが、②のパイプラインの製造・小売部門の分離は、2社以上のガスを1導管で運搬できるわけではないため、あまり意味がありそうに見えない。さらに、100%近くを外国に依存している化石燃料の価格上昇を原因として、何かといえば「安定供給への責任」を言い立てて何十年も状況を改善しないのは、日本独特の不合理な現状維持である。

*13-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220401&ng=DGKKZO59605800R00C22A4MM0000 (日経新聞 2022.4.1) NY原油反落、一時100ドル割れ 米の備蓄追加放出で
 3月31日のニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)で原油先物相場は反落した。WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)で期近の5月物は前日比7.54ドル(7.0%)安の1バレル100.28ドルで取引を終えた。一時は1バレル100ドルを割り込んだ。米政府が大規模な戦略石油備蓄の追加放出を発表し、原油需給の逼迫が和らぐとの見方から売りが出た。

*13-2-1https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220331&ng=DGKKZO59555460Q2A330C2PD0000 (日経新聞 2022.3.31) ガソリン補助金「必要」 自公国が実務者協議
 自民、公明、国民民主の3党は30日、国会内で原油価格高騰の対策について実務者の協議を開いた。ガソリン税を一時的に下げる「トリガー条項」の凍結を解除するかどうかにかかわらず、石油元売りへの補助金が必要との認識で一致した。

*13-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR31CD60R30C22A3000000/ (日経新聞 2022年3月31日) OPECプラス、原油増産ペースを実質維持 対ロ協調重視
 石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟の主要産油国でつくる「OPECプラス」は31日、現行の段階的な原油増産を実質的に据え置いた。ウクライナに侵攻し米欧と対立するロシアとの協調の枠組みを重視し、米欧が期待した大幅な追加増産を見送った。OPECプラスは同日オンラインで開いた閣僚協議で、5月は増産幅を日量43万2千バレルにすることで一致した。毎月日量40万バレルずつ増産してきた従来の合意を「再確認する」としたうえで、基準となる生産量を微修正した。次回は5月5日に協議する。協議後の声明で、原油相場の激しい値動きは「ファンダメンタルズでなく、進行中の地政学的な展開によるものだ」と表明。ロシアのウクライナ侵攻で生じた供給懸念の責任を負わない姿勢をにじませた。国際エネルギー機関(IEA)はロシアからの石油輸出が日量250万バレル減ると予測し、穴埋めの余力を持つサウジアラビアなど中東産油国に対し、米欧日が相次いで増産を働きかけていた。他の産油国が代わりに大幅増産すればロシアにとっては敵に塩を送る行為になり、OPECプラスの結束を揺るがす。どの産油国にとっても原油高は追い風で、高値を維持したいのが本音だ。サウジとバイデン米政権との間に吹く隙間風も、増産要請に応じない一因との見方がある。サウジはイエメンの親イラン武装勢力との戦いで米国の支援が弱いと感じ、イラン核合意の再建にも不満を抱く。対照的に中国との関係強化の動きを強めている。ニューヨーク市場のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物は31日、一時1バレル100ドル前後と前日比7%下落した。バイデン米政権が日量100万バレルの石油備蓄を最大180日間にわたり放出することを検討していると報じられ、売りが広がった。IEAも4月1日に石油の協調放出を協議すると伝わった。中国での新型コロナウイルスの感染拡大もあり、相場は上昇一服感があるが、なお1年前より7割高い。OPECプラスの増産が進まず、ロシア産原油も調達しにくくなるなかで、有力な代替先が米国だ。米エネルギー情報局(EIA)は2022年の生産量を日量1200万バレルと、前年より85万バレル増えると予測。23年はさらに同100万バレル近く増える見通しだ。それでもロシア産原油の供給減少分をすべて補えるわけではない。サウジなどOPECプラス構成国が需給の鍵を握る状況は変わらないため、今後も消費国からの強い増産圧力が続きそうだ。

*13-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220331&ng=DGKKZO59558010Q2A330C2EA1000 (日経新聞社説 2022.3.31) 電力・ガス改革は不断の改善を
 都市ガス会社のパイプライン部門を、製造・小売部門と法的に分ける「導管分離」が4月1日に実施される。東京ガス、大阪ガス、東邦ガスの3社が対象となる。電力会社の発送電分離はすでに終えた。今回の導管分離によって、1990年代から段階的に進めてきた電力・ガス市場改革はひとまず完成する。ただ、足元で電力・ガス供給は改革のひずみともいえる様々な問題が表面化している。安定供給を確保し、競争を促す制度への不断の見直しを続ける必要がある。導管分離はガス事業への企業参入を促すのが狙いだ。都市ガスを需要家に届けるパイプラインの運用を中立化し、新規事業者がより公平な条件で使えるようにして競争環境を整える。20年に実施した発送電分離では、沖縄電力を除く全ての大手電力会社が分離の対象になった。190社以上ある都市ガス会社では一定規模以上のパイプラインを持つ大手3社が対象となる。全額出資の子会社を設立し、3社以外は企業内で会計上の分離を求める。電力・ガスの小売り全面自由化以降、電力は700以上、ガスは90以上の事業者が新たに参入した。全販売電力量に占める新電力のシェアは2割を超え、家庭用ガスは15%超が契約先を変えた。電力会社がガスを売り、ガス会社が電力を売る相互参入も進んだ。地域独占を転換し、消費者が事業者を選べるようにしてサービスや料金の競争を促す狙いは、一定の成果があったといえる。一方、足元では燃料価格の上昇により、新電力が販売用電力を調達する卸電力市場の価格が急騰している。増大する費用を転嫁できずに業績が悪化し、撤退も相次いでいる。都市ガス原料の液化天然ガス(LNG)も高値が続く。3月22日には関東・東北で危機的な需給逼迫が起きた。電力もガスも、誰が安定供給に責任を持つのかを明確にしたうえで、そのための仕組みの改善を続けていかなければならない。

<“民主主義国”と言いながら、人(=人材)を人間として大切にしない国、日本>
PS(2022年4月2、3日追加): 日経新聞は、2022年3月19日、*14-1-2のように、①ロシアが侵攻したウクライナで人道危機が深まり ②ウクライナ国内で避難生活をしている住民が推計650万人にのぼり ③国外への避難民とあわせて総人口の1/5以上の1000万人に迫り ④さらに1200万人以上が攻撃で退避を阻まれており ⑤南東部マリウポリを包囲していたロシア軍が中心部に入って市街戦になった と報じ、読売新聞は、2022年3月30日、*14-1-1のように、⑥国外に逃れたウクライナ難民が400万人超えた と報じている。
 そして、日経新聞は、*14-1-3のように、2022年4月2日、⑦ロシア軍が包囲するマリウポリでICRCの支援チームが50台以上のバスで市民を退避させる筈だった住民退避が難航し ⑧人道支援物資の搬入が拒否され ⑨マリウポリ市内にはなお約17万人が残され ⑩市内は長引く包囲と無差別攻撃で水・食料・医療品が欠乏して人道危機が深刻になり ⑪米戦争研究所はマリウポリが数日以内に陥落すると分析している と報じており、平穏な生活をしていたウクライナの人々には地獄の日々が続いているようだ。しかし、*14-1-2のように、ゼレンスキー大統領はじめ西側諸国は、⑬ロシア軍による当初の計画は失敗した ⑭対話はロシアが過ちによる被害を減らす唯一の手段だ と豪語しており、こういうことを言っている限り、ロシアは後に引けず攻撃が続くだろう。そして、交渉が続いている間、生き地獄は続くのである。
 そのような中、*14-2-1のように、林外相が、4月1日の夜、現地ニーズや避難民受け入れの課題を把握して今後の支援に繋げるため、ポーランドに向けて羽田空港から政府専用機で出発され、帰国の際に受け入れを希望する避難民を政府専用機に同乗させるそうだが、そもそも日本には、3月2日~30日に337人のウクライナ避難民しか入国していない。また、政府は4月1日、UNHCRを通じてウクライナ避難民に毛布とビニールシート、スリーピングマットを配布することを決めたそうだが、いずれも一時的な避難を前提としており、長期滞在するための支援に欠けている。そのため、私は、*14-2-3の米ハーバード大のティーンエージャー2人が立ち上げた避難民に受け入れ先を紹介するサイト「ウクライナ・テイク・シェルター」は本当にクールだと思った。これは、ウクライナ政府も太鼓判を押すサイトで、避難民が所在地を入力すると世界中の受け入れ候補が表示され、受け入れ先・利用可能な部屋数・ペットの可否・使える言語・滞在可能期間が一覧で表示され、開設から約3週間で数千人以上が利用したそうだ。日本政府は、この「ウクライナ・テイク・シェルター」に表示された受け入れ先と日本国内の受け入れ先との条件を比較すれば、現地ニーズや避難民受け入れの課題を容易に把握できそうだ。
 *14-2-2は、⑮日本政府はウクライナ避難民の受け入れに積極姿勢を示し、支援に手を挙げる地方自治体も相次ぐ ⑯岸田首相は『ウクライナの人々との連帯を示し、人道的な観点から対応する』として避難民受け入れを表明した ⑰避難民らの入国時の在留資格は基本的に旅行者と同様の90日間の「短期滞在」の在留資格になった ⑱古川法相は3月15日、短期滞在から就労可能な1年間の「特定活動」への変更を認めると追加支援を発表し ⑲首都圏では神奈川や茨城が県営住宅、横浜が市営住宅を提供する方針を表明し ⑳人道支援の募金も始めた と記載しているが、いずれも「可哀想だから」という理由で一時的滞在を認めているにすぎず、難民になった人の生活や人生の再建を考えていない。
 また、*14-2-2は、㉑海外で紛争や弾圧がある度に、国や自治体が今回のウクライナ侵攻と同じ素早さと手厚さで対応しているわけではなく ㉒ミャンマー人の在留期間は6カ月が基本で就労時間に週28時間の上限が設けられる人もおり ㉓人道的配慮をアピールしても腹の底ではミャンマー人に疑いの目を向けるいやらしさが漂い ㉔日本には50万人超が国内避難民となり約5万人が隣国に逃げているクーデター後のミャンマー避難民を受け入れる特別な仕組みはなく ㉕緊急避難措置でも8割が難民認定されておらず ㉖差別的意識は変わっていないし、日本がトルコ出身のクルド人を難民認定した例はない とも記載している。つまり、ウクライナの避難民の受け入れは積極的な方で、ミャンマー人・クルド人等の難民については、受け入れる仕組みさえないが、本当は難民は多様な人材の宝庫でもある。そのため、このように差別と排除の論理を駆使している日本が世界のリーダーになれるわけがなく、(私にとっては残念ながら)そういう国が世界のリーダーになっては困ると言わざるを得ないのだ。


   2021.6.3、2021.8.29日経新聞        2021.6.17Goo

(図の説明:左図は、2019年の難民認定率で、日本は0.4%と極めて低く、少子高齢化で生産年齢人口の割合が減り、やるべき仕事もできずに産業が衰退しているにもかかわらず、人材鎖国している状態だ。また、中央の図は、アフガニスタンから退避支援した人数で、日本のために働いていたアフガニスタン人すら退避させるという発想がなかった。右図は、2019年のミャンマー出身者の難民認定数と認定率で、これも極めて低い)

*14-1-1:https://www.yomiuri.co.jp/world/20220330-OYT1T50261/ (読売新聞 2022/3/30) ウクライナ難民が400万人超える…UNHCRの最大想定人数、5週間で上回る
 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は30日、ロシアのウクライナ侵攻に伴い国外に逃れた難民が400万人を超えたと発表した。当初のUNHCRによる最大想定人数を約5週間で上回った。

*14-1-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB191QM0Z10C22A3000000/ (日経新聞 2022年3月19日) 避難民1000万人迫る ウクライナ国民5人に1人、大統領、ロシアに和平協議促す
 ロシアが侵攻したウクライナで人道危機が深まっている。国連機関は18日、ウクライナ国内で避難生活をしている住民が推計650万人にのぼると発表した。国外への避難民とあわせると1000万人に迫る。総人口の5人に1人以上にあたり、さらに1200万人以上が攻撃で退避を阻まれているという。BBCは18日、南東部マリウポリを包囲していたロシア軍が中心部に入り、市街戦になっていると報じた。首都キエフ市は同日までに民間人60人を含む222人が死亡したと発表した。英国防省はロシアが戦略転換を迫られ「消耗戦」に移ったと分析する。ウクライナのゼレンスキー大統領は19日のビデオ声明で「対話はロシアが過ちによる被害を減らす唯一の手段だ」と述べ、即時の和平協議を促した。英BBCはトルコ高官の話として、ロシアのプーチン大統領がゼレンスキー氏との会談に意欲を示したと伝えた。停戦条件を巡る双方の主張は隔たり、攻撃による被害は拡大している。ゼレンスキー氏は「ロシア軍による当初の占領計画は失敗した」と述べた。いま対話を始めなければロシアの損失が膨らみ、数世代にわたり悪影響が及ぶと訴えた。同氏は侵攻前からプーチン氏に直接協議を求めていたが、ロシアは応じてこなかった。ロシアは駆け引きを続けている。BBCによると、プーチン氏は17日のトルコ大統領との電話協議で、侵攻を止める条件にウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟断念や中立化の確約、ロシアに脅威を与えない形での「非武装化」などを挙げた。直接会談での決着に前向きな構えも示したという。交渉の長期化も懸念される。ウクライナ政府高官は18日、和平協議は数週間以上かかる可能性があるとの見解を示した。米ブルームバーグ通信が報じた。ロシアの対話姿勢が時間稼ぎにすぎないとの見方もある。ロシア通信は19日、国営宇宙開発企業ロスコスモスのロゴジン総裁が「米国が全地球測位システム(GPS)からロシアを切り離すことを検討している」と述べたと報じた。ロシア独自の測位衛星「グロナス」があるため、問題は生じないと主張した。

*14-1-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR01EWZ0R00C22A4000000/ (日経新聞 2022年4月2日) マリウポリに赤十字入れず 住民退避の支援難航
 ロシア軍が包囲するウクライナ南東部の港湾都市マリウポリで1日に計画された住民の退避で、支援に向かっていた赤十字国際委員会(ICRC)が同日の現地入りを断念した。2日に再度試みるとしたが、焦点の住民の脱出が難航しているもようだ。一方でウクライナのゼレンスキー大統領は1日、3000人強がマリウポリを脱出したと明らかにした。ICRCの支援チームは50台以上のバスを先導しマリウポリから市民を退避させる運びと伝えられていた。ICRCは1日「民間人の安全な退避促進のためマリウポリに向かったチームが、引き返さざるを得なくなった」との声明を出し、前進が「不可能」とした。これに先立ち、人道支援物資の搬入が拒否されたと報じられ、ロシア側の妨害との見方が出ていた。ロシアは一時停戦して住民を逃す「人道回廊」を1日に設けるとしていた。マリウポリ市内にはなお約17万人が残されているとの見方がある。ロシアは要衝マリウポリの掌握を目指しており、住民を退避させたとして近く総攻撃をかける恐れがある。米戦争研究所はマリウポリが数日以内に陥落すると分析している。市内では長引く包囲と無差別攻撃で、既に水や食料、医療品が欠乏し、人道危機が深刻になっている。一方、トルコのエルドアン大統領は1日、ロシアのプーチン大統領とウクライナ情勢を巡って電話で協議し、トルコでプーチン氏とゼレンスキー氏との首脳会談を開きたいとの意向を伝えた。両国の声明でプーチン氏の反応には言及がなく、前向きな回答はなかったとみられる。

*14-2-1:https://mainichi.jp/articles/20220401/k00/00m/030/237000c (毎日新聞 2022/4/1) 林外相ポーランドに出発 ウクライナ避難民、政府専用機同乗も調整
 林芳正外相は1日夜、ウクライナ避難民の受け入れ状況などを把握するため、ポーランドに向けて羽田空港から政府専用機で出発した。帰国の際、受け入れを希望する避難民を政府専用機に同乗させ、日本に渡航してもらう準備も進めている。日本には5日に戻る予定で、林氏は1日の記者会見で「現地のニーズや避難民受け入れの課題を把握し、今後の支援につなげていく」と述べた。政府は当初、古川禎久法相を首相特使として派遣する予定だったが、古川氏が新型コロナウイルス感染者の濃厚接触者になったため林氏の派遣が決まった。中谷元・首相補佐官(人権問題担当)と津島淳副法お相も同行し、ポーランド政府要人との会談や避難民を支援する国際機関との意見交換、支援現場の視察などを実施する。松野博一官房長官は1日の記者会見で、3月2日から同30日までに337人のウクライナ避難民が日本に入国したと明らかにした。また、政府は1日、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)を通じてウクライナ避難民に毛布とビニールシート、スリーピングマットを配布することも決めた。UNHCRの要請を踏まえた措置。

*14-2-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/166673 (東京新聞 2022年3月20日) ウクライナとミャンマー、避難民受け入れ、なぜ差があるの? 入管、政治や経済に目配せ「同じように助けて」
 ロシアの侵攻を受けたウクライナからの避難民について、日本政府が受け入れに積極姿勢を示している。支援に手を挙げる地方自治体も相次ぐ。難民認定者数が極めて少なく、「冷たい」と言われてきた日本。人道主義に覚醒し、困窮する外国人に分け隔てなく門戸を広げる国に変身した? いや、ウクライナ以外の国への対応に目をやると、答えは「イエス」ではなさそうだ。
◆就労可能な1年間の「特定活動」認める
 ロシアのウクライナ侵攻から6日後の2日、岸田文雄首相は記者団に「ウクライナの人々との連帯を示す」と強調し、避難民の受け入れを表明した。1日5000人というコロナ禍対応の入国者数制限からも除外。「日本に親族や知人がいる人の受け入れを想定しているが、それにとどまらず人道的な観点から対応する」と語った。この方針のもと、出入国在留管理庁(入管庁)によると、2日以降15日までにウクライナの避難民57人が入国した。避難民らの入国時の在留資格は基本的に、旅行者と同様、90日間の「短期滞在」の在留資格になる。古川禎久法相は15日の記者会見で、短期滞在から就労可能な1年間の「特定活動」への変更を認めると、追加のサポートを発表した。国の動きを受け、全国の自治体が次々、協力姿勢を見せた。首都圏では神奈川や茨城が県営住宅、横浜が市営住宅を提供する方針を表した。水戸市は市長自ら庁舎にウクライナ国旗を掲揚。人道支援の募金も始めた。神奈川や横浜はウクライナの州や市と友好関係を持つが、同国と特段の縁がない自治体も名を連ねた。
◆ミャンマー人には制約も
 ただ、海外で紛争や弾圧がある度に、国や自治体が今回のウクライナ侵攻と同じ素早さと手厚さで対応しているわけではない。例えば、昨年2月1日に軍事クーデターが起きたミャンマー。政府は約4カ月たった5月末、母国の情勢不安のため日本に残りたい在日ミャンマー人に「特定活動」の在留資格を与える緊急避難措置を導入した。入管庁によると、今年2月末までに約4500件の申請があり、約4300件が措置の対象になった。表面上の数字は、ミャンマー人の滞在に寛容にも見えるが「1年間でフルタイムの就労可」のウクライナ人と比べ、制約が多い。まず、在留期間は、特例的に1年のケースもあるが、6カ月が基本だ。就労時間に週28時間の上限が設けられる人もいる。入管庁の担当者は「両国を比較して検討したわけではない」としつつも、ミャンマー人の中に、技能実習や留学の資格で入国後、就労制限なく長期滞在できる「難民」の認定を受けようとする人たちがいる点を制約の理由に挙げる。つまり、在留の根拠が微妙な人たちが、緊急措置に乗っかり、格段に条件のよい在留資格を得ないようにする対策というわけだ。人道的配慮をアピールしつつ、腹の底ではミャンマー人に疑いの目を向けるいやらしさが漂う。
◆ウクライナ支援は一種の「ブーム」か
 クーデター後、自治体レベルでミャンマー人支援の広がりはない。先述のウクライナ支援をする首都圏の自治体も、ミャンマー人向けの施策は講じていない。水戸市の担当者はウクライナ支援について「市長が音頭を取り、市を挙げて活動すべきだという方向性になった」と「トップダウン」をにおわせる。
確固たる人道上の信念に基づく支援というより、全体の流れに合わせた一種のブームなのではないか。
◆「ミャンマーの国民も苦しんでいる」
 ミャンマー現地の人権団体「政治犯支援協会」によると、クーデターから18日までに1700人近くが国軍に殺害された。国連難民高等弁務官事務所によると、1日現在で50万人超が国内避難民となり、約5万人が隣国に逃げている。国連人権理事会が設置した独立調査機関は2月1日、国軍の市民への弾圧が「人道に対する罪や戦争犯罪に相当する可能性がある」とする声明を発表した。隣国に侵攻されたウクライナと違いはあるが、深刻な人権侵害が起きている。だが、クーデター後の避難民を受け入れる特別な仕組みは日本にない。「ミャンマーの国民も苦しんでいる。ウクライナの人と同じように受け入れてほしい」。関東地方の40代のミャンマー人女性は、切実な胸中を吐露する。ミャンマーには高齢の親を含む家族がいる。家族はクーデターへの抗議活動に加わったため、転居しながら、国軍の弾圧を避けている。安全な日本に来たがっているが、在留資格を得られないため、叶わない。女性は在日ミャンマー人の仲間と日本で抗議活動をしている。「自分の活動で母国の家族が逮捕や拷問をされないか、私たちはぎりぎりの思いで闘っている」。緊急避難措置では、在日ミャンマー人の難民認定申請者について、迅速に審査し、難民と認められなくても、特定活動の在留資格を与えるとの規定もある。
◆「緊急避難措置」でも8割が難民認定されず
 入管庁によるとクーデター後、11月末までにミャンマー人16人が難民認定された。だが、措置導入後約10カ月たっても、中ぶらりんの人が多くいる。「緊急とは名ばかりで、遅々としている」。全国難民弁護団連絡会議代表の渡辺彰悟弁護士は批判する。渡辺氏が関わるミャンマー人の難民認定申請者165人のうち、約8割の129人に結論が出ていない。結果が出た36人も、難民認定は1家族5人のみ。残りは特定活動だった。結論が出ていない東京都内の女性(38)は14年間にわたり、入管施設収容を一時的に免れる「仮放免」の扱いだ。就労はできず、生活費は友人らに頼る。女性は国軍との内戦が続く少数民族カチン人。2006年以降、4回の難民認定申請をしている。認定を求めて提訴し、20年に地裁で勝ったが、高裁で覆り、不安定な立場のままだ。「緊急避難措置で在留資格を得られると思ったが、入管から連絡がなく、がっかりする毎日」と漏らす。
◆背景に入管の政治的思惑が
 渡辺氏は「入管が政治や経済に目を向けている」と根本的な問題を指摘する。冷戦時代の仮想敵で、北方領土を争うロシアに対しては、日本はウクライナ人保護を含め、欧米と共同歩調で対峙しやすい。一方、ミャンマーには日本は累計117億ドル(約1兆4000億円)の政府開発援助(ODA)を支出。11年の民政移管後は「アジア最後のフロンティア」と官民こぞって進出を図った。関係が悪化し、権益をライバル中国に譲りたくないという思惑が政財界にある。さらに日本はクーデター後、ミャンマーには、対ロシアのような制裁を科していない。軍政にも配慮する姿勢がミャンマー人の処遇に跳ね返るという構図だ。1990年代まで使われた入管職員の教材には、非友好国と比べ、友好国出身者の難民認定は、相手国との関係から慎重になり得るとの記述があった。差別的な意識は「変わっていない」と渡辺氏は厳しくみる。実際、日本国内の難民支援団体によると、日本が「友好国」のトルコ出身のクルド人を難民認定した例はない。2020年の認定総数は47人。年1万人以上の欧米の国々と格段の開きがある。助けを求める人々に対して、格差のある扱い。渡辺氏は「ミャンマーやウクライナの問題を機に見直すべきだ」と訴える。

*14-2-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/167926 (日経新聞 2022年3月26日) ウクライナ避難民の懸け橋に 世界中の受け入れ先検索サイトを米名門大生2人が開設
 ロシアによるウクライナ侵攻を受け、避難民に受け入れ先を紹介するサイト「ウクライナ・テイク・シェルター」が話題を呼んでいる。避難民が所在地を入力するだけで世界中の受け入れ候補が表示され、開設から約3週間で数千人以上が利用している。ウクライナ政府も太鼓判を押すサイトを立ち上げたのは、米ハーバード大のティーンエージャー2人だ。「ウクライナ・テイク・シェルター」で、東京都で検索した画面。受け入れ先と、利用可能な部屋数やペットの可否、使える言語や滞在可能期間が一覧で表示される。「ウクライナ・テイク・シェルター」で、東京都で検索した画面。受け入れ先と、利用可能な部屋数やペットの可否、使える言語や滞在可能期間が一覧で表示される。
◆所在地入力すれば近くの受け入れ先がずらり
 「サイトに登録したら、数分後に避難民から連絡が来た」—。サイトをつくった米南部フロリダ州のアビ・シフマンさん(19)のもとには1日に何通も連絡が入る。17歳で新型コロナウイルスの感染状況を分析する世界的に有名なサイト「nCoV2019.live」を立ち上げ、米医療顧問トップのファウチ国立アレルギー感染症研究所長から表彰された経歴を持つ。シフマンさんは2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻に「初めて戦争というものを見て、正気の沙汰とは思えなかった」と、4日後にロシアへの抗議集会に参加。「公園で声を上げるのも大事だけど、自分にはもっと多くの人に役立つグローバルなものをつくることができるはずだ」と感じたという。デモ参加当日に「難民と近隣諸国の受け入れ先を結び付けるサイトを立ち上げたら、クールだろうな」とツイッターに書き込み、大学の友人マルコ・バースタインさん(19)に声をかけて3月3日にサイトを開設した。所在地さえ入力すれば近くの受け入れ先がずらりと並び、使える言語や部屋数など必要情報を一覧してすぐに申し込める。サイトは現在16カ国語に対応しており、極限状態にある避難民のことを考え操作を簡単にした。
◆3週間で数千人を受け入れ 今後は求人情報も
 利用した避難民の数は把握できないが、埋まった受け入れ先の数から「少なくとも数千人」と推測する。避難民の受け入れもこれまで2万5000人が手を挙げており、「近いうちに数10万人になるだろう」。日本からも「片言の英語だけど」「ロシア語を話せる」と支援を申し出る人が後を絶たないという。ウクライナ政府もシフマンさんのツイッターに「重要な仕事をありがとう」と書き込んだほか、メンデル大統領報道官が15日に「若い2人がサイトを立ち上げた」と紹介。シフマンさんは「今後は難民向けの求人情報も載せるとか、シリアやアフガニスタンなど世界中の難民も使えるようにするとか、いろいろ考えていきたい」と、サイトを進化させ続ける考えだ。

| 外交・防衛::2019.9~ | 12:00 AM | comments (x) | trackback (x) |

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