■CALENDAR■
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30     
<<前月 2024年04月 次月>>
■NEW ENTRIES■
■CATEGORIES■
■ARCHIVES■
■OTHER■
左のCATEGORIES欄の該当部分をクリックすると、カテゴリー毎に、広津もと子の見解を見ることができます。また、ARCHIVESの見たい月をクリックすると、その月のカレンダーが一番上に出てきますので、その日付をクリックすると、見たい日の記録が出てきます。ただし、投稿のなかった日付は、クリックすることができないようになっています。

2019.8.30 高齢者差別や人権無視という病根がはびこる理由は何なのか? (2019年8月31日、9月1、2、3、5、7日に追加あり)
 
   日本の出生数推移      一人当たりGDP比較     2019年度政府予算
                               2018.12.21産経新聞

(図の説明:左図のように、日本の出生数・出生率は戦後の1947~1949年を最高として漸減しているが、中央の図のように、一人当たりGDPは著しく増加している。個人の豊かさは、一人当たりGDPの方がよく表すが、近年は世界の一人当たりGDPも上がり、世界と比較した場合の日本の一人当たりGDP倍率は下がっている。また、右の2つの図のように、政府支出は過去最高に達しているが、社会保障についてはその充実や高齢者の増加で仕方がない面があるものの、投資に当たらない景気対策と称する生産性の低い支出は国全体の生産性向上の足を引っ張っている)

(1)高齢ドライバーに対する運転免許返納の大合唱は正しくないこと
1)高齢者の免許証返納を奨める高齢者いじめ
 *1-1のように、高齢ドライバーの同一の事故が繰り返し報道され、家族に高齢の親に免許返納を提案させたり、強引に免許証を取り上げさせたりして、高齢者に免許返納させようという動きがある。

 報道を信じた家族は、「よかれ」と思って善意で老親に免許返納を奨めるわけだが、同世代の高齢ドライバーによる事故が報じられたからといって、運転の必要性や老化の程度は人によって異なるため、他の高齢ドライバーが起こした事故を個人に敷衍するのは妥当ではない。

 さらに、まだ運転できる人に無理に免許を返納させれば、仕事や買い物に支障をきたしたり、高齢者を引きこもりにしたりして、健康寿命を縮める。そのため、「運転の自信を失った」「必要でなくなった」と本当に自分で感じる人以外は、家族の勧めがあっても免許を返納する必要はないと、私は考える。

 このような中、*1-5のように、警察庁が、①高齢ドライバーに実技試験を課し ②技能に課題があれば安全機能を備えた車のみに限って運転を認める「限定免許」の対象とする 方針を出した。しかし、教習は、高齢者だけを対象とするのではなく、長くペーパードライバーだった人が再度運転を始める時や自動車の仕組みが大きく変わった時もやる必要があると、私は思う。

 なお、高齢ドライバーによる事故には、ハンドルやブレーキ操作ミスが多いそうだが、個人を犠牲にして免許を返納させるよりも、安全装置を導入する方が理にかなっている上、それによって新時代のニーズにあった自動車ができるのである。

2)生産年齢人口にあたる人が起こした事故
 しかし、*1-2のような生産年齢人口にあたる人の「あおり運転」もたびたび起こっており、これは、1)とは異なり、意図的であって許し難い。そのため、何故、すぐに対策を講じなかったのかが疑問だ。そして、一般の人が気を付けるべきことは、必ずドライブレコーダーを装備して運転時の証拠を残し、事故時に冤罪を押し付けられないようにすることとなる。

 また、*1-3のケースは、ワゴン車とバイクの追突死亡事故が発生し、ワゴン車の運転手はスマホの画面でミステリーやホラー系の漫画を読みながら運転を続け、夜間だったことからその様子がフロントガラスに反射して写り、それが本人の車のドライブレコーダーにはっきりと記録されていたのだそうで、このようにたるんだ人が運転しているのは恐ろしいことである。

3)根本的な解決
 自動車は既に贅沢品ではなく生活必需品となっており、とりわけ足の悪い人には便利な移動ツールだ。そのため、私が10年以上前から言っているように、*1-4のような手放し運転できる運転支援システムや安全装置の搭載は、EV・燃料電池車・ガソリン車などのエネルギー源や大型・中型・小型車といった車種を問わず、どの車種でも速やかに行うべきである。

(2)個人情報の無断使用と個人情報保護について
1)就職情報サイト「リクナビ」の「内定辞退率」予測データ販売
 日経新聞は、*2-1のように、①就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリアが、学生の同意を得ずに「内定辞退率」の予測データを売っていたこと ②リクナビが就職活動の代表的な情報プラットフォームになっていること ③学生の信頼を裏切ったこと について、「個人情報を扱う自覚はあるか」と厳しく糾弾している。

 しかし、*2-2のように、日経新聞は経産省の「信頼ある自由なデータ流通政策」に協力してきた。上の③のように「信頼したから」と言ってそれに応える人ばかりではないし、②のように情報プラットフォームになって多数の情報を扱うからより正確な結果が出せるのであり、購入価値のあるデータを作るには多量のデータを分析することが必要だろう。そのため、「プラットフォーマー」だったことが問題なのではなく、個人情報を他の用途で勝手に使用してよいことにしたのが問題なのである。さらに、①の予測は、AIが統計的に推測できるような“普通”の行動をする人にしか当てはまらないことにも留意すべきだ。

 また、2013年にJR東日本が「Suica」の乗降データを匿名化して社外に販売し、個人情報保護に反すると批判が相次いだことについて、*2-3のように、匿名化されたビッグデータでもいくつかのデータを組み合わせれば、高確率で個人を特定できることが指摘されている。つまり、「匿名加工すれば個人情報の扱いではなくなり、本人の同意がなくても第三者に提供できる」という指針が間違っているのだ。

2)医療ビッグデータの活用!?
 日経新聞は2019年8月21日の社説で、*2-4のように、「①医療ビッグデータを使いこなせ」「②高齢化が進む中、効率的で質のよい医療の提供は重要な課題だが、それを支える検査や治療の記録などの膨大な医療ビッグデータの活用が進まない」「③デジタル技術が生かされておらず、宝の持ち腐れで、医療産業の国際競争力も低下しかねない」などと記載している。

 しかし、①は個人情報の悪用に繋がる可能性が高く、②③はデータ提供者の同意の上で治験を行ったり、医療保険会社が使用された薬と治療効果を比較したりすれば、ビッグデータでなくても検証できる。さらに、「新薬開発のためなら個人の権利を無視してもよい」と考える製薬会社があるとすれば、その会社の薬が患者の側に立って開発されたとは思えない。

 そのため、厚労省の有識者会議で「用途に公益性があると認められた場合」といってもそれがどういう場合かを吟味する必要があるくらいで、私は、EUのやり方の方が見識があると思う。日本もルールづくりに関与したいのなら、まず「人権」「個人情報」「個性」「差別」などの正しい意味を理解してからにすべきだ。

3)ゲノムデータの収集
 東芝は、*2-5のように、従業員のゲノムデータを収集して数万人規模のデータベースを構築するそうだ。断りにくいという社内のプレッシャーはあるものの、これは希望者を対象にしている点で許せる。しかし、個人の生活や遺伝的要因を会社に調べられるのは、(どうにでも使えるという)リスクがある。

 なお、東芝は、これによって多くのデータを分析し、特徴別に複数のパターンに分けることで、最適な予防法・治療法の開発に繋げることが可能になるとしているそうだ。

4)マイナンバーカードによる強引なデータ収集
 政府は、*2-6のように、個人番号が記載されたマイナンバーカードの普及率を高めるため、年度末までに国・地方の全ての公務員にマイナンバーカードを取得させるそうだ。

 国がそうまでするのは、国民一人一人に割り当てられた12桁のマイナンバーで年金・税金・社会保障などを照合し、国民を効率的に監視下に置くのが目的だ。そのため、マイナンバーカードの取得が進まないのであり、その国民の判断は、国が率先してビッグデータを活用して個人情報を使うことを奨めている人権無視の政策を進めていることから見ても正しい。

(3)論調に見る「個人の権利」「社会保障」の軽視
1)年金制度は効率的に運用されているか
 日経新聞はじめ多くのメディアは、*3-1のように、①日本の社会保障は「中福祉・低負担」で ②その差を財政赤字が埋めているため ③負担を中レベルに引き上げるべきだ とする。しかし、ここには年金保険料を支払ってきた割に年金をもらえているか、つまり、i)年金資産運用の適格性 ii)年金保険料集金の網羅性 iii)年金管理事務の効率性 iv)年金関係法令の妥当性 に関して検討がなく、足りなくなれば負担増・給付減して国民にしわ寄せすればよいという省庁の発想の受け売りがあるにすぎない。

 私から見ると、i) ii)とも不十分で、iv)の年金関係法令が“きめ細やか”と表現される無意味な複雑さも手伝って、iii)の効率性は著しく低い。また、*3-3のように、未納者が多い上に未納者データを紛失したりなど、年金保険料をきちんと集めて管理する風土があるのか否かが疑問という民間企業ではありえないようなことが続いているわけである。

2)支え手の拡大
 上記、1)のiv)の年金関係法令に関しては、*3-4のように、支え手を拡大するために、会社員らの入る厚生年金の適用を拡大し、高齢者やパートらの加入を増やす改革に乗り出すとのことだが、パートだから厚生年金の適用がなかったというのは、パート労働者(多くは女性)の生活を全く考えていない法体系だったということだ。

 そのため、*3-2の「支え手」を増やす改革を急ぐのは賛成であるものの、「支払われた年金保険料を誠意をもって大切に管理し、できるだけ多くの年金支払いをする」というコンセプトが共有されないまま、負担増・給付減をいくらやっても無駄遣いが増えるだけだと考える。

 「少子高齢化の進行で『支える側』の現役世代が減り、『支えられる側』の高齢者の割合が増えた」というフレーズも何度も聞いたが、それは人口構成を見れば1980年代からわかっていたことで、1985年に積立方式を賦課課税方式に変更してばら撒くのではなく、積立方式のまま年金支払いに十分なだけの積立金を備えておくべきだったのだ。

 また、「現役世代の手取り収入に対して厚生年金の給付水準『所得代替率』は50%以上あればよい」というのも理由が不明であり、政府の言う「モデル世帯」に国民の何%が当たるのか、さらに国民の一部に関する試算だけをやればよいのか についても疑問である。

 平均寿命や健康寿命が延びたので、私は、高齢者も*3-5のように68歳と言わず、75歳であっても「支える側」に入れることにやぶさかではないが、そのためには、就業における高齢者差別がなく、気持ちよく働ける仕事のあることが大前提になるわけだ。

<高齢者いじめ>
*1-1:https://www.sankei.com/west/news/190603/wst1906030013-n1.html (産経新聞 2019.6.3) 高齢者の免許返納、説得のポイントは
 相次ぐ高齢ドライバーによる事故で、免許証の自主返納を呼びかける動きが広まっている。高齢の親に返納を提案する家族も増えているが、応じないケースが少なくない現状も。半ば強引に免許証を取り上げるなどの強行な手段も考えられるが、家庭内でのトラブルにもつながりかねず、高齢者自身が納得した上で返納することが重要な課題になる。どうすれば説得を受け入れてもらえるのか。「免許を返納した方がいい」。大阪府内に住む80代男性は昨年、同居する50代の息子から免許の返納を持ちかけられた。同世代の高齢ドライバーによる事故が相次いで報じられていたが、それでも返納には抵抗があった。しかし息子も譲らず、妻や孫も加勢。説得は最終的に男性が返納に応じるまで続いたという。「説得に悩む家族の話はよく聞くが、頭ごなしに返納を求めるだけでは、かえってかたくなになってしまう」。高齢社会の問題に詳しいNPO法人「老いの工学研究所」の川口雅裕理事長(55)は指摘する。警察庁が平成27年に75歳以上のドライバーと免許返納者約1500人ずつを対象とした調査では、「家族らの勧め」を返納理由とした人が33%で最も多く、「運転への自信を失った」や「必要性を感じなくなった」を上回った。一方、運転を継続しているドライバーは67・3%が「返納しようと思ったことはない」と回答。「家族の勧めで返納について考えたことがある」は4・7%にとどまっている。高齢者の車の運転に対するスタンスはさまざまで、単なる移動手段としてではなく、運転そのものを楽しみに感じていたり、苦労して手にした免許や車そのものに特別な思い入れを抱いていたりするケースもある。川口さんは「まずは免許や車が親にとってどういう存在なのかを理解することが大切」と話す。車を使う頻度や目的によって、効果的な説得方法は変わってくる。例えば、免許返納者への公共交通機関やタクシーの割引などのサービスは、移動手段として車を利用してきた人には有効だ。一方で、運転自体を趣味にしている場合はメリットとは感じず、車に思い入れがある場合、その“喪失感”を埋めることにはならない。重要なのは、返納後の生活に対して「ポジティブな提案」をすること。車の維持費に充てていた資金で旅行に行くことや、日常生活での新たな趣味や地域活動への参加を提案することが挙げられる。川口さんは「親と同居している人もいれば、疎遠になっている人もいる。返納が必要だと感じたら、まずはコミュニケーションを取ることから始めてみてほしい」と話している。
■年間40万人超返納も後絶たぬ事故
 運転免許の自主返納制度は平成10年に始まった。スタート初年は年間2596人だったが、30年には42万1190人が返納。このうち、75歳以上が半数以上を占める。返納が進む一方、高齢者による事故は後を絶たない。警察庁の調査では、29年の免許保有者10万人当たりの死亡事故件数は85歳以上が年間14・6件。運転免許を取得したばかりの16~19歳の11・4件を大きく上回った。また、75歳以上と75歳未満で比較すると、75歳未満が3・7件なのに対し、75歳以上は7・7件と2倍以上になり、高齢になるほど事故が多くなることが明らかになった。高齢者の免許保有者も増えており、75歳以上の免許保有者は19年に283万人だったのが、30年には564万人に。このうち、80歳以上は98万人だったのが、227万人となっている。

*1-2:https://digital.asahi.com/articles/ASM8N55NSM8NUJHB017.html (朝日新聞 2019年8月20日) 「車遅く頭にきた」容疑者供述 あおり運転自体も捜査へ
 茨城県守谷市の常磐自動車道であおり運転を受けた後、男性会社員(24)が殴られ負傷した事件で、傷害容疑で逮捕された会社役員宮崎文夫容疑者(43)=大阪市東住吉区=が「男性の車が遅く、進行を妨害されたと感じて頭にきた」と話していることが、捜査関係者への取材でわかった。男性のドライブレコーダーには、宮崎容疑者が数キロにわたってあおり運転をする様子が映っていたという。県警は20日、宮崎容疑者と、あおり運転の際に同乗し同容疑者をかくまったとして犯人蔵匿・隠避容疑で逮捕された喜本(きもと)奈津子容疑者(51)を送検した。捜査関係者によると、宮崎容疑者は「車をぶつけられたので殴った」と傷害容疑について認める一方、「危険な運転をしたつもりはない」と供述。しかし県警は、ドライブレコーダーの映像などから危険な運転があったのは明らかとみている。そのため、傷害容疑とともに、あおり運転そのものについても、道交法違反(車間距離保持義務違反など)や、あおり運転で被害者に恐怖心を与えたとして暴行容疑などを視野に調べる方針だ。一方、より刑罰の重い自動車運転死傷処罰法の危険運転致傷の適用について、捜査幹部は「現時点で法律の要件を満たす上で困難な部分がある」との見方を示している。同幹部は「今回はあおり運転後に、手で殴りけがをさせた事案で、危険な運転行為で直接的に衝突などの事故により負傷したものでない」と話す。自室で宮崎容疑者をかくまったとして逮捕された交際相手の喜本容疑者は、高速道路上で宮崎容疑者が殴る様子を携帯電話で撮影していたことを認めている。県警は、宮崎容疑者の暴行を止めなかったなどとして、傷害幇助(ほうじょ)容疑も視野に調べを進めている。

*1-3:https://news.yahoo.co.jp/byline/yanagiharamika/20190630-00132169/ (Yahoo 2019/6/30) スマホ漫画で追突死亡事故 真実を明らかにしたのはドラレコだった
■楽しかった夫婦ツーリングが、一瞬の追突事故で暗転
 まずは、この写真をご覧ください。高速道路の事故現場から引きあげられた250ccのオートバイが、レッカー車の荷台に横倒しの状態で積まれています。ハンドル周りは原形をとどめず、車体も大破しています。つい数時間前まで、このバイクには39歳の女性が乗っていました。夫婦で2台のバイクを連ね、ヘルメットに装着された無線機で楽しい会話を交わしながら、泊りがけのツーリング……。しかしその楽しい旅は、自宅まであと少しというところで断ち切られてしまったのです。2018年9月10日、午後9時11分、事故は関越自動車道下り線、大和PAから小出ICの間の見通しのよい片側2車線の直線道路で発生しました。夫の井口貴之さんは左車線を、妻の百合子さん(当時39)はその後ろを走っていました。制限時速80キロの区間でしたが、百合子さんは時速約70キロで走行していたところ、後ろから運送会社のワゴン車が時速100キロのスピードで追突。百合子さんは避ける間もなく、そのままワゴン車の前後輪に轢かれたのです。
■高速道路上に横たわる妻の変わり果てた姿
 無線での会話が、突然の百合子さんの悲鳴とともに途切れたことに異変を感じた貴之さんは、すぐに自分のバイクを路肩に止め、百合子さんの姿を確認しに後方へと戻りました。しかし、目に入ったのは無残な光景でした。百合子さんは40~50秒後に走行してきた後続車にも轢かれ、脳挫傷等の致命傷を負い、命を奪われたのです。現場はその後、7時間にわたって通行止めになったほどの大事故でした。事故の翌朝、ワゴン車の運転手は、「なぜこんなことになったんだ」と詰め寄った貴之さんにこう説明したそうです。「対向車に気を取られて、わき見してしまった」 。結局、運転手は逮捕されることはなく、事故処理されました。
■ドライブレコーダーに写っていた「スマホ漫画」の動かぬ証拠
 ところが、事故から1週間後、思わぬ展開を見せます。新潟県警は、ワゴン車を運転していた男性(当時50)を、自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致死)の疑いで逮捕したのです。夫の貴之さんは語ります。「逮捕後、警察からその理由を聞いて驚きました。わき見という当初の説明は全くの嘘で、加害者は、高速道路に入ってからもスマホの小さな画面で、ミステリーやホラー系の漫画を読みながら、十分に前を見ず運転を続けていたそうです。そして、前方の妻のオートバイに気づかずに追突したのです」 。実は、加害者がスマホで漫画を読み続けていたことは、本人の車のドライブレコーダーにはっきりと記録されていました。夜間だったことから、その様子はフロントガラスに反射して写っており、約4時間にわたってその映像が残されていたというのです。この映像をもとに警察が加害者から事情を聞いたところ、本人が「わき見」ではなく「ながらスマホ(漫画読み)」をしていたことを認めました。また、加害者の車には、運転手の目の動きを感知し、居眠りや脇見を3秒以上検知すると警報ブザーが鳴る装置も取り付けられていましたが、それすらも無視し、マンガを読みふけっていたといいます。時速100キロの車は、10秒間に約280メートル進みます。高速道路で10秒以上前方から視線をそらすことが、どれほど危険な行為なのか……。検察官は、「これは目隠しをして走っているのと同じだ」と述べたそうです。夫の貴之さんは、今回、私に直接連絡をくださった理由について、こう話してくださいました。「加害者の言い分だけで処理をされた交通事故のことを『Yahoo!ニュース』の柳原さんの記事で知り、妻の事故と全く同じだと思いました。もし、ドライブレコーダーに映像が写っていなければ、この事故は単純なわき見運転で処理されていた可能性が大だったでしょう。なぜこんなことで妻は殺され、私たちの人生が壊されなければならなかったのか……。私は、ながらスマホの危険性、そして加害者が嘘をつくことの悪質性を広く世間に知っていただきたいと思うのです」
■マンガを読みながらの運転は悪質な「危険運転」
 この事故は現在、新潟地裁長岡支部で刑事裁判が進行中です。夫の貴之さんは、事故後、心身に大きなダメージを受け、仕事復帰にも長い時間がかかったそうですが、被害者参加制度を利用してご自身も検察官と共に法廷に立ち、6月24日には被告に対して直接尋問を行いました。被告が運送業務に携わるプロドライバーであるにもかかわらず、スマホで漫画を読みながら高速走行をしていたこと、そして、事故直後にそのときの閲覧履歴を消去するなどして事実を隠し、「対向車線のほうをわき見していた」と嘘の供述をしていたことの悪質性に言及し、危険運転致死など重い罪を課してほしいと述べたそうです。「ながらスマホ」による事故のニュースをたびたび耳にする昨今ですが、実際に車を運転していると、信号待ちなどで明らかにスマホに夢中になっているようなドライバーをたびたび見かけます。ドライバーはこの行為の危険性を改めて認識すべきでしょう。ましてや、スマホの小さな画面でコマ割りされた漫画を読みながら、クルマを運転するなど論外です。次の裁判は、7月16日。被告人に対しての論告求刑が行われる予定です。

*1-4:https://news.livedoor.com/article/detail/16991243/ (読売新聞 2019年8月28日) 高速「手放し運転可能」、BMWが国内初実用化
 独BMWの日本法人は27日、渋滞した高速道路で手放し運転ができる運転支援システムの搭載を今月から始めたと発表した。同社によると、手放し運転ができる自動車の実用化は国内で初めてという。支援システムはドライバーの疲労軽減が目的で、安全確認は運転手が行う。ドライバーが前方を注視しているかどうかを車内カメラで監視し、よそ見や居眠りの状態が続いたと判断されると警告音などで注意を促す。時速60キロを超えた場合も、ハンドルに手を添える必要がある。報道陣向けの試乗会では、高速道路で前の車に追従して走行し、暗いトンネル内でも車線をはみ出すことはなく、加速や減速もスムーズにこなした。7月生産分以降の最新型「3シリーズ」や「8シリーズ」などに標準装備している。すでに購入した人も、販売店で制御ソフトの更新を有償で行えばシステムが使える。日産自動車も高速道で手放し運転が可能な新型「スカイライン」を9月に発売する。高精度な3次元の地図データなどを駆使して実用にこぎ着けた。

*1-5:https://r.nikkei.com/article/DGXMZO49134150Z20C19A8MM0000?s=1 (日経新聞 2019年8月29日) 高齢ドライバーに実技試験 警察庁、事故対策へ検討
 高齢ドライバーによる交通事故対策として、警察庁は運転技能を調べる実車試験を導入する検討を始めた。高齢者を対象にブレーキやアクセルの操作を試験し、技能に課題があれば、安全機能を備えた車のみに限って運転を認める「限定免許」の対象とする。高齢者による事故の原因は操作ミスが多く、事故のリスクを軽減する狙いがある。2020年度予算の概算要求に調査費2700万円を計上する。高齢者向けの限定免許は早ければ21年度に創設される見通しで、実車試験も同時期の導入を念頭に制度設計を進める。現在は75歳以上のドライバーを対象に免許更新時に認知機能検査を義務付け、検査を経て医師に認知症と診断されれば免許取り消しか停止になる。ただ認知機能に問題がなくても運転技能が衰えているケースがあり、専門家から実車試験の導入を求める声が上がっていた。実車試験の対象者は認知機能検査を受ける高齢ドライバーを想定。アクセルとブレーキの踏み間違いや、対向車線へのはみ出しといった危険な運転の兆候がないかどうかなどを調べる。20年度の調査ではこうした危険な運転について、車の安全機能でどの程度制御できるかを実証する。限定免許の創設は、相次ぐ事故を受けて政府が6月に決めた緊急対策に盛り込まれた。ドイツやスイス、オランダといった先行して限定免許を導入している国では、医師による診断や実車試験の結果などに基づき対象者を決めている。警察庁はこうした各国の事例を基に、新たに導入する限定免許の対象者を判断する基準として、実車試験の結果を活用する方針だ。具体的な試験の項目などについては、対象となる高齢者の負担が重くなりすぎないように配慮する。75歳以上の運転免許保有者は2018年末時点で563万人で、社会の高齢化とともに20年に600万人に増えると推計される。75歳以上による死亡事故は18年に460件発生し、全体に占める割合(14.8%)は過去最高だった。東京・池袋で4月に80代のドライバーの車が暴走し母子2人が死亡するなど、重大事故も後を絶たない。19年上半期(1~6月)に発生した高齢ドライバーによる事故を警察庁が分析したところ、34%はハンドルやブレーキの操作ミスが原因だった。自動車各社は操作ミスの影響を軽減する安全装置の導入を急いでおり、新車の17年の搭載率は加速抑制機能が65.2%、自動ブレーキが77.8%だった。後付けの装置の商品化も広がっている。実車試験の導入を巡っては警察庁が17年に設置した有識者会議の分科会でも議論されたが、「どのような運転が事故のリスクが高いと言えるかという判断基準が明確でない」などの課題が示され、結論は出なかった。

<個人情報の無断使用と個人の特定>
*2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190829&ng=DGKKZO49110140Y9A820C1EA1000 (日経新聞社説 2019.8.29) 個人情報を扱う自覚はあるか
 個人データを扱う企業としての自覚を問われている。就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリア(東京・千代田)が学生の同意を得ずに「内定辞退率」の予測データを売っていた問題で、政府の個人情報保護委員会が是正を求める勧告を出した。人材サービスへの信頼が損なわれれば、人的資源を効率的に配分する柔軟な労働市場づくりにもマイナスだ。同社は影響の大きさを認識し、再発防止に向けた具体策を早急に示すべきだ。リクナビに登録した学生がどの企業の情報を閲覧したかを、同社は人工知能(AI)で分析。それをもとに内定を辞退する確率を推計するサービスを始め、計38社と契約した。これまでに約8千人分の個人データを本人の同意を得ないまま提供していた。個人情報保護法違反と判断されたのは当然だ。十分に説明しないまま分析に使ったデータも約7万5千人分にのぼり、個人情報保護委は改善を指導した。見過ごせないのはリクナビが就職活動の代表的な情報プラットフォームになっている点だ。学生の間では、これを使わずに就活を進めるのは難しいとの声が多い。他のサイトに比べた優位性を利用して個人データを集めていたのだとしたら、まさに学生の信頼を裏切る行為である。面接でAIが応募者と対話して適性を探るなど、採用選考や人事管理にIT(情報技術)を活用する動きが広がり始めている。業務効率化につながるが、個人データの扱いが公正なことが前提だ。リクルートキャリアには徹底した再発防止策を講じる責任がある。学生にとっては、自分のデータがどの企業に提供されていたのかなどが不明なままだ。同社は説明を尽くさなければならない。個人データの購入企業にも説明責任がある。合否判定に使っていた例は出てきていないが、データの購入目的について、学生の納得のゆく情報開示が求められる。

*2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190820&ng=DGKKZO48719040Z10C19A8MM8000 (日経新聞 2019年8月20日) ワタシという商品(上) リクナビのつまずき 革新の波、使う知恵試す
 データエコノミーの落とし穴があらわになった。人工知能(AI)が個人の心理を読む時代が現実となり、日本では学生データの利用を巡る「リクナビ問題」が起きた。個人情報を扱う責任を負いながら、便利なデータ社会を実現できるか。課題に直面している。8月上旬、経済産業省にいら立ちが広がった。「最悪のタイミングだ」。職員の一人は唇をかんだ。政府が20カ国・地域首脳会議(G20サミット)で「信頼ある自由なデータ流通」を提唱。リクナビ問題が発覚したのは、経産省がこの構想を後押しするデータ活用事例集の公表準備を進めているさなかだった。
●年80万人が利用
 就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリア(東京・千代田)は2018年以降、学生の十分な同意を得ずに内定辞退率の予測データを38社に販売するなどしていた。年80万人が使うなくてはならない就活の「プラットフォーマー」が震源地だったことで問題は深刻になった。トヨタ自動車やNTTグループ、三菱電機などデータを購入した企業も説明に追われる。日本企業はデータ利用で米国勢などに出遅れ、その経験不足は個人情報の保護意識も鈍らせた。環境や人権に配慮した経営で知られる英蘭ユニリーバは、2年前からAIを採用に使う。「欧州本社も加わり、情報の用途や対象を何重にも確認する」。日本法人でデータ保護を統括する北島敬之さんは話す。データエコノミーの進展は、新たな技術を次々と生んでいる。個人の信用や将来性まで点数化されるようになったが、問われるのは使い手である人の知恵だ。米カリフォルニア州は20年の新規制で、AIで趣味や思想を割り出す手法を制限する。欧州もAIの決定に異議を唱える権利を定めた。慶応大学の山本龍彦教授は「日本は企業倫理も法制度もAI時代に追いついていない」と指摘する。
●「スイカ」の教訓
 マッキンゼー・アンド・カンパニーの推定では、30年までにAIは世界で1400兆円の経済活動を生む。日本も立ちすくんでいては巨大な情報鉱脈にたどり着けない。教訓は13年の「スイカ・ショック」だ。JR東日本がIC乗車券「Suica」の乗降データ活用に動いた直後だった。匿名化して社外に販売したが、説明が足りず個人情報保護に反すると批判が相次いだ。多くの企業が個人データを使う新事業の立ち上げに慎重になった。「国が白黒の判断を下さず、グレーのままにしたのが問題だった」。国立情報学研究所の佐藤一郎教授は振り返る。ルールが曖昧なままでは前に進めない。リクナビも丁寧な説明が欠かせなかった。適切な手続きを踏めば、学生を特定しない企業単位の辞退数予測などの形で、人材難の各社が機動的な採用に使えた可能性がある。個人も意識を高める必要がある。「後輩には他のサイトと使い分けるよう伝える」。早稲田大学4年の女子学生は憤る一方、内定を得たのもリクナビのおかげと割り切り、最適解を探す。個人情報はデータの世紀の資源だ。使いこなせば、豊かさをもたらす。「ワタシという商品」を巡るトラブルは問題解決の好機だ。企業も政府も個人も、やるべきことは見えている。

*2-3:https://digital.asahi.com/articles/ASM8B2394M8BULBJ002.html?iref=pc_extlink (朝日新聞2019年8月11日)進む匿名データの第三者提供に警鐘 日本でも特定の恐れ 
 客の購入動向やニーズに応じた商品やサービスを薦めたり、企業の業務の効率化につながったり。ビッグデータは幅広い分野で利活用が広がっているが、前提となるデータの匿名性は保たれているのか――。今回の論文は警鐘を鳴らす。
●ビッグデータ、匿名化でも高確率で個人特定 海外で指摘
 欧米では、先月発表されたこの研究内容は関心を集めた。米紙ニューヨーク・タイムズは「あなたのデータは匿名化されている? だが科学者はあなたを特定できている」、英紙ガーディアンは「データは指紋 ネットの世界ではあなたはあなたが思っているほど匿名ではない」との見出しでそれぞれ報じた。匿名データからの個人の特定をめぐっては、過去に別の研究者が、公開情報に含まれる生年月日、性別、郵便番号から米州知事の病歴記録を特定した。また、有料動画配信サービス・ネットフリックスが提供した匿名化された閲覧履歴情報を使い、研究者が公開の映画レビューサイトの内容と照合して、個人を特定したケースなどもある。米国ではデータがオンライン公開されることが多く、属性にまつわるさまざまなデータが日本より入手しやすい事情はある。ただ、日本でも匿名化して、まとめられたビッグデータの提供が進みつつあり、対岸の火事とはいえない。個人情報保護法が改正され「匿名加工情報」の考えが導入された。2013年、JR東日本が外部に販売していたICカード「Suica(スイカ)」の乗降履歴から、個人が特定される恐れがあると批判を浴びたことがきっかけだった。匿名加工には基準があり、特定の個人の識別につながる氏名や生年月日、住所などの全部または一部を削除したり、住所を県や市までにあいまいにしたりといった要件を満たせば個人情報の扱いではなくなり、本人同意がなくても第三者に提供できる。ただ、匿名加工に関する政府の指針は、あらゆる手法によって特定できないということまでは求めず、現在の一般的な技術レベルで特定できなければよいとしている。また、匿名化の方法の細かいところは必ずしも明確ではないとされる。産業技術総合研究所の高木浩光主任研究員は、個人が識別されない適切な匿名加工の必要性を強調。そのうえで「論文が指摘している問題は匿名加工情報の制度設計でも議論された。一人しかいないようなデータがあれば、どうしてもリスクが高くなる」と話す。個人を特定するために、例えば交通系ICカードの乗降履歴と、別会社のポイントカードの購買履歴などを突き合わせる行為は「照合」と呼ばれ、個人情報保護法で禁じている。政府の「パーソナルデータに関する検討会」の技術担当会合で主査を務めた国立情報学研究所の佐藤一郎教授は、「購買履歴や治療履歴などは人によって大きく異なるので、(特定につながる)リスクがあると知っておいてほしい」と語る。ただ、データの削除や、あいまいにする加工を進めすぎると、ビッグデータ活用の芽を摘むことになる。国の個人情報保護委員会の担当者は「個人情報保護と利活用のバランスを取り、最新の技術動向も注視していきたい」と話す。

*2-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190821&ng=DGKKZO48773980Q9A820C1EA1000 (日経新聞社説 2019年8月21日) デジタル社会を創る 「医療ビッグデータ」を使いこなせ
 高齢化が進むなか効率的で質のよい医療の提供は重要な課題だ。しかし、それを支える検査や治療の記録など膨大な「医療ビッグデータ」の活用が進まず、デジタル技術が生かされていない。宝の持ち腐れでは、医療産業の国際競争力も低下しかねない。
●新薬開発に使いにくく
 医療ビッグデータは問診記録や検査結果、投薬情報など多岐にわたる。個人情報として慎重な取り扱いが必要だが、新薬開発や病気予防、健康管理に役立ち医療費抑制にもつながると期待される。国は2018年、個人を特定できないよう医療情報を匿名化して使う仕組みを定めた「次世代医療基盤法」を施行した。医療ビッグデータの利用推進が目的だ。だが製薬企業などにとって使い勝手が悪いという。匿名化したデータでは病気ごとの患者数や薬の処方実績などの統計は出せても、一人ひとりの薬の効き目や症状の推移を把握できないからだ。医療情報は従来、活用よりも保護を重視する考え方が強かった。発想を変えて、十分な情報漏洩対策は施しつつも、創薬などのニーズに即した活用をもっと重視した制度設計にすべきだろう。日本には世界有数の規模を誇る診療報酬明細書(レセプト)の情報を集めた「ナショナル・データベース」がある。ことし5月の法改正で介護データと照らし合わせて解析できるようになった。一歩前進だが、制約はなお大きい。厚生労働省の有識者会議で用途に公益性があると認められた場合にしか、企業は利用できない。自社製品の開発や販売に生かせなければデータの魅力は薄れる。大学や研究機関でも、認められた人が専用の部屋でネットに接続できない端末でのみ使える。クラウドを上手に活用し利便性を高めるなど改善の余地は大きい。電子カルテの情報を使いこなすのも大きな課題だ。記載の仕方が病院や担当科ごとに異なり、国の標準化計画は進展が遅い。医療現場は診療業務に追われシステム改修の余裕がないというが、それだけではない。縦割り組織やメーカーの顧客囲い込み、研究者によるデータ独占など、あしき慣習を絶つ必要がある。医薬品医療機器総合機構(PMDA)は18年から、全国23の病院の協力を得てレセプトと電子カルテの情報の統合データベースを運用し始めた。副作用の把握を目的としているが、用途や対象病院の拡大を検討してはどうか。利用価値は高いのに基盤整備が途上の分野もある。コンピューター断層撮影装置(CT)や磁気共鳴画像装置(MRI)による診断画像のデータベース構築だ。画像をAIに学習させ、がんや脳疾患の診断を支援するサービスが大きく伸びると予想される。信頼できるデータが豊富なほど診断精度は上がる。ところが、多くの大学や病院がもつ画像は紙焼き写真のみで、もとになるがん組織の保存状態も悪い。関係学会による画像のデジタル化を国が継続的に支援すべきだ。
●国際ルール積極関与を
 今後は遺伝子データの収集も進む。19年から全国の拠点病院で、がん患者の遺伝子を解析して最適な治療薬を探す「がんゲノム(全遺伝情報)医療」が始まった。一定の条件を満たせば公的保険の対象となり、年間数万人分の解析が実施される見通しだ。国立がん研究センターは集約したデータを製薬企業などに最大限開放し、がんの新薬開発などに生かしてほしい。米国のように、データの提供サービスに民間の参入を認めるのも検討に値する。身近なところでは、スマートフォンや腕時計型センサーによる心拍数や血圧、体温、血糖値などの測定が広がり、データが集まりだしている。病気の発症や進行を遅らせ、健康寿命を延ばす研究などに生かせる。こうした遠隔の測定や投薬管理サービスでは米欧のIT企業や製薬企業が先行する。日本人のデータが知らぬ間に海外に流出する可能性もある。データ利用に関する同意項目などに、一人ひとりが注意する習慣をつけたい。個人情報に配慮しながら国境を越えて医療データをやりとりする、データシェアリングの方式を標準化する動きも米欧を中心に活発になってきた。日本も率先してルールづくりに加わるべきだ。

*2-5:https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/news/18/04940/ (日経BP 2019/5/15) 東芝が従業員のゲノムデータを収集へ、数万人規模のデータベース構築
 東芝は、「東芝Nextプラン」で新規成長事業の1つに位置付けた精密医療の取り組みの一環として、日本人に特徴的な遺伝子を効率的に解析する「ジャポニカアレイ」によるゲノムデータの収集開始を決定した。また、医療分野のスタートアップ投資に実績のあるBeyond Next Venturesと業務提携契約を締結した。東芝グループは、2018年11月8日に全社変革計画「東芝Nextプラン」を発表し、「超早期発見」「個別化治療」を特徴とした精密医療を中核とする医療事業への本格的な再参入を表明した。また、東芝のDNAであるベンチャースピリットを呼び覚まして新規事業を創出する新たな仕組みとして、100億円規模のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)機能を導入している。疾病は個人の生活パターンや遺伝的要因(体質)によって異なるため、より多くのデータを分析し、特徴別に複数のパターンに分けることで、最適な予防法・治療法の開発につなげることが可能となる。「ジャポニカアレイ」によるゲノムデータの収集開始はその第一歩で、国内グループ従業員の希望者を対象に、ゲノムデータや複数年の健康診断結果などを含む数万人規模のデータベースを構築する。これにより東芝は、「予防医療」の実現に向けた研究開発を、医療研究者をはじめとする医療・ライフサイエンスに携わる機関や企業と共同で推進する。また、精密医療事業の事業化や収益化には社外の力を積極的に活用することも重要となることから、Beyond Next Venturesとの連携を通じ、優良な医療系ベンチャー企業の探索や協業の検討を推進していく。このほか東芝は、精密医療事業を本格的に推進するため「一人ひとりのクオリティ・オブ・ライフ(QOL)の向上を応援します」「積み重ねた技術力と、新たなパートナーシップでこれからの先進医療・ライフサイエンスを支えます」「次の世代も見据えた予防医療にデジタルの力を活かします」の3つを目標とする「精密医療ビジョン」を新たに作成した。東芝グループは、このビジョンのもとに予防から治療にわたる複数のテーマで要素技術などの技術開発に着手しており、研究から実用化に向けたさまざまなパートナーシップを組みながら事業の成長を目指す。

*2-6:https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190821/KT190820ETI090002000.php (信濃毎日新聞 2019年8月21日) マイナンバー 強引なカード普及促進策
 個人番号が記載されたマイナンバーカードの普及率を高めるため政府は年度末までに国と地方の全ての公務員に取得させる考えだ。そうまでする必要があるのか。カードの普及が自己目的化しているかの強引なやり方には疑問が拭えない。国、地方それぞれの共済組合から職場を通じて交付申請書を配布し、手続きを促す。申請書には家族分を含め、あらかじめ名前などを印字する。霞が関の中央省庁で始めている身分証との一体化も出先機関や自治体に順次広げる。実質的な取得の義務化だ。マイナンバーは、国民一人一人に割り当てられた12桁の番号である。年金や税金などの個人情報を番号で照会し、事務を効率化するとして2016年1月に導入された。預金口座にも適用し、国民の所得や資産を正確につかむことで脱税などを防ぐことも狙う。希望者には、顔写真付きのICカードが交付される。番号のほか氏名、住所、生年月日が載り、身分証明書になる。政府は、22年度にほとんどの住民がカードを持つことを想定するものの、現状は程遠い。交付は今月8日時点で1755万枚、人口比で13・8%にとどまる。申請書を受け取った公務員は提出を拒みにくいだろう。公務員だからといって、本人の希望が前提であるカード取得を強いていいのか。まして扶養家族まで対象に含めるのは普及促進の度が過ぎる。内閣府の世論調査では、カードを「取得していないし、今後も取得する予定はない」との回答が半数を超えている。理由は「必要性が感じられない」が最多で「身分証になるものは他にある」「情報漏えいが心配」と続いた。利点が乏しい一方で不安が残る制度―。国民のそんな受け止めが見て取れる。公務員への働き掛けのほかにも政府は普及策をあれこれ打ち出している。消費税増税に伴う景気対策ではカードを活用した「自治体ポイント」を計画する。21年には過去の投薬履歴を見られる「お薬手帳」の機能も持たせる。カードの利点をアピールしようと活用範囲を拡大していけば、その分、情報漏れや不正利用の心配が膨らむ。脱税防止といった本来の目的がかすんでもいく。普及を図りたいなら、強引な促進策ではなく、制度への国民の理解を広げる努力が先決だ。何のための個人番号か、なぜカード取得を促すのか。出発点に立ち返って丁寧に説明するべきである。

<個人の権利や社会保障の軽視>
*3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190820&ng=DGKKZO48739010Z10C19A8EN2000 (日経新聞 2019年8月20日) 社会保障を巡る認識ギャップ
 日本の社会保障は「中福祉・低負担」であり、その差を財政赤字が埋めている。これに対して専門家は負担を中レベルに引き上げるべきだと考えている。一方で、多くの国民は福祉水準の方を高レベルに引き上げてほしいと願っている。そして政治は票を意識して国民意識に寄り添おうとするから、認識ギャップは放置され、財政赤字だけが拡大していくことになる。この放置された巨大な認識ギャップこそが社会保障問題の解決を難しくしている最大の原因だ。このギャップを少しでも小さくしていくためには、まずは政治が短期的な人気取りではなく、長期的な国民福祉の安定を考えた議論を展開すべきだ。国民の側も次のような点で社会保障への理解(社会保障リテラシー)を高めていくことが必要だ。第1は、社会保障の給付と負担は一体だという認識を持つことだ。これは当然のようにみえて結構難しい。例えば消費税率を引き上げようとすると「それにより社会保障がどう改善されるのかを示すべきだ」という意見が出る。しかし、現在の低すぎる負担レベルを正そうと消費税率を引き上げるのだから、税率を上げても社会保障のレベルが高まるわけではない。第2は、適切な期待を持つことだ。例えば年金について「百歳までも安心して暮らしていける年金水準にすべきだ」というのは過度な期待である。年金制度があっても自ら老後に備えるのは当然だ。一方、若者たちの中には「自分たちが老人になる頃には年金はもらえない(文字通り受け取る年金がゼロ)」と悲観する向きも多いが、これはあまりにも期待レベルが低い。現行の年金制度は長生きリスクに備えて自己努力を補う有力な手段となっている。第3は、自分自身がどんな形で負担しているかを知ることだ。近年、消費税率の引き上げが遅々として進まなかったこともあって、社会保険料の引き上げが続いてきた。このため勤労者と企業が相対的に重い負担をすることになってしまっている。これは、勤労者が負担する社会保険料は給料から天引きされているため、本人も負担の高まりを認識していないからだ。政治の側と国民の側の双方が社会保障を巡る巨大な認識ギャップを埋める努力をしてほしいものだ。

*3-2:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/538855/ (西日本新聞社説 2019/8/29) 年金の将来 「支え手」増やす改革急げ
 5年ぶりの健康診断は厳しい結果だった。放置すれば命を縮めかねない。すぐに大手術をするわけにはいかないが、体力の増強などやるべきことに早急に取り組む必要がある-。厚生労働省が公表した公的年金の財政検証結果から読み取るべきは、こんな結論だろう。少子高齢化の進行で「支える側」の現役世代が減り、「支えられる側」の高齢者が受け取る年金給付水準の低下は避けられない。老後に対する国民の不安は募るばかりだ。厚生年金の加入対象者を拡大するなど、支え手を増やす制度改革で国民の不安解消に努めるべきだ。財政検証では、現役世代の手取り収入に対する厚生年金の給付水準「所得代替率」を試算した。政府にとっては、モデル世帯で所得代替率50%以上を維持という約束が、将来も守られるかが焦点の一つだった。経済成長の度合いによって6通りで試算し、高成長3ケースでは約30年後も約束は守られるとした。5年前の試算結果とほぼ同じで、根本匠厚労相は「経済成長と労働参加が進めば、一定の給付水準が確保されながら約100年間の負担と給付が均衡し、持続可能となる」と強調した。年金制度の「100年安心」をアピールする狙いだ。ただ、それでも現在の所得代替率61・7%からは大幅に低下する。しかも、この3ケースは経済成長と高齢者の就労が順調に進むという甘い条件設定での見積もりだ。それらが低迷するケースでは40%台に落ち込む。楽観を排して見通せば、年金制度も受給者の生活も「100年安心」とは言い難い。不安解消には、年金給付水準の低下抑制が欠かせない。厚生年金の加入対象者を中小企業のパートにまで広げたり、賃金要件を緩和したりすれば、給付水準は改善する。厚生年金の保険料は労使で折半するため企業側の反発が予想されるが、支え手の層を厚くするためにも腰を据えた議論が必要だ。現在は20歳から60歳まで40年間となっている基礎年金加入期間を45年に延ばす案や、厚生年金の加入上限年齢を75歳に引き上げる案などについても、給付水準の改善につながるという試算が出た。これらについても検討してほしい。「就職氷河期世代」の非正規労働者など、老後への備えが十分ではない人は少なくない。無年金や低年金への対策は待ったなしだ。政府は検証結果を踏まえて制度改革案をまとめ、関連法案を来年の通常国会に提出するという。与野党とも政治の責任として、より望ましい年金の将来像づくりに合意できるよう議論を尽くすべきだ。

*3-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/403840 (佐賀新聞 2019年7月22日) 年金機構が個人情報紛失、未納者データのDVD
 日本年金機構の東京広域事務センター(東京都江東区)が、国民年金の未納者の個人情報が入ったDVDを紛失したことが22日、機構への取材で分かった。未納者の氏名や住所、電話番号が含まれている可能性があるが、情報の流出や悪用は確認されていないという。機構によると、機構は国民年金の保険料未納者に支払いを訪問や電話で催促する業務を外部業者に委託。業者が状況を報告するための情報を記録したDVDを同センターに送付し、届いた後に行方不明になった。機構の担当者は「具体的な個人情報の内容や人数、行方不明になった時期は調査中」としている。

*3-4:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49083190X20C19A8SHA000/?n_cid=NMAIL006(日経新聞2019/8/27)年金、支え手拡大急ぐ パート加入増で給付水準上げへ
 厚生労働省が27日公表した公的年金の財政検証では、少子高齢化で先細りする公的年金の未来像が改めて示された。日本経済のマイナス成長が続き、労働参加も進まなければ2052年度には国民年金(基礎年金)の積立金が枯渇する。厚生労働省は一定の年金水準を確保できるよう、会社員らの入る厚生年金の適用を拡大し、高齢者やパートらの加入を増やす改革に乗り出す。

*3-5:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49054290X20C19A8SHA000/?n_cid=NMAIL006 (日経新聞 2019/8/27) 年金、現状水準には68歳就労 財政検証 制度改革が急務
 厚生労働省は27日、公的年金制度の財政検証結果を公表した。経済成長率が最も高いシナリオでも将来の給付水準(所得代替率)は今より16%下がり、成長率の横ばいが続くケースでは3割弱も低下する。60歳まで働いて65歳で年金を受給する今の高齢者と同水準の年金を現在20歳の人がもらうには68歳まで働く必要があるとの試算も示した。年金制度の改革が急務であることが改めて浮き彫りになった。

<インフラ整備は最初の都市計画が重要であること>
PS(2019年8月31日、9月3日追加):*4-1のように、熊本地震からの復興と将来の都市づくりのため、「中心市街地を『歩いて暮らせる上質な生活都市』に転換する新たな街づくりが必要」として、熊本市の大西市長・市の幹部・市の職員・市議など28名の視察団がフランスに派遣されることになり、これに対して、「①市長や議員が飛行機でビジネスクラスを利用する」「②生活再建できない熊本地震の被災者が残される中で、議員が物見遊山のように海外視察に行くことは納税者の理解を得られない」との批判があるそうだ。しかし、①については、一般企業の常識から考えると、市長・議員・市の幹部などが出張時にビジネスクラスを利用するのは当たり前であり、②についても、街づくりが進む前に都市計画をしておくことが重要だ。ただ、本当に都市計画のための見聞であることは大切で、そのためには議員は少人数づつに分かれてあちこちの街を視察し、必要な質問を行い、正確な報告書を提出して、その後の議論に資するのでなければならない。その時は、共産党の議員も分担して、中国・ロシア・東ヨーロッパなどの開発の進みつつあるモデルにしたい都市を視察して報告すると役に立つと思う。
 なお、*4-2のように、横浜市で第7回アフリカ開発会議(TICAD)が開かれ、「横浜宣言」に「自由で開かれたインド太平洋」「海洋安全保障」などが入れられたそうだが、それはアフリカの開発とはあまり関係ないだろう。また、尖閣諸島に関しては抗議が甘いのに、何に関しても中国の悪口を言ったり、投資額だけでなく中国独自の取り組みとの違いも際立たせたいなどと中国と競争するためにアフリカ開発援助をしているような発言をしているのは日本の意識が低いと言わざるを得ない。私は、*4-5のように、アフリカ開発銀行のアデシナ総裁が、中国の経済圏構想『一帯一路』について、「アフリカの経済成長に寄与する」「中国が『債務のワナ』の意図を持っているとは思わない」とされているとおり、現在のアフリカは、1950年代の日本と同様に、今から経済成長する地域で、そのためにインフラ整備を必要としており、人口増加しつつある平均年齢の低い国が多いため、借金は経済発展すれば返せると思う。
 そして、日本が援助するのなら、アフリカの貴重な自然を破壊せずに開発を進めるため、都市計画を先にたて、民間企業を中心として上下水道・再エネによる分散電源・EV・FCV・携帯電話・パソコン使用などを前提とする「質の高いインフラ投資」をすべきだ。
 さらに、*4-3のように、G7首脳会議で日米欧が素早く一致したとおり、2050年までにアフリカ大陸は人口が倍増して25億人になると予想されるため、治安の悪化を防ぐには雇用創出しなければならないが、日本はこの状態を1940~1950年代に経験済であり、これらを解決する方法は、女性も含めた教育・人材づくり・家族計画・経済成長であることがわかっている。そのため、中国と同様、一時的な格差拡大を恐れずに、できる所からやっていくことが必要だろう。
 2019年9月1日、日本農業新聞が、*4-6のように、「①人口が倍増するアフリカは、今後の有望成長地域で食料輸入国が多い」「②農業振興で成長を後押ししたい」「③アフリカの食料安全保障も大問題」と記載している。私は、エネルギーは全く排気ガスを出さない再エネ由来の電動にすべきだと思うので、わざわざ食料を作れる田畑でバイオ燃料を作ることには反対で、さらにスマート農業にしすぎると人口増のアフリカで雇用吸収力が低くなるのではないかとも思うが、①であるからこそ②③は非常に重要で、JAグループ等の農業関係団体は技術協力や人材育成が可能だと思う。また、アフリカで技術協力した日本人の方にも貴重な経験になるし、アフリカの家族農業をまとめた農業協同組合との連携や6次産業化もできるだろう。
 なお、JA全農が、*4-7のように、組合員の家庭や営農施設向けの電力の販売に乗り出すそうだが、各地域の電力会社から電力を調達するのでなく、ハウス・畜舎・田畑などで再エネ発電を行えば、完全なグリーン電力にでき、営農の大きなコストダウンや農家の副収入確保が可能になる。また、この方式は、アフリカなど電力インフラの遅れている地域でも活用できる。


アフリカのGDPと経済成長率 アフリカの人口ピラミッド 日本の人口ピラミッドの変化

(図の説明:左図のように、アフリカ諸国は変動はあるものの世界平均より経済成長率が高く、これから成長する国々である。中央の図のケニア・ナイジェリア・エチオピアの人口構成は、右図の日本の1940年代、南アフリカの人口構成は1955年くらいに当たり、先進国の援助でスピードが速まりつつ、インフラ・経済・医療・教育の充実は似たような道を辿ると思われる)

   
世界では最安値の太陽光発電      改良型風力発電機        地熱発電

*4-1:https://digital.asahi.com/articles/ASM8V5392M8VTLVB00B.html?iref=comtop_8_05 (朝日新聞 2019年8月30日) 熊本市、海外視察に1850万円 市長はビジネスクラス
 熊本市が今秋、大西一史市長をはじめ、市幹部や市職員、市議ら28人からなる視察団をフランスに派遣することになった。6泊8日で、市負担の予算は計約1850万円。市は視察の理由を、熊本地震からの復興と将来の都市づくりには中心市街地を「歩いて暮らせる上質な生活都市」へと転換する新たなまちづくりが必要で、フランスが欧州の先進事例と説明している。今年6月、熊本市と交流都市の関係にあるエクサンプロバンス市から「日仏自治体交流会議」の準備会議への招待状が大西市長に届き、倉重徹議長にも議員との交流を求める招待状が届いた。これに合わせる形でフランスの3都市を巡る視察団の派遣を企画した。市都市政策課によると、一行は10月30日に熊本を出発。同日夕にストラスブール市に到着。31日に同市の市長を表敬後、公共交通を優先したまちづくりを視察。11月2日にオルレアン市を回り、3日に交流都市のエクサンプロバンス市に移動。翌4日に同市の市長を表敬し、5日まで市内を視察して6日に帰国する。大西市長は県産農産物品の売り込みのため視察の途中でイタリア・ミラノ市を訪問し、エクサンプロバンス市で合流する予定だ。市議会からは倉重議長のほか、自民の寺本義勝議員、小佐井賀瑞宜議員、光永邦保議員、公明の井本正広議員、市民連合の福永洋一議員が参加する予定。参加議員は各会派の代表として選ばれた。視察の準備は昨年から始め、市幹部と職員の費用は今年度当初予算で議決済み。市議会分については、9月定例会に770万円の補正予算案を提出する。経済界から参加する4人の旅費は自己負担という。市長や議員は飛行機でビジネスクラスを利用する予定。市議会事務局によると、交通費や滞在費を含む議員1人あたりの旅費約106万円は全額公費から支出する。議員は視察後の報告書提出の義務が無く、議会事務局が感想を聞き取って報告書を作成する。海外視察の事例については「近年は無く、少なくとも改選前の前期の4年間は無かった」としている。市議6人が同行する海外視察ついて、大西市長は27日の記者会見で「派遣する議員数については議会がお決めになること。熊本市の市電延伸にも色んなご意見があり、多様な方が実際に現地を見て違う角度から将来の熊本について検討する機会。視察の目的も明確でまちづくりの知見を深められる」と説明。倉重議長も取材に対し、「路面電車をいかしたまちづくりやコンパクトシティーを実現した先進国で、なるべくたくさんの議員に一緒に交通体系を体験してもらい、その意見を将来の熊本のまちづくりにいかす」と話す。一方、これまで市議会の海外視察に加わってこなかった共産の上野美恵子議員は「市民の代表として市長と議長の表敬訪問は理解できる。しかし、まだ生活を再建できない熊本地震の被災者が残されるなかで、議員が物見遊山や大名行列のようにゾロゾロと海外視察に行くことは納税者の理解を得られると思えない」と批判している。

*4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190830&ng=DGKKZO49193050Q9A830C1MM0000 (日経新聞 2019年8月31日) TICAD横浜宣言、インド太平洋構想を明記、中国念頭に 民間重視を強調
 横浜市で開いた第7回アフリカ開発会議(TICAD)は30日午後、「横浜宣言」を採択して閉幕した。安倍晋三首相が提唱する「自由で開かれたインド太平洋」構想にTICADの成果文書として初めて触れ、重要性について認識を共有した。今後のアフリカ開発では民間ビジネスを重視していく姿勢も前面に出した。インド太平洋構想はアジアとアフリカを結ぶインド洋や太平洋地域で、法の支配や航行の自由、経済連携を推し進めるものだ。首相が2016年8月にケニアで開いた前回TICADの基調演説で打ち出した。横浜宣言では同構想に「好意的に留意する」と言及した。中国が主導する広域経済圏構想「一帯一路」を意識し、アフリカ諸国が中国に傾斜しすぎないよう促すものだ。アフリカでのインフラ開発では中国の融資に頼り、巨額の債務を負った事例が指摘される。6月の20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)でまとめた首脳宣言や「質の高いインフラ投資原則」を共通認識として歓迎することも盛り込んだ。相手国に返済が難しいほど過剰な債務を負わせないよう、透明性と持続可能性を重視する内容だ。優先事項の一つでも海洋安全保障を挙げ、中国の海洋進出を念頭に「国際法の諸原則に基づくルールを基礎とした海洋秩序の維持」を訴えた。経済連携では「アフリカ開発における民間部門の役割を認識」と盛り込んだ。民間ビジネスを活性化してアフリカ経済の自律性を高める狙いで、政府間が主導する中国の対アフリカ支援との違いを訴えた。首相は閉会式で「民間企業のアフリカにおけるさらなる活動を後押しするため支援を惜しまない」と強調した。アジアでの開発で日本が取り組んだ経験がアフリカでも役立つことを確認し、日本がアフリカ諸国での人材育成を支援する「ABEイニシアチブ3.0」を評価した。日本への留学やインターンを促進し、今後6年間で3000人の産業人材の育成を目指す仕組みだ。女性起業家への支援も歓迎する考えを明記した。アフリカ開発を巡っては中国も00年から中国アフリカ協力フォーラムを計7回開き、18年の会合では3年間で約600億ドルの拠出を表明した。首相も28日の基調演説で今後3年間で200億ドルを上回る民間投資の実現を後押しする考えを示した。ただ投資額だけで対抗するのではなく、中国独自の取り組みとの違いも際立たせたい考えだ。横浜宣言ではTICADの基本理念として日本とアフリカだけでなく国際機関や第三国にも開かれた枠組みだと強調した。同宣言では日本が目指す国連安全保障理事会の常任理事国の拡大を念頭に「安保理を含む国連諸組織を早急に改革する決意を再確認」することも明記した。次回の第8回TICADは22年にアフリカで開く。TICADは前回初めてアフリカで開いており、3年ごとに日本とアフリカで交互に開催する方向性を明確にした。日本が1993年に立ち上げたTICADでは参加する日本やアフリカ諸国で共通する問題意識を盛り込んだ宣言を出すのが通例だ。28日に開幕した今回はアフリカ54カ国のうち過去最高の42カ国の首脳級が参加した。

*4-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190831&ng=DGKKZO49225340Q9A830C1EA3000 (日経新聞 2019年8月31日) 人口増リスク、欧米が注視
 対立が目立った26日までのフランスでの主要7カ国(G7)首脳会議で日米欧が素早く一致した分野がある。西アフリカのサハラ砂漠南部「サヘル地域」での雇用創出などを通じた開発支援だ。マリやチャドなどサヘル地域5カ国は世界のアフリカへの成長期待をよそに治安が悪化し、統治が機能していない。背景には人口が増えるなかで貧困や若年層の失業が膨らみ、過激派勢力が不満を募らす若者を引き込む負の構図が浮かぶ。2050年までに人口が倍増して25億人になるアフリカ大陸。欧米は「最後の市場」としての潜在性よりも、リスクへの意識を強めているように見える。西アフリカのある高成長国の閣僚も「雇用創出できなければ、人口は文字通りに爆発し、世界の問題になる」と話す。特に地理的に近い欧州は大量の難民流入やテロのリスクに直面する。アフリカの安定成長を促して人口増に伴う雇用を確保し、インフラや衛生整備を進めなければ、食料不足や疫病の流行といった危機も招きかねない。今回のアフリカ開発会議(TICAD)で安倍晋三首相が平和構築への協力を打ち出し、教育や医療支援も強調したのは欧米の懸念に呼応した動きといえる。「スクランブル(先を競った奪い合い)」と形容される最後の市場を巡る各国の競争は思わぬ結果を生む可能性もある。改革を進め、外資を呼び込んで成長する国と、負のサイクルから抜け出せない国との格差が広がる兆しがある。人口予測通りにいけば、50年には世界の4人に1人はアフリカ人となる。世界銀行総裁候補だったナイジェリアのオコンジョイウェアラ元財務相は訴える。「アフリカを育むことは世界の未来に直結する」

*4-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190831&ng=DGKKZO49216720Q9A830C1EA3000 (日経新聞 2019年8月31日) アフリカ投資拡大へ「人づくり」前面 TICAD閉幕 、膨らむ債務 対処後押し 支援先行の中国を意識
 第7回アフリカ開発会議(TICAD)は30日、アフリカの経済成長の進展をめざす「横浜宣言」を採択して閉幕した。日本は会議を通じて民間主導の投資を訴え、政府としては投資拡大の環境を整える人材育成を前面に掲げた。中国の融資で過剰債務を抱える国などの実態を踏まえ、投資や支援で先行する中国に傾斜しすぎないよう促す狙いもある。安倍晋三首相は30日のTICAD閉幕後の記者会見で「日本とアフリカの懸け橋となる人材の育成に力を入れていく」と強調した。治安から公的債務、保健、産業まで投資拡大の前提となる能力向上をはかる。具体策のひとつが今後3年間でのべ30カ国に公的債務のリスク管理研修を実施することだ。ガーナやザンビアへの債務管理やマクロ経済政策を助言する専門家の派遣を決めた。ケニアの鉄道など中国の融資で重い債務を抱えた例が指摘される。財政が悪化すれば円借款などを用いたインフラ支援などが難しくなる。横浜宣言には6月の20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)でまとめた首脳宣言や「質の高いインフラ投資原則」の歓迎を盛り込んだ。過剰な債務を負わせないよう透明性と持続可能性を重視する内容だ。首相は記者会見で「支援は対象国の債務負担が過剰にならないようにしなければならない」と述べた。宣言で「自由で開かれたインド太平洋構想」の評価に初めて触れたのは、中国の「一帯一路」構想を意識した。アフリカ側にも「投資や援助を受ける国を多様化したい」(ジブチのユスフ外相)との声がある。30日の「平和と安定」に関する会合では、河野太郎外相がアフリカ諸国の国連平和維持活動(PKO)の能力向上支援に触れた。ケニアなどのPKO訓練センターで日本の自衛官らによるPKO部隊の研修を充実させる。アフリカでは治安が悪化している地域が多く、地域格差拡大の要因にもなる。アフリカ市場が発展し民間投資が増えるためには情勢の安定が重要だ。

*4-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190831&ng=DGKKZO49221200Q9A830C1FF8000 (日経新聞 2019年8月31日) アフリカ開銀総裁「一帯一路は成長寄与」 債務のワナ否定
 アフリカ開発銀行(AfDB)のアデシナ総裁は30日、日本経済新聞のインタビューに対し、中国の経済圏構想「一帯一路」について「アフリカの経済成長に寄与する」と評価した。中国が過剰債務の代償としてインフラ権益を奪う「債務のワナ」について「中国がそうした意図を持っているとは思わない」と述べ、中国のインフラ投資を歓迎する姿勢を見せた。アデシナ氏はアフリカの持続的な経済成長にはインフラ整備が欠かせないと述べた。不足している資金を最大で1080億ドル(約11兆円)と予測し、海外から投資を呼び込むことが重要との考えを示した。「一帯一路」については「アフリカの発展に寄与する」と評価した。また、アフリカの一部の国で対外債務が増えていると指摘し、各国が「債務についての透明性を確保し、処理の道筋を示すことが非常に重要だ」と述べた。一方で「アフリカで債務危機に陥っている国はない」と述べ、現時点でのアフリカ諸国の債務水準は問題視しない考えを示した。足元のアフリカ経済については良好との認識を示した。「2019年の平均成長率は4.1%を確保できる」と述べた。今後のリスクに米中貿易戦争と英国の欧州連合(EU)離脱、インドとパキスタンの緊張の3つを挙げた。アデシナ氏は8月28~30日に横浜市で開いたTICADに出席するため来日した。

*4-6:https://www.agrinews.co.jp/p48606.html (日本農業新聞論説 2019年9月1日) 日・アフリカ会議 農業支援で関係強化を
 日本政府が主導する第7回アフリカ開発会議(TICAD7)は、民間企業の投資強化など「横浜宣言」を採択して閉幕した。人口が倍増するアフリカは、今後の有望な経済成長地域だ。一方で食料輸入国が多い。日本の先進技術を含め、農業振興で成長を後押ししたい。「後進地域がゆえの先進性」──潜在的な成長力を秘めるアフリカ大陸の可能性はこう表現できる。「横浜宣言」で、民間投資の大幅拡充やデジタル革命へ対応を明記した理由だ。農業面でも同じ。JAグループが6月開設した戦略拠点「イノベーションラボ」。ベンチャー企業と連携し、幅広い分野でITを活用した新規事業の創出を目指す。その一つ、日本植物燃料(神奈川)は、アフリカのモザンビークで新たな挑戦を進める。現地農家にバイオ燃料作物栽培を推進。それを契機に農家に電子マネーを広げ、少額融資などを行う。鍵は普及している携帯電話の活用だ。合田真代表は、情報通信技術(ICT)を駆使し、農林中金やJA全農など総合事業を行うJAグループと連携すれば、「さらに現地の農村を発展できる」と強調する。吉川貴盛農相はTICAD期間中、「農業」部門に参加し、アフリカの食料安全保障確立に関連し、専門家派遣の拡充や、先端技術を駆使したスマート農業の振興などを強調した。TICADでは、二つの視点が欠かせない。地球規模の食料安保と中国の存在感だ。アフリカ諸国はかつて農産物の輸出大国でもあった。だが度重なる紛争や気象災害で国土は荒廃した。豊富な鉱物資源は多国籍企業の収奪に遭う。土地収奪も重なり、アフリカ農業は衰退の一途をたどる。基礎的食料さえも不足し食料輸入大国に転落した。人口増と食料輸入の同時進行は、世界の食料安全保障上も大問題となりかねない。アフリカ大陸の経済成長の潜在力は大きい。今年5月には域内の関税撤廃などを目指す自由貿易協定も発効し、巨大な統一市場への期待も膨らむ。中国やインドに匹敵する13億人の人口で、2050年には25億人と倍増し世界の4分の1を占める見通しだ。巨大な胃袋をどうやって満たすのか。いま一つの視点は中国の動き。2000年からアフリカ協力フォーラムを7回開催。昨年は、3年間で600億ドルを拠出する巨額支援を表明した。米中貿易紛争の激化は、安全保障問題も絡む。こうした中で、今回のTICADでは中国に対抗し日本の存在感を強める戦略的な意味合いも一段と強めた。一方、食料自給率の向上は喫緊の課題だ。農業分野支援は、日本の高い技術力を生かせる。既に干ばつに強い多収性の「ネリカ米」振興は高い評価を受けている。JAグループなど農業団体はアジアの途上国を中心に人材育成に力を入れてきた。今後はアフリカを含め日本の“農協力”発揮の時でもある。

*4-7:https://www.agrinews.co.jp/p48629.html (日本農業新聞 2019年9月3日) 全農 電力販売を本格化 割安提供 家計、営農後押し
 JA全農は、JA組合員の家庭や営農施設向けの電力の販売に本格的に乗り出す。各地域の電力会社より安価に供給し、家計の負担や営農コストの削減を後押しする。地方では電力小売りへの参入業者が少ないが、「JAでんき」の愛称で北海道と沖縄県、一部の離島を除く全国で展開。2021年度までに累計35万戸の契約を目指す。子会社の全農エネルギーが各地域の電力会社などから電力を調達し、正・准組合員やJAグループ役職員の家庭、営農施設に届ける。電力会社の送電網を使うため、電力の安定性は従来と変わらない。JAを通じて申し込むが、地域のJAが同社や全農と代理事業契約を結ぶ必要がある。家庭用電力の料金は、各地域の電力会社より割安に設定する。自前の発電所などを持たないため料金を抑えられる。全農によると、標準的な4人家族の使用量で、電気料金は5%前後安くなる。使用量が多いほど割安な料金体系で、世帯人数が多い農家は、さらに電気料金の引き下げメリットが受けられるという。ハウスや畜舎などの営農施設向けには、使用実態の調査や料金の試算を個別に行った上で、値下げが見込める場合に切り替えを提案する。営農施設には、地域の電力会社も規模や使用量に応じて割安な料金を設定している場合があるためだ。16年の電力小売り全面自由化で、家庭や小規模事業者も電力会社を選べるようになった。だが、JAの組合員が多い地方では、大都市圏に比べ参入業者が少なく、切り替えが進んでいない。全農はその受け皿となり、組合員の電力コスト削減を目指す。16年に電力事業に参入後、電力の使用規模が大きい精米や食肉などの加工工場、物流センターといったJAグループの施設向けに先行して取り組み、全国的に供給できる態勢を整えてきた。全農は現在、電力事業に取り組んでもらうJAへの説明や提案を進めている。19年度は50JA程度でモデル的に供給を開始。20年度以降、対象となる全てのJAに広げたい考えだ。19年度からの3カ年計画では、契約件数の目標を21年度までの累計で35万戸と掲げた。全農は「安価な電力の供給で家計負担の抑制や営農コストの削減に貢献したい」(総合エネルギー部)とする。従来のLPガスや灯油と組み合わせたエネルギー利用の提案や、営農用エネルギーの総合診断なども展開していく方針だ。

<“普通”信奉(≒同質主義)は、病根の一つである>
PS(2019年9月2日追加):持って生まれたDNAと周囲の環境の違いのために発現する多様な個性を、*5のように、“普通”でないから脳機能障害による発達障害だとし、“グレーゾーン”まで含めて医療機関の受診を奨める報道は少なくないが、これは間違った知識を一般の人に与えるのでよくない。何故なら、医師が「経過をみましょう」と言っても、母親が「ママ友」の繋がりで発達障害と診断してくれるクリニックを捜して「むしろ安心した」と言うような状況になるからだ。人の性格や生育スピードにはばらつきがあるので、周囲の大人が「普通でない」と感じたからといって脳機能障害と考えるのは間違いであり、その子に対する人権侵害でもある。
 学校や社会に適応できない理由には、くだらないことで仲間外れにしたり、いじめたりする影響があるからで、発達障害というよりは“文化”の方を変えなければならない側面が大きい。そして、社会に出てまで支援を受ける人の割合が多いのは困るため、それぞれの個性を活かした教育や能力開発が必要だ。さらに、普通に働いている大人まで「見過ごされた人」として、その症状を「①空気が読めない」「②ミスを繰り返す」などとしているが、①は、空気を読んで周囲に合わせることしかできない深刻な無思考(他人依存)症候群であり、②は、慣れないことは誰にとっても難しいため仕事ができるためには熟練しなければならないということだ。



(図の説明:最近、左及び中央の図のように、程度の差こそあれ誰にでもある多様性の範囲に入るものまで発達障害として精神障害に入れ、右図のように、相談してケアされることを奨めているが、これはむしろ教育や躾の妨げとなって子どもの機会を奪う)



(図の説明:左図のように、人は成績・身体能力・所得・貯蓄高等と同様、性格にも多様性があり、普通と言うのは中央から2σ《95.4%が入る》か3σ《99.7%が入る》内の人だ。そして、3σより向こうの両端にも0.3%《1000人に3人》の人がおり、右端《0.15%、1000人に1.5人》には優秀な人がおり、左端《0.15%、1000人に1.5人》には駄目な人がいて、普通が最もよいわけではない。また、中央の図のように、ばらつきが左右対称に分布している場合は平均値・中央値・最頻値は一致するが、歪んだ分布をしている場合には平均値・中央値・最頻値は異なる。そして、日本は何でも精神障害ということにする結果、世界でも突出して精神病床の多い人権侵害国になっている。ただ、既製服や既成靴を買う場合は「普通」の範疇に入る人の方が品物が豊富でよいのだが、この「普通」も国によって大きく異なることは誰もが知っているとおりだ)

*5:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14160488.html (朝日新聞 2019年9月2日) (記者解説)発達障害、寄り添うため 特性は多様、早めに専門機関へ 生活文化部・土井恵里奈
 ・脳の機能障害が原因とされ、手術や投薬では解決しない。障害特性は一人ひとり違う
 ・専門家や専門機関と早めにつながり、社会生活上の困難を小さくすることが大切
 ・障害を見過ごされた大人、診断されない「グレーゾーン」の人たちの支援も課題
■診察のため予約殺到
 東京都江戸川区の児童精神科クリニック「まめの木クリニック」には、発達障害かどうか診察を求める電話が後を絶たない。「健康診断や学校で(発達の凸凹を)指摘されて来る人、自分で調べて来る人が多い」。上林靖子院長はそう話す。初診予約は年内すでにいっぱい。2年待ちの時もあった。東京都内の女性の長男(中2)は発語が遅く、あちこちにふらふら行くなど落ち着きがなかった。1歳半の健診では「経過をみましょう」と言われ、病院を受診しても「発達障害の疑いはありますが……」とあいまいだった。「ママ友」のつながりで同クリニックを知った。約10カ月待ち、長男が2歳のころ受診。発達障害と診断された。女性はこう振り返る。「むしろ安心した。それまでは情報が得られなくて先が見えなかったから」。今も定期的に長男と通院し、医師や臨床心理士らに相談する。女性は「最初は長男がなぜこんな行動をするのか共感してあげられなかった。子どもへの接し方を学び、子どもが穏やかに生活できるようになった」と話す。発達障害の特性による育てにくさに直面し、周囲に言えなかったり理解されなかったりして悩んでいる人は多い。発達障害かどうかは、成育歴を聞き取る問診や知能検査などを経て医師らが診断する。厚生労働省によると、特性を適切に把握できる児童精神科医は少ない。発達障害の原因は脳の機能障害とされる。手術や投薬で治ることはなく、当事者は特性と生涯向き合う必要がある。だから、医師や臨床心理士といった専門家と早くからつながることが大切だ。上林院長は「発達障害の特性ゆえのやりにくさをうまく乗り越えていけるようにして、社会に送り出してあげることが大切」と指摘する。発達障害は一様ではない。読み書きや計算など特定の課題の学習につまずく「学習障害」(LD)、こだわりが強く、他人の気持ちを想像したり共感したりするのが苦手な「自閉スペクトラム症」(ASD)、衝動性が強かったり、忘れ物や遅刻などの不注意が多かったり落ち着きがなかったりする「注意欠陥・多動性障害」(ADHD)がある。複数の特性が重複していることもよくある。特性から光や音、接触に過敏だったり、暑さや寒さ、痛みに鈍感だったりする人もいる。
■高校でも支援の動き
 政府も後押ししている。2005年に発達障害者支援法が施行され、早期の発達支援が重要と条文にうたわれた。学校や社会に適応できずに不登校やうつ、引きこもりといった「二次障害」を防ぐためで、「障害の早期発見のため必要な措置を講じること」が国と地方公共団体の責務となった。だからこそ発達障害の疑いのある子どもがいれば、いち早く地元の市役所や町村役場を頼りたい。行政機関は求めに応じて医療機関を紹介してくれる。ただ地域格差があり、都道府県と政令指定市に設置されている「発達障害者支援センター」も支援の窓口だ。発達段階に応じた児童発達支援(未就学児対象)や放課後等デイサービス(小学生から原則高校生まで)も制度化されている。専門性を持った職員から社会的スキルなどを学ぶが、こうした情報も行政とつながることで得られやすくなる。幼稚園や保育所、小中学校には教員や支援員が増やされることがある。高校でも、通常学級に在籍しながら発達の程度に応じた特別な指導(通級指導)を受けることができる。一方、義務教育が終わると支援が行き届かない場面が増える。孤立しないよう、積極的に向き合う高校もある。和歌山県立和歌山東高校では、発達に課題がある生徒の保護者とは入学前の早い時期に面談している。読み書きを苦手にしている生徒に対しては、在籍する通常学級で黒板を書き写しやすくするため、重要なことを黄色の線で囲むなど工夫している。こうした配慮は他の生徒にも好評で、退学者が減るなど全体に好影響をもたらしている。石田晋司校長(58)は「社会に出ると多様な人と関わっていく。得手不得手を助けたり助けられたりすることを学ぶことは、どの子にとってもプラス。人を理解する力をつけることにつながる」と話す。
■「見過ごされた」大人
 困難を抱えていたのに、子どもの時に「見過ごされた」人たちがいる。大人の発達障害だ。昭和大付属烏山病院(東京都世田谷区)には大人の発達障害専門の外来があり、来院者が絶えない。臨床心理士らに付き添われ、怒りや不安の感情との向き合い方や時間を管理するスキルなどを学ぶ。仕事や生活での具体的な困り事を当事者同士が話し合うプログラムもある。「家に食材をため込む」「体調が悪い時は特に片付けが苦手」。当事者たちは日頃の悩みを互いに打ち明ける中で自己理解を深め、解決のアイデアを共有する。障害の傾向はあっても発達障害と診断されない、「グレーゾーン」に置かれる人たちもいる。困難や生きづらさはあるのに、支援の手が届きにくい。神奈川県の男性会社員(31)は子どもの時から忘れ物や遅刻、不注意が多かった。周囲から孤立し、22歳でうつに。発達障害を疑って受診したが、医師からは「ADHDの傾向はあるが断定できない」と言われた。就職活動時はリーマン・ショック。特性を職場に伝えるのはマイナスと考え、言えなかった。職場では複数の業務を同時にこなすのに苦労。転職を繰り返した。2年前、グレーゾーン当事者の支援団体「OMgray事務局」をつくった。定期的に東京に集まり、就労や生活の困り事の解決策などを情報交換する。男性は「社会に普通にいる存在として受け止めてほしい」と話す。女性の当事者会「Decojo」には、診断を受けた人もグレーゾーンの人も参加し、困り事をブログに書き込んでいる。代表の沢口千寛さん(27)は「当事者だけでなく、私たちの行動を理解できず振り回されている人や社会にも見てほしい。理解し合い、歩み寄れるようになれば」と話す。
■「普通」に見える、でも困っている 学校で職場で手をさしのべて
 23万人。発達障害の診断などを受けるために医療機関を受診した人の推計(17年度)だ。受診者といっても、学校に通ったり働いたり子育てしたりと「普通」に見える。でも壮絶に困っている。生きづらさを抱えたまま社会に紛れている。「空気が読めない」「ミスを繰り返す」。当事者の困りごとは切実だが、外からは見えにくい。「怠けている」「だらしない」と責められやすい。「グレーゾーン」だと、相談先も十分でない。病気のように重いほどつらいとは限らないことも、この障害の特徴だ。子どもは自分で苦しさを伝えづらく、いじめにつながりやすい。無理を重ね不登校になった子もいる。大人になると、周囲が助けてくれる場面は少なくなる。特性を抱えながらも、発達障害という言葉さえ知られていない時代に子どもだった人は今、30代、40代を過ぎている。就職氷河期のロストジェネレーション世代とも重なり、非正規雇用など不安定な生活を強いられている人は多い。ひきこもりに陥るなど社会からの孤立が心配だ。当事者の言葉は重い。「人生で普通の人の100倍怒られてきた」「パターンをたたき込んで普通になろうともがく。努力して努力して、でもなれなくて。自分はダメと思い、殻に閉じこもっていく」「社会に出たら迷惑をかける。出ないことが社会貢献」。当事者を縛る「普通」とは何だろう。常識? 標準? ものさしは一つ? いろんな国や言語があるように、一人ひとりの普通は違う。学校にも職場にも地域にも、「苦手ならちょっと代わりに」とさしのべる手がたくさんあるといい。発達障害の痛みを和らげるには、医療より社会にできることが大きい。特効薬がない障害の鎖をほどいてゆく力になるのは、医師や専門家だけじゃない。どこにでも普通にいる私たちだ。

<日本は、本当に法治国家か?>
PS(2019年9月3日追加): 総務省が、ふるさと納税の新制度から大阪府泉佐野市を除外した件を審査した「国地方係争処理委員会」が、*6-1・*6-2のように、除外決定の再検討を石田総務相に勧告することを決めて総務省は敗訴したが、これは新制度への参加が認められなかった静岡県小山町、和歌山県高野町、佐賀県みやき町も同じであるため、提訴すれば速やかに結論が出るだろう。何故なら、日本国憲法に「第84条:あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」と定められており(租税法律主義)、新たに定められた法律が施行前に遡って効力を持つこと(遡及効)はないからだ。さらに、総務省の通知は、国税庁の通達と同様に一つの考え方であって法律ではないため、総務省が「メチャクチャだ」と感じたとしても通知の順守を強要すれば憲法違反になる。そのため、大阪府知事が、*6-3のように、「総務省のおごり」「国は真摯に受け止めて見直すべき」としているのは妥当であり、メディアや行政は、もっと法律を勉強しておく必要がある(笑)。
 なお、佐賀県は、(私の提案で)日本の中でも病院のネットワーク化が進んでいるので、*6-4の東多久町に建設する新病院は、①どのような先進医療を ②どういう新しい施設で市民に提供するか についてのコンセプトを決め、新病院の建設を使い道として県人会や同窓会などで「ふるさと納税」を集めればよいと思う。

   
 2019.9.3東京新聞 2019.8.27朝日新聞

(図の説明:左図には、泉佐野市の勝因は地方税法違反と書かれているが、そもそも租税法律主義を定めた憲法違反である。また、中央の図には、泉佐野市は肉・カニ・米の三種の神器がないと書かれているが、私は農産物でなくても地域を振興する何かであればよいと思う。確かに、右図のように、大阪府泉佐野市・静岡県小山町・和歌山県高野町・佐賀県みやき町は頑張ったわけだが、これは上記の法的根拠で除外される理由にはならないわけだ)

*6-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201909/CK2019090302000146.html (東京新聞 2019年9月3日) ふるさと納税 泉佐野市除外、違法か 係争委、再検討勧告へ
 ふるさと納税の新制度から、大阪府泉佐野市が除外された問題を審査した第三者機関「国地方係争処理委員会」は二日、除外決定の再検討を石田真敏総務相に勧告することを決めた。過去に不適切な寄付集めをしたとして除外した総務省の対応は、新制度を定めた改正地方税法に違反する恐れがあると指摘した。同省が事実上の「敗訴」となる極めて異例の判断を下した。総務省には、勧告の文書を受け取ってから三十日以内に、再検討の結果を泉佐野市へ通知するよう求める。同省は再検討を義務付けられるが、別の理由で改めて除外するのは可能。審査を申し出た市は「主張がおおむね理解された」とコメントした。同様に新制度への参加が認められなかった静岡県小山町、和歌山県高野町、佐賀県みやき町の三町は勧告の対象外。委員長の富越和厚元東京高裁長官は記者会見で、泉佐野市による寄付集めを「制度の存続が危ぶまれる状況を招き、是正が求められるものだった」と述べ、問題があったとの認識を示した。ただ、それを除外の根拠にすることは認められないと指摘。理由として「改正地方税法に基づく新制度の目的は過去の行為を罰することではない」と説明した。六月開始の新制度は、改正法に基づく総務相の告示で「昨年十一月以降、制度の趣旨に反する方法で、著しく多額の寄付を集めていない」ことが参加基準の一つになった。市はインターネット通販「アマゾン」のギフト券などを贈り、昨年十一月~今年三月に三百三十二億円を獲得。総務省は基準を満たしていないとして五月に除外を決めた。

*6-2:https://digital.asahi.com/articles/ASM9263JXM92ULFA03B.html?iref=pc_rellink (朝日新聞 2019年9月2日) 総務省、泉佐野市に完敗 「メチャクチャだったのに…」
 ふるさと納税制度からの除外をめぐる総務省と大阪府泉佐野市の対立で、同省の第三者機関・国地方係争処理委員会が2日、石田真敏総務相に除外の内容を見直すよう求めた。係争委は、法的拘束力のない通知への違反を除外理由にしたことを「法に違反する恐れがある」と認定しており、事実上、総務省の「完敗」となった。係争委の富越和厚委員長は委員会後の会見で、6月の地方税法の改正前の泉佐野市の行為は「世間にやり過ぎと見られるかもしれないが、強制力がない通知に従わなくても違法ではない」と説明した。係争委は今回、改正法の施行後に守るべきものとして総務省がつくった基準を、法改正前の行為にあてはめて除外を判断したとして、違法の疑いがあると認定。同省に直接、除外の判断の撤回までは求めなかったが、総務省が除外の根幹として掲げていた理由は「少なくとも本件で使うべきではない」と退けた。富越委員長は、総務省が泉佐野市を除外する判断を続ける場合は、新たな法的根拠を提示する必要があるとの見解を示した。係争委の勧告に、総務省内では戸惑いの声が上がった。同省幹部の一人は朝日新聞の取材に「泉佐野市の集め方はメチャクチャだったのに。係争委の厳しい判断は受け入れがたい」と話す。一方、政権幹部の一人は「今後訴訟になった時に対応できるよう整理するということ。根本的な問題ではないのでは」との見方を示した。

*6-3:https://digital.asahi.com/articles/ASM933HCLM93PTIL005.html?iref=comtop_list_nat_n05 (朝日新聞 2019年9月3日) 大阪府知事「総務省のおごり」 ふるさと納税の勧告受け
 ふるさと納税制度から大阪府泉佐野市を除外した総務省の判断に対し、同省の第三者機関・国地方係争処理委員会が「法に違反する恐れがある」と見直しを求めたことについて、大阪府の吉村洋文知事は3日、記者団に「妥当な判断。国は真摯(しんし)に受け止めて見直すべきだ」と述べた。吉村知事は、国が元々通知として出し、6月施行の改正地方税法に盛り込んだ「返礼品は寄付額の3割以下の地場産品に限る」とのルールを、法改正前の泉佐野市の行為にあてはめて除外したと指摘。「法律を遡及(そきゅう)適用しないのは大原則。新しい制度から外すのは総務省のおごりだ」と批判した。
菅義偉官房長官は記者会見で「総務省において対応について検討が行われる。各自治体で使途や返礼品について知恵を絞り、健全な競争が行われ、地域の活性化につなげていくことが大事だ」と述べた。

*6-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/421806 (佐賀新聞 2019年9月3日) 新病院は東多久町に 建設地を選定多久、小城検討委
 多久市立病院(多久市多久町)と小城市民病院(小城市小城町)の統合計画で、多久、小城の両市は2日、新しい統合病院の建設予定地が多久市東多久町に選定されたと発表した。選定の理由は「両市民の利便性や経営の安定性に加え、医療機関が特定の地域に偏らないことなどを総合的に判断した」としている。今後は地権者との協議を進め、新病院の建設費に関する負担割合や診療科目などを両市で議論する。両市長や医師会、両病院の代表者らで構成する建設地の検討委員会が8月30日、佐賀市で3回目の会議を非公開で開き、候補地5カ所の中から適地を選んだ。両市の事務局によると、多久、小城市はそれぞれ、自らの市域への建設を会議で要望した。民間の病院が少ない多久市は「公立病院がなくなれば医療過疎地になる」とし、財政支援などで経営の安定に努力すると訴えた。建設予定地は東多久町別府の約2・6ヘクタールの範囲。現在は水田などが広がり、北東に佐賀LIXIL(リクシル)製作所の佐賀工場がある。両市長が2日、両市議会に選定の概要を説明した。今後は両市で新病院の準備室を立ち上げ、具体的な協議に入る。2020年に診療科目や病床数を定めた基本計画の策定を目指す。検討委の委員長を務める池田秀夫佐賀県医師会長は「両病院ともに老朽化が進んでおり、必要な医療を継続して両市民に提供するためにも、早期の病院建設を望む」とのコメントを出した。

PS(2019年9月5日追加):*7-1のように、「情報社会でデータを使ってなら人権侵害をしてもよい」という感覚は早急に正すべきだが、そういうことをする人の心の底には、他を貶めたり差別したりすることによって自分の優位を保とうとする誤った意識がある。そのため、私は、「表現の自由」「日本文化」の名の下にあらゆる角度から女性差別された嫌な経験から、「他人を差別した人が有利になることはない」ということを徹底しなければならないと考えている。
 そして、*7-1には、被差別部落の事例が掲載されているが、*7-2の外国人のケースも、「包丁購入=殺人犯」とするのは飛躍しすぎているため重傷を負った裕子さんが話せるようになってから犯人について聞くことが不可欠なのに、警察もまた孤立無援に近い外国人を差別を利用して犯人に仕立て上げることが多いわけだ。例えば、*7-3のゴビンダさんの冤罪事件は有名だが、その他にも人権侵害にあたる事件は多い。

*7-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/422734 (佐賀新聞 2019年9月5日) 情報社会と権利侵害、感覚が鈍っていないか
 個人情報やプライバシーをめぐってインターネットの負の側面を象徴するような出来事が続く。就職情報サイト「リクナビ」の運営会社は学生の閲覧履歴を基に内定辞退率を予測し、個人を特定する形で企業に販売していた。常磐自動車道でのあおり運転事件で無関係の女性が「同乗者」と名指しされ、実名と写真がさらされた。就職活動に関わる情報は学生の人生を左右しうる。それが本人も知らない間に採用側に提供される。事件のたび虚実ない交ぜの情報がネット上で飛び交い、平穏な日常を送っていたら突然、デマ情報で「犯罪者」扱いされる。企業しかり、個人しかり。個人データや情報、名誉権に対する意識の希薄さを浮き彫りにする。身近なところで気になっていることがある。今年3月、被差別部落(同和地区)の地名や戸数、人口などを掲載した『全国部落調査』の復刻版が、ネットのフリーマーケット「メルカリ」に佐賀県内から出品されていた件だ。『全国部落調査』は1936年、政府の外郭団体が融和事業を進めるため作成した報告書で、70年代、企業や調査会社が就職や結婚の際の身元調査のために購入し、社会問題となった『部落地名総鑑』の原本とされる。それが2016年、神奈川県の出版社が復刻版発行をネットで予告し、出版は差し止め処分が出たが、ネット上でダウンロードできた。出品物はデータを個人で印刷したとみられ、約200ページ、売価3500円で、行政関係者が気づいた時は既に3冊が売れていた。出自をめぐる差別は普段は見えないが、就職や結婚など人生の節目に出現する。そして人を排除し、引き裂く。購入者は一体何のために買ったのか。出品者はコトの重大性を認識しているのか。そんな資料が公然と出回っている現実は、長きにわたる部落差別撤廃の取り組みの内実を問う。同様に、差別をあおる行為は特定の国の人々やマイノリティーに対して顕著だ。国際社会での日本の経済力が低下し、格差が拡大する中、雇用や社会保障への不安と不満が募っていることが関係するのか。いら立ちが社会的弱者に向かい、それがネットという匿名性の空間に噴出している。インターネットの普及でさまざまな情報が瞬時に手に入るようになり、個人が自由に情報発信できる時代になった。ただ、利便性ゆえ、社会規範を逸脱した行為や権利侵害を誘発しやすい。一度ネット上で広がれば長期間残り、不特定多数の目に触れるという点で、影響は大きく、深刻だ。デマ情報問題では女性が投稿者の法的責任を追及する方針だが、情報の洪水の中で、こうした権利侵害行為への感覚が鈍っていないか。自戒したい。

*7-2:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190903-00000061-asahi-soci (朝日新聞 2019/9/3) 逮捕のベトナム人実習生、容疑を否認 包丁購入は認める
 茨城県八千代町の住宅で8月24日、大里功さん(76)が殺害され、妻の裕子さん(73)が刺されて重傷を負った事件で、裕子さんに対する殺人未遂容疑で逮捕されたベトナム国籍の農業実習生グエン・ディン・ハイ容疑者(21)が「現場に行っておらず、刺してもいない」と容疑を否認していることが3日、捜査関係者への取材でわかった。茨城県警は同日、ハイ容疑者を水戸地検に送検した。捜査関係者によると、ハイ容疑者は容疑を否認する一方で、事件前日の午後5時ごろ、近くのホームセンターで包丁を購入したことは認めている。購入したのは、現場に落ちていた凶器とみられる包丁と同じ型のものだったという。県警は、同店の防犯カメラの映像などからハイ容疑者を特定したという。県警によると、ハイ容疑者は農業実習生として昨年11月から1年間の期限で在留しており、大里さん宅から約2キロの宿舎に他の実習生らと住んでいた。大里さん宅近くの畑で野菜を栽培するなどしていたという。ただ大里さんは元会社員で、実習生の受け入れなどは確認されていないという。県警は、事前に凶器を準備した計画的犯行とみるとともに、室内が物色された形跡がないことなどから、夫婦との間に何らかのトラブルがあった可能性があるとみて調べている。

*7-3:http://www.jca.apc.org/~grillo/ (ウイズダムアイズ 2019.9.5) 外国人冤罪事件から日本が見える
 ウイズダムアイズは真実を見通す眼です。私たちが裁判官に期待したい眼です。
●ゴビンダさん冤罪事件
 1997年3月、東京都渋谷区で一人の日本人女性が殺される事件が発生しました。
間もなく、近くに住んでいたネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリさんが逮捕されました。一審無罪、それにも関わらず勾留が続き、新しい証拠調べもないままに2000年12月高裁での逆転有罪・・・と異様な経過をたどる事となりました。
●ロザールさん冤罪事件
 1997年11月、フィリピン人女性マナリリ・ビリヤヌエバ・ロザールさんは、恋人と同居していたアパートのベッドで恋人が刺されているのを発見しました。ロザールさんはすぐにY病院に駆け込み、助けを呼びました。救急隊員は、硬直の状況等を多少確認しただけで警察に通報しました。その直後、ロザールさんは松戸署に連行され、その後逮捕状もないまま拘束され、二度と釈放されませんでした。 
●トクナガさん冤罪事件
 2000年6月27日長野県警豊科署は、3歳の長女に暴行を加え死亡させたとして傷害致死の疑いで、同県穂高町穂高に住む日系ブラジル人の工員トクナガ・ロベルト・ヒデオ・デ・フレイタス容疑者(23)を逮捕しました。トクナガさんの逮捕容疑は同年6月25日ごろ、長女のマユミちゃんが自分になつかないことに腹を立て、全身を殴るけるなどの暴行を加え死に至らしめたというもの。
公判では一貫して「暴行したのは当時の妻」と無罪を主張。一審長野地裁では無罪判決を受けました。しかしその後も「無罪勾留」が続き、東京高裁は2002年6月8日、1審無罪判決を破棄し、懲役5年を言い渡した。弁護人は閉廷後、「控訴審は、当時を知る元妻らを証人として出廷させず、事件について真摯(しんし)な検討を加えたとは言い難い」としています。
●姫路冤罪事件(ジャスティスさん冤罪事件)
 兵庫県姫路市2001年6月19日、市内の花田郵便局に、目出し帽をかぶった2人組の強盗が入り、約2200万円が奪取されました。その犯人とされたのが、ナイジェリア人のジャスティスさん。この事件については担当の池田弁護士のサイトがくわしいです。
●ニック・ベイカーさん冤罪事件
 2002年にサッカーワールドカップを見に日本にやってきたイギリス人のベイカーさんが成田空港で麻薬の不法所持で逮捕された事件。ベイカーさんはプルーニエという男にだまされて鞄を持たされたと主張しましたが、日本の警察はこのプルーニエを調べもしないで出国させました。ところがその後、このプルーニエがベルギーで、他人をだまして麻薬を運ばせようとした容疑で逮捕されました。このことを証拠として申請した弁護側の要求を蹴って、東京地裁は2003年6月にベイカー氏に懲役14年の判決をくだしました。2005年10月、控訴審でも有罪となり、上告はせずに服役した。
●モラガさん無罪勾留事件
 チリ国籍のモラガさんは2001年8月、知人と共謀し東京都内と諏訪市で窃盗を働いた容疑で逮捕された。2003年5月29日、諏訪簡裁で無罪判決。検察控訴の後、8月29日、東京高裁の決定により再勾留されました。2004年年8月17日逆転有罪。最高裁第二小法廷(滝井繁男裁判長)は2004年12月14日付けで上告を棄却する決定をし、懲役二年が確定した。11月上旬に上告趣意書を提出し、わずか一カ月余りで最高裁は十分な審理をしたとは思えない。一審の無罪判決が軽んじられている決定である。

<高齢者差別による活動制限は人権侵害である>
PS(2019/9/7追加):すべてのメディアで長時間に渡って繰り返し繰り返し高齢ドライバーによる交通事故が報道された後、*8-1のように、九州の240自治体にアンケートで尋ねた結果、18自治体が「①免許更新を厳格化すべき」とし、「②65歳以上のサポカー購入に1人1台に3万円補助している」「③後付け装置の購入を支援している」とする自治体もあり、「④交付税措置を検討してほしい」とする自治体もあったそうだ。政府は「⑤75歳以上を対象にサポカーだけを運転できる限定免許を導入する方針」としているが、①は、“高齢者”だけを一律に厳格化すれば、老化に程度の差がある高齢者に対して差別になり、②も65歳以上の全員を運動機能の衰えた高齢者とすることには無理がある。そのため、私は高齢か否か、故意か過失かを問わず、自動車運転が事故に繋がらないように運転支援車の普及を義務化しつつ、既に所有されている自動車にも国の補助をつけて車検時に運転支援プログラムを導入するのがよいと考える。
 なお、*8-2のように、「車の運転をやめて移動手段を失った高齢者は、要介護状態になるリスクが2.2倍になる」という研究結果が日本疫学会誌に発表されたが、これは当たり前のことで、要介護状態になれば支える側から支えられる側になるのである。当たり前である理由は、筋力と同様に頭脳も使わなければ衰えるため、頭脳がつかさどる言語能力・思考力・健康維持力なども落ちるからで、事故のリスクだけが人体への悪影響ではないことを考慮すべきだ。

*8-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/539398/ (西日本新聞 2019/8/31) 高齢事故防止 広がる助成 九州5市町導入、26自治体検討
 高齢ドライバーによる交通事故が相次ぐ中、事故防止につながる「安全運転サポート車」(サポカー)や後付け安全装置への関心が高まっている。西日本新聞は九州7県の全自治体にアンケートを行い、5市町がサポカーや後付け装置購入に助成していることが分かった。26自治体は検討中とした。公共交通が乏しい地域を抱える自治体は、助成の必要性は感じているものの「財源がない」と国の財政支援を求めた。18自治体が「免許更新を厳格化するべきだ」と回答した。アンケートは九州の7県と市町村の計240自治体に送付、今月までに218自治体(回収率90・8%)が回答した。助成制度の有無や検討状況、国への要望などを聞いた。助成制度がある5市町のうち、福岡県苅田町は65歳以上がペダルの踏み間違い加速抑制装置などを備えたサポカー購入時、1人1台に限り3万円を補助する。同県うきは市、熊本県玉名市、大分県日出町は、後付け装置の購入を支援。玉名市は地元企業が開発した踏み間違い防止ペダルの取り付けに5万円まで出す。宮崎県新富町はサポカーと後付け装置の購入両方に3万~5万円を補助する。サポカーと後付け装置の両方の助成を検討するのは13自治体。ほかに13自治体が後付け装置の補助を検討している。制度のない自治体のうち、少なくとも50自治体が「交付税措置を検討してほしい」(熊本県八代市)などと回答した。政府は75歳以上を対象にサポカーだけ運転できる「限定免許」を導入する方針で、福岡県須恵町など8自治体が支持した。10自治体は高齢者を中心に免許更新の厳格化に言及した。同県柳川市は「急発進防止機能装置の義務化や更新時の技能指導が必要」、熊本県甲佐町は「実技試験の導入」を提案した。独自の取り組みをしている自治体もある。宮崎県都城市は4月から65歳以上を対象に自動車学校での実技訓練やサポカーの試乗を始めた。同県美郷町は10月、ドライバーが自ら運転する時間や場所の条件を申告する「補償運転」を始める。免許返納者らの「足」確保を手助けする自治体も多かった。長崎県西海市は4月から事前予約制の乗合ワゴンを運行。高齢者へタクシー券を配布する自治体も多い。

*8-2:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190905-00000137-kyodonews-soci (KYODO 2019/9/5) 高齢者運転中止、要介護リスク倍 外出減、健康に悪影響か
 車の運転をやめて自由に移動する手段を失った高齢者は、運転を続けている人と比べ、要介護状態になるリスクが2.2倍になるとの研究結果を、筑波大の市川政雄教授(社会医学)らのチームが5日までに日本疫学会誌に発表した。運転をやめたが公共交通機関や自転車を使って外出している人は、リスクが1.7倍だった。高齢者の事故が問題になり、免許返納を勧めるなど運転をやめるよう促す機運が高まっている。だが市川教授は「運転をやめると閉じこもりがちになり、健康に悪いのではないか。事故の危険だけを考えるのではなくバス路線を維持・充実させるなど活動的な生活を送る支援も必要だ」と話す。

| 年金・社会保障::2019.7~ | 11:03 PM | comments (x) | trackback (x) |
2019.8.19 日本の農林漁業の今後は? ← 工夫次第だろう (2019年8月20、21、24、25、29、30日に追加あり)
  

(図の説明:日本の農業の代表がワインだとは思わないが、地球温暖化の影響で葡萄の産地が山梨県から長野県の高原にまで広がり、現在、長野県塩尻市では各種の葡萄ワインのほかリンゴ、桃のワインもできている。そのほか、各地でミカンやラフランスのワイン、桃のスパークリングワインなどもできており、私は、輸出するならリンゴ・ミカン・ラフランスのワインや桃のスパークリングワインが、ONLY ONEで有利な競争ができるのではないかと思う)

(1)食料自給率の低下と生産力の弱まり
1)食料自給率低下の理由
 日本における2018年度のカロリーベースの食料自給率は、*1-1-1・*1-1-2・*1-1-3・のように、37%となり大冷害の1993年度と並ぶ過去最低になった。しかし、今回は、災害による低下ではなく、1965年度には73%あった食料自給率が一貫して下がり続けてきた構造的な問題であり、1993年度よりも深刻である。

 一方、日本政府は2025年度に食料自給率を45%に高めるという低い目標を掲げているが、これも達成できそうにない。また、カロリーベースを目標とすることに疑問の声は多いが、価格が高くなると生産量が増えたように見える価格ベースよりは参考になる。そして、人口減少しつつある現在では、食料自給率100%を達成する目標を立てても少しもおかしくないのだ。なお、国内飼育の肉類も輸入飼料で育てると、輸入飼料が入らなくなれば国内飼育もできなくなるため、「自給」に入れないわけである。

 長期的な食料自給率低下の原因は、①農業経営体と担い手の減少 ②担い手の高齢化による離農 ③人手不足による新規就農者の減少 ③耕地面積の急減 ④輸入品との競争 などによる国内生産力の弱まりだそうだ。

 しかし、*1-1-2のように、今回の食料自給率低下は、北海道の夏の低温と日照不足による小麦・大豆の生産落ち込みが主因で、これに牛肉・乳製品の輸入増加に伴う国内生産の伸び悩みが重なったのだそうで、TPPとEUとのEPAの影響が出てくるのはこれからだが、これに加えてトランプ米大統領が農産物の巨額購入を要求しており、ここにも米国との安全保障条約の見返りに日本の長期的安全保障に関わる農業を犠牲にする構図が見えるのである。

2)日本の農業政策失敗の原因は?
 食料自給率が過去最低になったことから、*1-1-3・*1-1-4に、農業の持続可能性を目指すべきことや、食料自給率を上昇に転じる道筋を示すべきことが書かれている。

 食料自給率が過去最低になった理由の一つには、地球温暖化を背景とする2018年度の天候不順による影響もあるが、地球温暖化は既に織り込んで対応しなければならない時である。また、農業への若者の参入が少ないため、担い手不足や高齢化が止まらないのは、他産業と比較して①農業所得が低かったり ②所得の不安定性が高かったり ③農業に誇りを持てなかったり ④農業に従事すると仕事以外での制約が増えたりする からだと思われる。

 このうち、①②③は、地形や気候を活かした稼げる農業を企画してこなかったことに原因がある。そして、それができなかった理由は、戦後の食料難時代を過ぎてコメ離れが進み、肉を多く食べるような食生活の変化があっても、中央政府が全国一律に米作奨励の補助金を出して他の作物を不利に扱ってきたからだ。これによって、TPPやEUとのEPAの発効で安い農産物が輸入されると、日本の農業は敗退することになってしまったが、“中山間地”という地形が原因でないことは、スイスやコルシカ島の農業が敗退していないことで明らかである。

 しかし、それぞれの地形や気候を活かした稼げる農業経営に移行するためには、中央政府が日本全国の農業を一律に企画することに限界があるのだろう。そのため、(個の農家毎では規模が小さすぎるものの)地方自治体くらいが、どういう農業を行って魅力的で稼げる農業を作り、海外と自由貿易しても勝てるようにするかの基本的デザインをすべきだと考える。

 なお、④については、*2-5-2に、「家族農業守れる農政を」と書かれているが、「家族農業が基本」とする現在の農村文化は、①配偶者との結婚生活 ②両親を含めた生活形態 ③配偶者の職業 等を制限してしまうため、それでも農業をやりたいという人が等比級数的に減る。それを解決するには、農業経営を法人化して多様な就労形態や生活形態に対応できるようにし、報酬や年金に関する心配を減らすのがよいだろう。

 また、現在は、有無を言わせないグローバル競争の時代になっているため、安全保障や外交の代償として農業やその他の産業を使っても日本経済が成立する時代ではなくなり、食料確保のためには食糧自給率アップも不可欠であることを、経産省はじめ中央政府は再認識すべきだ。また、「もうかる農業」を作るツールは、農地集約による大規模化や輸出だけでなく無数に存在するため、国内や諸外国の先進ケースを調査しながら地域全体で企画するのがよいと思われる。

 このような中、「小規模農家の切り捨て」に関しては、小規模だからといって甘える時代も早く終わるようにすべきで、農地の「洪水防止」「景観保持」等の機能については、それに見合った適切な金額を環境維持費用として国の予算から支出するのが妥当だ。

 なお、担い手不足解消のため、省力化の先端技術を活用したり、農業分野への門戸を外国人労働者に広げたりしたことは重要だ。JA全中は、*1-3のように、政府の2020年度の農業関係予算要請で①食料安全保障の確立に向けた万全な予算の確保 ②新規就農者の育成 ③スマート農業支援の拡充 ④中小経営を含めた青果や畜産の生産基盤強化策 ⑤輸出の拡大 ⑥農泊・農福連携への支援 ⑦鳥獣被害の減少に向けた十分な対策 ⑧災害に強い農業づくりに向けた支援の拡充 などの具体的な要請をしている。また、公認会計士監査への移行に伴ってJAに実質的負担増がないよう支援も求めるそうだが、公認会計士は他産業の経営も多く見てきているため、経営に関するアドバイスを聞けば有益で、単なるコスト増ではなく使いようなのだ。

(2)G20農相宣言について
 日本が議長国を務めるG20農相会合で、*1-2のように、世界人口と食料需要増に対応するため、農業の生産性向上や持続可能性をどう確保していくかを議論して「G20農相宣言」を採択するそうだ。

 しかし、吉川農相が「(特に中国、韓国とは)フクイチ事故に伴う放射能汚染による日本産食品の輸入規制の緩和・撤廃を中心に話したい」と強調したのは、歓迎レセプションで福島県産などの食材を提供したからといって安全だという証明にはならない上、中国・韓国だけを名指しするのもおかしいため、むしろ日本政府の意識の低さを示すことになりそうだ。

(3)農業経営と人材
1)日本の人材不足
 *2-1のように、離農者の農地を引き受けて地域の農地を守りつつ、規模を拡大してきた担い手の労働力が離農者に比べて不足し、今では限界を迎えつつあるそうだ。例えば、両親と3人で農事組合法人を経営して45haを耕作する永須さん(38)は、平場で営農条件は悪くないものの、繁忙期には地域の臨時雇用で人手を賄っていたのに、地域の高齢化でその確保も難しくなり、両親が60代後半となり、マンパワー不足でこれ以上は引き受けられないのだそうだ。

 また、JA全青協の副会長を務める杉山さんは、急傾斜地で、両親や弟とミカン2haなどを経営しているが、人手確保や新たな投資に加えて、元の持ち主との仕立て方も違い、老木の改植など果樹特有の課題もあるため、自身は高齢農家に農地の引き受けを求められても、やむなく断ることがあるそうだ。

 このように、2018年の農業就業人口は「基幹的農業従事者」「雇用労働力」とも、*2-1のように、175万人と1998年の389万人から55%減少し、全国の農業経営体数も、*2-2のように、120万を割って過去10年で最少規模となり、今後は多様な担い手をどう育成するかが問われているとのことである。

 また、*2-3-1のように、若手新規就農者数が2万人を割り込んだのは、他産業との人材獲得競争が激しく雇用就農者が減ったことが影響したからで、このような中、*2-3-2のように、新規就農者を支援する国の「農業次世代人材投資事業」の2019年度予算が、年齢を引き上げて対象が拡大されたにもかかわらず減額されたのは、自治体にとって頭の痛いことである。

 しかし、全体としては、既にある農地をどうやって活かすかが問われているのであり、食糧不足で農地も少なかった時代と比べれば、解決が容易な悩みと言える。

2)一般企業の農業参入
 一般企業の農業参入条件が緩和された農地法改正から10年を迎え、参入した法人数は全国で3000社を超えて、農家の高齢化や跡継ぎ不足で耕作放棄地が増える中、*2-5-1のように、有力企業も動き出しているそうだ。

 イオンは、借地面積約350haと国内最大規模を誇り、有機野菜を栽培する認定農場も運営しており、人間の経験と先端技術を融合した効率的な生産を行って、2025年度までに借地面積を1000haに広げる計画だそうだ。食品小売業者が農業生産法人を作って農業に進出するのは理にかなっており、ブランド化も容易だろう。

 ただ、植物工場の収支状況は全体の49%が赤字なのも尤もで、安全で栄養豊富な有機野菜が求められるのに、人工光線と液肥のみで育った植物工場の野菜に価値がつくわけはなさそうだ。

3)外国人材の受け入れ
 日本政府は、*2-4-1のように、外国人労働者の受け入れを拡大する改正出入国管理法を成立させ、2019年4月から新たな特定技能制度による受け入れを始めた。新制度の下で働く場合、耕種か畜産の農業技能測定試験と日本語能力の試験を受ける必要はあるが、約3年の技能実習を修了していれば、試験は免除されるそうだ。

 農業分野では、受け入れ元の直接雇用に加えて、派遣形態の雇用も認めるため、1)2)の人材不足を補うことができる筈だが、住居の確保やさまざまな支援は必要になる。そのため、*2-4-2のように、福岡県は「福岡県外国人材受入対策協議会」を発足させ、生活・労働情報・課題などを共有して受け入れ環境の向上を図るそうだ。

 このような中、*2-4-3のように、日本に入国して強制退去処分を受けたナイジェリア出身の外国人が収容中の施設内で死亡し、大村市の教会を訪れたクルド人の男性(30)は、2カ月間、仮放免の許可を求めて食事を拒むハンガーストライキをして、2年近く収容されていた大村入国管理センターから「仮放免」が認められたのだそうだ。

 いずれも、難民や移民の人権を無視し、不法滞在として長期に渡って無為に拘束し、施設で収容中に死亡した外国人が15人(うち自殺者5人)もいるそうで、これは日本国憲法違反であると同時に、もったいないことをしていると思う。

<食料自給率低下と生産力の弱まり>
*1-1-1:https://www.iwate-np.co.jp/article/2019/8/12/62220 (岩手日報 2019.8.12) 食料自給率最低 生産力の弱まりを映す
 日本の食料自給率が、再び過去最低となった。2018年度のカロリーベースは前年度より1ポイント低い37%で、1993年度と並ぶ。93年度といえば「平成の大冷害」で、米が記録的な凶作に見舞われた。青立ちのまま実らぬ稲が今も語り草になる。その年と同じとは、いかに低い水準かが分かる。自給率低下は、天候不順により小麦や大豆の生産が落ち込んだことが大きい。特に主産地である北海道の生産減が響く。だが、天候だけに原因は求められない。65年度に73%あった食料自給率は、ほぼ一貫して下がり続けている。9年前に40%を割り込んだ後は、30%台後半のままだ。もはや構造的な問題と言えよう。政府は25年度に45%に高める目標を掲げるが、一段と遠のいた。米離れに加えて安価な輸入農産物が増え続ける現状のままでは、達成は極めて困難とみられる。もっとも、食料の重さを熱量換算したカロリーベースを目標とすることには疑問の声が多い。熱量の高い米の比重が大きく、野菜はほとんど評価されないからだ。消費量が増えている肉類は、国内の飼育でも、輸入飼料で育てられると「自給」と見なされない難点もある。このためカロリーベース目標には風当たりが強い。だが、飼料が国産・輸入のいずれかに関係なく計算しても、自給率は46%にとどまる。食料の半分以上を輸入に頼る構図は変わらない。やはり自給率の低下は、国内生産力の弱まりを映すと見るべきだろう。そこから目を背けずに、対策を打たなければならない。生産力が弱まる一因に、農業を担う人の減少が挙げられる。全国の農業経営体数は120万を割り、この10年で50万も少なくなった。耕地面積も急減している。現場では担い手の高齢化が著しい。とりわけ輸入品との競争に直面する畜産・酪農では、やめていく人が増えた。そうなると飼料用の米作りも持続が難しくなる。岩手の17年度の食料自給率は101%で、2ポイント落ちた。100を超えて農業県の面目を保つものの、下落傾向は続く。やはり生産力の弱まりが背景にあるとみられる。現代日本で食料難は想像もできないが、最新の国連推計で30年後、気候変動により穀物価格が最大23%上がると公表された。国家間で食料の争奪が激しくなると見込まれ、輸入頼みは危うい。自給率を上げるには、農地の保全と活用が不可欠だ。中山間地にも農業を営む人がいる必要がある。農業の場合は産業政策とともに、地域を守る政策の拡充を望みたい。

*1-1-2:https://www.hokkaido-np.co.jp/article/335650 (北海道新聞社説 2019/8/18) 食料自給率最低 政権の危機感が足りぬ
 農林水産省が発表した2018年度の食料自給率は、カロリーベースで前年度比1ポイント低下の37%に落ち込んだ。記録的冷夏でコメが凶作となった1993年度と並ぶ過去最低の数値である。自給率が40%を下回るのは、これで9年連続となる。25年度に45%に引き上げるという国家目標は遠のくばかりだ。長期低迷の原因は、農業の生産基盤が弱体化していることに尽きる。高齢化による離農が増え、人手不足のあおりで新規就農者は減少している。これでは国民の食を守ることはできない。政府は農業を安心して続けられる環境整備と、担い手を増やす施策に力を入れるべきだ。今回の自給率低下は、北海道の夏の低温と日照不足により小麦と大豆の生産が大幅に落ち込んだことが主因となった。これに牛肉や乳製品の輸入増加に伴う国内生産の伸び悩みが重なった。ただ、昨年末の環太平洋連携協定(TPP)、今年2月の欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)の発効の影響が出てくるのはこれからである。加えてトランプ米大統領も安倍晋三首相に農産物の巨額購入を直接要求している。輸入農産物の攻勢が本格化する19年度以降、自給率がさらに下落する懸念は拭えない。米国や欧州主要国の自給率は最低でも60%を上回っており、40%未満が常態化している日本の食料事情は極めて深刻である。なのに、安倍政権には全く危機感が感じられない。それどころか、自らの農業政策について、生産農業所得が3年連続で増加しているデータを挙げて「アベノミクスの成果」と自画自賛している。生産農業所得は災害や不作による農作物価格の上昇にも左右される。増えたからといって、農業が強くなった証拠にはならない。昨年までの5年間で国内の耕地面積は約10万ヘクタール、農業経営体は約20万件も減っている。49歳以下の若手就農者数も昨年、5年ぶりに2万人を割り込んだ。政権に都合の良い数値をアピールするのではなく、農地と担い手の減少という現実を直視し、歯止めをかける政策こそが必要だ。国連の気候変動に関する政府間パネルは今月、干ばつの増加などで50年の穀物価格が最大23%上昇する恐れがあると警告した。世界的な食糧難が予測される中で、日本が安易な輸入頼みを続けている場合ではないはずである。

*1-1-3:https://www.chugoku-np.co.jp/column/article/article.php?comment_id=562805&comment_sub_id=0&category_id=142 (中国新聞 2019/8/18) 食料自給率過去最低 持続可能な「農」目指せ
 2018年度の食料自給率はカロリーベースで前年度より1ポイント低い37%だった。コメの記録的な凶作に見舞われた1993年度と並び過去最低となった。地球温暖化を背景とする18年度の天候不順で、北海道などで穀物生産が減ったのが響いた。とはいえ、この10年、自給率は下がり続けており、危機的と言わざるを得ない。今後も上昇は困難だ。というのも農業の担い手不足や高齢化が止まらない上、環太平洋連携協定(TPP)などの発効で安い農産物輸入が増えるからだ。政府が目標とする25年度の45%達成には赤信号がともった。必要な食料を自国内で賄う「食料安全保障」は破綻していると言えよう。農林水産物の増産や担い手づくりにつながる、持続可能な「農」への抜本的対策を政府は打ち出すべきだ。18年度の国内生産量を見ると大豆が16・6%落ち込み、小麦は15・7%減った。悪天候が理由だが、自給率は09年度の40%から徐々に下がり、近年は30%後半を推移している。コメ離れが進み、輸入肉などを多く食べる食生活への変化が主な理由だ。気になるのは、深刻さを増す生産現場の担い手不足だ。農業就業人口は約168万人と10年前に比べ4割減った。うち7割が65歳以上で高齢化も著しい。新規就農も進まない。49歳以下の若手就農者は18年に約1万9千人と5年ぶりに2万人を割った。あおりで耕地面積も約440万ヘクタールと、10年前より約20万ヘクタール少なくなっている。一方、海外からの農産物は増える。TPPに加え、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)が昨年度相次いで発効した。輸入の肉類や乳製品が国内に大量に流れ込んでいる。来週、米国との貿易交渉が再開される。結果次第では、農産物輸入が増える。自動車など日本の工業製品を守るためとはいえ、これ以上、国内農業を犠牲にすることは許されない。世界では自給率上昇に力を入れる国が多い。13年には米国とフランスが100%を超え、ドイツ95%、英国63%と、日本は大きく水をあけられている。国家間の食料争奪戦は今後、激しさを増す。人口増は止まらず温暖化による干ばつや豪雨が増えれば、農産物の生産量が減りかねない。食料確保のため、自給率アップは不可欠である。政府は4月、担い手不足解消のため、農業分野への門戸を外国人労働者に広げた。だが在留期間は5年と短く応急措置にすぎない。省力化のためロボット技術や人工知能(AI)など先端技術の活用も必要で政府の対応が急がれる。安倍晋三首相は1月の施政方針演説で「強い農業」推進を訴えた。農地集約で大規模農家をつくり農産物輸出を増やす「もうかる農業」の重視である。それは、小規模農家の切り捨てにならないか。中国地方は島や山が多く、農地の大規模化や大型機械の導入は進めにくい。棚田は、食料生産に加え、洪水防止や景観保持など多面的な役割を果たしている。それを維持しているのが中山間地域の農家である。忘れてはなるまい。私たちも消費者として農林水産業への理解を深め、「食」という恵みを生み出す農山漁村の担い手を支援すべきである。

*1-1-4:https://www.niigata-nippo.co.jp/opinion/editorial/20190816489029.html (新潟日報社説 2019年8月16日) 食料自給率 上昇に転じる道筋を示せ
 このままでは日本の食料安全保障が揺らぐ恐れがある。政府はもっと危機感を持って、食料自給率の上昇へ向けた取り組みを強化しなければならない。2018年度の食料自給率がカロリーベースで前年度より1ポイント減の37%になった。記録的なコメの凶作となった1993年度と並ぶ最低の水準だ。65年度は73%あったが、コメ離れや肉を多く食べる食生活の変化などで漸減し、2010年度以降は40%を切っている。国の「食料・農業・農村基本計画」では、25年度までに自給率を45%にする目標を掲げている。計画ができたのは00年だが、一向に改善できずにきた政府の責任は重い。気掛かりなのは、18年度が過去最低となった要因として、農林水産省が天候不順で小麦や大豆の国内生産量が大きく減ったことを挙げている点だ。地球温暖化により世界各地で干ばつや豪雨などが増えている。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、50年には穀物価格が最大23%上がり、食料不足や飢餓のリスクが高まるとの報告書をまとめた。こうした中で、日本の自給率は小麦が12%、大豆は21%にとどまっている。これらの輸入は米国、カナダ、オーストラリアなどに頼っている。輸出国が異常気象で作物が凶作となった場合、これまで通り安定的に供給できるのか。食料安全保障に不安を覚える。来年3月に新たな「食料・農業・農村基本計画」を策定する国は、目標との乖離(かいり)を検証すると同時に、将来の食料危機も見込んだ対策を示してほしい。農水省は45%の目標達成に向けて主要品目ごとの生産目標も示している。コメは100%達成しているが、小麦は18年度実績より18万トン増の95万トン、大豆も11万トン増の32万トンに引き上げねばならない。国内の生産を強化するには、担い手の減少や耕作放棄地の増加といった課題の解決が不可欠だ。国も対策に取り組んできたが、効果は上がっていない。担い手は10年には全国で約205万人いたが、18年は60万人減の145万人になった。高齢化も急速に進み、集落の維持が困難になっている地域も増えている。本県も同様の傾向だ。集落や地域農業も含めたさまざまな観点から対策を強化することが欠かせない。農作業の負担軽減や生産性の向上につなげるため、ロボットや人工知能(AI)などの最新技術を活用する「スマート農業」の実用化を急ぐことも柱の一つだろう。先の参院選では、野党も高い自給率の目標数値を公約に掲げていた。与野党問わず、実現に向けて知恵を出してほしい。都道府県別の自給率では、本県はコメの不作の影響で前年度より9ポイント減の103%だった。安定した収量と品質の確保に向けて、県や農業団体などは品種の改良やきめ細かな技術指導などに最大限の努力を図ってもらいたい。

*1-2:https://www.agrinews.co.jp/p47616.html (日本農業新聞 2019年5月11日) きょうからG20農相会合 持続可能性で議論 日本産輸入規制撤廃も
 日本が議長国を務める20カ国・地域(G20)農相会合が11日、新潟市で開幕する。12日までの日程。世界の人口と食料需要の増加に対応するため、農業の生産性向上や持続可能性をどう確保していくかを議論し、「G20農相宣言」を採択する。吉川貴盛農相は10日の閣議後会見で、各国閣僚との会談を通じ、中国や韓国など日本産食品の輸入を規制している国に対して、早期の規制緩和、撤廃を求めていくとした。6月に大阪市で開かれるG20首脳会議(サミット)に向けた一連の閣僚会合の第1弾。吉川農相は閣議後会見で、農業・食品分野の持続可能性の実現に向けて、各国の優良事例を集め、有効策を見いだす考えを示した。 また、東京電力福島第1原子力発電所事故に伴う、日本産食品の輸入規制の緩和、撤廃に向け「特に中国、韓国とは、そのようなこと(規制緩和、撤廃)を中心に話したい」と強調。11日の歓迎レセプションでは新潟県や農相の地元の北海道に加え、岩手、宮城、福島各県の食材も提供。日本産の安全性をアピールする。期間中は、米国のパーデュー農務長官との会談も予定されている。日米貿易協定交渉が本格化する中、パーデュー氏とは「農業全般の諸問題について率直に意見交換したい」と述べた。

*1-3:https://www.agrinews.co.jp/p48137.html (日本農業新聞 2019年7月7日) 食料安保を最重視 人材・スマート化拡充 全中 予算要請へ
 JA全中は、政府の2020年度農業関係予算への要請内容を決めた。食料安全保障の確立に向けた万全な予算の確保を最重視。新規就農者の育成やスマート農業の支援の拡充、中小経営を含めた青果や畜産の生産基盤強化策などを求める。参院選後、8月末の概算要求を前に政府・与党への働き掛けを強める。20年度は新たな食料・農業・農村基本計画の実践初年度のため、全中は同計画とともに予算でも食料安保の重視を訴える。農業者の急速な減少・高齢化による担い手や人手の不足を受け、19年度予算で減額された農業次世代人材投資事業などの充実を要請。生産性向上や労働力不足の解消に向け、スマート農業の導入支援の拡充も求める。多くの割合を占める中小規模・家族経営も含めて生産基盤を強化するため、野菜・果樹対策では産地パワーアップ事業や強い農業・担い手づくり総合支援交付金とともに、省力樹形への改植支援などを求める。畜産・酪農対策では、畜産クラスター事業に加え、キャトルステーションなど外部支援組織や経営継承への総合的な支援を要請。豚コレラ終息に向けた防疫態勢や、水際対策の強化なども求める。19年産米の需給緩和が懸念される中、水田農業対策では、水田活用の直接支払交付金をはじめ、水田フル活用に関する交付体系や予算の恒久的な確保、産地交付金の運用見直しなどを要請する。農地中間管理機構(農地集積バンク)の見直しを受け、地域の話し合いの活性化に向けた支援の拡充なども求める。農業・農村への理解の促進や、国産農畜産物の消費拡大に向けた官民の取り組みの強化も訴える。輸出の拡大や農泊、農福連携への支援の他、鳥獣被害の減少に向けた十分な対策、災害に強い農業づくりに向けた支援の拡充なども要請する。JAグループの自己改革をさらに後押しするため、公認会計士監査への移行に伴うJAの実質的な負担増がないよう、引き続き支援も求める。

<農業経営と人材>
*2-1:https://www.agrinews.co.jp/p48103.html (日本農業新聞 2019年7月3日) [ゆらぐ基 持続への危機](3) 担い手 規模拡大 限界 重い負担 経営リスク
 「一面の水田を前にこれ以上の規模拡大は難しい」と話す永須さん(秋田県横手市で)。離農者の農地を担い手が引き受け、地域の農地を守りつつ、規模を拡大する。そんなサイクルが今、限界を迎えつつある。離農者に比べて担い手や労働力が不足し、一定以上の規模拡大には経営リスクが付きまとう。
●平場地域でも
 「頼まれても、これ以上は増やせない」。2600ヘクタール超の水田が広がる秋田県横手市平鹿町。高齢農家の離農で「農地を引き受けてほしい」との声が毎年のように上がるが、水稲「あきたこまち」など、地域有数の規模の45ヘクタールを経営する永須巧さん(38)は難色を示す。平場地域で営農条件は悪くないにもかかわらず、なぜか──。最大の要因は「マンパワーが足りない」ことだ。永須さんは両親と3人で農事組合法人を経営。田植えや収穫は、地域内からの臨時雇用で人手を賄う。だが、住民の高齢化でその確保が難しくなり、両親も60代後半となった。その分、負担は永須さんに集中する。今年は田植えに1カ月以上を要し、作業中に「もう限界」と感じた。繁閑の差が大きい水稲は通年で人を雇うのが難しい。冬の作業確保で園芸作物を導入するにも、豪雪地帯の同市ではハウスなどに大きな投資が必要だ。これ以上の水稲の拡大も、現在の農機や施設では対応しきれない。自宅近くに農地を集積しているが、分散して非効率となる恐れもある。米価が不透明な中、「リスクを背負えない」と経営面からも二の足を踏む。地元のJA秋田ふるさと平鹿営農センターによると、農機の更新などを機に離農する2、3ヘクタール規模の高齢農家が多い。20~30ヘクタール規模の担い手や集落営農組織も存在するが、作業者の不足や高齢化などの課題を抱える。農地中間管理機構(農地集積バンク)を使っても受け手がなかなか決まらない場合があるという。一方、農地を集めた担い手の病気やけがで、一度に大量の農地が宙に浮いてしまうリスクもある。同JA管内でも数年前に10ヘクタール程度を耕作していた農家が病気となり、周囲で分担したが、一部は作付けできなかったという。
●誇りだけでは
 水稲より規模拡大が難しい果樹。「新たに引き受けるには、別の農地を返さざるを得ない」と語るのは、静岡市清水区の農家、杉山祥丈さん(40)だ。全国農協青年組織協議会(JA全青協)の副会長を務める杉山さんは、急傾斜地の農地で、両親・弟とミカン2ヘクタールなどを経営。地域内でも基盤整備された農地は引き受け手があるというが、自身は高齢農家に農地の引き受けを求められても、やむなく断る場合があるという。人手の確保や新たな投資に加え、元の持ち主との仕立て方の違い、老木の改植など果樹特有の課題もあり、規模拡大のメリットは期待しにくい。「農地を荒らしたくない気持ちはあるが……」。政府は2023年までに、全農地面積の8割を担い手に集積する目標を掲げる。全青協の飯野芳彦参与は「その分、リスクや負担も集中する」と指摘。「担い手の使命感や誇りで地域の農地を維持していくにも限度がある」と話す。
●労働力 7万人不足
 18年の農業就業人口は175万人で、1998年の389万人から20年間で55%減った。このうち「基幹的農業従事者」は98年が241万人、18年が145万人で40%減った。一方、17年の新規就農者は5万5670人。49歳以下の若手は4年連続で2万人を超えたが、離農者を補うには及ばない。人口減少局面で、雇用労働力も不足。政府は農業での不足が19年度に7万人、24年度に13万人と見込む。

*2-2:https://www.agrinews.co.jp/p48314.html (日本農業新聞 2019年7月29日) 農業経営体 120万割れ 大規模でも農地減少
 全国の農業経営体数が120万を割り込み、過去10年で最少規模となったことが、農水省の調べで分かった。全体の9割以上を占める家族経営体が前年比2・7%減の115万2800に落ち込んだ。労働力不足、高齢化が深刻で生産基盤が揺らぐ実態が浮かび上がった。小規模の家族経営体の農地の受け皿だった大規模経営体の耕地面積も減少に転じ、多様な担い手をどう育成するかが問われている。農業経営体数の合計数は前年比2・6%減の118万8800。10年前の167万9100と比べると、減り幅は49万を超え、約3割の減少となっている。組織経営体のうち、農産物を生産する法人数は2万3400。前年から3%程度増えた。半面、小規模の家族経営体は減少に歯止めがかかっていない。国内の経営耕地面積353万1600ヘクタールのうち、1ヘクタール未満の経営体が占める割合は9・3%。5年前の14年は12・8%と1割を超えていたが、減少が続く。国内の経営耕地面積の半分以上となる53・3%は、10ヘクタール以上の経営体がカバーする。ただ、大規模経営が手掛けている耕地面積は今回、減少に転じた。10ヘクタール以上の経営体の耕地面積は、前年から8700ヘクタール減り、188万ヘクタールとなった。同省は「担い手への集積はある程度進んだが、新たな集積は停滞している」(経営・構造統計課)とみる。小規模農家の離農が加速し、大規模経営が農地を受け切れず、国内の経営耕地面積そのものも、約6万ヘクタール減の353万ヘクタールに縮小した。労働力の不足と高齢化も、歯止めがかかっていない。販売農家の基幹的農業従事者は140万4100人で、前年から3・2%減った。基幹的農業従事者の年齢構成を見ると、70歳以上が59万100人と全体の42%を占める。49歳以下は14万7800人にとどまり、前年と比べると2・9%減っている。雇用労働も、常雇い数は前年比1・7%減の23万6100人。20代から70歳以上まで、年齢構成に大きな偏りはなく、それぞれ10、20%台だが人数全体では増えていない。

*2-3-1:https://www.agrinews.co.jp/p48420.html (日本農業新聞 2019年8月10日) 若手就農 2万人割れ 他産業と取り合い 18年
 49歳以下の若手新規就農者数が2018年は1万9290人となり、前年から7%減り、5年ぶりに2万人を割り込んだことが9日、農水省の調べで分かった。他産業との人材獲得競争が激しさを増し、雇用就農者が減ったことが影響した。新規就農者全体は前年と同水準の5万5810人で、2年連続で5万人台にとどまった。15、16年は6万人台だった。生産基盤の再建に向け、新たな人材をどう確保するかが課題に浮かび上がった。14年以降、49歳以下の若年層は4年連続で2万人を超えていた。だが、16年から減少傾向が続いていた。就農形態別に見て、49歳以下の減少が特に目立ったのは、法人などへの雇用就農者だ。前年比11%減の7060人だった。自営農業就農者は1万人を割り、同2%減の9870人。土地や資金を独自に調達して就農した「新規参入者」は、同13%減の2360人と、軒並み減少している。減少に転じた理由について、同省は「各産業とも人手不足が深刻化し、人材獲得競争が激しさを増している」(就農・女性課)と説明。18年の有効求人倍率は1・61で、14年に1・09と1点台に乗って以降、上昇が続いており、若手が他産業に流れているとみられる。一方、全世代を含む新規就農者5万5810人は、前年から140人増。このうち、自営農業就業者は同3%増の4万2750人だった。60歳以上が2万7000人と同11%増となり、全体を押し上げた。同省は定年帰農者などの増加を要因の一つに挙げる。雇用就農者と新規参入者は、全世代を含めても前年から減少していた。雇用就農者は4年ぶりに1万人を割り込み、同7%減の9820人。15年に、統計を取り始めた06年以来初めて1万人を突破し、3年連続で1万人台を維持していたが、その傾向が途絶えた。新規参入者は3240人と、前年から11%減った。前年は増加傾向に転じていたが、再び減少傾向に戻った格好だ。
[解説] 担い手確保 具体策を
 生産基盤を再建する上で、重要な役割を果たす新規就農者が増えていない。将来を担う若年層の49歳以下の新規就農者数は2万人を切った。離農が加速する中、新たな人材をどう確保するか。具体策が求められている。14年以降、4年連続で49歳以下の新規就農者が2万人を超えていたことは、安倍晋三首相が農政改革の成果の一つとして強調してきた。それだけに今回の2万人割れを、安倍政権は重く受け止めるべきだ。他産業でも人材獲得競争が激しくなる中、いかにして農業の魅力を高めるかが問われている。他産業並みの収入確保、省力化などによる労働環境の向上など課題は多い。農政の中長期的な指針を示す食料・農業・農村基本計画の見直し期限が2020年3月に迫る。政府・与党は、新たな基本計画の策定に向けて、現在の政策を徹底的に検証し、実効性のある政策を構築すべきだ。支援策が十分かどうかも検証が必要だ。新規就農者らを資金面でサポートする農水省の「農業次世代人材投資事業」の19年度予算額は、前年度から1割以上減っている。20年度予算での財源確保も大きな焦点となる。

*2-3-2:https://www.agrinews.co.jp/p48454.html (日本農業新聞 2019年8月15日) 就農支援 交付できぬ 予算減額で自治体混乱 
 新規就農者を支援する国の「農業次世代人材投資事業」の2019年度予算の減額で、地方自治体が対応に苦慮している。経営開始型の新規採択を予定する新規就農者に対し交付をいまだ決定できない自治体や、全額交付の確約がないまま半額分の上期支払いを決定した自治体もある。現場の混乱に、農水省は「必要性が高い人に優先的に配分してほしい」とする。
●追加配分 要望相次ぐ
 同事業は12年度に前身の就農給付金事業から始まり、就農前の研修期間に最大150万円を2年間交付する準備型と、定着に向け最長5年間同額を交付する経営開始型の2本立てで構成する。19年度からは年齢を原則45歳未満から50歳未満に引き上げ、対象を拡大したにもかかわらず、予算は154億7000万円で、18年度の175億3400万円に比べて12%、20億円以上減額した。事業の減額で、要望額を大きく下回る配分額を同省から提示された自治体が続出。支援を営農計画に織り込んで生計を立てている新規就農者もいるだけに、波紋が広がっている。佐賀県では、同省の配布額では現時点で5000万円足りない。市町村に対し、国からの配布額が減額したことを説明した上で、営農意欲など事業の要件を満たした交付希望者全員に上期分(最大75万円)の支払いを決定した。残りの下期分は国から支払われるか不透明だが、同県は「経営開始型の5年間の交付は農家との約束だ」として、影響を最小限にとどめるために上期分は例年通りの時期に決定したという。同県は「万が一、国からの予算がこのまま大きく足りない状況だと、半額しかもらえない若者が出てきてしまう。そうならないよう、農水省に強くお願いする」と強調する。岡山県も交付希望者全員に上期分(最大75万円)の支払いを決定した。残る半額は同省の追加配分を待つという。岐阜県では経営開始型の新規採択予定者の交付はストップしている状況だ。多くの自治体から、予定していたのに交付されない新規就農者が出ることがないよう、追加配分に向けて強い要望が同省に相次ぐ。
●調整では限界 国は対応検討
 同省は、都道府県の要望額や前年度実績などを踏まえ、配分額を決定する。例年、予定していた新規就農者が病気で交付申請をやめるなどして当初の見積もりを下回り、配分額から返却する自治体がある。同省では毎年11月に予算の執行調査を行い、返却分から足りない自治体に追加配分するなどしてきた。19年度はこうした自治体間の調整は小まめに行う方針だという。ただ、19年度は前年度比20億円以上もの減額で、大半の自治体で配布額が要望額に満たず、調整だけでは限界がある。同省は「現場の苦慮する声は聞いている。予算の執行状況を丁寧に調査し、どう対応できるか考えていく」と説明している。
●就農支援減額に不満の声 頼みの綱…「死活問題」
 山間部に30戸が暮らす佐賀市三瀬村の井手野集落。5年前に大阪からUターンした庄島英史さん(44)は、ピーマンを栽培する。あぜ道が多く耕地面積を上回る古里で農業をする厳しさは、稲作農家の両親の経営を見て痛感していた。それでも「会社員生活でいろいろな地を訪れたが、古里以上の場所はない」と就農した。今年は経営開始型交付の最終年に当たる5年目。これまで綿密な営農計画を提出し、給付金はトラクターや運搬車、パソコンの購入費用に活用してきた。規模拡大や効率化に限界がある農地だったが、同事業が大きな支えになった。庄島さんは「支援がないと農業を続けるのは厳しかったかもしれない」と振り返る。来年度から経営を自立できる見通しだが、それも経営が安定しない初期段階に同事業の補助金を受給できたからだという。古里に仲間を呼び込みたいと考え、同事業をPRし、若者に就農を勧めてきた庄島さん。「この事業を頼りにする後輩もいる。打ち切りになればあまりに影響が大きい」と訴える。庄島さんの後輩で、同集落に移住し、無農薬で少量多品目を栽培する佐藤剛さん(35)は、今年度の受給が不透明な現状に困惑する。同事業があるから、無農薬栽培や新たな生産方法などにチャレンジできていたという。「非常に貴重で頼りにしていた支援。農家出身ではなく、基盤がない移住者なので、事業の減額は死活問題だ」と主張する。同市で経営開始型の補助を受けるのは、庄島さん、佐藤さんを含めて48人。これまで1年間まとめて県から市に予算が振り込まれてきたが、今年は予算が足りないとの理由で上期分だけだった。市は「急に『支払えない』とは、現場で頑張る新規就農者に言えない。非常に大きな問題だ」と憤る。JAや県と新規就農者の呼び込みに力を入れてきた同市。同事業も就農を呼び掛ける材料の一つにしてきたが、今後はこの事業についてどう説明すればいいのか途方に暮れているという。
●自治体も困惑「説明できぬ」「寝耳に水」 「信頼揺らぐ」市が補正予算
 現状、経営開始型の新規採択者には給付金を支払っていない岐阜県。同県飛騨市では、トマトで就農を目指す3人への給付が不透明なままだ。このため市は緊急の対応として補正予算を組んだ。全額国費の同事業に、自治体が補正予算で対応するのは異例だ。都竹淳也市長は「制度としての信頼が揺らぐ深刻な問題。新規採択予定者の不安な状況を避けるために、緊急避難的な対応としてやむを得ず補正予算を組んだ」と説明する。都竹市長が事態を知ったのは5月。会議で他の自治体首長から問題提起があったという。現場の混乱が想定される大きな予算の減額に国から説明がなく、「寝耳に水。情報伝達の面でも大きな問題だ」と語気を強める。他の自治体からも「年齢を引き上げ、対象を拡大したのに予算を減らすのはおかしい。追加配分してほしい」「受給できる前提で営農計画を組んでいる若者に説明できない」との声が相次ぐ。「農業の産地ではなく、国の予算が少ないからという理由で補正予算を求めても財政部門や議会が納得してくれない」と話す市の担当者もいる。同事業は17年度までの6年間で準備型8916人、経営開始型1万8235人が受給し、新規就農者の育成に大きく貢献してきた。新規就農者や自治体が同事業の必要性を訴える一方、同事業には2017年秋の行政改革推進会議などでは厳しい指摘があり、財務省からは緊縮財政の中で予算削減を求められている。農水省は新規就農者の苦慮する状況について「どういう対応ができるかを検討している」と説明している。

*2-4-1:https://www.agrinews.co.jp/p48240.html (日本農業新聞 2019年7月20日) 外国人材受け入れ 特区 特定技能に移行 来年度から 円滑な契約 課題
 政府は、改正出入国管理法に基づく特定技能制度が始動したことを受け、農業分野での国家戦略特区制度の外国人労働者受け入れは2020年度以降、新制度に移行する方針を決めた。特区制度での契約終了後も外国人が働き続けるには、新制度の資格を得る必要がある。円滑な移行ができるかが焦点となる。国家戦略特区を活用し、農業分野で外国人労働者の受け入れが始まったのは、18年10月。特区の認定を受けた愛知県、京都府、新潟市、沖縄県で、19年6月1日までに52人が派遣元と契約し、入国している。一方、外国人労働者の受け入れを拡大する改正出入国管理法が成立。4月からは、新たな特定技能制度による受け入れが始まった。特区制度と新制度が並存する中、政府は今後の運用方針を決定。20年度からは、新制度での受け入れを求める。移行期間を設け、19年度までは特区制度で派遣業者が外国人労働者と雇用契約を結べるようにした。19年度中に特区制度に基づいて契約した外国人は、契約締結時点から通算3年を上限に就労できる。契約後、新制度に移行できれば、新制度の通算5年と合わせて合計8年の就労が可能となる。今後、特区制度での契約が順次切れていく中、外国人労働者が新制度の資格を取得し、引き続き今の現場で働くことができるかが課題となる。新制度の下で働く場合、耕種か畜産の農業技能測定試験と日本語能力の試験を受ける必要がある。だが、約3年の技能実習を修了していれば、試験は免除される。特区制度で働く外国人は、既に技能実習を修了しているため、新制度への移行時は試験が免除となる。農業分野では、受け入れ元の直接雇用に加え、派遣形態の雇用も認める。特区制度での受け入れ実績を持つ派遣業者が新制度でも受け入れ先になるには、住居の確保など生活を支える支援計画を策定する必要がある。同省は「計画策定などは、社会保険労務士や農業団体など登録支援機関が支援する。新制度へ円滑な移行を促したい」(就農・女性課)と話す。

*2-4-2:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/513963/ (西日本新聞 2019/5/29) 福岡県、外国人材受け入れへ協議会 官民56団体連携
 外国人就労を拡大する改正入管難民法の4月施行を受け、福岡県や市町村、業界団体、留学生支援団体などは6月に「県外国人材受入対策協議会」を発足させる。生活、労働情報や課題を共有し、受け入れ環境向上を図る狙いだ。外国人材に関連した官民の横断的な組織の設立は九州で初めて。県は9月にも市町村と連携した広域の外国人相談窓口の設置を予定している。法務省によると、県内の在留外国人は7万3876人(昨年6月現在)。改正法は新たな在留資格「特定技能」を創設。県内でも農業、介護、建設などの分野に従事する外国人数の増加が見込まれる。協議会は県に事務局を置き、福岡市、北九州市、県市長会、県町村会、福岡労働局をはじめ、農業や介護のほか外食、宿泊、建設など13業種の業界団体を含む計56団体で構成。アンケートなどで就労や生活面の不安、事業者が抱く制度の課題点や困り事を把握し、必要な対策につなげる。新設する相談窓口は「県外国人相談センター」(仮称)。政令市を除く58市町村に寄せられる相談をセンターと共有できるネットワーク体制を構築する。(1)外国人と担当の市町村職員(2)センターのスタッフ(3)通訳業者‐の3者が機器で同時通話できるシステムを活用。スタッフが生活、就労、医療など相談内容次第で各専門機関にもつなぐ。県は、関連経費として計約2300万円を2019年度一般会計当初予算案に計上する方針。

*2-4-3:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/527877/ (西日本新聞 2019/7/18) サニーさんの死なぜ 大村入管のナイジェリア人 収容3年7ヵ月
 強制退去処分を受けた外国人を収容する西日本唯一の施設「大村入国管理センター」(長崎県大村市)で6月下旬、収容中の40代のナイジェリア人男性が死亡した。男性は施設内で「サニーさん」と呼ばれ、慕われていた。収容期間は3年7カ月に及び、亡くなる前は隔離された状態で衰弱していたという。センターは死因や状況を明らかにしておらず、支援者からは第三者機関による原因究明を求める声が上がっている。「外に出られたことを神に感謝している」。今月8日午後、大村市の教会を訪れたクルド人男性(30)はキリスト像を前に頭を垂れ、じっと動かなかった。2年近く収容されていた大村入国管理センターから「仮放免」が認められ、その足で向かったのが教会だった。目は落ち込み、頬はこけていた。男性は収容中の3月から2カ月間、仮放免の許可を求めて食事を拒むハンガーストライキをした。一時は他の外国人と隔離され、複数の部屋が並ぶ「3C」と呼ばれる居住区にいた。その隣の部屋に、サニーさんがいた。「彼は食事を取っておらず体力がなかった。『水くらいは飲んで』と伝えたんだが…」。最後に見た時はやせ細り、骨と皮ばかりになっていたという。支援者によると、サニーさんが収容されたのは2015年11月。日本人女性との間に子どもがおり「出国すると子どもに会えなくなる」と帰国を拒んでいたという。「3C」で意識を失っているサニーさんを職員が見つけたのは6月24日午後1時すぎ。搬送先の病院で死亡が確認された。法務省によると、記録が残る07年以降、大村入国管理センターで収容中の外国人が死亡したのは初めてだった。2日後、施設内の一室に献花台が設けられた。同じナイジェリア出身の男性は「助けてあげられなくてごめんね」と涙を浮かべた。「親切」「穏やか」。収容されている外国人はそう口をそろえ、同じ部屋で過ごしたフィリピン人男性は「兄のような存在。食事が足りない時には分けてくれた」と振り返った。支援者や収容者によると、サニーさんはこれまで仮放免の申請を4回却下されていた。ハンストしていたとの情報もあるが明確な証言はない。その最期は覚悟の上だったのか。それとも‐。「3C」にはサニーさんや、後に仮放免されたクルド人男性など、食事を取らなかった複数の外国人が各部屋に隔離されていたという。その理由についてもセンターは「個別事案には答えられない」(総務課)と公表していない。サニーさんの死亡について、出入国在留管理庁は調査チームを設置。福岡難民弁護団は第三者機関による原因究明と調査結果の公表を求める声明を発表している。
   ◇    ◇
●ハンスト後絶たず
 強制退去処分を受けた外国人の収容の長期化が指摘される中、全国の入管施設では仮放免の要求や長期収容への抗議のためのハンガーストライキが後を絶たない。大村入国管理センターで外国人との面会活動を続けている牧師の柚之原寛史さん(51)によると、同センターではサニーさんの死後、ハンストがさらに広がっているといい「収容期間が長い人ほど精神的に追い詰められており、このままでは第二、第三の犠牲者が出かねない」と危機感を募らせる。サニーさん死亡を受け、山下貴司法相は2日の閣議後会見で「健康上の問題などで速やかな送還の見込みが立たない場合は、人道上の観点から仮放免制度を弾力的に運用する」と説明。これに対し、全国難民弁護団連絡会世話人で外国人収容問題に詳しい児玉晃一弁護士(東京)は「命を懸けたハンストが広がる背景には、理由の説明もないまま長期間収容する入管側に問題がある」と指摘。「ハンストすれば仮放免の道が開けるという情報が収容者に広がれば危険だ。難民申請中などで早期の出国が見込めないケースなどは原則として仮放免を認めるべきだ」とし、場当たり的な対応ではなく根本的な政策の見直しを訴えている。
【ワードBOX】外国人の収容
 不法滞在などで強制退去処分を受けた外国人は、出国まで全国17カ所の入管施設に収容される。うち出国のめどが立たないケースは東日本入国管理センター(茨城県)か、大村入国管理センターに移送される。大村の収容者数は2018年末時点で100人。在留を特別に認める「仮放免」制度などがあるが、ここ数年は収容期間の長期化も指摘され、大村では収容者の94%が半年以上に及ぶ。法務省によると記録がある07年以降、全国の施設で収容中に亡くなった外国人は15人。うち自殺者は5人。

*2-5-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO48474260Q9A810C1EA1000/ (日経新聞 2019/8/10) 農業参入3000社、収益確保なお途上 農地法改正10年
■イオン、借地面積3倍へ
 一般企業の農業参入の条件が緩和された農地法改正から10年を迎えた。参入した法人数は全国で3千を超え、農家の高齢化や跡継ぎ不足で耕作放棄地が増えるなか、有力企業も動き出す。イオンは借地面積を2025年度までに3倍に拡大し、他の民間による植物工場の新設も相次ぐ。ただ大規模な農業経営は期待されたほど進んでいない。農業ビジネスの収益性の低さが改めて課題となっている。改正農地法は09年に施行され、農地を借りる形であれば完全に自由となった。家族経営に支えられてきた従来の農業が行き詰まりを見せるなか、新たな担い手として民間企業が名乗りを上げ、株式会社などの参入は順調に増えてきた。代表格がイオンだ。全額出資子会社のイオンアグリ創造(千葉市)を通じ09年に農業に参入し、現在、全国20カ所に直営農場を持つ。借地面積は約350ヘクタールと国内で最大規模を誇る。有機野菜を栽培する認定農場も運営している。特徴は人間の経験と先端技術を融合した効率的な生産だ。収穫など単純作業はロボットに置き換え、20カ所の農場で様々なデータを集める。収集したデータを人工知能(AI)で分析し、地道な栽培技術の向上に役立てている。イオンは生産から販売まで担う製造小売業(SPA)の「農業版」を目指す。イオンアグリ創造の福永庸明社長は「農地を借りてほしいとの引き合いは強い」という。25年度までに借地面積を現在の3倍の1000ヘクタール規模に広げる計画だ。農林水産省によると、株式会社を含む一般法人の参入数は17年12月末で3030法人。改正前の10倍に拡大した。農業や食品関連に加え、建設業や製造業など異業種からの参入も多い。13年に参入した食品スーパーのいなげやは、国内33カ所で約9ヘクタールの農場を運営する。主に長ネギやニンジンなどの野菜を栽培する。自社店舗で販売し、関連会社が手掛ける給食事業でも使う。植物工場を建設する新たな動きもみられる。半導体・電子部品商社のレスターホールディングスは18年12月、秋田県鹿角市に完全閉鎖型の植物工場を稼働した。国内5カ所目でリーフレタスなど1日当たり1万7千株を生産する方針だ。新設した工場では発芽した苗の移植工程を自動化し、肥料や照明、生産実績などをクラウド上で管理する。レタスなどはコンビニエンスストアのサンドイッチやスーパーにも供給する。課題は残る。1法人当たりの経営面積は平均で3ヘクタール弱と一般的な農家とほぼ変わらない。農地法の改正で民間企業が参入し、運営規模の拡大や生産量の増加が期待されたが、現実は農業が長年抱えてきた構造的な問題を引きずっている。
■「黒字化のメド立たず」
 小規模経営は収益性の低さにもつながる。参入した民間が手がける栽培品目の中心は野菜だ。野菜は天候で収穫量や販売価格が変動しやすく、規模が小さいとリスク分散も難しい。企業は機械化を進め効率的な生産を目指したが、人間の勘や経験に頼る面は色濃く残る。企業からは「現時点で黒字化のメドは立っていない」(いなげや)との声が聞かれる。日本施設園芸協会がまとめた18年度の植物工場の収支状況では全体の49%が赤字だった。黒字の工場も増え18年度で全体の31%と3年で6ポイント改善してはいるが、黒字化には数年かかるとされる。企業も手をこまねいているわけではない。システムやサービスの提供といった新たな切り口で農業に携わり効率化を支援する動きが広がる。カゴメは地域の契約農家や自社が出資する農業生産法人を通じ、全国のスーパーで発売するトマトを生産している。屋内の栽培施設ではトマトが育ちやすい温度や二酸化炭素(CO2)の環境を細かく管理する。契約農家には自社が培った栽培技術などを助言する。NTTドコモはビッグデータを使い安定生産できるサービスを提案している。野村総合研究所の佐野啓介上級コンサルタントは企業の参入を促す上で「販路や物流網の整備が重要になる」と指摘する。農作物の売り先確保などで企業のノウハウが生かせる余地はありそうだ。佐野氏は「一部で見られる地域商社などによる生鮮品の共同輸送や、栽培品目などの情報を集め買い手と売り手をつなぐプラットフォームも有効だ」と話す。国内の農業従事者の平均年齢は65歳を超えた。耕作放棄地は今後も増え、農業の未来に向け残された時間は長くない。受け皿となる企業が農業で安定した経営基盤を築くことが急務だ。

*2-5-2:https://www.agrinews.co.jp/p48352.html (日本農業新聞 2019年8月3日) 基本計画 家族農業守れる農政を
 官邸主導の農業の構造改革路線を軌道修正できるか。参院選後の焦点はそこにある。生産現場の不満を踏まえ、自民党は参院選公約で家族農業を含む多様な農業を守ると訴えた。それでも1人区では苦戦した。今後の農政のかじ取りで現場の不満や不安を解消すべきだ。選挙戦で与党は農産物輸出の拡大やスマート農業の加速など農業の成長産業化を柱に掲げた。これに対し野党は、戸別所得補償による農業経営の維持を訴えた。過去の国政選挙で繰り返されたなじみの対決構図だが、その中の変化を見過ごせない。変化は与党の側だ。自民党は選挙公約に「家族農業、中山間地農業など多様で多面的な農業を守り、地域振興を図ります」と明記した。安倍政権は当初から「農業の成長産業化」を旗印に農政改革を加速。10年間に農地利用の8割を担い手に集積し、法人経営体を5万法人に増やすなどの構造政策に力を注ぎ、家族農業に配慮する姿勢は弱かった。家族農業の重視は、むしろ野党側が力を入れてきた主張である。そうした与野党対決の構図の中で、自民党公約は従来より中道寄りに歩み出してきたように見える。家族農業を守ることは、農業・農村の実情を踏まえると極めて現実的な対応というべきだ。中小規模農家の経営縮小や離農によって流出する農地を、担い手の規模拡大では受け止め切れなくなっているからだ。2019年の農業経営体数は119万で、09年の175万と比べて56万(32%)も減った。そのほとんどを家族経営体が占める。特にこの5年間はそのスピードが速まり、14年からは28万(19%)の減少となった。深刻なのが、農地の減少である。30ヘクタール以上層がカバーする経営耕地面積は19年、合計119万ヘクタールに及び、全体の3分の1を占める。ただ、これまで一貫して増加基調だったのが、19年は初めて減少に転じた。規模拡大だけでは農地を守り切れなくなっている状況で、構造政策をどう進めるのか、今後の重要な問題となる。農地利用の8割を担い手に集積するという現行の政府目標は現実離れしており、担い手が受け止め切れずに行き場の見つからない荒廃農地を増やす心配すらある。集積目標は現場のスピードに合わせながら、家族農業経営が持続できるような政策を充実させて農地の流出をできるだけ食い止めることこそが、むしろ大事ではないか。今秋に始まる食料・農業・農村基本計画の審議では、こうした人と農地の問題を軸に、生産基盤の立て直しが最大の論点となる。食料自給率向上の大前提となる問題であり、現行計画の延長にとどまらない、踏み込んだ議論が求められる。政権与党である自民党は公約で家族農業を守るとした。これを基本計画に反映させることが、農家との約束を果たす第一歩となる。

<林業について>
PS(2019年8月20日追加): 国は、*3-1・*3-2のように、2024年度より全国民から徴収される年1000円の森林環境税を前借りする形で、本年9月より自治体に森林整備資金を配り、資金の一部を人口に応じて割り振るため政令指定都市の平均(全国20市)は全市区町村平均の7倍を超えるそうだ。しかし、森林環境税を財源として配る森林整備資金なら整備する森林の面積に比例して配分すべきであり、基準を人口にすれば、森林整備の目的が達せられない。
 また、私有林の3割近くが登記簿で所有者がわからず、境界がはっきりしない森林も多く、市町村が山林所有者から山林を預かって管理する制度はできたが、所有者探しや地籍調査も並行して行わなければならないそうだ。しかし、登記簿で所有者がわからず境界もはっきりしないような山林の所有者探しは、「2年以内に名乗りでなければ公有にする」とアナウンスして、名乗り出ない人はその山林を必要としていないので公有化するというのが、所得のない人まで含めた全国民から年1000円の森林環境税を徴収する以上、公正である。


    森林の働き     健全な森林サイクル   森林と人工林   所沢ユリ園

*3-1:https://www.hokkaido-np.co.jp/article/334835?rct=n_politics (北海道新聞 2019年8月14日)森林整備資金、政令市が7倍超 市区町村に比べ、反発も
 国が本年度から自治体に配る森林整備の資金は、全市区町村の平均が年間920万円に対し、政令指定都市(全国20市)は7倍超の平均6880万円に上る見込みであることが14日、分かった。資金の一部を人口に応じて割り振るためだ。総務省は「都市の木材消費を促す事業も重要」と説明しているが、一部自治体は「少額で事業ができない」と反発している。政令市でつくる指定都市市長会が本年度の配分額を試算した。自治体ごとの配分額は、総務省が9月中にも公表する。配分基準は法令で定められているが、大都市が有利な仕組みが妥当かどうか検証が求められそうだ。

*3-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO48475070Q9A810C1SHF000/ (日経新聞社説 2019/8/11) 森林を預ける制度の活用を
 お盆は里帰りや行楽で山を間近で感じることが多い。放置された山林が増えるなか、私有の人工林を市町村に預けて管理を任せる制度が4月に始まった。山の日を森林を考える機会にしたい。森林は国土の3分の2を占める。うち57%は民間が所有し、その管理は所有者に任されてきた。しかし私有人工林の3分の2は適切に管理されず、土砂災害の原因になったりしている。新制度では市町村が所有者から山林を預かり管理権を持つ。その山林を使いたい民間の木材業者などがいれば、改めて管理を委ね国産材の活用を促す。いなければ市町村が管理し間伐などを担う。埼玉県秩父市は7月から2カ所の山林を所有者から預かり、管理を始めた。新制度を適用した第1号である。この制度を知った所有者から市に預けたいと申し出があり、スムーズに運んだ。私有林の4割は所有者がその市町村に住んでいない。都市部に住みながら相続で山林を持つことになった人も多いだろう。管理に手が回らないようなら、市町村に預けることを帰省の際に親族で話し合ってはどうだろうか。所有者が預ける意向を持っているか、多くの市町村はこれから調査するところだ。実は私有林のうち3割近くは登記簿では所有者がわからない。境界がはっきりしない森林も残る。所有者探しや地籍調査も並行して行うため、新しい管理制度への移行が終わるには15年ほどかかる、と林野庁はみている。新制度の財源になるのが、年1人1000円を負担する森林環境税だ。徴収は2024年度からだが、それを前借りする形で9月から自治体に配り始める。山村だけでなく都市部にも配分がある。新制度は伐採期を迎えた国産材の活用を促すねらいもあり、都市部では新しい財源の使い道として公共施設に国産材を使うことなどが想定される。木のぬくもりが増えることは好ましいが、無駄な使い方がないか目を光らせたい。

<農林水産業の担い手>
PS(2019/8/21、24追加):北海道初山別村では、*4-1のように、業種によって繁忙期が異なることを利用し、労働力不足解消に向けて農業・建設などの異業種が連携した新たな取り組みが進んでいるそうだ。具体的には、建設会社が派遣業の許可を取って社員を農漁業の現場に送り込んで作業しており、建設業と農業などの給与差が課題になるそうだが、それは建設会社が人材派遣業を別会社にして日本人だけでなく外国人も雇用し、仕事の難易度・熟練度・作業量・責任の重さ等に応じて給与を変える方法で解決できるだろう。ただ、外国人を就労させる場合には、*4-2のように、教育はじめ社会インフラの環境整備が必要になるため、同一言語を使用するグループを市町村毎にまとめて住まわせた方が、言語対応にかかるコストが少なくてすむわけだ。
 なお、*4-3のように、農林漁業には宝が豊富であるため、それを利用できるか否かがKeyになるが、それにもアイデアと人手を要するわけだ。*4-4の鶏卵価格の低迷による生産調整は「もったいない」の一言につき、生だけでなく惣菜や菓子に加工したものを国内外で販売すれば収益源になるし、*4-5の食品宅配は、高齢化と共働き化によって伸びることが明らかだ。そして、JAらしい新鮮でこだわった食材による地域貢献が期待されるが、これらもアイデアと人手の問題になる。
 2019年8月24日、朝日新聞が、*4-6のように、「①新在留資格の『特定技能』を持つ外国人労働者の生活を支援する1800を超える『登録支援機関』が続々誕生」「②質が保てるか懸念」「③外国人支援代行手数料の相場は月数万円」等と記載している。既に国外に製造・販売ネットワークを持つ会社が人材養成校を作って日本に外国人労働者を送り出したり、人材派遣会社が登録支援機関になったりすれば、これまでに蓄積したノウハウとのシナジー効果が発揮できるのでよいが、①②によって支援の質が低下したり、③のような高すぎる手数料をとって外国人労働者から搾取したりすれば、せっかく日本を選んで来た外国人労働者が日本に関する悪いイメージを持って本国に帰ることになり、長期的には国益にならないので注意すべきだ。

    
  2018.5.30     2018.11.20    2019.1.26  2018.12.8  2018.10.12   
  西日本新聞     日本農業新聞    西日本新聞   東京新聞   東京新聞

(図の説明:1番左の図のように、OECD諸国のうち移住外国人が多いのはドイツ・アメリカで、日本は少ない方である。しかし、左から2番目の図のように、日本でも農漁業はじめ多くの産業で外国人労働者を必要としている。また、中央の図のように、日本でも外国人労働者は漸増しており、その出身国は中国・ベトナム・フィリピンの順になっているが、人権に配慮した雇用については問題の多いことが指摘されている。そのため、右の2つの図のように、入管難民法が改正されたが、これも改善すべき点が多いわけだ)

*4-1:https://www.agrinews.co.jp/p48473.html (日本農業新聞 2019年8月17日) 派遣元は建設会社 農漁現場へ人材融通 新たな連携手応え 北海道初山別村
 北海道留萌地方にある人口1200人ほどの初山別村で、労働力不足解消に向け農業、建設など異業種が連携した新たな取り組みが進んでいる。業種間で繁忙期が異なることから、建設会社の社員を農漁業の繁忙期に派遣し、成果を上げている。人口減少が進む中、今ある労働力を地域内で活用する動きは、経済産業省北海道経済産業局なども着目。来年にも同村の手法を他地域に広げる計画で注目が高まっている。同村では高齢化や人口減少が進み、人手不足による廃業などが課題となっていた。村の基幹産業の一つである農業も、これまで親戚などに手伝ってもらっていたが、人手を集めにくくなり、生産者から労働力の確保を求める声が高まっていた。同村の商工会やJAオロロン、漁協などは、連携して2017年に「初山別村労働力調整協議会」を立ち上げ、検討に着手。同村を含め周辺地域も過疎化が進んで人材を呼び込むことが難しい中、18年度から人材融通の仕組みを始めた。具体的には、建設会社が派遣業の許可を取り、社員を農業や漁業の現場に送り込み作業してもらう。実施したのは、4月の養殖ホタテの稚貝を他の網に移す作業や5月の米の田植えなどが集中する、春先だ。18年度は漁業に6人、農業に4人を派遣。19年度は漁業に3人が入った。経験のない人を受け入れることに最初は不安を抱える農家もいたが、簡単な作業を割り振り教えることで対応できたという。受け入れ農家の調整を担った、JA初山別支所は「農家からは助かったという声が多く、希望者も増えている」と話す。農家にとっては、個人ではなく建設会社と契約することで、安心感もある。基幹産業の一つである第1次産業の衰退は、地域の衰退になることから異業種が結束したという。一方、仕組みを持続させるための課題も浮かび上がっている。同商工会によると、建設業の方が農漁業よりも給与が高い傾向にあり、社員を送り出す建設会社に対して村が差額を補填(ほてん)している状況だ。また、人手を求める需要に対し、融通できる人員は限られており、ネットワークの拡大も欠かせない。留萌地方は、他の地域よりも有効求人倍率が高く労働力不足が顕著。北海道経済産業局と北海道留萌振興局は同村の取り組みを処方箋にしようと、来春にも同地方南部でも仕組みを広げる考えだ。留萌振興局は「課題などを含め今後、細部を詰めながら進めたい」(産業振興部)とする。

*4-2:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/536299/ (西日本新聞 2019/8/20) 日本語できぬ親への対応は? 就労拡大…教育現場、追い付かず
 「子どもの同級生の親は日本語ができない。学校が配布するプリントは読めず、配慮が足りないのでは」。福岡県久留米市の女性(53)から、特命取材班にそんな声が寄せられた。改正入管難民法が4月に施行され、外国人の就労拡大が見込まれる。家族を呼び寄せたり、日本で子どもをもうけたりするケースは今後さらに増える見通しだが、教育現場の環境整備は進んでいるのか。女性には小学3年の子どもがおり、昨秋、クラスにフィリピンから男児が転校してきた。今春、クラスのPTA役員決めの際、男児の母親が何も話せず困っているのに気付いた。「大事なことはきちんと伝えないと」と思い、母親と無料通信アプリLINE(ライン)の連絡先を交換した。5月の金曜日。母親からLINEを通じて「子どもが明日学校があると言っている。本当か」と英語で聞かれた。土曜日は授業参観の予定で、プリントで案内されていたが母親は内容を理解していなかった。以後、女性は学校から配られるお知らせをスマートフォンの翻訳アプリで英訳し、LINEで母親に知らせるようになった。女性は「先生たちは忙しく、これ以上負担を増やすのは難しい」と理解を示しつつ、「振り仮名を付けるだけでは配慮になっていない。理解できていないという現状を学校現場は理解してほしい」と願う。
      ■
 文部科学省によると、日本語の指導が必要な児童生徒数は2016年5月の調査で4万3947人。前回14年調査から約6800人増えた。うち福岡県は小学生415人、中学生142人、高校生ゼロだった。女性が住む久留米市の教育委員会に聞くと、8月14日現在、28小中学校に149人が在籍。10校に日本語指導担当教員13人を、地域で外国語を話せる人にサポートしてもらう非常勤の外国人児童等授業介助員も28校に配置している。一方、日本語を話せない保護者への対応は追い付いていない。ようやく本年度から日本語指導担当教員がいる学校に翻訳機を導入し、家庭訪問の際に担任が持参している。
      ■
 法務省によると、18年末時点の在留外国人数は過去最多の約273万1千人。日本語指導が必要な外国人の数はかなりの規模に上るとみられる。吸収力の高い成長期の子どもに比べ、大人の方が語学習得に苦労しがち。保護者も含め、日本語を話せない人をどう受け入れ、意思疎通をしていくかが教育現場の課題になりつつある。今年6月、外国人への日本語教育の推進を国や自治体などの責務と位置付ける日本語教育推進法が成立した。国は今後、基本方針を取りまとめるが、本格的な検討はこれからという。福岡県内の教育委員会関係者は言う。「都市部に比べ、地方ほど予算がなく、態勢が整わずに困惑している。外国人受け入れを国策として打ち出す以上、国が重点的に予算や人材を確保することが必要だ」。教育現場だけでなく、地域社会にとっても無視できない問題だ。近年、外国人の定住者が増えたという長野市の50代女性会社員は「子どもたちは仲良くしていても、周りの大人が外国人と距離を置く。外国人の保護者と会話をしただけで、白い目で見られた」と特命取材班に憤りの声を寄せ、こう訴えた。「これからもっと外国人は増える。閉鎖的な“ムラ意識”は改めないといけないのでは」

*4-3:https://www.agrinews.co.jp/p48270.html (日本農業新聞 2019年7月24日) 磯荒らす厄介者名産に ミカンの皮、キャベツ残さが餌ウニ養殖 神奈川県小田原市漁協青年部
 神奈川県小田原市漁業協同組合青年部17人が、魚介類を育む磯を荒らす厄介者のウニに特産のミカンの皮やキャベツを与える養殖に取り組み、地域の新しい名産にしようと奮闘している。今月、念願の初出荷を迎えた。農業分野の資源を生かし、漁業の課題を解決する取り組みとして地域から期待が高まっている。同手法で養殖されたウニの出荷は神奈川県内では初めて。養殖するのはムラサキウニ。近年、海水温上昇などによりウニは増加傾向にあり、海藻が食い荒らされ減ってしまう「磯焼け」の懸念が高まっていた。一方、ムラサキウニは天然の状態では身が詰まっておらず、売り物にならないため捕獲されずにいた。「このままでは海藻類が食べ尽くされてしまう。深刻になる前に、何かできないか」と部員が立ち上がった。キャベツなどを餌にしたウニの養殖技術を開発していた県水産技術センターを3月、同部員が技術のノウハウを学ぶために視察。3月下旬から約1000個を捕獲し、養殖をスタートさせた。餌は地元農家などから廃棄するミカンの皮などを譲ってもらっている。週2回、スーパーなどから出るキャベツの外皮をもらって、100匹当たり約1・5玉分を与える。色を良くするため、養殖始めや出荷1週間前に冷凍保存していたミカンの皮を与えた。ウニは小田原漁港周辺の食堂で提供される他、スーパーなどで販売する。同青年部の古谷玄明部長は「小田原のウニが有名になり、知名度が上がれば部員の生産意欲にもつながる。手頃な価格でおいしいウニを喜んで食べてもらえたらうれしい」と思いを語った。

*4-4:https://www.agrinews.co.jp/p48264.html (日本農業新聞 2019年7月23日) 鶏卵低迷が長期化 生産調整の効果出ず
 鶏卵の価格低迷が長期化している。今月のJA全農たまごの東京地区のM級価格は1キロ150円で推移し、前年同期を1割下回る。成鶏の早期出荷を促す国の生産調整事業が発動してから2カ月を超えたが、価格が上向く気配はない。専門業者の処理が追い付いていないためだ。需要は加工卵中心に鈍い。梅雨明けも、需給緩和状態の解消は見込みにくく、「軟調で推移する」と東京都内の流通業者はみる。東京地区のM級は6月上旬からもちあいで推移する。前年同期(175円)と比べると14%(25円)安だ。2018年度も供給過剰により価格は低迷していたが、7月に入り上向いた。「昨夏は猛暑の影響で生産量が落ちた」(都内の流通業者)ことが影響したためだ。今年は冷涼で、鶏や卵のサイズへの影響は現状ではないという。生産調整を促す成鶏更新・空舎延長事業は5月20日に発動した。価格が上向かず、今回の発動期間は直近2年間で最長となる見込み。成鶏を早期出荷し、ひなを新たに導入せず鶏舎を一定期間空舎にした生産者に対して奨励金を国が支払う。だが、廃鶏処理業者の対応が追い付かない状況が続いている。処理業者の三和食鶏(茨城県古河市)は「年内いっぱいの処理は予約で埋まっている」と話す。成鶏処理後の加工品の販売先がなく、工場の稼働率を高めることができないという。「事業が機能していない」と指摘する流通業者もいる。生産者が自主的に生産調整も行うが「需給を大きく改善するほどではない」という。鶏卵の販売は苦戦している。夏場に需要が増える加工卵の荷動きが悪い。雨天続きで外食からの注文が例年より少なく、「冷やし麺などに使う温泉卵や煮卵などの需要が思うように伸びていない」(流通業者)。梅雨明け後には「外食需要への期待はあるが、家庭消費が落ちる」(同)ため、販売全体では苦戦が続きそう。供給過剰の改善も見込めず「価格低迷が続く」見通しだ。

*4-5:https://www.agrinews.co.jp/p46450.html (日本農業新聞論説 2019年1月17日) 伸びる食品宅配 JAらしい地域貢献を
 食品の宅配市場が伸びている。共働きや高齢世帯の増加に伴い、買い物に手軽さを求める消費者が増えているためだ。特に次代の消費を担う若い世代ほど宅配の利用に関心が高い。農家やJAも宅配事業の可能性を探り、参入を考える時だ。調査会社の矢野経済研究所の推計では、2018年度の食品宅配市場は2兆2000億円を超える見込みだ。12年度以降、毎年3%前後の成長が続く。スーパー270社の総売上高10兆円超(17年)には及ばないが、スーパーの売上高が4年ぶりに前年を割り込んだことと比べると勢いの差は明らかだ。生協は「共同購入」から組合員宅に届ける「個配」への転換が進む。日本生活協同組合連合会に所属する地域生協では個配が全体の7割に達する。昨年は有機食材を手掛ける宅配大手3社が合流して「オイシックス・ラ・大地」が発足、物流を効率化して事業を拡大している。異業種の参入も相次ぐ。17年にインターネット通販最大手のアマゾンジャパンが「アマゾンフレッシュ」を立ち上げ、昨年は「楽天西友ネットスーパー」が誕生した。事業伸長の理由は明らかだ。買い物に行くのが難しい高齢者や日中忙しい共働きの世帯が増え、食材調達と調理の簡便化が求められているためだ。中でも、伸びが著しいのが「ミールキット」だ。1食分の献立に必要な下ごしらえが済んだ野菜や肉などの食材と調味料、レシピをセットして家庭に届ける。包丁を使わず簡単に調理でき、材料を余らせることもない。ミールキットは若い世代ほど魅力を感じている。タキイ種苗によると20、30代の4割が「興味がある」と答え、50代(2割以下)とは対照的だった。食品卸大手の19年の消費トレンド予想でもミールキットの需要は今後も拡大し、月額制で多様な料理を楽しむサービスが増えると分析する。「食の簡便化」という消費動向に、産地側も乗り遅れてはならない。地産地消を広げ、地域貢献につなげたい。JA全農とちぎは、昨年からJAふれあい食材の配達員による高齢者の「見守りサービス」を始めた。配達中に独居高齢者宅などを訪問し、会話を交わし安否を確認する。食材宅配サービスと合わせると利用料金が割安になる。地域貢献を兼ねたJAならではの宅配事業だ。JA静岡経済連も昨年から、地元の生協と協業しJA組合員に宅配利用を勧めている。組合員のニーズに応え、生協に県産食材を提供する機会を増やす。阪神・淡路大震災が発生してきょうで24年。大震災以降、防災の備えや被災時の救出活動など、地域住民の「共助」を呼び掛ける声が強まった。住民と触れ合う機会が増える宅配事業は共助の意識を高めるきっかけになるはずだ。地域の連帯を促すJAらしい事業に育てよう。

*4-6:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14150463.html (朝日新聞 2019年8月24日) 特定技能外国人の支援、参入続々 住居確保・生活指南など代行機関
 新たな在留資格「特定技能」を持つ外国人労働者の生活を支援する「登録支援機関」が続々と誕生している。政府は今後5年間で最大34万5千人の受け入れを見込む。支援業務が商機になるとみて、企業を中心に各地で1800を超える機関が法務省に登録した。短期間に大量の支援機関が誕生することで、支援の「質」が保てるのか、懸念もある。特定技能の外国人に対し、受け入れ企業は出入国時の送迎や住居の確保、銀行口座の開設、携帯電話の契約などで支援することが法律で義務づけられている。登録支援機関は、そうしたノウハウがない中小企業に代わって外国人支援を「代行」し、1人当たり月数万円が相場とされる委託費を受け取る。すでに8月22日時点で全国で1808機関が登録した。うち、関東、甲信越の10都県を管轄する東京出入国在留管理局には738機関が登録。同管理局の福山宏局長は「半分弱は株式会社。外国人の受け入れ会社から委託費を受け取れるので外国人支援を『業』として展開できる好機、と踏んで参入している」とみる。登録支援機関になったTSB・ケア・アカデミー(東京都調布市)が6月に都内で開いた説明会には、外国人労働者の受け入れを検討している介護事業者ら約40人が参加した。アカデミーの親会社は電子部品の商社で、中国や東南アジアに製造・販売ネットワークを持つ。すでにベトナムに3校、フィリピンとラオスに1校ずつ人材養成学校をつくっており、早ければ年内にも日本へ送り出しを始めたい考えだ。外国人技能実習生の日本側の受け入れ窓口である「監理団体」が登録支援機関を兼ねる例も目立つ。実習生として3年の経験がある外国人は事実上、特定技能の資格が自動的に得られるからだ。主に造船業の実習生をフィリピンなどから受け入れる監理団体「ワールドスター国際交流事業協同組合」(愛媛県今治市)もその一つだ。代表理事の橋田祥二さんは「企業から『実習終了後も引き続き、特定技能の在留資格で外国人に働き続けてもらいたい』という声があり、手を挙げた」と話す。大手も動き出した。人材派遣のパソナ(東京都千代田区)は8月9日に登録支援機関になった。企業からの支援依頼が見込まれるためだという。個人も名乗りを上げる。なかでも行政書士は、外国人の在留資格の申請手続きなどに必要な書類を作成しており、登録が相次ぐ。神奈川県のある行政書士は「いまの仕事量だけでは生活が厳しい」として、外国人ビジネスへの参入を決めた。
■申請書の提出「簡単」
 支援機関になるためのハードルは高くない。日本語学習支援の取り組みなどを確認する申請書を法務省に提出する。だが、「ほとんどがチェックボックス式の回答なので簡単。拍子抜けだ」と東海地方の人材派遣会社の幹部は言う。申請書類には、外国語で対応できる担当者名を明記する必要があるが、「記した人物がどれだけ外国語会話ができるかなど詳細は聞かれない。架空でも通る」(幹部)。一方、法務省は「必要に応じて警察当局をはじめ関係省庁に照会している。ハードルを低くしていない」(出入国在留管理庁在留管理課)と強調する。「大量生産」に伴って懸念もふくらんでいる。支援機関は、契約先の企業で働く外国人と定期的に面談するが、この場で「残業代をもらっていない」などと訴えられた場合、労働基準監督署などの関係行政機関に通報しなければならない。だが、支援機関にとって受け入れ企業は、委託費をくれる「顧客」でもある。その顧客の不正を自ら明るみに出せるのか。法務省は「まずは通報しないといけない。できる、できないの話ではない」(在留管理課)と言い切る。劣悪な労働環境が批判を浴びている技能実習生の場合、受け入れ企業から集めたお金で運営される監理団体が甘いチェックで不正を見逃す例が数多く指摘されてきた。支援機関の立ち位置もこの監理団体と同じだ。現状では、特定技能の資格を得て在留している外国人は7月末時点で44人と少ないため、トラブルは表に出ていないが、大量にできた支援機関が十分な「質」を伴わず、チェック機能を果たさない事態が相次ぐ可能性がある。外国人の受け入れ制度に詳しい弁護士の杉田昌平氏は、企業は「我が社の外国人従業員の生活をきちんと支援してくれる支援機関を選ぶ」という意識を強く持つべきだ、と指摘。支援機関に関する情報を業界で共有することなどを提言する。

<時代にあった新作物>
PS(2019年8月24日追加):*5-1のように、栃木県宇都宮市や東京都立川市がレモンの産地化を進めているだけでなく、福島県も地球温暖化適応策としてレモンの栽培実証を始めたそうだ。私も安心して皮まで食べられる国産レモンは貴重だと思い、毎年、佐賀県太良町のマイヤーレモン(レモンとオレンジをかけ合わせたもので、酸味がまろやかで美味しい)をふるさと納税の返礼品にもらって親戚まで配っているくらいだから、日本産の各種レモンができれば有望だと思う。また、福島県のミカンは、露地ミカンよりハウスミカンやハウスレモンにした方が、栽培しやすい上、他の産地と異なる季節に出荷でき、放射能汚染も少ないと思う。
 さらに、*5-2のように、秋田県立大学が多収で難消化性のでんぷんを含む「あきたさらり」を育成したそうで、確かにダイエットに有効そうだ。収穫期が「あきたこまち」より1週間遅くて作業分散できるのもよく、今後は植物の品種改良という高度な技術力にも期待したい。そして、もちろん、種苗には、知的所有権があるわけだ。

  

(図の説明:1番左はマイヤーレモン、左から2番目は瀬戸内のレモンで、右から2番目はレモンケーキ、1番右は100%レモン果汁だ。日本製のレモンで100%レモン果汁を豊富に作れると、レモン果汁を使うのが容易になって、さらに消費が進むと思われる)

*5-1:https://www.agrinews.co.jp/p47680.html (日本農業新聞 2019年5月17日) かんきつ産地 北へ 国産に需要 温暖化対策 関東、東北で試行錯誤
 かんきつ産地に北上の兆し──。温暖な地域で栽培されているレモンの産地化が関東で進んでいる。輸入品が約9割を占めているが、防かび剤などを使っているため、安心して皮まで利用できる国産の需要が高まっているためだ。宇都宮市周辺では空いたハウスを活用し結実。東京都立川市では、消費地に近いことを生かし、町おこしの起爆剤に位置付ける。一方、福島県のJAふくしま未来は、地球温暖化への適応策として、栽培実証を始めた。
●遊休施設 有効に ハウスレモン 宇都宮市
 2018年、宇都宮市で「レモン研究会」が設立された。農家8人で、産地化に向けて新規栽培者の確保や栽培技術の確立を進めている。レモンへの可能性を感じて栽培に取り組む、研究会会長の竹原俊夫さん(65)は、18年にハウス3アールで14本の木から約600個のレモンを収穫した。現在は、栃木県内4店の飲食店などに販売している。竹原さんは「酸味がまろやかなので、フルーツ感覚でサラダなどにして提供する店もある。レモンの固定概念を変えたい」と説明。飲食店などからの国産へのニーズを感じ取った竹原さんは今年、需要拡大を見越して規模を拡大し、新たに20本の苗木を植えた。レモン栽培は、高齢化で遊休化する花きやイチゴのハウス活用としての側面もある。同市周辺は、冬に気温が氷点下になるほどで、レモン栽培には向いていないが、研究会はハウスを有効利用すれば栽培できると考えた。イチゴなどに比べ、管理が手軽なのも利点だ。現在「璃の香(りのか)」と「リスボン」の2品種を栽培する竹原さん。「ハウスを加温するとコストが上がるので、耐寒性のテストが必要だ。仲間と試行錯誤して、宇都宮産レモンを根付かせたい」と意気込む。
●商店街おこし 新しい名物を 東京都立川市
 東京では商店街がレモンで町おこしに取り組む。「立川に名産品をつくろう」と考えた立川市商店街連合会のメンバーらが「立川レモンプロジェクト」を始動。「とびしま」と呼ばれ、レモンの島々が浮かぶ広島県呉市から、18年に苗木を取り寄せ、市内の「なかざと農園」に植えた。「とびしま生まれ立川育ちの“立川とびしまレモン”」として、23年の出荷を目指す。現在は、10アールの園地に26本のレモンの木が育っている。同園の中里邦彦さん(47)は「寒さをどのように克服するかが課題だが、頑張りたい」と話す。プロジェクトリーダーの岩下光明さん(61)は「飲食店を経営している人からは、地元の新鮮なレモンがあれば使いたいとの声を聞く。消費地が近いことを生かして、立川といえばレモンと言われるような名物にしたい」と期待する。16年の財務省の貿易統計によると、国内に流通する輸入レモンは約4万9000トン。一方で、農水省の特産果樹生産動態等調査によると、国産は広島県や愛媛県などから約6000トン。国内で流通するレモンの多くは輸入品だ。
●将来見据え 実証 露地ミカン JAふくしま未来
 JAふくしま未来は、露地ミカンの試作を今年度から始めた。地球温暖化の進展により農産物の適地が移動することを見越し、中山間地域や海岸地域など条件の異なる管内4地区で営利生産に向けた栽培観察と検証を行う。収穫は2022年の予定。商業ベースに乗れば、現在の北限とされている茨城県・筑波山西麓に代わる露地ミカン生産の北限となる。試作導入するのは、早生種の「興津早生」100本と晩生種の「青島温州」10本。管内の希望する農家20人に配布した。試作する農家の一人、伊達市霊山町の佐藤孝一さん(64)は、4月中旬に「興津早生」4本を定植した。佐藤さんは「温暖化が進み、作ってみたいと思った。普段はあんぽ柿を作っているが、ミカンを作る選択肢ができるようになればいい。後継者がミカンもできるんだと思えるように栽培技術が確立することを期待している」と話す。今回植えたのは2年生苗。JAは、主産地である静岡県のJAみっかびと連携しながら同JAの栽培指導の資料を基に、技術を指導していく。22年に初収穫したミカンは、試作者全員で試食し、適地の確定と推進策を検討する。JAは「地球温暖化は進んでおり、将来の産地を維持する対策が必要になる。品質、量ともに安定生産できるめどが立てば、露地ミカンを桃、柿に続く果樹品目として普及を検討していきたい」と話している。

*5-2:https://www.agrinews.co.jp/p46461.html (日本農業新聞 2019年1月18日) 米粉用で多収品種 難消化性でんぷん豊富 ダイエット食材に 秋田県立大など
 秋田県立大学などが、多収で消化しにくいでんぷん(難消化性でんぷん=RS)を含む新たな米粉向け品種「あきたさらり」を育成した。10アール当たり収量が800キロ程度と多収で、栽培コスト低減が期待できる。RSの含量は3%で、「あきたこまち」の3倍以上と多い。ダイエットなど健康志向の消費者にPRできることから、県内企業と、同品種の米粉を使ったうどんなどの商品開発を進めている。「あきたさらり」は同大と県農業試験場、国際農林水産業研究センター(JIRCAS)などが育成。2018年秋に農水省に品種登録出願を申請し、出願が公表された。米粉は製粉費用がかかるが、多収で栽培コストを下げることでカバーする。熟期は「あきたこまち」より1週間遅く、作業分散が期待できる。同大と企業の共同研究で、米粉を小麦粉に20%ほど混ぜてうどんを作ると、腰が強く、ゆでた後もべたつきにくい麺が作れることが分かった。「あきたさらり」はアミロース含量が高く、大粒で米粉適性が高い。同大生物資源科学部の藤田直子教授は「小麦アレルギーの人向けに、グルテンフリーのうどんなども作れる可能性がある。水田転作にも役立つ」と期待する。現在の栽培面積は約1ヘクタールだが、さらに拡大する見込みだ。

<都会の暑さとCO₂を利用>
PS(2019年8月25日追加):*6-1のように、東京都千代田区の住友商事ビルのエアコン室外機近くにつった布袋でサツマイモを栽培し、給水や給肥はチューブを通して自動で行って、猛暑でも順調に育っているそうだ。その狙いは葉や茎から出る水蒸気が周辺の温度を下げる省エネ効果で、室外機の運転効率が1割ほど向上し、ヒートアイランド現象対策にも繋がるとのことだが、都会で豊富なCO₂もプラスに働くので、*6-2のキャッサバもよさそうだ。


          2019.8.22日本農業新聞       2019.2.10東京新聞

(図の説明:左の2つは、*6-1のサツマイモ、右の2つはタピオカ原料のキャッサバ芋で、どちらも暑さに強く、炭素を固定化するのが得意なので、都会のビルの屋上にうってつけだ)

*6-1:https://www.agrinews.co.jp/p48509.html (日本農業新聞 2019年8月22日) 都会の温暖化 “救世主”は芋
 ビルの屋上に緑のしま模様を描くサツマイモの葉──。東京都千代田区にある住友商事美土代ビルの、エアコンの室外機周りにつった布袋で芋を栽培する屋上緑化が注目されている。住友商事と設計事務所の日建設計が2014年に始めた。9階建てビルの屋上に土が入った150の袋が並び、それぞれサツマイモが2株植えてある。給水や給肥はチューブを通して自動で行う。狙いは省エネだ。葉や茎から出る水蒸気が周辺の温度を下げる効果で、夏場は室外機の運転効率が1割ほど向上。ヒートアイランド現象対策にもつながるという。毎年秋に地元高校生と住友商事の社員らで芋を収穫。熊本県の造り酒屋で、屋上にちなんだ「頂(いただき)」と銘打った芋焼酎にしている。同社ビル事業部の高橋俊貴さん(26)は「猛暑でも毎年順調に育つサツマイモの強さは驚きだ」と話す。

*6-2:https://www.agrinews.co.jp/p48511.html (日本農業新聞 2019年8月22日) ブーム続く タピオカミルクティー 牛乳消費 盛り上げ 若者需要けん引期待
 若い女性を中心としたタピオカミルクティーの一大ブームで、牛乳特需が起きている。熊本県の人気店では、1日に約100リットルの加工乳を消費。東京のチェーン店では、8店舗で牛乳1000リットルを使う。酪農関係者は「飲食店としては類を見ない消費量」と驚く。若者向けの新需要として、期待を集めている。熊本市にある「熊本ミルクティー」。休日は開店から閉店まで、列が途切れない人気店だ。メイン客である10、20代の女性の心をつかむのがタピオカミルクティー(500ミリリットル、500円)。濃く煮出した台湾茶に冷たい加工乳をたっぷり注いで作る。1日に約900杯を売る。他店との違いは、ミルクへのこだわりだ。ショーケースには、地元の熊本県酪連(らくのうマザーズ)が県産生乳から作る加工乳「らくのう特濃4・3」のパックがずらり。購入した20代のOLは「ミルクが濃厚だ」とほほ笑む。同店で使う加工乳は、1日約100リットル。新原一季店長は「ミルクは味を決める重要なもの。今の原材料を使い続ける」と強調する。東京を中心に8店舗を展開するTAPISTAでは、成分無調整牛乳を使ったタピオカミルクティーが支持を集める。8店舗で使う量は1日1000リットル。同店は「甘さと強いこくがあるものを選んでいる」と説明。他に、25店を展開する人気チェーンの「THE ALLEY」も一部メニューに牛乳を使っている。近年、健康志向の高まりで牛乳消費は堅調に推移。ただ、けん引するのは高齢者で、若者の消費は伸び悩んでいた。若者の牛乳消費を引き上げるタピオカミルクティーに、酪農業界も期待。らくのうマザーズは「一過性に終わらず、販路として広がってほしい」と話す。
<ことば> タピオカミルクティー
 ミルクティーに、キャッサバ芋のでんぷんで作った粒「タピオカ」を入れた飲み物。2018年にブームに火が付き、19年も新規出店が相次いでいる。1990年代や2000年代にも流行した。台湾発祥。現地では脱脂粉乳を使うのが主流だが、日本では牛乳や加工乳を使う店も出てきている。

<温暖化と豪雨>
PS(2019年8月29、30日追加):近年は明らかに豪雨が増え、長崎県・佐賀県・福岡県に大雨を降らせた*7-1-1・*7-1-2の北部九州豪雨は記録的だった。これだけ大きければ激甚災害の指定を受けられるだろうが、被害状況を見ると、少し高い場所にある住宅は浸水を免れており、今後は豪雨も想定した災害に強い街づくりをすべきだ。農業は、保険をかけているものとそうでないもので明暗が分かれるが、稲が水没しても比較的被害が少ないことにはいつも感心する。
 しかし、*7-2のように、かんきつ類を除く常緑果樹(オリーブ・マンゴー・アボカドなど)の栽培面積が10年間で5割増加して1000ヘクタールを突破し、国産原料をアピールする食品会社や飲食店などから引き合いが強くて、産地が栽培規模を拡大しているそうだ。マンゴーの伸び悩みの原因は価格を高く設定しすぎて日常使いになれなかったことなので、オリーブオイルも高すぎない価格設定にしなければ同様になると私は思うが、地球温暖化の影響で作物の変更がやりやすくなった。そして、*7-3のバニラも有望で、タコは中国や欧米で需要が急増しているため、日本が農林水産物の自給率アップだけではなく、輸出国にもなれるような基盤整備をすれば、面白いビジネスができると思われる。
 また、*7-4のように、人口増・食の洋風化でカカオ豆の消費が世界的に伸び、サイクロン被害も手伝って、カカオ豆やバニラ豆の輸入価格が上昇傾向だそうだ。バニラ豆もカカオ豆も赤道付近が栽培に最適でアフリカ以外に調達先を広げるのは容易ではないと書かれているが、バニラは刀豆とかけ合わせるなどして、健康に良く日本でも大量に栽培できる農産品にできないか?
 なお、*8のように、豪雨で冠水被害などに見舞われた佐賀県武雄市や大町町などが、災害ボランティアの受け付けを8月31日から始めるそうだが、それに加えて、県か被害のなかった市町村がふるさと納税の募集を代行してはどうだろうか?

 
 2019.8.28天気            2019.8.28毎日新聞


日本のバニラ栽培   鹿児島の刀豆   日本のマンゴー栽培   日本のアーモンド並木

*7-1-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/419657 (佐賀新聞 2019年8月28日) 【佐賀豪雨】濁流一気「まるで川」 武雄市、広範囲に被害
 「通りが川になり、瞬く間に水が入ってきた」。28日未明からの記録的大雨は、佐賀県中西部に大きな被害をもたらした。武雄市では市が「数百件に及ぶため把握不能」とするほど広範囲で浸水。飲食店が集まる武雄町の中心部では何店もが「数日は営業は無理」と口をそろえ深刻な被害が広がった。北方町や杵島郡大町町では水が引かずに孤立する人が相次ぎ、夜になってもボートによる救助や物資運びが続いた。「変な音でドアを開けたら一気に水が入ってきた。通りは川みたいで、あわてて隣のビルの2階に逃げた」。武雄市中心部の飲食街中町通りの飲食店主は、28日午前4時ごろに急変した町の様子を語った。スナック経営の女性は「雨がひどくて帰れず、店で寝ていたら冷たい水を感じて起こされた。ひざ上まで水が入り冷蔵庫が水に浮いた。何もできなかった。電気もつかない。しばらく店は開けられない」と途方に暮れた。周辺の店も同様で、疲れた様子で片付けを続けていた。松浦川が氾濫した武内町も広範囲で冠水した。自宅前のビニールハウスがつぶされたアスパラ農家の浦郷敏郎さん(66)は「濁流にのまれるハウスをただ見ているしかなかった。ハウスは保険で建て直せるけど、作物は全部ダメになった」と肩を落とした、勤め人を辞めて就農して7年目。「これからどやんしゅうか。もう(農業を)やめないかんかなあ」と漏らした。車に乗ったまま水に流され男性1人が死亡した現場は武雄町西部の住宅街。道路から10メートルほど離れた田んぼの中に男性が乗っていた軽乗用車があった。近くの人は「道路脇の小川があふれて道に水が流れ込んでうずになり、水が車をさらうように田んぼに流したと聞いた」と話した。車の周囲の稲穂は乱れもなく、屋根付近まで水につかったとみられる。別の車も水田横の店の一角に乗り上げていた。大雨の影響で市役所も1階が浸水して窓口業務を休止。スーパーや飲食店も休店や開店遅れが相次いだ。

*7-1-2:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/538800/ (西日本新聞 2019/8/29) 九州北部記録的大雨 2人死亡88万人避難指示 3県に特別警報
 対馬海峡付近に停滞する秋雨前線の影響で、九州北部地方は28日、観測史上最大を記録する猛烈な雨となり、佐賀県などで冠水被害が相次いだ。気象庁は一時、同県の全20市町、福岡県筑後地方の14市町村、長崎県の7市町に大雨特別警報を発表、3県で最大約37万700世帯、88万2800人に避難指示が出た。福岡県八女市で車から泳いで避難していた浜砂国男さん(84)と、佐賀県武雄市で車ごと流された50代男性が死亡した。特別警報は同日午後に解除されたが、29日も非常に激しい雨と土砂災害に厳重な警戒が必要だ。九州北部に、積乱雲が次々と発達して帯状に連なる「線状降水帯」が発生した影響で、佐賀県では28日明け方に1時間100ミリ超の猛烈な雨が降り、広範囲で冠水した。午前5時15分ごろには、同県武雄市武雄町武雄の武雄川で「軽乗用車が流されている」と通行人から110番があった。約2時間後、田んぼで水没した車が見つかり、運転席にいた50代男性の死亡が確認された。福岡県八女市立花町では午前7時50分ごろ、近くの浜砂さんが運転する車が冠水した道路を走行中に流された。浜砂さんは近くの男性から助け出され、泳いで避難している途中で用水路に流された。約2時間後に近くで心肺停止の状態で見つかり、搬送先の病院で死亡が確認された。佐賀市水ケ江では、70代女性の軽乗用車が水路に転落。女性は水没した車の運転席から救助されたが意識不明の重体という。佐賀県警によると、車で仕事に向かった武雄市武内町の50代女性が行方不明。車は武雄川の下流で水没した状態で見つかった。佐賀県大町町では「佐賀鉄工所」が冠水し、タンクから大量の油が流出。近くの住宅地や病院に流れ込んだ。流出した油は最大で8万リットル。近くの六角川や有明海への流出は確認されていないという。気象庁によると、降り始めから28日午後10時までの総降水量は、長崎県平戸市527ミリ▽佐賀市458ミリ▽福岡県久留米市399ミリで、いずれも8月の平年降水量の倍以上を記録。佐賀市では同日明け方の1時間雨量が観測史上最大の110ミリに達した。福岡県久留米市の巨瀬川、佐賀県多久市と小城市の牛津川、同県伊万里市の松浦川が一時、氾濫した。佐賀市では土砂崩れで送水管と配水管が破損、約750世帯で断水している。28日午後10時現在、佐賀、長崎両県の計約17万3700世帯、計41万2200人、福岡県で久留米市など3市村の約11万7800世帯、26万9400人に避難指示が出ている。3県の避難者は計約3200人。前線の停滞は30日にかけて続き、30日午前0時までの24時間降水量は多いところで福岡、佐賀、長崎150ミリ、大分120ミリ、熊本100ミリの見込み。
   ◇    ◇
■病院冠水201人孤立 佐賀・大町
 28日の記録的な大雨で佐賀県大町町の順天堂病院が冠水し、患者や職員ら201人が孤立状態となっている。病院には近くの鉄工所から流出した油を含んだ水も流入、患者らは上階に避難している。全身の筋肉が萎縮していく難病の筋ジストロフィー症などで人工呼吸器を付けた重症患者も多く、別の病院への避難は難しいという。県は自衛隊などと連携し、支援策を検討している。県医務課などによると、敷地内には3階建ての病院のほかに、2階建ての老人保健施設がある。入院患者110人、施設利用者は70人。病院職員や介護職員の多くは出勤できておらず、県などは看護師らスタッフの送り込みを検討中。電気やガスに影響はないが、水道が止まっており、予備のタンク(1・5日分)で対応している。同病院の看護師は電話取材に「容態が切迫した患者さんはいません。大丈夫です」とだけ話した。

*7-2:https://www.agrinews.co.jp/p48543.html (日本農業新聞 2019年8月25日) 常緑果樹1000ヘクタール突破 かんきつ除き農水省が調査 06年→16年 5割増加 輸入より国産 オリーブ7倍
 オリーブやマンゴーなどの常緑果樹(かんきつ類を除く)の栽培面積が1000ヘクタールを突破したことが農水省の調べで分かった。10年間で5割増えた。常緑果樹は輸入に頼る品目が多いが、国産原料をアピールする食品会社や飲食店などから引き合いが強く、産地が栽培規模を拡大している。同省は2016年、都道府県単位で50アール以上栽培されているなどの要件を満たす常緑果樹について調査。栽培は14品目、1082ヘクタールに上った。10アール以上の栽培がある品目を対象にした06年の調査では16品目、715ヘクタール。10年間で51%増えた。増加が目立ったのはオリーブで、06年の61ヘクタールから7倍の423ヘクタールに拡大した。栽培地域は2県から14県に増えた。同省は「若者を中心にオリーブオイルが注目され、国産原料の需要が増えて各地で栽培が広がった」(園芸作物課)と指摘。収穫後の劣化が早いため、国産需要の確保・拡大には、搾油のための加工場の整備など、6次産業化が必要とみる。マンゴーは421ヘクタール。面積はオリーブに次ぐ2位だが、06年で348ヘクタールと一定の規模が栽培されていた。ブームが落ち着いたことが影響し、11年の454ヘクタールをピークに減少傾向にある。栽培面積はまだ少ないが、生産が本格化しつつあるのがアボカド。14年の調査で3ヘクタールの栽培を初めて確認し、16年は9ヘクタールに増えた。同省によると、国内流通の大半は輸入品。国産需要の獲得に向けて、同省は栽培マニュアルをまとめるなどして導入を推進している。

*7-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14154991.html (朝日新聞 2019年8月27日)(アフリカはいま TICAD7)異変、バニラバブル 5年で10倍、銀より高値
 庶民の味として親しまれてきたタコやバニラが高級品になりつつある。異変が起きた理由が、日本から遠く離れたアフリカにあった。アフリカ大陸の東方に浮かぶ島国マダガスカル。世界のバニラ豆の約8割を生産し、日本は9割強をここからの輸入に頼っている。首都アンタナナリボから北東に約500キロ離れたサバ地方は温暖で適度な湿度が保たれ、特に生産に適している。アンタラハという町から小型のボートで1時間揺られた先に、広大なバニラ農園が見えてきた。バニラ農家のファーリン・ジュディさん(26)は「土壌によって手入れの仕方を変えるなどして、品質を保つよう努めている」と語った。この地で異変が起きたのは5年ほど前。天然のバニラ人気が強まった欧米に加え、中国などでケーキやアイスクリームに使うバニラの需要が増え、取り扱う業者が急増。投機的な買い上げの動きもあり、2013年に1キロ当たり約5千円だった取引価格は、急上昇した。さらに追い打ちをかけたのが、自然災害だ。17年にサイクロンの被害を受けて一時、約6万円まで高騰。18年も価格は高止まりし、1キロあたりの取引価格は同じ年の銀の1キロ当たりの輸入価格(約5万5千円)を超えた。30年前からこの地に進出し、バニラ豆を輸入してきたミコヤ香商(東京)の水野年純社長(59)は「バブル状態が続いている」と話す。高騰などを受けて、ハーゲンダッツジャパンは今年6月出荷分から主力のアイスクリーム約20品目を23~85円値上げ。同社広報部は「バニラ味のアイスは一番人気だが、バニラの仕入れ価格はこの数年で10倍になった」と頭を抱える。1人当たりの国民総所得(GNI)が約400ドル(約4万2千円)にとどまるマダガスカル。トタンなどでできた家で暮らす人も多い。だが、サバ地方では、欧州や日本製の高級車を頻繁に見かけた。水野社長は「バニラ高騰でもうけた業者たちだ」と言った。地元で「バニラ御殿」と呼ばれる豪邸も点在していた。一方、価格高騰で農家らを悩ませているのが「バニラ泥棒」の増加だ。英誌エコノミストによると、年間の収穫物の15%以上が盗難にあうため、被害を防ぐために十分に育つ前に収穫する農家も出てきたという。バニラ輸出業者の「アグリ・リソース・マダガスカル」でも今年、バニラ豆の一部が盗まれた。マチュー・ルーガー最高経営責任者(CEO)(39)は「夜にパトロールをしていても、完全に食い止めるのは難しい」とぼやく。
■タコも高騰、欧米でも需要急増
 サハラ砂漠の西側にあるモーリタニア西部の港町ヌアディブ。タコつぼ漁を終えた漁師が12メートルほどの木製ボートで次々に漁港に戻ってきた。近くの水産加工会社のジャミラ・ベルハディール社長は「5年ほど前までは、タコのほとんどは日本向けだった。それが、最近は欧州勢が次々に参入して輸出先の8割が欧州になった」と明かす。タコ輸入業者などによると、日本で流通するタコの約半数が、モーリタニアかモロッコ産。現地はタコの餌となる貝が豊富で、日本は古くから地元でタコつぼ漁などの指導にあたってきた。欧米ではかつて、タコは「デビルフィッシュ(悪魔の魚)」と呼ばれ、競争相手は少なかったという。ところが、両国と距離が近いスペインやイタリアに加え、ヒスパニック系住民が増えた米国などで需要が増加。日本が仕入れる大きさのタコでは、昨年のモーリタニア産の仕入れ価格は一時、5年前の約2倍になり、過去最高水準を記録した。別の水産加工会社のヤクブ・エルナミ社長は「今は世界中でタコを食べるのが一種のファッション。日本の支援には感謝しているが、高く買ってくれるところに売るのがビジネス」と語る一方、「中国漁船が一気に増えて、他の魚と一緒に小さなタコも取ってしまっている」と打ち明けた。現地の邦人企業の担当者は「タコが大衆向けだった時代は終わった。たこ焼き屋でも、タコの粒を小さくしたり、別の国から仕入れたりするところも出ている。質は西アフリカ産が一番だが」と話した。

*7-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190829&ng=DGKKZO49088230Y9A820C1QM8000 (日経新聞 2019年8月29日) カカオ豆、価格引き上げへ 西アフリカ2カ国が「COPEC」 農家の手取り増狙う
 チョコレート原料のカカオ豆の取引価格を引き上げる動きが出ている。主産地のアフリカのコートジボワールとガーナが今夏、カカオの販売価格の引き上げで協調した。取り組みは原油市場の石油輸出国機構(OPEC)と似ており、カカオの頭文字をとって「COPEC(コペック)」とも呼ばれる。農家の手取りを増やす試みでカカオ豆が値上がりする可能性もある。カカオは年間の平均気温が27度以上の高温多湿な場所で栽培され、西アフリカが主産地。世界では生産量1位のコートジボワールと2位のガーナの両国で約6割のシェアを占める。その両国がカカオ豆の価格底上げを目指して今夏、1トン2600ドル(約2100ポンド)を最低販売価格とすることを国際会議で提案した。指標となるロンドン市場のカカオ豆先物相場は過去2年ほど1400~1900ポンド前後で推移していた。5年ぶりの低水準で生産者の間で不満が募っていた。両国の提案は価格水準を引き上げ、農家への配当拡大や持続可能な生産につなげる狙いがある。両国の提案を巡っては「市場価格と乖離(かいり)し、需要家企業と折り合いがつかなかった」(専門商社)ため流れたもようだ。代わりに両国が2020~21年度産で販売する全契約分に1トン400ドルの価格を上乗せする方針となった。国内のカカオ豆のトレーダーや食品会社には「価格押し上げ要因になる」との懸念が広がる。人口増や食の洋風化でカカオ豆の消費は世界的に伸びている。足元の相場は1700ポンド台に下がったが、7月上旬には産地の降雨不足と高値維持姿勢が材料視され、1年2カ月ぶりの高値をつけた。天候の変動に加え、生産国の価格政策が値動きを荒くさせている。同じくアフリカのシェアが高い農産物でも、高値が長期化しているのがアイスクリームなどの香料に使うバニラ豆だ。インド洋に浮かぶ島国のマダガスカルは日本の輸入元シェアでも約9割を占める。世界的にアイスクリームやケーキ向けの需要が伸びる一方、2年前に産地を襲ったサイクロンで花の受粉がうまくいかず生産が減った。日本の輸入価格も上昇傾向で、貿易統計によると19年1~6月平均で1キロ当たり4万8千円。サイクロン被害前の16年平均と比べると2倍以上だ。香料の原料を扱う輸入会社は「高値が限界点を超えた印象」と話す。日本では原料高でハーゲンダッツジャパンなどがアイス値上げに動いた。バニラもマダガスカルなどの安価な労働力が供給を支えてきたが、同国では18年の全産業の最低賃金が前年比で8%上昇。産地のドル建て価格も上昇している。パティシエなどが使う製菓向けの高級品は1キロ550~600ドル程度と、15~16年度の2倍近い水準だ。高値が新たな供給不安を誘発するケースも起きている。マダガスカル産地では価格が上昇したバニラビーンズを略奪するため、窃盗集団が栽培農家を襲撃するトラブルも相次ぐ。業界では「バニラ戦争」とも呼ばれる。農家は自衛手段を迫られ、生産コストを押し上げる要因になっている。バニラ豆もカカオ豆も赤道付近が栽培に最適とされ、アフリカ以外に調達先を広げるのは容易ではない。需要家企業などは天候や政情、産地の価格政策など苦い供給リスクに対して一段の備えが必要だ。

*8:https://www.nishinippon.co.jp/item/o/539248/ (西日本新聞 2019/8/30) 佐賀でボランティア受け付け開始
 猛烈な雨で冠水被害などに見舞われた佐賀県武雄市や大町町などは、災害ボランティアセンターを設置し、31日から受け付けを始める。避難所への救援物資の運搬のほか、浸水した路上の泥のかき出し作業や住宅の清掃などを想定している。避難中で自宅に戻れない住民も多く、ニーズの把握が困難なこともあり、武雄市と大町町は31日のボランティアは、原則的に県民に限定する。大町町社会福祉協議会によると、30日にセンターを設置して以降、県内外から問い合わせの電話が相次いでいるという。

| 農林漁業::2019.8~ | 03:16 PM | comments (x) | trackback (x) |
2019.8.1 日本の防衛・外交と日米安全保障条約について (2019年8月1、2、3、4、5、6、8、9日に追加あり)
    
   2019.7.26Goo      原発所在地  使用済核燃料所在地 2017.3.7朝日新聞

(図の説明:左図のように、北朝鮮が2019年7月25日に発射した短距離ミサイルは、方向を変えれば、釜山はじめ中央の2つの図の西日本にある原発及び大量の使用済核燃料保管場所に届く距離を飛行した。これは、核兵器を積まなくても、核攻撃して目標国の国力を削ぐことが可能であることを意味する。仮に釜山で原発が爆発すれば、右図のように、放射性物質は日本国内の広範囲を直撃し、対馬海流に乗って日本海に広がる)

    
    米軍基地の所在地とその面積       南西諸島     自衛隊の増強

(図の説明:左の2つの図のように、在日米軍基地は驚くほど多いが、現在は、その多くが不要だと思われる。また、1番右の図のように、自衛隊の増強計画も進んでいるが、どちらも日本国民や日本の領土・領海を護る目的に適合した最小限の規模にすべきだ)

(1)朝鮮半島・領土・ホルムズ海峡の問題について
1)日本と米国・韓国・北朝鮮の関係
 トランプ米大統領は、*1-1-1のように、米朝首脳会談後に米韓合同軍事演習の中止を表明し、米朝高官協議を通じて非核化に向けた道筋づくりを急ぐ考えだそうだ。

 しかし、*1-1-2に、トランプ米大統領が米朝首脳会談で朝鮮戦争の終結合意に署名して朝鮮戦争が終結すれば日本の横田基地にいる国連軍が撤退することになるため、それは日本の安全保障に影響し、日本にとって不利益だと書かれている。私は、1950年から70年近くも経過しているのに、日本のために朝鮮戦争終結を邪魔して現状維持を続けさせるのは利己的だと思うが、朝鮮戦争終結の条件には、朝鮮半島の民主化を課した方がよいし、朝鮮戦争を終結させて横田基地を返還してもらった方が日本も良いのではないかと思う。

 このような中、*1-1-3のように、2019年7月25日、北朝鮮が東部の元山付近から日本海に向けて飛翔体(韓国政府が「ミサイル」と特定)を発射し、その飛行距離は1発目が約430km(韓国、釜山に到達する距離)、2発目が約690km(日本、玄海原発・島根原発・伊方原発を含み四国に届く距離)だった。地図上でコンパスを回せばすぐわかるように、これは日本に届く日本を標的にするものだと思われる。しかし、日本政府が、これをミサイルと特定もできずに、「飛翔体」「情報を集める」と連発していたのは情けない。

2)竹島
 2019年7月23日には、*1-2-1・*1-2-2のように、ロシア機2機、中国機2機が、島根県の竹島(韓国名・独島)の韓国が主張する防空識別圏(KADIZ)に進入し、ロシア機1機が竹島上空を領空侵犯したため、韓国軍が戦闘機を緊急発進させて360発の警告射撃を行った。

 これに対し、日本の自衛隊機も緊急発進し、政府はロシアと韓国の両方に形式的に抗議したそうだが、これらの対応は、竹島の領有権が韓国にあることを世界に印象付けたように思う。

3)尖閣諸島
 日本が実効支配している尖閣諸島についても、*1-3-1・*1-3-2のように、沖縄・尖閣諸島周辺の日本の領海に領有権を主張する中国の公船が盛んに侵入し、中国海警局に所属する公船が領海の外側を2カ月以上連続航行したり、領海に侵入したりしたが、日本ではTVで報道されることもなく、海上保安庁が警戒を強めているだけだ。しかし、日中関係が良好か否かとは別に、これは国境警備であるため、本気で領有権を主張するのなら海上自衛隊が出るべきだ。

 日本の防衛省は、*3-2のように、尖閣諸島・南西諸島の防衛力強化を既にすませており、尖閣諸島の領有権が中国にあることを示したい中国の行為については、既に情報分析ばかりしている時期ではない筈だ。

4)ホルムズ海峡
 「イランが日本の船舶を攻撃した」として始まったホルムズ海峡の緊張は、*1-4-2のように、「船舶の安全確保に向けた有志連合」ができつつある。しかし、この有志連合は、国連安保理決議を経ずに行う軍事行動で、イランは日本の船舶を攻撃したことを否定しているため、平和憲法を有する日本の自衛隊が、自らの国境警備はさておいて、こういう場所に出ていくのは適切ではない。

 さらに、ホルムズ海峡は日本が輸入する原油の約8割が通るエネルギー供給の生命線と言われ続けているが、いつまでもここの原油にエネルギーの大半を依存していることこそ、日本が最も改善すべき問題だろう。

 なお、イランが6月に米軍の無人偵察機を撃墜し、7月には米軍がイランの無人機を撃墜したが、トランプ大統領は、6月に米軍の無人偵察機が撃墜された翌日には、イランへの報復攻撃を準備して攻撃10分前に中止を命じていたそうだ。これは、かなり乱暴な気がする。

 一方、英国のハント外相は、*1-4-1のように、中東のホルムズ海峡で英国船籍のタンカーがイランの革命防衛隊(イラン政府との関係は不明)に拿捕された問題については欧州各国と共同でこの付近を航行する船舶の安全を確保する作戦を展開する方針を発表し、イランへの圧力を強める米国主導の「有志連合」には一定の距離を置いたそうだ。

 では、「日本はどうすべきか?」については、イラン政府の指示ではない「海賊行為」なら、それに対応すべき組織は、日本の自衛隊ではなく、ホルムズ海峡を領海とする国の海上警察だと、私は考える。

5)核兵器廃絶
 核兵器については、(北朝鮮だけでなく)イランについても英国と米仏独中ロが対イラン間で核兵器開発を制限する代わりに金融制裁や原油取引制限などを緩和する合意を結び、米国は昨年5月、この合意から離脱したそうだ。

 しかし、核兵器を使えば地球が汚染されるため、どの国も核兵器を廃棄し核兵器の開発は中止して欲いもので、それこそ日本がはまり役になる最も重要な仕事だろう。これには、*4-1のような被爆地の活動も極めて重要だが、*4-2のように世界の宗教指導者が宗教の枠を超えてテロや核の問題について話し合い、原発も含めてメッセージを出すことは、日本人の想像以上に影響力があるかも知れない。

(2)日米安全保障条約について
 よくタブーに切り込む米国のトランプ大統領が、*2-1のように、「日米安全保障条約は米国にとって不公平な合意だ」と主張し、見直しに言及したそうだ。日本にとって日米安全保障条約は、平和憲法下の安全保障政策の基盤になってきただけに重大な発言なのだが、「トランプ氏の主張は正確な認識に基づかず、一方的だ」とするのも、日本をひいき目で見すぎである。

 何故なら、トランプ大統領は「日本が攻撃されたら米国は日本のために戦わなくてはならないが、米国が攻撃されても日本は戦わなくてもいい。不公平だ」と述べておられるからで、トランプ大統領に限らず米国大統領は米国の有権者によって選ばれるため、日本が基地を提供して在日米軍駐留経費・騒音対策費を負担していても、日本を護るために米国人の血が流れれば大統領の再選が危うくなり、他の人でも同じことを言う可能性が高いからである。また、近年は大陸間弾道ミサイルができ、サイバー攻撃も盛んになったため、基地の重要性は低下しているだろう。

 ここで考えておくべきことは、第二次世界大戦後、戦争をし続けてきた米軍に自衛隊が一体化しすぎて一緒に戦争をすることにならないためには、集団的自衛権の行使を解禁する安保関連法が制定されてしまった現在、日本国憲法の平和主義は絶対に守らなければならない最後の砦になったということだ。

 *2-2の日米安全保障条約の重要な点を見ると、「①前文:締約国は、他の平和愛好国と協同して国際平和と安全を維持する国際連合の任務が効果的に遂行されるように国際連合を強化することに努力する」「②第4条:締約国は、この条約の実施に関して随時協議し、日本の安全や極東における国際平和と安全に対する脅威が生じた時は一方の締約国の要請により協議する」「③第5条:各締約国は、日本の施政下にある領域での一方に対する武力攻撃が自国の平和と安全を危うくすることを認め、自国の憲法上の規定・手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する」「④最後:この条約が十年間効力を存続した後は、いずれの締約国も他方の締約国に対しこの条約を終了させる意思を通告することができ、その場合、この条約は、通告後一年で終了する」と書かれている。

 このうち①②③はよいが、④で1970年以降はどちらの締約国からも条約終了の意思を通告することができるとされており、日本は、自らの領土・領海を護ることをもっと真剣に考えなければならない。

 このような中、*2-3のように、改憲の国民投票に「賛成」が全体で52%、18~29歳の若者は63%というのは、戦争になればよほど大変になる若者が、それを理解した上で意見を持っているのか不明だ。

(3)米軍基地の返還を進めて1/10まで縮小しよう 
          ← 最優先は普天間基地の辺野古移設なき返還
 トランプ米政権は、*3-4のように、「同盟のコストを米国ばかりが負担しているのは不公平だ」として、在日米軍駐留経費の日本側負担の3~5倍の増額を日本政府に求めているそうだ。確かに米国人から見れば米軍の外国駐留は公金の無駄遣いに見えそうだが、日本は米国とのFTAを通じて経済上の譲歩を迫られる可能性が高く、それでは日本経済を犠牲にするため、この機会に同盟のあり方を見直すのがよいと思う。

 例えば、①膨大な米軍基地を本当に必要な最小限の場所に絞り ②他は返還を進めて米軍基地を現在の1/10以下に減らし ③日本の国防のために本当に必要な場合は自衛隊基地を共用する などである。そうすれば、在日米軍駐留経費を現在の1/2以下に減らし、日米地位協定の問題を解決し、在日米軍には日本の防衛にのみ確実に付き合ってもらうことが可能になる。

 まずは、*3-1のように、基地を過重負担している沖縄の米軍基地を大きく減らし、全国知事会が言っているような跡地利用を行えば、新しい街づくりがやりやすくなって経済効果が高く、これは沖縄だけでなく他の地域でも同じだ。そして、米軍は、現在必要とされる国に配置換えすればよいだろう。

 なお、尖閣諸島を含む南西諸島の防衛のため、*3-2のように、沖縄県の石垣島・宮古島・与那国島、鹿児島県の奄美などに陸上自衛隊が配備されつつあるが、陸自だけで島嶼防衛は不可能であるため、海自・空自との連携は不可欠だ。しかし、住民を調査・監視したり、島嶼戦争の対スパイ戦の任務に当たらせるなどもってのほかであり、また、ここまで多くの島に基地を必要とするかも甚だ疑問だ。

 これまでの安全保障政策を見ていると、*3-3のように、国は、防衛省を拡大するために動いているだけで、本当に国民や領土を守るための行動はしておらず、セクショナリズムも太平洋戦争時と変わらないように見える。しかし、それでは困るし、日本国憲法にも反するのである。

<朝鮮半島・領土・ホルムズ海峡問題>
*1-1-1:http://qbiz.jp/article/135877/1/ (西日本新聞 2018年6月18日) 米韓軍事演習の中止「私が要請」 北朝鮮に譲歩の批判にトランプ氏
 トランプ米大統領は17日、米朝首脳会談後に表明した米韓合同軍事演習の中止について「私(から)の要請だ」とツイッターに書き込んだ。自分自身の判断に基づく提案であり、北朝鮮に譲歩したとの批判は当たらないとの主張。トランプ氏は最近、北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長と17日に電話協議する可能性を示唆した。今週にも始まるとされる米朝高官協議を通じて非核化に向けた道筋づくりを急ぐ考えだ。トランプ氏はこの日、北朝鮮に関し複数のツイートを投稿した。軍事演習は「非常に金がかかり、誠実な交渉に悪影響を及ぼす。挑発的でもある」と持論を繰り返した。一方で「交渉が決裂したら即座に(演習を)始められる」ともくぎを刺した。12日の首脳会談に関し「北朝鮮との非核化合意はアジア全域から称賛、祝福されている。彼らはとても幸せだ」とアピール。「わが国には、トランプに勝利を与えるくらいなら、歴史的な合意が失敗した方がましだと思う人がいる。大勢の命を救えるかもしれないのにだ!」と非難した。

*1-1-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31476480X00C18A6PP8000/?nf=1 (日経新聞 2018/6/7) 「朝鮮国連軍」撤退なら日本は… 横田に後方司令部、北朝鮮 米朝首脳会談 政治 朝鮮半島
 トランプ米大統領は7日の安倍晋三首相との会談後の共同記者会見で、12日に予定する米朝首脳会談では朝鮮戦争の終結合意に署名する方向で調整していることを明らかにした。朝鮮戦争が正式に終結すれば、米軍を中心とする朝鮮国連軍の扱いが論点になる。日本の米軍横田基地(東京都)には朝鮮国連軍の後方司令部があり、平和協定を結べば撤退することになる。朝鮮国連軍の撤退は日本の安全保障にも影響する。
朝鮮国連軍は1950年6月の朝鮮戦争勃発に伴い、安全保障理事会決議に基づいて組織された。現在、司令部はソウルに置かれ、司令官は在韓米軍ブルックス司令官が兼務する。参加国はオーストラリア、カナダ、韓国、英国など18カ国。再び交戦状態になった場合は各国が戦力を派遣する。ただ、実際に部隊を常駐させておらず、防衛省幹部は「今は実態はほとんどない」と語る。もともと朝鮮国連軍は米軍が主体だ。休戦協定を結んだ後も韓国に残った在韓米軍が実質的な朝鮮国連軍になっている。もし国連軍としての撤退が決まっても、休戦協定後に結んだ米韓相互防衛条約に基づき在韓米軍としては駐留を続ける。朝鮮国連軍は「国連軍」を冠した唯一の事例だが、国連憲章で想定する正規の国連軍とは微妙に異なる。国連憲章第7章は安保理が経済制裁などでは不十分と判断した場合、集団安全保障の一環で軍事行動をとることができると定める。特別協定に基づき国連加盟国が提供する兵力で組織し、常任理事国の代表者らで組織する軍事参謀委員会が指揮する。だが冷戦下の米ソ対立もあり、これまでこうした正規の国連軍が組織されたことはない。朝鮮国連軍の派遣は、当時のソ連が安保理を欠席するなか米国の主導で決まった。実質的にも米国が指揮していた。派遣時の司令部は東京にあった。休戦協定締結後の1957年にソウルに移転し、日本に後方司令部が残った。当初は米軍キャンプ座間(神奈川県)に所在していたが、横田基地にある在日米軍司令部との調整が増えてきたため、2007年に同基地に移転した。現在は豪空軍大佐のウィリアムズ司令官を含め4人が常駐。朝鮮半島有事の際には韓国に兵力を送る支援をする。在日米軍の権利を定める日米地位協定と同じように、朝鮮国連軍地位協定もある。協定に基づき在日米軍のキャンプ座間のほか、横須賀基地(神奈川県)や普天間基地(沖縄県)など7カ所の使用を認めている。家族らに免税などの権利も与えている。朝鮮国連軍の枠組みが生かされている事例はいまもある。たとえば、海上で積み荷を移し替え北朝鮮に石油などを密輸する「瀬取り」の監視だ。4月末に始めたオーストラリアとカナダによる航空機での監視活動は、朝鮮国連軍地位協定に基づき米軍嘉手納基地(沖縄県)を利用した。外務省関係者は「国連の旗の下に連携しているという象徴的な意味がある」と話す。仮に朝鮮戦争の終結が宣言されれば、どこかの段階で朝鮮国連軍は撤退することになる。地位協定は、後方司令部について朝鮮国連軍撤退後、90日以内に撤退すると定める。だが朝鮮国連軍が撤退する条件などは明確でなく、外務省によると「国際社会で議論する必要がある」という。日本政府内には朝鮮国連軍が撤退しても「大きな影響はない」との見方が多いが、米国以外の軍の艦船や航空機は在日米軍の基地を使いにくくなる。多国間の連携に影響が出る可能性がある。

*1-1-3:https://digital.asahi.com/articles/ASM7T4JLBM7TUHBI01P.html (朝日新聞 2019年7月25日) 北朝鮮の飛翔体は「ミサイル」 韓国政府が分析結果発表
 韓国軍の合同参謀本部は25日、北朝鮮が同日午前5時半すぎと同6時前に東部の元山付近から日本海に向け、短距離ミサイルをそれぞれ1発ずつ発射したと発表した。韓国政府は同日午後、「新型の短距離弾道ミサイル」だとする分析結果を発表した。国連安全保障理事会の決議に違反することになり、今後、韓米でさらに分析するとしている。韓国軍によると、飛行距離は1発目が約430キロ、2発目は約690キロ。高度はいずれも約50キロで、海上に落下したとみられる。北朝鮮のミサイル発射は5月9日以来。韓国外交省の李度勲(イドフン)朝鮮半島平和交渉本部長は金杉憲治・外務省アジア大洋州局長、米国のビーガン北朝鮮政策特別代表と電話会談。日米韓で情報共有することを確認した。安倍晋三首相は25日午前、静養先の山梨県で「我が国の安全保障に影響を与える事態ではないことは確認している」と述べ、ゴルフを続けた。5月9日のミサイルについて、日米は弾道ミサイルと分析したが、韓国は断定を避けてきた。韓国の専門家は、今回のミサイルは約50キロという高度から、5月に発射されたロシア製の短距離弾道ミサイル「イスカンデル」の改良型とみる。北朝鮮が再びミサイルを撃ったのは、非核化をめぐる米朝協議が思惑通りに進まず、米国を牽制(けんせい)して譲歩を迫る狙いがあるとの見方がある。北朝鮮はこのところ、米韓が8月に予定する合同軍事演習を繰り返し批判。先月の板門店での米朝首脳会談で合意した「実務者協議の再開に影響する」と反発していた。米韓の軍事演習は2017年まで毎夏実施されていたが、昨年6月にシンガポールであった初の米朝首脳会談を受け、トランプ米大統領が中止した。一方、今年は規模を縮小して行う予定だ。

*1-2-1:https://www.j-cast.com/2019/07/23363316.html?p=all (J-CASTニュース 2019/7/23) 竹島上空の韓国機「警告射撃」 ロシア、そして中国の思惑はどこにあるのか
 島根県の竹島(韓国名・独島)で、2019年7月23日午前、韓国が主張する「領空」をロシア空軍機が2度にわたって侵犯し、韓国軍は戦闘機を緊急発進させて警告射撃を行った。韓国軍の合同参謀本部が発表した。 韓国側は、ロシア機が韓国に対して「領空」侵犯したのは初めてだと説明している。特に韓国側が神経をとがらせているのは、「領空」侵犯の前に、中国機とロシア機がそろって、韓国が主張する防空識別圏(KADIZ)に進入したことだ。この狙いはどこにあるのか。
●ロシア機2機、中国機2機が韓国主張のADIZに進入
 韓国側の発表によると、ロシアの軍用機1機が午前9時9分ごろ、竹島上空の「領空」を侵犯。韓国軍は空軍の戦闘機を出撃させ、フレア投下と警告射撃などで対応したところ、ロシア機は9時12分に「領空」を抜け、さらにその3分後にKADIZの外に出た。だが、ロシア機は9時28分に再び「領空」を侵犯。韓国軍の警告射撃を再び受け、9時37分に竹島「領空」を離脱して北上し、9時56分頃KADIZを抜けた。ロシア機による「領空」侵犯は初めてだという。防空識別圏(ADIZ)は、領空に近づく航空機が敵機かどうかを判別するために設けられた空域のことで、他国機が事前通告なく飛行すると、国籍不明機として緊急発進の対象になりうる。中国はKADIZへの無断進入を繰り返しており、韓国が警戒する中での事案だ。今回の「領空」侵犯に先立って、中国、ロシアの軍用機が活発な動きを見せていた。6時44分、7時49分の2回にわたって中国機が2度にわたってKADIZに進入。その後、中国機は北朝鮮と韓国の海上の境界線にあたる、日本海上の北方限界線(NLL)付近まで上昇し、ロシア軍機2機と合流。8時40分頃、計4機で鬱陵島北方からKADIZに進入した。この後、別のロシア機が「領空」侵犯した。
●日本は韓国とロシアに抗議
 この背景にあるとみられるのが、韓国と米国が8月5日から23日にかけて予定している合同軍事演習だ。ソウル新聞では、「中ロの軍用機が東海(日本海)上空で合流して飛行したのは異例」で、「中ロの合同訓練を行ったものと推定される」とする軍関係者の声を紹介。米韓合同軍事演習を狙った「一種の対米圧迫形の『武力示威』だという分析も出ている」と伝えている。日本は韓国が竹島を「不法占拠」していると主張しており、竹島をADIZに指定できていない。ただ、今回のロシア機の行動に対して自衛隊機も緊急発進しており、日本はロシアと韓国の両方に抗議している。菅義偉官房長官は7月23日午後の記者会見で、「韓国軍用機が警告射撃を実施したことは、竹島の領有権に関する我が国の立場に照らして到底受け入れられずきわめて遺憾であり、韓国に対して強く抗議するとともに再発防止を求めた」
などと話した。

*1-2-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/404223 (佐賀新聞 2019年7月23日) ロシア軍機に警告射撃360発、竹島周辺、韓国軍「領空侵犯」
 韓国軍合同参謀本部は23日、島根県・竹島(韓国名・独島)周辺に領空侵犯したとするロシア軍機はA50空中警戒管制機で、2回の領空侵犯に対し、韓国軍機がロシア軍機の前方約1キロに向け計約360発の警告射撃をしたと明らかにした。ロシアや中国軍機は日本の防空識別圏にも入っており、菅義偉官房長官は23日の記者会見で、自衛隊機の緊急発進(スクランブル)で対応したと表明した。日本政府関係者によると、政府は韓ロ両政府に対し「わが国の領土での、こうした行為は受け入れられない」と外交ルートを通じて抗議した。韓国外務省当局者は「これを一蹴した」と述べた。

*1-3-1:https://digital.asahi.com/articles/ASM6L4VX0M6LUTIL01Y.html (朝日新聞 2019年6月24日) 中国公船の尖閣領海侵入、再び活発化 透ける習氏の思惑
 沖縄・尖閣諸島周辺の日本領海に、尖閣の領有権を主張する中国の公船が盛んに侵入している。日本の海上保安庁にあたる海警局に所属する公船は、領海の外側を2カ月以上連続で航行。これまでにない動きに、海保は警戒を強めている。その背景を読み解いた。尖閣をめぐる緊張関係は、民主党政権時代の2010年9月にさかのぼる。尖閣沖で海保の巡視船に衝突した中国漁船の船長が逮捕された事件をきっかけに、日本国内で領土保全を求める世論が高まった。その後、日本政府は12年9月に尖閣を国有化。以降、中国公船による領海への侵入や接続水域の航行が続いている。昨年まで減少傾向にあったその回数が目に見えて増え始めたのは、今年に入ってからだ。領海侵入は昨年9~11月は月1回、12月に国有化以降では初めてゼロとなった。ところが今年1~4月は毎月3回、5月は4回に増えた。6月19日までに侵入したのは延べ70隻に上り、すでに昨年1年間に並ぶ。接続水域の航行は、4月12日から6月14日にかけて過去最長の64日間連続を記録した。「依然として予断を許さない状況だ。事態をエスカレートさせることがないよう毅然(きぜん)として対応したい」。海保の岩並秀一長官は今月19日の会見でこう述べ、活発になる公船の動きに警戒感をあらわにした。なぜ突然、動きが活発になったのか。考えられるのは、中国軍が影響を与えている可能性だ。海警局は昨年7月、中央軍事委員会の指揮下にある部隊に編入された。日中関係に詳しい小原凡司・笹川平和財団上席研究員は、公船の動きは習近平・国家主席の意思にもとづくと分析する。「日中関係が良好になるなかで、国内からの『弱腰』批判を抑える政治的な意図があるのではないか」と指摘。「中国が尖閣を領有しようと圧力をかけ続ける長期的な構図は変わらない。海保はこうした動きに対応できるように体制の整備を急ぐべきだ」と訴える。ただ、現状では日中の「体制」には格差がある。中国は尖閣周辺に送る船の大型化を進める。大型になれば荒れた海でも安定して長期間活動でき、3千トン以上や5千トン以上の船も多くなった。今年に入ってからは8割ほどが3千トン以上という。一方の海保。尖閣警備に専従する巡視船計12隻を石垣島(沖縄県石垣市)と那覇市に配備しているが、ほとんどが1千トン級だ。ヘリコプターを2機搭載できる大型巡視船4隻を全国から順次派遣し、中国の大型船に対応している。さらに20年度中には6千~6500トンの3隻を鹿児島港に、21年度中に1隻を石垣島にそれぞれ新たに配備する方針を打ち出し、地元の自治体と調整している。尖閣周辺では中国海軍の軍艦も確認されており、日本側は神経をとがらせる。16年6月には戦闘艦艇が初めて接続水域に入ると、18年1月には潜水艦の航行も確認された。今月には沖縄本島と宮古島の間の公海を空母「遼寧」が航行した。通算で3度目のことだ。18年度の防衛白書は、中国側の動きについて「尖閣諸島周辺を含めてその活動範囲を一層拡大するなど、わが国周辺海空域における行動を一方的にエスカレートさせている」と指摘し、警戒している。防衛省は尖閣諸島を含む南西諸島の防衛強化を目的に、「日本版海兵隊」と言われる水陸機動団を昨年新設するなど「南西シフト」を進めている。尖閣周辺で見られる中国公船の動きに、海上自衛隊トップの山村浩海上幕僚長は18日の記者会見で「何か意図があって、命令があって彼らは動いているものだと思う」と述べ、「今後いろんな面で分析していく必要がある」と話した。

*1-3-2:https://news.biglobe.ne.jp/domestic/0727/ym_190727_8905001501.html (BIGLOBE、読売新聞 2019年7月27日) 中国公船4隻、尖閣諸島沖領海に一時侵入
 第11管区海上保安本部(那覇市)によると、27日午前10時17分から34分頃にかけ、中国公船4隻が相次いで沖縄県石垣市の尖閣諸島・久場島沖の領海に侵入した。4隻とも正午頃までに領海を出て同島沖の接続水域(領海の外側約22キロ)内を航行している。

*1-4-1:https://digital.asahi.com/articles/ASM7R23NHM7RUHBI003.html (朝日新聞 2019年7月23日) ホルムズ海峡、英は有志連合と距離 欧州各国と共同作戦
 中東のホルムズ海峡で英国船籍のタンカーがイランの精鋭部隊・革命防衛隊に拿捕(だほ)された問題で、英国のハント外相は22日、欧州各国と共同で、この付近を航行する船舶の安全を確保する作戦を展開する方針を発表した。イランへの圧力を強める米国主導の「有志連合」構想には一定の距離を置いた形だ。
●米主導の有志連合、慎重姿勢の国多く 自衛隊派遣には壁
 ハント外相は英議会で、イランの対応は「海賊行為」と非難。海峡に面したオマーンや米仏独などの外相と協議したと明かし、「この重要な地域で、乗組員と積み荷の安全な航行を支援するため、欧州主導で海上保護の作戦を展開するよう努める」と語った。ハント氏は「この作戦はイランに最大限の圧力をかける米国の政策の一部ではない。我々はイラン核合意の保護に引き続き努めている」と語った。イランを過度に刺激するのは避けた形だが、米国との協力については協議を続けるという。英国とイランの関係は急速に悪化している。英領ジブラルタル自治政府が今月4日、シリアに原油を輸送しようとした疑いのあるイランのタンカーを拿捕したことに、イラン側が強く反発。英国はペルシャ湾に配備した海軍艦艇で民間船舶を護衛しているが、英国の力だけではすべての船は守れないと指摘されていた。英国と米仏独中ロは2015年、イランとの間で、イランが核開発を制限する代わりに金融制裁や原油取引制限などを緩和する合意を結んだ。米国が昨年5月、この合意から離脱したが、欧州各国は維持を表明。英国は今回の問題があっても立場を変えておらず、一部で報道された制裁再開は見送った。

*1-4-2:https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/451127 (沖縄タイムス社説 2019年7月28日) [有志連合参加要請]緊張緩和へ役割果たせ
 緊張感が高まる中東・イラン沖のホルムズ海峡周辺を巡り、ポンペオ米国務長官は日本に船舶の安全確保に向けた有志連合への参加を呼び掛けている。テレビニュースのインタビューで明らかにしたもので、米国が公式に日本に参加要請を認めるのは初めて。有志連合は国連安保理決議などを経ずに行う軍事行動である。米側は対イラン包囲網の構築を目指し結成を急ぎたい考えだが、各国は慎重姿勢を崩さない。岩屋毅防衛相も自衛隊派遣に否定的な見解を重ねて示している。日本船舶への攻撃が続いているわけでもなく、法的根拠もはっきりない。当然の判断だ。ホルムズ海峡は、タンカーが通過できる幅は6キロ程度にすぎない。日本が輸入する原油の約8割が通り、エネルギー供給の生命線である。なぜ、軍事的衝突が懸念される事態を招いたのか。原因はトランプ米大統領にある。イラン核合意は、2002年に核開発計画が発覚したイランと、核兵器保有を止めたい米英仏中ロにドイツを加えた6カ国が15年7月に合意した。オバマ米政権時代のことで、イランが核開発を大幅に制限する見返りに制裁を解除し、イランは原油輸出などができるようなった。しかしトランプ大統領は18年5月、核合意から一方的に脱退し制裁を全面復活。イランの反発を引き起こした。米国主導の有志連合に大義はないのである。日本は米国に言われるがまま追従することがあってはならない。
    ■    ■
 有志連合は5月と6月に相次いだタンカー攻撃をイランの行為と決めつけた米国の発案である。イランは関与を否定。米国がイランの脅威をあおり、軍事的圧力を高める狙いがあるとみられる。米国はイランとの衝突のリスクを抑えるのが有志連合の目的と主張するが、実際は対イラン包囲網である。イラク戦争を思い出す。米国はイラクが大量破壊兵器を保有していると主張してイラク攻撃を始めたが、大量破壊兵器はなかった。同じ過ちを繰り返してはならない。6月にイランが米軍の無人偵察機を、7月には米軍がイランの無人機を撃墜した。報復はエスカレートしている。震撼(しんかん)させたのはトランプ大統領が6月の米国の無人偵察機撃墜を受け、翌日にイランへの報復攻撃を準備。攻撃の10分前に中止を命じていたことを明かしたことだ。軍事衝突が起きかねない事態だ。
    ■    ■
 6月には安倍晋三首相が最高指導者ハメネイ氏らと会談するなど米国との仲介役を目指した。大きな成果を上げることはできなかったものの、緊張緩和に向けたその後の動きが見られない。イランは日本と伝統的な友好国である。日本が有志連合に参加すれば、仲介の会談は何だったのか。イランからは敵性国とみられ、長く築いてきた友好関係が損なわれるのは間違いないだろう。日本の役割は、国際社会と歩調を合わせ、イランだけでなく、トランプ大統領にも、自制を促すよう外交努力を尽くすことである。

<日米安全保障条約と米国のスタンス>
*2-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/395893 (佐賀新聞 2019年7月4日) 日米安保見直し発言、認識を正し、本質の議論を
 米国のトランプ大統領が日米安全保障条約について「米国にとって不公平な合意だ」と主張し、見直しに言及した。20カ国・地域首脳会議(G20サミット)後の記者会見での発言で、「条約破棄は全く考えていない」としたものの、以前から安倍晋三首相にも問題提起していると述べた。戦後日本の安保政策の基軸となってきた日米安保条約に関わる、極めて重大な発言である。だが、トランプ氏の主張は正確な認識に基づかず、一方的過ぎる。日本政府は日米間で条約見直しの議論は一切ないと否定するが、まず大統領に認識を正すよう求めていく必要があろう。発言の背景には、日米貿易交渉に安保政策を絡めて取引材料とする狙いもあるだろう。その真意を見極めたい。日米の同盟関係は近年、自衛隊と米軍の一体化が進んでいる。今回の発言も日本の役割拡大を求める圧力の一環ともみられる。その現状でいいのか。あるべき同盟関係の姿や、今後の日本の安保政策について本質的な議論に取り組むべきだ。トランプ氏は記者会見で「日本が攻撃されたら米国は日本のために戦わなくてはならないが、米国が攻撃されても日本は戦わなくてもいい。不公平だ」と述べた。2016年の大統領選中にも同様の主張をしているが、現職大統領としての発言であり、看過できない。まず、その認識を正すべきだ。1960年に全面改定された日米安保条約は、第5条で日本有事の際に米国が日本を守ると義務付ける一方、第6条で日本が極東の安定確保のため米軍に基地を提供すると定めている。それぞれのリスクとコストが非対称的なため、以前から米国に不満があったのも事実だ。トランプ氏の発言には来年の大統領選をにらんだ国内向けの側面もあるだろう。だが在日米軍基地は、世界に展開する米軍の戦略的拠点として米国のメリットになっている。一方、日本は年約2千億円の在日米軍駐留経費のほか騒音対策費など応分の負担をしている。「双方の義務はバランスが取れている」というのが日本政府の見解だ。この認識を改めて確認すべきだ。トランプ氏の発言には、この夏から本格化する貿易交渉で日本に譲歩を迫る戦略や、対日貿易赤字削減のための巨額の防衛装備品購入を求める狙いもあるだろう。駐留経費負担の増額を要求してくる可能性もある。だが、圧力の下で交渉の主導権を握られる事態は避けなければならない。公正な交渉を進めるべきだ。解せないのは、G20の際に行われた首脳会談での安倍首相の対応だ。安保条約に対するトランプ氏の不満は来日直前に米メディアが報じていた。にもかかわらず首相は真意をたださなかったという。トランプ氏の会見後、首相は「自衛隊と憲法の関係で何ができるかは説明してきた」と述べたが、日米間でどういう協議があったのかを国民にきちんと説明すべきだ。安倍政権の下、安保政策は対米偏重が進んできた。集団的自衛権の行使を解禁する安保関連法を制定、日米防衛協力指針(ガイドライン)を改定し、日米連携の一層の緊密化を掲げる。だが、米国の戦略に巻き込まれる懸念も膨らむ。近隣諸国との関係構築に努め、安保環境を整備していく構想に日本が主体的に取り組むべきではないか。

*2-2:https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/hosho/jyoyaku.html 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約
 日本国及びアメリカ合衆国は、両国の間に伝統的に存在する平和及び友好の関係を強化し、並びに民主主義の諸原則、個人の自由及び法の支配を擁護することを希望し、また、両国の間の一層緊密な経済的協力を促進し、並びにそれぞれの国における経済的安定及び福祉の条件を助長することを希望し、国際連合憲章の目的及び原則に対する信念並びにすべての国民及びすべての政府とともに平和のうちに生きようとする願望を再確認し、両国が国際連合憲章に定める個別的又は集団的自衛の固有の権利を有していることを確認し、両国が極東における国際の平和及び安全の維持に共通の関心を有することを考慮し、相互協力及び安全保障条約を締結することを決意し、よつて、次のとおり協定する。
第一条 締約国は、国際連合憲章に定めるところに従い、それぞれが関係することのある国際紛争を平和的手段によつて国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決し、並びにそれぞれの国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎むことを約束する。
 締約国は、他の平和愛好国と協同して、国際の平和及び安全を維持する国際連合の任務が一層効果的に遂行されるように国際連合を強化することに努力する。
第二条 締約国は、その自由な諸制度を強化することにより、これらの制度の基礎をなす原則の理解を促進することにより、並びに安定及び福祉の条件を助長することによつて、平和的かつ友好的な国際関係の一層の発展に貢献する。締約国は、その国際経済政策におけるくい違いを除くことに努め、また、両国の間の経済的協力を促進する。
第三条 締約国は、個別的に及び相互に協力して、継続的かつ効果的な自助及び相互援助により、武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を、憲法上の規定に従うことを条件として、維持し発展させる。
第四条 締約国は、この条約の実施に関して随時協議し、また、日本国の安全又は極東における国際の平和及び安全に対する脅威が生じたときはいつでも、いずれか一方の締約国の要請により協議する。
第五条 各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。前記の武力攻撃及びその結果として執つたすべての措置は、国際連合憲章第五十一条の規定に従つて直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執つたときは、終止しなければならない。
第六条 日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。前記の施設及び区域の使用並びに日本国における合衆国軍隊の地位は、千九百五十二年二月二十八日に東京で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定(改正を含む。)に代わる別個の協定及び合意される他の取極により規律される。
第七条 この条約は、国際連合憲章に基づく締約国の権利及び義務又は国際の平和及び安全を維持する国際連合の責任に対しては、どのような影響も及ぼすものではなく、また、及ぼすものと解釈してはならない。
第八条 この条約は、日本国及びアメリカ合衆国により各自の憲法上の手続に従つて批准されなければならない。この条約は、両国が東京で批准書を交換した日に効力を生ずる。
第九条 千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約は、この条約の効力発生の時に効力を失う。
第十条 この条約は、日本区域における国際の平和及び安全の維持のため十分な定めをする国際連合の措置が効力を生じたと日本国政府及びアメリカ合衆国政府が認める時まで効力を有する。
 もつとも、この条約が十年間効力を存続した後は、いずれの締約国も、他方の締約国に対しこの条約を終了させる意思を通告することができ、その場合には、この条約は、そのような通告が行なわれた後一年で終了する。以上の証拠として、下名の全権委員は、この条約に署名した。千九百六十年一月十九日にワシントンで、ひとしく正文である日本語及び英語により本書二通を作成した。
 日本国のために
   岸信介
   藤山愛一郎
   石井光次郎
   足立正
   朝海浩一郎
 アメリカ合衆国のために
   クリスチャン・A・ハーター
   ダグラス・マックアーサー二世
   J・グレイアム・パースンズ

*2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190729&ng=DGKKZO47891420Y9A720C1PE8000 (日経新聞 2019年7月29日) 改憲国民投票「賛成」52% 18~29歳では63%、世論調査 無党派43%、反対上回る
 日本経済新聞社の26~28日の世論調査で、安倍晋三首相が自身の自民党総裁任期中に憲法改正の国民投票を実施したいと表明したことについて聞いた。首相の考えに賛成と答えた人は52%で反対の33%を上回った。18~29歳では賛成が63%を占め、無党派層でも賛成が43%と反対を10ポイント上回った。首相の党総裁任期は2021年9月まで。首相は参院選投開票日の21日に民放番組で「総裁任期中に改憲の国会発議と国民投票を実施したいか」を問われて「期限ありきではないが私の任期中に何とか実現したい」と述べていた。今回の調査で「任期中の国民投票」への賛否を世代別に見ると、若年層ほど賛成が多く、反対が少なかった。18~29歳は賛成が63%、反対が26%だった。18~39歳でみても賛成が64%で反対が25%、40~59歳は同58%と30%、60歳以上は同43%と40%だった。高齢層ほど反対が多かったが、全世代で賛成が上回った。内閣支持層では賛成が67%にのぼったのに対し、内閣不支持層では賛成が36%で反対が54%だった。自公以外の野党の支持層でも反対が50%で賛成の43%を上回り、立憲民主党の支持層では反対が6割を超えた。一方で無党派層では賛成が反対を上回った。今回の調査は国民投票の実施についての考え方を聞いており、改憲そのものの是非を質問したわけではない。6月の前回調査では、首相が20年に新憲法を施行する考えを示すことへの賛否を聞き、賛成が37%、反対が45%だった。この時も18~29歳は賛成が55%で反対が35%、60歳以上は賛成が27%で反対が55%と若年層ほど賛成が多かった。首相は今回の参院選で改憲の是非ではなく「改憲の議論をすべきかどうか」を訴えてきた。改憲そのものより、その前段階である国民投票の方が賛成が多い今回の結果をみると、首相の参院選戦略は一定の成果を上げたともいえそうだ。参院選では自民党や公明党、日本維新の会など憲法改正に前向きな勢力が3分の2を割り込んだ。この結果については内閣支持層でも「ちょうどよい」が52%に上った。「もっと多くてもよかった」は30%、「もっと少なくてもよかった」は9%だった。内閣不支持層ではトップは「もっと少なくてもよかった」の43%で「ちょうどよい」が28%、「もっと多くてもよかった」が21%だった。首相に期待する政策では改憲を求める声は乏しい。7つの政策を示し複数回答で聞くと「憲法改正」と答えた人は10%で7位だった。トップは「社会保障の充実」の46%で「景気回復」の39%、「外交・安全保障」の29.5%、「教育の充実」の28.8%が続いた。18年12月~19年5月まで過去5回の同様の質問でも「憲法改正」と答えた人は10~11%で7位が続いていた。

<普天間基地の辺野古移設>
*3-1:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-544708.html (琉球新報社説 2017年7月30日) 全国知事会 沖縄の現状理解広げたい
 2008~15年の8年間に在日米軍人・軍属とその家族による犯罪摘発件数が沖縄県だけで全国の総数の47・4%を占めていることが分かった。全国知事会に設置されている米軍基地負担に関する研究会のまとめで判明した。全国47都道府県のうち、1県だけで全体の半数近くの米軍関係犯罪が摘発されている実態は、沖縄への過重な基地集中を意味する。基地に起因する事故、騒音や環境汚染などの基地公害に加え、治安悪化という大きな負担も県民が背負わされている。基地の過重負担を解消しなければ、こうした状況は今後も続くことになる。たまったものではない。研究会は16年7月に設置された。翁長雄志沖縄県知事の「沖縄の基地問題をわがこととして真剣に考えてもらうようお願いしたい」との要望を受けてのものだ。これまで3回の研究会を開催し、沖縄の基地負担の現状や日米同盟などについて問題意識の共有を重ねている。28日に岩手県で開催された全国知事会議ではこのほか、在沖米軍基地の現状や跡地利用の経済効果などの報告があり、研究会座長の上田清司埼玉県知事が「基地関連収入の比重は大幅に低下しており『沖縄は基地の経済でもっている。基地とは離れられない』という話は誤解だと共通認識を持てるのではないか」と指摘した。全国知事会のこうした沖縄への理解を深め、誤解を解く取り組みを高く評価したい。全国知事会だけでなく、沖縄の基地問題に取り組む全国的な動きが出ている。全国都道府県議会議長会が25日の総会で、米軍普天間飛行場の「5年以内の運用停止」の確実な実現要求を盛り込んだ議案を採択した。沖縄側からの提案に呼応したものだ。「5年以内の運用停止」は13年、当時の仲井真弘多県知事が要請し、安倍晋三首相が「最大限実現するよう努力したい」と受け入れた約束だ。しかし首相は翁長知事が名護市辺野古への新基地建設に反対していることを理由に実現困難との姿勢に転じた。47都道府県の議会議長のうち42人が政権与党の自民党所属だ。全国議長会で「5年以内」が都道府県議会の総意として採択された意義は大きい。一方で、まだ認識を全国で共有できていない動きもみられた。今年2月の全国町村議会議長会で、沖縄側から基地関係協議会の設置を求める動議が出されたが、賛成8、反対37で否決された。議長会の国への要望活動に影響することを懸念したためだ。極めて残念だ。全国知事会の研究会は10月後半以降に、日米地位協定を主題に会議を開く予定だ。翁長知事が求めた「沖縄の基地問題をわがこととして真剣に考えてもらう」取り組みが知事会にとどまらず、今後も各界に広がるよう期待したい。

*3-2:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-949264.html (琉球新報 2019年7月6日) 陸自、宮古・与那国に情報保全隊 専門家「住民監視も」
 宮古島市と与那国町への陸上自衛隊配備に関し、自衛隊内外の情報を収集・整理する情報保全隊も配置されていたことが5日までに分かった。情報公開請求で組織図を明らかにした軍事評論家の小西誠氏は「住民を調査・監視し、島嶼(とうしょ)戦争の対スパイ戦の任務に当たることが想定される」と指摘している。情報保全隊は2007年に自衛隊のイラク派遣反対の活動をした団体・個人を監視し、問題となった。防衛省によると、宮古島と与那国島に配置された情報保全隊はそれぞれ数人程度。県内の自衛隊増強と連動して警備隊とミサイル部隊が発足した鹿児島県奄美市の駐屯地にも情報保全隊が配置された。石垣市で建設中の駐屯地にも完成後、配置される可能性がある。県内ではすでに陸海空の情報保全隊が配置され、那覇市を拠点に活動している。南西方面での防衛力強化に向けた離島への陸自配備でさらに活動が拡大することになる。宮古島や与那国島への部隊配備に当たって政府は事前に情報保全隊を配置する計画は説明していなかった。防衛省の担当者は情報保全隊について「重要文書や情報の保管など内部管理の部隊で、北海道から沖縄まで配置されている。与那国や宮古島への配置が特別というわけではない」と説明した。宮古島駐屯地は今年3月に警備隊380人で開設された。20年以降、ミサイル部隊も配備され計700~800人規模になる計画だ。先立って与那国島には16年から160人規模の沿岸監視隊が駐屯している。

*3-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201903/CK2019032902000140.html (東京新聞 2019年3月29日) 「国は国民を守らない」 安保法施行3年 違憲訴訟原告の戦争孤児
 二十九日で施行三年となった安全保障関連法は違憲だとする集団訴訟の審理が、全国二十二の地裁で進んでいる。原告総数は七千六百七十五人。東京地裁での訴訟の原告で戦争孤児の金田茉莉(まり)さん(83)=埼玉県蕨市=は、安保法によって他国を武力で守る集団的自衛権の行使に道を開いたことで「日本がアメリカの手先になって、戦争に巻き込まれる可能性が高まっている」と危機感を募らせる。「国の政策で疎開による孤児がでたのに、国は孤児たちを保護してくれませんでした」。東京地裁で十八日にあった口頭弁論で、金田さんはこう強調した。東京大空襲直後の一九四五年三月十日朝、九歳だった金田さんは学童疎開先の宮城県から東京に戻った。列車が着いた上野は一面、焼け野原。浅草の自宅は焼失し、母と姉、妹が死亡。父は幼いころに病死しており、孤児になった。九人の大家族の親戚に預けられ、「朝から晩まで小間使いのように働かされ、『親と一緒に死んでいたら良かったのにね』と言われた」。子育てが終わり、戦争孤児の聞き取りを始めると、自分以上の壮絶な体験を知った。金田さんは「上野の地下道は戦争孤児であふれ、大勢の子どもたちが餓死し凍死した。お金も食べ物もなく『浮浪児』になった孤児は捕まってトラックに山積みにされ『収容所』に送られたり、親戚宅を逃げ出して人身売買されたり、農家で奴隷のようにこきつかわれたりした」と説明。「戦争になったら弱者は捨てられる」と感じる。二〇一九年度から五年間で購入する兵器を定めた政府の中期防衛力整備計画(中期防)は安保法などで変質した国防の在り方を装備面で追認し、日米の軍事一体化を進めたのが最大の特徴。一九年度予算の防衛費は五兆二千五百七十四億円と、過去最大を更新した。「軍事費をどんどん使い憲法も変え、戦争をする国にしようとしている」と金田さん。「『国を守るためには自衛隊が必要だ』なんて言っても、国は国民を守らない。昔も『聖戦だ』とかうまいことを言い、私たちをだました。守ってもくれなかった」と語る。金田さんは長年、戦争孤児の証言や資料を集めて実態を伝えてきたことが評価され、一九年度の吉川英治文化賞の受賞が決まった。「悲惨な体験の記憶を封印している戦争孤児は少なくない。それでも話してくれる人が増えているのは、再び戦争孤児をつくってはいけないとの必死の思いから。私たちが遺言として残しておかなくちゃいけない」
<安保法制違憲訴訟> 集団的自衛権の行使を可能にした安全保障関連法は違憲だとして、同法に基づく自衛隊出動の差し止めや、憲法が保障する平和的生存権などの侵害に対する国家賠償を求め、東京や大阪、名古屋など全国22地裁で25件の集団訴訟が起こされている。

*3-4:https://www.asahi.com/articles/DA3S14122366.html (朝日新聞 2019年8月1日) 米軍駐留費負担「大幅増を」 日本に「5倍」要求も
 トランプ米政権が、在日米軍駐留経費の日本側負担について、大幅な増額を日本政府に求めていたことがわかった。各国と結ぶ同盟のコストを米国ばかりが負担しているのは不公平だと訴えるトランプ大統領の意向に基づくとみられる。来年にも始まる経費負担をめぐる日米交渉は、同盟関係を不安定にさせかねない厳しいものになりそうだ。複数の米政府関係者によると、ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)が7月21、22日に来日し、谷内正太郎国家安全保障局長らと会談した際に要求したという。今後の交渉で求める可能性がある増額の規模として日本側に示した数字について、関係者の一人は「5倍」、別の関係者は「3倍以上」と述べた。ただ、交渉前の「言い値」の可能性もある。米メディアは3月、トランプ政権が駐留経費の総額にその5割以上を加えた額の支払いを同盟国に求めることを検討していると報道。現在の5~6倍に当たる額を要求される国も出てくるとしていた。「思いやり予算」とも呼ばれる在日米軍駐留経費の日本側負担は2016~20年度の5年間で計9465億円に及ぶ。オバマ前政権と結んだ現在の経費負担に関する特別協定は21年3月末に期限を迎え、新たな協定を結ぶ交渉が来年始まる予定だ。日本は思いやり予算以外に、米軍再編関係費なども負担しており、総額は年約6千億円になる。米政府関係者は、ボルトン氏が具体的に、どの予算を増額させたい意向を示したかについては明らかにしていない。トランプ氏は米軍の外国駐留は公金の無駄遣いだと訴え、同盟国に「公平な負担」を求めている。在日米軍についても、駐留経費を日本が全額負担しなければ、米軍の撤退もありうると牽制(けんせい)してきた。ボルトン氏は日本の後に韓国も訪問。日米韓の各政府関係者によると、24日にソウルで康京和(カンギョンファ)外相らと会談し、在韓米軍の駐留経費負担の大幅増額を求めるトランプ氏の意向を伝えたという。米国はともにアジアの同盟国である日韓に同時に負担増を要求した形だ。菅義偉官房長官は31日午後の記者会見で、米国が米軍駐留経費の日本側負担について5倍増を提示したという朝日新聞の報道について「そのような事実はない」と述べた。その上で、「現在、在日米軍駐留経費は日米両政府の合意に基づき、適切に分担されていると考えている」と語った。

<核兵器>
*4-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/517063/ (西日本新聞 2019/6/9) 原爆の惨状伝える詩引用 長崎平和宣言、市が素案を提示
 長崎原爆の日(8月9日)の平和祈念式典で長崎市長が読み上げる「長崎平和宣言」の第2回起草委員会が8日、長崎市内で開かれ、市が素案を示した。核兵器を巡る米国とロシアの対立による不透明な情勢を懸念して原爆の非人道性を訴えるため、原爆投下直後の光景を表した詩を引用。「核の傘」にある日本や、保有国に廃絶を迫る文言が盛り込まれた。委員からは、さらに強い表現を求める声も上がった。宣言の冒頭に引用する詩は、爆風や熱線で傷ついた遺体、現場の惨状を描く内容で素案の3割を占める。市によると異例のケースとしており、すべての委員が賛同した。来年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議に向けて保有国には核軍縮を、日本には北東アジアの非核兵器地帯構想の実現を求める文言も示されたが、委員からは軍縮を「義務」として強く迫るべきだ、との意見があった。憲法の平和理念への言及がないことも指摘された。7月6日の第3回起草委で修正案を示し、同月末ごろ決定する。

*4-2:http://digital.asahi.com/articles/ASK845TW3K84PTFC01D.html (朝日新聞 2017年8月5日) 世界の宗教指導者、比叡山から「核廃絶」 宗教の枠超え
 世界の宗教指導者らが宗教の枠を超えてテロや核の問題などについて話し合う「世界宗教者平和の祈りの集い」は4日、比叡山延暦寺(大津市)で、核廃絶を強く訴えるなどの「比叡山メッセージ2017」を採択した。2日間の日程で行われた集いは、この日閉幕した。メッセージでは、7月に採択された核兵器禁止条約を念頭に、「核兵器の廃絶は、高齢になった被爆者が存命している今こそ、さらに強く訴えていくべきである」と指摘。原発について「原子力の利用の限界を深く自覚し(中略)核廃棄物を残す核エネルギーの利用に未来がない」と訴えた。国連の持続可能な開発目標(SDGs、エスディージーズ)にも言及。「地球上の誰一人として取り残さない」という理念について「まさに宗教者の立場と一致しており、これを強く支持したい」とした。主催した日本宗教代表者会議の事務局顧問、杉谷義純さんは記者会見で「日本は被爆国でありながら核の傘にあり、核兵器禁止条約に批准していない。人間の生みだしたものは人間の力で解決する。条約がすべての国で批准されることを望む」と話した。

<日韓問題>
PS(2019年8月1、2、3、5日追加): *5-1のように、ポンペオ米国務長官が輸出規制や元徴用工訴訟問題で対立が深まる日韓両政府に対し、日韓両国が「休止協定」への署名を検討するよう提案したそうだ。私は、元徴用工訴訟問題に関する韓国の司法判決にも異議はあるが、それとは別に、韓国は北朝鮮と親密になっており、北朝鮮はミサイル実験をして日本を脅かしたり、中国・ロシアと親密であったりする上、韓国もまた日本に対して好意を持っている態度はしていない。そのため、日本政府が韓国を「ホワイト国」から除外して輸出管理をする普通の国にするのは当然であり、時間稼ぎに妥協するのはむしろよくないと考える。
 なお、*5-2のように、2019年8月2日の午前2時59分及び午前3時23分に、北朝鮮が東部ハムギョン(咸鏡)南道ヨンフン(永興)付近から日本海に向けて短距離ミサイルを発射し、トランプ大統領は「短距離ミサイルに関してはキム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党委員長と発射中止などの約束は交わしていない」として問題視しない考えを示されたそうだ。日本政府は、「現時点において、わが国の安全保障に直ちに影響を与えるような事態は確認されていない」としているが、発射する位置・方向・ミサイルの種類を変えれば、米国には届かなくても日本のどこでも射程内になるということであるため、悠長に考えすぎるのは問題だろう。
 一方、韓国の文在寅大統領は、*5-3のように、日本が韓国を「ホワイト国」のリストから外す政令改正を決めたことに関して臨時閣僚会議を開き、「①今後起こる事態の責任は全面的に日本政府にある」「②日本の措置は元徴用工訴訟の報復だ」「③相応する措置をとる」「④加害者である日本が盗っ人たけだけしい」と非難したそうだ。②は、元徴用工訴訟で韓国の最高裁判所が日本に損害賠償判決を出したたことに関する発言だが、日韓両政府とも1965年の日韓請求権協定で解決したとしているため、元徴用工に対する賠償は韓国政府が責任を持って行うべきで、これこそ、日本は国際司法裁判所に提訴すればよかったのだ。なお、徴用工は「挺身隊」として徴用されたそうだが、日本人である私の母や叔母も女学校時代に勉強もできずに「挺身隊」と呼ばれて工場で働かされており、当時は日本人の多くも強制労働に近いものをさせられていたようだ。そのようなわけで、元徴用工訴訟に端を発していたとしても、①③は韓国の誤りであり、曾祖父母の時代に起こった被害に関して、④のように現在の日本人に何度も謝罪や損害賠償を求めて金を引き出そうとするのを、決して容認すべきでない。
 さらに、*5-4のように、「⑤韓国政府は元徴用工訴訟に関する政府間協議を『司法の判断を尊重する』として対応しなかった」「⑥韓国社会では日本製品の不買運動や日本旅行自粛、自治体や民間の交流事業を相次いで中止するなど対抗の動きが広がっている」「⑦韓国も日本を『ホワイト国』から除外し、日本だけが入る最下位のランクを作った」など、韓国政府はかなり意地が悪いが、日本政府の悪い点は、これらを理路整然と国際社会にアピールするように言えない点であり、この問題は妥協すれば解決するどころか何度も同じことが起こると思われるのだ。
 しかし、出口は見えており、それはトランプ大統領と文在寅大統領という役者が揃っている間に朝鮮戦争を終わらせ、南北朝鮮が協力して経済発展することである。その後、朝鮮半島が日本にとって「ホワイト国」であるか否かは状況次第だ。
 また、*5-5のように、韓国政府が日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を示唆しているが、日本に対していくつもひどいことをしながら軍事情報包括保護協定もあったものではない。日本の自衛隊も韓国から情報をもらわなければ人工衛星かミサイルかの判別さえできないわけではないだろうから、今後の朝鮮半島の状況が見えるまで更新しなくてよいと考える。


    2019.7.25中日新聞                      Livedoor
                    日韓の主張比較

*5-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO48000050R30C19A7000000/ (日経新聞 2019/7/31) 米、日韓対立仲介の意向 ホワイト国除外延期促す
 ポンペオ米国務長官は30日、輸出規制や元徴用工訴訟問題で対立が深まる日韓両政府に対し、仲介に乗り出す考えを示した。東南アジア諸国連合(ASEAN)関連会合に参加するためバンコクに向かう機内で記者団に明らかにした。「両国はすばらしいパートナー国だ。前進する道を見つけるよう勧める予定だ」と述べた。日韓の関係悪化を食い止める糸口を探るとみられる。日米韓3カ国は31日、8月2日にバンコクで3カ国外相会談を開く方向で調整に入った。ポンペオ氏が、日本の河野太郎外相と韓国の康京和(カン・ギョンファ)外相と会って関係改善に向けて調整する。ポンペオ氏は「両国にとって望ましい落としどころが見つかるよう手助けができれば、それは米国にとっても明確に重要なことだ」とも述べた。ロイター通信は30日、米政府高官が、日韓両国が一定期間は新たな対抗措置を取らない「休止協定」への署名を検討するよう提案したと報じた。日本政府は8月2日にも、輸出管理上の信頼関係があると認めた「ホワイト国」から韓国を除外する政令改正を閣議決定する方向で調整しており、延期をうながす内容とみられる。同高官は協定に関して、日韓が協議する時間を稼ぐことが目的だと説明した。協定の有効期間は定めず、日韓が抱える問題を根本的に解決するものではないとも指摘した。トランプ政権は当初、歴史問題などがからむ日韓問題への関与に慎重な立場をとっていた。だが日韓関係の悪化に拍車がかかると、米国務省高官は26日に「両国の緊張を懸念している」と語った。ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)も7月下旬に日韓を訪れていた。トランプ大統領は19日、日韓の緊張緩和に向けた仲介を韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領から依頼されたと明らかにし、日本からも要請があれば仲介を検討する考えを表明していた。

*5-2:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190802/k10012018361000.html (NHK 2019年8月2日) 北朝鮮 ミサイル2発を発射 米大統領は問題視せず
 アメリカ国防総省は北朝鮮がけさ早く2発のミサイルを発射したと明らかにしました。この1週間余りで発射が相次ぐなか、トランプ大統領は短距離ミサイルは問題視しない考えを改めて示し、北朝鮮に非核化協議に応じるよう呼びかけていく姿勢を強調しました。アメリカ国防総省は北朝鮮が日本時間の2日、2発のミサイルを発射したと明らかにしました。韓国軍の合同参謀本部によりますと、2日午前2時59分ごろと午前3時23分ごろ、短距離の飛しょう体を東部ハムギョン(咸鏡)南道ヨンフン(永興)付近から日本海に向けて発射したということです。北朝鮮は先月25日に短距離弾道ミサイルとみられる飛しょう体2発を、先月31日にも飛しょう体2発を発射していて、北朝鮮による発射はこの1週間余りで3回目になります。トランプ大統領は相次ぐ北朝鮮の発射について記者団の取材に対し、「私としては問題ない。ありふれた短距離ミサイルだ。われわれは短距離ミサイルについては何も合意していない」と述べ、短距離ミサイルに関してはキム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党委員長と発射中止などの約束は交わしていないとして、問題視しない考えを改めて示しました。さらに「北朝鮮との交渉を続けるか」と問われたのに対し、「そのとおりだ。なぜならこれまで短距離ミサイルは協議していない。協議しているのは核だ」と述べ、北朝鮮との対話路線を維持し、非核化協議に応じるよう呼びかけていく姿勢を強調しました。ただアメリカ政府内では、短距離弾道ミサイルであれば国連の安全保障理事会の決議に違反するという指摘が出ているほか、トランプ大統領とキム委員長が3回目の米朝首脳会談で合意した非核化の実務協議もいまだ再開されていません。さらに北朝鮮は米韓が今月予定している合同軍事演習に強く反発していて、米朝の対話路線の行方は一段と不透明になっています。
●北東に向け複数の飛しょう体
 防衛省幹部によりますと、2日午前3時ごろ、北朝鮮が、北朝鮮から北東に向かって複数の飛しょう体を発射したということです。防衛省は、軌道や種類、飛しょう距離などについて分析を進めています。
●政府「日本の安全保障に影響与えず」
 北朝鮮が新たに飛しょう体を発射したことについて、政府は、「わが国の領域や排他的経済水域への弾道ミサイルの飛来は確認されておらず、現時点において、わが国の安全保障に直ちに影響を与えるような事態は確認されていない」としています。
●岩屋防衛相「警戒・監視に万全を期すように指示」
 岩屋防衛大臣は、午前6時半ごろ、防衛省で記者団に対し、「きょう午前3時前後に、北朝鮮が何らかの飛しょう体を発射したと承知している。幹部会議で、情報の収集と分析に努めている。引き続き、警戒・監視に万全を期すように指示した」と述べました。

*5-3:https://digital.asahi.com/articles/ASM824JR2M82UHBI01B.html?iref=comtop_8_07 (朝日新聞2019年8月2日)文大統領「日本、盗っ人猛々しい」 ホワイト国除外で
 韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領は2日午後、臨時の閣僚会議を開き、安倍政権が輸出手続きを簡略化できる「ホワイト国」のリストから韓国を外す政令改正を決めたことについて、「とても無謀な決定であり、深い遺憾を表明する」と語った。文氏は、米国が状況をこれ以上悪化させないよう交渉する時間を持つよう求めた提案に、日本は「応えることはなかった」と非難した。そのうえで、「今後起こる事態の責任は全面的に日本政府にあることをはっきり警告する」と語った。文氏はまた、今回の日本の措置について、元徴用工訴訟で昨年10月に韓国大法院(最高裁)が日本企業に賠償を命じた判決に対する「明白な経済報復だ」と指摘。「人類の普遍的な価値と国際法の大原則に違反する」とも訴えた。さらに、韓国経済への攻撃であり、その未来の成長を妨げようとする明らかな意図を持つものだと主張。「両国関係における重大な挑戦だ。利己的な弊害をもたらす行為として国際社会からの指弾を免れることはできない」と語った。今後の対応についても言及。「相応する措置を断固としてとる。日本は経済強国だが、対抗できる手段は持っている」と訴えた。また、「加害者である日本が、盗っ人たけだけしく、むしろ大きな声で騒ぐ状況は絶対に座視しない」と強い言葉で非難した。一方で、「悪循環は望まない。止まることができる方法はたった一つ、日本政府が一方的で不当な措置を一日も早く撤回し、対話の道に出てくることだ」と呼びかけた。韓国の国民に対しては、「この挑戦をむしろ機会と捉え、新しい経済の跳躍の契機とすれば、我々は十分に日本に勝つことができる」「勝利の歴史を国民とともにもう一度つくる。我々は成し遂げられる」と呼びかけた。

*5-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/408654 (佐賀新聞 2019年8月3日) 対韓国輸出規制 冷静に対立解きほぐせ
 不信と対立が拡大しながら悪循環する状況をコントロールする覚悟があるのだろうか。日本政府が輸出管理で優遇措置を与える「ホワイト国」から韓国を除外する政令改正を閣議決定した。これを受け、韓国の文在寅大統領は「盗っ人たけだけしい」「状況悪化の責任は日本政府にある」などと強い口調で反発した。元徴用工訴訟で韓国最高裁が昨年10月、日本企業に賠償支払いを命じる確定判決を出して以降、日韓政府間の議論はかみ合わないまま、時間だけを浪費してしまった。事態収拾のために日本が要請した政府間協議について、「司法の判断を尊重する」と具体的な対応を先送りしてきた韓国の姿勢が葛藤の根底にあるのは明らか。だが、韓国に対応を迫る手段として、日本が通商カードを持ち出すことに効果があるとも言い切れない。それは、半導体材料の対韓輸出手続きの厳格化を実施してからこの約1カ月の動きを見ても明白だ。韓国は国会の与野党対立を一時休戦して超党派での対応に乗り出し、韓国社会では日本製品の不買運動や日本旅行自粛、自治体や民間の交流事業を相次いで中止するなど、これまでにない対抗の動きが広がっている。このような険悪な流れを沈静化させる構えを両国政府が見せないまま決定された「ホワイト国」除外方針は、文字通り「火に油を注ぐ」結果を招きつつある。対話により摩擦を解きほぐす環境づくりが今こそ求められている。日本は通商分野での圧力を徹底させれば、韓国は遠からず譲歩してくると予測しているようだが、読み誤る危険性を抱えている。日本統治下の1919年に起きた抵抗運動「三・一運動」から今年で100年の節目を迎えている韓国では、民族意識が高まっている。特に、日本統治からの解放記念日「光復節」を8月15日に控えた時点での「ホワイト国」除外決定は、日本の「暴挙」(韓国メディア)と受け止められている。文大統領は談話で、「日本がわれわれの経済を攻撃」しているとの厳しい認識を示したことも、歴史的な意識が背景にあろう。韓国政府は対抗措置の一つとして、韓国も日本を「ホワイト国」から除外すると表明した。65年の国交正常化以来、両国企業人の努力によって積み上げられてきた相互依存の経済環境が損なわれるのは確実だ。日韓両政府が全面衝突している現状が長期化、さらに常態化することは、北東アジアの経済圏だけでなく、安全保障環境も不安定にする。米国は、新たな措置を取らず時間をかけて交渉する「据え置き協定」の仲裁案の受け入れを日韓両国に働きかけている。対立が深刻化すれば、北東アジアの安全保障を巡る日米韓3カ国の連携に支障が出かねないとの懸念からだ。米国は、現在の対決局面が日韓2国間の問題として収拾する一線を越えているとの危機感を抱いているのだろう。日韓両首脳は、米国だけでなく国際社会からどのような視線が注がれているのかを冷静に考え、真剣に対立を解きほぐす努力をすべきだ。米国の仲裁案も検討する価値がある。関係修復の可能性すら摘み取ってしまうような応酬は、日韓双方の国益を損なう打撃となって跳ね返ってくるのだ。

*5-5:https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2019080501001849.html (東京新聞 2019年8月5日) 規制継続なら軍事協定破棄、韓国 米に日本説得を要求
 韓国政府が8月下旬に更新の判断期限を迎える日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)について、日本が強硬な輸出規制を続けるなら破棄するとして、規制撤回を日本に働き掛けるよう米政府に求めたことが5日、分かった。米当局者が明らかにした。米政府は北朝鮮への対処で日米韓連携に亀裂が生じるのを懸念しており、エスパー米国防長官が7日以降、日韓両国を訪問、協定維持を働き掛ける。安全保障上の輸出管理で優遇措置を取る「ホワイト国」から韓国を除外した日本に対抗し、韓国が軍事協定を盾に取り米国により積極的な仲介を求めた形だ。

<北方領土問題>
PS(2019年8月4日追加):北方四島の領土問題は、*6-1のように、「2島だけの返還」に後退しても打開できなかった。これについて、朝日新聞は、いつものように「安倍政権の失敗だ」としているが、ロシアはアジア諸国とは異なり、特定の人との繋がりではなく論理で動く国であるため、日本国内で安倍首相を引きずりおろそうとする力が強まり、安倍政権の持続が危うくなれば、四島返還どころか、*6-2のように、何とかかんとか言って一島も返還しないだろう。何故なら、その方がロシアにとっては国益だからで、安倍首相の努力が足りなかったことが原因ではない。むしろ、北方領土返還交渉のための努力をしている最中に、世界が見ている日本の報道などが、安倍批判・ロシア批判・プーチン批判をし続けたような視野の狭い無責任な報道が大きなスキームをぶち壊したと私は思う。
 また、1991年12月にソ連が崩壊し、1993年にエリツィン大統領が4島返還に合意した時に即4島を返還してもらい、そのかわり日本がロシアに経済協力していれば両方に国益があったので4島返還も実現した筈だが、今では島を返還することにロシア側の国益はなくなったのだ。これは、「先送り」が好きで「現状維持」や「安定」を過度に嗜好する日本人が唯一のタイミングを逸した大失敗なのであり、交渉決裂時の首相や政治家に責任を負わせても「覆水、盆に返らず」であることを素直に認めて改善しなければ、今後とも同じようなことが続くだろう。
 なお、*6-3のように、ロシアのメドベージェフ首相が北方領土の択捉島を四年ぶりに訪問され、日本政府が外交ルートを通じて訪問に抗議したそうだが、形だけの抗議よりも行動の方が強いのは明らかである。


2019.1.22朝日新聞   2019.1.19産経新聞      面積で2等分する解決法

(図の説明:1番左の図のように、エリツィン大統領が4島返還に合意したが、左から2番目の図のように、現在、ロシアは1島も返還しないという理論構成をしている。もともと日本好きだったプーチン大統領は、右から2番目の図のように、面積で2等分することを提案したこともあり、1番右の図のように、他国との交渉でも面積で2等分する解決法が多いが、日本は経済協力した上に放棄させられそうなのだ。私自身は、国後島まで返還してもらい、両国ともあまり開発せずに千島列島とあわせて世界自然遺産にするのがよいと思う)

*6-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14078207.html (朝日新聞社説 2019年7月2日) 日ロの交渉 失敗認め構想練り直せ
 ロシアとの平和条約交渉の行き詰まりが明らかになった。北方四島の領土問題について「2島だけの返還」へ譲歩したが、打開できなかった。安倍政権はこの失敗を率直に認め、交渉の構えを見直すべきだ。プーチン大統領が来日するG20会議を機に、大筋合意を打ち出したい。安倍政権内にはそんな思惑もあったが、結局、具体的な成果はなかった。昨年11月の日ロ首脳会談以降の動きは、日本の一方的な譲歩だった。「四島返還」や「固有の領土」の言葉は封印された。日本外交の概要をまとめた外交青書では、「四島は日本に帰属する」との見解が消された。一方のロシアは、強硬な原則論を繰り返している。四島をロシア領と認めない限り交渉できないとし、「北方領土」という用語も受け入れない。日本の安全保障政策の根幹である日米安保体制をも問題視している。11月の会談後、安倍首相は領土問題について二つの合意があると国民に説明してきた。(1)歯舞(はぼまい)と色丹(しこたん)の引き渡しを記した1956年の日ソ共同宣言を基礎に交渉を加速する(2)自らの手で終止符を打つ決意をプーチン氏と共有している――。だが、いずれの点でも実質が伴っていなかった。56年宣言についてプーチン氏は、2島の主権の引き渡しは確約されていないと主張し、日本側と根本から相いれない。また、プーチン氏は領土問題を「自らの手で解決する」とは一度も公言していない。プーチン氏は昨年9月、「前提条件のない平和条約」の締結を突然提案した。領土問題を棚上げする意図だったが、安倍氏は「条約が必要だという意欲の表れ」と受け止めて、2島だけを交渉対象とする方針に転換した。大きな判断ミスだ。両首脳の会談は今回の大阪で26回目。2人だけの意見交換も長時間重ねてきた。なのに真意をつかめていなかったとすれば、稚拙というしかない。ロシアの対米関係悪化や中国への接近などの国際情勢を十分に考慮せず、首脳間の個人的関係を頼む「抱きつき外交」では道は開けないことがはっきりした。7月の参院選前に成果を上げようと前のめりになった面もあっただろう。領土問題での方針変更について、安倍氏は国会で正面から説明していない。クリミア半島の併合など国際法違反を犯したロシアと今、平和条約をめざすことにも疑問符がつく。ロシアとの建設的な対話は続けながら、平和条約の交渉は巨視的な思考で取り組むべきだ。独り相撲をこれ以上、続けるべきではない。

*6-2:https://toyokeizai.net/articles/-/150477 (東洋経済 2016/12/20) プーチン氏「2島さえ返さない」発言の衝撃度、日ロ首脳会談で北方領土問題は振り出しに
 久しぶりに注目された日ロ首脳会談だったが、結果は自民党の二階俊博幹事長が「国民の大半はがっかりしている」と発言したように、外交的成果の乏しいものだった。特に最大の関心事である北方領土問題については、公表された文書にも安倍晋三首相とプーチン大統領との共同記者会見でも、言及されることさえなかった。12月16日の首脳会談終了後、深夜までテレビ番組をはしごした安倍首相が強調したのは、4島の元住民の墓参など自由訪問の拡充の検討や、4島での共同経済活動を実現するための交渉開始で合意したことだった。領土問題で一歩も譲らないロシアに対し、経済分野での協力で日ロ間の協議をつなぎとめるというあたりが真相だろう。2日間の過密スケジュールをこなした安倍首相が休む間もなくメディアに露出し成果を強調したのは、それだけ国民の期待とかけ離れたものだったと自覚している表れだろう。欧米諸国の首脳に比べると、権威主義国家であるロシアのプーチン大統領が議会やメディアに登場して自らの考えを語る機会は少ない。それだけに首脳会談後の12月16日に行われた共同記者会見、さらには12月14日朝刊に掲載された日本テレビと読売新聞によるプーチン大統領への単独インタビューは、プーチン大統領が日ロ関係や北方領土問題、さらには現在の世界情勢などをどう考えているかを知る絶好の機会となった。そこで明らかになったのは以下のような点である。プーチン氏「4島一括返還は議題にすらできない」。まず北方領土問題だが、プーチン大統領の基本的立場は、「日本とロシアとの間に領土問題はない。あると考えているのは日本である」(日本テレビ・読売新聞の単独インタビュー)であって、長く交渉が途絶えていた冷戦時代のソビエト連邦と変わらないものだった。ただプーチン大統領は、1956年に鳩山一郎首相(当時、以下同じ)がソ連を訪問してブルガーニン首相との間で合意した「日ソ共同宣言」については、両国が批准した法律的文書として、その有効性を認めている。問題はその解釈だ。共同宣言には「日ソ両国は引き続き平和条約締結交渉を行い、条約締結後にソ連は日本へ歯舞群島と色丹島を引き渡す」と書かれている。プーチン大統領は、共同宣言に書かれているのは4島ではなく、歯舞、色丹の2島であるにもかかわらず、日本は4島の返還を持ちだしてきた。「これは共同宣言の枠を超えている。まったく別の話だ」と主張している。つまりプーチン大統領は、日ソ共同宣言は認めるが、それは平和条約締結後の2島引き渡しを書いているだけで、日本政府がこれまで主張してきた4島一括返還などということは議題にもできないという立場である。今回の首脳会談でもこの立場に変化はなかったようで、共同記者会見で両首脳からは「4島の協議」という言葉さえ出てこなかった。これまで日ロ間では、1993年10月に細川護熙首相とエリツィン大統領が、「北方4島の帰属問題を解決して平和条約を締結する」という東京宣言に合意し、2001年3月には森喜朗首相とプーチン大統領が東京宣言の内容を再確認している。さらに2003年1月に、プーチン大統領は小泉純一郎首相との会談で、日ソ共同宣言や東京宣言など日ロ間の一連の合意を平和条約交渉の基礎であると確認した。つまりプーチン大統領は「4島の帰属問題」を協議することを一度は認めていたのだが、いまはそれを完全に否定している。そして、安倍首相の発言を見る限り、日本側もそれを跳ね返すことはできなかったようだ。つまり北方領土交渉は振り出しに戻ったといえるだろう。
●2島を返還すればロシア軍の活動は制約される
 そればかりではない。プーチン大統領は共同記者会見で別の問題も提起している。記者会見の終盤に大統領は次のような発言をした。「(1956年の共同宣言合意の時)米国のダレス国務長官が日本に対して実質的に最後通牒を突きつけた。もし日本が米国の利益に反することをするのなら、沖縄は完全に米国の管轄権に属すことになる、というものだった。なぜ私が今、この話を述べるのか。現在、ロシアはウラジオストック周辺に2つの大きな海軍基地を持ち、我々の艦船が太平洋に出て行く。一方、日本と米国の間には安全保障条約があり、条約上の義務を負っている。我々が柔軟性について述べる時、我々は日本の同僚と友人がこれらすべての微妙さとロシア側の懸念を考慮することを望む」。この発言は非常にわかりにくい。そのためか日本のメディアはほとんど報じていない。まず、ダレス国務長官の発言は、当時の日ソ交渉過程で二島返還論受け入れに傾いた重光外相に対し、「承服しがたい。もし日本が国後、択捉をソ連に帰属させたら、沖縄をアメリカの領土とする」と述べた事件のことであり、この発言は「ダレスの恫喝」として知られる。当時は冷戦の真っただ中で、米国は日本がソ連に接近し西側陣営に風穴があくことを極度に警戒しており、ダレス長官の発言には日ソ交渉の進展を妨害する明確な意図があった。プーチン大統領が「ダレスの恫喝」を引き合いに出して米国に言及したのは、1956年と同じように現在もオホーツク海周辺で米軍とロシア軍が緊張関係にあることを示したのだ。したがって、仮にロシアが2島を日本に帰した場合、その島が日米安保条約の適用対象になれば、オホーツク海などでのロシア軍の活動が制約を受けることになる。安全保障政策上、ロシアはそういう事態は受け入れることができないという意思を示したのだ。つまり、共同宣言には平和条約締結後の2島引き渡しを書いているが、ロシアの安全保障政策上、自国の利益が保てないのであれば引き渡しはもとより、条約締結さえ難しいということを意味する発言なのである。同時に「日本の同僚と友人がこれらすべての微妙さとロシア側の懸念を考慮することを望む」というのは、米国との同盟関係にある日本が米国の意に沿わないことをどこまでやれますかという挑発的な問いかけにもなっている。
●米ロ関係に縛られ、独自外交の展開は困難
 そして、プーチン大統領の発言はさらに踏み込んだ。「1956年の日ソ共同宣言は2島の日本への返還を想定しているが、どのような基礎の上で行われるのかは明らかではない。確かに共同宣言は発効したが、そこには平和条約締結の後に、とも記されている」。日本側は当然、日本の領土として返還されることを意味していると主張している。しかし、プーチン大統領は共同宣言にはどういう条件で引き渡すかまでは書かれていないと解釈している。つまり、「引き渡し」は主権を含むのか施政権などそれ以外にとどまるのか明確ではないというのだ。ロシアからすれば、仮に日本に引き渡しても、その後、米軍が日米安保条約に基づいてその島に軍事施設を作るなど自由に使えるようになってはたまったものではない。したがって、引き渡しについての言質を与えようとしていないのである。プーチン大統領がここまで強い態度に出た背景には、近年の米ロ関係の悪化があるだろう。実際、日ロ首脳会談が行われているその日に、米国では中央情報局(CIA)が米国大統領選で共和党のトランプ氏が勝つようロシアがサイバー攻撃を仕掛けたと調査結果を公表し、オバマ大統領が記者会見で「これはプーチン大統領の関与なしにロシアでは起きないことだ」とプーチン大統領を名指しで批判している。そんな空気の中で、米国と同盟関係にある日本と蜜月関係を築くことなどできようはずもない。日ソ共同宣言から60年たっても、北方領土問題は米ロ関係に縛られ、日本が独自外交を展開することは難しい問題なのである。

*6-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201908/CK2019080302000131.html (東京新聞 2019年8月3日) ロ首相、4年ぶり択捉島 日本側抗議 工場・学校など視察
 ロシアのメドベージェフ首相は二日、北方領土の択捉島(えとろふとう)を四年ぶりに訪問した。日本政府の中止要請に応じず強行した。インタファクス通信などが伝えた。ロシアによる実効支配を誇示し、日本との領土交渉で譲歩しない姿勢を示す狙いがあるとみられる。日本政府は外交ルートを通じ、訪問に強く抗議した。メドベージェフ氏は北方領土を事実上管轄する極東サハリン州訪問の一環として択捉島入り。水産加工場や学校、住宅の建設現場、温泉施設などを視察。現地に駐留するロシア軍の戦闘機乗務員らも激励した。河野太郎外相は二日、「日本の一貫した立場と相いれず、国民感情を傷つけて極めて遺憾だ。領土問題が未解決で、平和条約交渉が行われる中、受け入れられない」との談話を発表。外務省の正木靖欧州局長がロシアのビリチェフスキー駐日臨時代理大使に抗議した。一方、メドベージェフ氏は現地で記者団の取材に応じ、日本の抗議について「われわれの領土を訪れるのに何の心配もいらない。日本側の怒りが伝えられるほど、今後も訪問の理由が増える」と反論した。メドベージェフ氏は大統領だった二〇一〇年十一月、ロシア大統領としては初の北方領土訪問として、国後島(くなしりとう)に上陸。首相となってからも一二年七月に国後、一五年八月には択捉を訪れ、今回が計四度目の訪問となった。

<慰安婦像は芸術か?>
PS(2019年8月5日追加):*7-1の「あいちトリエンナーレ2019」で、「表現の不自由展・その後」と題して、慰安婦像を「表現の場から排除された芸術作品」として展示し、「①感情を揺さぶるのが芸術なのに、『誰かの感情を害する』という理由で自由な表現が制限された」「②政治的主張をする企画展ではない」と主張しているのに、私は最初に記事を読んだ時から違和感を覚えた。何故なら、慰安婦像は、設置された場所からわかるように、まさに②の政治的主張のために作られた立看の立体版であって芸術ではなく、既に日韓請求権協定によって解決済で韓国政府が対応すべきものだからだ。また、慰安婦像の設置によって傷つけられるのは、元慰安婦の女性・慰安婦を募集した人・利用した人などであり、真実性が最も重要で、興味本位で“自由な表現”をすれば名誉棄損・侮辱・人権侵害の性格を持つものである。
 このような中、*7-2のように、「テロや脅迫ともとれる抗議があり、安全な運営が危ぶまれる状況」として実行委が企画全体の中止を決め、芸術監督を務める津田氏が「想定を超えた抗議があり、表現の自由を後退させてしまった」と述べ、ペンクラブも「展示は続けられるべきだ」と声明を発表したそうだが、慰安婦像には(これまでの経緯から明らかなように)存命の加害者と被害者がおり、被害者にとっては二次的セクハラに当たるもので、制作者が真実性を無視して自由に話を作ったり、受け手が自由に鑑賞したりすればよいという性格のものではない。

  
あいちトリエンナーレ        世界で設置されている慰安婦像
 2019の慰安婦像

*7-1:https://digital.asahi.com/articles/ASM7W5KJPM7WOIPE00M.html?ref=weekly_mail&spMailingID=2593510&spUserID=MTAxNDQ3NTg5MjY5S0&spJobID=1060016657&spReportId=MTA2MDAxNjY1NwS2 (朝日新聞 2019年7月31日) 表現の場を奪われた作品展 少女像・九条俳句…再び問う
 3年に1度開かれる国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」が8月1日、名古屋市と愛知県豊田市で開幕する。国内外のアーティスト90組以上が参加。美術館や劇場、街なかを作品で彩る。10月14日まで。2010年に始まり、4回目となる今回は、ジャーナリストの津田大介さんが芸術監督を務め、「情の時代」をテーマに掲げた。感情、情報、情け。3種類の「情」にまつわる作品が各会場に並ぶ。国際現代美術▽パフォーミングアーツ(舞台芸術)▽映像▽音楽▽ラーニングの5部門があり、モチーフや手法を複合的に組み合わせた作品も多い。なかには、部門を超えて来場者らと語り合う「エクステンション企画」を出展するアーティストもいる。
●津田大介さん「実物見て、判断する場を」
 8月1日に愛知県で開幕する国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」で、企画展「表現の不自由展・その後」が開かれる。愛知芸術文化センター(名古屋市東区)を会場に、様々な理由で表現の場を奪われたという二十数点の作品が展示される。なかには、慰安婦をめぐって日本と韓国との間で論争になっている少女像も含まれる。今回の企画展は、2012年に東京の新宿ニコンサロンが、韓国人写真家安世鴻(アンセホン)さんによる元慰安婦の写真展をいったん中止にした問題をきっかけに、市民による実行委員会が東京・練馬のギャラリーで15年に開いた表現の不自由展の続編にあたる。今回のあいちトリエンナーレで芸術監督を務めるジャーナリストの津田大介さんは、15年の表現の不自由展を鑑賞し、「表現の場から排除された作品群に衝撃を受けた」という。昨年、当時の実行委員に再び開催することを打診。新たに結成した5人の実行委員会とともに準備を進めてきた。15年以降に展示できなかった作品も加え、17組が出品する。展示されるのは、安さんの作品のほか、さいたま市の公民館だよりへの掲載を拒否された憲法9条をテーマにした俳句など。少女像は、韓国人彫刻家のキム・ソギョンさんと夫のキム・ウンソンさんが「元慰安婦の苦痛を記憶する」ための象徴として手がけ、「平和の少女像」と呼んでいる。今回は15年と同じ2体を展示する。このうち、韓国の日本大使館前などに設置されている像のミニチュアは、12年に東京都美術館で展示されたが、途中で撤去されたものだ。公立施設での展示は、それ以来となる。元徴用工への補償問題などで日韓関係が悪化するなか、主催者側には、会場での妨害活動などを懸念する声もあったが、警察などとも連携して警備を整え、展示することを決めた。津田さんは「感情を揺さぶるのが芸術なのに、『誰かの感情を害する』という理由で、自由な表現が制限されるケースが増えている。政治的主張をする企画展ではない。実物を見て、それぞれが判断する場を提供したい」と話している。

*7-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201908/CK2019080402000215.html (東京新聞 2019年8月4日) 少女像展示の企画展、中止 津田氏「表現の自由後退」
 愛知県で開催中の国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」実行委員会は三日、慰安婦を象徴した「平和の少女像」などの展示を同日までで中止すると発表した。実行委会長の大村秀章・同県知事が記者会見し「テロや脅迫ともとれる抗議があり、安全な運営が危ぶまれる状況だ」と理由を述べた。少女像は国内の美術館やイベントで近年、撤去や公開中止となった作品を集めた企画「表現の不自由展・その後」の一つとして出品。実行委は企画全体の中止を決めた。事務局によると、開幕からの二日間で抗議の電話とメールは計約千四百件に上ったという。大村知事は「(抗議が)これ以上エスカレートすると、安心安全の確保が難しい」と説明。事務局に「ガソリン携行缶を持って(会場の)美術館に行く」とのファクスがあったことも明らかにした。芸術祭の芸術監督を務めるジャーナリストの津田大介氏も会見し、「想定を超えた抗議があった。表現の自由を後退させてしまった」と述べた。一方、不自由展の実施団体は「中止決定は一方的に通告されたもので、契約書の趣旨に反する行為。法的対抗手段も検討している」との抗議声明を出した。実行委会長代行の河村たかし名古屋市長は二日、大村知事に抗議文を出し少女像などの展示中止を要求。文化庁の補助事業でもあり、菅義偉官房長官も同日、補助金交付を慎重に判断する考えを示した。
◆政治的圧力 検閲につながる ペンクラブ声明
 中止が決まった企画展について、日本ペンクラブ(吉岡忍会長)は3日、「展示は続けられるべきだ」との声明を発表した。声明は芸術について「制作者が自由に制作し、受け手もまた自由に鑑賞する。同感であれ、反発であれ、制作と鑑賞の間に意思を疎通し合う空間がなければ、芸術の意義は失われ、社会の推進力たる自由の気風も萎縮させてしまう」と強調。河村たかし名古屋市長や菅義偉官房長官の発言にも触れ、「政治的圧力そのものであり、憲法21条2項が禁じている検閲にもつながる」と批判している。

<原発の廃炉と使用済核燃料、LNG、再エネのコスト比較>
PS(2019年8月6日追加):東日本大震災時の原発事故を境に、原発は経済的に見合わなくなり既に「大廃炉時代」に入っていて、東電の福島第二原発廃炉も、*8-1のように正式に決定したそうだ。しかし、①危険な廃炉作業に当たる人材 ②40年超とする完了までの長時間 ③使用済核燃料と廃炉解体で生じる大量の放射性廃棄物の処分 などの負の遺産が山積みで、特に②③については、40年超も「とりあえず原発敷地内の地上で仮置きする」というのは、これまでずっと書いてきたように怖いことである。また、廃炉やこれらのごみ処理費用は、誰がどういう形で負担するのかを明確にして、すべて原発のコストに加えなければ、他のエネルギー源との正確なコスト比較はできないわけだ。
 そのような中、正確なコスト比較もせず、*8-2のように、1910年代に、チャーチルが「世界の産油国から分散して調達すれば問題ない」と主張したのを引き合いに出して、「エネルギー安保には調達先の多様性があればよい」と記載している記事もあるが、欧州はじめ世界では、*8-4のように、既に再エネを急増させており、これが正解だ。そのため、今から燃料用にロシアからLNGを購入するシステムを整えるのは無駄遣いで、LNGなら日本近海に大量に存在するため、輸出することを考えたほうがよいくらいなのである。
 また、*8-3のように、経産省は、「再エネは、固定価格買い取り制度により、買い取り費用が電気を使う家庭や企業への賦課金で賄われて毎月の電気料金に上乗せされるので、国民負担の増大に繋がった」としているが、再エネのコストは賦課金で賄われた金額が全てであるため、税金で支払われるコストやさまざまなリスクも含めて正確な原価計算をすれば、再エネは、今でも原発や化石燃料と比較して国民負担が少ない上、環境や安全保障にも優れている。従って、発電時のコストを下げることは重要であるものの、「再エネのコストが高く、国民負担の増大に繋がった」という表現は印象操作である。


                   *8-4より
  世界の再エネ導入量     世界の太陽光発電導入量    世界の再エネ投資額 

(図の説明:左図のように、世界の再エネ導入量は等比級数的に増加し、中央の図のように、特に太陽光発電で著しく増加した。また、右図のように、再エネへの投資額も増えている。その理由は、日本のように結果ありきの無茶な議論を展開せず、論理的思考をするからだ)

*8-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2019080302000140.html (東京新聞社説 2019年8月3日) 福島第二原発 大廃炉時代の範となれ
 東京電力福島第二原発の廃炉が正式に決定した。3・11を境に経済的に見合わなくなったこともあり、世はすでに「大廃炉時代」に入っている。出遅れを取り戻し、時代の先頭を走ってもらいたい。福島県と県内の全市町村が、県内の全原発を廃炉にするよう求めていた。住民感情に照らしてみれば、当然のことではないか。原発事故から八年余。東電は再稼働による収益改善にこだわった。「遅すぎた決断」との批判も、また当然だ。廃炉決定の報告を受けた福島県の内堀雅雄知事は、安堵(あんど)の表情を見せたという。だが、本当に大変なのはこれからだ。三基がメルトダウン(炉心溶融)を起こした第一原発と合わせて計十基。同時並行の廃炉事業は世界に例がなく、並大抵のことではない。完了までに四十年超とする東電の見込み通りに作業が進む保証はない。危険な作業に携わる人材が、将来にわたって確保できるかどうかも定かでない。それ以上にやっかいなのが、廃炉に伴う“ごみ”である。まずは使用済み核燃料。福島第二原発の燃料プールには、四基計一万七十六体が保管されている。搬出先は「今後検討」。とりあえずは空冷の金属容器に入れて、地上で厳重管理(乾式貯蔵)するしかない。原発敷地内での仮置きだ。その上、廃炉解体によって生じる放射性廃棄物の総量は、五万トンを超えるという。どうすれば、福島は心から安堵できるのか。核のごみの最終処分場を探し始めてかれこれ二十年。いまだ候補地が見つかる気配はない。東電は、もう一つある柏崎刈羽原発の再稼働に前向きだ。しかし、こと原子力に関しては、未曽有の事故の当事者として、ごみ処理を含む廃炉事業に全力を傾注すべきではないか。福島の事故以前に表明した三基を含め計二十四基が廃炉を決めた。「大廃炉時代」は、とうに始まっていた。法律で定められた四十年の寿命が尽きて廃炉に至る原発は、今後も増える。なのに、政府は運転延長や新増設を視野に入れ、原発を「基幹電源」に位置付けたままである。時代遅れというしかない。効率的な廃炉技術の開発や最終処分場の選定を政府も全力で後押ししつつ、再生可能エネルギーの普及を加速-。廃炉時代とは、そういう時代なのではないか。

*8-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190805&ng=DGKKZO48193210U9A800C1TJC000 (日経新聞 2019年8月5日) エネルギー安保に多様性 編集委員 竹田忍 北極圏、新たな選択肢に
 原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡で米英両国とイランが対立、緊張が増している。非中東のエネルギー資源を求める各国は今、北極圏に熱い視線を注ぐ。米地質調査所(USGS)によればこの地域に眠る未発見の石油は世界の13%、天然ガスは30%を占める。ロシアのエネルギー・金融研究所のアレクセイ・グロモフ・エネルギー担当部長は1月、新潟市の講演で「ロシアのガス輸出で大半を占める欧州は再生可能エネルギーが急増している。今後のガス輸出は東方に向かう」と東アジア重視を強調した。呼応するかのように三井物産と石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は6月、ロシア企業が北極圏で進める液化天然ガス(LNG)事業「アークティック2」に計10%の出資を表明した。同月には北極海に面したロシアのヤマル半島で生産したLNGを積んだタンカーが北極海を西に進み、ヨーロッパを回りスエズ運河経由で「戸畑LNG基地」(北九州市)に到着した。これが「西回り北極海航路」というルートだ。同基地を管理する北九州エル・エヌ・ジーには九州電力と日本製鉄が出資している。だが今後、重要なのは北極海を東進して、ロシアとアラスカの間を通る「東回り北極海航路」だ。温暖化で夏季は海氷が緩み、ベーリング海を通るルートが使えるようになった。ヤマルから東アジアへの航海日数は西回りに比べ18日短縮でき、二酸化炭素(CO2)排出量が約30%減る。西部ガスは中国などに向かう東回り北極海航路のLNG中継基地に自社施設を活用する構想を打ち出した。大気汚染対策で石炭から天然ガスへの切り替えを急ぐ中国は東回り北極海航路の最適ルート開拓に精力的だ。中国沿岸部から日本海を経て宗谷海峡を抜け、オホーツク海を北上、ベーリング海から北極海に入る。ただロシアはオホーツク海に安全保障の中核を担うミサイル搭載原子力潜水艦を配備している。防衛省防衛研究所の兵頭慎治・地域研究部長は「オホーツク海を頻繁に通過する中国船にロシアは神経をとがらせている」と話す。千島列島に新規配備する地対艦ミサイルでロシアがにらみを利かせる相手は、北極海航路を行く西側諸国の船に限らない。米国への対抗策で結びつく中ロの蜜月は盤石と言い難い。その点、日本の立ち位置は地域の信頼関係醸成に役立つのではないか。ロシアから北極圏の石油・ガスを輸入することに地政学的リスクはある。だが大阪ガスの尾崎裕会長は「北極圏開発に巨費を投じたロシアは資源を売って早期回収したいはず」と読む。エネルギー安全保障の要諦は分散化だ。海軍大臣だったチャーチルは1910年代に燃料を石炭から石油に転換し、英海軍の近代化に成功した。英国産石炭から輸入の石油への切り替えに反対は強かったが、チャーチルは世界の産油国から分散して調達すれば問題ないと主張し押し切った。「エネルギー白書2019」によれば日本の原油の中東依存度は87.3%と極端に高い。北極圏という新たな選択肢は日本にとって貴重であり、企業が果たす役割も大きい。

*8-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190806&ng=DGKKZO48225300V00C19A8EA2000 (日経新聞 2019年8月6日) 再エネ、コスト重視 普及優先の買取制から転換 経産省、市場活用へ新制度
 経済産業省は5日、太陽光や風力発電の事業者がつくった電気を大手電力があらかじめ決めた価格で買い取る制度を新規認定分から終了し、別の制度に切り替える案をまとめた。東日本大震災後に再生可能エネルギーの普及を最優先した「量」重視の現行制度は、国民負担の増大につながったためだ。発電時のコストを下げさせる「価格」重視への転換を図る。5日の総合資源エネルギー調査会の小委員会で中間整理案として示した。今後詳細を詰めたうえで2020年にも関連法の改正を目指す。固定価格買い取り制度(FIT)は11年の震災や原子力発電所事故などで再生エネの導入機運が高まる中で12年から始まった。買い取り費用は、電気を使う家庭や企業などから広く集める賦課金でまかなわれ、毎月の電気料金に上乗せされている。当初、事業用太陽光の買い取り価格は1キロワット時あたり40円と「普及を急ぎ海外比で割高に設定してしまった」(経産省幹部)。価格を年々引き下げ19年度には同14円となったものの、国民負担は膨らみ続けた。19年度の買い取り費用のうち、家庭や企業に転嫁する分は約2.4兆円と、消費税に換算すると1%程度に相当する。中間整理案では大規模の事業用太陽光や風力について、発電事業者自らが販売先を見つけたり、電力卸市場で売ったりすることを求める代わりに「投資回収について一定の予見性を確保できる仕組み」を新たに目指すとした。卸市場で電力価格が急落して基準価格を下回った場合に国が補填する仕組みなどが有力だ。切り替えは「電源ごとの案件の形成状況を見ながら」としており、普及が進んだ太陽光から先に適用する見通し。新制度が適用されるのは新規認定する案件で、既存案件は認定から20年の買い取り期間が終わるまで現行制度のままとなり、国民負担の引き下げにつながるまでには時間がかかる。家庭用太陽光は現行制度から変わらず、余剰電力を固定価格で一定期間買い取る。ただ前身となる家庭用太陽光を対象にした余剰電力買い取り制度は09年に始まっており、19年11月から10年間の買い取り期間が終わる「卒FIT」の家庭が出始める。この電力では電力の安定調達や集客を狙い、大手電力や新電力、小売りなどの企業が争奪戦を繰り広げている。

*8-4:https://www.isep.or.jp/archives/library/11103 (自然エネルギー世界白書 訳:認定NPO法人環境エネルギー政策研究所 2018年6月4日) REN21「自然エネルギー世界白書2018」公表:電力部門の変革は加速している − しかし、熱利用と交通でも早急な対策が求められている
●178GWの自然エネルギーが2017年に全世界で導入された。
 REN21の自然エネルギー世界白書(GSR)2018によれば、自然エネルギー発電設備は2017年に世界の発電容量の正味増加分の70%を占め、近年で最大の増加となった。しかし、合わせて世界の最終エネルギー需要の5分の4を占める熱利用と交通部門での自然エネルギー利用は、電力部門に比べて大きく遅れをとったままである。
●世界の自然エネルギー発電設備導入量(2007〜2017年)
 本日発表されたGSR2018は、世界の自然エネルギーの概況を最も包括的に示す年次報告書である。太陽光発電の新設容量は記録的な規模となった:2017年に新設された太陽光発電の設備容量は前(2016)年と比べて29%増の98GWだった。これは、石炭火力発電、天然ガス発電、原子力発電の正味拡大分の合計よりも多かった。風力発電も自然エネルギー発電の拡大に貢献し、世界全体で52GWが新設された。
●世界の太陽光発電設備導入量(国・地域別 2007〜2017年)
 新設自然エネルギー発電への投資は、火力発電への巨額の補助金が現在もあるにもかかわらず、火力発電所と原子力発電所の正味追加分への投資額の2倍以上となった。2017年には発電部門への投資の3分の2以上が自然エネルギーへと向けられた。その理由は、自然エネルギー発電のコスト競争力が高まっていることに加え、今後も電力分野での自然エネルギー割合は増加の一途をたどると考えられているからである。
●世界の自然エネルギー電力・燃料への新規投資(先進国・新興国・途上国 2007〜2017年)
 自然エネルギーへの投資は特定の地域に集中している:2017年の世界の自然エネルギー投資の約75%が中国と欧州、米国に向けられた。しかしながら、GDPあたりの投資額で見ると、マーシャル諸島、ルワンダ、ソロモン諸島、ギニアビサウ、その他多くの発展途上国において、先進国や新興経済国と同等かそれ以上の投資が行われている。もし世界がパリ協定に基づく目標を達成しようとするならば、熱利用部門と交通部門は電力部門と同じ道筋を、速く辿る必要がある。ところが熱利用と交通部門では以下の状況が見られる:
熱利用部門では自然エネルギーの導入はほとんど進まなかった:現代的な自然エネルギーは2015年に世界全体の熱生産量合計の約10%を供給したにすぎない。電力部門の自然エネルギー目標は146カ国が設定している一方で、熱利用部門の自然エネルギー利用の国家目標は全世界で48カ国にしかない。小さな変化は起こっている。例えばインドでは、太陽熱利用機器の導入量は2016年と比べて2017年に約25%増加した。中国は2020年までに建築物の冷房負荷の2%を太陽熱エネルギーにより賄う目標を持っている。交通部門では、依然として化石燃料が圧倒的に優勢ではあるものの、電動化が進むことで自然エネルギー導入の機会となりうる:毎年3,000万台以上の電動二輪車や電動三輪自動車が世界の道路輸送で増加しており、120万台の電気自動車が2017年に販売され、2016年と比べて約58%増加した。電力は交通部門のエネルギー需要の1.3%を供給し、その4分の1が自然エネルギーによるものであった。さらにバイオ燃料は2.9%を供給した。しかしながら、全体として見ると、交通部門のエネルギー需要の92%は石油により賄われており、交通部門での自然エネルギーの利用目標を定めているのは42カ国にすぎない。
●最終エネルギー消費における自然エネルギー(部門別 2015年)
 これらの部門を転換していくためには、正しい政策枠組みを実現することが必要であり、遅れている部門での自然エネルギー技術のイノベーションと発展を刺激する必要がある。「『電気』イコール『エネルギー』とみなすことは自己満足につながっている」とラナ・アディブREN21事務局長は述べる。「我々は100%自然エネルギー電力の未来への道筋へ急速に突き進んでいるかもしれない。しかし、熱利用と交通となると、まるで時間がいくらでもあるかのように、ゆったりと進んでいる。残念ながら残された時間は多くはない」。アルソロス・ゼルボスREN21議長はこう付け加える:「エネルギー転換を実現するためには、政府による政治的リーダーシップが必要となる。化石燃料と原子力への補助金をやめること、必要なインフラへの投資を行うこと、熱利用と交通部門への意欲的な目標と政策を確立することがその例である。こうしたリーダーシップがなければ、世界が気候変動と持続可能な発展に向けた誓約を達成することは難しくなるだろう」

<食料とエネルギーの安全保障>
PS(2019年8月8日追加):*9-1のように、再処理工場でのリサイクルが破綻し、(地震に弱い)原子炉近くの高所にあるプールの使用済核燃料が1万5350トンに達して、プールの収容能力が数年で限界になるため、原子力規制委員会が(最終処分場は探さず)使用済核燃料をキャスクに収めて原発敷地内の地上で空冷する「乾式貯蔵」の「仮置き場」設置を容認し、これにより安全を徹底すべき最終処分が30~40年先送りされる。乾式貯蔵用のキャスクは、フクイチが津波に襲われた時も大きな問題がなかったそうだが、①建物が流されればキャスクも飛散する ②地上にあれば火災やミサイル攻撃のリスクがある ③地上にあれば放射線被害のリスクもある などの問題があり、今度はこれらを想定外にするというのは無防備すぎる。また、④保管を容認する自治体に交付金を支払わなければならず(誰がいくら支払うのか?) ⑤多くの地域に分散保管すれば管理の甘い所も出る わけである。
 原発事故は、人体に放射線が直接あたるだけでなく、汚染された土壌で栽培された放射性物質を含む食品を食べることによっても、心臓病や癌になるリスクを増やす。そのため、*9-2-1・*9-2-2のように、2018年5月2日現在でも食品の出荷制限があり、除染されていない山に生えるキノコや山菜は(味が変わらなくても)食べられない。そして、これは、農林漁業や国民にとって大きな損失なのだ。
 そのような中、政府がTPPやEUとのEPAなどで貿易自由化を行い、日本の農業は現在のところ敗退しているため、農業生産基盤はさらに弱体化しつつあり、*9-3のように、2018年度の食料自給率はカロリーベースで37%と前年度からさらに1%下がって過去最低になった。これでは、食糧・エネルギーの安全保障には程遠く、第二次産業における日本の優位性は、繊維や家電を見ればわかるとおり永続するものではないため、第一次産業による食料やエネルギーの自給率も高めておかなければ、望むものが入手できない時代が到来するのである。

   
2018.5.16    原発事故時の土壌汚染        主要国の食料自給率
 Livedoor
(図の説明:1番左の図のように、使用済核燃料は各原発の原子炉近くのプールで満杯に近くなっており、フクイチ事故時は使用済核燃料も爆発して、左から2番目の図のように、放射性物質が風に乗って東日本の広範囲に拡散した。これが玄海原発で起こると、左から3番目の図のように、放射性物質は九州一円に拡散して農林漁業地帯を汚染するが、これは泊原発や柏崎刈羽原発などでも同じだ。このように農林漁業を軽視した結果、日本の2018年度の食料自給率はカロリーベースで37%と、1番右の図のように先進国の中でも著しく低くなっている)

*9-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190808&ng=DGKKZO48347160X00C19A8EA1000 (日経新聞 2019.8.8) 使用済み核燃料、収容限界、原発内に「仮置き場」 規制委が容認
 原子力発電所の稼働で出た使用済み核燃料を、敷地内に一時保管する取り組みが始まる。核燃料を国内でリサイクルする工場の完成が遅れ、数年以内に収容能力が限界に近づく原発が出てくるためだ。原子力規制委員会は「仮置き場」の設置を容認し、6月から審査に本腰を入れ始めた。原発の運転を続けるための苦肉の策だが、問題の先送りにすぎず原発の安定稼働に課題は残る。
●7割超ふさがる
 使用済み核燃料は熱を帯び、原子炉近くのプールなどで冷やす。そのプールの収容能力が足りなくなろうとしている。電気事業連合会によると全国17原発の収容能力は2万950トン。2019年3月時点で1万5350トン分がふさがり、受け入れ能力は3割を切った。11年の東京電力福島第1原発事故後にできた新規制基準の下、運転を始めた原発にとっては深刻な問題だ。使用済み核燃料の保管が難しければ、運転はできない。電力各社は、プールに代わる保管場所の確保に躍起になっている。九州電力の玄海原子力発電所(佐賀県)では収容能力の8割超まで増えた。「貯蔵状況は非常に逼迫している」(豊嶋直幸取締役)。原発の運転と定期検査を4回(約5年)繰り返すと、プールに収まりきらなくなる。九電はプール外の「仮置き場」やプール内で核燃料の間隔を狭める措置の認可を規制委に申請した。規制委は九電の管理方針を了承し、6月以降、施設の本格的な審査に入った。仮置き場などが認められたら、さらに10回分(約13年)の余裕ができる見込みという。他社も頭を抱える。伊方原発(愛媛県)を持つ四国電力は18年5月、浜岡原発(静岡県)を保有する中部電力は15年1月に仮置き場などの措置を申請した。北海道電力や、東北電力も対応策を検討中だ。
●工場の完成遅れ
 使用済み核燃料は、青森県六ケ所村にある日本原燃の再処理工場でリサイクルするはずだった。しかし1997年に完成予定だった再処理工場は、トラブル続きで完成は2021年度以降にずれ込む。再処理はかつては海外に任せたこともあったが、原則は国内で実施する。一時保管の場所を探さなければならなくなった。
規制委も対応を迫られる。3月、仮置きや輸送に使う金属製容器「キャスク」の耐震性や強度に関する規制基準を示した。仮置きでは、使用済み核燃料をキャスクに収め地上で空冷する。「乾式貯蔵」という方法だ。規制基準を通った型式のキャスクは全国共通で使えるようにする。東日本大震災時に福島第1原発で乾式貯蔵のキャスクが津波に襲われたが、大きな問題はなかった。規制委の更田豊志委員長も「乾式貯蔵施設を設け、プール内の貯蔵量を増やさない努力が安全上は望ましい」と話す。関西電力は原発内での仮置きは想定していないとの立場だ。同社の全原発が立地する福井県の西川一誠前知事が県外での保管を強く求めてきた。ただ、最近では福井県内の一部の自治体から一時的な乾式貯蔵の受け入れ容認論が出ている。4月の知事選に勝利した杉本達治氏は県外の一時保管を前提としながらも、原発立地自治体の議論も踏まえて県内での一時的な乾式貯蔵にも含みを持たせている。関電は「福井県と約束する県外の候補地選定を急ぐ」(岩根茂樹社長)としているが、福井県内での一時的な乾式貯蔵が選択肢として存在感を高める可能性がある。全国の原発で乾式貯蔵が進めば当面の保管場所を確保できそうだが、問題が解決したわけではない。再処理工場の完成は20回以上延期した経緯があり、先行きは見通せない。再処理では、原爆の原料になるプルトニウムが出る。厳密な管理という別の問題も抱える。

*9-2-1:http://blog.livedoor.jp/masawat1977/tag/%E8%A2%AB%E6%9B%9D?p=3 (Livedoor 2018年05月16日) 原子力災害対策特別措置法に基づく食品に関する出荷制限等:平成30年5月2日現在
 5月2日現在の食品の出荷制限情報をご覧ください。これは、東日本全域が汚染された証拠であり、浄化されるまで何世紀かかるかわからない。キノコ採りも山菜採りも、生存中は控えるべきだろう。「食べて応援」される方は、自己責任でお願いいたします。放射性核種は、福島第一原発から、大気中へ太平洋へと、現在も放出されている。

*9-2-2:https://www.mhlw.go.jp/file/01-Kinkyujouhou-11135000-Shokuhinanzenbu-Kanshianzenka/0000186805.pdf (厚労省 平成30年6月13日現在)原子力災害対策特別措置法に基づく食品に関する出荷制限等

*9-3:https://www.agrinews.co.jp/p48394.html (日本農業新聞 2019年8月7日) 食料自給37%最低に 18年度 米凶作93年度と並ぶ
 農水省は6日、2018年度の食料自給率がカロリーベースで37%と前年度から1ポイント下がり、過去最低となったことを明らかにした。小麦、大豆の主産地である北海道が天候不順で生産が大幅に減ったことに加え、両品目や畜産物などの生産が全国で増えていないことが要因。生産基盤の弱体化に歯止めがかからず、食料安全保障の確立には程遠い現状が浮き彫りになった。食料自給率は、国内の食料消費を国内の食料生産で、どの程度賄えるかを示す指標。37%は、冷夏で米が大凶作に見舞われた1993年度と並び、記録がある60年度以来、過去最低の数値だ。小数点以下を含めると18年度は37・33%で、93年度の37・37%を下回る。生産額ベースの自給率は66%。過去2番目に低かった前年度と同じだった。カロリーベースの低下要因について同省は、北海道の天候不順による不作を挙げた。18年度の小麦生産量は前年度比16%減、大豆が17%減で「面積当たり収量が近年にない低水準となり、生産が大きく減少した」(大臣官房)と説明する。牛肉や乳製品の輸入増加も要因に挙げ、国内生産の増加を上回って輸入が増えたとした。環太平洋連携協定(TPP)や欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)の影響は、発効から2、3カ月のため、今回の自給率への影響には否定的な見方を示した。中長期的に見て自給率は09年度以降、下がり続けている。引き下げ要因になった品目のうち、小麦の生産量は77万トン、大豆は21万トンと最近5年間で最も少ない。牛肉は48万トンで、15年度に50万トンを割り込んで以来、40万トン台が続く。また、食料の潜在生産能力を試算する「食料自給力」の指標も示した。栄養バランスを考慮して米、小麦、大豆中心に作付けする場合、1人1日当たりに供給できるのは1429キロカロリーと、前年度から5キロカロリー減少した。農地面積の減少や面積当たりの生産量の伸び悩みで、低下傾向で推移している。
[解説] 生産基盤の再建急務
 食料自給率が過去最低に落ち込んだ背景にあるのは、生産基盤の弱体化だ。自給率目標を示す新たな食料・農業・農村基本計画で、食料安全保障を担保する展望を示すことができるか。政府は重い課題を突き付けられている。現行のカロリーベース目標は、現実的な目標とするため、以前の50%から45%に引き下げた。だが、自給率が上向く兆しは見えず、目標との隔たりは広がるばかりだ。最後に45%を上回ったのは、1994年度。その後も40%前後で長く推移したが、大きく上昇した年はなく、近年は再び下降局面に入った。現在は小麦や大豆、畜産物の自給率の低さが目立っているが、人と農地の基盤の縮小に歯止めをかけなければ、中長期的には、他の品目の安定供給も危うくなる。農水省によると、直近の農業経営体数は約119万件で5年間で2割減った。法人化や農地集積は進むが、大半を占める家族経営体の離農を補うには至っていない。顕在化する生産基盤の弱体化に歯止めをかけて、自給率を引き上げ、食料安全保障を確立するための具体策が求められている。

<中国も民主的な先進国になるべき時だ>
PS(2019年8月9日追加): *10-2のように、米国が中国の人民元安値誘導を非難して「為替操作国」の認定をしたことについて、愛媛新聞は「米の圧力強化は、対立を深めるだけだ」と記載しているが、公正な貿易を行うためのルールを護ることは言う必要がある。
 何故なら、中国の人民元は、*10-1のように、中国人民銀行が「基準値」を示し、この上下2%以内の価格でしか取引できない「管理変動相場制」を採用しており、これは人民銀行が元安に導けば中国の輸出に有利になる仕組みで、円・ドル・ユーロなどが採用している「変動相場制」とは異なるからだ。そのため、GDPが世界第二位となり先進国の仲間入りを果たした中国は、①「変動相場制」に移行し ②進出企業への技術移転の強要をやめ ③知的財産権の侵害で公正競争を歪めないよう、経済先進国としての構造改革を進めるべきだ。
 さらに、*10-3のように、香港における「逃亡犯条例」改正案への抗議デモに関し、中国国営中央テレビ(CCTV)が「米外交官が、裏で糸を引いて香港を混乱に陥れた黒幕」と報じ、デモの学生指導者と接触した米外交官の写真や個人情報を流出させたそうだが、香港人の抗議デモは香港人の真の要求のように見えるので、改革開放から40年経過した現在、中国は新憲法を作って本当の民主化を行うべき時期に来ていると思う。


 2017.10.19     2018.2.4        2018.12.18      2018.12.4
  毎日新聞      産経新聞         朝日新聞        時事

(図の説明:1番左の図のように、中国は鄧小平主席の時に改革開放を始め、左から2番目の図のように著しい経済成長を遂げ、右から2番目の図のように、現在は世界第2位の経済大国になった。しかし、民主主義や人権の尊重はあまり進んでいないように見える。ジェンダーギャップ指数は、1番右の図のように、儒教の影響か中国100位・日本114位・韓国118位と並んで下の方にいるが、自分の本当の意見を言える女性リーダーが多いと政治も変化するだろう)

*10-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/economic_confe/list/CK2015081402000196.html (東京新聞 2015年8月14日) 人民元相場 仕組みは? 取引目安 当局決定
 中国人民銀行(中央銀行)が三日連続で、通貨・人民元の価値を下げる「切り下げ」に踏み切った。急激な元安への誘導で世界を驚かせた中国特有の制度とは、どんな仕組みなのか。あらためて整理してみた。
Q そもそも通貨の価値はどうやって決まるの。
A 円やドル、ユーロなどの通貨は、市場での自由な取引で他の通貨に対する価値が決まる「変動相場制」をとっている。だが、人民元は「管理変動相場制」と呼ばれていて、中国当局が管理をしている。急激に元高が進み中国企業の輸出競争力が落ちるなど、中国経済に悪影響が出るのを防ぐためだ。
Q 具体的にはどうやって管理するのかな。
A 日本の日銀のような存在の人民銀が、取引の目安になる「基準値」を毎朝市場に示し、この値の上下2%以内の範囲でしか取引できないように制限している。制限を超えそうな場合は、当局がドル買いなどの市場介入をして防ぐといわれている。
Q 今回、制度に変化があったの。
A 人民銀が基準値の決め方を変えて、大幅な元安に誘導した。これまでは、国内の銀行から聞き取った為替レートに基づいて基準値を決めていたが、十一日からは前日の終値を参考に算出するようにした。中国当局は「基準値と市場の実勢レートとの差が大きくなっていたため」と説明しているが、詳しい算出方法は明らかにしておらず、透明性に不安が残る。
Q 今後はどうなるの。
A 切り下げ幅は、三日間で計約4・6%だった。人民銀は、基準値と市場の食い違いが修正されたとして、今後は大幅な引き下げをせず、相場を安定させる方針を示した。ただ、新興国などが自国の輸出競争力を上げるため、中国に対抗して切り下げを行う「通貨安競争」に発展する可能性もあり、市場の動揺が収束するかはまだ分からない。

*10-2:https://www.ehime-np.co.jp/article/news201908090014 (愛媛新聞社説 2019年8月9日) 中国を為替操作国認定 米の圧力強化 対立深めるだけだ
 トランプ米政権は中国が貿易を有利にするため人民元を安値誘導していると非難し、「為替操作国」の認定に踏み切った。中国の為替操作国認定は25年ぶりで、米国は制裁を視野に是正を強く迫る構えだ。米中対立は貿易分野から通貨政策にも拡大し、泥沼の様相を見せ始めた。各国の金融市場は動揺し、株安や円高が進む。二大経済国による対立のエスカレートは、当事国のみならず世界経済そのものを危うくしかねない。双方は制裁と報復の応酬をやめ、対話によって解決の糸口を探すべきだ。発端はトランプ米大統領が中国からの輸入品3千億ドル(32兆円)分に、10%の追加制裁関税を課すと表明したことだった。9月1日に発動する予定で、実現すれば中国からのほぼ全ての輸入品が追加関税対象となる。米側による為替操作国認定はこの追加関税の効果を維持するのが狙いだ。対ドルで11年ぶりの安値水準にある人民元が、さらに下落すれば追加関税分が相殺され、制裁効果は薄れる。追加関税と為替操作国認定を立て続けに打ち出すことで、中国に圧力をかけ、譲歩を引き出したい考えとみられる。だが、トランプ氏のやり方は乱暴だと言わざるを得ない。6月下旬の米中首脳会談では米国が新たな制裁関税の発動を見送り、協議継続で一致していた。トランプ氏は協議が進まないことにしびれを切らし、わずか1カ月余りで合意を破棄したことになる。来年の大統領選再選に向け、支持者へのアピールを狙ったのは明らかだ。トランプ氏がドル安につなげようと、利下げ圧力を強めていることも問題だ。米連邦準備制度理事会(FRB)は10年7カ月ぶりに利下げを実施したが、トランプ氏は不満を示し、さらなる利下げを要求している。米中が本格的な通貨安競争に突入すれば各国を巻き込み、世界経済が消耗戦に陥るのは必至だ。米国には自制が不可欠で、中国を為替操作国と断じておきながら、ドル安に誘導しようとするのは筋が通らないと認識しなければならない。中国は米国の制裁拡大に反発し、中国企業による米農産品の新規購入を停止するなど対抗措置を強めている。しかし強硬策で応酬しても出口は遠のくだけだ。中国にも批判されるべき点はある。人民元相場は当局の管理下にあり、これまでも透明性が問題視されてきた。技術移転の強要や外国企業に対する知的財産権侵害は公正な競争をゆがめている。中国は米国との対話と並行して、責任ある大国として構造改革を進めるべきだ。米中対立のあおりで円高が進む日本は警戒を強めたい。自動車など基幹産業の業績に影響が出始めており、10月の消費税増税を控え、国内景気の腰折れリスクが高まっている。事態の早期打開に向け、日本は国際社会と連携し、米中に粘り強く歩み寄りを促さなければならない。

*10-3:https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/08/post-12734.php (Newsweek 2019年8月9日) 香港デモ指導者と接触の米外交官を中国がリーク? 米政府「中国は暴力的政権」と批判
 米国務省のオルタガス報道官は8日の記者会見で、中国本土への容疑者引き渡しを可能にする香港の「逃亡犯条例」改正案への抗議デモに関し、デモの学生指導者と接触した米外交官の写真や個人情報を流出させたとして中国政府を「暴力的な政権」と呼んで批判した。中国系香港紙の大公報は、香港の米総領事館員がデモの学生指導者らと接触する様子を撮った写真を報じた。これについて香港にある中国外務省の出先機関は8日、米国に説明を求めた。オルタガス報道官は「米外交官の個人情報や写真、子供の名前を流出させることは正式な抗議ではなく、暴力的な政権がやることだ」と批判。「責任ある国家の振る舞いではない」と断じた。外交官の名前やどのような個人情報が流出したかについては言及しなかった。米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)によると、中国国営中央テレビ(CCTV)はこの米外交官が「裏で糸を引いて香港を混乱に陥れた黒幕」だと報じた。オルタガス氏は、米国やその他諸国の外交官は、反体制派の指導者を含めてさまざまな人々と面会するのが仕事だと強調した。

| 外交・防衛::2014.9~2019.8 | 12:38 PM | comments (x) | trackback (x) |
2019.7.22 女性リーダーの誕生を妨げる女性蔑視と女性差別(2019年7月23、24、25、26日に追加あり)
  
国会議員の女性割合     管理職の女性比率   女性・女系天皇(2019.7.10毎日新聞)

(図の説明:左図のように、日本の国会議員に占める女性割合は著しく低く、中央の図のように、管理職に占める女性割合も低い。さらに、右図のように、女性天皇・女系天皇に未だ反対する政党もあり、世界からは周回遅れになっている)

  
   2019.7.22毎日新聞    2019.7.22読売新聞     2019.5.13朝日新聞

(図の説明:2019年参院選の結果は、左図のようになった。女性は、中央の図のように、候補者に占める女性割合より当選者に占める女性割合が低く、一般に女性の当選率の方が悪いことがわかる。また、女性・女系天皇を認めた場合の皇位継承順位は、右図のようになる)

(1)リーダーになる機会の男女平等はあるのか
1)2019年の参院選について
 *1-2のように、①2013年4月に安倍首相が成長戦略に女性活躍を盛り込み ②2014年1月の国会施政方針演説では「全ての女性が活躍できる社会をつくるのが安倍内閣の成長戦略の中核」と述べられ ③2016年4月には企業や自治体に女性の登用目標などの計画策定・公表を義務付けた女性活躍推進法を施行し ④2018年5月には「政治分野の男女共同参画推進法」が議員立法で成立して、女性が活躍しリーダーになるための法律整備は既にできている。

 しかし、2019年の参院選における主要政党の女性候補割合は、野党は社民(71%)、共産(55%)など女性が半数を超える政党もあり、立憲民主(45%)も約半数だが、与党は自民(15%)、公明(8%)と低かった。これには意識の低さ以外に、すでに現職で埋まっているため新しい候補を擁立しにくいという事情もあるだろう。

 世の中は、少子化による生産年齢人口割合の減少で物理的にも女性労働力の重要性は増しておりが、女性の地位向上によって男性にはない視点からの気付きを意思決定や政策に反映しやすくなる。そのため、男性優位の習慣や制度は大胆に変えるのが経済的にも有効だが、日本の女性登用は欧州連合(EU)委員長と欧州中央銀行(ECB)総裁に女性を起用した欧州に比べると30年遅れである。

 なお、7月21日に投開票された参院選の候補者となった女性の当選率は、*1-1のように、26.9%で、男性の36.1%に及ばず、女性候補の比率は過去最高の28.1%となったものの全当選者に占める女性の比率は22.6%に留まった。選挙区別では、女性当選者が東京で半数の3人を占め、神奈川や大阪でも半数だったが、九州は全体で0だった。

 女性の当選率が低い理由は、女性候補が野党に多く、現職でない上に準備期間も短いため、不利な闘いを強いられることだろう。しかし、九州の0は、*2-2に代表される女性蔑視が大きな原因の一つだと考える。

2)世界と日本の男女平等度
 日本の男女平等度は、*1-3のように、世界経済フォーラムが公表する「ジェンダーギャップ指数」で示されており、この指標による日本の2018年の順位は149か国中110位とG7、G20で最下位だ。指標の内訳は、2018年で、①経済分野 0.595(117位) ②教育分野 0.994(65位) ③健康分野 0.979(41位) ④政治分野 0.081(125位) であり、いずれも決して高くはないが、政治分野は特に低い。

 政治分野の評価の対象は、「国会議員の男女比」、「女性の閣僚率」、「女性首相の在任期間」などだが、国会議員における女性の割合が衆議院10.2%、参議院20.7%(平成31年1月現在)であるのは、日本のジェンダー平等への進行が遅すぎるということだ。

 今回の参院選では、370人の候補者のうち女性は104人で28.1%を占め、過去最高の高さと言われているものの、政党別では、①自民党15%(12人) ②立憲民主党45%(19人) ③国民民主党36%(10人) ④公明党8% (2人) ⑤共産党55%(22人) ⑥日本維新の会32%(7人) ⑦社民党71%(5人)と党による差が大きい。

 しかし、採用時点で30%では、指導的地位に女性が占める割合を30%程度にすることはできず、2020年に指導的地位の女性割合を30%にするためには、採用時は50%くらいでなければ、女性に多いハードルや偏見をクリアして生き残る人は30%にならない。そして、衆議院議員・参議院議員も、なっただけでは指導的地位についたとは言えず、実力と実績で閣僚や党幹部になれて初めて指導的地位についたと言えるのである。

3)他分野における指導的地位に女性が占める割合
i) キャリア官僚への女性合格
 国家公務員キャリア官僚への女性合格率は、*1-4のように、2019年度の採用試験で1798人が合格し、女性割合は過去最高の31.5%で初めて3割を超えたそうだが、キャリア官僚になったから指導的地位に就いたとは言えないため、採用時は女性を50%採用すべきだ。

 そうすれば、次官や局長などの女性割合が次第に30%になると思われるが、2020年にはとても間に合いそうにない。

ii) 女性天皇、女系天皇は何故いけないのか
 このように、「指導的地位の女性割合を30%にしよう」と言っている時代に、*1-5のように、女性天皇や女系天皇に拒否感を示す政党は、科学的でも論理的でもなく感情的である。

 立憲民主党は「皇位継承資格を女性・女系皇族に拡大し、現代における男女間の人格の根源的対等性を認める価値観は一過性ではない」と明記し、「皇位継承順位は長子優先」とした。共産党は女性・女系天皇に賛成する立場を明らかにしており、自民党と国民民主党は男系維持だ。この「立憲民主党」「共産党」と何かと自民党に近い「国民民主党」の違いが、今回の野党間の選挙結果の違いに繋がっていると思う。

(2)女性がリーダーになることを阻害する偏見・女性蔑視
 2019年7月22日、*2-1のように、佐賀新聞が「政治分野の男女共同参画推進法成立後、初めての大型国政選挙だったが、参院選の女性当選者数は、選挙区18人、比例代表10人の計28人で過去最多の前回2016年と同数だったものの、立候補した女性104人のうち当選率は26.9%は前回を下回り、当選者全体に占める女性比率は22.6%だったと記載している。

 せっかくこの認識に至ったのなら、私には心当たりが多いため、九州は全県で女性当選者が0だったという日本の平均から見ても周回遅れだったことも含めて、何故そうなるのかを分析し、女性候補に対する報道や表現を改めてもらいたい。何故なら、選挙は候補者を直接には知らない有権者が多く投票するため、メディアの女性蔑視表現で票が減ることが多いからである。

 このような中、選挙の最中の2019年7月20日、西日本新聞が、*2-2のように、「IQ(論理的思考)とEQ(情緒的感性)には明確な男女差がある」と書いており、その内容は、「男性は論理的に思考するタイプが多く、女性は情緒的・感覚的に思考するタイプが多いという明確な差が出て、男性は論理的に考えるのが得意で、女性は共感力が高いというイメージに近い結果になった」というものだ。

 これは、「(原因が何であれ)女性は感情的で男性ほど論理的でないため、リーダーには向かない」と言っているのであり、個に当てはめると妄想であって現実ではない。また、調査の仕方にも問題があり、出した結果は女性に対する偏見や女性差別にほかならない。さらに、こういう記事を書くことは女性候補者を不利にするため、選挙違反である。相手の立場に立って考える「おもいやり」は男女の別なく持っていなければならないものだが、そもそも“共感力”とはどういう能力なのか、特定の接客業以外で必要な能力なのか、私には意味不明である。

(3)女性差別を禁止する条約締結と法律制定の経緯
 私は、東大医学部保健学科を1977年に卒業し、男性に比べて就職の条件が悪かったので公認会計士の資格を取るために勉強をしていた時、1978年頃、さつき会(東大女子同窓会)の代表だった正木直子さんから電話をいただき、「どうしてさつき会に入らないの?」と聞かれた。

 そのため、「東大の卒業証書が就職であまり役に立たなかったからで、現在は公認会計士試験の勉強中です」と答えたところ、1979年の第34回国連総会で、*3-1の女子差別撤廃条約が採択され、日本は、1985年に、*3-2の最初の男女雇用機会均等法を外圧を借りて制定し、同年、女子差別撤廃条約を締結した。正木直子さんは、労働省勤務だったのだ!

 女子差別撤廃条約の締結と最初の男女雇用機会均等法制定は、赤松良子さんや正木直子さんなど、労働省(当時)に勤務していたさつき会の先輩方が変わった人であるかのように言われながらも、日本の男女平等を進めるための法律を作ったのである。一方、同じ1985年に、厚生省(当時)は、専業主婦の奨めともなる年金3号被保険者を作り、年金制度を積立方式から賦課方式に変更し、日本では女性活躍のアクセルとブレーキが同時に踏まれたのである。

 そして、*3-3のように、内閣府が男女共同参画社会基本法を作ったのは、*1-3のように、20年前の1999年だ。しかし、男女平等ではなく、男女共同参画に過ぎない。これに先立ち、1997年に男女雇用機会均等法が改正され、努力義務でしかなかった男女の雇用機会均等を義務化したが、これは経産省に私が頼んでやってもらったものである。

 そのほか、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)」は、第2次安倍内閣下の最重要施策の1つとなり、2015年9月4日に公布・施行されたが、これは私の提案がきっかけだ。

 また、2018年5月23日に公布・施行された「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」は、赤松良子さんが中心になって女性たちが協力してできた法律である。

 つまり、女性差別を禁止する法律は、日本国憲法制定で男女平等を勝ち取ったのに差別され続けた日本女性が協力して制定してきたものだ。にもかかわらず、「男性には論理的に思考するタイプが多く、女性には情緒的、感覚的に思考するタイプが多い」とか「均等法以降の女性にのみキャリアがある」「空気を読むことが大切」などと言っているのは、馬鹿にも程があるのだ。

<リーダーになる機会の男女平等はあるのか>
*1-1:https://www.jiji.com/jc/article?k=2019072200284&g=pol (時事 2019年7月22日) 女性28人、過去最多タイ=当選率、男性に及ばず-東京など半数占める【19参院選】
21日投開票の参院選で、女性の当選者は選挙区18人、比例代表10人の計28人となり、過去最多の前回2016年に並んだ。選挙区の当選者は16年より1人多く、最多記録を更新。一方、女性候補全体に占める当選者の比率は16年より2.3ポイント減の26.9%で、男性の36.1%には及ばなかった。今回の参院選は、男女の候補者数をできるだけ均等にするよう政党や政治団体に求める「政治分野における男女共同参画推進法」が18年5月に成立して以降、初の大規模国政選挙となった。ただ、女性候補の比率は過去最高の28.1%となったものの、全当選者に占める女性の比率は22.6%にとどまった。選挙区別では、改選数が1増えた6人区の東京で女性が半数の3人を占め、ともに4人区の神奈川と大阪でも男女の当選者が同数だった。政党別で見ると、12人が挑んだ自民党の当選者が10人で、16年に続き最も多かった。公明党は2人の候補がともに当選。女性を積極的に擁立した主要野党4党では、立憲民主党で19人中6人が議席を得たのに対し、候補者数が最多だった共産党は22人中3人、国民民主党は10人中1人の当選にとどまり、社民党はゼロだった。NHKから国民を守る党も女性当選者がいなかった。改選数1の1人区で無所属の野党統一候補として出馬した中では4人が勝利。日本維新の会、れいわ新選組はそれぞれ1人が初当選した。

*1-2:https://www.kochinews.co.jp/article/293741/ (高知新聞社説 2019.7.18) 【2019参院選 女性活躍の社会】看板倒れの現実直視を
 「全ての女性が活躍できる社会をつくる。これは安倍内閣の成長戦略の中核です」。2014年1月の国会の施政方針演説で、安倍首相はそう決意を述べた。13年4月に成長戦略に女性活躍を盛り込んで、もう6年以上がたつ。演説では「20年には、あらゆる分野で指導的地位の3割以上が女性となる社会を目指す」と数値目標も掲げる意気込みだった。14年9月の内閣改造では、新設した女性活躍担当相ら5人の女性閣僚を起用。16年4月には企業や自治体に、女性の登用目標などの計画策定・公表を義務付けた女性活躍推進法が施行された。矢継ぎ早に打ち出された政策に対し、現在の実績はどうか。まず13年の政策演説で発表された「17年度末までに待機児童をゼロにする」との目標は、早々と断念し20年度末に先送りされた。女性閣僚の数も内閣改造のたびに減り、現在は片山地方創生担当相ただ1人だ。鳴り物入りで設置された女性活躍担当相も、片山氏が兼務するありさまである。政策を遂行する体制がこれでは、安倍政権のやる気を疑われても仕方がない。世界経済フォーラムが公表した18年版の男女格差報告によると、日本は調査対象の149カ国中110位だ。先進国では閣僚が男女ほぼ半々という国も珍しくない。女性1人というのは極端に遅れている。こうした現状を打開しようと昨年、「政治分野の男女共同参画推進法」が議員立法で成立した。選挙で男女の候補者数をできる限り均等にすることを目指す。同法が施行されて初の国政選挙となる今回の参院選が、今後を占う試金石となる。ところが主要政党の女性候補の割合を見ると、がくぜんとする事実が浮かんでくる。野党は社民(71%)、共産(55%)と女性が半数を超え、立憲民主(45%)もほぼ半数に近い。これに対し与党は自民(15%)、公明(8%)とあまりにも低い。自公が政権を握って6年半、早くから「女性が輝く社会」をぶち上げていったい何をしてきたのか。言い出しっぺがこのありさまでは、女性活躍推進法に真面目に取り組んでいる民間企業のやる気もそぎかねないだろう。安倍首相は男女が共同参画する社会の意義について、理解と努力が不足しているのではないか。少子高齢化が進む中で、国民の半数以上を占める女性の地位向上がなければ、よい政策や企画も生まれまい。これまでの「女性活躍」が看板倒れになっている現実を直視し、男性優位の習慣や制度を大胆に変えていく気概が必要だ。激動が続く欧州では先日、欧州連合(EU)委員長と欧州中央銀行(ECB)総裁に、ともに女性を起用する人事が固まった。世界との差は開く一方のようだ。

*1-3:http://ivote-media.jp/2019/07/09/post-3196/ (Ivote 2019.7.9) 2019年は節目の年【政治×女性】〜参院選2019〜
 第25回参議院議員通常選挙が7月4日に公示され、投開票日は、7月21日となっています。2019年は12年に一度の「統一地方選挙」と「参議院議員選挙」が重なる亥年の選挙として大きな節目の年になっていてivote mediaでも取り上げています。そして、もう一つ大きな節目として、2019年は「男女共同参画社会基本法」が制定・施行されてから20年という節目の年でもあるのです。男女共同参画社会の実現というものを21世紀の日本の最重要課題と位置づけ、課題の解消のために走り始めた年から20年経過をした年になります。ジェンダー平等に関して、近年では「女性活躍」という言葉を頻繁に聞くようになり、女性活躍は安倍政権の看板政策の一つでもあり、立憲民主党はじめ他政党でもジェンダー平等について動きを見せています。そこで今回の記事では、男女共同参画社会基本法が成立してから20年が経過をした現在の日本の男女平等における状況、とりわけ「政治」の分野における状況を確認し、参議院議員選挙における、読者の方々の投票の一つの視点となってもらえればと思います。
●日本における男女平等の現状
 男女平等を世界の国々と比較するときに用いられる指標は、世界経済フォーラム(World Economic Forum)が公表する「ジェンダーギャップ指数」です。この指標では、経済・教育・健康・政治の4つの分野のデータから作成されています。そして、日本の2018年の順位は149か国中110位(前年:144か国中114位)であり、前年から4つ順位を上げたものの、G7内では最下位となっていて、男女平等については後進国といっても過言ではありません。
指標の内訳としては、(2018年←2017年)
◇経済分野 0.595(117位) ← 0.580
◇教育分野 0.994(65位) ← 0.991
◇健康分野 0.979(41位) ← 0.980
◇政治分野 0.081(125位) ← 0.078
となっています。(1が完全平等を示す。)
 政治分野の評価の対象には、「国会議員の男女比」、「女性の閣僚率」、「女性の首相在任期間」などが評価の対象となっています。皆さん、ご存じの通り、日本では未だ女性首相の誕生は一度もありません。そして、国会議員の男女比の割合について、衆議院では10.2%、参議院では、20.7%(平成31年1月現在)が女性の議員となっています。これらのデータや、皆さんの方々の実感から分かるように日本では、政治分野における男女平等は、後進国であると考えられます。しかし、男女共同参画社会基本法が成立してから、今現在まで無策だったわけではありません。国・都道府県においては、男女共同参画計画を策定し、ほぼ全ての基礎自治体においても、男女共同参画に関する計画を策定して施策を実施しています。自治体の施策だけでは解決しない問題ではありますが、ジェンダー平等に関する課題は日本の大きな課題として掲げ続けられています。そのような状況から、特に政治分野におけるジェンダー平等の不平等を解消しようという大きな動きも出てきています。平成30年(2018年)5月23日に「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」が公布・施行されました。この法律では、衆議院、参議院及び地方議会の選挙において、男女の候補者の数ができる限り均等となることを努力目標として掲げ、目指しています。そこで、この法律が成立をしてから初めての国政選挙となる第25回参議院議員通常選挙の立候補者の男女の割合を見てみましょう。
●政党別立候補者数の男女比(今回の参院選)
 第25回参議院議員通常選挙には、370人が立候補をすることを予定しています。そのうちの女性候補は104人で28.1%を占めています。これは、過去最高の割合の高さとなっています。では、政党別に女性候補の数と割合を見てみましょう。
◇自由民主党  15%(12人)
◇立憲民主党  45%(19人)
◇国民民主党  36%(10人)
◇公明党    8% (2人)
◇共産党    55%(22人)
◇日本維新の会 32%(7人)
◇社民党    71%(5人)
 政治分野における男女共同参画の推進に関する法律が制定されてからのはじめての国政選挙で、以上のような立候補者の状況となっています。
●2020年30%目標
 「2020年30%目標」初めて聞く人も多いかと思います。これは、「社会のあらゆる分野において、2020年までに指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%程度とする」という平成22年12月に閣議決定をされた目標です。「指導的地位」の中には、衆議院議員や参議院議員も含まれているため、国の目標としても30%という目標は達成をすべき大きな指標となっています。この目標は、兼ねてから掲げられてきた目標でありますが、今回の参議院議員選挙の立候補者の男女の割合、政党別にみたときの男女の割合はどうでしょうか。判断は皆さま方にお任せをします。(以下略)

*1-4:https://www.hokkaido-np.co.jp/article/318756?rct=n_topic (北海道新聞 2019/6/25) 国家公務員の女性合格、初3割超 19年度、総合職
 人事院は25日、2019年度の国家公務員採用試験で、中央省庁のキャリア官僚として政策の企画立案を担う総合職に1798人が合格したと発表した。うち女性は567人。割合は過去最高の31・5%で、初めて3割を超えた。前年度から4・3ポイントの増加。人事院は「中央省庁で活躍する女性が増え、入省後のイメージを描きやすくなったことが一因」と分析している。申込者数は1万7295人で、倍率は9・6倍だった。合格者の出身大学別は、東大の307人が最多で、京大126人、早稲田大97人、北海道大81人、東北大と慶応大が75人で続いた。

*1-5:https://www.sankei.com/politics/news/190611/plt1906110035-n1.html (産経新聞 2019.6.11) 立民が「女系天皇」容認 国民との違いが浮き彫りに
 立憲民主党は11日、「安定的な皇位継承を確保するための論点整理」を取りまとめた。皇位継承資格を「女性・女系の皇族」に拡大し、126代に及ぶ男系継承の伝統を改める考えを打ち出した。「女性宮家」創設の必要性も強調した。一方、国民民主党「皇位検討委員会」は同日、男系維持に主眼を置いた皇室典範改正案の概要を玉木雄一郎代表に提出。両党間で皇室観の違いが浮き彫りとなった。立憲民主党の「論点整理」は伝統的な男系継承について「偶然性に委ねる余地があまりに大きい」と指摘した。また、「現代における男女間の人格の根源的対等性を認める価値観は一過性ではない」などと明記した上で、女系天皇を容認すべきだと訴えた。皇位継承順位に関しては、男女の別を問わず、「長子優先の制度が望ましい」とした。男系を維持する手段として旧皇族を皇室に復帰させる案は明確に否定。「今上天皇との共通の祖先は約600年前までさかのぼる遠い血筋だ。国民からの自然な理解と支持、それに基づく敬愛を得ることは難しい」と断じた。また、皇族減少に歯止めをかけるため、女性皇族が結婚後、宮家を立てて皇室に残り皇族として活動する女性宮家の創設を訴えた。一方、国民民主党は女系天皇を「時期尚早」として認めず、改正案も男系を維持する内容だ。ただ、過去に10代8人いた「男系の女性天皇」の皇位継承は認める。きょうだいの中では男子を優先した。皇統に関しては、共産党がすでに女性・女系天皇に賛成する立場を明らかにしている。3党は参院選の32ある改選1人区の全てで候補を一本化したが、最重要の皇室をめぐり、「立憲民主党・共産党」と「国民民主党」の間で方向性の違いが表面化した。

<女性がリーダーになることを阻害する偏見>
*2-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/403685 (佐賀新聞 2019年7月22日) 女性当選者28人、過去最多に並ぶ、政府目標には届かず
 参院選の女性当選者数は、選挙区18人、比例代表10人の計28人で、過去最多の前回2016年と同数となった。立候補した女性は104人で当選率は26・9%。前回を下回った。当選者全体に占める女性の比率は22・6%だった。政党に男女の候補者数を均等にするよう促す「政治分野の男女共同参画推進法」の成立後、初めての大型国政選挙。「指導的地位に占める女性の割合」を2020年までに30%にするとの政府目標には届かなかった。秋田と愛媛両県選挙管理委員会によると、両選挙区で戦後女性参院議員が誕生したのは初めて。

*2-2:https://www.nishinippon.co.jp/item/o/528623/ (西日本新聞 2019年7月20日) IQ(論理的思考)とEQ(情緒的感性)には明確な男女差が
●43万人の個性診断結果をビッグデータ解析して見えてきた、男女の思考性の違い
COLOR INSIDE YOURSELF( https://ciy-totem.com/ )は43万人以上が利用する、自己診断サービスです。43万人以上の診断結果をビッグデータ解析した結果みえてきた、個性や性格に関する興味深い統計データをお届けします。
●IQ(論理的思考)とEQ(情緒的感性)には明確な男女差が
 COLOR INSIDE YOURSELF(以下「CIY」)の診断結果では、個人の様々な特性が明らかになりますが、その中でも特に、「論理的に思考するタイプ」と「情緒的、感覚的に思考するタイプ」では、男女間で明確に差がでました。年齢別の診断結果の割合を多項式近似曲線で表すと、「論理的に思考するタイプ」は全年齢層で男性の割合が高く、逆に「情緒的、感覚的に思考するタイプ」では、全年齢層で女性の割合が高くなっています。ステレオタイプに言われているような「男性は論理的に考えるのが得意、女性は共感力が高い」というイメージに近い結果となりました。
●男女によって、求められる思考性が異なる?
さらに、ライフスタイル別の統計結果を見ると、男性では新社会人(23歳~29歳)から40代にかけて「論理的に思考するタイプ」が増加しています。女性では、高校から大学、社会人になるに従って「情緒的、感覚的に思考するタイプ」が増えており、30代からは緩やかに減っていきます。
●年齢とともに性格が変化する要因は、何でしょうか?
A:組織の中で、「男性は論理的であること、女性は情緒的で共感し合うこと」を求められた結果、年齢とともにそれぞれの思考性が変化していく
B:そもそも男女で年齢とともに思考性が変化していく傾向があり、結果的に「男性は論理的、女性は情緒的で共感力が高い」という集団ができていく
いずれの要因かまでは分析結果からはわかりませんでしたが、ここまで明らかになると、さらに興味深い洞察が得られそうです。
●年齢とともに性格は変わるのか?
 世代別の結果では、男性では「ゆとり第一世代~団塊ジュニア世代」までが、やや「論理的に思考するタイプ」が高くなっているようです。(女性では、世代別の変化は、あまり見られません。上述の通り、年齢や社会的なポジションに伴って性格が変わっていくのか、特定の世代に限って「論理的に思考するタイプ」がそもそも多いのかについても、興味深いポイントです。個性や性格の半分は遺伝で決まり、残りの半分はその他の要因によって決まると言われています。そのため加齢による性格の変化はそこまでないはずですが、男性で30−40代が「論理的に思考するタイプ」が多く、50代をすぎると「情緒的、感覚的に思考するタイプ」が増えていくという傾向を見ると、年齢とともに性格が変化しているとも感じられます。今後も継続的に結果を分析することで、年齢による変化なのか、特定の世代による傾向なのかを明らかにしていきたいと思います。

<女性差別を禁止する法律と条約>
*3-1:https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/josi/index.html (外務省) 女子差別撤廃条約
 女子差別撤廃条約は、男女の完全な平等の達成に貢献することを目的として、女子に対するあらゆる差別を撤廃することを基本理念としています。具体的には、「女子に対する差別」を定義し、締約国に対し、政治的及び公的活動、並びに経済的及び社会的活動における差別の撤廃のために適当な措置をとることを求めています。本条約は、1979年の第34回国連総会において採択され、1981年に発効しました。日本は1985年に締結しました。(以下略)

*3-2:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/danjokintou/index.html (厚労省) 
男女雇用機会均等法

*3-3:http://www.gender.go.jp/about_danjo/law/index.html#law_brilliant_women (内閣府男女共同参画局)
男女共同参画社会基本法
配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律
女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)
政治分野における男女共同参画の推進に関する法律

<女性の当選者>
PS(2019/7/23追加):滋賀県選挙区は1人区だが、脱原発を掲げる前滋賀県知事の嘉田由紀子さんが無所属で初当選された。無所属で立候補すると費用が自分持ちで大変なのだが、よく頑張られたと思う。

*4:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190722-00010002-bbcbiwakov-l25 (BBCびわ湖放送 2019/7/22) 参院選 嘉田氏当選/滋賀
 参議院議員選挙は、21日投票が行われました。即日開票の結果、滋賀県選挙区は無所属新人で、前の滋賀県知事の嘉田由紀子さんが初めての当選を果たしました。初当選を果たした嘉田さんは「この滋賀から草の根の声をあげる転換点にしたい」と意気込みを語りました。参議院選挙滋賀県選挙区の開票結果は、嘉田由紀子さんが、29万1072票自民党現職で再選を目指した二之湯武史さんが27万7165票NHKから国民を守る党の新人服部修さんは、2万1358票でした。なお、投票率は51.96%で、3年前の前回を4.56ポイント下回りました。

<多様性、正常と異常の境界など>
PS(2019/7/24追加):*5に「①生産年齢人口(15~64歳)の減少が進む日本では、女性・高齢者(65歳~)・外国人など働き手の多様化が必要」「②企業が収益・生産性を高めるためには、多様性が重要」「③多様な人材を活用するためには日本的な雇用慣行の見直しが不可欠」と書かれている。
 このうち、②③はそのとおりだが、①は、生産年齢人口を15~64歳としているのが実態に合わないので18~70又は75歳にすべきで、そうすると年金など社会保障の支え手が増えると同時に、健康寿命を伸ばすこともできる。さらに、(若年男性の雇用だけを優遇するのはもともと憲法違反だが)“生産年齢人口”が減って人手不足であり、技術革新や新産業も起こっているため、高齢者・女性・外国人の雇用が若年男性の雇用を抑制することはない。むしろ、人材の多様性により、同質ではない人材の相互作用により、新製品が作られたり、新しい販路が開けたり、生産性が上がったりする。ただし、人材が多様化した時に報酬や賃金の公平性を保つためには、年功ではなく実績に基づいた個人に対する公正な評価が必要なのである。
 なお、多様性と言えば「障害者」「LGBT」と書く記事が多いが、障害者やLGBTの人にも人権があって生きる喜びや働く喜びを享受したいのは当然であるものの、それらは多様性とは異なり異常の範疇に入る。さらに、現在、*6のように、「知的な遅れ」がないのに、たった3歳で「発達の遅れ」を指摘するような「同一主義」が横行するのは「ゆとり教育」による基礎教育不足のせいだろうか? そういう学級にいれば、正常な人は意味もなくざわつくのはうるさいと感じるだろうから、「発達障害」などとする過剰診断で、1人の人生が無限の夢あるものから支えられるだけのものになるのは痛ましく、もったいないことである。このように、“生産年齢人口”に統計学等の基礎教育が足りないのは、ますます“高齢者”の重要性を増加させるのである。

  

(図の説明:左図の人口ピラミッドを見ればわかるように、生産年齢人口が著しく減っているため女性が就職活動しても人手不足でいられ、これからは、“高齢者”や外国人も重要な労働力になるだろう。また、右図のように、“高齢就業者数”は増えているが、女性・高齢者・外国人の労働条件はいまだに悪いと言わざるを得ない)

*5:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO47657400T20C19A7MM0000/?nf=1 (日経新聞 2019/7/23) 生産性向上、働き手の多様化が必要 経済財政白書
 茂木敏充経済財政・再生相は23日の閣議に2019年度の年次経済財政報告(経済財政白書)を提出した。少子高齢化と人口減少が進む日本で企業が収益や生産性を高めるためには、働き手の多様化を進める必要があると分析。多様な人材を活用していくために、年功的な人事や長時間労働など「日本的な雇用慣行の見直し」が欠かせないと強調した。白書は内閣府が日本経済の現状を毎年分析するもので、今後の政策立案の指針の一つとなる。今回の副題は「『令和』新時代の日本経済」。生産性の向上を通じて、潜在成長率を高める必要性を訴えた。白書によると、日本の生産年齢人口(15~64歳)に対する高齢者人口(65歳~)の割合は43%で、世界の先進国平均より高い。2040年には64%まで増加することが見込まれている。政府は年齢や性別にかかわらず多様な人材を活用することで人手不足を緩和する働き方改革を進めてきた。高齢者の雇用拡大を巡っては、若者の処遇に影響を与えるとの懸念も根強いが、白書が上場企業の実際の状況を分析したところ、高齢者雇用の増加が若年層の賃金や雇用を抑制する関係性は見られなかったという。外国人労働者に関しても日本人雇用者との関係は補完関係にあるとの見解を示した。人材の多様性は生産性の向上につながることも分かった。企業における人材の多様性と収益・生産性の関係を検証したところ、男性と女性が平等に活躍している企業ほど収益率が向上している傾向が明らかになった。人材の多様性が高まった企業の生産性は、年率1.3%程度高まるとの分析を示した。内閣府による企業の意識調査によると、多様な人材が働く職場では、柔軟に働ける制度や、仕事の範囲・評価制度の明確化が求められている。「同質性と年功を基準とする人事制度では、個人の状況に応じた適切な評価ができない」として、日本型の雇用慣行の見直しを迫った。今年の白書では日本企業の国際展開が雇用に与える影響も分析した。グローバル化が進んでいる企業ほど、生産性や雇用者数、賃金の水準が平均的に高かった。実証分析の結果をみると、輸出の開始だけでなく、海外企業との共同研究や人材交流にも生産性が上がる効果が認められた。足元の日本経済については「緩やかな回復が続いている」との判断を示す一方、中国経済の減速などで「生産の減少や投資の一部先送りもみられる」とした。生産性の向上を賃金の上昇や個人消費の活性化につなげることが「デフレ脱却にも資する」と指摘した。

*6:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/529530/ (西日本新聞 2019/7/24) 発達障害 学ぶ場は 「通級教室」希望でも入れず 需要急増、教員が不足…
 「通級指導教室を希望したが、かなわなかった。もっと数を増やせないのでしょうか」。発達障害があるという中学3年の男子生徒(14)から、特命取材班に訴えが届いた。調べてみると、通常学級に在籍しながら特別な指導を受けられる通級指導教室の需要は急激に伸びており、各自治体が運営に苦慮している実態が浮かび上がった。福岡県に住む生徒は、3歳で「発達の遅れ」を指摘された。知的な遅れはなく、小学校は通常学級で過ごした。中学入学後、問題が生じ始めた。通常学級に在籍したが、聴覚、視覚過敏が現れ、教室のざわつきに耐えられず、同級生とのコミュニケーションも難しくなった。昨年10月に「自閉スペクトラム症」との診断を受けた。今年2月、「コミュニケーションの方法を学びたい」として通級指導教室への入級を学校に申し出た。これに対し、特別支援教育の必要性を判定する「教育支援委員会」は9、11月の年2回しか開かれず、次回9月の委員会までは「難しい」と説明された。そもそも学校に通級指導教室がなかった。今春、通級教室が新設されたものの、既に定員は満杯。「落ち着ける場所をつくる」「苦しい時は教室を抜けることを認める」などの個別支援計画に沿って、スクールカウンセラーや補助教員がサポートすることで落ち着いた。生徒は「中学生になって急に苦しいことが増えた。状況に応じて柔軟に対応してほしい」。校長は「通級指導教室にいるのとほぼ同じ支援をしている」とする半面、「特別支援を希望する生徒は多いのに専門教員が足りず、希望に応じきれていない」と打ち明ける。
      ■
 通級指導教室は、自閉症や情緒障害、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)などが対象。文部科学省によると、2017年度、通級指導を受けている児童生徒は全国で10万8946人と10年前の2・4倍。特に、発達障害の子どもが急増している。教室がある学校は5283校で全体の17・7%。福岡県は18年度は156校(271クラス)と10年で2・5倍に増えたが、全体の14・7%にとどまる。福岡市は16年度に通級の対象となったのに入れなかった児童生徒が113人と最多になったことから、設置を急ぎ、17年度以降、待機者はゼロという。北九州市も希望者が毎年200人前後に上るため、08年度に通級の対象期間を上限3年と決め、12年度以降は待機者ゼロになった。一方、特命取材班に訴えを寄せた男子生徒が住む町は本年度、待機者が12人。町教育委員会は「県に専門教員の配置は申請している。配置されるまでは現場に頑張ってもらうしかない」。福岡教育大の中山健教授(特別支援教育学)は「希望者の増加は、障害への理解が進み、保護者や本人が特別支援を望むようになったことが背景の一つにある。通常か通級かという『教育の場』だけではなく、本人、保護者、学校がよく話し合い、安心して学べる環境をつくることが大切だ」としている。

<投票率と投票の中身>
PS(2019年7月25日追加):*7-1、*7-2のように、選挙前に「参院選の投票に必ず行く」と答えた人は55.5%いたが、実際の投票率は48.8%だった。中でも10代・20代の若年層は、「必ず行く」と答えた人も男女ともに3割と低調であり、実際の10代の投票率は31%(性別:男性30.02%、女性32.75%、年齢別:18歳34.68%、19歳28.05%)で全世代より17%低かったそうだ。今回の争点は、幼児教育・保育の無償化、全世代型社会保障、年金、消費税、憲法、原発などだったため、「興味がない」「高校・大学が試験期間で選挙前に主権者教育できなかった」等は、普段から意識が低いということであって弁解の余地がない。ただ、親元を離れて進学した若者は、通常は住民票を移していないため投票できないので、国政選挙はどこででも投票できるようにして、学食付近に期日前投票所を設ければよいと考える(インターネット投票は、本人確認・重投票の防止・投票の秘密保持が不確実なため、私は賛成しない)。
 しかし、選挙権は権利であって義務でないため、興味のない人が棄権するのは自由である。さらに、普段から政治に関心を持って情報を集めていない人が適当に投票すると、選挙結果を歪める弊害もある。そのため、メディアは、殺人・放火・吉本興業事件や安っぽいなまぬる番組に大量の時間を使うのではなく、普段から正確に分析した政治情報を報道しておく必要があるのだ。


  2019.6.9赤旗  2019.7.24東京新聞 2019.7.17朝日新聞  2019.7.24朝日新聞

(図の説明:選挙の争点をわかりやすく纏めた新聞もいくつかあったが、左の赤旗もわかりやすい。年代別投票率は、中央の2つの図のように、若い世代で低く、他人任せだ。右図は、投票しない理由だそうである)

*7-1:https://www.sankei.com/politics/news/190716/plt1907160044-n1.html (産経新聞 2019.7.16) 【産経・FNN合同世論調査】参院選投票「必ず行く」55% 若年層は3割、投票率低い懸念
 産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)が14、15両日に実施した合同世論調査で、21日投開票の参院選の投票に行くか尋ねたところ「必ず行く」が55・5%に上った。ただし10・20代の若年層は男女ともに3割と低調だった。今年は統一地方選と参院選が12年に一度重なる「亥年選挙」で有権者らの「選挙疲れ」による投票率の低下が懸念されており、前回の平成28年参院選(54・70%)を上回るかが焦点となる。調査によると、投票に「たぶん行かない」は7・9%、「行かない」は4・8%にとどまった。これに対し「できれば行く」は20・1%、「期日前投票を済ませた」は10・2%で、投票に前向きな回答が否定的な回答を大きく上回った。性別・年代別では、高齢層ほど「必ず行く」が多くなり、「60代以上」の男性は73・3%、女性では61・3%を占めた。50代の男性は64・4%、女性では51・5%、40代の男性は56・8%、女性で53・6%といずれも過半数に達した。一方、10・20代の男性は36・5%、女性は37・3%で、それぞれ「60代以上」の約5~6割にとどまる。若年層のうち、20代の投票率低迷は顕著だ。総務省によると、全体の投票率が過去最低の44・52%を記録した7年参院選では20代が前回比8・2ポイント減の25・15%に急落した。その後は30%台で推移している。一方、有権者が投票しやすい環境に向けて増えているのが期日前投票所だ。世論調査で「期日前投票を済ませた」との回答について、男性は「60代以上」が最も多く13・1%、50代が9・7%。女性は30代が最多の15・3%に上り、「60代以上」の14・2%、40代の10・6%が続いた。総務省が発表した14日現在の期日前投票者数は630万9589人で有権者の5・92%に相当し、選挙期間が1日長かった前回の水準に迫っている。与野党は選挙戦の最終盤まで勝敗を左右する若年層や無党派層などの動向に気をもむことになりそうだ。

*7-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201907/CK2019072402000138.html (西日本新聞 2019年7月24日) 参院選、10代 投票率31% 全世代より17ポイント低く
 総務省は二十三日、参院選(選挙区)の十八歳と十九歳の投票率(速報値)は31・33%だったと発表した。全年代平均の投票率48・80%(確定値)より17・47ポイント低い。大型国政選挙で選挙権年齢が初めて十八歳に引き下げられた前回二〇一六年参院選に比べ、速報値で14・12ポイント、全数調査による確定値からは15・45ポイント下がった。政治参加を促す主権者教育の在り方が課題になりそうだ。速報値は抽出調査で算出した。男性が30・02%、女性が32・75%。年齢別では、十八歳は34・68%で、十九歳は28・05%と三割を下回った。同省選挙課によると、今回は確定値を出すための全数調査は行わない。大型国政選の十八、十九歳投票率は、一六年参院選が速報値45・45%、確定値46・78%。一七年衆院選は速報値41・51%、確定値40・49%で、下落傾向が続いている。若者の投票率向上のため高校で出前授業を行ってきた「お笑いジャーナリスト」のたかまつななさんは、十代の投票率低下について「多くの高校や大学が試験期間だったことで、選挙前に主権者教育の機会を設けづらかったのではないか」と分析。「投票率が高ければ『この世代を無視すると危ないよ』というプレッシャーを政治側に与えられるのに」と悔しがった。若者の投票行動に詳しい埼玉大学の松本正生(まさお)教授(政治学)は「主権者教育だけでなく、若者が投票しやすいよう選挙制度も問い直すべき事態だ」と指摘。その上で「年長世代が『十代は投票に行かない』と一方的に批判できない」と、有権者全体の五割超が投票しない状況に危機感を示した。

<空港の設計とアクセス←女性の視点から>
PS(2019/7/26追加):*8のように、北海道で2020年に7空港が民営化され、空港ビルの建設・路線の増加・国際ハブ(拠点)空港化・道の駅機能の追加が考えられているそうだ。福岡空港は2019年4月2日に民営化され、観光客誘致のためのバス網を充実したり、ターミナルビルの商業機能を強化したりしたが、頻繁に往来する私から見ると、①空港の水道の出が悪くて不潔 ②電車と離発着窓口の距離がものすごく長くなり、重たい荷物を持っての移動が苦痛 ③航空機を利用しない人も土産物店に並んでおり、土産を買うのに時間がかかるようになった ④レストランも混んで入れなかった など、利用者の目線で改善してもらいたい点が多い。
 国交省は、羽田に行く交通機関の乗り継ぎを見ても、未だに「航空機は観光で使うもので、乗り換え距離が長ければ途中の店で買い物をする」などと思っているようだが、用があって頻繁に航空機を利用する人が荷物の多い時に買い物をすることはないため、アクセスや空港利用者の便利を第一に考え直すべきである。そして、今から整備する北海道は、このような不便を航空機の利用者に与えない設計にすることこそ、最善の空港利用者増加方法だと考える。

*8:https://www.hokkaido-np.co.jp/article/328927 (北海道新聞 2019/7/26) HKK連合、地方空港も重視 計画概要判明 稚内、ビル建て替え 釧路はアジア便誘致 新千歳新ビル470億円
 2020年度の道内7空港民営化で運営事業者に内定した、北海道空港(HKK、札幌)中心の企業連合による投資計画などの概要が25日、判明した。中核の新千歳では新空港ビル建設を計画。稚内で空港ビルの建て替え計画を盛り込むなど、新千歳以外の6空港にも積極投資する方針だ。新千歳には運営委託期間最終年度の49年度までに2900億円を投資する。現在は、国内、国際線それぞれ専用のビルがあり、国際線ビルは拡張工事中。新ビルは、両ビルを維持したまま、両ビルの南側に整備する。国内、国際線共用で30年ごろの開業を目指す。建設費は約470億円。多様な路線を展開できる態勢を整え、国際ハブ(拠点)空港としての位置付けを強める狙いとみられる。新千歳以外の6空港への投資額は、49年度までに約1300億円。稚内は空港ビルを全面建て替えし、商業施設と観光拠点を兼ねる「道の駅」のような機能を持たせる。台湾など国際チャーター便誘致も進める。

<「伝統」「言語」による女性蔑視を守るべきか?>
PS(2019年7月26日追加):私がPrice Warterhouse(当時、青山監査法人)東京事務所に勤めていた1982年、アメリカ南部の同事務所に勤務していた黒人の女性シニア・マネージャーが、「女性差別を含む不公正な評価によって、パートナーになれなかった」として提訴し、最高裁まで闘って1988年にPrice Warterhouseに勝った。私は、その女性が膨大な時間と労力を使って闘ったことに感謝するとともに、敗訴した途端に世界で使う自社出版物で「chairman」を「chairman/woman」に変更するなど、男性でなければならないと誤解させるような女性差別を含む言葉をすべて書き換えて世界に影響を与えたPrice Warterhouseにも敬意を表する。日本では、今でも「日本語だから」「伝統だから」などとして、女性に過度の尊敬語・謙譲語・謙遜・やさしさを要求し、「姦しい(かしましい)」「女々しい」「嫉妬」「姦計」「奸策」「雌伏」など悪い意味を表す言葉に「女性」を意味する漢字を多用しているのと対照的だ。
 そのため、私は、*9の「chairperson」は女性ではなくジェンダーニュートラルだと思うし、自分には「Ms.」を使うが、日本人の中には「Ms.」を使ったり、旧姓を通称使用していたりすると、「離婚したのでは?」とか「夫婦仲が悪いのでは?」などといらぬ詮索をする人がいて呆れることが多い。日本も、女性蔑視や女性差別を含む言葉を、「日本語だ」「伝統だ」として合理化するのをやめるべき時代にとっくの昔に入っているのに、である。

*9:https://digital.asahi.com/articles/ASM7T4RP5M7TUHBI01V.html?iref=comtop_8_06 (朝日新聞 2019年7月26日)「ze」を知ってますか?性別表す用語、進む言い換え
 「マンホール」の「マン」は男性を指す言葉だから、性別と関係のない「メンテナンスホール」に改める――。そんな風に、市の用語を性別にとらわれない言葉に言い換えようという条例が、アメリカ西海岸のカリフォルニア州バークリー市で提案され、話題を呼んでいます。同州では男女の平等をめぐる議論にとどまらず、性的少数者の権利を尊重する観点からも、男女の性にとらわれない「ノンバイナリー」が選択できるようになっていて、そうした意識の高まりが条例の背景にあるそうです。でも記者(32)が大学で英語を学んでいた頃から、すでに「ポリスマンは古い英語だから、ポリスオフィサーと言うように」と教わったような記憶も……。こういった言葉の言い換えは、いつから始まったのでしょうか? ゆくゆくは英語は全然違った形になるかも? 「manの語法」という論文も書いている関西学院大学の神崎高明・名誉教授(英語学)に話を聞きました。
●ハリケーンの名前も男女交互に
□ 中性的な言葉に言い換える取り組みは、いつごろ始まったのでしょうか。
 中性的なことを「ジェンダーニュートラル」と言いますが、この動きは欧米で1970年代初頭から始まったと考えられています。1960年代末から女性の権利や束縛からの解放を求めた女性解放運動「ウーマン・リブ」が活発化しました。その流れで、言語学者たちが、英語にある女性差別的・男性中心的な言葉を指摘し、言葉の整理を始めたのです。このころ、アメリカでは企業や自治体など、いろんな組織がマニュアルとして「言い換え集」を作りました。言葉の性差別の問題が非常に注目を集めたのです。
□ 例えばどんな言葉でしょうか。
 「fireman」→「firefighter」(消防士)、「chairman」→「chairperson」(議長)、「policeman」→「police officer」(警察官)などです。女性の社会進出で男女が同じ職業に就くようになり、新しい表現が必要だということになったんですね。また、アメリカではハリケーン(台風)に名前をつけるのですが、女性名をつけるのが通例でした。ところが1979年以降、男女交互につけるように変わりました。例えですが、「アンドリュー」とつけたら、次は「カトリーナ」のような具合です。
●「chairperson」は女性?
□ ジェンダーニュートラルな言葉が定着していった背景は?
 1980年代後半になると、今度は「ポリティカル・コレクトネス」という人種や性別、障害の有無などによる偏見や差別を含まない言葉や表現を使おうという動きが、アメリカの大学を中心に広まりました。1990年以降、これが世界にも広まり、性差を含まない言葉が好まれるようになっていきました。このころにはポリティカル・コレクトネスの考え方を踏まえた辞書が欧米でいくつも出版されました。アメリカでの「police officer」の使用率を調べた大阪国際大学の畠山利一・名誉教授の調査があるんですが、それによると、1970年代は20%、1980年代で50%、2000年に入って80%です。だいぶ定着していると言えるでしょう。でも、全ての言葉が定着していったわけではありません。バークリー市の言葉の言い換え案の中に含まれている「manhole(マンホール)」だって、辞書には「personhole(パーソンホール)」などの言い換えが載っていますが、定着していません。
□ 新たな言葉が生まれるのと、その言葉が定着して広く使われるのとは別の話だと。
 そうなんです。しかも、広く使われてくると、別の問題も生まれてきます。例えば「chairperson」はかなり定着してきていますが、男性議長にはいまだに「chairman」を使い、「chairperson」は暗に女性議長を指す人もいます。形が変わっても、これでは差別は変わりません。同じようなものに、女性の呼称「Ms.(ミズ)」があります。男性は結婚の有無にかかわらず「Mr.(ミスター)」なのに、女性は未婚だと「Miss(ミス)」、既婚者だと「Mrs.(ミセス)」と呼ぶのは不公平ということで「Ms.」が生まれました。でも、裏の意味で「Ms.」を離婚した人やフェミニストに対して使う人もいるのです。いろんな言葉の言い換え案ができても、定着するもの、しないもの、別の意味合いで使われてしまうものがあります。今回のバークリー市のように、すでに定着しつつある言葉も含めて、市が公に使っていくことは、定着に向けた一つの取り組みとして意義のあることだと思います。
●「his」はもう古い?
□ ジェンダーニュートラルが進むと、「he」「she」のように性別で代名詞が変わる英語は、大きく変わることになるのでは?
 「he」「she」が将来的になくなる可能性もありますよ。例えば、「Everyone loves his mother」という文章。「everyone」は単数形なので、「his」を使うのが正解でした。でも今は、「Everyone loves their mother」のように、男女を問わない「their」を使うことが広まっています。ちょっと前までは、「they」や「their」は複数形なので文法的には間違いとされましたが、現在はどちらでも正解。むしろ最近の文法書では「hisは古い用法」と注が付いているものもあります。さらに、欧米では「he」「she」に変わって、中性的な代名詞として新しく「ze(ズィー)」という語を使う大学生も出てきています。学者の中には抵抗感を示す人もいますが、言葉は大衆が使うもの。時代が変化すれば、大衆が変化し、言葉が変化するのも当然のことです。これからどの国の言葉もますます中立的な単語や表現になっていくことが予想されます。

| 男女平等::2019.3~ | 03:21 PM | comments (x) | trackback (x) |
2019.7.17 環境・安全保障とエネルギー政策 ← 日本は、脱原発・脱化石燃料にして再エネ発電に移るのが合理的である (2019年7月17、18、19、20、21日に追加あり)

  2018.3.7毎日新聞     2019.7.10東京新聞      2018.8.1東京新聞

(図の説明:左図のように、フクイチ事故の処理費用は天井知らずで、先が見通せない状況だ。また、中央の図のように、原発事故被災地の放射線量は今でも高い。さらに、右図のような活断層や火山噴火は、これまでの原発建設には考慮されていなかったようだ)


2019.7.11  2018.12.22           農業地帯の風力発電
東京新聞    毎日新聞

(図の説明:参議院選挙の候補者は、国の予算のうち年金・社会保障を削ることには積極的だが、金を湯水のように使う原発再稼働には賛成の人がいるため、それぞれの意見を並べて比較すべきだ。また、農業補助金をばら撒くことを厭わない人も多いが、毎年補助金をばら撒くより一度だけ太陽光・風力など再エネ発電機器の設置を行い、その収入を補助金に換えた方が、予算の削減・地方創成・エネルギー自給率向上のすべてに資すると考える)

 

(図の説明:1番左の図のように、特に地域間送電線は鉄道などの既存インフラに沿って超電導ケーブルを敷設すれば電力ロスが少なく、人手不足なら、左から2番目の図のように、外国人労働者を雇用することも可能だ。また、漁業地帯は、右から2番目の図のような養殖施設に付帯した風力発電もあり、1番右の図のようなEV冷蔵トラックもできている)

(1)環境とエネルギー政策
 地球温暖化が原因と見なされる気象災害が、世界の各地で相次ぎ、*1-1・*1-2・*1-3のように、「気候緊急事態宣言」をする自治体がオーストラリア・欧州・北米国内で広がり、2019年5月には英国議会も宣言した。

 また、2015年にはパリ協定が採択され、国際エネルギー機関も2040年に総発電量の40%超を再エネが占めると見込んでいる。しかし、日本政府(特に経産省)は、フクイチ事故の辛酸を舐め「安全神話」が崩壊して原発比率が2017年度では3%になっているにもかかわらず、エネルギー基本計画で2030年の電源構成に占める再エネ比率を22~24%、原発比率を20~22%としている。つまり、国民の年金を減らしながら、無駄な国費を使って、環境に悪い輸入資源由来の原発を推進しようとしているわけだ。

 その原発の総コストは、国費も入れると再エネに到底かなわず、使用済核燃料という膨大な負債を未来に残し続けている。また、輸入石炭による石炭火力を温存しつつ「脱炭素社会」の実現を掲げる政策も自己矛盾しており、世界に遅れている。さらに、再エネによってエネルギー自給率を高め、国内で資金を循環させながら、安価なエネルギーを作って産業や国民生活に資する努力にも欠けるのである。

 一方、野党の多くは原発0をうたって再エネ導入の目標拡大を掲げており、共産党は再稼働させずに即時0、立憲民主党は2030年までに全廃を目指すとしているが、私は、即時0も可能だと考えている。エネルギー価格は産業の国際競争力に大きく影響し、エネルギー自給率は安全保障を左右するため、メディアは各党のエネルギー政策を参院選前に明確に報道し、有権者が参院選でエネルギー政策に関する審判もできるようにすべきだ。

(2)原発
1)フクイチの現在
 フクイチ事故後8年後の現在も、*2-1のように、終わりの見えない廃炉作業が続いており(予算ばかり使って本当にやる気があるのか?)、住民は苦境の中にあるのに、政府は原発再稼働の方針を変えず、旧来型の産業界がそれに期待を寄せている。

 しかし、*2-2のように、フクイチ1~4号機が立地していた福島県大熊町の帰還困難区域の放射線量は、今でも毎時2~3マイクロシーベルトあり、帰還が始まった地域でも事故前と同じように放射線量が低くなったわけではない。

2)参院選候補者の原発に対する見解
 そのため、「今後も原発を存続すべきと思うか?」については、各地で全候補者に問うて欲しいが、東京では、自民の武見さん・幸福実現党の七海さん・安楽死制度を考える会の横山さん・無所属の関口さんが「原発存続賛成」で、立民の山岸さんと塩村さん・共産の吉良さん・社民の朝倉さん・日本無党派党の大塚さん・れいわ新選組の野原さんが「原発存続反対」だそうだ。国民の水野さん・公明の山口さん・無所属の野末さんは「どちらでもない(言えない?)」で、回答しなかった人は「(言えないが)原発存続に賛成」と考えてよいだろう。

3)司法の見解
 四電伊方原発3号機の運転差し止めを求めて山口県の住民が申し立てた仮処分申請で、山口地裁岩国支部が申し立てを却下する決定を出したことについて、愛媛新聞が社説で、*2-3のように、「①山口地裁伊方稼働を容認したが、司法はフクイチ事故を忘れている」「②このような司法判断の連続に失望を禁じ得ない」「③住民の不安に正面から向き合っていない」等と報道しており、全く同感だ。

4)市民の抵抗
 また、*2-4のように、脱原発を目指す市民グループ「eシフト」が、ウランは100%輸入なのに、国のエネルギー基本計画が「日本の原発は準国産のエネルギー源」と記載して国産を強調しており、このような記述が104カ所もあって「原発推進への印象操作だ」と批判しており、そのとおりだと思う。このような論理的な反論が、あちこちから出ることが重要だ。

(3)これからのエネルギーは脱原発・脱化石燃料にして再エネへ転換
1)再エネへの転換
 九電が川内原発を鹿児島県で再稼働させた地元誌の南日本新聞も、*3-1-1のように、「①東日本大震災とフクイチ事故は、世界のエネルギー政策の転機となった」「②政治の責任で脱原発・再エネへの転換を急ぐべき」「③原発が競争力を失っていることは明らか」「④川内と玄海で原発4基が再稼働した九州では再エネの出力制限を招き、原発で再エネがはじき出された」「⑤政府が脱炭素社会をうたったパリ協定を批准しながら石炭火力発電所新設を認めているのはちぐはぐだ」「⑥原発にこだわった日本のエネルギー政策は世界の潮流から取り残された」「⑦政府は現実を見据えた大胆な政策転換に踏み出すべきだ」としている。私も、日本政府が原発を護ってトップランナーだった日本の再エネ技術をビリまで落とした責任は大きいと考える。

 日本弁護士連合会も、*3-1-2のように、パリ協定と整合したエネルギー基本計画の策定を求める意見書を資源エネルギー庁長官に提出しており、「①太陽光・風力について蓄電池・水素等と組み合わせた電力貯蔵系システム」「②再エネの送電網への優先接続」「③既存送電網の活用及び地域分散型電源に対応した送電網の拡充」「④地域分散型のエネルギー需給システム構築のための政策の積極的推進」「⑤省エネ対策の一層の強化」「⑥脱炭素化を促進する野心的な炭素の価格付けの早急な導入」などを挙げており、同感だ。

2)「RE100」の提言
 事業で使う電力をすべて再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的な企業連合「RE100」の国内メンバーと米アップルの計20社が、*3-2-1のように、2019年6月17日、2030年の日本の再エネ比率を、政府目標の「22~24%」から「50%」に引き上げるべきだと提言したそうだ。

 アップルで環境対策を担当するリサ・ジャクソン副社長が、「世界中でクリーンなエネルギーを調達している企業として痛感しているのは、政府の決断次第で、より安価で安定的に調達が可能になるということだ」と述べ、日本政府に企業の取り組みを後押しする政策を求めたのは、全くそのとおりでよかった。

 また、*3-2-2のソニーのように、(ちょっと遅いが)2040年までに、世界の111拠点で全電力を再エネに切り替える目標を立てたり、環境対策の優れた企業に投資や調達を集中させたりするのは効果的だ。

 さらに、*3-2-3のように、取引先等の自社拠点以外でもCO2排出削減や資源循環に取り組んだり、物流拠点の共同利用でCO2を減らしたりするグローバル企業が増えると、世界に好影響を与えることが可能だ。

3)電力会社は・・
 九州では太陽光発電の出力が原発7、8基分に高まり、九電の原発4基も再稼働したため、九電は、*3-3-1のように、太陽光や風力発電事業者に稼働停止を求める「出力制御」に踏み切ることが多くなり、もったいないことだ。余った再エネを事業者に直接販売したり、水素に変えたりするインフラがあれば、意識の高い事業者の助けになるが、このようなことが技術的に難しいようでは先進国とは言えない。

 しかし、*3-3-2のように、 四電管内では、太陽光や水力発電など自然エネルギーによる電力供給量が、2018年5月20日午前10時から正午にかけて需要の100%を超えていたそうだ。内訳は、太陽光161万キロワット、水力56万キロワット、風力7万キロワット、バイオマス1万キロワットの計225万キロワットで、需要の101.8%に達し、余った電力は連係線を通じて市場で他社に卸売りしたほか、水をくみ上げて夜間に発電する「揚水発電」に使ったとのことである。他地域への電力販売は、地方経済の活性化を通じて地方の財源創出に資すると考える。

 また、*3-3-3のように、エアコンを夜通し動かしておかないと命が危うい猛暑の夏でも、3・11の教訓を生かした賢い省エネ・再生可能エネルギーの普及・電力融通の基盤整備によって電気は足りていたそうで、むしろ最大のピンチに立たされたのは、昨年から今年にかけて4基の原発を再稼働させた関西電力だそうだ。

 地域独占からネットワークへ、集中から調整へ、原発から再エネへと電力需給の進化は静かに、しかし着実に加速しているのではないかとのことである。

<環境とエネルギー政策>
*1-1:https://www.chugoku-np.co.jp/column/article/article.php?comment_id=552537&comment_sub_id=0&category_id=142 (中国新聞 2019/7/15) ’19参院選、エネルギー CO2と原発、どう脱する
 「気候緊急事態宣言」をする自治体がオーストラリアや欧州、北米の国内で広がり、5月には英国議会も宣言した。地球温暖化が原因と見なされる気象災害が、世界の各地で相次いでいるからだ。温暖化を食い止めるため2015年に採択されたパリ協定が来年、本格的に始動する。各国のエネルギー政策の動向には今後、注目が強まるだろう。石炭や天然ガスなどの化石燃料に依存した経済や社会から、いかに脱却するか。東京電力福島第1原発事故の辛酸をなめた日本社会にとっては、原発の扱いも重い政策課題である。活発な政策論議が望まれる。安倍政権は昨年改定したエネルギー基本計画で、30年に電源構成で占める再生可能エネルギーの比率を22~24%、原発は20~22%とした。再生エネの「主力電源化」を今回初めて打ち出した割には、海外諸国に比べると見劣りのする数値といえよう。40年に世界で総発電量の40%超を再生エネが占める―と見込む、国際エネルギー機関(IEA)の予想ともかけ離れている。一方で、原発の電源比率は17年度で約3%にとどまる。20%超の比率目標は、30基前後の稼働を前提とした数字である。現実はどうだろう。耐震補強や津波対策による高コスト化で廃炉を余儀なくされる原発も現れている。再稼働にこぎ着けた9基の幾つかは、テロ対策の不備から運転停止命令の出る公算が大きい。比率の実現など、もはや困難な状況である。政府はまた、先にまとめた温暖化対策の長期戦略で「脱炭素社会」実現を掲げた。今世紀後半のなるたけ早期に、二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出量をゼロにするという。にもかかわらず、石炭火力を温存する姿勢は変えていない。国内では新規の発電所建設が進み、30年度の排出削減目標は達成が危ぶまれている。CO2の排出量が膨大なため、石炭火力の廃止に向かいつつある世界とは逆行している。どうして、これで30年の電源構成比率や「脱炭素社会」の実現を成し遂げられると言い切れるのだろう。化石燃料を使わず、CO2を排出しない。「非化石」電源として原発を位置付け、推進すれば、矛盾はしない―。そう言いたいのかもしれない。だが、原発の「安全神話」はとうに崩壊し、事故の際のリスクを国民は目の当たりにした。代償はあまりに大きく、そして長期に及ぶ。先の見えぬ使用済み核燃料の廃棄や処分コストを考えても、妥当性はもはや見当たりそうにない。現政権のエネルギー政策は明らかに、ちぐはぐと言わざるを得ない。矛盾しないとするなら、与党は選挙戦できちんと説明する責任がある。野党の多くは原発ゼロをうたい、再生エネ導入の目標拡大などを掲げる。石炭火力では唯一、立憲民主党が30年までの全廃を目指す―と打ち出した。対立軸がこれほどはっきりした分野でありながら、議論がまだ低調なのは物足りない。エネルギー政策は、私たちの暮らしはもとより、産業の国際競争力や安全保障も左右する。与野党間で、もっと論争が交わされるべきである。

*1-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14097729.html?iref=editorial_news_two (朝日新聞社説 2019年7月15日) 参院選 脱炭素政策 変革への意欲はあるか
 来年から、地球温暖化対策の国際ルール・パリ協定が始まるのを前に、世界の脱炭素化が加速している。
再生可能エネルギー発電の設備容量は一昨年までの10年間で倍増し、すでに総発電量の4分の1を超えた。石炭火力発電は二酸化炭素(CO2)の排出量が多く、先進国では全廃や縮小をめざす動きが相次ぐ。
日本も自らの目標を達成できるよう、温室効果ガスの削減に本気で取り組まねばならない。そのために必要なのは、社会や経済の思い切った変革だ。参院選では、脱炭素化への与野党の覚悟と意欲が問われる。
これまで安倍政権のもとで打ち出されてきた各種の政策で、日本の脱炭素化を加速させられるのかは心もとない。たとえば昨年のエネルギー基本計画は、2030年度の電源構成で再エネを22~24%しか見込まず、石炭火力を26%も残すとしている。これに縛られたままでは、閣議決定した「50年までに80%排出削減」という目標にたどり着くのは難しい。政府は先月、この目標に向けたシナリオである長期戦略を国連に提出した。目標を達成した後、今世紀後半のできるだけ早期に排出ゼロの脱炭素社会をつくるとしている。だが、将来の不確かな技術革新に過度な望みをかけ、炭素税や排出量取引などのカーボンプライシングのように、いま実行できる対策からは逃げている。説得力に欠ける戦略である。それでも与党は、このシナリオに沿って進めばいいとの考えだ。脱炭素化を急がねば、という危機感は感じられない。それを象徴するのが石炭火力への姿勢である。日本には多くの新増設計画があり、「CO2削減に後ろ向きだ」と海外では評判が悪い。なのに与党は産業界の意向を尊重し、石炭火力からの撤退を視野に入れていない。大胆な政策転換に背を向けていては、世界の流れに取り残されてしまう。選挙戦の前半では、気候変動や温暖化をめぐる論戦は活発ではなかった。しかし野党には脱石炭に前向きな声があり、与党との対立軸として訴えられるはずだ。「30年までに石炭火力全廃」を公約に掲げる立憲民主党は、野党第1党として安倍政権の姿勢をただしてほしい。近ごろ、世界のあちこちで異常気象や自然災害が相次いでいる。このまま温暖化が進めば、くらしに深刻な影響が及ぶことを忘れてはならない。次世代に重いツケを回さぬよう、いま対策を急ぐ必要がある。与野党どちらに脱炭素社会をめざす意気込みがあるのか、しっかり見極めたい。

*1-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13491491.html (朝日新聞 2018年5月13日) 原発20~22%を明記 「取り組み強化」 エネ計画改定案
 政府が今夏の閣議決定を目指す「第5次エネルギー基本計画」の原案がわかった。電力量に占める原子力発電の割合を20~22%にするなど、政府が2030年度にめざす電源構成を初めて明記し、「確実な実現へ向けた取り組みのさらなる強化を行う」とした。核燃料サイクル政策は維持し、原発輸出も積極的に進めるなど、原発推進という従来の姿勢を崩していない。原発比率を20~22%にするには30基程度を動かす必要がある。経済産業省はいまある原発の運転を60年間に延長すれば達成できるとの立場だ。だが、新規制基準のもと、現時点では8基しか稼働しておらず、「非現実的」と指摘される。東京電力福島第一原発事故後、再稼働に反対する世論が多数を占めるなか、エネルギー政策への不信を深めることにつながりかねない。30年度の電源構成は原発のほか、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの比率を22~24%にすることなどを掲げる。15年に経産省がまとめたもので、その前年に決定した第4次計画には盛り込まれていない。原案は原発について「依存度を可能な限り低減させる」としながらも、「重要なベースロード電源」とし、従来の計画の位置づけを維持。新規制基準に適合した炉の再稼働を進めるとした一方、新増設の必要性の文言は明記していない。核燃料サイクルについては、自治体などの理解を得つつ、再処理で取り出したプルトニウムを燃やすプルサーマル発電を一層推進する、とした。安倍政権が成長戦略に掲げる原発輸出は各地で難航しているが、「世界の原子力の安全向上や平和利用などに積極的な貢献を行う」として、こちらも進める姿勢だ。再生エネは「主力電源化」を初めて打ち出した。送電線への接続制限などの課題の克服を「着実に進める」とした。一方、石炭火力は「重要なベースロード電源」との位置づけを維持した。温室効果ガス排出量が多く、国内外で批判も強いが、「高効率化技術を国内のみならず海外でも導入を推進していく」とした。化石燃料の自主開発比率について、30年に石油・天然ガスで40%以上に引き上げ、石炭は60%を維持することも目指す。基本計画は政府の中長期的なエネルギー政策の方向性を定め、約3年に1回見直している。原案は16日にある経産省の審議会に示す。

<原発>
*2-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/tokyo/list/201907/CK2019071102000124.html (東京新聞 2019年7月11日) <参院選>候補者アンケート 原発 「存続すべき」4人が主張
 東日本大震災から八年がたった今も、東京電力福島第一原発では終わりの見えない廃炉作業が続き、ふるさとに帰還できても、避難先などにいても、住民は苦境の中にある。一方、政府は原発再稼働の方針を変えず、産業界も期待を寄せている。今後も原発を存続すべきか。候補者に賛否を問うと、「賛成」が四人、「反対」が九人、「どちらでもない」が三人、「回答なし」が四人だった。賛成とした自民の武見敬三さんは「徹底した省エネ、再エネの導入等で原発依存度を可能な限り低減し、段階的な廃止を進め、安全性を最優先に、立地自治体等の理解を得るための取り組みを進めるべきである」と「条件付き」で存続の立場を取る。日本は石油などが乏しいことや、経済力、技術力の維持という観点から存続を容認する意見も。諸派(幸福実現党)の七海ひろこさんは「安全保障上からも原発の再稼働・増設を進め、エネルギー自給体制を構築すべきだ」と主張した。また、無所属の関口安弘さんは「原発なしで電源問題は解決できない。再生可能エネルギーの比率を高めながら最低限は存続」とする。諸派(安楽死制度を考える会)の横山昌弘さんは「原子力発電の技術を維持するためにも存続する必要がある」としつつ「狭い日本では数を半分に減らせる」と述べた。一方、反対する立民の山岸一生さんは「『原発ゼロ基本法』成立後五年以内に全ての原発を停止し、再稼働させることなく廃炉にする」と持論を展開。同じく立民の塩村文夏さんも反対の立場だった。共産の吉良佳子さんは「原発と人類、地震国日本は共存できない。コストの点でもすでに失格」と断じ、再生可能エネルギーへの転換を提言。社民の朝倉玲子さんは「人間の力で制御できないものは作るべきではない」、諸派(日本無党派党)の大塚紀久雄さんは「海岸線に設置され危険極まりない」、諸派(れいわ新選組)の野原善正さんは「巨大地震が取り沙汰されている中、継続はありえない」と安全性を疑問視。国民の水野素子さんは「原発ゼロ社会を目指していくためには、現実的な道筋、ロードマップを責任ある形で示していくことが必要」と指摘する。公明の山口那津男さんは「新設は認めない」が「新規制基準を満たし、立地自治体等関係者の理解を得て、再稼働を判断。再エネ拡大で原発依存度を下げる」として「どちらでもない」を選択。無所属の野末陳平さんは「当面は原発存続しかないが、三十年くらい先は原発依存から脱却しなくてはいけない」とする。
     ◇
 アンケートでは、丸川さん、西野さんから回答を得られなかった。森さんは回答を拒んだ。大橋さんは一部のみ回答。

*2-2:https://genpatsu.tokyo-np.co.jp/page/detail/1075 (東京新聞 2019年7月10日) 福島・大熊町の放射線量 −本紙が実走して測定−
 本紙は6月26日、東京電力福島第一原発1~4号機が立地する福島県大熊町の帰還困難区域で放射線量調査を実施した。7時間かけ自動車で約160キロを低速で走り、車外の線量分布を調べると、今なお原発事故の爪痕が色濃く残っていた。同町は、今年4月、大川原(おおがわら)、中屋敷(ちゅうやしき)両地区の避難指示が解除され、JR常磐線大野駅近くにあった町役場は大川原地区に移転し、新たな歩みを始めた。町の復興計画では、大野駅周辺など人口が多かった地域を「特定復興再生拠点区域」に指定し、優先的に除染を進めて2022年春ごろまでに避難指示の解除を目指す。27年には居住人口を、震災前の2割強に当たる2600人まで回復させたい考え。除染はまだ始まったばかりで、大野駅周辺は毎時2~3マイクロシーベルトあった。国道6号の東(海)側は、除染で出た汚染土などを長期貯蔵する中間貯蔵施設。用地が確保されしだい、次々と処理・貯蔵施設が建設され、急速に町の姿が変わっていた。

*2-3:https://www.ehime-np.co.jp/article/news201903160010 (愛媛新聞社説 2019年3月16日) 山口地裁伊方稼働容認 司法は福島の事故を忘れている
 東京電力福島第1原発事故を忘れたかのような司法判断の連続に、失望を禁じ得ない。四国電力伊方原発3号機の運転差し止めを求め、山口県の住民が申し立てた仮処分申請で、山口地裁岩国支部は申し立てを却下する決定を出した。愛媛をはじめ、広島、山口、大分4県の住民らが同様の仮処分申請をしているが、2017年に広島高裁が火山の危険性を指摘し運転を差し止めた以外、全て運転を認める決定が下っている。ほとんどが四電の主張を追認する内容で、原発の安全性や重大事故が起きた場合の避難など、住民の不安に正面から向き合っているとは言い難い。司法は、二度と福島のような事故を起こさない責任を改めて自覚し、住民の命や権利を守る役割を果たすべきだ。山口地裁で争点の一つだった住民の避難計画に対する判断は特に信じがたい。伊方原発から30㌔圏外で避難計画が策定されていない点について、国の緊急時対応が合理的との理由で問題視しなかった。しかし、福島原発事故の被害が30㌔圏にとどまらなかったことは周知の事実。事故への備えを一律に距離で線引きすることはできず、現実から目を背けるような姿勢は看過できない。さらに、地震などとの複合災害が起きた場合には「速やかに避難、屋内退避を行うことは容易ではないようにも思われる」と認めながら、具体的な問題点には触れていない。そればかりか「自治体レベルでの対応が困難になった場合には、全国規模のあらゆる支援が実施される」と言及。避難計画がなくても、いざとなれば国が何とかしてくれるといった論理はあまりにも乱暴で楽観的すぎる。伊方原発で最大の懸案である地震の影響に関しては、審尋の中で、地質学の専門家が活断層である沖合の中央構造線断層帯とは別に、地質の境界線の中央構造線の周辺にも活断層が存在する可能性を指摘した。決定では、四電や大学などが詳細に調査しているとして「活断層が存在するとはいえない」と断言したが、疑問だ。政府の地震調査研究推進本部も調査の必要性に言及しており、国や四電は速やかに検討すべきだ。広島高裁が運転差し止めの根拠とした巨大噴火の危険性は、「社会通念を基準として判断せざるを得ない」と、他の決定を踏襲した。だが、国民が気に留めないことと、実際の危険性は別の話だ。弁護団が「科学的な問題に社会通念を用いるのはおかしい」と指摘するように、噴火の規模の予測が困難な以上、自然災害には最大限謙虚に向き合わなければならない。社会通念を持ち出すべきは、原発の在り方そのものだろう。決定では「原発の必要性が失われている事情も認められない」としたが、太陽光などの再生可能エネルギーの普及が進む今、脱原発への潮流を司法が見誤ってはならない。

*2-4:https://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201903/CK2019031502000147.html (東京新聞 2019年3月15日) 「エネ計画に印象操作」市民団体分析 原発「国産強調」 事故「矮小化」
 国のエネルギー基本計画について、脱原発を目指す市民グループ「eシフト」は十四日、その内容を詳細に分析した結果を公表した。ウランは100%輸入なのに計画には「日本の原発は準国産のエネルギー源」と「準」とすることで国産を強調しているとし、グループはこのような問題を含む記述が百四カ所あると指摘。「原発推進への印象操作だ」と批判している。作成の中心を担った東北大の明日香壽川(あすかじゅせん)教授(環境エネルギー政策)は本紙の取材に「都合の良いデータだけを採用したり、事象の一面しか取り上げないなど、印象操作を狙ったように見える」と指摘した。検証サイトは、基本計画の本文を示しながら、問題のある箇所を一目でわかるように色づけし、問題点を解説するコメントを逐一、添えた。例えば、基本計画の前提となる近年のエネルギー動向をどう見るかについて、二〇一八年に閣議決定したこの第五次計画は、第四次計画を決めた一四年から「本質的な変化はない」と記述。これに対し、検証サイトは再生エネのコストが低下する一方で、原発のコストが増加したことを挙げ、「極めて大きな変化があった」と、前提の置き方を問題視した。福島第一原発事故による避難者の数に関して、基本計画が区域外避難者を含めていない点を「被害の矮小(わいしょう)化だ」と批判した。明日香氏は「エネルギー政策は複雑と思われがち。問題点を分かりやすく示すことで、改めて議論のきっかけになれば」と語った。検証サイトは、eシフトの公式サイトで読むことができる。

<これからのエネルギーと脱原発>
*3-1-1:https://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=103037 (南日本新聞社説 2019/3/10) [原発政策] 再生エネへ転換を急げ
東日本大震災とそれに伴う東京電力福島第1原発事故は、世界のエネルギー政策の転機となった。原発依存を脱却し再生可能エネルギー中心への大転換である。それなのに日本では安倍政権の下で原発の再稼働が進められ、ルール骨抜きの運転期間延長の動きも顕在化している。いまだに汚染水がたまり続け、溶けた核燃料の取り出し方法さえ定まっていない福島第1原発の状況を見れば、現実離れした政策と言わざるを得ない。安倍晋三首相は、8年たっても5万人以上に避難生活を強いている震災と原発事故の複合災害の教訓を思い起こすべきだ。政治の責任で脱原発の方針を明確にし、再生エネへ転換を急ぐ必要がある。福島の事故後、安全規制の強化によって原発の建設コストが膨れ上がり、世界各地で新増設計画が苦境にある。東芝の米子会社が経営破綻し、フランスの原発大手だったアレバ社も事実上破綻した。昨年末には、三菱重工業がトルコで進めていた原発新設計画と、日立製作所の英国での案件が断念の方向に追い込まれていることが表面化した。これで安倍政権が成長戦略として旗振り役を務めた原発輸出は全て行き詰まった。原発が競争力を失っていることは明らかだ。政府は昨年7月に改定したエネルギー基本計画でも原発を引き続き基幹電源と位置付け、2030年の電源構成比率の目標でも原発を20~22%のまま据え置いた。目標達成には現在稼働している9基を30基程度に増やす必要があるが、国民の反発が予想される新増設の議論は封印したままだ。川内と玄海両原発の4基が稼働する九州では、電力の供給過剰対策で再生エネの出力制限を招いている。原発再稼働によって再生エネがはじき出された格好だ。一方で政府は電力会社に多くの石炭火力発電所の新設を認めている。「脱炭素社会」の実現をうたったパリ協定を批准しながら、まったくちぐはぐな対応である。この間に、多くの国が脱原発や脱石炭のエネルギー政策に動きだしている。再生エネのコストが劇的に低下し、急拡大しているからだ。20年までに風力や太陽光が最も安価な電源になると予測する国際機関もある。原発にこだわるあまり、日本のエネルギー政策は世界の潮流から完全に取り残された。政府は早急に、現実を見据えた大胆な政策転換に踏み出さなければならない。

*3-1-2:https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2018/180615.html (日本弁護士連合会 2018年6月15日) パリ協定と整合したエネルギー基本計画の策定を求める意見書
●本意見書について
 当連合会は、2018年6月15日付けでパリ協定と整合したエネルギー基本計画の策定を求める意見書を取りまとめ、資源エネルギー庁長官に提出しました。
●本意見書の趣旨
 第5次エネルギー基本計画は、2050年までに温室効果ガスの排出量を80%削減するという我が国の長期目標に向けて、以下の点を明確にし、パリ協定の目的と整合したものとすべきである。
1 福島第一原発事故の経験から、原子力発電所の稼働、新増設を前提とするのではなく、原子力からの脱却を前提とする計画とすべきである。
2 脱炭素を実現するため、石炭火力発電からの脱却を明確に位置付けるべきである。
3 速やかに再生可能エネルギーの主力電源化を実現するために、2030年の電力供給に占める再生可エネルギーの割合を30%以上に引き上げるべきである。また、その拡大に当たっては、太陽光・風力について蓄電池や水素等と組み合わせた「再生可能エネルギー・電力貯蔵系システム」をコスト検証の対象とするのではなく、再生可能エネルギーの送電網への優先接続、既存送電網の活用及び地域分散型電源に対応した送電網の拡充など、地域分散型のエネルギー需給システム構築のための政策を積極的に推進するべきである。
4 省エネ対策の一層の強化及び脱炭素化を促進する野心的な炭素の価格付け政策を早急に導入するべきである。
5 エネルギー基本計画は、国民への十分な情報開示と、国民の意見が政策の立案・策定において実質的に反映されるプロセスの下で策定されるべきである。

*3-2-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201906/CK2019061802000131.html (東京新聞 2019年6月18日) <原発のない国へ>2030年、再エネ50%提言 ソニー、イオン、アップルなど20社
 事業で使う電力をすべて再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的な企業連合「RE100」の国内メンバーと米アップルの計二十社が十七日、二〇三〇年の日本の再エネ比率を、政府目標の「22~24%」から「50%」に引き上げるべきだと提言した。RE100は、英非政府組織(NGO)「The Climate Group」などが運営し、米グーグルやスターバックスなど百七十九社が参加。提言には、国内企業で加盟するソニーやイオンなど十九社に、世界の自社施設で使う電力を昨年すべて再エネにした米アップルを合わせた二十社が名を連ねた。提言は、世界中で異常気象が頻発していることを挙げ「早期の脱炭素化への行動が必要だ」と強調。気候変動に対応するため、温室効果ガスを排出しない再エネの比率を高める必要があるとし、「国が明確かつ意欲的な方向性を示すことが、迅速かつ大規模な再エネ普及の前提になる」と訴えた。この日、東京都内で関連のシンポジウムがあり、アップルで環境対策を担当するリサ・ジャクソン副社長が「世界中でクリーンなエネルギーを調達している企業として痛感しているのは、政府の決断次第で、より安価で安定的に調達が可能になるということだ」と述べ、日本政府に企業の取り組みを後押しするような政策を求めた。アップルは取引先にも納める部品を再エネ100%で生産することを求めており、国内ではイビデン、太陽インキ製造、日本電産の三社が対応した。ジャクソン氏は「他の日本の部品供給企業も続いてほしい」と訴えた。

*3-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO35148180Y8A900C1EA5000/ (日経新聞 2018/9/9) ソニー、全電力を再生エネに 世界111拠点で40年に
 ソニーは事業運営に必要な電力をすべて再生可能エネルギー由来に切り替える。現在7%の再生エネ比率を2040年までに段階的に引き上げる。環境対策の優れた企業に投資や調達を集中させる動きがあり、企業価値に直結すると判断した。日本では10社程度にとどまる全面切り替えが、半導体など生産に大量の電力を使う大手製造業にも広がってきた。世界中の事務所や工場など111拠点で使う電力を再生エネに切り替える。テレビやカメラなどの生産に必要な電力に加え、映画などコンテンツ製作も含む。工場の屋根に太陽光パネルを設置したり、再生エネを使ったとみなされるグリーン電力証書を買ったりして再生エネ比率をまず30年に30%まで引き上げる。再生エネへの全量切り替えを目指す世界的な企業連合「RE100」に加盟する。米アップルなど先行する欧米勢に加え、日本では富士通やリコー、イオンなどが参加し30~50年までの全量切り替えを目指している。ソニーは欧州ですでに再生エネ活用100%を達成しているが、グループ全体の電力消費の8割は日本に集中している。半導体工場があるためだ。ソニーの電力などに由来する温暖化ガス排出量はリコーの4倍あり、同連合に加盟する日本の製造業では最多になるとみられる。太陽光発電設備の買収も進める。日本では32年以降、再生エネでつくった電力を高値で買い取る固定価格買い取り制度の対象から外れる太陽光発電所が出てくるため、発電事業者の間で設備売却機運が高まるとソニーはみている。環境や社会への配慮で優れた企業に投資するESG投資は世界的な潮流になっている。世界持続可能投資連合(GSIA)の集計によると、世界でESG投資に向かった金額は16年に22兆9千億ドル(約2540兆円)と14年比で25%増えた。日本でも約160兆円を運用する最大の機関投資家、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が17年からESG指数に基づいた運用を始めた。再生エネへの切り替えは一時的にコスト増を招くが、「対応しなければ(資金調達など)事業が立ちゆかなくなる未来が来る」(ソニー幹部)と取り組みを強化する。

*3-2-3:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO25954220Q8A120C1EA5000/ (日経新聞 2018/1/21) 本社調査:環境エネ 素材キヤノン、製造業首位守る 環境経営度ランキング
 日本経済新聞社が実施した第21回環境経営度調査の企業ランキングで、製造業ではキヤノンが2年続けて首位となった。環境対策を取引や投資の条件とする動きが世界で強まるなか、取引先など自社拠点以外でも二酸化炭素(CO2)の排出削減や資源循環対策に取り組む企業が増えている。非製造業では物流拠点の共同利用でCO2を減らす試みが広がっている。調査では、資源循環や温暖化対策など5つの評価指標で企業を評価してランキングにまとめた。キヤノンは評価指標すべてで高評価を獲得。中でも資源循環は最高点だった。使用済みの複合機やトナーを回収し、部品や素材を製品に再利用する取り組みを強化。使用済み製品を生まれ変わらせた量は2016年に累計3万4千トンと、12年の6倍に増えた。茨城県には再資源化専用の工場も設けた。環境統括センターの古田清人所長は「欧州の国際会議などでは温暖化対策以外に資源循環を求める声がある」と話す。再資源化拠点は欧州や米国、中国にも設けている。5位のトヨタ自動車も資源循環に取り組む。使用済み自動車の破砕処理後に出る廃棄物の再資源化率は16年度に98%と12年度比4ポイント高まった。2位のコニカミノルタは主要な調達先500社以上を対象に省エネ支援を始めた。自社工場で培った省エネ対策をまとめたデータベースを17年に作成。調達先が容易に省エネできるようにした。サプライチェーン(供給網)全体で水資源のリスク管理に動くのは7位のサントリーホールディングス。17年度に取引先を対象とした水使用についてのガイドラインを整備した。海外の水使用量や水の枯渇リスクなどを把握。水を通じて持続可能な生産体制を整える。非製造業の運輸部門では佐川急便が3年連続の首位。20年をメドにIHIと都内に物流拠点を新設して共同運用する。物流を効率化することでトラックの配送距離を短くし、CO2排出量を減らす。2位の日立物流は佐川急便と資本提携しており、両社で千葉県の物流拠点の共同活用を進める。建設業は2年連続で積水ハウスが首位となった。17年から住宅の建設廃棄物をQRコードを使って現場で分別するリサイクルシステムの運用を始めている。
▼環境経営度調査 企業が環境対策を経営と両立させる取り組みを評価する調査。日本経済新聞社が日経リサーチの協力を得て1997年に始めた。今回は上場と非上場の有力企業のうち、製造業1724社、小売り・外食、電力・ガス業、建設業などの製造業以外の業種1357社を対象に、2017年8月から11月に実施。676社から有効回答を得た。評価指標は製造業が、環境経営推進体制、汚染対策・生物多様性対応、資源循環、製品対策、温暖化対策の5つ。スコア算出の際は、評価指標によって最高点が異なるため、最高を100、最低を10に変換。最高スコアを500とした。建設業は製造業に準じ5指標で評価し、非製造業、電力・ガス業は「製品対策」を除く4指標で評価している。非製造業の最高スコアは400、電力・ガス業は対象社数が少ないため各指標の平均を50、合計の平均を500としてスコアを算出している。

*3-3-1:http://qbiz.jp/article/139788/1/ (西日本新聞 2018年8月28日) 九電が事業者に太陽光制限周知へ 供給過剰の可能性 9月にも
 九州電力は、9月にも太陽光発電や風力発電事業者に稼働停止を求める「出力制御」に踏み切る可能性が高まったとして、近く事業者(契約件数約2万3千)に事前周知する。出力制御が行われれば、離島を除き全国初。九州では太陽光発電の出力が原発7、8基分に高まる中、今夏までに九電の原発4基が再稼働している。暑さがピークを過ぎて冷房需要が落ちる秋以降、電力の供給力が需要を大幅に上回り「送電網の安定運用が難しくなる恐れがあるため」(九電)としている。電気は需要と供給のバランスが崩れると、周波数が乱れたり、最悪の場合は大規模停電が起きたりする可能性がある。九電によると、再生可能エネルギーの出力制御は、工場やオフィスが休業し、需要が特に落ちる連休中などを想定。実施する場合は、前日夕方までに事業者にメールなどで通知し、当日朝に実施の最終判断をする。九電は初の本格的な出力制御となるため「突然の通知で混乱を招かないよう、あらかじめ対象者にダイレクトメールや直接訪問で周知」(関係者)する方向で調整している。九電管内では、5月の連休中に一時、太陽光発電の出力が需要量の81%を占めた。この時期にも出力制御が検討されたが、同社の火力発電の出力を抑制したり、揚水発電所の水をくみ上げる「揚水運転」に電力を使ったりすることで、実施を回避してきたという。その後、玄海原発4号機の再稼働や、川内原発1号機の定期検査終了で供給力が大幅に上昇。現在、定検中の川内原発2号機も近く発電再開の見通しとなっているほか、太陽光発電も月5万キロワットのペースで増えている。九電は「再生エネルギーを前向きに受け入れてきた結果、出力制御をしなければ需給バランスを保てない限界に近づいている」としている。経済産業省によると、出力制御は、揚水運転、火力発電抑制、再生エネ、原発の順に行われる。原発が最終手段とされている理由については「短時間に供給力を微調整するのが技術的に難しい」(担当者)と説明している。

*3-3-2:http://www.topics.or.jp/articles/-/87629 (徳島新聞 2018年8月17日) 四電、自然エネ100%供給 今年5月、国内10社で初
 四国電力管内で太陽光や水力発電など自然エネルギーによる電力供給量が、5月20日午前10時から正午にかけ、需要の100%を超えていたことが、NPO法人・環境エネルギー政策研究所(東京)の調べで分かった。2012年に太陽光発電などの固定価格買い取り制度が始まって以降、供給が100%に達したのは国内電力10社で初めてという。5月20日午前10~11時の四電管内の電力需要は221万キロワット。これに対する供給は太陽光161万キロワット、水力56万キロワット、風力7万キロワット、バイオマス1万キロワットの計225万キロワットで、需要の101・8%に達した。同11時~正午は需要が223万キロワットで、太陽光167万キロワット、水力52万キロワット、風力6万キロワット、バイオマス1万キロワットの計226万キロワットを供給し、需要に対する割合は101・3%だった。両時間帯ともに、太陽光が72・9%、74・9%を占め、最も多かった。火力発電と合わせると、10~11時は150万キロワット、11時~正午には153万キロワットの供給過多となった。余った電力は連係線を通じて市場で他社に卸売りしたほか、水をくみ上げて夜間に発電する「揚水発電」に使った。春は冷暖房があまり使われないため電力需要が少なく、太陽光発電の出力が大きい好天時は、自然エネルギーの割合が高くなりやすい。四電によると、5月20日は企業の需要の少ない日曜日で、晴天の上、それまでの降雨で水力の供給力も大きかった。自然エネルギーの1日平均の供給割合は52・2%だった。一時的とはいえ100%を超えたのは、固定価格買い取り制度に伴い、太陽光発電の導入が進んだことが背景にある。研究所によると、四電が他電力よりも早く100%を超えたのは太陽光や水力の比率が高いためという。飯田哲也(てつなり)所長は「伊方原発の再稼働は、電力需給を見る限り明らかに不要」と訴えている。四電は「自然エネルギーは天候に出力が左右される。安定的な供給のため原子力発電は不可欠」としている。

*3-3-3:http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018090402000169.html (東京新聞社説 2018年9月4日) 猛暑も電力余力 節電、融通、再エネで
 エアコンを夜通し動かしておかないと、命が危うい猛暑の夏-。それでも電気は足りていた。3・11の教訓を生かした賢い省エネ、そして電力融通の基盤整備が、エネルギー社会の未来を切り開く。七月二十三日。埼玉県熊谷市で国内観測史上最高の四一・一度を記録した猛暑の中の猛暑の日。東京都内でも史上初めて四〇度の大台を超えた。冷房の使用もうなぎ上り。午後二時から三時にかけての電力需要も、この夏一番の五千六百五十三万キロワットを記録した。それでも最大需要に対する供給余力(予備率)は7・7%。“危険水域”とされる3%までには十分な余裕があった。その日中部電力管内でも3・11後最大の二千六百七万キロワットに上ったが、12・0%の余力があった。東電も中電も、震災後に原発は止まったままだ。この余裕はどこから来るのだろうか。最大の功労者は省エネだ。計画停電を経験した3・11の教訓を受け止めて、家庭でも工場でも、一般的な節電が当たり前になっている。これが余力の源だ。そして、再生可能エネルギーの普及が予想以上に原発の穴を埋めている。猛暑の夏は太陽光発電にとっては好条件とも言えるのだ。むしろ最大のピンチに立たされたのは、昨年から今年にかけて四基の原発を再稼働させた関西電力ではなかったか。七月十八日。火力発電所のトラブルなどが重なって供給率が低下し、予備率3%を割り込む恐れがあったため、電力自由化を見越して三年前に発足した「電力広域的運営推進機関」を仲立ちとして、東電や中電、北陸電力などから今夏初、計百万キロワットの「電力融通」を受けた。3・11直後、東日本と西日本では電気の周波数が違うため、融通し合うのは難しいとされていた。だが、やればできるのだ。震災当時百万キロワットだった周波数変換能力は現在百二十万キロワット。近い将来、最大三百万キロワットに増強される計画だ。北東北では、送電網の大幅な拡充計画が進行中。地域に豊富な再生可能エネルギーの受け入れを増やすためという。地域独占からネットワークへ、集中から調整へ、原発から再エネへ-。電力需給の進化は静かに、しかし着実に加速しているのではないか。猛暑の夏に、エネルギー社会の近未来を垣間見た。

<おかしな論理はやめ、脱化石燃料へ>
PS(2019.7.17追加):*4-1・*4-2のように、2019年6月、この海域で日本のタンカーが攻撃されたため、米国が派遣した艦船が監視活動を指揮し、参加国が米艦船の警備や自国の民間船舶の護衛に当たるため、米国が同盟国に有志連合の結成を呼び掛け、原油を中東に依存する日本にとってこの航路の安全は極めて重要なので、日本政府は担当者を出席させるそうだ。
 こうなる理由は、*4-3のように、安保法制関連法案の国会審議の中で、集団的自衛権を行使し、自衛隊を米軍とともに世界に派遣する一例として、この航路の安全確保が挙げられていたからだ。しかし、根本的におかしいのは、①民間の船舶であるタンカーの経済的リスクなら保険で手当てすべきで ②保険料込みで原油購入者は対価を支払っている筈であり ③リスクが高ければ原油の販売者も大きな打撃を受けるため、この海域を守るべきは周辺の産油国側で ④この海域が原油で汚染されて困るのもこの海域の国々であること などである。
 このような中、エネルギー自給率を向上させる努力もせず、化石燃料であるこの地域の原油に依存し続けている日本の政治は、とりわけビジョンがないと言わざるを得ない。

*4-1:https://www.kochinews.co.jp/article/293436/ (高知新聞 2019.7.17) 【ホルムズ海峡】有志連合は緊張を高める
 中東・ホルムズ海峡などの安全を確保するため、米国が同盟国に有志連合の結成を呼び掛けている。米軍によると、米国が派遣した艦船が監視活動を指揮し、参加国は米艦船の警備や自国の民間船舶の護衛に当たるという。6月にこの海域で日本のタンカーなどが攻撃されたことに伴う対応としている。日本政府にも参加や負担を求めてくる可能性がある。イラン沖にあるホルムズ海峡やその周辺海域は原油の海上輸送の大動脈といってよい。原油を中東に依存する日本にとっても、航路の安全は極めて重要である。だが、自衛隊は現状で有志連合に参加すべきではない。現行法上、派遣が難しいこともあるが、航路の安全確保は本来、実力部隊の派遣によってではなく、国際社会の対話と協調で実現していくのが筋である。自衛隊派遣について岩屋防衛相はきのう「現段階では考えていない」と述べた。当然の判断だ。他の同盟国にも冷静な判断を求める。トランプ米政権は、タンカー襲撃などはイランの最高指導者ハメネイ師が直轄するイラン革命防衛隊の仕業と指摘し、非難している。ただ、確たる証拠がないのが現状だ。そもそも、米国とイランの最近の関係悪化はトランプ政権が引き起こしたといっても過言ではない。イランと、米欧など6カ国は2015年、イランが核開発を大幅に制限する見返りに制裁を解除することで合意。中東の緊張緩和は大きく前進すると期待された。ところが、米大統領に就任したトランプ氏はこの核合意からの離脱を一方的に表明し、対イラン制裁も再開した。イランが猛反発するのも当然だ。トランプ氏のイランへの強硬姿勢には、来年の米大統領選に向け、支持者に強いリーダー像を見せたいとの思惑があるとみられる。支持層である保守派はイランへの制裁強化を望む人が多い。問題は、トランプ氏がそれに同盟国を巻き込もうとしていることだ。同盟国はこれまで、トランプ政権の対イラン政策に一定の距離を置いてきたはずだ。有志連合に加われば一転、同調したことになる。ホルムズ海峡はイランにとって対外戦略上の要衝である。そこに米軍主導で多国籍の艦船が展開すれば、イランには軍事的な包囲網に映るだろう。航路の安全どころか、かえって緊張が高まりかねない。米国は数週間以内に有志連合を結成したいとしている。同盟国は参加を検討するより前に、米国とイランの関係修復に当たりたい。日本はイランと友好的な関係を維持してきた。安倍首相は6月、仲介のためにイランを訪問し、ハメネイ師とも会談した。その日本が有志連合に入るようなことになれば、これまでの友好関係も仲介の取り組みも水泡に帰すことになろう。今後も粘り強い外交努力が必要だ。

*4-2:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190717/k10011995731000.html (NHK 2019年7月17日) ホルムズ海峡安全確保 米構想の説明の場に日本も出席で調整
 中東のホルムズ海峡などの安全確保のため、アメリカ政府が今月19日に関係国に新たな構想を説明する場に、日本政府も担当者を出席させる方向で調整しています。アメリカとイランの対立で緊張が高まる中、アメリカ軍はホルムズ海峡の安全を確保するため、同盟国などとの有志連合の結成を検討していて、国務省のフック特別代表は、今月19日に関係国に対し新たな構想について説明する場を設ける考えを明らかにしました。これを受けて日本政府は、アメリカにある日本大使館から担当者を出席させる方向で調整しています。有志連合の結成をめぐっては、岩屋防衛大臣は16日「この段階で、いわゆる有志連合に自衛隊の参画を考えているものではなく、自衛隊を派遣することは考えていない」と述べています。ただ日本政府としては有志連合をめぐるアメリカの構想が明らかにならない中、担当者を出席させることで構想の具体的な内容について情報を収集するねらいもあるものとみられます。

*4-3:https://www.news-postseven.com/archives/20150604_326445.html (週刊ポスト 2015年6月12日号)安保法案でのホルムズ海峡機雷除去 想定自体現実にあり得ず
 安保法制関連法案の国会審議が始まった。集団的自衛権を行使し、自衛隊を米軍とともに世界に派遣する──安倍政権が閣議決定した憲法解釈変更を法制化し、日本の安全保障政策を大転換させる重要法案だ。法案早期成立のために、安倍晋三首相は詭弁と詐弁を駆使している。「他国の領土、領海、領空に派兵することはない」。安倍首相は安保審議の前戦の党首討論でそう言明した。しかし、安保法制の柱であり、国際紛争に際して自衛隊派遣の要件を定める恒久法「国際平和支援法案」には、「外国の領域における対応措置」が明記されており、他国領で活動しないという安倍首相の説明は明らかに嘘である。安倍首相が他国領域での集団的自衛権の行使について、「例外」のひとつとして挙げているのがホルムズ海峡での機雷除去活動だ(その他「米艦防護」に含みを持たせ、内閣法制局長官は「敵基地攻撃」にも言及した)。イランがペルシャ湾口のホルムズ海峡を機雷で封鎖する事態になれば、日本は中東からの石油運搬ルートを断たれる。それは安全保障上の重大事態だから、米国との集団的自衛権を行使して海自による機雷除去の掃海活動が必要になるという論理である。しかし、早稲田大学法学部の水島朝穂教授はこの想定自体が現実にはあり得ないと指摘する。「ホルムズ海峡はイランとオマーンの間で最狭部は幅約30キロ。両国が主張する領海が重なり、公海はない。この海峡を通る世界のタンカーの9割は中間線よりオマーン側の航路を通る。イランが海峡を封鎖するなら、オマーン領海にも機雷を敷設しなければならない。相手国領海への機雷敷設は戦闘行為そのもので、イランはオマーンに宣戦布告することになる。しかしオマーンはイランの友好国だから、機雷を敷設するという想定自体が非現実的だ」。それだけではない。「仮に機雷が敷設された場合でも、戦争状態での機雷除去は軍事行動になる。それを自衛隊が行なうとすれば、日米の集団的自衛権に基づくものではない。これは『集団的自衛権は米国が相手』としてきた政府の説明と矛盾する」(同前)。それでも安倍首相がホルムズ海峡を持ち出したのは、「石油が断たれたら大変なことになる」と危機を煽れば国民も認めるだろうという発想なのだ。

<電動車への移行>
PS(2019年7月18日追加):*5-1のように、市川市が低炭素社会の実現をアピールするためにEV導入を決定し、市長と副市長の公用車にテスラ製の高級セダンの『モデルS』とSUV(スポーツ用多目的車)の『モデルX』の2台を導入することをめぐって、「高額すぎる」と市民から見直しを求める声が上がったそうだが、それを次の産業政策に結び付ければ上出来だと私は考える。例えば、市長の公用車をテスラ、副市長の公用車をリーフ、市の他の所有車もEVや運転支援車にして皆で性能を比較し、今後の自動運転化やEV化を進める基礎にしたり、その方面の企業を誘致したりできれば初期投資は大きすぎず、値引要請も可能だろう。
 なお、最近は、*5-2のように、燃料電池電車も独で営業を始めており、これを運行する州の交通公社は2021年までに全てを燃料電池電車に置き換える予定で、その電車は水素タンクを満タンにすれば千km走行できる上、将来は風力発電による電気で水を分解して得た水素を使うのだそうだ。再エネによる分散発電と燃料電池電車を組み合わせれば、エネルギー代金が下がってエネルギー自給率は高まり、さらに超電導電線を敷設すれば送電料が入るため、日本でも北海道・東北・四国・九州の鉄道会社に特にお勧めだ。

    

(図の説明:1番左が、2018年9月17日から営業運転を開始したドイツのFCV電車だ。左から2番目は、日立製のFCV電車だが、営業運転はしておらず、DENCHAという子供じみた命名をしている点で本気度が見えない。また、右から2番目は、EV電車、1番右はEVバスで、陸上交通は既に実用化済のFCVやEVに変えることが可能になっている)

*5-1:https://response.jp/article/2019/07/18/324536.html (Response 2019年7月18日) 高級EVテスラにこだわる市川市長、リーフの選択は論外?[新聞ウォッチ]
 ローカル過ぎる話題だが、批判の的にされているのは、あのイーロン・マスク氏が最高経営責任者(CEO)をつとめる米電気自動車(EV)メーカー、テスラの高級EV車だけに見過ごすわけにもいかないようだ。千葉県の市川市の市長と副市長の公用車にテスラ製の高級セダンの『モデルS』とSUV(スポーツ用多目的車)の『モデルX』の2台を導入することをめぐり、市民から見直しを求める声が上がっているという。きょうの毎日などが「米テスラ高級EV公用車に批判」などと、社会面で大きく取り上げている。それによると、市川市は低炭素社会の実現をアピールするため、EV導入を決定。7月上旬には、副市長用に車両価格1110万円のモデルXのリースを開始した。費用は月約14万円で期間は8年間。これまでのトヨタの『クラウン』は月約6万円で月額が2倍以上となったという。このため、市民や議会から「高額だ」と批判が噴出。村越祐民市長は「説明不足だった」として、もう1台の車両価格1020万円のモデルSについては入札を延期することを決定。すでに納車された1台については、これまでの国産車との差額分8万5000円分を自身の給料から減額して補てんする考えを示したそうだ。この市川市の公用車導入の問題を少し整理すると、地球温暖化対策に前向きな取り組みの一環としてエコカーを選択することについての批判は少ないようだが、市民感情としてはその車種が1000万円を超える高級外車だから「税金の無駄遣い」との反対意見が噴出したと思われる。もし、最初から日産自動車の『リーフ』などを選択していたら、批判の声も上がらなかったのではないだろうか。もっとも、リーフは大衆車であるのと「差額は自腹でも」という市長の発言からみると、最初から「テスラありき」との思惑も透けて見える。

*5-2:https://digital.asahi.com/articles/ASL9K1RV4L9KUHBI001.html (朝日新聞 2018年9月18日) 世界初、燃料電池で走る列車 時速140キロ、独で営業
 鉄道が電化されていない区間の多いドイツで17日、燃料電池を使った列車の営業運転が始まった。車両を製造したフランスのアルストム社によると世界初の取り組みという。走行時に二酸化炭素(CO2)を出さず、環境にやさしい次世代の列車として世界的に注目されている。北部ニーダーザクセン州の約124キロの区間(ブクステフーデ駅―クックスハーフェン駅)を走る14編成のうち2編成で導入された。1編成で最大300人を乗せることができ、運行する州の交通公社は2021年までに全てを燃料電池列車に置き換える予定だ。車両の屋根にあるタンク内の水素と空気中の酸素を化合して発電。架線からは電気を受けずに、モーターを回して走る。床下にはリチウム電池が設置され、走行中にも自動で蓄電する。最高速度は時速140キロで、水素タンクを満タンにすれば1千キロまで走行できる。将来は風力発電による電気で水を分解して得た水素を使う方針という。通勤のため乗車した50代の女性は「すごく静かでとても驚いた。乗っていて心地良いくらい」と話した。ドイツの鉄道は現在も電化されていない区間が約半分を占め、ディーゼル車が走る。電化には巨額の投資と時間がかかるため、二酸化炭素削減に取り組む中で、燃料電池列車が急速に普及する可能性がある。一方、日本では鉄道総合技術研究所などで開発が進むが、営業運転のめどは立っていない。アルストム社の広報担当者は「燃料電池列車の価格はディーゼル列車より高いが、電化の費用を考えれば十分に見合う」と話す。

<メディアの質が低いこと>
PS(2019年7月19、20日追加):*6-1のように、参院選のテレビ報道が少なく、報道関係者は「選挙自体が盛り上がらず高視聴率を見込めないから」と説明しているそうだ。しかし、テレ朝の「羽鳥慎一モーニングショー」は、参院選公示以降、毎日30~40分、消費増税、年金などをテーマに専門家を招いて選挙報道を行い、各党の主張を紹介して連日9%台の視聴率を記録しているそうで、これは、この時間帯に家にいる高齢者や女性の政策への関心も高いことを示している。各党の公約を掘り下げて報道しなければ選挙による有権者の真の審判はできないが、NHKはじめ他の民放は、災害・天気・放火・殺人・高齢者の交通事故ばかりを報道しており、これらの報道関係者は各党の政策や公約を的確に掘り下げる意欲も能力も使命感もないようだ。
 また、メディアの質が低下しているのは報道番組だけでなく、*6-2のようなNHKの大河ドラマ「いだてん」も同じで、ゴールデンタイムを使って広告がないにもかかわらず6月9日の平均視聴率は6.7%と苦戦し、1989年以降最低だそうだ。そして、その理由を「①合戦のシーンを大河の見どころと考える従来の固定層が近現代という設定になじめなかった」「②有名人のストーリーではないから」「③作品のメッセージ性はよい」「④少子高齢化により高齢視聴者の影響が強い数字になりがちだから」「⑤『歴史好き』ではなく、『ドラマ好き』が支持しており、視聴率は関係ない」としているが、マーケットリサーチは正確に行わなければ今後の改善もない。私は、①②④は、言い訳にしても従来の視聴者や高齢者を馬鹿にしており、③は偶然に触発された人ばかりのメッセージで感動するほどのものではなく、⑤は、ドラマとしても、失敗ばかりして絶叫しているストーリーで面白くないのである。
 大河ドラマに戦国時代・明治維新の話は既にしつこいほど出たため、今後は、1)秦の始皇帝と徐福 2)三国志と倭 3)神功皇后の新羅出兵と応神天皇の東征 4)大化の改新・白村江の戦い・飛鳥時代・持統天皇 5)「この世をば わが世とぞ思ふ・・」と詠んだ藤原道長と彰子、定子、紫式部、清少納言 など、日本の古代史とアジアを、二国間協力し壮大な大河ドラマにして美しい映像で放映すれば、世界レベルで興味を持たれると思う。もし、日本の作家にそういう能力がなければ、中国・インド・アラビア・エジプトはじめ文化に力を入れている外国の映画を放映した方がよほど面白い。
 なお、京都アニメ放火事件について、ある番組のコメンテーターが「テロと言ってもいい」などと言っていたのには呆れたが、テロリズムとは、*6-3のように、「準国家的集団又は秘密の代理人による、非戦闘員を標的とし、政治的な動機を持つ暴力をいう」と定義されており、非国家主体又はその各々の政府のために仕える秘密捜査員によってのみ関与されるものだ。日本は既に民主主義国で政治の変革にテロは不要なので、私は京都アニメ放火事件はただの犯罪だと思うが、あれをテロだと言った人は(いい加減ではなく)テロの要件に合う理由を述べるべきだ。

*6-1:https://digital.asahi.com/articles/ASM7K6X5XM7KUCVL02H.html?iref=comtop_8_02 (朝日新聞 2019年7月19日) 「視聴率取れない」参院選、TV低調 0分の情報番組も
 参議院選挙のテレビ報道が低調だ。選挙自体が盛り上がらず、高視聴率を見込めないためと関係者はみるが、そんな常識を覆す現象も起きている。テレビ番組を調査・分析するエム・データ社(東京都港区)によると、地上波のNHK(総合、Eテレ)と在京民放5社の、公示日から15日までの12日間で選挙に関する放送時間は計23時間54分で、前回に比べ6時間43分減っている。とりわけ「ニュース/報道」番組の減少が顕著で、前回から約3割減、民放だけなら約4割減っている。公示日のテレビを見ると、NHK「ニュースウオッチ9」がトップで伝えたり、TBS系「NEWS23」と日本テレビ系「news zero」が党首討論を行ったり、午後9時以降の主な報道番組六つすべてが選挙にふれたが、翌日は六つとも報じなかった。その後も、番組によって、放送しない日があった。「情報/ワイドショー」は、前回より放送時間が増えたが、フジテレビ系「とくダネ!」やTBS系「ビビット」、日本テレビ系「スッキリ」など、公示日から15日まで選挙企画が全くないところも。10年以上情報番組に携わった在京キー局の元プロデューサーは、選挙自体、盛り上がりに欠けるためだとみる。「安倍政権1強下で行われる参院選。政権交代が起きる要素もない。テレビが取り上げたくなる個性の強い候補者や選挙区もない。視聴率が取れない」。また選挙期間中は、陣営からのクレームを恐れ、発言時間をストップウォッチで管理するなど細心の注意が必要だったとし、「数字が取れないのに、作り手は、手間とリスクを取って放送するメリットはないと思っているのでは」。実際、14年には自民党がテレビ局に、出演者の選定や街の声の放送など、事例を挙げて「公平」な報道を求める文書を送付している。そんな中、積極的なのはテレビ朝日系の朝の情報番組「羽鳥慎一モーニングショー」。公示日以降、ほぼ毎日30~40分、消費増税、年金などをテーマに、専門家を招いて掘り下げ、各党の主張を紹介している。しかも、視聴率(関東地区、ビデオリサーチ調べ)は連日9%台を記録。同時間帯の民放の情報番組の中で首位を走る。憲法改正に絡む「緊急事態条項」を取り上げた祝日15日の放送は、15年の番組開始以来2位の11・7%となった。小寺敦チーフプロデューサーは「難しいテーマに司会者の羽鳥慎一さんさえ『祝日の朝に本当に見てもらえるのだろうか』と心配していたのに、結果を見て、選挙に関する有権者の知りたいという欲求を確かに感じた」と話す。NHKは前回に比べ3時間弱、放送時間が減少した。同局幹部は4日の公示日前後にあった九州南部の大雨に触れ、「災害報道に時間を割いたことも影響しているのでは」と言う。ただ、NHKの場合、ネット上で選挙サイト「NHK選挙WEB」も展開。世論調査の結果や各党党首の演説を、グラフや図を使って多角的に分析。全国の選挙区ごとに特設ページを設け、候補者へのインタビュー映像や、NHKの記者による争点解説の動画を発信するなどネット報道を強化しているという。別の幹部は「全体では、発信する情報量はむしろ増えている」。政治とメディアの関係に詳しい逢坂巌・駒沢大准教授は、選挙に強い関心のある有権者を満たす受け皿としてネットの充実は必要だと評価する。ただ「選挙に関心の低い人が興味を持つきっかけは、最も影響力の大きい地上波が担うべきではないか」。そもそも、各局の放送内容に批評性が足りないと指摘するのは、フジテレビで報道番組のディレクターなどを務めた筑紫女学園大の吉野嘉高教授だ。「本来であれば、安倍政権の6年を振り返り、何が実現して何が実現しないのか検証する報道が必要だ。公平性に気が回りすぎて、全く切り込めていない」と話す。「有権者が一番知りたい時期に、知る権利に量的にも質的にも応えていないことを意識すべきだ」と指摘する。

*6-2:https://digital.asahi.com/articles/ASM6M2W93M6MUCVL001.html (朝日新聞 2019年7月2日) こんな大河見たことない いだてん、視聴率が計れない熱
 NHKの大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」が苦戦している。6月9日の平均視聴率は6・7%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)で、NHKが把握している1989年以降で大河史上最低を更新した。作品を評価する声はあるのに、なぜ?「いだてん」は五輪マラソンに日本人初出場を果たした金栗四三(かなくりしそう)と、64年の東京五輪招致に関わった田畑政治の歩みを描く。大河としては珍しい近現代の物語だ。脚本は人気作家の宮藤官九郎さん、金栗を中村勘九郎さんが演じ、ビートたけしさんや役所広司さんらも出演し、話題性は十分だった。ところが、初回視聴率こそ前作「西郷(せご)どん」を上回ったが、2月から6月30日まで20回連続で1桁台。対照的に、山奥の一軒家を訪ねる同時間帯のテレビ朝日系「ポツンと一軒家」は20%前後の高視聴率で、民放関係者は「確実に視聴者が流れている」と指摘する。
●従来の固定層がなじめない
 受信料で支えられる公共放送のNHKは、数字に一喜一憂する必要はないはずだが、大河や朝ドラは「NHKの看板番組」。ある幹部は「トヨタでプリウスが売れなかったら問題になるようなもの。公共放送も、放送内容に納得してもらうからこそ受信料を払ってもらえる」と危機感を募らせる。低迷の理由はどこにあるのか?大河に詳しいコラムニストのペリー荻野さんは「合戦のシーンを大河の見どころと考える従来の固定層が、近現代という設定にそもそもなじめなかった」と分析。明治・大正期と昭和期の二つの時代を唐突に行き来する複雑な演出なども敬遠されたとみる。さらに、織田信長や坂本龍馬のような有名人のストーリーではないため、「1回見逃すと、話についていけなくなると思われた」こともマイナスに影響したと考える。とはいえ、ペリーさん自身は、これまでにない「新しい大河」として、いだてんを評価する。
●現代に通じる強いメッセージ
 6月9日の放送では、陸上競技の大会で、女学生が素足に靴を履いて走った。父親が「おなごが人前で脚を丸出しにするなんて。もう嫁には行けない」ととがめる中、教師の金栗は「おなごが脚ば出して何が悪かね」と猛然と反論する。ペリーさんは、女性が職場でヒールがあるパンプスを強制されることに疑問を投げかける昨今の社会状況と重なったと語る。「単なる女性の自立ではなく、『男女はこうあるべきだ』という社会の押しつけに異議申し立てする現代的な視点を歴史物語に盛り込むなど、作品のメッセージ性は強い」。近現代文学を扱う小樽文学館(北海道小樽市)の玉川薫館長は「金栗の日記などを元にした脚本は人物を生き生きと描いており、明治・大正期の人物が身近なものとして感じられる。4年に一度の五輪がいかに人生を振り回すかが切実に伝わってきます」と評価する。
●「ドラマ好き」からの支持
 そもそも「視聴率が低いから失敗」とは言えないと、メディアコンサルタントの境治さんは指摘する。ビデオリサーチの視聴率とは「世帯視聴率」のことで、少子高齢化により高齢視聴者の影響が強い数字になりがちだというのだ。「ツイッターでの反響や他の調査会社のデータなどを分析すると、高齢視聴者が中心の従来の『歴史好き』ではなく、『ドラマ好き』が支持しているとわかる。新しい視聴者の開拓という意味では成功していると言えます」。視聴率の高い低いは注目され、ニュースにもなる。「しかし、世帯視聴率は今や番組を測る基準の一つでしかないのだと、テレビ局もメディアも視聴者も認識を改めるべきではないか。もっとも、好きなドラマを楽しむのに視聴率は関係ないと思いますが」。大河制作に携わっていたNHKの木田幸紀放送総局長は視聴率低迷を「残念なこと」としつつ、「『いだてん』は今までにない、これからあるかどうかわからない、見たこともない大河ドラマ。この作り方を最後まで貫いてほしい」と語る。ドラマは6月30日から田畑が主役の第2部へ。その前に報道陣の取材に応じた田畑役の阿部サダヲさんは「ポツンと一軒家」を念頭にこう言った。「もう一軒家って、そんなにないでしょう、そろそろ。(視聴者が)帰ってくると思いますよ」

*6-3:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%86%E3%83%AD%E3%83%AA%E3%82%BA%E3%83%A0%E3%81%AE%E5%AE%9A%E7%BE%A9 (Wikipediaより抜粋) テロリズムとは
 「準国家的集団又は秘密の代理人による、非戦闘員を標的とし、事前に計画された政治的な動機を持つ暴力をいう」と定義されている。テロリズムの教科書に載っている定義には、以下のようなものが含まれている。
 1)テロリズムは、政治目的、宗教又はイデオロギー的な変化を追求しようとして、
   特に民間人に対して、暴力又はその脅威を行使することである。
 2)テロリズムは非国家主体又はその各々の政府のために仕える秘密捜査員に
   よってのみ関与され得る。
 3)テロリズムは直接対象となる犠牲者以外にも影響が及び、より広範囲の社会
   への標的にも向けられる。
 4)テロリズムは「法律により違法とされた犯罪(法定犯)で、不道徳又は不正な
   行為(自然犯)である。

<参院選における投票判断の材料>
PS(2019年7月20日追加):*7は、朝日新聞社と東京大学谷口研究室の共同調査で、候補者や政党の見解がわかりやすく纏められていてよいのだが、大雨や日程の都合で期日前投票をした人も多いため、今週始めくらいに出してもらえるともっとよかったと思う。

*7:https://www.asahi.com/senkyo/senkyo2019/asahitodai/?iref=comtop_8_08
朝日新聞社と東京大学谷口研究室の共同調査で、候補者に政策課題への賛否を尋ねました。皆さんが注目する候補者の政策への考え方を調べてください。(以下略)

<政策選択と投票>
PS(2019年7月21日追加):*8-1のように、今日、参院選が投開票されるので、有権者は選挙で政策への賛否を示すべきである。一票では力がないと考える人もいるが、一票の集まりが選挙結果や政策変更に繋がっており、棄権は政権への白紙委任だ。しかし、メディアの情報にも、「年金支給を支えながら自身は十分に受け取れない可能性がある若者こそ声を上げるべきだ」というように行政の説明を鵜呑みにした論調が多く、これでは、「これまで年金を支えたり、老親を直接養ったりしてきたのに、自分は生活できる年金すら受け取れない」という現在の高齢者の生活を無視している。そして、この問題を一挙に解決して誰にも文句を言わせないのが、自分のために積み立てる積立方式への移行と税外収入による積立不足分の補填なのである。
 また、*8-2のように、自由貿易至上主義でTPPとEUとのEPAが推進されているが、産業政策も考えておかなければ、我が国は食料自給率が低く、自国の食料確保さえおぼつかなくなる。それは与党が主張する「攻めの農政」だけでは解決しないし、野党が主張する「戸別所得補償制度」では財源が膨大になる上、農業の生産性向上に資さない。また、「農産物の価格補償」は、高価格分が国民負担なのである。そのため、私は、TPPとEUとのEPAを進めるにあたり、「戸別所得補償制度」の代わりに農林漁業に再エネ機器を貸与して副収入を得させるようにし、補助金の削減・地方創成・地方交付税の削減に結び付けるのが最もよいと考える。
 なお、自民党政権は行政とつるみ、大人が働いている産業に補助金をばら撒いて社会的弱者への教育・社会保障を削ってきた。しかし、*8-3の教育投資は重要で、技術革新や生産性向上の源は教育だ。さらに、*8-4のように、沖縄は過去2回の知事選・今年2月の県民投票で基地移設反対の民意が鮮明に示され、オール沖縄で基地の集中に抗議しているのに、与党は公約で辺野古移設推進を掲げ、沖縄選挙区の自民党公認候補は賛否を明らかにしていない。そして、ここにも土木業者と結託して将来計画もなく環境を破壊している無駄遣いの温床があるようだ。


2019.6.26、28東京新聞           2018.3.19東京新聞

(図の説明:参院選のテーマは多いが、左と中央の図のように、ポイントが纏められている。根本は、インフレ政策で実質年金・実質賃金が減少し、生活が苦しくなった人が多い《=エンゲル係数が上がった》ことである)

*8-1:https://www.hokkaido-np.co.jp/article/327180 (北海道新聞 2019年7月21日) <2019参院選>きょう投票 未来につながる選択を
 参院選はきょう投開票される。衆院選と違って政権選択選挙ではないとされるが、6年半続く安倍晋三首相の政権運営に評価を下す大切な機会である。この間に、われわれの暮らしはどう変わっただろうか。参院選の公示直前に「老後に夫婦で2千万円の蓄えが必要」と試算した金融庁の報告書が明らかになり、老後への不安があらわになった。こうした不安を取り除く手だてを講じるのが政治の使命であり、その政治を動かすのは有権者の切実な声だ。なかんずく、現在の年金支給を支えながら自身は十分に受け取れない可能性がある若者こそ、声を上げるべき局面といえる。未来を見据えた思いを1票に託そう。今回改選される参院議員は、安倍首相が政権復帰して初めて行われた国政選挙で当選した。任期が第2次以降の安倍政権とほぼ重なるだけに、候補者や、候補が所属する政党が政権とどう向き合ってきたかが問われる。「安倍1強」の下、政権に不都合な事実を覆い隠すような公文書の隠蔽(いんぺい)や改ざんが行われ、参院を含む国会の形骸化が進む。行政監視の機能を取り戻す必要がある。安倍首相は「違憲論争に終止符を打つため、憲法に自衛隊を明記していく」と繰り返し、改憲を最大の争点に掲げる。権力を縛るはずの憲法について、為政者自らがそのくびきを外すかのごとく改定を声高に叫ぶのは、やはり違和感が拭えない。改憲は国民の代表である国会が発議するもので、そこに投票で意思を投影するのは有権者であることを忘れてはならない。首相があまり強調しないテーマの方がむしろ問題は切迫している。北海道では、急激な人口減と高齢化に伴う地方衰退に歯止めをかける施策が求められる。ふだんの暮らしで困ったことを、どう解決するか。自分の生活に引きつけて、候補や政党の公約を見比べてみるのも有効だ。道選挙区の投票率はかつて60~70%台で推移していたが、2013年は54・41%、16年は56・78%と低迷が続いている。前回の参院選から選挙権年齢が18歳以上に引き下げられたが、投票所に足を運ぶ若者は少ない。少子高齢化が加速し、若者の声が政治に届きにくくなっている。この状況を変えるためにも、まずは1票を投じてほしい。

*8-2:https://www.hokkaido-np.co.jp/article/326973?rct=c_editorial (北海道新聞社説 2019年7月21日) <2019参院選>農業政策 自由化後の展望見えぬ
 あす投開票される参院選は、環太平洋連携協定(TPP)、日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)の発効後、最初の国政選挙である。日本農業はかつてない自由化の荒波に直面し、多くの農家が将来に不安を抱いている。これからの農業をいかに守り、育てるのか―。食料基地・北海道の有権者にとって関心の高いテーマだが、年金問題などに比べて各党の優先順位は低く、論戦が深まっていないのが残念だ。選挙戦も残り1日である。特に道選挙区の候補者には、農業政策の具体論を語り、有権者に明確な選択肢を示してもらいたい。農業政策について与党は、安倍晋三政権が推進する「攻めの農政」を通じ、対外的な競争力を高めることに重きを置く。自民党は「TPPや日欧EPAの下でも農業者が安心して再生産に取り組めるよう全力で応援する」、公明党は「世界に日本ブランドを広め、輸出力を強化する」とそれぞれの公約集に記した。こうした考え方は、輸入農産物の攻勢にさらされている生産現場の実感とは大きく異なる。例えば、TPP発効後の約半年で、オーストラリアなど加盟国からの牛肉の輸入は前年同期比で4%伸びた。しかも関税は今後14年間下がり続ける取り決めがある。ただでさえ高齢化と人手不足で経営体力を失う生産者が増えているのに、既存の国内対策の「着実な実施」や輸出などの「攻め」を強調するだけでは説得力を欠く。対する野党は、農家の所得を底上げし、40%未満に落ち込んだ食料自給率向上を訴えている。所得向上策に関しては、立憲民主党と国民民主党が「戸別所得補償制度の導入」、共産党は「農産物の価格補償と所得補償の抜本強化」を掲げた。農家への直接支払制度は自国農業を守るのに有効だが、巨額財源をどう確保するかの説明がなく、絵に描いた餅にしか見えない。特に立憲民主党と国民民主党は、民主党政権時代の戸別所得補償制度が十分機能しなかった原因を検証し、改善案を示さなければ、農家の信頼は得られまい。選挙後には日米貿易協定交渉も本格化する。トランプ米大統領は「農産物と牛肉が重要だ」と主張しており、輸入拡大を求めてくることははっきりしている。各候補は「農業を守る」と連呼してきたが、そんなかけ声だけで済ませてよい選挙ではない。

*8-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201907/CK2019072002000134.html (東京新聞 2019年7月20日) <参院選 くらしデモクラシー>中所得層にも無償化訴え 大学生困窮「教育もっと投資を」
 日本の公教育への投資は先進国の中で極端に低く、家計への負担は大きい。低所得世帯の学生らを対象に高等教育の負担を軽減する新法が五月にできたが、中所得層は置き去りのままだ。現状に苦しむ学生から「教育への投資」を求める声が高まっている。「政治はもっと教育に目を向けてほしい」。梅雨空が広がった六月末、学生団体「高等教育無償化プロジェクト」(通称・フリー)代表の岩崎詩都香(しずか)さん(20)=東大三年=の声が東京・新宿駅前に響いた。「高額な学費で学生生活が奪われている」「奨学金という借金を背負い未来を自由に描けない」。メンバーの学生らも代わる代わるマイクを握り、窮状を訴えた。フリーは、岩崎さんらが学生の実態調査のために約三十大学の学生らとともに昨年九月につくった。現在、首都圏を中心に約百三十人が活動している。岩崎さんは地元・長崎市の公立高を卒業し、二〇一七年に東大文学部に進学した。六人きょうだいの末っ子。八歳の時に父を病気で亡くした。起業に失敗した父の借金を背負った母が、清掃業のパートで家計を支えてきた。しかし、父の遺族年金を含めても収入は年二百五十万円に届くのがやっとで、浪人は許されない。東大を選んだのは、年約五十四万円の授業料が全額免除される制度の所得対象になったからだ。仕送りはなく、月額約五万円の奨学金に加え、母子生活支援施設を警備する夜間バイトで生活費を賄う。「教科書の購入が必要な授業は、なるべくとらないようにしています。同級生との交流を極力減らし、コンパも断ってきた。ましてや旅行なんて」。返済が必要な奨学金の総額は、大学四年間で約二百五十万円を見込む。進学を望む大学院でも奨学金を頼るつもりだが、一段と膨らむ負担への不安は大きい。苦しんでいるのは「自分のような低所得層だけではない」と言う。「裕福そうな友人たちも、授業料のためにバイト漬けの生活を送っていた」。フリーが全国の大学や短大、専門学校に実施したアンケートでは、七月中旬までに集計が完了した約六千七百人の六割程度が「大学・学部を選択する際に学費を考慮した」と回答。奨学金の利用は三割を超えた。安倍晋三首相は消費税の使い道として「高等教育無償化」を掲げたが、五月に成立した高等教育の負担を軽減させる新法の対象は低所得世帯に限定された。多くの学生が望むものとはほど遠い。岩崎さんは「地元の友達の中には、親から『おまえは大学にはやれない』と言われて早々に諦めた人もいる。高等教育を受けることができないのは本人の努力不足かのような自己責任論を押しつけられている。こうした社会を変えていきたい」。二十一日投開票の参院選で、学生の未来を託せる候補者を見極めるつもりだ。
◆公的支出2.9% OECD34カ国中最下位
 日本の学生を取り巻く環境は厳しさを増している。日本の教育への公的支出の割合は、経済協力開発機構(OECD)の加盟国の中でも際立って低い。二〇一八年の発表によると、日本の国内総生産(GDP)に占める公的教育費の割合は2・9%でOECD平均の4・2%を下回り、比較可能な三十四カ国で最下位だった。日本では特に国公立大など高等教育の授業料が主要国の中でも高く、学費の家計依存度の68%もOECD平均の30%の二倍を超える。授業料の値上げも続いている。文部科学省によると、バブル経済に沸いた一九八九年に約三十四万円だった国立大の授業料は現在、約一・六倍の約五十四万円に。入学金は十万円増の約二十八万円となった。一方、九四年に六百六十万円を超えた一世帯あたりの平均所得は、一七年には五百五十一万六千円に低下した。家計に余裕がなくなっているのに、国立大では学費値上げが相次ぐ。東京工業大や東京芸大などは一九年度から学費を年額十万円値上げし、学生らが苦境に立たされている。

*8-4:https://www.hokkaido-np.co.jp/article/326972?rct=c_editorial (北海道新聞 2019年7月21日) <2019参院選>沖縄に基地集中 辺野古は全国の問題だ
 戦後、沖縄が背負ってきた負担はあまりに重い。今なお、国内の米軍専用施設の7割が集中している。その状況下で安倍晋三政権は米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設工事を強行している。首相は就任以来「沖縄に寄り添う」と繰り返してきたが、実際の態度は違う。県はすでに辺野古沿岸部の埋め立て承認を撤回している。加えて過去2回の知事選に続き今年2月の県民投票では、移設反対の民意がより鮮明に示されている。なのに、国は県の承認撤回を脱法的とも言えるやり方で取り消し、希少な自然が残る辺野古沿岸で埋め立て域を広げ続けている。安全保障を理由に、国の政策を一方的に押し付ける姿勢は、対等であるべき国と地方の関係をゆがめている。沖縄以外の地方にとっても人ごとではない。沖縄の基地問題は負担の公平性も含め、参院選の大きな争点だ。自民党は公約で辺野古移設推進を掲げる。しかし沖縄選挙区では公認候補が賛否を明らかにしていない。昨年の知事選同様、争点をぼかそうとする意図が透ける。公明党は党本部が政府方針を容認する一方、沖縄県本部は県内移設に反対している。一貫性を欠き、有権者には分かりづらい。一方、立憲民主、国民民主、共産、社民の野党4党は中止、反対を公約に掲げ、政権批判を強めている。ならば普天間返還を含め、基地負担の軽減を米側とどう進めるか具体的に示す必要があろう。県は今週、石井啓一国土交通相が県による埋め立て承認撤回を取り消す裁決をしたのは違法だとして、裁決の取り消しを求める訴訟を福岡高裁那覇支部に起こした。国と県の対立はまたも法廷闘争に入り、出口が見えない。そもそも県の撤回理由には、辺野古沿岸部に最深約90メートルに達する軟弱地盤の存在が新たに判明したことがある。現計画では対応できず、費用も大幅に膨らむ。国が県の承認なく工事を強行し続けることができないのは明らかだ。国は普天間問題について「辺野古移設が唯一の解決策」とする。だが移設を最初に閣議決定してから20年たち、安全保障環境も変わる中「なぜ、唯一なのか」を県民に丁寧に説明したことはない。今回の参院選は、政権の地方軽視の姿勢と基地負担のあり方を国全体の問題として考え、投票する機会にしたい。

| 資源・エネルギー::2017.1~ | 03:34 PM | comments (x) | trackback (x) |
2019.7.1 2019年7月の参議院議員選挙と人権軽視の司法改革など (2019年7月2、4、9、10、15、16日追加)
 
   2018.3.16、2018.11.20産経新聞       
         司法取引               共謀罪    特定秘密保護法

(図の説明:左の2つの図のように、司法取引を導入している国は日本だけではないが、重要なのは使われ方で、ゴーン氏逮捕事件は民衆の嫉妬を煽って無理に有罪を作りだすという日本独特の様相を呈している。また、右から2番目の図の共謀罪も何とでも言えるため、憲法違反が指摘されている。さらに、一番右の特定秘密保護法は行政のやりたい放題になる上、「秘密を漏えいしやすいので特定秘密取扱者の制限を受ける」として挙げられた類型は差別そのものである)

(1)参院選で考慮すべき国民監視強化と人権侵害への法改正
1)2019年7月の参院選について
 日本農業新聞が、*1-3のように、TPPの発効や規制改革推進会議による官邸主導の政策決定が生産者を無視したため、「安倍内閣の農業政策を評価しない」は68.5%に上っており、政権運営に不満はあるのだが、農業従事者は野党にも厳しい目を向けていると書いている。

 そして、支持政党トップは自民党の46.7%、野党のトップは立憲民主党の9.3%で、参院比例区の投票先も、自民党39.1%が立憲民主党14.5%を大きく引き離しているそうだ。その理由は、「①野党は選挙協力を進めたが、共産党を含む連立政権の樹立を目指しているわけではない」「②野党はばらばら」「③政権交代の可能性がない」「④野党第1党の立憲民主党は都市型政党で農政に弱い」と書かれている。しかし、①②は、自民党支持者が野党を分裂させるために使う批判であるため、野党支持者はこれに乗ってはいけないのである。

 また、③については、参院選であるため仕方なく、④については、野党は、歴史が浅いこともあって i)地域に根付いた議員が立候補していない ii)地域に根差した支持基盤がない などが理由で、地域からの政策に関する指摘が上がりにくいわけである。その点、自民党は県議や市議にも自民党員が多く、普段から組織がしっかりしている。しかし、自民党の欠点は、永く与党であるため立候補に既得権や世襲の色合いが強く、世襲議員は(特に優秀でなくてもなれるため)代を重ねるごとに劣化する傾向があるということだ。

 そのため、自民党候補者は支持しないが、野党候補者も支持できないので、選択肢も興味もなくなり、棄権するのが近年の低い投票率の原因だろうが、浮動票が少なくなれば組織票がモノを言うため、さらに自民党に有利になって自民党は組織票の源泉となる政策を増やすわけである。

2)参院選の争点
 これは、メディアがわかりやすくまとめて一覧表にして欲しいが、*1-1は、参院選で、①改憲 ②安倍政権の経済政策の是非 ③くらしと年金(公的年金制度のあり方) ④外交 ⑤原発・エネルギー ⑥安倍政権の政治姿勢 を主要争点としている。

 このうち①については、*1-2のように、安倍首相は、「憲法改正の議論すら行われない姿勢でよいのか、国民に問いたい」としておられるが、自民・公明・維新・改憲に前向きな諸派や無所属議員を加えた改憲勢力が改憲発議に必要な2/3以上になれば、改憲を議論した途端に党議拘束のある強行採決が行われて国民投票となりそうであるため、まともな議論をするためには改憲勢力は2/3未満でなければならない。

 また、このブログに書いてきたとおり、私も②③④⑤に不満足な点は多いが、⑥の「安倍政治だからいけない」という批判は政策に対する批判ではなく、(理由を長くは書かないが)他の人ならそれ以上のことができるかどうかもあやしく、事実も知らずに人格攻撃をしていることになるため、民主主義の国の大人が言うべきではないだろう。

3)公的年金について
 安倍首相は、*1-2のように、公的年金問題に関する金融庁報告書に対し「対案もないまま、不安をあおる無責任な議論があってはならない」と言われたそうだが、私がこのブログの「年金・社会保障」の項目に何度も記載したとおり、誰も文句を言わない唯一の方法は、①積立方式(≒発生主義による引当方式)への移行 ②徴収・支払の完全化 ③積立金の管理強化 ④二重負担の排除 であり、出生率に影響され散財の多い現在の仕送り方式である限り、皆が不安で不満足なのである。

(2)国民の人権を大切にしない立法・行政・司法とその政策
1)立法・行政・司法による人権侵害
 日本国憲法で、立法・行政・司法は三権分立していると規定されているが、実際には日本の行政・司法(昔の“お上”)は、個人の人権や幸福のために行動するのではなく、別の目的で行動することが多いというのが多くの事例で示されており、日本国憲法は、未だ形だけで精神まで実行されていないというのが現状である。

 そのような中、*2-1・*2-2に書かれているとおり、自民党政権下で「刑事訴訟法等の一部を改正する法律」が成立したが、これは、裁判員裁判対象事件と検察庁の独自捜査事件に限定された一部事件で取調べの全過程の可視化が義務付けられた一方で、司法取引の導入、通信傍受の拡大を含む。

 私も、この通信傍受拡大は警察の見たい放題・聞きたい放題となり、通信の秘密やプライバシー等の人権侵害が著しく、濫用の危険性も高いため、この法律を成立させた自民党政権に疑問を感じた。しかし、自民党政権は、G20でもデータの流通を提案するなど、日本はもちろん世界の人も眉をひそめるほどだ。

 また、司法取引の導入も濫用の危険性を排除しておらず、この制度が人権侵害を生み出した例としては、今後、内部紛争の手段として司法取引制度を使った、*3-1の三菱日立パワーシステムズ(MHPS)の海外贈賄事件や、*3-2-1のゴーン氏の逮捕事件などが挙がってくると思われる。いずれのケースでも、日本の司法は、個人を犠牲にして会社の味方をしている。

2)司法が生んだ冤罪
 通常は警察の取り調べと関係がないため無視していられるが、*2-3のように、1967年の「布川事件」では、検察が証拠をでっちあげ、無実の証拠は隠して、1978年に無期懲役が確定し、再審で無罪となった桜井昌司さんがいる。

 また、*2-4のように、自宅の火災原因は、土間に設置していた風呂釜の種火が同じ土間に止めていたホンダ・アクティ(軽ワゴン)のガソリンに引火して自宅が全焼した青木惠子さんは、「娘殺し」の犯人として無期懲役を課せられた。それは、捜査員たちが、ホンダの車からガソリンが漏れるわけはないと思い込み、「出火原因は放火で、動機は生命保険金を狙った殺人だ」というストーリーを描いたからだが、風呂釜の種火の近くに置いてあれば、一定の温度以上になればガソリンが漏れていなくても引火することはある。

 しかし、被害者の青木惠子さんと内縁の夫の朴さんは捜査員の言いなりに自白させられ、この2人の甚大な不幸によって助けられたのは、風呂釜の種火近くに可燃物を置かないよう説明していなかった会社と保険金を払わずにすんだ会社なのである。

 また、*2-5の袴田事件は高裁で再審を取り消されたが、犯人のものとされる着衣に付いていた血痕のDNA鑑定がおかしく、再審を決めた静岡地裁は「袴田元被告のものと一致しない」という弁護側鑑定の信用性を認め、高裁は信用性を否定した。しかし、DNAは、一卵性双生児なら完全に同じであり、近親者になるほど近いため、同じでも疑うべきである上に、昔の鑑定はさらに不正確だっただろう。つまり、“科学的”という名の下に、他の複数の証拠との整合性もなく犯人と決めつけるのはおかしく、検察の立証が合理性を欠く場合は速やかに再審を行うべきだ。

 さらに、*2-6-1の大崎事件は、1979年10月、夜に泥酔して自宅から約1キロ離れた用水路に自転車とともに倒れていたところを通りがかりの村人に引き上げられ、家まで軽トラックで送り届けられた後に所在不明となって捜索願が出されていた中村邦夫さんが、自宅牛小屋の堆肥の中から腐乱死体で発見された大崎事件の死亡原因は殺人ではなく転落による事故死であるため殺人罪は冤罪だとの主張があるそうだ。

 警察は、当初から近親者の犯行と見て捜査を開始し、同一敷地内に住む長兄の中村善三さん・次兄の中村喜作さん・喜作さんの長男の中村善則さん・善三さんの妻だった原口(当時中村)アヤ子さんら4人を殺人と死体遺棄で逮捕し、原口アヤ子さんは一貫して否認したが他の3名が自白して起訴され、原口さんも3名の供述を元に起訴された。

 検察は、「原口さんが首謀者となって酒乱の邦夫さん殺害による保険金取得を謀議し、原口さん、夫の善三さん、義弟の喜作さんの3人で邦夫さんを押えつけたうえ西洋タオルで絞め殺し、原口さんと甥の義則さんで牛小屋堆肥に死体を遺棄した」というストーリーを作り、原口さんは終始これを否認したが、鹿児島地裁は「頸椎前面に出血があることから首に外力が働いた。他殺による窒息死と想像する」という鹿児島大医学部教授の鑑定書と自白を根拠に、全員に(それにしては、短い)実刑を宣告した。

 そして、*2-6-2のように、最高裁が、再審開始を認めた福岡高裁と鹿児島地裁の決定を取り消し、再審請求を棄却する決定をして、再審を認めない判断が確定したが、確定判決が「窒息死と推定される」とした男性の死因については、「転落事故による出血性ショックの可能性が極めて高い」との指摘もあるそうだ。しかし、自転車で転んだ際に首の骨が折れたり、全身不随になったりすることもあるため、警察や検察の死因推定やストーリー仕立ては単純なワンパターンにすぎるわけである。

(3)司法取引について
 日本版「司法取引」が導入されたのは、*3-1のように、2018年6月1日で、これを利用した起訴は2件あり、それは、日産自動車前会長ゴーン氏と三菱日立パワーシステムズ(MHPS)の元幹部3人だが、いずれも「社内紛争で、会社が社員を差し出した」という感じがする。

 また、(2)の冤罪事件で明らかなように、①日本の警察・検察は単純すぎるワンパターンの犯罪ストーリーを描く ②経済事件に弱い ③公正でなく意図的である ④権力や会社側について個人を犠牲にすることを厭わない などにより、信用に値しないため「司法取引」も都合よく使うだろうと推測せざるを得ない。

 なお、*3-2-1のように、ゴーン前会長と前代表取締役ケリー氏が公判前整理手続きに出席したそうだが、ゴーン前会長の弁護側が検察側に対して証拠を早期に開示するよう求めたり、日産の西川広人社長が虚偽記載事件で不起訴処分になった理由の説明などを求めたりしたのは当然だろう。また、*3-2-2のように、ゴーン前会長は、保釈条件で妻キャロルさんとの接触を禁止されているわけだが、証拠は既に出ていて当然の時期であるため、妻と助け合えないよう接触禁止にしているのは嫌がらせに見える。

(4)共謀罪について
 政府は、*4-1・*4-2のように、2017年3月21日、共謀罪の創設を含む組織的犯罪処罰法改正案を閣議決定して国会に上程し、2017年6月15日に可決成立した。この法案は、日弁連意見書が検討の対象とした法案に比べ、①犯罪主体についてテロリズム集団その他の組織的犯罪集団と規定している ②準備行為は計画に基づいて行われる必要があることを明記して準備行為が必要とされている ③対象となる犯罪が長期4年以上の刑を定める676の犯罪から277の犯罪にまで減じられている点が異なっているそうだ。

 しかし、①の「テロリズム集団」は組織的犯罪集団の例示として掲げられているに過ぎず、この例示が記載されたからといって主体がテロ組織・暴力団等に限定されることはなく、②の準備行為についても計画に基づいて行われるものに限定したとしても準備行為自体は法益侵害への危険性を帯びないため犯罪成立を限定する機能を果たさず、③の対象となる犯罪が277に減じられたとしても組織犯罪やテロ犯罪と無縁の犯罪も対象とされていることから、上記3点を勘案したとしても、日弁連の意見書で指摘した問題点が解消されたとは言えないそうだ。

 私も、この法案の成立過程を見ていたが、この法律は日本を監視社会化して市民の人権や自由を侵害する恐れが強いと考えた。

 また、この法案に対しては、国連人権理事会特別報告者であるジョセフ・カナタチ氏が懸念を表明する書簡を発出するという経緯も存したが、④一般市民が捜査の対象になり得るのではないか ⑤「組織的犯罪集団」に「一変」したといえる基準が不明確ではないか ⑥計画段階の犯罪の成否を見極めるために、メールやLINE等を対象とする捜査が必要になり、通信傍受の拡大など監視社会を招来しかねないのではないか などの様々な懸念は、*6-1の2019年6月1日の施行の「改正通信傍受法」で実現している。

 さらに、「改正通信傍受法」が、これまで捜査員が通信会社に出向いて通信会社社員の立会の下で行なっていた通信傍受を、警察に居ながらにしてできるようにしている。そして、通信傍受が認められている“犯罪”は、薬物、銃器、集団密航、組織的殺人、殺人、傷害、放火、爆発物、窃盗、強盗、詐欺、誘拐、電子計算機使用詐欺・恐喝、児童売春など殆どで、今後は裁判所の令状を取られた被疑者と会話やメール等で通信する相手は、警察の監視下に置かれ、ネット化、IT化、キャッシュレス化がもたらす個人情報の共有が警察当局にももたらされ、通信傍受と合わせられるそうだ。

 そして、日本政府は、キャッシュカードの使用を推奨しているが、利用履歴や買い物履歴は個人情報になるため、自分の個人情報が悪用されないように気を付けるのは、今では正当な注意になってしまった。これを、主権者はどう評価するのだろうか。景気さえよければ、民主主義はどうでもよいのだろうか?

(5)特定秘密保護法について
 日本弁護士連合会は、*5のように、特定秘密保護法について廃案を求める会長声明を出し、特定秘密保護法における「テロリズム」の定義が広すぎ、市民の表現行為が強要とされてテロリズムに該当すると解釈される危険性があるとしている。

 私も、特定秘密保護法については、特定秘密の範囲も曖昧で、秘密の指定は恣意的になりかねず、それをチェックすべき第三者機関の独立性は疑わしく、テロの定義を広げて国民の正当な政府批判まで取締りの対象にする危険があり、特定秘密の取扱者の制限も差別的内容を含んでおり、人権侵害の恐れがあるため、特定秘密保護法についても改めて有権者の評価を求めたい(https://www.tokyo-np.co.jp/feature/himitsuhogo/news/131206zenbun.html 参照)。

(6)監視社会へ ← 一度失ったら取り戻すのに多大な犠牲を強いる「自由」
 (4)にも記載した通り、*6-1のように、2019年6月1日施行の「改正通信傍受法」で、捜査員は警察に居ながらにして通信傍受を行えるようになったが、改正は「段階を踏んで少しずつ行われ、今では殆どの犯罪領域がカバーされることになったのだそうだ。そして、本当に犯罪捜査にだけ使われるのならよいが、そうとは限らないため問題なのである。

 さらに、*6-2のように、地銀64行がテロリストへの資金供給などに使われるマネーロンダリング(資金洗浄)防止のため、情報共有システムを構築するそうだが、日本でテロリスト・テロリストと言われのに、私は違和感がある。何故なら、日本は戦争をする国ではないため恨まれる理由がなく、国内でテロが起こることは考えにくいからだ(実際、何回起こったか?)。そのため、テロ対策と称する国民への個人情報の侵害の方がよほど重大な問題だろう。

<参院選の争点に含めるべき国民監視強化と人権無視>
*1-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201906/CK2019062602000155.html (東京新聞 2019年6月26日) <参院選岐路>参院選 事実上スタート 憲法、年金など争点に
 国会は二十六日に閉会し、参院選の公示を前に、選挙戦が事実上、スタートする。衆院は二十五日の本会議で、立憲民主など野党五党派が共同提出した安倍内閣不信任決議案を自民、公明の与党と日本維新の会などの反対多数で否決した。安倍晋三首相は衆院解散を見送る。参院選は七月四日公示、二十一日投開票となる見通し。首相は二十六日午後、官邸で記者会見を行う。衆参同日選を見送る理由や参院選への決意を表明するとみられる。政府はこれに先立ち臨時閣議を開き、参院選の日程を正式決定する。参院選では、首相が目指す改憲、安倍政権の経済政策の是非に加え、老後二千万円不足問題で不安が広がる公的年金制度のあり方などを主要争点に与野党が論戦をかわす。憲法、くらしと年金、外交、原発・エネルギーに加え、安倍政権の政治姿勢など、政権の六年半が問われる。首相は二〇二〇年の新憲法施行を目指している。自民、公明の与党に加え、維新や改憲に前向きな諸派・無所属議員を加えた「改憲勢力」が、改憲発議に必要な三分の二の議席を維持できるかが最大の焦点となる。内閣不信任決議案を巡る本会議での趣旨弁明で、立民の枝野幸男代表は「安倍内閣が議会制民主主義を根底から破壊している現状を見過ごすことは到底できない」として、首相の政治姿勢を批判した。自民党は、外交や経済で実績を上げていると反論した。

*1-2:https://www.jiji.com/jc/article?k=2019062600875&g=pol (時事 2019年6月26日) 憲法改正「国民に問う」=年金充実へ経済強化-安倍首相記者会見
 安倍晋三首相は26日、通常国会閉幕を受けて首相官邸で記者会見した。7月21日投開票の参院選について、かつての民主党政権を批判した上で「最大の争点は安定した政治の下で改革を前に進めるのか、再び混迷の時代に逆戻りするかだ」と強調。憲法改正に関し「議論すら行われない姿勢でよいのか、国民に問いたい」として、争点とする意向を示した。首相は「令和の日本がどのような国を目指すのか、その理想を語るものは憲法だ」と述べ、改憲への意欲を表明。野党が国会での改憲論議に非協力的だったと指摘した上で、「憲法の議論すらしない政党を選ぶのか、国民に自分たちの考えを示して議論を進めていく政党を選ぶのか、それを決めていただく選挙だ」と訴えた。首相は経済最優先の政権運営を継続する考えを示した上で、「景気下振れには、ちゅうちょなく機動的かつ万全の対策を講じる」と述べ、追加経済対策の可能性に言及した。老後資金が公的年金以外に2000万円不足するとした金融庁報告書に対して批判を強める野党を念頭に、「対案もないまま、ただ不安をあおるような無責任な議論は決してあってはならない」とけん制。「年金(制度)を充実する唯一の道は、年金の原資を確かなものとすること、すなわち経済を強くすることだ」と述べた。

*1-3:https://www.agrinews.co.jp/p48078.html (日本農業新聞 2019年7月1日) 参院選 このままでいいのか 野党の体たらく問う 一橋大学大学院教授 中北浩爾
 参院選の帰趨(きすう)を決すると言われるのは、農村部に32ある改選定数1の「1人区」である。かつてであれば、自民党が堅調に議席を獲得する金城湯池であった。しかし、日本農業新聞が行っている農政モニターの意識調査を見る限り、自民党が楽観できる状況にはない。2006年の第1次安倍政権では、発足後の06年10月調査の内閣支持率は76・1%あった。それが第2次安倍政権発足時の12年12月調査では支持率66・0%となり、今年3月の調査では支持率39・5%と低迷。17年10月以降は支持率30%台の低空飛行が続く。これに対して、不支持率は6割を超える。国民一般に比べて農業従事者ほど、安倍政権に不満を抱いていることがうかがえる。
●政権運営に不満
 3月の調査結果からは、その理由も浮かび上がる。安倍内閣の農業政策を「評価しない」は68・5%に上った。政権運営が謙虚かどうかの評価では、「全く謙虚ではない」が最も高く42・9%で、「あまり謙虚ではない」が33・2%と続いた。環太平洋連携協定(TPP)が発効するなど過去最大の農産物の市場開放への不満に加え、規制改革推進会議に象徴される官邸主導の政策決定に対して、生産者の声を無視しているとの批判の表れとみられる。本来であれば、これは野党にとって大きなチャンスである。それを生かせば、間もなく公示となる参院選で勝利し、3年後には「ねじれ国会」に持ち込む展望が開けるかもしれない。
●投票先では大差
 ところが3月の調査結果を見ると、農業従事者らは野党にも厳しい目を向けている。支持政党のトップは自民党の46・7%で、野党は最も支持が多かった立憲民主党でも9・3%にとどまった。参院選比例区での投票先でも、自民党が39・1%で、立憲民主党の14・5%を大きく引き離した。これには二つの理由が考えられる。第一は、野党がばらばらであり、当面、政権交代の可能性がないと考えられていることだ。1人区で候補者調整を行うなど、野党は選挙協力を進めているが、共産党を含む連立政権の樹立を目指しているわけではない。そうである以上、自民党政権の枠内で農業政策の転換を期待するしかない。昨年9月の党総裁選の際、農業従事者の間で石破茂元幹事長への期待が高かったのは、そのことを裏付ける。第二に、野党第1党の立憲民主党が、都市型政党であり、旧民主党以来の農業者戸別所得補償制度を主張しているとはいえ、農政に弱いことである。枝野幸男代表は、民主党代表時代の小沢一郎氏のようには、農村部を丁寧に回るということをしていない。旧民主党では、むしろ国民民主党の方に農政通が多い。玉木雄一郎代表の父親は農協関係者である。だが、結党の経緯などから、同党の支持率は低く、3月の調査結果では1・7%にすぎない。安倍内閣の個別の政策には批判が強いのにもかかわらず、民主党政権の失敗を背景とする野党の低迷により、異例の長期安定政権が可能になっている。これは農政に限られた現象ではない。その結果が、近年の低い投票率である。今回の参院選では5割を下回る可能性すらある。参院選を目前に控えて改めて野党に問いたい。本当にこのままでいいのか、と。
*なかきた・こうじ 1968年、三重県生まれ。東京大学法学部を卒業後、立教大学法学部教授などを経て、一橋大学大学院社会学研究科教授。政治学が専門。著書に『自公政権とは何か』(筑摩書房)、『現代日本の政党デモクラシー』(岩波書店)など。

<司法が生む冤罪と人権侵害>
*2-1:https://www.osakaben.or.jp/speak/view.php?id=121 刑事訴訟法等の一部を改正する法律の成立に当たっての会長声明 (2016年5月24日 大阪弁護士会会長 山口健一)
 本日、「刑事訴訟法等の一部を改正する法律」が可決・成立した。この改正は、一部の類型の刑事事件について、身体を拘束された被疑者に対する捜査機関の取調べの全過程を録音・録画することの義務付け等を行う一方で、いわゆる司法取引の導入や通信傍受の拡大を含むものとなっている。これらの改正部分は、法律成立の日から3年以内に施行される。取調べ全過程の録音・録画は、市民の監視が全く及ばない密室で、捜査機関が違法・不当な取調べを行ったことにより、無実の者が虚偽の自白を強いられ、多くのえん罪を生んだことへの痛切な反省から導入された。富山・氷見強姦えん罪事件、志布志事件、足利事件等虚偽自白の強要によるえん罪事件は枚挙に暇がない。拷問による虚偽自白の強要、無罪を裏付ける証拠の隠ぺいに加えて、捜査機関による証拠ねつ造の疑いまで発覚し、確定死刑囚に再審開始及び死刑の執行停止が言い渡され、釈放された袴田事件(検察側申立により即時抗告審で審理中)は、記憶に新しいところである。2010年(平成22年)には、関係者の虚偽自白調書に基づき、虚偽有印公文書作成罪等で起訴された厚生労働省の官僚に無罪判決が言い渡された。同事件の捜査に携わった大阪地方検察庁特別捜査部の主任検事による証拠改ざんも明らかとなり、この重大な検察の不祥事を機に、取調べ及び供述調書に過度に依存した捜査・公判からの脱却を目指す刑事司法改革の検討が本格化した。取調べ全過程の録音・録画の法制化は、今般の刑事司法改革の中核をなすものである。当会は、数々の虚偽自白とえん罪を生んだ違法・不当な密室取調べの根絶を目指し、1990年代から、捜査機関における取調べ全過程の録音・録画、すなわち「取調べの可視化」を提唱してきた。今般の刑事訴訟法改正は、当会が長らく訴えてきた、被疑者・被告人の人権を守り、えん罪を根絶するための取調べの可視化の必要性を、正面から認めたものと評価することができる。今回の法改正による取調べ全過程の録音・録画の義務化は、裁判員裁判対象事件及び検察庁の独自捜査事件に限定されており、未だ道半ばであることは否めない。しかしながら、捜査機関が長らく抵抗してきた取調べ全過程の可視化が、一部の事件類型であっても法制化に至ったことは、率直に評価すべきである。身体拘束の有無を問わず、全刑事事件の取調べの可視化実現に至る第一歩として、我が国の刑事司法制度における歴史的意義を有するものである。今般の取調べ全過程の録音・録画の法制化を機に、刑事弁護の実践において漏れのない取調べの録音・録画を実施させ、取調べ監視体制を確立しなければならない。義務化の対象事件であるか否か、被疑者が拘束されているか否かを問わず、捜査機関に対する取調べ全過程の録音・録画の要請をさらに強化し、一刻も早く、全事件の取調べの可視化を実現することが、我々弁護士に課せられた社会的使命であり、当会としてもこれを推し進めていきたい。そして、今後は、全事件・全過程の取調べの可視化の法制化を可及的速やかに実現させることが強く求められる。また、検察庁及び警察は、既に義務化の対象以外の事件類型についても、録音・録画の実施対象を拡大し始めているところであるが、今般の法制化を機に改めて、捜査機関に対し、義務化対象事件であるか否かを問わず、被疑者が拘束されているか否かをも問わず、全事件・全過程の取調べの録音・録画を実施するよう強く要請する。なお、取調べの録音・録画について参議院法務委員会の審議において問題とされた、別件の被告人勾留中における対象事件の取調べは、対象事件についての「勾留されている被疑者」を取り調べるときにほかならないのであるから、録音・録画の義務付けの対象となることは明らかであり、それを前提とした弁護実践を行うことが強く求められる。他方、今般の改正に盛り込まれた通信傍受制度の拡大は通信の秘密やプライバシー等の人権侵害の程度が著しく濫用の危険性も大きい。いわゆる司法取引の導入についてもその濫用の危険性を排除したものとは言い難い。今後、これらの制度が人権侵害を生み出すことのないよう、その運用に厳しく対応する必要がある。捜査機関においてもこれらの制度を濫用することのないよう、通信傍受制度については補充性・組織性の要件を厳格に解釈運用すること、司法取引については引き込みの危険等に留意しつつ本制度が誤判の原因とならないよう厳格に運用されることを要請する。加えて、通信傍受制度について第三者監視機関の設置等の通信の秘密やプライバシー等の人権侵害を防止するための制度の創設を要請する。

*2-2:https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2019/190601.html 取調べの可視化を義務付ける法律の施行に当たっての会長談話 (2019年6月1日 日本弁護士連合会会長 菊地裕太郎)
 本日、取調べの可視化を義務付ける改正刑事訴訟法が施行されました。改正法は、裁判員裁判対象事件及び検察の独自捜査事件について、逮捕・勾留下の被疑者の取調べの開始から終了に至るまでの全過程の録音・録画を義務付けています。そして、原則として、録音・録画がない場合には、供述調書を証拠として提出することができなくなると定めています。当連合会は、かねて取調べの全過程を録音・録画する取調べの可視化を求めてきましたが、これが法律上の義務となり施行されることは、歴史的意義を持ちます。現在、取調べの可視化によって、取調べの適正化が進んできています。同時に、従来からの日本の刑事司法の特徴である、捜査段階の供述調書に過度に依存する「調書裁判」は、根本から見直され始めました。既に、裁判員裁判対象事件については、警察でも検察庁でも、ほぼ全ての事件について、逮捕・勾留下の取調べの全過程の録音・録画がなされており、改正刑事訴訟法施行に向けての準備が整ってきていました。また現在、検察庁においては、裁判員裁判対象事件以外でも、幅広く取調べの録音・録画がなされており、今後は、この動きが、警察を含め加速されることが期待されます。一方、本日施行の改正刑事訴訟法では、取調べの録音・録画を義務付ける対象事件が限定されています。しかし、取調べの適正確保に録音・録画が必要であることは、事件の重さや種類に関わりません。このことは、痴漢、窃盗等、比較的軽微な事件におけるえん罪事件の経験からも明らかです。このほか、逮捕・勾留されていない、いわゆる在宅被疑者の取調べについても録音・録画を義務付ける必要があること等の克服すべき課題があります。全事件における取調べの全過程の録音・録画を実施するまでには、なお道のりがあります。取調べの可視化の改革は更に前進させなければなりません。当連合会は、改正刑事訴訟法の附則に定める3年後の見直しの際に録音・録画の対象・範囲を全事件・全過程に拡げるべく、全ての弁護士、弁護士会とともに引き続き全力で取り組む所存です。

*2-3:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/520945/ (西日本新聞 2019/6/23) 検察の「証拠独占」批判 「布川事件」桜井さん講演
 「なぜ証拠は検察の独占物なのか」‐。1967年に茨城県で起きた強盗殺人事件「布川事件」で再審無罪が確定した桜井昌司さん(72)=水戸市=の講演会が22日、福岡県直方市で開かれた。今年5月に東京地裁であった国家賠償訴訟判決が、公判で証拠開示を拒否した検察側の対応を違法と認定したことを受け、桜井さんは「検察は証拠をでっちあげ、無実の証拠を隠す」と語った。布川事件は、別の窃盗容疑などで逮捕された桜井さんを含む男性2人が強盗殺人罪に問われた。公判で一貫して無実を訴えたが、78年に無期懲役が確定。未提出証拠の開示請求を繰り返し、目撃証人の初期供述調書などを開示させ、2011年5月に2人とも再審公判で無罪となった(1人は15年に死去)。市民ら約50人が訪れた会場で、桜井さんは「正直に話しても刑事から『違う』と言われると、自分の記憶が間違っていると思ってしまう」と取り調べを振り返った。検察に対しては「人権を守るべき公益の代表者が、有罪無罪を左右するかもしれない証拠を(公判で)出さなくていいのか」と批判した。質疑応答では、福岡県飯塚市で女児2人の殺人容疑などで久間三千年(みちとし)元死刑囚(08年刑執行)が逮捕された「飯塚事件」について問われ「(目撃供述など)ありえない証明を基に彼は犯人にされた。布川事件と同じで、久間さんを犯人にするために何の証拠もないから証人がつくられた」と指摘した。

*2-4:https://gendai.ismedia.jp/articles/-/54537 (週刊現代 2018.3.20) 「娘殺し」で20年も身柄を拘束された冤罪母の声、それでも裁判官にはおとがめなし
 判断をひとつ間違えれば、罪のない人間に罰を与えてしまうかもしれない。それが裁判官だ。だが、その重みを十分に感じていない判事もいる。彼らは冤罪を出しても咎められることはないのだから。
●裁判官に裏切られた
 「本当のことを言っているんだから、私の話をちゃんと聞いてくれたら無罪しかないわけですよ。裁判官はきちんと審理して無罪判決を出してくれるに決まってる。そう思ってたもの。私は裁判所を疑ってなかったから。ところが、無罪の人間に無期懲役を宣告したんですから絶望した。これが日本の裁判所なのかって。そんな酷いところなんだって」。険しい表情で一気にこう語ると、青木惠子(現在54歳)は押し黙ってしまった。人生を一瞬にして崩壊させられた法廷での記憶が、生々しく甦ってきたかのようだった。大阪市内の貸会議室に、約束の時間ピッタリに現れた青木は、花柄のブラウスに黄色のカーディガン、スカートにハイソックスという若々しい出で立ちだった。その服装に、しばし気を取られていると、弁解するように言った。「若作りしてるって言われるんだけど、あの日以来、時間が止まってしまって。どんな服を着ればいいかわからないから。昔、着ていたような服ばかり買ってしまうんです」。衆議院法務委員会で、清水忠史代議士が最高裁刑事局長に質したところによれば、「死刑または無期懲役の判決が確定し、昭和五十年以降に再審開始決定がされた事件数は合計十一件」(2015年12月4日)。その11件目の再審開始決定が、青木惠子を犯人とした「東住吉事件」だった。再審開始決定とは、「無罪を言い渡すべき明らかな証拠をあらたに発見したとき」、裁判のやり直しを命じる制度である。ごく平凡な主婦として大阪市東住吉区に暮らしていた青木は、23年前の夏、自宅が火災で全焼。この時、青木が前夫との間にもうけたふたりの子供のうち、長女のめぐみ(当時11歳)を亡くしていた。めぐみには、3年ごとに30万円が給付される学資保険タイプの生命保険をかけていたが、事故で死亡した場合は1500万円が支払われるというものだった。大阪府警捜査一課の捜査員たちは、この保険金を得ようと火災事故に見せかけ、長女を殺害したものと憶測。「保険金目的放火殺害事件」の「主犯」として、青木(当時31歳)を逮捕したのである。「共犯」は、内縁関係にあった朴龍晧(当時29歳)で、青木の「発案」のもと放火を実行したとして逮捕されている。この逮捕の日から、再審裁判で無罪判決を勝ち取るまで21年という時間がかかっていた。「娘殺し」の汚名を着せられ、無期懲役囚として自由を奪われた一審裁判を思い出すだに怒りを抑えきれないと、青木は言った。「私は、世間に迷惑かけんようにと、一生懸命、いろいろ考えて働いていただけなのに。なんで、裁かれないかんかったんでしょうか。なんで、あんな扱いをうけないかんかったのかと、いまでも思いますけどね」。青木の自宅の火災原因は、玄関を入ってすぐの土間に止めていたホンダ・アクティ(軽ワゴン)の燃料タンクからガソリンが漏れ、その土間に設置していた風呂釜の種火に引火しての事故(自然発火)だった。この事実は、青木と朴の弁護団による「燃焼再現実験」で客観的に実証されている。実際、裁判所もまた、この実験結果を「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」として採用したことで、再審開始の決定がなされ、その後の再審無罪判決を得ることができたのだ。しかし、当時の捜査員たちは、ホンダの車からガソリンが漏れるわけはないと思い込んでいた。そしてその憶測が、出火原因は放火で、動機は生命保険金を狙った殺人という、根も葉もない確信へと変わるのである。
●悲しむ時間も奪われて
 ただ、ふたりの犯行を裏付ける物証はなかった。だったら「自白」で放火を認めさせろ。短絡的で野蛮な捜査方針がとられたのである。過酷な取り調べのなか、青木は、やってもいない犯行を「自白」している。その時の心理状態をこう語った。「何を言っても信じてもらえないし。怒鳴られて、ののしられて、侮辱されて。私にしたら、娘を亡くしたばかりでしょう。一番弱ってますよね。娘の死を悲しむ時間まで奪われたうえ、お前みたいな奴が母親で、めぐみも可哀想やとまで言われて。なんなんだろう、これはって思いましたよ」。底の見えない絶望感へ突き落としたのは、捜査員の次のひと言だった。「朴さんが、めぐちゃんに性的虐待を加えていたと言われたんですよ。ガーンと頭殴られたみたいな衝撃で、私にしたら止めを刺されたようなもんですよ。助けられなかったうえ、気づかなかったわけだからね。私は、子供を幸せにしてあげたいと思ってるのに、そんな不幸なね。毎日、恐ろしい目にあってたんだと思ったら。こんなことにも気づかず、私は、子供は幸せなんだと思い込んでいた。そんな自分が情けなくて、すごく追い詰められたわけですよ」。司法解剖の結果、「死後半日から2日前くらいの間に性的虐待があった可能性は否定できない」と報告されていた。捜査員はこの報告をテコに、まず、朴を追及し、性的虐待を認めさせている。そしてその恥ずべき行為をマスコミに公表すると脅し、暴行を加えるなど肉体的、精神的に追い込んだうえで、捜査員の言いなり通りの自白をさせていたのである。あまりのショックに茫然自失となった青木は、「めぐちゃん、ごめんね」との思いが頭から離れなかった。何も考えることができず、ただ捜査員に言われるまま「自供書」を書いていた。自ら手にとったペンで書く「自供書」は、「自白」の内容を記載した「供述調書」より重い。捜査員は、証拠価値の高い「自供書」をとることで、何としても青木を犯人に仕立て上げたかったのだろう。起訴に持ち込めなければ「誤認逮捕」としてマスコミから批判され、職場の同僚からも白眼視される。保身からの計算をし尽くしての、狡猾な取り調べであった。「刑事から紙を渡され、まずは題名書こうって言われるわけですよ。そんなこと言われても、わかんないしね。すると、刑事が題名言うわけですよ。言ったこと書けって言われても、全部は聞き取れないでしょう。途中で止まったら、認めたくない気持ちはわかるけど、これを書かなあかんって言って、題名の続きを言うわけですよ。そのあと内容にいくわけです。この内容って、本当のことも入ってるわけですよ。たとえば、家が火事になりました。当たり前でしょう。そしてめぐちゃん、19歳の時に産みました。これも合ってるわけですよ。だから、合ってる中にポツンと犯行の状況を入れるわけです。いまでもね、その時書いた内容覚えていますかって言われたら、覚えてないんですよ」。往々にして、マスコミで大きく報道された事件で、捜査が行き詰まった場合、厳しい取り調べが行われる。元大阪高裁裁判長の石松竹雄は、『刑事裁判の空洞化』のなかで、そんな捜査の恐ろしさを指摘している。「捜査官としての見通し・見込みを立てたうえ、被疑者を……長期間徹底的に取調べ、その見通し・見込みに沿った自白を追及して詳細な供述をさせ、これらの供述を含む捜査の結果を、その見通し・見込みに従って整理し詳細に調書に録取して固定化し」、「これらの証拠が採用されれば、直ちに有罪判決をすることができる状態になっている」。青木らへの捜査は、まさに石松が指摘する通りのものだった。
●調書を鵜呑みにする裁判官
 元東京高裁裁判長はこう語っている。「供述調書を見る時は、最初の調書と2通目を見比べて、2通目で本当は何を取りたかったんだろうかと、詮索する。最初のは、捜査員の意図通りの供述をうまく調書に取れなかったからじゃないか。じゃ、その先の調書ではどうなってるの、と見る。何通重ねた調書でも、かなりの部分は同じ内容が多いんですよ。それなのに、本人を連日呼び出した狙いはなにかとか、詮索してみなくちゃならない。見抜くために、乗せられないために背後の事情を読み取るのが、刑事裁判官のあるべき姿なんです」。裁判官には、証拠の価値評価や、その採否を「総合的、直感的」に自由に決定できる権限が与えられている。自由心証主義と言われるこの特権は、かりに「冤罪」を生み出したとしても、その責任を問われることはない。そんな気楽さからか、青木らに有罪判決を下した地裁の裁判官も、その判決を支持した高裁と最高裁の裁判官たちも、「自供書」や「供述調書」に隠された捜査員の意図を見抜こうとしなかった。単に、検察官の主張を無批判に受け入れ、「冤罪」を生み出していたのである。当時の大阪地裁刑事部では、こんな会話が飛び交っていたという。「自然発火と言ってるぞ」「そんなの無理」「共犯の男は、亡くなった娘に性的暴行加えてるしな」「完全にクロ」――。実際、青木を裁いた地裁の毛利晴光裁判長は、こう断罪した。「被害者(のめぐみ)は母親から愛情を与えられず、理不尽に死に追いやられており、まことに哀れだ。悲しみに暮れる母親を装った青木被告の刑事責任は重い」。また、朴を裁いた川合昌幸裁判長も判決文に書いている。「金のためなら子供の命すら奪うという被告人らの非人道的態度は、いかに厳しく非難しようとも非難し過ぎるということはない」。「捜査段階においては本件各犯行を悔悟し反省する態度が見られたのに、公判段階では不合理な弁解を縷々並べ立てており、結局のところ、ひたすら自己の罪責を免れようとの一心しかなく、自己の犯行を反省し被害者の冥福を衷心から祈ろうとの人間らしい心情に全く欠けるものといわなければならない」。青木と朴の法廷での必死の訴えを、裁判官たちは鼻でせせら笑っていたのである。ただひとり、一連の裁判のなかで、青木らの無罪を主張した裁判官がいた。大阪弁護士会会長から最高裁判事に任官した滝井繁男だ。滝井は、青木惠子の審理を担当した最高裁第二小法廷の裁判長だったが、同小法廷の多数意見が青木を有罪と認定すると、ひとり反対意見を書いた。
●「誤判」後に栄転
 A4用紙24枚に及ぶ意見書はこう結論づけている。「被告人が共謀によって本件犯行を行ったとするには、なお合理的な疑いが残る」「(控訴審判決を)破棄しなければ著しく正義に反する」。しかし、この反対意見は陽の目をみることはなかった。最高裁判決の文案を作成する調査官が、その公表に難色を示したからだ。70歳の定年が近づいていた滝井は、なんとか判決期日を決め、その反対意見を世に示そうとしたが叶わなかった。滝井の定年退官から約1ヵ月後の2006年12月、第二小法廷は青木の上告を棄却している。この日の棄却から10年目の、2016年8月、ようやく大阪地裁の西野吾一裁判長は、青木と朴の再審裁判で無罪を言い渡した。そして、「被告人の自白すべてに証拠能力を認めることはできない」「本件火災が自然発火によるものである可能性が合理的な疑いとして認められるから、被告人が……犯行を行ったとは認められない」と判示した。青木らを犯人としてきた「自白」のすべてを証拠から排除したのである。この再審無罪判決が出る半年前、一審で朴龍晧を有罪と「誤判」した川合昌幸裁判長は、広島高裁長官に栄転している。高裁長官は、天皇によって認承される「認証官」で、最高裁長官と最高裁判事に次ぐ地位にある。長官着任後の記者会見で川合は、いみじくも「自分は間違える人間だと思ってやってきた」と語っていた。また、青木惠子を裁いた毛利晴光裁判長は、再審無罪判決の約2年前、長崎家裁所長へと異動している。エリートコースを歩んできた毛利が、川合に比べさほどの地位を得られなかったのは、東京地裁裁判長時代の2006年2月、書面による厳重注意処分を受けたことによるとされている。毛利は、少年法の規定で家裁送致しなければならない少年を、捜査機関の求めるまま不当な勾留を認めていたのである。一方の青木惠子は、出所後、愛娘めぐみに性的虐待を加えていた朴と決別。亡き娘の霊を供養しながら、一枚3円でチラシを各家庭の郵便受けに投入するポスティングの仕事と、新聞の集金人を務めながらつましく暮らしている。青木は言った。「これだと月4万4000円ぐらいでしょう。最低でも6万円稼ぎたいなぁと思ってるんだけど、うまくいかないんだよね」。冤罪によって奪われた時間の空白は、懸命に生活の基盤を築こうとする彼女の背中に、いまも重くのしかかっている。

*2-5:https://mainichi.jp/articles/20180615/ddm/005/070/063000c (毎日新聞社説 2018年6月15日) 袴田事件で再審取り消し 鑑定評価の仕組み検討を
 科学的とされる鑑定結果でも、その評価は難しい。1966年に起きた「袴田事件」で、死刑が確定した袴田巌元被告の再審決定を東京高裁が取り消した。焦点になったのは、犯人のものとされる着衣に付いていた血痕のDNA型鑑定だ。再審を決めた静岡地裁は「袴田元被告のものと一致しない」との弁護側鑑定の信用性を認めたが、高裁は信用性を否定した。鑑定の評価がなぜ正反対になったのか。高裁では、検察側が申請した鑑定人が、弁護側鑑定の手法を検証した。その中で、DNAの抽出に当たり、試薬を使った独自の方法を取ったことを「不適切だ」とする報告書をまとめた。他にも批判的な法医学者の意見書が出て、高裁はそうした意見をくんだ形だ。静岡地裁の決定から4年がたつ。専門家が別の専門家を否定する科学論争のためにいたずらに時間が経過した感は否めない。鑑定を科学的に突き詰めて事実解明することは重要だが、最先端の科学でも場合によってはあいまいな部分は残る。そこをどう考えるかだ。弁護側、検察側双方の鑑定人が意見をぶつけ合うだけでは限界がある。今回は極めて古い試料でのDNA型鑑定の信頼性が問われた。そのような難しい事案の場合、裁判所の主導下で、第三者的な立場の専門家を集め、鑑定や検証を担ってもらう仕組みが築けないだろうか。もちろん、鑑定結果が全てではない。その上で全証拠を総合して結論を出すのは司法の責任だ。事件発生から半世紀がたつのに、なぜ再審の決着がつかないのか。主な原因は、再審段階での証拠開示が検察の判断に委ねられていることだ。袴田事件で検察が衣類発見時の写真などを開示したのは第2次再審請求後の2010年だった。再審での証拠開示のルール作りが必要だ。この事件では1審段階で45通の自白調書のうち44通が証拠採用されなかった。捜査は自白偏重だった。「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の原則は再審でも例外ではない。弁護側は週明けにも最高裁に特別抗告する。最高裁は鑑定結果を含め十分かつ迅速な審理をし、その上で検察の立証が合理性を欠くならば再審の扉を開くべきだ。

*2-6-1:https://matome.naver.jp/odai/2140539519066755001 (NAVER 2018年09月26日) 大崎事件
 大崎事件(おおさきじけん)は、1979年10月、鹿児島県曽於郡大崎町で起こった事件。殺人事件として有罪が確定したが、死亡原因は殺人ではなく、転落による事故であるため殺人罪は冤罪である、との主張がある。1979(昭和54)年10月15日午後2時ごろ(大隅半島の中央に位置する)鹿児島県曽於(そおぐん)郡大崎町井俣の農業・中村邦夫さん(当時42歳。中村家の4男)が、自宅牛小屋の堆肥の中から腐乱死体で発見された。邦夫さんは、3日前の夜泥酔して自宅から約1キロ離れた用水路の中に自転車とともに倒れているところを、通りがかった村人に引き上げられて家まで軽トラックで送り届けられた後、所在不明となり、捜索願が出されていた。警察は、当初から近親者の犯行と見て捜査を開始し、10月18日、同一敷地内に住む長兄(中村家の長男)の中村善三さん(当時52歳。服役後の93年10月に病死)と次兄(中村家の二男)の中村喜作さん(当時50歳。服役後87年4月自殺)を、続いて27日には喜作さんの長男の中村善則さん(邦夫さんのおい。当時25歳。服役後の01年5月自殺)を、さらに30日には善三さんの妻であった原口(当時中村)アヤ子さん(当時52歳。11年9月現在84歳)ら4人を殺人と死体遺棄(善則さんは死体遺棄)で逮捕した。原口さんは一貫して否認したが、他の3名は自白、11月1日に起訴、また原口さんも3名の供述を元に11月20日起訴された。原口さんと他の3人は別々に起訴され(裁判官の構成は同一)、起訴日は違うものの、検察のストーリーは、公訴事実は同一で、原口さんが首謀者となって酒乱の邦夫さん殺害による保険金取得を謀議し、原口さん、夫の善三さん、義弟の喜作さんの3人で、邦夫さんを押えつけたうえ西洋タオルで絞め殺し、原口さんと甥の義則さんで牛小屋堆肥に死体を遺棄したというものであった。原口さんは終始一貫否認したが、80(昭和55)年3月31日鹿児島地裁は双方の事件について、「頸椎(けいつい)前面に出血があることから首に外力が働いた。他殺による窒息死と想像する」とする城哲男鹿児島大医学部教授(当時)の鑑定書と、殺害・死体遺棄を実行したとする共犯者とされた原口さんの夫・善三さんら3人の自白を根拠に、「原口さんと兄2人が殺害。善則さんも死体遺棄に加わった」として、全員に実刑を宣告した。判決は、保険金目あてという裁判中に崩れてしまった動機については検察主張こそ排斥したが、その他は検察主張を認め、主犯格とされた原口さんが懲役10年、夫の善三さんが懲役8年、義弟の喜作さんは懲役7年、甥の善則さんは懲役1年の各実刑を言い渡した。原口さん以外の他の3名は控訴せずに服役。原口さんは控訴・上告して争ったものの、福岡高裁宮崎支部は80年10月14日、最高裁判所は翌81年1月30日、いずれも棄却した。原口さんは、再審をめざして仮出獄を拒否し、90年7月17日の刑期満了まで服役した(善三さんと90年7月23日協議離婚)。原口さんは獄中からも無罪を訴え続け、服役後(出所後)の95(平成3)年4月19日に、また死体遺棄罪で懲役1年の刑を受けた服役後、無実を訴えた善則さんが97年9月19日に、鹿児島地裁にえん罪を訴えて再審開始を求めた(01年5月死亡により母親のチリさん〈01年当時73歳〉=同県志布志町志布志=が再審を継承。02年4月1日チリさん死亡)。

*2-6-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201906/CK2019062702000175.html (東京新聞 2019年6月27日) 大崎事件 再審取り消し 最高裁 鑑定の証明力否定
 鹿児島県大崎町で一九七九年に男性の遺体が見つかった「大崎事件」で、殺人罪などで服役した義姉の原口アヤ子さん(92)が裁判のやり直しを求めた第三次再審請求審で、最高裁第一小法廷(小池裕裁判長)は、再審開始を認めた福岡高裁宮崎支部と鹿児島地裁の決定を取り消し、再審請求を棄却する決定をした。再審を認めない判断が確定した。二十五日付。裁判官五人全員一致の意見。一審、二審の再審開始決定を最高裁が覆したのは初めてとみられる。共犯とされた元夫(故人)の再審開始も取り消した。最高裁は、一、二審が重視した弁護側が新証拠として提出した法医学鑑定を検討。鑑定は、確定判決が「窒息死と推定される」とした男性の死因について、「転落事故による出血性ショックの可能性が極めて高い」と指摘していた。最高裁は鑑定について、写真だけでしか遺体の情報を把握できていないことなどを挙げ、「死因または死亡時期の認定に、決定的な証明力を有するとまではいえない」と判断した。有罪の根拠となった「タオルで首を絞めた」などとする元夫ら親族三人の自白については、「三人の知的能力や供述の変遷に問題があることを考慮しても、信用性は強固だといえる」と評価。「法医学鑑定に問題があることを踏まえると、自白に疑義が生じたというには無理がある」とした。最高裁は「鑑定を『無罪を言い渡すべき明らかな証拠』とした高裁支部と地裁の決定を取り消さなければ著しく正義に反する」と結論づけた。弁護団は二十六日、東京都内で記者会見し、「許し難い決定だ」と批判。第四次再審請求を検討するとした。第三次再審請求審では、鹿児島地裁が二〇一七年六月、目撃証言の信用性を否定する心理学者の鑑定や法医学鑑定を基に、再審開始を認めた。一八年三月の福岡高裁宮崎支部決定は、心理鑑定の証拠価値は認めなかったが、「法医学鑑定と整合せず不自然」などとして親族らの自白の信用性を否定し、再審開始決定を維持した。

<司法取引について>
*3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190601&ng=DGKKZO45538510R30C19A5CR8000 (日経新聞 2019年6月1日) 司法取引 慎重運用続く、導入1年で起訴わずか2件 社会の理解なお深まらず
 日本版「司法取引」が導入されて6月1日で1年となる。複雑な経済事件の解明につながるとの期待を受けてスタートしたが、起訴に至ったことが判明しているのは日産自動車元会長、カルロス・ゴーン被告(65)の事件など2件にとどまる。制度の使われ方に批判や懸念が根強く、慎重な運用が続いている。日本の司法取引は他人の事件の捜査や公判に協力すれば不起訴や軽い求刑を約束する「捜査公判協力型」だ。複雑な資金移動や隠蔽工作のある経済事件などで有効な捜査手法になるとされる。検察幹部は「捜査に時間と労力が必要な事件でも、しっかりとした証拠が一括で得られ、重要人物も確実に聴取できる」とメリットを強調する。ただ、無関係の人を巻き込む恐れがあり、運用には慎重さが求められる。導入後、水面下では「かなりの数の司法取引の申し入れがあった」(検察幹部)。違法薬物や暴力団がからむ事案が多く、情報の信用性などの面から関係者との合意には至らなかったという。現時点で起訴に至った事件は東京地検特捜部が手掛けた2件だけとみられる。ゴーン元会長の事件では側近幹部が取引に応じた。弁護人は「内部紛争の手段として制度が使われた」と批判する。三菱日立パワーシステムズ(MHPS)の海外贈賄事件では合意した法人は不起訴だったが、元幹部3人が在宅起訴に。「会社が社員を差し出した」との違和感を指摘する意見もあった。企業や弁護士らにも戸惑いが残る。企業法務に強い弁護士は「取引に応じた側が批判されかねない」と懸念し「まだ特殊な事件しか適用例がなく、実際に活用するイメージがつかめない」と困惑する。独占禁止法の課徴金減免(リーニエンシー)制度が2006年に導入された際も「仲間を売る制度は日本になじまない」と指摘されたが、17年度は103件の申請があるなど定着した。日本経済新聞社の18年「企業法務・弁護士調査」では弁護士の82%が司法取引を活用すべきだと回答し、企業も計44%が活用を検討している。稲田伸夫検事総長は検察幹部が集まる会合で「(司法取引の)有用性は明らかだ」と強調し、「国民の信頼を得ながら定着させる必要がある」と述べた。適用例が蓄積され、利点が明確になれば、活用される可能性もある。

*3-2-1:https://digital.asahi.com/articles/ASM6S3DQQM6SUTIL00D.html?iref=comtop_list_nat_n05 (朝日新聞 2019年6月24日) ゴーン前会長、公判前整理手続きに出席 ケリー氏も
 日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告(65)の裁判で、争点や証拠を絞り込む公判前整理手続きが24日、東京地裁(下津健司裁判長)であり、保釈中のゴーン前会長と前代表取締役グレッグ・ケリー被告(62)が出席した。ケリー前代表取締役が公の場に姿を現すのは昨年12月の保釈後、初めて。午前10時過ぎ、雨が降る中、傘を差したゴーン前会長は黒いスーツに身を包み、弁護士らと地裁に入った。ケリー前代表取締役もスーツ姿で、15分ほど後に入った。ゴーン前会長は金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)と会社法違反(特別背任)の罪で起訴されている。特別背任事件の公判前整理手続きは2回目で、虚偽記載事件では初めてとなる。虚偽記載罪だけで起訴されているケリー前代表取締役に加え、法人としての日産も弁護人が出席した。手続きは非公開。関係者によると、ゴーン前会長の弁護側は、検察側に対して、証拠を早期に開示するよう求めたり、日産の西川広人社長が虚偽記載事件で不起訴処分になった理由の説明などを求めたりした。

*3-2-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14074683.html (朝日新聞 2019年6月29日) 「ゴーン前会長が会見」…撤回
 日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告(65)が28日、日本外国特派員協会で同日夜に記者会見を開く意向をいったん示しながら、数時間後に撤回した。会見を主催する同協会に、弁護団から「家族や広報担当者から反対があった」と連絡があったという。同協会によると、この日正午ごろ、会見を開きたいというゴーン前会長の意向が弁護団から伝えられた。午後9時に会見が設定されたが、午後3時半に弁護団から家族らの反対があると連絡があり、午後5時過ぎに中止が決まったという。同協会は「遺憾に思う。一連の経緯に対する失望を弁護団に伝えた」とホームページ上でコメントした。弁護団によると、ゴーン前会長は保釈条件で妻キャロルさんとの接触を禁止されていることに強い不満を持っているという。

<共謀罪について>
*4-1:https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2017/170331.html いわゆる共謀罪の創設を含む組織的犯罪処罰法改正案の国会上程に対する会長声明 (2017年3月31日 日本弁護士連合会会長 中本和洋)
 政府は、本年3月21日、いわゆる共謀罪の創設を含む組織的犯罪処罰法改正案(以下「本法案」という。)を閣議決定し、国会に本法案を上程した。当連合会は、本年2月17日付けで「いわゆる共謀罪を創設する法案を国会に上程することに反対する意見書」(以下「日弁連意見書」という。)を公表した。そこでは、いわゆる共謀罪法案は、現行刑法の体系を根底から変容させるものであること、犯罪を共同して実行しようとする意思を処罰の対象とする基本的性格はこの法案においても変わらず維持されていること、テロ対策のための国内法上の手当はなされており、共謀罪法案を創設することなく国連越境組織犯罪防止条約について一部留保して締結することは可能であること、仮にテロ対策等のための立法が十分でないとすれば個別立法で対応すべきことなどを指摘した。本法案は、日弁連意見書が検討の対象とした法案に比べて、①犯罪主体について、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団と規定している点、②準備行為は計画に「基づき」行われる必要があることを明記し、対象犯罪の実行に向けた準備行為が必要とされている点、③対象となる犯罪が長期4年以上の刑を定める676の犯罪から、組織的犯罪集団が関与することが現実的に想定される277の犯罪にまで減じられている点が異なっている。しかしながら、①テロリズム集団は組織的犯罪集団の例示として掲げられているに過ぎず、この例示が記載されたからといって、犯罪主体がテロ組織、暴力団等に限定されることになるものではないこと、②準備行為について、計画に基づき行われるものに限定したとしても、準備行為自体は法益侵害への危険性を帯びる必要がないことに変わりなく、犯罪の成立を限定する機能を果たさないこと、③対象となる犯罪が277に減じられたとしても、組織犯罪やテロ犯罪と無縁の犯罪が依然として対象とされていることから、上記3点を勘案したとしても、日弁連意見書で指摘した問題点が解消されたとは言えない。当連合会は、監視社会化を招き、市民の人権や自由を広く侵害するおそれが強い本法案の制定に強く反対するものであり、全国の弁護士会及び弁護士会連合会とともに、市民に対して本法案の危険性を訴えかけ、本法案が廃案になるように全力で取り組む所存である。

*4-2:https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2017/170615.html (日弁連会長声明 2017年6月15日) いわゆる共謀罪の創設を含む改正組織的犯罪処罰法の成立に関する会長声明
 本日、いわゆる共謀罪の創設を含む組織的犯罪処罰法改正案(以下「本法案」という。)について、参議院本会議において、参議院法務委員会の中間報告がなされた上で、同委員会の採決が省略されるという異例な手続により、本会議の採決が行われ、成立した。当連合会は、本法案が、市民の人権や自由を広く侵害するおそれが強いものとして、これまで本法案の制定には一貫して反対してきた。また、本法案に対しては、国連人権理事会特別報告者であるジョセフ・カナタチ氏が懸念を表明する書簡を発出するという経緯も存した。本国会における政府の説明にもかかわらず、例えば、①一般市民が捜査の対象になり得るのではないか、②「組織的犯罪集団」に「一変」したといえる基準が不明確ではないか、③計画段階の犯罪の成否を見極めるために、メールやLINE等を対象とする捜査が必要になり、通信傍受の拡大など監視社会を招来しかねないのではないか、などの様々な懸念は払拭されていないと言わざるを得ない。また、277にも上る対象犯罪の妥当性や更なる見直しの要否についても、十分な審議が行われたとは言い難い。本法案は、我が国の刑事法の体系や基本原則を根本的に変更するという重大な内容であり、また、報道機関の世論調査において、政府の説明が不十分であり、今国会での成立に反対であるとの意見が多数存していた。にもかかわらず、衆議院法務委員会において採決が強行され、また、参議院においては上記のとおり異例な手続を経て、成立に至ったことは極めて遺憾である。当連合会は、本法律が恣意的に運用されることがないように注視し、全国の弁護士会及び弁護士会連合会とともに、今後、成立した法律の廃止に向けた取組を行う所存である。

<特定秘密保護法について>
*5:https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2013/131203.html (日本弁護士連合会会長 山岸憲司 2013年12月3日) 特定秘密保護法案について改めて廃案を求める会長声明
 特定秘密保護法案に関連して、自由民主党の石破茂幹事長が、自身のブログで、議員会館付近での同法案に反対する宣伝活動に対して、「絶叫戦術はテロ行為とその本質においてあまり変わらない」と述べたことにつき、厳しい批判の声が上がり、その後、記事の撤回と謝罪がなされたことなどが大きく報道された。テロとはまったく異質な市民の表現行為をとらえて、テロと本質が同じであると発言したことについては、当連合会としても、表現の自由を侵害するもので許されないと考える。特定秘密保護法案においては、第12条2項で「テロリズム」の定義が記載されている。これに対しては、「政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要」する行為がそれ自体でテロリズムに該当すると解釈されるのではないかとの疑義が示され、問題であると指摘されている。この点について、政府は、「人を殺傷する」などの活動に至る目的としての規定であるとし、石破幹事長も説明を修正したが、政権与党の幹事長が、上記のような発言をしたことは、その後発言が修正されたとはいえ、市民の表現行為が強要と評価され、直ちにテロリズムに該当すると解釈されることもありうるという危険性を如実に示したものということができる。特定秘密保護法案については、その危険性を懸念する声が日に日に増しており、マスコミ各社の世論調査などによってもそのことが明らかとなっている。それにもかかわらず、衆議院では法案の採決が強行され、その拙速な審議が強く批判されている。このような状況において、やむにやまれず法案への反対を訴える市民の行動をとらえて、政権与党の責任者が、市民の宣伝活動について、テロ行為と本質が変わらない、主義主張を強要すればテロとなり得るなどと発言することは、甚だ不適切であり、特定秘密保護法が成立した場合に、表現の自由やその他の基本的人権を侵害するような運用がなされるのではないかとの危惧をますます大きなものにしたといわざるを得ない。このようなテロリズムの解釈の問題については、国会審議でも疑念が指摘されたが、政府は条文の修正をしようとしない。この法案については、秘密の範囲が広範であいまいであり、秘密の指定が恣意的になされかねないこと、それをチェックすべき第三者機関の設置が先送りされたままであること、報道の自由をはじめとする表現の自由に対する萎縮効果があることなどの問題点が指摘されており、これに加えて、テロの定義が広がり、国民の正当な政府批判までが取締りの対象になる危険性が明らかになったのであって、このような問題点が払拭されないまま、この法案を成立させることは許されないというべきである。よって、当連合会は、人権侵害のおそれがより明らかになった特定秘密保護法案について改めて廃案を求める。

<監視社会へ>
*6-1:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190530-00064915-gendaibiz-bus_all (Yahoo 2019/5/30) 6月1日施行「改正通信傍受法」で国民の情報はここまで裸にされる
●国民は丸裸に
 TTドコモなど通信会社と都道府県警本部を回線で結び、被疑者などの電話やメールを専用のパソコンで通信傍受(盗聴)する改正通信傍受法が、6月1日に施行される。これまでとの違いは、捜査員が通信会社に出向き、社員立ち会いのもとで行なっていたリアルタイムの通信傍受を、警察に居ながらにして行えること。しかも、傍受した会話やメールを暗号化して送り、一時保存、後に再生することができる。このため、「使いやすさ」は飛躍的に向上する。改正通信傍受法は、段階を踏んでおり、16年12月の段階で、まず対象犯罪が拡大した。それまで通信傍受が認められていたのは、薬物、銃器、集団密航、組織的殺人の4類型。それに、殺人、傷害、放火、爆発物、窃盗、強盗、詐欺、誘拐、電子計算機使用詐欺・恐喝、児童売春などが追加され、ほとんどの犯罪領域がカバーされることになった。今後、裁判所の令状を取られた被疑者と、会話やメールなど通信の相手先は、警察当局の監視下に置かれる。加えて、ネット化、IT化、キャッシュレス化がもたらす個人情報の共有が、令状を伴う強制か、捜査関係事項照会書による任意かはともかく、警察当局にももたらされ、通信傍受と合わせ、国民は“丸裸”である。我々は、各種サービスを個人情報との引き換えによって得ている。アプリやカードを作成する際に個人情報は必須。買い物や利用の履歴は、ビッグデータとなって蓄積され、企業の製造、雇用、サービスに役立ち、利用者はポイントを溜めて買い物や旅行などで便宜を得る。グーグル、ヤフー、フェイスブックといった巨大プラットフォーマーは、住所年齢、趣味嗜好、行動範囲、友人の傾向などを踏まえ、個人情報どころから、「本人すら気付かない人格と性向」まで把握する。プラットフォーマーは、個人情報を取得するのが目的ではない。本業が広告の彼らは、精度の高いターゲティング広告を得るために個人情報を集め、その反対給付として、メールや会話サービス、天気や位置・地図情報、検索エンジンサービスなどを提供する。買い物やレンタルをするとポイントが溜まるTカード発行のCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)が、警察からの要請を受け、令状なしに顧客情報を渡していたことが、年初、明らかになった。この件が報じられた後、CCCは事実関係を認め、「当初は捜査令状に基づき、個人情報を提供していたが、12年からは警察の捜査関係事項照会書だけでも提出していた」としたうえで、「規約を見直す」としたものの、警察への捜査協力をどう変えるかについては言及しなかった。この問題を機に行なわれたアンケート調査などにより、CCCだけではなく、交通系、ネット通販系、量販店系などアプリやカードを発行する企業や団体が、警察の照会書で情報提供していることが明らかとなった。プラットフォーマーも同じである。ラインは、ホームページ上で「捜査機関への対応」として、どのような要請に対し、どのような対応をしているかを公表している。情報開示は、①捜索差押令状がある場合、②(捜査関係事項照会書のような)法的根拠に基づく捜査協力の要請があった場合、③緊急避難が成立すると判断した場合、に行なうとされ、③は、自殺予告や誘拐等の特殊事情なので、実際は、強制(令状)であれ、任意(照会書)であれ、応ずる可能性が高いということだ。

*6-2:http://qbiz.jp/article/139111/1/ (西日本新聞 2018年8月13日) 地銀64行が資金洗浄防止 情報共有システム構築へ
 全国地方銀行協会(地銀協)が、テロリストへの資金供給などに使われるマネーロンダリング(資金洗浄)を防止するため情報共有システムの構築を検討していることが10日、分かった。国際組織の審査を来年に控え、対策が不十分な国とみなされると海外の金融機関と取引がしづらくなる恐れがあり金融庁も対応を求めていた。地銀協は全国64の地方銀行で構成する。全国銀行協会(全銀協)とも連携して対策の強化を急ぐ。地銀協会長の柴戸隆成氏(福岡銀行頭取)が共同通信のインタビューで明らかにした。柴戸氏は「マネロン対策は競争ではない。(銀行同士で)一緒にやっていく余地はある」と強調。「時間は限られている。スピード感をもって対応していく」と地銀協として重点的に取り組む考えを示した。共有システムに登録するデータとしては、怪しい人物の顧客情報や送金先の国・地域、送金事例などが想定される。メガバンクは本人確認の徹底や不正検知システムの導入などにより既にマネロン防止対策を強化しているのに対して、地銀には管理体制が緩い銀行もあり、不正送金などが起きやすいとされる。マネロン対策の国際組織「金融活動作業部会」(FATF)は2014年、日本に対してテロ資金対策の不備に迅速に対応するよう異例の声明を発表した。日本政府は犯罪収益移転防止法を改正するなど対応してきたが、それでも「日本の金融機関の対策は不十分だとみられている」(金融庁幹部)という。このため金融庁は今年に入り、資金洗浄やテロ資金対策を担当する企画室を新設。金融機関に対し、マネロン対策に関する報告を求めるなど監視を強化し、不十分な金融機関には立ち入り検査する方針を示している。

<個人情報の無断使用による人権侵害と所有権の所在>
PS(2019年7月2日追加):G20が6月28日に大阪市で開幕し、議長を務める安倍首相が国境を越えた自由なデータ移動を認める「データ流通圏」の構想を提唱して交渉開始を宣言されたそうだが、「データを自由に流通させる」とは日本政府はデータを誰のものと認識しているのだろうか。「デジタルデータなら、本人の許可なく対価も支払わずに勝手に流通させて良い」と考える国は、国民から見て「信頼できる国」ではない。つまり、*7-1の「デジタルを最大限活用する」というのは既に当然のこととして行われているが、それと「デジタルデータなら勝手に流通させて良い」というのは全く異なるのである。そのため、国際的ルールづくりは、個人の権利保護につき、「自由なデータの流通」を「大阪トラック」などと呼ぶのは恥さらしだ。また、貿易についても、「貿易制限的な措置の応酬はどの国の利益にもならない」というのも単純すぎ、自由貿易だけを念仏のように唱えていても解決しないことは日本にも山ほどあるのである。
 それに加えて、2018年4月、*7-2のように、政府は主要農作物の種子の生産・普及を都道府県に義務付けた種子法を廃止したが、これは、それまでその地域の気候にあった種子を地域で開発し、ブランド力のある農産物を作ってきた地方に対し、大変な不便を与えている。同時に、その価値もわからずに国民の財産である種子という知的所有権を投げ捨てたことになる。さらに、その種子法廃止の目的を、「農業の競争力向上のため、民間技術も取り入れて新品種の開発力を強める意図があった」としているが、技術や競争力のある民間の種子なら種子法を廃止しなくても勝ち残るし、条例で従来の生産体制が維持・強化されると参入が難しいような民間の種子ならいらないのである。にもかかわらず、このようなことをするのは、知的所有権という種子の本質を理解しておらず、国民の財産を大切にせず、農業を粗末にしているということだ。
 そして、このように国民の財産をドブに捨てるようなことはせず、国有林のストックや海底資源を活用すれば、消費税を廃止しても十分な年金の支払いや社会保障を行うことができるため、「社会保障は消費税増税がなければ無理」と考えることこそ愚かな思考停止である。


     2019.1.19読売新聞       種子法廃止の悪影響   2019.7.2日経新聞
                               種子条例を定めた自治体
(図の説明:左図のように、日本は個人情報の流通には原則として本人の同意が必要としているが、産業データに入れれば自由に流通できるため、欧州のようにプラーバシー保護を前面に出すべきだ。また、中央の図の種子法廃止は、利益追及目的で行動する民間企業はやらないことも多いのでよくない。従って、農業を大切にする地方自治体が種子条例を制定したのはよいと思う)

*7-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO46687400Y9A620C1MM0000/ (日経新聞 2019/6/28) 首相、「データ流通圏」交渉開始を宣言 G20サミット、貿易、緊張緩和めざす
 20カ国・地域首脳会議(G20サミット)が28日、大阪市で開幕した。議長を務める安倍晋三首相は国境を越えた自由なデータ移動を認める「データ流通圏」の構想を提唱し、交渉開始を宣言した。拡大するデータを使ったビジネスに対応したルールづくりを世界貿易機関(WTO)の枠組みで進める方針を打ち出した。G20サミットは28、29両日の日程で開かれる。初日のデジタル分野での特別会合で首相は「デジタル化は経済成長を後押しし、国際社会の課題を解決する可能性を有している。最大限活用するには国際的なルールづくりが不可欠だ」と強調。信頼できる国・地域間で自由にデータが流通し、技術革新につなげられる国際的な枠組みやルールの必要性を訴えた。その上で「2020年6月のWTO閣僚会議までに実質的な進捗を達成しよう」と述べ、ルールづくりの交渉枠組みを「大阪トラック」と呼んで本格的な交渉開始を宣言した。世界経済や貿易分野での28日の討議では、足元の経済・貿易の現状を分析する。首相は「貿易制限的な措置の応酬はどの国の利益にもならない。現下の状況に深く憂慮している」と表明した。米中対立などで深刻化する貿易摩擦に対し、協調して対処する方針を示したい考えだ。機能不全が指摘されるWTOの改革で一致し、貿易問題を多国間で解決していく姿勢を示すことをめざす。G20サミットは2008年11月、リーマン・ショックに対処するための会議として発足した経緯がある。29日の閉幕時の首脳宣言で、各分野で実効性の高い協調策を世界に向けて発信できるかが焦点だ。

*7-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190702&ng=DGKKZO46834490S9A700C1MM0000 (日経新聞 2019年7月2日) 種子の保護、条例で復活 民間参入促進へ法廃止も… 、価格高騰や供給不安 自治体、農家に配慮
 全国の自治体で種子条例を制定する動きが広がっている。国はコメなど主要農作物の種子の生産・普及を都道府県に義務付けた種子法を2018年4月に廃止したが、県などが引き続き責任を負う姿勢を示す。種子の供給不安や価格高騰を懸念する農業者らに配慮した形だが、同法廃止が狙う品種開発などへの民間参入が、条例により阻まれる可能性もある。富山県は1月、「主要農作物種子生産条例」を施行した。種子の作付面積の配分など計画の策定や圃場の指定などを県が受け継ぐことを示した。同県はコメの種もみ出荷量が全国首位で43都府県に供給する。「農家などに安心して種もみの生産を続けてもらうため、条例が必要だと判断した」(農産食品課)。供給力の強化へ3月には富山市内の県農業研究所に生産施設を立ち上げた。隔離した圃場で種子のもとになる原種を生産し、病害虫がつかないよう管理を徹底する。北海道も4月、同様の条例を施行した。道内に適した優良品種を道が認定し、種子の安定供給につなげる。種子法の対象だったコメや麦類、大豆に、特産の小豆とエンドウ、インゲン、ソバを独自に加えた。北国のため育ちやすい品種が他地域と異なり、輪作で複数の農作物を育てる農家が多いことに配慮した。これまでに9道県が種子条例を施行した。種子法の下では、各都道府県の農業試験場などが優良な品種の種子を開発し、その原種を指定された生産者が増やして農家に供給してきた。同法廃止後も多くの自治体が要綱などで供給を支える方針を示すが、行政の関与が薄れるなどの懸念から生産者団体などが条例化を求める動きを強めた。長野県は種子条例案を県議会の6月定例会に提案した。主要農作物の種子を県が安定供給するほか、新たに生産が盛んなソバや県が認定する「信州の伝統野菜」を対象とする。生産者の確保や技術承継などへの支援も盛り込み、20年4月ごろに施行を目指す。鳥取県も6月の県議会で主要農作物に関する種子条例を採択し、7月に施行予定。宮城県は6月に条例案を示し、意見を募集している。ただ、種子法廃止は農業の競争力向上へ、民間技術も取り入れて新品種の開発力を強める意図があった。都道府県によるコメの奨励品種で民間企業が開発したものはないという。条例で従来の生産体制が維持・強化されると、民間参入が難しい状況が続きかねない。

<政治と外交>
PS(2019年7月4日追加):*8-1のように、徳川家康に似た顔の徳川宗家19代目徳川家広氏(54)が、立憲民主党から家康ゆかりの静岡選挙区で立候補され、「天下泰平」と書かれた葵紋ののぼりを掲げて、脱原発や憲法改正反対を訴え、家康の銅像前で演説されたそうだ。筋金入りで好感が持てるが、「静岡県民として落とすわけにはいかない」と地元議員や元首長らの勝手連が立ち上がり、幕臣の子孫の一部も支援しているそうだ。
 日本は、*8-2のように、IWCを脱退して31年ぶりに商業捕鯨に踏み出し、関係者は「日本の鯨食文化を守る」と捕鯨に熱心だが、国際社会が日本の外交に疑問符を加えるのは間違いなく、日本人から見ても野生動物保護の意識が低い。さらに、食糧難で蛋白質不足の時代とは異なり、現在の食卓は鯨より美味しい肉類はじめ蛋白質が豊富で、鯨肉を食べたことのない人も増え、捕鯨が切望されていたわけではないため、財源を使って外国からの印象を悪くし、他の外交に不利益を蒙りながら、何のために捕鯨業の発展に努めているのかわからない。
 また、*8-3のように、G20大阪サミットが開かれ、①海洋プラスチックごみは2050年までに流出をゼロにする目標導入 ②各国が自主的に削減に取り組んで報告し合う国際枠組み新設 などが決まり、首相は「③日本の知見を生かして途上国の適切な廃棄物の管理などに貢献する」と述べられたそうだ。しかし、環境への流出をゼロにすればよいため、i)公共の場所にゴミ箱を多く設けて捨てやすくし ii)なるべくリサイクルし iii)リサイクルしやすいプラスチックを作って使い iv)リサイクルできないものは必ず焼却する などを徹底すればよく、木や竹などの植物が多い日本はプラスチックの代替として紙を使うのもよいが、ヒステリックにプラスチック製のストローやレジ袋を排除して、その生産者・消費者を困らせる必要はないだろう。



(図の説明:プラスチック製容器は食品を入れるために使い捨てとして使われることが多く、1番左や左から2番目の図のように、異なる材質の安っぽい模様のついたプラスチックの底をつけて品を落とした上、分別・リサイクルをやりにくくしている。そのため、私は、右から2番目の図のような透明な容器をペットボトルと同じ素材で作り、底はクマザサや植物由来の抗菌剤を含む紙を敷いた方が、品がよい上、プラスチック部分はすべて簡単に分別・リサイクルできるのにと前から思っていた。しかし、1番右の図のように、使用後の漁網を海中に捨て、それに生物がかかって気の毒なことになっているため、ゴミを水中に捨てるのはやめなければならない)

*8-1:https://www.hokkaido-np.co.jp/article/321973?rct=n_politics (北海道新聞 2019年7月4日) 立民で初陣、徳川宗家19代目 家康ゆかりの静岡
 徳川宗家19代目で評論家の徳川家広氏(54)は、静岡選挙区(改選数2)で立憲民主党として初の議席獲得を目指す。江戸幕府初代将軍の徳川家康が晩年を過ごした駿府城跡の公園で「江戸の平和が生まれた場所だ。私たちの知る平和は全てここ静岡から始まった。この平和を壊してはならない」と第一声を上げた。徳川氏は「天下泰平」と書かれた葵の紋入りののぼりを掲げ、家康の銅像前で演説。「国民のほとんどが経済をどうにかしてと言っているときに安倍(晋三)さんは改憲が争点だと言っている。だから私は受けて立ちます」と力を込め、応援に駆け付けた蓮舫参院幹事長らと気勢を上げた。6月の記者会見では「今の世相が戦時中の末期に近づいていると感じる。よく分からない理由のために人がどんどん使いつぶされていく」と危機感をあらわにした。「本来、言われてしかるべきことが言われていない」と、脱原発や憲法改正反対を訴える。東京生まれだが、家康を祭る久能山東照宮(静岡市)の行事に参加するなど静岡との縁は深く「魂が根を張っている」。出馬表明以降、「静岡県民として落とすわけにはいかない」と、地元議員や元首長らの勝手連が立ち上がり、一部の幕臣の子孫も支援の動きを見せている。

*8-2:https://digital.asahi.com/articles/ASM71532MM71ULFA027.html (朝日新聞 2019年7月2日) 商業捕鯨、不安乗せた船出 肝心の食卓ニーズは尻すぼみ
 日本が国際捕鯨委員会(IWC)を脱退し、31年ぶりの商業捕鯨に踏み出した。「日本の鯨食の文化を守る」と関係者は意気込むが、国際社会は反発し、外交上のリスクも抱える。肝心の鯨肉の需要も尻すぼみで、「商業」の名を借りた国の補助金頼みの「官製捕鯨」になりかねない。1日午後5時ごろ、北海道・釧路港に、捕鯨船からクレーンでつり上げられたミンククジラ2頭が初水揚げされた。1頭は体長約8・3メートルで、体重約5・6トン。日本小型捕鯨協会の貝良文会長によると、「ミンククジラとしては最大級」という。「今日は最高な一日だった。31年間辛抱したかいがあった。皆さんにおいしいクジラを召し上がっていただきたい」と話した。この後、クジラは約15キロ離れた加工場に運ばれた。清酒を振りかけて清める「初漁式」や計測などを済ませ、解体処理が始まった。早ければ4日にも店頭に並ぶという。
●「捕鯨業の発展に努めていく」
 沖合操業の基地・山口県下関市。1日朝、約200人が集まった出港式で、3隻の捕鯨船団の総括責任者、恒川雅臣さんは決意を語った。下関は江戸時代からクジラの流通拠点で、戦後の食糧難の時代は関連の加工業や飲食店で街はにぎわった。だが現在は活気が失われ、商業捕鯨再開への期待も強い。出港式では前田晋太郎・下関市長が、「安定的な陸揚げや新たな産業振興、観光振興、さらなる経済の活性化を図るための取り組みを推進する」と述べた。商業捕鯨の再開は、業界にとって「30年来の悲願」(前田晋太郎・山口県下関市長)だ。昨年末に政府が再開方針を決めると「早く捕獲枠を公表して欲しい」との要望がわき起こっていた。だが、捕獲枠が業者に通知されたのは出港直前の1日午前8時。水産庁は「100万通り以上の試算が必要で時間がかかった」とする。だが、2週間前には捕獲枠は固まり、首相官邸に報告していた。6月28~29日に主要20カ国・地域(G20)首脳会議が大阪市であり、英豪など反捕鯨国トップが出席。この場で反発が起きないよう公表を先送りしたのだ。国際社会の反応を気にかけながらの再開となったが、反捕鯨団体などからは批判の声が相次いだ。南極海での日本の調査捕鯨への妨害を繰り返してきた反捕鯨団体シー・シェパード豪州支部のジェフ・ハンセン代表は1日、「クジラやイルカの殺害に対する闘いに今後も焦点を当てる」との声明を出した。IWCの本部がある英国では6月29日、ロンドン中心部で動物保護団体「ボーン・フリー財団」の関係者らが企画した抗議デモがあり、「捕鯨をやめよ。さもなくば(東京)五輪をボイコットする」などと訴えて練り歩いた。英紙タイムズは29日付で「恥ずべき瞬間」と題した社説を掲載した。
●国際社会でのリスク
 国際社会の反発に加え、商業捕鯨を続けるには「二つの外交リスク」も潜む。一つが、日本も批准する国連海洋法条約だ。クジラの管理は「適当な国際機関を通じて活動する」ことを定めている。日本はIWCから脱退したが、オブザーバーとして参加は続けるため、「条約の要件は満たせる」(外務省)とする。だが、捕鯨をめぐる国際政治を研究する早稲田大学地域・地域間研究機構の真田康弘・研究院客員准教授は、「条約違反で訴える国が出てくれば、敗訴する可能性が高い」と指摘する。日本はオブザーバー参加で捕鯨をしている国の例としてカナダをあげるが、カナダは先住民が年数頭を捕獲するだけだ。年383頭も捕獲する日本が「カナダと同じ状況だと主張するには無理がある」(真田氏)。もう一つがワシントン条約の精神に反するとの批判だ。今回商業捕鯨で捕獲するミンク、イワシ、ニタリの3種類のクジラはいずれも、同条約で「絶滅の恐れがある」として、国際的な売買を禁ずるリスト「付属書1」に記載されている。日本はミンク、ニタリについては非締結国扱いとなる「留保」をしているが、北太平洋のイワシは留保をしていない。同条約の常設委員会は昨年、日本の北西太平洋でのイワシクジラの調査捕鯨を「条約違反」と認定し、日本に是正を勧告したばかりだ。外務省の担当者は「ワシントン条約は公海が対象で、排他的経済水域(EEZ)内は規制の対象外」と説明するが、国際法上、日本自体が「絶滅の恐れがある」と認めた鯨種を捕獲するという矛盾は否めない。1日に公表した捕獲枠で、水産庁はイワシを年25頭にした。調査捕鯨だった昨年(134頭)から大幅に縮小した。「ワシントン条約違反への回答で、『公海ではとらない』と宣言した点も考慮した」という。二つのリスクを国際社会で厳しく責められれば、せっかく再開した商業捕鯨が頓挫しかねない。
●鯨食文化も存亡の危機
 調査捕鯨では、捕獲後に胃の内容物など約60項目の調査が必要で、その間に鮮度が下がった。捕獲するクジラも乱数表に従って群れの中から機械的に選んでいたが、商業捕鯨では枠内でおいしそうなクジラを選んでとれる。だが、日本捕鯨協会の山村和夫会長は「期待と言うよりもむしろ不安でいっぱいだ」と話す。鯨肉では、えさのオキアミが豊富な南極海でとれるミンククジラが最も高級品とされている。だが、商業捕鯨の海域は日本のEEZ内だけになり、南極海からは撤退する。国が認めた捕獲頭数は、調査捕鯨だった昨年より4割も少ない。しかも、EEZ内での捕鯨は手探りで、漁場探しから始めなければならないのが実態だ。ある水産庁OBは「枠はあっても実際には捕獲できず、とれる鯨肉は昨年の半分ぐらいにまで減るのではないか」と心配する。捕鯨推進派が掲げる鯨食文化も存亡の危機だ。鯨肉の販売関係者は「かつて調査捕鯨の鯨肉は飛ぶように売れたが、00年代半ばからは、在庫処分に苦労するようになった」と明かす。終戦直後は半分近くあった国民が食べる肉全体に占める鯨肉の割合は、今では0・1%以下。鯨肉を日常的に食べた経験がある60歳以上の世代はこれからどんどん人数が減っていく。5月には、創業から半世紀の大阪市の老舗鯨料理店「徳家(とくや)」が閉店した。国際社会の反発を恐れ、海外で事業を展開する大手スーパーでは鯨肉の販売を「自粛」する動きが続く。イオンは鯨肉販売は捕鯨拠点などがある一部の店舗に限定しているが、「販売店舗の拡大予定はない」。15年ほど前に販売をやめたイトーヨーカ堂も「再開の予定はない」という。今年度の国の捕鯨予算は昨年度と同じ51億円。調査捕鯨をやめる一方で、新たに捕鯨業者に配る補助金をつくった。捕鯨基地がある山口県下関市は安倍晋三首相の地盤で、和歌山県太地町は二階俊博自民党幹事長の選挙区。捕鯨業界の政治力は強い。水産庁幹部は「補助金を未来永劫(えいごう)続けるつもりはないが、打ち切る時期はわからない」とする。

*8-3:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO46756940Z20C19A6MM0000/ (日経新聞 2019/6/29) 海洋プラごみ「2050年ゼロ」 G20首脳が合意
 20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)は最終日の29日、国際的に問題となっている海洋プラスチックごみ(廃プラ)は、2050年までにゼロにする目標を導入することで一致した。閉幕後の議長会見で安倍晋三首相が明らかにした。首相はこうした「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」をG20でリードしつつ、他の国にも賛同を呼びかけていく考えを示した。首相は「日本の知見を生かして、途上国の適切な廃棄物の管理などに貢献していく」と述べた。廃プラは毎年少なくとも900万トン近くが海に流出しており、海洋生物や地球環境への深刻な影響が懸念される。6月中旬に長野県軽井沢町で開かれたG20エネルギー・環境相会合では、各国が自主的に削減に取り組み、報告し合う国際枠組みを新設することで合意したが、数値目標はなく、実効性の担保が課題だった。首脳宣言では50年までに流出をゼロにする目標を盛り込むことが固まった。欧州連合(EU)など一部の加盟国・地域からは、より早期の達成を目指す声もあったが、国際的に初の数値目標の導入を優先した。

<偏見・差別による人権侵害>
PS(2019年7月9、15日追加):日本には、「①成功した人は、悪事を働いたに違いない」「②自分が普通(=“模範”と混同している)なので、それと異なる人は悪い人である」というような変な普通至上主義(農耕由来か?)があり、ゴーン氏は、①②の価値観により、築きあげてきたすべての名誉を無にされようとしている点で著しい人権侵害を受けている。
 また、*9-1の見出しは、「③素顔のビシャラ ゴーン氏、本名の秘密 祖国ブラジル『彼はビシャラだ』」と書かれており、ゴーン氏はビシャラという名前を都合が悪いから隠していたかのような印象を与え、アクリル板越しに姿を見せたり、何でも私物化したりしたのが素顔だとしている点で、中東出身の人に対する差別である。さらに、④南米大陸初の五輪が開幕したリオデジャネイロのアトランチカ通りで半袖・短パン姿で聖火ランナーとしてゴーン氏が走り、ゴーン氏を先導した日産車が世界中に『NISSAN』のロゴを見せつけ、⑤日産がリオ五輪のスポンサーとして数百億円支出し、⑥時期を同じくしてマンションの一室を購入したこと、⑦リオから内陸に約160キロ入ったレセンデという都市に新工場を作ったことなどを私物化と決めつけているが、④⑤は、通常の広告宣伝費を支出するよりもずっと効果的に排気ガスの出ないEVを世界にアピールすることができ、⑥は全体から見ればおまけのようなものである。さらに、⑦は土地価格や人件費が安かったり、税優遇してもらったりなどの理由があると思われ、これらを批判することしか考え付かないのは“普通”の日本人のワンパターンの思考であり欠点だ。
 なお、*9-2のように、フェニキア人は海上交易で活躍し、交易のためにさまざまな地域に移動し、いくつもの植民市を建設し、アルファベットを作った『ヨーロッパ文明の父』」だそうだが、このように新しい市場やビジネスを開拓するのに身内・出身校・同僚・祖国などのすべてをネットワークとして活用するのは自然であり、むしろ組織の決まった手続きに従って二番煎じの仕事をしているだけでは下層サラリーマンしか勤まらないだろう。
 一方、私は、*9-3の三菱重工のMRJを全く評価できないが、その理由は、①三菱自動車は既に燃料電池を完成させており ②世界は脱石油の方向で ③約半世紀ぶりに日本企業が開発する旅客機であるため、ジェットエンジンを使わなければならない理由はないのにジェットエンジンを使い ④顧客への納入延期を繰り返す というダサさだ。「それなら、わざわざ三菱重工の航空機を買う必要はない」というのが需要家の見方であり、ボンバルディアの保守網と顧客基盤を手に入れるためにボンバルディアを買収しても、シナジー効果を出して両社にメリットがなければボンバルディア側の人を満足させることはできず、シナジー効果を出すためには世界初の燃料電池or電動航空機を市場投入するのがBestだろう。

 
  ハフィントンポスト    2019.4.9東京新聞  石垣島の電動船のデザインに
                           採用されたシャチョウ号   

  
2018.12.2東京新聞      Goo       2018.8.15JBpress(*9-2より) 

(図の説明:上段の中央の図のように、妻の会社でシャチョウ号を所有したことを特別背任だとしているが、その動機は会社の私物化とは限らない。それよりも、上段の右図のシャチョウ号のデザインは石垣島の電動船のモデルになっており、世界に通用する素敵な電動船を作るために、安く買えるチャンスに社長決裁で素早く手に入れたのかもしれない。そして、下段の左や中央の図の会社の私物化や特別背任とされている件も、何とか有罪にしようと違法でない事案にまで検察が手を出しているのはよくない。さらに、下段の右図のように、ゴーン氏の出自であるフェニキア人は、船など移動手段のエキスパートであり、グローバルな人材でもあるため、ゴーン氏を働けなくしたことは、ライバルにとっては朗報だが日産にとっては大きな損失だったと思う)

*9-1:https://www.asahi.com/special/matome/ghosn-identity/?iref=kijiue_bnr (朝日新聞 2019年7月9日) ゴーンショック 素顔のビシャラ ゴーン氏、本名の秘密 祖国ブラジル「彼はビシャラだ」
 アクリル板越しに姿を見せた日産自動車前会長のカルロス・ゴーンは黒いジャージーの上下を着ていた。2月19日、東京・小菅の東京拘置所。会社法違反(特別背任)などの罪で起訴された後も勾留が続いていたゴーンを励まそうと、フランスから来日した40年来の旧友のフィリップが面会に訪れた。仏タイヤ大手ミシュランに同期入社した間柄。ともに24歳だった。週末はカードゲームに興じ、パーティーで夜を明かした。その後も家族ぐるみの付き合いを続けてきた。高級スーツに身を包み、世界を飛び回っていたゴーンの様変わりした姿に、フィリップは「歯がゆく、悲しくなった」という。昨年11月。電撃的に逮捕される10日前、ゴーンはフィリップに近況を尋ねる電話をかけてきた。フィリップがミシュランを退職したことに話が及ぶと、ゴーンはふと「私も次の仕事を探している」と漏らした。そのやりとりを覚えていたのだろう。心配そうに現れた旧友の姿を見るなり、ゴーンはこんなジョークを飛ばした。「ここがキミの次の職場かい?」。拘置所の職員2人が立ち会い、許されるのは英語の会話のみ。ゴーンは特異な状況に驚く友人をリラックスさせようとしたのかもしれない。フィリップは「カルロスは自分自身をコントロールできている」と感じた。フィリップは、マイクル・コナリーやシュテファン・ツヴァイクの小説など20冊余りの本を差し入れ、フランスの約20人の友人から託されたメッセージを一つひとつ読み上げた。「(逮捕された)11月19日から私たちはあなたとともにいる」「あなたのもとで働き多くを学んだ」「あなたなら自らの無実を証明できると思っている」……。ゴーンは「ベリー、ベリー、ナイス」と相好を崩した。ゴーンが日産社内で独裁体制を敷き、会社を「私物化」するような数々の疑惑が報じられたが、フィリップは「独裁者」のように日産に君臨したゴーンの姿がどうしても想像できない。「カルロスは部下に自由にやらせる。部下はみな、彼をがっかりさせたくないと思う。一緒に仕事もしたが、彼が部下を罵倒した場面を見たことがないんだ」。フィリップは、逮捕直前に「次の仕事を探している」と漏らしたゴーンに思いを巡らせる。「カルロスは日産を早く去った方が幸せだった。信じていたのに裏切られたのだから」。そして、この先のゴーンをこう想像する。「カルロスは生粋のフランス人ではない。どんなネットワークにも属さず、様々な場所に住むのだろう。彼は自分がやりたいことのために他人の助けを必要としないんだ」
●異国で商機つかんだ祖父
 大西洋に面するブラジルの古都サルバドールから約150キロ南に位置する小さな街、イトゥベラ。中心部から数キロ南に、仏タイヤ大手ミシュランが長年運営にかかわってきたゴム農園がある。9千ヘクタールの広大な敷地を覆うように膨大なゴムの木が林立し、樹液が集められる一画には発酵の際に放たれる強烈な異臭が立ち込める。日産自動車前会長のカルロス・ゴーンは1978年にミシュランに入社し、85年に南米事業を統括する経営トップとしてブラジルに赴任した。30歳だった。このゴム農園を何度か訪れている。「カルロス・ゴーン? そんなヤツは知らない」。ここで40年以上働くアンドレ(60)は、記者の取材にけげんな表情を浮かべた。ゴーンの写真が載った当時のミシュランの社内報を見せると「この人、知ってる! 名前は何だ?」。「カルロス・ゴーン・ビシャラ」とフルネームで伝えると、彼は叫んだ。「そうだ。この人はビシャラだ! 俺たちはビシャラって呼んでたんだ!」。ゴーンの祖父ビシャラ・ゴーンは中東レバノンで生まれ、1900年代初頭にブラジルに移住した。レバノンは当時、スエズ運河開通に伴う不況にあえいでいた。中国産品が欧州に流入するようになり、レバノンから欧州への輸出が減少。経済的に追い込まれたレバノン人は世界各地に移住した。レバノンからの移民の多くは商業で身を立てた。ノートルダム大学(レバノン)のレバノン移民研究所のギータ・ホウラーニー所長は「レバノン人は交易国家として栄えた古代フェニキア以来、商人としての伝統を受け継いできた」と話す。ブラジルには現在、レバノン系ブラジル人が数百万人住み、政治・経済の分野で重要なポストを占めているとされる。ミシェル・テメル前大統領もレバノン系の移民2世だ。13歳でブラジルに渡った祖父ビシャラも、国外に仕事を求め、商業で身を立てた一人だった。アマゾン川最大の支流の一つ、マデイラ川に面するブラジル西部の街ポルトベーリョに定住した。いまは物流の拠点だが、当時は熱病を媒介する蚊が飛び交う未開の地。ボリビアで採れるゴムの集積地として発展し始めたころだった。ゴムを運ぶ鉄道が開通し、ビシャラは「商機」を見いだした。砂糖や塩などの生活物資を列車で運んでボリビアで売り、帰りの列車に沿線の農地で仕入れた果物や野菜を載せてポルトベーリョで売る。自分の店を持つほどの成功をつかみ、家族をもうけた。ゴーンはこの街で54年に生まれ、祖父の名を受け継いだ。ビシャラが21年に建てた青色のビルが市場の真向かいの一等地に残る。ビルの所有権は人手に渡ったが、隣の区画の土地と商店が入る低層の建物群は今もビシャラ家が所有する。管理するのはゴーンのいとこのゼッカ・ビシャラ(55)。ゴーンを彷彿(ほうふつ)させる太い眉毛が印象的だが、ゴーンに会ったことは一度もないという。生まれ故郷を離れたゴーンがポルトベーリョを訪ねたことがあるかも知らないが、こう口にした。「世界でも有名な経営者になったゴーンは、ビシャラ家の誇りだ。この先どんなことがあっても、リスペクトし続ける」。ゴーンの逮捕はブラジルでも大きく報道されたが、ゴーンがポルトベーリョ出身であることは地元でもほとんど知られていない。「私たちはこの街で『ビシャラ家』として知られている。ゴーンという名前は通じない」とゼッカは話す。
●「私物化」の疑い、祖国にも
 2016年8月11日。妻の誕生日を友人と祝っていたゴーンの旧友フィリップの携帯電話が鳴った。「いま、五輪会場にいる」。ゴーンの声に一同は驚いた。前週の5日。南米大陸初の五輪が開幕したブラジル第2の都市リオデジャネイロのアトランチカ通りに、半袖に短パン姿で聖火ランナーとして走るゴーンの姿があった。ゴーンを先導したのは日産車。日産はリオ五輪の期間中にSUV(スポーツ用多目的車)「キックス」など4200台の日産車を提供し、世界中に「NISSAN」のロゴを見せつけた。日産はリオ五輪の期間中にスポンサーとして数百億円を支出したとされる。観光名所コパカバーナ海岸の高級ホテルを1棟借り切って「キックスホテル」と名付け、世界中から報道機関の関係者らを招待もした。日産はリオ五輪の開催が決まった2年後の11年10月、ブラジルのリオデジャネイロ州に工場を建設すると発表。その4カ月後、リオ五輪のブラジル国内最大のスポンサーの一つに選ばれた。14年に稼働した新工場はリオから内陸に約160キロ入ったレセンデという都市に立地する。日産と取引する部品メーカーの幹部は「なぜ多くの自動車メーカーが進出するサンパウロでなく、部品調達や人材採用がしにくいレセンデに建てたのか」といぶかる。工場用地を紹介した同州の元知事は、リオ五輪誘致をめぐる汚職疑惑で逮捕された。当時1%ほどだったブラジルの国内シェアを5%に引き上げる目標が掲げられたが、販売は伸び悩んだ。「なぜ、ブラジルなのか」。日産社内にはブラジルでの投資拡大に疑問の声が広がった。ゴーンが祖国愛から決めた投資だと感じる幹部もいた。ゴーンが邸宅として使っていたリオの高級マンションは、ゴーンがトーチを片手に走ったコパカバーナ海岸沿いの通りに面して立つ。マンションの一室が購入された時期は、日産が五輪のスポンサーに決まった時期に重なる。購入と改装にかかった費用約6億2千万円は、日産の海外子会社などを通じて支払われていたとされる。逮捕後に明るみに出た会社の「私物化」の疑いは、祖国ブラジルにも及んでいた。=敬称略

*9-2:https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53774 (JBpress 2018.8.15) フェニキア人が歴史上いかに重要だったか説明しよう
 歴史研究に、史料は不可欠です。ですが史料というものは、本質的に勝者による記録です。敗者の記録は、廃棄されてしまうことも多く、そうなると人の目に触れることはありません。したがって、実は史料にあまり信用が置けない場合もあるのです。今回取り上げるフェニキア人は、おそらく一般に知られている以上に歴史上重要な役割を果たした民族です。しかし彼らは、古代ローマとの戦いに負けてしまい、その史料はほとんど燃やされてしまいました。そのため、勝者であるローマの偉大さばかりが強調され過ぎ、フェニキア人の重要性が軽んじられてきました。そこで今回は、フェニキア人が歴史上どれほど重要であったのかを見ていきたいと思います。
●フェニキア人とはどういう民族だったのか
 一般に、「フェニキア人」は、エーゲ文明に属するクレタ文明(前2000〜前1400年頃)とミケーネ文明(前1600〜前1200年頃)が後退した後に、地中海交易で栄えた民とされます。彼らについてはあまり多くのことは分かっていませんが、フェニキア人がセム系の語族に属し、海上交易に従事していた民であったことは確かです。フェニキア人は、ユーフラテス川上流に定住し内陸交易を担ったアラム人とよく対比されます。アラム人がラクダによってシリア砂漠などで隊商を組んで交易をしたのに対し、フェニキア人は海上交易で活躍しました。さらに、アラム人はアラム文字を作り、それがヘブライ文字、アラビア文字、シリア文字、ソグド文字、ウイグル文字の母体となっていきました。それに対してフェニキア人は、まだ象形性が残っていた古代アルファベットを改良し、線状文字にし、今日まで続くアルファベットの元を作ったとされます。ちなみに、フランスの古代エジプト学の研究者・シャンポリオン(1790〜1832年)が、後代にロゼッタ石からエジプトの神聖文字(ヒエログリフ)を解読しましたが、それはエジプトの文字がアルファベットの祖先だからこそ可能になったのです。このように、アムル人やフェニキア人が文字を発明・改良したのは、おそらく交易のためであったと考えられます。交易というのは、単に言葉を交わすだけで完結するわけではありません。使用言語の違うさまざまな民族と意思を通じ合わせなければならなりません。そのために、文字が必要だったのでしょう。フェニキア人が使用していたアルファベットは、現在のように26文字ではなく、27文字から30文字あったそうです。しかも、左から右に書くだけではなく、右から左へ、左から右へ、あるいは上から下に書かれたと言われています。彼らが改良したアルファベットは、ヨーロッパ各地で使用されるようになりました。それは、彼らが交易のためにさまざまな地域に移動する人々であったからでした。言うなれば、フェニキア人は「ヨーロッパ文明の父」なのです。フェニキア人の根拠地は、東地中海南岸、現在のレバノンにありました。彼らはそこで生長していたレバノン杉を使って、地中海の交易活動に進出したのです。レバノン杉は、高さが40メートルほどにまで生育するのですが、現在ではほんのわずかしか残っていません。それは、フェニキア人をはじめとする交易に従事する人たちが船材や建材にするため伐採したからです。耐久性があり香がよいため、高級木材として珍重されたレバノン杉は、神殿の内装材にも使われたようです。ちなみに、現在のレバノンの国旗の中央に描かれている樹木のシルエットもこのレバノン杉。それだけこの地の人々にとって誇るべき存在なのです。さらにフェニキア人の特産品として、赤紫色の染料がありました。この染料で染めた織物も有力な商品だったのです。他にも、高度な技術を身につけた職人多作り出す象牙や貴金属、ガラス細工もありました。地中海世界各地の貴族階級に属する人々にとって、フェニキア人がもたらす品物は垂涎の的だったのです。この強力な“商材”を武器に、フェニキア人は貿易と海運で地中海を席巻しました。地図に、フェニキア人の交易路を示しました。彼らの交易ネットワークは全地中海に及んでいます。古代ローマのそれと比較しても、各段に広いものです。フェニキア人ほど広大な取引網をもつ民族は、この当時のヨーロッパには見当たりませんでした。われわれは、「古代地中海世界はローマ人によって形成された」と思い込みがちです。しかし、古代地中海世界は、むしろフェニキア人によって築かれたと考えるほうが妥当です。彼らは地中海の物流を完全に支配していたのです。フェニキア人は、前12世紀から地中海の物流をほぼ独占するようになり、いくつもの植民市を建設するようになります。その植民市を中継点として、地中海の物流は徐々に統一されていきます。このフェニキア人が開拓した航路は、ずっと後になってローマ人やムスリム商人、イタリア商人、オランダ商人たちも利用することになりますが、当初はフェニキア人だけが知る「秘密のルート」でした。(以下略)

*9-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190715&ng=DGKKZO47343840T10C19A7PE8000 (日経新聞社説 2019年7月15日) 航空機の競争力高める買収に
 三菱重工業がカナダの航空機・鉄道車両メーカーであるボンバルディアから、小型旅客機の保守・販売サービス事業を買収することで合意した。三菱重工が中心になって開発する国産ジェット旅客機「スペースジェット(旧MRJ)」は、開発作業が遅れ、顧客への納入延期を繰り返している。ボンバルディアの保守網と顧客基盤を手に入れる今回の買収を、国際競争での出遅れを取り戻し、グローバル市場に挑む足掛かりにしていかねばならない。MRJは戦後初の国産旅客機「YS11」以来、約半世紀ぶりに日本企業が開発する旅客機だ。航空機は高い安全性が要求され、使われる部品や部材などの技術は他の分野への波及効果が大きい。スペースジェットは航空機開発の技術と経験を伝承する機会と期待されたが、これまでに合計5回、納入時期を先送りした。当初、2013年を予定した納入は、20年半ばにずれ込んだ。開発は商業運航に必要な安全性の確認検査という最終段階にある。これ以上の遅れを出さないことはもちろんだが、競合相手との競争はこれからが本番だ。来年に迫る納入に備え、販売・保守の体制を整えることが必要だ。頻繁に離着陸を繰り返す小型機は必要に応じて迅速に保守・点検ができる拠点が欠かせない。YS11が苦戦した理由の一つは、全世界をカバーする販売・保守体制が十分でなかったこととされる。三菱重工はボンバルディアが米国とカナダに持つ保守拠点4カ所を手に入れる。小型機事業は今後20年で5千機の需要が見込まれ、北米がその4割を占める。主戦場となる北米で実績のある拠点を手に入れる判断を評価したい。航空機開発は巨額の資金を要し、回収に時間がかかる。開発から販売まで、すべて自前主義にこだわる必要はない。ボンバルディアから引き継ぐ資産を、スペースジェットの競争力向上につなげていくことが重要だ。

<報道による人権侵害とメディアの質>
PS(2019年7月10日追加):*10-1のような「『報道の自由』『表現の自由』を取り戻そう」という主張は、マスコミ関係者からよく聞かれる。もちろん、権力のお先棒を担がなければやっていけないようなシステムがあれば、それは変えなければならないが、現在のマスコミは、上記のように、弱者を批判して権力と闘う姿を演出しつつ、本当の権力には無批判なものが多い。中には、偏見・差別を含んで営業妨害・政治活動の妨害、ひいては人権侵害に至るケースもあり、これを「報道の自由」「表現の自由」で正当化するのは憲法違反だ。そのため、報道内容を作る人の質と意識が問われるのだが、これが心もとなく、私は、報道内容については与野党とも事実と深い分析に基づいた「公平中立」を求める申し入れを行ってもおかしくないと思う。国際社会の政治報道は、日本ほど底が浅くてお粗末なものではないのだ。
 このような中、*10-2のように、2018年5月に「政治分野の男女共同参画推進法」が成立し、合計104人の女性が立候補し、候補者に占める女性割合が28.1%になったそうだ。私は、ベビーシッターを雇わなければ選挙活動できないような時期に候補者になるのは子どもと有権者の両方に無責任だと思うが、そうでなくても公認されにくかったり、公認されなければ参議院選挙では数千万円かかると言われる選挙資金(https://senkyo-rikkouho.com/rikkouho-hiyou.html 参照)を自前で支払ったりしなければならず、女性候補に対する特有の偏見やハラスメントも多いため、女性候補が当選する確率は低くなると思う。また、お茶の水女子大の申准教授の言われる通り政策議論は重要だが、野党だったり、党議拘束がかかったりすると個人の政策は反映されにくいため、「ねじれはいけない」「(党議拘束をかけて)同じ票を入れなければまとまっていない」と言うなど民主主義国家にあるまじき批評はやめるべきである。
 なお、*10-3の若者の政治に関する無関心や過度の政治家不信は、メディアの政治家叩きと政治報道の貧しさが作ったものだ。何故なら、「若者が関心を持たないから、政治が高齢者優先になる」というのは事実に基づかない記述だが、このように一般の人が事実誤認するような報道が多いからである。例えば、幼保無償化や全世代型社会保障は、現在の若者の政治的無関心の下で(私の提案で)できた高齢者優先でない政策であるし、「若者が関心を持つ争点がない」のなら、それはメディアが政策内容をしっかり報道していないからである。もちろん、年金問題も若者にとっても無縁ではないし、高齢者向けの年金・医療・介護政策を充実すれば若者の直接負担が減るため、これを「シルバー民主主義」と呼ぶのは我儘に過ぎる。なお、「政治には特に期待していない。自分たちができることをやり、少しでも社会を変えていけたら」というのは、政治で行った方が大規模に根本的解決ができるため、やはり政治を動かした方がよいわけである。

*10-1:http://www.union-net.or.jp/mic/seimei/2019_07_02-MICseimei.pdf (日本マスコミ文化情報労組会議《新聞労連、民放労連、出版労連、全印総連、映演労連、映演共闘、広告労協、音楽ユニオン、電算労》 2019年7月2日) 国際社会の指摘を受け止め、「報道の自由」を取り戻そう
 「言論と表現の自由」に関する国連の特別報告者デービッド・ケイ氏が6月26日、日本のメディアは政府当局者の圧力にさらされ、独立性に懸念が残ることを指摘し、「政府はどんな場合もジャーナリストへの非難をやめるべきだ」と日本政府に改善を求める報告書を国連に提出しました。ケイ氏は2016年に訪日調査を行い、日本の報道が特定秘密保護法などで萎縮している可能性があるとして同法の改正や、放送に対する政治圧力の根拠となり得る放送法4条の廃止などを求めた11項目の勧告を2017年に日本政府に出していますが、未だに9項目が全く履行されていないと批判しています。今回の報告書のなかでは、私たちメディア・文化・情報関連の労働組合で組織する「日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)」が訴えてきた、記者会見における質問制限・妨害問題についても「新聞や雑誌の編集上の圧力」と指摘しています。菅義偉官房長官は「不正確で根拠不明」と反論していますが、私たちは日本政府が、国際社会の指摘を真摯に受け止め、民主主義国家として改善につなげることを強く求めます。現状、日本のメディア環境をめぐっては、国際ジャーナリスト組織、海外世論からも厳しい視線を向けられ、その真価が問われています。民主主義社会を支える動脈である「報道の自由」をこれ以上、侵害させないよう権力に屈することなく抗い、しっかりと取り戻さなければなりません。7月4日には参議院選挙が公示されます。選挙報道をめぐってもこの数年間、政権与党から過剰に「公平中立」を求める申し入れを行い、報道現場が萎縮することが問題になってきました。こうしたことを繰り返していては、メディアの信頼が揺らぐとともに、有権者が社会の現状を正確に把握したうえで投票行動を行うことが難しくなってしまいます。私たちはそれぞれの現場において、人々の知る権利のために「報道の自由」「表現の自由」を担う職責を全うし、国際的にも信頼されるメディア環境を日本で築いていくことを再確認します。そのためにも私たちは政府に対して、国際社会の指摘を謙虚に受け止め、改善をすることを求めます。

*10-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190710&ng=DGKKZO47090890Y9A700C1CR8000 (日経新聞 2019年7月10日) 女性議員 躍進なるか、立候補104人、最高の28% 勉強会で刺激、新人も挑む
 女性の政界進出は本当に進むのか。今回の参院選は、政党に男女の候補者数を均等にするよう求める「政治分野の男女共同参画推進法」が2018年5月に成立してから初の大型国政選挙だ。選挙区と比例代表で計104人の女性が立候補し、候補者に占める割合は過去最高の28.1%となり、女性の政治参加を応援する団体で学んで出馬を決めた新人候補も目立つ。「熱意ある女性と出会い、初めて国会を目指そうと思えた」。参院選の比例代表で出馬し、関西で選挙活動をしている40代の新人女性候補は力強く話す。候補は当初「弱者に寄り添う社会をつくりたい」と地方議員に関心があったという。18年7月、女性の政治家を育てる一般社団法人「パリテ・アカデミー」(東京)の「女性政治リーダー・トレーニング合宿」に参加。会社員や経営者など様々な女性が政治への思いを語る姿に「目線の高さに刺激を受けた」と振り返る。政党関係者からスカウトされ、国政への挑戦を決めた。同アカデミーは18年3月、お茶の水女子大の申きよん准教授(政治学)らが「学術研究に基づくプログラムで若手女性の政治参画を促す」目的で設立した。セミナーで現役の女性議員がやりがいや苦労をざっくばらんに話し、スピーチの練習やSNSの活用法も伝える。これまでに高校生から40代まで延べ約60人が参加し、今春の統一地方選では同アカデミー出身の4人が当選した。「政治分野の男女共同参画推進法の成立は明らかに追い風になった。女性自身が立候補の大切さに気付けた」。女性の政治参加を推進する一般財団法人「WINWIN」(東京)の山口積恵専務理事は手応えを感じているという。勉強会などを続け、今回の参院選でも3人の議員未経験者を送り出した。ただ「せっかく選挙に立ち上がってくれても、選挙活動では女性が直面する問題がまだ多く残っており、支援が欠かせない」と強調する。選挙活動では、女性候補への「票ハラスメント」と呼ばれる嫌がらせが表面化している。山口さんの元にも「夜遅くに有権者が事務所に来て暴言をぶつけられたが、誰にも相談できない」「2人の子供のベビーシッターを雇わないと夜まで選挙活動できない。費用がかさむが、党に言い出せない」などの悩みが聞こえてくる。WINWINでは女性政治家らの寄付金を元に、候補者に支援金を給付している。今回の参院選では8人に1人30万円ずつを渡した。山口さんは「身だしなみなど女性ならではの使途もあり、わずかでも役立ててほしい」と話す。内閣府が17年度に実施した女性地方議員への調査によると、選挙活動中の悩みは「資金不足」「家事・育児・介護との両立が難しい」が目立ち、当選後も「女性として差別やハラスメントを受けた」との回答が約3割あった。お茶の水女子大の申准教授は「男性候補が主体の選挙活動では、政策議論よりもいかに有権者と握手をしたかが評価されるどぶ板選挙が続いていた。各党は候補への選挙指導を見直してほしい。議会が男女均等になれば互いの違いを尊重し合える社会に近づく。今回の参院選は絶好のタイミングだ」と話している。

*10-3:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/525418/ (西日本新聞 2019/7/9) 【参院選あなたの声から】若者、無関心じゃないけど…
 「私たち若い世代って、政治に無関心と言われるけど…」。鹿児島市の大学1年の男性(18)から、特命取材班に戸惑いの声が届いた。本人は参院選の投票に行くつもりだが、友人ら同世代には冷めた空気があるという。若者の選挙離れ、その訳は‐。今年5月のこと。福岡市西区の九州大3年、田中迅さん(22)は大学内で若者の政治参画を促す討論会を企画した。テーマは被選挙権引き下げなど若者に関連する話。パネリストに国会議員を招き、直接質問できるようにした。メディアを集めて記者会見も開いた。準備万全のつもりだった。当日、絶句した。3千人収容の講堂に集まった学生は、わずか20人程度。来なかった友人からは「政治家に直接言っても、本当に取り組むか信用できない」と厳しい言葉を浴びせられた。「政治への諦めのようなものを感じます」と田中さん。「若者が関心を持たないから政治が高齢者優先になり、ますます若者向けの政策が少なくなる。『負のスパイラル』に陥っているのではないでしょうか」
      ■
 2016年の前回参院選から、国政選挙で初めて選挙権が18歳に引き下げられた。各政党は若者向けイベントを開き、安全保障法制に反対した若者グループ「SEALDs(シールズ)」が野党共闘の一役を担うなど、若者が主体的に行動する姿が見られた。主権者教育による意識の高まりもあり、18歳の投票率は51・28%だった。その傾向は長続きしていない。翌17年衆院選では、16年参院選で18歳だった19~20歳の投票率は30%程度と大幅に下がった。今回の参院選でも、若者に盛り上がりは感じられない。「若者が関心を持つ争点があまりない」と明治大の井田正道教授(政治意識論)。年金不安の問題は若者にとっても無縁ではないはずだが、「若者からすれば、まだまだ先の話。もともと年金だけで老後は暮らせないと分かっており、老後資金2千万円問題にも反応が鈍い」と話す。近年、与野党が子育てや教育支援策を競うようになり、高齢者向けの「シルバー民主主義」と呼ばれた状況から脱しつつあるが、「政治への関心を喚起させるところまではいっていない。むしろ政治に頼っては駄目だという意識が強い」と井田教授はみる。特命取材班が話を聞いた鹿児島市の男性(18)も「報道を見ても、老後の話が中心でよく分からない」。ほかにも「投票率が高い高齢者向けの政策ばかり光が当たっている」(福岡工業大3年、金子茉嵩さん20歳)、「政策のアピールの仕方が下手」(福岡市の20代女性)といった声があった。
      ■
 若者たちが社会に無関心というわけではない。11年の東日本大震災や16年の熊本地震では、被災地でボランティアに励む姿が見られた。社会貢献を意識し、就職先の選択肢に非政府組織(NGO)やNPO法人を挙げる人もいる。筑紫女学園大大学院1年の中山日向子さん(23)は少女の非行について研究する傍ら、子ども食堂の運営や、親や恋人からの暴力に悩む女性の支援に当たる。投票には行くつもりだ。「でも、政治には特に期待していない。自分たちができることをこつこつとやり、少しでも社会を変えていけたら」。政治とは一定の距離を置いているように映る若者たち。世界ではどうか。例えば16年の米大統領選では、バーニー・サンダース上院議員が公立大学授業料無償化を訴えて若者の心を捉え、旋風を巻き起こした。井田教授は言う。「昨今の自民党支持は、大卒就職率が高水準を維持する中、『他よりはまし』という選択。若者の心を揺さぶる政策やカリスマ性のある政治家が出てくれば、若者を動かす可能性があります」

<交渉や議論の基礎がわかっていない日本人と日本外交の拙さ>
PS(2019年7月16日追加):*11-2のように、韓国の元徴用工裁判の原告が「奴隷のように扱われた」として複数の日本企業を相手に訴訟を起こし、日本製鉄・不二越に続いて三菱重工の資産を現金化する手続きに入るそうだ。日本の元徴用工への補償については、韓国政府も1965年の日韓請求権協定で「解決済」としてきたが、韓国大法院が「個人の請求権は消滅していない」としたため、日本政府が日韓関係の「法的基盤を根本から覆すものだ」として反発している。私も、いつまでも歴史問題をネタにして日本を批判すれば賠償金がとれると思われるのはたまったものではないと思うが、いろいろな解釈が成り立たないように日韓請求権協定に明確に記載しなかったことは、契約(協定)締結における初歩的ミスだと思う。これに対抗してか否か、*11-1のように、日本政府は突然、韓国に対して半導体材料の輸出管理強化措置を行った。韓国経由で輸出が禁止されている他国に輸出されているのであれば管理するのは当然だが、我が国がよく行う経済制裁(輸出入禁止)は、相手国が輸入先を多角化したり国産化を進めたりするため、中長期的に日本製のシェアを小さくする子どもっぽい政策だ。
 このように両者の主張が異なる時は国際機関の調停が必要になるが、常日頃から、*8-2のように、IWCを脱退して商業捕鯨を始めたり、*11-4のように、多くの国が実施しているにもかかわらず、福島第一原発事故被災地からの水産物輸入を禁止した韓国政府の措置を日本がWTOに提訴して敗訴したりしていると、「日本政府(安倍首相だからではない)の判断や行動はおかしい」というのが世界の認識になるだろう。菅官房長官は「日本産食品は科学的に安全なので韓国の安全基準を十分クリアする」と主張されているが、日本でも癌の発生率が高まっており、日本の消費者である私も原発被災地近くの食品が科学的に安全だとは思わない。また、「食の安全」や「リスク」をどこまで追及するかは、その国で選ばれた政府の判断であるため、WTO上級委員会の「韓国の措置は不必要に貿易制限的である」「韓国の措置は日本産水産物に対して差別的である」という判断の破棄は正しい。何故なら、食品・薬は「疑わしきは摂取せず」が科学的だからで、我田引水の解釈を繰り返せば繰り返すほど世界の信用を無くすわけである。
 さらに、*11-3の2018年12月の韓国海軍による日本の自衛隊機へのレーダー照射については、日本が韓国に抗議したのに対して韓国は「日本の自衛隊機が威嚇的な低空飛行をした」として謝罪を要求した。自衛隊機が低空飛行した理由は、「日本の排他的経済水域で北朝鮮漁船が漁をしていたから」とも言われているため、最初に苦情を言った日本が起こった事象を明確に説明して韓国側の違反を国際社会に明らかにしなければ、これも「日本の横車」で終わってしまい、信頼関係の回復どころか世界の信用も無くす。にもかかわらず、日本の防衛相が2019年6月1日に、韓国の国防相と会談して両者の言い分が平行線のまま「棚上げ」にされたそうだが、「(利害対立関係にあっても)話し合えばどちらかが譲る」「議論しないのが大人」などというのは、日本の一部でしか通じない甘えあいの価値観だ。

*11-1:https://www.jiji.com/jc/article?k=2019071500318&g=pol (時事通信 2019年7月15日) 韓国大統領「日本経済により大きな被害」=輸出管理強化で警告
 韓国の文在寅大統領は15日、日本政府による半導体材料の輸出管理強化措置について「わが国の企業は、輸入先の多角化や国産化に進む。結局は日本経済に、より大きな被害が及ぶ」と警告した。また、「わが国経済の成長を妨害したも同然だ」と主張、「日本の意図がそこにあるなら、決して成功しない」と強調した。首席秘書官・補佐官会議での発言を大統領府が発表した。文氏は席上、「日本が歴史問題を経済問題と関連付けたことは、両国関係発展の歴史に逆行する行為だ」と批判。日本企業に元徴用工らへの賠償を命じた韓国最高裁判決を受けた経済報復という認識を改めて示した。その上で、「一方的な圧迫をやめ、外交的解決の場に戻ることを望む」と訴え、「わが政府は、われわれが提示した方策が唯一の解決策だと主張したことはない」と述べた。徴用工問題で韓国政府は先に、日韓企業による自発的な資金拠出で慰謝料を支給する案を日本側に提示したが、修正もあり得るという考えを示した形だ。韓国の輸出管理違反などの疑惑に関しては「わが政府に対する重大な挑戦だ」と指摘。「これ以上、消耗する論争をする必要はない」と述べ、国際機関に調査を依頼する案を受け入れるよう求めた。

*11-2:https://news.livedoor.com/article/detail/16779409/ (Livedoor 2019年7月16日) 元徴用工訴訟、原告側が三菱重工業の韓国内の資産現金化着手を表明
 韓国の元徴用工らをめぐる裁判の原告が、近く三菱重工業の資産の現金化に着手すると明らかにした。 徴用工裁判をめぐる日本企業の資産を売却する手続きに入るのは、日本製鉄と不二越に続き3件目。原告側が差し押さえているのは、三菱重工が韓国国内で持つ特許権や商標権などおよそ8000万円相当の資産で、近く裁判所に売却命令を請求するといい、三菱重工側からは昨日の期限までに賠償協議に応じるとの回答がなく、「原告の高齢化を考えるとこれ以上先送りすることはできない」としている。原告らは11時からソウルで会見を開き、詳しい方針などを明らかにする予定。(AbemaTV/『AbemaNews』より)

*11-3:https://news.livedoor.com/article/detail/16561644/ (Livedoor 2019年6月3日) 日韓会談でレーダー照射「棚上げ」 それでも「信頼回復」道半ばな理由
 アジア安全保障会議に合わせてシンガポールを訪問していた岩屋毅防衛相は2019年6月1日、韓国の鄭景斗(チョン・ギョンドゥ)国防相と非公式に約40分間会談した。両者の会談は18年10月以来8か月ぶりで、18年12月の韓国海軍による自衛隊機へのレーダー照射事案以降初めて。レーダー照射事案では、日本側は韓国側に抗議したのに対して、韓国側は「日本側が威嚇的な低空飛行をした」として謝罪を要求していた。会談では両者の言い分は平行線で、こういった状況を「棚上げ」した形で「未来志向の日韓防衛当局間の関係を作っていく」(岩屋氏)ことになった。それでも、韓国メディアの中では、信頼関係の回復に懐疑的な声も出ている。
●「話し合っていれば、どちらかが譲って答えが出てくるのかというと」...
 岩屋氏は会談後に記者団に明かしたところによると、日本側は自衛隊機の飛行が適切だったことを説明し、再発防止を求めた。これに対して、韓国側は「従来の主張」を展開したという。会談でレーダー照射事案が「一定の区切り」を迎えたのか、という記者の質問には、「本当は、真実は一つしかないということだと思うが、話し合っていれば、どちらかが譲って答えが出てくるのかというと、そういう状況ではないと私は判断している。私どもの見解に変わりはないが、未来志向の日韓防衛当局間の関係を作っていくために、一歩前に踏み出したいと思っている」と答え、事実上棚上げする考えだ。岩屋氏はシンガポールで中国の魏鳳和国防相とも会談し、年内に訪中することで一致している。こういった姿勢を産経新聞は、「中韓に非がある重大な課題を棚上げして融和に転じれば、相手から侮られるだけでなく同盟国や友好国の信頼をも失いかねない」と非難している。
●相変わらず日本側に責任転嫁
 一方の韓国メディアも、必ずしも歓迎ムードではない。中央日報は「両国間の信頼が完全に回復していなかったという解釈が支配的だ。日本がまだ哨戒機の事態に対して責任がないという主張を繰り返しているからである」として、日本側に責任転嫁する形で、両国間の信頼回復は道半ばだという否定的な見方だ。一方、聯合ニュースでは、「それでも『出口』のない攻防戦を繰り広げ、防衛交流を全面中断してきた両国が、今回の会談を契機に、少なくとも対話と交流の正常化の端緒は設けた、という評価も出ている」と、事態改善が多少なりとも進みつつあるという点で肯定的に評価している。

*11-4:https://webronza.asahi.com/business/ares/2019042600009.html (RONZA 2019年5月7日) 日本は韓国にWTOで敗訴したのか?、原発事故の被災地からの水産物の禁輸。日本がこれからとるべき道は? 山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
 福島第一原発事故の被災地からの水産物輸入を禁止した韓国政府の措置を日本がWTO(世界貿易機関)に提訴した事件で、第一審に当たるパネルは日本の主張を認めたものの、上級審に当たる上級委員会はこの判断を覆した。この結果、韓国の禁輸措置が継続されることとなった。この結果について、菅官房長官は「敗訴の指摘は当たらない」と主張し、その理由に「日本産食品は科学的に安全であり、韓国の安全基準を十分クリアするとの第一審の事実認定は維持されている」ことを挙げた。これが国際経済法学者から誤りだと指摘され、物議を醸している。「日本産食品は科学的に安全」という記載は第一審の報告書にはなかったとも指摘されている(4月23日朝日新聞1面)。本件に関する報道や専門家の解説記事を読む限り、私は「敗訴の指摘は当たらない」という日本政府の主張には同意するが、その理由として挙げたものは上級委員会報告を正確に理解したものではなかった。その限りで国際経済法学者の批判は当然だと考える。その根拠を以下で解説するが、むしろ問題は、敗訴していないのに、韓国がWTOに違反しているおそれが高い禁輸措置を継続できることになったことである。
●食の安全とWTO・SPS協定
 WTOが食の安全と貿易について規律するようになった経緯について簡単に説明しよう。食品・動植物の輸入を通じた病気や病害虫の侵入を防ぐため導入される衛生植物検疫措置―これをSPS措置という―は国民の生命・身体の安全や健康を守るための正当な手段である。他方、我々は、貿易によって世界中からさまざまな食品を輸入し消費している。国際交渉によって関税が引き下げられるなど伝統的な産業保護の手段が使いにくくなっている中で、これに代わってSPS措置が国内農業の保護のために使われるようになってきた。貿易の自由化の観点からは、保護貿易の隠れ蓑となっているSPS措置の制限・撤廃が求められる。しかし、真に国民の生命・健康の保護を目的としたSPS措置であっても、貿易に対して何らかの効果を与える。生命・健康の保護を目的とした真正の措置と貿易制限を目的とした措置との区分は容易ではない。このため、食の安全という利益と食品の貿易・消費の利益の調和が必要になる。このような二つの要請のバランスを図ろうという試みが、1986年から開始されたガット・ウルグァイ・ラウンド交渉の一環として行われた。その結果1994年合意されたWTO・SPS協定は、この問題の解決を「科学」に求めた。科学的根拠に基づかないSPS措置は認めないとしたのである。生命・健康へのリスク(危険性)が存在すること、そして当該SPS措置によってそのリスクが軽減されることについて、科学的根拠が示されないのであれば、その措置は国内産業を保護するためではないかと判断したのである。そのうえで、各国のSPS措置を国際基準と調和(ハーモナイゼイション)することを目指している。各国の規制が統一されている方が、貿易の円滑化に資するからだ。
●WTO・SPS協定の仕組み
 簡単にSPS協定の仕組みを解説しよう。まず、各国は適切な保護の水準(ALOP:appropriate level of protection)を設定することができる。ALOPとは、1万人に一人の死亡まで認めるか、1億人に一人の死亡しか認めないのか、つまり、どこまでのリスクを許容するかということである。ALOPは”acceptable level of risk”(受け入れられるリスクの水準)とも定義されている。ALOPをどのような水準に設定するかは各国の主権的な権利である。以下のSPS協定の規定に整合的なら、ゼロ・リスクとすることも可能である。ただし、異なる状況において恣意的または不当な区別を設けることが、国際貿易に対する差別または偽装した制限をもたらすことがないようにしなければならない(5.5条)。整合性の原則であり、同じようなリスクに対して、ある時は保護の水準を低くして緩やかな措置を許容し、ある時は保護の水準を高くして厳しい措置を要求してはならないということである。ALOPを定めたら、各国は科学的な評価(これをリスクアセスメントという)に基づきSPS措置を決定する。下の図では、この関係を簡単に理解できるよう、縦軸にリスクの程度(X人に一人死亡)をとり、横軸に措置(どれだけのハザード(危害)を摂取するか)をとり、両者の関係を右上がりの直線で示している。原点に近いほど許容できるリスクが小さい、つまり健康保護の水準が高くなる。これに伴い、許容できるハザード摂取量も減少する。ALOPが目的ならSPS措置は手段である。SPS措置に対しては科学的根拠が要求されるが、ALOPに対しては要求されない。政治的または政策的にALOPを決めると、SPS措置はALOPとリスクアセスメントによって決定される。 SPS措置について、SPS協定は、①科学的な原則に基づいてとること(2.2条、つまりリスクアセスメントを行うということである=5.1条)、②同一または同様の条件(自国の領域と他の加盟国の領域との間を含む)の下にある加盟国間で恣意的または不当な差別をしないこと(2.3条、同一または同様の条件にあるのに、異なる扱いをしてはならないということである)、③国際貿易に対する差別または偽装した制限となるように運用してはならない(2.3条)、④ALOPを達成するために必要である以上に貿易制限的でないこと(5.6条)という要件を課している。
●WTO上級委員会の判断
 上級委員会は、パネルが行った、韓国の措置は不必要に貿易制限的である(5.6条)、韓国の措置は日本産水産物に対して差別的である(2.3条)という判断について、破棄している(以下川瀬剛志「韓国・放射性核種輸入制限事件再訪」RIETIを参照した)。まず、最初の5.6条違反かどうかについて、川瀬論文は次のように要約している。
《パネルは本件での韓国のALOPが「①通常の環境における食品の放射能レベルに維持すること、よって②1mSv/年を上限として、③合理的に達成可能なできるかぎり最低限(as low as reasonably achievable-ALARA)に食品の放射能汚染を維持すること」であると認定した。にもかかわらず、パネルはもっぱら②にのみ焦点を当て、3要素がそれぞれ別個であるか、それらがどのように相互作用するか、また②がALOPの質的側面である①、③を内包するのか、などの問題を検討していない。パネルは日本が提案する代替措置(セシウム100Bq/㎏以上の食品のみ輸入制限、これで1人当たり年間被ばく量を1mSv/年以下にできる水準)が韓国の複合的なALOPを達成できるか否かを検討する責務がある。しかし、パネルは韓国のALOPの3要素全てについて検討せず、代替措置が1mSv/年を著しく下回る被ばく量を達成できる、としか判断しなかった。》
 しかし、このようなあいまいなALOPの設定は問題である。「上級委員会の先例によれば、ALOPは定量的でなくてもいいが、SPS協定の義務の実施を妨げないように「詳細な(precise)」ものでなくてはならず、SPS措置を取る国がこれを設定する専権および義務がある」(川瀬論文)からである。実際にも、このような曖昧なALOPからどのようにリスクアセスメントをしてSPS措置を決定できるのかはなはだ疑問に感じる。結局のところ、「上級委員会としては、ALARAおよび「通常の環境下」要件は単独では意味をなさず結局は1mSv/年基準を意味する、という結論をパネルは明確にすべきだった、ということに尽きる」(川瀬論文)。つまり、韓国のALOPが不適切であることをパネルが明示的に示さなかったことがおかしいと上級委員会は述べていることになる。これは、パネルがおかしいのであって、日本敗訴というものではない。第二の2.3条違反かどうかに関し、差別しているかどうかが判断される「同一または同様の条件(自国の領域と他の加盟国の領域との間を含む)」について、食品自体の放射能汚染のレベルだけで判断したパネルに対して、上級委員会は日本に原発事故が生じたという食品汚染に関わる生産国の環境も含めて判断すべきだとした。「食品自体の汚染水準についても、パネルは食品の実際の汚染レベルがパネルが認定するところの韓国の安全基準(セシウム100Bq/kg)を下回るかにのみ着目し、日本とそれ以外の地域での放射能汚染の状況の違いもたらす潜在的な食品汚染について検討していないことを指摘している」(川瀬論文)。しかし、この上級委員会の判断は疑問である。健康に影響を与えるのは、食品であり、問題なのは、それがどこで生産されたものであれ、どの程度ハザードを持っているかどうかである。存在するかどうかも分からない潜在的な汚染を、どうやってリスクアセスメントすればよいのだろうか?ただし、ここでも上級委員会が問題視しているのは、パネルの判断の誤りであって、潜在的な汚染を検討すればどうなるかという判断を行っているのではない。また、この論点で日本の主張が受け入れられなかったとしても、別の論点で韓国の措置がSPS協定違反だと認定されれば、日本は勝訴していた。いずれにしても、上級委員会はパネルが判断を誤ったと言っているにすぎず、韓国の措置がSPS協定に違反していないとも言っていない。パネルが最初の5.6条違反の点を明確に指摘していれば、韓国の措置がSPS協定違反だというパネルの結論は維持されていたと思われるのである。(以下略)

| 民主主義・選挙・その他::2014.12~2020.9 | 05:41 PM | comments (x) | trackback (x) |
2019.6.13 高齢者の困窮と高齢者の就業を妨げる高齢者差別 (2019年6月14、15、17、19、20、21、22、23、24、25、26、28、29日に追加あり)
(1)高齢者の生活と年金

 
                               2019.6.3YAHOO
(図の説明:左図のように、65歳の夫と60歳の妻の“標準的”夫婦は、年金だけでは毎月5万5千円、30年で約2千万円が不足するので貯蓄や資産運用が必要だと金融庁が公表し、右図のような対策を推奨している。しかし、ここで前提とされている高齢者のイメージは、現在の50代、60代、70代の人から見ると、かなり昔のものであることに注意が必要だ)

 

(図の説明:左図のように、“平凡な”夫婦の場合、65歳から貯蓄を取り崩し始め、夫の死後は年金給付額が減るためか取り崩しのカーブが急になり、90歳程度で貯蓄が底をつくようだ。また、中央の図のように、高齢者が貯蓄を取り崩すに従って家計貯蓄率は低下し、さらに右図のように、60歳以上の人が購入する品の物価上昇率は他に比べて大きいそうである)

 「65歳の夫と60歳の妻の“標準的”夫婦の場合、年金収入だけでは毎月5万5千円、30年で約2千万円が不足し、貯蓄や資産運用が必要」と金融庁が公表した報告書について、参院決算委員会で、*1-1のように、野党が「年金『100年安心』は嘘だったのか」と追究したが、制度の持続が100年安心なのであり、国民生活が100年安心なのではないことは、年金制度の改定内容を見ればわかる筈である。

 実際、少ない年金だけでは暮らせず、高齢になっても働き続けたり、蓄えを取り崩したりしている人は多く、(少子高齢化のせいにしているが、本当は引当不足が原因)の年金水準のさらなる(調整と称する)引き下げが予定されている。そのため、誰もが納得する形で年金引当不足を解決するには、年金を賦課方式から発生主義による引当方式に戻し、引当不足分は国有資源から生じる収益で埋めていくしかないだろう(このブログのマニフェスト参照)。

 なお、金融庁の報告書は夫婦が揃っている間の収支しか述べていないが、実は妻が1人で残った家計の方がずっと苦しく、貯蓄が底をつくこともある(女性の皆さん、どうするか考えていますか?)。また、国民全体としては、貯蓄を取り崩す高齢者の割合が増えるにつれて家計の貯蓄率は下がり、それとともに投資が抑制される。

 その上、「高齢者は金づるだ」と言わんばかりに、高齢者が購入する製品の物価を高くしたり、高齢者のみに高額の介護保険料を課したりして、全世代に年金・医療・介護の将来不安を残したままでは、誰もが消費を抑えて将来に備える必要があるため、経済にも悪影響を及ぼす。

 また、「95歳まで生きるには夫婦で2千万円の蓄えが必要」と試算した*1-2の金融庁審議会報告書は、「物価の伸びより年金給付の伸びを抑える『マクロ経済スライド』を適用してさらに年金を減額していくため、(インフレ政策をとり続ければ)中長期的には年金給付額の実質的低下が見込まれる」と明記しており、地域によって物価水準は異なるものの、2千万円蓄えても不足する人が多いというのが正しいと思われる。

 一方、参院選前なので、寝た子を起こしてはならないと、*1-3のように、自民党は金融庁金融審議会報告書に抗議して撤回を要求し、公明党の山口代表も不快感を示している。

 最後に、*1-4の「将来への議論封じるな」とする記事もあり、確かに報告書が公的年金の先細りを指摘して自助努力を促し、高齢社会の資産形成に役立つ(?)とする投資のみに言及しているのは偏りがあるため、非正規労働者の増加・年金給付水準の低下・高齢者の貧困拡大などを前提に、参院選を控えた今だからこそ、最近の年金制度改定を復習して議論を深め、それぞれの候補者がどう考えて行動してきたのかを明確にして、有権者の判断に資すべきである。

(2)改訂しても高齢世代と40代以上のみに保険料を負担させる介護保険制度

  
                                 2019.6.15東京新聞
(図の説明:左図のように、介護保険料は増加の一途を辿っているが、地域や所得によってさらに高い。また、中央の図のように、所得によって利用料の負担率が異なるが、所得によって保険料も異なるため、これは二重負担になる。そして、右図のように、金融庁の報告書には、介護が加わるとさらに最大1千万円必要だと書かれているそうだ)

 2018年度の介護保険制度改訂で、①所得が高い人の利用料3割負担の導入 ②所得が高い人の高額介護サービス費の自己負担上限引き上げ ③要介護・要支援認定有効期限の延長 ④「介護療養病床」に代わり「介護医療院」を新設 ⑤福祉用具貸与価格の適正化 ⑥共生型サービスの開始 ⑦市町村に対する財政的なインセンティブの導入 が行われたそうだ(https://www.sagasix.jp/knowledge/hoken/kaigohoken-seido-kaisei/ 参照)。

 このうち①②は、「世代間・世代内の公平性を確保しつつ、制度の持続的な可能性を高める目的で、平成30年8月から所得が特に高い一部の利用者層(年金収入などが年間340万円以上の利用者)の負担割合が3割とした」とのことだが、世代間の公平性確保なら、介護保険制度で自らの介護負担が軽減された働くすべての人に介護保険料を課すことが必要だ。何故なら、介護保険制度が無かった時代は、介護保険料の支払いは不要だったが、そのかわり家族が全ての介護をしなければならず、この負担の方が重かったからである。さらに、現在は現役世代のうち40歳以上に介護保険料を課しているため、40歳定年制などが言われているからだ。

 また、世代内の公平性として利用料3割負担の導入や自己負担上限の引き上げが行われたことについては、年金収入等が年間340万円以上の利用者が“所得が特に高い一部の利用者層”に入るというのは大いに疑問である上、所得が上がれば高い保険料を徴収し、サービス提供時にも利用料を増やすというのは、同じ所得に対する二重負担(二重課税と同じ)である。

 ③~⑦は、変更の内容を検討しなければ何とも言えないので省くが、①②を見ただけでも厚労省及び関係議員のセンスのなさがわかる上、世代間・世代内の公平性には程遠いわけだ。

(3)生活の不安は全員に

  
                        2019.5.16東京新聞

(図の説明:左図のように、老後の生活に不安を感じているのは、全世代では81.3%に上るが、非正規雇用の多い40代の91.0%は特に高い。しかし、中央の図のように、就業機会も65歳までの就業継続は義務化されたが70歳までは努力義務にしかなっていないため、平均余命の伸びや年金給付の不足額を考慮すれば、70歳までの義務化は急務である。ただ、右図のように、日本・アメリカは就労希望理由の1位が「収入」であるのに対し、ドイツ・スウェーデンは「遣り甲斐」であり、これがあるべき姿であって羨ましい)

1)高齢者の就労について
 *2-1のように、政府は未来投資会議で、成長戦略として70歳まで働ける場を確保することを、企業の「努力義務」として規定することを盛り込んだそうだ。私も、人手不足の中、労働者が長く働けるようになれば、教育研修費を節約しながら生産性を上げることができると考える。

 しかし、年金制度を国民サイドからの100年安心プランにするためには、高年齢者雇用安定法を改正して70歳までの雇用は義務化すべきだ。その際、同一労働・同一賃金は、全世代及び男女から見て当然のことである。

 そのような中、*3-1、*3-2のように、高齢運転者による事故をTVの全局で毎日取り上げ、「高齢者は全員運転能力がなくなるため、免許返納すべきだ」という世論を作っているのは目に余る。それこそ、運転支援機能がある自動車に限定した運転免許制度を創設したり、全自動車に運転支援機能をつける技術開発を行ってその装備の装着に補助金を出すなど、世界で進む高齢化社会のニーズに対応する技術開発に重点を置いた方がよほど賢い。

 しかし、*2-2は、①日本の労働生産性は主要7カ国で最下位 ②産業の新陳代謝を促して付加価値の高い分野に人を動かす抜本策が必要 ③70歳までの就業機会確保は少子高齢化への処方箋の一つとして評価できるが、単なる雇用延長だけでは日本全体の生産性の足を引っ張りかねない ④そのため、裁量労働制の対象拡大や解雇規制の緩和などが必要だ としている。

 革新を嫌ってカンフル剤の投入ばかりやってきたため、①は当然だが、②の実現には能力の高い人を必要とする企業がヘッドハントして雇用できるシステムが必要なのであり、④の裁量労働制の対象を拡大することによって労働者から搾取したり、解雇規制の緩和で解雇された人を他の企業に転職させたりすればよいわけではない。また、③の70歳までの雇用延長だけでは生産性の足を引っ張りかねないというのは、年齢・性別・勤務年数にかかわらない能力給の比重を増して、公正な評価を行う必要がある。

2)高齢者は能力がないとアピールする高齢者差別
 このような中、*3-1のように、「福岡市で高齢者が逆走し、追突事故後に加速して600~700メートル、ブレーキ痕がなかった」というニュースがあったが、運転していたのは81歳男性で76歳の妻とともに亡くなったと書かれている。

 これは、事故を起こした人も気の毒な話なのだが、*3-2のように、池袋で起こった高齢者の事故とあいまって、「子どもが犠牲になるのは痛ましいから、高齢者は全員免許返納すべきだ(話が飛躍しすぎており、子どもの事故をなくすために全高齢者が引きこもるべきだという考え方は問題だ)」「海外には免許の定年制もある(運転支援車の技術を進歩させた方が役にたつ)」という愚かな結論になった。
 
 私は、このような事故を繰り返し報道して、*3-3のように、「高齢者に免許を返納させ、生活支援の体制整備をすればよい」と結論付けるのはよくないと考える。何故なら、事故を起こすのは高齢者だけではないし、仕事や外出に運転が必要な高齢者も多いからだ。また、「75歳以上の層は70~74歳に比べて、事故が2倍多く発生」と書かれているのも層分けの幅が同じでない上に、高齢者全員が事故を起こしているわけではない。

(4)科学技術の進歩を活かせ
 政府は、*4-1のように、75歳以上の高齢ドライバーを想定して新しい運転免許制度を創設し、安全運転支援システムを搭載した自動車に限定して運転を認めるそうだが、年金生活者が新車に買い替えるのは容易ではない。そのため、プログラムを更新したり、小さな器械を装着したりすれば安全運転支援システムを搭載できるようにし、それに補助金をつけることが望まれる。

 また、*4-2のように、九電が買い取り単価7円/kw時で、FIT期限終了後の家庭発電の太陽光を買い取るそうで、これなら原発や火力発電と十分に競争できる。FIT期限が終了した家庭は、①九電への売電継続 ②新電力会社への変更 ③蓄電池を活用した自家消費などを選択できるそうで、言うことはない。経産省は大手電力各社に料金プランを示すように求め、四電が7円/kw、関電が8円/kw、東北電が9円/kwと発表しているそうで、これとEVの運転支援車を併用すれば、21世紀の移動手段になるわけだ。

 さらに、蓄電池の材料になるので次の油田と言われている「レアアース」は、*4-3のように、南鳥島周辺や沖縄付近の海域に埋蔵されているそうだ。いつまでも原油に拘泥して産業化せず、これも中国・韓国・インド・ロシアなどに大きくリードされないように願いたい。

・・参考資料・・
<高齢者の生活と年金給付>
*1-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14050522.html (朝日新聞社説 2019年6月11日) 「年金」論戦 まずは政府が説明を 
 安倍首相と全閣僚が出席する参院決算委員会がきのう開かれた。衆参の予算委員会の開催を与党が拒むなか、広く国政の課題をめぐる質疑に首相が応じたのは2カ月ぶりだ。野党の質問が集中したのは、夫婦の老後の資産として2千万円が必要になるとの、金融庁が先に公表した報告書だ。65歳の夫と60歳の妻の場合、年金収入だけでは毎月5万5千円、30年で約2千万円が不足する――。そんな試算に基づき、貯蓄や資産運用の必要性を呼びかけた。「年金は『100年安心』はうそだったのか」「勤め上げて2千万円ないと生活が行き詰まる、そんな国なのか」。野党の追及に、首相や麻生財務相は「誤解や不安を広げる不適切な表現だった」との釈明に終始したが、「表現」の問題にすり替えるのは間違っている。年金だけでは暮らせず、高齢になっても働き続けたり、蓄えを取り崩したりしている人は少なくない。少子高齢化が進み、今後、年金水準の引き下げが予定されているのも厳然たる事実だろう。制度の持続性の確保と十分な給付の保障という相反する二つのバランスをどうとるのか。本来、その議論こそ与野党が深めるべきものだ。国民民主党の大塚耕平氏は「制度を維持・存続する意味での安心で、国民の老後の安心ではない」とただしたが、首相は「みなさんに安心してもらえる制度の設計になっている」と述べるだけだった。年金の給付水準の長期的な見通しを示す財政検証は、5年前の前回は6月初めに公表された。野党は今回、政府が参院選後に先送りするのではないかと警戒し、早期に明らかにするよう求めたが、首相は「政治的に出す、出さないということではなく、厚労省でしっかり作業が進められている」と言質を与えなかった。年金の将来不安を放置したままでは、個人消費を抑え、経済の行方にも悪影響を及ぼしかねない。財政検証を含め、年金をめぐる議論の土台となる正確な情報を提示するのは、まずは政府の役割である。日米の貿易交渉や日朝関係、防衛省が公表したデータに誤りがあった陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備など、国会で議論すべき課題は山積している。しかし、4時間弱のきのうの審議では、年金以外のテーマはほとんど取り上げられなかった。夏の参院選で、有権者の判断材料となるような審議こそが求められている。今国会の会期末まで2週間余り。政権与党は逃げの姿勢を改め、国民の前で堂々と論戦に応じるべきだ。

*1-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201906/CK2019061102000140.html (東京新聞 2019年6月11日) 「老後2000万円」報告書 野党追及 年金目減り記述削除
 安倍晋三首相は十日、参院決算委員会で、九十五歳まで生きるには夫婦で二千万円の蓄えが必要と試算した金融庁の審議会の報告書について「不正確であり、誤解を与えるものだった」と釈明した。野党は、当初案にあった年金給付水準の目減りなどに関する記述が報告書から削除されたことなども指摘。「国民を欺いている」(立憲民主党の蓮舫参院幹事長)と批判した。報告書は金融庁の金融審議会が今月三日に公表。平均的な無職の高齢夫婦世帯で月五万円の赤字が見込まれ、三十年間で二千万円が不足するとした。自公政権は二〇〇四年の年金制度改革で、制度が「百年安心」との看板を掲げてきた。だが老後には公的年金以外に多額の自己資金が必要なことが明確に示されたことで、不安が広がっている。蓮舫氏は決算委で「国民は『百年安心』がうそだったと憤っている」と批判。麻生太郎副総理兼金融担当相が報告書について「冒頭の一部、目を通した。全体を読んでいるわけではない」と明かした点も「問題だ」と指摘した。首相は、公的年金の積立金運用益が六年間で四十四兆円となったことを強調。本年度の年金給付が、物価の伸びよりも年金給付の伸びを抑える「マクロ経済スライド」を適用した上でも「0・1%の増額改定となった」と反論した。麻生氏は報告書に関して「二千万円の赤字であるかのように表現した点は、国民に誤解や不安を与える不適切な表現だった」と繰り返した。蓮舫氏は、先月二十二日に審議会がまとめた報告書案の段階では、年金給付水準について「中長期的に実質的な低下が見込まれている」と明記されていたことも追及した。今月三日の報告書で削除した理由について、金融庁の担当者は「より客観的な表現に改めたものを提出した」と説明した。蓮舫氏は、年金制度の健全性を五年に一度チェックする財政検証についても「早く出さないと国会で審議できない。まさか参院選後ということはないか」と確認を求めた。首相は「厚生労働省でしっかりと作業が進められている」と、公表時期を明言しなかった。

*1-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/385861 (佐賀新聞 2019年6月11日) 自民、金融庁に報告書の撤回要求、公明代表「猛省促す」
 自民党は11日、金融庁に対し、老後資金として2千万円が必要とした金融庁金融審議会の報告書への抗議を伝え、撤回を要求した。林幹雄幹事長代理が国会内で金融庁幹部に伝えた。公明党の山口那津男代表は記者会見で「いきなり誤解を招くものを出してきた。猛省を促したい」と不快感を示した。自民党の二階俊博幹事長も「2千万円の話が独り歩きして国民の不安を招き、大変憂慮している」と自民党本部で記者団に語った。報告書の撤回を要求した理由に関し「参院選を控えており、党として候補者に迷惑を掛けないよう注意していかねばならない」と説明した。

*1-4:https://www.kyoto-np.co.jp/info/syasetsu/20190613_4.html (京都新聞 2019年6月13日) 「老後」報告書  将来への議論封じるな
 国民の「老後」に関する議論まで封印しようというのだろうか。95歳まで生きるのに夫婦で2千万円の蓄えが必要と試算した金融庁金融審議会の報告書の受け取りを、政府が拒否した。内容を巡って野党をはじめ各方面から強い批判が上がっていた。夏の参院選への影響を排除しようとしたことは明らかだ。確かに、報告書は公的年金の先細りを指摘して自助努力を促し、投資を勧めているとも読み取れる。違和感を感じさせる内容だ。麻生太郎財務相は「世間に不安や誤解を与えた。政府の政策スタンスとも異なる」と受け取り拒否の理由を述べた。だが、報告書はその麻生氏の諮問を受けてまとめられており、公的な性格を持つ。内容が妥当でないというなら、政府内や国会で議論を尽くすのが筋ではないか。報告書の門前払いは、審議会が提起した年金の将来に関する問題まで封じてしまいかねない。自ら諮問しておきながら、選挙で不利になりそうだと見るや一転して突き放し、はしごを外す-。麻生氏のこうした姿勢も、政治に対する不信を招きかねない。報告書はもともと、高齢社会の資産形成に関するものだが、公的年金制度の限界を政府が認めたと受け取れることや、元本割れリスクもある投資を促すなどの内容は衝撃的だった。批判が拡大したのは、非正規労働者の増加や高齢者の貧困拡大など、国民が抱く生活実感とつながる面があったからではないか。その意味では、年金の給付水準低下や長い老後への備え方など、報告書が示唆する課題を国民に示し、幅広く考えるきっかけにできる可能性があった。参院選を控えた今だからこそ、与野党を超えて議論を深めなければならないはずだ。報告書をなかったことにするのは、そうした機会の放棄に等しい。今年は5年に1度行われる年金の財政検証の年だが、政府は検証結果の公表時期をいまだ明らかにしていない。参院選での争点化を避けるため、選挙後に先送りするとの見方も出ている。そうだとすれば、年金制度の現状と先行きの見通しを覆い隠そうとするもので、極めて不誠実だ。批判を強めている野党も、政権の姿勢を責めているだけでは済むまい。年金制度の持続可能性や負担と給付のあり方に踏み込んだ具体策をぶつけ、実りのある議論につなげる気構えが欲しい。

<高齢者の就労について>
*2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14045073.html (朝日新聞 2019年6月6日) 70歳就労、企業に努力義務 成長戦略素案 人手不足、効率化狙う
 政府は5日の未来投資会議(議長=安倍晋三首相)で、今年の成長戦略の素案を示した。70歳まで働ける場を確保することを、企業の「努力義務」として規定することなどが盛り込まれている。人手不足が深刻化するなか、限られた労働の担い手がより長く働けるようにして、生産性を上げる狙いがある。今月下旬にも閣議決定する。盛り込まれた施策について、必要な法律の改正案は2020年の通常国会に提出する。安倍首相はこの日の会議で、「急激な変革の時代にあって、人や資金が柔軟に動けるよう、これまでの発想にとらわれない大胆な政策をスピーディーに実行していかなければならない」と述べた。「目玉」と位置づけるのは、高年齢者雇用安定法を改正して、70歳まで働きたい人が働けるようにすることだ。希望する人に働く場を提供するため、定年廃止や定年延長、他企業への再就職、起業支援など七つの選択肢を示す。どれを採り入れるかは各社の労使などで話し合う仕組みだ。いずれかの方法で70歳まで雇用することを当初は罰則のない「努力義務」として企業に課し、定着するかをみる。運転手不足が深刻な運送分野も重点的に盛り込まれた。一つは、マイカーによる有償での運送だ。「白タク」行為として原則禁止されており、現在は過疎地域などで限定的に「自家用有償旅客運送」として認められている。今回、この制度をさらに緩和。民間のタクシー会社が配車手続きなどで参入しやすくする。タクシーに見知らぬ人同士を乗せる「相乗り営業」については、今年度中にも通達を出して実現させる。そのほか、地方銀行と地方のバス会社が合併しやすくする特例法案を提出し、単独で生き残りが難しい地域での企業再編を促す。また、以前の成長戦略から継続する政策として、高齢運転者による事故防止策を明記。安全運転支援機能がある自動車に限定した高齢者の運転免許制度の創設に向けて、今年度内に方向性を定める。今後の課題として、戦略では「個人が組織に縛られ過ぎず、付加価値の高い仕事ができる社会を実現する必要がある」と提言。兼業・副業を広めるための議論を加速させるとした。一方、昨年の成長戦略で重点施策として掲げられた152項目のうち、4割が1年で達成すべき目標に満たなかった。ニッセイ基礎研究所の矢嶋康次・チーフエコノミストは「本来、成長戦略は企業活動を活発にするための規制緩和を掲げるべきものだ」とした上で、「夏に選挙があるため、風当たりのきつくない政策を並べている。成長力アップにどの程度役立つのか疑問だ。目新しい政策を並べるより、過去に掲げた目標を点検し、不十分な分野を加速させるべきだ」と話した。
■成長戦略実行計画案に盛り込まれた主な施策
◆70歳までの就業機会確保を企業の「努力義務」として規定
◆マイカーの有償運送にタクシー事業者らが参画しやすくする規制緩和
◆タクシーに見知らぬ人同士が乗る「相乗り営業」の解禁
◆100万円を超える銀行業以外の送金
◆地方銀行、乗り合いバス事業者の経営統合や共同経営を容易に

*2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190606&ng=DGKKZO45748260W9A600C1MM8000 (日経新聞 2019年6月6日) 「新陳代謝」に遅れ 雇用改革踏み込めず
 人口減少が進む日本で人手不足を「成長の天井」にしないためには、効率よく働いて成果を高める「労働生産性の向上」の道を歩む必要がある。今回の計画では地銀の再編支援などを盛り込んだ。だが産業の新陳代謝を促し、付加価値が高い分野に人を動かす抜本策は踏み込み不足だ。日本生産性本部の国際比較によると、日本の労働生産性(就業1時間あたり付加価値)は2017年に47.5ドルだった。10年代以降、米国の3分の2程度の水準が続き、主要7カ国では最下位が定位置だ。原因の一つは成長分野への人材再配置の遅れにある。「日本再興戦略」と称した第2次安倍政権で初の成長戦略では、「開業率・廃業率10%台を目指す」と明記していた。それぞれ当時は4~5%程度。17年度の開業率は5.6%どまりで、廃業率は逆に3.5%まで下がった。目標未達の検証は十分でない。本来は企業の存続と雇用の問題は切り離し、生産性の低い企業には退出してもらうのが筋だ。企業の再編も既存の事業を救うためでなく、産業の入れ替えにつなげる必要がある。70歳までの就業機会の確保は少子高齢化への処方箋の一つとして評価できる。ただ単なる雇用延長だけでは日本全体の生産性の足を引っ張りかねない。裁量労働制の対象拡大や解雇規制の緩和など、ハードルが高い本丸の課題はなお積み残されている。

<高齢者は能力がないとアピールする高齢者差別>
*3-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/516005/ (西日本新聞 2019/6/5) 追突事故後に加速 600~700メートル ブレーキ痕なし 福岡市の高齢者逆走
 福岡市早良区百道2丁目の交差点付近で4日夜、6台が絡み9人が死傷した多重事故で、交差点に突っ込んだ乗用車は反対車線を約600~700メートル逆走して次々と車と衝突し、事故現場には目立ったブレーキ痕も残っていなかったことが5日、捜査関係者への取材で分かった。福岡県警は、乗用車が同じ車線を走行する前方の車に追突した最初の事故直後に逆走を開始し、加速を続けて猛スピードで交差点に突っ込んだとみて調べている。
●死亡は運転81歳男性と76歳妻
 福岡県警は乗用車を運転し、死亡した2人の身元について、同区原3丁目、小島吉正さん(81)と妻節子さん(76)と発表。自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷)容疑で、5日午前から乗用車と関係車両の計6台の実況見分を始めた。車の破損状況などを調べ、事故の詳しい経緯や原因の解明を急ぐ。事故は4日午後7時5分ごろに発生。県警の調べや目撃者の話を総合すると、乗用車は県道を交差点に向けて北上中、同区藤崎2丁目の動物病院付近で前方を走る車に追突、直後に対向車線にはみ出して逆走した。その後、前から走ってきた車やタクシーに次々と衝突、交差点で右折しようとした車2台にもぶつかり、うち1台は歩道に乗り上げてひっくり返った。信号待ちをしていた歩行者の男性も巻き込んだ。県警によると、10~80代の関係車両の8人と通行人1人が病院に搬送された。小島さん夫婦はその後、死亡が確認された。残る7人は負傷したが、命に別条はないという。当日、孫の送迎で県道を交差点に向けて走行していた同区の70代男性は「動物病院近くでガシャーンと音がした後、『ププッ』とクラクションの音がして、猛スピードで(小島さんが運転していた)乗用車に右側から追い抜かれた。自分は中央線寄りの車線を走っていたので、乗用車は逆走で反対車線を真っすぐ走っていった。80キロ以上は出ていた気がする」と話した。県警によると、県道の制限速度は時速50キロ。乗用車は、追突事故をきっかけに何らかの理由で加速し、制限速度を大幅に上回るスピードを出していたとみている。

*3-2:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/516217/ (西日本新聞 2019/6/6) 高齢者免許返納ためらう地方 海外は場所制限、定年制も
 高齢者が運転する車による悲惨な事故が相次ぐ中、運転免許制度はどうあるべきか‐。東京・池袋で4月、87歳が運転する車が暴走し母子2人が死亡。福岡市早良区では81歳の車が逆走で交差点に突っ込んだ。都心部では免許返納者が増えているが、交通の便が悪い地方で車は「生活の足」で返納にためらう人も少なくない。海外には運転する場所などを制限する高齢者向け「限定免許」や定年制を採用する国もあり、高齢ドライバーの事故防止に各国が試行錯誤している。「(池袋と)同じような事故を起こすかもしれないと恐ろしくなった」。同区の平野澄雄さん(84)は5月23日、免許を返した。元タクシー運転手で無事故運転が自慢だったが、妻の不安などが背中を押した。福岡県警によると、池袋の事故後、免許返納者は増加傾向で、例年の倍の105件に上った日もあった。交通機関が充実した都心部でも事情は一様ではない。同市城南区の主婦(72)は「加害者になってしまったら…」と恐怖がよぎる一方で、夫(78)の病院への送迎や買い物に車は「手放せない」と悩む。地方では返納に「高いハードル」がある。高齢者の免許返納率が九州で最も低い熊本県の八代市泉町に住む森山和俊さん(78)は「車がないと何もできない」と訴える。買い物や病院、老人クラブの会合場所は約30キロ離れ、バスは1日4~6便のみ。「免許は自立の証し。衰えも感じないし、返納は考えてない」
   ◇    ◇ 
 警察庁によると、昨年の免許保有者10万人当たりの交通事故件数は494件。65~74歳はこれより少なく、75~79歳は533件▽80~84歳604件▽85歳以上645件と年齢とともに増加。一方、16~19歳1489件、20~24歳876件と若者の事故率の方が高い。ただ、山梨大の伊藤安海教授(交通科学)は「高齢者の運転能力は加齢に伴う目の衰えなどにより、若い人に比べて個人差が出やすい」と指摘する。「事故を予防するためにも『限定免許』を導入し、限定免許になった時点で返納後の生活設計もするべきだ」と話す。ドイツやスイスが導入している限定免許は、運転は昼間に限り、場所も制限する。速度制限を設ける国もある。日本も政府が2017年から導入を検討しているが、結論は出ていない。オーストラリアや米国では運転技能を見極める実技試験を取り入れている州もある。日本は70歳以上に講習を義務付け、75歳以上には認知機能検査も加わるが、実技試験はない。九州大の志堂寺和則教授(交通心理学)は「高齢者の中には運転能力を過信する人もいる。免許更新時に運転技能を確かめる仕組みが必要」と強調する。「年齢の上限が必要」‐。池袋の事故後、インターネット上には、定年制を支持する書き込みも目立った。中国は70歳までの定年制を採用する。福岡県警幹部は「年齢と運転能力は別。年齢で一律で区切って“返納しろ”は行き過ぎ」と慎重だ。

*3-3:https://www.agrinews.co.jp/p47834.html (日本農業新聞論説 2019年6月4日) 高齢運転事故防止 生活支援の体制整備を
 高齢ドライバーによる交通事故が後を絶たない。子どもらが犠牲になる痛ましい事故も相次いでいる。だが、免許の自主返納を勧めるだけでは、問題は解決しない。返納しても生活に困らない支援体制づくりや、先進技術を活用した運転支援など総合的な対策が急務だ。高齢者の運転については、農山村で暮らす農家らの関心が高く、日本農業新聞にもさまざまな声が寄せられている。免許を自主返納し、その後は電動自転車やタクシーなどの代替手段を使って支障なく暮らしている人もいる。しかし、交通事情や行政の支援、農業経営の規模など個人や地域で差があり、返納をちゅうちょする人もいる。70代後半の男性は「返納したいが、そうすると暮らしていけなくなる」と切実に訴える。返納の有無にかかわらず、対策が遅れているのが実態だ。政府は5月末、相次ぐ高齢者による事故を受けて、交通安全対策に関する関係閣僚会議を開いた。安倍晋三首相は、①高齢者の安全運転支援②免許を返納した場合の日常生活支援③子どもの移動経路の安全確保──を指示、早急な対策を求めた。60歳以上を対象にした内閣府による高齢者の経済・生活環境調査(2016年)では、買い物に行くときの手段で6割が「自分で自動車などを運転」と回答。公共交通機関や家族の運転する車、タクシーを利用するとの回答は計1割にも満たなかった。17年交通安全白書で、免許人口10万人当たりの死亡事故件数は、最多が75歳以上(8・9件)で、次いで16~24歳(7・2件)となった。75歳以上の層は、70~74歳に比べ2倍多く発生しており、高齢になるほど死亡事故につながりやすい。原因は視力や認知力、判断力の低下によるものとみられている。だが、免許を返納して交通手段が絶たれると、困るのが買い物と通院だ。近年は、こうした高齢者の生活や外出を支援しようと、国や行政の助成事業を活用して地域住民自身が高齢者の通院や買い物に付き添う支援をしたり、ショッピングセンターなど買い物ができる場所にミニデイサービスを設置したりする動きも出てきた。運営に携わる関係者は「地域住民に困り事を聞き取ったところ、草刈りとともに『買い物や病院に行く手段がない』が最も多かった。この悩みは全国共通。国や行政が本格的に支援体制をつくるべきだ」と指摘する。ブレーキとアクセルを踏み間違えた際のスピード抑制装置などが搭載された「先進安全自動車(ASV)」導入への補助も必要だ。高齢者を対象にした購入支援の検討は始まったばかりだが、早期に実現すべきだ。政府は早急に、高齢者の生活・外出支援体制を整備すべきだ。JAは行政と連携し、生活支援事業の推進に力を入れてほしい。年を重ねても安全に暮らし続けられる地域をつくることが求められている。

<科学技術の進歩を活かせ>
*4-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45930890R10C19A6000000/?n_cid=NMAIL006 (日経新聞 2019/6/11) 高齢者向け新免許創設 メーカーは安全機能の開発競う
 政府は75歳以上の高齢ドライバーを想定し、新しい運転免許制度を創設する方針です。安全運転の支援システムを搭載した自動車に限定して運転を認める枠組みで、新免許は新型車の買い替え需要を促しそうです。75歳以上の高齢ドライバーは2018年末時点で563万人で、18年の高齢者による死亡事故は全体の約15%を占めています。最近でも福岡市や東京・池袋で高齢ドライバーによる死亡事故が相次ぎ発生。高齢ドライバー対策を求める世論が高まったことから、政府も制度面の検討を急ぐ必要があると判断しました。企業も対策に動き始めています。08年に富士重工業(現SUBARU)が安全運転支援システム「アイサイト」を開発。10年に乗用車「レガシィ」に搭載しました。トヨタ自動車は15年から先進安全システム「トヨタセーフティセンス」を導入。「アルファード」や「ヴェルファイア」といった上級ミニバンなどに夜間の歩行者を検知する自動ブレーキを標準搭載しました。トヨタとデンソーはアクセルとブレーキの踏み間違いなどによる事故を防ぐ後付け装置を開発。19年内には「プリウス」や「ヴィッツ」など12車種に取り付けられるようにします。

*4-2:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/516218/ (西日本新聞 2019/6/6) 九電、買い取り単価7円 家庭発電の太陽光 FIT後方針
 九州電力が11月以降に家庭の太陽光発電で余った電力の10年間の買い取り期間が終了する契約者について、新たな買い取り単価を1キロワット時7円程度とする方針を固めたことが5日分かった。固定価格買い取り制度(FIT)が始まった2009年度に契約した家庭の単価は48円だった。九州で19年度中に期限を迎える契約は約10万件(出力約42万キロワット)に上る。九電が6日に発表する。九電と契約を結んでいる太陽光10キロワット未満の家庭などは2月現在で約37万件(同約170万キロワット)ある。期限が終了した家庭は、九電への売電継続や新電力会社への変更、蓄電池を活用した自家消費などを選択できる。FITは太陽光など再生可能エネルギーを普及させる目的で始まり、従来の単価は高く設定されていた。電力会社が再エネ電力を買い取る費用は「賦課金」として電気料金に上乗せされているため、消費者の負担軽減のために単価は段階的に下落し、九州は19年度で26円になっていた。電力会社はFITによって住宅用太陽光の余剰電力を10年間買い取ることを義務付けられているが、期限終了後は二酸化炭素(CO2)を排出しない電源としての価値などを勘案して電力各社が個別に単価を設定できる。経済産業省は大手電力各社に6月末までに料金プランを示すように求めている。既に四国電力が7円、関西電力が8円、東北電力が9円などと発表。一方、16年4月に電力小売り事業を始めた西部ガスは、FIT終了後の余剰電力を買い取るかどうかを検討している。他の新電力は九電の単価設定を踏まえ、九州地域での買い取り単価を公表する見通し。

*4-3:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO39489620Y8A221C1TJM000/ (日経新聞 2019/1/4) 深海の「レアアース泥」本格開発へ、資源量把握急ぐ
 深海底にある鉱物資源の開発が本格化する。産業技術総合研究所や海洋研究開発機構などのチームが国の支援のもと、2月に南鳥島周辺の海域でレアアース(希土類)を高濃度で含む泥「レアアース泥」の含有量を調査する。沖縄周辺の海域にある「熱水鉱床」の開発でも研究は進む。産業化には正確な埋蔵量や品質の把握が欠かせない。「予定よりも早く調査が進んでいる」。内閣府の研究プログラム「SIP」の一環で海底資源の開発に挑む石井正一プログラムディレクターは笑顔を見せる。2018年秋に先行して実施した航海では、南鳥島周辺の水深5000メートルの海底の25カ所から試料を採った。18年度内に解析する。19年も海底の地質調査を進め、海洋機構や産業技術総合研究所などがレアアース泥の量を正確に推定する。22年度には南鳥島近海で試験採掘をする計画だ。南鳥島近海では14年ころから、東京大学や企業約30社などがつくる民間団体が調査や採掘技術の開発を進めてきた。東大の加藤泰浩教授らが13年に磁石に使うネオジムなどを高濃度で含むレアアース泥を発見し、国も開発の支援に動き出した。加藤教授は「市場価値の高いレアアースが多く含まれており、泥から鉱物を取り出す工程も簡単だ」と話す。専用の管で泥を海上へ引き揚げ、酸に浸すと泥の中の鉱物が溶けて取り出せる。石井プログラムディレクターは「資源量を正確に把握し、なるべく早く産業化したい」と話す。国はこれまで、より浅い海底にある熱水鉱床の開発に力を入れてきた。熱水鉱床は金属を含む熱水が噴き出してできたもので銅や亜鉛、金などを含む。水深1000メートル前後にあり、比較的調査しやすく研究が進んでいる。17年には沖縄周辺で採掘試験に成功した。まだ産業化には調査不足だ。石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)によると、産業化には1日あたり5000トンの採掘規模が必要だという。この規模で何十年も採掘を続けられる資源量があるかは不明だ。現状ではどちらの資源も採算は不明だ。熱水鉱床の場合、経産省の試算では設備投資に1183億円、運営に年232億円かかり、採掘期間を20年とすると834億円の赤字になる。レアアース泥の場合、加藤教授らの13年の試算では約750億円の設備投資を約16年で回収できる。ただどちらも様々な仮定を伴う。石井プログラムディレクターは「民間の参入を促すには、産業化した場合の全体像を示すことが必要」と話す。SIPでは詳細調査を進めて、企業の事業判断に必要な情報をそろえる考えだ。中国や韓国、インド、ロシアでも海底資源の埋蔵量の調査が進む。国連下部組織の国際海底機構は、20年をめどに環境影響などを考慮した海底資源開発のルールを作ろうとしている。「採掘が海底の環境に与える影響を調べる技術で日本は先んじている」(資源エネルギー庁)。このリードを生かしつつ産業につなげるには、企業を巻き込んだ調査結果に基づく議論が欠かせない。

<できないということを威張るな>
PS(2019年6月14、15日追加):*5-1には、「①老後の生活費が2千万円不足するとした金融庁の報告書をめぐって野党の追及が、年金制度を所管する厚生労働省にも向かっている」「②厚労省側は『年齢が上がると支出が減るので、厚労省は[5.5万円×12カ月×30年で2千万円不足]という単純な議論はしない』と主張」「③100年安心は制度の『安定』が原点で、現在の年金制度は、向こう100年持続可能性があるという意味」「④政府は2004年改革で、『マクロ経済スライド』を導入した」「⑤日本の公的年金は『仕送り方式』なので、高齢化に伴って現役世代の負担増か高齢者への給付減が起きる」「⑥年金に魔法の杖はなく、制度への批判は簡単だが大きな改革は難しい」などが書かれている。
 しかし、①は野党に頑張って追及して欲しいが、②の厚労省の答弁のうち「年齢が上がると支出が減る」というのは誤った仮定である。何故なら、高齢になる程に、医療・介護費、葬儀等の交際費がかかる上、家事も自分でこなすことが大変になって外注が増えるからだ。つまり、消費が減るのではなく、消費の内容が変わるのである。また、③は、年金制度が継続しても国民生活はより不安になるというふざけた話で、④については、マクロ経済スライドを導入したのは2016年の改訂であるため、虚偽だ(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284.html 参照)。さらに、⑤⑥については、1985年以前は積立方式(自分用に積み立てる形式)だったが、1985年にサラリーマンの専業主婦を3号被保険者にすると同時に賦課課税方式(国が取り立てて他の人に仕送りする形式)に変更し、徴収が不完全な上に目的外使用も多くて積立金不足になったのだから、国が責任を持って発生主義による引当方式に変更し、引当金不足額は税外収入で補えというのが、私の趣旨である。 
 なお、これは「魔法の杖」ではなく「技術進歩」の力ででき、*5-2のように、日本以外の国は既に海底資源を採掘しており、日本近海の排他的経済水域にもメタンハイドレートの形で大量のLNGが存在する。そして、サハリン沖の石油ガス開発事業には、三井物産や三菱商事が参加しているのだ。
 このような中、安倍首相がイランを訪問している最中の昨日、*5-3のように、日本の海運会社が運航するタンカーが、ホルムズ海峡付近で攻撃を受けたとしてイランに疑いがかかった。しかし、国営イラン通信は「イランの捜索チームが、2隻から船員44人を救助してイラン南部の港に運んだ」と報じており、イランが日本のタンカーを攻撃する理由もメリットもないため、私もイランが犯人ではないと思った。しかし、この“攻撃”の後、「ホルムズ海峡は日本の生命線」という報道が多くなって安全保障法制を正当化しており、(エネルギーを外国産原油に頼りきって)未だにここを“生命線”と呼んでいること自体が兵糧攻めに弱すぎて防衛失格だと思われる。
 また、中東ホルムズ海峡近くでタンカーが沈まない程度の騒ぎがあって、“敵”が誰かもわからないのを“攻撃”と呼ぶのはおかしいと思ったが、*5-4に、「①自民党の防衛相経験者の1人が『やはり安保法は必要だった』としている」「②2015年に成立した安保法では、ホルムズ海峡が機雷封鎖され日本への原油供給が断たれて政府が『存立危機事態』に当たると判断すれば、集団的自衛権の行使が可能」と書かれている。これらから、参議院議員選挙前に安保法を正当化するため、日本が自作自演の騒ぎを起こしたのではないかと考える。しかし、ホルムズ海峡経由の原油が絶たれると存立危機事態に陥るような国は、実力から見ても戦争はできない。

 

(図の説明:左図の2019年度予算を見て、年金・医療費等の金額が大きいのでこれを減らしさえすればよいと考える人がいる。しかし、それでは1人当たりのサービスが低下する上、保険料を支払って給付を受けているのに、税金投入額が大きいのはおかしい。これについては、「仕送り方式だから」「少子高齢化で支え手が減ったから」という説明がよくなされるが、右図のように、ベビーブーム世代が高齢化すれば高齢者が増えるのは当然なので、その世代が働き手だった間に退職給付相当額を引き当てておかなければならなかったのだ。そして、この退職給付会計は、世界では1985年に導入され、日本では《私の提案で》1998年6月にできて2000年4月以降に始まる事業年度から適用された。現在は、民間大企業の殆どが退職給付会計を採用している)

*5-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14054990.html (朝日新聞 2019年6月14日) 「老後2000万円」厚労省弁明 元データを提示、報告書関与は否定
 老後の生活費が2千万円不足するとした金融庁の報告書をめぐり、野党の追及の矛先が、年金制度を所管する厚生労働省にも向かっている。2千万円と計算する際の元データは厚労省が提出していたからだ。年金批判の高まりを回避したい厚労省は、報告書は金融庁が独自に作ったものと距離を置くのに躍起で、制度の持続可能性を強調している。報告書を作った金融庁の審議会の議事録によると、厚労省の課長は4月の会合で、主に年金で暮らす高齢夫婦の家計について「実収入と実支出との差は月5・5万円程度」と資料を示して説明。資産形成の重要性にも言及していた。13日の参院厚労委員会では、この厚労省の説明が焦点となった。社民党の福島瑞穂氏は「公的年金だけでは暮らしていけない、あとは自己責任でやれということか」と批判。厚労省の局長は、課長はあくまでオブザーバーとしての参加であり、「5・5万円」は総務省の家計調査から引用したデータだったと強調した。さらに局長は、月5・5万円の赤字が30年続く想定とした報告書のとりまとめへの関与も否定。「協議を受けていない。向こう(金融庁)の責任で作成された」とした。根本匠厚労相も「課長は2千万円不足すると説明はしていない」。厚労委に先立つ野党の合同ヒアリングで、厚労省側は「年齢が上がると支出が減るので、厚労省は『5・5万円×12カ月×30年で2千万円不足』という単純な議論はしない」と主張した。2004年の年金制度改革のキーワード「100年安心」を巡る綱引きも激しさを増している。野党は、年金が老後の安定を保障しないことが報告書で明らかになったと攻め込むが、厚労省は「年金は老後生活の柱だが、年金だけで暮らせると言ったことはない」と反論。現在の年金制度は、向こう100年を見通した上で持続可能性のある仕組みと説明する。政府は04年改革で、現役世代の負担増に上限を設けつつ、現役世代の減少や平均余命の伸びに応じて年金額を自動的に引き下げる「マクロ経済スライド」を導入した。ただ、この仕組みでは少子高齢化に伴う年金水準の低下は避けられない。モデル世帯(40年間働いた会社員と専業主婦)が受け取る厚生年金が、現役世代の平均収入の何割かを示す「所得代替率」は14年時点で62・7%だったが、一定の経済成長を見込んでも43年度には50・6%に低下すると厚労省は試算している。民主党政権になる直前の09年時点でも、38年度に50・1%となる見通しが示されている。菅義偉官房長官は13日の記者会見で、報告書について「世間に著しい誤解や不安を与えた」と釈明。「公的年金が老後の生活設計の基本。(報告書は)政府のスタンスと異なる」として、正式な報告書としては受け取らない政府の立場を繰り返した。
■<視点>年金に魔法の杖ない
 金融庁の報告書問題を機に、「年金不安」の声が上がっている。制度への批判は簡単だが、大きな改革が難しいのも現実。旧民主党が挑んで挫折し、その後、政権も手放したことは記憶に新しい。高齢社会を迎え、年金の将来は有権者の関心事。それだけに、誤解を生む言葉も語られる。野党が攻勢でたびたび使う「100年安心」は代表格だろう。2003年の総選挙当時、坂口力・厚生労働相を出していた公明党が使い始めた。日本の公的年金は、現役世代が払う保険料を高齢者に渡す「仕送り方式」だ。高齢化に伴い、現役世代の負担増か高齢者への給付減が起きる。そこで、100年間を見通して収支を調整するしくみがマクロ経済スライド。現役の保険料に上限を設け、高齢者への給付をその範囲に抑える。100年安心は制度の「安定」が原点だった。有権者の耳には「十分な給付額」と届きやすい。年金への誤解を招くため、厚労省などは使うのを避けてきた。それだけに、安倍晋三首相が10日の参院決算委員会で「マクロ経済スライドで、100年安心という、そういう年金制度ができた」と答えたのは罪深い。給付の「安心」には、経済を成長させるとともに、より多くの人がより長く働いて保険料を払う社会をつくる努力が必要だ。制度改革に、魔法の杖はない。与野党が地に足をつけた年金論戦をすることこそ、報告書問題を機に有権者が最も望むことではないか。

*5-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190614&ng=DGKKZO46052490T10C19A6MM8000 (日経新聞 2019年6月14日) ロシア、LNG生産5倍に エネルギー相、最大7割アジア太平洋向け
 ロシアのアレクサンドル・ノワク・エネルギー相はモスクワで日本経済新聞と会見し、2035年までに液化天然ガス(LNG)の生産量を現在の約5倍に増やすと表明した。北極圏のLNG生産(総合2面きょうのことば)の拡大などで「世界市場のシェアを約20%に高める」方針だ。生産量の最大70%をアジア太平洋に輸出すると述べ、日本とエネルギー分野での協力関係を強化する。プーチン大統領は6月28~29日に大阪で開く20カ国・地域首脳会議(G20サミット)に出席する。サミット期間中の日ロ首脳会談では、エネルギー分野を中心とした経済協力も議題になる見通しだ。ロシアのLNG生産能力は、三井物産や三菱商事が参画するサハリン沖の石油ガス開発事業サハリン2と、北極圏のヤマルLNGなどを合わせて約2800万トン。ノワク氏は「35年までに1億2000万~1億4000万トンに引き上げる計画だ」と明言した。18年時点で約6%にとどまる世界の市場シェアを約20%まで引き上げる。LNG市場での18年の国別シェアはカタールやオーストラリアが20%を超える。シェールオイルの増産が進む米国も存在感を高めている。ロシアはカタールなどに並ぶLNG輸出大国をめざす。ただロシアの大幅な増産は、世界的なLNGの供給過剰に拍車をかける可能性が高い。LNG増産に関し、ノワク氏は「ロシアの北極圏だけで74兆立方メートルの天然ガスがあり、多くの未確認の埋蔵量もある」と指摘した。ロシアのガス大手ノバテクが計画するアークティック2やサハリン2の増設など新規プロジェクトを念頭に「20%のシェア獲得へ必要な資源や競争力など潜在力はすべてある」と自信を示した。

*5-3:https://mainichi.jp/articles/20190614/ddm/003/030/023000c (毎日新聞 2019年6月14日) タンカー攻撃 日本の生命線で誰が ホルムズ海峡緊張増す
 日本の海運会社が運航するケミカルタンカーが、中東のホルムズ海峡付近を航行中に攻撃を受けた。安倍晋三首相がイランを訪問し、緊張緩和を呼びかけていた最中の事件。日本に衝撃を与えるとともに、米国とイランを軸にした中東地域の緊迫化がさらに進みそうだ。13日に起きたタンカー2隻への攻撃について、バーレーンに司令部を置く米海軍第5艦隊は「早朝に二つの遭難信号を受信し、救援に向かった」との声明を発表。一方、国営イラン通信は「イランの捜索チームが、2隻から船員44人を救助してイラン南部の港に運んだ」と報じており、対立する米・イラン双方が共に「救助にあたった」との主張を展開する。(以下略)

*5-4:https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201906/CK2019061502000162.html (東京新聞 2019年6月15日) 自衛隊派遣論 緊迫進めば高まる恐れも
 岩屋毅防衛相は十四日、中東ホルムズ海峡近くでの日本のタンカー攻撃に関し、現時点での自衛隊派遣を否定した。日本人に被害がなく、攻撃した相手も不明だからだ。ただ、米・イラン関係や現地情勢がさらに緊迫すれば、自民党内から安全保障関連法による自衛隊派遣を求める声が上がる可能性もある。岩屋氏は閣議後の記者会見で「現時点で自衛隊へのニーズ(需要)は確認されておらず、部隊を派遣する考えはない」と述べた。日本が直接攻撃された際に反撃する個別的自衛権発動の要件は満たさないとの見解を示した。一方、自民党の防衛相経験者の一人は「やはり安保法は必要だった」と自衛隊派遣に意欲を隠さない。安保法の施行で「あらゆる事態」に応じて自衛隊を海外に派遣できるようになったことが念頭にある。例えば、米・イランが戦争状態になり、ホルムズ海峡が機雷封鎖された結果、日本への原油供給が断たれ、政府が「存立危機事態」に当たると判断すれば、集団的自衛権の行使が可能になる。二〇一五年に成立した安保法の審議の際には、安倍晋三首相が海上自衛隊によるホルムズ海峡での機雷除去を集団的自衛権行使の事例に挙げた。政府は、戦時の掃海活動は機雷をまいた国の防御力をそぐ「武力行使」とみなされる可能性があり、実施するには集団的自衛権行使を認めなければならないと主張。首相は審議の終盤、当時の国際情勢からは海峡封鎖は想定できないとして事例を撤回したが、今後の展開次第ではこうした派遣論が再浮上しかねない。名古屋学院大の飯島滋明教授(憲法学)は本紙の取材に「安保法が成立した今、機雷敷設が現実になれば、自衛隊が米軍の求めに応じて掃海艇を派遣せざるを得ないことはあり得る。米国に追従する姿が反米勢力の反発を買い、自衛官が危険にさらされる恐れがあるだろう」と懸念を示した。

<生活できるためには?>
PS(2019年6月17日追加):*6-1のように、問題になった金融審議会報告書は、将来の公的年金給付水準について、当初は「中長期的に実質的な低下が見込まれる」と記載したが、最終的には「調整されていくことが見込まれる」に修正したそうだ。本当は、「『マクロ経済スライド』を導入してインフレ政策をとることにより、給付水準を低下させる」と言うのが正しく、国民を犠牲にして年金制度を維持するという知恵も工夫もない愚策である。さらに、言葉を曖昧にすれば実態が変わるわけではないので、国民に実態を見えにくくしたにすぎない。
 そのような中、*6-2のように、就職氷河期に高校・大学を卒業した氷河期世代は、新卒時に正社員になれず、今も無職や派遣・アルバイトなどの非正規雇用割合が他の世代より高く、厚生年金に入れないため無年金・低年金予備軍となっているそうだ。そのため、*6-3のように、社会保障の支え手を拡大し、正社員としての勤務年数が短い氷河期世代や女性・高齢者・外国人が損をしない能力給中心の給与体系に変え、公正な評価をする仕組みに変える必要があるわけだ。また、「70歳までの就業機会確保」「勤労者皆保険制度」は、必要である。
 そうすると、これまで差別によって優遇されてきた男性労働者から不満が出るかも知れない。また、世代間の公平性がないと言う人もいるが、年金制度がなかった時代は、年金保険料は支払わなくてもよいが、親に直接仕送りしたり、親と同居して経済的・物理的援助をしたりしなければならなかった。一方、現在それを求める親は殆どおらず、年金保険料は支払わなければならないものの、より自由な職業選択ができ、活躍できそうな新産業も次々と芽生えている。
 例えば、*7-1のように、農業も現代化しつつあり、「マーケットイン」「スマート農業」「輸出」などを目標にして、成長産業になりつつある。また、戦後植林した木が伐採期を迎えて林業も有望な産業になっている。*7-2のように、「国有林を大規模に伐採・販売する権利を民間業者に与える改正国有林野管理経営法が、2019年6月5日の参院本会議で自民・公明・国民民主・日本維新の会などの賛成多数で可決・成立した」というのは、国民の資産を二束三文で民間に譲渡するもので大規模なドロボーの合法化だが、このような国民全員の財産を相当の料金をもらって民間企業に伐採させ、税外収入を得て政府のこれまでの年金政策の失敗をカバーすれば、林業や森林の維持管理も重要な産業になりつつあるだけに問題解決に近づく。
 さらに、*7-3のように、2030年までに世界の海底地形図を作って資源探査することが可能になり、日本近海での資源開発にも役立ちそうだ。ただ、日本で鉱業を行うには、日本には鉱業会計すらないため、国際会計基準(IFRS)の鉱業会計を早急に採用する必要がある。

  
 2019.6.16東京新聞  三菱UFJリサーチ&コンサルティング    総務省統計局

(図の説明:左図のように、金融庁金融審議会報告書は、「マクロ経済スライド」による公的年金水準の低下に関する表現を曖昧にし、中央の図のように、資産形成によって不足分を補うよう奨めているが、ここでモデルとされているような家計はむしろ少ない。なお、右図は、2012年時点の産業別営業利益率だが、現代のニーズに合ったことをすれば、新市場を作ったり、売上高や利益率を劇的に上げたりできることが介護市場を見れば明らかである)

*6-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201906/CK2019061602000142.html (東京新聞 2019年6月16日) <「消された」報告書を読む>(中)年金給付水準「調整」 実質は「低下」表現修正
 老後に公的年金以外で二千万円の蓄えが必要と試算した金融庁金融審議会の報告書は、将来の公的年金の給付水準について「今後調整されていくことが見込まれている」と記した。先月二十二日に示された当初の報告書案には、給付水準について「中長期的に実質的な低下が見込まれている」と「低下」の文字があったが、最終的に「調整」に修正した。「調整」とは、現役世代が支払う保険料の上限を定め、現役世代人口の減少や平均余命の伸びに応じ給付水準を徐々に引き下げる「マクロ経済スライド」という仕組みを指す。年金制度を維持するための仕組みだ。厚生労働省が二〇一四年に公表した年金の財政検証では、この「調整」の結果、年金給付水準は約三十年後の四三年度まで下がり続ける見通しを示した。財政検証によると、現役世代の平均手取り収入に対し、夫婦で受け取ることができる年金額の割合を示す「所得代替率」は、一四年度に62・7%だったが、その後は二〇年度が59・3%、四〇年度が51・8%、四三年度の50・6%まで低下することを示した。修正前の報告書案に記された「実質的な低下」という表現は、こうした試算に合致する内容だ。当初の報告書案には、この他にも年金の給付水準を巡り「今までと同等だと期待することは難しい」「今後は公的年金だけでは満足な生活水準に届かない可能性がある」などの厳しい表現が並んでいた。みずほ証券の末広徹氏は、報告書の表現が当初案から変更されたことについて「国民が萎縮しないようバランスを考えて調整したと思うが、給付水準が実質的に低下するとの見通しは厚労省の財政検証の結果なので、ストレートに伝えるべきだった」と指摘する。また末広氏は、年金財政の負担と給付に関する正面からの議論を、政府が避けようとする傾向について「今回もうやむやにして先送りすれば、次に年金問題が注目された時は、この程度のショックでは済まないだろう」と懸念する。 

*6-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190616&ng=DGKKZO46163500V10C19A6EA1000 (日経新聞社説 2019年6月16日) 氷河期世代の支援にもっと知恵を絞れ
 就職氷河期という言葉がある。バブル経済の崩壊後、1993年からの10年あまりの間、日本企業が新卒採用を極端に絞った長期低迷期を指す。この期間に高校・大学を卒業した氷河期世代は30代半ば~40代後半になっている。無職や非正規雇用の割合がほかの世代より高いのが特徴だ。日本の中核的な層が不安定雇用に甘んじているのは、本人にも日本経済にもマイナスが大きい。産業界と政府・自治体が知恵を出し合い、効果的に支援する必要がある。氷河期世代は第2次ベビーブームの1970年代前半に生まれた団塊ジュニア世代を含む。明確な定義はなく、2300万人を超すという見方がある一方、政府は1700万人程度とみている。新卒時に正社員になれず、今なお派遣やアルバイトで生計を立てる人の割合が相対的に高い。無職者は40万~55万人、不本意なまま非正規社員を続けている人は50万~70万人と推計されている。社会保障についても不利益を強いられがちだ。国民年金の保険料を払う経済的余裕が乏しいのに減免手続きを怠り、未納を放置している人が多いとみられる。無年金・低年金者の予備軍だ。数十年後には生活保護に頼る人が続出することが想定される。経済面の制約から未婚者が多く、少子化の原因にもなっている。介護を家族に頼れない不安もある。本人の職への意識を高める必要があるのは言うまでもないが、非正規雇用の固定化などを本人の責任だけに帰すのは酷だろう。再チャレンジ支援に熱心な安倍晋三首相の意を受け、政府の経済財政諮問会議が氷河期支援を提起した。政権は今週まとめる骨太の方針に、3年間に30万人を正社員化する政策目標を盛り込む。重要なのは、根拠に基づく実効性が高い支援策だ。職業訓練・資格取得・学び直しのメニューを漫然と羅列したり、たんに人手不足が著しい業界に送り込もうとしたりしても、正社員として定着するのは難しいだろう。企業経営者も支援に責務を負っているが、正社員化の目標が独り歩きするようでは意味がない。一口に氷河期世代といっても置かれた状況はさまざまだ。例えばこの世代が得意とするデジタル技術の習熟度を高めてもらい、自宅で仕事を請け負う環境を充実するのも一案だ。企業側と本人双方の意欲と工夫が問われている。

*6-3:https://www.nikkei.com/paper/related-article/tc/?b=20190616&bu=BFBD9496EABAB・・ (日経新聞 2019年6月16日) 支え手拡大へ雇用改革 社会保障維持へ骨太素案 、氷河期世代、正規30万人増へ 女性・高齢者、年功から能力給に
 政府が11日示した経済財政運営の基本方針(骨太の方針)の素案では、社会保障の支え手拡大に軸足を置いた。働く高齢者や女性は増えており、雇用形態にかかわらず能力や意欲を評価する仕組みに変えていけるかが課題だ。今年の骨太で焦点を当てた就職氷河期世代が生まれたのは新卒採用に偏重した雇用慣行にある。年功序列と一括採用を前提にした日本型雇用の転換が急務だ。骨太の素案では「全世代型社会保障への改革」を柱に据えた。70歳まで就業機会を確保するよう企業に定年延長などの環境整備を求める。パート労働者すべてが厚生年金などに加入する「勤労者皆保険制度」の実現を掲げた。長く働き、税金や社会保険料を負担する人を増やす政策だ。厚生年金は年収106万円を超えると、保険料を払う必要がある。その負担を回避する目的で就労調整するパート労働者は多い。政府は年金保険料を負担するパートを増やすため、年収基準の引き下げを含めた公的年金の改正法案を2020年の通常国会に提出する。女性や高齢者を中心に社会保障の支え手である就業者は増えている。総務省によると、18年(平均)の就業者は6664万人となり、過去最高だ。過去5年間に増えた分の7割を占めたのが女性。一般に子育て期とされる30歳代前後の女性で就業率が下がる「M字カーブ」は緩やかになってきた。さらに年齢別では65歳以上の高齢者が35%増と高い伸びを示す。ただ、女性や高齢者は社会保障の支え手として1人あたりの稼ぐ力は十分とはいえない。女性や高齢者の雇用形態はパートなど非正規が多い。例えば、65歳以上になると非正規比率は75%を超す。パート労働者の平均賃金は月10万円弱。30万円台の正規社員と比べれば格差は大きい。日本企業の間では一定の年齢になると退職・再雇用の扱いとなり、賃金を一律で3割下げるといった措置がある。女性は育児休業で勤続年数が短くなると、男性に比べ賃金は低くなりやすい。年功型から能力に応じた制度へと変える必要がある。25年には団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者になる。その時点で75歳以上の人口は2180万人となり、15年比で3割以上も増える。一方、60歳代は約2割減る。社会保障の支え手として高齢者の働き手を増やし続けるのはいずれ限界が来る。働く高齢者の年金を減らさないよう、在職老齢年金の廃止を含めて働く意欲や質を高める政策も課題になる。「就職氷河期世代への対応は、わが国の将来に関わる重要な課題だ。計画を策定するだけでなく、実行こそが大事だ」。安倍晋三首相は11日の経済財政諮問会議でこう語り、関係閣僚に対応を指示した。素案では今後3年間を「集中支援期間」とし、30代半ばから40代半ばの氷河期世代の就職を支援する考えを示した。この世代の正規雇用で働く人を3年間で30万人増やすことをめざす。全国の支援拠点と連携し、就業に直結しやすい資格取得などを促す。氷河期世代が卒業したのは1993年から04年ごろ。バブル経済の崩壊やその後の金融危機の影響で、企業が新卒採用を大幅に絞った時期だ。他の世代に比べ、正規で働きたくても働けない不本意な非正規が多い。氷河期世代で非正規や働いていない人は90万人を超す。高齢化すると十分な年金を受け取れず、生活保護に頼る世帯が急増すると懸念されている。この世代を正規社員として働けるようにするには、新卒一括採用と終身雇用の見直しが欠かせない。景気後退期に就職活動する世代が希望通りの仕事に就けない問題は潜在的にある。新たな氷河期世代を生まないためにも中途採用の拡大を進めていく必要がある。

*7-1:https://www.agrinews.co.jp/p47681.html (日本農業新聞 2019年5月17日) 新時代の農業技術 消費者意識して導入を
 時代を先読みした技術を取り入れよう。キーワードは「マーケットイン」と「スマート農業」。消費者が求めているものを的確に把握し、それに応じた生産に取り組むとともに、新しい技術をどう生かしていくか。時代のニーズに応じた生産や技術の導入が求められている。マーケットインの生産とは、消費者ニーズを栽培に取り入れようとする取り組み。日本農業新聞営農面の「農業技術ネクストエイジ」では平成の時代に開発されたり、広く普及したりした技術や品種を連載した。その中で、かんきつのマルチ・点滴かん水同時施肥法(マルドリ栽培)や根域制限栽培を紹介した。水分を与える量を制御することで、糖度を高める技術だ。消費者が求める甘いかんきつが生産できるとして、産地に広く普及した。出荷作業も同様だ。果実を切ることなく、糖度を測ることができる光センサーを取り上げた。花きのバケット輸送システムは、生花を長く楽しみたいという声に応えた技術。バラなど鮮度保持が難しい品目でも、日持ちの向上につながった。安全・安心は当たり前になった。化学合成農薬を減らし、天敵などを取り入れた総合的病害虫・雑草管理(IPM)は、広く普及した。一方、長期的な影響を踏まえ「安心できない」という消費者心理が働いた遺伝子組み換え(GM)技術や体細胞クローン技術は、普及につながらなかった。今夏にも流通する可能性があるゲノム編集で作られた作物も、消費者が安心して購入するのか。産地は見極めが必要だ。少子高齢化に伴う人口減で日本の「胃袋」は年々小さくなっていく。貿易自由化で輸入農産物は増え、消費者に選ばれる産地をどうつくるかが、重要になっている。食味や鮮度、安全性、食べやすさ、便利さなど時代のニーズに的確に応えられる技術が求められる。農村の高齢化や担い手不足に対応するため、連載企画では水稲の直まき栽培や不耕起V溝直播(ちょくは)、高密度播種育苗が進んだことを取り上げた。少ない労働力でも、大きな面積を耕作することができる技術だ。果樹の樹体ジョイント仕立ては高密度に苗を定植し、隣の木に接ぎ木する手法。樹高が一定で直線状に作業ができ、効率が高まる。酪農は規模拡大に合わせたユニットミルカーやミルキングパーラー、搾乳ロボットを紹介した。労働力不足は今後、さらに深刻化する。それを補う人工知能(AI)や情報通信技術(ICT)、ドローン(小型無人飛行機)などを駆使したスマート農業は課題解決の一つの手法ではあるが、農業のあらゆる課題を解決できるわけではない。ゴールは、作る側と食べる側がつながり日本農業を再生することだ。そのためにも、消費者を意識した技術の導入が不可欠である。

*7-2:https://mainichi.jp/senkyo/articles/20190605/k00/00m/010/113000c (毎日新聞 2019年6月5日) 改正国有林法が成立 大規模伐採を民間開放
 全国の国有林を最長50年間、大規模に伐採・販売する権利を民間業者に与える改正国有林野管理経営法が、5日の参院本会議で、自民、公明両党や国民民主党、日本維新の会などの賛成多数で可決・成立した。立憲民主、共産両党などは反対した。安倍政権は国有林伐採を民間に大きく開放して林業の成長産業化を掲げるが、植え直し(再造林)の失敗による森林の荒廃や、中小業者が淘汰(とうた)される懸念を残したまま、改正法は来年4月に施行される。改正法は、政府が「樹木採取区」に指定した国有林で伐採業者を公募。業者に与える「樹木採取権」の期間は50年以内と明記し、対価として樹木料などを徴収する。再造林の実施は農相が業者に申し入れるが、業者への義務規定はない。改正法では明文化されず今後の運用に委ねられた部分が多い。政府は当面全国で10カ所程度、計数千ヘクタールの樹木採取区を想定。「伐採期間は10年が基本」(吉川貴盛農相)と強調し、再造林は伐採業者との契約にも盛り込んで担保すると繰り返した。ただ、林野庁は現行の小規模な伐採でも、再造林の成功率などを示す全国のデータを把握していない。5日の採決に先立つ反対討論で、共産党の紙智子氏は「数ヘクタールの再造林で苗木が育たない山があるのに、数百ヘクタールを伐採すれば荒廃しかねない」と強調した。また改正法は中小業者の育成を掲げ、政府は業者の選定で財務基盤や取引先の優劣のほか、雇用増加などの地域貢献も「総合的に評価」すると答弁している。だが具体的な基準は明示されず、立憲民主党の川田龍平氏は討論で「超長期のリスクを取るのは中小業者には不可能だ。特定企業のみに50年の権利を設定するのでは、という疑念がぬぐえない」と批判した。改正法に賛成した与野党からも慎重な運用を求める声が続出し、政府は来春までに運用のガイドラインを作ってパブリックコメント(国民の意見公募)を実施する方針だ。

*7-3:https://digital.asahi.com/articles/ASM6753MSM67ULBJ00X.html?iref=comtop_list_sci_n01 (朝日新聞 2019年6月13日) 海底3億6千万平方キロを探れ 30年までに地図作成へ
 ロボット潜水艇で海底を測量し、地形図の正確さや範囲を競う国際探査レースで、海洋研究開発機構などの「チームKUROSHIO(クロシオ)」が準優勝し、日本人が参加する国際チームが優勝した。地球の7割を占める海の底は、月や火星より未知の領域が多い最後のフロンティア。海底にはどんな尾根や谷があり、どんな生き物がいるのか。レースで得られた知見をもとに、探査が本格化する。「世界の海の8割以上に詳しい地形図がない。新しい生き物や資源の探査には欠かせないのに」。レースを主催した米Xプライズ財団のジョーティカ・ヴァルマーニ事務局長は、1日にモナコであった表彰式で海底探査の意義を強調した。私たちが目にする世界地図の海底地形には、深い海溝や海底火山が描かれているが、ほとんどは解像度が1キロほどとデータが粗い。逆に、高温の熱水が噴き出す熱水鉱床などの周囲は、珍しい海洋生物や貴重な鉱物資源が集まるため詳しく調べられているものの、調査範囲が狭い。この間を埋める、詳しくて広い範囲の地形図が、開発や研究の現場から求められていた。しかし、船から人が潜水艇を操作する従来の探査では、1日に10平方キロほどを測量するのがせいぜいで、3億6千万平方キロに及ぶ広大な海を調べ尽くすのは無理がある。そこで、自動で調査できる水中ロボットの開発を後押しする国際探査レースが企画された。決勝は昨年11~12月、ギリシャ沖であった。出場したのは日米独などの5チーム。海洋機構や九州工業大、三井E&S造船、KDDI総合研究所などでつくるKUROSHIOは、全長5・6メートルの潜水艇と通信用の無人船を投入。悪天候で急きょ調査海域が変更になるなか、山手線の内側の面積の倍にあたる長さ34キロ、幅5キロの測量を成功させ、準優勝した。中谷武志共同代表は「海底を無人調査するなんて、レース前は20~30年先の技術と思っていた。造船や通信といった専門家たちが知恵を出し合って実現できた」と喜んだ。優勝は、日本財団が財政支援し、海上保安庁の職員も参加した国際チーム「ジェブコNFアルムナイ」だった。海底地形図づくりのプロを育てる米ニューハンプシャー大の研究コースの卒業生16人が日米ロなど10カ国以上から集まり、潜水艇の遠隔制御などそれぞれの得意分野を生かした。日本財団などは今後、ほかのチームにも参加を呼びかけて2030年までに世界の海底地形図をつくる構想だ。詳しい地形がわかれば、未知の生物がいそうな場所はないか、海底ケーブルをどう設置すればより安全か、新しい油田を探すのにどこが候補になりそうかなど開発や発見に役立つ。財団の海野光行常務理事は「私たちの支援はレースのためだけではなく、その先を見据えたもの。ここからが始まりだ」と話した。

<高齢化による新市場の出現>
PS(2019年6月19日追加):佐賀県吉野ケ里町が、*8-1のように、高齢者が地域で安心して暮らせるよう、セブン-イレブン2店と高齢者見守り協定を結んだそうだが、このように新しいニーズをとらえて対応すると、新市場ができたり、従来の営業のプロモーションになったりする。しかし、*8-2のように、「高齢者=認知症≒子ども」というような単純な発想で、看護師・介護師に親しすぎる言葉で話しかけられるのは、(人によっては)尊厳を無視されたようで嫌なのである。そのため、看護師・介護師は、相手の言葉遣いや態度から、相手の要望を見分ける必要がある。私の女学校卒の大叔母は、90代の時、「『ちーちーぱっぱ』のようなくだらない歌を歌わされるので、ショートステイには行きたくない」と言っていた。そのため、介護施設も、「高齢者≒子ども」という扱いは慎み、相手のニーズに合ったことをすべきだと思う。
 なお、人口動態において先進国の日本は、「高齢者が本来もらう筈だった年金や社会保障を削減する」という最も安易で工夫のない政策をとらなければ、このような新しく必要となる財やサービスを作りだして世界に普及する先進国になった筈だ。何故なら、世界もまた、*8-3のように、次第に高齢者の割合が増えていき、日本と似た道を辿るからである。

  
主要国の人口高齢化率長期推移        日本の人口ピラミッドの変化

*8-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/519143/ (西日本新聞 2019/6/17) セブン-イレブン2店が高齢者見守り 吉野ケ里町と協定
 吉野ケ里町は13日、地域の高齢者を見守り、異変に気づいた際には連絡をしてもらえるようコンビニチェーンのセブン‐イレブン・ジャパンと協定を結んだ。高齢者がいつまでも地域で安心して暮らせることを目的に、住民と接する機会の多い企業などと協力して高齢者の見守りを図る「吉野ケ里町ふれあいネットワーク」事業の一環。セブン‐イレブン側は以前から他の自治体で来店したり商品の配達サービスを利用したりする高齢者などへの声掛けに取り組んでおり、町に打診し協定が実現した。協定をもとに、町内の2店舗は商品の配達時などに高齢者の安否を確認し、認知症の可能性など異変を感じた場合は町の地域包括支援センターに知らせる。協定の締結式で伊東健吾町長は「(見守りを通じて)町づくりに貢献していただければうれしい」とあいさつした。

*8-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190619&ng=DGKKZO46283280Z10C19A6MM8000 (日経新聞 2019年6月19日) 春秋
 「はい、あーんして」「ごっくんしようねー」。病院でいたたまれなくなる光景のひとつは、医師や看護師が高齢者に、赤ちゃん言葉で接している場面である。つい先日も、認知症が進んでいるらしい女性に幼児語を連発するスタッフがいた。見ていて、とてもつらい。▼悪意はないのだろう。むしろみんな、熱心に仕事をしているはずである。かつて東北地方などでは恍惚(こうこつ)の境地に入った人を「二度童子(わらし)」と呼んだという。人間は年老いて、また子どもに還(かえ)りゆくものなのかもしれない。しかし……。長い人生をひた走り、辛酸をなめ、それぞれに足跡を残してきた人々の尊厳はどこにある。▼政府がきのう、認知症対策の新たな大綱を閣議決定した。患者が暮らしやすい社会をめざす「共生」と、発症や進行を遅らせる「予防」とを柱にするそうだ。数値目標は批判を浴びたため参考値にとどめたが、予防に役立ちそうな努力を求める雰囲気はなお拭えていない。当初案では「予防」が「共生」よりも上にあった。▼いかに「共生」を唱えても、まだまだ社会は戸惑い、誰もがたじろいでいる――。むしろ、そんな思いを募らせる大綱であり、あちこちで聞く赤ちゃん言葉なのである。認知症はまさに誰でもかかる。そして症状が進んでも、さまざまな感情は心を離れない。蛇足ながら、かつて身内に患者を持って知らされたことである。

*8-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190619&ng=DGKKZO46250640Y9A610C1FFJ000 (日経新聞 2019年6月19日) 変わる人口地図 国連報告から(1) 50年、6人に1人高齢者
 国連の最新の予測によると、世界人口のうち65歳以上の高齢者の割合は2050年に16%と、6人に1人を占めるようになる。現在は11人に1人(9%)だが「歴史的な低さの出生率と寿命の延びで、事実上すべての国が高齢化していく」という。日本が直面する高齢者の社会保障や労働力の確保といった問題が、多くの国に共通する課題になりそうだ。地域別にみると高齢化は欧州・北米で特に進み、50年には4人に1人に当たる26%が高齢者になる。次いで日本を含む東・東南アジアで、19年の11%から24%に上昇する。ペースは緩やかだが、アフリカや中南米にも高齢化は広がる。世界全体では、65歳以上の人の数は19年から50年までに2倍以上に膨らむ。18年に史上初めて、5歳未満の子どもの数を上回り、50年には15~24歳の若者の数をも追い越すと国連は予測する。平均寿命は世界平均で72.6年から77.1年に延びるという。一方で出生率は、現在の2.5から2.2に下がると予測した。途上国で乳幼児の死亡率が下がり、先進国では女性の社会進出が広がっているのが背景とみられる。1990年には3.2だったが、低下に歯止めが掛からない。
     ◇
 変わる人口地図は世界の経済や社会にどう影響するのか。国連が17日公表した人口推計を基に解説する。

<産業のイノベーションと人材不足>
PS(2019年6月20日追加):*9-1のように、政府がやっと温暖化対策戦略で水素を柱の一つに掲げてG20サミットで話題にするそうだが、日本で水素エネが実用段階に入っても普及しなかったのは、太陽光発電と同様に経産省の愚かなエネルギー政策が邪魔したからであり、外国で実用化されて初めて慌てるのが日本の情けないところだ。なお、再生可能エネルギー由来の電力で水を電気分解して水素を作るのは、環境先進国では、理想ではなく理念に基づく現実だ。
 また、*9-2のように、林業も人材不足で、人材確保には労働環境の改善等も重要だろうが、若くして退官させられる航空自衛隊や陸上自衛隊のOBが中心になるのが、体力・技術面で適任ではないかと考える。そして、国有林は現役自衛官が訓練を兼ねて、整備や作業を行いつつ、植生・野生動物の生存数・断層などを含めた正確な地図を作ったらどうだろうか?
 さらに、*9-3のように、JR九州が事業承継ファンドを設立して自社と関連性の高い地場企業に資本や人材を投入して支援するのは、銀行の出資で設立されるファンドとは異なる視点で有意義だ。このようにして人材を入れれば、従来の事業も次第に21世紀型にできる。


2019.6.11朝日新聞     国民年金の場合      あいちのICT林業活性化構想

(図の説明:左図のように、老後、どのような生活をするかによって老後必要な貯蓄額は大きく異なる。また、中央の図のように、国民年金世帯は、不足額が大きい。しかし、右図の林業のように、現在は人手不足で、スマート化によって生産性の高い産業にできそうな分野も多い)

*9-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190620&ng=DGKKZO46303940Z10C19A6TCS000 (日経新聞 2019年6月20日) 水素で温暖化を防げるか
 政府は温暖化対策の長期戦略で水素の活用を柱の一つに掲げた。20カ国・地域首脳会議(G20サミット)でも話題になる見通しだ。温暖化ガスを出さない理想のエネルギー源として期待は高いが、思うように実用化が進んでいない。普及へ向けての課題と解決への道筋を日欧の官民の代表に聞いた。
  ◇  ◇
■政策誘導で実用化を 環境相 原田義昭氏
 日本は二酸化炭素(CO2)排出量を2050年までに80%減らす長期目標を掲げている。パリ協定の目標と照らし合わせると不十分と言われており、実質ゼロにしたいが足元の対策は必ずしもそこへ向かっていない。「究極の環境型エネルギー」である水素エネルギーをどれだけ活用できるかが、決め手の一つになる。水素エネは理論研究を経て実用段階に入っているが、思うように普及しない。有力な応用分野である燃料電池車(FCV)は水素ステーションが増えず、頭打ちだ。自動車メーカーは燃料電池車よりハイブリッド車(HV)などを重視していた。そこで水素エネの利用に広がりをもたせるため、列車や船などの公共交通に使えないかと考えている。燃料電池列車を製造しているフランスの鉄道車両大手アルストムの幹部と話す機会があり、ドイツ北部の路線で試乗もした。いま大事なのは、水素エネを使う技術や製品の需要を創出することだ。いつまでに確実にどのくらい使う、というコミットメント(約束)があればメーカーも動く。それには政府の関与が必要だ。日本でも、たとえば国がJRと組んで燃料電池列車の開発にトライすれば刺激策になる。その後、民間主体のインフラ整備へと移行すればよい。フランスでは無人の水素ステーションも見た。安全管理面などの規制緩和やルールづくりの参考になる。省庁の垣根を越え、オールジャパンで水素エネの利用を推進するつもりだ。過去を振り返ると、日本は10年ほど前には太陽光技術で圧倒的に強かったのに、いまや惨憺(さんたん)たるものだ。技術は優れていても商売で中国などに負ける。人工知能(AI)やロボット技術も同様だ。水素技術で同じ轍(てつ)を踏むようなことがあってはならない。先日、九州大学の水素エネの研究室を訪れた。毎週のように中国から見学者が来るそうだ。中国の水素エネの研究開発や関連事業への投資は日本に比べ桁違いに大きく約2兆円だという。金額ではとてもかなわないが、選択と集中で強いところを伸ばし、民間による事業化を促す。水素は再生可能エネルギーを使い、水を電気分解してつくれれば理想的だ。化石燃料由来の電力を使う場合にはCO2の回収・貯蔵(CCS)技術などと組み合わせる工夫がいる。(CO2の排出が多い)石炭火力発電所の延命策になるという見方があるのも知っている。しかし、温暖化対策に逆行する新設の石炭火力は環境影響評価(アセスメント)の段階で基本的に認めないなど、厳しい姿勢で臨んでいる。安倍晋三首相が言うように、これまでの延長線上にない非連続なイノベーションも追求する。政策当事者として、こんなことができるとよいという具体的なものを示していきたい。水素社会への移行をめざす考えは、20カ国・地域(G20)エネルギー・環境相会合でも説明した。賛同を得られ、実現へ向けた機運が高まったと思う。

*9-2:https://www.agrinews.co.jp/p47966.html (日本農業新聞論説 2019年6月18日) 林業の人材不足 労働環境の改善を急げ
 わが国の森林は、人工林を中心に木材資源の本格的な利用期を迎えている。林家の高齢化や林業経営体の弱体化で伐採できず、宝の持ち腐れになる恐れが指摘されている。人材確保に向け、林業経営体の労働環境の改善を急ぐ必要がある。林野庁は3本の柱をてこに林業改革に取り組む考えだ。第一に、森林所有者に代わって民間企業等が主伐や間伐、造林ができる新しい「森林経営管理制度」の導入だ。これを“エンジン”に、本格的な山の手入れや伐採に乗り出す考えだ。林業経営に適さない森林は、所有者に代わって市町村が管理する。第二に、森林環境税の導入だ。1人当たり年1000円を個人住民税に上乗せして徴収し、年間600億円の財源を確保。森林の管理や、間伐、担い手確保、木材利用の促進などに充てる。そして、第三が人材育成・確保である。「伐(き)って、使って、植える」という循環利用を担うための人材を確保することである。2018年度の林業白書は人材の確保に焦点を置き、当面する大きな課題と位置付けた。その認識に異論は無い。事実、地域の森林整備の担い手で、植林、下刈り、間伐の受託面積の6割を占める森林組合の9割が人材不足だ。また、民間事業体も中小規模が多く、後継者の確保が課題であることを浮き彫りにした。安い外材に頼って国内林業を軽視してきた結果である。人材不足の解決の方向として白書は、機械化や情報通信技術(ICT)などの新たな技術の導入でコスト削減を進め、林業従事者の労働条件の改善に取り組む必要性を強調した。実際に成果を上げた事例も示した。労働条件の改善は、人材確保の有効な手段であり、方向性は一定に理解できる。しかし、全産業的な労働力不足の中で、人材を確保することは容易ではないはずだ。賃金や休日の確保などの労働環境の改善を国家的に支援するとともに、林業の魅力を若い人にPRする必要がある。林野庁は、その具体策を早急に示すべきだ。林野庁が取り組む改革で懸念されるのが、伐採だけが進んで“はげ山”になることだ。民有林に加え、国有林に関する法改正では長期の「樹木採取権」を企業に与えることになった。植林を怠らないよう適切に指導すべきだ。また、山村振興に取り組む小さな林業経営を排除するようなことがあってはならない。今後、森林管理で市町村の役割が高まるが、林業に詳しい職員はごく一部に限られる。市町村の林務担当職員を増やすなど市町村の体制充実も必要だ。森林をきちんと維持するための基本は、現地に住む林家の経営を安定させ、きめ細やかな森の管理が行えるように環境を整えることだろう。後継者が育つように新しい技術の指導や国産材の販売先の確保などでの支援が必要だ。急ぐべきである。

*9-3:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/519457/ (西日本新聞 2019/6/18) JR九州が事業承継ファンド設立へ 利益増、地域支援も
 JR九州が、後継者不足に悩む地場中小企業の受け皿となる事業承継ファンドを設立する方針を固めたことが分かった。鉄道関連や飲食など、自社の事業と関連性が高い地場企業に資本や人材を投入。利益拡大とともに地域経済の下支えにつなげる考え。事業承継ファンドは地方銀行などの出資で設立されるケースが多いが、鉄道会社が乗り出すのは全国的にも珍しい。鉄道部品関連や食品、流通分野などから投資対象となる地場企業を探し、1社当たり数千万円から数億円を投じて経営権を取得するなどする。各事業に精通した人材もJR九州側から派遣する。6月1日付で社内に担当人員を配置。本年度中にも資本提携や買収による経営参画を始めてノウハウを積み上げ、早ければ2021年度にもファンドを設立する。通常の合併・買収(M&A)と違い、ファンドは機動的な投資判断が可能になるなどの利点がある。運営には専門会社を入れることも検討する。中小企業の後継者不足は全国で深刻化。帝国データバンクの調査で「後継者がいない」と答えた九州の企業の割合は、18年は61・2%に達した。廃業する中小企業が増えれば、沿線人口の減少や地域衰退につながる。JR九州は本業の鉄道事業で実質赤字が続いており、自社の多角化の経験を活用することで、利益の底上げを図る狙いもある。

<保守系議員の女性蔑視と参院選の野党共闘>
PS(2019/6/21追加):*10-1、*10-2に、超党派の保守系議員でつくる日本会議国会議員懇談会は、「①男系男子による皇位継承を維持し、女性宮家創設に反対」「②126代にわたって例外なく維持されてきた男系による皇位継承の伝統に基づく男系男子孫による皇位継承が可能となる方策を要望」「③Yはずっと形が変わらず続いていき、Xとは違う」「④皇族の減少に伴い、女性皇族が結婚を機に皇族の身分を離れた後も活動を継続できるよう政府に申し入れる」としたそうだ。③の「Y染色体はXと異なり、形が変わらない」というデータはないので科学的根拠にはならない。ただ、次世代に誰の遺伝子が伝わるかを見ると、愛子さまが天皇となられる事例では、その次の世代には雅子さま由来のX遺伝子と美智子さま由来(天皇経由)のX遺伝子が伝わる確率が1/2ずつあり、どちらも上皇由来ではないが、男系男子のY染色体なら必ず天皇・上皇由来である。しかし、ヒトの染色体は23対あり、XY染色体はそのうちの1対にすぎない上、ミトコンドリアや細胞質からの遺伝は母方からのみだ。従って、①②も、「126代も続いた伝統だから男系男子」という気持ちは伝わるが、伝統も最新の科学や社会環境を考慮して変化しなければ、それ自体が続かなくなることを無視していると思う。さらに、④は、「(大した働きは期待しないが)人手不足だから、既婚女性は非正規かボランティアで働け」という、これまで日本女性に採ってきたのと同じ失礼な態度で、やはり女性蔑視である。
 そのような中、*10-3に「参院選野党共闘は、明確な選択肢打ち出せ」と書かれており、誰がやろうとよい政策を進めてもらえばよいため「安倍一強打破」は国民にとっての選択肢にはならないが、「市民連合」が示す①改憲反対 ②安保法制廃止 ③消費税凍結 などの政策は選択肢になる。年金に関しては、今の野党は「有権者の立場に立った社会保障の姿」を示しているとは言えず、発生主義に基づく引当方式への移行と移行期間における全世代の二重負担排除くらいは掲げるべきで、国民のストックである国有財産をうまく使えば、それは可能なのである。
 改憲については、安倍首相は、*10-4のように、「①憲法について、ただ立ち止まって議論をしない政党か」「②正々堂々と議論する政党か」を選ぶ選挙にしたいと言われたそうだ。しかし、これまでの議論で自民党の改憲案とその理由を理解した上で、「改憲を議論するのは、現在の日本国憲法の理念がもっと議員や国民に浸透してからにすべきであり、現在は時期尚早だ」という判断もあり、スタンスは①②だけではない。そして、安心して議論できるためには、強行採決して国民投票に懸けられないよう、参議院の改憲勢力は2/3未満にすべきだ。

*10-1:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190620-00000157-kyodonews-pol (Yahoo 2019/6/20) 男系男子の皇位継承維持 女性宮家創設に反対
 超党派の保守系議員でつくる「日本会議国会議員懇談会」は20日、国会内で総会を開き、男系男子による皇位継承を維持し、女性皇族が結婚後も皇室にとどまる「女性宮家」創設に反対する内容の基本方針を決めた。今後、具体的な方策や提言案をまとめ、政府や各党に要望する。基本方針は、安定的な皇位継承を確保するための解決策について「126代にわたり、古来例外なく維持されてきた男系による皇位継承の伝統に基づき、男系男子孫による皇位継承が可能となる方策」を要望した。皇族の減少に伴い、女性皇族が結婚を機に皇族の身分を離れた後も活動を継続できるよう政府に申し入れるとした。

*10-2:https://www.jiji.com/jc/article?k=2019061101051&g=pol (時事 2019年06月11日) 「Y染色体」に触れ男系継承評価=自民・古屋氏
 自民党の古屋圭司元国家公安委員長は11日、皇位が男系でのみ継承されてきた歴史について、男性に特有の「Y染色体」に触れ、「何百年、何千年前は遺伝子工学の知識はなかったと思うが、先人の素晴らしい知恵だったと思う」と評価した。人間の性を決める染色体にはXとYの2種類があり、古屋氏は「Yはずっと形が変わらない、続いていく。Xとは違う。男女差別という問題ではなく、あくまでも染色体の科学的根拠がベースだ」と語った。古屋氏は、超党派の保守系議員で構成する「日本会議国会議員懇談会」会長として、同懇談会の皇室制度に関する検討チームの会合であいさつした。

*10-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2019062102000199.html (東京新聞 2019年6月21日) 参院選野党共闘 明確な選択肢打ち出せ
 予想される参院選投票日まで一カ月。野党は二〇一六年に続き、焦点となる三十二の改選一人区で候補を一本化し戦う態勢を整えた。一強多弱構造を崩す対立軸となり得るか、共闘の真価が問われる。立憲民主、国民民主、共産など五党派の候補者一本化協議は、四月の統一地方選後に急進展した。政府・与党内から衆参同日選の観測が漏れ出し、立民、国民を支援する連合からは「(安倍)一強政治を何としても打破しないといけない」(神津里季生会長)と、悲壮な声も飛び出した。野党票が分散すれば、一人区で与党候補に漁夫の利を与えるのは明らかだ。危機感が共有され、二十四区に公認を立てていた共産も相次ぎ候補取り下げに応じた。前回の野党共闘では地域事情に合わせた協議の積み重ねで候補を絞り込んだのに対し、今回は一月の野党党首会談で合意し中央レベルで協議を進めた影響も大きい。ただ、一本化は共闘の「スタートライン」にすぎず、選挙の公示が迫っても共通公約や相互支援の在り方は明確でない。政策は、民間の「市民連合」が五党派に九条改憲反対、安保法制廃止、十月の消費税増税見送りなど十三項目を要望し、各党派代表が署名した。しかし、扱いについては党派ごとに認識が異なり、共通の「旗」となっていない。にわかに広がった年金不信を踏まえ、有権者の立場に立った社会保障の将来像など選択肢を共同で示すことができれば、野党の存在感は一段と高まるのではないか。相互支援態勢では、五党派間で「最大限の協力で勝利を目指す」と合意したにすぎない。各党派の相互推薦は無所属候補にとどまる見込みだ。公認も含む全一本化候補に対し、実効性のある協力関係が築けるかが今後の課題となる。一人区の野党側の戦果は一六年参院選で十一勝二十一敗。共闘が整わなかった一三年が、当時の三十一選挙区中二勝二十九敗だったのと比べると善戦だった。さらに一七年衆院選の比例代表で見ると、立民、旧希望、共産、社民の合計票は約二千六百十万票で自民、公明両党の票を六十万票近く上回る。昨年以降、沖縄では野党系の「オール沖縄」候補の大勝が相次ぐ。参院選でも与党候補に十分対抗可能だろう。旧民進党分裂に伴う主導権争いや基本理念の違いが表面化しがちな野党共闘だが、残り一カ月。有権者の信頼を集める政権批判の受け皿づくりに努める局面だ。

*10-4:https://www.jiji.com/jc/article?k=2019062101353&g=pol (時事 2019年6月21日) 憲法改正、参院選争点に=安倍首相「議論する政党選ぶ選挙」
 安倍晋三首相は21日夜のインターネット番組で、憲法改正が夏の参院選の主要争点になるとの考えを強調した。「憲法について、ただただ立ち止まって議論をしない政党か、正々堂々と議論する政党か、それを選ぶ選挙だ。そのことを強く訴えていきたい」と表明した。首相は、衆参両院の憲法審査会の論議が進まない現状に関し「真剣にどういう国をつくっていくかを議論する大切な場で議論がなされていない」と述べ、野党の対応を批判。改憲について「最終的には国民が国民投票で決める。その国民の権利すら奪っている」と指摘した。

<社会保障の充実とその財源としてのエネルギー資源>
PS(2019年6月22、28、29日追加):*11-1のように、熊本市は環境省の委託を受けて熊本大等と運行実験を行い、実用性やCO2の排出削減効果を確認していたEVバス1台を2019年12月から熊本城の周遊バスに採用するそうだ。EVは、再生可能エネルギー由来の電力を使う限りCO2排出量が0であり、海外に支払っている燃料代を節約して国内で廻せるメリットもある。しかし、日本では、EVバスの新車が8千万円、中古でも4千万円もするそうで、必ず価格の高さが日本製普及のネックになるが、これは高コスト構造が原因だ。ちなみに、中国のEV最大手BYDは、*11-2のように、航続距離200km、充電時間3時間の新小型EVバスを日本市場に投入し、その価格は税抜き1950万円だそうだ。私は、日本の環境先進都市は、BYDの小型EVバスだけでなく主力の乗用車もタクシーとして導入すれば、日本メーカーの刺激になってよいと思う。
 日本政府は、*11-3のように、2019年度の経済財政運営と改革の基本方針を、①就職氷河期世代への支援 ②最低賃金上げ ③70歳までの就業確保策の検討 ④幼児・高等教育の無償化 ⑤終身雇用や年功序列など日本型雇用の見直しや兼業・副業解禁など企業改革を促す とする閣議決定をしたそうだ。私は、①はよいが、②は地域によって物価水準が異なるのに全国一律の最低賃金を採用したり、生産性と合わないほど最低賃金を引き上げたりすると、雇用が減少すると思う。また、③については、*11-4のように、努力義務ではザル法となり、高齢者をワーキングプアにするので不十分だ。さらに、④及び⑤のうちの年功序列見直しは重要だ。
 これに対し、日経新聞等のメディアは、⑥社会保障の持続性確保のための消費税率10%引き上げ後の国民の負担増・給付減に繋がる改革に踏み込まなかった ⑦国と地方の基礎的財政収支(PB)の黒字化目標を25年度まで先延ばしした などと旧来型の思考停止した批判を繰り返している。しかし、社会保障財源については、これまで述べてきたようなエネルギー改革、雇用改革、国の収支を管理しながら国有財産を有効に使う行財政改革等を行えば、消費税増税は不要なのである(このブログのマニフェスト参照)。
 また、*11-5のように、共産党が参院選の公約に、⑧マクロ経済スライドの廃止 ⑨低年金者への月額5000円の上乗せ給付 ⑩最低賃金は全国一律とし時給1500円をめざす ⑪消費税率10%引き上げの中止 ⑫安全保障法制の廃止 を盛り込んだそうだが、このうち⑧⑪⑫は賛成だが、⑨の月額5000円の上乗せ給付では殆ど役に立たず、⑩は行き過ぎだろう。なお、将来、納めた保険料に応じた額を所得比例部分として上乗せする年金制度(=発生主義による引当方式≒積立方式)にするのなら、月5万円の最低保障年金とマクロ経済スライド廃止の財源を高所得者の年金保険料の上限廃止に求めても文句はないが、これまで高所得者の年金保険料に上限があったり、徴収漏れのケースが多すぎたりしたのがおかしかったのである。さらに、歳出の見直しという視点から、金食い虫の原子力発電所の再稼働を中止して全ての原発で廃炉のプロセスに入るのは、将来の負債やリスクを少なくするために重要なことだ。
 なお、社民党が、*11-6のように、「⑪改憲反対」「⑫社会を底上げする経済政策」「⑬最低賃金全国一律時給1500円を目指す」「⑭消費税率10%への引き上げ中止」「⑮マクロ経済スライドによる基礎年金の給付抑制中止」「⑯保育士給与の月5万円引き上げ」「⑰財源確保策として大企業への法人課税強化や防衛費の見直し」などを参院選の公約にしたそうで、⑪⑫⑭⑮は賛成だが、⑬は物価水準が異なる地域で生産性以上の時給を課せば、事業(特に中小企業)が成り立たなくなるため賛成できない。また、⑯も、幼児教育・保育を無償化した上で、義務教育開始年齢を3歳にするなどの全体的な教育改革が必要なので、保育士さえ増やせばよいわけではないだろう。⑰の防衛費の見直しについては、単価が高いだけで役に立たないものも多そうなので重要だ。「大企業への法人課税強化」は役割を終えた租税特別措置法の見直しは有益であるものの、世界競争をしているので大企業だからゆとりがあるとも限らないため、具体的に言うべきだ。また、共産党がよく使う「富裕層への課税強化」は、“富裕層(年収380万円以上?!)”の定義を明確にしなければ、一億総中流階級意識の日本では殆どの有権者を敵に廻す。何故なら、現在は「蟹工船」「女工哀史」のような「資本家は金持ちで欲張りな搾取者」「労働者は貧しい被搾取者」という時代ではなく、出資している事業者の方が不利な点も多いからである。
 最後に、日本維新の会は参院選のマニフェストで、*11-7のように、⑱年金は「賦課方式」から「積立方式」に変更 ⑲年金支給開始年齢は段階的引き上げ ⑳税金と年金等の保険料を一括徴収する「歳入庁」を設置 ㉑消費税増税凍結 ㉒財源は「身を切る改革」をして国会議員報酬・定数は3割減、国家公務員人件費は2割減 としているようだ。私は、⑱には賛成で、必要な積立金額を長期の低利(orマイナス金利)国債で賄うのがよいと考える。⑲は、定年の廃止や定年年齢の引き上げと連動しなければ困るが、働いていた方が医療費や介護費も少なくてすむので一石二鳥だ。⑳は、税金と年金等の保険料を一括徴収しても年金や医療・介護費用の源資は、(ごっちゃにするのではなく)きちんと分けて保管・運用するのならよい。これにエネルギー改革・歳出改革と女性や外国人労働者の活躍を加えれば7~20兆円は簡単に出る筈で、消費税は消費に対するペナルティーとして働くため廃止も視野に入れるべきだ。なお、日本維新の会は、「身を切る改革」を看板として民主主義のコストである議員報酬や定数削減をよく言われるが、これによって節約される金額は桁が小さすぎ、議員報酬が減ったからといって年金を減らされるいわれはないし、報酬が低ければ優秀な人が集まらず、金持ちばかりが議員になって生活感のない政策を行うため、国民にとっては利益がないと考える。

    
現役・再雇用・年金時代の家計収支  2019.6.21東京新聞   2019.6.22東京新聞

(図の説明:左図のように、子育中の貯蓄は困難であるため、子育後に老後資金を準備をしなければならないが、再雇用での貯蓄は難しく、年金時代は貯蓄を取り崩す生活になる。従って、中央の図の「マクロ経済スライド」は本当に廃止すべきだ。また、右図の改正高齢者雇用安定法による高齢者雇用は非正規での再雇用を認めているため、再雇用後、著しく減収する人が多い)

*11-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/519998/ (西日本新聞 2019年6月20日) EVバスで熊本城周遊 市が導入、12月から運行
 熊本市の大西一史市長は19日、電気自動車(EV)のバス1台を、12月から市が運行する熊本城周遊バス「しろめぐりん」に導入する考えを明らかにした。EVバスは昨年2月から1年間、市や熊本大などが環境省の委託を受けて運行実験を行い、実用性や二酸化炭素(CO2)排出の削減効果を確認していた。県内で路線バスへのEV導入は初めて。市によると、導入するEVバスは乗客乗員27人乗り。1回の充電で約50キロ走行でき、熊本駅から熊本城周辺の1周約10キロを1日に4、5便運行する。CO2排出量はほぼゼロの見込みで、車体にはEVをアピールするラッピングを施す。災害時には、登載バッテリーから外部への電気の供給もできるという。運行実験に参加したイズミ車体製作所(大津町)が保有する中古バスをEVに改造する。バスはリース会社が保有し、市は5年間のリース契約を結ぶ。市は5月に国から事業計画の認可を受けており、改造費など市の負担は約4千万円を見込む。市によると、全国ではEVバスの新車導入例はあるが、中古バスを改造してEV化するのは珍しいという。市は「EVバスを新車で購入すると約8千万円かかるとされ、費用が抑えられる」としている。

*11-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO42874120V20C19A3916M00/ (日経新聞 2019/3/25) BYD、日本で新EVバス 24年に1000台
 中国の電気自動車(EV)最大手である比亜迪(BYD)の日本法人、ビーワイディージャパン(横浜市)は25日、新たな小型EVバスを日本市場に投入すると発表した。国内の小型EVバスとして航続距離は最長となるという。同日から予約を受け付け、中国で製造し、2020年春から納車する予定。24年までに1000台の販売を目指す。新型車は全長7メートル、車幅2メートル、車高3メートル。地方の細道でも走れるように小回りの効く大きさにした。1回の充電は3時間で済み、航続距離は従来車より1.3倍の200キロとなった。一般的なEVバスの価格は1億円台とされ、高い価格が課題になっていた。新型車は税抜き1950万円と購入しやすい価格帯に設定した。BYDグループは、世界50カ国・地域で5万台のEVバスを納めている。日本では15年に京都市でEVバスを納車後、4つの自治体で計21台の大型・中型のEVバスを納品している。日本車メーカーでは20年の東京五輪で、トヨタ自動車が燃料電池車(FCV)のバスやEVなど3000台を走らせる計画で開発を進めている。また日野自動車が12年にEVバスを販売し、東京都羽村市が導入した。世界では二酸化炭素(CO2)や排出ガスの環境規制が厳しくなっており、自動車メーカーは環境対応が求められる。だが主要な日本車メーカーはEVバスの開発に消極的な姿勢のままだ。ビーワイディージャパンは緊急時に運転手が操作する「レベル3」の自動運転機能を後付けできる製品も、20年に販売するという。日本で導入済みのEVバスや今後販売の小型EVバスに搭載可能で、自動運転バスでも先陣を切りたい構えだ。25日に都内で記者会見した同社の花田晋作副社長は、主力の乗用車を日本市場に投入することに関し、「EVの市場規模が小さく、日本での展開はない」と強調。他の日本車メーカーとの提携も「求めがあれば、そのような出会いもある」とした。最後に「交通弱者の高齢者が増え、地方では路線バスの需要が増える。低価格でEVを普及し、電動化社会を進めたい」と話していた。

*11-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190622&ng=DGKKZO46415190R20C19A6EA1000 (日経新聞社説 2019年6月22日)厳しい改革を忘れた骨太の方針
 政府は21日、2019年度の経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)を閣議決定した。7月の参院選を意識したのか、就職氷河期世代への支援や最低賃金上げなど有権者に聞こえのよい政策が並んだ。消費税率10%引き上げ後の社会保障・財政改革など国民の負担増につながる厳しい改革には踏み込まなかった。成長戦略を含む骨太の方針では、70歳までの就業確保策の検討、幼児・高等教育の無償化のほか、就職氷河期世代への支援策などを盛り込んだ。成長戦略の実行計画では、日本が第4次産業革命を世界で主導できるかどうかは「この1、2年が勝負」としたうえで、組織に閉じこめられている個人を解放し、自由に個性を発揮できる社会の実現を提唱。終身雇用や年功序列など日本型雇用の見直しや兼業・副業解禁など企業に改革を促した。民間の変革努力は必要だが、政府の改革の取り組みは十分だろうか。巨大IT(情報技術)企業との公正競争を促す組織・法制整備、業態別の縦割り金融規制を見直す法整備などを盛り込んだが、成長を促す改革は迫力不足だ。何よりも問題なのは「経済財政運営と改革」という主題がぼやけてきていることだ。安倍晋三政権は昨年、当初は20年度としていた国と地方の基礎的財政収支(PB)の黒字化目標を25年度まで先延ばしした。骨太の方針では10月に消費税率を10%に予定通り上げることは明記したが、黒字化目標への道筋は描いていない。さらに高齢化がピークに達し、医療・介護など社会保障費が増大する40年度までについては議論すら進んでいない。社会保障・財政健全化の取り組みは消費税率の10%への引き上げで完結するわけではない。長期の政権を担う安倍首相にはその後の改革の青写真もしっかりと描く責任がある。当面の課題は、団塊世代が75歳以上の後期高齢者になる22年以降に増大する医療など社会保障費をどう抑制するかだ。この問題については「20年度の骨太の方針で、給付と負担のあり方を含め社会保障の総合的かつ重点的に取り組むべき政策をとりまとめる」と具体策には踏み込まなかった。社会保障の持続性確保には、歳出抑制や負担増などの議論は避けられない。政府は国民に事実を正直に説明し政策を訴えるべきだ。

*11-4:https://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201906/CK2019062202000157.html (東京新聞 2019年6月22日) <働き方改革の死角>高齢ワーキングプア誘発 定年後の再雇用「ザル法」
 政府の成長戦略で柱とされる高齢者の雇用機会確保。企業に「70歳までの雇用延長」を努力義務として課すが、現状でさえ不安にさらされる高齢者雇用の断面を見た。「Aさんは明日から契約社員になり、営業の仕事からは離れます」。神奈川県内にある投資コンサルタント会社に勤めるAさん(60)。定年日当日の今月中旬、会社は突然、社員を集めて発表した。「こんな強引なやり方が許されるのか」。Aさんはショックを受けた。外資系銀行での資金運用経験など金融知識を買われ、転職してきて以来十年間、営業最前線で成果を上げてきた。会社は「定年後も営業をやってもらう。給料も従前どおり」と言っていたが、定年が間近に迫った今月初め、態度をひょう変させた。定年後再雇用に際し、会社が労働条件通知書に記した給料は、定年前の六割減。仕事内容は「簡単な事務作業」。頭の中が真っ白になったAさん。以来、定年後の条件を巡って会社と押し問答を続けてきた。大学に入学したばかりの子どもがいる。給料も仕事内容も受け入れがたいが、「(辞めるのは)悔しい」と子どもに言われ、Aさんはとりあえず働き続けることにした。
    ◇  ◇ 
 高齢者雇用の根幹となる高年齢者雇用安定法(高年法)。「六十五歳までの安定した雇用を確保する」と謳(うた)い、企業に(1)定年の引き上げ(2)継続雇用(再雇用)(3)定年制廃止-のいずれかを義務付けている。だが、実際には厚生労働省調査では企業の八割が(2)の再雇用を選んでいる。「雇用契約をいったん切ると、待遇切り下げが可能になるから」。労働問題に詳しい安元隆治弁護士が言う。

*11-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190622&ng=DGKKZO46413490R20C19A6EA3000 (日経新聞 2019年6月22日) 年金給付の抑制廃止 共産が参院選公約
 共産党は21日、7月の参院選の公約を発表した。高齢者が受け取る年金を抑える「マクロ経済スライド」の廃止や、低年金者への月額5000円の上乗せ給付などを掲げた。最低賃金は全国一律とし時給1500円をめざす。消費税率10%引き上げの中止や安全保障法制の廃止を盛り込んだ。志位和夫委員長は記者会見で「年金問題が大きな争点になってきた」と指摘した。マクロ経済スライド廃止の財源は、高所得者の年金保険料の見直しなどで賄う。将来は全ての高齢者に年金を月5万円保障したうえで、納めた保険料に応じた額を上乗せする年金制度に変えるとした。最低賃金は「ただちに全国どこでも1000円に引き上げ、速やかに1500円をめざす」と記した。原子力発電所に関しては「再稼働を中止し、全ての原発で廃炉のプロセスに入る」と記した。

*11-6:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190628&ng=DGKKZO46645440X20C19A6PP8000 (日経新聞 2019年6月28日) 社民公約、最低賃金一律1500円
 社民党は27日、「社会を底上げする経済政策」を柱に据えた参院選公約を発表した。最低賃金を全国一律とし、時給1500円を目指すと明記した。消費税率10%への引き上げ中止や憲法改正反対を掲げた。「マクロ経済スライド」による基礎年金の給付抑制中止や、保育士給与の月5万円引き上げも訴えている。これらの財源確保策として大企業への法人課税強化や防衛費の見直しを挙げた。

*11-7:https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2019062601002289.html (東京新聞 2019年6月27日) 維新公約、年金は積み立て方式に 消費増税は凍結
 日本維新の会が夏の参院選で掲げるマニフェスト(政権公約)の全容が26日、判明した。現役世代が納めている保険料を今の年金受給者への支払いに充てる現行の「賦課方式」から、自分が積み立てた保険料を老後に取り崩して受け取る「積み立て方式」への移行を提起。国会議員や公務員の給与を削減して財源を捻出し、消費税増税を凍結する。27日に発表する。看板政策とする「身を切る改革」の必要性を改めて強調。国会議員の報酬と定数をそれぞれ3割カット、国家公務員の人件費を2割削減する。年金支給年齢の段階的な引き上げ、税金と年金などの保険料を一括徴収する「歳入庁」設置も提案した。

<「マクロ経済スライド」の廃止について>
PS(2019年6月23日追加):*12-1のように、「マクロ経済スライド」は国民にわかりにくくしながら年金を7兆円減らす仕組みで、これが完全に実施されると年金給付は7兆円削減される。それに消費税増税とインフレ政策が加わるので、今でも生活費が不足している高齢者はますます困窮する。少し前、私が、暗くなってスーパーから帰ろうとしたところ、高齢の男性が道に座り込んで荒い息をしておられたので具合でも悪いのかと思って声をかけたら、たった一つモノが入ったスーパーのカートを押して走ってきた万引きだとわかった。そのため、そっとそのまま帰ったが、高齢者からぶんだくることしか考えない政策を作った人たちの一食分にも満たない金額を支払えない高齢者が、今の日本には少なからずいることを忘れてはならない。
 なお、*12-2のように、「骨太の方針」が出て消費税率10%への引き上げを明記し、増税後の景気下支えのための臨時経済対策費の計上が示されたそうだが、何かと理由をつけては経済対策を行うため、消費税導入後、国の債務は増え続けている。私は、「幼児教育・保育の無償化」はよいと思うが、未だ教育の質の向上と連動していないのが残念だと思う。また、幼児教育・保育を無償化すれば、それが景気対策になる筈であり、「社会保障財源は消費税」と(世界で唯一)決めつけるのもやめるべきだ。

 
税収・歳出・国債残高 2018.12.18東京新聞 2018.12.21西日本新聞 2018.3.19東京新聞

(図の説明:1番左と左から2番目の図のように、1989年《平成元年》の消費税導入後、景気対策と称する歳出拡大が続いた結果、国の財政状態はむしろ悪化した。また、弥縫策のような歳出が多いため、右から2番目の図のように、実質GDP成長率は0付近で推移している。さらに、人口に占める割合の多い高齢者の収入を削減する政策になっているため、1番右の図のように、エンゲル係数《貧しさの指標》は上がりつつあり、本当に必要とされる消費財の需要も増えない)

*12-1:http://www.jcp.or.jp/akahata/aik19/2019-06-23/2019062301_01_1.html (赤旗 2019年6月23日)年金7兆円減 首相認める、マクロ経済スライド廃止が最大焦点に
 年金給付を自動的に削減する「マクロ経済スライド」が完全実施されると、年金給付は7兆円も削減される―。高齢者のくらしを貧困に突き落とすマクロ経済スライドの恐るべき実態が、安倍晋三首相自身の口から明らかにされました。安倍首相は22日に出演した民放テレビ番組「ウェークアップ!ぷらす」(日本テレビ系)で、日本共産党のマクロ経済スライド廃止の提案に言及し、「やめてしまってそれを保障するには7兆円の財源が必要です」と発言しました。この問題をめぐって安倍首相は、19日の国会の党首討論で日本共産党の志位和夫委員長がマクロ経済スライドの廃止を提案した際、「ばかげた案だ」などと批判し、唐突に7兆円という数字を持ち出していました。民放番組で安倍首相自ら、マクロ経済スライドが7兆円の年金給付削減という痛みを国民に押し付ける仕組みだと明らかにしたことで、マクロ経済スライドを続けて年金給付を7兆円削るのか、それとも廃止して「減らない年金」をつくるのかが、年金問題の最大焦点に浮上しました。党首討論後、志位氏の求めに厚生労働省が提出した資料によれば、7兆円はマクロ経済スライドによる基礎年金(国民年金)給付の減額幅を示したもので、2040年時点で本来約25兆円になるはずの給付額は18兆円に抑制されることになっていました。基礎年金給付の実に3分の1がマクロ経済スライドで奪われる計算で、現在でも6万5000円にすぎない基礎年金の満額はさらに約2万円も削り込まれることになります。基礎年金しか入っていない低年金者ほど打撃が大きい、最悪の「弱者いじめ」の仕組みであることが浮き彫りになりました。日本共産党は21日に発表した参院選公約で、マクロ経済スライドを廃止するための財源として、年収1000万円を超えると保険料負担率が低くなる高所得者優遇の保険料制度の見直し、200兆円もの巨額積立金の計画的取り崩し、最低賃金引き上げや非正規雇用の正社員化による保険料収入増加を掲げています。

*12-2:https://www.hokkaido-np.co.jp/article/318070 (北海道新聞 2019/6/23) 骨太の方針 問題の先送りも同然だ
 政府はおととい、経済財政運営の基本指針である「骨太の方針」を閣議決定した。予定通り10月に消費税率を10%に引き上げることを明記し、増税後の景気を下支えするため本年度に続き来年度予算でも臨時の経済対策費を計上する方針を示した。米中貿易摩擦などにより景気悪化のリスクが高まれば、新たな経済対策を講じることも示唆した。就労促進で内需を支えようと、就職氷河期世代の正社員化や最低賃金の引き上げ、在職老齢年金制度の廃止検討も盛り込んだ。景気対策が色濃くにじむ内容だが、裏付けとなる財源をどう賄うのかはほとんど触れていない。社会保障改革についても具体策には踏み込まず、来年の骨太の方針で重点政策をまとめるという。これではあからさまな懸案の先送りではないか。参院選を意識して聞こえのいい政策ばかりを列挙したようにしか見えない。財政健全化では、国と地方を合わせた基礎的財政収支を2025年度に黒字化する目標を据え置いた。だが今回盛り込んだ景気対策などの新たな財源を確保できなければ目標達成が遠のきかねない。働いて一定の収入がある高齢者の年金を減らす在職老齢年金制度も、年金財政に影響させずに廃止するには1兆円の財源が必要だ。年金額が減ることを理由に就労意欲がそがれるのを防ぐことで、元気に働ける高齢者を増やし、社会保障の支え手に回ってもらうことは期待できよう。とはいえ、将来世代へつけ回すことは許されない。高所得の高齢者優遇にならない仕組みを含め、丁寧な制度設計が求められる。消費税増税対策も理解に苦しむ。対策費は本年度当初予算と同規模の2兆円程度となる公算が大きい。これは増税に伴う実質的な国民負担増に匹敵する額である。膨らむ社会保障費を皆で賄うことが本来の理念のはずだが、これでは何のための増税なのか。増税する一方で景気対策を打つ。アクセルとブレーキを同時に踏む、つじつまの合わない経済運営と言わざるを得ない。増税に耐えうる経済状況にないなら増税自体を見送るのが筋だ。安倍晋三政権の看板政策で、消費税の増税分を財源とする「幼児教育・保育の無償化」を10月に始めるために税率引き上げを見送ることもできないなら本末転倒だ。「骨太」と呼ぶにはもろさが目立つ。経済安定への道しるべとは到底言えまい。

<支え手・労働力不足の解決へ>
PS(2019年6月24、25、26日追加):*13-1のように、シリア・アフガニスタンなどの中東やミャンマーのロヒンギャが上位を占める難民は、2018年末に7080万人となり、その半数が子どもだそうだ。その解決策として、「①緊急の生活支援」「②難民を受け入れている周辺の貧しい国への支援」「③日本はUNHCRへの拠出額で5番目だが、2018年の難民認定申請者数1万493人に対して認められたのは42人」「④難民を出さない取り組みが必要」「⑤難民の自立を助け、安全な帰還を促す」「⑥シリア難民を最大150人留学生として受け入れている」「⑦難民の雇用を始めたファーストリテイリングは、2019年4月末で59人が地域限定社員等として働く」などが書かれている。
 このうち①②③は、決して自国民が豊かとは言えない日本が、難民を受け入れることはせず金で解決しようとしている点で、いつもながらの貧しい発想力である。④⑤は、難民発生国、難民受入国の課題であり、第三者である日本ができることは殆どない。そのような中、支え手が不足している日本で、⑥⑦のように難民を受け入れて教育したり、労働力として活躍させたりするのがよいと、私は考える。
 そのため、*13-2の「世界に開かれた国として多くの留学生を受け入れ、高度な技術や専門性を育成し、それによって日本の国際競争力を高め、留学生には母国との懸け橋として活躍してもらうことを目的として、留学生30万人を受け入れる」という計画はよい。現在は、農林漁業・製造業・サービス業の人手不足が顕著になっており、多様な人材を育てれば文明の相乗効果でより有用な財・サービスを作りだすことができると思う。そのため、東京福祉大のような最悪のケースを持ち出して今後の留学生拡大まで否定するのではなく、例えば、九州でも、今後必要となる分野なら大学のみならず高校や高専も留学生を増やしてよいだろう。*13-3のように、高等教育の費用も生活保護世帯の自宅生や児童養護施設の入所者など収入の少ない人は、特に給付型奨学金の増額や授業料の減免などがある時代になったのは大きい。
 なお、*13-4のように、日本の「女子学生の制服100年の歩み」は、1世紀前の1919年を境に制服が和装から洋装へと切り替わり、一般の人は当時の身の回りの“普通”にこだわったものの、私立女学校の校長だった山脇房子氏のデザインによる紺色のワンピースと白エリの制服を皮切りに洋装が広がり、昭和に入ってセーラー服が優勢になったそうだ。つまり、学生の制服は、一般の人に服装から新しいよい習慣を身につけさせる働きもしてきたわけである。そのため、女性にスカーフやヒジャブ・ニカブなどを強制する地域から来た外国人・難民の子女には、まずは学校と制服で女性を宗教による女性差別の制約から解放してあげたいと思う。

    

(図の説明:『ところざわのゆり園(西武グループ運営、https://www.city.tokorozawa.saitama.jp/iitokoro/enjoy/kanko/flower/syogyo_20140508131620678.html 参照)』は、約3万平方メートルの自然林に50種・約45万株のユリが咲き誇って森林浴と散策が楽しめるそうだが、森林に花を植えてもよいわけだ。そのコンセプトは、目から鱗だった)

*13-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190624&ng=DGKKZO46463940S9A620C1PE8000 (日経新聞社説 2019年6月24日) 難民問題は最大の人道危機だ
 増え続ける難民にどう対処するか。日本を含む世界に突きつけられた課題である。20日の「世界難民の日」にあわせ国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が報告書を発表した。2018年末の難民は7080万人と過去最高を更新した。1年前に比べ230万人増加し、その半数が子どもだった。上位を占めたのは、シリアやアフガニスタンといった中東からのほかミャンマーのロヒンギャ難民など。第2次世界大戦以降で最大級の人道危機に直面していることを、国際社会は認識すべきだ。まずは、緊急に必要な生活支援を的確に、かつ効果的に行わなければならない。難民を周辺の貧しい国が受け入れているという現実があり、その負担を軽減する国際的な体制作りが不可欠だ。難民の自立を助け、安全な帰還を促すとともに、そもそも難民を出さないようにする多角的で中長期的な取り組みが重要になる。難民を生む原因である紛争や対立の根っこには貧困があるからだ。日本にとってもひとごとではない。UNHCRへの拠出額では5番目で、国際協力機構(JICA)を通した開発協力などを実施している。しかし、18年の難民認定申請者数1万493人に対し、認められたのはわずか42人だった。17年より22人増えたが、先進国のなかでは極端に少ない。これとは別枠で、シリア難民を最大150人留学生として受け入れるプログラムなどを実施している。しかし、十分とはいえない。もっと受け入れを増やすのか、海外での支援を重視するのか。議論が深まらないのは国民の関心が低いからだろう。その意味で、民間企業で動きが出ているのは評価したい。難民の雇用を始めたファーストリテイリングでは今年4月末現在、59人が地域限定社員などとして働く。支援物資を海外の難民キャンプに送る企業も増えている。こうした取り組みが、問題を身近に考えるきっかけになることを期待したい。

*13-2:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/521175/ (西日本新聞社説 2019/6/24) 留学生30万人 内実伴わぬ計画の検証を
 世界に開かれた国として多くの留学生を受け入れて高度な技術や専門性の育成を図る。それによって日本の国際競争力を高め、留学生には母国との懸け橋として活躍してもらう-。そんな理念をうたった国家戦略と現実の落差が浮き彫りになった。戦略とは、2020年までの実現を目指した政府の「留学生30万人計画」、現実とは、東京福祉大で大量の留学生が所在不明になった問題のことだ。計画策定の08年当時、全国で約12万人だった留学生は現在ほぼ30万人に達し、数字の上では目標が達成されている。ところが内実は伴っていない。文部科学省などによると、東京福祉大は定員の明確な規定がない「学部研究生」の枠を大幅に広げるなどして13年度以降、留学生を10倍以上に増やし、18年度は5千人余を受け入れていた。ただ、アパートやビルの一室を教室にするなど教育環境は貧弱だった。この3年間で研究生を中心に留学生1610人が所在不明になっていたという。「大学が真に留学を目的としない外国人を大量に受け入れることは想定外だった」と柴山昌彦文科相は言う。苦し紛れの釈明である。留学名目で大学や専門学校などに籍を置き、在留資格を得る。けれども実態は出稼ぎ目的の事例が多いと、かねて指摘されていた。日本側の人手不足も手伝い、外国人を積極雇用する企業も増えている。東京福祉大は結果として、そうした「需要」の受け皿になっていたのではないか。少子化が進む中、日本の大学は学生の確保に苦慮している。留学生の受け入れ拡大が「ビジネス色」を帯びた面も否めない。政府は東京福祉大に学部研究生の募集を当面見合わせるよう指導した。全大学に留学生の在籍管理の厳格化を求める仕組みを設ける方針も打ち出した。それも遅きに失した感がある。政府はこれまで留学生の数値目標にこだわり、問題を半ば黙認してきた印象が拭えないからだ。留学生の不法残留は近年増加の一途をたどり、今年1月の法務省調査では過去10年間で最多の4708人に上った。政府の計画が、大学のずさん経営や企業の低賃金雇用、外国人の人権侵害、さらには犯罪を助長しているとすれば本末転倒である。無論、大学の自治を尊重し、意欲ある留学生を支援することは重要だ。それを踏まえつつ、政府は「30万人計画」の検証を進めるべきだ。大学の活性化や日本の国際競争力の向上などにどれだけ寄与しているのか。そうした視点での検証作業は、今春スタートした外国人労働者受け入れ拡大策の適正、円滑な実施にも資するはずだ。

*13-3:https://www.nishinippon.co.jp/item/o/521462/ (西日本新聞2019/6/25) 生活保護世帯は奨学金を増額
 政府は25日、低所得世帯を対象にした大学や短大、高専、専門学校の無償化制度を来春から導入するのを前に、給付型奨学金の額や授業料の減免額を正式に定める政令を閣議決定した。生活保護世帯の自宅生や児童養護施設の入所者は、給付型奨学金の支給額を通常より4100~8300円高い月2万5800円~4万2500円とする。文部科学省によると、夫婦と子ども2人(うち1人が大学生)の家庭の場合、支給額が満額となる世帯年収の目安は270万円未満。年収380万円未満の場合は、支給額が満額の3分の1~3分の2となる。

*13-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14069003.html?iref=comtop_tenjin_n (朝日新聞 2019年6月25日) (天声人語)制服100年の歩み
 女子学生の服装史をさかのぼると、ちょうど1世紀前、1919(大正8)年が大きな節目だった。その年を境に通学服の流れが和装から洋装へと切り替わったからだ。東京の弥生美術館で今月末まで開催中の「ニッポン制服百年史」展を見て学んだ▼内田静枝学芸員(50)によると、明治の初め、女子の通学服と言えば着物だった。官立学校は袴(はかま)を勧めたが、生徒には不評。政府が欧化を急いだ鹿鳴館の時代には一転、ドレスが推奨されるが、浸透しなかった▼1919年夏、画期的な制服を考案したのは私立の女学校長だった山脇房子氏だ。紺色のワンピースと白のエリ。斬新すぎて恥ずかしいとためらう生徒も少なくなかったが、校長自ら率先して着用した▼着物より安くて動きやすい。これを皮切りに洋装が広がる。昭和に入るとセーラー服が優勢に。戦時下には、もんぺ姿を強いられ、嘆く声が聞かれた。戦後の成長期にはセーラー服に加えてブレザーも人気を広げた▼80年代以降、制服のデザインを一新した高校で受験者が急増するなど、制服は学校の経営にも影響を及ぼした。「明治以来、いくら政府や学校、親たちが強制しても、着る本人たちに愛されないと女子の制服はすぐ廃れました」と内田さん▼「女子でもスラックス制服を選べます」――。性的少数者への配慮などから、近年は性別を超えて制服の選択を認める自治体も出てきた。新旧の展示品を見て回りながら、制服は時代の制約と変化の縮図のように感じた。

<ドアホな政策が産業の低迷を生み、国民負担を増やすのだということ>
PS(2019年6月26日追加):再生可能エネルギー由来の電力で豊富な水を電気分解すると、水素と酸素が発生する。つまり、再生可能エネルギーと水が豊富な日本は、水素燃料を自給した上、輸出までできる国であり、(副産物として自然にできるのでなければ)石炭・原油・天然ガスなどの化石燃料から作るよりもCO₂フリーで超安価なのだ。にもかかわらず、*14-1のように、経産省が「水素を軸としてこのような国際協調の輪を広げ」「将来にわたって日本のエネルギー調達を安定させる」などとしているのは、ドアホとしか言いようがない。しかし、このようなことが起こるのは、馬鹿な議員を何度も当選させたり、行政の言うことだから正しいと考えたりなど、主権者たる有権者の責任にほかならないのである。
 また、輸送手段も水素燃料を使えば水しか排出しないため、陸上交通やジェット機だけでなく、*14-2の海運も水素燃料か電力に変更すべきだ。記事には「変更に多額のコストがかかる」と書かれているが、現在は港を汚し公害(外部不経済)を垂れ流して国民に負担させているため、液化天然ガス(LNG)に代替する手間とコストを省き、エンジンだけをすぐに燃料電池に換えたり、船舶を燃料電池船に更新したりすれば、全体としてはより安価にすむだろう。

 
 FCV航空機(IHI製) FCVバス(東京) FCV電車(ドイツ)   FCVトラック


        EV航空機            EV船(石垣島)   EV軽トラック

*14-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190626&ng=DGKKZO46558320V20C19A6EE8000 (日経新聞 2019年6月26日) 水素エネ普及 資源国と連携、サウジで燃料電池車 豪と輸送実験 技術提供テコに協力主導
 政府は水素エネルギーの普及へ資源国との連携を強化する。サウジアラビアで日本の技術を提供して水素ステーションを設けたほか、オーストラリアでは石炭からつくる水素の輸送実験を手掛ける。化石燃料は温暖化対策に逆行すると批判されている。現状ではコストが高いものの環境負荷の小さい水素の開発を通じ、日本は次のエネルギーに注目する資源国との結びつきを強める。「水素など新しい分野での協力も進めたい」。17日、世耕弘成経済産業相と都内で会談したサウジアラビアのファリハ・エネルギー産業鉱物資源相はこう呼びかけた。水を電気分解してつくる水素は燃やしても水が出るだけで、二酸化炭素(CO2)を排出しない。環境への負荷が小さく「究極のクリーンエネルギー」とされる。サウジアラビアは原油販売への依存を減らすため国内産業の多角化を進めており、原油から生産できる水素に期待をかける。そのサウジアラビアの国営石油会社、サウジアラムコは今月中旬から、水素を供給する「水素ステーション」の実証実験を始めた。トヨタ自動車の燃料電池車(FCV)を導入し、水素活用の方策を探る。技術面で日本が協力し、原油から水素を取り出す技術の実用化なども進める考えだ。水素は石炭などからもつくることができる。このため埋蔵する化石燃料を環境に配慮した形で活用したい資源国が注目しており、水素開発の技術を持つ日本との連携を強める動きが広がる。豪州は炭化が不十分で低品位な「褐炭」をガス化して水素をつくる。2020年度にも専用設備を備えた船で日本に運ぶ計画だ。30年ごろの商用化を視野に入れている。ブルネイでも未利用の天然ガスを水素に変え、日本に運ぶ計画がある。日本は川崎重工業や千代田化工建設など水素のプラント建設や輸送に強みを持つ企業が多い。FCVを含め、世界的に高い水準の技術をテコに協力国を増やす考えだ。水素は天然ガスなど他のエネルギーと単純比較して供給コストが数倍に上り、まだ普及していない。採算性の向上が課題だが、クリーンエネルギーとしての将来性には各国が期待を寄せる。経産省によると、中国は30年にFCVを100万台導入する目標を掲げる。経産省など日米欧の当局は6月中旬、水素分野での協力を盛り込んだ共同宣言を出した。長野県で開かれた20カ国・地域(G20)エネルギー・環境相会合に合わせて開催したのは、日本が開発を主導する姿勢を国際社会でアピールするためだ。世耕経産相らが議長役を務めたG20の同会合でも、共同声明に水素に関する文言を盛り込んだ。9月には日本が主導した関係閣僚会議の2回目の会合も控える。経産省は水素を軸としたクリーンエネルギーの国際協調の輪を広げることが、将来にわたって日本のエネルギー調達を安定させる戦略を支えるとみている。

*14-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190626&ng=DGKKZO46488060U9A620C1QM8000 (日経新聞 2019年6月26日) <海運環境規制 広がる波紋(上)>燃料転換、コスト重荷、硫黄分、大幅削減迫る
 海運業界に新たな環境規制が迫っている。国連の専門機関である国際海事機関(IMO)は、2020年から船舶燃料の硫黄分を大幅に減らすよう海運会社に求める。規制を満たすには多額のコストがかかる。海上運賃や燃料油など、商品市況への影響は広範に及ぶ。「ほかの環境規制に比べあまりに規模が大きい」。海運大手の担当者はこうぼやく。新たな規制は、あらゆる船舶の燃料油に含まれる硫黄分の上限を3.5%から0.5%と大幅に引き下げるよう義務付ける。国内外を問わず全ての海域で守らなくてはならない。目的は大気汚染の原因となる硫黄酸化物(SOx)の排出削減だ。海域や稼働年数などによって対象にならなかった船もあった従来の環境規制に比べ、適用範囲は広い。海運業界の対応方法は主に2つある。1つは燃料の切り替えだ。これまで使っていたC重油に代わり、硫黄分の少ない軽油と重油を混ぜた「適合油」を使う。硫黄を含まない液化天然ガス(LNG)の代替使用も選択肢になる。もう1つは船への脱硫装置(スクラバー)の設置だ。C重油を燃やした際の排ガスから硫黄分を除去する。どの方法にしてもコスト増は避けられない。スクラバーの設置に5億円前後が必要との見方もある。LNGは主要な港ごとに必要な補給体制の整備が進んでいない。現時点で最も現実的な対策は適合油だ。製造に使う軽油はアジア市場の指標となるシンガポール市場で1トン620ドル前後。船舶用C重油(420ドル前後)に比べ5割高い。「従来の船舶用重油に比べ、最低でも1トン5千~6千円(1割程度)高くなるだろう」(市場関係者)との声すら聞かれる。海運会社は大手を中心に、適合油の確保を進める。商船三井は燃料油の補給港で最大のシンガポール港で、19年内に切り替える予定の適合油を先行調達した。20年1~3月分も「6割確保した」(エネルギー輸送営業本部の中野道彦燃料部長)。一方で適合油には硫黄分以外の明確なスペックが確立していない。「複数の企業から調達した燃料がタンクで混ざると、エンジンに問題が起きないか」との不安を訴える海運会社もある。日本船主協会(東京・千代田)の武藤光一会長(商船三井前会長)は「(対応策の)選択の是非で経営内容に大きく差がつき、業界地図が塗り替わるかもしれない」と話す。海上運賃への影響は避けられそうにない。

| 年金・社会保障::2019.7~ | 01:50 PM | comments (x) | trackback (x) |
2019.6.10 自民党の参院選公約について (2019年6月11、12、13日追加)
   
  シャクヤク     アジサイ       ハナショウブ      ヒマワリ

(1)外交について
1)北朝鮮
 自民党は、*1-1のように、北朝鮮に対しては、「現在実施している制裁措置の厳格な履行に加え、さらなる制裁の検討を行う」と公約したそうだ。しかし、拉致問題については、選挙前になると拉致被害者家族の話を聞くが、通常は北朝鮮の核保有を批判したり、金正恩氏を(批判というより)口汚く罵ったり、馬鹿にしたり、圧力をかけたりしているため(これは放送・新聞・SNS等を通じて北朝鮮にも同時に配信されている)、拉致被害者を取り戻すことを第一に考えて行動してきたとはとても思えない。

 そのため、(すべてを公表することはできないかも知れないが)拉致被害者を取り戻す明確な戦略を示さない限り、信用できなくなったわけである。

2)北方領土
 北方領土については、安倍首相は対ロ交渉への悪影響を懸念して「固有の領土」との表現を封印されたそうだが、自民党の公約は「北方領土はわが国固有の領土」と明記しており、*1-1のように、それではその矛盾をどうするかについての戦略と道筋を示さなければ、外向きと内向きでは言うことが異なるという主権者を馬鹿にした公約になる。

 そのため、小さな“不正行為”の追及に過度の時間を費やすのは時間の無駄だと思うが、北方領土に関する両国の認識の矛盾とそれを突破する戦略を、首相や外務大臣が放送される委員会で説明することは必要不可欠で、そうでなければ言いっぱなしの公約になる。

(2)改憲について
 自民党の参院選公約は、*1-1のように、「早期の憲法改正を目指す」と記しており、改憲項目は、①9条への自衛隊明記 ②緊急事態対応 ③合区解消 ④教育充実 の4項目を改憲案として記しているそうだ。

 しかし、私は、「他国は何度も改憲しており、外国に押し付けられた憲法だから、改憲自体が必要である」という改憲理由は何度も聞いたことがあるが、上記④に改憲を要する納得できる理由を聞いたことはない。何故なら、④は、教育基本法で既に定められており、不足部分は教育基本法を改正したり、財源を確保したりすればすむことで、改憲は不要だからだ。

 また、③の合区解消も、衆議院・参議院のどちらかは全員比例代表にした方が、同じ方法で選ぶのではないため二重チェックがしやすく、死票も少ない。しかし、あくまでも小選挙区制にこだわるのなら、憲法には「一票の格差」に関わる問題は書かれていないので、合区解消のためには公職選挙法に必要事項を記載すればすむと考える。

 さらに、①については、憲法は自衛権の範囲を定義していないため、個別自衛権なら合憲で集団的自衛権なら違憲とはならない。しかし、安全保障関連法の定め方を見て平和主義の国とはとても思えなかったため、選挙で勝った途端にすべての政策を信任されたと主張して①の改憲を進められては困る。従って、有権者は、冷静で厳しい目を持って公約を見る必要があるわけだ。
 
 最後に、②については、*2に書かれているとおり、非常事態の際に政府に権限を集中させ、国民の権利を制限するという内容が盛り込まれており、これは憲法の基本原則である国民主権や三権分立を停止して行政が何でもできるとするものであるため、暴走するリスクがある。そのため、言われている必要性が妥当であったとしても、それは改憲以外の方法で行うべきだと考える。

 なお、野党連合は、自民党の参院選公約について、*1-2のように、反論している。

*1-1:https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190609/KT190608ETI090009000.php (信濃毎日新聞 2019年6月9日) 自民参院選公約 党総裁の説明を聞きたい
 政権与党として責任のある公約なのか。自民党が参院選の公約を発表した。党総裁である安倍晋三首相が進める「外交」を前面に打ち出したことが特徴である。北朝鮮やロシア外交の行き詰まりが鮮明になる中、政府と異なる方針を打ち出した。安倍首相は党総裁として、理由を説明しなければならない。北朝鮮に対し、現在実施している制裁措置の厳格な履行に加え、「さらなる制裁の検討を行う」と記した。北方領土は「わが国固有の領土」と明記している。安倍首相は無条件での日朝首脳会談開催を目指し、北朝鮮に「圧力を加える」と言及することを避けている。北方領土では対ロ交渉への悪影響を懸念して「固有の領土」との表現は封印中だ。それでも自民党の岸田文雄政調会長は「これまでの政府、与党の方針を踏襲した」としている。野党は衆参両院の予算委員会で、首相に外交方針の変更などについて答弁することを求めてきたのに、与党は予算委の開催を拒否している。首相は詳細を明らかにしないまま、外国向けと国内向けで異なる方針を使い分けるのは無責任である。これまで最重要項目だった経済政策アベノミクスは、主張の2番手に後退させた。景気の後退傾向が出ている中で政策の限界を示している。「強い経済で所得を増やす」と記しているものの具体策は明記されていない。過去の実績をアピールしても、有権者の関心は今後にあるはずだ。現状を分析した上で対策を打ち出すのが筋である。改憲では、首相が掲げる2020年という目標年次の明示を見送り、「早期の憲法改正を目指す」と記した。「野党を刺激しても得にならない」という判断とみられている。さらに9条への自衛隊明記、緊急事態対応、合区解消、教育充実の4項目も党改憲案として記した。一方で改憲が必要な理由や今後の道筋を明らかにしていない。安倍政権は一内閣の判断で憲法解釈を変更して、違憲との批判を顧みないで集団的自衛権行使を容認する安全保障関連法を定めている。立憲民主党など野党は安倍政権下での改憲に反対し、議論に応じていない。具体策を示さないまま、選挙を終えた途端に信任されたと主張して、議論を一方的に進めるのではないか。有権者は厳しい視線で公約を見つめる必要がある。

*1-2:http://www.jcp.or.jp/akahata/aik19/2019-06-09/2019060902_04_1.html (赤旗 2019年6月9日) 自民党の参院選公約 5野党との対決鮮明
 自民党が7日発表した参院選公約で、安倍政権と日本共産党など5野党・会派の対決点がより鮮明になりました。民意を踏みにじって憲法改定、消費税10%増税、沖縄・米軍辺野古新基地建設、原発再稼働などを宣言した自民党公約に対し、野党党首が5月29日に合意した参院選の「共通政策」は安倍政治の転換を掲げています。
●憲法
自民 早期の改憲めざす
野党 国会発議させない
 自民党は参院選公約の重点項目で「早期の憲法改正を目指します」と明記。改憲は春の統一地方選公約や2017年の総選挙公約にも盛り込まれていましたが、新たに「早期改憲」と時期に踏み込みました。自民党は衆参憲法審査会への改憲4項目の提示を狙っており、選挙で早期改憲を公約にし、改憲論議の促進をはかる狙いです。17年に安倍晋三首相が9条への自衛隊明記を提案したときは、「北朝鮮情勢が緊迫し、安全保障環境が一層厳しくなっている」(「読売」5月3日)ことを強調しましたが、今度の公約では「北朝鮮の脅威」を強調できなくなっています。野党は共通政策で、▽安倍政権が進めようとしている憲法「改定」とりわけ第9条「改定」に反対し、改憲発議そのものをさせないために全力を尽くす▽東アジアにおける平和の創出と非核化の推進のために努力し、日朝平壌宣言に基づき北朝鮮との国交正常化、拉致問題解決、核・ミサイル開発阻止に向けた対話を再開する―などとしています。
●消費税
自民 10月に引き上げ
野党 増税中止めざす
 自民党は消費税増税については、重点項目では触れず、後段の各種政策集の中に「本年10月に消費税率を10%に引き上げます」と記述しました。争点化の回避をねらう意図が透けて見えます。公約では「誰もが安心、活躍できる人生100年社会をつくる」と掲げ、幼児教育・保育の部分的な無償化や低所得者世帯の学生への支援などをアピールしていますが、財源は低所得者ほど負担が重い消費税増税です。実際には誰もが不安でいっぱい。「年金の水準が当面低下する」ことなどにより、老後の資金が夫婦で2000万円不足すると自助を呼び掛けた金融庁の審議会の報告書案に対して、「『100年安心の年金』との説明はどこにいったのか」と批判が集中。政権が修正や釈明に追われています。公約で「目指す」とした最低賃金も「全国加重平均1000円」にすぎません。一方、野党は共通政策で▽10月の消費税率引き上げの中止と税制の公平化▽地域間格差を是正しつつ目指す最低賃金「1500円」を目指す▽保育、教育、雇用予算の飛躍的拡充▽選択的夫婦別姓の実現―などを掲げています。
●外交・安保
自民 軍事力を拡充・強化
野党 軍事費を他分野に
 自民党は重点項目の六つの柱の第一に「外交・防衛」を掲げ、「日米同盟をより一層強固にし、ゆるぎない防衛力を整備する」としました。政策集には、軍拡や基地強化、米国とともに海外で戦争する国づくりを加速させる項目が並びました。「防衛力の質と量を抜本的に拡充・強化」するなど軍拡路線を強調。「平和安全法制」(戦争法)で可能になった任務に関して「態勢構築や能力向上を着実に進めます」と明記しました。さらに、沖縄県民の民意を無視して「普天間飛行場の辺野古移設」を「着実に進める」としました。これに対して、野党は共通政策で▽膨張する防衛予算、防衛装備を憲法9条の理念に照らして精査し、他の政策の財源に振り向ける▽安保法制、共謀罪法など立憲主義に反する諸法律を廃止する▽沖縄県名護市辺野古における新基地建設を直ちに中止し、普天間基地の早期返還を実現し、撤去を進める―と打ち出しています。

<緊急事態条項について>
*2:https://www.huffingtonpost.jp/2018/05/03/kinkyu-jitai-joukou_a_23426043/ (Huffingtonpost  2018年5月3日) 憲法改正「緊急事態条項」は本当に必要なのか? 被災者を支援してきた弁護士が分析 有効性は? そして歯止めは?
 憲法改正が議論される中、改正理由のひとつとされているのが「緊急事態条項」だ。自民党が3月に示した案では、非常事態の際に政府に権限を集中させ、国民の権利を制限するという内容が盛り込まれている。権限の集中は、効果的な場面がある一方で、暴走のリスクもある。今回、取り沙汰されている緊急事態条項には、どれぐらいの必要性があるのか。そして、歯止めは十分なのか。岩手県宮古市で東日本大震災の被災者支援に携わった経験があり、災害時の法律問題にくわしい小口幸人弁護士に解説してもらった。2018年3月25日に開かれた自民党大会で示された、憲法改正「条文イメージ・たたき台素案」。このうち、緊急事態条項の部分である新73条の2と新64条の2について分析する。《第七十三条の二 大地震その他の異常かつ大規模な災害により、国会による法律の制定を待ついとまがないと認める特別の事情があるときは、内閣は、法律で定めるところにより、国民の生命、身体及び財産を保護するため、政令を制定することができる。② 内閣は、前項の政令を制定したときは、法律で定めるところにより、速やかに国会の承認を求めなければならない。》
第1 新73条の2
1 独立命令の制定権限を付与する案
 一見すると少しわかりにくいが、ザックリいうとこれは、内閣だけで法律をつくったり改正したりできるようにする案である。以下詳しく述べる。まず、学校で教わったように、国会が定めるのが「法律」、内閣が定めるのが「政令」である。現行憲法では、常に政令は法律の「下」にあり、法律の定める範囲内に限って定めることができる。内閣が、国会で定めた法律に反することを、政令で定めても無効だし、政令で法律を変えることはできない。新73条の2は、「大地震その他の異常かつ大規模な災害により、国会による法律の制定を待ついとまがないと認める特別の事情があるとき」に、内閣に、法律と同一の効力のある政令(俗に言う「独立命令」)を制定できるようにする案だ。このときに限り、内閣は政令で法律を変えたり、新たにつくったりすることができるようになる。2項で、「速やかに国会の承認を求めなければならない。」とすることで、歯止めを設けているつもりなのであろう。自民党は、2012年の憲法改正草案98条で、「法律と同一の効力を有する」政令制定権限を、内閣に認めていたが、新73条の2はその改訂版だ。歴史的には、戦前の大日本帝国憲法が定めていた緊急勅令の復活案と整理することができる。実際、緊急勅令の条文と新73条の2のつくりは似ている。なお、大日本帝国憲法8条2項は、議会が承認しなかった場合、緊急勅令の効力が将来に向かって失われると定められていた。しかし、新しい憲法73条の2、第2項には効力を失うとは書いていない。
2 歴史が語る独立命令の危険性
 法律は国会しか制定できない。国民が直接選んだ国会しか法律を制定できないという仕組みは、民主主義の根幹だ。内閣だけで、法律と同じ効力がある政令を制定できる独立命令は、この根幹を変えるものであり、三権を分立した意味を失わせかねない危険な枠組みである。濫用の恐れがあることは言うまでもない。戦前のドイツの憲法、ワイマール憲法は20歳以上の男女に普通選挙権を認めるなど、当時最も民主的だと言われた憲法であった。しかし、その48条には、「公共の安全、秩序に重大な障害が生じる恐れがあるときは、大統領は、公共の安全および秩序を回復させるために必要な措置をとることができる」という定めがあった。1933年2月27日に国会議事堂が放火されるという事件が起きるなり、当時第一党の党首であったヒトラーはヒンデンブルグ大統領に迫り、48条に基づき独立命令を制定させ、言論・報道・集会・結社の自由、通信の秘密を制限。さらに、令状によらない逮捕・拘束を行った。戦前の日本の憲法、大日本帝国憲法8条の緊急勅令も濫用されたことがある。1928年、帝国議会に出された治安維持法の改正案は、異論が噴出し、廃案となった。しかし、緊急勅令により法改正が強行された。1920年代、30年代、そして戦争の教訓を踏まえて制定されたのが日本国憲法だ。独立命令は、国家を運営する者にとっては実に便利なものだが、民主主義の根本原則に反し、濫用の危険を払拭できないとして、日本国憲法には定められなかった。つまり、大日本帝国憲法にあった緊急勅令も廃止された。こういった経緯を観れば、仮に必要性があったとしても、安易に、内閣だけで法律と同一の効力を有する政令(独立命令)を制定できる権限を与えてはならないことがわかる。法案の内容は慎重に検討されなければならない。濫用された過去を踏まえ、歯止めは十分にしなければならない。
3 歯止めは不十分
 しかし、この法案には、歯止めが不十分だ。問題点を挙げていこう。
(1) 対象に限定なし
 濫用された場合の弊害を小さくするためには、独立命令を制定できる対象をあらかじめ制限しておくことが考えられる。例えば、自然災害直後の避難者の避難に関する事項に限る等である。しかし、新73条の2は対象を一切限定していない。つまり、刑法や刑事訴訟法、公文書管理法、情報公開法、民法、土地収用法等はもちろん、公職選挙法、国会法、裁判所法、警察法、地方自治法等の改正もできる案になっている。濫用されたら令状なしの逮捕も、新たな罪を設けることも、都合の悪い文書の一切を破棄することも何でもできる。
(2) 手続きの制限なし
 濫用される場合を少しでも減らすため、手続きを厳格にしたり、段階を踏ませたり、期間を制限することも考えられる。例えば、2012年の自民党憲法改正草案も事前に「緊急事態宣言」という手続きを必要とした上で、100日という期間制限を設け、継続するには国会承認が必要という枠組みにしていた(無論、これでも不十分である)。しかし、新73条の2については、「法律で定めるところにより」としか書かれておらず、何の制限もかけていない。内閣はある日突然、独立命令を制定できてしまう。しかも、「法律で定めるところにより」の「法律」自体も独立命令で変えることができてしまう。
(3) 国会が承認しなくても効力は失われない
 先に述べたように、新73条の2第2項には、国会の承認が得られなかったときの効果が定められていない。大日本帝国憲法の8条2項でさえ、将来にわたって効力を失わせると定めてあったのに何もないのである。なお、現在の憲法54条3項には、緊急集会で参議院がとった臨時の措置について、「次の国会開会の後十日以内に、衆議院の同意がない場合には、その効力を失ふ。」という定めが置かれており、その構造は新73条の2第2項とよく似ている。よく似ているのに、54条には効力を失うと明記されている一方、新73条の2には明記されていないとなったとき、この「違い」には意味があるとするのが、普通の法解釈だ。つまり、新73条の2については、国会が承認しなかったとしても、独立命令の効力は失われないということになる。そのため、仮に、独立命令のせいで何らかの被害を受けた国民が、事後に裁判を起こして補償等を求めたとしても、「当時は適法だった」となり、原則補償されないことになる。
(4) 自然災害に限られていない
 「災害」という文字をみると「自然災害」だけを思い浮かべてしまうが、法律ではそうではない。例えば、災害対策基本法2条1号は、「災害」の中に大規模な爆発を含んでいる。爆発の原因がテロや戦争でも「災害」に含まれる。改正案が、「自然災害」ではなく「災害」という文言を使っているのは、有事全般を対象にするためだと見るべきであろう。テロや戦争は、つねに「異常」事態だから、残る歯止めは「大規模」と、「国会による法律の制定を待ついとま」の有無だけになる。
(5) 内閣だけの判断で可能
 新73条の2は、内閣だけで独立命令を制定できる。国会や裁判所の承認等は不要である。「異常かつ大規模な災害」にあたるかどうか、「国会による法律の制定を待ついとま」があるかどうかは、内閣だけで判断されることになる。さて、内閣だけの判断に委ねて大丈夫だろうか。例えば、現在の安倍政権は、2017年6月22日に総議員の4分の1以上が要求した臨時国会の召集を実質的に無視した。憲法53条が、召集「しなければならない」と定めているにもかかわらずである。さらに同年8月10日、国会で北朝鮮のミサイル発射実験が、存立危機事態、すなわち「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険」にあたるか否かが問われたが、安倍政権はこれを否定しなかった。「根底から覆される明白な危険」なんて、どう見てもないにも関わらずだ。こうした実情をふまえれば、内閣だけの判断で独立命令を制定できるのは余りにも危険だ。
(6) 国会も裁判所も歯止めになれない
 実は国会は、召集されているときしか力を発揮できない。そして、国会を召集する権限は内閣にある。つまり、国会が開かれていないときに、内閣が暴走しだしたら国会は歯止めになれない。もちろん、国会は内閣に召集を求める権限を持っているが、すでにこの権限は、2017年に安倍政権により無視されたことがある。では裁判所はどうか?残念ながら、我が国の裁判所は、具体的に誰かが被害を受けて訴え出ない限り判断してくれない。具体的な被害が訴えられたときでも、高度に政治的な問題については「統治行為」だからといって、判断を避けがちなのが我が国の裁判所だ。内閣に独立命令の制定権限を付与するなら、国会や裁判所が歯止めになれるよう、これらをパワーアップする改正を同時に検討すべきだが、自民党の案は内閣をパワーアップさせるだけなので、国会も裁判所も歯止めになれない。
4 新73条の2はあまりに酷い
 以上のように、新73条の2には権力濫用の歯止めがみあたらず、2012年の自民党憲法改正草案や、戦前の大日本帝国憲法8条と見比べても、酷いと言わざるを得ない。近代立憲主義は、権力の暴走を防ぎ基本的人権を遵守するための英知だ。しかし、新73条の2は、内閣は暴走しないという前提に立っており、憲法の何たるかを誤解している恐れすら感じさせる。なお、自然災害に絞ってみると、そもそも災害が起きた後、中央である内閣に権限を集中させて対処するという発想自体が間違っている。災害直後、国に各地の情報が集まるのはだいぶ後になってからである。国に権限を集め現場を「指示待ち」にさせてはならない。情報のある「現場」に権限と人を送るのが基本的な対処法であり、我が国の災害法制はそのようにできている(地方公共団体に権限を委譲する方向)。そもそも、災害が起きた後、泥縄式に慌てて法律をつくっても上手く機能しない。混乱するだけである。事前に対処法を決めておき、それが実践できるよう、平時から訓練を重ねておかない限り、災害直後は役に立たない。なお、政府が2015年3月30日にまとめた「政府の危機管理組織の在り方について(最終報告)」にも同様のことが書いてある。つまり、実は政府(官僚)は災害対策を結構ちゃんとやっていて(安倍総理ら政治家が、どの程度把握しているかは怪しい)、内閣に独立命令を制定できるようにする「必要」はないことを知っている。憲法を変えたがっている人が、災害をダシにている、そしてついに改正案までできあがったというのが現在の状況だ。
第2 新64条の2
 新64条の2は、俗に言う国会議員の任期を延長する条文である。その必要性については、これまで次のように説明されてきた。憲法は、参議院の緊急集会という制度を設けて、衆議院が解散され、衆議院議員がいない場合の対策はしている。しかし、衆議院議員が、任期満了によりいなくなった場合の対策が抜けている。仮に、大規模災害が起きて選挙の実施が困難になると、機能不全に陥りかねない。そこで、憲法を改正し、大災害などで選挙ができないときに、国会議員の任期を延長できるようにする必要がある、という説明である。しかし、この説明には大きな落とし穴がある。まず、衆議院議員の任期が満了になったのは戦後一回しかない。残りは全て解散総選挙である。そして、選挙が大規模災害で延期になったのも二回しかない。阪神淡路大震災のときと、東日本大震災のときだ。つまりこの議論は、戦後一回しかないできごとが、戦後二回しか起きていないような大災害のときに偶然重なるという、めったにない場合に備える議論でしかない。さらに、災害が起きて選挙ができないという問題があるなら、その対策は、選挙制度を改善して災害が起きても影響を受けにくいものにすることなのに、その検討は一切されていない。選挙が災害の影響を受けるのは、今の選挙が、決められた投票所に足を運ばないと投票できないという、限りなくアナログな方法になっているからだ。それこそ、スマホで、郵便局のATMで投票できるなら、災害による影響も最低限で済む。なお、日本弁護士連合会は、公職選挙法を改正して選挙制度を改めれば、首都直下地震や南海トラフ地震が起きても選挙は実施できると具体的に提言している。以下、自民党の改正案(新64条の2)を検討してみる。
1 期間の限定がない
 災害で選挙が実施できないのであれば、任期を延ばすのも一つの解決方法ではある。しかし、我が国は民主主義国家で、選挙は国民が直接意思を表示できる唯一の機会だから、延長は最小限度にしなければならない。政府の南海トラフや首都直下地震の被害想定に照らせば、延長期間としては1~2カ月程度だろう。しかし、新64条の2は、「任期の特例を定めることができる」とするだけで、特例の内容を限定していない。つまり、1年延ばすのはもちろん、3年、5年、10年延長するのも可能な案となっている。任期が伸びれば伸びるほど、国会や政府の正当性は失われていき、それが一定限度を超えたら、我が国は実質的に民主主義国家はなくなってしまう。国会議員の任期を延ばすというのは、実はそれぐらい危険なものであるにもかかわらず、改正案は、延ばせる限界を全く明記していない。
2 お手盛り
 国会議員の任期を国会で延期できる、まさにお手盛りである。よって、どんなに要件を厳しく定めても、運用が甘くされてしみあう恐れがある。自分のこととなると、甘くなってしまうのは人も国会も同じだ。3分の2というハードルも、小選挙区導入後、与党の議席が3分の2を超えることが頻繁になっている現状に照らせば高いとは言えない。国会の多数派が、自らの保身のため、いたずらに任期が延長される恐れも否定できない。
3 「適正な」という言葉の恐怖
 改正案は、「選挙の実施が困難」ではなく、「選挙の適正な実施が困難」としている。前者なら物理的、時間的な話だとわかるが、「適正な」という三文字が入るだけで濫用の恐れは飛躍的に高まる。いま選挙をしたら政権交代が起きてしまうと思った多数派が、何らかの理由で、任期を延ばす恐れはないだろうか。フェイクニュースが際限なく広がっており選挙の適正な実施が困難だ、ミサイルが飛んでくる恐れがあるという危機的な状況にあるから選挙の適正な実施は困難だ、リーマンショック再来の兆候がある今選挙の適正な実施は困難だなどなど、色々な濫用のケースがが頭をよぎる。はっきり言って、ここに「適正な」という文字を挿入するのは余りにもナンセンスだ。「濫用の恐れ」という発想、それ自体が欠落している恐れすら感じゾッとする。
4 対応できない場合が多すぎる
 憲法改正までするわりには、実は、新64条の2で対応できるケースは多くない気がする。まず、新64条の2は国会議員の任期を延ばすだけだから、解散の場合は対応できない。解散の場合はこれまでどおり、参議院の緊急集会で対応することになる。次に、新64条の2に基づいて国会議員の任期を延長するためには、国会の決議が必要だから国会開会中しかできない。召集には10日以上かかる。仮に国会開会中であったとしても、議員は毎週末地元に帰っている。大規模災害直後、交通網が遮断されている中、東京に集まるには時間がかかるだろう。さらに、起きた災害が首都直下地震だったらどうだろうか。その直後、余震や本震の発生が懸念されているときに、国会議員を国会議事堂に集めるのは果たして適切だろうか。
4 新64条の2よりは優れた方法
 以上のように、新64条の2は、濫用とお手盛りの危険がある上に、対応できるケースが実は多くない。そもそも、任期満了より圧倒的に多い「解散」の場合の対応を、今後も参議院の緊急集会で行うなら、任期満了のときも緊急集会で対応すればいい。それなら濫用の恐れもない。もし今の憲法ではできないというなら、改正して任期満了のときも緊急集会を開けるようにすればいい。なお、現在の憲法のままでも、つまり改正しなくても、衆議院の任期満了時に緊急集会を開催できるという有力な説がある。憲法制定当時の帝国議会の答弁と、解散と任期満了の問題状況(衆議院の欠缺)が同じであることから、類推適用できるという解釈だ。
第3 最後に
 自民党は、長い時間をかけて緊急事態条項の検討をしてきた。2012年の案にも明記されているし、特に2015年以降、党内の憲法改正推進本部で検討が重ねられてきたはずだ。それにもかかわらず、なぜ最終案がここまで酷いものになったのか。一連の経過を見てきた者としては、正直残念である。戦後直後の帝国議会、その憲法改正委員会では、大日本帝国憲法にあった緊急勅令(独立命令)が廃止された。独立命令は国家を運営する者にとって便利なものであることを率直に認めた上で、便利だが国民の意思を無視する制度であり、民主政治の根本原則に反するからという理由で廃止された。憲法改正を党是とする自民党が熟慮を重ねた結果できあがったのが、国会を不要としかねない新73条の2と、選挙の機会を失わせかねない新64条の2という、民主政治の根本原則に真っ向から反するものであった。このことを、国民は重く受け止め、改正への賛否を検討すべきであろう。

<年金問題について>
PS(2019年6月11、12日追加):*4-1のように、参院選前に年金問題が浮上し、「①国民が怒っているのは、公的年金の100年安心がウソだったこと(野党)」「②自分で2千万円貯めろとはどういうことか(野党)」「③100年安心と言っていたのに国家的詐欺(野党)」「④100年安心はウソではなく年金制度の持続可能性を担保できる(首相)」「⑤首相が100年安心とする根拠は、現役世代の平均的手取り収入の50%を割り込まない所得代替率とマクロ経済スライド(年金加入者の減少・平均寿命の延び・社会の経済状況を考慮して年金の給付金額を変動させる制度)」「⑥公的年金の水準は今後調整されていく(金融庁)」等の論戦が行われた。
 このうちの④⑤は、発生主義で年金資金を引き当てず、管理も徴収もいい加減だった厚労省(政府)管轄の社会保険庁の失政を給付抑制によって解決しようとするもので、そのやり方は、2016年に高齢者は現役平均所得の50%を割り込まなければ生活できるとする所得代替率の概念とマクロ経済スライドを導入し、インフレにして⑥のように年金を目減りさせて調整しようとするものであり、まさに③の詐欺なのである。
 また、①②は、これらの法改正があったにもかかわらず、高齢者の生活が100年安心だと思っていたこと自体が甘すぎ、さらに2000万円貯めれば十分であるとも限らない。そのため、私は、年金を大きな争点として参院選を戦うことに賛成で、その結果として、これまで既に年金保険料を支払ってきた国民に二重払いさせることなく、必要な年金支払額を発生主義で引き当てるようにしてもらいたい。そして、これは可能なことである(マニフェスト参照)。
 与党は、*4-2のように、参議院議員選挙を前に集中審議を拒否しているが、野党には追及のための追及ではなく、年金支払額へのマクロ経済スライド導入など高齢者を生活困窮者にする制度改革の是非を徹底的に追究してもらいたい。また、与党はそれなりに考えがあってやったことだろうから、参議院議員選挙の前に、その考え方と根拠を示してもらいたい。何故なら、その内容によって、政権を託すに足るか否かがわかるからである。

    
          2019.3.7東京新聞            2019.6.11東京新聞 

(図の説明:左図は、現時点の全国平均年金支給額と生活費支出額を比較したものだが、マクロ経済スライドによる給付水準の低下により将来の年金受取額は次第に減少する。また、支出額は、全国平均にしているので、参考にならない。それにしても、右図のように、次々と制度を変更し、国民が気づかないようにしながら年金受取額を減少《“調整”と表現している》させるマクロ経済スライドは、年金保険料を支払ってきた人に対する詐欺行為だ)

*4-1:https://digital.asahi.com/articles/ASM6B51DLM6BUTFK012.html?ref=mor_mail_topix1 (朝日新聞2019年6月11日)年金は安倍政権の鬼門?「老後2千万円」野党争点化へ
 参院選を控えた与野党論戦の論点に、老後の資産形成における「2千万円不足」問題が急浮上した。安倍晋三首相ら全閣僚が顔をそろえた10日の参院決算委員会で、野党側はこの問題に照準を合わせて政権を追及。これと合わせ、消費税率引き上げや安倍首相が掲げる憲法改正、米国との貿易交渉などへの批判を強め、参院選の争点に位置づける構えだ。「国民が怒っているのは(公的年金が)『100年安心』がウソだったことだ。自分で2千万円をためろとはどういうことか」。10日の参院決算委。4月の同委の質疑以来、初めて全閣僚が出席した論戦の場で、立憲民主党の蓮舫副代表は強い口調で「2千万円不足」問題を取り上げた。3日公表された金融庁の報告書にある「公的年金の水準は今後調整されていくことが見込まれる」との記載について、蓮舫氏は「足らざる部分のためにもっと働け、と。公助から自助にいつ転換したのか」と質問を投げかけた。首相は「老後に月5万円、30年で2千万円の赤字であるかのような表現は、誤解や不安を広げる不適切な表現だった」と釈明。だがその後、簡潔な答弁を求める石井みどり委員長(自民)の注意をよそにたたみかけた。「100年安心はウソではない」。反論の材料にしたのは、首相が「100年安心」の根拠としている「所得代替率」だ。所得代替率とは、現役世代の平均的な手取り収入に対する年金支給額の割合を示す数値で「100年安心」で約束したのは50%。厚生労働省によると今は約6割で、当面は50%を割り込まない見通しだ。首相はこの点を踏まえ「(現行制度で)給付と負担のバランスは取れている」とし、野党の批判は当たらないという認識を示した。首相はさらに「マクロ経済スライド」という、平均余命の延びなどに応じて年金支給を調整する仕組みの説明を駆使して反論した。2019年度の支給額の見直しで4年ぶりにこの制度を適用し、賃金の伸び率(0・6%増)を下回る0・1%増に支給額を抑制しつつ、プラス改定ができた成果を強調。これにより年金制度の持続可能性を担保できたとして、「現在の受給者、将来世代の双方にプラスになる。公的年金の信頼性はより強固になった」と胸を張った。今回の「2千万円問題」の議論では、現役世代の負担で高齢者の生活を支える年金制度について、制度の持続可能性という「根幹」を守るのか、支給水準を重視するのかという認識のギャップも浮かぶ。少子高齢化で現役世代が受給世代を支える年金制度の仕組みが限界に近づきつつある、との指摘もある。金融庁の報告書も年金が老後の収入の柱であることは認めつつ、支給額の目減りは避けられないという文脈で作成された。同庁幹部は「あくまで平均的なモデルケース」として「2千万円」と明示したとするが、野党側は政権追及の好材料を得たとして批判を強める。この日、共産党の小池晃書記局長は「100年安心と言っていたのに、いつの間にか年金は当てにするな、と。国家的詐欺に等しい」と追及すると、首相は「100年安心は仕組みとして確保する。給付と負担のバランスを取る」と答弁し、給付よりも制度を維持することを重視する考えをにじませた。
●記録問題、受給開始時期繰り下げ…野党追及
 参院選に向けて弾みをつけたい野党は、今回の「2千万円問題」をきっかけに「年金」に戦線を拡大させる構えだ。第1次安倍政権の07年、年金記録のずさん管理が発覚。持ち主不明の年金記録は約5095万件にのぼり、この年金記録問題なども影響し、自民党はこの年の参院選で大敗し、安倍政権退陣につながった。年金は有権者の関心も高く、「安倍政権にとって鬼門」(野党中堅議員)とみるためだ。蓮舫氏はこの日、麻生太郎財務相兼金融相に金融庁の報告書を読んだかどうかをただし、麻生氏から「全体を読んでいるわけではない」との答弁を引き出し、「国民の間で怒りが蔓延(まんえん)している大問題なのに」と突き放した。さらに、いまなお2千万件弱の記録の持ち主が不明のままの年金記録問題も取り上げ、当時「最後の1人まで徹底的にチェックし、全て支払う」と発言した首相に「口約束だったじゃないか」と迫った。一方、国民民主党の大塚耕平氏が問題視したのは、日本年金機構が年金の受給開始(原則)65歳を前に送付する年金請求書だ。現行制度では、受給開始時期を繰り下げると年金額は増額され、70歳開始の場合は65歳開始と比べて年金額は42%増える。このため、請求書には「年金額を増額させますか?」などの設問があり、受給開始を繰り下げる場合は請求書の提出は不要だとしている。大塚氏は「70歳まで繰り下げる方に誘導しているのではないか」と指摘した。平均余命よりも前に死亡した場合、65歳からの受給開始に比べて受け取る年金額が少なくなりうるため、大塚氏は「年金請求書を『年金詐欺』と言う人たちがいる」と批判した。さらに大塚氏は、年金財政の「定期健診」と言われ、5年に1度のその健全性を確認する「財政検証」も取り上げ、「(物価上昇率など)非現実的な前提で出てきたら大論争になって、これまたかんかんがくがくの議論が続く」と牽制(けんせい)した。財政検証を巡っては、14年の発表が6月3日だったため、今回も6月初めとなる見通しだったが、厚労省幹部は「まだしばらくかかる」。野党は参院選で年金問題が争点化するのを避けるため、政権が意図的に遅らせようとしているとの疑念を深めており、「財政検証は参院選前に速やかに出すべきだ」(国民・玉木雄一郎代表)と問題視している。野党側は参院選に向け、10月に予定される消費増税や、首相が目指す改憲に反対姿勢を強め、米国との貿易交渉や、日ロ、日朝関係など安倍政権の外交姿勢なども争点化する構えだ。ただ、金融庁の報告書をきっかけに年金問題が急浮上。旧民主党政権も年金制度の抜本改革を掲げつつ実現できなかった経緯があり、野党にとっても無傷ではいられないテーマだが、国民民主党の玉木雄一郎代表は10日、「年金を大きな争点として参院選を戦わなければならない」と山形市内で記者団に強調した。こうした野党側の攻勢を受け、10日の自民党役員会では改選組の参院議員から「2千万円問題は参院選に影響がある」と懸念する声が出た。二階俊博幹事長はその後の記者会見で「(金融庁の)報告書は老後に備えて個人の置かれた状況に応じ有利な資産形成ができるようにという観点からの提言。年金制度の信頼性とは別のものではないか」と火消しに回った。
●主要野党が参院選で争点化を狙うテーマ
・老後「2000万円不足」問題・年金問題
・安倍政権の姿勢・体質
・日米貿易交渉問題
・10月の消費増税の是非
・アベノミクスの功罪
・日朝・日韓・日ロ外交
・自民党が掲げる9条改憲の是非

*4-2:https://adclick.g.doubleclick.net/aclk?sa=L&ai=Cg2afcH8AXfaGKMXzrQTxj4・・ (佐賀新聞 2019年6月12日)与党、集中審議の開催拒否、老後2千万円で攻防激化
 参院予算委員会は12日午前、理事懇談会を開いた。与党は、野党が求めていた安倍晋三首相出席の集中審議開催を拒否した。95歳まで生きるには夫婦で2千万円の蓄えが必要と試算した金融庁金融審議会の報告書に関し、野党は安倍政権を徹底追及する方針で、参院選を前に、与野党攻防が激化した。野党は、麻生太郎副総理兼金融担当相が報告書受け取り拒否を表明したことを報告書が「消された」と批判した。自民党の森山裕国対委員長は記者団に「政府は報告書を受け取っておらず、予算委にはなじまない」と、衆参の所管委員会での議論が望ましいと指摘した。

<皇位継承を男系男子に限るのなら、公約に書くべき>
PS(2019年6月13日追加):「皇位継承を男系男子に限る」とする人がおり、*5に書かれている5人だけではないが、それは女性を男性より一段低い存在とみる女性を馬鹿にした態度だ。そのため、そう主張する議員の名前(政党としてそう判断するのなら、その政党の公約に記載すべき)とその主張の根拠を、参院選前に明らかにしておいてもらいたい。

*5:https://ryukyushimpo.jp/kyodo/entry-935213.html (琉球新報 2019年6月12日) 自民有志、男系の皇位継承を 年内提言へグループ発足
 自民党の保守系有志議員が12日、父方に天皇を持つ男系の皇位継承を求める議員グループ「日本の尊厳と国益を護る会」を発足させた。旧宮家(旧皇族)の皇籍復帰を検討する。女性天皇、父方に天皇がいない女系天皇のいずれにも慎重な立場を取る。年内に提言をまとめ、安定的な皇位継承策に関する政府の議論に反映させたい考えだ。グループは他に、中国など外国資本による土地取得を制限する立法を目指し、外国スパイの活動を阻むための法整備も働き掛ける。発起人は鬼木誠、高木啓、長尾敬の3衆院議員と青山繁晴、山田宏両参院議員の計5人。

| 民主主義・選挙・その他::2014.12~2020.9 | 03:07 PM | comments (x) | trackback (x) |
2019.6.5 北方領土の話 ← 日本の外交とそれに対する国内からの妨害も含めて (2019年6月6、9日追加)
 
 北方領土の地図  知床のシャチの大集合         羅臼のシャチ  

(図の説明:一番左が北方領土と呼ばれる地域の地図で、国後島も日本の湾の中に入っているため、せめて国後島までは変換してもらいたいものだ。しかし、この地域では漁業もできなかったため、餌が豊富らしく、知床(左から2番目)や羅臼(1番右と右から2番目)にはシャチの大集合する場所があり、世界自然遺産の名に値する地域となっている)




  優勝チーム   2019.6.9福島民報   JR九州のチーム  サハリンからのチーム
           会津チーム
(図の説明:上の段と下の段の左は、札幌市で開催されたYOSAKOIソーラン祭りで元気に踊る地元チーム。下の段の右3つは、会津・九州・サハリンから参加して、趣向を凝らした面白い演舞を披露しているチーム)

(1)北方領土に関するロシアの認識
 私自身は、北海道出身の友人の話や2005~2009年の間の衆議院議員として現地訪問した経験から、「歯舞、色丹、国後、択捉の北方4島は、歴史的に一度も外国の領土になったことのない日本固有の領土であるため、返還してもらいたい」と思うが、ロシア外務省は、*1-1のように、「日本政府は南クリルの『帰属変更』について住民の理解を得る必要がある」と発言し、上月駐ロシア大使を呼び出して注意を喚起したそうだ。

 また、日本の内閣府HPは、「ソ連が北方領土領有を主張する最も有力な根拠とする太平洋戦争終盤に行われたヤルタ協定は、米英ソ三国間の秘密協定であるため日本が拘束される理由はなく、同協定が領土移転の法的効果を持つものではないことは当事国である米国政府も公式に明らかにしている」としている(https://www8.cao.go.jp/hoppo/mondai/01.html参照)。

 そして、安倍首相とロシアのプーチン大統領は、2018年11月の首脳会談で、歯舞、色丹の2島の日本への引き渡しを明記した日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉を加速することで合意したそうだが、「ロシア側からは、戦争でとった領土なので、返してもらいたければ戦争をするか」という発言が出たこともあるわけだ。

(2)丸山衆議院議員の戦争発言について
 このような中、*1-2のように、北方四島ビザなし交流の訪問団の一員として国後島を訪問していた丸山衆議院議員(元日本維新の会)は、元島民の男性に対し、「戦争をしないと取り返せない」「ロシアと戦争して取り返すのに賛成か反対か」などと発言して問題になった。

 これに関し、*1-4のように、衆院議院運営委員会の与野党筆頭理事は、2019年6月4日、戦争で北方領土を取り返すことの是非に言及した丸山議員(元日本維新の会)に弁明書の提出を求め、その書面で丸山議員が「人民裁判」と反論し、議員辞職に否定的な考えを示したため、直ちに進退判断を迫る「糾弾決議案」を共同提出する方針で一致したそうだ。しかし、国会議員は国民の代表であるため国会による議員辞職勧告は無理筋であり、「多数派の意見と異なるから辞職せよ」というのも危険な発想だ。

 その丸山議員は、女性に対する破廉恥な発言もあったようだが、これを言いだすと丸山議員だけではないという話になるため、戦争発言に論点を絞ると、*1-3のように、「①戦争でこの島を取り返すのは賛成ですか、反対ですか」「②ロシアが混乱しているときに取り返すのはOKですか」「③戦争しないとどうしようもなくないですか」と言っているのがポイントのようだ。

 このうち、①は、ロシアに真っ向から対立すればそうなるが、それは日本人を含む誰も幸福にしない。②は、25年前のソ連邦崩壊直後で日本が豊かだった1990年代なら千載一遇のチャンスで、「技術支援や資金援助と引き換えに4島とも返還してもらう」という話もあり得たが、それから25年後の現在では遅い(https://blogos.com/article/179399/ 参照)。

 また、③だからこそ、もっと賢い方法を考えるべきだったのだが、現在はロシアが長期間実効支配した後で、日本は現状維持と称する長期間の不作為の後であるため、時間が経つほどに旧住民は減り、権利放棄に近づいてしまったわけである。

 私は、戦争するかしないかは決して議論してはいけない話題ではないが、戦争をすれば不幸な人が増え、日本国憲法違反であり、日本政府の長期間の外交不作為の後始末の方法を元島民に問いかけるのは酷だと考える。そういう意味で、丸山議員は思慮が浅かったと思う。

(3)北方領土問題の経緯
 安倍首相は、*2-1のように、北方領土問題に関して北方4島のうち色丹島と歯舞群島の引き渡しをロシアとの間で確約できれば、日ロ平和条約を締結する方向で検討に入ったそうだ。「2島決着」に傾いた背景には、4島をロシア領と位置付けるプーチン氏に択捉、国後の返還を求め続けた場合、交渉が暗礁に乗り上げ、1956年の日ソ共同宣言に明記された色丹と歯舞の引き渡しも遠のきかねないとの判断があるそうだ。

 ロシアのプーチン大統領は、もともとは親日派だったが、*2-2のように、「パラダイス文書」でプーチン大統領に近いガス会社がどうとか、娘婿がどうとかをさんざん言われた上、ウクライナ等の事件がある度に、日本はロシアの敵側についてきた。従って、反日になっても全くおかしくなく、全体として日本の政策は思慮も計画性もなかったと言わざるを得ないのである。

 そのため、北方領土問題に関する交渉の不調を、丸山議員の言動のせいのように書いたメディアもあったが、それは全くの責任転嫁である。

・・参考資料・・
*1-1:https://digital.asahi.com/articles/ASM1B1QSXM1BUHBI002.html (朝日新聞 2019年1月10日) ロシアが日本に注意喚起 北方領土「帰属の変更発言」
 ロシア外務省は9日、「日本政府が南クリル(北方領土のロシア側呼称)の『帰属の変更』について『住民の理解を得る必要性がある』などと発言した」として、モルグロフ外務次官が同日、上月豊久駐ロシア大使を呼び出し、注意を喚起したと発表した。
●プーチン大統領「対話の継続を期待」 安倍首相に書簡
 安倍晋三首相が4日の年頭記者会見で「北方領土には多数のロシア人が住んでいる。日本に帰属が変わることについて納得していただくことも必要だ」と述べており、これを批判したとみられる。同省は「1956年の日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉を加速するとした日ロ首脳の合意の本質をゆがめ、交渉の内容について両国の世論をミスリードするものだ」などとした。また、同省は日本側が「(ロシアによる)『戦後占領』について、ロシアから日本や日本の元住民への賠償を求めない案」についても言及したとも批判している。ロシア・メディアは8日、「平和条約交渉で日本政府が、北方四島の元島民らの財産権侵害に関するものなど、賠償請求権を互いに放棄するよう提起する方針を固めた」とする日本側の一部報道を伝えていた。安倍首相とロシアのプーチン大統領は11月の首脳会談で、歯舞(はぼまい)、色丹(しこたん)の2島の日本への引き渡しを明記した日ソ共同宣言を基礎に、平和条約交渉を加速することで合意した。

*1-2:https://mainichi.jp/articles/20190513/k00/00m/010/160000c?fm=mnm (毎日新聞 2019年5月13日)北方領土「戦争しないと…」維新・丸山議員 国後元島民へ発言
 北方四島ビザなし交流の訪問団の一員として国後島を訪問した日本維新の会の丸山穂高衆院議員(35)=大阪19区=が11日夜、滞在先の国後島古釜布(ふるかまっぷ)で元島民の男性に対し、北方領土問題について「戦争をしないとどうしようもなくないか」「(戦争をしないと)取り返せない」などと発言し、トラブルになった。同行記者団によると、丸山氏は11日午後8時ごろ、訪問団員との懇談中、元国後島民で訪問団長の大塚小弥太(こやた)さん(89)に「ロシアと戦争で(北方領土を)取り返すのは賛成か反対か」と語りかけた。大塚団長が「戦争なんて言葉を使いたくない」と言ったところ、丸山氏は「でも取り返せない」と反論。続いて「戦争をしないとどうしようもなくないですか」などと発言した。丸山氏はロシア人島民宅で飲酒した後で、訪問団員らの制止を聞かずに大声で騒いだり外出しようとしたりしたという。このため複数の団員が「日露友好の場にそぐわない」として丸山氏に抗議。丸山氏は12日、滞在先の古釜布で全団員の前で「ご迷惑をかけたことをおわび申し上げます」と謝罪した。一方、13日に北海道・根室港に戻った後の記者会見では「(マスコミに)発言を切り取られており心外。団員の中では領土問題についてタブーが無く話せると聞いており、団長にも考えを聞いた」などと述べた。発言を受け、日本維新の会の松井一郎大阪市長は同日、大阪市内で記者団に「(丸山氏を)厳重注意した」と語った。丸山氏は当選3回。衆院沖縄北方問題特別委員会の委員を務めている。

*1-3:https://digital.asahi.com/articles/ASM5F7G81M5FIIPE02T.html?iref=pc_extlink (朝日新聞 2019年5月13日)「戦争で取り返すの賛成か反対か」丸山議員の音声データ
 「戦争で島を取り返すのは賛成ですか、反対ですか」――。北方四島ビザなし交流の訪問団の一員として同行した日本維新の会の丸山穂高衆院議員(大阪19区)が訪問団長に質問を繰り返した。同行記者団の音声データに基づく、丸山議員と元島民とのやりとりは次の通り。
●維新・丸山氏「戦争しないと」 国後島で訪問団長に詰問
 丸山氏「今日行ったお墓は、本当に骨が埋まっていないんですよね」
 元島民「と私は思っているんです。もしあれでしたら千島連盟(千島歯舞諸島
     居住者連盟)の担当者に確認します」「骨があるかないかは、それは
     掘り返したわけじゃないから分かりません。(国後島の)古釜布に住ん
     でいた人たちは、おれたちの墓はここじゃないと言っているわけですよ。
     違うところだと言っているわけですよ」
 丸山氏「戦争でこの島を取り返すのは賛成ですか、反対ですか」
 元島民「戦争で?」
 丸山氏「ロシアが混乱しているときに、取り返すのはオーケーですか」
 元島民「戦争なんて言葉は使いたくないです。使いたくない」
 丸山氏「でも取り返せないですよね」
 元島民「いや、戦争するべきではない」
 丸山氏「戦争しないとどうしようもなくないですか」
 元島民「戦争は必要ないです」
 【中略】
 丸山氏「何をどうしたいんですか」
 元島民「何をですか」
 丸山氏「どうすれば」
 元島民「どうすれば、って何をですか」
 丸山氏「この島を」
 元島民「率直に言うと、返してもらったら一番いい」
 丸山氏「戦争なく」
 元島民「戦争なく。戦争はすべきではない、これは個人的な意見です」
 丸山氏「なるほどね」
 元島民「早く平和条約を結んで解決してほしいです」

*1-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/382907 (佐賀新聞 2019年6月4日) 丸山氏、異例の糾弾決議案可決へ、6日にも、与野党が共同提出合意
 衆院議院運営委員会の与野党筆頭理事は4日、国会内で会談し、戦争で北方領土を取り返すことの是非に言及した丸山穂高衆院議員=日本維新の会を除名=について、直ちに進退判断を迫る「糾弾決議案」を共同提出する方針で一致した。6日にも衆院本会議で可決される見通しだ。丸山氏は3日に提出した弁明文書で「人民裁判」と反論。議員辞職にも否定的な考えを改めて示した。丸山氏に関して、与党が提出したけん責決議案と野党の議員辞職勧告決議案は取り下げる。衆参両院事務局によると、国会議員への糾弾決議案提出は例がないという。

<北方領土問題の経緯>
*2-1:http://qbiz.jp/article/147433/1/ (西日本新聞 2019年1月21日) 安倍氏、2島決着案を検討 北方4島返還「非現実的」
 安倍晋三首相は北方領土問題に関し、北方四島のうち色丹島と歯舞群島の引き渡しをロシアとの間で確約できれば、日ロ平和条約を締結する方向で検討に入った。複数の政府筋が20日、明らかにした。2島引き渡しを事実上の決着と位置付ける案だ。4島の総面積の93%を占める択捉島と国後島の返還または引き渡しについて、安倍政権幹部は「現実的とは言えない」と述べた。首相はモスクワで22日、ロシアのプーチン大統領との首脳会談に臨む。「2島決着」に傾いた背景には、4島をロシア領と位置付けるプーチン氏に択捉、国後の返還を求め続けた場合、交渉が暗礁に乗り上げ、1956年の日ソ共同宣言に明記された色丹と歯舞の引き渡しも遠のきかねないとの判断がある。だが2島決着に実際に踏み切れば、日本固有の領土である択捉と国後を放棄したとの批判を招く可能性がある。首相は世論の動向を見極めながら、最終決断を下す構えだ。交渉経過については、公表を避ける意向。先に色丹と歯舞、後に択捉と国後の返還を目指すとした「2島先行返還」の実現可能性についても、首相は悲観的な見方を強めている。首相に近い政府高官は「プーチン氏は同意しない。あり得ない」と強調した。2島先行返還は、首相が当初思い描いていたとされる解決方式。共同宣言にある色丹と歯舞の引き渡しを巡っては、妥協の余地がないと結論づけた。日ロ関係筋によると、首相は昨年11月のシンガポールでの日ロ首脳会談で、宣言に言及し「日本としてこのラインは譲れない」とプーチン氏に伝えていた。同氏は理解を示したとされる。ただプーチン氏は、宣言にある色丹と歯舞の引き渡しに関し、必ずしも主権譲渡を意味しないとの認識を示している。主権引き渡しを求める日本との隔たりは大きい。首相が22日の会談で、難交渉を強いられる展開も予想される。北方領土交渉を巡り日ロ首脳は2016年12月の会談で、北方領土での共同経済活動に向けた協議開始で合意。だが協議は進展せず、昨年11月の会談で、双方は共同宣言を基礎に平和条約締結交渉を加速する方針を新たに確認した。

*2-2:http://digital.asahi.com/articles/ASKBV7JKHKBVUHBI03S.html (朝日新聞 2017年11月6日) 米閣僚、ロシア企業から利益 「パラダイス文書」を入手
 米トランプ政権のウィルバー・ロス商務長官が、タックスヘイブン(租税回避地)にある複数の法人を介して、ロシアのプーチン大統領に近いガス会社との取引で利益を得ていたことが、朝日新聞が提携する国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)の調べでわかった。ガス会社の主要株主には、プーチン氏の娘婿や、米国の制裁対象である実業家らが含まれている。商務長官は外国への制裁判断にも影響力を持ち、複数の専門家が「深刻な利益相反の恐れがある」と指摘している。英領バミューダ諸島などに拠点がある法律事務所「アップルビー」などから流出した膨大な電子ファイル「パラダイス文書」を元に、ICIJがロス氏の資産報告など複数の公文書と合わせて取材した。「ロシア疑惑」に揺れるトランプ政権にとって、新たな火種となることは必至だ。ロス氏は大富豪として知られる投資家だ。2月の商務長官就任時に、米国の法律に従い、保有資産を公開。職務と利益相反になりうるとして大半の資産を手放すことを宣誓し、米上院から承認された。しかし今回の取材で、タックスヘイブンである英領ケイマン諸島で、長官就任後も株を保有する複数の法人を通じて、海運会社「ナビゲーター」(ナビ社)と利害関係を保っていたことがわかった。ナビ社はロシアのガス石油化学会社「シバー」にガス輸送船を貸し出している。両社の取引が拡大すれば、ロス氏も利益を得る構図だった。シバー社はロシアの元国営企業で、プーチン氏の娘婿が取締役を務めるなど、同国政府と密接な関係にある。大株主の実業家も米国の制裁対象で、米国企業は取引が禁じられている。ICIJに対し、米商務省の報道官は「ロス長官は、ロシアなどへの米国の制裁政策を広く支えてきた。高い倫理基準を守っている」などと書面で回答した。(野上英文、高野遼、サーシャ・シャフキン(ICIJ)、マーサ・ハミルトン(ICIJ))

<漁獲量について>
PS(2019/6/6追加):近年、世界でイカなどの水産物漁獲量が増え、それに伴って資源量が減っている。そこで、*3-1のように、スルメイカの資源量も減っているわけだが、日本は世界第6位の排他的経済水域を保有しているため、本来なら有利な筈である。なお、日本人1人あたりの生鮮魚介類購入量は減っているが、*3-2のように、外食・中食による消費は増えており輸出を増やすこともできるので、不漁が続くようなら資源管理だけでなく放流や養殖も考えられる。


              冬生まれ群の     日本人1人あたり      日本の
 世界のイカ漁獲量    スルメイカ資源量   年間生鮮魚介類購入量  排他的経済水域

*3-1:https://www.hokkaido-np.co.jp/article/312445 (北海道新聞 2019/6/6) スルメイカ豊漁期待、函館から中型船出港
 日本海のスルメイカ漁の主力を担う中型船(30トン以上200トン未満)3隻が5日、函館港を出港した。石川県沖の好漁場「大和堆」を目指し、イカの回遊に合わせて北上しながら操業する。港では、家族ら約350人が見守る中、漁船が汽笛を鳴らしながら順次出港した。幸雄丸(184トン、乗組員8人)の島森憲一船長(71)は「不漁が続いているが、イカをたくさん函館に水揚げしたい」と意気込んだ。乗組員の父の見送りに来た北斗市の木村絵未さん(31)は「事故なく帰ってきてほしい」と漁船に向かって大きく手を振っていた。

*3-2:https://www.agrinews.co.jp/p47833.html (日本農業新聞 2019年6月4日) 6次化販売額2・1兆円 小規模事業の底上げ課題 農水省17年度調べ
 農業関連の6次産業化の年間総販売金額(2017年度)が2兆1044億円に上り、2年連続で2兆円を超えたことが農水省のまとめで分かった。関連の雇用者数は28万人に上り、前年度から10%増えるなどの成果も出ている。一方、1事業体当たりの年間販売額は1000万円未満が76%を占め、全体の底上げには結び付いていない。一層の積み増しができるかどうかが課題となっている。農業の6次産業関連の年間総販売金額の内訳を見ると、最も大きいのは、農産物直売所の1兆790億円。前年度から4・5%増えた。次いで農産物加工が9413億円で3%増だった。観光農園は402億円、農家レストランは383億円、農家民宿は57億円で推移。直売所と加工が6次産業化の柱となっている構図が続いている。販売額増加の背景として、同省は「地域ではブランド化などの取り組みが進んでいる。さらに行政による補助事業や相談などの支援も後押しになった」(産業連携課)とみる。6次産業化の進展に伴い、雇用も増えている。農業の6次産業化関連の雇用者数は、28万3400人に上り、前年度比10%増となった。常時雇用、 臨時雇用ともに女性が7割を占めており、6次産業化の拡大に女性が貢献している。農業関連の1事業体当たりの年間販売額は、3392万円に上る。だが販売規模で分けると、100万円未満が最も多く31・8%。100万円以上500万円未満が30・5%と続き、500万円以上1000万円未満は13・5%となっている。半面、年間販売金額が1000万円以上となっている事業体は全体の24・2%と、一部に限られる。小規模事業者を含め、各地の取り組みをいかに伸ばしていくかが問われている。

<日本で夢の新技術が停滞する理由>
PS(2019年6月9日):*4-1のように、「①EVはゼロ・エミッション車と呼ばれるが、発電時に火力発電所等でCO2が出る分を勘案して、ガソリン1リットルで45キロメートル走るエンジン車と同じ環境負荷が発生すると考えて新規制を作った」「②米カリフォルニア州や中国が採用しているEVなどの販売目標台数をメーカーごとに設定するZEV規制は導入しない」「③欧州などの環境先進地でも未導入のこの手法を日本が取り入れたのは一定の意義がある」「④最終の燃費目標を達成するためにどんなエコカーに力を入れるかは各メーカーの選択に委ねる『技術中立的』な規制体系」とのことである。しかし、①は、すべてのEVは火力発電所の電力を利用して走るという架空の仮定に基づいており、再生可能エネルギーの普及も阻んでいる。そのため、③のように、日本以外ではこいう馬鹿な規制を導入しないのである。さらに、この規制は、燃費のみに焦点が当てられており、環境汚染防止の理念はないが、それなら需要者の選択に任せれば経済合理性に基づいて選択するので、政府の介入はいらないのである。そして、②④は、日本政府が、どういう自動車を推進して環境を守るかという理念に欠けていることを示している。
 このように、政策の誤りで企業資金を無駄遣いさせている間に、世界一だったEV技術はどんどん遅れ、再生可能エネルギー技術も遅れた。そして、石油大国のアメリカでさえ、*4-2のように、米ウォルマートと独フォルクスワーゲン(VW)の米子会社エレクトリファイ・アメリカが、米国内のウォルマート120店への電気自動車(V)の急速充電スタンド設置を完了し、今後も順次設置店舗を増やして将来的には全米展開も視野に入れているのだから、充電器の標準規格も日本から離れるだろう。このような日本政府の理念なき政策誘導が、日本の新技術を停滞させてきたのである。
 なお、*4-3に、IMFのラガルド専務理事が、「①世界経済は下振れリスクが存在しており、貿易摩擦が重大なリスクになっている」「②関税がどうなるか不確実だと貿易は利益や繁栄につながらないと指摘した」と書かれており、日本は「まあまあ、緊張緩和しさえすればよいだろう」というように纏めることが多い。しかし、米国が主張している知的財産権の保護や進出企業の技術移転の強制廃止などは、公正な市場を形成するためにどの国にとっても必要な要件であるため、緊張緩和して自由貿易しさえすればよいわけではないのである。

  
    北陸電力より
(図の説明:左図のように、世界の太陽光発電設備は、2006年の6GWから2016年の303GWへと10年で約50倍になり、中央の図のように、世界では最も安価な電力となった。また、まだ発電量の中には入っていないが、右図のような有機薄膜型太陽電池もでき、設置できる場所が著しく広がっている)

*4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190609&ng=DGKKZO45875160Y9A600C1EA1000 (日経新聞 2019年6月9日) 新燃費規制テコに車の革新を
 経済産業省と国土交通省が2030年度までに新車の燃費を16年度の実績値より32%改善することを自動車メーカーに義務付ける新たな燃費基準を定めた。ガソリン1リットル当たりの走行距離を全車種平均で25.4キロメートルに引き上げるというかなり高めのハードルだが、日本車各社は強みとする環境技術に一段と磨きをかけてほしい。地球温暖化問題への貢献と競争力強化の両立こそ、日本車が21世紀も繁栄を持続する道だ。今回の新たな規制には、諸外国に比べて大きな特長が2つある。1つは電気自動車(EV)のような電池で動き、ガソリンを消費しないクルマについても、燃費の考え方を導入したことだ。例えば日産自動車のEV「リーフ」の燃費は45キロメートル程度になるという。EVは走行時にCO2を出さず、ゼロ・エミッション車(ZEV)と呼ばれるが、実際は動力源の電力をつくる際に火力発電所などでCO2が出る。その分を勘案すると、ガソリン1リットルで45キロメートル走るエンジン車と同じ環境負荷が発生する、という考え方だ。環境性能を走行時だけでなく、発電所などの源流に遡って評価する手法を「ウェル・ツー・ホイール(油井から車輪へ)」と呼ぶ。欧州など環境先進地でも未導入のこの手法を日本が先駆けて取り入れたのは一定の意義があり、EVなどの環境性能のさらなる向上を促す効果を期待したい。もう1つは米カリフォルニア州や中国が採用しているEVなどの販売目標台数をメーカーごとに設定するZEV規制を導入しなかったことだ。特定の技術や車種に政府が肩入れするのではなく、最終の燃費目標を達成するためにどんなエコカーに力を入れるかは各メーカーの選択に委ねる「技術中立的」な規制体系といえる。最近は欧州や中国でも、日本が生みの親であるハイブリッド技術を再評価する機運が高まっている。日本メーカーは新燃費規制をテコに環境技術の革新を加速し、世界をリードしてほしい。

*4-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45808630X00C19A6000000/ (日経新聞 2019年6月7日) ウォルマート、EV充電器120店に設置完了 全米展開も
 米ウォルマートと独フォルクスワーゲン(VW)の米子会社エレクトリファイ・アメリカは6日、米国内のウォルマート120店への電気自動車(EV)の急速充電スタンド設置が完了したと発表した。今後も順次設置店舗を増やしていく方針で、将来的には全米展開も視野に入れる。両社は2018年7月、初のEV用充電スタンドをアーカンソー州に置いた。その後約1年で34州にある店舗を対象に、1店あたり平均4~6台の充電スタンドを追加した。出力は150~350キロワットで「車種にもよるが平均20~30分程度」(エレクトリファイの担当者)での急速充電が可能という。ウォルマートでエネルギー部門を担当するマーク・バンダーハイム副社長は「消費者に、環境に配慮した持続可能な選択肢を与えることができる」と説明。「今後はさらに2~3倍の規模までスタンド設置を広げたい」と意気込みを述べた。ウォルマートは全米に約5千の店舗を持ち、その多くが移動に車を必要とする地方にある。利用者が充電を待つ時間に店舗に立ち寄ってもらう狙いもある。現在、EV充電スタンドは需要のある東海岸と西海岸に集中している。エレクトリファイは今後10年で20億ドルを投資し、米南部でも徐々にスタンド設置を広げたい考えだ。同社のブレンダン・ジョーンズ最高執行責任者(COO)は「ウォルマートと共同でゼロエミッション車の普及に貢献したい」と述べた。VWは排ガス不正問題を受けてカリフォルニア州当局との合意に基づきエレクトリファイを設立した。

*4-3:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45874530Y9A600C1EA2000/ (日経新聞 2019/6/8) 世界経済「貿易摩擦のリスク重い」 IMF専務理事
 20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議に出席するため福岡市を訪れている国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事は8日、日本経済新聞などのインタビューに答え、世界経済について「下振れリスクが存在しており、明らかに貿易摩擦が重大なリスクになっている」と指摘した。米中対立を念頭に、緊張緩和に向けた協議の進展に期待を示した。ラガルド氏は日経新聞、テレビ東京、日経BPとの共同インタビューで、2019年後半にかけて世界経済が持ち直すというこれまでの見通しを改めて示した。そのうえで「(貿易摩擦の)当事者は緊張を取り除き、合意するために交渉すると決めている」と語った。トランプ米大統領が7日、メキシコ製品に対する5%の関税発動の見送りを表明したことに関しては「関税がどうなるか不確実だと貿易は利益や繁栄につながらない」と指摘し、歓迎した。「明白なことだが、我々は常に貿易が経済成長のエンジンであるという理念を支持してきた」と改めて強調した。

| 外交・防衛::2014.9~2019.8 | 05:42 PM | comments (x) | trackback (x) |
2019.5.26 人類の移動経路・本能・歴史など (2019年5月27、28、29、30、31日、6月1、2、3日に追加あり)

2018.12.21読売新聞 日本人のルーツ    イヌイットの女性 現生人類の世界への拡散

(図の説明:左図は、北海道礼文町船泊遺跡で発掘された縄文女性の臼歯に残っていたDNAから復元された顔で、現在の日本人にもよく見かける顔だ。その日本人は、左から2番目の図のように、3000年以上前に渡来した縄文人と3000年前以降に渡来した弥生人に分けることができるが、渡来は何度も起こっており単純ではない。しかし、縄文人やアイヌ人が先住民であることは確かで、右から2番目の現在のイヌイット人女性の顔と似ている。なお、右図のように、現生人類の共通祖先は20万年前にアフリカで誕生し、他の人類と混血しながら世界に広がったことがわかっているが、今後の研究には法医学等の医学分野の貢献も期待される)

(1)人類の本能と文化
1)DNAから科学的に人類史を紐解くことができるようになった生命科学の革命
 中学・高校で「縄文人」「弥生人」などと使用した土器による分類を教わった時には、「納得できない」「歴史は暗記科目だ」と感じたが、現在ではDNA解析・比較文化・行動学などから科学的に現生人類であるホモサピエンスの発生と移動経路をトレースできるようになり、これは画期的なことだ。また、どの民族にも現生人類の移動経路は興味深く、移動経路が判明すれば人種差別や戦争を収束させる力にもなるだろう(http://www.brh.co.jp/seimeishi/journal/087/research/1.html 生命誌ジャーナル参照)。

 そのような中、*1-1のように、遺伝子を高速で読み取る装置を使って、1998年に日本列島北端の北海道礼文町船泊遺跡で発掘された縄文人の臼歯内DNAの遺伝情報(ゲノム)の99%を解読することに成功し、約3800年前の縄文人女性の顔が再現された。特徴は、「シミの目立つ濃い肌の色」「細く縮れた髪」「血液型はA型」「湿り気のある耳あか」「酒に強い」「脂肪の多いアシカなどを狩猟していた船泊の縄文人は、極端な高脂肪食でも健康を保てるよう適応した可能性が高い」などで、その顔は現在の日本でもよく見かける女性だ。

 この脂肪を分解しやすい遺伝子変異は、*1-2のように、北極圏に住むイヌイット等の7割で見つかるが、狩猟をしなくなった現在の日本人にはほとんど見られない。しかし、この遺伝子によって作られる酵素は、また高脂肪食になった日本人の高脂血症の解決に役立ちそうである。

 このような現生人類の移動経路や混血状況を調べるには、古代の日本人だけでなく現在の日本人・近隣や世界の人々の遺伝情報を比較する必要があり、それは既に始まっている。これに加えて、食物・農耕・言語・文字・宗教などの文化を比較すれば強力な裏付けになるわけだ。

 なお、古代人のDNA解析は、2010年に目覚ましい成果が相次ぎ、ドイツなどの研究チームがネアンデルタール人と現生人類との間に混血があったことを証明した。また、南シベリアのデニソワ洞穴で見つかった「デニソワ人」は、現在のパプアニューギニア人にDNAの一部を残しており、東アジア全体で暮らしていたとのことである。

2)差別に見られる意識の低さ
ア)部落差別について
 日本維新の会が今夏の参院選比例代表公認候補に決定していたフリーアナウンサーの長谷川氏が、*1-3のように、江戸時代に士農工商の下にあった穢多・非人に言及し、無知と偏見に基づく差別発言を行ったそうだ。

 しかし、非差別部落は士農工商の厳しい身分制度の下で、農工商の民衆を統治するために、さらに下の身分を作って「上を見るな、下を見ろ」と言って不満のはけ口とし、為政者が民衆を分断したのだということは日本史で勉強済である。また、2016年には部落差別解消推進法が成立しているため、今でもそれを繰り返しているのは、無知で情けない人たちだ。

 なお、人権意識の高まりによって、反差別のテーマが在日外国人・女性・障害者などへと裾野を広げたのはよいことだが、差別を助長するインターネット上の書き込みが多いのは何とかすべきである。

イ)高齢者差別について
 ざっくり言うと、人類を含む哺乳類は、食物が不足するなどの親の生存も危うい場合を除いて、子が生まれるといとしく感じて授乳し、子を護る本能がある。また、そういう本能を持たない個体のDNAは、子孫を残せないため残っていない。

 一方、親を大切にする本能は、種の保存に不可欠ではないので組み込まれておらず、人類は「親孝行」という言葉や文化を作って道徳として大切にしてきた。それが「親孝行」という言葉があっても、「子孝行」という言葉がない理由だと言われている。

 このような中、最近は、*1-4のように、若者と高齢者を対立軸として分断し、どちらに社会保障を振り向けるかという論調を政治家・行政・メディアが氾濫させており、一般人にもそうことを言う人が増えた。しかし、これは、これまで政府がサボってきた社会保障財源の引当不足という失政を、国民を若者と高齢者に分断して対立させることによってごまかす手段のお先棒をメディアが担ぎ、賢明でない国民が騙されているいつか見た光景である。

 さらに、*1-4は、「①投票者の4割を占める高齢者の意見が反映されやすいシルバー民主主義はよくない」「②社会保障給付は医療・年金・介護が約9割を占め、対象は主に高齢者」「③少子高齢化が進み、若い世代ほど給付より負担が重い」「④高齢者に給付の抑制や負担を求める案が現実的だが、当事者は受け入れがたい」「⑤『頑張って保険料を納付してきたのに、年金を減らされることは認められない』という高齢者は、冷静でなく感情的だ」としている。

 しかし、①の「高齢者割合が高まる」というのは、平均寿命から見て高齢者とされる年齢が低すぎるし、全体の傾向は人口構造を見ればずっと前からわかっていたことで、その人たちが働き盛りの間に納付した保険料を発生主義で引当てず、関係のないところに無駄遣いしていたのは、完全に政府の失政であり高齢者の責任ではない。さらに、シルバー民主主義は問題などとして、年齢で票の重みを変えるなどという発想は、民主主義を理解していないことが明らかだ。

 なお、「投票率は若者が低く、高齢者が高い」のは、これから働いて稼ぐことが可能な若者が政治に頼らず働くことに専念するのは自然であり、高齢者は選挙権を大切にしていると同時に、高齢になるほど既に保険料を支払っており、やり直しがきかないため、政治への依存度が高くなるからだ。また、日本のTV番組がぼやっとして普段から政治の論点を適格に議論して伝えていないのは、有権者全体が政治に無関心になるのを促進している。

 私自身は、自分の知識と経験から、子育て支援や教育無償化を一生懸命に進めてきたが、だからといって、②③④⑤のように、その財源は高齢者の社会保障分から分捕ればよいという本能丸出しで文化を捨てたような発想はしたことがない(マニフェスト・プロフィール参照)。

ウ)外国人差別について
 このような中、*1-5のように、2019年4月1日から本格的な外国人労働者の受け入れが始まったが、差別・暴言・冤罪の押し付けはなくなるだろうか。女性もまた、外国人同様、そのことを理由に、誹謗中傷や侮辱をされるなどの差別的対応を受けることが多いが、日本社会を支えている人に対する前近代的で不合理な価値観の押し付けは早々にやめるべきである。

(2)日本史の真実は・・
1)卑弥呼の里、佐賀県吉野ヶ里町と神崎市
 当時の文字による歴史記録である魏志倭人伝によると、*2-3のように、倭国は、末盧國、伊都国、奴国など玄界灘湾岸の国であることは明らかで、その南にあるとされる邪馬台国の位置は、中国の専門家が指摘するとおり、音と方角に注目すればよい。そのため、「日の国」邪馬台国は、九州の肥前と肥後の間、つまり*2-1の吉野ケ里遺跡の場所になると思われる。

 従って、女王に従わない邪馬台国の南にある狗奴国は、球磨国(熊本県)の聞き違いであると思われ、邪馬台国から水行20日とされる投馬国(とうまこく:所在地不明)は、投与国(とよこく)の読み違いで、それなら豊前と豊後のある大分県になる。

 なお、大分県宇佐市には宇佐神宮があり、それは八幡宮の総本社で古くから皇室の崇敬を受けており、主祭神は神功皇后、応神天皇、宗像三女神だ。また、大分県臼杵市は石仏で有名だ。また、何故なくなったのかは不明だが、『日本書紀』の神功紀に引用される『晋起居注』に、泰初2年(266年)に倭の女王の使者が朝貢したとの記述があり、現存する『晋書』武帝紀と四夷伝には、266年に倭人が朝貢したことは書かれているが、女王という記述は無いとのことである。

 そのため、卑弥呼の宗女とされる13歳の女王壹與(トヨ)は、投与国(大分県)の人で神功皇后だと考えられる。その後、日本書紀に書かれているとおり、応神天皇(=神武天皇と言われている)が東遷して大阪・奈良付近に都を作り、大和朝廷になったのだろう。

 *2-2には、「卑弥呼の死と壹與の王位継承は、それ程年月が経っていない」と書かれているが、その間に「倭国大乱」があったため、ある程度の時間はあったと思われる。そのため、今後の真実の追及には、遺伝子調査、まっすぐな視線での日本書紀や神社伝承などの再解読、中国史や中国の専門家による意図的でない裏付けが必要だ。

 また、*2-4のように、「百舌鳥・古市古墳群」の仁徳天皇陵古墳(大山古墳、堺市)などを日本政府がユネスコの世界遺産委員会に推薦し、6月に世界遺産への登録が決まるそうだが、この「仁徳天皇陵」をしっかり調査すれば古代史の真実がさらに明らかになると言われている。しかし、日本の考古学の専門家は未だにあまり調査していないのだ。

2)現代の皇室と邪馬台国・大和朝廷の関係

    
   2019.5.8東京新聞    2019.5.13朝日新聞   2019.5.14西日本新聞

(図の説明:左の2つは、奈良時代そのままの衣装で「期日奉告の儀」に望まれる天皇・皇后両陛下で、右から2番目は、「斎田点定の儀」で亀卜に使った亀の甲羅。一番右は、「百舌鳥・古市古墳群」の仁徳天皇陵だ)

 大嘗祭で神々に供える米を作る都道府県を選ぶ「斎田点定の儀」が、2019年5月13日午前に皇居で行われ、そのやり方は、*3のように、亀卜と呼ばれる亀の甲を焼く占いで、火であぶったひび割れの具合で吉凶を判断し、「吉」と出た都道府県を選ぶのだそうだ。

 亀卜は卑弥呼が行っていた占いと同じで、中国では殷代に既に亀卜を行っており、殷墟から見つかった卜亀は淡水性や陸ガメの甲羅であるのに対し、日本で出土する卜亀は全て海亀の甲羅で、『延喜式』によると、亀甲の調達は紀伊(伊勢神宮のある場所)が最も多く、卜部は対馬から10人、壱岐から5人、伊豆から5人が選ばれることが多いそうだ。

 そのため、現代の皇室の祖先は、大陸からの渡来系稲作民族で(それでも十分古い家系)、しばらく九州にいた後、東遷して大阪・奈良地域に行き、儀式には今でも亀卜などの歴史上重要な伝統が受け継がれていることがわかる。

注)日本国憲法に定められた「言論の自由」「表現の自由」は、こういうことを書いた時に、「不敬罪」等に問われないために作られた規定である。

・・参考資料・・
<人類の本能と文化>
*1-1:https://www.yomiuri.co.jp/local/kansai/feature/CO036740/20181221-OYTAT50007/ (読売新聞 2018/12/14) 縄文人の姿遺伝子で再現
 年間企画「平成時代~DNAの30年」最終部となる第4部は、遺伝子研究で活躍する各分野の専門家にその最前線や将来像などを聞く。初回は、古代人の骨に残されたDNAから人類史を解き明かす神澤秀明・国立科学博物館人類研究部研究員(33)だ。「船泊のDNA解析がうまくいったのは、根気と『骨運』が良かったおかげ」と話す神澤さん(茨城県つくば市で)「船泊のDNA解析がうまくいったのは、根気と『骨運』が良かったおかげ」と話す神澤さん(茨城県つくば市で)。東京・上野の国立科学博物館で、今年3月に公開された約3800年前の縄文人女性の顔(粘土像)は、少し風変わりだった。茶色い目。シミの目立つ、濃い色の肌。細く縮れた髪の毛。まるで見てきたようなこれらの特徴はすべて、昨年解読された縄文人女性の遺伝子データを基にした、国内初の復顔だった。「血液型はA型で、耳あかは湿り気があり、もしお酒があるなら強い女性だった。ここまで突き止められたことには自分も驚いた」。女性は1998年、日本列島の北端にある礼文れぶん島(北海道礼文町)の船泊ふなどまり遺跡で骨が発掘された。骨の形などから高齢の女性とまでは推定され、その後は札幌医科大で長く保管されていた。
 ■□■
 2000年代後半、遺伝子を高速で読み取る装置「次世代シーケンサー」が普及し、ごく微量のDNAも解析可能になった。ただDNAは歳月を経ると分解するため、古代人の骨から採れる保証はない。「特に日本のような高温多湿な環境では分解しやすい。船泊は日本列島にある遺跡の中で最も寒く、DNAが残りやすいと目を付けた」。3年前に研究に着手。下あごの骨から抜いた臼歯の中を丁寧に削った試料を使って、試行錯誤を重ねながら解析した。その結果、現代人とほぼ同じ高い精度で、全遺伝情報(ゲノム)の99%を解読することに成功した。世界でもトップクラスの成果だ。この女性に特有の遺伝子の変異を調べると、脂肪をあまり代謝しない体質とわかった。現代では脂肪からエネルギーを採れないと低血糖などの病気になりかねない体質だが、脂肪が多いアシカなどを狩猟していた船泊の縄文人は、極端な高脂肪食でも健康を保てるように適応した可能性が高いという。「これまで想像するしかなかった祖先の本来の姿に加えて、どのような能力を持ち、どのような生活を送っていたのかまで、ゲノムでわかる時代になった」
 ■□■
 生物の高校教師を目指して大学に進んだ。4年生だった08年、古代人のDNA解析を紹介する1冊の入門書に出会う。「日本人の起源を自分で解明できたら面白い。人類の歴史にDNAから切り込める可能性に、魅力を感じた」。大学院に進み、古代のDNA解析が先行する海外の論文を読んで手法を学びながら技量を磨いた。DNA解析の進歩で、何人ぐらいの集団で暮らしていたのか、どこの地域から渡ってきたのかもわかるようになったという。だが大陸から離れた列島に暮らす日本人のルーツにたどり着くには、日本に残っているDNAだけでは不十分だ。「東アジアに広げて解析すれば、稲作などの文化がどのように伝わってきたのかも見えるだろう」。古代史の扉を開く夢は、まだ始まったばかりだ。
◇古代人解析から新種発見
 古代人のDNA解析は、2010年に目覚ましい成果が相次いだ。ドイツなどの研究チームは絶滅した旧人・ネアンデルタール人のDNA情報を公開し、現生人類と混血していることを示した。アフリカから6万年前には移動を始めたとされる我々の祖先との間に、子どもを作っていたことになる。南シベリアのデニソワ洞穴で見つかった3万~5万年前の指などの骨は、新種の旧人と判明。全身骨格はなく、DNA解析で“発見”された初の人類で「デニソワ人」と命名された。現在のパプアニューギニアなどに住む人にDNAの一部が残っており、東アジア全体で暮らしていたらしい。日本でも三貫地さんがんじ貝塚(福島県)、伊川津いかわづ貝塚(愛知県)などから出た縄文人の骨の解析が進んでいる。
◇言語に関わる発見楽しみ
 アフリカで誕生したとされる人類は猿人、原人、旧人を経て現生人類(新人)になったと、学校で習った記憶がある。現生人類以外の人類は絶滅したが、DNA解析で判明した旧人と現生人類との混血は、現生人類の進化が複雑だったことを示している。絶滅した古代人類の能力を、私たちはDNAを通じて手に入れた可能性もある。言語の習得に必要とされる遺伝子のルーツが解明されれば、人類がいつどこで言語を獲得したのか、わかるかもしれないという。どんな新発見が広がるか、楽しみだ。

*1-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14012895.html (朝日新聞 2019年5月14日) 縄文人は脂っこいもの好き? 脂肪分解しやすい遺伝子解析
 北海道にいた縄文人は脂っこい食べ物が好きだった? 国立科学博物館などの研究チームは13日、北海道礼文島の船泊(ふなどまり)遺跡から出土した縄文人の全ゲノム(遺伝情報)について、世界で初めて高精度な解析に成功したと発表した。北極圏に住む人たちのように、脂肪を分解しやすい遺伝子の変異が見つかった。遺跡からは海獣の骨が見つかっており、アシカなどを狩猟していた生活様式が遺伝子情報からも裏付けられた形だ。科博の神澤秀明研究員らは、礼文島で発掘された約3800年前の女性の臼歯からDNAを抽出することに成功。高い精度で解析した遺伝子の特徴から、この女性は、脂っこい食べ物を食べてもおなかを壊したり、体調を崩したりしないような高脂肪食の代謝に有利な特徴があることがわかった。こうした特徴は、イヌイットら北極圏に住む人たちの7割で見つかるが、狩猟生活をしなくなった現在の日本人にはほとんど見られなくなっているという。当時、中国大陸ではすでに農耕が始まっていたが、縄文人はなお狩猟に頼っていたらしい。チームは昨年、遺伝子情報の解析結果の一部から、この縄文人女性は目が茶色で髪の毛は細く縮れ、肌は色が濃く、シミがあったと推測。今回さらに、お酒に強く、耳あかは湿ったタイプだったこともわかった。神澤さんは「古代人のゲノム研究で常に参照されるデータになる。現代人にみられる遺伝的な病気の起源を知ることにも重要だ」と話している。

*1-3:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/512841/ (西日本新聞社説 2019/5/24) 部落差別発言 「人権」の原点に立ち返れ
 無知と偏見に基づく看過できない差別発言である。全国的に顔が知られているフリーアナウンサー長谷川豊氏(43)が講演で、江戸時代の身分制度に言及した。部落解放同盟が出した抗議文によると、「士農工商の下に、穢多(えた)・非人(ひにん)、人間以下の存在がいる」と発言した。さらに「人間以下と設定された人たちも性欲などがあります。当然、乱暴なども働きます」と述べた。一般的な暴漢からの身の守り方に話をつなげたかったようだ。
▼問題点どこにある
 どこが差別に当たるのか-。第一に「穢多・非人」のくだりである。実際に存在した身分だ。劣悪な住環境に置かれ、まさに「人間以下」の扱いを受けていたとされる。為政者による民衆の分断支配に利用されたのだ。その呼称は今、差別をなくす研究や運動の中では歴史的な用語として、むしろ積極的に登場する。ただ、一般的には被差別部落へのさげすみの言葉としてしばしば用いられる。長谷川氏のように、何の注釈もなく世にさらせば「差別語のばらまき」にすぎない。第二は、そうした被差別者を「プロなんだから、犯罪の」と決めつけ、集団暴行を働くかのように発言している点だ。解放同盟の抗議文は21日付で出され、当該部分について根拠をただしている。長谷川氏は翌日、自身の公式ホームページで、こう釈明した。〈今、自分で(講演録を)読んでも訳が分かりません。まず身分制度の話と暴漢に襲われる話が全くリンクしていません〉。その上で〈弁解の余地のない差別発言〉と認め、〈これから「人権」について全力で真剣に学んでいく〉と記した。講演全体の趣旨がどうあれ、当然の対応である。長谷川氏については、日本維新の会が、今夏参院選の比例代表公認候補に決定していた。超党派による議員立法で2016年に部落差別解消推進法が成立している。長谷川氏が、そうした法律にものっとって人権を擁護すべき国会議員の候補として、適格性に欠けるのは明らかではないか。以前、人工透析患者の尊厳を踏みにじる暴言もあった。同氏が元はフジテレビアナウンサーだったことも、報道メディアの一員として私たちは問題提起し、自省もしなければならない。言葉は人の命さえ奪う「凶器」になる-。言論人として最も肝に銘じなければならないことだ。12年には、週刊朝日(朝日新聞出版)が橋下徹大阪市長(当時)の出自と被差別部落の地名を一方的に暴く形で、橋下氏に関する連載を始めた。同氏の名を差別的、侮辱的な呼び方で記すなどして社会的批判を浴びた。連載は1回で打ち切られた。1970年代に社会問題化した部落地名総鑑事件に匹敵する確信犯的な差別事件だ。私たちがショックを受けるのは、運動団体を中心に長年にわたって行政、教育機関、メディアなどが、時には激しくぶつかり合いながら築いてきた「反差別」の取り組みが、こんなに簡単に足元から崩れ去るのかという現実だ。日本の反差別運動の原点は、被差別部落の人々が22年に結成した全国水平社にある。解放同盟の前身だ。有名な宣言文で「人の世に熱あれ、人間に光あれ」と高らかにうたった。
▼同和は終わったか
 「穢多・非人」という身分は1871年、明治政府による解放令で廃止された。だが、実態は何ら変わらなかった。水平社誕生の歴史的背景だ。水平社の運動は当初、差別言動を行った個人に対する糾弾闘争が主だった。それでも差別はなくならない。偏見を生む劣悪な住環境などを改善しない限り、差別は続くのではないか。そうした問題意識から「同和問題の解決は国の責務であり国民的課題」として1969年に初の事業法が制定された。学校や職場で教育や啓発が進んだ。その後、反差別のテーマは在日コリアン、女性、障害者、性的少数者(LGBT)などへと大きく裾野を広げていった。人権運動の歴史的な前進である。一方で、懸念された問題が今、現実化しているように思えてならない。「同和問題は終わった」とする風潮である。近年、大きな問題となっているのは差別を助長するようなインターネット上の書き込みだ。「部落差別」を初めて法律名に入れた差別解消推進法は、そうした新しい事態への対応策として生まれた。反差別運動は今、原点に立ち返る時期を迎えているのではないか。私たちはそう考える。

*1-4:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO26419410R00C18A2000000/ (日経新聞 2018/2/2) 進むシルバー民主主義 65歳以上が投票者の4割
 国会議員はよく「国民や有権者の意見を聞く」と口にする。この「国民」「有権者」とは、どのような人をイメージしているのだろう。若者なのか、高齢者なのか。少子高齢化が続くなか、近年は高齢者の意見が反映されやすい「シルバー民主主義」という言葉が広がっている。国会議員を選ぶ票はどの世代が投じているのかを分析した。「頑張って保険料を納付してきたのに、年金を減らされることは認められない」。日本維新の会の足立康史幹事長代理は最近、こう言われて驚いた。相手は年配の支持者。普段は冷静な人だが、高齢の富裕層に年金抑制を求める政策案への意見を尋ねると、急に感情的になったからだ。社会保障給付はいま医療・年金・介護が約9割を占め、対象は主に高齢者。少子高齢化が進み、若い世代ほど給付より負担が重い。高齢者に給付の抑制や負担を求める案が現実的だが、当事者は受け入れがたい。選挙区を回る政治家はその空気を肌で感じる。いまは「シルバー民主主義」といわれている。高齢者の投票行動が大きな影響力を持つ2つの構造的な現象があるからだ。(1)急速な少子高齢化で、人口に占める高齢者の割合が高まっている(2)投票率は若者は低く、高齢者は高い――という要素だ。まず高齢者の割合だ。2017年10月時点の総務省の人口推計の概算値は1億2672万人。このうち65歳以上は27.7%。一方、20~30歳代は21.7%にとどまる。次に投票率をみてみよう。同省が昨年10月の衆院選で年齢別投票者数を抽出調査した結果をみると、投票率は年齢が上がるごとに高くなる傾向が顕著だ。5歳ごとの年齢階層別では、60~64歳から75~79歳までは全て7割を超える高水準だ。それが50歳代は6割台、40歳代は5割台、30歳代は4割台、20歳代は3割台と、きれいに下がっていく。2つの調査をもとに、実際に投票した有権者の数を推計してみた。5歳ごとの年齢階層別で最も投票者が多いのは65~69歳で、700万人を超えた。この層は、第2次世界大戦直後のベビーブームに生まれた「団塊世代」。子育てを終えて年金を受給し始めている人が多い世代が、選挙で「大票田」になっている。65歳以上の高齢者は投票者全体の4割近くにのぼる。65~69歳を除く40歳以上の各世代はそれぞれ500万人前後。それが30歳代以下では若くなるほど投票者が減り、20~24歳は200万人を割った。18~39歳は全体の2割にとどまる。子育て世代やこれから結婚や出産を考える世代の票は存在感が薄い。過去の推定投票者数と比べると、団塊世代が年をとるにつれ「高齢者の声」がどんどん大きくなることが分かる。1980年の衆院選で最も投票者が多かった年齢層はこの時に30~34歳だった団塊世代で、800万人近くいた。年齢階層別の投票者数の分布は、年齢が上がるほど先細りになる右下がりの三角形に近い。子育てまっただ中の世代の票が厚みを持ち、65歳以上の高齢者は全体の約13%と、存在感は大きくなかった。その20年後の2000年衆院選。団塊世代は50~54歳になり、やはり最多投票層だった。投票者数の分布は高齢者と若年層が少ない山の形。この時は「大票田」の年齢層はまだ働く現役世代だった。これまでの傾向を考えれば、今後も投票者数の分布はさらに右肩上がりの三角形になる可能性がありそうだ。安倍晋三首相は昨年の衆院選で「全世代型社会保障」を打ち出した。財政健全化に充てる財源の一部を、子育て支援や教育無償化に回す。借金返済は将来に先送りする。「若者と高齢者の対立ではなく、生まれる前の将来世代にツケを押し付け、若者も高齢者も給付を受けているのが現実だ」。中部圏社会経済研究所の島沢諭主席研究員はこう指摘する。シルバー民主主義は、有権者間の世代間不公平から、有権者と非有権者の間の不公平の時代に入ろうとしている。問題は高齢者の発言力が強いことだけではない。18歳未満やこれから生まれてくる世代の声を誰がどのように政治に反映するかだ。
■将来世代の意思は?
 シルバー民主主義への問題意識から、若者の投票をできるだけ政治に反映させる工夫も出てきている。2016年からは選挙権年齢を「20歳以上」から「18歳以上」に下げ、若い有権者を増やした。13年にはインターネットを使った選挙活動を解禁し、若者の政治参加を促した。それだけでは足りない――。そう考える学者は選挙制度改革も提案している。例えば「世代別選挙区制度」。選挙区を年齢階層別に分け、各世代の代表の政治家を選ぶ構想だ。30歳代以下は青年区、40~50歳代は中年区、60歳代以上は老年区と分け、各世代の有権者数に比例した定数を割り当てる。若い世代の投票率が低くても、各世代の人口に比例した議会構成にできる。政治が短期的な視点にならない仕組みにするのは「余命別選挙制度」。余命に応じて投票権に重みをつけ、若い人の一票を高齢者の一票よりも重くする。投票権を持たない将来世代に配慮する制度もある。「ドメイン投票方式」だ。投票権を持たない未成年に投票権を与え、その親が代わりに投票する仕組みだ。とはいえ、こうした選挙制度改革が実施できるかというと、かなり難しい。いま大きな影響力を持つ高齢者の世代が反対するのは必至だからだ。理論としての研究にとどまり、現実政治の俎上(そじょう)に上ることは期待薄だ。八代尚宏・昭和女子大学特命教授は「借金依存の年金制度は現時点で大きなリスクがある。高齢者に自分の問題だと説明すれば、ある程度の負担増は受け入れられる」と強調する。高齢者票の反発を恐れず説明しなければならない。
■各世代で応分負担を
 大阪市長などを務めた橋下徹氏が、70歳以上の市民が無料で乗車できた市営地下鉄・バスについて、利用者の負担を求めたことがある。橋下氏がその後、政治生命を懸けて「大阪都構想」の住民投票に臨み、反対多数で敗れた。報道各社がその時に実施した出口調査では、20~60歳代は過半数が賛成していた。一方で70歳代は6割以上が反対だった。市民の人気が高いとされていた橋下氏は「高齢者層に負けた」とも言われた。有権者の年齢別の割合をみると、国・地方問わずどんな政策でも高齢者の存在は無視できない。だが将来世代にツケを残すことは許されない。政治家は遠回りでも、社会保障や財政の実態を正面から説明し、各世代に少しずつ負担を求めるしかないのではないだろうか。

*1-5:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181024-00010000-wordleaf-bus_all (The Capital Tribune Japan 2018/10/24) 本格的に外国人労働者を受け入れへ、差別や暴言はなくなるのか
 安倍政権が本格的な外国人労働者の受け入れに舵を切ったことで、今後、より多くの外国人労働者が日本にやってくることになりました。コンビニ業界や外食産業などは外国人労働者がいないと業務が成り立たない状況ですが、日本人の利用客による暴言など、日本側がこの状況に対応できないケースも目立ちます。都市部のコンビニでは従業員のほとんどが外国人というケースも珍しくありませんが、一部の利用客が、日本語がそれほど上手ではない店員に対して「まともな日本語を話せ」「何言ってんだかわかんねーよ」などといった暴言を浴びせているという事例がネットで報告されています。基本的にコンビニの場合、一定以上の日本語能力がなければ採用されませんので、まったくコミュニケーションが取れないという状況ではないと考えられます。あるコンビニでは店舗のオーナーが「暖かい目で見て欲しい」とわざわざ張り紙を出した事例もあります。法務省の調査によると、外国人であることを理由に侮辱されるなど差別的な対応を受けた経験のある外国人は約3割となっています。もっとも多いのは「見知らぬ人」で全体の53.3%、続いて、職場の上司や同僚、取引先など仕事関係が38%、近隣住民が19.3%、公務員や公共機関の職員が12.9%となっています。諸外国でも移民やマイノリティに対して一部の国民が暴言を吐くというのは時々見られる光景ですが、都市部を中心にここまで外国人労働者が増えているにもかかわらず、日常的な場所でこうした暴言が散見されるというのは、同質社会である日本ならではといってよいでしょう(ニューヨークなどに行くと、英語をほとんど話せないタクシー運転手がいたりしますので、これにいちいちクレームを付けていてはキリがないというのが現実です)。日本で仕事をするなら日本とまったく同レベルの会話ができなければ困るという意見もあるようですが、彼等は日本に押しかけているわけではありません。深刻な人手不足に対応するため、むしろ政府が積極的に外国人労働者を招致しているというのが現実です。日本の相対的な賃金レベルは下がる一方ですから、日本の方から積極的にお願いしないと日本に来てくれなくなるかもしれません。日本はいまだに前近代的なムラ社会の風習を引きずっていますから、同じ日本人同士でも、ライフスタイルや価値観が違う人とはうまくコミュニケーションを取れない人が少なくありません。外国人とうまくコミュニケーションできない本当の理由はこのあたりにありそうです。しかし、日本は国民の選択として外国人の積極的な受け入れを決断したわけですから、対応は待ったなしといってよいでしょう。

<日本史の真実>
*2-1:https://www.nishinippon.co.jp/nnp/saga/article/510436/ (西日本新聞 2019年5月16日) 人気呼ぶ吉野ケ里歴史公園 多彩な遊具や体験イベント 2年連続で来園者最多 [佐賀県]
 吉野ケ里歴史公園(神埼市、吉野ケ里町)が人気を集めている。昨年度の年間来園者数は77万3969人に達し、2年連続で過去最多を更新。歴史ファンというよりも、家族連れが目立つ。来園者の声を聞き、その魅力を探った。「子どもが『行こう』ってせがむんです」。伊藤明美さん(38)は福岡市から長男の類都君(5)を連れて遊びに来た。自宅近くの公園は狭く、老朽化などで遊具が撤去されたところも少なくないという。吉野ケ里歴史公園は面積約104ヘクタールと広大。西口に近い「古代の原ゾーン」の「遊びの原」が類都君のお気に入りだ。トランポリンのように軟らかいドーム形の遊具「ふわふわドーム」で、1時間以上飛んでいることも。「毎日でも来たい」と類都君。アスレチックやローラー滑り台などの大型遊具が充実し、そばにスタッフが常駐して安全に遊べる。お昼時になると、「野外炊事コーナー」から食欲を誘う香りが漂う。利用を申し込めば火気が使用でき、テントを張ってバーベキューを楽しめる。家族や友人とパーティーを開いていた鳥栖市の池田秀さん(29)は「近くに病院もトイレもあり、小さい子どもが一緒でも気軽にアウトドア気分を味わえる」。芝生広場「弥生の大野」で、長女と大玉を転がしていた佐賀市の江口あいさん(41)は「歴史を勉強するための場所というイメージが強かったが、こんなに楽しめるとは思わなかった」。雑貨などを販売する公園北口のイベントに訪れたが、子どもが一日中遊べる場所があると「ママ友」に聞き、西口エリアにも足を伸ばした。来園者の増加を後押しするのは、家族連れをターゲットにした料金見直しもある。子ども連れの入園料が無料になる県発行の招待券「子育てし大“券”」(期間限定)の配布が2016年度に始まり、昨年4月から中学生以下の入園料が無料となった。人気の西口エリアから、復元された竪穴住居などが並ぶ東口エリアの「環壕集落ゾーン」に来園者を呼び込もうと定期的にイベントを開催。熱気球に乗って上空から遺跡を見学できる遺跡展望は毎回子どもたちに人気だ。今月は18、19の両日午前9時から開かれる。今年の来園状況も順調だ。4月28日~5月6日までの10連休には昨年同期比で約2万人増の12万8633人が訪れた。公園担当者は「身近で楽しい『公園』として足を運んでもらうことから、遺跡の歴史にも興味を持ってもらえたらうれしい」と話している。
●来園者数の推移
 吉野ケ里歴史公園の来園者は開園初年度の2001年度に68万1041人となったが、3年後の04年度には41万5079人にまで落ち込んだ。火おこしなど古代体験ができる施設などを整備し、イベントなどを打ち出したことで、来園者は増加傾向に転じた。15年度に初めて70万人台を突破すると、17年度は73万5770人となり、過去最多を更新。18年度は、さらに約3万8千人上回った。

*2-2:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%B0%E4%B8%8E (ウィキペディア、台与より抜粋) 
●臺與
 臺與(「とよ」あるいは「いよ」、生没年不詳)は、日本の弥生時代3世紀に『三国志 (歴史書)』、魏志倭人伝中の邪馬台国を都とした倭の女王卑弥呼の宗女にして、卑弥呼の跡を13歳で継いだとされる女性である。魏志倭人伝中では「壹與」であるが、後代の書である『梁書』『北史』では「臺與」と記述されている。「台与」は「臺與」の代用。臺與の表記・読みについては異説が多く詳細は後記。
●事跡
 魏志倭人伝によると、正始8年(247年)に帯方郡太守として王頎が着任した。倭国は帯方郡へ載斯烏越ら使者を派遣し、親魏倭王の女王卑彌呼に未だ従わない狗奴国の男王卑弥弓呼を攻撃中であると(王頎に)報告した。太守は塞曹掾史の張政らを派遣し、詔書および黄幢(魏帝軍旗)を難升米(なしめ)に授けて和平を仲介した。後に女王卑弥呼が死ぬと径百余歩の大きな塚を作り、奴婢百余人を殉葬した。ところが、後継者として立てた男王を不服として国が内乱状態となり、千余人が誅殺し合った。改めて卑彌呼の宗女である壹與を13歳の女王として立てた結果、倭国は遂に安定した。張政らは(幼くして新女王となった)壹與に対し、檄文の内容を判りやすく具体的に説明した。壹與は倭国大夫率善中郎將の掖邪狗ら二十人を随行させた上で張政らを帰還させた。その際、男女生口三十人を献上すると共に白珠五千孔、靑大勾珠二枚および異文雑錦二十匹を貢いだ。とされる。 張政が倭に渡った正始8年から卑弥呼の死と壹與の王位継承は、それ程年月が経っていないと思われる。『日本書紀』の神功紀に引用される『晋起居注』(現存しない)に泰初(「泰始」の誤り)2年(266年)に、倭の女王の使者が朝貢したとの記述がある。現存する『晋書』武帝紀と四夷伝では、266年に倭人が朝貢したことは書かれているが、女王という記述は無い。卑弥呼#神功皇后説にもあるように、江戸時代にはこの女王は卑弥呼と考えられていたが、卑弥呼は249年(正始10年)までに逝去(『梁書』)してしまっていることから、近年ではこの倭国女王は台与のことであると考えられている。なお、この正始10年(4月に改元されて嘉平元年)(249年)は、中国では曹操に始まる曹氏の魏から、司馬懿に始まる司馬氏の晋へ禅譲革命が行われる265年12月(泰始元年)に至る契機となった年である。この朝貢の記録を最後に中国の史書から邪馬台国や倭に関する記録が途絶え、次に現れるのは150年の後の義熙9年(413年)の倭王讃の朝貢(倭の五王)である。台与と後のヤマト王権との関係は諸説あってはっきりしない。人物の比定については諸説ある。

*2-3:https://blog.goo.ne.jp/ikejun_2018/e/27ebfe56cbbabe9e590698fe8cfd7248 (Goo 2018.4.30より抜粋) 「魏志倭人伝」 晋の時代の台与(トヨ)
 「魏志倭人伝」の最後に登場するのが、卑弥呼の宗女とされる13歳の女王 台与(トヨ)。魏志倭人伝をまとめたのが、晋の時代の陳寿で、台与が貢物を贈り、国づくりを学んだのも晋の国からです。台与の存在の信ぴょう性は非常に高いです。急に年齢13歳とまで紹介されています。一方で、台与の宮殿がどこになったのかは記載がありません。
理由
1、漢の時代の倭国
  伊都国、奴国など玄界灘湾岸の国々+その南にある21国
2、魏の議題の倭国
  1に加えて、さらに南にある邪馬台国と水行20日で行ける投馬国。女王に従わない邪馬台国の南にある狗奴国
3、晋の時代の倭国
  2に加えて、「瀬戸内海の国々+近畿」と広がりがあった。と考えます。つまり、台与の宮殿は、奴国、邪馬台国でも投馬国でもなく、まだ名前が付けられていない。西日本のどこかにあった国ではないでしょうか。そして、張政らは(幼くして新女王となった)壹與に対し、檄文の内容を判りやすく具体的に説明した。壹與は倭国大夫率善中郎將の掖邪狗ら二十人を随行させた上で張政らを帰還させた。つまり大陸から国づくりを教わった。大陸主導の元で新しい国づくりが行われた。その際、男女生口三十人を献上すると共に白珠五千孔、靑大勾珠二枚および異文雑錦二十匹を貢いだ。そのお礼に台与が貢物を贈ったと云うことに・・・。後の大和朝廷の聖徳太子らが隋に遣隋使、唐に遣唐使を派遣しますが、それより以前に台与が大陸の文化や国の統治の方法を学んだと云うことです。台与が参考にした大陸の晋の国も滅び、五胡十六国の戦国時代へ、宋、隋、唐と大国がまとめたのは、6世紀ぐらい、日本では飛鳥時代になります。台与の記述を最後の中国大陸の歴史書「史記」から倭国の記載がなくなります。

*2-4:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO44296100W9A420C1000000/?n_cid=BMSR3P001_201905140021 (日経新聞 2019年5月16日) 「仁徳天皇陵」含む古墳群、世界遺産に 諮問機関が勧告
 世界文化遺産への登録を目指す「百舌鳥(もず)・古市古墳群」(大阪府)について文化庁は14日、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関が登録すべきだと勧告したと発表した。仁徳天皇陵古墳(大山古墳、堺市)など日本政府が推薦していた49基の古墳すべてが対象。6月に始まるユネスコの世界遺産委員会で正式に登録が決まる見通しだ。諮問機関は国際記念物遺跡会議(イコモス)。14日未明に記者会見した文化庁の説明によると、勧告は古墳群を「傑出した古墳時代の埋葬の伝統と社会政治的構造を証明している」と評価。「顕著な普遍的価値」を認めた。資産の価値に関する疑問点などの指摘はなかったという。日本政府は古墳群を古代日本の政治や文化、建築技術を知る貴重な資産として推薦。仁徳天皇陵をはじめ宮内庁が皇室の祖先の墓とする「陵墓」が29基含まれており、陵墓が世界遺産に登録されれば初めてとなる。世界遺産委は6月30日~7月10日にアゼルバイジャンのバクーで開かれる。日本国内には文化遺産が18件、自然遺産が4件あり、古墳群が登録されれば23件目。日本からの登録は7年連続となる。古墳群は大阪府南部の百舌鳥地域(堺市)と古市地域(羽曳野市、藤井寺市)にあり、当時の政治や文化の中心地の一つに当たる。現存する89基のうち形がよく残っている4世紀後半から5世紀後半の49基を構成資産とした。

<現代の皇室と邪馬台国・大和朝廷の関係>
*3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14012750.html (朝日新聞2019年5月13日)亀の甲で占い、「吉」は栃木・京都 宮中三殿「斎田点定の儀」 「大嘗祭」の米産地選ぶ
 天皇の代替わりに伴って11月に行われる皇室行事「大嘗祭(だいじょうさい)」で、神々に供える米を作る都道府県を選ぶ「斎田(さいでん)点定の儀」が13日午前、皇居・宮中三殿で行われた。亀卜(きぼく)と呼ばれる亀の甲を焼く占いで、東から栃木県が、西から京都府が選ばれた。アオウミガメの甲羅を将棋の駒形(縦24センチ、横15センチ)に加工したものを火であぶり、ひび割れの具合で吉凶を判断し、「吉」と出た都道府県を選ぶ神事。宮内庁によると、大嘗祭で供えられる米をつくる地方を定める亀卜は、古くから行われてきたという。東京を中心に東日本の18都道県を「悠紀(ゆき)の地方」、残りの西日本29府県を「主基(すき)の地方」とし、米を作る「斎田」を設ける都道府県が一つずつ選ばれる。平成の大嘗祭に伴う儀式では、秋田、大分両県が選ばれた。儀式は13日午前10時ごろ、国中の神々をまつる神殿の前庭に設けた「斎舎(さいしゃ)」の幕内で始まり、40分ほどで終了した。天皇陛下は立ち会わず、山本信一郎長官から宮殿で結果の報告を受けて決裁する。その後、宮内庁が選ばれた自治体に連絡し、協力を依頼。具体的にどこに「斎田」を設けるかなどを今後協議していく。同庁によると、古来、斎田で作られた米は皇室に献上されてきたが、日本国憲法下で初めて行われた平成の代替わりの際は、生産者に代金を支払って購入した。今回も、同様の対応をとるという。

<女性天皇・女系天皇について>
PS(2019年5月27日追加): 皇位継承資格を男系に限定していたのは、科学的な生物学・遺伝学が広まっていなかった時代に、生殖に関しては「男が種、女は畑」と考えられていたからで、畑が肥えていようがいまいが、大根の種を蒔けば大根、キャベツの種を蒔けばキャベツしかできないのと同じに考えていたからだ。しかし、現在では、科学的に「男性も女性も種を作るのに半々に貢献しており、その上、女性が畑も提供している」ことが明らかになったため、皇位継承資格を男系に限る必要はなくなったのである。
 また、男子に限定したのは、大日本帝国憲法第11条で天皇に軍の統帥権を持たせた明治以降からであり、それ以前は女性天皇が何人もいる。従って、日本国憲法の下では男子というのも不要な制限であり、女性・女系天皇はもはや何の問題もなく、女性・女系天皇に対する反対は根拠なき女性差別になっているため、*4の結果になっているのだ。

 
       2019.5.27朝日新聞            2019.5.27毎日新聞

(図の説明:令和天皇初の国賓としてトランプ米大統領が来られ、よい歓迎を受けられた。ただし、いつも思うのは、雅子皇后の帽子は大きすぎ、それを目深にかぶるため顔が半分くらいしか見えず、おしゃれでない。そのため、自分の美しさを殺さず活かすファッションや姿勢を工夫されてはいかがかと存ずる。よいファッションアドバイザーをつけるのも一考かもしれない)

*4:https://www.jiji.com/jc/article?k=2019041200827&g=soc (時事 2019年4月12日) 女系・女性天皇に賛成7割=時事世論調査
 時事通信の4月の世論調査で、男系男子に限られている現在の皇位継承資格を女系・女性皇族にも広げるべきか尋ねたところ、「広げるべきだ」が69.8%だった。「広げるべきではない」は11.2%、「どちらとも言えない・分からない」は19.0%だった。政府は女系・女性天皇に慎重な姿勢を示しているが、回答者の約7割が女系・女性天皇を容認していることが明らかになった形だ。皇族数の減少対策となる女性宮家創設の賛否に関しても、「賛成」69.7%、「反対」10.3%、「どちらとも言えない・分からない」20.0%となった。現在の天皇陛下にどのような感情を抱いているかについては、「尊敬の念を抱いている」44.0%、「好感を抱いている」39.5%、「特に何の感情も抱いていない」15.5%などだった。

<生命科学のもう一つの革命、再生医療>
PS(2019年5月28、30日追加):*5のように、人工透析患者の皮膚から人工血管を作製し、その患者さんに移植して人工透析をやりやすくする臨床研究が始まるそうだ。人工血管もいろいろな場所で役立つが、人工透析患者に使うのなら腎臓を作って移植した方が透析不要になって患者さんの幸せに繋がりそうである。そして、人工腎臓もバイオ3Dプリンターでできるかも知れないが、絹糸や絹布などの蛋白質素材で腎臓の形を作って土台にし、患者さんの幹細胞を培養すれば、複雑な形も比較的簡単にできそうに思う。
 また、*5-2のように、東京大と米スタンフォード大などのチームが、造血幹細胞を市販の液体のりの成分で大量培養することに成功し、専門家もびっくりしたそうだ。こうなると、培養しながらの3Dプリンター等での造形が容易になるだろう。

*5-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/513677/ (西日本新聞 2019/5/28) 人工血管を患者に移植 バイオ3Dプリンターで作製 佐大チーム
 佐賀大医学部の中山功一教授(臓器再生医工学)らの研究チームが、人間の細胞から立体的な構造体をつくる「バイオ3Dプリンター」を使い、人工透析患者の皮膚から人工血管を作製し、患者に移植する臨床研究を始める見通しとなった。国から認可された審査委員会に研究計画を申請済みで、承認後に着手する。中山教授によると、人工素材を使わずにヒトの細胞から人工血管を作るため、アレルギー反応や細菌の感染リスクを抑制する効果が期待できるという。バイオ3Dプリンターは、患者の脇や脚の皮膚から採取した細胞を培養し、約1万個の細胞の塊(直径約0・5ミリ)をつくり、その塊を剣山のように並べた針に刺して積み重ね、3次元データの設定通りに形成する。複数の串刺し状の塊がくっつき、直径約5ミリ、長さ約5センチのチューブ状の人工血管ができるという。人工透析は、腎不全の患者の体内から血液を取り出し、機械で浄化して戻す治療法。血液を取り出しやすくする血管(シャント)が必要になるが、樹脂製の血管は内部が詰まる場合があるという。このため、シャントの代わりに3Dプリンターで作った人工血管を3-4人の患者に移植し、半年ほどかけて安全性や効果を確認する。中山教授は「バイオ3Dプリンターで作製した人工血管の移植は世界でも珍しい。他の臓器の作製にも応用できるだろう」としている。

*5-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14035348.html (朝日新聞 2019年5月30日) 造血幹細胞、のりで大量培養 高価な培養液以上、専門家びっくり 東大など、マウスで成功
 白血病の治療で重要な細胞を大量に培養することに、東京大と米スタンフォード大などのチームがマウスで成功した。これまでは高価な培養液でもほとんど増やせなかったのが、市販の液体のりの成分で培養できたという。白血病などの画期的な治療法につながる可能性があり、専門家は「まさにコロンブスの卵だ」と驚いている。白血球や赤血球に変われる造血幹細胞は、0・5リットルで数万円するような培養液でも増やすことが難しい。このため、白血病の治療はドナーの骨髄や臍帯血(さいたいけつ)の移植に頼る場面が多かった。東京大の山崎聡特任准教授らは、培養液の成分などをしらみつぶしに検討。その一つであるポリビニルアルコール(PVA)で培養したところ、幹細胞を数百倍にできたという。PVAは洗濯のりや液体のりの主成分。山崎さんは実際、コンビニの液体のりでも培養できることを確認した。共著者で理化学研究所で細胞バンクを手がける中村幸夫室長は「結果を疑うほど驚いた。研究者はみんな目からウロコではないか」と話した。論文は30日に英科学誌ネイチャーに掲載される。

<知的障害者・精神障害者差別が起こる理由、犯人の前職など>
PS(2019年5月29日、6月1、2、3日追加):*6-1のように、昨日、川崎市内のバス停で多くの小学生が刃物で襲われる事件が起き、小6の女児と見送りに来た父親が犠牲になった。2001年には大阪教育大附属池田小学校で小学生の無差別殺傷事件が発生しており、このような場合に必ずほのめかされるのが「精神障害者か知的障害者の犯行」だ。これは、刑法が39条で「心神喪失者の行為は罰しない、心神耗弱者の行為は刑を減軽する」と規定しているのが原因だが、メディアがこぞって心神喪失者か心神耗弱者(注:どちらも定義なし)の犯行であるかのように言い立て、近年おかしな病名が増えた精神科の専門家が「予備軍は多い」などと語るのも問題だ。何故なら、それなら「予備軍」と考えられる人はすべてあらかじめ閉じ込めておくのが「登下校中の子どもをあらゆる悲劇から守る手立て」になるが、これは差別に基づく著しい人権侵害に至る危険な思想だからである。
 なお、*6-2のように、私立カリタス小学校の児童ら19人を殺傷して自殺した岩崎容疑者(51歳)は、刃渡り30cmの2本の包丁を黒い手袋を着用した両手に持って短時間で多数の人を殺傷したそうだが、こんな長い包丁を使って短時間に何人も殺せる人の前職は自衛官か肉屋・魚屋か、自殺までしたのなら元自衛官が誰かに頼まれて行ったのかと疑問に思われ、前職が全く開示されないのが不思議だった。
 さらに、*6-3のように、福岡市博多区板付の路上で、息子(40代)が「10年くらい前から引きこもりで仕事をしないため注意した」という母と妹を襲った後、自殺したと書かれている。10年くらい前の2008年にはリーマン・ショックがあり、企業は介護保険制度の支払いが40歳から始まるため40歳前後の人を解雇することが多く、その後は正規雇用の仕事がないまま10年近くを過ごして犯行に及んだのかもしれない。これは、岩崎容疑者にも近いが、中途退社すると就業上の不利益を受ける社会はおかしく、「引きこもり=異常」というのも変である。ちなみに、出産直後の主婦は買い物にも行けないほどの引きこもり状態を強制されるし、夫の転勤について行った専業主婦も引きこもらざるを得ないことが多いため、これは何とかすべきだ。
 このような中、*6-4のように、元農水次官が「引きこもり」と思われる44歳の長男を刺殺したそうで、偏見に満ちた報道で「引きこもり」の当事者は最後の居場所を無くしている。また、*6-5のように、引きこもりの経験者や家族会が、「①事件と引きこもりを先入観で短絡的に結びつける報道は、無関係な引きこもり当事者を深く傷つけ、誤解と偏見を助長する」「②引きこもり状態にある人が、このような事件を引き起こすわけではない」「③無関係な他者に対し危害を加えるような事態に至るケースは極めてまれだ」と、メディアにおける事件の報じ方に言及し、危機感を表明したのは当然のことだ。しかし、ここで、「バッシングではなく支援を」と精神科医が過去の西鉄バスジャック事件や新潟の少女監禁事件を引き合いに出しているのは「引きこもり⊂精神障害者=他者に危害を加える人、殺人犯予備軍」というレッテルを貼っており、「犯罪防止」や「支援」という名目でやろうとしていることが問題なのである。
 そして、「犯罪防止」という名目で行われ始めた人権侵害には、*6-6のような大きく規制緩和されて6月1日から施行されている改正通信傍受法(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/64915 参照)に基づく警察の通信傍受がある。そのため、これを正当化するために「日本にも、危険な人はこんなに多い」とメディアを使って差別的な広報をしているのなら、とんでもない話だ。また、通信傍受する理由はどうにでもつけられるため、犯罪とは無関係な人でも意図的に傍受されることがありえ、この法律は日本国憲法21条の「検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない」に反するわけである。
 なお、障害者差別に関して、*6-7のように、「福岡トライアスロン」が約100人の障害者をボランティアスタッフとして参加させるのは、爽やかな明るさのあるトライアスロンらしい貢献で好ましいが、裏方ではなく競技に参加させることはできないのだろうか?

*6-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14033840.html?iref=comtop_tenjin_n (朝日新聞 2019年5月29日) (天声人語)朝のバス停の悲劇
 「あの日、駅で『行ってきます』って笑顔で言ってくれたよね。あの笑顔が最後だった。もうお話しできないんだね」。大阪・付属池田小事件(2001年)で亡くなった小2女児、山下玲奈さんの遺族が翌年、そんな手記を本紙に寄せた▼感情を抑え、思い出を淡々とつづる。「車の中で宇多田ヒカルさんの歌、よく歌ってくれたよね」「小学生新聞の作文コーナーに応募したいと言って、作文用紙を買ったね」。普段着のように自然な口調が哀(かな)しみを誘う▼手記に胸を打たれた音楽家らが、鎮魂の楽曲「子守歌」を作る。「もう一度会いたいよ」「何のためにこの世に出てきたのでしょうか」「ずっと一緒だからね」。母の思いがメロディーに乗り、人々の胸に届けられてきた▼多くの小学生らが刃物で襲われるという凄惨(せいさん)な事件がまたしても起きた。犠牲者の一人は小6の女児である。いつもと変わらぬ朝を迎え、いつものバス停に立った。スクールバスに乗り込む直前に未来が絶たれるなど、だれに予測できただろう▼川崎市内の現場にはきのう、雨の中、住民らが次々に献花に訪れた。白いユリ、紅のガーベラ、黄色のヒマワリ……。登下校中の子どもをあらゆる悲劇から守る手立てはないものか。花々を見ながら考え込んだ▼〈逆縁の花の別れでありにけり〉山崎美代子。かつて本紙の俳壇に載った句である。病気であれ事故であれ、子に先立たれた親の苦しみは海より深い。時がたっても遺族の悲しみが消えることはない。

*6-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/380373 (佐賀新聞 5月29日) 手袋着用、短時間で多数殺害図る、川崎19人殺傷、動機を捜査
 川崎市多摩区でスクールバスを待っていた私立カリタス小の児童ら19人が殺傷された事件で、自殺した岩崎隆一容疑者(51)=同市麻生区=が襲撃時、手袋を着けていたことが29日、神奈川県警への取材で分かった。県警は凶器の包丁が滑らないようにし、短時間に大勢を殺害できるよう周到に準備したとみて捜査。同日の家宅捜索でノートなど数十点を押収した。動機や計画を示唆するものは見つからなかった。県警によると、岩崎容疑者は自宅最寄りの小田急線読売ランド前駅と登戸駅の防犯カメラ映像では手袋をしていなかった。現場近くでは手袋をした姿が写っており、襲撃直前に着用したとみられる。

*6-3:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/514897/ (西日本新聞 2019/6/1) 母と妹襲い男自殺か 2人重傷「生活巡り口論」 博多区
 31日午後5時10分ごろ、福岡市博多区板付4丁目の路上で、通行人から「女性が倒れており、家族に殴られたと話している」と119番があった。博多署によると、女性は「帰宅したら兄に刺されたので逃げてきた」と話し、近くの市営板付南住宅の一室で、男女2人が血を流して倒れていた。3人は病院に搬送され、男は死亡し、女性2人は重傷。3人は母親と兄、妹とみられる。署によると、路上で倒れていた40代の女性は、刃物によるとみられる刺し傷が胸にあった。室内にいた母親とみられる70代の女性は署員に「息子は引きこもりで仕事もせず、注意したら口論になり殴られた」という趣旨の話をしたという。頭を金づちのような物で殴られていた。この団地の一室では、署員が駆け付ける直前に、布団などが燃える火災もあった。死亡した男は腹部から出血しており、署は2人を襲った後に自殺したとみて、殺人未遂事件として調べる。近所の小学6年の女児(11)は「部屋で友達と遊んでいたら、隣の住民から『火事だから外に出て』と言われた。頭が血で染まった女性が救急車に運ばれているのを見た。本当にびっくりした」と話した。一家と長年付き合いのある70代女性は「母親と一昨日に会った際も変わった様子はなかった。息子さんは10年ぐらい前に1人暮らしを始めたと聞いていたので、戻ってきたのも知らなかった。最近は会っていない」と驚いた様子だった。

*6-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14039677.html (朝日新聞 2019年6月2日) 元農水次官、殺人容疑 44歳長男を刺す 警視庁捜査
 自宅で長男(44)を刺したとして、警視庁は1日、東京都練馬区早宮4丁目、元農林水産事務次官の熊沢英昭容疑者(76)を殺人未遂の疑いで現行犯逮捕し、発表した。熊沢容疑者は調べに「間違いない」と供述し、容疑を認めているという。長男は搬送先の病院で死亡し、同庁は容疑を殺人に切り替えて調べている。練馬署によると、逮捕容疑は1日午後3時半ごろ自宅で、長男の無職英一郎さんの胸などを包丁で複数回刺し、殺害しようとしたというもの。同40分ごろ熊沢容疑者から110番通報があり、署員が駆けつけると、英一郎さんが1階和室の布団の上で仰向けに倒れていた。熊沢容疑者は妻、英一郎さんと3人暮らし。同庁は当時の詳しい状況や動機の解明を進める。熊沢容疑者は旧農林省出身で、農林水産審議官などを歴任し、2001年から事務次官。05年から駐チェコ大使も務めた。近くに住む男性(86)は「一家は10年ほど前に引っ越してきた。長男らしい男性は一度も見たことがない」と話した。

*6-5:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14039661.html (朝日新聞 2019年6月2日) ひきこもり報道、偏見が怖い 川崎殺傷で「懸念」声明相次ぐ
 川崎市の路上で児童らが殺傷された事件で、直後に自殺した岩崎隆一容疑者(51)が、長期間就労せずひきこもり傾向にあったことが関連して報じられていることについて、「ひきこもる人への偏見を助長しかねない」と懸念する声が当事者からあがっている。ひきこもり経験者や家族会が1日までに相次いで見解、声明を公表した。
■事件と結びつけ「当事者傷つく」
 「ひきこもりは危険という偏見をこれ以上かぶせられるのはたまらない」。東京都内で1日に開かれた「ひきこもり親子・公開対論」。中高年ひきこもりの当事者や家族らが集う「ひ老会」の主宰者、ぼそっと池井多さん(57)は事件を報じるメディアの影響に言及し、危機感を表明した。自ら長期のひきこもり経験がある。「私だってむしゃくしゃしてブラックな気分になることはある。でも、それは私が50代でひきこもりだから、なのか。そうは思わない」。ひきこもり経験者でつくる「ひきこもりUX会議」(林恭子・代表理事)は31日、声明を公表した。「『事件を悲しみ犯行を憎むこと』が『ひきこもる人たちをひとくくりに否定すること』に向かいかねない」と危惧。事件とひきこもりを先入観で短絡的に結びつけるような報道は、「無関係のひきこもり当事者を深く傷つけ、誤解と偏見を助長する」とし、報道機関に慎重な対応を求めた。一方、KHJ全国ひきこもり家族会連合会(伊藤正俊、中垣内正和・共同代表)も1日に声明を公表。「自分の子も事件を起こしてしまうのでは」と衝撃を受けた親からの相談が増えている実態を明かしたうえで、「ひきこもり状態にある人が、このような事件を引き起こすわけではない」「無関係な他者に対し危害を加えるような事態に至るケースは極めてまれ」だと指摘した。そのうえで、縦割りをこえた行政の支援構築や、家族会などの居場所につながることの重要性を訴えた。
■バッシングではなく支援を
 精神科医の斎藤環・筑波大教授の話 過去に、西鉄バスジャック事件や新潟の少女監禁事件でも、当事者へのレッテル貼りとバッシングがセットでなされ、支援の充実にはつながらないということが繰り返され、今回も懸念している。一方で、当事者たちがこれだけ発信していることは、20年前からすると大きな一歩だ。支援を当事者主体のものに変えていくきっかけにしてほしい。

*6-6:https://digital.asahi.com/articles/ASM2G4RCVM2GUTIL01M.html (朝日新聞 2019年2月15日) 警察の通信傍受、昨年1万回超 12事件で82人を逮捕
 法務省は15日、全国の警察が昨年1年間に通信傍受法に基づいて傍受した携帯電話の通話は計1万359回だったと発表した。傍受した通話のうち、犯罪に関連するものは約1割の1318回だったという。12の事件で計82人の逮捕につながったという。2000年8月に施行された通信傍受法は当初、対象犯罪を薬物、銃器、組織的殺人、集団密航の4類型に限定していた。16年12月施行の改正法で窃盗、詐欺、恐喝、児童ポルノの提供・製造など9類型が追加された。昨年1年間の12事件のうち、8事件が改正法で新たに対象犯罪になった犯罪だった。捜査幹部によると、法改正で想定していたのは組織的な窃盗団や特殊詐欺の犯行グループへの実施という。法務省は傍受を実施した都道府県警や事件の内容は明らかにしていない。

*6-7:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/515303/ (西日本新聞 2019/6/3) 障害者100人が運営スタッフに 30日、福岡トライアスロン
 福岡市東区の西戸崎と志賀島を舞台にした「福岡トライアスロン」(30日)に、市内の福祉施設に通う約100人の障害者がボランティアスタッフとして参加する。これほど多くの障害者がスポーツ大会運営の裏方として活動するのは珍しいという。医師など市民有志でつくる大会実行委員会は「共生のまちづくりの一歩にしたい」と話している。大会は2017年に初開催され、2回目。約600人が出場予定で、バイクの受け渡しやコース管理など運営業務が多岐にわたるため、千人以上のボランティア確保が必要になっている。今年、福岡市で「障がい者差別解消条例」が施行されたこともあり、実行委は「働きやすい環境を整備すれば、障害に関係なく責任を持って大会を支えてくれる」と市内の関係団体に協力を呼び掛けた。大会には身体や知的、精神などの障害がある約100人が参加、健常者とともにチームを組んで選手を支える。具体的には選手に配るゼッケンなどの袋詰めのほか、大会前日の選手受付、当日の給水、表彰式なども支援する。障害者施設で作った物品販売や飲食コーナー、楽器演奏、ダンスでも大会を盛り上げる。実行委は車いす利用者が使いやすいようテーブルの高さを統一し、言葉で理解が難しい人には絵や写真で業務を説明した。協力に応じたNPO法人「福岡市障害者関係団体協議会」の中原義隆理事長は「これほどの規模でボランティア参加する大会は初めて。本人たちにとっても自信になる」と話している。

<近年の人類移動事情>
PS(2019年5月31日追加):*7-1のように、外国人就労拡大をする改正入管難民法の4月施行を受け、福岡県・市町村・業界団体・留学生支援団体などの官民56団体が、2019年6月に九州初となる「福岡県外国人材受入対策協議会」を発足させるそうで、他地域でも参考になる。
 また、*7-2のように、新在留資格「特定技能」外食分野の第2回国内試験の受験申し込みが外国人食品産業技能評価機構HPで始まると、申し込み殺到で受け付け開始直後から申し込みフォームが開けなくなったそうだ。しかし、*7-4のように、日本に移住して日本人妻や家族と故国のイタリア野菜を生産するイタリア人シェフや田舎暮らしに憧れて循環型の農業を目指す地域おこし協力隊のスペイン人のような方もおり、外国人だからこそ思いつくことも多い。さらに、*7-3のように、カンボジア(カボチャの古里)から来た農業実習生が新在留資格「特定技能1号」に移行するそうだが、様々な可能性を持って働く人たちであるため、せっかく日本語が通じるようになった真面目な外国人を追い出すようなことがないようにすべきだ。
 なお、最近、うちの近くでベトナム人をよく見かけるようになったが、同時にスーパーでパクチーが売られるようになり、うどんに入れて食べると爽やかで美味しい。ベトナムでは米粉麺(フォー)に入れて一般に食べられるが、その米粉麺とスープが売られていないのは残念だ。

*7-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/513963/ (西日本新聞 2019/5/29) 福岡県、外国人材受け入れへ協議会 官民56団体連携
 外国人就労を拡大する改正入管難民法の4月施行を受け、福岡県や市町村、業界団体、留学生支援団体などは6月に「県外国人材受入対策協議会」を発足させる。生活、労働情報や課題を共有し、受け入れ環境向上を図る狙いだ。外国人材に関連した官民の横断的な組織の設立は九州で初めて。県は9月にも市町村と連携した広域の外国人相談窓口の設置を予定している。法務省によると、県内の在留外国人は7万3876人(昨年6月現在)。改正法は新たな在留資格「特定技能」を創設。県内でも農業、介護、建設などの分野に従事する外国人数の増加が見込まれる。協議会は県に事務局を置き、福岡市、北九州市、県市長会、県町村会、福岡労働局をはじめ、農業や介護のほか外食、宿泊、建設など13業種の業界団体を含む計56団体で構成。アンケートなどで就労や生活面の不安、事業者が抱く制度の課題点や困り事を把握し、必要な対策につなげる。新設する相談窓口は「県外国人相談センター」(仮称)。政令市を除く58市町村に寄せられる相談をセンターと共有できるネットワーク体制を構築する。(1)外国人と担当の市町村職員(2)センターのスタッフ(3)通訳業者‐の3者が機器で同時通話できるシステムを活用。スタッフが生活、就労、医療など相談内容次第で各専門機関にもつなぐ。県は、関連経費として計約2300万円を2019年度一般会計当初予算案に計上する方針。

*7-2:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/512757/ (西日本新聞 2019/5/24) 外食特定技能試験のHP申し込み殺到 数時間アクセス困難に
 外国人労働者受け入れ拡大で創設された在留資格「特定技能」の外食分野の第2回国内試験(全国7会場)の受験申し込みが23日、外国人食品産業技能評価機構のホームページ(HP)上で始まったものの、申し込みが殺到しアクセスしにくい状態が数時間続いた。3月下旬に募集した初回分は半日で定員に達したため、機構はサーバーの容量を増強し備えていたが「予想を上回った」(事務局)という。東京会場分はこの日で定員(640人)に達した。外食分野の第2回試験は札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、岡山、福岡で6月24-28日に実施。定員は計2032人で、この日の午前10時に受け付けを始めた。本紙「あなたの特命取材班」に寄せられた情報によると、受け付け開始直後から申し込みフォームが開けなくなり、機構によると、昼すぎまでその状態が続発。その後も申し込みに必要な仮登録メールが送信されないトラブルが起きた。申請締め切りは今月29日だが、機構は「トラブルが起きた場合に対応が難しいため、土日は受け付けを停止する」としている。特定技能の在留資格を得るためには、各分野の技能測定試験に加えて、日本語能力試験に合格する必要がある。両方の試験に合格した後に出入国在留管理局に申請し、審査を経て資格を取得することになる。外食分野を管轄する農林水産省によると、外食業では留学生を中心に約14万人の外国人が働いている。特定技能では今後5年間で最大約5万3千人の受け入れを見込んでいる。

*7-3:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/506135/ (西日本新聞 2019/4/27) 特定技能1号 初認定 カンボジア農業実習生2人 登録支援機関は福岡など8件
 外国人労働者の受け入れを拡大する新制度で、出入国在留管理庁は26日、農業に従事する技能実習生でカンボジア国籍の20代女性2人が新たな在留資格「特定技能1号」に移行すると発表した。4月に運用が始まった新制度での認定は初めて。受け入れ企業に代わって外国人の生活をサポートする「登録支援機関」には、福岡県と鹿児島県の中小企業各1件を含む8件が全国で登録された。特定技能は人手不足が深刻な介護や建設、農業など14業種で、今後5年間で約34万人を受け入れる。外国人労働者は日本語能力と技能試験に合格すれば最長5年間働くことができる。特定技能1号にはアジアの元技能実習生23人、日本で実習中の4人の計27人が申請、2人が認められた。2人は大阪府の会社で受け入れられ、和歌山県御坊市で農業に従事。新制度では3年以上の技能実習修了者は技能試験が免除されることになっており、2人はこの要件で移行した。26日に在留資格の変更許可の通知書を送付。手続きが終われば、特定技能1号の在留カードが交付される。登録支援機関には人材派遣会社や日本語学校など1176件の申請があり、うち行政書士など個人2件、中小企業など法人6件が登録された。九州7県を管轄する福岡局への申請は78件。入管庁の佐々木聖子長官は「在留資格の変更や(本国からの)呼び戻しが多いのは予想通りで、これから審査をして徐々に増やしていく。登録支援機関が社会に定着していくようにしたい」と述べた。

*7-4:https://www.agrinews.co.jp/p47783.html (日本農業新聞 2019年5月29日) 海越えて移住「満足」 日本が古里
 日本は第二の古里──。遠く離れた異国に移住し、日本人の妻や家族と共に農業や農村暮らしに夢を描く外国人がいる。故国のイタリア野菜を生産するシェフや、田舎暮らしに憧れ循環型の農業を目指す農場を立ち上げた地域おこし協力隊員。必死に取り組む姿に地域の人々も、目を細める。積極的に地域の活動にも関わり、欠かせない存在になっている。
●故国の野菜80種 農家シェフ順風 イタリア→福岡県福津市 シルビオさん夫妻
 福岡県福津市に、国内で流通するイタリア野菜の草分けがいる。イタリア出身のカラナンテ・シルビオさん(41)と同市出身の花田愛さん(40)夫妻だ。日本に移り住んだ11年前は国内でイタリア野菜が手に入らず、自ら作り始めた。現在は、3・5ヘクタールの畑で年間80種の野菜を栽培する。トロペア、渦巻きビーツ、アーティチョーク……。夫妻が手掛ける野菜は、どれも一般のスーパーでは見掛けないマイナー品目だ。現在は種苗メーカーから種子が販売され作る農家も出てきているが、移住した当初は手に入らなかった。シルビオさんはイタリアで修業を積んだ料理人。日本の野菜でも代用できないか試したが、思った味が出せなかった。農業は素人だったが、自ら作ることを決意。周辺農家の指導を受けつつ、小さな畑から栽培を始めた。イタリア野菜は、日本で作るのが難しいとされる。気候の違いからだ。夫妻は、さまざまなイタリア野菜を育てて味見。同市の気候に適した種を探した。独特の香りや苦味が弱いなど、課題があった場合は植え付け時期や水管理を変えて工夫。地域に合った作り方を少しずつ研究していった。料理人とあってイタリア野菜の味わいに精通していたことも役立った。「味や食感を確かめながら、本場の味に近づけた」と振り返る。風変わりな野菜を作る異国人とその妻。当初は地域住民も遠巻きにしていたが、真面目に農業に取り組む2人の姿を見て協力するようになった。3・5ヘクタールと広大な農地も、地元民の声掛けで集まったという。2018年度には宗像市、福津市、JAむなかたでつくるむなかた地域活性化機構から、農業功労賞を受けるなど、今では同市を代表する農家の一人となった。17年12月には、イタリア料理店アプテカ・フレーゴを開店。生産したイタリア野菜を巧みに使い、振る舞っている。地場産のタコをメイン食材にしたパスタも、自家製の新鮮なハーブ「フェンネル」を添えると、本場の味に変貌する。店には直売コーナーを設け、料理に使った食材を並べる。シルビオさんの料理を気に入った客が、購入していく。店で使う分は一部。作った野菜のほとんどは、福岡市内のスーパー、全国のイタリア料理店や和食店などに卸す。営業活動はほとんどしていないが、口コミで出荷先がどんどん広がっているという。農業を始めてから、自分で汗を流して食材を作り、調理して食べる生活に魅了されたという夫妻。「移住して感じた食の大切さを、店に来た客にも伝えていきたい」と話す。
●豊かな水と人情 夢は循環型農業 スペイン→新潟県上越市 エミリオさん
 スペイン出身のガルシア・バランコ・エミリオさん(38)と瀧田典子さん(32)夫妻は、畜産農家を目指して2人の子どもと共に新潟県上越市柿崎区にやって来た。エミリオさんは現役の地域おこし協力隊員。活動を通して地域に溶け込み、2017年に農場「黒岩パーマカルチャーファーム」を立ち上げ、循環型農業の実践に夢を描く。パーマカルチャーは、オーストラリアで提唱された永続的な農業を指す概念で、世界各地で取り組まれているという。農場ではウコッケイの他、水田2アールでアイガモ農法に挑戦。有機野菜作りにも汗を流す。ウコッケイは10羽から50羽に増やし、卵の販売に乗り出した。有精卵は、地域の直売所や飲食店で1日約10~20個(1個120円)を販売。「こくがある」と、評判は上々だ。来日して愛知県で3年間過ごした後、16年に上越市の地域おこし協力隊に就任。今秋に任期を終える。「自然を大切にして、田舎で暮らしたい」と柿崎区に飛び込んだ。豊かな湧き水と森林、温かい人情が移住の決め手だったという。今後はウコッケイを250羽、ヤギ7頭を100頭に増やす計画。6月にはブロイラー40羽を飼育する予定だ。飼っている動物のふんから堆肥を作り、土を守る農業を実践していく。エミリオさんは「再生可能な農業でコミュニティーをつくり、新たな移住者5家族ほどを呼び込みたい」と将来の夢を描く。夫妻は、地域活動に積極的に参加し、住民から頼りにされるまでになった。今後は、豚や牛の導入も視野に循環型の永続的農業を取り入れていく考えだ。

| 教育・研究開発::2016.12~2020.10 | 04:00 PM | comments (x) | trackback (x) |

<<前の10件 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | ... | 225 | 次の10件>>

PAGE TOP ↑